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唯「イカレた学校から脱出だ!」
-
暴力表現有り、苦手な方はお控えください。
"!?…〜()『.
"
"
-
プロローグ………軽音部
紬「はい♪ 唯ちゃんの分♪」
唯「わーい♪」
律「今日はバームクーヘンかァ、
いいねいいねぇっ」
唯「おいしー」
澪「....」
唯「あれーっ、
澪ちゃんどうしたの?
食べないのー?」
澪「食べる...」もぐもぐ
唯「んふふー♪
おいしいでしょー?」
澪「おいしい.....けど
こんなのダメだ.....」
唯「へ?」
澪「いくらなんでも最近
たるみ過ぎだぞお前ら!
練習はどうしたんだよ!」
律「お?」
紬「み、澪ちゃん落ち着いて...
練習はするわよ〜、ねえ唯ちゃん」
唯「もっちろん!
そのためのティータイム
なんだよ澪ちゃんっ!」
澪「お菓子がないと
練習出来ないのかっ!それに
そんなこと言って昨日はまるで
練習しなかったじゃないか!」
唯「き、昨日はちょっと体調が...」
澪「まったく...」
律「唯、ムギ、ちょっと...」
唯紬「?」
律「これはいい流れだぞ...」
唯「えー? なんでなんで?
澪ちゃん怒ってるよー」
紬「ええ、いつもより怖いわぁ...」
律「ああ、そして澪はこう言う
だろーぜ」
律「合宿をします...ってな!」
唯紬「!」
唯「おおー....合宿....!」
紬「また行きたいわぁ♪」
律「だろー? ならうまくいくように合わせろよー」
澪「新歓ライブも控えてるのに
これはヒドすぎる! だから....」
律(くるかッ!?)
澪「明日からの休日は全員学校で
みっちり練習だ!」
律「ファッ!?」
澪「お....驚き過ぎじゃないか?」
律「な、なぁ澪ー、
せっかくならっ、いつもと違う
場所の方がやる気が出るって
いうかァー...なぁお前ら!」
唯「うんっ! そうだよ澪ちゃん!
気分転換だよ!」
紬「せっかくのおやすみだものー♪」
澪「ダ メ だ!」
唯「うごわあーッ!」
律「...頑固だ...」
澪「覚悟しろよ、今までの分
休みなんてないんだからな!」
唯「えっ?」
律「あのー 澪さん、
明日からは祝日が重なって
三連休なんですが....もしかして...」
澪「三練習だ、当然だろ?」
唯「ボォボァアアアアアア!!」
律「なァにィィィイイイイイイイイ
イイイイイイイイイイイ!!」
紬「そ、そんな〜」
澪「分かったな、
休むのは許さないぞ」
唯「休みなのにぃ〜....」
澪「じゃあ、先生に
許可もらってくるよ」ガチャ
律「こ...こうなったらさわちゃんが
許可しないのを願うしかッ....」
唯「願おう! ねっムギちゃんっ!」
紬「ええ! 一生懸命に...」
………数分後
澪「いいってさ、先生」
律「そっすか...」
唯「ん〜.....考えたらさぁ、
普通の部活なら別によくない?」
(きっとお茶の時間あるだろーし♪)
紬「あ....そうね、
部活ならいっかぁ〜」
(いつも通りお菓子持ってこよう♪)
律「ま...まあ、
もちろん部活が嫌って
ワケじゃないけど、合宿のチャンスが消えたって考えたらなー」
澪「合宿? なんの話だ?」
紬「なんでもないのよ〜
澪ちゃん♪」
澪「?.....よし!
明日から頑張るぞ!
昼食は各自持ってくること、
いいな?」
唯「おー」
紬「おー♪」
律「うん...」
唯「じゃあじゃあ澪ちゃんっ、
そのかわり今日はたくさん
お茶しててもいいよねっ!」
紬「まだケーキ残ってるわ〜♪
澪ちゃんもどう?」
澪「し、仕方ないな、食べるよ....」
-
………
………
………生徒会室
会長「それでは明日から行われる
商店街募金活動の日程と
役割分担はこれでよろしいでしょうか」
役員「はい、異論はありません」
(うっわー....土日潰れるとか最悪ゥ)
和「はい」
(久し振りに唯と遊びに
行きたかったんだけど、仕方ないわ)
役員共「はい」(メンドクサー)
会長「それでは、生徒会を終了します」
役員共「ありがとうございました」
………
………
役員「ねえねえ真鍋さん」
和「はい」
役員「真鍋さんって確か土曜日の
係りだったよね?」
和「はい」
役員「あのさー、
私日曜どォーしても外せない用事があって!
私の代わりに日曜日も
出向いてもらえないかなー? お願いっ!」
和「えぇっ.....ですが....」
役員「....いいでしょおー、先輩命令....とか言っちゃったりィ....ねっ?」
和「....分かりました」
役員「フフ♪ ありがとう真鍋さん!
それじゃあ
よろしくぅッ!」ささっ
がちゃっ ばたん
和「....」
和「フゥ〜〜〜....」
和(フン...先輩め...
後輩をいいように扱いやがって...
そんなに休みが欲しかったのかしら....
遊び呆けることしか脳がないまでに....)
和(....ま、幸い祝日でもう一日休みはあるし、
それにこういった理不尽な仕打ちも経験の一つね)
-
………
帰路………踏切前
唯「うぅ....まだまだ寒いなぁ...」
唯「.....あれっ、あそこにいるのは....」
和「....」てくてく
唯「和ちゃーん!」
和「あら、唯、珍しいわねこんな時間に」
唯「それは和ちゃんだよ、
生徒会 長引いたのー?」
和「ええ、まあね」
唯「一緒に帰ろー♪」
和「そうしましょう」
………
………
唯「そういえばねー、
軽音部明日から特訓するんだー!
三練習だよっ!」ふんす
和「そうなんだ、頑張って」
(三練習....どの道唯とは遊べなかったんだわ。
結果オーライ....かしら?)
………平沢家
唯「ただいまぁー」
憂「おねーちゃんお帰りーっ」
唯「憂ー、私ね、明日部活あるんだー」
憂「そうなの?
頑張ってねお姉ちゃん」
唯「うんっ、でも朝から夕方まで
練習ってハード過ぎだよねー」
憂「じゃあ帰ってくるのは
いつも通りの時間なんだ....」
唯「うーん、それよりももっと
遅くなっちゃうかも」
憂「そっかー....」
唯「あーあと お弁当よろしくね憂っ」
-
………
………
三練習………一日目
唯は寝坊をかました。
唯「いってきまーっす!」ドタバタ
憂「いってらっしゃーい、練習頑張ってねー」
唯「ふんす!」タッタッタッ
桜が丘女子高等学校………二階
唯「ほっほっほっ....」
唯は息を弾ませながら階段を上る。
生徒「....」タッ タッ タッ
唯「....!」
その途中、
メガネをかけた陰気臭い生徒とすれ違った。
唯(オカルト研の子だよね....今の)
唯(土曜日にも部活してたんだね....)
唯(.......どーでもいいや、早く行かなきゃ)
………音楽室
がちゃっ
唯「ごっめーん! 寝坊しちゃってー!」
紬「唯ちゃんおはよ〜う♪」
律「おいおい、しょっぱなから寝坊かよ」
唯「えへへ〜」
澪「よし、全員揃ったな、早速練習開始だ」
唯「えーっ...は、早ーい...休ませてよ〜」
紬「お茶の準備するわね〜♪」
澪「お、おい....」
律「そうそう、
これこそ我らが軽音部だよなー」
澪「まったく...少しだけだからな?」
………平沢家
憂「はぁ...」
(お姉ちゃん さみしいよぉ.....
でも明日は...)
………商店街
和「募金お願いします.....
ぁ......ありがとうございまーす」チャリン
(やけに儲かるわ、
女子高生にいいとこ見せようとする奴らが湧くのかしらね。野郎やガキがやるより効率いいのかも)
………
夕方………平沢家
唯「たっだいまー」
憂「お姉ちゃんお帰り、練習お疲れ様ーっ」
唯「ふふー、明日も頑張るよ〜」
憂「えっ....」
唯「ほぇ?」
憂「お、お姉ちゃん...明日も部活あるの?」
唯「うん、そうだけど...?」
憂「明日は二人で
お買い物行くって....約束....」
唯「ハァーッ! 忘れてた!」
"
"
-
三練習………二日目
澪「ムギ以外手ぶらか」
(で、ムギの持ってる荷物にはきっとお菓子が
たくさん....やっぱりちょっと楽しみだな♪)
律「唯の奴おっせーなー」
澪「ああっ そうだった、唯は今日休みだ、
憂ちゃんと約束があったんだってさ」
律「なんだ...そうかぁー....」
紬「残念ね....でも仕方ないわ....」
律「......」
紬「......」
律「へ、へん!
じゃあ私が唯の分のケーキも
食っちゃおっかなー!」ガタッ
澪「こら!」
紬「あ〜っ、りっちゃんたら〜」
律「ふふん、
唯の悔しがる表情が目に浮かぶぜ」
(唯『むーっ! ズルイよりっちゃん!』)
澪「....確かに、想像しやすい...ふふっ」
平沢姉妹………商店街
唯「あっ、見て見て憂ー!
この服....どーお?」
憂「カワイイよ〜 お姉ちゃんっ!」
唯「んふふ〜.......ん?」
和「募金お願いします.....」
(わざわざ募金なんかして集めるんなら
はなっから税金の一部でもなんでも送りゃ
いいんじゃないのかしら....
よく分かんないわね)
唯「和ちゃーん!!」 憂「和ちゃんだ!」
和「ありがとうございまーす」チャリン
(このお金が本当に被災地や
貧困の地に使われるのかどうかも怪しいわ、
そもそも桜校今年度最大のにわか企画のくせして....)
唯「のーどかちゃんっ!」
和「ッ!?」
唯「んはー♪ 本物だー♪」
和「え...唯? あんた部活あるんじゃ...」
憂「こんにちは和ちゃん」
和「う、憂もいたのね....
二人してお出掛け....かしら」
唯「うんっ!
無理言ってお休みしちゃったぁ♪」
憂「ごめんねお姉ちゃん....」
唯「いいんだよ〜、
憂とのお出掛けも大事だも〜ん」
和「.....」
憂「和ちゃんは何してるの?」
和「.....私は生徒会主催の募金活動真っ最中よ」
唯「そっか〜、じゃあ募金してあげよう!」
憂「そうだね!」
唯「ちょっぴりフンパツしちゃうよ〜♪」
唯「五十円!」 憂「じゃあ私もーっ」
唯「二人で百円だね〜」 憂「ね〜」
-
和「毎度」チャリチャリン
唯「ん、じゃあね和ちゃん、
私達そろそろ行くよ」
憂「和ちゃんまたねー、頑張ってねー」
和「ええ....楽しんできなさい...」
唯憂「〜♪」
唯「あーっ! このアイスおいしそぉーっ!」
憂「食べよっかお姉ちゃんっ」
唯「わあい! 憂は違う味にしてねっ、
一口交換しよー♪」
憂「うんっ♪」
和「.....」
和(クソが.....本来なら私はあの二人と一緒に
ショッピングを楽しめてたのね...
なんてツイてないのかしら....)
先生「ちょっと...ええっと...
真鍋....さん...だっけェ?」
和「あ....はい」
先生「あなた、名簿見てみたら
昨日の当番ですよね?
なぜ今日もここにいるんですかァ?
生徒が一人いなくなったかと思って
焦っちゃいましたよッ」
和「ぇ......そ、それは....
今日ここに来るハズの生徒は都合が悪くて、
私が代わりに出ることに...」
先生「は? 困りますねえ、
そういうのはちゃんとこちらに
連絡をよこしなさい。
分かりましたかァ?」
和「」ピクピクッ
和「はい、すみませんでした」ペコォ〜ッ
先生「......え?
あァはいはい、もういいですよ」
-
再び軽音部………音楽室
律「そーいやさぁ、
オカルト研って結構活発な部なのかぁー?」
澪「ん? どうしたんだ急に」
律「いや、
オカルト研の奴らが登校してんの見てさ、
日曜も部活やってんだな〜って」
紬「うーん...オカルト研は文化部だから、
私達と同じで普通はないと思うけど...」
律「だよなーっ、
よっぽどなんかの研究が進んでんのかなぁ」
澪「....」
(やな想像しか出来ないなあ....
オカルトって聞くと)
………
………
そして夕方………商店街の外れ
先生「ふぁーあ....では、
募金活動はこれで終了、
皆さんお疲れ様でした......っと」
役員共「ありがとうございましたぁー...」
腑抜けた声が辺りに響き渡った後、
生徒会役員共は蜘蛛の子を
散らすように帰って行った。
和「フゥ...」
(まだ帰れないわ、
商店街で買い物しないと、本当はこの買い物を唯と一緒にしたかったのよね...)
役員「あーっ、ちょっとちょっと!
テント畳むの手伝ってェー!」
和「あ、はい!」
役員「うん、
そこ持ってゆっくりゆっくり....」
和「ぅ...重い....」
役員「ンよッとぉ!」ぐぐっ
どざあぁっ....
和「.....」
役員「ウッッワ........
ごめーん、後よろしくね....」さささっ
和「はい...」
…………数分後
和「ハァ....ハァ...」
和「買い物....しないと....」
和(ええっと、
明日の晩ご飯のおかずに...そうそう、
ゴキブリ退治用品も買うんだったわ)
-
………
………
翌朝 三練習最終日………真鍋家
和「....」ぱちくり
和「んん...」
(いつもより三十分多く寝たわ...
疲れもバッチリ取れたわね)
ブーーッ ブーーッ
携帯が鳴る。
和「....先輩から...どうして...?」ぱかっ
和「コホン....はい、真鍋です」
役員『あァーッ、真鍋さァん?
おとといからの募金で得た金額の集計、
真鍋さんに頼むってさ!』
和「.......あ?」
役員『だッから! 先生が真鍋さんに募金で
集まった金の集計を頼むって!
生徒会室に置いてあるからサ!』
和「私一人で、ですか?」
役員『アア? うん、真鍋さん真面目だし、
一人でも信用できるからって、
さすがだねぇー、それじゃあよろしく!』
和「分かりました、失礼します、先輩」
和(....ま、いいわ、気持ちのいい朝、
ご飯は途中で買って、ゆっくり向かいましょ)
-
………音楽室
唯「こんちわ〜」がちょり
ドアを開けると、
澪が自身の席の前で、
こちらに背を向けて立っていた。
唯「あ、澪ちゃーん」とことこ
澪「」
唯「.....どしたの?」
澪「」グルンッ
唯「ほわっ!?」
澪「なんて空気がうまいんだ!
最高の酒を飲んでるみたいだな!」
唯「えっ? お酒?
澪ちゃんお酒飲んだことあるの!?」
澪「なんて空気がうまいんだ!
最高の酒を飲んでるみたいだな!」
唯「澪ちゃん? 空気って...」
澪「そうさ、空気のニオイさ、
嗅いでみろよ...ふがふが....
イイニオイだろォ!?」
唯「すーはーすーはー....う、うん」
澪「なんて空気がうまいんだ!
最高の酒を飲んでるみたいだな!」
唯「わ、私どうすれば....」オロオロ
澪「....」
唯「.....そ、そうだ! 澪ちゃんっ!
練習しよっ!セッションしよっ!
やっぱ
軽音部といったら演奏だよね!」さささっ
そうほざきながら唯はギターを
机の近くに置いてあるアンプに繋ぎ、
演奏の準備をする。
唯「さぁ澪ちャ...」
澪「軽音部? ありゃ百万年前だ!」
唯「えーっ!?」
澪「なんて空気がうまいんだ!
最高の酒を飲んでるみたいだな!」
唯「ちょ...」
澪「なんて空気がうまいんだ!
最高の酒を飲んでるみたいだな!」
唯「......あの....えっと...
ごめん...私一旦戻るね...」
澪「バイバイ」
-
唯は音楽室を出て、しゃがみ込む。
唯「ひっく...ぐすっ...」
(澪ちゃんがオカシクなっちゃったよ...)
とん とん とん とん...
誰かが落ち着いた足取りで階段を上って来た。
和「あ、唯、いたわね。
焼き鳥買って来たから
一緒に食べましょ」もにゅもにゅ
唯「和ちゃあん...」ポロポロ
和「....どうしたの?」
唯「澪ちゃんがぁぁ...」
和「.....まさか唯をいじめたのかしら?
だとしたら許せないわね....」すちゃっ
和は咥えていた焼き鳥の串を逆手に持つ。
唯「あああ...そういうワケじゃないよう...
澪ちゃんがね、すっごく変なの」
和「冗談よ。それで、変ですって?」
唯「うん...空気がおいしいって言って...
マトモに返事してくれないんだよ...」
和「ふうん、空気がおいしいねぇ....
あ、なら私に相当な考えがあるわ」
唯「?」
和「ほら、まずは音楽室に突入するわよ」ぐい
唯「ちょーっ、和ちゃん!
タレが付いた手で制服触っちゃだめだよ!
うへぇ...タレがべったり...」
………音楽室
和「澪」
澪「なんて空気がうまいんだ!
最高の酒を飲んでるみたいだな!」
唯「ほらっ」
和「なるほどね、じゃあ...」
(カバンに入れっぱなしだった...)
和はカバンから
缶詰のようなものを取り出した。
唯「和ちゃん、それなあに?」
和「バルサンよ、空気がおいしいってんなら
まずくしてあげれば何か
別の反応を示すかもしれないでしょ」
唯「な、なるほど! 相手の言動と心理を突いた
的確な行動だね! 頼りになるよぉ〜」
和「それじゃ、まずは水を入れるわ」
澪「....」
-
和はバルサンをソファーの上にセットする。
和「さ、準備完了よ、
早くここから出ましょう」
唯「う、うん、
でも本当にいいのかな...澪ちゃん...」
澪「....」
和「苦しくなったら
自分から出てくるでしょ、大丈夫よ」
澪「....」
唯「ねえ澪ちゃんっ、
もうすぐ空気がまずくなっちゃうよ?
一緒に音楽室から出ようよ」
澪「なんて空気がうまいんだ!
最高の酒を飲んでるみたいだな!」
唯「うう....」
和「マッドウーマンね、さあ唯、早く」
ーーぶしゅうううううっ!
和が唯を連れ出すより先に、
バルサンから勢いよく殺虫煙がブチ撒かれた。
和「いけない....急ぐわよ」
唯「ひいいい!」
澪「やれ!」ダッ
突然、唯が音楽室に入った時から
一歩も動かなかった澪が、
走り出した、唯に向かって。
唯「えっ....のわぁーっ!?」
和「唯ッ!?」
澪「気に入ったか?」
ズメシャアッ!
澪はボクサーのような構えをとった後、
唯の鼻面に右ストレートを打ち込んだ。
唯「ぃぎッ!?」ずでーん
和「ちょっ、澪っ!?」
澪「こりたか!?」
澪はドアの前に倒れた唯にのしかかり、
さらに拳を叩き込む。
ごんっ ごんっ ごんっ
唯「ふわあぁーん! 澪ちゃんやめてぇー!!」
澪「気に入ったか?」
ごんっ ごんっ ごんっ
澪の拳は速くなるワケではなく、
遅くなるワケでもなく、
一定のペースで唯の顔面に降りかかる。
ごんっ ごんっ ごんっ
唯「あッ....*ぁぁっ....」ぴくぴく
和「澪ッ! やめなさい!
さもないとヒドイわよ!」
澪「ハハ!」ごんっ ごんっ ごんっ
和「どうなっても知らないんだから....」
和「このォッ!」バッ
和は意を決して澪に接近、
焼き鳥の串で突きを放つ。
和「きぇーッ!!」シュバッ
ぶすりっ
串は澪の肩に突き刺さった。
澪「アア!」
和「うっ...!」
(ごめんね澪....勢い余ってかなり深く
刺しちゃったわ...でも当然の報いよ...)
澪「望みが絶たれた!」ダダダッ
澪は悲観の声を上げ、
頭を抱えて部室から逃げ去った。
和「えっ」
(普通痛みで動けないもんじゃないの!?)
-
和(いや、今はそれよりもっ...)
唯「はー...はー....」ぐったり
和「唯っ!」
唯「げっほっ...
だいじょーぶだよのどかちゃん...」
唯の鼻の穴からは血が流れ、
ほっぺは赤く腫れ上がっていた。
和「.....」
唯「どうしてこんなことに
なっちゃったのかなぁ...ぐすん」
和「ぅ....」
(私のせいだわ....
私が澪を刺激するようなことをしたから....
澪が狂ってるのは実際
話してみて分かったことなのにっ...
どうしてあんな迂闊な行動を...!)
和「ごめんね....唯....」ぎゅっ
唯「な...なんで和ちゃんがあやまるの....?
....とりあえず....煙っぽいからここ出よーよ〜」
和「....そうね、おんぶするわ」
………
二階………トイレ
和「とりあえず、
血はキレイに拭き取ったわよ」
唯「ありがと〜 和ちゃ〜ん」
和「澪は同じところばかり殴ったのね、
ほっぺの腫れだけで済んでよかった....
鼻血がたくさん出てたから
かなりヒドイと思ってたわ」
唯「十分ヒドイよ!」
和「....とにかく....
唯はもう帰りなさい、
後は私がなんとかするから」
唯「えーっ? やだ! 私
和ちゃんと一緒にいるよっ」
和「ぅ.........だめよ、
また澪に襲われちゃうかもしれないでしょ?」
唯「確かにそれは怖いけど...」
和「学校の出口まで送るわ、
さあ行きましょう」
唯「.....うん」
二人は手を繋ぎ、トイレから出る。
和(明かさないと....澪の変貌の理由を...
そして願わくば元に戻って....)
唯(そういえば....
りっちゃんやムギちゃんは
まだ来てないのかな...?)
-
………
一階………階段付近
和「....」チラッ
和は壁に張り付き、廊下を確認する。
唯「誰かいるー?」
和「.....いるわ」
唯「えっ....も、もしかして澪ちゃん?」
和「違うわ...
あの黄色いカチューシャは...律ね」
唯「あっ、ホントだー!
おーいりっちゃーん!」
唯は廊下に飛び出し、
末端にいる律に呼び掛ける。
和「ちょっと唯」
律「ー!」タタタタタ
声に気付いた律は唯に向かって疾走する。
唯「おお...りっちゃん速〜い...」
律「」ダダダダダダダ
唯「なんであんなに急いでるのかな...?」
和「.....」
和「唯、逃げるわよ」ガシッ
唯「うわあっ!?」
既に律と和達との距離は
十メートル程に縮まっていた。
律「ユイ"ィーーーーーーーイ"ッ!!」
唯「ヒイィッ!?」
和(しまった...遅かったわ...!)
律「ノドカァ」ダンッ
瞬間、律は跳躍、
和にむしゃぶりついた。
和「ちょ」
律「ぁガァーーーーーーーーッ!!」
和「ううっ!」
(なんてこと...律もイカレてるのね!)
唯「和ちゃあん!」
律「ブッしゃああああ!」
律は大口を開けて和に
喰らい付こうとするが、
和は両手で律のデコとアゴを押さえ、
なんとか耐えていた。
和「ふッ....ぐううっ!」
(スゴい力...これが狂った人間の力なのね)
唯「あわわ....
りっちゃん...どうして...」オロオロ
和「っ....!」
(お...押さえきれない...唯...逃げて...)
律「バァァァァ!」
ごすっ ぼごっ
律は空いている両手で
和の腹を二回、乱暴に殴りつけた。
和「ぁぐェっ....」
律「むッしゃアーーッ!」グググッ
がぶっ!
とうとう律は和の肩口に喰らい付く。
和「ウああああ!」
唯「!!」
唯「ダメーっ!!」ドンッ
唯の捨て身の体当たり、
律を突き飛ばした。
律「ファッ!?」どてっ
-
和「ぶ...がッはっ....」
(苦しいわ...う、動けない...)
唯「ばかりっちゃん! 私が相手だよ!」
律「うばしゃあああああああああ!!」
和「唯....な、何を...やめなさい...!」
唯「わああああ!」
唯は再び体当たりを行う。
律「しゃああああアアア!!」
律は体当たりで返す。
ぼんっっ....
肉と肉がぶつかり合う鈍い音がした。
唯「うげえぇーッ!?」
狂人の体当たりに敵うハズなく唯は弾かれ、
三メートル ブッ飛んだ。
唯「*...ぅ...いたいよぉ〜」ぴくぴく
和「唯ィ! ぐ...ごほッ...」フラフラ
(動ける...動けるわよッ...
さあ、唯を助けないと...!)
律「うじゅる...ジュる...」ガシッ
唯「ひッ!?」
律は唯にまたがり、
頭と肩を掴んで床に押し付けた。
そして唯の側頭部に顔を近付け、
口を大きく開ける。
唯「やめてよりっちゃん...
ホントにどうしちゃったのさ...ねぇ....
元のりっちゃんに戻ってよ...」
律「アーン」
ごりっ!
律の歯が唯の頭蓋骨を鳴らした。
唯「ひッ!?
いッぎゃああああああーッ!!」じたばた
律「ふ...がるる...じゅるる....」
ーービュンッ!
律「ごバッ!?」メギメギッ
律の舌が唯の脳味噌に入る前に、
重く速い蹴りが律の右顔面に入った。
律「ブーッ!」ドサァッ
唯「ひィ〜〜っ....ひィィーーっ....!?」
和「やってくれたわね.....律.....」
片脚を上げたままの姿勢で
律を睨み付ける和。
律「しゃあああ...」むくり
和「もう今のあんたを友人とは
思わないわ....
この場でブチのめすことに決めたから」
律「ぐファ...」
和「第二ラウンドよ......来い」
-
律「バァアアアアァァァァ!!」ダッ
律は和に突進する。
和(しょせんはイカレたガキの単調な動き、
この私に見切れない攻撃じゃあないわ....)
和は踏み込んで前蹴りを放つ。
和(こうやって足を『置いて』やれば...
律は勢い余ってそのまま当たりに来る...)
律「ガアアッ...フッ!?」
律の動きが止まる。
和「入った.......どァッ!」ビュンッ
動きが止まったところに、
和は律の側頭部めがけて
鞭のようにしなる右上段蹴りを放った。
律「ピ」ゴギッ
律は床に崩れ落ちる。
律「」
和「.....」
(追撃してやりたい...
唯をあんな目にあわせたんだから...
頭を踏んづけて潰してやりたい....
でも、それは逆に唯が悲しむからやめましょ....
律が正気に戻る可能性もまだ
残ってるかもしれないし)
和「....唯っ、立てる?」グイッ
唯「う、うん...私の頭変になってなあい?」
和「.......大丈夫、
頭皮から少し血が出てるだけよ、
心配いらないわ......よかった」
律「ウグげれれギギギギギ....」ぐぐぐっ
和「あら.....まだ起き上がるのね、驚いたわ」
唯「ひえええ....りっちゃあん.....
に、逃げないと...」
和「....」
(このまま外に逃げたとして...律はどうなるの...?
町に出たら大騒ぎになるわ....いつまでも
学校に閉じ込めておくワケにいかないし....)
唯「の、和ちゃん? 早く逃げようよお!」
-
律「アッブアアアアアア
アアアァァァァア"ア"ア"!」
和「わっ...」
唯「ッひゃあああああああーーーっ!?」
律のけたたましい咆哮に、
唯が一段と大きな悲鳴を上げる。
すると、
階段の方から二人が聞き覚えの
ある声が飛んできた。
「今の声っ、下にいるのは唯ちゃん!?
オカシクなってないのね!? 急いで!!
生き延びたかったら階段を上ってきて!」
唯「ム、ム、ムギちゃん!? 来てたんだ!」
和「どうやらムギは大丈夫みたいね...」
(ここは唯とムギを一緒に脱出させるために
一旦上に行くべきかしら、
同時に律を振り切れればっ....)
唯「和ちゃんっ!」
和「ええ、上に行ってムギと合流しましょう」
「部室に来るの!
そこならひとまずは安全だから!」
唯「よし! まずりっちゃんから逃げようよ!」
和(音楽室、バルサン大丈夫かしらねぇ)
-
………
………音楽室
二人はトイレで律をやり過ごした後、
全力疾走で音楽室に向かい、
無事辿り着いた。
唯「はぁ....はぁっ....」
和「ふぅ....ふぅ...」
紬「お疲れ様〜♪
正しい選択だったわ二人とも♪」
唯「ムギちゃん...大変なんだよ....
りっちゃんが....澪ちゃんがっ...」
紬「だいぶ疲れてるみたいね、休んだら?
お話ししながらティータイムといきましょう」
唯「あ....う、うん」
和「フー...そーね...
少しだけ休憩がとりたいわ...
話はその後で....」
………
………
唯「和ちゃんは私の隣ね!」ガタッ
和「分かったわ」ガタン
紬「うふふ♪ さあ、紅茶をどうぞ〜、
クッキーもあるわよ」
和「ありがとうムギ、いただくわ」
(このコップ、
バルサンかかってんじゃないかしら)
唯「喉カラカラだよ〜....んくっ」ゴクゴク
唯「〜〜〜〜っ」
唯「ぷっはぁ〜〜....
こんな時でもティータイムは幸せだね....」
和「....」
(そういやこの部屋に
カバン置いたままバルサン炊いちまったわ....
焼き鳥大丈夫かしら)
紬「あら和ちゃん、飲まないの?」
和「....私はクッキーを
いただくわ....はむ」サクサク
和「ん....!」パァーッ
(おいしい....しつこすぎないバターの風味に
絶妙なしっとり感、何枚でもいけるわね)
-
………
………
紬「ねえ、和ちゃん、
こっち向いて」グオオン
和「え?」すっ
パッキャアァァンッ!!
怪力紬のハンマーブローが
和の横面をブッ飛ばした。
和「あ*ッ!?」ドタァッ
紬「うふふ〜♪」
和「む....ぎ....うそでしょ....あんた....も....?」
和「ゆ...唯.....逃げて....」
唯「」
しかし唯は机に突っ伏していて
まるで反応しない。
和「!?」
紬「和ちゃんも本当は
ああなるハズだったのに.....
クッキーしか食べてくれないから
仕方なくなのよ?」
和「.....アンタ...ユイに何ヲ....」ぐぐぐぐ
和は怒りに任せて体を起こす。
紬「和ちゃんが悪いのよ〜」ぶぅんっ
そして、
怪力紬のオルテガハンマーが
和の額に振り下ろされる。
ゴンッッ!
和「ぅぁ.....っ!」
紬「さてと!
じゃあ元通り座らせてあげるわ〜」
紬は床に倒れた和を抱え上げ、
椅子に座らせる。
紬「あらっ、和ちゃん見た目より重いのね〜。
おっぱいはそんなに
大きくないのに....ウフフ♪」
和「.......」
…
紬「さあ、手と足はしっかり
椅子に固定してあげたわ〜」ぎゅっ ぎゅっ
和は腕と足首をそれぞれ椅子の手すりと脚に、
ビニールテープでキツく、
何重にも縛り付けられた。
和「ゅぃ....」
紬「唯ちゃんも一緒だから安心して♪」
和「ーーっ....」
和の意識はここで途切れる。
-
ここでしばらく途切れる。
-
………
………
唯「んに....ふぁ....あれ? 私....」
唯「あ....っ...!?」
唯は自分が椅子に
縛り付けられていることに気付く。
唯「ひ...!?」ぐいっ ぐいっ
唯「の、和ちゃん?」
和「....」
唯「和ちゃん! 和ちゃあんっ!」
和「ん...大丈夫...起きてるわ....」
唯「私達どうなってるの!?」
和「どうやら....ムギも狂ってるようね...
捕まったんだわ....まんまと」
ムギ「あっ!
二人とも気がついたのね〜」
唯「ム、ムギちゃん! これほどいてよぉ!」
ムギ「あら、
それじゃ唯ちゃんと遊べないわ〜」
唯「あ、遊ぶ?」
ムギ「ええ♪
楽しいこといっぱいしましょう♪」
唯「なんだかムギちゃん怖いよ....」
…
和「ッ...! くぅぅっ...」グイイッ
唯「んんーっ! *ーッ!」ぐぐぐ
ムギ「キツ〜く巻いたから女の子の力じゃ絶対
取れないと思うわ。それより二人ともっ」
ムギ「これな〜んだ!?」さっ
唯「あーっ! 私のケータイ!」
和「私のもあるわ....」
ムギ「これで唯ちゃん達の声や表情を
残しておくべきよね〜」
そう言いながらムギは二人の前から机を離し、
そこにビデオモードを起動した携帯を並べる。
和「悪趣味ね」
唯「ムギちゃんっ! 目を覚ましてよー!」
唯「...はッ!!」
唯はムギの制服のポケットからトンカチが
見えていることに気が付く。
唯「....っ」ごくり
ムギ「あ、唯ちゃんトンカチ気が付いた?
でもこれはまだ使わないわ、
このトンカチはお仕置き用よ〜♪」
唯「お...お仕置きなんてやだぁ...」
ムギ「大丈夫よ、
必要以上に暴れたりしなきゃ使わないから♪」
ムギ「それで、今から使うのは〜〜〜」
ムギ「この彫刻刀で〜〜す♪」
-
唯「っ!?」
和「ひ....」
ムギ「まずは唯ちゃんの指で
カワイイ彫刻を作る......あら?」
ムギは彫刻刀を見つめ、
さらにポケットをまさぐる。
ムギ「....これ平刀じゃない。
平刀は爪剥がし専用だし....いっけなあい、
一本しか持ってこなかったんだぁ...
これじゃいい作品が作れないわ〜」
唯「た....タスけてェ....ぁ...」ガクガク
和「....」
ムギ「ちょっと待っててね〜〜、
今他の彫刻刀も用意するわ。
帰ったら再開よ♪」
そう言い放ち、
ムギは音楽室から出て行った。
和「........」
唯「あうぅっ! わあああッ!
外れてよオオオ!
イヤだぁーーッ!!」グイグイッ
唯は半狂乱になって拘束を解こうと暴れ出す。
和「ゆい....」
(無駄だわ....粘着テープでグルグル巻きに
されてるんだから....とれっこない)
和「....」
(どんな苦しみなのかしら....
生きたまま彫刻にされるなんて....
そんなの絶対いや....)
唯「はぁ...はぁっ....ヒ...ひッ...のノ....
和ちゃんッ...どーしよお....」
和「........今考えてるわ」
唯「***...ぐすっ....
助けてよおぉ.....ういー....」
和「フー....はッ....ふーっ.....
少し静かにしてちょうだい....!
どうするか今考えてるから、
絶対助けてあげるから、
泣かないで....お願いよ....!」
がちゃりっ
ムギ「ただいまァ〜〜〜〜♪」
ムギが小さめのダンボールを
抱えて戻ってきた。
和「っ!」ビクッ
唯「ヒイィーッ!」バタバタ
ムギ「さぁあ〜〜〜〜〜〜っ、
持ってきたわよぉ、とはいえ
最初に使うのは結局平刀なんだけどねっ♪」
ムギ「じゃあ人差し指から
剥こうか唯ちゃんっ♪」
ムギは左手で唯の人差し指をがっしりと掴み、
平刀の刃を爪と指の間に食い込ませる。
唯「ぎッ...お願いムギちゃん!
やめて! やめてぇ! やあああああああ!!」
ムギ「いっせーのー でいくわよ唯ちゃんッ!
ねっ? ねっ!? いくわよっ!?
いっせーのーでッ...
-
ッーードオォォォォォォン!!!
瞬間、部室内にとてつもない轟音が響いた。
ムギ「きゃあっ!?」 唯「!?」
和「....」
ムギ「の.......和ちゃん....あなたね?」
和「そうよ」
ムギ「ン〜〜......なるほど、アンプかぁ〜」
今の和の席、
つまり律の席の右隣には
アンプが置いてあった。
アンプのそばには
コードが伸びた唯のギターが置かれている。
ムギ「つま先でコードを抜いたのね、もう...」
唯「ノドカチャン....」
(助かったよぉ〜)
和「....」
(ひとまず時間稼ぎ...
問題はこの後どうするか...ね)
ムギ「.....和ちゃんったら、
せっかくいいところだったのに、
興をそがれたわ、
よくもやったわね〜っ」ぷんすか
和「あら、怒ってんのかしら?
じゃあどうすんの?」
ムギ「和ちゃんには特別な罰を
与えます!」ふんす
そして、
ムギはトンカチを取り出し、
唯の腕を殴った。
唯「ひぎゃあんッ!?」
和「なっ!?」
ムギ「和ちゃんには唯ちゃんの
姿を見守っていてもらいます!
私と遊ぶところをずっと見てるの!」
そう言いながらムギは
和と唯を動かし、向かい合わせにした。
ムギ「うふふ♪ これで唯ちゃんが
見やすくなったでしょっ?」
和「....それ以上唯に
手出ししてみなさい! こんな....ッ...こんなテープぐらい
すぐ抜けて....!」ぐぐぐ
ムギ「こうかしら〜?」さっ
ぐいいいいいいいい……
ムギは唯の後ろに周り、
唯の頬をつねった、
万力のように強烈な力で。
唯「ぎいいいーっ!!
*あああああん!!」
和「ちょ、やめろっつってんでしょ!
マジで許さないわよッ!
この金髪糞型眉毛ッ!!」
ムギ「.........はァァーーっ......ダメ、
やっぱりウルサイわ....和ちゃん」
-
唯「うえええん....」ぽろぽろ
和「.....」
ムギ「和ちゃんも彫刻にしてあげようか?
今すぐにッ!!」
和「ええ、お願いするわ」
ムギ「あーら、そ、どこを彫って欲しい?
望み通りにしてあげる」
和「....そうね、肩にしてちょうだい、
最近凝っちゃって」
ムギ「......あッッ そうッ!!」
ドスゥッ!!
和「ーーーーッッッ!」グッ
唯「うッわああ!? やめろおおおお!」
和「ユイ、ドウッテコトナイワ....グ...平気よ」
ムギ「どの口が言ってるのかしら?
ねェ!?」グリグリグリッ
ムギは平刀をねじり、かき回した。
和「がッ........
あんたって力弱いのねえ、
全然効かないわよ?」
ムギ「正気?」グググッ
ムギは柄を両手で持ち、さらに力を加え、
和に平刀を押し込む。
和「ひいッ....い...
今のあんたに言われちゃねぇ....」
唯「ムギちゃん!! 私もう怒ったよ!
和ちゃんを傷付けるなぁっ!」
和「ダメよ唯....しゃべっちゃ」
ムギ「もう和ちゃんはいらないわ、
唯ちゃんだけで十分よ!」
和「そうよね、
あんた程度じゃ手に余るよね。
実際特別な罰とか言っておいてすぐ
にやめたし、だいたい移り気なのよあんた」
ムギ「生意気な口を叩かないッ!!」
ムギは平刀を勢いよく下へスライドさせ、
和の肩から上腕にかけてを
制服ごと引き裂いた。
ブチブチブチブチッ!
和「ぅああぐッ...」
ムギ「フフフフフ」ブチブチッ
さらにムギは平刀を上下に激しく往復させた。
ぐっちゃ ぐっちゃ ガリガリッ
ゴリッ
和「ひぁぁ....痛い...うぅ....
ぐすっ....」じわぁ〜
ムギ「アッハハ! 泣いちゃう?
いいわよ! 最高!
アハハハハハハ!!」
唯「がああああッ! 許さない!
許さないよムギちゃんっっ!!
この悪魔! 鬼! 人でなし!
デブ! さでぃすとオオ!」
和「唯.....ダメだって....」
ムギ「唯ちゃーん、さっき私言ったよね?
必要以上に暴れたらトンカチで潰すわよ?」
和「.......ちょっと、まだ私の彫刻が
終わってないでしょ、あんたさっきから
移り気だって言ってんのが分んないの?」
ムギ「......和ちゃんはさっきから生意気だって
言ってるのが分からない?」
-
和「え? 別にあんたにへーこらする
必要なんて
どこにもないと思うけど...?
同い年なんだし....あ、世間知らずのお嬢様は
なんに対しても上から目線で生活してるから
そういうのには耐えられないのかしら?
ごめんなさいね、無理言っちゃって」
ムギ「ブッ殺すわ、和ちゃん」ズボッ
平刀を和の上腕から引っこ抜き、
喉に当てがう。
和「ぅ.....」
(まさか、もう私を殺すつもりなの....?
誤算だわ....でも彫刻刀で刺されたぐらいなら
まだチャンスはある...)
ムギ「今から和ちゃんのノドをカッ捌くわ、
見ててね唯ちゃん!」
唯「やめろおおおーーー!!」
ーーバァンッ!
ムギ「!?」 和「!?」 唯「えっ!?」
澪「ここに来るべきじゃなかったな!」
陸上部のように整った
ランニングの姿勢のまま、
体当たりでドアを開けて
部室に乱入してきたのは 澪 だった。
ムギ「まあ 澪ちゃん!?」
澪のランニングは止まらない。
澪「ジェアアアアアアアアアアア!!!」
ムギ「え....はんッ!」
澪の助走をつけた拳が
ムギの首をひしゃげさせた。
ムギ「あああッ!?」がっしゃーん
澪「気に入ったか?」
和「....」
(澪....多分アンプの轟音を聞いて
ここに戻ってきたのね...)
唯「澪...ちゃん....」
澪「ギュエラアアアアアアアアア!!」
床に倒れたムギに、
澪のジャンプパンチが降り注ぐ。
ムギ「くッ!」さささっ
ムギは素早く立ち上がり、それを避ける。
澪「気に入ったか?」
ムギ「そう....澪ちゃんがくるなら
私も容赦しないわよ」すっ
澪「ハハ!」
澪はボクサーの構えでムギに肉薄した。
-
ムギ「うッ!」
澪の素早い接近にたじろいだムギは、
牽制の右フックを放つ。
澪「自分の血の海を
見てみたいか?」ズアアッ
しかし澪はそれに対してまるで反応せず、
そのまま直進、そしてムギのアゴめがけて
アッパーカットを繰り出した。
ムギ「あうっ!?」
澪「気に入ったか?」
結果、澪のアッパーは直撃したが、
ムギの右フックは肝心の拳が当たらず、
澪の横顔に腕がかする程度で
終わってしまった。
ムギ「んんんん*....くっ!」
澪「ジェアアアアアアアアアアア!!!」
ジャンプパンチがムギに再び降り注ぐ。
澪の攻撃は、止まらない。
-
………
………
………
唯「み...澪ちゃんファイト!
やっつけちゃえ!」
和「.....」
じわあああっ...ヌルヌルっ...
和(やっとだわ....
肩から流れる血のおかげで
テープの粘着が甘くなってきたようね...
もう少しでとれるっ...!)
……
ーーがしっ!
ムギ「掴んだわッ!」
澪「もうダメだ!」
ゴスッッ!
ムギは澪の後頭部を掴み、
顔面をソファーの背もたれに叩きつけた。
澪「ウ フッ」
ムギ「どう? 効いたでしょう?
手加減なしよ」
澪「ハハ!」
澪は振り返りながら体勢を低くし、
足払いを放った。
ムギ「きゃああっ!?」どてーん
唯「す、スゴい! 澪ちゃんプロの動きだよ!」
和「くっ....」
(もうちょい!
あとは手首まで血が届けば! 早く!)
澪「イ"ヤァ!」ビュンッ
ムギ「ふん!」ぱしっ
澪の右ストレートを
ムギは仰向けになりながらも
受け止める。
澪「こりたか!?」
しかし澪は間髪入れずに左ストレートを
ムギの顔面に叩き込む。
ズメシャアッッ!
ムギ「むぎゅっ....!」
そしてムギは動かなくなった。
唯「わー! 澪ちゃーん!」
澪「なんて空気がうまいんだ!
最高の酒を飲んでるみたいだな!」
和「!」すぽんっ
(抜けたワァァァァーッ!)
和「唯、すぐに
ほどくからねっ」ズリッ ズリッ
ムギ「が....うぐぐ....
澪ちゃん...やるわね」むくり
澪「なんて空気がうまいんだ!
最高の酒を飲んでるみたいだな!」
ムギ「.....おととい来やがれェーッ!」
唯「あっ! み、澪ちゃんッ!」
怪力ムギのスーパーラリアットが
棒立ちの澪の延髄を直撃した。
澪「助けて!」
ムギ「むうぅん!」
ドグシャアアッ!!
そして澪はそのまま顔面から
床に叩きつけられた。
和「はッ! 澪....!」
唯「ひいーっ!」
ムギ「勝ったわぁ....!」
澪「」チーン
-
………
ムギ「はあっ...はあはあっ....」フラフラ
唯「....ふわぁーっ!」ぴょんぴょん
和「自由に動けるってステキね...」
ムギ「え....あ...あなた達...どうやって?」
和「あんたが私の言う通りに
肩を彫ってくれたおかげよ、ありがとうムギ」
ムギ「くっ....」
和(さあ...どうしようかしら....
ムギみたいに理性を保ったまま
イカレてるっていうのは厄介だわ...)
和(イカレてる奴を元に戻すには....
激しいショックが必要なのよね。
ちょっと程度が違うけど、
ドラマでよくあるビンタとか)
和(でも澪との戦いを見て、
ムギがそんなんじゃ
元には戻らないことはもう分かった....
ならムギの『心の隙間を突く』しかないわ)
和(肉体的なショックと同様にそこから
正気に戻るきっかけが生まれるハズ)
和(じゃあ、
ムギの心の隙間は『どこ』かしら?)
和(ムギの心に深く入り込める、
呼びかけられる何か....
その人の大好きなものとか...
大嫌いなものとか....
狂っていても変わらないもの...)
和(!.......これだわ)
-
…
和「いっ....」がくんっ
ムギ「!」
唯「えっ!? の、和ちゃん!?」
和「血を流しすぎたわ...もうダメみたい....」
唯「は....ぇ....うそでしょ!?
も、もうダメって....」
和「ごめんね....」
唯「だ、だめ!
頑張って和ちゃん! 私が病院に
連れてってあげるからさ! ね!?」
和「無理....
もう意識を保っているのも限界だわ...」
唯「そんな....いやだ!
ねえ和ちゃんったらあ!」
和「サ.......最期だから」
ぎゅっ
和は唯に優しく抱き付いた。
唯「あ.......ッ!」ぎゅううっ
唯はすぐに抱き返した、
和は血まみれなので当然唯の制服には血が
べったりと付いたが、
唯は微塵も気にしなかった。
ムギ「まぁ....」
和「ありがとう唯.....愛してるわ....」
唯「.....!」
ムギ「まぁまぁまぁ....!」
唯「うっぐ...**っ....
ぐすっ...わ...私も....」
和「私も.....なあに?」
唯「大好き....」
ムギ「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ...!」
和「ありがとう唯、じゃあキスも」すっ
唯「....え、ええっ?」
ムギ「まぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁ!!」にんまり
和「今ね.........紬ッッ!!!」
和は幼馴染の唯ですら
聞いたことがない程の大声で叫んだ。
ムギ「ッ!!!!」ビクンッ
唯「!?」
ムギ「ーーーぁ.......
ぁぁぁぁぁあぁアアッ!?」
ばたんっ
ムギは気を失い、倒れた。
-
………
和「....」
唯「....」
和「三文芝居でもなんとかなるものねえ...」
唯「えっと....和ちゃん? 大丈夫なの?」
和「ええ、平気よ、治ったわ」
唯「....う...*う....よかったよお...」ボロボロ
和「悪かったわね、心配かけて」
唯「っ!......和ちゃんはさぁッ....
もっと自分の心配をするべきだよっ!
今日だけじゃない! いっつもいっつも
他の人のために頑張ってる!」
和「え? そう?」
唯「そうなの! ばかだよ! ばか和ちゃん!」
和「ふふ、唯が元気そうでよかった....」
和「............少し疲れたわ....休もうか....」
唯「.....うん」
-
………
………
紬「ん〜....」(夢....? すごく怖かったわ...)
和「ムギ、目が覚めたのね」
紬「あら...和ちゃん...ってどうしたのよ!
そのキ......ッ!!」
和「.....」
紬「ウソ.....」
和「憶えてる? あなたが何をしたのか」
紬「.......少し....だけ.....」ガクガク
和「なら、まず唯になんて言うべきか、
分かるでしょ?」
(狂っていたとはいえ、
憶えてるなら話は別ね)
唯「.....」
紬「ゆ...唯ちゃん....私.....自分でもなんで
あんなことしたのか分からないの....なぜか...
夢見心地で....私は....っ」
和「違ウ、そんな弁明の言葉じゃないわ」
紬「ひ.....唯ちゃん.....ご....ごめんなさい....」
唯「うん.....
ちゃーんと元の優しいムギちゃんに
戻ったんだね....よかったよ」
紬「ううう....」
和「....」
(本当言うと、不条理だけど思いっきりムギを
責めてほしかったわ....でも、
ここで怒らないのが
唯のいいところなのよね....)
紬「和ちゃん...ごめんなさい....」
和「えっ? ああ、いいわよ、
私は全然気にしてないわ」
紬「でも...でも....
そんなにヒドい傷を付けちゃって....」
和「フーー〜〜〜〜〜.....
今あんたに出来るのは謝罪だけでしょ、
ならそれだけでいいっつってんのよ」
(唯はそれで許すみたいだし)
紬「う...うん....」
唯「私も気にしてないよムギちゃん、
仕方なかったんだよ....」
紬「ありがとう....二人とも....」
和(でも....ムギが戻って本当によかった...
これなら他の二人も元に戻せるっていう
希望が見えてきたわ...)
-
………
………
澪「う、うーん....」ぴくぴくっ
澪「ん...なんで私床で寝て....ッ!」
澪「いたた...! うう.......体中がいたい...」
唯「澪ちゃん!」
和「どうやら正気に戻ったようね....」
澪「唯! お前っ...
憂ちゃんとの約束はもういいのか?」
唯「えっ....澪ちゃん、それは
和「....唯、教えなくていいわ」
澪「和も....なんでここ....ヒィッ!?」
和「あ、ごめんなさいね、
血を見るのは苦手だっけ?」
澪「どうしたんだその腕....
なんなんだよぉ....」ぷるぷる
和「実は彫刻刀持って歩いてたら
階段から落っこちたの、
それで切っちまったわ、おかしいでしょ」
澪「そ、そうか、
和もうっかり屋さんだな....ハハ!」
(いや、笑えないって...その傷は....)
澪「それにしても体が....いだあぁっ!?」
唯「澪ちゃん!? 大丈夫!?」
澪「か、肩がァ〜〜....唯ぃ....助けてくれぇ〜」
唯「あ...焼き鳥の串....」
和「澪、ちょっとゴメンね」
ずぼぉっ
澪「いったぁーーーいッ!!」
唯「澪ちゃん! 澪ちゃんは丈夫な子!
ガマンだよ!」ぎゅっ
澪「うわーん唯ぃー!」
和「澪、あなたは焼き鳥を
食べながら部室を歩いていたら
うっかり転んじまって気絶していたのよ。
串はその時に刺さったの」
澪「そうだったのか....恥ずかしい....」
唯「スゴイね和ちゃん...」
(信じてもらえるのは
日頃の行いがいいからかな?)
澪「あ、律? ムギ? 二人はどこだ?」
唯「ムギちゃんはそこのソファーで寝てるよ」
澪「ええ? そうか....じゃあ律は?」
唯「.....」
和「.....律は今 生徒会としても
見過ごせないくらいの悪ふざけをしててね、
私は律を止めるために学校に来たの」
澪「な、なにぃー!? バカ律....」
和「でもね、私が言ってもやめなくて。
それで澪なら律を止められるん
じゃないかと思って」
澪「分かった、案内してくれ!
まったくあいつは...」
唯「和ちゃん....大丈夫なの?」
和「.......賭けよ」
(ムギがあれで戻ったなら律だって....
でも完全に理性がないから難しいかしら....
ま、やってみるしかないわね)
-
一階………廊下
和「ほら、いたわ....律....
ああやってうろつき回って
いたずらしてるの」
澪「そうかっ、おおーい 律ゥ!」
律「ー!」ダダダダダダダダダ
唯「ひえぇ....和ちゃあん....」
和「大丈夫よ....もし失敗したら
私があんたと澪を守るから....」
澪「なんだあいつは? あんなに走って....」
和「あの走りが一番迷惑なのよねえ」
澪「そーか! こらぁ律ゥ!」
律「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」ダダダダダダ
澪「お、おい....なんかおかしくないか?」
唯「ふざけてるんだよりっちゃんは!
さあ! いつもみたいに!」
和「かなり悪ふざけに
集中してるみたいだから
キツくやっちゃってあげなさい」
澪「....よーし分かった!」
律「ミオーーーーーーーーオッ!!!」
澪「バカリツゥーーーーーーーーーーッ!!」
澪は向かってくる律の脳天に
フルパワーのゲンコツをお見舞いした。
律の猛スピードとの相乗効果で澪の拳も
砕けてしまいそうな勢いだった。
ーーゴッチィーン!!
律「あだぁっ!ーーっ!」どさっ
唯和「....!」
澪「い...いたたた....
少しくらい止まろうとしろよぉ....」
律「」
澪「聞いてるのか? 律....おい、律?」
律「」
澪「うわああああーーーっ!? 律ぅー!?」
唯「澪ちゃん、
りっちゃんは遊び疲れたんだよ」
和「その通りよ、さあ、
音楽室に戻って帰る支度をしなさい、
律は私が連れてくるから」
澪「え? あ、ああ...」
-
………
………音楽室
律「あー? ううーん....あたたっ...
首がスゲーいてぇ...」
唯「ばかりっちゃあん!」ぎゅうっ
律「おおお唯ぃ!?
お前今日は来ないんじゃなかったのか!?
てかバカとはなんだ!」
澪「ほっ...よかったぁ」
紬「みんな....」
和「戻ったのね...」
律「ありっ? 和ァ!?
お前休みにも生徒会あったのか!」
和「そうよ」
律「んでー.....その傷.....どうした?」
和「ちょっと転んだの、
休日ムードの舐めた態度で学校に来たら派手に
やっちまってね、フフっ...」
律「そ、そっか....ははは....」
(いやいや...笑えねーし...)
澪「笑うなバカ律!」ごちんっ
律「あだーっ!?」
紬「.....」
唯「気にしないでね
ムギちゃんっ....」ナデナデ
紬「うん...」
和「さて、あんた達、
今日はもう帰りなさい」
澪「え....?」
和「この後学校の配管工事があるのよね、
それをあなた達に伝えるのも
学校に来た理由の一つなの」
澪「....分かった、じゃあ今日はこれで解散だ」
(それがいいな...昨日頑張ったからか
妙に疲れがヒドいし...)
律「そっかァ、じゃー仕方ないなー」
(なんかメチャクチャ
腹減ってるから助かったー♪)
和「ああ、
唯とムギはちょっと残って、話があるわ」
唯「うんっ」 紬「はい....」
-
律澪は帰り………音楽室
和「さて...
今日起きた異常な出来事、
これは私達だけの秘密...いや、忘れるべきね、
なんでこんなことが起きたのか考えちゃダメ、
特にムギはね、忘れるのよ、いい?」
唯「分かったよ....」
紬「はい....」
和「じゃ、帰っていいわ」
-
………
………
和はまだ帰らず、
ソファーに座って外を眺めていた。
和「.....」
和「....あら、唯、どうしたの? 帰らないの?」
唯「和ちゃんと一緒にいるって
言ったもーん...」
和「そ、好きにしなさい」
唯「....」とことこ
唯は和の隣に座った。
和「それにしても...
空気がおいしいわねぇ....」
(当面の仕事をやり終えた
達成感のおかげかしら)
唯「和ちゃん.....」
和「なによ」
唯「抱き付いてもいーい?」
和「ええ、いいけど」
唯「ほっ.....」ぎゅっ
和「........あったかいわね」
唯「.....ねえ、
和ちゃんはなんでそんなに強いの?」
和「え?」
唯「だって彫刻刀で切られたんだよ?
なのに全然泣かないし...
叫び声だって上げないし....
和ちゃんは強いよ....」
和「あなたのおかげよ」
唯「....?」
和「ありがとう、唯」なでなで
唯「.....」
唯「......やっぱオカシイよ和ちゃんは....
イカレてるよ...」
-
和「ええっ?」
唯は和に向き直り、顔をじっと見据えた。
唯「一番ありがとうって
言われるべきなのは和ちゃんなのに...
一番助けられた私だってまだ
言ってなかったのにっ....」
和「うん、言えば?」
唯「....なんで!?
なんで和ちゃんはそーなの!?
オカシイよぉっ!!」
和「....」
唯「辛かったでしょ....?
痛かったんでしょ!?
どうしてそんな平気な顔していられるのさ!」
和「....」ピクピクッ
唯「ねえ、和ちゃんはそうしてればいいって
思ってるかもしれないけど、
こっちからしたらすっごい不満なの!
もっと私を頼って! 今がその時だよ!?」
和「唯....」ガバッ
和は唯を抱き締める、
三文芝居の時よりもさらに強く。
唯「ん....そーだよ....
ガマンしなくていいんだよっ...!」
和「....ありがとう、唯」
(まだ泣けないわ....)
唯「私も言わなきゃだね....
ありがとう和ちゃん」
和「....」ぎゅうっ
(まだ私には『仕事』が残ってるんだから)
-
どれくらいの時間が経ったのか、
少なくとも唯が眠りに落ちてしまうくらいの
時間は経過したようだ。
和「ゆーいっ...」
唯「んへ...朝ぁー?」
和「違うわ、昼過ぎよ、
そろそろ帰りなさい」
唯「一緒に帰るでしょ?」
和「....ごめんね、本当の本当は私
今日募金の集計をするためにここに来たの、
それを終わらせなきゃ」
唯「そっ...か....でも、
終わるまで待っててもいいんだよ?」
和「いいえ、
早く帰って憂に顔を見せてあげて」
(もうこれ以上唯をここに
いさせておけない....憂と会わせて、
さらに安心させてあげたいわ)
唯「....う、うん....分かった、
それじゃあねっ....」さっ
和「ええ、また明日」
和は一人になった。
………
………
-
………
………
和「.....ふぅーっ」
和(....なぜ軽音部がオカシクなったのか....
原因を明かして、
もしその脅威が残っているのなら潰さなきゃ....
二度とこんなことが起こらないために....)
真鍋和は考える。
和(まず...軽音部は
いつオカシクなったのか、
なぜ唯だけ無事だったのか、
まあ....これは澪と律の言葉から
検討がつくわ....)
和(二人は狂気から目覚めた時、
唯は今日休みでは? と言っていた...
唯が休んだのは日曜日、つまり二人は今日が
日曜日だと思っていたようね)
和(ということは軽音部三人は
日曜日に何かが原因でオカシクなり、
そこで記憶がトンで今日 目覚めるに至る...
なぜだかは分からないけど気絶でも
して丸一日
家には帰らなかったようね....
少なくとも律と澪は...)
和(確かめないと....
日曜日に何があったのか....)
和(まずは校内を調べましょう....)
………
………
………
和は音楽室から出て、
落ち着いた足取りで階段を下りる。
和「.....」
トン トン トン トン
和「.....」
トン トン トン トン
和「...」
和は二階廊下をゆっくりと歩く、
窓から教室の中を確認しながら。
廊下の端に到達すると振り返り、
反対側を調べるため再び歩き始める。
………
………そして
和「.....?」ピタッ
和はオカルト研の部室から
かすかに聞こえてくる
物音に気が付き、立ち止まる。
-
和「.....」(誰か....いるのね....)
和はふつふつと湧いてくる
怒りに震えていた。
このドアの奥、軽音部に、
唯に危害を加えた野郎がいるのだと
思い込んでしまっているからだ。
たとえ中にいた奴らが無関係だったとしても、
辛く当たってしまいそうなくらいに
和は怒っていた。
和はドアを開ける。
………
部室内、電気は消され、
さらにカーテンは閉め切ってあり、
かなり視界が悪かった。
和「ぅえ....」
(何この臭い....吐きそうよ...)
和は謎の腐臭に倒れそうになりながらも、
電気を付ける。
臭いの原因はすぐに分かった。
二人の生徒がイヌの死骸を丹念に
分解している真っ最中だったのだ。
部員1「....」ぶちっ ぶちゅうっ
部員2「....」ぐちょっ
和「........」
和「......あなた達、オカルト研の部員?」
部員1「....」ジョキン ジョキッ
部員2「....」ぐちゃっ ぐちゃ
「....どなたですか?」
和「....」すっ
和は警戒態勢をとる。
この腐臭の漂う異常な教室の中で
マトモに話しかけてくる奴は、
逆にマトモではないと思ったからだ。
そう、ムギのように理性を
保ったままイカレている奴なんだと考えた。
部長「どうも...私はオカルト研の部長の...
和「あんた、鼻がイカレてんの?
頭は間違いないんだろうけど....
この臭いが平気なのかしら」
部長「平気そうにしてるのは
あなたもじゃないですか」
和「ガマンしてんのよ、このボケ。
あんたの部員でしょ? やめさせなさいよ」
部長「まあ....
この子達がこんなに一生懸命になってるのに、
それをやめろなんて言えません」
和「じゃあ学校をやめたらいいわ、
その代わり病院に行ってちょうだい」
部長「あら、怖いですね...でも大丈夫、
明日までには片付けますから」
和「.....」
部長「それで、ここへはどんな用事で?」
和「.......日曜日、学校で練習を頑張っていた
軽音部が、狂ったわ」
部長「....」
和「一人は獣みたいになったし、
もう一人はまるっきり
融通がきかなくなったし、
最後の一人は快楽殺人者顔負けの
イカレっぷりよ」
部長「そうですか、ご報告どうも...」
和「..........何よその言い方」
-
部長「あなたには真実を教えましょうか」
和「....日曜日、何したの」
部長「なんてことはありません、
ただこれを音楽室の前で流しただけです」
そう言って部長はポケットから
古びた録音テープを取り出した。
和「なによ....それ」
部長「古い都市伝説で......聴いたら精神が
冒されるといわれるレコードがありました....
このテープはそのレコードの
内容が録音されたものです。
我々オカルト研....いや、私はつい最近、
やっとの思いでこれを
手に入れることが出来ました」
和「ああ、話が見えたわ」
部長「都市伝説は本当.....テープも本物。
見ての通り部員にも試しました。
そして偶然にも日曜日に軽音部が
部活をしていたので彼女達にも
実験台になってもらったんです、これが真相」
和「....もういいわ、あんたの顔面とテープを
ブッ潰したくてうずうずしてきたわ」
部長「まあまあ....
ここからが大事なところですよ。
この音で精神が冒され理性を
失った者に対して、
テープに収録されている音を分解し、
組み合わせてから聴かせることに
よってある程度 感情、行動を
操作出来るのです」
和「......」
部長「どのような操作が出来るのか、
操作するにはどのような音を作ればいいのか。
テープと共に手に入れたこの
『楽譜』に記してありました」
和「......」
部長「音、作りましたよ、大成功です。
部員や軽音部の子達に行なった
実験も成功ですし、
きっと今や明日からすることも
うまくいきますよね」
和「....は?」
部長「まずは....聴かせてあげますよ。
気狂いの音を」すっ
和「ッ!」
部長は小型カセットテープレコーダーを
持っていた。
それに気が付いた時には、
既にレコーダーにテープが挿入されていた。
部長「さあ、どうぞ」
そして、この世のものとは思えない音色が
部屋の中に響き渡る。
-
和「あああぁッ!?....はぐ*ぅっ!」
(何....このマジックテープを
剥がす音のような....
黒板を引っ掻く音のよーな....
とにかく人間が生理的に嫌う音をかき集めて
最大限まで強めたようなこの音はッ!?)
部長「いかがです? これが終わったら
操作の音色も聴かせてあげますよ...
つまりあなたも....うふふ」
和「ぅぁぁぁぁぁ...」
(の...脳味噌をヤスリで削られてるみたい....
いけない.....意識がッ...)
部長「うふふふふふふははははひひひひひひ」
和(こンの........クソ野郎....
絶対そのツラを叩き割ってやるわ....)
和はフラつきながらも、
一歩ずつ、着実に、
部長に接近する。
部長「な.....まだ向かってくるんですか?
凄まじい精神力ですね....ほらッ」
部長は隙だらけの和の腹に向けて
蹴りを放った。
どんっ....
部長「あ、あら....?」
和「.....たかが...文化部風情の貧弱な蹴りが...
弱ってるとはいえ....この私に通用....
すると思った......?」
和はその蹴りを両手で受け止めていた。
部長「う、うそ....きゃああッ!?」どてーん
和「.....」さっ
がしゃっ! バギンッ!
和はレコーダーを踏み付け、破壊する。
部長「ああっ!! レコーダーが!」
和「ハァ....ハァ....」ずん ずん
部長「よ....寄らないで!」
和「ハァァっ......」ふらぁっ
-
部長「今だっ........えぇいっ!!」
部長は立ち上がり、
和の首めがけて横振りのチョップを放った。
和「.......学習しなさい」さっ
和は上体を軽く後ろに反らした。
すかっ....
チョップは虚しく空を切る。
部長「え、速....ゲぶえッ!?」
次の瞬間、
和の拳が部長のみぞおちに深く
めり込んでいた。
部長「おッぐぅ!? うえええ!!」
和「まず一発.......澪の分よ」ふらっ
部長「こ...コココ....このクソメガネ女...
がぁああっ!」
部長はこりずにミドルキックを放つ。
和「っ.......ォラァッ!!」
ガシィ ゴギンッッ!
和はそれを抱え込んで固定、
スネに渾身のヒジを打ち込んだ。
部長「あっぎゃああああ!?」ドタァンッ
和「うん....律の分ってとこね...」
部長「くああああ.....っ」ごそごそ
和「....?」
-
部長が 携帯 を取り出し何かを
し始めた次の瞬間、
携帯から気狂いの音が流れ出した。
和「なッ...!? あぁぁぁっ!!」ガクンッ
部長「ウ ふふふふ....
合成した音は私の携帯に移してあった....
これは操作の音! 興奮して攻撃性が増すわっ!
他の正常な子を見るだけで襲うくらいねッ!」
和「はッ!」くるっ
部員1「....が....ブァァ...!」
部員2「アぐ....ギギギ!」
和「あうっ....」フラフラ
(く...来るッ! 迎え討たないと....)
部員1「ブッシャアアアアぁぁぁぁぁ!!」
和「しばッ!」バッ
和の強烈なストレートパンチ、
部員を吹っ飛ばす。
部員1「ぼごろおおおっ!?」どたっ
和「ふぅっ ふうっ! 次!」
部員2「ガブォおあぁあーっ!」ぶんっ
和「はッ!!」バシッ
続けて部員が突き出してきた手を掴み、
背負い投げの要領で床に叩きつける。
和「せぇいッ!!」
ドッシィーーン!
部員2「がぼぼ...」
和「はーーッ! はーーーッ!」
(苦しいわ....体力落ちたかしら....
やっぱり運動不足ね...)
部員1・2「.....」むくり
部員達はなんともないのか
すぐに起き上がり、和に向き直る。
-
和「はっ....はっ....」ヨロヨロ
部員1「ああああああああ」ブンブンブン
部員が手を振り回しながら突っ込んできた。
和「ッ!」
ドンッ バシン!
和は身を屈めて部員の懐に入り込み、
スルドいヒジをみぞおちに打ち込んだ、が、
部員の腕の動きは止まらず、そのまま
和の側頭部に直撃した。
部員1「ぶッ!」ドテーン
和「ぁ*ッ.....!」クラクラッ
部員2「じゅるるるるるっ」がしっ
和「あっ!?」
部員2「ぐぶううウウっ!」ガシッ
よろけた隙を突かれ、
もう一人の部員に右手首と肘を
がっちり掴まれる。
和「ッ....いやッ....!!」
ミシミシ....グギリッ
狂人の腕力が、
和の右腕の関節に悲鳴を上げさせた。
和「いったああァッ!? このォッ!」
すぐさま部員のアゴを
つま先で蹴り上げる。
部員2「ーーーッ!!」
部員は後ろに半回転して倒れた。
和「ハアハアハアハア....*ぅっ....」ズキッ
(やってくれたわね...腕が動かないわ....)
-
和「.....いつッ!?」
突然、スネに激痛が走る。
下を見ると、
部員が和のスネにかじり付いていた。
和「....う」
部員1「シャアァァッ!」がばっ
さらに、起き上がったもう一人の
部員に正面から組み付かれた。
和「んぐぅぅっ....」
部長「やった! ざまあないわ!
うひはははは!さあ! やっちゃいなさい!」
(想像以上に抵抗されたけど、これでこの子は
再起不能ね、後で音の実験台としてじっくりと
カワイがってあげるわ...)
部員1「じゅるじゅるっ....」ぐいいっ
部員は和の肩と横髪を掴み、
頭を押さえ込む。
和「い....いやだ....やめて....」
和の漏らした弱音と哀願などお構いなしに、
部員は首筋に噛み付いた。
がぶりッ!
和「ぃぎッ....ぐアッ....」
どんっ どむっ ぼこっ
和は部員の脇腹に左フックを何発も打ち込む、
しかし、当てる度に喰らい付く力も
強くなっていく。
和「*ぎぅッ.....」
部員1「ぐふ...がふゅ....はぐはぐっ....」
そして、部員はおいしそうに咀嚼を始めた。
和「ひッ.....
いやああああああぁぁぁぁーーッ!」
「和ちゃーんッ!? どうしたのっ!?
どこにいるの!」
和「ーーっ!」
(この声ッ!! 唯!?
もしかして外で待ってたのかしら....!
それで痺れを切らして様子を
見に来てくれたのね...嬉しいわ...)
和(でもこんなところに
唯を呼ぶワケにはいかないの)
「ねぇッ! 和ちゃーんッ!! どこなの!
もう一度声出してよぉー!」
和(自力でなんとかするしかないわ)
部員1「じゅる....ぐふっ」バリッ ゴクンッ
和「が....!」
この時、和の脳内に
唯の言葉が思い出された!
(唯『ねえ、和ちゃんはそうしてればいいって
思ってるかもしれないけど、
こっちからしたらすっごい不満なの!
もっと私を頼って! 今がその時だよ!?』)
-
和「ぁ......」
部員1「ハグッ...
がふううっ....ジュルルッ」もぐもぐっ
和「ゅ.....ゆぃ.....」
和「ゆい....唯ィィィーーーーーッ!!
おッ...オカルト研の部室よ! 助けてえっ!! 」
「んっ! りょーかあいッ!
今行くよ和ちゃんッ!!」
部長「!?」
唯「オアアーッ!」
デッキブラシを持った唯が、
雄叫びを上げながら部屋に突入してきた。
唯「うッ!? ひいぃ.....」
しかし、部屋の惨状を見て、
すぐに怯えてしまう。
和「唯ぃーっ! こっちよお!」
唯「あ....の...和ちゃんっ!
助けるよ!」ぶんっ
ばしっ
部員1「ぁぁぁぁぁ?」ぐるんっ
唯「ひゃっ...」
和「ぐっ!」
かぶり付いたまま行われていた咀嚼が止まる、
和はこの隙を見逃さなかった。
和「うぉらあああーッ!!」
部員1「ーーッ!?」
ずごんっ!!
部員の額を掴み、
全身全霊を込めて床に叩きつけた。
部員1「」
とうとう部員は動かなくなった。
部員2「アガブァーーッ!」バアッ
唯「うッわぁーっ!? 危なーい!」
唯のデッキブラシフルスイング!
部員2「が ぼぁッ!?」ドダァンッ
後頭部にクリーンヒット、
デッキブラシは折れ、部員は勢いよく倒れた。
唯「えいっ! えいっ! えいッ! えいッ!!」
そこを半分に折れたデッキブラシで
何度も打つ。
部員2「ダッ!? バッ!
ガひゅっ!!ーーー....ッッ!」
そして、もう一人の部員もついに
動かなくなった。
唯「はあはあ....やっつけたよ....」
和「......あとはあんただけね」ギロリ
部長「ひ....ひいいっ....」
和「まだムギの分と.....唯の分があるから....
覚悟してもらうわ.....」
部長「......くッ!!」ささっ
和「唯、そいつから携帯を取り上げて」
唯「ほ、ほいっ!」バッ
部長「あああッ!? このカス...
部長が唯に罵声の言葉を
浴びせようとした瞬間、
彼女の顔に和の靴が飛んだ。
部長「たッぽおあっ!?」
唯「うひゃっ....」
-
和「フー.....あんた....一応聞いておくけど、
なんでテープを使って悪さをしたのかしら?」
部長「*が....そ...それは....
オカルト研としての探究心と....
好奇心....からよ....」
和「へ.....」
唯「....」
和「へ....ヘヒヒヒヒヒヒ...
フヒフフフフフフフアっハハハハハ...!」
唯「和....ちゃん?」
部長「何....?」
和「フゥ〜〜〜.........
そんなことで軽音部を巻き込んだっての?」
部長「そ、そんなこと!?
さっき見たでしょっ....!
人を操ることすら出来るのよ!
すごいと思わないの!?
もっと音を洗練すれば私はオカルト研だけじゃ
なくてこの学校だって支配できるのに!」
和「.....」
唯「.....?」
(何言ってんだろ....
きっとこの人もムギちゃん
みたいになっちゃってるんだ....)
部長「明日には音を放送で
流すつもりだったわ!
なのに....あんたが邪魔したから
その計画は丸潰れよッ.....」
和「そうなんだ、じゃあ私あんたの顔潰すね」
和はズレたメガネを掛け直し、
部長に向かって駆ける。
部長「.....うあぁっ.....来るなぁ....」
和(ショック療法で元に戻せるかしらねぇ....)
和(.....もう疲れたからなんだっていいわ....フフ)
和「」ダンッ
部長「いやあっ....」
ドゴッ.....
部長「ガ」
和は部長の顔面に
今日最大の力がこもった膝蹴りをブチ込んだ。
部長「」ガンッ
唯「ほぇぇ....」
部長は頭から壁に激突、
そのまま動かなくなった。
和「....終わったわ、唯」
唯「ぇ...ーーぁ.....おえッぷ...うえぇっ...!」
和のいつも通りの落ち着きある声で
現実に引き戻された唯は、
この部屋に充満している腐臭に
意識が働き、えずく。
和「大丈夫、唯?
すぐここから出ましょ....」
唯「*ん....」
和は苦しそうに上体を丸める唯を抱き締め、
部屋を出た。
-
………廊下
二人は座り込んで廊下の壁に寄りかかった。
唯「なんだったの.....一体?」
和「詳しく説明する元気ないわ....
でも、これでもう安心よ....唯」
唯「......ヒドイ傷.....頑張ったんだね....」
和「ええ....頑張ったわ.....」
唯「.....ありがとう和ちゃん、
私 嬉しかったよ、大声で呼んでくれて」
和「ふふ....唯が助けてくれなかったら
食べられちゃうところだったわ。
来てくれてありがとうね」
唯「うん....うん......」
和「さて、部屋の後片付けをしないと」
唯「......私も手伝うよ」
………
………
この後、二人は一生懸命掃除をして
部屋はキレイになった。
部員達は唯に見守られつつ目を覚まし、
無事正気に戻った。
部長も正気に戻ったが、
鼻と首、眼孔、そして足の骨が折れており、
本人も理由が言えぬまま、
階段から落ちたということになって入院した。
-
ーーそして
【真鍋和】
今回の事件を隠し通すため
この後も学校に残り、
律が学校中に垂らしていった
ヨダレの拭き取りや
音楽室内の整頓等を行なった。
これは事件が発覚し世間に
公表されることによって
オカルト研、イカレていた軽音部員、
はたまた桜校そのものが糾弾され、
唯の高校生としての快適な生活が妨害される
のではないかという考えから独断で
行なったことだった。
そして事件後、
療養のため平沢家に二週間泊まった。
【平沢唯】
和に付き添い、最後まで手伝いをした。
今回の事件では和の次に狂気と恐怖を
味わったことになるが、結果的に
和との絆が
さらに深まったと確信しているので、
これはこれでよかったかな、
と彼女は思っている。
【秋山澪】 【田井中律】
二人は体の痛みに耐えながら家に帰り、
今日が日曜日ではなく
月曜日だったことに驚いた。
どちらの家族も捜索届けを出す
寸前だったらしく、
二人はこっぴどく叱られた。
なぜこんなことになっていたのか、
二人は考えたが、分かるハズもなかった。
【琴吹紬】
しばらくの間
唯と和に対して負い目を感じていたが、
まるで気にしていない和と
唯の優しさに触れて精神的に立ち直り、
関係も完全に修復した。
【平沢憂】
お姉ちゃんと遊びに行けて大満足。
-
………
………
オカルト研共が体に
残る激痛に悶えながら帰宅した後。
和(さて....後はこのテープを....)
ビイイイイイッ! ブチッ!
和はテープを完全に破壊した。
和(これでよし....と)
和(もしもあの部長が言ってた
キチガイレコードがこの世にまだ
残っていたとしても....
この桜校を脅かすことは二度と
ないでしょうね)
和(......)
和(疲れたわ.....死んじゃいそう.....)
ブーーッ ブーーッ
携帯が鳴った。
和「....はい」
役員『真鍋さん、
募金の集計、してくれたァ?』
和「すみません....まだです」
役員『ハァっ!? 今まで何してたの!?
明日の朝に先生に提出しないと私が怒ら....
とにかく早く終わらして! いーい!?』
和「はい、失礼します、先輩」
和「.....」
和(決めた....私、生徒会長になろうっと....)
「和ちゃーん、傷大丈夫? もう帰れるー?」
和「あ....ごめんね唯、
まだ募金の集計終わってなかったの、
だから..........待っててくれる?」
「うん!」
〜終わり〜
-
以上です、和ちゃん最高。
-
イカれたSSだった乙
-
和ちゃんは良いね。
"
"
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