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憂「それはひみつです」
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先程まで我が家で行われていた私の誕生会という名の宴会もようやく終わり、先輩達や純の居なくなった部屋には憂の足音だけが静かに鳴っていた。
おめでとう、梓!30代の世界へようこそ!これでHTTも全員30代だ!とかなんとか言って律先輩達に散々飲まされた私はぼおっとソファーに座ったままだ。
梓「…憂の時もうぇるかむされると思うよ」
憂「はは…だろうね…」
コップに水を入れて持ってきてくれた憂にそう呟くと、苦笑いしながら隣に座った。
憂「でも、初めてお祝いした16歳の時から、今年でようやく言えなかった分の年数に追い付いたね」
と、日付が変わってからもう何度目かわからくなった「おめでとう」を彼女はくれた。
高校で出会ってから15年、大学卒業してHTTとしてデビューして7年。月日が経つのは早い。
梓「…まあその分、歳も取ったってことだけど」
憂の言葉にそれだけ長い付き合いになってるんだ、という事実を改めて意識してしまった私は、ややぶっきらぼうに答えた。
…この素直になれない性格も相変わらずだ。
でもそんな私の考えもそっとすくってしまう彼女が、そうだねぇとふんわり笑うので結局つられて笑ってしまった。
こんなやり取りもやっぱり相変わらずで。
そうしてまた部屋を片付け始めた憂をまだちょっとふわふわする頭で眺めながら、少し昔の事を思い出していた。
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あれは私と憂が付き合い始めてからーーどちらの誕生日だっただろうか。
憂が生まれた時から一緒の唯先輩、その唯先輩が幼稚園の時に連れてきた和先輩。
小さな頃からの憂を知っている二人が羨ましい、と私がぼやくと、「じゃあ、私と会わなかった分の事を教えて」と、憂はなんてことないように言ったのだ。
憂「梓ちゃんと私の、これまでのお互いのこと全部話そうよ」
梓「…何年かかるかわかんないよ?」
憂「…何年かかっても構わないもん」
梓「話終わるまで聞いてくれる?」
憂「もちろん!あ、私のお話も聞いてね?」
梓「うん。全部教えて欲しい」
憂「楽しみだなぁ」
梓「そうだね」
これから先、どうなってるかなんて上手く想像できないけど、何年経ってもこうやって隣りにいれたらいい、なんて…
純「…ねぇ、お二人さん。なんか今のってプロポーズみたいに聞こえるんですけど」
梓「のぉっ?!」
憂「あれ、純ちゃん起きてたの?」
にししっと笑いを堪えるような純の声が私と憂の間に入ってきた。
そうだった、純も一緒に泊まってたんだ。っていうか先に寝てたはずなのに…!!
純「二人の熱い波動で目が醒めました!」
憂「えへへ、ごめんね」
梓「な、な、な、ぷろぽぉずってどういう、」
純「あれ?違うの?」
憂「違うの?」
梓「違っ、いや、違わなっ、じゃなくてっ!そ、そういうのはもっとちゃんと言うから!!」
憂「えっ」
梓「あっ」
純「はいはい、ごちそうさまー」
梓「うわああああああ!!!」
純「梓、うるさい」
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あ、なんか思い出さなくてもいいことまで思い出した…。
憂「梓ちゃん、さっきから百面相してるけどどうしたの?」
梓「な、なんでもないよ」
憂「そう?」
梓「そう」
憂「まだ酔ってる?」
梓「大丈夫だってば」
話をそらすように片付けを手伝うために立ち上がり、テーブルに残っていた完売したケーキのお皿をキッチンの方へ運ぶ。
そういえば今年のケーキも美味しかった。
今回はバナナタルト、あれはキャラメリゼっていうのかな?
タルトの上にあるバナナの表面が砂糖でかりかりになってて、甘さを抑えたカスタードと良くあってた。
去年はバナナのシフォンケーキ、すっごいふわふわで皆も感激してたっけ。
一昨年はチョココーティングしたバナナパウ ンドケーキ。
あんなにチョコの表面をきれいにするにはテンパリングとか言う少々面倒な作業がいるらしい。
さすが憂。
バナナロールケーキの時もあったね、あっさりした生クリームで食べやすかったなぁ。
……あれ?
梓「ねぇ、憂。今ふと思った事があるんだけど」
憂「ん、なあに?」
梓「憂、たまにブログに料理載せるでしょ?」
憂「うん」
バンドの活動報告ブログにはライブのお知らせやアルバム製作の様子なんかの他に、皆の誕生日や季節の催し、その時にあわせて作った憂の料理の写真を載せたりする。
料理には同時にレシピも載せているのだけれど、これがわりと好評で、まとめて本を出さないか?と言われるくらいらしい。
梓「あれってさ、先輩達の好きなメニューとかクリスマスケーキとかあるのに、なんで私の誕生日の時のケーキは載せてないの?
いつも売り物みたいにきれいだしあんなに美味しいんだから見てもらえばいいのに」
憂「えっ、あ、それは…」
梓「?」
憂「あ、あのね。梓ちゃんのために作ったものだからあんまり人には教えたくないなぁ、なんて…」
インタビューなんかでバナナが好きな食べ物の一つだっていうのは知られてると思うんだけど、と憂は眉をいつもよりハの字にしながら答えた。
梓「そうだったんだ…。ありがと、憂」
憂「ふふ、どういてしまして」
いたずらが見つかったみたいな顔で笑う憂につられて笑う。あの時から今も隣りにこうして貴女がいる事にじんわりと胸が暖かくなった。
梓「これからもよろしくね、憂」
憂「こちらこそだよ、梓ちゃん」
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お片づけも終わって、まだちょっとだけ足元が怪しい梓ちゃんをお風呂に見送ってからソファーに座って一息つく。
…実は梓ちゃんがケーキを食べて私に美味しいねって言ってくれる顔を見るのが好きなの、という事はやっぱり秘密にしておいた。
また来年も楽しみにしておいてね、梓ちゃん!
おしまい!
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あずにゃん誕生日おめでとう!!!!!
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いきなり三十路か…少し唐突。
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