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平成仮面ライダーバトルロワイアルスレ4

1 名無しさん :2018/01/27(土) 23:20:27 ID:fRys9cx60
当スレッドはTV放映された
平成仮面ライダーシリーズを題材とした、バトルロワイヤル企画スレです。
注意点として、バトルロワイアルという性質上
登場人物が死亡・敗北する、または残酷な描写が多数演出されます。
また、原作のネタバレも多く出ます。
閲覧の際は、その点をご理解の上でよろしくお願いします。


当ロワの信条は、初心者大歓迎。
執筆の条件は、仮面ライダーへの愛です。
荒らし・煽りは徹底的にスルー。

689 Diabolus ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:21:55 ID:FfnvP3j.0

 自身の発言に対する相方の一瞬の間。
 それを恐らくはそのプライドの高さ故、自分の実力がこの会場内でのランキングでは低い方から数えたほうが早いという事実を認めたくないという、そんな葛藤の表れなのだと勝手に納得して、乃木は続ける。

 「……とはいえまぁ俺のこの傷を考慮したうえでも、なお俺達二人がこうして合流できた今、大抵の敵には負けることもあるまい。
 取りあえずは少しの間傷を癒しながら間宮麗奈、門矢士らのような明確に俺たちに敵意を持っているだろう相手を避け、殺し合いに反対的な参加者との合流を目指すべきだな」

 そうして対主催集団の中でそれなりの立場を築けた後であれば、門矢士らもそう易々と自分たちと戦うわけにはいくまいと、言外にそう示して。
 今後の行動方針を纏めた乃木は、まずは打倒三島の決意と情報を持ってどうにか他参加者と合流する道を示し、もう一人の乃木に向けて自身に残された右手を伸ばす。
 肩を貸してくれという合図。自分がいなければ生きられないということさえ再認識させた今、それは当然に受理されるはずの要求だろうと。

 そう、“自分”を軽んじていた。
 思えばそれが、彼の最大の過ちだったのかもしれない。
 彼がそれに気付いたのは、自身の手を言葉もなくはねのけたもう一人の自分のあまりに冷たい表情を見たためだった。

 「――なんのつもりだ?」

 怒気を込めて、乃木は問う。
 まさか腕を失い一人で立つこともままならない自分を嘲るという、そんな下らない目的の為だけにこんな無駄な動作をすることもあるまい。
 こんな時間は無駄なだけではないかと言外に批難する乃木を前にしかし、もう一人の乃木は冷ややかに笑った。

 「いや、何、この第三の命で生まれかえった瞬間から一つ、試してみたいことがあってね」

 「なんだと?」

 今の自分と紛れもなく同じ顔をしているはずだというのに、もう一人の自分が浮かべている表情の下には底知らない悪意とそして何よりの好奇心を感じる。
 我ながら不気味だとゾッとした心地を覚えた乃木は、僅かに身動ぎをして自分の腹を庇う様に後退った。

 「疑問に思ったことはなかったか?なぜそもそも自分の能力であるはずのフリーズや特定のエネルギーを用いた必殺技の吸収を、俺たちは新しい命の度に使えなくなるのか」

 もう一人の乃木は、勿体ぶったように語りだす。
 だがその顔に張り付いた邪悪な興味は常に自分を視線から外すことはなく、目だけで逃がす気はないと示すかのようだった。
 そんな彼を僅かに恐れ再び後退った乃木を気にすることもなく、話は続く。

 「勿論、俺たちにもそれぞれの能力の原理はよく分からん。
 そんな能力を使えこなせなくなっても、無理はないのかもしれん」

 だがな、と言いながら、見せつけるように両手を大きく広げ。

 「だが、考察を重ねることは出来る。最初は以前に殺害された時の理由を潰すように進化した結果なのではないかと思った。
 時間停止を見越した時間差の必殺技に敗北したからそれを受け止められるように必殺技の吸収能力を。
 必殺技さえ用いない、しかし並のライダーのそれよりも遥かに強い打撃を放てる存在を……ライジングアルティメットを知った為に、そんな規格外に対処できるように複製を」

 ここで話している彼らが知る所以はないが、この理論には、より強くそれを裏付けられる根拠が存在する。
 それは元の世界で彼らがカッシスワーム・グラディウスとして敗北した際の事象。
 その命における直接の死因はカブトが放ったマキシマムハイパーサイクロンによる粒子分解であるものの、それをただ享受せざるを得ないようなダメージを受けたのは、三人の仮面ライダーによる同時攻撃をその身が吸収しきれなかったためだ。

690 Diabolus ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:22:11 ID:FfnvP3j.0

 この世界でも元の世界でも、「必殺技の単一的な吸収では事足りない」と判断した為にその身体を二つに別ったのではないかという推論は十分に説得力を持つものだろう。
 
 「……そんなことを話して何になる?
 まさかそんな下らない、答えの出ないご高説を披露するのが目的か?」

 思わず声を怒りに震わせながら、乃木は問う。
 失血死こそないだろうとはいえ、ダメージの大きい自分にとって、こんな下らない話に付き合っている時間はない。
 だがそうして結論を急ぐ乃木の姿さえ愉快だとばかりに鼻を鳴らして、もう一人の自分はなおも話を続ける。

 「まぁまぁ、そう言うな。……とはいえそうだな、俺が考えていたのはずばりそこなんだ。
 この話は、考えても答えが出ない。そうして切り捨ててしまうのはあまりに勿体ない気がしてね」

 「はぁ?」

 今度こそ困惑を込めて、乃木はただ疑問符を浮かべた。
 まるで言っている意味が分からない。
 或いは――そう思い込みたかったのかもしれない。

 その先に待つ答えが、あまりに恐ろしいものだから。

 「間宮麗奈がワームでありながら人間として生きたいと言い切ったのを見て、俺も少しばかり答えの出ない問いに興じてみてもいいかもと思ったのさ。
 そうして考えるうち、もう一つ疑問が浮かんできた」

 「新しい疑問だと?」

 最早もう一人の自分の話す推論に付き合う以外ないらしいと観念したか、乃木はテンポよく問いを投げる。
 それに気をよくしたか、もう一人の乃木はその笑みを深め続けた。

 「あぁ、その疑問というのは……俺たちのこの形態は、この乃木怜治の最後の命を費やしたにしてはあまりに弱すぎるのではないかとね」 

 「それは……」

 もう一人の乃木が提示した疑問に、思わず言葉を詰まらせる。
 正直、思ってしまう。そんなこと言っても仕方ないではないかと。
 勿論、今までの能力そのままに二人に増えたなら、この第三の命はこれ以上なく強力なはずだった。

 しかし現実はそうではない。
 フリーズも必殺技吸収能力も失い、その果てに残されたのは先の命で吸収できた僅かな必殺技のみ。
 身体能力さえ一体一体は著しく低下し、ネイティブ最強のグリラスはともかく、あの間宮麗奈と互角などと第一の命の時では思いもよらなかったほどのパワーダウンを果たしている。

 とはいえ、それは先ほども言ったように話しても仕方のないことである。
 熱血教師染みた根性論を語りたいわけではないが、今は配られたカードで戦うしかないではないか。
 言葉を詰まらせた乃木に対し、もう一人の乃木は極めて流暢にその舌を回す。

 「だから考えてみた。
 考えても答えの出ない問いだとしても、もしもこうして二人に増えたことに意味があるとするなら、それはなんだろう、とね」

 「その様子からすると、答えは出たらしいな」

 「あぁ、勿論。とはいえ未だ確実な答えは出ていないがな」

 言ってもう一人の乃木はニヤリと不敵に笑って――しかし次の瞬間、その顔から表情は一辺に消え失せた。

 「なぁ……もしかしたら、こうして二人に増えたことは、一種の選別だと捉えることは出来ないか?」
 
 「選別だと?」

691 Diabolus ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:22:44 ID:FfnvP3j.0

 思わずオウム返しに乃木は返す。
 だが何故だろう。ゆっくりとその足を自分に向けて進めだしたもう一人の自分の存在が、先ほどまでと違い威圧的に感じるのは。
 
 「そうさ。つまりはこの命の真価は、こんな出来損ないのコピーを増やすことにあるんじゃない。
 よく似た、本当に自分そっくりの存在を生み出した後で、どちらか優れている方を自然に選別することにある、そうは考えられないか?」

 「……そんなことをして、一体何の意味がある?」

 冷静にもう一人の自分と話を合わせながら、ゆっくり、ゆっくりと乃木は立ち上がることさえ出来ないままに徐々に後ろに退いていく。
 しかし、もう一人の乃木は常に自分を視界の隅に置き、自分と同じペースでこちらに向かって歩を進め続け、両者の間の距離は一向に広がらない。
 明らかに意図的なはずのこの静かな攻防を、しかし全く気づいてさえいないように振舞いながら、もう一人の乃木は一つ鼻を鳴らした。

 「さぁな。だが人間が研究した生物学によれば、傍目には全く同じように見える一卵性の双子を同じように育てたとしても、それぞれ得意不得意が異なるということもあるらしい。
 或いはその中には、双子のうち片方の不憫な奴が不得意とすること全てを得意とする、そんな器用な奴もいるかもしれない。……そうは思わないか?」

 「……だが、その器用な奴が不得意とすることを、お前の言う不憫な奴が得意としている可能性だってあるかもしれないぞ?」

 「あぁ、そうだな。もしそうなれば、そいつらは自分の生まれながらの相棒に対してこう思うに違いない。
 『こいつさえいなければ、もしかしたら自分は全部を持って生まれてきたのかもしれない。自分の才能はこいつに吸われたに違いない』ってな」

 ゴト、と音を立てて、乃木の背中に冷たい鉄の感触が伝わった。
 ――壁だ。先ほど必死こいて逃げてきた廃工場の壁。
 最早、退けるところはない。

 思わず走った戦慄を察したか、もう一人の乃木は自分に向けてもう一歩距離を狭める。

 「――まぁ、だからそう、つまり俺の試してみたいことというのはそれなんだ。
 もしも二人に増えた俺たちが再び一つになれたなら、或いはその時こそ俺たちの最後の命、それに相応しいだけの力を得られるのではないか、とね」

 冷たくそこまで言い放って、彼の身体は一瞬でおぞましい音を立て紫の異形へと変化する。
 その姿を前に自分も同じように変態しようとして、しかし出来ない。
 まるでこの身体が、自分の役目を終えたのを察しているかのように。

 「最後になるが……じゃあな“俺”。文句は言うまい?
 『弱い奴は餌になる』それが俺たちの掟だと、貴様も知っての通りだろうからな」

 「待ッ――!」

 乃木が放った必死の抗議は、しかしもう聞き届けられることもなかった。
 彼がそれを言い終えるより早く、その身体はカッシスワームの腕に抱かれ――かつてガタックに苦戦したワームを、自らの糧にした時のように――粒子化し吸収されてしまったのだから。

 「オオオ……グオォォォォォォッッッ!!!」

 そしてもう一人の自分を吸収し、唯一無二の存在となったカッシスは、吠える。
 まるで、自分の中に沸き起こる力の奔流に突き動かされるように。
 同時、彼の身体はメキメキと音を立て変貌していく。

 その何も生えていなかった頭部からは、立派な一本角が天を衝かんと高く伸び、その甲殻もまた全体的に厚みを増し肩からはそれぞれ長い突起が生じる。
 そして同時に、今まで剣と盾とが生えていた両手もまた、止めどなく変化していく。
 レイピアに、剣に盾に、或いは人間の様な五本指に。

 ――数舜の後、今自分に起こった変貌を全て理解したカッシスは、理解する。
 今の自分には、これまでの形態の能力全てが備わっている。
 時間停止も、必殺技の吸収も。

 そして同時、この形態そのものが持つ戦闘力も、これまでの比ではない。
 恐らくは今この姿であれば、ライジングアルティメットとて単身で相手どれるに違いない。
 故に彼は、確信する。

692 Diabolus ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:24:36 ID:FfnvP3j.0

 この姿こそが、自身最後の命に相応しい究極の姿だと。

 そう今こうして誕生したこの新たな姿は当然、ディミディウス(半分)でも、グラディウス(剣)でも、クリペウス(盾)でもない。
 今までのカッシスワーム全ての能力を踏まえ、そして誕生した最強の戦士。
 なればこの形態を、敢えて今こう名付けよう。

 ――カッシスワーム・ディアボリウス(魔王)、と。

 そしてこの新たなカッシスワームの誕生に、誰よりも強く深く乃木怜治は歓喜する。

 「ククク、この力さえあれば、もう間宮麗奈も門矢士も相手ではない……!」

 そして彼が口にしたのは、先ほど自分に苦汁を飲ませた二人の忌々しい参加者の顔。
 今すぐにでも彼らを引き裂くために行動するべきか考えて、同時、脳裏に過ぎるは三島正人……グリラスワームとの生々しい戦いの記憶。

 その見たことのないはずのビジョンに、しかし乃木が動じることはない。
 何ということはない。ただもう一人の自分が吸収前に感じた全てが自分の中に還元されただけのこと。
 それこそ、ワームが人間に擬態したときに、その人間が持つ記憶や知識を全て手に入れられるのと同じだ。

 そんな当然の摂理がこうしたイレギュラーな事態でも発生したとして、今更乃木が動じるわけもない。
 そんな些細な事象の是非よりも今考えなくてはいけないのは、自分がこのエリアの外と廃工場内、どちらに向かうべきかということだ。
 間宮麗奈や門矢士を始めとして多くの参加者がはびこる会場に足を伸ばすか、それともこの新たな力を試すついでに三島正人との真に優れた種はどちらなのか雌雄を決するか。

 自分は一体どうするべきかと逡巡思考して、そこで彼は第三回放送までもう残り10分ほどしかないことに気付く。
 ……まぁいい。どちらにせよこの身体の傷も、もう一人の自分を吸収し治癒力をも上げたとはいえ完全に無視できるものではないのだ。

 傷を癒やしながら放送を聞き、そこでもたらされた情報を整理した後にこの決断を下せば良い。
 そう、焦りは禁物だ。今はただこの新たな力がこの身体に馴染むまで、少しばかり休息を取るべきだろう。
 しかし、だからといってその瞳から戦意が陰ることはなく――どころかそこに写る復讐の炎は、より勢いを増して。

 「待っていろ、愚かな仮面ライダーとその協力者共、そして大ショッカーよ。
 貴様らの命が尽きるのも、もう時間の問題だ――!」

 力強く宣戦布告を果たして、乃木怜治は……ワームを統べる魔王は一人、廃工場を背に歩き出した。
 

【二日目 早朝】
【G-1 平原】


【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)
【装備】なし
【道具】ブラックファング@仮面ライダー剣
【思考・状況】
0:取りあえず放送までこの近辺で傷を癒やす。
1:放送を聞いた後、間宮麗奈を探しに会場に出るか、三島正人にリベンジを挑むか決める。
2:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
3:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
4:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
5:志村純一を警戒。まったく信用していないため、証拠を掴めばすぐに始末したい。
6:乾は使い捨ての駒。
【備考】
※もう一人の自分を吸収したため、カッシスワーム・ディアボリウスになりました。
※これにより戦闘能力が向上しただけでなくフリーズ、必殺技の吸収能力を取り戻し、両手を今までの形態のどれでも好きなものに自由に変化させられる能力を得ました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュ、暗黒掌波動の三つです。

693 ◆JOKER/0r3g :2018/10/09(火) 23:26:33 ID:FfnvP3j.0
以上で投下終了です。
毎度の事ながら、今回も仮投下を経ているとはいえ内容に指摘点などあって当然の内容だと思いますので、気になった点がありましたらお気軽にどうぞ。
それでは毎度のお願いではありますが、ご意見ご感想、ご指摘等ございましたら是非ともお願いいたします。

694 ◆JOKER/0r3g :2018/10/10(水) 00:25:57 ID:8pWbg73E0
申し訳ございません、一つ大事なことを言い忘れておりました。
大体お察しの方もいらっしゃったかとは思いますが、次回の投下内容を持って第三回放送に移らせていただきたく存じます。
前回と全く同じく、ということになりますが、次回内容を投下した後、放送前パートを予約できる日程を数日程度(大体長くて丸三日だと思って頂ければ)設けた後、放送投下、という形にしたいと思います。
また今回も、放送案を投下したい、という方は次回投下までの間に是非ともご声明と意思の表示をお願いいたします。

一応自分も次回内容の予約時か何かに再度ご連絡しようとは思いますが、出来ればスムーズに進行したいので、積極的なご協力をお願いしたい次第です。
それでは、連絡は以上です。
引き続き、感想や意見等ございましたらお願いします。

695 ◆LuuKRM2PEg :2018/10/10(水) 07:11:18 ID:75tSHQgE0
投下お疲れ様です!
三島は最強のネイティブとして乃木を圧倒し、あと一歩の所まで押しましたけど……そこをもう一人の乃木が駆け付けてくれましたか!
乃木は自分自身すらも取り込んでしまい、また新しく圧倒的な力を誇る魔王へと変貌しましたが、これは波乱の予感。
そして三島が守ろうとした車の謎も果たして……?

放送案の投下についても◆JOKER/0r3g 氏が提示する通りで問題ないです。

696 ◆JOKER/0r3g :2018/10/22(月) 19:18:23 ID:V.V9tP3g0
こんにちは、>>694での宣言通り、今回パートを予約したので再三ではありますが放送希望などについてのご連絡です。
詳しい内容は大体上記の通りですが、ご不明点等ございましたらお気軽にどうぞ。

697 名無しさん :2018/11/05(月) 21:49:15 ID:REQoRpfo0
病院戦まではただの頼れる対主催だった乃木もなかなか厄介な存在になってきましたね…

698 名無しさん :2018/11/06(火) 18:17:36 ID:WCa0Qixs0
流石にディアボリアスの状態で倒されればもう復活はしないだろう...
しないよね?

699 ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:00:32 ID:tJIwqj620
感想、雑談ありがとうございます。
短くてもなんでも、そうして作品について語ってもらえるということそれ自体がとても力になります。

さて、それでは皆様お待たせいたしました。
これより投下を開始いたします。

700 ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:03:22 ID:tJIwqj620

 病室に備え付けられた壁時計の長針がまた一つ進み、その先端が数字の6を示す。
 自分以外は誰もいない、暗いその部屋の中で彼、一条薫は一人ぼんやりと天井を眺めていた。
 彼の中には、もう眠気はない……訳ではないが、それ以上にこんなところで呑気に寝ている場合ではないという焦燥感が、彼が眠りに落ちるのを妨げていた。

 現在時刻は5:30。
 第三回の定期放送まで残り30分を切った西病院の中では、恐らくは放送に対する準備が順調に進められていることだろう。
 明かされるかもしれない仲間達の死への心構えや、禁止エリアの情報、或いは放送担当として現れるだろう幹部についての心当たりの整理。

 本当のところを言えば一条も、名護や翔太郎らと共にそうした放送内容に備える作業をして、気を紛らわせたい。
 だが、輸液を終えたとは言えようやく貧血症状が一端の収まりを見せた程度にしか体調が回復していない一条には、ベッドに横になり安静にしている他なかった。
 無理を言って色々な情報を整理するところに混じる、ということも勿論出来なくはないのだが、今の自分の体調を一番に理解しているのは他ならぬ自分自身である。

 正直に言って、立てこそすれど満足に走れはしないだろうような今の体調の自分が、一刻を争う彼らの放送に対する準備に加わったところで、恐らくは足手纏いなだけ。
 そんなことは百も承知である上で、しかし一条はどうしても居心地の悪さを覚えずにはいられなかった。
 元々敏腕刑事として活躍していた一条にとって、こうした一刻を争う状況で一人休養に努めるという経験は、新人の時でさえ味わったことのないものだったのである。

 いやそもそも、こんなことを考えていること自体が今の自分にはストレスになり、より一層回復が遅れ大ショッカー打倒に対して生存者全員に迷惑をかけてしまうことになるのではないか。
 そう無理矢理自分を納得させ、思考の堂々巡りから逃れようと寝返りを打った一条の背後から、優しく二度ノックの音が響いた。

 「……どうぞ」

 「失礼します、体調、どうですか?」

 「津上さん……、えぇ、おかげさまで随分と楽になりました」

 「そうですか、それはよかったです。
 いやー皆さん忙しそうでなんだかこっちまでソワソワしちゃって、逃げてくるついでに一条さんの様子を見に来たんです。
 ……あ、これ良ければ一条さんもこれどうぞ。レンジでチンの簡単なものですけど」

 果たしてそこに現れたのは、この病院集団に属する青年の一人、津上翔一であった。
 差し伸べられた右手にはミルクの入った白いマグカップを持ち、そこから立ち上る湯気がその温かさを感じさせる。
 それを一言の礼と共に受け取りながら、一条は彼と初めて顔を合わせた際、小沢の最期を伝えた時のことをほぼ反射的に思い出していた。

 ――小沢の知り合いであるという彼に、彼女の末路を伝えるのは、とても心苦しかった。
 聞けば、彼は小沢があのレンゲルという仮面ライダーの力に囚われてしまったのは自分の責任だと感じ、その為に昨夜の22時に東病院に集合する約束さえ破ってこちら側のエリアに残っていたのだという。
 そんな彼に、小沢の辿った勇敢な……しかし惨たらしい最期を伝えるべきか、一条でさえ幾らかの逡巡が必要だった。

 そうして幾らか悩んだ結果として、彼には小沢という存在の生き様を伝えるべきだと判断し、てキバットに聞いた通り彼女の最期を伝えたのである。
 非難され感情的に罵られることさえ覚悟した一条に対し、しかし翔一は苦しい顔をしてなお第一声に『ありがとうございます』と述べた。
 これには思わず一条も呆気に取られたが、彼曰く『クモのモンスターに操られたまま死んじゃってたとしたらそれはとても悲しかったですけど、小沢さんが自分の意思でそこに残りたいって思ったなら、きっとそれがあの人にとって一番だったんだと思います』とのことであった。

 責められるどころか小沢さんを助けてくれてありがとうございます、とまで礼を言われれば、一条はもう彼という青年に対してあの小沢澄子も一目置くはずだと、そう納得をするほかなく、その礼に対し素直に返すほかなかった。
 ……第一印象からしてそんな不思議な印象であった翔一が、今再び自分の前に現れた。
 ただそれだけだというのに、一条は場の雰囲気が一瞬にして変わったような気がしていた。

 「あれ?どうしました?なんか俺の顔に変なものでもついてますかね?」

 「……いえ、そんなことは。それより、お気遣いありがとうございます。いただきます」

701 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:06:09 ID:tJIwqj620

 生まれてしまった沈黙に、翔一は困惑を示しながら自分の顔をペタペタと触る。
 どことなくコミカルな動きをする人だな、と思いつつ一条は未だ完治とはいいがたい右腕でそのカップを掴み、ホットミルクを口に運んだ。
 だがその場を持たせる以上の意味を持たなかったはずの行為の末、口内を満たしたその温かいミルクは、一条の顔を驚愕に染めることになる。

 何故なら、簡単なもの、レンジで温めただけと言っていたはずのそのミルクが、一条の想像できる範疇を大きく超えるような味わい深さを誇っていたからだ。
 思わずカップの中に残ったミルクを二度見する一条を前にして、翔一は一つ笑った。

 「フフフ、驚きました?一条さんにはまだ言ってなかったですけど、俺はこれでもレストランでシェフをやってるんです。
 だから、どれだけ簡単なものでも人の口に入るものにはちょっとした拘りがあるんですよ」

 「そうなんですか……、いやしかしおいしい……」

 「えへへ」

 照れるなぁ、と頭を掻いた翔一の姿は、一条にどことなく五代を連想させた。
 おいしい料理や、手品や即興のドラム演奏や……ともかく人を喜ばせることに長けた技を数えきれないほど持っていた彼は、きっと目の前の青年とも気があったことだろう。
 そうして同時、もうそんな彼の笑顔が、そして彼がこれから先ずっと齎し続けただろう温かい笑顔が永遠に失われたことを思い出して、一条の表情は思わず曇った。

 「どうしました?一条さん」

 「……いえ、なんでもありません。
 それより、先ほど『逃げる』と仰っていましたが、津上さんは名護さんたちと一緒に放送への準備などしなくてもいいんですか?」

 翔一の当然の疑問に、しかし一条は無理矢理に話題を切り替える。
 明らかに不自然な間が存在していたが、翔一も無遠慮ではあっても配慮が出来ないわけではない。
 特に気にすることはなく、続けた。

 「はい、俺は全然手伝いません。
 正直、俺は頭を使う感じの仕事は向いてないですし、そういう仕事は名護さんとか左さんとか、向いてる人がやればいいじゃないですか」

 「……そうですか」

 翔一のその、恥じることのない堂々としたサボり発言に一条は思わず面食らう。
 当然と言えば当然だが、彼と五代とではやはり似ているようでいてその実全くタイプが違うらしい。
 五代であれば、恐らくはあの持ち前の手際の良さで思考面では強く貢献できないながらも何かしら役に立てるよう振る舞ったはずだ。

 こんなにすぐに相違が見つかるというのに、これ以上今は亡き友と翔一を重ねるのも失礼かと、一条は思考を切り替える。

 「――でもその分、もしも戦いになったら俺が皆を守ります。勿論、一条さんのことも」

 そうして頭を振った一条を前に、突然に翔一が続けた言葉は、やはり真っ直ぐなものだった。
 あの小沢がこの場で最も信用に足る実力を持つ、と評した翔一の実力を、疑うわけではない。
 疑うわけではないが……そんな彼の進言に対し「はい、お願いします」と素直に引き下がれるほど、一条もまた素直ではなく。

 「待ってください、幾ら特別な力があるとはいえ、貴方は一般市民です。
 そんな貴方に、刑事である私が一方的に庇護を受けるわけには――」

 それは、一条のちっぽけなプライドだった。
 自分が如何にこの場で矮小な存在であると分かっていても、それでもなおどこかで自分は刑事で周りは守るべき市民なのだという思考が払いきれない。
 一条や小沢や、また彼女の知り合いだった北條という男も含め、旭日章に命を捧げる覚悟を誓った者は、皆誰かを守る為その命を散らしたのだ。

 無闇に命を捨てる気はないが、一般人を盾にして生き残るなど自分に許されるわけがないと、一条はどうしても思ってしまう。

702 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:09:39 ID:tJIwqj620

 「――でも俺は、少なくとも今の一条さんより絶対に強いです」

 この10数時間もの間持ち続けた悩みを吐露すれば、しかし翔一ははっきりとした口調でそれを遮る。
 堂々としたその言葉に、再び呆気に取られれば、先ほどまでと違い彼は真面目な顔で自分をしっかりと見据え、続けた。

 「……人はそれぞれ、自分が得意なものがあると思います。でもそれと同じで、誰でも不得意なものはあるんです。
 だったら、俺たちはそういう不得意なことを自分で無理せず、それが得意な他の人に任せちゃえばいいんです。
 だから俺は、考えることを他の人にお任せする分、戦うときは頑張ろうと思うんです」

 飄々とした風に、しかし確かな考えを持って翔一は語る。
 何だか仙人のように悟った男だな、という印象を抱いた一条に対し、翔一はどこか確信めいたような物言いで続けた。

 「だから一条さんも、刑事だからとか気にせずに、普通に守られていいんです。
 ここにいる俺たちは皆仮面ライダーで、とってもとっても強いんですから」

 今まで何度も氷川さんを助けてきましたし、慣れっこですと続けながら、翔一はまた笑う。
 その様を見て、一条は意図せず自分の口が力なくポカリと開いているのを自覚した。
 なるほどこれは確かに、あの小沢澄子が一目置くわけである。

 クウガである五代との触れ合いを通じてもなおずっと感じていた、一般市民を前線で戦わせることに対する申し訳なさのような感情。
 そんな今までの“当たり前”を真っ向から打ち砕くような翔一の言葉に、一条は反論さえ出来ず打ちのめされるような心地であった。
 ――刑事という立場など関係なく、強いのだから弱い者を守る。

 なるほどそれはこんなデスゲームの中では至極当然の考えで……しかし今の今まで一条の中でどことなく踏ん切りのつかなかった一線であった。
 だが、どこかで彼の意見に納得している冷静な自分がいる一方で、やはり頑固な自分が再び顔を覗かせるのを、一条は感じていた。
 どうにも言葉を上手く吐き出せず口ごもった一条を前に、翔一は柔和な笑顔を浮かべ、続ける。

 「確かに今は、得意なことも出来なくて辛いかもしれません。
 でも多分それはきっと、一条さんが休むことに何か意味があるんです。
 それで、今たっぷり休んだ分、その代わりとして多分、今後何か一条さんにしか出来ないことをやる時が来るんだと思います」

 「俺にしか、出来ないこと……」

 ぼんやりと翔一の言葉を復唱して、一条は少しの間思考する。
 その答えとして思い浮かぶのは、幾つかある。
 だがその中で最も気がかりで、そして自分にとって大事なことは、若き戦士クウガ、小野寺ユウスケを導きたいという思いだった。

 迷い、挫け、しかしそんな中から立ち直った彼を、もう二度と憎しみに晒したくない。
 こんな自分に人一人を導ことが出来るなど、自惚れかもしれない。
 その役目を果たすとしても、最早五代雄介を知ると言うだけの自分よりも、彼をここに来る前から知っている旅の仲間である門矢士の方が、やはり適任なのかもしれない。

 だがそれでも、今の自分が成し遂げたいこととして思いつくのは、それが一番だった。
 しかしそんな自分の願いを再認識した後に、一条はどうしようもないと分かりつつもただやるせない思いを誰かにぶつけたい一心で再び口を開いた。

 「しかし結局私は……何に関しても中途半端です。
 小野寺君のことを放って、一人だけこんな風に休んで……彼は今この時間も、苦しんでいるかもしれないのに」

 僅かばかり白んできたとはいえ未だ黒の範疇である空を病室の窓越しに眺めながら、一条はぼやく。
 この暗い空の下で、彼は未だ無事なのだろうか。漠然とした、どうしようもない不安が頭をもたげる。
 だがそんな一条に対し、翔一は心底理解が及ばないと言った様子で腕を組んで唸った。

 「う〜ん、でもそれって、当たり前じゃないですか?」

 「――なんですって?」

703 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:13:07 ID:tJIwqj620

 言いながら、僅かばかり語調が強くなっているのを、一条は自覚する。
 亡き父の口癖であった言葉、「中途半端はするな」。
 勉強も習い事も、或いは刑事としての姿勢さえもその言葉を糧にして生きてきた一条にとって、翔一の「中途半端で当たり前」などという言葉を、安易に一意見として飲み込むことは、すぐには出来なかったのである。

 しかし思わず凄んだ一条を前にしてもなお、翔一はどこかもの悲しげな表情で続けた。

 「だって、俺たちは皆、いつかは絶対死んじゃうんです。それがいつかも分からないのに、全部を完璧に終わらせられるわけないじゃないですか」

 「それは……確かにそうですが」

 「それに、中途半端をしちゃ駄目だって思ってたら、まだ自分が試してない、見つけてない楽しいことも、探せなくなっちゃいます。
 そんなの、俺は悲しいです。色んな事をやってみて、その中で自分が好きだなと思ったことをたくさんやりたいじゃないですか。俺たちの人生は、限られてるんですし」

 「……」

 翔一のその言葉に、一条は応えない。
 というより、虚を突かれた思いだ、というのがより正確なのだろうか。
 正直に言えば、一条とてその程度の疑問を考えなかったわけではない。

 思ったことがある。
 父、一条祐にとって、息子の10歳の誕生日に迎えた死は、耐えがたい中途半端だったに違いないと。
 勿論、刑事として父のことは尊敬している。

 川に落ちた作業員8名を救出する為に自らの身を犠牲にしたその精神は、“刑事”としてこれ以上ない死だったとそう言い切れる。
 だが“夫”として、また“父”としては。
 愛する妻に無念の涙を流させ、息子と共に家族三人で野球観戦に行ってやることも出来なかったのは、これ以上ないほどの中途半端だったことは、疑いようがないだろう。

 だが、そんな風に思う一方で、薫は父としての祐のことも、中途半端だと思ったことはない。
 いつも家族に真摯に向き合い、そしていつまでも妻や息子の心に大きく存在感を残す彼を、家族を守る大黒柱としてもこれ以上なく尊敬していた。
 しかし、いや、だからこそなのだろうか。

 薫は、女性と深く関わりを持たない。
 “刑事”としての中途半端を行わないことは、“夫”として、また“父”としての中途半端を行うことになり、そしてまたその逆も同様な気がするから。
 少なくとも自身の父祐のように、両方を完璧にするような器用は、自分には出来ない。

 そう感じるからこそ、彼は周囲に何を言われようと一家の長ではなく刑事として全力を尽くすことに決めたのだ。
 だがそうして中途半端をしないよう心がけるその生き方が、果たして父の言葉の意味するところなのか、ふと悩む瞬間もある。
 少なくとも、五代が、そしてユウスケが自身の父の言葉を受けて覚悟したそのあまりにも険しい選択を、父はその言葉の語意に含めていたのだろうか、と。

 「一条さん」

 傷からか、或いは募る自分への不信感からか、らしくなく俯いた一条に対し、翔一はもう一度優しく名前を呼び、続けた。

 「今、一条さんはこうして生きてます。小野寺さんだって、きっと大丈夫なはずです。
 だったら、次に会ったとき上手くいくよう頑張れば良いじゃないですか。そうしたら、中途半端じゃありません」

 「津上さん……」

 思わず名前を呼んでしまったのは、先ほどまで真っ直ぐにこちらを向いていた翔一の顔が僅かばかり天井の、恐らくはその先を見つめるようなものだったからだろう。
 その視線の先にあるのは考えるまでもない。彼が恐らくは後悔してもしきれない無念、小沢澄子を死なせてしまったという事実に対するものなのだろう。
 だがそれでも、彼の表情からは立ち止まろうという意思など一切見えない。

 やはり彼も中途半端に関わるつもりだと言うわけではないのだとそう再認識した一条は、最早ユウスケが死んでしまっているかも、などという懸念を吐くことはしなかった。
 そんなことを言ってみたところで、恐らくは彼は動じることもなく「そうかもしれませんけど、そんなのはわかりっこありません」とのらりくらりと躱すだろうから。

704 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:19:20 ID:tJIwqj620

 「……さっきはあんなこと言いましたけど、俺たちの人生はこれから先長いんです。
 すぐに結果を求めて落ち込むより、気長に行きましょうよ」

 まぁ、こんな状況なんですけどね。とばつが悪そうに頭を掻きながら、翔一は締めくくる。
 自分たちの命には限りがあると言ったり、これから先も長いと言ったり。
 どことなくふわふわとした論調だが、同時に一条は彼のことを嫌いにはなれなかった。

 彼を見ていると、一条は何だかどこか気の抜けたような心地になってしまう。
 自分やユウスケが常に眉間に皺を寄せていたのと同じだけの時間をこの凄惨極まりない会場で過ごして、なおこのマイペース。
 これで実力が伴っていないというなら自分にも何かしら言えることはあったのかもしれないが、聞けば彼はあのB2号を倒し、第零号を前にしても犠牲を払うことなく帰還したという。

 状況は幾らか違うだろうとはいえ、自分たちが多大な犠牲を払いユウスケを凄まじき戦士にしなければ凌げなかった、あの第零号が変じたブレイドという仮面ライダー。
 それに加え奴の未確認としての姿さえを打ち倒し、あまつさえ奴に“逃げ”を選択させたというのであれば、彼の言葉に説得力も伴おうというものであった。

 故に一条は、そのまま前のめりになっていた姿勢を崩し深くベッドにもたれかかった。
 五代が笑顔と共に力強く伸ばすサムズアップを見た時と同じか、それ以上の脱力感。
 敗北感などではない。何だか心地よささえ感じるそれは、堅物とさえ言われた一条をもこの短時間で揉み解すようなものであった。

 「あれ、どうしました?一条さん」

 「いえ……なんだか気が抜けてしまって。
 あなたと話していると、殉職した小沢警視正があなたを気に入っていた理由がよく分かります」

 「えへへ、ありがとうございます。あ、それと気が抜けたついでに、その口調もやめてもいいですよ」

 「え?」

 翔一のその言葉に、一条は再度呆気にとられる。
 その口調、とは一体何のことだろうか。自分は何か間違った言葉遣いをしていただろうか……?
 そうして疑問符を浮かべた彼に、翔一はどこかハッとしたように続けた。

 「あ、気付いてませんでした?一条さんは敬語使ってるとき、ちょっと緊張してるのかなって思って」

 言われて初めて、一条は理解する。
 敬語。そうして言及されれば確かに、自分が敬語を用いるときの口調は翔一のような親しみを匂わせるそれではなく、刑事として一般人と距離を置くためのものだ。
 自分は刑事であるという自負を持っているときに用いるそれは、確かに近寄りがたさを感じさせるだろう。

 また同時、五代や椿など気の置けない人物を相手にするときは敬語が出ないのだから、自分はプライベートでは俗にいうタメ口を使う人間なのだということは疑いようもない。
 であれば敬語を使っているときは他者と距離を保ちたがっている、いわば自然体の自分ではないと言われても、なるほど納得するような心地であった。
 そしてまた、そんな翔一の指摘に対して刑事としての職務がどうのだのを熱弁して彼を説得し、敬語を使い続けられるほどの体力は彼にはもう、残されていなかった。

 「……確かにそうだな。ならこれからよろしく頼む。津上君」

 「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。一条さん」

 そうして、ようやく刑事という職務を背負うのをこの一瞬だけでもやめ、真に自然体でリラックスした姿を晒した一条。
 そんな姿を見られて心底よかったというように笑った翔一を前に、一条は目の前が眩む感覚を覚えた。
 薬やら毒やら、そんな大層なものではない。

 張り詰めていた緊張の糸がほぐれ、今まで溜まっていた疲れが再びぶり返したのである。

705 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:22:18 ID:tJIwqj620

 「一条さん、寝ててください。俺、ここにいますから」

 「しかし、放送を聞き逃すわけには……」

 「いえ、大丈夫です、こういうときくらい、仲間をしっかり頼ってください」

 最早会話に対する思考さえろくに纏まらない中、一条はほぼ反射的に、五代が初めて赤のクウガになった後、気絶していた自分が目覚めてすぐに彼とした会話を思い出す。

 『おはよう、一条さん』

 『なんで、お前の肩に……』

 『まぁまぁ、いいじゃないですか』

 クウガになって戦った男が、生きている。
 あの赤い姿になれたのは何故だ、とか、未確認はどうなったのか、とか。
 彼に対して、幾らでも聞かなければいけない質問があったはずなのに、一条はその五代の言葉に対してただ一言、『一生の不覚だ』とだけ吐いて再び泥のように眠った。

 今でも思う。あそこでもしも、五代を敵の一種かもしれないとして拘束を試みたり、或いは未確認について深く問い詰めていたら、彼との友情はあったのだろうかと。
 恐らくはそれでも五代は気にはしまい。だが自分は……。
 だから一条は、今この場でも意地を張るのはやめた。

 少なくともこの翔一という青年には、五代が目指していたような気ままな日々を過ごして欲しいと、そう思うから。

 「なら、すまないが頼む。次に起きたときは、きっと――」

 「はい、おやすみなさい、一条さん」

 そうしてベッドに横になり目を閉じると、次の瞬間にはもう一条は深い眠りに落ちていた。
 それを見やり、何だか可愛い寝顔だなぁなどとぼんやり感じながら、翔一もまた一つあくびを吐いた。


 ◆


 「ふぅ、大体こんなものか」

 一方で、病院のロビーのような場所で、テーブルの上にこれまでの情報を纏めた名護は一つ溜息をついていた。
 正直なところ、大ショッカーという組織について未だ分からないことは余りに多い。
 それでもこうして目に見える形で情報を共有することは、決して無駄ではないと思えた。

 一息つき、先ほど翔一が淹れてくれたコーヒーをすすりながら、名護は少しだけ微笑む。
 流石にコーヒーについては、自分の行きつけの店であるカフェマルダムールのマスターの方が上手らしい。
 とはいえここはコーヒーショップではないし、豆もなく粉状のインスタントが元であろうことを思えば、このコーヒーも十分においしいものであったが。

 そうして一人コーヒーブレイクを楽しむ名護を遠目に見ながら、談笑する男が二人。
 翔太郎と総司、何となしにこの集団の中でペアのような扱いになりつつある二人である。
 彼らもまた先ほどまでは名護の手伝いをしていたのだが、他ならぬ名護本人がこれ以上は自分だけで十分だと言ったので休憩していたのだ。

 「ねぇ、翔太郎」

 「あん?」

 「……もしかして翔一の淹れる飲み物って、おいしいって思わせるような何かが入ってたりしないかな?」

 悪戯っぽく笑いながら、総司は言う。
 決して彼を疑っているわけではない。ただ仏頂面のイメージがどうしても強い名護がああまで気を休めて飲み物を口に含んでいるのを見ると、少しだけそんな可能性を感じてしまったというだけのことだ。
 それを翔太郎も理解しているのか、少しだけ笑って、しかしすぐに帽子の縁をなぞりながら返す。

706 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:26:04 ID:tJIwqj620

 「かもな……けど、だとしたらあんなにおいしくなりゃしねぇよ。
 もしもなんかあれにあるとするなら、それは『温かくておいしいものを飲むと幸せになる』なんていう、そんな当たり前のことはこの辛い状況でも当たり前なんだって、それを皆に思い出させるだけで十分だってことさ」

 クイと顔を上げながら、翔太郎は気障に笑う。
 もう幾度となく見た光景ではあるが、どことなくこれを見ると安心する自分がいることを、総司は自覚していた。
 気の置けない友、そして名護という師匠に、翔一や、今この場にはいないが真司を始めとする仲間達。

 そんな様々な人を思い出して、総司は何だか無性に嬉しくなる心地だった。

 「ねぇ、翔太郎。やっぱり――」

 ――仲間っていうのはいいね。
 そう続けようとして、何だか気恥ずかしくて、喉元まで出かけたそれを急いで飲み込む。
 だがそんな一瞬の葛藤を、翔太郎は……名探偵は見逃さない。

 「あん?……今なんて言おうとしたんだ総司?
 やっぱり……?やっぱりなんだ総司?言ってみろよ」

 字面とは裏腹に、悪戯っぽい笑みを携えて、手をワキワキとさせながら問う翔太郎。
 まるでお前の言いたかったことは分かっているぞとでも言いたげなそれに、総司も釣られて笑ってしまって。

 「やめて翔太郎―!やめてくれー!」

 「いいや止めねぇ!お前が何を言いたかったのかちゃんと言うまでは絶対に許さねぇぞ!」

 どちらからともなく追いかけっこの始めた彼らを見て、名護はただその喧噪さえ愛おしそうに、それを止める気さえないように朗らかに笑った。
 あぁ出来れば、この瞬間が永遠であればいいのに。
 大ショッカーを倒し殺し合いが終わった後も、彼らとこうしてずっと過ごせたならいいのに。

 元の世界になんて、帰ったところでこれほどの友と呼べる存在が果たして出来るのか。
 いっそのこと、大ショッカーを倒さずにこのまま――。
 一瞬芽生えたそんな思いを、しかし大きく首を振り否定して、総司は笑う。

 この戯れが、辛い現状を忘れるための一時だけの現実逃避なのだとしても、或いは元の世界で誰も自分の帰りを待っていないとしても。
 こうして別の世界の住人に、仲間が出来た。それだけで十分ではないかと、総司は思った。
 大ショッカーによる殺し合いが終わった後どうなるにせよ、今この瞬間を焼き付ければいいではないか、と。

 しかしそんな時間は、すぐに終わりを告げる。
 窓ガラスが突然に割れて飛び散る騒音と、そして――。

 「――随分楽しそうじゃん、僕も混ぜてよ」

 その窓ガラスの先、原理は不明ながら揺らぎさえせず浮遊する青年が、現れたことによって。
 唐突極まりない、かつ善良な参加者とは到底思えない派手な登場に、場の空気は一瞬で豹変していく。
 そしてまた、ここにいる彼らは決して、平和ボケした一般人ではなかった。

 一瞬で戦士としての風格を取り戻し、現れた敵を強く睨み付ける。
 そして同時、彼らはその青年に見覚えがあることを、思い出していた。

 「てめぇ……まさか大ショッカーの……!」

 「おー、覚えててくれた?そ、僕は大ショッカー幹部のキング。よろしくね、仮面ライダー」

 真っ先にその存在に言葉を発したのは、翔太郎だった。
 第一回放送で仮面ライダーの正義を口先だけなどと嘲笑したこの男を、彼が忘れるはずもない。
 大ショッカーの幹部である彼を前に情けも無用かと、彼は懐からドライバーを取り出そうとする。

 「どきなさい!翔太郎君!」

 だが翔太郎が行動を起こすより早く、自身の後方から怒号のような指示が飛んでいた。
 それに思わず身を躱せば、後方からキングと名乗った青年に向けて高密度の衝撃波が放たれる。
 不意を突いたはずの一撃は、しかしキングに到達するより早く、彼の目の前に生じた盾に防がれ意味を成すことはなかった。

 「危ないなぁ、もし当たってたらどうするのさ。仮面ライダーなんだから生身の人間を殺したりしたらまずいでしょ?」

 「黙れ。大ショッカーの手先に、かける情けなどない……!」

707 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:29:56 ID:tJIwqj620

 あと一歩だったのに、と歯噛みする翔太郎を前に、ヘラヘラと馬鹿にした笑いを浮かべながら煽るキング。
 しかしそんな敵を前にしても、イクサナックルを手に構えたままの名護もまた、一切動じることはない。
 未だ揺らぐことなく、その切っ先をキングに向け続けていた。

 だが、これ以上ないほどの敵意を向け続ける名護の一方で、相対するキングの興味は既に名護にはない。
 視線をチラと動かし目当ての人物を補足して、そのままゆらりと病院のロビー内に着地する。
 どうにも手を出し切れずじりじりと距離を取る面々に対し、彼は残る一人の青年に足を向けた。

 「やぁダークカブト。それともこう呼ぶべきなのかな?天道総司君、って」

 「……」

 キングのあからさまな挑発に、総司は答えない。
 自分の経歴を知る大ショッカーが相手となれば、こうして自分の特殊な状態を知り尽くされているのも予想の範疇であった。
 だがそれはそれとして、やはり自分にとってのデリケートな部分にこうしてずかずかと土足で踏み入られるのは決して愉快なことではない。

 「いやぁ、君には一つお礼を言いたくてさ。
 実を言うとさ、第一回放送で言ってた僕の知り合いのお人好しの仮面ライダー……あれは君が殺したブレイド……剣崎一真のことなんだよね。
 皆に代わって礼を言うよ。君があの口先だけの正義の味方を殺してくれたおかげで、この殺し合いでルールを分かってない奴がどれだけ役立たずなのか、あいつみたいな甘ちゃんもよくわかったと思うし」

 「野郎……!」

 キングの、軽薄ながら的確に総司の地雷を踏みぬくようなその発言に、翔太郎は肩を怒らせる。
 奴は間違いなく、総司の今までの動向を知り尽くしている。
 下手をすれば総司がトラウマを刺激され動けなくなってもおかしくない、と懸念を抱きかけて、しかしそれは杞憂に過ぎないと彼は気付く。

 他ならぬ総司本人が、キングを前に一切の揺らぎを見せずその足を進めたからだ。

 「……キング。確かにそれは僕の罪だ。けど……だからこそ僕が、お前を倒す。
 剣崎の遺志を継いで、いやお前が馬鹿にした全ての人の分まで、僕が“お人好しの仮面ライダー”の強さを見せてやる……!」

 「……本気で言ってるの?自分で殺しておいて、一丁前にその遺志を継ぐとか寒すぎ。
 それに、偉そうに言ってるけど、今ブレイドが誰の手にあってどう使われてるかも知らないんでしょ?教えてあげるよ、実は――」

 どこまでも続くキングの煽りに最早一切動じることなく、総司はそのまま懐に手を伸ばす。
 これ以上ないと言い切れるほどの強い意思に反して、どうしようもなく自分の手が震えているのを、自覚しながら。

 「――え?」

 果たして、総司が取り出した銀のバックルを前に、キングはこの会場に来てから恐らくは一番の驚愕を示した。
 何故ならそこにあったのは、キングの想定においては未だダグバという暴力の化身が遊戯の為に用いているはずの道具。
 口先だけの仮面ライダーが、この場でどれだけ無力なのかを証明する為の生き証人となるはずだった、忌々しきブレイドの力そのものだったのだから。

 「なんで、それをお前が……」

 「決まってんだろ、俺たちがダグバに勝ったからだ。
 ……その様子を見ると、ダグバに勝てないようなお前達は結局口先だけ、なんて煽るつもりだったみてぇだな?」

 「は?そんなわけないじゃん。ダグバなんて僕に比べたらつまんない戦い方しか出来ない奴だし」

 そう言いながら、しかし明らかにキングは先ほどまで浮かべていた余裕を崩していた。
 この会場有数……否、恐らくはこと戦闘のみにおいては右に並ぶもののいない怪物、ン・ダグバ・ゼバ。
 セッティングアルティメットにさえ変貌した彼を、自身が否定した仮面ライダー達が打ち倒したという事実に僅かながら動揺を隠しきれなかったのである。

 それを見抜いているのかは先ほどまでとは違い精神的余裕を手に入れた翔太郎が気障に笑うのも無視して、キングは再び総司に向き直る。

708 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:33:34 ID:tJIwqj620

 「君、本当に仮面ライダーの遺志なんて継ぐつもりなの?やめておきなって。
 正義の味方の真似事なんてつまらないことするよりさ、僕と一緒にここにいる全員殺してさ、世界を無茶苦茶にしようよ」

 「――いやだ。僕はお前とは違う。僕は……仮面ライダーだ!」

 キングの嘲りにしか聞こえないような言葉の一切を切り捨てるように、総司はそのバックルにスペードのAを滑り込ませる。
 そのまま彼が腰にバックルを迎えれば、闘争心を掻き立てるような待機音が、エンドレスに響き渡った。

 (剣崎……、僕なんかじゃ、とても君の跡は継げないと思うけど――)

 その場の誰もが見守る中、見様見真似で剣崎と同じ構えを取りながら、総司は心中で呟く。
 その瞳に後悔と、罪の意識と、そしてそれ以上の希望を宿しながら。
 キングの言葉にも全く揺るがぬ強い意志を伴って、彼はバックルのトリガーを引いた。

 「変身!」

 ――TURN UP

 鳴り響いた電子音声と同時生じたエネルギーの障壁が、総司の目前に停滞する。
 その光景を前に彼は一瞬躊躇したように俯いたが、しかし瞬間彼はその中を思い切り潜り抜けた。
 刹那、オリハルコンエレメントを抜けた彼の身は最早、アンデッドに対する最強の鎧を纏っているも同じ。

 スペードの意匠を刻んだその鎧を纏って、総司は少しばかりの高揚に駆られながら、しかし油断なく腰のホルスターから醒剣を取り出した。

 (――でも僕も、君の跡を継ぐ者の一人としての責任を、負わせて欲しいから。
 だから今だけは、一緒に戦って……!)

 自身が手にかけた男の鎧を身に纏って、しかし罪悪感に押しつぶされることなく、総司は胸中で強く宣言する。
 許されざる悪を前にするその時だけでも、自分に力を貸してくれ、と。
 そうして”仮面ライダー”への変身を完了した総司を前に、翔太郎は一つ笑みを浮かべる。

 「へっ、随分と似合ってるじゃねえか総司」

 「翔太郎……ありがとう」

 先ほどまでブレイドを立派に纏っていた翔太郎の言葉に照れくさくなった総司……ブレイドの横に、二人の戦士も並ぶ。
 名護啓介と左翔太郎。相応の実力を誇る彼らが今、総司と共に戦う為の力をそれぞれ手にしていた。
 だが戦闘準備を整えた彼らを前に、キングは一つ小馬鹿にしたような笑いを上げる。

 「ちょっとちょっと、三対一なんて卑怯じゃん、そんなの正義の味方がやっていいの?」

 「……貴様は全ての仮面ライダーに喧嘩を売った。こうなるのも予想のうちだろう?」

 「確かにね。それなら――」

 言ってキングは、指を弾き小気味良い音を鳴らす。
 瞬間、建物が揺れ、何かが押し寄せるような轟音が彼らの耳に到来する。
 一体彼は、何をしたというのか。そう問いただそうとして、彼らのその疑問はすぐに晴らされた。

 「ギシャァ!」

 気色の悪い呻きを上げながら、窓を、壁を破壊し夥しい量の影がロビーにどんどんとなだれ込んでくる。
 その数は、ざっと視認できるだけで10体以上……残存参加者数を考えても到底人が変身しているとは思えないそれらが、一瞬で三人を取り囲む。

 「――これでも、文句は言わないよね」

 現れた無数のモンスターを前に、キングは満足げに手を広げ笑った。

709 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:38:01 ID:tJIwqj620


 ◆


 「ふんふーん、ふふふーん……」

 病院に、彼が現れる数分前。
 どこかで聞いたのか、それとも即興で作り出したものなのか。
 そんな事さえ分からないほどに適当なメロディを鼻歌で奏でながら、キングは上機嫌にその足を北方向に進めていた。

 彼の視線がその先に捉えるものは、今やただ一つ。
 それは、D-1エリアに存在する病院。東側のそれに比べ小さいながらも、一方で東側のそれに比べて随分と病院と判断できるだけの質量を保有したまま佇む白亜の建造物であった。
 そしてやがて、彼の足は止まる。

 病院を目と鼻の先と形容できるほどに接近したことと、そしてなによりこれから行うことの仕込みを行う為だ。

 「さぁて、それじゃ早速……」

 言いながら彼がウキウキとした表情で掲げたのは、レンゲルバックル。
 それをそのまま腰に迎え入れるのかと思いきや、彼の目論見は違っていた。
 彼が見つめていたのはバックルではない。その中に収められた、都合18枚のラウズカードだったのである。

 ――どういうことだ?

 キングの脳内に、スパイダーアンデッドの困惑したような声が響く。
 『剣の世界』の存続のために、レンゲルに変身して他世界の参加者を減らすのではなかったのか。
 少なくとも先のキングの言葉をそう捉えていたスパイダーアンデッドは、カードの中で著しい混乱を示した。

 だが、そんな彼の困惑を前に、キングはただ笑う。
 その動揺さえ、自分の計画のうちの一つであったと、そう言うかのように。

 「いや、別にそんな混乱することじゃないよ、カテゴリーA。
 これからやることに君が役立ってもらうってのは変わらないんだしさ」

 キングの考えを読めずひたすら疑問符を浮かべるスパイダーアンデッドに対し、キングはもう取り合うこともせずにデイパックから一つのバックルを取り出す。
 レンゲルバックルによく似た、しかし明確に違う意匠が施された黄色のバックルを。

 ――なんだ、それは……?

 「ん?あーこれね。君は知らないだろうけど、僕たちの世界で未来に作られるかもしれない新しい仮面ライダーさ」

 結構よく出来てるんだよねこれ、と他人事のように呟きながら、キングはそのバックルに一枚のカードを装填しそのまま腰に迎え入れ、ベルトを発生させる。

 「変身」

 ――OPEN UP

 瞬間生じたオリハルコンエレメントが、キングの身体を異なる形態へと変化させる。
 仮面ライダーグレイブ……彼らが知るはずのない未来、或いは存在しえた一つの可能性の象徴。
 しかし、その変身を見届けてなお、スパイダーアンデッドは困惑しか示せない。

 自分を使用するレンゲルでなく、人造アンデッドを動力源に有するそれをわざわざ使う理由が、全く思い当たらなかったからだ。
 だがそんな自分を無視するように、グレイブはレンゲルバックルから全てのラウズカードを引き抜く。
 全てのカード……そう、スパイダーアンデッドの封印されたクラブのカテゴリーAをも含めた、全てのカードを。

 ――なんのつもりだ、それは俺の力だぞ!

 キングの意図が読めないままに、スパイダーアンデッドは彼の行為に対する異議を吐く。
 力への妄執に取りつかれたスパイダーアンデッドにとって、キングのこの行為は同じ世界の存在とはいえ決して看過できないもの。
 だがそんな彼の怒りさえも、グレイブにとってはただの嘲笑の対象でしかなかった。

 「君の力?嫌だなぁ思い上がらないでよカテゴリーA。ラウズカードに封印されたアンデッドは力なんかじゃなくて、言わば僕らの仲間だろ?
 じゃあこんな狭い世界の中でずっと閉じ込められてるのは可哀想だと思わない?」

 ――まさか……貴様……!

 ニタニタと笑いながら、思ってもいないようなことを吐くキング。
 彼の言葉は未だに要領を得なかったが、しかしスパイダーアンデッドは一つの可能性に思い至る。
 だがそれは、まさしく今まで自分がバックルの中で行ってきた暗躍を全て無に帰すような、自分に対する冒涜そのもので――。

710 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:41:09 ID:tJIwqj620

 「ってことで、まぁ頑張ってきてねカテゴリーA。君もアンデッドなら、正々堂々バトルファイトに臨まなきゃ」

 ――やめろぉぉぉぉ!!

 次の瞬間、スパイダーアンデッドが思念で思い切り叫ぶのさえ無視して、グレイブはその手に持ったカードを思い切り振り撒いた。
 その手を離れ、重力と風に捲られて不規則に落ちていく、7枚のハート、9枚のクラブ、1枚のスペード……計17枚のラウズカード。
 仲間とさえ言ったはずのそれらにはしかし最早目をくれることもなく、グレイブは最後に手に残ったカードを勢いよくグレイブラウザーに滑らせた。

 ――REMOTE

 電子音声が響くと同時、カードそれぞれに向けてラウザーから光の線が伸びる。
 グレイブでさえ目を眩ますような圧倒的な光量が収まれば、そこにいたのはもうただのカードの山ではなかった。
 蜘蛛や蔓や海月や蛾……それらを含めた都合17体の恐ろしい異形の怪物たちが、狭いカードの中に封印されていた鬱憤さえ晴らそうとするかのように蠢いていた。

 「アハハ!思ってた通りやっぱ最高!」

 そしてそんな光景を前に、グレイブは一人場違いなまでに笑う。
 彼が今歓喜の声を上げているのは、仲間を開放できたことに対する達成感からなどではない。
 アンデッドという種族そのものが自分にとってはバトルファイトの敵に過ぎないのだから情などわくはずもなかった。

 それに何より、ジョーカーや仮面ライダー如きに負け封印されたアンデッド共に、この殺し合いで今更キングが大きな期待を抱くはずもないとしても、当然のことだった。
 なれば彼がここまでの興奮に包まれているのかと問われれば、答えは一つ。
 彼らがいることでこの病院に齎されるだろう、最悪の混沌を想像したためだ。

 こんなところでいつまでも引きこもっている臆病者を彼らが無残に引き裂くのを見て、仮面ライダーが絶望する未来を。

 「少しの間ここで待っててよ、すぐに合図するからさ」

 そうした混沌への期待に抱いた愉悦も冷めやまぬ中、キングはそのまま変身を解きアンデッドの集団に命令する。
 かつてスペードスートのカテゴリー10である、スカラベアンデッドを思いのままに操った能力の応用。
 生まれながら強力な洗脳能力を持つキングの力を以てすれば、解放されてすぐの理性を失ったアンデッドなど、上級であっても一括りに操ることなど容易い。

 故に、アンデッドたちは忌々しいだろうカテゴリーKに反抗することさえ許されず、そのまま次なる彼の指示を待つこととなった。

 「……ん?」

 と、そんな折、キングは自分の言うことに従うことなく自身に鋭い視線を向け続ける一つの影を視認する。
 だがその姿を視界に収めるまでもなく、キングはなぜそれに対して自分の能力が効かなかったのか、理解していた。

 「あー……お前のこと忘れるところだったよ」

 どことなくうんざりした口調で、キングはそのアンデッドに向き直る。
 恐らくはこの場で唯一、ジョーカーでさえ言いなりに出来るだろう自分の洗脳に一切影響されないだろう存在、別世界に存在するもう一人の自分自身。
 つまりはそう、スペードスートのカテゴリーK、コーカサスビートルアンデッドに。

 「グオォ!」

 封印からの解放を経た影響か、それともキングとは明確に別次元の存在である為か。
 そのどちらかは不明ながら、コーカサスは言葉さえなくキングに向けて破壊剣オールオーバーを思い切り振り下ろした。
 自分自身が翳す自分への暴力。ソリッドシールドさえない今、最早その直撃はキングでも耐えられるはずがない。

 しかしキングは身動ぎ一つすることはなく、故にコーカサスの剣はそのまま彼の身体を真っ二つに切り落と――せない。
 あと一ミリ、ほんの少し腕を動かせればキングを下すことが出来ただろうその寸前で、しかしコーカサスはもうまんじりとも剣を動かすことは出来なくなっていた。

711 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:44:54 ID:tJIwqj620

 「なに驚いてるんだよ。当たり前だろ?お前は僕なんだから」

 キングが軽薄な笑みを浮かべそう吐き捨てるのに対し、コーカサスはなおも困惑しか返せない。
 どうにかキングを下そうと衝撃波を放とうと一歩退いたかと思えば、しかしそれを為すことも出来ないまま、コーカサスは苦し気な声をあげてその身を粒子状に分解させていく。

 「グアァ……!?」

 自分自身がどうなっているのか、一切の理解が追い付かない様子でコーカサスが呻く。
 だがもう一人の自分が上げる無声の抗議を前に、キングはただ愉悦の表情を漏らすだけ。
 瞬間、彼がひとたび腕を大きく広げると、次の瞬間にはもうコーカサスの身体はキングに吸収され、まさしく”2人は1人になっていた”。

 ――キングの身に何が起こったのか、一切の理解が追い付かないものもいるだろう。
 だがこれは、決してこの場で初めて起こった事象ではない。
 これと同様の事例が起こったのは、かつてディケイドが訪れた『龍騎の世界』におけることだった。

 ライダー裁判の発端となるATASHIジャーナルの編集長、桃井玲子の殺害をはじめとして、龍騎の世界で暗躍していた、鎌田という男。
 ライダーバトルの結果で裁判の判決が決まるその世界において、光夏美に自身の殺害に関する罪を擦り付けようとした、許されざる悪である。
 結局は彼の犯行はタイムベントで過去に戻った士により阻止され、夏美に関するライダー裁判が起こることもなくなったものの、大事なのはそこではない。

 今ここで重要なのは、彼が過去に戻った際に起こった事象、そして彼の本当の正体である。
 果たして鎌田の真の姿とは、『剣の世界』に存在するハートスートのカテゴリーK、パラドキサアンデッドであった。
 ディケイドの影響か、或いは鳴滝の手引きで世界を渡った彼は、桃井にある時その人ならざる正体を桃井に知られた為に、口封じの意を含め彼女を殺害したのである。

 そして士たちのタイムベントに紛れ同じく過去に戻った鎌田ともう一人の(本来その時間にいたはずの)鎌田との間に起こった事象とは、二人の鎌田が……過去と未来の鎌田が一つになるという奇想天外なものだった。
 どういうことだと頭を抱えたくなる気持ちも分かるが、しかしここまでは前提、本題はここからだ。
 その本題とはつまり、なぜ鎌田は一切の理由なく過去の自分と融合したのか、という問いである。

 タイムパラドックスの解消?なるほど一理あるかもしれない。
 鎌田の語られざる能力?確かに彼の能力には不明瞭な点も多く、否定しきることは出来ないだろう。
 だが、ここでは敢えてこれらの理屈を否定しよう。

 ではなぜ、二人の鎌田は融合したのか?
 その答えはずばり、“鎌田がアンデッドであったから”だ。
 どういうことか、それを説明するには、アンデッドというものがどういった存在なのかを今一度理解する必要がある。

 『剣の世界』に存在する怪人アンデッドとは、つまりそれぞれのアンデッドがそれぞれの生物の始祖であり、またそれぞれの種にとっての英雄と言っていい。
 彼らはそれぞれバトルファイトにおいて勝ち残ることで得られる報酬、自身の種の繁栄を望み、その座を巡って戦いあう、言わばそれぞれの種が選んだ精鋭たちの集まりなのだ。
 と、ここまでを踏まえたうえで問おう。

 “もしもどれか一つの種が、バトルファイトに参戦できるアンデッドを二人輩出したとしたらどうなる?”

 答えは明確単純、明らかな不平等が生じ、バトルファイトそのものの均衡が崩れることになる。
 なれば公正な戦いを望む統制者が、そもそもどういった条件であれ(勝利すれば全てを滅ぼすことになる破壊者ジョーカーを除いて)同一のアンデッドが同時に存在できないようにしていたとして、さして不思議ではないだろう。
 ……説明は長くなったがつまりは、鎌田が一つになったのも、今キングが一つになったのも、統制者が仕組んだ調整機構の表れだったということだ。

 さて、細かい理由はともかくとして、結論として今ここで起こったことは二つ。
 参加者に支給されていたスペードスートのカテゴリーKがキングと一体化したこと、そして――。

 「うん、やっぱり思った通り、だね」

 自分自身もコーカサスアンデッドへとその身を変えたキングは、呟く。
 先ほどまでは見る影もなく破壊されていたソリッドシールド。
 もう一人の自分を吸収することで完全に復活したそれを、満足げに見つめながら。

712 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:48:09 ID:tJIwqj620

 別にエクシードギルスにこの盾を壊されてからもその不在を強く意識することはなかったが、ソリッドシールドは元来からこの身に備わった能力である。
 それに、このバトルロワイアルに途中参加したことによるアドバンテージの一つ、参加者の正確な場所の把握が既に意味のないものになってしまった今となっては、一つでも戦力を増やしておくことは決して無駄ではなかった。
 レンゲルバックルと合流できればこうなったかもしれないと思ってこそいたが、こうまで上手くいくとキングとしても今後が怖くなってしまうような心地である。

 「ま、僕ならこんなの使わなくても面白い遊びは山ほど出来るけどね」

 その身を再び人間のものに戻したキングは、最早不要な入れ物と化したレンゲルバックルを投げ捨てる。
 スパイダーアンデッドがまた封印されれば使えるようにこそなるが、自分の楽しい時間を終わらせかねないアイテムなど一つでも少ない方が良い。
 バイバイレンゲル、と一言だけ呟いた彼は瞬間、病院から響く喧噪の声を聞いた。

 まさか先客がいたかと思ったが、何のことはない。恐らくこれは戦いの音ではなく、ただ暇を持て余してはしゃいでいるだけのようだ。
 であればこれから、自分がそんな退屈な時間をぶちこわしてやろうではないか。
 自身がこれから崩壊させる集団の、その最期の安息の声をただ煩わしく感じながら、キングはその場に似合わぬほどに気怠げな表情で病院へと足を進めた。


 ◆


 キングの合図を受けて現れたモンスターの数は、すぐわかるだけで10数体といったところか。
 先ほどまで三人しかいなかったはずのこのロビーは、今や魑魅魍魎跋扈する地獄変と化していた。
 流石の仮面ライダーも緊張を高める中、キングは一人場違いな余裕を浮かばせる。

 「どう?驚いた?僕が無策でこんなところに来るわけないじゃん」

 「……このモンスターたちは、一体なんだ。大ショッカーの手先か?」

 「いや、違うよ。こいつらは僕が操ってるだけ。このカードを使ってね」

 名護の問いに対し、案外素直にキングは懐から一枚のカードを取り出す。
 その絵柄や細かい情報は未だ得られなかったが、しかし名護にはそうしてキングが表にその札を露出しただけで十分だった。

 「総司君!これを使え!」

 まるでその瞬間を待っていたでもいうのか、懐から素早く一枚のカードを取り出した名護は、ブレイドにそれを投げつける。
 真っ直ぐに飛んできたカードを危なげなく受け取って、ブレイドはそのままそれをラウザーに滑らせた。

 ――THEEF

 それは、名護が持っていたラウズカードの中の一枚、カメレオンシーフのカード。
 敵の持つカードを奪う効果を持つそれを受けて、キングの手に握られていたカードは呆気なくブレイドの手に渡る。

 「うわー、正義の味方が泥棒なんて、とんだスキャンダルじゃん。恥ずかしくないの?」

 「あぁ、恥ずかしくはないな。それに、これでお前はモンスターを使役出来ない」

 「……もしかして、こいつらをミラーモンスターみたいなもんだと思ってる?
 違うよ、こいつらを操ってるのは僕自身の能力。そのカードはあくまで最初にこいつらを解放するためだけのものさ」

 「解放……?」

 キングの言葉につられてその手の中のカードを見たブレイドは、見覚えのある形式で書かれたクラブの10の文字を読み取った。
 更にその下には、REMOTE、英語で解放を意味する文字が見て取れる。
 そして同時、先ほど一条から聞いた話の中でこのカードを始めとしてクラブのカードを使うライダーが西側にいたことを、彼らは思い出していた。

 「まさか……今はお前がレンゲルを!?」

 「う〜ん、まぁ正解かな。本当はもうちょっと複雑だけど、おまけで当たりってことにしてやるよ。
 あ、あとついでに教えておくけど、召喚制限の1分を待っても無駄だよ?首輪をしてない僕が召喚したこいつらは、そんな制限無視できるんだ」

 まさにゲームを楽しむような口調で、キングは長々と話し続ける。
 心底腹が立つ外道だが、今は彼に圧倒的情報アドバンテージがあるのは疑いようがない。
 ここは苛立ちを押さえて話を聞くべきかと、翔太郎は何とか自分の先走りそうになる思いを押さえつけた。

713 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:51:46 ID:tJIwqj620

 「おい、解放だけがそのカードの力で、こいつらを操ってるのはお前の能力ってことは、お前を先に倒したらこいつらが野放しになるってことか?」

 「お、いいとこ目付けるね、その通りだよ。僕を先に倒したら、こいつらは全員自由になって会場を徘徊して、手あたり次第参加者を襲うだろうね」

 キングの答えを受けて、翔太郎は歯噛みする。
 雑魚は無視して全員でキングを叩く、という戦法が通用しないようにあらかじめ手を打ってあるということだ。
 恐らく、ここにいるアンデッドの一体一体は、ここまで生き残った仮面ライダーであれば問題なく対処できる強さであろう。

 だが、参加者には変身制限が存在する以上、この数が鎖もなく解き放たれるのは避けなければならない。
 恐らくはそこまで読んでこいつらを解放したのだと思うと、なるほどこれは世界を無茶苦茶にするという狂った目的のためには素晴らしいプレイングだと認めざるを得ないだろう。
 何度目ともしれない嫌悪感を敵に抱いた翔太郎を相手に、キングはなんともわざとらしく何かに気付いたように声を上げた。

 「あっ、そういえば言い忘れてたけど、解放したのはこいつらだけじゃないから。
 他の連中は僕が操ってるわけじゃないから、もうこの近くの誰かを襲ってるかもね?」

 「なッ……!」

 三人の動揺を前に、キングは不気味に頬を吊り上げる。
 元々混沌を望むキングにとって、それはある種当然の行動だ。
 彼の行動原理からすれば当然の行為ではあるが……しかしそれでも怒りを抑えることは出来なかった。

 ただ理不尽な暴力が、誰かに向いているという事実だけが、仮面ライダー達を焦燥に誘う。
 そして同時、そんな最悪の作戦を今このタイミングで自らキングがわざわざ明かした。
 それが意味するところは、つまり必要な時間稼ぎは大体出来ただろうという一つの確信から来るものだと、そう理解するほかなかった。

 「放たれたアンデッドはそれぞれクラブのA、9、ハートの7、8の四体!
 さぁお前らは止められるかな?」

 「……無駄話は終わったかよ?それじゃそろそろ行かせてもらうぜ」

 「それはこっちの台詞だし。――行け!」

 彼らが悠長に会話を出来ていたのも、最早それまでだった。
 キングの指示が飛ぶと同時、三人に向けてアンデッドの波が襲いかかったのである。
 だがその波が彼らに到達するより早く、翔太郎はその懐より“切り札”を取り出した。

 ――JOKER!

 ガイアウィスパーが、高らかにその名前を宣言する。
 その声を受け、アンデッドの視線が一斉に翔太郎に集まっていく。
 まるで、それと同じ名前の忌むべき死神を想起しているかのように。

 多くの憎しみを込めた視線を感じながら、しかしそれさえも振り切って彼は思い切りドライバーにメモリを差した。

 「変身!」

 ――JOKER!

 ロストドライバーに収められたメモリが翔太郎の戦意に応えるかのように再びその名を叫ぶ。
 それと同時生じた紫の粒子が彼を包めば、そこにいたのは最早ただの人間ではない。
 仮面ライダージョーカーの名を持つ、愛する街を、人々を守るため戦う孤高の戦士がそこに現れていた。

 「さぁて……っておわっ!?」

 戦闘準備を整え、敵に対峙しようと気障なポーズを構えたジョーカーは、しかし次の瞬間壁さえも打ち砕くスピードで吹き飛ばされていた。
 見れば、解放されたアンデッドのうち、特に活きのいいサイのアンデッドが、鬼気迫る勢いで彼に突っ込んでいたのである。

 「翔太郎ッ!」

 ブレイドの焦燥を含んだ声が、響く。
 常人であれば致命傷は避けられない攻撃を不意打ち気味に食らったジョーカーを心配してのことだったが、彼はそこまで軟ではない。

714 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:53:49 ID:tJIwqj620

 「ってぇな!いきなり何しやがん――」

 「ガアァッ!!!」

 突然の攻撃に怯みつつもすぐさま立ち上がり、そのまま軽口の一つでも叩こうとして、それよりも早く到来したアンデッドの群れを前に、その余裕さえ消え失せた。
 変身さえしていない名護もいるというのに、何故自分に対してだけここまで攻撃が集中するのだと不条理に怒るジョーカー。
 だがそんな呑気な思考を続けることさえ出来なくなるほどに、敵の攻撃は苛烈を極めていく。

 幾ら歴戦の彼と言えど、流石に攻撃を捌けなくなるという、まさにその瞬間。
 ジョーカーの視界を覆っていた魔物の群れが、突然に晴らされた。

 「大丈夫か、翔太郎君」

 「なんだか災難だったね」

 「名護さん、総司、サンキュー。助かったぜ」

 ブレイドと、イクサへの変身を終えた名護が、自身の救援に現れたのである。
 新たに現れた戦士を前に、流石にジョーカーのみを妄信的に襲うことは出来なくなったと判断したのか、アンデッドたちもまたそれぞれに狙いを定めなおす。
 未だ高みの見物を決め込むキングを、チラと横目で見やりながら、彼らは戦いの渦に飲み込まれていった。


 ◆


 数分前、最初にキングの接近に気がついたのは、実は一条と共にロビーから離れた病室にいた翔一であった。
 彼は瞬間、それまで浮かべていた柔和な表情から一変、突如虚空を睨み付け、何かを察したかのように険しい表情を浮かべたのである。
 まるで、彼が元の世界でアンノウンの出現を察知したときのような。

 この能力の原理は、翔一にも分からない。
 アギトの力がそうさせるのか、或いは翔一の誰かを守りたいという思いがそれを可能にするのか。
 だがそんな些末な事象の究明よりも大事なのは、それを感じるのは決まって人ならざる者が誰かを傷つけようとする時なのだということを、翔一は知っていた。

 「……」

 目の前で眠る一条を見る。
 この場に彼を一人置き去りにはしていくことに抵抗はあるが、それ以上に仲間の身には一刻を争う危険が迫っているかもしれない。
 どうするべきかと頭を悩ませていた翔一の元に、何か感情を込めた喧騒の声が届く。

 これはいよいよ行動しなければいけない時かと一層緊張を高め踵を返した翔一はしかし、後方から響いた小さな声に呼び止められる。

 「津上君……今の音は一体……」

 「あっ、一条さん。起きちゃいましたか」

 「いや、10分そこらであっても、寝られただけありがたい。
 それよりも今の音はまさか……」

 「……はい、そのまさか、だと思います」

 眠りを極めて短く切り上げられた一条はさぞ不機嫌だろうとばかり思っていたのだが、彼の言葉は嘘ではないらしく、顔色や表情は先ほどとは見違えるほどに血色もよくすっきりとしたものであった。
 刑事さんって大変だなぁ、などと場違いな言葉は口に出さず、代わりに翔一はただ彼の懸念に答える。
 そして同時、先ほどとは違う翔一の声音から察せられる状況に、一条の顔も刑事のそれに戻っていた。

 「でも、安心しててください。さっき言ったとおり、頭を使わなかった分だけ頑張ってきます」

 「……あぁ、わかった」

 なんとかその言葉を絞り出したが、実際のところ悔しくないと言えば嘘になる。
 それでも今の自分が戦闘など望めようはずもないのだから、これ以上彼を引き留めても無駄な時間を過ごさせるだけだった。
 そう脳内で理解は出来るものの、こうして事が起こって改めてその事実を突きつけられると些かプライドが傷つくというものである。

715 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 22:57:23 ID:tJIwqj620

 「大丈夫ですよ、きっとすぐに帰ってきますし、それにここは安全――」

 一条の内心を見抜いているのか、どこか拗ねた子供に言い聞かせるような口調で語りながら、ふと窓に目を見やった翔一の瞳は、瞬間見開かれる。
 一応は警戒のために他の部屋と同じくカーテンを開いていたこの部屋の窓の外。
 そこに、壁に張り付きこちらの様子を覗き見る、緑と紫色をした蜘蛛の様なモンスターを視認したからだ。

 「――一条さん、危ない!」

 だが、その見覚えのある存在について因縁を燃やすより早く、翔一はベッドに横たわる一条を引き寄せそこから引きずり降ろしていた。
 蜘蛛のモンスターが病院内に侵入するために、窓を叩き割ろうと大きく拳を振り上げているのが見えたからだ。
 瞬間、翔一が一条をベッドの影で抱きかかえるが早いか、今まで一条が寝ていたベッドに、勢いよくガラスの破片が突き刺さる。

 「大丈夫ですか!?一条さん」

 「いや、問題ない。すまない、津上君」

 流石に今の行動は怪我人相手に乱暴だったかとも思うが、一条は文句の一つもなく礼を言う。
 彼が無理やりにでもこうして守らなければ、自分の身体はガラスの破片でズタズタになっていただろうことを嫌でも理解しているのだ。

 「しかし、一体何なんだ……他の参加者なのか……?」

 「いえ、違います。あいつ、多分小沢さんを操っていたモンスターです」

 「なんだって?ということは、あれもアンデッドという怪人なのか……?」

 小沢がレンゲルという仮面ライダーに変身した時に、一瞬だけ現れた蜘蛛のモンスター。
 その姿と、今襲撃してきたモンスターは、間違いなく同一のものだったのである。
 とはいえ、それが分かったところで、どうして実体化したのかだとか、誰が解放したのかだとか、様々な疑問は残ってしまう。

 だが、関係ない。
 少なくとも自分は頭を使ってどうこうするのは向いていないのは分かり切っているのだ。
 であれば今、無力な人に躊躇なく暴力を振るう怪人に、翔一が示せる行動はただ一つだった。

 ベッドの影から勢いよく立ち上がった翔一は、そのまま今しがた襲撃してきた蜘蛛のモンスター……スパイダーアンデッドに向き直る。
 不意打ちを仕掛けるようなモンスターを相手に、つべこべと会話を交わしている暇もない。
 居合のようなキレで、彼はいつもの構えを取った。

 瞬間、その腰にオルタリングが浮かび上がって、彼の戦意はどんどんと高まっていく。

 「ギシャア!」

 「――変身!」

 待ちきれないとばかりに、狭い病室を気にすることなく敵に目掛け跳びあがったスパイダーは、しかし瞬間翔一の腰から放たれた眩い光に怯み思わず目を覆う。
 その光が晴れたとき、再度拳を振るおうとしたそれは、しかし逆に自身に放たれた黄金の拳のカウンターを受けていた。
 自身が登ってきた窓ごと壁を破壊して、病院の外に吹き飛ばされていくスパイダー。

 小沢が命を落とす遠因と言っても過言ではないそれにこうして一発叩き込めたことに僅かばかり満足感を得て、窓の外に顔を乗り出したアギトは、驚愕する。
 今しがた落ちていったスパイダーが何事もなかったかのようにもう一度登り始めていることは勿論、イカ、植物、蛾をそれぞれ思わせるアンデッドも同様にこちらに向かってきているのだ。

 ……そう、キングが放ち、近辺の参加者を襲う様に指示していたアンデッドたちは、今こうして最も近い場所にいた一条と翔一に狙いを定めたのである。
 元々知性に疎い下級アンデッドばかりがその指示を受けたのもあり、翔太郎たちの懸念に及ばないような距離しか移動をしていなかったのだ。
 だが、恐らくはキングがこれを知ったところで、大した失望は感じないだろう。

 一瞬だけでも仮面ライダーたちの怒りを煽り自分のペースに巻き込めた時点で、彼にはそれで十分なのだ。
 その結果そのものよりも、偽善者の仮面が剥がれるその瞬間こそが彼の望みなのだから。
 ともかく、そんな敵の狙いに気付くはずもないまま、アギトは窓際から離れ一条のもとに駆け寄った。

716 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:01:46 ID:tJIwqj620

 「一条さん、ここもちょっと危ないみたいです、だから……一条さん?」

 「……え、あぁすまない」

 アギトの焦燥を含んだ声にようやく応じながら、しかし一条の目は未だ翔一が変じた戦士に釘付けになっていた。
 これが、アギト。一瞬クウガと見間違ってしまうような外見をした、しかし異世界に存在する、出自も何も異なる戦士。
 小沢から話を聞き存在については知っていたはずなのに、こうして直接目の当たりにすると自身の最も知る戦士によく似たその姿にはやはり呆気に取られてしまう心地だった。

 らしくなく数舜呆けた表情を晒した一条に対し、アギトは何を言うでもなく自身に背を向けて屈みこんだ。

 「乗ってください、一条さん」

 「え……?」

 「俺が絶対に守りますから」

 聞きたかったのはそういう言葉ではないのだが、と思いながら、一条はようやく彼の提案を理解する。
 この部屋に一人で残っていても危険だから、戦える自分と一緒に行動していた方がまだマシだ、と言いたいのだろう。
 馬鹿にするな、俺も立つことくらいはできる、と粋がってみたがったが、正直それだけだ。変身を介さなければ、満足に走ることも出来まい。

 であればここで意地を張るだけやはり無駄なだけと、一条は特に反論を講じるでもなく彼の背に飛び乗った。
 自身の体重を苦にもせず立ち上がったアギトの前に、新しく現れたイカのアンデッドがその触手を用いて病室に乗り込んでくる。
 どころかその横から計4体のアンデッドもまた乗り込んできているのだから、それ以上彼が余裕を持てるはずもなかった。

 こんな狭いところでは戦いにもなり得ないと、病室から飛び出たアギトの背を追って、アンデッドの群れが病院の廊下に雪崩れ込んだ。
 それを見ながら、どうやらこれは、いよいよ仲間たちの心配ばかりしていられる状況ではないらしいとアギトもまた気を引き締める。
 仲間の無事を祈りながら、今の自分の使命はこの背に負ぶさる男を守ることだと強く再認識して、アギトは踵を翻し気合と共にモンスターの群れに背を向けて走り出した。


 ◆


 ――LIGHTNING SLASH

 ――JOKER!MAXIMUM DRIVE!

 ――I・X・A-C・A・L・I・B・E・R-R・I・S・E-U・P

 「ヤアァ!」

 「ライダーパンチ!」

 「ハァッ!」

 三人の仮面ライダーが、同時に必殺技を放つ。
 それを受けたアンデッドがそれぞれ爆発を起こしたのを見届けて、ブレイドはカードを投げつけた。
 それが全て的確にアンデッドの身体に突き刺されば、次の瞬間にはもう彼らは粒子となってカードへ吸い込まれブレイドの元へ舞い戻る。

 この戦いが始まって早数分。
 歴戦の仮面ライダーたちの前に未だ立っているアンデッドは、早くも三体のみになっていた。
 それぞれ、ウルフ、オーキッド、パラドキサの名を持つ彼らの風格は、その実力が今までのアンデッドとは段違いであることを佇まいだけで示している。

 「はっ、ようやく一対一になったな」

 そんな一目で分かる強敵を前に、しかしジョーカーは怯むことなく笑った。
 だがその口先に比べ、肩で呼吸をしているその様子はまさしく満身創痍。
 戦闘経験であればともかく、スペックもリーチも他に比べ大きく劣るジョーカーにとっては、この乱戦は持ち前の体力を加味してもなお厳しいものだったのである。

 それでも、なお許せない悪を打ち倒すため、揺ぎ無く構えを取り敵に応対した仮面ライダー達。
 だが彼らがアンデッドに向け走り出す直前に、新たな影が一つ、飛び出した。

717 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:06:12 ID:tJIwqj620

 「――いや、3vs4、だね」

 突如後方から聞こえた忌々しい声に対し、ブレイドは振り向きながら思い切りラウザーで切りつけようとする。
 だが、果たしてその剣先にあったのは、先ほどまでの軽薄なイメージを抱かせるような青年ではない。
 コーカサスオオカブトを思わせるような、重厚な甲殻に身を包んだ黄金の怪人。それが、自身の渾身の一撃をその剣で易々と受け止めている姿だった。

 「キング……!」

 「……フン」

 憎しみさえ込めた総司の声に、しかしキングは鼻息を返すだけ。
 先ほどまでの饒舌極まりない彼の様子からすれば一層威圧感を感じるその佇まいを前に、しかしブレイドは一切引くことなく競り合いを繰り広げていた。

 「総司君――!」

 「ギシャアア!!」

 大ショッカー幹部という未曽有の相手を、未熟な総司が単身で相手どるという状況に、イクサは危機感を抱き増援に向かおうとする。
 だが、その歩みはブレイドがコーカサスに応対した為にフリーになったウルフアンデッドに阻まれてしまう。
 パラドキサとウルフ、上級アンデッドに相応しいだけの実力を誇る怪人たちを前にしては、幾らイクサと言えど強行突破は不可能であった。

 「名護さん!」

 「俺のことは気にするな!君はキングを倒し、仮面ライダーの正義を示しなさい!」

 「行ってこい総司!お前ならそんな奴楽勝だ!」

 「二人とも……」

 友と師が、自身に声援を送る。
 ガドルとの戦いを想起させるようなその光景を前に、ブレイドはコーカサスに向き直り得物に力を籠める。

 「はいはい、ご馳走様。んじゃ、さっさと場所移そうか?」

 心底うんざりした声音で吐き捨てたキングは、そのままオールオーバーを振るいブレイドの身体を無理矢理に吹き飛ばしていく。
 何とか直撃こそ避けているが、しかしそのあまりの威力に抵抗さえままならず身体が引き摺られていくのだ。
 それでも、なんとしてもこいつの好きにさせるわけには行かないと、ブレイドも幾度となくその剣をぶつけ合って。

 ……果たして何度そんなやり取りを終えたのか、イクサとジョーカーを視認できないところにまで移動を果たした二人は、そのまま剣を構える。
 ――先に動いたのは、ブレイドだった。
 突如コーカサスの横に回り未だこちらに身体が向ききっていない彼に向けて思い切りブレイラウザーを振るったのだ。
 
 その一撃は難なくソリッドシールドの自動防御に凌がれ、お返しとばかりにコーカサスがオールオーバーでブレイドを切り崩さんとするが、その直前にブレイドは大きく後ろに飛び退いた。
 なるほど、この男はパワーではキングに到底かなわないことを理解したのか、素早いヒットアンドアウェイでコーカサスを翻弄しようとしているのだ。

 だが、コーカサスもまた歴戦の戦士、その程度の攻撃で下せるほど軟ではない。
 忙しなく、しかし隙もなく攻撃を断続的に行うブレイドを前に、彼は思う。
 存在しないのなら、作ればいいのだ、隙を。

 「ねぇ、ダークカブト。君さ、本当に仮面ライダーになれるなんて思ってるの?
 ブレイド……剣崎一真やイクサ、ダブルの左側と違って、君は化け物なんだよ?そんなのに助けてもらいたい人なんていると思う?」

 「黙れ……!」

 先ほどより一際強い勢いで以て、ブレイドがコーカサスに切りかかる。
 ソリッドシールドが再びその一撃を防ぐのを見やりながら、彼はなおも続ける。

 「いやごめん。化け物、なんていうのはよくないよね。君は元人間なのに、他でもない人間たちに化け物にされた中途半端だもんね?」

 「……黙れッ!」

718 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:09:04 ID:tJIwqj620

 ヘラヘラと笑いながら、コーカサスは人のトラウマを平気で踏みにじっていく。
 総司にとってそれは、仲間を得たとはいえ消し切れない過去のトラウマ、忘れられない悪夢。
 あまりの辛さにそれより前の記憶を忘却するほどに刻み込まれた痛みを、苦しみを、未だ身体が覚えている。

 それを思えば思うほど、未だ燻り続ける自分の中の憎しみが頭をもたげてきて、消し切れたとばかり思っていた感情の奔流に正義が押し流されそうになる。
 今は亡き剣崎に、海堂に、そして天道に……数多の存在に誓ったはずの思いが、この程度の敵の言葉に揺らぎを見せている。
 それが他ならぬキングの言葉の証明にさえ思えてきて、ブレイドの憤りはなお高まっていく。

 全てはこの男が悪いのだ、この男を倒せばまた自分はさっきまでのように仲間たちに囲まれ笑顔を浮かべることが出来るのだと、ブレイドは無理矢理に自分を納得させ、剣を振るった。
 その焦り、故にだろう。一撃ごとに退く、という基本さえ忘れたブレイドの攻撃は、怒号と共に熾烈さを増していく。
 しかし彼の怒涛の連打を前にしてもなお、キングはソリッドシールドのみを頼りにそれを防ぎ続け、その舌を止めることはしない。

 「でもさ、仕方ないのかもね。君は言ったら親を失った子供みたいなものだし、口先だけの正義の味方を格好いい無敵のヒーローだと思っちゃったりしてもさ。
 もう少ししたら君も気付くと思うよ?格好だけ取り繕った正義の味方の本性が、どれだけ薄汚いのかを知ったら、ね」

 「お前は、それを知ったから世界を滅ぼそうとしてるっていうのか……?」

 「さぁね?でも少なくとも、誰かを守る正義のヒーローなんて夢見事よりは、その方がよっぽど楽しいと思うよ」

 「それは違う!」

 キングの軽い口調を、ブレイドは再び遮る。
 すべての世界を滅ぼして自分も死のうとしていた過去の自分は、ここまで下らないことを述べていたのか。
 数多の世界にそれぞれ存在する尊い無数の命、その一つ一つが放つ輝きから目を背けて全てを壊そうとする目の前の敵の、なんと許しがたいことか!

 だから、同時に思う。
 全ての世界を滅ぼしたいという欲を抱いているこの敵を許せないと感じる限り、自分は仮面ライダーなのだと。
 今の自分が過去の自分とは違うのだという実感をも抱いて、ブレイドは続けた。

 「……お前はただ、逃げてるだけだ。正義のヒーローになって誰かを守るなんて難しいから、何かを壊すっていう簡単な方に。
 一度壊したものは……殺した命はもう戻ってこない。その一度きりしかない命の大事さに気付かないから、そんなことが言えるんだ!」

 「へぇ、なるほどね。じゃあ君が殺した剣崎一真も、君が暴走したから死んだ海堂直也も、君が命の大事さを知るためだけに死んだんだね?
 君がいたせいで、その一度しかない命って奴を終えちゃったんだもん。……そう思わなくちゃ、やってられないもんね!」

 「――キングゥゥゥゥゥ!!!」

 高々と宣言したブレイドを前に、キングはなおも煽る姿勢を崩さない。
 彼の口車に乗ってはいけない。そう思いながらも、しかしどうしても昂っていく感情のままに剣を振るい続けるブレイドの攻撃を前に、ようやくコーカサスはオールオーバーで応じる。
 だが、先ほどまでは一方的に押せていたはずのコーカサスのパワーに、最早ブレイドは互角にまで追い付いていた。

 怒りや憎しみによるアンデッドと総司の融合係数の上昇に比例する、ブレイドが持つ戦闘能力の飛躍的な向上。
 かつて剣崎一真が自分を打ち倒したのにも似たこの状況を前に、しかしコーカサスは嘲るような笑い声をあげるだけだった。

719 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:12:36 ID:tJIwqj620

 「にしてもカブト……本物の天道総司も可哀想だよねぇ、君みたいな見た目を真似た化け物に、名前も力も奪われちゃうんだもん。
 結局君は、自分と天道総司の立場を入れ替えただけなんだよ。
 別の世界に飛ばされて皆から忘れ去られるだけの存在を、自分から彼に移し替えただけってこと」

 「違う!僕はあいつの分まで戦おうって、だから――!」

 「へぇ、別の人間なのに同じ名前を名乗ってるんだ?
 そんなに言うなら、自分の名前を名乗れば?それとも僕が呼んであげようか?君の名前はえーと確か――」

 「やめろおおおおぉぉぉ!!!」

 最早理性さえ感じさせない雄叫びと共に、ブレイドは突撃する。
 相対するコーカサスは再びそれをオールオーバーで受け止めようとして、しかし出来ない。
 融合係数が著しい高まりを見せたブレイドの一撃が、いよいよコーカサスのパワーを上回り彼の腕から剣を弾き飛ばしたのだ。

 弧を描いて吹き飛んでいく自身の得物を引き寄せる余裕さえなく、ブレイドの攻撃の雨に晒されたコーカサス。
 ソリッドシールドはそれを防ぎ続けるが、いよいよその盾も悲鳴と共に罅割れ始め、その身を二つに別つのも最早時間の問題であった。

 「これで、終わりだあああぁぁぁ!!!」

 力強い咆哮と共に、ブレイドはこの一撃でシールドごとコーカサスを倒そうと一歩下がり力を籠める。
 恐らくはかつてキングを封印した剣崎のそれにも匹敵しうるようなその勢いを前に、なおもコーカサスは余裕を崩すことはなく、故にブレイドは煮えたぎる義憤をその一撃に乗せて――。

 「――今だ、やれ」

 対するキングが、小さくそれだけ呟いた。
 とはいえブレイドに最早止まることは出来ない。
 いや或いは、そもそも怒りのあまりその声すら聞こえていなかったのかもしれない。

 そのどちらにせよ、ブレイドの目には今やキングしか映っておらず――。
 故に――キングがこの瞬間まで温存していた最後の切り札が、自身に迫っているのに気付かなかった。

 「ヴッ……!?」

 突如、全身に駆け巡った鋭い痛みが、体の自由を奪っていく。
 目の前に憎き敵がいるというのに、この剣を振るうことさえ出来ない。
 一体何をされたのか、その正体さえつかめないまま、総司は意識を手放した。


 ◆


 病院の廊下を、慌ただしく駆け抜ける6つの影。
 先頭を走るアギトは既に、走力向上のためにその身を風纏う青の姿に変えている。
 常人では追いつくことなど到底不可能な速さで駆ける彼の背には、必死にしがみつく一人の男の姿が見て取れた。

 一条薫、刑事として人並み外れた体力を持つ彼であっても吹き飛ばされないようにするのがやっとというアギトの後ろには、しかしつかず離れず4体の異形が迫っていた。
 スパイダー、プラント、モス、スキッド。仲間との合流を目指すアギトの後方に迫る4つもの異形は、自分たちとアギトとの距離が離れそうになる度、何らかの攻撃手段を用いて生身の一条を後ろから狙い撃つ。
 その度にアギトは振り向いて一条への攻撃に対処しなければならず、それ故にどうしてもスピードが下がってしまうのだ。
 そして生まれた一瞬の隙の間にアンデッドたちは距離を詰め、未だつかず離れずの逃走劇を繰り広げる羽目になったということであった。

720 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:16:31 ID:tJIwqj620

 「クッ、このままじゃ皆と合流できない……!」

 そんな何度目かのやりあいの後、アギトは思わず今のままならぬ状況に愚痴る。
 敵の攻撃をうまく阻むためとはいえ、いくつもの曲がり角を経てしまった今、仲間たちとの合流は半ば不可能に近いものになってしまった。
 理想を言えば、終わりの知れないこの追いかけっこを終え敵を打ち倒したいところだが、負ぶさっている一条を考えればそれもまた難しい。

 とはいえ変身制限が存在する自分にとっては、これ以上の不毛な時間の消費もまた厳しい。
 一体どうしたものかとアギトが数度目の攻撃をやり過ごすと同時、不意に背中から声が降る。

 「津上君、このままでは君が変身制限を迎えてしまうだけだ。
 あの角を曲がったところで俺を下ろしてくれ、そこで奴らを迎え撃とう」

 「え、でも一条さん……」

 「心配するな、自分の身は自分で守って見せる。
 それに君なら、奴らを一斉に相手にしても不覚は取らないだろう?
 戦いは自分の得意分野だとそう言っていたのを、俺は忘れてないからな」

 「……これは一本取られちゃいましたかね」

 アギトの姿のままで、翔一はへへへと笑う。
 生身の人間が、こうして力を持つ相手に対し指示を飛ばすという状況への理解や経験において、恐らくこの会場で一条薫に並ぶ存在はいまい。
 うまく丸め込まれた翔一は、しかし特に言い返すつもりもないようで一条の指示通り曲がり角で彼を背からおろし、一人だけでモンスターの前に立ちはだかった。

 いきなり戦意を増したアギトを前に緊張感を高めた5体のアンデッドに対し、彼はそのまま自身のベルト、オルタリングの右側のスイッチを押す。
 赤い光がベルトから放たれると同時、アギトの身体は今までその身を包んでいた風の力だけでなく炎の力に染め上げられ、その全身を再び大きく変貌させる。
 右手は赤く燃え盛る火に満ちて、左手は青く吹きすさぶ風に満ち、胴体は雄々しく佇む大地の力に満ち満ちた。

 まさしく三位一体を顕現したその姿は、仮面ライダーアギトトリニティフォーム。
 アギトの新たな姿にアンデッドたちが怯む中、彼はオルタリングから質量を無視して現れた醒剣と棍棒を掴んだ。
 それぞれフレイムセイバー、ストームハルバードの名を持つそれらを両手で軽く弄んだ後、アギトは油断なくアンデッドに向け歩を進めていく。

 達人の風格さえ滲むそれに最初に攻撃を仕掛けたのは、プラントアンデッドとスキッドアンデッドであった。
 プラントは種のような弾丸を、スキッドは圧縮された墨を、それぞれアギトに向けて一斉に放つ。
 相当量の威力を誇るのだろうその弾幕を、アギトは両手の得物を振るうことで撃ち落とし難なくやり過ごす。

 だがそれでもアギトの歩を止めるには十分だと判断したか、或いは理性さえないけだものの最後の抵抗か、二体のアンデッドはその弾幕を薄めない。
 これにはさしものアギトも防戦一方か、と後方で見守っていた一条が息をのむが、しかしアギトは既に対抗策を編み出していた。

 「ハッ!」

 アギトが気合を高めると同時、彼の持つ得物がそれぞれ真の力を開放する。
 だが、あくまでそれは虚勢に違いないと、攻撃を放ち続けるアンデッドたち。
 止むことのない弾丸の雨を右手に持つフレイムセイバーでやり過ごしながら、アギトは左手でストームハルバードを回転させていく。

 ――追い風が、アギトの後方より吹き寄せる。
 窓などどこも開いていないというのに発生したそれは、最初は静かなそよ風のような、ふとすれば消えてしまいそうな弱いものだった。
 だがそれは、少しずつ、少しずつ、しかし確実に勢いを増し、ほんの少しの時間で暴風とさえ形容しうる勢力を持って、アンデッドたちに向かい風として襲い掛かる。

 それでもなお攻撃の手を緩めずその口から墨を放ったスキッドだが、しかし瞬間自身の放った墨が暴風に流され彼自身の視界を黒く染めたことで、ようやく攻撃の手を緩めた。
 無論、高密度に凝縮されたそれは他ならぬスキッド本人にもダメージを与え、その身を大きく屈させり。
 また同時、自身の種子を弾丸として放っていたプラントも、放った勢いそのままに跳ね返ってきた無数の種に怯み体制を崩させた。

 果たして、自身が不得意とする遠距離攻撃を行う敵が怯んだその瞬間を、アギトは見逃さない。
 あまりの強風に足を動かすことさえままならない二体のアンデッドに、アギトはそれぞれフレイムセイバーとストームハルバードで斬り立てた。
 フレイムフォーム、そしてストームフォームの必殺技相当のそれをその身に刻まれて、プラントとスキッドは抵抗さえ出来ずに爆炎に包まれる。

721 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:22:02 ID:tJIwqj620

 「ギェェ!」

 怯えたような情けない声を上げて、アギトに背を向け飛び去ろうとするモスアンデッド。
 彼はアギトとの圧倒的な戦力差故に、この場を後にしようと本能的に逃げを選択したのである。
 だが、この状況でモンスターを外に放置することを許すほど、アギトは甘くない。

 彼が再びその左手に持つ薙刀を振り回せば、今度は先ほどとは逆の方向に風が吹く。
 つまりは逃げようとするモスアンデッドに、向かい風となるように。
 やがてその風は勢いを増し、モスの羽ばたきが生じさせる推進力を上回った。

 そうなればもう、皮肉にも彼の持つ自慢の羽は、最早アギトの生じさせた風を一身に受ける帆の役割を果たすのみ。
 勢いよく吹き飛ばされたモスアンデッドの身体は、そのままアギトの頭上をも超えていこうとする。

 「ハァッ!」

 しかしモスがアギトの頭上を越えるその瞬間、彼はその両手に持つ得物を勢いよく掲げた。
 ファイヤーストームアタックの名を持つその連撃を受けて、下級アンデッドごときが無傷でいられるはずもない。
 悲鳴と共に爆発をしたモスアンデッドごと武器を投げ捨てながら、アギトは残る最後の一体、スパイダーアンデッドに向き直る。

 間接的とはいえ、小沢澄子を死に追いやった悪魔の様なモンスター。
 らしくなく拳を握りしめたアギトは、そのまま両手を開き、気合と共にその頭のクロスホーンを6つに展開させる。
 それを受け、彼の足元に生じたアギトの紋様から彼の両足にエネルギーが流れ込んだ。

 構えを取ったアギトに対し、最早後がないと悟ったか、或いは僅かばかりの理性さえ消え失せたのか、スパイダーアンデッドは敵に向けて駆け出す。
 だが一方で、スパイダーが向かってくるのを一切気にすることさえなく、アギトは勢いよく跳び上がりその両足を揃え放った。
 ライダーシュートの名を持つ、通常のアギトが放つライダーキックを大きく上回るその必殺技の直撃を胸に受けて、スパイダーはその身から火花を散らし、爆炎と共に大きく横たわる。

 そして、僅かばかりの奮闘も虚しく、此度は確実にそのバックルを開きもうピクリとも動かなくなった。
 それは、桐生豪、ズ・ゴオマ・グ、小沢澄子、牙王、紅渡……多くの参加者に大小問わず害を及ぼした人ならざる者の悪意を、まさしく仮面ライダーが打ち晴らした瞬間であった。

 「やりましたよ……小沢さん」

 強化形態を用いたために変身制限を通常より早く迎えその身を生身に変えながら、翔一は一人既に亡きあの強気な婦警にこの勝利を捧げるように呟いた。
 あのクモのモンスターをこうして倒すことが出来たとはいえ、それで彼の気持ちが晴れるわけではない。
 どころか、こんな風に戦いで無念を晴らすなどという概念自体が、翔一にとってはとても虚しいものに思えた。

 どれだけ仇を取ろうと、どれだけ敵を倒そうと、彼女の居場所はずっとぽっかりと開いたままなのだ。
 彼女が受け持っていたという大学の生徒たちは、いつまでも帰ってこない講師の姿を待ち続けるのだ。
 そう考えると、こうして戦い続けること自体が、どうしようもなく辛いことなのだと、翔一は再実感してしまう。

 だがそれでも、止まるわけにはいかない。
 かつて誓ったように、誰かの居場所を奪う悪から、皆の居場所を守りたい。
 その為にも今は、自分にできることを精一杯する他ないのだ、とそう自分を言い聞かせるほかなかった。

 「津上君!」

 物思いに沈んだ意識を浮上させるように、一条の声が響く。
 壁に身をもたれさせながらとは言え立ち上がった彼に対し、翔一は笑顔で応える。
 少なくとも今は、彼をモンスターから守れたというだけで十分ではないか。

 そう考え彼に向けて歩を進めかけた翔一は、しかし瞬間後方からカードが風を切るような音が響いてきたためにその足を止めた。
 ふと見れば、赤いカードが突き刺さった四体のアンデッドは、それぞれ緑の粒子に包まれてカードの中に吸収され、その全てが一斉にある方向に飛んでいく。
 或いはこの混沌を生み出した張本人が現れたのかと緊張感を伴ってその行方を見た翔一の瞳に移ったのは――。

722 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:25:03 ID:tJIwqj620

 「――なぁんだ、総司君か」

 そう、そこにいたのは、先の戦いでも見た紺のスーツに銀の鎧を纏った仮面ライダー。
 ブレイドの名を持つそれは、翔太郎から様々な理由故に総司に渡っているはずのものであった。
 恐らくはアンデッドを封印できる能力を持つブレイドの姿で以て、この状況を収めようとしているのだろう。

 「……翔一」

 「どうしたの、なんか俺の顔についてる?」

 いつもの彼と変わらぬ声で、総司が翔一の名前を呼ぶ。
 その呼びかけに翔一はいつもの調子で返すが、総司はそれに何を返すこともない。
 ただその足をゆっくりと彼に向けて進めるだけだった。

 「翔、一……」

 「……総司君?」

 いよいよ両者の距離がゼロになろうかというところで、再び総司が彼の名を呼んだ。
 ……妙だ、何かがおかしい。声音から何から、いつもの彼のようでいて、どこかそうではないような、不思議な感覚が彼を襲う。

 「総司!翔一!一条!」

 と、そんなとき、ブレイドの更に後方から、ボロボロになった翔太郎と名護がその姿を現した。
 その様相を見れば、彼らもまた相当の戦いを経てきたということは容易に想像が出来た。
 ともかく無事に仲間と合流できたという安堵と、何となく圧迫感を感じる今の総司から逃れられるという緊張の緩和。

 その二つに押し流されるままに、翔一はその足を動かそうとして――。
 ――次の瞬間その腹に、深々と刃を突き立てられていた。


 ◆


 「――え?」

 最初に総司の口から漏れたのは、あまりにも間の抜けた困惑の声だった。
 今、自分は何をした?
 キングを相手に、ブレイドの力を身に纏い戦ったのは覚えている。

 そうして奴の言葉に踊らされ、予想外の攻撃に一瞬意識を手放したのも、それからすぐにまた飛び起きてキングを探したのも。
 全て覚えている。
 だからこそ、理解が出来ない。

 ――なぜ、自分のすぐ目の前で仲間である翔一が血まみれになって倒れているのか。

 思わず彼の傷の深さを確認しようと駆け寄ろうとするが、それよりも早く自身の手に握られている醒剣が目に入る。
 その剣先を、血の赤色に染めたブレイラウザーが。

 「え……?」

 何度目とも知れぬ困惑が、彼を支配する。
 まさか、“そう”だというのか。
 目の前に倒れる心優しい青年を刺したのは、紛れもない自分だと――。

 「あーあ、やっちゃった」

 「キング……!」

 どうしようもない疑心暗鬼に駆られる総司のもとに、ある種の助けが現れる。
 今起きたすべてをこいつのせいにできるという意味で言えば、最高の存在、忌むべき悪が。

 「お前が……やったのか、キング。翔一のことを……お前が!」

 「嫌だなぁ、僕は何もやってないよ。僕は何も、ね」

 「総司!そいつの言うことに耳貸すな!今からそっちに――」

 「うるさいなぁ……おい!」

723 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:27:22 ID:tJIwqj620

 明らかに不安定な精神状態になっている今の総司に対し、キングがこれ以上会話を続けるのはまずいと判断したのか、翔太郎と名護は生身ながら駆けだそうとする。
 だが、それを察知したかキングが何かに呼びかければ、彼らの前に新手のアンデッドが現れる。
 まだ伏兵を隠し持っていたのかと彼らが驚愕する一方で、しかし生身である現状、やられはしないまでも翔太郎と名護は敵の対処に応じざるを得なくなった。

 残るもう一人、一条もまた怒りと共にドライバーを取り出すが、彼はキングの放った衝撃波で容易く体制を崩され、反撃にはなり得ない。
 これで、倒れている翔一を除きすべての戦士は変身さえ出来ず事態を見守るしかなくなった。
 つまりはもうこれ以上、総司をキングの魔の手から助けられる存在もいなくなったということだ。

 「翔太郎、名護さん!」

 だが、生身で怪人を相手にする仲間たちを前に立ち止まっていられないのは、総司も同じだった。
 その手にレイキバットを携えて、変身を行おうとした彼の前に、再びキングが立ち塞がる。

 「やめておきなよ、また我を忘れて、君の仲間を殺しちゃうかもしれないよ?」

 「黙れ!お前がやったんだ、僕はそんなこと――」

 「――現実逃避も大概にしろよ」

 翔一のことはキングがやったのだと断じ吠える総司に対して、キングは声音を低くして答える。
 思いがけないその威圧感を伴う言葉に言葉を失った総司を無視して、キングは一歩総司へ距離を詰めた。

 「お前が、やったんだよ、アギトを。自分の手に握ってるその剣が何よりの証拠だろ?」

 「違う……僕がそんなことするはずない。だって僕は――」

 「確かに、君はそうかもしれないね。でも、“君の中の君”は、そうじゃないんじゃない?」

 「僕の中の、僕……?」

 何を言っているのか分からないといった様子で見上げる総司に対し、キングはあくまで諭すように続ける。
 まるで、それがさも当然であるかのように。

 「そうさ、忘れたわけじゃないだろ?君はネイティブ……化け物になった元人間なんだよ。
 確かに人間になった君は仮面ライダーになったかもしれないけど、ネイティブの君は誰かを殺したくて仕方なかった、そういうことだよ」

 「嘘だ……そんなのでっち上げだ。僕は……!」

 「でっち上げなもんか。ここに来てから暫くの間、君は全ての世界を壊そうとしてただろ?
 それに、今だってアギトを殺したじゃないか。てことはそれが、君の本性なんだよ。
 どれだけ取り繕ったところで、君は結局、何かを壊したくて仕方ないんだ」

 「嘘だ……嘘だ……!」

 キングの言葉に、総司はただひたすら困惑を漏らし続ける。
 彼の中に今膨れ上がっている疑心は、キングに対するもの以上に、自分自身に対するもの。
 戦いの最中に記憶を失ってしまった自分に対し、万全の信頼を置けなくなった時点で、総司は最早キングに良いように弄ばれるだけの存在に成り下がっていた。

 「嘘じゃないさ、君は何かを壊したくて仕方ない化け物だってことも――それから、誰かを守る仮面ライダーになんかなれっこないってことも」

 キングの言葉に促されるように、総司の変身は解除される。
 ただ制限時間を迎えただけのそれが、今の総司にとっては“仮面ライダー”からの拒絶のようにも感じられて。
 カチャリ、と音を立てて地に落ちたブレイバックルを拾い上げることも出来ぬまま、総司は震える視線で何とか仲間たちをその瞳に捕らえようとする。

 こんな状態でも、きっと名護さんや翔太郎は、自分を支えるための言葉を言ってくれるに違いない。
 そんなどうしようもなく甘い考えに、それでも藁にも縋る思いで視線を走らせた総司の、その瞳が最初に映したものは。
 床に横たわりその腹を中心に服を際限なく赤く染めていく翔一と、彼に呼びかけ続ける一条の姿だった。

724 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:29:59 ID:tJIwqj620

 「――あ」

 ガラガラと、何かが崩れ去っていくような錯覚を覚える。
 苦し気な翔一の瞳が、自分を見つめている。
 一体、何を言いたいのだろうか。いや、そんなこと考えるまでもない。

 ――なんで、こんなひどいことを。

 ――痛い、痛いよ、総司君。

 「あ、あああぁぁぁ……!」

 何を言うわけでもない翔一の瞳が、それでもなお自身にその痛みを訴えかけてくるかのようだった。
 やがてそうして届いた声は、今の彼の荒れ果てた精神状態においては、強い被害妄想と共に幻聴を発生させていく。

 ――やっぱり、化け物は化け物か。

 ――こんな化け物、殺した方がいいんじゃないか?

 ――もうお前は仲間じゃない、仲間を殺したお前なんか。

 「やめて……やめて……!」

 幻聴は、翔一だけでなく名護の、翔太郎の……或いは既に死んでいった仲間たちの声さえ伴って自身を責め立てる。
 お前なんか、仮面ライダーになれるわけないじゃないかと。

 「あああ……うわあああぁぁぁぁ!!!!」

 やがて、その声から逃れるために、総司は思い切り駆け出した。
 ただひたすら我武者羅に、それこそ海堂のもとから彼が逃げ出した時のように、何の思考も介することなく。
 その出所が自分の脳内であったとしても、それでも少しでも、その声を遠ざけるために。

 「総司君、待つんだ!おい!」

 そしてその背中をアンデッド越しに見やりながら絶叫するのは、名護である。
 だがその声は、決して届かない。最早何も耳に届かないといった様子で走る総司を前に、自分はあまりにも無力であった。

 「あーあ、行っちゃった。このバックルまで置いていっちゃって」

 「貴様……!」

 だがそんな名護の頭上を浮遊しながら、キングは一人呑気にブレイバックルをその手で弄ぶ。
 総司を言葉巧みに狂わせ翔一に致命傷を与えただけでなく、仮面ライダーに継がれてきたバトンであるブレイドをもまた悪事に使おうというのか。
 これ以上なく正義を愚弄する許されざる悪を前に、名護の握る拳はどんどんと力を増していく。

 だがそんな彼を前に、キングはカードを抜き去ることさえせずバックルを地面に落とした。

 「あげるよ。またリモートでアンデッドを開放するってのも、芸がないしね。
 それに、ブレイドを正義の味方じゃない奴が使うのもダグバの二番煎じで、なんか気に食わないし」

 「何だと……そんなゲームのような考えで、貴様はこんなに色んなものを滅茶苦茶にしたっていうのか……!」

 「そうだよ、だって僕はこのゲームを面白くするためにここにいるんだから」
 
 「キング、降りてこい。今からこの俺が、お前の命を天に帰してやる……!」

 「いやーそれは無理だと思うよ?それに、こんな長々と話してていいの?ダブルの左側、だいぶ苦戦してるみたいだけど」

 怒りに任せ宣戦布告をすれば、キングはあくまで軽薄な印象を崩さないまま顎で視線を誘導する。
 思わず後ろを振り向けば、そこにあったのは連戦から来る疲れ故か、翔太郎が今にもアンデッドに屈するのではないかというその瞬間だった。

725 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:33:07 ID:tJIwqj620

 「――まさか」

 だが瞬間、ある可能性に気付き名護が再び振り返れば、果たして彼の予想通り、既にそこには誰もいなかった。
 この場から消えるための一瞬の注意を引くのが目的だったのか。
 行動の一挙手一投足全てが無性に小賢しい敵の幹部をこれ以上なく腹立たしく思いながら、名護はブレイバックルをその腰に巻く。

 先ほどまでの悪夢を、自身の手で晴らすためにも。

 「変身」

 ――TURN UP

 弟子に引き続き、仮面ライダーブレイドに変身を果たした名護は、今まさしく翔太郎に襲い掛かる怪人に向けて、思い切り剣を振り下ろした。


 ◆


 誰もいない荒野を、バイクで爆走する男が一人。
 法定速度を大きく上回る速度で焦土を駆け抜ける彼の名は、門矢士。
 G-2エリアでの乃木との戦いの後、ひたすらに北上を続けた彼は、何とか放送を前に病院に着くという目標まであと一歩、というところまで迫っていたのだった。

 この異常なまでの速度での移動を可能にしたのは、他でもないビートチェイサー2000の高いスペックと、そしてそれを完全に活用できるだけの運転技術を誇る士本人の手によるものだった。
 或いはオフロードバイクとしての性能が高いビートチェイサーでなければ、瓦礫の多い焦土をスムーズに抜けることは出来なかったかもしれないと思う一方で、士の脳裏に一つの懸念が過る。

 (……乃木に時間を取られたとはいえ、キングより早く着けてるかは正直五分ってところか)

 そして、これほどまでのスピードで走り抜けてきたとはいえ、自分が追ってきた忌むべき邪悪より早く着けているという確信はなかった。
 どころか、ここに来るまでに彼の姿が見えなかったことからも、既に奴が病院で参加者同士の関係をかき乱している可能性は、これ以上なく高いとさえいえるものだった。
 故に、士の面持ちは暗い。これ以上ない犠牲を奴の様な胸糞野郎に許すというのは、もう耐えられなかった。

 「……そろそろ、曲がってもいいころか」

 既に禁止エリアになったE-1エリアを避けるためにE-2エリアを通ってきた士は、病院に向かうため無駄な回り道を余儀なくされていた。
 しかし、病院の横腹が自身に向けて垂直にその姿を現したことで、彼はもう自分がD-2エリアへと訪れているのだと判断する。
 それを受け西方向へとバイクを向けながら、彼は既に放送まで数分というところまで迫っているのに気付いた。

 「出来れば、放送は病院で聞きたいところだけどな」

 決して穏やかな内容ではないことは知っているが、それでも路上で聞くよりは腰を据えて聞きたいものだと。
 ぼんやりとそんな思考を巡らせた彼が再び視線を前に戻した時、そこにあったのは。

 「ああああああああ!」

 雄叫びと共に、自身に向け走ってくる緑色の異形の姿だった。


 ◆


 「僕は……やっぱり化け物だったんだ……。
 仮面ライダーになんかなれっこない、醜い化け物……」

 病院を背に向けて、足を引きずりながら途方に暮れる青年。
 総司と呼ばれていた彼の精神は、しかしもう限界を迎えようとしていた。
 剣崎を殺した罪を贖い、海堂や天道の分まで仮面ライダーとして戦おうと決心したというのに、自分は仲間を殺したのだ。

 他でもない、剣崎の力であるブレイドの姿で以て。
 これ以上ない、仮面ライダーの姿を纏っていたというのに。

726 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:36:12 ID:tJIwqj620

 「ごめんなさい、剣崎……。ごめんなさい、翔一……。僕は……!」

 自身が殺した相手の名を呼びながら、どこに向かうでもなくただ歩き続ける総司。
 彼の脳内には自身に向けた疑心が確かに根付き、それ以外の可能性をひたすら排除してしまっていた。
 その疑心とはつまり、自分の中に確かに存在するネイティブとしての悪意が、破壊を求め殺戮を繰り返させるのではないかという、最悪の可能性。

 その可能性に思い至ってからは、今までの全てがその答えへの根拠に繋がるような気がした。
 ウカワームが自分を嫌悪したのも、或いはネイティブの本性を知ったうえでのことだったのではないかと。
 ひよりに裏切られた後、彼女を背後から躊躇なく傷つけたのも、愛していたはずの彼女さえ破壊の対象になった結果なのではないかと。

 何もかもが彼の今まで築き上げてきた仮面ライダーとしての確固たる思いを打ち砕く棘になるように感じて、総司はそれ以上過去について思いを馳せるのをやめた。
 もう、これ以上自分自身を疑い苦しむのはごめんだ。
 だがそれでも、人間としての自分はもう何も破壊したくないとそう強く訴えかけてくる。

 「誰か……誰でもいいから……、僕を殺して……」

 葛藤の果てに思わず漏れた悲痛な叫びは、誰に届くわけでもない。
 だがそれでも誰かに願い請わずにはいられない自身の破滅。
 それを遂げられる存在を、彼はただ焦点さえ合わない視点で探し歩き続けて。

 「……あ」

 その末に、見つける。
 自身を“破壊”するのに最適な、男の存在を。
 バイクに乗った男の顔を、総司は以前に見たことがあった。

 それは、忘れるはずもない、東病院で剣崎一真を殺した時のこと。

 ――『壊してやる……全部……』

 剣崎を破壊し、これを手始めに全てを破壊するのだと、そんな破滅願望に取りつかれた自分に対し、彼は言った。

 ――『残念ながら、そいつは俺の役目だ』

 あぁ、それならば、彼に任せようではないか。
 もう自身の行動に明確な自信さえ持てなくなった自分でさえ、彼が破壊してくれるというのなら。
 真に剣崎の遺志を継いだ彼が、どこまでもまがい物に過ぎない自分を、仮面ライダーとして倒してくれることを、願うしかあるまい。

 そこまで考えて、不意に肩の荷が軽くなったような錯覚を覚えた総司は、走り出す。
 せめて彼が、煩わしい思いに支配されることなく自分を殺せるようにと、総司は忌むべきネイティブとしての姿に変貌しながら。
 最早天道総司としての姿さえ捨てて、総司は……否ネイティブワームはただ悪として倒されるためだけに、絶叫と共に世界の破壊者へと飛び掛かっていった。

 「ああああああああ!」


【二日目 早朝】
【D-2 市街地】


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、絶望、仮面ライダーブレイドに1時間50分変身不能、サナギ態に変身中
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター+ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きたかった……。
0:僕はやっぱり生きてちゃいけない存在なんだ……。
1:剣崎と海堂、天道の分まで生きたかったけど、僕は……。
2:翔一、ごめんなさい……。
3:間宮麗奈が心配。
4:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
5:ディケイドが世界の破壊者……?
6:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。
7:剣崎、ごめんなさい。
【備考】
※翔一を殺したのは自分の本性によるものだと思い込み自暴自棄に陥っています。。
※カブトゼクターとハイパーゼクターに未だ資格者として認められているかは不明です。
※渡より『ディケイドを破壊することが仮面ライダーの使命』という言葉を受けましたが、現状では半信半疑です。

727 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:38:02 ID:tJIwqj620



【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)、決意、仮面ライダーディケイドに20分変身不可
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド、トライチェイサー2000@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、 桜井の懐中時計@仮面ライダー電王 首輪探知機@オリジナル
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:取りあえずは目の前の怪人(擬態天道のサナギ態)に対処する。
2:キングを探すため、西側の病院を目指す。
3:巧に託された夢を果たす。
4:友好的な仮面ライダーと協力する。
5:ユウスケを見つけたらとっちめる。
6:ダグバへの強い関心。
7:音也への借りがあるので、紅渡を元に戻す。
8:仲間との合流。
9:涼、ヒビキへの感謝。
10:黒いカブトに天道の夢を伝えるかどうかは……?
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ、龍騎、ファイズ、ブレイド、響鬼、電王の力を使う事が出来ます。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※巧の遺した黒いカブトという存在に剣崎を殺した相手を同一と考えているかどうかは後続の書き手さんにお任せします。


 ◆


 「あいつ、どこまで行ったのかなー」

 わざとらしくその視線を右に左にと動かしながら、此度の混沌を生みだした男、キングは一人先ほど病院から逃げ出した総司を探していた。
 本来ならばゾーンメモリで逃げてもいいはずの現状で彼がそれを行わないのは、ひとえに未だ総司を落とし切れていない実感があるからだ。
 正義の仮面ライダーとしての自信を打ち砕くだけでは足りない。

 彼を再びこの殺し合いが始まった当初のような全てを破壊することだけ考える殺戮者に戻してようやくキングの望む結末を迎えるのだ。
 何故、そこまで彼が総司に固執するのかと問われれば、それは何より彼という存在こそがキングにとってこの場で最も気に入らない存在の一人だったからといって相違ない。
 良太郎や剣崎のような口先だけの正義の味方たち。

 そんなしょうもない有象無象に感化されて、彼は全ての世界を壊すという最高の遊びから、正義の味方として誰かを守るなんてつまらない存在に身を落とした。
 それが、キングには気に入らない。世界なんてつまらないし壊しても構わないものだという考えは実に正しいものだというのに、それを否定し何かを守ろうとするなんて、キングにとっては理解が出来なかった。
 だから、壊す。彼という存在が信じる仮面ライダーの正義も、そして彼自身も壊して、元の全てを破壊しようとする悪に彼を戻す。

 それが、今のキングの目的だった。

728 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:38:49 ID:tJIwqj620

 「にしても、あいつも馬鹿だよね。
 ネイティブになったばっかりの人間が我を忘れることがあるのは事実だけど、あんだけ長い時間ネイティブだったあいつにはもう関係ないのに」

 誰に告げるでもなく、キングは告げる。
 確かに彼が先ほど総司に述べたネイティブが破壊を求める本性を持つという話は、そこまで突飛なものではない。
 グリラスワームに変貌した三島はそれまでの彼からは想像できないほどに凶暴になり、またZECTの隊員たちもまた人間としての記憶を忘れ攻撃本能のみで動く怪物に成り果てていた。

 そうした事例から考えれば総司への言葉もまた説得力を持ちうるものだったが、しかし総司においてもそうしたネイティブの攻撃性が我を忘れさせる可能性が未だあるのかと言われれば、それは甚だ怪しいものだった。
 或いは万に一つほどの可能性でそうしたこともあり得るのかもしれないが、少なくとも総司が今回暴走したのはネイティブであることが理由ではない。
 今回彼を暴走させたのは、『剣の世界』に存在する唯一無二、最悪の毒。

 ――アンデッドポイズン。

 そう、キングが先のブレイドの攻撃を前に放った切り札というのは、総司のブレイドへの変身後一人だけ忍ばせていたアンデッド、スコーピオンアンデッドだったのである。
 スコーピオンはブレイドに対し、アンデッドの自我を強く暴走させライダーシステムを纏う人間にまでその強い攻撃性を植え付けるアンデッドポイズンを注入。
 その毒はそれまでのキングとの問答で大きくアンデッドとの融合係数を上げていた総司の全身を駆け巡り、抗う時間さえ与えずに彼を攻撃本能だけで動く殺戮マシーンへと変貌させたのであった。

 その後のブレイドがどう動くかは正直キングにとっても賭けだったが、ちょうどうまい具合に彼は仲間を殺し、その安っぽい正義を自らへし折ったのだから、キングにとっては大成功もいいところであった。

 「まぁ、嘘はついてないよね。“僕”はアギトを殺してないし、ダークカブトに殺しをさせたわけじゃないもの」

 ただ本能に屈したあいつが悪いんだからさ、とこれ以上なく楽しげに笑って、キングはなおも総司の最期の一線を断ち切るためにその足を進めていった。


【二日目 早朝】
【D-1 市街地】


【キング@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編34話終了より後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、愉悦
【装備】破壊剣オールオーバー+ソリッドシールド@仮面ライダー剣、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、グレイブバックル@仮面ライダー剣、
【道具】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、カッシスワーム・クリペウスとの対決用の持ち込み支給品@不明、首輪(五代、海東)
【思考・状況】
基本行動方針:面白おかしくバトルロワイアルを楽しみ、世界を壊す。
0:さて、これからが仕上げの時間かな?
1:このデスゲームを楽しんだ末、全ての世界をメチャクチャにする。
2:カッシスワームの復活を警戒……まぁホントに復活してたら会ったとき倒せばいいや。
3:僕はまだ本気出してないから負けてないし!
4:ダークカブト(擬態天道)は徹底的に堕とす。
【備考】
※参加者ではないため、首輪はしていません。そのため制限が架されておらず、基本的には封印されない限り活動可能です。
※カッシスワームが復活した場合に備え、彼との対決も想定していたようですが、詳細は後続の書き手さんにお任せします。
※他世界のコーカサスビートルアンデッドと一体化したためソリッドシールドが復活しました。
※T2ゾーンメモリは会場内どこでも飛べますが、マキシマムドライブでの使用などの場合も含め2時間に一度しか能力を使用できません。
※この会場内の情報は第二回放送とその直後までのものしか知りません。彼の性格上面白くなりそうなこと優先で細かいことを覚えていない可能性もあります。

729 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:41:23 ID:tJIwqj620


 ◆


 「――ハァッ!」

 ブレイドが勢いよく振り下ろしたブレイラウザーの一撃を受けて、彼らを足止めしていた最後のアンデッド……スコーピオンアンデッドはその身を大きく横たわらせる。
 そのバックルが封印可能を示すように開いたのを見てブレイドがブランクカードを投げつけると、そのカードには新しく力が宿り、再び彼の手の中に戻っていく。
 そうして握りしめたカードに刻まれた『POISON』の字に一つの可能性に至りながら、しかしそれ以上思考を重ねるより早く名護はブレイドの変身を解いた。

 「津上君、しっかりするんだ!津上君!」

 そのまま視線を走らせれば、血だまりの中でひたすらに呼びかけ続ける男の姿が、その瞳に映った。
 手やコートが返り血で赤く染まろうと一切諦める様子さえ見せず熱く声掛けを続けるのは、一条薫。
 そして、その血だまりをどんどんと赤く広げながら一条の手に抱かれている青年は津上翔一。

 その瞳の焦点は既に合っておらず……先ほど一条の延命処置を行って見せた名護の目から見ても、彼は明らかな手遅れだった。
 だがそれでも、一条を止める気にはならない。
 どうしようもなく悲痛な行為だとしても、それでも他者の命を願ってしまうのは、いつの世も残された者にとって当然の行いだった。

 「一条……さん」

 そんな中、ようやく一条の声が届いたのか、翔一は小さく呟く。
 彼が必死に絞り出したのだろう思いを前に、一条もこれ以上話すな、と止めることさえ出来ず、ただ彼の言葉を待つのみになってしまった。

 「総司君は……きっとあんなことをしたかったんじゃないんです。
 ただ少しだけ……混乱しちゃっただけで、本当はもっと別のことを……」

 「津上君……」

 息も絶え絶えに言葉を継いだ翔一の脳裏に過るのは、自身の姉であった沢木雪菜のこと。
 彼女はアギトとして覚醒するも暴走し、三杉家で翔一と同じく居候している風谷真魚の父、伸幸を殺害した後、自身の命も断ってしまった。
 彼女にだって、アギトになったとしても変わらない居場所はきっとあったのに。

 アギトになった自分には居場所がないのだと、そう断じた彼女のことを思えば……いや何よりも、今までに見た総司本人の強く優しい人間性を思えば。
 翔一は自身を殺めた彼のことを責める気など一切沸いてこなかった。
 だから、今何よりも心残りなのは、自身を殺したことに深い罪悪感を抱くだろう総司本人のことだ。

 彼はとても優しいから、きっと自分を殺したことをずっと悩み続けるに違いない。
 そんな心配はいらないんだよとそう声かけることさえもう叶わないという事実が、何より心苦しかった。

 「だから一条さんも……総司君を許してあげてください。これはきっと、誰も悪くないんです……」

 「当たり前だ。君がそう言うなら、俺は彼を許す。だから……だから生きろ!津上君!」

 どこまでも熱い一条の言葉に、少しだけ翔一は笑う。
 彼のその実直な姿に、自身のよく知るあの不器用な刑事を重ねたのかもしれない。
 そのどちらにせよ、翔一は最後の力を振り絞るように自身を抱きかかえる一条を見上げた。

 「なら最後に……もう一つだけお願い、聞いてもらえますか、一条さん」

 「あぁ……!」

 一条の短い応答を受けて、翔一は大きく息を吸い込む。
 自分の願いを、彼に託すために。

730 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:42:35 ID:tJIwqj620

「俺の分まで、生きてください。中途半端でもなんでも、生きて……」

そこまで言い切って、これ以上その瞳を開けているのも、億劫に感じられたのか、翔一は瞳を閉じる。
しかしこんな最期を、一条が黙って見届けるわけはなく。

「――目を開けろ津上君!まだ君にはやりたいことがあるんじゃないのか!
この殺し合いが終わったら、絶対に君のレストランに食べに行く!だから死ぬな、津上翔一!」

一条は、その瞳に涙さえ携えて叫ぶ。
五代に引き続き、ただ自由を愛する一般人が、死んでしまう。
刑事である自分をも気遣い平等に守ってくれた心優しい青年が。

それだけはどうにか避けなければならないと、一条はその喉を嗄らすほどの勢いで叫び続けていた。
だがそうして翔一に呼びかけ続ける一条の肩を、ポンと叩く者が一人。
振り返ったその先にあったのは、彼もまた涙を堪えながら緩く首を振る翔太郎の姿。

それを受けて、ようやく一条も悟る。
津上翔一が、この世を去ってしまったのだという、どうしようもない現実を。
受け入れがたいこの結末を前に、一条薫は一人、悲痛な雄叫びを上げるほかなかった。


【二日目 早朝】
【D-1 病院】


【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、五代たち犠牲者やユウスケへの罪悪感、強い無力感
【装備】アクセルドライバー+アクセルメモリ+トライアルメモリ@仮面ライダーW
【道具】食糧以外の基本支給品×1、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ、車の鍵@???、おやっさんの4号スクラップ@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
基本行動方針:照井の出来なかった事をやり遂げるため『仮面ライダー』として戦う。
0:今度こそ誰も取りこぼさない為に、強くなりたい。
1:小野寺君……無事でいてくれ……。
2:第零号は放置できない、ユウスケのためにも対抗できる者を出来る限り多く探す。
3:五代……津上君……。
4:鍵に合う車を探す。
5:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
6:小沢や照井、ユウスケの知り合いと合流したい。
7:未確認への対抗が世界を破壊に導き、五代の死を招いてしまった……?
8:もう悲劇を繰り返さないためにも、体調が治り次第トライアルの特訓を行う。



【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、精神疲労(大)、左目に痣、決意、仮面ライダーイクサに1時間50分変身不能、仮面ライダーブレイドに1時間55分変身不能
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ、ブレイバックル+ラウズカード(スペードA〜Q、ダイヤ7,8,10,Q、ハート7〜K、クラブA〜10)+ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:総司君……。
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:総司君のコーチになる。
3:紅渡……か。
4:例え記憶を失っても、俺は俺だ。
【備考】
※ゼロノスのカードの効果で、『紅渡』に関する記憶を忘却しました。これはあくまで渡の存在を忘却したのみで、彼の父である紅音也との交流や、渡と関わった事によって間接的に発生した出来事や成長などは残っています(ただし過程を思い出せなかったり、別の過程を記憶していたりします)。
※「ディケイドを倒す事が仮面ライダーの使命」だと聞かされましたが、渡との会話を忘却した為にその意味がわかっていません。ただ、気には留めています。
※自身の渡に対する記憶の忘却について把握しました。

731 未完成の僕たちに ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:45:09 ID:tJIwqj620



【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、キングフォームに変身した事による疲労、仮面ライダージョーカーに1時間50分変身不能
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、首輪(木場)、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
1:名護や一条、仲間たちと共に戦う。 今度こそこの仲間達を護り抜く……はずだったのにな。
2:出来れば相川始と協力したい。
3:浅倉、ダグバを絶対に倒す。
4:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
5:乾巧に木場の死を知らせる。ただし村上は警戒。
6:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
7:もし一条が回復したら特訓してトライアルのマキシマムを使えるようにさせる。
8:ジョーカーアンデッド、か……。
9:総司……。
【備考】
※大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※仮面ライダーブレイドキングフォームに変身しました。剣崎と同等の融合係数を誇りますが、今はまだジョーカー化はさほど進行していません。
※トライアルメモリの特訓についてはA-1エリアをはじめとするサーキット場を利用するものと思われますが詳細は不明です。


【全体備考】
※支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、医療箱@現実はD-1病院内、レンゲルバックル@仮面ライダー剣はD-1病院前に放置されています。
※スパイダーアンデッドが完全封印されました。少なくとももうカードのみの状態で外部に影響を及ぼすことはありません。


【津上翔一@仮面ライダーアギト 死亡確認】
【残り人数 15人】

732 ◆JOKER/0r3g :2018/11/08(木) 23:46:20 ID:tJIwqj620
長時間お付き合いいただきありがとうございました。
以上で投下を終了いたします。

ご意見ご感想、ないしはご指摘などございましたらよろしくお願いします。

733 名無しさん :2018/11/09(金) 02:23:59 ID:qIeXStqc0
投下お疲れ様です。
ブレイドを翔太郎に返さないのか…と最初は思ってたんですが、なるほどアンデッドポイズンとは…。
会場に残るマーダーの中では間違いなく最弱でありながら、豊富な情報と装備を活かしてあの手この手で攻めてくるキングはやはり厄介な存在だと再認識しました。
初代に引き続きまたしても不意打ちで倒れてしまった翔一君ですが、最後に意志を遺せた分本望なのかもしれませんね。個人的にはディケイドアギトのカードがこの先どうなるのかも気になります。

734 名無しさん :2018/11/09(金) 21:06:14 ID:6SVwhtYY0
投下お疲れ様です!
アギトの世界もこれでリーチですか…巧、良太郎、翔一と主人公がどんどん脱落していく…

735 名無しさん :2018/11/09(金) 23:19:50 ID:G8rEObY20
投下乙です

これまで幾度も場を和ませてくれた翔一くんが…もう真司とのやり取りも見れないと思うと悲しい…
キングは相変わらずの悪辣さ。こいつほんとハイパームテキでボコってやりたい(全ギレ)
そんなキングのせいで錯乱してしまった総司を何とか士が救ってくれることを願う

改めて投下お疲れ様でした!

736 名無しさん :2018/11/10(土) 06:10:14 ID:47.hvsxI0
投下乙です!
キングはまたやらかしてくれたなぁおい! キング怖いよ……
総司は剣崎の遺志を受け継いで、そして津上さんは小沢さんを始めとしたたくさんの人達の仇を取ってくれたから、燃えてきたー! けど……まさか、こんな結末になるなんて。
士と総司は再会したけど、このまま総司は救われるのか……?

737 名無しさん :2018/11/10(土) 11:54:13 ID:jb74tRpI0
キングがエボルトみたいに見えてきたな
実際にあったら外道同士で仲良くなるんだろうか

738 ◆JOKER/0r3g :2018/11/14(水) 01:38:50 ID:BhXtFuOk0
皆さんこんにちは。
たくさんのご感想ありがとうございます。一つ一つ、しっかりと目を通しこちらとしても楽しませていただいています。
これからも何卒よろしくお願いします。

さて、今回は以前から予告していたとおり次回投下となる第三回放送についてです。
といいましても今回は私しか放送案を投下する書き手がいない上本投下までに生じるラグや手間など問題がありますので、仮投下は経由せずこちらに直接投下したいと思います。
もちろん、内容に著しい違和感がある、ないしは問題なのではないか、などのご意見がございましたら仰って頂いても構いませんし、その時は迅速に修正いたしますのでよろしくお願いします。


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