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バーチャルリアリティバトルロワイアル Log.04

120宵闇 ◆k7RtnnRnf2:2020/07/03(金) 19:57:08 ID:mqM5Fyzc0
     1◆


「何なんだよ……この、どす黒い樹は!?」

 天に向かって雄々しくそびえ立つ“それ”を前に、堪らず俺の体が震えてしまう。
 俺が建築物だと思って近づいたそれは、建築物などではなく、巨大な大樹だった。だが、どう考えても普通の……自然に成長した植物ではない。

 大樹はあらゆる樹皮と枝が黒く、高さは暗黒色と濃紫、そして群青をかき混ぜた冥い空のせいで天辺が視認できない。
 空気は光と闇の両方を遮る程に重苦しく、大きく吸えば全身が鉛になりそうで、空の色と合わさって薄気味悪い雰囲気を見事に演出されている。
 そして何よりも、一枚の葉っぱもない大樹の枝には、蓑虫を彷彿とさせる何かが大量に生えていた。

「枝に生えているのは木の実……じゃない。あれは……まさか、人!? 人が枝から吊るされているのか……!?」

 だが目を凝らして見えるのは、蓑虫なんて生易しいものじゃない。鳥かごを彷彿とさせる巣の中に、人間がぶら下がっているというおぞましい光景だ。
 しかも、一人だけじゃない。数えるのも億劫になる程、生身の人間が惨たらしく干されていて、その全てがどす黒く染まっていることもおぞましさに拍車をかける。

「あ、あ、あ、あ、あ…………うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 俺はたまらず、腰を抜かしながら絶叫した。
 これまで、デウエスやオカルトテクノロジーにまつわる超常現象に関わり、そしてこのデスゲームでも困難を乗り越えたから、心が強くなっているつもりだった。
 しかし、目の前の黒い大樹から与えられる生理的嫌悪感は、そんな俺の心を折るには充分だった。

「ひ、ひいっ……何なんだよ……何で、こんなのがあるんだよっ!?」

 仮想世界の住民である今の俺でも、生身の肉体みたいに嘔吐する。
 口から溢れ出た嘔吐物の演出も妙にリアルで、ただ嫌悪感が無意味に溜まる。続くように、瞳からは涙も流れた。
 胸が重くなる苛立ちに、子どものように叫ぶしかない。

『――――ジローさん! 聞こえますか、ジローさん!?』

 そんな俺を助けるように、待ち望んでいた声が聞こえる。
 レオの通信が届いたことに気付いた瞬間、俺の意識は一気に覚醒した。

「……レオ? レオなのか!? 俺だ、ジローだ!」
『ジローさん! よかった、無事だったのですね。急に皆さんの反応がロストしたので、とても心配しました。
 ですが、こうして通信が回復したのなら幸いです。ジローさん、手早く状況を説明してもらえませんか?』
「状況は……俺にもよくわからない。いきなりネットスラムが崩壊して、それで……。
 ユイちゃんがオーヴァンに攫われて、キリトも……死んではいないはずだけど、今どこにいるかは……。
 それに、黒雪姫がオーヴァンに重傷を負わされて、目を覚ましてくれないんだ……! アバターにも酷い傷痕が残ってるし……」

 助け船が来たことで心が軽くなり、俺は必死に話す。
 ここがどんな場所なのかわからないし、上手く説明できる自信もない。せめて、何があったかだけでも伝える必要があった。

『……なるほど、わかりました。キリトさんとユイさんのことは、ひとまず後にしましょう。
 まずは黒雪姫さんです。詳しい理由はわかりませんが、アバターが大規模な損傷を受けたせいで、彼女は行動できなくなっているのかもしれません。
 少し待っていてください。僕の方でなんとかしてみます!』
「何とかするって、どうやって?」

 俺の疑問に対する答えは、突如として黒雪姫のアバターから発せられた謎の光だ。
 漆黒色の鋭利な女性アバターは、ほんの一瞬で変わっていく。蝶を彷彿とさせる漆黒の翼を背負い、おとぎ話に出てくるお姫様みたいなドレスをまとったアバターになった。
 まさに黒雪姫と呼ぶにふさわしい愛嬌溢れる姿だ。その顔立ちも人形のように整っていて、ロングヘアも黒いきらめきを放っていた。


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