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梓「私が唯先輩のこと好きだって澪先輩にバレてしまった」
-
バレるまでの経緯は私にとって黒歴史であり忘れたい記憶なので、
細かい描写は割愛して手短に説明させていただきますが。
その日は先輩方は誰も部活に来れないということで、
トンちゃんにエサをあげた後、一人で軽く練習してから帰ろうかな、なんて思い部室に向かいました。
どうせ誰も来ないのならと、想い人である唯先輩の席に座って練習しているうちに、
なんというか……ムラムラしてしまいまして……
弦から指を離して別の部分を奏でている時に、忘れ物を取りに来た澪先輩登場、
というわけです。
それだけならば部室でいかがわしい事をしていた変態後輩、というだけで済んだのでしょうが、
唯先輩の名前を連呼していた事もしっかり聞かれてしまっていまして。
もうだめだ。
全部バレてしまった。
同性愛者であることも、唯先輩が好きだということも、
部室で欲求不満を解消するような変態だということも全部バレてしまった。
もう軽音部には居られない、と思うと涙が溢れてきた。
澪「だ、大丈夫だ梓!絶対に誰にも言わないから!」アタフタ
梓「でも、軽蔑しますよね……部室であんなこと……」グスッ
澪「そ、そんなことないよ!……そ、その………私も、前に部室でしちゃったことあるからっ!!///」
梓「………えっ!?」
澪「う、うぅ……/////////」カァァァァ
梓「澪先輩も、ですか?」
澪「あ、あぁ……///だから、女の子を好きになっちゃうことも、その子を想って変な気分に
なっちゃうことも、私にはよくわかるから………」
梓「もしかして……律先輩、ですか?」
澪「うっ………ウン………/////////」
………………………………
なんてことがありまして。
それから私と澪先輩はお互いに悩みの相談をするようになった。
二人の境遇はよく似ていたので共感する部分が多かったんだと思う。
今まで男の人を好きになったことは無いということ。
高校生になってから自分が同性愛者であると自覚したこと。
想い人は恋愛沙汰には疎く、私達の気持ちなど欠片も気づいていないということ。
そして………おそらく想い人は私達のこの異常な感情を受け止めてくれる事は
ないだろう、ということ―――
互いに叶わない恋の相談をし、悩み、愚痴り、泣き、わめき散らすうちに、
いつしか私と澪先輩は心と体を慰めあう関係になっていった。
身近な所にいた同じ同性愛者の女性、ということでお互いに都合が良かったのかもしれない。
澪先輩と体を重ねる時、私はいつも唯先輩に抱かれている事を想像している。
失礼だとは思いますが、それは澪先輩も同じ事だ。
私を抱きながら頭の中では律先輩との情事を思い巡らせているのでしょう。
その証拠に行為の最中は頻繁に律先輩の名前を呼んでいる。
つまり言い方は悪いがお互いがお互いを利用しているのだ。
想い人に決して届かない気持ちを仮初めの相手にぶつけ、欲求不満を解消する関係。
そんな関係が数週間続いたある日。
"
"
-
ご両親の帰りが遅いという事で、その日は澪先輩の家にお邪魔して
いつものようにお互いを慰めあった。
そして事が終わった後、
澪「梓……私達、いつまでもこのままじゃいけないと思うんだ……」
下着を身に着けながら澪先輩はそう切り出した。
澪「私、律に告白しようと思う」
梓「えっ!?で、でも……」
澪「うん、上手くいくなんて思ってないよ。でもやっぱりこのままじゃ駄目だよ。
とにかく私の気持ちを律に伝えることにする。恋人同士になりたいとかじゃなくってさ……
私が律のことを好きなんだって、律には知っててもらいたんだよ。
い、いやホントの事を言えばもちろん付き合いたいけど……」
梓「澪先輩……」
澪「だからその……こういう関係も、今日で終わりにしよう」
梓「……そうですね……やっぱり良くないですよね、こんなの」
澪「ああ……やっぱり、こういうことは好きな人としないとな……」
好きな人、という意味では私は澪先輩のことももちろん好きだ。
でもそれはやっぱり部活の先輩として、憧れの人として、という意味であって
恋愛感情的な意味ではない。
澪「それでさ、梓も唯に告白したらどうだ?」
梓「え……えぇっ!?」
澪「あっ、べ、別に強制はしないよ?ただ、梓もちゃんと想いを伝えたほうが
後悔しないで済むんじゃないかって思って……」
やらずに後悔するよりやって後悔したほうがいい、というやつだろうか。
……確かに私は唯先輩のことが大好きだ。恋愛感情的な意味で。
できることならお付き合いしたい。キスもしたい。
ついさっきまでベッドの上で澪先輩としていたようなことも、ホントは唯先輩としたい。
その夢は確かに告白をしないと絶対に叶わないものではありますが……
唯先輩に受け入れられなかった場合、今までどおり仲の良い先輩後輩でいられるのだろうか?
いや、それどころか同じ部活を続けていくことも難しくなるかもしれない。
今の唯先輩との関係を失う事は私にとって死活問題だ。
梓「……考えておきます……」
ここで即答できる問題ではない。
澪「あ、それと……もし告白するとしても、私と梓の……その、こういう関係は
律や唯には内緒にしておこうな?」
それは当然でしょう。
唯先輩と私は恋人同士でもなんでもないただの部活の先輩後輩ですが、
それでもやはり他の人と体の関係を持っている、という事は
唯先輩に対する罪悪感として常に心の片隅にあった。
それはきっと澪先輩も同じだろう。
仮に澪先輩が律先輩と、私が唯先輩とそれぞれお付き合いするような事態になったとしても、
私と澪先輩の体の関係は、それこそ墓場まで持っていくレベルの秘密にしなければならない。
梓「それで、澪先輩はいつ告白するんですか?」
澪「……そうだな。明日……い、いやそれはちょっと急過ぎるか……まだ心の準備が……
明後日……いや、三、四日後ぐらいには………」
………一週間ぐらいは先になりそうだ。
私もその期間中に唯先輩に告白するかどうかを真剣に考えてみよう。
-
_________
澪先輩が『律に告白する!』と、奮い立ったあの日から、今日で二週間が経っていた。
結局、澪先輩はまだ告白していない。
……一週間後になるかな、なんて思っていた私の見積もりは甘かったようです。
澪先輩は私にとって憧れの先輩であり、もちろん尊敬しておりますが
このへタレっぷりはどうかと思います。
しかし二週間というこの時間は私にとって考える時間としては充分なものだった。
決めました……!私も唯先輩に告白します!
私は澪先輩に『今日の下校の時にお互い告白しましょう』と提案した。
こうやって背中を押してあげないと澪先輩はなかなか動けそうにないし、
私自身もそれぐらい自分を追い詰めないと決心が揺らいでしまう。
下校時、私達は五人で一緒に帰っていますが、最終的には
澪先輩は律先輩と、私は唯先輩と二人っきりになる。
そこでそれぞれ告白するのだ。
律「じゃあ、また明日なー」
紬「うん。バイバイ。りっちゃん、澪ちゃん♪」
唯「またねー♪」
いつもの横断歩道。ここが澪先輩、律先輩と別れるポイントだ。
皆さんが挨拶を交わす中、私は澪先輩を見つめていた。
私の視線に気づいた澪先輩は、コクリと頷く。少し表情は強張ってはいますが。
………どうやら覚悟を決めたようです。
澪先輩の武運を祈りながら、唯先輩、ムギ先輩と三人で歩く。
次は駅でムギ先輩とお別れだ。
ここから私と唯先輩は二人っきりになる。
いよいよ告白の時がやってきた。
どうやって切り出そうか、なんて考えているうちに唯先輩に先手を取られる。
唯「………あずにゃん、大丈夫?」
梓「えっ!?な、なにがですか?」
唯「今日の部活の時、なんだか元気なかったみたいだから……」
………元気がなかったわけじゃありません。
告白のことで頭がいっぱいだっただけです。
ただ、出来るだけ誰にも気づかれないように自然に振舞っていたつもりだったんですが……
梓「そんなことないですよ、私は元気です」
唯「………そぉ?だったらいいんだけど……元気がないならいつでも言ってね?」
梓「クスッ……私に元気がなかったら、どうしてくれるんですか?」
ギュッ
突然、唯先輩に抱きしめられた。
唯「えへへー……唯ちゃん分を補給してあげるよ〜♪」ギュウ
梓「ゆ、唯先輩分を補給すると元気になるんですか……?///」
唯「えぇー?ならない?私はあずにゃん分でいつも元気いっぱいになるけどなぁ?」
梓「……そうですね、元気になってきたかもしれません」
唯「でしょでしょ〜♪」
………ホントにいつも私に元気をくれるんだ。この人は。
私はきっと、この人のこういうところを好きになったんだと思う。
大好きです。唯先輩。
………なんて、今日はいつものように心の中で呟いていちゃダメなんだ。
伝えるって決めたんだから。
………………ふんす!!
梓「あ、あのっ!唯先輩!だ、大事なお話がありますっ!」
-
_________
唯「う、うん……いいよ、あずにゃんなら……///」
唯先輩の発した言葉に、私は耳を疑った。
自分から告白しておいてなんですが、一瞬唯先輩が何を言っているのかわからなかった。
………………………
頭の中が真っ白になる。
梓「あ、あの、唯先輩?」
唯「なに?」
梓「私いま、『好きです。お付き合いしてください』って言ったんですよ?」
唯「?……う、うん。そうだね」
梓「それで、唯先輩はなんと言いました?」
唯「……いいよ、あずにゃんなら、って……///」
梓「な、なんでですかっ!?」
唯「なんでって……私もあずにゃん好きだもん」
梓「唯先輩の『好き』と私の『好き』は多分違うと思います……わ、私は……
どっ、同性愛者……なんですよ?そういう意味で唯先輩のことが好きなんです」
唯先輩はみんなのことが好きなんだ。
私はきっとその中の一人に過ぎない。
唯「うーん……同姓愛とかよくわかんないけど……私、あずにゃんとずっと一緒にいたいって思うよ?
二人でデートとかも行きたいし……その、キ、キスとかそういう事もしたいし……///
これってあずにゃんの『好き』と違うのかなぁ?」
梓「それは………お、同じ、ですよね………///」
唯先輩もそんな風に思ってくれていたことに私は驚いた。
……ただ、私や澪先輩のように同性愛者であるか、というとちょっと違う気がする。
唯先輩の場合、好きになったら性別とか気にしない、といった感じでしょうか。
もしかしたらバイセクシャルの気があるのかも……
いや、まあ今はそんなことはどうでもいいんですが。
唯「うん!えへへ……じゃあ、今からあずにゃんと私は恋人同士だね!」
梓「そ、そうですね……その、よろしくお願いします……///」
そこから唯先輩とお別れする交差点まで、私達は手を繋いで帰った。
ほんの短い距離でしたが。
唯先輩と手を繋ぐのはこれが初めてというわけではありませんでしたが。
部活の先輩から恋人に変わったというだけで、
手を繋ぐことがこんなに嬉しくなるんだと、私は初めて知ったのでした。
名残惜しかったですが唯先輩と別れ、家に向かい歩く。
………ダメだ。どうしても顔がニヤけてしまう。
ニヤニヤしながら歩いているとすれ違う人達に変な子だと思われちゃう。
………………………
そうだ!澪先輩に報告しなくちゃ!
携帯を取り出して澪先輩に電話を掛ける。
-
この時の私は少しどうかしていたんだ。
自分の気持ちが唯先輩に受け入れられた事に浮かれて、
澪先輩も上手くいったものと勝手に思い込んでしまっていて。
同性への告白なんて受け入れられないことがまず当たり前なんだということを
すっかり失念してしまっていた。
澪『そうか……おめでとう、梓。………私はダメだったよ』
携帯から聞こえてくる澪先輩の声はいつもどおりのものだった。
澪『でも、律はやっぱりいい奴だよ。さすがは私が惚れた女だよな。
付き合うことはできないけど、今までどおり一番の親友でいてくれるって。
普通、気持ち悪がって距離を置かれたり……縁を切られても文句言えないよな』
梓「あの、澪先輩………」
澪『いいんだ、梓。私のことは心配しないでくれ。
最初から上手くいくなんて思ってなかったんだから。お前は唯と幸せにな?』
梓「……はい。ありがとうございます……」
家に帰ってからも私は複雑な心境だった。
唯先輩と恋人同士になれたことはもちろん嬉しい。それはもう天にも昇るほどに。
でも澪先輩のことを考えると素直には喜べない。
明日からの部活どうすればいいんだろう………
澪先輩の前で唯先輩といちゃついたりなんて、そんな見せつけるようなことをするわけにいかない。
……はっ!唯先輩にその事を伝えておかないと……!
あの人のことだから明日からはいつも以上にベタベタ引っ付いてくるに違いない。
それは私にとっては嬉しい事だけど澪先輩の気持ちを考えると……
携帯を取り出して唯先輩にメールを打つ。
『唯センパイ。私達がお付き合いを始めた事、まだ誰にも内緒にしておきましょうね?
学校ではいつもどおりに振る舞いましょう』
送信っと。
一分と待たずに返信がきた。
『えぇ〜〜?なんでぇ?せっかく恋人同士になったのにー。いちゃいちゃしたいよー><』
やっぱり……危ない危ない。
私もいちゃいちゃしたいのは山々ですが、そんなわけにはいかないんです。
えーっと、唯先輩にはなんて言えばいいかなぁ?ホントの事を伝えるわけにはいかないし……
『律先輩に知られたりしたら絶対にからかわれますよ。恥ずかしいです。
それにしばらくは二人だけの秘密を楽しみましょうよ』
送信!
実際にからかわれるのは恥ずかしいし、二人だけの秘密(実際は澪先輩は知ってるけど)を
楽しみたいという気持ちもある。嘘はついてないよね。うん。
『おぉ!二人だけの秘密かぁ♪いいね!なんか恋人同士って感じがするよ〜♪
了解です!学校ではいつもどおりにね^^』
ふぅ……これでよし。
そこからも何通か唯先輩とメールのやり取りをした。
恋人同士としてのラブラブメールだ。
たぶん私はずっとニヤニヤしていたと思う。
うわ。どうしよう。私いま、すっごく幸せかも……///
"
"
-
_________
ふぅ……少しのぼせ気味で私はベッドに転がる。
お風呂で唯先輩との今後のお付き合いを色々と妄想しているとつい長風呂になってしまった。
えへへ……でも唯先輩と私はもう恋人同士なんだから、その妄想も
近いうちに現実になるんだよね♪
………ダメだ、今日は興奮して寝れないかも………
なんて考えていると携帯電話からメールの着信音が。
また唯先輩からメールかな?と思ってウキウキ気分で携帯を開く。
メールは澪先輩からだった。
『ごめん。今から梓の家に行ってもいい?』
時計を見ると午後10時を過ぎている。こんな時間に私の家に……?
今日はうちの両親は仕事で居ないので、来てもらうこと自体は問題ないけど……
とにかく返信をする。
『大丈夫です。遅い時間ですから、気をつけて来てくださいね?』
ピンポーン
インターホンが鳴る。
返信のメールを送ってからまだ数分しか経っていない。
澪先輩の家から私の家まではどう急いでも十数分はかかるはずだ。
ということはメールを送ってきた時、すでに澪先輩は私の家に向かっていたということだ。
玄関を開け出迎えた瞬間、澪先輩は私の体をギュっと抱きしめてきた。
梓「み、澪先輩!?」
澪「ゴメンな……電話じゃ強がったこと言ったけど……やっぱり私、ダメだ……」グスッ
梓「………………」
家に帰って一人になって、色々と考えてしまったんだろう。
私が唯先輩とメールをして浮かれていた間、澪先輩は一体どんな気持ちでいたのだろうか。
そして、この澪先輩の姿は一歩間違えば今の私の姿なんだ。
唯先輩に気持ちを受け入れてもらえてなかったら、私もこうなっていたに違いない。
澪「……一人でいると、ダメなんだ……グスッ……ゴメン梓………
今日だけ、今日だけでいいから………一緒にいて……?」
梓「澪先輩………」
澪「うっ……うぅ……律ぅ……やだよぉ……」ポロポロ
泣きながら私の体に縋り付く澪先輩はあまりにも弱々しくて。
放っておいたらそのまま消えてしまいそうで。
私の唇に自分の唇を重ねてくる澪先輩を拒絶することができなかった。
そして、
私は唯先輩とお付き合いを始めたその日の夜に、澪先輩と体を重ねてしまった。
-
_________
翌日からの軽音部は表面上は今までと変わらないものだった。
唯先輩と律先輩がふざけ合い、澪先輩や私がツッコミをいれる。
そんな姿をムギ先輩はニコニコと見つめている。
唯先輩も昨日メールで釘を刺しておいたとおり、過剰にはベタベタしてこない。
本当にいつもどおりの風景だった。
……見ていて痛々しいぐらいに。
律先輩を責めるわけにはいかない。
もともと私と澪先輩が無茶な告白をしたのだ。
受け入れてくれた唯先輩が特殊なのであって、律先輩の対応はごく当たり前のものだろう。
いや、当たり前どころの話じゃない。
昨日澪先輩が電話で言っていたとおり、縁を切られていても不思議じゃないのだ。
今もこうして澪先輩といつもどおりに振る舞っている律先輩の優しさには頭が下がる。
律先輩が澪先輩を完全に拒絶していたら軽音部の日常は失われていたかもしれない。
そんな風に一見いつもと変わらない日常も一ヶ月ほど過ぎていきましたが、
澪先輩との体の関係はあの夜からもずるずると続いている。
恋人であるはずの唯先輩とはまだキスさえもしていないというのに……
最近の澪先輩はひどく不安定になっていた。ある時は、
澪「いつまでも梓に甘えてちゃダメだよな……唯にも申し訳ないし……
うん、私はもう一人でも大丈夫だよ。今までゴメンな、梓」
なんて言ったかと思えば翌日には、
澪「梓……寂しいよ……今から家に行ってもいい……?」
なんて言い出したりする。
本当なら私がきっぱりと断らなければいけないんだろう。
『私は唯先輩と付き合ってるんですから、もう澪先輩とこういうことは出来ません!』
とでも言わなければいけない。
でも今の澪先輩は本当にボロボロで。
部活の時なんかは気丈に、いつもどおりに振る舞っていますが、
事情を知っている私から見れば無理をしているのが痛いほどわかって。
いま私が拒絶したらこの人はどうなってしまうんだろう、なんて考えると、
泣きついてくる澪先輩を無碍にはできなかった。
-
私が澪先輩を慰めるのは、私か澪先輩の家に親が居ない場合、もしくは部室に
他の先輩方が来ない場合のその三箇所に限られている。
まあ流石に部室ではお互いの家の時ほど無茶はできませんが。
キスをしたり、服の上からお互いの体を触ったりする程度だ。
今日は唯先輩、律先輩、ムギ先輩の三人にそれぞれ用事があって
部活はなし、ということになったので、もしかしたら……と思っていると
案の定、昼休みに澪先輩からメールが届いた。
『今日の放課後、部室でいいかな』
………はっきり言って唯先輩に対しての罪悪感は半端ないです。
澪先輩もそれはわかってくれている。
わかってくれているはずなんですが……
やはり律先輩のことはまだ忘れられないようで。
いや、忘れるも何もクラスも部活も同じで、ほぼ一日中一緒にいる人を
忘れる事なんてできるわけがない。
律先輩が普通に接してくれれば接してくれる程、澪先輩の胸は痛み、誰かの温もりを求め、
結果、私に縋ってしまうようです。
放課後。
メールでの約束どおり、私と澪先輩は二人で部室に来ていた。
トンちゃんにエサをあげたあと、私は誘われるままに澪先輩の座る長椅子の隣に腰を下ろす。
澪「ごめんな?梓、いつも私の為に………」
私と唯先輩が付き合い始めてから、澪先輩は私との行為の前には必ずこうして一言、謝罪をする。
澪先輩もいま私達がしていることが唯先輩に対する
裏切りである事は当然、自覚しているのでしょう。
澪「………梓………」
澪先輩が私の唇に自分の唇を重ねてくる。
それと同時に左手は私の『触っていて楽しいのかな?』と思えるような胸に伸びてくる。
最初のうちは澪先輩は私のことを『梓』と呼んでいますが、
気持ちが昂ぶってくると律先輩の名前を呼びだす。
いつものことだった。
私も澪先輩の羨ましく育った胸に手を伸ばしたところで、
澪先輩の頭越しに音楽準備室のドアが目に入った。
音楽準備室のドアには上の方にガラスが嵌まっているのですが、
そこからこちらを覗いている人物と目が合った。
心臓の鼓動が跳ね上がる。
校舎内でこんなことをしているのだ。
誰に見られても大問題だけど、その人物が誰であるかはっきり認識できた時、
―――全身の血の気が引いた
唯先輩だ。
唯先輩に見られた。
澪先輩とキスしているところを。
体を触りあっているところを。
私と目があった唯先輩は、しばらく無表情で私を見つめていましたが
何も言わずスッと部室の前から立ち去ってしまった。
追いかけないと。
唯先輩を。
でも体が動かない。
比喩表現ではなく本当に全身の血の気が引いた私は、
貧血でも起こしたのかそのまま気を失ってしまったようだ。
-
目を覚ました時、私は澪先輩に膝枕をされていた。
澪「梓……!良かった……急に倒れちゃったから心配したぞ?」
………………
頭がボーっとしている。
なんで私は部室に………?澪先輩と二人………?えーっと………?
………そうだ。澪先輩を慰める為に部室に来て………
澪先輩とキスをして………
!!!
そうだ!唯先輩が………!
全てを思い出した私は再び血の気が引くのを感じる。
しかし、ここでまた気を失うわけにはいかない。
唯先輩に会わないと………!
澪先輩の様子を見るに、この人は唯先輩が見ていたことは気づいていないようだ。
それならそのほうがいい。
澪先輩がそれを知ってしまったら、話はますますややこしくなる。
梓「すいません、澪先輩!私、帰りますっ!」
澪「あ、梓っ……!?おい!」
澪先輩に呼び止められたが申し訳ないけどそんな事を気にしている場合じゃない。
多少ふらつく体に鞭打って私は部室を飛び出した。
全速力で唯先輩を追いかける。
私はいったい何分ぐらい気を失っていたんだろうか。
いくら走っても唯先輩の背中は見えない。
結局、追いつく事は出来ないまま、私は唯先輩の家の前まで来てしまっていた。
………唯先輩はまっすぐ家に帰って来てるんでしょうか?
インターホンを押そうとする指が震える。
唯先輩が家にいて、唯先輩に会って、そしてなにを話せばいい?
思考がまったくまとまりませんが、それでも唯先輩に会わないといけない。
意を決してインターホンを押す。
ガチャッ
玄関ドアが開き、唯先輩が顔を出す。
その顔は部室でドアの向こうから私を見ていた時と同じ、無表情なものだった。
こんな時にどんな表情をすればいいかわからない、とでも言うように。
いつも表情豊かな唯先輩のこんな顔を見るのは私は初めてのことだった。
梓「ゆ、唯先輩……あの……」
唯「………あずにゃん、あがって?」
私が言葉を発する前に家に入るように促されてしまう。
唯「私の部屋、いこっか」
階段を上がっていく唯先輩の後ろを、私は絞首台に上がる死刑囚のような
気持ちでついていった。
-
唯先輩の部屋に通され、テーブルを挟んで向き合って座る。
梓「そ、その……唯先輩は今日、なんで部室に……?用事があったはずじゃあ……?」
はっきり言って今、そんなことはどうでもいいことだ。
ただ今から話し合わなければいけない問題について先送りにしたいが為の質問だ。
唯「うん。今日トンちゃんのエサやり当番だったこと思い出して……それで部室に
いったんだよ………………あっ!どうしよう、結局エサあげてない!」
梓「あ、エサは私があげておきましたから……」
唯「そっか、よかったぁ……ありがとね、あずにゃん」
いま唯先輩にお礼を言われてしまうのは非常に心苦しい。
ありがとうなんて言わないでください。こんな私に。
梓「………………」
唯「………………」
それっきり二人とも黙り込んでしまう。
唯先輩はなにも言わない。
怒られた方が気が楽だ。『浮気者!』とでも罵ってほしい。
でも、ここで唯先輩からの言葉を待つのは卑怯だと思う。
私の口から、ちゃんと唯先輩に話さないと。
梓「あの……唯先輩、実は………………」
澪先輩には悪いと思いましたが私は唯先輩に全てを打ち明けた。
澪先輩は律先輩のことが好きだと言うこと。
以前から私と澪先輩はお互いに恋愛相談をしていたこと。
いつしかお互いの体を慰めあう関係になっていったこと。
私と唯先輩がお付き合いする事になったあの日、澪先輩は律先輩に振られていたということ。
澪先輩を慰める為に体の関係を続けていること。
全てを打ち明けた。
私の話を無表情で無言で聞いていた唯先輩は全てを聞いた後、ゆっくりと口を開いた。
唯「……あずにゃんは私より澪ちゃんのことが好きなんじゃない?」
梓「そ、そんなことないです!私が好きなのは唯先輩一人です!……澪先輩のことは
………その、なんだか見ていて可哀相で……放って置けなかったというか……」
この言葉に嘘はない。
初めて会った時から私は唯先輩のことだけを想い続けている。
一目惚れだったと言ってもいいだろう。
そしてそれから一緒に過ごしていくうちにその気持ちは日増しに強くなっていった。
澪先輩に対する気持ちは同情の域を出ない。
唯「キス……してたよね?澪ちゃんと」
梓「…………はい」
唯「その先のことも……してるんだよね?」
梓「…………してます……ごめんなさい……」
唯「私とはキスもしてくれないよね……」
唯先輩とお付き合いを始めてからキスをするような
雰囲気になったことは何回かあったけど、そのたびに私が拒否してきた。
『まだ早いです』と。
唯先輩は付き合い始めてからの期間がまだ短いから、という意味に解釈されたでしょうが
本当はそうじゃない。
澪先輩との関係を終わらせてからじゃないと、唯先輩とキスやその先のことを
する資格が無いと私が思っていたからだ。
勝手な言い分であることは自分でもわかっています。
現時点でも唯先輩を裏切っていることには変わりないのですから。
澪先輩との体の関係が終わったからといって私の身が潔白になるわけでもなんでもない。
それでもやっぱり唯先輩とキスしたり、体の関係を結ぶのは澪先輩との関係をきっちりと
終わらせてからじゃないと、私自身が納得できなかった。
-
梓「そ、それは……」
唯「……やっぱり、してくれないの……?」
私は唯先輩を押し倒した。
世界で一番大好きで世界で一番かわいい恋人にこんな事を言われて。
いや、言わせてしまって。
なにもしないなんて最低の恋人だ。
………今までしてきた事だけでも充分最低の恋人ですが。
唯「あ、あずにゃん………」
私に組み敷かれた形の唯先輩は顔を真っ赤にして私を見つめている。
その大きな瞳がゆっくりと閉じられる。
唯先輩はこんな最低な私を許してくれるんだろうか。
こんな最低な私をまだ恋人と呼んでくれるんだろうか。
唯先輩と私の唇が触れようとするその時、
♪〜♪♪〜〜♪〜
空気を読まずに私の携帯がメールの受信音を奏でた。
唯「あずにゃん……電話、鳴ってるよ?」
梓「……メールです。後で見ればいいです」
唯「ダメ。今見て」
いつになく厳しい口調の唯先輩に逆らえず、メールを確認する。
from:澪センパイ
sub :寂しい
_________
会いたい
梓「………………」
唯「誰から?」
梓「………澪先輩からです」
唯「見せてもらっても、いい?」
これを拒否する権利は今の私には無い。
携帯のディスプレイを唯先輩に見せた。
唯「………行くの?あずにゃん」
梓「………行きません。私は唯先輩の恋人なんですから」
まだあなたがそう思ってくれていれば、ですが。
唯「……そっか。澪ちゃん……大丈夫かなぁ?」
……大丈夫ではないかもしれません。
それでも。私にとって一番大切な人は唯先輩なんです。
ずっと、いつかは澪先輩をはっきり拒絶しなければと思っていました。
それが今になっただけのことだ。
私は唯先輩の体を抱き寄せ、再び唇を近づけていく。
♪〜♪♪〜〜♪〜
二度めの受信。
今度こそ無視しようかと思いましたが
私を見つめる唯先輩の目が物語っている。
『今、見なさい』と。
逆らえず、再びメールを確認する。
-
from:澪センパイ
sub :来てくれないの?
_________
私もうダメかも
………何度も聞いてきた言葉だった。
澪先輩の『もうダメかも』。
澪先輩が律先輩に受け入れられなかったあの日から、
それは澪先輩のは口癖のようになっていた。
それでもやはり心配になる。
今、私がそばに居てあげないと澪先輩は本当に壊れてしまうかもしれない。
梓「………………」
唯「あずにゃん、行ってあげて?」
梓「で、でも………」
唯「……心配なんでしょ?澪ちゃんのこと」
梓「そ、それは……確かに、心配ですけど……」
唯「………私も心配だよ……でも、あずにゃんしか助けてあげられないでしょ?」
梓「………はい……ごめんなさい、唯先輩………私、行きます」
唯「うん……バイバイ。あずにゃん」
部屋を出る私の背中にかけられたこの言葉。
それが『バイバイ、また明日ね』なんて意味じゃないことはわかっている。
これは唯先輩からの別れの言葉なんだ。
澪先輩の家までの道を歩きながら私はボロボロ泣いていた。
すれ違う人達には変な子だと思われただろう。
でも、そんなことはどうでもいい。
唯先輩との関係が終わった。
それは恋人同士という関係が終わっただけじゃない。
以前のように仲の良い先輩後輩にもきっと戻れないだろう。
それどころか同じ部活を続けていく事も、もう無理なのかもしれない。
唯先輩が私を抱きしめてくれる事はもう二度とないんだという事実に、
胸が張り裂けそうだった。
涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔のまま、澪先輩の家のインターホンを押す。
澪「ゴメンな梓……また我が儘言って……あ、梓!?どうしたんだ!?」
出迎えてくれた澪先輩は私の顔を見て驚く。
当たり前だ。鏡は見てないけど自分が今どんなに酷い顔をしているかぐらいわかる。
梓「私……グスッ……唯先輩に振られちゃいましたよぉ……」
澪「梓……」
梓「どうしてくれるんですか……ヒック……澪先輩のせいですよぉ……責任とってくれるんですか……」
違う。
私が唯先輩に振られたのは私自身のせいだ。
私が澪先輩を拒絶できていればこんな事にはならなかったんだ。
そんな事はわかっている。
それでも澪先輩にぶつけずにはいられなかった。
澪「ゴメンな……私は律のことが好きだから……責任をとることはできないよ。
でも……いつも梓がしてくれるみたいに、私が梓を慰めてあげるから……」
そう言うと澪先輩は私の身体を抱き寄せ、唇を重ねてきた。
今まで何度も繰り返してきた澪先輩とのキス。
一番したかったはずの人とはすることができず、この先も一生味わうことは
無いであろうあの人の唇の感触。
私は目を閉じ、これは唯先輩の唇なんだと自分を錯覚させる。
梓「グスッ……唯先輩……」
澪「律……律ぅ……」
そして私達はいつものようにお互いの想い人の名前を呼びながら身体を重ねた。
おわり
-
乙
切ないな…文章表現がよかった。
ただ、同性愛嫌悪的な文言のしつこさがちょっと気になった
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最近澪が犠牲になるの多いな
みんな似たようなのばかりでうんざり
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なんだこれ読まなきゃよかった
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