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エリ「我ら桜高バレー部!」- 1 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/19(金) 16:35:49 ID:rCrNN9/Q0
-
【第一話】
‐講堂‐
エリ「ねえ、アカネ」
アカネ「うん?」
エリ「今日さ、ちょっと付き合って欲しいんだけど」
アカネ「時間空いてるし、いいよ。どこに行くつもりなの?」
エリ「本屋に行こうと思ってるんだけどねー」
アカネ「えっ? なんて言ったの?」
エリ「だーかーらー、本屋だよ! 本屋!」
アカネ「……エリ、なにか根本的に勘違いしてない?」
エリ「えっと、なにを?」
アカネ「だって、本屋にコーラは売ってないんだよ」
エリ「いや知ってるよ」
アカネ「それと大仏も売ってないんだよ」
エリ「流石にどこにも売ってないよ!」
- 2 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/19(金) 16:36:52 ID:rCrNN9/Q0
-
アカネ「だってエリの趣味って、それぐらいでしょ?」
エリ「流石に三年生だし、勉強の一つぐらいするわ!」
エリ「それに、私の趣味はコーラと大仏だけじゃない……。
私たちは二年間、アレを続けてきたじゃないか!」
アカネ「部活のこと?」
エリ「そう、私たちは誇り高き、桜高バレー部!」
エリ「……そうでしょ?」
アカネ「まあそうだけど。“誇り”があったかは別としてね」
エリ「伝統ある部活だし、“埃”はあるかもね!」
アカネ「……」
エリ「……」
アカネ「……あー、積もるほうね」
エリ「アカネ、冷たいよ!」
アカネ「あんたのギャグの方がよっぽど寒いよ……」
- 3 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/19(金) 16:37:22 ID:rCrNN9/Q0
-
エリ「まあいいよ。そんなクールビューティなアカネには」
アカネ「聞いてる?」
エリ「我ら桜高バレー部が総力をあげて、熱い青春を過ごさせてあげるからね!」
アカネ「いや、私もバレー部なんだけど」
エリ「細かいことは気にしないもんさ」
エリ「カモン! 桜高バレー部!」
アカネ「えっ?」
「ガタッ」
三花「遅いよ、エリ〜。待ちくたびれちゃった〜!」
アカネ「わざわざ待機してたんだ……」
とし美「でも、ついにこの時が来たのね……!」
アカネ「感慨深げなところ申し訳ないけど、なんの時?」
まき「大丈夫だよアカネちゃん、心配しないで。
きっと、なんとかなるから!」
まき「……きっと!」
アカネ「その言葉のおかげで余計に心配だよ」
エリ「ふふ、アカネがいい具合にノリノリになってきたところで、
メンバー紹介といこうではないか!」
アカネ「どちらかといえば引いてるんだけどなあ」
- 4 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/19(金) 16:37:52 ID:rCrNN9/Q0
-
エリ「一人目! 我らが桜高バレー部の部長!」
エリ「ツインテールがトレードマーク!
その髪色に負けないほどに明るく、人懐っこい性格のー……」
エリ「佐伯三花ー!」
三花「ども〜!」
アカネ「本当にこのまま紹介始めちゃうの……?」
エリ「続いて二人目!」
エリ「おっとりしてて、おおらかな性格!
それなのに、いざ怒らせてしまえば、まさに鬼神のような……」
エリ「中西とし美ー!」
とし美「よろしくお願いしまーす!」
アカネ「とし美、今こそ怒ってもよかったんだよ?」
エリ「お次は三人目!」
エリ「お団子頭に、幼さを残した顔立ち。
その身長ももちろん小さい! バレー部随一の子供の〜」
エリ「和嶋まきー!」
まき「どうもどうもー」
アカネ「まきも間違いなく怒っていい」
- 5 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/19(金) 16:38:26 ID:rCrNN9/Q0
-
エリ「続いて四人目は!」
エリ「頭脳明晰、容姿端麗……だったら良かった!
コーラと仏像とバレーを愛する元気少女……」
エリ「そう私! 瀧エリでございます!」
アカネ「ああ、仏像好きの部分で確実に引かれてるよ……」
エリ「そして最後はこの人!」
アカネ「えっ、私がトリなの?」
エリ「綺麗な黒髪に、大人しい顔立ち。
さらに長身で、色々と羨ましい要素が詰まってる子!」
エリ「ついでに私の一番の仲良し!」
アカネ「ちょ、ちょっと!」
エリ「それこそ、佐藤ア〜カ〜ネ〜!」
アカネ「え、えーと……」
アカネ「……どうも、佐藤アカネです。
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」
アカネ「私たちバレー部は見てのとおり、くだらないことをしたりします。
ですが、練習はかなり真剣です」
アカネ「楽しい雰囲気も忘れず、一生懸命で素敵な部活ですので……、
ちょっとでも気になった方は、是非来てみてください!」
「ぱちぱちぱちぱち」
和「はい、バレー部の皆さん、ありがとうございました。
では、次の部活紹介に……」
- 6 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/19(金) 16:38:58 ID:rCrNN9/Q0
-
‐三年二組教室‐
三花「みんな、お疲れさま! 結構良かったんじゃない?」
エリ「三花もそう思う? 実は私もなかなかの出来だと思ったんだよね〜」
アカネ(……確かに無事、新歓祭での部活紹介は終わった。
それなりに盛り上がってくれたし、悪くは無かったように、見える)
まき「どうしたのアカネちゃん?」
アカネ「ただ……」
まき「タダ?」
アカネ「“ついでに私の一番の仲良し!”なんて台詞、台本には無かったよ!?」
エリ「……あれー、そうだったかなー?」
アカネ「アドリブは収集つかなくなるから出来るだけ止めてって、言ったよね!」
とし美「エリのことだから、もっと前から決めてたんじゃない?」
エリ「おっ、とし美は良くわかってるね」
エリ「そうなんだよアカネ」
エリ「実は私の心の台本には、その台詞がしっかり書いてあったんだよ……」
アカネ「どっちにしろ、前もって相談して欲しかったよ!
本当に私、恥ずかしくて台詞飛びそうになったんだからね!?」
まき「そっかー、エリちゃんとアカネちゃんは本当に仲良しだからねー」
アカネ「へっ?」
まき「あれ、違うの? だって言葉自体の否定はしなかったようなー……」
アカネ「……え、えっとね、それは確かに、否定するような内容じゃないけども……」
三花「……まき、グッジョブ〜!」
まき「おー、ぐっじょぶ!」
アカネ「うー……」
- 7 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/19(金) 16:39:55 ID:rCrNN9/Q0
-
とし美「……さて、二人の仲が再確認できたことだし、帰ろっか?」
三花「そうしよっか。ほらアカネもしっかりして。先に行ってるからね?」
アカネ「……」
エリ「おーい、アカネー? 早くしないと先に帰っちゃうよー?」
アカネ「……ふ、ふふ」
エリ「ん?」
アカネ「いや、なんでもないよ。なんでも」
エリ「本当? なら、いいんだけどさ」
アカネ「大丈夫だよ。じゃあ帰ろうか、“一番の仲良しさん”」
エリ「ぐおっ!」
アカネ「なにその反応?」
アカネ「い、いやいやそのね……」
アカネ「……改めて言われると、なんか恥ずかしいもんだね!」
アカネ「ああ、そのことかー。別に気にしなくていいんだよ?」
アカネ「“一番の仲良しさん”!」
エリ「ねえアカネ、そろそろご勘弁を……」
アカネ「ほら、三人とも教室出て行っちゃうよ、“一番の仲良しさん”?」
アカネ「早く行かないと置いてかれちゃうよ、“一番の仲良しさん”?」
エリ「もう止めてってば! 恥ずかしい、恥ずかしすぎるから!」
- 8 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/19(金) 16:40:33 ID:rCrNN9/Q0
-
三花「……まだ終わらないの〜? 早くしないと本当に先に行っちゃうよ?」
アカネ「あっ、待って!」
三花「全く、いい加減にしなよバカップルども〜」
エリ・アカネ「はあっ!?」
エリ「いやいや、私達いつの間にバカップル扱いなのさ!?」
三花「新入生の前で大胆告白したじゃ〜ん?」
エリ「あれは違うってば!」
三花「へえ、そうなんだ? じゃあエリにとってのアカネは、何なのかな〜?」
エリ「え、えーとそれは……」
エリ「……アカネ?」
アカネ「えー……ここで私に言わせるの?」
アカネ「そうね……」
アカネ「一番の“親友”?」
三花「……」
とし美「……」
まき「……」
エリ「こ……」
エリ「……この場でトドメを刺すなあああ!!」
第一話「桜高バレー部の新歓」‐完‐
- 9 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/19(金) 16:45:52 ID:rCrNN9/Q0
- モブの子たちが主役です
主役以外にも、なんの前触れもなくモブが沢山出てきます
作中セリフを貰えなかった子の性格や喋り方は想像です
- 10 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/27(土) 18:06:20 ID:f8kyK4aw0
-
【第二話】
‐三年二組教室‐
アカネ「ふう……」
三花「ハロ〜!」
アカネ「ああ三花、おはよう」
三花「ノンノン。ハローって言われたらハローって返さなくちゃ!」
アカネ「なにその理屈……」
三花「いくよ? リピート、アフタ、ミー!」
三花「ハロ〜!」
アカネ「……は、はろ〜」
三花「イエース、グッド! ベリーグーッド!」
アカネ「本当に何がやりたいの」
三花「全く、アカネはわかってないなあ。
多種多様の挨拶に対応出来てこそ、今を生きる現代人だよ?」
アカネ「そんなスキル、現代の女子高生に求められてるとは思えないんだけど」
まき「おはよー」
三花「あっ、まき、はろ〜!」
まき「三花ちゃん、はろ〜」
三花「……ねっ?」
アカネ「さも自分が正しいみたいな顔しないでよ」
まき「ねっ?」
アカネ「まきもよくわかってないのに乗ってこないの」
- 11 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/27(土) 18:06:50 ID:f8kyK4aw0
-
* * *
三花「というわけで、バレー部の新しい挨拶を作ろうと思うの」
アカネ「ゴメン、どこに作る理由があった?」
三花「私たちはもう三年生、つまり部全体を引っ張っていく立場でしょ。
それなら、引っ張っていくための合言葉を一つぐらい開発した方がいいかなって」
アカネ「それで挨拶に行き着けるのは流石と言っておくわ……」
三花「そこで、なにか質問のある人はいるかな?」
まき「はい!」
三花「まき、どうぞ!」
まき「その挨拶は本当に必要ですか?」
アカネ「早速核心に触れてるね」
三花「うん、必要だよ〜」
三花「何故なら私たちはバレー部」
三花「どんなくだらないことにも、
必死に立ち向かう人たちの集まりなんだから!」
アカネ「そんな集まりだったの!?」
まき「なるほど……」
アカネ「そして納得しちゃうの!?」
- 12 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/27(土) 18:07:21 ID:f8kyK4aw0
-
* * *
三花「よし、まず朝の挨拶を決めよっか!」
アカネ「最低でも三つの挨拶を作る気なんだね……。
頭痛くなってきた……」
アカネ「……いや、というかだよ。
もはや私が話し合いに参加しなくても、大丈夫だよね?」
まき「えぇっ!?」
アカネ「そんなに驚くことなの!?」
まき「同じバレー部とは思えないよノリだよ……」
アカネ「ああ、やっぱり私達はノリの良さで集まってることになってたんだね」
三花「大丈夫だよ、まき。
こう見えて最終的にはノリノリになるのが、アカネだから」
まき「そうだねー」
アカネ「えっ、私って、そんなキャラだった?」
三花「自覚無いんだね、それでこそアカネ!」
アカネ「あー、はいはい。
そうやってテキトー言って、私のこと乗せようって魂胆でしょ?」
アカネ「私だって、そんな単純な策に嵌まるわけ……」
- 13 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/27(土) 18:07:46 ID:f8kyK4aw0
-
* * *
アカネ「……やっぱり、朝の挨拶は爽やかさが大事だと思うよ」←ノってきた
まき(アカネちゃん……)
三花「じゃあ例えばこんな感じかな?」
三花「ハロッす!」
アカネ「何それ?」
三花「ハローと、爽やかな後輩の挨拶“おはようっす”の組み合わせだよ〜」
アカネ「男の子っぽいかな」
まき「女子校なのに?」
三花「でも、この前、柔道部の一年生がこの挨拶使ってたよ?」
まき「女子高生なのに?」
アカネ「それは流石に失礼だよね」
まき「まあ爽やかさを求めるなら、あれだよ。
暑い夏すらを感じさせない、そんな涼やかさが必要だと思うよ!」
三花「暑さを感じさせない……つまり寒いことを言うの?」
アカネ「行く度寒い言葉をぶつけられる部活、なんか嫌だな……」
- 14 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/27(土) 18:08:11 ID:f8kyK4aw0
-
* * *
三花「審議の結果、朝の挨拶はこれでいくことにしました」
三花「……“ハロッ”!」
まき「はろっ!」
まき「おー、確かにたったの二文字の挨拶なら、
忙しい朝でも簡単に出来るかもしれないね」
まき「しかも爽やかさも忘れずに盛り込めてるよー」
三花「でしょ? ハロッ!」
まき「はろっ!」
「ガチャッ」
とし美「二人とも、おはよー」
三花・まき「ハロッ!」
とし美「え、えっと……」
とし美「……はろー?」
三花・まき「ノンノンノン」
とし美「……どういうこと?」
アカネ「私に聞かないで」
- 15 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/27(土) 18:08:51 ID:f8kyK4aw0
-
* * *
とし美「なるほどね、部を引っ張っていくための合言葉を」
三花「うん、そうだよ〜」
とし美「……それで三花、新しい練習メニューは考えてあるの?」
三花「へっ?」
アカネ「こら部長」
とし美「挨拶より、そっちを優先してほしいな」
とし美「出来れば二年生用のメニューは二年生と一緒に考えてさ。
来年三年生の子たちに、ノウハウを教えておきたいでしょ?」
三花「……もうとし美が部長で良いような気がしてきた」
まき「ああ、三花ちゃんが私より小さくなってるよー……」
アカネ「いや、それはないよ」
とし美「ないね」
三花「ないない」
まき「みんなして何が言いたいの!?」
- 16 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/27(土) 18:09:17 ID:f8kyK4aw0
-
* * *
とし美「私たちは五月後半に、インターハイ予選を控えてるんだからね。
あまり時間は残されていないよ」
三花「先に顧問と相談した方がよさげだね。
部活が本格的に始まる前に、いくらか話はしておくよ」
とし美「ん、お願いね。
新入生のメニューはこっちである程度決めても大丈夫?」
三花「良いよ良いよ〜、どんどんやっちゃって〜」
とし美「りょーかい」
まき「……」
アカネ「どうしたの、まき。急に黙り込んじゃって」
まき「インターハイで、三年生は引退なんだよね」
アカネ「そうだね」
まき「最後まで勝ち上がったとしても、夏でおしまい。
本当、思ったより時間が残ってないんだなって思うと……」
アカネ「まき……」
まき「私の身長も限界なのかな……」
アカネ「えっ」
まき「高校生活でどれだけ伸びるのか、期待してたのに……」
アカネ「……」
アカネ「あのさ、まきにはとっても言い難いことなんだけど」
アカネ「女子の成長期って、十六歳ぐらいまでよ」
まき「……えっ?」
- 17 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/27(土) 18:10:05 ID:f8kyK4aw0
-
* * *
エリ「おはよー!」
アカネ「おはよう、エリ」
まき「……」
エリ「まき? どうしたの?」
まき「エリちゃん、私はもう駄目だよ……」
エリ「なにが?」
まき「私のバレー生活は、これまでってことだよ……」
エリ「えっ!?」
まき「これ以上の成長が無いんじゃ、バレーを続ける意味もないよ!」
アカネ(身長伸ばすためにバレーやってたの!?)
エリ「まき、そんなこと言わないで」
まき「でも!」
エリ「聞いて」
エリ「私たちは二年間、ここまで一緒に頑張ってきた。
だからさ、まきの色々なことも沢山わかるんだ」
まき「一体、私のなにがわかるの……?」
エリ「それはね……」
エリ「その小さな身体に秘められた、大きな可能性だよ」
まき「……」
エリ「……」
アカネ「……」
エリ「……あれっ?」
まき「エリちゃんの馬鹿ーーー!!」
エリ「えぇっ!?」
アカネ(あーあ……)
第二話「桜高バレー部の小人」‐完‐
- 18 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/04/27(土) 18:12:17 ID:f8kyK4aw0
-
バレー部三年生の簡易的な紹介
■瀧エリ
猪突猛進、元気で活発なサイドテールの女の子。
コーラと仏像が好き。
作中の台詞は、
「ラッキーだね、山中先生が担任で。美人だし優しそうだし」(一話、教室にてアカネと)
「待て待て待て〜」(十九話、野島ちかとふざけあって)
など。学園祭の劇ではキャピュレット家の見張り役。
■佐藤アカネ
普段は冷静沈着、だけど流されやすいお下げの女の子。
エリにつられてコーラが好き。
作中の台詞は、
「私は美容師になりたいから、美容師の専門学校にした」(八話、唯に進路を聞かれて)
「衣装担当はさわ子先生だよね?」(十九話、劇の大道具制作中にて)
など。
■佐伯三花
明るく、活動的なツインテールの女の子。
フレンドリーで人懐っこい。
作中の台詞は、
「うん、でもロミオが澪ちゃんだもん」(十八話、劇の役決めにて)
「私、ハワイ初めてだよ〜」(映画、卒業旅行の話し合いにて)
など。学園祭の劇ではパリス役。
■和嶋まき
童顔と小柄な身体つきに似合う、おっとりとしたお団子頭の女の子。
作中の台詞はなし。
■中西とし美
おおらかで温和な性格で、ボブカットの女の子。
作中の台詞はなし。
軽音部紹介ビデオの中の台詞は
三花「軽音部も良いけど、バレー部もよろしく〜!」
↓
エリ「よろしくー!」
↓
三花「いくよ〜!」
↓
三花「そーれ、アカネ!」
↓
アカネ「エリー!」
↓
エリ「はいっ!」
まきととし美は端で見守っています
- 19 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/04(土) 02:38:41 ID:254DcpI20
-
【第三話】
‐三年二組教室‐
三花「おはよ〜!」
とし美「三花、ハロッ!」
三花「えっ?」
とし美「……嫌な予感はしてたよ」
エリ「おっはよー!」
三花「おおエリ、オハロ〜!」
とし美「いやいやいやー……」
- 20 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/04(土) 02:39:21 ID:254DcpI20
-
* * *
三花「今日はバレー部のキャッチフレーズを作ろうよ」
とし美「挨拶はさっさと捨てていたのに?」
三花「……遥か昔より桜高バレー部は続いてきた」
とし美「えっ?」
三花「それは一人でも多くの部員を集めようと努力した、私たちの先輩の功績だ」
とし美「……まあその通りだね」
三花「つまり私たちも守らなくてはいけない。このバレー部を……!」
とし美「それで?」
三花「バレー部のキャッチフレーズを作ろうよ!」
とし美「挨拶の時もそうだけど、よくそんな発想になるよね」
エリ「ちっちっちっ。とし美はわかってないよ。
印象に残るキャッチフレーズは、非常に重要なんだよ」
三花「例えば囲碁部だよね〜」
エリ「うん、囲碁部のキャッチフレーズは深いよ」
エリ「“囲碁とは、宇宙である”……!」
三花「か〜っこいい〜!」
とし美「……ま、まあ、印象深いキャッチフレーズで、
新しい部員を引き付けるっていうのは、アリかもしれないね」
三花「でしょ? 流石とし美、理解が早いんだから〜!」
とし美「でもそれ、新歓祭の前に考えるべきだったね」
三花「あっ」
- 21 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/04(土) 02:39:50 ID:254DcpI20
-
* * *
三花「うーん……」
とし美(思った以上にショックを受けてしまっている……)
三花「惜しいことをしてしまったよ……」
とし美「えっと、キャッチフレーズのことだよね?」
三花「これじゃ私、部長失格だね」
とし美「なにもそこまで深刻に受け止めなくても」
三花「とし美は優しいね……。でも、これは私の責任なんだよ」
エリ「三花、一体なにをするつもりなの……?」
三花「私、最低でも今の二年生以上の一年生を集めたい。
そのための案を、これから必死に考えることにするよ」
三花「どれだけ私の時間が削られようとも!」
エリ「そんなに本気なんだね……」
とし美「……三花、ちょっと待って。
部員を集めたいという気持ち、それは私も同じよ」
とし美「三花が必死になるなら、私も必死になる。
だって、私も同じことを成し遂げたいと思ってるからね」
エリ「うん、私も。出来る限り、三花を手伝うよ」
三花「そんな、二人に付き合わせるのは悪いよ……」
とし美「三人集まればなんとやらって言うでしょ」
とし美「エリ程度の頭脳でも、頭数には含まれるはずだしね」
エリ「……んっ?」
とし美「どうしたのエリ?」
エリ「いや、なんだか……釈然としないというか……」
エリ「……まあいっか。私も協力するよ、三花」
三花「二人とも、本当にありがと!」
- 22 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/04(土) 02:40:24 ID:254DcpI20
-
* * *
とし美「よし。それじゃ具体的な目標から立てようか」
とし美「今の二年生の数は七人。
つまり三花の理想を目指すなら、最低で八人を集めないとね」
エリ「八人かあ……」
とし美「そこで、まず第一の案だけど……」
唯「三花ちゃーん!」
三花「んっ、どうしたの、唯ちゃん?」
唯「お届け物だよ〜」
三花「お届け物? 誰から?」
唯「教室の前にいた子たち。一年生だったよ〜」
とし美「へえ、一年生が?」
唯「うん! 教室に入るのに緊張してそうだったから、
私が代わりに受け取ってあげたんだ〜」
とし美「えーと、入部届けね……」
とし美「……ん? “入部届け”?」
唯「良いなあ、こんなに後輩が入ってきてくれて!
一気に八人だよ、“八人”! 」
三花「えっ」
とし美「……」
エリ「軽音部はまだ一人も入ってきてないの?」
唯「うん。でも、今の五人だけでも、
十分なんじゃないかなあとも思ってたりして〜」
エリ「そっかー。そういう考え方も、あるかもね」
唯「それでも去年よりパワーアップするからね!」
エリ「よーし、期待してるよ、軽音部!」
唯「バレー部も、期待してるからね!」
- 23 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/04(土) 02:40:54 ID:254DcpI20
-
* * *
エリ「ふう、一先ず部員が集まって安心だね」
三花「……」
とし美「……」
エリ「あれ、二人ともどうしたの?」
三花「……この気合のやり場を、どうしたものかと思ってね〜」
とし美「うん、なんというかね。タイミングがね」
エリ「んー……それなら、部活で発散すればいいんじゃない?」
三花「部活……」
とし美「部活、ね……」
- 24 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/04(土) 02:41:29 ID:254DcpI20
-
‐体育館‐
まき「……」
後輩A「あの、まき先輩」
まき「なにー?」
三花「うりゃああああ!!」
とし美「そりゃああああ!!」
三花・とし美「おんどりゃああああ!!」
後輩A「あの二人には何があったんですか」
まき「さあ……」
まき「でも、一つだけわかることは」
まき「二人はもう、私たちの手に負えないってことだよ」
後輩A「ああ、それならわかります……」
第三話「桜高バレー部の気合」‐完‐
- 25 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/10(金) 16:53:23 ID:sfpga7fA0
-
【第四話】
‐三年二組教室‐
エリ「アカネはウィキペディアって知ってる?」
アカネ「えっ?」
エリ「あれ、まさか知らないの?」
アカネ「いや、今更なにを質問するのかなーって。
知ってるよ、たまに使うし」
エリ「そうだよね、たまに使うよね」
アカネ「うんうん」
エリ「あのマジカルバナナーご用達サイト」
アカネ「ごめん、そのウィキペディアは知らない」
- 26 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/10(金) 16:54:00 ID:sfpga7fA0
-
* * *
エリ「では私の知るウィキペディアを教えてあげよう」
アカネ「いや、別に興味ないんだけど」
エリ「えっ……」
アカネ「え?」
まき「……あー、アカネちゃんがエリちゃんを泣かせたー」
アカネ「えっ」
エリ「うう……」
まき「可哀相なエリちゃん……」
アカネ「私が悪者なの? 何で?」
まき「ううん、違うよ。アカネちゃんは悪者なだけじゃないよ」
まき「エリちゃんを慰められる唯一の存在だよ」
アカネ「大層な役割押し付けた挙句、結局私を悪者にしてるよね?」
まき「別に大層な役割じゃないよ?」
アカネ「そっちを否定するんだね」
エリ「……ねえ、そろそろ慰めてくれない?」
エリ「私一人が勝手に落ち込んでるみたいで、寒いじゃん!」
アカネ「エリにとってはいつも通りでしょ」
エリ「……うえーん、本当にアカネが虐めるー!」
アカネ「どうすればいいのよ、面倒な……」
まき「アカネちゃん、ファイト!」
アカネ「全力で責任を丸投げしてきたね、まき」
アカネ「……あー、エリの話がとーっても気になるなー」
エリ「……」
アカネ(流石に棒読みすぎたかな……。こんなんじゃ、エリも満足してくれな……)
エリ「よっし、教えてあげよう!」
アカネ「良かった、エリはエリだった」
- 27 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/10(金) 16:55:18 ID:sfpga7fA0
-
* * *
エリ「ウィキペディアのページには、多数のリンクがあるのはいいかな?」
アカネ「説明文中に沢山あるね」
まき「私、そっちのリンクが気になって、
元々の調べ物が手につかないことあるんだよね」
エリ「あそこは良くも悪くも情報の宝庫、
まきみたいに釣られてしまうのは仕方ないことだよ」
まき「どうにか誘惑に負けないようにはしてるけど……」
エリ「ふふっ、それが高度な知的生命体に生まれた、
私たちの悲しいサガってもんよ……」
アカネ「突然で悪いけど、サガって漢字で書ける?」
エリ「えっ?」
アカネ「えっ」
まき「えっ」
エリ「……」
アカネ「知らないなら正直に言いなよ?」
エリ「わ、私が知らないわけあるもんか!」
アカネ「本当?」
エリ「……これだっ!」
【差我】
アカネ「……どうしてそんな字を自信満々に書けるの」
エリ「違うの!?」
アカネ「知らないならそう言えばいいって言ったのに……」
エリ「……ま、まあ、それはさておき!」
まき「さておきー。“性質”の“性”だけどさておきー」
アカネ「まき正解」
まき「やったね」
エリ「二人とも性格悪いよ!!」
* * *
エリ「ウィキペディアのページには、多数のリンクがあるのはいいかな?」
アカネ「説明文中に沢山あるね」
まき「私、そっちのリンクが気になって、
元々の調べ物が手につかないことあるんだよね」
エリ「あそこは良くも悪くも情報の宝庫、
まきみたいに釣られてしまうのは仕方ないことだよ」
まき「どうにか誘惑に負けないようにはしてるけど……」
エリ「ふふっ、それが高度な知的生命体に生まれた、
私たちの悲しいサガってもんよ……」
アカネ「突然で悪いけど、サガって漢字で書ける?」
エリ「えっ?」
アカネ「えっ」
まき「えっ」
エリ「……」
アカネ「知らないなら正直に言いなよ?」
エリ「わ、私が知らないわけあるもんか!」
アカネ「本当?」
エリ「……これだっ!」
【差我】
アカネ「……どうしてそんな字を自信満々に書けるの」
エリ「違うの!?」
アカネ「知らないならそう言えばいいって言ったのに……」
エリ「……ま、まあ、それはさておき!」
まき「さておきー。“性質”の“性”だけどさておきー」
アカネ「まき正解」
まき「やったね!」
エリ「二人とも性格悪いよ!!」
- 28 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/10(金) 16:55:52 ID:sfpga7fA0
-
* * *
エリ「それでウィキペディアは、この多数のリンクを辿って、
全く別のページから目的のページに行くサイトなんだよ」
アカネ「そういうサイトではないわけだけど、例えばどうするの?」
エリ「例えばスタート地点をコーラのページにして……」
エリ「まき、何でもいいから目的のページを言ってみて」
まき「んー……バレーボール!」
エリ「おお、私たちらしいゴール地点だね!」
まき「えへへ……」
アカネ「それで、コーラのページからリンクを辿って、
バレーボールのページまで行くってこと?」
エリ「そそ、理解が早くて助かるよ」
エリ「ただ闇雲に辿るのはダメ。どうやれば最短で着くか、考えるんだよ」
アカネ(だからマジカルバナナなんだ……)
エリ「ちょっと考えさせてね」
エリ「うーん、今回はまず……」
アカネ「……」
エリ「んと……」
アカネ「……」
まき「勉強にもこれぐらい真剣に取り組んでくれたらなー」
まき「……って思った?」
アカネ「良くわかってるね」
まき「アカネちゃんのことだからねー」
アカネ「案外私も単純なのかもね、ふふっ」
- 29 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/10(金) 16:56:37 ID:sfpga7fA0
-
* * *
エリ「はいっ、整いました!」
まき「では。コーラとかけまして」
エリ「バレーボールとときます」
まき「その心は?」
エリ「どちらも私が大好きでしょう!」
まき「おー、確かに」
エリ「ふっ、これが私の実力というもんよ……」
エリ「で、アカネどうだった?」
アカネ「えっ?」
エリ「今の謎掛け、どうだった?」
アカネ「いや、どうしようも無いよ……。元の話題と関係無いじゃん」
エリ「ちっちっちっ」
エリ「そうでもないんだよね、これが」
エリ「だって仮に“瀧エリ”というページがあれば、
私は最短でバレーボールのページに辿り着けるじゃない?」
エリ「つまり謎掛けはマジカルバナナと同じ発想なんだよ!」
まき「なるほどー!」
アカネ「……で、エリのページなんてあるの?」
エリ「ないね」
アカネ「結局謎掛けにはなんの意味も無かったよね!?」
まき「……コーラ、清涼飲料水、スポーツドリンク、スポーツ、バレーボール」
まき「の順番で行けないかなー?」
エリ「まきは天才か……!」
まき「いえいえ、それほどでもー」
エリ「……では、いざアクセス!」
- 30 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/10(金) 16:57:08 ID:sfpga7fA0
-
* * *
エリ「着いたー!」
アカネ「うん、お見事」
エリ「まき、凄いよ! クィーン・オブ・ウィキペディアと呼ぶに相応しいよ!」
まき「なんか、あまり嬉しくない称号だね」
アカネ「誤った知識も沢山蓄えてそうね」
まき「独自研究を一般論みたいに発信しちゃったり?」
まき「あっ、私、日本版を使ってるから尚更かも?」
エリ「マジカルバナナーご用達サイトを悪く言うな!」
アカネ「だからそのウィキペディアは知らないって」
アカネ「あと聞き過ごしてたけど、マジカルバナナーってなに?
伸ばすことに意味はあるの?」
まき「スイマー、みたいな?」
アカネ「ああ、そういうことか……」
- 31 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/10(金) 16:57:54 ID:sfpga7fA0
-
* * *
三花「それでマジカルバナナ専用サイトの話してたんだね〜」
アカネ「……もうそれでいいや」
エリ「今度はバレーボールから仏像に、どうやれば行けるか模索中なんだよ!」
三花「“瀧エリ”ってページがあれば一瞬だったのかな?」
エリ「全く、惜しまれるよ」
エリ「もし私が世界デビューしていたら、現代の世界三大美少女として、
ウィキペディアにページだって作られていたろうに」
アカネ「えっ?」
まき「エリちゃん……」
エリ「そんな憐れむような目で見ないでよ! 冗談に決まってるじゃん!」
三花「むしろ、一大傲慢少女にはなれそうだよね〜!」
まき「流石エリちゃん!」
エリ「どんなに馬鹿でも、馬鹿にされてることは気付くからね?」
- 32 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/10(金) 16:58:43 ID:sfpga7fA0
-
* * *
とし美「それで、そんなしょうもないことを?」
エリ「失礼な! 私たちは真剣なんだよ!」
アカネ「えっ」
三花「えっ」
まき「えー」
エリ「えっ?」
アカネ「いや、私は含まないでよね」
三花「私も別に真剣じゃないかな〜」
まき「私も三花ちゃんに同じく!」
エリ「……」
とし美「真剣に?」
エリ「……わ、私は真剣なんだよー!」
とし美「あまりに哀れだよ、エリ……」
とし美「しかも、その程度ならバレーボール、日本、仏教、仏像」
とし美「の順番でいけるんじゃない?」
まき「バレーボールから日本に飛べるの?」
とし美「日本版だしね」
アカネ「もはやマジカルバナナ専用サイトとしての立場も、危うくなってるね」
三花「元々そんなサイトじゃないしね〜」
アカネ「どの口が言うの」
- 33 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/10(金) 16:59:29 ID:sfpga7fA0
-
とし美「ま、こんな所でこの話題は終了しよ。
それよりも部活のことで話があるんだけどさ……」
エリ「……み」
アカネ「どうしたのエリ?」
エリ「認めてたまるかあああー!」
アカネ「何を!?」
エリ「とし美! 今日の部活に特別ルールを盛り込むからね!」
とし美「えっと……、なにをどうするつもり?」
エリ「今日の練習試合、マジカルバナナを並列させて行うんだよ!」
エリ「ルールは簡単。相手のコートに返す度にその言葉を言うだけ」
エリ「ただしマジカルバナナ専用サイトを馬鹿にしたとし美と違い、
私はウィキペディアを資料として用いることを認める!」
とし美(自らに有利なルールを)
三花(自ら用意したゲームで)
アカネ(作っちゃったよ……)
エリ「決行は今日。覚悟しなよ、とし美!」
エリ「ハーハッハッハッ!」
- 34 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/10(金) 16:59:59 ID:sfpga7fA0
-
* * *
アカネ(エリは席に戻っていった)
アカネ(まるで勇者の凱旋みたいな雰囲気を漂わせて)
アカネ(今も誇らしげな顔で自席に座っている)
まき「アカネちゃん、アカネちゃん」
アカネ「ん?」
まき「ウィキペディアを用いながらバレーボールって」
まき「実は普通にするより不利だよね?」
アカネ「うん、まあ携帯電話片手だからね」
アカネ「……でも、エリはいいんだよ」
アカネ「あの子は何も考えちゃいないから」
まき「なるほど、エリちゃんなんだねー」
第四話「桜高バレー部の用語」‐完‐
- 35 :いえーい!名無しだよん!:2013/05/11(土) 00:39:05 ID:6GTabkt.0
- まさかまたモブSSが読めるとは
- 36 :いえーい!名無しだよん!:2013/05/11(土) 03:11:23 ID:PmDlxbj20
- エリちゃん可愛いなぁ
- 37 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/17(金) 15:38:25 ID:e.yf1lIk0
- >>27で二重投稿のミスをしてしまいました
すみません
- 38 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/17(金) 15:48:05 ID:e.yf1lIk0
-
【第五話】
‐三年二組教室‐
エリ「はぁー……」
エリ「……」
エリ「はぁー……」
アカネ「どうしたのエリ。まるで世界が終わったみたいな顔して」
エリ「……そうだよ、終わったよ」
アカネ「なにが?」
エリ「私の中で、ウィキペディアへの信頼は終わったよ!」
アカネ「ああ、昨日の部活の傷残ってるんだ……」
エリ「誰だよ! 携帯片手にバレーしようなんて提案したやつは!」
アカネ「えっ」
エリ「えっ」
アカネ「……」
エリ「……」
アカネ「……」
エリ「……ツッコミ待ちだよ?」
- 39 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/17(金) 15:48:43 ID:e.yf1lIk0
-
* * *
とし美「おはよー」
エリ「ここで会ったが一日目だ、とし美!」
とし美「どうしたの?」
エリ「昨日のリベンジマッチを申し込もう」
とし美「ああ、あのどうしようもなかった……」
とし美「それで、その用件は今すぐ片付けてもいいの?」
エリ「勿論。さあ、どっからでもかかってきなさい!」
とし美「最初のお題はバレーボール。
大変、次が思い付かない。はい、参りました」
エリ「えっ」
とし美「よし、良いリズムで終えられたね」
エリ「いやなにも良かないよ!?」
とし美「どっからでも良いって言ったじゃない」
エリ「こんな唐突な展開は想定してないよ!」
アカネ「まあ確かに、力ずくにも程があるとは思うけど……」
とし美「全く仕方ない……、じゃあ今からスタートね。
あっ、電子辞書使っちゃった、これは反則よね私の負け」
とし美「どう?」
エリ「虚しさにおいてはなにも変わってないよ!?」
アカネ「エリもいい加減、相手の気持ちを察しなさいよ」
エリ「……でも、電子辞書は面白そう」
アカネ・とし美「えっ」
- 40 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/17(金) 15:49:10 ID:e.yf1lIk0
-
* * *
三花「電子辞書を携えたマジカルバナナ?」
アカネ「しかもエリだけが電子辞書を使用」
三花「最早なにと戦ってるのかわからないね〜」
アカネ「勝てればいいんでしょ、勝てれば」
エリ「さあ正々堂々勝負するんだ、とし美!」
とし美「まずどこが正々堂々なの?」
エリ「おっと、びびってるのか〜い?」
とし美「ある意味、エリには驚かされてるけども……」
エリ「だけどね、私たちがバレー部の人間である限り」
エリ「勝負から逃げることは……、許されないんだよ!」
アカネ「初耳」
とし美「初耳」
三花「初耳〜」
エリ「あれー……?」
アカネ「一人で勝手に言ってるだけでしょ」
エリ「うっ」
とし美「エリって、実は高い所が好きでしょ?」
エリ「くっそー、回りくどい方法で馬鹿を強調するなんて……!」
- 41 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/17(金) 15:49:38 ID:e.yf1lIk0
-
エリ「このマジカルバナナで見返してやる!」
アカネ「電子辞書片手に、よくそんな大口叩けるわ……」
エリ「先攻は私で、お題は“バレー”ね!」
エリ「よし、バレーといえば」
エリ「魔女!」
アカネ(東洋の?)
とし美「……魔女といえば」
とし美「ゲルトルート」
アカネ「!?」
三花「!?」
エリ「!?」
とし美「……ほら、エリの番だよ」
エリ「げ、ゲルトルート? といったら……」←電子辞書で検索中
エリ「……」
とし美「と、いったら?」
エリ「げ、げるとるうとといったら〜……」
三花「……」
アカネ「……」
エリ「……古代ゲルトルート民族」
アカネ「歴史を捏造しない!」
- 42 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/17(金) 15:50:18 ID:e.yf1lIk0
-
* * *
エリ「負けたー……」
アカネ「はっや……」
エリ「一体、なにが悪かったんだろう?」
三花「電子辞書を手にした時点で間違ってるとは思うよ〜」
エリ「そ、それは盲点だった……」
アカネ「それが一番目立ってたけど!?」
とし美「昨日の戦いと合わせれば、五分五分の条件には見えるけどね」
エリ「……そ、そうだよねー。いやあ、私の計算通り!」
とし美「私が二回とも勝ってるけど」
エリ「あくまでそれを言うか!!」
- 43 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/17(金) 15:50:48 ID:e.yf1lIk0
-
* * *
まき「ま、間に合ったー……」
とし美「おはよう、まき。ギリギリだね」
まき「実は昨日懐かしいゲームを見つけちゃって……。
夜遅くまでやっちゃってたんだよー……」
とし美「そういうことあるよね。
私たちも懐かしいゲームをやっていたけれど」
まき「マジカルバナナのこと?」
とし美「そうそう。さっき、もう一度エリの挑戦を受けていたんだよ」
まき「へえ……、結果は?」
とし美「私の勝ち」
まき「やっぱりねー」
とし美「ちなみにエリは電子辞書を使用」
まき「……ついにそこまで手を出しちゃったんだね」
まき「負けたみたいだけど」
とし美「もう一撃必殺だったね」
まき「どんな言葉でトドメを刺したの?」
とし美「魔女からの、ゲルトルート」
まき「なるほど、固有名詞かー……。
それじゃ電子辞書も太刀打ちできないよ」
まき「むしろ、この類いのゲームでは、
固有名詞の方が卑怯と言っても良いレベルかもしれないよ」
とし美「そんなレベルなの?」
まき「うん」
とし美「じゃあ、次はどの魔女を言えば……」
まき「まずは魔女から離れればいいんじゃないかなー」
- 44 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/17(金) 15:51:16 ID:e.yf1lIk0
-
* * *
とし美「まあでも、昨日の方が酷かったね」
まき「あるよね、無理にルールを増やそうとして、
結局それがおざなりになっちゃうことって」
とし美「発案者のエリが開始早々、携帯を投げ捨てたからね」
まき「そしていきなりの“こんなん出来るかー!”発言だもんね」
とし美「どうしようもないよ、あれは……」
まき「凄い暴力的だったよー」
とし美「私は一応一回だけ、ルールに則って返したんだけど」
まき「結果、エリちゃんのボロ負けだったね」
とし美「その後は極めていつも通り、
練習に集中したエリが見れたから安心したけどさ……」
とし美「……頼む、誰かあの子に三年生らしい行動をさせてくれー……」
まき「副部長は悩みが一杯だねー」
とし美「まき、今からでも副部長やらない!?」
まき「とし美ちゃんの三年生らしい行動はどこへ行ったのかな?」
- 45 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/17(金) 15:51:45 ID:e.yf1lIk0
-
‐体育館‐
三花「……」
後輩A「部長ー」
三花「ん、どうしたの? 一年生のこと?」
後輩A「いえ、自分のことなんですけど」
後輩A「ちょっと小耳に挟んだ程度のことなんですが」
後輩A「次期部長の候補が私って、本当ですか?」
三花「あ〜、そうだね〜」
後輩A「うわあ、マジですか……」
三花「本来なら私たちが引退する時、伝えることなんだけどね。
どっかで私たちの会話聞こえちゃったの?」
後輩A「はい、聞こえちゃいました」
三花「そっか、それなら仕方ないね。
ま、発表時のドキドキは半減しちゃったかもだけど、次はよろしくね〜」
後輩A「今からドキドキし始めたんですけど……」
三花「それなら余計、練習に気合入っちゃうね?」
後輩A「私には単なる重荷にしかなりませんよー……」
三花「こらこら。もう後輩も入ってきてるんだよ?」
後輩A「弱音吐くなってことですか?」
三花「それだけにするな、ってことかな〜」
後輩A「はあ……」
- 46 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/17(金) 15:52:34 ID:e.yf1lIk0
-
三花「……うん。期待はいつだって、悩みの種になる。
それは私だって体験したことだし、わかるよ」
三花「でもね、私たちは後輩を引っ張っていく立場。
もう、引っ張られるだけの立場ではないでしょ?」
後輩A「……」
三花「その立場の人が、弱音吐いているだけ……。
つまりね、気持ちを発散させているだけじゃ、駄目なんだ」
三花「私たちは、与えられた問題を解決することが必要なの」
三花「それはとても難しいかもしれない。
けれど、もうそれは私たちにとって、可能なことのはずだよ」
三花「だって、その多様な問題に対する解決法を教えてきてくれたのが、
学校という場所でしょ?」
後輩A「部長……」
三花「……な〜んちゃって。今のは、昔、私の先輩から貰った言葉だよ。
ちょうど、今みたいな状況の時にね」
後輩A「えっ、じゃあ、部長も……?」
三花「頑張れ、次期部長!
大丈夫だ、私にもなんとか、ここまでやってこれたんだから!」
後輩A「……はい!」
まき「……」
- 47 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/17(金) 15:53:01 ID:e.yf1lIk0
-
* * *
まき(今の三花ちゃん……凄く“三年生”って感じがした)
まき(三花ちゃんだけじゃない、とし美ちゃんも……。
ああは言っていたけど、その真剣さは本物だよ……)
まき(私は、どうなんだろう……。
三年生として、皆を引っ張ることが出来てるのかな?)
エリ「良いね、その調子だよ!」
アカネ「あれ、なんか変な癖ついてない?
それは直した方が良いと思うよ」
まき(あの二人も、部長や副部長でなくても、
後輩にしっかりと指導してて、“三年生”って感じがする)
まき(……私、二年生になった時もこんな風に悩んでたような気がするよ。
それで、どんな結論を私は出したんだっけー……)
まき(……んー、思い出せない。
こんなんじゃ駄目だよー、私。三年生、最高学年なのにー)
まき(……段々、自分が情けなくなってきた)
まき(しかも重症かもしれないね……。
まるで、自分の頭が撫でられているような感触までしてきた……。
空想で自分を慰めようとするなんて……)
まき(……あれ。これ、本当に空想かな?)
まき「……」
後輩B「……」
まき「なんでキミは私の頭を撫でてるのかな?」
後輩B「それはキミが悲しそうな顔をしていたからさ!」
まき「そっかー」
後輩B「はい!」
まき「……」
- 48 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/17(金) 15:53:33 ID:e.yf1lIk0
-
* * *
後輩B「痛たたた……」
後輩B「な、なにも、いきなり暴れることはないじゃないですかあ」
まき「なんか反射的につい……」
後輩B「反射的ってなんだかショックです!」
まき「確かにね、私を慰めようとしてくれたのは嬉しかったよ。
ただ、そうとはいえ、私は先輩だよね?」
後輩B「えっ?」
まき「そこで疑問持たないでよ!」
まき「うう……タイミングがタイミングだけに、ショックだよー……」
後輩B「先輩、一体なにを悩んでたんですか?」
まき「……ねえ。私って、後輩から見て……、三年生っぽくないかな?」
後輩B「……ああ、なるほど。その類いの悩みでしたか。
そんなこと、心配する必要ありませんよ」
まき「そ、そんなこと程度の問題じゃないよ!」
後輩B「いえ、そんなこと程度です。だって聞いてくださいよ、先輩」
後輩B「私から見て、先輩は立派な三年生なんですから!」
まき「えっ……本当?」
後輩B「はい、これから高校受験に臨む三年生です!」
まき「それって中学三年生!?」
後輩B「ちなみに中学受験でも可です」
まき「さらに遠のいたよね!?」
後輩B「でも小学三年生は小さすぎますね……。
六年生にしておきましょう」
後輩B「やりましたね先輩、三年生どころか六年生ですよ!」
まき「もー! そういうことじゃないでしょー!」
後輩B「えぇっ!?」
まき「なんでそっちが驚くの! むしろこっちが驚きだよ!」
まき「……ああ、なんかもう、悩むことも馬鹿らしくなってきたよ!
今日はとことん練習して、帰り道もとことん寄り道するからね!」
後輩B「よっし、どこまでも付いていきますよ、先輩!」
- 49 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/17(金) 15:54:38 ID:e.yf1lIk0
-
* * *
アカネ「……今年もまきは悩んでたね」
エリ「去年も同じことなかったっけ?」
アカネ「で、同じようなこと言われて解決してたよ」
エリ「“先輩は中学二年生です!”」
アカネ「そうそう……ふふっ。
入ったばかりのあの子に言われて、まきも怒ってたね」
エリ「あの子には逆に可愛いって言われまくってたけどね」
アカネ「そうだった、そうだった」
アカネ「……結局、まだ私たちは成長途中なんだよね。
個人差もある。だからこそ、部を引っ張る部長選びは真剣に」
アカネ「あの日の、三花の言葉。思い出しちゃった」
エリ「高校生って、凄い幸せな時間を生きてるよね。
こういうの見たり聞いたりすると、本当にそう思うよ」
アカネ「……なんか、エリっぽくない発言だね」
エリ「な、なんだとー!」
アカネ「あっ、それはエリっぽい」
エリ「……私って一体」
アカネ「簡単だよ」
アカネ「エリは、私の“一番の仲良しさん”なんでしょ?」
エリ「こ、こら! 古傷を抉るな!」
アカネ「ふふっ」
アカネ「……ねえ、エリ。大会まであと一週間だね」
エリ「ん、そうだね」
アカネ「……よしっ、私たちの手で有終の美を飾りにいくよ!」
エリ「そりゃ勿論!」
第五話「桜高バレー部の三年」‐完‐
- 50 :いえーい!名無しだよん!:2013/05/20(月) 21:24:06 ID:a8nsZ2LY0
- 乙
3年生ってどうにも常にクライマックス感が付き纏うな
- 51 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:41:44 ID:jBz5Tt1g0
-
【第六話】
‐新幹線車両内‐
まき「おー、富士山だ!」
まき「反対側の窓だけど」
三花「帰りには見れるかな?」
とし美「帰りも三人席と二人席の位置は変わらないから、
結局見れないんじゃない?」
三花「そうなんだ、残念」
まき「それでも、修学旅行って感じがしてきたね!」
とし美「そうね」
三花「私、夜更かしが楽しみになってきたよ〜」
とし美「……もっと違うところに楽しみを見出だせないの?」
とし美「しかもそれ、修学旅行じゃなくてもいいじゃない」
まき「違うよ、とし美ちゃん」
まき「修学旅行の夜更かし、
それは普段の夜更かしと全く違ったものなんだよ」
三花「まくら投げ、暴露話、なんでも出来てしまう、夢の時間なんだよ〜」
とし美「……やっぱり修学旅行でなくても良くない?」
三花・まき「ノンノンノン」
- 52 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:42:10 ID:jBz5Tt1g0
-
* * *
とし美「一日目はクラス単位での行動で、二日目が自由行動」
とし美「……この自由行動の計画、苦労したよね」
まき「主にエリちゃんがねー」
とし美「エリの仏像好きが、ここにきて爆発してたね」
三花「西側と東側、どっちを取るか悩んでたんだっけ」
まき「エリちゃんいわく」
まき「“皆で行くならメジャーな所がいいよね……”」
まき「“あーでも、西側も東側も行ってたら時間が無くなっちゃう”」
まき「“皆の意見は取り入れたい、
だから私個人の行きたい寺巡りで時間を埋めるわけにはいかない”」
まき「“でもそうなるといくつかの寺は拝観できなくなる……”」
まき「“うわー、どうすればいいんだー!”って」
とし美「エリだけ個人行動すればいいんじゃないってレベルね」
三花「予定表出すとき、エリ言ってたよ〜」
三花「“ああ、一日が四十八時間だったら”」
とし美「寺何個回るつもりだったの!?」
- 53 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:42:47 ID:jBz5Tt1g0
-
* * *
まき「そういえばエリちゃんたち、どこにいるんだっけ?」
三花「ほら、後ろで圭子ちゃんたちと話してるよ〜」
エリ「私が思うに、まきの小ささは中学生に匹敵すると思うんだ」
圭子「えー、それを言ったら、しずかなんて小学生だよー?」
しずか「ちょっと圭子!?」←前の座席に座っている
圭子「ほら、辛うじて席の背もたれから、ちょこんと顔を出せてる感じ」
エリ「これが限界なの?」
圭子「そう」
しずか「限界じゃないよ! もうちょい頑張れるよ!」
エリ「うん、これは負けを認めざるを得ないよ」
アカネ「どっちかというと、まきの勝ちじゃないの?」
とし美「今、まきって言ってなかった?」
三花「私も、それだけ聞こえたよ」
まき「なんでだろう、突然不安感に襲われてきたよ」
- 54 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:43:21 ID:jBz5Tt1g0
-
‐バス車内‐
まき「ねえねえアカネちゃん」
アカネ「ん?」
まき「さっき新幹線で私のこと話してなかった?」
アカネ「あれ、聞こえてたの?」
まき「私の名前が聞こえただけかなー」
アカネ「そっか」
アカネ「あのね、まきは小さいけど、
流石にしずかちゃんには勝ってるよねって話をしてたの」
まき「なるほどー」
まき「そんな当たり前の話をしていたんだね!」
しずか「当たり前って言わないで!」←後ろの座席に座っている
- 55 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:44:19 ID:jBz5Tt1g0
-
* * *
とし美「これから金閣寺だっけ」
三花「そうだよ〜」
とし美「はあ」
三花「どうしたの?」
とし美「どうせ二日目の自由行動で、寺はいくつも回るんだしさ」
とし美「一日目から寺を見なくても良くないかなって」
三花「私は金閣寺楽しみだよ〜?」
とし美「一応、私も興味あることはあるよ」
とし美「それに、歴史に触れることが無意味とも言わない」
とし美「でも私は、他の歴史に興味があるのよ」
三花「なんの歴史?」
とし美「マリオ」
三花「個人旅行で触れるべきだね」
- 56 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:45:10 ID:jBz5Tt1g0
-
‐金閣寺‐
まき「金ピカだよ!」
三花「もうちょっと近づけると思ったけど、そうでもないんだね〜」
まき「銀閣寺はもっと近づけるらしいよ?」
三花「でも銀閣寺は言うほど銀じゃないし……」
まき「色を取るか、距離を取るか。難しい選択だねー」
三花「……あっ、良い方法を思い付いたよ!」
まき「なになに?」
三花「銀閣寺を銀色に染めればいいんだよ〜!」
まき「おお、それなら色も距離も完璧だね! レッツ銀閣寺!」
三花「レッツ、銀色のスプレー!」
エリ「止めてえええ!」
- 57 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:45:40 ID:jBz5Tt1g0
-
‐北野天満宮‐
エリ「北野天満宮といえば……」
アカネ「私たちの味方、学問の神?」
エリ「そう! 受験生である私たちが訪れない手はない場所だよ!」
三花「私、今だけなら神さまを心から信じられるよ〜」
アカネ「なんて現金な……」
エリ「それでも、こうして信仰を集めるだけの力が、ここにはあるんだよ」
とし美「……あっ、あそこにも露骨に信仰してる人たちが」
和「ほら、このお宮のあちこちに牛がいるでしょ。
この牛の頭をこうやって撫でるとね、頭が良くなるって言われてるの」
唯・律「へえっ!」
和「……?」
唯「よしよしよし!」
律「ほーれほれほれ、ここかーここかー!」
澪「お、おい律……」
さわ子「コラあッ!」
唯・律「ひい!」
三花「……軽音部は面白い人たちで一杯だね」
まき「噂では後輩も同じぐらい面白いらしいよー」
アカネ「それは後輩が先輩たちに毒されたのか、元々そうだったのか……」
エリ「素質はあったんじゃない?」
- 58 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:46:29 ID:jBz5Tt1g0
-
* * *
三花「絵馬買ってきたよ〜」
アカネ「それじゃ、みんなで書き込もっか」
エリ「うーん」
とし美「どうしたの?」
エリ「受験とバレー、どっちを取るべきか悩んでるんだよ」
とし美「ああ、確かに難しい問題だね」
まき「……それならこうすれば?」
- 59 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:47:01 ID:jBz5Tt1g0
-
* * *
エリ【大学合格! 満足のいく結果を!】
アカネ【志望校合格】
三花【志望校に合格! 新しい道へ前進できますように】
まき【志望校合格&無病息災】
とし美【志望校絶対合格する!】
一同【バレー部のみんなが楽しく過ごせますように】
まき「欲張りすぎたかな?」
アカネ「ううん、これぐらいが私たちにはピッタリだよ」
まき「……そうだね!」
- 60 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:47:34 ID:jBz5Tt1g0
-
‐旅館‐
‐バレー部班の部屋‐
エリ「ふ〜、到着!」
三花「みんなお疲れ様〜」
とし美「アカネ、この後の予定わかる?」
アカネ「一時間自由に過ごしたら、食堂で晩御飯ね」
エリ「お菓子食べよー?」
まき「いいよー」
アカネ「あんたら人の話聞いてる?」
- 61 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:48:04 ID:jBz5Tt1g0
-
* * *
エリ「んー、食った食った〜」
アカネ「あれだけお菓子食べておいて、良く入るね」
エリ「このお腹にとって、お菓子は別腹だからね」
アカネ「お腹見せないの、みっともない」
三花「エリは家の中では親父っぽくなる人なんだね」
エリ「えっ」
とし美「ああ、外と家の中じゃ、キャラがまるで違うっていうね」
アカネ「あるある」
まき「多分エリちゃんはお風呂入った瞬間」
まき「ぷはあ、生き返るわあ〜」
まき「って言うタイプだよね」
アカネ「定番ね」
三花「良かったねエリ、これで順調にキャラが定着するよ〜」
エリ「もとより親父キャラを定着させる気はないよ!」
とし美「ほら、この“自称”女子高生は置いといて、さっさと準備しちゃいましょ」
エリ「私は生粋の女子高生だってば〜!」
- 62 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:48:38 ID:jBz5Tt1g0
-
‐風呂‐
エリ「う〜ん、生き返るぅ〜!」
アカネ「……わざと言ってるの?」
まき「きっとこれが自然体なんだよー」
とし美「自然と親父キャラを定着させてるってわけね」
エリ「別に親父じゃなくても“生き返る”って言わない?」
三花「エリはわかってないよ」
三花「例えばまきが」
まき「生き返るよ〜」
三花「って言っても親父じゃないけど」
三花「エリが」
まき「生き返るよ〜」
三花「って言うと親父になるんだよ」
三花「わかった?」
エリ「まるでわからないよ!?」
- 63 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:49:29 ID:jBz5Tt1g0
-
‐バレー部班の部屋‐
まき「さっぱりしたねー」
アカネ「そうだね」
アカネ「……」
まき「アカネちゃん?」
アカネ「いや、髪下ろしたまきって珍しいなあって」
まき「だからって凝視しないでよー、恥ずかしいよー」
三花「うん、少しだけ大人びたように見えるね〜」
まき「そうかな?」
アカネ「うん」
アカネ「まるで高校生みたい」
まき「元々そうだよ!」
三花「まき、嘘は良くないよ〜」
三花「いつもは中学生でしょ?」
まき「私たち同級生のはずなんだけどなー」
アカネ「この見た目なら、あの子(後輩B)に年下扱い受けないかもしれないね」
まき「あっ」
アカネ「ん?」
まき「それは盲点だったよ、アカネちゃん!」
アカネ「えっ」
まき「早速試してみよー!」
三花「ちょっと待ってね」
三花「エリ、とし美! 写真撮ろ!」
- 64 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:50:00 ID:jBz5Tt1g0
-
* * *
三花「タイマーセット完了〜」
とし美「まきの珍しい姿を収められるね」
まき「なんか恥ずかしいよ」
エリ「んー、まきの髪下ろした姿も珍しいけどさ」
エリ「三花の髪下ろしたのも珍しくない?」
アカネ「あ、確かに」
三花「私はそんなに印象変わってないよ〜」
とし美「いや結構変わってない?」
エリ「うん」
エリ「まきが中学生から高校生になったとしたら」
まき「だから私たち同級生だよね?」
エリ「三花は高校生から大学生になったみたいな」
三花「なんか照れちゃうな〜」
- 65 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:51:19 ID:jBz5Tt1g0
-
まき「髪下ろすと印象変わる人って多いよねー」
まき「とし美ちゃんも大人びてる、というより印象が大きく変わってるし」
とし美「そう?」
まき「アカネちゃんは、少し大人っぽくなった……かな?」
アカネ「少し?」
三花「普段から大人っぽいから、アカネはそこまで変わってないんだよ〜」
まき「エリちゃんは全然変わらないよね!」
エリ「なんだか私だけ馬鹿にされてる気がする」
アカネ「……それにしても、シャッター下りないね」
三花「みんなの髪は下りてるのにね〜」
とし美「上手いこと言ってないで」
とし美「……ってこれ、ビデオじゃない」
三花「あれ、ホントだ」
三花「……保存っと」
とし美「するんかい」
三花「一応ね〜」
- 66 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:52:09 ID:jBz5Tt1g0
-
* * *
三花「無事写真は撮れたことだし……添付して、送信!」
アカネ「後輩たちに送信したの?」
三花「そうだよ〜」
三花「そして、まきがあの髪型でも年下扱いされるか、
あの子の返信の内容でチェックするよ」
まき「ふふ、期待大だね」
アカネ(正直そうでもない気がする……)
アカネ(……言い出しっぺは私だけど)
三花「おっ、返信きたよ」
【ちょっと京都のホテルの予約取ってきます】
まき「うわあ」
まき「悪化しちゃったね」
アカネ「やっぱり」
まき「えっ」
三花「やっぱりね〜」
まき「……やっぱりレベルの実験だったんだねー」
- 67 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:52:38 ID:jBz5Tt1g0
-
* * *
アカネ「それじゃ、電気消すよー」
まき「……アカネちゃん、消灯時間ってなんのためにあるんだろうね」
アカネ「寝るため?」
まき「違うよ」
アカネ「違くないよ!?」
三花「違うんだよ、アカネ」
三花「この時間帯はお互いノーガードの談議が出来る、
消灯後フリータイムなんだよ」
まき「おー、放課後ティータイムと被せてるんだね。上手い!」
アカネ「いや上手い云々じゃなくて、消灯時間なら寝ないと……」
とし美「アカネ」
アカネ「とし美?」
とし美「もう諦めよう」
アカネ「早くもとし美が陥落したー!」
エリ「先生たちの動きは扉に一番近い私が、この自慢の耳で探るよ」
三花「頼んだよ、エリ!」
アカネ「耳が自慢とか初めて聞いたんスけど……」
まき「アカネちゃん」
アカネ「ん?」
まき「諦めって肝心だよね」
アカネ「……頭が痛い」
- 68 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:53:06 ID:jBz5Tt1g0
-
* * *
三花「一つ目のお題、それは恋愛!」
まき「修学旅行では定番の話題だね!」
三花「なお、ここでする話は他言無用だよ。絶対外に漏らさないこと!」
三花「……というわけで、なにか話がある人〜」
エリ「さーて、誰の話を聞けるのかな!」
アカネ「……残念、私はなにも話せることが無いよ」
まき「同じくー」
とし美「私も残念ながら」
エリ「私もなんだよね」
三花「えっ、私もなにも……」
「…………」
まき「……三花ちゃん」
三花「ん?」
まき「私たちって、寂しいね」
三花「それは言わないでっ!」
- 69 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:53:42 ID:jBz5Tt1g0
-
* * *
三花「一つ目のお題からコケてしまったのは、
きっと、私たちの通う学校が女子高だからだよ!」
三花「……うん、そうなんだよ」
まき「頑張って自分を納得させようとしているのが見え見えだね」
とし美「……でも私、岡田さんが彼氏いるって話を聞いたことあるよ」
アカネ「あっ、それ私も聞いたことある」
エリ「それ、本当?」
アカネ「うん」
「…………」
とし美「……ホントごめん」
まき「いいんだよ、私たち、仲間だから……」
エリ「大学生になったら、大学生になったら……」
- 70 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:54:07 ID:jBz5Tt1g0
-
* * *
三花「それにしても大学生か〜……」
とし美「どうしたの三花」
三花「高校三年生特有の、ちょっとした感慨だよ?」
とし美「いや余計わからないんだけど」
アカネ「つまり言い表せない思いってこと?」
三花「お〜、良く分かったね〜」
アカネ「自分で言うか」
三花「だって今週末から始まるインハイが、私たちバレー部三年の最後の試合じゃん?」
アカネ「うん」
三花「私たちはそこに一つのゴールを置いているけど、
実際は受験、その後に新しい学校での四年間があるわけだよ」
三花「しかもその四年間を過ごすのは、大学。
今までの学校とは規模もシステムも大きく違うわけで」
三花「そこに放り出される自分が、みんなは想像できる?」
とし美「一つのゴールを迎えた直後の自分……ってとこね。
確かに想像することは難しいけど、三花。一つだけ訂正させて」
三花「んっ?」
とし美「私たちは、誰かに放り出されるんじゃない。
自分から立ち向かっていくんだよ」
とし美「その自覚を持たないと」
三花「お〜……」
アカネ「言うね」
エリ「とし美、さっすがー!」
とし美「……うわ、なんか恥ずかしくなってきたあああ……!」
- 71 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:54:45 ID:jBz5Tt1g0
-
* * *
とし美「……こほん」
とし美「まあつまり、私たちがインハイで勝つことを自主的に目指しているように、
大学も自主的な行動をしていけばいいんじゃないってことね」
アカネ「そうね。聞いた話だと、受動的だと大学は楽しめないみたいだし」
エリ「その点は私、自信あるけどね!」
アカネ「エリの不安要素は学習面だけだもんね」
エリ「うっ。図星だけど」
とし美「エリって高い所が好きなイメージがあるんだけど、
結局どのぐらい馬鹿なんだっけ?」
エリ「こら、せめてオブラートに包みきってから喋れ」
アカネ「エリは大体中の下ぐらいだったっけ」
エリ「ん、まあその程度。
出来れば中堅私立を安全圏に収めるぐらいに、成績を上げたいよ」
三花「私も、出来れば上を目指したいけどね〜。
なにせ、敵は全国にいるからさ〜」
とし美「怖い怖い」
アカネ「本当、全て自主的に動かないと、
スタート地点にすら立てないよね、大学は」
- 72 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:55:16 ID:jBz5Tt1g0
-
* * *
エリ「というか、今私が一番不安なのはインハイ予選だよ」
エリ「火曜から木曜まで修学旅行、それから二日挟んで、
日曜から予選開始って……」
とし美「改めて聞くと、凄いハードスケジュールね」
アカネ「こればっかりは、この時期に修学旅行を実施する学校を恨むよ。
間の二日が勝負かな……」
エリ「ま、普段から練習してきた私たちだし、二日間あれば余裕だね!」
エリ「……よ、余裕だよね?」
アカネ「大丈夫、エリならちゃんと試合に臨めるよ」
エリ「アカネー……」
アカネ「自分で言っておいて、なに言ってるんだか。
エリの普段の努力は私が知ってるから、問題ないって」
とし美「そうそう。多少勉強に支障が出ても、エリは部活に全力投球してきたでしょ?」
アカネ「全く、いつもは根拠もなく自信たっぷりなんだから、
根拠がある時ぐらい自信を出しなさいよ」
とし美「うん、それ確かに言えてる」
エリ「くっそー……二人してバカにしながらも、しっかり励ましてくるなんてー……」
エリ「嬉しいぞ、バカ野郎どもー!」
アカネ「はいはい」
- 73 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/05/25(土) 12:55:56 ID:jBz5Tt1g0
-
とし美「……そういえば、さっきからまきの声を聞かないんだけど」
三花「あっ、それやっと気付いた?」
まき「すぅー……」
とし美「……寝てるね」
三花「うん、ちょっと前からね」
エリ「全く、可愛い寝顔でさっさと寝ちゃってさ」
とし美「あの子がまきを可愛がりたくなる理由、なんとなくわかっちゃうね」
アカネ「初日からはしゃいじゃって、疲れちゃったのかな?」
三花「うん、そうみたいだね。だから静かに、ね」
三花「成長ホルモンは寝ているときに分泌されるんだから」
エリ・アカネ・とし美「なるほど」
まき「む、むぅー……」
第六話「桜高バレー部の旅路の一」‐完‐
- 74 :いえーい!名無しだよん!:2013/05/26(日) 20:59:21 ID:hM34Yw120
- 乙
- 75 :いえーい!名無しだよん!:2013/05/27(月) 20:47:33 ID:uZMYJ7XA0
- 超乙
バレー部ファンにはたまらんわぁ
- 76 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:29:33 ID:87Eagk820
-
【第七話】
まき「朝だよ、みんなー」
エリ「うー……」
アカネ「ねむ……い……」
まき「もう、四人ともだらしないよー」
とし美「朝から……元気だね……」
三花「んー……子供は良く寝た方が、育つんだよ……?」
まき「わあ、そういう方面は朝から絶好調だね!」
- 77 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:30:08 ID:87Eagk820
-
‐外‐
さわ子「はーい、皆揃ってるわね? 今日は自由行動です」
さわ子「班ごとにちゃんと予定した見学コースを回るように」
さわ子「なにかあったら先生の携帯に連絡してくださいね」
さわ子「それから六時までには必ず戻っ……」
唯「でさあ、そこのお店で大安売りしてて〜」
律「それであんなにお菓子が鞄に詰まってたのか」
唯「そうそう」
さわ子「戻ってきなさい、そこ!」
まき「……うーん軽音部の行動パターンは未知数だね」
三花「澪ちゃんとムギちゃんは基本真面目なんだけどね〜」
まき「唯ちゃんとりっちゃんの占めるウェイトが大きいんだね」
とし美「意外と琴吹さんも悪ノリしてない?」
三花「それをいうなら、澪ちゃんも色々な悪ふざけを
大目に見てる部分があったりするよね〜」
まき「総じて軽音部って面白い人たちなんだね!」
- 78 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:30:52 ID:87Eagk820
-
* * *
エリ「寺巡りだー!」
まき「だー!」
アカネ「まずは三十三間堂?」
エリ「そうだよ」
エリ「三十三間堂といえば、一つに重要文化財の千体千手観音立像だよ」
エリ「これは実際見ればわかるけど、とにかく圧巻なんだよね!」
エリ「あと国宝の千手観音坐像も素晴らしいよ」
エリ「あの穏やかで上品な尊顔たるや……絶対見逃せないね!」
エリ「もちろん国宝の風神・雷神像、
それと二十八部衆像も絶対見逃せない仏像であって」
アカネ「ごめんエリ、そこまで聞いてない」
- 79 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:31:19 ID:87Eagk820
-
‐三十三間堂‐
三花「……はあ〜」
とし美「どうしたの?」
三花「いやあ、まさか本当に千体いるとは思わなくてね」
とし美「ああ、なるほどね。あれには私も息を呑んだよ」
三花「エリがあそこまで釘づけになるのも、わかる気がするよ〜」
エリ「……」←じっと眺めている
とし美「……うっとりしてるね」
三花「じっくり見られて良かったね、エリ」
- 80 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:32:35 ID:87Eagk820
-
‐清水寺‐
エリ「景観、建造物、さらに修学旅行の定番という点で見逃せないのは、
やっぱりここ清水寺だね!」
まき「それを踏まえてるからか、お土産屋も充実してるねー」
とし美「清水寺にも有名な仏像があったりするの?」
エリ「本堂本尊の千手観音立像は独特の形を持ってて有名だね」
エリ「左右一本ずつの腕を頭上高くに挙げて組み合わせてるんだ」
とし美「へえ〜」
エリ「まあ滅多に公開しなくて、今の時期は見れないんだけど」
とし美「そうなんだ、残念ね」
エリ「おっ、とし美も仏像の魅力に取り付かれたのかなー?」
とし美「ううん、ちょっと興味があっただけ」
エリ「ちえっ」
- 81 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:33:21 ID:87Eagk820
-
* * *
まき「おー」
まき「良い眺めだねー」
アカネ「さすがに有名な清水の舞台ね」
まき「そういえば、“清水の舞台から飛び降りる”って言葉あるよね」
アカネ「思い切って決断することだね」
まき「……私も決断しなくちゃいけないのかな」
アカネ「下を見ながら言わないで」
まき「大丈夫、間違っても落ちたりしないよー」
アカネ「なにか決断することあるの?」
まき「うん」
まき「いい加減身長伸びないといけないかと」
アカネ「決断次第で融通きいたらいいのにね」
まき「全くだよー」
まき「まあ、もしくは」
アカネ「もしくは?」
まき「アカネちゃんの身長が縮めばいいと思う」
アカネ「なんで!?」
まき「その分、目標に近づくからねー」
アカネ「まきは私が目標だったんだ……なんて無謀な……」
まき「あれれ、今ちょっといらっときたよ?」
- 82 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:34:23 ID:87Eagk820
-
‐銀閣寺‐
三花「お〜」
三花「銀閣寺良いね」
まき「銀色じゃなくても良いねー」
まき「雰囲気が好き!」
三花「粋って感じがするよ〜」
まき「でもなんで銀閣寺なんだろ?」
エリ「呼んだ?」
まき「これから呼ぶとこー」
エリ「そっか」
まき「エリちゃーん」
エリ「なにー?」
三花「エリはなんで銀閣寺っていうのか知ってる?」
エリ「ああ、それは諸説あるんだよ」
エリ「元々銀箔を貼る予定だったけど諸事情で駄目になったとか」
エリ「光の加減によっては銀色に輝いて見えたとか」
エリ「金閣寺と対比されてそう言われたとかね」
まき「設立当初は銀閣寺って呼ばれてなかったの?」
エリ「そうだね。今でこそ銀閣寺で通るけど、
ここには昔から“慈照寺”って名前があるんだよ」
エリ「そういえば過去に、慈照寺を銀閣寺と答えると
間違いになる入試があったみたいだよ」
まき「そんなことが……」
三花「これは私たちの手で、
銀閣寺の銀っぽさを向上させる必要があるね!」
エリ「えっ」
まき「レッツ、銀閣!」
三花「レッツ、銀色のスプレー!」
エリ「やめて! 昨日も言ったけど、やめて!」
- 83 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:34:53 ID:87Eagk820
-
* * *
アカネ「はあ、あの子らはどこでも騒がしいんだから……」
とし美「風情もなにもあったもんじゃないね」
とし美「……ま、いつも通りなのはなによりだけど」
アカネ「そうだね」
とし美「それに、エリも満足そうだしね」
アカネ「なんでエリが出てくるの」
とし美「アカネはエリの保護者でしょ?」
アカネ「いつからそんな疲れそうなポジションに……」
アカネ「……親友だとは思ってるけど」
とし美「二人で京都旅行を計画しちゃうぐらいね」
アカネ「聞いてたの!?」
とし美「聞こえたの」
アカネ「まあ聞こえててもおかしくないか……」
とし美「今から受験後の話なんてね」
アカネ「そっちの方が余程おかしいって?」
とし美「いいや……。いいと思うよ」
とし美「ただ、皆で一緒にいられる期間って、意外とそんなに残ってないんだなって」
とし美「昨日の話でもそうだけど、改めて思い知らされちゃった」
アカネ「とし美は大学進んでも、バレー続けるの?」
とし美「多分ね。アカネは?」
アカネ「私は、どうだろう。四年制の大学に進むなら、そうするかもしれないけど」
とし美「それ以外の選択肢があるんだ?」
アカネ「うん」
- 84 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:36:05 ID:87Eagk820
-
アカネ「将来は美容師になりたいんだ、私。
だから専門学校にも行ってみたい」
とし美「親はなんて言ってるの?」
アカネ「親は四年制の大学を奨めてる。でも、最後は自分で決めて、だって」
とし美「……確かに、専門は厳しい点が多いよね」
とし美「アカネは今の所、どっちに行くかはわからないの?」
アカネ「そうだね」
アカネ「はあ、高校なんて地理条件と成績でかなり絞れたのに、
大学ってなんでこんな難しいんだろ」
とし美「……それだけ私たちは求められてるんだよ」
とし美「そしてそれだけ、私たちは社会に飛び出す寸前にいるんだと思う」
アカネ「そっか……。私たちはまさに、あれなんだね。
えーと、確か、マージナル・マン……だっけね」
とし美「……レヴィン?」
アカネ「そう、それ」
とし美「倫理のその分野って、まさに私たちのことだよね」
アカネ「大人なりに、私たちへ課題を出してるのかもね」
とし美「そうかもね」
アカネ「……ありがと、とし美」
とし美「なにが?」
アカネ「話を聞いてくれたこと。それだけで気持ちが凄い楽になったよ」
とし美「力になれたのなら、どういたしまして」
三花「とし美〜、アカネ〜! もうそろそろ宿に戻ろ〜!」
とし美「わかったー!」
とし美「じゃあ行こう」
アカネ「うん」
- 85 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:36:37 ID:87Eagk820
-
‐旅館‐
‐脱衣所‐
エリ「いい湯だった〜」
アカネ「今日も親父っぽさを発揮してたね」
エリ「むっ」
アカネ「冗談だって」
三花「二人とも〜、あっちに卓球台見つけたんだけど、一試合してみない?」
エリ「おっ、いいねえ。風呂上りのコーラを賭けて勝負しよう」
アカネ「私もコーラ飲もうと思ってたし、いいんじゃないかな」
三花「じゃあ私はコーヒー牛乳を賭けるよ〜!」
- 86 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:37:31 ID:87Eagk820
-
‐遊技場‐
とし美「あっ、来たね」
エリ「そうだ、まきたちも今のうちに飲みたいもの決めときなよ」
まき「なんで?」
三花「エリの提案で、ドリンク一本を卓球で賭けることにしたんだよ〜」
まき「なるほどー。じゃあ私はね」
アカネ「あっ、まきは牛乳でしょ?」
まき「なんでわかったのかなー」
三花「とし美はそこの自販機のドクターペッパーでいいよね」
とし美「……よりによって?」
三花「あっ、いま全国のドクターペッパーファンを敵に回したね」
とし美「だって、全然美味しくないし……」
とし美「ところで、どうやって勝負するの?
シングルスだと時間かかるし、ダブルスにしても一人余るし」
三花「大丈夫、この旅館は暇人だらけだからね〜」
とし美「それは確かに」
- 87 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:38:34 ID:87Eagk820
-
* * *
三花「ほい、暇人一丁〜」
しずか「えっ」
三花「どうしたの?」
しずか「あの、私がそんなカテゴリで連れてかれたとは思って無くて」
エリ「大丈夫! この旅館には、そんな人間しかいない!」
とし美「うん、それは確かに」
圭子「もうボロ勝ちしちゃいなよ、しずか!」
春菜「頑張ってー!」
ちずる「ちっちゃくても大丈夫だよー!」
しずか「最後余計なお世話!」
とし美「……三人もギャラリーがいるみたいだし」
アカネ「圭子ちゃんたちも試合するの?」
三花「ううん。話をしたら、色々手伝ってくれるって言ってくれたんだよ」
アカネ「ああ、それは申し訳ないことを……」
圭子「大丈夫、こっちは乗り気だよ!」
アカネ(本当だろうか……)
- 88 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:39:03 ID:87Eagk820
-
* * *
圭子「……第一回、桜が丘高等学校卓球対決、in温泉旅館!
いよいよ開催でーす!」
アカネ(思ったよりノリノリだー!)
圭子「実況はこの私、佐野圭子と」
春菜「私、岡田春菜がお送りします」
圭子「なお、現場には島ちずるさんがいます。ちずるさーん!」
ちずる「はーい、こちら試合会場です」
とし美(試合会場と実況者の立ち位置が殆ど同じなんだけど……)
ちずる「今回はダブルス、三つのチームに分かれて戦ってもらいます」
ちずる「なお優勝チームには、ドリンクを一本プレゼント!
いかにドリンクへの執着心を発揮するかが、勝敗の分かれ目ですね」
圭子「なるほど、そうですかー!」
ちずる「おっと、早速ですが、第一試合のカードが判明しました。
気になる第一試合の組み合わせは……」
ちずる「“エリアカ”チームvs“ちっちゃい”チーム!」
まき「えっ?」←ちっちゃい
しずか「ちょっと、ちずる」←さらにちっちゃい
ちずる「今回の試合は“身長の格差社会”をどう埋めるかが、
勝敗の分かれ目になりそうです」
しずか「その言い方は悪意ないかな!?」
ちずる「それでは実況席にお返ししまーす」
圭子「はーい、ちずるさんありがとうございましたー。
どうでしょうか、今回の試合は?」
春菜「ちずるさんが仰った通り、“身長の格差社会”が鍵となるでしょう」
圭子「なるほど、“身長の格差社会”。
これは、面白そうな試合になりそうですね」
まき「さっきから特定の言葉を強調しすぎてないかなー」
春菜「ところで、この“身長の格差社会”ですが……」
しずか「まるで直さないどころか、悪化した!?」
まき「むう……。これは絶対負けられないよ、しずかちゃん」
しずか「そうだね」
しずか「アカネに、身長が全てじゃないって知らしめよう!」
アカネ「いや私はなにも言ってないんだけど」←高身長
エリ「私に関したこともなにも言われてないんだけど」←普通の身長
- 89 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:39:43 ID:87Eagk820
-
* * *
エリ「まずは私のサーブ!」
圭子「エリ選手、早速サービスの構えに入りました」
エリ「二人とも覚悟しなよ!」
圭子「……ああっと! あの構えはまさか!?」
春菜「私も前に見たことあります。あれは……」
春菜「バレーのサーブの構えですね」
圭子「ですね」
エリ「くらえええ!!」
「アウトー!」
エリ「あれ? 入ったと思ったのに」
アカネ「いやワンバウンドもしてないよ!?」
- 90 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:40:16 ID:87Eagk820
-
* * *
圭子「あの衝撃的なバレーサーブ(卓球)が炸裂してから、
エリ選手の暴走は止まりません」
圭子「エリ選手は台と平行の軌道を描く強烈ショットで、
相方のアカネ選手を翻弄しています」
圭子「対するアカネ選手は堅実で安定したプレイで、
着実にポイントを重ねています」
圭子「もはや小さい二人に為す術なし、完全に二人の独壇場です」
春菜「それなのに点数は互角。不思議な試合ですね」
圭子「全くです」
圭子「現在得点では十対九でエリアカチームがリード。
しかし次のサーブは、問題のエリ選手です」
春菜「アカネ選手がエリ選手に声をかけていますね。
恐らく、“せめてコートに入れろ”と言っているのでしょう」
圭子「ああっと、エリ選手が任せろと言わんばかりに、親指を立てたー!
まるで任せられなーい!」
春菜「アカネ選手の気持ちが窺い知れますねー」
圭子「これはアカネ選手も万事休すかー!」
エリ「二人とも、聞こえてるからね!?」
圭子「おや、エリ選手がなにか言いたげな顔をしていますね。
ちょっと現場のちずるさんを呼んでみましょう」
圭子「ちずるさーん!」
ちずる「はい、こちら試合会場です。
どうやらエリ選手、全くアカネ選手に信頼されていないようです」
エリ「だから聞こえてるからね!?」
アカネ「なにか言いたいことがあるなら、試合でそれを示してよ……」
エリ「うぐっ」
- 91 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:40:46 ID:87Eagk820
-
ちずる「おっと、エリ選手黙り込んでしまいました。
呆れかえったアカネ選手の言葉が、深く突き刺さったのでしょうか」
エリ「……」
エリ「……そうだね」
エリ「もうこれ以上、アカネにかっこ悪いところは見せられないかな!」
まき「おー……!」
三花「カッコいいよ、エリ〜!」
とし美「せめて次のサーブぐらい決めなよー!」
しずか「私たちも油断してられないね……!」
ちずる「……す、凄い! エリ選手、会場を完全に味方につけました!」
三花「エーリ、エーリ!」
ちずる「今のエリ選手に、敵なしです!」
エリ「いくよ、まき! しずかちゃん!」
アカネ「……エリ、慎重にね!」
エリ「任せて、アカネ……。このサーブで決めるから!」
- 92 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:41:17 ID:87Eagk820
-
圭子「あ、あの構えは……」
春菜「フォアハンドのロングサービス、上回転でしょうか」
圭子「サービスエースを狙えるサービスではありますが、
あのエリ選手が成功するものでしょうか!?」
春菜「今のエリ選手なら、大丈夫。私はそう思います」
圭子「あ、ああ、今サービスが放たれようとしてます!
そして同時に、会場も一つになろうとしています!」
「エリ、いっけええええ!」
エリ「うおおおお!」
・
・
・
「カツン」
アカネ「えっ」
まき「えっ」
しずか「えっ」
三花「えっ」
とし美「えっ」
ちずる「えっ」
春菜「えっ」
圭子「エッ」
圭子「エッジボール……」
- 93 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:41:48 ID:87Eagk820
-
* * *
エリ「……はあ」
アカネ「まあまあ、勝ったんだし」
エリ「でも最後のあのノリで、エッジボールだよ?
かっこ悪いにも程があるよー……」
アカネ「私はかっこよかったと思うよ、エリのこと」
エリ「えっ?」
アカネ「私にかっこいいとこ見せようと頑張ったんだもん。
その姿勢が、とってもかっこよかった」
エリ「本当?」
アカネ「本当」
エリ「……アカネ〜、心の友よ〜!」
アカネ「はいはい」
「ゲーム トゥ 三花、とし美! イレブン、ツー!」
アカネ「……イレブン、ツー?」
- 94 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:42:14 ID:87Eagk820
-
* * *
三花「いえーい、まず一本!」
とし美「次も取っていくよー!」
アカネ(九点もの点差をつけながら、この余裕か。恐ろしい二人ね……)
エリ「……あれ、まきは?」
しずか「まきは“身長よりも恐ろしいものを知ったよ”と呟いて、
どこかへ去っていったよ」
アカネ「なにを見てしまったの」
しずか「それと、まきからアカネたちに伝言」
しずか「“それでも世の中身長が全てじゃない!”」
アカネ「だから私はなにも言って無いんだけど!?」
- 95 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:42:45 ID:87Eagk820
-
* * *
圭子「さて最終戦は“エリアカ”チームvs“三花とし”チーム!
これは好カードですね」
春菜「最後、土壇場で会場を沸かせた前者と、
圧倒的な技術力で勝利をつかみ取った後者、見逃せない試合です」
圭子「では会場のちずるさんに繋いでみましょう。ちずるさーん!」
ちずる「はい、こちら試合直前の会場です。
今回は、敗北が決定してしまった、ちっちゃいチームの二人にも来てもらっています」
まき・しずか「ちっちゃくないよ!」
ちずる「では、どちらのチームとも戦った経験のある、お二人にお伺いします」
ちずる「正直どちらが勝つと思いますか?」
まき「三花としチームかなー」
しずか「同じく」
ちずる「ほう、その理由は?」
まき「相手にエリちゃんがいるから!」
しずか「同じく!」
ちずる「なるほど、わかりやすい理由です!」
エリ「うおい!!」
- 96 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:43:23 ID:87Eagk820
-
* * *
エリ「スタートダッシュ決めちゃうよ!」
圭子「おっとエリ選手、いきなり前の試合で最後に使った、
例のサービスを使用するようです」
春菜「出し惜しみせず全力で戦う必要があると、そう感じたのでしょう」
エリ「必殺!」
エリ「エッジ・サービス!」
アカネ「ええっ!?」
圭子「最低だー! のっけからエッジボールを狙ったサービス!
極悪非道、冷酷無比というほかありません!」
春菜「ただあの軌道、本当にエッジボールになりますよ」
圭子「無駄にコントロールだけは上手くなっている!
汚い、汚いぞエリ選手!」
「カツン」
エリ「よしっ」
とし美「……甘いよ、エリ」
エリ「なに!?」
- 97 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:44:10 ID:87Eagk820
-
圭子「おっと、とし美選手、予めポジションを大きくずらし、
エッジボールに対応できる位置についていたー!」
春菜「ラフプレーに対して正攻法で立ち向かう、
とし美選手の真面目なプレイスタイルが良く出ていますね」
圭子「おや、体制を少し低くしていますが……」
とし美「くらえっ!」
圭子「ロビングだー! ロビングで返したー!」
春菜「ボールを持ち上げるように打っていますね。
あれは非常に回転かかってますよ」
アカネ「くっ、跳ねる!」
圭子「アカネ選手、ここでなんとか返す!
しかしボールが浮いてしまっているぞー!」
三花「チャンスボールだね!」
アカネ「しまった! エリ!」
三花「いっけえええ!」
エリ「くっ、間に合わない……!」
「ピーッ!」
圭子「決まったー! 三花選手の強力なスマーッシュ!」
春菜「とても良いスマッシュでした。
タイミングもばっちりで、チャンスを見事活かしていましたね」
圭子「今のやり取りを見て、どう感じましたか春菜さん」
春菜「とし美選手は回転をかけるのが非常に上手いですね。
対して三花選手は強打が得意のようです」
春菜「とし美選手が繋ぎ、相手を翻弄、三花選手が決める」
春菜「見事な連携プレイといえます」
エリ「くう、あと少しだったのに!」
アカネ「ごめんねエリ。私が上手く返せなかったから……」
エリ「いいや、私のサーブが甘かったよ。
もっときわどいところを、狙っていかないと……」
まき「……」
しずか「ねえ、まき」
まき「なに?」
しずか「……私たちって卓球部だったっけ?」
まき「少なくとも私たちはバレー部なんだけどねー」
- 98 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:45:13 ID:87Eagk820
-
* * *
ちずる「ゲーム トゥ 三花・とし美! イレブン、ファイブ!」
三花・とし美「ありがとうございましたー!」
エリ・アカネ「ありがとうございましたー!」
エリ「あー、負けたー!」
アカネ「二人とも強すぎだよ」
とし美「そっちもなかなか手強かったよ」
エリ「くうっ、とし美のくせに上から目線とは……!」
とし美「勝ったのは私たちだしね!」
三花「そうそう。じゃあ早速勝利の一杯を貰っちゃお〜」
アカネ「えっと、三花はコーヒー牛乳でいいんだよね?」
三花「そうだよ〜」
アカネ「で、とし美はドクターペッパー」
とし美「それ本気で言ってるの?」
- 99 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:45:44 ID:87Eagk820
-
‐バレー部班の部屋‐
とし美「あー、疲れたー」
まき「汗かいちゃったねー」
とし美「ほんとにね。もう一度お風呂入れないの?」
アカネ「今の時間じゃ、もう開いてないよ」
三花「仕方ないから汗拭けるだけ拭いて、今日は寝よ〜?」
エリ「賛成ー……、なんか今日は疲れちゃったよ」
アカネ「本当、あの盛り上がりはなんだったんだろう……」
とし美「その場のノリって、訳も分からないものだよね……」
三花「それじゃ、電気消すよ。皆、おやすみ〜」
まき「おやすみー」
- 100 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:46:11 ID:87Eagk820
-
* * *
エリ「……」
エリ「……アカネー?」
エリ「……」
エリ「寝ちゃったかー……」
アカネ「なに、エリ?」
エリ「うわっ、起きてたの?」
アカネ「呼ばれてなかったら、寝てたよ」
エリ「なんかごめん」
アカネ「別にいいよ。……それで、なにか用?」
エリ「……今日、銀閣寺でとし美となに話してたの?」
アカネ「どうしたの。そんなこといちいち気にして」
エリ「だって、あの時のアカネ、一際真っ直ぐな目をしててさ。
なんだかアカネが、ずっと遠くにいるみたいに感じて」
アカネ「うん」
エリ「心配しちゃったっていうのかな……」
アカネ「……ふふっ」
エリ「わ、笑うなあー!」
アカネ「つまり“相談したいことあるなら、私にしてもいいんだよ”って」
アカネ「そう言いたいんでしょ?」
エリ「……うん」
アカネ「エリは面白いね」
エリ「面白いってなにさー」
アカネ「面白いんだもん。多分一生一緒にいても、飽きないよ」
エリ「……アカネって、たまに凄い恥ずかしいこと口走るよね」
アカネ「そうやってすぐ照れちゃうのも、面白いよ」
エリ「は、謀ったね!」
アカネ「ふふ、引っ掛かる方が悪いんだよ」
- 101 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:46:42 ID:87Eagk820
-
アカネ「……」
アカネ「……あのねエリ。私、進路で悩んでるの」
アカネ「四年制の大学に行くか、専門に行くかね」
エリ「専門って、美容師の?」
アカネ「エリには私の夢は話してたっけ」
エリ「うん。そっか、そのことを話してたんだ」
エリ「……それじゃ、私に答えは出せないね」
アカネ「ううん、話を聞いてもらえただけで十分だよ」
エリ「そっか……」
アカネ「……」
エリ「……心配しないで。アカネなら大丈夫だよ」
エリ「アカネなら、どんな選択をしても、それを正解にしてみせるから」
アカネ「エリ……」
エリ「私の知るアカネは賢くて良い子だから」
エリ「だから自分に自信を持つんだよ、アカネ!」
「ぎゅっ」
エリ「えっ……」
アカネ「……ありがと、エリ」
エリ「い……、いやいやいや! 大したことはしてないって!」
エリ「だから、そのー……抱き着くのはやめて欲しいっていうか、
ちょっと暑くないかなっていうかー……」
アカネ「……お願い」
アカネ「しばらく、このままでいさせて……」
エリ「アカネ……」
- 102 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:47:52 ID:87Eagk820
-
* * *
アカネ「……」
エリ「……」
アカネ「……エリ、ありがと」
エリ「えっ、ああ、うん。もう大丈夫なの?」
アカネ「うん」
エリ「……ま、たまには甘えちゃいなよ。いつでも胸を貸してあげるからさ」
アカネ「うん」
エリ「今日はもう遅いから、寝よう。おやすみ」
アカネ「うん、おやすみ」
エリ「……」
アカネ「……」
エリ「……あの、アカネさん?」
アカネ「うん?」
エリ「いや、なんで私の布団で寝ようとしてるのかなと思って」
- 103 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:48:17 ID:87Eagk820
-
アカネ「……」
エリ「自分の布団に戻ろう? ほら、隣だし、大した手間はないよ?」
アカネ「……」
エリ「いや枕だけ持ってきても意味ないから」
アカネ「……今日は甘えたい日なの」
エリ「えっ……」
エリ「えええぇぇぇーーー!?」
アカネ「嫌?」
エリ「い、いや別に嫌じゃないっていうか、むしろ」
エリ「アカネなら歓迎出来るっていうか……、ああもう恥ずかしいなあ!」
アカネ「……」
エリ「あー、身体が燃えるように熱いよ……」
アカネ「……ふふっ」
エリ「アカネ?」
アカネ「……やっぱりエリって、面白いね」
エリ「は……」
エリ「謀ったねえええ!?」
アカネ「二回も引っ掛かってくれるとは思わなかったよ」
エリ「アカネのバカー! 本当に本当に、恥ずかしかったんだからね!?」
アカネ「知ってる知ってる」
アカネ「でも、最初は本気だったんだよ。それに良かった」
アカネ「元々知ってるけど、エリは私の、とっても大切な親友なんだよね」
エリ「……そんなこと言われたら、怒るに怒れないじゃん馬鹿」
アカネ「あとで埋め合わせはするよ」
アカネ「……それにしてもあんな大声出して、誰も起きてこないのは奇跡だね」
エリ「もし起きてきちゃったら、恥ずかしくて死んじゃうよ」
アカネ「ふふ、確かに。聞かれてなくて良かった」
まき(……たとえ聞いてても)
とし美(聞いてる方が恥ずかしすぎて)
三花(起きるに起きれないんですけど〜……)
- 104 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:48:49 ID:87Eagk820
-
‐新幹線車両内‐
まき「おー、富士山だ!」
まき「反対側の窓だけど」
とし美「行きの時も同じこと言ってなかった?」
三花「京都、楽しかったね〜」
とし美「うん、また皆で行ってみたいね」
まき「そうだ、京都に行こう!」
とし美「今から!?」
まき「思い立ったが吉日だよ、とし美ちゃん」
とし美「こんな極端なパターンは入らないと思うけど……」
まき「そうかなー」
三花「……あっ、ちょっとごめん。お手洗い行ってくるね」
とし美「それなら私も」
まき「うん、いってらっしゃーい」
- 105 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/01(土) 16:49:22 ID:87Eagk820
-
* * *
三花(そういえば、エリたちの席は一番扉に近いんだっけ……)
三花「……あっ」
エリ「すー……」
アカネ「……」
三花(寝てる……)
とし美「……二人も、楽しんでたもんね」
三花「うんうん。今は、じっくり身体を休める時だよ」
アカネ「んー……」
三花「しかしまあ、互いにもたれ合っちゃって……」
三花「よし、カメラ起動〜」
とし美「旅の良き思い出の一つ、ね」
第七話「桜高バレー部の旅路の二」‐完‐
- 106 :いえーい!名無しだよん!:2013/06/03(月) 18:57:23 ID:ZgF0iC560
- キタキタキター
待ってましたよ!
- 107 :いえーい!名無しだよん!:2013/06/05(水) 20:37:29 ID:rSNQLWpM0
- そういえばエリちゃん仏像好きだったね
- 108 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/08(土) 16:20:38 ID:xv2JB3/w0
-
【第八話】
‐某体育館‐
エリ「……」
アカネ「……」
三花「……」
とし美「……」
まき「……」
三花「……い」
後輩B「いやあ、ついに来てしまいましたねインターハイ予選!」
後輩B「この会場! 緊張感! 情熱!」
後輩B「全く、どれをとっても、さすがというべきですか!
予選とはいえ、空気が違いますねえ!」
「……」
後輩B「……って、あれ? どうしたんですか、先輩方。
なにやら意気消沈というか、ローテンションというか」
後輩A「お前はもっと自重しろ」
- 109 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/08(土) 16:21:11 ID:xv2JB3/w0
-
* * *
三花「えっと、出鼻を早々に挫かれたわけだけど」
三花「……来たね、この日が!」
エリ「来たね!」
三花「今年の私たちの目標は、インハイ出場。そして優勝」
三花「今日はその目標への一ステップに過ぎないけど……、
それでも気を引き締めていこう!」
まき「おー!」
アカネ(……インハイ予選の初日が、ついにやってきた)
アカネ(今日は三戦して、また来週に三戦。
そこでも勝ち抜けば、ついに県大会に出場することができる)
アカネ(そして、県大会で勝ち抜けば……、もちろんインハイ出場)
アカネ「……よっし、絶対ここは勝ち抜くからね!」
エリ「おっ、アカネのノリがいつもと違うぞ!」
とし美「最後の試合の、始まりだからね。
ここで出しきらなくちゃ、いつ出すのって話だよ!」
エリ・まき「今でしょ!」
「いつやるのか? 今でしょ!」
「いつ勝つのか? 今でしょ!」
「誰が優勝するのか? ……私たちでしょー!!」
後輩A「……先輩、ちょっと声大きいです。
このままじゃ私たち、めちゃくちゃ恥ずかしい人たちです」
後輩B「楽しそうで、いいなあ」
後輩C「うん、とっても良い」
後輩A(来年の私たちの姿が見えた気がする)
- 110 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/08(土) 16:21:37 ID:xv2JB3/w0
-
* * *
三花「それじゃ、先生からお話を伺いたいと思います」
「よろしくお願いします!」
顧問「えー……三年生は、先日もお話したように、
これがあなたたちにとって、高校最後の公式試合です。
悔いを残さないように」
顧問「……といっても、失敗する人もいるでしょう。
でもその時は、バレーボールがチーム戦で良かったと、心から思いなさい」
顧問「あなたのフォローは、みんなでする。
だからみんなのフォローは、あなたがしなさい。わかったわね?」
エリ・アカネ・三花・とし美・まき「はい!」
顧問「それから二年生」
顧問「あなたたちも、試合には出てもらうことになります。
本来なら、こんな厳しい試合に二年生は出させたくないところですが、
三年は五人しかいないので仕方ありません」
顧問「どれだけ失敗しても、それは私の責任です。
だから、先輩たちに引けを取らない、全力のプレーを見せてみなさい」
「はい!」
顧問「そして一年生」
顧問「あなたたちは、先輩たちのプレーをよく目に焼き付けておきなさい。
この子たちは意外と、結構な実力の持ち主よ」
顧問「これからの成長は、ここで得るもの次第で大きく変わると思いなさい」
「はい!」
顧問「私からは以上です。三花、あとはお願い」
三花「わかりました」
- 111 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/08(土) 16:22:11 ID:xv2JB3/w0
-
三花「……まあ、三年に言うことはさっき言っちゃったし。
一年生にも、同じような内容になっちゃうしな〜」
三花「というわけで、とりあえず二年だけに一言!」
三花「私たちに遠慮しないで、ガンガンいこうぜ〜!」
まき「……それ結局、先生と同じようなこと言ってないかな?」
三花「それを言うなっ」
後輩B「三花先輩、質問があります」
三花「どうぞ〜」
後輩B「まき先輩を愛でることも、遠慮しなくていいんですか?」
まき「えっ」
三花「私たちを唸らせるプレーを見せてくれたら、三十分間だけ許可するよ」
まき「ええっ!?」
後輩B「じゃあ私、早速次の試合に出ます!」
まき「さ、三十分って長くないかなー?」
後輩B「いえ」
後輩B「“まき先輩可愛がり隊”として、
その時間制限は大変厳しいものであります!」
まき「……なんて不穏な響きの部隊なんだろうねー」
- 112 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/08(土) 16:22:40 ID:xv2JB3/w0
-
* * *
「第一試合の開始時刻が迫りました。
選手の方は、決められたコートの側で待機していてください」
とし美「始まるんだね、やっと」
アカネ「しばらくは終わらないけどね」
とし美「いつになく言うね、アカネ」
アカネ「うん。この大会が終わったら私、きっともう、
バレーボールをやることはないと思うから」
とし美「えっ?」
アカネ「決めたよ、私。専門学校に進む。
……絶対、美容師になるって夢を叶えるんだ」
アカネ「だから今だけは……。目の前の夢を、追っていたいの」
「第一試合を開始します! 選手の方は、コートに集まってください!」
- 113 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/08(土) 16:23:12 ID:xv2JB3/w0
-
* * *
後輩A(第一試合が始まった)
後輩A(先輩たちは、去年の秋ぐらいに行われた新人大会で、
地区優勝を果たした実力者)
後輩A(さすがにこの試合も優勢みたいだけど……)
後輩B「……」
後輩A(あいつガッチガチじゃん!)
後輩A「本当大丈夫なのかな、あいつ……」
後輩C「無理もないよ。この試合で硬くならない方が難しい」
後輩A「……そりゃそうだね。
私たちもいつ入るかわからないし、覚悟を決めておかないと」
- 114 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/08(土) 16:23:40 ID:xv2JB3/w0
-
* * *
「ありがとうございましたー!」
三花「一回戦、突破!」
三花「次もこの調子でいくよー!」
エリ・とし美「おー!」
後輩B「……」
まき「どうしたの? 勝てたんだよ?」
後輩B「いえ、まあなんといいますか……」
まき「……よしよし」
後輩B「うぇっ!?」
まき「人のことは散々撫でておいて、
自分が撫でられると、こうなっちゃうんだねー」
後輩B「あああああの……」
まき「身体がカチコチだよ? もっとリラックスしないとー」
後輩B「せ、先輩からそんな撫で撫でされてしまったら、
余計身体が動かないといいますか……」
まき「うん」
後輩B「……無理に背伸びしてまで手を伸ばす先輩が、
可愛すぎるといいますか」
まき「私の心遣いと努力を返してくれるかなー!?」
- 115 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/08(土) 16:24:19 ID:xv2JB3/w0
-
* * *
まき「もう、結局あの子には最初から最後まで振り回されそうだよ!」
アカネ「せっかく先輩風吹かせたかったのに、反撃にあったもんね」
まき「……でも、嫌いではないんだよねー」
アカネ「やっぱり可愛い後輩の一人ってこと?」
まき「うん」
アカネ「そっか。うん、それなら良かったね。良い後輩と巡り合えてさ」
まき「良かったよー」
アカネ「……あっ、これって両想いになるのかな?」
まき「両想い?」
アカネ「うん。互いが互いを、“可愛い!”と思っているじゃない」
まき「アカネちゃん、どうして鎮火しかかった火に油を注ぐの?」
- 116 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/08(土) 16:24:52 ID:xv2JB3/w0
-
* * *
「本日行われる試合は、全て終了しました。
皆さま、お疲れさまでした。
お忘れ物のないよう気をつけて、お帰り下さい」
三花「みんな、今日一日お疲れさま。
おかげで今日は乗り切ることが出来たよ」
三花「次の試合は来週にあるから、
それまで今以上に自分を磨くように。お願いね」
三花「それじゃ、今日は解散! ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
- 117 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/08(土) 16:25:26 ID:xv2JB3/w0
-
‐外‐
三花「……いえ〜い、一日目突破〜!」
とし美「もう、解散した途端これなんだから」
三花「良いじゃん、良いじゃん。嬉しいものは、嬉しいんだからさ〜」
とし美「本当、今日はお疲れさま。まだまだ続いていくけどね」
三花「当然! とし美も、色々ありがとねっ」
エリ「二人ともー! 早く行こうよー!」
とし美「……呼ばれてるよ?」
三花「そうみたいだね〜」
三花「……あっ、ごめん!
すぐに追いかけるから、ちょっと先に行っててくれる?」
とし美「ん、わかった。……みんな、ちょっと待ってー!」
三花「……」
三花(……あった、あった)
三花「カメラ起動っと」
三花(本日もバレー部は順調。来週の試合に向けて、絶好調の滑り出し)
三花(……だからこそ、まだ終わらせない)
三花(この一枚を、優勝までの軌跡とするまでは)
第八話「桜高バレー部の意志」‐完‐
- 118 :いえーい!名無しだよん!:2013/06/12(水) 18:18:06 ID:IzCD/0v.0
- ちゃんと見てますよー
続編楽しみにしています〜
- 119 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/15(土) 19:43:22 ID:l/78o6nQ0
-
【第九話】
‐三年二組教室‐
エリ「アカネ、なに飲んでるの?」
アカネ「これ? コーヒーだけど」
エリ「ちょっと貰っていい?」
アカネ「はい、どうぞ」
エリ「どうもどうも」
エリ「……」
エリ「……」
アカネ「エリ?」
エリ「……わ、我が人生に、一片の悔いなし……!」
「ばたんっ」
アカネ「え、エリーーー!?」
- 120 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/15(土) 19:43:51 ID:l/78o6nQ0
-
* * *
まき「……それで、ブラックコーヒーを飲んだエリちゃんが、
こうして倒れてるわけなんだね?」
アカネ「そうなの」
まき「なるほどー」
まき「アカネちゃんが悪い!」
アカネ「えぇっ!?」
まき「折角だから言っておくとね……」
まき「ブラックコーヒーは劇薬と寸分の違いも無いんだよ!」
アカネ「私はそれを好んで飲んでるわけだけど」
まき「アカネちゃん……」
アカネ「何で窓の外を見ながら私の名前を呼ぶの」
まき「お空へ旅立った、アカネちゃん……」
アカネ「私ここにいるよ!?」
- 121 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/15(土) 19:44:23 ID:l/78o6nQ0
-
* * *
三花「私はブラックでも飲めるよ〜」
まき「そ、そんな……」
エリ「三花もブラックサイドに堕ちていたなんて……」
アカネ「あっ、エリが復活してる」
エリ「帰ってきて三花! その身がブラックサイドに染まりきった時、
無事で済まないことは周知の事実だ!」
アカネ「いや、初耳だけど」
アカネ「というかさ、二人とも微糖じゃないと飲めないってこと?
それとも加糖ぐらいじゃないと駄目なの?」
まき「私は加糖じゃないと飲めないかなー」
エリ「私は微糖!」
エリ・まき「えっ」
「…………」
アカネ「どうしたの二人とも?」
エリ・まき「お前は敵だ!」
アカネ「はぁっ!?」
- 122 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/15(土) 19:44:49 ID:l/78o6nQ0
-
* * *
三花「いつの間にか、三つの派閥に分かれちゃったね〜」←無糖派
アカネ「“どうでもいい派”ってないのかな……」←無糖派
三花「私もそれに入りたいところだけど、
あの二人の真剣さを見てると遠慮しちゃうんだよね」
エリ「シュガーサイドに溺れると、コーヒー本来の味が楽しめないぞ!」←微糖派
まき「ブラック飲めないエリちゃんには言われたくないよ!」←加糖派
三花「さあ、この場を沈めることが出来るのは、アカネだけだよ」
アカネ「えっ、なんで唐突に責任押し付けてるの?」
三花「さあ!」
アカネ「……こういう役回りだってことは、理解してるけどさー」
まき「砂糖を少しでも入れてる限り、私と変わりないね!」
エリ「なにを! 微糖と加糖の大きな差を認めないというのか!」
アカネ「いや、まきの言うことももっともだとは思うよ」
アカネ「仕方なく無糖派として意見すると、
正直、微糖派のエリも、加糖派のまきと変わらないね」
エリ「いやいや、微糖派はバランス重視なんだよ。
砂糖の甘さとコーヒーの味わい、そのコラボレーション!」
エリ「……それに、アカネもアカネだよ」
エリ「“佐藤”アカネっていう名前のくせに、“砂糖”を入れないなんて!」
アカネ「んなこと知るか!」
エリ「今からでも“無糖アカネ”に改名しないと、詐欺罪に値する。
カトウも、そう思うよね?」
まき「……えっ、私?」
エリ「そうだとも“加糖まき”!」
まき「私、和嶋だよ!?」
- 123 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/15(土) 19:45:41 ID:l/78o6nQ0
-
* * *
まき「……全く、好みの問題ほど、厄介で頻出する問題はないよ」
まき「そう思わない?」
アカネ「そう言われてみれば、その通りかもしれないね。
どうせ永遠に決着つかないし」
アカネ「でさ、話は変わるけれど」
まき「うん?」
アカネ「まきが加糖派っていうのは、イメージ通りだったね」
まき「そういうのは本人に言うことじゃないと思うけどなー」
アカネ「私も加糖が全然飲めないわけじゃないけどね。
でもやっぱり、ブラックが飲めそうな人って、なんとなくわからない?」
まき「それはあるかも」
まき「例えば和ちゃんとか、姫子ちゃんとか」
アカネ「その二人は大人っぽさが溢れてるね」
- 124 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/15(土) 19:46:12 ID:l/78o6nQ0
-
まき「私が加糖派に見えるのは百歩譲って許すとして、
逆に加糖派に見えるのは……」
まき「しずかちゃん?」
アカネ「いや、しずかちゃんは“コーヒー牛乳派”じゃない?」
まき「……あっ、なるほどー」
アカネ・まき「あはははっ」
しずか「……」
まき「あっ、しずかちゃん。
今ね、誰が加糖派の人間かってことをー……ふがっ!?」
しずか「……」
アカネ(む、無言でまきの口に何かを注いでいる!?)
しずか「……」
まき「ふがっ、ふがっ」
アカネ(怒ってる、怒ってるよ……)
しずか「……」
アカネ(あっ、終わった……)
しずか「……ふう」
まき「し、しずかちゃん、これ……」
しずか「うん」
まき「……ミルクティーだね?」
しずか「そう。私は紅茶派だよ」
しずか「だからコーヒーなんて絶対飲まないからっ!」
アカネ「えっ、そこに怒ってるの!?」
- 125 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/15(土) 19:46:56 ID:l/78o6nQ0
-
‐体育館‐
後輩A「私はブラックでもいけますね。
たまに微糖にしてみたり、その日の気分次第ですが」
三花「そっか、私やアカネと同じタイプか〜」
三花「聞いてなかったけど、とし美は何派?」
とし美「私も、なんでも飲めるよ」
とし美「でもどっちかといえば、無糖の方が良いかな。
砂糖を入れる手間が省けるし」
三花「そこかいっ」
とし美「でも、ファーストフード店でコーヒーを頼むとき、ちょっと面倒なんだよね。
なにも言わないでいると、確実に砂糖もミルクも付いてくるから」
三花「いちいち“砂糖とミルクはいりません”って
言わないといけないのがね〜」
後輩A「そこはただ“ブラックで”と一言だけ言えば、
全部済むんじゃないですか?」
とし美「えっ?」
三花「えっ?」
後輩A「えっ、まさか知らない感じですか!?」
- 126 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/15(土) 19:47:25 ID:l/78o6nQ0
-
* * *
三花「……とし美、今日は凄い発見をしちゃったね」
とし美「うん。これで今週末の予選は突破出来る気がする」
後輩A「コーヒーの頼み方一つで突破される、
相手チームに同情したいところです」
三花「こら、他人事じゃないんだよ?」
後輩A「……そうですね。私も頑張らなくては」
後輩A「しかし、三年生が五人だけっていうのも少ないですよね。
どう頑張っても試合のメンバー全員三年生というのが、不可能なわけですし」
とし美「そうだね、団体競技としては少ないかもしれない」
とし美「でも、ね?」
三花「そうだよねえ」
後輩A「……はい? どういうことです?」
三花「あとを任せられる、頼りになる後輩には困ってないってことだよ〜」
後輩A「……や、やめてください、恥ずかしい!」
- 127 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/15(土) 19:47:55 ID:l/78o6nQ0
-
* * *
後輩B「加糖しか飲めない先輩、超可愛い!」
まき「思ってた通りの反応だよ!」
後輩B「こちらとしても、思ってた通りの嗜好でなによりです」
まき「そういうそっちはどうなの?」
後輩B「安心してください、先輩。
先輩を愛でる上で、加糖だけしか飲めないなんてあり得ません……」
後輩B「私はどんな味でもウェルカムです」
まき「つまりそれは私より大人だよって言いたいのかなー!?」
- 128 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/15(土) 19:48:20 ID:l/78o6nQ0
-
* * *
エリ「アカネ、私は決心したよ」
アカネ「なにを?」
エリ「例えば、コーラは甘くなければいけないよね」
アカネ「まあそうかな」
エリ「それと同じで、コーヒーは微糖でなくてはいけない。
世界中の人がそう認める日まで、私は戦うと決心したんだ……!」
アカネ「一生かかっても無理だと思うけど」
エリ「……でも、私とて馬鹿ではない」
アカネ「馬鹿だよ」
エリ「小さなことが出来なければ、大きなことはもってのほか。
だから私は、目の前のことから手をつけることにしたよ」
アカネ「それってつまり……」
エリ「……まずはアカネ、覚悟しとき!」
アカネ「うわ、やっぱり! てか、なんでいきなり方言なん!?」
まき「アカネちゃんも口調変わってるよー」
- 129 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/15(土) 19:48:52 ID:l/78o6nQ0
-
エリ「そこで私が使うのは、このコイン。そして紐」
アカネ「えっ」
エリ「この二つをひっ付けて、アカネの顔の前で揺らす」
まき「……」
エリ「……アカネは微糖派にな〜る、微糖派にな〜る……」
アカネ(……な、なんて古典的な催眠術……)
まき(懐かしさを覚えるよ……)
エリ「微糖派にな〜……」
エリ「……」
アカネ「……エリ?」
エリ「……私、超微糖派です」
まき「これ、催眠には成功してるのかな?」
アカネ「さあ……」
第九話「桜高バレー部の白黒」‐完‐
- 130 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:49:22 ID:PPFfo.n.0
-
【第十話】
‐某体育館‐
後輩A「先輩、こいつの口は塞いでおきました」
後輩B「ふがっ、ふがっ……」
後輩C(まあ、一日目であんなことしちゃったし……)
後輩A「今日一番の言葉を、ぜひ先輩の口からお願いします!」
三花「ん、それじゃお言葉に甘えて〜」
三花「……みんな、インハイ予選二日目が来たよ!」
エリ「来たね!」
三花「昨日はよく寝れた?」
まき「興奮しすぎて、ぐっすり眠れたよー」
三花「それはなによりっ!」
アカネ「ちょっと前後の繋がりがおかしい気がするけどね」
三花「まあまあ、なにはともあれ体調管理がしっかりしていれば、
万事オーケーなわけですよ〜!」
とし美「そうそう。寝不足で負けた、なんて泣いても泣ききれないよ」
アカネ「うーん、確かに」
エリ「そういうアカネは遠足前日の夜とかに、
寝れないタイプっぽいよね!」
アカネ「一番はしゃぎそうな人に言われたくないね」
エリ「なにを!」
顧問「あなたたち、じゃれあうのはそこまでにしなさい」
エリ・アカネ「私たちは真剣です!」
顧問「……いや、真剣にじゃれあわれても困るのですけど」
- 131 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:50:02 ID:PPFfo.n.0
-
* * *
顧問「わかっていると思いますが、
予選一日目を突破してきた学校がここに集まっているということ、
それを忘れないように」
顧問「当然全体的なレベルは上がっています。
それに、この二日目にはもう一つ要注意事項があります」
後輩A「要注意事項ですか?」
アカネ「次の試合を突破すると、シード校とあたるということですね」
顧問「そう。二日目の第一試合を突破した学校は、
どこもシード校と当たることになります」
顧問「つまり、一日目の試合を免除された強豪校と試合です」
まき「……一日目を免除なんて、どんな強さなんだろう」
顧問「気を引き締めなさい、まき。
それに、要注意事項とは言いましたが、
あなたたちもここまで勝ち上がる実力を持っている」
顧問「実力に、自信を乗せて存分に戦いなさい」
「はいっ!」
三花「それじゃ、行くよ〜!」
「サクラコー! オー!」
- 132 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:50:46 ID:PPFfo.n.0
-
* * *
後輩A「第一試合始まり、か。……みなさん頑張ってー!」
後輩C(……先輩たちはやっぱり凄い)
三花「任せて〜、それっ!」
後輩C(三花先輩。バレー部の個性的なメンバーをまとめる部長。
ポジションはセッターで、統率力はピカイチ)
後輩C(そしてなにより、部全体の雰囲気を作り出しているのは、
三花先輩に外ならない)
アカネ「はいッ!」
後輩A「おお、アカネ先輩ナイススパイクッ!」
まき「いけいけー!」
後輩C(アカネ先輩。人一倍真面目で、部全体を引き締めている。
ポジションはレフトで、あの背丈から繰り出されるスパイクは強烈)
後輩C(時として事態に厳しく接するけれど、それは優しさの裏返しだ)
とし美「さっきの、ナイスサーブだったよ」
後輩B「ありがとうございます!」
後輩C(とし美先輩。アカネ先輩同様真面目だけど、表立った発言は少ない。
ポジションはセンター、これもまた先輩らしいポジションだ)
後輩C(……そう、まさに縁の下の力持ち。
発言は少ないと言ったけど、きっと私の見ていないところで、
副部長としての仕事をこなしているんだろう)
- 133 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:51:31 ID:PPFfo.n.0
-
まき「……ああ、相手のエースのスパイクが……!」
エリ「来るよ!」
後輩C(エリ先輩。正直先輩の間で馬鹿馬鹿言われ続けているせいで、
私たちの間でも馬鹿という印象が強い。
でもライトをこなしているから、実は器用な人だってことがわかる)
後輩C(時にブロックし、時にトスを上げ、時にスパイクをし……。
オールラウンドに、縦横無尽にコートを駆け回る先輩は、
まさに元気一杯のいつものイメージ通りだ)
後輩B「うう、すみません、落としてしまいました」
まき「気にしない、気にしない。
ベンチに下がっている間に、立ち直っておくんだよー」
後輩C(まき先輩。ちっちゃくて可愛い、バレー部のマスコット。
ただポジションはリベロで、マスコットながら、
ボールを追いかけさせれば右に出る者はいない)
後輩B「ああ、まき先輩がコートに! なんて神々しいんだ!
眩しすぎて、直視できない!」
後輩C(こいつのことはさて置き、まき先輩は本当癒し系だ。
うん、マスコット。まさにマスコット。おお、マスコット)
まき(なにやら良からぬ噂を感じ取ったよ……)
後輩B「……にしても、今回の相手は強いよ」
後輩C「そんな?」
後輩B「うん。だからって勝てない相手でもないけれど」
後輩A(確かに、実力は互角ってところか……。でも、きっとこのメンバーなら……)
- 134 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:51:56 ID:PPFfo.n.0
-
* * *
「ありがとうございましたー!」
エリ「……いよしっ! まずは一勝!」
三花「みんなお疲れさん! 次も張り切っていくよ!」
「おー!」
アカネ「……」
- 135 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:54:15 ID:PPFfo.n.0
-
* * *
アカネ「……」
エリ「この次からが正念場だ、アカネ!
シードで上がってきた学校、またはそれに勝ってきた強豪校と……」
アカネ「……」
エリ「……アカネ?」
アカネ「えっ、ああ、エリ? どうしたの?」
エリ「いや、特にこれといった用ではないんだけど……」
アカネ「そう」
エリ「……アカネこそどうしたの?」
アカネ「ううん。なんでもない」
エリ「本当に?」
アカネ「本当だって」
アカネ(……なんだろう、この左足の違和感……)
- 136 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:54:51 ID:PPFfo.n.0
-
* * *
「第二試合、開始します」
「よろしくお願いします!」
アカネ(……気のせいだったみたい。うん。
動かしてみても、特になにも問題はないし……)
アカネ「っ!」
エリ「アカネ!?」
アカネ「……えっ、どうしたのエリ……?」
エリ「どうしたもこうしたもじゃないよ! なんか痛そうじゃん!」
アカネ「き、気のせいだってば……」
三花「ちょっとアカネ、こっち来て」
アカネ「三花まで、そんな大袈裟な……」
三花「いいから早く!」
アカネ「……」
三花「靴脱いで」
アカネ「……っ!」
とし美(……そんな……)
三花「……先生。アカネを、一旦ベンチに下げましょう」
顧問「その方がいいですね」
- 137 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:55:27 ID:PPFfo.n.0
-
アカネ「そんな、先生! 私はまだ戦えます!」
顧問「そんな腫れた足で、満足に動けるんですか?」
アカネ「ほら、まだこれだけ動かせ……うっ!」
まき「無理しないで、アカネちゃん!」
アカネ「嫌だよ……無理、させてよ……!」
まき「そんな足で、試合になんか出せられないよ!」
アカネ「嫌だ……嫌だ……!」
アカネ「私のバレーを、ここで終わりなんかしたくない……!
絶対に……嫌だ!」
エリ「アカネ、歯食いしばれ」
アカネ「えっ……?」
「ぱしぃん!」
とし美(え……)
まき(び、ビンタ!?)
三花(うわあ、痛そ〜……)
- 138 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:56:05 ID:PPFfo.n.0
-
アカネ「……痛い」
エリ「私の心はもっと痛い!」
アカネ「えっ?」
エリ「っていう言葉を使ってみたかった!」
アカネ「は?」
エリ「けれどアカネ、それはいくらなんでも酷くない?
まるで、ここで私たちが負けるみたいな言い方してさ」
アカネ「あ、いや、そんなつもりじゃ……」
エリ「先生が言ってたでしょ。これはチーム戦。
アカネのフォローは、みんなでやってあげるからさ」
エリ「大船に乗った気持ちで、私たちを見守っていてよ」
アカネ「……」
まき「そうだよアカネちゃん!
エリちゃんだけじゃなくて、私たちにも任せていいんだよ!」
三花「うんうん。修学旅行の夜は、エリ一人に持ってかれたけど〜」
エリ・アカネ「えっ」
三花「あっ」
- 139 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:56:30 ID:PPFfo.n.0
-
アカネ「……あの時、起きてたの?」
三花「あ、あはは〜……」
エリ「まきは?」
まき「……修学旅行は、夜更かしに意味があるよねー」
エリ「とし美?」
とし美「まあ……、察して」
アカネ「……うわあああ!! 恥ずかしすぎて死ぬううう!!」
エリ「おおおお落ち着いて、アカネ!! いや、むしろ私も付いていく!!」
まき「大変だよ三花ちゃん! 二人して旅立ちの宣言をしちゃったよ!」
三花「こりゃ失言だったねえ〜」
- 140 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:56:59 ID:PPFfo.n.0
-
* * *
後輩C「アカネ先輩、あんな騒ぎ回ってどうしたんですか」
アカネ「聞かないで」
後輩C(なにか弱みでも握られているのだろうか……)
顧問「次、交代します。あなたの出番よ、身体を温めておきなさい」
後輩C「あっ、はい」
アカネ(……はあ、迷惑かけちゃったなあ。柄にもなく駄々こねて。
その後、まさかの事態が発覚して。もう踏んだり蹴ったりも良いところだよ)
アカネ(……大丈夫かな、みんな……)
- 141 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:57:40 ID:PPFfo.n.0
-
* * *
三花(……アカネには安心させるよう言ったけれど、
正直状況は芳しくないね)
三花(うちの絶対的エース、アカネの穴は外の人じゃ埋められない。
私たち三年生にだって、それは同じ)
エリ「……」
三花(エリをレフトに持って行ったけど、
こんなぶっつけ本番の変則戦法なんて誰もやりたくない)
三花(でも、レフトを二年生だけで固めるのは、もっと避けないと。
アカネが抜けたことで、二年生に乗った重石は相当なものになってしまっているし)
後輩A「……」
三花(……いや、意外と大丈夫かもしれないね。
良い顔してる。だとすれば、一番不安がっているのは私か、あるいは……)
エリ「……」
三花「エリ」
エリ「ん?」
三花「あの夜の二人のことは、絶対に忘れないよっ」
エリ「なんで今それを言った!? てか忘れてよ!!」
三花「さあ集中するよ、みんな!」
エリ「出来るかー!!」
- 142 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:58:09 ID:PPFfo.n.0
-
* * *
後輩B(……すごいなあ、先輩たちは)
後輩B(アカネ先輩をフォローする手段を、一杯知ってる)
アカネ「……」
後輩B(エリ先輩もスパイクは上手い、けれどアカネ先輩ほどの攻撃力は無い。
エースと呼ぶには、少し心もとないかもしれない。でも)
三花「はいっ!」
とし美「それっ!」
「ピーッ!」
アカネ「ナイススパイク、とし美!」
後輩B(決まった、クイック攻撃! これは効果的!)
後輩B(これで相手チームは、こちらのセンターをより警戒しなくちゃいけなくなる。
つまり、センターをより“おとり”として使うことが出来る……!)
後輩B(さっきから、しつこい程度におとりの素振りを見せていたのは、
この状況まで繋げるためだったんですね先輩!)
まき「一旦ただいまー」
アカネ「お帰り、まき」
まき「……良かった、落ち着いたみたいだねー」
アカネ「さっきはゴメンね、迷惑掛けて……」
まき「ううん、困った時はお互いさまだよ!」
- 143 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:58:44 ID:PPFfo.n.0
-
後輩B(まき先輩はリベロだから、ちょくちょく行って帰ってを繰り返している。
それも、ただ交代を繰り返すだけじゃない)
顧問「ちょっとまき、良いですか?」
まき「はい」
後輩B(コートの中に、監督の指示を素早く伝達する!
それもリベロである、まき先輩の役割!)
後輩B(リベロの交代に回数制限はないからこそ出来る戦略。
これを考えた人は、表彰されても良いね)
まき「……わかりました」
顧問「そう、それなら行って来なさい!」
まき「はい!」
後輩B「今のまき先輩、カッコいいですよ!」
まき「うん、ありがと!」
後輩B(うおおお、輝く笑顔! 可愛い、可愛すぎるよ先輩!)
アカネ「……だ、大丈夫? 顔が真っ赤だけど」
後輩B「極めていつも通りです!」
- 144 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 13:59:35 ID:PPFfo.n.0
-
* * *
エリ(……なんという……)
まき(接戦!)
とし美(でも、あと一点とれば、私たちの勝ち……。
このチャンスを逃すわけにはいかない……!)
とし美(……でも)
後輩C「はあ……はあ……」
とし美(みんな、スタミナを想像以上に消費している。
やっぱりアカネがいない穴は大きかった)
とし美(どうする……どう、攻撃する……?)
三花「……」
とし美「……三花?」
三花「とし美。さっきはアカネの我が侭を聞かなかった私だけど……。
一度だけ、私の我が侭に付き合ってくれないかな?」
とし美「えっ……」
- 145 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 14:00:17 ID:PPFfo.n.0
-
* * *
とし美(あの後、タイムアウトを取った私たちは、
先生に直接訴えてみた)
とし美(たった三十秒で、この案が採用されるとは考えられない。
そう思っていたのに、今私たちはそれを実現してしまった)
アカネ「……」
とし美(アカネが、私たちと同じコートに立っている!)
三花(……これは賭け。もちろん、私個人が成功の確信を持っている賭け。
アカネをコートに呼びもどし、攻撃の選択肢として加える!)
三花(こちらからのサーブで決まれば上等、だけどそう上手くはいかない。
なら、返球されたものを、相手コートにぶちこむ以外の道は無い)
三花(前衛には私、とし美、アカネ。全員三年生。
さらに後衛には、エリとまきもいる。
三年生が全員集結しているこの瞬間、生かさず殺す道理がどこにある!)
とし美(先生が提示した条件は一つ。
この一回で決めなければ、アカネを再び下げる)
とし美(……十分すぎるよね、三花)
とし美(だって三花は、この瞬間しか見てないんだから!)
- 146 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 14:01:24 ID:PPFfo.n.0
-
「ピーッ!」
エリ「……いくよっ! はい!」
まき(良いサーブ! ……だけど、相手も上手い。
見事セッターに二球目を返してる)
まき(ボールは相手のレフト、つまりエースへ。それなら、私の役目は!)
とし美「まき!」
まき「任せて! それっ!」
後輩B(凄い! あんな剛速球を、三花先輩の元へ返すなんて!)
三花「良いよ! それじゃ、あとは頼んだ!」
後輩C(三花先輩のトスが上がる。そして、とし美先輩の頭上にボールが……!
でも、相手が警戒しているのはアカネ先輩!)
とし美(……後は任せたよ)
後輩A(やっぱりとし美先輩はおとり……。
本命はアカネ先輩の強烈なスパイク!)
後輩A(でも相手も、それに気付いている!
駄目! もうマークされちゃってる!)
- 147 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 14:01:58 ID:PPFfo.n.0
-
とし美(……そうだろうね)
後輩C(あれ? このボール、やけに伸びていく……)
とし美(全く、うちの部長は本当怖いよ)
アカネ「……ふう」
アカネ「……さあ決めちゃって、エリ!」
エリ「でやあああっ!」
とし美(アカネを“おとり”として使うんだからね!)
・
・
・
「ピーッ!」
・
・
・
- 148 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 14:02:30 ID:PPFfo.n.0
-
‐外‐
エリ「……」
アカネ「……」
三花「……」
とし美「……」
まき「……終わっちゃったね」
三花「終わっちゃったね〜……」
とし美「あの学校に勝てても、次の学校がもっと強いなんて。
そうなんだろうって、知ってても、ね」
三花「あそこ強すぎるよ〜」
とし美「全く、同感。インハイ出場を何度も果たしてる学校なんだってさ」
三花「そりゃ強いわけだねっ」
アカネ「……」
まき「でもでも、三花ちゃんのあのトス凄かった!
角度と飛距離が絶妙で、三人のうち誰が攻撃していてもおかしくなかったよ!」
三花「ん、ありがとさん!」
- 149 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 14:03:29 ID:PPFfo.n.0
-
エリ「……」
三花「……ほらほら、エリもアカネも、だんまりは駄目だよ〜。
なにか喋ってくれないと〜」
エリ「……だ、だってざあ……!」
三花「な、泣くなよ〜……。そんなの、反則だよ……」
アカネ「……うっ、うううっ……!」
三花「先に泣かれちゃあ、駄目なんだってば……」
まき「……うわあああん……!」
三花「もう、まき! なんで泣ぐんだよ゛お〜……!」
まき「三花ちゃんこそおおお……!」
三花「ち、違うし……別に゛……」
とし美「……三花……」
三花「と、とし美……?」
とし美「良いんだよ、もう……終わっちゃたんだから゛ざ……」
三花「……ばかあ……とし美の、ばかあ……!」
「うわああああん……!」
- 150 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 14:03:57 ID:PPFfo.n.0
-
* * *
後輩A「……」
後輩B「おっ、泣いてるのかな?」
後輩A「うるさい」
後輩C「……涙は人に隠したいもの」
後輩C「だけど、私は知ってる。
今この目から出ている涙は、とっても綺麗なものなんだって」
後輩A「……慰めのつもり?」
後輩C「とことん泣いて良いよっていう、許し」
後輩A「……全然可愛くない」
- 151 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 14:04:36 ID:PPFfo.n.0
-
* * *
三花「……集合!」
「……」
三花「本日をもちまして、私たち三年生は引退します。
ですが、それでも私たちはあなたたちの先輩です」
三花「……困ったことがあったら、なんでも相談しにきてね?」
「はい!」
三花「では、三年生全員から一言ずつ頂こうと思います。
というわけで、まずはとし美!」
とし美「えっ、私?」
エリ「緊張するんじゃないよー!」
とし美「してないしてない」
とし美「えっと……、今まで三年生はお疲れ様でした。
二年生は部活の最高学年として、部を引っ張って上げてください。
一年生はそんな先輩の姿を見て、得るモノは得てください」
とし美「私は副部長という立場でみんなを見ていましたが、
きっと大丈夫だと思います。みんな、充分実力があります」
とし美「もちろんそれは、バレーの技術という面だけでない。
……ということも私の方から加えて言っておきます」
とし美「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
とし美「次、まき」
- 152 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 14:05:24 ID:PPFfo.n.0
-
まき「私はこの部活に入って、精一杯頑張って、
みんなと笑いあって……本当に楽しかったです」
まき「先輩らしくない扱いとかも沢山受けてきましたが、
それでもここまで走りきることが出来て、
本当に良かったと思います。ありがとうございました!」
後輩B「まぎぜんばい〜……!」
まき「はい次、エリちゃん!」
後輩B「うう……」
まき「……よしよし」
エリ「では、まきの唯一といってもいい
先輩らしさを見せてもらったところで、私の出番です」
エリ「みんな、こんな私たちについてきてくれて、ありがと!」
エリ「思えば苦労だらけの二年半だったけど、
それ以上に楽しいことも沢山ありました」
エリ「そんな時間を過ごせた仲間に、ありがとうございました!
そして、あとは任せました!」
「はいっ!」
エリ「ラストはアカネ!」
- 153 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 14:06:16 ID:PPFfo.n.0
-
アカネ「こういうのって、普通部長が最後じゃないかと思うけど」
三花「だって私、最初に言っちゃったんだもん〜」
アカネ「いちいちこういう役回りなのは、私の人生なのかもね……」
アカネ「……さて、みんなお疲れ様。
大体言いたいことは外の先輩たちが言っちゃって、
私に言葉なんか残されてないんだけど」
アカネ「私の個人的なことを一つ」
アカネ「みんなに残された時間は、思った以上に短いです。
人生という物差しで測れば、高校生活なんてあっという間」
アカネ「だけど高校三年間の密度の高さは、
二年生はわかっていると思うけど、他の三年間を凌駕しています」
アカネ「そんな三年間があっという間、ということは、
もうみなさんに立ち止まってる暇はないということです」
アカネ「……後悔しないよう、全力を尽くしていってください!」
「はいっ!!」
三花「……それじゃ、解散! ありがとうございました!」
「ありがとうございましたーっ!」
- 154 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 14:07:23 ID:PPFfo.n.0
-
* * *
三花「じゃあね、二人とも〜」
エリ「じゃあねー!」
アカネ「……」
エリ「……いやあ、終わったねえ」
アカネ「部活が終わっても、受験があるでしょ」
エリ「うっ、痛いところを。き、今日ぐらい多めに見てくれないかな?」
アカネ「まあ……それでいいなら、いいんじゃない?」
エリ「そうやってアカネは意地悪言うー……」
アカネ「……」
- 155 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/23(日) 14:08:29 ID:PPFfo.n.0
-
エリ「……ねえ、アカネ」
エリ「私ね、楽しかったよ。みんなとバレーが出来て」
エリ「みんなのこと、大好きになった。当然、アカネのことも大好きだよ」
アカネ「……ありがと」
エリ「……だから」
「ぎゅっ」
エリ「私の胸を、貸してあげようではないか!」
アカネ「……なんか頼りない胸だね……」
エリ「おいこら」
アカネ「でも……」
アカネ「私も大好きだからね、エリのこと……」
エリ「……ん、そうかい……」
第十話「桜高バレー部の終幕」‐完‐
- 156 :いえーい!名無しだよん!:2013/06/25(火) 16:09:45 ID:YCUaOLCg0
- 乙
俺はこういう最後の大会展開に弱いんだ
- 157 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/30(日) 19:18:33 ID:7qVKxiIQ0
-
‐外‐
エリ(私たちバレー部三年生の、最後の試合が終わってから数週間)
エリ(初めは部活のない生活に戸惑っていた)
エリ(けれど、徐々に受験生の生活へはシフトできてきている)
エリ(そんなわけで、特に大きな事故もなく、
今まで平穏な毎日を過ごしてきたわけだったけど……)
エリ「なぜ自転車壊れたああああ!!」
- 158 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/30(日) 19:19:03 ID:7qVKxiIQ0
-
【第十一話】
エリ(なになになに!? この遅刻するかしないかの瀬戸際で、
壊れてることが発覚する絶妙なタイミング!!)
エリ(これじゃ遅刻確定じゃん!)
エリ(……いや待て、諦めるな。まだ万策つきたわけではない。
私には、二年半のバレーで鍛え抜かれた足があるじゃないか!)
エリ(ほら、目の前に続く道だって水浸し……)
エリ「雨でぬれてて、まともに走れねえええ!!」
- 159 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/30(日) 19:19:42 ID:7qVKxiIQ0
-
エリ(うわああ、よりによって今日は雨だよ!
見事例年並みの梅雨だよ、くそう!)
エリ(いやよく考えたら、まだ自転車ならギリギリの時間を、
走って間に合う道理なんて元々ないじゃないか! 私にどうしろっていうんだ!)
エリ(こうなれば、答えは一つ……)
エリ(家族の自転車を借りる!)
エリ(……って)
エリ「家族全員自転車通勤だよ!!」
- 160 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/30(日) 19:20:09 ID:7qVKxiIQ0
-
エリ(なんでなんだ! なんで一家揃って自転車通勤なんだ!)
エリ(……まあ、家族全員が健康でなにより)
エリ(じゃなくて! そうだけど、そうじゃなくて!)
エリ(こうなったら壊れた自転車を自力で直すか?
多少の遅刻は覚悟の上、でも最悪の事態を免れるなら……)
エリ(よし、それなら壊れた原因を探ろう!
その原因から辿れば、きっと私にも直すことはできるはずだよ!)
エリ(えーと、多分壊れたきっかけになったのは……)
エリ(……確か昨日、差してた傘が手から落ちて、タイヤにからまって……)
エリ「原因私じゃんかよ!!」
- 161 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/30(日) 19:20:36 ID:7qVKxiIQ0
-
エリ(なんてこったー! こりゃ完全に原因私だわー!)
エリ(あれ? ってことはだよ?)
エリ「私、傘も壊しちゃってるよおおお!!」
- 162 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/30(日) 19:21:01 ID:7qVKxiIQ0
-
エリ(アホか! 昨日の私はド級のアホなのか!)
エリ(しかしまあ、原因が私にあるってことは、直すべきは私自身ってことか。
むう、考えさせるねえ……)
エリ(って、そんな哲学者気分に浸っている場合じゃない)
エリ(私が浸るのは、水溜りだけで十分ってね。おっ、これは良い感じだ)
エリ(って、そうじゃないそうじゃない)
エリ(あー、駄目だ考えがまとまらない。時間も迫ってて、焦ってるんだなあ私)
エリ(一先ず深呼吸、っと……)
エリ「……」
- 163 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/30(日) 19:21:30 ID:7qVKxiIQ0
-
エリ(雨が降っていて、自転車も傘も壊れている。
電車通学というのも家からじゃ選択しづらい)
エリ(ということはバスか?
傘はさすがに一本ぐらい余ってるだろうし、バス停まで走って、それで……)
エリ(あー、結局遅刻かー。そうだよね、初めからわかってたよ)
エリ(まあ、今日の一時間目は大したことない教科のはずだし、
きっと遅刻したところで、さしてダメージは大きく……)
エリ(……あっ)
エリ「……」
エリ「…………」
「…………」
エリ「今日期末テストじゃんかよおおおォォォォーーー!!」
- 164 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/30(日) 19:21:55 ID:7qVKxiIQ0
-
‐三年二組教室‐
まき「ねえアカネちゃん、エリちゃんは?」
アカネ「さあ……寝坊でもしたんじゃない?」
まき「あー、それはありえるねー」
アカネ「あっ、メールだ。……しかもエリから」
まき「狙ったようなタイミングだね」
エリ『運命に 暗雲かげり 遅刻かな』
アカネ「……」
まき「……五・七・五?」
アカネ「そうだね。うん、そうだけど」
- 165 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/30(日) 19:22:48 ID:7qVKxiIQ0
-
‐外‐
アカネ『三点』
エリ「容赦なさすぎだよ!」
エリ(って、なんでアカネに私の句を採点させてんだ!
違うよ、今の私の気持ちをアカネに伝えたかっただけなんだよ!)
エリ(……いや、ていうか……)
エリ「元よりそんなことしてる暇ないよ!!」
- 166 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/30(日) 19:23:20 ID:7qVKxiIQ0
-
エリ(ああ、私はなにをしているんだー……。
こんなことしている間にも時間は刻一刻と過ぎているというのにー……)
エリ(……もうわかったよ。バスで行きますよ。
遅刻前提だけど、バスで行けばいいんですよ!)
エリ(さて、そうと決まれば出発!
鞄も持った、筆記用具も持った、残っていた傘も持った)
エリ(……あれ?)
エリ「財布は!?」
- 167 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/30(日) 19:24:04 ID:7qVKxiIQ0
-
エリ(うそうそ!? どうして財布ないの!?)
エリ(はっ! まさか昨日、傘を自転車に絡ませた際に……)
エリ(派手に転んじゃって……)
エリ(そのはずみで、ポケットに入れてた財布がシュート……)
エリ「これは有り得る……」
- 168 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/30(日) 19:24:42 ID:7qVKxiIQ0
-
エリ(詰んだ。これは詰んだといっても、間違いない)
エリ(ははは……この時期のテストをばっくれるとは。
あの桜高にも、とんだ不良少女がいたもんだね)
「prrrr...」
エリ(んっ? 電話?)
エリ(……アカネ?)
エリ「はい」
アカネ『いいから、早く来なさい』
「ぶつっ」
エリ「……はい?」
エリ(えっ? それだけで、本当に電話切っちゃった?)
エリ(……いや)
エリ(なんというか、怖いぐらい、
アカネには見透かされてたってことか……)
エリ(こりゃ参ったね)
エリ(……仕方ない。二時間目からでも参加しますか!)
- 169 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/06/30(日) 19:25:19 ID:7qVKxiIQ0
-
‐三年二組教室‐
まき「大分短い電話だったねー」
アカネ「えっ? ああ……」
アカネ「エリのことだから、雨を前にして馬鹿なこと考えてるんだろうと思って。
だったら短い言葉でけしかけた方がいいでしょ?」
まき「さっすがアカネちゃん!」
アカネ「それに、二時間目のテストは古文。
エリの得意教科をみすみす見逃すのは、惜しいしね」
まき「一時間目には間に合わない前提なんだね」
アカネ「多分だけど、エリはまだ家にいるからね。
どう頑張っても間に合わないよ」
まき「その根拠は?」
アカネ「馬鹿は進歩をしない」
まき「辛辣だねー」
三花「なになに〜、二人ともなんの話〜?」
まき「馬鹿とは一体なんなのかを、議論しているんだよ」
三花「んーと、それってつまりさ」
三花「エリについて議論してるってこと?」
アカネ「……流石に同情せざるを得ないよ、エリ……」
まき「残念エリちゃん……」
第十一話「桜高バレー部の梅雨」‐完‐
- 170 :いえーい!名無しだよん!:2013/07/02(火) 17:12:07 ID:343Jb9cQ0
- 傘さし運転はアカンよ
- 171 :いえーい!名無しだよん!:2013/07/11(木) 19:40:57 ID:w.DR8tPQ0
- 続編はまだなのかぁ〜
- 172 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:02:12 ID:mt8Q0uTg0
-
【第十二話】
‐外‐
エリ「祭りだー!」
三花「いえーい!」
とし美「すっごい人だかりだね」
アカネ「この子らがこれだけ騒いでいてくれれば、はぐれることはないだろうけど」
まき「……」
アカネ「まき、どうしたの?」
まき「あ、アカネちゃん……あれを見て」
アカネ「あれ? 射的の景品?」
まき「あのぬいぐるみ、すっごい可愛い!」
とし美「うん、可愛いね」
とし美「だけど射的で大きいぬいぐるみって、
なかなか取れるものじゃないよ?」
まき「そうなんだよねー……」
エリ「……話は聞いたよ、まき」
まき「えっ?」
三花「私たちが力を合わせて、あれを取ってあげるよ!」
まき「本当!?」
エリ「任せなさい!」
アカネ(ああいうのって、絶対落ちないような仕掛けがあるって、
聞いたことあるけれど……)
アカネ(……まあ、黙っておこう)
- 173 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:03:00 ID:mt8Q0uTg0
-
* * *
エリ「あれっ?」
律「んっ?」
三花「あ、軽音部じゃ〜ん!」
唯「そっちはバレー部!」
エリ「ここで会ったが百年目……」
律「長年の恨み、晴らさせておくべきか……」
アカネ「なに馬鹿なこと」
澪「言ってんだ……」
律「いやあ、つい嬉しくなっちゃってよ。
なんだ、みんなは三年生全員で祭りに来たってわけか?」
三花「うん、そんな感じ〜。りっちゃんたちも?」
唯「うん、軽音部全員でね!」
梓「あの先輩、この方たちは……?」
紬「同じクラスで、バレー部の子たちよ。
今、りっちゃんとコントを繰り広げたのが、瀧エリちゃん」
梓「はあ……」
エリ「なんかすっごい呆れられてる!?」
アカネ「哀れね……」
紬「今、梓ちゃんと同じぐらい呆れてるのが、佐藤アカネちゃん」
梓「……カッコいい方ですね。澪先輩みたいに、しっかりしてそうです」
アカネ「えっ、そんな、カッコいいなんて……」
- 174 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:03:36 ID:mt8Q0uTg0
-
とし美「照れちゃった?」
アカネ「言わないでよ……」
紬「あのボブカットの子は、中西とし美ちゃんよ」
とし美「この子が後輩の梓ちゃんなんだね?」
紬「ええ」
三花「本当可愛いね〜! 唯ちゃんが周囲に自慢してるわけだよ〜!」
梓「ちょっと唯先輩!?」
唯「口が勝手に喋っちゃうんだよね〜」
紬「この子は佐伯三花ちゃん。バレー部の部長よ」
梓「部長……。なるほど、こういう方が本当の部長なんですね!」
律「梓、何故私をちらっと見てから納得した」
紬「最後に梓ちゃんと同じぐらい小さい子が、和嶋まきちゃん」
まき「ムギちゃんいきなりなんて紹介してくれてるのかな!?」
- 175 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:04:14 ID:mt8Q0uTg0
-
梓「私と、同じぐらい……」
梓「あの、失礼ですが身長は?」
まき「えっと、百六十……」
アカネ「すぐバレる嘘はよくないよ、まき」
まき「正直すぎる言葉もよくないと思うよー」
まき「……百五十二センチだよ。本当に」
梓「そうですか……」
まき「うん」
梓「……」
まき「……」
梓「……それではっ」
まき「あっ、ちょっと待って! なんで逃げるの!」
梓「急用を思い出しました!」
まき「せめて身長を! 身長を教えてよ! ねえー!」
律(あれは負けたな、梓……)
とし美(お気の毒に……)
- 176 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:04:55 ID:mt8Q0uTg0
-
* * *
エリ「それで、りっちゃんたちは射的でなにを取ってたの?」
律「いや、なにも取れなかった。
あのぬいぐるみを狙ってたんだけどなー」
アカネ「あっ、それって」
律「ん? アカネたちも狙ってたの?」
アカネ「うん、まあ。まきが欲しがったんだけどね」
律「あれはやめた方がいいぞ。
私たちも四人がかりで挑んだんだけど、全然落ちやしない」
唯「あれは裏でなにか仕掛けがあるに違いないよ!」
まき「なんて夢のない話……」
とし美「……店主さんがこっち睨んできてるんだけど」
まき「現実って怖い!」
- 177 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:05:43 ID:mt8Q0uTg0
-
* * *
まき「というわけで、綿あめを買ってきたよ!」
三花「綿あめの原価って知ってる?」
まき「やめて!」
アカネ「そういうの知ると、一気に祭りって楽しめなくなるんだよね」
とし美「じゃあ知らなければいいってこと?」
三花「馬鹿になればいいってことだね」
まき「ねえエリちゃん、どうすれば祭りを精一杯楽しめるかな?」
エリ「どうしてこのタイミングで私に聞くのかな?」
- 178 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:06:30 ID:mt8Q0uTg0
-
* * *
律「そんじゃ、私らはあっち行くから」
エリ「じゃあねー!」
唯「また学校でね〜!」
三花「……いやあ、まさか軽音部と会うとはね〜」
アカネ「探してみれば、意外ともっといるかもね」
まき「じゃあまずは、たこ焼き屋に行ってみよー?」
とし美「まきが行きたいんでしょ?」
まき「違うよ! 私は、たこ焼き屋に誰かいると思っただけだよ!」
まき「……ついでにたこ焼きも買うけど」
アカネ「ふふっ、それなら行こうか、たこ焼き屋」
- 179 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:07:32 ID:mt8Q0uTg0
-
* * *
三花・まき「たこ焼き美味しい!」
三花「食感がたまらないね〜」
まき「たこ焼き機が欲しくなっちゃうねー。
次第に全然使わなくなっていくのがオチだけど」
エリ「はい、二人ともたこ焼き食べたね!」
三花「食べたけど?」
エリ「今たこ焼き食べた二人は、
関西弁しか使っちゃいけないゲームに強制参加だ!」
まき「えー」
アカネ(また面倒なことを……)
エリ「ほらほら、自分を西の地に飛ばしてごらん!」
三花「……」
三花「...Takoyaki tastes very good!」
エリ「えっ」
まき「I agree with you!」
エリ「なぜ英語!?」
とし美「西洋まで飛んじゃったんだね」
- 180 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:08:22 ID:mt8Q0uTg0
-
エリ「ぐ……。こうなったらとし美、たこ焼きを食らえ!」
とし美「うえっ!? ……はふっ、はふっ!」
とし美「……んんっ! もう、いきなり口に突っ込まないでよ!」
エリ「さあとし美、たこ焼きを食べたね? 食べたね?」
とし美「いや、だって私、関西弁わからな……」
エリ「さあさあ」
とし美「えー……」
エリ「……」
とし美「……Je ne sais pas」
エリ「えっ」
とし美「Je ne sais pas」
エリ「えっと、じゅぬ……?」
とし美「……Je sais pas」
エリ「えっ!?」
とし美「Je sais pas!」
エリ「じゅ、じゅせぱ……?」
とし美「……Sais pas!」
エリ「しぇぱ!?」
とし美「Sais pas! Sais pas!」
エリ「あ……」
エリ「I'm fine thank you, And you?」
とし美「なに言ってんの」
エリ「こっちのセリフだよ!!」
- 181 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:09:18 ID:mt8Q0uTg0
-
* * *
エリ「はあ……なんだか無駄に疲れたよ……」
アカネ「エリの絡みの方が疲れるよ」
エリ「全く、誰が西洋に飛べって言ったんだよ!」
アカネ「どれも関西を越えていったのは確かに想定外だったね」
エリ「しかも、とし美にいたっては宇宙語だよ!」
アカネ「あれはフランス語だ馬鹿者」
- 182 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:11:43 ID:mt8Q0uTg0
-
* * *
三花「金魚すくいやろうよ〜」
エリ「よしっ、それなら全員で勝負だ!」
まき「生き物を勝負事に使うなんて、人間は残酷だなー」
まき「とか思ってないよ?」
アカネ「ならどうして口に出したの」
とし美「あそこにいる金魚たちって、既に相当弱ってるって聞くけどね。
私たちが掬おうが掬うまいが、微々たる差だよ」
アカネ「勝負の前から精神面で大ダメージで攻撃しないでよ……」
とし美「でも、そこの子たちは全然大丈夫みたいだよ」
エリ「そ、そうだ! べべべ別にその程度で同様しないしぃ〜?」
三花「だだだだよねえ〜?」
アカネ「めっちゃ効果的ですけど!?」
- 183 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:12:19 ID:mt8Q0uTg0
-
* * *
三花「時間は無制限。各自のポイが全部破れた時点で、終了ね」
まき「いいよー」
三花「それじゃあ、よーい……」
アカネ「……」
とし美「……」
エリ「……」
三花「始めっ!」
エリ「破れた!」
アカネ「早!?」
とし美「よし、四匹目!」
アカネ「早!?」
三花「なんか飽きたー」
アカネ「早!?」
まき「アカネちゃんのツッコミも素早いねー」
- 184 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:13:01 ID:mt8Q0uTg0
-
* * *
三花「結果、十三匹を掬ったとし美の勝ち〜!」
とし美「本当はもっといけたんだけどね」
アカネ「とし美にそんな才能があったなんて、
思ってもみなかったよ」
まき「うんうん」
三花「さて、ビリの人にはなにしてもらおっかな?」
エリ「えー、なにそれ聞いてないよー!」
まき「唐突なルール追加はよくあることだよ」
アカネ「特にエリの周りではね」
エリ「うっ、確かにそうだけど……」
エリ「……じゃあわかった。これから打ち上げ花火だよね?」
まき「うん」
エリ「なら、私しか知らない、とっておきの穴場を教えてあげる。これでどう?」
とし美「人混みから抜けて、花火を見られるなら願ってもない話だね」
とし美「エリ、案内してくれる?」
エリ「よし、任せて! こっちだよ!」
- 185 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:13:28 ID:mt8Q0uTg0
-
* * *
エリ「ここの施設は夜、営業していないんだけど、
実は裏にちょっとした穴があって、そこから入れるんだ」
エリ「さらに外に取り付けられてる階段を上っていけば……」
エリ「屋上に到着!」
まき「おぉー!」
アカネ「凄い……人もいないし、高さも十分。なんの問題も無しね」
とし美「唯一、法的には問題ありだけどね」
三花「そんな水を差すようなこと言っちゃ、駄目だよ〜」
エリ「気にいってもらえた?」
まき「うん! やっぱり高い所はエリちゃんの管轄だね!」
エリ「それどういう意味だ!」
アカネ「エリはエリってことだね」
とし美「うんうん、そういうこと。……あっ、始まったよ!」
まき「たーまやー! かーぎやー!」
まき「って叫んでみたはいいけど、これってどういう意味なの?」
三花「花火業者の名前だって聞いたことあるよ〜」
エリ「あっ、今の色合い! なんかバレーボールに似てた!」
アカネ「綺麗……」
- 186 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:13:53 ID:mt8Q0uTg0
-
* * *
三花「……ん〜、すごかったね〜!」
エリ「また来年も来たいね!」
アカネ「みんな違う大学に行くのに?」
エリ「大学違うからって、集まれないわけじゃないでしょ?」
まき「うん。私、来年もこのメンバーで夏を過ごしてみたいなー」
とし美「良いこと言うね」
エリ「そっか、まきは寂しいのか〜!」
まき「そ、そういうわけじゃないんだけど……」
まき「……たまにメールとかくれたら、嬉しいかな」
三花「うん、わかったよ、まき」
三花「四年に一回はメールするよ!」
まき「大学生の間に一回だけしかくれないの!?」
エリ「安心して。足りない分は、私が出してあげるよ!」
エリ「チェンメを装って」
まき「その無駄な努力いらないよ! 削除対象だよ!」
- 187 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/12(金) 16:15:17 ID:mt8Q0uTg0
-
とし美「まき、わかった。私が出してあげる」
とし美「毎日千文字以上のメールを」
まき「重いよ! 重たすぎるよ!」
まき「こ、ここまで来たらアカネちゃんが最後の良心……」
アカネ「えっ?」
まき「アカネちゃんはそれなりの頻度で、普通の形式で、
気軽なメールを送ってくれるよね!?」
アカネ「うーん、そうだね……」
アカネ「私の実験台になってくれるというなら」
まき「せめてカットモデルと言おうよ」
第十二話「桜高バレー部の花火」‐完‐
- 188 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/21(日) 13:50:29 ID:nhVvKGNo0
-
【第十三話】
‐アカネの部屋‐
エリ『あっ、もしもしアカネ?』
アカネ「うん、そうだけど。どうしたの?」
エリ『ちょっとさ、聞きたいことがあるんだ』
アカネ「……夏休み後半にかかってくる電話にロクなものはないって、
私の経験が物語ってるんだけど」
アカネ「そういう類いのものじゃないよね?」
エリ『大丈夫』
アカネ「そう」
エリ『ご期待には背かないよ!』
アカネ「おい」
- 189 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/21(日) 13:50:54 ID:nhVvKGNo0
-
* * *
エリ「というわけで元・バレー部の、合同勉強会を始めたいと思います!」
三花「いえ〜い!」
まき「どうなるのかなー」
とし美「大して楽しみになれないね」
アカネ「……あの、始める前に一つ質問していい?」
エリ「どうぞ」
アカネ「なに普通に全員集合してんの!?」
三花「勉強会だからね〜」
アカネ「理由になってない! 私はそもそも、エリ一人に頼まれたんだよ!」
アカネ「そのエリの口から、こうなることは聞かされてない!」
まき「ごめんね、アカネちゃん。これには深い事情があるんだよ」
アカネ「……聞かせて」
- 190 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/21(日) 13:51:26 ID:nhVvKGNo0
-
三花「私はあるテキストの三分の一を」
まき「私もあるテキストの三分の一を」
エリ「そして私もあるテキスト三分の一を分担して、宿題を片付ける計画だったんだ」
エリ「ところが事件は起きた」
三花「私はやるべき量の五分の三しか」
まき「私も五分の三しか」
エリ「私は五分の一しか出来なかったんだ」
アカネ「……」
エリ「これは由々しき事態だよ……。
結局誰もノルマを達成できず、こうして夏休みは残り一週間となってしまった」
エリ「だからここでアカネに救いの手を求め、こうして集まってきたんだ」
アカネ「ふーん、なるほどね……」
エリ「わかってくれた?」
アカネ「こんの馬鹿三人衆がっ!!」
エリ「ひぃっ!」
まき「お、怒られたー……」
- 191 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/21(日) 13:51:55 ID:nhVvKGNo0
-
アカネ「夏休みの宿題は一人に与えられたノルマだよ?
それを三人がかりで取り掛かろうとした挙句、それを達成できてない?」
アカネ「甘えんのもいい加減にしなさい!!」
三花「うう……」
アカネ「大体ね、自分の怠惰が原因のツケを私に回すのが気に入らない。
まだ一週間あるんだから、自分の力でなんとかしなさいよ!」
アカネ「……で、なんの宿題を分担したの?」
まき「こ、古文のテキスト……」
アカネ「あー、あのうっすいテキストねー。
夏休み中にこなすには、ちょうど良い薄さのテキストねー」
とし美(アカネは本気だ……本気で怒っている……)
アカネ「それで、なんだっけ? 三分の一ずつだっけ?」
アカネ「はーい、ここにその古文のテキストがあります。
全部で十五パート、身につける内容ごとに分かれています」
アカネ「その三分の一、ということはそれぞれ五パートだけやればいい」
- 192 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/21(日) 13:52:24 ID:nhVvKGNo0
-
アカネ「……三花はその五分の三」
三花「う、うん」
アカネ「まきも同じく五分の三」
まき「うん……」
アカネ「それで、エリは……」
エリ「……五分の一です」
アカネ「うん、つまりエリは一パートしかやっていないということかー」
アカネ「舐めてんの?」
エリ「いえ、あの、その……」
アカネ「他二人も大概だよ。
だけど私、特にエリを救うことはすっごい癪に障るんだけどさ」
アカネ「わかるよね?」
エリ「仰る通りでございます……」
アカネ「その上で三人を代表し、エリに問いたい」
アカネ「……私の家に、何しに来たのかな?」
エリ「……わ、私たちは……」
エリ「アカネ様より激励を賜りに参りましたーっ!」
とし美(折れたー!)
- 193 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/21(日) 13:53:40 ID:nhVvKGNo0
-
アカネ「ふうん。よし、それなら帰っていいよ」
とし美「あ、アカネ、その程度にしてあげようよ。ねっ?」
アカネ「とし美は甘すぎるんだよ。
知らないかもしれないけど、これ毎年のことなんだからね」
とし美「えっ?」
アカネ「毎年エリは夏休み後半になると私の家に来て、
こうして宿題を手伝ってとお願いしてくるの」
アカネ「いい加減三年生なんだから、これぐらい自分でさ……」
とし美「……あっ、そっか」
とし美「アカネはエリと一対一なら手伝ってあげても良かったんだ」
アカネ「はあ!?」
三花「つまり、エリと二人になれなかったから、烈火のごとく怒り狂ってたってこと?」
とし美「そうなんだよ、きっと」
アカネ「えっ、ちょっと、とし美?」
まき「わかったよ、アカネちゃん。謝る。ごめんなさい」
まき「エリちゃんと二人きりの時間を奪って」
アカネ「謝るポイントはそこじゃない」
三花「ごめんね、アカネ! もう絶対、二人の時間を奪わないから!」
アカネ「いや、だから……」
三花「エリも安心して。私たちは何も言わずに立ち去るよ」
アカネ「もうやめて! 手伝ってあげるから、もうやめて!」
- 194 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/21(日) 13:54:20 ID:nhVvKGNo0
-
* * *
アカネ「……はあ」
まき「苦労症だねー」
アカネ「誰のせいだと思ってるの」
まき「私たちのせいだね!」
アカネ「自覚してるならしてるで質が悪い!」
アカネ「……そういえばとし美は宿題の分担の話、聞いてた?
私、初耳だったんだけど」
とし美「うん。アカネはそういうの聞いてくれなさそうだからって、
初めから相手にしないことにしてたみたい」
アカネ「ごもっとも。それで、とし美はどうしたの?」
とし美「自分でやった方がどうせ早いから断った」
アカネ「この結果すら予見してたのね……」
とし美「ま、そんな過ぎた事はいいから早く手伝ってあげよ」
アカネ「そうね」
とし美「三花とまきは私が教えるから、エリはアカネがお願い」
アカネ「一見とし美の方が大変に見えて、一番厄介なエリを私に押し付けてるね?」
- 195 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/21(日) 13:55:12 ID:nhVvKGNo0
-
* * *
まき「この“る”は上がエ段だから、完了の“り”でいいんだよね?」
とし美「そうそう」
三花「とし美、この動詞は誰が動作主なの?」
とし美「それは尊敬語でしょ。そこから判断できない?」
三花「おお、なるほど!」
アカネ(あの二人はてんで出来ないってわけじゃなくて、
ちょっと教えれば大丈夫みたいね)
アカネ(……それに比べて、こっちときたら……)
エリ「る、らる、す、さす……あとなんだっけ?」
アカネ「助動詞の接続ぐらい夏休み前に覚えておきなさいよ……」
エリ「お、覚えてないもんは覚えてないんだもん」
エリ「えっと、“る”は受身、可能、自発……あとは……」
アカネ「……頭が痛い」
- 196 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/21(日) 13:56:52 ID:nhVvKGNo0
-
* * *
三花・まき「できたー!」
とし美「お疲れさま」
まき「これだけ早くに片付いたのも、とし美ちゃんのおかげだよー」
とし美「ううん、私はちょっと手助けしただけだよ」
三花「エリ〜、そっちはもうどれぐらいで終わる感じ〜?」
エリ「えっ?」
三花「えっ?」
エリ「あ、いやあ、あはは……」
まき「ま、まさか……」
アカネ「……ねえ、みんな。提案があるの」
アカネ「エリに勉強教える係を分担しましょ!?」
とし美「本日の勉強会、解散!」
アカネ「ちょっとおおお!!」
第十三話「桜高バレー部の適役」‐完‐
- 197 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/27(土) 17:33:04 ID:t/JS5bq60
-
【第十四話】
‐三年二組教室‐
まき(夏休みも明けて、数週間が経った頃)
三花「……」
まき(私たちは悪夢ともいえる状況に立ち会っていた)
アカネ「……」
まき(私たちの前に広がる、色とりどりの液体たち……)
エリ「……」
まき(訂正。色とりどりの……)
まき「……珍味ペプシたち」
- 198 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/27(土) 17:33:42 ID:t/JS5bq60
-
* * *
まき(事の発端はエリちゃんの、あの一言)
エリ「さて、ここに集まってもらったのは、事件の火種である私たちと……」
三花「……」
まき(“そういえばこんなもの家にあったんだよねー”)
エリ「勇気ある無謀な挑戦者たちだ……」
「…………」
まき(……結果沸き起こる、珍味ペプシへの好奇心!)
エリ「みんな、協力してくれてありがとう。さあ、始めようじゃないか」
エリ「珍味ペプシとの戦いを!」
まき(ざわめく教室! 期待を浮かばせる人々、青ざめる人々!)
まき(……)
まき(早退したい)
- 199 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/27(土) 17:34:24 ID:t/JS5bq60
-
* * *
アカネ「ペプシは全部で六種類」
アカネ「しそ、あずき、バオバブ、モンブラン、ピンク、ソルティーウォーターメロンね」
まき「聞けば聞くほどドリンクの味じゃないよねー」
まき「ところでピンクって何味?」
アカネ「いちごミルク」
まき「うおぇ……」
夏香「一体生産者はなにを思ってこんな味を……」
エリ「全く理解できないね」
圭子「だからこそ、挑戦したいと思ってしまう!」
エリ「怖いもの見たさってやつだね!」
風子「既に怖いもの認定されてる飲み物って……」
- 200 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/27(土) 17:34:50 ID:t/JS5bq60
-
信代「飲み物の扱いなら慣れてるし、ある程度は私に任せてよ!」
慶子「あんたの家は居酒屋でしょ。コーラとなんの関係があるのよ」
潮「ペプシの水割り?」
慶子「気持ち悪い!」
三花「通はストレートかロックじゃないと〜」
アカネ「いやそれ普通の飲み方だよね」
三花「アカネはコーラ割りが好み?」
アカネ「それ結局ストレートになってるよね!?」
エリ「……さあ、まず開けるのは“ペプシしそ”! 飲みたい人は挙手をお願いします!」
「はいはいはい!」
唯「あれ、和ちゃんどこ行くの?」
和「……気分が悪くて」
唯「大丈夫? ついて行こうか?」
和「ううん、平気よ……。生徒会にさえ行けば……」
唯「保健室に行こう、和ちゃん?」
- 201 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/27(土) 17:35:17 ID:t/JS5bq60
-
* * *
とし美「……これは一体どういう状況?」
紬「あら、とし美ちゃんは参加しなくていいの?」
とし美「なにが起こってるのかもサッパリなんだけども……」
律「そっか、とし美はここ二日休んでたもんな、無理もないか」
律「あれはいわば……」
律「……悪魔の儀式だ」
とし美「心底休んでてよかったと思うなあ」
- 202 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/27(土) 17:35:46 ID:t/JS5bq60
-
* * *
とし美「珍味ペプシコーラの試飲会かー……」
とし美「確かに悪魔的な儀式ね」
律「とし美は飲んだことあんの?」
とし美「うん、一度だけ」
律「どんな感じよ?」
とし美「どんな感じって……」
とし美「正直、それを思い出そうとしただけで……」
とし美「うおぇ……!」
律「な、なんか悪い! すまなかった!」
とし美「……とにかく、軽い気持ちで飲んでは駄目。手酷い仕打ちを喰らうよ」
紬「ちょっと興味あったんだけど、やめようかしら……」
とし美「その方が絶対いいね……」
律「そういえば、とし美はどのペプシを飲んだんだ?」
とし美「……も、モンブラン」
律「想像しただけで吐き気が……」
とし美「そうでしょ……?」
律「しかし同時に好奇心が」
とし美「えっ」
律「澪も一緒に飲めば怖くないな」
澪「えっ!?」
- 203 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/27(土) 17:36:12 ID:t/JS5bq60
-
* * *
エリ「はい、これペプシしそねー」
信代「確かに受け取ったよ」
慶子「ねえ、本当に飲む気なの? 本当に?」
潮「振り返るな、慶子。そこには何もない」
慶子「目の前にも混沌しか広がってないけど」
エリ「今度はペプシあずき!」
圭子「あえて危険な香りのする方へ行くよ!」
しずか「生きて帰って来てね……!」
圭子「これ、遺言状。もしものことがあった時は……」
春菜「うん。火葬場で一緒に燃やすよ」
圭子「それは駄目!」
エリ「お次は、バオバブ!」
夏香「全然味の想像がつかないね」
風子「怖い、怖い……」
風子「……あれ、和ちゃんは?」
夏香「具合が悪いって言って、保健室に行ってたよ」
風子「危険な香りを察知して逃げたか」
- 204 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/27(土) 17:36:40 ID:t/JS5bq60
-
エリ「ペプシモンブランのお客様〜?」
三花「まきに一つ!」
まき「よりによってそれ!?」
エリ「じゃあ、三花はペプシピンク!」
三花「えっ」
アカネ「観念することね、三花」
律「こっちにもモンブラン二つくれ!」
澪「い、嫌だっ! こんな歳で死にたくないっ!」
エリ「そんなコーラを劇薬みたいに見なくても……」
アカネ「エリ、私はソルティーウォーターメロンをお願い」
エリ「はい、どうぞ」
アカネ「んっ」
エリ「これで私とお揃いだねっ!」
アカネ「全然嬉しくない」
まき「……エリちゃん、そろそろ」
三花「私たちも、覚悟は決まったよ」
エリ「よーし。それじゃ、いくよ」
「いただきます!」
- 205 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/27(土) 17:37:09 ID:t/JS5bq60
-
‐二年一組教室‐
後輩A「はっ? 保健室に行ったら、人でごった返してた?」
後輩C「あれはなにか大事件があったに違いない……」
後輩A「どこのクラスだかわかる?」
後輩C「先輩たちのクラス」
後輩A「……なにやってんスか、先輩方……」
後輩B「まき先輩がピンチであることを察知したんだけど、
それは気のせいではないみたいだね」
後輩A「あー、先輩たちって全員同じクラスなんだっけ」
後輩B「保健室に急ぐよ!」
後輩A「止めなさい、悪化するから」
後輩B「それどういう意味さー」
後輩A「文字どおりの意味だよ」
- 206 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/27(土) 17:37:42 ID:t/JS5bq60
-
* * *
純「梓ー、今日部活だよね?」
梓「うん」
純「ちえっ、暇だったら遊びに誘ってたのに。どうやって時間潰すかなー」
梓「勉強しなさいよ……って、ああ、メールだ」
梓「……」
梓「純。今日、遊べることになった」
純「部活は?」
梓「中止。急な体調不良者が出たから、だって」
純「ふーん……あの噂は本当だったんだ」
梓「噂?」
純「三年生の教室でバイオテロが起こったらしいよ」
梓「そんなバカな……」
純「その教室では体調不良を訴える生徒が続出。
被害者は共通して、こんな言葉を残していると聞くよ」
純「……面白半分で開発するな、とね……」
梓「誰に向けたメッセージなんだろう……」
- 207 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/07/27(土) 17:38:14 ID:t/JS5bq60
-
‐三年二組教室‐
さわ子「それでは、ホームルームを始めようと思いまー……」
さわ子「……」
さわ子「……あの、真鍋さん」
和「はい」
さわ子「朝と比べて、席が異様に空いているような気がするんだけど……」
和「ああ、そうですね……。大体の人が早退しました」
さわ子「なにがあったの!?」
和「……実は」
和「どっかの誰かが学校に危険物を持ち込んだので」
エリ「人をテロリストみたいに言うな!」
アカネ「あながち間違ってないけどね……」
さわ子「えっと……どゆこと?」
第十四話「桜高バレー部の災厄」‐完‐
- 208 :いえーい!名無しだよん!:2013/07/27(土) 17:57:23 ID:qa6Znkco0
- 乙
- 209 :いえーい!名無しだよん!:2013/07/31(水) 19:01:55 ID:dshASXjg0
- モンブランはホントに駄目だった…
- 210 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:20:01 ID:da.XmOW.0
-
【第十五話】
‐ゲームセンター‐
アカネ「あー、頭がガンガンする……」
まき「それって二日酔い?」
アカネ「お酒は二十歳になってからだよ」
まき「あ、アカネちゃんが……非行少女に……!」
アカネ「人の話聞いてる?」
まき「健全な高校生は一口ぐらいお酒を飲んでいるものだよー?」
アカネ「まきの発想は子供だなあ」
まき「……私は飲んだことないけど」
アカネ「うん、まきはまきだったね」
まき「どことなくバカにされてる気がするよ」
アカネ「気のせいだよ」
まき「それならいいけどねー」
まき「それで、アカネちゃんはどうして頭がガンガンしてるの?」
アカネ「えっ、本当に理由わからないの?」
まき「まあ普通だったら、ゲームセンターの騒音かなあと思うんだけど」
まき「アカネちゃんはエリちゃんのいるところなら、どこでも頭痛を起こすでしょ?」
アカネ「なるほど」
エリ「納得しないで」
- 211 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:21:12 ID:da.XmOW.0
-
* * *
エリ「私が、ちょっとばかし五月蝿いというのはわかるよ」
アカネ「ちょっとというか、かなり?」
エリ「……かなり五月蝿いというのは、認めるよ」
まき「五月蝿いというより、やかましい?」
アカネ「騒がしい?」
まき「もはや環境問題?」
エリ「二人はどこまで私の喋りを悪く言えば気が済むの!?」
- 212 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:21:56 ID:da.XmOW.0
-
* * *
エリ「ともかく、やかましくて騒がしくて環境問題一歩手前の私の喋りを、
ゲームセンターの騒音と並べないでよ!」
エリ「……そこまで、酷くないもん……」
アカネ「わかった、わかったから涙拭きなよ」
まき「エリちゃん自分で言っておいて……」
アカネ「まあ、別にエリの喋りには慣れたからいいんだよ。心配しないで」
エリ「アカネ……」
まき「エリちゃんの喋りによる頭痛に慣れたってこと?」
アカネ「うん」
エリ「アカネ!?」
アカネ「でも、この頭痛はいつものと違うよ。
だからゲームセンターの騒音が原因だと思うんだ」
まき(識別できるほどいつも頭痛に悩まされてるんだ……)
エリ「アカネはゲーセン苦手なんだ」
まき「予想通り?」
エリ「まあ、そうなんじゃないかなと思ったよ」
アカネ「ならなんで私を連れてきたの?」
エリ「アカネは仲間だから!」
アカネ「あ、ありがとう……」
- 213 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:22:23 ID:da.XmOW.0
-
エリ「いやでも、あの二人のエンジョイっぷりというか」
三花「えいっ!」
とし美「甘い!」
三花「そっちこそ!」
とし美「うおっ!」
エリ「……プロ顔負けのエキスパートっぷりは、想定外だったよね」
まき「ただのエアホッケーなのに、ギャラリー出来てるもんね」
アカネ「あの子たち卓球でもそうだったけど、どこでそんな技術を得たのやら……」
律「本当だよなー」
アカネ「……あれ?」
律「んっ?」
- 214 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:22:57 ID:da.XmOW.0
-
* * *
律「やっぱり全員来てたんだな」
律「いやー、人が集まっててよ。その中心を見たら三花ととし美でやんの」
アカネ「困ったぐらい目立ってるもんね。そっちも軽音部全員で来てるの?」
律「そそ。前にもこうして全員で会ったこと無かったっけ?」
アカネ「祭りの時ね」
律「それだ、それ!」
アカネ「あの時はみんな一緒だったけど、今は一人なんだね?」
律「あー……実はさー……」
律「私は両替させられに行ってるんだわ」
アカネ「パシられてるの?」
律「平たく言えば」
律「澪がどうしても欲しいっていうぬいぐるみが、UFOキャッチャーにあってさ」
アカネ「なるほど……」
律「困ったやつだよ」
アカネ「でもりっちゃん、そんなことでもちゃんと行ってくれるんだね」
律「まあ、一度ぐらいなら別に……」
アカネ「愛しの澪ちゃんのためなら、なんのそのかな?」
律「ち、ちげえよ!」
律「別に澪なんて、ちょっと昔から一緒にいるってっだけでさ!
そうそう、腐れ縁ってやつで!」
アカネ「時間が経っても変わらない友情って、それだけで素敵だと思うよ」
律「あー、もう……。アカネって結構恥ずかしげもなくそんなこと言えるタイプなんだな」
アカネ「同じようなこと、エリにも言われたよ」
律「エリもやられてるのか……。ところで」
律「そのエリたちはどこに行ったんだ?」
アカネ「えっ? あれっ?」
アカネ「……誰もいない!?」
- 215 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:23:30 ID:da.XmOW.0
-
* * *
エリ「まき、聞いたね」
まき「うん」
まき「りっちゃんが……パシられてて……お金を片手に……」
エリ「まき、それはちょっと危ない」
エリ「さてさて、他の軽音部員はどこにいるのかな?」
まき「……あっ」
まき「エリちゃん、ちょっと私は急用を思い出したから行くねー」
エリ「えっ?」
まき「それじゃっ!」
エリ「えっとー……」
エリ(……行っちゃった。急にどうしたんだろう)
エリ(……あっ)
後輩B「おや、まき先輩の気配を感じたと思ったので、
こちらに寄らせてもらったところ、エリ先輩がいるじゃありませんか!
いやあ、これはまき先輩が一緒にいることも期待できますねー!」
エリ「なるほど」
後輩B「なにがです?」
- 216 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:24:05 ID:da.XmOW.0
-
* * *
後輩B「まき先輩は既にここにいないと」
エリ「うん、どっかいっちゃった。バレー部三年、全員来てはいるけどね」
後輩B「因みに私は一人ですので」
エリ「一人でゲーセン?」
後輩B「極めてるゲームがあるのですよ」
エリ「それだから一人ってわけだ」
後輩B「では、私は再びまき先輩を探す旅に出ますので!
エリ先輩もまき先輩に出会ったら、私が会いたがっていたとお伝えください!
ではさよならです、エリ先輩!」
エリ「うん、じゃあねー!」
エリ「……」
エリ「……あっ、私も一人になっちゃった」
- 217 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:24:39 ID:da.XmOW.0
-
* * *
アカネ(全く、みんないつの間にどこに行っちゃったのよ……)
唯「……あっ! アカネちゃんだ!」
アカネ「あれ、唯ちゃん。どうしたの一人で?」
唯「あのね、トイレに行こうってことで、一旦別れたんだけど……」
アカネ「あー、みんなの居場所がわからないってこと?」
唯「トイレどこにあるかわかる?」
アカネ「それ以前の問題なのね」
- 218 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:25:25 ID:da.XmOW.0
-
* * *
唯「ありがと〜アカネちゃん、助かったよ〜」
アカネ「どういたしまして」
唯「それと、助けてもらった手前、申し訳ないのですが……」
唯「みんなの居場所知らない?」
アカネ「私が知るわけないんだけど……」
唯「ですよねー」
唯「どどどどうしよう、アカネちゃん!?」
アカネ「落ち着いて、ね」
アカネ「私もみんなに置いてかれた身だし、せっかくだから一緒に回ろう?」
唯「えっ、いいの?」
アカネ「いいの。私もちょっとずつ頭痛が治ってきたし」
唯「えっ?」
アカネ「なんでもない。行こ、唯ちゃん!」
- 219 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:26:03 ID:da.XmOW.0
-
* * *
まき(まさかあの子がここにいるとは……。
いや、私を追ってここに来たってこと?)
まき(……)
まき(これ以上考えるのはやめよう。そうしよう)
澪「うう……なんでだ、なんで取れないんだ……!」
紬「ファイトよ澪ちゃん!」
まき(……でも、なにも考えずに行動した結果があれなんだろうなあ)
まき・梓「はあ」
まき・梓「えっ?」
梓「あ、えっと、どうも」
まき「梓ちゃんだよね?」
梓「はい」
まき「どうしたの、まるで」
まき「そろそろ先輩諦めてくれないかな、お金がどんどん無駄になってるのになー」
まき「でもここまでいくと、
“これだけお金使ったんだから取れるまでやめないぞ”、
とか思っちゃって、本当にやめないんだろうなー」
まき「そういえばこれって某コンプガチャの心理に似てるなー……」
まき「と思ってるみたいな顔して?」
梓「つまりそういうことです」
まき「やっぱりそうだったんだねー」
- 220 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:26:39 ID:da.XmOW.0
-
梓「察しが良すぎて、諸々の感想を通り越して怖いです」
まき「全部偶然だよー」
梓「察したところで、先輩のような同年代の先輩にお願いがあります」
まき「ちょっと今の言葉おかいいよ?」
梓「どうにかして澪先輩を止められませんか?
見てるだけで、ちょっと苦しいというか……」
まき「あー……ムギちゃんは応援するだけだもんね。
そして梓ちゃんは後輩だから、ちょっと言い難いと」
まき「でもりっちゃんとか唯ちゃんは? 来てるんでしょ?」
梓「唯先輩はトイレに行ったきり戻ってきません。多分、迷子です。
律先輩は澪先輩にパシられっぱなしで嫌になったのか」
梓「“梓、もうお前と会うのは、これで最後かもしれないな……”」
梓「という言葉を残して、そこら辺をほっつき歩いています」
まき「どこの部活にもエリちゃんみたいな人はいるもんだね」
梓「というかそこのゲームでゾンビを撃ってます」
まき「詰めが甘いところもそっくりだー」
- 221 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:27:12 ID:da.XmOW.0
-
* * *
律「んー、やっぱ私一人だけじゃ、限界があるか……」
三花「お困りのようだね、りっちゃん」
律「おお、三花!」
律「そうなんだよ、このゾンビども、数だけは多くてよ……」
三花「よし、私も協力しちゃうよ〜」
とし美「待って三花。本当にやるの?」
三花「大丈夫! ある程度経ったらとし美と交代するから!」
とし美「別にそれは結構なんだけど、いや、お断りしたいぐらいなんだけど……」
律「とし美って怖いもの苦手だっけ?」
とし美「ううん。お化け屋敷とか、ホラー映画はいいんだけどね。
ただゾンビが銃で撃たれる瞬間だけは、ちょっと気持ち悪くて……」
律「変なモノがぶしゃあって飛び出るところとか?」
とし美「そうそう。それがすっごい苦手」
三花「へえ、それは初めて聞いたな〜」
とし美「三花とこういうところ来ても、この類のゲームはやってこなかったからね」
律「まあ澪じゃないし、無理強いはしないよ」
とし美(澪ちゃんだったら無理強いさせられてたんだ……)
律「ただまあ、なんつーか」
律「……リアルにいる人間も、結構怖いぞ?」
とし美「えっ?」
律「詳しくはUFOキャッチャーのコーナーに行ってみてくれ」
三花「よ〜し、始めちゃうよりっちゃん!」
律「おう!」
とし美(……どういう意味なんだろう?)
- 222 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:27:46 ID:da.XmOW.0
-
* * *
とし美(とりあえず近くの、UFOキャッチャーのあるコーナーまで来たけれど……)
とし美「あれ、まき?」
まき「とし美ちゃん!」
後輩B「まき先輩!」
まき「ぎゃあああああ!!」
とし美「あっ、逃げた」
後輩B「待ってくださいよー!」
とし美「……」
とし美「……なんだったんだろう」
梓「……なんだったんでしょうね。あっ、どうも先輩」
とし美「梓ちゃんだったよね?」
梓「はい」
唯「またの名をあずにゃんというのです」
梓「唯先輩!?」
唯「あっずにゃ〜ん!」
梓「離れてください! 暑苦しい!」
アカネ「あれ、とし美だ。三花と一緒だと思ったんだけど」
とし美「三花はあそこでゾンビと戦ってるよ」
アカネ「りっちゃんも一緒なんだ」
とし美「ちなみにまきはリアルでゾンビ的な生命力を持つ人から逃げてる」
アカネ「なにそれ怖い」
- 223 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:28:12 ID:da.XmOW.0
-
* * *
梓「……ですから、頼みますよ唯先輩」
唯「え、え〜……。私にも出来るかどうか〜……」
アカネ「どうしたの?」
唯「澪ちゃんを見てくれればわかると思うんだけど……」
澪「ど、どうしてなんだ……どうして取れないんだ……」
紬「……うん、どうしてだろうね……」
唯「見てられないよ……。ムギちゃんまで目を逸らす始末だよ!」
とし美「……確かにリアルにいる人間も十分怖い」
アカネ「誰か止めてあげられる人はいないの……?」
エリ「あー、やっと知ってる人見つけたー!」
紬「あら、エリちゃん!」
アカネ・とし美(エリだ! エリが来た!)
梓「確かあの人は……律先輩と三文芝居してた人ですね」
唯「あずにゃん、その言い方はどうかと思うよ?」
- 224 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:28:42 ID:da.XmOW.0
-
エリ「どうしたのさ二人とも。澪ちゃんなんか、疲れきってる表情しちゃってさ」
澪「えっ、疲れてる……? 本当だ、私疲れてる……」
エリ「だ、大丈夫?」
紬「澪ちゃんはこのぬいぐるみがどうしても欲しいんだけど、
なかなか上手く掴めなくて……」
エリ「あー、これは難しいよ。単純にやるんじゃ駄目だね。
ちょっと貸してくれる?」
澪「えっ……?」
エリ「……うん、いけそうだね」
アカネ(エリがUFOキャッチャーをし始めた……?)
とし美(まさかの展開……)
- 225 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:29:14 ID:da.XmOW.0
-
エリ「こういうのは店員さんに言えば、特に澪ちゃんみたいな子だと、
取りやすい位置に持ってきてくれるんだよ?」
澪「で、でもそれは……」
エリ「恥ずかしい?」
澪「……うん」
エリ「まあ、それならしょうがないと思うけど。
そういえばりっちゃんは? りっちゃんなら得意そうだけど?」
澪「律は私をからかったから、絶対頼まないって決めたんだ」
エリ「あー、なるほどね……」
アカネ(そうこう喋ってる間に、アームを操作して……)
とし美(位置についた……。まさか……?)
- 226 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:29:45 ID:da.XmOW.0
-
エリ「そのりっちゃんには両替係だけを頼んだわけだ」
紬「澪ちゃん、意地っ張りだから」
澪「む、ムギ! ……でも逃げられたけど」
エリ「そりゃ、逃げるよ。
きっとりっちゃんだって本当は、ただこうしたかっただけなんだから」
澪「えっ?」
エリ「ほら、お目当てのぬいぐるみだよ。欲しかったんでしょ?」
澪「……えっ!?」
アカネ・とし美(えええええ!?)
アカネ(本当に取っちゃったの!?)
とし美(えっ、いつの間に? えっ!?)
梓「……カッコいい……」
唯「がーん……!」
- 227 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:30:17 ID:da.XmOW.0
-
エリ「これで無駄遣いと、意地を張るのは最後にしときなよ?」
澪「う、うん……」
エリ「それじゃね、澪ちゃん。私は他のみんなを探さないといけないから!」
澪「じゃ、じゃあ……」
紬「エリちゃん、カッコよかったね〜」
澪「うん……」
- 228 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/04(日) 13:31:51 ID:da.XmOW.0
-
* * *
エリ(ふー、一仕事終えたね。良いことをした後は気分が良い)
エリ(さてさて、みんなはどこにいるのやら……?)
アカネ「……」
エリ「って、あれ。アカネだ。とし美もいるし」
とし美「……エリ、見てたよ」
エリ「えっ、ああ、あれ? いやあ本当に取れちゃったねー?」
とし美「凄かったね。一発で取れるなんて」
エリ「偶然だよ、偶然。アカネもそう思うでしょ?」
アカネ「……私ね、思うんだ」
アカネ「今のエリになら、一生付いて行ってもいいって」
エリ「お、おう……?」
とし美(……リアルの人間もやっぱり怖いなー……)
第十五話「桜高バレー部の美男」‐完‐
- 229 :いえーい!名無しだよん!:2013/08/05(月) 09:33:09 ID:7Sj4/k4Q0
- クレーンゲームは貯金箱とは本当によく言ったもんだよね
- 230 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:22:32 ID:K9DKHSY60
-
【第十六話】
‐外‐
和「宣誓。私たち選手一同は、スポーツマンシップに則り、
正々堂々と最後まで走りきることを誓います」
和「生徒代表、三年二組、真鍋和」
エリ「まき、空を見上げてごらん」
まき「真っ青だね」
エリ「まるで私たちの感情のごとく」
まき「ブルーだね」
エリ・まき「はあ……」
アカネ「同じ色でどうしてこうまで差が出てしまうんだろう……」
- 231 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:23:32 ID:K9DKHSY60
-
* * *
エリ「誰なんだ、桜高にマラソン大会を提案したやつは」
エリ「呪うぞ!」
アカネ「怖いこと言わないで」
エリ「毎日部屋にある仏像模型に拝み倒すぞ!」
アカネ「本気で怖い。女子高生の部屋に仏像模型があるのが、本気で怖い」
三花「それに、この行事って随分前からあるんでしょ〜?
だとしたら私たちの大先輩が提案したんじゃない?」
とし美「今頃その大先輩はエリのような生徒から多くの恨みを買って……」
まき「……無事であることを祈るばかりだね……」
アカネ「やめなさい」
アカネ「第一マラソンといっても、たかが五キロぐらいでしょ?」
アカネ「文化部の人はともかく、私たちはバレー部で鍛えられてるんだから、
その程度の距離なんともないと思うけど」
エリ「わかってない、わかってないよアカネは」
エリ「部活の走り込みは、バレーをより一層楽しむため……。
いわば目的が他にあったでしょ」
エリ「でもマラソンは走るだけ」
エリ「それでどうやってモチベーションを上げろというんだ!」
アカネ(エリのくせに納得させられる意見を言われた)
三花「それに走るコースも魅力あふれる場所ではないしね〜」
とし美「せめて走ってて気持ちのいい、普段とは違う自然溢れるコースだったらね」
まき「自然かー……この辺は山ばっかだし海岸とかは?」
とし美「それは走りにくいかなあ」
三花「海岸で走ると言えば、あれだよ〜」
三花「カップルで追いかけっこ!」
とし美「五キロも逃げ回る気なの?」
- 232 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:24:12 ID:K9DKHSY60
-
* * *
先生「それではみなさん。位置について。よ〜い……」
「バァンッ」
まき「よーし、頑張るぞー」
アカネ「さっそく遅めのペースを保っているまきに一つ忠告ね」
まき「なにー?」
アカネ「三年生はどの学年より先に走りだしたよね?」
まき「うん」
アカネ「ということは、そんなペースで走ってると後輩に追いつかれるわけだ」
まき「うんうん」
まき「……えっ?」
アカネ「だからあの子が追いつくのも時間の問題だよ?」
まき「走ろう、アカネちゃん!」
アカネ(まきは単純だなあ)
三花(こんなことに利用されるあの子が可哀想と思うのは、私だけなのかな〜?)
アカネ(さて、あとは……)
アカネ「エリ」
エリ「なにー……?」
とし美(早速やる気の感じられない返事ね……)
アカネ「私より先にゴールしたら、500mLコーラを五本プレゼントしてあげる」
エリ「私、走るよ!」
とし美(やる気に満ち溢れてる!?)
アカネ(そしてエリはまき以上に単純、と……)
- 233 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:24:52 ID:K9DKHSY60
-
* * *
とし美「アカネは凄いね」
アカネ「何が?」
とし美「あの二人を、ああも簡単に本気にさせるなんて」
アカネ「そんなの当然だよ」
とし美「そこまで言い切る?」
アカネ「だって今まで誰かさんたちが、
そういった役割を全部私に押し付けてきたからねー?」
とし美「え、笑顔が怖いよアカネ……?」
アカネ「ねー、誰かさんたちがねー?」
とし美「誠に申し訳ございませんでしたっ!」
- 234 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:25:31 ID:K9DKHSY60
-
* * *
まき「はっ」
まき「……」
三花「どうしたの、まき?」
まき「甘い香りが……」
三花「繁華街だし、色んな店があるよね〜」
三花「でも財布もないし今はマラソン大会中だよ?」
まき「そうなんだけどー……」
まき「エリちゃんが」
エリ「えっ、私が?」
まき「一芸してくれれば、なにかくれるんじゃないかなーって……」
エリ「私は大道芸人じゃないよ!?」
三花「まあ確かにエリは喋ってるだけでギャグになることもあるよね〜」
エリ「少しは私をいたわってよ!!」
三花「うん、それならコーラを一本あげるよ〜」
エリ「……そ、それぐらいで私が慰められるわけ……!」
アカネ「だったらその満面の笑みをやめなさい」
アカネ(……あれ。財布は無いけど、ポケットの中にお金が入ってる。
いつ入れたものなんだろう……?)
- 235 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:25:58 ID:K9DKHSY60
-
* * *
まき「なんだかんだで結構いいペースだよね?」
とし美「三年生の中でも上位だと思うよ」
三花「これなら“絶対”下級生には追いつかれないね!」
エリ「そうだね、“絶対”!」
アカネ「“絶対”ね」
とし美「そうそう“絶対”」
まき「なんでいらぬフラグを立てようとするのかなー」
エリ「おっ、田んぼが見えてきたよ」
エリ「てことは、あと少しで例の坂が待ってるってことか……」
三花「例の坂?」
エリ「さわ子先生が言ってたんだけどね、
田園地帯を抜けたら心臓破りの坂があるんだって」
三花「心臓破り……」
エリ「別名ハートブレイクの坂とも言ってたよ」
とし美「意味変わってないよね、それ」
- 236 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:26:27 ID:K9DKHSY60
-
アカネ「坂では無理にペースを上げようとしなくてもいいんだよ」
三花「じゃあここから坂の頂上まで競争ね〜」
アカネ「そこはここから坂の麓までというべきだと思うの」
三花「だって……このままじゃ面白くないよ?
それともアカネは走ることになにか面白さを見出したの?」
アカネ「私は何事もなく平穏に走り切りたいだけよ」
まき「アカネちゃんがそう言うなら仕方ないね」
まき「ビリの人には罰ゲームにしよー」
アカネ「全然私を気遣ってくれていない!?」
まき「昨日の友は今日の敵って言うよね」
アカネ「普通逆だと思うけど」
まき「でもそれが実際に起きてしまったんだよー」
アカネ「世知辛い世の中ね」
- 237 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:26:57 ID:K9DKHSY60
-
* * *
三花「スタート!」
アカネ「ってなに突然スタートしてんの!?」
三花「勝てば官軍だよ〜!」
アカネ「きったない官軍だなあ!」
まき「ほらほら急いでアカネちゃん!」
とし美「ま、こうなったらしょうがないよ」
アカネ「唯一の仲間だと思っていたとし美は既に悟っていらっしゃる……」
アカネ(マズイ……持久力はまだしも、瞬発力に自信はない……。
坂までの距離は長いから、逆転の機会がないこともないけれど……)
アカネ「……あっ」
アカネ(自動販売機……そして、ポケットの中に何故か入ってた百五十円……)
アカネ「……」
- 238 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:27:37 ID:K9DKHSY60
-
* * *
エリ(先は……まだ長い……!)
アカネ「エリ!」
エリ(えっ、アカネ? いつの間にこんな差が縮まって……。
いや、それよりどうしたんだろう?)
アカネ「これを受け取って!」
エリ「えっ!?」
エリ(アカネが放り投げてきたもの……それは)
エリ(冷えたコカコーラの500mLペットボトル!)
エリ(アカネ……こんな状況下で敵に塩を送るなんて!)
エリ「ありがたく頂戴します!」
- 239 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:28:05 ID:K9DKHSY60
-
* * *
エリ「腹が! 腹があああ!」
三花「エリの負け〜!」
まき(流石に飲む前に気づこうよエリちゃん……)
エリ「ま、まさかアカネはこれを狙って……!」
アカネ「勝てば官軍よ」
三花「私が言うのもアレだけど汚い官軍だね」
まき「昨日の友は今日の敵ってやつだねー」
アカネ「本日二度目のね」
エリ「ゆ、ゆるすまじアカネ……!」
三花「なお、罰ゲームは学校に帰ってから発表したいと思います!」
とし美「なにをやらせる気?」
三花「それは秘密〜」
- 240 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:29:16 ID:K9DKHSY60
-
* * *
まき「ねえアカネちゃん」
アカネ「どうしたのまき」
まき「いまエリちゃんはトイレに行ってるよねー」
アカネ「うん」
まき「それで置いて行くのは可哀想ということで、
私たちはチェックポイントの公園で待機してるよねー」
アカネ「そうだね」
まき「どんどん色んな人に追い抜かれていくよねー」
アカネ「下級生の姿も少しずつ見え始めてきたね」
まき「……フラグって、怖いね」
アカネ「えっ?」
後輩B「呼ばれた気がしました!」
まき「言わんこっちゃないよ!!」
- 241 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:29:46 ID:K9DKHSY60
-
* * *
エリ「待たせてごめんね、みんな」
エリ「……あれ、まきは?」
アカネ「フラグを消化したところ」
エリ「えっ」
三花「まきも苦労が絶えないよね〜」
とし美「それじゃ、走るの再開しようか。
まきも、随分先まで行っちゃったみたいだし」
三花「まきの屍を越えて行こう!」
アカネ「勝手に殺さないであげて」
- 242 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:30:21 ID:K9DKHSY60
-
* * *
三花「見て! 学校が見えてきたよ!」
アカネ「案外早かったね」
とし美「まあ夏の合宿に比べたら、数千倍楽だったね」
エリ「ああ……去年の悪夢が蘇る……!」
三花「じゃあさ、最後まで一気に走りきろうよ〜」
アカネ「もうゴールは間近だし、いいかもね」
三花「じゃあいくよ〜……。よーい、ドンッ!」
- 243 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:31:03 ID:K9DKHSY60
-
* * *
アカネ「はあはあ……」
三花「最後……全力出し過ぎたね〜……」
とし美「……」
後輩A「あ、やっぱり先輩たちでしたか」
エリ「あれ、先にゴールしてたの?」
後輩A「そのようです。いつ追い抜いたのか、覚えがないんですけど」
エリ(私がトイレに行っている間かな?)
後輩C「まき先輩は先にゴールしてたみたいですね。
かなり疲れきってましたけど」
後輩C「……その原因も明らかでしたけど」
アカネ「あはははー……」
後輩A「あいつのことは駄犬と呼んでくださって結構です。
まき先輩に突っ込むことしか脳のない駄犬……」
後輩B「あっ、先輩たちじゃないですか!」
後輩A「それがこいつです」
後輩B「なにが私なの?」
- 244 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:31:46 ID:K9DKHSY60
-
* * *
まき「みんなー、会いたかったよー!」
エリ「感動の再会!」
まき「エリちゃんのことは一生恨むからね」
エリ「まさかの宣告!」
アカネ「……色々とお疲れ様、まき」
アカネ「エリを恨むってことは、私のこともある程度恨んでいるんだろうけど、
そこは許してね?」
まき「うん、アカネちゃんはいいよ」
まき「ほら……アカネちゃんは既に……色々苦労してるしさ……」
アカネ「許されたのに釈然としない」
- 245 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:32:14 ID:K9DKHSY60
-
‐音楽準備室‐
律「おっす」
三花「お〜っす!」
アカネ「エリへの罰ゲームが行われるからって、ついて来たはいいものの……」
アカネ「なんで軽音部の部室?」
三花「この前りっちゃんから聞いたんだけどね」
三花「……アレがこの部屋にはあるんだよ」
アカネ「アレ?」
まき「アレかー、なんだかとっても面白そうだねー」
アカネ「アレってなに!?」
三花「というわけでりっちゃん、ムギちゃん。
エリに例のアレを、お願いね〜」
紬「了解よ〜」
エリ「えっ? えっ?」
紬「さあエリちゃん、行きましょ?」
エリ「いやあのなにが行われるのかだけでも教えて欲しいんだけど、
っていうかムギちゃん力強い、痛い痛いひっぱらないで!!」
まき「エリちゃん、生きて帰ってきて……」
アカネ「そんな大袈裟な」
唯「でも澪ちゃんはそれが死ぬほど嫌なんだよ〜」
アカネ「えっ」
澪「……」
アカネ(ますます何をされるのかわからない)
- 246 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:32:51 ID:K9DKHSY60
-
* * *
紬「お待たせ〜」
律「出来上がったぜ!」
アカネ「出来上がった?」
エリ「……」
アカネ「えっ!?」
三花「おお〜!」
まき「エリちゃん……」
まき「ナイスメイド服!」
エリ「なんでこんなものが軽音部にあるの!?」
唯「それは私たちにもわからないんだよね〜」
とし美「ライブの衣装とかじゃないんだ?」
律「……とし美は、ライブの衣装にメイド服を着れるか?」
とし美「えっ」
律「スク水や、チャイナドレス、ナース服を着れると思うのか?」
とし美「ごめん私が間違ってたよ」
まき「さらりと恐ろしい情報がずらずら出ていたようなー……」
澪「それ以上は、聞かないでくれ……」
まき(なんて悲痛な声で……)
- 247 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/12(月) 19:33:37 ID:K9DKHSY60
-
紬「さあエリちゃん。あとはあの台詞を言うだけよ!」
とし美「メイド服で、あの台詞ってまさか……」
エリ「……」
エリ「……お、おかえりなさいませ、ご主人様ー……」
アカネ「……」
まき「……」
とし美「……」
三花「……ぶふっ!」
エリ「わ、笑うなあああ!!」
三花「笑ってないよ〜……くくっ!」
エリ「今笑った! 超笑った! 絶対笑った!」
まき「落ち着いてエリちゃん。今日のご主人様は私たちだよ……、ぷぷっ」
エリ「これが落ち着いていられるかー!!」
とし美「お、面白すぎ……!」
エリ「とし美にいたっては隠す気ゼロか!!」
アカネ「で、でもやっぱりエリはさ、メイド服よりコーラの方が似合ってるよ」
エリ「どういう意味で受け取ればいいんだそれは」
エリ「……大体私も好きでこれを着てるわけじゃないからね」
アカネ「じゃあなにが良かったの?」
エリ「仏像コス」
アカネ「そっちの方が絶対嫌だわ」
第十六話「桜高バレー部の祈願」‐完‐
- 248 :いえーい!名無しだよん!:2013/08/12(月) 22:26:43 ID:qv/LWvAc0
- 瀧エリちゃんってなんかわからんけどすごくおまんちょペロペロしたくなる
- 249 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/19(月) 18:22:02 ID:xu08XUNw0
-
【第十七話】
和「投票の結果、文化祭での、このクラスの出し物は、
ロミオとジュリエットに決まりました」
曜子「よしよしよし……」
俊美「ふふふ……計画通り……!」
アカネ(佐々木さんと柴矢さんの方からとてつもないオーラを感じる)
エリ(なにかを企んでいる……?)
澪(な、何故か酷い寒気が……!)
和「続いて役を決めたいと思います。まずはロミオとジュリエットの役ですが」
まき(そういえば三花ちゃん、どうせ劇やるならお姫様やりたいとか言ってたなー)
とし美(ならここはジュリエット役に、三花を推薦するべき?)
三花(みんな、信じてるよ〜)
和「投票で決めたいと思います」
和「白紙を配りますので、そこにそれぞれの役に相応しいと思う人を、
書いていってください」
- 250 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/19(月) 18:23:17 ID:xu08XUNw0
-
* * *
アカネ(さて、投票タイムだ)
アカネ(ジュリエット役には三花を入れるとして……。
ロミオ役は誰だろう)
アカネ(このクラスって結構カッコいい人多いから決め辛いけど……。
ここは、澪ちゃんでいいかなあ。去年のライブも見たけど結構良かったし、
本番になれば決めてくれそうな気がする)
俊美(フフフ……)
アカネ(……)
アカネ(この投票、裏で強大な力が働いているような気がする……)
曜子(秋山さんのロミオ! 秋山さんのロミオ!!)
- 251 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/19(月) 18:23:47 ID:xu08XUNw0
-
* * *
和「では、開票を始めます」
和「秋山さん。秋山さん。えー……私。岡田さん」
澪(さっそく二票も!?)
まき(自分の名前を見て、明らかに嫌そうな顔してたなー、和ちゃん)
和「秋山さん。松本さん。秋山さん。秋山さん」
美冬「はっ、私!?」
ちか「入れといたよー!」
美冬「余計なことを……」
澪(今度は三票もー……)
和「秋山さん。岡田さん。私。立花さん」
唯「和ちゃんもいいペースだね、頑張れ〜」
姫子「和を応援してるの?」
唯「うん! 私の中のロミオは和ちゃんなんだよ〜」
和「……そこ、私語は謹んで」
姫子(ご機嫌斜めのロミオさん……)
- 252 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/19(月) 18:25:04 ID:xu08XUNw0
-
和「秋山さん。秋山さん。私。秋山さん」
アカネ(和ちゃんも頑張っている方だけど、澪ちゃんが圧倒的だね。
これは決まりかな)
澪(もういっそのこと殺して)
和「秋山さん。岡田さん。佐藤さん。私」
アカネ「……はっ?」
和「佐藤さん。秋山さん。立花さん。秋山さん」
アカネ(な、なんで私に投票されてんの!?
……いや、犯人はあの子たち以外考えられない……)
三花「てへっ」
エリ「てへっ」
アカネ(案の定すぎるでしょー!)
和「私。佐藤さん。岡田さん。秋山さん」
アカネ(しかももう一票!?)
とし美「てへっ」
アカネ(とし美かあああ!)
- 253 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/19(月) 18:25:48 ID:xu08XUNw0
-
和「岡田さん。秋山さん。私。秋山さん」
ちずる「春菜も大人気だね」
春菜「うん、投票した人を三人まで言い当てられるぐらい、
なにか仕組まれているような気がするけれどね」
ちずる「人聞きが悪いな〜」
春菜「顔に出てるよ?」
圭子(ばれてる)
しずか(ばれてる)
和「立花さん。秋山さん。松本さん。秋山さん」
澪(……現実に別れを告げる時が来たか)
和「立花さん。秋山さん」
和「……というわけで、三年二組の出し物“ロミオとジュリエット”のロミオ役は、
秋山澪さんに決定しました」
唯「おお、澪ちゃんが主役!」
紬「すごいわ〜」
曜子・俊美(いよっしゃああああ!!)
律「良かったなー、澪! ……あっ」
澪「……」
律「あーきやまさーん」
澪「……」
律「……気絶してるな」
アカネ(そこまでっ!?)
- 254 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/19(月) 18:26:29 ID:xu08XUNw0
-
* * *
アカネ(その後の澪ちゃん必死の異議申し立ても実らず)
アカネ(結果、りっちゃんをジュリエット役に道連れすることで、
主役決めは幕を下ろした)
アカネ(それから他の役と、道具製作にあたる人を決めて、
一先ずの活動を終えた私たちは……)
三花「……」
エリ「……」
とし美「……」
まき「……」
アカネ(なんとなく招集をかけていた)
三花「えっと、アカネ? これだけ人を集めて、どうしたのかな〜?」
アカネ「んっ?」
三花「怖い怖い目が笑ってないごめんなさい」
- 255 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/19(月) 18:28:35 ID:xu08XUNw0
-
アカネ「まあ私が言いたいのは、この一点のみ」
アカネ「……なんで私に入れたの」
三花「面白そうだから」
エリ「面白そうだから」
とし美「面白そうだから」
アカネ「異口同音ッ!」
とし美「そんな怒るほどに嫌だったの?」
アカネ「怒ってるわけじゃないけど、本当勘弁してよ……。
私は主役なんて柄じゃないんだしさー……」
三花「そんなことないよ〜。アカネはカッコいいし〜!」
エリ「よっ、このイケメンッ!」
アカネ「ありがとう、それは女子にとって褒め言葉かは疑問だけど」
- 256 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/19(月) 18:31:42 ID:xu08XUNw0
-
アカネ「ところで三花に五票入ってるのは、
ここにいる五人が投票したからってわかるんだけどさ」
三花「あれ、さりげなく私が自身に入れたことになってないかな〜?」
アカネ「私には三票しか入ってないのよね。
ここにいる四人が入れたとすれば、四票入れられているはず……」
まき「……私だよ」
アカネ「……まあ探すまでもなく、消去法でそうなんだけど」
まき「理由、聞かないの?」
アカネ「一応聞いておこうかな」
まき「私にはどうしても許せなかったんだよ」
アカネ「私がロミオをやること? そうだったなら大歓迎なんだけど」
まき「ううん、アカネちゃんにはロミオをやって欲しかったよ」
まき「でもそれなら、エリちゃんがジュリエットじゃないと駄目でしょ!?」
エリ「えっ、私!?」
- 257 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/19(月) 18:32:11 ID:xu08XUNw0
-
まき「エリちゃんが相手じゃないアカネちゃんのロミオなんて……」
まき「即興で組まされたお笑いコンビでしかないよ!!」
アカネ「お笑いコンビなの!?」
まき「ここで圭子ちゃんのさっきの言葉を借りるとね」
まき「アカネちゃんがロミオだったら、ジュリエットはエリちゃんしかいないじゃん!」
三花「それは盲点だった!」
アカネ「いやいやいやー……」
まき「ボケがいなかったら、ツッコミが困るでしょ?」
アカネ「結局お笑いコンビかっ!」
- 258 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/08/19(月) 18:32:43 ID:xu08XUNw0
-
* * *
とし美「まあ結局他人事になったわけだしさ」
アカネ「そうは言うけど、とし美だって私に投票したんでしょ?」
とし美「まあね。折角だし、いいんじゃないかなと思って」
アカネ「その無邪気さがえげつないんだよ……」
とし美「私は結構本気でアカネのロミオも見てみたいと思っていたよ?」
アカネ「……とし美には完敗だわ」
とし美「えっ?」
まき「ところで三花ちゃんはパリスって人の役になったみたいだねー」
アカネ「私、ロミオとジュリエットの話は知らないんだけど、
そのパリスってどんな人なの?」
とし美「えーと、一言で言ってしまえば……」
とし美「ジュリエットと結婚しようとする、ロミオの恋敵?」
アカネ「なにがなんでもジュリエットを自分のものにしたいのか、あの子は……」
まき「それは捻くれすぎだよ、アカネちゃん」
第十七話「桜高バレー部の投票」‐完‐
- 259 :いえーい!名無しだよん!:2013/08/21(水) 00:10:38 ID:E4NTAMjQ0
- この学校には百合夫婦が多すぎるぜ
- 260 :いえーい!名無しだよん!:2013/08/30(金) 21:09:53 ID:hd4LsHhA0
- ツヅキマダカナー
- 261 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:28:43 ID:MqCFCS9A0
-
【第十八話】
‐三年二組教室‐
アカネ「ちょっとそっち押さえてくれる?」
エリ「はいよー」
アカネ「……よしっ、いいよ」
とし美「次に切るのはこの部分だね」
とし美「それにしてもいいの、エリ?」
エリ「なにが?」
とし美「エリだって劇に出るんだからさ、そっちの練習していいんだよ」
アカネ「ああ、いいのいいの」
とし美「どうして?」
アカネ「台詞が少ないんだって。そうでしょエリ?」
エリ「そそ。だから大道具作りを手伝ったところで、問題無し」
とし美「ふーん……」
エリ「まだ疑いの目を向けてくるとし美に、台本を貸してあげよう」
とし美「どれどれ」
とし美(“どこの不届き者だ! キャピュレットの屋敷に忍びこむとは!”)
とし美「……えっ、これだけ?」
エリ「うん」
アカネ「まるで社内ニートでしょ?」
エリ「台詞ないだけでニート!?」
- 262 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:29:16 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
アカネ「私、こういう準備中の教室って好きだなあ」
とし美「どうしたの、いきなり?」
アカネ「いつもは教室を占領している机がさ、こうして端っこに追いやられて。
本当の意味で、ここを私たちの教室にしてるみたいじゃない?」
とし美「成績優秀の佐藤アカネさんの台詞とは思えないね」
アカネ「成績優秀だからって、勉強を第一に考えてるわけじゃないよ」
アカネ「だってさ……」
とし美「専門学校行くから、美容師の夢が第一だって?」
アカネ「そういうこと」
アカネ「だから専門に行った時には、せめて後悔はしないようにしておきたい」
エリ「ならロミオやれば良かったのに」
アカネ「それとこれとは話が別!」
- 263 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:29:54 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
三花「エリ〜、採寸の順番だよ〜」
エリ「わかったー!」
アカネ「そういえば衣装は全部さわ子先生が作るんだっけ」
エリ「みたいだね。やけに張り切ってたけど」
とし美「服を作るのが好きなのかな?」
アカネ「裁縫を趣味としてるってこと?」
エリ「先生、女子力高いなあ……!」
唯(女子力って、なんだっけ……?)
紬(わかりません)
- 264 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:30:26 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
まき(準備も順調に進んで、始まりが見えてきた頃)
まき(ついに衣装が完成し、教室は大盛り上がりー)
曜子「秋山さんのロミオ、秋山さんのロミオ……!」
まき(……一部は大興奮?)
まき「そんなことはさておき」
エリ「さておき?」
まき「エリちゃん、カッコいいねー!」
エリ「えへへ、そう?」
まき「普段からカッコいい系の残念なエリちゃんだけど、
この衣装だとカッコよさが目立ってくるよ!」
エリ「わー、ありがとー、残念ってどういう意味かな?」
まき「残念エリちゃんってことだよ?」
エリ「さも当然なふうに言われると、流石に傷つく!」
- 265 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:31:15 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
まき「三花ちゃん、衣装は?」
三花「もう着替えちゃった。作業の邪魔になるだけだし」
アカネ「まきには本番までお楽しみ、ってことだね」
三花「そんな楽しみにするもんじゃないって〜」
まき「うーん、どうせなら私も劇に参加すればよかったかなー」
アカネ「今からでもいいから、立候補すれば?」
まき「今からじゃ間に合わないよー」
三花「そんなことないよ」
三花「まだ木(I)の枠が余ってるからねっ」
まき「この劇、とことんバランス感覚狂ってるよねー」
- 266 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:32:01 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
ちか「きゃー!」
エリ「待て待て待てー!」
美冬「こらそこっ! 作業中なんだから走りまわらない!」
ちか「えー」
エリ「えー」
美冬「カッターやハサミを持ってる人もいるんだからね」
エリ・ちか「……ごめんなさいー」
まき(エリちゃんとアカネちゃん。ちかちゃんと美冬ちゃん)
まき(この二つの関係って、どこか似てるようなー……)
まき「んー……ペットと飼い主?」
アカネ「えっ?」
- 267 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:32:31 ID:MqCFCS9A0
-
‐外‐
アカネ(……まきが私を見ながら“ペットと飼い主”と言っていたけれど)
アカネ(どういう意味なんだろう?)
エリ「アカネ? どうしたよ?」
アカネ「なんでもないよ。それにしても、学園祭まであと少しだね」
エリ「うん! 想像以上に時間が早く過ぎてったね!」
アカネ「エリは早くもテンション上がってるね」
エリ「当日が待ち切れないよ!」
アカネ(本当に楽しみなんだね……身体がぷるぷる震えてる)
アカネ(楽しみなのはわかるけど、ここまで素直だと可愛いかも。
まるで犬かなにかみたい)
エリ「アカネもさ、楽しみだよね?」
アカネ「当然じゃない。私だって、頑張ってセットを作ったんだから」
アカネ「あっ」
エリ「えっ?」
アカネ「……まきめ、そういうことか……」
エリ「……どゆこと?」
- 268 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:33:03 ID:MqCFCS9A0
-
‐三年二組教室‐
エリ「文化祭当日!」
エリ「彩られるは校舎! 輝くはそこにいる人たちの笑顔!
花咲くは、青春を謳歌する生徒たち!」
アカネ「……」
とし美「……元気ないね」
アカネ「朝からこのテンションにやられました」
とし美「……劇に出てなくてよかったね」
アカネ「全くその通りで……」
- 269 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:34:11 ID:MqCFCS9A0
-
‐講堂‐
美冬「みんな。今日のためにみんな頑張ってきたんだから、
悔いのないように、精一杯やりましょう!」
「うん!」
美冬「準備はいい?」
「うん!」
澪「……」
律「んっ!」
澪「痛っ!」
澪「……うん」
美冬「それじゃ、頑張ってこー!」
「おー!!」
三花(さ〜て、劇の始まりだっ)
エリ(出番は少しでも、真剣に! 全力で演じる!)
アカネ(……)
アカネ(……一生懸命な人は、例外なくカッコいいものなんだね)
アカネ(私たちは舞台袖で見守ることしかできないけど……頑張って、二人とも!)
- 270 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:34:42 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
澪「人の傷を見て笑うのは、傷ついたことのない連中だ。
笑いたければ笑え」
澪「僕は痛みを知っている」
澪「恋する痛み……この胸の甘い疼きを!」
まき「……すごい迫真の演技してる中、悪いんだけどさ」
まき「顔が見えるのは野菜だけで十分だよねー」
アカネ「言わないであげて……」
とし美「誰もが突っ込みたかったはずだからね……」
唯(木G)「ふんすっ」
まき(……やっぱり顔出す必要性ゼロだよ!!)
- 271 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:35:28 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
つかさ「今、なにか物音がしなかったか!?」
エリ「どこの不届き者だ! キャピュレットの屋敷に忍びこむとは!」
とし美「エリの出番終わったね」
まき「早かったねー」
アカネ「……」
まき「……カッコよかったね、エリちゃん」
アカネ「……あ、うん」
まき(どうしてぼんやりとしてるんだろう、アカネちゃん)
- 272 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:35:53 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
律「あー、ロミオ! あなたはどうしてロミオなの?」
澪「あの天使のような声は!」
律「何故ここに……。屋敷の石垣は高くて、簡単には昇れないのに!」
澪「高い石垣など、恋の軽い翼で飛び越えてみせましょう!」
律「ああ、ロミオ!」
澪「ジュリエット!」
まき「おお、抱き締め合った!」
とし美「反響も凄いね」
アカネ「……」
とし美「今頃、この大観衆の前で抱き締め合っていたのは、
アカネとエリだったのかもしれないね」
アカネ「それが避けられてホント良かったわ……恥ずかしすぎる……」
- 273 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:37:07 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
三花「婚礼を速めれば、お嬢様の悲しみも癒されるのでは」
アカネ「三花の役は結構重要な位置にいるんだね」
とし美「それでも安心して見てられるよ」
まき「さすがジュリエットになれなかった元・部長、頼りになるよねー」
とし美「その言葉、あとで三花にそっくりそのまま伝えるね」
まき「やめて!」
- 274 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:37:49 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
澪「ああ、今朝見た夢が正夢だとすれば」
澪「やがて嬉しい知らせが届くはず!」
まき「澪ちゃんの迫真の演技はいいんだよー」
アカネ「うん」
まき「だけどねー」
とし美「うん」
唯(木H)「ふんすっ」
まき「……コメディなの? まさかロミジュリでコメディをしたいの!?」
アカネ「お、落ち着いてまき!」
まき「これバランス感覚狂ってるどころの騒ぎじゃないよ!?」
とし美(……あっちで、なにか慌ててる?)
- 275 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:38:28 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
アカネ「えっ、なにこのお墓……? 私たちが作ったのと違うもの?」
美冬「話は後よ。セットの設置を手伝って」
アカネ「う、うん!」
とし美(慌ててたのはこれか……)
ちずる「だ、大丈夫かなー……?」
しずか「落ち着いて、ちずる。やれるだけのことはやったから」
とし美(……これ、オカ研のものだ。借りてきたの?)
とし美(ということは……)
- 276 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:39:27 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
アカネ「お墓が無くなった……?」
とし美「あれがお墓の代わりに使われてる以上、そうとしか考えられないよ」
アカネ「運んでる最中に落としちゃったってことね……」
まき「私たちから見たら凄い違和感あるんだけど……。
お客さんからすれば、わからない……よね?」
アカネ(全ては終わってみないと判断できない、か……)
- 277 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:40:12 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
澪「キミを、一人で死神のところに行かせはしない」
澪「この身が朽ち果てるとも……二度とキミを、離しはしない!」
アカネ「……」
まき「……」
とし美「クライマックス……!」
- 278 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:40:39 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
律「ああ、ロミオ! なぜ私のぶんの毒を残しておいてくれなかったの?」
律「待っていて」
律「この剣が……私をあなたのもとへ連れて行ってくれる……!」
アカネ「……終わった!」
とし美「お客さんの反応は……!」
「ぱちぱちぱちぱちっ!」
まき「……拍手、凄い勢いだね……」
まき「これって私たちの劇に向けて、なのかな?」
とし美「……それ以外に、なにがあるの?」
まき「や、やったんだね……やったんだよね、二人とも!」
とし美「そうだね……。ちょっと感動しちゃった」
まき「今すぐ二人も呼んでくるね!」
アカネ(ああ、やりきったんだ)
アカネ(私たちは高校最後の学園祭を……)
アカネ(大成功のうちに、幕を下ろすことが出来たんだ……!)
- 279 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:43:18 ID:MqCFCS9A0
-
‐三年二組教室‐
美冬「みんな、本当にお疲れ様!
劇はみんなのおかげで大成功だったよ!」
「いえーい!」
「ロミオもジュリエットも素敵だった〜」
「ちょ、恥ずかしいこと言うなって!」
美冬「私たち三年二組の学園祭の出し物は、これで終わり。
ちょっと寂しくなっちゃうけど、これは仕方ないこと」
美冬「でも私たちのクラスには、
まだ学園祭に残したことがある人たちがいるんだよ!」
美冬「……そうでしょ、ロミオとジュリエット?」
律「えっ、私たち?」
ちか「明日の軽音部の演奏、楽しみにしてるよー!」
律「お、そういうことか」
曜子「今日も明日も、秋山さんが講堂のスターになるんだね……!
応援してる、いつまでも!」
澪「え、えーと……ありがとう……?」
美冬「ムギちゃんも脚本お疲れ様。一緒に劇を作れて、本当に良かった。
今度はその努力を、演奏に注いでいって!」
紬「ええ!」
しずか「唯も、代役ありがとう。演奏頑張ってね」
唯「うん、期待して待っててよ〜!」
律「おいおい、そんな自信どっから出てくるんだよ」
しずか「明日なのに自信ないの!?」
「あははははっ!」
美冬「……それじゃ、残った仕事を片付けたら、
あとの時間は各自学園祭を全力で楽しんじゃって」
美冬「解散!」
- 280 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:45:07 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
エリ「いやー疲れたよー」
アカネ「はあ?」
エリ「……そこまで風当たり強くしなくても」
まき「実はアカネちゃんはね、
あの衣装を着たエリちゃんに惚れ惚れしてたんだよー」
アカネ「ま、まき!」
エリ「ほう。それで、どうして風当たり強くなるのさ?」
まき「実際のエリちゃんを見て、
その残念なまでの落差に落胆を隠しきれないだけだよ」
エリ「おい」
アカネ「まき、今のは聞き捨てならないよ」
まき「えっ、落胆したってところ?」
アカネ「そこは否定しないけど」
エリ「してくれよっ!」
- 281 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:45:39 ID:MqCFCS9A0
-
アカネ「でも、惚れ惚れしてたわけじゃないし……」
まき「えー」
エリ「……そっかそっか。ねえアカネ、こっち向いて」
アカネ「なに。……って」
アカネ「なにやってんの?」
エリ「アカネをじっと見つめてるの」
エリ「……人の傷を見て笑うのは、傷ついたことのない連中だ。
笑いたければ笑え。僕は痛みを知っている」
エリ「恋する痛み……この胸の甘い疼きを!」
まき(ろ、ロミオ!?)
アカネ「恋って、なにまた適当な……」
エリ「あの天使のような声は!」
アカネ「聞きなさいよ」
エリ「……恋の軽い翼で飛び越えてみせましょう!」
アカネ「色々省いた!?」
まき(忘れたんだね……)
エリ「キミを、一人で死神のところに行かせはしない」
まき(って、流石に忘れすぎだよ!?
省きすぎて訳のわからないことになってるよ!?)
エリ「この身が朽ち果てるとも……二度とキミを、離しはしない!」
アカネ「勝手に私を殺すな」
まき(仮死状態なんだけどね、厳密には……)
- 282 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:46:24 ID:MqCFCS9A0
-
エリ「……」
まき(エリちゃん……?)
「ぎゅっ」
アカネ「えっ」
まき(だ、抱き締めたー!?)
エリ「……二度とキミを、離しはしない」
アカネ「えっ、えっ……!?」
まき(見てるだけで恥ずかしい)
アカネ「ちょ、え、エリー……?」
エリ「……どう?」
アカネ「えっ?」
エリ「私に、惚れ惚れしてくれた?」
アカネ「……」
まき(エリちゃん……)
エリ「アカネ、聞いてるの?」
アカネ「まずは離して」
エリ「えっ?」
アカネ「……離して!」
エリ「あ、はい……」
- 283 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:47:17 ID:MqCFCS9A0
-
まき「……」
アカネ「……別に惚れ惚れしたわけじゃない。
だって、いつものエリはそんなこと口にしないから」
アカネ「だから正直寒かった。うん、寒かった」
エリ「……」
アカネ「……寒気が治まらないから、私、保健室行ってくる」
エリ「あ、じゃあ私も付き添う……」
アカネ「いい。ついてこないで」
エリ「えっ……」
アカネ「……それじゃ」
エリ「……」
まき(……行っちゃった)
まき(うん、口の中が甘ったるいよ。糖分過多もいいとこだよ。
わかりやすいったらありゃしないねー)
エリ「……ど、どうしようまき……」
まき「なにが?」
エリ「……アカネに嫌われちゃったよ……!」
まき「……こっちもお決まりだよっ!」
- 284 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/01(日) 19:49:38 ID:MqCFCS9A0
-
* * *
アカネ「……」
三花「ア〜カネっ!」
アカネ「三花!?」
とし美「見てたよ、一部始終」
アカネ「……最悪だよ」
とし美「そんなに嬉しそうなのに?」
アカネ「これは私がどっかおかしいだけ。
頭を冷やせば、すぐに普通の判断に戻るんだから……」
三花「さっきは寒気がするって言ってたくせにー?」
とし美「実はあっつあつだったんだねー?」
アカネ「な、なんなの、その含みのある言い方は!?
熱出したときだって、寒気あるでしょ! それと同じ!」
三花「ほうほう」
とし美「ふむふむ」
アカネ「もう行くから! じゃあね!」
三花「ん〜、いってらっしゃ〜い」
とし美「お大事にー」
三花「……いやあ、とし美さんとし美さん」
とし美「どうしたんだい三花さん」
三花「秋も、意外と近くで見れるもんですね〜」
とし美「うんうん、実にきれいな紅葉の見れたことだよ」
第十八話「桜高バレー部の秋色」‐完‐
- 285 :いえーい!名無しだよん!:2013/09/01(日) 19:56:22 ID:WLHubt3w0
- なかよきことはうつくしきかな
- 286 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/07(土) 18:15:27 ID:0fzeXkac0
-
【第十九話】
‐校庭‐
エリ「後夜祭……もう文化祭も終わりかー」
アカネ「あっという間だったね」
エリ「うんうん……」
アカネ「……」
エリ「……アカネ」
三花「そう言ってアカネの手をそっと握るエリ。
ぴくりと身体を反応させるも、すぐにアカネはそっぽを向いてしまう」
とし美「エリはそんなアカネの顔を覗こうする。
しかし、アカネは決してそれを許さない。素早く首を回す」
三花「幾度とそれを繰り返しているうちに、その行動の意味を飲み込めてきたエリ。
自分から握った手に視線を落とし、身体が燃えるように熱くなっていく。
咄嗟に手を離し、エリもまた、赤色に染まった顔を後ろに向けた」
とし美「夜の闇の中、校庭の中心でただ燃え続けるキャンプファイヤーの火だけが、
静かな二人の顔をぼんやりと照らしていた……」
アカネ「……捏造するな」
- 287 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/07(土) 18:15:57 ID:0fzeXkac0
-
* * *
まき「文化祭終わっちゃったね」
三花「今年も楽しく終えることが出来てなによりだよ〜」
まき「そうだねー。それにしても、今年の軽音部は凄かったよね」
アカネ「さわ子先生、劇の衣装だけじゃなくて、
ライブに着るティーシャツも作ってたんだもん」
とし美「しかもお客さんの分も全部って……ずば抜けた熱意だね」
三花「そりゃ、軽音部三年生にとっては、最後の舞台だもん。
顧問の先生も力入れちゃうって〜」
まき「……そういえば今の軽音部って、後輩は梓ちゃんだけなんだよね」
エリ「前に唯ちゃんが五人でも十分って言ってたけど、
そっか……。来年は違うんだ……」
とし美「……私たちが気にしても、仕方ないこと。
それに今の軽音部って実質、今の三年生が復活させた部活でしょ」
とし美「きっとあの四人だって、梓ちゃんに部活を立ち上がらせるための
アドバイスの一つや二つ、してると思うんだ」
アカネ「アドバイスね……」
唯「見つけたよ〜、あっずにゃ〜ん!」
梓「ちょ、抱きつかないでくださいー!」
紬「火より熱々ね〜」
梓「なに言ってるんですか、ムギ先輩もー!」
アカネ「……してると思う?」
とし美「……してると、思ってたんだ」
まき「過去形……」
- 288 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/07(土) 18:16:32 ID:0fzeXkac0
-
* * *
まき「バレー部はその点、後輩に任せっぱなしで大丈夫そうだよねー」
アカネ「まきがいなくなって、力が半減しそうな子がいると思うけど?」
まき「そろそろ自立してもらわなくちゃいけないんだよ!」
アカネ(……自立で合ってるのかな?)
三花「おっ、噂をすれば」
後輩A「あ、先輩たちじゃないですか」
後輩B「見つけましたよ、まき先輩!」
まき「ちょうど良かった、もう私も卒業しちゃうんだから、
そろそろ私から自立しぎゃあああ!!」
後輩B「わーしゃわしゃわしゃっ!」
まき「あわわわわ!」
アカネ(言い終わる前に撫で回されたか……)
後輩A「……あ、劇見ましたよ」
三花「おっ、どうだった〜?」
後輩A「衣装も凝ってましたし、演技も良かったです。ですが……」
後輩A「木の顔を出す必要はあるんですか?」
とし美「そこは突っ込まない方向で」
- 289 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/07(土) 18:17:27 ID:0fzeXkac0
-
* * *
後輩C「ロミオとジュリエットの出来事は、たった五日の間に起きたものなんですよ」
エリ「そうだったの!?」
アカネ「あんたも劇出てたでしょうが!」
後輩C「……それにしても衣装は本当に完成度高かったですね」
とし美「エリの衣装なんて、普段のイメージを覆すほどだったでしょ?」
後輩C「はい」
エリ「それはどういう意味かな?」
後輩A「三花先輩の衣装も可愛かったです」
三花「ありがとっ」
後輩A「あとロミオ役の人、軽音部の方ですか。あの人カッコいいですね」
三花「秋山澪ちゃんだよ。ロミオ役を決める投票でも圧倒的だったんだ〜」
とし美「アカネも三票を集める健闘ぶりだったんだけど……」
アカネ「その健闘ぶりはとし美たちが作ったものでしょ……」
後輩A「でも私、アカネ先輩のロミオも良いと思います」
アカネ「えっ」
後輩A「カッコいいですし、先輩」
とし美「うんうん、物分かりの良い後輩で助かるよ」
三花「因みに、私はジュリエット役で五票を集めたんだ〜!」
後輩A「誰が投票したのか手に取るようにわかりますね」
三花「ほほお、言うじゃん?」
後輩A「いえ、先輩のジュリエットも素敵だと思いますよ」
三花「……もっと言って!」
アカネ「落ち着きなさい」
とし美「……あれ、まきたちは?」
- 290 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/07(土) 18:17:56 ID:0fzeXkac0
-
* * *
まき「はーなーれーてー」
後輩B「いーやーでーすー」
まき「先輩命令だよ!」
後輩B「私の中で先輩は年下です!」
まき「超失礼だ!」
後輩B「それにいいじゃないですか。先輩もまんざらでもないんですし?」
まき「どっからその解釈を持ち込んだのかな」
後輩B「大丈夫です、誰にも言ってませんから」
まき「それ以前のお話なんだけどなー」
- 291 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/07(土) 18:18:23 ID:0fzeXkac0
-
* * *
後輩B「……ところで先輩」
まき「なに?」
後輩B「私は先輩のことが大好きです」
まき「知ってるよ」
後輩B「ですから、言葉にしてそれを伝えてきました」
まき「うん、何度も聞いた」
後輩B「しかし先輩からの言葉を聞いてません!」
まき「言うことがないだけなんだけどなー」
後輩B「今なら二人きりです……。
先輩の素直な気持ちを、聞かせてください」
まき「だからー……」
後輩B「例え、先輩が私を嫌っていたとしても」
まき「……えっ?」
後輩B「私は先輩の言葉で、先輩の気持ちを聞きたいんです。
……お願いします」
- 292 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/07(土) 18:18:53 ID:0fzeXkac0
-
* * *
後輩B「……」
まき「……」
まき(……予想外の展開)
後輩B「ちょっと、私の話をさせてもらっていいですか?」
まき「いいよ」
後輩B「ありがとうございます」
後輩B「……私が初めてまき先輩を見たのは、仮入部期間のときでした。
その時の先輩は体育館で、レシーブの練習をしていたと記憶しています」
まき「……」
後輩B「初めて先輩を見たとき、私の中に衝撃が走りました。
だって私と同じように……」
後輩B「いえ、私以上に小柄な先輩が、
華麗なまでの動きを見せていたんですから!」
後輩B「その時私は、なんて可愛くて、
なのになんてカッコいい先輩がいるんだろうと思いました」
後輩B「……一目惚れ、しちゃったんですよ」
まき(……顔が真っ赤だ)
後輩B「それで私は、小柄な自分でもひたむきにボールを追えて、
試合で要になることもできるバレーを部活に選びました」
後輩B「先輩は私がバレーを始めるきっかけだったんです」
まき(初めて聞いたよ、そんなこと……)
- 293 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/07(土) 18:19:26 ID:0fzeXkac0
-
後輩B「ですから、そんな憧れの先輩が引退した時、
私は先輩の務めるリベロになると心に決めていたんです」
まき(……ああ、そっか)
後輩B「これは決定事項です」
後輩B「先輩に一目惚れした、私の決定事項だったんです」
まき(この子を自立させようとする必要なんて、元々無かったんだ。
私たちが引退した後のことを、ずっと前から考えていたんだからね)
まき(……むしろ気づかされたのは、私の方だよ)
後輩B「現に私は、先輩の引退したバレー部で、
リベロとして活躍しています。
その活躍ぶりも同学年の仲間と、後輩に認められるほどと自負しています」
後輩B「ですが、本当に認められたいのは……まき先輩、あなたなんです。
ただ、これは私からの片思いであることも自覚しています」
後輩B「自覚しているからこそ、どこかで決着をつけるまでは、
逃げ続けていようって。……そう思っていました」
後輩B「でももう、決着のときなんです」
まき(自覚……逃避……決着……。
全部、私より先にしちゃってるんだからさー……)
後輩B「本来なら先輩が引退した当日に、聞くべきだったんでしょうけど。
ちょっとそこは、私が臆病だったものでして……」
まき(ホントもう、この子は……)
- 294 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/07(土) 18:20:00 ID:0fzeXkac0
-
後輩B「でも、もう逃げたりしません。ですから先輩。
先輩から見て私は……。私は、どのような姿に映っているのでしょうか!」
まき「……」
後輩B「……」
まき(……私は先輩だ)
まき(ここまで先を行かれて、まだそれに甘んじるほど……愚かじゃないよ)
後輩B「まき先輩……?」
まき「どんな姿、かー……まずは可愛いって思うかなー」
まき「うん。とっても可愛くって、とっても頑張り屋で、私の……」
まき「……大切な後輩」
後輩B「……」
まき「しつこくつきまとわれて、ちょっと嫌な気もしたけど……。
やっぱり私は、それもそれなりに楽しんでて……」
まき「……うん、認める。でも一度しか言わない。私は楽しかったよ」
まき「だからってわけじゃなくて、日々の姿とかも見た上なんだけどー……。
今ならもう、この可愛い後輩に私の後を任せることが出来るって」
まき「……そう思ってるんだよ?」
- 295 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/07(土) 18:20:30 ID:0fzeXkac0
-
後輩B「……」
まき「だから、そんな確信が持てるほどの後輩のことを私は……」
まき「……私は、大好きなんだよ」
後輩B「……」
まき「うん、大好き。それが私から見たー……」
後輩B「私ってことですか……?」
まき「……うん」
後輩B「嘘、ついてませんよね? 気を遣ったり、してないですよね?」
まき「うん」
後輩B「……」
まき「……」
後輩B「……う……!」
まき「う?」
後輩B「うおあああああ!!」
まき「なに!?」
後輩B「先輩!」
まき「は、はい!?」
後輩B「……私も、先輩のことが大好きですから!
ずっとずっと、大好きですから!」
後輩B「だから先輩も、私のことずっと大好きでいてくださいねっ!!」
まき「……それはいいけど、声大きすぎ……ふふっ……」
- 296 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/07(土) 18:21:07 ID:0fzeXkac0
-
* * *
とし美「おっ、まきだ」
三花「どこ行ってたの?」
まき「……ちょっと散歩にねー。あれ、エリちゃんとアカネちゃんは?」
三花「ダンスに参加してるよ」
まき「ダンス? ダンスなんてやってたっけ?」
とし美「澪ちゃんのファンの子が、“ロミオとジュリエットでダンスをさせてください!”って、
ファンクラブ会長で生徒会長の和ちゃんに嘆願してね」
まき「へー」
とし美「そう言われた和ちゃんも、文化祭だし良いかと思って、
その案を採用しちゃったんだって」
とし美「でも二人だけを躍らせるのじゃなんだから、
自由参加の舞踏会にしたみたい」
まき「あっ、ホントだ。火の回りでみんな踊ってるね」
三花「二人組で勝手に参加して、勝手に終えていいんだってさ〜」
とし美「というわけで私たちは、エリとアカネを送り出したってわけ」
三花「無理矢理だったけどね!」
まき「ふーん……」
- 297 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/07(土) 18:22:31 ID:0fzeXkac0
-
とし美「にしても澪ちゃんとりっちゃんの周り、すごい人だかりだね」
三花「二人とも、素のままでも綺麗でお似合いだもん」
とし美「あ、美冬ちゃんとちかちゃんもいる」
三花「監督の美冬ちゃんも、ここでは出演する側ってわけだっ」
まき「……」
とし美「エリとアカネも最初は嫌そうだったのに、
いざ踊り出したら楽しそうにしちゃって」
三花「やっぱあの二人もお似合いっしょ!」
まき「……あのさ」
三花「んっ?」
まき「ちょっと私、行くところがあるんだけどー」
とし美「誰か、踊りたい人がいるの?」
まき「うん」
まき「……こんな私にも、エスコートは出来るってわかったから!」
第十九話「桜高バレー部の手引」‐完‐
- 298 :いえーい!名無しだよん!:2013/09/08(日) 22:39:57 ID:smN5WcIg0
- 学園祭の〆にキャンプファイヤー
原作の2年学祭のアレですかな
いやあしかしこのまきちゃんの可愛らしいこと
- 299 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/18(水) 11:40:50 ID:VNNci8ww0
-
【第二十話】
‐三年二組教室‐
エリ「この前、ネットで調べ物してた時のことなんだけど」
アカネ「うん」
エリ「ちょっと意味のわからない単語があったんだ」
アカネ「どんな?」
エリ「ダブリュー、ケー、ティー、ケーってやつ」
アカネ「……こんな感じ?」
【wktk】
エリ「そうそう、それ! どういう意味なんだろ?」
アカネ「少なくとも英単語には見えないけれど……」
エリ「英語じゃないとすれば、もっと違う言語だとか?」
アカネ「あっ、これっていわゆるネット用語なんじゃない」
エリ「それか!」
エリ「そういえば前にも、語尾に“w”が一杯ついているのを見て、
これはどういう意味なんだろってなったことあったよ」
エリ「その時はとし美に教えてもらったんだけど、
それは括弧笑いと同じような意味のネット用語なんだって」
アカネ「どうしてそれがダブリュー一文字になるの?」
エリ「“wara”が略されて“w”だって」
アカネ「なるほど」
アカネ「だとすればこの“wktk”も、
なんらかの略だと見たほうがいいかもしれないね」
エリ「うーん……」
エリ「……ワカタケ、じゃないかな」
アカネ「誰だそれ」
- 300 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/18(水) 11:41:18 ID:VNNci8ww0
-
* * *
エリ「というわけで三花、wktkの意味知らない?」
三花「うん、知ってるよ」
アカネ「あれ、意外。ネットとか全然やりそうにないのに」
三花「今時そんな原始人みたいな女子高生いないって〜」
アカネ「全国のそんな女子高生に謝ってきなさい」
エリ「それで意味はなんなの?」
三花「エリは随分興味津々だね〜」
アカネ「私も早くまともな答えに会いたいよ」
三花「まともな答え?」
アカネ「今の時点で“ワカタケ”しか、候補に上がってないんだよ」
三花「……誰それ?」
アカネ「私にもわからない」
エリ「ネットに住む妖精の名前じゃない?」
アカネ「適当言うな」
三花「少なくともそういう意味じゃないかな〜」
エリ「えー、じゃあ本当の意味はなんなのさー」
エリ「早く教えてくれないと、三花がwktkをワカタケって読んでたって、
全国に言い触らすぞ!」
三花「微妙に恥ずかしいね」
アカネ「うん、でもそんなことを言うエリはもっと恥ずかしい」
三花「ま、隠すことでもないし、教えてあげるよ。
まずwktkの読み方はね〜……」
エリ「……」
アカネ「……」
「……」
三花「……ワカチコ、なんだよっ!」
エリ「そうだったのか!」
とし美「いやいやいやいや!!」
- 301 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/18(水) 11:42:42 ID:VNNci8ww0
-
* * *
エリ「あっ、とし美。どうしたのいきなり?」
とし美「いきなり驚かされたのはこっちなんだけどね……」
とし美「三花、適当なこと教えちゃダメ。本当にそう信じちゃうでしょ」
三花「あっ、ばれた〜?」
アカネ「えっ、じゃあ三花も本当は知らなかったの?」
三花「うん!」
アカネ「騙された!」
三花「ま、wktkだよ〜」
アカネ「ちっちゃいことは気にするなって言いたいのか……」
とし美「だからそれワカチコじゃないって」
エリ「じゃあどんな意味なの?」
とし美「読み方はワクテカ。これ自体も略されてる言葉で、
元々の言葉はワクワクテカテカ」
アカネ「二段階に略されてるんだ」
とし美「意味はまんま、ワクワクしてる様子かな」
とし美「ちなみに“テカテカ”は、顔をテカテカ光らせるほど
楽しみにしてるってイメージでいいよ」
エリ「なるほどねー。ワクワクテカテカから、ワクテカ」
三花「そしてワクテカからwktk、wktkからワカチコなんだね〜」
とし美「違うってば!」
三花「ちっちゃいことは〜」
とし美「気にするよ!」
- 302 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/18(水) 11:43:20 ID:VNNci8ww0
-
* * *
エリ「ワクテカかー……。結構言いやすいし、覚えやすい語感だね」
アカネ「日本の伝統で言うなら五七五だけど、
確かに四文字っていうのも言いやすくて、略称として好まれるかもね」
とし美「例えば?」
アカネ「ドラクエ、とか」
とし美「なるほど」
とし美「言われてみれば、エフエフも口に出してみれば四文字だね」
三花「ゲームが一杯出てきたけど、ゲーム機もそうだよね〜」
とし美「プレステ、とか?」
三花「それっ」
エリ「パソコン、もそうだよね?」
アカネ「……意外と四文字の略称って多いんだ」
まき「みんな、なにやってるのー?」
エリ・アカネ・三花・とし美「わじまき!」
まき「……みんな、なに言ってるの?」
- 303 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/18(水) 11:43:56 ID:VNNci8ww0
-
* * *
まき「四文字が言いやすい、かー……」
まき「そういえば、ひらがな四文字のタイトルっていうのも、
結構親しまれやすいっていう話だよね」
エリ「四文字タイトル?」
とし美「アニメとか漫画とか、そういったものの話だよ」
エリ「へえ、そうなんだ……。ということは」
エリ「私たちの活躍がアニメ化されたら、タイトルは“ばれえぶ!”になるんだね!」
アカネ「ちょっと字面が微妙じゃない?」
まき「伸ばし棒を無理矢理ひらがなにしてるからねー」
エリ「かといって“ばれーぶ!”はちょっと違う気がするし……」
三花「女子バレー部ってことで、“じょばれ!”なんてどうかな〜?」
とし美「語感は今までで一番いいかもしれないけど……」
三花「じゃあ“はいきゅう!”は? これなら紛れもなく四文字だよ!」
まき「うーん、女子高生たち主役のものにしては、
あんまり可愛くないようなー……」
三花「じゃあ“わじまき!”」
まき「私は主人公って柄じゃないよー」
エリ「“たきえり!”」
まき「自分から言っちゃうあたり、さすがエリちゃん!」
三花「仏像好きの変人女子高生が主人公の、ギャグアニメだねっ!」
エリ「ぐっ、悔しいけど反論できない……!」
アカネ「変人ってところも!?」
- 304 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/18(水) 11:44:43 ID:VNNci8ww0
-
* * *
三花「もうここは四文字じゃなくて、逆に文字数を増やしてみよう」
アカネ「例えば?」
三花「“あの日見たトスの行方を私たちはまだ知らない”」
エリ「なにやら壮大な話が始まりそうだね……!」
とし美「それちょっと見逃しただけじゃない?」
まき「じゃあ、“排球少女あかねマギカ”とかはー?」
とし美「試合に勝つためなら何度だって繰り返すの?」
アカネ「それすっごい汚いお話になりそうなんだけど……」
エリ「いや、ここはあの国民的アニメに倣って……」
エリ「“トシえもん”、なんてどうかな?」
とし美「それって私のこと言ってるの?」
エリ「トシえもーん! アカネがいじめたんだー!」
とし美「エリが悪い」
エリ「即決!?」
アカネ「普段の行いを見た上だよ、絶対」
- 305 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/18(水) 11:45:24 ID:VNNci8ww0
-
とし美「大体、人を寸胴体型のロボットにしないで欲しいかな」
三花「まあ女子高生にあの体型はキツイね〜」
エリ「でも、なんとなくとし美は似合ってると思うよ」
とし美「ん?」
アカネ(あっ)
エリ「うん、私の見立てに間違いはない。トシえもんはア」
とし美「なんだって?」
三花(……地雷踏んじゃったね、エリ)
エリ「えっ、だからアリだっ……」
とし美「ん?」
エリ「……あれ?」
まき(こっそり距離を取っておこう……)
エリ「まさかとし美、怒ってる?」
とし美「どうだろうねえ?」
エリ「お、怒ってるよね」
とし美「そう見えるの?」
エリ「……はい、そう見えます……」
とし美「ふーん……」
アカネ(エリも馬鹿だなあ……途中で止めときゃいいものを)
三花(あーあ、久しぶりに怒らせちゃった、とし美を……)
まき(普段怒らない人ほど、怒ると怖い……。
まさしくそれの典型例だからね、とし美ちゃんは)
- 306 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/18(水) 11:46:23 ID:VNNci8ww0
-
エリ「あの、その……」
とし美「ん゛?」
エリ「ひぃっ!」
エリ(み、みんな助けてっ! ……って、もうあんな遠くに!?)
アカネ(みんな自分が一番可愛いんだよ、エリ……)
エリ(薄情者ー!!)
とし美「へえ、怒られていると自覚していても、
エリには余所見してる暇があるんだ?」
エリ「い、いえ、とんでもございませんっ!」
とし美「じゃあ私の目を見て」
エリ「えっと、あの、その……」
まき(確か、今年の新歓祭)
まき(エリちゃんはとし美ちゃんを紹介する際、こんなことを言っていた)
まき(……怒らせてしまえば、まさに鬼神のような、と……)
エリ「あ、あの……どうしてそこまでお怒りに……?」
とし美「……最近……」
とし美「部活をやめたせいか、ちょっと太っちゃったんだよ!」
エリ「そんなことで!?」
とし美「んっ、そんなことって言った?」
エリ「なんでもございませんっ!」
アカネ(エリ、生きて帰ってきてね……)
- 307 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/18(水) 11:47:48 ID:VNNci8ww0
-
* * *
アカネ「……」
三花「……」
まき「……」
エリ「……」←正座
とし美「……」←仁王立ち
アカネ「……何分経った?」
三花「十五分ぐらいだね」
アカネ「あの沈黙に十五分は長すぎるよ……」
まき「もう私、見てられないよ……」
エリ「……」
とし美「……」
唯「ねえ、アカネちゃん」
唯「どうしてエリちゃんはとし美ちゃんの前で正座してるの?」
アカネ「例えば、りっちゃんが悪ふざけしたとしたら、どうなる?」
唯「あっ、そっか! 澪ちゃんの前で正座してるね!」
律「おいちょっと待て」
- 308 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/18(水) 11:48:36 ID:VNNci8ww0
-
三花「にしても、周りからの視線も集まっちゃってるね」
三花(……それもエリを辱めるという狙いが
あっての行動だったら、かなり怖いんだけど……)
まき「そろそろエリちゃんを助けに行きたくなってきたかも……」
アカネ「うん、私もそれは思った」
まき「じゃあアカネちゃん、後は頼んだよ!」
アカネ「うん、そんなことになるだろうと思った」
アカネ「……とし美」
とし美「ん、どうしたのアカネ」
アカネ「そろそろエリを解放してあげてくれない?
流石に、ここまで人の目を集めちゃってるのは可哀想だしさ」
とし美「……まあ、それもそうだね。私もちょっと、怒りすぎちゃったし」
- 309 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/09/18(水) 11:49:05 ID:VNNci8ww0
-
とし美「エリ、顔を上げて」
エリ「……」
とし美「……エリ?」
アカネ(ただ、なんとなく。この後の展開がもう、私には読めてしまってる)
とし美「……」
エリ「……すぅー……」
アカネ(案の定すぎるだろー!!)
三花(ね、寝てるの!? エリは命知らずなの!?)
とし美「……アカネ」
とし美「これ、どうしよっか?」
アカネ「もう好きにしてください」
第二十話「桜高バレー部の鬼神」‐完‐
- 310 :いえーい!名無しだよん!:2013/09/18(水) 15:25:22 ID:mkPCjg4E0
- ハイティーンの少女たちの熱き青春物語「ハイきゅーぶ!」
- 311 :いえーい!名無しだよん!:2013/09/27(金) 13:57:46 ID:852S2jko0
- 次はクリスマス編か正月編かな?
- 312 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 18:50:39 ID:4.zFnjI20
-
【第二十一話】
‐中西宅‐
まき「メリークリスマース!」
三花「いえ〜い!」
エリ「いやあ良かったよ、とし美の家が空いていてさー!」
とし美「家族全員揃って、どっかに出掛けるって言ってたしね」
アカネ「とし美だけ留守番ってこと?」
とし美「うん。バレー部でクリスマスパーティーしたいって話は、
ずっと前から聞いてたし」
とし美「折角だから家族とじゃなくて、このメンバーで過ごしたいなと思って」
まき「それで自分から留守番するって言ったんだねー」
とし美「そういうこと」
三花「あれ、でもとし美って、お兄ちゃんいなかった?
お兄ちゃんも一緒に家族とお出掛けなの?」
とし美「その質問の意図は大体わかるけど、悲しくなるからノーコメントで」
まき「大体私たちだって同性で集まってる時点でお察しだよねー」
三花・とし美「やめて!」
- 313 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 18:51:50 ID:4.zFnjI20
-
* * *
とし美「ところで、本当に私は場所の提供だけで良かったの?」
アカネ「それだけでも十分だよ。料理とかは私たちで持ってきてるから」
エリ「私は飲み物持ってきたよ!」
アカネ「もうオチは見えたから、黙ってて」
まき「ち、違うよアカネちゃん! これを見て……!」
アカネ「嘘……? あのエリが、コーラ以外も購入したというの……!?」
まき「こんなの絶対、天変地異だよ!」
エリ「さすがに私のイメージが偏り過ぎてないか」
- 314 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 18:52:22 ID:4.zFnjI20
-
* * *
アカネ「サラダにサンドイッチ、ポテトフライにチーズフォンデュ……」
まき「体重右肩上がりコースまっしぐらだねー」
アカネ「……そんなこと気にして、パーティーなんか楽しめないけどね!」
まき「おー、アカネちゃんがノリノリだー!」
三花「ローストチキンもそろそろ出来るから待っててね〜」
アカネ「……楽しめないんだけどね……」
まき「アカネちゃんのテンションが右肩下がりだ!?」
- 315 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 18:52:50 ID:4.zFnjI20
-
* * *
とし美「全く、朝早くから大きな荷物抱えて家に来て、
なにをするのかと思えば」
三花「どうせなら手作りで作りたいでしょ!」
エリ「これ三花の手作りなの!?」
三花「うん! とし美にも手伝ってもらったけどね〜!」
とし美「ほとんど三花が作ってたよ」
エリ「すっごい美味しそう!」
アカネ「家ではチキンなんてケンタッキーで済ませちゃうのに……」
まき「私もお店で出来てるのを買ってきちゃうなー」
三花「ふふっ、今年は本物の味というものを知ることになるよっ」
エリ「しっかしこれ手作りできるもんなんだねー……」
三花「手間はかかっても、難しくないからね〜」
まき「じゃあ一通り揃ったことだし、始めちゃおっか?」
とし美「そうだね。せーのっ」
「いただきまーす!」
- 316 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 18:53:18 ID:4.zFnjI20
-
* * *
エリ「抜き打ち、一発芸大会!」
アカネ「はっ?」
エリ「抜き打ちだから、誰にも予告してません!」
三花「だろうね〜」
エリ「まあパーティーの余興ってことで、一つさ」
とし美「悪くはないんじゃない?」
アカネ「こういうの苦手なんだよなあ」
まき「大丈夫、どれだけ滑ろうとエリちゃんには勝てっこないから!」
エリ「ひどい!」
三花「ねえねえ私からやっていい?」
エリ「あ、いいよー」
三花「じゃあ物真似いっちゃうよ〜」
三花「……“あー、ロミオ! あなたはどうしてロミオなの?”」
まき「おー、見事なジュリエットだー」
三花「“何故ここに……。屋敷の石垣は高くて、簡単には昇れないのに!”」
まき「ただ……」
三花「“ああ、ロミオ!”」
アカネ「……まだ根に持ってるの、ジュリエットできなかったこと?」
三花「……ちっちゃいことは気にしない方向でね?」
とし美(持ってるのか……)
- 317 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 18:54:41 ID:4.zFnjI20
-
* * *
エリ「次は私! 私も物真似します!」
アカネ「エリも出来るんだ、意外」
エリ「まあね」
エリ「……“私の中で先輩は年下です!”」
まき「あの子の真似!?」
三花「結構似てるじゃん!」
エリ「“失礼な! 私の方が年上だよ!”」
とし美「まきが怒ってるんだね」
エリ「“ちっちゃいことは気にするなっ!”」
アカネ「今度は三花じゃない?」
三花「言葉を用いるタイミングに悪意を感じるね〜」
まき「私に対してのねー」
エリ「“はあ、いっつもくだらないことして……”」
エリ「“平常運転ね、みんな”」
アカネ「あ、私ととし美だ」
とし美「バレー部のメンバーをまとめて真似て、寸劇をするとはお見事だね」
エリ「いやいや、なんのなんの」
まき「まるで前々から準備してたみたいな出来だったねー?」
エリ「そ、それはありがとうねー?」
アカネ「……そういえばエリだけは準備する余裕があるんじゃ」
エリ「あっ……」
アカネ「あんたまさか……」
エリ「……」
エリ「……てへっ!」
アカネ(いらっ)
- 318 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 18:56:07 ID:4.zFnjI20
-
* * *
エリ「か、返して! それは私のチキンだ!」
アカネ「一人だけ前々から考えてるなんて、フェアじゃないじゃない」
エリ「それと私のチキンに一体どんな関係があるっていうのさ!」
アカネ「チキンで償える罪なら安いものじゃない」
エリ「全然安くないよ! お高いよ!」
アカネ「……わかった。じゃあ今から一発芸してあげる」
エリ「えっ?」
アカネ「やるのは手品」
アカネ「アシスタントにとし美を起用します」
とし美「私?」
アカネ「まずこの皿の上にあるチキン。これをハンカチで隠します」
アカネ「私はハンカチを両手で持っているので、両手とも使えません。
しかしこの状態から私は、このチキンを半分にしてしまおうと思います」
アカネ「じゃあ、とし美」
とし美「ああ、なるほど……」
エリ「ねえとし美、どうしてナイフとフォークを持っているの?」
三花「私もアシスタントしたい!」
まき「私もー」
エリ「ねえみんな、どうしてナイフとフォークを持ってハンカチに近づいているの!?」
エリ「……あ、じゃあ私もアシスタントとして」
アカネ「エリは観客だからダメ。
観客は、タネも仕掛けもわからない状態でないと」
エリ「いやもう、タネも仕掛けも全部バレバレなんだけど!!」
- 319 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 18:56:37 ID:4.zFnjI20
-
* * *
エリ「全く油断も隙もあったもんじゃないよ」
アカネ「はい、というわけで予定の半分しか消せなかったけど、
私の一発芸は終わり」
まき「強引だねー」
とし美「私もアシスタントしたから、これで終わりでいい?」
三花「おっと、そうはいかないよ〜」
とし美「うん、まあそんなことだと思った」
とし美「じゃあ私はホントの手品をしてみようかな」
エリ「おっ」
とし美「まずエリのチキンをこのお皿に乗せます」
エリ「それはもういいよ!!」
とし美「嘘嘘。じゃあ、そこにあるトランプを使って……」
- 320 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 18:57:09 ID:4.zFnjI20
-
* * *
まき「……ねえ」
とし美「どうしたの?」
まき「とし美ちゃんのマジックが見事決まって、今度は私の番ってなったとき」
まき「なにをやればいいのか困ってた私に、
助け舟を出してくれたのはありがたいよ、とし美ちゃん」
とし美「うん」
まき「でもまさかね……、こんなものを着ることになるとは思えないよね……」
とし美「そうだよね」
まき「うん。じゃあ本題に入るね」
とし美「どうぞ」
まき「なんでミニスカサンタのコスプレなんてあるの!?」
とし美「兄貴が買ってきた」
まき「お兄さん何してるの!?」
とし美「彼女に着せようとしてたらしいんだよね」
まき「うわあ、ドン引きだよ……」
とし美「で、結局別れて、私に押し付けた」
まき「言っちゃ悪いけど、それは別れて当然だと思うよ……」
三花「はーい、こっち向いてー」
まき「写真撮らないで! 撮影禁止だよ!」
アカネ「でも可愛いよ、まき」
まき「あっ、いや……」
アカネ「どうしたの?」
まき「そ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどさー……」
エリ・アカネ・三花・とし美「……可愛いすぎる」
まき「も、もー!!」
- 321 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 18:57:39 ID:4.zFnjI20
-
* * *
まき「ふん!」
アカネ「ごめんって、まき」
まき「もう知らないもん!」
三花「そう言いながら一向に着替えようとしないんだよね〜」
とし美「似合ってるしね、実際」
まき「こらそこー!」
とし美「ふふっ、ごめんね。
このあとにケーキあるみたいだから、それで機嫌直して? ね?」
まき「け、ケーキ……」
エリ(あ、これは)
- 322 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 18:58:13 ID:4.zFnjI20
-
* * *
まき「美味しいー!」
エリ(陥落したね、まき)
三花「ねえねえ、お正月はみんな暇?」
アカネ「もうお正月の話?」
三花「だって冬休みで学校ないし、聞くならこのタイミングがベストじゃん!」
アカネ「それも確かに。私は暇だよ」
とし美「私も」
エリ・まき「同じくー」
三花「それならみんなでさ、初詣行こうよ〜!」
まき「賛成!」
アカネ「というかもう一年が終わるんだね。実感わかないなあ」
エリ「充実した一年だったね」
三花「大忙しだったよ〜」
とし美「まるでもう終わるみたいな言い方だけど、本番はまだだからね?」
三花「わかってるって!」
まき「アカネちゃんはもう専門に受かったんだよね?」
アカネ「うん」
エリ「お、じゃあ遊び放題じゃん!」
アカネ「そうかもしれないけど面と向かって言われるとムカつく」
- 323 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 18:58:47 ID:4.zFnjI20
-
アカネ「大体私だって学校始まれば、そこから二年間忍耐の日々なんだからね?」
とし美「二年間通った後じゃないと、試験受けられないから?」
アカネ「そう。なんで美容師に試験なんてあるんだろ」
まき「初めてアカネちゃんに言われた時、冗談かなにかかと思ったよー」
まき「美容師は国家資格、なんて」
アカネ「よっぽど学校で遊んでばかりじゃなければ、受かるみたいだけどね」
三花「バイトとかしてる暇はあるの?」
アカネ「一応しようとは思ってるよ。美容室のバイトでもいいし、他の仕事でもいいし」
エリ「免許無しでもバイト出来るの?」
アカネ「掃除とか洗濯とかだけで、お客さんには触れられないけどね。
でも段取りとかがわかるし、身になることは多いと思う」
まき「みんなやっぱりバイトするよねー。私はなにしようかなー」
エリ「うーん、まきにバイトは難しいね」
まき「なんで?」
とし美「中学生と間違われるからじゃない?」
エリ「そうそう」
まき「そうそうじゃないでしょ!?」
三花「まきの来年のお願いが決まったね!」
まき「勝手に決めないでよ! まだ志望校合格の方が大切だよ!」
アカネ「あくまでお願いしたいことではあるんだね」
まき「うっ」
アカネ「そうなんだね?」
まき「アカネちゃんの意地悪。別にいいもん」
まき「来年になったら私だって!」
- 324 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 18:59:18 ID:4.zFnjI20
-
‐神社‐
まき「……体重が増えちゃった」
アカネ「どんまい……」
エリ「縦に伸びず、横に伸びたわけかー」
まき「うわあああ!!」
アカネ「エリ!」
エリ「ごめんごめん。大丈夫だよ、見た目はそんな変化ないし」
エリ「ねえ、三花?」
三花「え、あー……、うん……」
エリ(こっちの方が重症だった)
とし美「三花も見た目じゃわからないけど……、何キロ太ったの?」
三花「乙女にその質問は禁止〜!!」
アカネ(とし美はまるで無傷か)
エリ(あのクリスマスパーティーを経ても変わらないとは……)
エリ「……にしても、みんなして張り切ってるね着物」
アカネ「人のこと言えないでしょ」
エリ「いやまあ、折角だしね!」
まき「とし美ちゃん、凄い着物似合ってるよねー」
とし美「そう?」
まき「うん! とっても綺麗で、落ち着いてて、雰囲気が良い!」
とし美「ありがと。まきも似合ってるよ」
三花「まきのは良い意味でまきらしい着物だね!」
まき「うん、ありがとー。久しぶりの着物だから、着れるか不安だったよー」
アカネ「つまりそれって中学生ぐらいから着続けてる着物なの?」
エリ「小学生からじゃない?」
まき「うん、やっぱり新年一発目のいじりもこういう系統なんだね」
- 325 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 18:59:48 ID:4.zFnjI20
-
* * *
三花「さ、私たちの番だよ」
とし美「そういえばお願い事をするとき、感謝の言葉も添えた方がいいみたいだよ」
三花「去年のお願いを叶えてくれたことに対して?」
とし美「なにに対する感謝かは、私もわからないけど」
三花「ん〜、じゃあさ」
三花「今まで生きてこれたことに感謝!」
三花「とかでもいいのかな?」
とし美「神様の前で適当なこと言えないけど、多分いいんじゃない?」
まき「……」
アカネ「どうしたの、まき?」
まき「いやあ、お礼かあと思って」
まき「ちょっと微妙な心境なんだよねー」
アカネ「……ああ」
アカネ「去年の願い事は叶わなかったもんね」
まき「私の身長を確認しつつ言わないでくれるかなー?」
まき「……でも、そのお願いはもういいんだ」
アカネ「いいの?」
まき「うん。今年のお願いはね、
少しでもアカネちゃんから身長を吸い取れますように、ってするから!」
アカネ「傍迷惑な!」
- 326 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 19:00:27 ID:4.zFnjI20
-
* * *
三花「よっしゃ、大吉〜!」
まき「おー」
とし美「新年早々、良いスタートだね」
アカネ「私は中吉。エリは?」
エリ「……」
アカネ「エリ?」
まき「……ていやー!」
エリ「ああっ、私のおみくじが!!」
まき「三花ちゃん、パスっ!」
三花「はいよ!」
三花「どれどれー……」
エリ「か、返してよー!」
とし美「私にも見せて」
【凶】
とし美「……お、おー……」
エリ「うう、まさかこのシーズンに凶を引くとは……」
- 327 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/10/08(火) 19:01:46 ID:4.zFnjI20
-
まき「だ、大丈夫だよエリちゃん!
おみくじなんかで、エリちゃんの今後が決まるわけでもないし!」
アカネ「そうそう。どんな努力家でも成功者でも凶を引くことはあるんだし、気にしないでいいって」
エリ「とはいっても、やっぱりショックー……」
三花「……いや、みんな。結論を出すのは、まだ早いよ」
アカネ「えっ?」
三花「ここを見て」
【学問:早めに目標を定めよ】
まき「あー……」
とし美「なるほどね」
エリ「えっ? なに、どゆこと?」
アカネ「……エリ。この際はっきり言っておくよ」
アカネ「この結果は自業自得だ」
まき「自業自得だねー」
とし美「自業自得だ」
三花「自業自得だね」
エリ「泣きっ面に蜂とはこのことかっ!!」
第二十一話「桜高バレー部の吉凶」‐完‐
- 328 :いえーい!名無しだよん!:2013/10/09(水) 14:25:15 ID:jF0nCrGI0
- 待ってました!
三花…w
- 329 :いえーい!名無しだよん!:2013/11/03(日) 23:47:36 ID:BjyJe6J60
- まさかの打ち切り・・・なんてことはないよね。
- 330 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 13:51:45 ID:XUpj5sg60
-
【第二十二話】
‐三年二組教室‐
エリ「アカネ、青春とはなんだと思う?」
アカネ「どうしたの唐突に」
エリ「私はこう結論付けたよ。
青春とは、どんなこと相手でも笑って楽しく過ごせる、そんな瞬間なんだとね!」
アカネ「あ、こんなところに英単語帳が」
エリ「あー聞こえないー」
アカネ「どんなこと相手でも楽しく過ごすんじゃなかったの?」
エリ「青春に英語なんていらないんだ!」
アカネ「学生にはいるでしょ」
エリ「……ワー、ニホンゴムズカシネー」
アカネ「ついに母国語も不自由になったか……」
- 331 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 13:53:58 ID:XUpj5sg60
-
* * *
エリ「それはさておき」
エリ「アカネはこの景色を見て、なにも思わないの?」
アカネ「まあ確かに綺麗な雪景色ではあるけど……?」
エリ「ところでアカネ、私たちはいま青春を生きてるよね」
アカネ「……なんとなく言わんとすることはわかった」
エリ「さっすがアカネ! じゃあさっさと外に出るよ!」
アカネ「やだ」
エリ「ええっ!?」
アカネ「なんで驚かれなくちゃいけないの」
エリ「だって、話はわかったって……」
アカネ「それとこれとは話が別。なんでわざわざこのクソ寒い外に出なくちゃいけないのよ」
エリ「で、でも……」
アカネ「でもじゃない。私にだって、選択する権利はあるんだから」
エリ「あの三人を外に待たせちゃってるし」
アカネ「鬼か」
エリ「相手役の五人も外だし」
アカネ「鬼か!」
- 332 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 13:54:34 ID:XUpj5sg60
-
‐校庭‐
まき「鬼! 悪魔! 雪!」
エリ「だからごめんって〜」
とし美「最後のは罵倒なの?」
アカネ「ところでエリが相手役を用意してるって聞いたけど」
三花「あ、それならほらっ!」
唯「ムギちゃんはあったかいね〜」
紬「唯ちゃんがくっついてくれるおかげで、私もあったか〜い」
律「それに比べ澪は、心も体も冷たいよなー?」
澪「なんで心もなんだ!」
梓「なんで私も……。寒っ」
三花「いやー、探せば相手を務めてくれる人もいるもんだねー」
アカネ「ほんと、どこにでも苦労する側の人はいるもんだね」
梓(どうしてだろう、あの先輩から深い同情の念を感じる)
- 333 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 13:55:22 ID:XUpj5sg60
-
* * *
律「範囲はこの学校の敷地全体! 当てられたら退場の、単純なサバイバルだ!」
エリ「おっけー!」
?「なになに、面白そうなことやってんじゃん」
律「お、夏香も参加するか?」
夏香「だってさ。どうする風子?」
風子「うん、面白そうだし私も参加したい!
でもどうせなら、和ちゃんとお母さんも呼ぼうよ」
律「じゃ、それで七対七だな」
まき「……すごい今更だけど、お母さんって英子ちゃんだよね?」
とし美「まあ、確認したくなっちゃうよね」
- 334 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 13:56:23 ID:XUpj5sg60
-
* * *
エリ「じゃあバレー部五人と夏香、風子チーム対」
律「軽音部と英子、和チーム……」
エリ・律「始めっ!」
和「……えっ、なに雪合戦させるために私呼ばれたの?」
澪「なんて今更なんだ、和……」
唯「和ちゃん、英子ちゃん、一緒に頑張ろうね!」
英子「ええ。まずは雪玉のストックを作っておきましょう」
律(……こ、これは!)
紬(まるで……)
梓(母親が子供に、おむすびを握っている図……!?)
澪「……ママ」
律「ん?」
澪「な、なんでもない! なんでもないから!」
- 335 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 13:57:00 ID:XUpj5sg60
-
* * *
夏香「向こうはおむすびのプロがいるからね……。
雪玉の供給には困らないはずだよ」
エリ「そうだね……」
アカネ「……そうなの?」
三花「それなら供給元から倒せばいいんじゃないかな〜」
風子「そんな単純にはいかないと思うよ」
風子「向こうには和ちゃんという、とんでもない参謀がいるからね……」
まき「警戒するに越したことはないねー」
とし美「そもそも、供給元と接触できるかが問題なんじゃない。
恐らく七人が固まって行動してはいないと思うし」
アカネ「分け方で考えられるのは三人と四人か、二人二人三人かだけど……」
とし美「で、相手が分かれているというなら、
私たちもそのどちらかを選択した方が良いと思うけど、どうする?」
アカネ「二人二人三人にしよう。先手必勝、索敵重視の作戦で」
エリ「それじゃ私とアカネ、夏香と風子ちゃん、
まきと三花ととし美で分かれよう」
夏香「うん。……いやしかし、なるほどー」
エリ「なに?」
夏香「さり気なくアカネちゃんと二人きりになるなんて、
やっぱりエリちゃんはアカネちゃん大好きなんだなーって」
エリ「い、いやいや! そういうことじゃないから!」
- 336 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 14:00:45 ID:XUpj5sg60
-
エリ「……」
エリ「……でも、アカネと二人でいたい気持ちがあったのは、間違いじゃないんだ」
アカネ「えっ?」
エリ「言われてた通りなんだよねー、あはは。狙ってやったチーム分けというか」
アカネ「エリ……」
エリ「あのさ、別に最後の冗談をマジにしたいとかそういうんじゃなくてさ。
えーと、なんていうんだろ……」
アカネ「……」
アカネ「……青春?」
エリ「そう青春!」
エリ「一番、最後までずっと青春したい相手が多分というか絶対、アカネなんだよ」
アカネ「……普通は恋人じゃない、そういうのって」
エリ「嫌味か!!」
アカネ「ま、私も人のこと言えないけど。いいよ、エリ」
アカネ「多分私もエリと一緒で、ずっとずっと楽しんでいられるだろうし」
エリ「じゃあ私たち、両想いか」
アカネ「両想いだね。本当に付き合っちゃう?」
エリ「またまたー」
アカネ「ふふっ」
エリ「へへっ。なんかアカネとなら、ちゅーぐらいなら出来ちゃいそう」
アカネ「えー、なにそれ」
エリ「もう私、いい男の人が見つからなかったら、アカネに嫁入りするよ」
アカネ「私が婿なの?」
エリ「ううん、アカネも嫁!」
アカネ「そう来たか。でもね、私もいつ運命の人と出会うかわからないよ?」
エリ「その時はその時。私だって、アカネより早く見つけるかもしれないよ?」
アカネ「それはないかなー」
エリ「ひど!」
アカネ「ま、お互い幸せになれるよう、せいぜい努力しないとね」
エリ「……うんうん。ともかく今は、雪合戦に努力だ!」
- 337 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 14:02:06 ID:XUpj5sg60
- ※ミス。335と336の間にこれが入ります
三花「鋭い指摘、良いね!」
まき「この二人はバレー部公認なんだよー」
アカネ「バレー部である私は公認してないんだけど……」
まき「もー、照れちゃってー」
アカネ「照れてないし」
風子「え、まさか二人はできてるの?」
アカネ「ちょ、え……はっ!?」
とし美「あー、それなら早く二人きりにしてあげないとね」
アカネ「ちょっととし美も、何言ってんの!?」
三花「んじゃ、さっき言ったチームで散開!」
アカネ「ねえ違うからね、みんなー!?」
アカネ「……」
アカネ(……行っちゃった)
エリ「……」
アカネ(ちょっと気まずい……)
エリ「……ま、まあ気にすることはないよね」
アカネ「う、うん……まあ、そうね」
- 338 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 14:03:18 ID:XUpj5sg60
-
* * *
夏香「さっきは思い切ったね」
風子「面白いことになるかなと思ったけど、なったから良かった」
唯「面白いことってなに〜?」
風子「エリちゃんとアカネちゃんがね……」
夏香「風子、それは敵だ」
風子「えっ?」
唯「えっ?」
夏香「……唯ちゃん、私たちはバレー部チームだよ?」
唯「はっ! しまった!」
風子「本当だ、唯ちゃんは敵だよ!」
夏香(この子ら本当に大丈夫なのかな……)
風子「えいっ」
唯「ぎゃあ!」
夏香(そして唯ちゃん、言っちゃ悪いけど……の、ノロマすぎる!)
風子「ふう。危ないところだったね」
夏香「本当ヒヤヒヤさせられたよ」
風子「……あれ。でも唯ちゃん、単独行動なの?」
夏香「んっ? そういえば、どうして……」
- 339 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 14:03:46 ID:XUpj5sg60
-
夏香「って、まさか!?」
唯「うう……後は任せたよ……!」
風子「きゃっ!」
夏香「風子!」
夏香(後ろから雪玉!? くっ、唯ちゃんは囮だったってことなの?)
夏香「でも相手のいる方向さえわかってしまえば……」
?「甘いわね」
夏香「なっ!?」
夏香(また後ろから雪玉……!?)
夏香「ぎゃふん!」
和「……実際にぎゃふんと言った人は初めて見たわ」
夏香「そ、そんな……三人だったなんて……。不覚っ」
夏香(でもそれなら、他のチームに割いている人数は……)
和「……」
夏香(少な)
和「他に割いている人数が、少ないと思った?」
夏香「えっ?」
- 340 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 14:05:55 ID:XUpj5sg60
-
「ぷるるるる……」
和「ちょうど来たみたいね……なるほど。了解、と」
夏香(メール……?)
和「……夏香。初めに言っておくわね」
和「“私はチームを七つに分けたわ”」
夏香「なっ!?」
和「だから他に割いている人数は、ここと同じ。ただ一人よ」
夏香「で、でもここには三人……!」
和「……本当にそうかしら?」
風子「夏香ちゃん。ここで倒れたままの唯ちゃんはともかく、
私に雪玉を当てたはずの三人目の姿が見えないよ」
夏香(どうして唯ちゃんは倒れたままなんだろう……)
夏香(でも待てよ。三人目の姿が見えない、ということは移動したってこと。
だとすれば、一体どこに?)
夏香「はっ! そうか!」
和「気付いたみたいね。
そう、既に三人目は次なる標的に向かっているわ」
夏香「七人それぞれが連絡を取り合って、
見つけた敵に向かうってスタイルを取っているんだね!?」
唯「せいかーい!」
風子「あっ、復活した」
唯「でもね、和ちゃんの考えた作戦はそれだけじゃないんだよ〜」
和「あんたは当たったんだから、余計なこと言わなくていいの」
唯「和ちゃんが雪よりも冷たい!」
- 341 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 14:06:35 ID:XUpj5sg60
-
夏香「和がルールを破るような作戦を考えるとは思わない……。
だとすればルールに則ったもののはず……」
風子「……」
夏香(“範囲はこの学校の敷地全体! 当てられたら退場の、単純なサバイバルだ!”)
夏香(……これが唯一、りっちゃんの言ってたルール)
風子「わかったよ、夏香ちゃん。和ちゃんの第二の作戦が」
夏香「本当? 私も、察しはついたよ」
和「聞かせてもらおうかしら」
風子「こんなのズルイと思われるかもしれない。
でも敷地内が範囲だとすれば、決してルール違反じゃない」
夏香「恐らく殆どの指示を出している人物は一人だ。
そして、その一人の居場所は……」
風子・夏香「校舎の中だ!!」
唯「ななななななんのことかなー?」
和「……」
風子(唯ちゃんがいて助かった)
和「……でも、それがわかったところで、なにになるのかしら。
私たちの情報伝達力、索敵能力はあなたたちを凌駕する」
和「あなたたち二人が気付いたとしても、
それを仲間に伝えることが、果たして出来るかしら?」
唯(和ちゃんがすごく悪者だよ。そして何故か似合ってるよ)
- 342 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 14:07:10 ID:XUpj5sg60
-
風子「和ちゃん。その連絡手段が自分たちだけの特権だと、勘違いしていない?」
和「あなたの携帯ね。当然、どちらか一人は携帯を持っていても、
おかしくないと予想は出来たわ」
和「でも、どちらにしても、もう手遅れよ。
こうしている間にも、最低で一人はあなたのチームから脱落しているわ」
風子「……もしさっきのメールから間髪を入れず、だったらね」
和「まさか……風子!?」
風子「そのまさかだよ、和ちゃん。
和ちゃんが携帯を取り出し、メールを確認した段階で……」
風子「私はバレー部五人全員にメールを送っていた!」
夏香「ええっ!?」
夏香(長い間喋らないと思っていたら……!)
風子「もちろん今の作戦を全部伝えられたわけじゃないよ。
でも、断片的な情報は全部詰め込んだし、“逃げろ”というメッセージも加えた」
和「……」
風子「あとはバレー部次第。
だけど、もしこのトリックを誰かが推理したとすれば……」
「ぷるるるる……」
和「ま、まさか……!」
風子「……後は任せたよ、バレー部!」
夏香「えっと……」
夏香(……私たち、所詮ただの雪合戦やってるだけのはずなんだけどねー……?)
- 343 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 14:08:11 ID:XUpj5sg60
-
‐三年二組教室‐
澪「うぅ……冷たい……」
アカネ「風子ちゃんからのメールを見て、まさかと思ったけど」
エリ「校舎の三階に潜伏して、私たちを監視していたとはね」
アカネ「発見後は連絡して、そこに誰か複数人を向かわせる、と」
エリ「三花たち、大丈夫かな」
アカネ「さっきのメールを見て、逃げる判断をしていてくれればいいんだけど……」
澪「……」
アカネ「三人のところには四人を向かわせてるはずね。
それがこの作戦の良いところだから」
エリ「というと?」
アカネ「相手の人数より確実に多く、人数を割けるということ」
エリ「ああ、そっか。それで相手を圧倒するんだ」
アカネ「でも、見て。四人と戦っているのは、まきととし美の二人だ」
エリ「三花は逃げることができたんだ!」
アカネ「そして反対側の窓から見えるのは……」
エリ「……単独行動している和ちゃん!」
澪「っ!?」
アカネ「いくよ、エリ。遅れないでね」
エリ「当然!」
エリ「……あっ、澪ちゃんは当たった人たちが集まる場所があるから、校舎から出てね」
澪「せ、せっかく寒さを逃れられたと思ったのにー……」
アカネ「ご愁傷さま。でもね、私たちも本気なんだよ」
- 344 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 14:10:59 ID:XUpj5sg60
-
‐校庭‐
律「澪がやられた!?」
梓「作戦が破られたってことですか!?」
律「そうらしいな……。こうなれば、ここでこの二人を逃がすわけにはいかない!」
とし美「ふふ、バレー部の鍛えられたこの脚に……」
まき「ティータイム部が追いつけると思うー?」
律「ぐっ、悔しいが言い返せない!」
梓「本当返す言葉もありません……」
紬「ダメよ二人とも、相手の思惑通りになったら!」
英子「でも確かにあの二人、なかなか雪玉が当たらないわね……」
律「バレーで鍛えられたってのは確からしいな!
だけど、私たちだって真剣なんだ!」
梓「……待ってください。作戦が破られたということは……」
梓「一番危ないのは和先輩ということじゃないでしょうか!」
律「なっ!?」
- 345 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 14:13:30 ID:XUpj5sg60
-
英子「これであの二人が牽制程度の攻撃しかせず、
逃げることに専念していた理由がわかったわ」
英子「あの二人はなんらかの連絡を受けて、時間稼ぎが最善だと判断したのね」
紬「バレー部チームの残り人数は五人。
ここにいるのは二人だから、三人が和ちゃんを狙っていることになるわ」
律「さすがに三対一じゃ、分が悪すぎる……!」
まき「いくら逃げることに徹しているといっても、
今の私たちは四対二だから逃げ切れているだけ」
まき「それが三対一だったら、もう諦めるしかないと思うよー」
とし美(もし見つけられたのがエリとアカネの二人だったら、
四人も人が送られてくることはなかった……)
とし美(風は、私たちに吹いている!)
律「作戦変更だ! どちらか片方を狙うぞ!」
まき「とし美ちゃん。行って」
とし美「自分が犠牲になるってこと?」
まき「ううん。だって私、瞬発力には自信あるからねー」
とし美「……そっか。じゃ、任せたよ私たちの絶対リベロ、まき!」
紬「あ、とし美ちゃんが!」
英子「でも今は一人に狙いを絞るのが得策……」
律「……覚悟はいいか?」
まき「ふふん。どっからでもかかってきなよー」
まき(……これで五分五分になれる、ね)
- 346 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 14:15:34 ID:XUpj5sg60
-
* * *
和「くっ」
エリ「よっし、当てたー!」
三花「ま、三人対一人ならこんなもんだよね〜」
とし美「あれ、もうこっちは終わった?」
三花「とし美! 無事だったんだ!」
アカネ「まきは?」
とし美「……」
アカネ「……そう」
和「なるほど。これでお互い、四人ずつ残ったということね」
三花「五分五分ってことじゃん!」
?「そういうわけだ」
エリ「……りっちゃん」
律「よう」
紬「……」
梓「……」
英子「……」
- 347 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 14:16:08 ID:XUpj5sg60
-
エリ「へえ。全員集合してるんだ」
アカネ「かつての作戦はどこへやらって感じね」
律「今更、策の講じ合いなんて無意味なことはしないな」
律「残ってるのは己の拳と、そこに掴まれた雪玉だけだろ?」
三花「ふふっ、上等じゃん。仲間たちの無念、晴らさせてもらうよ!」
律「それはこっちのセリフだ。なあ、みんな!」
紬・梓・英子「おおー!」
三花「気合十分。こっちも行くよ!」
エリ・アカネ・とし美「おおー!!」
律「いざ、尋常に……」
エリ「……始めっ!」
「私たちの戦いはこれからだ!!」
・
・
・
- 348 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/11/06(水) 14:17:25 ID:XUpj5sg60
-
‐音楽準備室‐
唯「うーん、澪ちゃんが淹れてくれたお茶も美味しいね!」
澪「そ、そうか?」
まき「うん! この寒さもふっとんじゃうよー」
風子「でもいいの? 私たちまでご馳走になっちゃって」
唯「昨日の敵は今日の友だからね〜」
風子「そっか、それならお言葉に甘えて」
夏香「いやー、昨日の雪合戦は白熱したねー」
澪「私も、校舎から見張ってただけだったけど、楽しかったよ」
澪「……楽しかった、んだけど」
まき「うん……」
澪「……まさか早く退場した人以外のみんなが風邪をひくなんて」
まき「うちのノリノリ馬鹿たちが、ご迷惑をおかけしました……」
澪「いえいえ、こちらこそ……」
第二十二話「桜高バレー部の宿敵」‐完‐
- 349 :いえーい!名無しだよん!:2013/11/06(水) 19:18:42 ID:hpMRRQ4.0
- まさかの風子・夏香・英子 登〜場〜
いいねボタンがあれば連打するのに!
- 350 :いえーい!名無しだよん!:2013/11/07(木) 10:33:13 ID:LFjfu/sA0
- やべえ夏香ちゃんわかんねえ
- 351 :いえーい!名無しだよん!:2013/12/01(日) 22:10:54 ID:cOplJPeQ0
- そろそろ試験編かな~
楽しみ~(^^)
- 352 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 15:57:14 ID:/Qwvsa5M0
-
【第二十三話】
‐エリの家‐
エリ(……ついに明後日となった入試本番)
エリ(センターではやらかしたけど、今度はそんなことないように気をつけよう)
エリ(……)
エリ(アカネは専門が結構前から決まってて)
エリ(とし美はセンター利用で第二志望の合格が濃厚で、
いくらか楽な気分で第一志望の試験に臨めて)
エリ(三花とまきは模試で十分合格圏内だったから、まあ心配ないとして……)
エリ「一番心配なのは他でもない私自身なんだよねー……」
エリ(そもそも人の心配してる場合じゃないっての)
エリ(……)
エリ(……思えば、こんな私の勉強に今までよくついて来てくれたよね、アカネって)
エリ(……)
エリ(……絶対アカネの眼前に、合格証書突きつけてやるんだ)
- 353 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 15:58:01 ID:/Qwvsa5M0
-
‐まきの家‐
まき(……よし)
まき(今日はもう寝よっと)
まき(それにしても、思ってたより自分が勉強できるようになってるなー)
まき(こんな英文、始めだったら簡単には意味を取れなかったよ)
まき(……)
まき(……そういえばエリちゃん、もう明後日には入試なんだっけ)
まき(大丈夫かなー)
まき(他のみんなはともかく、エリちゃんに関してはとんでもなく不安だよ)
まき(……)
まき(よし、メールしよ)
- 354 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 15:58:36 ID:/Qwvsa5M0
-
‐三花の部屋‐
三花「はあ〜」
三花(もう無理頭が限界! 今日は寝よ〜)
三花(おやすみなさい……)
三花(……)
三花(……)
三花(……頭の中で単語がぐるぐる回ってる)
三花(寝れない!)
三花(こういうときは全く違うことを考えて、気分を紛らわそう)
三花(……いい国作ろう、鎌倉幕府)
三花「って、中学生か!」
三花「……思わず声出しちゃったよ」
三花「あ、そういえば明後日にはエリが試験本番なんだっけ」
三花(眠くならないし、部長として激励のメールでも送ろっかな〜)
- 355 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 15:59:36 ID:/Qwvsa5M0
-
‐とし美の部屋‐
とし美「……」
とし美「……む」
とし美「んー……」
とし美「……」
とし美「……」
とし美「…………」
とし美「……すー……」
- 356 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:00:11 ID:/Qwvsa5M0
-
‐アカネの部屋‐
アカネ「エリの試験日まで後二日……」
アカネ「……」
アカネ「……不安だ」
アカネ(私も頑張って手伝ってきたけど、最後の方は見てあげられなったし)
アカネ(模試の結果を見る限り、正直五分五分で受かるか落ちるか、なんだよね……)
アカネ(……)
アカネ(……こんなことは絶対にないと思うけど)
アカネ(エリ、まさか選択肢で悩んだとき用の鉛筆用意してないよね?)
アカネ(……)
アカネ(澪ちゃん、確かりっちゃんがそんなものを作ってたって言ってたな)
アカネ(エリとりっちゃん……手のかかる点は似てるよねって、澪ちゃんと話したっけ)
アカネ(いやいや、二人は違う。りっちゃんには悪いけど)
アカネ「ごめんね、エリ」
アカネ(それでも私は、あなたを信じてる)
アカネ(……)
アカネ(……信じてるのはまた別として、メール送ってみよう)
- 357 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:01:18 ID:/Qwvsa5M0
-
‐エリの部屋‐
「prrr...」
エリ(お、メール?)
エリ「まきからだ」
【勉強はかどってるー?】
エリ(ふむふむ、私がしっかりしてるか心配になったわけだ)
エリ「“心配ないよ”、と」
エリ「さーて勉強さいかーい」
「prrr...」
エリ「……って、またメール? まきの返信かな?」
エリ「あれ、今度は三花か」
【お互い勉強を気合い! 入れて! 頑張ってこー\(*⌒0⌒)♪】
エリ(部長からの激励ってわけだ……ありがたや、ありがたや)
エリ「“気合い十分、フルチャージだよー”、と」
エリ「よし! 今度こそ再開!」
- 358 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:01:48 ID:/Qwvsa5M0
-
「prrr...」
エリ「また? 私も人気者だなあ」
エリ「お、今度はアカネからか」
【どうせ信じるなら鉛筆じゃなくて、自分を信じてね】
エリ「……なにこれ? なにかの比喩?」
エリ「ま、いっか」
エリ「“いつでも私は自分を信じてるよ”、と」
エリ「ちょっと調子乗りすぎかなー?」
「prrr...」
エリ「またまたメールだ」
エリ「この流れだと、とし美かな」
エリ「いやあ、今夜はモテモテで困っちゃうわー」
エリ「……って、まきだった」
【私は心配だよ……エリちゃんのその根拠なき自信が】
エリ「こいつ上から抑えつけて身長縮めてやろうか」
エリ「“全く失礼な、私だって勉強してきたんですー”、と」
エリ「というか明日試験の人にこんなメール送るなんて、ひどくない?」
エリ(まあ楽しんで返信してる私も私だけど)
- 359 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:02:34 ID:/Qwvsa5M0
-
「prrr...」
エリ(今度こそとし美か?)
エリ「いや、三花だった」
【フルチャージ確認しました〜(笑)
でもエリの頭じゃ、もうパンク寸前だろうね〜】
エリ「これは私の頭の容量が小さいってことだろうか」
エリ「……実際パンク寸前だけどさ」
エリ(でも誰だってこの時期はパンク寸前になるよね?
それで、合格した途端ガスがぷしゅーと抜ける感じに……)
エリ「ま、いいや。さてさて、返信を……」
- 360 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:03:09 ID:/Qwvsa5M0
-
「prrr...」
エリ「っと、その前にメールか。アカネだね」
【それはそれで不安かも……】
エリ「自分を信じてって言ったの、アカネだよね!?」
エリ「全く、自分の言ったことには責任を持ってほしいものだよ」
エリ「大学生になるからには、そこら辺もキチンとしないとね」
エリ「まず三花には、“早く試験終えて、ガス抜きしたいよ〜”、と」
エリ「アカネにはなんて返信しようかな。
やっぱりここは大学生としての志ってやつを見せつけて……」
- 361 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:03:38 ID:/Qwvsa5M0
-
「prrr...」
エリ「ん、まきだ」
【エリちゃん、今まで勉強してきた人がメールしてていいの?】
エリ「どの口が言うんだ!!」
エリ「“そっちから始めてきたことでしょうが!!”、はい、送信!」
エリ「ふー……」
エリ「……あっ、今のメール、間違えてアカネに送っちゃった」
エリ(でもギリギリ意味通じるからいっか)
エリ「まきにも同じ文で返信しといて、と」
- 362 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:04:03 ID:/Qwvsa5M0
-
「prrr...」
エリ「お次は三花かな」
【本当だね〜(-_-;) どうせなら海外とか行っちゃう?】
エリ「それいい! 凄い良いね!」
エリ「出来ればハワイとか行って遊びたいな〜」
エリ「そうと決まれば行動だ。別になにも決まっちゃいないけど」
エリ「“ハワイ! ハワイ行ってみたい!”、と」
エリ「新しい水着買わなくちゃな〜」
- 363 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:04:44 ID:/Qwvsa5M0
-
「prrr...」
エリ「まきかな? それともアカネかな?」
「prrr...」
エリ「って、まさかの二連続。あの二人だね」
【そこに気付けるぐらいには、エリが馬鹿じゃなくて良かった】
【そこに気付けるぐらいには、エリちゃんは馬鹿じゃなかったかー】
エリ「こいつら絶対裏で繋がってるでしょ!?」
エリ「あるいは、これがバレー部の私に対する、共通認識という可能性……」
エリ「って、どっちにしろ嫌すぎる!」
エリ「何かこの際、二人ともに一斉送信でいい気がしてきた」
エリ「“グルになって馬鹿にするな!”、と」
エリ「次に来るメールは、あちゃーバレちゃった? みたいな感じだと予想するよ」
- 364 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:05:09 ID:/Qwvsa5M0
-
「prrr...」
エリ「あれ、アカネ? 返信早いな」
【え?】
エリ「完全に私の勘違い! めっちゃ恥ずかしい!!」
エリ「次に来るまきのメールを思うと、胸がキリキリするよ……」
- 365 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:05:40 ID:/Qwvsa5M0
-
「prrr...」
エリ「ひぃ! メールだ!」
エリ「……まきじゃなくて三花だった」
【ハワイいいね! 本当に計画しちゃおーよ!】
エリ「三花が天使に見えてきた」
エリ「そういえばミカエルっていう天使を聞いたことがあるなあ」
エリ「……三花える」
エリ「ぷくくく……これは傑作……!」
エリ「“じゃあ試験終わったあとに行くとして、卒業式の前にする?
それとも後にする?”、と」
エリ「あとアカネにはなんて返信しようかなー」
エリ「……もうこのまま放置してやろうか」
エリ「しかしとし美からメールが来ないなー。いや、絶対に来る確証は無いんだけどさ」
エリ「でも場の流れ的にね。流れ的に」
- 366 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:06:32 ID:/Qwvsa5M0
-
「prrr...」
エリ「とか言ってる側からほら! とし美の文字がディスプレイに!」
【柴矢 俊美】
エリ「でもお前じゃない! 俊美だけどとし美じゃない!」
エリ「って、なんで俊美ちゃんからメールが?」
【今日は友達の家に泊まっていくから、よろしくねお母さん】
エリ「間違いない。間違いなく、これは間違いメール」
エリ「“私はお母さんじゃないよー”、と」
エリ「さて、ちょっとしたサプライズもあったけど、
そろそろまきからメールがあってもおかしくない頃……」
- 367 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:07:06 ID:/Qwvsa5M0
-
「prrr...」
エリ「きたきた。やっぱりまきからだ」
【グルってなんのことー?
というか、アカネちゃんともメールしてるのー?】
エリ「まあ当然の疑問だよね……」
エリ「“同じような内容のメールがほぼ同時に来たから。
ごめんごめん、勘違いだったみたいだね”、と」
エリ「こういうときは素直になった方が解決は早い。私は学んだよ」
- 368 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:07:35 ID:/Qwvsa5M0
-
「prrr...」
エリ「お、俊美ちゃん。どういう感じかな?」
【わー、ごめん! 間違えて送っちゃった!】
エリ「うんうん、たまにあるよね、そういうこと」
エリ「“大丈夫だよ、早くお母さんにメール送ってあげて〜”、と」
エリ「そういえば、俊美ちゃんじゃない方のとし美からは音沙汰なしか。
この流れに逆らとは、さすがとし美。一筋縄ではいかないね」
- 369 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:08:01 ID:/Qwvsa5M0
-
「prrr...」
エリ「今度こそとし美かな?」
【今日は友達の家に泊まっていくから、よろしくねお母さん】
エリ「重ねてきたー!!」
エリ「……もうこれは、放っておこう。多分相手も気付いてるだろうし」
エリ「というか、もうこんな時間なんだ。
そろそろメールも終えて、寝ることにするかな……」
- 370 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:08:33 ID:/Qwvsa5M0
-
「prrr...」
エリ「っと、三花だ」
【卒業式の前の方がいいかな?
ま、詳しいことはまた後日ってことで〜お休み〜】
エリ「“そうだね、じゃあまた後日! おやすみ!”、と」
エリ「アカネとまきからも返信ないし、二人とも寝たのかな」
エリ「んじゃ、私も寝るとしますかー……」
- 371 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2013/12/11(水) 16:09:30 ID:/Qwvsa5M0
-
「prrr...」
エリ「……なんだこれ。知らないメアドからだ」
【件名:私の主人がチンパンジーになって一年が過ぎました】
【いきなりのメール失礼いたします。
とし美といいます。25歳の既婚者です。
信じられないかもしれませんが、私の主人はチンパンジーなのです。
主人が出張から帰ってきたあの日から、私はずっとチンパンジーの相手をしてきました。
ですが、もう限界です。お恥ずかしい話、私の身体はチンパンジーで満足できないのです。
毎晩毎晩、身体の火照りが増すばかりで――】
エリ「……」
エリ「…………」
「…………」
エリ「とし美だけど、お前じゃねえ」
第二十三話「桜高バレー部の文通」‐完‐
- 372 :いえーい!名無しだよん!:2013/12/11(水) 23:31:28 ID:A4DeURaQ0
- 私の主人がチンパンジーで不覚にも笑った
- 373 :いえーい!名無しだよん!:2013/12/29(日) 00:06:34 ID:Xw6XOUAM0
- 年内にもう一回来るだろうか…?
- 374 :いえーい!名無しだよん!:2014/01/06(月) 01:55:10 ID:3oE0g9GA0
- 年明け後しばらくして再開かな?
- 375 :いえーい!名無しだよん!:2014/01/23(木) 19:13:29 ID:tS8WHseg0
- マダカナ?
- 376 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 13:50:31 ID:dTcRFIt20
-
【第二十四話】
‐機内‐
エリ「んんー……」
エリ「……」
エリ「…………」
エリ「……んっ?」
エリ(……目、覚めちゃった)
エリ(皆はまだ……寝てるよね)
エリ「……」
エリ(行きの飛行機で寝ないと、初日楽しめないっていうしね、ハワイ)
エリ(……私、いまハワイ行きの飛行機に乗ってるんだなー)
エリ(いまいち実感が沸かないけど、ハワイ着いたら違うのかな?)
エリ(よくわからないけど、まあ……とりあえずもう少し寝ておこう……)
エリ「……おやすみ…………」
- 377 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 13:52:51 ID:dTcRFIt20
-
‐ハワイ‐
まき「……ついに着いたよ、ハワイ!」
三花「ん〜、やっぱ座ったままは身体によくないね〜。身体がカチコチに固まった感じだよ〜」
とし美「さ、まずは荷物をホテルに預けちゃおうか」
まき「ところで今何時ぐらいなの?」
とし美「大体八時ね」
まき「おー、まだまだ朝なんだねー。遊びたい放題だよー」
とし美「帰りは昼に出ちゃうけど、こっちに着く時間が朝っていうのは、
遊びたい側から見ればありがたいね」
とし美「……一歩間違えると、ああなるけど」
アカネ「あー……つら……」
エリ「だ、大丈夫?」
とし美「夜に出て、朝に着く。
飛行機で寝れない人にとっちゃ、オールで遊ぶみたいなもんでしょ?」
まき「なるほどー……。今のアカネちゃん、オールしてる状態なんだね」
三花「それじゃ、早いとこホテルに行って、アカネを休ませてあげよ」
アカネ「面目ない……」
- 378 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 13:53:32 ID:dTcRFIt20
-
‐ホテル‐
エリ「着いたよ、アカネ」
アカネ「あー、ダメ……頭痛い……」
エリ「アカネが体調管理に失敗するなんて、珍しくない?」
アカネ「実は昨日……というか一昨日……?
まあ飛行機に乗る前の日も寝れなかったんだよね……」
エリ「えっ」
アカネ「飛行機乗るの、実はこれが初めてでさ……。
柄にも無く、飛行機に乗る前の夜から興奮しちゃって……」
エリ「それ意外だなあ。まるで遠足前日の子供じゃん」
アカネ「悔しいけど、否定できないわ……」
エリ「全員が合格もらったからって、油断しすぎだよ。
体調管理も立派な大学生の務め!」
アカネ「気をつけます……」
アカネ「……そういえば他の三人は……?」
エリ「隣の部屋。そこのドアで行けるよ」
アカネ「ああ、コネクティングルームってやつ……」
アカネ「……んん、んむー……」
エリ「眠いなら横になりなって。もう椅子じゃなくてベッドなんだからさ」
アカネ「ほんと、面目ない……おやす、み……」
アカネ「……すー…………」
エリ「……おやすみ、アカネ」
- 379 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 13:54:08 ID:dTcRFIt20
-
‐???‐
アカネ「……んん」
アカネ「……」
アカネ「……あれ」
アカネ「どこ、ここ?」
エリ「どこって学校に決まってるじゃん」
アカネ「えっ、えっ。ハワイは?」
エリ「なーに寝ぼけてるのさ」
まき「どうしたのー?」
エリ「アカネが寝ぼけてハワイ旅行してた」
まき「風が吹けば桶屋が儲かるぐらい、わけのわからない話だねー」
アカネ「……夢……?」
三花「三人ともなにやってんの〜! 早くこっち来ないと、見逃しちゃうよっ」
エリ「ごめんごめん、今行く!」
まき「いやー楽しみだねー」
アカネ「なにが? なにが見れるの?」
エリ「なにって、今日はとし美の出発の日じゃん」
アカネ「出発……?」
まき「それにしても凄いよねー」
まき「まさか特賞の“火星一週間の旅”を当てちゃうなんて」
アカネ「……は?」
エリ「私も行きたかったなあ、火星」
アカネ「え……、なにそれ……?」
- 380 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 13:54:59 ID:dTcRFIt20
-
「ゴゴゴゴゴ……!」
アカネ「な、なに? 凄い音だけど……」
まき「ついに出発だね」
エリ「ほら、校庭を見てみなって」
アカネ「校庭……?」
アカネ「……」
アカネ(あの……校庭からロケットが発射しようとしているんですが……)
三花「とし美〜、行ってらっしゃ〜い!」
エリ「楽しんできなよー!」
アカネ「おかしい……絶対におかしい……」
まき「おかしいって、なにが?」
アカネ「いやだって、校庭にロケット発射台がある時点でおかしいでしょ!?」
まき「そもそも火星旅行の時点でかなりアレだと思うけどねー」
まき「でもね、実は一番おかしいのはアカネちゃんなんだよ」
アカネ「えっ?」
まき「だってこれは全部アカネちゃんが作り上げて、
アカネちゃん自身で見ていることなんだからー」
アカネ「……つまり」
まき「全部夢だったってことだね!」
- 381 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 13:55:39 ID:dTcRFIt20
-
‐ホテル‐
アカネ「……」
エリ「あ、起きた。どう、よく眠れた?」
アカネ「悪夢とも言い切れない、微妙な夢を見た」
エリ「どんな夢?」
アカネ「とし美がロケットで火星旅行する夢」
エリ「えっ」
アカネ「……」
エリ「……アカネ、もう一度寝とく?」
アカネ「…………」
- 382 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 13:56:17 ID:dTcRFIt20
-
* * *
とし美「それを聞いた私はどんな反応すればいいの?」
アカネ「私にもわからない……」
三花「火星旅行はちょっと現実味に欠けるかな〜」
三花「あと特に行きたい理由も無いよね!」
エリ「火星に行ったところで、美味い飯が食えるわけでもないしね!」
まき「だよねー」
まき「というわけだよ、とし美ちゃん。わかった?」
とし美「どうして私が諭されてる体になってるの」
とし美「私だってハワイアン料理の方が食べたいよ。ラウラウとか、ポイとか」
エリ「ポイ……?」
とし美「……金魚をすくう方じゃないからね」
エリ「わ、わかってるよ!」
三花「そんで、大丈夫なのアカネ?」
アカネ「うん。だいぶ復活してきたよ」
三花「よしよし、じゃ、タクシーでレストランまで行くよ」
まき「た、タクシー!?」
エリ「私たちって、そんなにリッチだったってこと!?」
三花(日本よりは安いんだけどね〜)
- 383 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 13:57:32 ID:dTcRFIt20
-
‐レストラン‐
まき「おお! 植え込みがおしゃれっていうか、ハワイっぽい!」
アカネ「南国に来た、って感じにさせてくれるね」
三花「ここはビュッフェ形式だから、好きなだけ取って食べるんだよ」
エリ「ビッフェ?」
三花「ビュッフェ」
エリ「ビュッへ!」
アカネ「ビュッフェ」
エリ「び、ビュッフッへ!」
まき「ビュッフェ」
エリ「ち、違うって、ビュウッヘエ!」
とし美「もはや原型を留めてないね」
三花・アカネ・まき「ビュッフェ」
エリ「うわあああん!!」
- 384 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 13:58:38 ID:dTcRFIt20
-
* * *
アカネ「まずはグリーンサラダ……と」
まき「一目散にサラダを取るとは、さすが女子力高いアカネちゃんだね!」
アカネ「他の皆だって、サラダ取ってるじゃない。
それとデザートコーナーはあっちだよ、まき」
まき「わー、本当だー。でもどうしてデザートを推したのかなー?」
アカネ「その輝く笑顔がなによりの証拠でしょ?」
まき「うっ」
アカネ「にしても、サラダもだけど、デザートも一杯あるね。
ここから見たところケーキとか、パイとか……」
アカネ「あっ、ハウピアもあるじゃん」
まき「ハウピア?」
アカネ「ココナッツのプリンみたいなものね」
まき「へー……」
アカネ「どう?」
まき「……どうせハワイに来たなら、そういうハワイっぽいデザートも食べないとね!」
アカネ「そうね。私も少し貰おうかな……」
エリ「ねえねえアカネ! あっちにお寿司あったよ! カレーもあった!」
まき「……」
アカネ「……」
エリ「どうしたの二人とも?」
アカネ「……別に人の食べるもんにケチはつけないけどさ」
アカネ「はあ……」
まき「エリちゃん……」
エリ「なんか呆れられてる!?」
- 385 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 13:59:38 ID:dTcRFIt20
-
* * *
とし美「エリのお皿の中身から、ハワイをまるで感じられないんだけど」
エリ「えー、そう? あくまでハワイのお寿司だよ?」
エリ「とし美だって、その和え物、日本でもありそうじゃん」
とし美「これはポケっていうの。アヒポケ」
エリ「なにその面白い名前?」
とし美「お刺身をネギとかの薬味と、ハワイアンソルトで和えてるものね」
とし美「醤油で味付けされてて、美味しいのよ」
エリ「へー……三花のそのお肉は?」
三花「ラウラウ。葉っぱに包まれたお肉だよ〜」
エリ「ふむふむ。アカネのそれは?」
アカネ「ロミロミサーモン。サーモンにトマトとか玉ねぎとかを、
ハワイアンソルトでマリネしたものね」
エリ「みんなハワイっぽいもの食べてるんだねー……私もなにか取ってこようかな」
アカネ「むしろこの場で取らなかったエリに驚きだけど……。
そういえばさっき少し話題に出てたポイは、誰も取ってきてないの?」
まき「みたいだねー」
エリ「じゃ、それ取ってこようかなー」
- 386 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:00:26 ID:dTcRFIt20
-
* * *
エリ「ただいまー」
まき「おかえりー。それがポイ?」
エリ「うん。見た目は微妙だね」
とし美「因みにポイはタロ芋をペーストにして発酵させたものなの」
エリ「へえ。じゃあ試しに一口」
とし美「もう一つ因みに。発酵が進んだポイは酸味が出てきて、
あんまり日本人好みの味じゃないんだよ」
まき「へー」
三花「そうだったんだ〜」
エリ「……それを知ってて……私に取りに行かせたというのか……」
とし美「知ってて行かせたよ」
アカネ「鬼ね……」
とし美「ポジションとしては塩気のあるおかずと食べる、白ご飯みたいなものとも聞くね」
エリ「こんなもんが白ご飯と肩を並べてたまるか!!」
三花「まあまあ。騙されたと思ってさ、このラウラウと一緒に食べてみてよ」
エリ「そうやって私を嵌めようとする……どれどれ」
アカネ「そう言いつつも食べてみるんかい」
エリ「……んん!?」
まき「どう?」
エリ「さっきに比べれば、だいぶいけるぞ……これ……!」
三花「お〜、まさか本当に合うとは……驚きだねっ」
アカネ「食べさせた本人がそれ言うの?」
- 387 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:01:20 ID:dTcRFIt20
-
‐ビーチ‐
エリ「飯食った次は……」
三花「海でしょっ!」
まき「しかしアレだねー」
まき「人の海だね」
とし美「どの時期もある程度は混んじゃうよ、仕方ない」
エリ「なんでこんなに混んでるの?」
とし美「私たちみたいなのが一杯いるからじゃないかな」
アカネ「全くその通りね。日本人かはわからないけど、それっぽい人はちらほら見えるし」
エリ「そういえば、ハワイって日本語通じると思ってたんだけどさ」
エリ「さっきからタクシー呼ぶときは英語だよね」
アカネ「……当たり前でしょ。ここは日本じゃないんだから」
エリ「えっ、じゃあ日本語通じるってのは嘘なの!?」
まき「大きな施設だと通じる人もいるだろうけど、全体は無理だろうねー」
エリ「なんか一気にハワイが怖くなってきた……」
アカネ「なんで」
- 388 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:02:41 ID:dTcRFIt20
-
* * *
三花「ふっふっふっ。ハワイに来たからには、結成しなくちゃね」
まき「そうだね!」
とし美「なにを?」
三花「我ら! 桜が丘高等学校バレー部改め……」
まき「桜が丘高等学校ビーチバレー部!」
三花・まき「ここに推参!」
とし美「……お、おう」
まき「あれ?」
まき「とし美ちゃんのテンションが低いね」
とし美「いや、なんというか……」
とし美「別にハワイじゃなくてもよくない?」
三花「ハワイじゃなきゃ駄目なんだよっ!」
とし美「なにゆえ」
三花「実はこの部活名は略されていてね……」
三花「正確に言うと……我ら!」
まき「桜が丘高等学校ビーチバレーとハワイを愛する部!」
三花「なんだよ」
とし美「だいぶ内容に変更があったよ!?」
- 389 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:03:56 ID:dTcRFIt20
-
* * *
エリ「ハワイといえば海だよね!」
アカネ「そうね」
エリ「で、海といえば波だよね」
アカネ「まあ」
エリ「そして波といえば波乗りだと思うんだよ」
アカネ「波乗りねえ」
エリ「というわけで、サーフボードを借りてきちゃいました!」
アカネ「いつの間に!?」
エリ「もうじゃんじゃん乗っちゃうよー」
アカネ「経験者なの?」
エリ「うん。一度も乗れたことないけど」
アカネ「……それは経験者としてカウントしていいの?」
- 390 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:04:55 ID:dTcRFIt20
-
* * *
エリ「……」
とし美「あれ、エリ。どうしたの疲れた様子だけど」
エリ「いやね……」
エリ「その場のノリで物を借りちゃいけないな、と思ってね」
三花「どゆこと?」
アカネ(あの後しばらく頑張ったけど、乗れなかったからねえ)
アカネ(……挙句、地元の親切な人が教えてあげようかと近づいてきちゃうし)
アカネ(もちろん相手は英語だから、エリはしどろもどろでそれどころじゃなく)
アカネ(Thank you! とだけ言ってエリは逃亡)
アカネ「……」
アカネ「エリはサーフィンより先に、英語の学習をしないとね」
エリ「うん……ハワイ怖いわー……」
とし美「なんとなくしかわかってないけど、多分ハワイに罪はないと思う」
- 391 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:05:24 ID:dTcRFIt20
-
* * *
三花「そんじゃ、ホテルに戻って、晩御飯にしようっ!」
エリ「晩御飯かー……突然だけど肉が食べたい」
まき「女子力の欠片も感じられない発言だねー」
まき「でも私も食べたいよ。ラウラウ美味しかったし」
とし美「お、ちょっとガイドブックで調べてみたけど、近くに評判の鉄板焼き店があるみたいだよ」
エリ・まき「そこ行きたい!」
アカネ「決まりね」
- 392 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:06:05 ID:dTcRFIt20
-
‐鉄板焼き店‐
エリ・まき・アカネ・三花・とし美「おおおおお!」
まき「すごいよすごいよ! 炎が高いよ!」
エリ「写真、写真撮らなくちゃ!」
とし美「わ、私も!」
三花「うおおお、燃え上がれ〜ってね!」
アカネ「見てるだけで楽しい気分になっちゃうね!」
- 393 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:08:07 ID:dTcRFIt20
-
* * *
三花「ん〜、美味しい〜!」
とし美「このロブスターもだけど、やっぱりお肉が特に美味しいね」
エリ「うん、肉がうまい!」
まき「だから肉が付く!」
エリ「やめて!!」
アカネ「……食べ過ぎたかな……?」
三花「アカネ、安心して」
三花「みんな一緒だよっ」
アカネ「三花……」
三花「さあさあ、どんどんお食べ!」
アカネ「……ねえ、どさくさに紛れて、人のこと道連れにしようとしてない?」
三花「……気のせいだよ〜?」
- 394 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:08:47 ID:dTcRFIt20
-
‐ホテル‐
まき「食べたねー」
とし美「ちょっと食べ過ぎたぐらいかな?」
三花「明日からは少し抑えめでいこっか〜」
まき「フードコートとか行けば、日本食もそれなりにあるみたいだしね」
とし美「じゃあ明日の昼はフードコート?」
三花「いいんじゃない〜。あっ、でも、二人とも話しとかないと」
まき「私、呼んでくるねー」
- 395 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:09:28 ID:dTcRFIt20
-
* * *
まき(あ、普通に部屋の外に出ちゃったけど、
コネクティングルームだから出る必要ないじゃん)
まき(まあいっかー)
まき(どっちにしろ隣の部屋だし。距離は大差ないよねー)
まき(ノックノック、と)
まき(……)
まき(……あれ。反応がない)
まき(二人とも部屋にいないのかな?)
まき(じゃあ仕方ないや。一回、部屋に戻っておこうっと)
- 396 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:10:32 ID:dTcRFIt20
-
* * *
エリ「どこ行ってたの、まき」
まき「えっ!?」
まき「ど、どういうことなの……エリちゃんに似てる人が、私たちの部屋にいる……」
エリ「いや正真正銘私だけど……」
まき「まさかハワイはクローン技術が進歩していて……」
エリ「だから私は本物だって!」
まき「じゃあエリちゃん!
“これが人間のサガってやつだよ”の、サガを漢字で書いてみてよ!」
エリ「おう!」
【差我】
まき「良かった、本物のエリちゃんだ」
エリ「やっとわかってくれたかー。これで一つ話が進んだね」
アカネ「エリは何一つ進歩してないけどね」
- 397 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:11:47 ID:dTcRFIt20
-
* * *
三花「明日の計画はこんなところでいい?」
まき「異議なーし」
三花「よしよし決定〜!」
とし美「まだ寝るまでにはじかんあるけど、どうする? なにかする?」
エリ「そういえば私、UNO持ってきたよ」
とし美「UNOなんて随分やってないなあ」
エリ「じゃ、せっかくのハワイ記念にやっちゃう?」
とし美「ハワイ記念にはならないと思うけど、いいね。やろう」
- 398 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:12:21 ID:dTcRFIt20
-
* * *
まき「じゃあ順番は私から時計回りねー」
三花「オッケー」
アカネ「“ウノ”の言い忘れは厳しく追及するからね」
エリ「お、アカネがマジになってる」
三花「これはタッグを組むしかないかな〜」
アカネ「へっ?」
アカネ(このまま時計回りだと、まき、三花、私、エリ、とし美の順番……)
アカネ(そしてこの二人が組むということは……)
三花「ほい、リバース!」
アカネ「案の定だ!!」
アカネ(そしてエリのターンに都合よく色が合致したものがあれば……)
エリ「はい、リバース」
アカネ「言わんこっちゃない!!」
アカネ(あー、そして三花の顔。明らかもう一枚リバース持ってますよーって顔だわー)
三花「ごめんねアカネ、またリバース」
アカネ「知ってた」
アカネ(まあ、ここまでくればいい加減リバースも終わ……)
エリ「あ、今度はスキップね。三花の番だよ」
アカネ「な……!」
エリ「へへーん」
- 399 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:13:22 ID:dTcRFIt20
-
アカネ「……やってくれるじゃない」
三花「……」
三花(……あ、なんかアカネがやばいオーラ出してるって、私の勘が必死に騒いでる)
とし美「……」
三花(とし美のあの目、そろそろやめとけってサイン送ってる気がする)
まき「……」
三花(まきも何だか知らないけど、頷いてるし)
三花(まあアカネは、たかがカードゲームで本気で怒る子じゃないけど、
それでも後が怖いし〜……)
三花「……ほい、リバース」
エリ「なっ!」
エリ(まさかまだリバースがあったとは……まあ十分差をつけることには成功した)
エリ(後は通常通りにやっていけば、難なく……)
アカネ「ふう、やっと私の番ね。ドロツー」
エリ(ドロツー!? く、リバースしたせいで、私に効果が……しかし!)
エリ「私もドロツー!」
エリ(これしきの事体、想定してない瀧エリではないわ!)
とし美「あ、私もドロツーね」
まき「私もあるよ、ドロツー」
三花「ドロツー返し!」
エリ(ぜ、全員ドロツーを所持していただと……! マズイ、嫌な予感しかしない!)
アカネ「ねえエリ」
エリ「な、なにかなアカネ?」
アカネ「ドロツー」
エリ「うわあああああ!!」
- 400 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:14:23 ID:dTcRFIt20
-
* * *
まき(初めのゲームの結果はとし美ちゃん一位で、エリちゃんはビリでした)
まき(そして、あの後も数ゲームしてみて)
まき(結構順位も入れ替わったんだけど)
まき(何故かエリちゃんはずーっとビリなのでした)
まき「特別狙われたわけでもないのに、なんでだろうね?」
エリ「わからない……ハワイ怖いわー……」
とし美「だからハワイに罪はないよね?」
- 401 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:15:00 ID:dTcRFIt20
-
* * *
まき「じゃあねー」
アカネ「うん、また明日ー」
「ガチャンッ」
エリ「あー、なんであんなに負けが続いたんだー!」
アカネ「もう運が悪かったとしか言いようないでしょ」
エリ「ハワイに神はいなかったってことか……」
アカネ「また極端な」
エリ「……」
エリ「……そういえばハワイにいるんだよね、私たち」
アカネ「どうしたの、いきなり?」
エリ「だってさ、いつもいる学校じゃなくてさ」
エリ「それどころか日本でもない場所に、こうして五人が集まってるんだよ?」
エリ「こんなに遠くに来ても、すぐ近くで明日を迎えようとしてるんだよ?」
エリ「それってなんだかとってもさ……なんていうか……」
アカネ「なんていうか?」
エリ「……なんていうんだろ」
アカネ「こら」
エリ「だって言葉じゃ言い表せないよ。でもわかってくれるでしょ?」
アカネ「まあ、なんとなくは……」
エリ「良かった」
エリ「……良かった」
アカネ「そんなに嬉しいの?」
エリ「嬉しいよ。よくわからないけどさ」
アカネ「ふふ、わからないことだらけ」
エリ「世の中わからないことの方が多いんだよ」
アカネ「それもそうね」
- 402 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/02/06(木) 14:15:56 ID:dTcRFIt20
-
エリ「……うん」
アカネ「……寝よっか?」
エリ「そうしよっか」
アカネ「じゃ、おやすみ、エリ」
エリ「うん、おやすみ」
エリ「……」
アカネ「……」
エリ「…………」
エリ「……どーん!」
アカネ「わっ! な、なによエリ!」
エリ「今日は一緒の布団で寝よ、アカネ!」
アカネ「どうしたの本当」
エリ「ちょっと修学旅行のアカネ思い出しただけー」
アカネ「うっ」
エリ「……だめ?」
アカネ「だめじゃないけど……」
エリ「やった」
アカネ「今日だけなんだからね」
エリ「アっカネ〜!」
アカネ「ちょ、なによもう!」
アカネ「……てか、今の話聞いてた?」
エリ「なにが?」
アカネ「はあ……まあ、いいか。もう遅いし、寝るよ」
アカネ「今度こそおやすみ、エリ」
エリ「ん、おやすみ、アカネ」
第二十四話「桜高バレー部の渡航の壱」‐完‐
- 403 :いえーい!名無しだよん!:2014/02/06(木) 16:59:26 ID:aophTxNM0
- うおー!来たよー!待ってたよー!
- 404 :いえーい!名無しだよん!:2014/02/14(金) 01:57:07 ID:XpT4wSpo0
- 何か久方ぶりという感じ。
ゆっくりでもいいんで、完結の方よろしく!
- 405 :いえーい!名無しだよん!:2014/02/14(金) 23:33:14 ID:7aOxHJ8Y0
- お、久しぶりだ!
- 406 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:25:42 ID:4Mb3x/vs0
-
【第二十五話】
‐ホテル‐
エリ「あーあ、明日にはハワイを出ちゃうのかー」
アカネ「まだ遊び足りない?」
エリ「ずっとこうしてダラダラしてたーい」
アカネ「こら駄目人間」
とし美「なんかエリの駄目人間っぷりがハワイ来てから悪化してない?」
エリ「なにその元から駄目人間の素質あったみたいな言い振り」
まき「そしてなんとなくアカネちゃんも甘くなった気がするよねー」
アカネ「えっ?」
まき「言葉は今まで通りだけど、声の感じがこう……」
まき「“も〜、仕方のない子なんだからっ”ていう感じ?」
三花「それわかる〜。あとその語尾にハートマーク付けてる感じだよね」
アカネ「なにそのすごく恥ずかしい人……」
三花「アカネ恥ずかし〜」
まき「エリちゃんと同じ部屋だからって、何してるのかなー?」
アカネ「ち、違うから! 何もしてないから!」
アカネ「……」
エリ「……」
アカネ(……最初の夜からずっと同じベッドで寝てるなんて、さすがに言えないわ……)
- 407 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:27:04 ID:4Mb3x/vs0
-
* * *
エリ「朝ご飯食べたら、どうする? 明日の昼には出るんだよね?」
三花「うん、だから今日はお店一杯回って、お土産を買おうと思うよ」
エリ「お土産かー……。ハワイ土産の定番ってなにかな?」
アカネ「定番どころではコーヒーとか、チョコレートじゃない?」
とし美「コナコーヒーってやつね」
エリ「粉コーヒー? 粉末状なの?」
とし美「えっ。どんな形態で売られてるかは知らないけど」
エリ「だって粉コーヒーなんでしょ?」
とし美「確かにコナコーヒーだけど……」
エリ「ほらやっぱり粉末状なんじゃん」
とし美「えっ?」
エリ「えっ?」
エリ・とし美「……えっ?」
- 408 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:27:42 ID:4Mb3x/vs0
-
‐雑貨屋‐
まき「なにやら雰囲気のあるお店だねー」
三花「お、このポーチ可愛い!」
とし美「本当ね。三花に似合うんじゃない?」
三花「買っちゃおうかな〜」
エリ「あ、これ家族に買っていこうかな」
アカネ「どれどれ?」
エリ「木彫りのトーテムポールのストラップ!」
アカネ「……まあハワイっぽいけど、ガッカリされそうね」
エリ「そう?」
三花「ねえねえ、このブレスレットどうかな?」
アカネ「おお、可愛いじゃん」
まき「どうせなら、初日からそういうハワイアンなアクセサリーつけておきたかったねー」
三花「あ、確かに! それ悔し〜!」
とし美「まあ、またいつか五人で来ればいいでしょ」
三花「それもそっか。じゃあ来年に備えて……購入決定と」
とし美「来年に行くことは決定なんだ」
エリ「来年じゃなくても、いつかは五人でまた来たいね!」
- 409 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:28:24 ID:4Mb3x/vs0
-
‐外‐
三花「ふふ、買っちゃったよ〜。来年に備えるって言ったけど、日本で使ってもいいかな〜」
まき「いいと思うよ、可愛いしー」
まき「でもまだ他のみんなはお土産買えてないんだよね?」
アカネ「というか三花も、自分へのお土産しか買ってないしね」
三花「家族向けのお土産屋って感じじゃなかったしね」
三花「今度はスーパー寄ってみない?」
エリ「えっ、スーパーでお土産を?」
とし美「意外とお土産は地元のスーパーで揃うもんだよ」
とし美「しかも地元のスーパーのみならず、日本でお馴染みのあのお店で、お土産も買えるんだ」
エリ「お馴染みのお店か……わかった、ローソンだね!」
とし美「コンビニではないかな」
- 410 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:29:18 ID:4Mb3x/vs0
-
‐ドン・キホーテ‐
エリ「ま、まさかのドンキホーテ……」
とし美「聞いてたとおり、日本のものとは少し雰囲気違うね」
アカネ「でも日本の商品とか売ってる……」
まき「ハワイに来てる日本人向けって感じだねー」
三花「見て見て! ちょうどお土産にいい感じのチョコレートあるよ!」
まき「コナチョコレート!」
アカネ「しかも他のお店と比べて安いね。そこはさすがドンキかな」
とし美「よし、私これお土産にしよっと」
アカネ「あ、私も。あとコーヒーも欲しいんだけど……」
エリ「アカネ」
アカネ「なに?」
エリ「まさかと思うけど、まだブラックサイドなの?」
アカネ「まだ言うか」
まき「エリちゃん、加糖が一番だっていい加減認めようよー」
アカネ「こっちもまだ言うか」
とし美「そんな甘いものが好きなら、これ買えば?」
アカネ「Pancake...パンケーキミックス?」
とし美「味は三種類。日本で焼いて食べてもいいんじゃない。しかも安いよ」
エリ「どれどれ」
エリ「えーと、タロ――」
エリ「私はパス」
アカネ「早っ!」
三花「今、ポイのこと思い出したね?」
まき(ポイはタロイモだからねー)
- 411 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:30:55 ID:4Mb3x/vs0
-
‐外‐
まき「結構買っちゃったねー」
三花「思いのほか安かったからね〜」
アカネ「これでお土産は十分だね?」
エリ「オッケー!」
とし美「それじゃ、また海に遊びに行っちゃう?」
エリ・まき「賛成!」
三花「最後までエンジョイしちゃうよ、ハワイ!」
エリ「ハワイ!」
まき「いえーい!」
「あれあれ? まさかのまさかじゃないですか?」
まき「……あれ、ハワイだというのに悪寒が」
アカネ「なんというか……、ここに来てまでこうなるとは。ご愁傷様」
まき「えっ?」
後輩B「まきせんぱあああああい!」
まき「うわああああ!!」
後輩B「ハワイでも会えちゃうなんて、運命感じますね!」
まき「う、うんソウダネー」
- 412 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:31:27 ID:4Mb3x/vs0
-
後輩A「あれあれ、先輩たちじゃないですか! 旅行ですか?」
三花「そうだよ〜。そっちも?」
後輩C「はい、私たちも旅行です」
三花「特に記念でもないのにハワイ旅行とは、リッチだね〜」
後輩C「いえ、この子が福引きで当てまして」
後輩B「当てちゃいまして!」
とし美「凄まじい幸運の持ち主ね」
後輩B「いやー、あの時はどうして当たったのか私にも謎でした。
しかしたった今、その意味がわかりましたよ」
後輩B「神さまが私たちを巡り合わせようとしてくれたんですね、まき先輩!」
まき「悪魔か、もっと邪悪ななにかの間違いじゃないかな」
後輩A「あ、あの、アカネ先輩たちはいつ帰るんですか?」
アカネ「明日だよ」
後輩A「私たちより一日早く帰っちゃうんですね」
エリ「うう……この悠々自適の生活も明日まで……」
アカネ「自堕落な生活の間違いじゃない?」
エリ「こうなったらアカネー、自堕落な生活させろー」
アカネ「ちょ、抱き着かない! 暑いでしょ!」
後輩C(……いつもどおり熱いなあ)
後輩A「……」
後輩C(そしてなんでこっちは恨めしそうに見てるんだ)
まき「はーなーしーてー!」
後輩B「いーやーでーすー!」
後輩C「こっちはいつも通り」
- 413 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:32:14 ID:4Mb3x/vs0
-
とし美「どうする? お昼はまだなんだけど、一緒に食べる?」
後輩C「あ、はい。そうですね」
三花「さらに賑やかになってきたね〜」
まき「私としてはこうなる前で十分だったよー……」
アカネ「そんなこと言わないでさ、ほら」
まき「うー……」
エリ「それで、何食べる? モコロコ?」
三花「えっ、もころこ?」
エリ「あ、違う。モロココだっけ?」
とし美「それも違くない?」
エリ「ノコノコ?」
三花「それって亀じゃ」
まき「今の気分は?」
エリ「んー、ソコソコ」
アカネ「なにやってんの」
- 414 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:33:01 ID:4Mb3x/vs0
-
* * *
三花「お昼を食べた後は!」
後輩B「運動ですね!」
後輩A「いや休憩挟みましょうよ」
後輩B「そんなことで部長が務まると思うの?」
後輩A「体調管理も立派な職務だから」
後輩B「それもそうだ」
後輩A「認めるの早いな……」
アカネ「まあまあ。休憩してから遊ぼう?」
後輩B「……ですね。それまではまき先輩とお話してます」
まき「いつの間にか私巻き込まれちゃってるねー」
後輩B「嫌ですか?」
まき「……ううん、別にー」
エリ「そういえばお土産は買った?」
後輩C「はい、これを買いました」
とし美「あ、これ日本の漫画……の、英語版?」
後輩C「そうです。ちょっと日本のものとは違って、こっちの人向けに、色々な解説がついてるんですよ」
とし美「なるほど、“TAKUAN”なんて海外の人はわからないもんね」
後輩C「非常に興味深いです」
エリ「……」
後輩C「どうしましたエリ先輩?」
エリ「いや、英語読めるんだなあと思って」
後輩C「先輩つい最近まで受験生だったんですよね?」
- 415 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:33:37 ID:4Mb3x/vs0
-
‐ビーチ‐
エリ「さて、始めようか……」
後輩A「……」
三花「新旧バレー部の全面戦争だよっ!」
後輩B「臨むところです。勝つのは私たちですから」
アカネ「へえ、なかなか言うじゃん」
後輩C「私たちも成長してるんですよ、先輩」
とし美「……あの、一ついいかな」
まき「なに、とし美ちゃん?」
とし美「ビーチバレーで対決することは結構なんだけど、基本ビーチバレーって二対二に分かれるじゃん」
とし美「私たち三年生が五人、二年生が三人」
とし美「これ新旧で対決させると、すごい不平等だと思うんだよね」
アカネ「それもそうね……」
三花「それなら大丈夫!」
三花「うちには“まき”っていう、同年代の後輩がいるからね!」
まき「えっ!?」
- 416 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:34:10 ID:4Mb3x/vs0
-
* * *
まき「……」
後輩B「き、機嫌直してくださいって。私は先輩が例え年下でも、尊敬してますから!」←まきとチーム
まき「全然フォローになってないよー!」
後輩B「でもでも、こうなることは簡単に予見できてたといいますか……」
まき「本当にフォローする気あるの!?」
後輩C「おっと早速いつもの掛け合いです。あの二人は仲良しですねー、解説の三花さん」
三花「あの二人の喧嘩は、堅固な絆の裏返しですからね〜」
とし美「……なにやってるの?」
三花「見ての通り、解説だよ〜」
後輩A「……」
後輩C(そんな呆れた目でこっちを見ないでほしいなあ)
エリ「そこの二人、なにやってんのさー! 始めるよー!」
まき「……いい?」
まき「本当に簡単に予見できるっていうのは、
ああいう常に一緒にいるようなアツアツな二人のことを言うんだよ?」
アカネ「なぜ私たちを指差す」←エリとチーム
後輩B「納得です」
アカネ「納得しないで!」
後輩C「解説席も」
三花「納得だねっ」
後輩A「……まあ、こればっかりは私も」
とし美「バレー部の共通認識ね」
- 417 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:35:05 ID:4Mb3x/vs0
-
エリ「いやいや相手方の言っていることも確か」
エリ「私とアカネは高校生活を共に駆けてきた存在、無くてはならない相棒、
……もはや私の嫁なのさ!」
アカネ「ちょ、ちょっとエリ……!」
後輩B「先輩。これ終わったらアイス買いに行きましょう」
まき「むしろ頭から氷を被った方がよくないかな?」
アカネ「……」
まき「……アカネちゃんが」
三花「今やアカネの頭はオーバーヒート。
ハワイに来てから仲がさらに深まってはいましたが、これは決定的ですね〜」
後輩C「ちょっとその点詳しく聞かせてもらえません?」
三花「うんうん、実はねー……」
とし美「……後でアカネに何言われても知らないよ?」
後輩A(これは私も個人的に気になる)
エリ「さあアカネ。サービスはよろしく!」
アカネ「……」
まき「あっ、すごぶる嫌な予感」
後輩B「えっ?」
エリ「ふっふっふっ……サービスを打つ前から相手を圧倒させるアカネの覇気。
それを味方につけたときの、この優越感よ!」
エリ「はーっはっはっ! さあ、恐怖の前にひれ伏すが――ぐふぉあっ!?」
後輩B「えっ!?」
まき「あーあ、やっぱり」
エリ(な……、なにかが後ろから飛んできた……!?
この感触、間違いなくボール……一体誰が……!)
アカネ「……」
エリ「ま、まさか……!」
アカネ「……そ、そんな恥ずかしいことを皆の前で言うなあああああ!!!」
エリ(はは……、昨日の味方は今日の敵、ってね……)
三花「え、エリ選手ダウン! カウント、ワン、ツー、スリー……」
後輩C「決まったー! この試合、エリ選手のKO負けです!」
とし美「ビーチバレーにKOなんてあるの!?」
後輩A「もう無茶苦茶だ……」
- 418 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:36:01 ID:4Mb3x/vs0
-
* * *
後輩B「いやあ、勝ちましたねえ、まき先輩」
まき「何もしないで勝てたねー」
アカネ「……」
まき「アカネちゃん?」
アカネ「……はあ」
まき(落ち込んでおられる)
アカネ「後で謝らないと……」
まき(あくまで謝るのはこちら、と。律儀だねー)
後輩B「ところでまき先輩、今まさに第二試合が行われているわけですけど」
後輩B「なかなかKOになる気配がしませんね」
まき「そうだねー」
後輩A「そこ、元々バレーにKOなんて無いから!」
三花「よそ見してる暇なんてあるのかな〜?」
とし美「それっ!」
後輩A「しま……っ!?」
とし美「……はい、ゲームセット。私たちの勝ちね」
後輩B「あーあ、よそ見するから……」
後輩A「あんたのせいでしょ!」
後輩C「あそこでよそ見しなければー……」
後輩A「こいつのせいなんだからー!!」
- 419 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:37:00 ID:4Mb3x/vs0
-
* * *
後輩C「さてついに決勝戦となりました」
後輩C「今度の解説には怪我から復帰したエリさんを招いております」
後輩C「エリ先輩、よろしくお願いします」
エリ「よろしくねー」
後輩C「さてこの試合、一人だけ二年生が紛れてしまっていますが……」
エリ「どっちかというと二人なのでは?」
後輩C「なるほど」
後輩C「おや、まき先輩がこっち睨んでます。図星だからでしょうか」
エリ「まき選手の表情が一層険しくなる! これは試合にも期待できそうです!」
後輩C「そんなこんなしてるうちに、両チームの選手が立ち位置についたようです。
先にサービスを打つのは、とし美選手ですね」
エリ「とし美選手は安定性に定評のある選手です。きっちり決めてくれることでしょう」
後輩C「卓球のエリ選手に比べたら、間違いないでしょうね」
エリ「それどこで聞いたの」
- 420 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:37:38 ID:4Mb3x/vs0
-
とし美「行くよ! それっ!」
後輩C「そういえばビーチバレーは二人なので、
レシーブした人が相手のコートに打ち込むことにもなりますよね」
エリ「そうだね」
後輩C「まき先輩大丈夫なんですか?」
エリ「えっ?」
後輩C「いや、今レシーブしてたので……」
エリ「あー、大丈夫大丈夫」
エリ「ちっちゃいけどジャンプ力は人並み以上だから」
まき「ちっちゃくないよー!!」
後輩C「おっとまき先輩、叫びながら怒りのスパイク! これは強烈!」
エリ「ちっちゃいわりには、なかなかの威力です。
しかしとし美選手、悠々とレシーブをしますねー」
後輩C「三花選手、うまくとし美選手の位置に合わせてトスを上げた!」
エリ「さあ決めてくれるか、とし美選手!」
- 421 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:38:17 ID:4Mb3x/vs0
-
とし美(三花、いいボールをありがと)
まき(……来る!)
とし美「くらえっ!!」
エリ「おおっと、とし美選手、狙いが正確だ! 空いてる場所めがけて、ボールが突き進む!」
後輩C「しかし元セッターのまき選手は一味違います!
必死に追いつこうと、手を伸ばしながら灼熱の砂浜にダイブ!」
まき(届けえええーーー!)
後輩B(まき先輩……!)
とし美(……っ!? ダメだ、届く!)
まき(ふふ、甘いねとし美ちゃん……私の実力を舐めてもらっちゃ困るよ……)
まき「それっ! そっちいったよ!」
後輩B「はい、まき先輩! 任されちゃいました!」
後輩B(やっぱりまき先輩は凄いなあ……あんな身体でも、あそこまで出来るんだもん……)
後輩B(私の一生の憧れです、先輩!)
後輩C「おっと、なにやら爽やかすぎて逆に気持ち悪い笑顔でトスを上げている!」
エリ「純粋すぎるとああなるんですねー」
後輩C「ところでエリ先輩は先程純粋な愛を叫んだら、KOされたわけですけど」
エリ「うかつでした」
後輩C「そのKOにしたアカネ先輩はどこへ行ったのでしょう?」
エリ「そこら辺で飲み物買って、頭冷やすとか言ってましたね。
ところでそちらの相方も見当たらないわけですが、どこへ行ったのでしょう」
後輩C「……あれ。本当にいませんね。どこ行ったんでしょう」
- 422 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:38:49 ID:4Mb3x/vs0
-
* * *
後輩A「アカネ先輩!」
アカネ「……あれ、どうしたの。ついて来てたの?」
後輩A「一人でどこに行くのかなと思って。迷惑でしたか?」
アカネ「ううん。別にいいよ」
後輩A「……良かったです」
アカネ「でも皆のところにいなくていいの?」
後輩A「えっと、なんというか、聞きたいことがあったんです」
アカネ「なに?」
後輩A「アカネ先輩っていつからあんなにエリ先輩と仲良しなんですか?」
アカネ「ぶふっ!」
後輩A「ずっと聞きたかったんですよ」
アカネ「よりによって最悪のタイミングでかましてくれるね……」
アカネ「……エリはねえ、一年の頃に部活で会ったのが最初。
初めは落ち着きのない、元気な子だなあと思ってただけだったよ」
アカネ「でも色々な面倒事に巻き込まれていくうちに、私には無いものを持っていることを知って」
アカネ「あとは流れで、仲良しになったんだ。別に面白いエピソードなんかは無いよ」
後輩A「無いものを持っている……」
アカネ「誰でもそうなんだけどね。皆、私に無いものを持っている。
でもとりわけエリはそれがわかりやすくて、話していたいと思ったんだよ」
後輩A「それは……私もそうでしょうか?
先輩に持ってないものを、私も持ってるんでしょうか?」
アカネ「うん」
後輩A「……」
アカネ「……それじゃ、戻ろうか。私も頭冷えてきたし」
後輩A「……先輩!」
アカネ「どうしたの?」
後輩A「私にとっての先輩も、そうでした。ずっと追っていきたいと思ってます」
アカネ「ふふ、本当どうしたの? そんなこと言うキャラだっけ?」
後輩A「い、今だけは腹を割って話そうかと……思って……」
- 423 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:39:22 ID:4Mb3x/vs0
-
* * *
後輩C(……)
後輩C(思い返せば、あいつが先輩に直接カッコいいと伝えられたの、
後夜祭のたった一度きりなんだよねえ)
後輩C(ヘタレすぎるなあ……面白いけど)
エリ「試合終了ーっ!」
後輩C「あ、終わった」
エリ「三花・とし美ペアの勝利!」
三花「とし美、ナイスプレイだったよ〜!」
とし美「そっちこそね!」
まき「負けたー……」
後輩B「さすがに先輩二人を相手にすると辛いですね。
でも、私たち後輩も健闘したと思いません?」
まき「健闘したと思うけど、私たち後輩ってどういう意味?」
アカネ「試合終わったんだ」
三花「アカネおかえり〜。調子はどう?」
アカネ「まあいつも通りに戻ったよ」
後輩A「……」
後輩B「あれ、なんでアカネ先輩と一緒にいるの? てか試合見てくれてなかったの?」
後輩A「どうせあんたが足引っ張って負けるだろうし、見なかったよ」
後輩B「ひどくない!?」
後輩A「まだまだ先輩たちには適わないよ、私たちなんか」
後輩B「いやいや、部長は過小評価しすぎだよ。私たちだって結構食らいついてたんだから」
三花(……お、部長って呼ばれてる)
- 424 :いえーい!名無しだよん!:2014/03/23(日) 23:39:51 ID:4Mb3x/vs0
-
* * *
後輩C「それじゃあ私たちは行きますね」
後輩A「お先に失礼します」
エリ「じゃあねー!」
後輩B「では、まき先輩はこちらへ……」
まき「なんで」
後輩A「ほら、行くよ! ここに来てまで先輩に迷惑かけないの!」
後輩B「ああ運命は残酷だ……!」
三花「まあOGとして呼べばいいしさ。ねっ?」
アカネ「そうだね。時間空いてれば、練習手伝うこともできるよ」
後輩A「はい!」
とし美「……そしていつか、合宿で後輩をしごく側に回るんでしょ?」
三花「もちろんそれが最終目標だよ〜」
後輩C(ご愁傷様と言っておくよ、未来のバレー部たち……)
後輩A「……それでは、この辺で」
- 425 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:41:02 ID:4Mb3x/vs0
-
‐ホテル‐
まき「じゃ、おやすみー」
アカネ「うん、おやすみ」
アカネ「……ふう。今日は一段と疲れたわ」
エリ「まさか後輩たちが揃って出てくるとはね」
アカネ「あとエリがあんな爆弾発言してくるから」
エリ「えー、いいじゃん。私の愛を受け止めろ、アカネっ!」
アカネ「あ、こら! 抱き付くなって!」
エリ「えへへ」
アカネ「まったくもう……。ほら、明日帰るんだから、早く寝るよ」
エリ「んー」
アカネ「……もう。こんなに甘やかしてあげるのは、ハワイにいる間だけなんだからね」
エリ「優しいなあ、アカネは」
アカネ「はいはい。おやすみ、エリ」
エリ「おやすみー」
- 426 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:41:39 ID:4Mb3x/vs0
-
* * *
エリ「……」
エリ「……アカネ、寝た?」
アカネ「……」
エリ(……完全に寝られたかな。一歩遅れてしまった)
エリ(まあでも、その間は私が主導権を握っているのですよ。
つまりは悪戯し放題ってやつ?)
エリ「えい」
アカネ「ん、んー……」
エリ(あ、あれ、起こしちゃった? うわー、こっち向いてきたし)
アカネ「……すぅー……」
エリ(なんだ、ただ寝返りうっただけだった……よかった……)
エリ(……しかしアカネって、こうして見るとホント綺麗だよね)
エリ(どうしてんなにも、アカネは綺麗なのかな。
どうしてこんなにも、ずっと近くで見ていたくなっちゃうのかな)
エリ(うん……、どうして……こんなに近くで……)
アカネ「……」
エリ「……」
アカネ「んー……」
エリ「――っ!?」
エリ(えっ……わ、わたし今なにしようとしてた? えっ!?)
エリ(……わかんない。わけわかんない! ……なにこれ!)
エリ(ああ、もう……、なんなのさ……)
アカネ「……」
エリ(……きっとすごく眠いんだ。だからなんだよ……、うん……)
エリ(早く寝よ……おやすみ……)
・
・
・
- 427 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:42:52 ID:4Mb3x/vs0
-
‐機内‐
エリ「……」
エリ(ああ、楽しかったなー、ハワイ。色んなことがあった、うん)
エリ(海は綺麗だし、時間は自由に使えるし、ご飯は……ポイ以外は美味しいし)
エリ(ホテルは……アカネたちと一杯過ごせたし……)
エリ(……)
エリ(とっても充実してた。身体も心も大満足の毎日)
エリ(……)
エリ(……日本まで、あと少しだ)
- 428 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:43:40 ID:4Mb3x/vs0
-
‐日本に着いて数日後・三年二組教室‐
和「……机を前の方に集めて……うん、そうそう」
和「もう一列いりそうね」
信代「りょうかーい」
曜子(ま、まさかの幸福……夢なら覚めないで!)
アカネ「……軽音部もやることが凄いよね」
まき「このタイミングで教室ライブだもんねー」
まき「黒板、あとはなに書こうかなー」
アカネ「適当に可愛くお花とか書いちゃえば?」
エリ「ふふふーん」
アカネ「……エリ、それはなにを書いたの?」
エリ「羽の生えた熊だよ!」
アカネ(さすがの発想と言うべきか……可愛いけど)
律「おいーっす」
律「……え、いいの?」
和「あら」
信代「あとで拭けばいいじゃん」
エリ「主役たちの入場だね」
まき「りっちゃん、持つよー」
律「サンキューな」
唯「黒板可愛い〜!」
エリ「まだまだ半分しかできてないけどね」
- 429 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:44:07 ID:4Mb3x/vs0
-
律「ロンドン的なテイストも加えてくれよな!」
まき「安心して。ここに“国際的女子高生”って書いといたよー」
澪「こ、国際的……?」
エリ「あと私は“ロンドンがえり!”って書いたよ!」
律「……なあエリ」
律「それってロンドンが“エリ”ってことか?」
エリ「いかにも」
アカネ「えっ」
紬「ふふっ……ロンドンがエリちゃんなんて……!」
梓(ムギ先輩がツボった!?)
エリ「あとは黒板上部に名前を書こうかなーって思ってるんだけど」
エリ「普通の名前を書くんじゃ、つまらないよね?」
澪「いやそこは普通でいいから!」
エリ「そう? 澪ちゃんの候補としては、“みおったん”とかあったんだけど」
梓「あの、私はなんて書かれる予定だったのでしょうか?」
エリ「“あずにゃん”」
梓「唯先輩のせいですよ!!」
唯「ここで私が怒られるの!?」
- 430 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:44:38 ID:4Mb3x/vs0
-
まき「それじゃ二人は普通に書くとしてー」
まき「ムギちゃんはどうする? よく呼ばれてるあだ名ってある?」
紬「あだ名ねー……うーん……」
唯「ムギちゃんのあだ名かー……」
アカネ「……その“ムギ”って、あだ名じゃないの?」
唯「あっ」
紬「そっか! アカネちゃん、鋭〜い!」
アカネ(本人が自覚してなかったのか……)
律「定着しすぎて、あだ名って感じがしないよなー」
澪「……おい律、まだ終わってないんだぞ」
律「悪い悪い。まだ運ぶものあるんだよな」
律「それじゃ、もう一仕事してくるわ」
唯「いってらっしゃ〜い」
律「お前はこっち側だ」
唯「ひええ〜……!」
まき「頑張れー」
- 431 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:45:27 ID:4Mb3x/vs0
-
* * *
澪「……それじゃ、一曲目いきます。“五月雨20ラブ”」
〜♪
――ノリノリになりながら、さり気なくど真ん中を陣取る三花ちゃん凄い。
――このイントロかっこい〜。
澪『Raindrops 降り出す雨』
澪『なんて キレイな〜の』
澪『ソーダ 水みたいに〜ね 街のあくびを止める〜の』
澪『三粒数えて 大粒のをおでこでキャッチ』
澪『雨は私に 語りかけるよ』
――勝手に演奏して、先生に怒られたりしない?
――そんなこと考えるのは野暮ってもんだよ、今はさ。
――いえい! いえい!
――……それもそっか。
澪『キ〜ラリ この夢に』
澪『光をあげたいから』
澪『雨雲〜 ちぎる手を〜』
澪『ポケットから出すよ』
- 432 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:46:07 ID:4Mb3x/vs0
-
* * *
唯「えっと……じゃあ、これで最後にします」
〜♪
――あっ。
――これ、確か文化祭で演奏してた曲だ……!
――でも今度は教室限定……レアだね。
――なんだか余計楽しくなってきた!
唯『キミがいないと何もできないよ』
唯『キミのごはんが食べたいよ〜』
唯『もしキミが帰ってきたら とびっきりの笑顔で』
唯『抱〜きつくよ〜』
――ねえ、しずか。私がもっと前に立たないと見えないんじゃない?
――失礼な! これでも十分前に立ってるよ!
――……圭子もしずかもうるさい。
唯『キミが いないと謝れないよ』
唯『キミの声が聞きた〜いよ』
唯『キミの笑顔が見れれば それだけでいいん〜だよ』
――風子の声が聞きた〜いよ。
――私はなっちゃんの声、聞き飽きちゃってるぐらい聞いてきたけどね。
――えー。なんかそれ、微妙なんだけど。
――ふふ、一応はお礼のつもりだよ。
- 433 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:46:54 ID:4Mb3x/vs0
-
唯『君が そばに いるだ〜けで』
唯『いつも 勇気 もら〜ってた〜』
唯『いつまででも〜 一緒にいた〜い』
唯『この気持ちを伝えた〜いよ』
――慶子ちゃん、いえーい!
――いえーい!
唯『晴れの 日にも 雨の日も』
唯『キミは そばに いてく〜れた〜』
唯『目を閉じれば〜 君の笑顔〜 輝いてる〜』
――あら、憂たちも来たの?
――うん。あの人においでおいでってされたんだ。
――へえ、いちご、いいとこあるじゃん。
――……別に。
唯『キミの 胸に 届く〜かな?』
唯『今は 自信 ないけ〜れど』
唯『笑わないで〜 どうか聴いて〜』
唯『思いを歌に込めた〜から』
――憂のお姉ちゃん、すっごいきらきらしてるっ!
――だってお姉ちゃんだもん!
――わわっ、しかも飛び込んできた!
- 434 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:47:24 ID:4Mb3x/vs0
-
唯『ありったけの ありが〜とう』
――えい、えい、いえーい!
――いえーい!
唯『歌に 乗せて 届け〜たい〜』
唯『この気持ちは〜 ずっとずっと〜 忘れ〜ない〜よ〜』
――あれ、外にいるのさわちゃんと堀込先生?
――ちょっと信代、引きずり込んできなさいよ。
――がってん!
――私も手伝うよー!
――エリ、いつの間にあんなところへ……。
――私もー。
――まきも!?
唯『思い〜よ〜 届け〜』
――今だ!
――ちょ、ちょっとあなたたち?
――いいからいいから、先生!
――ほら、堀込先生も!
――こ、こら、私はいいと言っているだろう!
――いいですからーいいですからー。
- 435 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:48:09 ID:4Mb3x/vs0
-
唯(あれっ、さわちゃん!)
――すごいすごい、先生もライブ来てくれたんだ!
――いえーい。ほら、先生も。
――放課後〜!
梓(なんというか、このクラス……さすが先輩たちのいたクラスです)
紬(自慢のクラスメイトたちよ〜)
律(一年間を一緒に駆けた、仲間だからな!)
――なんか心が一つって感じだよねー!
――……あれ、まきいつの間に戻ったの!?
――なんたってリベロですから。
唯(ムギちゃ〜ん!)
紬(唯ちゃ〜ん!)
澪(二人ともはしゃいじゃって……ああ、私も同じぐらい楽しいよ!)
律(さあ、締めだ! 集中しろよー!)
梓(これで最後――!)
じゃーん――……‥‥♪
- 436 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:49:03 ID:4Mb3x/vs0
-
‐外‐
エリ「……いやあ、今日の演奏はすごかったね」
アカネ「本当ね。他のクラスには申し訳なかったけどね」
エリ「へへーん、私たち三年二組の特権だーい」
アカネ「まあ唯ちゃんの妹さんとかは来ていたみたいだけど」
エリ「あ、そうなの?」
アカネ「あとオカルト研」
エリ「おー、意外なゲストが」
アカネ「……オカ研にもお世話になったよね、そういえば」
エリ「文化祭だね。大変だったよねー、お墓がなくなっちゃってさ」
アカネ「そうそう。この一年を振り返ると、本当色々な人と出会ったり、喋ったり、
助けたり、助けられたり……。数えきれないぐらいのことが起きてるんだよね」
エリ「なにしんみりなってんのさ。卒業式はまだだよー」
アカネ「そうだけど。でも、逆を言えば、あと卒業式だけなんだよ私たち」
エリ「……あー、そうだっけ」
アカネ「本当、あっという間だったよね」
アカネ「って、今こんな話してもだけど。卒業式までお預けにしないとね」
エリ(……まだだよって言っておきながら、私の方が整理ついてないっていうね)
アカネ「あっ、そうだ」
アカネ「卒業式のあと、バレー部で誰かの家に泊まりしようって、話してたじゃん?
あれ私の家に泊まることになったからね」
エリ「そのことなら三花から聞いてるよ。いやあ久しぶりだねえ」
アカネ「真剣に各々で勉強初めてからは、来てないもんね」
エリ「前にアカネの家で揃ったのは、夏休みの宿題のときかな?」
アカネ「あー……そうだった。あの時のエリはどうしようもなかったね」
エリ「面目ない……」
- 437 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:49:48 ID:4Mb3x/vs0
-
アカネ「いいっていいって。もう受かったんだから。変わらずバカだけど」
エリ「ば、バカにするな!」
アカネ「ふふ、ごめんごめん」
エリ「……私だって、この一年で心境に大きな変化があったんだからね」
アカネ「へえ、どんな?」
エリ「……悩まない性格だったのが、いま色々悩むようになってる」
アカネ「それは珍しい」
エリ「……というか気持ちの整理がつかない」
アカネ「別れることが辛いの?」
エリ「皆と別れることもそうだけど……、アカネに関することが一番整理ついてないんだ」
アカネ「私?」
エリ「……ちょっと今の私は、普段の私じゃないかもしれないね。
こんなに色々なことを悩んでるぐらいだし」
エリ「だからアカネ。今から言うこと、多分驚くと思うけど、ちゃんと聞いててほしいんだ」
アカネ「……うん」
エリ「ありがとう。それじゃアカネ、一つだけ提案……というかお願いなんだけど」
エリ「私とキスしてくれない?」
アカネ「えっ」
アカネ「……はあっ!?」
第二十五話「桜高バレー部の渡航の弐」‐完‐
- 438 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/23(日) 23:51:56 ID:4Mb3x/vs0
- 映画けいおんの教室ライブではバレー部の子たちが大活躍
それに比べれば大したことじゃないのですが、次で最終回です
- 439 :いえーい!名無しだよん!:2014/03/24(月) 21:23:30 ID:XwDj0p6E0
- いよいよ完結ですかー名残惜しいですなぁ
長いこと楽しませてもらってます!ありがとうございます!
…番外編あってもいいですよ チラ
- 440 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 22:53:24 ID:fbpeR1FM0
-
【第二十六話】
‐アカネの部屋‐
三花「それじゃまず、みんな卒業おめでと〜!」
まき「おめでとー!」
三花「皆、ちゃんと注いである? まだ誰も飲んでないね?」
エリ「オッケー」
三花「じゃ、かんぱーい!」
とし美「乾杯」
アカネ「……」
とし美「どうしたのアカネ?」
三花「飲めないなら、無理しないでいいんだよ?」
アカネ「そもそも飲もうとしてる時点でアレだと思うんだけど……」
アカネ「……いや、やっぱ私も飲むよ。ん、乾杯」
- 441 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 22:54:20 ID:fbpeR1FM0
-
* * *
まき「あー、赤甲羅! 今の誰!?」
とし美「誰だろうねえ。お先に失礼」
まき「絶対とし美ちゃんでしょ!」
とし美「悔しいなら反撃すればいいじゃない」
まき「うー……このアイテムボックス取って反撃に出るよー!」
まき「……よし、赤甲羅きたよー」
三花「その赤甲羅もらうね〜」
まき「このタイミングでテレサ!?」
三花「ついでに赤甲羅使うね〜」
まき「三花ちゃん、私のすぐ後ろの順位だったよねー!?」
とし美「ちなみにこのレースでビリになった人は買い出しだから」
三花「飲むものの補充と、つまめるものをお願いね〜」
エリ「あれ。だとしたら、まきに買い出しに行かせて大丈夫なの?」
とし美「あー……絶対二十歳未満に見られちゃうね、こりゃ」
まき「安心していいのかよくないのかわからないよ」
アカネ「怒っていいとは思うよ?」
- 442 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 22:54:51 ID:fbpeR1FM0
-
まき「じゃあ私がビリになったら、アカネちゃんが付き添いね」
アカネ「えっ」
三花「それなら大丈夫だね〜」
アカネ「ちょっと、なんで私なの!?」
とし美「そうこう言ってるうちにエリがゴールしちゃってるよ?」
エリ「へへーん、一位だ!」
アカネ「あ、うん……」
三花「……あれれ、アカネが二位じゃん。いつの間にっ!」
アカネ「まあ私の家のゲームだし」
まき「……」
とし美「……私もゴールね」
三花「私もゴール!」
まき「って、いつの間にやら私ビリになってるよー……」
まき「じゃあアカネちゃん」
アカネ「なんで私が……」
まき「いいからいいから。ねっ?」
アカネ「はあ……」
- 443 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 22:55:18 ID:fbpeR1FM0
-
‐外‐
まき「ふー……まだ寒いねー。三月だけど、夜は冷えるよー」
アカネ「それでなに。私を連れ出したのには理由があるんでしょ?」
まき「……その理由はアカネちゃんが一番知ってるんじゃないかなー」
アカネ「はあ……どうせエリのことでしょ」
まき「なにがあったの? なんか二人ともお互いを少し避けてるみたいで、いつもの二人じゃないよ?」
アカネ「別に。ちょっと人には言いにくい、複雑な事情がね。だからあんまり聞いてほしくないかな」
まき「無理に聞き出そうとなんかしないよー。嫌がることは絶対にしないから」
アカネ「そう。それなら、早く買い出し済ませちゃおっか」
まき「……とか言って、そう簡単に終わらせると思ってる?」
アカネ「えっ?」
まき「ここを通りたくば、私を倒すんだアカネちゃん!」
アカネ「まき、結局三年生になっても身長伸びなかったね」
まき「ぐぼぁ!」
アカネ「はい倒した」
まき「て、敵ながらあっぱれだよアカネちゃん……。
でも私は負けない! アカネちゃんがエリちゃんと仲直りするまでは!」
アカネ「喧嘩してるわけじゃないんだけどな……」
まき「えっ、そうなの?」
アカネ「ん、まあ……これ以上は話さないけど」
まき「ふーん……じゃあ絶対二人で解決できるんだね?
話さないってことは、その覚悟があるってことだよね?」
アカネ「……うん」
まき「それならいいよ。じゃあ買い物行こうかー」
アカネ「ああ、まきはどっちにしろ店に入らなくていいよ。まきは小さいから」
まき「……アカネちゃんのいじわる」
- 444 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 22:55:46 ID:fbpeR1FM0
-
‐アカネの部屋‐
とし美「なんでもないことは無いでしょ」
エリ「本当になんでもないし」
とし美「だって二人ともおかしいよ? 話してる時もぎこちない、というか全然二人で話そうとしないし」
三花「卒業式前に、なにかとんでもないことやらかしたの〜?」
エリ「……まあやらかしたといえば、やらかした……かも」
とし美「じゃあなんでも無かった訳じゃなかったんだ」
エリ「いやだから何でも無かったわけじゃなくないんだって!」
三花「えっ、それってどっち?」
エリ「……どっちだろう」
とし美「言った本人でしょ!」
エリ(……あの日。私が不意に思いついたことを、考え無しに口走って……)
- 445 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 22:56:16 ID:fbpeR1FM0
-
‐数日前・外‐
エリ「それじゃアカネ、一つだけ提案……というかお願いなんだけど」
エリ「私とキスしてくれない?」
アカネ「えっ」
アカネ「……はあっ!?」
エリ「……」
アカネ「……あ、あのさ。それ本気で言ってるの?」
エリ「わかんない」
アカネ「えっ?」
エリ「……私は、私の気持ちが整理つかなくて、なにを考えてるのかもさっぱり。
でもあの日、ハワイで一緒のベッドに寝てた時ね、確かに私は幸せだった」
エリ「それだけはきちんと理解できてる……」
アカネ「……」
エリ「だからこの気持ちが一体どこへ向いているのか、私……確かめたいの……」
アカネ「エリは、あの時どういう気持ちで一緒に寝ていたの?」
エリ「えっ?」
アカネ「答えて」
エリ「えっと……ただ幸せだった。満たされていたと思う」
アカネ「……そうなんだ」
エリ「ごめん。気持ち悪かったよね」
アカネ「別にそんなことはないけど……。それじゃ、なに。
私とキスすることで、その気持ちの正体が掴めるってわけ?」
エリ「うん……」
アカネ「つまり私とのキスは……単なる試金石なの?」
エリ「えっ?」
- 446 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 22:56:47 ID:fbpeR1FM0
-
アカネ「私はエリの気持ちを知るために、キスしなくちゃいけないの?」
エリ「そ、そんな違う……!」
アカネ「わかってるよ。エリは考えなしに、色んなことしちゃう子だもんね。
だから今回の“これ”も、結局は冗談で済ませば終わること」
エリ「冗談のつもりで言ったんじゃ……!」
アカネ「じゃあ私のキスは、エリにとってその程度のものなの!?」
エリ「ち、ちがうっ!」
アカネ「……じゃあなんなの」
エリ「……」
アカネ「ねえ。教えてよ」
エリ「……」
エリ「……さっきの発言は全面的に私が悪かった。ごめん」
エリ「だからいつもの冗談の一つってことで、受け取っておいて」
アカネ「……わかった」
エリ「……そ、それじゃ私はここで」
アカネ「うん」
エリ「また卒業式で、ね」
アカネ「うん……」
- 447 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 22:57:22 ID:fbpeR1FM0
-
‐現在・お店‐
アカネ(自分で冗談にすればいいって……逃げ道を作っておいて)
アカネ(そこに誘導させたら、今度は自分が落ち込むんだもん。
とことん救えないよね、私って)
アカネ(……謝らなくちゃ、いけないよね。でもなんて謝ればいいの?)
アカネ(キス……なんて、そんな……もう、どうすればいいのよ、ばか……。
痛くて、痛くて、まともに顔見て話せる気がしないよ……!)
アカネ「……はあ……とりあえず早く買って帰ろう」
- 448 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 22:58:44 ID:fbpeR1FM0
-
‐アカネの部屋‐
エリ(考え無しにあんなこと言っておいて……。
アカネの気持ちもロクに考えずに……)
エリ(それで最後は冗談ってことにして逃げるとか、最低だよ私)
エリ(謝らなくちゃ、絶対に。それも早めに)
エリ(どうやって謝ろうか? 堂々とした方がいいよね)
エリ(でも内容が内容だからなあ……他の皆の前じゃ、ちょっと謝れないし……)
エリ「うーん……」
三花「エリ、なに悩んでるの?」
とし美「どうせアカネのことでしょ」
エリ(……多少力ずくにでも、皆には黙ってもらうしかないのかな)
三花「ま、話したくないことなんて私にもたくさんあるわけだ。
ここは一つ、気分転換にアカネの部屋を漁ろうじゃないかっ」
とし美「後が怖いという意味では、最悪な気分転換ね」
三花「大丈夫大丈夫、床に転がってるものをちらっと見るだけだから〜」
とし美「まあその程度なら……いやいやダメだって」
三花「まあまあ〜……って、おや」
とし美「どうしたの?」
三花「京都のガイドブック見つけたんだけど……」
とし美「修学旅行に行ったからね」
三花「これ、修学旅行終わった後に出版されたやつだよ?」
エリ「あっ」
とし美「……なるほど。そういえばアカネ、修学旅行でひそひそと二人の京都旅行の話してたね。
これは今後行くかもしれない旅行のためのものってわけだ」
エリ「……」
三花「二人っきりとは、なかなかアツアツな二人だねっ!」
エリ「やめて」
三花「照れんなって〜」
エリ「本当にやめて!!」
- 449 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 22:59:20 ID:fbpeR1FM0
-
三花「えっ……」
エリ「……」
三花「ねえエリ、アカネとなにが……」
とし美「三花。話したくないことは誰にでもあるんでしょ」
三花「……そうだね」
エリ「ごめん。なんか空気悪くしちゃったね」
三花「いや、いいんだよ。そんな遠慮する仲でもないでしょ?」
エリ「……ありがと」
まき「ただいまー」
アカネ「ただいま」
とし美「二人ともおかえり。ずいぶん買ってきたね」
アカネ「つまめるものが中心かな」
三花「……よーし、じゃあ朝まで語り明かすよ〜!」
とし美「その前に。晩御飯はどうする?」
アカネ「それなら私が用意してる。もう食べちゃう?」
まき「食べたい!」
アカネ「ふふ、じゃあ行こうか」
エリ「……」
アカネ「……エリも、行こ?」
エリ「あ、うん」
- 450 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 22:59:53 ID:fbpeR1FM0
-
‐リビング‐
アカネ「はい、お待たせ」
まき「鍋だー!」
まき「冷えた身体には最高のごちそうだよー」
アカネ「私にもちょうどよかったよ。それじゃ、いただきます」
「いただきます!」
三花「よ〜し、まずはこのお肉から……」
エリ「あ、それ私が取る予定だったやつ!」
まき「鍋のある場所、サバイバルありと言われてるよねー」
とし美「他にも具材は一杯あるっていうのに……」
アカネ「そう、ゆっくり食べてていいんだよ。まだまだ具材はたくさんあるんだから」
エリ「ご飯のおかわりは?」
アカネ「……それもたくさんあるから安心して」
エリ「そんじゃ、早速ご飯を大盛りに――」
エリ「あ……やっぱりいいや。なんでもない」
アカネ「……そ、そう」
三花(こりゃ重症だな、二人とも……)
- 451 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:01:19 ID:fbpeR1FM0
-
まき「……そういえばアカネちゃんって一人っ子なんだよねー」
アカネ「そうだけど、どうしたのいきなり」
まき「私がアカネちゃんに会った時の第一印象って、姉妹の中のしっかり長女って感じだったんだよー」
アカネ「えー、そう見える?」
とし美「しっかりしてるからね」
三花「とし美にお兄ちゃん、っていうのもわりと意外だったけどね〜」
とし美「あの兄貴のことは忘れてくれても構わない」
まき「サンタコスを彼女に着せようとしたお兄ちゃんのことだもん、今すぐ忘れたいよね」
とし美「その割にはしっかりと覚えててくれてありがとう、早く忘れてちょうだい」
三花「まきはもう間違いなく妹だよね」
まき「背丈だけで言ってない?」
三花「ううん、中身も含めてだよ〜」
まき「余計ショックだ!」
アカネ「まあほら、まきはバレー部のマスコットポジションだったから」
まき「今日のアカネちゃんは容赦ないねー」
アカネ「元々こんな感じだったでしょ、私たちって」
三花「いつもノーガードの殴り合いをしてる、それが私たちだねっ」
とし美「下手な運動部より過酷に聞こえるんだけど」
- 452 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:02:02 ID:fbpeR1FM0
-
とし美「……でもまあ実際、下手な運動部よりは大変だったね」
三花「うんうん。だからずいぶんと上手くなったって、自分でもわかるし」
アカネ「それでもあの大会では賞状も貰えなかったんだから、上には上がいるもんだよねえ……」
とし美「でも二年生の時には貰ったよね」
まき「あっ、卒アルに載ってたやつだね!」
とし美「そうそう。今持ってる?」
まき「うん。これでしょ?」
エリ「……懐かしいなあ」
三花「一個上の先輩が引退した後の大会だったよね。
初めて私たちが主役だった大会だから、皆して気持ち悪いぐらい楽しそうに笑っててさ」
とし美「でも先生の“卒アルに載せるかも”っていう言葉で、ちょっと顔をひきしめちゃったんだよね」
エリ「あの時は“変なぐらい笑ってる姿が載るのは嫌だ”って。今思うと勿体なかったよ」
三花「ねっ」
とし美「これはこれでいい写真だと思うよ」
三花「しかしエキゾチックさが足りない!」
とし美「異国情緒を求めてどうする」
まき「グローバル女子高生に……」
アカネ「それ軽音部じゃなかったっけ」
三花「……あっ、そういえばお風呂どうするの?」
アカネ「うちのに入ってもいいけど、近くに銭湯があるから、
そこでもいいかなって思ってるけど」
まき「折角だから広いお風呂に入りたいなー」
アカネ「それじゃ食べ終わってから行ってみよっか」
- 453 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:03:19 ID:fbpeR1FM0
-
‐銭湯‐
エリ(……考えてみれば、アカネはいいのかな。
あんな発言した人と、一緒にお風呂入るなんて)
三花「エリ、どうしたのぼーっとして? もう皆入っちゃったよ?」
エリ「ねえ三花」
三花「ん〜?」
エリ「三花はさ、今までただの友達だと思っていた人が、急に変化を求めた……とも取れる行動をしたとして、
その人のことを今まで通りの目で見ることができる?」
三花「ん〜……完全に元の通りっていうのは、難しいんじゃないかな」
エリ「だよね……」
三花「ただこれは中学のときの話なんだけど、私が男子から告白されてね」
エリ「こ、告白!?」
三花「驚きすぎだよ〜。でもまあ、断っちゃったんだけどね」
エリ「そ、そうなんだ……」
三花「……その後でもその男子とは、特にこれといった不和もなく仲良くしてたよ。
ただやっぱり最初の方は少し、ぎこちなかったかもね〜」
三花「でも時間が経つ度に、そういうのは薄れていっちゃうもんだよ。
だって“実質的に”その子は変わってないんだから」
エリ「え、だって告白してきたんでしょ?」
三花「それはそれ、これはこれだよ〜。私はその人を恋人としては好けなかった。
けれど友達としてはやっぱり好きだったんだよ」
三花「友達として見たとき、やっぱりその子はなにも変わってなかったんだ」
エリ「そのあと、友達としてでも仲良くすることに抵抗はなかったの?」
三花「友達でいる“だけ”なのに、自分が改めて恋愛対象になるって思っちゃうの?
それすっごい自意識過剰ってやつじゃない?」
エリ「あっ」
三花「そんな警戒する必要ないんだよ。きちんと自分を保って、自分の気持ちを伝えられれば。
その境界線を無理やりにでも越えようとしてくる輩は、ぶっとばしちゃえ!」
エリ「ぼ、暴力には発展してほしくないかな……」
三花「……それで、どっちが告白しちゃったの? アカネの方から?」
エリ「えっ!?」
三花「お、まさか本当にそうだとは〜」
エリ「ナンノコトヤラ」
三花「ここまで誘導されておいて、今更隠せると思ってるの〜?」
エリ「……嵌められた」
- 454 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:04:12 ID:fbpeR1FM0
-
* * *
エリ「……このこと、誰にも話さないでよ」
三花「わかってる。この秘密はお墓まで持っていくよ」
三花「しかしまあ、今回の事態は……エリがねえ……」
エリ「わかってるよ私が悪いことなんか!!」
エリ「でもでも、いつ謝ればいいのかわかんないし……どうすればいいのか……!」
三花「エリはさ、自分の気持ちに答えが出ればいいんだよね?」
エリ「……うん」
三花「まあ思春期特有のものっていう話も聞いたことあるからねえ」
三花「私にも見分け方はわからないや。
でもアカネを、悪気がなかったとしても、使おうとしたのはいけないね」
エリ「うん」
三花「正直自分の気持ちなんか、自分以外に答えを出せないよね……。
しかもその答えは確実な正解とは限らないし、そもそも他人の手が加わってる可能性もあるし」
三花「どうしようもないんじゃないかな」
エリ「それ三花が言っちゃうか」
三花「あはは〜……ごめん。相談相手になりきれてないよね」
- 455 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:04:50 ID:fbpeR1FM0
-
三花「でもエリはこの選択を全てだと思わない方がいいよ」
三花「アカネとの関係はこれで終結するわけじゃない」
三花「だって恋愛とか結婚とか、そういうのが人間関係の終結だとしたらさ、
別れや離婚っていうのは何になるわけ?」
三花「そういう意味では、別れや離婚が人間関係の終結でもない。
私と、私に告白してきた男友達みたいにね」
三花「どこまでも道は続いているんだ。私たちが生きている限り、ずっと」
三花「だからエリも不安にならないで、まずは恐れず話し合ってみて。
全てはそこからだよ。ねっ?」
エリ「……」
三花「へへ、らしくない言い方になっちゃったね。よし、さっさとお風呂入ろ〜!」
エリ「……ありがと」
三花「なんだよ、らしくないなあ〜」
エリ「本当……ありがと!」
三花「わかったらさっさと風呂に行った行った!
……二人きりで話せる時間は、確保できるように協力するからさ」
エリ「うん!」
- 456 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:05:38 ID:fbpeR1FM0
-
* * *
三花(行ったかな。さて、と……)
三花「……出てきなよ、中西ぬす見」
とし美「私はとし美だ。仕方ないでしょ、ちょっと忘れ物しちゃって、戻ろうとしたらこれだもん」
三花「まあ別に軽蔑なんかしないけど〜。……でも今の発言でエリを軽蔑するなら、私は許さないよ」
とし美「そんなことするわけないじゃん。協力するって」
三花「そか」
とし美「うん」
三花「じゃあ後は、まきをどうするかだね〜」
とし美「あの子なら、飲めばすぐに寝ちゃいそうだけどね」
三花「子供かっ!」
とし美「いやいや大人でもそういう性質の人、いるわけだし。まきならなおさらね」
三花「あ〜でも確かに、さっきちょびっと飲んだだけで眠そうだったよね〜」
とし美「ゲームで目覚めてたみたいだけど」
三花「つまりゲームとかをさせず、ただちょっと飲ませればいいわけだね?」
とし美「そういうこと。……というかもし私がここで会話を聞かなかったとしたら、
三花は私をどうするつもりだったの?」
三花「私が酔ったふりして、とし美を外に引きずっていく予定だったよ〜」
とし美「抵抗したら?」
三花「気を失ってもらってたかなっ」
とし美「怖いわ!」
- 457 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:06:15 ID:fbpeR1FM0
-
* * *
まき「最近気づいたことがあるんだけど、アカネちゃん聞いてくれる?」
アカネ「うん」
まき「常々私は、アカネちゃんが持ってるものの多くを持ってないなあと思ってきたんだよ」
アカネ「へえ。例えば?」
まき「身長とか背丈とか上背とか」
アカネ「全部同じじゃない」
まき「でもついに、私が持っていて、アカネちゃんが持っていないものを発見したんだよー」
アカネ「そんなの沢山あると思うけど、例えば?」
まき「小動物っぽさ」
アカネ「ああ、うん……」
まき「……」
アカネ「……まき、無理してない?」
まき「もー! せっかく私が自虐ネタをしてまで励まそうとしてるのに、なんでそんな微妙な反応なのー!」
アカネ「えー……」
まき「今のアカネちゃんを笑顔にできるのは、やっぱりエリちゃんしかいないかー」
アカネ「え、エリはともかく……私は今も笑顔だよ?」
まき「それは私の自虐ネタに対する苦笑いだよね?」
アカネ「そうだけど」
まき「アカネちゃん酷い!」
アカネ「どうしろと!?」
- 458 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:06:45 ID:fbpeR1FM0
-
まき「ていうか皆どこ行ったの!? とし美ちゃんは忘れ物を取りに行ったきりだし、
三花ちゃんと、当人のエリちゃんはそもそも入ってこないし……」
エリ「私がどうしたって?」
まき「あ、エリちゃん!」
エリ「なにー、私についてなに話してたのさー」
アカネ「……」
エリ「……あ、アカネ……」
エリ「あのさ、話があるんだ。だから後で……」
アカネ「……うん」
エリ「良かった。聞いてくれるんだ。ありがと」
アカネ「絶対そうしないといけない……、そう思うから」
エリ「……家に戻って、二人きりの時間が作れたら、そこで」
まき「ねえ二人ともなに話してるのー? 聞こえないよー」
エリ「まきには難しすぎる話だよ」
まき「そんな難しい話を、エリちゃんが理解できるとは思えないんだけど……」
エリ「私が馬鹿で悪かったな!!」
- 459 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:07:24 ID:fbpeR1FM0
-
‐アカネの家・リビング‐
アカネ「ただいまー」
アカネ母「おかえり。あんたたち、どこで寝るの?」
アカネ「リビング使っちゃダメ?」
アカネ母「ん、わかった。それじゃ布団出しといてあげる」
アカネ「ありがと」
まき「……」
アカネ「まき?」
まき「……遺伝、なのかなあ」
アカネ「和嶋家の様子が大体わかった気がするよ」
- 460 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:08:17 ID:fbpeR1FM0
-
* * *
三花「飲むものもつまむものも完全に揃ったことだし、始めようか」
三花「さあ飲むよ!」
まき「いえー」
エリ「いえー」
三花「改めて、お互い卒業おめでとう。かんぱーい!」
とし美「乾杯」
三花「……ふう」
三花「さて、ちょっとこれを見ていこうか」
アカネ「卒アル?」
三花「積もる話もあるだろうしさ、これ見ながら話そうかなーって」
エリ「そういえば卒アル写真で唯ちゃんがなにか嘆いていたような」
三花「この前髪ぱっつんのことかな?」
エリ「なんでも最後の最後まで、先生に差し替えるよう嘆願していたとかいないとか」
とし美「結構可愛いと思うけどね」
アカネ「本人は“前髪がー……前髪がー……”って、ずっと言ってたけど。
ついでに和ちゃんから聞いた話だと、小学校と中学校でも同じ悩みを抱えてたとか」
とし美「これで小中校コンプリートってわけ?」
まき「全然嬉しくないねー」
とし美「……にしても小中校と一緒の二人ってなかなか凄いと思う」
まき「りっちゃんと澪ちゃんもそうなんだよー」
とし美「あそこは幼馴染に恵まれた部活だったんだ」
三花「和ちゃんは軽音部じゃないけどね〜」
- 461 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:08:48 ID:fbpeR1FM0
-
三花「でも幼馴染って、私にはいないからどんな感覚なのか気になるんだよね〜」
エリ「あ、私いるよ」
三花「えっ、どんな感じ? 普通の友達とちょっと違うの?」
エリ「どうだろ……一緒にいる期間は長いから、安心感あるよね。
でもそれは他の親友にでもいえることだし……大差ないのかも」
三花「そんなもんか〜」
まき「恋愛関係になるとか、そういうことはないのー?」
エリ「えっ」
まき「そういうの創作でよくあるからさー」
エリ「ん、んーと、無いかなあ……」
アカネ「……」
まき「エリちゃん?」
三花「おっとまき、手が止まってるよ〜! ほらほら飲んだ飲んだ!」
まき「ちょ、待っ、三花ちゃん……、そんなにいきなりは飲めないってばー!」
とし美「ダメだよ三花。あくまでゆっくり飲ませてあげないと」
三花「え〜、でもまきにも飲めるようなものばっかだよ?」
とし美「確かにジュースみたいな味かもしれないし、まきにとっては飲みやすいかもしれないけどさ」
まき「暗に私の舌が子供だと言っているね?」
とし美「大人でも飲めない人はいるよ。だから舌が子供だから飲めないっていう話じゃない」
まき「じゃあどんな話?」
とし美「まきは子供だなーって話」
まき「私にとっちゃなにも変わんないよ!!」
三花(……よしよし話題は変わった。とし美、ナイスっ!)
とし美(これぐらいなんてことないって。乗りかかった船だしね)
とし美(一人だけ部外者みたいなまきは、ちょっとかわいそうだけど)
まき「もー!」
とし美(でも元々そういうキャラだしいいか)
- 462 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:09:35 ID:fbpeR1FM0
-
* * *
まき「大体ねー……私ばかりがねー……そんな不幸に……」
まき「……すぅー……」
三花「あれ、おやすみかな?」
とし美「ちょっと寝かしてくるよ。三花、そっち持って」
三花「ん」
アカネ「あ、私も手伝うよ」
とし美「いいっていいって。二人はそのままここで待ってて」
三花「そういうこと〜。じゃ、行くよ」
アカネ「あ……」
アカネ(……行っちゃった、のはいいんだけど、布団はここにあるんだよ?
あの子たち、まきをどこに連れて行っちゃったの?)
エリ「……」
アカネ(……ああ、そういうこと。気を遣ってるってわけね。
いや確かにありがたいんだけど、突然すぎて心の準備が……)
エリ「……銭湯で言ったこと」
アカネ「えっ?」
エリ「今二人きりだから、話すよ?」
アカネ「ああ、うん」
アカネ(心の準備なんて、悠長なこと言ってられないか)
- 463 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:10:03 ID:fbpeR1FM0
-
エリ「……」
アカネ(私の心はどんなにざわついてるか。エリは知ってるのかな。
そして聞いてくれるのかな、私のこの鼓動を……)
エリ「えっと……それじゃ、まずは……」
アカネ(……まず私が伝えたいこと、それは……)
エリ「ほ……本当にごめんなさい!!」
アカネ「えっ……?」
エリ「私、考えが足りなかった。自分の気持ちは、自分の中で解決するものだよね。
それもキスを使ってなんとかするなんて、許されないことだよね」
エリ「互いがそういう関係を受け容れてるならまだしも、
そうじゃないときになんて……私最低だった」
アカネ「……」
エリ「しかもそれを冗談で済ますとか……ありえないよね」
アカネ「そ、それは誘導した私も悪かったんだし、謝らないで……」
エリ「アカネに非なんて無いよ」
アカネ「ううん! 私、エリの言ったことが冗談であってほしいって!
きっと心のどこかで、そう思ってたんだよ。だから誘導なんかしたんだ」
アカネ「……私、怖かったんだ。なにかが変わって、壊れて、元通りにならないことが……」
エリ「へへ……それ私と同じだね」
エリ「アカネと同じ気持ちだったから、簡単に誘導されちゃった」
- 464 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:11:09 ID:fbpeR1FM0
-
アカネ「エリ……」
エリ「でももう誘導されない。けじめはしっかりつけるから」
エリ「それに……元通りは無理だけど、私たちの関係は終わるわけじゃない。
ちょっといびつな形になっても、いつまでも仲良しでいれると思うから」
エリ「って、これ私のセリフじゃないよね。ごめんごめん」
アカネ「ううん。エリの口からそう言ってもらえて嬉しい。
私も同じ気持ちだよ。どんな形になっても、エリとは仲良しでいたい」
エリ「生きてる限り?」
アカネ「ずっとね」
エリ「……あー、もう!」
エリ「そういうこと簡単に言えちゃうんだよね、アカネは」
アカネ「まっすぐさではエリに負けるよ」
エリ「そんなに私、まっすぐなのかな?」
アカネ「まっすぐだよ」
エリ「アカネはそこまでじゃないってこと?」
アカネ「うーん、そうだね……エリに比べちゃうと」
エリ「そっか……」
アカネ「……あー、ごめん。やっぱ無理。今回ばかりは、私の方がまっすぐでいさせて」
エリ「えっ?」
アカネ「自分の気持ちに確かな答えなんて出せていない。
だけど、言わせて。私の方からこんなこと言うのもおかしいと思うけど、言わせて」
アカネ「瀧エリさん。私はあなたが好きです」
エリ「は……はいっ!?」
アカネ「……」
エリ「い、いや、なんで……、えっ!?」
- 465 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:11:56 ID:fbpeR1FM0
-
アカネ「言ったでしょ。私、怖かったって。
でもエリは、一度変化したり壊れたりしても仲良しでいてくれるって、言ってくれた」
アカネ「それに、こうもエリは言っていたよね。
私と同じ気持ちだから、って。私も同じ気持ちなんだよ」
アカネ「……正確にはあの日、あのことを言われてからだけど。
でも一度意識しだしちゃうと、胸の奥が熱くなって、気持ちが抑えきれないんだ」
アカネ「これは一時の気の迷いみたいなモノなのかな、とも思ったよ。
それは今でもわからない。……その点もエリと一緒だね」
エリ「アカネ……」
アカネ「それに私とエリがそういう関係になった時には、多くの障害があると思う。
こんなでエリを巻き込むことが本当にいいのかって、自分でも思う」
アカネ「これから大学に行って新しい人と出会うのに、その出会いの一部……、
あるいは人生全ての出会いを変化させてしまうことには、大きな責任を感じてるよ」
アカネ「でも少なくとも。私たちの関係はここで終わらないって。そう確信できたの」
アカネ「……だから最後はエリ自身で決めて。エリ自身の言葉で聞かせて。
エリ自身の気持ちを、私に教えて」
アカネ「私はあなたと正式にお付き合いがしたいです。お願いします」
- 466 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:12:44 ID:fbpeR1FM0
-
エリ「……」
エリ(……私の気持ち。そんなことわからない。
だからこそ、あんなふざけた言葉をぶつけちゃったわけで)
エリ(ああ、でもダメだ。これ以上考えると、またアカネを利用するみたいになっちゃう)
エリ(私はどうしたい? このままアカネと付き合うの?)
エリ(……考え無しに言ったことで、あんなことになったっていうのに。
今度は考え無しに付き合ってみろってことなの?)
エリ(……)
エリ「……アカネ」
アカネ「はい」
エリ「気持ちはすっごい嬉しい。私も胸が破裂しそうだよ」
エリ「でも今は付き合えない」
アカネ「……そっか」
エリ「やっぱり駄目だよ、これじゃ。考え無しに付き合うなんて。
言えた口じゃないけど、恋愛に対しては私、真面目でありたいから」
エリ「今回の一件でそう思った」
アカネ「うん」
- 467 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:13:31 ID:fbpeR1FM0
-
エリ「ごめんね、私が発端なのに……自分勝手で……」
アカネ「エリは自分勝手じゃないよ」
アカネ「一度目は考え無しだったけど、今度はしっかりとその意味を考えた。
私は考え無しで付き合ってみてもいいかなと思ったけど、エリがそうじゃなかっただけ」
アカネ「エリがこれ以上責任を感じる必要はないよ」
エリ「アカネ……」
アカネ「……あーあ、ふられちゃったなあ。人生初めての告白だったのに」
エリ「そ、そういうこと目の前で言わないでよ……」
アカネ「ふふ、ごめんごめん。じゃあエリ、二つだけいい?」
エリ「なに?」
アカネ「今後も友達でい続けてくれますか?」
エリ「……当然」
アカネ「それじゃ……もし時間が経っても、
エリのことを想い続けていたら、その時は……」
アカネ「またあなたを好きだと、言ってもいいですか?」
エリ「……当たり前じゃん。何度でもその気持ち、ぶつけてきてよ。
その度、私は悩んで悩んで悩んで、その時の答えを出すから」
エリ「それに……、時間が経てば、私の気持ちも変わるかもだし」
アカネ「エリの方から付き合ってくださいって言ってきたり?」
エリ「ど、どうだろうねー……?」
アカネ「その時には私に彼氏が出来てるかもね。もしかしたら彼女かも?」
エリ「うぐっ」
アカネ「……先のことなんか、わからないよ。わかるのは先が“有る”ことだけ」
アカネ「その中で私がどういう風に答えを出したり、変化させたり、壊したりするのか。
なんだかそれが楽しみで、ちょっとわくわくしてきたかも」
エリ「……そんなこんなで私のことを忘れていくかもしれないよね」
アカネ「エリにしてはネガティブじゃない」
- 468 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:14:22 ID:fbpeR1FM0
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エリ「だって……」
アカネ「大丈夫。こんな可愛いくて、私が大好きになった人のことなんて……」
エリ「アカネ……?」
アカネ「……忘れるわけないから」
エリ「あの、アカネさん……顔が近くないですか……?」
アカネ「今は近づくだけ」
エリ「えっ?」
アカネ「もう一つ段階を進めるのは、エリがそういう答えを出してからだから」
エリ「あ、うん……わかった……」
エリ(……なに残念そうに言ってるんだ、私は)
アカネ「……」
エリ「……」
アカネ「……」
エリ「……」
「…………」
エリ(いつまで私たちは見つめ合ってるんだろう……)
アカネ「……えり……」
エリ「ん……?」
アカネ「すき……」
エリ「っ!?」
エリ(……もー、だから私はノーって言ったんだよ!?
アカネってこんな悪女だったっけ!?)
エリ(いや悪女とは違うかもだけど)
エリ(……ん? 扉の磨りガラスに人影が)
エリ「あっ」
- 469 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:15:41 ID:fbpeR1FM0
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アカネ「んっ?」
エリ「ああああああー!!」
アカネ「ど、どうしたのエリ?」
エリ「……扉のところ、見て」
アカネ「扉のところって……」
アカネ「……えっ」
エリ(そう、二人はまきを別室で寝かせにいっただけ。
家の中から出て行ったわけじゃない)
エリ(そして、しばらく待っていてはくれるかもしれないけど、
二人だって時間が経てば戻ってくる)
エリ(でも……)
エリ「……盗み聞きはよくないと思うよ三花、とし美!」
三花「げっ、ばれた?」
とし美「だから戻ろうって言ったのに」
アカネ「ど、どこから聞いてたの……?」
とし美「ついさっき戻ってきたところだから、そんなに多くの話は聞いてないよ」
三花「それに扉も閉まったから、声だって聞こえづらいし……」
三花「心配する必要はないよ?」
アカネ「ふーん……」
- 470 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:16:21 ID:fbpeR1FM0
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アカネ「……聞こえづらいってことは、聞こえてたときもあったってことだよね」
三花「うん、まあ……」
アカネ「……うわああああ……もうやだあ……」
三花「そんな恥ずかしいセリフを連呼していたの?」
エリ「人には聞かれたくなかっただろうねえ……」
アカネ「はあああ……最低な気分……今晩は飲ませて……」
とし美「の、飲みすぎないでよ?」
アカネ「うん、わかってる……」
アカネ「……うおおおお、もうヤケじゃあああい!!」
とし美「全然わかってない!!」
三花「図らずも聞いちゃったことは謝るから止めてー!!」
アカネ「誰も止めないで! うわああああん!!」
エリ「あははは……」
エリ(……こりゃ寝るまで収まりそうにないよ。うん、それだったら)
エリ「それなら私もどこまでも付き合っちゃうよ、アカネ!」
- 471 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:16:47 ID:fbpeR1FM0
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‐アカネの部屋‐
まき「……う、うーん。あれ」
まき「もう朝?」
まき(なんで私、アカネちゃんの部屋で寝てるんだろう)
まき「……しかも一人だしー」
まき(皆、先に起きちゃったの?)
- 472 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:17:47 ID:fbpeR1FM0
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‐リビング‐
まき「こ、これは……」
まき(私以外の皆が布団敷いて寝てる……)
まき「……ひ」
まき「ひどいよ私だけ仲間外れにして! こんなのあんまりだよー!」
アカネ「まき、うるさい」
まき「あれっ、アカネちゃん起きてたの?」
まき「って、これは私も騒がずにいられないよ!
どうして私だけがアカネちゃんの部屋で寝てたの!」
アカネ「少し飲んだだけで爆睡したのはどこの子だっけ?」
まき「うっ」
アカネ「そういうこと」
まき「……まさか私があそこまで弱いとは思わなかったんだよー」
アカネ「私としてはイメージ通りだったけど」
まき「それで、エリちゃんとは元通り話せるようになったの?」
アカネ「ん……元通りってわけじゃないよ」
まき「えっ?」
アカネ「詳しい話は追々ね。その前に、皆を起こすの手伝ってくれる?」
アカネ「ご飯食べてから、近くの体育館に行こうと思ってるからさ」
まき「おっ、いいねー。前はビーチバレーだったけど、
今度は正真正銘私たちのバレーをするんだね?」
アカネ「だと思ったんだけど……」
まき「だけど?」
アカネ「エリが突然セパタクローしたいとか言い始めて……」
まき「セパタクロー!?」
アカネ「“足を使ったバレーってことでしょ?”とか気楽そうに言ってたよ」
まき「絶対気楽なスポーツじゃないよ、それ」
アカネ「だよねえ」
- 473 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:18:20 ID:fbpeR1FM0
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まき「……でもどこか乗り気なアカネちゃん」
アカネ「え、そう見える?」
まき「その顔を見たらわかるよー」
まき「だけど良かった。いつものアカネちゃんだ」
アカネ「いつもの私?」
まき「うん! いつものだよ!」
アカネ「……そっか、いつもの私かあ……ふふっ」
まき「ご機嫌だね?」
アカネ「まあね。それじゃ、まきは皆を起こして回って。
私は朝ご飯用意してるから」
まき「わかったよー。……みんな、起きてー!」
アカネ(学校のある日は、毎日エリとお弁当を食べていた)
アカネ(いま私が作ってる朝ご飯は、そんな毎日の終わりなんだ)
三花「ん〜……あれ、まきがこっちの部屋来てる〜……?」
とし美「そりゃ起きたら周り誰もいないもんね……焦る焦る……」
アカネ(……そう思うと、少しこの朝ご飯が特別に見えてきて)
アカネ(なんだかじんわりきちゃうんだよね……)
まき「ほらほら、しゃきっとして!」
エリ「朝から子供は元気だなあ……」
まき「こらそこ!」
アカネ(……とか一人思ってたけど、ちょっと待って)
アカネ(私って今、エリとの京都旅行を計画しちゃってるよね?
案外早くそんな毎日が帰ってきちゃうよね?
アカネ(いや正確には毎日ではないけれども、でもさ……)
アカネ(うーん、なんというか、その……)
アカネ「……釈然としない」
エリ「えっ?」
第二十六話「桜高バレー部の解答」‐完‐
- 474 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:19:51 ID:fbpeR1FM0
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‐数年後・京都府某所‐
えっ? なにか言った?。
ああ、ごめん。ちょっと泣ける話を思い出しててね。聞いてなかった。
怒らないでよ、謝るってば。ん?
いや我ながら情けなくて泣ける話。うんそう、全然良い意味じゃないんだよ。
いいよ話続けて。聞きたいことがあったんでしょ。
まあ久しぶりに会ったしね、聞きたいことも山ほどあるよねえ。
えっ、美容師? そりゃもちろんなったよ。
まだ勉強することが多いけど、もうそれなりに経験はあるよ。今度遊びにおいでよ。
ちょっとだけ安くしてあげるからさ。心配しないで、坊主にはしないから。
そっちはどう。大学生活で面白いこととか一杯あるんでしょ。サークルとかさ。
えー、飲みサーってどうなの?
あれ、エリは入ってないんだ。まあ飲む友達には困ることなさそうだしね。
私はね、髪切ってるときに色んな人と話すんだけど、この間びっくりしたことがあったの。
なんだと思う? 違うよ。もっと身近な人の話題。
あのね、大学で三花の友達っていう人が来てくれたの。
その友達の実家が、私の働いてるとこの近くだったみたい。
話を聞く限り、三花もまるで変わってないんだって。
不思議だよね、私とかエリは変わってるのに。それとも実際に会ったら違うのかな。
ほら、人から聞く話だけだと、わからないところあるじゃん?
いやいやエリも変わったって。私も変わってると思うよ。
髪型なんか高校の時とは変えてるし。……うん、ありがと。エリも可愛いよ。
照れないでよー、言ったこっちも恥ずかしいじゃん。
そういえばさっきからなにか握りしめてるけど、なにそれ?
昨日神社で買ったって……、昨日から来てるの? 日数が足りない? さすがね。
それで、なに買ったの? ……あ、可愛いお守りだね。
ちょっとよく見せてよー。なんでお守り一つでそんな恥ずかしがるのさ。
じゃあさ、どこで買ったのかだけ教えてよ。……ふーん、野宮神社っていうの。
計画の中に無いから調べてなかったけど、どんな神社なの?
ちょ、ちょっと! どうして逃げるの! 待ってってば! ねえエリ、そのお守りはなんなのー!?
ふう、やっと捕まえた。なんで逃げたりしたの。
……なにそれ。まだその時じゃない、って言われても。
いつがその時なの? いつやるの? そう、今でしょ。
ごめんごめん、今のはわざと。
今日中に教えてくれるんだね。うん。それならいいよ。
……答え合わせ、待ってるから。
≪エリ「我ら桜高バレー部!」≫‐ お し ま い ‐
- 475 :無名 ◆4xyA15XiqQ:2014/03/30(日) 23:22:01 ID:fbpeR1FM0
- これでこの作品は完結です。途中から大きく更新頻度が低下してしまい、ご迷惑をおかけしました。
他の作品でも三年二組の子たちをはじめ、モブの子たちにスポットライトが当たればいいなと思います。
それでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
また次の作品で会うことがあれば、よろしくお願いします。
- 476 :いえーい!名無しだよん!:2014/04/01(火) 22:06:17 ID:s2trfR060
- 素晴らしい大団円でした。
就職後の一コマもいい。
- 477 :いえーい!名無しだよん!:2014/04/01(火) 22:06:49 ID:s2trfR060
- 素晴らしい大団円でした。
就職後の一コマもいい。
- 478 :いえーい!名無しだよん!:2014/04/03(木) 01:56:28 ID:rksmm9Qo0
- おつかれさまでした
楽しく読ませていただいたおりました
さ〜て、次はどの子達の話かな〜?
- 479 :いえーい!名無しだよん!:2014/04/07(月) 15:01:05 ID:ahQEEnsM0
- おつかれさま〜。
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