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アニメキャラ・バトルロワイアルIF part3

1 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:44:08 WQ5aSX4M0
アニメキャラでバトルロワイアルをする企画、アニメキャラバトルロワイアルIFのSS投下スレです
企画の特性上、キャラの死亡、流血等の内容を含みますので閲覧の際はご注意ください。

【したらば】ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17138/
【wiki】ttp://www7.atwiki.jp/animelonif/
【前スレ】ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1437591682/
【地図】ttp://i.imgur.com/WFw7lpi.jpg


【参加者】
2/7【ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
●空条承太郎/○ジョセフ・ジョースター/●モハメド・アヴドゥル/●花京院典明/ ● イギー/○DIO/ ● ペット・ショップ
5/6【クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
○アンジュ/○サリア/○ヒルダ/ ● モモカ・荻野目/○タスク/○エンブリヲ
3/6【ラブライブ!】
○高坂穂乃果/ ● 園田海未/ ● 南ことり/○西木野真姫/ ● 星空凛/○小泉花陽
4/6【アカメが斬る!】
○アカメ/○タツミ/○ウェイブ/ ● クロメ/●セリュー・ユビキタス/○エスデス
3/6【とある科学の超電磁砲】
○御坂美琴/○白井黒子/○初春飾利/ ● 佐天涙子/●婚后光子/●食蜂操祈
6/6【鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
○エドワード・エルリック/○ロイ・マスタング/○キング・ブラッドレイ/○セリム・ブラッドレイ/○エンヴィー/○ゾルフ・J・キンブリー
3/5【PERSONA4 the Animation】
○鳴上悠/○里中千枝/ ● 天城雪子/ ● クマ/○足立透
2/5【魔法少女まどか☆マギカ】
●鹿目まどか/●暁美ほむら/○美樹さやか/○佐倉杏子/ ● 巴マミ
2/5【アイドルマスター シンデレラガールズ】
○島村卯月/●前川みく/ ● 渋谷凛/○本田未央/●ロデューサー
3/5【DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
○黒/○銀/ ● 蘇芳・パブリチェンコ/●ノーベンバー11/○魏志軍
3/4【寄生獣 セイの格率】
○泉新一/○田村玲子/○後藤/ ● 浦上
1/4【やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
● 比企谷八幡/○雪ノ下雪乃/●由比ヶ浜結衣/●戸塚彩加
1/3【Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/ ● 美遊・エーデルフェルト/●クロエ・フォン・アインツベルン
2/2【PSYCHO PASS-サイコパス-】
○狡噛慎也/○槙島聖護
1/2【ソードアート・オンライン】
●キリト(桐ケ谷和人)/○ヒースクリフ(茅場晶彦)


41/72

【基本ルール】
最後の一名以下になるまで殺しあう。
その一名になった者は優勝者として如何なる願いも叶えることができる。(「死者蘇生」「巨万の富」など)
参加者のやり取りに反則はない。

【スタート時の持ち物】
※各キャラ所持のアイテムは没収され代わりに支給品が配布される。
1.ディバック どんな大きさ・物量も収納できる。以下の道具類を収納した状態で渡される
2.参加者名簿、地図、ルールブック、コンパス、時計、ライトの機能を備えたデバイス。(バッテリー予備、及びデバイスそのものの説明書つき)
3.ランダム支給品 何らかのアイテム1〜3個。
 ランダム支給品は参加作品、現実、当企画オリジナルのものから支給可能。
 参加外、およびスピンオフの作品からは禁止。
(とある科学の超電磁砲のスピンオフ元である、とある魔術の禁書目録からアイテムを出すなどは禁止)
4.水と食料「一般的な成人男性」で2日分の量。

【侵入禁止エリアについて】
・放送で主催者が指定したエリアが侵入禁止エリアとなる。
・禁止エリアに入ったものは首輪を爆発させられる。
・禁止エリアは最後の一名以下になるまで解除されない。

【放送について】
6時間ごとに主催者から侵入禁止エリア・死者・残り人数の発表を行う。

【状態表】
キャラクターがそのSS内で最終的にどんな状態になったかあらわす表。

生存時
【現在地/時刻】
【参加者名@作品名】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:
1:
2:
※その他

死亡時
【参加者名@作品名】死亡
残り○○名


2 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:45:42 WQ5aSX4M0
【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:00:00〜02:00
 黎明:02:00〜04:00
 早朝:04:00〜06:00
 朝 :06:00〜08:00
 午前:08:00〜10:00
 昼 :10:00〜12:00
 日中:12:00〜14:00
 午後:14:00〜16:00
 夕方:16:00〜18:00
 夜 :18:00〜20:00
 夜中:20:00〜22:00
 真夜中:22:00〜24:00

【予約について】
キャラ被りを避けたい、安定した執筆期間を取りたいという場合はまず予約スレにて書きたいキャラの予約を行ってください。
予約はトリップを付け、その作品に登場するキャラの名前を書きます。
キャラの名前はフルネームでも苗字だけでも構いません。
あくまでそのキャラだと分かるように書いてください。

【予約期間について】
予約をした場合、執筆期間は五日間、三作以上書いて頂いた方は最大で七日間です
ただし予約は任意ですので強制ではありません。

【作品投下のルール】
予約なしで作品を投下する場合、必ずしたらばにある投下宣言スレにて、投下宣言を行ってください。

※トリップとは
酉、鳥とも言います。
名前欄に#を打ち込んだあと適当な文字(トリップキーといいます)を打ち込んでください。
投稿後それがトリップとなり名前欄に表示されます。
忘れないように投稿前にトリップキーをメモしておくのがいいでしょう。
#がなければトリップにはならないので注意。

【能力・支給品の制限について】

◆クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
・パラメイルの様に強すぎる初期支給品は自重
(登場話で破壊など、納得できる理由もありうるので展開次第)
・エンブリヲの復活能力、死者蘇生の禁止

◆PERSONA4 the Animation
・ペルソナは可視で物理干渉を受ける

◆ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
・スタンドは可視で物理干渉を受ける
・スタンドDISCの支給は禁止
・アヌビス神は支給可能だが人格の乗っ取りは考慮すること

◆アカメが斬る
・帝具の相性(使用可否)は書き手の判断に任せる
・奥の手の再使用にインターバルを設けることを推奨
・八房の死体ストックをゼロにする

◆とある科学の超電磁砲
・パワードスーツは支給禁止

◆ソードアート オンライン
・アバター状態での参加が可能かつ推奨される
・ユイは支給禁止

◆魔法少女まどか☆マギカ
・ソウルジェムは本人支給。
・魔女状態での参加は原則禁止(展開次第で魔女化するのはあり)

◆その他、何かしら制約を受ける能力や支給品
・洗脳、時間停止、強い再生能力、テレポートなど

◆強い制約を受ける能力や支給品
・首輪やそれに準ずるものへの安易な干渉、死者蘇生、時間逆行など
(他ロワの例:参加者単独ではほぼ不可能、禁止に近い制約)

※これらの制限は書き手の任意で設定できるが、便利すぎると思った場合は仮投下を推奨する


3 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:46:13 WQ5aSX4M0
以上です


4 : ◆dKv6nbYMB. :2015/11/23(月) 23:56:31 r7/kiXic0
投下&スレ立て乙です。
承太郎...これで7名いたジョジョ勢も残りはジョセフとDIO様だけか。頑張れジジイ、頑張れDIO様。
キンブリーは今まで温存していたぶん大暴れでしたね。
セリューから託された想いを胸に抱き、大佐たち、特にしまむらさんはがんばってほしいところ。

投下します。


5 : 自由の刑 ◆dKv6nbYMB. :2015/11/23(月) 23:57:27 r7/kiXic0
槙島聖護は溜め息をついた。

穂乃果と黒子らとの遭遇から早数時間。あれから誰とも遭遇していない。

(やはり図書館へ向かっておくべきだったかな)

槙島は始め、図書館へ向かおうと思っていた。
元来から本が好きなこともあっての選択だったが、北部から立ち昇っていた煙を発見すると、やはり興味はそちらへ移ってしまう。
煙が上がっているということは、何者かの戦闘があった可能性が高い。
ならば、向かわない理由はない。
それに、元々北部を見て回ろうと思っていたのだ。当初の予定を早めるのも悪くない。
槙島はそんな安直な考えに従い足を進めた。
煙が立ち昇っていたと思われる施設は、能力研究所。
異能自体にはさほど興味はないが、入り口付近に煩雑する足跡を見れば、多くの参加者の出入りがあったことが察せる。
ならば入らない理由はない。槙島聖護は、参加者との出会いを求めて足を踏み入れた。

だが一足遅かったのか、誰かが争っていた痕跡こそあったものの、生者の誰とも会うことはなかった。
研究所施設を散策すること数分、彼が最初に見つけたのは人の残骸。
白いスーツの切れ端のようなものと、腕と思われる肩口と肘から先のなくなった部分から判断して、この腕の持ち主は腕を千切られたのだろうと判断する。
そして、血だまりの中に沈む数本の髪の毛を見れば、最早疑いようもない。この腕の持ち主はここで『全身を食い殺された』のだろう。
人食いの獣でもいたのか、はたまた人間を食らうことが目的で殺したのか。
前者なら大した興味は湧かないが、後者であれば興味はある。
人食い―――俗にいうカニバリズムは、現代社会においては、殺人・近親相姦と並んで最大の禁忌とされている。
そんな世間一般の刷り込みをされていれば、殺し合いという最中でもわざわざ食人をしたいと思う者はいないだろう。槙島自身、人を食したいと思ったことはない。

―――だが、なぜそれらは禁忌とされている?

殺人も食人も近親相姦も。なぜそれらが最大のタブーとされているかを正しく説明できる者はいない。
尤もらしい説明を付けたところで、それらは結局語り部の主観や捏造が入り混じり、人類共通の正答には成り得ない。
にも関わらず、だ。
これら三大禁忌を冒した者を、冒した当人ですら、これらを裁く行為自体に反発する者はいない。
抗議をする者がいたとしても、それは裁きから身内を/自分を外してほしいという懇願であり、裁き自体に疑問を浮かべる者はいない。
なぜか。裁きは大衆の正義によって執行されるものだからだ。

『正義とはすでに成立しているものである。したがって、われわれのすべての既成の法律は、それがすでに成立しているという理由で、検討されずに、必然的に見なされるだろう』

パスカルの『パンセ』からの引用だが、端的に言えば、社会における正義とは力によって定められたものであり、個人の意思によるものではないということだ。

だが、そんな正義も機能せず、法律も道徳も宗教も干渉しないこの殺し合いで、自分がいつ死んでもおかしくないこの状況でそれでも食人を行ったなら。それは紛れも無く自らの意志に基づく行為だ。
槙島聖護の望む人間の在り方の一つだ。首輪を回収する程度には冷静さを保っていたならばなおさらだ。


(尤も、人食いの獣が殺してから誰かが首輪を持ち去った可能性もあるけどね)


6 : 自由の刑 ◆dKv6nbYMB. :2015/11/23(月) 23:58:20 r7/kiXic0
警察染みた現場の考察ならいくらでもできるが、それ以上の収穫はなさそうだ。
槙島は人間の残骸を後にして、上階へと足を進める。
次いで発見したのは、二人分の死体。
一人は、上半身のみで、かつミイラのように干からびた女性らしきもの。
もう一人は、左足が切断された少女の死体。
共通点は、両者とも首を切断されていること、そして両者とも床に転がる頭部に苦痛の表情がなかったことだ。
共に人体が欠損しているのに対して、ここまでやすらかにすら見えるのは奇妙なことであった。

(薬品でも使ったのかな?それとも、異能による洗脳かな)

この殺し合いにおいて、僅かな油断が己の命の終焉を招く。
しかし、食われた死体といい、ここに放置されている二つの人体が欠損した死体といい、時間を浪費してまで行うには非合理的である。
おそらくこれを行ったものは、やりたいからやった。まさに人としての行いだろう。

(できればここにいた参加者と会ってみたかったが、どこへ向かったのやら)

ここに誰がいて、どこへ向かったのか。その痕跡が何もないとなると、闇雲に出歩いても見つけることは敵わないだろう。
それに、自分と同じく遅れてここを訪れる参加者もいるかもしれない。
なら、たまには立ち止まって周りを見渡すのもいいかもしれない。
早急に目的を定めず、これまでのことを振り返る意味も込めて、槙島聖護は側の階段に腰をかけた。



この会場には、72名もの参加者が集められた。それだけ人の魂の輝きを見る機会に恵まれているため、槙島はあえて深くは干渉しなかった。

始めに出会ったのは、電撃を操る少女、御坂美琴。
彼女は最初こそは戸惑っていたものの、結果として、他の全てを葬って上条当麻を生き返らせる選択をした。
次に出会ったのは、泉新一。
人間ではない生物と見事に共生していた人間だ。支配ではなく、文字通り共に生きる間柄。自分には縁のない生き方だが、少し羨ましくも思う。
あの学園では他にも女性と出会い、田村という新一に似た存在にも興味はあったが、あまり言葉を交わす暇が無かったため少々印象が薄いのは仕方ない。
果たして、彼女たちは何を望み、何のために生を望むのか...聞いておくべきだったかな、と思い苦笑を漏らす。
最後に出会ったのは、高坂穂乃果と白井黒子。
二人共、いい『人』だった。高坂穂乃果は、殺された友人の代用品を見つけようとせず、その痛みを別の何かで埋めようとしていない。その痛みと向き合おうとしている。
白井黒子は、想い人が暴走してもそれに身を委ねるのではなく、敵対してでも止めようという決意を兼ねてより固めていたように見えた。
両者とも...特に黒子は、シュビラシステムがあったとしても、その決意を揺らがせることはなかっただろう。

自分が関わった彼らは、今もなおその輝きを貫いているだろうか。
期待を裏切り醜態を晒してしまったのか。
それとも、志半ばに倒れてしまったか。
その答えあるいは途中経過は、もうすぐ流れる放送で知ることが出来る。


7 : 自由の刑 ◆dKv6nbYMB. :2015/11/24(火) 00:00:50 318yhvxI0
『さて、私の声が聞こえた時点で察していると思うが放送の時間だ』

研究所内に、広川の声が流れる。
槙島は目を瞑り、与えられる情報について思いを馳せた。

死亡者は12名。
呼ばれた中に興味の惹かれる名は無かったが、一回目の放送と合わせて28名。
72名いた参加者も44名にまで減っている。
その内興味のある者は5名。即ち、自分が接触していない参加者は39名もいる。
次の放送では興味のある名が呼ばれるかもしれないし、自分がそこに連ねられる可能性もある。
自分が殺されるだけならまだいいが、幾多の魂の輝きを見ることなくゲームが終わるのだけは勘弁したい。


目蓋を開け、もはや用済みとなった能力研究所をあとにする。

槙島聖後は考える。

着目すべきは三つ。

ひとつは、アインクラッド。

放送で新たに提示された首輪交換制度。そこで提示されたのが、アインクラッド、武器庫、古代の闘技場の三つ。
一番近い場所はアインクラッドだ。
槙島自身はそこで手に入る武器や情報に興味はないが、他の参加者は違う。
目的が脱出であれ優勝であれ、道を切り開くための力を、情報を求めて一度は訪れるはずだ。
首輪は持っていなくとも、そこで待ち伏せて出会いを待つのも悪くないかもしれない。



ひとつは、このエリアより西部。

研究所を出たところで辺りを見回すと、北西の方角に巨大な氷柱が見えた。
その氷柱が宙に舞いあがり振り回されているのを見れば、誰かが戦っているのは一目瞭然だ。

(あそこは、地図からすると『北方司令部』かな?なら、あそこに向かうのは得策ではないな)

あれだけの氷が突きあがれば、間違いなく建物など吹き飛んでいる。
ならば、そんな崩壊した建物に留まる理由もない。
もし目指すとしたら、近くの施設である病院かコンサートホールあたりだろう。


ひとつは、潜在犯隔離施設。

槙島の知る施設のひとつだが、それ自体には大して興味がない。
だが、この会場には狡噛慎也がいて、未だに生きている。
確信を持って言えることだが、彼はこの環境の中でも槙島聖護を殺すことを目的としている。
そして、狡噛慎也が知る施設を槙島聖護が訪れる可能性を考慮しているはずだ。
なら、敢えて彼を待ってみるのも悪くないかもしれない。
もちろん、易々と殺されるつもりは毛頭ないが。


「いや、あえて来た道を戻るのもいいかもしれない」

槙島が興味を持った参加者の多くはここより南の範囲で遭遇した。
なるべく干渉を減らしたいところだが、あまりに離れすぎても経過をみることができない。

(結果だけをただ見せつけられても面白くない。やはり、僕は過程も大切にしたい)

槙島聖護はいままで多くの人間の観察をしてきた。
その中には、当然期待を裏切った者もいた。むしろ、期待通りの結果になる方が珍しい。
しかし、その事実に落胆はしても、嫌悪は抱かない。
全てが望み通りの結果ばかりの観察など、つまらないにもほどがある。
それでは自らが嫌悪したシュビラシステムと同じだ。
自分が見つけた卵がどのように孵り、成長していくか。時には期待を裏切られるからこそ、観察の意義がある。


向かいたい場所は多く、会いたい参加者もまた多い。
しかし、選べるのは何れか一択だけ。
何れか一つをとれば他の選択肢は遠のき、永遠に選ぶことはできなくなる。


8 : 自由の刑 ◆dKv6nbYMB. :2015/11/24(火) 00:02:05 318yhvxI0

「『自由とは、自由であるべく不自由になることである』、か」



『人間は自由の刑に処せられていると表現したい。
刑に処せられているというのは、人間は自分自身をつくったのではないからであり、しかも一面において自由であるのは、
ひとたび世界のなかに投げ出されたからには、人間は自分のなすこと一切について責任があるからである』


さて、そんな『自由の刑罰』に処せられた槙島聖護はどこへ向かう?





【F-2/能力研究所・入口/一日目/日中】

※能力研究所内に、前川みくの死体(首切断)、食蜂操祈(ミイラ体、首切断)、ノーベンバー11の残骸が放置されています。

【槙島聖護@PSYCHO PASS-サイコパス-】
[状態]:健康、人に会えなくてちょっぴり不機嫌
[装備]:サリアのナイフ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品一式、トカレフTT-33の予備マガジン×1 スピリタス@ PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考]
基本:人の魂の輝きを観察する。
1:狡噛に興味。
2:面白そうな観察対象を探す。
3:アインクラッドか潜在犯隔離施設か北西部か...来た道を戻るのもいいかもしれない。
[備考]
※参戦時期は狡噛を知った後。
※新一が混ざっていることに気付いています。
※田村がパラサイトであることに気付いています。
※穂乃果、黒子が出会った危険人物の詳細と、友好人物の情報を断片的に得ました。
※D-1でのエスデスとDIOの戦いで生じた50mほどの氷柱を確認しました。


9 : ◆dKv6nbYMB. :2015/11/24(火) 00:02:44 318yhvxI0
投下終了です。


10 : 名無しさん :2015/11/24(火) 03:09:28 BDYkT98E0
投下乙です
どこに向かってもマキシマムは騒動起こしそうだな


11 : 名無しさん :2015/11/24(火) 15:46:41 BM5jxOXw0
投下乙ですー

キンブリー大暴れ、良くがんばったと言ってやりたい
セリュー退場で島村さんのメンタルがどうなるか不安だ
承りはお疲れさん、ジョセフとDIO様の活躍に期待

マキシマムは久しぶり、再現が難しいけどやっぱり味が出てるなあ
そして状態のちょっぴり不機嫌にクスリとしてしまった


12 : 名無しさん :2015/11/24(火) 21:40:16 l7OZR3SQ0
投下乙です

セリムを励ます美琴、なんか面白い立ち位置のマーダーになったな。
セリムもいい感じにキャラが仕上がってきたから、今後も楽しみだ。

穂乃果はホント、初期に比べて成長してきたな。黒子は美琴やらイリヤやら頭が痛いよなあ
今のところ安定の黒だが、銀が死んだらどうなるかが怖い

ロワを序盤から騒がせてきたセリューの死。原作よりも綺麗に散れたんじゃなかろうか。
そして、不安なしまむーの今後。

そして、そろそろ動き出しそうなマキシマム。彼はいつでもペースを崩さんな。


13 : ◆w9XRhrM3HU :2015/11/26(木) 00:24:19 9ytKO9TQ0
投下します


14 : ◆w9XRhrM3HU :2015/11/26(木) 00:24:53 9ytKO9TQ0
「クロ……あいつ……」

「キリトって……」

「……」

二回放送。広川が告げた死者の名はヒルダ、千枝、銀に衝撃を与えた。
ほんの数時間前まで、共に行動していたクロエ・フォン・アインツベルン。モモカを殺害してしまい行方を晦ませたキリト。
そして、関係があるのは銀のみ。それも直接あったわけではないが、黒と交戦経験のある契約者。ノーベンバー11。
三人の死は、そう簡単に聞き流せるものでもなく、自分達が電車で往復している間に、事態は動き続けているのだと再認識させていく。

「私の、せいだ……」
「……」
「私が……無理にでも、クロエちゃんを連れて……」

クロエの体質については既に本人から説明された。
他者から魔力を摂取しなければ生きていけない。時間の経過でその魔力は徐々に消耗する。そこに戦闘も加えれば尚更だ。
だからこそ、クロエには同行者が必要だった。それを――

「私が……。分かってたのに、一人で行かせちゃ駄目だって……なのに……」

それでも、理性を押し退けてでもクロエを後押ししたのは、友を無くし悲嘆に暮れる少女があまりにもそっくりだったから……。
彼女の友達をもう失わせたくなかったから。後悔して欲しくないから。
今となっては、それは本当にクロエの為だったのか、分からない。本当は、クロエの姿があまりにも自分と重なり過ぎて、だから――。

「千枝」

繰り返される思考の渦を止めたのは、盲目の少女の声だった。
見えないながら、ぎこちなく千枝の手にそっと自らの手を重ねる。
その手は小さく、それでいて千枝の心に染みるような温かみがあった。

「銀、ちゃん……」

我に帰った千枝はその手の主である銀へ視線を向ける。顔を俯き、表情は変わらないがそこには確かな人としての思いやりがあった。
自責の念から開放された千枝は、腰が抜けたように地べたに座り込む。

「ごめん、ヒルダさん、銀ちゃん……。私」
「……無理もないさ。アンタはこういうのと無縁だったんだろ」

千枝を諭しながらも、ヒルダもまた後悔に苛まれていた。
そうだ。千枝の言っていることは間違っていない。あの時、クロエを行かせるべきではなかった。
だからこれは、ヒルダの千枝の間違いなのかもしれない。

――貴女も相応の信念を持ちなさい――

気に入らない。気に入らないが、キンブリーの台詞は実に的を得ている。
それが今になってようやく分かる。
信念がない。だから、自らの行動に自問自答し何も動けなくなる。こうしている間にも、また大事な何かが失われているかもしれないのに。
人は、自らを立たせる芯がなければこうも脆い。

(クソッ! あの時、私は……!)

弱い。ヒルダは明らかに弱くなっていた。
ママの元に帰るという信念があった頃と比べ、エンブリヲを倒すという信念があった頃と比べて。
今はただ無様を晒しているだけ。そこに信念などなく、あるのは気に入らない、ムカつくといった。信念とは遠い衝動だけ。

「……もうすぐ、ジュネスだ。歩けるか千枝?」
「う、うん」

後悔を振り切るようにヒルダは踵を返しジュネスへと視線を向ける。
千枝が選択した地獄門へのルートは、ジュネスを経由するルートだった。
今にして思うと、この動揺を抱えたままマスタングと鉢合わせするかもしれないルートを避けたのは、幸いであったかもしれない。
湧きあがる様々な思いを胸に抱きながら、三人はジュネスへと歩を進めた。





15 : ひとりぼっち ◆w9XRhrM3HU :2015/11/26(木) 00:25:27 9ytKO9TQ0


「お前、イリヤスフィールか?」

声を掛けてきたのは赤髪の女だった。
色もさることながら、ボリュームのある髪をツインテールに纏め上げた派手な印象の女性だ。
口調こそは荒々しいが、連れが二人。一人は見るからに活発そうな女性で、正反対に人形かと思えるほど静かな女性。
イリヤの目に彼女達が殺し合いに乗るような集団とは思えなかった。

「何で、私の名前を知ってるんですか?」
「一応クロエの、お前の姉貴の知り合いだ。証拠もある」

そう言って赤髪の女が取り出したのはパンツだった。
あまりに自然であまりに意味不明な行動に、イリヤも連れも目を見開いたが、それが何を意味するのかイリヤは遅れて理解する。

「パンツってどうして……」
「……これ、クロの」
「えぇ……」
「アイツとそういう機会があった時に、私達が知り合いだと証明する為の証拠を交換しといたんだよ」

そのまま、女性はイリヤに対しヒルダと名乗った。
ヒルダはイリヤに警戒を完全に解かせることが出来たのだと思っているのだろう。
残りの二人もそれぞれ千枝とい銀という名を口にする。

「そういえば、クロもなんでかパンツを持ってたけけど……」
「クロに会ったのか?」
「……はい」
「そうか」

先程の放送で呼ばれたクロエの名前、ヒルダや千枝に想うところはあった。
だが、最期にイリヤと出会えたのだけは喜ぶべきことなのだろう。

「ねえ、イリヤちゃん。行く宛ては何処かにあったりする?」
「ないです」
「だったらさ。一緒に来ない? 一人でいるより、私達と居るほうが良いよ」

千枝の提案は魅力的なものだった。
イリヤ一人で殺し合いの中を凌ぎ続けるのも限界がある。

「私も異論はねぇ。クロほどじゃなくても戦力になるしな」
「……」

ヒルダも肯定し銀も首を縦に振る。
そこで黒の探し人だった銀という女性は、彼女の事を指しているのだと思い出す。
名前や黒の言っていた特徴も全て一致する。

――銀さんが死んだら、黒さんはどうなるのかな。

魔が差した。
ふと思い浮かんだのはそんなたらればだ。
黒が如何に銀を想っていたのかは、察しは付く。
だから、思う。これから何人もの人がそんな大事な存在を亡くしていくのか。亡くならねばならないのか。
その屍の中にクロエと美遊も連ねればならないのかと。


16 : ひとりぼっち ◆w9XRhrM3HU :2015/11/26(木) 00:25:51 9ytKO9TQ0

「……私が死ねば良かったのに」
「あ?」

イリヤの表情が曇っていたのは一目瞭然だ。目の前で姉妹が死んで動じない人間は少ない。
だが、今の台詞はそれを考慮してもイリヤ対して起こった異変であると容易に感じ取らせる。

「何言ってんだ? お前」

「……ごめんなさい」

「ッ!?」

血が飛び散る。
ピンクのステッキが零れ落ち、地面を二、三度跳ねて乾いた音で転がっていく。
銃口から僅かに煙が上がり、イリヤの花を火薬がくすぐる。

「いっぁ、あぁ……」

「……どういうつもりだ」

イリヤの殺気を瞬時に嗅ぎ取ったヒルダは迷う事無くイリヤの右手の甲を撃ち抜いた。
曲がりなりにも人間の生活をしていた頃、サリアと同じ魔法少女のアニメを視聴していたお陰で、ステッキ=武器という図式は簡単に成り立つ。
魔術を扱えるクロエの姉妹であることも考慮すれば、決して過剰防衛であるとはいえない。

「ヒルダさん、なんてこと――」
「違う。千枝、イリヤは私達を殺そうとしてた」

唯一事態に付いていけなかったのは千枝だが、銀が千枝を宥める。
銀もまたエージェントの一人であり、他者の殺意には一般人より鋭敏だ。イリヤが何をするのかは予測できなかったが、こちらを殺そうとするのは分かった。

「そうだな。こんな杖パッと見玩具にしか見えない。見た目もガキだ、殺ろうと思えば不意打ちでも何でも出来るか」
「ぐっ……ぅう」
「何でだ、オイ! どうしてこんな真似を――」
「生き返らせなきゃ……」
「馬鹿か、美遊ってガキは知らないがクロがそんな事望むわけ」
「貴女がクロを語らないで!」

イリヤの左手で掴んだ砂がヒルダの顔面に振りかけられる。眼球を守ろうとした生理現象で瞼は閉じ、視界は一瞬闇に落ちる。
腕で目を拭い、涙で霞んだ視界で写ったのはステッキを手にし変身を終えたイリヤの姿。

「クロは最期まで私だけの味方でいてくれた!」

クロエは何があってもイリヤを見捨てる選択だけはしなかった。
例え命を奪われようとも、イリヤだけを守り続ける為に彼女はその生を閉じた。
なら、イリヤが為すべきことは一つしかない。
クロエのそして美遊の味方はもう何処にも居ない。死者は死者。
生者には決して追いつけない。死者はいくら生者に惜しまれ、悲しまれようと決して交われない。
そう、もう彼女達に味方は居ない。

「ここに居る全員が私の敵になっても良い……。私だけが守られてきた……だから、私も二人を守るの!!」

イリヤが遥か上空へと飛翔する。その姿は光景だけなら凛々しい魔法少女そのもの。
そのまま魔力の弾丸が雨のように降り注がれる。
既に変身を終えた魔法少女とパラメイルのないノーマ。
戦力は完全に翻り、ヒルダは銃を撃つ間もなく防戦を強いられる。


17 : ひとりぼっち ◆w9XRhrM3HU :2015/11/26(木) 00:26:10 9ytKO9TQ0

「ペルソナ!」

タロットカードを蹴り壊し、トモエを発現させた千枝がヒルダと銀を守る為にトモエを翳す。
幸い人体を破壊せしめる弾丸もペルソナを貫通するほどの火力を持ち合わせてはいなかったらしい。

「お願い……死んで……死んでよォ!!!」
「嘘? トモ――」

もっともそれは以前のイリヤの場合。
今のイリヤはクロエと一体化したことで完全に本来の力を取り戻した。
その魔力の強大さは他の追随を許さない。
大きく振るわれたステッキから放たれたのは巨大な魔力の砲弾。トモエの胸部に命中し、堪らずトモエは地面へと落とされた。
千枝の口から血が吐かれ、トモエと同じ胸部を押さえつける。

「もう二度と二人に会えないなんて嫌だよ!!!」

ここに来て、ヒルダは理解した。
つまり、二択しか少女はなかったのだ。それも、必ずどちらかを切り捨てなければならない二択。
他者(たすう)を取るか、最愛の者達(ふたり)を取るか。
この二つは決して相容れない。
――もし、本来の正道を歩み、成長を重ねた少女であったのならば新たに導き出した第三の選択を選ぶだろう。
残酷な理を破壊し、最高の結末を紡ぐ力が少女には備わっていたのだから。

「千枝、ペルソナを消せ! 銀、遮蔽物の多い場所まで誘導しろ!」
「……分かった」

千枝がペルソナを消すことで、魔力弾の圧力から開放される。
そのままヒルダの指示通り銀はペットボトルの水に指を差し、観測霊を飛ばし周囲を探索、ヒルダの望みどおりの場所を見つける。
ヒルダが銃で牽制しながら、銀を抱え三人はイリヤに踵を翻し逃走した。

「こ、の……!」

もっとも銃弾程度では魔法少女のバリアを破ることは叶わない。
一発頬に掠ったが、それ以外は全ての弾丸がイリヤの生み出したバリアに弾かれ落とされた。
数発弾丸を弾いた後、ヒルダの銃の弾切れを確認したイリヤは再びステッキを振るい、魔力を放出する。
その瞬間、トモエがイリヤの真横へと浮上しその薙刀を振り下ろす。
ヒルダの牽制は囮であり、本当の狙いはトモエの再召喚による不意打ちだ。
物理保護に守られているとはいえ、ペルソナの攻撃を直に喰らえば、いくら魔法少女といえど無視できない程度のダメージは幾分通る。
衝撃に圧され、今度はイリヤが上空から叩き落とされ、天空の制空権を奪われた。

「ぐっ……」

ペルソナと小競り合いをしたところで無為に消耗するだけ。狙うならば本体だ。それもペルソナの邪魔が入りより速く、迅速に。
初めて人を殺すという行為に合理的に思考したイリヤは空中で受身を取り、地上に華麗に降り立つ。
そのままインターバルを置かずイリヤは地上のヒルダ達に向かい魔力を放つ。しかし、既に盾となる遮蔽物を見つけたヒルダ達には届かない。
ヒルダ達が盾とした施設の壁が砕け、コンクリートが散らばるだけだ。隙を見たヒルダが銃を突き出し、引き金を引く。
銃声と共に弾丸はイリヤの太ももを確実に貫通し、血を撒きながらイリヤは膝を折る。

「……あっ」

イリヤの魔力は膨大だ。ヒルダ達が盾とした遮蔽物軽く消し飛ばせるのは訳はない。
しかし、その為のチャージの時間が命取りである。数々の戦場でドラゴンを墜とし生き延び、戦術眼を磨いたヒルダは瞬時に欠点を見抜いた。
所詮、強いとはいえイリヤは相手は子供だ。単独ならともかく、切れる手札が幾つもある現状ならばヒルダの経験が勝るのは当然とも言える。

「止めて、お願いイリヤちゃん」

殺されないのは、一重に相手がそれだけのお人よしであり一般人の感性を持っていたからだろう。
イリヤはそれが羨ましい。人を殺したくない、そんな当たり前の感情を持つ千枝の存在が。
もう戻ることが出来ないイリヤからは眩し過ぎる。


18 : ひとりぼっち ◆w9XRhrM3HU :2015/11/26(木) 00:26:29 9ytKO9TQ0

「私、は……」

「まだやり直せるよ。だから、イリヤちゃん」

警戒を続けるヒルダに反し千枝はペルソナを消し、こちらへと歩み寄ってくる。
優しく微笑み、手を差し伸てくる。

(この手を取ったら)

痛い。痛くて辛い。
いまにも本当に泣きそうなくらいに。
こんな痛みを感じるのなら、すぐにでも死んでしまいたい。

(助けてくれるの?)

千枝なら事情を話せば許してくれるかもしれない。
黒も穂乃果も黒子も。皆、泣いて謝ってそれで許してくれる。

(許されて、良いの?)

痛いのも苦しいのも辛いのも悲しいのも嫌だ。だから、許してもらおう。
助けてもらえば良い。イリヤは子供だ。まだまだ甘えていいし、甘えられることを望まれてもいる。
イリヤは何も悪くない。悪いのは全て別の悪い大人で、イリヤはただ守られていればそれで良い。

――違うよ。

死んだ人はどうなるの?

(駄目、もうこんなこと……本当は誰も殺したくなんか……)

――死んだ人は誰も守ってくれない。誰が、死んだ二人の味方になってくれるの?

(それ、は……)

――私が、私しかクロと美遊の味方になれないんだよ……? 良いの、貴女はそれでも他人(たすう)を取るの?


「下がれ、千枝!」

赤い髪がごっそりとピンク色の砲弾に持っていかれる。
千枝をヒルダが押し倒し、そのツインテールの左側が一気に消し飛んだ。
後一瞬、ヒルダが来るのが遅れれば千枝の顔は潰れたスイカのように変貌していたかもしれない。

「守らなきゃ……二人を……私が……」

「――違う。怖いだけ、手放すのが」

覆いかぶさるように倒れ付しているヒルダと千枝を庇うように銀が前に歩み出す。


19 : ひとりぼっち ◆w9XRhrM3HU :2015/11/26(木) 00:26:47 9ytKO9TQ0

「何、なの……」

「一人にして欲しくない」

「……止めてよ」

「ずっとそばに居て欲しい」

「嫌……」

銀と名乗る少女が盲目なのは一目瞭然だ。今も手に握ったペットボトルの水に宿した観測霊がなければ歩行もままならない。
なのにその目は何かを見据えているようで、薄気味が悪い。
銀はゆっくりと歩き、イリヤとの距離を縮めていく。同じようにイリヤも後退していく。
けれども距離は開かない。イリヤの足が震えて動かない。

「来るな!!」

魔力の砲弾は銀の足元に放たれた。外してしまったのか意図して外したのか、イリヤ本人にも分からない。
余波に煽られ吹き飛ばされる銀。地面を転がり、服が破け所々が擦り切れ血で赤く滲む。
それでもよろつきながらも立ち上がり、銀はイリヤを見据え続ける。

「離れ離れになるのは……嫌だから。でも……ここで殺せば本当に貴女は一人になる」

「……違う、二人は……生き返って、それで……一緒に……」

「――笑ってくれない」

「……ひっ」

大降りに杖を振りかざし、イリヤは飛んだ。
ピンクの魔力の波が周囲を飲み干し、上空のイリヤはそれを確認するでもなく加速する。
その飛行スタイルは、魔法少女のものとは思えないほど不恰好で無様。
ただ、がむしゃらに突きつけられた現実から逃げる為だけの飛行。

「ねえ、ルビー! ルビー!!」
『イリヤ、さん……もう止しましょう。こんなこと』
「違う違う、違うよね!? 二人は笑ってくれるよね!!」
『いや、それは……何というか』

銀の台詞はイリヤの核心を突いている。
イリヤは美遊とクロエの味方であり続けることで、二人を忘れない。自分を一人でないと錯覚し続けている。
未だ、二人の幻影を手放すことが出来ない。恐れている
そこに代替はない。イリヤの孤独を埋められるのは、また死人である美遊とクロエ以外に有り得ない。
故にイリヤは奇跡を欲し、求めてしまう。あるかも分からない餌に惹かれる、哀れな犬となってしまう。
そして、同時に怖れる。絶対に、蘇った二人が笑わないであろうという現実が。

『お、落ち着いて……』
「笑ってくれるよね、二人は……ねえ! ルビー!!」
『そ、そうですねー』

ルビーはイリヤの様子を伺いながら、言葉を慎重に選ぶ。
イリヤの精神は不安定だ。人を三人も殺害し、その内の一人がクロエだという事実はイリヤが背負う罪としては重い。
元凶は何者かの洗脳――恐らくはDIOか食蜂――による行為だ。イリヤ自身に非はない。
しかし、理屈で心に救う罪悪感にケリを付けられるほど、イリヤは都合よくは出来ていない。

「笑ってくれる……。美遊とクロはずっとずっとこの先も一緒だから……許してくれるよね」

彼女は救われたい。救われる為の方法は一つしかない。
その孤独を埋め、イリヤの隣に立ち、微笑掛けてくれる小さな少女達の姿。
それだけがイリヤの考える救いであり、自らの贖罪。
この贖罪を否定することは今のイリヤの全ての否定である。最悪の場合、孤独と罪に耐え切れず自ら命を落としかねない。

(どうすれば……私のマスター弄りの便利機能はほぼ使用不可。これで私はただの喋る武器ですし。……ああ、どうすれば……。誰か、イリヤさんを――)


20 : ひとりぼっち ◆w9XRhrM3HU :2015/11/26(木) 00:27:32 9ytKO9TQ0




トモエが壁となり、イリヤの攻撃から三人を守る。
イリヤが衝動的に力を振るい魔力のチャージが十分ではなかったこともあり、トモエの防御の許容範囲内だったのは不幸中の幸いだった。
千枝が疲労の色を見せる以外は三人に目立った負傷は見られない。

「無事か、千枝」

体力を使いきりぐったりした千枝をヒルダは肩を貸し、ゆっくりと地面に下ろす。
千枝は深く座り込み、肩で息をしながら、イリヤが飛んでいった方角を見つめる。

「止められなかった」

クロエは短い間だったが、千枝の仲間だった。その仲間の妹が殺人者になるのを止められない。
千枝の胸に重い後悔が圧し掛かる。
もっと説得の方法はあったんじゃないか。イリヤの事情をもっと理解してあげれば。
今更、そんな事を考えたところで遅い。自分が嫌になる。

「銀。お前、なんでイリヤに口出した」

イリヤとの繋がりは銀は殆どない。そこへ唐突に口を挟んだ銀に対し疑問が芽生えるのは無理もない。
銀は表情を変えない。相変わらず、顔を項垂れさせたまま淡々と口を開く。

「……同じだから」
「何?」
「私は一人になりたくない。……あの娘もそうだと思った」
「……そうかよ」

銀の答えにヒルダは短く返し話を切り上げた。
それから黙り込み、虚空を眺めながら結えた髪を解いていく。
ツインテールの片方が無くなった以上、この髪型を維持するのは不恰好だ。
解いた髪を降ろし、軽くかき上げてからヒルダは懐から一枚の布地を取り出した。

「……クロ」

それは三角形の形をしたトライアングル。パンツだった。
クロエと一夜を共にした際、互いの知り合いへの証明として交換し合った下着。
気付けば、唯一残ったクロエの形見となってしまった。

「お前、どうしたかったんだよ」

クロエとの付き合いは半日にも満たない。
いきなりキスしてきた痴女かと思えば、人並みの羞恥心はあったり、大人ぶってる割には何処かガキ臭かったり。
それでいて、いざという時は頼もしい奴だった。
エンブリヲが引き起こした騒動。あれはモモカを救うことはならなかったが、それでもクロエが居たからヒルダは死なないで、千枝もこうして無事ここまで生きていたのだと思う。
仲間、なんて言える程情が移りはしない。でも、もっと同じ時間を過ごしていれば……そういう存在にはなったのかもしれなくもない。

「私達なんかより、イリヤの方が大事ってのは分かる。だから、こうなってもお前は良かったのか」

人には優先順位がある。ヒルダもここの連中と、アンジュのどちらかを選ぶかと言われれば、当然アンジュを取る。
イリヤの目の前で死んだというクロエ。彼女がどんな死に方をしたのか分からない。
一つ分かるのは、首に何か細いものが巻きついた痕があったのと、イリヤの口元には血が――それも本人のものではない――付いていたこと。
これは予想だが、誰かにイリヤは襲われてクロエはそれを庇い、最期に口付けをした。そうヒルダは考える。
口付けで魔力を補充できるのだから、逆に言えばそれを譲渡することも可能なのかもしれない。これならイリヤの魔力の強大さも説明が付く。
少なくとも、クロエは最期は他人よりイリヤを取ったというのだけは間違いない。


21 : ひとりぼっち ◆w9XRhrM3HU :2015/11/26(木) 00:28:13 9ytKO9TQ0

「……分からないよ。どうすればいいの? イリヤちゃんは……」

千枝は堪らず、声を上げてヒルダに縋る。
今まで倒してきたシャドウとは違う。言ってしまえば、シャドウは己の影だ。
それを倒しても人は死なないし、受け入れてあげればシャドウはその人にとっても、そして千枝たちにとっても強い味方になる。
だが、イリヤは違う。受け入れることが出来ない。彼女とは反発しあうしかない。受け入れるとは自らの命を、仲間の命を差し出すことに他ならない。
そんな事は許せない。だけどイリヤを倒すこと、殺すことも千枝には出来ない。

「お前、銀連れて先にジュネスに行ってろ。合流場所は地獄門だ」
「え?」

そこへヒルダが別行動を提案する。
当然、千枝は反抗の色を見せるが千枝の口が開く前にヒルダが言葉を紡ぐ。

「キンブリーじゃねえけどな。信念がない、今のお前じゃ禄に戦えもしない。
 邪魔なんだよ、消えろ。それにお前にはマスタングの奴との決着もあるだろ」

千枝の迷いは戦場において命取りになる。ヒルダはそれをフォローする気もなければ、みすみすそれで死なせるつもりもない。
だからこそ、戦場から遠ざける。

「居るか分からないが、鳴上って奴に会って来い。会って話して決めろ」

千枝の迷いを吹っ切れさせる方法はヒルダには分からない。
だが、彼女の迷いを分かち合い、共有し共に悩める存在ならヒルダにも分かる。
鳴上という男が、どんな人物なのかは分からない。ただアンジュに似ている部分が千枝の話から感じられた。
アンジュのように鳴上は人を連れ、自分の足で前に進める何かを持っている。
なら、千枝にとって今一番必要な人物は鳴上しか居ないはずだ。

「……ねえ、ヒルダさん。一人でなんて……無茶だよ」

「イリヤがああなったのはクロの責任でもある。何があったかは知らないが、アイツが死んだ結果があれだ。
 だからクロの責任で、アイツの背中を押した私の責任だ。
 あの時、私はアイツを力づくでも止めるべきだったのかもしれない」

「それなら私も一緒……。私にも責任はあるよ」

それが間違いであるとは誰にも言えない。もし、クロエがヒルダ達に同行し続けていれば逆にイリヤが死んでいたかもしれない。
こんな想定に意味などない。けれど、クロエの決意を後押ししたのは間違いなく、ヒルダであり千枝でもある。

「……そうもいかない。あんな雌ガキでもな。抱いちまった女の妹ってんなら放っておく訳にもいかないしな」

「抱いた?」

「楽しませて貰った分の駄賃は払うって事さ。……ただし、ノーマなりのやり方でな」

「楽し……ちょっと意味分からないよ」

話の内容が全く理解し切れなかった千枝を置いて、ヒルダは踵を返す。
ヒルダの背を追おうとして、千枝は踏みとどまってしまう。
確かに今の千枝は戦えない。彼女を支える芯がない以上、戦いになればいざという場面で迷う。
迷い、そしてヒルダの足を引っ張てしまう。


22 : ひとりぼっち ◆w9XRhrM3HU :2015/11/26(木) 00:28:46 9ytKO9TQ0

「ヒルダ」

「……あぁ。お前も、黒って奴に会いなよ」

ヒルダを止める事もないまま、千枝は取り残される。
確かにヒルダの言うとおり、千枝には明確な信念がない。
未だマスタングに対する怒りは収まらないし、これをどこにぶつければ良いのかも分からない。
そんな千枝がイリヤを止められるはずがない。

「千枝」

「銀ちゃん?」

千枝の手を強く握り、銀が引っ張る。
千枝よりも遥かに弱弱しくて、それでいて前を見る視力もない銀ですら進もうとしている。
ここで千枝が立ち止まるのは、それこそ死んでいった雪子やクマに顔向けできない。

「……分かった。行くよ、銀ちゃん」

千枝は銀の手を握り返し、強く声を上げる。銀は小さく頷いた。
まだ答えを見つけた訳ではないが、それでも千枝は進むことを選ぶ。
例えその先が暗闇に包まれていたとしても、止まり続けることだけはしてはいけない。
千枝は再びジュネスへと歩を進めた。











「…………?」
「どうかした?」
「……何でもない」


ジュネスに近づくにつれ、そこに居る何か近しい存在に共鳴しているのように銀の観測霊が反応している。
それに千枝はまだ気付かない。


23 : ひとりぼっち ◆w9XRhrM3HU :2015/11/26(木) 00:29:35 9ytKO9TQ0






――貴女も相応の信念を持ちなさい


ああ、キンブリーの言うとおりだ。信念ってものが私にはなかった。
エンヴリヲを殺して、平和な暮らしって奴を堪能する。この殺し合いはその前の前座みたいなもんだと勝手に思ってたんだ。
違ったんだ。そんな気楽な物じゃないし、私は現実を直視するのが怖かったんだ。
アンジュが死ぬのが嫌だった。そうだ。他の連中も死んで欲しくなかったし、死ぬはずがないとすら思ってた。
本当に大事な事を見失っていた。モモカが死んだってのに、私はまだそんな事にも気付けなかった。
何が殺し合いに乗る気はない、だよ。私は何だ? 支配をぶっこわす! 好戦的で反抗的なイレギュラー 、ノーマ。人間だろうが。
だったらやる事なんて、はっきりと見えてきやがる。この殺し合いをぶっ潰して広川をぶっ飛ばす。
そんな簡単なこと、何で私は今まで遠回りしてたのか笑えて来る。アンジュが見ていれば失笑ものだったに違いない。

「馬鹿かよ私は……くだらねぇ」

イリヤがどんな考えで動いてるかは知らない。だが、アイツが乗ろうとしてるなら、その考えも全部含めて殺し合いを壊す。
クロエもそうだ。イリヤが大事なのはどうでもいい。ただ、あんな傍迷惑な置き土産を残すくらいなら一緒に道連れにしろ。レズガキが。

「絶対にあの雌ガキをぶちのめしてから、クロの墓の前まで引き摺り倒して、そのまま墓をぶち壊してやる。……だから、あの世で待ってなクロ」

私はノーマだ。ノーマらしく、ここでも同じだ。どこぞの長髪ナルシストの腐った世界と一緒で、この世界を壊す。
そのついでだ。イリヤの馬鹿もとっちめて、お前の墓も買っといてやる。

「……行くか」


24 : ひとりぼっち ◆w9XRhrM3HU :2015/11/26(木) 00:31:08 9ytKO9TQ0
【F-7 上空/1日目/日中】


【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(絶大)、魔力全快 、精神不安定
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・アーチャー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:ディパック×1 DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ DIOのサークレット 基本支給品×1
不明支給品0〜1 美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:美遊とクロの味方として殺し合いに乗って二人を蘇らせる。
0:早く殺さなきゃ……。
[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
※アカメ達と参加者の情報を交換しました。
※黒達と情報交換しました。
※「心裡掌握」による洗脳は効果時間が終了したため解除されました。
※クロエに分かれた魔力を回収したため、イリヤ本来の魔力が復活しました。


【F-7/1日目/日中】

【里中千枝@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)マスタングに対する憎悪 、イリヤにたいする困惑
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:殺し合いを止めて、みんなで稲羽市に帰る。
0:雪子殺害の真実を見つける。雪子の仇を討つ?
1:マスタングとイェーガーズを警戒。
2:鳴上、足立との合流。
3:イリヤやヒルダも気になるがジュネスに向かう。その後地獄門でヒルダと合流。
4:鳴上と話し合いたい。
[備考]
※モモカ、銀と情報を交換しました。
※キンブリーと情報交換しました

【銀@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(小)  キンブリーに若干の疑い、観測霊に異変?
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:…………。
1:黒を探す。
2:千枝としばらく同行する。
[備考]
※千枝、雪子、モモカと情報を交換しました。
※制限により、観測霊を飛ばせるのは最大1エリア程です。


25 : ひとりぼっち ◆w9XRhrM3HU :2015/11/26(木) 00:32:07 9ytKO9TQ0

【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(中) 、ノーパン
[装備]:グロック17@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2、クロのパンツ
[思考]
基本:ノーマらしく殺し合いを潰す。
1:イリヤをぶちのめす。
2:千枝とは一先ず別行動。
3:エンブリヲを殺す。
4:アンジュに平行世界のことを聞いてみる。
5:マスタングとイェーガーズを警戒。マスタングは千枝とは会わせないほうが良いかもしれないが、千枝には決着はつけさせておきたい。
6:キンブリーの言葉を鵜呑みにしない。
7:千枝とは別行動。地獄門で合流する。
[備考]
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。
※クロエの知り合いの情報を得ました。
※平行世界について半信半疑です。
※キンブリーと情報交換しました


26 : ◆w9XRhrM3HU :2015/11/26(木) 00:32:25 9ytKO9TQ0
投下終了します


27 : 名無しさん :2015/11/26(木) 01:02:38 elRz0TGg0
投下乙です

やっぱりイリヤはマーダー化しちゃったか…
経験差でイリヤを退けたヒルダ達は見事の一言


28 : 名無しさん :2015/11/26(木) 17:04:18 /jIy7tP60
投下乙です

美琴に続きイリヤまで闇堕ちしてしまったか…メンタルは年相応だもんなぁ
ヒルダは逞しくてカッコいいな、銀ちゃんはドールなのにも関わらず絡みに味がある
イリヤマーダー化は悲しいけどこの世全ての悪に接続したらどうなるかなーと思ってみたりもしますね(某神父並の感想)


29 : ◆isnn/AUU0c :2015/11/29(日) 23:32:24 YDb4zmFc0
投下します。


30 : これから正義の話をしよう ◆isnn/AUU0c :2015/11/29(日) 23:33:38 YDb4zmFc0
あるところに ひとりのおんなのこがいました。
おんなのこは おしろのおひめさまにあこがれていました。
きれいなどれす きらびやかなぶとうかい。
やさしいおうじさまにてをひかれ ともにうつくしいしろのかいだんにのぼりたいとおもいました。
けれどおんなのこは へいぼんないえにうまれ へいぼんにそだちました。
おんなのこには なんのとりえもありません それでもおんなのこはがんばりました。
いつかじぶんも おひめさまになれるとしんじて がんばりました。
ほかのおんなのこだけが おしろにはいっていくのをみても くじけずがんばりました。
ほかのおんなのこが おひめさまになるのをあきらめても かまわずがんばりました。
がんばりました。 がんばりました。 がんばりました。
たくさんがんばったおんなのこは ついにおしろへはいることができました
それでもおひめさまにはなれませんでした おしろのなかにはおんなのこよりも おひめさまにふさわしいこがたくさんいたからです。
おんなのこはもっとがんばりました。
いつかじぶんもおひめさまになれるとしんじて がらすのくつをもってがんばりました。
そしてきょうも おんなのこはがんばります。
いつかじぶんにがらすのくつをはかせて おひめさまにしてくれるおうじさまをゆめみて。


『思慮を持ち正義をかざしてその生涯を送らなければ、何者も決して幸福にはなれないだろう』(プラトン)


私、島村卯月は養成所でアイドルになる訓練をがんばってきました。
そんなある日、私はプロデューサーにスカウトされて、346プロダクションに入ることができました。
そしてシンデレラプロジェクトのメンバーになり、仲間と力を合わせてライブを大成功させました。
これからもっと頑張らなきゃ――――そう思った矢先、私は殺し合いに参加させられました。

突然見知らぬ土地に飛ばされ、見知らぬ人達と殺し合えといわれ、私は怖くてしかたがありませんでした。

そんな私を助けてくれたのがセリューさんだったんです!

『私はセリュー・ユビキタスと言います。貴方は?』

セリューさんは見ず知らずの私を命がけで守り、時には優しく抱きしめ、時には力強く励ましてくれました。
セリューさんは、私が無価値でないと言ってくれました。正義の素晴らしさを教えてくれました。
セリューさんは――――。
 
私の王子様だったんです!


31 : これから正義の話をしよう ◆isnn/AUU0c :2015/11/29(日) 23:34:07 YDb4zmFc0
『悪に報いるには正義をもってし、善に報いるには善をもってせよ』(孔子)


断続的な爆発が止んだ。その様子をしばらく眺めていた卯月は、やがて一際大きな爆発にハッとなった。

「行かなきゃ……」

何かに導かれるように彼女は立ち上がり、来た道を引き返していく。

「待ってよ、しまむー!」
それを咎めるのは一緒にいた本田未央だ。いったいどこへ行くつもりなのか――本当は察していたが――確かめなければならない。
「行くってどこに」
「セリューさん……あんなに大きな爆発……また助けなきゃ」
両手に装着された帝具、クローステールをカチャカチャと鳴らす。
「きっと傷ついてるから……」
「だめだよ!」
「どうして?」
本当に疑問だ、という表情の卯月。
「だって、逃げなきゃ」
「逃げてどうするの? 二人だけで」
「それは……」
「あなたが私を守ってくれるんですか?」
軽蔑でも皮肉でもない。純粋な疑問で卯月はそういった。
「…………」
未央は何か言おうとしたが、結局俯いた。


『暴力は、常に恐ろしいものだ。たとえそれが正義のためであっても』(シラー)


どうしてこうなったんだろう。
未央の心は疑問でいっぱいだった。
いつもどおりレッスンをして、ライブに備えて、仲間たちと楽しく過ごして……。
そんな日常が、いつまでも――少なくともこんな風に終わるなんて思ってもみなかった。
最初は皆で帰るんだ、なんて希望も持っていたけれど……。

もう、プロデューサーも、前川みくも、渋谷凛もいない。

自分の仲間は、もう島村卯月しかいないのだ。
 
絶対に離れてはいけない。離れたら、もう会えないかもしれない。

大切な仲間だから。

彼女さえいれば、ニュージェネレーションはまだ続けられる。

自分たちはまだやり直せる。その絆だけは、絶対に守らなければ。

それなのに。

彼女はここで会った女性――セリュー・ユビキタスに強い執着を見せている。
 
それが彼女の異変の原因であることは、現場にいなかった未央にもよくわかった。

これをどうにかしなければ、島村卯月は元に戻らない。

346プロダクションのアイドル、島村卯月は帰ってこない。

どうすれば。
 
どうすれば……。

そこでふと、少し前のマスタングを思い出す。自責の念に押し潰されそうで、自分が責めなければ抱えたまま潰れそうだった。
その姿がどうしても見ていられなくて、自分は手を上げた。そうすることで、マスタングは抱えていたものを捨てられた。
あの時は自分が責めるべきではない――責めるべき相手でないと判断したが、今は……。

卯月を救えるのは自分だけだ。彼女の姿を――アイドル島村卯月を知っているのは自分だけだから。

未央は俯いた顔を上げ、卯月の腕を掴んだ。

「未央ちゃん……?」

そして手を振りかざし――――。

不思議そうにする彼女の顔に叩きつけた。


 バ ッ チ ィ ン
 

本田未央は引き金を引いた。

それが何に繋がる引き金かもわからず。

無造作に引き金を引いた。


32 : これから正義の話をしよう ◆isnn/AUU0c :2015/11/29(日) 23:34:55 YDb4zmFc0
『正義はその実行において真理である』(ベンジャミン・ディズレーリ)


なぜ自分が殴られたのか、卯月にはわからなかった。
何も間違ったことは言っていないのに。
ここで未央と一緒にいても何も解決はしない。
それより、セリューと合流する方がよほど正しい。
戦力的にも、精神的にも、セリューの存在は絶対である。

それなのに……。

「いい加減にしてよ!」

なぜ彼女はこんなに怒っているのだろう。

「どうしてそんなことばっかり言うの!?」

まるで自分が被害者だとでも言いたいようだ。

「おかしいよしまむー。目を覚まして……!」

まるで……まるで自分が正しくて……。

「あの人がおかしいのは本当はわかってるんでしょ!?」

私が――私の信じるセリューさんが間違っていると言っているような。

「やっとまた会えて、一緒になれたのに。どうしてあの人なんか優先するの?」

卯月の行動の否定は、彼女の信仰の対象であるセリューの否定に直結する。
それがわからない未央ではないだろう。しかし、この状況と、彼女の若い感性と視野では、これが限界なのだろう。

あなたの行為は間違っている。だから注意する。自分の言うとおりにさせる。

それが未央の言わんとすることであり、それはすなわち――――。

卯月にとっては敵対行為と同義であった。


「やめてよ」

卯月はか細い声を出す。

――――私から価値を奪わないで。

しかし未央は止まらない。

「承太郎さんも死んじゃった。マスタングさんもあの人もボロボロだった。さっきの大きな爆発じゃどう考えたって」

「やめて……」

――――セリューさんが私に履かせてくれたガラスの靴を――――。
 
――――とらないで。

セリューさんは今の私を認めてくれた。受け入れてくれた。
アイドルとしての価値すらない、何の取り柄もない、ただの女の子――――そのままのウヅキでいいって、そう言ってくれた。

赤く腫れた頬に手をやる。

セリューさんは優しく頭をなでてくれた。抱きしめて慰めてくれた。

強くて頼りがいがあって、正義を信じ、悪を倒して弱い人を守る――――そんな一生懸命だった彼女を――――。


「あの人はもう死んだの! どこにもいないんだよ!」


 ど う し て こ の 人 は 否 定 す る の ?


33 : これから正義の話をしよう ◆isnn/AUU0c :2015/11/29(日) 23:35:21 YDb4zmFc0


「だからこれからは二人で頑張らなきゃいけないんだよ。仲間なんだから……」

細かく挙げればキリがないが――――大きく分けて、未央はふたつのミスを犯した。

ひとつは今の卯月をアイドルの島村卯月と同一視していること。未央は同業者としての彼女しか見ていないため、それはどうしようもない。

そしてセリュー・ユビキタスが、今の卯月にとって絶対的な存在であると気づけなかったこと。
これもその間に同行していないのだから気づきようがない。

以上のミスを修正せず、強引に事を進めようとした彼女は――――。


宙を舞った。


島村卯月に武道の経験はない。つまり腕を掴まれた状態での投げ――柔道や合気道のそれ――ではない。
空いた手でクローステールを操り、糸にひっかけた未央を上に放っただけだ。
そのまま受け身も取れず、地面に戻った未央はうめき声を上げる。

「し、しまむー?」
 
何が起こったかわかっていないらしい彼女は、ただ卯月を見上げる。

「あなたに何がわかるんですか?」

仰向けの未央――その腹部に卯月は乱暴に腰掛ける。
その衝撃で腹から息を吐きだした未央は目を白黒させた。

「あなたに何ができるんですか?」

「わ、私はただ」

狼狽する未央を、卯月はただ無表情に見下ろす。

口では偉そうなことを言うくせに、何の力もない。人の思いを踏み躙り、言うことを聞かせるために手を挙げる。

これを悪といわず、なんという。

「あなたはいつもそうです」

卯月は未央の顔より下に目を向け――――。

「いつも自分勝手で、皆がそれに構ってくれると思ってる」
 
首が目に入る。

「こっちの迷惑なんて気にもしないで」
 
首、首、首……。

ああ、そうか。

こうか――――。

細い首に両の手を置いた卯月は、そのまま力をこめる。

どうして自分がこうしたのかはわからない。ただ首がそこにあって、ただ悪がそこにあった。

それだけだ。

「しまむー。苦しいよ」

卯月自身もこの状況には困惑があるが、未央はそれ以上だろう。

いつもの卯月なら、自分の知っている卯月なら、結局は自分の言うことを聞いてくれる。こっちに合わせてくれる。強く訴えれば尚更だ。

そんな思い込みがあったのに、それが覆され、あろうことか襲われているのだから。


34 : これから正義の話をしよう ◆isnn/AUU0c :2015/11/29(日) 23:35:41 YDb4zmFc0


相手に調子を合わせる。

曖昧な態度でなあなあに済ませる。

否定はせず、形だけでも同調する。

愛想笑いを浮かべて、建前だけ賛同して波風を立てない。

島村卯月の日常でのそうした態度――ペルソナを用いることは、悪いことではない。誰もが日常生活で、社会で生きるために使う処世術だ。
問題は、そのような擬態を、人は時として捨てること。その擬態に隠された本当の人格に気づけないことである。

この極限状況の中、本当の自分をさらけ出した島村卯月に――――。

本田未央は気づくことができなかった。


「私達、仲間なんだよ。こんな……」

息が詰まる中、貴重な酸素を消費して未央は発声する。
自身を締め付ける腕を止めようと手をかけるが、上を取られ、何の体術も修めていない少女に抗う方法はない。

「仲間?」

卯月は言われて思い出したようにまばたきする。

「私があなたを選んだんですか? あてがわれたユニットに、たまたまあなたがいただけですよね?」

ただアイドルになりたかった。そのためにずっと頑張ってきた。それをふいには出来ない。
アイドルになるために与えられた条件に、きちんと応える。アイドルになり、アイドルであり続けるためには、それが必要だった。

だから良好な関係を、少なくとも険悪な関係を極力回避し、集団行動に気を配った。
切磋琢磨し、協力し合い、かといって必要以上には踏み込まず――――。
そうして作られた、彼女がいうところの仲間――――人間関係が、命のやりとりをするこの舞台で通用すると、なぜ思えるのだろうか。

かつての自分もそんな考えを持っていたが、今となっては、どうしてそんなことを考えたのか不思議でしかたがない。


多分、ほかに頼るものがなかったからだろう。

今の自分には、セリューがいる。自分が選び、自分でついていくと決めた相手がいる。

それだけで――彼女だけで、自分は充分だ。

それなのに。

それを否定するなら。

それはきっと――――。


悪だ。


35 : これから正義の話をしよう ◆isnn/AUU0c :2015/11/29(日) 23:35:58 YDb4zmFc0


「そっか……そうなんだ」

首を締める力をそのままに――それどころか、より一層体重をかけた卯月は呟く。

「ようやくわかりましたよ、セリューさん」

あなたの正義、その本質が。

自分を――自分の尊厳を、理想を守るために、力を振るい、自分を否定するものを排除する。

それが私達の正義。

口だけの綺麗事じゃない。力を使って行うそれが――悪を倒す行動こそが――――。

あなたと私がなしていく正義。

卯月がその結論にたどり着いた時、胸に温かいものが溢れた。
その顔に浮かぶ笑みは、ここに来て初めてというくらい――ひょっとしたら生まれて初めてというくらい――輝いていた。

プロデューサーは、自分をアイドルにした理由が笑顔だといった。
でも、笑顔なんて誰にでもできることだ。今思えば、まるで自分には何もないと言われているようだ。
でも、今は違う。

セリュー・ユビキタスが与えてくれた正義がある。

笑顔と正義。

このふたつがつくり上げるもの。

それが本当の"島村卯月"。

自分が"島村卯月"である理由。

自分が持つ価値、自分が舞踏会へ上がるためのガラスの靴。


「未央ちゃん」

打って変わって、とても優しい声と顔で卯月は語りかける。それでも絞首は止まっていない。

「私の事、まだ仲間だと思ってくれますか?」

もはや言葉すら出せないのか、未央は口を小さく開閉させながら、しっかりと頷いた。

「ありがとう未央ちゃん」

にっこりと、一切の邪気がない笑顔で卯月は告げる。

「じゃあ、私のために」

未央の手が卯月の腕から滑り落ち――――。

「死んで」

そのまま音もなく落ちた。


36 : これから正義の話をしよう ◆isnn/AUU0c :2015/11/29(日) 23:36:22 YDb4zmFc0
『われわれは戦い、そして勝利者とならねばならぬ。正義とは正しい者が勝つことだ』(ロマン・ロラン)


「まったく。見境なく爆発させるから」
耳鳴りが頭のなかでガンガン響く。三半規管が爆音で侵され、めまいがする。
一般人であれば歩くことさえできないコンディションで、マスタングは先に避難した二人の少女を追う。
コロの足跡をたどれば――二人がそこを動かなければ――合流できるはずだ。

はやく二人の安否を確認し、戦場に戻らなければ。
こうしている今も、セリューは一人で戦っているのだから。
グラグラと揺れる視界の中、マスタングが足元の石につまづき、よろけた。
すんでのところで踏みとどまった彼の目に、閃光が届く。

反射的にそちらを見る。遅れて、爆音と爆発が彼に追いついた。

「セリュー……!」

あの爆発では……。
 
脳裏をよぎる可能性にマスタングは舌打ちをする。
あの爆発では、生存は絶望的だ。

それに――――。

マスタングは崩壊していく線路に目を向ける。どこから伸びているかわからない支柱が折れ、レールを含めた足場が落下していく。
これでは戦場に戻るどころか、状況を確認することも不可能だ。
錬金術で修復しようにも、元の質量は奈落の底だ。まかなう物質がない以上、等価交換が原則である錬金術では直すことができない。
遠くにある線路――あれは北側のものか――も同様で、もし先程いた場所に戻るなら、無事かもしれない東側の線路か、空でも飛ばない限り無理だろう。

「ともかく、合流するしかあるまい」

ここで呆けているほど、マスタングは未熟ではない。すぐに頭を切り替え、最優先事項に集中する。
爆心地への懸念はそのままに、再び走りだす。
 
「あれか……!」

額や髪から汗を滴らせ、マスタングはようやく目当ての人影をとらえた。

「む……」
 
誰かが馬乗りになっている。乱れた視界ではよくわからない。
もっと近づかなければ……あれが襲われている状況だとしても、自分の焔は細かい調整ができない。

その光景に直面した時、マスタングは数秒ほど呼吸を忘れた。

ありえない。

まず、そう思った。

島村卯月と本田未央は同じ世界の仲間で、敵対していたわけではない。

それなのに、どうして……。

「何をやっている!」

叫び近づくマスタングに気づいた卯月は――未央はまったく動いていない――微笑みを浮かべる。

――――エンヴィーか。
――――いや、しかしそれでは本物のウヅキは。
――――それにあの慈しみさえ感じる笑みは奴とは。 

マスタングのそうした逡巡は、卯月に逃げるだけの余裕を与えた。
彼女は未央のデイバッグを片手に、もう一方の手を――そこから放たれる糸を遠くの巨木に伸ばし、空を滑るように移動した。


37 : これから正義の話をしよう ◆isnn/AUU0c :2015/11/29(日) 23:37:11 YDb4zmFc0

「待て!」

マスタングは両手を合わせる。直撃させないまでも、せめて牽制は――――。

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
『ぃぃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』

脳裏に、あの時の悪夢がよみがえる。

「くっ……!」
 
結局、彼女が木々の向こうへ消えていくのを見送ってしまった。
何の確認もせずに、少女に焔を放つことはできない。
過ちを繰り返すわけにはいかない。
彼女が何をしたか、はっきりとは見ていないのだ。
ただ馬乗りになっていただけ。
あるいは心臓マッサージを試みようとした時に自分が敵意をあらわに現れたから、とっさに逃げてしまったのかもしれない。
考え始めたらキリがない"IF"。その前提にあるのは、卯月が未央を襲うはずがないという先入観や、解消したとはいえ未央に対して抱いている罪悪感、二度と同じ轍を踏むまいという誓い。

ともかく、彼女を調べればわかる。

マスタングは身動きひとつない未央に近寄り、彼女の口に手をやる

呼吸は――――。

 
――――かすかではあるが、ある。


首に残された指の跡、指先があったであろう場所から流れる血。
下手人が誰であるか考えるのを後回しにしたマスタングは未央の半身を起こし、その背中に膝をあてて両肩を掴み、後ろに引く。
今の未央は、格闘技でいうところの"落ちた"状態だ。そして今やったのは、その蘇生法。
「…………かはっ」
はたして、未央の意識は戻り、咳をして背中を丸める。口から飛び散る血をマスタングは見逃さなかった。
もし、自分が来るのがもう少し遅れていてれば、蘇生はできても重大な障害が残っただろう。
もっと遅れていれば、彼女の意識は永遠に戻ってこなかった。

これは、殺意のあった行動だ。
それも、殺しに慣れていない者がやるものだ。

「なぜだ」

自分でも未央でもない第三者に問うようにマスタングは呟く。

「どうしてこんな……」

困惑のマスタングをよそに、未央は立ち上がり、よろよろと歩き出す。
酸欠状態で今のマスタングよりひどい状態なのにもかかわらず、だ。

「待て。どこへ行く」

「あ、あやまらなきゃ」
内股を流れる小水すら気にもせず、未央は体を引きずるように動かす。
どっちの方向へ卯月が移動したかわからないから、まったく見当違いの方へ行こうとしている。
「なっ…………」
マスタングが驚いたのは言動に、ではない。もっと単純なもの。
「あ、あれ……?」
未央は喉と口を抑え、離し、血にまみれた手をじっと見る。
「まさか」
変わり果てた彼女のそれ。
「持っていかれたのか」
未央はマスタングを見上げる。その視線に向き合えず、彼は目をそらす。
「……声を」


38 : これから正義の話をしよう ◆isnn/AUU0c :2015/11/29(日) 23:37:29 YDb4zmFc0
『大きく正義を行おうとする者は、細かく不正を働かねばならない。大事において正義をなしとげようとする者は、小事において不正を犯さなければならない』(モンテーニュ)


ロイ・マスタングの接近に対して、未央を囮にその場を離れるなんてことは、セリューはしない。
できるかわからない説得か、あるいは勝てるかわからない敵対を選ぶだろう。

セリュー・ユビキタスの正義を模倣していても、島村卯月はセリュー・ユビキタスそのものを模倣したわけではない。
ゆえに、彼女の判断能力はそのままであり、場合によっては撤退や陽動さえする。

「あーこがれてた場所を♪」

ボートパークの屋根に登った卯月は、クローステールの説明書を読み返していた。

「ただとおーくから見ていーた♪」
 
この道具――帝具はとても便利だ。さっきみたいな移動もできるし、体に巻いておけば鎧にもなる。
セリューを助けた綱にも、遠くの話を聞くこともできる。

「さぁ、クヨクヨにー♪」

可能性は無限大。

「今サヨナーラー♪」

まるで今の自分のようだ。

「Go!もうくじけーない♪」
 
改めて頭に入れた内容を噛み締めながら、説明書を丁寧に折りたたんでしまう。
後は機会を見つけて練習していこう。レッスンと同じだ。
苦手なステップが苦手じゃなくなっていくように、きっと頑張れば、できるようになるだろう。

「もっと光ると誓うよ♪」

ここから見ると、南下する線路と西へ行く線路は落ちてしまっている。

「未来にゆびーきりして♪」

セリューと合流するには、東側へ回り込むしかないだろう。いくら使い勝手のいいクローステールでも、ここから民宿にまで糸を届かせることはできない。

「わぁ」
 
卯月がそちらを見ると、さんさんと輝く太陽があった。
それは、初めてライブで受けた、たくさんのライトを思い出させた。

「きれい」
 
キラキラしている。今の自分も、きっとこれくらいキラキラしている。

うっとりと微笑む卯月に、未央を殺したことへの罪悪感は伺えない。
実際、彼女はそこまで気にしていなかった。本田未央は悪であった。
その悪は自分の正義によって倒された。それだけのことだった。

――――ありがとう未央ちゃん。

ただ、感謝はあった。

――――これで私も、セリューさんと一緒に戦える。

これだけの帝具――力がありながら、今まで戦えなかったのは、セリューたちが止めたのもあるが、何より自分に自信がなかったからだ。 

『殺す』『死ね』
日常ではありふれた言葉ではあるが、実際にやる者はほとんどいない。
そこに実現可能性はなく、あるのはそこに宿る殺意や憎しみだけ。
漫画やドラマでしか経験していない卯月が、実際にその命のやり取りを行うには、実体験が必要だった。

自分でも人が殺せる、という経験が。

『ああ、こうすれば人は死ぬんだ』と。

卯月が体験した本田未央の殺害は、そのために必要不可欠だった。

卯月の正義にとって、未央の悪は必要だったのだ。

悪は悪でも、必要悪ということで、卯月は未央を許し、感謝しているのである。

彼女の首を締めた感覚を思い出しながら、卯月は手を握りしめる。
あれでいいなら、クローステールを使えばもっと簡単に首を締め――――いや、切断だって簡単だろう。

「そうだ」

セリューを探す途中で、首を集めよう。彼女もそんなことをしていた。
悪を見つけて、その首を集めて見せれば、きっとセリューも喜ぶ。


39 : これから正義の話をしよう ◆isnn/AUU0c :2015/11/29(日) 23:37:51 YDb4zmFc0

たしか、なんだったっけ。

「そうだ」

高坂勢力。

セリューが危険だと言っていた極悪非道の集団。
悪鬼羅刹が跋扈し、戦力をかき集めていると聞く。

その巨悪の首領――――高坂穂乃果。

諸悪の根源。正義をなすためには避けて通れない悪。

「うん、そうしよう」

高坂勢力の首を集める。特に高坂穂乃果の首は、見つけたら絶対手に入れる。

「憧れじゃ終わらせない♪ 一歩近づくんだ♪」

やることは決まった。卯月は書き込まれた地図を一度確認してから、クローステールを操る。

「さぁ♪ 今♪」

ここから東側へ回り込むには、DIOの屋敷を目印に禁止エリアを回避しつつ東へ渡るしかないだろう。

「Bye!涙はいらーないー♪ 明日の笑顔願おーう♪」

手頃な対象へ糸を伸ばし、卯月は移動を開始する。

「LIve!『おしまい』なんてなーい♪ ずっとSmiling!Singing!Dancing! All my...!」

糸を巻き取り、勢いをそのままに、もっと先のものへ更に糸を飛ばす。
単独行動であるから、他の者の足を気にする必要はなく、スムーズに動ける。

「愛をこめてずっと歌うよー♪」

陽を浴びて、輝きの向こう側へ、少女は舞う。

そこにあるであろう正義と悪を目指して。

「島村卯月っ」

笑顔と正義でっ!

「頑張りますっ!!」


40 : これから正義の話をしよう ◆isnn/AUU0c :2015/11/29(日) 23:38:13 YDb4zmFc0
【B-6/一日目/午後】


【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!
[道具]:ディバック、基本支給品×2、不明支給品0〜2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:島村卯月っ、笑顔と正義で頑張りますっ!!
0:セリューを探す。
1:高坂穂乃果の首を手に入れる。
2:高坂勢力を倒す。

[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※渋谷凛の死を受け入れたくありませんが、現実であると認識しています。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
※本田未央は自分が殺したと思っています。


 
『正義のもたらす最大の実りは心の平静なり』(エピクロス)

クローステールの伸ばす糸はそれ自体にある種の推力があり、密着した状態でも心臓に向かうことだって可能だ。
使用者の卯月が首にしか執着していなかったのが功を奏し、未央の心臓はまったくの無傷であったが、かわりに首の――主に気管を糸は這っていた。
未央の吐血は、それによってできた出血が気管にたまり、咳によって排出される運動である。
これ自体に、命を脅かすものはない。気を失った状態であれば、その血が気管を塞ぎ窒息死させていたかもしれないが、マスタングによってそれは防がれた。

卯月の絞首は呼吸を止める以外にも、上から喉を押す体勢は、声帯への多大な負荷とそれに関連する骨を歪める効果があった。
また、仲間だと――ここに残った唯一の仲間であったと思っていた卯月から向けられた殺意は、未央の精神を大いに蝕んだ。

以上のことから、本田未央の声は平素のそれとはまったく違うものになってしまった。

「それじゃあ、私、死なないんですね」
「ああ、その程度の出血なら、大丈夫だ。傷もいずれ塞がるだろう」
出血だけなら……。 
かすれ、荒れ果てた声は、かつてのそれを知るマスタングにとって、ノイズでしかなかった。
「……先程の話だが、つまり君がウヅキを怒らせて、ああなったというわけだな」
「だから、謝らなきゃ……」
足元の草に血を撒きながら、未央は卯月が去った――とマスタングから聞いた方向へ向かおうとする。
「精一杯謝れば、しまむー……許してくれるよね」
「ああ、そうだな」
マスタングはそれが不可能だと、彼女は戻れないと察していた。
戦場ではよくあることだ。戦場に蔓延する狂気によって、精神に異常をきたす。
イシュヴァールでも様々なものが戦時中に、あるいは帰還しても悩まされている。
確たる治療法は、セントラルでもまだ確立されていない。

かといって、その真実を彼女に告げれば……。
彼女は……。

「マスタングさんは、私の仲間ですか?」

いや、彼女も本当は気づいているのだろう。
 
見上げる彼女の顔は、不安と恐怖、絶望で彩られていた。

「もちろんだとも」

小さな手が軍服の胸のあたりを掴む。

「本当ですか? 本当に――――私と一緒にいてくれますか?」

マスタングは未央の頭に手を添え、そっと自分に寄せた。
「少しは大人を信用しろ」
「私……私一人になっちゃった。もう誰もいない……」

血に混じって胸を濡らす雫に、マスタングは心を痛めた。

これが戦果か。

あれだけ死力を尽くして戦って、セリューに託されて、これがその結果か。

たくさんの人間を焼けるくせに、少女一人救えないのか。
 
これで信用しろなどと、どの口が言えるのか。

我ながら情けない。

「一緒にいてください。……一人にしないで」

レディに涙なんて似合わないよ。――――なんてセリフをいつもだったら言えただろうか。

「急ごう。掴まりたまえ」

少女の体と彼女を救えなかった罪を背負って、男は進む。


41 : これから正義の話をしよう ◆isnn/AUU0c :2015/11/29(日) 23:38:53 YDb4zmFc0

卯月の目指す先は、おそらく自分と同じだ。まず北上し、DIOの屋敷を経由して東へ。
少しでも移動距離を減らすために、ボートパークで船を調達しよう。
それなら湖を横切れるし、足も休められる。
追いつけるとは思えないが、今の民宿は袋小路だ。再会は確実だろう。

その時、自分の焔は何を焼くのか。

――――まだわからない。


【C-7/一日目/午後】


【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:深い悲しみ、吐血、喉頭外傷
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
0:しまむー…
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。


【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、迷わない決意、過去の自分に対する反省、全身にダメージ(大)、火傷、骨折数本
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:ディパック、基本支給品、錬成した剣 即席発火手袋×10 タスクの書いた錬成陣のマーク付きの手袋×5。暁美ほむらの首輪、鹿目まどかの首輪、万里飛翔マスティマ
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:殺し合いを破壊するために仲間を集う。もう復讐心で戦わない。
1:セリューの安否を確認する。
2:ホムンクルスを警戒。ブラッドレイとは一度話をする。
3:エンヴィーと遭遇したら全ての決着をつけるために殺す。
4:鋼のを含む仲間の捜索。
5:死者の上に立っているならばその死者のためにも生きる。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。
※並行世界の可能性を知りました。
※バッグの中が擬似・真理の扉に繋がっていることを知りました。



『正義ほど偉大にして神性な美徳はない』(アディソン)


島村卯月が本田未央を殺したと認識しているが、それは間違いではない。
彼女にとっての本田未央とは、アイドルである本田未央でしかない。
かつての声を失い、アイドルとしての資格を失った彼女は、やはり卯月にとっては死んだのだろう。

本田未央、十五歳。高校一年生。
大手芸能事務所である346プロダクションに所属する新人アイドル。
彼女のガラスの靴はその手から落ち――――。


――――砕けた。


42 : ◆isnn/AUU0c :2015/11/29(日) 23:39:23 YDb4zmFc0
投下終了します。


43 : 名無しさん :2015/11/29(日) 23:46:11 4ebx0eT20
投下乙です

島村さんがるるるってしまった…肝が冷えました
穂乃果とどうなるか目が離せない


44 : 名無しさん :2015/11/29(日) 23:49:28 zTIsZYJc0
投下乙です
しまむーさんはもう戻れそうにないですね
デレマス勢は悲惨だなあ
それとさらっととばっちり食らう穂乃果に草


45 : 名無しさん :2015/11/30(月) 17:24:58 eesur.l.0
投下乙です
島村さんはいつか墜ちるとは思ってたけどこんな風に墜ちるとは思ってなかった・・・
思えば精神的に墜ちて危険人物(マーダー化)した参加者って女の子だけですね
10代半ばの!ひどくないですか!
そして全く持って関係ない穂乃果組が標的にされててもう穂乃果だけストレスで死ぬ
んじゃないですかね?
唯一の吉報として同行者にアカメと不審に思っていたウェイブがいるのが幸い。
この後どうなるんだろうか・・・


46 : 名無しさん :2015/11/30(月) 19:56:09 Spsko4/o0
投下乙です

イリア相手に予想以上の活躍を見せてくれた3人
シリアスな展開に含まれるパンツ交換の文字がシュールだ

しまむーは堕ちると思っていたが、想像以上だった
ある意味、セリューよりも危険なことになってるな。ちゃんみおも悲惨だ


47 : 名無しさん :2015/11/30(月) 22:08:43 0h69Jz7k0
美琴、イリヤ、島村さんと悉く闇堕ちしていくIFの女性主人公たち


48 : 名無しさん :2015/12/01(火) 17:53:52 imfRQfaM0
島村さん首狩り族になりそうな予感
クローステールの使い方とかまともに聞いてない上にナイトレイドの物だから良かったけど
除々に使い方を覚えると思うからそこだな・・・。傷口に糸が触れたら終わりだし
おー怖い・・・IF勢みんな怖い・・・


49 : ◆dKv6nbYMB. :2015/12/03(木) 23:49:49 nlp5L1iA0
本投下します。


50 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/03(木) 23:51:11 nlp5L1iA0
図書館での戦いを経たウェイブ、アカメ、新一、花陽、雪乃の五人は、花陽の仲間である穂乃果と黒子が向かった音乃木坂学院へと向かっていた。

「大丈夫ですか?」
「え、ええ...」

膝に手を着く雪乃に、花陽が手を差し伸べる。

「...ごめんなさい」

差し伸べられた手に触れながら、謝罪する。

自他ともに認める容姿の良さ。成績は常にトップ。そんな彼女でもどうにもならない弱点であるのが体力の少なさ。
雪ノ下雪乃という少女は、スポーツや音楽など、大概のことは三日程度でほとんどできるようになってしまう、いわば天才肌だった。
それ故、何事にも固執する、継続して行うことがなく、練習もほとんどしないため、体力に関してだけはとりわけ劣っていた。
このゲームの参加者どころか、彼女の属する奉仕部、果ては総武高校内の中でも下から数えた方が早いだろう。
対して、いまいるメンバーは、元々の世界でも数多くの戦いを経験しているアカメとウェイブ、寄生生物を身に宿した新一、スクールアイドルとして日々レッスンを積んでいる花陽である。
そんな彼らに合わせようとすれば、必然的に体力はあっという間に底をつく。
そして、そんな雪乃に合わせようとして、他の四人も進むペースを落とさなくてはいけなくなる。
いまの雪乃は、四人にとって確実な"お荷物"となっていた。

(...いまだけじゃ、ないわよね)

最初にエルフ耳の男と遭遇した時。
新一と比企谷だけなら、何事も無くあの男を退けられたかもしれない。
電撃を放つ少女や銀髪の男と遭遇した時。
何もできずにサリアを攫われ、アカメと新一に助けられるだけだった。
図書館で立て続けに起きたエルフ耳やブラッドレイとの戦い。
なにもできない、どころか歯牙にもかけられなかった。
もし自分の立場にいるのが比企谷なら。自分が傷つくのも厭わずに、自分の信じる『最善の選択肢』を選び続けただろう。
もし自分の立場にいるのが由比ヶ浜なら。本当に優しい彼女のことだ。どうにか皆の仲を深めようと尽力できる、少なくとも負担になることはしないだろう。
雪ノ下雪乃は無力だ。この殺し合いにおいて、なんの力にもならない無力な少女だ。
それを痛いほど痛感する。

同時に、ひどく自分が情けなく思った。
これまで激戦を繰り広げてきた新一とアカメ、ウェイブ。
様々な経験を経て、信じたいものから裏切られ、自分のことだけでも精一杯だろうに、それでも前を向き続ける花陽。
みな、護られるだけの自分とは大違いだ。


「...みなさん。私のことは、置いて行ってもらって構いません。だから、早く学院へ...」

だから、雪乃は提案する。仲間と合流するための効率の良い『最善の選択肢』。
即ち、自分を残して四人を先に進ませる選択肢を。

「な、なにを言ってるんですか。こんなところで残ったら...」
「大丈夫よ。一度あそこに寄った戸塚くんは黒さんという強い人と一緒らしいからそう危険ではないと思う。私は彼と由比ヶ浜さんを待つわ」

図書館へと残るか音乃木坂学院へと向かうかを決める時、雪乃は何もできない現状に耐え切れず、学院へ向かう選択をした。
だがしかし、これ以上足手まといになるのはもう御免だ。自分一人のために皆を危険に晒すわけにはいかない。
彼―――比企谷八幡が嫌った、『みんなのために』の名のもとに。
雪ノ下雪乃は一人別行動を取ろうとした。


51 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/03(木) 23:51:39 nlp5L1iA0
「...もう、動けないんだな」

新一が片膝を着き、雪乃に目線を合わせて問いかける。

「...少なくとも、あなたたちに合わせることはできないわね」
「そうか」

雪乃の返答に、新一は感情の籠らない声と共に頷く。
そのあまりの冷静さに、花陽は思わず息を飲む。
もしかしたら、新一は本当に彼女を置いていくのだろうか。本当に雪乃を見捨ててしまうのだろうか。

「乗れよ。一人くらいなら運べるからさ」

しかし、そんな彼女の不安とは裏腹に、新一は雪乃に背を向けて屈んだ。

「新一、それなら私が」
「いや、ハッキリいっていまの俺は大した戦力にはならないと思う。もしキング・ブラッドレイと遭遇したら尚更だ」

役目を変わろうとしたアカメを、しかし新一は拒否する。
キング・ブラッドレイの剣術や身体能力はハッキリいって異常だ。
新一の感覚だけでいえば、平地だけの戦闘に限れば、あの後藤を上回る。
それに対して新一は、喧嘩程度ならしたことはあるが、相手は一般人、それも武道をロクにやっていない不良くらいだ。
寄生生物相手の戦いにしても、相手もまた洗練された武道や剣術などとは程遠い、野生の生物同然の相手ばかりだった。
新一の戦いの経験は、ブラッドレイの洗練された技術に対抗するには程遠い。その上、まだミギーが目を覚ましていない。
そんな新一が生身で後藤以上に厄介なブラッドレイと戦えば結果は見えている。この身を両断されておしまいだ。
アカメもしくはウェイブと共闘したところで足手まといもいいところだろう。
ならば、雪乃を運ぶ役目は新一が担うべきだ。

「泉くん、私は置いていけばいいと」

勿論、雪乃はそれを拒否する。
荷物になっている現状が嫌だから提案したというのに、更に新一たちに負担をかけることになる。
これでは本末転倒だ。

「馬鹿言うな。俺も比企谷に助けられたんだ。あいつの思いを無駄にできるか」

新一は、雪乃が戦闘で役に立てないことを否定はしない。
だが、泉新一は基本的には優しい少年だ。敵の攻撃を防ぐために他人の"肉の壁"を使うことには終始反対し、車にはねられて死にかけている子犬を見つければ最期まで寄りそう。
そんな元々の性格や比企谷への義理があれば、雪乃を見捨てるなどという選択肢は最初から存在しなかった。

「...あなたの相棒なら、『彼女が置いて行けと言うんだ。先を急ごう』...なんて言いそうね」
「だろうな」

ミギーの存在をぼかしつつ、さりげなく声真似をする雪乃は微かに微笑みを浮かべ、新一はその相棒の言葉を頭の中で描き苦笑する。

「...ありがとう」

ぽつりと呟かれた言葉。それに答えるかのように、ん、とだけ声を漏らす新一。


52 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/03(木) 23:53:05 nlp5L1iA0
「......」
「どうした?」

そんな二人の様子を、ただ立ちつくし見つめているウェイブにアカメが尋ねる。

「...セリューからさ、あいつらのことを聞いたんだ。シンイチは後藤の仲間で、雪乃は比企谷を見捨てた可能性が高いって」

イェーガーズ本部で聞かされたセリューの情報は、二人が悪の可能性が高いということ。
しかし、この目で実際に見ればわかる。
泉新一も雪ノ下雪乃も、セリューの語る悪人像とはかけ離れており、そんな要素など欠片も見当たらないことが。

「私は直接見ていないが、それはセリューが誤解しているだけだ。比企谷を埋葬していた様子から見ればわかる」

アカメの言葉が、更に背中を押してくる。
セリューの語った正義は間違いだ、イェーガーズは正義の味方なんかじゃないと。


『こんな状況では正義や悪もあったもんじゃない』。

図書館ではそう狡噛と話していたが、自分の常識ではなく第三者の視点から考えれば考えるほど、自分達の行いが本当に正義なのか問いただしたくなってくる。
首を斬り路上に放置し、その行為自体になんの違和感も抱かなかった。
悪であるはずのナイトレイドが己の目で見極めようとしているのに対して、自分たちは情報一つでほとんど善悪を断定していた。
状況を収めるために罪をなすりつけるような間抜けもいる。
そして、実際にそれらは守るべきものたちの間に不安をはびこらせ、被害まで出している。
果たして、そんな自分を含むイェーガーズは本当に正義なのか?
正義と思っているのは自分たちだけで、帝都に住む人たちもイェーガーズを悪だと見ているのではないか?

そんな感情が、ウェイブの中でぐるぐると渦巻く。


「...やっぱり、間違ってたのは俺たちなのかな」

俯きつつ、ポツリと呟いてしまう。
わかっている。敵であるはずのナイトレイドにこんなことを聞くのはお門違いだということは。
しかし、弱音を吐かずにはいられなかった。
信じていたものが悉く崩れ落ちていくこの状況に、耐えることが出来なかった。


「あまり思い詰めるな。迷えばそれだけ動きが鈍る」

肩に置かれた手に反応し、思わず顔をあげる。
本来なら敵方であるナイトレイドだ。ここでウェイブの心を折ろうとしてもおかしくない筈だ。
だが、アカメという人間は純粋だった。
立場も無いいま、弱き民を守るという信念さえ一致していれば同志である。
自身も帝国側から立場を変えていまの状況にいることもあってか、彼女の視点は柔軟だった。

「けど...」
「少なくとも、お前と同じような立場の花陽が頑張っているんだ。なら、私たちが立ち止まる訳にはいかないだろう」


53 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/03(木) 23:54:00 nlp5L1iA0
花陽―――彼女は、星空凛が身を呈して庇ったセリム・ブラッドレイに裏切られた。
凛が庇ったのは、人殺しの化け物などではない。例えホムンクルスであろうと、人の心を持っているはずだ。
そんな想いでセリムと接触したが、彼は言った。
人間に抱く感情などない。星空凛の死は無駄だったと。
花陽の抱いていた希望は、真っ向から打ち砕かれた。その心境は計り知れない、

だというのに、彼女はその膝を折っていない。
精神的にも肉体的にも披露が溜まっているはずなのに、泣き言ひとつ言おうとしない。
雪乃に真っ先に気が付き、気遣ったのも花陽だった。

そんな花陽を見ていると、信じていたものに疑問を投げかけただけで崩れそうな自分が酷く小さく見えた。

「そう、だよな。立ち止まるわけにはいかねえよな」

この会場で死んだセリューもクロメも、弱者を守りたいという気持ちは持っていたはずだ。
ただ、やり方が間違っていたのも事実だ。
そんな自分たちを諌めてくれる者たちがいる。共に戦ってくれる者たちがいる。
なら、いまの自分にできることは、戦う力無き者たちを守ること。そして

「なあ、アカメ。俺さ、隊長と帝都に戻ったらランも交えて話し合ってみるよ。本当にいまの帝都が正しいのかどうか」

"これから"を変えていくこと。

「そりゃあ、トコトンぶつかり合うことになるかもしれない。戦が大好きな隊長からしてみればツマラナイことかもしれない。
けど、それでも、セリューやクロメ、それにボルスさんやDr.スタイリッシュの分までトコトン話し合う。それで、帝都が間違ってるなら...俺たちの力で良くしていく」

『国の為に頑張って働け』

海軍の大恩人から受けたこの言葉に反するのかもしれない。
しかし、その言葉すら自分勝手に都合よく解釈していた可能性もある。
なにが国の為になるのか、それを良く話し合い、様々な視点で見て決めよう。
ウェイブの決意に、アカメが微笑みながら頷く。

(そうだ。死んでいった奴らのためにも、俺は―――)

ウェイブが拳を握りしめたそのときだ。

『さて、私の声が聞こえた時点で察していると思うが放送の時間だ』


54 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/03(木) 23:55:29 nlp5L1iA0


広川の言葉に一同は反応を見せる

ウェイブとアカメは素早く記録を取る準備を。
僅かに遅れて雪乃もそれに続き。
更に遅れて、花陽は慌ててペンを取り出しつい落としてしまう。
新一は、準備しかけた手を止め、険しい顔で右手を見つめていた。

(ミギー...まだ起きないのか?)
「泉くん?」
「な、なんでもない」

その様子が気になった花陽がペンを拾うついでに新一の様子を窺うが、新一は慌てて取り繕う。


『では禁止エリアの発表を行う。この放送後に順次に侵入不可になるエリアは【C-6】【E-1】【G-1】だ』

そんな新一を置きざりに放送は紡がれる。

『次に死者の名前を読み上げる』

誰とも言わず、ゴクリ、と唾を呑み込むような音がした。


アカメと新一はタツミや行方不明になったプロデューサーの身を案じて。
雪乃と花陽は、友が呼ばれないことを祈って。
ウェイブはこれから呼ばれるセリューの名を覚悟して。

そして、放送は紡がれる。

『花京院典明』

呼ばれた名に、新一が反応する。
音ノ木坂学院で会ったジョセフの仲間だ。

『プロデューサー』

アカメの腕が微かに震える。
(やはり、か...)
皆を助けるためにエルフ耳の男に一人で立ち向かい、共に消え去ってしまったのだ。
あのまま殺されてしまった。それ以外に考えられない。

『前川みく』

「未央ちゃんの...!?」

続けて呼ばれる未央の仲間の名に花陽が動揺する。
大切な者たちを失った未央の心境がいかなるものか、考えさせる間もなく放送は続く。

『由比ヶ浜結衣』

言葉も無く雪乃の腕が止まる。
その端整な美貌に、驚愕にも似た面を張り付け静止する。

『戸塚彩加』

続けて呼ばれる名に、雪乃の身体は完全に硬直する。
現実を受け付けまいとするように、頭の中が真っ白になる。

『鹿目まどか』

(たしか、巴の...!)

音ノ木坂学院で、海未と共に新一やあの場にいた者を救ってくれた少女の後輩。
その少女の名が、呼ばれた。

『モハメド・アヴドゥル』

(ジョースターさん...!)

まただ。また、ジョセフ・ジョースターの仲間の名が呼ばれた。
新一の握り絞められた左手に込められる力が強くなる。

『婚后光子』

「―――!」

この場にいる五人がみな共通して知っている名だ。
アカメと新一は共に戦い、ウェイブと花陽は図書館へ向かうまで同行していた少女。

『クロエ・フォン・アインツベルン』

マミと海未と共に戦ったステッキ、サファイアの持ち主美遊・エーデルフェルトの友達。
そして、アカメたちが出会ったイリヤの家族の名に、アカメは歯噛みする。


そして、首輪交換制度について説明を終え、放送も終わりを告げた。


55 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/03(木) 23:56:24 nlp5L1iA0
「ちくしょう...!」

ウェイブの歯が悔しさのあまり噛みしめられる。
今回の放送で死者は12名。前回の放送と合わせれば28名だ。
多い。あまりにも多すぎる。
そして、手の届く範囲ですら護れなかった無力な自分に一層腹が立つ。

「ウェイブさん、その」

花陽が、戸惑うように声をかけた。

「...すまねえ。辛いのはみんな一緒なんだ。俺だけがセリューのことで落ち込んでられねえよな」
「え?ウェイブさん?」

ウェイブの言葉に、花陽が頭に疑問符を浮かべる。

(落ち込む?セリューさんは―――)

その疑問を口にしかけたその時だ。

「大丈夫か?おい、しっかりしろ!」

焦りを含んだ新一の声が響き渡る。
何事かと目を向ければ、雪ノ下が胸元を押さえて苦しげな表情を浮かべて蹲っている。

「ぁ...っぁ....」

呼吸困難。
ただでさえ道中で体力を削られていたうえに、親友たちの名が続けて呼ばれた精神的ストレスは、彼女の身体を蝕んでいた。

「いいんだ。いまは...泣いていい」

比企谷を埋葬した時のように、アカメが雪ノ下をそっと抱き寄せる。
自分にできることは、これだけだ。
悲しみを受け止め、涙を流させてやることだけだ。

「どぅ...して...」

だが、雪乃は泣けなかった。
目の前で死んだ比企谷とは違う。
なぜ彼女たちが死ななければならないのか。
その疑念や怒り、様々な感情が入り混じり、泣くことすらできなかった。


56 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/03(木) 23:57:08 nlp5L1iA0
そんな彼女を見て、ウェイブは思う。

(俺は、また間違ってしまったのか?)

図書館で雪乃に由比ヶ浜の死を伝えなかったのは、彼女を気遣ってのことだった。
図書館に着く前、花陽や狡噛に相談したが、両者の答えはNo。
狡噛は、セリムがいる場所でキング・ブラッドレイに繋がる話題は避けたいとのことから。
花陽は、放送で呼ばれるまでは信じていた方がいいという考えから。
全てが丸く収まってから伝えるはずだったが、結局言い出せずにここまで引き延ばした結果がこれだ。
ならば、もう伝えるしかない。
彼女は被害者で、加害者は自分達イェーガーズなのだから。


「...雪ノ下。由比ヶ浜は俺たちの前で死んだ」
「ッ!」

驚きと共に見開かれる目、そしてやや間を置いて向けられる懐疑の視線。
これから、自分は、イェーガーズは悪であることを認め、伝えなければならない。
そんなこと、誰が好き好んでできるものか。
しかし、罪とは向き合わなければならない。
それが、軍人として...いや、一人の人間としてできる唯一の償いなのだから。

「誰が、彼女を殺したの?」
「それは―――」


「キング・ブラッドレイ」



割り込んできた第三者の声が、ウェイブの解答とは異なる者を提示する。

「由比ヶ浜結衣はホムンクルスのキング・ブラッドレイに殺された―――それがきみの選んだ答えだろう。ならばそれを貫きたまえ」

いつの間に現れたのか―――キング・ブラッドレイが五人の前に立ちはだかっていた。


57 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/03(木) 23:58:46 nlp5L1iA0
その強敵の登場に、アカメとウェイブは即座に剣を構える姿勢をとる。

「ブラッドレイ...!」
「タスクくんとマスタングくんはいないのかね?まさかまたデイパックで呑気に寝ているわけではあるまい」

きょろきょろと周囲を見渡すが、この五人以外の人影は見当たらず、隠れている気配もない。
ブラッドレイが不意打ちではなく、声をかけたのは、マスタングたちの所在を知るため。
特にマスタングは人柱候補として、否、なにか自分の知らない事情を知る者として重要だった。
だが、この場にいないとなれば最早この連中に用は無い。
自分の正体を知る者を排除するため―――なにより、己に無自覚に潜在する戦闘欲求を満たすため―――ブラッドレイは刀を抜く。
それに対して、アカメたちは自然と全身が強張るのを自覚する。
距離にして二十m以上は離れている。しかし、そんな距離などこの男の前では何の意味もなさない。
油断すれば、一瞬で首を刎ねられる。


「ふむ...まあ、放送でも呼ばれておらんからな。誰か一人を残しておけばいいだろう」

ブラッドレイが眼前の二人を殺すため、地を踏む足に力を込める。


「あなた...由比ヶ浜さんが殺されたことについてなにか知ってるの?」

その足を止めさせたのは、雪乃の投げかけた疑問だった。

『由比ヶ浜結衣はホムンクルスのキング・ブラッドレイに殺された―――それがきみの選んだ答えだろう。ならばそれを貫きたまえ』

雪乃は、ブラッドレイの言葉が引っかかっていた。
ブラッドレイに由比ヶ浜は殺された。それは、ウェイブが選んだ答え。
なら、ウェイブが選ばなかった―――目を背けた答えはなんなのか。真実は、そちらではないのか。
雪乃は、由比ヶ浜の友として真実を知らなければならなかった。


「敵である私にそれを問うのかね」
「お願い...なにか知っているなら、教えて」
「ッ...!由比ヶ浜を殺したのは」
「あなたは黙ってて!」


ブラッドレイはふむ、と僅かに考えこむ素振りを見せる。
雪乃の様子から、由比ヶ浜結衣と親しいものだということはわかる。
わざわざ相手にする義理もないが、由比ヶ浜とは形式的にとはいえ首輪を外す約束をしたのだ。ならば、答えてやっても構わないだろう。


「由比ヶ浜結衣を殺したのは、セリュー・ユビキタス。そこのウェイブの仲間だ。信じるか信じないかはきみの勝手だがね」


ブラッドレイから告げられた真実は、あまりに残酷だった。
雪乃の親友を殺したのはウェイブの仲間で、更にウェイブはその事実を隠していた。
信じたくはない。だが、セリューに図書館に置かれた生首は雪乃も確認しており、アカメの敵であると言う点から、雪乃のイェーガーズに対する信頼は落ちている。
それでも、ウェイブが必死に図書館で皆を逃がすために戦ったことも知っている。
できれば、ウェイブのことを信用したい。
しかし―――


58 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/03(木) 23:59:51 nlp5L1iA0
「彼女は、どうして殺されたの?」
「私も戦っている最中だったからよくわからなかったがね。セリューを撃とうとして返り討ちにあったようだ」
「なんで彼女はそんなことを」
「さあ。だが、彼女は私に助けを求めたことは事実だ。理由は、私より付き合いの長いウェイブくんか小泉くんの方がわかるだろう」


雪乃は、花陽の方を振り返り意見を求める。
なぜ今まで黙っていたのか。いや、それよりもなぜ由比ヶ浜はセリューを殺そうとしたのか。
雪乃の刺すような視線が花陽に突き刺さり、震える声で答える。

「由比ヶ浜ちゃんは、ずっと友達のことを気にかけてました。たぶん、それでセリューさんを撃たなきゃいけないって...」

断片的で、たどたどしい情報源。

(―――ああ、そうか)

しかし、それだけで雪乃は理解した。してしまった。

(彼女は、最期まで彼女だったんだ)

由比ヶ浜結衣は、友達想いの少女だった。
戸塚とのテニスの練習。コートの使用権を賭けて葉山たちと試合をすることになった時。
彼女は、やったことのない競技にも関わらず、ただ戸塚のために大勢の前で試合に臨んでみせた。
文化祭。雪乃が実行委員の役割のほとんどを担い、体調を崩してしまった時。
彼女は、素直な気持ちで怒ってくれた。もっと自分と比企谷を頼りにしてと言ってくれた。
彼女は、純粋に友達を想える優しい少女だ。
周囲から浮いている雪乃や比企谷にすら、下心なく優しくできる人間だ。


セリューは、サリアから雪乃たちのことを聞いていた。それも、だいぶ曲解した形でだ。
そのセリューは図書館へ行こうとしていたと聞いている。
その道中で、ブラッドレイに助けを求めた。―――このままではセリューに雪乃を殺されるから。
セリューを撃とうとした―――雪乃の身が危ないと感じたから。
そんな様子がありありと思い浮かぶ。

「バカよ...ほんと...」

彼女の死の真相を知って。
悲しみで胸がいっぱいになって。

しかし、それでも、雪ノ下は涙を流せなかった。


59 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:00:36 IEOFA5Rw0


「さて。くだらんお喋りはここまでだ」

ブラッドレイが構え直すと同時に、空気は一変。一気にアカメのもとへと肉薄する。
文字通り一瞬でブラッドレイの間合いに入り、首を刈らんと右腕に持つカゲミツが振るわれる。
しかし、アカメもまた歴戦の猛者―――その手に持つ剣で、ブラッドレイの斬撃を受け止める。
ブラッドレイは左腕の刀剣をアカメに振るう。
しかし、それはもう一人の戦士、ウェイブに止められる。
そのまま硬直すること一瞬。
ブラッドレイの蹴りがウェイブの腹部に命中し吹きとばされる。
その隙をつきアカメが踏み込む力を強め斬りつけようとするが、ブラッドレイの空いた左腕の剣はそれを許さない。
二本の刀はアカメの剣を遮り、かち上げる。
空いた胴体目掛けてカゲミツが横なぎに振るわれる。
しかし、アカメは膝を曲げ上体を限界まで逸らして回避。
その勢いのままバク転の要領でブラッドレイの腹部に蹴りをおみまいする。
蹴りそのものはデスガンの柄で防がれるが、アカメはそれで助走をつけ、バク転を繰り返し距離をとることに成功。
追撃をかけようとするブラッドレイだが、しかしそれは突然の投石に防がれる。
アカメの背後から投げられた拳大ほどの石。新一が投げたものだ。
ブラッドレイは剣を振るいそれを両断。スッ、と僅かに空気が震え、石は綺麗に二つに裂けた。

(嘘だろ!?豆腐じゃねえんだぞ!?)

呆気にとられる新一に、ブラッドレイが迫る。
しかしそれを防ぐためにウェイブが間に割って入り斬撃を防ぐ。
ウェイブが受け止めている間に新一は直線状から離脱する。
ブラッドレイは、そのまま独楽のように回転し、次々に斬撃を放ち、ウェイブの全身に斬傷を作っていく。
息をもつかせぬ攻撃。アカメは、背後から斬りかかることによりそれを中断させる。
再び訪れた一瞬の硬直。
ブラッドレイは力任せに両剣を振るい、アカメとウェイブを弾き飛ばした。


「ぐっ...」
「大丈夫か、ウェイブ」
「どうした?その程度かね?」
「うるせえ...俺は、あいつらの、クロメやセリューのぶんまでみんなを守るんだよォ!」

ウェイブが駆ける。
ブラゥドレイはそれを受け止め、剣の打ちあいが続く。
激しい打ち合いは、しかしウェイブの身にのみ切り傷を作っていき、ブラッドレイにウェイブの剣は掠りもしない。

「私の見立てではセリューは己の正義の盲信者だが...そんな彼女でもそれほどに大事か」
「当たり前だ!あいつらは仲間だ...仲間がやらかしちまったってんなら、そのケツは俺が拭う!それが、俺が死んでいった奴らにできることだ!」
「立派な心がけだ。だが、こうして戦っている間にも彼女は同じことを繰り返しているかもしれんが」
「なに言ってやがる。あいつは―――」
「生きておるよ。放送を聞いていなかったのかね?」


60 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:01:06 IEOFA5Rw0
ウェイブの目が見開かれる。

いま、こいつはなんて言った?
セリューは生きている。放送で呼ばれていない。


『次に死者の名前を読み上げる。

花京院典明
プロデューサー
ノーベンバ―11
食蜂操祈
前川みく
由比ヶ浜結衣
戸塚彩加
鹿目まどか
キリト
モハメド・アヴドゥル
婚后光子
クロエ・フォン・アインツベルン

以上十二名だ。』


(そうだ、セリューは放送で―――)

セリューは死んだと思い込んでいたことで聞き逃していた。
その事実を認識すると同時。

ヒュンッ

一瞬、風を切る音がしたかと思えば。

「―――――ッ!」

ウェイブの全身から、鮮血が舞い散った。

「実力はある。度胸もある。...しかし、非常時に対する精神力は、まだ未熟なようだ」


61 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:02:29 IEOFA5Rw0
膝から崩れ落ちるウェイブに、ブラッドレイのデスガンの刺剣が振り下ろされる。
アカメが間に割って入ることでそれを防ぎ、ウェイブを蹴り飛ばすと同時に自身もブラッドレイから距離をとる。

「ア、カメ...」
「奴の相手は私が引き受ける」

ウェイブは、とっさに身を捻ったことで致命傷だけは免れていた。
しかし、このまま戦い続ければ圧倒的に不利。
そう判断したアカメは、一旦ウェイブを休ませる。

「無茶いうな。あいつの強さはデタラメだぞ」
「...動きが鈍っているように見えた。いまのお前では足手まといだ」
「なっ...!?」
「雪ノ下のことで悩んでいたんだろう?お前は優しいからな」

アカメは、ブラッドレイとセリューとの交戦の事情を知らない。
しかし、ウェイブの様子を見ていればわかる。
由比ヶ浜をセリューが殺したこと。
その事実を隠してしまったこと。
雪乃があれほど傷ついてしまったのは、自分達イェーガーズのせいだということ。
それらの責任感や罪悪感が彼の中で渦巻き、剣を鈍らせているのは一目瞭然だった。

「少し休んで、気持ちの整理がついたら加勢してくれ。頼んだぞ」

そうして、アカメは単身ブラッドレイと対峙する。

「...くそっ」

己の不甲斐なさに、悪態をつくウェイブ。


「......」

距離を空け、背後に立つのは、感情の籠らない濁った目で戦場を見つめる雪乃だった。


62 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:03:10 IEOFA5Rw0



剣が暴風雨のように振るわれ、交差し、甲高い音が鳴り響く。
まさに息をもつかせぬ攻防が繰り広げられながら、ブラッドレイは微かな違和感を感じる。

(この娘...)

体術、ブラッドレイに軍配。
剣術の腕前、ブラッドレイに軍配。
身体能力、ブラッドレイに軍配。
"眼"の良さ、ブラッドレイに軍配。

だというのに、彼女は文字通りブラッドレイに食らいついている。
ブラッドレイが5手を打てば、アカメは1手を返す程度には。

図書館のように地の利を活かすのではなく。
単純に、打ち合いで食らいついている。
明らかに図書館での彼女とは動きが違う。



ギィン、という金属音と共に、両者は一旦離れ、互いに構え直す。

ブラッドレイの軍服の切れ端が裂け、アカメの頬には三本の切り傷が入る。

「...視えているのか?」
「いや...私にはお前のような"眼"はない」

殺し屋の世界は残酷だ。
より効率よく、殺しやすいように洗練された技術や道具が溢れ、特に帝具戦ともなれば、攻撃手段が多彩なものとなる。
そして、僅かな怪我が致命傷と成り得ることも稀ではない。
そのため、殺し屋としての戦いは、自然と見切ることを強要されてきた。
アカメは、図書館やこの場で実際に見て、受けたブラッドレイの剣捌きもかろうじて見切りつつあった。

「面白い」

だが、ブラッドレイとてアカメの倍以上を生き、血の滲むなどという言葉では到底言い表せない鍛錬を積み、致死率百パーセントだった実験にすら耐えきり生き延びてきた男。
ただ見切られるだけで終わろうはずもない。

再び剣による競り合いが始まる。

幾度か打ち合い、反撃に出ようとするアカメ。
しかし突如変化が訪れる。


63 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:04:03 IEOFA5Rw0
(遅い..!?)

常に、反応できるギリギリの速さで繰り出されてきたブラッドレイの剣撃。
それが、急に遅くなったのだ。
しかし、それを受け止めたかと思えば空いた片方の剣は先程までの速さで襲い掛かってくる。
ブラッドレイがしていることは単純。ただ、剣速に緩急をつけただけだ。
だが、常に常人では反応すら出来ない速さの中で、それも気を抜けば命取りになるやもしれない極限の戦いの中でそれを行うことがどれほど難しいことか。
そして、あくまでも実力は劣るアカメには実に効果的で。せっかく慣れてきた剣速のペースを崩されてしまった。

(くそっ...!)

アカメの心に焦燥が生まれる。
このままではいつ胴体を両断されてもおかしくない。
どうにかせねばと考えを巡らせたそのときだ。

「―――ッ!」

突如繰り出されたブラッドレイの蹴りが、アカメの腹部を捉える。
メキリ、という音と共に、肺から空気を絞り出される感覚に陥る。
アカメの身体は見事に吹き飛ばされ、木に打ちつけられる。

「ぐあっ...!」

背中に激痛が走るが、しかしそれを気に掛ける暇はない。
次いで来るであろう攻撃に備え、即座に剣を構える。
しかしその攻撃はあまりにも予想外。

(投擲...!)

投げられたデスガンの刺剣が、アカメ目掛けて飛来する。
それを回避するのは至難。しかし、撃ち落とすことは可能。
状況から即座に判断したアカメはそれを剣で払う。
そして、その顔は驚愕に染まる。

(一刀目の軌道に隠れて、全く同じ軌道の二刀目―――!?)

次いで迫るのは、カゲミツG4。
それを持ったブラッドレイによる刺突だ。

「くっ!」


64 : 愛しい世界、壊れていく日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:04:46 IEOFA5Rw0
これに反応できたのはまさに幸運だった。
全く同じ軌道だったのが幸いし、僅かに顔を逸らせば頬を掠めるだけに留まる。
しかし、この男、ブラッドレイはそれを許さない。
回避することも見越していたのか、アカメが剣に集中したその隙をつき、横っ面を思い切り蹴り飛ばす。
意識が飛びそうなほどの強力な一撃は、しかし一度で終わらない。
今度は顔面に拳を受け、鮮血と共に歯が一本飛び、アカメは再び別の木に叩き付けられた。
その隙に投擲した剣を回収し、トドメを刺さんと駆ける。
しかし、それを阻む影がひとつ。
ウェイブが横合いから斬りかかり、ブラッドレイはそれを躱して距離をとる。

「大丈夫か、アカメ!」
「どうだ...気持ちの整理はついたか?」
「...すまねえ。でも、このままお前に押し付けるわけにはいかなかった」

剣を構え、ブラッドレイと対峙するその背中を見て、アカメは思う。

(なんとなく...似てるな)

重なるのは、自分と同じナイトレイドのタツミの背中。
彼は、まだ精神的にも肉体的にも成長途上だが、仲間を想う心だけは誰にも引けをとらなかった。
おそらく、タツミがこの場にいて、ウェイブと同じ立場なら似たようなことを言っただろう。
例え自分が死のうとも、仲間を見捨てるようなことは決してしない。

「私はまだ、戦えるぞ」

だから、この男が味方である内は死なせたくないとも思う。
一人の同志として―――仲間として。

「すまねえ。俺が不甲斐ないばかりに...」
「このくらいの怪我、なんてことはない」

アカメは、頭部から流れる血を擦り、視界を晴らしてウェイブの隣に立つ。

「さて。そろそろ終わりとさせてもらおうか」

「ああ。ホムンクルス、キング・ブラッドレイ。お前は私たちの手で葬る」

「出来るのかね?そんな有り様の君たちに」

「出来なきゃみんな死んじまう。俺たちはお前を倒す」


三者が構えをとり、互いの敵を葬らんとする。

殺し屋ナイトレイド、アカメ。
帝都特殊警察イェーガーズ、ウェイブ。
『憤怒』の名を冠すホムンクルスにして軍事国家アメストリスの大総統、キング・ブラッドレイ。

達人三者の睨み合いに、木々はざわめき、空気が張り詰める。

いまや、この戦場の役者はこの三人であり、他者が介入する術は無い。


い く ぞ !


アカメの、ウェイブの、ブラッドレイの脚に力が籠められる。
一足のもとに、眼前の敵を葬るために。

そして、互いの攻撃のタイミングが重なる、その瞬間


「―――バカじゃないの?」


溜め息と共に吐かれた言葉。

そんな、極上の料理に蜂蜜をぶちまけるような愚行を、雪ノ下雪乃はやってのけた。


65 : 愛しい世界、戻れない日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:06:03 IEOFA5Rw0




「ウェイブさん、あなたは由比ヶ浜さんのことを伝えずのこのことこちらに来たのはなぜかしら」

雪乃の言葉が、味方である筈のウェイブに向けられる。

「そ、それは...」
「あなたが自覚していないのなら教えてあげましょうか?あなたは責任から逃れたかったのよ。もし図書館や放送前の道中で真実を伝えていれば私はあなたへの追及を止めなかった。
そうなれば、私はセリュー・ユビキタスが死んたと思い込んでいたあなたに全てをぶつけたでしょうね。あなたはそれが怖かった。そうやって後回しにし続け逃げてきた結果がこれなのよ」

違う、と言いかけたウェイブはしかし言葉を詰まらせる。
由比ヶ浜の真実を伝えなかったのは、本当に雪乃を気遣ってのことなのか。
ブラッドレイとの戦いでマスタングに由比ヶ浜を殺したのはブラッドレイだという嘘をついたのは、本当にあの場を収めるためだったのか。
仮にあの場でブラッドレイを退けられたところで、マスタングに真実を話すことはできたのか。
―――本当は、彼女の言う通り、逃げたかっただけではないのか?

「...雪ノ下。気持ちはわかるが、いまは戦いの途中だ。危ないから...」
「アカメさん、あなたはこんな状況で尚闘争を望むの?なら、結局あなたもそこの朴念仁と変わらないのかしら」
「なに?」
「無意味だと言っているのよ、こんなこと」

雪ノ下は、まるで舞台の演技をするように、歩きながら言葉を紡ぐ。

「私たちの目的はなに?この殺し合いから脱出することでしょ?ならなぜあなたたちは広川の思い通りの傀儡になってるの」

サク、サクと草を踏む音が鳴る。
その所作は、まるで自分の存在感をアピールしているようにも見えた。

「...戦わなければならないからだ。あいつは、ホムンクルスで」
「その前提から間違ってるのよ。キング・ブラッドレイ。あなたはあくまでも目的は脱出だと言っていたわよね?だからタスクさんを探していた」
「まあ、そうだな。図書館でも言ったが私とて広川の甘言を信じるつもりはない。だが、きみ達は私たちの正体を知ってしm」
「つまり、私たちは敵ではない。そうでしょうアカメさん?」

アカメどころか、キング・ブラッドレイの言葉すら遮って、雪乃は再びアカメに同意を求める。

「...確かに、そうかもしれない」
「それをやれホムンクルスだなんだのとはやし立てるからこういうことになるのよ」

敵どころか味方にすら息をするかのように吐かれる雪乃の毒。
あまりの予想外の事態に、三人は戦闘態勢をとりつつも雪乃へと視線を集める。
先程までの主役だった三人はその座を譲り、いまや舞台の主役は雪乃一人となっていた。

「あなたもあなたよ、キング・ブラッドレイ」

くるり、と踵を返し雪乃はブラッドレイと向き合う。

「あなたはタスクさんに脱出の助力を頼んだのでしょう?なら彼のやり方に合わせるのが礼儀というものよ。それをこそこそと彼には分からないようにイタズラ紛いのことをして。恥を知りなさい」
「私たちの正体を知った以上、きみたちは確実に障害になるのでね。悪いが逃がすわけにはいかんよ」
「そうやって後先考え無しに排除するのね。あなたは理性の無い獣と同じ、いえ禽獣にも劣るのかしら」


66 : 愛しい世界、戻れない日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:07:23 IEOFA5Rw0
ブラッドレイのこめかみがピクリと僅かに動く。
雪乃はそれを見逃さない。

「単純な印象操作の問題よ。あなたがこうして暴れれば暴れまわるほどタスクさんからの評価は下がっていく。キング・ブラッドレイは、ホムンクルスは人を殺すしか能のない化け物だって。
けれど、もしあなたがホムンクルスだということが判明しても人を襲わず脱出に尽力すれば評価は覆っていたわ。もしかしたらホムンクルスだってあまり人間と変わらないんじゃないか...とね」
「......」
「願いを聞き入れてほしければ、ホムンクルスがどうとか以前に、まずは礼儀から正しなさい。礼節も礼儀もわきまえない、そんな輩の願いを聞き入れられる程世の中は甘くないわ」

ブラッドレイからの返答は、ない。

「脱出はしたい。広川の思い通りにはなりたくない。でもホムンクルスであることを知った者は殺したい。...あなたは我が侭な癖に、やってることは中途半端なのよ。そんな人間にはなにも掴めないわ」

その言葉を最後に、静寂が訪れる。
こうして雪乃の一人舞台は幕を下ろす。
そして、観客と化した三人はそれぞれの感想を抱く。

ウェイブは思う。雪乃の言ったことは正しい。きっと俺は逃げたかっただけなんだ、と。
アカメは思う。一番一緒にいた時間が長いからわかる。雪乃は、何の意味も無くこんなことをする少女じゃない。きっと、何か考えがあるはずだ、と。
キング・ブラッドレイは―――

「くだらんな」

一蹴に伏した。

「これ以上きみの茶番に付き合うのはうんざりだ」

ブラッドレイの気迫に当てられたように、木々が再びざわめき出す。

「死にたくなければ下がっていたまえ。尤も、順番が変わるだけだがね」

「...雪ノ下」

ブラッドレイの忠告にアカメが便乗し、雪乃を退かせようとする。

(...これ以上は無理そうね)

欲を言えば、このままブラッドレイには退いてほしかった。
だが、そもそも彼とは常識が違うのだ。期待通りの結果にならないのは百も承知だ。
流石に観念し、雪乃の足が後退していく。

「アカメさん」

ちらり、と後ろを横目でみた雪乃の視線がアカメのものと重なる。
その時、アカメは確信した。
雪乃の意志を秘めた眼―――それがなにかはわからないが―――それは、決意を固めた者にしかできない目。
やはり彼女には彼女の考えがあったのだと。

そして、それを合図とするかのように。


67 : 愛しい世界、戻れない日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:08:34 IEOFA5Rw0
―――パキリ

ブラッドレイの後方から、何者かが枝を踏む音が聞こえる。
ブラッドレイは僅かに視線を向ける。

「ぶ...ブラッドレイ、さん!」

花陽が、恐怖に全身を震わせながら声を張る。

ブラッドレイは取るに足らぬ、と思いつつ、彼女の様子を把握。
武器はなし。戦闘態勢を取っているわけでもなし。ならば、これはただの囮だろう。
ブラッドレイをその場に足止めしたうえで有効な攻撃手段。それは―――

ブンッ、と音を立てながらブラッドレイの後頭部へとなにかの塊が迫る気配を感じ取る。

ブラッドレイは迷わずそれを両断し、おそらくこれを投げたであろう新一へと向き合おうとする。

―――が、しかし。

「むっ」

切った塊―――消火器の中から白粉が舞い散り、ブラッドレイへと降りかかる。
それと同時に、消火器の投擲者―――新一が、左拳を握りしめブラッドレイのもとへと駆けだす。

(いくらあんたの眼が優れてても、視えなけりゃどうしようもないだろ!)

新一が、己の拳の間合いへと入り込む。
だが、同時にそれはブラッドレイの間合いでもある。

「悪いが、私の"眼"は特別でね。この程度では潰せんよ」

消火器の粉など気に掛ける様子も無く、ブラッドレイは左手に持つデスガンの刺剣を突き出す。
そして、その剣は容赦なく新一の腹部へと突き立てられた。

「ッ...!」

しかし、剣は新一の腹部に刺さりはしたものの、貫通はしなかった。
致命傷となる寸前、新一が左腕でブラッドレイを掴み止めたからだ。

(突いた感触も妙だった...腹に本でも仕込んでおったか)
「いまだ、アカメ、ウェイブ!」

新一が叫ぶ。
それを合図に、アカメとウェイブが同時に駆けだす。


68 : 愛しい世界、戻れない日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:09:36 IEOFA5Rw0
「ふむ」

ここで、ブラッドレイは彼女―――雪ノ下の狙いに気が付いた。
あの無駄に長い口上も、演技染みた素振りも。
意識を自分に集中させ、新一たちが隠れるまでの時間稼ぎだったというわけだ。
言葉で新一たちの足音を可能な限り消し、自らの挙動で注目を集めて周囲への注意を逸らす。
なるほど、ロクに訓練も積んでいない一般市民相手なら通用しただろう。

(だが、所詮は素人の浅知恵よ。この程度で一本とったつもりなら片腹痛い)

むしろ、一本とられたのはどちらだろうか。
確かに泉新一が離れない限り、こちらは腕一本で達人二人を相手にせねばならない。状況的には不利だ。
だが、それは泉新一が生きていることが前提の話だ。
アカメたちが間合いに入るのと、ブラッドレイが新一の首を刎ねるのとどちらが先か。
答えは後者。
新一の首を刎ね、アカメたちにその死体を投げつければそれだけで雪乃の策はお終いだ。
ブラッドレイには被害が及ばず、アカメたちは泉新一という戦力を一つ失うことになる。
それに、新一の死体を盾に使えばアカメたちにも動揺が生じて隙が生まれる可能性も充分にある。


(無能な司令官が指揮を執ったところで戦果を得ることはできん。むしろ、被害は増すばかりだ)

かつてのイシュヴァール殲滅戦に、フェスラーという男がいた。
彼は他の将校が成果を上げるなか、自分も手柄をあげようと躍起になり、自分の現状も戦力も考えずに兵を悪戯に浪費していた。
雪乃もそれと同じだ。ブラッドレイをここで倒すという手柄のために、泉新一を無駄に犠牲にし、同時に全滅の可能性も作ってしまった。

(恨むなら無能な司令官を恨みたまえ)

ブラッドレイが新一の首を刈るために、剣を振るおうとしたその時。

(―――何かがおかしい)

ふと、違和感を憶える。

新一は、この状況に及んで未だに『左腕』でブラッドレイを掴んでいる。

(なぜ、右腕を使わない?)

新一の目的がブラッドレイの拘束なら、両腕でブラッドレイを掴むはずだ。
新一の目的がブラッドレイの討伐なら、右腕で攻撃してくるはずだ。―――尤も、その瞬間右腕は身体から泣き別れることになるだろうが。


そこで、ブラッドレイは違和感の正体に気が付いた。

新一には、先刻までは確かにあったはずの右腕が無かった。

「貴様、腕は―――」

疑問を口にするとほぼ同時に。




『例え神のごとき目を持っていようとも、見えないところからの攻撃は防ぎようがあるまい』

―――ブラッドレイの腹部に、熱い感覚が走った。


69 : 愛しい世界、戻れない日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:11:19 IEOFA5Rw0


雪乃の一人舞台が始まる数分前のこと。


『状況を教えろ、シンイチ』

新一だけに聞こえるように、眼を覚ましたミギーは声をかける。

「やっと起きた...見ての通り襲われてる」
『どっちが味方だ?できればあの初老の男であれば嬉しいが』
「そっちが敵で、アカメと男が味方だ」
『そうか、残念だ。...なんだあいつは。パラサイトではないようだが、どう見ても人間の動きじゃないぞ』
「まだパラサイトの方が納得できたんだけどな...」

ミギーが目を覚ましたことにより、新一の心にも幾分か余裕が出来ていた。
この殺し合いに連れてこられる以前の、全身に寄生生物が混ざる前と比べれば、新一は並みの人間よりも合理的に物事を捉えられるようになっていた。
そのため、落ち込んでもすぐに立ち直れ、衝撃的な事態を目の当たりにしても呼吸をおけば冷静になれる。
いまの新一は、ミギーが起きたことがキッカケとなり、幾分か落ち着きを取り戻すことができた。

『逃げるぞシンイチ。流石にあの中に割ってはいるのは無理だ』
「いや、ダメだ。アカメたちを見捨てるわけにはいかない」
『電撃を操る女の時も言っただろう。わたしたちがいたところで邪魔になるだけだ。全滅を免れるためには逃げるのが一番だ』

ミギーの言葉は正しい。
実際、新一があの場に割り込んだとして役に立つだろうか。いや、ミギーごと斬られて終わりだろう。
しかし、感情論を度外視しても、アカメたちを見捨てるわけにはいかない。

「ダメだ。キング・ブラッドレイには、あいつと同じくらい厄介な仲間がいて、いまもこの辺りにいるかもしれない」

新一が危惧するのは、セリム・ブラッドレイの存在。
ウェイブや狡噛ですら苦戦しロクに手傷を負わせられない彼の存在は、キング・ブラッドレイに劣らない脅威だ。
もしセリムと遭遇すれば、新一・雪乃・花陽の三人では一溜りも無い。

『アレがもう一人か。考えたくもないな。となれば、アカメたちを失うリスクも相応に高いか。ふむ...』


70 : 愛しい世界、戻れない日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:13:27 IEOFA5Rw0
『...シンイチ、あいつの特徴は聞いていないのか?』
「マスタングって人から聞いてる。キング・ブラッドレイはあくまでも身体は人間だから、後藤のような身体を覆うプロテクターはない。それと、"眼"がいいらしい。多分、お前が混ざってる俺よりも凄い」
『なるほど。だからあれほどの剣劇を容易く捌けるのか。異常に優れた動体視力と運動神経―――強力ではあるが無敵ではないな』
「なにか策があるのか!?」
『...シンイチ。もしわたしが協力しない場合、奴にどの程度抵抗できる?』
「えっ」
『奴を殺すことは考えなくてもいい。逃げに徹した場合どの程度耐えられるかだ。感情論を含めず冷静に分析しろ。きみにはそれができるだろう』
「どの程度耐えられるか、か」


アカメたちの戦いを観察しながら、自分の身体能力を顧みて客観的に分析する。

あいつの剣の速さは確かにヤバイ。今まで戦ってきたパラサイトとは比べものにならないくらいだ。けど、何回も見たおかげで慣れてきた。全く見えないわけじゃない。
反撃はできるか?いや、無理だ。そんなことをすれば手足のどちらか一本は持ってかれる。
とはいえあの猛撃を避け続けられるだろうか。無理だ。すぐに動きを捉えられて殺されてしまうだろう。

「たぶん、よくて三回...最悪一・二回が限界だ」
『つまり、最低一回は致命傷を受けずに見切れるんだな?』
「ああ」
『...わかった。できれば、この方法は取りたくはないが...シンイチ、「A」との戦いを思い出せ』

ミギーが思い返すのは、寄生生物「A」との戦闘。
「A」は、実力だけはミギーと互角だったが、新一を戦力として見なかったために敗北した。
奇しくも、「A」との戦いとキング・ブラッドレイとの状況は似通っている。
「A」は、新一を戦力と数えなかったため、ミギーのみを戦力として扱った。
キング・ブラッドレイはミギーの存在を知らないため、新一のみを戦力として扱っている。
だが、根本的な違いは、キング・ブラッドレイとは戦力として圧倒的な差があり、「A」ほどの慢心も見当たらないことだ。

『あの時は私が防御に徹し、きみが攻めの機会を狙っていたな』
「ああ」
『今度はそれを逆にする』
「逆ってことは...つまり」

存在を知られていないミギーが攻めの機会を狙い、新一が防御に徹する。
そんなことできるのか、と言いかけた新一を遮りミギーが忠告する。


『できないと思うならやめておけ。それなら素直に彼らに任せた方が我々の生存率はあがる』
「我々の...ってことは」
『きみもわかっていると思うが、このままではアカメたちは負けるだろう』

アカメたちの敗北―――即ち彼女たちの死は、容易なほどに想像できた。
キング・ブラッドレイはそれほどに規格外の存在なのだ。

(このままだと、アカメとウェイブは死ぬ)

脳裏によぎるのは、自らを盾にして新一を庇った比企谷の背中。
彼は、あの場のみんなを助けるために命を散らした。
今回もそうだ。アカメもウェイブも、新一たちを守るために戦っている。
逃げれば、彼らはここで死ぬ。
そうやって、自分たちは身の安全ばかり考えて死を振り撒いていくのだろうか。
エルフ耳の男や後藤、キング・ブラッドレイに怯えながら、悲しみを振り撒いていくのだろうか。

「...やろう、ミギー」

新一には、それが耐えられなかった。
リスクを負ってでも、打ち止めにしなければならないと決意した。


71 : 愛しい世界、戻れない日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:14:44 IEOFA5Rw0

『やけにあっさりと決めたな』
「お前が勝機のない策を出すわけないだろ」
『まあな。焦って無駄な策を提案するよりは違う策を考える方が効率がいい』
「なら、俺はお前の策にかけて、全員が助かる道を選ぶ」

そして、新一がアカメたちに加勢しようとする。が、しかしミギーはそれを引き止めた。

『待てシンイチ。いまの状況では駄目だ。私の存在のアドバンテージを潰すことになる』
「いまじゃ駄目...なら、どうするんだ」
『戦は兵力よりも勝機だよ。だから、奴に私たちを低く見積もらせろ。この土壇場でも、私たちにはこの程度しかできない、ならば取るに足らぬ、とな』
「あいつがそんな油断するかな」
『油断じゃない。奴がこの殺し合いで戦い抜くつもりなら必要なことだ。自分以外の七十一人、それもどんな強敵が待っているかわからないような状況で全力を出し続けるなど馬鹿のやることだ。ならば、奴が戦い慣れてれば慣れているほど、敵の実力を見極め最低限の労力で排除しようとするのは当然だ』
「そうか...けどどうやって?大声でも出しながら突っ込むのか?」
『いや、それではあまりにも不自然だ。必要なのはこの場にいる皆の力を合わせることだ。勿論、あの二人もな』

ミギーが指す、戦いを見つめている二人―――雪乃と花陽の手を引き木陰に身を隠す。

「聞いてくれ、二人共。このままだとアカメたちが危ない。たぶん...殺される」
「そ、そんな...」

花陽が青ざめる。徐に仲間の死の可能性が伝えられたのだ、当然だろう。

「だからこそだ。アカメたちを助けるためには俺たちの力が必要なんだ」

そして新一は、ミギーから聞いた提案の主な部分だけを伝えた。
キング・ブラッドレイに自分達の力を低く見積もらせろ、という概要を。

(低く、見積もらせる...)

雪乃は知っている。青春の大半を底辺で戦い続けてきた男の存在を。
雪乃は知っている。彼の行使する最低な方法は、自分を傷付け、少なからず周囲も傷付けてきたことを。
雪乃は知っている。それでも、彼は確かに他者を救えていたことを。

だから、新一からの依頼を達成できるのは一人だけ。

「...考えがあるわ」

比企谷八幡という男を知る、雪ノ下雪乃を置いて他ならないだろう。


72 : 愛しい世界、戻れない日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:15:41 IEOFA5Rw0



新一の服が破れ、刃がブラッドレイの腹部を貫く。

ブラッドレイは、視てから行動に移すまでの判断が異常に早い。
いつも通りに刃に変質して戦ったところで屍が増えるだけだ。
そこでミギーが考えたのは、ブラッドレイの視覚外からの攻撃。
新一に動きを止めさせ、ミギーは新一の背中に張りつき反撃を窺う。
そして、新一が見事動きを止めたその時。
ミギーの刃は新一の脇を通り抜け、服を裂き、ブラッドレイを貫いた。


―――しくじった。


しかし、ミギーは直感した。
確かに、作戦は成功し、ブラッドレイに傷を負わせることには成功した。
だが、ブラッドレイが気が付いた違和感。そして、ミギーが攻撃する際に盛り上がった新一の衣服が視界に入ると同時。
ブラッドレイは僅かに身体の軸を逸らして致命傷を避けた。
傷を負わせられたのは、脇腹。それは決して致命傷にはなりえないものだった。
数瞬の内にミギーは斬り刻まれ、その命を終える。
それが、定められた未来だ。


(―――いいや、これで十分だ!)

だが、それはミギー一人だけの場合だ。
ミギーには新一がついている。
頼るだけではなく、共に戦い生き残ってきた相棒が。


ブラッドレイとて生物だ。
予想外の事態に驚かない生物はいない。あの後藤ですら、突然火を浴びせれば細胞が驚き身体のパランスを崩してしまう。
ブラッドレイが僅かに怯んだ隙をつき、痛む腹部に耐えながら全力で上体をのけ反らせて倒れ込み、その反動で蹴りあげる。

「......!」


腕を掴まれた時点で感じとっていたが、新一は単純な力なら充分に超人の域だ。
あくまでも生身であるブラッドレイでは力勝負では分が悪い。
危険を感じ取ったブラッドレイは、咄嗟に右腕で蹴りを防御。
ダメージこそさほど無いものの、衝撃には耐え切れず、ブラッドレイの身体は宙に浮き、新一の腹部から剣が抜ける。

その隙を突き、アカメが、僅かに遅れてウェイブが一気に距離を詰め、渾身の力で刀を振るう。
迫りくる二刀を、交差させた二振りの刀で受け止める。
戦いが始まってから、何度も繰り返されてきたこの構図。
ただひとつ違うのは―――

「むっ...!」

ブラッドレイはまだ地に足をつけていない。
いくらキング・ブラッドレイといえど、空気を蹴り宙を自在に舞うことなどできない。
つまり、二人の達人の力を腕力だけで受け止めることになる。

「ぶっとびやがれぇぇぇぇぇ!!」

ウェイブが吼えるのと同時。
ブラッドレイは大きく後方に吹き飛ばされ、その先には


「―――――ッ!」


漆黒の奈落が、彼を待ち受けていた。


73 : 愛しい世界、戻れない日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:16:58 IEOFA5Rw0


「やった...のか?」

キング・ブラッドレイは奈落に落ちた。
それは、ウェイブだけでなくこの場にいた全員が確認している。

『わからない。だが、もし生きていれば厄介なことこのうえない。もう奇策も通じないだろうからな。いまのうちにここから離れよう』
「おわっ、な、なんだ!?」

新一の傍らに佇み、言葉を話す小さな『なにか』に、ウェイブ・アカメ・花陽の三人は驚きを隠せなかった。
ただ一人、喋る右手の存在を知っていた雪乃は特に反応の色を示さなかったが。

「いいのか、ミギー」
『...あの手段を使ってしまった以上、追及は免れない。なら、私の存在は共有した方が面倒は起こらないだろう』

いままでミギーは、己の存在をひた隠そうとしていた。
世間は勿論、新一の父にも正体を話すなと念入りに忠告していた。
しかし、ここは殺し合いの場で、閉鎖された空間だ。
この面子とは何度も会うかずっと一緒に行動することが強要される。
ならば、下手に隠して疑念を煽るよりはこの機会に公表してしまった方がいい。
勿論、敵対するつもりなら相応の対応をとるつもりだが。

「お前がブラッドレイを刺したのか」
『そうだ』

新一の右腕に戻っていくミギーに、アカメは問いかける。
アカメは、ミギーにそっと触れて微笑んだ。

「お前のおかげで助かった。ありがとう」
『......』

ミギーが完全に新一の右腕の形に戻る。

『...まさか礼を言われるとは思わなかったぞ、シンイチ』
「なんだ、照れてるのか?」
『わたしにそんな感情などない。急ぐぞ』
「はいはい」

長年の友人のようにミギーと朗らかに話す新一。
その新一の様子を、花陽はただ羨むように見つめていた。


74 : 愛しい世界、戻れない日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:18:52 IEOFA5Rw0



「逃げられたか」

キョロキョロと辺りを見回し、気配を探るのはキング・ブラッドレイ。
奈落へと落ちたはずの彼がなぜ地上にいるのか。


落下する最中、彼は壁に剣を突き刺し、奈落への転落を防いだ。
勢いが止まるのを見計らい、壁の状態を確認する。
凝視しなければ気付かないほどだが、壁にはなんとか指や足を引っかけることが出来る程度の起伏や欠けた部分があり、傾斜も僅かに存在している。
彼の身体能力ならば、それだけで充分だ。
カゲミツG4で壁を斬り即席の足場を作り、一気に駆け上がる。
そうすることによって、彼は地上へと復帰したのだ。

(このような怪我を負うなどいつぶりのことか)

ミギーから受けた傷は、そこまで深いものではない。
しかし、長らく受けていなかった痛みに、ふと懐かしさすら覚えている。
懐かしさを憶えたのはそれだけではない。


(まさか、今さらになって礼儀を説かれるとはな)

雪ノ下雪乃。
彼女の言葉からは、敵だからだとか時間を稼ぐためだとか、そういったもの以上に単純に憤りをかんじていた。
付き合う前の、出会ったころの妻にビンタをされた時のものと同種のだ。
だからなんだという話だが、ブラッドレイにもかつてののろけ話を懐かしむ時はある。
同時に、思う言葉も確かにあった。

『あなたは我が侭な癖に、やってることは中途半端なのよ。そんな人間にはなにも掴めないわ』

中途半端な者にはなにも掴めない。
たしかに、その通りだ。
自分の行動が中途半端だとは思わないが、戦果だけ見れば得たものはない。
首輪のサンプルは得られず、肝心のタスクとはほぼ敵対してしまったようなものだ。
なにより、未だに脱出の手口すらつかめていない。
ならば、一度振り返り、反省し、そしてしっかりと方針を決めるべきだろう。
この殺し合いにおいて、自分はどう動くべきかを。


【E-5/崖っぷち/一日目/日中】

※斬られた消火器@図書館調達品とその中身が付近に落ちています。

【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(絶大)、出血(小)、腕に刺傷(処置済)、両腕に火傷 腹部に刺し傷(致命傷ではない)。
[装備]:
[道具]:デスガンの刺剣(先端数センチ欠損)、カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[思考]
基本:生き残り司令部へと帰還する。そのための手段は問わない。
1:一度この殺し合いについて考える。2〜6の思考は後回し。
2:稀有な能力を持つ者は生かし、そうでなければ斬り捨てる。ただし悪評が無闇に立つことは避ける。
3:プライド、エンヴィーとの合流。特にプライドは急いで探す。
4:エドワード・エルリック、ロイ・マスタング、有益な情報、技術、帰還手段の心得を持つ者は確保。現状の候補者はタスク、アンジュ、余裕があれば白井黒子も。
5:エンブリヲは殺さず、プライドに食わせて能力を簒奪する。
6:御坂は泳がしておく。島村卯月は放置。
7:自分が不利だと判断した場合は殺し合いの優勝を狙うが……
8:糸や狗(帝具)は余裕があれば回収したい。
[備考]
※未央、タスク、黒子、狡噛、穂乃果と情報を交換しました。
※御坂と休戦を結びました。
※超能力に興味をいだきました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。


75 : 愛しい世界、戻れない日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:19:52 IEOFA5Rw0
腹部に傷を負った新一をウェイブが背負い、時折倒れそうになるアカメを雪乃と花陽が支えつつ、一行は音ノ木坂学院へと向かう。

追手がないことを確認すると、ウェイブは一旦足を止め、雪乃に向き合った。

「雪ノ下。その、由比ヶ浜のこと...」
「あなただけが謝ったところでどうにもならないわ」

謝罪しようとしたウェイブを、しかし雪乃は遮る。

「由比ヶ浜さんを殺したのはセリューなのでしょう。なら、彼女を私のもとに連れてきなさい。そして償いをあなたではなく彼女にさせるのよ」

ウェイブが肯定の意を示すと、雪乃もウェイブもそれきり黙りこみ、一行は再び音ノ木坂学院への歩みを進めた。



「...あの、泉くん」

花陽が、おずおずと声をかける。

「その右手の子は、人間じゃないよね」
「ん...まあな」
「どうして、仲良くなれたの?」
『どうして、とは?』

ミギーが目を伸ばして花陽に聞き返す。
この問いをわざわざ尋ねるということは、ミギーを快く思っておらず、疑っているからだろうとミギーは判断する。
別に人間に好かれようなどとは思わないが、下手に警戒されて悪評を流されでもすれば命取りになる。
もし、花陽が必要以上にミギーや新一を警戒するようなら、かつての探偵にやったように多少乱暴な手を使っても忠告するか、最悪殺した方がいい。
そうして、花陽の真意を探ろうとするがしかし。

「あっ、変な意味じゃなくて、その、純粋に気になったというか...気を悪くしちゃったなら、ごめんね」

ミギーの警戒心を察したのか、花陽は慌てて自らの言葉を訂正しミギーに謝罪する。
そんな花陽を見て、新一はなんとなく彼女が言いたいことを察した。
おそらくセリムについてだろう。
仲間が助けた子が皆を殺そうとするなんて信じたくはないのは当然だ。
だが、もしセリムがあの時本当に花陽を殺そうとしていたのなら、その考えは命取りになりかねない。
ならば、釘を刺しておいた方がいいだろうと新一は考える。


76 : 愛しい世界、戻れない日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:22:41 IEOFA5Rw0

「まあ、なんだかんだで付き合い長いしな。けど、それと理解しあえるかどうかは別だと思う」
「え...」
「俺たちは確かに共に暮らして、戦って生きてきた。けど、やっぱりお互いに理解できない部分もあるし、喧嘩染みたこともしょっちゅうしてる。...俺はミギーとは友達だと思うけど、それでも寄生生物と同じ立場になることはできないと思う」
「そう...なんだ」

思わず、視線を逸らす花陽。
新一の伝えたいことは、その先を言わずとも察することができる。
セリムは、凛が庇ったあの子は人間の"敵"で、理解を深めることなどできるはずもない。
新一とミギーでさえ種族の溝を埋めることはできないのだから、会ったばかりの彼となら尚更だ。

「けど、妥協はできるんじゃないかしら」
「え?」
「私、暴言も失言も吐くけれど、虚言だけは吐かないの」

雪ノ下の若干睨んでいるようにも思える視線を受けつつ、新一は言葉を詰まらせる。
そもそもだ。セリムとキング・ブラッドレイが襲いかかってきたのはなぜか。自分たちの正体が判明してしまったからだ。
では、なぜ判明したのか―――新一が必要以上に警戒しすぎ、あまつさえホムンクルスであることを口に出してしまったこともその一端だろう。
その点さえ注意しておけば、美遊を殺したキング・ブラッドレイはともかくセリムまでも暴走はしなかったかもしれない。
雪乃の言った通り、危険性があるからと追い立てればその対象も反抗せざるをえないのは当然のことだ。

ただ、まだ可能性が残されているという点は、花陽の表情をほんの少しだけ明るくするのには効果的だった。

「...ごめん」
「あなたが謝ることはないわ。私だって、同じ立場ならそうしたかもしれないもの」

謝る新一にそう言いつつも、雪乃は思う。
妥協して解決案を探る。確かに社会で生きていく上では大切なことなのかもしれない。
しかし、そんなものは詭弁にすぎない。
自分を騙して、問題の解決から目を逸らして。
それは雪ノ下雪乃が嫌う欺瞞だ。本質を捉えない偽物だ。
でも―――その欺瞞が人を救えるのだとしたら。"彼ら"はどうしただろう。
疑問を抱きつつも受け入れるのだろうか。それとも、頭から否定するのだろうか。

(...どうして、私は)

彼らがどう思うか、などと考えているのだろう。
互いに理解もしきれていないのに。断言なんてできやしないのに。

考えたところで、彼らは―――


77 : 愛しい世界、戻れない日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:23:43 IEOFA5Rw0
「雪ノ下?」


ポタリ、と水滴が地面に落ちてはねる。



(―――ああ、そうか)

全てを失って、ようやく気が付いた。

(ほんとうに、なんで今さらなのよ)

涙が出なかったのは、認めたくなかったからだ。
もし泣けば、こんな現実を認めることになってしまう。

始めは自分一人だけだった奉仕部の教室。
そこから少しだけ人が増えて。
目も性根も腐っていて、それでも交わす言葉はいつも新鮮に感じていた"彼"がいて。
ちょっと抜けたところもあるけれど、誰よりも優しい"彼女"がいて。
時々、見た目よりも気概のある"彼"も混じって。

そんな、当たり前にあったものが、もう二度と戻ってこないこの現実を。

(私は、彼らが、あの場所が、時間が)

しかし、もう駄目だ。
どうやっても誤魔化せない。誤魔化してはいけない。
認めたくない現実でも、向き合うしかない。


そうして、見たくない現実を受け入れて。


(大好きだったんだ)



雪ノ下雪乃は、ようやく涙を流すことができた。


―――涙は、どうしても止まってはくれなかった。


78 : 愛しい世界、戻れない日々 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:25:39 IEOFA5Rw0

【F-5/一日目/日中】



【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(大)、出血(中、止血済み)、疲労(絶大)、精神的疲労(大)、左肩に裂傷、左腕に裂傷、全身に切り傷
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:ディバック、基本支給品×2、グリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ、不明支給品0〜3(セリューが確認済み)、首輪×2、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。一度自分達の在り方について話し合い、考え直す。
0:キンブリーは必ず殺す。
1:音ノ木坂学院に向かうが……
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:セリューと合流し、一緒に今までの行いの償いをする。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。
※自分の甘さを受け入れつつあります。



【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(中)、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません)
[装備]:音ノ木坂学院の制服
[道具]:デイパック×2(一つは、ことりのもの)、基本支給品×2、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ、スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation 、寝具(六人分)@現地調達、サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:穂乃果と会いたい。
3;μ'sの仲間や天城雪子、由比ヶ浜結衣の死へ対する悲しみと恐怖。
4:セリムくんは本当にただの人殺しなのかな...?
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後。



【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(絶大)、頭部出血(中、止血済)、頬に掠り傷、全身にかすり傷、奥歯一本紛失、顔面に打撲痕
[装備]:サラ子の刀@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:なし
[思考]
基本:悪を斬る。
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:キンブリーは必ず葬る。
3:タツミとの合流を目指す。
4:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
5:村雨を取り戻したい。
6:血を飛ばす男(魏志軍)と御坂は次こそ必ず葬る。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が学園都市に属する能力者と知りました。
※ディバックが燃失しました
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。



【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、MAXコーヒー@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている、ランダム品0〜1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
0:セリューには由比ヶ浜を殺した償いを必ずさせる。
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:比企谷君...由比ヶ浜さん...戸塚くん...
3:イリヤが心配
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。



【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(大)、出血(止血済み)、横腹に刺し傷、ミギーにダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム品0〜1 消火器@現実、分厚い辞書@現地調達品
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:後藤、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂美琴らしい?)を警戒。
3:ホムンクルスを警戒。
[備考]
※参戦時期はアニメ第21話の直後。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※ミギーの目が覚めました。


79 : ◆dKv6nbYMB. :2015/12/04(金) 00:26:22 IEOFA5Rw0
投下終了です。


80 : ◆isnn/AUU0c :2015/12/04(金) 00:28:44 8bxtvJJ60
投下お疲れ様です。
続いて投下します。


81 : 銀を求めた黒は赤と会う ◆isnn/AUU0c :2015/12/04(金) 00:29:29 8bxtvJJ60
結局、地獄門に向かう途中で先程の現場に寄ったが、目当ての少女も、殺したはずの化物の姿もなかった。
徒労に終わった黒は休む暇さえ惜しんで目的地へと向かった。
その途中で戦闘になることはなく、さらに生存者と会うことはなく、そのまま最後まで――――。


地獄門に男はついた。


妙だな。
あの地獄門特有の、契約者特有の胸騒ぎがない。
登ることを考えるのさえ馬鹿らしくなる程に高い壁を黒は見上げる。

地獄門とは、東京に突如発生した未知の領域だ。直径10kmの範囲が高さ500mの壁によって外界と隔離されている。
この地獄門が、それと同一なのかはわからない。
わからないから、調べる。

とりあえず中に入ろうとあちらこちらを探った結果、出入り口は見つからなかった。

いや、正しくは開く扉が見つからなかった。
正面にある、おそらくは開閉するであろう鉄の扉。
それくらいしか見つからず、その扉も、鉄板一枚はめ込んだようなもので、ドアノブのようなものはない。
おそらく自動ドアの類だろうが、目の前に立っても反応はない。
鉄板の中心にある3つのランプ。赤、赤、緑。
これが何かのヒントなのかもしれないが……。

「誰だ」

包丁を片手に振り返る。ややあって、物陰から一人の男が現れた。

「盗み見していたのは謝罪しよう」
 
赤い甲冑姿は、そのまま両手を上げる。

「道中で君が一心不乱に走っているのが見えてね。好奇心からつけさせてもらったよ」

男は黒の包丁を見た。

「今まで気づかなかった君に奇襲をかけなかった。この事実で、この場は抑えてほしい」
「敵対するつもりはないと」
「そうだ。だからその飛び道具もしまってほしい」
影になって見えないであろうワイヤーを見透かしたような目線。
焦っていたとはいえ、自分が追跡に気づけなかった。
今感じたわずかな気配も、黒が手詰まりになったタイミングで出したようにも思える。

黒は包丁をしまい、ワイヤーから手を放す。それに伴って、甲冑は腕を下ろした。
「私はヒースクリフ」
「……黒」
この男はできる。そういう相手に対して、ヘタな小細工はするだけ無駄だ。
一般人に対する擬態や偽名は使わず、黒は素で応じた。
ヒースクリフ。たしかキリトが話していた。
自分と同じ世界から来た人物。それ以上は聞く暇がなかった。


82 : 銀を求めた黒は赤と会う ◆isnn/AUU0c :2015/12/04(金) 00:30:22 8bxtvJJ60



ヒースクリフがアインクラッドに向かう途中、黒を見かけたのは偶然だった。
その偶然に対し、彼は追跡を選んだ。誰かを、何かを探しているわけでもなく、一直線に向かう。
それは目的のものがそこにあるという確信があり、脇目もふらず走っていたことから、よほど重要なものであると伺える。
それに興味があった。
そしてついたのが地獄門。
門という割には入り口はなく、ただの壁にしか見えないが……。

「なるほど。つまり君のいた世界ではこういう施設があったのだね」
軽い情報交換を終えた二人は、暫定的とはいえ休戦中とすることにした。
「そうだ。もっとも、入れないのは……見ていたんだろ」
「ああ。てっきり開け方にもあてがあるかと思ったんだが」
黒の視線に合わせるように、ヒースクリフもその扉を見る。
「取っ手や認証する機器、接続するコネクターもない。中央にあるのはロックの表示器だろう」
左に赤、中に赤、右に緑。
「普通に見れば右のロックは解除されているが、これは君がやったわけではないのか」
「そうだ。ここに来た時にはもうなっていた」
てっきり解除できたかどうかを確認しに来た……そんなところだと思ったのだが。
「ロックそのものにも見覚えは」
「ない」
「……おそらく遠隔式だな。直接外せる機構ではない。……ふむ」
ヒースクリフはデイバッグを下ろし、中から地図を取り出す。
「ここ以外で覚えのある施設は」
「特にはない」
「そうか」
民宿や市庁舎はどこにでもある。そのあたりは実際に行かなきゃわからないだろう。
「つまり君は、ここが唯一の知っている場所であるから訪ねたというわけか。君の仲間もそうであると考えて」
「そうだ」
「しかしいなかった。……いや、すまない、会えることを祈っているよ」
ヒースクリフは片手を上げて詫びる。
「私の知人はもういないからね」
「キリト……」
ぼそりと黒は呟く。彼が聞いた話では、あの黒い剣士は誰かのために戦い散ったらしい。
彼がこの男に自分をどう説明したかは知らないが、洗いざらい話した、というわけではないらしい。
だが、向こうが知っている以上、エスデスの時のように知らん顔をするのも怪しいので、知人であると無難にとどめた。
「質問をかえよう。この門の先には、いったいなにがあるのかね」
「…………」
無言で俯く黒に、ヒースクリフは申し訳無さそうに眉を動かした。
「答えたくないのなら」
「いや、説明のしようがないだけだ。
新種の植物、通用しない物理法則、外部から干渉されない世界……何が起こっても不思議じゃない」
「ほう」
ヒースクリフは顎に手をやった。
「まるでこの舞台のようだ」
「……!」
黒は何かに気づいたように顔を上げる。
「噛み合わない時間軸と世界観、いるはずのない人間、起こるはずのない現象、存在するはずのないアイテムや施設……」
違うかね?と問うヒースクリフ。
「ここはゲートの外だと思っていたが、逆……」
まさか、と驚く黒。
「ここはゲートの中なのか」
「君の話を聞く限りでは、それなら辻褄があうだろう。ありえないことなんてありえない。
ここと君の語る地獄門の中は、その要素が符合する。では、考え方も逆にしてみようか。
この扉の向こうは、外部とつながっているのかね」
「ここがゲートの中なら、そういうことになる」
「うむ」
 心の何処かで、ヒースクリフはこの状況を楽しんでいた。
かつて憧れていた天空の城。その幻想に夢を見ていた自分が、この状況に心を踊らせている。
いくつになっても、この好奇心は捨てられないようだ。
「仮説はこの辺にして、次は推測に付き合って欲しい。仮説の証明のためには、この扉を開ける必要がある。その扉を開ける方法を考えたい」
「その必要はない」
黒は改めて開かずの門へ体を向け、手を触れる。
「まともに開かないなら、こじ開けてやる」
パリッ。何かが叩かれるような、爆ぜるような音。青白い光が黒い男を包んでいる。
「ほう」
彼も異能力の持ち主か。ヒースクリフは胸のうちで笑う。一体何を見せてくれるのか。


83 : 銀を求めた黒は赤と会う ◆isnn/AUU0c :2015/12/04(金) 00:31:07 8bxtvJJ60

しかし……。

異能力の脅威は主催も充分承知しているはずだ。
何の対策も用意していないとは思えないが。
「む……」
周囲に突如響く高音。甲高い音は耳障りだが、我慢できないほどではない。
警報か?
ヒースクリフが訝しんでいると、異変は目の前の男にも起こっていることに気づいた。
「があっ……」
黒は耳をおさえてうずくまり、動けなくなっている。
ただの甲高い音、ただそれだけのはずなのに。
もしかしたら、異能力を持つ者に対して有効な音響兵器なのかもしれない。
「大丈夫かね」
男の両脇に腕を通し、その場から引きずっていく。門から数メートル離れたところで音は止まり、黒も落ち着きを取り戻した。
「すまない……」
「いや、いい。しかし正攻法でないと無理なようだ。異能力では――少なくとも一人の力では、どうすることもできないらしい」
ヒースクリフは再び地図を広げる。
黒をちらりと見ると、彼もまた地図に注視していた。どうやら付き合ってくれるらしい。
「遠隔式のロックというが、あてはあるのか」
「まず、ここは右上の端にある。キーを置くとすれば、残りみっつの端に置くのが定石だ」
時計塔、発電所、カジノとヒースクリフの指がそこを叩く。昔とった杵柄だ。
中央は人の往来が激しく、謎解きには向いていない。イベントを用意するなら、人が少ないであろう場所が望ましい。

「会場そのものにネットワークが形成されていて、そこでの行動によって解除コードが送信され、ここのロックが外れる」
「その施設……設備が破壊されたらどうなる」
「ありえないな」 
ヒースクリフは断言した。
「単純な殺し合い――――デスゲームにしないのは、様々な参加者を用意したのは、この舞台を有効活用させるためでもある。
――――推測だがね。そのために使われる設備は、制限で破壊できないか、破壊されても修復されるようになっている」
あるいは、とヒースクリフは地図上に指を走らせる。
「ネットワーク――つまりコンピュータ・ネットワークの特徴は、処理の分散による多大な演算のほかに、損失への補完というところにある」
「…………」
黒は固まっていた。ああ、これは、理解できていないという態度だ。
「そこにある施設が使用不能になっても、別の施設で代用できるということだ。
もちろん、本来の施設が最適な設定にはしてあると思うが。この程度のことは、ITに精通している人間ならすぐにわかる」
発電所が焼失すれば346プロ、時計塔が崩壊すれば病院、カジノが消滅すれば闘技場……といった具合だ。
「さすがにその施設が属するネットワークのエリア外……縄張りの外では難しいだろうがね」
「そのうちのひとつはもう解除されているんだな」
「方法は不明だが、そう考えていいだろう」
希望を持たせるための嘘ではない。おそらく、本当に何者かが……。
いや。
おそらく。
「思うのだが、このデスゲームは一人ではクリアできない仕様なのだろう」
「…………」
黒は開かずの門を一瞥する。その意味するところは経験したばかりだ。
「おそらく、最低でもひとつのチームが脱出のために動いている。全容を把握しているかはさておいてね」
「銀……」
「ああ、君の仲間もここに来てその仕組みに気づき、徒党を組んで活動しているかもしれない」
「入れ違いか」
「そうかもしれないな」
地獄門から出発したとして、考えられるのは二通り。
時計塔を目指して西へ向かうか、カジノを目指して南へ向かうか。
「現状、禁止エリアによって迂回しなければ西には向かえない。
君は南から来たのだから、そこまでの道と安全は確保されている。リスクとコストを勘案すれば、南下するべきだろうな。
ここから南下する道は二つある。ひょっとしたらそこですれ違ったのかもしれない」
黒は来た道に目を向け、やがてそちらに体を向けた。
「世話になった」
「行くのか」
「ここにいてもらちが明かない」
また仲間探しを再開するのだろう。忙しない男だ。
「アインクラッドまで同行願おうと思ったが、そうも言ってられないようだ。
私が君の仲間を先に見つけたら保護するとしよう」
ヒースクリフが差し出した手を、黒は握る。
「何から何まですまない」
「いいさ。ただ、私に何かあれば頼む」
「ああ」
黒は頷き、目的地へ向かって走りだす。その背にヒースクリフは声をかけた。
「また会おう、黒くん!」
黒い男は振り向かずに片手を上げて応え、そのまま建造物の群れに消えていった。


84 : 銀を求めた黒は赤と会う ◆isnn/AUU0c :2015/12/04(金) 00:31:42 8bxtvJJ60

今はこれでいい。

ヒースクリフは笑う。

情報は手に入った。恩も売った。これで彼と、彼の仲間は私の側についてくれる。
ここから先、戦いは激化し、個人戦から集団戦へと移っていくだろう。SAOのように。
その時、どれだけの人材が掌中にあるかが鍵となる。

ヒースクリフは振り返り、地獄門を見た。
ここで座していれば、労せず問題は解決するかもしれない。
しかし。

「それではつまらないじゃないか」

溢れる好奇心をそのままに、研究者は笑みを浮かべて歩き始める。
寄り道は終わった。あとは、本来の目的を達成するだけだ。

おそらく、主催とコンタクトは取れても重要な情報――攻略法は教えてくれないだろう。
そういう意味で使っても無駄だが、自分はただ主催への興味を満たしたいだけだ。
ただの世間話でも、その人となりを知るには充分。

自分は何を知れるのか。

それは、かつての居城に戻ればわかることだ。




 
【H-2/一日目/午後】



【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:健康、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限あり)×2@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品(確認済み)(2)  ノーベンバー11の首輪
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:もっと異能を知りたい。見てみたい。
1:アインクラッドを目指す。
2:首輪交換制度を試す。
3:神聖剣の長剣の確保。
4:主催者と接触したい。
[備考]
※参戦時期は1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。
※平行世界の存在を認識しました。


85 : 銀を求めた黒は赤と会う ◆isnn/AUU0c :2015/12/04(金) 00:32:14 8bxtvJJ60

 
地獄門では思うような結果は得られなかった。
だが、収穫がなかったわけではない。
ヒースクリフから得られた情報は収穫と呼ぶには充分だ。

最初に気づくべきだった。

ここに来て初めて見上げた夜空は、自分がもう一度見たいと願った本当の星空だった。
あれが見えるのは――見える可能性があるのは、ゲートの中しかない。

地図にあった地獄門が、自分がゲートの外にいると錯覚させていた。
その可能性にヒースクリフは気づかせてくれた。
自分のいる場所がゲートの中か外か。これが違うだけで、状況は変わってくる。
ここがゲートの中であれば、地獄門の向こうは外界――――元の世界につながっているかもしれない。
銀をつれて地獄門を潜る。そうすればいいという方法、解決策がわかったのは僥倖だ。

「銀……」

彼女は今も、彼女なりに戦っている。そう思うと、立ち止まってはいられなかった。



【H-3/一日目/午後】


 
【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷、腹部打撲(共に処置済み)
[装備]:友切包丁(メイトチョッパー)@ソードアート・オンライン、黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×2、首輪(美遊・エーデルフェルト)
[道具]:基本支給品、ディパック×1、不明支給品1(婚后光子に支給)、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
1:銀や戸塚の知り合いを探しながらカジノへ向かう。銀優先。
2:後藤、槙島、エンブリヲを警戒。
3:魏志軍を殺す。
4:二年後の銀に対する不安
5:雪ノ下雪乃とも合流しておく。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリト、黒子、穂乃果とは情報交換済みです。
※二年後の知識を得ました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。


86 : ◆isnn/AUU0c :2015/12/04(金) 00:33:05 8bxtvJJ60
投下終了します。


87 : ◆w9XRhrM3HU :2015/12/04(金) 00:39:39 fHttxICI0
投下お疲れ様です
私も投下します


88 : 決意 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/04(金) 00:42:06 fHttxICI0
物質を理解し、分解、再構築する。
そして等価交換。無から物質を作り出せず、性質の違うものを生み出すことも出来ない。
これらが錬金術における基礎である。この基礎を知らなければ錬金術は発動しない。

「なるほど。オカルト的ではあるが、系統的には科学的な思想も強い。
 両者の考えを取り入れた混合技術とでも考えるべきか」

陣を描き、力と時間の循環。何を練成するか、術者の意図による構築式を組み込み練成陣は完成する。
本来ならばこの時点で大半の者は才能の限界に突き当たり、練成が失敗するか、なまじ成功したとしてもリバウンドを喰らい多大な痛手を負うか。
どちらにせよ。錬金術は才ある者のみが習得する狭き技術であるのに対し、エンブリヲはたったの一度。理屈を理解し即席の練成陣だけで練成を成功させた。

「……こんなものか」

見覚えのある青い発光。以前エドワード・エルリックがエンブリヲを追い詰める際に使用した能力と同じものだ。
エンブリヲの練成陣の中心が盛り上がり、人の形を彩っていく。それらが丸みを帯びたフォルムから女性の形に近い。
その人型が完成し、各部が事細かく加工され徐々に人間のパーツを形作る。数秒の後に全ての作業は終了し、一つの彫像を形成した。

「地殻変動のエネルギー。これを汲み上げることで、錬金術を行うエネルギーを賄っているということか」

かつては追い詰められた錬金術だが、種が分かってしまえばそう怖れることでもない。
手に持った本に視線を移しながらエンブリヲは薄く笑う。
それらは戸塚が所持していた五冊の本の内の一つ。一見ジョーク本のように見えるが、早々に異世界の存在に気付いたエンブリヲはそれが貴重な情報源であることを瞬時に見抜いていた。
エンブリヲが得たのは四つの異世界の常識レベルの知識。どれも興味深く、エンブリヲの好奇心を擽ったが、特に錬金術の記載があった本にエンブリヲは注目した。
本の中に記されていた錬金術と、それを扱う国家錬金術師の一人エドワード・エルリック。間違いなくエンブリヲに苦戦を強いらせた、あの忌々しいチビ猿だった。
更に本を読み進めれば、アメストリスという国家。その大総統であるブラッドレイ。奴もまたエンブリヲに大ダメージを負わせた忌々しい存在だ。

「理屈は理解した。面白い技術だ、だがこの場からどうやって地殻変動のエネルギーを持ってきている?」

この空間に大地は浮遊島しかない。下は漆黒に続く奈落のみ。
浮遊島にもある程度のエネルギーは流れているのだろうが、恐らくそれだけでは練成エネルギーが不足し錬金術は失敗するか、成功しても戦闘に応用するほどの規模にはなり得ない。

「……十分に満ち足りたエネルギーのある場所。錬金術の実在する異世界からエネルギーを引っ張ってきているに他ならない。つまり、あの異世界とこの空間は繋がっているのだろう。
 恐らく、私の住む世界や他の異世界も同様にね」

先程も述べた錬金術の基本は等価交換。つまり、この空間外からその不足分のエネルギーを引っ張ってきているに違いない。
錬金術だけではない。鳴上の扱うペルソナ。これも本来はテレビの世界でしか存在せず、行使できない力だ。
それがこの場で扱えるのは、ここがテレビの世界に繋がっていたから。錬金術と同じだ。不足した分を他所から引っ張れば良い。

「考えれば簡単だな。この空間は数多ある異世界が交差する場所。だから、あらゆる異能、あらゆる法則が入れ混じっている」

帝具使い、錬金術師、契約者、ペルソナ使い、寄生生物、魔法少女。エンブリヲが遭遇しただけでもこれだけの異能使い、異形者が居る。
これ以外にも、エンブリヲのまだ見ぬ未知の存在は数多く居ることだろう。
そして、交錯する。これがこの空間に於いて最も重要な事柄ではないかとエンブリヲは直感する。


89 : 決意 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/04(金) 00:42:40 fHttxICI0

「練成陣の意味は循環だ。エネルギーを循環させ、物質に干渉する。
 あらゆる異世界が交差する、この場所もまた同じ考えが可能だ」

この空間を用い、異世界を繋ぎ合わせエネルギーを循環させる。
数多の異世界から得られるエネルギーはまさに膨大そのもの。エンブリヲですら想定しきれない力が発生することだろう。
その為の殺し合いだと考えれば、この遠まわしな殺し合いも分からなくはない。
殺し合いの参加者達は人柱。錬金術や契約者で言う等価、対価だ。参加者の命を捧げこの巨大な練成陣を発動する。それが広川の目的なのかもしれない。
それを解析していけば、いずれはこの殺し合いの主催たる広川の下へ辿りつく重大な鍵となる可能性は高い。

「とはいえ、些か飛躍しすぎな発想ではあるな。錬金術に関して私は齧った程度の素人考えでしかない。
 ……忌々しいが、あのチビ猿の知識を借りるしかないか」

エドワード・エルリック。エンブリヲと敵対こそしているものの、最年少国家錬金術師でありその実力はエンブリヲ自身が身を持って体感している。
錬金術に関する考察であるのならば、あの少年の力を借りるのはほぼ必須事項だろう。
アンジュ以外の全てを抹消する。この考えに変更はないが、利用価値があるのならば最大限利用する。
局部を数度破壊され、痛めつけられてきたエンブリヲはその慢心から若干の慎重さが生まれ、その慎重さが自らのプライドを捨てさせ、合理的な考えを巡らせた。

「さて。もう一つ、この首輪も何とかしなくてはならないな」

この空間の謎を解き明かしたところで広川に命を握られたままでは意味がない。
首輪の解析もまた重要な意味合いを持つ。
普段なら手を翳すだけで首輪を即座に解除していたが、この首輪に対しては調律者の力も無力。
この場においてはエンブリヲも参加者の一人でしかない。地道な研究が必要になってくる。
だが、エンブリヲは本来その研究者であった人物だ。研究対象が困難であれば困難であるほどに、その情熱もまた燃え上がる。

「先ずは機材か……。ジュネスである程度の道具は見繕ったが……まだ足りんな」

エンブリヲは踵を翻し、進行方向を東へと定める。
目的地は音ノ木坂学院。目的は学院の情報室にあるであろうコンピューター機材の数々。
ゴキブリこと黒やキリトがイリヤ探索の為、向かう可能性もあったがキリトは既に放送で呼ばれこの世に居ない。
ゴキブリは向かったとしても、恐らく長居はしない。あの男には銀という探し人が居たのは、クロエとの会話から明らかだ。
イリヤと銀の探索を兼ねている黒が、一箇所に止まることはしないだろう。

「そういえば、クロエも死んでいたか。彼女の中にあった“何か”には興味があったのだがね。
 まあこの際、イリヤとまた出会えれば彼女を調べても良いだろう」

思い返せばイリヤとクロエは非常に奇怪な姉妹であった。
クロエの中に潜む巨大な力。使いようによっては軽く世界を滅ぼせるかもしれない何かが潜んでいた。
もっともその力は万全でなく未完成ではあったが。それでも限定的な能力の使用であれほどの戦闘力を有するのだから、あの力を手中に収めることが出来れば……。
イリヤもクロエ程ではないにしろ、やはり彼女の内に秘められた力も魅力的だ。

「イリヤの探索はゴキブリに任せておくか。いずれ、戦力を整えた際に奴を駆除しイリヤの力も私の手中に収めてあげよう」

ゴキブリはイリヤに対しては戸塚の頼みもありすぐに殺すこともなければ、ボディーガードとしても実力は十分。
今は彼らに関しては放置しておいても構わないとエンブリヲは結論付けた。

「音ノ木坂学院か。ティーセットの一つでもあれば良いのだがね」






90 : 決意 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/04(金) 00:43:09 fHttxICI0



「お茶、良かったらどうぞ」

人の心を癒す為に必要なのは、時間だけではない。娯楽なども友好的な手段の一つだ。
熱いお茶と甘いお菓子。これらを食す時間はとても贅沢な至福の一時。
実家が駄菓子屋なこともあり、穂乃果は茶道部辺りから茶葉と菓子を調達し、黒子に振舞った。

「……高坂さん」
「考えたら、私達朝から何も食べてないし。何か食べないとばてちゃうかも……」
「そうですわね。ありがたく頂きますわ」

黒子からすれば食欲も沸かず、甘いものを摂ろうと思えなかったが。穂乃果の行為を無碍にも出来ない。
一つ袋に包まれた饅頭に手を伸ばし、齧り付く。
外の衣がポリポリと剥がれ、口の中に餡子の甘みが広がっていく。同時に口の中の水分が一気に吸い取られ、口内の中に饅頭の感触が残り続ける。
それを熱いお茶を含ませることで甘さから苦味に変わり、口内の中がリセットされ糖分を求め自然と再び食指が動いてしまう。

「……美味しい」

最初はただ黙々と口と手を動かしていた黒子だが、これが美味であると自覚した時、瞳から涙が出るような思いだった。
そうだ。こんな美味しい物を普段から口にし、生活の一部としていた。そんな当たり前で、贅沢で、輝いていた日常が遠くに感じてしまう。
穂乃果も同じ思いなのか、饅頭を数度口にしながらしんみりと視線を落とし、黙り込んでいた。

「美味しいね。……本当に……」

「うむ、実に美味い。あまり緑茶には興味が沸かなかったが悪くないね」

「……?」

茶の入ったコップを強引にテーブルに置き、饅頭を放り投げ、穂乃果の首根っこを掴み黒子は穂乃果を自分の下へ引き寄せる。
眼前に唐突に現れた長髪の男。男は今までそこに居たのかのように優雅に茶を啜り、饅頭を口に含ませていた。
その大胆不敵にして奇抜な男の雰囲気は、黒子の記憶の中からある人物の名前を捻り出す。

「貴方がエンブリヲ、ですの?」

「ほう。アンジュに会ったのかな? それともヒルダか、タスク……サリアかな?」

「アンジュさんが言ってたエンブリヲって……まさか」

「自己紹介しよう。私がエンブリヲ、調律者だ」

エンブリヲは笑いながら名を名乗る。
その様を見て黒子は背筋に嫌な感触が流れていくのを感じた。
まるで、こちらを対等に見ていない。品定めし、それこそ動物や家畜を見るような見下した視線。
アンジュの情報からも股間で動く危険人物と聞いている。一刻も早く排除か、こちらが退避するのが最善策だ。

「―――待ちたまえ」

黒子が穂乃果の手を握り空間移動を始めようとした次の瞬間、エンブリヲの姿が消え背後より彼の声が響く。
そのまま黒子の後頭部へ指を突き、黒子の全身から力が抜けていく。
そして全身を甘い快感に包まれる。まるで御坂に抱きしめられ、全身を愛撫されているかのように。

「ん……っこ、これは……!」

「申し訳ない。疲労なしで使える力が、これしかなかったのでね。女性相手に使うのは躊躇われたが、君の無力化に使わせてもらったよ」

「し、白井さん!? どうしたの? これって……」

「安心したまえ。感度を50倍にしただけだ。マッサージの気持ち良いツボのようなものだよ」

訳の分からない能力を使う男に戸惑いを感じる穂乃果にエンブリヲは優しく頬を撫で、言葉を紡いだ。

「少し君に聞きたいことがあるんだ、穂乃果。この学校に君は詳しいようだからね。情報室があればそこに案内して欲しい」


91 : 決意 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/04(金) 00:43:39 fHttxICI0




穂乃果に選択肢は一つしかなかった。
現状、唯一の戦力である黒子が無力化された以上、荒波を立てれば穂乃果と黒子はすぐにでも殺される。
穂乃果は大人しくエンブリヲの要求に従い、学校を案内した。

「パスワードが解かれている……」

穂乃果に案内された情報室。そこの機材を調べ分かったのは、既にこのエリアは他の者が掌握した後ということだけだった。
残された情報からパスワードの内容と解析方法を再現し、エンブリヲは頷きながら、一台のディスプレイの前に置かれた椅子に腰掛けた。
パスワードの内容は数字譜。音楽室のピアノから音声データが流れるよう仕組まれていることから、音楽に関連するものであるのは間違いない。
既に凄腕のハッカーと、音楽に携わる何者かがこの場でパスワードを解き、その中にあったシステムを使ったのだろう。
エンブリヲも全体を管制するコンピューターシステムがあるかもしれないことは推測していたが、よもやこの調律者を出し抜き先に解析を開始したものが居るとは夢にも思わない。
もっとも、傍から見れば彼はずっと道草を食っていただけで妥当な結果なのだが、本人は意識していない。

「パスワードの内容は歌だね。ピアノで正解の曲を弾くと解けるのだろう」

メモを取り出しエンブリヲは数字譜を元の楽譜へと書き換えていく。

「これ、私達が歌った歌じゃ」

穂乃果が咄嗟に口にした言葉にエンブリヲは意識を傾けた。
エンブリヲが綴るメモを覗き込みながら、穂乃果はメモの内容に既知感を覚えていたのだ。
真姫が作曲してくれれた歌。忘れるはずもない、穂乃果達がμ'sが始めて歌った曲。

「どういうことかな?」

「え? そ、その……」

先程の失言を後悔しながら穂乃果は口を抑えるがもう遅い。
エンブリヲは穂乃果の眼前にまで迫り、彼女から答えが帰るのを待っている。
下手な嘘では何をされるか分からない。だが、正直に話せば恐らくこれを解析したであろう真姫に被害が及ぶかもしれない。

「私達、スクールアイドルって言って……」

だから、話したのはこの曲がμ'sによるものとだけ。真姫の事は口に出さない。
嘘は苦手な穂乃果だが、言わないだけならば穂乃果でも自然に振舞える。

「ほう、興味深いね。スクールアイドルか。それは未央の言っていたニュージェネレーションとも関係があるのかな?」
「どう、かな……。私は聞いた事ないし、プロの人じゃないから」
「そうか」

妙だと思ってはいた。この場には様々な存在が混じる中、何故アイドルなどという存在が混じっていたのか。
穂乃果と未央の話を信じれば、二種類のアイドルを放り込んだことになる。それもわざわざ異世界のだ。
つまりアイドルというより重要なのは、アイドルの知る歌だったのではないだろうか。

(広川は我々にこのシステムのパスワードを解かせたかったのか? あるいは解かせるよう誰かが仕組んだのか?)

意図的であるならば、広川の狙いはこの殺し合いを参加者によって破壊させることだ。その意図は不明ではあるが、参加者によるそれまでの過程を見ることに重点を置いているのだろう。
しかし、もし広川の意図ではないとしたら。これは主催でも意図しない何者かの裏切りなのだとしたら?

(参加者達も異なる世界の住人だ。ならば、主催者達もまた異なる世界より集まった者達なのかもしれない……)

広川以外にも主催側に協力者が居るとしよう。それが広川と同じ世界の住人だと何故言える?
何より、人が数人集まればそれだけの数の意志が主催に混在することになる。ならば、殺し合いを破綻させようと目論む者が秘密裏に動いていてもおかしくはない。
しかも異なる世界より集まっているのならば、その技術、知識レベルには大きな開きがあるのが間違いない。
その開きを利用し、他者に悟られぬよう参加者に脱出のヒントを与えるのも難しいことではないのではないか?


92 : 決意 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/04(金) 00:43:59 fHttxICI0

(私は最初、広川が私と同じ調律者の存在だとばかり考えていた。だが、異世界の存在が集まり、その技術を結集したのがこの殺し合いなのだとすれば……。
 付け入る隙は十分にあるわけか)

犯罪もそうだ。単独犯より、複数犯の方が失敗しやすい。その理由は仲間割れなどの身内の人間関係の崩壊によるもの。
世界が違えば価値観も思想も変わる。異世界の住人同士が常に協力関係を維持できるとは到底思えない。
何処かで歪が生じてもそれは自然なことだ。

「穂乃果、君の力が必要だ」

何れにせよ。主催の元へ辿りつくには単独では難しい。
錬金術師に加え、歌。それもエンブリヲの知らない異世界の歌。
それらを知るアイドルの存在もこの場では利用価値のある重要な資源なのだ。

「私はこの殺し合いから抜け出したい。その為にはアイドルの、歌の力が必要だ。
 穂乃果、私に協力してくれないか?」

「信用、出来ませんわね!」

地面を這いながらも体を擽る快感に耐えながら黒子は大声を張り上げ、情報室へと入る。
その様にエンブリヲは関心しながら黒子に笑顔を向ける。

「そうだね。私が信用できないのは分かるよ。
 些か、勘違いされているようだしね」
「勘違い? 貴方の行った行為は……」
「すまない。ここが殺し合いの場だという事を失念し、スキンシップが過剰過ぎたかも知れない。
 だが、信じて欲しい。私は彼女達の不安を取り除いてあげたかった。
 アンジュも凜もイリヤも彩加も。皆、不安で押し潰されそうだった。私はそれを見過ごすことは出来ない」
「何を、勝手な……」

アンジュの言葉を信じればエンブリヲはただ己の欲に走り、返り討ちに合い続けたただの性犯罪者だ。
しかし、それを証明する明確な証拠はない。いや、仮にあったとしてどうすればいい?
黒子は感度50倍に加え、容態も優れず万全な戦闘も出来ない。そんな状況で穂乃果も居るなか戦闘に縺れ込むのは自殺行為に等しい。
ならば、穂乃果だけでも逃がし黒子がこの場に残る。運がよければ、穂乃果がまだ近くに居るであろう黒を連れ加勢に来るかもしれない。

「サリアさんは私の友達を殺しました」
「……何?」
「エンブリヲさん、貴方の部下なんですよね?」

黒子が地面を這いながら、穂乃果に触れようとした次の瞬間。穂乃果は先程のオドオドした言葉からは考えられない声色でエンブリヲに言葉を投げた。

「どういうことかな? サリアが何をしたんだ?」
「私、エンブリヲさんは凄いと思う。もしかしたら、本当にここから抜け出せるかもしれない。……でも、サリアさんが海未ちゃんを殺したのだけは絶対に許せない……。
 答えてください。サリアさんは、貴方とどんな関係なんですか!?」
「……彼女とは上司と部下としての関係だけだ。もっともサリアは私に恋心を抱いていたらしいが、私はそれに答える気はなかった。
 だからかもしれないな。彼女は内に思いを溜めやすく、爆発してしまうところがある。君の言う、海未の死は私の責任でもあるだろう」
「……」
「責任は取るよ。もしサリアが君を襲うようであれば君を守るし、場合によっては手を汚すことも構わない」
「白井さんは?」
「……ああ、彼女も守ろう」

「白井さん、ここはエンブリヲさんを信用しても良いんじゃないかな」

会話を終えた穂乃果は普段の落ち着いた声色に戻り、黒子へと視線を向けた。


93 : 決意 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/04(金) 00:44:28 fHttxICI0

「ですが、あの男は……」
「大丈夫だと思う。多分、今は何もしないよ」

ここへ来て、穂乃果を守ろうとしていた黒子は逆に守られていたという事に気づいた。
黒子はエンブリヲを警戒し、自己を犠牲にしてでも穂乃果を逃がすべきだと考えたが、穂乃果はそれよりも確実で尚且つ全員が生き延びる術を選んだのだ。
エンブリヲに自らの価値を認めさえ、更にまた近くに潜むであろう脅威のサリアと決別の約束を取り付ける。
口約束だけとはいえ、エンブリヲはこれを自ら破るつもりはないだろう。サリアが本当に重要なのであるなら、この場で二人を抹殺した方が彼女の為にもなる。
つまり、この約束の信憑性は高い。

(そこまで、見越して……いえ直感、でしょうか。高坂さんは……)

穂乃果には才があるのかもしれない。それは目には見えないが、彼女の内に潜む彼女自身の魅力であり彼女自身の力が。
穂乃果の人柄や性格。運もあるだろうが、それら全てを含め人を惹きつける才が。
考え直せば、ブラッドレイ、槙島。この二人との遭遇でも、傷一つ負わなかったのは穂乃果の才によるものでもあったのだろう。
それがこの場でも発揮されたのだ。

(それは本当なら、アイドルとして……人の笑顔の為の……素晴らしい才だったのでしょうね……)

穂乃果がμ'sを立ち上げ、友と共に駆け上がってこれたのは全員の力を合わせ鼓舞したからこその健闘だ。
誰かのお陰ではなく、全員の力があったから。そして全員の力を集結できたのは、穂乃果という少女が中心に居たからだ。
人を笑顔にし、皆に笑顔を送り届ける。それが穂乃果の持つ才の本当の使い方であり、それが本来の穂乃果という人間の生き様だった筈。
それを今はこんな笑顔などとは程遠い交渉紛いの駆け引きに使わせてしまっている。

(ごめんなさい、高坂さん。私は貴女を守るつもりが、貴女を戦わせていたのかもしれませんわね)

出来ることなら、もう穂乃果にはこんな血みどろの戦いに赴かせたくない。
彼女の笑顔と笑顔を人に送り届ける才を穢したくない。
黒子は自分の不甲斐なさを呪った。






94 : 決意 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/04(金) 00:44:53 fHttxICI0



(フッ、まあ上出来だな)

穂乃果達と事を構えず、穏便に事を進めたのは幸いであった。
この場に居るのは蛮人ばかりだが、穂乃果のようにそこそこ賢い女性も居るようだ。

(先ずは歌だ。この場で歌を知る者達とは積極的に接触すべきだろう)

μ'sとニュージェネレーション。後はアンジュの永遠語りとエンブリヲの永遠語り。
一先ずμ'sとアンジュを手元に置くのが最優先事項になる。ニュージェネレーションに関しては未央に悪評が流れているのが痛いが、この際穂乃果に説得させるのもありだ。
そしてもう一つが錬金術師のような未知の技術を持つ者達。穂乃果達との情報交換では、ロイ・マスタングとゾルフ・J・キンブリーなる錬金術師と遭遇したらしい。
後者は乗っている側らしいが、前者ならば穂乃果を繋ぎ役として情報を得ることも難しくないだろう。

(穂乃果。とんだ拾い物だ。サリアなどとは違い、非常に役立つよ彼女は)

歌も知らない。技術もない。それどころか常に命令無視でアンジュを殺そうとするか、逃がそうとする身勝手な狂犬。
最初は戦力になるとも思ったが、穂乃果の方が利用価値は高い。その上、穂乃果とはある種の敵対関係。
もう、あの女は用済みだ。適当に野垂れ死んでいれば良い。

(しかし、厄介なのは私の名前を吹きまわっている事か。これ以上警戒されるのは面倒だな。
 最悪、私自らがあの女を殺さなければならないか)

そこまで考えて、考えを打ち切った。
古い女に用などない。今は穂乃果とそれに繋がる資源の有効活用とアンジュの確保を考える場面だ。

(フフ、精々利用させてもらうよ蛮人共。そして最後には痛みもなく全て抹消してあげよう)

しかし、いくら他者の利用価値を見出そうともエンブリヲという男は、何処までも全てを見下し続ける。
主催を殺し自らに課せられた制限を解いた暁にはエンブリヲは迷いなく、アンジュ以外の全てを抹消するだろう。





95 : 決意 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/04(金) 00:45:05 fHttxICI0


(……怖い……怖いよ)

本当は逃げたい。どうしようもなくエンブリヲが怖い。
穂乃果はエンブリヲを怖れている。アンジュや黒の話を聞く限り、この男には良心も何もない。
そんな存在とどうして一緒の空間に居れるのか。常人の判断ではない。

しかし、穂乃果は逃げない。戦う選択肢を選んだ。
黒子が穂乃果を逃がそうと床を這っていく姿を見た時、そう強く決意した。

エンブリヲは確かに穂乃果達にとって危険ではあるが、同時に強い味方にもなる。
穂乃果は今まで何人もの人物に会ってきた。だが、そのいずれも首輪解析や、この殺し合いの考察については全く進めていない。
その中で、エンブリヲは考察を随分進めているように見える。
これはチャンスだ。エンブリヲは穂乃果の知る歌に興味を抱いている。しかも、協力を仰ぐということは彼も一人では殺し合いの脱出は困難であるということ。
ならば、穂乃果もエンブリヲの頭脳を逃がしてはいけない。そう感じた。

(本当は……サリアの上司だなんて許せない……それに怖い……でも……)

黒子はずっと戦い続けてきた。今も穂乃果を守ろうとし戦おうとした。海未も凜も、やり方は間違ってしまったがことりもだ。
そう、この場で安全な場所はない。誰もが皆戦い続けている。
なら、自分だけがどうして逃げられる? 

(戦わなきゃ。私だって……何もないけど……それでも、私は私のやれることをやらなきゃ!)

エンブリヲが果たして何処まで穂乃果に価値を見出すか分からない。
もしかしたら、次の瞬間にはゴミのように捨てられているのかもしれない。非常に危険な綱渡りだ。
それでも、今はまだ価値がある。
何より危険を犯さなければ、この先殺し合いの脱出には繋がらないと、今までの殺し合いの経験から穂乃果は直感していた。

(海未ちゃん、ことりちゃん、凜ちゃん……。私、頑張るから……絶対に皆が帰れるように頑張るから!)

唯一持つ、歌という武器だけを頼りに穂乃果は調律者と対峙する土俵へと上っていく。

少女の決意が調律者に何処まで通用し、如何な結果を出すのか。それは―――


96 : 決意 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/04(金) 00:45:40 fHttxICI0
【G-6/音ノ木坂学院/一日目/午後】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大) 、戦う決意
[装備]:音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(3/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3
[道具]:練習着
[思考・行動]
基本方針:強くなる
1:エンブリヲを警戒しながらも首輪などの解析を行わせる。その為の協力はする。
2:音ノ木坂学院で真姫ちゃん達が戻るのを待ちたいが、エンブリヲが居るので離れた方がいいかもしれない。
3:花陽ちゃん、マスタングさん、ウェイブさんが気がかり
4:セリュー・ユビキタス、サリア、イリヤに対して―――――
5:もししばらく経って戻らないようなら書き置き通りに闘技場に向かう

[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません
※エンブリヲと軽く情報交換しました。


【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、悲しみと無力感、穂乃果に対する負い目
[道具]:デイパック、基本支給品(穂乃果の分も含む)、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、首輪×2(婚后光子、巴マミ)、扇子@とある科学の超電磁砲、エカテリーナちゃん@とある科学の超電磁砲
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春などの友人を探す。
0:お姉さまやイリヤさんを…
1:穂乃果と共に音ノ木坂学院で初春達を待つ?
2:初春と合流したらレベルアッパーの解析を頼みたい。
3:エンブリヲを警戒。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているということを確信しました。
※槙島が出会った人物を全て把握しました。
※アンジュ、キリト、黒と情報交換しました
※エンブリヲと軽く情報交換しました。


97 : 決意 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/04(金) 00:46:16 fHttxICI0


【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(大)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(大)、参加者への失望
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!
     クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、各世界の書籍×5
     基本支給品×2 不明支給品1〜3 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本方針:アンジュを手に入れる。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:広川含む、アンジュ以外の全ての参加者を抹消する。
3:特にタスク、ブラッドレイ、後藤は殺す。
4:利用できる参加者は全て利用する。特に歌に関する者達と錬金術師とは早期に接触したい。
5:穂乃果を利用する。
6:タスクの悪評は……。
7:場合によってはサリアは切り捨てる。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※能力で洗脳可能なのはモモカのみです。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。
※DTB、ハガレン、とある、アカメ世界の常識レベルの知識を得ました。
※会場が各々の異世界と繋がる練成陣なのではないかと考えています。
※錬金術を習得しましたが、実用レベルではありません。
※管理システムのパスワードが歌であることに気付きました。
※穂乃果達と軽く情報交換しました


98 : ◆w9XRhrM3HU :2015/12/04(金) 00:46:32 fHttxICI0
投下終了します


99 : 名無しさん :2015/12/04(金) 08:39:21 rugqTJaE0
投下乙です
>>愛しい世界、戻れない日々
ゆきのんすげぇ・・・キンブリー敗北の原因作るとは・・・
キンブリーもうまく登ってきたなぁ・・・w あの奈落に落ちて死ぬ人いないんじゃないですかね
>>銀を求めた黒は赤と出会う
一応マーダーでやってるけど考察してる1
やっぱヒースクリフってすげぇわ!この会場が地獄門の中という推測が出来るのはヒースだけだ!
黒は南下か・・・南が激戦区になりそうだなぁ
>>決意
ひええ〜エンブリオ怖い〜
錬金術取得するとかマジモンですやん・・・
黒子と穂乃果この後どうなるんだろう・・・


100 : 名無しさん :2015/12/04(金) 20:03:07 jf7yVgUg0
投下乙です

ゆきのんが輝いている…原作ネタも拾ってくれていて感激
大総統相手に舌戦かますとは、しかし、もう奉仕部は戻ってこない事を自覚してしまって切ない物がある
アカメさんもキャラに深みがでてきたなぁ、いい女だ
そしてミギーはやはり頼りになる、ミギーがいてこそ新一の魅力が100%でるんだなぁ

ヒースクリフさん良いキャラしてる、SAOのGMとしての視点だからこそできる考察か!
黒さんとの会話はシックな雰囲気が嵌っててかっこいいですね
このまま考察を深めていって欲しい

こっちの穂乃果は肝が据わってると言うかかっこいいなぁ、既に一生分の修羅場潜ってる気がするw
ブリヲは相変わらずのサンシタ思考、だが地味にヒースさんと並んで考察を深めているキャラなんじゃなかろうか
黒子もかっこいいけど感度五十倍のときの描写はさすがに草生える


101 : 名無しさん :2015/12/05(土) 13:13:53 XepK58sU0
投下乙ですー

ゆきのんかっけー、ホムンクルス?だから何?な発想は今まで他のキャラにはなかったからなあ。毒舌が冴えわたっていて魅力が一番出てる
新一とアカメの連携もお見事、特に新一の奇策は寄生獣の原作を思い出した
大総統も原作の倒し方はもう通用しなさそうでこれからに期待せざる得ない

地獄門のヒースの考察は凄い、考察勢の本命って感じだ
戦闘力もキリトさん並みだからこれからもどちらかというと対主催寄りのスタンスでいてほしい
果たしてアインクラッドで主催と接触できるか楽しみだ

ブリヲ相手に一歩も引かない穂乃果は成長したなぁ、さすが高坂勢力の首領だ
サリアさんはブリヲと再会せずに落ちた方が幸せかも…
しかし、錬金術を事も無げに習得したり、イリヤとクロが聖杯って見抜いたり、ブリヲはなんだかんだ言ってスペック高いなぁ


102 : 名無しさん :2015/12/05(土) 23:31:50 Y.M9JK9Y0
投下乙です

劣勢と思われた大総統戦を乗り越えただと。やはり戦いはチームプレイか
これまで影が薄かったゆきのんやアカメにもスポットライトが当たってよかったなあ

なるほど、そういう風に考察してきたか。ゲームを楽しむが如きゆとりの心はロワでは結構輝くな

そして、穂乃果もずいぶん成長したなあ。黒子とは本当、いいコンビだ。
ブリヲも考察マーダーという特殊な位置につけて楽しみだ


103 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:28:16 DKmZGw2Y0
投下します


104 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:28:45 DKmZGw2Y0
地図上ではF-6にあたる市街地を、金髪の女性が歩む。

2度目の放送が流れた。
読み上げられた12人。
その中には、最愛の人であるタスク、戦友であるヒルダ、宿敵であるエンブリヲの名はなく。
そして、自分の目の前で消滅していったキリトの名前があった。
さらに最後に呼ばれた「クロエ・フォン・アインツベルン」。先ほど共に戦ったイリヤはアインツベルンと名乗っていなかったか。
詳しいことは聞けずじまいだったが、もし妹か姉が死んでしまったのなら、彼女のことも心配だ。
――だが、最大の問題は。

「サリア――!」

エンブリヲに篭絡されていたころから呼ばれた、かつての仲間。
雷を操る道具の爆発で吹き飛ばされていった彼女の名前は、呼ばれることはなかった。

「エンブリヲの犬の分際で、随分としぶといじゃないの」

彼女はこの場で少なくとも3人もの人間を手にかけている。
生かしておけば被害を拡大させていくのは明白。
命をかけて彼女の目を覚まさせたジルはここにはいない。
殺人鬼と化した彼女に引導を渡せるのは、自分しかいないのだ。

「墓はちゃんと建ててあげるわ。……首を洗って、待っていなさい」

乱戦の中で記憶はあやふやだが、サリアが吹き飛んで行った場所はおそらく、地図ではここから東を流れる川の方角。
エンブリヲは付近にいるらしいが、キリトは死んでしまい正確な情報は聞き損ねた。そこにいれば僥倖だ。

覚悟を胸に秘め、女傑は歩を進める。







「――!」

同エリア内。
西を目指していた後藤は、ちょうど自分と反対方向に人間の気配を感じる。

「……1人か」

首輪探知機を取り出して眺めながら、まだ見ぬ敵を思う。
ここまで幾度も戦いを重ねる中で、5体の寄生生物のうち3体を失った。
だがその代償として、全身に散らばった2体の寄生生物が、身体能力の向上をもたらしてもいる。

「丁度いい」

この体にはいまだ慣れていない。
今後のためにも、戦闘を行っておくことは有益だ。
むろん何の力もない一般人の可能性もあるが、それならば喰らって栄養源とすればいい。
いずれにせよ、迫る泉新一との戦いの前に、この体での経験を積むことは確実に損にはならない。

後藤は進路を変え、人の気配のする方へ走り出した。







「――ッ!!!」

川へ向かっていたアンジュ。
だが、不意に強烈な殺気を感じる。
振り返った瞬間、何かが猛スピードで飛来してきた。
それをかわすと同時に、殺気の方向に向けて銃弾を撃ち込む。


105 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:29:01 DKmZGw2Y0

「誰!? 出てきなさい!」

「……なかなかだ」

建物のかげからぬっと現れたのは、1人の中年男性。

「いきなりこんな代物をくれるなんて、随分とご挨拶じゃないの」

アンジュは傍らから、投げつけられたもの――10センチほどのコンクリート片を拾い上げ、投げ返す。

「反応速度を見させてもらった」

後藤はそれを悠々と回避する。

「お前なら十分だ。新たなこの体に力を与えるため――糧になってもらおう」

左手を刃に変化させ、アンジュに迫る。

「冗談っ!!」

アンジュは銃を構え直し、発射する。
だが。

(……っ!!)

速い。
銃弾は命中することなく、空しく地面をえぐっていく。

(こいつ……ドラゴンと同じか、それ以上……)

銃撃戦の経験も豊富なアンジュではあるが、本領はラグナメイルに騎乗しての戦闘にある。
後藤のような怪物を相手に生身、しかも一対一では分が悪い。
しかも今の後藤は、身体能力が格段に向上してもいる。
かつて地上に墜落したドラゴンを強引に倒した時とは、あまりにもレベルが違いすぎた。

「もっとよく狙え」

(!)

気がつけば、距離を詰められている。
刃が体に迫る。

(ぐ――)

身をよじり、全力で刃を回避。
回避しつつ何とか1発、銃弾を撃ち込む。
察した後藤は瞬時に後退し、同時に蹴りをも入れる。

(つぅ……ッ)

結果、アンジュの体を捉えた刃は、右の肩口に深い傷を作るに留まり、致命傷には至らない。
が、離れ際に放たれた後藤の足は胴体を捉えていた。

「はあ、はあ……」


106 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:29:30 DKmZGw2Y0

余裕のある体勢ではなかったにも関わらず、足の掠めたアンジュの腹部の服は真一文字に破れ、皮膚からは血すら流れている。

「この体……不安もあったが、体の力だけなら5体の時よりも上かもしれん。
 お前の反応速度と射撃はなかなかだが、それまでだな」

脇腹から垂れる血をぬぐう後藤。
接近時のアンジュの一発もまた、わずかに後藤の体を掠めていた。
だが、両者のダメージの差は明らかである。

「……っさいわね……」

だがアンジュは、この場面で怯むような女では決してない。

「いきなり現れて、名乗りもせずに偉そうに講釈垂れてんじゃないわよ、この化け物」

肩の傷を抑えながら、後藤に向き直る。

「後藤だ。名乗っていなかったな」

「後藤……?」

聞き覚えがある名前だ。
この制服を手に入れた音ノ木坂学院で会った泉新一、田村玲子。
彼らから聞いた、彼らと同じ存在である寄生生物。

「アンジュよ。――そう、あんたが後藤なのね」

その瞬間、後藤の纏っている雰囲気が変化した。

「俺を知っている……? 誰から聞いた。泉新一か」

「教えるもんですか、この化け物オヤジ!」

話している間に密かに後退していたアンジュは、再び後藤に銃を向け発砲する。

(どうする……)

強がってはみたが、後藤は今の自分1人で叶う相手ではないことは明らかだ。
このまま戦闘を続ければ、確実に自分は死ぬ。
だが背中を見せて逃げようとすれば、その瞬間に追いつかれて死ぬだろう。

(! そうだ……)

その時アンジュの脳裏をよぎったのは、デイパックの中の一つの武器。

(一か八か、やるしかないわね……っ!)

「むっ!?」

後藤の表情が変化する。
後退しながら銃を撃っていたアンジュが、突然横に飛び、建物の中に入っていったのだ。


107 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:29:48 DKmZGw2Y0




金髪の女の背を見ている。
その後ろ姿に、男の影が寄り添う。

「アンジュ!」

射殺さんばかりの形相で、サリアはアンジュを睨み付ける。

「エンブリヲ様! 何故です!」

そのまま2人に掴みかかろうとするが、まるで星でも追いかけているように、なぜか自分との距離が狭まることない。
気がつけば、2人の傍には多くの人が寄り集まっていた。
アルゼナルの仲間たち。ヒルダにヴィヴィアンにエルシャ、クリス、ロザリー。
アンジュがいつも侍らせているモモカや、タスクという男。上司のジルに市場のジャスミン、死んだはずのゾーラ隊長の姿まで見える。
皆に共通するのは、2人を心から祝福するような笑顔。

「アンジュ、こっちを見なさい、アンジュ――!」

人込みはさらに増えていく。
その中には妙な右手の少年、死んだような目をした少年、黒髪の少女、同じく黒髪で剣を携えた少女。
白髪の若い男、妙な右手の少年と同じ気配の女、金髪ロール髪の少女、黒コートの少年、制服を着た小柄な少女――などの姿が見える。
彼らの表情も、アルゼナルの仲間たちと全く同じだった。
すなわち、アンジュの幸せを心から喜ぶ笑顔。

「エンブリヲ様! なぜそのような女と!」

どんなに叫んでも、声が届いている様子はない。
アンジュはやがて、その手にエンブリヲの口づけを受けると、見慣れた機体に乗り込んでいく。

「アンジュ! それは私のものよ! 返しなさい、アンジュ!」

ヴィルキスに乗って、アンジュはどこまでも高く飛翔する。
エンブリヲも、2人を取り囲んでいた人々も、それに向かって手を振り、歓声を送り続ける。
サリアの声はもはや誰にも届かない。

「アンジュ! 殺してやるわ! アンジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!!!」







「アンジュ!」

飛び起きると、目の前には川が流れていた。

(なんて夢なの……)

実に不快な気分だ。
目を覚ましたサリアが思い出すのは、忌々しいアンジュに敗れて吹き飛ばされた記憶。

(殺してやる、アンジュ……)

許せない。
地位も仲間も信頼も、エンブリヲ様も。何もかも奪っていくあの女が。
妄愛の少女は、かつての戦友への殺意だけをひたすら燃やし続ける。
と、対岸の市街地のほうから銃声が聞こえてきた。

(確かあの女、銃を持ってたわね……)


108 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:30:11 DKmZGw2Y0

今は左手に装着した分のみになったアドラメレクを確認すると、人1人を殺すには十分なエネルギーが最充填されている。
あの市街地は、キリトという男がエンブリヲ様に会ったという場所。
元々探索するつもりだった場所だ。
エンブリヲ様や憎きアンジュのいる確証はないが、まずは銃声の聞こえた場所を探ることにする。

「エンブリヲ様……今参ります」

サリアは疲弊した体に鞭打ち、橋を目指して歩み始めた。







「何を隠れている!」

アンジュを追って後藤が入っていったのは、5階建てほどの小さい雑居ビルだった。
1階部分をあらかた調べ終わると、叫びながら側面の階段を上っていく。

「戦え!」

叫びながら後藤は考える。
なぜあの女は突然このような行動に出たのか。

(罠か? しかし……)

後藤が今いるのは4階。
ここまで調べた限りでは、何らかの罠が仕掛けられた気配はない。
また、戦った時の様子からすると、彼女は射撃に秀でてはいるがごく普通の人間の域を出ない。
『異能』の匂いは感じなかった。

(――ここか)

最上階に昇っていくと、人の気配を感じる。

(あまりにバレバレだ。――何の小細工を仕掛けたのかは知らんが)

部屋に入っていき、気配の元を探っていく。

「見つけたぞ」

「……!」

女がいたのは、小さなトイレの中であった。

「隠れていたつもりか」

嘲るように言い放つ後藤に、アンジュは無言で弾丸を放つ。
が、それは見当外れの方向に飛んでいく。後藤は易々とそれを回避。

「弾切れか。不便なものだな」

更に撃とうとするも、そこで銃弾が尽きる。
弾倉を再装填する隙は、今は皆無。

「少々期待は外れたが……そこそこの肩慣らしにはなった」

止めを刺すべく近付いていく。


109 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:30:29 DKmZGw2Y0

「教えろ。泉新一と田村玲子はどこだ」

その言葉にも、アンジュは沈黙を守る。

「……答えんなら構わん。あとは俺の糧となってもらおう」

泉新一のおおよその居場所はわかっている。拷問などを行う技術も時間も、後藤にはない。
近付きながら頭部を変形させる。
牙だらけの異形の口が、アンジュの頭を齧り取らんと迫り――。

(今っ!)

その瞬間、アンジュは傍らに置いていたデイパックから刀を取り出し。
後藤の体を捉えんと、一気に刺突を繰り出した。

「ぬうっ!!?」

アンジュの武器は銃だけだと思っていた後藤は驚愕する。
確実に首を齧り取るために近付いていたこともあり、完全な回避は遅れる。
左腕の刃を刀にぶつけることで、刀の軌道を反らす。
ギインという激しい音が室内に鳴り響く。
刀がアンジュの手を離れて飛ぶ。
その先端は数センチにわたって切り飛ばされ、後藤の体を掠める。
後藤はそのまま後ろに飛ぶ。
数メートルの距離を挟み、両者は再び向かい合う。

「刀とはな。狙いそのものはよかった。だが、扱いは銃に比べたらまるで素人だ。
 俺には通じん……。では、今度こそ頂こう」

刀も銃もすでに女の手にはなく、デイパックに手を入れるような隙ももうない。
もはや危険要素は皆無。再度頭を変形させ、一歩ずつその体に迫っていく。

「終わりはあんたよ」

「……何?」

その時、この建物の中で2人が対峙してから、アンジュが初めて言葉を発した。

「気付かないのかしら? 自分の図体を見てみたらどうかしら」

「――な」

アンジュの言葉に、胴体に目を向けた後藤の双眸が驚愕に見開かれる。
切り飛ばされた刀の先端が掠め、僅かにできた傷。
そこから黒い紋様が浮かび上がり、さらに後藤の体を覆っていた。


110 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:31:00 DKmZGw2Y0

「何だ、これは……――ぐうっ!?」

後藤の全身を苦痛が襲った。
その巨体が、どうと床に倒れ伏す。

「この刀はね……傷を付けた瞬間にあんたの体に毒を流し込むの。
 そこからあっという間にお陀仏って寸法よ」

もう聞こえてないかもしれないかもね、とも付け加え、アンジュは倒れたままの後藤に言い放つ。

「さてと、行かなきゃね」

始末を付けた以上、この場に留まる理由は何もない。
アンジュは部屋を出て、階段を降りていった。







(本当に一撃なのね……)

市街地を行きながら、鞘に収めた、先端の欠けた刀を眺める。
触れれば相手を即死させる刀。
だが、自分の本領は銃器にある。刀剣の扱いには慣れていない。
傷を付けるには、確実に接近させる必要があった。
そのため、屋外ではなく建物の中に誘い込む。
あの調子ならば、後藤は必ず自分を追ってくると踏んだ。
わざわざ個室のトイレという狭い場所に隠れたのも、後藤を自分に近づけるため。
銃弾を一発だけ残しておいてわざと外したのは、「武器は銃だけ」ということをより強く印象づけるためだ。

(不思議ね……。これが今度は、私の力になるなんて)

少年――キリトは、この刀で最愛の従者であるモモカを事故死させてしまった。
その刀が今は自分のもとにあり、敵を倒す決め手となった。

(これも、あなたが私を守ってくれたことになるのかしら?……モモカ)

皮肉な巡り合わせに思いを馳せ。
肩の傷と、蹴りによる腹部の痛みに耐えながら、川の方角へ向けて歩みを進めるアンジュ。

「――!」

その前に、ふと人影が現れた。
その姿は、間違えようはずもない。
追い求めていた相手であり、今は仇敵の僕と化した、かつての戦友。

「サリア――!!!」







「ごきげんあそばせ、アンジュ。
 その傷は誰にやられたのかしら? 実に無様ね」

全身は濡れそぼり、顔には疲労の色を濃く浮かべながらも。
サリアの嘲るような口調は、先ほどやり合っていたころと何も変わっていない。


111 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:31:14 DKmZGw2Y0

「あら、あんたこそずぶ濡れじゃない。水も滴るバカ女ってところかしら?
 それにそのお顔のお化粧、随分お似合いよ。愛しのエンブリヲ様にベッドの上でたっぷり愛でてもらうといいわ」

対するアンジュも、一歩も引かず毒舌を飛ばす。

「アンジュ、あんた――!!」

その言葉に、サリアは顔を歪ませる。
殺意と傷が相まって、その面相は凄絶なものになっていた。

「殺す……今度こそ絶対に殺してやるわ……!」

アドラメレクをアンジュに突きつける。

「殺す? はっ、知ってるわよ。その玩具、もう電気は残ってないんでしょ。
 今じゃニワトリだって殺せはしないわよ」

対するアンジュも、再装填を終えた銃をサリアに向ける。

「ざーんねん。今はあの時から時間が経ってるから、パワーは装填されてるわ。
 アンジュ、あんたが惨めに感電して、小便を垂れ流しなら死んでいくには十分すぎる量よ」

「漏らすのはどっちの方かしら? サリア。
 こっちはね、あんたを確実に殺す手段をちゃんと用意してるのよ」

少女にはあまりに似つかわしくない、触れれば切り裂かれるような殺気を放ちながら、2人は向かい合う。

アンジュは考える。
ハッタリではなく、あの籠手は実際に回復しているのだろう。
ならば市街地の地形を利しながら接近戦に持ち込み、村雨で切りつけて確実に殺す。

サリアは考える。
先ほど遅れを取ったのは多人数を相手にしていたからだ。
今は一対一。何を隠しているのかは知らないが、確実に殺す。

その時だった。
突如、サリアの目が驚愕に見開かれた。
何者かの影がアンジュの背後の建物から飛び降り、ものすごい速さで2人に近付いていた。

「アンジュ!! 後ろ――」


112 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:31:27 DKmZGw2Y0

「え――?」

サリアが叫んだ時には全ては終わっていた。
第三の襲撃者――後藤の頭部が変形した刃が、アンジュの胸を刺し貫いていた。







「な……んで」

事態の急変と、激痛に混乱しながらも、アンジュは襲撃者に向き直る。

「死んだ……はずじゃ」

「人間ならな」

膝をつくアンジュに、後藤は言い放つ。

暗殺者集団・ナイトレイドのエースであるアカメの帝具、一撃必殺村雨。
その効果は、付けた傷口から刀身がまとう呪毒を流し込み、それが心臓に達することによって死に至らしめるというもの。
だが、翻って先ほどの戦闘を見ると。
後藤の体に傷を付けたのは、切り飛ばされた刀の先端部分のみ。
それが元からの村雨の仕様なのか、主催者が課した制限なのかは今となっては分からないが。
流れ込んだ呪毒の量は、本来よりも格段に少なくなっていた。

「あいにく俺の体には、辛うじて命が2つあったんでな。利用させてもらったまでだ」

だが瞬殺はできずとも、数十秒もすれば毒が心臓に回って死に至ることは変わりない。
しかしそれは、後藤が常人ならばの話だ。
先ほどまでの後藤の全身には、2体の細切れになった寄生生物が血流に乗って散らばり、広がっていた。
彼らが呪毒に対し、自らの身を犠牲にしながら抵抗する役割を果たしたのだ。
そして頭部を占める後藤は、このままでは足りず、いずれ毒は心臓に達する可能性があると理解する。
それを防ぐために、左手にある残り1体の寄生生物を、毒が回ってくる前に新たに心臓に融合させることを躊躇なく決断。
寄生生物の学習能力は極めて高い。心臓形成は先ほど経験済みだ。
その上今回は心臓そのものが失われたわけではないため、肉体の壊死の心配も軽い。
融合は先ほど胸に風穴を開けられた時よりも格段に速く終わった。
そして、心臓に加わった3体目の寄生生物は細分化され、血流に乗り後藤の体内に行きわたる。
抵抗する既存の寄生生物たちに、彼らが新た加勢し。
――村雨の呪毒は、ついに相殺された。

「……だが、これは俺がここで出会った中でも最上級の異能だ。
 建物に入っていったのはこのためか。まんまとしてやられたぞ、女」

もし5体の寄生生物が万全ならば、呪毒に対して統率を失い、後藤の体は四散していたかもしれない。
5体のうち3体を失っていたことが、皮肉にも後藤の復活を助ける結果となったのだ。

「……褒められても、……っ、何も嬉しくないわよ……サリア!」

呆然とへたりこんでいたサリアに、首輪を投げつける。


113 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:31:45 DKmZGw2Y0

「……行って。それを……ヒース、クリフって奴に、……っ見せなさい」

「え、あ、あ、私……」

「早く失せなさい!! このバカ女!!!」

サリアは、大声を出してせき込むアンジュの姿に我に返る。
慌てて首輪を拾い上げ、足をもつれさせながら逃げていく。

「追わ、ないの……?」

「あいにく、不慣れなこの体ではな。予定通り、まずはお前から頂こう」

「くっ……!」

懸命に村雨を向けるアンジュ。
だが、刀は後藤の刃によって、手首ごと斬り飛ばされる。

「ぐああ……っ」

「さすがにそれを2度喰らったら、今度こそ後がないんでな。
 ……そうだな、改めて最後に聞いておこう。泉新一と田村玲子はどこだ」

更なる激痛に手を抑え倒れ伏すアンジュに、後藤は問いかける。

「言う……もん……ですか」

「そうか。ならば構わん」

異形の口を空け、後藤が迫る。
3度目となるその光景を見ながら、アンジュの脳裏には新兵のころの光景が浮かんでいた。

(そうか、私のせいで死んだあの子、食い殺されたんだっけ。
 今になって私が同じように死ぬなんて、因果応報ね……)

心残りは多すぎるほどあった。
最愛の人であるタスクと、戦友のヒルダ。彼らを残して逝く。
仇敵のエンブリヲには弾の一発もくれてやることができない。
そして、最後に浮かぶのは――

(サリア……。――はっ、人生最後に思い浮かべるのがよりによってあんたの顔だなんて、最悪よ)

だが、一方で思う。
殺したいなら、首輪など渡さずに目の前の怪物をけしかければよかった。
サリアがバカ女なら、そのバカ女を結局は守ろうとしている自分は何なのか。

(――!)

怪物の牙は無慈悲に迫る。
これから死ぬ人間が生者に想いを馳せる時間は、もう残されていない。

「お願い、生きて――」

言葉にすれば、何のことはない。
女傑が最後に願ったのは、ただみんなが平和に暮らすこと。







「……やれやれ、とんだ肩慣らしだ」


114 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:31:59 DKmZGw2Y0

食事を終えた後藤は、人間らしくため息などをついてみせた。

「ついに頭だけか」

殺し合いが始まって半日あまり。
5頭の化け物は、ついに1頭の化け物になり果てた。

「体は……残っているな」

心臓から全身に行きわたった、細切れの寄生生物。
最初に2体分が行きわたり、それが毒に潰され、新たに融合した1体分が拡散し、さらに毒に抵抗した。

「7割……、いや、7割5分か」

最初の2体分を10割とするなら、今この体に残っているのはぎりぎり7割5分といったところか。
先ほど行ったように、演武のように中空に向けてパンチやキックを繰り出す。
垂直に飛んでみると、その高さは4メートルほど。

「やはり、落ちているな」

全身に散らばった寄生生物の2割以上を失ったのに加え、左手の刃まで喪失している。
本格的に体に慣れる前の戦力低下は大きすぎる痛手だ。
だが、人間を屠り去る分には、この程度は誤差とはいえる。

「足りん」

それでも、この場には異能を使うものはまだまだ潜んでいる可能性がある。
それに対抗するには、今のままでは心もとない。
後藤は落ちていた銃を拾い上げる。

「ふむ……」

戦いを行う上で、使ったことはなくとも人間の扱う武器については一通り頭に入れてある。
構えると、15メートルほど離れたところにある標識に向けて狙いを定める。
引き金を引くと、乾いた発射音が鳴った瞬間、標識の真ん中に穴が空いた。

「次はこれか……」

女の手首と共に落ちている、先端の欠けた刀。
自分を一度は倒した武器。
手首を口に放り込みながら、手近にある店の中に踏み入っていく。
そして、適当な実験台――木製の椅子を引っ張り出す。

「ふッ」

そして刀を構えると、椅子に向かって刀を振り下ろす。
数秒後、真っ二つになった椅子は、ぱかりと花開くように倒れる。

「……なかなかだ。業物というのか」

椅子の切断面を撫でながら呟く後藤。

「だが、これはできれば使わずにおくべきだな」


115 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:32:15 DKmZGw2Y0

原理はわからないが、この刀はわずかでも傷を付けた場所から毒を流し込む。
後藤の餌は人体である。
毒の回った餌など、もはや食糧でも何でもない。
さらに後藤は日本刀の扱いには熟達しているわけではない。
戦っているうちにうっかり自分自身が傷付いて死んでしまった、など洒落にもならない。
また、自分の刃を側面に打ち付けたことで折れたことを考えると、あまり固いものにぶつけるのも避けた方がよさそうだ。
日本刀は鉄をも斬るというが、効果の強力さを考えると、この場では刀自体の本来の強度は制限されているのかもしれない。
いずれにせよ濫用は控えるべき武器だ。
使わねば死ぬ、という事態の時までとっておくべきだろう。

「……これは」

さらにアンジュの持っていたデイパックを探ると、武器になりそうなものは1つ。
農作業具に鎖が付き、さらにその先に分銅が付いている代物だった。
後藤はしばらくそれを弄んでいたが、やがて何か得心がいったような顔で、再び店の中に踏み入っていく。

「はっ」

構えると、分銅を投げつける。
ものすごい速さで発射された分銅は、棚の上にあった調度品を木端微塵に破壊した。

「むん!」

分銅を手に戻すと、間髪入れず今度は店の奥の植木鉢に向かって投げる。
鎖が子どもの背丈ほどの高さの造木に巻き付く。腕力で一気に引き寄せると、左手に持った鎌で切り付ける。

「……理解はした。遠近両用の武器というわけか」

すっぱりと切れたプラスチックの木を見やりながら、後藤は考える。
分銅を当てれば人間の頭を破壊できるし、鎖で引き寄せたところを鎌で一撃、という戦い方も可能だ。
銃や刀剣とは違う分、本格的な立ち回りには熟練が要求されるかもしれない。

「いずれにせよ、先ほどよりもさらに人間に近い戦いを強いられたわけか」

ここに来て、5体のうち4対の寄生生物を失った。
プロテクターも刃も失ったが、失うたびに自分は確実に人間の体に近づいていっているという感触がある。
だが同時に、闘争本能は研ぎ澄まされていく。
イメージでいうなら、5体の時のものがどろどろした溶岩であったのに対し、今は鋭い針のようなものか。

「さて――。この首輪をどうするか」

最後に落ちていた金髪の女の首輪を拾う。
女が言っていた名前が引っかかる。
ヒースクリフという名は名簿にある。「茅場晶彦」という名前が書き添えてある。

「……いや。やはり、後回しだな」

首輪も気になるが、この場における最優先課題は、やはり寄生生物の供給であり、この体での戦闘経験を積むことだ。
高い身体能力は残っているとはいえ、左手の刃まで失った以上、不用意に最大の目標以外の寄り道は避けるべきだ。

「奴は西にいるか……禁止エリアを避け、一旦は北上する必要があるな」

求めるのは、泉新一。
退化と進化をその体に同居させ、怪物は改めてその下へ向かう。


116 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:32:39 DKmZGw2Y0



【F-6/市街地/一日目/午後】

【後藤@寄生獣 セイの格率】
[状態]:寄生生物一体分を欠損、寄生生物三体が全身に散らばって融合
[装備]:S&W M29(5/6)@現実、鎖鎌@現実
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、スピーカー、デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾45@現実、一撃必殺村雨@アカメが斬る!(先端10センチあまり欠損)
    アンジュの首輪、不明支給品0〜1(アンジュ分、武器らしいものはなし)、不明支給品0〜1(キリト分、武器らしいものはなし)
[思考]
基本:優勝する。
0:西に向かいひとまず泉新一と戦い奴の戦闘を学ぶ。黒との戦いは後回しにする。
1:泉新一、田村玲子に勝利し体の一部として取り込む。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。ヒースクリフ(茅場晶彦)に興味。
5:田村怜子・泉新一を探し取り込んだ後DIOを殺す
6:黒、黒子とはこの身体に慣れてからもう一度戦いたい。
7:武器を使用した戦闘も視野に入れるが、刀(村雨)はなるべく使用しない。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。
※黒い銃(ドミネーター)を警戒しています。
※百獣王化ライオネル@アカメが斬る! は破壊されました。
※寄生生物三体が全身に散らばって融合した結果、生身の運動能力が著しく向上しました。
 ただし村雨の呪毒によって削られ、130話「新たな力を求めて」の状態を100%とすると現在は75%程度です。
※寄生生物が0体になった影響で刃は頭部から一つしか出せなくなりました。全身を包むプロテクターも使用できなくなりました。
※ミギーのように一日数時間休眠するかどうかは不明です。











サリアは走っていた。
己の疲労にも構わず、逃げるように走り続ける。

(嘘よ、アンジュ、アンジュ……)

アンジュが死んだ。
あの傷だ。助かるはずもない。
だが、彼女は絶対に殺したかった相手のはずだ。
自分を逃がした姿が、血を吐きながら叫ぶ姿が、頭から離れないのは、なぜなのか。

(嫌、どうして、エンブリヲ様、助けて!)

サリアは混乱する。
橋を渡り、市街地を抜けてなお、彼女の心中は収まらない。
脳裏でエンブリヲとアンジュの顔が交互に入れ替わっていく。

『アンジュ!! 後ろ――』

分からない。
なぜ自分はあの時、憎いアンジュを助けるようなことを叫んだのか。
もう何も分からない。

(エンブリヲ、様……)

歪められた劣等感と恋情と、かつての友への思いの間で揺れ動く彼女は、いかなる運命を辿る……。



【アンジュ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 死亡】



【G-5/市街地外/一日目/午後】

【サリア@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:アンジュの死のショック(大)、疲労(特大)、ダメージ(大)、脇腹に銃弾が掠った傷、顔右側から右手にかけて火傷、両肩負傷(処置済み)、左足負傷(処置済み)
[装備]:“雷神憤怒”アドラメレク@アカメが斬る!(左腕部のみ)、シルヴィアが使ってた銃@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品、賢者の石@鋼の錬金術師、キリトの首輪
[思考・行動]
基本方針:エンブリヲ様と共に殺し合いを打破する。
0:エンブリヲ様に会いたい。
[備考]
※参戦時期は第17話「黒の破壊天使」から第24話「明日なき戦い」Aパート以前の何処かです。
※セリューと情報を交換しました。
友好:セリュー、エスデス、ウェイブ、マスタング、エドワード、結衣、卯月
危険:高坂穂乃果、白井黒子(自分で敵対者と判断)
不明:小泉花陽
※アドラメレクの帯電残量は1/5ほどです。


117 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 19:33:04 DKmZGw2Y0
以上で投下を終了します


118 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/08(火) 20:40:11 DKmZGw2Y0
タイトルを忘れていました。「生の確立」です。


119 : 名無しさん :2015/12/08(火) 23:08:54 IWaCWmFg0
投下乙です

アンジュはここで落ちてしまったか。クロアン勢への衝撃はでかいだろうなぁ
しかし後藤さんは登場する度に寄生生物が減っていくなw


120 : 名無しさん :2015/12/09(水) 09:34:07 qgHoQwFg0
投下乙です

また主人公が死んだ・・・。第三回放送後の反応は今次点でも波乱にまみれると予想できるw
後藤さんが村雨回収した上禁止エリアを回避するため北上ですか・・・大総統戦来るか・・・?


121 : 名無しさん :2015/12/09(水) 13:11:14 0vmH5DqQO
投下乙です

これで後藤も、他の二人と大して変わらないくらいまで弱体化
四肢の一部を欠損
頭部での戦闘や武器に慣れてない
新一を超える身体能力


122 : ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:33:47 h7ouWzLQ0
投下します


123 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:35:07 h7ouWzLQ0
「ふわぁ〜」

退屈だと言わんばかりに欠伸を漏らすのは、ウェイブ―――の姿をしたエンヴィー。

事実、彼は退屈していた。
第一回目の放送でマスタングを罠に嵌めてからというもの、ロクに出番がない。
里中千枝たちにマスタング達の悪評を広めるのもキンブリーがやってしまった。
他の参加者との出逢いが無ければ、楽しむことなど当然できず。
その上話し相手すらいなくなったこの状況を退屈以外になんと表現しろというのだろうか。

「あー、暇だ」

立ち上がり、ポケットに手を突っ込みながら歩きはじめるエンヴィー。
この行為に特に意味はなく、彼はただ退屈を紛らわすためだけに車内をうろつこうと思っただけだ。

(この車両には誰もいない。次)

どうせ誰も乗っていないだろうとタカを括りつつ、順々に車両を移っていく。

(お客さんはゼロ。次)

一人で行う車掌ごっこには若干むなしさを覚えるが、しかし何もしないよりはマシかも、などとエンヴィーは思う。

(最後の車両にもお客さんは―――おっ?)

エンヴィーの視界が捉えたのは、黒スーツの男。
既に疲弊しきっているようで、衣類はボロボロ、こんなに近くに人が来ても気づかないほどに熟睡している。
ようやく他の参加者と出会えたことを喜んで、エンヴィーは嗤った。




ガタンゴトン。

乗客を乗せた電車は進む。

その隠された悪意に、誰も気づかぬままに。




124 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:35:49 h7ouWzLQ0
「いやぁ、よかったよ。ここに来てからロクな目に遭ってなくてさぁ...っつぅ」

全身を苛む痛みに苦しみつつも、朗らかな声を発するのは足立透。

「大変だったみたいだな。けど、お互い"乗ってない"奴に会えたのはラッキーだったね」
「ホントだよもう」

足立を安心させるかのように笑みを作るのは、赤髪の女性。ヒルダの姿をしたエンヴィーだ。

エンヴィーがなぜ足立を殺さず、こうしてヒルダの恰好で楽しげにお喋りしているのか―――理由はある。
先のマスタングの戦闘でエンヴィーは殺されかけた。それも、ウェイブの死んだ仲間の姿で接触するという、本当に迂闊な失敗でだ。
少なくとも、マスタングのいる場所では避けるべき行いだ。
キンブリーが割って入らなければ、おそらくあのまま焼き殺されていただろう。
別に、優勝を目指しているわけではないが、死なないにこしたことはない。
ましてや、再びマスタングに敗北するなど言語道断だ。
だから、エンヴィーは迂闊だったことを自覚し、反省した。

この足立透という男は、おそらくゲームに乗った側の人間だろうとエンヴィーは判断した。
半日も経過しているのに誰にも会わず、この傷ついた身体で一人で行動するとは考えにくい。
尤も、全ての仲間を失った可能性もあるが...
なんにせよ、この男をどうするかは情報を集めてからにしようとエンヴィーは決めた。

ヒルダの姿に変身しているのは、もし足立が殺し合いに乗った人間ならば、ウェイブやマスタングと一度は戦っている可能性があり、敵対している者から情報を聞き出すのは難しいからだ。
少なくとも、この男がウェイブたちの味方なら、ウェイブたちが傷ついたこの男を一人にするはずもない。
ならば、この男はウェイブ達と敵対しているか関わりが無いか、だ。

そのため他の変身候補があがるのだが、誰がどこにいるかなどはわからないため、それなりに動向が読める者が望ましかった。その中で白羽の矢が立ったのは千枝たち3人。
おそらく彼女たちは、銀がマスタングのいると示した場所へと向かわなかった。
彼女たちとマスタング達がぶつかれば、死人の一人は出る筈...しかし、互いに犠牲者はゼロ。
すれ違ったかそもそも向かわなかったと考えるべきだろう。
会話を聞いたうえで模倣しやすいと思えるのは、千枝とヒルダ。しかし、足立と関わりがある者なら、違和感を憶えれば警戒されてしまう。
その中でも、名簿上で足立と近くない参加者となると、消去法でヒルダとなったのだ。


「よければ、なにがあったのか教えてくれねえかな」
「いいよ」

エンヴィーの要求に応じる足立。
しかし、足立もまたヒルダ(エンヴィー)を警戒していた。

ヒルダは、殺人者名簿に記載されていた。それだけでも警戒対象にあたるのだが、足立が警戒心を強めたのはもう一つの理由だ。

(ここに来てからはロクな女に会ってない。どうせコイツもそうなんだろ?)

綺麗なバラには棘がある、などとよく言ったものだ。
思い返せば、ガワがいい奴らはどいつもこいつもロクでもなかった。
山野真由美。密かに応援してやっていたというのに、不倫なんて外道行為をしていたクソ女。
エスデス。あのお人好しのアヴドゥルさんでさえ警戒していた戦闘狂。
鹿目まどか。頭を吹き飛ばされても生きてられる正真正銘の化け物。つーかゾンビ。
暁美ほむら。上に同じ。しかもまどかちゃんに惚れてんのかってくらい執念深い。
セリュー・ユビキタス。なんか変な犬を連れててサイボーグみたいに色々な武器を使ってくる。一緒にいた女の子もなんか変だったし。
もう棘なんてレベルじゃない。じゃあなにかって言われても困るけど。
どうせこのヒルダとかいうのも変な奴なんだろ?顔もスタイルも悪くない、むしろかなりいい方だけどそれで痛い目を見るのは御免だ。
絶対信用なんかしてたまるかってんだ。利用はさせてもらうけど。


125 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:36:35 h7ouWzLQ0
「僕が目を覚ましたのはコンサートホールなんだけど...」

そして、足立は今までの出来事を話し始めた。

コンサートホールで、ヒースクリフという男と出会い、後にアヴドゥルも訪れる。
第一回放送の直前、承太郎というアヴドゥルの仲間、それにエスデス、まどかとも合流。魏志軍とかいう男に襲われるも無事に撃退。
その後、エスデスはアヴドゥルとヒースクリフを連れて一旦コンサートホールを離れ、コンサートホールに残されたのは足立、承太郎、まどか。
そして...事件は起きた。
新たな来訪者、花京院とほむら。それぞれ承太郎とまどかの友人だ。
その花京院が突如牙を剥き、ほむらを含めた三人を襲い...まどかに殺された。

ここまでは事実だ。実際にあった出来事だ。

「そのまどかちゃんっていう子、コンサートホールに来る前に花京院に殺されかけたらしくてさ。だから襲いかかってきた花京院を殺しちゃったみたいなんだよ」
「それで怒った承太郎くんがまどかちゃんを殺害したんだ...魏志軍って奴を追い払う時に、まどかちゃんが囮みたいに使っちゃったことにも腹を立ててたんだろうね」
「当然、まどかちゃんの友達のほむらちゃんも怒って、二人でぶつかって。...僕も止めたかったんだけど、この様さ。結局、どうにもできなくて命からがら逃げるのが精いっぱいだった」

しかし、足立はここで僅かに脚色を加える。
『花京院をまどかが殺し、そのまどかも承太郎が殺してしまった』。
『承太郎は完全な悪人ではない。あくまでも承太郎がまどかを殺したのは過失であり仕方のないことだった、しかしいまの彼は危険である』と

承太郎が悪人であるという直接的な悪評では、彼の仲間のジョセフと関わりを持った者に怪しまれる可能性がある。
ならば、こうしてそれなりにフォローも加えつつ、さりげなく危険性も示唆しておいた方が警戒心は強まり違和感なく悪評も流せる。
更に自分の身の潔癖を広めることもできるため一石二鳥だ。


それに対し、エンヴィーもまた僅かに考え込む。
この男が本当のことを言ってるか、それとも嘘をついてるのか...まだ半々といったところか。

(まあ、どっちでもいいけどね)

しかし、途中でやめた。
足立の言葉が嘘か真か。
エンヴィーにしてみれば、心底どうでもいい。
重要なのは、この男が承太郎と敵対しており、マスタング達とも会っていないという点だ。
マスタング達が、こんな疲弊しきった男を見捨てる筈はなく、足立からしてみれば相当厄介なはずの奴らの悪評を流さないはずがない。
奴らと会っていないなら、変身能力を駆使して足立をトコトン利用できる。
そのため、エンヴィーは足立をまだ生かしておくことにした。


126 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:39:24 h7ouWzLQ0
「それで、きみの方はどうだったの?」
「あたしは...」
(どっから話そうかな...大佐をハメたところからでいっか)

そして、エンヴィーもまた自分好みのつくりかえた『真実』を語りはじめる。

「あたしはこのDIOの館ってところの近くで目が覚めたんだけど」
「DIOの館...ねぇ」
「参加者にもいたよな、DIO。まあそれはおいておいて、だ。辺りを探索してたら雪子ってやつがいて」
「いっ!?」

足立が殊更に驚き、その思いがけない反応にエンヴィーもまた驚く。

「な、なんだよ」
「い、いや、なんでもないよ、うん。話を続けてもらっていいかな」

改めて冷静に取り繕おうとする足立に疑念を抱くが、いまは置いておく。

「...で、その雪子って奴なんだが、これがまたえげつない殺され方されてな。マスタングって奴が、笑いながら焼き殺したんだよ」
「や、焼き殺した?」
「ああ。いま思い出しても胸糞ワリィ...」

雪子の惨状を聞き顔をしかめる足立。
人を焼き殺して喜ぶ人間なんぞ、それこそキンブリーくらいだろうなと、なんとなく思いつつも話を進める。

「で、そのマスタングの奴と組んでるのがイェーガーズって組織のウェイブ。こいつも中々ド外道でな。弱者を殺しにかかるのは勿論、雪子の死体を壊して弄ぶようなクソヤロウだ。
そりゃあ酷かったよ。まずは服を剥いで、それから手足を斬りおとして...」
「うっ...」

想像して気分が悪くなったのか、足立は顔を真っ青にしながら口を押える。
いい感じだ、とエンヴィーは実感する。

「一応、もう一人のクロメって奴はキンブリーって男が倒してくれたんだけど、それでもあいつらは殺しを止めないだろう。気の赴くままに殺して、殺して、殺しまわる...あたしには理解できねえよ」
「全くだよ...エスデスといい、イェーガーズってほんとロクでもない奴らだね」
「エスデスはあんたの味方じゃないのか?」
「一応は味方って扱いらしいけど、辺り構わず喧嘩ふっかけるわいきなりDIOを殺すって意気込むわ、絶対におかしいよ。...いま思うと、アヴドゥルさんを殺したのはあいつかもしれないね」
「イェーガーズの奴らには気をつけねえとな」

足立の言葉に同意しつつも、エンヴィーは内心ほくそ笑む。
足立もイェーガーズに不満を持っているのなら、ウェイブたちを追い詰めるには都合がいい。
悪評も遠慮なく吹き込める。

(楽しみにしときなよ大佐、ウェイブ。このエンヴィーがあんたたちに最悪のステージを用意してやるからさ)


127 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:40:20 h7ouWzLQ0


「チッ...イリヤの奴どこいきやがった」

イリヤを追うため、千枝たちと別れたヒルダ。
しかし、いくら周囲を探索してもイリヤの影も形も見当たらない。

(てっきりあたしを殺しにくると思ったが...あいつ、まだ完全に"乗った"わけじゃねえのか?)

まだ迷ってるのなら大いに結構。
子供だろうがなんだろうが容赦しない。
その隙をついて、二度と殺し合いに乗りたくないって思うくらいぶちのめしてやる。

(落ち着け...あいつが向かいそうな場所は...)

考えろ。あいつのいまの状態を。
考えろ。あいつの行動パターンを。
考えろ。あいつの向かいそうな場所は―――

「わかるわけねえだろ、クソッ」

ヒルダはイリヤについてなにも知らない。クロエから主観的な情報を聞いただけだ。
それに、会って数分程度な上に敵対関係だ。
彼女の行動パターンを推測しようにもロクな情報はないし、趣味趣向すらもわからない。
そこから居場所を割り出すなど以ての外だ。

(結局、しらみつぶしに探すかあいつから現れるのを待つしかねえか)

あれだけ意気込んで啖呵をきったくせに何も収穫無しでは示しがつかない。
勿論自分とアンジュの命は最優先であり、無理をして命を無駄に散らすような真似はしたくないが、いまはまだ千枝たちの力を借りるつもりはない。
警戒心を保ちつつ、きょろきょろと周囲を見渡した時だ。

微かにがたんごとんと音を立て、遠方から電車が走ってくる。
あの電車は、人が乗り込んでから出発する。だとすれば...

(...誰か乗ってきてるのか?)


128 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:41:12 h7ouWzLQ0


水分を補給するために、水鉄砲を手にする足立。

「っつぅ...」

しかし、右腕に激痛が走り落としてしまう。

「どうしたよ」
「僕、この通りボロボロだからさ...ちょっと、ね」
「見せてみな」

右腕を押さえながら苦笑いを浮かべる足立。
そんな足立を心配して―――というわけではないが、足立の腕の裾をまくり、エンヴィーは興味本位でその怪我の容態を診る。

「うわっ、なんだこれ」
「うげぇ...」

その右腕の惨状に、エンヴィーも足立もうげぇと舌を出す。
どれほどうっ血すればこうなるというのだろうか。
足立の右腕は、ドス黒く変色していた。

「なにされたらこんなふうになるんだよ」
「たぶん、承太郎くんに殴られたからかな」

足立の心当たりは、承太郎のスタープラチナ...ではなく、暁美ほむら。
あの妙な黒い翼。動きを封じるためだけのものだと思っていたが、どうにも違ったらしい。
あの時、マガツイザナギの腕を握りつぶされたのかそれとも妙な能力でもあったのか...
なんにせよ、辛うじて動かせる程度なので、しばらく戦闘は避けるべきだろう。

「悪いが治療道具は持ってねえからな。駅に着くまで我慢しな」
「あぁ、そう...」

エンヴィーの言葉に溜め息をつく足立。
比較的痛みの少ない左手で、かちかちと水鉄砲のトリガーを引く。

「...なんでペットボトル使わないんだ?」
「コンサートホールのいざこざでちょっとね」
「ふーん」

エンヴィーの目に微かに懐疑の念が込められていると思った足立は、うぅっと僅かに身を竦める。

(やっぱり怪しいよなぁ...コレ)

わざわざ配られているペットボトルを使わず水鉄砲で水分補給をする。どう見ても怪しい。
コンサートホールの件で失くしたとは言ってあるが、身体検査でもされようものなら毒入りのペットボトルがあることがバレてしまう。
何かに使えるかもと取っていたが、処分した方がよさそうだ。
さて、どうやって目の前のヒルダ(エンヴィー)の眼を盗んで処分しようかと悩んでいた時だった。

「おっ...もうすぐ着くみたいだな」




そして、電車は目的地へと辿りつく。

悪意はまだ、姿を見せない


129 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:42:34 h7ouWzLQ0


息をいっぱいに吸って、吐いて。
激戦続きのあの時間からようやく解放されたと一息をつく。

「なに呑気してんだよ。さっさといくぞ」
「ごめんごめん...で、どこ向かうの?」
「闘技場。そこなら医療品の一つや二つあんだろ」

闘技場。
その選択に足立は眉をひそめる。

広川が放送で提示した首輪交換所。その一つが闘技場だ。
つまり、そこを訪れるのは他者の首輪を持っている者。
即ち、殺し合いに乗った者が集まる可能性がかなり高い。
あるかどうかもわからない医療品ひとつのためにそこまでリスクを冒す必要は無い。

(もしかしてこの女、乗ってるのかな...このままだとちょっとマズイかも)

足立としては、ゲーム肯定派と組むことも考えている。
しかし、いまの足立のこの状態で誰が組もうと思えるだろうか。
それなら素直に殺して首輪を回収してしまう方がいい。足立も逆の立場ならそうする。
いっそのことこの女を殺してしまおうか。しかし、いまのコンディションではそれができるか怪しいし、この女の得体も知れていない。
とにもかくにも、いまは休憩が欲しい。
どうやってそう切り出そうか悩んでいたその時だ。


「動くな」


カチャリ、と拳銃を突きつけるような音が背後から聞こえる。

「え、えと」
「振り向きもするんじゃねえ」

威圧するような声に、思わず両手を挙げて従ってしまう。
ヒルダ(エンヴィー)もいまはそれに従ってはくれているようで、両手を挙げて動かない。

「...二人共。ゆっくりと振り向きな」

指示に従い、二人はゆっくりと振り返る。


「え...あれ?」

振り向いた先にいた者。
その在りえない存在に、足立は思わず息を吞んだ。



「ヒルダちゃんが、二人?」


130 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:43:13 h7ouWzLQ0
「え...きみ、双子だったの?」
「んなわけあるか。本物はあたしだ。あんたはそいつに騙されてんだよ」
「はぁ?どの口が言ってんだ。いきなり出てきてよくそんなことが言えるねぇ」
「いいからさっさと正体を見せな。じゃねーとその頭ブチ抜く」
「正体?なに言ってんのさ、私がヒルダだ。あんたこそさっさと正体見せなよ偽者さんよぉ」
「あたしと同じ様な顔で喋るんじゃねえ...胸糞ワルくなる」

予期せぬ事態に、エンヴィーは内心舌打ちをする。

(こうならねえように、足立とは早めに別れて変身を解こうかと思ったのによ...クソッ)

傷ついた足立を前にして、わざわざ闘技場へ向かうと宣言したのは、彼に警戒心を抱かせて別れるためだ。
殺しに乗った人物が集まりやすい場所に傷ついた者と一緒にわざわざ向かう...普通なら、その時点で警戒するはずだ。
そこで向こうが別れ話を持ち掛けてきたら、適当に襲って逃がし、マスタングたちだけでなくヒルダたちにも疑念を撒き散らすつもりだった。
そして自分一人になったところを見計らって別の姿を借りるつもりだった。
しかし、まさかこうも早くヒルダ本人と鉢合わせになるとは思ってもいなかった。

「なあ、あんたならあたしを信じてくれるよな?」

未だに困惑する足立へと助け舟を求めるエンヴィー。

パァン、という渇いた銃声が響く。

足立の答えを聞く前に、エンヴィーの額に穴が空き倒れてしまう。
突如ぶちまけられる血に、脳漿に、足立は思わず尻もちを着いてしまった。

「え、ちょ、なにしてんのさきみ!?」
「言っただろ、動いたら撃つってさ」

澄ました態度で、指一つ震わさずに言うヒルダ。
そんな彼女を見て足立は思う。

―――ああ、やっぱりコイツもイカレてやがるのか。

自分の不運っぷりもここまでくると笑えてくる。
しかし、その引きつった笑みも、すぐに驚愕に包まれることになる。


131 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:44:05 h7ouWzLQ0
「イッタいなぁ、もう」

足立のすぐ側から聞こえてくる声。
血と脳漿をぶちまけたはずのヒルダ(エンヴィー)の頭部が、微かな電子音のようなものと共に修復されていた。

「てめぇ...!?」
「ヒドいなぁ。仮にも自分の姿だよ?もっと丁寧に扱ってあげなよ」
「チッ、今さらこの程度であたしがビビると思うんじゃねえぞ」
「あっはっはっ。良く吼えるじゃんか。ちっぽけな人間の癖して、さぁ!」

エンヴィーが脚に力を込め、一気にヒルダとの距離を詰める。
エンヴィーが伸ばした右腕がヒルダの左肩を掠めると同時、弾丸がエンヴィーのこめかみを貫く。
ヒルダがそのまま身を翻すと、エンヴィーは勢い余って地面を転がる。

「へーえ、結構やるじゃんお姉さん」
「ハッ、てめえに褒められても嬉しくもなんともねえよ、クソが」

ヒルダは、未だに死なないエンヴィーと痛む左肩に顔をしかめる。

(コイツ...なんてパワーだ。頭ブチ抜いても死なねえし、ほんとに人間か?)

エンヴィーの手は、ヒルダに微かに触れただけだ。
しかし、こうして肉は裂け、血がにじみ出ている。
まともにくらえば一溜りもないだろう。

(チッ、拳銃一つじゃ分が悪い...)
「おい、そこのモヤシ野郎!」
「え、僕?」
「悪いが、ちょいと貸してもらうよ!」
「あっ、ちょっと!」

言うが早いか、足立のデイパックをひったくり、乱暴に手をツッコむヒルダ。


132 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:44:50 h7ouWzLQ0
「ハッ、そんな隙を見逃すとでも」
「うるせえ!」

エンヴィーの膝を撃ちぬき、その隙にヒルダはデイパックを探る。
しかし、ものの数秒でエンヴィーの膝は完治し、ヒルダへの距離を詰めてくる。

(はえぇ!ちくしょう、こうなりゃやけだ!)

デイパックの中で掴んだ何かを引っ張り出し、やぶれかぶれに横なぎに振るう。

「無駄だよ!そんな都合よくイイ物があるわけ...あ?」

ヒルダの顔面を掴むために伸ばした右掌の五指が、スッパリと切れ、地面に落ちる。
ヒルダの手に握られていたのは、光の剣フォトンソード。
その凄まじい切れ味にはヒルダもエンヴィーも驚きが隠せない。
が、しかし。

「こりゃいいや」

その切れ味を認識するや否や、ヒルダはにたりと笑みを浮かべ、エンヴィーへとフォトンソードを振るう。
流石に防ぎきれないと判断し、エンヴィーは繰り出される剣撃を避け、距離をとる。

「っとと...運の良い奴」
「へっ、こういうのは日頃の行いがモノを言うのさ」

斬りおとされた指を再生させながら、エンヴィーは舌打ちする。

(あいつ本人はそこまで脅威じゃないけど、あの剣は厄介だな)

あの剣の切れ味はそうとうのものだ。
普段なら、それなりのダメージと引き換えに殺すところだが、この場ではそうもいかない。
参加者の証であるこの首輪―――マスタングの炎では壊れなかったが、あの剣にも通じるかは分からない。
もしあの剣が首輪に当たり爆発など起こせばシャレにならない。

(だったら...)

首輪を狙う暇さえないほどの圧倒的なパワーで蹂躙してやればいい。


133 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:46:01 h7ouWzLQ0
「どう利用してやろうかと思ったけど...もういいや」

エンヴィーの身体から、メキメキと音が鳴りはじめる。
バランスのとれていた女性の肢体は、太く醜いなにかへと変化していく。

「へっ、ドラゴンにでも変身するってのか?」

徐々に変貌していくエンヴィーの姿にもヒルダは動揺を見せない。
ドラゴンが人間に、人間がドラゴンへと変身することだってあるのだ。
今さら、目の前の自分にそっくりな女がどう変貌しようが、大して驚きは


メキメキ



驚きは...



メキメキ



「......」



メキメキメキメキ


エンヴィーの全身が、巨大なトカゲのような形態へと変貌を遂げる。
その全長―――およそ、20メートルはくだらないだろう。



(デカすぎだろ...)


134 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:47:01 h7ouWzLQ0


『ドうだ』

エンヴィーの身体に組み込まれた亡者たちが、口々に言葉を発する。

『これガ』
『オレの』
『俺の』
『私の』
『姿を』

(なんだあいつら...生きてるのか?)

「この身体加減がきかないからさぁ...覚悟しなよ?」

エンヴィーの腕が振り下ろされ、地面に叩き付けられる。

「ッ!」

それを避けるヒルダ。しかし、エンヴィーの追撃は止まない。
まるでモグラたたきのようにエンヴィーの腕が次々に振り下ろされる。
モグラたたきと違うのは、一度全力で叩かれればそれだけでアウトという点か。

『コの姿を』
「あっはっはっ、逃げてばかりだねぇ。さっきまでの威勢はどうしたんだい!?」
「調子こいてられんのもいまのうち...ッ!」

横なぎに振るわれる尻尾を思わず跳躍で躱してしまう。

「しまっ」

自分の迂闊さに気が付いた時にはもう遅い。
無造作に振るわれる張り手がヒルダを吹き飛ばし、近くの建物のガラスを突き破る。

『見ルな』
『僕を』
『見るな...!』
「ハッハァ、ようやく一発返せたよ。ちっぽけな人間には重すぎるかもしれないけどねぇ」

満足げに鼻を鳴らすエンヴィー。
ヒルダへとトドメを刺すために、のしのしと建物へと近づいていく。


135 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:49:08 h7ouWzLQ0



「それで、このエンヴィーを置いてどこに行くつもりかな足立さん」
「げっ!?」

戦場からの逃亡を試みて、電車へと向かっていた足立の背がビクリと震える。

「い、いや、ホラさ。僕には関係ないみたいだし...」
「関係はあるさ。お前はこの姿を見たからなぁ!」

エンヴィーが足立へと振り返り、その巨体をぶつけるために突進する。

「うわあ!」

足立は見た目以上に速いそれを必死に横っ飛びで躱し、エンヴィーは電車にぶつかる寸前に停止する。

「ほんと勘弁してよ!きみのことは言いふらさないってば!」
「ダメだね。この嫉妬(エンヴィー)の姿を見た奴には、死あるのみだ」
(クソがぁぁぁあ!お前が勝手に変身しただけじゃねえか!)

押さえきれない激情を隠しきれず、足立は怒りに顔を歪ませる。
しかし、それでも頭の中では必死に、且つ冷静に逃走の手段を試行錯誤する。

(クソッ、電車にさえ乗っちまえばこっちのモンだったのに...!)

この電車は人が乗ってから動くことが判明している。
そのため、エンヴィーがヒルダの相手をしている隙に乗り込み戦場から退散するつもりだった。
しかし、電車はいま、エンヴィーの背後にある。
エンヴィーの身体を掻い潜って乗り込んだところで、速度をつける前に捕まってしまうだろう。
ならば、体力がもつまで全力疾走か?...おそらく、厳しいものがある。
残された道はひとつ。覚悟を決め、戦うしかない...
足立がそんな絶望感に苛まれていた時だ。

「あんた、コイツに乗りたいんだよなぁ」
「あ?」
「そうだよなぁ、速度さえノっちまえばこのエンヴィーでも追いつけないもんなぁ」

エンヴィーが、電車に手を乗せニタリといやらしい笑みを作る。

「くれてやるよ、これ」

思わず足立は「は?」と声を漏らし、疑問符を浮かべる。
あれだけ大見得きったにも関わらず逃がしてくれるというのだろうか。
いや、だったら最初から殺しにかかってくるはずがない。
それにくれてやるというのはどういうことだ?
乗せる、ではなく、くれてやる?

エンヴィーが、腕を大きく振りかぶる。

その瞬間、足立は彼の笑みの、言葉の意味を、悪意を理解した。

エンヴィーは、あの電車を殴りつけ、足立へととばすつもりだ。
逃走手段も減らし、且つ攻撃もできる、実にダイナミックで素敵な攻撃方法だ。

(うそだろおい!冗談じゃねえぞ!)

足立の背にどっと冷や汗が流れる。
このままでは死ぬ。
もうやけくそでもなんでも抵抗しなければ生き残る目すら見えない。
足立が、反射的に掌のタロットカードを握ると同時に。

「しっかり受け止めなよ、じゃないと怪我じゃすまないからさぁ!」

振りかぶられたエンヴィーの腕は電車に当たり



―――『見えない悪意』は、牙を剥いた。


136 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:51:03 h7ouWzLQ0


「ま、マガツイザナギィィィィ!!!」

タロットカードが握りつぶされ、マガツイザナギが姿を現す。
降りかかってくるであろう電車を防ぐため、咄嗟に召喚したマガツイザナギは、しかし予期せぬ爆撃に煽られる。

「うああああああッ!!」

四散した電車の欠片や爆風が、マガツイザナギに襲い掛かり、本体の足立ごと後方へ大きく吹き飛ばす。

(どうして...どうして俺ばっかこんな目に)

地面を転がり、不様に這いつくばり、薄れゆく意識の中で足立は思う。

ここに来てから本当にロクな奴に遭っていない。
戦闘狂のクソ女エスデス。
そのエスデスの部下のイェーガーズ、セリュー。
クソガキヤンキーの承太郎。
躊躇いなく他人のドタマをカチ割れるイカレ女、ヒルダ。
ほぼゾンビのまどかとほむらにエンヴィーとかいうモンスター共。
そして、やたらと自分に厳しく当たってくる広川とかいうクソ主催。
マトモな奴がほとんどいない。

(アヴドゥルさん、ヒースクリフ...まともなのはあんたらだけかよ、チクショウ)

ヒースクリフ。終始こちらを警戒していたようだが、こんな状況ではそれが当たり前だ。発言自体はそこまで異常じゃなかったし。
アヴドゥル。かなりのお人好しで合わないタイプだと思っていたが、いい歳こいて尚その正義感は、どこか『あの人』に通じていたような気がした。
いま思えば、あのむさ苦しい面子で大人しくしていた時が一番楽だった気もする。

(ほんと...クソだな)

自分にばかりツラく当たってくるこの殺し合いへの呪詛を吐きながら。
足立の意識は闇へと落ちた。





「なにかめぼしい物は...あった」

ごそごそと足立のポケットを漁るのは、傷だらけでありながらも生存していたヒルダ。
建物に叩き込まれていたのが幸いし、距離もあったため、さほど爆撃の被害を受けずに済んでいた。

(にしてもあの電車...爆発の仕方が妙だったな。破壊されたから、というよりは、あの化け物が触れた途端に爆発したように見えた)

もしも、衝撃で電車の一部が壊れたせいだとしても、すぐに爆発するはずはなく、最低でも数十秒はタイムラグがあるはず。
しかし、先程の電車はエンヴィーが触れた途端に爆発した。
まるで、エンヴィーが起爆スイッチを押してしまったかのように。

(なんにせよ...いまのうちに離れた方がよさそうだな)

エンヴィーはどうなったかわからないが、もしイリヤが爆発音を聞きつけて来れば、厄介なことこの上ない。
タイマンなら望むところだが、エンヴィーと同時に遭遇することになれば勝ち目はないだろう。
それに、この気絶している男―――警察手帳から名前を確認できた―――足立透のこともある。

(確か千枝の知り合いだったよな...頼りにならない奴だとは聞いてたけど、死んで嬉しい奴でもねえだろ)

別に連れて歩く義理もないが、ここで会ったのもなにかの縁だ。
もう地獄門へと向かったかもしれないが、運が良ければ、知り合い同士念願の再会となる。
ヒルダは、足立をジュネスへと運ぶことにした。

それが、新たな災いの種になるとも知らずに。


137 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:51:55 h7ouWzLQ0
【F-7/一日目/午後に限りなく近い日中】

【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(極大) 、爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血、気絶
[装備]:MPS AA‐12(残弾4/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率、
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み) 警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:対主催に紛れ込んで身の安全を確保する。無理ならゲーム肯定派と手を組む(有力候補は魏志軍)。
1:ゲームに参加している鳴上悠・里中千枝の殺害。
2:自分が悪とバレた時は相手を殺す。
3:隙あらば、同行者を殺害して所持品を奪う。
4:エスデスとは会いたくない。
5:DIO...できれば会いたくないし気が進まないけど、ねぇ。
6:しばらく交戦は避けたい。休みたい。 ほんと勘弁してくれよ!
7:殺人者名簿を上手く使う。
8:広川死ね!あの化け物(エンヴィー)死ね!もうみんな死ね!
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。





【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(中〜大) 、左肩にダメージ、ノーパン、頭部出血(中)、全身にガラスによる切り傷。
[装備]:グロック17@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2、クロのパンツ フォトンソード@ソードアート・オンライン
[思考]
基本:ノーマらしく殺し合いを潰す。
1:イリヤをぶちのめす。あの化け物(エンヴィー、名前は知らない)には要警戒。
2:足立をジュネスに運ぶ。ジュネスに足立を置いていった後、再びイリヤの捜索に出る。
3:エンブリヲを殺す。
4:アンジュに平行世界のことを聞いてみる。
5:マスタングとイェーガーズを警戒。マスタングは千枝とは会わせないほうが良いかもしれないが、千枝には決着はつけさせておきたい。
6:キンブリーの言葉を鵜呑みにしない。
7:千枝とは別行動し、全てが片付いたら地獄門で合流する。
[備考]
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。
※クロエの知り合いの情報を得ました。
※平行世界について半信半疑です。
※キンブリーと情報交換しました
※足立がペルソナを召還した場面は見ていません。


138 : 見えない悪意 ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:53:38 h7ouWzLQ0

爆発した電車。
崩落した線路。
もうもうと立ち昇る煙の中で、蠢く影が一つ。

「ぷはぁっ...はぁっ、はぁっ...」

無事に身体の再生を終えたエンヴィー。
いまの彼の姿はヒルダでも醜い本性でもなく。
普段から愛用している、自称『若くてかわいい』少年の姿に戻っていた。

「チッ」

舌うち混じりに、足元の電車の破片を蹴り、八つ当たりをする。
電車は、エンヴィーが殴りつけた瞬間爆発した。
あの場にいたのは、エンヴィー、足立、ヒルダの三人。
ならば、足立が電車が爆発するように仕組んでいたのだろうか。

(いいや、こんなことが出来るのはお前しかいないよなぁ)

意気揚揚と電車を爆弾に錬成したであろうあの男の顔を思い浮かべて、再び破片を蹴りあげる。

おそらく、彼も自分がやったことはバレても構わないと思っているはずだ。
だから、電車が走っている時に爆発をさせなかった。
ならば、その意味は?―――深い意味なんてない。ただのイタズラ心だろう。

「いいさキンブリー。お前はそういう奴だ。このことでお前を責めはしないよ」

溜め息をつき、一呼吸を置いて。

「だが、このエンヴィーに喧嘩を売ったんだ。楽に死ねると思うなよ、紅蓮の錬金術師」

嫉妬の顔は、怒りと楽しみに満ち溢れた。


【F-8/一日目/午後に限りなく近い日中】

※電車が爆発し四散しました。
※爆発音が周囲に響き渡りました。
※鉄道が崩落しました。どの程度で修復されるかは他の書き手様に任せます。

【エンヴィー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、賢者の石消費(マスタングとの戦闘で焼かれた分も含めて残り40%)
[装備]:ニューナンブ@PERSONA4 the Animation、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[道具]:ディパック、基本支給品×2、詳細名簿、天城雪子の首輪
[思考]
基本:好き勝手に楽しむ。
0:キンブリーぶっ殺す。(今すぐ向かうか、首輪を交換してから向かうか...)
1:闘技場で首輪交換制度を試す。
2:色々な参加者の姿になって攪乱する。
3:エドワードには……?
4:ラース、プライドと戦うつもりはない、ラースに会ったらダークリパルサーを渡してやってもいい。
5:強い参加者はキンブリーに大佐たちの悪評を流させて潰しあわせる。
[備考]
※参戦時期は死亡後。


139 : ◆dKv6nbYMB. :2015/12/10(木) 09:54:23 h7ouWzLQ0
投下終了です


140 : 名無しさん :2015/12/10(木) 10:03:10 jOEWaG6c0
投下乙です
足立さんまたこんな目に・・・。仮にもラスボスですよね(´・ω・`)

「ダメだね。この嫉妬(エンヴィー)の姿を見た奴には、死あるのみだ」
(クソがぁぁぁあ!お前が勝手に変身しただけじゃねえか!)

そして的確なツッコミ。足立さんそろそろマガツイザナギ出しながら歩いてもいいんじゃないですかね・・・


141 : 名無しさん :2015/12/10(木) 11:39:11 Pq8AEaHM0
投下乙です
ここまでツイてない刑事は足立さんかジョン・マクレーンかって所でしょうか
マーダーなのに凄く頑張って欲しいと思えてくるから不思議な人だ


142 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/11(金) 00:42:37 IDCqROSM0
投下します


143 : かわいい破滅 ◆MoMtB45b5k :2015/12/11(金) 00:43:07 IDCqROSM0
ロイ・マスタング、空条承太郎、セリュー・ユビキタスとの激闘を終えたキンブリー。
彼は、今や周囲が完全に崩壊し、ぽつんと文字通り取り残された民宿のベッドの上に倒れていた。
セリューの捨て身の攻撃により、全身に火傷を負った。
さらには作り出した3体の骸人形に加え、切り札の流星の欠片も失っている。
何度も死線を潜り抜けてきた紅蓮の錬金術師といえど、疲弊を隠すことはできなかった。

(……痛いですね)

意識を覚醒させたキンブリーが感じたのは、全身を苛む痛みだった。
火傷に加え、右頬の骨を折られてもいる。

(やりたいことは多いですが……)

ウェイブや大佐、最初に遭遇した風を操る少女は殺しておきたい。
武器庫に設置されたという首輪交換も試してみたい。

(この様では果たせるかどうか)

俗に、体表の70%に火傷を負うと死に至るという。
今のキンブリーの上半身は、その多くが赤黒い傷に覆われている。
加えて息に苦しさを感じることを考えると、気道のどこかにも熱傷を負っているかもしれない。
水を体にかけて、とりあえずの応急処置だけはしておく。

(とりあえず、この場でできる首輪の解析だけでも進めましょう)

爆弾のエキスパートらしく冷静に分析をしながら、懐から首輪を取り出そうとする。
その時だった。
民宿の入口から人の気配がした。

(やれやれ、こんな時にお客さんですか)

殺し合いに乗っている人物ならば、今自分は間違いなく殺されるだろう。
しかし、無抵抗に殺されるのは性に合わない。
錬金術を発動させる準備をすると、来訪者を待ち受ける。


144 : かわいい破滅 ◆MoMtB45b5k :2015/12/11(金) 00:43:23 IDCqROSM0

(――ほう、これはこれは)

現れたのは、戦場にはあまりにも似つかわしくない人物。
ピンクの華やかな衣装をまとった白髪の少女が、ベッドの傍らに立ちすくんでいた。
予想外の子どもの登場に、緊張感を削がれてしまう。
自分から積極的に攻撃するような気はなくなる。
そのまま、事が起こるのを待ち――

キンブリーが予期した瞬間はやってこなかった。

「殺さないのですか?」







時はしばらく遡る。
交戦した女性の3人組を見失ったイリヤは、西へ飛行していた。
クロエのために、美遊のために、一刻も早く殺さなければならない。
でも、あの3人には会いたくはない。

『――違う。怖いだけ、手放すのが』

『一人にして欲しくない』

『ずっとそばに居て欲しい』

特に、青い服の少女には絶対に会いたくなかった。
盲目らしいにもかかわらず、自分の心中を的確に見通すような物言いは、あまりにも怖かった。
途中で爆発音が聞こえ、噴煙が上がるのを見たが、それを無視する。
今の気持ちを引きずったまま、戦いに行くことはできなかった。
逃げるように、西へ西へと飛行する。
そのうち、ぽつんと浮いている民宿らしき建物が見えた。

(疲れたな……)

精神的な疲労が大きい。
爆発の跡らしきものが見えるが、小さな半島のような場所の中に生きている人間の影は見えない。
眠っていくつもりはさすがにないが、民宿なら体を休めることができる。
それに、もう一度きちんとルビーを説得したい。
イリヤは一直線に民宿へと向かっていく。

『……マスター、一番近い部屋に誰かいます』

民宿の入口に立つと、ずっと黙っていたルビーが告げた。

(誰、だろう……でも)


145 : かわいい破滅 ◆MoMtB45b5k :2015/12/11(金) 00:43:41 IDCqROSM0

誰がいようと、どうせ全員殺すのだ。
それに、ここはほとんど孤島だ。
危険な相手でも、自分ならならば空を飛んで逃げられる。
心臓の鼓動を押さえつけ、扉に手をかけた。

「!!」

イリヤの目に飛び込んできたのは、紳士然とした男がベッドに倒れている光景だった。

(ひどい傷……)

男の上半身は火傷のような赤黒い傷に覆われていた。

(冷やしてあげなきゃ――。――?)

待て。
反射的に動こうとしたイリヤの動きが、止まる。
傷の治療?
なぜそんなことをする必要があるのだろうか。
自分はどうしてそんなことを考えたのだろうか。

改めて、男を見る。
呼吸はしているが、動く様子はない。
もちろん、自分に攻撃してくる様子もない。
その姿はあまりにも無防備に見えた。

――今なら、殺せる

(――っ!!)

イリヤの心臓が、再びどくんと跳ねた。
男に向き直る。
ステッキを構える。

『イリヤさん、やめて下さい!』

呼吸が早まる。
鼓動が爆発しそうだ。
先ほど3人を襲った時とは比べ物にならない緊張がイリヤの体を襲う。
ルビーの言葉も、耳に入ってこない。

そのまま時間は5分ほど経っただろうか。

事態は動かなかった。
イリヤは荒い呼吸のまま、男をじっと見据えていた。

「殺さないのですか?」







「――え?」

声をかけられるとは思っていなかったイリヤは、思わず間の抜けた声を上げた。

「はじめまして、お嬢さん。
 お見苦しい姿で申し訳ありませんが、ゾルフ・J・キンブリーと申します」


146 : かわいい破滅 ◆MoMtB45b5k :2015/12/11(金) 00:44:14 IDCqROSM0

キンブリーはぎこちなく身を起こす。

「不躾な質問を繰り返しますが、お嬢さんは私を殺さないのですか?」
 先ほどまでの貴方は、そうしようとしているように見えましたが」

「な、何を言って――」

「その杖。玩具のように見えますが、私たちが扱う錬金術とは違った強い力を秘めている様子だ。
 貴方は私のような怪我人を見て、助け起こすでも治療するでもなく、そんな代物を持って立っている。
 この場が殺し合いであることを考えれば、これはもう私を殺そうとしているとしか考えられません」

怪我人とは思えない口調で、キンブリーは言葉を綴っていく。

「それで、貴方はどうしますか? 私を殺しますか?」

「殺すって……殺すって、そんなの……」

問いかけにイリヤは首を振り、涙を流す。

「分かんない、分かんないよ……
 私だって、誰かを殺したりなんてしたくない……怖い、怖いよ!
 でもでも! 美遊とクロには絶対、もう一度会いたい……
 だから、私がやらなきゃ……でも……」

そのままキンブリーから視線を逸らし、泣きじゃくるイリヤ。

「お嬢さん」

そんなキンブリーは優しげに声をかけた。

「美遊、クロぉ……」

「事情はおおよそ分かりました」

「……え……?」

その声に、イリヤは顔を上げる。

「貴方はおおかた、最初はこんな殺し合いなどに乗るつもりはなかったのでしょう。
 それが、美遊さんとクロさんというご友人が亡くなってしまった。
 だから貴方は、2人を蘇らせるためにこの殺し合いに優勝したい」

そういうわけですよね、とキンブリーは投げかける。

「……そう、だよ。
 だってだって、クロを殺したのはこの私なんだよっ……
 もう一度会えなきゃ、謝ることもできないよぉ……」

再び顔を伏せるイリヤ。
そんな彼女をキンブリーは興味深げに見やる。


147 : かわいい破滅 ◆MoMtB45b5k :2015/12/11(金) 00:44:57 IDCqROSM0

(ほう、単に友人を失っただけでなく自ら手にかけたとは予想外ですね)

様子からして、故意ではなく事故か何かだったのだろう。

「お嬢さん、お名前は何と仰いますか」

「……イリヤ……」

「イリヤさん。貴方が殺し合いに乗るというのなら、私が助けになりましょう。
 ――私を殺しなさい」

「……え……?」

その声に、イリヤの体の芯は急速に冷えていった。

「イリヤさん。私はここに来てから少なくとも3人――まあ、1人は犬でしたが――の命を手にかけています。武器はこの刀です」

畳みかけるように言葉を放つ。
ベッドの傍らに抜き身の八房を置く。
黒光りする刀身に、そのイリヤは息を呑む。

「それに私、ここに来る前は軍人でしてね」

「戦争に出向いては、数えきれないほどの命を奪ってきました」

「巷では私のことを爆弾狂だとか、紅蓮の錬金術師だとか呼びます」

「そういうわけで、私は貴方のような子供にとって模範となるような人間ではないし、ましてや正しい道を教えることもできません」

「ただし、この場が殺し合いであり、貴方が目的のために殺し合いに乗るとなれば話は違います」

「私のような人殺しでも、教えることができる」

「殺していく道を、教えることができます」

次々に聞こえてくる日常からかけ離れた単語の数々に、イリヤが呆然とするのも構わず。
キンブリーはさらに言葉を続ける。

「イリヤさん、先ほどクロさんを殺したと仰いましたね。
 その時の状況はどんなものでしたか?」

その言葉に、イリヤはしばらく考え込むと、あの時のことを語り出した。

「わかんない……クロが戦って、すごく傷付いてて。そしたら私、急に今すぐ殺さなきゃって思って……
 そんなことしたくないのに、体は勝手に動いて……、こ、殺しちゃった……殺しちゃった……」

「なるほど、殺したのは自分の意思ではないということですね」


148 : かわいい破滅 ◆MoMtB45b5k :2015/12/11(金) 00:45:13 IDCqROSM0

「そうだよ、信じて……信じてよっ……! クロは絶対死んでほしくないのに、なんで、私……」

「落ち着いてください」

また泣き出しそうになるイリヤをキンブリーは宥める。

「自分の意思とは関係なく、イリヤさんの体は動いたということですね。
 ならば、イリヤさん。あなたは何者かに体を操られていた可能性が大きい」

「え……」

「平たく言えば、クロさんが死んだのは貴方のせいではないということです」

「私の、せいじゃ……ない?」

思い返す。
何かがおかしいという感じはあった。
この殺し合いの最初――DIOたちと別れてからだ。
ルビーや同行者たちとの会話が、どこかでずれていたような気がする。

「……でも」

けれど。

「そんなこと、言ったって……! 美遊もクロも、死んじゃった……!
 もう2度と帰って来ないんだよ! だから、私は……」

「殺し合いに乗りたい。でも決心がつかない。
 ――そういうことですね」

イリヤは震えながら頷く。
そしてキンブリーは、再び長い言葉を紡ぎ始める。

「話は戻ります」

「私は殺し合いに乗っています。貴方も殺し合いに乗るというのなら、ぜひご協力をしたい」

「ところが、今の私は不覚にもこのような有様」

「これでは殺し方をご教授するどころか、元気な貴女と一緒に行動しては足手まといになりかねない」

「そこで、こういった形でご協力をいたしましょう」


149 : かわいい破滅 ◆MoMtB45b5k :2015/12/11(金) 00:45:43 IDCqROSM0

「あなたは殺し合いに乗りたいが、決心がつかない」

「ならば、私は貴方に殺されましょう」

「私は意思を貫く人が好きです」

「自ら軍服を着ておきながら、殺すのは嫌だとわめき散らす連中を私はたくさん見てきました」

「貴方にはそうなって欲しくない」

「貴方が私を殺すことで、誰かに操られるのではなく、自分の意思で殺す覚悟を決め、それを貫くことができるというのなら」

「私は喜んでこの身を差し出しましょう」

『――ふざけるな!!』

ここで、刺激するのを避けてずっと黙っていたルビーが、ついに爆発した。

『それ以上イリヤさんを誑かすんじゃない、この悪魔!!』

「ほう、話す道具とは珍しい。ぜひとも連れ帰って解析したいところですが……残念です」

しかしキンブリーは、そんなルビーの激情を飄々と受け流す。

『イリヤさん、これ以上この男の言葉に耳を貸してはなりません!」

「黙って!!!」

イリヤは、ここに来てから最も大きい声を上げた。

「黙って……。私は今、ルビーじゃなくてこの人と話をしてるんだよ」

その気迫に、ルビーは思わず気圧される。

「……では、お話の続きです。
 私はここに来てから色々な情報や物を掴みました。殺される前に、貴方にそれを授けましょう。
 まずはこの刀です」

先ほど取り出していた刀を掴む。

「八房というそうです。実に不思議な物でしてね、これで斬り殺した相手を自分の意のままに動く人形にできるそうです。
 何なら、これで私を殺して頂いても構いません。きっと良い戦力となるでしょう」

キンブリーは八房を差し出す。
イリヤは、それをしっかりとした手つきで受け取った。
次にキンブリーが取り出したのは、3つの首輪。


150 : かわいい破滅 ◆MoMtB45b5k :2015/12/11(金) 00:46:19 IDCqROSM0

「首輪交換のことは聞いていますね? 私は本当ならば北の武器庫へ行って、それを試そうとしていたところです。
 3つともかなりの戦力の持ち主でしたので、価値は高いでしょう。ああ、私を殺せば4つに増えますね。
 もっとも、私は爆弾に関してはエキスパートを自認しています。
 お待ち頂けるというなら、解析を試みてみましょう。この体でもそれくらいは可能でしょう」

イリヤは首輪を受け取る。
その手は、震えてはいなかった。

「それから、最後にとっておきの情報です。
 イリヤさん。貴方が決心がつかないのは、半信半疑なせいではないですか?
 『広川はああ言ったが、死んだ人間が生き帰るはずがない』とね。
 しかし、この私はですね――一度死んで、蘇ったのですよ」

その言葉に、イリヤの息は止まる。

「本当ですよ。名簿にも載っているセリム・ブラッドレイ――。
 彼は見かけは子供ですが、ホムンクルスというとんでもない化け物でしてね。
 私は確かに彼に食われて消えていったはずなんです。
 ――しかし現に、私の体はここにある」

「じゃ、じゃあ、クロ、も……」

キンブリーは頷く。

「ええ。死者の蘇生。私という生き証人がいる以上、広川の言っていたことは嘘ではない。
 私が貴方に殺されてもいいと言うのは、このこともあります。私はこの場ではどうせ死んだ人間ですのでね」

イリヤが息を飲む音が、静まり返った室内に響き渡る。

「それから、錬金術師としての最後の仕事もしておきましょうか」

ベッドの枕元にあったスタンドと時計を掴み、爆弾に錬成し、イリヤに渡す。

「残る言うべきことは――そうですね、ウェイブ、マスタング、黒子と名乗る人間。
 それから名前は分かりませんが、風を操る少女。
 この4人は、私が殺そうと思っていた人間です。ぜひ貴方が遺志を継いで殺していただきたいですね」

「……その風の女の子なら、死んだよ。
 ……私がクロを殺した時に、巻き込まれて……」

ぽつりと言うイリヤに、キンブリーは僅かに驚いた顔を見せる。


151 : かわいい破滅 ◆MoMtB45b5k :2015/12/11(金) 00:46:36 IDCqROSM0

「そうですか。あの少女は強い人間でした。
 ――やはりあなたには見所があるようだ」

キンブリーはイリヤに向き直る。

「――さあ。これで私の伝えるべきことは全てです」

「あとは何もかも、貴方のお気持ち次第」

「私を殺して殺し合いに乗るのも、やはり殺し合いに乗りはせず、このままここを立ち去るのも」

「どちらを選ぶのも、貴方の意思です」

「殺さないというのなら、私はその意思を大いに歓迎しましょう」

「しかし、貴方が殺し合いに乗るというのなら、これだけは言っておきましょうか」

「死から目を背けるな、前を見ろ」

「貴方が殺す人々のその姿を正面から見ろ」

「そして忘れるな、忘れるな、忘れるな」

「奴らも、そして私も、貴方の事を忘れない」

――そして部屋の中は、痛いほどの静寂が支配した。


少女――イリヤの体は、再び激しい動悸に包まれる。
この男を、殺す。
誰かに操られるのではなく、自分の意思で。
そうすれば、言われた通りだ。
美遊のために、クロエのために。
殺す覚悟が、今度こそ出来上がる。

イリヤは、男に向かって一歩を踏み出す。
その体はベッドに横たわったままだ。
ステッキを構える。

何だか、たくさんの人が自分を呼び止めている気がする
士郎、リン、竜子、美々、雀花。
色々な声が、自分の後から聞こえてくる。
それにさっきからずっと、ルビーが呼びかけているようにも思える。
今ならまだ、戻れる。
手にかけてしまったクロの他の2人にも、許してもらえるかもしれない。


152 : かわいい破滅 ◆MoMtB45b5k :2015/12/11(金) 00:46:53 IDCqROSM0

それでも。
美遊とクロの顔が浮かぶ。
笑ってくれなくても、いい。
2人に、会いたい。

声のするほうを振り返る。
たくさんの人の姿が見えた。
元からの知り合いだけでなく、ここに来てから会った人たちもいた。

でも、その中には。

美遊とクロの姿は、なかった。


幻は、消えた。

男に向き直る。

ステッキを振り下ろす。


その瞬間、部屋は巨大な閃光に包まれた。







男は、自分が異端であると知っていた。
それでも、男は殺しをやめず、男にとって正しく人生を生きた。
正しい道を歩み続ければ、良き最期を必ず迎えられると信じていた。
そして、男は望んだ通りの結末を手に入れた。

そのはずが、男は歪んだ意思によって、殺し合いの場へと再び立たされた。
2度目の人生でも、男は自分の思う正しい道を生きた。
己の美学に従って、殺し続けた。
そして今、2度目の望んだ通りの結末を――迎えようとしている。

「ああ……満足だ」

とても快い。
満ち足りた気持ちだ。
心残りがないわけではない。
だが、望み通りの死を2回も体験できる人間など、世界中を探してもどこにもいないだろう。
おまけに、今度は自分の遺志を継いでくれる人間まで現れたのだ。

「――実に素晴らしい」

キンブリーの意識は消えていく。
光が満ちる中で、その少女の姿は神々しくすら見えた。

「破滅の天使の誕生だ」



【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST 死亡】








153 : かわいい破滅 ◆MoMtB45b5k :2015/12/11(金) 00:47:05 IDCqROSM0






当初の目的通り、しばらく転身を解いて休みを取り、回復した後。
半壊した民宿を背に、イリヤは立っていた。
視線の先には、ここに来てから存在に気付いてはいたが、視界に入れないようにしていたものがある。
頭部がぐちゃぐちゃになった、上半身だけの女性の死体。
その首に、ステッキを当てる。

『イリヤさん、何を――』

ルビーが何か言い終わる前に、光が女性の頭を包んだ。
血まみれの首輪だけがぽとりと落ちる。
イリヤはそれを手早く引っ掴むと、空高く飛翔した。
目指すのは武器庫。
首輪交換機が設置され、キンブリーが目指していたと言っていた場所だ。

『……イリヤさん、もうやめてください。これ以上は――』

「……うるさいなあ」

何度目かの問いかけに、飛行がふと止まる。

「ルビーは私の何だっていうの? ただの道具じゃない!
 美遊とクロを生き返らせることができるの? できないでしょ!
 何もできないくせに私のやることにいちいち口を出さないで!」

『イリヤ、さん……』

「いい、ルビー? 今度何か私に口を出したら――ここから放り投げるからね」

下には何もない空中に差し出されるルビー。
そしてイリヤの目を見て――諦めたように、言葉を発した。

『……承知いたしました。
 カレイドステッキ・マジカルルビー。あなたのご意思に従います』

イリヤは、それでいいの、と呟くと。
禁止エリアを避け、武器庫に向けて一直線に飛んでいく。

(イリヤさん……私は)

死徒二十七祖の第4位に列するほとんど伝説の魔法使い、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。
彼が第二魔法を用いて作り出した魔術礼装、カレイドステッキ。その片割れたるマジカルルビー。
だがそんな肩書きも、この場においてはどうしようもなく無力だった。
人々を守ることはおろか、敬愛するマスターが堕ちてゆくことを止めることすらできなかった。
もしもルビーが肉体を人間であったなら、きっと泣いているのだろう。

そろそろ沈もうとしている陽射しを浴びながら、イリヤは飛ぶ。
その姿は本当に、天使のように見えた。





【C-5/上空/一日目/夕方】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:魔力消費(残り9割)、疲労(中)、飛行中
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・アーチャー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:
デイパック×3、基本支給品×3、DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ、DIOのサークレット、キンブリーの錬成した爆弾×2
死者行軍八房@アカメが斬る!、美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
イギーの首輪、クロメの首輪、空条承太郎の首輪、キンブリーの首輪、セリューの首輪、不明支給品0〜1
[思考]
基本:美遊とクロの味方として殺し合いに乗って二人を蘇らせる。
0:武器庫に行き、首輪交換を試す。
[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
※アカメ達と参加者の情報を交換しました。
※黒達と情報交換しました。
※「心裡掌握」による洗脳は効果時間が終了したため解除されました。
※クロエに分かれた魔力を回収したため、イリヤ本来の魔力が復活しました。


154 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/11(金) 00:48:02 IDCqROSM0
投下を終了します


155 : ◆w9XRhrM3HU :2015/12/11(金) 03:00:39 27iNGB/w0
投下乙です
イリヤがキチガイリヤに……
その内やっちゃえバーサーカーとか言い出しそう

投下します


156 : 天秤 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/11(金) 03:01:51 27iNGB/w0

「タスク、お前はブラッドレイから首輪の解析を頼まれたと言っていたな? あれから何か分かったか?」

潜在犯隔離施設。そこへ向かう道中、狡噛はタスクに首輪の解析の進行が進んでいるのか確認する。
だが、返った答えはNO。首を振り、何一つ分からないといった様子であった。
無理もないことだ。ここに来て、タスクは禄に首輪のサンプルにも触れていない。
そうなると、場合によってはブラッドレイとの停戦も破綻になる可能性がある。タスクが生かされたのは、首輪の解析に必要だと判断されたからだ。

「すいません。ブラッドレイとの交渉に使えるような事は、何も分からないんです」

ここまで狡噛達が持ちうる手札でブラッドレイの欲しがるものは一つたりともない。
一応、まだタスクはアンジュがヴィルキスの操縦者であり、その恋人という付価値が付くが、それも何処までブラッドレイを押し留めてくれるか。

(……戦闘狂。奴の本性はそれだ)

ブラッドレイは如何な苦戦を強いられたとしても、決して顔を歪ませない。
狡噛は二度のブラッドレイの交戦を目の当たりにしているが、ブラッドレイの動きには恐怖も躊躇いもない。あるのは高揚感。追い詰めれば追い詰めるほど、その動きはより俊敏に。そしてキレが増す。
生き延びる為にではない。恐らく、ブラッドレイ自身も気付かぬ、内に秘められた闘争心を満たす為、常に獣の如く、戦の手法を模索し敵を切り伏せ、突き進む。
そんな彼を縛り付けるのは、何らかの使命感。それが彼の殺戮を最小限に食い止めているのだろう。

(理由があり、ブラッドレイは自分の本性に忠実にはなれない。だから、交戦を望みながらもタスクやアンジュのような人材を確保しようとする。
 奴はその矛盾に陥り、思考もまた乱れている)

だから、図書館ではブラッドレイ達を退けられたのだろう。もし、ブラッドレイが既に使命を捨てていたのならば、あの場で死人が出るまで戦いは終わらなかった。
それを使命を優先しブラッドレイは己の保身を優先したのだ。
しかし、もしブラッドレイを縛る使命がなくなればどうなる? ブラッドレイが自らを縛る使命から開放されれば、その被害は甚大だ。死ぬまで戦い続ける殺戮マシーンと化す。
ブラッドレイが死ぬか、この場の全てが死に絶えるか。そのどちらかでしか、終焉は訪れない。
そうなる前に一刻も早い、首輪の解析と脱出のプランが必要だ。奴が、その本性に気付き、使命を捨てて全てがどうでもよくなる前に。

「マスタングの話で何か参考になる事は? 錬金術師も突き詰めれば科学者らしいが」
「ないですね。マスタングさんも、俺と大して変わらなくて」

潜在犯隔離施設に向かう前に、何処かへ寄る必要があるかもしれない。
サンプルの首輪と会場の捜索。なんにせよブラッドレイを食い止める有益な情報が欲しい。
もしもブラッドレイがその気になれば、槙島も―――


157 : 天秤 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/11(金) 03:02:18 27iNGB/w0
「狡噛さん?」

「……いや、何でもない」

思考が脱線し気付けば槙島の事を考えていた。今まで出会った人物には気取られないよう、敢えて頭の隅に置いていたことだが、やはり槙島が先に死んでしまう懸念は捨てきれない。
狡噛の中に焦りが募る。ブラッドレイとの交渉と槙島の殺害。この二つの条件をクリアするには速度を有する。下手に時間を潰せば全てがお釈迦になり後の祭りだ。
だが、こういう場面で焦れば焦るほど冷静な判断力を落とし、洞察眼を鈍り、捜査を誤る。今までに何人もそんな刑事を見た。
それらの失敗例を頭に思い浮かべ、狡噛は頭を冷却する。

『ただ、主催の作業は雑だから首輪の解析も不可能じゃないと思う』
「……?」

タスクからさり気なく渡された一枚のメモ。盗聴を懸念した筆談なのだろうが、その内容に狡噛は目を見開く。
アイコンタクトで狡噛はどういう意味かタスクに合図する。それに気付いたタスクは更に筆を走らせた。

『例えば盗聴機能。これは――』

外部からの如何なる干渉も防ぐ鉄壁の首輪だが、その反面機能が雑なところも少なくない。
タスクが真っ先に気付いた首輪の問題点はあからさまな盗聴機能だ。素人ならば気付かないだろうが、幾らか機械に精通したものなら一目で容易に分かる。
狡噛でもこの殺し合いに呼ばれて、すぐに気付けたのだ。
最初はダミーかと考えていたが、他にそれを補うであろう機能も見つからない。
それに首輪には盗撮機能もなかった。やろうと思えば隠しカメラの一つは仕込めただろうに、首輪には盗聴機能だけしかない。
その上、時間の合間を縫ってタスクは会場内を探索していたが、会場にもカメラの一つも見つからない。これでは会場の監視に支障が出るだろう。
更にいえば放送も会場に設置したスピーカーによるものだ。それも良く探せば、見つかるような位置に設置してある。
戦闘の余波で壊れでもすれば、放送を聞き逃し禁止エリアに突っ込む者も出るかもしれない。
そう、この場にいる全員を誘拐し殺し合いを強要するほどの力や技術を持っている筈の主催が、妙なところで手抜きをしているのだ。

『広川は殺し合いのシュミレートをちゃんとしてないのかも』

タスクがそれらの材料から推理したのは、広川がガサツで向こう見ずなところがある人間ではないかということだ。
あるいは、仮に殺し合いを破綻に追い込まれ、最悪主催VS全参加者の図になろうと勝てる絶対的な自信があるのか。

(いや違う。しなかったんじゃない。出来なかったんんじゃないのか?)

しかし狡噛の見識は違う。
広川を見る限り、あれはかなり用意周到で生真面目。尚且つ頭の切れる人間。
タスクの挙げた指摘点ぐらい既に分かっているだろう。
このような犯罪を行うならば、もっと用意周到に計画を進め、いわゆる完全犯罪を試みるタイプだ。
つまり、広川の人格を推察しつつ考察を進めるのならば、その雑さを理解しながらも殺し合いを推し進めなければならない理由があったと考えるべきなのだ。


158 : 天秤 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/11(金) 03:03:11 27iNGB/w0

(何かこの殺し合いには、意図しない誤算があったのか?)

如何に完全犯罪を目論む犯罪者も、誤算という壁はかなりの障害となることがある。
殺害時間を設定し、ターゲット殺害に踏み入ろうとした時、ターゲットがその日の予定を変える、普段はいない人通りで偶然目撃者が現れてしまう。
結果として急遽犯罪計画を変更し、その場凌ぎの策を練った結果、その歪からアリバイを崩され逮捕された犯罪者も少なくない。
所詮、人間は人間。その運命までも予測し完全な行動をし得ることは不可能ということだろう。
もし広川の身に誤算が起こり、結果として会場の監視が緩くなってしまったのだとすれば……。

(だが、広川は時間を遡り死人を連れて来れる……なら時間を巻き戻す事も可能なんじゃないのか? あるいは時間の干渉にも制約がある?)

マスタングの話から、推察するにこの場の一部の参加者は知り合い同士であろうとその背景事情が異なってくる。
どのような手品を使ったかまでは分からないが、死者を呼び出し、過去未来の人物を引き合わせる。
到底信じられる話ではないが広川の能力は時間を操れる。これはもうほぼ間違いない。なら、最悪都合の悪い誤算が起こったのならあれば時間を操りやり直せばいいのではないか?
それが出来ないのは、時間の操作には制約があるからに他ならないのかもしれない。

「狡噛さん、あまり気にしないで下さい。結構強引ではあると思いますから」
「……あぁ、そうだな」

タスクの言葉で思考を打ち切る。判断を下すにはやはり材料が足りない。

「それに、来客のようだからな」

狡噛がリボルバーを手に息を大きく吐き出す。
タスクの目に写ったのは、ベージュのベストにワイシャツと青いスカートの制服を着た幼い少女。
タスクよりも歳は下。中学生ほどだろう。
そして、その制服は常盤台で採用されているもの。

「……お前が御坂美琴か」

狡噛が口を開く。目の前の少女の特徴は黒子や光子の言っていた御坂と一致する。
それだけならば、リボルバーを握る必要はないだろう。重要なのはその御坂が殺し合いに乗ってしまっている可能性があること。
黒子達の証言が正しければ、殺しを肯定する人物ではないのが分かる。故に狡噛もリボルバーを握るだけ。

「お前は乗っているのか?」

青白い閃光が瞬き、雷音が遅れて響く。


159 : 天秤 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/11(金) 03:03:42 27iNGB/w0

「これが答えよ」

狡噛の背後を一瞬にして消し炭のクレーターへと変えた。

「―――チィ」

狡噛は舌打ちをしながら自らの考えが愚考だったと苛立つ。
彼はセリューとの接触を避ける為に図書館を迂回し、橋を渡ってから潜在犯隔離施設へ向かうルートを選んだ。
無論、狡噛とタスクの二人だけでブラッドレイ親子のいずれかに当たる可能性もあったが、この二人は人のより多い場所へ向かうだろう事が推察できる。
セリムはあくまで危険思考ではあるが、穏便に済ませたがっている。少なくとも影が消える夜までに、新たな仲間を作る為参加者に紛れ込むのを選択するだろう。
そしてキングブラッドレイは己の知らぬ本性に導かれるまま、闘争を求め同じく参加者の多い場所へ行く。
その点、この橋は足跡の一つもない。まだ誰も渡ったことがないのだろう。それに、今まで出会った者達の方針や情報から考えるに参加者は南東に固まっている。
だから、もっとも安全なルートは橋を渡り北上するルートだと狡噛は判断してしまった。

(電撃を飛ばせるのか!?)

以前、交戦した黒とは比べ物にならない高圧電流。触れれば痺れるだけでは済まない。
一瞬で自分の見つけているスーツと一切の見分けが付かなくなるだろう。オマケに直接ないし間接で触れて流すのではなく、直接電撃を投げるときた。
狡噛は御坂の斜線上から離脱し、そのままリボルバーから二発弾丸を撃ち出す。
荒い運動の中の射撃だったが、成果は上。二発の弾丸は一つは御坂の眉間に、もう一つは御坂の肩へ吸い込まれていく。
無論、電撃を放てば弾丸は弾ける。しかし、それは弾丸を見切る音速の反応速度が必要だ。
御坂は身体能力は高いが、素の戦闘力は狡噛や同じ電撃使いの黒にも劣る。弾丸を見切れるほどの反射神経は備わってはいない。
故に決着は付いた。鉛玉が少女の肉体を食い破り、また一つの命が消え狡噛に十字架が重く圧し掛かる。


160 : 天秤 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/11(金) 03:04:21 27iNGB/w0

「ッ!」

因果が捻じ曲がる。弾丸は少女に慈悲を下すかのように本来の斜線上から逸れて虚空を奔り去る。
血飛沫一つ上げずに、御坂は腕を振るう。腕の動きに合わせ、砂鉄の集合体が形を成し剣を展開。
先程まで狡噛が居た場所を砂鉄は抉り取る。そのままチェーンソーのように個々の振動を続け、横に避けた狡噛へと薙ぎ払われる。
体制を後ろへ傾け、砂鉄を避けるが剣としての範囲から逸脱した砂鉄の暴風雨。その射程は既に人に向けていいモノではない。
対人戦に於いて、ただの人間がこれを脱するには同じく異能を持つか。あるいは人としての理を捨て人外への境地へと辿りつくか。―――さもなくば、その幻想を打ち砕くか。

(―――死ぬ?)

狡噛の回避はここに来て何の功も為さない。避ける以前に彼には、御坂に勝ち得る術を一つとして持ってはいなかった。
迷いを捨てた超電磁砲(レールガン)に隙はない。



「―――なっ!?」

相手が一人ならば。
御坂の視界の端にもう一つの人影が飛び込む。その動揺に砂鉄の動きが止まり、狡噛は咄嗟に砂鉄から距離を取る。
御坂の追撃を抑えるかのように、白銀の線が滑り込みその茶髪が数本切断された。
咄嗟に顔を傾けたが為に直接受けはしなかったが、その右頬に一線の赤い筋が刻まれる。
狡噛の離脱を忌々しげに確認しながら、御坂は眼前の少年と相対し身体が練り上げた電撃を纏う。
眼前の少年、タスク。年齢にそぐわぬ無骨なその衣装は軍人の類に間違いない。近接戦闘では圧倒的に不利だ。
電撃の鎧でタスクを威圧しながら、御坂は後退していく。だが、タスクは電撃を構わず突進をかます。

(コイツ、何考えて……)

ナイフを前に突き出し、特攻する様は自殺行為に等しい。最悪、タスクはその命と引き換えに御坂を討つつもりか。
否、電撃に触れるその寸前、ナイフの刃は射出される。タスクから離れ御坂へと刃が独りでに迫り、命を断たんとする。
スペツナズナイフ。既にその性能はタスクが未央から身を以って教えられた。
確実に御坂を仕留め切れ得る距離まで近づき、その身を焦がされる寸前で放たれた刃は確かに御坂を捉えた。
しかし、これもやはり同じ。

「無駄よ。こんなものじゃ私を……」

「知ってるよ、電磁波だろ?」

刃が逸れる。同時に御坂の顔面を衝撃と茶色のディバックが襲う。
布製とはいえ、荷物が詰められた状態で大の男にフルスイングされれば御坂の身体も悲鳴を上げる。

「ぁぐ……!」

顔面は赤く染まり、鼻血を垂らしながら御坂はよろめく。


161 : 天秤 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/11(金) 03:05:06 27iNGB/w0

(……電磁波。そうか)

種を明かせば簡単なトリックだ。弾丸やナイフを反れたのは、決してそれらが独りでに動いたのではない。
電磁波により自らの望むルートへ誘導したに過ぎない。
タスクが数度の攻防で見抜けたのは、その高度な機械、兵器知識によるもの。
更にいえばエンブリヲやマナなどの異能にも接点があり、この手の思考では狡噛より比較的思考が柔軟に動かせたのもある。

(知識に加え優れた戦闘技術……。頼りになるな)

流れでタスクと行動を共にする事になったが、どうやら正解だったらしい。
異能使いとの交戦経験やその機械知識を鑑みれば、ある意味戦闘面なら狡噛よりも場慣れしているかもしれない。
これからの相棒として考えるなら、これ以上ないほどに頼もしい仲間と言える。

「うおっ、わっ!」

よろめいていく御坂に止めを刺そうとした瞬間、何もないところでタスクは躓き転倒してしまう。
そのままのめりに転がっていき、タスクの視界は暗転。
柔らかい感触と布が触れる感覚。それから嗅覚をくすぐる酸っぱい汗の匂い。
何より、独特なのがタスクの口周りに触れる小さな谷間だ。この谷間には非常に懐かしくも、それでいていつもとは全く違う。

「あ、アンタ……何やって……!」

「ちが……誤解だ!! 俺はアンジュの股間にしかダイブしないし、なんか君のはあまり好きじゃ―――」

(なんだこいつ……?)

戦闘に集中していた狡噛ですら引き金を引くのを忘れるほど呆然としてしまった。
何せつい先ほどまで頼もしい相棒になるかもしれないと考えていた男が、目の前の少女の股間に顔からダイブしているのだ。
狡噛が今までに見たことのないタイプの人間だ。


162 : 天秤 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/11(金) 03:05:35 27iNGB/w0

「この、ド変態!!!」

鼻血を拭いながら電撃を放出する御坂からタスクは大慌てで離脱する。

「……おかしい。何で、俺アンジュ以外にこんな……」

電撃を避け続けながら、タスクは己の不調に疑問を抱く。
普段なら、何があってもタスクはアンジュ以外の女性にこんな真似はしないししたくない。
なのに御坂の股間に吸い寄せられるようにダイブしてしまった。

「……嫌な予感がする……アンジュ」

「ぼさっとするな!」

別の思案に気を取られたタスクの頭を抑え込み、狡噛も地面に伏せる。
電撃の槍が頭上を通過し、二人の背中を青白く照らす。
そのまま頭上の電撃が振り下ろされる。流石に幾度か見た御坂の攻撃パターンを二人も徐々に見切りつつある。
御坂もそれを理解し、壁のように降り立った電撃により分断された二人の内、タスクに狙いをつける。
個人的な恨みも然ることながら、タスクを生かしていた方が質が悪い。事実、狡噛一人なら既に殺せていたのだ。
故に真っ先に片づけるべきはタスクだ。

砂鉄を舞い上がらせ、電撃を張り巡らせるがタスクは慣れた動きで避け続けていく。
伊達にタスクもアンジュの騎士ではない。エンブリヲの瞬間移動を見切り、弾丸を避け続ける動体視力はここでも遺憾なく発揮された。

「アンタ……よく躱せるわね」
「エンブリヲの瞬間移動で、こういうのには慣れたよ。……それよりも君、どうして殺し合いに乗るんだ。
 光子は君はそんな人間じゃないって……」
「煩い!」

タスクの顔が青ざめる。
先ほどまでとは比べ物にならない電撃の雨が御坂から降り注いだ。


163 : 天秤 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/11(金) 03:06:00 27iNGB/w0

「―――ダメか」

同時に狡噛がリボルバーを放つが、弾丸は御坂から逸れていく。いくら種が明けようが、それに対する対策がなければ弾丸は通らない。
この場にマスタング、あるいはエドワードが居れば話が変わったのかもしれないが。
舌打ちしながら、弾丸の切れたリボルバーを懐に仕舞い、狡噛はスペツナズナイフを取り出す。
タスクに気を取られた御坂は狡噛が接近しようとまるで構いもしない。

「ッ!? 何が……」

狡噛の手のスペツナズナイフが射出され、御坂の電磁波に触れた瞬間。刃は逸れることなく、起爆した。
砂鉄を盾に回すことで爆発は御坂には届かないが、防御に徹したが為に身動きと視界が封じられた。
この二つの隙を見逃す程、敵は甘くもなく。だが、それを生かせるほどの手札を持ってもいない。
選んだのは逃走。この僅かな隙に二人は全速力で足を踏み出し、駆けて行く。

「……逃がさない!」

砂鉄の盾を解除し、二人の背中姿をその目に留める。
コインを一枚取り出し、電撃を込め弾く。次の瞬間、コインは音速を超え一個の兵器として生まれ変わった。
音速を超えた砲弾に二人の体は為す術もなく爆発四散し、その鮮血をぶちまけた。





164 : 天秤 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/11(金) 03:06:45 27iNGB/w0
「上手く行きましたね」

戦線を離脱したタスクと狡噛は互いの健闘を称えながら、安堵の息を漏らす。

今から数時間前、図書館でまだマスタングと別れる前のことだ。
マスタングはタスクの武器であるスペツナズナイフの刃の予備と、火薬を仕込んだ特別製の刃を錬成しタスクに手渡していた。
この先の戦いを乗り切るには、リボルバーとナイフ二振りでは心もとない。
それをタスクは御坂に気付かれることなく、狡噛に一本手渡し、更に狡噛も火薬の刃に気付かれぬよう敢えて銃を発砲し、弾切れでヤケを起こしたかのように見せかける。
当然、御坂はナイフの刃にそんな仕掛けがあるとは夢にも思わず、気づいた時には爆発の中。逃げるだけの隙は十分にある。
最後の超電磁砲は予想外だったが、それもタスクの忍法で躱すことができた。

「……あの娘、どうして乗ってしまったんだろう」
「上条当麻。御坂の思い人だったかもしれないらしい」
「上条……最初に殺された」

広川が生み出した最初の犠牲者。ツンツン頭の奇抜なヘアースタイルではあったが、この殺し合いに真っ先に異議を唱えた正義の少年。

「死者の蘇生、か……。でも想い人だからって、御坂って娘には光子や他にも友達が居たんじゃ。それなのにどうして……」
「これは想像だがな。……人は平等じゃない。必ず、何処かで天秤は傾く」
「……」

「上条の性格はあの通りだ。一目見ただけで、分かるぐらいのお人よしの正義感。
 御坂は彼に救われたのかもしれないな。……同時に、友人からは何もなかった」

「それは、光子たちが御坂を見捨てたって事ですか?」

「違う。御坂にとって大事だからこそ、友人を遠ざけていたんだろう。
 だが、距離を開けすぎてしまった結果。溝が生まれ、この殺し合いで完全な崩落となってしまった……。
 彼女は一人だ。そこへ初めて自分の隣に居てくれる存在ができた。
 その存在は唯一無二だ。……ここにある全てと比べても尚、天秤が傾かないほどに」

「まるで、自分の事みたいですね……」

狡噛の予想は予想とは思えぬ程、真に迫りタスクに異様な説得力を与えてきている。
本当に予想なのか。これが全て御坂の心境、飛躍すれば狡噛の内心に何か繋がるのではないか。
つい口を滑らせ、声を漏らしたタスクに狡噛は視線を逸らした。


165 : 天秤 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/11(金) 03:07:27 27iNGB/w0

「そう、だな……。俺にも……どうしても傾かない天秤がある」
「え?」
「だから、俺も。ある意味では御坂と似たようなものなのかもな」

狡噛の脳裏に強くこびり付く白い悪魔。
奴をこの手で殺害する為ならば手段を選ぶことはない。
今でこそ、槙島の殺害と同時に殺し合いの脱出を目的に動いている。
だが、もし槙島を殺す為に殺し合いに乗るのが最善であったのならば―――

「違いますよ」
「……?」
「狡噛さんは違うと思う。
 何か大事な事があるのかもしれないけど、狡噛さんは図書館の人達を助けてる。
 だから、狡噛さんは違いますよ」

青いと思った。
狡噛とタスクの付き合いは長くない。なのに、ここまで信頼するとは。
やはり、身のこなしはともかく内面は歳相応なところもあるのかもしれない。
その青さが何処か懐かしく、好ましい。

「狡噛さんの大事な事は、きっと誰も傷付けない。俺はそう信じてます」
「……そうか」

タスクの言っていたアンジュという恋人の名前。
股間ダイブはともかく、その後に抱いていた不安は間違いなく本物だ。
決して口には出さないが、嫌な予感というのは当たりやすい。次の放送、万が一の事もあるかもしれない。
タスクもそれを覚悟はしている筈だ。
恋人に何かあったのかもしれない。そんな不安を持ちながら、逆に励まされてしまう。

(俺も、まだまだって事か)

「大丈夫かな。未央達は……」

「多分、大丈夫だ。マスタングも流石に図書館に長居はしない。あそこは参加者が集まりすぎる。
 それにセリューも居る。戦力だけなら俺達よりマシだ。御坂が来ても撃退は容易だろう。
 それと東から潜在犯隔離施設に行くつもりだったが、ここまで来たら病院に寄りたいと思う。医療道具を調達すれば、今後の強い味方になる。若干遠回りだがな」

「……分かりました」

先を急ぐ少年の背中を狡噛は見つめる。
タスクとその恋人アンジュ。タスクの話では喫茶店を開くと言っていた。
そこで仲間や新しい家族に恵まれ、仲睦まじく幸せな日常を送っていくのだろう。
そんなありきたりで幸福な二人の未来を、こんな場所で壊させたくはない。
刑事として、この二人だけじゃない。未来がある少年少女達を、これ以上誰一人として欠けさせる訳にはいかない。

だが、同じく槙島への殺意もこれ以上なく消える素振りを見せない。

もしも、誰かの未来と槙島。この二つが同じ天秤に乗ったとしたら狡噛はどちらを選んでしまうのか。

狡噛の正義は如何に傾いていくのか。それはまだ誰も知る由もない。


166 : 天秤 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/11(金) 03:08:02 27iNGB/w0




「逃がしたってことかしら」

御坂の前に転がる筈だった死体は一つもない。
逃がしたのだ。既に御坂から距離を離した場所、近くの橋を渡った形跡もないので北上したのだろう。
追うにも向こうにはエドワードやジョセフが居る。彼らを殺すことに躊躇いはないが、狡噛達と徒党を組まれるのは些か厄介だ。
何よりエドワードとはタイマンでケリを付けたい。これは感傷ではなく、錬金術の性質を考えると非常にサポート向きな能力だからだ。
エドワードが居るのと居ないのとでは御坂が強いられる苦戦も違う物になる。

「それにDIOやDIOとやり合ってた氷使いに、影使いのあの子も居るんだし……ここで無茶しなくてもいいわね」

それより気になったのがタスクの存在だ。いきなり股間にダイブしてくる不幸っぷりは、少し上条当麻に似ていなくもなかった。
だから、御坂も少しだけ昔に戻ったような気分になった。あの頃の日常のような。

「……そんな事ないのにね」

御坂は甘い幻想をバッサリ切って捨てる。
今更、もうどうしようもないのだ。
それよりも考えるべきはこれからの進行状況。タスクが口走った光子という名から少し前までは、タスクは光子と行動していたのは確定だ。
少なくとも光子はこの近辺に居たのだろう。そして、目の前で殺されたか、別れた後殺されたか。
もし後者なら光子が別れる理由は知り合いの探索。それも何か確証があったのだ。

「黒子か初春さんかな……。どっちか分からないけど」

必ず殺す。
せめて友人だけは痛みもなく、安らかに眠らせたい。

ただの自己満足に過ぎない。本当に友人を想うのならば、やるべきことはこんな真似ではない。
それでも天秤は傾かない。

殺意の電撃姫は歩みだす。その先にまた新たな死を予感させながら。


167 : 天秤 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/11(金) 03:09:03 27iNGB/w0
【D-4/一日目/午後】


【狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】
[状態]:疲労(小)、槙島への殺意、右足に裂傷(止血済み)、全身に切り傷
[装備]:リボルバー式拳銃(5/5 予備弾20)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考]
基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:病院に寄り医療道具を調達後、潜在犯隔離施設へ向かう。
2:槙島の悪評を流し追い詰める。
3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
4:危険人物は可能な限り排除しておきたい。
5:キング・ブラッドレイ、御坂に警戒。 特にブラッドレイは下手に刺激することは避ける。
6:ブラッドレイが自分の本性に気付く前に何とか脱出派に引き込みたい。
7:銃の予備弾もそろそろ補充したい。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒、戸塚、黒子、穂乃果の知り合い、ロワ内で遭遇した人物の名前と容姿を聞きました。



【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中) 、不調、嫌な予感(極大)
[装備]:スペツナズナイフ×2@現実、刃の予備@マスタング製、火薬刃の予備@マスタング製
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:狡噛を護衛する。
1:アンジュを探す。無事でいてほしい……。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:ブラッドレイと遭遇した時は穏便に済ませられないか交渉してみる。
5:御坂を警戒。
6:首輪のサンプルを探す。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。
※マスタングと情報交換しました。
※不調で股間ダイブをアンジュ以外にするかもしれません。


【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×2 、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、回復結晶@ソードアート・オンライン、アヴドゥルの首輪、大量の鉄塊
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:図書館に行ってブラッドレイと合流した後DIOを殺す。代わりに誰かいれば殺す。
1:DIOを追撃し倒す。 DIOを倒したあとはエドワード達を殺す。
2:もう、戻れない。戻るわけにはいかない。
3:戦力にならない奴は始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
4:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
5:殺しに慣れたい。
6:もし知り合いがこの近辺に居たのなら、必ずこの手で殺す。
7:コイン補充をしたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました。


168 : ◆w9XRhrM3HU :2015/12/11(金) 03:09:18 27iNGB/w0
投下終了です


169 : 名無しさん :2015/12/11(金) 03:10:07 27iNGB/w0
投下終了です


170 : 名無しさん :2015/12/11(金) 03:10:31 27iNGB/w0
すいません間違えて多重しました


171 : 名無しさん :2015/12/11(金) 07:44:24 V85qWnkw0
投下乙です

足立さん一応強マーダーなのに何なんだこの不幸っぷりはw
ここまで来ると逆に応援したくなるw

イリヤが遂に覚悟を決めたか。キンブリーロクな事しねえな…

予約段階じゃどっちか死ぬと思ったが何とか生き残ったか
予備の刃を渡しておいた大佐は有能


172 : 名無しさん :2015/12/11(金) 09:15:44 m4fBJwzs0
投下乙です

キンブリー先生イリヤに殺人を教えるのはやめてください・・・首輪五個になったじゃないですか!

上と同様にどっちか死ぬと思ったけどなんとか生き残ったか・・・
ダイブはアンジュが死んだから、と思ってたけどその上に不調によってダイブするようになるのか
これは期待。 大佐は雨降ってないし有能。


173 : 名無しさん :2015/12/11(金) 12:23:59 VMkPdca.O
投下乙です

キンブリーは勝ち逃げが似合う

天秤に載せない、あるいは天秤に載せられたどっちも取る、なんて幻想は殺されずに済むのか


174 : 名無しさん :2015/12/11(金) 21:14:58 VErs8Oko0
投下乙です

おかしい、参戦してたのはプリヤのはずだ…何故SNのイリヤが幻視するんだ…!?
アンリマユ噴出してきそうでコワイ!

タスクはようやく原作ネタ拾って貰ってよござんした
幻想はまだまだ死にそうにない


175 : 名無しさん :2015/12/12(土) 10:18:29 zPTFQcwY0
ちょっと気になったんですがイリヤはクロの首輪と承りの持ってた花京院の首輪も持ってるんじゃないでしょうか


176 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/12(土) 15:13:28 AiJNyM5g0
>>175
ご指摘ありがとうございます。
ちょっと気になることがあるので、議論スレにて意見を頂いたのちに修正いたします。


177 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/12(土) 15:18:58 AiJNyM5g0
ご意見と一部文章が被ってしまいました、失礼いたしました


178 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/12/12(土) 18:30:23 OmEkvp.g0
投下お疲れ様です。
私も投下いたします。


179 : とんとん拍子 ◆BEQBTq4Ltk :2015/12/12(土) 18:31:37 OmEkvp.g0

 風が吹く。
 DIOとの戦闘を終え、一息ついたところでエスデスが動き出した。
 表情に疲れの色は浮かんでおらず、激しい宴の後であっても己の常を崩すことはしない。

 彼女が向かう先は南。
 西に行けばエドワード達が、東に行けばジョセフやヒースクリフと接触が可能である。
 しかし、彼らが必ずしも滞在している保証はなく、無駄足になることも考えられる状況だ。

 無論、時間を浪費することだけが理由ではなく、エスデスの興味は雷光に集中してしまったのだ。

「あれが噂に聞く御坂美琴の能力か」

 此処より南の地点で轟く雷光の輝きはエスデスを夢中にさせてしまった。
 DIOの足取りが掴めない中でそれを見てしまえば、彼女の足は止まらない。
 無意識に闘争を求めるが故に、氷の女王は殺し合いの会場を駆ける。誰も止めない、止められない。

(DIOの奴は恐らく近くの建物に逃げ込む……まぁいい。
 夜まで待ってやる。そこで吸血鬼とやらの真の力を見せてみろ)

 御坂美琴に意識が集中しようと、DIOを放置する訳ではない。
 相手が昼に規制を受け夜に真骨頂を発揮する吸血鬼ならば、次の宴は月が昇った時。
 スタンドを操り、冷気を操り、時間をも止められる相手はエスデスにとって初めてであり、この機を逃すと二度と出会えないだろう。
 保証も確証もないが彼女の本能が告げる。DIO程の力を持った存在と出会う機会などあり得ない。

 ならば最大限までに楽しみ、己の手で殺し、終止符を打つ。
 弱い相手を蹂躙するならば、より強い相手を求めるのは必然であり、時間が解決するならばエスデスは待つ。

「その間まで私の相手をしてもらおうか、御坂美琴」

 出会ってもいない参加者の名前を呟きながら彼女は、闘争を求める。





「コンサートホール、か」





 炎上する施設を横目に思い出すは数時間前まで共に行動していた存在の影。
 鹿目まどかとモハメド・アヴドゥルがこの世を去り、残る承太郎と足立の行方は不明。
 ヒースクリフには首輪の解析を託しつつ、自由に動けるよう手配はしている。結果がどう転ぶかは解らない。

 たった数時間前まで生きていた参加者が眼を離している少しの間に死んでしまった。
 殺し合いの異常なる環境が齎す闇の答えなのだろうか、違う。
 弱いから死んだ。それ以外に説明など必要ない。状況はどうであれ他者を捻じ伏せればその場の死は免れる。


180 : とんとん拍子 ◆BEQBTq4Ltk :2015/12/12(土) 18:32:10 OmEkvp.g0


 鹿目まどかとモハメド・アヴドゥルは弱い人間ではなかった。
 しかし死んでしまえば、敗者であり、所詮はそれだけの存在になる。
 何も彼らが嫌いな訳でもなければ、彼らを罵倒する訳でもない。

 強いて言えばエスデスの興味が彼らから失ってしまっただけである。もう昂ぶる機会は訪れない。

 その存在は覚えている。薄れることはあろうと忘れることはない。だが過去の存在に変わりない。
 時が止まった死者に囚われるなど、そんなことはエスデスにとってあり得ない。






 彼女の興味は死者よりも生者に傾く。






「こんなところで何をしている」





 雷光を頼りに進んでいた彼女はやがて荒れた大地に辿り着く。
 地面はめくり上がり、明らかに自然現象ではなく人為的な力によって変えられた戦場。
 不自然に近くに居た一人の少年にエスデスは声を掛ける。当然のような声色で。


「大きな音がしたので来てみたら……誰もいなくて……」


 少年の声は孤独の現状と状況による恐怖からか震えており、瞳は少々潤いを帯びている。
 エスデスと同じく雷光に導かれた存在だろうが、彼女とは駆け付けた理由に大きな違いがある。

「誰かいるかなと思ったんですが……」

 当然ではあるが、明らかに闘争を求めているような台詞ではない。
 大きな物音が聞こえてしまえば気になるのは普通であり、少年もまた飛び出して来たのだろう。

「そうか、私はエスデスと名簿に記載されているが名前は?」

「…………セリム、セリム・ブラッドレイです」

 若干の時が流れた後に少年は自分の名を告げた。
 初対面の人間に名前を問われては困惑するのは当然であり、歯切れが悪くても仕方がない。
 だが、エスデスの名前を聞いた時に表情がほんの僅かに変化したことを彼女は見逃さなかった。

「セリム、雷光の持ち主は見ていないか?」

「持ち主ですか?」

「犯人でも何でもいいがな。正体は恐らく御坂美琴らしいが……見ていないか?」

「その人かどうかは解りませんが南の方へ誰か移動していたのは目撃しました」

 方角だけでも掴めただけ良しとするか、と言いたげな表情を浮かべたエスデスはセリムに背中を向ける。
 本音を言えば御坂美琴に限らずDIOを始めとする他の参加者の情報が欲しかったが、無いものに期待することもない。


181 : とんとん拍子 ◆BEQBTq4Ltk :2015/12/12(土) 18:33:31 OmEkvp.g0


 彼女の興味は御坂美琴に向いており、その動向が掴めれば今は何も要らない。

「あ、あの……何処に向かうんですか」

 去ろうとするエスデスにセリムは小さい声で尋ねる。
 まるで独りにしないでくれ、と主張する天涯孤独の子のように。

「お前が南に誰か移動しているのを見たのだろう?
 此処から南ならばそうだな……途中に進路を変えたことも含めれば図書館かDIOの屋敷に行けば出会えるだろう」

「あ……その、えっと……」

「なんだ、一緒に行動したいのか?
 ならばくだらん皮を被っていないで本質を曝け出せ。相手をしてやってもいいが私は生憎忙しくてな」

 エスデスの口から紡がれる言葉は完全に話の流れを無視している物だった。
 傍から見れば適当にしか聞こえないが、セリム・ブラッドレイからすればこの言葉は少々重く感じてしまう。
 皮を被っている――御坂美琴と同じようにエスデスはホムンクルスを知っているのか。
 自分の正体を知っている上での行いならば不自然な点は見当たらない。しかし行動はどうだろうか。

 セリム・ブラッドレイがホムンクルスのプライド。

 この事実を知っている人間が自分を放置するだろうか。
 おまけに煽り、刺激するような言動をしているのだ。エスデスは何を求めているのか。

 戦う訳でもなければ、釘を差してこちらの行動を抑制するつもりも無いらしい。
 その気があれば相手は強気に出る筈だ。しかし彼女は余裕と謂わんばかりの対応である。

「お前の相手は後でしてやる。そもそも御坂美琴が近くに居てこの付近に生者が居るのはおかしいからな。
 交戦した相手はお前だろう、セリム・ブラッドレイ。
 ……と、もし追い掛けて来るならばイェーガーズ本部にでも来い。来る者は拒まないからな、相手をしてやる」


「貴方は一体何をしたいのですか」


「愚問だな、折角の機会だ……樂しまなければ意味が無いだろう?」










「どのような思考回路をしているのか……興味は湧きませんが」









 去るエスデスの背中を見つめながらプライドは彼女に変人の烙印を押していた。
 自分の正体或いは力を知っていながら見逃す神経は、何がしたいか解らない。
 放置すれば被害が出る訳だが、気にもせずに御坂美琴を追って行く彼女は楽しみを求めているらしい。

「御坂美琴には悪いことをしたかもしれませんね」
 
 戦闘を行う分に不都合は無いが、結局のところ数分の問答でエスデスの正体は掴めなかった。
 アカメから聞く限りでは悪に分類される人間であり、葬られる対象と認識していた。

「アカメから聞いた通り……狂気が似合う人間でした、さて――私も動きますか」

 謎の接触があったものの、武器庫へ向かうことに変わりはない。
 別段エスデスとの会話で何かが起きた訳でもなく、流してしまえ。

 自分の正体を見抜かれているかの真偽は掴めないままだが、何も驚くことも焦ることもない。

 死体は何も喋らない。死んでしまえば、この世から消えてしまえば真実など幾らでも操作出来るが故に。


【C-4/一日目/午後】


【セリム・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)、精神不安定(ごく軽度)、迷い
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2 、星空凛と蘇芳・パブリチェンコの首輪
[思考]
基本:今は乗らない。
1:武器庫へ向かう。
2:無力なふりをする。
3:使えそうな人間は利用。
4:正体を知っている人間の排除。
5:ラースが…?
[備考]
※参戦時期はキンブリーを取り込む以前。
※会場がセントラルにあるのではないかと考えています。
※賢者の石の残量に関わらず、首輪の爆発によって死亡します。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、とある科学の超電磁砲の世界観を知りました
※殺し合いにお父様が関係していないと考えています
※新一、タスク、アカメ達と情報交換しました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。


182 : とんとん拍子 ◆BEQBTq4Ltk :2015/12/12(土) 18:34:27 OmEkvp.g0


 雷光を目撃した人間がいれば、雷光と遭遇した人間もまた存在する。
 数分前まで交戦を行っていた狡噛とタスクは北を目指し移動している。
 超電磁砲の前に犠牲者が出なかったことは奇跡だろう、特段移動に支障を来す傷も覆っていない。

 しかし口数は減っている。
 疲れからか、不安からかは不明だが明らかにタスクの口数が減っている。
 何か傷を負ったかどうかを狡噛が訪ねても「全然! っ大丈夫です!」と笑顔で返されるだけ。

 必要以上に聞く必要も無いが、本人がそう言うならば信じるしかない。


 ――! どうするか。


 腰に備えているリボルバーに手を添えながら狡噛はタスクの動きを止める。

「何も隠れる物が無いのは辛いな。狙撃手が潜んでいれば俺達はとっくに頭部をぶっ飛ばされてる」

「どうしたんですか狡噛さん……なる程」

 狡噛の言葉の意味を理解していないタスクであったが、答えは瞳の先に転がっている。
 太陽が輝いていて、木々や建物も無ければ視界は良好である。
 それ故に目の前から歩いている人間を補足出来た。そして補足されている。

 近づいて来る人間は蒼い髪の美しい女性であった。
 一人で行動しているらしく、しかし表情は孤独の恐怖に蝕まれておらず寧ろ笑顔である。

 殺し合いの会場を独り笑顔で徘徊する女性――文字にすれば狂気の塊だろうか。

「近くで御坂美琴を見かけなかったか」

「だとしたらどうする? 聞いたところでお前は追い掛けるのか」

「勿論だ。あれ程の雷光――興味が湧くだろう」

「でも危険で――狡噛さん?」

「無駄だ、この女は言葉じゃ変わらない人間だ」

「ほう……お前は理解が早くて助かる」

「褒められた気はしないな。あの雷光に興味が湧くならとっくに人間の枠を飛び越えているだろアンタ。
 普通の人間も興味を持つだろうが御坂美琴の存在を知っていて興味が湧く人間は大体頭がぶっ飛んでいる」

「少ない言葉で解っているならば教えろ、御坂美琴は何処に向かった」

 狡噛慎也の脳内では目の前の女が危険人物であることを逸早く勘付いていた。
 御坂美琴の能力は超電磁砲である。SFの世界にしか存在しないような能力の持ち主である。
 おまけに殺し合いに乗っている人間だ、彼女に興味を持つ人間もまた人外の存在であることは容易に想像出来る。


183 : とんとん拍子 ◆BEQBTq4Ltk :2015/12/12(土) 18:35:08 OmEkvp.g0

 それに加え蒼い髪の女性。
 戦闘を求めている狂気性からこの女の正体も狡噛慎也はアテがついていた。

「あんた、エスデスか?」

「本当に話が早くて助かるな。そうだ、それで、誰から聞いた」

「あんたの部下であるウェイブからだ。あいつは東の方角に向かっている」

「御坂美琴は」

 ――完全に目先の獲物しか考えていないなこの女。

 部下の生死よりもどうやら御坂美琴に興味があるのか、エスデスが求めるのは雷光のみ。
 上司としてどうかと思うが、残念ながら狡噛に口を出す資格が無いため黙っておく。

 さて、此処で御坂美琴の情報を教えていいものかと考える。
 先に結論から述べると黙れば実力行使にでも開示を求められるのが目に見えているため、教えることになるのだが。

 白井黒子から聞いた御坂美琴。
 殺し合いに乗るような人物像では無かったが、殺し合いの環境が彼女を変えてしまったのだろう。
 悪い予感が的中してしまい、出会いは襲撃という最悪の形となってしまった。

 エスデスと御坂美琴。
 お互いに牽制し、くたばってくれればこの上ない結果となるが後者はまだ見捨てる人間ではない、と白井黒子は信じている。
 実際に交戦した狡噛慎也からすれば御坂美琴は殺し合いによって犯罪係数が上昇してしまった人間になる。
 だが、それはシビュラに囚われた考えである。常守監視官が初陣で犯罪者に救いの手を差し伸べた実例もある。

 ――まさか俺が監視官と似たようなことをやるとはな。

 狡噛慎也や御坂美琴を含み多くの人間が殺し合いに巻き込まれていることだろう。
 救える人間は可能な限り救いたい。絵空事ではあるが、夢を見ることだって誰にでも存在する。

 ――御坂美琴は手遅れ、だがな……。

「御坂美琴が何処に行ったかは解らないが……あんたが北から来たなら大分絞れるだろう。
 此処から東か西になる。序に言えばウェイブも東だな」

「感謝するぞ……おっとお前たちの名前を聞いていなかったな」

「俺は狡噛でこっちはタスクだ」

「そうか……ウェイブはどうだ」

「どうだと言われもな。あいつはあいつなりに頑張ってるとしか言えないな。
 俺はあいつの事を知らない。知っているのは殺し合いに巻き込まれてからだけのあいつだからな」

「頑張っている、か。元気そうで何よりだ」

「なあ、エスデス。槙島聖護を知らないか」

「知らん」

 ばっさりと一言で狡噛の質問を終わらせたエスデスは何事も無かったように東へ向かう。
 西か東と言われ無意識に東を選んだようだ。

「そうだ」

 去ると思われたが足を止め、何かを思い出したように彼女は声を挙げる。

「此処から近くにセリム・ブラッドレイが居る。見た目は少年程度の参加者だ。
 何やら本性を隠しているような奴だったが方角から考えて武器庫に向かったと思う。
 どうだ、流石にタダで情報を貰っては申し訳ないからな――役に立ったか、狡噛慎也」




「ああ――知りたくは無いが知りたい情報だ」


「それは良かった。序に近くには吸血鬼が潜んでいるから気をつけるといい」




 そしてエスデスは去る。
 最期に残した言葉は「迷いを抱いていると戦場では生き残れんぞ」タスクに向けた彼女なりの忠告だった。
 悟られるようなことをしたつもりはないが、短い時間の中で彼女は彼の心理を見抜いていたらしい。

「なんか凄い人でしたね……」

「全くだ、あんなのがトップなら部下の死体でビルが建てれそうだ」

 通り過ぎた嵐のような存在と対峙したのは数分だが精神的に辛い時間だった。
 何事も無かったが返しを少しでも間違えれば爆発していただろう。信管剥き出しは質が悪い。

「出来る限り東寄りで病院に向かうぞ――ホムンクルスは当分見かけたくないからな」

 エスデスから得た情報は一つだが充分過ぎる情報だった。
 戦闘を避けれるならば越したことはない――プライドとの接触を回避出来るのだから。


184 : 名無しさん :2015/12/12(土) 18:35:48 OmEkvp.g0


 
【D-4/一日目/午後】



【狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】
[状態]:疲労(小)、槙島への殺意、右足に裂傷(止血済み)、全身に切り傷
[装備]:リボルバー式拳銃(5/5 予備弾20)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考]
基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:病院に寄り医療道具を調達後、潜在犯隔離施設へ向かう。
2:槙島の悪評を流し追い詰める。
3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
4:危険人物は可能な限り排除しておきたい。
5:キング・ブラッドレイ、御坂に警戒。 特にブラッドレイは下手に刺激することは避ける。
6:ブラッドレイが自分の本性に気付く前に何とか脱出派に引き込みたい。
7:銃の予備弾もそろそろ補充したい。
8:吸血鬼……?
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒、戸塚、黒子、穂乃果の知り合い、ロワ内で遭遇した人物の名前と容姿を聞きました。



【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中) 、不調、嫌な予感(極大)
[装備]:スペツナズナイフ×2@現実、刃の予備@マスタング製、火薬刃の予備@マスタング製
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:狡噛を護衛する。
1:アンジュを探す。無事でいてほしい……。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:ブラッドレイと遭遇した時は穏便に済ませられないか交渉してみる。
5:御坂を警戒。
6:首輪のサンプルを探す。
7:吸血鬼……?
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。
※マスタングと情報交換しました。
※不調で股間ダイブをアンジュ以外にするかもしれません。





【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(小)、全身に打撃痕(痛みは無し)、高揚感、狂気
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:亡き友アヴドゥルの宿敵DIOを殺す。
1:東に向かい御坂美琴と交戦する。
2:クロメの仇は討ってやる。
3:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
4:タツミに逢いたい。
5:ウェイブが近くに居るなら顔を見たい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。
※足立が何か隠していると睨んでいます。
※平行世界の存在を認識しました


185 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/12/12(土) 18:36:38 OmEkvp.g0
投下を終了します。


186 : 名無しさん :2015/12/13(日) 00:49:00 u20o7UvU0
投下乙です

上司にスルーされるウェイブに草


187 : 名無しさん :2015/12/13(日) 00:55:44 iLqfEzx.0
今のウェイブはアカメ以上の空気なのでは……


188 : 名無しさん :2015/12/13(日) 08:38:32 IfIMZ/A.0
投下乙です
グランシャリオ持ってるのにスルーされるウェイブくんかわいそう


189 : 名無しさん :2015/12/13(日) 08:42:43 ZhAoYD3U0
投下乙です

エスデスはぶれんなぁ
セリムはそろそろ日が暮れそうな時に殺戮天使イリヤちゃんが来そうだが大丈夫かな…?
そして大体どんなキャラにもそういえば居たねそんな奴、な扱いのウェイブよ


190 : 名無しさん :2015/12/13(日) 10:07:55 Z0xdliI20
投下乙です。
セリムも狡噛さん達もエスデスとの邂逅が比較的穏便に済んでラッキー。
原作でも一途なので今は御坂の事で頭が一杯なのは無理ないところでしょうか。
とりあえずウェイブはアカメと組んでるのが知られなくて良かったかも知れませんw


191 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/13(日) 17:58:40 piCzXDlg0
投下します


192 : ティータイムと本性 ◆MoMtB45b5k :2015/12/13(日) 17:59:10 piCzXDlg0
図書館。
本棚の間を、キング・ブラッドレイが歩んでいく。

「……」

その様は、仕事を引退した男が本を読み漁りに来たように見えたかもしれない。
だが、男の体の所々から流れる血液が、そんな平和な想像を打ち消していく。

「書物か……」

本は好きだ。
人間たちが紙の上に思いを留めてきた記録の体系。
かつては帝王学と称して政治や軍事に関する本を読んだし、自室にも本棚を置いてある。

「しかし、妙だな」

放送が行われる前に戦闘を行った場所であるこの図書館。
あの時は細かく確認する余裕がなかったが、こうして本棚を見てみると、違和感があるのに気付く。

ブラッドレイのいたセントラルにも大きな図書館がある。
それに比して、恐らくここはその5分の1ほどの規模だ。
だが、建物の大きさに比して、蔵書量が少なすぎるのだ。
奥のほうを見てみると、その大半に本が入っていない棚もある。

さらにおかしな点がもう1つある。
詩集や百科事典などは、それぞれ同じ種類の本に分類され、配置されている。
よく見ると、その中にはぽつんと、明らかに違う種類の本が混じっているのだ。

「ふむ……まるで誘導されているようだな」

建物の規模に対し少なすぎる蔵書量。
不自然に配置された本。
これらを総合すると、考えられることは1つ。
この図書館を訪れる者は、多くの中から特定の本を手に取るように仕向けられている。


193 : ティータイムと本性 ◆MoMtB45b5k :2015/12/13(日) 17:59:30 piCzXDlg0
「広川の思い通りというのは気に食わんが」

数度の戦いを経たが、得たものは何もない。
首輪のサンプルはなく、脱出の糸口も開けていない
これではただただ疲弊が積み重なっていくのみ。
ならばここで、休息を取ると同時に考えておく必要がある。
この殺し合いとはいったい何なのかを。
そして自分は、はたしてどう動くべきなのかを。







「実に興味深い」

給湯室で淹れた紅茶を飲みながら、持ち出してきた資料を見やる。
まずブラッドレイの興味を引いたのは、本棚とは別の場所に置いてあった新聞だった。

『山野アナ、議員秘書と不倫か!?』

『第1回ラブライブ、A-RISEが制覇』

『猟奇ひき肉殺人がまたも発生』

『世界初のフルダイブVRMMO、ついに発売』

それらの見出しを眺めていく。
見出しにある単語は、どれも全く覚えのないものだ。
「ラブライブ」などというイベントは知らないし、「フルダイブVRMMO」にいたってはそれが何なのか理解すらできない。
さらに新聞をめくっていくと、その日付はおろか年号までもがてんでバラバラなのにも気付く。
記憶が確かならば、今は1915年だ。
「フルダイブVRMMO」のことが書いてある新聞の日付は2022年となっている。
この新聞は100年後のものなのだろうか。
さらに言えば、ブラッドレイの世界で使用されている紀年法は大陸歴だ。
「西暦」などというものは全く聞いたことがない。
そして、それらの新聞に載っている写真に写り込んだ街並みも、アメストリスのものとはかけ離れているように見える。
写真といえば、やはりこの中の一角にあった「電子書籍コーナー」もなかなか面妖なものだった。
映像として内容が表示される本。指で触れることで動く画面。
それらはブラッドレイの知る写真技術を大きく逸脱したものだ。

いっとき前に考えたことが、再び脳裏をよぎる。
平行世界。
殺し合いの参加者がそこから集められたということ。
こうした証拠を前にすると、その実在はほとんど確信に到る。


194 : ティータイムと本性 ◆MoMtB45b5k :2015/12/13(日) 17:59:52 piCzXDlg0

次に手に取ったのは、固い紙で造られた、やや薄い本。
表紙では、見覚えのある3人の少女がポーズを取り、こちらに向かって笑顔を見せている。
本に付いていた帯には、『ニュージェネレーションズ、待望のファースト写真集!』という煽り文句が書いてある。
中身を開くと、3人の少女の写真が満載されていた。
3人が一緒に写っているものも、1人だけが写っているものもある。
水着を着て、太陽の照りつける浜辺でポーズを撮っている姿。
夕日の差す窓辺で、学校の制服らしきものを着て物憂げにたたずむ姿。
ワイシャツ姿でベッドに横たわり、肢体を投げ出している姿。

「……彼ならば、こういうものも喜ぶかもしれんがね」

ページをめくりながら、マスタングに関する噂を思い出す。
それによると、もし大総統の地位に就いたら女性の軍服をミニスカートに統一すると吹聴していたらしい。
彼ならこれも欲しがるかも知れない。
だが、いかんせん老年に達しようとしている自分には、鼻の下を伸ばすには彼女たちの姿は眩しすぎる。

「アイドルか……」

ページをめくりながら、しばし考える。
アイドル。そういえば、最初に出会った園田という少女も「スクールアイドル」と名乗っていたことを思い出す。
職業らしいが、少なくともアメストリスにはそのようなものはない。
煽情的な写真から、娼婦の一種かとも考えたが、それにしては写真の中で微笑む彼女たちの雰囲気は明るかった。
アンダーグラウンドの世界に生きる人間に特有の暗さが全く感じられないのだ。
だが、3人が華やかな衣装で舞台に立ち手を振っている写真を見て、多少の得心がいった。
観客に歌や踊りを披露する、踊り子と呼ばれる女性たち。
3人は恐らくそれに近しい者なのだろう。


195 : ティータイムと本性 ◆MoMtB45b5k :2015/12/13(日) 18:00:17 piCzXDlg0

彼女のたちの素性にはおおよその見当はついた。
しかし、彼女たちがなぜ殺し合いという異常な場に呼ばれているかが分からない。
1つの可能性としては、慰問だ。
戦いに疲弊した者たちに歌や踊りを見せ、しばしの癒しを提供する役目。
かのイシュヴァール内乱においては、こうした踊り子、あるいはサーカス団などが前線に多くやってきたものだ。
だが、戦う力を持たない彼らは、例外なく厳重に護送されてきていた。
翻ってこの場を見ると、彼女たちは自分と同じように首輪を付けられ、参加させられている。
慰問をやらせようというのなら、何の保護も施さず対等な条件で放り込んだりはしないはずだ。

結論は出ない。
だが、彼女たちが披露する歌や踊りそのものに、何らかの意味がこの場にはあるのかもしれない。
ブラッドレイはめくる手を止め、最初のページに戻る。
そこには3人のプロフィールが記載されている。

本田未央。ニュージェネレーションズのリーダーの15歳。
島村卯月。笑顔が取り柄の頑張り屋、17歳。
渋谷凛。クールでストイックな15歳。

「渋谷凛、くんか」

己の秘密を知られため、手にかけた少女。
「負けない」と言い残し、気高くこの世を去った少女。
あの時に感じた幼いながらも強い意志は、写真に写る姿からも感じられた。

「その意思の源はどこにあったのか、知りたかったものだ」

呟きながら、写真集をテーブルに置き、新たな一冊を手に取る。
写真集とはうって変わったシンプルな表紙で、厚みのある本。
表紙には、『バーチャルリアリティシステム理論』とある。

「分からんな」

パラパラとめくるが、内容はほとんど理解不能に等しかった。
文章中に散見される数式に加え、「コンピュータ」「プログラミング」「量子」などといった単語。
どれも、己の知る錬金術の知識とはかけ離れている。
だが、「まえがき」を読むことで、作者のおおよその意図を掴むことはできた。
作者は「プログラミング」なる技術を利用することで、「バーチャルリアリティ」――もう一つの現実、を作り出そうとしているらしい。

「だが、使えるやもしれん」


196 : ティータイムと本性 ◆MoMtB45b5k :2015/12/13(日) 18:00:37 piCzXDlg0

父上の計画は、アメストリス全体に血の紋を刻むこと。
しかし、この作者が主張しているように「バーチャルリアリティ」を作ることができるとしたら。
わざわざ大量の人員と長い時間を使わずとも、国土錬成陣に等しい力を持った代用品を作ることも、また可能になるかもしれない。
ブラッドレイは本を閉じ、背表紙を見る。
そこにある、「茅場明彦」という名前。
その名は名簿にあり、「ヒースクリフ」という名の横に書き添えてある。
次に、先ほど見た、『世界初のフルダイブVRMMO、ついに発売』の記事が載った新聞に目を向ける。
その記事の中には、「開発者は世界的プログラマー茅場明彦氏」「舞台は浮遊城アインクラッド」という文章がある。
アインクラッド。この殺し合いの舞台にもある施設だ。
ここから川を挟んで東にあり、先ほどの放送で首輪交換が設置されている。

「この男と会う必要があるな」

アインクラッド。それを作ったのが茅場明彦である可能性は大きい。
錬金術をも上回るかもしれない知識と力を持つ男。
この先脱出を試みるならば、会っておいて損はないだろう。

「……長居をしたな」

気付けば、先ほどの戦闘で崩れ落ちた壁から西日が差し込んでいる。
ブラッドレイは紅茶を飲み干し立ち上る。
体を準備運動のように動かすと、適当な本を本棚から抜き出して空中に投げ上げ、刺剣を振るう。

「まあまあといったところか」

剣を懐に収めた瞬間、床に大量の紙が舞い散る。
刺剣は、投げ上げた本の背表紙の糊付けされた部分を正確に断ち切っていた。
本調子とはいかないが、戦闘による疲労は抜けてはいるようだ。


197 : ティータイムと本性 ◆MoMtB45b5k :2015/12/13(日) 18:01:48 piCzXDlg0

「……行かねばな」

この図書館で会う約束をしていたタスクの姿は未だ見えない。
放送で名を呼ばれてはいないが、戦闘に巻き込まれて果たせなくなったか。
首輪の解析を任せてはいたが、それはかなり前のことだ。いつまでも待っているわけにはいかない。
向かう先はアインクラッド。
茅場明彦がそれを作ったならば、その近辺にいる可能性はある。

『あなたは我が侭な癖に、やってることは中途半端なのよ。そんな人間にはなにも掴めないわ』

確かにそうだ。
脱出はしたい。広川に従いたくない。素性を知った相手は殺したい。
今の自分は二兎どころか三兎を追っている。
だが、自分のいた世界から来ている人物はおらず、素性が既に多くの参加者に知られてしまっている現状。
2人を殺害したことは隠すべきとしても、少なくとも3つめの目的は捨ててもよいだろう。

「素性を下手に隠さなければ、心おきなく戦える」

そう考え、ふと我に返る。
戦うことそのものはこの場では重要ではないはずだ。
しかし。

「久しいな……この感覚は」

大総統の地位に就いてからは、戦場を自ら駆け巡ることはなくなった。
最高指導者の役目とは、自らが兵士になることではなく兵士を動かすことだからだ。
だが、これまでの戦闘の数々で、己の中に潜んでいた戦いを求める心が刺激されているらしい。


198 : ティータイムと本性 ◆MoMtB45b5k :2015/12/13(日) 18:02:17 piCzXDlg0
レールの上の人生からはみ出してみたい。
地位にも何にもとらわれず、ただ戦ってみたい。
そんな思いが無意識に強くなっている。
泳がしている雷光の錬金術師や、プライドに喰わせることにしている金髪の青年の顔がブラッドレイの頭をよぎる。
彼らと再び会いまみえた時、果たして目的通りに動くことができるか――。

期待と高揚感とかすかな不安がない交ぜになった感情を抱きながら、キング・ブラッドレイは歩を進めていった。






【D-5/図書館/一日目/夕方に近い午後】

【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、出血(小)、腕に刺傷(処置済)、両腕に火傷(処置済、腹部に刺し傷(致命傷ではない、処置済)
[装備]:デスガンの刺剣(先端数センチ欠損)、カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[道具]:新聞、ニュージェネレーションズ写真集、茅場明彦著『バーチャルリアリティシステム理論』(全て図書館で調達)
[思考]
基本:生き残り司令部へと帰還する。そのための手段は問わない。
1:橋を渡りアインクラッドに向かう。
2:ヒースクリフ(茅場明彦)と接触し、情報を聞き出す。
3:自分の素性を無闇に隠すことはしない。
4:稀有な能力を持つ者は生かし、そうでなければ斬り捨てる。
5:プライド、エンヴィーとの合流。特にプライドは急いで探す。
6:エドワード・エルリック、ロイ・マスタング、有益な情報、技術、帰還手段の心得を持つ者は確保。現状の候補者はタスク、アンジュ、余裕があれば白井黒子も。
7:エンブリヲ、御坂美琴にもう一度会ったら……
8:島村卯月は放置。
9:自分が不利だと判断した場合は殺し合いの優勝を狙うが……
10:糸や狗(帝具)は余裕があれば回収したい。
[備考]
※未央、タスク、黒子、狡噛、穂乃果と情報を交換しました。
※御坂と休戦を結びました。
※超能力に興味をいだきました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。
※これまでの戦いを経て、「純粋に戦いたい」「強い者と戦いたい」という感情が無意識に大きくなりつつあります。


199 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/13(日) 18:02:38 piCzXDlg0
投下を終了します


200 : 名無しさん :2015/12/13(日) 18:06:53 ZhAoYD3U0
投下乙です!
新聞の内容にニヤニヤしてしまうw
大総統、地が出始めてますよ


201 : 名無しさん :2015/12/13(日) 23:33:59 vYQ9szqw0
投下乙です。投下の多さに嬉しい悲鳴

過労死レベルの活躍を見せる後藤さん。アンジュの奇策も一歩及ばずか。
サリアに思いが託されたが、もう色々手遅れな状態だよなあ

エゴで行動しているはずが酷い目にしか合わない足立。
満身創痍のまま渦中にぶち込まれるが、持ち直せるのか気になるところ

キンブリーは完全な勝ち逃げ。このイリヤを救える者はいるんだろうか。
トリックスターのルビーが無力なのが悲惨だ

タスク組の首輪考察はニーサンの一歩先を行った感じか。
ビリビリにラッキースケベ発動はアンジュ死亡が引き金なんだろうか

エスデスはこのロワで安定しているな。今のところ対主催寄りだがいつ均衡が崩れるやら。
セリムはそろそろ同盟相手を探さないと夜が怖いぞ。

大総統はまずはリラックスして仕切り直しか。このロワって休憩シーン少ないよね。
ヒースクリフは急にいろいろなキャラからモテモテになっているな。


202 : ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:12:01 G4qNNtls0
投下します


203 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:12:53 G4qNNtls0
『六時間後にまたこうして君達に話せることを祈っておこう。』

放送が鳴り終わる。
田村玲子、西木野真姫、初春飾利の3人のいる場所は346プロの建物内。
転移結晶でワープを行って間もなく、放送が鳴り始め、それが今終わった。

「……大丈夫?」
「…………大丈夫…です…」

初春の顔色を見て心配した真姫が声をかける。

放送で呼ばれた名前の中に穂乃果や花陽、そして泉新一を始めとしたあの場所で出会った者達の名前はなかった。
しかしそれに安堵することは、初春の前では許されることではなかった、と真姫は自分を戒める。

「…婚后さん……」

初春にしてみれば美琴や黒子、佐天と比べればそう親しい間柄ではない。
学校も能力のレベルも違う、黒子と共に風紀委員の仕事をしていなければ雲の上のような存在だっただろう。
だがそれでも、友達の一人であったことには代わりない。
癖はあるものの強力な能力は幾度となく美琴の危機を助け、自分達の力にもなってくれた。

だが、そんな彼女ももういない。

「……大丈夫です。こんなところで私一人落ち込んでいる場合ではありません」

きっと彼女ともっと親しかった黒子達の方がもっと辛いだろう。
だけどそれでも、あの人達は立ち止まりはしないと初春は信じている。
だからこそ、自分も今できることをしなければならない。

そう初春は顔を叩いて意識を切り替えて、キーボードの前で手を動かす。

「…首輪、か……。このタイミングで何を考えている?」

田村玲子は思考する。
放送により語られた首輪交換システム。
正直なところ、こうなるとあの場所に美遊・エーデルフェルト、巴マミの二人の首輪をおいてきてしまったことに後悔を覚えなくもない。
首輪を交換する目的がなくとも、首輪交換によって余計に力を得られては困る者というのは存在する。
海未やマミを殺したサリア、そして戦闘力ならばかなりのもののブラッドレイや後藤といった人物が最たる例だ。

しかしそれよりもどうしてこのタイミングなのかが気がかりだ。
殺し合いの促進。首輪を積極的に得させることで参加者の強化を促し殺し合いそのものの活性化を図ること。
今呼ばれた死人の数は12人。これで残りは44人だ。その人数は決して少ないものではない。
だが、もしかするとそれでも不足だというのだろうか。
首輪回収そのものを目的としている。
死人が増えればそれだけ集められる首輪の数も増える。そうなれば初春のような解析技術を持った者の手に渡ることもあるだろう。
だが、それが困ることであれば解析困難な技術を用いておけばいい話だ。
これだけのことをやっておきながらあっさり解析可能な首輪を作っているというのもあまりにお粗末。
あり得るとするならば、何か広川達にとっても困る何かがこの放送までの間にあったか。

首輪回収が目的なのか、手段なのか。
だがどちらにしても首輪を渡す理由はない。

(まずは今この建物での解析が優先か)

「何か分かったかしら?」
「…はい。西木野さん、少しいいですか?」


204 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:13:27 G4qNNtls0

PCの置かれたデスクの前に座った初春は、その横に置かれていたタッチパネル式のタブレット端末を差し出す。
これは元々このデスクの棚の中に入っていたもの。
中に何かデータが入っているわけでもない、ただの空っぽの端末。せいぜいこの建物内に敷かれたネットワークに繋ぐくらいがせいぜいだ。
しかしそれも初春の手にかかればハッキングに使う道具と成り得るものだ。

「データ自体は先程のものと同じ形式です。西木野さん、お願いできますか?」
「分かったわ」

8進数で示された記号。これを音符へと変換して曲とする。
そしてその楽曲を歌うことでロックを解除するのだ。

「これで、この場所の解析も終わりですね」
「そうだな」
「どうしますか?このまま学校に戻るか、それともコンサートホールに向かうか」
(コンサートホール、か…)

数字を音符へと書き直す真姫を見ながら、田村は考察を思い返す。
そもそもこの346プロとコンサートホールを目的地としたのはどちらも音楽に関わるものであったからだ。
そして実際にこうしてこの場所ではその結果を見つけ、成果へと繋げられそうになっている。

(音楽…、しかし本当にそれだけか?)

しかし、あまりにもうまく行きすぎている。それが田村の中に疑念と警戒心を生み出していた。
確かに試されているのだろう。
もしハッキング技術を持つ初春と音楽に詳しく作曲経験もある真姫が揃っていなければこうも解析が進むことはなかっただろう。
あるいは他に彼女達の能力のような技能を持ったものがいたとするならばまだ難易度は下がるだろう。

だが。

「初春さん、もしここの解析が終わればどのくらいのエリアが掌握できるのかしら?」
「それはやってみないと分かりませんが、もし音ノ木坂学院と同じ法則であるとするならばA5からD8の16エリアになると思われます」
「…………」

つまりはもし同じ法則通りにいくとするならば、コンサートホールを解除することでまた周囲の16エリアが解除されるということになる。
だとすると。

(残り16エリアはどうなる?)

どのような形に解除されても、中途半端な形で東西で分断されることになる。
もしこれまでの規定通りにA1からD4までの1/4が解禁されるとしても特にA4までは少し距離がありすぎるようにも思う。
あるいはここだけで16のエリアを管制しているというのならばいいが、何かが引っかかる。

(もしその16エリアに可能な限り等間隔な回線を繋ぐなら、B2からC3までの場所を中心とするのが効率がいいと考えるがここにある施設は市役所だけ………。
 …市役所?)

ふと、田村の中で何かが引っ掛かった気がした。

「あーもう、何これ!」

と、思考を進める田村の耳に届いたのは真姫が頭を抱えながら上げるぼやき声。

「どうした?」
「曲自体は分かったんですけど、これμ'sの楽曲のどれにも一致しないの!」


音ノ木坂学院で解析した際の曲はμ'sの楽曲、『START:DASH!!』であった。
自分の思い出の中でも深い意味を持つ曲だったこともあってそれ自体はすぐに気付くことができた。
だが、この曲のリズムは作曲した覚えのあるものではない。
一応A-RISEや他のスクールアイドルの曲からも思い出せる限り考えてみたが一致するものはなかった。

「確か、アンジュが言っていたわね。お前の友人の…確か星空凛だったか。彼女と同じ名前を持ったアイドルがいた、と。
 この建物はそのアイドル達のための建物だったのかもしれないわね」
「つまり、この346プロってところの関係者に聞かないと分からないってこと?」
「少なくとも数撃って当てられるようなものではないでしょうし。
 そのアイドルが見つかるまでは一旦保留ということになるわ」
「ちょっと待って!もう少しだけ、もう少しだけ探させて!何か手がかりになるものがあるかもしれないから!」


205 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:15:09 G4qNNtls0

そのまま真姫はタブレットを持って部屋を飛び出そうとしていく。
おそらくこの建物内に資料がないかを探して回るつもりなのだろう。

「それじゃあ、西木野さん。そのタブレットにつけている通知機能には気をつけてください。
 それはこの建物周囲に人を発見した際に知らせるようになっていますから」
「分かったわ」

そう言って真姫は一人で飛び出していく。

自分でできることを見つけたのだ。一人でやってみたいという思いがあるのだろう。
ここは任せてみるとしよう。

「田村さん、私も少しいいでしょうか?
 ハッキングの最中にこの建物内には監視カメラがあることに気付いたので念の為に復旧と確認をしてみたいんですけど。
 それに、外を走らせているドローンからの映像もそっちから見られるようになっています」
「ふむ、じゃあ私も同行させてもらうわ。警備室ということになるのかしら?」
「はい。一応場所は把握していますので」

そのまま何かをメモした紙を手にして立ち上がる初春。
そんな彼女に追随して田村もその部屋から立ち去っていった。



施設内の案内図を見ながら建物を駆け回ることしばらく。
建物同士を繋ぐ渡り廊下を抜けた先にあった別館。
そこにはレッスンルームや撮影スタジオなど様々な部屋がある。
名前を見るだけでも、それがアイドルの仕事に関わっているものだということは分かる。

その幾つかの部屋を駆け回り、その中を漁ってはまた次の部屋へと出て行くということを繰り返すこと数回。
ようやく目的のものを見つけることができた。

これは一か八かの賭けのようなものだったが、音ノ木坂学院の中にあったものが知る限りでは現物に近い様子に再現されていたことから思いついたことだ。

並べられたのは大量のCD。
ジャケットには一人しか映っていないものやコンビ、トリオを組んでいるもの、多数のアイドルが並んでいる写真など様々だ。
ここがアイドルのプロダクションであるのならば売り出しているCDくらいは置いてあるはず、そう考えて探し出したのだ。

あとはこの音階に合う曲を探すだけ。
なのだが。

「…すごい数……。見つけられるかしら……?」

ざっと見ただけで20〜30枚はある。
もしかしたら探せばまだ出てくるかもしれない。
この中から、目的の音階を持ったものを探しだすとすると、どれくらいの時間がかかるだろうか。

そもそもこの音符が最初から示されているとも限らない。
もしかしたら曲の1パートを切り出したのかもしれない。
その場合は最初から最後まで曲を聞いて吟味する必要がある。

「…でも、やらなきゃ……。これが私にできることだから……」

真姫は、部屋に置いてあったプレイヤーにCDを挿入し、再生ボタンを押した。





206 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:16:07 G4qNNtls0

大量のモニターが設置された室内。
そこには一つ一つが違う場所の様子を映し出している。
本来そこにいるべき人が誰一人映らないことを除けば、その風景には何も怪しいところはない。

「全部廊下らしいけど、室内の光景は見られないのかしら?」
「それがどうもここから確認できる限りだと監視カメラは廊下にしか設置されていないみたいで。
 おそらくこの建物の本来の設置場所を再現した結果こうなったというものだと思いますが」

室内。アイドル達にしてみれば着替えをする部屋やプライベートなものを見せることもあるような場所を覗かせるほど無神経ではないということだろう。
ここにおいてもそれを徹底しているのはあくまでも再現しているだけだということを示したいのか、それとも別の理由があるのか。

「ここの監視カメラから広川達が情報を得ているという可能性は?」
「うーん…、どうですかね?確かにこの監視カメラの情報はハッキングで見つけたものですが…。
 それにしては監視に穴が多いのが気になるんですよね。室内が見えないことになっていることといい、分かる人ならすぐに気付けそうな死角がかなり見受けられます」
「音ノ木坂学院にはあったのかしら?」
「少なくとも調べた限りでは見つけられませんでした。もしかしたら本当に再現をしただけ、という可能性も」
「ふむ」

その一方で、監視カメラとは別個に備え付けられたPCからは別の光景が映っている。
地面をローラーのような音を立てながら走る何かが室内ではないどこかの映像が見える。

それは今346プロ外部を走っているドローンから送られてきている映像だ。
初春の支給品の一つ。その機能は学園都市にある警備ロボのそれに近いものだ。
監視カメラや簡易的なスタンガンを備えており周囲の警戒にはうってつけである。
3時間の充電で通算2時間ほど動かすことができるとあった。
音ノ木坂学院にいた時はその充電に時間を費やしたことと監視カメラに関連つけられる機材にちょうどいいものがなかったこともあって使用を控えていた。
しかしこの場に着いて警備室の存在に気付いたところでハッキングの際ネットワークと関連付けを行い、ドローンの映像を建物内にいる間確認できるようにしたのだ。
そしてこの346プロ周囲のエリアを監視して回る。もし誰かが近づいてきたのが確認できてそれが要警戒対象だったら、あるいはドローンそのものが破壊されることがあれば。
その時は回廊結晶で逃げればいい。その場合はドローンは放置していくことになってしまうのだが、どちらにしても再度充電する時間的余裕があるとも限らない。



ともあれ、これでもしもこの建物内に何者かが近づく、あるいは入ってきた場合の確認ならば可能だ。
もし後藤のような者がやってきた場合は早急に逃走する準備をする必要がある。
もし知り合いや仲間に成り得る者が寄ってきたのならば合流に向かえばいい。

「ちなみに、これまでにここに来た者の映像は残っているのか?」
「それは………、どうも記録は残ってないみたいですね」
「そう」

まあそれ自体は知ることができれば便利、程度のものだ。
今はまず解析作業と平行して監視カメラによる警戒をしておくのが優先だろう。

互いの位置を大まかになら知ることができる関係上、後藤が来ることはないだろう。
しかしそれ以外の危険人物を見極めるには別館に入ってきた場合早急に真姫の元へと向かう必要がある。


「初春、あなたはこのままコンサートホールに向かうべきだと思う?」
「それはここで答えが見つかるまで検索するべきかという意味ですか?それとも別の場所に向かうべきか、という意味ですか?」
「後者ね。
 初春さん、少しうまく行き過ぎだとは思わない?
 音楽が解析の鍵になっていて、そのキーの場所としてコンサートホールと346プロが選ばれた。
 確かにあなた達二人の一方が欠けていてはできないことだけど、それでも」

音楽に詳しい者とハッキングができる者が揃ってようやく解除できるロック。
どちらかが欠けていてもこの解析は不可能だ。だが、音ノ木坂学院に二人が揃ったようにその要素が揃ってしまえば一気に状況は進む。
移動時間もあるだろうが、あの転移結晶のような道具まであることを考えると、あるいはという可能性もあり得る。

「つまり、田村さんはコンサートホール以外の場所にも向かうべきだと?」
「そうね。私が気にしているのはここ」

と、田村玲子は地図の左上に位置する一つの施設名を示す。
市役所。


207 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:18:09 G4qNNtls0
「市役所…ですか」
「そうだ。もしかするとコンサートホールは考察者の目を反らすためのカモフラージュである可能性もある。
 音ノ木坂学院、346プロ。この二つは開放されたエリアの中心付近に位置している。そう考えた場合、残っている二箇所は市役所、そして能力研究所だ」
「能力研究所…、確かにそこは怪しいですが…、でも市役所というのはそんなに何かあるものなのですか?」
「まあ、私の知る市役所は特に何の変哲もない人間の働く場所だったが。
 だが、話しただろう?
 広川、この殺し合いの主催者をやっている男。私の知っている奴は市長だった、と」
「あっ」

初春は気付いたように思わず声を出す。

この情報を知っている者は田村玲子の知る限りでは自分と泉新一と後藤のみ。
もしそれ以外の者全てが、サファイアの言っていたような並行世界から集められたのだとしたらそれだけの者しかその素性を知る者はいない。
そして後藤がそのことを他者に話すような者ではないことはよく分かっている。であれば、この符号に気付くのは難しい。
無論ブラフである可能性もあるが、どうにも引っかかるものがあるのも事実だった。
もし自分がいなければコンサートホールしか選べなかっただろう。

「無論、まだこれは仮定の段階だ。
 コンサートホールに寄るついでで向かうことができればいいという程度のものと考えておいてもらっても構わない」
「そうですね、私もダミーの可能性については考えていませんでした。
 西木野さんの方が終わったらまた相談しましょう」





―――もう止まらない、熱くきらめく想い手を伸ばせ もっと高く君と君と君とさあ進もう〜♪

「これも違う…」

横に積まれたCDはまだまだ残っている。しかし真姫の探す楽譜に合致する曲は見つからない。

とりあえず一番部分だけでも聞けば判断はできるとはいえ、それをずっと、曲に意識を集中させて流し続けるのは中々に疲れるものだ。
優先して聞いていたのは、このアイドル達のCDの中でもこの場に呼ばれた者達の曲だ。

島村卯月、渋谷凛、本田未央、前川みく。
CDの歌手名から確認できた限りではこの4人がそれに該当していた。
だが、一致するものが見つからない。

「凛…、それににゃあって猫の鳴き声みたいな口調でしゃべるアイドル、か……」

ふと音楽を止めて思いを馳せる真姫。
脳裏に浮かぶのはいつも元気で、ベタベタと人懐っこくくっついてきた一人の少女の笑顔。

「……、いけない。こんなこと考えてる場合じゃ」

その喪失感に放心してしまいそうになった自分に喝を入れて、再度作業に取り掛かる真姫。
だがまだ山積みのCDは多い。もしも先に漁った4人のアイドルの関わった曲でなければ、もっと探すのには時間がかかるだろう。

「CD…か…。そういえばここはプロのアイドルの育成所ってことなのよね?」

あくまでも学校の部活の一貫としてやってきたスクールアイドルにはこんなCDを売り出すような機会はなかった。
ラブライブに優勝して全国的にも有名になったといっても、それもあくまでスクールアイドルとしてのものにすぎない。
世の中には、こんなにたくさんのアイドルがいて、そのどれもがこんなに素敵な歌を歌っているのだ。

「にこちゃんや花陽の気持ち、少しは分かった気がするな…」

こんな大きな建物の中で、こんなにたくさんの歌を多くの人の前で歌うのだ。
それはもしかするとあの時のラブライブ決勝戦以上のものなのかもしれない。
そう思うと、あのアイドルに憧れていた二人の思いに少し近づいたようにも感じられた。

首を回しながら、少し休憩を、とふと背伸びをしながら窓の外を見つめる真姫。
そこに映っている光景は、大きな湖とそこを分けるようにして舗装されている地面、そこから少し横に見回せば大きな館も見える。
その館は地図から判断するとDIOの屋敷らしい。DIOといえばあの時に出会ったあの不気味な男。ただの屋敷だとは思えないが、あの男の雰囲気を思い出すと行く気にはならなかった。

(あの時も、私は守られてばっかりだったのよね…)

DIOと会った時も、そして海未が死んだあの時も。
ずっと田村さんに守って貰いっぱなしで。
ようやく自分にもできることが見つかったかと思ったらこの体たらくだ。

(何やってるのよ、私は…)

やるせない思いから窓に頭をぶつける真姫。
ふと視線を上げたその時だった。


208 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:19:00 G4qNNtls0


ピピッ

タブレットが何かを知らせる音を響かせた。
それは何者かがこのエリアにいるということを示すドローンからの知らせだ。

机の上に置かれたそれに近付きタブレットが映しだした映像を見つめる。
もしそれが田村さんの言っていた後藤やDIOのような相手だったら。

緊張しながら映像をじっと見つめる。
そこに映ったのは、何もない空間をまるでぶら下がりながら移動する少女の姿があった。

「……、あれ?」


よく目を凝らして見てみる。
するとやがてドローンがその映像を拡大、静止して映るようにカメラを切り替えたようではっきりとその姿を見ることができるようになった。
茶色い、制服にも見える服を来た少女。

(…この子って……)

どこかで見たことがあるような気がする。


「あっ!」

少し考えたところで真姫は地面に置かれたCDのジャケット、そこに描かれていた写真と映像を見比べる。
その写真の主は島村卯月。名簿にも書かれていた、この殺し合いに呼ばれた人物の一人のようだった。
ということは、あの子はこの346プロのアイドル、ということになるのだろうか。


と、その時映像がプッツリと途絶え、映像を写していたプレイヤーのウィンドウがブラックアウトした。
誰かに壊された、という様子もない。おそらくは今その充電が切れたということなのだろう。

(あの子なら、何か分かるかも……。ああでも、田村さん達のところに相談に行ってたら見失っちゃう……)

走れば追いつけるだろうか?
あの子がいればこの解析に力になってくれるかもしれないし、もしかすると一緒に行動する仲間になれるかもしれない。
だが、今あの子を追いかけることは安全なのだろうか?
あの子が移動していく映像の中に彼女を追う者はいなかった。つまり何かから逃げている、ということでもないのだろう。
それにドローンはそれ以外の人を認識することもなかった。あの周囲に危険人物がいる可能性は低い、と見積もることはできる。

(ああ、もう…!田村さんごめんなさい!)

心の中で謝罪しながら、真姫は荷物を纏めることもなく走り始めた。
あの一人の少女、この346プロに所属するアイドル、知っている限りの情報ならばそれだけの人間であるはずの少女の元に向けて。
この時真姫の中に、彼女に対する警戒心などはなかった。アイドルである彼女が危険、などということは全く頭になかった。
いわば、それは彼女がこの場においてずっと守られ、危機から遠い場所で過ごしてきたが故の想像力、警戒心の不足によるものだった。



「この子は…知っている子かしら?」
「いえ…、私に見覚えは…。あ、でも少し待ってください」

備え付けられたPCに映った、宙を滑空するように移動する少女。
しかし初春と田村玲子の知っている者ではない。

あの移動は飛んでいるというよりは宙に張った何かを使って渡っている、というような動きだ。
しかしその映像が映っている時間もそう長くはなかった。
プツン、と音を立てたのを最後に、見ていた映像は消える。

「ああっ、こんなところで電源が……!」
「映像のバックアップ自体はあるのかしら?」
「それなら大丈夫です。ちゃんと画像で残しておきました」

と、初春は少女の拡大された写真を画面に映し出す。

「…ありました。この建物のデータベースに入っていた情報です。
 島村卯月さん、346プロというプロダクションに所属するアイドルです」
「アイドル…、それだけ?」
「はい。それ以外の情報は何も」

ふむ、と田村玲子は手を顎にやって思案する。
確かアンジュという娘は渋谷凛という彼女と同じ場所に属するアイドルと少しの間共にいたらしいが、その少女は特に何か特別な能力を持った様子はなかったと言っていた。
つまり、あの娘は何の能力も持っていない、真姫と同じ一般人でありながら単独で行動をしているということになる。

あの移動方法自体は何か支給品を使っているとして説明はできるが。

「初春さん、他にあの近くに人の存在はあった?」
「いえ、映像の中では彼女だけの様子でした」


209 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:19:36 G4qNNtls0

少し不審なようにも感じられる。
無論、一人で行動すること自体に何か理由があるのかもしれないが、これだけの死者が出ている場所でただの女の子が一人で行動するだろうか。

(協力してもらえれば力になってもらえるかもしれないけど、ここは放っておくべきかしらね)

幸いにしてこちらに近づいてくる様子はなく、北に向けて移動をしているみたいだ。
藪蛇に触れるよりも、

「放っておくわ」
「……でも、あの人は大丈夫ですかね…?」
「下手に接触するにも不安が残るわ。誰かに追われている、という様子でもないなら大丈夫でしょう。
 監視カメラは動いているのよね?」
「……はい、それは大丈夫です」

初春は後ろ髪を引かれるような思いを感じながら。
しかしここで反対したところで自分ではどうすることもできないと、自分の作業に戻っていった。


この時、島村卯月の映像に意識を取られていた間。
二人は気付かなかった。視界から外した、監視カメラの向こう側で外に飛び出していく一人の少女の姿が映っていることに。




「はぁ……ちょっと疲れましたね…」

クローステールを使っての移動をしてDIOの屋敷という建物の近くまでやってきましたが。
ただ、ずっと手を動かしてきた影響なのでしょうか、それとも慣れてきたとはいえ今まで使ったことのない糸の使い方をしてきたからでしょうか。
何だか、同じ距離を走った時以上に疲れてしまったような気がします。

息を整えながら、目の前にそびえ立つDIOの屋敷を眺めます。
大きな塀と門の向こうには、とても大きな家が見えました。
できることなら少し逸れて、建物をぐるっと回って北に向かいたいですけど、しかしそうしてしまえば禁止エリアへと入ってしまいます。

少し気味が悪い気もしますけど、ここを突っ切らないとセリューさんに会うことはできません。

そこで進もう、と意を決した時、急にお腹がなりました。

体力不足を痛感しながらも、バッグに入っていた食料と水を取り出し、一旦足を止めて口に頬張りました。
急いでいても無理は禁物、ですもんね。
食事もかねて、少し休憩をトリます。

もし糸を使ったことが疲れた原因なら、移動で無闇に使うのは避けた方がいいのかもしれない。セリューさんとの合流は優先事項ですけど、それまでにバテて倒れてしまっては元も子もないです。
体調管理は大事ですもんね。

飲みかけのペットボトルをバッグに入れて、館を通り抜けて行こう、と。
そう思って門へと向かっていった、その時でした。

後ろから誰かが走ってくるような足音が聞こえてきました。
マスタングさんではありません。もっと軽いような感じの足音。
手のクローステールを飛ばして聞き耳を立ててみます。
もしかしたら何か喋って、そこから何者なのかという情報が得られるかもしれないと思ったから。

だけどそんな気配は全然なくて。
気がついたらすぐ後ろまで追いついてきていました。

「はぁ…はぁ……、良かった、間に合った…」

息を切らせながらやってきたのは濃紺のブレザーを来た、赤い髪の女の子でした。
その服には見覚えがあります。
南ことりと、小泉花陽さんが着ていた制服と同じもの。そしてその特徴的な赤い髪は聞いていた情報と合致しました。

(μ'sの、西木野真姫さん?)
「えっと確か、あなたは島村卯月…であってたかしら?」
「ええ。そうですけど」
「よかった。ちょっと来て!」

と、手を引っ張って走り始めた真姫さん。
あまりにいきなりだったので、手を引かれたまま踏みとどまることもできずに付いて走ってしまいました。


210 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:20:03 G4qNNtls0

(早くセリューさんと合流しないといけないのに)

セリューさんの方に向かっていたのに、そことは逆方向に行っています。それに疲れも取りきれてないのに手を引かれて走っている状態です。
ちょっと鬱陶しいかなと感じた私はこの手を振り解いて無視して行ってしまえばいいだろうかと考えます。
だけど、ふと思い直しました。

(そういえば、この人はμ'sの、高坂穂乃果の友達。
 もしかしたらその諸悪の根源について何か分かるかも)

この時の私には、真姫さんを含むμ'sそのものが悪、だという認識はありませんでした。
高坂穂乃果は確かに悪かもしれないですけど、それはμ'sに紛れ込んでしまった悪が彼女だったのであり、グループそのものが悪いわけではないと。セリューさんもそう言っていました。
だから、彼女もあくまで騙されているだけ、悪だと見るには早計なんじゃないかと、そう思いました。

倒すべき相手の情報を持ってセリューさんのところに向かうことができれば、きっとセリューさんのお役に立てます。
だから、今はおとなしく着いて行ってみます。

「えっと、分かりました!でも、もう少しゆっくりと歩いてもらっていいですか?」

一言返事をしながらにっこりと笑います。

…笑顔、ちゃんと作れてたかな?



カチリ、カチリと定期的に切り替わる監視カメラの映像を眺めながら、ふと作業を続ける初春が呟いた。

「それにしても、不思議な感覚です」
「ん?」
「田村さんと話してたら、何だか以前会った人のこと、どうしてか思い出してしまうみたいで」

どうやら切りだされた話はこれまでの流れとは無関係なものの様子。
こちらの本題を進めるべきなのだろうがふと初春がこれまで出会った人間というものにも興味が湧いたのも事実。

「差支えなければ聞かせてもらえるかしら。そのあなたの会った人間について。別にそのままで構わないわ」

だが作業が滞ってしまってもことだ。影響のない程度に聞くに留めておこう。
そんな気遣いは無駄だとでも言わんばかりに初春の手と口がそれぞれ独立しているかのように話し始めた。

「…その人はとある実験の研究者でした。
 ある目的のために多くの学生を巻き込んでの人体実験とも言える所業に手を出し、学園都市に決して小さいとはいえない事件を巻き起こしたんです」
「その目的というのは?」
「……子どもたちのためです。自分の加担した実験のせいで目を覚まさなくなってしまった小さな子どもたちを治すために、と。
 そのためにどんな手段を使ってでも、どれだけの犠牲を払ってもと」
「その子どもたちというのは、その人の子供だったのかしら?」
「いえ、その子達は生徒、教え子です。その人が教師をした時に面倒を見ていたんです」
「つまりその人間は、無関係な人間のために多くの人間を敵に回していた、ということか」

興味深い話だ、と田村玲子は思った。
もうしばらく前の自分であったならば理解できなかっただろう。
何故人間がそうまでして他者に献身的な行動が取れるのか。時として自分の体、あるいは命すら投げうって。

だが、巴マミは無関係な人間を守って命を落とし。
園田海未もまた、本来力を持たぬはずの学生のはずなのに友人、真姫を守って死んでいった。

何故そのような行動が取れるのか。
きっと頭で考えるだけならば分からない問題だっただろう。
あの時、自分の産んだ赤ん坊を泉新一に託した行動も、また。

(他者への献身、か。もしかすると西木野さんにここまで思い入れるようになったのも、そのためだったのかもしれないわね)

対象は案外誰でもよかったのかもしれない。
ただ、偶然この場で最初に出会った相手が彼女だったというだけで。
子供を泉新一に託し、そして全てを終わらせた自分が何かを支えとするために、西木野真姫を利用しただけだったのかもしれない。

そこまで思い至って自嘲する。
まるでこれでは人間のようではないか。

(だけど、今考えていても仕方ないことね)


211 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:21:27 G4qNNtls0

しかし今はそのようなことばかりを考えている余裕のある時ではない。
初春の話も終わった以上、もっと建設的なことを考えなければならない。

思考を一旦打ち切った田村玲子は、時計を見ながら初春に呼びかけた。

「そろそろ潮時かしらね。西木野さんを迎えに行くべきかしら」
「そう、ですね。情報は得られましたし、音楽に関しては分かる人が見つかるまでは保留にするべきかもしれないですし」

と、映る映像を定期的に切り替えながら初春は田村玲子の言葉に相槌を打つ。

「…でも、大丈夫でしょうか。闘技場でタツミさんと美樹さんとの待ち合わせをする約束もしているのに」
「そうね。その辺りは西木野さんとも相談しておくといいかもしれないわ。場合によっては彼女だけでも学校に戻すという選択もあるかもしれないし」

確定事項というわけではない。だが先にも初春と相談したようにコンサートホールが鍵となっているという確率も半々だ。
ここからコンサートホールへと移動する場合距離的に他参加者との遭遇は避けられないだろう。
それが二人の友人のような仲間と成り得る者であればいいが、もし殺しを厭わない危険人物と遭遇した場合が問題だ。
田村玲子は自分一人であれば生き残る自信もあるが、二人を守りながら、となると全員が無事でいられる可能性はかなり下がってしまう。

解析のために初春だけでも連れていくことも視野に入れておくといいかもしれない。
無論その場合は合流に時間を要してしまうため、真姫と相談してから確定とするつもりではあるが。

「あ」

と、初春が映像の切り替えを止める。
そこにあったのは別館の入り口。
ガラス張りの自動ドアの向こうから何者かの影がかけてくるのが映った。

別館といえば真姫のいる建物。もし危険人物だったならば。
警戒心を露わに映像を見つめる。
影は二つ。急いでいるかのような速さでかけてくる。

やがて扉が開き、その姿が視認できるようになる。

「…西木野さん?」

しかしその先導を走っていたのは赤い髪の少女。
見間違えるはずもない、西木野真姫だ。

彼女は建物内にいたはずだ。どうして外から入ってきたのか。

「この映像、間違いなくリアルタイムのものなのよね?」
「そのはずです………、すみません!見落としてしまってました」

焦りながら謝る初春。

見落としていたというのは好ましい事態ではなかったが、真姫が怪我を負っている様子はない。
今は責めることよりも優先すべきことがある。

「他に見落とした侵入者はいないわね?」
「えっと、……西木野さん達以外は、少なくとも廊下を移動している人はいないです」
「あの子は、島村卯月ね」

おそらく真姫は彼女がこの346プロのアイドルであるということに気付いて、楽譜の解析のために連れてきたということだろう。

(少し、迂闊すぎるかしらね)

その走る様子には警戒心などない。
きっと島村卯月をただのアイドルと見て安心しているのだろう。
こちらに一旦連れてきた上でやればいいものを、と考えながらカメラを眺め。

(…ん?)

その様子を見ていると、ふと違和感を感じた。
真姫の後ろを付いて走る少女の様子が何かおかしい。

位置的にもっとも二人の様子がよく見える監視カメラの映像に近寄って目を凝らす。


212 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:23:24 G4qNNtls0

(笑っている?)

前を走る真姫に追随していくその少女の浮かべている表情。
そこにあったのはまるでこれから楽しいことでも起こるのかとでも思わんばかりの、満面とは言いがたいがにこやかな微笑みだった。

もし彼女も真姫と同じ、ただのアイドルでしかない人間なのだとしたら。
どうしてこの場であんな微笑みを浮かべていられるのだろうか?

真姫が他の者を連れてきている様子はない。さっきの映像といい、彼女は一人でいたはずだ。
この殺し合いという場で、たった一人取り残されている状況で果たして笑っていられるものだろうか?

(嫌な予感がする…)
「初春さん、二人が入っていった部屋の場所、分かるかしら?」

少し急いだ方がいいかもしれない。





――――DOKIDOKIはいつでもストレート

――――迷路みたいに感じる恋ロード

――――ハートはデコらず伝えるの

――――本当の私を見てね

走ったせいでしょうか。若干息が乱れたような気がしましたけどその曲を歌いきりました。

346プロの別館まで連れてこられた私は、楽譜を渡されました。
どういうことなんだろうと困惑していたら、私を連れてきた真姫さんが説明してくれました。
この音階の曲がこの会場のロックを外すためのキーとなっているけど、それが何の曲なのかが分からない、と。
楽譜だけ渡されてもイマイチピンとこなかったのですが、真姫さんが鼻歌でリズムを教えてくれたらピンときました。

そして今、その歌が終わります。

「…よし」

置かれたタブレットからロックが外れるような音が聞こえました。どうやら成功したみたいです。

「ありがとう!助かったわ!私だけじゃ分からなかったから…」
「いえ、困ってる人を見捨ててはいけないと教わりましたから」

人の役に立つことができた。その事実に嬉しくなって真姫さんに笑いかけていました。

「ごめんなさい、いきなり連れて来て。あっ、そういえば名前、言ってなかった…」
「西木野真姫さん、ですよね」

しまった、という表情を浮かべる真姫さんに、私は名前を呼びかけました。
たぶん間違いはないはずです。

「…あれ?私、名乗ったかしら…?」
「いえ、あなたのことは小泉さんから聞いてます。同じμ'sの」
「花陽に会ったの?!」

食いつくようにこちらの肩を掴んできます。
そんな真姫さんを落ち着かせるように、小泉さんと会ったこと、しかし色々あって別れてしまったことを話しました。


213 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:23:59 G4qNNtls0

ことりさんのことは話しません。高坂穂乃果のことも、まだ言っていません。
もし真姫さんも悪だった場合、下手な警戒心を引き起こして彼女の本性を見誤ってしまうかもしれません。

「そう…、花陽は無事なのね…、よかった…」
「花陽さんからは色々教えてもらいました。μ'sっていうグループでスクールアイドルっていう活動をしていると。
 もしよければ、教えてもらえませんか?あなた達のことを少しでいいので」
「…っ、そ、そう。構わないわよ。私もこんなところまで無理やり連れてきたってのもあるし」

照れるように目を逸らして髪をクルクルと人差し指で回す真姫さん。
そんな彼女を見ながら、私はμ'sについてのあれこれを教えてもらいました。



若干早足で建物内を駆けていく田村玲子。
その後ろからは荷物や情報をまとめた初春が慌てるように追いかけてきている。
早歩きな先導者に置いていかれないように急いでいる様子だが、しかし前を行く田村玲子はその歩幅に合わせてくれそうにはない。
それだけ急いでいるということだ。真姫の元に向かうために。

階段を移り、廊下を抜けて、本館と別館を繋ぐ渡り廊下を通り建物へと入り込んだ。
と、その時だった。

「痛っ…」

地面に体を投げ出すような形で、初春は白い床にその身を投げ出して転がっていた。
急ぐ田村玲子も流石に振り返り起き上がろうとする初春に駆け寄る。

「ごめんなさい、少し急ぎすぎて無理をさせてしまったかしら?」
「いいえ、そんなことは。……ただ、今足に何か引っ掛かったような感じが…」
「引っ掛かった?」

初春が躓いた付近に目を凝らす田村玲子は、ふと顔の一部を変化させてその先端を鋭い刃へと変形。
そのまま、何もないはずの空を切るかのように振りぬいた。

ピン、と。
まるで糸を使った楽器の弦でも切れたかのような音が小さく響く。

「これは…、糸?」

何もない空間にどこからともなくピンと張られた、細い糸。
弦のよう、ではない。弦の素材、糸そのものが張られていた。
それが田村玲子が切ったもの、初春が足を引っ掛けたものの正体だった。

「…少し伏せて」

と、起き上がろうとした初春の体を逆に床に伏せさせた田村玲子は、宙に向けて思い切り触手の刃を一回転させた。
手応えは幾つか。どれもたった今切った糸のそれと同じ感覚だ。

廊下の隅だったりあるいは床ぎりぎりの足にかかるかどうかという場所だったりに少しずつ張り巡らされている。

(これは最初から仕掛けてあったものか?それとも後から誰かが仕掛けたものか?)


糸を切ったことで何か起こるのかとも警戒したが、何も起こらない。
つまりは切ることで何かが起こる罠のようなものではない。
偵察か、あるいは陽動か。

もしこれを仕掛けたのがあの島村卯月という少女だとするならば。

「初春さん。私の数歩後ろを、なるべく体を低くしたまま付いてきなさい」

と、田村玲子は顔半分を伸ばして刃へと変形させながら、空を切りつつ一歩ずつ慎重に、しかし手早く歩み始めた。




214 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:24:33 G4qNNtls0

最初は興味が少し、残りはセリューさんが思っていた、μ'sというグループの実態についてを知らなければならない、とそう思って真姫さんの話を聞いていました。

自分の通う学校が廃校になりそうだったということから有名になるために始めたスクールアイドル活動。
ある時一人でピアノを音楽室で引いている時、偶然リーダーの高坂穂乃果に見つけられ、実際に作曲をしたことが開始だったらしいです。

ガラガラの会場での、しかし始まり初ライブ。
だけどその活動が功を奏して少しずつメンバーを増やしていき。
高坂穂乃果をリーダーとして、衣装担当のことりちゃんがいて、真姫さんは作曲を担当して。
みんなが各々の長所を活かしながら活動をしていったと言います。

そして一度目のラブライブ――スクールアイドルの大会においては出場できなかったものの。
二度目の大会では一度目の優勝者のチームを予選にて破って、全国大会でも見事に優勝を勝ち取っていったんだと言っていました。


真姫さんの語るμ'sのアイドル活動はとても楽しそうで。
それを語る真姫さんの姿はとても輝いていて。
話に聞くμ'sの姿を想像すると、その様子もとてもキラキラしているのが分かりました。

小泉さんから聞いていた説明から更に詳細になったその内容はとてもすごいと感じる内容で。
同じアイドルとして、そのキラキラとした輝きには羨望も感じるものでした。

「そうだったんですね!スクールアイドルっていうのはよく分からないですけど、全国で優勝なんて、すごいですよ!」
「そ、そんなことないわよ。いや、あるんだろうけど、でもプロから見たらそんな大したことでもないんじゃない?」

……なのに、不思議です。
何だか楽しくて面白いお話のはずなのに、何かすごく気持ちがもやもやします。
聞いていて、何かに納得できないというか、何と言ったらいいのか自分でも分かりません。

こんな気持ちになったことなんて、今まで全然なかったのに。

(…あ、そうか。高坂穂乃果が、悪がリーダーをやっているから……)

だけどその理由はすぐ気付きました。
きっと、これだけキラキラとしているリーダーが高坂穂乃果という悪であることが許せないのでしょう。私はそう判断しました。
きっと本性を隠してアイドル活動を続け、そしてその影で自分の思うように周りの人間を悪の道に染めていく。

ことりちゃんもその被害者なんだと。

だとしたら伝えなければならない。
高坂穂乃果は悪だと。そんな彼女についていってはいけないと。

意を決して、私は口を開きました。

「…西木野さん、真剣な話があるんです。少し言い難いこと、ですけど…」
「何よ、急に改まって」

気をよくしたのか、若干赤面して髪を指で回している真姫さん。
このまま何も知らないままではいけない。
彼女は、真実を知らないといけない。





「何よそれ」

だから私は知っている限りの”真実”を、真姫さんに説明しました。
高坂穂乃果はμ'sというグループを隠れ蓑にして悪事を

なのに、それを伝えた時の真姫さんの顔は何を言われているのか理解できていない様子の、きょとんとしたものでした。
もしかしたら、その表情の中には(この人は何を言っているの?)という思いも出ていたような気がします。

「ですから、説明した通りなんです。
 高坂穂乃果は
「あんたね、うちの穂乃果に限ってそんなことあるわけないでしょ」
「いえ、ですから!」


215 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:25:01 G4qNNtls0

一生懸命説明しているんですけど、全然信じてはくれません。
特に高坂穂乃果が自分を偽って


「私、何だかんだでずっと一緒にいたから分かるけど、穂乃果はバカだけど自分に嘘をつくのが苦手でまっすぐな子よ。
 あんたが言ってるような、人を騙してどうこう、なんてそんなことあるわけないでしょ。
 ていうか、そんなこと言うってことは穂乃果に会ったってことよね?」
「え、いいえ。私は見たことないです。でもセリューさんは言ってました。
 高坂穂乃果は危険だ、と」

ドン、と壁に背を預けた私の後ろを叩くように、真姫さんはこちらを抑えて睨みつけてきました。
その表情には怒りが混じっているようにも見えます。

「ならそのセリューってやつを連れてきなさいよ!」
「今は一緒にいなくて、探しているところで」
「だいたい、何であんたもそのセリューってのが言ったこと鵜呑みにしてんのよ!
 一回も会ったことないくせにそんなわけの分からないこと言いふらして回るっておかしいと思わないわけ?!」

そういえばどうして、私は高坂穂乃果=悪ということを断言した上で行動しているんでしょう?
一回も会ったこともない人が悪い人だって、そんなこと言って回るのはおかしいこと―――

(いえ、セリューさんが言っていたんですから、間違いはないです)

だとは思いませんでした。
セリューさんが言っていた、それだけで判断するには充分です。
正義の味方であるセリューさんを殺そうとしたのならば、それは間違いなく悪に違いありませんから。

パシン

なのに、そう答えた時真姫さんの手が振り上げられて。
思い切り頬を叩かれていました。

さっきも似たようなことがあった気がしますけど、その時よりも力は強かったように感じます。

「…、私のことはいくらバカにしてもらっても構わないわ。
 だけどね、μ'sの、穂乃果やみんなのことをそんなわけの分からない理由で傷つけるって言うなら私、あんたのこと許さない」

偶然でしょうか。叩かれた場所はそのさっき叩かれた場所と同じところでした。
その熱を持った頬を抑えていると、なんだか胸の奥にとてもムカムカとした何かが湧き上がってくる感じがしました。

私が一生懸命説明しようとしているのに、高坂穂乃果は危険だと警告してあげているのに。
どうして分かってくれないんだろう。
どうして私のことを叩くのだろう。

ああ、そうか。

「そのセリューってやつにもちゃんと言っておきなさい。
 訳の分からない、バカみたいなこと風評流す前にうちのリーダーのこと、きちんと見ろって」

この人も、もう手遅れだったんだ。



ヒュン

何か細いものがしなるような音が真姫の耳に届いて。
次の瞬間、下半身が力を失って崩れ落ちた。

(…えっ)

何もない場所でいきなり倒れこんだ自分に困惑しながらも、起き上がろうとするが足に力が入らない。
と、ふとお腹に当たる部分が何かべっとりと濡れているような違和感を感じた真姫は、そこに手を触れてみる。

その手は、真っ赤な血で染まっていた。


216 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:25:41 G4qNNtls0

「っつ…!!!!!」

何かで斬られたのだということを認識した瞬間、腹部からこれまで感じたことがないような激痛が走り始めた。

「やっぱり、μ'sの、高坂穂乃果の手先というだけでもう手遅れだったんですね。
 このまま放置しておくと、きっとあなたもことりちゃんのように間違いを犯す。だから、その前に殺してあげます」
「ぅ…あ……!」

痛みで悲鳴すらも上げることもできぬままもがく真姫を、まるで貼り付けられたような笑顔を浮かべたままの卯月がその手の糸を張りつめらせながら見下ろす。

(こと、り……)

その卯月の口から出てきた名前、それは既に命を落としたはずの仲間の名前だった。
激痛でかすれる声を絞り出して真姫は卯月に問いかける。

「ことり、が……、どうしたっての、よ……」
「ことりちゃんはセリューさんを殺そうとして殺されました。
 μ'sのみんなのために、って言って」
「嘘…よ……」
「本当ですよ、私が見てましたから。
 きっとことりちゃんがそんなになったのも高坂穂乃果の率いているμ'sなんてグループにいるから、なんですよね。
 セリューさん、私、今確信しました。μ'sは、悪です」

そう言って、卯月は真姫の体をゆっくりと釣り上げるようにして、手にした細い糸をその首に巻きつけた。
これから人を殺そうとしているとは思えないような笑顔を浮かべたまま、少しずつその糸を首に食い込ませていく。

(…嘘よ……、穂乃果が、ことりが……)

嘘だと信じたかったし、確かめたかった。
だけど今の真姫には目の前の少女の言葉でしか真実を見ることができない。

こんな、何も分からないままに死んでいくのだろうか。

――――生きて、真姫。私たちのμ'sを、どうか

(嫌…、こんなところで…死にたくなんか……、誰か、助けて……)

薄れ始めた意識の中で、目の前で死んでいった仲間の残した言葉が浮かび上がり。
心の中で、思わず助けの声を求め。



「――――西木野さん……――!」

その時、扉が開かれ一人の女性が駆け込む。

女、田村玲子は腹を真っ赤に染めた真姫の首を糸で締める卯月の姿を見て、状況を瞬時に把握。
卯月が振り向くと同時に、触手を振るって糸を切断、一気に距離を詰めてその体に肘打ちを叩き込む。

反応することもできぬままに吹き飛ばされ壁に叩き付けられる卯月の体。
しかしそちらを省みることもなく倒れた真姫の体を抱え上げる。

「西木野さん、あなたは勝手に…」
「ゴホッ、ごめんな、さい……、私も、何かしたくて……。だけどこのエリアのロックは解除したから…」
「分かった、もういいから喋らな――――っ」


217 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:27:33 G4qNNtls0
と、口を止めて周囲から襲いかかってきた糸を触手の刃で切り刻む。
ふと今吹き飛ばしたはずの卯月を見ると、体をよろつかせながらもゆっくりと起き上がっている。

(手応えが変だとは思ったが、この娘は服の下に何を隠している?)

殴った時の手応えが人間の肉を攻撃した時のそれではなかったためそれで意識を奪えたかどうかは賭けに近かったが、どうやら外してしまったようだ。

(殺すのは難しくはないが、今は西木野さんがいる。退いた方がよさそうね)

「田村さん!」
「初春さん、走って。ここから離れるわ」

追いついた初春に声をかけながら、真姫を抱えた田村玲子は刃を振るいながら部屋を飛び出した。


「あの人は確か……田村玲子…」




「はぁ……はぁ……」
「しっかりしてください、西木野さん!」

階段の踊り場の影に身を隠した三人。
未だに傷口から血を流し続ける真姫に呼びかける初春。
だが、田村玲子には分かっていた。その傷は既に致命傷だということに。

「初春さん、回廊結晶を。これ以上の探索は無理よ」
「…分かりました」

回廊結晶を取り出す初春の傍で、痛みに喘ぎながら声を漏らす。


「ごめん、なさい…、私が……、勝手なことしたから……」
「…………」
「私の…せいで、二人に迷惑を……」
「そんなことないですよ!ロックを解除してくれたってだけでも大きな成果です…!」

謝り続ける真姫に、初春が顔を強張らせながら励ますように言葉を投げかける。
その様子を見ながら、田村玲子は小さく目を細め。


「どこですか〜?田村玲子さん?西木野真姫さん〜?」

こちらに呼びかけながらゆっくりと廊下の床を靴が叩く音が聞こえた。
ご丁寧に真姫と田村玲子を名指しで。存在を知らないが故か初春のことは呼ばれてはいない。

「初春さん、先に戻っていて。私は少し別行動を取らせてもらうわ」
「えっ…」
「どちらにしてもコンサートホールか市役所には寄る必要があるわけだし。
 それに、あの子にも少し聞きたいことがあるから」

立ち上がる田村玲子。
その背中を見て、思わず真姫が声を出す。

「待って、田村さ―――ゴホッ」

思わず大声を出してしまったことで口から血を吐く真姫。

「ごめんなさい、西木野さん。今は、あなたの傍にはいてあげられないわ。
 初春さん、お願い」

それだけを告げて、田村玲子は廊下の踊り場の影からゆっくりと出て行く。
きっと引き止めることはできない。そう感じた初春は後ろ髪を引かれる思いを残しながら、回廊結晶を起動させた。

「…回廊結晶、起動」

一瞬光を二人の体が包んだと同時に、その体は346プロ内から消失。
その身を記録した場所、音ノ木坂学院へと転移させた。


218 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:28:12 G4qNNtls0



「見つけましたよ、田村玲子さん」

10メートルほどの距離をあけた廊下の奥で、島村卯月は田村玲子の前に対峙していた。

「ああ、呼ばれたから来てあげたわ。幾つか聞きたいこともあったし。
 何故、私の名前を知ってたの?」
「殺人者名簿っていうのがありましてね。それにはこれまで人を殺してきた人の顔と名前が載ってるんですよ。
 田村玲子さん、あなたは今まで人を殺してきたんですよね?」
「なるほど、面白い道具もあったものね。
 質問に答えるなら答えはYesよ。ついでに数も言うなら、ざっと38人といったところかしら」
「それは、随分と多いですね。法律なら死刑になってますよ。情状酌量の余地はありませんね」

手袋の嵌った指を動かすと、周囲に糸が舞い上がる。
まるで蜘蛛の網を連想させるような、しかし田村玲子にしてみれば随分と拙い結界。
表情一つ変えることなく、その全てを捌き斬り捨てる。

「そうね。あなた達人間のルールならば、殺されても致し方無い化物、ということになるのでしょうね」

ある意味最もな言いようにフフ、と自嘲するように笑い。
そして笑い終えると目を細めて卯月を真っ直ぐに見据える。

「なら、どうして西木野真姫を斬ったのかしら?
 あの子は人を殺すどころか傷つけたこともたぶんないようなただの女の子よ。
 そんな子に手を出すことがあなたが言ったような悪じゃないのかしら?」

若干、それを問う口調が尖っているような気は田村玲子自身感じていた。
確かに自分は多数の人間にしてみれば殺されても致し方無い者なのだろう。
だが、それとあの子を同列に扱っているのは理解し難い。

そしてもう一つ。
この娘に張り付いた微笑むような表情。
さっき真姫を殺そうとした人間とは思えないようなものを、どうしてそんなに浮かべていられるのか。
ただのアイドルであるはずの少女が。


「あの人はもう手遅れだったんです。μ'sのメンバーはみんな高坂穂乃果に染められていたんです。
 だから何かを起こしてしまう前にその悪の芽は摘み取っておかないと」
「………」

島村卯月が何を言っているのか田村玲子には分からなかった。
何を思ってそう判断したのか、一体彼女に何があったのか。
分からないし分かろうとも思うものではなかった。
ただ一つ分かったのは、目の前で微笑むその少女が正気ではないということ。

きっとこれ以上話しても望む答えは得られないだろう。

「ここにあの二人がいなかったのは、幸いというべきかしらね」

口の端を釣り上げる田村玲子。
この”顔”を出すのも久しぶりといったところだろう。
真姫と初春の二人の前ではきっと出せなかっただろう、田村玲子の一面。

それは、田村玲子であるより前にパラサイト――人類を食い殺すという本能を持った捕食者であるという一面。

「なら私も、あなたのお望み通り化物らしく振る舞ってあげるとしましょうか」

田村玲子はそう言ってジロリ、と真っ直ぐに、ただその一点だけを見るように卯月を見据えた。
その瞬間、卯月は周囲の空気が変わったのを感じた。


219 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:29:59 G4qNNtls0

「…え、…あれ?」

田村玲子はこちらを見ているだけだ。特に武器を構えているとか、そんな様子もない。
こちらは体に巻きつけたクローステールで身を守っているし、その気になればいくつも田村玲子に向けて糸を飛ばすこともできる。
そんな状態のはずなのに、足の震えと冷や汗が止まらない。


島村卯月はセリューの意志に従い正義の味方になる、という決意をした。
だが、彼女は戦士でも狩人でも殺人鬼でもない。彼女の本職はあくまでもアイドル、この場においては他者に守られて然るべき存在。
加えて、卯月はこの殺し合いの中で明確な殺意を自身に直接ぶつけられたことはない。
南ことりはあくまでもセリュー・ユビキタスを狙っての凶行に及んで、卯月に刃を向けることはなかった。
ロイ・マスタングに誤解の目を向けられた時は由比ヶ浜結衣も共であり、さらにセリューの助けもあった。
その結衣に銃弾を放たれたこともあくまで事故であるし、キング・ブラッドレイや足立透、ゾルフ・J・キンブリー達も島村卯月という個人に対して殺意を向けたことはなかった。

それまでぶつけられたことのないものを当たられた卯月は、しかし本能的にその危険性を感じ取っていた。
まるでライオンと遭遇した草食動物のように。

田村玲子が一歩足を踏み出す。
床を踏む音がカツリと音を立てる。

それに反応するように、卯月の足も一歩後ろに下がった。

(…えっ、何で…?)

これではまるであの女に怯えている、逃げようとしているかのようじゃないかとセリューの顔を思い浮かべて自分を奮い立たせる。
だけど、体が言うことを聞かない。田村玲子が踏み出す度に、足は後退し下がっていく。

(違う、私は、セリューさんの正義を……、私は…)

理性と本能の食い違いに錯乱する卯月。
だが、その葛藤を田村玲子は鑑みてはくれない。
やがてゆっくり歩いていたはずの足が急に早く踏み出され、10メートルほどの距離を一気に詰めて迫ってきた。

「ひっ……」

その瞬間、恐怖が理性の許容量から溢れ出し。
卯月は振るわれた刃を大きく横に飛んで回避。
そのまま、体を丸めて窓へと体当たりした。

ガラスの割れる音と共に、346プロの建物内から卯月の体が飛び出していく。
しかしここは一階ではない。地上へと到達するまではそれなりの高さがある。
逆にいうと、その一般的な認識が田村玲子の反応を少しだけ遅らせていた。

窓へと駆け寄り割れたガラスの向こうを覗き込む田村玲子。
しかし地面にはガラスの破片こそ散らばっているものの、島村卯月の姿はどこにもなかった。

「……なるほど、あの糸で逃げたか」

窓から脱出する際にどこか別の場所に糸を繋いでおくことで命綱とし、墜落を避けて何処かへと逃げたのだろう。
もし自分が窓から飛び出すならば同じことをする。その場合使うのは糸ではなく触手だが。

一体どこに逃げたのか。
北東か北西か、それとも南か。

北西は理屈としては考えられない。進行方向に禁止エリアを含んだ場所へと逃げては袋小路だ。最も錯乱しているあの少女がそこまで判断できるかも微妙ではあるが。
南か北東か。

「北東、だな」

南に留まった場合、もし見つけることができても今後の行動に遅れが生じる。
対して北上したならばたとえあの娘が見つからなくてもこちらの用事、コンサートホールや市役所へと向かうことはできる。

そこまで考えたところで、島村卯月の動き、彼女を殺すということを妙に意識している自分がいることに、田村玲子は気がつく。
取り逃がした相手だ。理屈として考えれば、そこまで深追いするような理由がないにも関わらず、こうも追撃しようとしている。

だが、田村玲子の脳裏からは傷付いた真姫の表情と、そしてあの島村卯月の張り付いたような笑みが離れない。

「…怒っている、というやつか?」

その言いようのない気持ちを人間に当てはめて考えた時、その理由に田村玲子は思い至った。
以前出会った、自身の妻子を殺された倉森という探偵があの時行った行動。自分を排除しようと動いた草野達の行動理由。
これが自分が人間に対して懸念事項として見ていた習性、感情の一つだろう。

「果たしてこの感情に任せてあの子を優先して追うべきなのかというのは、少し考えるところね」

自分の中に浮かび上がってきたそんな感情をまるで他人事のようにも思えることを呟きながら興味を抱く田村玲子。
こういう時は果たしてこのまま感情に任せてみるのが正しいのか、それともあくまでも冷静にするのが正しいのか。
自分に正直にやるか、それとも自分を誤魔化して合理的に動くべきなのか。

「まあそれはあの子に追いつくことができなかったら考えるとしましょうか」


220 : NO EXIT ORION ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:30:32 G4qNNtls0



「はぁ……はぁ……」

足で逃げるよりも速いと考え、卯月は糸を周囲の木々や壁に巻き付かせながら、さながらターザンがロープで移動するかのように移動を続けていた。
やがて346プロからそれなりに離れ、周囲に糸を絡ませられるものがなくなってから乱れる息を整えるために一旦立ち止まる。

「今の私じゃ…、セリューさんみたいには…」

理解した。
今の自分だと、あの化物、田村玲子を裁くことはできない。
セリューさんのように、正義を成すことができない。
まだ、私には力が足りない。

「ダメだよね、こんなんじゃ…。セリューさんの足手まといになっちゃうだけだよ…」

もっと強くならなくちゃいけない。
セリューさんの横に並ぶことができるような、そんな島村卯月にならなくちゃいけない。
高坂勢力を、μ'sを打ち倒せるだけの力が。

「だけどセリューさん、高坂勢力の、μ'sの情報は得ました。そのうちの一人は、たぶん仕留めました…。
 だから待っていてください。私、すぐに追いつきますから…!」

にっこりと、誰に向けるわけでもなく笑顔を作り、卯月は進む先に建つDIOの屋敷に向けて走り始めた。


【B-6/一日目/午後】

【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(大)
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!
[道具]:ディバック、基本支給品×2、不明支給品0〜2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:島村卯月っ、笑顔と正義で頑張りますっ!!
0:セリューを探す。
1:高坂穂乃果の首を手に入れる。
2:高坂勢力、及びμ'sを倒す。
3:田村玲子に対する恐怖を克服できるように強くなりたい
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
※本田未央は自分が殺したと思っています。
※μ's=高坂勢力だと卯月の中では断定されました。


【B-6/346プロ/一日目/午後】

【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:健康、卯月に対する怒り?
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品 、首輪
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
1:脱出の道を探る。
2:コンサートホール及び市役所を探索した後初春と合流する。
3:島村卯月は殺す。追いつけなかった、見失った場合どうするかは未定。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ's、魔法少女、スタンド使いについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。協力者は時間遡行といった能力があるのではないかと考えています。


※B-6のエリア内に警備ドローン@PSYCHO PASS-サイコパス-がバッテリー切れ状態で放置されています。

【警備ドローン@PSYCHO PASS-サイコパス-】
人間の労働補助を目的として作られたロボットの一種であり、主に街の治安維持・警備等の目的で使用されている。
簡易的なスタンガンや監視カメラを備えており、自動、手動それぞれでの操作が可能。
本ロワでは3時間の充電で最大2時間の使用が可能となっている。


221 : Silent today ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:31:18 G4qNNtls0
時間は既に放送から2時間を刻み終え、しかし未だに346プロに向かったという3人が帰ってくる気配はない。
アンジュから聞いた情報では、真姫を含むこの場にいた者達は放送後闘技場にて合流する手筈だったという。
名前は確か、タツミと美樹さやかという二人のはず。

もしその予定通りであったとするならば、既に時間は越えてしまっていることもあって何かしらのアクションをして然るべきなのではないかという思いを穂乃果は浮かび上がらせた。
しかし、その闘技場へと向かうことを留めているのが目の前にいる男、エンブリヲの存在だった。

タツミと美樹さやか。その二人はエンブリヲとの会話の中で出てきた二人。
そして、彼が何をしてきたかについてはキリトからある程度聞いている。
当然話す内容には食い違いがあったが、この場合どちらの情報に信憑性があるかなど論ずるまでもなかった。

だがそれを理解した上で、穂乃果はエンブリヲと利用し利用されるという利害の関係を結んでいる。
決して信用などしない、背中を預けることはない。
何の力もないはずの自分が、ほんの偶然によって命を繋がれているとも言える状況。

しかし、だからこそ闘技場へと向かうことが躊躇われていた。
もし向かった先でその二人と合流してエンブリヲと顔合わせすることになった場合どのようなことになるのか。
最悪刃を混じえての血生臭い事態にもなりかねない。それで犠牲を出すことは望ましいこととは穂乃果には思えなかった。

穂乃果はエンブリヲの近くを離れるわけにはいかない。
しかし要警戒対象である以上、黒子も下手に離れることができる相手ではなかった。
かといってエンブリヲを連れて行動できるかと言われれば先に言った通り。

「…待つしか、ないのかな」

エンブリヲに渡した巴マミの首輪。今彼はそれを手にして情報室にいる。
婚后光子の首輪を渡さなかったのは黒子の想いを汲んでのことだ。
まさか持ち逃げをする、とは思っていない――わけではないが、可能性は低いと思う。

ただ、そんな彼女自身はこうして何をしているわけでもない。
エンブリヲの解析が終わるまでは実質飼い殺しに近い状態でもある。

机に顔を突っ伏した穂乃果は、ふとこれまでのことを思い返す。

名も知らぬワンちゃんやウェイブ、マスタングや黒子達との出会いや花陽ちゃんとの合流。
その間で起こった、エンヴィーやキンブリー、後藤といった者達の襲撃。
ことりちゃん、海未ちゃん、凛ちゃんの死。
そして、セリュー・ユビキタス。

(もしあそこで逃げてなかったら、私はどうなっていたんだろう?)

あの時の逃げは本当にただの逃げでしかなかったのだと思う。
ことりちゃん達の死に動揺して、そんな中で突き付けられた現実から逃げるしかなかった。
結果、セリューに対して悪と見なされ花陽ちゃんを放置したままこうして逃げてしまっている。

(…変わっちゃったのかな、私も…)

たった半日と少しの出来事だというのに、穂乃果は自分の内が大きく変わったように感じられていた。

ここに来るまでは、いや、来てから間もない頃もだろうか。
死というものはどこか遠いものだと思っていた。
例えば交通事故で自分が死ぬことなんて考えることはそんなにないし。
殺人事件がニュースで報道されてもどこか遠い場所の出来事だと、そんなに気に留めることもなかった。

エンブリヲが果たしていつまで自分のことを守ってくれるかなんて分からない。
もしかしたら一分後に用済みと判断されればその時点で穂乃果の命は終わるだろう。

…何だか今までの人生になく難しいことを考えているような気はするのに眠気は全然感じることはなかった。
普段ならこんなこと考えてるといつも意識が飛んでいるはずなのに。

そんな時だった。


222 : Silent today ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:32:03 G4qNNtls0

「誰か!誰かいませんか!!」

静寂な音ノ木坂学院の校内に、ふと声が響き渡った。
女の子の声。しかしμ'sの誰かではない、聞いたこともない誰かのものだ。

「高坂さん!」

別室にいたはず黒子が空間転移で姿を現す。

「白井さん、この声は…」
「初春のものですわ!手を!」

理由は分からないがとても切羽詰っているような声だ。黒子としては移動する時間も惜しい。
黒子を信じて手を握った穂乃果は、次の瞬間姿が掻き消え。

そして移動した一室に二人の人影を発見する。

「初春!」
「白井さん…!」

そこにいたのは、頭に花の冠を被った子と、赤い髪をした音ノ木坂学院の制服の少女。
初春飾利と、西木野真姫。

泣きそうな表情を浮かべている初春が抱えている真姫は。
その腹に大きな傷を負い、血を流しながら苦しそうに呻いていた。

「…!真姫ちゃん!!」
「ほ、穂乃果……」

思わず駆け寄る穂乃果。
しかしその体から流れ出る血は止まらない。

「…っ、初春!何があったのですか!報告を!」
「は、はい!でも、その前に西木野さんを―――」
「見せてみたまえ」

ふと、どこからともなく現れた男の声が皆の耳に届く。
いつの間にそこにいたのか、真姫のすぐ傍でエンブリヲが膝をついて見下ろしていた。

「白井さん、この人は――」
「話は後だ。この傷、どうやら一刻を争う様態だからね」
「………」

エンブリヲにとっては穂乃果の仲間、μ'sのメンバーというだけでも手元に確保しておきたい存在。
彼を信用はしていない穂乃果もその事実だけは確かだと思っている。今はエンブリヲに頼るしかない。

「真姫ちゃん…、頑張って…。もうすぐだから…!」

エンブリヲの翳した手に光のようなものが現れ、真姫の体の傷口を照らす。
その様子に期待を込めて、ギュッと力の入っていない手を握り締める穂乃果。

しかし、エンブリヲは首を横に振った。

「彼女は、もうダメだな」
「…えっ」
「傷が深すぎる。内臓まで斬られているなこの様子じゃ。
 もしこのような場所でさえなければ死者であろうと生き返らせるほどの力があったのだが、今の私にはそこまでの力はない。
 治癒自体は可能だが、この様子じゃせいぜい数分生き永らえさせるのが精一杯だろう」
「そん、な……」

穂乃果はエンブリヲの冷たい宣告に言葉を失う。
その一方でエンブリヲは冷静に初春へと問いかける。

「誰にやられた?」
「346プロっていうところにいたんですけど……、島村卯月さんっていう人が…」
「何?」

怪訝そうな表情を顔に浮かべるエンブリヲ。

島村卯月の名は聞いている。
本田未央や渋谷凛と同じグループでアイドル活動をしていたという少女。
錬金術やペルソナといった力とは無関係の、この場においてはおそらく殺人という事柄から最も遠い世界に住んでいた者の一人のはずだ。
エンブリヲの持つ印象と、この真姫の傷の犯人が結びつかない。


「穂乃、果…」

掠れる声を絞り出して、真姫は放心する穂乃果の名を呼ぶ。
はっとするように穂乃果は真姫へと呼びかける。


223 : Silent today ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:32:29 G4qNNtls0

「大丈夫だから、真姫ちゃん…!絶対に治るから!だから―――」
「いい、のよ、穂乃果。私の体の、ことだから。もう、ダメってことくらい、分かってる…ゴホッ」

苦しそうに咳き込みながらも、体を引き起こすようにして穂乃果の肩へと手を掛けて体を引き上げる。
その腹から流れ出る血は未だに止まることなく床を真っ赤に染め続ける。
そんな状態でありがらも真っ直ぐ穂乃果の目を見据えながら、真姫は問いかけた。

「お願い、教えて穂乃果…!ことりは、一体何をしたの…!」
「……っ!」

穂乃果の瞳が大きく揺れ動く。
きっと真姫はどこかでそれに類する情報を聞いて

「あの子が、言ってたの…。あんたがいるからμ'sはおかしくなるって…。μ'sのためにことりは、人を殺そうとしたんだって…。
 だけど、…今会ったあんたは私の知ってる穂乃果だった…。じゃあ、ことりは…死んだことりは……?」
「そ、それは……」
「私、μ'sのみんなのことは信じてる…!だけど、何も知らないままなのは嫌……!
 だから、お願い…!本当のことを教えて…!」

息を切らせながら、必死に問いかける。
穂乃果は迷った。自分の知る限りの本当のことを言うべきなのかどうか。

嘘だと言えばそれで終わる話だ。
むしろ真実を知れば、きっと真姫は傷つくだろう。

だけど。
ここで嘘をつくこともまた、真姫の、ひいてはμ'sに対する裏切りになるのではないか。

「………、本当、だよ。たぶん」

目を伏せながら、その答えを絞り出した。

「……そう…」

真姫の表情が一瞬悲しみに包まれるも、次の瞬間には小さく微笑むようにして穂乃果を見つめ。
やがて肩を抑えていた手から力が抜けて地面へと落ちた。

「真姫ちゃん…?!」
「ありがとう、穂乃果…、最後に、本当のこと、言ってくれて」

地面に崩れ落ちそうになる真姫の体を慌てて抱える。
その体にはほとんど力が残っておらず、本来の彼女の体とは思えないほどにずっしりと重かった。

「ねえ、穂乃果…、手、いい?」

閉じかけた瞳のまま、真姫はゆっくりと穂乃果に手を差し出し。
それをギュッと穂乃果は握った。

その手はあの時触れた海未の体ほどではなかったが、血を流し続けて脈の弱まったその体の温度はとても冷たくて。
それでも小さな力でゆっくりと握り返してきた真姫は。

「ふふ…、暖かいね…」

そう呟いたのを最後に、ゆっくりとその手から力が抜けていった。


「真姫、ちゃん…?」

小さく呼びかけるが、しかし返事がその口から返されることはなく。


224 : Silent today ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:32:55 G4qNNtls0

そのまま二度と動くことがない真姫の最期の表情は。
穂乃果の、潤み曇った視界でははっきりと見ることができなかった。




ごめんなさい、田村さん、初春さん。私が勝手なことしちゃったばっかりに、二人には迷惑をかけちゃった。
だけど、それで傷付いたのが私だけだったのはよかったのかもしれない。


それにしても、本当ずっと一緒ってのも考えものよね。
相手が何を考えてるのかなんてすぐに分かっちゃうんだから。

あの時穂乃果がことりの名前を聞いた時の表情だけで、あの卯月って子の言っていたことりのことは本当だって分かっちゃった。
そのことを穂乃果が知っていて、どれだけ苦しんできたのかってことも。

ごめん穂乃果、私じゃ力になってあげることできなくて。
ごめん海未、あんたに助けてもらった命、こんなところで終わらせることになっちゃって。
ごめん花陽、結局あんたには会えないままで。

ええ。だから私はあっちに言ったら海未と一緒にことりのことは引っ叩いてやるわ。

だけど、最後にそのことを隠さずに本当のこと言ってくれてありがとう。
私、あんたに会えて、μ'sの一員になれて本当に良かったと思ってる。
その想いだけは、変えたくなかったから。

だから穂乃果、花陽。

海未に言われたことと被っちゃってるけど。
あんた達は生きて、私達のμ'sを、お願い。
μ'sの絆は消えないって、私は信じてるから。


【西木野真姫@ラブライブ! 死亡】


【G-6/音ノ木坂学院/一日目/午後】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大) 、戦う決意、悲しみ
[装備]:音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(3/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3
[道具]:練習着
[思考・行動]
基本方針:強くなる
0:真姫…ちゃん…?
1:エンブリヲを警戒しながらも首輪などの解析を行わせる。その為の協力はする。
2:音ノ木坂学院で真姫ちゃん達が戻るのを待ちたいが、エンブリヲが居るので離れた方がいいかもしれない。
3:花陽ちゃん、マスタングさん、ウェイブさんが気がかり
4:セリュー・ユビキタス、サリア、イリヤに対して―――――

[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません
※エンブリヲと軽く情報交換しました。


225 : Silent today ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:33:18 G4qNNtls0

【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、悲しみと無力感、穂乃果に対する負い目
[道具]:デイパック、基本支給品(穂乃果の分も含む)、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、首輪×2(婚后光子、巴マミ)、扇子@とある科学の超電磁砲、エカテリーナちゃん@とある科学の超電磁砲
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春などの友人を探す。
0:お姉さまやイリヤさんを…
1:穂乃果と共に音ノ木坂学院で初春達を待つ?
2:初春と合流したらレベルアッパーの解析を頼みたい。
3:エンブリヲを警戒。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているということを確信しました。
※槙島が出会った人物を全て把握しました。
※アンジュ、キリト、黒と情報交換しました
※エンブリヲと軽く情報交換しました。



【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(大)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(大)、参加者への失望
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、各世界の書籍×5、基本支給品×2 不明支給品1〜3 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本方針:アンジュを手に入れる。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:広川含む、アンジュ以外の全ての参加者を抹消する。
3:特にタスク、ブラッドレイ、後藤は殺す。
4:利用できる参加者は全て利用する。特に歌に関する者達と錬金術師とは早期に接触したい。
5:穂乃果を利用する。
6:タスクの悪評は……。
7:場合によってはサリアは切り捨てる。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※能力で洗脳可能なのはモモカのみです。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。
※DTB、ハガレン、とある、アカメ世界の常識レベルの知識を得ました。
※会場が各々の異世界と繋がる練成陣なのではないかと考えています。
※錬金術を習得しましたが、実用レベルではありません。
※管理システムのパスワードが歌であることに気付きました。
※穂乃果達と軽く情報交換しました。



【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1〜2、テニスラケット×2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する。
1:西木野さん…
2:闘技場でタツミ達と合流する?
3:闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でタツミたちと合流する。
4:黒子と合流する。
5:御坂さんが……
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺し合い全体を管制するコンピューターシステムが存在すると考えています。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※ジョセフとタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているらしいということを知りました。


226 : ◆BLovELiVE. :2015/12/16(水) 21:35:28 G4qNNtls0
投下終了です
仮投下の際に指摘を受けた部分については、
目視距離は警備ドローンの監視カメラを通して見たという形に、移動距離は卯月が移動による疲れから休憩をとっていた間に追いついたという形にさせていただきました
もしまだ何か問題点など残っているようでしたらご指摘お願いします


227 : 名無しさん :2015/12/16(水) 21:43:47 hu09xp0g0
投下乙です!

島村さん初キルスコアか、これで晴れて正義の味方(さつじんき)の仲間入りだなぁ
某ロワでは誰も信じられないと孤独に散って行った穂乃果がここでは仲間を看取る役回りになるとは感慨深い物がある
田村さんも着々と変化しつつあるんだなぁ、子を失った母がどうなるか興味深い
島村さんのこれからも気になる、闇堕ち仲間の美琴やイリヤと比べたら圧倒的に弱い彼女がここからどうなるのか…
そして真姫ちゃんの最後の独白は素晴らしいの一言です


228 : 名無しさん :2015/12/16(水) 23:19:54 QvD.OMp.0
投下乙です。

ドローンを使ったということですが、同エリアならともかく他エリアまで監視できるというのはおかしいでしょう。
同じようなアイテムである首輪探知機でさえ同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があるという制限もあります。
また、自動で操作できるとして、回収できない位置で電源が切れるというのもどうかと。
それと前話で結構な距離の移動を終えてまったく健康だった卯月がいきなりとても疲れたので休みますというのはリレー無視では。
結局最後は走って逃げてますし。


229 : 名無しさん :2015/12/16(水) 23:45:42 otrpIkg.0
投下乙

>>228
仮に卯月が同じエリアに瞬間的にいたとしてもあのあたりにドローンを送る意味がわかりませんしね
346プロの周囲や内部に走らせてるならともかく

卯月が穂乃果の情報が欲しくて真姫についていったというのも違和感があります
穂乃果や高坂勢力についてはあくまでセリューの捜索の副次的なものだと前の話にはっきり書いてありますし
わざわざ目的地と逆方向に移動する理由にはならないでしょう
リレー無視というより把握が不足しているのではないでしょうか
疲れて走れないってところで引きずられて走ったというのも真姫の腕力はいったいどういうことになってるんでしょう


230 : 名無しさん :2015/12/16(水) 23:49:04 b.2J/pq60
こうして破棄にされて折角動き出した田村チームがまたうだうだする事になるのか


231 : 名無しさん :2015/12/16(水) 23:50:17 DWFpr3xM0
そんなに問題かな今回は


232 : 名無しさん :2015/12/16(水) 23:54:35 DWFpr3xM0
仮投下スレで指摘されてないことまで書かれてるな


233 : 名無しさん :2015/12/16(水) 23:56:06 nE9X3H3Y0
投下乙です
仮投下読んでない人もいるだろうし書き手の反応待ちで


234 : 名無しさん :2015/12/17(木) 00:04:51 znbpJMBU0
何が何でも破棄に追い込もうとしてる連中が居るな


235 : 名無しさん :2015/12/17(木) 00:11:10 cvBpQuYQ0
田村組はずっと停滞したままだったからな


236 : 名無しさん :2015/12/17(木) 00:28:51 EL0Ec10g0
投下乙です
真姫の問いへの応答に穂乃果の成長が感じられるなあ
しまむーと1話ことりの対比も何とも切ないものがある

あと、議論はここではなく、メロンのしたらばで頼みます


237 : 名無しさん :2015/12/17(木) 00:43:44 o0etp66.0
議論オンリースレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17138/1431691761/


238 : 名無しさん :2015/12/17(木) 01:56:51 ezO9e2o60
>>228>>229はレスの返し方からして、自分の考え方を押し付け過ぎだし
指摘の仕方に書き手に対しての思いやりや気遣い、労いを全く感じられない

時間をかけて作品を書き上げた書き手に対して
さすがに指摘をする人間としてはどうかと思う


239 : 名無しさん :2015/12/17(木) 05:39:22 zBefAthE0
とってつけたような投下乙と言い、完全に難癖に感じる


240 : ◆dKv6nbYMB. :2015/12/17(木) 10:32:31 XDW1dxZ.0
投下します。


241 : LOOK INTO MY EVIL EYEZ ◆dKv6nbYMB. :2015/12/17(木) 10:34:55 XDW1dxZ.0
「チィッ、忌々しい女め...!」

エスデスとの戦いの後、避難した時計台で悪態をつきつつ舌打ちをする。
気分は最悪だ。
自分だけの『世界』。無粋にもその領域に足を踏み入れる者がいたのだから当然だ。

(まさか奴も我が領域にまで踏み込めるとは...これで『4人目』か)

だが、杏子から暁美ほむらの存在を聞いており、且つ空条承太郎も時間を止められる可能性を考慮していただけまだ"マシ"ではあったのが救いだろうか。
もしそれが無ければ八つ当たり染みた破壊行為を延々と繰り返していたことだろう。

(ジョセフ、金髪チビ、後藤、イリヤ、御坂、杏子、美樹さやか...そして私を含めた『4人』。これらを除いた33人の能力は未だに不明。...まさかとは思うが、全員『静止した時』の世界に入門しているわけじゃあないだろうな)

『4人』。自分しか入れないはずの世界に入門している者が、可能性も含めて『4人』もいる。
そんなことは有り得ないと思いつつも、エスデスのことがあればやはりと疑ってしまう。
全員はいなくとも、少なくとも一人か二人はいてもおかしくない。

(ええい、それがなんだというのだ!全員入門していようが、同じ土俵での勝負というだけにすぎん!ならば生き残るのは最も優れた者、即ちこのDIOだ!)

静止した時の中を動ける者はたった一人でなくてはならない。
もし、他にもこの『世界』に足を踏み入れる者が存在するのなら排除する。
そうすることによってDIOは『平穏』と『安心』を手にすることが出来る。
この殺し合いを脱出するにしろ優勝するにしろ、この領域へと干渉できる者は必ず殺す。


(エスデスとの戦いは、パワーもスピードも勝っていた。冷静に対処すれば殺せない敵ではなかった。反省しなくては...)

昔から、怒りっぽい性格であると自覚しているし、反省して克服しようとした。
しかし、生物という奴はどうにも渇いたペンキのようにこびりついた悪癖とでも言うべきモノは落ちてはくれないらしい。
頭を冷やす意味を込めて、ついでと言わんばかりに側にあったモノを殴りつけ、現状を確認することにした。


242 : LOOK INTO MY EVIL EYEZ ◆dKv6nbYMB. :2015/12/17(木) 10:35:48 XDW1dxZ.0
「放送で聞いた死者は花京院にアヴドゥル...ついでにまどかとクロエとかいうのもか」

己の部下、花京院典明。
ジョースターの仲間であるモハメド・アヴドゥル。
杏子の知り合いだという鹿目まどか。
イリヤの家族だというクロエ・フォン・アインツベルン。


取るに足らぬ。
どいつもこいつも、このDIOの前では路上の隅に転がる塵にしか過ぎない存在だ。
そんなちっぽけな存在など気に掛けるまでもない。


「イリヤの洗脳はもう解けたころか...ふふっ、さて何人殺したのやら」

操祈に書き込ませた、『イリヤ自身が「放置すれば死に至る」と認識する傷を負った者を見つけた場合、最善の殺傷手段で攻撃する』、『ルビーの制止・忠告を当たり障りのない言葉に誤認し、それを他者に指摘された時相手に対し強い猜疑心を持つ』命令。
この二つが噛み合えば、必ずや彼女は事件を起こす。
まだ生きているということは、おそらく多くの参加者の眼の仇にされていることだろう。
知り合いを全て失ったことから、つけ入るのも容易いほどにその心は傷ついているだろう。
仲間を蘇らせるために歯向かってくるかもしれないが、その時は容赦なく殺すだけだ。



「ああ、杏子のことを忘れていた」

放送では呼ばれていないため、おそらく生きてはいるのだろう。
言いつけすら守れないような駄犬をわざわざ探すような手間をかけたくないが、いまの自分の状況ではそんな駒でも惜しい。まさに猫の手ならぬ犬の手も借りたいというやつだ。
だが、肉の芽の制限についてのこともあり、絶対服従とまではいいきれない。
が、その時はその時だ。右腕をつけるのもよし、食糧にするのもよしだ。


「...そういえば、広川は首輪交換制度がどうとか言っていたな」

広川の言っていた首輪交換制度。
なんでも、『闘技場』『武器庫』『アインクラッド』に設置されている首輪交換BOXに参加者の首輪を入れれば、情報や武器と交換できるらしい。

(つまり、そこにいれば必ず何者かは訪れるというわけだ...特に、ゲームに乗った参加者はな)

首輪を持っているということは、誰かを殺害ないし死者から回収したということだ。
そして、ゲームに乗っているのなら、よほどの阿呆でない限り武器の補充や情報を求めるだろう。

(そいつらと手を組むのも悪くないか。認めたくはないが、このゲーム...一人では乗り越えることが困難なようだからな)

空条承太郎、ジョセフ・ジョースター、エスデス、後藤、暁美ほむら、御坂美琴、金髪チビ、田村怜子...必ずや殺さなければならない者たちはまだ多い。
彼らを一人で相手にするのは些か骨が折れる。
ならば、手を組んで数を減らすのがベストだろう。尤も、決して対等などではなく、どちらが上かハッキリとさせた上でだが。

(待っていろ、エスデス。それに後藤。貴様らがどんな力を持っていようが、全ての生物の頂点はこのDIOだ。次に会った時こそが、貴様らの最期だ)

あの高慢な態度をとるエスデスの顔を絶望に染め上げ生血を吸い。
あの忌々しい寄生生物共を叩き潰して。
ちょこざい小細工を仕掛けてくるジョセフや金髪チビたちを正面から捻り潰す。
そんな光景を思い描きながら、DIOはくつくつと笑みを浮かべる。

捨てきれなかった怒りに身を任せるかのような破壊音が時計塔内に響いたのは、その数分後のことだった。


243 : LOOK INTO MY EVIL EYEZ ◆dKv6nbYMB. :2015/12/17(木) 10:37:12 XDW1dxZ.0

【A-2/時計塔/一日目/午後】
※DIOの八つ当たりで内部がそれなりに荒れています。


【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:疲労(小〜中)、右腕欠損 、怒り(大)、全参加者が時間停止を持っているのではないかという警戒心
[装備]:悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。 最早この帝王に油断はない。
0:しばらく時計塔に籠城する。(最低でも行動を開始するのは夕方から)
1:ジョースター一行を殺す。(ジョセフ、承太郎)
2:エスデス、寄生生物、暁美ほむらは必ず殺す。
3:右腕の確保。
4:食糧または協力者を確保するために武器庫を目指す。
5:イリヤと杏子との合流。自分に逆らわなければ手ごまにするが、逆らうのであれば問答無用で糧にする。
[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術、DTB世界の契約者についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。
※悪鬼纏身インクルシオは進化に至らなければノインテーターと奥の手(透明化)が使用できません。
※暁美ほむらが時間停止の能力を持っていることを認識しました。また、承太郎他自分の知らない参加者も時間停止の能力を持っている可能性を考えています。
※魔法少女についての基礎知識を得ました。
1.魔法少女とは奇跡と引き換えにキュゥべえと契約してなるものである。
2.ソウルジェムは魔法を使う度に濁り、濁りきると魔法が使えなくなる。穢れを浄化するにはグリーフシードが必要である。
※エスデスが時間停止の能力を持っている、或いは世界の領域に侵入出来ることを知りました。


244 : ◆dKv6nbYMB. :2015/12/17(木) 10:38:10 XDW1dxZ.0
投下終了です。


245 : 名無しさん :2015/12/17(木) 10:53:43 g.tfPT6A0
投下乙です

DIOがとうとう参加者と組むことを考えましたね
夕方からの活躍が楽しみです


246 : 名無しさん :2015/12/17(木) 14:22:08 d0G.fCY60
投下乙です

しまむー遂に殺しちゃったかー、歪んだ正義の味方は同じく歪んだ正義の味方を作るんだなぁ
ただ、裁くべきキンブリーと言う悪は、イリヤと言うまた新たな悪を生んであの世に勝ち逃げしてると思うと皮肉
真姫ちゃんは今まで平穏だったから見誤っちゃったか、ただ仲間の心はちゃんと理解してるんだな
μ'sの絆を感じさせられる話でした

DIO様ようやく休憩ですか、もうすぐ夕暮れですけどw
夜からの動向に期待せざるを得ない


247 : 名無しさん :2015/12/17(木) 23:28:47 fARkchlw0
投下乙です
仲間まで作っちゃったら老ジョセフじゃDIO様に勝てないじゃないですかーやだー


248 : 名無しさん :2015/12/17(木) 23:33:43 JBlVrF5E0
爺は承りの意思を継ぎプリズマジョセフになるからな見とけよ見とけよ〜


249 : 名無しさん :2015/12/17(木) 23:38:33 cvBpQuYQ0
田村チームの話は今破棄になりそうな雰囲気があるな


250 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/12/19(土) 19:22:19 sC.jIjlA0
お疲れ様です。
議論おんりースレに以下のとおり書き込ました。
ので、もし◆isnn/AUU0c氏が見ていましたらよろしくお願いします。

236 : ◆BEQBTq4Ltk:2015/12/19(土) 19:17:53 ID:orS4HK5.0
お疲れ様です。
一連の件についてですが、◆isnn/AUU0c氏の返しが無いと進展しませんね。
しまむーを抜けば解決するようですが、それじゃあこの話の形なくなっちゃいますもんね。修正というより書き直しですか。

◆isnn/AUU0c氏の反応がありませんが、色々とご都合があったりご多忙なのかもしれません。
しかし比較的自由な企画ですが期限や拘束のルールはありますよね、無限には待てません。


ですので……
「この土日で◆isnn/AUU0c氏の反応が無かった場合は申し訳ありませんが、氏の意見はお流れで……」


同意の旨の書き込みは必要ありません。書き込みが増えれば書き手さんが来たと勘違いしちゃいますしw
関係の無い方の書き込みは出来る限りお控えください(更なる指摘とかは書き込んでも問題ないと思います)


◆isnn/AUU0c氏がこのスレを見ているかは解りませんが、ご理解をお願いします(本スレにも転載しときますね)


それで、もし氏が現れずに意見が流れた時は、>>225さんの意見には無反応ですので
◆BLovELiVE氏はそれに返しを行って、まぁ終われば今回は大丈夫かなあと思います。

言ってしまえば◆isnn/AUU0c氏の反応が全てですね……w

では、よろしくお願いいたします。


251 : 名無しさん :2015/12/21(月) 18:10:32 z.yyjchM0
150話突破おめでとうございます!


252 : ◆dKv6nbYMB. :2015/12/27(日) 11:11:57 h/kQFMDI0
本投下します。


253 : かくして亡者の意志は継がれず ◆dKv6nbYMB. :2015/12/27(日) 11:13:24 h/kQFMDI0


「...ほむらちゃん」

傷ついた承太郎をマスタングたちに先に追わせ、一人残ったセリュー。
彼女が見つめるのは、ほんの少し前まで『仲間』だったものの骸。

側に並べられているのは、桃色の髪の少女―――まどかの遺体。

コンサートホールで殺された筈のまどかの遺体は、なぜかここまで運ばれていた。
誰が運んできたのか―――いうまでもない。

「彼女のこと...まどかちゃんのこと、それほどまでに大切だったんですね」

死体を持ち運ぶメリットなどほとんどない。他者を警戒させ、出会ったばかりの卯月のように精神が弱い者なら気絶すらしてしまうかもしれない。
だが、ほむらはまどかの遺体を持ち運んでいた。首輪を回収しようともせずにだ。
きっと、彼女はせめて綺麗なままで埋葬したいと思っていたのだろう。
それがせめてもの手向けになると信じていたのだろう。

「...ほむらちゃん。あなたたちの仇は必ずとります。どうかまどかちゃんと見守っていてください」

刀を持つ手が震える。
わかっている。これが、ほむらの生前の意志を穢すことになるのは。
嫌だ。やりたくない。
今まで躊躇いも無く行えたこの行為を、本能から拒否するかのように涙が流れてくる。
だが、やらなければならないのだ。
彼女の意志―――足立透を殺すという意志を継ぐために。
彼女が守った(と、発見現場から判断した)承太郎を守るために。
これ以上、大切なものを失わないために。

「――――――」

そして、涙と共に握られた刃は、初めてできた『友』へ振り下ろされた。


254 : かくして亡者の意志は継がれず ◆dKv6nbYMB. :2015/12/27(日) 11:14:33 h/kQFMDI0


「こ、ここまでくれば...」

息を切らしながら、卯月はその足を止める。
未央や真姫、田村との戦闘により、卯月は"死"の実感を掴んだ。
殺し、殺されるということは、こういうことなんだと。
そして、セリューのように殺し合いに正面から立ち向かうには力が足りないことを自覚した彼女は、クローステールを駆使して田村からひたすらに逃げ回っていた。
疲労は随分溜まってしまったが、どうにかうまく撒けたようで、田村が追ってくる気配はない。

「でも...」

ここはどこだろう。
近くの施設にいてはすぐに見つかってしまう恐れがあるとふんだ卯月は、DIOの館を抜け、ただひたすらに動き回っていた。
勿論、セリューのように戦場に慣れていない卯月では、正確な方角などわかるはずもなく、そのうえ焦っていたのだ。
いまの自分の正確な位置など、わかるはずもなかった。

(あ...この辺り、見覚えがあるような...)

しかし、彼女の不安とは裏腹に、きょろきょろと辺りを見渡せば、そこは確かに見覚えのある風景。
果たしてここがどこだったか、皆目見当もつかずにあてもなくさまよい続ける。
そして、辿りついたのは崩落した線路。染みついた血痕。

(ここって...)

地図を確認してみる。
やっぱりだ。
ここは、足立透がほむらちゃんを殺したところだ。
無事、目的地に辿りつけたことにホッと胸を撫で下ろす。
これでセリューさんと合流できる。
南下する線路は崩れていたのは見えたが、少々の崩壊ならクローステールで乗り越えられるはずだ。
卯月は、早速線路を渡ることにした。

が、しかし。

「うーん...やっぱり駄目ですかね...」


いくら糸を伸ばしても、向かい側へと届く前に糸はその勢いを殺してしまう。
これではセリューのもとへ向かうことができない。

(このままだとセリューさんがこっちに渡る時に困るかも)

セリューはおそらく自分達を、卯月を心配してくれる。
そんな彼女に、東側から遠回りさせるのは申し訳が立たないし、下手に動けばすれ違うことになるかもしれない。
ならば、こちらからも渡れるようにしておいた方がいいだろう。

「えーっと...」

とはいうものの、そもそも、崩落した線路を繋げる道具など皆目見当もつかない。
なんでもありなこの空間だが、果たしてどうやって繋げればいいものか。

きょろきょろと辺りを見まわすと、ふと目に留まるのは駅員室。
ここなら何か手がかりが掴めるかもしれない。
そんな期待を込めて、卯月は駅員室の戸を開けた。

そこで見たものは

「あ...」

見たものは

「...ほむら、ちゃん」


255 : かくして亡者の意志は継がれず ◆dKv6nbYMB. :2015/12/27(日) 11:15:25 h/kQFMDI0


「......」

血の匂いが充満する駅員室。
頭部を失った二つの遺体を、床に並べる。
そこに、まどかの身体にはまどかの、ほむらの身体にはほむらの頭部をできるだけ近づける。
遠くから見れば、首が切断されているなどとは思えないだろう。

「大丈夫、大丈夫ですよ」

ほむらは、最期まで手を伸ばし続けていた。その先にあったまどかの遺体に触れる寸前でこと切れていた。
最期は形だけでもまどかのもとで。それが、ほむらが望んだ願いなのだろう。
届かなかったほむらとまどかの掌を握らせて。
震えそうになる声で、それでも優しく語りかけられるように努めて笑顔を作り、セリューは二人の掌をそっと握る。

「もう、離ればなれにならなくていいんです」

わかっている。
ほむらもまどかももう死んでいる。
こんなことは無意味だ。ただの自己満足だ。
それでも、いまのセリューには必要だった。
度重なる無力な現実に打ちのめされ、いまにも崩れそうな正義を保つために。
セリューは、それほどまでに精神的にも肉体的にも追い詰められていた。

「...ごめんなさい、ほむらちゃん、まどかちゃん」

本当は、もっと丁寧に埋葬してあげたい。もっといい場所に連れていってあげたい。立派なお墓を立ててあげたい。
しかし、こうしている間にも承太郎やマスタング達は先に進んでいる。
埋葬している時間は、ない。

「あいつを殺して、みんなを守ったら、必ずここに戻って来ますから。もっと太陽が当たって、もっと気持ちいい場所に連れて行きますから」

そうして、自己満足に過ぎない約束を交わして彼女は二つの骸に背を向ける。
ほむらたちの形見ともいえるリボンは、持っていかない。
無力だった自分にはそれをつける資格がないから。
それが、自分への戒めでもあったから。

―――せめて、これ以上誰も彼女たちを傷つけないで。

そんな願いと共に、セリューは扉に手をかけて。
もう一度だけ、ほむらたちへと振り向いた。


256 : かくして亡者の意志は継がれず ◆dKv6nbYMB. :2015/12/27(日) 11:17:51 h/kQFMDI0


駅員室の中にあった書類には、線路は破壊されても自動で修復されると記載されていた。
また、駅に付けられていた電光掲示板から、セリューのいる民宿のあるエリアからの線路は東西北全ての線路が壊されていることが判明した。
なぜ広川がこんな処置を施したのか...そんなことは彼女にとってどうでもよかった。
線路が壊れているということは、逆に言えば誰もあの場所には近づけないということ。
更に言えば、セリューの身の安全が保証されているということ。
セリューがあんな"悪"に負けるはずがない。マスタングを送りだしたということは、一人でも勝てる策があったということであり、あの爆発はキンブリーの最期の悪あがきだ。
片目を抉られても銃弾に撃たれても生きていた彼女が、あんなもので死ぬはずがない。
ならば、自分は自分にできることをやるだけだ。


「うーん。ちょっと小さいかも...」

脱ぎ捨てられた卯月の衣類。それに代わって彼女の身を包むのは、見滝原中学の制服。
もちろん、それは支給品などではなく、この場で調達したもの。
繋がれた手を解いて、死体から拝借したもの。
身長からいって、ほむらの方がまだ卯月に近かったが、生憎彼女は下半身を失ったことでスカートも服もほとんど消失しており、胸の部分も風穴が空いているためとても使用できる物ではなかった。
それに対して、まどかのものは大して傷ついておらず、血もほとんどついていない。きっと首の切り方がよかったのだろう。
そのため、わざわざ小さいまどかの制服を拝借しているのだ。

「着れないわけじゃないですし、ガマンガマン」

別に、卯月は服が破れて替わりが欲しいわけではない。
マスタングや田村からは警戒されている現状、こうして服だけでも変えておけば遠目からはわかりにくいはずだ。
自分の仕事仲間たちはもう誰もいないため、一目で卯月とわからなくてもなにも問題はない。
そうすれば、下手な不意打ちや奇襲を受ける可能性は格段に減るはずだ。

「あ、あとコレも」

ほむらとまどかの頭についているリボンを解き、自分の髪に結び付ける。

「うんしょ、うんしょ...できた!」

髪型はツインテールにして。
こうすれば、直接接触するまでは誰も自分を島村卯月とは思わないだろう。
兼ねてよりの髪型が崩れるのにはちょっぴり不満もあるが、正義の味方としてそんな程度のことも我慢できなければどうするというのだ。

「ほむらちゃん。私、いまならわかるんです。あの時、なぜ私が笑顔でいれたのか」

卯月は、物言わぬ骸に背を向けたまま語る。
卯月の言うあの時。
去ったほむらを追いかけたセリューと合流したあの時だ。

「私が笑顔でいれたのは、あなたが嫌いだからじゃありません」

ほむらが死んだことを理解したとき、卯月は悲しかった。
ほむらは悪でも敵でもなかったから。去る直前に、セリューだけでなく、こんな自分にも『ありがとう』と言ってくれたから。
南ことりや由比ヶ浜結衣とは違い、最後までセリュー【私】を否定しなかったから。
だから、卯月も涙を流すことが出来た。純粋に悲しむことができた。

ならば独占欲?
それも違う。
そもそもセリューの正義の果てにある理想は、自らの掲げる正義を否定する悪のない世界だ。
そこにいるのがセリューと卯月しかいないということはあってはならない。より多くの者に共感を得てこそ、セリュー【私】の正義は意味を為す。
ならば、セリューを否定しなかったほむらは共にあるべき存在だった。
失ってはならない存在だった。

ならば、なぜ?

「あの時、私は上っ面の言葉ではなく心で理解できたんです。こんな私でも、セリューさんの力になれるって」

ほむらの遺体を抱き、泣いていたセリューを抱きとめたのは、卯月だけだった。
未央はほむらの死やセリューに怯えているだけで何もしようとしなかった。
マスタングはよくわからなかったが、警戒心を抱いていたことだけは確かだった。
セリューの痛みも苦しみも悲しみも、全て正面から受け止めたのは島村卯月だけだった。

「誰にでもできることじゃない。セリューさんの正義を受け入れたからこそ、私は私なりに力になれると理解できたからです」

そこで、くるりと踵を返し、ほむらと向き合う卯月。
その瞳に、もはや悲しみなどない。

「ほむらちゃん。私、セリューさんと一緒にほむらちゃんの分も頑張りますから!」

そうして、卯月は用済みとなった駅員室をあとにする。
そして、扉に手をかけもう一度振り向いた。


257 : かくして亡者の意志は継がれず ◆dKv6nbYMB. :2015/12/27(日) 11:18:56 h/kQFMDI0



まるで眠っているかのように、綺麗に整えられた二人の遺体。
セリューは、流れる涙も拭わず、懺悔するようにそれに告げた。

「力になれなくて、ごめんなさい」






死体など所詮は肉の塊だ。スクールアイドルも器量のいい女子高校生も魔法少女も関係ない。尊厳など無い。
解かれた掌はそのままで。脱がされた衣類も、転がる頭部も、気に掛ける必要などない。
卯月は、文字通り一片の曇りもない笑顔でそれに告げた。

「力になってくれて、ありがとう」


258 : かくして亡者の意志は継がれず ◆dKv6nbYMB. :2015/12/27(日) 11:21:40 h/kQFMDI0


駅員室を出たところで、卯月はこれからのことを考える。

(セリューさんと合流した時にスムーズに執行できるよう、情報を整理しておかないと)

卯月は、名簿を取り出しペンで印をつけていく。

「DIO、悪。アンジュ、悪。サリアさん、正義」

セリュー【私】が悪と判断した者の名前の横に、悪党には『ア』の文字を。正義の味方には『セ』の文字を記入していく。

「高坂穂乃果、悪。小泉花陽、悪。アカメ、悪。ウェイブさん、せいg...」

ウェイブの名前でピタリとペンを止める。

(...ウェイブさんは、本当に正義でしょうか?)

ウェイブは、確かにイェーガーズの一員であり、セリューの仲間だ。
しかしセリューはこんな大変な目に遭っているというのに、彼はなにをしている?なぜ助けに来ない?
そもそもだ。ほむらが死にセリューが傷ついたのは、ウェイブがセリューを撃った高坂勢力の男に騙され手を組んだ挙句グリーフシードを持ってどこかへ行ってしまったせいだ。
そんな男が、仲間?赤の他人から聞かされた悪評一つで掌を返すような男が、仲間?
エンヴィーの疑いをかけたとはいえ、それを知ったうえでセリューと共に戦ったマスタングの方がまだ仲間と言えるだろう。

(いいえ、そもそもウェイブさんは本当に仲間だったのでしょうか)

セリュー属するイェーガーズも正義の味方とはいえ一組織だ。
もし、自分と未央のように仕事上で、たまたま居合わせただけの、作られた関係なら。
悪評一つで立場をころころと変える程度にしか信頼していないのなら。
セリューがピンチでも助けにも来ないで、わが身かわいさに平気で悪と共謀するような男なら。

(仲間とは、いえませんよね)

とはいえ、彼を悪と断定するにはまだはやい。
西木野真姫のように、直接会わないとわからないこともある。
だが、もし彼が本当に悪に染まり、セリュー【私】を、私たちの正義を否定しようものなら。
その時は、私が、島村卯月が彼を執行しよう。



その後も順々に名簿に印をつけていく。
覚えている限りの名前は確認し終えたが、その中でも、マスタングと雪ノ下雪乃は判断に困った。
マスタングは、疑心暗鬼だったとはいえ、ウェイブ達から悪評を吹き込まれてもセリューを裏切りも見捨てもしなかった。共に戦い、卯月たちも守ってくれた。未央を殺した現場に現れたのも、セリューに様子を見てくるように頼まれたからだろう。
あの時はとっさに逃げてしまったが、未央を殺した事情を話せば味方についてくれるかもしれない。戦闘力の高い彼が味方につけば、セリュー【私】の負担はかなり減るだろう。
雪ノ下雪乃は、由比ヶ浜結衣の友達らしい。μ'sの例もあるため、悪の可能性は高いが、比企谷八幡という少年のように、悪党の切り捨て対象になっているだけかもしれない。ならば、セリュー【私】の保護対象となる。
だから、ウェイブを含めた三人。特にマスタングに関してはしっかりと見極めなければならない。
それが、セリュー【私】の正義のためだから。


259 : かくして亡者の意志は継がれず ◆dKv6nbYMB. :2015/12/27(日) 11:22:54 h/kQFMDI0

「んー...まだ線路は直らなさそうですね」

電光掲示板から見る限り、線路が修復するまではまだ時間がかかりそうだ。
ならば、ただ待っているのも勿体ない。

(できれば、いまのうちにコレの練習をしたいですけど...)


この、幾度も卯月を護ってくれた帝具『クローステール』。
それなりには使えているものの、完全に使いこなしているとは到底言えない。
西木野真姫に対してもそうだったが、一瞬で人体を切断することはできなかった。
田村怜子相手には、おそらくこのままでは通用しない。
せめて、どの程度の力でどこまで斬れるかを理解するべきだろう。
そのための練習台は...

「あっ、そうだ」

どうせ練習するなら、より人間に近いもののほうがいいだろう。
所詮死体は死体だ。放置するよりもこっちの方がいい。
卯月は、再び駅員室の戸を開けた。




【D-6/駅員室/一日目/夕方】

※線路は自動修復されています。どの程度で修復が完了するかは他の書き手の方にお願いします。


【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(大)
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!  まどかの見滝原の制服、まどかのリボン、髪型:ツインテール
[道具]:ディバック、基本支給品×2、不明支給品0〜2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ、今まで着ていた服、まどかのリボン(ほむらのもの)
[思考]
基本:島村卯月っ、笑顔と正義で頑張りますっ!!
0:線路の修復が完了次第、セリューのもとへと向かう。
1:高坂穂乃果の首を手に入れる。
2:高坂勢力、及びμ'sを倒す。
3:田村玲子に対する恐怖を克服できるように強くなりたい。そのために、少し休憩した後、まどかとほむら【ふたつの死体】でクローステールの『練習』をする。

[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
※本田未央は自分が殺したと思っています。
※μ's=高坂勢力だと卯月の中では断定されました。

『悪』:高坂穂乃果、白井黒子、小泉花陽、アカメ、泉新一、田村怜子、後藤、足立透、キング・ブラッドレイ、セリム・ブラッドレイ、エンヴィー、キンブリー、魏志軍、アンジュ、槙島聖護、DIO、セリューを撃った高坂勢力の男(名前は知らない)
『正義』:エスデス、ヒースクリフ、ほむらの友達(佐倉杏子、美樹さやか)、サリア、エンブリヲ
『保留』:マスタング、雪ノ下雪乃、ウェイブ


260 : ◆dKv6nbYMB. :2015/12/27(日) 11:23:50 h/kQFMDI0
投下終了です。なにかあればお願いします。


261 : 名無しさん :2015/12/27(日) 14:13:05 VEZspvro0
投下乙です

さすがの吐き気を催す邪悪、島村さんだァ!
マーダーでも中々できない事を正義の名の下に平然とやってのける、そこに痺れる憧れるゥ!


262 : 名無しさん :2015/12/27(日) 16:35:39 aV6.ujbk0
投下乙です

ごめんなさい、自分の読解力がないからか、亡くなったセリューさんが何故出てきてるのかよく分かりませんでした…
死ぬ前にこういうことをやってましたっていう捕捉みたいなものですか?
で、それを卯月ちゃんがぶっ壊した的な…


263 : 名無しさん :2015/12/27(日) 16:46:32 73u4xwCoO
投下乙です
仮投下の時も思ってたが、しまむーさんもうこれどうしようもないだろうなあ
セリューさんの死体を見たらどうなってしまうやら

>>262
その認識で正しいかと
足立との戦闘の後、承太郎が目覚める前の補完かと思われます


264 : 名無しさん :2015/12/27(日) 18:10:59 ZrMjjJQMO
投下乙です

セリューのはじめてのともだちがー!?


265 : 名無しさん :2015/12/27(日) 21:11:33 fPb4TXBI0
投下乙です。
島村さん、もう止まらない、止められないって感じですね。
これはこれで彼女の選択で仕方ない事でしょう。
悲しい結末しか見えませんががんばれしまむー。


266 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/12/28(月) 00:37:36 1dlNg/SQ0
お疲れ様です、投下します


267 : どうせ最初から結末は決まってたんだ :2015/12/28(月) 00:39:32 Gp9ExD0I0


『その質問にはお答えできません』

機械的な電子音声が響くと、続く音は何一つ鳴らない。
動作音や歯車が動く訳でも無く、人間が発する仕草の音や漏れる声も響かない。

さて、どうしたものか、と参加者の一人である魏志軍は考える。答えが想像の端数にも到達していない。

「理由は」

尋ねてどうにかなるものだろうか。機械相手に新たなる結果を導き出すべく問を投げるのは得策と言えない。
人間と違い、顔も、空気も感じ取れない。全てが相手に有利な状況である。

『首輪の価値と情報が釣り合いません』

「……片方を削れば答えがもらますか」


《BK201...黒と、その周辺の参加者の居場所を教えなさい》


少し前に機械に呟いた。
対する返しは黒の居場所も、他の参加者の情報も含まれていなかった。
含まれていないだけならまだましだったが、本当に何も得ない返しだった。

しかし首輪を対価に、情報が何一つ得られないのは等価交換と言えないだろう。

『このシステムは稼働してまもないため、現在は一度発言された質問の訂正ができません。
 改良されれば後に可能となるかもしれません。ですが、現状では貴方の質問にお答えできません』

「無駄足でしたか」

『新しい情報が知りたければ首輪の提供が必要となります。
 なお、先の首輪と同価値の首輪の場合、お答え可能な範囲は対象が滞在している方角のみとなります』


その音声を最期に魏志軍は立ち去り、新たな首輪を求める。











 知り合いは誰も死んでいない。
 二回目の放送を聞いたタツミの率直な感想であり、アカメが生きているのは彼にとって嬉しい知らせであった。


268 : どうせ最初から結末は決まってたんだ :2015/12/28(月) 00:41:29 Gp9ExD0I0


 ジュネス店外のフードコートの一席に腰を下ろし、得た情報を整理する時間を確保に務める。
 タツミの仲間――アカメの名前が呼ばれていないことは、こんな狂った空間の中で数少ない喜ばしい情報だ。

 しかし別れた同士達……ジョセフや初春の仲間が呼ばれていた。
 彼らは放送を聞いてどう動くか、捉えるかは解らないが、人は死ぬ運命でありそれが早まっただけ。
 割り切れずに現実を拒んだ存在から死んでいく。四方を囲まれ安息地の無い殺し合いに漂う暗黙の規則だ。
 それにキリトも死んでいる。別れた後のたった数時間で、だ。
 危険人物が近くに潜んでいるかもしれない、気を引き締め直す。

 知り合いから死者が出たジョセフと初春がしっかりと己を保ってくれれば問題は無い。
 この殺し合いを拒むタツミが現地で得た仲間だ、共に朝日を拝みたいものである。


(知り合いの名前を呼ばれたのは他にも……いる)


 首を少し動かし、遠くの席に落ち着いている青髪の魔法少女を見つめる。
 無論、戦闘態勢ではなく、制服と呼ばれる服装をしているが。
 
 鹿目まどか。

 美樹さやかの知り合いの名前。
 唯でさえ、悲しみの少女は精神が不安定で、危険要素を己に潜めているかのような状態であった。
 追い打ちを掛けるように読み上げられる友の名前。それは冥府に旅だったことを知らせる煉獄の地鳴り。


 死んだ人間は生き返らない。


 世界の鉄則。変えられない現実。受け入れるべき事実。拒めない真理。
 殺し合いを最期まで生き延びた参加者に与えられる褒美、それは森羅万象全ての願いを叶える奇跡の業。

 もし、美樹さやかが友を生き返らせるために、殺し合いを加速させるならば。


 悪は葬らなければならない。

 
 死んだ人間は生き返らない。何でも願いが叶うならば既に誰かがやり遂げている。
 褒美に目が眩み道を踏み外した外道に、天の光を浴びる権利など無いのだ。
 法が裁けぬのなら、法が適応されなければ、例え殺し合いの状況であろうと。

 悪は葬る。









 鹿目まどかが死んだ。
 この事実は必ず受け入れなければ――いけないのだろうか。


269 : どうせ最初から結末は決まってたんだ :2015/12/28(月) 00:42:12 Gp9ExD0I0

 美樹さやか。
 喉元に溜め込んだジュースを、身体の中で渦巻く不安と一緒に飲み干す。
 
 思えば、殺し合いに巻き込まれてから自分は何をしたのか。
 
 何もしていない、そう何も、何も、何も成し得ていない。

 放送で目を覚まし、眠気覚ましになると思っていたが、奈落の底に叩き落とされた気分だ。
 目何て簡単に覚めてしまい、心も何処か冷めているようで。
 自分だけが取り残される感覚が無慈悲に襲う。それは生き残ることや何もしてないこと。全て色々と引っ括めて。

 殺し合いに来てからまともにした行動は鳴上悠の手当をしたぐらいだろう。

 けれど。



(あたしがやること……今のあたしに残されている、もう一度、全てをやり直すためには……っ!)



 絶望。
 どうしようもない現実の目の前で塞ぎ込んだ美樹さやかに訪れた、宴。

 希望。
 嘗て自分が身を堕とした時と同じように、奇跡の前触れに触れる機会。


 殺し合いを生き抜けば願いが叶うと広川は告げた。
 信じられない戯れ言なのに、本当なら絶対に信じ切れない言葉。けれど、美樹さやかは信じた。
 その身に一度体験しているのだ。奇跡は存在する。本当に、引き起こせると。

 奇跡に縋らなければもう一度、笑顔で彼の前に、皆の隣で笑うことが出来ない。
 最初から決まっていた――いや、選ばさざるを得なかった。
 こんな境遇で奇跡を餌に釣られてしまえば、美樹さやかは修羅の道を歩むことは決まっているも同然だった。


 それでも、迷いはあった。


 この剣で、魔法で、手で。人を殺すことが出来るのか。
 怖い。自分が誰かを殺めることが無性に怖くて、その場から消えたくなった。
 しかし消えることは許されておらず、帰るにも最期の一人にならなければならない。


270 : どうせ最初から結末は決まってたんだ :2015/12/28(月) 00:43:14 Gp9ExD0I0


 弱い心を押し殺し、馬鹿な自分を救うためにこの身を闇に染める。

 美樹さやかが最初に出会った男。
 まだ心に迷いが生じていた彼女は弱さを見せた。
 溢れる言葉は偽りの無い本心であり、まだ中学生である魔法少女は同情を求めていたのかもしれない。
 傍で支えてくれる、励ましてくれる、慰めてくれる存在がほしかった。ただそれだけなのに。


 男――タツミは弱い美樹さやかと違い、既に覚悟が出来ていた人間だった。


 彼がどんな境遇で育った人間かは知らないが、彼は人を殺めることに戸惑いが感じられなかった。
 願い――殺し合いに少しでも興味を示せば、危険人物として扱い、襲い掛かる。
 それが普通だ。乱暴ではあるが、目の前に願いを求める人間がいれば排除したい気持ちも解る。

 しかし美樹さやかは黙って殺される訳にもいかない。
 どんなに辛いことがあっても、逃げ出したいことがあっても死んでしまえばそれで終わってしまう。
 生きたい。昔は無かったが今となっては生に対して執着心を持つようになってしまった。

 魔法を駆使した戦い。けれど生身の人間であるタツミに敗北してしまった。
 背中に斧の一撃を受けた重症だ。魔法少女じゃなければとっくに絶命している。


 タツミが斧を回収した時。
 心臓が止まると思ってしまった。息を殺し、出来るだけ自分の身体から生命の波動を消す。
 死体に成り切り遣り過ごした後は、リターンマッチ。と表せば聞こえはいいだろう。

 実際は《こんな奴なら殺してもいい》。
 奇跡を求めたいが殺人に迷いのある自分を正当化するために、少しだけ背伸びするためだけに彼を狙う。

 それでも美樹さやかは誰一人殺せていない。
 その後にタツミ、ジョセフ、初春と複数の人間と交流を得た。

 だけど、それが美樹さやかを救うことは無い。


 追い打ちを掛けるように巴マミの死が――名前が放送で読み上げられた。
 自分の目の前で死んだ銃撃の魔法少女。
 美樹さやかにとっては憧れの先輩であり、全ての元凶であり、大切な存在だった。

 巴マミが蘇生されている事実が裏付けるのだ、広川が持つ奇跡の力を。





 そして――鹿目まどかが死んだ。


271 : どうせ最初から結末は決まってたんだ :2015/12/28(月) 00:44:07 Gp9ExD0I0


 自分の大切な友達。唯一無二の親友。
 彼女を表す言葉など幾らでも存在する。


(友達とか親友とかじゃなくてさ。まどかが……死んだ……………はは)


 大切な存在が消えるのは慣れない。
 慣れてしまえば本当に自分が人間としての心を失いそうで、怖い。

 そして、今も結局は自分のことを考えている自分が嫌いだ。

 心を失いそうで怖い? 違う、まどかが死んだことを悲しめ、と心に叫ぶ。
 けれど拒絶する。まどかが死んだ事実を受け入れられない。何故、彼女が死ななければならないのだ。

 
 仮に死んでいてもいい。駄目だが諦める。
 優勝すればいい。優勝すれば願いが叶う。全員殺せばまどかを救える。


(でも、それじゃあたしは何も変わらな――)










「奇跡を起こせるのは知っている、だからさ……後何回起きても問題は無いよね」



 嗚呼、なんて自分は馬鹿なんだろう。
 奇跡が何度でも叶う保障や根拠は無い。そもそも願いは一つの筈だ。


 なのに、願いを複数叶えればいい、だなんて馬鹿げた思考をしている。



 そんなのあり得ない。叶う願いはきっと一つだけだろう。




 けれど、そうでもしなければ。





 正気を保っていられない。たとえどんなことがあっても――鹿目まどかが死ぬ理由には結び付かない。


272 : どうせ最初から結末は決まってたんだ :2015/12/28(月) 00:49:42 vKFp3xGA0


 席を立ち、魔法少女に変身し、剣を精製し、震えながらも握る。
 願いを叶えるには最期の一人になる。その一歩のために、タツミには踏み台になってもらう。

 遠くの席にいるタツミも立ち上がり、鋭い空気を纏いながら美樹さやかの方へ歩く。
 さやかは殺気など出しているつもりは無いが、焦って変身したのは失敗だったと心に汗を浮かべる。
 タツミは強い。不意打ちでも奇襲でも仕掛けて殺さなくては、今の自分には身に余る存在だ。


(近っ……!?)


 気付けば対面にタツミが立っている。
 足音を殺していたのかどうかは定かでは無いがほんの一瞬で距離を詰められていた。
 美樹さやかが焦っていたことや未だに抱く迷いも関係はしているが、それでも接近に気付けなかった。

 タツミが伸ばす右腕に視線が集中する。
 この腕で私が殺される、そんな曖昧で具現化して欲しくない現実を思い浮かべながら――。


「お前、気配を察知したのか。ちょっと見直した。ソウルジェムを返したのに気付いたのもだけどさ」

「……え?」


 何を言っているか解らない。そんな表情を浮かべる魔法少女をよそに殺し屋は空きグラスを掴んで放り投げる。
 さやかが飲み干したグラスはジュネスの壁に当たると、当然のように音を響かせながら割れる。

 辺りは飛び散った欠片がバラバラに散布され、撒菱のような形になっている。
 何故そのようなことをしたのか訪ねようとするさやかだが、更に音が聞こえる。


 ガラスを踏み躙る音だ。

 
 つまり人が歩いている。


「首輪が二つ……貴方達の生命の重さ、期待させていただく」


 黒を基調に己を纏った男が、薄気味悪い笑みを浮かべさやかとタツミに走りだす。
 この時彼女、美樹さやかはやっとタツミの言葉を理解したのだ。遅い。

 気配を察知した。
 そんな訳無いだろう。お前と一緒にするなと悪態をつきたいが、そんな暇は無いようだ。


273 : 名無しさん :2015/12/28(月) 00:50:57 vKFp3xGA0


 戦闘は魔法があれど、技術的な面では圧倒的にタツミが上である。
 ならば彼を基本に立ち回るのがベストであり、さやかは漁夫の利を――少ない消費で他の参加者を削る方法を選択する。









 息を止めたタツミは迫る火傷の男との間合いを図り、一歩踏み出す。
 重心を乗せて放つ拳は首を捻られ回避されてしまい、敵は身を低くし懐に飛び込んで来た。
 しかし此処はフードコートだ。障害物は幾らでもあり、タツミは椅子ごと男を蹴り飛ばす。

 敵は両腕を交差し防いだようで、傷は一切覆っていないどころか、余裕の表情でナイフを投擲し始める。
 タツミはナイフを拳で叩き伏せると、落ちたナイフをつま先で蹴り上げ、宙に浮いた所を掌で掴むと、彼もまた投擲。


「お返しだ」


 火傷の男の額に吸い込まれるナイフだが――消える。


「な――俺の右足に刺さって……ッ!?」


 気付けばタツミの右太腿にナイフが刺さっており、敵は奇妙な鉄を持って嘲笑っている。
 何が起きたかは不明だが、あの男が細工をしてタツミが投げたナイフを空間ごと転移させたのだろう。


「手品師かい、あんたは……っ」


「生憎私もタネは解っていませんが、それでも手品師を名乗れと?」


「知るか!」


 ナイフを引き抜き、痛みを気にせずにバッグへ仕舞い、己を走らせる。
 近接戦闘ならば妙な転移に巻き込まれる必要も無い。一瞬で終わらせいいだけだ。

 火傷の男はナイフを手に取り、振るうことによってタツミの生命を刈り取ろうとする。
 拳で対応するタツミは一切の攻撃を喰らわずに攻防を繰り返し、徐々に敵を追い詰めていく。





「や、やるじゃん……」

 その光景を見てさやかは観客のように声を漏らす。
 タツミが何故、自分にソウルジェムを返したのか。今なら解る。

 自分が襲い掛かっても返り討ちに出来ると算段していたのだろう。





 ナイフの一撃を上体反らしで回避したタツミだが脚が止まってしまい、敵の膝蹴りが容赦なく腹に響く。
 身体を折り曲げた所に頭を掴まれると、槍のように投げられてしまい、ジュネスの店内へ放り込まれる。


274 : 名無しさん :2015/12/28(月) 00:51:51 vKFp3xGA0


 幸い自動ドアのため、ガラスを突き破ることにはならなかったが少々身体に痛みが響く。
 間髪入れずに距離を詰めてくる敵の攻撃を捌きながら反撃の狼煙を挙げるべく、青果コーナーのオレンジを積み上げたカゴをぶち撒ける。

 床一面にばら撒かれたオレンジで敵の動きが止まればいい。
 浅墓な知恵だ、そんな表情で火傷の男が嗤うも、少しでも止まればタツミの勝ちだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 調理実施コーナーの雰囲気づくりのために置かれたパラソルを畳み、即席の打撃武器にし振り下ろす。
 ナイフだろうが防ぎようのない、それも定石どおりではなく野蛮な即興の一撃を簡単に防げる筈もない。

 だが、相手も修羅場を潜って来た人間だ。簡単にやられるタマじゃないのは本能が察知している。

「っ!」

 目潰し代わりに飛んできたオレンジの汁に瞳を閉じてしまう。
 戦闘で相手から目を離すのは自殺行為であり、死を招く簡単な方法である。


 苦し紛れにパラソルを開くと、傘の部分に液体が付着した音が聞こえた。
 片腕でオレンジの汁を拭き終えると、何故か指が弾く音が響いて――傘が光る。


「や、ヤバイよな……!」


 危険を察知したタツミはバク転の要領でその場を離れる。
 自分で撒いたオレンジが邪魔だが関係無く距離を取り男に視線を合わせる。


 するとパラソルはこの世界から存在を消すように弾け飛んだ。一切の欠片を発生させずに。


「ワープがお前の能力か……おい、随分なチートじゃねえか」

「それはどうでしょう……しかし運のいい男だ」

(あいつ、腕から血が流れてる……知ったこっちゃ無いけどよッ!)


 その場を蹴り飛ばし一気に距離を詰める。
 長い間戦闘を続ければ、タネも解らない敵相手には危険過ぎる。

 ならば一瞬で殴り飛ばし意識を飛ばす。その後に情報を聞き出して殺せばいい。


「喰ら――――――!?」


 タツミの表情が強張る。敵の背後に美樹さやかが回っていれば誰だって驚くだろう。
 彼女は剣を振り下ろし、火傷の男を斬り裂こうとするも、簡単に避けられてしまう。

 あろうことか首の後ろに腕を回され、男の前に――盾代わりにされている始末だ。


「仲間を殴れますか?」








「もう止められない――このまま殴り抜けるッ!!」







 タツミ、美樹さやか、火傷の男。
 跳んでいるタツミに勢いを殺す方法もない故に、彼らはまとめて家電コーナーへ吹き飛ぶことになる。


275 : 名無しさん :2015/12/28(月) 00:52:19 vKFp3xGA0





 信じられない。
 埃が吹き荒れる中、さやかは殴られた胸を抑えながらタツミに毒を吐く。
 あの男は自分ごと敵を殴り飛ばした。あわよくば自分も始末しようとでも思ったのだろうか。

 
 やはり殺す対象に変わりはない。ソウルジェムを返却した行いを後悔させてやる、さやかの感情に憎しみが渦巻く。


「血……あたしのじゃない」


 左腕に付着している血液に疑問を浮かべる。殴られこそしたが出血はしていない。
 切傷かもしれないが、痛みは打撃のみであり、この血は自分のものじゃない。ならば誰の血だ。

 気付けば周りにはタツミも火傷の男もいない。
 気配は感じるが倒れているせいもあり、洗濯機や冷蔵庫に視界を阻まれており、確認が出来ない。




 立ち上がり、警戒しながら周囲を伺うと後ろから指を弾く音が聞こえる。



「これってさっきタツミの持ってたパラソルが――い、いや、嫌だ……っ」


 パラソルはまるで世界から消えるように、欠片も残さずこの世から――ならば。


 美樹さやかの腕も同じように――弾け飛んだ。



「い、ぁぁぁぁあああああアアアアアアアアアア!!」



 左肩から下が全てこの世から消える。
 痛みに耐え切れず倒れこみ、狼狽えうように転がるも痛みが軽減されることはない。


276 : 名無しさん :2015/12/28(月) 00:53:04 vKFp3xGA0

 転がる度に付着する己の血液が纏わり付いて、この世の地獄を演出し始める。
 止血しなければ、魔法で、魔法で回復を。


「ソウルジェムが濁って……いやぁ、う……そ、なんであたし、あたしあ、あ、あ、あ……グリーフシードは……あぁ!!」


 魔法少女にとって生命と等しいソウルジェム。響きどおりの魂が泥のように穢れている。
 完全に穢にそまり輝きを失えば、魔法少女として死亡し、人間としてこの世を去ることになる。


 魔法の使用で穢が蓄積されるのだが、これ以上魔法を酷使すると生命の保障がない。
 それに穢れは感情に絶望が芽生えることによっても蓄積されてしまう。つまり今のさやかは当然のように穢れる。


 穢れを浄化するにはグリーフシードと呼ばれる物が必要だが、生憎持ち合わせていない。
 タツミが持っているのだが、素直に渡してくれるとは思えない。


 出来るだけ。
 歯を食いしばりながら治療を始める。出来るだけ、魔力を最小限に。


 生き残るために。魔法少女の力を残すために。人間のカタチを保つために。








 ドサクサに紛れて火傷の男のバッグから零れ落ちたライフルと弾薬をくすねたタツミは容赦なく引き金を引く。
 敵は冷蔵庫の裏に廻るように横へ移動し弾丸を回避、タツミは邪魔なライフルをバッグにしまい込み男の出方を伺う。


277 : 名無しさん :2015/12/28(月) 00:53:36 vKFp3xGA0

 叫んでいるさやかを気にしている暇など無い。
 敵の動きは完全に完成されている人間、つまり修羅場を潜り抜けている動きだ。

 相手が本物ならば、此方も真剣に、手を抜けない。
 殺しの世界では甘い奴から生命を落とすことになる。


「ッラァ!」


 洗濯機をぶん投げ男を炙り出すタツミ、投擲物を追い掛けるように自分も走る。
 冷蔵庫に直撃すると轟音を響かせ、家電製品あら怪しげな煙が立ち始めるも気にはしない。
 その背後から飛び出した男と再び近接戦闘に突入し、拳と共に言葉を交わす。


「お前は何で俺達を狙う!?」


「殺し合いで尋ねる内容に相応しくない、首輪が欲しいだけ――そもそも理由を問う必要が感じられない」


「そんな屑野郎共を何人も見てきたがどいつもこいつも自分の利益しか考えてないってのが特徴だった」


「利益を追求しなければ他に何を……合理的に考えるのが」


「何が合理的だ、それが他人を殺す必要に――その指輪は!?」


「おや……知っているのならこれから起こる展開も予想出来るッ!」


 火傷の男はペットボトルを取り出すと、それを上に放り投げる。
 対するタツミは急いで距離を取り、視線は敵ではなくペットボトルに集中する。

 男の指輪は忘れることなどしない忌々しい帝具、ブラックマリン。
 大切な仲間であるブラートを死に追い込んだあの帝具、その能力は――。


「水を操ること……水流が迫ってきやがるっ!」


 ペットボトルを突き破るように水流が暴れ狂う――戦況は圧倒的に不利だ。


278 : 名無しさん :2015/12/28(月) 00:54:21 vKFp3xGA0


 
 まず最初の選択は家電を投げつけ水流の勢いを殺すこと。
 しかし暴れ狂う螺旋水流は簡単に家電を貫きタツミを追い掛け回す。

 家電コーナーを直線ではなく縦横無尽に駆け回るが、水流はびったりと追尾してくる。
 急停止を掛け、旋回するも水流は多くの家電を貪り、破壊しながらタツミに迫る。

 
「くっそ……頭を潰す!」


 近場の冷蔵庫に飛び乗ると、跳躍し空中から火傷の男に接近し拳を構える。
 本体を狙い水流を防ぐ、永遠の鬼ごっこを続けるほどタツミにくだらない趣味は無い。



「発想はいいかもしれないが、私は後ろに」



 シャンバラ。
 タツミは知らないが火傷の男が持っているもう一つの帝具。
 空間転移を能力とするそれは先のナイフでも応用され、今もタツミの背後に回り真価を発揮している。

 本来の時間軸ではタツミの仲間を殺すきっかけとなる帝具は、持ち主が違えど、世界が違えど、タツミを追い込むことに変わりない。


「やb……ッッッ!」


 冷蔵庫を殴り飛ばし、ブレーキ代わりに使用すると靴底を地面に抑えつけ更に速度を落とす。
 摩擦音を響かせながら無理に旋回し背後に回った男を見るも、既に水流が迫っている。

(手持ちの道具はラケットにライフル……防げない)

 水流を防ぐ術は無い。大前提として水流に貫かれることになれば致命傷は確実であり、下手をすれば死ぬ。

 さて、此処まで解っていれば何かしら対策を取らなければならないが、生憎手詰まりである。
 一度対峙した時も、ブラートが居なければタツミはとっくに死んでいた。

 仲間に頼らなければ死んでいた。故に。





「イザナギ!」




 今回も仲間に助けられることになる。


「大丈夫かタツミ!」

「悪い……タイミングが良すぎるけど狙ったか?」

「だとしたら?」

「……止めだ止め、それがお前の……えーっと」

「ペルソナだ……それよりもさやかは何処にいる。まさかあの男に……」

「生きてる、あっちの方で転がってるけど左腕が吹き飛ばされた」


「左……っ!
 もう僕の周りからは誰も死なせたくない、死なせてたまるものか!」


279 : 名無しさん :2015/12/28(月) 00:54:57 vKFp3xGA0

 水流からタツミを救ったのは鳴上悠のペルソナ、イザナギであった。
 手に持った獲物で正面から水流を斬り裂き、付近の家電を破壊するだけに収まった。

 興味ありげにペルソナを見つめるタツミだが、詳しいことは戦闘の後にするべきだ。
 今は目の前にいる火傷の男に対処することが専決事項であり――「逃げろ、悠! 巻き込まれ――」



 紫電の光が彼らを包み――誰もかもが消えた。







「此処は……ジュネスが見える」


 タツミが気付いた時には外に身を置いていた。
 ジュネスが見えるものの、お世辞にも近いとは言えないこの地点でどう動くべきか。


「火傷男も悠も消えていた……何処に居るんだ」


 紫電の光に包まれて消えたのは自分だけでは無い。
 彼らも何処かに飛ばされている筈だが近くには感じられず、タツミの周囲に気配は無い。
 ジュネスに残っているのは美樹さやかだけであろう。


「さやか……あいつ大丈夫かな」


 左腕を吹き飛ばされた人間が大丈夫な訳が――魔法少女ならば有り得る。
 実際に交戦した時も、背中を斧で斬り裂いたにも関わらず彼女は生き延び、こうしてまた共に行動していた。


(悠を助けた時……何だかんだで根は良い奴だと思ってソウルジェムを返したけど……)


 その行動が良かったのか悪かったのかは解らない。振ったサイコロの目を見ていなければ意味が無い。
 同じように美樹さやかを確かめる判断材料は揃っていない。


「あのままくたばっちまえば……いや、助けに行くか」


 後味が悪い。仮に美樹さやかがどうしようもない悪だったとして放置してれば被害が出てしまう。
 何にせよ救える生命を捨てるほどタツミは外道では無いつもりでいる。

 しかしそれは褒められるような正義では無く、己を正当化しただけの記号だ。

「ジョセフさん達とも合流するべきだし……遠くから聞こえる音も気になる」



 タツミが選ぶ選択――それは彼の生死を別ける運命分岐点。


280 : 名無しさん :2015/12/28(月) 00:55:40 vKFp3xGA0



【F-6/ジュネス/一日目/午後】




【タツミ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(大)、右太腿に刺傷
[装備]:バゼットの手袋@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、テニスラケット×2、グリーフシード×1、ほぼ濁りかけのグリーフシード×2、ライフル@現実(武器庫の武器)、ライフルの予備弾×6(武器庫の武器)
[思考・行動]
基本:悪を殺して帰還する。
0:行き先を決める(八割さやかの救助優先)
1:さやかと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でジョセフたちと合流する。
2:さやかを監視する。さやかに不穏な気配を感じたら即座に殺すが、現状は保留。
3:アカメと合流。
4:もしもDIOに遭遇しても無闇に戦いを仕掛けない。
5:エンブリヲを殺す。
6:足立透は怪しいかもしれない。
7:悠の散策。
[備考]
※参戦時期は少なくともイェーガーズの面々と顔を合わせたあと。
※ジョセフと初春とさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※首輪を解除できる人間を探しています。
※魔法@魔法少女まどか☆マギカでは首輪を外せないと知りました。
※さやかに対する不信感。


※タツミの行き先について(数字が少ない程優先事項)
1:ジュネスに戻りさやかと合流する
2:周囲を散策し悠を探す、また火傷の男に警戒する。
3:戦闘音(北)の方角へ向かう。
4:戦闘音(南(キンブリーの爆発))の方角へ向かう。


281 : 名無しさん :2015/12/28(月) 00:57:35 vKFp3xGA0



「さやか!」


 ジュネスの前に転移した鳴上悠は周囲に誰もいないことを確認すると急いで家電コーナーへ向かう。
 もう誰も死なせたくない。放送では仲間の名前が呼ばれなかった。みんなは生きている。
 けれど、クマと雪子は既に――もう之以上、誰も死なせるものか。

 シャワーを浴びている最中に聞こえた戦闘音。
 水を切りながら走ればタツミが交戦し、さやかは左腕を吹き飛ばされた。


 もう自分の近くで誰も死なせない――そのために、彼は走る。












 後を追うように契約者が首輪を求めジュネスに侵入する――誰にも存在を知覚されずに。




【F-7/ジュネス/一日目/午後】




【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:仲間と合流して殺し合いをやめさせる。
0:さやかを救う。
1:里中を見つけないと。
2:未央に渋谷凛のことを伝える。エンブリヲが殺した訳じゃない……?
3:足立さんが真犯人なのか……?
4:エンブリヲを止める。
[備考]
※登場時期は17話後。
※現在使用可能ペルソナは、イザナギ、ジャックランタン。
※上記二つ以外の全所有ペルソナが統合され、新たなペルソナが誕生しつつあります。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。


【魏志軍@DAKER THAN BLACK‐黒の契約者-】
[状態]:疲労(中〜大)、黒への屈辱、鎮痛剤・ビタミン剤服用済み、背中・腹部に一箇所の打撃(ダメージ:中・応急処置済み)、右肩に裂傷(中・応急処置済み)、右腕に傷(止血済み)、顔に火傷の痕
[装備]:DIOのナイフ×8@ジョジョの奇妙な冒険SC(魏志軍の支給品)、スタングレネード×1@現実(魏志軍の支給品)、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る(魏志軍の支給品)、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る(セリム・ブラッドレイの支給品)、黒妻綿流の拳銃@とある科学の超電磁砲(星空凛の支給品)
[道具]:基本支給品×3(魏志軍・比企谷八幡・プロデューサー・一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲(比企谷八幡の支給品)、暗視双眼鏡@現実(比企谷八幡の支給品)、アーミーナイフ×1@現実(武器庫の武器)、パンの詰め合わせ@現実(プロデューサーの支給品)、流星核のペンダント@DAKER THAN BLACK(蘇芳・パブリチェンコの支給品)、参加者の何れかの携帯電話(蘇芳・パブリチェンコの支給品・改良型)、カマクラ@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。(星空凛の支給品)、うんまい棒@魔法少女まどか☆マギカ(星空凛の支給品)、医療品@現実(カジノの備品)、鎮痛剤の錠剤@現実(カジノの備品)×5、ビタミン剤の錠剤@現実×12(カジノの備品)、ビリヤードのキュー@現実×6(カジノの備品)、ダーツの矢@現実×15(カジノの備品)、懐中電灯×1@現実(カジノの備品)
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する
0:男(鳴上悠)を殺して首輪を入手する。
1:BK201(黒)の捜索。見つけ次第殺害する。
2:強力な武器の確保。最悪、他のゲーム賛同者と協力する事も視野に入れる。
3:合理的な判断を怠らず、可能な限り消耗の激しい戦闘は避ける。
[備考]
※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。
※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、ヘミソフィアの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。
※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能の無いごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。
※スタンドの存在を参加者だと思っています
※シャンバラの説明書が紛失している為、人を転移させる謎の物体という認識です。
※シャンバラは長距離転移が一日に一度で尚且つランダム。短距離だとエネルギー消耗が激しいですが、通常通りに使用できます。
※ブラックマリン・シャンバラ共に適正を持ち合わせており、特に後者については出典元であるアカメが斬る!での所持者・シュラと同等の高い適正を誇っています。
※シャンバラの大まかな使用用途を理解しました(長距離制限には気付いてない)。
※あらかじめ水源付近(H7北部の河川)にシャンバラでマーキングを行っています。
※プロデューサーの首輪で黒たちの居場所が聞けたかどうかは次の方にお任せします。
※ペルソナとスタンドの区別がついていません。
※タツミと悠&ペルソナ相手に分が悪いためシャンバラを使用しました。


282 : どうせ最初から結末は決まってたんだ :2015/12/28(月) 00:58:12 vKFp3xGA0


 悲しい人魚姫。

 とある奇跡を己では無く、他者に投げ捨てた。

 他者が手に入れたのは笑顔。人魚姫が手に入れたのは笑顔。


 彼は輝いていた。彼女も輝いていた。



 彼は相棒を見つけた。彼女は相棒を失った。
 
 彼は笑顔になった。彼女から笑顔が消えた。
 
 彼は輝いた。彼女は穢れを――染まってしまった。



 魔法少女は希望の象徴。


 魔法少女は絶望の調律者。


 魔法少女は――絶望を振り撒く魔女になる前のさなぎ。


 蝶になり羽が生えれば――蛾がばら撒く毒《絶望》は人々から笑顔を――奪う。








「ははははははは…………ははははははははははは!!」


 左腕が再生したさやかは「はははは」立ち上がり、天井を見上げ嘲笑っている。
 これはなんだ、何故、自分は苦しんでい「はははははは」るのか。自分が何をしたと言うのか。

 ただ幸せに――幸せにしてあげたかっただけなのに。

 絶望を背負わされ、殺し合いに巻き込まれた挙句、左腕を消された。



「意味分かんない……意味解かんなくない? 分かる、解る、わかるわけない」


 壊れた時計細工のように似たような単語を何度も呟く。
 時折少し高めに響く薄い笑い声もおまけもついてくる。


283 : どうせ最初から結末は決まってたんだ :2015/12/28(月) 00:59:33 vKFp3xGA0



 剣は精製していない。
 無駄な魔力はもう使えない。酷使すればソウルジェムが完全に黒になる。

 自分から動けば、全てが黒に染まってしまう。その終着は――魔女。


「ははははははあっははははははは!! なんで! なんであたしがこんな目に合ってるの!?
 殺し合い? ふざけないで、そんなの空想上の話に決まってんじゃん……ゲームのやり過ぎなんだよッ!!
 なのに現実であたしは背中を斧に、今は左腕を飛ばされて……マミさんとまどかが死んだ!! 冗談じゃないよ、こんなの……あんまりって枠を超えてる」


 冷蔵庫を蹴り、苛立ち混じりにバッグを投げ付ける。


 これからどうするか。輝きを、笑顔を、日常を、大切な人達を。



「どうすればいいのさ、ねえ、聞こえてんでしょ誰か。
 あたしはどうすれば《救われる》の…………………………




 どうせ最初から結末は決まってたんだ。願いを叶える方法は一つしかないんだよね……へへっ……はははは」




 精一杯輝こうとした星の煌めきは――闇に飲み込まれた。





 新たな光が訪れる訳も無く、魂の宝石が穢れ崩れるのも、最早時間の問題である。




【F-7/ジュネス/一日目/午後】



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(極大)精神的疲労(極限)
[装備]:基本支給品一式、テニスラケット×2、ソウルジェム(穢:極限手前)
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:全部殺して、願いを叶える。
0:殺す。
[備考]
※参戦時期は魔女化前。
※初春とタツミとジョセフの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物と認識しました。
※ゲームに乗るかどうか迷っている状態です。
※広川が奇跡の力を使えると思い始めました。
※魔法で首輪は外せませんでした。


284 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/12/28(月) 01:00:05 vKFp3xGA0
投下終了です。


285 : ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:05:30 5KB.IH4k0
投下乙です
自分も投下します


286 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:07:03 5KB.IH4k0
「エンブリヲ様……」

最早、殺すべきアンジュはこの世には居ない。今のサリアはその宿敵すら何の関係もない後藤に奪われた。
その後藤を代わりに殺すか? 否、それが何になる。後藤はアンジュではない、サリアが何よりも殺したいのはアンジュその人だ。
そもそもが、サリアはそれ以外の命に何の執着もない。彼女にあるのはエンブリヲとの合流とそお忠誠を尽くすことのみだ。
だが現状、アンジュとの交戦で因縁を四方に吹っ掛けた結果、味方と言えるのがセリューぐらいしかない。そのセリューも、少し怪しい。
最悪、サリアの悪評がそのままエンブリヲに降りかかることもある。

「だから、邪魔になる奴は全員殺す」

彼女が至った結論は実にシンプルだ。己の目的すら失ったサリアにはもうエンブリヲしかない。
だから、その忠誠を貫き続けるしかない。
後藤から離れ、冷静に思案した彼女が下したのは。全ての邪魔者を排除し、エンブリヲともう一度再開するという単純な答え。

「エンブリヲ様、私は貴方の為に……」










「あ? ジュネスに行きたくないだぁ?」

足立が目を覚ました時、自分を担いでいたのがヒルダだったのは幸いだった。
エンヴィーの疑いもあったが、足立が寝ている間に危害を加えた様子もなく、ヒルダ本人も銃を躊躇いなくぶっ放すイカレ頭だがそれでも足立に敵意はないらしい。
それから事態の把握と情報を交換し合い、足立はジュネスに千枝が居るであろうことを知る。

(あのガキに今会ってたまるか)

ヒルダが千枝の知り合いと知った時はこの場で始末しようか考えたが、足立の気絶中に介抱したと言う事は、千枝は何らかの理由で足立の真実を伏せていた可能性が高い。
何せ、自分と同じ姿をした人間を即座に撃てるのだから、真実を知っていれば殺しへの葛藤などなく足立を殺していたはずだ。
問題は何故千枝が足立の真実を伏せたか。考えられるのは、足立への刺激を避けること。
足立も初期はペルソナが使えなかった。千枝も同じくペルソナが使えず、戦闘手段がないのかもしれない。故に足立との交戦を避ける為に足立の悪評を撒いていない。
しかし、ヒルダの話を聞く限りでは千枝は戦闘手段を持っているのは間違いない。現にイリヤという魔法少女――まどかやほむらとは別物のようだが――と交戦し、三人で退けたとヒルダは話している。
ただの少女が戦力になるなんて、それこそペルソナの力を借りなければ有り得ない。
そうなると千枝と足立が顔を合わせた瞬間、場合によってはペルソナ使い同士の戦闘に突入するのは目に見えている。万全ならともかく、連戦後の足立とマガツイザナギでは勝ち目は薄い。
忌々しいが、ここは千枝を避けるのが最良の選択だ。

(そういや、承太郎の奴も花京院と色々話が食い違ってたみたいだけど……。まあ何でもいいか。ヒルダが俺の正体を知ってようが知らなかろうが、ここで争う気はないんだ。
 とにかくジュネスから離れよう)

「……お前、千枝に何かやったのか?」
「ま、まあ……ちょっとね」
「はぁ……分かった。私も一緒に謝ってやるから、ジュネス行くぞ。千枝の奴もお前に会えれば喜ぶと思うしな」
「いいよ……。それにちょっと行きたいところが……そうアインクラッドに行きたくて」

ジュネスに行かない理由をこじつける為、足立は咄嗟に思い浮かんだ施設の名前を口にする。

「なら、先にジュネス寄って行けば千枝も地獄門に向かうところだし、丁度いいだろ」
「ああ……何ていうかもう良いよ。僕、先行くから」

足立の様子にヒルダも首を傾げる。普通、知り合いが居るとなればその場所へ真っ先に向かうものだ。
明らかに足立は千枝を避けている。何か、二人の間には揉め事があるのか。
だが、千枝の様子を見る限り足立に拒絶感を抱いてはいない。

(千枝も良い線行ってるからな。アイツの下着でも盗んでんのか足立の奴)

何かあるにしても、あそこまで嫌がるのなら、ヒルダも無理強いはしない。頼りにならないだの千枝からの評価は散々であるし、あくまで知り合い程度なのだろう。
仲間といえるかどうかは微妙なところなのかもしれない。それにもしかしたら、何か千枝に言えない事をやらかして顔を合わせ辛い可能性もある。とはいえ、足立も満身創痍。放っとくわけにもいかない。
一先ず、イリヤに関しても行き先が分からない以上、情報収集の必要も兼ねて、途中まで足立に同行したほうが良いとヒルダは考える。
運がよければイリヤを見かけた、あるいはイリヤの性格を把握した参加者が見つかるかもしれない。


287 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:08:05 5KB.IH4k0

ヨロヨロとぎこちなく先を歩く足立の背中をヒルダは追いかけていく。こうして二人はジュネスを素通りしてしまった。

それから数分、足立はジュネスから離れる為に北上し廃教会の辺りを過ぎた。
後ろからヒルダが来ていることを確認しながら、足立はこれからの行き先を考える。

(北は駄目だ、千枝達が来る。しかもまだエスデスがうろついてるかもしれない。じゃあ、西は……あぁ、承太郎、化け犬女が居る……。
 どうする? ……あれ、俺囲まれてるんじゃ)

北は千枝、エスデス。西は承太郎にセリューが居る。
どちらに行こうと面倒な連中が待ち構えている。かといって、来た道を戻ればエンヴィーが居る。

(ヤバイ……これ本当にヤバイだろ)

西の二名は既に死亡しているのだが、足立はそんな事は知る由もない。
もっとも、まだ足立の凶行を目撃したロイ・マスタングは未だ健在なので、西が危険であることに変わりはないのだが。

(安全な場所なんて、もう無いんじゃないのか)

クソだ。会場内が狭すぎる。
これでは単独で殺し合いに乗った参加者が囲まれ不利過ぎる。やはり広川はクソだ。
いや何より、最初は本性がばれないようまどかを毒殺する筈だったのに、あの承太郎のクソが邪魔をしたのが全てのケチの付け始めだ。

「おいどうした。アインクラッドに行くんじゃないのかよ?」

流石にそこまで同行する気は無いものの、足立が足を止め思案に耽っている様にヒルダは疑問を口にする。
足立も自分の行動が、ヒルダに怪訝そうに見られているのを自覚し、焦り始める。

(……殺しちまうか。とにかく、安全な場所を探して隠れるにはコイツは邪魔だ)

何処に向かうにせよ。ヒルダに行き先がばれるのは面倒だ。
勿論、適当に別れられればそれで良いのだが。これで世話焼きな性分なのか、妙に足立にくっついてくる。
ダメージを負った体で訓練された軍人を相手にするのは賭けだが、この際しょうがない。
一か八かこの女を殺して何処か身を隠すしかない。

タロットカードを出し、握りつぶそうと意識した瞬間。

「ヒルダアアアアアアアア!!!」

電撃がヒルダ目掛け、飛来する。
何が来たのかも分からず、反射的にヒルダは後方へ飛ぶ。雷音と共に、目の前に黒焦げたクレータが出来上がるのを見てヒルダは冷や汗を流す。
電撃をかわせたのではなく、ヒルダに放たれた大声で咄嗟に動けた為、回避が間に合ったのだ。これが何も無い不意打ちならば、何も為せず死んでいた。

「てめえ、サリアなのか?」

「ヒルダ……死になさい。エンブリヲ様の邪魔なのよ、アンタは!!!」

何より電撃以上にヒルダを困惑させ、驚嘆させたのが、その襲撃者が他ならぬサリアであったことだ。
一時期敵側に居たものの、最後のエンブリヲとの決戦で彼女はエンブリヲからアルゼナル側に戻り、共にラグメイルを駆って、エンブリヲとの戦いに勝利を収めた。
クロエとの情報交換でも良く分からない奴と評しては居たが、その反面サリアが殺し合いに乗る筈はないと信頼もあった。
だが、今対峙しているサリアはヒルダの知っているサリアとは真逆。殺し合いに乗り、エンブリヲに忠誠を誓う犬に他ならない。


288 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:08:33 5KB.IH4k0

「一度、捨てられた女が未練たらしく復縁を迫るってのは良くあるが、あの素人童貞を捨てたのはてめえの方だろサリア」
「何のことかしら? アンジュもアンタと同じく、妙な事口走ってたけど……。私が何時エンブリヲ様をお捨てになるというの!?」
「ふざけんなよ! 脳内スイーツ!!」

事態は最悪だ。サリアとエンブリヲが何らかの拍子で縁りを戻したのか、サリアはエンブリヲの為にこちら殺しに掛かっている。
しかも話を聞く限り、アンジュとも交戦したらしい。
理解の及ばない展開ではあるが、このサリアを放置していくのはアンジュの身に害を及ぼす可能性もある。サリアの操る電撃の篭手が厄介だが、ここで無力化しない訳にはいかない。

足立に目配せで下がるよう合図を送り、ヒルダは拳銃を手に駆け出す。
サリアも篭手、いやアドラメクレを完全には使いこなしていないのか、その動きには無駄が多い。正面からサリアの挙動を見据えて動けば電撃は辛うじて見切れる。
ヒルダの拳銃から二発弾丸が射出され、一発サリアの肩を掠る。痛みに顔を歪ませながらもサリアは射撃の為に動きが鈍るヒルダに向けて電撃の鞭を叩き付けた。
咄嗟に横方に転がり、直撃を避けるが高圧電流が地面に触れた余波でそのままボールのようにヒルダは吹き飛ばされていく。
地面を数度擦り、掠り傷を作りながらもヒルダは吹き飛んだ先で体制を整えサリアへよ視線を向ける。

「居ねぇ? アイツ―――」

ヒルダの身体を黒い影が覆う。違和感に気付き顔を上げた時、上空から、アドラメクレを構えたサリアが降って来た。
ヒルダが吹っ飛ばされ、サリアから視線を外した際、サリアは電撃を地面に当て飛びあがっていたのだ。
銃での迎撃もアドラメクレから放つ電撃の前では塵へと帰す。自らの勝利を確信したサリアだが、次の瞬間自身の右脇腹に鋭い激痛が走る。
ヒルダを狙った電撃も逸れ、そのまま無様に降下しサリアは地面へと叩きつけられた。

「ぐ、ぅ……アンタ、その剣……」

サリアが電撃を放つより早く、ヒルダはフォトンソードを抜きサリアの脇腹へ投擲していた。
射撃までに数アクション必要な銃や、電撃を放つのにワンテンポ溜めの入るアドラメクレよりも、剣を投げるという動作はスムーズに済む。
しかもサリアはその時、完全に勝ちを確信しヒルダを葬らんと視野が狭くなっていたのもあり、ヒルダは何一つ悟られることなく窮地を脱せた。


289 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:09:00 5KB.IH4k0

地面に落ちたサリアのアドラメクレに銃弾を放ち、サリアの腕からアドラメクレが離れていく。
ヒルダは自分のフォトンソード、アドラメクレとサリアのディパックを回収し、目ざとくサリアの懐から銃も見つけそれも没収する。
文字通り、無防備となったサリアにヒルダは銃口を突きつけた。

「お前、何のつもりだ。いくらお前が脳内お花畑でも、ジル……元総指令の言葉を忘れるはずねえだろ」

「なんのことよ」

「まさか、お前認知症じゃねえよな?」

ヒルダの知る限り、サリアはジルは既に和解している筈だった。
二人の間にどんな拗れがあったのかまではヒルダも定かではないが、それでも死に逝くジルが残した最期の言葉は部外者のヒルダですら印象深く残っている。
サリアからすれば尚更、何があろうとも忘れることはないだろう。

「巻き込みたくなかった」

「―――!?」

「ジル元総指令はな。自分がサリア、お前と男の趣味やら真面目なとこやら思い込みの激しいとこやら似てる。だから、巻き込みたくなかったんだとさ。
 ……はっ、自分が真面目だと思ってたところが笑えるよな」

口では笑いながらも、ヒルダの言葉は真実味を帯びている。
だが、有り得ない。サリアはそんな言葉を一言も聞いていないのだ。

「今更、何だって言うのよ……」

そう聞いていない。ただ言葉を伝えれば、それで済む話ではない。
言葉が持つのはその綴る文字の意味だけではない。口にするものの声も重要なのだ。
例え、ジルの最期を看取ったヒルダが言葉を伝えようともヒルダはジルではない。

「仮にそれを言ったのが、本当だとしても……。もう、遅いのよ。
 私は三人も殺したし、アンジュだって死んだんだから!!」

「……今、なんつった」

「良かったじゃない。アンタ、アンジュを毛嫌いしてたでしょ? 死んだわよアイツ、串刺しになって!」







290 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:09:27 5KB.IH4k0



「皆頑張れ、もうすぐ音ノ木坂学院だ」

ウェイブが仲間を気遣い、励動の言葉を口にする。
ブラッドレイとの一戦を終えて束の間の平穏が訪れた、ウェイブ、アカメ、新一、雪乃、花陽の五人。
しかし、既にその表情は疲労に塗り潰され、歩く速度も目に見えて遅くなっていた。
連戦をこなしてきたアカメ、ウェイブの他にもあくまで一般人の雪乃、レッスンで鍛えていたにしてもやはり体力の上限は前者二人には遥かに劣る花陽。
そして、寄生生物と混じった新一でさえもこの殺し合いの激戦の中で徐々にその身を削られ、体力の限界に迫っていた。

「休憩、するか?」
『止めたほうがいい。地図を見れば分かるが我々の今居るF-6エリアは端の方ではあるがそれでも中央に近い。
 参加者が幾分減っているとはいえ、足を止めれば乗った者達と鉢合わせする可能性は低くない。それより無理をしてでも音ノ木坂学院まで向かい、そこで万全の迎撃体制を取った方が安全だ』
「……だけど!」
『君は軍人だろうウェイブ。目先の事に流されず、戦況を良く見ろ。
 今の我々は疲労困憊。積極的に殺し合いに乗った者からすれば、鴨が葱を背負っているようなものだ。
 なら地の利を得やすく先手も取りやすい、仮の拠点となる場所に向かうのを最優先すべきだ』
「私は大丈夫ですから、ウェイブさん」

ウェイブの提案はバッサリとミギーと花陽に切られてしまう。
仲間の疲労度合いを考えた提案であったが、やはり周りが見えていなかったのかもしれない。
冷静になれば、ミギーの言っていることも言われる前に思いついたのだろうが、目先の事に囚われそこまでの考えが回らない。

精神面にムラがある。

かつて、上司のエスデスに指摘された欠点を今になって思い返す。
先ほどの事もそうだが、ここに来てウェイブは自らの過ちがメンタル面にある事に気付いた。

一度目のキンブリーとの戦闘もクロメの死と怒りのあまり無鉄砲な行為に出てしまった。
あの犬っころ――イギー――が居なければ一回放送で連なる名前が増えていたかもしれない。

セリューとの合流もだ。自身の本分を理解し、穂乃果を追いかけ説得していれば花陽と離れ離れにさせることもなかった。
何より、もっと速い時点でセリューの暴走を止められた。
それをその後のブラッドレイ戦ですら、セリューとのいざこざを引き摺り、結衣を死なせた。
もし結衣が生きていれば雪乃と今頃合流し互いの無事を喜び合えた筈なのに、その未来を摘み取らせてしまった。


291 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:09:54 5KB.IH4k0

(俺は……クソッ……)

力の無い一般人とは違う。ウェイブは力があり、困難を打ち砕く力を持ちながら彼の周りには後悔しない。
自分と近い実力のアカメはここまで仲間を失わずに戦い続けている中、なんという様か。

「ウェイブ」

絶えず周囲を警戒していたアカメが口を開く。
遅れてウェイブや他の三人も前方の三人組に視線を向けた。

一人はスーツ姿の若い男。アカメとウェイブには見慣れない容姿だが、残りの三人にとっては常日頃から目にする身近なサラリーマンにしか見えない。
三人の様子からアカメとウェイブも然程危険な人種ではないのかと判断。しかし、男以外の二人の少女が問題だった。
赤い髪の女と青い髪の女。特に後者はアカメ、新一、雪乃にとっては忘れられない怨敵にも当たる存在だ。

「……サリアさん」

忌々しげに雪乃の口からその名が漏れた。
サリア。アカメが合流するより先に新一、雪乃と行動を共にしていた少女だ。
八幡殺害時にその場に居合わせた人物の一人でもあり、彼に救われた身でもある。

そして、唯一八幡に救われながらその意志を無碍にし殺し合いに賛同してしまった葬るべき悪だ。

アカメは即座に刀を抜き、駆け出した。
新一から情報は既に得ている。アドラメクレは強力な帝具だ。ここで本格的な戦闘になれば一般人二人に危害が及ぶ可能性は高い。
止めようとする新一をミギーが変形し止める。ミギーも以前の一戦を目の当たりにし、サリアを警戒、排除するべきと考えている。
故に彼としては数少ない物理的な反抗を見せた。

「てめ―――」

赤い髪の女、ヒルダが高速で肉薄するアカメに驚嘆しながらフォトンソードを横薙ぎに払う。
が、暗殺者として剣士として実戦と鍛錬を積んだアカメと、あくまで訓練の一環として得たヒルダの剣術では大きな差が出る。
アカメが一瞬でフォトンソードの柄を刀の先に引っ掛け払う。ヒルダの手からフォトンソードは離れ、何メートルも先にまで飛ばされた。
すれ違い様、一瞬で見せた見事な巻き技にヒルダは息を呑む暇すらない。
アカメの目指すはサリアの首一つ。白銀の一千が一つの命を絶たんとしたその寸前、甲高く弱弱しいながらも一つの声が上がった。


292 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:10:13 5KB.IH4k0

「殺しちゃ、駄目です!!」

声の主は他でもない。恐らく、この場で同じ一般人の雪乃を含んでも、最もか弱く最弱な少女、花陽のものだった。
サリアの皮膚に触れようとした刀をアカメは寸前で止める。それはここに居るか弱い民の声に耳を傾けた結果なのか、単に花陽には似合わぬ大声に驚いたあまりなのか。

「花陽。分かっているのか? サリアはお前の仲間を……」
「分かってます。だけど、それでも……」

「おい、お前。いきなりどうなってんだ。説明しろ」

花陽に顔を向けたアカメの胸倉をヒルダが掴みあげる。彼女も内心はサリアがふっかけた因縁の付いた連中だと気付いてはいるが、やはり唐突に襲われたのではいい気はしない。
敵意の意志をないことの証明に手の銃を懐に仕舞いながら、ヒルダはアカメの他に後ろの雪乃達にも視線を流す。
ヒルダの予想通り、全員が訝しげな表情を見せている。それもその中心にあるのがサリアだ。

「……すまない。私はお前に危害を加える気はなかった」
「大方、サリアがやらかした時の関係者ってとこか?」
「そうだな。……そいつを葬る前に一応、お前には全てを話しておく」





293 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:10:45 5KB.IH4k0


アンジュの死まで伝えられ、目の前が真っ白になり……いわゆる生きる気力が一気に失せたかと思えば次はサリアと因縁のある一団との遭遇。
ヒルダの頭はパンクしそうな程の頭痛に苛まれ始めた。
しかも、その一団の中にはあのイェーガーズのウェイブも居る。幸い、一見して殺し合いに乗っている様ではないが。
何処までキンブリーの情報を信じられるかも分からない為、乗っている側と早計は禁物だが、警戒はしておいて損は無いはずだ。

「だから、サリアは葬る」
「おい、アカメ。少し落ち着いて―――」
『シンイチ、前にも言ったがサリアの事は諦めろ』

アカメから一通りの説明を聞き終え、ヒルダは痛む頭を抑えながら思案する。
先ず状況からするとほぼ完全な詰みだ。アカメはもちろん、同行者達も表情から察すれば完全にサリアには悪印象しか抱いていない。
新一は反対しているが、本体より知的な右手――もう今更、喋る右手程度ではヒルダも驚かなくなった――もアカメとほぼ同意見。こいつも当てにならない。

(どうやって連中を説得する……?)

アルゼナルの揉め事ならば、極端な話だが墓を立てれば死人が出ようとも一先ずは問題に蹴りを付けられた。
しかし、ここは規律の取れた軍隊の中ではない。そんなケジメのつけ方は外の人間には通用しない。
この場で最も後腐れなく、ケジメを付けるべき方法は一つだけだ。それはサリアの死による罪の贖罪。
事実、彼女はもう戻れないところまできている。ヒルダ自身もここまで鉛弾を眉間にぶち込まず、よくいれたものだと思っていた。

(……そもそも、なんで私がサリアの身の安全考えてんだよ、クソッ)

以前ならば、容赦なくアカメ達にサリアを差し出していたが、今のヒルダはどうしてもそんな気にはなれない。
甘くなったのか、あるいはあの痛姫様の痛いところが移ったのか――多分、後者だな。アイツも身内には甘いとこがあったから――。そんな事を思いながら、ヒルダは懐から何時でも銃を構えられるよう用意する。
最悪、交戦になればサリアにもう一度アドラメクレを手渡すのを考えた方がいいかもしれない。アカメを相手にするには、ヒルダ一人では完全に持ち応えられない。

「待ちなよ。アンタの言いたい事は分かる。だから、サリアを好きなだけ甚振ってくれてもいい。だけど、殺すな」

アカメの様子を伺いながら、ヒルダは口を開く。アカメだけではない。ウェイブという男もまたかなりの実力者だ。
二人の達人を相手にしながら、銃だけを頼りに言葉を交わすのは生きた心地がしない。


294 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:11:07 5KB.IH4k0

「ヒルダさん」

アカメが答えるより先に、一番サリアに対して憎悪を剥き出しにしていた雪乃が答えた。

「……少し、サリアさんと話をさせて欲しいのだけれど」
「雪乃、危険だから――」
「大丈夫よ。サリアさんは無防備だわ。
 でなければ、殺し合いに乗ってたサリアさんにヒルダさんがこんな背中を見せるはずが無いもの」

ヒルダが横へ逸れ、アカメもサリアと雪乃に集中しながら二人は再会を果たした。

「久しぶりね、ヒルダさん」

「雪乃……。何よ」

「二人殺したと聞いたわ。それもエンブリヲさんの為なのかしら?」

「うるさい」

「アンジュさんという女性に嫉妬して、貴女の下らないヒステリーで何人死んだか分かっているの?」

「うるさい!! 良いわよね、アンタは何人も自分を守ってくれるナイトが居て。その臭い股でも開いてるのかしら」

「今にも腐臭が漏れそうな貴女の素敵な顔よりはマシよ」

「この、腋臭女!!」

駄目だ。雪乃がサリアに抱いた第一印象は失や怒りを通り超えた呆れ。
救いようがまるでない。
まだエンブリヲの為に殺人を行ったのなら、マインドコントロールを解くなり助け方はあった。
しかしサリアは自分の意志で、動いている。

(彼なら、比企谷くんならどうしていたのかしら)

あの自己犠牲に酔いしれる男の事だ。サリアですら、彼は救おうとするのだと雪乃は思う。
雪乃からすればサリアなどもう、ただの嫌悪感の塊だが、これでも八幡が守ろうとした者の一人であるのも事実だ。
八幡の命を踏み台に生き残った雪乃は、可能な限りは彼の意志を継いでいきたいと考える。


295 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:11:25 5KB.IH4k0

「一緒にしないでくれるかしら。可愛い女は毛穴から違うのよ。貴女と違って」
「……。殺せばいいじゃない。アンタの大好きな八幡を死なせた私が憎いんでしょ?」
「なんですって?」

「ハッ アンタから大事なものが亡くなる様は見てて清々したわ。
 アンジュの奴を殺せなかったのは惜しいけど。アンタのその―――」

サリアの言葉は中断された。
アカメがその胸倉を掴み上げ、サリアの首が締まったが為にその声は外界には届かない。

「お前、何処まで腐ってるんだ」
「ぁ……」

アカメの握力が更に強まる。そのままではサリアが窒息する前に首の骨がへし折られる。
それを見た新一が意を決して、歩み出た。

「アカメ、その手を放してくれ」
「シンイチ、だが……」
「――離せ。頼む」

新一の真摯な表情にアカメは渋々サリアから手を放す。
久方ぶりの酸素を無意識に吸い、大きく吐き出すサリアを見ながら新一も大きく深呼吸を吐く。

『シンイチ、何を考えている』
「俺に考えがある。仲間にできれば、あの電撃の篭手も俺達の味方になるんだ。
 この先、もし後藤と戦う時が来てもあの電撃があれば心強い。違うか?」
『……もし、私達の身に万が一の事があれば私は無断でサリアを殺す。それだけは忘れるな』
「分かった」


296 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:11:48 5KB.IH4k0

二人だけが聞こえる声量で新一はミギーを説き伏せる。
ミギーも嫌々ながら引き下がり、口を閉ざした。

「サリア」
「次は、アンタなの? もう止めてよ。私はアンタの目の前で二人殺したのよ!?」
「……後悔してるのか」
「後悔? どいつもこいつも私の邪魔をして勝手に死んだだけじゃない!」

口を開けば開くだけ、サリアの言葉からは罵詈雑言が飛び出す。
アカメが刀を握る手に力が籠る。花陽や新一が居なければ、既にその刀を血で濡れていた。

「誰にも分ってもらえなかったんだよな」

「……?」

「根本的なとこは違うんだろうけど、分かるよ。誰も自分を分かってくれない苦しみは。
 俺も、もしかしたらお前みたいに誰かを拒絶してたかもしれない」

サリアの劣等感とそこから生まれた嫉妬心。これを理解してくれたものは一人としていない。
同じく新一もパラサイトと混ざり、人でありながらまたパラサイトにも近い曖昧な存在。
これもまた、完全な理解者など居なかった。彼と同じ体を共有するミギーですら、新一を完全に分かってはくれないだろう。

「俺、見ての通りパラサイトが混じってるから、普通の人間とは言えないんだよ。
 体だけじゃなく、中身も変わったみたいでさ。母さんの死でも泣けなかったし、父さんにまで俺は鉄で出来てるんじゃないかって言われた時は、ちょっと堪えたな……。
 だからさ。安心、しちゃうんだよな。俺達みたいなのを分かってくれる理解者が居るっていうのはさ」

サリアにとっての理解者がエンブリヲであるのなら、新一を見抜き理解したのはこの場に来て出会った一人の青年。槙島聖護。
槙島は新一の抱く苦悩と孤独を瞬時に見抜き、指摘して見せた。
彼の言葉を聞きながら、内心驚嘆し狂喜したものだ。自分を理解し、分かってくれている。
人は一人でも生きていけない。どんな人間も必ず他者を必要とする。特に理解者は誰しもが欲し、求めている存在だ。

「今だから、白状するよ。サリアが攫われた時、俺は助けに行かなきゃと思いながら、少しは槙島に会いたいという思いもあったんだ。
 きっと、アイツなら俺の事を……。そう思って」

無論、サリアの事を考えていない訳ではなかったが、それでも少なからずその気持ちがあったのは事実だ。


297 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:12:15 5KB.IH4k0

「エンブリヲって人も多分同じなんだよな。槙島みたいに人の心の穴を塞いで、満たしてくれる。
 多分、俺がサリアを見捨てきれないのは同じだからなんだ。ただ違うのは順番だけだ。
 俺は槙島に会う前に、支えてくれる人に出会えた。だからきっと、こうして間違えずに歩めた。
 でも順番が違ってたら俺も槙島に煽られて取り返しのつかないことをしていたのかもしれない」

「良かったじゃない。アンタはそうやって仲間も増やせて幸せに生きれて。
 私には何もないわ。全部アンジュに奪われた、そのアンジュも化け物に奪われた。
 これ以上私は何をすればいいの? 何をどうやっても私は何も手に出来なかった。私は……!」

自分の信じるものを貫き、人を護り逝った巴マミ。
同じく仲間を護り、その意志を託しなが死んだ園田海未。
己の間違いを苛まれながら、罪を背負い最期まで戦抜いたキリト。

戦いの末、生き残り勝ったのはサリアだ。それでも何故か自分が惨めに感じる。
いくら破壊しようと欲しいものだけは手に入らない。

「だから、もう良いのか?
 わざと雪乃やアカメが怒りそうな事を言って挑発したのは、自分を殺させる為だろ」
「……そういうことかよ。私を出合い頭に襲ってきたのも。最期までエンブリヲに尽くしたまま、使命を全うした自分に酔って死にたいって事か。
 下らねえ」
「私には、もうエンブリヲ様しか居なかった! だからもうこれしかないのよ!!」

サリアにはもう目的がない。その目的であるアンジュの殺害はもう為しえない。
残ったものは永遠に自分を振り向かない、エンブリヲだけだ。
ならば、彼の為に生きて死ぬ。それだけが自分の存在意義である。

「やり直せばいい。サリア、お前にだって支えてくれる人はまだ居るじゃないか」
「……馬鹿じゃないの。エンブリヲ様だって。誰も私のことを……もう私なんて」

そう決めたのに。目の前の男はどうしようもなく鬱陶しいくらいにサリアに付き纏う。


298 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:12:50 5KB.IH4k0

「サリアさん」

今まで沈黙を貫いていた雪乃が話に割り込む。
荒々しく、その胸倉を掴み上げ雪乃の顔を自分の正面にまで固定させる。

「貴女、言ってたらしいわね。比企谷くんの墓を立てるって」
「そんなこと……言ったかしら」
「彼を死なせたのは、私達のせいでもあるのよ。それを貴女だけ逃げるなんて絶対に許さない。
 今まで死なせた人達の分まで生きて、償い続けなさい」
「私も、海未ちゃんを殺した事は許せない。だから生きて償って下さい!」

全部、要らないはずだった。エンブリヲ様さえ居れば。
エンブリヲ様だけが愛をくれる。だから、それ以外のすべては何も要らない。
なのに、どうしてこうもサリアを誰もが放ってくれないのか。アンジュですら最期はサリアを想って死んだ。




『シンイチ、後藤だ』

「何?」

唐突にミギーが口を開き警告するのと、その人影が飛び込んできたのはほぼ同時だった。
ボロボロのスーツにくたびれた親父の顔。だが、その眼は人のそれではない獣の眼光が宿る。
忘れるわけがない。新一とミギーが警戒し最大の敵と認識するあの後藤だ。

「……パラサイトは容易に見つかると思ったんだがな。どうやら、ここでは波長が感じ辛いらしい。
 危うく、すれ違うところだった。引き返して正解だな」

田村との接触でもミギーはかなりの近距離まで接近されるまで彼女の存在には気付けなかった。
これも制限の一つなのだろうか。


299 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:13:41 5KB.IH4k0

「他には、あの時の剣を使う男と戦えない女か……。瞬間移動の女とはさっき会ったが、本当に別行動をしているようだな」

「瞬間移動? てめえ、黒子に会ったのか!?」

「だとしたら?」

放送で穂乃果と黒子の名がないことから恐らく二人は無事、そう考えたいが最悪のケースもある。
放送直後に二人を殺害し、そのままここまで到着したのなら時間的にも間に合う。
そこまで思い至り、ウェイブの頭から理性が消し飛んだ。頭に血が上り、反射的に剣を抜く。アカメもクールな態度を崩さないながら、手の刀に力が籠められる。
アカメも目の前の男が相容れない葬るべき存在だと認識したのだ。

「二人か、練習には丁度いいな」

「ウオォ!!」

咆哮と共に袈裟掛けに振るわれたウェイブの剣を後藤は後ろへ下がり避ける。
そのまま横薙ぎに払われたアカメの刀は鎖鎌に遮られた。
攻防としては、単純そのもの。傍から見れば違和感は微塵もない。
だがウェイブと新一からすれば、その動きには違和感を感じる。

(何だコイツ、体を変形させない?)

疑問の返答かわりに飛んできたのは、ウェイブの腹を狙った蹴りだ。
パラサイトの脚力で蹴られたウェイブは、無理やり息を大きく吐き出されながら吹き飛ぶ。
背中から地面に叩きつけられ、痛みに顔を歪める暇もない。ウェイブの右足首に鎖が巻き付き後藤が鎖を握った腕を引くとウェイブも釣られて引き寄せられる。
勢いに乗せられたまま宙で態勢を整え、ウェイブは剣を後藤の首元を目掛け剣を払う。だが剣が届くより早く後藤の左の裏拳が顔面にめり込んだ。

「がっ……?」

剣を振るう腕が鈍り剣閃は後藤に届かず終まい。勢いも殺され、再びウェイブが地面に叩きつけられる。
その隙に後藤は頭部を刃に変化させ、ウェイブの首を狙う。


300 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:14:22 5KB.IH4k0

「―――!?」

刃がウェイブに触れる寸前、後藤の重心がぶれ刃に射線がずれる。ウェイブは足の鎖を即座に解き、立ち上がりながら後藤から離脱する。
自身の横腹にめり込んだ脚の主、アカメに視線を流しながら後藤はその手から黒色の筒を握りしめアカメに向ける。

「今度は、銃だと……?」

とうとう耐え切れず、ウェイブの思考が口から飛び出す。
アカメも後藤の特徴を新一から聞いていた為にある程度の戦闘方法は予測がついた。
だが、自身を武器に変え自由自在に振るう怪物が銃を取り出し、射撃するとは夢にも思わない。
今までに人間に近い危険種と戦ったこともあるが、人間の武器を使う危険種だけは居なかったのだだから無理もない。

「チッ」

急所の一撃を刀で防ぐも、二発の弾丸が頬と足を掠り血を滲ませる。
幸い動きに支障はないが、運が悪ければ死んでいた可能性もある。アカメも警戒しながら後藤から距離を取った。

「どうなってるんだシンイチ。確か後藤は体を変形させる危険種だろ?」
「あ、ああ。だから武器なんて必要無いはずなんだけど」
「それどころかアイツ、前より速くなってやがる。前も苦戦したが、それでもまだ反応しきれる速さだった。
 下手すりゃ今の、技量こそないがブラッドレイ並の速さだぞ」

『……まさか、混じったのか?』

普段の後藤とは程遠い戦闘スタイル。刃に変形させたのは本来なら使わない頭の一部のみ。
そこへ加え、驚異的なほど飛躍した身体能力の上昇。
この二つの現象にミギーは一つの説に辿り着く。

『恐らく、この場で最も戦闘をこなしているのは後藤を置いては他には居ない。
 いくら奴でも連戦が続けば消耗する。何らかの大きな傷を負い奴はその四肢のパラサイトを、その傷に治療に当てた為に奴の体内に混じり細胞を回収できなくなったのだ。
 その為、身体能力は上がり、代償としてパラサイトしての変形する手足をなくしたのだろう』

「だが、逆に言い換えれば奴はその新しい肉体にはまだ慣れていない。
 ……まだ私たちが有利だな」

練習と後藤は言っていた。つまり、その新しい肉体を後藤はまだ扱いきれていないのだ。
事前の情報と違っていた為、アカメは狼狽し攻め予ねていたが、そういう事情を理解したのなら話は別だ。


301 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:14:57 5KB.IH4k0

アカメが疾走し、迎え撃つように後藤も鎖鎌を手に駆けだす。
金属音が鳴り響き、鎌と刀が火花を散らしながらアカメと後藤は幾重もの攻防を重ねていく。
 
高速で乱れ打ち合う二本の刃。しかし、唐突にアカメの刀の速度が緩む。
今までの速度に慣れた後藤の反応が鈍り、腕の動きが僅かに止まった。
瞬間、刀を握る手を入れ替え再度高速で刀を振るう。
咄嗟に後ろへ倒れこむように飛ぶが、刀は後藤の銅を抉り血が噴き出した。
既にパラサイトのプロテクトはない。痛みこそないが、そこには確実なダメージが蓄積される。

「何……?」

後藤に向け更に踏み込み、肉薄するアカメ。頭部を刃に変形させ、鎖鎌を構える後藤。
しかし、またしてもアカメの刀が変則する。今度は速度ではなくその太刀筋。
それは後藤が見た今までの剣術のどれにも当て嵌まらぬ、全く未知のものだ。瞬時に太刀筋の変化を見切り、刀の射線に防御の為の刃を翳す。
それと同時にまたもや太刀筋が変化し、射線が変更される。
刀は刃には触れず、それを避けながら後藤めがけて銀色の刀が閃く。

「そうか。……パラサイトの学習力を逆手に取られたのは初めてだ」

二太刀目を喰らい、後藤もこの手品の種を徐々に理解していく。
後藤及びパラサイトはその高度な知能で物事を即座に取り込み学習していく。個体差はあるが基本的に彼らの戦い方は知略性が高いのだ。
無論、後藤もその五頭の肉体と、学習力で戦いで得た経験を人間の何倍もの効率で取り込み成長していく。
だがだからこそ、変化していくアカメの太刀筋に翻弄されるのだ。
学習するという事は取り得た知識を無意識の内に組み上げ活用していくこと。
つまり後藤の戦い方は既知の知識から、全てを応用しているに他ならない。故に、そこには必ず学習という過程が必要になる。

「いくら、知識をフルに使っても知らないの存在には完全には対処しきれない、か……」

「あの攻防だけで気付くとは、やはり頭は良いらしいな」

常に太刀筋を変化させ後藤が学習するよりも早く、太刀筋を変え剣撃を叩き込む。
普段の後藤ならば、プロテクトの防御で幾らか刀に触れた程度は問題ではない。十分に学習する暇がある。
しかし、プロテクトの恩恵を失った後藤からすればこれは致命的だ。全ての攻撃を避け続け尚且つ、学習していない太刀筋の連続。
如何にして後藤と言えども、無傷ではいられない。

「ブラッドレイとの戦いがヒントになったのは癪だが、お前には有効なようだ!」

知らない太刀筋など、剣客の世界では日常茶飯事だ。ブラッドレイはおろか、恐らくタツミですら先の攻防ではより良い動きを見せただろう。
だが後藤には年季と経験が足りない。
知らない攻撃に対する構えがまだ完全には組みあがっていないのだ。
アカメがブラッドレイ戦において年季で劣るのであれば、今度は逆にアカメの年季が後藤との戦いを有利に進めている。


302 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:15:23 5KB.IH4k0

「もう少し、ヤクザの事務所でのトレーニングをしておくべきだったか」

全身に幾つもの切り傷を作りながら、後藤はヤクザとの戦闘を思い返す。一撃も喰らわず事務所を殲滅するトレーニングだが毎回数撃は貰ってしまっていた。
当時はプロテクトもあり、然程重視をしていた訳ではないが、それがここに来て響くとは思いもよらない。

(俺ももう一つ上の段階に行くべきか)

息を整える。思い返すのは異能の先読み。
知識を使うだけではない。それを己の物にして実践する。

脳裏に浮かぶ、黒コートの男の姿。三度に及ぶ戦いで、殺すことができない後藤にとって最大の障害。
そしてもう一人、赤い外套を纏った褐色の少女の姿。

「なっ……!?」

無限に編み出されていくアカメの剣閃。彼女が今までの歴戦から葬った敵の太刀筋。それを模倣し混ぜた、完全で即席のオリジナル。
やはり、これも後藤は知らない。ウェイブやマスタングのように決まった攻撃方法ではない為に、反応が鈍くなる可能性が高い。
しかし、その動きは先ほどの物と打って変わった静かで緩やかなもの。
アカメの驚嘆と共に、知らない筈の太刀筋を後藤は見切った。

「くっ」
「チッ」

振りかぶった刀を横薙ぎに払い、刀は後藤の横腹を。
追撃を避けることは失敗したが、返しにその鎖鎌はアカメの肩を。
両者共に体を切り合いながら後退し合う。

否。後退したのはアカメのみ。後藤は傷を気にする必要はないと即座に判断し、一気に距離を詰める。
痛覚が無い為に痛みによる怯みのない後藤が先手を取ってしまったのだ。アカメが刀を構えなおすが、一手遅れ後藤の刃が振りかざされる。
それを横から割り込んだウェイブが剣で弾く。

「大丈夫かアカメ!」
「ああ、助かった」

二人並ぶアカメとウェイブを見つめながら、反撃を避ける為また後藤も後方へ飛ぶ。

(黒の攻撃の先読み、そしてクロエの並外れた洞察力。その二つを掛け合わせたが、やはりすぐにはモノにはならないか)

黒は瞬時に物事の変化を捕らえる超感覚を用い、初見の不可視の空気の刃すら避け得る回避技能。
そしてクロエの洞察力。窮地にあって冷静に活路を見出す力。
この二つを組み合わせた事で知らない筈の剣筋を予め推測したのだ。

(成功はしたが、キツイな。異能も銃も慣れさえすれば先読みは容易いが、あの女の剣は慣れさせる前に太刀筋を変則する。
 事前の前例がないまま、状況証拠だけの反射というのも中々に難しい)


303 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:15:50 5KB.IH4k0





(冗談じゃない、あの二人大丈夫なのかよ)

戦いから離れた場所で観戦する足立が不安を胸の内に募らせる。
先ほどまでアカメが圧倒していた戦況が、途端にまた崩れだした。まだアカメが劣勢という訳ではないが、アカメの動きに後藤が対応する速さが凄まじ過ぎる。
素人よりマシ程度の武術を齧った足立でも、後藤の対応力は異常だ。

「ね、ねえ全員でやっつけた方が良いんじゃない?」

足立が不安から新一とヒルダに声を掛ける。わざわざ二対一で戦うより、戦える連中全員で掛かった方が勝率は高い。

『いや、私たちは手を出さない方が良い。むしろ足手纏いだ』
「……全く、化け物揃いだな。ここはよ」

「え?」

だが返った返答は二者とも戦闘には消極的なものだった。

「足立さん、俺も素人だから下手な事言えなけど。不味いんですよアレ。
 下手に俺達も割り込んだら、アカメの集中の邪魔になる。ウェイブだってそれが分かってて、今まで戦いに入れなかったんです」

「で、でもさあ……」

今までの不運に比べれば、同行者が居る分、まだツイているがそれでも足立は危機感を隠しきれない。
最悪の場合、一人でもここから離脱するべきだろう。出来れば今はペルソナを出して自ら戦闘をしたくないのだが、それも視野に入れなければならないかもしれない。

(ああ、クソッ! 何とかしろよお前ら!!)

考えれば、ここまで連戦続きだ。
何でここまで戦いに巻き込まれるのか。


304 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:16:24 5KB.IH4k0

『……だが、策がないわけではない』

「ミギー……」

『出来れば、これは取りたくなかったが……先ずはサリアを説得しろ』

今までサリアに対し、その殺害を遠まわしながらも肯定していたミギーの口から出たとは思えない発言。
新一は驚嘆するが、ヒルダは目を細めミギーに視線を向ける。

「お前、サリアを信用できるのか」
『するしかない。今はまだ後藤とアカメ達との戦いは拮抗しているが、奴の成長の速さは並じゃない。
 まだ私たちの手に負えるレベルの強さの内に、確実に葬る必要がある』
「―――らしいぜ。サリア!!」

ヒルダの声にサリアは力なく、目だけを泳がす。

「協力しろ。良いな」
「なんで私が……」
「プリティ・リリアン」
「え?」
「てめえの憧れてる魔法少女。その元ネタのリリアンはな、何があっても、投げ出さなかった。絶対に逃げ出すことはしねえ。
 だから最後にはみんなを笑顔にして悪のパワーも退散していくんだよ! お前もプリティ・サリアンだろうが!!」
「な、何よ……いきなりプリティ・サリアンが何なのよ」

サリアからすれば、何故自分のコスプレ趣味をここに引き合いに出されるのか理解できなかった。

「忘れたとは言わせねえぞ。演芸会で確かにお前はプリティ・サリアンだった。違うか?」
「そんなの、今と関係が……」

「あの時のお前に憧れたガキ共。アイツ等をお前は裏切るのか?
 言ってたな。元総司令に捨てられただの、私には何もないだの。アンジュがどうだの。
 そうだな。確かに比較対象がアンジュじゃ、イライラもする。私もムカついてたからな
 だけどな。お前に憧れたガキだって居るんだよ。ちゃんとサリア、お前を見て、憧れてなろうとしてたガキ達が。
 今の姿を、そのガキ共に見せられるのかよ?」

『わぁ〜サリアお姉さまだ!!お姉さまに、敬礼!』

アルゼナル時代の光景が頭を過ぎる。
小さく無垢な少女たちがサリアに向ける、まだぎこちない幾つもの敬礼と尊敬の眼差し。


305 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:16:44 5KB.IH4k0

「それを、てめえのストレス発散の暴走で無下にするのがお前の言うエンブリヲへの忠誠なのか。
 同じじゃねえか。元総司令に捨てたられたと喚いてたお前は、アルゼナルのガキ共を平然と捨てた」

「だって、私にはエンブリヲ様しか……。アレクトラも、誰も私を見てくれなかった。
 どんなに努力したって、私の事を……」

「……前提から間違ってる。
 先ず誰のお蔭でプリティ・サリアンの演劇が成功したと思ってる?
 アンジュ、エルシャ、私、……あとロザリー。お前の為に一皮脱いでやったんだろうが。
 そこまでやったのに、誰も見てくれないなんて被害妄想も大概にしとけ!」

アルゼナル時代。あの頃はまだ周りに仲間のようなものも居たかもしれない。
演劇界の打ち合わせで孤立したサリアを、最後の最後にはアンジュとヒルダ、エルシャ、ロザリーが助けに来てくれた。

「元総司令だってな。誰よりもお前の事を見てた。
 演劇会でも必ず見に来てた。戦いの時も、お前を危ない戦況には早々置かなかった。
 アルゼナルがアンジュの糞兄貴に襲撃された時だって、お前が一番安全で誰一人人間を殺すこともない任務だった」

セリューの持っていた殺人名簿に自分の名が乗っていなかった時、サリアは運が良かったからだと思っていた。
偶然、アンジュの護送の為に銃撃戦から離れていたからだと。

(違う。本当に、偶然なの……?)

護送を命じたのはアレクトラだ。
あの時はアンジュへの嫉妬心と恵まれた環境に居ながら、独断行動する様にイラついていた。
本当なら、自分がヴィルキスを駆りアレクトラの力になりたかった。なのに……。


306 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:17:06 5KB.IH4k0

「違う。あれでも優先してのは、アンジュで……。私は……」

「私なんざその時、クリス、ロザリー連れてドンパチだぜ。しかも、その時に一度クリスの奴が死にやがった。
 随分扱いに差があるよなあ? 誰が捨てられただって?」

想いが揺らいでいく。
そうだ、あの時サリアはアンジュを護送する。それが自分の最後の任務だと思っていた。
恐らく自分はここで、アンジュを守りながら死ぬのだろうと。
だが、本当にそうなのか? 確かにアンジュの安全も考慮されていただろう。当然、ヴィルキスも。
しかし、そのアンジュの傍に居た者達も、サリアの安全も確保されていたのではないか。
サリアの憎悪が、塗り替えられていく。あるのは、彼女が何よりも憧れ、大切だったアレクトラの姿。

「そもそもがな。アンジュに全部奪われたって言ってたが。結果的にアンジュが来てから、うちの部隊はゾーラ以外誰も死んでねえ。
 同じ部隊に最強のヴィルキスを扱えるアンジュを置いた時点で、おめえの安全を誰よりも考えてるのが誰か分かりそうなもんだけどな!」

「いや……じゃあ、それじゃアレクトラは……私は……」

確かに、アレクトラの中でアンジュは重要なカギではあった。でも、本当に彼女の中でアンジュが一番だったのか。
アンジュはあくまで手段の一つに過ぎなかった。それはノーマが迫害されない世界の為の手段。
その手段の先にはあったものは。
本当にアレクトラが大切に思い、何よりも守ろうとしたのは本当は……。

『やっぱりね。アンタ何も知らないのね。エンブリヲの本性も、ジルが何を背負ってたかも』

「アンジュの言ってたことは……アレクトラの、ことは……。でもアレクトラは私をリベルタスに……」

「馬鹿だよお前……。自分の立場で考えろ。大事なものを好き好んで、血生臭い戦いに放り込む奴なんて居る訳がないだろ。
 ましてや、大切な妹分を」

「……あっ」

真実だった。
全ては嘘だと思い込みたかっただけなのだ。そうでなければ、前には進めない。
今更どうすればいい。三人殺しておいて、どんな面をして戻ればいいのか。


307 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:17:48 5KB.IH4k0

エンブリヲは彼なら、何があろうとも許してくれる。愛を注いでくれる。
だから、彼に尽くしてその虚空を埋め続けてもらう。
それだけがサリアにとっての救いだった。
だが、その救いはただの虚像だ。所詮まやかしに過ぎず、エンブリヲはサリアを道具にしか思っていない。
そんなこともっと早くに気付いていれば。いや、気づいていたのに気づかないフリをし続けていた。挙句の果てに全ての激情を関係のないアンジュやマミ、海未、キリトにまで押し付けて―――

「アレクトラ……アレクトラ……!」

涙が溢れてくる。自分が捨て去ろうとした物が如何に大きなものなのか。
失くしてから初めて分かった。

「……羨ましいわね。そんな家族が貴女には居て」
「サリアさんを気遣ってくれる人だって、まだこんなに居るんですよ……。
 お願い、します……。私も穂乃果ちゃんも貴女を許しません。だから、貴女が死なせた人達の分まで償い続けて下さい」

複雑そうな心境の表情を浮かべながら雪乃は言葉を漏らし、花陽は真摯にサリアを見据え言葉を紡いだ。
新一も口を閉じたままだが、じっとサリアを見ている。

「ここまで来て、逃げるなんて真似はしねえよな。サリア」








308 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:19:13 5KB.IH4k0



アカメと後藤の剣裁の最中、隙を図りウェイブは自身の剣を滑り込ませていくが、一度たりとも後藤に掠りすらしない。
むしろ返しの一撃でウェイブの身体に傷が付く程だ。
今までの連戦で酷使した身体が悲鳴を上げるのを強引に抑え、更にウェイブはアカメと合わせ剣を振るっていく。
アカメの知らない太刀筋に混ぜたウェイブの剣。的確に急所を捕らえたと思われたそれを後藤は一瞬にして見切る。
より正確には、ウェイブの剣を見切り鎖鎌で巻き付けそのままアカメの正面にまで引きずり放る。刀の射線上をウェイブが遮った事でアカメの動きが止まる。
その一瞬の間に頭部を鋭く変化させ、ウェイブごと刃で貫かんと振りかざす。裏拳でアカメはウェイブの顔面を殴り飛ばしながら自身も横飛びで刃を避ける。
刃は地面を大きく抉りながら、後藤の頭部へと再び収納され元の顔へと戻っていく。

「ハァ……クソッ!」

明らかに足手纏い。この戦いについていけなくなっていた。
後藤の成長もさることながら、アカメの適応力と成長性も目を張るものがある。
事実、ブラッドレイとの戦いで曲がりなりにも一人で剣の応酬を繰り返してきたのだ。その素質はやはりナイトレイドの切り札と称されるだけはある。
しかしウェイブは違う。
無論、決して弱くはない。精神的な問題や帝具を手にしていないこともあるが、それらを踏まえてもその実力はこの殺し合いの中でもトップクラスの完成されたものだ。
だが、完成されているがゆえにその上はない。ウェイブにはこれ以上強くなる余地がないのだ。
故に加速し、レベルの上がる強者達とは、時間が立てば立つほどその差は開いていってしまう。

「ウェイブ、下がれ」
「……すまねえ」

殴られた頬がヒリヒリと痛む。アカメも無我夢中で加減が効かなかったのだろう。
アカメに言われた通り、ウェイブは後ろに下がる。最早、前線で共闘するのはアカメの足を引っ張るだけだ。
今のウェイブに出来るのは、アカメのサポートと他の仲間たちが戦いに巻き込まれないように気を付けることだけだ。


309 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:19:54 5KB.IH4k0

「おい退け、田舎野郎」

そんなウェイブを押し退け、ヒルダが赤い髪を揺らしながら全然へと歩んでいく。
その後ろを意を決した顔をした新一が続く。

「何やってんだ二人とも、お前らのかなう相手じゃ」
「お前じゃ信用できないんだよ。それにあの化け物は私のアンジュを殺しやがった……私の最愛の女を……。畜生、ぶっ殺す!!」
「さ、最愛?」

怒りに任せ、ヒルダはフォトンソードと銃を手に突っ走る。訓練されてはいるが、到底この戦いに通用するものではない。
更に新一も走り出し、ウェイブは混乱する。

「お前たち、何で―――」

戦いに集中する間もない。怒りと衝動に任せた二人が突っ込んできたことによりアカメの刀は鈍る。
当然、後藤はそれを見逃すことはない。大きく腕を振るいアカメを刀ごと吹き飛ばし、後藤はヒルダと新一へと向き直る。

「アンジュの仇ィィィ!!!」

「ミギー!!!」

何か策はあるのだろうが、構わない。
がむしゃらに走るヒルダの腕に鎖を巻き付け、引き摺り倒す。フォトンソードを手放し、ヒルダは堪らず顔面から地面に叩きつけられた。
次に向かってきた新一と刃に変化したミギーを頭部の刃で迎え撃つ。無数の刃が交差し互いに打ち合う中、気配を殺し新一が接近する。
五歩程度の距離まで新一が接近した時、後藤は残った頭部を最後の刃に変化させ新一へと振るう。だが、その新一の手には光る刃が握られていた。
先ほど、ヒルダが取り落としたフォトンソード。これを回収しておき、彼はこの距離まで隠し持っていたのだ。
いくらパラサイトが効果使用がフォトンソードの斬り味をモロに受ければ一たまりもない。が、後藤は僅かに姿勢を落とし地面に蹲るヒルダの首ねっこを掴み新一へと放り投げる。
砲弾と化したヒルダを刃で切り落とす訳にもいかず、そのままヒルダを抱きとめた新一は尻持ちを付き体中を流れる衝撃に顔を歪ませる。


310 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:20:41 5KB.IH4k0

「―――!」

二人に止めを刺そうと踏み込んだ瞬間、足にひんやりとした感触が流れる。
水だ。見れば雪乃と花陽が開いたペットボトルを手にしていた。あれだけ大声を張り上げヒルダと新一が後藤に突っ込んだのは、後藤をこの場に誘う為なのだろう。
青い発光と共に紫電が奔り水を伝い後藤の身体へと流れていく。電撃の先に居る女、サリアを確認しながら後藤は跳躍し電撃を避ける。
既に何度も見た異能であり戦法だ。工夫をしようという気概はあるが、使い古され過ぎてつまらない。
そのまま上空から鎖を気に巻き付け、着地点を修正し電撃の範囲から逃れる。

更に風を切る音と共にアカメの刀が投擲される。
息も突かせぬ連撃で後藤を葬ろうという魂胆だろうが、それも容易に避けていく。
この一撃で仕留められるという確信があったせいなのか、今までの集中が切れたのだろう。攻撃パターンが単純なものになっていた。

「下らん、工夫しろ!!」

後藤の怒号が響き、アカメ達の鼓膜を鳴らす。
怯む新一、ヒルダが一人だけ凛々しい表情で呪詛を紡ぐ女が居た。

「―――ライジングローズ・テイル」

投擲された刀へと導かれるように、巨大な雷の砲弾が後藤へと迫りくる。
電気は鉄へと流れやすい。最初の刀の投擲は電撃の命中率を上げるための避雷針の役割を果たしていた。
もっとも、それでも後藤からすれば避けられない攻撃ではない。

「―――葬る」

「ッ!?」

足に力を込め、電撃の有効範囲外を見定めた瞬間、後藤の背後へ回り込んだアカメが腕を腕を振るう。
既に刀のないアカメに後藤へ有効な攻撃手段はない筈。否、その手にはフォトンソードが握られていた。
神速で奔る光の刃と正面から迫る電撃の塊。後藤を葬る為の真の策はこの状況を生み出すことにあったのだ。
後藤の刃や鎖鎌ではフォトンソードの斬れ味を防げない。しかし、電撃を直接受ければ生物である以上感電死も免れない。
絶対に避けなければならない、防御不可の二つの攻撃。如何に後藤が戦闘センスに優れていたとしても、この状況から最善の選択を選べる道理はない。


311 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:21:18 5KB.IH4k0
電撃が後藤へと触れ、その姿が飲み込まれていく。アカメはフォトンソードを突き立て、その柄を足で踏み抜き大きく跳躍する。
光の刀身を電撃が焼いていくが光である以上、電撃に触れようが何の支障もない。
そのまま電撃が過ぎ去った黒い焼け跡の上にアカメは華麗に降り立った。

「アカメ!!」

アカメを気遣い、新一が駆けよってくる。アカメは疲弊した顔を魅せながらも新一に笑みを作って見せた。

『場数が違うな。我々のアイコンタクトだけで、策に気付いてくれるとは』
「お前たちとも、ここでは長い付き合いだからな。それに、サリアがアドラメレクを構え立ってい時点で察しは付いた」

ミギーの性格から無策で突っ込むことはあり得ない。驚嘆こそしたが、アカメは新一を信頼しそのアイコンタクトで自らの為すべきことを理解した。
二重にも三重も策を張り、後藤を誘導し電撃とフォトンソードで挟み撃ちにする。
それを可能とするのは、アドラメクレをこの場で最も使いこなせるサリアと、最も剣技に優れ自身にも向かってくる電撃すら避けうる歴戦の剣士であるアカメ。

「サリアは……お前たちが説得したのか」
「ああ。少なくとも、私たちに手を貸す程度にはな」

アカメを未だに警戒しながら、返答するヒルダを見てアカメは己がどうすべきか思案していた。
サリアを許していけないとアカメは考える。本来なら、今すぐにでも葬るべきなのだ。
だが、新一もヒルダも。八幡の思いを無下にされた雪乃に仲間を殺された花陽ですらも、サリアを庇う。
決して許すわけでもない。憎んではいるだろう。それでも、彼女たちはサリアに生きて罪を償わせるという考えを抱いている。

「アカメ……俺もサリアが許されていいとは思ってないけど。だけど、罪を償えるなら俺はやっぱり生きててほしいと思うんだ」

「……お前たちは心に暇(よゆう)があるんだな」

「え?」

「私たちは殺さなければいけなかった。生かしておけば何時寝首を掛かれるか分からない。
 殺せるのなら、殺せる内に殺す。それが暗殺者として当然の生き方だった」

昨日までの家族を隣人を一片の容赦も躊躇いもなく殺す。暗殺者としてはそれが何よりも正しく、安全だった。
暗殺者は皆が臆病だ。臆病だからこそ生き延びられる。臆病だから殺せる。
決してそれは間違いではない。下手な情けは寿命を縮めるだけだ。ここが帝都ならば、アカメは彼らの反対を押し切ってでもサリアを殺していた。


312 : 堕ちた偶像 ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:21:47 5KB.IH4k0

「狡噛も言っていた。私の生きる世界とお前たちの生きる世界は違う。
 だから、サリアの事についてはもう、私は何も口を挟まない」

「アカメ……」

「雪乃の言った通りだ。結局、私たちは広川の掌で殺し合いを続けてしまっている。
 新一、雪乃、花陽。……お前たちは、私みたいにその暇を無くさないでくれ」

本当に奴を倒して、この殺し合いを終わらせるのはあるいはこんな自分よりも弱く、だは決して人として失ってはいけないものを持った彼らなのかもしれない。
そんな一寸の予感を抱きながら、アカメは話を終わらせた。
ウェイブの方へ目を向けるが、彼も納得した様子で頷いている。
ヒルダはここに来て、一番の大きなため息を吐く。一先ずの問題にケリは付いたのだ。

(アンジュ……仇は討ったよ)

本当なら、後藤の死骸を何度も蹴り飛ばしながら唾でも吐きたいところだが、塵すら残らず燃え尽きた為、それすら出来ない。
ヒルダが何の打算もなく愛した女性。もう、この世にはいない彼女にしてやれることは墓を立ててやることだけだ。
もし、もっと早くにアンジュの元に駆けつければ。そう思わずにはいられない。

「ほんとにさ……何、死んでんだよ……。痛姫様。アンタの国はここからだったろうが」


313 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:24:28 5KB.IH4k0





「いやあ、それにしても良かったよ。あの化け物をやっつけられてさ」

今まで花陽の後ろに隠れていた足立が大きく伸びをしながら、勝利を祝福する。
この場に居る全員が、目を細めながら足立を眺めていた。警察という割には頼りない男。全員の印象は彼をただのヘタレだと認識させていく。
そんな視線を知ってか知らずか、足立は呑気に嬉しさに酔いしれていく。
実際、ここまで運が良いのは久しぶりなのだ。あんな化け物に襲われて、傷一つ付かないでやっつけ、これだけの利用価値のある参加者と合流できた。
特にウェイブ。彼はエンヴィーと敵対しているらしく、万が一エンヴィーが襲撃してもこの男が前線に立ってくれることだろう。

(まあ、イェ―ガーズとかいうキチガイ集団に居る時点で、そのナイトなんちゃらのが信用できるけどね)

まあ何はともあれ、切れる手札が増えたのは丁度いい。久方ぶりに上機嫌になった足立は自然と顔が綻んでくる。

「サリアさ――」

赤い血が噴き出し、雪乃の制服を赤く染める。
苦悶の声を上げながら、雪乃はそのまま地面へと倒れ伏す。

アカメが目を見開き、剣を強く握りしめ。その葬るべき敵だった筈の人物を見る。



「雪乃、アンタ何で……」
「本当、貴女は……最初からずっと、足を引っ張ってばかり……」


「刃の動きが……鈍いな。ダメージが抜けきらないか」

付き飛ばされたサリアは自分が雪乃に庇われたのだと、理解し雪乃に駆け寄る。幸い怪我は深くなく、致命傷ではないが一般人にその痛みはかなりの苦痛だろう。
そしてその血に濡れた刃の主、後藤は己の身体のコンディションを冷静に分析し測っていく。
完全な不意打ちだったが、電撃のダメージで動きに多少の支障があるらしい。雪乃が咄嗟に庇える程度には遅くなってしまった。

「はあ!? 何で。死んだんじゃねえのかよ!!」

足立が忌々しげに声を荒げるのを聞きながら、後藤は先の攻防を振り返る。
電撃が触れる寸前、後藤はアンジュの首輪を翳しながら頭部をドリル状に変化させ穴を掘りあげた。
成人男性が入り込むには非常に小さい穴だったが、そこへ飛び込み直撃を避けたのだ。


314 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:24:57 5KB.IH4k0

(とはいえ、かなりのダメージを負ったが……)

少なくとも頭部を使った戦闘はしばらくは難しい。細胞を変化させ自在に操るには些か感電のダメージが大きすぎるのだ。

「みんな下がれ!」

ウェイブが剣を構えながら仲間を庇うように前に勇み出る。
アカメも刀を握りながら、息を整えスイッチを切り替えていく。

「―――何を手こずっている。ウェイブ」

「なっ……!?」

三者が得物を手に、交錯しようとした次の瞬間、冷たい女性の声と共に隕石のように巨大な氷の塊が後藤へと投擲される。
そのまま為す術もなく後藤ははるか後方へと吹き飛ばされていく。
この氷の異能には見覚えがある。特にウェイブ、足立からは絶対に忘れられない絶対強者の力。

「エスデス……隊長……」

「久しぶりだな。ウェイブ」

(なんでお前がここに居んだよおおおおおおお!!!)







315 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:26:47 5KB.IH4k0

「ウェイブ。聞きたいことは幾つかあるが、何故アカメと居る?」

結局、東は外れであった。何処かですれちがった可能性もあるが、エスデスは御坂らしき人物を見つけられない。
仕方ないのでそのまま歩を進めていく。実はその道中キング・ブラッドレイも近くの居たのだが、これも運悪くニアミスし接触には至らない。
各所で戦闘の跡を見つけながら、進んでいき。気付けば、見知った連中が三人ほど居た。
一人はウェイブ。エスデスの部下だ。二人目がアカメ。狩るべき獲物である。三人目が足立。
特にアカメとウェイブが戦うどころか、共闘すらしている光景はイェーガーズとしては異常な事態だ。ウェイブから問いただす必要がある。
そして足立。きな臭いものを感じていたが、ここまで単独での移動は彼がただの民ではない事の証明ではある。使えない筈の能力が解放されたのだろう。
面白い。実に興味がわいた。

(一撃で後藤の奴を……隊長はやっぱり強え……)

後藤の撃退は素直に喜ぶべきだが、しかし一難去ってまた一難だ。
間違いなく、エスデスはアカメとの共闘に関して疑惑を向ける。正直なところアカメとの同盟を話すのは躊躇われる。
だが、ここで引くわけにはいかない。アカメは少なくとも、この殺し合いを切り抜けるうえで大事な仲間だ。それをエスデスにも分からせる必要がある。

「隊長、これは―――」

ウェイブは覚悟を決め、アカメとの同盟の経緯を話した。
殺し合いの破綻を望むのはアカメとて同じ。ここで争うことに何の意味はない。
敵の敵は味方ならば、ここではイェーガーズもナイトレイドと手を取り合えるのではないか。

「……そうか」

全ての話を聞き終わり、エスデスは納得した様子で頷いた。

「グランシャリオを返しておこう」

「隊長……分かって――」

「それでアカメを斬れ」

エスデスがグランシャリをが持っていたのに喜ぶ間もなく、告げられたのは死刑の執行命令。
目の前に突き刺さったグランシャリオが冷たく光る。
エスデスは心底呆れた表情でウェイブを見つめている。それは普段の部下に向ける視線ではなく、失望感のみが占める完全な侮蔑の瞳。
息を呑み、反射的にウェイブは一歩後退してしまう。


316 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:27:25 5KB.IH4k0

「私はな。別に部下が何をしようが、そこまで咎めはせん。
 アカメとの共闘も、あの男に力及ばず仕方がなく一時的に……ならまだ良い。
 だがな。私たちは帝国の軍人だぞ。それを忘れた訳ではないだろう。ウェイブ」

「だから、この殺し合いを終わらせて……」

「お前の精神が軟弱なのは知っていたが、どうやらそこまで脆いとはな。こうも簡単にナイトレイドに懐柔されるのは流石に見過ごせん」

「た、隊長! 確かに俺たちはアカメが悪だと思ってた。だけど、見方が変われば俺達が悪なのかもしれないんだ!」

ウェイブは語る。セリューと出会い、その正義が暴走し巻き起こした惨劇と騒動を。
確かにセリューの行い事態は悪を断罪しただけではある。だが、もっと別のやり方があった筈なのだ。
恐らく、自分たちの価値観や考え方はずれてしまっている。ウェイブも狡噛などの参加者に出会い指摘されたからこそ分かった。
だから今こそ、その考えを見直すべきだとウェイブは強くエスデスに主張する。

「言いたいことはそれだけか?」

「隊長……お願いだ……分かって……」

「なるほど。国が……いや住む世界が違えば、その視点も大きく変わるのだろうな。だが、何故お前は会って数時間程度の連中にこうも諭される?
 奴らの言う価値観が正しいと誰が決めた? 私からすれば、セリューは何一つ間違っていない。あいつは自分の正義を執行したまでの事だ。
 強いて言うなら、奴の間違いはその弱さ。奴が弱かったからその正義が否定された。良いか? 悪は弱者であり敗者だ」

「だけど、あいつは……。何の罪もない民を……」

ウェイブの脳裏を過ぎる穂乃果の姿。目の前で友達の死体を食われた彼女の表情は忘れられない。
図書館前に放置された生首。あれを見た時の同行者たちの顔。あの狡噛ですら、表情は苦くウェイブを見る目には些か訝しげなものがあった。
もうあんな間違いを起こしてはいけないのだ。ましてや、それが仲間の手によるものなら尚更だ。
だが、ウェイブの考えを嘲笑うように、エスデスは冷たく淡々と述べる。


317 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:27:55 5KB.IH4k0

「それが何だ? そいつらが単に弱かった。それだけの事だ。
 セリューを襲ったことりという女も強ければ、それは正しかった。弱いから裁かれ、殺され、挙句の果てに救う対象であった仲間にまで害を及ぼした。
 世の中は弱肉強食。他の連中が何を言おうが、これが真理だ。そうは思わないかウェイブ」

「じゃあ、イェーガーズは一体何の為に……俺達、軍人は力のない民の為の……」

「履き違えるな。イェーガーズは“帝国”の警察だ。それはお前の解釈の誤りに過ぎん」

今まで気づかなかった。エスデスは冷酷で恐ろしいながらも、部下思いでもあり罪のない民を護るイェーガーズの隊長であるとウェイブは思い込んでいた。
そう、思い込んでいたのだ。ここに来るまで、ウェイブはエスデスという人間を真っ向から見てはいなかった。
いやエスデスだけではない。セリューもクロメも。その歪さに何処かで気付かないフリをしながらずっと接し続けていた。

「もう一度チャンスをやろう。アカメを殺せ、ウェイブ」


(何でエスデスが……DIOの館に行くんじゃねえのかよ!!)

狼狽するウェイブの後ろで、足立も焦る。後藤が居なくなったのは良いが、エスデスと再会するのは最悪だ。
しかも今はその本性を剥き出しにし、氷のように冷たい冷酷さを見せている。
はっきり言ってただのキチガイ女だ。それも力が強い分、尚更質が悪い。その上、足立を知っているのも良くない。
ペルソナの制限も看破したかのような、発言もあったのも足立の警戒度を更に引き上げている。
ウェイブに気を取られている今の内に、この場から離れようと足立は密やかに足を踏み出す。


318 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:29:15 5KB.IH4k0

「何処へ行く。足立、折角会えたんだ再会を祝おうじゃないか」

「……え、いや……」

「どうした? 何をそんな顔をしてる。一応コンサートホールで共に居た仲じゃないか。
 それに、お前の力もそろそろ見てみたいのでな。早く、見せてみろ」

エスデスの言葉に足立の次に反応したのがアカメだ。先ほどエスデスはお前の力と言った。
そう、力と。つまり足立には何らかの戦う力が備わっていたのだ。
しかし後藤戦ではそれを見せる様子はなかった。何故か、使えない理由があったか。あるいは―――

「ウェイブ。お前は人の言葉に流され過ぎだ。だから、人の仮面(ペルソナ)にも気付けない」

「それは……」

「お前の仲間面しているあのスーツの男。既に誰かを殺した……セリューの言葉を借りれば悪だぞ。
 ―――そら!」

氷の弾幕が足立を囲った瞬間、足立の周りを光が包みタロットカードが出現する。
タロットカードが握りつぶされた瞬間、異形の黒い剣士が氷の弾幕を弾き足立を庇う。

「足立、お前……」

「クソッ、何なんだよ。何でこうも俺の巡り合わせばかりついてないんだよ。クソ過ぎるだろ!!」

「やはりな。コンサートホールの火災と、まどかとアヴドゥルの殺害はお前の仕業だな。足立」

「アヴドゥルは俺じゃねえ!!」と叫びたくなる衝動を抑えながら、足立は周囲にも視線を向ける。
アカメは全ての合点がいったのか刀を構え、足立を警戒。残りの連中も足立から距離を置くように離れていく。千枝の知り合いであるヒルダですら驚嘆しながら後ずさりするほどだ。
完全な孤立である。このままではエスデスに嬲り殺されるか、葬る連呼のイカレアカメに斬り殺されるかのどちらかだ。

「ああ、クソッ!!」

左腕で咄嗟に近くの少女の首根っこを掴み自分の元へ引き寄せる。
傷の痛みで退避が遅れた雪乃はあっさりと捕まり、足立に首を腕で固定され拘束されてしまった。

「ゆ、雪乃……」
「全、く……何処かの、無能のせいで……」
「オラ! 動くなお前ら! 動いたらコイツを―――」
「フン」

足立の台詞を遮り、エスデスが更に氷を投擲する。
咄嗟にグランシャリを抜いたウェイブが氷を全て弾き落とし、雪乃と足立を庇う。


319 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:30:09 5KB.IH4k0

「隊長! 今のは……」

「なあ、ウェイブ。奴の演技は上手かっただろう? アカメも案外、上手い役者なのかもしれないな」

「――!」

足立の本性をウェイブは気付けなかった。頼りないヘタレという印象以外は何も残らない、よくもあるくも凡人な庶民なのだとウェイブは思っていた。
だがその実、奴は平然と人を人質に使う自己保身の塊だ。恐らくエスデスの言う通り、足立は先ほど述べた二名を殺した殺人者なのかもしれない。

(まさか、アカメが……俺を騙すために……)

エスデスの言いたいことは、つまりそういうことだ。アカメの本性を自分は知っているのか否かだ。
アカメとの交流はほんの数時間、アカメを理解しきるにはやはり短すぎる。それよりもやはり信頼できるのは―――
手のグランシャリオに目が泳ぐ。アカメを斬るのなら今が絶好の好機。この期を逃せば、彼女の始末は難しくなる。
エスデスは全て見越し、ウェイブにアカメの殺害を促している。そうであるなら……。

「マガツイザナギ!!」

「アドラメr―――「遅いんだよ!!」

マガツイザナギの猛攻にサリアが吹き飛ばされ、アカメがその余波に煽られ顔を歪める。
そうしてる内にも足立は逃走ルートを組み立て、もう一撃大ぶりな電撃を放ちアカメ達の足を止めると雪乃を連れ、そのまま逃走する。
電撃が収まった時には既に足立の姿ははるか遠方にまで遠ざかっていた。

「くっ、足立ッ!」

だが、足の速さでは達人であるアカメの方が遥かに格上だ。今から全速力で駆ければ容易に追いつける。
しかし、そのアカメに向かい氷が降り注ぐ。咄嗟に後方へ飛び退け氷を避けるアカメに更に追撃の氷の弾幕。
刀で弾きながら、その下手人の姿をアカメは忌々しく見定める。

「会ってしまった以上、イェーガーズがナイトレイドを見逃す理由はないからな」
「エスデス……!」

ウェイブはグランシャリオを強く握り締め、刃を抜く。
己が為すべきことは一つしかない。
グランシャリオの切っ先を己の敵へと向ける。その様を見て、エスデスは薄くほくそ笑む。


320 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:31:13 5KB.IH4k0

「……アカメ」

「ウェイブ?」

「――行け! ここは俺が食い止める!!」

その切っ先はかつての仲間であり、上司であるエスデスの首元を刺し、ウェイブは明確な敵意を露わにする。
アカメは僅かに逡巡する。グランシャリオ、確かインクルシオの後継機でありその性能はインクルシオにも引けを取らない。
使い手もそれに劣らぬ実力者ではある。
しかし、相手は帝国最強の将軍。それも自身の上司だ。

「だがウェイブ……。エスデスは……」
「いくらお前でも帝具なしじゃ、隊長の相手は無理だ。この場じゃ俺が一番残るのに適任なんだよ」

アカメの実力は帝具に頼らぬ純粋な鍛錬の賜物だが、それでもやはり村雨があるのとないとでは戦力に大きな差が出る。
現状、エスデスの相手をするのはウェイブ以外に適任者は居ない。

「そうか、ウェイブ……」

「隊長……いや、エスデス! 俺はアンタを倒す……!。―――グランシャリオォォォォオオオオオオ!!!!」
 
ウェイブの咆哮に応え、その身を黒の鎧が包み込む。
一瞬の内に人の戦士から異形の修羅へと転身を終えたウェイブは腹武装の剣とエリュシデータを持ち、二刀流の構えを作る。

「良いだろう。それがお前の答えか」

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

地面が陥没し、小型のクレーターが出来るほどの踏み込みでウェイブは一瞬にしてエスデスとの距離をゼロにまで詰める。
そこから剣を横薙ぎに振るうまでの時間差はアカメですら完全に見切るのが難しい。
だが、エスデスはより速く氷のサーベルを編み出し、剣を受ける。しかしそれを見越してウェイブはもう一本の剣でエスデスの胸元を狙う。


321 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:31:43 5KB.IH4k0

「―――ぐっ、が」

ウェイブの鳩尾にエスデスの蹴りがめり込む。
グランシャリオに包まれた鎧越しであるにも関わらず、衝撃を殺しきれず内臓にまで響くその脚力は完全に人の域を逸脱している。
衝撃に従い、ウェイブは吹き飛ばされ地面を無様に転がりながら、漆黒の鎧に砂埃を付けていく。
剣を地面に刺し、ブレーキ代わりに転がる身体を押し留めながら、ウェイブは今度は大きく跳躍する。
そして、エスデスの頭上から重力に従い振り落ち、足を先頭に自らを砲弾と化させる。

「グランフォール!!」

グランシャリオの持つ、必殺技グランフォールをエスデスは軽々受け止め流す。
ウェイブは足をバネに大きく後天しながら再度エスデスに肉薄し剣を裁く。
秒も過ぎず奔る二閃の白銀。ウェイブとグランシャリオの性能が一つとなって、初めて可能となる剣の乱舞。

「フッ」

涼しい顔でエスデスはその全ての剣裁を避け続ける。そこに不要な動きなど一切なく、最小限かつ最大限の合理性を持った動き。
完全に次元が違う。ウェイブとエスデスの強さは、最早差では片づけられない絶対的な境がある。
回避にも飽きたのか、エスデスが大きく腕を振りかぶり、サーベルを横薙ぎに払う。
それを両の剣を交差させ受け止めるウェイブ。だが、グランシャリオの性能でブーストされても尚、単純な腕力ですらウェイブはエスデスに拮抗すらしない。
両足で踏みしめた地面を抉りながら、後退を余儀なくされるウェイブにエスデスの剣撃が襲い来る。
手数は二対一。圧倒的にウェイブが勝り、有利にも関わらずその剣裁きを全て受け切れない。
斬り合う度にグランシャリオの鎧に傷が付き、徐々にウェイブの命綱であるグランシャリオの鎧への崩壊がカウントダウンされていく。

「……ダメだ。やはり、ウェイブ一人じゃ」

劣勢は誰の目から見ても明らか。エスデスは例え仲間だろうと容赦なく、敵ならば殺す。
このままではウェイブの寿命はあと数分しかもたない。やはり、アカメが介入しエスデスを凌がなければ勝機はない。
足立の件に関しては新一達に任せるようアカメが指示をしようとしたところで、ヒルダがアカメより前に歩み出る。


322 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:33:19 5KB.IH4k0

「アンタらは先に行きな」

「ヒルダ?」

「元はと言えば、足立を連れてきた私の責任でもある。だから、あそこの磯臭男を回収して何とか氷女の気を引くぐらいはやってやる。
 だから、さっさと行きな。足立とやり合って一番勝てそうなのはアンタなんだから」

そう言って、ヒルダはサリアに視線を向ける。目が合ったサリアはアドラメレクを構えながらヒルダの横に並んだ。

「それに一応、帝具とかいうのをサリアは使えるんだ。上手く作戦たてりゃ何とかなるだろ」

「だが……」

「雪乃に庇われた分の働きはするわ。信じろと言っても信じられないと思うけど」

「サリア……」

『シンイチ、この戦いは私たちの挟み込む余地はない。それよりは雪乃の救出に向かう方が生存率も成功率も高い。
 アカメ、お前もだ。ここは一旦退くのがベストだろう』

ミギーの台詞を聞きながら、アカメは周りを見渡す。
確かにここでアカメが出て行っても。残されたヒルダ、新一だけでは足立を倒す戦力としては心許ない。
ならばいっそ、アカメを行かせる為に中堅の実力者が足止めに専念した方が、両方の勝率も生存率もまだ上がるかもしれない。

「すまない。無理はするな」

アカメは刀を納め、足立の走っていく方角へ。新一は花陽を抱き上げ、音乃木坂の方角へ。
去っていく三人を見ながら、ヒルダは皮肉気に嘲笑する。


323 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:33:56 5KB.IH4k0

「たくっ。まさか、こんな時間稼ぎする羽目になるなんてな」

ヒルダからすればここまで命を張る義理のない連中だが、サリアに関しての借りもある。
だから、敢えて自ら足止めを進んで引き受けた。
眼前で繰り広げられる戦闘は既に一方的な暴力へと変貌している。
グランシャリオが罅割れ、生身の姿に戻ったウェイブが地面に叩きつけられエスデスに嬲られる姿は見ていて気分が悪い。

「ヒルダ、策はあるのよね?」
「ったりめえだ。耳貸せ」

真っ向から挑んでも勝ち目はない。ヒルダは今までの経験を活かし、一通りの戦いをシュミレートしながら策は練ってある。
とはいえ、ただでさえ低い勝率をほんの少し上げるだけの気休めでしかないが。

「―――!? サリア……?」

思いついた策を口にしようとした瞬間、ヒルダの鳩尾にサリアの拳が叩き込まれ、おまけにアドラメレクの篭手から電撃が流される。
全身を軽い痺れに襲われ、僅かに痙攣した後、ヒルダの意識は闇に落ちた。

「……昔からね、アンタとアンジュには一撃叩き込んでやりたいと思ってたのよ。
 散々、私の部隊を掻き回してくれたんだから」

異変を感じ、振り返ったアカメ達にサリアは気絶したサリアを抱きかかえ近寄っていく。
一瞬、再びサリアが凶行に走ったのか勘ぐるが、ヒルダは寝ているだけで命に別状はない。
そのままサリアは少し乱暴ながらもヒルダを新一に押し付ける。

「悪いけど、ヒルダも預かってもらえる?」
「お前……」
「邪魔なのよ。帝具もパラメイルもないくせにでしゃばって。せめて、パラメイルかラグナメイルを持って来なさいって、起きたら伝えておいてくれる?」
「サリア。お前、まさか一人で……」
「それとこの首輪、ヒースクリフって奴に渡してくれる? アンジュが最後に残した置き土産なの」

サリアはティバックから取り出した、首輪を強引に新一の手に握らせる。
首輪を受け取りながらも新一はサリアを止めようと逡巡するが、目の前に電撃が飛び、踏み出そうとする足が反射的に止まる。


324 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:35:59 5KB.IH4k0

『シンイチ……早く向かうぞ』
「だけど……」
「早く行きなさいよ。グズグズしてると、雪乃が危ないわよ」
『それにヒルダが居ても居なくても、勝率はそこまで変わらん。何より、ウェイブが持ちこたえている内にここから離れなければ我々が危ない。
 しかも足立は今、この瞬間も逃走を続けているんだぞ!』
「そうだ。ミギーの言う通りだ。この場はお前に任せたサリア」

片手で花陽を抱きかかえ、もう片方の腕でヒルダを担ぎ上げる。
新一はまだ振り切れないのか、顔を歪めるが、目を瞑り大袈裟な動作で背を向け駆けだした。

「全く、何やってるのかしらね。私は……」

恐らく、やろうと思えば足立の混乱に乗じて逃げることもできただろう。
そうしてまたエンブリヲの為に戦い続ければ、彼への忠義を尽くすことができた。
けれど、そんな気も失せてしまった。あの忌々しく気に入らない女に庇われた事が、サリアの脳裏にこびり付く。
雪乃からすればサリアなど、今すぐにでも殺したいほど恨んでいる癖に何処までもすかした様で、いざと言う時には命まで張った。
あの花陽という女もだ。友達を殺されながらも、サリアを正面から見据え、堂々と罪を償えと促した女。
最後までこちらを気にしてきたお人好しの新一とヒルダ。あの二人も特に前者は仲間でも何でもないのに、ずっとサリアを説得しようとした。
何故彼女たちはそこまで強くいられたのか、サリアには分からない。
だからかもしれない。その強さを知りたいから、恐らくこんな真似をしてみようと思ったのは。
あるいは、結局何処か甘い。そんな優しく、お人好しなのがサリアという人間の本当の―――。

「行くわよ。アドラメレク」

頭に残る引っ掛かりを隅に追いやりこの場の唯一の命綱を手に、サリアは戦場へと踏み出す。
残ってしまった以上、闘争に全てを注がなければ、生き延びることはできない。
目を見開き、サリアは自身の中のスイッチを切り替えていった。








325 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:36:29 5KB.IH4k0





如何にグランシャリオといえども、その一部分を集中的に攻撃し続ければいずれは罅割れ、限界が来る。
後に辿るかもしれなかった未来の可能性の一つで。アカメはその方法で、グランシャリオの破壊を狙ったことがある。
この対戦もそれと同様。エスデスはグランシャリオの一部分に攻撃を集中させ、ついにはその氷の刃をウェイブ本体へと到達させた。
血を吹きだしながら、吹き飛んでいくウェイブ。グランシャリオの限界やウェイブ自身の疲労も重なり、彼を護っていた鎧も解除させ生身のまま地面に叩きつけられる。
そこへエスデスが更に肉薄し、足の先のヒールで自らが穿ったウェイブの傷へ勢いよく押し込む。

「が、あああああああああああ!!!」

ヒールはウェイブの傷口にめり込む、血を撒き散らしながら、苦痛の雄叫びを誘発する。
顔を歪め、激痛に耐えるウェイブを更に甚振るようにエスデスは足を乱雑に動かし、傷内の肉をかき混ぜていく。

「ウェイブ。実力は完成されているお前が、何故こうも弱いのか。それはお前がまだ迷っているからじゃないのか?」

「ぐ、ぅ……」

「そらっ。今度はもう少し、力を入れてみるか。その軟弱な精神でどこまで耐えられるかな」

エスデスが足に力を込めた瞬間、紫電がエスデスを照らし電撃が降り注ぐ。
ウェイブから離れ即座に電撃を避けるエスデス。電撃の主、サリアは舌打ちしながらもエスデスを睨む。
互いの視線が合い、それを合図にエスデスが氷の弾幕を張り、サリアはアドラメレクの電撃を氷に叩きつける。
氷と電撃が激突し、弾け合う。だが、決して拮抗はしていない。アドレメレクは篭手一つに加え、本来の使い手ではなく、尚且つエスデスのような非凡でもない凡人のサリア。
如何に帝具が強力足ろうとも、その戦力の差は大きく開きサリアに降りかかる。
弾ききれなかった氷がサリアの脇腹を掠り、血が滲む。顔を歪ませる間もなくエスデスが肉薄し蹴りを叩き込んでくる。
直接受けてしまったサリアは激痛のあまり立つことすら出来ず、膝を折るが更にその顔面に受け、エスデスの膝が飛びサリアの顔面を直撃する。

「ッ、ぶ……」

「お前もか。度胸は買うが、無謀だな」

視界が揺れ、体が脳の命令を伝達しない。顔面を蹴り上げられた衝撃はサリアに僅かな膠着を生み出した。
そこへ、エスデスがサーベルを振るう。だが、サリアに触れるギリギリでウェイブが剣を翳し弾かれる。そのままサリアを担ぎながらウェイブは一気に距離を取った。

「……お前、残ったのかよ?」
「アンタが、役に立たないせいでね……」
「そりゃ、悪かったな」

使い手は違うとはいえ、アドラメレクが味方に回るのは心強い。
ウェイブは大きく息を吸い、気合を入れなおしエスデスを睨む。

「グランシャリオとアドラメレク。二つとも相手にするには不足はないな」

「うるさい! さっきからこっちを見下して! この上半身デブ!!」

賢者の石でブーストされたアドラメレクから放たれる電撃。
幸い、先のアンジュ戦が後藤の乱入でお流れになったが為に、帯電量も十分補充されそれはエスデスにまで通用する火力を誇る。


326 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:37:53 5KB.IH4k0

「遅い。ブドーの足元にも及ばん」

ただし、それは当たりさえすればの話だ。サリアのアドラメレクの扱いはブドーに比べればあまりんも拙く乱雑だ。
エスデスは一瞬で見切りを付け、氷壁で電撃を伏せぎ、反撃に氷を飛ばす。
サリアは電撃を防御に回すが、氷は電撃に触れても尚、堕ちることはなくサリアの身体を切り刻んでいく。

「な、んで……」

確かに電撃は賢者の石の力で出力は底上げされる。しかし、それでも尚、エスデスの氷には遠く及ばない。
以前の巴マミとの戦闘でも、本来ならばマミが勝利を収めるほどにサリアはマミからすれば格下だったのだ。
それを、コンデションの問題でたまたま勝利を得たに過ぎない。所詮、凡人のサリアでは最強クラスの帝具を扱おうが、非凡人には勝て得ない。

「チッ!」

ウェイブがサリアの服を掴み、強引に抱き寄せ氷の射程外から離脱する。
追尾する氷を剣で弾きながら、サリアを突き飛ばしウェイブはサリアを庇う。
その生身に切り傷を幾つも作り上げながらも致命傷だけは避け、剣を振りながら接近してくるエスデスへの対応も忘れない。
氷のサーベルとウェイブの剣が重なり合う。

「運が悪いな。唯一の応援もあの様ではな」
「ぐぅ、うおおおおおお!!!」

女でありながらエスデスの腕力は男の比ではない。その辺の危険種だけならば、素手でも容易に狩る事がエスデスには可能だろう。
エスデスのサーベルを受けるウェイブの両腕に血管が浮かび、今にも張り裂けそうなほど膨張していく。
額には玉のような汗を浮かべ、全身をバネにしてエスデスのサーベルを返そうと力を籠め続けるがエスデスを後退させることすら出来ず、刃は徐々にウェイブが押されていた。

(なんて、戦いなのよ……。あの女もアレと渡り合う男も化け物じゃない……)

勇んで挑み出たは良いが、戦いのレベルの差を強く痛感させられる。
ここにパラメイルかラグナメイルがあって初めてこの戦いに割り込めるのではないか。
否、仮にそうでも果たしてエスデスに通用するのか。パラメイルかラグナメイルがあろうと、エスデスは容易にの魔氷でサリアを蹂躙せしめるほどの力がある。
今まで出会ったドラゴンや敵のどれよりも、あの女は強い。
やはりそうだ。槙島の言っていた通り、サリアは凡人であり、非凡人には及ばない。
だからアンジュにも追いつけず、エンブリヲも彼女には見向きもしなかった。
これを言った槙島本人ですら、サリアには何の興味ももう抱いていない。


327 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:38:39 5KB.IH4k0

「うおらああ!」

最早、返すことを諦めたウェイブは二本の剣をサーベルに挟み込むと敢えて力を抜く。
サーベルはそのままウェイブの頭上へと振るわれるが、二本の刀で射線を逸らし、ウェイブは横へ転がり避ける。
だが、もう一方の手で氷を生成したエスデスはウェイブへと氷を投擲しその腹部へと貫通させる。
抜けていく血と共に倒れかけるウェイブに袈裟掛けにエスデスはサーベルを振るい落とす。
その銅を斜めに一閃。更に大量の出血と共にウェイブの目線が虚ろになる。そこへ、エスデスは止めの一撃を放つためにサーベルの切っ先をウェイブの胸元へ穿つ。

「アドラメレクッ!!」

そのサーベルに電撃が飛来する。サーベルはエスデスの手から離れ、遥か刀へと吹き飛ぶ。そのままエスデスに電撃を飛ばすがエスデスは飛躍し回避。
サリアは倒れかけるウェイブを支え、地面へと優しく寝かせた。最早ウェイブは身動き一つ取れないのか、サリアの為すままに横たわる。

「何だ。まだ居たのか」
「ええ、まだ居たわよ。もう少しアンタには付き合って貰わないとね!」

ジリジリと足を動かし、ウェイブを戦いに巻き込まぬようエスデスの視線を引きつける。
ウェイブがここまで追い込まれている以上、実質サリアはエスデスとのタイマン勝負にならざるを得ない。
だが、あらゆる面においてエスデスはサリアの遥かに格上だ。しかもサリアはウェイブのような完成された実力もなく、まともにやり合えば数秒で殺されるだろう。
だから、僅かな勝機に掛けるのなら、全身全霊の一撃を込めた大技をエスデスに叩きつける。
幸いにしてエスデスはサリアを完全な格下と見て舐めている。これならば、逃げることはない。
確実にこの勝負には乗ってくる。サリアはアドラメレクの帯電量を篭手の先に貯める。

「ソリッドシュータアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

賢者の石を強く握りしめる。ここまでの連用でこの石に残されたエネルギーも残りわずかだ。
恐らく、この一撃を放てば全て使い切ってしまうかもしれない。

「ほう、アドラメレクの奥の手……。その石の力か」

全身全霊の一撃もエスデスは片手を翳し、氷を展開しあっさり防いでいく。
やはり、最強と称されるエスデスの非凡さとデモンズエキスの強大さ。それらは凡人のサリアが如何に全霊を込めようと、打ち砕くことは不可能。
氷には傷一つ付かないのに対し、電撃は徐々にその出力を落とし勢いが下降していく。
電撃が撃ち負け、その余波でサリアの襲い掛かる。電撃の障壁を展開し直撃は避けるが、その衝撃は確実にサリアの身体を蝕む。
それでも、もう一度エスデスに向かいサリアは体の悲鳴すら無視して電撃を放つ。
エスデスは埃を払うような動作で手を振るい、氷の風が電撃を軽く煽り相殺される。


328 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:39:21 5KB.IH4k0

「ぐっ、ハァ……ハァ……」

電撃と氷が乱れ飛ぶ横でウェイブもまたギリギリ意識を繋ぎ留め、全身を流れる激痛と出血を無視しグランシャリオを杖代わりに立ち上がる。
戦況は最悪だ。どうやっても勝てるビジョンが浮かび上がらない。

「でも、なァ……勝たなきゃならねえんだよ!!」

誰に言うでもなく、自らを鼓舞するように吐き出す。
ここで倒れればアカメだけではない。エスデスの事だ、アカメと関わった全ての参加者に手を出す可能性も十分にある。
それはウェイブが守らなければならない。守ると決めた、力のない民だ。

「……本当に馬鹿だったよ俺……」

エスデスにもブラッドレイにも言われた。迷いがあり精神にムラがあるから剣が鈍るのだと。
ああ、その通りだ。ここに来てからのウェイブは、常に迷い続けていた。何が正しくて間違いなのか。ウェイブには分からない。

「今でも、何が正しいのか何てわからない……だけど……俺はあいつ等を護りたい……それだけで十分じゃねえか」

あいつらとはセリューでもあり、死なせたクロメでもあり、先を行かせたアカメ、新一、花陽でもあり、攫われた雪乃でもある。
そうだ。彼ら彼女らを誰一人として死なせたくなかった。だから、ウェイブは戦う。そこに悪も正義もない。
例えセリューがどんな間違いを犯していようとセリューは仲間だ。サリアのように説得し、一緒に間違いを正したい。
クロメが光子を襲ったのも許せないことだ。それでもウェイブはクロメが好きだった。だから、共に生きて彼女が今まで犯した罪を償い続けたかった。

「……そうか、俺やっぱりクロメの事が……」

狡噛達にも否定された仲間達だ。だが例えどんな連中であっても仲間を護りたかった筈なのに、ウェイブはそれすらも迷っていた。
彼らが否定する仲間はやはり、悪なのかもしれないと。
確かに、見方によっては悪だ。それでも仲間を救う、そんな想いが間違いな筈などない。

それに気付けなかったから、ウェイブは今まで周りを傷つけてきた。この優柔不断な精神が周囲を切り裂く刃になっていた。

簡単な事だ。仲間が間違えたのなら、一緒に正せばいい。
クロメの狂気が誰かを傷つけるなら、その狂気をぶち壊し、忘れさせてやれば良かった。
そんなことにすら気付けず、何時までもウジウジ悩んでいたから穂乃果を花陽を雪乃を傷付け、守る筈の仲間すら狡噛に撃たせてしまった。


329 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:41:33 5KB.IH4k0

「遅すぎるんだよ……。俺はいつもさ……」

でも、まだすべてを失った訳じゃない。まだウェイブには仲間が居る。
ウェイブが倒れるには早すぎる。

「ごめんな、クロメ。もっと早くに気付けたら、お前の事を助けてやれたかもしれない……。きっと違う未来も歩めたんだ」

ここに来て、クロメの姿ばかりが頭に浮かぶ。これほどまでにウェイブは彼女に想いを寄せていたのか。
失って初めて、彼女の大きさが良く分かる。
多分、この先の未来ではもっと二人の仲は深まり、きっと、ウェイブがクロメを救い。二人で全てをやり直す。そんな優しい未来もあったのかもしれない。
勿論、その逆もあり得たが、未来は無限に広がるのだ。断言はできない。
生きてさえいれば、誰にだって可能性があったのだから。
そんな、もう否定された未来に思いを馳せながら。グランシャリを前に構え、ウェイブはもう一度その鍵剣の名を開放する。
既に残された体力は少ない。相手もエスデスであることを考えれば、これが最後の戦いになるかもしれない。

「もう迷わねえ。もうこれ以上誰の未来も奪わせない! 例え相手が俺の隊長だとしても!!
 ―――グランシャリオォォォォォオオオオオオオオ!!!」






330 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:41:57 5KB.IH4k0


とうとう、サリアが放つ電撃の猛攻がなくなった。
帯電量が切れ、戦闘に使える電流がないのだ。こうなってはアドラメレクはただの篭手。
舌打ちしながら、銃を取り出し発砲するが、着弾の寸前冷気で全ての弾丸が凍結し墜ちてゆく。
銃弾を素で見切れる動体視力も呆れたものだが、その銃弾の勢いを凍らせる程の冷気も強大過ぎる。
接近戦に持ち込まれては、勝ち目はないと咄嗟に後ろに飛び退くが。エスデスがの踏み込みで一瞬で距離を詰められ、その鳩尾に拳を叩き込まれる。
息と唾を吐きながら、吹き飛ぶサリアの髪を強引に掴み、地面に叩きつける。
血と涙と汗が混じり飛び、エスデスを汚すが、彼女は気にするどころか歓喜に震えるように口元を歪めた。

「ここまで、ご無沙汰でな。少し物足りなかったんだ。
 お前は良い声で鳴きそうだな?」

エスデスの残虐な顔は、これからお前を玩具にして遊ぶと宣告されたようなものだった。
その顔を見ながら、どうして自分はこんな馬鹿な真似をしたのか自問自答する。
最初は嫉妬からだった。その嫉妬対象を殺すのに邪魔だったから、マミと海未を殺した。
次も……同じだ。邪魔だからキリトを殺した。

(いつもアンジュの周りには人が集まるのよね)

最初はアルゼナルで孤立したアンジュも最後には実質アルゼナルのリーダー格にまで上り詰めている。
ここでも、単独行動と配置運が悪いだけでもっと多くの人物と出会えていれば、きっと中心的な人物になり得たのかもしれない。
それこそサリアとは違う。彼女の持つ、非凡さ故に皆が集まる。

(……馬鹿ね。そんなのあの白髪男の受け売りじゃない)

凡人だから非凡人だから。そんなのは関係が無い。
ただアンジュは自らの道を自分で切り開こうとした。その時、その道を歩く者たちが集いそれが仲間になっていっただけだ。

(そうよ……私だって……本当は……)

仲間が居た。表には出さないし、普段は死ねば良いぐらいに思うほど険悪だったが。
それでもアルゼナルのあの部隊はサリアにとっての居場所であり、仲間達だった。
そしてサリアを大事に思ってくれる人もきちんと居た。あの雪乃ですら羨ましがるほどの家族がずっと傍で見守ってくれたのに。
サリアはそれに気づかないで全てを捨ててしまった。挙句の果てに、他人の仲間まで奪い去り悲しみのどん底にまで突き落とした。
取り返しのつかなう事だ。もう引き返せない。


331 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:42:21 5KB.IH4k0

「―――なのに、馬鹿よね。アンジュもヒルダも……説得しようとして、新一も雪乃も花陽とかいうのも……。やり直せだなんて」

エスデスの手がサリアに触れた。これでサリアの命はエスデスの所有物だ。
生かすなり殺すなり、エスデスの意のままであり。サリアは為す術もない。
だが、その眼はまだ死んでいない。そこからの逆転を信じ、未だ自らの勝利を諦めていない戦士の目だ。

「アドラメレク!!!」

生粋の狩人であるエスデスには隙は全く見当たらなかった。サリアを舐めていようがそこに慢心はなく、万が一の逆転もない。
だが、狩人は狩人であるがゆえにたった一つの大きな隙が存在する。得物を狩り、勝者となった狩人はその勝利を疑わなず喰らおうとする。
たった今、エスデスはサリアに勝利しその獲物を喰らおうとした。それは彼女がこの殺し合いで見せた最大の隙であり、強者が弱者を蹂躙する事こそが真理だと疑わない狩人(エスデス)故の弱点。

「―――!」

自らの身体ごとエスデスに電撃を放つ。既に帯電量がなくなったアドラメレクにこれ程の電機はない。
なければ、創り出せばいい。サリアの手にはあらゆる対価を無視し、万物を生み出す赤の宝玉が握られているのだから。
以前の戦闘ではまだ賢者の石の力を完全に理解しなかったサリアだが、人は成長する。この戦闘に至るまでに彼女は賢者の石の力を完全に把握していた。
例え凡人であろうとも、その進みが非凡人に劣る道理はない。

咄嗟に距離を開けたエスデスは電撃を直接浴びることはない。が、ここで初めて先手をサリアに奪われた。
賢者の石をフルブーストした最大のソリッドシュータ。氷を展開するエスデスだが、その威力と速度に氷に生成が甘い。

「ッ!!」

ここで初めてエスデスが圧された。
如何にエスデスでも即席の氷では賢者の石の力を過剰したアドラメレクを防ぎきれない。
その足で大地を支えながら、だがその顔は大きく笑顔に歪む。
自身のダメージすら厭わず、虎視眈々とエスデスの隙を狙い、見事それを付いた戦法は見事だ。


332 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:44:07 5KB.IH4k0

「やるじゃないか! ここに来て私を圧したのはお前が二人目だ!!」

「こ、の!」

不意を突きながらも、だがエスデスの余裕はまだ崩れない。最初は押されたエスデスも徐々に電撃を押し返し。
再び拮抗は崩れ、電撃と氷の拮抗はサリアの方へと負荷が押し寄せる。
更にサリアは、自らの身体ごと電撃をエスデスに放ったのだ。そのダメージ量は決して小さくはない。
この拮抗状態が続くだけでも、その負担だけでサリアの意識は今にも遠のき掛ける。

「……私は才能なんてないし、アンジュやアンタにも何も勝てない。だけど、嫉妬深さと執着心の強さだけなら誰にも負けない自信があるのよ!!!」

酷使し続ける身体に鞭を打ち、サリアは声高に吠える。
その気迫に圧倒されたのか電撃の火力が増していき、再び氷がエスデスの元へ押し返されていく。

「ああ、俺だってな。ここで退くわけにはいかないんだよオオオオォ!!!」

否、電撃の力ではない。黒の鎧に身を包んだウェイブがその拳を氷に叩きつけていた。
グランシャリオとアドラメレク。二つの力が合わさったその瞬間、魔神顕現デモンズエキスを凌駕したのだ。
電撃と拳は見事、氷を粉砕し、残るエスデスの身に到達するのみ。

「―――最高だぞ。やはり、ここまで足を運んだのは正解だった!!!」

だが、その使い手であるエスデスを凌駕したわけではない。
エスデスはあの氷が破壊される寸前に力を込めた二つ目の氷を用意していた。
それも先の物とは比べ物にならない。一エリア消し飛ばせる程の巨大な氷の隕石だ。

「さあ、これもお前たちはどうやって破る? 私に見せてみろ!!」

電撃が拳が氷に触れ、先ほどの氷以上の圧力に二人の進撃は踏み止まる。
二人の体力も底をつきかけ、グランシャリの全身に罅が、サリアの賢者の石は以前の宝石のような輝きは見る間影もなく、あまりにも小さい。
既に手の内を出し尽くしたウェイブとサリアに対し、未だエスデスは健在。手を焼きはしたが、その全力は一片も見せてはいない。


333 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:44:42 5KB.IH4k0

「くっそ……頼むよ……これ以上、もう俺のヘマで誰も傷付けさせたくないんだ!!」

ウェイブも叫びも空しく、グランシャリオは崩壊を始めていく。
当然だ。ウェイブはここに来てその精神を立て直し、本来の完成された実力を出し切る事に成功したが、決して強くなったわけではない。
ウェイブの実力ではエスデスには勝てない。それは、明確な序列である。
雷神と修羅の帝具は、女王の息吹を得た魔人の帝具に飲み込まれていく。これが帝国最強の実力であり現実。
何を以てしても覆らない絶対的な支配。
だが、その支配を良しとしない存在がある。
絶対的な支配を壊す、イレギュラーが。

「もっと、気張りなさい! アドラメレク!!!」

ウェイブ程の実力もなければ、才能だってない。マナも歌も何もないただの凡人が。
ここまで、命を張り未だに諦めないのだ。

(情けねえ……サリアの奴が諦めてないのに……俺は……!)

民の為に戦うと誓ったウェイブがここで退くわけにはいかない。
ウェイブもそして新一達が説得し、罪を償わせるサリアもここで死なせない。
生きてさえいれば何だって出来る。

(アンジュは何があろうと最後まで生き抜こうとしてた……。諦めないし、だからきっと皆がアイツの周りに集まった……。
 私だって――)

絶対的な支配はいずれ必ず滅びる。正しい歴史においてエンブリヲがノーマに敗れたように、帝国が革命軍により滅ぼされたように。

「何?」

氷に亀裂が走り、罅割れていく。エスデスの表情から笑顔が消えた。
期待はしていたが、二人の力を合わせたところでこの氷を打ち破るのは不可能であると、エスデスは心の何処か決めつけていた。
事実、エスデスの分析は的確で先程までは戦況はエスデスに傾いていたのだ。しかし、それは以前までの話だ。


334 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:45:26 5KB.IH4k0

「青い、アドラメレクだと?」

氷を砕く電撃の篭手は、ダイヤのように透く、海のように深い青に染まり更なる出力を増している。
その青き雷を纏いながら、漆黒の鎧がより一層輝きを増していく姿は。エスデスを以ってして神秘的だと言わざるを得ない。
こんな奥の手はアドラメレクにはなかった。無論、グランシャリオにもだ。
考えられるのは、エスデスが時間停止の世界に強引に踏み入ったように、サリアがここに来て奥の手を生み出したこと。
だが、サリアにアドラメレクの適正は殆ど無い。主催の調整で帝具の相性問題は緩和されているが、やはりサリアは凡人だ。そこまでの奇跡を単独では起こせない。
しかし、いくつかの偶然が重なり奇跡は必然のように起こる。
正しい未来で、サリアはエンブリヲに支配されたクレオパトラを覚醒させ、エンブリヲに勝利をおさめた。吹っ切れたサリアの精神力は強靭でありエンブリヲの支配すら退けるのだ。
帝具は時として、人の想いに答える。パンプキンが精神エネルギーを糧にするように。未来おいてタツミの叫びで、インクルシオが進化するように。
ここに来て、精神的に吹っ切れ始めたサリアの想いは僅かながらにアドラメクレにも影響した。
そしてもう一つ。成り行き上共闘しているウェイブの存在だ。彼もまた可能性にあった一つの未来で、二つの帝具を同時に使用し、更に己の力を高めたことがある。
ウェイブは無意識の内にサリアの帝具を使い、結果としてその双方の力を高め合ったのだ。主催が施した相性の緩和があったからこそ起きた偶然。
これらが全て重なった事で、アドラメレクとグランシャリオは新たな領域に到達し、魔氷は砕け散る。

「「ダイヤモンド・ライジング・ローズ・グランシャリオォオオオオオオオオ!!!」」

エスデス以上に驚いているのはウェイブとサリアだろう。いきなり、唐突にこれ程の力が湧いてきた現象に彼らは全く心当たりがない。
無論、アドラメレクの隠された奥の手でもない。
そこまで考え掛けウェイブは思考を止める。どうでもいいことだ。今は―――

「この拳を叩きつける事だけを―――」

グランシャリオの鎧が崩壊し、既にウェイブの身体を纏っているのはその右拳と顔の半分程度だ。
だが十分だ。この一撃さえ通れば。

氷と雷と拳。三つ巴の一撃が交錯し、ウェイブの視界は光に包まれた。








335 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:45:57 5KB.IH4k0





黒に包まれた視界が揺れていく。車などのような乗り物の揺れ方とは違う。
何処か人間味があり、温かさすら感じる。ヒルダの記憶の中で似た経験のものは、ママの腕の中で眠った幼少期の頃の記憶だ。
リンゴの匂いに包まれてママが居て、人間らしい生活をしていたあの頃。

「……た……」

「……?」

「気付いたか!?」

目が覚めた時、視界に入ったのは自分を担ぐママとは似つかぬ若い男。
一瞬、気恥ずかしさで一杯になるがすぐに取り繕い、状況を整理する。
確かウェイブの救出兼、時間稼ぎを自ら引き受け。それから―――

「……サリア?」

サリアに電撃をかまされ、ヒルダは意識を手放した。そこまでが彼女が覚えている全ての記憶だ。
辺りを見渡すが当然サリアの姿もなければ、ウェイブもエスデスの姿もない。
つまり、サリアだけが残りヒルダが逃がされたのだろう。

「ごめん……。とにかく、今はこれからの事を話す。俺はアンタと花陽を連れて学院に向かう。
 足立はアカメが追う。多分、あの変な人形みたいな能力は俺らじゃ勝てない。せめて、アカメかウェイブじゃないと」
「そう、か。サリアの奴……」

結局のところサリアはお人好しだったのだろう。
道を踏み外しても尚、性根の部分は自分の身よりも他人を優先しヒルダを逃がした。
もっと早くにヒルダがサリアに会えていれば……。

(ここに来てから、そんなことばかりだ)

モモカの時ももっとヒルダが覚悟を決めて、戦っていれば。
アンジュの時も後藤の遭遇場所から推察して、ヒルダが応援に行けない距離では無かったはずだ。
サリアだって、説得しこれからというときにまた―――。

「全員、どいつこいつも私の近くで居なくなりやがる……。せっかく全て手に入れたと思ったのに……」


336 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:46:22 5KB.IH4k0



『……これは? シンイチ、後藤だ!』

「え?」

走る二人の前方から接近する人影。
エスデスの氷を受けながらも尚、後藤は闘争心を萎えさせず、その眼光を新一へと向ける。
飛来する鎖鎌をアカメが弾き、新一は大きく距離を取る。

「お前、まだ生きていたのか!?」
「あの氷。規模はでかいが、冷静に見切れば対処できない攻撃ではない」

刀と鎌が火花を散らし、アカメと後藤の目線が交差する。
今のアカメに後藤の相手をする暇はない。一刻も早く、足立を追い雪乃を救出しなくてはならない。
だが後藤はアカメを焦るアカメを嘲笑うように、攻撃の手を緩めない。

「ぐっ―――!?」

「さっきの“知らない”太刀筋はどうした? 剣が乱れているぞ」

アカメの身体を鎖鎌が切り裂き、切り傷を作り出す。
先の戦闘と逆転し、余裕のないアカメが後藤に圧されだしていた。

「どうすりゃ、雪ノ下だって……」
『待て、ここはアカメも連れて逃げろ』
「ミギー?」
『敵の敵は味方という言葉があるだろう。……少し意味は違うが、それを実践しよう。
 アカメと我々とで後藤を連れ、足立を追うのだ。そして、後藤を足立に押し付け私たちは雪乃を救出し離脱する』
「俺たちで、後藤を誘き出す?」
『後藤の狙いは私達だ。奴は不足したパラサイトを補充する為、私や田村玲子を狙うはず。
 そして闘争相手として、アカメにも入れ込んでいる部分がある。私達が逃げれば必ず追いかけてくるだろう』
「でも、そう上手く行くのか?」
『君が一人で足立に挑んでも、勝ち目は薄い。ヒルダを連れても難しいだろうな。
 花陽は言うまでもない。
 何より、私達の生存とこの場に居る全員の安否を確保するならこれしかない』
「だけど……」

新一としては、後藤以外に殺し合いに乗った参加者の存在も気になっている。
もしここでアカメを連れ、後藤を引き離しても、彼女たちが二人っきりになった時に後藤のような凶悪な参加者に襲われれば危険だ。


337 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:46:47 5KB.IH4k0

「舐めんな。一般人の護送くらい私一人でもやれる。
 お前は雪乃って奴を助けに行ってこい」
「……ヒルダ」
「わ、私も……大丈夫です。だから、雪ノ下さんを助けてあげて下さい!」

拳銃を構え、ヒルダは花陽の手を強く握りしめる。
花陽もその手を強く握り返す。二人とも覚悟は万端という事だろう。

『それにシンイチ。学院まで距離は近い。
 何より、穂乃果と黒子という二人が誰の力も借りないまま学院に着いたとは思えん。
 強力な、それも殺し合いには否定的な参加者と合流して学院に居るかもしれん』

「……分かったよ。ヒルダ、小泉を頼む」
「ああ。それとこんな時に言う事じゃないが、余裕があったらでいい。もしもキナ臭い指輪やパラメイルかラグナメイルっていう巨大ロボットを見つけたら私に回してくれ。
 戦力が欲しい。あのエスデスとか言うイカレにも、下手すりゃイリヤの馬鹿にすらこのままじゃ勝てねぇ」
「い、イリヤって……? わ、分かった」

あれだけ化け物染みた連中が闊歩するのだ。
恐らく序盤はバランスを崩壊させてしまう為、表には出していないが。
何処かに、パラメイルやラグナメイルのような兵器を隠している可能性は高いとヒルダは考える。
でなければ、ノーマをわざわざ呼んだりなどしない筈だ。
下手をすれば、首輪換金システムもその為に導入したのかもしれない。

新一も新一で聞き返したいことはあったが、時間がない。
後藤とアカメの戦いに意識を向け、新一は駆け出す。

アカメと後藤の斬り合いの中、刃化させたミギーを翳しながら新一が突っ込む。
以前の戦闘で、ブラッドレイの一撃を見切れたのだ。
それに比べ、後藤の技術はブラッドレイには及ばない。少なくとも、一度だけならば新一も二人の戦いに介入できる。
後藤の鎌を弾きながら、新一はアカメを掴み走り出す。
人外の怪力に為す術もないまま、アカメは新一に連れられて足立の向かった方向へと引っ張られる。


338 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:47:07 5KB.IH4k0

「シンイチ、何を?」
「話は走りながらする。とにかく、今は来てくれ!」

叫びながら、後ろを確認する。
後藤は一度、視線を新一達とは別方向に走るヒルダと花陽に視線を向けるが、僅かな逡巡の末、後藤は新一を狙い走り出す。
成功だ。少なくとも、後藤を釣るという最低条件を満たせた。

『よし、第一段階はクリアした。次は足立に追いつくまでに我々が殺されないようにしなければならない』
「そこが一番、難しそうだけどな!」

事情を把握したアカメも刀を構えながら、新一に並べ疾走する。
その様子に後藤も、これはただの闘争ではないと察した。
恐らくは次なる戦いへの伏線。工夫の一つなのだろう。
丁度いい。奴らの戦い方ももっと見て学びたかったところだ。
あの誘いに乗るだけの価値はある。

「……あの氷の女とも戦ってみたかったが、まあいい。今はお前が先だ泉新一!」

新たな強さと、元の五頭を取り戻すために。今は一頭の怪物が駆け出した。





339 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:52:14 5KB.IH4k0


「まさかな……ここまでとは思わなかったぞ。ウェイブ!」

予想以上の戦いにエスデスは驚嘆し笑う。
あの短期間でウェイブが成長し自らを下す寸前まで食い付いてきたのだ。あの横の女の助力も当然あるのだろうが、それを考えても驚異的な進化だ。
完成された実力。それ故、それ以上の見込みはないと判断したていたが、これは少し見方を変えるべきかもしれない。
もしも、あの時アドラメレクが片腕だけではなかったら? もしも、ウェイブの体調が万全だったら?
ああ、一つの要素が違うだけでも戦況は大きく変わったかもしれない。
幸い、奥の手は使わずに済んだが、下手をすれば使わされていた……いや使っても尚、負けていたのはこちらかもしれない。
そんな死ぬか生きるかの瀬戸際に、先ほどまで立っていた事実にエスデスは笑いが止まらない。
と、同時にエスデス自身ももっとその先の強さが欲しくなる。未だ奥の手を披露していないが、もう一つ開発してみるのも悪くはない。

「認めよう。ウェイブ、お前は私の敵であり、獲物だ。
 せいぜい、他の連中に喰われるなよ」

今はウェイブを追うことはしない。疲労困憊のウェイブを倒したところで面白くない。
それよりも、アカメを追う方がエスデスの中での優先順位は高い。
今頃、アカメは足立を追いあの二人の距離は近い。
エスデスからしても足立には興味がある。
あの人形を操る能力に加えて、足立は良い声で鳴いてくれそうだ。
この場に来てから全く悲鳴を聞いていない。
そろそろ、ペットが一匹欲しいところにアレだ。丁度いい、アカメを殺すついでに足立を捕らえに行くのも良いだろう。

「だが、何故だろうな……不思議だ。南の方角から胸を締め付けるようなキュンとした想いが込み上げてくる」

しかし、同時に特にジュネスとかいう施設の辺りから、何かエスデスを引き付けるようなものを感じるのだ。
これは一体、何なのか……。
異様に惹かれるものがある。もしや、恋する女の直感が働きそこにタツミが居るとでもいうのだろうか。

「他にも御坂の行方も気になる。それに、あの氷をぶつけた男。恐らく承太郎の言っていた後藤だろうな」

戦い方はともかく、身体的特徴は承太郎の言う後藤にそっくりだ。
その承太郎からの情報通り実に強く興味をそそられる。氷をぶつけた瞬間、後藤は後ろに飛び退き衝撃を最小限に留めていた。
戦場からは完全に離脱したが、ダメージは0にも等しいだろう。是非ともあの男とも戦ってみたい。

「さて、何処へ向かうかな」

アカメの追跡か敢えて引き返し御坂の探索再開か、ジュネスか足立確保か……アカメと関わった連中を炙り出し、拷問するのも良い。
ここに来てエスデスの楽しみはグンと広がった。
氷の女帝は一人ほくそ笑む。血と殺戮の匂いを醸しながら、彼女は足を踏み出した。


340 : Before the Moment ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:53:30 5KB.IH4k0






遥か彼方に吹き飛ばされたらしい。
目を覚ましたウェイブが思ったのはそんなことだ。
最後の拳がエスデスに入ったのかは分からないが、少なくともエスデスと戦いウェイブは生還出来たのは現実らしい。

「あの世って訳でもないしな……」

ここは間違いなく現実だ。この殺し合いの会場の空気は何度も吸っている。
だが不思議なの事に身体の痛みが無いのだ。エスデスの相当手ひどくやられ、正直なところ死も覚悟した程だ。
そこへ、こちらを見下ろす少女の姿が目に入る。

「お前、サリア……」

ウェイブの覚醒に気付いた瞬間、糸が切れたようにサリアが倒れる。
支えるウェイブだが、その全身が傷だらけな事に目を見開く。一刻も早い治療が必要だ。
幸い、ウェイブたちが飛ばされたのはマスタングの居る西のエリア。賢者の石を手渡し、治療を頼めば助かる。

「しっかりしろ! 賢者の石はあるな。それで……」
「もう、ないわ」
「え?」

サリアの手にはあの紅い宝石はもうない。
何故なのか。確かにあの戦いで賢者の石を相当な量消費したのだろうが、ウェイブは意識を失う寸前に僅かながらに残った賢者の石を目に焼き付けている。

「……使、ったの、よ……。アンタに」

「なっ、お前……」

全ての合点がいく。ウェイブの全身がこんなにも楽なのは治療されたからだ。
それも賢者の石で。

「出鱈目に、やったんだけど……その様子じゃ、上手く行った、わね」
「何で、こんな……」
「これ、あげる。アンタが……」

手に持った罅だらけのアドラメレクを手渡され、サリアは力なく腕を垂らす。

「あと、雪乃達や……ヒルダの、事も……」
「ふざけんな! やり直せってアイツ等に言われてただろうが! 
 お前が許されない事をしたのは知ってる。でも、生きろよ! 生きてりゃ誰だって……」

(やり直せ、か……。本当にやり直せたかな……今更、よね……)

セリューやクロメだって生きてさえいれば。サリアの姿が二人と重なる。
死なせてなるものか。息も薄くなるサリアを抱きかかえながらウェイブは歩みだす。
マスタングを探しても賢者の石が無ければ意味がない。それよりは医療道具のあるイェーガーズ本部に行くべきだろう。

「しっかりしろ! 絶対に死ぬな!!」

(悪いわね。新一、私はアンタの言うようにやり直せないわ……)

新一の言う通りだった。きっと順番が違ってしまったのだろう。
もし、サリアの目を覚まさせる人物ともっと早くに会っていれば、こんなことにはならなかった。
三人も殺さず。こんな引き返せないところまでこなかっただろう。

「……ごめんなさい、皆……」

「馬鹿ッ! 謝るなら、本人の前に行って自分で……」

きっと。最後にはアレクトラと和解し、世界を壊し自由となったハッピーエンドも存在したのだ。
けれども、IFの物語はそこへは至れない。




「ごめんなさい、アレクトラ―――」



【サリア@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 死亡】


341 : ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:54:06 5KB.IH4k0



【F-4/一日目/午後】


【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(大)、頭部出血(中、止血済)、頬に掠り傷、全身にかすり傷、奥歯一本紛失、顔面に打撲痕
[装備]:サラ子の刀@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:なし
[思考]
基本:悪を斬る。
1:足立を追い、雪乃を救出する。
2:キンブリーは必ず葬る。
3:タツミとの合流を目指す。
4:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
5:村雨を取り戻したい。
6:血を飛ばす男(魏志軍)と御坂は次こそ必ず葬る。
7:エスデスを警戒。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が学園都市に属する能力者と知りました。
※ディバックが燃失しました
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。



【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(大)、出血(止血済み)、横腹に刺し傷、ミギーにダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム品0〜1 消火器@現実、分厚い辞書@現地調達品、キリトの首輪
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:足立を追い、雪乃を救出する。
2:後藤、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂美琴らしい?)エスデスを警戒。
3:ホムンクルスを警戒。
4:サリア……。
5:イリヤって確か、雪ノ下達が会った……。
6:ヒースクリフを探し首輪を渡す。 
7:余裕ができたら指輪やロボットも探してみる。
[備考]
※参戦時期はアニメ第21話の直後。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※ミギーの目が覚めました。


342 : ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:54:35 5KB.IH4k0



【後藤@寄生獣 セイの格率】
[状態]:寄生生物一体分を欠損、寄生生物三体が全身に散らばって融合
[装備]:S&W M29(4/6)@現実、鎖鎌@現実
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、スピーカー、デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾45@現実、一撃必殺村雨@アカメが斬る!(先端10センチあまり欠損)、アンジュの首輪、不明支給品0〜1(アンジュ分、武器らしいものはなし)、不明支給品0〜1(キリト分、武器らしいものはなし)
[思考]
基本:優勝する。
0:新一を追う。
1:泉新一、田村玲子に勝利し体の一部として取り込む。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。ヒースクリフ(茅場晶彦)に興味。
5:田村怜子・泉新一を探し取り込んだ後DIOを殺す
6:黒、黒子とはこの身体に慣れてからもう一度戦いたい。
7:武器を使用した戦闘も視野に入れるが、刀(村雨)はなるべく使用しない。
8:氷の女(エスデス)とも戦ってみたい。

[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。
※黒い銃(ドミネーター)を警戒しています。
※百獣王化ライオネル@アカメが斬る! は破壊されました。
※寄生生物三体が全身に散らばって融合した結果、生身の運動能力が著しく向上しました。
ただし村雨の呪毒によって削られ、130話「新たな力を求めて」の状態を100%とすると現在は75%程度です。
※寄生生物が0体になった影響で刃は頭部から一つしか出せなくなりました。全身を包むプロテクターも使用できなくなりました。
※ミギーのように一日数時間休眠するかどうかは不明です。



【F-3/一日目/午後】


【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(極大) 、爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血
[装備]:MPS AA‐12(残弾4/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率、
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み) 警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:対主催に紛れ込んで身の安全を確保する。無理ならゲーム肯定派と手を組む(有力候補は魏志軍)。
1:ゲームに参加している鳴上悠・里中千枝の殺害。
2:自分が悪とバレた時は相手を殺す。
3:隙あらば、同行者を殺害して所持品を奪う。
4:エスデスとは会いたくない。何でこっちくんだよ……。
5:DIO...できれば会いたくないし気が進まないけど、ねぇ。
6:しばらく交戦は避けたい。休みたい。 ほんと勘弁してくれよ!
7:殺人者名簿を上手く使う。
8:逃げる。とにかく人質(雪乃)を上手く使う。
9:広川死ね!あの化け物(後藤)とエスデス死ね!もうみんな死ね!
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。


【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大) 、腹部に切り傷(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、MAXコーヒー@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている、ランダム品0〜1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
0:セリューには由比ヶ浜を殺した償いを必ずさせる。
1:何とか足立から逃げたいが。
2:比企谷君...由比ヶ浜さん...戸塚くん...
3:イリヤが心配
4:サリアさんは……。
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。


343 : ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:55:44 5KB.IH4k0


【G-5/一日目/午後】

【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(大) 、左肩にダメージ、ノーパン、頭部出血(中)、全身にガラスによる切り傷。アンジュを喪った衝撃(超極大)
[装備]:グロック17@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2、クロのパンツ フォトンソード@ソードアート・オンライン
[思考]
基本:ノーマらしく殺し合いを潰す。
1:イリヤをぶちのめす。あの化け物(エンヴィー、名前は知らない)には要警戒。
2:花陽を学院まで護送する。
3:エンブリヲを殺す。
4:マスタングとイェーガーズ(ウェイブはともかくエスデス)を警戒。マスタングは千枝とは会わせないほうが良いかもしれないが、千枝には決着はつけさせておきたい。
5:キンブリーの言葉を鵜呑みにしない。
6:千枝とは別行動し、全てが片付いたら地獄門で合流すし足立の事について問い質す。
7:強い戦力になるもの、特にパラメイルかラグナメイルが欲しい。
8:アンジュ、モモカ、サリア……。
[備考]
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。
※クロエの知り合いの情報を得ました。
※平行世界について半信半疑です。
※キンブリーと情報交換しました


【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(中)、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません)
[装備]:音ノ木坂学院の制服
[道具]:デイパック×2(一つは、ことりのもの)、基本支給品×2、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ、スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation 、寝具(六人分)@現地調達、サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:穂乃果と会いたい。
3;μ'sの仲間や天城雪子、由比ヶ浜結衣の死へ対する悲しみと恐怖。
4:セリムくんは本当にただの人殺しなのかな...?
5:雪乃には無事で居て欲しい。
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後。


344 : ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:57:27 5KB.IH4k0


【F-5/一日目/午後】

【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、全身に打撃痕(痛みは無し)、高揚感、狂気 、欲求不満(拷問的な意味)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:亡き友アヴドゥルの宿敵DIOを殺す。
1:ジュネスか、アカメか、御坂か、足立か。
2:クロメの仇は討ってやる。
3:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
4:タツミに逢いたい。
5:ウェイブを獲物として認め、次は狩る。
6:拷問玩具として足立は飼いたい。
7:アカメ(ナイトレイド)と係わり合いのある連中は拷問して情報を吐かせる。
8:後藤とも機会があれば戦いたい。
9:もう一つ奥の手を開発してみたい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。
※平行世界の存在を認識しました。




【D-4/一日目/午後】

【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(大)、出血(中、止血済み)、疲労(超絶大)、精神的疲労(大)、左肩に裂傷、左腕に裂傷、全身に切り傷
[装備]:修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!、エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:ディバック、基本支給品×2、グリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ、不明支給品0〜3(セリューが確認済み)、首輪×2、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!
    雷神憤怒”アドラメレク@アカメが斬る!(左腕部のみ 罅割れあり)
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。一度自分達の在り方について話し合い、考え直す。
0:キンブリーは必ず殺す。
1:エスデスが誰かを害するのなら倒す。出来れば説得したいが。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具は移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:セリューと合流し、一緒に今までの行いの償いをする。
6:サリア……。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。
※自分の甘さを受け入れつつあります。


345 : ◆w9XRhrM3HU :2015/12/28(月) 01:57:46 5KB.IH4k0
投下終了です


346 : 名無しさん :2015/12/28(月) 05:32:11 LlUcYZ1o0
お、二つも投下が…乙です
>>どうせ最初から結末は決まってたんだ

さやかちゃんが完璧に堕ちてしまわれた…タツミがぶれなさ過ぎて相性が良くなかったのだろうか
とは言え他の参加者に危害を加えるかもしれなくて自分も殺そうとした相手を何だかんだで気にしてるあたりまだ優しいのかも
番長はナイスタイミングで助太刀できたな。そして冒頭の首輪の数が足りなかった魏志軍さんはちょっと気の毒だったw

>>堕ちた偶像

後藤戦ではアカメ、ウェイブ、新一、ヒルダ、雪乃、花陽、サリアと皆が連携してたしミギーは作戦立てるの上手い
アカメと新一とゆきのんとサリアは最初の方に出会ってたからここでやっと決着が付いたのは感慨深い…サリアさんも最後で改心できたし八幡も報われたなぁ
ウェイブはエスデス様を目の前にしても自分自信の答えを出せたのがかっこ良かった。天国から地獄に落ちてしまった足立さんは乙としか…w
そしてどんな時でも闘争心を失わない後藤さんは本当にマーダーの鑑


347 : 名無しさん :2015/12/28(月) 13:23:17 0DsoZ/lg0
投下乙です

さやかちゃん相手にバッドコミュとり続けるタツミに草、不味いですよ!
ウェイさんはさすがだぜ。戦闘が一々スタイリッシュでかっこいい。黒さんとのバトルを是非…!
番長はようやくイザナギに戦闘させられたね…ここまで長かった

あ、足立ダイーン!とりあえず足立はもう休め
サリアがかっこいいな。グランシャリオとの合わせ技は思わず痺れました
エスデスは本性が出てきたなぁ、負け知らずの彼女だけどこれはロワ、ここからどうなるか
そして…後藤さん、アンタがマーダーのエースオブエースだよ


348 : 名無しさん :2015/12/28(月) 18:07:54 QjJCEB0.0
投下乙です

>どうせ最初から結末は決まってたんだ

盾にされた女の子ぶんなぐるって…そりゃ魔女にもなりたくなるよねさやかあちゃん
首輪交換機ににべもなくそっぽを向かれたエルフ耳さんかわいそう、頑張って生き残って!

>堕ちた偶像

エスデスさんクッソ強いな…アドラメレクとグランシャリオ相手でも余裕あるとか
サリアさんはやらかしたけど綺麗に退場できたなぁ…八幡も少しはこれで…
そして足立に救い(休み)は無いんですか!


349 : ◆w9XRhrM3HU :2015/12/29(火) 00:11:46 3x5AcDSw0
多くの感想ありがとうございます

一応こちらでもご報告させていただきます
色々あったので酉を◆ENH3iGRX0Yに変更させていただきますのでよろしくお願いします


350 : ◆rZaHwmWD7k :2015/12/29(火) 20:20:13 v28NZZgk0
投下します


351 : これはゲームであっても、遊びではない ◆rZaHwmWD7k :2015/12/29(火) 20:21:17 v28NZZgk0

今、この会場に生ける44人の者の胸を占めている感情とはなんだろうか。

不安?恐怖?強い決意?
あるいはもっと別の何かかもしれない。
心の在り様、というものは偏に名状しがたい物なのだから。
あるいは強い正義感を抱いているものもいるかもしれない、それが正道であるかどうかは置いておくとして。

そして、私の場合は―――、
感動と憧憬だった。


「あったのか…本当に」


呆けたように言葉を漏らす。
それは、全てを覆い隠す様な深い霧の中に隠されていた。
彼の支給品であった眼鏡を使い、ようやく見つける事が出来たほど深い霧だった。
ヒースクリフ/茅場晶彦には知る由も無い事だったが、
一度でも、テレビや地獄門の内部に入ったことのある参加者ならその光景に見覚えがあったかもしれない。


無限の蒼穹に浮かぶ巨大な石と鉄の城。
嘗て一万の人間を捕え、四千の人間を呑み込んでいった剣と戦闘の世界。
浮遊城<<アインクラッド>>

最早何時になるか分からぬほど以前から茅場晶彦の、自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)として彼の頭脳を占めていたモノ。
その後、一万もの人間のもう一つの現実となったモノ。


352 : これはゲームであっても、遊びではない ◆rZaHwmWD7k :2015/12/29(火) 20:22:42 v28NZZgk0

行ってみたい。そう思った。

恐らく、あれは自分が創ったアインクラッドを再現したものなのだろう。
本当に、子供のころ自分が夢想した鉄の城とはやはり違うものだと言う事は承知している。
しかし、それでもバーチャルではなく確かな現実のあの世界の大地を踏みしめたい。
そんな事を思いながら男は暫く立ち尽くす。


「…いかんな。自分のすべき事を忘れる所だった」


かぶりを振って眼鏡を外し、黒の無人ボックスに向き合う。
心の底では、もう少し、あの城を見ていたいという気持ちがあったが、現状ではいくら見つめても赴くことはできないだろうと判断した。

何しろ、行くための道がないのだ。
例え空を飛ぶ事が出来る参加者がいたとしても、自殺行為だという確信が持てる。
今は大地を踏みしめている事と、この位置からならばアインクラッドが見えるため恐れることはないが、
大地から離れ、上も下も分からぬ濃霧の中飛行すれば、あっという間に空間を把握できなくなる。
上がっているつもりで奈落に向けて飛行していた…などという事態も起こるかもしれない。

それに、もし辿り着けたとしても、容赦なく広川は首輪を爆破するだろう。
迷宮区の踏破とボスの撃破が次の階層へ行く絶対条件とはいえ、アインクラッド内部までエリアに含めてしまえば、殺し合いそのものが千日手なりかねないためだ。

ならば優勝してあそこへ通じる転移結晶か回廊結晶を主催に願うのも一興か――そんな愚にもつかない考えに苦笑しながらボックスの中に入り、中のATMの様なデザインの機会を見据える。


353 : 名無しさん :2015/12/29(火) 20:23:43 v28NZZgk0

『いらっしゃいませ。こちらは、首輪交換コーナーです。首輪をお持ちの方は、こちらにお入れくださいませ』


指示のとおりに首輪を投入。
解析に使えるであろう首輪を手放すのは一瞬逡巡が生じたが、
既にこのバトル・ロワイアルから永久退場している参加者はまだまだ存在するので他の参加者に協力を仰げば首輪を新たに手に入れるのはそう困難なことではないと踏んだ。

エドワード・エルリックやジョセフ・ジョースター、黒の仲間等、具体的なアテもある。
むしろここで出し惜しみをしていては何かのチャンスを逃すような予感めいたものさえ感じた。


『確認中です…首輪ランク3.コード、ノーベンバー11。他に首輪をお持ちですか?』


ふむ、と交換機の指示を聞いてヒースクリフは一考する。
ノーベンバー11と言う参加者についての人となりは知らない。
出会ったとき彼は既に死体だったから当然である。
だが、ランク3と言うことは少なくとも一般人では無かったのだろう、異能者と呼ばれるものだったのかは知る由も無いが。


『それでは、ご用件をお願いします』


画面が切り替わり、『道具交換』と『情報交換』のボタンが現れる。
その丁度中間の地点で――ヒースクリフの指が止まった。


「……さて、どうしたものかな」


354 : これはゲームであっても、遊びではない ◆rZaHwmWD7k :2015/12/29(火) 20:24:37 v28NZZgk0

正直な所彼にはどちらでも良かった。
どちらにせよ首輪一個で得られる情報や支給品などタカが知れているだろう。
彼が期待しているのは、この交換による、主催陣営との接触だ。
あくまで交換はその手段であって目的ではない。
自身の長剣が出てくるのであれば、迷わず追加支給品のボタンを押すのだが、
残念ながら最初ディパックに入っていたものと同じくランダムらしい。


「武器でなくとも、コンピューターの類ならばまだ良いのだがね」


自分の残りの支給品は指輪だった。
宝石に、指輪に、眼鏡。
彼に幼い娘などがいればいい土産になったかもしれないが、勿論そんなことは無いため広川は渡す人選を間違えていると言う他ない。


「もっとも、彼女は指輪など渡されても喜びはしないだろうが…」


脳裏をよぎるは、長野の山中に身を潜めていた自分を見つけ出し、
共犯者になることを選んだ、かつての茅場晶彦にとって恋人、そう呼べる存在だった女性。


「困った人だった、本当に」


彼女がもし、ここにいたら自分はどうしていただろうか。
そんな事を考えながら瞼を閉じる。
だが、それも一瞬の事だ。
彼の頭脳は、意味のない『IF』に思考を裂き続けることは無いのだから。


そして、その指はボタンへと延び、





直後、意識が暗転した。


355 : これはゲームであっても、遊びではない ◆rZaHwmWD7k :2015/12/29(火) 20:26:30 v28NZZgk0



「……?」


気づけば、自分はボックスから外に出ているようだった。
しかし、勿論出た覚えはない。
夢遊病を患った覚えもだ。


「これは…」


狐に化かされた様な感覚に陥りながらも、周囲を注意深く確認すると三歩程先に、見慣れた長剣が見えた。

見間違えるはずもない、あれはまさしく自分の剣。

アインクラッドにて、茅場晶彦を聖騎士ヒースクリフたらしめた剣(つるぎ)だ。
手を伸ばし今度は感触で検める。
重さと言い、手になじむ感覚と言い、完璧なまでに再現されていた。

検分した剣を鞘に収めつつ辺りを見渡すが、周囲は数分前と何一つ変わってはいなかった。
草木の一本さえ、不気味な程に。
誰かがこの剣を置いて行った訳でもなく、この剣が地面から生えてきた訳でも無いならば、やはり首輪の交換機から齎された物だろう。

「有難いが、どんな情報を得られるか少し期待していたのだがな」

周囲の風景から明らかに浮きながらも不気味に佇む黒のボックスを見ながら、小さく嘆息した。
剣を置いて行ったのは主催者なのかもしれないが――此方の意識が無い時では意味は限りなく薄い。
神聖剣を手に入れるという一つの目的は達成されたことになるが、もう一つの主催者の接触という目的は空振りに終わったらしい。

神聖剣の入手方法も元GMとして今一つ釈然としないものを感じ、憤懣やるかた無いものを抱かざるを得なかった。

「まぁ、仕方がないな。機はまた直ぐに訪れるだろう」

そう結論付け、再び出発しようとしたその時だった。


ヒースクリフの背後に、アラーム音が鳴り響いた。
素早く振り返り、後ろを確認する。
だが、誰もいない。
しかし、幻聴ではないと言わんばかりに音はもう一度鳴り響く。
音源の近さから、どうやら音はディパックの中から響いているらしい。

「ここからか」

背負っていたディパックを下ろし、音の正体を探す。
そして、デバイスを取り出した所で…手が止まった。


煌々と光を放つデバイスの画面に、新しいアイコンが追加されていたのだ。


「空振りと判断するのは早計だったらしい」

そう呟きながら、新しく追加されたアイコンをタップする。
すると、ウィンドウが切り替わった。


「ほう」

切り替わった画面は、彼にも見覚えのあるチャット機能が映されていた。
鷲のような瞳を興味深げに細め、一番上にあった奇妙な仮面のようなアイコンをタップする。


356 : これはゲームであっても、遊びではない ◆rZaHwmWD7k :2015/12/29(火) 20:28:35 v28NZZgk0

UB001:こんにちは、ヒークリフ…いや、茅場晶彦さん。

タイミングを計っていたかのように既に自分宛のメッセージが記されていたことに舌を巻きながら、間髪入れずメッセージの下にある返信ボタンから返信する。


KoB:初めまして、先ほどの事は貴方が?


返信メッセージの隣にKoBと言う文字が表示された事にヒースクリフは眉をひそめた。
このKoBと言うのはまず間違いなく自分の事を示す記号――血盟騎士団の通称から来ているのだろう。
少なくとも画面の向こうの相手は自分の事をある程度把握しているらしい。
そして、文体から広川では無い事、女性らしい事が察せる。

UB001:えぇ、気に入ってくれた?

タイミング的に彼/或いは彼女以外に有り得ないと踏んでいたが、予想通りだった様だ
そのまま質問を連ねる。


KoB:貴方は、のバトル・ロワイアルの参加者なのか?


返信のメッセージが来たのは、たっぷり2分ほど経った後だった。


UB001:えぇ、薄々予想している通り、私は参加者じゃないわ。
コンタクトを取ったのも、“あの人たち”との決定じゃなくて私の独断。



証拠といわんばかりに、ヒースクリフの情報が開示されていく。
経歴から家族構成、SAOでの足跡までだ。
明らかに、参加者では知りえない情報だった。
ドクン、とその文字の羅列を見た瞬間、年甲斐もなく高揚する感覚を覚えた。
自分は今、プレイヤーとしてこのバトル・ロワアイルと言う壮大なゲームのG・Mの一人と向き合っている。
キリト君も自分の正体を暴いたとき、こんな感情を抱いたのだろうかと考えながら、新たに文字を綴っていく。


KoB:独断と言ったが、首輪の交換装置を使用すると君たちと接触できるわけではないと?
UB001:勿論。私が貴方と接触するべきと判断したのは、貴方が私が指定する依頼(クイベント)に合理的な判断ができると思ったから。
最も、逢いたい人は別にいるんだけどね。

KoB:イベントとは?


逢いたい人というワードにも興味が合ったが、独断で動こうとする主催者の内の一人が、どんな指令を下すのか、ヒースクリフは純粋な興味のままに尋ねる。
ともすれば、10人を超える人間の首輪を集めてこいといった物かもしれない。
無論報酬が提示されていないため、決定基準は興が乗るかどうかだが。


直後、またUB001と言うハンドルネームの者からメッセージが送られてきた。
先ほどまでと違う点は、添付画像があった事だ。


好奇心に身を任せ、骨ばった手で画像のリンクをタップする。
その時彼は、画面の向こうにいる人物の琥珀色の瞳を幻視した気がした。
そして、そこに映っていたものは―――、


357 : これはゲームであっても、遊びではない ◆rZaHwmWD7k :2015/12/29(火) 20:31:04 v28NZZgk0


首輪交換機を使用してから30分ほど後、
ヒースクリフは人を超えた速度で、大地を駆けていた。
進む方角は南。


「ふむ、やはり敏捷値も完璧に再現されているか」


駆けながら先ほど承諾した主催者の一人からの依頼に思いを馳せ、独りごちる。


「君とは奇妙な縁があるようだな黒君」


結論を言えば、UB001、の主催者の一人の依頼は至極簡単なものだった。
ただ添付されていた画像に映っていた参加者の一人と接触しろと言うだけだったのだから。

問題は、その参加者は先ほどあった男、黒が何よりも再会を渇望していた――銀という少女だった事だ。
黒によると銀と言う少女は殺し合いどころか盲目で日常生活すら補助が必要らしい。
ならば、殺し合いに乗っている可能性も極低く、穏当に接触する事ができるだろう。
もしUB001が主催者を騙っているとしても、ただ会うだけならば何の害にもならない…ヒースクリフはそう判断を下した。


一度立ち止まり、デバイスを再び確認する。
アイコンは変わらずそこにあったが、どうやら今は凍結されているらしい。
ハッキング等の行為も考えてみたが、そのためのツールもプログラムも生憎このデバイスは持ち合わせていないらしい。
だが、このイベントをこなせば、遠からずまたコンタクトをとるとメッセージには書かれていた。
何にせよパイプを作る事ができたのは有難い。
短い交流だったが、いくつか確証が取れた事もある。

一つは、このバトル・ロワイアルと言うデスゲームを起こしたのは特定の組織ではなく、あくまで個人の集まりだと言う事。

もう一つは、個人の集まりゆえか、自分がかつてSAOで作り上げたギルド、血盟騎士団の様に一枚岩ではないという事。

さすがに内輪もめで崩壊するほどシステム管理は脆弱ではないだろうが、歪な協力体制だ、綻びは生じるだろう。


「黒君、君たちは一体どんな関係なのかな」


銀を求める以上黒とも関わりのある人物である事可能性は高い。
余計な面倒ごとを避けるため、主催の協力者らしき人物とコンタクトが取れた事はできる限り内密にするつもりだが、
黒と合流して、知り合いに心当たりが無いか聞いてみるのもいいかもしれない。
漠然とした目的がハッキリと形を持ってくるのを感じて、思わず微笑む。
神聖剣も手に戻った以上、戦闘もここからは可能だ。



「受けてたとう…ゲームマスター、茅場晶彦ではなく、プレイヤー、ヒースクリフとして」



システムの限界を超え、人間の可能性を示した剣士によく似たコートを纏った男の姿を脳裏に浮かべながら、真紅の聖騎士は殺戮の大地を征く。


【H-4/一日目/夕方】

【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:健康、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン、神聖十字剣@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限あり)×2@魔法少女まどか☆マギカ、指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、クマお手製眼鏡@PERSONA4 the Animation
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:もっと異能を知りたい。見てみたい。
1:銀と言う少女を探す 。
2:黒とできれば合流したい。
 3:チャットの件を他の参加者に伝えるかどうか様子を見る。
4:主催者との接触。


[備考]
※参戦時期は1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。
※平行世界の存在を認識しました。
※アインクラッド周辺には深い霧が立ち込めています。
※チャットの詳細な内容は後続の書き手にお任せします。
※デバイスに追加された機能は現在凍結されています。


358 : ◆rZaHwmWD7k :2015/12/29(火) 20:31:55 v28NZZgk0
投下終了です


359 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/30(水) 00:30:31 vr8u/4iY0
皆様投下お疲れ様です
私も投下いたします


360 : 誰が猫の首に鈴を付けるのか? ◆MoMtB45b5k :2015/12/30(水) 00:31:13 vr8u/4iY0
DIOがいると思しき巨大な氷柱が見えた場所、北方司令部に向け急ぐジョセフ。
戦闘の余波と思しき瓦礫を避けながら進んでいく。
短い橋に差し掛かったあたりで、ちょうど池の対岸から、その頑健な老体に声をかけてくる者の姿があった。

「ジョースターさん!」

「エドワードくん!」

池を回り込んで向かってくるエド。
傍らには研究所で会った杏子という少女と、黒猫の姿もある。

(……)

本音を言えば、ジョセフはエドワードにはまだ会いたくはなかった。
御坂美琴を止めたいという気持ちは間違いなく共通のものだ。
しかし、彼には『殺さない覚悟』があり、自分にはいざとなれば『殺す覚悟』がある。
その齟齬を突かれた時、2人は無事ではいられないという思いがあった。
しかし、エドワードたちとは共に戦ってきた仲だ。
向こうから声をかけられた以上は不自然に無視するわけにはいかない。

3人と1匹は池の北部で合流すると、そのまま人目につかない奈落の向こう側の木々のある方へ歩み始める。







「DIOに操られた、じゃと……!?」

3人は歩きながら情報を交換してゆく。
猫が流暢に喋ったのにはジョセフも多少は驚いたが、契約者の事情を聞いたのに加え、スタンドを使う犬イギーを見ている経験から、そういうこともあるのだろうと受け流す。
情報交換は、エドと別れてからこの方誰にも会えていないジョセフが得たものは少なく、エドと杏子がメインとなっていく。

「ああ、あたしはあいつの意のままにされちまった……!」

アヴドゥルと一戦交え、結局は彼に助けられたこと。エスデスに肉の芽を氷で取り除かれたこと。
怒りを押さえつけながら顛末を話す杏子。

「DIOも、御坂も。あたしは借りはあるけど……居場所は分からない」

氷が現れた場所に向かうはずというジョセフの予想は外れ、2人は怪我をした杏子の治療のために病院へ向かったということだった。

「で、ジョースターさんはこの後はどうすんだ? 俺はこのまま御坂のやつを追うぞ」


361 : 誰が猫の首に鈴を付けるのか? ◆MoMtB45b5k :2015/12/30(水) 00:31:33 vr8u/4iY0
「そのことなんじゃが……」

「待て。誰か来るぞ」

猫が話を止める。
橋の方を見ると、2人の男が渡ってくるのが確認できた。
杏子は思わず槍を上げかけるが、2人がこちらに気付き、手を上げているのを見やると、すぐさま緊張を解いた。







狡噛とタスクを加え、改めての情報交換が進む。
もっとも、殺し合いが始まってから時間が経っている今となっては、狡噛もタスクも喋るステッキや猫程度ではいちいち騒いだりはしない。
情報交換はお互いに優先的に知りたい事のみを提供しあう手短なものになる。
サファイアとマオを含めても全員が戦闘員であるためか、その辺りは弁えている。

「大総統と戦ったのか」

「一応、俺とは普通に情報交換して首輪の解析を頼まれたけど……」

「こう言うのが正しいかどうか分からないが、やり合った限りではあいつはいわゆる戦闘狂の類に思えた。
 危険だが、交渉の余地がないわけではないだろう」

戦闘狂。そうなのだろうか。
国家錬金術師試験の時を除けば、エドワードは大総統と直接剣を交えたことはない。
以前より考えていたホムンクルスとの協力。何らかの条件が合えば、可能になるのかもしれない。
しかし深く考える間はなく、情報交換は進んでいく。

「御坂に襲われた……!?」

「命からがら逃げてきたってとこだ。あいつの攻撃は一切の迷いがなかった」

「クソっ! やっぱり、あいつ……」

狡噛の言葉に義手を握りしめるエド。
杏子の話によると、アヴドゥルを殺害した時も、全く躊躇がなかったという。
エドと行動を共にしていた時の御坂は迷っていた。
ならば、間違った覚悟を決めてしまう引き金になったのは、間違いなくみくを殺害したことだ。


362 : 誰が猫の首に鈴を付けるのか? ◆MoMtB45b5k :2015/12/30(水) 00:31:55 vr8u/4iY0

『……』

「……」

エドとともにその場にいたサファイアとジョセフも、沈痛な空気に包まれる。

「……何があったのかは深くは聞かない。それより、こっちも探している人間がいる。危険人物だ。
 槙島聖護という男と会わなかったか」

「僕も、アンジュって女の子を探してます」

「アンジュならワシが会ったぞ。もうだいぶ前になるがのう……場所は音ノ木坂学院じゃな」

第一回放送前に学院で起きたことの顛末を簡単に語っていく。
狡噛の追い求める男、槙島聖護に武器を渡されたと思しきサリアが暴れ、2人が犠牲になったこと。

「槙島……やはりか」

古くはあったが、ここに来てから初めて手掛かりらしきものが掴めた。
危惧していた通りというべきか。
目を付けた人間を言葉で惑わし、犯罪を教唆する。槙島のやっていることはこの場でも変わらないらしい。

「アンジュ……」

求め人の手掛かりを初めて掴んだのはタスクも同じだった。
音ノ木坂学院のある西の方は、タスクがまだ足を踏み入れていない地帯。
アンジュはそこから動いていないということだろうか。
いずれにせよ、今に至るまで目撃証言が得られなかったということに、嫌な予感がますます強まっていく。

「じゃあ、俺とタスクはここから東の潜在犯隔離施設に向かわせてもらう。
 付いてきたいやつはいるか?」

「……俺は御坂を止めに行くぜ。ジョースターさんと杏子はどうするんだ」

「ワシは……」

ジョセフは日の高さをちらりと見やり、しばし考えた後に告げる。

「ワシはまずDIOを追おうと思う」


363 : 誰が猫の首に鈴を付けるのか? ◆MoMtB45b5k :2015/12/30(水) 00:32:14 vr8u/4iY0
そう言いながらエドワードを見やる。

「狡噛君、君たちが会ったエスデスは、この辺りに吸血鬼がいると言ったそうだな?」

「ああ」

「DIOがいわゆる吸血鬼だというのは本当の話じゃ。奴の弱点は太陽の光……。
 ならば、身を隠すのは間違いないはず」

そう言いながら、デイパックから地図を出して広げる。

「この辺りで身を隠せる建物といえば、病院とコンサートホールを除けば――」

『時計塔、市庁舎、武器庫。このいずれかですね』

サファイアの言葉に、ジョセフは頷く。

「戦闘のあった司令部に近いところから探るとしたら、まずは時計塔じゃな。
 ……もうすぐ夕方じゃ。あれだけ派手に戦ったのなら、確実に消耗しておる。弱点が顔を見せている間に仕留めんとまずい」

「杏子はどうすんだ?」

「あたしは……」

エドに促され、少し考える杏子。

「……あたしは、爺さんに付いていくぜ。
 御坂はムカつくけど、借りを返すならまずは好き放題してくれたあの野郎だ」

杏子は立ち上り、尻を払う。

「あいつの能力だけど、自分の仲間に似たようなことをする奴がいるんだ。
 操られてる時、あたしはあいつと一対一で話した。行けば何か分かるかもしれない。
 それにそのステッキ、魔法少女絡みだってんならあたしならうまく扱えると思うぜ」

杏子はジョセフの持つサファイアに目を向ける。


364 : 誰が猫の首に鈴を付けるのか? ◆MoMtB45b5k :2015/12/30(水) 00:32:49 vr8u/4iY0

『しかし、わたしは』

「死んじまうかもしれねえってんだろ? は、心配いらないよ」

サファイアの苦慮を、杏子は笑い飛ばす。

「あたしらはこんななりでもゾンビかってくらい体はしぶとくてね。簡単にくたばりはしないよ。
 それに、どうせくたばるならDIOの野郎を1発でもぶん殴ってからだ」

サファイアをジョセフの手からひったくると、アニメの魔法少女のごとくポーズを取ってみせる。

『……承知しました。このサファイア、貴女の力になってみせましょう』

「それじゃあ、俺はエドと行くぞ」

最後に、あまり話していなかった猫が告げる。

「俺は御坂とはサシで話してる。その時はまあただの猫のふりをしてたが、あいつのことは多少なりとも分かるつもりだ。
 前川のお嬢ちゃんを殺されたのには、猫仲間としちゃ思うところもあるんでね」

猫はエドワードの傍らへ歩み寄る。

「……最後になるが、エドワード君。御坂君のことで言っておかねばならんことがある。
 もしワシが次に彼女と会ったら……ワシは彼女を殺さずに置く保障はおけん」

その言葉にエドワードは顔を上げる。

「手加減できる相手ではないというのもあるし、仲間のアヴドゥルも殺されてしまったんでのう。
 次に事を構えたら、悪いがそういう前提の上で当たらせてもらうぞい」


365 : 誰が猫の首に鈴を付けるのか? ◆MoMtB45b5k :2015/12/30(水) 00:33:06 vr8u/4iY0

「……わかったよ、ジョースターさん」

――憶えておけ。弱者は何をされようが文句は言えない。私の行動を否定したければ、強くなってみせろ

エドワードの脳裏には、エスデスの言葉が蘇る。
そうだ。目の前で誰かが殺されるのを止められないのは、自分の弱さのせいだ。

「あんたの覚悟は理解した。だけど、やっぱりあいつが殺されるのも殺されるのも、黙って見過ごしちゃおけねえ。
 たとえ無理でも無謀でもあがいてみせる。全部、止めてみせるぜ」

「……わかった。頼んだぞ、少年」

ジョセフはがっしりとエドワードの小柄な肩を掴んだ。

「それから、タスク。首輪について何か分かるかもしれないって言ってたよな。
 ――これ。持っていってくれねえか」

わずかに乾いた血のついた首輪を差し出すエドワード。

「……でも、いいのかい? これはその、みくさんって人のじゃ……」

「正直、俺が持ってても何も分からないんだ。少しでも役に立ったほうがあいつも喜ぶと思う」

「――わかった。また会えたら、その時までに何か分かったことを伝えられると思う」


366 : 誰が猫の首に鈴を付けるのか? ◆MoMtB45b5k :2015/12/30(水) 00:33:23 vr8u/4iY0
タスクは一礼して首輪を受け取った。

魔法少女とスタンド使いと魔術礼装。
錬金術師と契約者。
古の民の末裔と執行官。
5人と1匹と1体は別れ、それぞれ目指すもののために歩を進める。







「佐倉。医療品は助かった。おかげで病院に行く手間が省けた。
 ……それからエルリック。お前がマスタングの仲間なら、これは伝えておくべきだろうな」

「?」





【C-2/一日目/夕方に近い午後】



【狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】
[状態]:疲労(小)、槙島への殺意、右足に裂傷(止血済み)、全身に切り傷
[装備]:リボルバー式拳銃(5/5 予備弾20)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実、医療品
[思考]
基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:潜在犯隔離施設へ向かう。
2:槙島の悪評を流し追い詰める。
3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
4:危険人物は可能な限り排除しておきたい。
5:キング・ブラッドレイ、御坂美琴、DIOに警戒。 特にブラッドレイは下手に刺激することは避ける。
6:ブラッドレイが自分の本性に気付く前に何とか脱出派に引き込みたい。
7:銃の予備弾もそろそろ補充したい。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒、戸塚、黒子、穂乃果の知り合い、ロワ内で遭遇した人物の名前と容姿を聞きました。
※エドワード、杏子、ジョセフ、猫(マオ)、サファイアと軽く情報交換しました。


367 : 誰が猫の首に鈴を付けるのか? ◆MoMtB45b5k :2015/12/30(水) 00:33:41 vr8u/4iY0


【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中) 、不調、嫌な予感(極大)
[装備]:スペツナズナイフ×2@現実、刃の予備@マスタング製、火薬刃の予備@マスタング製
[道具]:基本支給品、前川みくの首輪
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:狡噛を護衛する。
1:アンジュを探す。無事でいてほしい……。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:ブラッドレイと遭遇した時は穏便に済ませられないか交渉してみる。
5:御坂美琴、DIOを警戒。
6:首輪のサンプルを探す。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。
※マスタングと情報交換しました。
※不調で股間ダイブをアンジュ以外にするかもしれません。
※エドワード、杏子、ジョセフ、猫(マオ)、サファイアと軽く情報交換しました。



【C-1/南の道路/一日目/夕方に近い午後】

【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中) 、ダメージ(中)、仲間たちを失った悲しみ、アヴドゥルを殺された怒り、運転中
[装備]:いつもの旅服
[道具]:支給品一式、三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、市販のシャボン玉セット(残り50%)@現実、テニスラケット×2、
     ドミネーター@PSYCHO PASS-サイコパス-(電池切れ) 食蜂操祈の首輪、アストンマーチン・ヴァンキッシュ@やはり俺の青春ラブコメは間違っている。
[思考・行動]
基本方針:仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡吹かせる。
0:時計塔→武器庫→市庁舎の順に可能な限り車で周り、日が落ちる前にDIOを見つけ出して倒し、エドワードと合流する。
1:御坂を止める。最悪、殺すことも辞さない。
2:DIO打倒、脱出の協力者や武器が欲しい。
3:さやかが気になる。
[備考]
※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。
※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。
※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。
※殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語で認識されると考えています。
※初春とタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※時間軸のズレについてを認識、花京院が肉の芽を植え付けられている時の状態である可能性を考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。


368 : 誰が猫の首に鈴を付けるのか? ◆MoMtB45b5k :2015/12/30(水) 00:33:57 vr8u/4iY0


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×4@魔法少女まどか☆マギカ、
     カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
     不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:DIOをぶん殴る。
1:御坂美琴は―――
2:巴マミを殺した参加者を許さない。
3:エドワード、ジョセフと組む。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。


【カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤの思考・行動】
1:ジョセフ、杏子に同行し、イリヤとの合流を目指す。
2:いざとなれば杏子と新規契約を行う。


369 : 誰が猫の首に鈴を付けるのか? ◆MoMtB45b5k :2015/12/30(水) 00:34:17 vr8u/4iY0









「おい、落ち着けよ」

「落ち着いてる」

「急ぐな。そういう精神状態で御坂と戦えば、今度こそ殺されるぞ」

「分かってる」

猫の言葉に短く返答しながらずんずんと足を進めていくエドワードは、狡噛の言葉を反芻する。

『マスタングは天城雪子という参加者をエンヴィーと誤って事故死させた。
 俺は直接現場を見てはいないが、そういうことが起きてしまったのは間違いない。
 相当なショックだったようだが、別れた時は多少は立ち直っているように見えた』

(あんの大馬鹿野郎……!!!)

確かに、マスタングはその地位の高さや自分の倍近い年齢の割に頼りにならない事も多かった。
だが味方に付ければ、この殺し合いにおいてもこれ以上ない力となる人物だとも思っていた。
致命的なミスをやらかすことは、少なくともないと信じていた。

(中尉のあの説得を、無駄にする気かよ……!)

かつて同じようにエンヴィーと対峙した大佐は憎しみにとらわれ、衝動のままにエンヴィーを焼き尽くそうとしたことがある。
その時に命を張って殺害を思い留まらせたホークアイ中尉。
大佐が再び激情に駆られ、今度はあろうことか無関係の少女を殺害したというのなら、中尉の行動はいったい何だったのか。

(……いいさ。か弱くても何度でも立ち上るのが俺たちだもんな。
 大佐。やらかしちまったってんなら、また俺や中尉が無理矢理にでも立ち上らせてやるよ。
 御坂もあんたも、首を洗って待っていやがれ!)


370 : 誰が猫の首に鈴を付けるのか? ◆MoMtB45b5k :2015/12/30(水) 00:34:46 vr8u/4iY0



【C-3/一日目/夕方に近い午後】

【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、精神的疲労(中)
[装備]:無し
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
    不明支給品0〜2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ
    パイプ爆弾×4(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす。
0:南へ向かい、御坂をボコしてでも殺しを止めさせる。
1:大佐を元の世界に連れ戻して中尉にブン殴らせる。
2:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したい。
3:エンブリヲ、DIO、御坂、エスデス、槙島聖護、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
4:一段落ついたらみくを埋葬する。
5:首輪交換制度は後回し。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※エスデスに嫌悪感を抱いていますが、彼女の言葉は認めつつあります。



【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[思考]
基本:……本当に、手のかかる……。
0:エドと共に行動し、御坂美琴に対処する。


371 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/30(水) 00:35:06 vr8u/4iY0
投下を終了します


372 : ◆MoMtB45b5k :2015/12/30(水) 01:24:42 vr8u/4iY0
すみません、エドワードの参戦時期のプライド戦後というのをプライドを倒した後と勘違いしており、
一部描写に本編との齟齬がありました。後ほど修正スレにて修正しておきます


373 : 名無しさん :2015/12/30(水) 15:14:41 /paqYh8E0
投下乙です
とうとうニーサンに大佐の罪が知られてしまった……
果たしてニーサンは大佐を立ち直らせることができるのか
そしてジョセフ達やコーガミさんの動向も気になるところです

それとひとつ気付いたんですけど
>どうせ最初から結末は決まっていたんだ

この回で鳴上は僕と言ってましたが鳴上の一人称は俺じゃありませんでしたっけ
細かいことですけど


374 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/01/03(日) 02:07:34 KEblBUd20
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたしますということで、新年一発目投下します


375 : ずっといっしょだよ ◆BEQBTq4Ltk :2016/01/03(日) 02:09:04 KEblBUd20



 哀れな哀れな少女さん。

 迷い込んでしまったのはおかしなおかしな世界。

 いつものように過ごしていた生活にはもう戻れません。

 学校に行っても自分だけは違います。

 みんなと一緒に笑えても自分だけは違います。

 きらきら輝いていても時間が来てしまえば自分だけは違います。



 お父さん、お母さん、弟の四人家族。

 毎日笑顔で過ごしていたあの生活にはもう戻れません。

 おかしなおかしな世界に迷い込んでしまったのは一匹の小動物。

 動物さんにお願いした少女はこれまでにない煌めきを手に入れました。

 すると憧れていたような魔法を手に入れました。



 哀れな哀れな少女さん。

 迷い込んでしまったのはおかしなおかしな世界。

 いつものように過ごしていた生活には戻れません。








 正義の味方を待っていた島村卯月はその場に留まらず、一旦北上することにした。
 線路の修復を待つよりも、近くに居る可能性を信じてその脚を動かす判断に至った。

 視界に映る景色は何処か哀愁が漂うような、主観であるのだから本人しか解らないが、夕暮れも相まって少し気分が暗くなる。
 心の中で少なからずセリューと出会えない未来が見えているからだろう。だめだ、と首を振るい奇妙な考えを捨てる。

 今の自分は強いんだ。
 自分をしっかり持たないとセリューの横に立つ存在として釣り合わない。


「私が憧れた正義の味方は弱くないから……えへへ」


 夕日に反射する糸は紅。
 まるで多くの生き血を吸ったのか、黒く輝くその色は何処か吐き気を催す。
 本来は殺し屋稼業の人間が所有していた暗器の一種、当然ではあるがこの会場に来てからも血を吸ってしまった。

 アイドルが殺人を犯すとはあり得ない未来であり、選択である。
 様々な運命と人間が交差した故の島村卯月だが、何が彼女をここまで変えてしまったのか。


「灯りが……誰かいる?」


 歩いていたところで図書館に灯りを確認した。
 近くで幾つか戦闘音が聞こえるが、目視できる距離ではなく近づくのは危険。
 他者と接触するとして安全性を求めた場合、図書館に入るのが一番無難だろう。

 室内戦闘ならば最悪の場合、糸が活かせる。
 ある程度動きが抑制される中で罠を張れば相手にとって大きな牽制となり、更に動きに制限を掛けられる。

 ふぅ、と一呼吸を置いて扉に手を掛ける。
 怖い。未だに人が怖い。自分がもし南ことりのように、由比ヶ浜結衣のように、鹿目まどかのように死んでしまったら。



「島村卯月、頑張りますから……だから」



 そして彼女は図書館に入る。
 偶想《アイドル》は弱っている。けれど、誰も手を差し伸ばしてくれない。


376 : ずっといっしょだよ ◆BEQBTq4Ltk :2016/01/03(日) 02:09:54 KEblBUd20








 哀れな哀れな少女さん。

 迷い込んでしまったのはおかしなおかしな世界。

 いつものように過ごしていた生活にはもう戻れません。

 けれど彼女は救われた。

 友達も少なくて身体も弱い彼女に初めてできた友達。

 おかしなおかしな世界だけれど、自然と笑顔になれました。



 でも……お別れは早かった。

 黒髪の少女は女神の力になりたかった。

 契約も結びました。

 でも……悪夢には勝てませんでした。


 
 哀れな哀れな少女さん。

 迷い込んでしまったのはおかしなおかしな世界。

 いつものように過ごしていた生活には戻れません。







 珈琲を飲みきったところで大総統キング・ブラッドレイは立ち上がり、カップを流しに戻す。
 流石に洗い作業までは行わないものの、最低限のマナーとして机だけを拭き終えると、己はもう一度椅子に座る。

 首輪解析の手掛かりとなる予定のタスクはいない。
 図書館で起きた戦闘――狡噛慎也一行と一戦交えた時には既にいなかった。
 それ以前に滞在していたかもしれないが、戦闘から経過した時間を考えると彼はこの近くにいないだろう。

 放送で名前を呼ばれてはいないが、死んでいる可能性もある。
 仮に生きていたとしてもキング・ブラッドレイの皮は剥がれ落ち、ラースとしての本性が知れ渡っている可能性もあるのだ。
 ホムンクルスに安々と情報を与える人間は少ない。好奇心とは訳が違う。

 タスクの線を捨てたとして手掛かりになるのが、先程一読した本に記載されていた事項になる。
 アインクラッドに関わることと、名簿に記載されている茅場晶彦。
  
 確信は何もないが、地図上に記載されている施設と名簿。
 聞き慣れない単語の羅列ではあるが、接触したところで無駄になるとは限らない。

 首輪解析の情報が得られなくても、ありきたりな会話だけでも充分な収穫となる。
 邪魔な枷を外してアメストリスに帰れるならば、特段無駄な血を流す必要もないのだから。



「珈琲でいいかね、それともまだ早い年ごろか?」



 新しいカップを棚から取り出したブラッドレイは相手方に伺う。
 既に手をつけているため、返答が無ければこのまま珈琲を注ぐことになるだろうが、いいのか。



「それでいいわよ……それで、順調なのあんた」



「その表情を見るに……お疲れのようだな、雷光よ」


377 : ずっといっしょだよ ◆BEQBTq4Ltk :2016/01/03(日) 02:10:40 KEblBUd20




















 哀れな哀れな少女さん。

 迷い込んでしまったのはおかしなおかしな世界。

 いつものように過ごしていた生活には戻れません。



 訪れた悪夢は伝説の災厄。

 ひとり、ひとりと幼い少女が倒れていきました。

 絶望の先に転がる希望に手を伸ばします。

 けれど、掴んだのは……だから少女は時間を遡りました。

 また……逢いたいから。


 
 哀れな哀れな少女さん。

 迷い込んでしまったのはおかしなおかしな世界。

 いつものように過ごしていた生活には戻れません。




  

 死には慣れたくないものだ。
 ニュースに耳を傾ければ誰がか死んでいるし、親族だって死んだこともある。

 けれど現代に伴う、所謂友達や親の死には対面する機会が無い故に死がとなりにいる実感は無い。
 妹達の死は見ているが、どうも説明すると違うものになってしまう。

 親しい存在の死には代わりないのだが……感覚が麻痺しているのだろう。

 婚后光子の死には驚きと悲しみもあったが、それよりも自分に手一杯であった。
 悲しい。これは絶対だ。涙だって流した。でも、違う。

 自分が想像していた死とは全然違う。
 佐天涙子が死んだ時も全然違う。自分は変わってしまったのか。

 きっかけはきっと上条当麻と前川みくだろうか。

 解らない。
 でも脚を止めるわけには行かない。自分は願いを叶えるために優勝しなくてはならないから。





「それで何から説明すればいいのよ」




 ブラッドレイと対面する形で座った御坂美琴は渡された本を一読し彼に声を掛ける。
 何でも、興味深いことが書いてあったが自分の知識では解らなかったようだ。

 目を通した限りでは架空世界と現実の在り方について問うた物であった。

 バーチャルリアリティ……所謂電脳世界との干渉及び生活については、多くの学者が名乗りを上げている。
 記載されている事項も何処かで見たことがあるようなありきたりな部分も多かった。

 しかしアインクラッドなる固有名詞は初めて聞いたものであり、既に実践されているような書き振りも確認出来た。
 一番気になることと言えば、先に出したアインクラッドと茅場晶彦《ヒースクリフ》がこの会場に存在していることだ。


「申し訳ないがさっぱりでね。出来れば一から説明してもらいたい」


「…………歩きながら話すわよ」


 男は嗤い、女は溜息を零す。
 世界が違えば文化も異なるが、予備知識無しに叩き込むとなれば多くの時間が掛かる。
 アインクラッドを目指すついでの時間潰しに当てるとしよう。そうでも無ければ疲労が溜まってしまう。


378 : ずっといっしょだよ ◆BEQBTq4Ltk :2016/01/03(日) 02:11:17 KEblBUd20


「アインクラッドに行くことに異議は無いのかね」

「別にいいわよ。
 DIOのことは最悪後回しでもいい……エドがやるかもしれないし」

「何か言ったか」

「な、なんでもないわよ!
 首輪を外せる手掛かりが掴めそうなら乗っかるわ。爆破の障害は取り除きたいから」


 再び出会った両者は互いに歩んできた道のりを説明する。
 共に死者の戦果を上げているものの、無傷という訳には進んでいない。
 元より手は結んでいるが、やはり一人で多くの参加者を殺すのは骨が折れる。

 同盟を掻き消すことなどしなく、情報交換を行い次の進路はアインクラッドに。


「そうか……それで、客は君の友人かね」

「あんたじゃないの。少なくとも私の客《知り合い》じゃあないわ」


 問題も無く進んでいる情報交換に何やら聞き慣れない単語が飛び交う。
 客――新たな来訪者でも現れたのだろうか。
 しかし図書館のメインルームに滞在しているのはキング・ブラッドレイと御坂美琴だけ。

 けれど大総統は抜刀すると剣を一振り。

 何も無い空間を一閃した虚への一撃ではあるが、何かが響く。
 目を凝らしていると、どうやら糸のような物が彼に向かって伸びていたようだ。



「完全な奇襲ではあったが、まだ気配を殺し切れていない。
 先程までは普通の人間であった存在からしてみれば――大したものだがね、島村卯月君」



 
 
 哀れな哀れな少女さん。

 迷い込んでしまったのはおかしなおかしな世界。

 いつものように過ごしていた生活には戻れません。



 何度繰り返しても。

 何度繰り返しても。

 何度繰り返しても……。


379 : ずっといっしょだよ ◆BEQBTq4Ltk :2016/01/03(日) 02:12:18 KEblBUd20

 
(き、気付かれて……逃げなきゃ……っ!)


 図書館で談話しているキング・ブラッドレイを殺さんと糸を伸ばしたが気付かれていた。
 由比ヶ浜結衣を殺すきっかけとなり、セリューをも殺そうとしたホムンクルス。
 会話する余地も無く制裁対象ではあったが、格の違いを一瞬で悟った。


 剣一振りで糸を弾き返す存在に勝てる訳が無い。
 思えばセリューも最期までキング・ブラッドレイには苦戦していた。
 自分が勝てる道理など、どう発想すれば辿り着くのか疑問に思ってしまう。
 何処か調子に乗っているような、何でも出来る気になっていたかもしれない。


「この糸は……やはり賢者の石が使われている」


 追い掛けて来ないキング・ブラッドレイを気にしつつも島村卯月は糸を回収し撤退する。
 勝てない、殺される、逃げないと。
 考えるよりも先に本能が叫ぶままに行動を取るが――敵は一人ではない。

 ホムンクルスと会話する男も悪だ。

 殺してもいい存在だ。糸で首を撥ねてしまっても誰も悲しまないだろう。

 回収する矛先に力加減を調整し、女の首を狙うように仕向けるも――格の違いを見せつけられることになる。

 女は首を捻り糸を回避すると、軽く指先を弾く。
 島村卯月が気付いた時には、髪を結んでいたリボンが完全に焼け落ちていた。


「え、え……え……?」


 理解が追い付かない。
 電気が走ったかのように眩きを感じ、瞳を閉じた。そして開ける。
 すると自分のリボンが消えていた。仕掛けは不明だが仕掛け人は女だ。

 種の分からない現実は単純に恐怖心を煽る。
 次にもう一度行われては、島村卯月に対処する方法など存在しない。

 今は逃げる。ただそれだけを考えて逃げればい。
 幸い敵は追い掛けて来る素振りを見せないのだ。この機を活かさなければ確実に死んでしまう。

 島村卯月が目指すは先程滞在していた駅長室。
 その後、セリューと合流するために民宿を目指す。

 憧れの人に逢えれば――それでもう、満たされるから。


380 : ずっといっしょだよ ◆BEQBTq4Ltk :2016/01/03(日) 02:13:05 KEblBUd20


 島村卯月が逃げた後にゆっくりと、図書館から出て来るキング・ブラッドレイと御坂美琴。
 傷も負って無ければ、精神的な疲労も一切受けていない。
 御坂美琴は聞いた所、襲撃してきた女は島村卯月という名前らしい。

 何でも戦う力を持たない少女だったらしいのだが、先の姿を見るに信じられない。
 彼女も変わった人間なのだろう。何処かの超能力者と同じように。
 しかし言ってしまえばそれだけの存在であり、見逃した所で何一つ問題など無い。

 
「そう言えば、逢ったわよ」


 思い出したように御坂美琴が呟く。
 それは図書館に来る前に出会った独りの少年の話。


「セリム・ブラッドレイ……何か迷っているみたいだったけど――ってあんた聞いてる?」


 隣を見るとキング・ブラッドレイは少し笑っていた。
 可笑しい事を言ったつもりはない御坂美琴だったが、反応が反応である。
 少々苛立ち混じりに言葉を放ってしまったが、彼は怒らずに言葉を返す。


「その話――道中に聞かせて貰おうかね」


 ホムンクルスは実際に血の繋がりがあるのだろうか。
 それは親心か、単なる好奇心かは不明だが――彼は笑っていた。
 



【D-5/図書館/一日目/夕方】




【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、出血(小)、腕に刺傷(処置済)、両腕に火傷(処置済、腹部に刺し傷(致命傷ではない、処置済)
[装備]:デスガンの刺剣(先端数センチ欠損)、カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[道具]:新聞、ニュージェネレーションズ写真集、茅場明彦著『バーチャルリアリティシステム理論』(全て図書館で調達)
[思考]
基本:生き残り司令部へと帰還する。そのための手段は問わない。
1:橋を渡り御坂美琴と共にアインクラッドに向かう。
2:ヒースクリフ(茅場明彦)と接触し、情報を聞き出す。
3:自分の素性を無闇に隠すことはしない。
4:稀有な能力を持つ者は生かし、そうでなければ斬り捨てる。
5:プライド、エンヴィーとの合流。特にプライドは急いで探す。
6:エドワード・エルリック、ロイ・マスタング、有益な情報、技術、帰還手段の心得を持つ者は確保。現状の候補者はタスク、アンジュ、余裕があれば白井黒子も。
7:エンブリヲ、御坂美琴にもう一度会ったら……
8:島村卯月は放置。
9:自分が不利だと判断した場合は殺し合いの優勝を狙うが……
[備考]
※未央、タスク、黒子、狡噛、穂乃果と情報を交換しました。
※御坂と休戦を結びました。
※超能力に興味をいだきました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。
※これまでの戦いを経て、「純粋に戦いたい」「強い者と戦いたい」という感情が無意識に大きくなりつつあります。
※糸(クローステール)が賢者の石で出来ていることを確認しました。



【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×3 、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、回復結晶@ソードアート・オンライン、アヴドゥルの首輪、大量の鉄塊
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:DIOは絶対に殺す。
1:橋を渡りキング・ブラッドレイと共にアインクラッドに向かう。
2:もう、戻れない。戻るわけにはいかない。
3:戦力にならない奴は始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
4:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
5:殺しに慣れたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました。


381 : ずっといっしょだよ ◆BEQBTq4Ltk :2016/01/03(日) 02:14:19 KEblBUd20


 何を勘違いしていたんだろう。
 自分が強くなった訳ではないのだ。変わっていない。
 けれど、キング・ブラッドレイに挑んだということは何処か自信かあったのだろう。

 
 本田未央と西木野真姫。


 彼女達相手には有利に振る舞えた。
 覚悟をしていない同じ普通の少女達と戦えば有利になるのは当たり前である。
 此方には武器がある。決意がある。同じ代表に立つ人間としては器が異なる。

 しかしそれが元から格上であるキング・ブラッドレイに勝てる発想には決して繋がらない。

 帝具は強力だ。
 使い切れていなくても充分脅威になる優れた暗器ではあるが、自身が強くなる訳ではないのだ。

 島村卯月は何処か自分が強くなったと過信していた。
 元々アイドルだった自分に戦える力など在るはずが無い。けれど夢を見ていた。
 憧れの存在であるセリューの隣に立てると勝手に勘違いしていた。

 島村卯月は弱い。
 何を思い上がっているのか。人を殺せる訳など無いだろうに。


 故に島村卯月は憧れていた場所をただ遠くから見ていただけである。


 見ていただけであり、決して自分がその場所に立っている訳ではないのだ。









 哀れな哀れな少女さん。

 迷い込んでしまったのはおかしなおかしな世界。

 いつものように過ごしていた生活には戻れません。



 だから今度こそ……逃がさない。


382 : ずっといっしょだよ ◆BEQBTq4Ltk :2016/01/03(日) 02:15:10 KEblBUd20


 再び駅員室に戻った島村卯月は喉が乾いたのか、流しの蛇口を捻りコップに水を溜める。
 それを一気に飲み干すとぷはー、っと声を漏らし一息付けたようだ。

 キング・ブラッドレイとあの女から逃げる際、死を覚悟していたが彼らは追って来なかった。
 詮索はしない。生きているだけで有り難いと思うべきである。


「………………首は、ある」


 優しく自分の首に手を携えて、生きていることを再確認する。
 そう、私は生きている。何度も自分に言い聞かせるように、何度も、何度も繰り返す。


「流しが詰まっていますね」


 タオルを手に纏い、排水部分に詰まっているであろう汚物を撤去する。
 別にする必要も無いが、育ちがいいのだろう。自分から率先して行う所謂良い子が彼女である。

「何かぬめっとし――――――――て」

 手に取った物を一度落としてしまう。
 うずらの卵程のサイズでぬめり感があったそれを拾い上げると、驚きの声を漏らす。

 声を追い掛けるようにそれをまた落とし、今度は流しに向かって込み上げる嘔吐物を吐き散らす。




 何故だ。



 手に取ったそれは危険の証である。こんな物が流しに詰まっている筈がない。
 自分が先に訪れた時には無かった。そうすると去った後に誰かが来たのだろうか。
 ならば危険人物が近くに滞在している可能性があり、この空間の危険度は大きく跳ね上がることになる。


『うーん、ちょっと硬いかなあ』


 ノイズ混じりに声が走る。
 聞き慣れなた声だ、自分の――島村卯月の声だから。

「何かを思い出し――うっ」

 込み上げる嘔吐物を一旦堪え、ゴミ箱の方へ移動する。

『思ったよりも骨って硬いんですね……硬いから骨か』

 流しに向かっていれば異臭が常に身体を襲い、吐き気と罪悪感が押し寄せる。
 ――罪悪感が島村卯月の中で蘇る。

『ここを繋ぎ合わせれば……うーん裁縫よりも難しいです』


383 : ずっといっしょだよ ◆BEQBTq4Ltk :2016/01/03(日) 02:16:40 KEblBUd20



 其処にあった【彼女達】は消えた。
 何処に行ったかと尋ねられれば死んだ――天国へ行っとでも回答しようか。

 けれど駅員室に運ばれた時点で【彼女達】は死んでいた。
 ならば誰かが【彼女達】を運んだ証拠であり、【彼女達】とは【死体】を表す。

 島村卯月が先程見つけた【ソレ】は【彼女達】の物である。
 どちらかの【ソレ】かは解らないが、人体の部品であるが故に【死体】から零れ落ちたのだろう。


『この糸を使っていたのはとっても器用な方だったんですね。私もセリューさんの役に立ちたいから……頑張らないと』


 思い出した、と島村卯月は口を抑える。
 そうだ、【彼女達】の行先を島村卯月は知っているのだ。
 何処かにある【死体】の場所も把握している――動かしたのは自分だから。

『ぐちゃぐちゃして気持ち悪い――ごめんなさい』


「わ、私……っ! ぅああ!!  ああああああああああああああ、どうか、ああ、どうかしてい、て……………」


 




 叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。



 思い出してしまった、嗚呼彼女は忘れていればいいものを思い出してしまった。

 駅員室を飛び出す前に島村卯月は【彼女達】を使って練習をしていた。
 帝具であるクローステール――殺人をも可能にする糸の実験に【死体】を使用した。


『何度もぐちゃぐちゃにしてごめんなさい。その代わり――』



「あ、ああ、あああ、あああ、あ、あ、あ、ああ、あああ、あああ、あ、あ、あ、、ああ、あああ、ああ、」


 
 我慢出来なくなった島村卯月は全てを思い出しながらゴミ箱を開ける。
 もう駄目だ、抑えきれない、何で、どうしてこんなことに、ごめん、な、さいと呟きながら。
 
 そして島村卯月は【彼女達】と対面する。
 何故ゴミ箱を開けた所で【死体】と再開することになるのか。

 答えは一つであり、島村卯月は知っていた。何せ【彼女達】を使って実験したのは。



「ご、、めんね、、、、あ、、あ、、ああ、あ、あああ、あ、あ、うゅ、、、、、ぉぉぉおぉろ、、ろぉぉろおぉぉぉ、、おろぉぉ、ああ、あ、ぉおお、あ」



 そして耐え切れなくなった【殺人鬼】は【死体】に向かって嘔吐物を吐き散らす。
 ゴミ箱から覗く顔に【ソレ】は――【目玉】は付いていない。

 練習した後の【ゴミ】はゴミ箱に捨てられていた。
 身体はバラバラとなり、所々に欠陥を残しながら無理やり詰め込められている。

 これは【ゴミ】であり、【成果品】ではない。
 それもその筈だ。

 椅子に座っている【彼女達】は――崩れた表情でずっと、ずっと島村卯月を見つめているのだから。


384 : ずっといっしょだよ ◆BEQBTq4Ltk :2016/01/03(日) 02:17:33 KEblBUd20
























 哀れな哀れな少女さん。

 迷い込んでしまったのはおかしなおかしな世界。

 いつものように過ごしていた生活には戻れません。



 運命からは逃げ切れませんでした。

 異なる会場に集められても、希望は残っていませんでした。

 奇跡に縋ることも出来なくて、少女さんの夢は儚く消えました。



 でも、悲しいことだけではありません。

 少女さんと女神はまた出会う事が出来ました。

 でも、嬉しいことだけではありません。

 女神さんは死んでしまい、少女さんも死んでしまいました。



 哀れな哀れな少女さん。

 迷い込んでしまったのはおかしなおかしな世界。

 いつものように過ごしていた生活には戻れません。



 死んでしまっては少女さんはもう、繰り返すことができません。

 何度も、何度も、なーんども。

 繰り返していたことは死んでしまって、終わってしまいました。



 でも、大丈夫。



 哀れな哀れな少女さん。

 迷い込んでしまったのはおかしなおかしな世界。

 いつものように過ごしていた生活には戻れません。



 もう離れ離れにはなりません。

 天国で一緒だから? ううん、違います。

 だってもう女神と少女さんは一緒だから。

 辛い時には肩代わりして、一緒に悲しんで、一緒に笑ってくれる。

 だから怖くありません。

 ずっと一緒だから。

 永遠に女神と少女さんはくっついているから。

 もう離れ離れになりません。 


 ずっといっしょだよ。 



 

 ふたりはえいえんにいっしょだからもうはなれません。




【D-6/駅員室/一日目/夕方】



※駅員室の流しには目玉が転がっています。
※駅員室のゴミ箱には魔法少女のゴミが捨てられています。
※駅員室の椅子には左半身が鹿目まどか・右半身が暁美ほむらの縫われた死体が座っています。



【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(大)精神的疲労(極大)吐き気、死にたい、罪悪感、この世から消えたい思い、セリューに逢いたい思い
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!  まどかの見滝原の制服、まどかのリボン、髪型:ツインテール
[道具]:ディバック、基本支給品×2、不明支給品0〜2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ、今まで着ていた服、まどかのリボン(ほむらのもの)
[思考]
基本:島村卯月っ、笑顔と正義で頑張りますっ!!
000:誰か…………………
0:線路の修復が完了次第、セリューのもとへと向かう。
1:高坂穂乃果の首を手に入れる。
2:高坂勢力、及びμ'sを倒す。
3:死にたい、助けて、死にたくない、セリューさん………………凛ちゃん、未央ちゃん?
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
※本田未央は自分が殺したと思っています。
※μ's=高坂勢力だと卯月の中では断定されました。


『悪』:高坂穂乃果、白井黒子、小泉花陽、アカメ、泉新一、田村怜子、後藤、足立透、キング・ブラッドレイ、セリム・ブラッドレイ、エンヴィー、キンブリー、魏志軍、アンジュ、槙島聖護、DIO、セリューを撃った高坂勢力の男(名前は知らない)
『正義』:エスデス、ヒースクリフ、ほむらの友達(佐倉杏子、美樹さやか)、サリア、エンブリヲ
『保留』:マスタング、雪ノ下雪乃、ウェイブ


385 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/01/03(日) 02:19:20 cPY.W1A60
投下終了です。
改めまして今年もよろしくお願いいたします。


386 : 名無しさん :2016/01/03(日) 08:20:54 lHyrxtmw0
新年投下一番乗り乙です!

一通さんの「俺が弱くなったところで、別にお前が強くなった訳じゃねェだろうがよ」と言うセリフを思い出す話でした
島村さんは所謂躁鬱の状態なのかな、今が鬱の状態なのか、それとも躁の状態なのかは判断に困るところですが
今回が割とまともだったが故に、揺り戻しが怖い


387 : 名無しさん :2016/01/03(日) 09:04:41 uKJlMFXM0
明けまして投下乙です。
御坂と大総統が次の目標を掴み着実に前進するなかしまむーの不安定さがなんとも魅力的です。
果たして彼女にこの厳しい理想と現実の差が埋められるのか興味深いところですね。
そして駅員室でお出迎えするまどほむオブジェが誰にどう影響するのかもお楽しみw


388 : 名無しさん :2016/01/03(日) 14:04:14 AFrtRBp2O
投下乙です

私の永遠の友達
駅長は魔法少女
女神と悪魔が合わさって最強


389 : 名無しさん :2016/01/03(日) 17:35:59 qccRUGQQ0
投下乙です

ボロボロで満身創痍なさやかちゃん。タツミも彼女とはとことん相性悪いなあ。
番長がやっと汚名挽回のチャンスを得たが、なかなか厳しい展開だ

対主催メンバーはロワでの交流が上手い具合働いて、サリアを綺麗に落とすことができたか。
エスデスの説得は思いのほか困難か。いい具合に散らばったメンバーたちの今後が気になる。特に足立。

ついに舞台裏も動き始めたか。アンバーは原作でも本心を読みづらいキャラだがどう動くか。
ヒースクリフはすっかり対主催の希望だな。

ニーサンと杏子たちはいったん別れたか。残り2人でDIOはキツイ気もするがは縦どうなる。
そして、すっかり参加者のように馴染んでいるマオ。

ビリビリはすっかり貫禄が出てきたな。セリムは大総統に揺さぶられそう
そして、しまむーは今からこれで、セリューの死を見たらどうなるんだろ


390 : ◆dKv6nbYMB. :2016/01/10(日) 01:22:38 e0NFEFrM0
本投下します。


391 : 星屑の戦士たち ◆dKv6nbYMB. :2016/01/10(日) 01:24:21 e0NFEFrM0
エンジン音を響かせながら、ジョセフと杏子を乗せた車は時計塔への進路を進む。

「なあ、杏子」

徐に、ジョセフが隣に座る杏子へと声をかける。


「お前さんと一緒にいた彼...ジャックはどうなったんじゃ?」
「ノーベンバーか...死んだよ。後藤に食われた」
「...そう、か」

ジョセフの表情に陰りが浮かぶ。
彼の生存は絶望的だとは思っていた。
だが、改めて聞かされるとやはりいい気持ちはしないものだ。

「済まなかった。あの時、お前さん達に後藤を押し付けてしまったのは、ワシらのミスだ」
「あんたらのせいじゃねーよ。あたしとあいつが今なら勝てると踏んで、ヘマうっちまっただけだ」

それによ、と一旦言葉を切り、杏子は言葉を新たに言葉を紡ぐ。

「責任があるならあんたらじゃねえ。あたしだ。ノーベンバーも...アヴドゥルも」

呟かれた名前に、ピクリとジョセフの肩が反応を示す。

「あいつらが死んだのはあたしのせいだ。どっちつかずで中途半端で、周りの奴らにくってかかって、挙句の果てに二回も庇われて命を拾った...情けないったらありゃしない」
「杏子...」
「...大丈夫だ。弱音ならエドに充分吐いた。あとはもう、前に進むだけさ」

重苦しい沈黙が車内を支配する。

その空気を破るかのように、今度は杏子が疑問を口にする。

「爺さんよ」
「なんじゃ?」
「今さらだけど、こんな目立つ方法で移動してていいのか?下手すりゃ、DIOの奴から不意打ちとか食らうんじゃねえの?」

杏子の意見は尤もだろう。なんせ、相手はあのDIO。自分一人では手も足も出せなかった相手だ。
いくら二人がかりとはいえ、正攻法では勝ち目の薄いことは充分わかっている。
ならば、わざわざ相手にこちらの存在を知らせるような真似をすることはない。
勿論、ジョセフもそのことはわかっている。しかし、ジョセフとDIOに限ってはその心配は杞憂となる。

「その心配はないぞ。奴の首から下はワシの祖父の身体でな。その身体にはワシの肩に見える星形の痣があり、一族特有の奇妙な波長を送っておる」
「...つまり?」
「奴に近づけば、ワシの首の痣も反応し、近くにいることが漠然とわかる。奴からの奇襲は防ぎやすいということじゃ。...尤も、ワシの方からの奇襲も難しいがのう」
「漠然ってことは、正確にはわからねえのか?」
「うむ。なんとなく近くにいる、というだけで正確にはわからん。おそらく、奴もそうだろう」
『ですが、敵はDIOだけではありませんよ』

サファイアもまた、杏子の意見に賛同するかのように口を開く。


392 : 星屑の戦士たち ◆dKv6nbYMB. :2016/01/10(日) 01:25:41 e0NFEFrM0
『御坂様だけではありません。あの後藤も潜んでいる可能性があります。やはりここは車を使用するのは控えた方がいいかと』
「しかしじゃな...」
『DIOを相手にするにせよ、この日が昇っている時が私たちに有利にことを運ぶとは限りませんよ』
「というと?」
『佐倉様、DIOは研究所から出た後で杏子さんに肉の芽を埋めたのですよね?』
「ああ。研究所でケリを着けようとしたけど、あの白い鎧を着たと思ったらそのまま北に逃げやがった。日光が苦手だとは聞いてたから、てっきり我慢して強がってるのかと思ってたが...」
『ジョセフ様、あなたの世界での吸血鬼とは日光に当たれば灰になり、それは我慢してどうにかなるものではないのですよね』
「うむ。お前さんも見たと思うが、太陽のエネルギーを生みだす波紋を受けた時、奴の腕が崩れたじゃろう。DIOにとって太陽は決して浴びてはならない劇薬なのじゃ」
『ですが、DIOは白昼堂々と研究所から脱出した...おそらく、佐倉様の言った白い鎧の効果でしょう。佐倉様、その白い鎧についてなにかご存知ですか?』
「あたしはあれを着てたわけじゃないから詳しくはわからないけど...あれを壊すのは難しい。生半可な攻撃じゃ無理だ。それと、あたしはあれに似た黒い鎧を使ったけど、あれを着てるとなんというか力が漲ってくるんだよ」
「なるほどのう」

ここまで言われれば、無闇に近づくことをサファイアが引き留めようとするのも理解できる。
果たして、DIOが本当に日光を防ぐ方法が無いのか、最初に考えるべきだった。
そもそもだ。DIOがあのエスデスのものと思われる氷柱を振り回していた時、奴は空―――日光を背に氷柱を振るっていた。
その時点で、如何に日光を防いでいるかを考えるべきだったのだ。
むしろ、下手に日光のもとにさらせば、DIOに切り札ともいえる白の鎧を使わせることとなる。
鎧の能力と吸血鬼の身体能力が噛み合った結果があの巨大な氷柱を振り回したことに繋がっているのなら、正面から挑むのは愚策としかいいようがない。
仮にこの事実を知らずにDIOと戦っていれば、無残に返り討ちに遭っていた可能性は十分に高い。

(イカンな...どうにも焦っちまっておるみたいじゃ)

思えば、エドワードと最初に出会った時以来、ロクに考える時間もとれていない。
如何にあの鎧を掻い潜るか、もしくは鎧を使わせずに倒すか。
DIOの能力はなんなのか。
考えるべきことはいくらでもあるというのに、DIOへの戦いへと臨もうとしてしまった。
若いころでもこんな無茶はしていないだろう。
とりあえず、車を止めようとしたその時だ。


『禁止エリアに侵入しました。制限時間は30秒です。至急、禁止エリアから離れてください』
「むっ?」

突如、二人の首輪からアラームと共に警告が鳴りはじめる。

「そういえばこの道は禁止エリアだったか...うっかりしておったわ」

突然の警告にも一切慌てず、車をバックさせる。
30秒もあれば、その動作で禁止エリアから抜け出すのは容易い。
警告はピタリと止み、ジョセフはふぅ、と息をついた。


「どの道これでは車で先に進むことはできんな。あの森を徒歩で突っ切るしかないじゃろう」

四苦八苦しつつも、どうにかデイパックに車を入れ、一行は森へと足を踏み入れる。


393 : 星屑の戦士たち ◆dKv6nbYMB. :2016/01/10(日) 01:26:26 e0NFEFrM0

(ここって...)

杏子は、眼前に生い茂る木々に見覚えがある。
最初に空条承太郎と出会い、不様に敗北した場所だ。
そして、その承太郎はジョセフの親族の間柄である。

「...爺さん、いまの内に言っておくよ」

だから、杏子は正直に話す。
協力者であるジョセフに、後ろめたい気持ちを抱いたままではいられない。
もし、再び承太郎と出会ったときに己の罪を受け入れられるように。

「あたしさ、ここであんたの孫と戦ったんだ。...操られてたとかじゃない。自分の意思でな」
「......」
「別にあいつに恨みがあったわけじゃない。ただ生きるために殺そうとしたんだ」
「...そうか」

それから数瞬の沈黙が二人を包む。
杏子は、ジョセフからの糾弾を待った。
当然だ。自分の孫を襲われれば、誰だって怒りを露わにするに違いない。

「...あいつは強かったか?」
「...ああ。まるで歯が立たなかったよ」
「そうじゃろうなぁ。あいつ、相手がどんなのであれ全く容赦しないからのう」

それから、がさがさと草木を踏みしめて、二人は森の中を進んでいく。


「ま、待てよ。他に言うことはないのかよ?」
「なぜじゃ?」
「いや、ほら...あたしは殺し合いに乗ってた上にあんたの孫を襲ったんだぞ?」
「だが、あいつは大した怪我もしておらんし、お前も誰も殺しておらんのじゃろ。なら、それでこの話は終わりじゃ」
「そりゃそうかもしれねえけどさ...」
「それに、因縁もクソもない敵に狙われるなんざ日常茶飯事じゃ。全部を根に持っていたらキリがないわい」

杏子は首筋に手をやりながら溜め息をつく。
どうしてエドワードといいこいつといいあたしのやったことを責めようとしないんだ。
こんなことなら...

「『いっそ責めてもらった方が楽なのに』か?」

ジョセフの言葉に、ハッと顔をあげる。

「そんな顔を見てれば誰だってわかるわい。じゃが、お前さんがあの子から聞いた通りの子で少し安心したぞ」
「へ?」
「美樹さやか。お前さんも知っておるじゃろう」
「!あいつと会ったのか...」


394 : 星屑の戦士たち ◆dKv6nbYMB. :2016/01/10(日) 01:26:57 e0NFEFrM0

美樹さやか。魔法少女の新入りで、巴マミの代わりに見滝原を守ろうとした少女。
純粋に正義を信じようとしたこいつを見ていると、昔の自分を見ているようで苛立った。
だから、つい喧嘩を売るような真似ばかりしてしまった。
そんな関係だ。どうせ、ロクな評価を吹き込んではいないだろう。

「彼女は言っておったよ。いけ好かないけど、たぶん心底悪い奴ではないとな」

だが、返ってきた返答はあまりにも予想外で。思わず杏子は目を丸くしてしまった。

「どうした?」
「いや、てっきり目の敵にされてるかと思ってたからさ...気にしないでくれ」
「...?」

(悪い奴じゃない、ね。ったく、どの口が言うんだか)

魔法少女の本性を知ったとき。
自分でもなにを思ったかわからなかったが、わざわざさやかの家まで出向いて要らぬお世話をやいてしまった。
結局、さやかは杏子の言葉を拒否し、理解しあうことなどこれっぽちもできなかった。
そのことに苛立ちもしたが、どこか嬉しく思う気持ちもないとは言えなかった。...向こうがどうかは知らないが。

(あいつもまだ生きてるってことは、まどかのことでだいぶ参ってるだろうからな...会えたらいっちょ発破でもかけてやるか)

複雑な表情を浮かべて、考え込む杏子を見つつ、ジョセフは思う。

(...さやかは大丈夫だろうか)

殺し合いに乗った彼女が殺しを思いとどまったのは友人の鹿目まどかの存在が大きい。
その彼女がいなくなったのだ。...再び殺し合いに乗ってしまう可能性は高い。
おそらくタツミが付いているとはいえ、どうなるかはわからない。
もしも、彼でも手に負えなければ、さやかを止められる可能性があるのは...

「...なあ、杏子。さやかのことなんじゃが」

そして、ジョセフは杏子に語る。
さやかが、当初は己の身体を取り戻すために殺し合いに乗っていたことを。
そして、鹿目まどかや巴マミのことで思いとどまらせたものの、その二人は既にいないため、いまはどうなっているかはわからないことを。

「なにやってんだよ、あのバカ...!あたしに啖呵きったこと、忘れちまったのかよ...!」
「...それでじゃな。もしさやかが再び殺し合いに乗ってしまった時は、お前さんに説得を頼みたい。同じ魔法少女で、一度は乗っていたお前なら適任じゃろう」
「わかったよ。...結局、あいつもあたしと同じなのかよ、クソッ」

悪態をつきつつ、杏子は闘志の炎を滾らせる。

(おまえ言ったよな。自分のやり方で戦い続ける、邪魔になるならまた殺しにこいって。だったらよ、もし殺し合いに乗ったなら―――あたしがあんたにケリをつける)

さやかは、正義の魔法少女であり続けると杏子に啖呵をきった。
別に、それを強制し続けるつもりはないし、現実を認めたフリをして杏子のように妥協した人生を歩んでも構わない。
そもそも、最初に殺し合いに乗っていた自分が偉そうなことを言える立場じゃないのもわかっている。
ならば、なぜさやかが身体を取り戻すために殺し合いに乗ったことにこうも苛立っているのか―――杏子自身もわからない。
ただ言えることはひとつ。杏子は、さやかの他人への祈りを後悔しないと言った姿勢に己の姿を重ね合わせているからこそ苛立っているのだ。


395 : 星屑の戦士たち ◆dKv6nbYMB. :2016/01/10(日) 01:27:34 e0NFEFrM0
『―――佐倉様。あなたはDIOと一対一で話した、と仰いましたね。なにか気付いたことはありませんか?』

そんな杏子の様子を察してか、サファイアが質問によって話題を変える。

「いや、さっき言った通り、あたしの知り合い―――ほむらっていうんだけどな。そいつが似たような力を使えるかもって言った途端、顔色が変わったくらいだ」
「ほむら...花京院が一緒にいたと思しき子じゃな。その子の能力についてなにかわからんのか?」
「いや...あいつもDIOも、自分の能力については一切喋らなかったからな」
「と、なると、ワシらが体験したことから推測するしかないようじゃな」
『そうですね』

そして、ジョセフ、杏子、サファイアは森林を進む足を一旦止め、それぞれの体験のもとDIOの能力について推測をすることにした。

「...ありのまま起こったことを話すぜ。『後藤が奴の前で階段を昇っていたと思ったらいつの間にか降りていた』」
「ワシも似たようなもんじゃ。『気が付いたら、ワシの分身が頭を砕かれるのと同時に投げられた棒で刺されていた』」
「で、ほむらについてなんだが『あたしがさやかを攻撃しようとしたら、いつの間にかさやかが後ろに動かされていた』『音も無く背後に現れた』『走るトラックに追いついてソウルジェムを回収した』...こんなところか」
「本当にDIOの能力と似ておるのう」
『催眠術だとか超スピードの類ではなさそうですね。もっと恐ろしいものの片鱗を感じています』


「超スピードではなく、瞬間移動...なんてのはどうかのう。アンジュが、エンブリヲという男が使えると言っておったが」
「瞬間移動か...それなら、ほむらが誰にも気づかれずに現れるのも納得はいくな」
『ですが、それではジョセフ様の現象が成立しません。投げられた棒を瞬間移動させて刺したとしても、投げるまでの動作は確認できませんでした』
「瞬間移動が使えるなら、トラックを追いかけなくてもソウルジェムだけ回収して戻ってくればいいだけだしな」
「そうじゃよなぁ...」


「DIOのスタンドは、承太郎のスタンドと似たタイプだと思ったんだけど、なにかわからねえのか?」
「うぅむ。確かにあいつのスタープラチナは強力だし、かなりの力強さとスピードは兼ね備えているが、それでDIOのようなことが出来るかといえば、不可能じゃ」


あーでもないこーでもないと推測を重ねていくが、どれもピンとこない。

『やはり一番不可解なのは、攻撃する動作無しに攻撃を行うという点ですね』
「...どうじゃ。一度、超能力から離れてみんか?」
『え?』
「行動における動作を省くという枠に捉われず、じゃ。例えば...」

突如、ジョセフが杏子の目に掌を被せる。

「うわっ!?な、なんだ!?」
「杏子、いまワシはお前さんの目を左手で隠しておるが、右手はなにをしておるかわかるか?」
「...?」
「いま、ワシは右腕からスタンドを出しておる。なぜお前がわからなかったか、わかるか?」
「見えないからに決まってんだろ」
「そうじゃな。見えないからワシの動きもわからなかった。これで、DIOの『攻撃動作の省略』はクリアじゃな」
『なるほど。DIOは攻撃動作自体は行っている、その動作を私たちに認識させていない、という考えですね』
「けど、後藤とあたしとノーベンバーと猫とみく。全員の目とかを全部塞いで後藤を階段から下ろすなんてどうやってやるんだ?」
「そこなんじゃよなぁ...」

DIOが何かしらの動作をするとき、その場にいる全員の意識を遮り、DIOを認識できなくする。そんなことが可能なのだろうか。
それに、そんなことが出来るのなら、ジョセフのアサシンのカードでの分身も見切られているはず。

『つまり、DIOはジョセフ様が分身を使っていたことを認識する暇がないほどの瞬間的な時間、私たちの認識能力及び五感を瞬間的に支配し攻撃できるということになりますね』
「...おい、頭がこんがらがってきたぞ」
「ワシらの認識能力を瞬間的に支配できるという可能性が高いのがわかっただけでも収穫じゃないか」
「じゃあどうやって防ぐんだよ」
『それは...』

ジョセフも杏子もサファイアも、一同に口を紡ぐ。
たしかに、なんとなくDIOの能力について漠然とは形が掴めた。
しかし、それでは核心へ近づけたとは到底いえない。
なにかいい手がかりはないものか...


396 : 星屑の戦士たち ◆dKv6nbYMB. :2016/01/10(日) 01:29:24 e0NFEFrM0
(『他者の認識を瞬間的に支配する』『同時に攻撃を叩き込む』...これを時間をかけずに全てを行う...時間を...かけずに...?)

サファイアの脳裏で、なにかが引っかかる。

(時間...?)

「マズイのう...陽が沈みきる時間も近づいておる」

ジョセフがタブレットを見ながら時間を確認する。

(時間が近づく...時間がかかるのは、時間が流れているから...)

「どーする?DIOも御坂も、他の奴らだってそう都合よくは待ってくれねえと思うぞ」
「うむ...タツミやさやかとも合流はしたいが、彼らも彼らで闘技場で会えるかどうか...」

(そう。DIOも合流すべき他の参加者も、都合よくは待ってはくれない...時間は流れているから)

そう、時間が流れている以上、物事は都合よくは運ばない。

だが、彼らがやっていたことは全てそれだ。

後藤を誰にも認識させずに階段から下ろすことも。
ジョセフに動作を認識させずに同時に攻撃を叩き込むことも。
歴戦の杏子に気付かれずに、物音も無く標的を移動させることも。

まさにDIOやほむらにとって『時間の縛りに囚われない都合がいい』ことだ。

時間が流れている以上、ありえない『都合がいい』この行為。ならば、それを成立させるためには...

「―――ァイア。おい、サファイア?」

呼ばれる名前に、ハッと我にかえる。

『申し訳ありません...なんでしょうか』
「あんたの契約って奴をちょっと試したいんだ。いざって時に使えないようじゃ困るしね」
『......』

杏子の申し出に、サファイアは戸惑いの感情を抱く。
杏子は、自分の身体は頑丈だから心配するなと言い張った。
しかし、この会場に来てからサファイアを使用した者はすぐに死んでいった。
美遊も、海未も。
ならば、杏子も例外では―――。


397 : 星屑の戦士たち ◆dKv6nbYMB. :2016/01/10(日) 01:30:27 e0NFEFrM0


「...あのな、サファイア。お前まだグズってんのか?」
『......』

サファイアの脳裏に浮かぶ、二つの背中。



―――イリヤだったら、こんな時でも、絶対に諦めたりはしない…。だから―――


ここに連れてこられる前からの主であり、決してその膝を折らず最期まで戦い続けた美遊・エーデルフェルト。


―――……生きて、真姫。私たちのμ'sを、どうか――


一般人でありながら、守りたいもののために自らを犠牲にして力尽きた園田海未。


死んだ。二人とも、自分が関わったせいで死んだ。

「お前を使った奴らが死んだのはお前のせいじゃないだろ。そいつらは、護るために力を使ったのを、お前のせいにするような奴らなのか?他の奴らなんざ放っておけばよかったって思う奴らなのか?」
『...そんなはずがないでしょう...彼女は、彼女達は...!』
「そこまでわかってんならいいだろ。...羨ましいじゃんか。そいつらは、自分の意志で、自分の為に戦って、ちゃんと守り通したんだからよ」

杏子の脳裏をよぎる、三つの背中。



魔法少女の師であり、最期まで誰かを守るために戦い続けてきた巴マミ。


―――何、一度死んだ身だ。仲間からも組織からも、生への執着からすらも開放された身としてはこういうのもいいんじゃないかなってね


常に飄々として、掴みどころが無く、死すらも恐れず受け入れた契約者、ノーベンバー11。


――それでも、人は生き残るぞ。広川


この世から消え去るその瞬間まで恨み言ひとつ零さず、それどころか広川への予言すら残してみせた魔術師、モハメド・アヴドゥル。


みな、自分とは違う。最期まで己を貫き通し、最期まで後悔を口にしなかった。


「あたしは何にもできなかったよ。力を持ってる癖してさ、何にもできなかった。何にも守れなかった。ここに来る前からずっとだ。自分の命も、家族も、プライドも、なんにもだ」
『杏子様...』
「あんたはあたしとは違う。あんたは他の奴らの力になれる。それで、その力は使う奴次第でなんにでもなる」

―――この力は、使い方次第でいくらでも素晴らしいものになるはずだから。

ふと、そんな美樹さやかの啖呵を思い出す。

「だから...力を貸してくれ。これ以上、あたしが負け犬にならないためにさ」


398 : 星屑の戦士たち ◆dKv6nbYMB. :2016/01/10(日) 01:33:39 e0NFEFrM0

サファイアは、俯きながら思う。

(私は、力になれる...)

サファイアからは、契約した二人が死んだ恐怖はまだ消えていない。
しかし、そのまま動かなければ同じことだ。戦わなければ負け犬にすらなれない。
杏子とジョセフの力にならなければ、それだけでも二人の危険は高まる。
それに、力になることを既に約束しているのだ。
その約束の主が求めるのなら...

『...わかりました。このサファイア、改めて全身全霊で力となることを約束します』

仲間として、死力を尽くすのみだ。

そのサファイアの返答を得て、杏子はニッと笑みを浮かべ、ジョセフもまた微笑みと共に頷いた。

「で、契約ってのはどうすればいいんだ?」
『まずは少々採血をさせていただきます。僅かに指を切る程度で構いませんよ』

言われた通りに、杏子は己の親指に槍で僅かに切り傷をつくり、滲み出た血をサファイアに拭い取らせる。

『次に、私を握っていただいて...名称登録をさせていただきます。お名前をどうぞ』
「佐倉杏子」
『登録完了。それでは転身いたします』
(キュゥべえもそうだけど、魔法少女の契約って結構あっさりしてるもんなんだな)
『コンパクトフルオープン!境界回路最大展開!』

その言葉とほぼ同時に、杏子の身体が光に包まれ、奇妙でありながらも嫌悪を抱かない妙な感覚が身体を流れる。
杏子の着ていたパーカーが消失し、新たに衣装が身体に纏わりつく。

光が収まると、杏子の身は新たな衣装に包まれていた。
体を覆う布は競泳水着のようにぴっちりとしており脇は露出し、腹部は開いている。
腰には申し訳程度の長さのスカートが巻かれているだけで、腕や足先は覆われているものの、太ももの辺りは野ざらしに近い。
一度は園田海未にも着せ、美遊も使っていた衣装となんら遜色のないものだ。

『いかがですか?』
「...うん。まあ、悪くはないかな」

この年頃の一般的な少女なら、露出の多いこの服装に顔を赤らめ恥じらいの一つも見せただろうが、そこは起源は違うとはいえベテラン魔法少女の杏子。
もとからそれなりに露出の多い服装であることも働いてか、この衣装に嫌悪感を抱くことはなかった。


399 : 星屑の戦士たち ◆dKv6nbYMB. :2016/01/10(日) 01:37:19 e0NFEFrM0
「もう終わったかね」

帽子を目深に被り、視線を遮っていたジョセフが尋ねる。
もう少し成熟した身体つきならともかく、まだ成人もしていない少女に興奮するもなにもないが、裸を見られてはいい気分になるまい。
そんなわけで、ジョセフは自発的に杏子の転身を見ないようにしていた。

「ああ。...ってか、一瞬で終わったからそんなに気を遣わなくてよかったぞ」
「ま、一応じゃよ。さて、契約の確認もできたことだし、先へ進もう...」

帽子をあげたジョセフの視線が静止する。かと思えば、今度はプルプルと全身を震わせ始めた。
杏子が疑問に思い、彼の視線を辿ると、その先にあるのは自分の身体。新たな衣装に包まれた己の身体だ。

「な、なんだよ」

そんなジョセフの様子をみて、杏子が抱いた疑問を口に出す。
当然だろう。
自分の身体を見て、口元を引きつらせながら身体を震わせるその姿は、まるで―――


「ギャーハハハハ!!なんじゃあ、その姿は!?」
「なっ!?」


決して周囲に響くほどの大声ではないが、ジョセフは腹を押さえながら笑い転げる。

「に、似合ってるじゃあないか...ぷくくっ」
「てめ、笑うんじゃねえジジイ!」

頬を赤く染めながら、杏子はジョセフの胸倉を掴む。
ここで、杏子はいまの己の姿が客観的に見てどれほど恥ずかしいものなのかをようやく理解できた。

「くそっ...おい、サファイア。どうしてもこれを着なくちゃいけねえのか?」
『いえ。佐倉様と私共の魔法少女は随分違うようなので、慣れてもらうためにもこちらの形から入っていただきました。お望みでしたら佐倉様の元の恰好のままでも力は発揮できますが』
「最初からそうしろよ!」

顔を真赤にしてサファイアにツッコむ杏子。

そんな彼女を見ながら、ジョセフは思う。

(ワシが契約していたらあれを着ることになっていたのか...さすがにアレはチトキツイな)

女装くらいならお手の物だという自負はあるが、ああまで露出が多いと流石に躊躇われる。
ピチピチの布を身に纏い、やたらと肌を露出させて戦う筋骨隆々のジジイなど、誰かに、ましてや知人―――特にポルナレフに知られようものならおおいにからかわれることうけあいだ。

己の宿敵が既にサファイアの姉妹を使い、ジョセフの危惧するような醜態を晒していたことは、いまの彼には知る由もなかった。


400 : 星屑の戦士たち ◆dKv6nbYMB. :2016/01/10(日) 01:40:17 e0NFEFrM0




「...で、どうなんだ」
「うーむ。とりあえず、この森にはいないことは確かじゃな」

ジョセフの痣の反応に警戒しつつ、二人は森を歩く。

「なあ、DIOはあたしがまだ操られてると思ってると思うんだけど、それって使えないかな」
「ワシといるところが見られればそれだけでも警戒しそうじゃが」
「いや、DIOはあたしに『承太郎とジョセフ、それに花京院とイリヤとお前の知り合いは戦わず誘導してくれればいい』って命令したんだ。だから、一緒にいてもそこまで不審には思われないはずだ」
「うーむ...しかし、あいつは己の副官にまで肉の芽を埋めつけるような奴じゃ。一応、後藤を勧誘するあたりなんともいえんが...時と場合による、といったところか」
「そうか。...それで、あいつをブッ倒す算段はついたのか?」
「まだ考えておる途中じゃ」


ただ、とジョセフは言葉を付け加える。

「思ったよりも奴の能力が厄介であり、肝心の日光も決定打には成り得んかもしれないことはわかった。奴に限っては石橋を叩きすぎるということはない...深追いは禁物じゃ。一番マズイのは、ワシらがこのまま二人揃って殺され、誰もDIOの能力に見当すらつかなくなることじゃからな」
「...ああ。わかってる」

DIOに屈辱を晴らすことも大切だが、それ以上に誰もあの男を止められる者がいなくなることが一番マズイ。
それくらいは杏子にもわかっている。

「...なあ、爺さん。ひとつ、約束してくれ」

だから、杏子はひとつの約束を押し付ける。

「ノーベンバーはあたしを庇って死んだ。アヴドゥルも、操られていたあたしに気を遣いすぎて御坂に殺された」

ノーベンバー11は、杏子の背後に迫る刃から庇って死んだ。そのまま杏子を放っておけば、自分は助かることはできたはずなのに。
モハメド・アヴドゥルは、杏子を殺すまいと必死になって持久戦に持ち込み、その隙を突かれて死んだ。もしそのまま杏子を殺していれば、御坂に勝てる、とは言わずとも不意の一撃で消え去ることはなかっただろう。
あいつらは馬鹿だ。どうしようもないくらい甘ちゃんでお人好しの馬鹿野郎共だ。
自分の所為で彼らのような馬鹿野郎共が死ぬことにはもう耐えられない。だから

「頼むから、あんたはそんな真似をしないでくれよ」

杏子の頼みに、ジョセフはニヤリと笑みを浮かべて答える。

「年寄りは忘れっぽいからのう。その保証はできんなぁ」

その言葉に杏子がなにやら反論しようとするが、ジョセフは「だが」と付け加えて杏子の言葉を遮る。

「ワシが常に考えておるのは、『誰が犠牲になって生き残るか』ではなく、『どうやって皆が生き残るか』じゃよ。...これで満足かな?」
「...言ってろ、バーカ」

ジョセフと杏子―――波紋戦士と魔法少女。
二人の戦士は、笑みを交わし合い共に行く。

その果てになにがあるのか―――それは誰にもわからない。


401 : 星屑の戦士たち ◆dKv6nbYMB. :2016/01/10(日) 01:40:56 e0NFEFrM0

【B-1/森林/一日目/夕方】

【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中) 、ダメージ(中)、仲間たちを失った悲しみ、アヴドゥルを殺された怒り
[装備]:いつもの旅服
[道具]:支給品一式、三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、市販のシャボン玉セット(残り50%)@現実、テニスラケット×2、
     ドミネーター@PSYCHO PASS-サイコパス-(電池切れ) 食蜂操祈の首輪、アストンマーチン・ヴァンキッシュ@やはり俺の青春ラブコメは間違っている。
[思考・行動]
基本方針:仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡吹かせる。
0:時計塔→武器庫→市庁舎の順に可能な限り車で周り、日が落ちる前にDIOを見つけ出して倒し、エドワードと合流する。ただし、DIOは深追いはしない。
1:御坂を止める。最悪、殺すことも辞さない。
2:DIO打倒、脱出の協力者や武器が欲しい。
3:さやかが気になる。 もし殺し合いに乗っていれば説得する。
4:DIO打倒のヒントを得るため、ほむらと会えれば会いたい。
[備考]
※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。
※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。
※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。
※殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語で認識されると考えています。
※初春とタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※時間軸のズレについてを認識、花京院が肉の芽を植え付けられている時の状態である可能性を考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×4@魔法少女まどか☆マギカ、
     カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
     不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:DIOをぶん殴る。
1:御坂美琴は―――
2:巴マミを殺したサリアとかいうのは許さない。
3:エドワード、ジョセフと組む。
4:もしさやかが殺し合いに乗っていれば説得する。最悪、ケリはこの手でつける。
5:DIO打倒のヒントを得るため、ほむらと会えれば会いたい。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※サファイアと契約を結びました。


【カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤの思考・行動】
1:ジョセフ、杏子に同行し、イリヤとの合流を目指す。

※DIOとほむらの能力について『時間』がなにか引っかかっているようです。


402 : ◆dKv6nbYMB. :2016/01/10(日) 01:42:02 e0NFEFrM0
投下終了です。


403 : 名無しさん :2016/01/11(月) 20:32:15 W.c0Iqlc0
投下乙です

杏子ちゃんがサファイアと契約か。この2人でDIO様にどこまで食らいつけるか


404 : 名無しさん :2016/01/11(月) 21:27:25 6CsZlzM.0
投下乙です
対主催になったら杏子ちゃんは生存力が跳ね上がるというジンクス
相手はあのDIO様だががんばって、ほんとがんばって!
カレイドステッキとのクロスオーバーにも期待


405 : ◆MoMtB45b5k :2016/01/12(火) 00:49:20 BVsN.rIo0
投下します


406 : The World is Full of Shit,So I Will Destroy The World :2016/01/12(火) 00:52:34 BVsN.rIo0
散々に痛めつけられた体に鞭打ちながら、足立透は走っていた。

(誰も……追ってこねえよな。
 さすがにここまで来れば大丈夫だろ……?)

とにかく、逃げてきた場所にいた連中とはしばらく会いたくない。
後藤とエスデスの2人の化け物はなおさら、特にエスデスはもう二度と顔を見たくない。

(畜生畜生畜生!! マジクソが、何で俺ばっかりがこんな目に合わなきゃいけねえんだよ!)

エスデスに散々振り回され。
首尾よく魔法少女のまどかとかいうガキを殺せたと思ったら、これまたほむらと承太郎とかいうガキに一杯食わされ。
直接殺していないのに殺人者名簿に名前を書かれ、キ○ガイ女セリューに付け回され。
ようやくほむらがくたばったと思ったら、今度は変身する怪獣に襲われ。
立て続けにサリアとかいう電撃女、後藤とかいう化け物の襲撃、トドメとばかりにエスデスのご登場。
振り返ると、本当に不運のフルコースだ。
会った中で辛うじてまともだったのはアヴドゥルとヒースクリフだけか。
今にして思えば、あの2人と行動していれば今ごろはこんな目に遭うこともなく、首尾よく無傷でいられた気がする。
エスデスがしゃしゃり出てきたのが全てのケチのつき始めだったのか。
屈辱と殺意を滾らせながら、足立は超能力研究所の中に踏み入っていく。

「出てこい、オラ!」

ある程度奥まで踏み込むと。デイバックの中から両手をネクタイで結ばれた少女――雪ノ下雪乃を取り出す。

「う……」

乱暴に引きずり出され、雪乃はぶり返す脇腹の痛みに顔をしかめる。

「手間かけさせやがって」

途中までは引きずるようにして連れてきた足立だったが、雪乃は疲労と怪我で体力の限界に達してしまう。
一応人質にはなるが、これでは足手まといだ。
このまま連れ歩き、後藤のような人質もおかまいなしの輩に襲われてはたまらない。
業を煮やした足立は、咄嗟に雪乃をデイバックの中に入れることを思いつく。
結果としてそれはうまく行き、なんとか超能力研究所の中に逃げ込むことに成功した。
この研究所。人間の残骸のようなものが目に入ったが、少なくとも今は戦闘の気配は感じない。


407 : The World is Full of Shit,So I Will Destroy The World :2016/01/12(火) 00:52:57 BVsN.rIo0
「お前には人質になってもらう……けどな」

足立は雪乃に目を向ける。
吐く息は荒く、血に染まった制服が痛々しい。

「お兄さんねえ、ここまで散々な目に遭いまくってイライラしっぱなしだからさあ。
 ちょっとくらいお楽しみがあってもいいよねえ?」

「何をする気……?」

自分を見下ろす視線に、雪乃は思わず腕で身を隠す。

「あっれえー、君もいい年なのにそうやって純粋ぶっちゃうんだ?
 君は怪我をしたかわいい無力な女の子、この通り正義のヒーローとは程遠い俺。
 この状況でやることといったら一つしかないよねえ?」

「下種……!」

雪乃は痛みに耐えながら身をよじり、遠ざかろうとする。
にやにやした視線をきっと見据えながら。

「いいわよ、犯したいなら犯せばいいじゃない。
 ビクビク怯えて本性を隠していたあなたに、そんな大それた真似ができるとは思えないけど」

言い放ち、体に覆いかぶさろうとする足立に唾を吐く。

「――! このクソガキ!」

生意気な行動に怒りの琴線が切れた足立は雪乃に掴みかかり、制服に手を掛ける。
シャツのボタンがちぎれ、下着が露わになる。


408 : The World is Full of Shit,So I Will Destroy The World :2016/01/12(火) 00:53:45 BVsN.rIo0
(――比企谷君――!)

雪乃がもういない少年の顔を思い浮かべた、その時だった。

「シビュラのお膝元が目前にあるこんな場所で犯罪行為とは、なかなか勇気がある」











2人の目の前に現れたのは白髪で長身の男だった。

「槙島聖護……!?」

その姿に、雪乃が反応する。
はっきりと覚えている。
まだ夜のころ音ノ木坂学院に着く前に自分たちの前に現れ、サリアを唆していった男だ。

(ちくしょう、何でこんなところに人がいるんだよ!)

一方、足立は内心で激しく毒づく。
予想だにしなかった新たな人物の登場に楽しみを奪われ、苛立ちは一気に頂点に達する。

「い、いやあ。こいつ、僕を殺そうとか考えてたとんでもない不良のガキでしてね。
 一応僕も警察官なんで、ちょーっとお灸を据えてるうちにこうなったというか、ははは……」

「僕は別に、君が今から行う犯罪行為を止めたいわけじゃない」

足立の苦しい言い訳などは全く耳に入れず、槙島は一方的に語る。

「お望みなら立ち去ろう。僕のことは通りすがりだと思ってくれてかまわないさ。
 君がそうやって強姦を続けたいなら、好きに続けるがいい」

「は?」

突然現れた男のあまりの言動に、足立はその苛立ちも衝動も急激に霧散する。
雪乃もはだけた服を隠すのも忘れ、呆気にとられたように槙島を見つめる。


409 : The World is Full of Shit,So I Will Destroy The World :2016/01/12(火) 00:54:19 BVsN.rIo0
「シビュラシステムは、社会から犯罪を綺麗に消し去った。もちろん、性犯罪もだ。
 一人暮らしの若い女性が鍵もかけずに眠りにつくのは、もはや当然の光景といえる。
 ――だがそれは、システムの檻の中で飼いならされているに過ぎない。
 システムはついに人間、いや、生物にとって最も重要といえる危険を遠ざけたいという思い、防衛本能すらも飼い慣らした。
 僕はね、人は自らの意思に基づいて行動したときのみ、価値を持つと思っている。
 君が自らの意思と激情によって偽りの檻を食い破り、強姦というタブーを犯そうというなら、僕は止めなどしない」

一方的に語る槙島。
それを聞いていた足立の表情に、変化が現れる。

「……舐めてんじゃねえぞ、クソが」

足立の苛立ちは既に逃げてきた時を越え、頂点を貫いてる。
いきなり現れて好き勝手なことをぬかす槙島とかいうこの男は何だ。
強姦しろと言われて、はいわかりましたとぬかすマヌケがどこの世界にいるというのか。

「僕は別に、けしかけているわけじゃないさ。
 ――ところで、女性に暴力を振るう男性というのは、内心ではむしろ女性に強いコンプレックスを抱いていることが多いらしいが、君はどうなのかな。
 僕はね、人間が持つそういう暗く後ろめたい感情を否定したりしない。むしろそれこそが魂を輝かせるとすら考えているよ。
 君はシビュラが消し去ったものを見せてくれるのかな」

「……」

足立の脳裏に去来したのは、ここに来る直前に戦っていた少年少女たちの言葉だった。

――『お前は選ばれたんでも何でもない、ただの下らねえ犯罪者だ!』

――『現実と向き合え!』

「……何だよ、クソ共がよってたかって分かったようなこと抜かしやがって」


410 : The World is Full of Shit,So I Will Destroy The World :2016/01/12(火) 00:54:44 BVsN.rIo0
足立は顔を上げる。

「お前みてえな、何も知らねえ白髪野郎なんかに……」

ポケットの中で、カードに触れる。

「――俺のことを、理解されてたまるかよォォォォ!!!!!!!」

握り潰し、マガツイザナギを召喚しようとして――、
その時にはもう、槙島の体が目前に迫っていた。

「え」

槙島がこのような動きを見せるとは全く思っていなかった足立は受け身もとれず、地面に叩きつけられる。

「……ってえ……!」

痛みをこらえ、足立は起き上がる。

「雪ノ下雪乃といったね。今度は君の番だ」

体を起こそうとした足立の目に入ったのは、拘束を解かれた雪乃がショットガンを自分に突きつけている光景だった。

「君は、キャサリン・マッキノンを読んだことはあるかな?
 読んでみるとといい。ポルノを暴力と規定する彼女の言論は過激で、多くの男性にとって不愉快ですらあるが、一面の真理を突いてもいる」

槙島は、背後から体を支える。

「シビュラが登場する以前、性暴力は極めて重い犯罪として扱われていた。それは何故かな?
 僕はね、それはある意味では殺人よりも人間の尊厳、魂を踏みにじる行為だからではないかと思うよ。
 この距離で僕がこうやって支えていれば、素人の君でも外すことはないはずだ。
 さあ、己を踏みにじった暴力に、自らの意思で牙を突き立てるといい」

「っ!」


411 : The World is Full of Shit,So I Will Destroy The World :2016/01/12(火) 00:55:18 BVsN.rIo0
疲労困憊で槙島に支えられながらも、ショットガンをしっかりと握りしめる雪乃。
その指に力がこもる。

「え、あ、ちょっと、待てって、雪乃ちゃん」

ついさっきまで己の思うままにされていた少女が、自分の生殺与奪の全てを握っている。
目の前のその光景は足立にとってひどく非現実的に見えた。

「待て待て待て! さっきのはちょっとした冗談だからさ、水に流してくれって」

足立の悪あがきなどは一切聞き入れず、雪乃は足立との距離を詰めていく。

「待てよ! 待てっつってんだろうが!! やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!」











「君は、それでいいのかい」

ショットガンの引き金は、ついに引かれなかった。

「……情けをかけたわけじゃないわ。こんなののために自分が人殺しになるのが嫌なだけよ」

失神した足立を一瞥しながら、雪乃は言う。

「僕は殺人を無理強いさせたいわけでもない。君がそう選択するなら、それもまた尊いことだ」

槙島も足立を見下ろしたあと、雪乃に向き直る。

「さて。僕はここの所まともに人と出会えてなくてね。手短に情報交換といきたい。
 あのあと、君はどんな道のりを辿ってきたのかな」

そして、槙島と雪乃はお互いの持つ情報を交換し合う。
図書館と、そしてそこを出てから音ノ木坂学院へ向かおうとしていた間までの、度重なる襲撃の顛末。
雪乃は断片的に語っていく。


412 : The World is Full of Shit,So I Will Destroy The World :2016/01/12(火) 00:55:40 BVsN.rIo0
「なるほどね。この一日あまりで非常に濃い経験をしていたようだ」

そう言いながら、槙島は雪乃の腹部の傷を見やる。

「その傷、見せてくれないかな。先ほど医薬品を見つけたところだ」

「……人の貞操をダシに好き放題やってくれた相手に治療されるというのも、ぞっとしない話ね」

包帯と痛み止めをちらつかせる槙島に、雪乃は精一杯の皮肉を放つ。
だが、傷を負った今のままではまともに動くことはできないのは明白。
躊躇はあっても、今の雪乃には槙島の提案を受け入れる以外の選択肢などありはしない。

「僕の方は最初に言った通りさ。ここ数時間は誰とも出会えていない……従って、君に与えられる新しい情報もない。
 助言ができるならば、ここの西にある北方司令部には行かないほうがいいということくらいだ。
 巨大な氷を操る化け物が潜んでいるようだからね」

傷に処置を施しながら、槙島は語る。

「氷……エスデスのことかしら。その女ならさっき私たちの前に現れたわよ。南にいるわ」

「……そうやって、僕の知らないことを知っている。やはり君の過ごした時間は僕と比べ物にならないほど濃密だ。羨ましいよ。
 もっとも、羨ましいと思う点はもう一つあるがね。
 奉仕部、といったかな。君は友人たちの死を受け入れ、立ち直ろうとしている。
 それは、悲しみへの対処をストレスケアに依存したシビュラの下では、決してありえないことだ」

「……」

比企谷八幡、由比ヶ浜結衣、戸塚彩加。
逝ってしまった3人の顔が、雪乃の脳裏をよぎる。
だが、思いに浸る間もなく、槙島の次の言葉が放たれている。


413 : The World is Full of Shit,So I Will Destroy The World :2016/01/12(火) 00:55:56 BVsN.rIo0
「さて、できれば君ともっと語っていたいところだが、あいにく僕には時間がない。
 この辺でお暇させてもらうとしよう。
 これは最後に聞いておきたいんだが――」

その瞬間、槙島の放つ雰囲気が、友好的なものから剃刀のような鋭いものへと急激に変貌し――
あっと思う隙もなく、雪乃の首には背後からナイフが突きつけられていた。

「答えろ。狡噛慎也はどこだ」

「っ!……何の事かしら」

「君は確かに多くの経験を積んだが、それで僕のような人種をどうにかできると思ってもらっては困るな。
 君が何かを隠しているらしいことには気づいていたよ。
 そして、こと僕に対して隠すべきことなどこの場では狡噛慎也のこと以外にはない」

「く……」

図書館での狡噛慎也との会合は短かったが、彼が槙島聖護を殊更に敵視していることは理解できた。
だから、むざむざ彼にその槙島を近付けさせるような真似はしたくなかったのだが、浅はかな考えだったか。
この状況で抵抗できる術など持ち合わせていない。
先ほどの治療の時と同様、ここでも雪乃に残された選択肢は一つしかない。
諦めたようにため息をつくと、語り出す。

「……狡噛さんとは図書館で会ったわ。たぶん、私たちが来たのとは反対でここに向かってると思うけど」

「それだけ聞ければ十分だ。感謝するよ」

槙島は纏わせていた剣呑な空気を解くと、ナイフを下ろす。

「非常に充実した時間だったが、今度こそ本当にお別れだ。
 君もその男が目覚める前に、ここから遠ざかっておくべきだろう。ああ、銃は持っていくといい。できれば、お互い生きてもう一度会いたいものだね。
 ――さて、猟犬を狩りに行くとしようか」


414 : The World is Full of Shit,So I Will Destroy The World :2016/01/12(火) 00:56:20 BVsN.rIo0
そう言い残し、槙島は研究所のドアを開いて身軽に去っていく。

「私も、助けられたことには感謝すべきなのでしょうね。こっちとしては、できればもう会いたくないけれど」

雪乃はその姿を見送っていたが、足立の姿を目に入れると、自分もドアを出て足早に出ていく。

そして研究所には、未だ倒れ伏している足立のみがその姿を留めた。











数刻後、雪乃の姿は禁止エリアとすれすれの場所にある建物の中にあった。
コーヒーを口に含むと、その甘い感触が全身に行きわたるような錯覚を覚える。

(弱かったのね……私は)

文武両道の学校一の美少女。
殺し合いの場では、そんな肩書きなど塵ほどの役にも立たない。
これまでの戦いに加え、易々と誘拐され、あろうことか体を汚されそうなる。
雪乃は、暴力に蹂躙されるだけの、ただの小娘でしかなかった。

(泉くん……アカメさん……小泉さん……)


415 : The World is Full of Shit,So I Will Destroy The World :2016/01/12(火) 00:56:38 BVsN.rIo0
奉仕部の面々に代わり、まだ生きている仲間の顔が脳裏に浮かぶ。
自分が誘拐された時、あの場にはまだエスデスと後藤がいた。戦闘になっているのは確実だろう。
そこにのこのこと自分が出ていけば、気を取られた隙にまとめて全員が殺された、などという事態が起きかねない。
連れ去られた方角は分かっているはず。彼らが生きていれば、必ず自分を探しにくるだろう。
今の自分に出来るのは、少しでも体力を回復させ、彼らの足手まといにならないように勤めることだ。
そのために禁止エリアの境界であるこの場所を選んだのも、雪乃なりの精いっぱいの作戦だった。
立て続けに襲撃を受けた図書館の付近は、この地図の真ん中に位置している。
この場に安全地帯などないが、真ん中から遠ざかっており、かつすぐそばに禁止エリアのあるこの場所なら多少はマシだろう。

――人という字は2人が支え合ってるというが、よく見たら片方が楽してる

(ふふ……そうね……。支え合ってても、どちらかが楽しなきゃいけない時も、きっとあるのね……)

薄れつつある意識の中に、八幡の台詞がふと思い浮かぶ。
少し安心したせいか、眠気がひどい。
あまりにも色々なことがありすぎ、疲れすぎた。

(会いたい……な……みんな……)

少女は、眠りに落ちていく。





【G-2とG-1の境界付近/建物内/一日目/夕方】

【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大) 、腹部に切り傷(中、処置済み)、睡眠中
[装備]:MPS AA‐12(残弾4/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率
[道具]:基本支給品、医療品(包帯、痛み止め)、ランダム品0〜1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
0:セリューには由比ヶ浜を殺した償いを必ずさせる。
1:体を可能な限り休めたあと、泉新一たちと合流したい。
2:比企谷君……由比ヶ浜さん……戸塚くん……
3:イリヤが心配。
4:サリアさんは……。
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※槙島と情報交換しました。


416 : The World is Full of Shit,So I Will Destroy The World :2016/01/12(火) 00:57:02 BVsN.rIo0






(……少し意外だな。自分はかなり強くあの男に執着してしまったらしい)

西に向かって歩みを進める槙島が意外と言ったのは、強硬な手段で雪乃から狡噛の手段を聞き出したことだった。
この場に連れてこられた当初は、あのような行為をしてまで狡噛を追い詰める意思はなかった。

(やはり、フラストレーションがたまっているのかな?)

超能力研究所に辿りついた槙島は結局、幾多の選択肢の中から、研究所に隣接するように建っている潜在犯隔離施設で狡噛を待つことを選択した。
しかし、施設内を探索しながら時間を待つことに費やしても、狡噛はおろか他の参加者すら出てこない。
痺れを切らし、他を探ってみようと裏口から研究所に戻ったところ、2人に遭遇したという顛末だった。

(2人とも、中々面白い人間だった。これはこれで大きな収穫だろう)

足立透。
本人の弁によれば刑事らしいが、強姦というその職能とは真逆の行為に及ぼうとしていた男。
その性質はサリアに似ていなくもなかったが、追いつめられた彼が何かをしようとしていたことに槙島は気付いていた。
気絶した足立の傍に落ちていたカード。あれがその鍵となるものなのだろうかと思い、雪乃には気づかれないよう彼のポケットに戻しておいた。
むろんあの場で息の根を止めることもできたが、あえて放置しておけば彼はまだ面白いことをするという確信があった。

雪ノ下雪乃。
殺し合いが始まってからさほど時間のたっていない頃、わずかな時間ではあるが顔を合わせた少女。
月並みな言い方をすれば、修羅場をくぐったというのが相応しい。
初対面の際は大きな印象は残らなかったが、戦いと喪失を経験した彼女は、明らかに変わっていた。

やはり、この場に集められた人間は興味深い。
誰とも会えずに無駄にした時間が悔やまれる。もっともっと、人間の魂の輝きを見てみたい。

(そのためには、狡噛慎也。君は……邪魔だな)


417 : The World is Full of Shit,So I Will Destroy The World :2016/01/12(火) 00:57:21 BVsN.rIo0
前時代のいじめか何かのごとく、悪評を振りまかれるのはこれ以上勘弁願いたい。
そういう意味でも、彼は早めに潰しておくに越したことはないだろう。
微笑みながら、バッグから1丁の銃を取り出す。

(少し意外ではあるが、これは僕にも使用できるらしい)

携帯型心理診断鎮圧執行システム、ドミネーター。
誰とも会えず、得物である西洋剃刀も見つけられなかった槙島の唯一の収穫が、ドローンの中にぽつんと残されていたこの銃だった。

(君の本来の武器であるこれで君の命を刈り取るというのも、中々面白い趣向だろう)

槙島はさらに西へ向け歩を進める。
氷柱の主――エスデスと一線交えていたと思しき人物が周囲にはいる可能性もあるが、槙島は意にも介さない。

(危険――リスクという言葉の語源は、一説にはラテン語で「勇気を持ち挑戦する」とか、「断崖の間を航行する」という意味のrisicareにあるといわれる。
 そこに見られるのは、危険に挑んで利益を得るという考え方だ。
 翻って見ると、シビュラシステムによる社会とは、リスクを徹底的に遠ざけた代償として何も得るものが無くなった社会に他ならない)

北端の橋が禁止エリアによって封鎖された以上、西回りで潜在犯隔離施設を目指すルートは一つしかない。
D-2とE-2を結ぶ橋。狡噛は確実にそこに現れるはずだ。

槙島は、満面の笑みをその顔に浮かべる。

「少なくとも僕にとっては、リスクのない人生なんて面白くも何ともないがね」

そこには、これから起こること対する期待と喜びが満ち溢れていた。

「君だってそうだろう? なあ、狡噛慎也」





※潜在犯隔離施設に一丁のみ残っていたドミネーターは持ち出されました。

【E-2/一日目/夕方】

【槙島聖護@PSYCHO PASS-サイコパス-】
[状態]:健康、高揚感
[装備]:サリアのナイフ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品一式、トカレフTT-33の予備マガジン×1、スピリタス@PSYCHO PASS-サイコパス-、ドミネーターPSYCHO PASS-サイコパス-
[思考]
基本:人の魂の輝きを観察する。
1:西に向かい、狡噛慎也を殺害する。
2:面白そうな観察対象を探す。
[備考]
※参戦時期は狡噛を知った後。
※新一が混ざっていることに気付いています。
※田村がパラサイトであることに気付いています。
※穂乃果、黒子が出会った危険人物の詳細と、友好人物の情報を断片的に得ました。
※D-1でのエスデスとDIOの戦いで生じた50mほどの氷柱を確認しました。
※雪ノ下雪乃が出会った危険人物の詳細と、友好人物の情報を断片的に得ました。


418 : The World is Full of Shit,So I Will Destroy The World :2016/01/12(火) 00:57:58 BVsN.rIo0






「ふ……ふふ」

静まり返った研究所の中に、男の乾いたような哄笑が響く。

「ははははははは、はははははは!!」

足立は身を起こし、なおも笑い続け――

「ああ!!!」

その拳を、床に叩きつけた。

「ふざけやがって!!」

自分は一体何をしていたのだろう。
気に喰わない連中に小突き回されてボロボロになり。
挙句の果てには、蹂躙されるだけの小娘でしかなかった殺されかける始末だ。

「あーあーあー、もうやめやめ。やーめた!」

そもそも、下手に立ち回ろうとするからこんな様を晒すことになったのだ。
いい子ちゃんごっこをやり続けてバカを見るのはここで終わりだ。

「どうせみんな丸ごとシャドウになっちまうんだ。その前にこんなところに連れてこられたなら、せいぜい一発花火でも上げねえとなあ」

身を起こす。
不思議と体が軽い。
体中に負った傷の痛みも、どこかに飛んでしまったかのようだ。

「槙島、てめえは人間の意思がどうとかほざいてたよなあ?
 だったら俺の意思でやってやろうじゃねえか、皆殺しってやつをよぉ!!」





【F-2/超能力研究所/一日目/夕方】

【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(極大) 、
    爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血、アドレナリンにより痛み・疲労を感じていない
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
    ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み) 警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する。(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:皆殺し。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。


419 : ◆MoMtB45b5k :2016/01/12(火) 01:00:10 BVsN.rIo0
以上で投下を終了します
すみませんが、タイトルのSoとWillは収録時は頭を小文字に変えて頂けると助かります


420 : 名無しさん :2016/01/12(火) 17:29:51 3YTbTHpo0
投下乙です

>星屑の戦士たち
ジョセフがかっこいいぞ、DIO様に一泡吹かせてやってくれ!
杏子もステッキとの契約で対主催の中でも一線級の戦力になったな、応援してます
タイトル、ジョジョは勿論ステッキにもかかってるみたいで良いですね

>The World is Full of Shit,So I Will Destroy The World
マキシマムやっぱりかっけぇ!マキシマム節が再現度高くて嬉しいですね」
足立さんマジ小物、でもやっぱり魅力的なキャラだよなぁ
ゆきのんも俺ガイル勢最後の生き残りの意地を見せてくれて満足


421 : 名無しさん :2016/01/12(火) 18:31:37 mqo.IddMO
投下乙です

足立ついに吹っ切れる
果たして花火は打ち上がるのか


422 : 名無しさん :2016/01/12(火) 19:06:46 xxACIemc0
投下乙です
足立さんには本当に頑張って欲しいですね
マキシマムもやっと動き出して期待です
そして然り気無くゆきのんから忘れられるウェイブに草


423 : 名無しさん :2016/01/12(火) 19:11:30 8C5tSiDk0
投下乙です

疫病神に愛され死神が(今のところ)寄り付かない足立さんには強く生きてほしいですね
マキシマムはついにコーガミさんを狩りに動くか。期待せざる得ない
地味にドミネーター持ってるのも本編鑑みると皮肉でグッドだと思います


424 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 16:57:46 2BN83njg0
投下します


425 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 16:59:55 2BN83njg0




『ようこそ。お客様、我がベルベットルームへ』

見慣れた光景が目に入る。リムジンの中に佇む鼻の長い老人と、その横に座る美女。
ああ、そうだここは……。

『どうやら、旅路は思わぬ道に逸れてしまったようですな。
 恐らくは、本来のお客様の定めにはない。……有り得なかった筈の未来とでも言いましょうか。
 お客様が呼ばれた空間、それは無数の未知と異界により入れ混じった一種の蠱毒。その中にはありとあらゆる可能性が介在し、そして新たな未来を引き起こす。
 ご友人の死も……またそう言った未来の一つとして産み起こされた、悲劇の一つのなのかもしれませぬ』

『そしてまた、お客様に災厄が降りかかろうとしております。
 これもまた、本来起こり得ぬ可能性が混じり合い、生み落ちる未来の一つ。
 霧もまたより濃く、より深くお客様を包み込んでゆく事でしょう』

『我々も共に旅路を辿りたいところですが、そろそろお時間のようですな……。
 やはり、ベルベットルームからの干渉は制限されているようです。
 最後に……何が起ころうとも、決して進むのを躊躇わぬ事です。例え、霧に遮られようとも、その実道は続いてゆくもの。
 必ずや、その先には―――』







426 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:00:16 2BN83njg0



「猫……」

懐かしさを覚えながら銀は擦り寄ってくる白猫を抱き上げる。
それは魏が回収したカマクラだ。先の戦闘のいざこざに、バックから離脱し新たな主を求めていたところで、銀と遭遇する。
銀も昔はいつも猫を抱き上げ、膝に乗せていた為か、この白猫も手慣れた手付きで腕の中で抱擁する。
そのまま、白猫の頭を撫でてやる。すると、白猫は心地良さそうに目を細めながら、喉を唸らせた。

「どうなってるの、これ」

銀と千枝がジュネスに辿りついた時、既に事は済んでいた。
明らかに争った、あるいは誰かが一人で暴れたとも考えられる、破壊痕。
殺し合いの場であることを考えれば、誰かが二人以上で殺しあった可能性が一番高いだろう。
その争いの主な戦場になったのか、特に家電コーナーが酷い。
洗濯機と冷蔵庫が強烈な勢いを付け、衝突したのか。両者の白を基調としたそのボディが完膚なきまでに凹み、粉砕されている。
螺子や、内部の稼動に必要な機器がぶちまけられ、鉄のミンチが二人の目の前には積まれていた。
他にも、この二つの家電のように様々な家電用具が破壊されては放置されている。
時代が時代ならば、三種の神器と呼ばれた内の二つをこのように扱う事に憤怒する者も居たのだろうが、生憎と二人にとっては見慣れすぎた機器。
憤怒よりも、彼女らを締める感情は恐れと警戒。銀が自主的に観測霊を出し、周囲を捜索する。
もっとも、銀も千枝も家電を扱う場所柄、観測霊の触媒となる水が致命的なほどにまで無い、この近辺での捜索にはあまり期待していなかった。
しかしよくよく見てみれば、周囲には何故か水によって濡らされており、酷い破壊痕であればあるほどその水痕が超著になっている。
予想外の事態に驚嘆しつつも感謝しながら、銀は観測霊から一人の参加者を発見する。

「……居た」

「誰が?」

「青い髪の女の子。歳は千枝より下、多分中学生」

「中学……。隠れてたのかな?」

「違う」

銀の報告に千枝は顔色を変える。一気に血の気が引き、背筋に冷たいものが走った。
状況から推測すれば、その少女はきっと戦いに参加している。
問題はその少女が自主的に戦闘を行ったのか、単なる自衛の為に戦わざるを得なかったのか。
掌にタロットカードを浮かばせながら、千枝と銀はその方角へと進んでいく。

「―――! 駄目、千枝!」

何かを蹴る音が千枝の耳に飛び込んだのと、銀が叫んだのは同時だった。
千枝の目の前に更に危機の部品が降り注ぎ、その後ろから虚ろな目をした青髪の少女が佇んでいる。
これが銀の見つけた少女だと察しを付けた千枝は恐る恐る、物陰から様子を伺いながら口を開く。


427 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:00:34 2BN83njg0

「だ、大丈夫……」

「はははははははははははははははははは!!」

見えていない。明らかに少女の目に千枝たちは写りこんでいなかった。
銀が千枝の手を握り、今までに無い程の力で強く引っ張る。

「離れた方がいい」

見れば、銀の腕の中の猫も明らかな警戒態勢を見せ、少女を睨みつけていた。
遅れて、千枝も少女の異変に気付きだす。
理由は分からないが、直感的にこの少女には触れてはいけないと感じた。起爆しかけの爆弾のように、下手な触り方をすれば何かが起こる。
少女の視界から離れるように、一時撤退しながら二人と一匹は物陰に隠れた。

「……な、なんか離れちゃったけど。やっぱり放っておいちゃいけないよね」

「事態を把握したほうが良いと思う。……シャワーを使った後があったから」

「同行者が居るかもって事?」

「多分、悠かもしれない……」

銀が飛ばした観測霊は湯気の立つ、シャワー室にまで及んだ。
そこを重点的に銀が探ると、青い髪の毛ともう一つ銀髪が排水溝に引っかかっていた。
少なくとも二人の人間が、その内一人はあの青髪の少女なのはほぼ確定だ。
そして、もう一人の髪の主。それは千枝の探し人の特徴が正しいのであれば鳴上悠であるかもしれない。
事実、モモカを介しエンブリヲは鳴上に対しても言及していた。そのモモカも向かう方向はこの南東だった。
ここがジュネスであることからも、千枝との合流を考え、鳴上がここに一時的に滞在し休息をとっていてもおかしくない。

「もしかして私達ニアミスしたの……」
「湯気がまだあった。遠くには居ないと思う」
「分かった。先に鳴上くんを探そ」

青髪の少女に対し、何があったのか二人は分からない。下手に接し方を間違えれば付けなくてもいい導火線に火を灯す可能性もある。
気は進まないものの割り切り、一先ず二人は鳴上の探索へと向かった。


428 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:01:00 2BN83njg0


「運が良い奴ら……」

過ぎ去った二人を見つめながら、さやかは忌々し気に呟く。
あの笑い自体は演技ではないがそれでも目の前に二人に気付いていない訳ではなかった。
もし千枝がもっと近くに寄れば、殺しても良かった。だが、その前に銀に止められてしまった。
今のさやかの体調では、戦闘は不可能だ。剣を精製した瞬間、ソウルジェムが真っ黒に染まりそのまま魔女にでもなれば目も当てられない。

「鳴上……だったけ。使えるかな」

千枝と銀の会話で千枝は鳴上の名を口にしていた。
タツミと違い鳴上は甘い面もある。自主的な戦闘が実質不可能な以上、彼を一先ずの隠れ蓑として使うには好都合かもしれない。
鳴上には貸しが一つある。彼も無下にはしないだろう。
結果的には千枝と交戦せず、正解だったと内心で安堵しながらさやかも二人の後を追う。
出来れば、タツミと先に合流される前に鳴上に会いたいところだ。






429 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:01:36 2BN83njg0



「――イザナギッ!」

魏のティバックから水流が飛び出し、鳴上へと襲い来る。
タロットカードを壊し、鳴上はイザナギを召喚。イザナギはその手にした刀で水流を弾いていく。
しかし更に弾かれた水流が枝分かれし、数本の槍となって鳴上とイザナギを囲う。
イザナギが地面に刀を突き刺し、それを強引に引き抜く。床の表面が抉れ、瓦礫となり散弾のように水流に放たれる。
ペルソナの腕力で薙ぎ払われた散弾は、ブラックマリンの支配下に置かれた水流すらも打ち砕く。
水の槍が砕け、個々の小さな雨となり降り落ちる。だが、魏は笑みを変えずその雨を更に操作し再び水流を作り出す。
次は水流そのものに回転を加えたドリル状の水流。適当な障害物を投げた程度では簡単に貫き、鳴上達ごと穿つだろう。

「キングフロスト!」

イザナギからペルソナを変更し、氷を操るキングフロストを召喚する。
いくら水を砕いたところで、元より不形の液体を御する事にはならない。ならば、水そのものを凍らせてしまえばブラックマリンの力は完封できる。
しかし、ペルソナは変更されない。何故と疑問に思う間もなく、水流が迫る。
咄嗟にイザナギに刀を構えさせ水流を受け止める。だが、非常時に乱れた鳴上の精神がイザナギにも影響されたのか、数秒の拮抗の末イザナギは力なく吹き飛ぶ。
そのまま消失し、鳴上もイザナギの受けたダメージを衝撃を喰らいながら床を転がっていく。

「何……? ジャックランタン!!」

秒も置かず、止めを刺そうと動く水流に鳴上はジャックランタンを召喚する。
理由は分からないが、現状使えるペルソナはイザナギとジャックランタンの二つしかないようだ。
胸に抱く疑問を隅に追いやり、ジャックランタンで水流を迎え撃つ。

「おや。水を相手に炎とは」

魏も呆れながら声を漏らす。ジャックランタンが操るのは炎。それはペルソナをよく知らない魏でもパッと見で分かるほど躊躇だ。
水を相手に炎ではあまりにも分が悪い。まだイザナギを出したほうがマシだ。
しかし、鳴上は覚悟を決めた目でジャックランタンから炎を繰り出す。
数本の火柱と水流が激突し、二者の視界が白い霧のような物で包まれる。

「……! 水を気化させることが狙いだったのか?」

視界を覆う霧。これはより正確に言えば湯気だ。水流が炎に焼かれ温度が百度を超えたことで起きた現象。
湯気の中から、イザナギを従え鳴上が肉薄する。

(血の付いたものを消し飛ばす力……。でも、峰打ちなら)

イザナギが魏を捉えたその瞬間、鳴上の身体を無数の棘が貫いていく。
全身をmmサイズの蜂の巣にされた鳴上はは堪らず、血を吹きながら膝を付く。
そのまま、魏が指を鳴らす音が響き、更に体内から軋むような音が響き全身を激痛が走る。
苦痛に悶えながら、鳴上は倒れ伏す。


430 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:02:01 2BN83njg0

「がっ……」

「良いアイディアでしたが、湯気も水であることには変わりない。そこに私の血も含ませていただきましたよ」

むしろ、気化したことで意図せず水の包囲網が生まれたのは魏からすれば好都合であった。
そこに血も仕込みながら鳴上に攻撃を放てる。とはいえ、攻撃の規模は小さく鳴上を仕留めるには至らないが、十分なダメージは与えた。
身動きの取れなくなった鳴上に魏は腕から垂れた血を浴びせようと腕を振り上げる。

「守ってトモエ!」

その次の瞬間。もう一つの異形が薙刀を横薙ぎに払う。
魏目掛けた薙刀を身体を屈めて避け、異形に血を浴びせる。指を鳴らし血が光るが、魏の能力が発動する前に異形は一瞬にして消える。
困惑した魏に鳴上がイザナギを召喚し刀を繰り出す。刀に血を投げ、刀身を消し飛ばすが、イザナギの蹴りが魏にめり込みそのまま後方へ蹴り飛ばされる。

「里中、なのか?」
「よかった。鳴上くん!」

鳴上の応援に来た異形の主は鳴上が普段目にする人物。
他でもない、里中千枝その人だった。
再会を喜ぶのも束の間、血が二人目掛けて飛びかかる。鳴上は痛む身体に鞭打ち、千枝を押し倒すように覆い庇う。
血は二人の頭上を過ぎ去り、壁面に付着するとそのまま光り付着面が消し飛ぶ。

「気を付けて……血の触れた物が消える能力……。黒も苦戦してた」

「この、娘は?」

「大丈夫。銀ちゃんは私達の味方だから」

千枝の後ろに猫を抱きながら佇む少女。表情からその内面は図り切れないが、千枝が信用する辺り敵ではないのだろう。
鳴上も深く言及はせず、イザナギを再度召喚し直し刀を元の刀身へ精製する。
魏もトモエに蹴られた箇所を抑えながらも、こちらを見つめて静かに構える。
互いに動の攻防から、隙を伺う静の攻防へと縺れ込む。だが、やはり圧倒的に実戦の経験が無い鳴上達の方が不利だ。
ジリジリと距離を縮めてくる魏に対し、鳴上も千枝もまるで隙が見当たらない。先手を取ろうにも魏の凄みに威圧され手が出せない。
対して魏は余裕を持ちながら、軽やかな歩みを見せている。

(増援には些か驚かされましたが、まあ大した事はない。以前のスタンド使い(にんぎょうつかい)達に比べれば技も経験も浅い)

以前、まどか達と交戦した五人。より正確には三人か。
あの赤と炎の戦士は学ランと外人の二人の能力なのだと、ペルソナを目の辺りにして、魏は初めて理解した。
さて、目の前の二人もあの男たちとかなり質の近い能力者ではある。だが、対人に関してはかなり甘い部分が目立ち、経験が少ないのは明白だ。
経験で言えばあの学ランも男も彼らと然程変わりはないが、あの男は生まれ持った素質なのか歴戦の戦士に近い熟練された精神があった。いざと言う場合に関し人を殺すという覚悟や、度胸もある。
もっとも比較対象である学ランの男が異常なのであって、目の前の彼らの反応が一般人としては当然なのだが。


431 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:02:19 2BN83njg0

(感情のない契約者とは違い、感情が残っている能力者はやりやすい。
 ……首輪が二つのBK201のドール、確か銀でしたか。彼女も確保すれば奴を誘き出せるかも―――)

この時、本来なら使い捨てであるドールを利用できると判断したことに魏は疑問を抱いた。
妙だ。黒は契約者であり、合理的な思考をする。このドールを連れた所で黒を誘き出せるはずがない。確実に彼女を見捨てる選択を取る筈だ。

(何故だ? 何故、私はあの男が関係する判断に関し、合理的になれない? 何故……)

まるで、この思考は人間のようだ。契約者としての合理的判断が微塵も挟み込まれていない。
その動揺は魏に少なからずの動揺を与え、隙を見せた。それを見逃すような敵ではない。

「―――!」

ただし、如何に動揺しようとも魏が実戦に置いて鳴上達に後れを取る事は早々無い。
あるとすれば自分と同じ土俵に居る、同類の暗殺者。
風を切る音と共に魏の身体に衝撃が走る。即座に水を盾にするが、その盾を拳が突き破り魏の頬に直撃する。
拳の威力が水に阻まれたことで落ちたこと。魏が掌を挟み込み、尚且つ体を後ろに逸らす事で衝撃を最小限留めたこと。
この二つが重なり、ダメージを負うものの致命的なものには至らなかった。
だが、魏は舌打ちしながら一気に後方へ下がり距離を取る。

「これで借りは返せたか、悠!」

「タツミ!
 ……まさか、タイミング狙ってたのか?」

「悪い。隙が無かったからな」

タツミと鳴上が軽口を叩き合う様を見ながら魏は忌々し気に表情を歪める。
鳴上達もタツミも個々であれば、実力は魏が上回る。それは先程の戦闘で証明済みだ。
だが徒党を組まれるとなると非常に厄介だ。

(何故、こういつも邪魔が入る……!?)

水を操作し、極細状の針のように水を形成し周囲に展開する。
増援は“二人”。このままでは実質四VS一。如何に、その内の三人が素人であったとしても分が悪いところではない。
ここは戦力を削る事を優先すべきだ。殺害を視野に入れず、広範囲目的の攻撃で素人連中が怯んだ隙にプロであるタツミを真っ先に排除する。
タツミさえ消えれば、あとはそこまで手こずりはしないだろう。


432 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:02:41 2BN83njg0

「さや――」

水の針が四人に降り注ぎ、鳴上、千枝はペルソナを展開しながら銀を連れ攻撃から身を隠す。
そしてタツミは当然、異能を持たない。それ故、戦場の地理を利用し物陰を盾として動く。
唯一動けなかったのは、たまたまタツミが戦場に現れたのと同じタイミングで千枝たちに追いついてしまったさやかだった。
ここで魏にとってのうれしい誤算だったのは、さやかが激しい身動きを取れる余裕がなかったことだ。
外見的には然程大きな外傷はない。だが、その魔力は既にジリ貧。さやかは既に変身すら出来ていない。
未変身のさやかでは、ブラックマリンの攻撃を避けるどころか目で追えすらしない。

「や、助け―――」

罠を勘ぐる魏だが、さやかは本当に動けないことを確信し彼女の抹殺を優先した。
恐らくは能力の対価なのか。契約者であろうがなかろうが、強力な能力には代償が付き物なのかもしれない。

(不味い、あのままじゃ……)

魏の放った攻撃は極細の針状の為、殺傷力自体はそこまで高くはないがさやかがこのまま動けずにモロに受ければ別だ。
だが幸いにもさやかとタツミは意図せず、距離が近い。全力で駆け、さやかを回収すれば互いに傷一つ負わず切り抜けられるのではないか?
かなり危険な賭けではある。
しかもさやかは乗っている可能性が高い。いっそここで死んでくれた方が後腐れもない。だが、今目の前で助けを求められた以上、救わない訳には―――

(待て、あいつ。左腕が直ってる……。まだ、余裕がある、のか?)

危険種顔負けの再生能力。考えれば、初対面の戦闘で一度殺したにも関わらず、さやかは未だに平然としている。
この程度の攻撃で死になどしないのではないだろうか。この思考に辿り着いた時、タツミは完全に動きを停止させた。
もしも、インクルシオがあれば、いや本来の得物の剣でもいい。多少の無茶が効く装備に恵まれていれば、さやかの救出に向かったかもしれない。
だが現状、タツミには余裕がない。ルーンの刻まれた手袋があるとはいえタツミは実質素手の戦闘は専門外。
もしここでさやかを救出したとしても、タツミが致命傷を負えばどうなる? 鳴上達だけで魏の相手は難しい。
何より、ナイトレイドの仲間であるアカメがたった一人この場に残されてしまう。
クロメが落ちたにしても現状ナイトレイドが二人、イェーガーズが三人の対立図。ここで脱落してアカメに負担を強いらせる訳にはいかない。

「手を伸ばせ、さやか!!」

距離としては最もさやかから遠く、離れていた鳴上が飛び出した。
何の打算もない純粋な善意から伸ばされた手は、あまりにも遠く、無情にもさやかには届かない。
涙を溜めたさやかの表情が鳴上の目に焼き付けられる。
またこの手は誰も助けられない。クマも雪子もエンブリヲに囚われ命を落とした少女も。

「駄目、鳴上くん!!」

飛び出した鳴上を千枝が掴み抑え込む。二人の目の前でさやかはその全身を水に貫かれる。
体中に穴が穿たれ、水芸の踊り子のように血を吹きながらさやかは倒れ伏す。
最早、彼女の身体に赤く染まっていない部位は無いほどに、その身体は血と皮膚との判別がつかない。
床を血がしたり、鳴上の足元にまで赤い河が広がり、彼の顔を赤く映す。


433 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:03:05 2BN83njg0

「あっ、え、ぇ……」

痛覚は遮断している。ただ、さやかにあるのは消失感のみだ。
今まで負ったものとは違う。回復にあてがう魔力は最早ない。このままさやかを待つのは死だ。
本来の人間であるならば、既に生命維持に必要な器官の全てが故障し壊れている。息すらまともに吸えず、声もろくに上がらない。
正常に作動しているのは脳みそと涙でぼやけた視界だけだ。

「ぐ、い……ひ、……が、ぁ」

「おい立て。早く再生しろ」

「ひ、は……ぅ……」

「魔法少女の再生力なら、この程度平気だろ」

淡々と言い。攻撃が止んだのを見計らいタツミはさやかに背を向け、魏へと対峙する。

「……まるで契約者ですね」
「何がだよ」
「いや、何でもありませんよ」

さやかを殺せば、少なからずの隙になると伺った魏だがタツミの合理的判断には些か驚かされた。
存外、人間も契約者も然程変わらないのかもしれない。そうどうでもいいことを考えながら、魏はタツミとの戦闘に意識を向ける。
残りの人形使い達はさやかの無残な姿に戦意喪失し、戦力として考えなくてもいいだろう。


「――――イザナギィィィィィ!!!!!」

「なr―――」

否、この判断は早計だったと魏は思い直す。
タロットカードを握り潰し、イザナギが刀を振りかざし迫る。
ただしそれは魏に向けたものではなく、他の誰でもないタツミへと向けられたもの。
咄嗟に拳を刀にぶち当て逸らす、しかし刀を振りかぶった遠心力を利用した蹴りをモロに受け吹き飛ばされる。

「ゆ、う……。お、前……」

「何でだ。何で、お前はそんなことが言えるんだ!」

誰しも、他人の為に命を張れないのは分かっている。だから、タツミがさやかを助けられなかったのは仕方のない事なのかもしれない。
あの場面は誰しも切羽詰まっていた。
鳴上も衝動的に動いただけで、千枝が居なければさやかごと身体を貫かれていただろう。
タツミもそれを予見し、さやかの救出を諦めたのなら、まだ良い。
だが、あの後の台詞だけはどうしても聞き流せない。
さやかが必死に求めているもの。彼女ら魔法少女の命綱であるグリーフシードであることは間違いない。
それをタツミはまともに聞き入れないどころか、彼はあんな冷酷な一言まで浴びせた。


434 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:03:28 2BN83njg0

「グリーフシードを渡せ」
「馬鹿な、こと考えんな……」
「……力づくで奪う」

鳴上の頭には血が上り周りが見えていない。あれほどまでに荒ぶった鳴上は見たことが無い。
止めないと。千枝がそう判断し駆けだそうとした時、彼女の後ろに居た銀が頭を押さえ苦悶の声を漏らす。
振り返れば、銀は額に脂汗を滲ませながら顔を歪ませ膝を床に付けていた。

「銀ちゃん!? 銀ちゃん!!」

「だ、駄目……」

鳴上のペルソナが、絆の力が籠った全てのタロットカードがタツミの前で展開される。
今までに幾度となく窮地に陥った場面で発揮したペルソナの合体。だが、今回だけは今までと勝手が違う。
タロットカードが赤黒く濁り、まるで死者から流れる血のようだ。
そのタロットカードの中心生まれた深淵。そこに何者かが潜みこちらを伺っているのが千枝には見えた。

(鳴上くん、駄目……それは出しちゃ……)

鳴上は気付かない。自らが召喚しようとする者が何なのか。
怒り、憎しみにより犯された精神は新たな力を齎すとともに、真実を見極める眼を曇らせる。
ただ今の鳴上にあるのはさやかを救えなかった、身近にいた人達を仲間を救えなかった虚しさと悲しさ。
自身に湧く怒りと、誰かを傷付ける他者への憎悪。

「……聞け、さやかの奴は再生できる。それが魔法少女の……」
「だから、グリーフシードを早く渡せ」
「馬鹿、下手にこれを渡せばさやかは俺達を殺しに来るかもしれない!
 ソウルジェムを渡した今、これはある意味最後の鎖なんだよ」
「見えないのか? さやかのソウルジェムはあんなに濁っているのに!」

「なっ!?」

鳴上の台詞で初めてさやかの持つソウルジェムの異変に気付く。
先程の攻撃で、ソウルジェムを取り落としたのだろう。血だまりの上に転がる一つの宝石。
それは深い闇のような黒に染まっていた。恐らくは魔力消費の限界にまで達していたのだ。

「……嘘だろ。前に渡してからそんなに時間は……まだ余裕も」

気付かなかった。まさか、さやかがここまで追い込まれたいたとは。
一度死んでも蘇り、ジョセフと交戦しても尚、あれだけピンピンしていたさやかがこんな事で死にかけるのか。
その疑惑がどうしてもタツミに己の過失を認めさせない。


435 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:04:49 2BN83njg0

「まだ。……さやかが死に掛けたフリをしている可能性だってある」
「タツミ……! いい加減に……」

鳴上の手が、タロットカードと重なろうとしたその瞬間、場の雰囲気が変貌する。
闘争により響き渡った騒音が、今となっては嘘のように静寂に切り替わる。
全身の毛穴が開くような嫌な感触。これは、子供の頃に夜中良く居もしない幽霊に怯えていた感覚と似ていた。
もっとも、今感じるこれはそんな幼少期の思い出とは比べ物にならない。生物としての本能が、全霊で警鐘を鳴り響かせる。


―――TEMPESTOSO(嵐のように) AFFETTUOSO(愛情を込めて)



この場に居る誰しもが理解した。
これから生まれるの人間にとっての天敵。
人間の呪いより生まれし負の存在。

「ペルソナ……いやシャドウ、なのか」

鳴上が最後に見たのは、人魚の身体を持った巨大な異形。
ペルソナではない。同じ人の心により生まれた存在だが、その性質は真逆。
新たに現れた巨大な物質にジュネス内の壁面崩れだし、異形が剣を精製し周囲に展開する。
目の前の異形の恐れおののくのでもなければ、戦うこともない。ジュネスは完全に倒壊し鳴上達を飲み込んだ。






436 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:05:15 2BN83njg0

倒壊したジュネスの残骸。そこからイザナギが鳴上を守り、鳴上は這い上がる。
数分ぶりの地上の空気を吸った時、鳴上が抱いたのは驚嘆だ。
眼前に広がるのは小さな異形が奏で合う演奏。その中央に演奏に合わせ、指揮を執るかのように体を震わせる半漁の巨人。
周りに展開された剣と、同じく青を基調とした色合いの身体が鳴上に美樹さやかの顛末の姿だと示していた。

「何なんだ……これがさやか?」

鳴上の傍らに転がる目に光がないさやかだった肉体。全身が血に濡れているが、それを差し引いてもあれが生きた人間のものではないと分かる。
魂がないのだ。人が人たる存在の一つである魂がその身体には宿っていない。
恐らく、さやかの中身は今、鳴上の目の前に佇むあの怪物だ。
人の心の闇からシャドウが生まれるのとは違う。少女の絶望が、肉体以外の全てを犯した時、変貌したものがあの存在なのだろう。

「鳴上くん……」

「……里中」

同じく瓦礫を退かし一命を取り留めた千枝と銀、そしてタツミがトモエに守られながらこちらへと来る。
感情の起伏が薄い銀以外は、その表情に恐怖や驚嘆といったものが入り混じっている。

「あれが、さやか?」

「……そうだ。タツミ、これが……さやかだ。魔法少女の絶望が彼女の姿を……」

「嘘、だろ?」

タツミは自らの手に握られたグリーフシードを見つめる。
もしも、これをもっと早くに渡していれば。
きっとさやかはこんな姿に変わる事はなかっただろう。この結末は全てタツミの判断ミスが招いた結果だ。
全てを信じる。それは不可能でもある程度の妥協、それとなく言葉を掛け彼女が道を違えぬよう導く。
やりようは幾通りもあった。だが、タツミもまたまだ導かれる側の人間だ。
アカメのように達観しきってもいなければ、タツミの師であり兄貴分でもあるブラートように精神的に成熟もしていない。
だから分からなかった。さやかに対し、どう接すればいいのか。排除すべきなのか、説得に専念すべきなのか。

「―――殺すしかない」

「何?」

「この責任は俺が取る。さやかは俺が殺す」

過ぎた失態は取り返しがつかない。今、タツミに出来るのはこれ以上の犠牲者をなくすこと。
怪物を生み出した原因が、タツミによるものなのなら彼女を殺すのもまたタツミの役目だ。
この発言に鳴上は再び怒りを取り戻し、タツミの胸倉を掴み上げる。

「まだ、さやかが助からないと決まったわけじゃないだろ!」

鳴上の経験ではシャドウに取りつかれた人間は、少なくとも間に合えさえすれば全員助けることができた。
何よりも人は心の闇に打ち勝つことができるとも知っている。故に、さやかもまだ救う手はあるのだと考えてしまう。
だがタツミは逆だ。良くも悪くもリアリストな思考。
説得を試みるのは良いが、あのような怪物に言葉が通じるとは思えない。それよりも、あの存在は確実に人を害するものだ。
今、ここで仕留める事こそが無辜の民を守る事に繋がると信じている。


437 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:05:33 2BN83njg0

住む世界に経験した戦い。二人の人生はある意味正反対であり相容れない。
もっとも、本来のタツミはもっと視野を広く持てた。殺し屋としてのリアリストな面と、熱血漢でお人好しな好青年の面。タツミには二つの顔がある。
だが、同時にまだ発展途上でもあり、この場のタツミには彼を支えた仲間。レオーネやスーさんなどが居らず余裕がない。
戦力的にも精神的にも、彼には何の支えも殆どない。これも全て悪い方向へ作用してしまった。
一度悪だと認識したものを再び信用するのは難しい。アカメもこの場で出会えた仲間たちが居なければ、タツミと同じ考え方を変えなかった筈だ。
特にタツミは、アカメ程の実力者でもなければ帝具もない。一度心を許し、不意を突かれれば一溜りもない。
例え過激だろうと確実で安全な方策を取ってしまうのは無理のない事でもある。

「聞け。アイツ、首元に首輪が付いてやがる。
 多分参加者って扱いなんだろう。流石にあの化け物と正面から帝具なしじゃやり合うのは自殺行為だが、あの首輪を上手く誘爆できれば……」

「どうしても……どうしてもさやかを殺す気なのか?」

「あれはもうさやかじゃない。化け物だろ」

「――ッ」

幸い、さやか……いや人魚の魔女オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ。
彼女は使い魔たちの演奏に気を取られ、鳴上達には気付いていない。
タツミの言う通り、この隙に首輪の爆破を誘導させられれば勝機はある。
もっとも、だからといって鳴上はそれを認められるはずもない。事情は知っているが、それでもさやかは鳴上を助けた恩人でもある。
何より、タツミのあまりにも無慈悲な判断には生理的に反発感を刺激させられてしまう。
鳴上はタツミの服を掴もうと手を伸ばすが、タツミはその手を振り払い駆けだす。
ペルソナ使い本体はただの人間。タツミの脚力にただの人間の鳴上が付いていける筈もない。
一気に距離を離され、タツミは既にオクタヴィアの間合いに入り込んでいた。

(いける。まだ気づかれてねえ)

暗殺者としての最低限のスキルである気配の遮断は魔女にも有効だ。
使い魔すらタツミの存在に気付かず、演奏を未だに続けている。タツミは跳躍しオクタヴィアの首元へと上昇する。
ナイトレイド以前から危険種を狩り続けてたタツミからすれば、容易な事だった。
そして手を伸ばし、首輪を強引に外そうとし爆破させる。決着はついたかと思われたその時だった。

「っ!」

タツミのミスは二つ、一つは彼はこの場でも冷静な判断が下せなかったことだ。
使い魔もオクタヴィアもタツミを襲わなかったのは、気配を消していたから。演奏の邪魔ではなかったからだ。
普段の拙いながらも、研ぎ澄まされた洞察眼ならばその性質を即に見抜いていたはずだ。
だが、この瞬間オクタヴィアを殺害しようとしたこの瞬間のみ殺気が漏れ、それが使い魔たちの演奏の妨害へと発展する。
殺気を感じた使い魔が演奏を止め、演奏に聞き惚れていたオクタヴィアがゆっくりと動き出す。
タツミの伸ばした手の軌道上から首輪は逸れ、タツミは真正面からオクタヴィアと対峙することとなる。


438 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:06:01 2BN83njg0

「ぐっ……」

もう一つ。それはオクタヴィアをただの危険種同然と侮ったこと。
如何に異形の姿をし、人としての理性を無くそうとも元は人より生まれた存在。
その知性は並の危険種を凌ぐ。

タツミの狙いを察したオクタヴィアは周囲に剣を展開する。
それらは弾丸のように射出されタツミの四方を取り囲む。空中で身動きが取れない以上、全てを打ち落とすしかない。
両の拳を握り込み、向かう剣全てに拳を叩きつける。甲高い音を響かせながら、剣を弾きタツミは落下していく。
頬を、肩を。幾数もの掠り傷を作りながら、念願の地上まで約数歩程といったところでタツミの眼前から車輪が飛来する。
剣の処理に手間取ったタツミにそれを防ぐ術はない。車輪が直撃しそのまま吹き飛ばされていく。

地面を何度も飛び跳ねながら、身体を打ち付けていくタツミに使い魔達が群がる。
コンサートの邪魔をした不届き者への怒りを込めながら、コミカルな動きでタツミを取り囲む使い魔達。

「イザナギ!」
「トモエ!」

だが、その使い魔達の中心に二体の異形が青の発光と共に飛び込む。
黒の異形イザナギは刀を、黄色と緑の異形トモエは薙刀を振るい使い魔達を薙ぎ払っていく。
力なく切り刻まれた使い魔達は消滅し、オクタヴィアはその敵対対象を二対の異形とその主、鳴上と千枝に向けた。

「タツミ? おいタツミ!! ……気絶しているのか」
「とにかく、やるしかないよ鳴上くん。このままじゃ、きっと誰かを殺しちゃう」
「……。分かってる。でも、どうすればさやかを……」

シャドウとは違い、影を受け入れるべき主は不在。さやかの肉体は残っているが、果たしてあの怪物を倒せばさやかの肉体に魂が戻るのか。
分からない。同じ人の負から生まれながらその在り方は別の存在。せめて、この場にりせが居れば何らかの情報を提示してくれたのかもしれないが。

オクタヴィアは怒りに任せ、車輪と剣を精製し鳴上達に降り注がせる。
トモエとイザナギが刀で弾くが手数が違い過ぎる。
その身を切り刻まれながら、ペルソナの身体にノイズが走り二人の顔も苦痛に歪む。

「ぐっ、あああああ!」

イザナギの右腕に剣が突き刺さり刀を取り落とす。そのイザナギに向かい車輪が奔りイザナギの鳩尾にめり込んだ。
衝撃が鳴上に伝わり、腹の中の空気と唾液を強制的に吐き出される。意識が飛びかけた鳴上にお構いなく、イザナギの周囲に使い魔が群がりその魔手を伸ばした。
激痛で鳴上の操作が遅れたイザナギを使い魔達が抑え込みながら、オクタヴィアの剣がイザナギの首に振るわれる。

「ち、チェンジ……!」

酸素が回らず虚ろになった意識で鳴上はアルカナを切り替え、ジャックランタンを召喚する。
イザナギを抑えていた使い魔達が掴む対象を見失い総倒れになる。そこへ炎を叩き込み使い魔達を一掃。
だが、消えた使い魔達はほんの一、二匹。人魚の魔女より生まれた為に水の属性を持ち、炎に耐性があるのかもしれない。
鳴上はジャックランタンを下がらせ、後方のトモエと前線を入れ替わった。


439 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:06:25 2BN83njg0

「大丈夫なの鳴上くん、調子が悪そうだけど」
「大丈夫だ……。すぐに戦いに戻る」

鳴上本人は自覚していないが、千枝からしてみれば鳴上の様子がおかしいのは明白だ。
プロには及ばないながらもカンフーを齧った千枝はある程度、人の戦いぶりからある程度のコンディションを図れる。
その洞察眼に映る普段の戦闘からは思いもよらない、ペルソナの動きの鈍さ。
チェンジを多用しないのを差し引いても、明らかな迷いが刀に現れているような気がした。

(あのタツミって人も……。何か迷ってる感じだったし、銀ちゃんも……)

否、鳴上だけではない。タツミもまた迷い、それが戦いにも表れていた。
更に銀も頭を押さえ、顔を歪めている。普段から表情を表に出さない彼女からはあまり考えられない。

「鳴上くんは銀ちゃんを守ってて、私が何とかあの娘を……」

「千枝……無理は……」

銀が不安げに千枝を気に掛けるが、膝に力が入らず崩れ落ちる。
顔が地面に触れる前に鳴上が受け止めるが、その顔はやはり優れない。同様に鳴上も不安に身を焦がすが、今の自分ではろくな戦力にならないのは自分自身が良く理解している。
精神的に不安定な事に加え、ペルソナの不調。鳴上のもつワイルドの力は状況に合わせペルソナを切り替えることが最大の強みであるのに対し、何故か二体のペルソナしか使えない。
一つのペルソナで戦い続けた経験の少ない鳴上は今や千枝や、ペルソナ使いに成り立ての直人にも劣るかもしれない。

「何でだ……何でペルソナが変わらないんだ……何で……!」

「……」

鳴上の腕の中で、銀は何かが変わりつつあるのを徐々に自覚していく。
以前から何かが生まれるような感覚はあったが、この場に来てからその衝動は更に増すばかりだ。
怖い。何が生まれ落ち、銀を喰らい現界しようというのか。ドールにはない恐怖という感情が銀の胸中を染めていく。

「……黒」







440 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:06:46 2BN83njg0



(どうすりゃ、良かったんだ……)

戻った意識を辛うじて繋ぎ留めながら、タツミは自問自答を繰り返す。
最初に会った時、あの時さやかを殺せていればこんな事にはならなかった。今頃鳴上と対立もしないで頼れる仲間になっていたはずだ。
殺せていれば、殺せて……。

―――怖いです。でも...助けられる人を助けたいと思うのは当然じゃないですか。

助ける。
ここに来て二番目に出会った少女の台詞がタツミの脳裏を過ぎる。
本気ではないが、少なからず殺気を放ったタツミを前にしてもあの少女は初春はタツミの前に立った。
そこには明確な信念があり、タツミはそれを尊重すべきなのかもしれないと考える。でも、それが間違いだったのか。
初春とジョセフの反対を押し切り、さやかを殺すべきだったのか。

(殺さないと……殺して……殺して……)

タツミの胸を占めるのは焦りだ。
この場にナイトレイドはタツミを含め二人。対するイェーガーズは四人。
内一人は落ち、百歩譲って性格を考慮しウェイブも外したとしても残り二人。性格的にも戦力的にも厄介な連中が残ったのは間違いない。
特にエスデス。帝具も体内に取り込んでいる彼女は鳴上が異能を行使している点から考えて、戦力は全く下がっていないだろう。
仮にイェーガーズが彼女一人になったとしても現状のナイトレイド勢だけでは十分おつりが来るほどの戦力差。
だから、甘いことを抜かす時間などなかった。イェーガーズの対処だけでも手一杯だと言うのに、殺し合いに乗る悪に手間取らされる訳にはいかない。
例え、同情すべき理由があれど殺し合いに乗るのなら殺す。甘さを見せタツミが、下手をすればナイトレイドの切り札であるアカメまでもが死ねば最悪の展開になる。
それだけはどうしても避けなければならない。







「ぐっ……」

イザナギが消えたことでトモエに攻撃が集中し負担が一気に圧し掛かる。
千枝の額に脂汗が滲み、トモエの身体を剣の嵐が切り刻んでいく。
手にある薙刀も罅割れいつ砕けてもおかしくない。その状況の中でも千枝は決して取り乱さず、ペルソナを操作し冷静に状況を見極める。
この場に来て学んだことの一つだ。
例えば、訓練を受けていた事を除けばただの人間であるヒルダはその差を経験から埋め、魔法少女とペルソナ使いの戦いに割り込み勝機を見出した。
クロエも線路での戦いにおいて、自らの能力を最大限利用しエンブリヲの裏を?き出し抜いていた。

(落ち着いて……今は後輩たちも鳴上くんの力もない。
 冷静に……冷静に……)

トモエの身体が更に切り裂かれ、ノイズが走り千枝にダメージが跳ね返る。
だが、その瞬間一つの奇妙な点に気付いた。
オクタヴィアの動きには規則性がある。ロボットのような機械的なものではない。
それは拙さからくるもの。言うならば、能力を完全に使いこなせていない初心者染みた動きだろうか。

(そうか。まだあの力に慣れていないんじゃ)

人の姿からあんな異形に変わったのだ。如何に力が増そうが、いきなり身体があれほど変貌すれば力になれるには時間がかかる。
つまり、今のオクタヴィアは試運転状態と言ってもいいかもしれない。

(規則性があるなら……)

オクタヴィアの禍々しい姿に威圧され、知らず知らずの内に防御重視の戦い方をしていたが。
見方を変えるなら、喧嘩に不慣れな素人が相手だ。

飛び交う車輪と剣の中をトモエは薙刀を下し、疾走した。
一見、自殺行為に見える行動。戦いを見ていた鳴上も焦り、助力しようとタロットカードを壊そうとする。
だが鳴上の予想に反し、トモエは飛び来る車輪と剣を軽やかに避けオクタヴィアと距離を縮めていく。

「やっぱり……素人が相手なら私でも……!」

喧嘩慣れしていない素人の動きは案外読みやすい。
例え相手が男でも、千枝は花村レベルなら軽く倒せる自信がある。
カンフー映画を好み、鍛錬も欠かさなかった千枝の日頃の賜物がここに来て響いた。
まるでカンフー映画の男優のようにパワフルで、それでいて舞のような動きでトモエは車輪と剣をいなしていく。


441 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:07:04 2BN83njg0

「ハイカラだ……」

鳴上がトモエの動きに驚嘆し感心しながら呟く。
千枝がカンフー好きなのは知っていたが、それをペルソナの戦闘にまで活かすとは。
ここに来てから彼女もまた成長していったのだろう。

「行っけェ! トモエ!!」

使い魔達を蹴散らし、トモエは自らのスキルの発動範囲まで辿り着く。
トモエが覚えるのは大半は物理系のもののみだが、少ないながらもブフ系の氷のスキルも習得する。
オクタヴィアを殺せばさやかが死ぬ以上、下手な物理攻撃を放つわけにはいかない。
ならば残るのは氷系の攻撃。得意分野ではないものの、氷のスキルでオクタヴィアを凍結させられれば彼女は一時的にではあるが止まる。
無論、普通の人間であるのならそれでも死ぬだろうが、幸い魔法少女は生命力が高い。凍結程度で死ぬことは無いはずだ。

トモエがブフ系のスキルを放ち、冷気がオクタヴィアを包み込む。
死なないよう最大限に加減し、だが動きを止めるよう調節したその一撃はオクタヴィアを凍らせていく。

「……やった」

全身が凍結されたオクタヴィアを見ながら、千枝は緊張の糸が切れ一気に崩れる。
膝を地に付き、息を吐きながらペルソナを消す。
使い魔達も主の凍結に動きを止め、消滅していく。
結論を先延ばしにしただけなのかもしれないが、一先ずの危機は去ったと言えるだろう。
ゆっくりと鳴上達の方へ振り返り、笑顔を見せる千枝。

「鳴上くん、銀ちゃん……」



「千枝、後r―――」



ずぶりと。身体を冷たい鋭利なものが貫く。
千枝が視線を落とし、腹部から生えてきたものを視界に移す。
赤く血に濡れた、銀色の刃。先ほどの戦いで嫌と言うほど見てきた剣。
何故と思う間もなく、千枝は意識を手放し、自らの血でできた赤い海に倒れ伏す。
鳴上が何か叫んでいるようだが、耳に届かない。あるのは喪失感と死ぬという絶望感。

(いや、死にたく―――)








442 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:08:04 2BN83njg0

……たすぇ……ち、ぇ……なるか……ぁ……ぁぁ……


……センセイ……



夢で見た、雪子とクマの死に様がリフレインされる。
焼け爛れた炭のような、以前の美貌は見る影もない雪子の焼死体。
空気が抜けきり、中身のない着ぐるみのようになったクマ。

そして目の前で串刺しになり血まみれで死んでいく千枝の姿。

「っあぁ……」

声にもならない呻きが漏れる。
頭の中が真っ白になり、鳴上から理性を奪っていく。
あるのは虚無感と絶望と憎しみ。
また仲間を失った虚無感と、もう二度と会えないという絶望。そして、誰がこんな目に合わせたのか。内より無限に湧き出る憎しみ。

「うわああああああああああああああああ!!!!!」

形振り構わず、鳴上は涙と共に叫んだ。
何を憎めばいい。
目の前で千枝を守れなかった己の無力さか? 殺し合いを開いた広川か? 千枝を直接殺したさやかか? このような事態まで悪化させたタツミか?
憎い、憎い、憎い。
全てが憎い。全てが鳴上にとっての敵であり、壊すべき憎しみの対象だ。

青のタロットカードが黒く淀む。
鳴上の眼前に全てのペルソナのアルカナが記されたタロットカードが輪になり、並べられていく。
その全てが例外なく、黒の漆黒に染まり赤い血管のような脈動を見せている。
そしてその中央に広がる深淵。


―――壊せ。

深淵から声が響いてくる。
破滅を破壊を望む、暗黒の言霊に鳴上に意識を引き摺られていく。

「だ、め……それは……」

頭を抑えながら、銀が鳴上に静止を呼び掛ける。
だが銀の声は届かない。鳴上の心に響かせるには、銀の言葉ではあまりにも心許ない。
鳴上は彼の中に響く声に従い、手をゆっくりと動かす。

「なん、で……いや……」

銀の目に写る新たな人影。それは常日頃から見慣れた観測例に似ている気がした。
何より、そのシルエットは銀の身体を模した丸みを帯びた女性のもの。
彼女が何なのか。どうして、自分の姿に近いのか分からない。
ただ一つ言えるのは、あれを目覚めさせればきっと災厄を齎すという事。
恐らくは銀を飲み込み、そして―――


443 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:08:32 2BN83njg0




「壊、す……。壊す……!」

鳴上から奪っていく者達をこの世界を全てを壊してしまえばいい。
それだけの力を鳴上は持ち得る。そして全て壊し、もう一度作り直す。
広川は言っていた。如何なる願いも叶えると。
全てを壊した後で、三人を生き返らせればいい。そしてあの日常へもう一度帰る。

「そうだ……取り戻せるんだ……全部、全部壊して……」

鳴上の身体に銀に似た観測霊が纏わりつく。
それは鳴上の握る最後のタロットカード。唯一これだけは黒化を逃れたイザナギと共鳴し、徐々にイザナギすらも黒く浸食していく。
その様を深淵の中心に潜みしモノは愉快気に見つめる。
今か今かと己の降臨を待ち遠しそうに、鳴上を誘発する。
それに比例して、イザナギのタロットカードの青い光が弱まり、黒の輝きに呑まれてゆく。

「ペル―――」

目の前に並ぶタロットカードにイザナギのタロットカードを翳す。既にその輝きは黒に染まりつつあり、鳴上の精神を現しているかのようだ。
憎しみを糧に全てのペルソナが統合されていく。深淵は更に深く濃くなり、鳴上の目が見開き血走る。
これより生まれるのは破壊の為に破壊を繰り返す。惨劇と悲劇だけを齎す、最凶の災厄。

「ソ―――」

地獄門の内部より生まれし、襲来せし災害。
門より出し者。




「ごめ、ん。鳴上、くん……」

全てのペルソナを統合しようとした次の瞬間。鳴上の頬に蹴りがめり込んだ。
強烈すぎる蹴りに鳴上はこの場に来てから最も命の危機を感じるほど。だが、同時に最も優しさに溢れた痛みが鳴上の頬から伝わる。
為すがままそのまま蹴り飛ばされ、鳴上は地面に叩きつけられ無様に転がっていく。

「何……やっ、てんの」

串刺しにされながらも。血を流しながら今にも倒れそうなぎこちなさを見せても。
千枝は未だに鳴上の前に立ち、見下ろしてくる。
身体は限界のはずだ。誰の目に見ても致命傷。回復系のペルソナはあればまだしも、千枝はもう助からない。

「里、中……」

「こんな、こと……やって、どうするの……」

だが、その声はその目は未だ死んでいない。強く鋭く、鳴上を捕らえ離さない。

「俺は、許せない……里中を天城をクマを殺した奴を……守れなかった自分を。
 だから、全部壊す! そして、やり直せばいいんだ……。全部なくして、やり直せば……」

「ふざ、けんなああああ!!」

鳴上の均整の取れたフェイスに拳が叩き込まれる。鼻血を吹きながら、更に鳴上は吹っ飛ばされる。


444 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:08:54 2BN83njg0

「ぅっ、げほっ……!」

同時に致命傷を負った身体を酷使した影響で口から血を吐き出しながら千枝もまた膝を折る。
だが歯を食いしばりながら、千枝は再び立ち上がりそのまま大の字で寝転ぶ鳴上の元へと歩んでいく。

「はぁ……はぁ……。ぐっぅう……」

身体を動かすたびに、全身の肉が張り裂けそうなほどの水気の混じった軋みのような音が耳を突く。
音に合わせて激痛が今にも意識を手放しそうなほどの苦痛の演奏が千枝を蝕んでいく。
どうして、こんなことをしているのだろう。どうせ、死ぬのなら楽に死ねば良いじゃないか。
本当に早く楽になりたい。もう開放してほしい。

(死ぬ、としても……こんなところでまだ倒れる訳にはいかない、から……)

鳴上は誰のシャドウを見ても、受け入れてくれた。
花村も、千枝も、雪子も、りせも、完二も、クマも、直人も。自分の影を受け入れたのは、鳴上が居たからだ。
鳴上がみんなを導いて救ってくれたから。みんながペルソナを得て仲間になっていった。

(だったら、さ……まだ死ぬ前にやる事が、あるじゃん、私)

そうだ。助けられるだけが仲間なのか?
違う。助け合うからこその仲間だった筈だ。
もし仲間が間違え道を踏み外すのなら、例えぶん殴ってでも止める。
自分がそうして貰ったように。
鳴上が間違えるというのなら、それを正すのは他の誰でもない。千枝の、千枝にしかできない役目だ。

(きっと私もこうだったんだ……。私がマスタングの事を聞いたとき、ヒルダさんが心配してくれたのは……。
 だから、私も鳴上くんのこと……)

だが、現実は無慈悲にも千枝に限界を突き付けてくる。

「―――ッ!?」

無理やり気合で動かし続けて身体は悲鳴を上げ、千枝からその動力を奪い去っていく。
幾ら込めようとも力が湧かず、千枝の身体は重力に従って崩れる。

「まだ、駄目……ま、だ……」

数秒が長く感じた。地面に身体が触れす数秒がスローモーションで千枝の目に写る。
千枝の想いも空しく、身体が傾きその足は鳴上へと届かない。

「……諦めないで」

だが、千枝の身体は重力に逆らい地面には辿り着かない。
崩れる千枝の身体をその小さく細い身体で銀が支える。
肉体労働など知らない、あまりにも弱弱しい体格。女性とはいえ些か体重の重い千枝を支えるのは銀にとって相当の負担になる。
しかし銀は弱音も吐かず、負担に震える身体を鞭打ちながら千枝の歩みを補助する。


445 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:09:09 2BN83njg0

「銀、ちゃん……」

「きっと届く」

「え?」

「届くよ。千枝なら」

盲目でろくに前も見えない銀の動きはぎこちない。今にも吹けば倒れそうだ。
それでも銀の言葉は静かで小さく。力強い。
千枝に再び、力を分けてくれる。

「あり、がとう……。行こう、銀ちゃん」

支え合いながら、二人の少女は歩みだす。
その姿を見て鳴上は思わず後ずさりする。

「鳴上、くん……やり直すって……言った、よね……。
 私達の絆って、そんな安いものなの!?」

出血が更に増していく。急激な運動の為に傷口がより深く避けたのかもしれない。

「……それしか、ないだろ……。皆でまた笑うには、それしか……。
 俺は、もう何も失いたくない!」

「逃げだよ。そんなの、ただの逃げじゃない……。
 ……失くしたものから目を背けて、見ないフリを、してる……。ぐっ、……駄々をこねてるだけ、だよ!」

痛みが呂律が回らなくなる。
その様にまた鳴上が怯えながら一歩退く。

「だけど……どうしたらいい? 俺は何も助けられなかった。
 仲間も本田の友達だって、さやかも、目の前で……。俺は弱い、無力なんだ。
 空っぽなんだ。俺の力は他人に頼ってただけ、俺自身の力なんかじゃない!」

今までのシャドウも。最後に受け入れたのは仲間達だ。
鳴上が居ようが居なかろうが。もしかしたら、彼らは自分で自分を受け入れていたのかもしれない。
それを証明するように、鳴上は一人になってから誰も助けられなかった。
エンブリヲに良い様に嬲られ、渋谷凛を死なせ。クマと雪子を死なせ、千枝だって目の前で死にかけているのに何も出来ない。
鳴上には何もない。今までが運が良かった、それだけだったのだ。


446 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:09:31 2BN83njg0

「だから、俺は新しい力で……この力で……全部やり直して……。
 千枝もみんなも、この殺し合いで死んだ人たちも全部もう一度生き返らせて―――」

「違う。そんなの強さなんかじゃない!
 自分の我がままを人に押し付けて、逃げようとしてるだけ。
 君の、本当の強さは……絆の、力でしょ!!」

「……!」

「見たくもない現実と向き合って、それでいて自分の足で進んでいく。
 誰よりも力強くて、優しくて……それで少し天然も入ってる。
 そんな君だから、皆付いてきたんだよ。そんな君だから皆力になってくれたんだよ!」

「でも、俺は……」

「……弱くなんかない。
 絆は……強さの証なんだよ。鳴上くんは空っぽなんかじゃない。
 いつか、皆バラバラになる。二度と会えないかもしれない。だけど、それが何なの?
 いくら離れても私達ずっと仲間じゃない!」

「里中……」

「お願い。絆を、捨てないで……。
 大丈夫、君は空っぽなんかじゃないよ。だから、こんなところで負けないで―――」

イザナギのタロットカードが再び青く発光する。
憎しみに染まりかけた魂は。またその光を取り戻し眩いまでの輝きを放つ。

「……そうだ」

忘れるところだった。

仲間を失った。
それを自分は一人になると恐れて、現実から目をそらしていた。
何て勝手だったのだろうか。



「絆を……憎しみなんかに俺達の絆は奪わせない!」


そうだ。まだ鳴上には守るものが、貫くものがあった。
仲間との友情の証、残された絆。
例え無様にすがりつこうとも、これだけは絶対に守り通して見せる。


447 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:10:21 2BN83njg0

「―――イザナギ」

闇を退け、光に満ちたタロットカードを鳴上は壊した。
鳴上の叫びに呼応するようにイザナギが青い発光と共に現界する。

「……行くぞ」

涙と鼻血を拭う。
強い覚悟と意志を以って、再び鳴上悠は立ち上がる。
相対するは人魚の魔女。オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ。

奇跡を願い、理想に焦がれ、絶望の果てに堕ちた魔法少女の成れの果て。

戦意を取り戻した鳴上に対しオクタヴィアは剣と車輪を精製し、更に使い魔達をけしかける。

四方を取り囲む包囲網をイザナギは全くの怯みも迷いも見せず、突っ切る。
刀を携え、真っすぐ奔り刀を抜く。電撃を纏いし一閃は一瞬にして無数の使い魔達を屠り、剣と車輪を打ち砕く。
だがオクタヴィアはそんなものを意にも介さず、より多くの剣と車輪を編み出す。

「―――ラクシャーサ!!」

広げられたカードたちの闇が薄れていく。それに連れ取り戻されていく青の発光。
中央の深淵は徐々に浅く狭く、その存在が消滅へと近づいていく。
光を取り戻したカードが握り潰され、イザナギと切り替わり二振りの刀を持った戦士ラクシャーサが召喚される。
ラクシャーサはその二振りの刀で剣と車輪を切り裂きながら、疾走を続けた。

(きっとさやかも同じなんだな)

彼女が何に悩む葛藤し、絶望したのか。断片的なものしかわからない。
けれど、恐らくさやかには頼れるものが。仲間が近くに居なかったのだ。
彼女に繋がっている絆。それを確認する術がなく、一人で抱え込んだのだろう。その己自身の器を壊してしまうほどに。

(俺も、仲間が居なかったらきっと……)

大切な事に気付かず、彼女のように破壊を繰り返す存在になっていたのかもしれない。

「だから、さやか……お前の目をきっと覚まさせて見せる! 晴れない霧なんかないんだ!
 ―――ハイピクシー!!」

ペルソナが入れ替わり、召喚されたハイピクシ―が電撃を放つ。
オクタヴィアの甲冑に命中し魔女の悲鳴が木霊する。
今までの鳴上の力とは比べ物にならない。絆によって増幅された力は絶望すらも圧倒する。


448 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:10:42 2BN83njg0

「キングフロスト!」 

雪ダルマに冠を付けたペルソナ、キングフロストが杖を翳す。
その杖の先より放たれる氷の弾丸がオクタヴィアの甲冑へと命中した。

「アバドン!」

僅かに凹んだ甲冑目掛け、アバドンの口よりミサイルのような光弾が射出され降り注ぐ。
今までのペルソナとは違う高レベルの攻撃。甲冑に罅が刻まれ、より大きいダメージがオクタヴィアに加算される。
だがオクタヴィアは愉快そうに手を叩き握手を始めた。
絶望より生まれた怪物にしてみれば、この程度の痛みもまた余興の一つなのだろうか。
あるいは、たった一人で戦い続け絶望に苛まれた少女の羨望の表れなのか。
オクタヴィアの体制が後ろに傾く、そこへ追撃を仕掛けようとしたアバドンに車輪が投げつけられる。

「―――ッ!? アラハバキ !」

入れ替わったアラハバキが前面にシールドを貼り、車輪を防ぐ。

「ヤマタノオロチ!」

飛びかかる使い魔達をヤマタノオロチが一掃する。

「ベルゼブブ!!」

車輪と剣、その全てを消し飛ばし砲弾の如くオクタヴィアへと特攻する。
その巨体と速度を生かした体当たりは、魔女の巨体すらも震わせ吹き飛ばす。
更に背後へと回り込んだベルゼブブは更にオクタヴィアへと攻撃を叩き込む。

「―――グオオォォォォォォォォォ!!!!!」

苦痛に苛まれた悲鳴と共にベルゼブブの頭部にオクタヴィアは剣を突き刺し、車輪で殴り続ける。
鳴上の頭部と全身に激痛が返りる。歯を食いしばり、膝を折りながらも最後のタロットカードを壊す。

「ぐぅ……うおおおおおおおお!! イザナギィィィ!!!」

ベルゼブブが消失しイザナギが剣と車輪を掻い潜り、その刀を甲冑の罅割れた部分へと突き立てる。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

オクタヴィアが両手に剣を握り、イザナギへと振り下ろす。
イザナギは刀を手放し、オクタヴィアを蹴って剣の軌道上から離脱。
そのまま空中で態勢を直し、振りかぶったオクタヴィアの腕目掛け蹴りを放つ。
その動きはまるで、千枝の好きなカンフー映画さながらのアクション。
オクタヴィアが堪らず剣を取り落とす。イザナギはその剣を手に取り、再度肉薄し己の刀が突き刺さった箇所へと剣を振るう。
オクタヴィアの絶叫と共に、罅割れた亀裂は更に広がり、深まる。


449 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:11:13 2BN83njg0

(やっぱり、凄いな……鳴上くん……私もあんだけ、言ったんだから……。最後くらい……)

千枝のタロットカードが強く輝いていく。
力が溢れる。死に体だった千枝の何処にこんな力が眠っていたのか分からない。
だが、何故か不思議と今なら何でもやれる気がした。
ああきっとやれないことなんてない。仲間が絆があるのだから。

「……大丈夫、ずっと……支えるから」

千枝を支える銀の顔が優しく微笑む。
その顔はまるで天使のように美しい。

(ここまで、銀ちゃんに支えられっぱなしだな。本当にありがとう)

銀から力が流れてくるようだ。不思議と体まで軽くなる。
掌に浮かぶタロットカードを握りつぶす。
トモエが姿を現し、そしてその姿へ変貌していく。
ジャージのような黄色の衣類に身を包んだ以前とは違い、金色の全身を鎧が包み込む。
それはこの場に呼ばれた千枝の世界線では至れなかったトモエの最終進化体ハラエドノオオカミ。
しかし本来、トモエの次の進化体はスズカゴンゲン。
このような進化はあり得なかった。
しかし、殺し合いの会場内であるこの特異な空間ともう一つ。鳴上とのイザナギとも共鳴したいた“何か”が千枝の傍にあり影響を及ぼしていたこと。
二つの要因が重なり、異なる世界線に置いて目覚める筈だった力を強引に一段階飛ばし、呼び起こした。

「千枝!」

鳴上が千枝の名を叫ぶ。
イザナギによって決定打を与えられたオクタヴィアの身動きは止まっている。
今しかない。

(―――お願い、ハラエドノオオカミ!!)

千枝の想いに応え、ハラエドノオオカミはオクタヴィアへと肉薄する。
イザナギが消え、オクタヴィアを冷気が包み込む。
先程の冷気とは比べ物にならない強靭な冷気は、オクタヴィアに一切の抵抗すら許さず凍結させていく。
数秒の内にオクタヴィアの動きは完全に停止し、その全身を氷が包み込んでいた。

(鳴上、くん……)

鳴上が振り返り、笑顔を見せる。
それはいつもの見慣れた鳴上悠の笑顔。事件を解決し互いに勝利を祝い合った時に見せていたものだ。
千枝もまた満遍の笑みで返す。

(……良かった)

元の自分を取り戻し、憎しみに打ち勝った鳴上の姿を見て千枝は安堵の息を漏らす。
きっと、鳴上ならばこんな殺し合いも壊して広川をやっけてくれるだろう。
きっと、この先様々な人を救ってくれるかもしれない。

(少し、疲れた……かな)

安心したと同時に気が抜けたのか、猛烈な眠気が千枝を襲う。
多分、もう寝ても大丈夫だと千枝は確信する。
もう一度、鳴上に銀に笑い掛け、そして瞼を閉じた。






450 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:11:35 2BN83njg0


閉ざされた瞼はもう二度と動かない。
分かっていたことだ。千枝は致命傷を受け、その死は決定づけられていたことは。
千枝を支えていた銀の全身は千枝の血により、白い肌が赤く染まっている。
どちらかが怪我をしていたのか分からないぐらいだ。
この怪我で今まで生きていたことが、むしろ異常だったのだ。

「……」

千枝の遺体を抱える銀の元まで鳴上が歩み寄り、遺体を一緒になって支え地面に寝かす。

「……銀」
「良いの?」
「ああ。多分、千枝もそうしてくれって言うと思う」

イザナギを召喚し、鳴上は大きくを息を整える。

「ごめん」

それから閉じようとする瞼を強引にこじ開け、イザナギの刀を千枝の首元へと振り落とした。
鳴上が欲したのは首輪だ。
この先首輪は必需品になってくる。解析用のサンプルに加え、首輪の換金制度。これも見逃せない。
はっきり言えば、鳴上は参加者の中でかなり不利な立場に置かれている。
動きが極端に無かった為に情報が不足しているのだ。
鳴上のすべきことは多い。凍結させたオクタヴィアもいつ復活するか分からない。
その前に、オクタヴィアをさやかに戻す方法を見つけ出す。その為には、同じ魔法少女である佐倉杏子の協力が必要になるかもしれない。
鳴上以上に杏子は魔法少女を知っている筈だ。さやかの知り合いの名にもあったことから、合流できれば力になるだろう。
その為には、杏子の位置情報が……それを買えるかもしれない首輪が必要になってくる。

「頼む、イザナギ」

それからイザナギは静かに刀を振り上げ穴を一つ掘った。
そこへ千枝の遺体を静かに寝かせ、土を被せていく。
簡素ではあるが、こんな墓でもないよりはマシだろう。

「俺は……これから、佐倉杏子って娘を探そうと思う。
 それと、ロイ・マスタングも。……天城を殺したのはその人なんだな?」
「キンブリ―の言葉が正しければ……」
「分かってる。俺もそれを鵜呑みにはしない。ちゃんと俺の目で見極める。
 本当に殺したとしても、事情を聞いて……判断する。どんな理由でも、ぶっ飛ばしはするけど」

首輪を仕舞い、鳴上はもう一度凍結させられたオクタヴィアを見る。
本来なら、彼女もティバックに仕舞いたいところだが、どうやら入らない。
入れられる大きさは制限があるのだろう。少なくともオクタヴィアは仕舞えない。
ここに放置する不安はあるが、鳴上も動かない以上事態は好転しない。
この場には、タツミも居るのだ。早急に殺害以外の解決策を見つけなければ、タツミは強引にもさやかを殺すだろう。

「―――! 待て、タツミは」

その時、気づいた。
この近辺で意識を無くしていたタツミが消えている。
周囲を見渡す鳴上の背後に人影が迫る。

「悪いな悠。お前のペルソナは思った以上に強いからな。
 帝具なしじゃ辛いんだ。後ろを取らせて貰った」

「タツミ……!」

背筋にひやりと冷汗が流れる。
本場の暗殺者に本気で後ろを取られたのだ。
鳴上の本能が下手な真似をすれば、最悪死にかねないと警鐘を鳴り響かせる。


451 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:12:17 2BN83njg0

「お前、どうしてもさやかを助けるつもりなのか?」

「そうだ……。さやかはまだ助けられるかもしれない」

「だがアイツは殺し合いに乗ろうと―――」

「乗ろうとしたのかもしれない。
 でも、少なくとも“さやかだった頃”は誰も殺してなんかいない!
 死にかけた俺だって、さかやは助けてくれた!」

「それは……お前はアイツをちゃんと見ていないから……。現にお前の仲間をアイツは……!」

「ちゃんと見ていないのは……お前の方だろ!
 本当にさやかは殺し合いに乗っていたのか? 
 さやかは乗ろうとしたんじゃなく。本当は誰かに助けを求めてたんじゃないのか!」

「―――ッ」



―――ねぇ、私はどうすればいいと思う……思いますか?

最初にさやかと対峙した時、さやかは剣すら握らず言葉を漏らしていた。
タツミのその後の会話からさやかが奇跡を望み、そのチャンスの到来に心が揺すぶられている事を理解し……。

―――あたしが何人か殺しても証明する証拠がないワケ。

―――あたしは一度奇跡を体験してるからね、信じる。


確かにさやかは奇跡を望み、広川の甘言を信じていた。
だが、決して一言も彼女は殺し合いに乗るとは言っていない。全てが乗った場合の仮定でしかない。

「ペルソ……!」

タツミが動揺し隙を見せた瞬間、鳴上が振り返る。
そのまま手に握ったタロットカードを壊そうとする寸前、風が鳴上の前髪を揺らす。
同時に鳩尾に衝撃が走り、鳴上は目を見開き反射的に口を大きく開口してから膝を曲げた

「悪いな。この距離なら殴る方が速い」

鳴上の鳩尾から拳を引き抜き、タツミはそう言い放つ。
そして、鳴上の意識を奪う為、もう一度止めを刺そうとしたその瞬間。
水流が鳴上とタツミの二人に叩き付けられる。

「……なっ!?」
「ゲンブ……!」

水流に触れる寸前、亀と龍が混じったペルソナ。ゲンブが水流を凍らせその勢いを止める。
タツミは鳩尾を抑える鳴上を連れ一気に距離を取った。


452 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:12:40 2BN83njg0

「―――全く、物事は上手く進まないものですね」

魏は薄く笑いながら、鳴上達の前に姿を現す。

「てめえ……」

「では、貴方方の首輪。揃えて頂くとしましょうか」

恐らくは魏は遠くから離れた位置で鳴上達の戦闘を眺めていたのだろう。
オクタヴィアを相手にすれば必ず鳴上達は消耗するだろうということ。
その消耗しきった鳴上達ならば、殺害は容易である。

「うおおおおお!!」

真っ先に飛びかかったのは、この場で比較的体力に余裕のあるタツミだ。
魏は向かい来るタツミの拳を屈んで避ける。それから後ろへ後転する際に血を投げた。
一気にタツミは血の範囲から逃れる為に横方へと転がり込む。
その真上に魏の踵落としが振り下ろされる。
両腕をクロスし踵を抑えるが如何せん、重力のブーストを受け尚且つ体格でも魏は遥かにタツミより恵まれている。
ガードは数秒も持たずに蹴り抜けられる。
だが、ガードを解いた瞬間、魏の足を腕の動きで逸らすことにより足の軌道はタツミから外れ、踵は地面へと落ちる。

(足を振り下ろして、隙の出来るこの瞬間。待ってたぜ)

拳を握り込み、一気に肉薄する。
魏は体制を戻そうとする間もなく、タツミに間合いを詰めるのを許してしまう。
だが、その表情にへばりついたのは笑み。まるで網に掛かった得物を見るかのような目でタツミを見下ろす。

「お忘れですか? この指輪の存在を」
「しまった!」

先程投げた血液がブラックマリンの効果で再び舞い上がる。
狙うはタツミの銅。瞬時に加速した血液はタツミを捕らえ、その白の上着を赤く濡らす。
魏が指を鳴らし血液が発光し、タツミの銅を抉り削る。

「あぁっ……」

「さて、思った以上に早く終わりましたね。
 その首輪を頂くとしましょうか」

「……なんてな」

「!?」

否、上着の下から大量の粉が降り注ぐ。
噴出する筈のタツミの血液は一滴たりとも見当たらない。
タツミは魏との戦闘の前に、服の下に倒壊したジュネスの薄い瓦礫を仕込んでいた。
そのお蔭で、タツミは無傷で魏の能力とブラックマリンとの連携を打破した。
そのまま狼狽する魏にタツミは拳を頬へと叩き込む。
腕を逸らされ、拳が顔から外されるが、構わずその腕アッパーを掛ける。
魏の首をタツミの二の腕が締めながら、押し倒される。


453 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:12:55 2BN83njg0

「ガッ……!」

背中から地面に叩きつけられた魏は呻き声を漏らし、顔を歪める。
そのまま追撃を掛けてくるタツミを睨みながら、シャンバラを握る転移。
一瞬でタツミの背後に回った魏は、蹴りをタツミの横腹にめり込ませる。
蹴りの勢いに乗せられ、タツミは蹴り飛ばされ地面を転がった。

「チッ」

腹を抑えながら、魏の攻撃に意識を集中させる。
再び足が降り動くのを予見し、タツミは足技の返し技を想定し体制を構える。
だが足を踏み出した瞬間、動きが左腕に移った。先ほどの足の動作はフェイクであり本命は左腕、それに流れる血だ。
即座の見抜いたタツミは血が飛ぶよりも早く、加速し左腕が振り翳される直前に拳を魏の銅へと振り抜ける。
しかし、その前にタツミの顔面に激痛が流れ、視界が黒色に染め上がった。

「血(こちら)もフェイクですよ。本命は拳です」

「……つぅ」

「動きは悪くないが、やはり拙い」

「うるせえよ!!」

タツミは顔面の痛みなど無視し、両手の拳からラッシュをかます。
ルーンの刻まれた手袋を纏った拳は、まさに砲弾の如く威力を秘めている。契約者と言えど生身は人間ある事に変わりない。
モロに受け止めれば一溜りもない。だが、魏は一瞬にしてラッシュを見切りその両手首を掴む。

「遅い。何処かの人形使いの拳の方が、速さも威力も上でしたよ」

両手首を掴んだまま、タツミの腹へ魏は蹴りを入れる。
蹴りの衝撃で腹の内容物がシェイクされたような不快感と痛みと共にタツミは後方へ吹っ飛ぶ。

「くっ、そ……」

「ああ、これもお忘れなく」

指が鳴る。瞬間、タツミの右腕に塗られた血が光り――

「リャナンシー!!」

「これは……?」

鳴上の召喚した女性を模したペルソナが木の横方に回り込む、耳元で囁くようにして息を吐く。
その不快さに混乱状態になりかける魏。
タツミはその間に血の触れた袖を引き千切る。
宙で血に塗れた袖が光り消滅していくのをタツミは冷ややかに眺めた。あと一瞬、遅れていれば一溜りも無い。
魏はリャナンシーに血を飛ばし、指を鳴らす。
リャナンシーの身体が抉られていき、鳴上が同様の箇所を抑えながらペルソナを消す。


454 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:13:12 2BN83njg0

「悠!?」

「ぐ、あああ……」

オクタヴィアとの連戦にここまでのペルソナの酷使は、着実に鳴上に負担と疲労を積み重ねていた。
既に身体は汗に塗れ、動悸も激しい。このままでは戦い以前に鳴上が死ぬかもしれない。

「逃げるしかねえな」

疲労困憊の鳴上をそのままバックに放り込む。

「逃がすとでも?」

背を向きかけたタツミに投げられる血飛沫。
辛うじて横に身体を逸らしながら血はあらぬ方法へ向かい、そして急停止し一気にUターンを描きタツミへと向かう。
触れれば防御無視のダメージ。尚且つ、魏の意のままに操られる追尾機能付きと来た。

「こ、の!」

血を避けながら片手でショットガンを放つが、見切られ避けられる。
ショットガンの反動で傾いたタツミに肉薄し、裏拳が振るわれた。
ショットガンの銃身を盾に、銃口をそのまま魏の眉間に向けたが怯む様子も無く指を鳴らし血が塗られたショットガンが消し飛ぶ。
そしてタツミの肩に掛かった僅かながらの血が、彼の肩を抉り表情に苦痛が見え始めた。

「随分と余裕が消えましたね。
 楽にしてあげましょう」

「くっ、そ……」

既にタツミのスタミナも切れてきていた。
感度50倍を受けたこともそうだが、バックに入れたとはいえこちらは人を庇いつつ意識して戦っている。
いくら何でも入るバックでも、外から破壊されてその煽りを受けないとは限らない。
それが、更にタツミに疲労を重ねさせている。

(不味い……せめて、悠とあの女の子だけでも逃がさねえと)

意見の対立こそあれど、タツミには鳴上を見捨てるような真似は考えられない。
むしろ、彼の言っている意見自体には共感もできる。ただ、事態がそれを許さないほど切羽詰まり、意見が分かれてしまっているだけだ。
本来、守るべき民である鳴上と銀と言う少女の生存が最優先だ。
バックを握り、どうにかして魏の隙を伺い二人を逃がそうとした、その時だった。
不敵に銀が歩みだし、あろうことかタツミの前に立ち魏を見つめていた。


455 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:13:30 2BN83njg0

「お前、下がってろ!」

魏はおろかタツミですら銀の行動の意味が分からない。
それほどにまで自殺願望があるのか? 何にせよ、これで銀は捕らえやすくなった。
魏は血に濡れた腕を翳しながら、銀へと近づく。

「……!? なんだ」

「フフッ」

魏の目の前で銀は笑った。
契約者も合理的であるが、その実は人間であり個体差もあるが笑いもする。
しかし、ドールにだけはそのような機能はない。契約者以上に機械的でまさに人形なのが彼女らドールなのだ。
だがたった今、目の前で銀は愉快気に笑って見せたのだ。

「……!」

タツミの手にあるティバックもまた青く発光する。
より正確に述べるのなら、バック内に居る鳴上の力が何かに共鳴し反応しているのだ。

(このドールは、危険だ)

目の前で笑みを見せる銀。それを視界に写すだけで気分が悪くなる。
この時、魏の中で彼女を殺害しなくてはならないという確信染みた使命感が湧く。
もしもこの先、このドールに更なる変化が起きれば、きっとそれは契約者にとっての害になり得る。

(だが……!)

その判断は間違ってはいないと魏は今でも思っている。
恐らく、銀はこの先のより大きい脅威になるかもしれない。なら、それをまだ芽の出ている内に摘み取るのは合理的でもある。
だが、この瞬間脳裏を過ぎったのは黒の姿。仮に銀を殺害したとして、奴がその影響を受け弱体化するのではないか。
またしても巻き起こる契約者としてはあり得ない、非合理的思考。
しかし、魏にとっては自らを打ち負かしたあの黒に勝つからこそ意味がある。

(私を倒した、あの強さを持つ黒でなければ……!)

万が一にも弱体化した黒などを相手にしても意味はない。

「……良いでしょう」

それはタツミにとっては想定外。
魏はタツミ達に背を向け、この場から立ち去っていく。
銀の危険性を想定し、手元に置くのは良策ではない。しかし、死ねば黒に少なからず影響を与えるかもしれない。
合理性と非合理性が混じり合った故に魏はこの場だけは彼らを見逃すという、契約者とは思えぬ行動を選んだ。


456 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:13:55 2BN83njg0

「アイツ、なんで……?」

ただ、呆然と目の前で起きた出来事に目を丸くしながらタツミはその背中を見送る事しか出来ない。
そして糸が切れたように倒れ込む銀を抱き支える。

「……今は二人を休ませられる場所を探さねえと」

銀を抱えながらタツミは思案する。
さやかの殺害も重要ではあるが、万が一にも首輪の爆破で死ななかった場合この二人を巻き込むことになる。
広川の態度から考えて、それはないとはおもうが念の為だ。タツミはさやの殺害より二人の安否を取った。

「さやか……」

この場で一番付き合いが長く、最も接したのが美樹さやかという少女だった。
疑心を抜きにすれば明るく活発な、そんな普通の女の子だったかもしれない。
それが如何な絶望を抱き、このように変貌したのか。最早、聞こうと思っても氷像の中の魔女は口を開きはしないのだろう。

「俺は……間違ったのか」

分からない。
タツミにはさやかに対し、何をすべきだったのか。
本当は刃を交える前になにか言葉を掛けるべきだったのかもしれない。
ジョセフと交流した時も、さやかの説得を年長者にジョセフに任せておけばもしかしたら……。
しかし、同時に疑心がタツミを押し留める。
さやかを説得してもそれに彼女が応じなければ、隙を見せて殺されるのは自分や罪のない民だ。
ジョセフに任せても二人っきりにした瞬間、さやかがジョセフを殺すかもしれない。

「……」

後悔と疑心を抱きながら暗殺者の少年は鳴上と銀を連れて、安息の地を求め歩みだした。


457 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:14:24 2BN83njg0








タツミは気付いていないが、未だバックの中で鳴上の持つタロットカードがより光を帯び輝いている。
それはまるで新たに目覚めつつある何かに、鳴上のペルソナが……イザナギが呼応するかのように。
そして同じく、近場の水場。ここでもまた一つのシルエットが佇んでいた。
銀とそっくりの形をした人型の観測霊。これも、同じくイザナギの呼応を喜ぶようにタツミの向かう方角を見つめ続けている。

(……黒)

僅かに朦朧とした意識で銀は想い人の名を心の中で反唱し、まどろみのなかに堕ちていった。






【里中千枝@PERSONA4 the Animation】 死亡






【F-7/一日目/夕方】

※ジュネスが倒壊しました。


【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(極大)、気絶
[装備]:なし
[道具]:千枝の首輪
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:……。
1:さやかを元に戻す。その為に佐倉杏子を探す。
2:未央に渋谷凛のことを伝える。エンブリヲが殺した訳じゃない……?
3:足立さんが真犯人なのか……?
4:エンブリヲを止める。
5:マスタングを見つけ出し、ぶっ飛ばす。
6:里中……。
[備考]
※登場時期は17話後。
※ペルソナの統合を中断したことで、17話までに登場したペルソナが再度使用可能になりました。ただしベルゼブブは一度の使用後6時間使用不可。
 回復系、即死系攻撃や攻撃規模の大きいものは制限されています。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。
※イザナギに異変が起きています。




【銀@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(大)  キンブリーに若干の疑い、観測霊の異変? に対する恐怖、気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2 、カマクラ@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
[思考]
基本:…………。
1:黒を探す。
2:千枝……。
3:怖い。
[備考]
※千枝、雪子、モモカと情報を交換しました。
※制限により、観測霊を飛ばせるのは最大1エリア程です。





【タツミ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(大)、右太腿に刺傷、右肩負傷、さやかに対する強い後悔
[装備]:バゼットの手袋@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、テニスラケット×2、グリーフシード×1、ほぼ濁りかけのグリーフシード×2、ライフル@現実(武器庫の武器)、ライフルの予備弾×6(武器庫の武器)
     美樹さやかの肉体。
[思考・行動]
基本:悪を殺して帰還する。
0:二人を連れ、安全な場所まで移動する。
1:闘技場かカジノに向かう予定だったが……。
2:魔女化したさやかについては一先ず保留。可能なら殺害したいが、元に戻る方法があるのなら……
3:アカメと合流。
4:もしもDIOに遭遇しても無闇に戦いを仕掛けない。
5:エルフ耳とエンブリヲは殺す。
6:足立透は怪しいかもしれない。
7:俺は、間違えたのか……。
[備考]
※参戦時期は少なくともイェーガーズの面々と顔を合わせたあと。
※ジョセフと初春とさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※首輪を解除できる人間を探しています。
※魔法@魔法少女まどか☆マギカでは首輪を外せないと知りました。
※さやかに対する不信感。


458 : It's lost something important again ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:15:09 2BN83njg0





【魏志軍@DAKER THAN BLACK‐黒の契約者-】
[状態]:疲労(中〜大)、黒への屈辱、鎮痛剤・ビタミン剤服用済み、背中・腹部に一箇所の打撃(ダメージ:中・応急処置済み)、右肩に裂傷(中・応急処置済み)、右腕に傷(止血済み)、顔に火傷の痕、銀に対する危機感
[装備]:DIOのナイフ×8@ジョジョの奇妙な冒険SC(魏志軍の支給品)、スタングレネード×1@現実(魏志軍の支給品)、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る(魏志軍の支給品)、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る(セリム・ブラッドレイの支給品)、黒妻綿流の拳銃@とある科学の超電磁砲(星空凛の支給品)
[道具]:基本支給品×3(魏志軍・比企谷八幡・プロデューサー・一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲(比企谷八幡の支給品)、
     暗視双眼鏡@現実(比企谷八幡の支給品)、アーミーナイフ×1@現実(武器庫の武器)、パンの詰め合わせ@現実(プロデューサーの支給品)、
     流星核のペンダント@DAKER THAN BLACK(蘇芳・パブリチェンコの支給品)、参加者の何れかの携帯電話(蘇芳・パブリチェンコの支給品・改良型)、
     うんまい棒@魔法少女まどか☆マギカ(星空凛の支給品)、医療品@現実(カジノの備品)、鎮痛剤の錠剤@現実(カジノの備品)×5、
     ビタミン剤の錠剤@現実×12(カジノの備品)、ビリヤードのキュー@現実×6(カジノの備品)、ダーツの矢@現実×15(カジノの備品)、懐中電灯×1@現実(カジノの備品)
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する
0:首輪を入手する。
1:BK201(黒)の捜索。見つけ次第殺害する。
2:強力な武器の確保。最悪、他のゲーム賛同者と協力する事も視野に入れる。
3:合理的な判断を怠らず、可能な限り消耗の激しい戦闘は避ける。
4:あのドールは……。
[備考]
※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。
※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、ヘミソフィアの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。
※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能の無いごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。
※スタンドの存在を参加者だと思っています
※シャンバラの説明書が紛失している為、人を転移させる謎の物体という認識です。
※シャンバラは長距離転移が一日に一度で尚且つランダム。短距離だとエネルギー消耗が激しいですが、通常通りに使用できます。
※ブラックマリン・シャンバラ共に適正を持ち合わせており、特に後者については出典元であるアカメが斬る!での所持者・シュラと同等の高い適正を誇っています。
※シャンバラの大まかな使用用途を理解しました(長距離制限には気付いてない)。
※あらかじめ水源付近(H7北部の河川)にシャンバラでマーキングを行っています。
※ペルソナとスタンドの区別がついていません。
※銀の変貌に勘付いていますが、黒との決着を優先しています。



【オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ(美樹さやか)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:凍結
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:演奏を聞いていたい。
1:邪魔する者を殺す
※制限で結界が貼れなくなっています。
※首輪も付いています。多分放送位は理解できるでしょう。
※凍結は数時間で溶けます。


459 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/01/14(木) 17:16:04 2BN83njg0
投下終了です


460 : 名無しさん :2016/01/14(木) 17:43:44 PYY6K49o0
力作投下乙です!

千枝かっけえぇえぇえ!!よく頑張ったホントにお疲れ様!
番長も今までタてたぶんオクタヴィア戦の怒涛のペルソナチェンジは燃えた
銀ちゃんと支えあい発動した千枝のハラエドノオオカミの演出も愛に溢れてて素晴らしいの一言です
さやかちゃんはホント同行者に恵まれなかったなぁ、これからどうなるんだろう
そして、銀ちゃんのこれは…


461 : 名無しさん :2016/01/14(木) 18:06:42 ed019bVo0
投下乙です

千枝と銀の絆が魅せたペルソナ進化、非常に読み応えがありました
悠が道を踏み外しそうになった所で鉄拳説得、これぞ里中千枝ですね
そんなペルソナ勢とは対照的なタツミ、少し頭冷やそうか


462 : 名無しさん :2016/01/14(木) 18:49:23 uSp.4djA0
投下乙です

さすが特別捜査隊の絆は強いですね
悠に対しての千枝、タツミに対しての悠の説得が熱かったです
これまでのタツミの行動心理も上手く補完され見事でした
間違いに気付かせてくれた悠と交流することでタツミも何とか持ち直してほしいなぁ


463 : 名無しさん :2016/01/14(木) 19:53:21 Y8c9zdmg0
投下乙です
ペルソナ勢はアニメ版からだから生身での戦闘能力低いんだっけか


464 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/01/16(土) 01:15:50 8WUYkaiA0
投下お疲れ様です。
私も投下します。


465 : その血の運命 :2016/01/16(土) 01:18:30 8WUYkaiA0

 文明の進化に伴い生活は改善されている。
 例えば、歩くだけにしても自らの足を使わずに馬車を用いてきた人間は、やがて機械の移動手段を得る。
 ジョセフ・ジョースターと佐倉杏子の二人を乗せた車は、人間の体力を浪費することなく、目的地まで運んでくれる。

 身体に与える害と云えばガスや小さな振動ぐらいだろうか。
 しかし小さな振動と表しても老体には大きく響いてしまうだろう。現にジョセフの顔色が悪い。


(……近い)


 疼く。
 彼が危惧するのは老体に対する自愛の心ではなく、迫り来る決戦の時の訪れである。
 ジョースター家に見られる星形の痣があの男と共鳴するように、疼く。

 手で抑えてみるものの、疼きが止まる訳では無く寧ろ加速するように感じてしまう。
 現在、目指している座標は時計塔――其処にあの男が確実に潜んでいるだろう。
 
 出逢えば戦闘は確実であり、無論ジョセフとて交戦する意思は存在するが相手の力は未知の領域である。
 幾度なく危機を乗り越えてきた往年の波紋戦士でさえ、底が見えない程に黒く染まっている邪神にどう対応するか。
 それを確かめるためにも、これ以上被害を、犠牲者を出さないためにも立ち向かわなければならないのだ。


(DIO)


 永劫に続く因縁に決着が訪れる――その時が迫っているのかもしれない。


「そう言えば杏子」

「何がそう言えばだって?」

 ハンドルに手を添えながらジョセフが語りかける。手を添えるのは当然ではあるが。
 切り口に難儀を示す杏子ではあるが、車に乗ってからのもののやけに口数が減っていた。
 正確には、ジョセフの表情に曇りが見え始めてから、二人の口が重くなっていたのだ。

 杏子は真当な人生を歩んではいないが、何も空気が読めない訳では無く、ジョセフを気遣い黙っていた。
 無論、自ら切り出す話も無いのだが、真剣な面立ちをしている仲間を邪魔することなどしない。

 そんな状況からジョセフから声を掛けられたのは不思議でも何でも無く、ある程度は予想出来ていたこと。
 出来た大人である彼ならば、重い空気を察して話し掛けて来ると、杏子は若干ではあるが睨んでいた。

「さっきから静かだが……サファイアはどうした」

 喋るステッキ。
 雑に表した所の仲間――支給品の類ではあるが、彼女が喋っていないことを気にしていたようだ。
 その問に杏子は軽く笑った後に、何故か自慢気に答えた。


「うるさいからバッグに仕舞ったよ」

「お、おう……」

 
 さらりと言葉を流した杏子にジョセフは苦笑いと驚きを交えた声を出す。
 やがて間が生まれた後には両者が少なからず笑みを浮かべており、一先ずの重い空気は解かれた。


「じゃあ、やっぱ此処にいるんだろ……時計塔に」


 車は止まっていた。
 レバーを動かしエンジンを切った所で降車する二人。見据える先は目的地であった時計塔。
 その中に潜むは追い求めていたあの男。


「かもな……DIOが居るかもしれんわい」


466 : その血の運命 :2016/01/16(土) 01:21:47 8WUYkaiA0


 朽ち果てるように沈みゆく太陽。
 
 静かに時を刻み続ける時計塔。

 陽の光が無くなりし時、夜の主役である吸血鬼は絶大なる加護を得る。

 ならば決着をつける時は――。


「これで居なかったら肩透かしだが……それはそれでありじゃな」


「何がありだよ……あいつは許さねえ。けど、会いたくは無いよな。ぶっちゃけ」


 時計塔へ通じる扉は既に開かれており、視線を下に向けるとなにやら瓦礫だの破片だの、誰かが暴れた痕跡がある。
 殺し合い故に戦闘が生じるのは納得できるが、犯人が自然と浮かんできてしまう。
 早速お目当てを引けたのは幸いだが、杏子が漏らしたとおり、逢いたくも無い相手でもあるのだ。


「じゃが……あいつは倒さなければならない」


 扉の奥へ足を進める。その足取りは旅をしてきた今まで同じように終着を目指して。
 小石を踏み躙る音が鼓動を掻き消している。そして。


(忘れることは一度も無かった)


(あの顔……嫌っていうぐらい覚えているよ)


 荒れている時計塔の内部、階段の手前に積み重なっている瓦礫は奇妙にも椅子の形を形成していた。
 男が創り上げたかは不明だが、その地点に腰を下ろしているのだから彼が犯人なのだろう。

 足を組んでおり、ジョセフと杏子が来たことには驚かず、余裕の表情を浮かべている。
 まるで最初から解っていたかのように、一ミリたりとも動ぜずに口を開いた。

「こんなところに客が来るとは……生憎何も出ないことは知っているよな、ジョセフ・ジョースター」

 空間を支配するようだった。
 紡がれた言葉は短いけれど、表に出た瞬間、全てを覆い隠すように。
 奇妙な不快感が時計塔内部を包み込んでいた。


「貴様が出した茶など気持ち悪くて飲めもせんわい」


「酷いことを言うな……私が何をしたと言うのか」


「――ッ!」


 その瞬間、ジョセフの中に眠る大切な何かが弾け飛んだ。
 それに呼応するように現れるは彼のスタンドであるハーミットパープル。
 瓦礫に座り込む男に対して、怒りと共に伸びていた。


「何をした……何をしたじゃと!? 笑わせるな、忘れたとは言わせんぞ! お前は――」




「このDIOが何をしたと言うのだ。血統などと云うくだらん運命とやらに動かされているだけじゃあないのか、ジョセフ・ジョースター」




 ハーミットパープルはDIOを拘束することは出来ず、瓦礫を粉砕するに留まった。
 目的の相手は気付けば立ち上がっており、ジョセフから見て左側に立っていた。

(またじゃ……奴はまた動いていた)

 距離に換算して十メートル程、離れてはいるが一瞬足りともDIOから視線を逸らすことは無かった。
 しかしスタンドを避けられている辺り、またしても敵の動きを見失ってしまったのだろう。


467 : その血の運命 :2016/01/16(土) 01:22:20 8WUYkaiA0



 次に仕掛けてくるタイミングを狙っていたが、DIOは既に背後へ移動していた。


「な――」

「考え事かジョセフ……いかんなあ、このDIOを相手にそんな余裕など――無いッ!!」


 腕を振り上げたDIOは戸惑いは疎か躊躇もせずにジョセフの右腕を切断すべく振り下ろす。
 身体はジョースターの血が流れているあの男の身体、ならば同じ血統であるジョセフの腕との相性は問題無い。
 無慈悲に振り下ろされる手刀は、隣に立っていた一人の少女によって阻まれた。


「さっきからあたしを忘れてんじゃないか」


「小さくて見えなかったぞ小娘」


 魔法少女へと変身を遂げていた杏子は槍を多節棍に状態変化させ、DIOの左腕を絡めとった。
 これによりジョセフの右腕が切り落とされることも無くなり、彼は一度距離を取ってDIOを見据える。

「その小娘に動きを止められているようじゃあんたも――ッ!!」

「このDIOがどうかしたか?」

 絡め取られている状況を無視するように左腕を振り上げ、鎖と持ち主である杏子さえも強引に動かした。
 空中に上げられ身動きの取れない杏子に追い打ちを掛けるべく、DIOは左腕を己に引き寄せる。
 その連動した動きに組み込まれた杏子はDIOへ一直線に引っ張られてしまう。

 止めるべく動くジョセフだが、間に合う可能性は零だ。

 杏子が何とか防御態勢に映るも、DIOの横に立つスタンドを目撃し嫌な未来を連想してしまう。
 構えられた拳から繰り出される一撃は重く、無理に槍の持ち手で防ぐも大きく吹き飛ばされる。
 鎖が散り散りになり、結晶のように魔力が崩れ去る。

 轟音を響かせ瓦礫に突っ込んだ杏子と変わる形でジョセフがDIOに迫る。
 テニスラケットを投擲しながら接近し、弾かれるのは想定済み。
 その間に死角と重なる形でハーミットパープルを忍ばせるも……DIOは目の前から消えていた。


「大人しくしていろ」


 逆にジョセフの死角から拳を飛ばすDIO。
 音が聞こえてから振り向いては遅く、ジョセフに攻撃を防ぐ術は無い。
 軽快な破裂音が響き、その音がDIOの拳による音だと時計塔内部に示しているようだった。
 その音はあまりにも軽く、とても人体から鳴り響く音とは想像できず、勿論異なっていた。


「な……これは『波紋』ッ!?」


 拳を見つめるDIOの表情は不快そのものだった。
 それを見たジョセフはニヤついており、大きく後退しながら告げる。


「この浮かび上がるシャボンは全て波紋を通しているッ! これで貴様が何処へ動こうとシャボンが全てッ! 道筋を阻むゥ!!」


 ジョセフの言葉を後にし、辺りを見渡すDIOだが宣言のとおりあちらこちらにシャボンが漂っている。
 流れる忌々しい波紋。嘗て身体の持ち主が用いていた能力と百年越しの再開となる。

(しかし思ったよりも効いとらんようじゃな……)

 シャボンによる奇策は成功したようで、成功もしていない。
 DIOの拳を見る限り、それほどまでに崩れておらず効き目があるかどうかも怪しい。
 天敵である波紋を流されれば悲鳴の一つや二つでも挙げると睨んでいたが、現実は寂しいものである。


(まさか波紋が効かない程に……DIOも進化を……いや、くだらん考えはよせ)


468 : 名無しさん :2016/01/16(土) 01:22:42 8WUYkaiA0




「やるじゃん」


 ジョセフの横に到着した杏子が状況に対し好意を示す。
 その身体は露出している部分――腕に生々しい切傷が浮かんでいるが、苦痛の表情は浮かべていない。


「老いてもこのジョセフ・ジョースター……ッ! 来るぞ!!」


 言葉を遮るようにスタンドが放り投げてきた石柱を左右に別れ回避する二人。
 DIOが目標に定めたのは杏子のようであり、スタンドと己の二つの身体から同時に瓦礫やら石柱やらをぶん投げる。

「やっば……!」

 槍一つで相手をするには、範囲に手が届かない。片方を処理してももう片方に潰されては意味が無い。
 グリーフシードの確保が困難とされている殺し合いの中、無駄な被弾や大きな消耗は人体以上に死へ直結するのが魔法少女。
 杏子が選んだ未来は己の恥を捨て、この場を打開するとっておき。


『やっと私の出番ですね』


「あの姿には我慢するから……いくぞ!」


 バッグから取り出したのは支給品であり、新たな仲間であるマジカルサファイア。
 少々煩く、過去の光景から力を借りたくは無いが、文句は言っていられない。
 どうしようも出来ないこの状況を打開する鍵として降臨したその力、邪悪の帝王へ対する反撃の翼となる。


「ほう――似たような物か」


 この時、DIOが何か声に出していたが、杏子達には聞こえていない。
 彼女とサファイアを中心に光が時計塔内部を包み、ジョセフとDIOはその瞳を閉じる。

 視界が暗くなる中、何やら刃物が物体を斬り裂く音だけが耳に聞こえ、唯一の情報となっていた。

 
 やがて光が収まると同時に目を見開くと、其処には全ての投擲物を粉砕した杏子の姿があった。


「こ、これは……」

『私と佐倉様の輝きによって状況を打開しました」

「違う……あたしが言いたいのは違う」


 杏子が握っている槍は魔法少女時の代物とは異なっていた。
 槍先が新たな魔力によってコーティングされており、紅色の波状によって形成されている。
 表すならば魔法で創りあげられたナギナタである。しかし気になるのは武器では無いようだ。


「あたしの姿が……ソウルジェムで変身した時と変わらないじゃないか!!」


469 : その血の運命 :2016/01/16(土) 01:23:11 8WUYkaiA0


 時計塔に侵入する前に行った変身では際どく、恥をかいた姿になっていた。
 けれど今の状況は慣れ親しんだいつもの姿と変わらず、戦闘中ではあるが杏子は気になっているようだ。


『あの時にも言いましたが別に姿は……来ます!』


 文句の一つや二つ、言い出したら止まらないが迫るスタンドの攻撃を回避するために中断。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」


 拳のラッシュに対応するべくナギナタから形状を多節棍へ変化させ、複数に分離させる。
 それを腕で振るうように動かし、拳の応酬に対応させるべく全ての攻撃に合わせる。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――ジョセフ!」


「――――――――――――――無駄ァ!!」


 スタンドの拳が多節棍を吹き飛ばし、持ち手である杏子も飛ばされるが受け身を取ることにより傷は無い。
 拳を振り切ったことにより硬直状態に追い込んだDIOに対し……思わぬ襲撃が入る。


「むぅ!? 貴様、ジョセフ・ジョースター!!」


 DIOの視界の先――時計塔内部の上部から差し込む夕日が彼を襲っていた。
 壁に穴を開けたのがジョセフだ。杏子が時間を稼いでいる間にハーミットパープルで瓦礫を放り投げた。
 DIOの立っている座標から計算していたが、どうやら成功したようだ。
 その表情から「またまたやらせていだきました」と若いジョセフなら言いそうである。


「杏子!!」

「解ってるよ!」


 動きが止まったDIOの隙を狙い、ジョセフと杏子が一斉に走りだす。
 上手くDIOと自分を結ぶ線にシャボンが置かれるように調整しながら走る先は入り口、彼らからすれば出口だ。


「逃げるぞ、ここは一旦退く!」


 たった数分間の攻防ではあるが、DIOのスタンド能力を暴くことは不可能であった。
 波紋も予想より効いておらず、このまま戦闘を続けていては負ける未来が見えてしまう。
 仮に勝負を長丁場へ持ち込んだとして、吸血鬼の時間――夜が訪れる。
 唯でさえどうしようもない状況に、追い打ちを掛けられては勝てる勝負にも勝てなくなってしまう。

 故に選んだ答えは撤退。
 逃げるために移動では無く、生き残るための英断である。


470 : その血の運命 :2016/01/16(土) 01:23:51 8WUYkaiA0



 一目散に出口を目指すが、後方から一切物音が聞こえない。
 シャボンが妨害しているためDIOの動きを抑制しているが、それだけで彼を止めれるとは思ってもいないのが現実である。
 振り向くことはしないが、どうも不安が身体中を駆け巡ってしまう。


 しかし行動が起こされていないのならば、此処は全力で逃げ切らせてもらうことにしよう。
 時計塔を脱出したジョセフと杏子はそのまま車まで走り、DIOが追ってないことを確認した。





「さぁ早く此処から離れようぜ。
 あいつから逃げるのは悔しいけど……今のままじゃ――――――――――――車が、な……い?」




  
 車まで辿り着いた彼女達を待っていたのは、何も存在しない無の空間であった。
 可怪しい。確かに車は目の前にあった。けれど、今は何も無く、草むらが広がっている。

 
 何が起きたか解らない、理解が出来ない、思考の処理が追い付かない。
 けれど、何処かで感じたことがある。そう遠くない……DIOと対峙した時のような。

 
 唖然に取られていた杏子であったが、サファイアとジョセフの声により現実に戻る。
 何やらやたら「上」を連呼しており、言葉に従い見上げると、車が浮かんでいた。


「……は?」


 勿論車に飛行能力など搭載されておらず、誰かが持ち上げていた。
 その姿は何処かで見たことが有り、忌々しい記憶ではあるが自分もよく知っている姿と似ていた。
 グランシャリオと似ているソレは――考える必要も無く、中に居る男の正体を理解してしまった。


 悪鬼纏身インクルシオ。


 悪を葬るために悪が用いた闇の帝具。
 身に纏うは葬られるべき対象である邪悪の帝王、DIO。


 杏子が反応するよりも早く、彼女に車が叩きつけられた。


471 : BloodyStream :2016/01/16(土) 01:24:42 8WUYkaiA0

 赤く紅蓮のように燃え上がる車体とそれを実現させた邪悪の断罪者。
 周囲の色を染めながら漂う絶望を見ていたジョセフの息は切れていた。

 佐倉杏子が車に叩きつけれられていたら。
 普通の人間なら確実に死んでいる。魔法少女でも致命傷になるかもしれない。爆発もだ。
 故に彼女が隣に立っていることは素直に喜べることであった。


「た、助かったよ……」


「気を抜くな……奴はアレで陽の光を遮断しているぞ」


 DIOが車体を叩き付ける前にジョセフはハーミットパープルで杏子を救出していた。
 幾らか地面を擦り付けながらの移動となってしまったが、そうでもしなければ状況は更に悪化していただろう。
 身体を覆うことにとって、陽が落ちていない状況でも移動手段を手に入れた吸血鬼。
 逃走を図ろうにも、どうやら此処で一度何かしらの形で勝負を着けないと離脱は難しいようだ。

 しかし対峙するジョースター家因縁の相手である邪悪の根源DIO、彼は強い。
 吸血鬼と化した身体から繰り出される格闘は人間の領域を超えており、それはジョセフが嘗て対峙した一人の師を連想させる。
 それに加え圧倒的な力を所有するスタンドも持ちあわせており、能力の謎は解明出来ていない。

「来おったなDIOめ……これでッ!」

 ハーミットパープルによる瓦礫の投擲で進路を塞いでみるも、片腕で簡単に払われてしまう。
 その隙にジョセフと杏子は二手に別れ同時に攻撃を仕掛ける。

 伸ばされたスタンドとナギナタによる近接攻撃。

 しかしDIOはそれを難なく回避――いつの間にか一歩先に進んでいた。


『また認識出来ない移動ですね……』


「そこの杖、お前はルビーの代替品か何かか?」


『――! 貴方は会ったのですか!?』



「知らんな……KUA!!」



 流れるように払われる手刀を杏子は上体を逸らすことにより回避。
 しかし上体を戻した瞬間に拳を叩きこまれ、腹を抑えこみその場で俯いてしまう。

「どうやって支配から抜けだしたかは知らぬが、このDIOの前に現れたからには覚悟をしているんだろうなァ!」

 回し蹴り。

 DIOの右足が杏子の顔面を捉え――障壁によって拒まれる。

『しっかりしてください、佐倉様!』


472 : BloodyStream :2016/01/16(土) 01:25:21 8WUYkaiA0

 魔術的な障壁によって阻まれたDIOの回し蹴り。
 サファイアの力により、攻撃から逃れた杏子は痛みを我慢しながら跳ぶように後退。
 ジリジリとインクルシオと障壁がぶつかり合う中、降り注ぐ瓦礫を避けるためにDIOも後退していた。


 その中で距離を詰めたジョセフは己の腕にシャボン液を塗りたくり、DIOに拳を放つ。
 異変に気づいたDIOは攻撃を受け止めるのでは無く、受け流しを選択。

(ぬ! シャボン液を纏い波紋をより一層流し込もうとしたのが読まれたか!?)


「貴様が一番弱いぞジョセフ・ジョースター。
 老いに勝てないとはやはり人間はくだらん下等生物よッッ!!」


 拳を受け流され前のめりになったジョセフの身体に膝蹴りを叩き込む帝王。
 身体を折り曲げ、苦痛の表情を浮かべる波紋戦士に対し、腕を突き刺す。

「――――――――――――!!」

 脇腹に差し込まれた腕を見てしまい、痛覚が身体中を駆け巡る。
 張り裂けそうな痛みと、自分の中に汚物が混入する不快感と精神的損傷。
 様々なマイナス要素がジョセフの身体に襲い掛かる中、DIOは腐った笑い声を響かせていた。


「貴様の血ィ! このDIOの糧にしてやろうッ!!」


 吸血は何も鋭利な牙で首元に噛み付いて行うとは限らない。
 身体の――方法は幾らでも有り、DIOが決行するのは腕による吸血だ。

 元々はジョナサン・ジョースターの身体だ。
 その血を受け継ぐジョセフ・ジョースターの血は身体によく馴染むだろう。


 吸血を行う前からDIOは勝利を確信していた。
 邪魔をする魔法組はまだこちらに駆け付けておらず、ジョセフは虫の息だ。

 血を吸うことによって体力を回復し、更なる高みへと昇ることが出来る。
 失った片腕もジョセフの腕ならば、問題なく動かすことが出来るだろう。


「さぁ、ジョセフ・ジョースター! 貴様の生命とやらはこのDIOが終わらせてやろう!」


473 : BloodyStream :2016/01/16(土) 01:25:55 8WUYkaiA0

 宣言したDIOではあるが、此処で問題が発生してしまう。
 しまった、と謂わんばかりの表情をしており、原因はジョセフの瞳。
 彼の瞳はまだ死んでおらず、しかとDIOを睨みつけていた。

 そして口元が――不敵に嗤っていた。


「これだけ近づいてくれれば嫌でも流せるわい……喰らえ、波紋疾走ッッ!!」


 自分に突き刺されたDIOの腕を握り込み、波紋を直接叩きこむは歴戦の波紋戦士、ジョセフ・ジョースター。
 インクルシオの上からだろうと関係無く、ゼロ距離で流し込み、反撃を始める。


「き、貴様〜〜〜〜〜〜ッッッ!!」


 DIOは即座に腕を引き抜くと、スタンドを具現化させ右足を蹴り上げるとジョセフを上方へ飛ばす。
 次第に波紋が身体の中を駆け巡り、一部の血管が死んだ感覚に陥るも致命傷までには至らない。
 更に流し込まれていれば危なかったが、早期に引き抜いたことにより、その姿、今だ健在である。

 スタンドはジョセフを追い掛けその場を跳ぶと、ガードを崩すために腹に一発の拳を入れる。
 苦しむ敵に情けを掛けること無く、一発、また一発……拳の嵐が吹き荒れる。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」


 休むこと無くラッシュを叩き込み、最期の一発は全ての勢いを上乗せした上段回し蹴り。


「無駄ァ! 吹き飛べ、ジョセフ・ジョースターッ!!」


 無慈悲にも顔面を捉えられたジョセフは対応する術も無く遥か上空へぶっ飛ばされる。
 圧倒的なスタンドパワーを見せつけられることになり、謎の瞬間移動のトリックも暴けていない。
 全てがDIOの掌の上で踊らされている中、ジョセフは時計塔上部――時計板に衝突してしまう。

 長針と短針を吹き飛ばし、時を刻む機能が無くなった壊れ玩具。
 其処には血塗られたジョセフ・ジョースターが叩きつけられていた。




「テメェッ!!」




 地上に残るDIOに奇襲を仕掛けた杏子のナギナタは標的の身体を捉えることに成功する。
 しかし槍の柄を掴まれてしまい、両者は硬直状態に陥った。


474 : BloodyStream :2016/01/16(土) 01:27:30 8WUYkaiA0

「何やら強くなったみたいだがこのDIOには及ばんな」


「なら試してみるかい……ってう、動かない」


「どうした? 来ないならさっさと終わらせて貴様の生命を潰してやる」


『佐倉様!!』


 DIOは余裕の発言を繰り返し、槍を握っている掌に力を少し加えた。
 すると槍は簡単に破裂してしまい、杏子の集中力と意識が一瞬途絶えてしまった。
 戦闘中であるが故に相手から視線を逸らすことは無いのだが、『いつの間にか拳が目の前』にあった。

 防ぐ術も無く、歯を食いしばり、瞳を閉じて半ば諦めを示しつつ拳を待つ。
 一発もらったならば、すぐさま戦線に復帰しジョセフの分も攻撃してやる、と彼女は思う。

 けれど何時になっても拳は来ず、気付けば佐倉杏子は空を飛んでいた。


「――――――――――――――まじか」


『大丈夫ですか佐倉様?』


「大丈夫では無いけど驚いたよ……でもそんな時間があるなら、あいつを倒す!」


 己に生えた翼に驚くも、杏子はそのまま降下を開始しDIOに立ち向かう。
 サファイアとの連携で魔力の弾幕を張りつつ接近し、捕捉されないよう直線ではなく移動に遊びを持たせる。
 DIOがインクルシオを纏った己の片腕で弾幕を処理している中、背後を取った杏子はナギナタを振るう。

 予想通り、DIOの姿は無く、若干横に移動しており、ナギナタは空を切る。

「だろうと思ってたよッ!」

 更に強引に振り回し、その場で大きく回転し、自分の方位を全て斬り裂く。
 たかが横に移動しただけでは回避することなど不可能であり、DIOにまともな攻撃が初めて通じることになる。

 胸の部分を斬り裂き、血こそ出ていないが装甲を削ぎ落とすことには成功し、生身が露出することになった。

 吸血鬼が夕暮れの中――生身を晒すことになったのだ。


475 : 名無しさん :2016/01/16(土) 01:27:55 8WUYkaiA0

 夕日は日中時に比べると日差しは弱いかもしれないが、陽の光には変わらない。
 DIOに対抗するための、吸血鬼にとって有効な弱点を突くことにより状況は変わるだろう。

 痛みに苦しみながら叫ぶDIOの姿が浮かぶ――のは杏子とサファイアだけであった。


『佐倉様!! また――この能力は』


 気付けば吹き飛ばされていた。
 何が起きているかは解らないが、吹き飛ばされていることだけは解る。
 結果だけが残っており、気持ち悪い、と佐倉杏子は思っていた。

 DIOに攻撃を入れたのは自分だった。
 けれど顔面に衝撃を受け、吹き飛んでているのも自分だった。

 風を斬るように飛ばされている自分。傷口に風が染み込み地味な痛みが走る。
 首を方向け前方を見ると、バッグで胸を抑えながらDIOが追い掛けているのが見える。

 隠している辺り、日差しは有効であるようだったが、追撃が生まれない。
 あろうことか損傷が大きいのは杏子側であり、DIOに対してまともな一撃を加えられただろうか。

 腹が立つ。
 自分が吹き飛ばされている方向が時計塔内部に通じる辺りも腹が立つ。

 サファイアが先回りしていて、どうやら自分を受け止めようとしているようだ。
 小さい体積でどう受け止めるかは不明だが、きっと魔法でどうにもなるのだろう。


「はは……」


 笑いが溢れる。
 何故こんなことを冷静に考えているのか。

 それは心の何処かで負けを悟っているのかもしれない。
 圧倒的な邪悪の根源たる存在DIO、その圧倒的な力を前に敗北を認めているのかも知れない。


(だっせーな……これじゃエドに合わせる顔が――やっぱ負けたく無えよな)


 時計塔内部に到達した佐倉杏子。
 これで吸血鬼を苦しめる日光は届かない。

 逃げるも不可、勝利も不可……けれど、諦める訳にはいかなかった。









 意識は在る。
 己の身体に走る痛みで意識を失いそうになるが、留めている。


476 : 名無しさん :2016/01/16(土) 01:28:22 8WUYkaiA0

 呼吸を整える。
 波紋によって痛みを和らげ、生き残るための活力を生み出す。


 時計板に飛ばされたジョセフ・ジョースター。
 短針が左肩に深く突き刺さり、抜く時の痛みを想像すると今にも意識が飛びそうだ。
 骨も数本折れており、呼吸するだけで内部が痛むことから器官の何かも破壊されているようだ。


 冷たい風が身に染みる。
 幾度なく危機的状況を乗り越えてきたジョセフだが、DIOに対抗するための活路を見出だせずにいる。
 スタンドの圧倒的なポテンシャルと一切トリックが不明な謎の能力。


 加えて吸血鬼故の超人的な身体能力まで合わさっている。
 嘗て対峙した柱の男達よりは身体能力が低いようだが、スタンドがそれを補っている。


 瞬間移動を行ったり、気付かない内に無数の打撃を叩きこんだりと、奇妙な能力である。
 仮に能力が瞬間移動だとしても、一切の予備動作を見せていない。
 予備動作そのものが無ければ見極める手段は無いのだが、有ったとしても此処まで見抜けないものなのか。


 それに瞬間移動ならばもっと大胆に移動する筈。
 DIOが移動している距離は、一度の能力では明らかに短いのだ。


 近接上体からの背後や、攻撃を回避するための僅かな移動しかしていない。
 何か制限が在るのかもしれないが、その規則性を見抜かなければ勝機は訪れない。


「やるしかないのう……ワシだけが倒れている訳にもいかん」


 地上では杏子が単身でDIOに挑んでいる姿が見える。
 幼き戦士が戦っている中、年長の自分が黙って見ている訳にもいかない。
 まずは肩に刺さった短針を抜くことから始めなければならない。現実が嫌になる。


 右腕で針を掴むと、呼吸を整え万全の状態で痛みに迎え撃つ。
 抜くのは一瞬だ、戸惑えば戸惑うほど――自分が辛くなる。


「ッ――――――――――ああ! クソ、やってられんわい!!」


 怒りを抜ききった針に込め、躊躇すること無く時計板に叩き込む。

「もう時を刻むことも無いんじゃ、お勤めご苦労さんってとこかのう」

 軽口を叩いてはいるが、現状、どうすることも出来ない。


477 : 名無しさん :2016/01/16(土) 01:28:45 8WUYkaiA0

 地上で戦う杏子を見ていると、やはりDIOの瞬間移動が厄介だと再認識することになる。
 虚を突いた一撃も、移動されれば空を斬るだけの無駄に終わってしまう。


 あの能力が無ければ少しはまともに――いや、戦況は変わっていたのかもしれない。
 前に対峙した時も、今回も数は此方側が完全に有利であり、手数は圧倒的に上だった。
 スタンドを含めても此方側に勝機を見いだせた――のかも知れない。


「DIOに一撃を……これでやっとか」


 苦しみながらもDIOに一撃を加えた杏子。
 ナギナタはインクルシオの装甲を削ぎ落とし、DIOの肉体を世界に晒す。

「まだ時間はある……太陽がまだ生きている」

 日差しが弱点である吸血鬼。
 時計塔内部の戦いでも外壁に穴を開けることにより仕掛けた奇襲は効いていた。

「浴びている時間が長ければ勝機も……む、いかん!」

 杏子が優勢になるかと思えば、DIOが怒りの猛攻を仕掛け淡い希望は簡単に崩れ落ちた。
 気付けば杏子は謎の打撃を受けており、意味不明に飛ばされていた。
 何度も見た光景である。


 飛ばされた杏子はそのまま時計塔内部にまで飛んで行き、DIOもソレを追っている。
 日差しのハンデが無くなり、戦況はまた振り出しに戻る。
 振り出しどころか此方側の損傷が大きく、唯でさえ不利な状況が更に不利となってしまう。


「杏子を助けなくては……あんな小さく女の子が戦っているんじゃ。
 大の男であるワシが老体に甘えて偉そうに解説しとる場合ではない……そうだろう」


 誰に向けた言葉かは不明だが、ジョセフの目の前には共に戦った戦士の姿が浮かぶ。
 彼らはどんな状況であろうと諦めることは無かった。それはジョセフも同じである。




「まだ時間が在る……ワシは動けるんじゃ。諦める訳には――――――ッ」




 座り込んでた身体を起こし、時計盤に塗られた血を見て彼は固まった。


 突き刺さっている短針に触れ、一呼吸を置く。


 そう、時計は時を刻んでいない。


 時を刻んでいないのだ。


478 : BloodyStream :2016/01/16(土) 01:29:16 8WUYkaiA0

 短針を引き抜いたジョセフは針を見つめながら独り呟く。


「針が動かなければ時計は止まる」


 当然だ。
 アナログにとってそれは当然のことである。


「時を刻まなければ進むことは無い」


 生物はその時を刻んて生きている。
 それは有機物に問わず、無機物にとっても同じである。


「世界は常に廻っている」


 世界の時はテロが起きようと、誰かが死のうと止まることは無い。
 停止することになれば全ての生物の時が一斉に止まる時だろう。あり得ない話ではあるが。


「世界が止まったとしても、認識する術は無い」
 

 止まったことを認識すれば『認識した生物』の時は止まっていない。
 仮にそのようなことが可能であれば、実質、世界を支配しているようなものだ。


「もし、もしもの話じゃが……DIOが――」


 之まで対峙した時。
 謎のスタンド能力、瞬間移動、予備動作が無い、認識が出来ていない、そして自分が壊した時計。


 結びつくことの無い全ての要素が何重にも連なる螺旋を形成し一つの答えを導き出す。


 風前の灯火。
 そんな己に鞭を打ち、ジョセフは走る――因縁を終わらせる突破口を開くために。


 そう――終わらせるのではない。


479 : その血の運命(後編) :2016/01/16(土) 01:30:41 8WUYkaiA0



「中々樂しませてくれたがこのDIOの前では所詮は無駄だ」


 心の篭っていない疎らな拍手を行いながら杏子に近づくインクルシオを解いた吸血鬼。
 時計塔内部に戦場が移ってからはDIOの圧勝であった。

 スタンドの能力を惜しみなく使い、漂うシャボンには一切触れない徹底。
 杏子から一撃をも、貰うこと無く完封し、対峙していた魔法少女は槍に寄りそうように立っている。

 誰が見ても思うだろう。
 彼女はとっくに限界を迎えている。立っているのは意地の要素が強い。

 流れる血、その姿から骨も何処か折れているだろう。
 だが、彼女は諦めていない。
 勝てないと解っていても、止まらない、その心を死なせない。


「またお前に負けるのは……っ、御免だぜ」


 口に含んだ血を吐き捨て、強がりな台詞を吐き零す。
 嘗て肉の芽によって支配された恨みは忘れていない、忘れる筈が無い。
 あの屈辱、この男を生かしておけば更なる被害者が生まれ、流れる必要の無い鮮血が生まれてしまう。


「だからちょっと遊ぼうぜ……最期くらいガキらしく振る舞っても……いいよな?」


 祈るように掌を組み合わせた彼女。
 その姿は女神に祈る修道女のようで、一種の美しさや儚しさを帯びている。

 祈りに答えるように時計塔の床を振動させつつ、槍が無数に生え始めDIOを囲う。
 鎖の擦れる音を響かせながら一斉に対象に向かい、身体の至る部分を鎖で締め付け拘束。


「魔女狩りのようにこのDIOを焼くか? やってみろ、殺せるものならばこのDIOを殺してみせろよ魔法少女」


 依然、余裕の発言を繰り返すDIO。
 この男は自分が死なないと盲信仕切っている存在だ。
 ならば、その慢心を打ち砕いた時――どれ程爽快感を得られるだろうか。


480 : その血の運命(後編) :2016/01/16(土) 01:31:14 8WUYkaiA0


「あんたは魔女何かじゃない――生まれちゃいけない存在だったんだ」


 膨れがる魔力。 
 杏子の目の前には己の魔力をエネルギー状に放出した結晶が結成されている。
 残るありったけの魔力を己に込め――絶大なる一撃を放つために。


『佐倉様、いけません! 貴方は――その生命を無駄にする気ですか!?』

 
 サファイアは気付いている。佐倉杏子がやろうとしている行動と結末を。
 それは何も得ることが無い、自己犠牲によって生まれる物語の終着だ。

 幼い生命を此処で散らすことなど誰一人望んでいない。
 死ぬべき相手は邪悪の帝王たるDIOであり、杏子が死んでいい未来など誰が望むものか。


『貴方が居なくなれば貴方を思う方がどれだけ悲しむのか――』


「家族はもういない……それに、いや、何でもない」


 大切な親友であり、仲間であり、生命の恩人であり、先輩であり、大切な存在である彼女も生命を落としている。
 もう佐倉杏子がこの世界に残す未練など――在る。


(死にたくないなぁ……ははっ、こんな時だけ弱気になっちまう)


 乾いた嗤いが響く。
 何度目になろうと死の直前とは怖いものである。
 死んだ先に在るであろう無を想像すると、恐ろしくて思考が停止してしまう。


 けれど。

 
「お前を道連れに死ねるなら……あたしの人生はまだ意味を持てるよ」


「道連れ……ッ!
 貴様、まさかこのDIOごと――自爆する気か!?」


 気付く。
 膨れ上がる魔力は上限を知らずに大きくなっていく。 
 その質量、想像するまでもなく、時計塔の一つや二つを簡単に崩壞させるだろう。


481 : その血の運命(後編) :2016/01/16(土) 01:31:47 8WUYkaiA0


 流石のDIOも状況の危機を認識したのか、余裕が消え汗が流れ始めている。
 その様子を見た杏子はやっと笑顔を浮かべる。一発してやったと謂わんばかりに。

 
 サファイアに逃げるよう視線を促すが、移動する様子は無い。
 寧ろ、杏子の身体周辺に魔力による障壁を形成し、彼女を生かそうと動き始めたのだ。


(自爆しようとしている奴を守る……面白い奴だな)


 あり得ない行動と思いつつも、内心は喜んでいる。
 もしかしたら巻き込まれて死ぬかもしれない、けれどサファイアは残ってくれる。

 独りじゃない。

 その事実が杏子を最期まで立たせる魔法の言葉となる。


「ぬぅんッ! この程度の鎖で縛れる程軟な存在では無いわッ!!」


 外からスタンドで鎖を殴り付け、拘束から開放されたDIOを杏子を殺すために距離を詰める。
 しかし杏子の覚悟は既に完了しており、DIOが焦ろうと関係無い。このまま爆発を待つだけである。












「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」











 その時DIOの背中に衝撃が走り抜ける!!


 背中に響いた衝撃は生涯感じた中でも、最も不快な波紋エネルギー。
 この殺し合いに置いて波紋を扱う存在は一人しかいない。
 忌々しい血族、ジョースター家の末裔であるジョセフ・ジョースターだけだ。


 つまり。


「そんな歳で死のうとするんじゃない、馬鹿め」


 ジョセフ・ジョースター。
 ハーミットパープルをターザンロープのように操り、DIOへ攻撃を仕掛ける。
 奇襲は成功し、流し込んだ波紋により吸血鬼は苦痛の表情を浮べながら瓦礫の中に埋もれた。


482 : その血の運命(後編) :2016/01/16(土) 01:32:29 8WUYkaiA0


 杏子の隣に立ったジョセフは彼女の行動を咎めるも、深くは言わない。
 落ち度は自分に有り、死を覚悟させてしまった同行者の自分に問題が在るのだ。
 だから何も言わずに一言、たった一言。


「逃げるんじゃ。このまま奴と戦った所で得る物は何も無い」


 杏子とてそれは感じていた。


「でもさ、逃げ切ることが出来そうにも無いんだよ……悔しいけどあいつは馬鹿みたいに強い」


「それも知っておる。だからワシが時間を稼ぐ間にお前だけでも逃げろ」


 告げられた言葉に固まってしまう。
 この老人は今、何と言ったのか。意味は解るが理解したくない。

「あんたフザケたこと言ってんじゃ」

「そう思うか?」

「……思わない」

『ジョセフ様……確かに一人が残れば逃走成功率は大きく跳ね上がります』

 言わなくても解っている。
 囮が居ればこの場から離脱出来ることを。
 そしてジョセフが本気で言っていることも。けれど、甘えたくない。


「またそうやってあたしの周りから人が死んで……あたしだけが生き残る」


「何も死ぬつもりは無いわい。それにDIOの能力――見抜いたからな」








「それは気になってしまうなァ〜ジョセフ・ジョースター。
 貴様如きがこのDIOのスタンド能力を、『世界』を暴いたなどと妄言を吐くとは人間の老いとは悲しいなァ」


483 : その血の運命(後編) :2016/01/16(土) 01:33:04 8WUYkaiA0


 瓦礫から立ち上がったDIOはジョセフの発言に興味を示したようだ。
 世界を見抜いた人間は一人しかいない。また、その女も例外である。

 領域に到達した人間が易易と出られては、帝王の威厳が薄れてしまう。

 無論、ジョセフが見抜いたなどとは思っていないようだが。


「ならばDIO、次にお前は――『このDIOのスタンド能力は時を止めること。貴様などに見抜ける筈も無い』――と言う」





「『このDIOのスタンド能力は時を止めること。貴様などに見抜ける筈も無い』――ハッ!?」




 
 この瞬間こそがまるで時が止まったようだった。
 ジョセフは嗤い、DIOは焦り、杏子は呆気に取られている。
 時を止めることなど可能なのか。そんな能力が存在すればどのようにして立ち向かうのか。
 解らない、けれど納得は出来てしまう。


『瞬間移動の正体は時間停止。時を支配すればその間の世界は誰も認識が出来ない故の超常現象……過程を認識させずに結果だけが残る』


 サファイアが告げた通り、止められた時間を認識することは不可能である。
 故に対象者が感じるのは結果だけであり、移動からしてみれば瞬間移動と捉えてえしまう。


「貴様……このDIOの能力を人間如きが見抜いたことは褒めてやる。
 腐ってもジョースターの血……天敵だと認めてやってもいいかもしれん……が、それでどうする?」


「声が震えているぞDIO、怖いのかな?」


「死ねェいッ!!」


 安い挑発に乗ったDIOが怒りの形相でジョセフに迫る。
 その見た目からは帝王の気概など一切感じず、小物にすら見えてしまう。

「杏子、この情報を広めて仲間を集めんるんじゃ。それまでワシが食い止める」

「……本気なのは解ってるよ。だからこれだけ言わせてくれ」


 幾ら言葉を並べた所でジョセフが納得しないのは解っている。
 意地を張って残っても、迷惑を掛けることだけになるのも解っている。
 だから一言。たった一言を残して彼女は飛翔する。


「絶対に死なないでくれ」


「このジョセフ・ジョースター。まだまだ死ぬつもりは無いわい」


 迫るDIO。
 残るジョセフ。
 飛翔する杏子。


 彼らを見守るのは漂うシャボンだけ。
 そして終末が訪れる――時が止まるように。


484 : その血の運命(後編) :2016/01/16(土) 01:34:02 8WUYkaiA0

 上部に空いた穴から逃げる杏子に興味など示さずDIOはジョセフに迫る。
 世界に石柱を持たし、振り廻すことで波紋シャボンを粉砕しそのまま投擲を開始。

 横に跳んだジョセフを狙うように――この戦いで初めて声を挙げ、能力を行使する。


「時よ止まれ――『世界』」


 止まった世界の中でDIOは何一つ躊躇わずにジョセフの身体へ拳のラッシュを叩き込む。
 この男だけは絶対に殺す。そしてその腕、その血を糧とし、更なる高みへ昇るための踏み台となってもらうために。


「無駄ァ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」


 容赦なく吹き荒れた拳の〆は全体重を乗せた放てる限界の一撃。
 死に体となっている老人を一人を殺せるなど簡単なまでに、強く、無慈悲な一撃。


「そして時は動き出す――な、何ィィィイイイ!?」


 吹き飛ばされたジョセフを見て高笑いを行うつもりだったが、拳を見て悲鳴を挙げてしまう吸血鬼。
 スタンドが殴ったのはジョセフ。そしてスタンド。


「か、身体に……ハーミットパープルを巻きつけての波紋は……効いたじゃろう」


 ジョセフはただ殴られていた訳では無い。
 DIOが時を止めると確信した上でわざと殴られ、そして静かに反撃していた。
 老いても尚、その頭脳は衰えていない。


「クゥゥウウウウウ!! 舐めた真似をしおって! 貴様はここで確実に殺す!!」


 波紋に苦しむも死には至らない。
 血液が沸騰する不快感が身体に流れるも、まだ節々は生きている。

 その首を潰さんと、瓦礫に身を委ねる瀕死のジョセフへ走るが、またもしてやられる。


485 : その血の運命(後編) :2016/01/16(土) 01:34:36 8WUYkaiA0

 

「W、WRYYYYYYYYYYYY!? こ、これは陽光!?」



 走るDIOを止めたのは天敵である陽光。
 けれど此処は室内であり、陽光が届くはずも無い。
 ジョセフが空けた穴とは明後日の方向であり、陽光が届くことなどあり得ない。

 そのあり得ないを実現させたのが――ジョセフである。


「周りをよーく見てみろDIO……何がある?」


「クウウウ……シャボン……ま、まさか!?」


 陽光にその身を焼かれながらも、DIOは周囲を見渡し異変に気付く。
 漂っているシャボンが光っている。それもレンズ状に、幾度にも反射して。


「真っ黒に感光しろDIO!
 このシャボンは貴様を焦がす最期の陽光――ワシの最期の波紋じゃ!!」


 ジョセフは仕込んでいた。
 時計塔内部に侵入する前、新たにシャボンを量産しDIOを追い込む布石を行っていた。
 吹き飛ばされた方角も計算済みであり、プライドの高い帝王を煽ればこうなることは予想出来ていた。



(じゃが……もう身体が動かんわい……情けないが此処までのようじゃ)


486 : その血の運命(後編) :2016/01/16(土) 01:35:09 8WUYkaiA0


 時計盤に叩き付けられていた時点でジョセフは致命傷を負っていた。
 彼を動かしたのは、彼に似合わない努力や根性と云った所謂気合であった。

 仲間を失った彼、自分もまた消えることになるとは思ってもいなかった。

(すまんな承太郎……)

 これで会場に残る仲間は自らの血族である空条承太郎だけになる。
 孫を残して死ぬことになる。けれどDIOのスタンドを暴くことが出来たのは事実である。

(後は頼んだぞ杏子……DIOを倒すために広めてくれ)



 咳をするごとに血を吐いてしまう。
 老体に無理をさせすぎた結果である。幾ら波紋と云えど老化には耐えられない。
 当時は解らなかったが、今ならストレイツォの気持ちが解るかもしれない。決してやらないが。



「ワシもそっちに行くぞ……イギー、花京院、アヴドゥル……シーザー……すまんなスージーQ」


 
 瞳を閉じれば浮かんでくるのは大切な存在。
 直前にして初めて解る死へのロード、止められない世界の最期。

 ジョセフ・ジョースター。 
 幾度なく戦い抜いた波紋の戦士、老いて尚、その強さは健在であった。


「奇妙じゃったが――充実した人生だった」


 そして彼の死は無駄では無い。
 彼が死んだとしても、彼の意思が死ぬことは無い。
 安らかに眠っていても、彼が残した遺産は――朽ちずに世界を輝かせるから。












「手こずらせおって――この死に損ないがァ!!」







 悪鬼を纏った吸血鬼の手刀が波紋戦士の右腕を簡単に切り落とす。


487 : その血の運命(後編) :2016/01/16(土) 01:35:35 8WUYkaiA0




 切断面と切断面を接着させ、己から触手を生やし身体に馴染ませる。
 同じジョースターの血が流れる身体同士、相性は良く、動きに問題は無い。



「インクルシオ無ければ危なかったが……勝ったのはこのDIO! 貴様ではなく、このDIOだ!
 これで忌々しいジョースターの血統も残すは承太郎だけか……確実にこのDIOが殺してやる、感謝しろ」


 
 ジョセフの死体に腕を突き刺す。
 吸血を行えばDIOの傷は回復し、そして更なる高みへと昇る。


 帝王は更に強くなり、この会場に置いても驚異的な存在になるだろう。


 そして。


 ――


 太陽が沈み吸血鬼の時間である夜が来訪する。













「――ん」


『どうしましたか佐倉様』


 時計塔から脱出した杏子はジョセフを救うために会場を駆けていた。
 DIOのスタンド能力を広め、仲間を集めて彼を救うために、DIOに勝つために。

 立ち止まっている時間は無いが、頬にシャボンが触れて止まる。
 このシャボン玉はジョセフのものだろう。風に乗って此処まで辿り着いたのか。





 触れようとした時。





 シャボン玉が破裂し、乾いた音だけが、彼女の耳に残った。





【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース 死亡】


488 : その血の運命(後編) :2016/01/16(土) 01:36:41 8WUYkaiA0



【A-3/一日目/夕方】





【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(極大)精神的疲労(大)流血(中)骨が数本折れている、顔面打撲
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×4@魔法少女まどか☆マギカ、
    カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
    不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:仲間を集める
1:DIOのスタンド能力を広め、ジョセフを救出するための仲間を集める。
2:御坂美琴は―――
3:巴マミを殺したサリアとかいうのは許さない。
4:ジョセフ……。
5:もしさやかが殺し合いに乗っていれば説得する。最悪、ケリはこの手でつける。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※サファイアと契約を結びました。
※DIOのスタンド能力を知りました。








【A-2/時計塔/一日目/夕方】




【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:疲労(中)、波紋と日光により身体が所々焼けている、肉体損傷(大)怒り(大)
[装備]:悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。 最早この帝王に油断はない。
0:ジョセフの血を吸い、行動を開始する。
1:承太郎を殺す。
2:エスデス、寄生生物、暁美ほむらは必ず殺す。
3:血液の確保。
4:食糧または協力者を確保するために武器庫を目指す。
5:イリヤと杏子との合流。自分に逆らわなければ手ごまにするが、逆らうのであれば問答無用で糧にする。
[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術、DTB世界の契約者についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。
※悪鬼纏身インクルシオは進化に至らなければノインテーターと奥の手(透明化)が使用できません。
※暁美ほむらが時間停止の能力を持っていることを認識しました。また、承太郎他自分の知らない参加者も時間停止の能力を持っている可能性を考えています。
※魔法少女についての基礎知識を得ました。
1.魔法少女とは奇跡と引き換えにキュゥべえと契約してなるものである。
2.ソウルジェムは魔法を使う度に濁り、濁りきると魔法が使えなくなる。穢れを浄化するにはグリーフシードが必要である。
※エスデスが時間停止の能力を持っている、或いは世界の領域に侵入出来ることを知りました。


489 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/01/16(土) 01:37:10 8WUYkaiA0
投下を終了します


490 : 名無しさん :2016/01/16(土) 07:06:32 .CVrLXZw0
投下乙です
DIO様の絶望感やばい…


491 : 名無しさん :2016/01/16(土) 11:01:05 vxoz8Z7A0
投下乙です
気高き戦士ジョセフ・ジョースターの最期、この目でしっかり見させてもらった!
原作の流れももちろん、親友シーザーの死をマネるあたり最期までジョセフ・ジョースターの心なんだなぁ・・・
そしてDIO、気づかれてしまうが勝った・・・。時止めの時間いくつになるんだろう・・・
そういえばジョジョ勢はDIOのみ、太刀打ちできる奴誰だ・・・?


492 : ◆dKv6nbYMB. :2016/01/17(日) 10:56:44 ndN2JCWY0
お二方共投下乙です。

激熱のオクタヴィア戦、途中の番長と銀にハラハラしてたけど千枝が持ち直してくれて本当によかった。千枝お疲れ様。
もしもさやかを戻せた時、タツミがどうするのか凄く気になる。さやか、戻ってほしいなぁ
そしてエルフ耳はいつになったら黒さんと戦えるのか...

ジョセフ―――!!
これでもかというくらいジョジョな激闘の末、とうとうDIO様が血を吸ってしまった。
ノーベンバー、アヴドゥル、ジョセフと次々に託されては失っていく杏子の行く末やいかに。
最後に。ジョセフ、本当にお疲れ様でした。

投下します。


493 : それでも彼女は守りたかったんだ ◆dKv6nbYMB. :2016/01/17(日) 10:58:55 ndN2JCWY0


―――承太郎が目を覚ます前のこと。

「...セリュー、もう一人の子は...」
「まどかちゃん。ほむらちゃんの友達です。彼女も、足立に殺されました」
「...そうか」

気絶した承太郎をマスタングが背負い、ほむらとまどかの遺体はセリューがデイパックにいれて持ち運び、一行は駅員室の付近に身を潜めていた。

「...すまない。彼女の死は、私の責任だ」

ほむらが出ていこうとしたあの時止めることができれば、いや、それ以前の問題だ、
狡噛を逃がすためとはいえ、セリューがエンヴィーである疑いをかけて時間をとらなければ。
...少なくとも、ほむらが足立に殺されることなどなかったかもしれない。

「...あなたの責任じゃない。ほむらちゃんもきっとそう思ってます」

セリューは、顔をあげて笑みをつくる。

「彼女は、私たちにお礼を言ってくれました。もし自分の身になにかあれば、と、託してくれたんです」

見ればわかる。その笑みが、無理をしてつくられたものだということが。

「だから、私は足立を必ず殺す。...力を貸してくれますね、マスタングさん」
「...ああ」

マスタングは、それに対して沈痛な面持ちで肯定の意を示すことしかできない。

(―――これがセリューなのか?)

正直に言えば、信じられなかった。
セリューの見せてきた正義は、どう考えても異常だった。
少しでも間違いを犯せば即座に断罪と称して殺し、その『悪』と認定した少女の友人たちの前で平気で死体を食わせる。
更に、自分の正義を正当化するためには手段を択ばないときた。
そんな彼女だ。ほむらが死のうが、すぐに切り替えて足立を殺しに向かうと思っていた。

だが、目の前にいる彼女は違う。
守れなかったことを嘆き、死を悲しみ、無理をしてでも笑顔を作ろうとする。そんな、マスタングの知るセリューでは持ちえない優しさを持ち合わせている。

「...セリュー。きみは―――」


「だ、ダメですよ承太郎さん!」



かけようとした言葉は、青年の目覚めによってかきけされた。


494 : それでも彼女は守りたかったんだ ◆dKv6nbYMB. :2016/01/17(日) 10:59:40 ndN2JCWY0




ボートパークにて小型ボートを調達したマスタングと未央。

本来ならば、DIOの館を経由して東に横切る手筈だったが、思いのほかボートを見つけ出すのに時間がかかってしまい、卯月もだいぶ先に行っているだろうという推測のもと、すぐ近くの湖からボートを発進させようとしていた。
だが、それ以上に徒歩での移動を減らそうとしたのは、マスタングと未央、両者のコンディションの問題もある。
マスタングはこれまでに多くの激戦を繰り広げてきた。エンヴィー、キンブリー、後藤、キング・ブラッドレイ、セリム・ブラッドレイ...
ロクに休む間もなく戦い続けた身体に、屍と化した承太郎の打撃を受けたのだ。いくら軍人とはいえ、そのダメージは計り知れないものがある。
そして未央も、親しい者たちの死や直前に殺されかけたことによる、一般人にしては重すぎる心身の疲労により、体力もかなり消耗している。
両者とも、もはや歩くだけでもかなりの時間をとってしまう。
それを解消するためのボートだが...


「えーと...これをこうして...」

マスタングは、船外機の扱い方に四苦八苦していた。
マスタングのいた時代に船外機はなかったし、未央も未央で、当然ながら自分で小型ボートを操作できるわけでもない。
ご丁寧に船外機の操作書類は置かれていたものの、やはり初見の機械相手ではどうしても手間取ってしまう。

やがて、けたましいエンジン音が鳴り響き、エンジンが始動する。

「...よし。おそらくこれでボートを動かせるはずだ」

動いたエンジンを水に入れると、二人を乗せたボートがゆっくりと前進する。

(しまむー...)

卯月への想いを馳せる未央。
彼女は、確かに殺されかけ、アイドルとしての歌の生命線である喉も傷付けられた。
しかし、それでもまだ未央は生きている。心臓は動いている。
それが、卯月にまだ良心が、今までアイドルとして共に積み重ねてきた壊れないものが残っているお蔭だと信じたいから。
プロデューサー、渋谷凛、前川みく...多くを失った未央には、もう信じることしかできないから。
だから、怖くても前に進む。足が震えて竦んでも前に進む。
未央がこれまでに見てきた彼ら―――鳴上の、タスクの、承太郎の、マスタングの覚悟には程遠いけれど。
それでも、出来る限りの覚悟を決めて、彼女は前に進む。


マスタングは、己の掌をジッと見つめる。

一人の力などたかが知れている。ならば自分は守れるだけ...ほんのわずかでいい。大切な者を守ろう。
そして、下の者が更に下の者を守る。それが、小さな人間なりにできる、『皆』を守る方法。

かつてのイシュヴァール戦終結後、ヒューズに語り、完遂してみせると誓った理想だ。


(私は、これまでなにを守れた?)


だが、この場に連れてこられてからは自分はなにも守れていない。

佐天涙子。
天城雪子。
名も知らぬ犬。
由比ヶ浜結衣。
暁美ほむら。
空条承太郎。

手の届く場所にいながらみんな死んだ―――殺してしまった。

高坂穂乃花。
小泉花陽。
島村卯月。
本田未央。

みんな、心や身体に決して消えない傷を負わせてしまった。


守るべき民は、誰一人守れなかった。


(どうすれば守れるのだ。どうすれば―――)


「―――タングさん。マスタングさん」
「す、すまない。どうしたんだ?」
「あそこに誰かいます。ちょっと遠いけど...」


495 : それでも彼女は守りたかったんだ ◆dKv6nbYMB. :2016/01/17(日) 11:00:28 ndN2JCWY0




結論からいえば、島村卯月には逃げられた。

彼女を追ってDIOの館に入ったのはいいものの、建物の入り組んだ構造、あてもなく闇雲に糸で逃げ回る卯月と、様々な要素が絡み合い、田村怜子は彼女を見失ってしまった。

ふと、DIOの館という名称で一人の男を思い出す。

(DIO...そういえば、あの男もまだ生きていたな)

田村が真姫の次にであった参加者(正確には一団だが)であり、吸血鬼でもあるスタンド使いの男。
あの男とは一度会話して興味が薄れたきりだが、いまごろどうなっているだろうか。
なにも変わらず、己の力を見せつけ頂点を気取っているのか、それとも多くの参加者と関わることでなにか変化をもたらしているのか。
そういった意味では少しだけ興味が湧いてきた。

...尤も、少し前の自分ならDIOを観察する気が起きたかもしれないが、いまとなっては微塵もおきない。

(...本当に、感情というものは不思議なものだ。いくら普段通りに努めようとも、どうにも収まりがきかない)

真姫の苦しむ顔を、島村卯月のあの笑みを思い浮かべる度に、あの女を殺したいという気持ちが湧き上がるばかりだ。
いまの自分を鏡で見たら、きっと、田村の子を殺そうとしたあの探偵のような顔になっていることだろう。

(けれど、その一方で思考は酷く冷静だ。次に彼女と会ったらどのように一撃で葬るか、会えなかったらどこを目指そうか。酷く合理的に考えることができる)

次に会うことが出来たら、観察など必要ない。すぐに彼女の首を刎ねて殺してしまおう。
会えなくても構わない。出会った参加者に島村卯月のやったことを言い広めれば、彼女は脱出派も危険人物も関係なく警戒され、やがては何にも頼れず姿を現す。

(迫害し、追い詰める、か。随分と短絡的な考えをするのだな、私は)

どうにも、こういった直情的な考えは自分のものらしくないと自嘲する。
真姫とはこの会場で会った一人にすぎないというのに、なにをそこまで拘っているのか...

(そうか、これが―――)

その感情の正体に辿りつこうとしたその時だった。

「すまない、そこの御婦人。少し話を聞かせて貰いたいのだが」

警戒心を減らそうと両手を挙げて歩み寄る男と少女が声をかけてきたのは。


496 : それでも彼女は守りたかったんだ ◆dKv6nbYMB. :2016/01/17(日) 11:01:27 ndN2JCWY0


DIOの屋敷を抜け、側に立つ民家に身を潜めつつ、三人は互いの情報を交換し合う。
田村は参加者の観察をしたいという性分から情報交換に臨み、マスタング達も田村の名は図書館で別れる前に新一から聞いていたため、両者は滞りなく情報交換に取り掛かることができた。


「しまむーが...!?」

未央が田村から聞かされた事実は残酷だった。
曰く、同行者である西木野真姫が、彼女に致命傷を負わされたのだという。
そんなはずがない。そう否定しかけた言葉は、先の自分の体験を顧みて噤まれる。

「どうやら心当たりがあるようね」
「......」

未央は、顔をあげることができなかった。
当然だ。なにせ、卯月の狂気はすでにその身で味わってしまったから。
その卯月が、本当に一片の曇りもなく殺人を行えるようになってしまったから。

そして、その西木野真姫の名にはマスタングも覚えがあって。

(穂乃花...花陽...)

その名は、間違いなく彼女達の属するμ‘sの仲間のものである。
自分の関わった彼女たちは、間違いなく傷つき、悲しむだろう。
誰の責任だ。

他でもない。あの時卯月を逃がしてしまったこのロイ・マスタングの責任だ。

(また、私は...)

守れなかった。
少しの人どころか、誰一人守れていない。

こんな様で、なにが大総統だ。なにが錬金術師だ。


『マスタング、卯月ちゃんを救えるのは貴方しか今は頼れない』

(セリュー、私はどうすれば...)


陰鬱な表情で俯く二人とは対照的に、田村は顔をあげて感情の籠らない表情で話を続ける。

「こちらの話は終えたわ。次はそちらの話をお願いできるかしら」
「...ああ」

そして、マスタングもまた己の経験した出来事について話を進めていく。
エンヴィーやキンブリー、後藤との戦い、そして、これまで守れなかった者たちのこと、全てを。

「...そう。私の知ってる名前もいくつかあったわね。佐天涙子、由比ヶ浜結衣、鹿目まどか、暁美ほむら、空条承太郎...あと、犬」
「あなたの知り合いだったのか?」
「いいえ。音ノ木坂学院で出会った人たちの知り合いというだけで、直接の面識は無いわ」


由比ヶ浜結衣。
泉新一から聞かされた、雪ノ下雪乃という少女の知り合い。
暁美ほむらと鹿目まどか。
音乃木坂学院で、その命を使い果たしてまでも、田村、真姫、新一、アンジュを護った巴マミの知り合いたち。
空条承太郎と名前も知らない異能を使う犬―――おそらく、イギーという名だ。
音乃木坂学院での戦いの後に訪れたジョセフ・ジョースターの仲間たち。

連ねられた多くの名は、田村の感情を揺さぶるには程遠い。
精々、ほむらや承太郎など、第二回放送後に命を落とした者たちの知り合いには、もし第三回放送までに会えたら死んだことを伝えてやろうと思う程度だ。


497 : それでも彼女は守りたかったんだ ◆dKv6nbYMB. :2016/01/17(日) 11:02:50 ndN2JCWY0

だが、その中で一つだけ僅かに田村を揺さぶった名前がある。

佐天涙子。
田村と真姫と共に同行していた、初春飾利の親友だ。
その死自体は、第一回放送の時に知っている。
しかし、その最期を知っている者とは会えていなかった。

「情報提供には感謝するわ。首輪のことばかりでかなり収集が遅れていたから」
「あ...ま、まって」

情報交換を終えて立ち去ろうとする田村を、未央は慌てて引き留める。

「なにかしら」
「...その、しまむーのこと...」

未央の顔に複雑な心情が浮かび上がる。
彼女がしたことは許せない。自分だけでなく、キンブリーや足立のような極悪人でもない少女を笑みを浮かべて殺しかけた。
これほどのことをして、卯月一人だけが『こうなったのはセリューの所為だから』と許してもらうなど、虫がいいにも程がある。
しかし、それでも。それでも、彼女はニュージェネレーションの一人。それ以上に、大切な仲間で、決して欠けてはならない一人だ。
いままで積み重ねてきたもの全てが、否定できるはずもない。



そんな未央を見て田村は察する。

(彼女は、まだ島村卯月を諦めていない)

聞けば、彼女と島村卯月は親しい間柄とのことだ。
つまりは、彼女の言いたいことはそういうことだろう。
合理的な思考を徹底する寄生生物ならば、この場を荒立てずに澄ますためには平気で嘘の一つもつける。
それが、生き残るための最大の手段であることを知っているからだ。

「...あなたには悪いけれど、それは無理よ」

しかし、田村は嘘をつかなかった。
それはなぜか...田村自身にも抑えがきかない『感情』によるものだろう。

「あなた達と島村卯月がどういう関係なのかはわかった。けれど、島村卯月を見つけたら、私は彼女を殺す」

田村の言葉に、未央は狡噛との会話を思い出す。

―――『大切な者が殺された時、あなたはどうするか』

ウェイブとアカメは、互いに仲間のイェーガーズとナイトレイドの面子を殺されていても、この場で争うことをよしとしなかった。復讐に拘らなくても前へ進める人間だった。
マスタングは、エンヴィーを殺さずにはいられなかった。復讐の念を後回しにすることなどできなかった。

田村怜子は後者だ。
未央も、田村の立場であればどう答えるかはわからない。
もしプロデューサーを殺したあのエルフ耳の男や、承太郎を殺し、マスタングを傷付けたキンブリーと再び出会うことになれば...もし、彼らを殺せる立場になったら、どうなるかはわからない。


498 : それでも彼女は守りたかったんだ ◆dKv6nbYMB. :2016/01/17(日) 11:04:54 ndN2JCWY0
「...どうしてもか?」
「ええ。彼女と会えば、私は彼女を殺す。...それで、どうするの?彼女を護るために私を殺すかしら?」
「...いや。あなたの怒りは間違っていない。だが、頼む。彼女のことは私たちに任せてくれ。彼女は...」


信頼を置いていた同行者を殺され、怒る。当然のことだ。マスタングにそれを糾弾し、咎める資格などない。
そして、田村がそれを行使しようとしたところで、マスタングは卯月を守るために田村を殺すつもりもない。
だから、必死に懇願する。
こんな環境にいなければごく普通の少女であり、未央の大切な仲間。そして、セリューが最後まで護ろうとした彼女―――島村卯月を殺さないでくれと。

「...やはり、私たちは一緒に行動しない方がよさそうだ」

田村は踵を返し、マスタングたちに背を向ける。

それは、マスタング達の要求に対する拒否の意志表示。
未央とマスタングの唇が、卯月を止められなかった後悔と己の無力さと共に、深く噛みしめられる。

「私はこれから市庁舎を目指そうと思う。お前達の推測通りなら、島村卯月と遭遇する確率は少ないだろう」

田村のその言葉に、思わず二人は顔を上げる。


「あ...ありがとうございます!」

未央は頭を下げて田村に感謝する。
田村は猶予を与えてくれた。
それだけでも、これ以上ないほどの譲歩だ。


「田村...一人での行動は危険だ。私たちと一緒に来てくれ」

しかし、マスタングとしてはそうもいかない。
見たところ田村は丸腰だ。
新一の情報では、この会場の中でもそれなりに強いはずとのことだが、だからといって単独行動に危険が無いわけではない。

もう嫌だった。
救えるかもしれないものを取りこぼすのは―――これ以上、後悔を重ねるのは。

「...あなたの言いたいことはわかったわ。けれど、私を恐れて逃げ回る彼女が、私と共にいるあなた達からの説得なんて聞き入れるかしら?」
「それは...」
「お気遣いは有難いけれど、一緒に行動するデメリットより、別れて行動するメリットの方が大きい。そういう訳で遠慮させてもらうわ」
「...なら、これを持っていってくれ」

マスタングはデイパックを探り―――微かに触れる、覚えのない感触に違和感をおぼえつつも―――、一振りの剣を取り出す。
鉄パイプを錬成した剣。本来ならば、佐天涙子が自衛ように使う筈だったものだ。

「使うかどうかはわからないけれど...一応貰っておくわ」
「それと、エドワード・エルリックという男は信頼できる男だ。もし彼と会えたら一緒に行動してくれ」
「御忠言どうも」
「...まって、田村さん」

慌てて呼び止める未央の言葉に耳を傾ける。

「その...私、もう誰かが傷つくのは...死ぬのは嫌なんです」

これまでに未央は、多くの『喪失』を目の前で経験してきた。

プロデューサーやほむら―――そして、承太郎。
もう、あんな気持ちを味わうのは嫌だ。
関わった人にいなくなってほしくない。

「だから―――絶対に死なないでくださいね」

ああ、と短く返事をすると、田村は二人に背を向ける。

その口元には、自身さえ気づかない微笑みが浮かんでいた。


499 : それでも彼女は守りたかったんだ ◆dKv6nbYMB. :2016/01/17(日) 11:06:16 ndN2JCWY0


マスタングたちとの情報交換は、実に有意義なものだった。
音ノ木坂学院付近と346プロ近辺でしか行動できなかった分を取り返せる、とまではいかないが、おかげで図書館付近やコンサートホールの現状など、様々な施設について知ることができた。

マスタング達から聞いた名で印象深かった名は二つ。

ひとつは、後藤。

(予想通りというか...やはり戦いを求め続けているようだな)

聞けば、彼は多くの参加者に戦いを仕掛けてまわっているらしい。
後藤を作った自分だからわかる。彼はその命が尽きるまで、本能に従い続ける。そして、その牙は親である自分にも向けられるだろうと。
できれば会いたくはないと思うが、互いに生き続ければ、いずれは会うことになるだろう。
その時、自分はどう出るべきか...その時になるまではわからない。


そしてもう一つ。

「エンヴィー...佐天涙子を殺したホムンクルス、か」

第一回放送での、初春の反応を思い出す。
彼女は、ひどく辛そうな様子だった。
悲しみに耐えようとして、それでも耐え切れずに涙を流していた。

(何故だろうな...他人のああいう反応を見ていると、私も辛くなってくる)

卯月の捜索を後回しにしたのも、彼女を殺せば未央も初春と同じような反応をすると思ったからだ。
以前の自分ならば、興味深い観察対象としか見なかったかもしれないが、いまは違う。
できれば見たくはないとさえ思う。

しかし、それとは相反して。
真姫に致命傷を与えた島村卯月にも、初春の親友を殺したエンヴィーにも。
彼女たちの死に対する償いという大義名分を得た報復をしたいとも思う。

(...これが、怒り...いや、悲しいという気持ちだろうか)

怒りも恨みも憎しみも。
全ては、『悲しみ』から始まる感情だ。
しかし、なぜ『悲しい』のか。どこからその『悲しみ』は生まれるのか。
それは、田村自身にもわかっていない。


500 : それでも彼女は守りたかったんだ ◆dKv6nbYMB. :2016/01/17(日) 11:07:04 ndN2JCWY0

(ん...?)

寄生生物として優れた五感が、『なにか』の気配を察知する。
その『なにか』のもとはどこからだ。

(空...?)

上空を見上げれば、そこに浮かぶのは一人の天使。
田村には気づかなかったのか、止まることも無く彼女は北へ向かって飛んでいく。

(確か、あの子は)

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。DIOと共に行動していた筈の少女だ。
何故、DIOと別れて行動しているのか...聞いてみたいとは思う。

(けれど、あんな目立つ方法での移動が危険なことは誰だって分かるはず)

わざわざ空を飛んで移動するということは、即ち誰かに見つかっても構わないという意思表示である。
例えば、誰かを探しているとき。
例えば、見つかるリスクを恐れる以上に、とにかく早く目的地に着きたいとき。
例えば、襲ってきた者や見つけた者を返り討ちにするための自らを囮にした罠であるとき。

(...単純に考えれば、彼女は殺し合いに乗っていて、近寄る参加者を狩ってまわるつもりといったところか)

仮に、イリヤがそのつもりであれば、恐らく彼女が目指すのは、首輪交換施設を設けられた武器庫だろう。
せっかく他の参加者を見つけることが出来たのだ。接触するのも悪くはないが、あの様子ではゲームに乗っている可能性は高く、賭けに近い。
ならば、当初の予定通り市庁舎やコンサートホール(全焼しているとは聞いたが)だけに留めておくべきか。

どちらにせよ、北上するのは確かだが...さて、どうするか。


【C-5/一日目/夕方】

【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:健康、卯月に対する怒り?
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品 、首輪 錬成した剣
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
0:先に市庁舎へ向かうか、イリヤを追うか
1:脱出の道を探る。
2:コンサートホール及び市役所を探索した後初春と合流する。
3:島村卯月は殺す。マスタング達が説得に成功したら...?
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
6:エンヴィーには要警戒。もしも出会ったら...
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ's、魔法少女、スタンド使いについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。協力者は時間遡行といった能力があるのではないかと考えています。
※剣の他にも、なにかマスタングから錬成された武器を渡されたかもしれません。


501 : それでも彼女は守りたかったんだ ◆dKv6nbYMB. :2016/01/17(日) 11:08:03 ndN2JCWY0


田村からC-6が禁止エリアに指定されていることを聞いた二人は、結局徒歩での移動を余儀なくされていた。
ボートパークで船を調達していたことや、ボートの操作方法を覚えていたことはなにからなにまで無駄となってしまった。

「マスタングさん」
「...ああ。必ず、卯月を見つけだすぞ」

田村は、わざわざ卯月を避けて別の場所をまわると提案してくれた。これ以上ないほどの妥協案だ。
そして、同時に思う。今度こそ、こんどこそ卯月を止めなければらない。田村が与えてくれた時間を、決して無駄にはしていけないと。
...だが、もしそれでも止められなければ?それでも、彼女が正義という名の傲慢を振りかざし、人々を脅かし続けるとしたら?

『マスタング、卯月ちゃんを救えるのは貴方しか今は頼れない』

マスタングを先に逃がし、一人戦場に残ったセリューの姿が脳裏を過る。

彼女の正義感は異常だった。
己の価値観で善悪を判断し、悪と見なした者には一切の躊躇いが無く、どんな残酷な手段も平気で行使することができる。

けれど、彼女は決して冷酷なだけの人間ではない。

卯月が不安を抱いていれば、ちゃんとそれを気遣った。決して見捨てようとはしなかった。
ほむらがいなくなった時は、誰よりも早く彼女を救おうとした。彼女が死んだ時は、誰よりも悲しんでいた。
承太郎のこともそうだ。彼がキンブリーに殺された時は、素直に怒り、仇をとると息を巻いていた。
そして、そんな中でも、彼女は先に逃がした卯月たちのためにマスタングに全てを託して―――

(...そういえば)

あの後、卯月が未央を殺そうとしていたことやボートを探すのに必死で、セリューに渡された物がなんだったかを確認していなかった。
田村に剣を渡す際に微かに触れた物が、おそらくそれだろう。

デイパックを探り、それを取り出し正体を確かめたその時。

マスタングと未央の目は驚愕と共に見開かれた。


「え...それって」

マスタングの手に握られていたのは、二つの首輪。

「なんで、それがあるの?」

二つの首輪。即ちそれは、二つの死体があったということに他ならない。


502 : それでも彼女は守りたかったんだ ◆dKv6nbYMB. :2016/01/17(日) 11:09:00 ndN2JCWY0
『少しだけ先に行っていてください、三分もしない内に追いつきますから!』


承太郎を追う直前、セリューは一人残った。
残ったセリュー。二つの遺体。二つの首輪。
全てを察した未央の顔が青ざめる。


『マスタングさん、セリューさんは何をしてたのかな』
『分からん。私達に見られたく無いことは確かだが……』

(馬鹿か私は!あの場で、あの状況で他者に見られたくないことなど、一つしかないだろう!)

「なんで...なんでそんなことが出来るの...?」

未央の中で、怒り、恐怖、悲しみ...そんな様々な感情を入り混ざる。
やっぱり、あの女は異常者だ。卯月を狂わせ、仮にも『友達』と呼んだ少女の遺体を平気で弄ぶ。
どうしても、あの女を認めることなど―――できない。


「あの人はやっぱり...!」
「違う。そうじゃない。そうじゃないんだ、未央」
「なにが違うの!?あの子達がなにをしたっていうの!?しまむーが真姫ちゃんを傷付けたのだって、あいつが」
「彼女がそれを望むはずがないだろう!」

マスタングの怒号に、思わず未央の身体がビクリと跳ねる。

「きみも見ただろう。ほむらがいなくなったあの時、セリューは誰よりも彼女を心配していた。彼女が死んだときは、誰よりも悲しんでいた。...そんなセリューが、好き好んで彼女達の首を斬りおとす筈がないだろう」
「じゃあ、なんで」
「守るためだ。この腐ったゲームを止めるために、誰かがやらなければならなかったんだ」

自分は知っていたはずだ。
セリューが、どれほどほむらを助けたがっていたのか。
考えることはできたはずだ。
ほむらの死が、どれほどセリューを傷付けたか。

(なぜ―――その役目が私ではなかった)

そんな彼女に、辛い役目を背負わせてしまった。
同じだ。デイパックの中で決意を固める前から、なにも変わっていない。
セリューの暴走を止める役目を狡噛に押し付けてしまったが、それと同じだ。
セリューを警戒する余り、彼女の気持ちに目をやれず、再び汚れ役を押し付け、あまつさえ『友』と認めた者の首を斬らせた。
それを行うべきは自分であるはずだった。


503 : それでも彼女は守りたかったんだ ◆dKv6nbYMB. :2016/01/17(日) 11:09:55 ndN2JCWY0
「マスタングさんは...あいつを許せっていうの?しまむーをおかしくした、あいつを!」

しかし、いくら仕方ないことだと説明されても、いまの未央はセリューを受け入れることなどできなかった。
浦上の生首を図書館に放置したこと。
卯月の異変の一端を担ったこと。
それらの面が、どうしてもセリューの否定へと繋がってしまう。

「...いや。彼女の掲げる正義には、私も許せない部分がある。だから、彼女の全てを許せ、受け入れろなどとは言わない。だが」

未央の両肩に手を置き、懇願するように頼み込む。

「頼む。彼女が命を賭けて皆を救おうとしたことだけは、否定しないでくれ」

マスタングの言葉に、未央はハッと息を詰まらせる。
セリューは、確かにいまの卯月のキッカケかもしれない。
しかし、卯月が生きているのは、そして未央自身もこうして生きているのは、紛れも無くセリューがその命を守ったおかげだ。
そんな命の恩人であるセリューを、一方的に『おかしい』だの『一緒にいるな』だのと罵倒してしまったのだ。
自分の立場で考えるなら。プロデューサーや凛にみく、タスクや狡噛たちを侮辱されるのと同じだ。
だというのに、卯月がセリューに依存しつつあると聞かされていたのに、狡噛に卯月と共に行動するのなら耐えろと言われていたのに、未央は耐えることができなかった。
キッカケはセリューでも。いまの卯月を作り上げてしまったのは、間違いなく未央自身なのだ。

「...ごめんなさい...私...」
「いいんだ。...必ず探し出そう」

マスタングの言葉に、未央はこくりと頷く。




(すまない、セリュー)

自分はいつも後悔ばかりだ。
エンヴィーと相対した時は、あれだけエドやホークアイ、果てはスカーにまで忠告されていたというのに、結局憎しみで戦ってしまった。
セリューに対してもそうだ。警戒心ばかりが先行して、セリュー自身への対応がおざなりになっていた。
なにかに盲目的にならずにはいられない程度の人間なんだな、と自嘲する。

(しかし、そんな私でも、きみが卯月を生かしたのはこんなことをさせるためではないのはわかる)

必死に戦って。傷ついて。血反吐を吐いて。友の死に直面して。辛い役目を背負わされて。
そして守り抜いた命が、悲劇を繰り返す。
...そんなの、あんまりじゃないか。


(もしも、卯月がきみの意思を踏みにじる行為を続けるのなら、その時は―――)


504 : それでも彼女は守りたかったんだ ◆dKv6nbYMB. :2016/01/17(日) 11:11:11 ndN2JCWY0
【B-5/一日目/夕方】

【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:深い悲しみ、吐血、喉頭外傷、セリューに対する複雑な思い
[装備]:なし
[道具]:小型ボート
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
0:しまむー…
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。
※田村と情報交換をしました。



【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(極大)、精神的疲労(絶大)、迷わない決意、過去の自分に対する反省、全身にダメージ(極大)、火傷、骨折数本
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:ディパック、基本支給品、 即席発火手袋×10 タスクの書いた錬成陣のマーク付きの手袋×5。暁美ほむらの首輪、鹿目まどかの首輪、万里飛翔マスティマ
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:殺し合いを破壊するために仲間を集う。もう復讐心で戦わない。
1:セリューの安否を確認し、生きていれば共に卯月の説得をする。もしも卯月の説得が不可能だった時は...
2:ホムンクルスを警戒。ブラッドレイとは一度話をする。
3:エンヴィーと遭遇したら全ての決着をつけるために殺す。
4:鋼のを含む仲間の捜索。
5:死者の上に立っているならばその死者のためにも生きる。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。
※並行世界の可能性を知りました。
※バッグの中が擬似・真理の扉に繋がっていることを知りました。
※田村と情報交換をしました。


505 : ◆dKv6nbYMB. :2016/01/17(日) 11:11:49 ndN2JCWY0
投下終了です。


506 : 名無しさん :2016/01/17(日) 19:50:47 wAFH9zmE0
投下乙です

ゆきのんは大分成長したなあ。マキシマムが久々に楽しそうで何よりです。
足立はもう色々とやけくそだが、これからも頑張って欲しいなあ

さやかがついに魔女化しちゃったが、銀と千枝がなかなかいいコンビだった。
タツミは精神不安定だが、果たして持ち直すことはできるのか。イザナミとイザナミが揃ったことも気になる。

やっぱり、DIOには勝てなかったか。それでもジョセフは輝いていたと思う
救われた杏子は対主催の星として成長してほしい所。DIOは優勝エンドも見えてきたか。

意外にも三人は同行せずか。それでも田村さんの変化が良い感じ。
大佐がセリューの変化に気づいたとはいえ、しまむー説得のハードルは高そうだ


507 : 名無しさん :2016/01/17(日) 22:59:25 PMy7yqkM0
そろそろ放送行っても良い感じかな


508 : 名無しさん :2016/01/17(日) 23:48:30 wAFH9zmE0
最低でも後藤回は書かないと駄目じゃない?


509 : 名無しさん :2016/01/18(月) 17:56:03 xa1u5cyc0
今の予約二件が終われば大丈夫だと思う


510 : ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:14:11 UOUkG1L20
本投下します


511 : ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:14:54 UOUkG1L20




『その質問にはお答えできません』
「だーかーらーさぁ。首輪を入れたのはこのエンヴィーじゃないんだって」

ガリガリと頭を掻きながら、エンヴィーは首輪交換機との問答を交わしている。

事の顛末はこうだ。

始めは、キンブリーに復讐するため線路の修復を待とうとしたエンヴィー。
しかし、いまのキンブリーには流星の欠片という賢者の石にも似た能力増幅装置があり、クロメやイギーといった屍人形がある。
エンヴィーの得意とする戦いはあくまでも攪乱であり、直接的な戦いではない。このまま向かったところで勝ち目は薄いだろう。
そのため、まずは首輪交換制度を試すために闘技場へ向かった。

やがて辿りついた彼は、首輪交換ボックスを発見。
中に入り調べてみると、都合よく何者かが首輪を入れたまま立ち去っていたようだった。
おそらく、首輪と情報の価値が釣りあわなかったのだろう。
これ幸いとボタンを押して、特別欲しい情報もないため武器を得ようとしたのだが...

『あなたの質問と首輪の価値が釣りあっていないためお答えできません』
「あー...その首輪入れたのはこのエンヴィーじゃないんだけど」
『このシステムは稼働してまもないため、現在は一度発言された質問の訂正ができません。改良されれば後に可能となるかもしれません。ですが、現状では貴方の質問にお答えできません』
「いや、欲しいのは情報じゃなくて武器なんだけど」
『この質問を終えるかしばらく時間が経過するまで質問を変更することはできません。質問に当価値の首輪をご投入ください』
「...ナメてんだろ、お前」

エンヴィーは怒りに任せて首輪交換機を殴りつける。
が、しかし、全くの無傷。いくら殴ろうが蹴ろうが一切壊れる気配を見せない。
壊すのが不可能だと悟ったエンヴィーは溜め息をつき、どうにか主導権を握ろうと質問の網目を潜ろうとしたが、結果は無駄。
結局、冒頭のような会話を繰り返しただけだった。


『新しい情報が知りたければ首輪の提供が必要となります。なお、先の首輪と同価値の首輪の場合、お答え可能な範囲は対象が滞在している方角のみとなります』
「はぁ...わかったよ。もういいや」

首輪交換機に見切りをつけ、エンヴィーはBOXを後にする。

(こんな適当なモン置いて、広川はなにがしたいんだろうねぇ)

情報や武器と同価値の首輪がなんなのか示さない。
一度した質問を変えることはできない。
回答者の変更も時間がかかる。
ハッキリ言ってこれはポンコツだ。一方的に首輪を回収するだけの不良品だ。
後から改良されるらしいが、こんな有り様を見せつけられてこんなモノを使おうと誰が思えるだろうか。


512 : 『嫉妬』 ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:16:58 UOUkG1L20
「こんな未完成品を置くくらい切羽詰まってんの?それとも28人死んでてもまだ物足りないのかな?欲張りだねェ」

口にそう出しつつも、その線は薄いだろうと考える。
仮に言葉通り、殺し合いが順調に進んでいないのだとしてもだ。
こんなモノを置けば、自らそれを認めているようなもの。むしろ主催への信頼が薄まれば、如何なる願いも叶えるという広川の言葉にも疑問が生じ、殺し合いはそのぶんだけ停滞しやすくなる。
ならば、そのリスクを冒してでも対処しなければならない問題が起きた―――そう考えるのが妥当だろう。

(尤も、このエンヴィーならそうやって希望を持たせたうえで嘲笑ってやるけどね。お前らのしたことは全部無駄だったんだよってさ)

もしもエンヴィーが主催の立場であればそういう遊びを入れたかもしれない。
しかし、見たところあの広川は自分とは逆の人間。
そういった遊びを入れず、目的のために最善を尽くすタイプだ。
そうなると、やはりなにか問題が起きたと考える方がしっくりとくる。
もしかすると、殺し合いに破綻をきたすほどのものかもしれない。

(まあ、ぶっちゃけ殺し合いがどうなろうが、どうでもいいけどね)

エンヴィーとしては、殺し合いが成功しようが失敗に終わろうがどうでもいい。
ただ、なぜ死んだはずの自分が生きてこの地に呼ばれたか―――それさえ知れればあとはどうでもいい。
ゲームに乗ったのは、エドやマスタングがゲームを破壊する側に回り、そんな彼らとぶつかる方が楽しいからだ。

「そうだ。新しい首輪を手に入れたらもう一回だけ試してやろうかな。なんでこのエンヴィーを蘇らせてまで連れてきたのか、ってね」

とはいえ、それを優先するつもりはない。
それを知るために長くこのバトルロワイアルの乗った方が楽しいと判断すれば、そちらを優先するし、あまりにも早く目的を達成してしまうとそれはそれでつまらない。

とにかく、いまは闘技場に用はない。
手始めに何処へ向かおうか考えていた時だ。


突如、轟音が響き渡る。
何事かと目を向ければ、遠目に土煙のようなものが舞い上がっていた。

「やってるやってる。...あれは大佐かな?いや、ちょっと違う気もする...まあ誰でもいいけどさ」

地図を確認し、場所の推測をする。

(あの辺りだとジュネス...いや、もう一つ北のF-6かな)

おそらくいまから向かっても戦闘は終わっているだろうが、しかし勝利した何者かに出会えるかもしれない。
エンヴィーは馬に変身。すぐに轟音のもとへと向かうことにした。


513 : 『嫉妬』 ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:18:43 UOUkG1L20
それからほどなくして。

再び鳴り響く轟音。今度は、建物が崩れるような音だ。

(かーっ、派手だねぇ。こんどはジュネスの方かな)

ジュネス。F-7に建っており、ちょうど目的地のF-6の通り道だ。

(ちょうどいいや。どんな奴が暴れてんのかな―――っと)

そのまま乱入しようとも思ったが、マスタングに殺されかけたこともある。
状況を確認してから、その都度に効果的な姿を借りた方が愉しめるだろう。
連なる建物のうち一つに入り、屋上から双眼鏡でジュネスの様子を観察する。

ジュネスは崩壊し、姿を現したのは巨大な異形。
魚の下半身に鎧に包まれた上半身は、人魚の騎士とでもいうべきだろうか。
やがて、瓦礫を押しのけて出てきたのは、尖った耳の男。
彼は、人魚を一瞥すると即座に離れ、物陰に身を潜めた。

次いで現れるのは、これまた異形の人形―――あの犬が使っていたものに酷似した―――に守られた少年少女たち。
その中には、里中千枝や銀といったキンブリーと接触した者たちの姿も見える。

「あいつらここにいたんだ...ちぇっ、あの様子だとやっぱり大佐への扇動は失敗したみたいだね」

だからこのエンヴィーに任せておけばよかったんだとぼやくのと同時。

『彼女』の演奏会が幕をあげる。


奏でられる音楽。
車輪や剣で吹き飛ばされ傷ついていく少年少女たち。

「あっはっはっ、いいねぇ。中々いい催しだよこれ」

奏でられる絶望の演奏に、エンヴィーはキンブリーや首輪交換機への怒りも引くほどに機嫌を取り戻した。
何事か言い争い足を引っ張り合う不様な姿。
傷つき浮かべる苦悶の表情。
人間たちの晒す醜態とはなんと心地が良いものか。

(それに...この音楽。なんでだろうね。嫌いじゃない―――どころか、もっと聞いていたい)

エンヴィー自身は、芸術などに興味があるわけではない。
しかし、『彼女』の奏でる音楽は、自分の好みに近い...というよりは、妙に親近感が沸いてしまう。
この気持ちはなんなのだろうか。


514 : 『嫉妬』 ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:19:13 UOUkG1L20

「おっ」

やがて、戦況は大きく崩れ出す。

一人前線で戦っていた里中千枝が刺された。
銀髪の少年―――鳴上悠は、悲しみや怒り、様々な感情の入り混じった顔を浮かべ、彼を取り巻く環境の全てが変化する。

その負の感情は、双眼鏡越しでも伝わるほどに凄まじいものだ。

「そうだ。出しちまえ」

彼がなにをしようとしているのかはわからない。
しかし、エンヴィーは確信していた。
彼のやろうとしていることは、間違いなくこの殺し合いをさらに混乱に陥らせ、このエンヴィーを楽しませてくれると。

「さあ、やれ。やっちまえ!」

彼の掌がタロットカードを握りつぶそうとしたその時。


「あぁ?」

瀕死の里中が鳴上を蹴り飛ばし、倒れそうになる彼女を銀が支え、なにやら鳴上と言い争っている。
いくらか問答を交わすと、やがて鳴上は立ち上がり、『彼女』へと向き合った。
その顔には、一点の曇りもない。

「...なんだよ、それ」

鳴上は、次々に人形を入れ替え、『彼女』を追い詰めていく。
―――まるで、これが俺たちの紡いできた『絆』だと言わんばかりに。
ただ前を向いて戦っている。

「...つまんない」

彼だけじゃない。死にそうな千枝も、人形を変化―――いや、進化させ、『彼女』を氷に包んでいく。

「つまんないなあ」

そして、千枝の命が潰えたその時。最後まで。
彼らの顔には確かに悲しみはあったけれど、それでも微笑みを浮かべていた。
そこには、『絆』を信じることへの迷いなんて一切なかった。


515 : 『嫉妬』 ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:19:50 UOUkG1L20


「ほんっとにツマンナイことしてくれたよ、おまえたち」

(こんな場所でも馴れ合いを見せつけられるの?ほんと勘弁してほしいよ)

ハァ、と溜め息をついて双眼鏡から一旦視線を外す。

友情。努力。勝利。絆。
ホムンクルスのエンヴィーよりも弱い癖して、綺麗事を掲げて立ち上がる。
そんなものは大嫌いだ。

彼らの見せつけてくれた綺麗ごとを滅茶苦茶にしてやりたい、そんなことをぼんやりと思い、再び視線を双眼鏡へと戻す。
その先にある光景を見て。

「...へぇ。見逃さないでよかったよ」

彼は邪悪な笑みを浮かべた。


鳴上の仲間であろう少年―――タツミが、鳴上の背後をとっている。
あれだけの綺麗事を見せつけられても尚、彼は鳴上を信用しきれていないらしい。

最高だ。傑作だ。いいじゃないか。もっとやれ。

その後、タツミはエルフ耳の男と戦い、なにを思ったか優勢だったエルフ耳の男は立ち去ったが、そんなことはどうでもいい。

(あいつは面白そうだ。よし、決めた)

次の玩具はあいつだ。
見るからに彼は不安定であり、悩みも抱えている。
だったら、殺すよりも生かして混乱を楽しんだ方がいいに決まってる。
ああ、楽しみだ。愉しみだ。

「お前らの薄っぺらい絆なんて、このエンヴィーがめちゃくちゃにしてやる」

これから自分が起こすことを想像して。
これから彼らが味わう絶望を予感して。
『嫉妬』の顔は、醜く歪んだ。


516 : 『嫉妬』 ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:21:21 UOUkG1L20






「......」

気絶した鳴上と銀の入ったデイパックを背負い、タツミは一人街を歩く。


『い、ぁぁぁぁあああああアアアアアアアアアア!!』

左腕を失ったさやかの悲鳴が、頭の中を打ち鳴らす。

『……まるで契約者ですね』

敵にすら向けられる懐疑の視線に、足取りが重くなる。

『何でだ。何で、お前はそんなことが言えるんだ!』

鳴上の怒りが胸に突き刺さる。

(鳴上はさやかを見ていないからそう言える...違う)

『ちゃんと見ていないのは……お前の方だろ! 本当にさやかは殺し合いに乗っていたのか?さやかは乗ろうとしたんじゃなく。本当は誰かに助けを求めてたんじゃないのか!』

(さやかは、誰かに助けてほしかった...?)



もしも。もしも、彼女と出会ったあの時。
彼女を葬るのではなく、手を差し伸べていたら。
もしも、ジョセフや初春と別れず四人で行動し続ければ。
もしも、巴マミや鹿目まどかが死んだ時、慰めの声の一つでもかけていれば。

...こんなことにはならなかったかもしれない。


思い浮かぶのは後悔ばかり。
頭の中では様々な『IF』が浮かんでは消え浮かんでは消え、タツミは自身を責めたてていく。


517 : 『嫉妬』 ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:22:00 UOUkG1L20



「止まりな、ガキ」

後方―――ジュネスの方角よりかけられた声に足を止める。


「ふたつばかし聞きたいことがある」



赤髪の女は拳銃を構えていた。
敵意はある。いや、敵意というよりはむしろタツミに対する警戒心だ。



「ひとつ。向こうで氷漬けのバケモンがいたんだが...あんたは知ってるか?」


女の問いに、タツミは思わず目を逸らしてしまう。
当然知っている。『魔法少女』を『魔女』にしてしまったのは他ならぬ自分だから。
逸らした目線を再び女に合わせると、彼女は短く舌打ちをし、タツミを見る視線が鋭くなった。


「ふたつめ。そこの近くであたしのツレが殺されてたんだが...殺ったのはてめえか」

聞かれたくなかったその言葉。
尋ね人は、殺された少女の知り合い。
そんな彼女にタツミは―――


518 : 『嫉妬』 ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:23:33 UOUkG1L20




「―――ッざけんじゃねえええええぇぇぇ!」


女―――『ヒルダ』が怒声と共に拳を振るう。

タツミは嘘をつけなかった。
鳴上は、まださやかを助けようとしている。
その希望を断ち切るのは早計だ。
いまは少しでも魔法少女についての情報が欲しい。
そう判断したため、タツミは『ヒルダ』に語ってしまった。
魔法少女のこと、さやかのこと、そしてジュネスで起きたこと。
その結果が、『ヒルダ』による鉄拳制裁。
頬にそれを受けたたタツミの身体は、想像以上の拳の重さに後方へと吹き飛ばされた。



「そのさやかって奴を追い詰めた結果がアレだぁ?なに考えてんだてめぇは!」
「ちが...俺は...!」
「てめえが、てめえが千枝を殺したんだ...!」

『ヒルダ』の言葉に、タツミは息を詰まらせる。

(悠の仲間を殺したのは...俺...)

千枝を刺したのは、紛れも無くさやかだ。
だが、そうまでさやかを追い詰めてしまったのは誰か。
他でもない、タツミだ。


『ヒルダ』はタツミの胸倉を掴み持ち上げる。

「いきなりこんな殺し合いに放り込まれて戸惑っているだけの奴でも、自分の価値観で悪だと判断した奴はそうやって殺していくんだな、てめぇはよ」
「......」
「だとしたらあたしも危ねえなぁ。こうやってこいつに手をあげてたらさやかみてえに殺されちまう。そんな奴とは一瞬たりとも一緒にいたくないね」

『ヒルダ』は、タツミを放り捨て背を向ける。
これ以上お前と一緒にいられるか。
言葉通りの意思表示だ。


519 : 『嫉妬』 ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:25:22 UOUkG1L20

だが、タツミとしてはそうはいかない。
『ヒルダ』は千枝や銀の仲間であり、守らなければならない存在だ。
例え、彼女から嫌われようが敵意を持たれようが、みすみす単独行動をさせて見殺しにするわけにはいかない。
そのため、どうにか止めようと声をかけるが

「何度も言わせんなボケ。あたしは、死ぬ以上にてめえみてえな悪党と一緒にいるのが嫌なんだ」

"悪"。その言葉に、タツミは足を縫い付けられるような感覚を覚える。

「手に入れた力を振りかざして、理由も聞かずにテメエ勝手な善悪で判断し、ただ理不尽にそれを行使して正義を振りかざす。
あたしからしてみりゃな、真正面から問答無用で殺しにかかってくるっていうエルフ耳以上にてめえは悪党なんだよ」

―――手に入れた権力を振りかざして、ただ理不尽に行使する。
かつて、帝都警備隊のオーガに抱いた感情を思い出す。
彼は、己の欲のままに無罪の者を犯罪者とでっちあげ、その手にかけてきた。
なら、自分がさやかにしたことはどうだ。
少々会話しただけで、言葉の端々を捉えてさやかを悪だと断定し、即座に殺すつもりで斬りかかった。


(俺は...オーガと同じ...?)

『本当にさやかは殺し合いに乗っていたのか?さやかは乗ろうとしたんじゃなく。本当は誰かに助けを求めてたんじゃないのか!』

(でも、あいつは放っておいたら人を殺して―――)

「こんな状況で全員が全員不安にならないはずがねえだろ」

タツミの心境を読み取ったようなその言葉に、タツミは息をのむ。

なんで気が付かなかった。
もしも、最初に出会ったのがさやかではなく、突如連れてこられたこの殺し合いに混乱する一般人だったら。
ロクに戦場を知らない、今まで平和に暮らしていた民だったら。
それでも、タツミは即座に悪と判断し、斬ってしまっていたかもしれない。
自分のように平常心を保てなかった者を、"悪"とみなしてしまったかもしれない。
例え、さやかが本当に乗るつもりだったとしても。
彼女が困惑しているだけなのかどうかの確認をすべきだったのだ。

「俺は...間違ったんだな...」

ポツリと呟かれた言葉を聞き遂げると、『ヒルダ』は再び歩みを進める。

「...あたしは、音ノ木坂学院を拠点にしようと思ってる。あんたがこれからどうするかまではとやかく言わねえが、いまはついてくんな」

言い残し、去っていく背中に、タツミは声をかけることすらできず。
『ヒルダ』は、タツミのもとから去っていった。


520 : 『嫉妬』 ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:27:58 UOUkG1L20
「......」


残されたタツミは、後悔と共に一人思い悩む。

そもそもだ。
さやかを監視しようとしたのは何故だ。
さやかに殺人をさせないためだ。
ならその後は?
殺し合いが無事に破壊され、自由の身になった時は、自分はさやかをどうするつもりだった?
危険人物だから、戦力としても必要ないからもう用済みだと斬り捨てたのか?
『ヒルダ』の言ったような、悪党紛いのことをするつもりだったのか?


『迷うな。トドメは迅速に刺すことだ』

敵の理由を聞けば、そこから迷いが生じ、こちらの命取りとなる。
だから、悪と認識した者に同情することもなく、ただ斬り殺してきた。
だが、それはあくまでも殺し屋、戦士の世界の話。
危険な匂いがするからといって、それを自分の世界に当てはめてしまったこと自体が間違いだったのだ。

『助けられる人を助けたいと思うのは当然じゃないですか』

タツミが剣を振るうのはなんのためだ。敵を斬るのはなんのためだ。
自分達に都合の良い人間だけを守るためか。
そこから外れそうな人間には手を差し伸べなくてもいいのか。

初春やジョセフはさやかを『救おう』としていた。
しかし、自分は違う。さやかを『救おう』などとはちっとも考えていなかった。
ひとつの戦力として、斬り捨てるのにも都合の良い部分だけしかみていなかった。

(アカメなら...こうはならなかったのかな...)

わからない。
殺し屋としてのイロハを教えてくれたのは、確かにアカメだ。
もしさやかと出会ったのがアカメであれば、彼女はどうしただろうか。
...いや、そんなことを考える必要は無い。
失敗したのは自分。さやかを魔女にし、千枝を殺させたのは他ならぬタツミなのだから。


重い足取りのまま、彼は再び安息の地を求めて進む。
『ヒルダ』を追うか、このまま北上するか、それともここで二人が目を覚ますのを待つか...


タツミの不運は二つ。

一つは、タツミの精神が不安定な状態で『ヒルダ』が接触してきたこと。
いまのタツミの精神は乱れに乱れていた。当初の警戒心の高さは身を潜め、全ての元凶になってしまったのかという自責の念に駆られていた。
そのため、『ヒルダ』の言葉を鵜呑みにし、一方的な情報搾取でさえ疑問を持つことができなかった。

もう一つは、ヒルダをよく知る銀が目を覚ましていなかったこと。
彼女が目を覚ましていれば、いましがたタツミと会話していた『ヒルダ』に違和感を持つことができたはずだ。


だが、現実は彼に都合の悪いように流れてしまった。


彼は気づかない。
『嫉妬』の毒は、既に仕込まれていることに。


521 : 『嫉妬』 ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:29:26 UOUkG1L20
【F-6/一日目/夕方】




【タツミ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(大)、右太腿に刺傷、右肩負傷、さやかに対する強い後悔 精神不安定
[装備]:バゼットの手袋@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、テニスラケット×2、グリーフシード×1、ほぼ濁りかけのグリーフシード×2、ライフル@現実(武器庫の武器)、ライフルの予備弾×6(武器庫の武器)、美樹さやかの肉体。
[思考・行動]
基本:悪を殺して帰還する。
0:二人を連れ、安全な場所まで移動する。
1:ヒルダを追うか、北上するか、この付近で身を隠すか...
2:魔女化したさやかについては一先ず保留。可能なら殺害したいが、元に戻る方法があるのなら……
3:アカメと合流。
4:もしもDIOに遭遇しても無闇に戦いを仕掛けない。
5:エルフ耳とエンブリヲは殺す。
6:足立透は怪しいかもしれない。
7:俺は、間違えたのか……。
[備考]
※参戦時期は少なくともイェーガーズの面々と顔を合わせたあと。
※ジョセフと初春とさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※首輪を解除できる人間を探しています。
※魔法@魔法少女まどか☆マギカでは首輪を外せないと知りました。
※さやかに対する不信感。
※ヒルダ(エンヴィー)には情報を与えましたが、ヒルダ(エンヴィー)からは情報を得ていません。



【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(極大)、気絶  デイパックの中
[装備]:なし
[道具]:千枝の首輪
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:……。
1:さやかを元に戻す。その為に佐倉杏子を探す。
2:未央に渋谷凛のことを伝える。エンブリヲが殺した訳じゃない……?
3:足立さんが真犯人なのか……?
4:エンブリヲを止める。
5:マスタングを見つけ出し、ぶっ飛ばす。
6:里中……。
[備考]
※登場時期は17話後。
※ペルソナの統合を中断したことで、17話までに登場したペルソナが再度使用可能になりました。ただしベルゼブブは一度の使用後6時間使用不可。
回復系、即死系攻撃や攻撃規模の大きいものは制限されています。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。
※イザナギに異変が起きています。





【銀@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(大)  キンブリーに若干の疑い、観測霊の異変?に対する恐怖、気絶 デイパックの中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2 、カマクラ@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
[思考]
基本:…………。
1:黒を探す。
2:千枝……。
3:怖い。
[備考]
※千枝、雪子、モモカと情報を交換しました。
※制限により、観測霊を飛ばせるのは最大1エリア程です。


522 : 『嫉妬』 ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:30:33 UOUkG1L20




「くっくっくっ...あははははは!!」

『ヒルダ』―――エンヴィーは嗤う。
これでもかというくらい愉快気に、満足げに。

「なぁ、鳴上ィ。大勢の人間に囲まれたタツミを見たらさぁ、お前はどうする?あいつを見捨てるか?それとも俺たちを信じて下さぁいって、一緒に頼み込んでみるか?」

これよりエンヴィーは、ヒルダやウェイブの姿を借り、音ノ木坂学院でタツミの悪評をばら撒くつもりでいる。なんならタツミ自身に化けて一暴れしても構わない。
詳細名簿には、エンヴィーも一度は出会った高坂穂乃花と小泉花陽らμ’sの面々がこの学院の生徒だと記されていた。
おそらく、彼女たちはわかりやすい目印としてここを拠点にするはずだ。
やがてやってきたタツミは追い詰められることになるだろう。
その時、なにも知らずにそんな事態に直面した鳴上はどう思うのだろう。

「見捨てるならいいよ。自分の保身を第一に考える。それが人間って奴さ。でも、俺たちを信じてくれっていうのは難しいんじゃないかなぁ。
だってそうでしょ?タツミは美樹さやかを追い詰めて、里中千枝を殺させた張本人。それは紛れもない事実さ」

そう、それは間違いなく否定できない事実。
タツミは、不用意に魔法少女を追い詰め、鳴上の仲間を殺させた。
そのことだけは、このエンヴィーに関わった奴らに徹底的に吹き込ませてもらう。

「なんだったら、真実を変えてみる?タツミはさやかを救うために最善を尽くした、でも助けられなかった。だからタツミは悪くないってさ」

タツミと一番関わりがあり、千枝の仲間にあたる鳴上がタツミを許す。
成る程、確かにそれが一番被害の少なくなる方法かもしれない。

「けど、そいつは美樹さやかに対する裏切りだよ。結局、あいつをそれだけ軽んじてるって証拠さ。お前のいう絆が本物なら、そんなことできないよねぇ」

もし鳴上がそれを行使すれば。それは美樹さやかの心や気持ちを無視し、彼女にタツミを許せと押し付けるようなものだ。
もしさやかが魔女から戻った時、どんな表情を浮かべるか―――想像に難くない。

「まあ、そもそもあいつが本当に戻るかどうかって話なんだけどね。それはそれで、鳴上の絶望した顔が見れるからいいけどさ」

そして、エンヴィーは音ノ木坂学院への足を進め―――ピタリと止まり、振り返る。
その視線の方角は、未だに凍りついているであろう『彼女』のいるジュネス跡。

「お前の演奏、嫌いじゃなかったよ。また会えたら、もう一度聞かせてもらおうかな」

届くはずもない言葉。
らしくないな、と思いつつエンヴィーは再び音ノ木坂学院への道を進む。


523 : 『嫉妬』 ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:31:41 UOUkG1L20

―――Oktavia von Seckendorff(オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ)

その性質は恋慕。彼女が奏でるのは叶わなかった想い人への羨望。
彼女の絶望の裏には、様々な『嫉妬』が溢れている。

自分に気付いてくれない想い人。
想い人と寄り添った友人。
親友に秘められた才能。
先輩や他の魔法少女への憧憬。
かつて人間だったころの回顧。


そして、この地で見せつけられた―――自分には巡ってこなかった『絆』。


『人造人間(ホムンクルス)よりもずっと弱い存在の筈なのに。叩かれても、へこたれても、道を外れても、倒れそうになっても、綺麗事だとわかってても。何度でも立ち向かう。周りが立ち上がらせてくれる。
そんな人間が、お前は羨ましいんだ』

エンヴィーは気づかない。
自らが惹かれたのは、自分と同種の『嫉妬』であることに。

その正体を、かつてエドワード・エルリックに理解されたそれを認めた時―――彼の苛立ちは頂点に達するだろう。




【F-6/一日目/夕方】

【エンヴィー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、賢者の石消費(マスタングとの戦闘で焼かれた分も含めて残り40%)、鳴上の『絆』に対する嫉妬心、オクタヴィアの演奏に対する共感
[装備]:ニューナンブ@PERSONA4 the Animation、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[道具]:ディパック、基本支給品×2、詳細名簿、天城雪子の首輪 双眼鏡(エンヴィーの支給品)
[思考]
基本:好き勝手に楽しむ。
0:音ノ木坂学院でタツミの悪評をばら撒く。タツミの姿で暴れるのもいいかも。
1:放送後にもう一度首輪交換機を訪れてみようかな。
2:色々な参加者の姿になって攪乱する。
3:エドワードには……?
4:ラース、プライドと戦うつもりはない、ラースに会ったらダークリパルサーを渡してやってもいい。
5:強い参加者はキンブリーに大佐たちの悪評を流させて潰しあわせる。
6:キンブリーぶっ殺す。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※ヒルダの姿でタツミからジュネス近辺、さやかについてのことを聞きだしました。


524 : ◆dKv6nbYMB. :2016/01/23(土) 00:32:21 UOUkG1L20
投下終了です。


525 : 名無しさん :2016/01/23(土) 02:38:36 HoT5VAWA0
投下乙です
>その血の運命
ジョセフが逝ってしまったけど知恵と工夫で最後まで食い下がってたな。杏子ちゃんはその意志を繋いで欲しいところ
逆にDIO様は宿敵が消えたからウハウハだろうなぁw

>それでも彼女は守りたかったんだ
大佐とちゃんみおは果たしてしまむらさんを救えるのだろうか…
田村さんはロワに放り込まれてからもどんどん成長?しているみたいで感慨深いです

>嫉妬
エンヴィーが性質悪すぎるけど実に楽しそう
こういう精神的な葛藤もロワに醍醐味だけど
アカメと対照的に色々と裏目に出るタツミがちょっと可哀想な気もしてきたw


526 : 名無しさん :2016/01/23(土) 13:58:28 KvKJh9.2O
投下乙です

エンヴィーはさやかを知らないから、演奏に込められた思いに素直に共感


527 : ◆rZaHwmWD7k :2016/01/26(火) 16:11:43 y6OMCm8A0
投下します


528 : MESSIER・CODE/VI952 ◆rZaHwmWD7k :2016/01/26(火) 16:15:00 y6OMCm8A0

鳴上ら一行、そして嫉妬のホムンクルスが去った少し後。
契約者、魏志軍は再び倒壊したジュネスへと舞い戻っていた。
黒の死神、そして先刻出会ったドールに関わる事情を除いては、
常に合理的な判断を下す彼が、人っ子一人いなくなったジュネスに戻ったのは、
当然のことながら訳がある。

「いやはや、何とも驚嘆に値しますね」

そう、彼以外に生きている”人間”は一人もいなかった。
見上げるは氷に閉ざされたまま固まっている人魚姫。
足を掬われ、救われず、怪異に身を堕とした少女だ。

彼女こそ、魏がここに戻った目的だった。


「仲間に襤褸切れの様に捨てられ、さぞ無念だったでしょう」


冷ややかな冷気を感じながら、氷の彫像を撫でる。
こうして見れば、大変に前衛的な氷のオブジェに見えなくも無かった。

だが、内包された悪を滅ぼすだけの悪に対する焼け爛れるような怒りは、
救われなかった因果に対する憎悪は、
自分を置いて逝った友に対する絶望は、

あまりにも生生しく、氷から溢れ出る様で、常人なら嫌悪と恐怖で目を背けてしまうだろう。
それは芸術品にとって致命的だ。

しかし、魏志軍は常人ではない。


529 : MESSIER・CODE/VI952 ◆rZaHwmWD7k :2016/01/26(火) 16:16:14 y6OMCm8A0

十五メートル程距離をとり、もう一度怪物の氷像を仰ぎ見る。
そして、薄く笑った。

「今、自由にして差し上げましょう」

その指のブラックマリンが怪しく光を放つ。
それと同時に生まれた水流は、まるで獲物を捕らえた百足の様に、氷塊を締め付け、圧力を加えていく。

「中々の密度だ、これを使って皹ひとつ入らないとは…!」


氷は皹ひとつ入らない。
その事実を目のあたりにした魏は心中で命を賭してこの氷を創り上げたあの人形使いの少女――里中千枝に短い賞賛の声を送った。

だが、いかな永久氷壁でも自分の能力の前では無力に等しい。
額に汗を浮かべながら、指を弾く。
すると、先ほどあの氷に触れた際に塗りたくった自分の血を付けた部分が、見事消え失せた。
すると、千丈の堤も蟻の穴より崩れる と言う諺の通りに、先ほどまで皹ひとつとして入らなかった堅牢さを誇る氷が悲鳴を上げ始めたではないか。


「憎いのでしょう…許せないのでしょう。ならば、報復すれば良い。
 貴方にはその力があるのだから」


ピシリ、ピシリとヒビが入る音が大きくなっていく。
そして―――


530 : MESSIER・CODE/VI952 ◆rZaHwmWD7k :2016/01/26(火) 16:17:19 y6OMCm8A0



―――一つ、尋ねたいことがあるのですが、よろしいですか。アンバー。

―――ん、なーに。

―――私はBK201を殺しますが、それでも宜しいのですか?

―――うん。

―――貴方は、南米ではBK201の仲間だったと聞いていますが。

―――黒と戦ったら貴方死ぬよ。だって、黒が勝つから。


緑髪の少女は、まるで未来を見てきたかのように私にそう告げた。
そして、私はその言葉の通りに―――

『―――往け、BK201…!』





531 : MESSIER・CODE/VI952 ◆rZaHwmWD7k :2016/01/26(火) 16:17:56 y6OMCm8A0

舞台は移り変わり、ジュネスから目と鼻の距離にある駅。
そこに魏志軍は潜伏していた。
火傷の痕が刻まれたその貌を、言いようのない不快感に歪めて。


彼の目論見は外れ、氷は砕けることは無かったのだ。

あの人形使い達を押していた暴威を、あのままあそこで氷付けにしておくのは惜しいと思い、あの氷を砕いて後は暴れるに任せようと思ったのだが。
あの怪異が他の参加者と潰し合ってくれれば、優勝は確実に近づく。
事実、あのドールがいなければ自分は見事漁夫の利を得ていただろう。
もし、襲ってきたとしてもワープができる道具がある自分ならあしらう事も容易だと踏んだ。

懸念すべき点はドールの一行やBK201があの怪異と鉢合わせした場合だが、
あの未咲と言う警察の女ですら囮に使う黒の死神ならば、殺されることは無いだろう。
確信染みた予感があった。
そしてドール達一行は、あの怪物の脅威を知っているので対処法が見つかるまで退くハズである。

…などと考えた故の行動だが、氷は砕けなかったのだから全ては砂上の楼閣である。
あれ以上、使えるかどうか分からぬ化け物に固執する時間も体力の余裕も無かった。

『……弱くなんかない。
 絆は……強さの証なんだよ。鳴上くんは空っぽなんかじゃない。
 いつか、皆バラバラになる。二度と会えないかもしれない。だけど、それが何なの?
 いくら離れても私達ずっと仲間じゃない!』

不意に、あのドールと共に氷を作り出した元凶である人形使いの少女が叫んでいた言葉がリフレインした。

絆。
その言葉を、喉元で転がす。
それこそが、自分の目算を邪魔をしたのだろうか。
それが、あの黒の死神に負けるまで無敗だった自分の能力を受け、水流に飲まれながらも怪異をこれ以上の凶行を起こさせまいと封じ込める氷を作り出したのだろうか。

「絆、ですか」

もう一度。今度は口に出してみる。


「まったくもって度し難い」


彼らは、他者から受ける束縛を信頼と履き違えている。
自分がかつて踏み台として利用した青龍堂の次期頭目、アリスの様に。
あの化け物を排除した途端、諍いを始めておいて絆とは片腹痛い。


532 : MESSIER・CODE/VI952 ◆rZaHwmWD7k :2016/01/26(火) 16:18:30 y6OMCm8A0

かに氷は砕けなかった。
しかし、自分の行いがまったく無駄だったかといえばそうではない。
このゲームが終わるまで解けなかったかもしれない氷は数時間ほどで溶け、砕けるだろう。
もし、元々数時間ほどで溶けるのだとしたら、一時間ほどに時間は減るだろう。
もっと体力に余裕があれば、確実に割ることもできた。

「……まぁ、これ以上考えても詮の無い事でしょうね」

多対一の戦いが続いたため、あの圧倒的優勢に味を占めた所もあるかもしれない。
反省しながらチラリと、脇の電光掲示板を見る。


何やら全て路線は破壊されていた様だが、ここからの路線は破壊されるのが西と図書館の方角にある路線より早かったため、復旧もまたその二線よりも早いらしい。
後もう少し待てば電車が運航を再開させるだろう。

デバイスを操り、これからどこに向かうかを思案する。
自分は北東から出発して、西回りで図書館にまで赴き、あのプロデューサーとの戦いで南東に移動した。

自分が進路としてきた北西、南東にBk201がいる可能性は低いだろう。
南東に居たのならばあのドールが観測霊で感知しているはずだ。
残りは北東と南西であるが…。

「もう一度、戻ってみますか」

選んだのは、北東だった。
勿論、拙い仮定だ。南東はともかく、南西や北西に居る可能性だって十分にあり得る。
だが北東ならば、もし黒が居なくても道中で首輪を入手していればアインクラッドの首輪交換機が使える。

最早、魏の中で首輪交換機への信頼は地に堕ちつつあったが、利用価値のある物は何でも利用するのが契約者らしい合理的な判断だろう。

急ぐ必要がある。時間はあまり残されていない。
速やかにBK201を殺害し、あのドールも屠らなければならない。
あの掛け値なしの災厄だ。
あれが目覚めてしまえば、最早優勝どころではないだろう。

それに気づいているのは、この会場では恐らく、自分だけ。
そして、


533 : MESSIER・CODE/VI952 ◆rZaHwmWD7k :2016/01/26(火) 16:19:56 y6OMCm8A0

「アンバー…先ほどの白昼夢は、また貴方の仕業ですね?」

彼が顔を不快感に歪めていたもう一つの理由。
ビタミン剤を飲み、先の戦いで溜まった疲労を癒そうとした矢先の事だった。
再び流れ込んできた三時間ほど前の、黒の死神が敗れた光景とは違う、奇妙な既視感を感じる映像。

あれは恐らく、自分にとっては未来の、彼女にとっては過去の会話の映像だろう。
そして、血だまりに沈む自分もまた…。
嫌がらせの様なタイミングだった。

「……終末宣告とでもいうわけですか」

あの緑髪の少女がアンバーで、アンバーの能力が噂の通りだというのなら、BK201と戦えば、自分は、




―――――関係無い。


黒の死神と戦う事こそが今の魏志軍にとっての全てだ。
元より、あの雪辱を晴らすまで退くつもりなどない。
もし、優勝できず志半ばで途絶えるとしてもそれだけは譲れない。
例え、定められた運命が約束された敗北と死だとしても。

そう心中で決意を新たに固めた時ピンポンと短いアナウンスが入る。
復旧作業が完了し、運航が再開するらしい。
電車に乗れば、あのドール達に邪魔されることなく手早く北上できるはずだ。

電車の扉が開き、駅の照明よりも強い光がほんの数刹那自分の視界を焼く。
放送は、列車に乗りながら聞くことになるだろう。

椅子の背もたれに体を預け、休養を取りながら茫洋と窓に映る空を見る。
暁の空は既に紫がかった色にグラデーションされ、星が覗いていた。

(この空は…)

それは、彼の世界では失われて久しい、本当の星空だった。
その中に何故自分の契約者としての偽りの星が混じっているのかは分からなかったが、
それは彼にとってこの場所が元の世界の因果や運命を変えうる象徴のように思えた。

(そうだ、私は勝利する…アンバーですら見うる事が無かった未来を手に入れてみせよう)

偽りの星空のもとなら逆らいようのない運命なのだとしても、
この、本当の星空の下ならばあるいは―――――、

【F-7 西(電車内)/一日目/夕方】


534 : MESSIER・CODE/VI952 ◆rZaHwmWD7k :2016/01/26(火) 16:20:36 y6OMCm8A0
【魏志軍@DAKER THAN BLACK‐黒の契約者-】
[状態]:強い決意、疲労(中)、黒への屈辱、背中・腹部に一箇所の打撃(処置済み)、右肩に裂傷(処置済み)、右腕に傷(止血済み)、顔に火傷の痕、銀に対する危機感
[装備]:DIOのナイフ×8@ジョジョの奇妙な冒険SC(魏志軍の支給品)、スタングレネード×1@現実(魏志軍の支給品)、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る(魏志軍の支給品)、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る(セリム・ブラッドレイの支給品)、黒妻綿流の拳銃@とある科学の超電磁砲(星空凛の支給品)
[道具]:基本支給品×3(魏志軍・比企谷八幡・プロデューサー・一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲(比企谷八幡の支給品)、
     暗視双眼鏡@現実(比企谷八幡の支給品)、アーミーナイフ×1@現実(武器庫の武器)、パンの詰め合わせ@現実(プロデューサーの支給品)、
     流星核のペンダント@DAKER THAN BLACK(蘇芳・パブリチェンコの支給品)、参加者の何れかの携帯電話(蘇芳・パブリチェンコの支給品・改良型)、
     うんまい棒@魔法少女まどか☆マギカ(星空凛の支給品)、医療品@現実(カジノの備品)、鎮痛剤の錠剤@現実(カジノの備品)×4、
     ビタミン剤の錠剤@現実×11(カジノの備品)、ビリヤードのキュー@現実×6(カジノの備品)、ダーツの矢@現実×15(カジノの備品)、懐中電灯×1@現実(カジノの備品)
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する
0:電車を使い北上。アインクラッドに向かう道中で首輪を入手する。
1:BK201(黒)の捜索。見つけ次第殺害する。
2:強力な武器の確保。最悪、他のゲーム賛同者と協力する事も視野に入れる。
3:合理的な判断を怠らず、可能な限り消耗の激しい戦闘は避ける。
4:あのドールは……。
[備考]
※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。
※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、ヘミソフィアの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。
※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能の無いごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。
※スタンドの存在を参加者だと思っています
※シャンバラの説明書が紛失している為、人を転移させる謎の物体という認識です。
※シャンバラは長距離転移が一日に一度で尚且つランダム。短距離だとエネルギー消耗が激しいですが、通常通りに使用できます。
※ブラックマリン・シャンバラ共に適正を持ち合わせており、特に後者については出典元であるアカメが斬る!での所持者・シュラと同等の高い適正を誇っています。
※シャンバラの大まかな使用用途を理解しました(長距離制限には気付いてない)。
※あらかじめ水源付近(H7北部の河川)にシャンバラでマーキングを行っています。
※ペルソナとスタンドの区別がついていません。
※銀の変貌に勘付いていますが、黒との決着を優先しています。


全ての建造物が潰え見晴らしが良好になったジュネス。
そこに聳え立つ魔女の氷像。
魏志軍があけた孔から、氷全体に罅と欠落が広がっていたが、今も嫉妬の魔女を封じているのはこの氷を創りだした少女の生き様の強さの表れか。

しかし、少女は既に滅びた。
この世に永遠などと言うものは無い。
里中千枝が遺したものも消え失せる。
この現世は、生者の意思こそが優先されるのだから。

ピシリ、とまた新たに罅が入り、零れ落ちた滴が沈み行く太陽の光に反射して煌めく。

魔女は禍々しき複眼でじっと虚空を――否、音ノ木坂学園のある方向を見つめていた。
この氷の戒めが解かれた時、魔女がどこへ向かうかは分からない。
唯一つはっきりしている事は、魔女は、災禍を振りまき続けると言う事だ。

【F-7/一日目/夕方】

【オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ(美樹さやか)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:凍結
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:演奏を聞いていたい。
1:邪魔する者を殺す
※制限で結界が貼れなくなっています。
※首輪も付いています。多分放送位は理解できるでしょう。
※凍結は放送後遅くとも1時間程で溶けます。
※氷の罅から放送が聞こえるようになりました。


535 : ◆rZaHwmWD7k :2016/01/26(火) 16:21:07 y6OMCm8A0
投下終了です


536 : 名無しさん :2016/01/28(木) 22:14:21 ogjF8OtU0
投下乙です
エルフ耳さんちょっとかっこいいけど、黒さんから遠ざかってるのには草


537 : 名無しさん :2016/01/31(日) 20:13:10 Yf6l0WP20
投下乙です
エンヴィーはこうやって攪乱してきたか。これは相手も見抜けないよなあ
よりにもよって学園にはエンブリヲがいるから波乱が起こりそうだ

魏志軍はいい具合に暗躍しているな。
アンバーの干渉?がちょっと気になるな。果たして未来は変えられるのか


538 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/02/01(月) 20:31:32 IW7wbxzg0
投下します


539 : 交差 ◆ENH3iGRX0Y :2016/02/01(月) 20:34:19 IW7wbxzg0


皆殺しを決めた足立は先ず、追ってくるだろうアカメ達を待つことにした。
あのお人好し共だ。どうせ雪乃が生きていれば必ず奪還に向かう。
本当はまた雪乃を犯しに行っても良かったのだが、性欲よりも破壊衝動が勝る。それが雪乃の探索を妨げた。

「さ〜て。いつ来るのかな、アイツ等は」

物陰に潜み、何時でもペルソナを出せる体制を保ちながら足立は今か今かとアカメ達を待つ。
奴らの姿が見えた瞬間、マガツイザナギから電撃を叩き込み全員消し炭に変えてやろうと思っていた。
そして彼の予想通り、アカメ達の姿が見えた。
万が一にも彼らがエスデスに皆殺しにされ、エスデスが向かう可能性もあった為に退路も用意しておいたのだがそれも使う必要はなさそうだ。

「―――あぁ?」

しかし、足立の予想はたった一つ外れていた。それは―――

「てめえ! 何連れてきてんだよオオオオオオオオォ!!!」

先ず、アカメは交戦の最中であり後藤から新一を守りながら剣を交え、その果てに敵の怪力で不運にも足立の隠れていた場所まで吹き飛ばされたこと。
そして彼を襲う不運はそれでマガツイザナギの召喚が遅れ、尚且つアカメ達が連れてきた敵こそあの―――

「大丈夫か! アカメ!!」

『いや、結果オーライだ。丁度足立が見つかった』

「そろそろ鬼ごっこは終わりか?」

足立の恐れた化け物の一人、後藤であったのだから。
近くに飛んできたアカメから慌てて離れながら足立はマガツイザナギを召喚する。
後藤は興味深そうにそれを眺めながら、両足をバネに加速した。
マガツイザナギが電撃を放つ。後藤はそれを見切りながら左右に跳躍し、鎖鎌を足立へと振るう。

『……やはりな。パラサイトに電撃は鬼門。
 いくら、私やアカメのような強者に興味があろうとも、自身にとって弱点となり得るものが居ればそちらに意識を傾ける』

「お前の言った通りだミギー。あとは雪乃を連れ、逃げるだけだな」

ミギーの立てた策は単純明快なもの。
後藤を連れながら北上し、足立を後藤に押し付けつつ雪乃を奪還し離脱する。
いくら後藤でもマガツイザナギには手こずる上に、自らの弱点である電撃が相手ではこちらに気を配る余裕も消える筈だ。
実際、速攻で足立が見つかるといううれしい誤算も味方し、ミギーの策通りに事は進んだ。
たった一つ、雪乃がこの場に居ないことを除けば。

「おい、ミギー。雪乃は……」

ミギーの推測はほぼ全て当たっていた。
先ず足立が雪乃をティバックに仕舞い逃走を続けているであろうこと。
生身はただの人間なのだから、可能な限り負担を軽くする選択肢を選ばない筈がない。
雪乃を道中で殺すか、捨てるかの可能性もあるが、人質は生きていてこそ意味がある。
ほぼ間違いなく追手が来るであろう現状で殺すことはない。そこまではミギーの推測通りであったが、唯一の例外は槙島の干渉だ。
彼が原因で、雪乃は足立から離れてしまった。最も彼が居なければ、それはそれで雪乃は無事ではすまなかったのだが。


540 : 交差 ◆ENH3iGRX0Y :2016/02/01(月) 20:34:42 IW7wbxzg0

『足立が持ち堪えている間に雪乃を探すぞ。
 彼女が自力で逃げたにしても、放置されたにしてもそう遠くには居ないだろう』

言いながら、ミギーは思考を巡らせる。
先ず、雪乃は自力ではなく誰かに助けられたと見るべきだ。足立に殺された可能性はやはりない。
エスデスとのやり取りで分かったが足立は保身に走りやすい。
人質と言う切り札を自ら手放す訳がない。
しかし、足立が拘束までされずこうもピンピンしている以上、それは完全な味方でもないのだろう。
恐らくその人物と雪乃は別行動をしている。その人物に誘拐されたというのもあり得るが、メリットがあまりない。
雪乃を攫い、利益があるのは雪乃の仲間と敵対している足立だけだ。
他の、例えば同じく敵対している御坂やエルフ耳、セリムなどが攫ったにしても、戦力に自信のある彼らならその場で殺し首輪を回収するのを優先している筈だ。
そう考えると純粋に殺されたか。生きて一人で何処に身を潜めているかのどちらかに的を絞れる。
更に言えば、雪乃を奪われた足立がまだ生きているのだから。雪乃もまた殺害よりも生かされている方が可能性は高い。

『恐らく、G‐2からH-2の何処かだ。
 島の末端で人通りが少なく。我々でも追いつけやすい。非力な雪乃が身を隠しつつ、合流を図るならそこが絶好の場所だろう』
「急ぐぞ、新一、ミギー」

足立と後藤の戦いを他所に二人は駆けだす。
それを後藤は視界の端に一度捉えてから、敢えて無視をする。
島の末端である以上、逃げ場はない。後藤を飛ばしたワープアイテムを使う可能性もあるが、それなら黒子のように後藤に直接使うだろう。
故に後藤は新一達がこの場を離れられない理由があると判断。今すぐ追う必要はないと考えた。

「クソがッ! マガツイザナギ!!」

電撃と刀を避けながら、後藤はあの二人が再び現れるのを待つ。
近くに禁止エリアがあり動きは限られる上に、最悪の場合首輪探知機もある。
そう易々とあの二人を逃しはしない。それよりも、今は目の前の餌に集中すべきだろう。 






541 : 交差 ◆ENH3iGRX0Y :2016/02/01(月) 20:35:42 IW7wbxzg0



(クソクソクソクソ!! どうして、こうなるんだよ!!!)

後藤にマガツイザナギをけしかけながら、足立は胸内で毒を吐き続ける。
槙島にコケにされた挙句、皆殺しを決意した次の瞬間後藤を押し付けられる。
ここに来てから、やること為すことが全て裏目に出ているとしか思えない。
下手をすれば、あのエスデスもまた乱入してくるんじゃないかとさえ思えてきた。
いや、今までの流れを鑑みれば来てもおかしくない。

(畜生畜生畜生!! どうする? どうすりゃいい!!)

戦いは足立が劣勢と言えるだろう。
後藤の素早い動きに翻弄されながら、マガツイザナギの動きは全てワンテンポ遅れている。
速さと俊敏さでどうしてもマガツイザナギは後藤の後手後手に回らざるを得ないのだ。

(一撃、一撃当たりさえすれば……!)

必死で頭を回転させ、策を練る。だが咄嗟にこの場を切り抜ける奇策など思いつけない。
しかも運の悪いことにドサクサに紛れ、雪乃にショットガン。アカメにティバックまで取られてしまった。
実は毒入りのカプセルや正史において後藤の敗因になった鉄の棒を上手く使えば、あるいは後藤相手でも勝機はあったかもしれないのだが足立は知る由もない。

「電撃使いには二人、いやあの篭手も含めて三人か。三人出会ったが……」

後藤の姿がマガツイザナギの前から、消えた。
否、足立の目で追いきれないほどの速さで動き。マガツイザナギの横方にまで回り込んだのだ。
マガツイザナギが刀を翳す。だが、後藤の蹴りの方が遥かに速い。
足立の横腹に激痛が走り。マガツイザナギはノイズに苛まれながら地面へと叩きつけられた。

「お前には工夫が足りない。電撃を撃つだけなら、ウナギでもできる」

「ッ。の―――舐めんじゃ……」

「癇癪というのか? 逆上しやすいのも、良くないな」

怒りに任せ、足立がマガツイザナギに意識を向けた瞬間、後藤のボディーブローがめり込む。
堪らず足立は宙を舞い、後方に吹き飛んでいく。
後藤の観察で分かったのは、足立は感情に従いやすい。言わば周りが見えなくなることが多い人間だという事だ。
以前の後藤ならば感情などまるで計算に入れていなかったが、
新たな戦い方を模索する中で、人間の感情も利用できるかもしれないと試しに挑発してみたが中々悪くはない。
加えて、この肉体の試運転として手を抜きながら足立の相手をしてみたが、先の戦いと合わせて大体コツは掴んできた。
そろそろ、新一達も戻ってくる頃合いか。足立に止めを刺し、彼らとの戦いに意識を向けるべきだろう。

「ぅっ……げ、ぇ……」

建物の壁に叩きつけられ、呻き声を上げる足立に後藤は躊躇いなく歩み寄る。
それが足立の残った寿命を現しているのは、他ならぬ足立本人が理解している。
このままでは死ぬ。

(死ぬ……?)

他人事のように、何処か淡々と思い浮かんだ死と言うワード。
だが、不思議ともう悪あがきをする気にもならない。思えばここまで散々苦しんできた。
先程までは脳内物質の分泌で痛みなど気にならなかったが、冷静に現状を見れば足立は実質詰んでいる。
仮に後藤を退けるなりしてここで生き延びたとしても、エスデスはおろかアカメやウェイブ。セリューに承太郎も居る。
もうどうしようもない。ペルソナも既に割れ、対策も練られているはずだ。


542 : 交差 ◆ENH3iGRX0Y :2016/02/01(月) 20:36:03 IW7wbxzg0

(……畜生。……もういいか、どうせ苦しんで死ぬなら、ここで楽に死ぬのも……)

せめて、鳴上にように複数のペルソナを使役していれば。
まだ戦いにもやりようはあっただろう。
そう鳴上のように―――

(鳴上、悠……?)

生死を超えた所で、足立は理屈抜きにそれだけは認めてはならないと思った。
たった今、自分は何を思った? あのクソガキのように? 鳴上のように?

「ふざけんなよ。俺が、あのガキみたいに? あんなクソガキみてえにだと!!」

咄嗟に口から声が漏れる。
ここで死ねば、あのガキ共を認めることになる。俺を否定したあのガキ共が正しいのだと。
下らない友情ごっこを認めろとでもいうのか。
あのガキを鳴上悠を―――

「ざけんじゃねえよ……クソ共がああああああああああああああああああ!!!!」

地面に倒れ伏すマガツイザナギが再び立ち上がる。
身体に纏う闇はより濃く、身体を流れる赤の線はより深く。

「どいつもこいつも……もう要らねえんだよ。てめえらなんざ……全部消し飛びやがれええええええええ!!!」

何より、より強くマガツイザナギの電撃が降り注ぐ。
余裕を浮かべていた後藤の態度は一転。全霊を以って後方へ退避。
電撃により抉られた、巨大なクレーターが後藤の眼前に広がっていく。

「!?」

それだけに留まらない。電撃により舞い上がった粉塵を切り裂き、マガツイザナギの刀が後藤へと振るわれる。
後藤は足立との戦いにおいて初めて回避が間に合わず、頭部を盾に変化させ刃を受け止めた。
しかし、パラサイトの力に加え混じった事により身体強化により齎された強靭な膂力で以っても、マガツイザナギの腕力を止めることは叶わず。
その圧倒的暴力により、後藤ははるか後方へと吹き飛ばされる。


543 : 交差 ◆ENH3iGRX0Y :2016/02/01(月) 20:36:20 IW7wbxzg0

「うおああああああああああああああ!!! 死んどけやああああああああああ!!!!」

最早声とも叫びとも区別のつかない奇声を放ちながら、マガツイザナギは更に電撃を後藤に向け。
いや、このエリア一帯を消し飛ばさんとする勢いで放ち続ける。
力が湧きあがっていく。身体を走る激痛など意にも介さない。

「ふ、フハハハハハハハッ!」

鳴上が絆を力にするのなら。足立は憎しみだ。
自身を認めない。自らにあだなすクソ共を皆殺しにする怒りと憎しみの力。

「ムカつくんだよ……どいつもこいつも……!!」

特別捜査隊の連中も、承太郎もほむらも、セリューも、アカメ達も槙島も全てが邪魔でクソ以下のクソ共だ。
そして、それ以上に足立の頭を占めていたのは、他でもない。鳴上悠だ。
何があろうとも、アイツだけは殺す。

「―――クソがぁ……。てめえらも、何よりアイツだけは必ずぶっ殺してやる……絶対に……!!」

湧き上がる負の力を胸に足立は歩み出した。







544 : 交差 ◆ENH3iGRX0Y :2016/02/01(月) 20:37:02 IW7wbxzg0


未だ眠りに落ちている雪乃を抱きかかえ、新一とアカメはこれから何処へ向かうか思案していた。
可能なら南に戻りたいところだが、エスデスがこちらに向かう可能性もある以上鉢合わせを懸念し避けるべきだろう。
かといってこの周辺に隠れ潜むのも、やはり得策ではない。

『北西だな』

ミギーが口を開いた。

『仲間との合流は遠くなるが、こうなった以上先ずは北の方を回った方が安全だろう』

「花陽とヒルダは……」

『言っただろう。学院には白井黒子や高坂穂乃果、その協力者が居るかもしれないと。
 仮にエスデスがあちらに向かっても、そう簡単にはやられないはずだ』

あくまで希望的観測だが、あの二人がここまで生き残れたのには誰かしら協力者があったからだろう。
とはいえそう都合よく二人のそばに止まるか、また微妙なところではあるが。

「さて、轟音が聞こえたから何かと思ったが」

その時、鎧を着込んだ男がこちらへと近づいてきていた。
どうやら足立と後藤の戦闘音を聞きつけ、向かってきていたのだろう。
警戒と同時に盾と剣が構えられている。慌てる新一を余所にアカメが刀を降ろし、事情を話す。
男も盾はそのままに剣を降ろした。

「なるほど。君達は殺し合いに乗らず、仲間の救出にか……。
 ああ、名乗り遅れたが私はヒースクリフ。同じく殺し合いには乗っていない」

丁寧で威厳のある声が新一の印象に残る。
ヒースクリフは新一達の事情の一部始終を聞き、手を顎に当て思案に耽った。
それから数秒達、手を顎から離し口を開く。

「立ち聞きをする気はなかったのだが、君達は先ほど西に向かうと言っていたね」
「ああ、その通りだ。エスデスに狙われたまま奴の居る場所に向かうのは危険だからな。
 ……私一人ならまだしも」
「ふむ。だが、同時に他の仲間の安否も気になると。
 そういうことだね?」

頷くアカメを見ながら、ヒースクリフは話を続ける。

「地獄門。この近くにある施設だが、どうやらロックが掛かっているらしい」
「ロック……? 破壊すればいいだろう」
「事はそう単純ではない。物理的な破壊を試みた男が居たが、彼は一瞬で無力化されてしまった。
 そういう防衛機能があるのだろう」

以前、黒が電撃で地獄門をこじ開けようとした時、謎の音波で黒は瞬く間に無力化された。
あれは黒以外でも、ヒースクリフやアカメのような物理的な達人であっても破壊されない、何らかの機能があるに違いない。


545 : 交差 ◆ENH3iGRX0Y :2016/02/01(月) 20:37:15 IW7wbxzg0

『君はIT系の知識を持っているのか』
「その通り。私はこの地獄門のロック解除が、殺し合いからの脱出に繋がると考えている。
 一つのロックは既に解かれていた。残り二つ、恐らくこの島の四方の端にそのロックがある筈だ」
『島の中央は人の通りが多い。謎解きを置くなら、気づかれ辛い端……か」
「話が早いな」

黒に話したのと同じ説明をするのは面倒だったのだが、ミギーの知能が予想以上に高い為に話がスムーズに進んでいく。
ヒースクリフは地図を広げ、既に仲間の一人が南の施設へ向かった皆を伝える。

「南、学院の辺りだよな。
 もしかしたら、白井と高坂の二人がそのロックを解いたんじゃないのか?」

『あるいは、田村玲子の可能性もある。
 奴も知能が高い上に初春という少女もその手の知識に長けていた』

これは貴重な情報が入ったとヒースクリフは心の内に留める。
田村玲子、そして初春飾利。どれだけの情報を得ているのか分からないが、新一達の話を鵜呑みにすればロックを解いたのは彼女達の可能性が高い。

「仮に君達の仲間がロックを解除したと考えれば、残るのは北西と南西か。
 なら、尚更だ。一つ私のかわりに北西の方を君達は回ってみてはくれないか?」

ヒースクリフが頼んだのは、北西の探索だった。

『……それは良いが。君ほどIT系の知識に長けたものは私達の中には居ないぞ。
 私も多少は弄れなくもないが』

ミギーは新一の家でパソコンを触ってる間に多少の知識を得てはいるが、それでも専門職の知識には劣る。
だがヒースクリフはそれを理解したうえで続けた。

「何、解けるなら解いてもらい。解けなくても場所さえ分かれば十分だよ。
 私も南の方からそちらの北西へ回っていくつもりだ。あとでまた合流しよう。
 人手が足りなくてね。ちょっとしたお遣いだと思ってくれればいい。
 それに南の仲間の事なら、私が見てくる。これでも腕に自信はあるし、エスデスとも知らない仲ではない」
『……良いだろう。我々の安全も保障できるし、花陽の方も君に任せられる。
 私はこの提案を受けた方がいいと思うが』
「俺も、いいと思うけどアカメは?」
「……私も構わない」

訝しげな目をするアカメだが、ミギーがそれを承諾したのでアカメは異論を唱えない。
会談は終わった。


546 : 交差 ◆ENH3iGRX0Y :2016/02/01(月) 20:37:31 IW7wbxzg0

「……ああ、そうだ。泉くん、最後にもう一つ」
「なんですか?」
「その背中の女の子、もしかして雪ノ下君かな?」
「え、ええ。それが?」
「いや、黒という男が彼女の事も探していてね。
 余裕があれば彼とも合流してあげてくれ。そうそう、銀(イン)という少女にも会えたらよろしく頼むよ。黒君のガールフレンドらしい」

黒といえば図書館で狡噛が話していた戸塚の同行者。
彼から名前を聞いているのであれば、ヒースクリフもその事を知っていてもおかしくはないだろう。

「分かりました。……そうだ。忘れるところだったんですけど、この首輪――」
「?」

施設内を通り、足立や後藤の目に付かないよう駆け出す新一達を見送りヒースクリフも踵を返した。
どうやら事態はかなり進んでいるらしい。

(アカメとエスデス……どちらに付くべきかな)

現在の段階では戦力はエスデスだが、人脈と情報の点でアカメが勝る。
しかしその情報は既に入手した上に人脈も黒に借りある。その点エスデスは戦力は問題ない、アカメ以上の実力は魅力的だ。
だが、その性格が厄介か。聞けばかつての仲間と内輪揉めで盛大に暴れていたらしい。
このまま行けば、他の参加者と絶対的な溝が生まれ、孤立してもおかしくないだろう。

(エスデスも切り捨て時か……だがまだ下手に敵対する時ではない)

エスデスを味方に付けるデメリットも高いがを敵に回すデメリットもまた遥かに大きい。
切り捨て時を見誤るわけにはいかない。

(そして、キリト君の首輪か……。彼が私に何かを託すとはね。
 さて、この首輪に何が秘められているのか……)

懐から取り出し新一から受け取った首輪を手で弄ぶ。
とんだ寄り道になったが、新たな情報と手駒が入った。これでタイムロスもチャラになるだろう。
何より人手が増えたのはやはり有難い。
北の探索や銀の捜索もこれで効率は上がるだろう。
その時、より大きい雷音が響き渡る。どうやら後藤と足立の戦いに決着が付いたようだ。
ヒースクリフは急ぎ足に駆け出した。

「行くか。足立に興味もあるが、私は私のクエストがあるからね」







547 : 交差 ◆ENH3iGRX0Y :2016/02/01(月) 20:38:12 IW7wbxzg0



「逃がしたらしいな」

はるか先にまで吹き飛ばされた後藤は忌々しく呟く。
今から戦場に戻ったところで足立も泉新一も居ないだろう。

(あの男があれだけの力を隠していたのもそうだが、やはり俺が本来の戦い方が出来ないというのも敗因の一つか)

足立が土壇場で覚醒したのもそうだが、やはり後藤は四肢のパラサイトを操り縦横無尽に動く戦い方が性に合っているらしい。
今のスタイルでは以前ほどの戦績も上げられない。

(あの敗北の後遺症がここまで響くとはな)

この場において刻まれた敗北の記憶。
退けられたり逃がした場面も少なからずあったが、明確に敗北したのはやはり心臓を潰された黒やイリヤとの戦いだ。
あれがきっかけでここまでの弱体化を強いられたのだ。

「首輪換金か……使ってみるか?」

ここまで興味を示していなかった換金システムだが、もしかしたら補充のパラサイトを換金できる可能性があるかもしれない。
幸い、アンジュを殺害して得た首輪もある。

(アインクラッドか武器庫か……)

換金システムを試すなら選択肢は二つ。
闘技場はまだ黒が居る可能性もあり、危険性は高い。
そうなると距離的にもアインクラッドが中々魅力的だが、後藤が選んだのは――

(武器庫だな)

泉新一は恐らく氷の女を怖れている。
その事を考えるとやはり南下は避ける筈だ。そしてその行き先は北西しかない。
ならばあえて武器庫の方を行き、奴らの先回りをして待ち伏せるのも悪くない。

後藤は首輪を仕舞うと武器庫へと繋がる橋へと駆け出した。


548 : 交差 ◆ENH3iGRX0Y :2016/02/01(月) 20:38:30 IW7wbxzg0



【G-2/一日目/夕方】


【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:健康、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン、神聖十字剣@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限あり)×2@魔法少女まどか☆マギカ、指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、クマお手製眼鏡@PERSONA4 the Animation、キリトの首輪
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:もっと異能を知りたい。見てみたい。
1:銀と言う少女を探す 。
2:黒とできれば合流したい。
3:チャットの件を他の参加者に伝えるかどうか様子を見る。
4:主催者との接触。
5:ロックを解除した可能性のある田村玲子、初春と接触したい。
6:北西の探索を新一達に任せ、自分は南の方から探索を始める。
7:南の花陽やヒルダの方も余裕があれば探す。
8:キリトの首輪も後で調べる。
[備考]
※参戦時期は1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。
※平行世界の存在を認識しました。
※アインクラッド周辺には深い霧が立ち込めています。
※チャットの詳細な内容は後続の書き手にお任せします。
※デバイスに追加された機能は現在凍結されています。



【F-2/一日目/夕方】


【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(大)、頭部出血(中、止血済)、頬に掠り傷、全身にかすり傷、奥歯一本紛失、顔面に打撲痕
[装備]:サラ子の刀@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:なし
[思考]
基本:悪を斬る。
1:北西の方に向かいロックの探索。
2:キンブリーは必ず葬る。
3:タツミとの合流を目指す。
4:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
5:村雨を取り戻したい。
6:血を飛ばす男(魏志軍)と御坂と足立は次こそ必ず葬る。
7:エスデスを警戒。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が学園都市に属する能力者と知りました。
※ディバックが燃失しました
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。




【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(大)、出血(止血済み)、横腹に刺し傷、ミギーにダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム品0〜1 消火器@現実、分厚い辞書@現地調達品、
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:北西の方に向かいロックの探索。
2:後藤、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂美琴らしい?)エスデスを警戒。
3:ホムンクルスを警戒。
4:サリア……。
5:イリヤって確か、雪ノ下達が会った……。
6:余裕ができたら指輪やロボットも探してみる。
7:黒って人とも合流した方が良いのか……。
[備考]
※参戦時期はアニメ第21話の直後。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※ミギーの目が覚めました。


549 : 交差 ◆ENH3iGRX0Y :2016/02/01(月) 20:38:42 IW7wbxzg0


【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大) 、腹部に切り傷(中、処置済み)、睡眠中
[装備]:MPS AA‐12(残弾4/8、予備弾倉 5/5)@寄生獣 セイの格率
[道具]:基本支給品、医療品(包帯、痛み止め)、ランダム品0〜1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
0:セリューには由比ヶ浜を殺した償いを必ずさせる。
1:体を可能な限り休めたあと、泉新一たちと合流したい。
2:比企谷君……由比ヶ浜さん……戸塚くん……
3:イリヤが心配。
4:サリアさんは……。
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※槙島と情報交換しました。





【F-2/一日目/夕方】


【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(極大)、
    爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血、アドレナリンにより痛み・疲労を感じていない、プッツン
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)、ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み) 警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する。(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:皆殺し。
1:特に鳴上は必ず殺す。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。


550 : 交差 ◆ENH3iGRX0Y :2016/02/01(月) 20:38:53 IW7wbxzg0


【F-4 橋/一日目/夕方】



【後藤@寄生獣 セイの格率】
[状態]:寄生生物一体分を欠損、寄生生物三体が全身に散らばって融合
[装備]:S&W M29(4/6)@現実、鎖鎌@現実
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、スピーカー、デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾45@現実、一撃必殺村雨@アカメが斬る!(先端10センチあまり欠損)、アンジュの首輪、不明支給品0〜1(アンジュ分、武器らしいものはなし)、不明支給品0〜1(キリト分、武器らしいものはなし)
[思考]
基本:優勝する。
0:武器庫で首輪換金を試す。出来ればパラサイトを補充したい。でなくとも新一達の先回りをする。
1:泉新一、田村玲子に勝利し体の一部として取り込む。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。ヒースクリフ(茅場晶彦)に興味。
5:田村怜子・泉新一を探し取り込んだ後DIOを殺す
6:黒、黒子とはこの身体に慣れてからもう一度戦いたい。
7:武器を使用した戦闘も視野に入れるが、刀(村雨)はなるべく使用しない。
8:氷の女(エスデス)とも戦ってみたい。
9:足立とは後でリベンジしたい。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。
※黒い銃(ドミネーター)を警戒しています。
※寄生生物三体が全身に散らばって融合した結果、生身の運動能力が著しく向上しました。
ただし村雨の呪毒によって削られ、130話「新たな力を求めて」の状態を100%とすると現在は75%程度です。
※寄生生物が0体になった影響で刃は頭部から一つしか出せなくなりました。全身を包むプロテクターも使用できなくなりました。
※ミギーのように一日数時間休眠するかどうかは不明です。


551 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/02/01(月) 20:39:36 IW7wbxzg0
投下終了です


552 : 名無しさん :2016/02/01(月) 20:49:34 9WsQ4YkE0
投下乙です

足立さんは異能生存体か何かなのか(困惑)


553 : 名無しさん :2016/02/01(月) 21:54:01 0tXFOpOoO
投下乙です

後藤の感覚だと、パラサイトは武器扱いなのか


554 : 名無しさん :2016/02/02(火) 00:59:30 x6C8aUtw0
投下乙です
ヒースクリフとミギーは結構気が合いそうだな
あと足立さんは逆境に陥るたびに輝きが増してる気がする…w
そのうち番長と出会うことはあるのだろうか


555 : 名無しさん :2016/02/03(水) 00:08:41 sca3SwVc0
たしかルールではパラサイトを支給品として出すのはダメだったんだよな
首輪換金システムで補充として使うのはアリになる扱いなのかな


556 : 名無しさん :2016/02/03(水) 08:27:41 DeVmp1XY0
パラサイト禁止は一般人が魔改造されることと、
寄生獣が登場話でいきなり強くなることを防ぐためだろうから
後藤さんが力を回復するために消費する分には問題ないかと


557 : 名無しさん :2016/02/05(金) 01:01:09 qqstXiNE0
告知です
2月5日の0時より2月12日の0時まで仮投下スレで放送案を募集中です
放送案募集期間中の予約は禁止となりますのでご了承ください


558 : 名無しさん :2016/02/14(日) 00:14:55 TkX8HUvU0
告知です
投票スレで第三回放送案を募集しています
期限は今日一杯です

それと予約の解禁は火曜日の零時からとなります


559 : ◆dKv6nbYMB. :2016/02/15(月) 00:21:29 locdF9Es0
放送話投下します。


560 : 第三回放送 ◆dKv6nbYMB. :2016/02/15(月) 00:22:55 locdF9Es0
ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ。

きみ達の知りたい情報を発表する重要な時間だが、先に謝罪しておかなければならないことがある。
先の放送で設置した首輪交換機についてだ。
既に何名かは試してくれたようだが、なにぶん設置したばかりの装置でね。少し不具合が生じていたようだ。
放送の終了と共にデータを更新し、不具合がないように改善する手筈だ。
なにも得られなかった首輪については今回限りは返却しておこうと思う。


さて、そろそろ陽が沈むころになると思うが、夜はなにかと危険が多い。
くれぐれも周囲には注意してゲームに臨みたまえ。

...では、禁止エリアを発表する。

禁止エリアは

H-6
B-4
E-8

だ。

余談だが、E-8においては、電車に乗っている間は首輪が禁止エリアに反応しないようになっている。
なので、電車は安心して利用してくれて構わないよ。

続いて死亡者だ。

暁美ほむら
空条承太郎
セリュー・ユビキタス
アンジュ
西木野真姫
サリア
ゾルフ・J・キンブリー
里中千枝
ジョセフ・ジョースター

以上9名だ。


...さて、72名もいた参加者も既に半分を切っている。
ここまで生き残った参加者しょくんは、みな手強い者だと思って貰っていい。
純粋に戦いが強い者。
言葉巧みに人心を操り集団に溶け込む者。
運が強かった者。
その『強さ』は様々だ。そして、その『強さ』は時に戦況を覆す思いもよらない要因になるかもしれない。故に、一見大したことが無いと思える相手でも、決して侮ることなかれ、とだけ忠告しておこう。
温厚なふりをして、牙を研いでいる者もいるかもしれないしね。
そのことを肝に銘じてこれからもゲームに励んでくれたまえ。


それでは、健闘を祈るよ。


561 : 第三回放送 ◆dKv6nbYMB. :2016/02/15(月) 00:24:03 locdF9Es0


暗い、暗い部屋の中。

広川の放送は、"彼"のもとまでも届いていた。

"彼"は思いを馳せる。

かつて、小さなフラスコの中で見たあの光景。
"彼"が名前をつけた、"彼"の『親』と共に眺めていた夕陽。
あれは綺麗だった。

―――お前から見たらバカバカしいかもしれないけどよ。家族とか仲間とかそういうものに幸せってのがあったりするんだよ、俺たち人間は。

―――ふーん、そんなもんかねえ。

―――じゃあ、おまえの幸せってなんだ?

そんなことを語り合っていた。
確かその時は、フラスコから出られる身になれば幸せだと答えたっけ。
そうだ、始まりはそんなささやかな願いからだった。
せっかく生まれたのだから、もっと多くのものに触れてみたい。何にも縛られずに歩いてみたい。
ただ、それだけだった。

ところが、年月を重ねる内に願いは肥大化していき、留まることを知らなかった
思惑通りに自在に動ける身体を手に入れてから、どれほどの時が過ぎただろうか。
ふと、思ったのだ。

より高みに昇りつめたい。完全な生物になりたい、と。

そのために、長い、長い年月をかけて準備をした。

『色欲』・『強欲』・『怠惰』・『暴食』・『嫉妬』・『憤怒』・『傲慢』...感情の根本を為すものを切り離したりもした。
やがては、『彼』を見下ろす神ですら目障りになり、支配下に置こうとした。
時には誰にも気づかれないように、時には欲にまみれた人間を利用し、時には『子供』と称した分身たちを使い。
その願いを叶えるためなら、"彼"はなんでもやった。

―――しかし、"彼"の願いは果たせず、光の届かないフラスコの中に閉じ込められる。
"彼"の残したものはなにもなく、"彼"を想う者もおらず、"彼"の夢を継ぐ者もいない。
これが、"彼"の本来辿るべきはずだった未来。覆すことのできない運命だ。

"彼"には、それが認められない。
教えられた未来を、受け入れたくない。
だから、こうして新たな力と可能性を手に入れ改めて舞台に立とうとしている。


562 : 第三回放送 ◆dKv6nbYMB. :2016/02/15(月) 00:24:54 locdF9Es0

呪いよりも濃い『血統』という運命にのまれる『ジョースター』と等価交換の法則を無視して精神を力に変える『スタンド使い』。

全てを作る神に等しき『調律者』と『彼の恩恵を受けし者』、そして彼に造られた世界に生きつつも抗い続ける『ノーマ』と『古の民の末裔』。

血と血を洗う殺戮に興じる世界における、負の感情を誰よりも受け止めてきた『暗殺者』・『軍人』・『危険種の血』。

自らと同じく『神』へと到達するために研究される、科学と魔術の交差する世界の『超能力者』。

その身に孕んだ呪いと引き換えに、奇跡を起こした『魔法少女』と、神の領域を侵す可能性を秘めた『叛逆者』。

己の影―――内に秘める闇と向き合い、己の力とする『ペルソナ使い』。

周囲の人間を湧き立たせる魂の輝きを放つ『アイドル』と『スクールアイドル』、そしてその輝きを見つけ、導く力を持つ『プロデューサー』。

奇跡の産物、地獄門からの恩恵を受けし『契約者』と『最大の災厄』。

他者の身体を奪い生き、可能性を求め続ける『寄生生物』。

戦いの末に願いを叶える権利を得る『聖杯』と、それの儀式の器(カギ)となる『アインツベルン』。

嘘と本物が入り混じる平凡な生活の中、『本物(しんり)』を求め続ける少年少女。

統制された倫理感の中、それでも己という存在を崩さない『精神病質者』と運命の如き因縁を抱く『復讐者』。

空想を現実へと干渉させるまでに至った『ゲームマスター』と、彼に作られたシステムという壁を打ち破った『プレイヤー』。

計画のためにその身を与え、"約束の日"において血を取り込むことができなかった『"彼"の息子たち』




―――そして、"彼"の乗り越えるべき運命ともいえる『錬金術師』。


563 : 第三回放送 ◆dKv6nbYMB. :2016/02/15(月) 00:26:02 locdF9Es0


本来の世界では、"彼"は結局は真理―――『神』へと到達できなかった。
しかし、幾多もの可能性を秘める世界、そしてその世界で生きる者たちの血をもってすれば。
数多の可能性を持つ魂を取り込めば、あの『真理』の領域へと到達できるかもしれない。
そして、神を支配し全てを手に入れる。
そのためだけに、"彼"は与えられた力を利用してまでも、この殺し合いを開いた。

無論、願いを叶える方法がそれだけではないのは知っている。
聖杯やインキュベーターなど、奇跡を与えてくれるものの存在は知っている。
しかし、それではダメなのだ。結局、それでは支配されているのと同じだ。
だから、例え遠回りであろうとも、"彼"はあくまでも自分のやり方で、力で、願いを掴みたいと思っている。


"彼"は目を開け、ジッと天井を見つめる。

無表情でありながら、その先にあるものを見据えているかのようにただ一点のみを見つめている。

(お前のことだ。私の計画が成功しようが失敗しようがどうでもいいと思っているのだろう?)

"奴"の目的は、経過の観察と結果だ。
殺し合いの参加者も、広川もアンバーも、そして自分も。全ては"奴"の好奇心を埋めるための手ごまに過ぎないのだろう。
この殺し合いの果てがどうであれ、"奴"は干渉をしないし、手助けもしないだろう。

いいだろう。いいだろう。いいだろう。
精々、己の玉座が脅かされるその時まで私を見下ろしているがいい。

"彼"に力を与え、高みの見物を決めている"奴"へと向けて。
やがて、"彼"は微かに口を動かした。




―――貴様も私の敵だ。イザナミ


564 : 第三回放送 ◆dKv6nbYMB. :2016/02/15(月) 00:26:35 locdF9Es0
投下終了です。


565 : ◆MoMtB45b5k :2016/02/16(火) 00:40:13 RmU5E7KM0
放送投下乙です。
お父様、アンバー、イザナミ……いよいよ主催陣営も本格的に姿を現し始めましたね。

内容について一つだけ質問がありますので、迷いましたが後ほど議論オンリースレの方に書き込んでおきます。
よろしくお願いいたします。


566 : ◆dKv6nbYMB. :2016/02/16(火) 18:47:46 0r0P.6Dc0
◆ENH3iGRX0Y氏の「交差」について質問がありますので、議論オンリースレの方に書き込んでおきます。
よろしくお願いいたします。


567 : ◆dKv6nbYMB. :2016/02/18(木) 00:52:33 /o0vqtGc0
投下します。


568 : 黒交わりて、禍津は眠る ◆dKv6nbYMB. :2016/02/18(木) 00:54:50 /o0vqtGc0



黒はカジノへと着くなり、建物中を探し回った。
しかし、何者かが使用した痕跡はあったものの、収穫はなにもなし。
改めて、周囲の探索を始めようとしたその時。

「!?」

突如、轟音が鳴り響く。
音のした方角へと目を向ければ、煙が立ち昇っており、なにか大規模な戦闘があったことを察する。

(銀...!)

あの場に銀がいるかどうかはわからない。
しかし、黒は脇目も振らず感情に従い走りだす。
彼女を護る。ただそれだけのために。

その道中で。

「...!」

彼は見つけた。
腕の中で、息絶えた少年―――戸塚彩加の死体を。

(戸塚...)

彼の遺体は、野ざらしにされていた。
あの場に残ったタツミは、彼の埋葬をしなかったようだ。
しかし、そのことを責めるつもりはない。
あの場は皆、手一杯だった。
キリトの背中を押すためあの場を引き受けたタツミも、見るからに疲労困憊だった。
仕方のないことだ。戸塚を埋葬する余裕はなかったのだろう。
しかし、こうして彼の遺体を見つけた以上、放っておくわけにはいかない。
だから、黒は。


「首輪は貰っていく―――すまない、戸塚」


569 : 黒交わりて、禍津は眠る ◆dKv6nbYMB. :2016/02/18(木) 00:57:08 /o0vqtGc0

音ノ木坂学院の海未たちのように埋葬してやりたいとは思う。
しかし、銀をいち早く保護しなければならない現状、彼を埋葬している暇も惜しい。
なにより、戸塚自身が望まないだろう。
自分を殺した少女を許し、最期まで他者を想って逝った男だ。
自分に構う暇があったらみんなを守れと頼むだろう。
だから、黒は躊躇わない。
遺体を近くの建物へと運び、床に寝かせる。
そして、友切包丁で戸塚の首を落とし、首輪を回収した。


(全てが終わったら埋葬してやる...だから、しばらく待っていろ)

部屋を出る直前に、黒は誰にも知られぬ約束を交わす。

―――みんなを、いりやちゃん、を『助けて』

彼の仲間の一人、由比ヶ浜結衣は二回目の放送でその死が確認できた。
イリヤもまた、三人を、特にクロエを殺した重圧に耐え切れず被害を広げるつもりなら、それ相応の対処をしなければならない。
戸塚との約束はほとんど破れかけている。これ以上も守れる保証はない。

だが、それでも。いや、だからこそ。
新たな―――それも、死者に対しての約束を交わさずにはいられなかったのは。
そんな非合理的な行為をしなければならなかったのは。

それが黒(ヘイ)という人間だからだろう。


戸塚を安置した建物を後にし、再び走りだす。
黒は振り返らない。ただ、前を見て進む。
仲間であり相棒でもある最愛の彼女を護るために。
交わした約束を守るために。




その背中を押すように。



ふわり、と彼の頬を優しく風が撫でた気がしたのは。


―――がんばって


きっと、気のせいではないだろう。


570 : 黒交わりて、禍津は眠る ◆dKv6nbYMB. :2016/02/18(木) 00:58:40 /o0vqtGc0




「はぁっ...くそっ」

ふらふらと覚束ない足取りで、足立は進む。
彼の目的地はジュネス。
ヒルダの話では、里中千枝がそこを訪れている手筈らしい。
それに、『あいつ』もわかりやすい目印としてここを訪れる可能性も高い。
一度は保身のために避けてしまったが、奴らを殺すと決めたからにはもう躊躇う必要はない。
例え優勝が無理だとしても。奴らを殺さずにはいられない。

いまの足立を支えているのは憎しみ。
こんなクソのようなゲームを開き、クソのような待遇ばかり押し付けてくる広川。
高慢ちきな態度を取り、足立がこうして苦しんでいる要因の大半を占めるエスデス。
クソみたいなイチャモンつけて殺しにかかってきたエンヴィーにキチガイモンスター後藤。
そして、下らない友情ごっこで正義を振りかざし、自分を否定してくるクソガキ共。

彼らを破壊しつくさねば、足立の負の感情は収まることは決してない。

(負けてたまるかよ...俺が、あんなクソどもに...!)

今すぐにでも楽になりたい。
しかし、ここで膝を折れば、自分は奴らに敗北したことになる。
認めてたまるものか。
そんなこと、決して...!

足立の怒りがピークに達しようとしたその時だ。


『ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ』


放送の声が鳴り響く。

相も変わらず対して感情の込めない喋り方に苛立ちを憶えながらも、生き残るために耳を傾ける。
その際、首輪交換機がどうとか言っていたが、結局首輪を手に入れてない自分には関係ない。


『さて、そろそろ陽が沈むころになると思うが、夜はなにかと危険が多い』

(あー...そういや、DIOが吸血鬼とか言ってたっけ)

DIO。エスデスが目的とし、あの承太郎やアヴドゥルが最も警戒していた男。
日光に弱いようだが、太陽が沈めば弱点はなくなってしまう。
一時期はどうにか懐に入り込めないかと思っていたが、この有り様ではかなり厳しい。
良くて都合の良い時の盾。最悪その場で餌にされるのがオチだ。
できれば会いたくはないものだ。

(禁止エリアは...どこも関係ねえな)

次いで禁止エリアとして示された場所はH-6、B-4、E-8。
どれも、足立からは程遠い。
対して気に掛けることもない。


571 : 黒交わりて、禍津は眠る ◆dKv6nbYMB. :2016/02/18(木) 01:01:04 /o0vqtGc0

次いで、広川は死亡者の名を告げる。


『暁美ほむら』

(やっぱ死んでたか。ハッ、ざまぁみろってんだ)
一番最初に呼ばれたのはあの少女。
あの執念深さに魔法少女という不死身性。万が一でも生き残っていたら嫌だと思っていたが、トドメを刺す手間が省けた。


『空条承太郎』

「!」
次いで呼ばれたのはあの男の名前。
足立を散々に痛めつけた上に、これまでの苦悩のキッカケとなった張本人。
放っておけば死ぬだろうとは思っていたが、あの傷が開いたのか、それとも何者かに襲われたのか...
どちらにせよ、かなり厄介な奴が消えてくれたのはありがたい。

『セリュー・ユビキタス』

「は、はは...」
思わず頬が緩む。
ほむらや承太郎と同じく、これから足立をしつこく追い回してくるであろうと予想していた女が消えた。
これで三人。とりわけ厄介な奴らが消えてくれたことには喜びしか浮かんでこない。

『里中千枝』

「――――ッハハハハハ!!」

呼ばれた四人目。
厄介だと思っていた奴らが四人も消えた事実に、足立は笑いを止められなかった。
ラッキーだ。ここにきて、やっとツキが廻ってきた。
ピークに達そうとしていた怒りもだいぶ収まった。

(なあ、どんな気分だよ鳴上ィ。大事なお友達が全員死んで、それでもお前は正義ヅラしてられるか、あぁ?)

なによりも『絆』という甘い戯言を信じたがっていたやつだ。
それはそれは悲しむことだろう。
見てみたい。あいつがいま、どんな不様な姿を晒しているのかを。

「まあ、なんにせよ出会ったら殺すのは確定だけどなぁ。その次はてめえだ、エスデスちゃんよぉ」

エスデス。現状、トップ3に入るほどに足立が憎んでいる女傑だ。
こんな状況を作りあげたキッカケは承太郎ではあるが、更に逃げ場を無くしたのは間違いなく彼女である。
おまけに、まどかはともかくアヴドゥル殺害の罪まで着せられた。なんで三人で行動していたのにあの人だけ死んだのか、こっちが聞きたいくらいだ。
湧き上がってくるエスデスへの怒りを唾と共に吐き捨てる。

「俺より若いくせにイバり散らしやがってクソ女が。なぁにが『まどかとアヴドゥルを殺したのはお前だ』だよ。てめえの無能を棚に上げて俺に押し付けやがって」

よくよく考えれば、だ。
エスデスがアヴドゥルとヒースクリフを連れて遠征に出向き、承太郎とまどかをコンサートホールに残したのが全ての発端だ。
遠征に行きたいなら勝手に一人でいけばよかったし、あの二人さえ残っていればまどかは花京院を殺さずにすんだ。
そうすれば、コンサートホールで死人は出ずに平和に終わっていたはずだ。
だが、二人を連れていったせいでまどかは錯乱して花京院を殺し、承太郎はまどかを殺そうとした。
足立がまどかを殺さずとも、彼女は近い内にあの頑固な承太郎に殺されていたことだろう。
挙句の果てに連れて行ったアヴドゥルまで死なせている。
あの時の口ぶりから、アヴドゥルとは別行動をとっていたようだが、これはもう人材の配置ミスとしか思えない。
だから俺は悪くない。悪いのはエスデスだ。


572 : 黒交わりて、禍津は眠る ◆dKv6nbYMB. :2016/02/18(木) 01:02:26 /o0vqtGc0
「身体だけのクソ女が...てめえなんざ、抱く気も起きねえや。見つけ次第ブッ殺してやる」

いくら身体が良くても、生意気なガキ(雪乃)以上に性格に問題のある女では、性欲などどうでもよくなってしまう。

(そうだ...俺は勝ってるんだ。あのゾンビ共にも、承太郎にも。後藤やエンヴィーにだって負けてはいねえ)

なにより、いまの足立には自信が湧き出ていた。
あれだけの猛者と戦い、それでも勝ち残っているという自信が。

「敗者はあいつらで勝者は俺...やれる。殺ってやるよ」

そうだ。エスデスも後藤もDIOもエンヴィーもアカメ達も『アイツ』も。
みんな、みんなぶち殺してやる。
それが終わったら最後にてめえも殺してやるよ、クソ主催者。
内心でそう吐き捨て、足立は再びジュネスへの歩みを進める。
いまの彼は、それなりに上機嫌だった。

上機嫌になって『しまった』。


「あ...?」


突如、脚の、いや全身の力が抜け、がくりと崩れ落ちてしまう。

「な、なんだよ、急に」

それだけではない。
頭痛に吐き気、更には眠気までもが急激に足立を襲う。

(なんだよコレ...なんだよコレ!?)

足立は気づいていない。
一時的に痛みや疲労が和らいでいたのは、その身に刻み込まれたダメージが消えたわけではない。
屈辱から生まれたアドレナリンや後藤に追い込まれ生じた憎しみや怒りのお蔭である。
それらが足立を支えていたからこそ、彼は休憩も無しにここまで歩くことができた。
しかし、彼は放送を聞き、安堵し、自信をつけてしまった。
そのため、彼を支えていたモノは薄まり和らげていた痛みや疲労もぶり返してしまったのだ。

(ふざけんな、こんなところで倒れたら...!)

いまの足立に味方はいない。
それどころか、彼を敵だと認識している人間は多い。
こんなところで気を失えばいいカモだ。

(チク、しょう、がぁ...)

しかし悲しいかな。
本人の意思に反して、傷ついた身体は言う事を聞いてはくれない。
重くなる目蓋に耐え切れず、足立は意識を手放した。


573 : 黒交わりて、禍津は眠る ◆dKv6nbYMB. :2016/02/18(木) 01:05:56 /o0vqtGc0


「なんだこれは...」

『嫉妬』が去った後のジュネスで、黒は奇妙なものを見つけた。
氷漬けの異形。
下半身は魚のようで、上半身は鎧に包まれた『人魚の騎士』とでもいうべきものだろうか。
これがなんなのかはわからないが、その禍々しさは氷越しでも伝わってきた。

(これが生きているかどうかはわからないが...言葉が通じるとは思えないな)

氷はかなり頑丈に出来ていた。
ならばわざわざこれを破壊し解放するべきではないだろう。
それを直感した黒は、その場を離れる。

(もし、これに銀が関わっていたら...やはり、地獄門へ向かっているだろうな)

ジュネスを後にし、北へと向かう黒。

それから数刻後のことだった。


北部で雷鳴が轟いた。
その威力は凄まじいもので、少なくとも三、四エリア分は離れているであろうこの場所でも視認することができた。

(雷...まさか)

あれほどの電撃を出せる心当たりは二つ。
黒子の言っていたサリアと御坂美琴だ。
サリアもそうだが、御坂もまた殺し合いに乗っている可能性が高いと黒子から聞かされている。
もし、そんな彼女たちが銀と遭遇すれば...

(銀!)

黒は焦っていた。
地獄門でヒースクリフと出会ってから誰とも出会っていない。
こうしている間にも銀は戦っているかもしれないのに。
こうしている間にも彼女は苦しんでいるのかもしれないのに。
その焦りが、彼を愚直に動かした。

とにかく、いまは情報が欲しかった。

銀はアレには巻き込まれておらず、無事であるという証拠が。

―――ここで彼の不運となったのは、同じF-6エリア内に銀を連れているタツミもいたこと。
雷を無視し、念入りに探し回れば合流することができたのだが、彼がそれを知る由はない。


574 : 黒交わりて、禍津は眠る ◆dKv6nbYMB. :2016/02/18(木) 01:07:22 /o0vqtGc0
『ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ』


響いてきた広川の放送に足を止め、耳を傾ける。
首輪交換機が不調だったとか形式的な挨拶が続くがそんなことはどうでもいい。

次いで示された禁止エリア。
どこもいまの自分には特に問題はない。


そして、最後に告げられる死亡者。
果たして、その中に銀の名前は―――なかった。

ふぅ、と一息をつき、これからの方針を考える。


黒は、この数時間だれとも出会えていない。
銀を探そうにもほとんど手がかりもない状況だ。
そのせいで、他の参加者に比べて情報面で遅れをとっている。
やはりなによりも情報が欲しい。
ならば、あの電撃のあった場所...あれだけの量の電撃ならば既に戦闘は終わっているだろうが、あそこを目指すのがいいかもしれない。
もしこの付近で銀とすれ違っていたとしても、彼女も地獄門を目指しているはず。
うまくいけば合流できるかもしれない。
そんな僅かな期待を込めて、黒は電撃のあった場所へと北上する。

どれほど進んだだろうか。

やがて、黒は路傍に倒れ伏す黒スーツの男を発見する。
警戒心を最大限に、友切包丁を構え、ゆっくりと男に近づく。

「...お前の名前はなんだ」

声をかけてみるが、全く反応がない。
死んでいるのか、と思い、脈を測ってみる。
弱弱しいが、確かに脈は動いており、呼吸もしている。
どうやら気絶しているようだ。
デイパックは見当たらないが、なにかないかと懐を弄ってみると、警察手帳と妙な名簿を発見。
警察手帳から判明したが、名前は足立透というらしい。
もう一つの名簿は...どうやら、殺人を侵したものが記載されているようだ。
とはいえ、その人数は20人をゆうに超えており、その大半は黒と戦っている、既に死亡している、黒子たちから聞いた者たちである。
今さらこの名簿で危険人物かどうかを確定することもないだろう。
そのため、黒にとってもはやこの名簿にはほとんど価値が無いと言ってもいい。
黒は、警察手帳と名簿を足立の懐に戻した。


(助ける義理はないが...)

助ける義理は本当にない。
戸塚の知り合いにも黒子や穂乃果の知り合いにもこんな男がいるとは聞いていないし、勿論、黒自身も見覚えのない男だ。
しかし、いまはとにかく情報が欲しい。倒れている方角から見て、この男なら北部であった電撃についてなにか知っているかもしれない。
もちろん、尋問は目を覚ましてからとなるが。


575 : 黒交わりて、禍津は眠る ◆dKv6nbYMB. :2016/02/18(木) 01:08:35 /o0vqtGc0

「さて、どこを探すか...」

足立をデイパックに収納しながら黒は考える。

結局、この数時間で見つけられたのは氷漬けの人魚と半死人の男だけ。
収穫らしい収穫はなにもない。

一番確実性があるのは地獄門で待つことだが、危険人物はまだ多い。
未だ生存しているらしい後藤に魏志軍。
調律者を自称するエンブリヲ。
黒子たちから聞かされた御坂美琴とエンヴィーという変幻自在のホムンクルス。
そして、殺しあいに乗るかも知れないイリヤ。

自分が呑気に待っている間に銀が襲われる可能性は十分に高い。

(運が良ければ黒子たちと合流している可能性もあるが...)

南を探索していた際には誰とも会わなかったが、入れ違いになっている可能性もある。
大人しく学院に残っていればいいが、銀が黒子たちから黒のことを伝えられれば彼女も地獄門を目指し、再び入れ違いになる可能性もある。

可能性、可能性、可能性...

結局のところ、情報が足りない現状では、いくら悩んだところで可能性は確信には変わらない。
どう行動するにせよ、黒は決めなければならないのだ。

地獄門で待つか。
音ノ木坂学院へ向かうか。
再び南下して求め人を探すか。

禍津の混じった黒の選択肢は―――



【F-3/一日目/夜】



【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(極大)、
    爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血、気絶、デイパックの中
[装備]:なし
[道具]ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み) 警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する。(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:皆殺し。
1:特に鳴上は必ず殺す。優先順位は鳴上>エスデス>後藤>その他。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。




【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷、腹部打撲(共に処置済み)
[装備]:友切包丁(メイトチョッパー)@ソードアート・オンライン、黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×2、
首輪×2(美遊・エーデルフェルト、戸塚彩加)
[道具]:基本支給品、ディパック×1、不明支給品1(婚后光子に支給)、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
0:これから向かう場所を考える。
1:銀や戸塚の知り合いを探す。銀優先。
2:後藤、槙島、エンブリヲを警戒。
3:魏志軍を殺す。
4:二年後の銀に対する不安
5:雪ノ下雪乃とも合流しておく。
6:足立の目が覚めたら尋問する。

[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリト、黒子、穂乃果とは情報交換済みです。
※二年後の知識を得ました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。
※黒がジュネスへ訪れたのは、エンヴィーが去ってから魏志軍が戻ってくるまでの間です。


576 : ◆dKv6nbYMB. :2016/02/18(木) 01:09:33 /o0vqtGc0
投下終了です。


577 : 名無しさん :2016/02/18(木) 09:59:12 P4bWiykI0
投下乙です

お邪魔虫が一気に減って喜ぶ足立さんは癒しキャラ、はっきりわかんだね


578 : 名無しさん :2016/02/19(金) 14:24:10 rzc9jY.60
投下乙です
気絶した直後にデイパック内に保護される足立さんは悪運が強い
そして何気にニアミスしている黒とエルフ耳


579 : 名無しさん :2016/02/20(土) 21:11:58 xGQu.UtU0
投下乙です
主催陣営にイザナミが絡むか
QBはいないようだが、コイツはコイツで厄介だよな

足立さんにやっと安息が。これも歪んだ方向だけど成長か
ロワ開始前はデイバッグがここまで便利に活用されるとは思わなかった


580 : ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:16:13 CCW8TCNM0
投下します。


581 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:16:35 CCW8TCNM0
ウェイブ、そしてサリアとの交戦を最大限に愉しんだエスデス。
その足は西へと向いており、自らが辿ってきた道を引き返しつつあった。

(御坂美琴……)

目的は、御坂美琴だ。
雷撃を生み出す少女。
DIOと戦った後に定めた最初の標的。

(まずは、やはり貴様だ)

ジュネスの方角から感じる熱い気配。
イェーガ―ズの獲物たるアカメ。
ペットには丁度よい足立。
興味深い身体能力を持った後藤(らしき男)。

追いたい相手は多かった。
が、サリアの操るアドラメレクの雷。
それがエスデスに、ここまでやって来た本来の目的を思い起こさせた。
狡噛慎也からの情報で東を選んでここまで来たが、反対方向にいるか、どこかですれ違った可能性も十分にあるのだ。


582 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:16:50 CCW8TCNM0

(楽しみは多いがな)

くく、と笑みを漏らしながらエスデスは足を進める。
日は西の方角に沈みかけている。
真夜中に始まったこの戦いも、既に半日が経とうとしているということだ。

『ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ』

そんな思考を読んだかのように、広川の声が響き渡る。
少し足を緩めながら、エスデスは放送に聞き入る。
広川は首輪交換機の件で何かしらのヘマをやらかしたようだが、今はさして興味はない。
重要なのは、死者の発表だ。

(セリュー……逝ったか)

クロメに続き、セリューも命を落とした。
セリューの掲げる正義も、魔物がうごめくこの場では通用しなかったということなのだろう。

(莫迦どもめ)

いちいち涙を流したりなどはしない。

(……仇を取る相手が増えたな)

しかし、クロメの時と同じく、心中でただそっと、誓う。


583 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:17:05 CCW8TCNM0

『そのことを肝に銘じてこれからもゲームに励んでくれたまえ。それでは、健闘を祈るよ』

放送は終わった。
死者の中には暁美ほむら、空条承太郎、ジョセフ・ジョースターの名前があった。
自分以上の時間操作能力を持っていたであろうほむらをはじめ、いずれも黙って狩られるようなことはないであろう強者たちであった。
その3人も、6時間の間にその命は戦場の露となった。
70人以上がいた参加者も、残っているのは半数を切った。
名簿を再確認してみたが、あの友アヴドゥルの仲間たちなどは遂に全滅してしまったようだ。
生死を分けたその条件は、恐らく単純な腕力だけではないだろう。
知力、体力、気力、精神力、そして運。
全てをバランスよく持っている者もいれば、どれか1つが欠けていて、それを補うだけの何かを持っている者もいるはずだ。

そんなことを考えながら、再び足を速める。
先ほどは通り過ぎた図書館の辺りまで辿りついた。
東西を分けるような奈落も、戦闘の跡も、何も先ほどと変わりはない。
だが一点、エスデスの気を引くものがあった。
南の方角にある、小さな建物。
そこから、先ほどまでは微塵も感じられなかった、隠しようもない死臭と汚臭が立ち込めている。
最初にエスデスが通ってから再びここに来るまでのいっときの間に、何かが起きたということだろう。

(面白い)


584 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:17:24 CCW8TCNM0

目的が随分と多くなったが、今の第一の目標は御坂美琴。それは変わりはない。
だが、それに固執するつもりはない。
むしろこの場では、はっきりとした目的を持って行動するよりも、興味の赴くままに立ち回ったほうがより楽しめるはずだ。
先ほどのウェイブの想定外の成長と反抗を思い返しながら、エスデスは笑う。

(一目見てみるか)

西に向かっていたその足を一点、線路の方へ向けた。











(ほう)

それは、幼少時より幾多の戦場を駆け巡って地獄を見、また自らの手で作り出してきたエスデスをしても、なかなかに凄惨と呼べる光景であった。


585 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:17:42 CCW8TCNM0

部屋の中は夥しい血が飛び散っている。
エスデスには馴染みのない近代的なシンクに、目玉が転がっている。
ゴミ箱には、人間の残骸が無造作に打ち捨てられている。
椅子には、確かに見覚えのある2人の少女が、文字通り『縫い合わされて』鎮座している。
そして、部屋の隅で膝を抱え、震えている少女――。

「セリュ……さ……セリューさん、セリューさん……」

「セリューとは私の部下、セリュー・ユビキタスのことか?」

「!?」

エスデスの鋭い問いかけに、少女ははっと顔を上げる。
ここに他人が入って来た事にすら気付いていなかったらしい。
慌てて糸を向ける。

「もう一度聞くぞ。貴様は私の部下、セリューとどういう関係だ?」

糸を造作もなく氷の剣で断ち切ると、エスデスは再び問いかける。
無慈悲に放送で知らされたセリューの死。さらに直後に現れた、謎の女。
卯月は完全にパニックに陥っていた。

「ぶか……部下……」

しかし、田村玲子から感じたような殺気は感じない。
乱れきった頭で、必死に考える。

「もし、かして……、エス……デス……さん?」

「いかにも。イェーガ―ズの長のエスデスとは私のことだ」


586 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:17:59 CCW8TCNM0

「あ、うあ……」

エスデス。
セリューが全幅の信頼を置いた、正義の象徴。

「うああああああああああ!!!」

その人を前に、卯月の思考は真っ白になる。
エスデスに縋りつき、子供のように泣きじゃくった。











(なるほど)

いく分落ち着きを取り戻した卯月から事の大まかな顛末を聞き出したエスデスは、一人頷く。

(セリュー……貴様は、残したのだな)

力及ばず命は尽きたセリューではあるが、自らを慕う者を残すことは果たせたようだ。

(いいぞ、それでこそ私の部下だ……)

弱くとも、勝者にはなれなくても。
意思を継ぐ者を、強さの可能性を残せたならば。
それは、上出来なことだ。

「……」


587 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:18:14 CCW8TCNM0

黙り込んだエスデスに、卯月は不安げに顔を向ける。
卯月は、怖かった。
エスデスはいわば上司の上司であり、正義の象徴だ。
しかしその佇まいは、会ったばかりの頃のセリューとも、あのブラッドレイとも何かが違う、異質な恐怖を感じさせた。

「あの、エスデス……さん、は、正義の味方……なん、ですよね?」

おずおずと問いかける。

「正義、のために……たたかって、くれるんですよ、ね!?」

「正義、か……」

問いかけにエスデスは、ふふ、と笑う。

「セリューの仇を取ってやるのもいいが……
 ……上司として、あいつの誤りはきちんと正しておこう」

冷気のような吐息が感じられるほど、卯月の近くに歩み寄る。

「あ……」

「言っておくが、私はあいつが言うような正義の味方じゃない。
 更に言えば、正義になど何の価値もない」

「――え」

その言葉を聞いた瞬間、卯月の顔は絶望に染まる。
正義に価値はない?
それではセリューは、自分は……?


588 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:18:29 CCW8TCNM0

「この世で価値があるのは強さ、ただそれだけだ。
 正義、それ自体は実に結構なことだ……だが」

少し言葉を切り、続ける。

「正義を為すには力が、強さが必要だ。
 強さがなければ、正義も悪も等しく無価値だ」

「強さ……つよさ……」

あまりに無慈悲な言葉に、卯月の視界は真っ暗になりそうになる。
強さ。
それは、自分に何よりも足りないものだった。
正義を為すことなどできないのではないか。
田村玲子から、ブラッドレイから逃げ出した自分は。
セリューを守れなかった自分は――

「ふ……そう不安がらなくてもいい」

震え、へたり込みそうになる卯月の体をエスデスは支える。

「貴様がやったのだろう? 『これ』は」

椅子の上から、繋ぎ合わされた2人の死体を掴む。
そして、その顔を卯月の鼻先へ突きつける。

「ひっ!?」

自らの犯した罪に、卯月は怯える。


589 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:18:45 CCW8TCNM0

「あ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!!」

「何を謝る必要がある? こいつらは弱かった。だから死んで、こうしてその生を愚弄されている。
 ただそれだけのことだ。弱者が蹂躙されるのは当然だ」

エスデスは、死体を床に投げ捨てる。

「殺したのも貴様か?……違うのか」

卯月からも手を離すと、室内をゆっくり歩きまわる。

「私はこいつらとは知り合いでな。魔法少女の強さはよく知っている。
 ……が、こうして敗北した以上は、単なる肉塊にすぎん。
 肉塊を貴様がどう扱おうと、誰も文句を言うことはない」

カツカツと靴音を立てながら、室内を円を描くように歩く。

「その帝具……」

「あ……」

卯月の元に戻ると、にわかに手をとり、クローステールを検分する。

「貴様によく適合しているようだ。そうでなければ、ああ綺麗にはいかん」

転がる死体を、その縫い目を一瞥する。


590 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:19:00 CCW8TCNM0

「ふ……セリューの忘れ形見か……」

そしてその手は、そっと卯月の腕をなぞる。

「――!」

「怯えるな」

そのまま手を、服の上から体に這わせる。

「っ、ぁ……」

手が体を撫でる度に、卯月の柔らかな体がびくんと跳ねる。

「覚えておけ。
 正義を為したいなら、セリューの意思を継ぎたいなら、奴を越えたいなら――」

エスデスの手は、ついに制服のボタンを外し服の中に侵入する。

「強くなれ。お前にはその資格がある。
 この世で最も価値があるのは強さだ。決して、忘れるな――」


591 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:19:15 CCW8TCNM0

血が凍っているのかと思うような冷たい手が、卯月の素肌の、クローステールには覆われていない部分を撫でる。
未知の感覚に卯月の体は弛緩し、心は陶然とする。
ニュージェネレーションズの仲間のような、仲のいい女の子同士なら。
いつもの346プロの控え室でふざけてじゃれ合ったり、成功したライブの後に感極まって抱き合ったり。
そうしている時に、意図せずお互いの肌や胸に触ってしまうことはある。
しかし、この状況はそんなものとはあまりにも違っていた。
もういないセリューの最も信頼する人物に、弄ばれている。
自分の作り上げたモノが、すぐそばで見守っている中で。
濃密な死臭が充満する中で。
アイドルとしての道を歩んでいれば、ありえない、いや、あってはいけない光景。
卯月には、もうこれが現実なのかどうかが、分らなくなりつつあった。

(つよ……さ……、セリュー、さ……)

強さ。
セリュー。
翻弄され続ける卯月の脳裏には、最後までその二つの言葉だけが浮かんでいた。











「ふふ」


592 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:19:54 CCW8TCNM0

膝の上で寝入っている卯月の髪を撫でながら、エスデスは思わず笑みをこぼす。
ここに来たのは単なる好奇心であったが、セリューの忘れ形見という収穫を得られた。

(拾い物だ)

嬉しいことに、なかなか上等な形見だ。
アカメの一味のものであったはずの帝具、千変万化クローステール。
それがなぜこの少女の手にあるのかは今はどうでもいい。
DIOのインクルシオ、サリアのアドラメレクもそうだったが、重要なのは、この少女が帝具を使いこなしているということだ。
服の下を覆い防御手段とするという使用法を、自ら使っていたという程度には。
エスデスが卯月に強くなる資格があると言ったのは、何も慰めたかったわけでは全くなく、本心だ。

(2人の代りに入れるのもいいだろう)

ちょうどこの場で、イェーガ―ズには欠員が2人出てしまった。
島村卯月の、アイドルという職業。
それ自体は理解はエスデスの知識には無かったが、歌や踊りを披露する踊り子のようなものであることは、彼女の言葉から理解できた。
踊り子。
イェーガ―ズとしての任務をこなすならば、その能力は大いに生かすことができる。
流れ者の踊り子を装わせ、更にクローステールの力を引き上げれば、どんな町にも入り込める優秀な諜報員になることが十分に可能だろう。
聞くところによればあのアカメも、帝国の犬として初期にこなした任務の中には、旅芸人のふりをした反乱分子に潜入し、殲滅せしめたというものがあるというではないか。


593 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:20:08 CCW8TCNM0

そんなことを考えながら、卯月の肌を撫でる。
すると、微かに身をよじる。
白い肌には傷一つない。
本物の戦場を、本当の修羅場を知らない者の肌だ。
今の島村卯月には、帝具を扱う能力はあっても戦いに臨む心構えが致命的に欠けている。
より多くの実戦、そして殺人を経験させたい。
残った33人、誰が相手でも不足はないだろう。

話は断片的だったが、卯月は図書館で自分の求める御坂美琴と会い、そして完敗を喫したらしい。
事が上手く運ぶなら、自分がサポートについた上で御坂と再び戦わせるのも面白いかもしれない。
とはいえ、まずはやはり馴染みのない電車という乗り物を使い、セリューの死体があるという南の小島を目指す。
そこで卯月には、セリューとの訣別、そして超越という意味も込めて彼女の首切りをやらせたい。
もっとも首輪交換が実施されたことを考えると、すでに切られた後かもしれないが、その時はその時だ。

エスデスは笑い続ける。
ここに残った参加者たち。
この先、どんな人間に会えるのか?

(くく……面白い、面白すぎるぞ……)

そして未だ生きる最愛の人、タツミは、この場でどんな道程を辿り、どんな強さを身に付けたのか?

違う種類の狂気を纏った2人。
縫い合わされた少女たちの虚ろな目だけが、彼らの姿をじっと見つめていた……。


594 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:20:21 CCW8TCNM0
【D-6/駅員室/一日目/夜】

【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、全身に打撃痕(痛みは無し)、高揚感、狂気、欲求不満(拷問的な意味)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:亡き友アヴドゥルの宿敵DIOを殺す。
1:電車で南に向かい、セリューを弔う。
2:島村卯月に実戦と殺人を経験させたい。
3:御坂美琴と戦いたい。卯月に戦わせるのも面白いかもしれない。
4:クロメとセリューの仇は討ってやる。
5:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
6:タツミに逢いたい。
7:ウェイブを獲物として認め、次は狩る。
8:拷問玩具として足立は飼いたい。
9:アカメ(ナイトレイド)と係わり合いのある連中は拷問して情報を吐かせる。
10:後藤とも機会があれば戦いたい。
11:もう一つ奥の手を開発してみたい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止められる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。
※平行世界の存在を認識しました。


595 : Over the Justice ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:20:55 CCW8TCNM0
【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(中)、精神的疲労(大)、セリューに逢いたい思い、睡眠中
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!、まどかの見滝原の制服、まどかのリボン
[道具]:デイバック、基本支給品×2、不明支給品0〜2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ、今まで着ていた服、まどかのリボン(ほむらのもの)
[思考]
基本:島村卯月っ、笑顔と正義で頑張りますっ!!
0:エスデスさんの下で強くなりたい。セリューさんに会いたい。
1:線路の修復が完了次第、セリューのもとへと向かう。
2:高坂穂乃果の首を手に入れる。
3:高坂勢力、及びμ'sを倒す。
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
※本田未央は自分が殺したと思っています。
※μ's=高坂勢力だと卯月の中では断定されました。
※放送で本田未央の名前が呼ばれなかったことに気付いていません。


596 : ◆MoMtB45b5k :2016/02/27(土) 10:21:12 CCW8TCNM0
投下を終了します。


597 : 名無しさん :2016/02/27(土) 12:39:33 r58DMKzc0
投下乙です。
あぁ〜やっぱりエスデスはいいですねえ。
氷の理念に裏打ちされたこの狂気、最高です。
そしてそれに侵食され、それを上書きされるしまむーの明日はどっちだw


598 : 名無しさん :2016/02/27(土) 13:00:37 TUvK.RR20
投下乙です

エスデスさんは戦いたいならさっさとDIO様や大総統たちのとこに行ってください
島村さんは威を借る先を変えたか、結局彼女の中のセリューはその程度の存在でしかなかったんだろうな


599 : ◆dKv6nbYMB. :2016/02/27(土) 13:31:09 V7aMUVC20
投下乙です。
これぞエスデスって感じのヤバさですね。部下には優しい面も含めて彼女らしいなぁ、と。
しまむーはちゃんみおが生きてることを知らないようですが、果たしてどうなるか。

本投下します。


600 : Look at me ◆dKv6nbYMB. :2016/02/27(土) 13:32:37 V7aMUVC20


「なんで...こうなったのかなぁ」

ひとしきり笑い終わったあと、荒れ果てた生活用品の山の中で、独りポツリと呟いた。

あたしは、広川の言葉を聞いたあと、自分の身体を戻すために殺し合いに乗った。
けど、それは決意と呼ぶにはあまりにもお粗末で。
誰かに慰めてもらえれば。誰かに存在していいことを認めてもらえれば。あっさりと折れてしまう程度のものだった。
だから、最初に出会った男の子に弱音を吐いてしまった。

身体をもとに戻すために願いを叶えたい。
「やめとけよ」
こんな身体のあたしは人間なんかじゃない。化け物だ。
「そんなことはない」
だったらあたしなんか魔女にくわれて死んじまえ。
「諦めるな。生きていていいんだ」

...そんな言葉が欲しかったのかもしれない。

けれど、返ってきた答えは残酷で。

身体をもとに戻すために願いを叶えたい。
「他の奴らに危害を加える前にお前を殺す」

全くの正論だ。
自分の為にみんなを殺すあたしは悪党で、みんなを守るために力を振るう彼は正義の味方。
あたしがどんな感情を抱いていても、それは変わらない事実だ。
もしもあたしとあいつの立場が逆ならば、あたしだってそうしてたかもしれない。
...そうして、あたしは殺されかけた。

あたしは"悪"で、"化け物"だということを改めて思い知らされた。


次に会ったのは、お花を頭につけた女の子と筋骨隆々のお爺さん。
あたしと彼らでお互いに警戒し合っていたけれど、彼らと話している間の僅かな時間は、ほんの少しだけ温もりを感じていた。
あたしが人間だったあの時を思い出しかけて、でもそれを切り捨てるように彼らに襲い掛かって...結局負けて。
その後、タツミも交えた尋問を受けて。
ジョースターさんはまどかの大切さを思い出させてくれた。
初春は、こんなあたしでも手を握ってくれた。力を貸してくれと言ってくれた。
そんな彼らとも、タツミの提案通りに別れてしまって。
...この時、あたしは泣きついてでも四人で行動するべきだったのかもしれない。


601 : Look at me ◆dKv6nbYMB. :2016/02/27(土) 13:33:12 V7aMUVC20
それからほどなくして、マミさんの死を聞かされた。
あの人の死は悲しかった。だって、あの人はあたしの憧れの人だったから。
けど、同時に『広川は本物の奇跡を起こせる』って確信してしまった。
...こんな時でも自分のことを考えるあたしが、心底嫌になる。


その後、エンブリヲなんていう変態と出会った。
あいつにされたことは最悪で、屈辱的で。でも、なんの抵抗もできなかった。
この時、タツミがあたしを警戒しながらも助けようとしてくれたことは、正直なところ嬉しかった。
だからあたしは、動けないタツミへと剣を向けなかった。エンブリヲを殺すためだけに剣を握った。
うまく言葉にできないけど、『あたしはまだ生きていていいんだ』。...そんなふうに感じとったと思う。
けれど、そんなものは幻想だった。


エンブリヲを退けた後、タツミは気絶したあたしと鳴上という男をここ、ジュネスへと運んだ。
目を覚ましたあたしに彼は告げた。『鳴上を治してくれ。そうしたらグリーフシードを使う』と。
命を握られていたこともあったが、あたしは依頼通りに魔力を削って鳴上を治療した。
その後、シャワーを浴びてすぐに眠りについてしまって。
広川の放送で起こされたあたしを待っていたのは、まどかの死。
なんであの子が、なんで。
悲しみと疑問が混濁した頭の片隅で、広川の語った奇跡の存在が大きくなっていく。
同時に、一度は薄れかかった殺し合いを肯定する気持ちもまたその存在を露わにしていく。
そんなあたしを知ってか知らずか、タツミはあたしにソウルジェムを返した。
頑なにピンチの時以外は決して手放さなかった彼が、なぜ?
その答えはすぐに思い知らされた。


突如現れたエルフ耳の男。
タツミはその男と戦い始め、あたしに自らの強さを見せつけた。
その戦いは、あたしが簡単に割り込めるものじゃなかった。
けれど、タツミも決して優勢ではなく、エルフ耳の男の方がうまく立ち回っていた。
このままタツミが殺されればあたしの身も危ない。
だから、あたしはタツミの味方をした。
隙が大きかったタツミではなく、エルフ耳の男を狙った。
けれど、背後からの奇襲は失敗し、挙句盾にされてしまった。
...これはあたしの失態だろう。だから、跳びかかっていたタツミがそのまま殴ってしまうのもしょうがないことなのかもしれない。
でも、少しは躊躇う素振りを見せてくれたっていいじゃない。少しは悪びれる様子を見せてくれたっていいじゃない。

あたしにはなんの目もくれず、タツミはエルフ耳の男と戦いを続けた。
たぶんその巻き添えだろう。
あたしは、妙な能力で左腕を吹き飛ばされた。
痛かった。苦しかった。辛かった。逃げたかった。泣きたくなった。
痛覚を遮断しようとして、気が付いた。
魔力が足りない。ソウルジェムはほとんど濁り切っていた。
これで痛覚を遮断しようものなら、すぐに魔女となってしまうだろう。

激痛に耐えながらタツミに目で訴えかける。

―――お願い、グリーフシードを渡して。それだけでいいから。そうすればあたしは助かるから。

だが、戦いに集中するタツミには届かない。
どれだけあたしが苦痛の声をあげてのたうちまわろうとも、あいつはあたしを歯牙にもかけない。

「おねがい...グリーフシード...投げてくれるだけでもいいから...!」

声を張っても、エルフ耳の男の水流攻撃でかき消されているのか、あいつは顔すらこちらに向けない。
いや―――本当は、無視しているだけじゃないのか?

そして、謎の光に包まれたかと思えば、みんな消えた。
タツミも、駆け付けた鳴上も、エルフ耳の男も。
みんな、あたしを残してどこかへ消えた。

これが、いままでのあたしの顛末。
ずっと迷って、なんにもできなかった、あたしへの罰。


602 : Look at me ◆dKv6nbYMB. :2016/02/27(土) 13:33:52 V7aMUVC20
「は、はは...なんなのよ、これ」

思わず笑いがこみあげてくる。
ようやくわかった。あたしはあいつに見捨てられたんだ。
あたしにソウルジェムを返したのは、あたしが死のうが生きようがどうでもよかったから。
あいつがグリーフシードを使ってくれなかったのは、もう用済みだから。
あいつは、ジョースターさんや初春とは違う。あたしを助けようなんて気持ちはこれっぽちもなかったんだ。
あたしがゲームに乗ろうが乗るまいが、あいつにとってはどうでもよかったんだ。

「結局、あたしはただの道具だったんだ。ここに連れてこられる前となんにも変わってないや」

ただ、利用する奴がインキュベーターからタツミに変わっただけだ。

「つまんない人生だな、あたし。...人じゃないから『人生』じゃないか」

残されたあたしには、もうなにもない。
マミさんもまどかも死んだ。
ジョースターさんも初春も、大切な人たちが呼ばれたんだ。あたしなんかにかまっている暇はないだろう。
鳴上はそこまで関わっていないからよくわからないが、おそらくタツミはあたしを警戒するように伝えているだろうし、タツミに味方をするだろう。
あたしの身を案じてくれる人はもういない。
願いを叶える決意も、最早ロクに動くことすらできないあたしにはもう遅すぎる。

「もし魔女になって優勝したら願いを叶えられるのかな...どうせ無理だよね」

この会場には、魔女を狩る者―――佐倉杏子と暁美ほむらがいる。
あいつらは容赦なく魔女となったあたしを殺すだろう。それだけの実力もある。
それに、この会場には色々な化け物染みた奴がいるらしい。
ジョースターさんの宿敵で吸血鬼らしいDIO。
タツミですら実力は化け物だと認めるエスデス。
あたしよりもかなり強そうだったキリトも誰かに殺された。
大した才能もないあたしじゃ、どこかの誰かに殺されて終わりだ。

それに、魔女なんてなったりしたら、味方をしてくれる人なんて誰もいなくなるだろう。
そんな状況であたし一人で優勝するなんて無理だ。



だれか。だれかいないのか。

「もう、誰も信じられない」

あたしの傍にいてくれる人は。

「最後くらい、夢みてもいいよね」

あたしを認めてくれる人は。

「誰でもいい。誰か見つけたら容赦しない」

●●●●●●は、さみしいから。





603 : Look at me ◆dKv6nbYMB. :2016/02/27(土) 13:34:44 V7aMUVC20






めがさめる。
さっきのはなんだったんだろう。
どこかでみたような...でもみたくないような。
まあ、なんだっていいや。
あんなもの、どうだっていい...たぶん。


それより、わたしはなんでうごけないんだろう。

...そうだ。わたしはあのだいすきなえんそうをきいていたかったんだ。
あのひとの。わたしの。あこがれのあのえんそうを。
...あのひとってだれだっけ。まあいいや。
それで、じゃましてくるひとたちがいたからおいはらおうとしたんだ。
ひととおりおいはらえたら、ようやくしずかになって。
ようやくこれでえんそうにしゅうちゅうできる。そうおもったのもつかのま。

そしたら、こんどはすごいひかりがみえて。
そのひかりはあたしのからだにおそいかかってきた。


―――絆を……憎しみなんかに俺達の絆は奪わせない!


からだぢゅうがいたかった。


―――きっと●●●も同じなんだな


すごくまぶしくてみていられなかった。


―――俺も、仲間が居なかったらきっと……


むきあいたくなかった。



でもそのいたみも。まぶしさも。なにもかも。


―――だから、●●●……お前の目をきっと覚まさせて見せる!晴れない霧なんかないんだ!


...なぜだか、すごくうれしかった。


604 : Look at me ◆dKv6nbYMB. :2016/02/27(土) 13:35:30 V7aMUVC20
ひかりは、わたしなんかじゃかなわなくて、ほかのひかりもまざってさらにひかりかがやいて。
さいごにはわたしのからだをこおりづけにして、そこであたしのいしきはなくなった。
そうだ。おもいだした。それでうごけなかったんだ。


まだこおりはとけていないけど、なぜだかこおらされたときよりもだいぶらくになってる。
だれかがこわそうとしてくれたのかな?どうでもいいけど。


『ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ』


...?なんだろう。どこかできいたことがあるけど...だれだっけ?


『余談だが、E-8においては、電車に乗っている間は首輪が禁止エリアに反応しないようになっている。なので、電車は安心して利用してくれて構わないよ。―――続いて死亡者だ』

たんたんとことばをはなすひとは、しんだひとをおしえてくれるみたい。...べつにどうでもいいけど。

『暁美ほむら』

―――ドクン

...?

なんだろう、このきもち。あけみほむらってなまえをきいたとき、なんだかみょうなきもちがわきあがってきた。
なんとなくきにいらないとおもったけど、おなじくらいしんじられないとおもうみたいな...ふくざつなきもち。

『ジョセフ・ジョースター』

―――!

さいごによばれたなまえをきいたとき、もっとへんなきもちになった。
このひとの、なまえ...どこかできいたような。

―――いやあ、ようやく人と会えてよかったわい。わしはジョセフ・ジョースター。

そうだ。じょせふ・じょーすたー。さっきのゆめででてきたなまえだ。

―――くだらないことで笑いあって、些細なことで喧嘩しあって...そんな当たり前の日常をその手で壊して、後悔もせず笑っていられるのがきみのいう『人間』なのかね?

そうだ。たしかこのひとからは、なにかたいせつなことをおもいださせてもらったんだ。
わたしの、たいせつなもの。




―――あ...あのね。足手まといだっていうのはわかってるんだけど...邪魔にならない所まででいいの。一緒に連れて行ってもらえたらって思って...

いつもいっしょにいてくれた。

―――今日の魔女退治もついていっていいかな。さやかちゃんに独りぼっちになってほしくないから...

いつもそばでささえてくれた。

―――幸せになってね、●●●ちゃん

あのこのなまえは―――



ええっと、なんだっけ。
なんだろう。おもいだせないや。

...かんがえてもしかたないかな。
でも、おもいだせたらいいな。


605 : Look at me ◆dKv6nbYMB. :2016/02/27(土) 13:37:03 V7aMUVC20

とにかく、いまはあのえんそうをききたいよ。
からだはこおりづけでうごかせないけど、あのこたちにしじをだすくらいはできるから。

それじゃあ、みんなおねがいね!

〜♪


...?ちがう。ちがうよ。そうじゃない。
さっきのえんそうはそんなてきとうじゃないでしょう。
さっきみたいにやってよ。

...どうしたの?なんでさっきみたいにひいてくれないの?
わたしのためにはえんそうしてくれないの?

ねえ、なんでよ。

むししないでよ。

ねえ、ねえ。

わたしをみてよ。

ねえってば。





...あっ、そっか。


こんさーとだもん。おきゃくさんがいないこんさーとなんてさみしいよね。
おきゃくさんがいっぱいいないとみんなもやるきがでないよね。

...よし。きめた。


こおりがとけるまでだれもこなかったら、おきゃくさんをさがしにいこう。
それで、いっぱい、い〜っぱい、わたしたちのえんそうをきいてもらおう。
それで。それで。えんそうがおわったらはくしゅをいっぱいもらうんだ!
やっぱり、それがこんさーとのだいごみだもんね!


ああ、はやくこおりがとけないかなぁ。



はやくおきゃくさんをさがしにいきたいなぁ。





だって、ひとりぼっちはさみしいもん。


606 : Look at me ◆dKv6nbYMB. :2016/02/27(土) 13:38:09 V7aMUVC20



放送が終わってから、どれほど時間がたったでしょうか。
やがて魔女を封じ込めていた氷は解け、再び呪いは自由を手に入れました。

お客さんを求める魔女は、どこへとも知らず動きだします。

無事にお客さんが見つかるまでは、使い魔たちの演奏も一休み。

はてさて。彼女の演奏に見合うお客様は見つかるのでしょうか?




【F-7/一日目/夜】



【オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ(美樹さやか)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:演奏を聞いていたい。
0:演奏を聞いてくれるお客さんがほしい。
1:邪魔する者・演奏を否定する者を殺す
※制限で結界が貼れなくなっています。
※首輪も付いています。多分放送位は理解できるでしょう。
※どこへ向かっているかは他の方にお任せします。
※魔女化以前の記憶もおぼろげに覚えています。


607 : ◆dKv6nbYMB. :2016/02/27(土) 13:39:15 V7aMUVC20
投下終了です。


608 : 名無しさん :2016/02/28(日) 22:27:40 5JRlDF2.0
投下乙です

さやかの独白が物悲しい…
そうだよなぁ、体よく戦力として使い潰されたんだもんなぁ
学園にライブに行ったりしたら不味いことになりそうですね


609 : 名無しさん :2016/02/28(日) 23:57:19 vA/mZz.c0
投下乙です
登場してないのにまたしても株が下がるタツミェ…


610 : 名無しさん :2016/02/29(月) 00:07:49 kR1XXw2M0
投下乙です
さやかとタツミはどちらかに少しでも余裕があれば上手くやれていたろうに…


611 : ◆BLovELiVE. :2016/02/29(月) 23:42:26 C.TvEnJI0
投下します


612 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/02/29(月) 23:44:24 C.TvEnJI0
それは音ノ木坂学院に初春飾利、西木野真姫の二人が転移してくるしばらく前のこと。


(やはり一筋縄でいくものではない、ということか。こうなればやはりこの場のロックを解除した者の腕が分かるな)

音ノ木坂学院の情報室に置かれていたPCに触れるエンブリヲ。
しかし首輪の解析に必要だと思われるソフトのほとんどにはロックがかかっており、それの解析に時間を取られる有様だ。

ふう、と一息付き、脇に置いてあった紅茶に口をつけながら気持ちを切り替えるかのように別のことを思案する。


先に自身が考えた考察が脳裏。
この空間があらゆる世界と繋がっている、というもの。

だが、そう考えれば色々と辻褄のあうことがある。
まず自分にかけられた制限。
本来エンブリヲという存在は時空の狭間に存在するものであり、地球に現れるのは分身でしかない。故に死は存在しないはずのものだ。
だが、もしこの場所が様々な世界にリンクし、次元の狭間の自分にも影響を及ぼすものだとしたらどうだろう。
死を回避することができない自分の今の状態にも説明がつく。

(いや、それだけではないな。本来この私に死を与えるにはもう一つの条件が必要だ)

時空の狭間にいる自分の本体。しかしそれを殺すだけでは死に至ることはない。
それと同時にもう一つ、自分の命を宿した存在がある。
ヒステリカ。終末戦争以来自分が所有する原初にして最強のラグナメイル。

だが、いついかなる時であろうと呼び出すことができたはずのそれも召喚が叶わぬ現状。
自身に課せられた能力、不死の制限のように呼び出すことができない。

(もしこれが奴らの手の中にあるのだとしたら)

もし自分の死と同時に広川達の手に落ちたヒステリカも破壊されるようになっているのだとしたら。
おそらくはこの身であろうとも死に至るだろう。

もっと早く思い至るべき事柄だったのだろう。

ヒステリカのことは今は手を打つ術がない。まずはこの体そのものに課せられた制限だ。

首輪か、あるいは会場そのものか。
暫しの休息を取る間は解析を続け、その後動いたほうがいいだろう。
ここよりも更に多くの施設がある場所。

(北部の施設、だな)

学園内に初春の声が響いたのは、それから間もなくのことだった。








「花陽、ちゃん…!」
「穂乃果ちゃん!!」

学校に到着した二人の目の前に飛び出すようにして現れた穂乃果。
その姿を見るやいなや彼女は泣き腫らしたような真っ赤な目をして、抱きしめるように飛びついた。

「よかった…、穂乃果ちゃん…、無事で…」
「っ…、花陽…ちゃ……」
「穂乃果ちゃん…?」
「お、おい。どうしたんだよ?」

そのまま花陽をぎゅっと抱いたまま体を震わせる穂乃果。
彼女が顔を押し当てている肩付近がじんわりと濡れていくのを花陽は感じていた。
無事に友達と再会することができた喜び、にしては様子がおかしいのは傍から見ていたヒルダにも分かった。

ゆっくりと穂乃果の頭の後ろに手をやる。


613 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/02/29(月) 23:44:55 C.TvEnJI0

「大丈夫だから、だからね、落ち着いて穂乃果ちゃん…」

そのまま落ち着かせるかのように、その手で静かに頭の後ろを撫でる花陽。

「…、あ、うわああああああああああああ…!」

話すこともなく離れることもないまま泣き崩れる穂乃果。
そんな彼女を、花陽は静かに抱きしめ続けた。



「…う…ひぐっ……」

その頃、エンブリヲとも穂乃果達とも違う部屋で、初春と黒子は向かい合うように座っていた。

「私の…、私のせいで…」
「……」

涙を流しながら嗚咽混じりに悔恨の言葉を呟き続ける初春。
そんな彼女を静かに、声をかけることもなく見守るように黒子はただそこに異続けるだけ。

「私が、もっと危機感を持ってたら、あの時もし西木野さんが外に向かうのに気付いてたら……!」
「……初春」

しかしやがてポツリと黒子も口を開く。

「ええ、確かにあなたの危機管理意識が足りていなかったことは事実かもしれません。
 そしてその結果、西木野さんは命を落とし、高坂さんを悲しませることになってしまった」
「………」
「それで、どうしますの?あなたはそうやって泣き続けているつもりですの?」
「…ひっ、ぐっ……」

嗚咽を飲み込んで黒子の顔を見上げる初春。

「確かに死を背負うのはあなたには重すぎることかもしれません。
 それにどれだけ最善の行動を尽くそうとしても、取り零してしまうものもあるかもしれない。
 でも、だからこそ決して折れてはいけないのですよ」
「白井…さん…」
「あなたがまだ”風紀委員”の初春飾利でいられると、私は信じていますわ。
 涙を拭いたら、あなたはまた自分のやるべきことに向かえると」

そういってハンカチを差し出す黒子。
初春はそれを受け取ってグシャグシャになった顔を拭い、思い切り鼻をかむ。


「…っ、ふ、ぅ…、正直、白井さんに叩かれるんじゃないかって思ってたからちょっと安心してます」
「失礼な!私を何だと思っているのですか初春は。それと安心したとはどういうことですの!」

若干その軽口にも思える言葉に大げさに反応しながらも。


(なんて、偉そうなこと言う資格が私にあるのですかね…)

心中を察されないように、初春を見ながら黒子はこれまでの自分に思いを馳せる。
初春の、自分の失敗で人を死なせることになってしまうこと、それは黒子自身も何度も味わった苦汁だ。
手を抜いたつもりは一度もない。だけど自分の状態や他の多くの人の思いや想定外の事態といった不確定要素は多くの人の命を目の前で奪っていった。
そしてその重みも自分の想像以上のものだ。

(でも、だからこそ私は、いえ、私達は折れるわけにはいかないのですよ、初春…)

簡単なことではないのは承知の上だ。

(高坂さんと小泉さん、大丈夫でしょうか…)

彼女たちのように、悲しむ者を一人でも減らすために。


614 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/02/29(月) 23:45:44 C.TvEnJI0



どうにか落ち着きを取り戻した穂乃果は、しかし決して晴れることのない表情のまま花陽を伴いある部屋の扉を開いた。
ヒルダは部屋の近くに辿り着いた辺りで何かを察したのか、二人の元を離れて別の部屋へと向かっていった。黒子達がいるだろうと伝えた場所に向かっているはずだ。

「……えっ?」

そうして部屋の中に入った花陽の目に映ったのは、音ノ木坂の制服を来た、とても見覚えのある赤い髪の少女。
地面に横たえられたその表情はまるで眠っているかのように穏やかで、だけどその肌の色は血の気を感じないほど真っ白だった。
もし、その腹に刻まれた大きな傷がなければ童話の中の眠り姫のようにも見えたかもしれない。

「真姫ちゃん…?」

探していた、生きているはずのもう一人のμ'sの仲間、その変わり果てた姿がそこにあった。

「嘘でしょ…、起きて、起きてよ、真姫ちゃん…」

青ざめた顔で真姫に近寄り、その体を揺さぶる花陽。
しかしその体はその血の通っていない肌の色が示すように冷たかった。

もしこれを花陽自身が嘘だ、と言って現実逃避の世界に逃げ込むことができれば、どれだけ楽だったか。
だがこれが紛れもない事実であると心が認めてしまっていた。

「花陽ちゃん…」

そんな彼女を、穂乃果が後ろからゆっくりと抱きしめる。

「…いいんだよ、泣いても。穂乃果がさっきそうしたみたいに。
 花陽ちゃんの悲しみも、私が一緒に背負ってあげるから、だから」
「真姫ちゃ…ん…、ヒグッ、真姫ちゃん…」

穂乃果の手にすがりつくように、花陽は顔を抑えて涙を流し続ける。

数十秒の間、そのまま花陽の嗚咽のみが辺りに響き続け。

パァン

突如聞こえてきた乾いた音に二人は体を震わせた。
それが何の音なのか、この殺し合いの場にいて分からぬほど平和な時を彼女達はすごしてはいなかった。

「あの音の場所…、もしかして…。
 花陽ちゃん!離れないで付いてきて!」
「ほ、穂乃果ちゃん…?!」

慌てるように走りだした穂乃果の後ろに続いて、花陽も走り出した。

乾いた音、銃声の聞こえた場所に向けて。



「てめえ…」
「こうして顔を直接合わせるのは初めて、ということになるのかな?ヒルダ」

張り詰めた空気の室内。
ヒルダの放つ殺気を、素知らぬ顔で流すように佇むエンブリヲ。

「何でここにいやがる?あいつの友達を殺したのもお前か?」
「人聞きの悪いことを言わないでほしいな。私は高坂穂乃果の許しを得て、彼女達に協力するということでここに居させてもらっているんだからね」
「はっ、巫山戯んじゃねえ。何言って取り入ったかは知らねえけどな、だけどてめえには色々貸しもあるからな」
「やれやれ、あまり手荒なことは避けたかったのだが、振りかかる火の粉は払わねばならないな」

先ほどは外した銃を再度、鋭い眼光と共にエンブリヲに向けるヒルダ。
対するエンブリヲは、座ったままの状態で、しかしその服に仕舞った拳銃を取り出し。

その時だった。
廊下を駆ける足音がこちらに向かっているのを聞き取ったのは。

「ヒルダさん!」


615 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/02/29(月) 23:47:20 C.TvEnJI0
思い切り駆け込んできた足音の主は高坂穂乃果。
銃を向けるヒルダの体に飛びつき、その銃口を取り押さえるように体にしがみつく。

「ダメです!」
「離せ!こいつはクリスやサリアを、それにモモカが死ぬ事になったのもこの男のせいで――」
「モモカ、か。そういえば君はあの彼女と会ったんだったな。
 彼女のことは残念だったよ。アンジュの大切な人だ。死なせないようにこちらで保護しようと思ったのだが、操った私が独立した自我を持って勝手に動き始めてしまってね。
 実に不幸な事故だった、それに関しては軽率な行動を取ったことを申し訳ないと思っているよ」
「とぼけたこと抜かしてんじゃねえ!」
「ヒルダさん!落ち着いてください!」

銃を握り体を抑える穂乃果。
無論仮にも訓練を受けた者をただの学生である穂乃果に抑えられるはずはない。
だが、体がブレるせいで銃を撃つことができない。下手をすれば穂乃果にも当たりかねない状況では引き金など引くことができるはずもなく。

「それにサリアとクリスのことなら君が責めるのはお門違いではないかな?
 あの二人には私が求めていたものを与えただけだ。君たちが彼女たちにしてあげられなかったものを、ね」
「その挙句にドラゴンの群れに特攻させて見捨てたのもてめえだろうが!」
「…?何のことだ?」

ヒルダの問い詰めるような言葉に思わずエンブリヲが呟いた言葉は本心からの疑問の声。
しかしそれも今の激昂したヒルダにはとぼけたようにしか聞き取ることができず。
怒りから強引に、抑えていた穂乃果を横に押し退けて銃を構え。

その背に何かが触れた。

「?!」

次の瞬間、ヒルダの見ていた景色が切り替わった。
目の前にいたはずのエンブリヲの姿は消え、その別の一室内には花飾りを頭に乗せた少女がいるだけ。

「あれ以上なさられると血を見ると判断しましたので、こちらで対応させてもらいました」

と、その後ろに花陽と共に瞬間移動するように現れた別の少女。

「おいお前!」
「白井黒子、ですわ」
「お前の名前なんてどうだっていい!あの野郎がここにいるのを何で認めてんだよ!」

「…私が、説明します」

エンブリヲのいた部屋から移動してきた穂乃果が、ヒルダの後ろから現れる。

「あの人は、首輪を解除することができるって言ってました。
 そのために力を貸して欲しい、って」
「…そんなことマジで信じたのか?」
「信じたわけじゃないです。でも、そうしておけば今はあの人も手を出さないって思ったから。
 あの人が危険だってことは分ってます。でも、今は」

黒子一人の手には余る相手だ。たとえ内に何かを秘めていたとしても誰も死なずにすむ手段はこれしかない。
それは今も同じだ。
ヒルダという味方は増えたが、戦えない者は穂乃果に加えて初春と花陽もいる。
エンブリヲを敵に回して戦いになれば、巻き添えをくらう確率が高いのは自分も含めたこの3人だ。

ヒルダとてそれが分からぬほど短慮ではない。
それに、タスクでも一筋縄ではいかなかった相手、自分でどうにかなるものでないのも事実だ。
一人ならまだしも、今は巻き込まれる者が多い。

「…クソ、アンジュのこと、思った以上にきちまってるみたいだな…」
「アンジュさんがどうかしたんですか…?」

穂乃果と黒子は放送前、サリアとの戦いの後で別れた、初春にとっては一回目の放送の前で顔を合わせた相手だ。



「そうか、お前らはアンジュと会ったんだっけな。あいつは…、死んだよ」
「えっ」
「サリアが言っていた。後藤ってやつに目の前で食われた、ってな」

花陽以外の皆が唖然とした表情を浮かべる。

「…でも待ってください、サリアさんがそれを言ったっていうのは」
「まあ、お前らの事情は聞いてる。だから話すと少し長くなるかもしれねえ」
「…少し、これまでにあったことを整理したほうがいいかもしれませんわね。
 高坂さんと小泉さんも、離れてから色々なことがありましたし」





616 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/02/29(月) 23:48:50 C.TvEnJI0
「そうか、アンジュはキリトって奴には会ったのか」
「ええ。自分のした罪を彼女に告白して、その後サリアさんとの戦いで命を…」
「それがあの首輪だった、ってわけか」
「…もしあそこで私達がアンジュさんに同行していれば……」
「でも、あいつはクロエちゃん達が力を合わせて倒したんだよ?
 どうして生きてるの?」

まず最初に話したのは穂乃果、黒子の二人のことだ。
ブラッドレイや狡噛、槇島との遭遇。
サリアやキリト、アンジュと会った時のこと。

キリトに大きく反応を示したのはヒルダであった。
アンジュの言っていた、キリトが殺したという彼女の友人、その現場を見ていた一人として。

「泉君の右手が言ってました。”混じったのか”って」
「…意味は分かりませんが、支給品か、あるいは奴自身の持っていた力がその生命を永らえさせたのだと考えるのが妥当ですわね」

話を進める中で、ヒルダは一人アンジュに思いを馳せる。

「…アンジュのやつ、どんな感じだった?」
「どんな感じ、とは?」
「そうだな、例えば、一人になろうとする時に一緒に行こうって言ったら何て言ってたか、とか。」
「…私達も、あるいは私達に同行を提案した時は―――」

『気遣いはありがたいけど大丈夫よ。私は私でエンブリヲを、この手で殺さなきゃいけないから』

「そう言われていました」

黒子自身も穂乃果を連れて危険な場所に赴くわけにはいかない。
あの時はそれで引き下がってしまったが。

「やっぱりな。あいつ、けっこうそういう癖あるんだよな。何つーか、全部自分で背負い込んじまうようなところってのかな」

ヒルダは話す。
アンジュがかつて最初の出撃の際に、自分の行動が原因で死なせてしまった新人兵や隊長がいたこと。
そして再度出撃した時には死を覚悟し、だが逆に戦う覚悟を決めて戦い抜き、今日まで生き延びてきたこと。

「その時はそこまで深く考えたことはなかったんだけどな。
 後になって考えてみたら、もしかしたらあの時の隊長やココ、ミランダみたいな目にあうやつを出すのは避けようとしてたのかもなってな」
「それが、アンジュさんの単独行動とどんな関係があるんですの?」
「お前らの友達の件、アンジュは目の前で見てたんだろ?それにキリトのやつのことも。
 もしかしたら、責任を感じてたのかもしれないってな」

自分の存在が原因で、そして自分の目の前で死んだ者の友達がその殺した張本人である仲間であるはずの存在を責め立てていたのだ。
その気持ちは、モモカの名を呼ばれたあの時のアンジュには痛いほど分かったはずだ。

「…そういえばアンジュさん、ここにきてすぐの時に会った渋谷凛さんって人も自分に会いに来たエンブリヲに連れて行かれたって言っていました」
「そいつ、確か一回目の放送の時に呼ばれたやつだよな。なら尚更だ」

エンブリヲに連れ去られ命を落とした渋谷凛。
自分とその仲間のすれ違いが元で目の前で死んだ巴マミ、園田海未。
そして、モモカを殺した張本人であり、そしてまたしてもサリアや自分と関わり消滅していったキリト。

それらの死に、モモカの時のような深い悲しみを感じはしなかっただろう。
だが、責任は感じたはずだ。自分と関わって、巻き込まれていった者達に対して。
自分についてくれば、きっと巻き込まれるのではないかと。
エドワード・エルリックとの同行を拒否した時。音ノ木坂学院での会合の後一人で発っていった時。
そして黒子の同行も拒否した時。

きっと、自分に振りかかる全てを一人で背負い、戦おうとしたのかもしれない。


617 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/02/29(月) 23:50:21 C.TvEnJI0
アンジュの誤算。それはこの殺し合いの場においては彼女とて一参加者でしかなかったということだろう。
今まで戦ってきた彼女には、如何なる場所にあろうとも求めれば応じてくれるラグナメイル・ヴィルキスがあった。彼女に惹かれて集まる多くの仲間がいた。
その仲間は一人で戦おうとする彼女を時として支え、助けてくれる者だった。
それは彼女が戦いに生き残っていくには大きな要素だ。
だがこの場にはヴィルキスはない。そしてエンブリヲとは違う、多くの強者がいる。
後藤であったり、エンヴィーであったり、エスデスであったり。
そんな場所で一人で戦い続けることがどれほど危険か。
気付いていなかったのか、それとも気付いた上でその道を選んでいたのか、それはヒルダにももう分からない。
いや、案外この考え自体も間違った、見当はずれなものかもしれない。もう彼女の思いを知ることはできないのだから。


「あいつも、アンジュもバカだよな。全くよ…」

窓の外を眺めてポツリと呟いたヒルダ。
その頬を、一筋の雫が流れ落ちていったのを、その場にいた皆が見ていた。

「悪い、何か湿っぽくなっちまった。話を先に進めるぞ」

顔を拭った後取り繕うように振り返って話の進行を促すヒルダ。

「………」

そんな彼女を、穂乃果は静かに見つめていた。



「…そっか。大変だったんだね、花陽ちゃん…」

花陽が話したのは、穂乃果が離れて以降で一同の間にあった出来事。
ことりの一件に対するセリューの追求やその後の図書館であった戦い、そこから音ノ木坂学院にたどり着くまでのこと。

特に、ことりのことは穂乃果が最も確かめたかったことだ。
そして、ある意味では最も認めたくないことだった。

錯乱していたわけでもなく、明確に自分の意志で殺人を犯そうとしたという。
元々穂乃果と黒子の二人の件で嘘をついていたセリューの言葉だ。都合のいい解釈が混じっていると思いたかったが、彼女以外に目撃者がいる以上そうは思えなかったらしい。

「穂乃果ちゃん、あのね…、私は…」
「いいの。花陽ちゃん。大丈夫だから。
 ちゃんと、受け止められてるから」

やるせない気持ちを抑えながら、花陽の言葉を受け止めていく穂乃果。
そしてもう一つ、そのことりの一件を見ていたという者が一人いたという。

島村卯月。
穂乃果、黒子、初春の三人の間にはその名が出てきた時に一瞬緊張が奔りそうになったがどうにか気付かれなかったようだ。

これは今すぐに言うべき事柄だろうかと迷っているうちに話は進み、タイミングを逃してしまっていた。
一瞬黒子が初春をチラリとアイコンタクトを取っていた。初春が自分の時に話す、という合図だろう。

そして、サリア。

アンジュの死を見て、キリトの首輪を託され、そしてヒルダの言葉に諭されて、自分達を守るためにセリューの上司でもあるエスデスに立ち向かっていったという。
それを聞いた穂乃果の心境は複雑なものだった。

花陽や皆を守ってくれてありがとう、という思いにはならない。

そしてウェイブ。
セリューの仲間だった彼は、その一件や狡噛達とのやり取りで敵であるはずのアカメとの共闘を選択。
更にウェイブ自身の上司でもあるエスデスとも袂を分って皆を守るために戦ったと花陽は説明した。

(ウェイブさんには、悪いことしちゃったかな…)

それを聞いた穂乃果の心中に湧き上がってきたのは罪悪感。
彼と出会い、そして守ってもらっていながらあの一件のせいでその仲間であった彼自身もセリューの同類にしか思えなくなっていた。
だけど実際はそのこともむしろ仲間の所業として引きずり悩み、その末に彼なりの答えを出していたのだ。

「もし会えたら、ウェイブさんにはちゃんと謝りたいな…」




618 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/02/29(月) 23:52:27 C.TvEnJI0


ヒルダの話の中にいた人物の中でこの場にいるメンバーに関わりを持った者は、エンヴィーとキンブリー、そして。

「イリヤさんが…?」
「ああ、お前らの話聞いててまさかと思ったけどよ、あいつ結構ヤバイ状態だったぞ。
 何かきっかけでもありゃ、一線を踏み越えちまうんじゃないかってくらいには」
「くっ……!」

握り締めた拳を思い切り壁に叩きつける黒子。

ヒルダの語るイリヤ、それはあの時自分が気絶していたせいで彼女を止められなかったことが発端である状態だ。
おそらくはクロエと光子を殺した一件が彼女を追い詰めたのだろう。

「…ヒルダさんは、そのイリヤって子をどうするんですか?
 止めるって、もしかして殺すとか」
「そこまで考えちゃいねえよ。ぶん殴って止められりゃ御の字だろうけど、そう簡単にはいかないだろうしな
 だけどあの変なステッキから出てくる力が厄介だ。手加減してどうにかできる相手じゃないだろうし、最悪ぶっ殺すことにもなるかもしれねえ」
「彼女を止める術は、あのステッキ、ルビーさんから伺っておりますわ」

それはアンジュと別れ、後藤と遭遇するまでの間に気絶したイリヤの傍に付き添ったルビーが話したこと。

『黒子さん、お願いがあるんです。もしイリヤさんがまた、様子がおかしくなって人を殺めそうになった時には止めていただけないでしょうか』
『それは当然のことですわ。ですけど、止める手段があるのですか?』
『あなたの能力ならおそらくそう難しいことではないでしょう、そのやり方は――――』


「あのステッキをイリヤさんの手元から引き離せばいいと、そう言っておりました」

イリヤがあの魔法少女としての力を振るえるのは、あのステッキの力があってこそ。
もしそれを手元から引き離すことができれば、彼女は一般人といっても差し支えのない状態へと戻るという。

「分かった。要するに止める手自体はあるってことだな。それだけ分かりゃ十分だ」
「…私が、あの時気絶さえしていなければ……」
「…それくらいにしておけ。もう済んだことだ。これからどうするかの方が重要だろ」
「ええ、分かっていますわ」




そうした後、初春の経験したことを一通り話したところで、放送が始まった。


セリュー・ユビキタス

ことりを殺し、穂乃果を悪だと言った穂乃果と花陽にとっては複雑な相手。
花陽の報告ではブラッドレイと戦った際に死んだと思っていた彼女が島村卯月と共に先の放送では呼ばれなかった、つまり生きていたのだが、しかし今回は呼ばれることとなった。

アンジュ
西木野真姫

ヒルダ、穂乃果、花陽が息を飲み込む。
その死は既に知っており、呼ばれることも当然覚悟していたが、それでも放送で告げられることは辛いものだった。

サリア

(バカ野郎が…っ…)

自分を気絶させて戦いの中に去っていった彼女。その時点で嫌な予感はしていた。
だが、それでもまだ生きていると信じたかった。
多くの罪を犯してきたとしても、それでも大切な仲間の一人であったことには変わりなかったのだから。

ゾルフ・J・キンブリー

幾度か穂乃果達を襲ってきた危険人物。
彼の死はまだ比較的幸運と呼んでもいいのだろうか。
そうヒルダは考え。

里中千枝

次に呼ばれた名に思わず顔を上げる。



ジョセフ・ジョースター

そしてその次に呼ばれた名前に初春が反応し。


そしてその名を最後に、死者の名が呼ばれるのは最後となる。
声が聞こえなくなったのと同時に、ヒルダは背を預けていた壁を思い切り殴りつけた。
里中千枝。イリヤを追って離れた時に別れた一人、なのにそれが本当に最期の別れになってしまった。
イリヤを見つけることはできず、同行していた千枝は自分の知らぬ場所で命を落とし。
その事実はヒルダの内にやるせない気持ちを燻らせていた。


619 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/02/29(月) 23:53:58 C.TvEnJI0
だが、今そういった思いに身を窶している暇はない。
アンジュの死。それは間違いなくエンブリヲにも伝わった。
彼女の死を知ったエンブリヲは、一体どのような行動に出るか分からない。

そんな中で、穂乃果が立ち上がる。

「私が、エンブリヲさんのところに行ってきます」

穂乃果が立ち上がって、部屋を出ようとする。

「穂乃果ちゃん?!」
「アンジュさんが呼ばれたことについて、私から言いに行く。あの人を信じたのは私だから、もしもの時は、私が責任を取らなきゃいけないから」
「もしあいつがその気になったんなら、殺されにいくようなもんだぞ?」
「もしそうじゃなかった場合、ここで逃げるのは私はエンブリヲさんを裏切ることになります。そうなったら、みんなが危ないから」

彼との協力関係は綱渡りのような状況に近い。
だからこそ、彼を失望させて敵に回すことは避けねばならない。
少なくとも彼とまともにやり合える者が少ない今の状態では。

止める間もなく部屋を出ていこうとする穂乃果。
その背中に、ヒルダが呼び止める。

「待ちな。なら私も着いて行く」
「でも、ヒルダさんは…」
「安心しろ、あいつが手を出さない限りは今どうこうしようとは思わねえよ。
 ただ、幾つか聞いておきたいこともある。もしもの時は私が逃がしてやるよ。それくらいならできるさ」
「分かりました。白井さん、もしもの時は、花陽ちゃんをお願いします」
「…了解しましたわ」

そう言ってヒルダを後ろに伴った穂乃果は、若干早歩きで部屋を出て行った。

「白井さん…、いいんですか?」

初春が小さく、黒子に問いかける。
もし普段の黒子であれば、無理を言ってでも一緒に行くことを選んだのではないか、そう思ったから。

「言わんとしていることは分かりますわ。ですが、これは高坂さん自身の戦いです。私が口を挟むところではありませんわ。
 大丈夫、もしもの時はあなた達を逃がした後二人とも助けに向かいますわ」

その気になればエンブリヲは今この部屋に姿を現すことも、そのまま不意をついてこの場の皆を殺すこともあるいはできるだろう。
しかしそれがないのは今は動く気がないのか、それとも気を伺っているのか。
どちらにしても油断はできない。

「穂乃果ちゃん…」

そんな穂乃果の出て行った先を、花陽は心配そうに見続けていた。



「エンブリヲさん」

若干の恐怖心を感じながらも恐る恐る扉を開いた先、こちらに背を向けて作業に興じるエンブリヲの姿があった。

「高坂穂乃果、そしてヒルダか。どうしたのかな?私をまた殺しにでもきたのかな?」

そう言って穂乃果に振り返ったエンブリヲは、放送など聞いていないかと思うほどに飄々としている。
自身が愛したアンジュの死を何も感じていないかのような反応だ。

「…アンジュさんのことですけど」
「ああ、そのことか。実に悲しいことだ。
 私も思わず放送を聞いてしばらく放心してしまったほどだ」


620 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/02/29(月) 23:55:01 C.TvEnJI0
その態度は穂乃果の問いかけにも変わらない。
若干頬が濡れている様子からして、悲しんだことは事実だろう。しかしエンブリヲの反応はそれだけだ。

「待てよおい。お前、アンジュのことあれだけ欲しがっていたんじゃねえのかよ。その相手が死んだんだぞ?
 何でそんな面でいられるんだよ?」
「そんな面、とは人聞きの悪い。彼女が死んだことが悲しいと思っているのは事実だよ。
 だけどそれで殺し合いに乗って広川とやらに頼んで生き返らせるために皆殺しにすると、そんな道を選ぶほど愚かではないということだよ」


少なくともアンジュの死がエンブリヲを積極的に殺し合いをさせるということにならなかった。その事実には穂乃果達は安堵してもいいのだろう。
しかし、ヒルダにとってはあまりに腑に落ちないものだった。
だがそれを責めたい思いを飲み込み、もう一つ、ヒルダにとっては大切なことを問いただす。

「……一つだけ答えろ。さっきの放送じゃサリアも死んだ」
「知っているよ。実に悲しいことだ。私に対する恋心が、こうも彼女を間違った道に進ませてしまったというのだからね」
「それだけか?!あいつの弱みに漬け込んで付け入って、それで利用するだけ利用してポイか!」
「随分な言われようだが、そもそもそれほどまでに彼女を追い詰めたのは君達ではないのかね?
 利用するだけ利用して、というが、それはそもそも彼女に何の説明もせずに不自由を強いてきたアレクトラの責任だ。
 君にも心当たりはあるんじゃないのかな、ヒルダ」

その言葉に、ヒルダは言い返すことはできなかった。
心当たり、エンブリヲの言うそれはおそらくクリスのことだろう。
エンブリヲについた一件には擁護はできないが、彼女のことをちゃんと見ていなかったという点には落ち度があるとヒルダ自身感じていた。
だからこそこれからは間違えないようにしようと、クリスのこともちゃんと見てやろうと決めていたのだ。
それはこれからの日常の中でのことであり、成果どころか実行に移せたものでもない。
だからこそ、そこを突かれると反論することなどできない。
ただ、それを言う相手がクリスを狂わせた張本人であることに苛立ちを募らせるだけ。

これ以上の会話はただ自分の精神を苛立たせるだけだと判断したヒルダは引き下がる。

「穂乃果、戻るぞ。やっぱ私はこいつと同じ場所にはいられねえ」
「……」

歯ぎしりをしながらエンブリヲに背を向けるヒルダ。
敵である男に無防備な背中を晒すことの意味が分かっていないわけではないが、それほどまでに早急に彼の傍をヒルダは離れたかった。

「ヒルダさん、先に戻っていてください。私、少しだけエンブリヲさんと話をしていきます」
「そうかよ。…何かあったら騒げ。すぐにそいつのスカした顔ぶっ飛ばしにきてやるよ」

その言葉を最後に、穂乃果を残してエンブリヲの元から去る。

「やれやれ、嫌われたものだな、私も」

肩を竦めるエンブリヲは、一人残った穂乃果の方へと向き直る。

「さて、君はどうしてここに残ったのかな?」
「エンブリヲさんは、アンジュさんのこと…、その、好き、だったんですよね?」
「ああ。アンジュは私が彼女に会うためにこれまでの時を生きてきたと思わせるほどの女だった」

その言葉には嘘は感じられない。
発されたものはまごうことなき事実なのだろう。
であれば。

「あなたにとって、好きってどういうものなんですか?
 アンジュさんに抱いていた想いって」

別に穂乃果にエンブリヲの本質を探ろう、などという意図はない。
ただ純粋な穂乃果自身の疑問から発されたもの。


621 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/02/29(月) 23:56:15 C.TvEnJI0
「難しい質問だが、しかし私は普通の人間とは感性が異なるかもしれないという点は否定できない。
 君に話しても理解は得られないかもしれない」
「…分かりました。だったらこれ以上は聞きません。
 それともう一つだけ、渋谷凛って人を知ってますか?」
「彼女は、確かアンジュと共にいた子だね。私が少しスキンシップを図ろうとした子の一人だ。
 まあ、少し過剰だったかもしれないのは否定できないが」
「あなたが殺したって聞きましたけど、それは本当なんですか?」

じっと、エンブリヲの表情を真っ直ぐに見て穂乃果は問う。
その視線を受け止めながら、エンブリヲは何かを品定めでもするように穂乃果を見返しながら。

「いや、殺したのは私ではない。それは事実だ」

それまでのような大仰な装飾を加えることもなく、ただ短くそう答えた。

「分かりました。その言葉は信じます」
「話は終わったかね?なら皆のところに戻るといい。
 きっと、これからのことについて話し合っていることだろう」

その言葉を最後に、穂乃果はエンブリヲの前から出て行く。
そうして部屋を出る道中。

――もしあなたが渋谷凛さんを連れて行ったことがアンジュさんを追い詰めたのだとしたら、あなたはどう思いますか?

その疑問が穂乃果の脳裏をよぎっていく。
しかし、ああやって会話をしているだけでも体の感じる緊張は、吹き出す冷や汗は止めることができない現状。
そこまで深くのことを問う勇気は、今の穂乃果にはなかった。



「で、何でこいつがここにいるんだよ?」

皆が待機していた一室、アイドル研究部の室内。
そこにはこの校舎にいる者が皆揃っていた。

「何故、とは失礼だね。私も今は協力者だ。君達の今後について話すのなら共に話しておかねばならないだろう?」

エンブリヲも含めて。
ヒルダは隠すこともなく殺気を放っているし、それ以外の皆の間にも緊張が漂っている。
平常心でいるのは傍から見ればエンブリヲただ一人だろう。

だが、その空気に飲まれているだけでは話は進まない。
仕切るようにエンブリヲは話を進める。

「この校舎は確かにそれなりの機材を揃えた施設ではあるが、しかしまだ足りないものも多い。
 私はもうしばらく滞在した後移動しようと思う。向かう場所は北の施設に向かおうと思う」

北。そこには能力研究所やロケット、潜在犯隔離施設といった名前からしてあからさまなものが多い場所だ。
おそらくは一介の学校にすぎないこの場所とは比べ物にならない設備があるだろう。

「ふん、なら私は別で行かせてもらうぞ」
「里中千枝、彼女のことを気にしているのかな?」
「………」

ヒルダ曰く、彼女とはジュネスで別れ、地獄門で落ち合う予定だったそうだ。
おそらくはジュネス付近で何かあったということだろう。
残された銀のことも気になっている。

「…私は、…ここに残ります」
「はぁ?!」
「ほ、穂乃果ちゃん?!」

続いての穂乃果の発した言葉に、思わず花陽やヒルダ達は驚きの声を上げる。
唯一、眉一つ動かすことなく静かにしていたのはエンブリヲだけ。


622 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/02/29(月) 23:56:56 C.TvEnJI0

「おい、穂乃果!お前エンブリヲの奴に何言われた?!
 何なら今ここで私がケリつけてやっても――」
「人聞きが悪いな。これは彼女自身の選択だ。君がとやかく言うことではないだろう」
「私、エンブリヲさんに協力するって約束しましたから、だから」

協力してもらっている、すなわち曲がりなりにも約束をした彼の信頼を裏切ることで犠牲を出さないためには、これが最善なのだと。
それが穂乃果の選択だ。

「だったら、私も――」
「花陽ちゃん、ダメだよ、花陽ちゃんはここにいちゃ」
「え、どうして」
「…気になってる人、いるんでしょ?」

穂乃果は情報交換の中で出てきた、セリムというホムンクルスのことについてを話す時の花陽の様子はよく覚えている。
凛が庇って死んだという相手。だけど図書館で出会った時には拒絶されるかのようだったという。
相手が危険であることは穂乃果自身重々承知しているし、本来ならば行かせるべきではないのだと思う。
だが、それでも会いたいという花陽の気持ちは痛いほど共感してしまう。
セリュー・ユビキタス、そしてサリアと自分の幼馴染を殺した相手とは結局それっきりとなってしまいやるせない思いを溜め込んでしまっている穂乃果にとっては。
だからこそ、花陽には後悔してほしくはないと思っているし。
それに、大切な仲間だからこそ、こんな場所に居させておく訳にはいかないのだから。

「で、でも、穂乃果ちゃんは…」
「私なら大丈夫、私なりにできることをやってみるつもりだから。
 だから花陽ちゃんも、私のことは気にせずに自分のやりたいことをやって。何があっても、後悔しないように」
「ぁ……」

それ以上の言葉は出なかった。

「…白井さん、私が高坂さんと一緒に行きます」

そう言いかけた黒子の言葉を遮ったのは初春だった。

「エンブリヲさんは首輪の解析を進められるつもりなんですよね?
 私は情報やネットワーク解析の分野に関しては自信があります。ここにかけられていたロックも私が解析したものです」
「ほう?」

興味深そうに初春を見るエンブリヲ。
その言葉が事実であるならば、首輪の解析を推し進めたいエンブリヲにとってはその存在は貴重なものだ。
自分ひとりでもやり遂げる自信はあるが、人手は多い方がなお作業効率は高まるだろう。

一方で初春の目を見た黒子は、その意志を尊重するように言葉に同意し。

「分かりましたわ、では初春と私がここに残るという形で―――」
「白井さん、この場は私に任せてください」

自分もそれに付き合おうとして、しかしその言葉は遮られていた。

「エンブリヲさんとの作業は私の分野です。
 白井さんは、こことは違うところでやりたいこと、やらなきゃいけないことがあると思います。
 白井さんにしかできないことが」
「ですが、それでは…」

エンブリヲの近くにいる初春が危険だと。
その先を口にすることはない。この場の皆が察していることだ。
当然、初春自身も。

「大丈夫です、白井さん。私も私なりのやり方で、風紀委員として戦っていきます。
 だから―――」

「御坂さんのこと、止めてあげてください」




623 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/02/29(月) 23:57:26 C.TvEnJI0

(全く、そこでお姉さまの名を出すのは卑怯ですわよ、初春…)

音ノ木坂学院の正門をくぐり抜ける花陽、ヒルダ、そして黒子。
皆が各々、残ったメンバーに対し思うところがある者ばかり。

(見透かされていたのですわね、きっと)

穂乃果にも、初春にも。
御坂美琴の元に今すぐにでも向かいたいと心の底で思い続ける自分の心境を。
だが、そのためには自分達がいれば枷となるだろうから、と。

初春も何の考えもなく残る、といったわけではないはずだ。
エンブリヲによる解析も、ただ無為に進めるだけではないと信じている。
ならばそこは初春の戦場であり自分が出る幕はない。



(穂乃果ちゃん…、私よりもずっと辛いはずなのに…)

花陽は穂乃果に想いを馳せる。
失ったものは同じだが、目の前で真姫の死を目の当たりにした穂乃果の心は自分以上の苦しみを感じたはずだ。
なのに、自分では何かをすることができない。自分のことが精一杯だ。
だからこそ、花陽は一つの決意をしていた。

(卯月ちゃん、どうして真姫ちゃんを…)

島村卯月。
元々セリューの元にいた時から様子はおかしかった。
ブラッドレイとの会話でも、まるで現実逃避をしているかのような状態。
それは普段の彼女の様子を知らない花陽からもまともな精神状態ではないことは察することができたし、未央との会話でそれは確信となっていた。
しかしあの時由比との揉み合いの際に事故で命を落としたとずっと思っていた。

(一体何があったの?セリューさんの死が何か関係しているの?)

だからこそ、彼女に会って確かめなければならないと思っていた。
一体彼女に何があったのか。何が彼女をそうさせたのか。

もしことりのことがきっかけならば、その罪を穂乃果一人に背負わせてはならないから。
同じμ'sのメンバーとして、自分も共に背負っていく。それが友達、仲間というものだと思うから。





『ヒルダ、今度は死なせないように守りたまえよ』

(ち、胸糞悪いな)

それは別れ際にエンブリヲに言われた言葉。
誰に言われるわけでもない、自分がよく分かっている。
アンジュの、サリアの、千枝の死を、それ以前を含めればモモカやクロのことを守れなくて。
そのことに深い後悔を残していることなど。
それをよりにもよってエンブリヲに指摘されたのはあまりにも腹立たしかった。

エンブリヲのように理屈を並べて煙に巻こうとするような話し方をする者とは相性がよくないことはよく分かっている。
モモカの件も間違いなく黒だろう。だが、それを言ったところであの場ではどうしようもない。

『貴女も相応の信念を持ちなさい』

いつぞやにキンブリーに言われたことがリフレインする。

(信念って呼べるようなものかは分かんねえけどよ。
 もう誰も死なせねえ。少なくとも私の目の黒い内はな)

仲間と呼べる人達を誰も死なせない。
それがヒルダの決意だ。




「それでヒルダさん、進行方向にアテはあるんですの?」
「私は、ジュネスに向かいたい。元々千枝の行った場所だし、それに銀が呼ばれてない以上今どこにいるのか心配だ」
「…でも、それならアカメさんや泉くん達と合流してからがいいんじゃないかな…?
 もしかしたらすごく危ない人がいるかもしれないし…」
「初春の言っていたタツミという方との約束も気になりますわ」

このままのメンバーでジュネスに向かいタツミとの合流を優先するか、それとも一旦アカメや新一、雪乃達と合流してから向かうか。
あるいは合流した後の彼らに音ノ木坂学院の皆のことを任せるのも有りだろう。
三人の選んだ結論は――――――





624 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/02/29(月) 23:59:42 C.TvEnJI0


初春がエンブリヲの傍でしなければならないと考えたこと。
それは彼の首輪解析を少しでも手伝い他の皆へともたらす利益としつつも、エンブリヲ自身の解析を少しでも遅らせることだった。

アンジュから聞いたエンブリヲの情報では、彼はいわゆる神にも近いほどの力を持っていると言っていた。
そんな彼が首輪の解析にこだわる理由。それはおそらく皆と同じ、自身にかけられた強い制限を解除するためだろう。
その一歩として、首輪の解析が必要である、と彼は考えていると推測した。

無論、それが正解ならば首輪を外させるわけにはいかない。
しかしその解析の情報そのものは他の皆にとっても有益なものだ。

そしてもう一つ。
黒子から渡されたもの。

(幻想御手…、これが本物で、本当に効果を発揮するものなのか、それを調べないと…)

もしこれが学園都市で使われたものと同じ効果を示すものであるのだとしたら。
この会場そのものの特殊性を示すことに繋がる。ひいては、この出処を探すことにも。

(…白井さん、私は私のやり方で戦っていきます。
 西木野さんのような犠牲をもう出さないためにも…)

先の放送で、ジョセフ・ジョースターの名が呼ばれた。
それだけではない。
彼の言っていた仲間、モハメド・アヴドゥルや花京院典明はその前の放送で、そして空条承太郎もジョセフと同じくして名を告げられた。
一方で、彼が追っていった危険人物、DIOは未だ健在だ。

ブラッドレイ、後藤、そしてエスデスやDIO、佐天の命を奪ったエンヴィー、更には御坂美琴。
協力でき、仲間となれそうな者は減っていく中で未だに多くの危険人物が残っている。
だからこそ黒子の足を引っ張るようなことをしてはいけない。
彼女には彼女の戦うべき場所がある。自分がこの場に残ったように。

(だから、御坂さんを…どうか…)

もう手遅れかもしれない。もう誰かの命を奪っているかもしれない。
それでも、これ以上人を殺める前に、戻れなくなる前に。
あの学園都市3位の力を持つ、だけど同時にただの中学生でもある彼女を止めてあげて欲しい。

それが初春の願いだった。



(…アンジュは、死んだか。彼女ならば生き残る力を持っていると信じていたものだが…)

改めてエンブリヲは、既に亡き欲した相手のことを考える。
その死が悲しいと感じた事自体は事実だ。だが、その死に方針そのものを変えるつもりはなかった。
死んだのであれば、蘇らせればいい。力を取り戻し、次元融合を成し遂げた後で、アンジュと再会する。
実にドラマチックなシチュエーションではないだろうか。

もし惜しいと感じるものがあるとすれば、もう一つの永遠語りの歌が失われてしまったということだろう。
だがそれならばあるいは別の代用可能な要素を探す。
例えば錬金術、例えばイリヤスフィールの中にある何か、といったもののように。


「いいのか?手元から離してしまっても?」
「…どういう意味ですか?」
「もう二度と会えなくなるかもしれないのだぞ?
 私と、アンジュのように」
「………」

校舎から離れ、門に向かっていく三人の姿を見送りながら、エンブリヲは穂乃果へと問いかけた。
返答はない。
選択そのものに迷いはないが、それでももっと最善のことはなかったのかと考えているのだろう。


625 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/03/01(火) 00:01:00 g6dTv/wc0


「なるほど、まだ自分の中でも整理ができていないといった様子だね。まあいい。
 それじゃあ一つ。やらなければならないことがある。彼女の、西木野真姫の元に向かおうか」
「…何をするんですか?」
「私としても君の前で言うのはあまり気の進むことではないのだけどね。
 それでもやっておかないといけないことだ。彼女の首輪の、回収だよ」

首輪の回収。その意図するものに穂乃果が息を飲む。
だが、彼女は分かっているはずだ。それが必要なことだと。



(現状に限れば悪くはない、といったところだな。ヒルダと会った時はどうしたものかと少し考えたものだが)

手元に残った二人は戦闘能力を持たぬ、しかし今の自分にとっては益となる者達。
決して自分の意のままにはならないだろうが、しかしこうして協力し続ける限りは敵対することもないだろう。
戦闘力を持たぬ分、いざとなれば斬り捨てるのも容易い。

それに。

(私はこの場で少し敵を増やしすぎたからね。高坂穂乃果、彼女の期待を裏切らない限りは、彼女も私を敵に回すことは避けるだろう)

穂乃果にはエンブリヲなりに別の使い道も考えていた。
それは彼女をこちらに対し敵対する者との仲介役として。

無論、それが通じない相手もまたいるだろうし全てが彼女の言葉を聞き入れるとも思ってはいない。が、その時はその時で対処すればいい。
もしヒステリカが広川の手元にあるというのであれば、最悪首輪解除だけでは終わらない可能性もある。
これまでのような強引なやり方ではなく、少しずつ、ゆっくりと進めていけばいい。

加えて、今この場に残った二人の人間。
己の意志で考え、そして抗い続ける道を選べる者。
そういった者は嫌いではなかった。少なくとも堕落し、考えることを止めたマナの民と比べれば。

(それに穂乃果、君のやり方は、一体誰に影響を受けたのかな?)

実際のところ彼らの情報交換そのものは分身を通じて把握している。
もし彼女がアンジュの在り方を聞いてそこに影響を受けているのだとしたら面白い。
力を持たぬ者が、この場でどれほどまでに抗うことができるのか。

そしてもう一つ。

(確かに彼女の近くで事を起こすのは可能な限り避けた方がいい。
 だが)

自分から離れた場所、あずかり知らぬ場所で死人がでるのであれば、知ったことではない。

エンブリヲは別れ際、ヒルダのバッグの中に一つの支給品を忍び込ませておいた。
それはクロエ・フォン・アインツベルンのバッグに入っていたもの。
薬品の入った小型の器。血液に直接注入することで効果を発揮するものだ。
肉体に強化を及ぼす一方で、人間にとっては劇薬となる毒でもあるらしい。
これを、エンブリヲはその毒となるという部分を削除して書き直した説明書と共に彼女のバッグに転移させておいた。

存在に気付いたヒルダ自身が使用し命を落とすか。
あるいは全く別の何者かの手に渡りその者の命を奪うか。
少なくとも既に死んだアンジュの命を奪うことはないのだから。

(待っていてくれ、アンジュ。私は必ず君を迎えにいく。それまで暫しの辛抱だ)


調律者は静かに笑みを浮かべる。
アンジュを生き返らせることができると、その果てに彼女が受け入れてくれるだろうということを疑うこともなく。


626 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/03/01(火) 00:01:31 g6dTv/wc0
【G-6/音乃木坂学院付近/一日目/夜】

【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(大) 、左肩にダメージ、ノーパン、頭部出血(中)、全身にガラスによる切り傷。アンジュを喪った衝撃(大)、エンブリヲに対する苛立ち
[装備]:グロック17@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2、クロのパンツ フォトンソード@ソードアート・オンライン、ドーピング剤@アカメが斬る
[思考]
基本:ノーマらしく殺し合いを潰す。
1:仲間は誰も死なせない。
2:ジュネスに向かい銀を探したい。イリヤも会ったらぶっ飛ばしてでも止める。
3:エンブリヲを殺せなかったことへの苛立ち。次に会ったら殺す。
4:マスタングとイェーガーズ(ウェイブはともかくエスデス)を警戒。
5:キンブリーの言葉を鵜呑みにしない。
6:強い戦力になるもの、特にパラメイルかラグナメイルが欲しい。
7:アンジュ、モモカ、サリア、千枝……。
[備考]
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。
※クロエの知り合いの情報を得ました。
※平行世界について半信半疑です。
※キンブリーと情報交換しました



【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(小)、精神的疲労(大)、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません)
[装備]:音ノ木坂学院の制服
[道具]:デイパック、基本支給品、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ、スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation 、寝具(六人分)@現地調達、サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[思考・行動]
基本方針:皆と共に生き残る。
1:私には、何ができるだろう?
2:穂乃果が心配。
3;μ'sの仲間や天城雪子、由比ヶ浜結衣の死へ対する悲しみと恐怖。
4:セリムや卯月を探したい
5:雪乃には無事で居て欲しい。
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後。


【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、悲しみと無力感、穂乃果に対する負い目
[道具]:デイパック、基本支給品、、首輪×2(婚后光子、巴マミ)、扇子@とある科学の超電磁砲、エカテリーナちゃん@とある科学の超電磁砲
[思考・行動]
基本方針:お姉様や仲間となれそうな者を探す。
1:お姉様を探し、風紀委員として彼女の誤ちを止める。
2:1について情報が集まるまでは花陽、ヒルダと同行する。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているということを確信しました。
※槙島が出会った人物を全て把握しました。
※アンジュ、キリト、黒と情報交換しました
※エンブリヲと軽く情報交換しました。



【G-6/音乃木坂学院/一日目/夜】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大) 、戦う決意、悲しみ
[装備]:デイパック、基本支給品、音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(3/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3
[道具]:練習着
[思考・行動]
基本方針:強くなる
1:エンブリヲを警戒しながらも首輪などの解析を行わせる。その為の協力はする。
2:
3:花陽ちゃん、マスタングさん、ウェイブさんが気がかり
4:セリュー・ユビキタス、サリア、イリヤに対して―――――
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません
※エンブリヲと軽く情報交換しました。


627 : 僕たちの行方 ◆BLovELiVE. :2016/03/01(火) 00:01:50 g6dTv/wc0

【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1〜2、テニスラケット×2 、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する。
1:自分なりのやり方で戦う。
2:エンブリヲと共に首輪を解析、ただしエンブリヲへの警戒は怠らない。
3:白井さん、御坂さんをお願いします…
4:エンブリヲにはばれないように、幻想御手の解析も行う。
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺し合い全体を管制するコンピューターシステムが存在すると考えています。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※ジョセフとタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているらしいということを知りました。



【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(小)、参加者への失望
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ
     各世界の書籍×5、基本支給品×2 不明支給品0〜2 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本方針:首輪を解析し力を取り戻した後でアンジュを蘇らせる。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:広川含む、アンジュ以外の全ての参加者を抹消する。だが力を取り戻すまでは慎重に動く。
3:特にタスク、ブラッドレイ、後藤は殺す。
4:利用できる参加者は全て利用する。特に歌に関する者達と錬金術師とは早期に接触したい。
5:穂乃果、初春を利用する。
6:真姫の首輪を回収した後、北部の研究施設に向かう。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
 分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。
※DTB、ハガレン、とある、アカメ世界の常識レベルの知識を得ました。
※会場が各々の異世界と繋がる練成陣なのではないかと考えています。
※錬金術を習得しましたが、実用レベルではありません。
※管理システムのパスワードが歌であることに気付きました。
※穂乃果達と軽く情報交換しました。
※ヒステリカが広川達主催者の手元にある可能性を考えています。


※音ノ木坂学院で穂乃果、花陽、黒子、初春、ヒルダはこれまでにあった出来事や出会った人物について情報交換を行いました。



【ドーピング剤@アカメが斬る】
アニメ本編にて三獣士の一人、リヴァが使用したもの。
手のひら程度の大きさの容器に収められた薬品。
血管に注入することで身体能力を強化することができるが同時に毒でもあるため耐性がなければ死に至る。
なお説明書はエンブリヲによって手が加えられており、毒性についての説明が記されていない。


628 : ◆BLovELiVE. :2016/03/01(火) 00:02:29 g6dTv/wc0
投下終了です
もしおかしなところなどあれば指摘お願いします


629 : 名無しさん :2016/03/01(火) 00:39:03 maZQ9lPU0
投下乙です

エンブリヲ様暴走するかと思ってたがそんなことはなかったかw
むしろ一番精神的に安定してるな


630 : 名無しさん :2016/03/01(火) 00:48:04 EujsO22I0
投下乙です
ブリヲは序盤のレイプマンと同一人物とは思えないな


631 : 名無しさん :2016/03/01(火) 01:27:51 Oh1wbuU.0
投下お疲れ様です!
と言いつつもまだ呼んでおりません。
きっと放送でアンジュの死を知ったエンブリヲが――と。

私も投下します


632 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:28:38 Oh1wbuU.0


【Phrase1:セリム・ブラッドレイ――froidement.1】


 放送を聴き終えた段階で気になることと言えば、キンブリーが死んだことだ。
 彼は決して弱くない。正面からの戦いでも対応可能な有力な人材でもあった。
 特に殺し合いは全てが己の全力を賭けた戦いになるとは限らず、強い参加者が最期まで生き残る保障は無い。

 闇討ちや奇襲。
 頭の働くキンブリーからしてみれば、この環境は彼が喜ぶ状況を簡単に演出出来るのではないだろうか。
 紅蓮の錬金術師と呼ばれたその男……意思だけは本物である。


 良くも悪くも覚悟が出来ている人間だった。
 殺し合いだろうと己を曲げず、悪に汚染されずに自我を保ち、状況を謳歌していたのだろう。
 悪い笑みを浮かべている姿が容易に想像出来てしまう。


 そんな彼が死んだ。
 悲しみの感情は抱かない。哀れみも喜びの感情も湧いてくることは無かった。


「貴方が死にましたかキンブリー」


 信じられない。と思うことも無い。
 仮に自分とキンブリーが交戦したならば勝者は前者であるホムンクルスだ。
 紅蓮の錬金術師が規格外の怪物と戦闘を行ったならば、負ける未来が見えてくる。


「まあ……今はゆっくり休みなさい。もう、起きることはありませんが」


 もう会うこともない。
 生物は死んでしまえば、それで終わりです。
 貴方も例外ではない……別れの言葉も必要ありませんか。



 目的地はもう目の前だ。
 武器庫――此処に首輪を交換するシステムが備わっていると先の放送で広川が告げていた。

 自分の持っている首輪。
 蘇芳・パブリチェンコ。どれくらいの価値があるだろうか。


633 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:29:28 Oh1wbuU.0


 銃火器を操っていたことを考えれば、ただの一般人よりは戦闘に知識があったのだろう。
 拳銃の類ではなく、破壊に重点を置かれ戦争の中に配置されそうな対物ライフルを操る少女が一般のカテゴリに入るとは考えられない。


 あの時対峙した後藤の首輪があれば、確実に絶対数値の結果を得られそう気もしますが、仕方ない。
 文句は試してみてから……首輪交換にどれほどの価値があるかを見定めましょう。


 そんなことを考えながら歩いていると、時間の経過が早いのかそもそも近くにあったのか。
 太陽が沈んでいる今なら灯りがよく見える――武器庫の傍にまで到着した。

 奥を見ると人影が一つ、どうやら先客がいるようだ。
 ホムンクルスの真実が何処まで広がっているかは不明だが、どうだろうか。
 人影はそこまで大きくないはず。つまりセリムの個体と同一程度の人間だろう。

 背は高くない。
 一人で武器庫にいるとなれば仲間とはぐれたか、殺し合いに乗っているかのどちらかになる。
 あまり大事にするつもりは無いが、何時までも時間を無駄にしている暇も無い。


 プライドを知らない参加者ならば、セリムとして接すればいい。

 プライドを知っている参加者ならば、プライドとして振る舞えばいい。


 殺し合いの情報交換も含め、何にせよ武器庫へ入ることに変更は無い。


「あの……こんな所で何をしているんですか?」


 扉を潜り歳相応の声を出す。


 目の前には本当にセリムの個体と変わらないぐらいの少女……さて、どうしましょうか。


634 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:30:21 Oh1wbuU.0



【Phrase2:エドワード・エルリック――vigouroux.1】



 何時まで経っても、人が死ぬことに慣れねえ。いや、慣れたくもない。
 三回目になった広川の放送を聞いた俺は、この時、柄にもなく立ち止まっていた。

 御坂を追い掛けなきゃいけない。
 大佐は自分で立ち直ってるだろうとある意味信頼していたから。
 じゃなきゃ、イシュヴァールを乗り越えて此処まで生きていないだろうし。


 広川から告げられる死者の名前。
 ジョースターの孫である空条承太郎の名前が呼ばれた。
 話を聞く限りじゃかなり強い印象を抱いていた。感じたのは驚きではなく後悔。
 また人が死んじまった。
 ジョースターさんの心情は俺には解らない。だけど、俺とアルは大切な存在を失った経験がある。
 個人の情を抜きにして、今のジョースターさんに掛ける言葉が見つからねえ。


「アン……ジュ……っ」


 今度は顔も知っている奴だった。
 俺とあいつの過ごした時間なんてきっと一時間にも満たない。
 少ない時間の中で解ったことは気が強くて、自己中心的な女だってこと。
 
 俺のコート。持ち逃げしやがって……違う。
 そんなことを考えているんじゃない。俺は自分の頬を叩いた。

 棘みたいにいちいち言葉が尖っている女だった。
 だけど、エンブリヲに拉致されたリンって子を救いたい気持ちは本物だった。
 表には絶対に出さない。恥ずかしがって面を被っているタイプの女だった。


「……死んだのか」

「おい、エド」


 エンブリヲを追って別れた。アンジュの名前は呼ばれたがエンブリヲの名前は呼ばれていない。
 実際にどうなったかは不明だが、志半ばに倒れたのは事実だろう。
 仇。そんなもんじゃないけどとってやる。だから、安心して眠ってな。


『ゾルフ・J・キンブリー』

「……そうか」


635 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:31:35 Oh1wbuU.0

 紅蓮の錬金術師が死んだ報せに対して抱いた感情は言葉に、簡単には表せない。
 敵だった男だが、人間が死んで喜ぶほど腐ってはいない。

 言えるとすれば。
 一発この手でぶん殴りたかった。これだけだ。

 あの男を殺せる参加者がこの会場にいることになる。
 味方なら心強いが、敵だった場合は考えたくない。


「聞こえてるかエド」

「あぁ、悪い悪い」

「聞こえてるならいい。それだけだ」


 マオが俺のことを気にして何度も声を掛けていた。
 猫のくせに……と思うけど、今はそのお節介が有り難い。
 一人だけだったら、変に塞ぎ込んじまうから。





【Phrase3:佐倉杏子――vigouroux.1】





 夢でも見ている気分だった。いっそ夢ならどれだけ良かったことか。
 殺し合いに巻き込まれたこと全てが夢で、誰も死んじゃいない世界ってのが一番の幸せだろう。
 少なくとも、殺し合いの中で死んだ奴は救われる。

 
『佐倉様……』


 サファイアがあたしの事を気に掛けている。
 エドワードの行く先目掛けて走って。放送が流れても足を止めなかった。
 死者の発表が始まった途端、結局その場に止まった。

 急いでいるし焦ってもいる。時間が惜しいのは本当だから。
 こうしている間にもジョセフはDIOの野郎と戦っている。
 認めたくはないけど、あの野郎は強い。あたし一人が加わった所で勝てる見込みは薄い。
 

 それをジョセフは解っていたんだと思う。だから一人で残った。
 DIOのスタンド能力の正体は時を止める――馬鹿らしい能力だった。


636 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:32:02 Oh1wbuU.0

 
 小さい子供が考え付きそうな捻りの無い能力。
 王道で、実際に存在すれば子供でも理解出来るぐらいの反則能力だ。


 戦っている間は瞬間移動のように感じた動きも全部、時を止めていたならば。
 不思議なぐらい全てが理解出来る。あの男は時を止めていたんだって。

 広めなくちゃならない。ジョセフが暴いたDIOのスタンド能力を可能な限り会場に伝え回る。

「暁美ほむらにジョセフ……冗談キツイな本当に」

 後頭部をハンマーか何かでぶん殴られた気分だ。それぐらい意識を手放したかった。

 これで会場に居る知り合いは美樹さやかだけになった。
 暁美ほむらは何だかよく解らない奴だった。でも根からの悪人には見えない。
 そんなことを言ってしまえば自分の方がよっぽどの悪人である。
 盗みや家屋への侵入など自慢にはならないが、結構なことをしてきたつもりだ。


「暁美ほむら、ね」


 どんな顔をして死んでいったのか想像もつかない。
 巴マミも鹿目まどかも暁美ほむらも。魔法少女は次々に死んでいく。
 たった一つの奇跡を願ったばかりに、その終末は希望とは程遠い絶望であった。

 そんな話は願い下げである。生きているならば夢ぐらい見させてくれとも思う。
 それでも、死んでしまえばその夢すら望むことを許されない。
 吹き抜ける風が普段よりも冷たく感じ、心も冷えてくる。

 もし死体に出会えたなら。
 縁起でもないけど、弔ってやる。
 仲間に出会えたとか独りぼっちだったとか。彼女が殺し合いでどう動いたかは知らない。
 

「……仇、取ってやるからな」


 誰に殺されたかは解らないけど、見つけたら倒してやるよ。
 暁美ほむらが殺された。ってのが問題じゃない。人を殺す奴に容赦何て要らないから。

「それにしても」

 空を見上げるともう太陽が落ちている。
 夜はかっこいいと思う。自分もまだまだ子供だと実感する。
 それよりも。不安が心を埋め尽くしてしまう。
 夜は吸血鬼の時間だから。あの男が最も輝いてしまう時間だから。


「またあたしを置いて死んじまった……くそ」


 ジョセフ・ジョースター。
 解ってはいたけど、放送で名前を呼ばれてしまった。


637 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:32:46 Oh1wbuU.0

 心の何処かでは思っていた。
 ジョセフはあのままDIOと戦って死んでしまう。
 悔しいがあの男は強い。カラクリが時を止めること。それを暴いても対応のしようがない。
 マミさんを殺したらしいサリアの名前が呼ばれても、上の空だ。

 時計塔に残って戦闘していても、無駄死で終わっただろう。
 最悪の結末を回避すべくジョセフは自分に逃げろと言った。言葉は違うが意味合いは一緒だ。

『佐倉様。お気持ちは解りますが此処は』

「……大丈夫だ。引き返してDIOをぶん殴るなんて言わないよ」

 今すぐにでもDIOを始末したい。
 でも、行った所で勝てる見込みは薄くて、それじゃあジョセフの死も無駄になってしまう。
 あたしは生きてDIOを倒すための礎になるんだ。


「なぁサファイア。馬鹿なことは言わないけどさ。あたしとあんたで別行動にしないか?」


 戦力の低下になるけど、あたしが死んでもいいように保険を掛けとく。





【Phrase4:セリム・ブラッドレイ――froidement.2】 



 武器庫の中に置かれている首輪交換のための機械は言ってしまえば四角い空間だった。
 公衆電話のようなボックスがあり、その中に首輪を入れると思われる機械がある。それだけだ。

 本当に面白みも無い。
 広川の放送で仮に存在を告げられなければ気づかなかっただろう。
 殺しの対価に得た首輪を新たな対価へ昇華させるシステムは少々活用されてないらしい。
 積極的に殺し回る参加者からすれば、天の声に近い制度だと思われるが自分には関係無い。


「さて、何処まで聞き出せることやら」


 求めるのは武器では無く情報。
 私に武器など与えても不必要……と、までは行きませんが特段、急に必要になる確率は低い。
 発光源を確保出来れば嬉しいのですが、必ずしも手に入るとは限らない。

 ならば、情報を求める。
 不可解なことが多いこの殺し合いの裏側を私は開示する。
 謂わば真理。誰かの掌で踊り、真理に触れることすら無く死ぬのは誰も望みませんから。


638 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:33:47 Oh1wbuU.0


 空間に侵入しようと足を進めた所で、武器庫へは既に誰かが立ち寄った痕跡がある。
 ある程度物色されており、もしかしたら首輪を持った参加者が居たのかもしれない。
 建物内に生物の気配を感じないため、今は誰も居ないようですが若干の警戒は必要でしょう。

 何処に誰が潜んでいるかは解らない。
 現れた所で蘇芳のようにライフルを具現化させ、後藤のように怪物に変身する可能性もある。
 私の知らない錬金術師だったり御坂美琴のように雷光を用いるかもしれない。

 元々、人の目から注目されることのないホムンクルスではありますが、慢心はいけない。
 下等生物と見下して足元を掬われるなど……全く、笑い話にもなりません。
 その点から言えばキンブリーが死んだこととエンヴィーが生きていることは釣り合いませんが。


 ――と。
 このとおりに進めば順調だったのですが、建物内には既に先客が居るのは明らか。
「あの……こんな所で何をしているんですか?
 さて、どう動くか。


「……何をしていると思う」


 建物内には誰も居ませんが、入り口に一人で立っている女性が此方を見ている。
 歳はセリムの個体と変わらない少女と云った所でしょうか。
 返しの言葉はあまり友好的には感じ取れず素っ気ない声色。
 気になることと云えばその両手に抱えて持っている首輪でしょうか。


「えっと……首輪を交換しようとしているんですか?」

「そうだよ。よく解ったね……君、名前は?」

「………………知らない人に名前を教えちゃ駄目だってお父様が」


 皮を被る。
 相手の素性が不明なため、出来るだけ様子を伺う必要がある。
 問答無用で処分しても問題は無いが、情報を得るためには会話を行うための土台を作らなければならない。
 少々面倒ですが、目の前の少女と一時の会話を行いましょう。


「私とそんなに変わらない見た目なのに偉いね……セリム君?」

「――――――――――!」

『すっごい良い子ブッてますけど明らかに人間じゃない反応を感じますし、キンブリーが言っていたホムンクルスの可能性が高いですねイリヤ様』


 驚いた。
 セリムの情報を知っていることには問題無い。
 マスタング大佐達を仕留めきれなかった時点で私の正体は露呈されたと同然ですから。

「キンブリーに会ったのですね」

 このことの方が驚きだ。
 目の前のイリヤと呼ばれた少女はキンブリーと知り合いらしい。
 言語を話す棒状のモノにも驚きを示すが、私にとってはどうでもいい。

 口振りからしてキンブリーに私の正体を教えて貰ったのでしょう。
 意図には興味ない。気になることは。


「教えてくれますか、彼はどうやって死んだのでしょうか」












「キンブリーさんは私が殺した」



 少女の顔は人間らしい感情を帯びていない、まるでホムンクルスのように冷たい印象を受ける。
 普通の人生を歩んでいるならば生物を殺害して平然としていられる少女など居るはずも無い。
 故に目の前に立っているイリヤと呼ばれた少女は、常人の枠をはみ出した存在だと仮定する。


「全く……どうして人間は不可解なことばかりやってのけるでしょうか」


 近寄りながら不満を漏らしつつ、決してイリヤを視界から逃さない。
 嘘か本当かの真実など言葉だけでは不透明だ。しかし例え冗談だとしてもキンブリーを殺したと発言した。
 あの男を知っている人間からすれば、随分と大きく出ましたね。


639 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:34:34 Oh1wbuU.0


 仮に。彼女が本当にキンブリーを殺したならば、思ったよりも苦戦するでしょう。
 紅蓮の錬金術師の強さは知っている。並の錬金術師は歯が立たないことも知っている。けれど。


「仇を取る訳ではありませんが、その首輪を渡してもらいましょうか」


 それが、ホムンクルスのプライドが勝てない理由にはならない。
 背後から影を鋭利な形状でイリヤを殺すために這い寄らせる。
 
 この攻撃で死ぬようならキンブリーを殺すことなど不可能でしょう。
 嘘なら――の話でしたが。


『イリヤ様、あの影から不気味な力を感じます。気を付けて』

「解ってる……当る前に、殺しちゃえば問題は無いよね」


 光が彼女達を包み込んだかと思えば服装が衣装のような派手になっていた。
 そのまま飛翔を行い、影を避けつつ――喋る棒を私に向けた。


「吹き飛べ……吹き飛べっ!!」

 
 すると棒状の先端が輝き出し、その光は錬成を行う時に発するそれを連想させる。
 つまり、高位のエネルギー密度が私に向かって発射された。


640 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:35:12 Oh1wbuU.0


【Phrase5:佐倉杏子――vigouroux.2】


 渋々だったけどサファイアはあたしの言葉を受け止めて、先にエドワードを追って行った。
『絶対に死なないでください』『貴方が死ねば悲しむ人が居るのを忘れないでください』『エドワード様と合流したら佐倉様を迎えに行きます』
 
 マシンガンステッキだった。
 言葉が口も無いくせにどんどん飛び出して来てこっちの言葉を無視していた。
 
 わかってるわかってる……適当に言葉を並べて我慢してもらった。
 悪いことをしたとは思っている。パシリみたいな形で行かせちゃったし。


「さてと……あたしはどうすっかな」


 目的地。そんなものは無い。
 ジョセフの仇を取るためにDIOの元へ向かうか。
 残念だけど、あたし一人の力じゃあいつには勝てない。サファイアも居ないし。

 近くにある武器庫に寄ってみるか。
 やばそうな悪寒を感じる。首輪を交換するために碌でもない奴らがうじゃうじゃいそうだ。

 エドワードを追い掛ける。
 何でサファイアと別れたのか、意味が解らなくなる。
 でも、これが今一番の目的で、取るべき行動だと思う。


 あたしは少しだけでもいいから一人の時間が欲しかった。

 勿論、DIOの野郎の秘密を知っているあたし達をバラす意味もある。
 二人とも死んじまえば、ジョセフの死が無駄になっちまうから。

 涙は流さない。
 瞳から落ちた水滴はマミさんの時に全部流したつもり。だから今は流さない。

 暁美ほむらが死んで、ジョセフも死んだ。
 思い返せば最初に突っ掛かった空条承太郎も死んでいる。

 あたしと関わった人間がどんどん死んでいく。
 まるで死神だ。そのくせあたしは今も生きている。


「――――――――――――はぁ。嫌になるよ」


 言葉が勝手に口から出ていた。
 勿論、反応してくれる人は誰も居ない。
 強いて言うなら、西から大きな音が聞こえて来たぐらいだ。
 ……強いて言うならって何を強いられてんだか。


641 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:35:38 Oh1wbuU.0


【Phrase6:セリム・ブラッドレイ――froidement.3】



「――ッ、外に」


 イリヤの放ったエネルギー体に対して影を重ね、防いだ。
 しかし勢いを失わず力の行き場は自分に変わりなく、衝撃と共に武器庫の外へ弾き飛ばされてしまった。

 外だ。
 
 太陽が落ちている中で、外での戦闘は好ましくない。
 影が闇と同化する今の時間帯では、普段の力を発揮出来ない。
 何とかして光源体を確保したい所ですが、私を追って当然のように彼女は現れた。


「今ので死んでいたら貴方も私も楽なのに……」


 距離が離れているため聞き取れないが、口の動きや表情からして哀れみや悲しさを帯びているのだろう。
 これから死ぬなんて可哀想に……などと思っているのかもしれない。
 今まで見てきた人間の中で、あの瞳を持つ者は何かしら大切なモノを失っていると相場が決まっている。
 人間特有の感情が。


『イリヤ様、もう一発いきますか?』

「うん――そうしよう」


 まただ。
 また、喋る棒きれの先端に高位度のエネルギーが収束していく。
 
「光……今なら戦えますか」

 この灯りからならば影が生まれ、普段通りの戦闘を行うことが出来るが――回避に移る。
 自分が数秒前に立っていた大地を削り、遠くの果てまで伸びる攻撃。
 正面から喰らえば賢者の石の消費が無視出来ないものになるでしょう。


 全く――どうしてこんなことをしているのでしょうね。


642 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:36:17 Oh1wbuU.0


【Phrase7:トゥッティ】


 天を飛翔する魔法少女――イリヤはルビーを携えてセリムに向かっている。
 ルビーには魔力が収束しており、開放することによってビーム状の波動が敵を襲うことになるだろう。

 キンブリーを殺したことによって、イリヤの中にあるスイッチが押されてしまった。

 いや、スイッチなど最初から存在しないのかもしれない。
 殺し合いが始まり彼女が体験した全ての出来事は良くも悪くも影響を及ぼした。
 出会いと別れを繰り返し、様々な感情を抱いた上での殺しに対する覚悟と焦燥。

 何にせよ紅蓮の錬金術師が残した爪痕は一人の少女の人生を狂わせた。
 仮に元から狂っていたとすれば、自分色にイリヤを染め上げてしまった。

 彼女を知る人間が今の殺人鬼を見れば。
 受け入れられない現実が待っているのは避けようのない結末であろう。


「また影で自分を覆っている……目や口がたくさんあって気持ち悪い」


 自分の標的であるセリムはホムンクルスとして持ち合わせている能力を使い防御態勢に移っていた。
 己の影を自由自在に操る能力だがイリヤはそんなことを知るはずも無い。
 客観的に彼の能力を見て口から感想が漏れていた。本心からの一言である。


「だから――消すッ!」


 ルビーから放たれた高密度の魔力は空間を抉るように全てを巻き込みセリムに放たれた。
 一呼吸程度の間あ置かれた後に、影に魔力が直撃した音が暗闇に響く。

 木々ならば簡単に消え去る一撃だが――ホムンクルスは健在である。


「防ぐことは出来ても光が無き今、攻勢に出れませんね」


 影の隙間から見える赤い瞳。
 優しい少年であるセリム・ブラッドレイからホムンクルス・プライドに変化した瞬間だ。


643 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:37:11 Oh1wbuU.0

 排除の対象であるイリヤへ向ける瞳など、ゴミを見つめる視線と同程度である。
 消せば全ては同じ結末を辿る。彼女がこれまでに歩んできたドラマなど他人には関係も無ければ興味も存在しない。

 しかし、影を扱うプライドにとって夜間での戦闘は厳しい条件が付き纏う。
 何せ発光源が無ければどうしようも出来ないのだ。

 イリヤがルビーから魔力を放出する際に生まれる光を頼りに影を操っても、己のリズムが狂うだけである。

 現に魔力を防ぐしか出来ることが無い。
 それに無限に防げる訳でも無く、唯でさえ賢者の石の再生能力に制限を掛けられている現状。
 このまま攻撃をもらい続けた所で、プライドにメリットは何一つ存在しない。

 彼の立場からすれば何とかしたい所ではあるが――他人が乱入する。


「大きな音や光があったから来たけど……大丈夫かい?」


 赤い髪に赤い衣服を纏った少女がプライドの隣に立ち、彼に声を掛けた。
 幸いプライドは光が無くなったため影が発動せず、本性を知らない人間からすればセリムに見える状態であった。


「大丈夫と言いたい所ですが……一つ聞きたいことがあります」

「何だよ言ってみな」

「貴方は光や炎を生成することは可能ですか」

「いや、できな――炎なら出来るかも」


 赤い魔法少女――佐倉杏子は開口一番に否定から入ろうとしたが、言葉を引っ込める。
 炎ならば出来る可能性があると。
 自爆の際に生まれる魔法の塊は大炎の結晶と云っても差し支えは無い。

 大炎を応用し、極限にまで薄めれば日常生活での活用も可能かもしれない。
 これでガスに頼らなくても生活が――などと思っている余裕は無い。

 彼女が見据える先には大きな音や光の犯人が居る。
 今は大人しくしているが、何時襲ってきても可怪しくない状況である。


「出来るならどうすればいい?」

「そうですね……近くの草を燃やしてください」

「お安いご用――来るぞ!」


644 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:39:56 Oh1wbuU.0


 佐倉杏子は槍先に炎を灯し、少年から言われた通りに草を燃やす。

 セリム・ブラッドレイはイリヤが放った光を利用し影で己を――隣に立つ少女を含めて防衛する。

 さて、光が晴れれば先程と同じ通りプライドは健在である。
 問題があるとすればこの先に己からの攻撃手段が無いことだが、名も知らない魔法少女がそれを解決する。

 燃えた草むらの周辺には当然のように灯りがある。
 つまり――。

「礼を言いますよ。少々面倒に感じていた所ですから」

 光が晴れても尚、影は生きている。

「……なぁ、お前はもしかしてセリム・ブラッドレイなのか?」

「貴方も私を知っていますか。この状況でセリムの名前を出すならば正体も知っているでしょう」

 口元が緩み笑みが浮かぶが、底の知れない沼地のように引き込まれるような邪悪。
 影を見てセリムの名前を出すならば、当然のようにプライドの姿を知っている人間から情報を得たのだろう。

「ホムンクルスのプライドか。知らなかったとは云え敵に協力したって言えばエドワードの野郎が面倒だ……ったく」

「鋼の錬金術師から私のことを聞いていましたか。
 では此処で私を殺しますか? それでも構いませんが先約があるのでお待ち下さい」

 鋼の錬金術師の名前を聞いたプライドは全てを悟る。
 彼から情報を得ているのならば、今更セリムとして振る舞う必要も無い。
 聞くことがあるとすれば敵になるか協力するかのどちらかである。
 そしてこの状況を考えるに答えなど一つしか無いだろう。頭が柔軟な者ならば。


「…………お前はどうしようもないホムンクルスなんだろ?
 なら、あたしの敵になる……けど。あぁ、本当に何なんだよこの状況は……お前よりもヤバイ奴が目の前に居る」


 槍を斜めに構えながら悪態をつくように佐倉杏子は現状の意味不明さを嘆いた。
 セリム・ブラッドレイ――プライドは敵だ。
 参加者の敵であり、人間の敵であるホムンクルス。
 もしかしたら、殺し合いに置いて正義の心に目覚めて――冗談は必要無いだろう。

 そのプライドが隣に居るが、残念なことに目の前に居る空を飛ぶ少女の方が危険であった。
 此方に光輝くサファイアのようなステッキを向けており、見たことのある魔力が放たれていた。

 まともに思考する時間も与えてくれないらしい。
 大地を蹴り、右に跳んだ彼女は槍を握る腕に力を込め、標的を視界に捉える。

 着地と同時に駆け出し、距離を詰める。
 突き――では無く、槍を投擲した奇襲を試みるも、魔力の壁に阻まれ槍は消える。

(あのステッキはやっぱサファイアと同じかよ)

 新たな槍を精製しつつ杏子は宙に滞在する少女を睨む。
 彼女が持っている杖は先程別れたサファイアと同系統――ルビーだ。

 その能力を知っているからこそ、目の前の敵が強大であることに汗を流す。
 そして、戦力の面から考えるにサファイアと別行動を選んだことに後悔が走る。

(安易過ぎたよな……何処までやれるか。
 サファイアから聞いた話だと杖がルビーで使っているのがイリヤか)

 大地を槍で小突きながら杏子は目の前の敵がサファイアの仲間であることを再認識する。
 再認識した所で、戦わなければ自分が殺されるだけであり、選択肢は無い。
 おまけにホムンクルスと肩を並べることになる。杏子の顔は呆れ気味だった。

「イリヤを何とかするぞ。だからお前はその後だ」

「話が早くて助かります。私一人では中々……エドワード・エルリックから聞いているかも知れませんが」



「もういいよね……ごめんね」



 黙っていたイリヤが塞がった口を開いた同時にルビーを振るう。
 その軌跡を辿るように魔力が横一閃に放出され、標的を殺さんと輝いていた。

 杏子は右に、プライドは左に跳ぶことによってこれを回避し、攻めに移る。

 近接攻撃を主とする杏子は距離を詰め、プライドは影を使役し両サイドから攻撃を行う。
 迫る影をイリヤは空を自在に飛び回ることで回避し続ける。


645 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:40:43 Oh1wbuU.0


 幾らでも追って来る影に苛立ちながらも決して捕まることは無い。
 影同士の間を縫うようにプライドへ迫るも、割り込む形で杏子が上空から多節棍を振り下ろす。

「止まってな!」

「止まらない……私は止まれないの!」

 初撃を回避。
 二撃をルビーで防ぐ。
 三撃を蹴りで弾き返す。

 滞空の術を持つイリヤに対し、杏子は空を飛ぶ手段を持たない。
 数刻前までならばサファイアが共に居たがタイミングが悪過ぎた。

「堕ちて楽になって……それが私からのお願い」

 落ちるだけの杏子に対し追い打ちを掛けるべくルビーを鈍器の要領で振り下ろす。
 多節棍を引き戻し、一本の線にはならないものの、分断されているそれぞれの節を集結させ衝撃を防ぐ。


『こんなお願いは許されませんが、イリヤ様を止めてください』


「はぁ!?」


 しかし下から持ち上げる力と上から叩き下ろす力では後者が圧倒的に有利である。
 故に杏子は大地に叩き付けられることとなり、落ちた彼女を中心に砂塵が舞う。

「ねえルビー、今何か言わなかった?」

『そんなことないですよ――イリヤ様』

 そう。と、感情の無い相槌を行った所でイリヤは大地に降りる。
 砂塵がまだ晴れてはいないが杏子へ止めを刺すべくその足を動かす。

 冷たい瞳だった。
 まるで生命を物として扱うような冷徹で、何処か寂しさを感じさせる瞳であった――が、豹変する。

「――ッ!」

 イリヤの両肩に走る激痛。
 徐々に熱を帯びていく痛みは背後からの奇襲。
 両肩を固定されるように貫かれた――影によって彼女の表情に苦痛の色が浮かぶ。


「随分と余裕そうな表情をしていましたが……今の苦しんでいる表情の方がよっぽど人間らしい」


 影の使役者であるプライドはゆっくりと歩きながらイリヤに接近。
 杏子のみを視界に入れていたのが、イリヤの失態であった。
 ルビーの補助に頼っていた線もあるが、生憎、今の彼女達に上手い連携が取れる訳では無い。
 最もそのことを知るのはルビーだけである。知るというよりも戸惑っていると表現するのが正しい。

 明らかに道を踏み外している主に対し、何かしらの感情を抱くのは当たり前のことである。

『い、イリヤ様!』

 己の身体を振るい影を追い払うルビー。
 影から開放されたイリヤは直ぐ様、ステッキを握ると怒りと共に魔力を放出。
 
 それを予測していたのか、プライドは既に移動しており魔力の先には居ない。

「――――――――――ッ!!」

 ルビーを限界にまで横に振り切ったその先には立ち上がった杏子が立っている。
 イリヤを中心に円を描くように薙ぎ払われた魔力の刃が迫る。

「冗談じゃねえぞ……ッ!!」

 防御魔法。
 結界を貼ることや隔絶空間を発生させ攻撃を黄泉の彼方へ放り込む。
 と、様々な手段が存在するが杏子が得意とするのは鎖の結界である。

 物理的な攻撃にはめっぽう強いが、実体を持たないビーム状の攻撃とは相性が悪い。
 つまり、彼女一人ではイリヤの攻撃を完全に防ぎきることは不可能である。

 そして、空条承太郎から始まり直近ではDIOと戦闘を行った彼女の身体は限界に近い。
 防いだ所で瀕死に変わりは無く、言ってしまえば絶体絶命の状況であった。


646 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:41:14 Oh1wbuU.0


 この場から脱するためには他者の手助けが必要となるだろう。
 居合わせるのはホムンクルスのプライドであるが、彼が其処まで力を貸すとは思えない。
 故に第三者の来訪を願うしか無いのだが、それは出来過ぎている台本だ。

 謂わば正義の味方が駆け付ける愛と勇気が勝つ物語である。


「派手に暴れている奴らが居ると思えば……何なんだよあいつは」


 魔力の刃が佐倉杏子を切断する前に。
 見慣れた青い閃光が走り、彼女達が立っていた場所が隆起した。


 鋼の錬金術師――エドワード・エルリック。
 少々到着が遅れたが、この戦闘に参加する一人の男である。


647 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:42:09 Oh1wbuU.0


【Phrase8:エドワード・エルリック――vigouroux.2】


 あれだけ派手に戦闘していたら誰だって気になっちまうもんだ。
 光が輝いたり大地を削る音が響いていた。その犯人を確かめるために足を動かしていたら懐かしい顔があった。
 懐かしいって言っても数時間前だが、それでも懐かしさを覚えた。

「悪いエドワード……あいつはイリヤだってよ」

「イリヤ……おい、それって」

 その名前は聞いたことがある。
 サファイアの口からだった筈だ。
 なら、俺達が敵対する必要が無い――いや、杏子を殺すつもりで攻撃していたよな、アレ。
 理由は解らないが、敵なんだな。俺は目の前に浮かぶ少女を嫌だけど敵と認識した。


「……ったく。ならサファイアの出番だな」

「…………悪いなほんと。あいつとは別行動なんだ」

「あ!? 絶好のタイミングで居ないのかよ!」


「仕方ないさ……ジョセフが残した遺産を少しでも繋ぐためなんだ」
(それにお前を追い掛けた筈なんだけどな……)

 そうか。
 寂しそうに声を出した杏子を見て俺は勝手に理解する。
 そうだ、こいつはジョセフさんと一緒に行動していた。そしてあの人の名前が呼ばれた。
 別れを乗り切って、佐倉杏子は此処に居る。

 何が起きたかは聞かないと解らない。
 けど、俺は御坂の野郎を止めるためにも無駄に時間を消費するつもりは無い。

 なら――やることは結局、何一つ変わらない。


「わかったよ――さっさと目の前の女を止めて次へ進むぞ」

「へっ、次って何さ」

「こんな所で立ち止まる訳にもいかな――――――――――ハァ!?」


 自分で云うのは恥ずかしいが、きっと物語じゃかっこ良く決めていた場面だと思う。
 だけど俺は馬鹿みたいな声を出して驚いちまった。

 杏子の隣に立っていた奴を見て、な。


「セリム・ブラッドレイ……?」


648 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:42:40 Oh1wbuU.0


【Phrase9:トゥッティ】


 鋼の錬金術師が声を荒げたが無理も無いだろう。
 己の視界に映る少年は殺し合いが始まる前からの敵である。

「あー、あれだ、あれ。えっと……昨日の敵は今日のシリーズだよ」

「利害の一致……私とこの女性、杏子と呼ばれている方は共通の敵を倒すために一時的に行動を共にしています」

「それだよそれ!」

「………………可笑しな行動をしたらお前から倒すからな」

「ええ、それで構いませんょ。私もそのつも――来ますッ」


 言いたいことがまだまだある。
 と、云わんばかりの表情を浮かべるエドワードであるがイリヤが黙っていない。
 勝手に盛り上がっている三人に対し、ルビーを彼らに向けまたも魔力を射出する。

「――速射」

 幾千もの弾に分裂した魔力が彼らを襲う。
 逃げる場所など無い……訳では無い。しかし、今から動き出すことを考慮すると避け切れる距離では無い。

「頼みましたよ」

「誰がお前のためにやるかよ!」

 クスリとセリムが微笑み、エドワードが吠える。
 合わさった掌から走る青い閃光が大地を伝わり彼らを守る障壁となる。


649 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:43:10 Oh1wbuU.0


 大地に魔弾は防がれ、豪快な音を響かせながらもエドワード達は誰一人して傷を負っていない。
 しかし。


「身体強化――10」


 魔弾の音が止んだと思えば、間髪入れずに鋭利な切断音が三人の耳に残る。
 音を認識した所で既にエドワードが錬成した壁は斬られていた。


(あたしがサファイアを薙刀にしたみたいにしてエドワードの錬成をぶった斬ったのか)


 ルビーの先端には魔力で構成された刃が誕生していた。
 つまりステッキを剣と見立て壁を切断したのだろう。
 即席とは云え錬成の壁は簡単に崩せる程の耐久では無い。
 それを一撃で葬り去るのだ。人体がまともに喰らえばひとたまりも無い。

「敵は一人ではありませんよ」

 イリヤの姿に驚くエドワードと杏子であったが、セリムは攻撃に移っている。
 影を敵に忍ばせ、その腹を抉るべく先端が直撃し――血が出ない。


「ルビー、物理保護全開」


『この程度の攻撃なら防げますね』


 貫いた筈の影はイリヤの身体に傷一つ付けることが出来ずに弾かれた。
 その光景を見た三人は本能が赴くままに、彼女から距離を取る。

 最早、相手を人間だと認識していれば負けるのは己だと察してしまう。
 少女の見た目に騙されるな。目の前の悪魔は――強い。


650 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:44:00 Oh1wbuU.0

【Phrase10:DIO――chanter】


「つまらん。所詮は面白みも無い機械仕掛の箱ではないか」

 武器庫にあると聞いていた首輪を対価に情報や武器を得る箱。
 わざわざ足を運んでみたものも、何も得られることは無くとんだ無駄足だった。

 このDIOに対して、だ。
 それだけで理由は充分だろう。『世界』の拳によってこの箱は完全に活動を停止した。

 価値を見出して使う人間も居るだろう。だがしかし、既にこのDIOが破壊した。
 低能な種族故の遅さを嘆くがいい。このような玩具が無くても関係無いからな。

 普段ならば恥ずかしながらもう少しは怒りに震えていることだろう。
 だが、今は気分がいい。
 何せ、ジョースターの腕と血はこの身体に良く馴染む。それに空条承太郎も勝手に死んでいた。
 現世に置いてこのような気分が味わえるとはな……ククク。


「ハハハハハハハハ!!」


 おっと。下品な嗤いが漏れてしまった。いかんいかん……さて。


「先程から外で暴れている猿共……そろそろ永眠の時間をこのDIOが授けよう」


651 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:44:47 Oh1wbuU.0


【Phrase11:ウェイブ――conservant】



 イェーガーズ本部で応急処置を済ませた俺に訪れたのは広川の放送だった。
 余った包帯をバッグに押し込みながら、上着を着用し耳を傾ける。

 本当なら少しの時間も無駄にしないためにとっとと動くべきだろうが、死んでしまえばそれで終わりだ。
 俺はまだ生きている。生きていればやれることが必ずある。
 何人もの参加者が死んだが俺は生きているんだ。この生命、粗末に扱うモンじゃない。


 俺は救えなかった。サリアを。
 もうこれ以上、俺の近くで消える生命なんて御免だからな。

 ベッドに横たわるサリアの顔は少し笑っている。
 あの世で少しでも楽しいことがあれば……いいんだろうか。




 放送を聞いた俺はイェーガーズ本部を飛び出した。
 キンブリーが死んだことなんかどうでもよかった。
 この手で決着をつけるつもりだったが、それは仕方が無い。

 里中千枝。
 会ったことはないが、天城雪子の友人だ。
 俺は結局、彼女達に何も出来なかった。許せとは言わない。
 ただ、殺し合いを企てた悪を俺が葬ってやる。それがせめてもの手向けになってくれ。


 それよりも、だ。
 セリューの名前を聞いた俺は身体が勝手に動いていた。


 一歩間違えればセリューはワイルドハントの連中と同じような危険人物だった。
 それでも、俺にとっては大切なイェーガーズの仲間だった。
 エスデス隊長と決別した今でも――それが、あの頃の思い出を汚すことにはならない。


『あ』


 走る俺の目の前に謎の物体が話しかける。
 ……本当になんだこれ。喋る帝具の仲間だろうか。
 空中に浮いている蒼い棒切れが言葉を紡いだ。


『お願いです……佐倉様達を救うために力を貸してください』


 サクラってのは誰だか解らない。けど。
 今の俺に救える生命があるなら、この手を傷付けたって最期まで伸ばしてみせる。
 やり直し何て必要無い。その前に俺が止めてやるからな。そんな意気込みじゃないと――心が辛い。


652 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:45:21 Oh1wbuU.0

【F-4/一日目/夜】

【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(中)、出血(止血済み)、疲労(大)、精神的疲労(大)、左肩に裂傷、左腕に裂傷、全身に切り傷
[装備]:修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!、エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:ディバック、基本支給品×2、グリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ、不明支給品0〜3(セリューが確認済み)、首輪×2、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!
    雷神憤怒”アドラメレク@アカメが斬る!(左腕部のみ 罅割れあり)
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。一度自分達の在り方について話し合い、考え直す。
0:杖の話を聞く。
1:エスデスが誰かを害するのなら倒す。出来れば説得したいが。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具は移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:セリューと合流し、一緒に今までの行いの償いをする。
6:サリア……。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。
※自分の甘さを受け入れつつあります。


653 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:46:55 Oh1wbuU.0



【Phrase12:トゥッティ――終曲】




 魔法少女の槍がルビーに切断され、その蹴りをモロに受けた杏子は大地を転がった。
 その背後から拳を翳すエドワードに対し、イリヤは旋回し近距離で砲撃を行った。
 砲撃はエドワードを飛ばしつつ後方に立っていたセリムをも巻き込み、大きな爆発を引き起こした。


 幾分の時がながれ戦闘が加速するも健在なのはイリヤとセリムだろう。
 杏子、エドワード、イリヤ、セリムの順に傷が浅い。
 近距離でしか戦闘方法の無い杏子が一番、傷を負う機会が多くなってしまう。

 エドワードもその性格と戦闘スタイル故、傷が多くなってしまうのも仕方が無い。
 けれど一方的にやられている訳でも無く、イリヤに対して攻撃が通っているのも事実だ。
 交戦を得て彼女の防御能力が大幅に上昇している時が確認されている。
 その時点ではセリムの影すら弾き返すものの、反面的に攻撃は弱くなっている。

 逆にエドワードの錬成した壁を簡単に斬り裂く程、力強い時もあるが、その時は防御能力が下がっている。


「貴方が囮になった隙に私の力で彼女を殺しましょうか」

「俺の前でそんなことしてみろ。お前から先にぶん殴るからな」

「やれやれ……こんな状況でもお人好しですか」


 吹き飛ばされた先で体勢を立て直した二人は掛け合いを行いながら、イリヤを視界に定める。
 セリムは目の前の敵を殺すつもりでいるが、エドワードは彼女を止めるつもりで戦っている。
 そのため、行動や作戦を共有出来ない彼らであるが、地力が強いためそれでも戦闘が成り立っているのは流石と云うべきか。

 エドワードが大地を錬成した土の棒をイリヤに飛ばす。
 その攻撃をルビーの魔力砲撃で破壊する彼女だが、その隙にセリムの影が迫る。


654 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:47:43 Oh1wbuU.0

 空中に逃げるもエドワードの錬成した土は複数であり、空にいる鳥を落とすかのように狙いを定めて射出されている。
 合間を縫うように影もイリヤを殺さんと迫っているため、例え防戦であろうと気を抜けば一瞬で形成は逆転するだろう。


『イリヤ様、これ以上戦闘しても無駄に疲れるだけです』

「じゃあ、どうするの」

『話し合って彼らと協力するのは――う』


「次にそれ言ったら壊すよ。優勝するのに仲間なんて、いらない」


『――イリヤ様』

「なに」


『もうこんなこと止めましょう。殺し合いに乗ったって何の意味もありません』


 などと言葉を語らい合う彼女達ではあるが、エドワード達が空気を読んで攻撃を中断する訳では無い。
 彼らに彼女達の声は聞こえていない。止まない嵐の中で主と従者は己の胸の内を語る。


『キンブリーが言ったことなんて忘れてください。
 こんなことをしても誰も、誰も喜びませんよ。イリヤ様が今すべきことは他にもある』


「私が優勝すれば皆を生き返らせる。それがやることであって、みんな幸せだよ?」


 心が壊れている主に向かい、従者は何度でも声を飛ばす。
 こんなことはあってはならない。貴方に似合うのは人を殺すような黒い笑みじゃないから。


『本気で言っているんですか!? 馬鹿ですか、馬鹿ですよ!!
 蘇生魔術を使えばいい? 時と場合を考えてください! それに全てをやり直す規模の魔術をあの広川が使えるとでも思っているんですか!?』


「セリム君は死んでいた……キンブリーさんが言っていたでしょ。
 でも、目の前に居るのは間違いなくセリム・ブラッドレイとしての個体……それも本人だよ?』


『貴方はどうしてそこまで――ッ!』


655 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:48:18 Oh1wbuU.0


 躱す攻撃はあれど、交わす言葉はイリヤの心に届かない。
 それ程までにキンブリーの言葉が彼女の中で響いているだろうか。
 ルビーには理解出来ない。あの男が紡いだ言葉は全てが破綻していた。

 狂気じみた意味不明な言葉と理解出来ない信念を勝手に並べた男。
 挙げ句の果てに自らの生命を殺せと命じるイカれた男にルビーは何一つ共感出来なかった。

 イリヤが仲間や友を失った極度の精神状態であったことを含んでも、この変わりようは可怪しい。
 そう思いたいが、現実問題として今の彼女は昔のように笑ってくれない。


『解らずや!! 死んだ人達が!! ――や――様が喜ぶとでも思っているんですか!!』




「なに言っているの」




 空気が凍る。
 少女が呟いた言葉は短いけれど聞いた者の心を支配するような底深い闇を感じさせる。
 近くに居たルビーはおろか、エドワード達も攻撃の手を緩め、少女を見つめていた。
 そして、言葉が、紡がれる。



「誰も死んでないよ。今はちょっと寝ているだけ。とっても悪い魔術のせいで。
 だから私は優勝してみんなを悪夢から醒まさせるの。そうすればまた――また、みんなで笑っていられるでしょう」



 まるで太陽のような輝きを持つ笑顔で。
 少女は言い切った。
 誰も死んでいない。これは悪夢だ。
 ならば、ならばだ。
 自分が醒まさせる。過程は語らずに結果だけを。
 それが、他人を殺すことになっても。

 今の彼女には全く響かない。
 


『イリヤ……様。もう貴方は戻るつもりが――戻ることを選ぶことすら出来ないのですね』











「取り込み中悪いけどさ、ちょっと床に足付けようか――あたし達と同じ土俵に立ってさ!」








 空に位置するイリヤよりも更に高いソラから杏子が多節棍を振り回し降下する。
 エドワードの錬成によって隆起した大地から飛び降り奇襲を仕掛けるも――成功だ。
 
 本来ならば錬成に気付けるだろうが、生憎イリヤとルビーは取り込んでいた。
 取り込みも取り込み、完全に集中していた状態だからこそ奇襲が光る絶好の機会となる。


「絡め――取った!!」


656 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:49:06 Oh1wbuU.0




 多節棍は弾かれること無く、イリヤを捉えそのまま大地へ叩き落とす。
 受け身も取ることが出来ずに、衝撃を全て受け止めた彼女の表情は歪んでいる。
 そんな彼女を心配するように追い掛けるルビー。心を壊そうと主は主である。




「許さない」




 小さな少女の声は決して大きくない。
 けれど人々の耳に残るような、圧倒的な存在感を放っている。


「貴方も」


 自分を叩き落とした張本人を見つめて。


「貴方も」


 最期に登場した邪魔者を見つめて。


「貴方も」


 キンブリーの言葉を裏付ける存在を見つめて。



「みんな許さないんだから。私が優勝しても貴方達だけは永遠に悪夢を――――――――――――あ」










 それは突然だった。
 何が起きたか誰も解らない。

 エドワード、杏子、ルビーはその男を知っていた。
 初めて会うのはセリム・ブラッドレイだけである。

 イリヤも当然、その男を知っているのだが、背後に居るため気付けない。

 彼女が視線を降ろすと、自分の腹から男の腕が飛び出していた。
 血は流れているが、痛みは走らない。
 突然の出来事故に認識が感覚に追い付かないのだ。


 この状況を例えるならば。




 まるで時が止まったようだった。


657 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:49:49 Oh1wbuU.0



【Phrase13:イリヤスフィール・フォン・アインツベルン――expirant peu a peu】



 みんな、私から勝手に離れていく。
 誰かが悪いことをした訳では無いのに、生命が消えて行く。

 放送で流れた言葉を信じるのもどうかと思う。

 でも。

 ■■は私の目の前で死んだ。
 だから放送で呼ばれた◆◆も死んだ。ことになる。


 いや、違う。
 ◆◆は死んでしまった。でも■■は違う。


 死んだことに変わりは無いけれど。
 私の目の前で死んだことも事実だけど。


 殺したのはあたし。


 あああ、ああ、、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、ああ、あ、ああ、ああ、あ。


 心が、乱れる。
 認めたくな、い事実に押し潰さ、れそ、うになる。
 声も心情も疎らになって、上手く、まとま、らない。


 誰が悪いの。
 殺したのは私。
 誰が悪いの。
 私は悪く、悪く、わるく、わるくわ、るく、わる、くあ、あ、ああ、ああ、あ、あ、ああ、あああ、あああ。


 誰か私を助けて。

 誰でもいい。


 誰か私にもう一度、もう一度だけでいいから。


 あの頃みたいに。


 もう一度名前を呼んで。




 そして――――――私の心にとても暖かくて心地良い血が注がれた。


658 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:50:18 Oh1wbuU.0


【Phrase14:トゥッティ――アンコール】


「テメェ何してんだよ……テメェエエエエエエエエエエ!!」


 怒号と共にエドワードが走りだし、一番来訪者に近い杏子が槍を振り廻す。
 男は槍を片手で受け止めると、握り潰し砕けた破片を迫る錬金術師に投擲する。

 錬成した刃で破片を叩き落とすと、杏子の隣に立ち、敵を睨む。



 突如、戦場に現れた男は背後からの襲撃によりイリヤの背中から腹を腕で突き破った。
 その後何をしでかすと思えば己の腕に傷を与え流れ出る血液を器たるイリヤに注ぎ込んだではないか。
 あまりにも不気味で、邪悪で、気色悪いその光景に一種の恐怖感を覚えるエドワードと杏子。

 何度か交戦しているため、男のことを知っているつもりだ。
 だが、以前以上に――DIOの身体から発せられる邪悪の波動は深くなっていた。


「まずは佐倉杏子。お前を逃がしたジョセフはこのDIOの糧となった。証拠にこの腕はあの男のものだ」


「テメェ……絶対に許さねえ」


 笑みを浮かべ、まるで裕福な子供が貧富たる下民の大人を嘲笑うかのように。
 遥か高い目線から杏子へ腕を見せ付けるDIOに対し、彼女の怒りは爆発してしまう。


「そして奇妙な小僧か。まだ生きているのか。貴様では役者不足だ、勿論佐倉杏子もだが……消えろ」


「消えるのはどっちか教えてやる……俺もテメェを絶対に許さねえからな」


 鼻で嗤い、まるで虫けらを見下すかのような冷たい視線で。
 帝王の前に立つ人間は全て虫けら同然よ。などと謂わんばかりの態度である。


「そこの……貴様、人間では無いな。大方このDIOには到底及ばない不完全な生命体だろうが……邪魔だ」


「突然現れて何を言い出すかと思えば全く……貴方が消えれば全てが解決しますよ」


 興味を示すもその視線はやはり冷たい。
 ジョースター家の血を己の糧にした今、DIOからしてみれば他の生命体など興味の対象にもならないようだ。


659 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:52:16 Oh1wbuU.0


 一触即発。
 DIO――突如降臨した悪の帝王に全ての意識が奪われている。
 エドワードとセリムは互いに敵同士だが、今では全てがDIOに収束している。
 肩を並べて戦うつもりは無い。けれどグリードの前例もある。
 生きているのは生命体としての共通点であり、明日のためならば共闘も仕方が無い。

 この状況でDIOに興味を示さないのはルビーだけである。
 帝王によって身体を貫かれたイリヤに向かって何度も名前を呼んでいる。


 その声に応じたのか。
 死んだと思われた少女は身体を起こす。





「こいつらの相手をしてやれ。エスデスと御坂美琴を殺しに行っている間に始末しておけ――イリヤ」












「解りましたDIO様」






 器に注がれた血液は吸血鬼の証。
 満たされた器を塗り潰し、此処に誕生するは新たなる吸血鬼。

 しかし、何と哀れか。
 少女は自分が吸血鬼になったと知らないのだ。
 今でも、ありのままとして振舞っている。
 嗚呼、可哀想に。

 日常を望んだ彼女は、勝手に日常から離れてしまった。

 今、此処に居るのは最早、非日常の象徴である――汚れた吸血鬼だ。


「DIO様のために――貴方達を殺すね」


 もう誰にも止められない。
 悲しみが悲しみを呼び込み、悲劇を招く。

 観客は存在しない舞台であれど。
 満足している参加者が居るのが――人間の業が深い部分である。


660 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:54:15 Oh1wbuU.0



【B-4/一日目/夜】



【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(極大)精神的疲労(大)流血(中)骨が数本折れている、顔面打撲
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×4@魔法少女まどか☆マギカ、クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:仲間を集める
1:イリヤを何とかしてDIOをぶっ潰す。
2:御坂美琴は―――
3:DIOのスタンドを広める。
4:ジョセフ……。
5:もしさやかが殺し合いに乗っていれば説得する。最悪、ケリはこの手でつける。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※サファイアと契約を結びました。
※DIOのスタンド能力を知りました。





「とんでもないことになったな……」

 エドワードのバッグから顔を出したマオが呟く。
 今回の戦闘に置いて唯一の観客と云っても過言では無いだろう。

 彼の言うとおり、イリヤが暴れ、DIOが現れ戦場は混沌と化した。

 終わりを告げる鐘がなっているかすらも解らない。





【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、精神的疲労(中)
[装備]:無し
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
    不明支給品0〜2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ
    パイプ爆弾×4(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす。
0:セリムは保留で、イリヤを止めて、DIOを倒して、御坂を止める――やることが多いなおい。
1:大佐を元の世界に連れ戻して中尉にブン殴らせる。
2:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したい。
3:エンブリヲ、DIO、御坂、エスデス、槙島聖護、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
4:一段落ついたらみくを埋葬する。
5:首輪交換制度は後回し。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※エスデスに嫌悪感を抱いていますが、彼女の言葉は認めつつあります。



【セリム・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、精神不安定(ごく軽度)、迷い
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2 、星空凛と蘇芳・パブリチェンコの首輪
[思考]
基本:今は乗らない。
1:この状況を終わらせる。それまで鋼の錬金術師とは共闘する。
2:無力なふりをする。
3:使えそうな人間は利用。
4:正体を知っている人間の排除。
5:ラースが…?
[備考]
※参戦時期はキンブリーを取り込む以前。
※会場がセントラルにあるのではないかと考えています。
※賢者の石の残量に関わらず、首輪の爆発によって死亡します。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、とある科学の超電磁砲の世界観を知りました
※殺し合いにお父様が関係していないと考えています
※新一、タスク、アカメ達と情報交換しました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。


661 : もう一度名前を呼んで ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 01:59:31 Oh1wbuU.0


【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:魔力消費(残り5割)、疲労(大)、両肩に風穴(修復済み)、額に肉の芽、吸血鬼
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・アーチャー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:デイパック×3、基本支給品×3、DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ、DIOのサークレット、キンブリーの錬成した爆弾×2
死者行軍八房@アカメが斬る!、美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
クロエの首輪、イギーの首輪、クロメの首輪、空条承太郎の首輪、花京院の首輪、キンブリーの首輪、セリューの首輪、不明支給品0〜1
[思考]
基本:美遊とクロの味方として殺し合いに乗って二人を蘇らせる。
0:DIOの命令に従う
1:エドワード達を殺す。
[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
※アカメ達と参加者の情報を交換しました。
※黒達と情報交換しました。
※「心裡掌握」による洗脳は効果時間が終了したため解除されました。
※クロエに分かれた魔力を回収したため、イリヤ本来の魔力が復活しました。
※吸血鬼となりましたが、気付いておりません。



 
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:最高にハイ、ジョセフの右腕
[装備]:悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。 最早この帝王に油断はない。
0:エスデスは必ず殺す。
1:エスデス、御坂美琴を探し殺す。
[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術、DTB世界の契約者についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。
※悪鬼纏身インクルシオは進化に至らなければノインテーターと奥の手(透明化)が使用できません。
※暁美ほむらが時間停止の能力を持っていることを認識しました。また、承太郎他自分の知らない参加者も時間停止の能力を持っている可能性を考えています。
※魔法少女についての基礎知識を得ました。
1.魔法少女とは奇跡と引き換えにキュゥべえと契約してなるものである。
2.ソウルジェムは魔法を使う度に濁り、濁りきると魔法が使えなくなる。穢れを浄化するにはグリーフシードが必要である。
※エスデスが時間停止の能力を持っている、或いは世界の領域に侵入出来ることを知りました。


※武器庫の首輪交換システムは世界によって破壊されました。
※DIOはエドワード達と交戦する気は一切ありません。


662 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 02:01:21 Oh1wbuU.0
以上で投下を終了します。
投下が遅れたことですが、予約スレに一度書き込んでいました。
理由としては自然災害なんですが遅れたことに変わりはないので次からはもう少し余裕を持って取り組みます


663 : 名無しさん :2016/03/01(火) 02:04:32 OMxN0RwU0
投下乙です
セリムと協力できたことでなんとかなるかと思いきや最悪の事態に…
DIO様絶好調ですなぁ


664 : 名無しさん :2016/03/01(火) 02:17:06 maZQ9lPU0
投下乙です

ただでさえ厄介なイリヤが吸血鬼化とか最悪過ぎる…
原作では有りえなかったニーサンとセリムの共闘が見れて嬉しい
とりあえずウェイブと田村さん早く来てくれ(切実)


665 : 名無しさん :2016/03/01(火) 02:27:11 EujsO22I0
投下乙です
ニーサン&セリムのタッグにが期待が持てますね
何とかこの修羅場を乗り切ってほしいが

ただ思ったんですけどイリヤのキャラが前話から大幅に変わっているんじゃないでしょうか
前話でキンブリ―に諭されて、自分の意志で殺すことを決意したのに現実逃避みたいな回想や独白は違和感があります
特にイリヤは美遊とクロの死を受け入れているのに、ここにきて二人は死んでないと言うのも一気に心情が変化しすぎです

あとルビーのイリヤへの呼び方はさん付けです


666 : 名無しさん :2016/03/01(火) 08:43:18 FRXBFyJs0
投下乙です。

気になった点がいくつかあったので。

①>『世界』の拳によってこの箱は完全に活動を停止した。
エンヴィーの最新話『嫉妬』で、エンヴィーがいくら殴ったり蹴ったりしても壊れなかった物がいくら『世界』とはいえ、パンチ一発で壊れるのは違和感があります。

②>一歩間違えればセリューはワイルドハントの連中と同じような危険人物だった。
アニメ版では、ワイルドハントは登場してなかったと思います。

③DIOの状態表にジョセフの首輪がのっていません。また、後藤ら寄生生物が必ず殺すリストから消えたのはなにか理由があるのでしょうか?

イリヤの件に関しては私も違和感をおぼえました。理由は>>665の方と同じです。


667 : 名無しさん :2016/03/01(火) 08:45:10 coCa6NPE0
おはようございます。
時間もとれないですし、今回は破棄でおねがいします


668 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/01(火) 08:45:36 coCa6NPE0
>>667
トリ忘れてました


669 : 名無しさん :2016/03/01(火) 10:01:41 459my1kY0

投下乙です

>僕たちの行方
穂の字の逞しさが振り切っている。元は一般人のハズなのに島村さんと比べても強くなったなぁ、彼女は負の方向で振り切ってるけど
そして変態ブリヲ、変態でも狡猾で、アンジュヘの想いは霞んでいない。最早尊敬すら覚えますね、変態だけど
彼が仕掛けた爆弾はどのように作用するか今から楽しみです
全員の掘り下げが見事でした。

>もう一度名前を呼んで
イリヤが吸血鬼化してしまった時は、ちょっと真祖か直死の魔眼保有者連れてきてー!となりましたw
セリムとエドワードの共闘も原作のIFと言う感じで魅力的でしたね
破棄は残念ですが、次の投下も楽しみにさせて頂きます、投下ありがとうございました


670 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/02(水) 17:03:32 mYKRDb4w0
>>667
お疲れ様です。
破棄宣言をしたところではありますが……金曜までには修正分を投下したいと思いますので、お願いいたします。


671 : 名無しさん :2016/03/06(日) 15:37:49 jYA0YRb60
投下と修正乙です

セリューの死に崩れ落ちる前に、エスデスの狂気に浸食されてしまったしまむー
仮投下の文と合わせて面白いことになってきているな

さやかは僅かながら自我が残っているか、深層意識に潜入できれば説得ワンチャンか

着実に精神的成長を進めるラブライブ組、対主催の精神的支柱となり得るか
エンブリヲは出オチレイプの頃とは大分印象が変わったな。油断はならないけど

優勝候補筆頭を突き進むDIO。イリヤはこうなってくると正気に戻るのは難しいなあ
代わりになし崩し的に仲間になったセリムがこれからどういう道を進むのか気になる


672 : ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:05:29 IPyZKlhk0
本投下します。


673 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:06:48 IPyZKlhk0




「...マスタングさん」
「......」

放送が終わり、告げられた死者の名を噛みしめる。

暁美ほむら。
空条承太郎。
西木野真姫。

自分が守れなかった者たち。そして

「セリュー...」

未央や卯月を逃がし、マスタングに全てを託して戦場に残った彼女。
あの爆発だ。
生きて帰れる確率はゼロに等しい。
それは覚悟していた。だが、改めて確定されると、やはり堪えるものがある。
だが、いや、だからこそ彼はやり遂げなければならない。
卯月を説得すること。そして、それでも彼女が傲慢を振りかざし続ける時には―――

託された二つの首輪を握りしめて誓う。

(力を貸してくれ、セリュー。どうか、彼女がこれ以上過ちを犯さぬよう...)

セリューの。そして、ほむらや承太郎の死を無駄にしないためにも。
彼らは傷だらけの身体に鞭をうち、駅への一歩を踏みしめていく。

「...?」

駅が目前にまで迫った時だった。
二人の鼻腔が、妙な臭いを捉えた。

「な、なに...これ...」
「...まさか」

未央はその親しみの無い臭いに嫌悪感を抱き、マスタングは慣れ親しんだその臭いに顔をしかめる。

(...首を落とせば、それだけでも血の匂いは充満する。ならば、あそこには...)

まどかとほむらの遺体が安置してある可能性が高い。
そして、可能性は低いが、もしこの匂いに彼女がつられていれば...


674 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:07:35 IPyZKlhk0


「...未央。少しの間だけここに入っていてくれ」
「え...でも」
「卯月は既に放送できみの生存を知っている。だから念のためだ」

もし、卯月がセリューの死を知り、彼女を生き返らせようとゲームに乗ったとして。
真っ先に狙うとすれば、戦闘力を持たない未央だろう。
彼女を人質にでも取られてしまえば、もう打つ手はなくなってしまう。
もっとも、卯月がそこまで冷静に、正確に動けるかどうかは甚だ疑問ではあるが。
...とにかく、彼女の武器は糸であり、腕さえ押さえてしまえばどうとでもなる。
故に、未央の力を借りるのは、彼女を拘束し、糸を取り上げてからの方がいい。

ひとつ懸念があがるとすれば、自分も見た『疑似・真理の扉』に似たデイバックの構造だが...この点に関してはほとんど問題はない。
あのとき見た『マヨナカテレビ』とその要素の一つである『シャドウ』とやらは、極限状態に追い込まれている者にしか現れないと言っていた。
ならば、まだ極限状態にはない者、意識がある者が入った場合どうなるか―――道中、未央が入って確かめた。
結果、『マヨナカテレビ』や『シャドウ』は現れず、ただ漆黒の空間に浮かんでいるような状態だったという。未央曰く、「宇宙にいるのに似た感覚かも」らしい。
その宇宙についてはマスタングも未央も行ったことはないのでなんともいえないが。
それでいて、手を伸ばせばデイバックのファスナーに触れ、出入りは自由にできるというのだから、本当に変わった代物だ。

(『マヨナカテレビ』とやらの時は出られないが、そうではない時は出入りは自由...奇妙にも程があるぞ)

だが、この際使えるものはなんだって使わせてもらう。


マスタングを心配そうに見つめながら、デイパックへと入る未央。
彼女が入りきるのを確認すると、それを担ぎ、マスタングは駅員室の扉に手をかける。

(できれば、ここにいてほしいが...)

彼女がここにいれば、それに越したことはない。
だが、いなくとも、ほむらたちの遺体だけは埋葬、せめて火葬はしてやりたいと思う。

音を立てぬよう、ゆっくりと戸をひき

「ッ...!?」

あまりの臭気に、部屋の中を見る前に思わずその手を止める。

(なんだこの臭いは...)

首を斬れば、確かに血は流れる。
しかし、それだけではこうまで強烈ではないはずだ。
ここまで臭いが充満するには、もっと...


675 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:08:32 IPyZKlhk0

「どうした?入ってこないのか?」

声がした。
卯月のものとは違う、透き通る氷のような声。
気付かれたか。
戸から手を離し、戦闘態勢をとる。
いつでも錬金術を発動できるように、手袋を嵌め直す。

「私はエスデスだが...お前は誰だ?」

エスデス。
セリューが語っていたイェーガーズの長だ。

「...私は、ロイ・マスタング。この殺し合いには乗っていない」
「マスタングか。卯月から聞いているぞ」
「卯月と出会ったのか!?」
「ここで寝ている。...それで、入ってこないのか?」

再びの誘いに、マスタングは考える。

エスデスは、セリューやウェイブがその実力に絶対の信頼を置く者だ。
彼女が味方についてくれれば、かなり心強い。
しかし、卯月が既に接触している以上、マスタングの悪評が流されている可能性は非常に高い。
その場合、エスデスとも戦う可能性、ひいてはこの戸を開けた瞬間に罠にかかる可能性もあるが...


(...悩んでいてどうする。動かなければ卯月を止められないだろう!)


ここで退けば、エスデスとの誤解が生じたまま戦うことになるかもしれない。
それは駄目だ。そんなことになれば、エンヴィーたちやキング・ブラッドレイとの戦いの二の舞だ。
彼女がもし敵視しているのなら、その誤解を解かなければならない。
もはやこの命、自分一人だけのものではないのだから。

そして、マスタングは再び戸に手をかける。
彼が扉を開いた先にあったのは。





ひとつの、地獄だった。


676 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:09:17 IPyZKlhk0



心地よい死臭が充満する部屋の中で、島村卯月はエスデスの膝で眠りについていた。

(それにしても...お前とはほとほと縁があるようだな、足立)

卯月が眠りにつく前に聞き出した情報によれば、足立はまどかを殺しただけではなく、コンサートホールの火災を起こし、更にはほむらを殺し、承太郎にまで勝利を収めたというのだ。

(まさかお前がそこまでやれる男だとは正直にいえば思っていなかったぞ...次に会った時が楽しみだ)

おそらくは様々な要因が絡み合ったが故の結果だろうが、過程はどうあれ、足立は一人でまどか、ほむら、承太郎、セリューを退けてきたのだ。
その成果は充分に強者のものといってもなんら遜色ない。
自分以外のイェーガーズの面々でも挙げられそうにないものだ。
ともすれば、DIOにも匹敵する楽しい戦いができるかもしれない。

いや、足立だけではない。

最強の眼を持つホムンクルス、キング・ブラッドレイ。
強力な電撃を操る御坂美琴。
驚異的な身体能力を持つ危険種、後藤。
限界を超えて進化してみせたウェイブ。
ナイトレイドの切り札、アカメ。

そして、自分と同じ『世界』を操るDIO。
また、エドワード・エルリックをはじめとした、大物ではなくとも面白そうな者たちもまだ多い。

(まったく、この会場には楽しみが多すぎる)

せっかくの機会なんだ。可能ならば、全ての楽しみを味わい尽くしたいものだ。
そのためには、一刻も早く行動を再開するべきである。
そこで寝ている暁美ほむらのように楽しみを減らしてしまってからでは遅いのだ。
そろそろ動くか、とエスデスが卯月を起こそうとした時だ。


何者かが、戸の前に立った気配がした。

しかし、その何者かは、微かに戸を揺らすと、それだけで留まり、部屋に踏み入ろうとしない。

この臭いにつられてきたのだろう。
警戒しているのか。ならば仕方ない。こちらから入りやすいように誘ってやろう。


677 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:09:47 IPyZKlhk0

「どうした?入って来ないのか?」

そう声をかけると、気配は警戒心を露わにする。
ふむ。どうやらただのデクの坊ではないらしい。
とはいえ、このまま硬直状態を続けていても仕方あるまい。

「私はエスデスだが...お前は誰だ?」

まずはこちらから名乗り出る。
こうすることによって、会話の主導権を握り、部屋へ入るように誘導をする。
エスデスの名を聞いただけで逃げるような相手なら、ハナから期待などしない。

「...私は、ロイ・マスタング。この殺し合いには乗っていない」

名乗りが功を制したのか、相手もまた名乗り返してきた。
ロイ・マスタング。
卯月からの情報では、最後までセリューと共に戦ってきた男らしい。
ただ、現状では敵か味方はわからない。そんな印象だった。

「マスタングか。卯月から聞いているぞ」
「卯月と出会ったのか!?」
「ここで寝ている。...それで、入ってこないのか?」

再び流れる沈黙。
どうやら、マスタングは何事か考えているようだ。
まあ、無理もないだろう。
死臭ただよう密室に、戦場を知らないはずの卯月がいるというのだ。
違和感をおぼえるのは仕方ないだろう。
だが、時間をかけ過ぎだ。
いくら怪しくとも、なにかしらのリアクションもないのはじれったい。
はやる気持ちを押さえつけ、彼が戸を開けるのを待つ。


それから少しして、ようやく彼は戸を開けた。
その時の彼の表情といったらもう!



...罠も仕掛けていないのに、なんでわざわざ開けるのを待っていたかだと?
簡単だ。そちらの方が面白そうだからだ。


678 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:10:50 IPyZKlhk0


結論からいえば、罠などなかった。
だが、エスデスがこちらを警戒しているだけならばどれほどよかっただろうか。

真っ先にマスタングの目に飛び込んできたのは、血にまみれた壁や床。


―――なんだこれは。


「どうした?なにを呆けている」

エスデスの言葉にも耳を傾けず、ずかずかと押し入り、現場を物色する。


―――なんだこれは。


ゴミ箱には人間の残骸らしきものが乱雑に詰められており、台所には目玉も転がっている。


―――なんだこれは。


振り返ると、そこには笑みを浮かべるエスデスと眠る卯月。そしてもう一人床に寝ている何者か。


いや、違う。

『二人』が『一人』に縫い合わされ、虚ろな目でこちらを見つめていた。
彼女たちを最後に見た時は、既に息絶えていた。
だが。
彼女たちが生前なにをしたというのだろうか。
どれほどの罪を背負えばこんな罰が下されるのか。
...いや、これは罰などというそんな高尚なものではない。
これは、純粋なる悪意の塊だ。



―――な ん だ こ れ は 。


679 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:11:25 IPyZKlhk0


「...エスデス。これはきみが?」
「いいや。私が来た時には既にこうだった」
「下手人は?」
「殺したのは足立だが、縫い合わせたのはこいつだな。立派なものだろう?」

エスデスが、『悪意』を掴み継ぎ目をなぞる。

『立派なもの』。
その言葉に、マスタングのこめかみがピクリと動く。

「帝具というものは、素質がある者でしか使いこなせない暴れ馬でな。ここまで使いこなせる者もそういないぞ」
「卯月を起こせ」
「本来の使い手が誰かは知らないが、大した訓練も無くここまで使えるんだ。もしかしたらソイツよりも適正があるかもしれないな」
「起こせと言っている」

間に立つエスデスなど眼中にないかのように、マスタングは卯月へと歩み寄っていく。

「...ふっ。なにをそんなに怒っている。奴らがこうなったのは、やつらn」

パチン

エスデスの言葉を聞き終える前に、マスタングがゴミを払うように腕を振り、鳴らされた指の音と共に焔が走り爆発を起こす。
爆発に吹きとばされたエスデスの身体はガラスを突き破り、駅員室の外へと放り出される。

「はっ!...え、エスデス、さん?」

熟睡していた卯月も、この轟音と熱気の中では呑気に寝ていられず、たちまち飛び起きた。
キョロキョロと辺りを見まわすが、立ち昇る土煙で視界の大半を塞がれ、自分を覆うように張られていた氷の壁が確認できるのみだ。

「答えろ。島村卯月」


680 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:12:04 IPyZKlhk0



突然の轟音に起こされた私がまず見つけたのは、わたしを守るようにそびえ立っていた氷の壁でした。
なぜこんなものがあるのか。どういう状況なのか。それを考えるよりも先にわたしは。

(エスデスさん?エスデスさん!?)

わたしの後にここへやってきた、セリューさんの尊敬する人―――エスデスさんを探しました。
あの人は、わたしの犯した罪を見ても、責めるどころか褒めてくれました。
謝る必要は無い。強くなる素質がある、と。
それからのことはあまり覚えていませんが、『強いことこそが正しい』という言葉だけはやけに印象に残っていました。
とにもかくにも、連れてこられたニュージェネレーションのみんなも死んでしまったせいで、いまの私の拠り所はエスデスさんだけです。
...あれ。エスデスさん『だけ』?なんで?
...いいえ。そんなことはどうでもいいのです。
とにかく、彼女がいないこの瞬間が、どうしても怖くて、心細くて。
だから、わたしはすぐに探しに行こうとしました。

「答えろ。島村卯月」

だけど、それは聞き覚えのある声に止められて。

振り返り、土煙が晴れた先にいたのは、見覚えのあるあの人で。
けれど、その顔はまるきり別人で。

「彼女たちをああしたのは―――おまえか」


彼―――マスタングさんは、まるで敵に向けるような表情で私を睨んでいました。


そのあまりの威圧感に、わたしは、つい言葉を詰まらせてしまいます。
彼のいう彼女たち―――ほむらちゃんとまどかちゃんのことでしょう。
言われなくてもわかります。

「その服はなんだ?わざわざ彼女から剥いだのか」

恐怖に震える全身を抑えきれず、つい頷き肯定してしまいます。
嘘でもなんでも、誤魔化してしまえばこの瞬間からは逃げられるかもしれないのに。
けれど、なぜかわたしは自分の行いを否定することはできませんでした。


「た、たむら怜子に不意打ちされたくなくて、それで」
「......」


マスタングさんの表情は変わりません。
わたしの言ったことが通じたのかどうか...
それすら聞くのを憚られるほどに、わたしは彼に恐怖を抱きました。


681 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:12:49 IPyZKlhk0
「なぜ、こんなことをした。彼女たちがきみになにかをしたのか?」

ふるふる、と首を横に振ってしまいます。
当然です。彼女たち―――特にほむらちゃんは、私にも最期にお礼を言ってくれました。
感謝の意はあれど、恨む気持ちなんて微塵もありません。

「ならば、なぜだ。なぜ、彼女達をあんな目に遭わせている」

わたしだって、なんであんなことをしたのかわかりません。
クローステールの練習だって、もっといい方法があったはずです。
ほむらちゃんはセリューさんの友達で、まどかちゃんもほむらちゃんの大切な人。
なのに、どうしてわたしはあんなことをしてしまったのでしょう。
あんな、あんな残酷なこと―――

―――何を謝る必要がある?

ふと、エスデスさんの言葉が頭をよぎります。

―――こいつらは弱かった。だから死んで、こうしてその生を愚弄されている。ただそれだけのことだ。弱者が蹂躙されるのは当然だ

そんなはずはない。彼女達が悪いなんてありえない―――そう言ってしまえばいいのに。
なぜかわたしにはその言葉を否定できません。

―――こいつらは私の知り合いだ……が、こうして敗北した以上は、単なる肉塊にすぎん。肉塊を貴様がどう扱おうと、誰も文句を言うことはない

知り合いなら、セリューさんみたいにもっと悲しんであげればいいのに。
そんな思いも浮かんできましたが、すぐに別の言葉に塗りつぶされてしまいます。

弱者が蹂躙されるのは当たり前。違う。私がやったのは許されないこと。違う。弱いことが罪。違う?死者は丁寧に弔わなければならない。違う?

頭の中がぐちゃぐちゃでこんがらがって。
なにが正しくてなにが間違っているのか。私は私がわからなくなりそうです。

でも、そんな中でも。


―――この世で最も価値があるのは強さだ。決して、忘れるな


エスデスさんのその言葉だけは決して揺らがなくて。

マスタングさんの射殺すような視線には耐えられなくて。

わたしは、わタしは。


「ほむらちゃんたちが、弱かったから」


682 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:13:44 IPyZKlhk0
震える声でそう口にした瞬間、まるで空間が凍りついたかのように、マスタングさんの表情が驚きで固まりました。




「わたしは生きていて、ほむらちゃんたちは死んでいる」


違う。そんなことを言いたいんじゃない。
頭の中ではいくらでも否定の言葉が浮かんできます。


「なら、わたしは悪くない。悪いのは、しんじゃったほむらちゃんたちです」


なのに、わたしの口は止まってくれません。
否定の言葉を口にすることができません。


「弱いから、なにをされても文句はいえないんです。強いから、なにをしても文句はいわれないんです」

頭の中で、ことりちゃんを殺してわたしを護ってくれたセリューさんの姿が浮かび上がってきます。
【セリューさんが強かったからわたしを守ることができた】

いくら周りに悪と見なされていても、そんなことはお構いなしに正義の味方の筈のセリューさんを圧倒したキング・ブラッドレイの姿が浮かび上がってきます。
【セリューさんよりもあの男の方が強かったから、彼は未だに生きている】


「だって、『正義』とは『強さ』だから」

どうしても、言葉は止まってくれません。

ああ。ああ。
こんなにも残酷なことを言っているのに。
涙の一つも流れない私は―――


683 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:14:42 IPyZKlhk0


突如、放たれた氷の散弾がマスタングに襲い掛かり、身体を傷付ける。
ぎょっとする卯月を余所に、痛みに動きを止めたマスタングの腹部に蹴りを入れ、彼の身体を窓から叩き出す。


「いいぞ。よく言った。それでこそ、セリューが遺した価値があるというものだ」

氷の主は、もちろんエスデス。
彼女はマスタングの焔が着弾する寸前、氷の壁を張り、ついでに激しく後退することにより、ダメージを回避した。
爆発も、マスタングの焔とエスデスの氷がぶつかったことにより生じたものである。
その結果、彼女は傷一つついておらず、こうして五体満足で立っている。

(まだ完全には振り切ってはいないようだが、死の寸前でもあれだけできれば上出来だ)

人間というものは死に直面してこそ本性を表しやすい。故にマスタングが卯月を追い詰めるまでわざわざ待っていたのだ。
卯月はエスデスが仕込んだ自然の摂理を口にできた。
これなら卯月も調教する余地はあるというものだ。
ボルスやウェイブのような実力や覚悟もないのなら、それくらいはやってもらわねば困る。


「卯月は私の部下なのでな。そういう訳で手出しをさせてもらったぞ」

そして、マスタングを吹き飛ばす際に奪い取ったデイバックの中を探り、入っていたものを取り出す。

「うわっ!」
「やはりな。放送で呼ばれていない以上、マスタングと行動していると思っていたぞ」


取り出され、乱暴に投げ捨てられたそれは、きょろきょろと周りを見渡し状況を確認しようとする。
それの存在になにより驚いたのは―――


「え...みお、ちゃん?」
「そうだ。お前がやり残していた仕事、そして私の与える最初の試験だ」


684 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:16:34 IPyZKlhk0


「し、しまむー...」

卯月を目の当りにし、未央は恐怖に震えあがる。
いくら知り合いだとはいえ、いや、知り合いだからこそ、こうして一度は殺されかけた相手に向き合うのは怖い。
説得しようとここまで来たというのに、本能的に、尻もちをついたまま両手で後ずさってしまう。


ぐにっ


なにかを手で踏んづけた。
慌ててそちらをふりむくと、そこには見覚えのある顔が。

「ほむらちゃ...」


彼女のもう半分を見たその瞬間。
未央は絶句した。

ほむらの遺体には顔の半分がなかった。いや、正確にはあるのだが、別の少女の顔なのだ。
ホラー映画や漫画に出てくるようなつぎはぎの顔、なんてまだ可愛いものだ。
これに込められている恐怖に、残虐さに。
未央の喉からなにかが込み上げてくる。

「ぅっ、うぷっ」

もはや出しつくした筈の吐しゃ物が床に吐き出される。
その様をしばらく笑みを浮かべて眺めていたエスデスは、やがて未央に歩み寄ると、死体を持ち上げて告げた。

「これをやったのはな、そこにいる卯月だ」
「えっ」
「私の命令じゃないぞ。卯月が、自らの意思でだ。...なんなら味わってみるか?あいつが生み出した『死』の味を」

エスデスは未央の髪を掴み、ほむらとまどかの残骸が詰められたゴミ箱へと顔を沈めさせる。
充満する臭気が、鉄と血の味が、死者の味が未央の顔中にへばりつく。

「――――――!!」

未央が必死に足をばたつかせ抵抗し、悲鳴をあげようとする。
だが、喉に深刻なダメージを負い、且つ残骸に埋もれているこの状況ではくぐもった悲鳴をゴミ箱の中であげるのが精いっぱいだ。

「ふむ。激痛による悲鳴は数多く聞いてきたが...たまにはこういう悲鳴も悪くはない」

そんなことを呟きつつも、未央を抑える手は力を緩めない。
やがて、それなりに満足したのか、未央の頭を引き上げ床に投げ捨てる。

「どうだ。お前のいたところでは中々味わえないものなんじゃないか?」
「うっ...ぇぐっ...」
「もし卯月に殺されてたら、お前もあそこに入っていたかもしれないな」


685 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:17:36 IPyZKlhk0
笑みを浮かべながら嬉々として告げるエスデスの考えが、卯月はわからなかった。
なぜ、未央を煽るようなことを言うのか。そんなことをすれば、彼女は必ず...
それがわからないエスデスではあるまい。


「なんで...なんでなの、しまむー」
「あ、あの」
「真姫ちゃんだけじゃなくて、ほむらちゃんたちまで。なんでこんなことを」

恐怖しか抱いていなかった未央の瞳に、別のものが混じりはじめる。
いまは困惑でしかないそれだが、それは厄介なものへと変化すると、卯月は確信した。
ニュージェネレーションの中でも、多くのメンバーの顔色を窺ってきたからわかる。
困惑の延長上にあるもの。そうだ、これは―――

「卯月」

エスデスの言葉に、ビクリと卯月の身体が跳ねあがる。

「私はマスタングに用があるのでな。この場はお前に任せる」

背中を向けたまま語られる言葉に、エスデスに対する畏怖が、恐怖が、恍惚が、憧憬が。
正負の混ざった様々な感情が卯月の中に湧き上がってくる。

「私が何を言いたいか、わかるな?」

その言葉に、卯月の全身が震えあがる。
エスデスは割れた窓から去り、この場には卯月と敵対意識が芽生え始めている未央が取り残される。
そんな状況で任せることなどひとつしかない。
それを認めてはいけないのに。
嫌だとハッキリと言わなければいけないのに。
頭の中とは裏腹に、卯月の右手は、クローステールを握る右手はキシリと音を鳴らしていた。

「...みお...ちゃん」
「しま、むー」

見慣れているはずの仲間なのに、なぜか歩み寄ってくるその姿は死神のようで。
未央は尻もちをついたまま動くことができなくて。
そんな彼女に、震える声で卯月は告げた。

「わたしのために―――今度こそ死んでください」


686 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:19:13 IPyZKlhk0
パンッ


一際甲高い音が鳴ると同時に、隆起した土の塊が卯月に襲い掛かる。
塊は卯月の胸部を殴りつけ、後方へと吹き飛ばす。

「ほう。これが錬金術か。中々興味深いな」

駅員室の外で、マスタングと対峙していたエスデスが思わず感嘆の声を漏らす。

「...卯月が倒れたぞ。気にかけなくていいのか」
「構わん。言っただろう、あいつは帝具を使いこなしているとな」
「...田村からの情報通り、糸を巻きつけているのか」
「なんだ。既にタネを聞いていたのか、つまらん。...なら、なぜ効かないかもしれない攻撃をした?お前の得意とするらしい炎なら、一撃であいつを殺せただろう」
「炎で攻撃すれば、貴様は止めただろう」
「わかっているじゃないか。ならば、私が次にすることも読めるか?」

エスデスは、背後に手をかざし、幾千もの氷柱を放つ。
氷柱は瞬く間に駅員室を破壊し、その内装を露わにしていく。

「未央!」
「安心しろ。卯月はもちろん、本田未央もたいして傷付けてはおらん。あまり傷付けすぎては練習にならんからな」

エスデスが指を鳴らすと、彼女の背後に一瞬にして巨大な氷の壁がそびえ立つ。
これで、未央たちとは完全に分断された。

「練習、だと」
「卯月は帝具こそ使いこなしつつはあるが、実戦経験は皆無でな。最初の相手としては申し分ないだろう?」

マスタングは、エスデスの言葉がわからなかった。
いや、意味こそは伝わっているが、理解したくなかった。
未央が卯月の練習相手?実戦の?

「未央っ!」
「グラオホルン!」

そびえ立つ氷の壁を破壊するため指を鳴らそうとした瞬間、エスデスは両手を振るい巨大な氷塊を召還。
氷と炎の衝突は爆発を起こし、衝撃波が辺り一帯の地を鳴らす。

「私がそれを許すと思うなよ。そのためにここにいる」
「貴様...!」
「解りやすく言ってやろう。本田未央を救いたければ、私の屍を越えていけ」

邪悪な笑みを浮かべ、大げさな手振りでエスデスは告げる。
お前の相手は私だと。


687 : 地獄の門は開かれた ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:20:06 IPyZKlhk0

「......」

マスタングの拳が握り絞められる。


「...まどかはおまえの仲間だったのだろう。あの姿を見てなにも思わないのか」

「仲間...という程の間柄ではないが、確かに敵対はしていなかったな。だが、死ねばただの肉塊だ。どう扱おうが興味はない」

怒りに。

「お前の部下のセリューがなんのために戦ったのか、お前にはわからないのか」

「あいつを逃がすためだろう。ただ、セリューは弱かったからその果てに死んだ。それだけだ」

悲しさに。

「セリューは、ほむらの死を悲しんでいた。卯月も未央も護ろうとしていた。...部下の気持ちを汲んでやらんのか」

「生きている間なら気を遣ってやるさ。だが、死ねばそれまでだ。死者そのものに価値はない」

虚しさに。



「...まさか、この期に及んでまだ躊躇うつもりか?」

そして。

「そんなのだからお前は何も守れんのだ」

彼女の言葉と。

「本田未央だけじゃない。ほむらもセリューも承太郎も西木野真姫も。全てはお前の躊躇いが殺したのだ」

振り下ろされる巨大な氷塊を最後に。

「動けぬのなら、迷いを抱いたまま死んでしまえロイ・マスタング」

ロイ・マスタング―――いずれは大総統になる男は、ここに消えた。


688 : The ETERNAL SOLDIERS ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:21:28 IPyZKlhk0


この会場に連れてこられてから私はなにが出来た。

あろうことか、ヒューズを生き返らせようなどとバカげたことを考えた。
エンヴィーにまんまと騙されて左天涙子を殺された。
黒子たちと共にエンヴィーの見分け方を決めていたのに、いざとなったら冷静さを失い怒りに身を任せてしまった。
挙句の果てに天城雪子を誤って殺し、名も知らぬ犬を犠牲に生き延びた。



―――私は救える人間は全員救う……いや、この手が届く範囲で全ての人間を救ってやる。

―――死んだ者達の分も生き抜いてこの殺し合いを破壊すると言っている。私はもう止まることは許されない。そして愚かな行為を行うことも、な

だから私は、デイパックの中で見た疑似・真理の扉で、シャドウとやらに向けてそう決意した。
だが、その後の私になにが出来た。

ほむらを死なせ。
承太郎を死なせ。
セリューを死なせ。
未央のアイドルとしての生命を死なせ。
西木野真姫を死なせ。


何一つ救えやしなかった。
私の力が及ばず、みんな取り零してしまった。


...本当にそうか?


689 : The ETERNAL SOLDIERS ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:22:24 IPyZKlhk0


例えば、空条承太郎。

彼は瀕死の身にも関わらず、足立透という男を追いかけた。
どういう状況だったかはわからないが、暁美ほむらが加わり、且つセリューが駆け付けてもなお逃げられてしまった相手だ。
仮に足立に追いつけたとしても、承太郎の勝算は低い。いや、勝ったところで承太郎が死ぬのは確定していただろう。
無謀だ。自殺行為だ。ただの意地張りだ。
いまにして思えば、彼はただ己の死に場所を探していただけなのかもしれない。
自分が取り返しのつかないことをしてしまって。あわよくば足立を道連れにできれば。
そんな自暴自棄に陥ってしまっていたのかもしれない。

...皆を逃がすという大義名分で、一人で勝ち目のない戦いに挑んだ何処ぞの大馬鹿者と同じだ。

その大馬鹿者はなぜ生きている。
簡単なことだ。傍に居た者たちがその自暴自棄な決意を否定してくれたからだ。


そして、彼が生きていれば自ずと状況が変わってくる。

いくら傷ついているとはいえ、それでもあれだけの動きができた男だ。
卯月が彼を掻い潜って未央に手をかけるのは不可能だ。
承太郎を卯月と未央と共に逃がし、セリューと私でキンブリーと戦うことが出来れば勝率はかなりあがっていたはずだ。
そうすれば、キンブリーの虚言に惑わされることも無く、奴を殺し、セリューと共に生還できたはずだ。
そうすれば、卯月が単独行動に出ることもなく、西木野真姫もまた死ぬことはなかったはずだ。

私が一人を救えば、その者が誰かを救い、やがて犠牲者はいなくなる。
まさに私がかつて抱いた理想論じゃないか。


...だが、現実は違う。

―――あの類の男に何を言っても無駄なことは心得ているつもりだ。本人のやる気を削ぐことにしかならない

そう判断し、彼を止めなかったために承太郎は死んだ。
...そう判断したのなら、なぜ身を挺してでも護ってやらなかった。
本人の気持ちを削ぐから止めない?そうやって彼が死んだ時の保険でもかけていたつもりか。
彼を生かしたいのなら、彼の無謀な意地を否定し、セリューと協力して無理にでもデイバックに叩き込めばよかったんだ。
足立を追うのは治療してからでも十分に間に合ったはずだ。



例えその先に死が待つのみだとしても。民が望むのなら戦場に送り出すことが軍人の役目か。私が師匠の墓前で誓った錬金術師の在り方か。


690 : The ETERNAL SOLDIERS ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:23:12 IPyZKlhk0

―――王は民の為に在るもの。民無くして王は在りえなイ。


そうだな、リン・ヤオ。目の前の民を見捨てて生き延びて、それでもなお大総統を目指すなどと、よくもまあ言えたものだ。


―――我が名は鉄血の錬金術師バスク・グラン!すなわち兵器と兵士!この身こそ戦の先駆けにならんでなんとする!


そうだな、グラン。先だって戦場に立ち、敵の恨みもなにもかもを背負うのは、私たち国家錬金術師の役割だ。
承太郎を力づくで抑え込んだ先にあるのが彼からの糾弾だったとしても。彼から一生恨まれることになったとしても。
私が生き延びた先に待つのが今まで殺してきた者たちの恨みでも。
それを受け止めなければいけないのが、国家錬金術師の役目だ。


―――軍人ってのはよ、逃げちゃいけねえんだ。命令に従うってのも大事だがよ、俺たちは守るべき誰かのために力を持つことを許されたんだ。お前の錬金術、俺の剣術や体術、それに帝具……そういう全部、自分じゃない誰かのために使う。そのために鍛えてきたものじゃないのかよ

―――俺たちに、簡単に死を選ぶ権利なんてねえぞ。俺たちは戦って戦って……死にかけたって何度でも立ち上がって、戦い続けなきゃいけねえんだ

そうだな、ウェイブ。死ぬまで戦い続けるというのは私たち軍人の役目だ。決して、承太郎に背負わせるべき責務ではない。


...結局のところ、私はまだ己の身が可愛かったのだろう。

かつて、鋼のやスカー、中尉たちに諭されたことによって残された大総統への道にしがみ付いていただけなのだろう。


―――私と出会ったことが原因で死んでしまった彼女達――私が殺してしまった天城雪子君。その罪と彼女達の証を背負って私はこの殺し合いを潰して生き抜いていくしかないんだ

そう思うのなら、救うための手段を選ぶな。殺し合いを潰すというのなら、優先して守るべきは命だ。守るべきものをはきちがえるな。

セリューを見ろ。彼女は確かに手段こそは誤っていた。失ったものも多かった。
しかし、それは結果として卯月や未央の命を守った。守れたものは確かにあった。私とは違う。
悲劇が続くのは私の責任だ。
彼女から全てを託されたこのロイ・マスタングの責任だ。


目の前の女はセリューの尊敬する上司だ。
セリューの意思を踏みにじる少女は未央の仲間だ。

もう、そんなことは考えるな。

軍人であるならば覚悟しろ。

周囲の一切合切から恨まれようとも戦い続けろ。

目の前の民を見捨てなければ大総統になれないのなら。

そんなものに固執して守るべきものを護れないのなら。

私はもう、そんなものはいらない。


691 : The ETERNAL SOLDIERS ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:23:47 IPyZKlhk0


パチン。



指を鳴らし、迫りくる氷柱を焼き尽くす。


―――鏡で手前のツラよく見やがれ!んなツラでこの国のトップに立つつもりか!

―――他人の復讐を止める資格は己れには無い。ただ、畜生の道に堕ちた者が人の皮を被りどんな世を為すのか見物だなと思うだけだ。

―――お願いです、大佐。貴方はそちらに堕ちてはいけない...!


わかっている。これは、未央を助けることを名目とした、復讐にしかすぎないことは。
だが、それでも。
それで道を切り開けるのなら。
それで守るべき者の命を救うことができるのなら。
私は喜んで怒りの焔に身を委ねよう。


「もう喋らなくていいぞ、エスデス」

セリュー。きみはこんなことを望まないのかもしれない。

「邪魔をするのなら、貴様も」

だが、例えきみの仲間がきみをいくら無力だと、弱者だと罵ろうとも。

「あの女も」

例え、守った者がきみの意志を踏みにじろうとも。

「その舌の根から―――いや」

私はきみが守ろうとしたものを忘れない。だから。




「後悔する暇も無く、骨の髄まで焼き尽くしてやる」



私は、悪魔にだってなってやる。


692 : The ETERNAL SOLDIERS ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:24:57 IPyZKlhk0


「―――ハッ」

溶かされた氷柱の向こう側のあいつを見て。
思わず笑いが込み上げてくる。


実に面白い。
これなら退屈せずに済みそうだ。
煽った甲斐があったというものだ。

私は楽しめて、卯月も経験を積むことができる。
一石二鳥というやつだ。

卯月。
お前の初経験としてこれ以上ない相手を用意してやった。
もう本田未央はお前を敵とみなし、生き残るためにどんな手段も用いるだろう。
下手に躊躇えばお前が食われるが、そうでなくては実戦経験とはいえまい。
ここまでお膳立てしてやったのだ。私の期待に応えてくれよ。



パチン。

マスタングの指が鳴り、私へ向かって炎が走る。

それを氷で防御すると、瞬く間に氷はその形を無くす。


「中々の火力だ。本気ではないとはいえ私の氷をk「黙れ。どく気がないならさっさと死ね」

...普通、私と戦うのならより慎重にいこうとするものだがな。
こうもぞんざいに扱われたのは初めてだぞ。


セリュー、お前は本当に面白いものを遺してくれたよ。
卯月だけじゃない。
奴のあの目、敵への憎しみに、怒りに全てを委ねたあの目。
お前にソックリじゃないか。



「楽しませろよ、ロイ・マスタング。お前の全てを私にぶつけてこい」



さあ、お楽しみはこれからだ!


693 : The ETERNAL SOLDIERS ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:26:18 IPyZKlhk0

【D-6/一日目/夜】


【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(極大)、精神的疲労(絶大)、迷わない決意、過去の自分に対する反省、全身にダメージ(極大)、火傷、骨折数本 、激しい怒りと殺意
[装備]:
[道具]: 即席発火手袋×10 タスクの書いた錬成陣のマーク付きの手袋×5。暁美ほむらの首輪、鹿目まどかの首輪
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊する。
0:殺し合いを破壊するために仲間を集う。救える命を救うためには手段は択ばない。
1:卯月とエスデスを殺して未央の命を救う。もう躊躇わない。
2:ホムンクルスを警戒。ブラッドレイとは一度話をする。
3:エンヴィーと遭遇したら全ての決着をつけるために殺す。
4:鋼のを含む仲間の捜索。卯月とエスデスを殺したらすぐに北上し田村を探しに行く。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。
※並行世界の可能性を知りました。
※バッグの中が擬似・真理の扉に繋がっていることを知りました。
※田村と情報交換をしました。
※怒りに身を任せていますが、思考は冷静です。




【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、全身に打撃痕(痛みは無し)、高揚感、狂気、欲求不満(拷問的な意味、ちょっぴり解消)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:亡き友アヴドゥルの宿敵DIOを殺す。
1:電車で南に向かい、セリューを弔う。...が、その前にマスタングとの戦闘と現在の状況を愉しむ。
2:島村卯月に実戦と殺人を経験させたい。とりあえずは本田未央だ。
3:御坂美琴と戦いたい。卯月に戦わせるのも面白いかもしれない。
4:クロメとセリューの仇は討ってやる。
5:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
6:タツミに逢いたい。
7:ウェイブを獲物として認め、次は狩る。
8:拷問玩具として足立は飼いたい。
9:アカメ(ナイトレイド)と係わり合いのある連中は拷問して情報を吐かせる。
10:後藤とも機会があれば戦いたい。
11:もう一つ奥の手を開発してみたい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アヴドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止められる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。
※平行世界の存在を認識しました。


694 : The ETERNAL SOLDIERS ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:27:11 IPyZKlhk0



そびえ立つ氷の壁を何度も叩いて。
しまむーに気付かれないように、心の中でマスタングさんの名前を何度も呼んで。
それでも、現実はあまりにも無情で。

(いやだ...)

このままでは、死ぬ。しまむーに、殺される。
いやだ。逃げ出したい。でも、壁の向こうにはエスデスがいる。
どうすればいいの。どうすれば、私は。

恐怖でいっぱいの私には、ただあてもなく不様に這いつくばることしかできない。
それでなにをしようというのか。いっそ、このまま一思いに殺されてしまえば...

「あ...」

ふと、目が合った。

生気を灯していない、虚ろな目。




「ほむらちゃん」


695 : The ETERNAL SOLDIERS ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:28:25 IPyZKlhk0
先程まではそれに恐怖を覚えていた
しかし、いまは違う。

「泣いてる、の?」

床に転がるほむら【まどか】ちゃんの目からは、一筋の雫が伝っていた。
おそらくは、エスデスの氷の水滴が付着しただけなのだろうが。
それでも、私には彼女達が涙を流しているように見えた。

「...私の、せいだ」

私があの時しまむーを叩いたから。
何も考えずに、セリューを否定したから。

ほむらちゃんとまどかちゃんがこんな目に遭ってるのは、私のせいなんだ。

「ごめんね」

気付けば、私は思わず【二人】を抱きしめていた。
その、半分程で異なる感触が、私の身体全体を通して伝わってくる。
彼女たちが魔法少女だとか、そんなものは関係ない。
私より年下で、身体つきだってまだ子供だ。
まだまだ将来溢れる子供だ。
その芽を摘まれたのなら、もっと悼まれるべき子供だ。
こんな仕打ちを受けていい子たちじゃなかった筈だ。

「ごめんねぇ...」

私は流れる涙を抑えられなかった。。
掠れ、しわがれた声で、何度も何度も【二人】に謝って。
やがて、私は【二人】を床にそっと寝かせて、涙を拭う。

「...もう、終わりにしよう」

ぽつりと、誰にも聞こえない程の小さな声で、私は呟いた。


696 : The ETERNAL SOLDIERS ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:29:07 IPyZKlhk0



「も、もうそろそろ...」

マスタングの攻撃に吹き飛ばされ、しばらく様子を窺っていたところ、次いでエスデスの攻撃が散弾銃のように放たれ、駅員室をズタズタに破壊した。
更に、氷の壁がそびえ立ったと思えば、やがてエスデスの攻撃はピタリと止んで。
しばらくしない内に、今度は壁の向こう側で爆発音が鳴り響き始めた。

「...やらなくちゃ」

エスデスが未央をああまで煽り、マスタングの介入を防ぐように取り計らった理由。
それが現す答えは一つしかない。
エスデスは、卯月に未央と戦い殺せと命じているのだ。

「わたしが、今度こそ未央ちゃんを」

殺さなくちゃ。
殺して強くならなければ、エスデスに見捨てられる。

―――この世で最も価値があるのは強さだ。決して、忘れるな

エスデスの言葉が、頭から離れない。
強くなければ、エスデスに見捨てられる。
見捨てられれば、卯月は必ず誰かに殺される。

嫌だ。
承太郎のように戦場で息絶えるのは。
イヤだ。
南ことりや由比ヶ浜結衣のように無残な屍を晒すのは。
いやだ。
【二人】と一緒のゴミ箱に入るのは。

「...殺さなくちゃ」

もう、決別もしてしまったのだ。
こちらから一方的に殺しかけるという、決定的な決別も。
卯月の仲間と言える人たちはみんな死んでしまった。
後は、卯月が殺しかけた未央だけだ。
もう、あの輝きへは戻れない。
ガラスの靴はもう砕けてしまって、二度と履くことはできない。


697 : The ETERNAL SOLDIERS ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:29:50 IPyZKlhk0
「殺さな...殺すんだ」

もう、クローステールを握る手は震えていない。
彼女の『困惑』が『怒り』へと形を変える前に。
彼女の全てに終わりを告げなければならない。

「いるのは―――あそこ」

未央が、壊れた駅員室から抜け出したことは確認していない。
こうまでお膳立てしたエスデスが未央をそのまま殺すとは思えない。
おそらくは、あの瓦礫の山を影にして、その身を隠しているだろう。


ヒュッ


暗闇の中を、右手側に何かが舞った。

(きたっ!)

卯月は、クローステールを振るい、それを両断。
中に詰まっていたものは飛び散り、ボタボタと地面を濡らす。

「...!?」

妙な感触を得て、卯月は気づく。
これは未央ではない。彼女に比べて小さすぎる。

それに気が付いたその瞬間。

「ッ!?」

卯月が切り裂いた『何か』とは逆の方向から現れた未央が、卯月に駆け寄ってくる。

それに気が付いた卯月は慌てて腕を横なぎに振るい、そして―――


698 : The ETERNAL SOLDIERS ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:30:36 IPyZKlhk0


田村怜子とマスタング達が別れる前のこと。


「ひとつ助言しておくわ。...本田さん。あなた、もし彼女にもう一度襲われたらどうするつもり?」
「え?」
「殺したはずの相手であるあなたを見て、彼女がなにもしないと?」

言われてみて、今さら気付く。
殺したはずの相手がいまもこうして歩いていることを知れば彼女はどうするのだろうか。

「仮に殺されなくても、あなたが人質にでも使われればマスタングも困る。そうでしょう?」
「...ああ」
「しかし、マスタングも常に守り続けられるわけじゃない...今回の私たちのように」

私は、後ろめたさから思わず目を伏せてしまう。
しかし、田村さんはさして気にする様子もないようにほんの僅かに微笑みながら話を続ける。

「あなたを責めているわけじゃない。ただ、あなたが私に死んでほしくないと言ったように、私もあなたに死んでほしくない。だから、さわりだけでも憶えておいてほしいことがあるだけよ」


「糸というものは、様々な使い方があり、それを見切るのは至難の業かもしれない。けれど、何かを斬ろうとするなら、使い方は限られてくる。どうやらあの糸は特殊なものらしいけれど、その根本は変わらない」


699 : The ETERNAL SOLDIERS ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:31:18 IPyZKlhk0



私が投げたのは、ボートの船外機に入れるために使った油が入っていたガソリンタンク。
量は既に半分程度だったけれど、それが逆に幸いして、派手に投げることができた。

おかげで、しまむーには隙が出来たのはよかったけれど。

(ここからだ...ここからが、田村さんから教えて貰った...!)

『糸で何かを斬ろうとしようものなら、その糸は必ず直線でなければならない。弛んでいる状態では、相手を捉えることはできるが、切断は難しいだろう』
『加えて、島村卯月は戦いにおいては素人だ。殺しそこなったお前を再び殺そうとする時は、今度こそと思い、切断しようとするはず。ならば、攻撃は奴の腕の直線、加えて掌の幅だけだ』
『つまり、いくらあの糸が強力であろうと、奴の腕の動きを見ていれば、それなりに反応はできるはず』

そして、しまむーは田村さんの予想通りに私を斬るために腕を振るった。
縦か横か。その二択は運任せだったけれど、その賭けには勝てたみたいで。
糸はあまり見えないけれど、それが私の顔を斬ろうとしているのかはわかった。

私はしゃがみつつも走る勢いを殺さないようにそれを回避しようとする。
が、しかし。
傾けていた顔の一部が間に合わず、私の右耳が切り裂かれる。

「――――!!」


激痛が走る。
痛い。泣きたい。耐え切れない。逃げたい。
それらを、全て歯を食いしばって噛みつぶす。

怯むな。


真姫ちゃんはもっと痛かったんだ。


怯むな。


あんなに辛い状態で、それでも鳴上くんは守ろうとしてくれたんだ。

プロデューサーは、あんなにも怖い男を相手にして、それでも皆を護るために立ち向かったんだ。

マスタングさんは、あれだけ傷ついているのに、それでも壁の向こうで戦っているんだ。

狡噛さんやタスクくん、花陽ちゃんやウェイブさん―――みんな、いまもどこかで戦ってるんだ。



そして。


―――生きろ。


あれだけ傷ついていても、承太郎さんは最期まで泣き言を言わなかった。


だから。


「う」


ひる、むな!!


700 : The ETERNAL SOLDIERS ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:32:43 IPyZKlhk0


「う、あ、あ、ああああああああああああああ―――――!!」

吼える。
アイドルの要素なんて欠片も見当たらないくらい、不様に、みっともないくらいに。ただがむしゃらに。
そうでもしなくちゃ、痛みに負けてしまう。

私を切断する筈の糸を躱されたことに驚いたのか、しまむーは動きを止めた。

いまだっ!

しまむーの身体には、糸が巻き付いていて攻撃しても意味は無い。だったら

私は走る勢いのまま、しまむーの顔へと頭突きをする。

ガツン、と鈍い音がして、私もしまむーも地面に倒れる。

「―――!!」

それと同時に、失った右耳の痛みが私を襲う。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいイタイいたいいたい―――

頭の中を支配する『痛み』に耐えながら、私は立ち上がる。
それと同時に、倒れたままのしまむーが手を振り下ろそうとしたので、私は慌てて後ろに下がる。
危機一髪、といったところか、辛うじて私の服を破いただけで、身体が斬られた訳じゃない。


「しまむー」

視界が滲む。
私の頬を流れる涙がなにを意味するのかは解らない。

「しまむーは、もう止まれないんだね」

今まで、私はずっと誰かに護られてきた。
ずっと誰かに頼りっぱなしだった。

「だったら、私が無理やりにでも止めてやる。叩かれるのが嫌なら、何発叩いても止めてやる」

だから、今度は私が戦う番だ。
それが、此処に連れてこられた最後のニュージェネレーションの一人として―――ううん。

「もう、あなたに誰も傷付けさせはしない!」

『島村卯月』の仲間として。彼女を、絶対に止めるんだ。


覚悟は決まった。


もう、逃げることは、私自身が許さない。


701 : The ETERNAL SOLDIERS ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:35:12 IPyZKlhk0


【D-6/一日目/夜】

※駅員室がエスデスの氷で破壊されました。
※まどかとほむらの縫い合わされた遺体が近辺に安置されています。
※ゴミ箱にあった残骸が付近に散らばっています。


【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:深い悲しみ、吐血、喉頭外傷、セリューに対する複雑な思い。卯月に対する怒り。右耳欠損
[装備]:
[道具]:デイバック×2、基本支給品、小型ボート、魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!
[思考・行動]
基本方針:卯月を止める。殺したくはない。
0:どんな手段を用いてでも卯月を止める。
1:勝てるか勝てないかじゃない―――やるんだ。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。
※田村と情報交換をしました。




【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(中)、精神的疲労(大)、セリューに逢いたい思い、精神不安定、鼻血
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!、まどかの見滝原の制服、まどかのリボン
[道具]:デイバック、基本支給品×2、不明支給品0〜2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ、今まで着ていた服、まどかのリボン(ほむらのもの)
[思考]
基本:島村卯月っ、笑顔と正義で頑張りますっ!!
0:エスデスさんの下で強くなりたい。セリューさんに会いたい。
1:線路の修復が完了次第、セリューのもとへと向かう。
2:高坂穂乃果の首を手に入れる。
3:高坂勢力、及びμ'sを倒す。
4:強くなるために未央を殺す。
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
※μ's=高坂勢力だと卯月の中では断定されました。




※まだ極限まで追いつめられていない者や意識がある者がデイバックの中に入った時は、宇宙の中に漂っているような場所に入れられます。
この状態だと、デイバックへの出入りは己の意思でできます。


702 : ◆dKv6nbYMB. :2016/03/07(月) 02:36:13 IPyZKlhk0
本投下終了です。


703 : 名無しさん :2016/03/07(月) 18:26:28 92ea39zQ0
覚悟を決めた二人はかっこいいな…
しかし格上相手にどう立ち回るのだろうか
続きが楽しみであります
投下乙


704 : 名無しさん :2016/03/07(月) 21:38:06 YRrnGgYI0
大佐ァ!ちゃんみおぉ!覚悟決めた二人は本当に輝いてるぞ!
エスデスもしまむーもヤバい相手だが戦いを決めるのは技ではなく精神力だ!心だ!と拉麺男も言ってるので頑張れ!
地味にほむらの遺したマスティマにも期待


705 : 名無しさん :2016/03/11(金) 00:25:43 p3s7C50s0
過去で謎を暴け!! ttp://v.gd/v3yOHm

もう終わっていいぞ


706 : ◆uuM9Au7XcM :2016/03/12(土) 00:26:48 iqFoc2s.0
投下します。


707 : 『男らしく』でいこう  ◆uuM9Au7XcM :2016/03/12(土) 00:27:54 iqFoc2s.0
ヒルダの姿に化けたエンヴィーが去った後も、タツミはそのエリアに留まっていた。
悠と銀が気絶している現状、タツミ自身の疲労を無視し、無理を押して行動すれば危険だと判断したからである。
だが、それ以上にタツミが自責の念にかられ、自分の志を見失い『動けずにいた』と言った方が正しいのだろう。


『ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ』


とりあえず休むにはどこかに身を隠さねばと、近くの教会に入り半ば事務的に身体を休めていたところに放送が響き渡る。
タツミは閉じていた目を、はっとしたように開け耳を傾けた。
何やら首輪交換機に不具合が生じたようだが、もとより積極的に利用するつもりはなく、そんなことはどうでもよかった。
そして禁止エリアの方もさして影響はないようだ。


(……ここからだ)

続いて死者の発表へと移ると、タツミは緊張で身体を強張らせた。

呼ばれた名は――――

『暁美ほむら』
さやかと同じ魔法少女

『空条承太郎』
ジョセフの仲間、そして大切な孫

『セリュー・ユビキタス』
敵であるイェーガーズの一人

『里中千枝』
タツミのせいで死んでしまった悠の仲間

そして、
『ジョセフ・ジョースター』
「!?」

最後に呼ばれたのは、ゲームが始まってすぐに出会い、合流を約束していた老人。
年齢を感じさせない力強さと豊富な経験からくる思慮深さも感じられ、自然と頼もしいと思わせる人物だった。

ジョセフが死んだということは、一緒にいた初春はどうなったのだろうか?

自分が別行動を提案したせいで死んでしまったのではないか?

放送での死者発表をきっかけに、どうにか抑え込んでいた焦りや不安が噴き出し、頭の中で暴れまわる。


708 : 『男らしく』でいこう  ◆uuM9Au7XcM :2016/03/12(土) 00:28:28 iqFoc2s.0

「…ちくしょう。俺、どうしちゃったんだよ」

帝都に来てすぐ幼馴染たちの死に立ち合い、その仇を斬ったことで初めて人殺しを経験した。
それから殺し屋集団「ナイトレイド」の一員となり、何度も仕事をこなしてきた。
だが、ここまで混乱することはなかった。

今までと何が違うのか?それは自分でも気付いている。


「さやかは悪人なんかじゃなかった……たとえ悪に染まりそうだとしても、俺次第で救うことができてたんだ。
せっかく兄貴が俺を信じてインクルシオを託してくれたのに、また殴られるようなことやっちまった」

今まではさやかに対する不信感から、タツミはさやかを信用しないように接してきた。
だが悠やヒルダに言われた言葉をきっかけに思いかえしてみると、まるで違う印象になってくる。
ナイトレイドでは、事前にしっかりと調査したうえで標的を決めていた。
だからこそ、民のため、虐げられている弱者のためにと、迷わずに実行することができていたのだ。
しかし……


『手に入れた力を振りかざして、理由も聞かずにテメエ勝手な善悪で判断し、ただ理不尽にそれを行使して正義を振りかざす。
あたしからしてみりゃな、真正面から問答無用で殺しにかかってくるっていうエルフ耳以上にてめえは悪党なんだよ』

ヒルダの言う事はもっともだ。
力を持つものが自分の主観のみで善悪を判断し、断罪を行えば―――
それは大臣やエスデスのやっていることと同じだ。

アカメやクロメのように、やむ終えず裏の世界に入り、手を汚さなけれればならないこともあると知っていたはず。
もし、さやかが望まぬ形で力を持たされていたとしたなら、自分はなんて冷たく残忍な態度をとっていたことか。
心が見た目通りの普通の少女だったら、きっと不安で仕方なかっただろう。





「うわああああああああああああああああ!!」
「あぐっ…!」


タツミは頭の中のモヤモヤを振り払うかのように叫ぶと、続けざまに拳で自らの右頬を思い切り殴り飛ばす。
ヒルダから受けたそれ以上に強烈な痛みが頬に伝わる。
ここに来てからすべての行動が幾人もの人の死の要因となってしまった。
そう考えてしまい、こうして無理やりにでも気持ちを切り替えないと、二度と浮き上がれない暗い海の底へ沈んでしまいそうな気がしたからだ。

「落ち着くんだ。昔、姐さんに言われただろ。
いじけて暗くなってたって過ちは取り返せないし、死んだ人間が戻ってくることはない」

それはまだナイトレイドに入って間もない頃、落ち込んでいた時に贈られた助言。

「こんな時だからこそ、男らしく前を向かないと、マインやラバに呆れられちまう」

ここにはいないナイトレイドの仲間たちの言葉や顔を思い出す。
必死に自分へ言い聞かせ、わずかながら落ち着きを取り戻すと、タツミは状況の整理を始めた。


709 : 『男らしく』でいこう  ◆uuM9Au7XcM :2016/03/12(土) 00:29:00 iqFoc2s.0



まず不幸中の幸いに、アカメは放送で呼ばれていない。
これは喜ぶべきことだ。
アカメならば、自分のような失敗はせずに上手くやっていることだろう。
そして、ジョセフと一緒にいた初春も状況は分からないが死んではいない。
放送からの情報で前向きに捉えられる事柄を挙げていく。


次に考えるのはこれから自分はどうするか。

少し休んだことで、それなりに闘えるくらいに体力は回復した。
問題は自分が何をしなければならないのか。そして、できるかだ。
普通に考えれば、悠や銀と一緒に行動して情報や協力者を探すべきなんだろう。
だが、タツミはそれを選択することができない。

(それじゃあ駄目なんだ……)

もちろん、悠がさやかを助けるつもりなのはわかっているし、タツミも協力したい。
しかしタツミのせいでこのような事態に陥り、悠の仲間である千枝は死んだ。
正直なところ、また誰かと行動したらトラブルを招き、結果として救うべき人を傷つけないという自信がないのである。

「これ以上二人に迷惑をかけるわけにはいかない。
なら、こうするしかないよな」

タツミは決めた。
二人を安全な場所へ連れていくことを最優先に、信頼できる人物と出会えればその人に託すことも考慮にいれる。
その後、自分は別行動をとり、さやかを元に戻すため魔法少女の情報を集める。

方針が決まれば善は急げだ。生き残っている魔法少女も、さやかを除けば佐倉杏子一人だけ。
死んでしまいかねない状況に陥っていてもおかしくない。
それにさやかを封じている氷がどれだけもつのかという問題もある。
さやかが解き放たれ人を殺してしまう前に―――
意図せず罪を犯しこれ以上苦しみを抱えてしまう前に、なんとかしなくては。



最初に向かうのは音ノ木坂学院。
そこには過ちを気付かせてくれたヒルダがいるはずだ。
合流を約束していた初春もいるかもしれない。
自分は信用されなくても、きっと事情を話せば悠と銀を受け入れてくれるだろう。
うまくいけば、学院で魔法少女の情報を得る可能性だってある。


710 : 『男らしく』でいこう  ◆uuM9Au7XcM :2016/03/12(土) 00:29:46 iqFoc2s.0


「ごめんな、アカメ。
俺はやらなくちゃいけないことができたから、ちょっと遅れる」

禁止エリアを書き込んだ地図をデイパックにしまうと、未だ再会できずにいるナイトレイドの仲間へ謝罪の言葉を呟き、立ち上がった。


彼の進む道に待っているのは希望か。
それとも、殺し屋として生きてきたことへの報いか。


どちらにせよ、もう立ち止まっている時間はない。




【F-6/一日目/夜】



【タツミ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(中)、右太腿に刺傷、右肩負傷、右頬に腫れ、さやかに対する強い後悔
[装備]:バゼットの手袋@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、テニスラケット×2、グリーフシード×1、ほぼ濁りかけのグリーフシード×2、ライフル@現実(武器庫の武器)、ライフルの予備弾×6(武器庫の武器)、美

樹さやかの肉体。
[思考・行動]
基本:アカメと共に帰還する。
0:二人を安全な場所へ連れていくか、信頼できる人へ託す。
1:ヒルダを追って、音ノ木坂学院へ向かう。
2:さやかを元に戻す方法を探す。
3:佐倉杏子を探す。
4:アカメと合流。
5:もしもDIOに遭遇しても無闇に戦いを仕掛けない。
6:エルフ耳とエンブリヲを警戒。
7:足立透は怪しいかもしれない。
[備考]
※参戦時期は少なくともイェーガーズの面々と顔を合わせたあと。
※ジョセフと初春とさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※首輪を解除できる人間を探しています。
※魔法@魔法少女まどか☆マギカでは首輪を外せないと知りました。
※ヒルダ(エンヴィー)には情報を与えましたが、ヒルダ(エンヴィー)からは情報を得ていません。
※さやかとのことで他者を攻撃すること・傷つけることに恐怖感を覚えています。


711 : 『男らしく』でいこう  ◆uuM9Au7XcM :2016/03/12(土) 00:30:13 iqFoc2s.0


【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(極大)、気絶  デイパックの中
[装備]:なし
[道具]:千枝の首輪
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:……。
1:さやかを元に戻す。その為に佐倉杏子を探す。
2:未央に渋谷凛のことを伝える。エンブリヲが殺した訳じゃない……?
3:足立さんが真犯人なのか……?
4:エンブリヲを止める。
5:マスタングを見つけ出し、ぶっ飛ばす。
6:里中……。
[備考]
※登場時期は17話後。
※ペルソナの統合を中断したことで、17話までに登場したペルソナが再度使用可能になりました。ただしベルゼブブは一度の使用後6時間使用不可。
回復系、即死系攻撃や攻撃規模の大きいものは制限されています。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。
※イザナギに異変が起きています。


【銀@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(大)  キンブリーに若干の疑い、観測霊の異変?に対する恐怖、気絶 デイパックの中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2 、カマクラ@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
[思考]
基本:…………。
1:黒を探す。
2:千枝……。
3:怖い。
[備考]
※千枝、雪子、モモカと情報を交換しました。
※制限により、観測霊を飛ばせるのは最大1エリア程です。


712 : ◆uuM9Au7XcM :2016/03/12(土) 00:31:00 iqFoc2s.0
投下終了です。


713 : 名無しさん :2016/03/12(土) 21:10:05 sl/UtDwo0
投下乙です
タツミは悪い方に転がってるなぁ
しかし学園はマズい…


714 : ◆K.S8LGPiZE :2016/03/12(土) 23:01:15 Npw258Vo0
お疲れ様です
投下します


715 : 電子の海 ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/12(土) 23:02:31 Npw258Vo0

かつて何処かで、そしてこれほどいい気分だったことがあるだろうか
放送から流れた死者の名前は、エンヴィーに幸福を齎した。

足取りが軽くなり、自然と笑みが浮かんでいる。今にも笑い転げそうな程に。
それもそのはずだ。何せ自分を殺そうとしていたあの紅蓮の錬金術師の名前が呼ばれたのだ。さぞ気分がよかろうに。


「キンブリー……本当に馬鹿だよねえ」


死んだ。
自分を爆弾列車に乗せ地獄へ叩き落とそうとしていたあのキンブリーがこの世から消えた。
あの男が別れてから何をしでかしたかは不明だ。爆発のせいで彼を気にしている余裕など無かったのだ。
出来ればこの手で殺したいと溢れ出る憎悪を押さえ込んでいたエンヴィーだが、キンブリーが死んだことで彼の心に光が差し込む。


「ホムンクルスと敵対した理由なんてどうでもいいけど、お前は頭のいい奴だと思っていたよ」


人間だが使える部類だった。
共にイシュヴァールの悲劇を彩った人格破綻者には少なからず、好意を抱いていたかもしれない。
無論、人間に抱く感情などたかが知れており、好意と表現するのはそぐわないだろう。
けれど、そこら辺に居る人間よりかは評価していた。これは事実である。

だが、裏切り、死んでしまえば、その時、既に、興味は失われている。
消滅すればこの手で殺すことも出来ない。弔うこともしない。死を思うことも無い。
死んだ。その事実だけで充分である。死人に構うほど、嫉妬はお人好しでは無いのだ。


「馬鹿な奴だよ。自分で死期を早めたんだ、本当に馬鹿だよお前」


エンヴィーは思う。
やはり、人間の感情は理解出来ない、と。







人間には適材適所がある。格闘家に機械いじりを任せても必要な結果を得ることは困難である。
その道のエキスパートに任せるのが一番であり、一人でこなす必要が無いならば、役割を決めるべきだ。

音ノ木坂学院。
パソコンの前に座っている初春飾利が電子の海に飛び込んでから、数十分が経過していた。


716 : 電子の海 ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/12(土) 23:03:50 Npw258Vo0

画面に表示される数多のウィンドウ。全ての情報を拾う訳ではなく、目についた物に的を絞る。
とりわけ急速に必要な情報は枷である首輪。生命を握られている汚物を削ぎ落とすことである。

黒い背景に浮かぶ白い文字列。片っ端から流れてくる情報を振り分け、関係のない物には目を通さない。
脳が焼き切れる前に、手掛かりを見つけなくては。

――スタンド使い?

開かれたファイルから飛び出した文字列に初春は聞き覚えがあった。
スタンド。それは先に放送で名前を呼ばれたジョセフの口から聞いた幽波紋だ。
傍に立つビジョンの超能力、何故このファイルがあるのか、続きを展開する。

空条承太郎
ジョセフ・ジョースター
モハメド・アヴドゥル
花京院典明
イギー
DIO
ペットショップ


――この並びは何処かで……!


「高坂さん、名簿を出してください」


「えっと……はい!」


後ろで見守っていた高坂穂乃果に頼み込み、バッグから名簿を借りた初春飾利は文字列と照合を始める。
並びから全てが名簿と一致しており、彼らがスタンド使いであることを表しているようだ。

試しにジョセフ・ジョースターを展開すると、其処にはハーミット・パープルの文字列が浮かび始め、能力の説明があった。

――カメラ……教えてもらったものと同じ。なら、これは参加者の能力を見れる……だったら!


自然とポインタはDIOに移動しており、開示する情報はただ一つだ。そう、DIOのスタンド能力である。
しかし――之にもロックが掛けられており、その先を見ることは不可能であった。

一度、キーボード含む周辺機器から手を離す初春飾利。
高坂穂乃果に注いでもらった紅茶を口に含み、一度、瞼を閉じる。
画面から瞳を休息させたところで、掌の汗を拭うと――再び、電子の海へその思考を潜らせた。


717 : 電子の海 ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/12(土) 23:04:30 Npw258Vo0

DIOの情報が開示されない理由。
例えばこの男が主催者側の参加者であり、必要以上の情報がそもそも残されていない可能性。
ジョセフから話を聞いた限りだとかなりの危険人物であり、殺し合いを開催するに値する邪悪な存在だろう。
しかし地図上に記載されているDIOの館。わざわざ自分の名前を冠している施設を配置するだろうか。
それ程までに自分大好き人間なら話も解るが――この件は保留とした。


次に目についたのは超能力。
展開すれば映り込む文字列は御坂美琴を始めとする学園都市の人間である。
余談だが、上条当麻の名前は無い。


御坂美琴の超能力を開示――不可能。
白井黒子のテレポート能力を開示――不可能。

 
食蜂操祈の超能力を開示――可能。


「なるほど」


ジョセフ・ジョースターが開示出来て、御坂美琴が不可能な理由。
DIOの開示が不可能で、食蜂操祈が可能な理由。


――死んだ参加者に関する能力の情報だけが開示可能なんですね。


但し、人物そのもに対する情報等は一切残っておらず、あくまで戦闘に関する能力だけである。
死んだ人間ならば公開しても問題無いと広川が判断したのだろうか。


「調子はどうだい」


初春飾利の背後からエンブリヲが心配そうに声を掛ける。
ハッ、となった初春飾利は時計を眺め、そこそこの時間を没頭していたことに気付く。

上半身を伸ばし、目元に涙を浮かべた所で、成果を報告する。


「首輪に関する情報はやっぱり厳重にロックされていますね」


エンブリヲの視界に焼き付いた文字列。
ディスプレイに表示されていたイザナミに彼の興味が吸われていた。





718 : 電子の海 ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/12(土) 23:05:15 Npw258Vo0

初春飾利が収集した情報を彼女の口から聞こうとして、間が悪いのか扉が開かれた。
即座にバッグから斧を取り出したエンブリヲは穂乃果の前に出る形となり、彼女達を守るように乱入者へ言葉を投げる。
 
大変危険な対応ではあるが、その男とは一度遭遇済みであり、彼としても長いは避けたい所である。


「俺の名前はタツミ……こんな所で群れてないで死んでもらえるかな?」


若干上から目線の笑顔を作り、ニタニタと不気味に近づく青年はタツミと名乗った。

しかし。

「久しぶりですね、タツミさん」

「その豹変ぶり……君は誰だい」


初春飾利は以前にタツミと共に行動をしていた。
エンブリヲはタツミと交戦済みである。


「げっ……既に顔見知りかよつまんないなあ――久しぶりだね、高坂穂乃果」






「え、エンヴィー……」






ロイ・マスタングから聞いたホムンクルス。
高坂穂乃果達を襲撃し、結果として天城雪子と名も知らぬ犬が死んでしまった。

その原因であり、張本人であり、人間の敵であるホムンクルス・嫉妬。


「そうだよ。あの時戦ったお前らが全員生きてるなんて本当に人間は面白いよね。でも、第一号は――お前だ!!」


右腕が巨魁となり、薄汚い緑色に変色し高坂穂乃果へ襲い掛かるも、エンブリヲが斧で防ぐ。

(思ったよりも重い質量だな)

などと、声には出さないが余裕を保ちつつ――エンヴィーの後ろに周り、彼の首根っ子を掴む。


「二人で話でもしようじゃないか……なに、悪いことはしないつもりさ」


強引に扉の向こう側へ投げ飛ばし、自分も追い掛ける形で教室を飛び出し、別の教室へ吹き飛ばすように蹴りを放つ。


719 : 電子の海 ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/12(土) 23:05:46 Npw258Vo0

扉を突き破り、机や椅子を巻き込みながら砂塵を巻くエンヴィーは怒りを覚えた形相でエンブリヲを睨む。
殺してやる、と云わんばかり。キンブリーが死んたことを記念してタツミの姿で一発暴れてやろうかと思えば、飛んだ邪魔が入ったものだ。

斧で攻めてくるならば攻撃は大振りになる。その隙を狙えば簡単に首を落とせるだろう。

「このエンヴィーが殺してやる」

「誰が誰を殺すだって?」

「な、いつのま――んああああああああああああああああああああああ!?」


首を掴まれたエンヴィーの身体が痙攣し、甲高い声を教室内に響かせた。
顔に赤みが帯びており、息も早く、身体中に汗が浮かんでいる。
本人は何が起きているか解らないが、己の身体を弄られていることだけはおぼろげな意識で認識していた。


「ホムンクルスでも首輪は付いているのだな」

「ひゃ、い、息が近っ……んっ、ぁ……やめぉ……」


首筋を指で辿り、構造を外見から把握する。
ホムンクルスと云えど枷の見た目は他の参加者と変わらず、同一の物だ。


「無理やり外すことも――不可能か」

「あっ……!ん、もぅ、やめ…………ん!!」


首輪に触れ、強引に引っ張るも密着しており、外すことは不可能だ。
エンヴィーの声も、力に反応するように大きくなり、感情が高ぶっている。


『これ以上の過度な干渉を続けた場合、三十秒後に首輪を爆破します』


「警告か……面白い」


(何が面白いだよ……こっちはその振動で……んんっ)


首輪から発せられた機械的な音声にエンブリヲが興味を示し、エンヴィーが怒りを覚える。
無理やり外すようならば爆破――当然だろう。何せこの枷が殺し合いに置いて大きな要素を含んでいるのだから。

極論、首輪に生命を握られていなければ、無理に従う必要が無いのだから。


720 : 電子の海 ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/12(土) 23:06:53 Npw258Vo0


「無理やり外すとどうなるか試す――前に一度、情報を整理するか」


エンヴィーを投げ捨てたエンブリヲは踵を返し、教室を後にする。
片付けなど一切ぜずに我関せずと謂わんばかりだ。

残されたエンヴィーは荒ぶる感情に抗いながら、己の状況を整理――出来るのだろうか。


「屈辱だ……このエンヴィーがこんな……こんあっぁ」


身体を折り曲げ、下腹部を始めとする各部分を床に擦り付ける。
屈辱だ。何故、自分がこんな仕打ちに合わなくてはならないのだ、と。
感情を抑えるためにも発散――出来る訳もなく、昂ぶる衝動に身を動かされるばかりである。


「許さない――エンブリヲ」


その瞳は涙の潤いを秘めていながらも、確実に殺意を覚えていた。



【G-6/音乃木坂学院/一日目/夜】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大) 、戦う決意、悲しみ
[装備]:デイパック、基本支給品、音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(3/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3
[道具]:練習着
[思考・行動]
基本方針:強くなる
0:エンブリヲを待つ。
1:エンブリヲを警戒しながらも首輪などの解析を行わせる。その為の協力はする。
2:花陽ちゃん、マスタングさん、ウェイブさんが気がかり
3:セリュー・ユビキタス、サリア、イリヤに対して―――――
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません
※エンブリヲと軽く情報交換しました。


【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1〜2、テニスラケット×2 、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する。
0:エンブリヲを待つ。
1:自分なりのやり方で戦う。
2:エンブリヲと共に首輪を解析、ただしエンブリヲへの警戒は怠らない。
3:白井さん、御坂さんをお願いします…
4:エンブリヲにはばれないように、幻想御手の解析も行う。
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺し合い全体を管制するコンピューターシステムが存在すると考えています。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※ジョセフとタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているらしいということを知りました。


721 : 電子の海 ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/12(土) 23:07:36 Npw258Vo0

【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(小)、参加者への失望
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ、各世界の書籍×5、基本支給品×2 不明支給品0〜2 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本方針:首輪を解析し力を取り戻した後でアンジュを蘇らせる。
0:初春から情報を得たあと、再びエンヴィーで実験を行う。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:広川含む、アンジュ以外の全ての参加者を抹消する。だが力を取り戻すまでは慎重に動く。
3:特にタスク、ブラッドレイ、後藤は殺す。
4:利用できる参加者は全て利用する。特に歌に関する者達と錬金術師とは早期に接触したい。
5:穂乃果、初春を利用する。
6:真姫の首輪を回収した後、北部の研究施設に向かう。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。
※DTB、ハガレン、とある、アカメ世界の常識レベルの知識を得ました。
※会場が各々の異世界と繋がる練成陣なのではないかと考えています。
※錬金術を習得しましたが、実用レベルではありません。
※管理システムのパスワードが歌であることに気付きました。
※穂乃果達と軽く情報交換しました。
※ヒステリカが広川達主催者の手元にある可能性を考えています。
※首輪の警告を聞きました。




【エンヴィー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、賢者の石消費(マスタングとの戦闘で焼かれた分も含めて残り40%)、鳴上の『絆』に対する嫉妬心、
    オクタヴィアの演奏に対する共感、感度五十倍
[装備]:ニューナンブ@PERSONA4 the Animation、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[道具]:ディパック、基本支給品×2、詳細名簿、天城雪子の首輪 双眼鏡(エンヴィーの支給品)、里中千枝の死体
[思考]
基本:好き勝手に楽しむ。
0:エンブリヲは絶対に殺す。絶対に。
1:放送後にもう一度首輪交換機を訪れてみようかな。
2:色々な参加者の姿になって攪乱する。
3:エドワードには……?
4:ラース、プライドと戦うつもりはない、ラースに会ったらダークリパルサーを渡してやってもいい。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※ヒルダの姿でタツミからジュネス近辺、さやかについてのことを聞きだしました。
※首輪の警告を聞きました。


722 : 電子の海 ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/12(土) 23:08:19 Npw258Vo0
投下終了です


723 : <削除> :<削除>
<削除>


724 : 名無しさん :2016/03/14(月) 04:02:23 8QqOA8AE0
投下乙です
性欲捨てたエンブリヲ様が相手じゃエンヴィーも敵わなかったか


725 : 名無しさん :2016/03/14(月) 21:25:24 tDqvzJWg0
投下乙です

エスデスと大佐の対決か。セリューの影響がここまで大きくなるとは思わんかった
しまむーはこのままエスデスに流れてしまうのか。ちゃんみおもがんばれ

タツミは後悔してるが色々と揺れてるなあ
それを利用しそうなキャラはそこそこいるのでちょっと心配なところ

味方になると心強いブリヲ。これで対主催展開も進展すると良いが
エンヴィーはえっちいことになっているが、殺さずに放置は結構な爆弾な気がする


726 : ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:20:34 XrHerlBY0
投下します。


727 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:21:02 XrHerlBY0
「じゃあ、佐倉のところに行けばいいんだな」

闇が濃くなっていく中。
ウェイブは、自分が来た道をちょうど引き返しながら、救援を求めてきたサファイアと会話しつつ、橋を渡っていた。
喋るステッキには多少は驚いたが、帝具の中には人語を理解し意思を持つものもあるという。
サファイアもその一種なのだろうと納得した。

『ええ。武器庫の近くに、時を止める力を持ったDIOという男が――っ、掴まってください!!』

「うお!?」

突如、ウェイブの体が前へ引っ張られた。
橋が急激に遠ざかっていく。

「何を――っ、あれは――!」

『ええ』

一体何があったのかと聞こうとしたウェイブだが、橋のたもとに現れた影が視界に入り、全てを察する。

「後藤の野郎……!」

『あなたも、知っていましたか』

「こっぴどくやられた相手だよ」

『私も研究所で遭遇しましたが、恐ろしく強い怪物でした』

ウェイブとサファイアは頷き合う。


728 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:21:17 XrHerlBY0
備えは十分とは言い難いし、ウェイブにはMS力(それが何のことかはよく分からなかったが)が足りずサファイアを扱い切ることもできないらしい。
何にせよ、今の自分たちには相手をしている時間はない。

急速に低空飛行しながら、ウェイブは西へ向かっていった。











「……逃げたか」

ウェイブがあっというまに闇に消えていった方を見ながら、後藤は呟いた。
長い橋に差しかかかったところで、こちらに向って歩いてくる男の姿を認めた。
その姿には見覚えがあった。
殺し合いが始まってしばらく経った頃に戦い、先ほども顔を合わせた、マスタングと同じく軍人らしい、ウェイブと呼ばれていた男。

「まあ、いい」

ちょうどよい食料として、この場で食べておこうとした。
実力は知れていること、逃げ場のない橋、1対1。
全てが後藤に有利な状況だった。
だが、逃げられた。
恐らくは、彼が手に持っていた玩具の杖のようなものの力だ。
交戦したときは、あのようなものは持っていなかった。


729 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:21:35 XrHerlBY0
手にしていたのならば、逃走のために使っていたはずだ。
交換、拾得、強奪。何らかの手段で手に入れたのだろう。
自分が拳銃や鎖鎌を手に入れたのと同じように。

「お前もあの時のお前ではないということだろう。新しい力――見せてもらおうか」

逃げた方角は、自分が向かおうとしている武器庫と同じ。
後藤は、ゆっくりと橋を渡り始めた。











「あちらが気にならんかね、お嬢さんや」

御坂美琴とキング・ブラッドレイ。
2人は、ヒースクリフとの邂逅を目的に、連れだってアインクラッドを目指していた。

「あっちって……」

2人がいるのは、地図上では「イェーガ―ズ本部」の傍ら。
ちょうど真西にあたる方角から、断続的な爆発のような音が聞こえ、ちらちらとした閃光も見えている。

「そんな暇はあるの?」

美琴は、はあ、とため息をつく。

「……私にとって重要な人物はまだ生きているのでな」

放送が確かならば、キンブリーは死んだが、人柱候補のマスタング、エルリックは健在だ。
さらには兄弟であるエンヴィーとプライドも残っている。

「派手にやっているらしいが、巻き込まれて死なれては困るのでな」

「でも、まずはヒースクリフとかいう――」

言い終わる前に、ブラッドレイは方向へ歩き出していた。


730 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:21:50 XrHerlBY0
いつの間にか、2本の剣も抜いてすらいる。

「……まあ、いいわ」

それを見て、美琴は再度ため息をつkく。
自分は腐っても学園都市のレベル5だ。油断しているつもりは一切ない。
が、先ほど、確実に殺すつもりで襲った男2人組をほとんど無傷で逃がしてしまったのは事実だ。
西にいる連中は、ここまで遠くまで戦闘音を響かせる実力を持っている。
こうしてブラッドレイと手を組めているうちに、危険人物は刈り取っておくに越したことはないだろう。

美琴は、半ばしぶしぶといった体でブラッドレイの後を追い始めた。











「はぁ、はぁ……」

「くそ……」

「くっ……」

そして、ブラッドレイと美琴が目指す音と光の源。
そこでは、3人の少年少女が、ピンクの衣装をまとった1人の少女と相対していた。

「早く――死んで」

体に負う傷は、明らかにイリヤよりも杏子、エドワードのほうが深い。

(少々、まずいですね)

セリムは内心ごちる。
イリヤの攻撃には全く躊躇いがない。DIOに何かをされ、微かにあった迷いのようなものがなくなっている。
すでに武器庫からは引き離され、周囲に光源は見当たらない。
杏子が草に火を放つことで光を確保していたが、その杏子も攻撃を捌くのに手一杯。
必然的に自分は杏子とエドワードに守られるような形になり、ますます追い込まれる。


731 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:22:05 XrHerlBY0
加えて、自分より体の大きな大人を殺すには有利に働いたこの容れ物が、体格が同じくらいのイリヤ相手には逆に不利になってしまっているらしい。
2人とは違い傷こそ表面化しないが、ダメージは確実に体に刻まれている。

状況は悪い。
こうなったら人柱のエドワードを連れて――、いや、最悪自分だけでも、ここから逃げるべきか。

「おい!」

そこまで考えたとき、エドワードがこの修羅場から離れていく陰に鋭く声をかけた。

「イリヤに何をしやがった、てめえ!」

しかし、DIOは意にも介さない。
無関心とばかりに、すたすたと歩を進めていく。

「待てっつってんだろが!!」

エドワードは地面に手を当てる。
すると、足枷が錬成され、DIOの足に絡みついた。

「――」

DIOの足が止まる。
舌打ちをし、足枷を蹴り砕く。

「追いついたぜ」

「……」

振り向き、エドワードを忌々しげにねめつける。

「イリヤを解放しやがれ、この野郎!」

しかし、エドワードも一歩も引かず睨み返す。


732 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:22:25 XrHerlBY0
「野郎とは、このDIOのことかな?」

「てめえ以外誰がいるってん――」

言い終わる前に、エドワードは胸ぐらを掴まれる。

「態度がなっていないな」

「く、あ……」

「――このDIOに物を頼むなら!」

「ぐっ」

「――『どうか解放してくださいませDIO様』とでも!」

「おっ」

「――言うべきだろうがァ!!!」

「ぐあぁっ!」

連続でパンチを叩きこまれ、エドワードは吹き飛ぶ。

「エド! DIOの力は――くそっ!」

倒れたエドの姿に、思わず振り向く杏子。
その杏子に向けて、猛スピードで何かが投げつけられる。

「ぐあ!」

「ち!」

吹き飛んだ杏子を庇い、セリムはその背にまともに光弾を食らう。

「貴様にくれてやろう……有難く使うがいい」

投げつけられたのは、インクルシオだった。
この鎧は、御坂美琴に屋根を削られ、日光を浴びせられた時の屈辱をどうしても思い出させる。


733 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:22:43 XrHerlBY0
そんな縁起の悪い代物は、DIOにはもう必要ない。
大体にして、帝王に、狭苦しい鎧など不要だ。

「ちくしょう、舐め――」

が、それ以上DIOに声をかける時間はなかった。
身を投げ出して杏子を庇ったことにセリムが僅かな疑問を感じる間もなく、光弾が襲う。

「――かっ、は――」

咳き込むエドワードの前に、再びDIOが立ちはだかる。

「雑魚どもやり合う気は一切なかったが――そんなに死にたいとあっては、話は別だ」

エドワードを見下す。

「速やかに殺してやろう」

『世界』の拳が、振り上げられる。

「せいぜい地獄であのふざけた猫娘とイチャついていろ! 死ねい!!」



――『みくは自分を絶対に曲げないから!』



「み、く……」

エドワードの脳裏に、少女の言葉がよぎった。

「く、そぉ……」

その目に、光が再び宿る。

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!! みくゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

再び手を合わせ、地面から土柱を何本も錬成する。

「無駄ァ!」

その土柱も、『世界』の一撃で破壊される。
ひるまず次々に錬成しDIOに向ける。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄む――むっ!?」

その時、DIOとエドワードの間に割って入った物があった。
刃が一閃、DIOの顔面を襲う。


734 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:23:00 XrHerlBY0
が、難なくはたき落とされる。

「寄生生物(わたしたち)が、言えた柄ではないけれど」

杏子やイリヤとは違う、大人の女性の、どこか無機質な声がした。

「一方的な暴力というのは、あまり気分がよいものではないわね」

「貴様、田村玲子……!」

DIOの標的の一人、寄生生物。

「フフ、待っていたぞ……」

「貴方に会いに来たわけではないのだけれどな」

「エドワードだ。あんたは……?」

恐る恐る、エドワードは問いかける。
突如現れた、後藤と同じような体の変形を見せる女性。
田村玲子の名は、サファイアから聞いてはいる。後藤の同類ではあるが、敵ではないとのことだったが……。

「味方、と言っておこう。
 ……腕に自信はあるが、アレが相手では心もとないからな」

田村はDIO、そして後方で未だ戦い続ける3人を見やる。

「2人とも……以前に会った時から、随分と変わったようだ」

「貴様を葬るのに十分すぎるほどの手に入れたのでな。
 ククク……もはや死んでもサルなどとは呼ばせんぞ」

3人は再び対峙する。
――が、DIOの敵は、エドワードの味方は、これだけではない。
ゴォォ、とでも形容すべき音が、東の方から聞こえてきた。
姿を現したのは、一つの魔術礼装と、それに掴まった男――。

「グラン――フォールッ!!!」

ウェイブが、空中から必殺の膝蹴りを見舞う。

「ふん――無駄ァ!!!」

が、渾身の不意打ちも、今の『世界』には通じない。


735 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:23:13 XrHerlBY0
クロスした両手で難なく受け止めると、弾き返す。

「俺を忘れんな!」

第二の乱入者にも決して動揺はせず、エドワードはその合間を突いて土柱を錬成、DIOに向ける。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

やはり、通じはしない――が。

「ウェイブだ! 佐倉!」

『佐倉様!』

イリヤと一進一退の戦いを続けている杏子に、ウェイブがサファイアを投げ渡す程度の隙はできる。

「おう!」

杏子はそれを受け取り――。

『コンパクトフルオープン! 境界回路最大展開!』

「待ってたぜ! 味方連れてきてくれてありがとよ!」

『佐倉様、イリヤ様は、これは――』

「完全にどうかしちまってる。……目ェ覚まさせるぜ」

『っ、承知しました!』

衣装はそのままに、杏子の力が増す。
光弾を捌くのに精いっぱいだった杏子が、ここで攻勢に転じる。
その攻撃に、黒い影が加わる。

「これは有難い」

力が増すと同時に、杏子の体から放たれる光も俄然増す。


736 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:23:28 XrHerlBY0
セリムはそれに寄り添うように動き、より濃い影を作り出す。

「――」

無表情に近かったイリヤの顔にも、ここに来て初めて僅かな動揺が浮かぶ。

「イリヤ! そこのガキどもはきちんと始末しておけ!」

戦局の変化を嗅ぎ付けたDIOが鋭く呼びかける。

「っ、分かりました。DIO様」

僅かに浮かんだ動揺は、それで消えた。
2人の魔法少女とはじまりの人造人間が、再びぶつかり合う――。











「さて、貴様ら」

DIOは睥睨する。
当座の敵は3人。
寄生生物に、豆粒に、磯臭い男。

「どう葬ってやるか……」

「くたばってたまるかよ!」

「私も、やらねばならないことがあるからな」

「俺も忘れんじゃねえぞ!」

改めて見ると、集まったのは所詮ザコでしかない。
3人そろってキャンキャンとよく吠えるものだ、とDIOは思う。

(ふむ)

ニヤリ、と笑う。
『世界』の能力――。この辺りで、試してみるのもいいだろう。

『気をつけてください! DIOは――

「――まとめて死ねい! 『世(ザ・ワー)――

戦いながらも動きに気付いたサファイアが、3人に警告する前に。


737 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:23:43 XrHerlBY0
『世界』の能力が発動する、その前に。

巨大な音とともに、4人の間に雷が落ちた。











「まとめて始末するつもりだったけど、狙いが外れたわね」

「御坂――! それに、ブラッドレイ――!?」

混沌の場に現れた2人に驚愕したのは、エドワードだった。

「久しぶりね。……随分な状況になってるみたいじゃない」

「苦戦しとるようだな、鋼の錬金術師よ」

DIOから目を反らさず、2人は話しかける。

「手を貸そうかね?」

「ブラッドレイ、お前……!」

ウェイブは、敵意の混じった視線を油断なく向ける。
今はどこか雰囲気が柔らかいようだが、相手はつい先刻、立て続けに自分やアカメたちの命を狙って来た相手だ。

「ウェイブ君といったね。……やり合うかね?」

そんなウェイブに、ブラッドレイはあくまで静かな物腰で答える。

「――いや……」

DIOの方を見ながら、ウェイブは苦々しさを含んだ声で答える。
この状況で一番の脅威は、目の前のDIOだ。


738 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:24:02 XrHerlBY0
割り切れない思いはあるが、協力して事に当たれるならば、これほどの味方はいない。

『ブラッドレイ――貴様は、美遊様の――』

が、ウェイブに代わって、サファイアが敵意を露わにする。

「ほう、随分と久しぶりだな」

「な」

サファイアの言葉に驚いたのは、エドワード。


――『エドワード様。そのブラッドレイという男に、私は主を目の前で殺されました』


ブラッドレイが美遊・エーデルフェルトを殺害した。
その一件は、サファイアの口から聞いてはいた。
だが、サファイアが事の詳細を積極的に語りたがらなかったこともあり、エドワードはどうにもそのことに納得がいかなかった。
ブラッドレイは正体はエンヴィーたちとホムンクルスではあるが、エドワードの印象に残っているその態度は、あくまで最高権力者らしく、時には好好爺として振る舞っている姿だ。
開始早々に殺し合いに乗って少女を殺害するとは、どうにも信じられなかった。

「――その話、本当なのか……」

DIOからあくまで視線は外さず、おそるおそる問いかける。

「さてな、そんな事もあったかな?
 ――などととぼける意味も、生き証人がここにいる以上皆無であるな。
 美遊という少女。手にかけたのは、確かにこの私であるよ」

その言葉に、エドワードやウェイブ、サファイアが何かを言うよりも早く、ブラッドレイが剣を振り上げた。
老体から発散される闘気に、田村玲子ですらもが一瞬気圧される。

「さて。裁判沙汰のためにここまで来たのではないのでな。長兄があちらで手こずっているようでもあるし、込み入った話は後にしておこう。
 私と戦うのは誰かね? それとも――全員でかかってくるか?」

「ラース! こちらに――」

「――このDIOだ。老いぼれめ」

セリムの言葉を遮り、ずいと一歩進み出たのは、DIOだった。

「貴様、人間ではないようだが――構わん。寄生生物や御坂もろとも、『世界』の錆にしてくれよう」

「人間でないのは、どうやらお互い様かな? 青年よ」


739 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:24:15 XrHerlBY0
ブラッドレイも呼応し、前に出た――その時だった。

誰もが予期していなかった方向からの攻撃が、ブラッドレイを襲った。











イリヤの脳裏には、殺せ、殺せ、という言葉が渦巻く。


『ブラッドレイ――、貴様は、美遊様の――』


『美遊という少女。手にかけたのは、確かにこの私であるよ』


だが、その言葉に交じって。
目に映る光景――佐倉杏子の棍棒と、セリムの影が交互に攻撃を仕掛けてくる、それに交じって。
誰だか分からない一人の少女の顔と名前が、浮かんでくる。


殺せ――殺せ――セリム――キョウコ――殺せ――殺せ――殺せ――殺せ――

セリム――殺せ――ミユ――殺せ――キョウコ――


誰なのだろう。
ミユというのが、この少女なのだろうか。


殺せ――殺せ――ミユ――ブラッドレイ――殺せ――

ミユ――殺せ――ブラッドレイ――殺せ――ミユ――


分からない。何も分からない。
でも、この少女のことを見てると、変な感情が湧き上がってくる。
この感情は何なのだろう。
どんどん強くなってくる。
目の前の二人が、眼中に入らなくなるくらいに。
殺せ、殺せ、という言葉が、だんだん弱くなってくるくらいに。


740 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:24:34 XrHerlBY0
殺せ――

殺せ――

ミユ――

ブラッドレイ――


『美遊という少女。手にかけたのは、確かにこの私であるよ』


コロセ――

メノマエノオトコガ――

ミユノカタキ――




「う――うあああああああああああああっ!!!!!」











「むっ!」

予想外の攻撃に、ブラッドレイはわずかなたじろぎを見せる。

「う、ァァー!」

「君が私の相手かね」

「コロス……コロス!!!」

イリヤは、無茶苦茶に光弾を連射する。
相対するブラッドレイの言葉も、まるで耳に入っていないかのようだ。


741 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:24:59 XrHerlBY0
二人は戦いながら集団から離れていく。

「何をやっている!」

その光景に、苛立ちを見せたのはDIOだった。

「指示に従え! ここに戻ってこい!」

「うぁぁ……」

指示に従うどころか、言葉すら耳に入っていない。

「残念だな、DIO君とやら。お嬢さんはお相手に、どうやらこの私をご所望らしい」

「ちぃ……」

DIOは毒づく。
食蜂操祈に洗脳を施したときから薄々分かってはいたが、肉の芽の効果にもこの場では制限が課せられているようだ。
いずれにせよイリヤは、いつの間にか洗脳を解いていた佐倉杏子同様、この時をもって抹殺対象に入った。
どうやって反抗しているのかは知らないが、奴隷にすらなれない人間など、もはや害でしかない。

「なめんな!」

イリヤに気を取られた瞬間を突き、ウェイブが斬りかかる。

「ふん!」

抜け目なく『世界』を発動、斬撃を防御。

「俺も行くぞ!! 田村も、っクソ!、御坂も、今だけは――頼む!」

「了解した」

「命令してんじゃないわよ!」

続いてエドワードが錬金術を発動し、田村は刃で、美琴は砂鉄鞭でそれを援護する。


742 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:25:23 XrHerlBY0
「無駄だ! 破ァ――!」

裂帛の気合いとともに、DIOと『世界』はその全てを跳ねつける。

「あたしも加勢するぜ!」

イリヤの突然の離脱に戸惑った杏子だが、情勢を見てこちらに駆け付けた。

「私はラースに加勢させてもらいますね」

セリムだけが、そそくさとブラッドレイの元へと駆ける。

「セリム――ああクソ! 勝手にしてろ!」

エドワードは悪態をつくと、DIOに向き直る。
状況はあまりにも混沌としている。
御坂のことも、セリムのことも、サファイアの主を殺したブラッドレイのことも、豹変したイリヤのことも。
分かること、答えを出せることは何一つない。
ただ一つ分かるのは、DIOを相手にするなら。
イリヤがブラッドレイの相手をしていて、こちらには田村、ウェイブ、杏子、御坂の4人がいる。
この瞬間、今しかないということだ。

だが――

「無駄!」

「く!」

「無駄、無駄!」

「ぐあ!」

ウェイブも杏子も、その攻撃は弾き返される。

「これでも――喰らいなさいっ!」

合間を縫い、美琴が砂鉄塊をぶつける。

「無駄無駄無駄ァ!!!」

が、それもまた、『世界』のラッシュにより粉砕される。


743 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:25:40 XrHerlBY0
「嘘!?」

「御坂美琴よ――言わなかったか? このDIO、最初に会った時とは違うとなあ?」

5人を相手にしてなお、DIOの表情は余裕を失っていない。

「クソ! どうにもならねえのかよ!」

錬金術で礫を飛ばし、懸命に挑みかかる杏子とウェイブを援護しながら、エドワードが毒づく。

「……私の超電磁砲(レールガン)しかないわね。でも、そんな隙――」

「君たちは、飛び道具を持っているかね?」

2人の後ろから問いかけたのは、田村玲子だった。

「飛び道具つっても、爆弾しか……」

「ふむ――初春飾利から聞いた。超電磁砲(レールガン)とは、電磁力を利用した音速の大砲、でよかったかな」

「初春が――! ……まあ、合ってはいるけど……」

美琴の言葉を聞き、エドワードが懐から取り出したパイプ爆弾を見て、田村玲子は頷く。

「隙を作れるかもしれん」

と、その時、杏子とウェイブが同時にエドワードたちの元まで吹き飛ばされてきた。

『待ってください』

すぐ再び挑みかかろうとする杏子を制したのは、サファイアだった。

『田村様。隙を作る――と、仰っていましたね』


744 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:25:58 XrHerlBY0
「その通り」

『その作戦、わたしも一助になれるかと。
 ただし――何を聞いても、決して驚いて足を止めることのないよう』











「作戦会議のお時間は終わりかね? フフフ……」

何度目になるだろうか。
杏子がDIOに向かっていく。

「そんなもんいらねえんだよ! 行くぞ、オラァ!」

「何をしようが無駄だということを、いい加減学び――」

そこまで言ったところで、ふと気がついた。
佐倉杏子。先ほどまでと違い、変身を解いている――?

「上か!」

気配を感じ見上げると、サファイアが空中に浮いていた。

「そんなところで、冷や水でも浴びせるつもり――」

『皆さん!』

DIOの言葉を遮り、サファイアはこの場の全員に呼び掛けるように、叫ぶ。

『聞いて下さい! DIOの力は――時間を止めることです!!』


745 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:26:16 XrHerlBY0




「――ほう」

その言葉に、DIOの纏う空気が変わった。

「玩具風情が、このDIOの力の本質を見抜いたこと――褒めてやろう」

素早く再変身を果たした杏子と、救援に来た田村玲子の刃を殴りつけ、吹き飛ばす。

「だが、絶対に許さん! 粉々にし尽くして、ゴミ置き場のチリにしてやろう!!」

「お前の相手は――」

「俺たちだ!」

猛るDIOの前に、エドワードとウェイブが同時に現れ――

「む!?」

攻撃が届くか、というところで、左右に散った。
二人の手には、パイプ爆弾があった。

「エド!」

「おう!」

どちらを追うかわずかに逡巡している間に2人は距離を取り、爆弾を同時に投げつける。

「無駄無駄無駄無駄!」

それでも、DIOの足は止らない。
『世界』の拳を同時に左右に突きだすと、爆弾を逆に弾き返す。

「5人が頭を突き合わせて考えたのがこれか――お粗末なものだ」

大きな爆風が起きるが、それもDIOを捉えるには至らない。


746 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:26:32 XrHerlBY0
投げつけたエドワードとウェイブが、逆に煽られていくのが見える。



その時だった。
反響する爆音に紛れて、かすかにピーンという音がした。



「あんたにこれを使うのは、2度目ね」


音の主は、御坂美琴。


「私もあんたも、あの時とは違う。でも、あんたは邪魔なのよ」


手を前に突き出し、まっすぐにDIOを狙う。


「私の世界から――消えて」


閃光が迸った。


















「『世界』――時よ止まれ」





そして、全てが静止した。


747 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:26:53 XrHerlBY0




「ふふ……ふははははははは!!!!!」

止まった時の中で、DIOは笑う。

「小賢しい……全く小賢しい! 貴様の知性など所詮そんなものだ、寄生生物よ!」

これ見よがしにこのDIOの能力を暴き立ててみせ、続いて爆弾を投げ込み、その隙に電撃を撃ち込む。
寄せ集めが考えたにしては、まあまあ上等な作戦といっていいだろう。
だが、御坂美琴のその技は、研究所で一度『見て』いる。
その電撃に最後の希望を託すことくらい、とっくに予想済みだ。

「『学習』が、『人間(じぶんたち)だけの特権』だとでも思っていたのかな? ククク……」

一生懸命に考えたそんな作戦も、『世界』の前ではおままごとに過ぎない。
この場に来てから、忌々しい制限とやらのせいでわずか1秒しか止められなかった時間。
それが今、明らかに増している。
4秒、5秒……否、6秒!

素晴らしい。

ジョースター御一行は、この異郷の地でついに滅び去った。
犬畜生のイギーも。
ブ男のアヴドゥルも。
ボケ老人のジョセフも。
そして、あの承太郎も。
残っているのはポルナレフのみ。


748 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:27:09 XrHerlBY0
いかにポルナレフが強かろうと、一人の力など恐るるに足りない。
もっとも、自分がわざわざ手を下すまでもなく、今ごろは寂しく取り残されて野垂れ死んでいるかもしれないが……。

100年に渡る愚にもつかない因縁は、ここでこのDIOの勝利を持って灰燼に帰した。

そして、ジョースターの血の力。
それを取り込んだことによる、身体能力、スタンド能力の上昇。

素晴らしい。

吸血鬼。
不死身。
不老不死。
スタンドパワー。
時間停止。

全ては揃った。
生意気にも止まった時間の中に踏み込んでくる小娘、暁美ほむらまでも勝手にくたばってくれた。
どれほど優秀な兵士だろうと、どれほど強大な兵器だろうと、どれほど熟練のスタンド使いだろうと。
もはやこのDIOを止められる者は、世界のどこにもいはしない。
それは、慢心でも油断でもない。
厳然たる、冷然たる、ただ一つの圧倒的な事実だった。

「残り4秒……」

電撃の槍を横目に、DIOは歩みを進めていく。
御坂美琴の電撃。
認めてはやろう。それは確かに、強大な能力ではあった。
だが、こうして止まった時間の中では無力そのものだ。
何十億ボルトの電圧だろうと、止まってしまえば、触れさえしなければ、何の意味もない。


749 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:27:22 XrHerlBY0
要するに、発電所の厳重な柵の中の発電機も同然だ。

「残り、3秒」

周囲を眺める。
今のDIOには、改めて殲滅対象を選別する余裕すらあった。
よくもまあこれほど集まったと思うほど、忌々しい面々が勢揃いしている。
豆粒以下の分際で盾突いてくるエルリックとセリム・ブラッドレイ。
奴隷の役目すら果たせない佐倉杏子とイリヤスフィール。
どこかジョースターを彷彿とさせる風貌が不愉快なキング・ブラッドレイ。
『世界』の能力を見抜いてみせた玩具。
このDIOを猿などと見下していい気になっている田村玲子。

「残り2秒――やはり、まずは貴様だ――御坂美琴!」

だが、やはりこの場で一番最初に始末すべきは御坂美琴だ。
こいつは寸前のところで自分を殺しかけたのだ。
あの忌々しい記憶を払拭するためにも、真っ先に殺す。

「残り1秒――死ねいっ!!」

手を突き出しコインを弾いた、滑稽な姿勢のままの美琴。
スタンドではない。自らの拳で。
その無防備な腹を、撃ち抜く。

バキィッ、という音と共に、美琴の体が後方に吹き飛んだ。


750 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:27:42 XrHerlBY0














――おかしい。
人間の体にしては、感触が固すぎる。
まるで、鉄の板を殴ったような――

そう思うと同時に、拳の先から何かが体に流れこんできた。

波紋?
まさか、この小娘も波紋使い?

いや、違う。
ジョセフに食らった時のような、血液を沸騰させるような強烈な感覚がない。
行動を奪われるほどではないが、不快な刺激が走るようなこの感触は。
自分の横で光を放つ。それと同じもの――。

電流――。





そして、時は動き出した。
流れこんできたものの正体を察するのと、ほぼ同時だった。


751 : 絶望を斬る ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:28:00 XrHerlBY0
「――ちぃ、痺れ――ッ!」

電流といえど、吸血鬼の身体の自由を奪うには、遥かに遠い。
だが、動き出す世界の中。
DIOの動きはほんの一刹那、止まる。





それと同時に、頭部が異様に肥大した黒い影が躍り込んできた。















――  バ  ク  ン


752 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:28:30 XrHerlBY0
「――なっ?」

「――は!?」

「嘘だろ!?」




エドワードが、ウェイブが、杏子が、驚きの声を上げる。
動き出した世界で、彼らを待っていた光景。

「グ……ゴ……ォ……」

それは、首から上を失い、仁王立ちするDIO。
そしてその傍らでもがき苦しむ、見覚えのある化け物――後藤。

意味が、全く分からない。
美琴の超電磁砲は効いたということなのか?
なぜ後藤がここにいるのか?

「ガァァァァァァァ!!!!!!」

その疑問に、答えが出るより先に。
怪物は、この場の誰も眼中にないかのごとく、あらぬ方向に走り去った。

追えばよいのか。
留まるべきか。

誰かが、その場の判断を下すより早く。
DIOの体が、がくりと膝をつく前に。

ブラッドレイと戦っていたはずのイリヤの手が、さっと振り上げられた。


753 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:28:45 XrHerlBY0
その手には、何かが握られていた。

――時計?

戦場には不釣り合いなそれに、誰もが一瞬、戸惑い――

「爆弾だ!」

戦闘で爆弾を用いる仲間がいる杏子が、真っ先に気付いた。
その声に、エドワードは壁を錬成し、他の面々も防御の姿勢をとった。

「くっ!」

すぐに、爆風が全員を襲う。

「みんな、無事――」

杏子は防御障壁を展開したまま、後ろへ視線を送り――

次にイリヤの方を見て、顔色を変えた。

そのステッキの先端には、凄まじい光が集約されつつあった。

爆弾は、フェイント。

本命は、特大の光弾――





次の瞬間、前の爆弾を遥かに上回る光と熱が、集団を包み込んだ。






















「おい! しっかりしろ! おい!」


754 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:28:58 XrHerlBY0
光が晴れた、戦場。
そこからは、キング・ブラッドレイ、御坂美琴、イリヤの姿が消え、そして3人が倒れていた。

「……佐倉杏子、それと鎧は壊れたようだが、ウェイブは気絶しているだけだ。だが、こちらは――」

傷を負いながらも、あくまで冷静な田村玲子が、子供のほうを見やる。

「――セリム……!」

エドワードの視線の先。
そこには、半身を崩れさせている、セリム・ブラッドレイの姿があった。

「バカ、野郎……なんで……」

エドワードは、はっきりと見ていた。
光弾が発射された瞬間。
セリムは、光弾が作り出した影を、相殺せんとその光弾にぶつけていた。
だが、その影は、しょせんは一瞬でしかない。
光弾の熱量の全てを防ぎきることは、とうてい不可能だった。

「自分だけ、守ることだって、できただろ……」

エドワードが、声を絞り出す。
影の力を自分だけに纏わせれば、身を守ることは可能だった。
自分以外でも、『人柱』のエドワードだけならば、守ることも不可能ではなかっただろう。


755 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:29:13 XrHerlBY0
――だがセリムは、そのどちらも選ばなかった。
その結果として、ダメージの蓄積された体に衝撃を浴び、今のこの光景がある。

「『人柱』のあなたは生きています。……まあ、それでよい、ということでしょう」

「よくねえ!」

エドワードが怒声を上げる。

「っ、大総統の、夫人に、何て言えばいいんだよ……」

「夫人ですか――」

エドワードの言葉に、セリムはかすかに考え込むそぶりを見せる。

「……あれに残す言葉などありません」

その言葉に、エドワードは顔を上げる。

「あれは私の弟が伴侶として、また私の母として、選んだ女です。
 私たちの間に言葉は必要ありません。
 ……もっとも、この場では私たちは見捨てられたようですから、人造人間(ホムンクルス)としては、もう――」

セリムに明確な言葉が紡げたのは、そこまでだった。
エドワードが何か問いかけてくるが、その言葉も意識に入ってはこない。

あの時なぜとっさに、全員を守ることを選んだのだろうか。
考えてもその答えは出てこないし、考えている時間もない。


756 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:29:28 XrHerlBY0
ただセリムの脳裏には、自分と同じように誰かを守って死んだ1人の少女と、1人の男の顔が浮かんでいた。

「ああ……」

曖昧になる意識の中で、星空凛とプロデューサーの顔が混ざり合った。
やがてその顔は、偽りであるはずの、母の顔を形作った。

「そうか……マ……マ……」

欲した答えは最後まで得られないまま。しかし何かの確信を最後に掴んで。
首輪のみを生きた証として残し、はじまりの人造人間(ホムンクルス)はその長い生涯に終止符を打った。











『――申し訳ありません、エドワード様』

僅かな間の沈黙を破ったのは、サファイアの声だった。

「っ、サファイア!?」

倒れている杏子の手から、エドワードはサファイアをひったくる。
見ると、サファイアの先端の六芒星には亀裂が走り、持ち手の部分にも無数のヒビが見え、発するその光は弱弱しく点滅していた。

『私もどうやら、ここまでのようです』

殺し合いが始まってからの戦いに加え、DIO、そしてイリヤとの連戦。
それは使い手のみならず、サファイア自身にも確実にダメージを与えていた。
それが、先ほどのイリヤの攻撃を防御障壁で防いだ時に、ついに限界に達した。

「――くっ、そぉっ……」

『どうか自分をお責めにならないで下さい。


757 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:29:41 XrHerlBY0
 ――このような場所で、良い仲間に恵まれ、わたしは幸運でした』

「――っ」

『佐倉様、ウェイブ様には、どうかそうお伝えください。
 最後に……イリヤ様を、どう、か……』

そして、ゼルレッチの双子の片割れの魔術礼装が一つ、カレイドステッキ・マジカルサファイアは、光を消した。





















「――行くぜ」

セリムの首輪と壊れたサファイアを交互に見つめていたエドワードが、突然立ち上がった。

「どこに行く気かね?」

性急な様子に、田村玲子が呼び止める。

「決まってるだろ、御坂のやつを止めに行くんだよ」

ここで足を止めるわけにはいかない。
そうしなければ、セリムとサファイアの死が無駄になってしまう。
それに、セリムが最後に言っていた「自分たちが見捨てられた」という言葉も気にかかる。

「さっきは一緒に戦ったけど、あいつはまだ殺すのを止めてねえ。


758 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:29:59 XrHerlBY0
 それだけじゃねえ。大総統のやつも、後藤も止めなきゃならねえし、大佐だって――」

と、そこまで言ったところで、何かに躓いたかのようにエドワードは倒れ込んだ。

「あ、れ」

起き上がろうとするが、足に力が入らない。
エドワードの体に刻まれた激戦の代償が、前に進む力を奪っていた。

「ち、く、しょ……」











「仲の良いことだ」

気絶し倒れたウェイブ、佐倉杏子、エドワードの3人を見つめながら、田村玲子は一人ごちる。

「……終わったのか」

そんな田村玲子に、どこからか声をかける者がいた。

「ほう、喋る猫とは」

隠れていたデイバッグから這い出てきた喋る猫――マオの登場にも、田村は全く動揺しない。
概ね短命に終わるようだが、寄生生物が人間以外の動物に寄生した例もあると聞く。
この黒猫もそうした例なのか、あるいはまったく別の何かか。

「……マオだ。あんた、何者だ?」

デイバッグからちらちらと戦局を覗いて、自在に変形する頭部を見るまでもなく。


759 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:30:11 XrHerlBY0
人間の姿をしているが、人間ではないのは明らかだった。

「田村玲子だ。先ほどまでここにいた後藤の同類、と言っておこう」

人間でないのなら乗り移ることも可能か――と考えたが、制限のためなのか、もともと無理なのか、それはできない。
後藤のことは聞いていたが、目の前の彼女からは敵意は感じられない。

「ついていくしかなさそうだな……」

「好きにするといい」

言いながら、田村は倒れたエドワードの手から首輪を拾い上げる。
名乗り合う暇すらなかった。
自分と同じく人間ではなかったのは確かだが、セリム・ブラッドレイが何者なのかは、田村玲子には全く分からない。


『そうか……マ……マ……』


だが、その最後の言葉は、田村玲子にも届いていた。
母の名前。人間ではないこの少年にも母はいて、それを呼んだのだ。
それは田村に、我が子のことを思い出させずにはいられなかった。
死後、人間たちに託した息子。
彼は、どんな人間になっているのだろうか。

「さて――」

この後は、どうすべきか。
気絶した三人をデイバックに入れ、落ちていた鎧と、中身がこぼれ出たDIOのデイバックを拾い上げながら、田村はしばし考える。
キング・ブラッドレイや御坂美琴、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
そして吸血鬼を食い、恐らくは体に何らかの異変を来したのであろう後藤のことも、気にかかるところではあるが。
彼らを追えば、何らかの戦闘が起こるだろう。
3人を抱えた状態で、それは避けたいところだ。

「予定通り、市役所か――いや」

地図を見る。
殺し合いが始まってから、全く気付かなかった「それ」に、田村玲子は気付いた。


760 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:30:24 XrHerlBY0
この隣の、山岳、というよりは小高い丘が連なっているエリア。
その中央に、紋様のようなものが記されている。

「こうして多くの味方がいるうちに調べておくのも、有益に違いない……」

初春飾利との合流も、果たしておきたいところではあるが。
いずれにせよ、あと1時間もしないうちに、自分たちのいる場所は禁止エリアに指定される。
それまでには、どちらに向かうかを決定しなければならない。





【B-4/一日目/夜中】

【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、卯月に対する怒り?
[装備]:なし
[道具]:デイバック、基本支給品 、錬成した剣、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!、
    園田海未の首輪、食蜂操祈の首輪、ジョセフ・ジョースターの首輪、ウェイブ、佐倉杏子、エドワード・エルリック(デイバッグ内)
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
0:市庁舎へ向かうか、紋様を調べるか……。いずれにせよ禁止エリアからは早急に離脱。
1:脱出の道を探る。
2:コンサートホール及び市役所を探索した後初春と合流する。
3:島村卯月は殺す。マスタング達が説得に成功したら……?
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
6:エンヴィーには要警戒。もしも出会ったら……
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ's、魔法少女、スタンド使いについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。協力者は時間遡行といった能力があるのではないかと考えています。
※剣の他にも、何かマスタングから錬成された武器を渡されたかもしれません。


【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(超絶大)、ダメージ(絶大)、精神的疲労(大)、気絶、左肩に裂傷、左腕に裂傷、全身に切り傷
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:デイバック、基本支給品×2、グリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ、不明支給品0〜3(セリューが確認済み)、南ことりの首輪、浦上の首輪
タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!、雷神憤怒アドラメレク@アカメが斬る!(左腕部のみ 罅割れあり)
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。一度自分達の在り方について話し合い、考え直す。
1:エスデスが誰かを害するのなら倒す。出来れば説得したいが。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具は移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:セリューと合流し、一緒に今までの行いの償いをする。
6:サリア……。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。
※自分の甘さを受け入れつつあります。


761 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:30:39 XrHerlBY0

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(超極大)、ダメージ(絶大)、精神的疲労(大)、気絶、流血(大)、骨が数本折れている、顔面打撲
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×4@魔法少女まどか☆マギカ、
    クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:仲間を集める。
1:イリヤは――
2:御坂美琴は―――
4:ジョセフ……。
5:もしさやかが殺し合いに乗っていれば説得する。最悪、ケリはこの手でつける。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※DIOのスタンド能力を知りました。


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(超絶大)、ダメージ(絶大)、精神的疲労(大)、気絶、全身に打撲、右の額のいつもの傷
[装備]:無し
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、不明支給品0〜2
    ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、パイプ爆弾×2(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす。
0:イリヤを止めて、御坂と大総統をを止めて――。
1:大佐を元の世界に連れ戻して中尉にブン殴らせる。
2:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したい。
3:エンブリヲ、DIO、御坂、エスデス、槙島聖護、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
4:一段落ついたらみくを埋葬する。
5:首輪交換制度は後回し。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※エスデスに嫌悪感を抱いていますが、彼女の言葉は認めつつあります。


【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[思考]
基本:この女、何者だ……?
0:ひとまず田村玲子と共に行動する。


762 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:30:55 XrHerlBY0





















「ん……」

「目覚めたかね」

D-4、イェーガ―ズ本部の付近。
キング・ブラッドレイは、御坂美琴を背負い、そこを走っていた。
世界が動き出した、あの瞬間。
イリヤと対峙していたブラッドレイのみが、彼女の真の意図を見抜いていた。
最初の爆弾には目もくれず、気絶し吹き飛ばされていた美琴を迷いなく救出、光弾が来る前に離脱を図った。

「回復結晶とやら――便利なものだな。使わせてもらったぞ」
 どうかね、私のアドバイスは的確だっただろう?」

背の美琴は、微かに身じろぎをする。

生身はあくまで中学生女子でしかない美琴が、なぜDIOのパンチを受けて生き残れたのか。
その理由は、服の下にあった。
電磁気を利用し、砂鉄を操る能力。
図書館で美琴と話し、それを見たブラッドレイは、一つのアドバイスをしていた。
それは、服の下を砂鉄で覆い、さらに電流を纏わせておくことで、一つの鎧とすること。


763 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:31:10 XrHerlBY0
この鎖帷子が、DIOの攻撃から美琴を守ったのだ。

「あり、がと……、と、言っておく、べき……か、しら……」

僅かな声で感謝の声を上げると、再び美琴は眠りに落ちていった。

「休んでおくがいい」

それを見届けると、ブラッドレイは走る速度を上げた。
少々時間は前後したが、予定は変わらない。
目指すのは、アインクラッド。
そして、茅場明彦――ヒースクリフとの接触。











イリヤが正気を取り戻し爆弾で攻撃を仕掛けた、あの瞬間。
ブラッドレイには、単に逃げるだけでなく、他人を救出している時間があった。
それならば、救い出す対象は、エドワード・エルリックであるべきだった。
なぜなら、彼はお父様の計画に必要な『人柱』であり、絶対に失ってはならない存在であるからだ。
しかし、彼は御坂美琴を選んだ。

なぜか。
それは、無意識のうちに確信していたからだ。
一瞬、己に課された使命を忘れさせるほど。
その傍にいた時により多くの闘争を経験できるのは、エドワードではなく御坂美琴であると。

――キング・ブラッドレイは、この事実に気付いていない。

そして、長兄たるプライドが逝ったことで、彼を繋いでいた鎖の一つが外れたということにも。

あるいは、気付いていながら、心の片隅に追いやっている――。


764 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:31:23 XrHerlBY0




【D-4/一日目/夜中】

【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、出血(小)、腕に刺傷(処置済)、両腕に火傷(処置済)、腹部に刺し傷(致命傷ではない、処置済)
[装備]:デスガンの刺剣(先端数センチ欠損)、カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[道具]:新聞、ニュージェネレーションズ写真集、茅場明彦著『バーチャルリアリティシステム理論』(全て図書館で調達)
[思考]
基本:生き残り司令部へと帰還する。そのための手段は問わない。
1:橋を渡り御坂美琴と共にアインクラッドに向かう。
2:ヒースクリフ(茅場明彦)と接触し、情報を聞き出す。
3:自分の素性を無闇に隠すことはしない。
4:稀有な能力を持つ者は生かし、そうでなければ斬り捨てる。
5:プライド、エンヴィーは……?
6:人柱、有益な情報、技術、帰還手段の心得を持つ者は確保する……?
7:エンブリヲにもう一度会ったら…… ?
8:島村卯月は放置。
9:自分が不利だと判断した場合は殺し合いの優勝を狙うが……?
[備考]
※未央、タスク、黒子、狡噛、穂乃果と情報を交換しました。
※御坂と休戦を結びました。
※超能力に興味をいだきました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。
※これまでの戦いを経て、「純粋に戦いたい」「強い者と戦いたい」という感情が無意識に大きくなりつつあります。
※糸(クローステール)が賢者の石で出来ていることを確認しました。


【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×2 、回復結晶@ソードアート・オンライン(3時間使用不可)、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、アヴドゥルの首輪、大量の鉄塊
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
1:橋を渡りキング・ブラッドレイと共にアインクラッドに向かう。
2:もう、戻れない。戻るわけにはいかない。
3:戦力にならない奴は始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
4:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
5:殺しに慣れたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました。


765 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:31:52 XrHerlBY0





















夜の闇を、白い少女が切り裂く。

「――っ」

その証跡のように、光るものが落ちていく。
少女――イリヤは、泣いていた。

(ごめん……っ)

DIOが食われた瞬間。
全て思い出した。
2人の大切な友達のことを。
自分が、何をすべきかを。

(ごめんね……!)

自分は、何をしていたのだろう。
誰も殺せず、DIOにはいいように操られた。
最後だって、とっさにキンブリーからもらった爆弾を使うことを思いつかなければ、取り囲まれて死んでいたかもしれない。

「美遊、クロっ……!、ごめんなさい……!」

自分は弱い。
あまりにも弱すぎる。
もっと強くならなければ。


766 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:32:08 XrHerlBY0
もっと殺さなければ。

2人にもう一度会うことは、できない。

『……』

そんなイリヤを、ルビーは黙って見つめていた。
戦いの中で、何度も呼びかけていた。


『美遊という少女。手にかけたのは、確かにこの私であるよ』


だが、イリヤの意識をたった一言でわずかに呼び戻したのは、美遊の仇の男だっだ。
そのことが、意味するところ。
それはつまり、イリヤをもとに戻すことは、もはや自分には叶わなくなった、ということだ。

(イリヤさん……)

無力だった。
自分では、主は、もう元に戻すことはできない。

どうしようもなく間違ってしまった、歪みを抱えながら。
主従は闇を駆けていった。



【E-4/上空/一日目/夜中】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:魔力消費(残り1割5分)、疲労(絶大)
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・アーチャー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:デイパック×3、基本支給品×3、DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ、DIOのサークレット、キンブリーの錬成した爆弾(電気スタンド型)
    死者行軍八房@アカメが斬る!、美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
    クロエの首輪、イギーの首輪、クロメの首輪、空条承太郎の首輪、花京院の首輪、キンブリーの首輪、セリューの首輪、不明支給品0〜1
[思考]
基本:美遊とクロの味方として殺し合いに乗って二人を蘇らせる。
0:アインクラッドへ向かい、武器交換をする。
[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
※アカメ達と参加者の情報を交換しました。
※黒達と情報交換しました。
※「心裡掌握」による洗脳は効果時間が終了したため解除されました。
※クロエに分かれた魔力を回収したため、イリヤ本来の魔力が復活しました。


767 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:32:22 XrHerlBY0




















「ガァァ……!」

DIOの館。
頭を齧り取られた怪物の住処に、怪物はいた。

「グ、ォ……グォォォォォォ!」

後藤は、咆える。
血が沸騰する。
力が、どうしようもなく湧き上がってくる。

ウェイブを追って武器庫の付近までやって来た後藤は、田村玲子を含む何人もが、そこで戦闘を行っているのを見た。
戦うために、飛び込んでいこうとして――一瞬だけ、躊躇する。
自分は未だ、この体に慣れ切ってはいない。
自分以外にいるのは9人。この体で、この人数を相手にするのは危険だ。
だから、まずは力を補充する。
見覚えのある多くの者たちの中、狙うのは、DIO。
あの場で、最も自分の近くにいて、最も強い力を持ち、最も隙の大きかった人物。


768 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:32:42 XrHerlBY0
田村玲子よりも手近な標的として、後藤は真っ先に彼を狙った。
その意図は、結果として成功した。

――が。
DIOの頭を食った直後、体に異変が起きた。
そのままでは滅茶苦茶に暴れ出してしまいそうな、力が溢れ出すような感覚が、全身を襲った。

これまでの経験から、この状態は極めて危険だということを、後藤は瞬時に理解した。
いかに力があろうとも、暴走状態というのは隙が大きすぎる。
特に眼帯の男。あれを相手にするのは絶対に危険だ。

後藤がとった手段は――逃走だった。

「首、輪……クビワァァァァァ」

口から、DIOの首輪を吐き出す。
それを掴み、デイバックに入れようとして――力を抑えられず、床に叩きつけた。
床には大きなへこみができる。

「ク、ァァァ……」

後藤は知らないが、DIOの種族――吸血鬼とは、そもそもは「柱の男」たちの食料だった。
では、その食料を「柱の男」以外の者が食らったらどうなるのか?
それは、わからない。
いずれにせよ後藤にとって、この状態は危険だった。
荒れ狂うこの力を、一刻も早くコントロールしなければならない。


769 : 熱いだけじゃ生き残れない ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:32:54 XrHerlBY0
力を、異能を持つ参加者は、まだまだ多く残っている。
彼らと戦うために。
まずはこの力を完全に自分の物とするのだ。

「グ、ォ、――」

が、荒れ狂う力は力はそう簡単には収まらない。

「■■■■■■■■■■■ーーー!」

怪物の咆哮が、再び夜闇に響き渡った。





【修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る! 完全崩壊】
【カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 破壊】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース 死亡】
【セリム・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST 死亡】





【B-6/DIOの館/一日目/夜中】

【後藤@寄生獣 セイの格率】
[状態]:寄生生物一体分を欠損、寄生生物三体が全身に散らばって融合、暴走寸前
[装備]:S&W M29(4/6)@現実、鎖鎌@現実
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、スピーカー、デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾45@現実、一撃必殺村雨@アカメが斬る!(先端10センチあまり欠損)
    アンジュの首輪、DIOの首輪、不明支給品0〜1(アンジュ分、武器らしいものはなし)、不明支給品0〜1(キリト分、武器らしいものはなし)
[思考]
基本:優勝する。
0:力を押さえ込む。
1:泉新一、田村玲子に勝利し体の一部として取り込む。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。ヒースクリフ(茅場晶彦)に興味。
5:田村怜子・泉新一を探し取り込む。
6:黒、黒子とはこの身体に慣れてからもう一度戦いたい。
7:武器を使用した戦闘も視野に入れるが、刀(村雨)はなるべく使用しない。
8:氷の女(エスデス)とも戦ってみたい。
9:足立とは後でリベンジしたい。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。
※黒い銃(ドミネーター)を警戒しています。
※寄生生物三体が全身に散らばって融合した結果、生身の運動能力が著しく向上しました。
ただし村雨の呪毒によって削られ、130話「新たな力を求めて」の状態を100%とすると現在は75%程度です。
※寄生生物が0体になった影響で刃は頭部から一つしか出せなくなりました。全身を包むプロテクターも使用できなくなりました。
※吸血鬼を食ったことで体に何らかの異変が生じました。



※DIOの首から下の肉体はイリヤの攻撃によって消滅しました。


770 : ◆MoMtB45b5k :2016/03/16(水) 17:33:34 XrHerlBY0
投下を終了します。


771 : 名無しさん :2016/03/16(水) 18:08:43 1Ww6ovE60
投下乙です。
さすが10人の大混戦、こんだけ吹っ飛んでも不思議じゃなかったぜ・・・。死人は意外でしかないけど

一つ気になったことだけ。
DIOの参戦時期は「花京院敗北以前」で固定のはずですが「ポルナレフ」が御一行様のメンバーに入っているっていうのは変じゃないですかね?


772 : 名無しさん :2016/03/16(水) 18:22:05 6VG2h69E0
投下乙です

ディ、DIO様ぁぁァァァ!?順調だと思いきやここで死ぬとは…
セリムも悩み続けたけどここで退場か。花陽との再会は叶わなかったか


773 : 名無しさん :2016/03/16(水) 19:18:39 vH7nK0Sg0
大作投下乙です!いやぁ面白かった!!

セリムの最期が切ない。最後の台詞のママ、お父様ではなく、ママ。これがもう…
ニーサン頑張れほんと頑張れ!
後藤さんは大金星。寄生生物と吸血鬼が交わった時どうなってしまうのか
そしてやはり…巨星墜つ。DIO様、偶然の重なりとは言えこういう結末も面白い


774 : 名無しさん :2016/03/16(水) 23:18:33 DQjNzZmg0
ショーン・マクアードル川上
xtw.me/Xw0Ew1h


775 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:22:53 yzIxlvVs0
投下お疲れ様です。
私も投下いたします。


776 : 激情の赤い焔 ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:24:06 yzIxlvVs0


 激情の元に放たれた焔は人間一人程度の体積ならば簡単に飲み干してしまう。
 真理の扉に触れたロイ・マスタングが操る錬金術は掌を合わせることにより、術式を省き、術を完成させることが出来るのだ。
 ある程度の術式や錬成陣を省くことにより、こと戦闘に置いては、予備動作を抑えることから有利に振る舞うことが可能となる。

 掌を合わせ、指を弾くだけで焔を錬成出来るため、人間の身でありながら戦闘能力は生身の一個兵隊と肩を並べるだろう。

 しかし。

 焔の錬金術師が対峙している相手もまた、人智を超えた怪物である。
 錬金術師ではないものの、人体は生身でありながら一つの世界にて実質の最強を誇る氷の女王。
 エスデス。そう呼ばれる女は帝具によって氷を自由自在に操り、予備動作など存在しない。

 マスタングが放った焔に対し、氷をぶつけることで相殺させると大地を蹴り、距離を詰める。
「もっと楽しませろロイ・マスタング……まだ始まったばかりではないか!」
 エスデスが右手を薙ぎ払うとそれに伴い氷が生成され、マスタングに飛翔していく。
 一発一発が拳銃の弾丸に勝り、弾倉が無限でもある。彼女もまた生身でありながら一個兵隊と肩を並べる怪物だ。

「楽しむだと? 何を言っている」
 マスタングの足元が隆起すると、氷の弾丸から彼を守る土の壁が現れ、全てを粉砕。
 パラパラと落ちる氷を見つめるエスデスの表情は――笑っていた。

「私はお前を楽しませるつもりなど――無いッ!」
「だが私は楽しんでいるぞ……勝手に楽しませてもらおうか」

 弾かれた指。
 その音は焔の合図であり、土の壁ごと焼き尽くすように広範囲の火炎がエスデスを包み込む。
 中心に立つ彼女は氷で己を覆うと身体に迫る熱を全て遮断し、何事もないようにまた、距離を詰めた。
 マスタングまで残り五メートルと云ったところで、氷の槍を生成し投擲。更に己の距離を詰める。
 
 氷の槍に対しマスタングは身体を捻ることで回避し、それを掴み錬成を行う。
 青い閃光に包まれた氷槍は小ぶりながら無数の氷塊と変化し、彼は両掌にありったけ握り込み。

「戦闘に快楽を覚える奴に碌な人間はいない――貴様もだエスデス」

 一斉にばら撒く。
 勢い付けているエスデスは急停止を試みるも、簡単には止まれずに大地を削る。
 両腕を交差し迫る氷塊を防ぐも、血が流れ大したダメージではないが傷を帯びた。

「上だ」

 彼女の発した言葉に導かれるまま頭上を見上げたマスタングの視界には人間三人程度の大きさを誇る氷塊。
 予備動作無しの能力は厄介だ。などと愚痴を零す暇も無く、焔を錬成し、熱よって蒸発させる。

「次は左だ」
「何度でも焼き尽くす」

 またも迫る氷塊に向け焔を放つ。
 上空から注ぐ水滴を拭いながら左側も消滅させ、安心――という訳にもいかない。


777 : 激情の赤い焔 ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:25:08 yzIxlvVs0

 視界をエスデスに向けた所で、眼前には笑顔を浮かべる悪魔の姿があった。
「――ッ」
 氷塊の相手をしていた隙に距離を詰められていたらしく、彼女は拳を振り上げていた。
 錬金術も間に合わ無ければ、素手で防ぐことも難しい。つまり、攻撃を受けるしかない。

 顎を撃ち抜かれたマスタングはたたらを踏むことになるが、意識は保っており、掌を合わせる。
 指を弾くことによって己の目の前に焔を発生させ、追撃を防ごうとするもエスデスは上から降って来た。

 氷を己の足場とし、上空から跳んで来た彼女は掌をマスタングに向けると氷槍を飛ばす。
 焔の錬金術師は横に跳ぶことで回避し、お返しと謂わんばかりに焔を飛ばすも氷によって防がれてしまう。

 両者が大地に着地したところで、エスデスが言葉を漏らす。

「火力は大したものだ……今まで出会った人間の中でもかなりの存在だ」
「そのようなことを言われても何も響かん。貴様とお喋りをするつもりは無いぞ」
「氷塊の対処から見て、戦況判断処理能力も悪く無い……だが、感情のままに戦うことは悪く無い。
 しかしマスタング、足元がお留守ではないか?」
「な――ッ!」

 自分周辺の足場が凍らされていることに気付くも、既に遅かった。
 マスタングの足も徐々に冷凍されており、このままは身動き一つ取ることも出来ない。
 即座に焔を限界まで弱め錬成し、己の足場に焚き付け解凍を始める。
「芸達者な奴だ。殺すには惜しいが……相容れることは無いだろうな」
 エスデスは口上を待つような人間では無く、隙を見せればお構い無しに突く女である。
 足場が凍っているマスタングを見逃すような甘いことはせずに、殺さんと距離を詰めるも――左足が爆ぜた。

「言い忘れていたがピンポイントでも可能なのだよ、私の能力は」
「面白い……この会場に居る人間はどいつもこいつも私を楽しませてくれる!」

 今まで対処して来た大振りな焔では無く、人体の部分箇所を焼くための焔。
 拷問にでも使えそうな、人体の特定箇所を削ぎ落とすように放たれた焔はエスデスの左足を焼いた。
 その衝撃に体勢を崩し前のめりで倒れこむ彼女だが、即座に立ち上がりマスタングに視線を戻す。

 彼は氷から開放されており、今度は此処ら一帯を焼き尽くすような焔を錬成していた。
 一種の美しさすら感じられる悪魔の炎に、エスデスの心は惹かれていた。


「全てを焼き尽くして見せよ」


 一帯を焼き尽くす焔が相手ならば、一帯を覆う氷で相手するのが礼儀であろう。
 草地はその緑を失い、生命の息吹を感じさせない程度には凍っていく。


778 : 激情の赤い焔 ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:26:01 yzIxlvVs0

 焔が弾かれてからその炎を走らせるまでに、氷の女王が放った冷気は周囲を氷河の大地へ昇華させる。
 生物は何一つ生きていないような歴史を感じさせるこの地を、焔の錬金術師が全て焼き尽くす。

 幾度なく蒸発し、視界は煙によって何も映らない。
 一度に多くのエネルギーが衝突した故に、爆発が周囲を飲み込んでしまう。
 煙に加え、爆炎と砂塵も相まり誰が立っているかも解らない。だが、どちらも立っていよう。

 彼らがこんなことで倒れるなど予想もつかず、現に戦闘音は鳴り止まない。

 マスタングは適当に氷塊を掴み上げると、周囲にばら撒き耳を澄ませた。
 草地を焼き尽くしたこの状況で氷塊が響く音は衝突音。そして、周囲には何も無い。

「そこか」

 故に対象はエスデスぐらいだろう。
 音の場所に焔を走らせ――氷が消える音だけが耳に残る。

「しまっ――」

「貴様が今焼いたのは私の氷だ」

 後ろを取られた。
 マスタングの背後に回ったエスデスは再度、彼の身体を凍らせる。
 足が凍り――次は腕を覆う。先程のように焼かれては厄介故に焔の始点である腕を潰す。


「貴様……ッ」
「さぁ、これでお前の打つ手は無くなった。
 私に与えた傷は氷塊と先程の爆発……実に充実した時間だった」

 
 優位に立ったエスデスは望まれていない感想を呟くと氷槍を精製し握り込む。
 マスタングは視界に映ったそれに対し、汗を浮かべるも対処する手立ては無い。

「此処で終わる……か。私はこれまでなのか」

「そう落胆することも無い。お前は今まで戦った人間の中でも……先程言ったとおりだ。
 その殲滅力は随一だったよ。お前の名を私の中に刻んでおくぞ」

「全く嬉しくないな。貴様に刻まれるぐらいならばいっそ此処で殺せ」

「言われなくとも殺すさ」


779 : 激情の赤い焔 ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:26:26 yzIxlvVs0

 マスタングに走る激痛。
 背中から伝わる熱を帯びた痛みと、身体の芯まで凍ってしまいそうな冷気。
 エスデスの操る氷槍が背中に突き刺さり、生命の象徴である鮮血が滲み出ていた。


 腕が凍らされており、頼みの錬金術は使えない。
 大地に腕を擦り付け、氷をある程度削ぎ落とせば、意地にでも扱えるだろうが、エスデスは許してくれないだろう。
 目の前で不審な動きを見せれば殺される。その事実は覆しようのないものだ。


 瞼が重くなる。
 思えば殺し合いに巻き込まれてから数時間だが、身体への負担は濃い。
 エンヴィーの襲来に始まり、エスデスとの死闘。疲労も限界に近いだろう。
 後藤との戦い後に行った人体錬成。その後に休む間もなくキング・ブラッドレイの襲撃もだ。


 此処まで戦ったロイ・マスタングを責める人間はいないだろう。
 不器用ながらも彼は、殺し合いを止めるべく己の身体を酷使した。
 結果が伴うことが無くても、彼は戦った。
 彼が居なければ生存者は現在よりも少なくなっていただろう。


 しかし誰も彼を讃えない。
 辛いのは参加者の共通事項であり、マスタング一人に功績が与えられる訳でも無い。
 今、彼の近くに居るのは冷徹な氷の女王ただ一人。
 死際に優しい言葉を掛ける――人間ではあるが、敵に情けは掛けないだろう。


 現に氷槍でマスタングの背中を貫いてから、彼女は何処かに消えた。


 残されたマスタングの視界には焼け果てた野原が、寂しく写り込んでいた。


780 : StarLight Stage ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:28:19 yzIxlvVs0

 本田未央が島村卯月に勝てる可能性は零である。
 アイドルのパフォーマンスや収益の話では無く、現状に置いて勝利する確率の話だ。

 血と硝煙の匂いとは無縁な世界で暮らしていたシンデレラに訪れたのはかぼちゃの馬車では無い。
 首に枷として嵌められた首輪はどんな時でも彼女達に生命を握られている不快感を与え続けた。
 島村卯月に訪れた王子様は正義を狂気的にまで愛するセリュー・ユビキタスである。
 己に下した使命と信じるべき教え――正義に囚われ続けた彼女が島村卯月に与えた影響は大きい。

 例えば。
 島村卯月が最初に出会った参加者である南ことり。
 殺し合いの極限状態に置いて、己の手を汚し仲間の平和を願った少女だ。
 最期の一人に願いを叶える権利が与えられるならば、自分が生き残る夢を見た彼女。
 主催者の掌の上で踊らされてしまった彼女を現実に戻したのがセリュー・ユビキタスだった。

 血生臭い人生とは無縁だった少女が戦闘経験を積んだ軍人に勝てる訳など無かった。
 簡単に無力化し、断罪対象と見なされた南ことりはこの世から消えた。


 この光景を目の前でやられた島村卯月は意識を失ってしまう。当然の話であろう。
 其処にはドラマや映画では無く、現実として人間が死んでいるのだ。ショッキングにも程がある。

 幸いにもセリュー・ユビキタスは倒れる人間を見捨てないため、放置されることは無かった。
 仮に気絶状態で放置されていれば、殺し合いなのだから誰かしらに殺されていただろう。


 意識を失う前に、島村卯月に刻まれたのは首だ。
 首を斬り落とされれば誰でも死んでしまう。彼女でも知っている常識だ。
 実際に目の前で生首を見れば、嫌でも脳裏に焼き付いてしまうのも仕方が無いことだろう。
 
 意識を取り戻した彼女は必要以上に自分の首を触り、感触で、確かめていた。


 ああ、私には首があるんだ、と。


 当たり前のことを当たり前と感じて、彼女の瞳には潤いが帯びる。
 生きている。生命がある。私は今、生きているんだ。
 
 力を持たない彼女にとって、守ってくれる存在はとても重要である。
 聞こえは悪いかもしれないが、強者に守ってもらえば、弱者に殺されることは無くなる。
 そう、セリュー・ユビキタスの存在が彼女にとってとても大切になっていた。

 南ことりを殺した前例はあるものの、真当な思考処理を出来ない状況にある島村卯月にとっては些細なことだった。
 殺し合いの状況が彼女の精神を摩耗させ、もう生きることだけに執着していた。
 自分を安全な場所まで運んでくれたセリュー・ユビキタス。島村卯月にとって彼女は女神のような存在だった。


781 : StarLight Stage ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:28:44 yzIxlvVs0

 その女神が席を外している間に。
 広川によって告げられた放送は島村卯月に多大な影響を与えることになる。


 渋谷凛。


 大切な友達であり、仲間であり、親友であり、ニュージェネレーションの一員である渋谷凛。
 島村卯月にとって大切な存在であり、自分の生命と同じくらい大切な渋谷凛が死んだ。

 放送で呼ばれた名前に対し、名簿へ打ち消し線を引いていたが、固まってしまう。
 思考が止まり、まるで世界が止まっているようだった。
 考えることを脳が放棄し、彼女は立ち上がり一人、トイレに向かう。


 トイレに着いてからは胸から溢れ出る不快感が嘔吐物となり、我慢出来ずに全てを流し出す。
 理解が出来ない。もう、渋谷凛とは出会えない。
 何故、死んだから。
 どうして、死んだから。

 理解する気も無かった。けれど受け入れることをしないと駄目なんだろうとも、察していた。
 放送で南ことりの名前が呼ばれた時点で放送に偽りは無いだろうと、気付いてしまった。
 虚偽の情報を流して参加者を錯乱させる可能性もあったけれど、本当の情報だろうと、感じてしまった。

 何故死をすんなり受け入れたのかは今でも疑問である。
 変に環境へ適応していたのか、それとも自分が生きている現実にしがみついていた故に余裕が無かったのか。

 大切な仲間を失った島村卯月が頼れるのはセリュー・ユビキタスしか居なかった。

 セリュー・ユビキタス。

 お世辞にも聖人とは呼べない彼女との行動は波乱の連続だった。
 南ことりの仲間である小泉花陽との合流を含め、全てが火薬庫の中で煙草を吸うように危険な時間の連続だ。
 キング・ブラッドレイの襲撃があると思えば由比ヶ浜結衣が錯乱しショットガンを島村卯月へ発砲する始末だ。
 仮に狡噛慎也が駆け付けていなければマスタングも、ウェイブも、小泉花陽も生命があったか定かではない。
 
 放たれた一つの弾丸によって戦乱は終息し、キング・ブラッドレイはロイ・マスタングと、その他は図書館へ向かうことになった。
 島村卯月は奈落へ落下するセリュー・ユビキタスを救出すると互いに涙を流しながら抱擁し、生命ある現実を噛み締める。
 これによってシンデレラの依存は更に高いものとなったのは確かであろう。

 そして、この時はまだ、島村卯月はあの頃の島村卯月だった。


782 : StarLight Stage ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:29:05 yzIxlvVs0

 彼女に訪れた悲劇はセリュー・ユビキタスの死である。
 紅蓮の錬金術師、ゾルフ・J・キンブリーとの戦闘に置いて彼女は死んでしまった。
 それよりも前に。本田未央と二人きりになった時、島村卯月は崩れてしまったのだ。


『私があなたを選んだんですか? あてがわれたユニットに、たまたまあなたがいただけですよね?』


 本田未央が訴えるセリュー・ユビキタスの死を、受け入れることが出来なかった。
 渋谷凛の死を受け入れても、何故か正義の味方の死だけは認めなかった。


 本田未央に対し、ニュージェネレーションをあてがわれただけのユニットなど、口が裂けても言えないだろう。
 島村卯月は本来ならば決してこのような事を口走らなければ、思いもしない普通の少女である。


 殺し合いが加速する中、波に揉まれたシンデレラの心に闇が蔓延る。
 月の光すら差し込まない深い、深い闇。誰も手を伸ばして――まだ、手を伸ばしてくれる人間が、仲間がいる。



 本田未央。



 彼女にとって、ニュージェネレーションにとって、島村卯月にとって。



 一世一代の大勝負が今、始まる。






783 : StarLight Stage ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:29:43 yzIxlvVs0

 ガソリンの匂いが一帯に充満している夜風吹く月華の元で対面する二人のシンデレラ。
 心が壊れてしまった島村卯月と心を修復しようとする本田未央。

 差し伸ばした手を永遠に払われようと、本田未央は決して諦めない。
 島村卯月を救う。こんな頭のおかしい状況から、あの頃のような彼女を取り戻すために。


(……どうしよう。あの糸に触れたら私は絶対に死んじゃう。
 でも、しまむーはお構い無しに振るってくるんだよね……私も敵なんだよね)


 本田未央の出方を伺っている島村卯月は帝具であるクローステールを何時でも放てる体勢を取っている。
 まるで獲物を見つめる獣のような鋭い視線だ。今にも殺されてしまうと萎縮してしまう。

 しかし、油断すれば殺されるのは本田未央である。油断しなくても危険な状況故に、一瞬の隙でも見せれば簡単に死ぬだろう。
 左袖をちぎり、バッグから水を取り出すとそれを浸し、右耳に押し当てる。
 アドレナリンのせいか、痛みが想像以上に感じない。けれど、右耳が削ぎ落ちている中、放置は危険だ。
 せめてもの思い……と、止血を試みるが、島村卯月が襲い掛かる。


 動きは直線上に走る動作。
 振るわれた腕は――横に薙ぎ払いだ。


(――本当に、殺す気なんだねしまむーは)


 迫る糸の軌道を予測し、屈む――回避に成功だ。
 普通の少女である本田未央に戦闘の、ましてや殺し合いの作法など知っている訳もない。
 島村卯月のように極限状態故の覚醒もしていない。ならば、何故、攻撃を避けれるのか。

 それは田村玲子の助言も大きいが、種はクローステールに付着した血液にある。
 右耳が削ぎ落とされた際に付着した血液は月明かりに反射して赤黒く輝いているのだ。
 肉を切らせて骨を断つ。狙った訳では無いが、戦闘素人の本田未央にも、クローステールの軌道が見える。

「未央ちゃん……楽に死ねるのになんで抗うんですか?」

「しまむーはさ、これから殺されるって時に黙って死ねるの?」

「うーん……どうでしょう、私にはちょっとわかりません」

 少ない会話であるが、本田未央の心に闇が一段と踏み込んでしまう。
 何だこの会話は。一体、私達は何を会話しているのか。楽に死ねる? 何の冗談だ、と。


784 : StarLight Stage ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:30:09 yzIxlvVs0

 年頃の少女達が話す内容にしてはファンタジーの欠片も無い、生命のやり取りの会話だ。
 誰もが死にたくないのは当たり前だ。そして、人が人を殺さない日常で彼女達は生きてきた。
 無論、彼女達の世界で殺人事件が無い、と言えば嘘になる。
 けれど、少なくともシンデレラプロジェクトの周辺でそのようなことは一切起きておらず、彼女達にとっては無縁の話だった。そう、だった。


「私は強くなって正義の味方にならなくちゃいけなんです――だからっ!!」


 足を踏ん張り豪快に薙ぎ払われた腕先。そこから伸びるクローステールが本田未央の首を狩らんと襲い掛かる。
 またも屈んで回避する彼女だが、島村卯月が蹴りあげた小石が目の前に迫っており、これも回避しようとするが尻もちをついてしまった。


「強くなるためって私は経験値扱いなんだね……っあ!」


 立ち上がろうとした所で笑顔の島村卯月が上から跳んで来たため、身体を転がして回避する。
 削ぎ落とされた右耳の箇所に砂利が入り、激痛が走るも我慢する。
 死んだ人間に痛みは訪れない。
 前川みくにも、プロデューサーにも、渋谷凛にも。誰にも訪れない。

 比べて自分は生きている。
 そう――本田未央は生きているのだ。


「うわああああああああああああああああああああああああ」


 着地した隙を狙い、本田未央は島村卯月に飛び付いた。
 真っ先に両手首を掴みクローステールを抑制すると、全体重を乗せて倒れこむ。
 もみくちゃになりながらも決して腕を離さず、何回転かして所で止まり、本田未央がマウントポジションを取った。


「しまむーはさ、いつまでこんなことを続けるの」

「……何を言っているの、未央ちゃん?」


 本田未央は大きく息を吸い込むと、力強く言葉を吐き出した。


「こんなことをしたって誰も救われないんだよ!!」


785 : StarLight Stage ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:30:48 yzIxlvVs0

 唾をどれだけ飛ばそうが関係ない。アイドル以前に此処に居るのは生死を賭けた一人の人間の大勝負。
 笑いたければ笑うがいい。失敗したならば指を指して笑え。
 けれど、決して邪魔はするな。


「もしかしてさ『優勝すれば願いが叶う』なんて信じてるの?
 そんなの出来る訳ないじゃん!! 死んだ人は生き返らないんだよ!!」


「――――――――――――――私はただ、セリューさんの正義を」


「正義ってなんなのさ……人を殺すことがしまむーの、セリューさんの正義だっていうの?」


「セリューさんを……馬鹿にしないでください!!」


 怒りに触れたのか、抑えられている島村卯月は暴れ始め自由を手に入れようとする。
 対する本田未央は絶対に負けるもんか、と力を押し込み、上から抑え続ける。


「誰も馬鹿になんてしてないよ。ただ、今のしまむーを見ていられないの」


「……え?」


「あの頃に戻ってよ……みんなを自然と笑顔にしてくれるあの頃のしまむーにさ……また、笑ってよ」


 島村卯月の頬に伝う涙は彼女のものではなく、本田未央の涙だ。
 紡がれる心の叫びと雫は必ず、島村卯月に届いているだろう。腕が震える。
 心に何かが響いたのか、島村卯月は見せたことのない寂しい表情を浮べながら――。


「笑う、笑顔……プロデューサーはいつも私に言ってくれました。いい笑顔だって」

「……そうだね、しまむーの笑顔は本当にそうだった」

「でも」

 飛び跳ねの要領で本田未央を飛ばし、立ち上がると、膝に付着した土を払い落とす。
 本田未央の言葉は響いた。けれど、今更――。


「笑顔、笑顔、笑顔……笑顔は誰にだって出来るもん。
 なのになのになのにいっつもいっつもいっつも笑顔笑顔笑顔って――――――――誰にでも出来ることが取り柄だって何度も、何度も!!」


786 : StarLight Stage ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:31:44 yzIxlvVs0


「しま、むー……そんなこと言わないでよぉ……」

 
 島村卯月が見せた初めての本心。
 常に頑張りますと言い続けて壁に挑んできた彼女が見せた弱音。
 その姿に本田未央の瞳から自然と涙が溢れ出る。そして、それが理解出来ない島村卯月。


「なんで未央ちゃんが泣くんですか……辛いのは私なのに」

「ならしまむーも泣こうよ……今は私以外に誰もいないから」

「っ――うわあああああああああああああああああああああ!」


 弱い心を叫びで上書きする。
 セリュー・ユビキタスの掲げる正義にそんな弱い涙は必要無いのだ。
 敵の言葉に心を動かされるようでは駄目だ。己を奮い立たせ、涙は流さない。

 手頃な木にクローステールを突き刺すと、巻き付け切断を行い即席の打撃武器を作り上げる。
 それを本田未央に振るうも大振り過ぎたのか簡単に避けられてしまう。しかし。


「あ……足場、が……っぁ」


 回避し後ろに跳んだ所で、会場の弊害が彼女に牙を向いた。
 殺し合いの会場はどんなからくりかは不明だが、空中に滞在している。
 つまり、会場からはみ出せばそこは、永遠に続く奈落だ。


「しまむー……本心を言ってくれてありがとう」


 声は聞こえなかった。
 唇の動きから言葉を察し――島村卯月は気付けば走っていた。


「未央ちゃん!!」


 行動は奈落へ落ちる本田未央に対しクローステールを伸ばすこと。
 嘗て狡噛慎也の銃弾に倒れたセリュー・ユビキタスを救った時と同じように、引き上げるために。


787 : StarLight Stage ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:32:09 yzIxlvVs0

 強くなりたいと思っていた。
 そのためには経験と自信が必要であり、人を殺すことに戸惑いは無かった。

 だから、本田未央も殺す対象だった。

 けれど、殺される筈の彼女は殺人鬼に手を差し伸ばしていた。
 心が壊されてしまった島村卯月に対し、ただひたすらに救いの手を。

 本田未央は諦めていなかった。
 彼女はこんな状況でもあの頃の島村卯月が戻ると信じていた。

 その言葉に島村卯月は改心しなかった。
 けれど、本心を曝け出すぐらいには、本田未央のことを信頼していた。

 あてがわれただけのユニット。

 あの時、彼女に言った言葉が脳内に何度も響く。

 ニュージェネレーションがあてがわれただけのユニット――そんな訳ない。


 どんなことがあろうと、あの頃の思い出は絶対に、消えない。
 そう思った島村卯月は自然と本田未央を救うために走っていた。けれど。


「クローステールに反応が――無い? み、未央ちゃ……未央ちゃん!」


 掬い上げようとしても、糸に繋がれなければ無理な話である。
 つまり、本田未央が奈落の底へ落ちたことと同義であり、彼女はもう――。









「ありがとうしまむー。私を助けようとしてくれたんだね」










 振り向けば背後には翼を携えた本田未央が立っていた。
 クローステールと同じ帝具である万里飛翔マスティマ。
 一か八か落下する最中、彼女はバッグに眠っていた帝具を発動し、奈落から飛翔した。

 相性の問題もあるだろうが、決して諦めない彼女に訪れた翼。きっとその力を存分に発揮出来るだろう。


788 : StarLight Stage ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:32:34 yzIxlvVs0


 大地に降り立った所で、本田未央は靴紐を結び直す。
 殺せる好機であるが、島村卯月は驚いているのか、クローステールを使う様子を見せない。

 結び終わると、本田未央は勢い良く走りだし、島村卯月の肩を掴む。
 そして等身大ありったけの叫びを彼女に、友達に、仲間に、親友に届けるために。


「やっと本心を言ってくれたねしまむー……今まで辛かったよね」

「なんで未央ちゃんがまた、泣いているんですか」

「なんでって……ごめんよしまむー。私が気づいていれば此処まで溜め込むことも無かったし」

「そんな、なんで未央ちゃんが……それに、殺し合いには関係な――っ」

「そんなことないよ! 確かに私はセリューさんと長い間行動していないし、南ことりちゃんも知らない。
 けどね……私が少しでも殺し合いに巻き込まれる前のしまむーをフォロー出来ていればさ、こんなことには」

「やめてくださ……やめて! どうして自分のことじゃないのにそこまで……ねえ!!」


 どうして他人のためにそこまで涙を流せるのか。理解が出来ない。
 昔は出来たかもしれないが、今の島村卯月にとってはそれは理解が追い付かない現象だった。


「今もそうだよ……しぶりん、みくにゃん、プロデューサーが死んじゃて辛いのは一緒なのに……私は自分の意見ばっかり言っていた」

「プロデューサー、みくちゃ……ん、しぶ、りん……ぁ」

「そうだよね辛いよね、それに意味がわからないよね。なんでみんなが死ななくちゃならないのさって」

「しぶやりん……りんちゃん……もうニュージェネレーションは……あれ?」

「へへっ、しまむーの口から久し振りにニュージェネのことを聞けて嬉しい……けどね」

「凛ちゃんはもう……そっか、私達はもうステージに立てないんだ……」


789 : StarLight Stage ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:33:18 yzIxlvVs0

 
 記憶が戻る。
 セリュー・ユビキタスと別れた直後までは覚えていたあの頃を。
 青春を捧げ、謳歌していたあの輝かしい日々が徐々に島村卯月の中で蘇る。


「そう……しぶりんは死んじゃった。でも、こんなことは言いたくないけど私達は生きている」

「首……そう、私は生きているから正義を……あれ、あれ……?」

「ねえしまむー。これからどうしたい?」


「――――――――――――――――――え?」


 世界が凍る。
 思考の処理が追い付かず、島村卯月は固まってしまった。
 これから。セリュー・ユビキタスの正義を継いで、強くなって――それからどうするのか。
 悪を断罪し全てを駆逐するのか。エスデスの元で修行に励むのか。それでいいのか。

 私が、島村卯月が本当にしたいこと。
 脳裏に流れる風景は決してもう戻ることのないあの日々。

 お菓子を差し入れするアイドルがいて。それをとるアイドルがいて。
 だらけきったアイドルがいて。みんなを笑顔にするたくさんのアイドルがいて。

 みくちゃんが未央ちゃんに勝負を申し込んで、それを凛ちゃんと一緒に笑って。
 プロデューサーが入室してから、アイドルとしての活動が始まって――あの頃に、戻りたい。




「未央ちゃん……わた、私……う……ぅぁ……ごめんな、さい…………」




 島村卯月の中からセリュー・ユビキタスが消えることは無いだろう。
 代わりに。思い出したあの頃の思い出が殺し合いの悲劇を上書きした。
 彼女は、島村卯月はアイドルだ。帝具を操る殺人鬼では無く、一人の少女である。

 彼女に正義の味方は重すぎる。そして、背負う必要も無い。



「今まで本当にごめんねしまむー……そして、お帰りなさい」



 抱き寄せる。
 目の前で涙を流している少女は間違いなく、知っている島村卯月だ。
 お帰りなさい。本心から漏れた言葉が夜に木霊する。














「どうした、殺さないのか卯月」














790 : StarLight Stage ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:34:29 yzIxlvVs0























 誰も存在しない薄暗い闇の中で。





 独りの少女が呟いた。





「良かった」





 くるくると髪をいじりながら、裸足の足を血に浸しながら。





「私の出番何て無かったね」





 光の訪れない空を眺めながら。






「内なる影――私の出番なしで立ち直れて本当に良かった」


791 : ホログラム ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:35:42 yzIxlvVs0

 時が凍てついたようだった。
 背後から響いた声に従って振り向くと、本田未央の視界にはエスデスが映っていた。

 腕に傷を覆い血を流していた。
 逆に言えば、それしか傷が見えておらず、彼女は笑っており、健在といった様子だった。
 そしてこの場に居るべきあの男が居ない。冷や汗が流れてしまう。
 ロイ・マスタングは――エスデスに――。


「どうした卯月。本田未央を殺すのではないのか」

「エスデス、さん……」


 涙を拭い、鼻水を啜りながらも、島村卯月は強い瞳でエスデスを見る。
 セリュー・ユビキタスは偉大な存在だった。その彼女が心酔エスデスもまた、尊敬の対象である。

 彼女達にマイナスなイメージを抱くことは無い。
 それは今までも、そしてこれからでもあり、殺し合いが終わった後でも。


「私はセリューさんの信じた正義を信じます……でも、それは人を殺す正義じゃない」

「……ほう」


 本田未央から離れ、力強い瞳でエスデスを睨みながら島村卯月は告げる。
 その言葉に恨みはない。単純に人間として尊敬している面もある。
 セリュー・ユビキタスとエスデスが居なければ、島村卯月はとっくに死んでいただろう。
 だから、感謝も込めて決別の言葉を送る。


「誰かを守る正義……凛ちゃん、みくちゃん、プロデューサーさんは死んでしまいました。
 南ことりちゃんも由比ヶ浜結衣ちゃんも暁美ほむらちゃんもみんなみんな……でも私達は生きているんです。
 もう誰も悲しんでいる所を見たくないから……私は、貴方達から受け継いだ正義でみんなを守るために、頑張ります」


 言い切った。
 これでエスデスとは決別することになるだろう。
 一緒に過ごした時間は少ないが、その中で彼女は決して芯の折れない人物だと認識した。
 欲しい物があれば力で手に入れるタイプであり、戦闘を求める人間は決まって――。


「そうか、その道を歩むのか……ならば、まずは私から本田未央を守ってみせろ」


 新たな戦闘を巻き起こす。


792 : ホログラム ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:36:10 yzIxlvVs0

 氷を放とうとするエスデスは、一度行動を停止し本田未央を見つめながら。
「それはマスティマか……お前も帝具を使うのなら、手加減は要らないな」

 島村卯月に守ってみせろと言った手前ではあるが、本田未央も戦闘能力を保有しているならば話は別だ。
 エスデスはどのように島村卯月の凍った心を本田未央が解凍したかは知らないだろう。
 だが、どんな形にせよ本田未央が島村卯月に勝った。言葉でも心でも力でも。
 単純な勝敗で優劣を着けれる訳でも無いが、何にせよ本田未央が島村卯月を上回ったのは事実である。


「さぁ、このピンチをどうやって防ぐ! 仲間を見捨てるか? 協力するか? お前たちの力を見せてみろ」


 広範囲に薙ぎ払われた氷の波に対し、本田未央は島村卯月を抱え飛翔し空へ逃げる。
 重力に従い身体に負荷が掛かるも、我慢しなければエスデスに凍らされてしまうのだ。


「どうした、軌道が不安定だぞ」

「こっちは今さっきやったばっかりでコツも何も……うわっ!」


 襲い掛かる氷塊を避けるために右へ左へ回避し続ける本田未央だが、今にも当たりそうである。
 一か八かで試したマスティマだ。扱いに慣れていないため、空中での動きは見ていて不安すら残る。

 見ていて不安すら残る。





「ほう……腕は凍っていたのに此処まで来たか、ロイ・マスタング」






 エスデスを包み込むように大地が隆起し、彼女を閉じ込めた。
 錬成の発動主目掛け、本田未央は移動し、瞳に涙を浮べながら駆け寄った。


「マスタングさん……よかった、生きていたんです……ね……っ」


「あぁ、遅れてしまってすまない……」


 その姿は満身創痍だった。
 背中や顔面からは血が流れ、腕や足は所々焦げており、立っているのが不思議なぐらいに。
 エスデスの氷を焼き尽くすためにマスタングは己の腕を大地に擦り付け、可能な限り削った。
 その際に発生した痛みは常人ならば意識を手放すほどだ。
 そして、開放された腕から放たれる焔によって残りの氷を焼くのだが、己の身体にも負担が掛かる。

 出来る限り抑えたつもりではあるが、疲労も重なり思うように制御出来ず――此処まで辿り着いたのだ。


793 : ホログラム ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:36:41 yzIxlvVs0

「此処は私に任せて……島村卯月を救えたんだな」

「マスタングさん……私、その」


「ごめんなさい!」
「すまなかった」


 マスタングと島村卯月の声が重なって響く。
「私が残っていればセリュー君は……本当にすまない」」
「私だってたくさん迷惑を掛けて、その、あの……」

「頑張ったんだな」
「…………私もちょっとは力になりたかったから」


 マスタングが駆け付けた時、本田未央と島村卯月が一緒に居るのが不思議だった。
 島村卯月は既に手遅れであり、非道の道を歩んでいたかと思えば、本田未央が救ったようだ。
 どんな言葉や手段で正気にさせたか見当も付かないが、笑顔の彼女達を見れたことでどうでもよくなってしまった。

 ならば、後はこの笑顔を守るだけである。


「エスデスは私が引き受ける。君達が敵う相手ではないからな、逃げてくれ」

「でもマスタングさん……そんなボロボロで」

「セリューさんはマスタングさんを救うために戦った……だったら私も」


 困ったものだ。
 肩を落とし溜息をつくマスタング。彼女達は逃げるつもりが無いらしい。
 しかし、エスデスに挑んだ所で、彼女達が勝てる見込みは零である。
 無限に生み出される氷塊に対し、糸と翼では太刀打ち出来ないだろう。
 第一に普通の少女である彼女達を戦闘に巻き込むなど、絶対にさせない。


「いや、ここは退くんだ。私も後から追い付く」
「でも」
「でもじゃない――信じてくれ」

「……行こう、未央ちゃん」


 最初に折れたのは島村卯月だった。
 少なからずセリューやエスデスと過ごした時間から彼女は戦闘に置いて様々なことを学んだ。
 その中に。覚悟をした人間に何を言っても無駄。これを学んだ。

 そしてマスタングは絶対に退かないだろう。
 身体は満身創痍でも、瞳は強く前を向いている。戦っていたセリューのように。


「解りました。必ず後で合流しましょうね、私、待ってますか――ぁ」


 本田未央も悟っていた。
 セリューが残ったように、承太郎が戦ったように。マスタングも己を曲げるつもりは無いと。
 彼の言うとおり不慣れな帝具しか武器の無い自分達が近くに居れば、邪魔であることも理解している。
 悔しい。折角島村卯月を取り戻したのに、また誰かと離れる。それも自分の力不足で、だ。


794 : ホログラム ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:37:10 yzIxlvVs0


 覚悟を決め、マスタングに別れの言葉を告げるが、言い切る前に詰まらせた。
 合流場所を決めていないだとか、時間を決めていないなど、言いたいことはまだまだある。
 けれど、マスタングの表情を見て、固まってしまった。

 どうしてなのか。
 これから戦いに臨むと云うのに、どうしてそんな安らかな笑顔でいるのか。
 理解が出来なかった。けれど、何故だか涙が溢れてしまう。
 まるでこれから死ぬのが解っているように――。


「行こう、未央ちゃん」

「あ、と、しまむー……私、絶対に待っているから、だからマスタングさんも――絶対に」







「君達は生きてくれ――それが私の願いだ」






「どうしてそんな――っ」





 笑顔なのか。
 またも言葉を言い切る前に島村卯月が本田未央の腕を掴みながら大地を駆ける。
 転びそうになるも、何とか体勢を立て直しマスタングの方へ振り返ると彼が投げたバッグが迫っていたため掴む。
 見る限り彼の所有していたバッグらしく、なにやらメモ紙が挟まっていた。

 走りながらのため、ブレが始まり読み辛いが文章も短かったため、簡単に解読出来た。

『エドワード・エルリックを頼れ』

 その文章を胸に留め、彼女達は走り続ける。
 立ち止まることも無ければ、振り返ることも無い。
 たくさんの人達に紡がれたこの生命、絶対、無駄にするものか。


795 : ホログラム ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:38:16 yzIxlvVs0



【D-6/一日目/夜中】



【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:深い悲しみ、吐血、喉頭外傷、セリューに対する複雑な思い。卯月に対する怒り。右耳欠損(止血済)
[装備]:
[道具]:デイバック×3、基本支給品、小型ボート、魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!
    鹿目まどかの首輪、暁美ほむらの首輪
[思考・行動]
基本方針:生きてみんなと一緒に帰る。
0:生き残る。
1:エドワードとの合流。
2:島村卯月を守る。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。
※田村と情報交換をしました。



【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(中)、精神的疲労(大)、セリューに逢いたい思い
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!、まどかの見滝原の制服、まどかのリボン
[道具]:デイバック、基本支給品×2、不明支給品0〜2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ、今まで着ていた服、まどかのリボン(ほむらのもの)
[思考]
基本:誰かを守る正義を胸に秘め、みんなで元の世界へ帰る。
0:セリューとエスデスのことは忘れない。
1:エドワードとの合流。
2:本田未央を守る
3:μ’sのメンバーには謝罪したい。
4:結局セリューは生きて……?
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
※μ's=高坂勢力だと卯月の中では断定されました。


796 : ホログラム ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:38:44 yzIxlvVs0

 島村卯月と本田未央が離れた後に、轟音が響く。
 エスデスが己を包み込む大地の球状ドームを破壊した音だ。マスタングの前に氷の女王が再び立ち塞がる。

「まさか彼女達が離れる間まで待ってくれるとはな……一応だが礼を言っておこう」

「島村卯月は形だけだとは云え志を共にした同士だからな。新たな門出を祝おうじゃないか」


 笑みこそ浮かべてはいるが、両腕に冷気を纏わせ何時でも開戦可能な状態にまで彼女は仕上げている。
 対してマスタングは満身創痍だ。奇跡でも起きない限り、彼の負けは確実だ。

 だが、簡単に負ければ本田未央達にエスデスの魔の手が――と、考えていたが、彼女は待ってくれた。
 エスデスは話が通じない相手だと認識していたが、常識は持ち合わせているらしい。
 ルックスやプロポーションは抜群であり戦場とは無縁の場所で会いたかった――余裕がある時ならば口走っていただろう。


「なにか、匂わないか?」

「……気になってはいたが、嗅いだことの無い匂いだから無視していた。マスタング、知っているのか」

「そうか……貴様の世界には無かったのだな」


 マスタングは思う。誰がコレをばら撒いたかは解らない。
 結果として犯人は本田未央であるが、彼がその真実を知ることは無い。
 正攻法でエスデスに挑むのは残念ながら手負いの状態で勝利を掴むのは厳しい。
 相手は国家錬金術師にて氷を操るアイザックをも上回る氷雪系最強の女だ、賢者の石も無い状態で勝つ可能性は低い。
 最も賢者の石があれば使うのか、という話になるが今は関係ない。


「最期に彼女達の笑顔を見れて救われた気分だよ」

「彼女……あぁ、卯月達か。
 どんな手品を使ったかは知らんがあの心を動かした本田未央は大したものだよ」

「だろうな……私もそう思うよ」

「それで、貴様はどうするんだマスタング。
 このまま未練を垂れ流して終了……何てことにはならないだろう?」


797 : ホログラム ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:39:10 yzIxlvVs0


 エスデスが残ったのはマスタングと会話をするためではなく、更なる闘争を楽しむためだ。
 それなのに対する彼は問いかけを行ったり、逃げた本田未央達のことを話したりと覇気に欠けている。

 しかしその振る舞いに隙は無く、覚悟と意思を持った表情で氷の女王を睨んでいるのだ。

「この匂いはガソリン……聞いたことはあるか?」

「いや、無いな。それは一体何だ」

 マスタングは確信する。どうやら天の風向きは此方に傾いているようだ。
 彼女がガソリンを知らないならば、一思いにこの戦いを終わらせることが出来る。
 さて、どう説明しようかと悩むもとりあえず口を動かした。

「油は知っているか」

「勿論、料理にも使うし拷問にも――――――そうか、そうか……そうなのだなマスタング!!」

 油の話題を振ったことでエスデスも気付いたのか、彼女の表情は狂喜に満ち始める。
 腕を大いにに広げて天を仰ぎ、これから起こるであろう出来事に感謝を込めて叫ぶ。


「面白い! 貴様の本気とやら、どうやら私も覚悟を決めなければいけないらしいなッ!」


「私が全てを焼き尽くす――もう誰も失わせないために、まずは貴様からだエスデスッ!!」


 掌を合わせ見慣れた、手慣れた錬成の蒼き閃光が夜を照らす。
 これがきっとロイ・マスタングにとって最期の錬成となる。彼も覚悟をしていた。

 走馬灯とでも云えばいいのか。
 殺し合いが始まってから出会った人間の姿が彼の脳裏に浮かび上がっていた。

 救えなかった佐天涙子。子供でありながら迷惑を掛けてしまった白井黒子、小泉花陽。
 共に戦ったウェイブ。生命を救えなかった名も知らぬ犬。トラウマを与えてしまった高坂穂乃果。

 己の手で殺してしまった天城雪子。

 他にも救えなかった暁美ほむら、空条承太郎、セリュー・ユビキタス。
 先程、逃がした島村卯月と本田未央。他にも多くの参加者と遭遇したものだ。
 
 時間も経過し、参加者は半数近くになっている。
 この殺し合いを企てた広川に断罪の焔で焼き尽くしたい所だが、その役目は鋼の錬金術師に譲ることにしよう。

 彼ならやってくれる。そして元の世界へ戻った後にも上手いこと中尉に説明してくれるだろう。


 さて、未練はあるが、駄々をこねても仕方が無い。


 彼が指を弾いたその時。


 赤き紅蓮の焔が一帯を焼き尽くした。


798 : ホログラム ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:39:44 yzIxlvVs0












































































「私の前では全てが凍る」


799 : ホログラム ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:41:23 yzIxlvVs0

 爆炎は会場に広く轟いただろう。
 その中心に立つ女――エスデスは左半身を焼かれても、生きていた。

 ロイ・マスタングが放った最期の焔。ガソリンも相まって弩級の殲滅力を誇っていたのは事実だ。
 全てを浴びていればどんな参加者でも死んでいたのは確実だ。例外は無いだろう。

 奥の手。
 エスデスの帝具であるデモンズ・エキスの奥の手は――世界を止めること。
 つまり、時間を凍らせ一時的ではあるが、自分が世界の頂点に立つことを意味する。

 問答無用の最強能力ではあるが、エスデスは一日に一度しか使えない。
 そしてこの会場に存在する時間停止保有者は暁美ほむら、エスデス、そしてDIO。
 暁美ほむらは既に死んでおり、エスデスは知らないがDIOも生命を落としている。

 彼女が時間停止を発動した今、誰も世界を握ることは出来ないだろう。
 主催者の介入や支給品をフル活用すれば可能かもしれないが、そんなことを考えても仕方が無い。


 時間を止めたエスデスは氷で全身を覆うことにより、迫る焔から身を守ることにした。
 マスタングを殺せば全てが解決するのだが、既に焔が放たれているため、そう、遅かった。

 最期の最期にマスタングにしてやられた。
 氷も殆ど溶かされてしまい、左半身を焼かれてしまう始末だ。
 氷による応急処置を施したが……戦闘は行えるレベルにまで整えた。


「ククク……ハハハハハハハハハハハハハハハ!!
 面白い、どうしてこうも楽しませてくれる……!!」


 マスタングの首輪を拾い上げ、次なる闘争を目指す。

 嗚呼、身体の限界も感じている。

 けれど、止まりはしない。


 身体の半身を焼かれて尚、氷の女王は新たな戦場を求めその足を動かした。





【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師FULLMETAL ALCHEMIST 死亡】


800 : ホログラム ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:42:15 yzIxlvVs0



【D-7/一日目/夜中】



【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大)、全身に打撃、高揚感、狂気、左半身焼却(処置済)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3、マスタングの首輪
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:亡き友アヴドゥルの宿敵DIOを殺す。
1:御坂美琴と戦いたい。卯月に戦わせるのも面白いかもしれない。
2:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
3:タツミに逢いたい。
4:ウェイブを獲物として認め、次は狩る。
5:拷問玩具として足立は飼いたい。
6:アカメ(ナイトレイド)と係わり合いのある連中は拷問して情報を吐かせる。
7:後藤とも機会があれば戦いたい。
8:もう一つ奥の手を開発してみたい。
9:島村卯月には此方から干渉するつもりはない。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アヴドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止められる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。
※平行世界の存在を認識しました。
※奥の手を発動しました。(夜中)


801 : ホログラム ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/17(木) 00:43:13 yzIxlvVs0
投下終了です


802 : 名無しさん :2016/03/17(木) 01:33:12 dR.uInrE0
投下乙です

ボロボロになったけど島村さんは正気に戻ってくれたか、ちゃんみおナイス
そして大佐も最期によく頑張ったよ、お疲れさん


803 : 名無しさん :2016/03/17(木) 02:12:03 NI0K0jE60
今更な疑問になってしまいますが
イリヤって吸血鬼化したんじゃありませんでしたっけ…


804 : ◆dKv6nbYMB. :2016/03/17(木) 02:26:07 B6J5OUNM0
お二方投下乙です。

DIO様ァァァァ!?7人もいたジョジョ勢もこれで全滅か...
セリムは最期に何かを掴めたか。最後の「ママ」は切なくなりました。
少しだけ本性が漏れ始めてる大総統、新たに覚悟を決め直したイリヤ、田村さん率いる4人も果たしてどうなるか。
そして後藤さんはちゃっかり大金星な上にまた身体の構造が変化してて怖い。

熱い、熱い激闘。
ちゃんみおは頑張った。よくぞ勝利をもぎ取った。
大佐もよく頑張った。その意地は確かにエスデスにも届いたよ。
DIO様が堕ちたいま、エスデスを止められる者はいるのだろうか。

>>803
吸血鬼化は修正されてますよ

投下します。


805 : 小休止 ◆dKv6nbYMB. :2016/03/17(木) 02:27:20 B6J5OUNM0

ヒースクリフの依頼通り、北西部の探索へと向かうことにした一行。
しかし、キング・ブラッドレイにエスデス、そして移動しながらの後藤との戦いで溜まった疲労や怪我の応急処置のため、一時的に留まることにした。

「ミギー、後藤の反応は?」
『いまのところはない...何度もいっているが、この会場では私の探知能力はあまりあてにできんぞ』
「構わない。少しでも妙な気配を感じれば、私に伝えてくれ」
『了解だ』

後藤。
本来の戦い方を失う代わりに、新たな力を得た『最強』の寄生生物。
どさくさに紛れて足立に押し付けてきたが、果たしてどうなったか。
あの大規模な電撃で倒れていてくれればいいが、そううまくいくものだろうか...。

「アカメ」

アカメの腕に止血処置を施しながら、新一はふと今までのことを思い返す。
魏志軍との戦いの後、アカメは新一たちのもとに訪れた。
その時サリアとアカメの間で妙ないざこざはあったものの、アカメは八幡の死で傷ついた雪乃を抱きしめ、支えてくれた。
御坂美琴に襲われた時も、率先して戦線に立ち、あの電撃を前にしても全く怯まなかった。
それからも、魏志軍やキング・ブラッドレイ、エスデスに後藤といった恐ろしく強い敵とも常に前線で戦い、新一たちの道を切り開いてくれた。
アカメがいなければ、新一はとっくに死んでいる。

「いままで、ありがとうな」

だからだろう。
唐突に、なんの疑問も抱くこともなく感謝の言葉を漏らしたのは。

「...?」
「アカメはさ、ずっと俺たちのことを助けてくれただろ」

微笑みを浮かべる新一に、アカメはそういうことか、とようやく気が付いた。

「気にするな。私はナイトレイド。民の力になるのは当たり前だ」

言葉の通りだ。
アカメは殺し屋ではあるが、それはあくまでも力無き民のため。
救いを求める民がいるのなら、それに応えるのがナイトレイドの務めでありアカメが剣を振るう理由だ。
だから、彼女にとって今までの行いは全て礼を言われるまでもないことである。


806 : 小休止 ◆dKv6nbYMB. :2016/03/17(木) 02:28:12 B6J5OUNM0

「それでもだよ。お前がいなかったら、俺も雪ノ下もとっくに死んでる。だったら、お礼を言うのは当たり前だろ?」
「...礼が言いたいのは、私もだ」

目を伏せながら、アカメは語る。

「後藤との戦いの時も言ったが、私の住む世界は、いつ何時敵に襲われるか、逃がした敵に殺されるか。そんなことを常に考えながらでないと生きていけない世界だ。
だから、命を奪うのに躊躇う暇はなかったし、それが当たり前で通る世界だった」
「......」
「けれど、サリアを説得していたお前達を見ていて。命を奪う以外の選択肢を選べるお前達を見て思ったんだ。羨ましくて、眩しくて。だからこそ守りたいと」

だから、と言葉を切り、アカメは新一の頬にそっと手を添える。

「新一。この先、辛いことや悲しいことがあるかもしれない。怒りに身を任せてしまうことがあるかもしれない。でも、お前達はその心を忘れないでくれ。きっと、それがお前達の強さになる」
「...そんな、遺言残すような縁起でもないこと言うなよ」
「そうだな。けど、この場ではなにが起きてもおかしくない。だから、なにが起きても後悔のないように―――なんて考えてしまうのは、やはり私が殺し屋だからだろうな。すまない、いつもなら必ず生きると約束できるのだが...」
「無理もないさ。あんなバケモノ染みた奴らがうようよしてるんだ。少しくらい弱みを見せてもいいだろ」
「だが...」

現状、この三人の中で一番戦力となるのは、元の世界より多くの戦場を渡り歩いてきたアカメだ。
新一もそれなりに場数は踏んでいるとはいえ、動きはアカメやウェイブほど洗練されている訳ではなく、足立やマスタングのように驚異的な異能を持っている訳でもない。
そんな彼女が弱音を吐けば、それは二人にも伝染してしまう。
そのため、アカメは弱音など吐いている暇はないのだ。

「...確かに、アカメさんは戦闘での私たちの支柱になっている。あなたの気持ちひとつで、私たちにも影響があることは否定できないわ」

声がした方へと、二人は目を向ける。
床に寝かされていた雪乃が目を覚ましたようだ。

「けれど、全てを隠して一人で背負おうとしても、それはきっと失敗する―――経験者が言うんだもの。信憑性は高いと思うわ」
「雪乃?」
「以前、文化祭実行委員の副委員長をやっていたの。その時の委員長が...正直、頼れなくて」

総武高校文化祭実行委員長、相模南。彼女の『文化祭を成功させるために力を貸してくれ』という依頼で、雪乃は副委員長の座につき、補佐にまわった。
しかし、その実態は、補佐とは名ばかりの仕事の押し付けであり、相模が手をつけようとしない仕事は全て雪乃に背負わされ、雪乃もまたそちらの方が効率がいいと考えで全てを請け負った。

「尤も、その結果、少し体調を崩して由比ヶ浜さんに怒られたけれど...」


奉仕部、もとい雪乃の『人の助け方』とは、一から十まで世話をすることではなく、基本的なノウハウを与え自立を促すことである。
しかし、その時の雪乃はなにを躍起になっていたのか、効率がいいからという理由を傘に、一から十までを全て相模の代わりに行おうとしていた。
それで体調を崩したのだから目も当てられないだろう。
そんな雪乃をのやり方に不満を持っていたのは由比ヶ浜だけではない。比企谷にまでそのやり方は間違っていると指摘された。


807 : 小休止 ◆dKv6nbYMB. :2016/03/17(木) 02:28:56 B6J5OUNM0

(...そういえば、彼女があれほど怒ったのは初めてかしら)

由比ヶ浜は純粋に優しい人間だ。
しかし、そのことでかえって他者に気を遣い、関係や雰囲気といったものを悪化させないために顔色を窺う癖がある。
比企谷にしてもそうだ。
彼は、人のあら捜しを得意とし、卑屈さを売りにする程度には腐った性根を持ち合わせている。
しかし、彼は他者を直接糾弾することはせず、自らが敵となることで問題解決を図ろうとする。
そんな彼ですら、あの時は正面から『お前のやり方は間違っている』と否定したのだ。
いま思い返してみても、あの時の自分は愚かだったと責めてやりたいと思う。

思い出にふけっていると、新一とアカメが不思議そうな顔で雪乃を見ていたので、コホンと気恥ずかしそうに咳をひとつつき、話を戻す。

「と、とにかく、私が言いたいのは、こういう時くらいは私たちを頼ってほしいということよ」

若干頬を染めつつ髪をいじる雪乃の言葉に新一もまた頷く。

「確かに、俺たちは戦いだとあまり役に立てないかもしれない。でも、こういう時にお前の弱音を受け止めることくらいはできる。だから、遠慮しなくていいんだぞ」

二人の言葉に、アカメは思わずキョトンとし、やがて笑みを零す。

「そうだな。お前達の言う通りかもしれない」

アカメは、三人の中では確かに一番の実力者だ。
だからこそ、必要以上に気を張ろうとしていた。
万が一のときは、自分の身を犠牲にして二人を助ける。そんな考えを抱いていたことも否定はできない。
だが、二人はただ守られるだけの民ではない。
キング・ブラッドレイや後藤を退けられたのは、紛れも無くこの二人がいたからだ。

「新一、雪乃。これから先も、お前達の力を借りるときがくるかもしれない」

だから、改めて向き合う。
守るだけの民ではなく、二人を、否、ヒルダや花陽、ウェイブらも含めたみなを、共に戦う仲間として。
突き出されたアカメの拳に、新一と雪乃も軽く拳を合わせる。

「生きよう。これ以上、私たちの誰も欠けることもなく。共にこの殺し合いを破壊しよう」

アカメの言葉に、二人は頷き返し、そして――――



『ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ』


808 : 小休止 ◆dKv6nbYMB. :2016/03/17(木) 02:30:07 B6J5OUNM0




放送が終わる。

呼ばれた死者の多くは、三人―――特に新一がよく知るものばかりだった。

セリュー・ユビキタス。
雪乃の友、由比ヶ浜の命を奪った正義狂。
第二回放送では狡噛の弾丸を食らっても生きていたらしいが、今度こそ死んでしまったらしい。
償いをさせるつもりであった彼女が死んだことに対して、雪乃も複雑な表情を浮かべている。


ゾルフ・J・キンブリー。
アカメの最愛の妹を屠り、彼女の死後もその身体を弄んだ男。
アカメが必ず斬ると誓ったあの男は如何にしてその命を散らしたのか。


アンジュ。
新一が音ノ木坂学院で出会った、気の強い女傑。
サリアから聞いていたが、改めて聞かされるとやはり堪えるものがある。



ジョセフ・ジョースター。
空条承太郎。

新一が音ノ木坂学院で出会った老人とその孫。
ジョセフとは、関わった時間は少ないものの、そのおおらかで知的な雰囲気はどこか頼りがいのあるものだった。


西木野真姫。

音ノ木坂学院で、巴マミと共に皆を護るために命を散らした園田海未の友。
随分と塞ぎこんでいたが、もう少し支えてやるべきだっただろうか。
彼女と共にいたはずの田村や初春の安否も気になる。


そして。


「サリア...」


エスデスを食い止めるためにウェイブと共に残った女戦士。
彼女は、ほぼ八つ当たり同然に参加者を殺してきた。
それでも新一やヒルダたちの説得により、共に戦い、罪を償おうとしてくれた。
だが、彼女は死んだ。
果たしてどのように、なにを想い死んだのか―――それは、まだ生きているウェイブに聞くしかあるまい。


809 : 小休止 ◆dKv6nbYMB. :2016/03/17(木) 02:31:08 B6J5OUNM0

『...厄介だな』

そして、放送を聞いたミギーもまたポツリと言葉を漏らす。
放送で呼ばれた危険人物はキンブリーのみ。
奈落に落ちたはずのキング・ブラッドレイも、サリアとウェイブが足止めしていたエスデスも、後藤も、奴を押し付けた足立も未だに生きている。
これから会場内の仕掛けを探しながら、且つ彼らにも警戒し続けなければならないとなると、感情表現が乏しい寄生生物といえども溜め息のひとつも尽きたくなる。

「...大丈夫か、新一」
「あ、ああ...」

アカメは新一の肩に手を置き様子を窺う。
サリアを最も気にかけていたのは新一だ。
その彼女に戦場を任せ、死なせてしまったのだ。
その心境は決して良いものではない。

『シンイチ。胸に手を置いて深呼吸をしろ。気持ちを落ち着けるんだ』

ミギーの指示通りに、胸に手を置き、深呼吸を幾度か繰り返す。
すると、たちまち冷静さを取り戻し、乱れていた呼吸もだいぶ落ち着いた。

気にかけていた者が死んだ反応がこの切り替えの早さだ。
この殺し合いにおいてはメリットにはなってもデメリットにはならない。
しかし、泉新一という人間を知る者からすれば、それは奇妙だとすら思うだろう。


「泉くん、あなた」

そんな新一を見て、雪乃は思わず声をかけるが。


「ん?」
「...いえ。なんでもないわ」

彼の涙ぐむ目を見て、やっぱりやめた。

(なんてことはない。今まで見てきた彼に、嘘偽りはないということね)


810 : 小休止 ◆dKv6nbYMB. :2016/03/17(木) 02:34:10 B6J5OUNM0



足立に攫われてからの雪乃の行動(足立の強姦未遂は除く)を聞き、三人と一体はこれからの方針を決めることにした。


『状況を整理しようと思う』

ミギーはタブレットを操作し地図を取り出す。

『まず、我々がいるエリアはここ、F-2だ。ヒースクリフは南西部を探し、我々は北西部を探す手筈になっている』

北西部にある主な施設は、病院、コンサートホール、北方司令部、時計塔、市庁舎、武器庫、イェーガーズ本部。

『なによりも気をつけたいのは敵の存在だが、可能ならば全ての施設をまわりたい』

つい先刻まで戦っていた後藤と足立にしても、ウェイブたちが足止めしていたエスデスにしても。再び襲ってくる可能性は非常に高い。
そのため、なるべく効率よく北西部全体をまわっていきたい。

『そこで、周る順番はE-2より、D-2のコンサートホールをはじめとし、北の施設からまわっていこうと思う』
「壊されたっていう北方司令部もか?」
『ああ。破壊した張本人であるエスデスが気づいていないだけでなにか見当たるかもしれないからな』

「武器庫の方は優先しなくていいのか?」
『私は前回の放送を聞いていないからなんとも言えないが、首輪交換機を目指す理由は薄いだろう』
「私たちは首輪を持っている訳でもないし、首輪を交換する者を狙う輩が待ち伏せしている可能性があるから...かしら」
『その通り。そもそも、新たに追加される支給品に信憑性がない。どの首輪ならどの程度まで得られるか。おそらくこのまま誰も使わなければそれも表示されるはずだ』
「どういうことだ?」
「簡単なことよ。確率がわからないままでも需要があるならそのままにしておくし、需要が無ければ改良を加えて使ってもらうしかない。現に、さっきの放送で広川は不具合を修正したと言っていたでしょう」
『そういうわけで、首輪交換機については後回しでも構わない』


「槙島聖護については...」
『...奴は確かに危険人物ではあるが、動揺や隙さえ見せなければ問題はないだろう。アカメやシンイチ程身体能力が優れている訳ではないし、積極的に戦いまわっているわけではないらしいしな』
「見つけたらどうするの?」
『殺すか殺さないかはきみたちで決めてくれればいい。奴の殺害は急を要するものではない』
「ミギー?」
『どうした?』
「いや...なんか、らしくないなって思ってさ」

ふと、新一は疑問を持つ。
槙島聖護。彼はその手こそ汚さないものの、サリアのように人の心につけこみ行動を極端にさせることができる。
尤も、彼自身がそれを望んだかどうかはわからないが、巡り巡って新一たちへの害になる可能性は高い。
それがわからないミギーではないはずだが、彼にしては珍しく『殺す』と即決はしていない。


811 : 小休止 ◆dKv6nbYMB. :2016/03/17(木) 02:36:00 B6J5OUNM0


『...そうだな。隠すことでもないか。ハッキリ言って、私は奴に興味を抱いている』

あの男は、初見にも関わらずミギーの存在に気が付き、新一の身体に混ざったパラサイトのことまで見透かしてみせた。
周囲の人間や警察、果ては新一の両親でさえ誰一人として気付かなかった新一の特殊な環境に対してだ。
浦上並みに観察力が優れ、且つ新一が語っていたように、人の心の隙間を埋めてくれる存在。
いままで見たことのない人種に、ミギーは純粋に興味を抱いていた。
若干ながらも惜しいとは思わずにはいられない人材だ。

『とはいえ、流石に奴に執着するほど私は愚かではない。処遇に関しては私はきみたちに任せるよ』
「どうするかって言われてもなぁ...」

新一と雪乃は悩む。
あの男の立ち位置は、微妙なのだ。
敵かといえば、サリアを攫ったり武器を持たせたりと当てはまるし、かと思えば興味本位とはいえ雪乃を助けたりもしている。
そんな彼を、自分の一存で殺して構わないなどとは、言いづらいだろう。


「...すまない。お前達に決めさせるのも酷なことだな。奴の処遇については、状況によって私とミギーで判断する。それでいいな?」
『そうだな。それが一番だろう。拘束だけしておいてきみ達の言っていた狡噛慎也という男に引き渡すのもいいかもしれない』


そうして、とりあえずの方針を定めた一行。

「なあ、アカメ。タツミって奴と先に合流しなくてもいいのか?大体の位置もわかってるんだしさ」
「...合流したいのは山々だが、南にはヒースクリフが向かっているし、美樹さやかという仲間も一緒なのだろう。ならば、私たちがやるべきことは、いち早く殺し合い破壊の手がかりを掴むことだ」

アカメの判断は間違っていない。
一刻も早く殺し合いを終わらせてしまうことこそが、現状求められている希望だ。

だが、アカメは知らない。神ならぬアカメには知りようもない。
タツミがいま、精神的に追い詰められていることなど。
そして、いまの彼に必要なものは、支えてくれる・導いてくれる者だということを。

三人は知らない。
これから向かう先に待ち受けるのは、二匹の獣の因縁の清算。
その間には誰も入る余地などなく、それどころか、下手に踏み入れば『彼』の牙はこの中の誰かに突き立てられるかもしれないことを。


812 : 小休止 ◆dKv6nbYMB. :2016/03/17(木) 02:38:31 B6J5OUNM0

【F-2/一日目/夜】
※基本行動ルート、E-2→D-2→C-2→C-1→D-1→C-1→B-1→A-1...のように北部からしらみつぶしに探していく形になります。
が、状況によっては変更する可能性も充分にあります。




【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(大)、頭部出血(中、止血済)、頬に掠り傷、全身にかすり傷、奥歯一本紛失、顔面に打撲痕
[装備]:サラ子の刀@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
[思考]
基本:悪を斬る。
1:北西の方に向かいロックの探索。
2:タツミとの合流を目指す。
3:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
4:村雨を取り戻したい。
5:血を飛ばす男(魏志軍)と御坂と足立は次こそ必ず葬る。
6:エスデスを警戒。
7:槙島聖護を警戒。葬るかは保留。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が学園都市に属する能力者と知りました。
※ディバックが燃失しました
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。


【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(大)、出血(止血済み)、横腹に刺し傷、ミギーにダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム品0〜1 消火器@現実、分厚い辞書@現地調達品、
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:北西の方に向かいロックの探索。
2:後藤、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂美琴らしい?)エスデスを警戒。
3:ホムンクルスを警戒。
4:サリア……。
5:イリヤって確か、雪ノ下達が会った……。
6:余裕ができたら指輪やロボットも探してみる。
7:黒って人とも合流した方が良いのか……。
[備考]
※参戦時期はアニメ第21話の直後。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※ミギーの目が覚めました。


【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大) 、腹部に切り傷(中、処置済み)
[装備]:MPS AA‐12(残弾4/8、予備弾倉 5/5)@寄生獣 セイの格率
[道具]:基本支給品、医療品(包帯、痛み止め)、ランダム品0〜1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:北西部へと向かう。
2:比企谷君……由比ヶ浜さん……戸塚くん……
3:イリヤが心配。
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※槙島と情報交換しました。


813 : ◆dKv6nbYMB. :2016/03/17(木) 02:39:03 B6J5OUNM0
投下終了です。


814 : 名無しさん :2016/03/17(木) 06:24:26 dR.uInrE0
投下乙です

序盤から一緒に行動してるだけあって、このトリオは安定してるな
しかし狡噛さんvsマキシマムにこのチームが介入するかもしれないのか


815 : 名無しさん :2016/03/17(木) 12:25:04 1.vJrgiQ0
>>804
レスありがとうございます
まとめではなくスレで追ってたもので、肉の芽つけられた展開に修正されたことを知りませんでした


816 : ◆dKv6nbYMB. :2016/03/19(土) 10:18:43 u4auwhoA0
本投下します。


817 : その血の記憶 ◆dKv6nbYMB. :2016/03/19(土) 10:20:04 u4auwhoA0


―――血は生命(いのち)なり。



「ガァッ...グオオ...ッ!!」

DIOの館。
その内部で、後藤はひたすらに破壊行為を繰り返していた。


ドアを蹴破り。
本棚を荒らし。
カーテンを引きちぎり。
ガラスを叩き割り。
設置されていた家庭用ゲーム機を握り潰し。
床を殴りつけ。
壁を破壊して。


これは、両手足の寄生生物を失った時に行っていた身体の試運転などではなく、ただの破壊衝動だ。
こうなった元凶である館の主に八つ当たりでもするかのように。
抑えきれない力を発散するかのように。

―――まるで、先程取込んだ力の主の生前のように。

後藤は、ひたすらに館の内部を荒らしまわっている。


やがて、破壊行為では飽き足りなくなり、今度はある欲求が生じ始めた。

―――血だ。血をヨコセ

後藤はDIOの館を無我夢中で飛び出した。



道中、なにやら大規模な爆発が起きた気もするが、いまはこの身体の疼きを治めるのが先だ。


818 : その血の記憶 ◆dKv6nbYMB. :2016/03/19(土) 10:20:42 u4auwhoA0



どれほど走っただろうか。
やがて、後藤は横たわる人影を発見。
それが何者か。後藤は知る由もない。
なぜなら。

血、血ぃ、ちぃ――――!!

後藤の目は血走り、ただ己の欲を発散するためだけにそれに跳びかかり、食らいついてしまったからだ。
それが生きているのか死んでいるのか。それすらも彼にはわかっていない。
ただ、いまは己の衝動を抑えられればそれでいい。

バクン。ゴリッ、ゴリッ。

「はぁっ、はあっ...」

らしくなく、息を切らしながら食事を終える後藤。
食事ついでに首輪が手に入ったがそんなことはどうでもいい。
なんだこれは。なんだというのだ。
DIOは人間を超越した存在だとか言っていたが、これが喰らった代償だというのか?
...だが、まあいい。これで、ようやくおさま



―――ドクン

いや、まだだ。まだ終わらない。
新たに血を取り込んだことで、再び収まりかけた疼きが強くなってくる。


「グ...GUOOOOOO!!」



雄叫びと共に、後藤は側にある施設―――発電所へと駆けて行った。


819 : その血の記憶 ◆dKv6nbYMB. :2016/03/19(土) 10:21:50 u4auwhoA0




どれほど時間が経過しただろうか。
発電所の内部を荒らしまわった結果、後藤の身体の疼きはようやくおさまりつつあった。

「...なんだというのだ」

身体に異常はない。
逆に言えば、新たに得た力もない。精々、筋力が多少なりあがった気がする程度だ。
苦しむだけ苦しんでこれしかないというのか。
もしも、この現象の根幹となったDIOがこの立場になっていたら、烈火の如く怒り狂っていたことだろう。
だが、後藤は寄生生物。合理的に考え、後まで引きずることはない。その程度のことでは寄生生物は揺らがない。


のだが...

「......?」

設置されていた鏡を見て、後藤の頭に疑問符が浮かぶ。
映された顔は、確かに怒りの表情を模っていた。
それも、口の端をつり上げ、眉間に皺をよせ、こめかみに血管まで浮き出している。
勿論、後藤の思考は冷静であり、落胆の意はあれど決して怒ってなどはいない。

「...わけがわからんぞ」

表情を無理やり手で戻しながらポツリとぼやく。

「...ふーっ」

らしくなく、くたびれた親父のように息をつく。
思えば、この会場に来てからは常に動き続けてきた。
更に、泉新一のように身体が生身になったことに加えて先程の現象だ。
どうやら相当に身体にガタがきているらしい。

「少し休憩をとるか...」

そもそも、元の寄生生物を頭部も含めて5体を身体に宿していた時でも、睡眠をとることはしていた。
いまは、なぜだか眠気がほとんどないため睡眠はとらないが、身体を休ませておく必要はある。
荒らしまわっていた際に見つけた宿直室のベッドで横になり、後藤はしばしの休息をとることにした。


820 : その血の記憶 ◆dKv6nbYMB. :2016/03/19(土) 10:23:05 u4auwhoA0





―――血は記憶なり。





さて。DIOという吸血鬼を喰らった後藤だが、この成果は、彼を悪戯に苦しめただけだろうか。
答えは否。
その影響は、確実に彼の身体に現れ始めている。

そもそも吸血鬼とはどのような生物か。

伝承によっては様々な差異が見受けられるが、ディオ・ブランドーがなった吸血鬼とは以下のものだ。

ひとつ。石仮面により使用者の脳を刺激し、秘められた力を引きだした者である。
ひとつ。その力は、驚異的な筋力や特殊な能力、再生能力を発揮することができる。
ひとつ。食糧は他者の生命(いのち)となる血に変わり、取込むことによって己の力とする。
ひとつ。その代償に、日光を浴びると灰になるというリスクを負うことになる。

では、この吸血鬼という存在は遺伝するのか。
答えは否。
石仮面で作られた吸血鬼とは後天的なものであり、それが遺伝子にまで影響を及ぼすことはまずありえない。
吸血鬼が吸血鬼を生むには、対象に直接吸血を行い、血管に増殖用のエキスを流す必要がある。
現に、元の世界のDIOの館には、吸血されてそのまま死んだものもいれば、吸血鬼となっている者もいる。
つまり、宿主の吸血鬼の意思が無ければ吸血鬼が増殖することはない。
故に、DIOが死んだいま、後藤が吸血鬼に影響されることはありえないはずだった。


しかし、今回に限っては事情が違う。
後藤は、DIOの頭部という吸血鬼の根幹を為す部位を身体に取り込んでしまった。
吸血鬼を最も吸血鬼たらしめる部位をだ。
吸血鬼―――特にDIOは、首だけになってもそれのみで行動し、長時間生存するという離れ業をやってのけた。
それほどまでに、吸血鬼の細胞とは生存力が強いのだ。

そして、吸血鬼が吸血鬼を生む際に送られるエキス。
これを分泌するのは脳であり、後藤はそれすらも取込んでしまった。
そして、本来なら首輪で制限されているはずのその能力も、喰らった際に首輪が外れてしまったことで制限はなくなり、吸血鬼化の影響を受けることになってしまったのだ。

とはいえ、仮にもDIOの頭部を介してという形でそのエキスを取込んだうえに、後藤自身の首輪の効果もある。
苦しみと破壊衝動との闘いの末、現在の吸血鬼化における影響はごく微量という形に落ち着いた。
筋力に関する影響力は、寄生生物を身体に混ぜることに比べれば極僅かでしかないが、反面、日光で消滅してしまうほどの力も引きだせていないため、本来の吸血鬼とは違い、堂々と陽が昇る太陽のもとを歩くことが出来る。
本来ならば、たったこれだけの成果である。


821 : その血の記憶 ◆dKv6nbYMB. :2016/03/19(土) 10:24:06 u4auwhoA0


「...?」
ベッドに寝転がりながら、後藤は己の右掌をかざしてみる。



だが、ここでイレギュラーが発生する。
後藤が取り込んだもの。
それは、吸血鬼となったDIOに馴染みつつあったある『血統』の血。

その『血統』の血は、実に奇妙なものだった。
DIOの首より下の肉体となっていた男―――ジョナサン・ジョースター。
彼の身体が『スタンド』を発現したことをきっかけに全ては始まってしまった。
DIOは直接認識のなかった者―――ジョセフ・ジョースターや空条承太郎、ホリィもまた、ジョナサンの肉体に呼応して『スタンド』を発現してしまったのだ。
それだけではない。
正史では存在し得た、ジョセフのもう一人の子供やDIOの息子にまで『スタンド』が発現しているのだ。
たった一人の男の肉体から、家系に纏わる全ての者たちにまで影響を及ぼさせるこの呪い染みた『血統』。
DIOはこの殺し合いが始まってから二度、その『血統』の血を吸うことにより更なる高みへと上り詰めた。
その『血統』はもはやDIOのひとつと化していたのだ。
そして、その呪い染みた奇妙な『血統』の血もまた、後藤の身体に影響を及ぼしていた。


(...これは、確かに見たことがある)
己の掌から浮かび上がる像。
それとは一度交戦している。
なぜこれがここに。
理由を考えるも、納得のいく答えは得られない。



『スタンド』とは生命エネルギーより生まれし、パワーを持つ像。
後藤が喰らったのが、DIOの身体ではなく頭部であったこと。
DIOが後藤に食われる前に一人の『ジョースター』の血を二度も吸収していたということ。
この二つの偶然が重なって。
元来のDIOの持つ『スタンド』と共鳴するかのごとく、『彼』の血に込められた生命エネルギーは色濃く表出していた。

全ての始まりの『スタンド』の像。

まさしく、それは―――





「茨...?」


822 : その血の記憶 ◆dKv6nbYMB. :2016/03/19(土) 10:24:55 u4auwhoA0


【B-8/発電所・宿直室/一日目/夜中】

※佐天涙子の死体が後藤に捕食されました。

【後藤@寄生獣 セイの格率】
[状態]:寄生生物一体分を欠損、寄生生物三体が全身に散らばって融合、疲労(大)、スタンド能力『隠者の紫』発現
[装備]:S&W M29(4/6)@現実、鎖鎌@現実
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、スピーカー、デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾45@現実、一撃必殺村雨@アカメが斬る!(先端10センチあまり欠損)、アンジュの首輪、佐天涙子の首輪、DIOの首輪、不明支給品0〜1(アンジュ分、武器らしいものはなし)、不明支給品0〜1(キリト分、武器らしいものはなし)
[思考]
基本:優勝する。
0:少し休憩をとる。
1:泉新一、田村玲子に勝利し体の一部として取り込む。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。ヒースクリフ(茅場晶彦)に興味。
5:田村怜子・泉新一を探し取り込む。
6:黒、黒子とはこの身体に慣れてからもう一度戦いたい。
7:武器を使用した戦闘も視野に入れるが、刀(村雨)はなるべく使用しない。
8:氷の女(エスデス)とも戦ってみたい。
9:足立とは後でリベンジしたい。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。
※黒い銃(ドミネーター)を警戒しています。
※寄生生物三体が全身に散らばって融合した結果、生身の運動能力が著しく向上しました。
ただし村雨の呪毒によって削られ、130話「新たな力を求めて」の状態を100%とすると現在は75%程度です。
※寄生生物が0体になった影響で刃は頭部から一つしか出せなくなりました。全身を包むプロテクターも使用できなくなりました。
※吸血鬼を食ったことで徐々に吸血鬼の力を手に入れつつあります。が、後藤自身に首輪がついている以上そこまで能力は変わりません。指からの吸血は不可能です。
※運動能力が若干向上しました。以前の状態が75%程度であれば、現在は80%程度です。
※『隠者の紫』の像が出現しました。現在保有している能力はなにもありません。
※傷の再生は、掠り傷程度ならすぐに再生できますが、それ以上の傷の再生はかなりの時間と血液を必要とします。
※気化冷凍法、空裂眼刺驚、肉の芽、吸血鬼・ゾンビエキス注入は使用できません。


823 : ◆dKv6nbYMB. :2016/03/19(土) 10:25:39 u4auwhoA0
本投下終了です。


824 : 名無しさん :2016/03/20(日) 00:58:36 xZCXtPC20
投下乙です

後藤さんまさかの吸血鬼化&スタンド発現か
相変わらずこのロワの後藤さんは波乱万丈だな


825 : 名無しさん :2016/03/21(月) 08:35:29 B3ep8UfM0
投下乙です。
>絶望を斬る
大乱戦が読み応えありました。DIO様落ちたの意外だったけど流石に敵が多すぎた&時の運だった感じか。
セリムは今までずっと悩んでたけど、イリヤの光弾から対主催のエド達を守ったのはロワがどうなるかの大きな分岐点かも。最後の台詞が切ない…

>激情の赤い焔
大佐頑張ったよ大佐。色々と空回りも多かったけど最後まで抗ってたと思う。しまむーはまさか戻ると思わなかったけどちゃんみおも頑張った
エスデスさんは2人が離れるまで待ってくれたところがちょっといい味出してたな。ロワ充し始めてきたしこれからどうなるか。

>小休止
この3人は精神面でもお互いフォローし合えてていいねぇ。あとミギーは相変わらず好奇心が旺盛だw
これから回る施設で何か発見できると良いけどさて

>その血の記憶
新一と同じハイブリット化してさらに意地を捨てて武器も使うように思ったら今度はスタンドに目覚めるとは…
ある意味後藤さんもロワの中で揉まれながら成長していってるなw


826 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/22(火) 22:45:56 eg0YsBSI0
感想ありがとうございます。
投下いたします。


827 : 掴みかけた糸口 ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/22(火) 22:47:33 eg0YsBSI0

 お前も私達と同類なのか。
 DIOとの戦闘を終え、嵐が過ぎ去った後の中で田村怜子が発する言葉にマオは顔を歪めた。
 喋る黒猫である彼は契約者だ。対価と引き換えに能力を使役する合理的な人間もとい猫である。
 
「冗談じゃない」

 短く返答すると、石を避けるために小刻みに跳躍をくり返す。
 動きだけを見ていると完全に猫であるが、人語を理解し、人間とのコミュニケーションを取れる猫は猫じゃない。

「俺は契約者だ。お前らのような化物と一緒にしないでくれ」

「契約者……何だそれは」

「そうだな、例えば炎を使うために水を飲む。特別な力を使役する代償に対価を支払う奴らのことさ」

「この会場にも契約者はいるのか」

「目の前にいるぞ。それに黒もいる。ま、俺の仕事仲間みたいな奴だな」

 などと会話をしつつ彼女達は市役所へ向かう前に、近くにある紋様を調べることにしていた。
 その中で当然のように会話が発生し、初対面である彼女達は腹の探り合いをする。
 と、云っても敵としての認識は無いため物騒では無く、情報交換に近い。

 マオは御坂美琴と面識があり、田村怜子は初春飾利との面識があった。
 情報が交わされる中、どうやら御坂美琴が殺し合いに乗っていることはそれなりに広まっているらしい。
 事実を知った黒猫は瞳を少し伏せ、面倒なことになったと愚痴を零す。
 仮に彼女が改心し元の少女に戻った所で、わだかまりがあれば息苦しいだけだ。
 エドワードでは無いが、マオも御坂美琴に対しては少なからず面識があり、放っては置けない立場にある。

 淡い希望を抱いてはいるが、戻った先に闇の種が蒔かれていては心がいずれ壊れてしまう。
 彼女達の略歴は知らないがどうしてこんな少女達が――契約者も変わらないか、と一人で納得する。
 人間一人一人に物語があり、誰もが踏み入って欲しくない心の聖域が存在するのだ、無理に首を突っ込むのは無礼だ。
 出来るなら救いたい。その程度に留めて置かなければ、自分が死んでしまう。

(全く……こんな殺し合いを開いた馬鹿の顔が見てみたいぜ)

 謎に包まれた主催者の影。
 広川一人で此処まで運営出来るとは思っておらず、協力者や何らかの組織が関わっていると簡単に予測できる。
 契約者に恨みを持つ人間もいるだろうが、関係の無い参加者が多過ぎる。
 裏の真相――彼らの思惑は未だに掴めないままだ。


828 : 名無しさん :2016/03/22(火) 22:48:29 eg0YsBSI0


「これは見覚えが無い」

 
 人間感覚で換算した数歩先で田村怜子が何やら不思議なモノを見て呟いた。
 マオはそれを確認するべく彼女に近寄った所で似たようなリアクションを取った。


「なんだこれは……随分とオカルトみたいだな」


 大地に描かれていた模様はまるで少々頭の狂った学者が好むような、フィクションで見かける魔法陣のようだった。
 例えば悪魔を召喚するための。
 例えばUFOを呼びこむための。
 例えば世界を灰に包むような禁忌を引き起こすための。

 何にせよ一目見ただけで関わりたく無いと思わせる赤い文様が描かれている。

「時代遅れの悪趣味って感じだが、正体は見当も……ん」

 言葉の途中で何かに気付いたのか、マオは口を塞ぎ頭を掻く。
 チリンと鈴の音が響く中で田村怜子は続きを問う。そして返答が行われる。


「いや一人だけ知ってるかもしれない奴がいるんだが……」

「この会場にいるなら名前を教えろ」

「…………袋の中にいるんだなこれが」


 頭部を動かし魔法陣とやらを知っている人間の在り処を示すマオ。その先は田村怜子が所有しているバッグだ。
 この中に収納されている参加者は三人であり、エドワード・エルリック、ウェイブ、佐倉杏子の三人である。


「エドワード……金髪のチビなんだが……ま、あいつなら目も覚ますだろ」

「そう……なら出しても問題は無いわね」


 呟いた後に田村怜子は少々乱暴気味にバッグを振るい始めた。
 すると中から運が良いのか悪いのかお目当てのエドワード・エルリックを一発で引き当てた。


829 : 名無しさん :2016/03/22(火) 22:49:12 eg0YsBSI0


「い……痛ってええええええええええ!?」


 ドサッと音を立てて大地に落下したエドワードは悲鳴と共にその意識を覚醒させる。
 戦闘の影響もあり、大きな動きは出来ないが状況を確認するべく視界を動かそうとした所で。
 目の前に見知った顔があった。


「元気みたいだね」

「そう思うか、マオ?」


 何が起きているか理解していないエドワードだが、マオが近くにいることで一先ず安心する。
 敵が近くにいない。これだけ解れば充分であるが、そもそも何故自分は此処に居るのか。


「――! 御坂とブラッドレイは……ん、あんたはたしか」

「田村怜子」

「あぁ……ついさっきはありがとな」


 動乱がエドワードの脳内で繰り返される。
 DIO、イリヤ、御坂美琴、キング・ブラッドレイ、そして後藤。
 多くの参加者が入り乱れた嵐は彼の記憶に小縁憑いている。


「この状況じゃ俺を運んでくれたみたいだな、それで他の奴らは?」

「お前と同じでバッグの中で眠ってるだろうさ」

「俺はバッグから出て来たのか……なんでもありだな」


 自分が飛び出しただろうバッグを見つめながら疲労を浮かべるエドワード。
 腕で汗を拭うと、己の近くにある文様を見つめ――驚きの表情を浮かべた。


「これは錬成陣……と、見たことのない文字が刻まれてる」


 どうやらエドワードを呼び起こして正解だったようだ。


830 : 名無しさん :2016/03/22(火) 22:49:59 eg0YsBSI0

 錬成陣を見つめる鋼の錬金術師は己の脳をフル活用し、何かを導き出そうとしていた。

(人体錬成の陣もあれば国土……いや、似ているけど違う。なら、ここを中心とした――どうだろうな)

 バッグから地図を取り出し、その場に広げると自分の居場所を確認し指で辿る。

「マオ、今俺達が居るのは何処だ」

「C-4だな……ほれ」

 マオが地図の上に乗り前足で居場所を示した。
 解った、と呟いたエドワードは邪魔になるマオをどかすと再度、思考の海へ考えを潜らせる。


(居場所を中心にしたとして――点になるのは地図上に記載されている建物、それを結ぶと……駄目だ、不規則な形だ)


 アメストリスに存在した各研究所を経由した錬成陣を連想し、地図を確認する。
 しかし点と線を結んだ所でなにも形は浮かび上がらず、特別なことは何一つ無い。


(鍵は読み取れない文字……初めて見るな。マオと田村も知らないようだし、くそ、これが解ればな。
 錬成陣も途中で途切れてらあ。何かが足りてないのか……何にしても解ったことは――)


「血――人間を媒体に何かを発動する錬成陣だな」


 肝心なことは解らないが、現状で把握できた結果を述べる錬金術師。
 それを聞いたマオと田村怜子は腑に落ちない、と言うよりもそれが解ったとしてどうすればいいのか。
 彼女達にとって錬金術は馴染みのあるものでは無く、エドワードが居なければ錬成陣そのものをスルーしていた。


「俺達に出来ることはあるのか?」

「この見たことのない文字が読めりゃあなんとか解るかも知れない、読めるか?」

「……なんだこれは。少なくとも地球の言語じゃないな」

「地球の言語で無ければ私には未知なる世界の話になる」

「……気になってたんだけどお前達はあのー、同類みたいなもんなのか?」

「おいおい小僧、お前もそれを言うのか。俺は契約者でこいつは」

「寄生生物。人間に宿った寄生生物だ」


「…………なら、DIOを喰ったあの男もか」


「あいつは後藤……私と同じ、人間の言葉で表すなら同類だ」

「寄生生物ね……人間の見た目で人間じゃないか。
 だったら俺からも一つだ。この会場にはホムンクルスが紛れ込んでんだ。
 エンヴィーとセリム、それにキング・ブラッドレイだ……セリムの奴は死んじまったがな」


 セリム・ブラッドレイ。創造主の命令を守り人柱なる――エドワード・エルリックを守り死んだホムンクルス。
 守ったと云う表現が正しいかは彼のみぞ知る所だが、少なくともプライドが生き残る道はあった。
 最期に彼が呟いていたのはホムンクルス・プライドではなくセリム・ブラッドレイとしての言葉だった。それは刻んである。


831 : 名無しさん :2016/03/22(火) 22:51:20 eg0YsBSI0


 ホムンクルスの話を振った所で、エドワードはもう一つ情報をマオ達に与える。
 それはこの錬成陣を作ったとみられる――


「前から気になってはいたけど確信した。この殺し合いにはお父様が絡んでいる可能性が高い」


 黒幕についてだ。


「お父様? お前の親が殺し合いを開いたってのか?」

「身内のお前が一番理解しているだろう。心当たりは無いのか?」


「……俺の言い方が悪かったよ。ホムンクルスの創造主だよお父様ってのは。
 連中がそう呼んでるから俺達も呼んでいただけで、名前何てしらねえ」


 エドワードは語る。
 そもそも人間を殺し合わせる状況にホムンクルスが居ることが疑問だった。
 まるで血を流すために、殺し合いを加速させるために投入された可能性があったこと。

 寄生生物や契約者、魔法少女などの規格外が参加している時点で根拠は薄くなっていた。
 しかしセリムが死に際に放った人柱を守る旨の発現を受け止め、お父様が潜んでいる可能性が上昇したこと。

 この大地に刻まれていた錬成陣が基本は人体錬成と何かを発動させる錬成陣が描かれていたこと。
 これは理由にならないが、参加している錬金術師は自分を含めて三人だ。
 鋼の錬金術師、焔の錬金術師、そして紅蓮の錬金術師である。

 この中で唯一真理の扉に触れた自分に読み解けない錬成陣を後者二人が描くとは思えない。
 手の内が読めない錬成術――つまり、思い当たる人物はただ一人、お父様しかいない。

 エドワードの脳裏にとある男――ホーエンハイムが一瞬浮かぶも、マオ達には説明しなかった。


「広川一人では企画出来ないと踏んでいたが、そうか。黒幕はそのお父様とやらか」

「確信は無いけど充分に可能性はあると思う――それで」


 場を切り替えるように一息ついたエドワードが新しい話題を切り出した。


「御坂とブラッドレイは何処に向かったか解るか?」





 エドワード・エルリックと別れた田村怜子は予定通り、市役所へ向かっている。
 彼に御坂達の居場所を尋ねられた時、正直な所、知っている訳が無かった。


832 : 名無しさん :2016/03/22(火) 22:53:51 eg0YsBSI0


 代わりに自分の仮設をエドワードに説明することで、一つの道筋を示すことになった。

 まず、DIOとの戦闘が終わった後に自分達が北上したことを考えれば彼女達は此方に来ていない。
 足を運んでいれば遅かれ早かれ戦闘になっていただろう。潜んでいる可能性もあるが、戦闘に特化した組だ。
 本気を出せば此方が劣勢になるのは明白である。

 ならば東か南しか無いだろう。

 それを聞いたエドワードは己の身体に鞭を打って走りだしていた。


『俺はあいつを止めるって決めたからな』


 たった一言、それだけ呟いて消えてしまった。
 人間とは時折、理解出来ない言動や行動を取る。

 己の生命を危険に晒してまで何を求めるというのか。


 何にせよ、田村怜子が所有しているバッグには未だ、佐倉杏子とウェイブが眠っている。
 市役所で休ませた後に情報交換をするのが今後の方針となるだろう。

 エドワードの仮説によって黒幕の正体が若干ではあるが、見えている。

 生き残った人間が最期に見るのは――光か闇か、希望か絶望か。


833 : 名無しさん :2016/03/22(火) 22:54:17 eg0YsBSI0




【B-3/一日目/夜中】




【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、卯月に対する怒り?
[装備]:なし
[道具]:デイバック、基本支給品 、錬成した剣、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!、園田海未の首輪、食蜂操祈の首輪、ジョセフ・ジョースターの首輪、ウェイブ、佐倉杏子、エドワード・エルリック(デイバッグ内)
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
0:市庁舎へ向かう。
1:脱出の道を探る。
2:コンサートホール及び市役所を探索した後初春と合流する。
3:島村卯月は殺す。マスタング達が説得に成功したら……?
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
6:エンヴィーには要警戒。もしも出会ったら……
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ's、魔法少女、スタンド使いについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。協力者は時間遡行といった能力があるのではないかと考えています。
※剣の他にも、何かマスタングから錬成された武器を渡されたかもしれません。
※エドワードの仮説を聞きました。


【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(超絶大)、ダメージ(絶大)、精神的疲労(大)、気絶、左肩に裂傷、左腕に裂傷、全身に切り傷
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:デイバック、基本支給品×2、グリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ、不明支給品0〜3(セリューが確認済み)、南ことりの首輪、浦上の首輪
タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!、雷神憤怒アドラメレク@アカメが斬る!(左腕部のみ 罅割れあり)
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。一度自分達の在り方について話し合い、考え直す。
1:エスデスが誰かを害するのなら倒す。出来れば説得したいが。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具は移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:セリューと合流し、一緒に今までの行いの償いをする。
6:サリア……。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。
※自分の甘さを受け入れつつあります。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(超極大)、ダメージ(絶大)、精神的疲労(大)、気絶、流血(大)、骨が数本折れている、顔面打撲
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×4@魔法少女まどか☆マギカ、クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:仲間を集める。
1:イリヤは――
2:御坂美琴は―――
4:ジョセフ……。
5:もしさやかが殺し合いに乗っていれば説得する。最悪、ケリはこの手でつける。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※DIOのスタンド能力を知りました。


834 : 名無しさん :2016/03/22(火) 22:56:23 eg0YsBSI0


「南に行かない理由はあるのかエド」

「DIOの館にあの後向かう奴の精神が信じられねえ」

「……根拠は残念だが納得だな」

 田村怜子と別れた一人と一匹は東へ向かう。
 目的はただ一つ。変わらずに御坂美琴を止めること。

 もう、誰も悲しませないために。
 前川みくのような犠牲者を出さないためにも、救える生命はこの手で助ける。

 
 参加者も既に先の放送で半数になったと聞いている。
 時間は無い。走れ、足が動く限り、前へと進め。

 
「もうお前の好きなように、させねえからな」


【D-4/一日目/夜中】


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、精神的疲労(大)、気絶、全身に打撲、右の額のいつもの傷
[装備]:無し
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、不明支給品0〜2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、パイプ爆弾×2(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす。
0:イリヤを止めて、御坂と大総統をを止めるために東へ。
1:大佐を元の世界に連れ戻して中尉にブン殴らせる。
2:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したい。
3:エンブリヲ、DIO、御坂、エスデス、槙島聖護、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
4:一段落ついたらみくを埋葬する。
5:首輪交換制度は後回し。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※エスデスに嫌悪感を抱いていますが、彼女の言葉は認めつつあります。
※仮説を立てました。


【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[思考]
基本:帰る。
0:エドワードと共に行動する。


【エドワード・エルリックの仮説】
1:殺し合いの黒幕にお父様が潜む可能性。
2:C-4に刻まれている錬成陣は人体(血)を媒体に何かを引き起こすもの。
3:上記錬成陣にはエドワードには読めない文字が使われている。
4:その文字はアメストリス及び地球基準における言語では無いこと。


835 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/22(火) 22:57:50 eg0YsBSI0
投下を終了します


836 : 名無しさん :2016/03/23(水) 10:18:18 dCspVn8Y0
投下乙です
黒幕に関する考察が進んだなぁ
そして単独で御坂たちの元へ向かうニーサン…あの一帯には危険人物がいっぱい集まってるけど果たしてどうなるのか

指摘点ですが、状態表に一部前回のままでおかしい箇所がある(田村さんのデイパックの中にエドが入ったままだったりエドが気絶してたり)のでそこを修正すれば問題ないかと


837 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/03/23(水) 11:47:31 4HlVruUo0
感想、ご指摘ありがとうございます。
田村怜子及びエドワード・エルリックの状態表を次のとおり修正いたします。

【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、卯月に対する怒り?
[装備]:なし
[道具]:デイバック、基本支給品 、錬成した剣、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!、園田海未の首輪、食蜂操祈の首輪、ジョセフ・ジョースターの首輪
    ウェイブ、佐倉杏子(デイバッグ内)

【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、精神的疲労(大)、全身に打撲、右の額のいつもの傷
[装備]:無し
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、不明支給品0〜2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ
    パイプ爆弾×2(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ


838 : ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 17:45:10 Z.9pNKKk0
投下乙です。
猫はすっかりニーサンの相棒ポジに収まってるなぁ。無事に黒さんや銀とも合流してほしいけどどうなるかな。
戦力的には強力な田村さんたちのこれからにも期待。

投下します。


839 : WILD CHALLENGER(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 17:46:30 Z.9pNKKk0
「......」

キング・ブラッドレイは考える。

南方で起きた大規模な爆発の音。
彼がそれを聞きつけたのは、御坂美琴が眠りについてから程なくしてのことだった。

彼が悩んでいるのは、これからの方針について。

あの爆発音のもとへ向かうか、それともこのまま目的の地、アインクラッドへと進むか。

そもそもアインクラッドを目的地としているのは何故だ。
それはヒースクリフも目指しているかもしれないという可能性を託しているだけだ。
しかし、このゲームが始まってから一日が経とうとしている。
彼が会場全体を動き回っているとしたら、既に訪れ去っている可能性も低くは無い。
つまり、アインクラッドとやらに行っても、ヒースクリフに会える保証はないわけだ。

それに対してあの爆発音。
流石に、あれほどの爆発をまともに受けていれば生きてはいまいが、あれが起きたということは、少なくともあそこに何者かがいたということだ。
生存者がいなくとも、あの爆発に惹かれる者もいるだろう。
状況を把握しようとする者。
無謀にも被害者たちの生存を願う者。
戦闘を望み、脚を運ぶ者。

ヒースクリフではなくとも、参加者に遭える可能性は前者より高い。


「ふむ...」


と、なるとだ。
このままアインクラッドに向かうよりは、あちらに向かった方が益はある。

(そうなると、彼女を連れていくべきではなさそうだ)

回復結晶とやらで怪我は回復させたものの、疲れて眠っているところを見ると、全てが元通りという訳ではなさそうだ。
そんな彼女を戦場へ連れて行き、なにか妙な失態を冒そうものなら目も当てられない。
デイバックに入れて向かってもいいが、彼女を庇いながら戦うのは少々面倒だ。
ならば、ここに残し、体力の回復に専念させた方がいい。
もしかしたら、なにものかが襲撃してくる可能性もあるが、その時はその時だ。
それで命を落とすようなら、自分の同盟相手には不釣り合いだっただけの話だ。
念のため、『一旦南へ向かう』とだけ書置きを遺して、御坂をイェーガーズ本部の一室へと放置。
キング・ブラッドレイは疾風のごとく爆心地へとその足をすすめた。


同行者の体力の回復。襲われた時の責任はとらない。
この二つが既に矛盾しており、その矛盾から御坂美琴との不和を生む可能性は充分に高い。
彼は、そのことに気が付いているのだろうか。きっと気が付いている。
それを承知だからこそ―――


【D-4/イェーガーズ本部/一日目/夜中】

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟 睡眠
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×2 、回復結晶@ソードアート・オンライン(3時間使用不可)、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、アヴドゥルの首輪、大量の鉄塊
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
1:橋を渡りキング・ブラッドレイと共にアインクラッドに向かう。
2:もう、戻れない。戻るわけにはいかない。
3:戦力にならない奴は始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
4:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
5:殺しに慣れたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました。


840 : WILD CHALLENGER(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 17:47:37 Z.9pNKKk0


次なる戦場を求めて歩き出したエスデス。
しかし、ふと別の考えがよぎり、その足を止める。

「...あれほどの爆発、力に自信のある者なら放っておかないだろうな」

あの爆発は周囲に響き渡っている。
必ずやなにかしらの理由で惹かれる者はいるはずだ。

状況を把握しようとする者。
無謀にも被害者たちの生存を願う者。
戦闘を望み、脚を運ぶ者。

ただの一般人が脚を運ぶのはまずないが、少なくともそれなりに腕に自信があれば訪れるはずだ。
それに、戦いの連続でそろそろ小腹が空いてきたところだ。
少々疲れた身体を癒すのも兼ねてここで待ってみるのも一興だ。

地に腰を落ち着け、ごそごそとデイパックから取り出したのは、巨大な魚の丸焼き。


『アヴドゥル。お前の支給品に魚介類の詰め合わせがあったな。小腹が空いたからひとつ焼いてくれ』
『...私の炎はそのためにあるわけじゃないんだがな』


能力研究所へ向かう道中、そんな会話をしながらアヴドゥルに焼かせた魚だ。
それを食す前に研究所から立ち昇る煙を見つけたために食べる機会がなかったのだ。
焼き魚に、自らが破壊した駅員室の破片を付きさし串替わりにして、腹に被りつく。
うむ、美味い。
流石に冷めてしまっているが、この食べやすさは中まで火が通っていた証拠だ。
咄嗟の注文でも、極めて冷静に、丁寧に炎の威力を扱える男だ。
彼の本気を見れなかったのは悔いが残るし、改めて惜しいと思える人材だ。
尤も、部下ですらない男の死をいつまでも引きずる彼女ではないが。


...己の半身が焼かれた直後に焼き魚を平気で喰えるような人間は、会場広しといえども彼女くらいだろう。


841 : WILD CHALLENGER(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 17:48:26 Z.9pNKKk0

(しかし、こいつは存外便利なものだ)

焼き魚を頬張りながら、目の前に横たわらせたまどかとほむらの死体を見ながら思う。
ロイ・マスタング。
彼が自分をここまで追いつめ、いや、そもそも仮にもセリューの上官である自分を殺すと決意したのはこの死体の影響が大きい。
これが無ければ、おそらく彼は中々殺す決意をしなかっただろうし、したとしても中途半端な覚悟で終わっていた可能性も高い。
この死体を卯月が作ったと知ったからこそ、彼は卯月諸共エスデスを殺す決意に踏み出した。
そのため、どうせならもっと有効活用できないかと思い、あらかじめ回収しておいたのだ。

(怒りとは視野を狭めやすいものだが、時には大きな力となる。奴はそのことを改めて教えてくれたからな)

感情は時に戦局を覆す大きな力となる。
あれを見て感情を滾らせるような者とは、是非戦ってみたいものだ。

例えば、美樹さやか。
まどかからは、正義感が強く感情的になりやすい魔法少女だと聞いている。
あの死体を見せれば戦わない理由はないだろう。


例えば、佐倉杏子。
彼女とはDIOと戦う前に交戦したが、あの時はグランシャリオを使わせているにも関わらず、呆気なく勝負がついてしまった。
あれの相性に適合していないこともあったのだろうが、ウェイブ以上に精神に乱れがあったせいだろう。
そのウェイブも、覚悟を決めれば完成された強さの限界を超えてみせた。
ならば、ウェイブやマスタング同様、直情型に思えた彼女もまた、死体を見せて怒らせればもっと楽しめるかもしれない。


例えば、エドワード・エルリック。
彼とまどかたちは直接の面識はない。
しかし、前川みくの首を切断したことだけでも怒っていた男だ。
マスタングが死んだことも併せて教えてやればそれはそれは烈火のごとく噛みついてくることだろう。

「おっと。エドワードには一応首輪の解除を頼んでいたのだったな」

まあ、敵対するぶんにはなにも問題はない。
そのぶんお楽しみが増えるだけだ。

「さて。誰が最初にやって来るか...」

氷の女王は、己の空腹を満たしつつ訪れるであろう来客を待つ。
数刻後、完食した魚の骨が地面に捨てられるのと同時に、南方から電車が一台やってくる。
電車が半壊した駅に停まると、乗客がその姿を現した。

「ようやく来たか。さて、お前は私を愉しませてくれるのか?」
「あなたの愉しみなど知りませんが...その命、有意義に使わせていただきます」


842 : WILD CHALLENGER(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 17:49:45 Z.9pNKKk0





ヒースクリフ―――茅場晶彦は考える。

(承太郎、ジョセフ・ジョースターは脱落し、ゲームに乗っているであろう者はほとんど呼ばれていない)

コンサートホールで合流した面子は既に半分となり、友好的な関係を作れていたジョセフもまた死んだ。
モハメド・アヴドゥル、空条承太郎、鹿目まどか、暁美ほむら、ジョセフ・ジョースター...
思えば、エスデスと敵対はしなかった面子はことごとく死に至っている。
エドワードはどうなっているがわからないが、足立も足立で後藤を押し付けられるなど散々な目に遭っているらしい。
まるで死神だな、と思うのと同時に、そんな中でもこうして五体満足でいられる自分は幸運だな、となんとなく思う。

(とはいえ、銀に繋がる有益な情報はまだ得ていない。黒くんが見つけていれば話は早いが...)

地獄門で黒にはカジノ方面を探索するように伝えてある。
銀がそちらにいれば何の問題もないが、万が一南西方面にいた場合は厄介だ。
銀は盲目で、一人ではなんの戦闘力も有していないときく。
おそらくは腕の立つ者が同行しているのだろうが、もしもその保護者が籠城を決め込んだ場合、銀を確保するのが非常に困難になってしまう。
それに、合流が遅れれば遅れるほど、銀を失うリスクは高まってしまう。

(少し予定を早めるか)

もともと、銀を確保してから南西を見て周る予定ではあった。
しかし、先程例を挙げたように、南西付近にいた場合非常に厄介なことになる。
ならば、銀は黒や学園にいる者たちと出会えていることに期待して、南西側を先に調査しよう。
それに、自分は南東側は黒やアカメたち、北西側はまどかや承太郎、北東側はこの目で情報を得ているが、南西に関してはほとんど情報を手に入れていない。
云わば魔境のようなものだ。
RPGでも、魔境には重大なイベントが隠されているのはお約束だ。向かう価値は充分にあるだろう。

「尤も、ゲームの筋書き通りとはいかないだろうがね。さて、この選択がどう出るか」


843 : WILD CHALLENGER(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 17:51:22 Z.9pNKKk0


魏が電車にて北上している最中のこと。
突如、大規模な爆発の音が鳴り響き、同時に電車が一時停止した。
どうやら、爆発の影響で線路に異常がないかを確認しているようだ。

魏は考える。
放送で聞いた首輪交換機について。
報酬が得られなかった首輪とは、十中八九自分のものだ。
電車から降りて取りに戻るのも悪くはないが...

(たしか、あの首輪はランク1。入れ直したところで大したものは貰えないでしょうね)

それに、首輪は自分が生存している間はずっと保管しているらしい。ならばそう焦ることもあるまい。
と、なればこのまま北上するのが賢い選択だろう。
あの爆発を受けて生きている者はそういない。
生きていても、満身創痍なのは確実だ。

それからしばらくして。
線路に異常なし、と判断した電車は再び北へと向かう。

やがて、辿りついた先にいたのは、一人の女。
魏が今までに見てきた女性の中でもかなりの美貌といえるが、左半身には、全体を覆う火傷の痕が痛々しいほどに刻み込まれている。
自分も人のことを言えないが、と思いつつ、黒の死神に刻まれた火傷の痕をなぞる。
そして、気付く。彼女の足元に転がる見覚えのある半分の顔に。



「ひとつ聞いておきましょうか。"ソレ"はあなたがやったのですか?」
「ん、ああ、こいつか」

エスデスは、地面に寝かしていた死体を掴み、持ち上げる。

「そういえば、おまえはこいつを襲っていたな」
「...?」
「お前は知らないだろうが、私もあのコンサートホールにいたのだよ」
「そうですか」
「それで、だ」

エスデスは、"まどか"側の頬をつまみ、軽く引っ張ってみせる。

「私がお前が殺そうとした"こいつ"をこうしたとして―――お前はどうするんだ?」

まどかは魏が狩りそびれた獲物だ。
そんな獲物を横取りされて頭にこない狩人はいないだろう。

「別にどうも思いませんよ」

だが、契約者は合理的だ。
魏がまどかを襲ったのはあくまでも優勝への第一歩に過ぎず、その過程の戦闘になど想いを馳せることもなければ、逃がした標的を横取りされようが思うところなどない。

「なんだつまらん」
「ただ」

だが、魏はまどかに借りがある。
見事に一杯食わされ、あまつさえ肩に傷を負わされるという屈辱が。
そして、その屈辱を晴らしたかったと思うのは、契約者としてではなく魏志軍という一人の人間の意思だ。

「彼女には借りがある。彼女に返せなかったぶんは、同行者であったあなたに清算してもらうことにしましょう」
「八つ当たりというやつか。それも悪くない」

静かに笑みを浮かべる魏と、戦いへの期待を膨らませ、凶悪な笑みを浮かべるエスデス。

両者が互いに手をかざすのと同時。

水流と氷がぶつかり合い、戦いは始まる。


844 : WILD CHALLENGER(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 17:52:12 Z.9pNKKk0

「懐かしいな、その帝具」
「あなたもこれを知っているのですか...まったく、それほどまでに有名な道具なのでしょうかね」
「それは元々私が部下に与えたものでな。お前がどれほど使いこなせるか、見せてもらおう」

魏が操るのは、駅員室の地下を走っていた水道の水。
地面から溢れだす水流がうねり蛇の如くエスデスへと襲い掛かるが、エスデスはそれに氷をぶつけて防御。
角度や方向、形を変えながら攻撃するも、それらは容易く氷の壁で防がれてしまう。

「ほう、中々使いこなしているようじゃないか。それで?まさか私をこのまま倒せるとでも思っているのか?」
「さて。それはどうでしょうか、ね!」

水流をエスデスの正面から襲わせ、エスデスもまた氷の塊をぶつけてそれに対応する。

「防ぎ続けるのは私の性に合っていない。このまま攻めさせてもらうぞ」

ぶつけた氷塊は、たちまち水流を凍りつかせ、あっという間に氷塊と水流の絡み合った氷の彫像が出来上がる。
氷とはもともと水を凍てつかせて形成されるもの。
デモンズエキス、いやエスデスの常識外れな力があれば、一瞬で水を凍りつかせるなど容易いこと。
液体を操るブラックマリンと全てを凍らせるデモンズエキスはこれ以上なく相性が悪かった。

「むっ」

しかし、その事実に魏は驚かない。
エスデスが氷を操ると解った時から、魏の狙いは接近戦へと変わっている。
如何に強大な力を持っていようとも、あれほどの水流を凍らせれば次に氷を作るのには時間がかかるはず。
そう判断した魏は、水流を放つと同時にナイフで己の手首を斬りつけつつエスデスへの距離を詰めていた。
振るわれる右腕と共に飛来する血液。
それはエスデスの眼前にまで迫り

「大味な技を囮に必殺の技を隠す。中々面白いが、相手が悪かったな」

身体に付着することなく、突如現れた氷の膜に防がれた。
魏の考えは決して間違ってはいない。
能力を派手に使えば、休む間もなしに能力を発動することは困難。それは、エスデスにも当てはまることだ。
だが、彼女のそのインターバルは極端に短い。ほんのわずかにタイムラグがあるだけで、僅かな力なら発動することが出来る。

魏は舌打ちをしながら指を弾き、氷の膜を破壊する。

「血が付着した部分を消し飛ばすことができる...なるほど、聞いた通りの力だ」


845 : WILD CHALLENGER(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 17:53:18 Z.9pNKKk0
エスデスは氷で作った急繕いの剣を振るい、魏はそれを左手に持つアーミーナイフで迎え撃つ。
しかし、いつまでも密着して凍らされては敵わないので、すぐに距離をとると共に腕を振るい血を放つ。

「確かに強力だが、弱点が多すぎる。ひとつ」

飛ばされる血を氷の剣を振るい付着させる。魏は指を鳴らすが、破壊されるのは氷の剣だけ。

「こうやって人体以外のものを割り込ませてしまえば、それだけでほぼ無力化されてしまう。ふたつ」

エスデスは巨大な氷柱を魏に放ち、魏はそれに血を飛ばし、指を鳴らして破壊する。
その隙をつき、エスデスは魏への距離を一気に詰める。
先程魏がやったのと同じく、大味な技を囮に接近戦へと持ち込む腹積もりだ。
魏は再び腕を振るおうとするが―――間に合わない。
氷のグローブを纏ったエスデスの拳のラッシュがそれを許さない。
ラッシュの速さでは会場の中でもトップと言えるDIOの『世界』と曲がりなりにも殴りあえたのだ。
その威力と速さを捌きつつ反撃するのは至難の業だろう。

「血を飛ばそうというのなら、どうしても大ぶりな動きになってしまう...そのため、動きを制限されては反撃が難しい。私は流れる血にさえ気をつけていればいいのだからな。そして三つ目」

ついには反応しきれなくなったエスデスの拳が、魏の胸板を捉える。
以前受けたスタープラチナ、程とはいえないが、その重い拳を受けて魏は後方へと吹き飛ばされる。

「斬撃ならいざ知らず、打撃では血をばら撒けないためこうして遠慮なく攻撃ができる。どうだ、私の拳も中々のものだろう」

胸部に受けた痛みにより、魏は一瞬だが息を詰まらせる。
そんなことをお構いなしにエスデスは再び魏へと肉迫するが

「!」

エスデスの足元の地面が盛り上がったかと思えば、水流が踊り狂い、そのままエスデスをのみこみ、姿さえ見えなくなってしまう。
やったか、などとは思えない。
これはあくまでも牽制程度にしか考えておらず、少しだけ時間を稼ぐための苦肉の策だ。
いつ全てが凍りつき再び相対してもいいように、目は離さない。

「なにっ!?」

が、しかし、確かに時間は稼げたが、彼女の行動は予想を超えていた。
水流の全てを凍らせるのではなく、一部だけを凍りつかせ小さなトンネルを形成。
これでは、僅かな時間しか持ちこたえられないが、彼女の身体能力ならそれだけでも充分。
一直線に駆けだした彼女は、あっという間に魏との距離を詰め、その手に持つ巨大な氷のハンマーで魏を殴りつける。
魏は咄嗟に防御の耐性をとるものの、耐え切ることはできずに吹き飛ばされ、囮に使った水流の成れの果てにぶつけられた。
そして、間髪をいれずに投擲される氷の槍は、魏の左肩を貫きその場に固定させる。


846 : WILD CHALLENGER(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 17:54:26 Z.9pNKKk0

「ぐあああっ!」
「悪くない悲鳴だ。...よし」

エスデスは、魏から一定の距離をとり氷の弾丸を宙に浮かせる。

「戦いもいいが、そろそろ単純に苦痛の悲鳴も聞きたかったところだ...さあ、愉しませてもらおうぞ」

エスデスは戦闘狂であるのと同時に拷問マニアである。
人体のどこをつけば苦痛を最大限に与えられるか、ぎりぎり死なないラインはどこなのか。
拷問による悲鳴を聞き愉悦を抱くためだけに、彼女は拷問について熱心に勉強している。
この会場に来てからは戦闘は存分に楽しんだが、拷問はほとんど手を付けていない。
そろそろ拷問欲求を満たしたいところだ。
できれば足立あたりがよかったが、まあ仕方ない。
それでは拷問を開始しよう。

「...さきほどあなたに指摘された弱点ですがね。私もここに連れてこられてから痛感していたのですよ」

ぼそぼそと、氷塊に縫い付けられた魏は語る。

「恥ずかしながらその弱点を突かれて逃走を喫したことすらある。とはいえ、これもまた対価であるためおいそれと変わることはできない」

よく聞き取れないが、諦めたのかと思い、氷の散弾の第一投を放つため、右手を挙げる。
そして、気が付く。
魏の目はまだ死んでいない。

「けれど、そんな能力でも工夫はできる―――例えばこんなふうに」

パチン、と音が鳴り響き。

「ッ!?」

同時に、エスデスの爪先に痛みが走る。
エスデスは視線を逸らし、確認する。
削られていた。
エスデスの爪先が、消え去っていたのだ。
エスデスが僅かに怯んだ隙を見逃さず、魏は懐から球状のものを取り出し投げつける。

(なんだこれは)

見覚えのないそれに、かつて噂で聞いたことのある帝具を思い浮かべる。
帝具『快投乱麻ダイリーガー』6つの球の帝具であり、そのひとつひとつに属性が付与されており、投げると効果が発動するというものらしい。
それでなくとも、この戦況で使うのなら有効打となるものだろう。
そう判断したエスデスは、飛来するそれを凍らせ
「ただのビリヤードの球ですよ。尤も、少々細工を施してありますが」
ようとするがしかし、球は突如軌道を変化させ、エスデスの技から逃れる。
更にその球から細い水流が飛び出し、エスデスの右肩に付着する。
そして。

―――パチン

指が鳴ると同時に、エスデスの肩の一部が吹き飛ばされる。
その隙をつき、魏は右手首から流れる血を氷の槍に擦りつけ、指を鳴らし破壊。
拘束から逃れることに成功する。


847 : WILD CHALLENGER(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 17:55:46 Z.9pNKKk0

「随分と小さいですが、まあ、一撃は一撃です」


魏が球に仕込んでいたのは、己の血液を溶かし合わせた少量の水。
カジノにて眠りにつく前、球に穴を開け、その水を入れて蓋をしておいた。
中にある水を、ブラックマリンで操作することによって、魏は変幻自在の魔球を投げることが出来たのだ。

そして、エスデスの爪先を吹き飛ばしたタネは至って簡単だ。
エスデスが水流の相手をしている際に、魏は右手首の血を地面に流していた。その地面を消し飛ばす際に、エスデスの爪先も巻き込まれただけのこと。
派手に水流を操っていたのも、全てはこの設置型の罠の目くらましである。

(だが、運が悪い...もう少し踏み込んでいれば片足は奪えただろうものを)

「面白い戦い方をする奴だ。そういうのも悪くない」
「あなたに褒められても嬉しくはないですね」

魏は思う。
これだけやっておいて、比較的余裕があった自分が半死人の筈のあの女に与えた傷は微々たるものだ。
相性の問題もあるが、やはりあの女の力は底知れない。
このままでは負ける。かといって、逃走手段も限られている。
さて、どうするか。そんなことを考えていた折だ。


「随分と派手にやっていると思えば、あなたでしたかエスデス」
「中々面白いことをしている。どれ、この老兵も混ぜてはくれんかね」


この逆境を覆す転機が訪れたのは。


848 : WILD CHALLENGER(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 17:58:35 Z.9pNKKk0



(さて、どうしたものか)

西へ向かう道中、大規模な爆発音が響いたかと思えば、こんどは荒れ狂う水流と氷塊がぶつかり合う超常現象合戦だ。
何者かがいるに違いないと判断して脚を運んでみたが、状況は最悪といえる。

多くの参加者と敵対し、イェーガーズもまた壊滅したために孤立しつつもその圧倒的力を誇るエスデス。
自分とほとんど同じタイミングで辿りついたとみえる眼帯の男―――能力研究所で出会った喋るステッキの情報が正しければ、殺し合いに乗っているキング・ブラッドレイで間違いないだろう。
もう一人ゲームに乗っている参加者もいる。
更にいえば、その内二人はまず間違いなく話が通じない相手。

家庭用RPGでいえば、必須レベルアップの最中に、その地域に見合わない強さを持つ野良モンスター三体と同時に遭遇してしまう。
そんな在りえるレベルでの最悪な状況だ。運に任せて逃げるを選択するのが最善の策だろう。

(だが、やりようはいくらでもある―――それに、これくらいの困難は無いと面白くはないだろう?)

簡単すぎるRPGなど退屈以外のなにものでもない。多少の刺激があってこそ、楽しみは生まれるものだ。
例え、現状が考えられる中で不幸な部類に含まれていようとも。
例え、UB001なる者から依頼を託されていようとも。
そんなことで、研究者であり開発者でありプレイヤーでもある茅場晶彦の好奇心は揺るがない。
ただ、己の欲求を満たすことだけが彼の行動原理である。
かつて幾千ものプレイヤーを巻き込んでまで、かつて夢見たあの城を追い求めたのも。
こうして、ただの一プレイヤーとしてゲームに臨んでいるのも。
全ては己の飽いてやまない欲求に従っているだけのことだ。
そして、それを達成するためならば―――茅場晶彦は手段を択ばない。


「久しぶりだな、ヒースクリフ」

歩みよってくるヒースクリフに、エスデスは敵対の意を見せずに再会の言葉を交わす。

「時間にして思えばそうでもありませんが、たしかにあなたとは随分長い間会っていないような気もする」
「首輪の方はどうだ。なにか成果はあったのか?」
「残念ながら。そもそも首輪自体が中々手に入らないものでね」

それより、と言葉を切り、ヒースクリフはしゃがみ込み足元に転がるモノの顔を覗きこむ。

「彼女たちの骸...私がいただいてもよろしいですか」
「なんだ、死体愛好者だったのか?それとも人肉主義者か?」
「違いますよ。まどかは共に脱出を志した同志です。その骸はしっかりと弔ってやりたい」
「お前がそんなに義理堅い奴とは思えんがな」
「これでも人並みの情はあると自負しているつもりですけどね。それと、ついでですが」

エスデスに背を向け、ヒースクリフは魏志軍を鋭い目つきで睨みつける。

「彼の相手は私がしても?」
「どうした、やけにやる気があるじゃないか」
「彼は以前、まどかを襲撃している。同志を襲われた借りは必ず返す主義ですので」
「どの口がいうのやら。...コレももう少し使いたかったのだがな。まあいい。死体もあの男も好きにしろ」
「ありがとうございます」

思ったよりも話が通じるんだな、と意外に思うヒースクリフだが、それだけで彼女に抱く印象が全て覆るわけではない。
エスデスはこの殺し合いにおいて厄介な女だという認識は。
だが、とりあえずいまやるべきことはこれだ。


849 : WILD CHALLENGER(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 17:59:35 Z.9pNKKk0


「魏志軍...まどかや承太郎たちからきみの話は聞いている」
「あなたもコンサートホールにいたというのですか...それで、あなたは私をどうするつもりですか」
「一度襲ってきた以上、襲われる覚悟もあるだろう。つまり」

魏志軍が構えをとるのと同時にヒースクリフは駆け、魏志軍との距離をあっという間に詰める。

(速い!)

身にまとった鎧や盾からは考えられない速度で動くヒースクリフを見て、魏の心中に僅かに焦燥が生じる。

(...が、しかし。反応できない速さではない)

突き出される盾を躱し、右腕を振ろうとする。
それを認識したヒースクリフは、なんと魏の右掌に蹴撃を当てることにより魏の動きを制御。
それだけで血をばら撒かれるのを防いだ。
魏は舌打ちをしつつも、飛び退きヒースクリフから距離をとる。

(面倒な敵だ)

ただでさえ高い身体能力に加え、鎧や盾に身を包まれた男だ。
血を浴びせるのは至難の業だろう。
ブラックマリンを使おうにも、エスデスがいる以上ほとんど効果はなさない。
ならば。

魏は、ヒースクリフやエスデスには目も暮れずにこの場からの逃走を試みる。
逃がしてたまるかとでもいうように、彼を追うヒースクリフ。
エスデスと新手の眼帯の男は追ってくる様子はない。
好都合だ、と魏は思う。
今まで逃走用に使用してきたスタングレネードはあとひとつしか残っておらず、タネも割れている以上、使うことは得策ではない。
それに、魏の目的はあくまでも首輪の補充。
エスデスとヒースクリフ。この二人に同時に襲い掛かられては流石に生きて帰ることはできないだろう。
だが、こうして彼一人を誘い込めば、いくらでも対処のしようはある。
思い通りにことが運んでくれたことに、魏は思わず笑みを浮かべる。



(これでいい)

逃げる魏を追いながら、茅場晶彦は思う。
いまの彼のスタンスは、『まどかの敵討ちに燃える男』となっている。
無論、彼女の死体を見てなにも思うことはなかったかといえば嘘になるが、それで敵討ちに燃えるなどという感情がある筈もない。
悪趣味なものだと内心エスデスに引いていた程度である。
エスデスにどこまで勘付かれているかはわからないが、結果として、魏とは一対一に持ち込めたし、エスデスもブラッドレイもこちらを追ってくる気配はない。
二つの不純物を取り払うことで、彼の目的の第一歩へと近づけた。
そのことを実感すると、茅場晶彦もまた思わず笑みを浮かべていた。


(意外と簡単に済んだが、さて、ここからがひとつの正念場だな)


850 : WILD CHALLENGER(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:00:55 Z.9pNKKk0



「追わなくてよかったのかね」

去っていくヒースクリフと魏志軍を手を出さずに見届けていたエスデスに、ブラッドレイは問う。

「ああ。奴は私の知り合いだからな。その意は汲み取ってやるさ」
「知り合い、か」
「あいつは常に腹に一物を抱えているような男だからな。仮に裏切ったとしてもたいして驚かんさ」

それに、と付け加えるように氷の剣の切っ先をブラッドレイに向けて言い放つ。

「魏志軍の奴とももう少し戦いたかったが―――いまの私の興味はお前にある」
「ほう。私のことを知っているのかね?」
「卯月から聞いている。セリューやウェイブたちを圧倒した男だとな」
「卯月...島村卯月、彼女か。それで、きみはどうする?セリューくんたちの無念を晴らすために戦うかね?」
「いいや。奴は確かに貴様に敗北した。だが、殺したのは別の男だ」

もしも、セリュー達がキング・ブラッドレイに殺されたのなら、口上にもそのことを付け加えただろう。
だが、セリューを殺したのはおそらくゾルフ・J・キンブリーであり、彼もまた放送で呼ばれている。
マスタングもここで永遠の眠りにつき、ウェイブも既に離反している。
ならば、もはや口上にすら付け加える必要はない。

「私の愉しみの糧となってもらうぞ、キング・ブラッドレイ」
「取り繕いもしないか。それもまた良し」

エスデスに応じて、ブラッドレイもまた剣を抜き、構えをとる。
エスデスには先に去った二人を追わないかを尋ねたが、ブラッドレイ自身にも当てはまる。
先程、エスデスは来訪者をヒースクリフと呼んでいた。
それは即ち、当面の目的として接触しようとしていた男の名である。
棚からぼた餅とはよく言ったものだが、やはり御坂を置いて来てまで進路を変更した価値はあった。
だが、いまは彼に、戦場から去る者たちに構っている場合ではない。
眼前には、絶対なる強者がいる。
ブラッドレイの欲求を満たすに足る絶対的強者が。
ならば、力を温存する意味もないだろう。
ブラッドレイは、眼帯を外し『最強の眼』を露わにする。


二人の視野外で、水流による破壊音が響き渡るが、両者は意にも介さない。
ただ、眼前の強者と戦いたい。その想いだけが両者を占めている。
そして、幾度かの水流の音が鳴り響くのと同時。

両者は、共に駆け出した。


851 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:02:28 Z.9pNKKk0



(やり辛い相手ですね)

追ってきたヒースクリフの相手をする魏は純粋にそう思う。
水流を操り攻撃をしかけても、その手に持つ盾により全て捌かれてしまう。
かといって右手を流れる血を当てようにも、その身体能力の高さからそう易々とは当たってくれない。
更に言えば、幾らかは当たっているにも関わらず、まるで痛みなど感じさせない動きをし続けているのだ。
そして、なによりやり辛いと思うのは、彼の戦い方だ。
盾で防ぎ、致命的なものは避けて躱す。
ただそれだけしか彼は行わない。
防戦一方、と書けば魏が有利に立ち回れているように思えるが、断じて違う。
彼には余裕が見てとれるし、なにより反撃する気配すらない。
その証拠に、魏が戦いの最中にわざと隙を作っても、そこを突こうとすらしない。
慎重を通り越して臆病にも見えるほど、ヒースクリフは反撃に移ろうとしないのだ。

(私の体力切れを狙っているのか...?)

魏の戦闘は、帝具だけでなく血を流す対価もあるために、他の参加者よりも体力の消耗が早い。
ヒースクリフがそれを知っているのなら、ここまで徹底的に防御に周っている理由も頷ける。
ならば、帝具と能力の使用を控え、いまの持ち物で戦うとしよう。
魏がブラックマリンの使用をやめ、ナイフを構えたその時だ。

「ようやくか。そろそろ頃合いだと思っていたよ」

ヒースクリフが嗤う。
魏は、彼の言葉に殊更に警戒する。
ようやく。頃合い。
その二つのワードが示す答えはひとつ。
ここから、ヒースクリフの反撃が始まるに違いない。
手遅れかもしれないが、ブラックマリンを発動させようとする魏。
そんな彼に、ヒースクリフは。

「降参だ。私に戦う意思はない」

両手を挙げた。


852 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:03:32 Z.9pNKKk0

「な...」
「聞こえなかったかい?私はきみと戦うつもりはないんだよ」

魏は思わず驚きで固まってしまった。
この男、ヒースクリフは自らに余裕があるにも関わらず、降参するというのだ。
合理的に考えずとも、その行為は明らかに不自然であり、なにか罠を張っているにしても露骨すぎる。
なにか目的があるのかと勘繰るのがごく普通の反応だ。

「降参、ということはつまり、あなたについている首輪をよこす、ということで構いませんね?」
「それは困る。私もまだ死にたくはないんでね」
「ならば、命乞いでもするつもりですか」
「それも違う。それは、きみもよくわかっているはずだ」

ヒースクリフの言動に、ますます魏は困惑の色を浮かべる。
自殺願望があるわけではなく、かといって追い詰められての命乞いに走るわけでもない。
ならばなにが言いたいのだ。
それを魏が口にする前に、ヒースクリフは回答を提示した。

「私はきみの追い求めるものを知っている―――どうかな、私と取引をしてみないか?」


853 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:05:09 Z.9pNKKk0



キング・ブラッドレイの強さはその鍛え上げられた身体能力と経験にある。
如何に『最強の眼』を持ってしても、それだけでは弾丸飛び交う戦場を生き残ることはできない。
銃弾を認識してから避けられる反射神経と認識の理解力が必要だ。
一度に複数の敵に切りかかられても捌ききれる剣術が必要だ。
如何なる攻撃においても決して致命傷を受けない結果が必要だ。
例え最強の眼が無くとも、その強さは圧倒的と言っても過言ではないだろう。

さて、そんなキング・ブラッドレイの相手は帝国最強の肩書きを持つエスデスだが、その戦況は。


「素晴らしいぞ、キング・ブラッドレイ!この私と斬り結べる奴など数えるほどしかいないぞ!」
「......」


拮抗していた。

剣は暴風のように振るわれ、留まることを知らない。他の侵入を許さない。
ただ、剣同士が打ちあう無機質な音が響き渡るだけだ。


片や、それなりに戦闘の痕は残しつつも未だに致命傷を負っていないキング・ブラッドレイ。
片や、マスタングの命がけの錬成により重傷を負っているエスデス。
どちらが有利かは火を見るより明らかだ。
だが、現実にはこうして互角に剣を打ち合わせている。

理由の一つとして、エスデス自身の精神がある。
エスデスの強さは、帝具の強さではなく彼女自身の強さである。
例え、帝具を持っていなくとも、帝国最強の座は揺るがず、反乱軍やナイトレイドにとってはやはり最大の壁として立ち塞がっていただろう。
そんな彼女が、死にかけであるにも関わらずブラッドレイと互角に戦えているのは、これ以上ない高揚感故にだろう。
エスデスは生まれついての狩人であり強者だ。
こと戦においては、軍での集団戦はもちろん、個人の戦いでも未だ無敗。
敗北していればこうして生きてはいない。
そんな自分と、小細工も無しにまともに斬りあえる存在と初めて出会えたのだ。
足立透が憎しみによりその身に刻まれた痛みを忘れていたように、エスデスもまた高揚感により分泌されたアドレナリンで、肉体に刻まれた痛みを忘れていた。
故に、いまに限ってはブラッドレイに追いすがれる動きが出来ている。


854 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:06:13 Z.9pNKKk0

―――だが、それでも拮抗は長く続かない。



打ち合う数が百を超えたあたりだろうか。
エスデスの氷の剣は折れ、ブラッドレイの右手のデスガンの刺剣が彼女自身を貫かんと突き出される。
エスデスはそれをしゃがみ込み回避。氷で固めた拳をお見舞いしようとブラッドレイの腹部へと放つ。
が、しかし。
ブラッドレイは左腕のカゲミツの柄でそれを受け止める。
次いで再び振るわれるデスガンの刺剣は、後方への跳躍によって躱される。
エスデスの頬に一筋の線が入り、髪が数本抜けるだけに留まった。

(チッ、やはり即席の剣では耐久力がないな)

いくらエスデスの氷でできたものとはいえ、やはり普通の刀剣に比べれば心もとない。
普段から使用している剣、せめて普通の刀剣があればよかったのだが。

「どうした。先程の彼に使っていた力は私には見せてくれんのかね」

だが、無い物をねだったところで仕方ない。
肝心な時に欲しいものが無いことなど、戦ではザラにある。
いまあるもので愉しむまでだ。

「いいだろう。望み通りとくと味わえ。この私の、エスデスの全ての力をな!」

エスデスが地面に手をつけ、吼える。
殺意を持って繰り出される氷のつぶてが、氷柱が、絶え間なくブラッドレイに襲い掛かる。


855 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:07:09 Z.9pNKKk0


ブラッドレイは、襲いくる氷を払い、躱しながら思う。
そもそもここに足を運ぶ原因となった爆発は誰のものか。
エスデスはこの通り氷を操り、彼女と交戦していた男は水流を操っていた。
どちらも爆発など起こせるはずもない。
自分が知る中で、あれほどの爆発が起こせる心当たりは三人。
身体中に武器を仕込んでいるセリュー・ユビキタス。
紅蓮の錬金術師、爆弾狂ゾルフ・J・キンブリー。
そして、高い火力を持つ焔の錬金術師、ロイ・マスタング。

だが、前者二人は既にこの世を去っており、下手人にはなりえない。
そうなると答えはひとつ。
そのことが彼の心に引っかかり、剣に『揺れ』が生じていた。
それもまた、重傷のエスデスと互角だった所以だろう。

「ひとつ聞かせてくれんかね」

だが、それはまだあくまでも可能性。
支給品による爆発の可能性も充分ありえる。
可能性が事実へと変わるまで、彼の戦いは【お父様】のためにある。
彼の剣の『揺れ』を収めるには―――真実を知るしかない。

「きみにそれほどの深手を負わせただろう爆発―――誰の仕業かね?」





「ロイ・マスタングだ。貴様も戦っただろう?」


856 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:09:28 Z.9pNKKk0


ブラッドレイの世界が止まる。


ロイ・マスタング。

人柱候補の一人であり、【お父様】の計画には欠かせない存在だった。
故に、ブラッドレイは、幾度も戦闘を繰り広げつつも、彼を保護するスタンスは決して変えなかった。
彼とエドワード・エルリック、そして己の兄であるプライドやエンヴィーと共に帰還するつもりだった。
だが、それももはや水泡に帰した。
長兄であるプライドは滅び、ロイ・マスタングも消えた。
エドワードはともかく、エンヴィーもどうなっているかはわからない。
【お父様】の計画は―――おそらく、自分が生きている内に完遂することはなくなっただろう。
そのことを理解した彼の剣は―――



「...?」

ブラッドレイの剣の衰えに疑問を抱くエスデス。
マスタングが死んだことを告げた途端、明らかに彼の剣に変化が起きたのだ。
速さも、力強さも、しなやかさも。
全てが、彼の剣からは損なっていた。

「どうした。奴はお前の親しい仲だったのか?」

声をかけてみても、それは戻らず。
彼は、最低限の動きで迫りくる氷に対処するだけだ。

(まさかマスタングの死がそこまで影響するとはな)

セリューやマスタングのように怒りや恨みを力に変えるのならよかったが、ブラッドレイは違う。
マスタングの死により、戦意を喪失してしまっている―――少なくとも、エスデスにはそう見える。

「呆気ない幕切れだが、まあそれも仕方ない。だが、私と互角に戦えたんだ―――敬意をもってその命、刈らせてもらおう」

片腕を掲げ、冷気を集めて巨大な氷塊をつくる。
ウェイブとサリアに放ったものと同じ技だ。
これを作っている最中に攻撃を仕掛けてくると思ったが、その気配も無し。
あっという間に氷塊は模られ、巨大な氷の隕石と化す。

「精々、華々しく散ってくれよ、キング・ブラッドレイ――――!!」


エスデスの腕が振り下ろされ、巨大な氷の隕石が、ブラッドレイに襲い掛かる。
その質、生身で受ければ如何なる生物の生存も許さないだろう。
そして、それは彼も例外ではない。
迫りくる絶対の死を目前にして、キング・ブラッドレイは。




―――まるで赤子のように微笑んだ。


857 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:12:54 Z.9pNKKk0



キング・ブラッドレイ。

元の親の名は知らず、己の本当の名すら知らず。
物心ついた時には白衣を身に纏う者たちに監視されて生きてきた。
『大総統候補』。それが彼の名の代わりであり、他の大勢いた『大総統候補』たちの内の一人に過ぎなかった。
彼は、そんな『大総統候補』たちと共に様々な教育を受けさせられた。
剣術・銃術・軍隊格闘。あるいは帝王学・人間学...
自分が国を動かす人物になる。そう信じこまされ、どんな辛い訓練だろうと耐えてみせた。
生身の人間が注入されれば、身体も精神も破壊してしまう賢者の石。
それにすら打ち勝ち生き残ってみせた。
だが、その果てに掴んだものはひとつだけ。
『大総統の座』も『部下』も『力』も『息子』も、そして『己の名前』すらも。
ただひとつ、『妻』以外は全て与えられたものだ。
来たる『約束の日』のために。【お父様】の計画のために。

彼の人生は、彼のものではなかった。

そんな彼でも、最後の最後に、己のための戦いを満喫し、妻に遺す言葉も無く朽ち果てる。
それが正史における彼の人生だった。


だが、この殺し合いにおいて彼は転機を迎える。


正史において繰り広げた、グリードの回収やリン・ヤオたちとの戦い。
それらは全て任務の範疇だったが故に、彼の本能を抑えることができた。
だが、このバトルロワイアルにおいての戦闘は違う。
美遊・エーデルフェルト、渋谷凛、御坂美琴、セリュー・ユビキタス、ウェイブ、アカメ、泉新一、雪ノ下雪乃、イリヤ・スフィール・フォン・アインツベルン...
正史では有り得なかった強敵たちとの戦いは、容赦なく彼の本能を刺激し、昂らせていった。

そして極め付けが、目的の損失。

長兄プライドは死んだ。人柱候補のマスタングは死んだ。
もはや、彼のこれまでの人生は無意味になったと言えるだろう。
そして、仮にエドワード・エルリックとエンヴィーを連れて帰還できたとしても。
マスタングに代わる人柱候補など易々と見つかるわけがない。
そして、兄弟たちや【お父様】のような不老の肉体を持つわけでもない彼の人生は、余生も用意された椅子に腰を落ち着け、一時もレールから外れることを許さずに終えるだろう。
ならば、彼がここで生き残ることは無意味か?


―――否。


剣を構え、迫りくる死へと直面する。

嗚呼、なんということだろうか。
使命から解放されるとは、こうも心地よいものなのか。


用意された人生が終焉を告げたのなら、それは新たな人生への第一歩だ。
もはや【お父様】や白服の科学者たちは見向きもしないだろう。
結構だ。ここから先は誰の干渉も不要。
これまでの人生が水泡に帰したのなら。果たすべき役割が失われたなら。
ここから先は、誰にも縛られず、誰の干渉も受けず。全て己のために戦い、己で考え、己で決めた道を歩もう。



迫りくる死への脅威へと向かう足は、不思議と軽かった。



さあ、行こう。私の新たな人生よ。


858 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:14:11 Z.9pNKKk0






男は走る。

放たれた氷の隕石を正面から切り裂き、両断していく。

その勢いを殺さず、ただただ、一筋の光となって。

エスデスはその様を、己の全力を込めた一撃を両断されていく様を見ていることしかできなかった。

その鋭さに。

力強さに。

しなやかさに。

美しさに。


―――神の如く洗練された剣術の頂点に、ただ見惚れていた。


そして。


サクリ、と。


そんな音すらも置き去りにして。


彼女が我に返った時には、既に己の腕が宙を舞っていた。


859 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:15:58 Z.9pNKKk0




エスデスの左腕が舞う。
無意識下の生存本能が、エスデスの身体を後退させ、その死を回避した。
その代償が、それでも間に合わなかった左腕。
肘から先は、血すら遅れて流れるほど鮮やかに肉も骨も切断された。

だが、ブラッドレイの攻撃はまだ終わらない。
両手の剣が、今度こそエスデスの命を刈り取るためにこれでもかというほどに振るわれる。
いまのエスデスにそれと打ち合うことはできない。
必死に避けつつ氷の壁を張ろうとするが間に合わない。
剣が振るわれる度にエスデスの皮膚は裂け、血が滲み出る。

このままでは刈り取られるのは時間の問題だ。
どう対処すべきかを考えているその隙を突き、ブラッドレイの膝蹴りがエスデスの鳩尾をとらえる。
よろめき後退するエスデスへと追撃の剣を振るうブラッドレイ。
彼女の背後には奈落があるが関係ない。

数瞬の後に、彼女が落ちる前にその首を刎ねる。
もはやキング・ブラッドレイの勝利は確実だ。


860 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:17:32 Z.9pNKKk0

―――だが、イレギュラーというものはいつ如何なる時にも存在する。

戦場の武神すら魅了してしまうほどの一閃。
戦いに身をおくものであるほど心を奪われる一種の芸術ですらあるそれを見ても尚、最善の手を打てる男が一人。
戦いそのものには執着を抱かず、いついかなる状況でも合理的な判断を下すことができる『契約者』。
それこそが、魏志軍。
いまのブラッドレイにとってのイレギュラー。

彼は息を潜めて待っていた。
エスデスとキング・ブラッドレイ。
二人の猛者を同時に葬れるこの機会を。

そして、ブラッドレイが氷塊を切裂いた時には既にブラックマリンを発動していた。
ブラッドレイがエスデスを崖際に追い詰め、魏の存在に気が付いた時にはもう遅い。
地面から噴出した小さな津波が二人をのみこんだ。


(やったか...?)

魏が水流で直接殺そうとせず、押し流す形にしたのは、キング・ブラッドレイの眼を考えてのことだ。
点で攻撃すれば、おそらく見切られてしまうだろう。
ならば、面で攻撃すれば避けることはできまい。
こちらに背を向けているのだから、エスデスの氷塊を斬ったようなバカげた真似もできないはず。
念のために用心しつつ近づき、血をかけられる準備をする、
ただ、誤算があるとすれば。

「ッ!?」

魏はブラッドレイの力を全て見ていた訳ではない。
そのため、彼の反応速度を甘く見積もってしまった魏に、あの数瞬で、不意打ちに反応し振り返り津波を切裂くなどという在りえない事態を予測できるはずもない。
エスデスの氷塊に比べれば、魏の起こした津波などまさしく紙細工。
それでブラッドレイの足を止めようなど片腹痛い。
突き出されたデスガンの剣は魏の脇腹を裂き、そして。


―――例え神のごとき目を持っていようとも、見えないところからの攻撃は防ぎようがあるまい


ふと、先刻のアカメたちとの戦闘が思い浮かぶ。
経験則といえば聞こえはいいが、これはただの直感だ。
このまま踏み込むのは危険だと。

そして、その予感は的中していて。


861 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:18:59 Z.9pNKKk0

ブラッドレイの眼前から、突如にして魏の姿が消える。
同時に。
突き出される剣が一振り。
それは、ブラッドレイの左目へと正確に突き出され―――

「悪いがそれは二度目だ。同じ手はくわんよ」

神聖十字剣、ヒースクリフの剣の腹を左手で弾く。
驚くヒースクリフを余所に、ブラッドレイの剣は彼の脳天を貫いた。


はずなのだが、妙だ。
手応えがまるでない。

「残念。私の身体は少々特殊でね」

たったいま、脳天を貫かれて絶命したはずのヒースクリフが薄ら笑いを浮かべる。
思えば、頭を貫いたというのに、血の一滴すら出ていない。
ホムンクルスですらそんなことはありえないという事実に、さしものブラッドレイも驚きほんの一瞬だけ動きを止める。
そして、その一瞬の隙に、ブラッドレイの脇腹に赤いなにかが付着する。

パチン。

指が鳴らされるのと同時、ミギーに斬りつけられた箇所と同じ場所が削り取られる。
ブラッドレイは苦痛に顔を歪め、僅かながらに身を捩る。
その隙を付き、神聖剣十字盾がブラッドレイの腹部を強打し、魏はその背後からナイフを投擲し、追撃。
ブラッドレイは吹きとばされながらも、ナイフを弾きダメージを減らす。

「おっと。これもお忘れなく」

弾いたナイフに括り付けれていたのは、ビリヤードの球。
球が割れ、飛び出す小さな水流をブラッドレイが躱す術はない。
水流は針となってブラッドレイの左目を傷付ける。
そして、吹きとばされ抵抗できなくなったブラッドレイは―――今度こそ、奈落へと落ちた。


ようやく戦場は静寂に包まれた。
やったのか、という視線を送る魏に対して、ヒースクリフは首を横に振る。

「アカメたちも一度は落としたらしいが、ご覧の通りだ。なにかしら奴特有の復帰方法があると見て間違いないだろう」
「...なるほど。生死の確認をしようと顔を覗かせれば」
「あっという間に殺される危険性が高い。ここは素直に退散するとしよう」


862 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:20:30 Z.9pNKKk0




「ふむ」

数分後、誰もいなくなった戦場に一人佇むのは、キング・ブラッドレイただ一人。
彼は、前回落とされたのと同じ方法で奈落より復帰した。

「覗きに来るほど迂闊ではなかったか」

もしも、魏たちが生死の確認のために顔を覗かせていようものなら、彼は躊躇わずその顔面を貫いていただろう。

「身体はまだ動く。武器もまだ使える。左目は...しばらく使い物にはならなさそうだ」

先程の攻防にて。
魏の奇襲によって、ブラッドレイの左目は潰された。
完全に使用不可能という訳ではなさそうだが、回復するまでには時間がかかりそうだ。
目が回復するのが先か。自分が全てを討ち取るのが先か。それとも、この身が滅びるのが先か。
もうどのような結果になろうと構わない。
己の欲望のままに力を振るうエスデスとの戦いで奮起されたあの感覚は。
魏たちやアカメたちとの戦いで受けた痛みと共に思い出したあの感覚は。
どうやっても忘れることはできそうにない。


『お前まで生きているとなると広川の存在に疑問を抱くな。まるでお父様とやらも生きているように感じてしまう』

『お前もセリムもお父様もエンヴィーも……グリードも全員死んだ。 記憶を操作されているのかもしれんがお前程の男が広川に洗脳されるとは思わん。 私を騙すつもりかもしれないが、その程度で欺けると思われているとは元部下として心外だ』


ふと、マスタングの言葉を思い出す。

あの時は確証が持てなかったが、今は違う。
図書館の書物に、あのヒースクリフの身体...間違いなく、自分が生きた時代の技術とは別のものだ。
彼の言葉が真実であるならば、正しい未来において自分はもちろん、他のホムンクルスや【お父様】も敗北したということだ。

(だが、この殺し合いにおいては正しい未来など関係ない。ただ、己の道を切り開けた者だけが残っていく)

ただ己のためだけに戦い、勝利した者だけが生き残っていく。
改めて考えれば、なんとも自分に相応しい催しではないか。

効率よく、などとまどろっこしいことはもう止めだ。
己の気が向くままに、ただ己の為に戦いたい。
それを邪魔するのならば、例え誰であろうと斬って捨てる。

プライドとマスタングを失い、ほとんどの枷が外れたブラッドレイの本能を止めることは誰にもできない。
強いて言うならば、最後の枷となっているのは、人柱となる予定であったあの少年。エドワード・エルリックの存在だ。

「果たして、きみと私が直接戦ったのかどうかは知らんが、本来ならば私は死に、きみが生き残るはずだったのだろう」

ならば、これはひとつのケジメだ。
自分を縛り付けてきた過去への、与えられ続けただけの人生への別れの儀式だ。
彼に引導を渡し、過去の自分と、在りえたはずの正しい未来の自分とケリを着ける。


『大総統』の座から降り、ただ一匹の獣となるために、彼はその歩みを進めた。


(私が敗北し、エドワードくんが生き残るのが運命というならば...運命―――これほど戦い甲斐のある相手もおるまい)


863 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:21:15 Z.9pNKKk0


【D-6/一日目/夜中】

【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、出血(中)、腕に刺傷(処置済)、両腕に火傷(処置済)、腹部より出血(中)、左目にダメージ(中)
[装備]:デスガンの刺剣(先端数センチ欠損)、カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[道具]:新聞、ニュージェネレーションズ写真集、茅場明彦著『バーチャルリアリティシステム理論』(全て図書館で調達)
[思考]
基本:とにかく楽しめる戦いをしたい。
0:何者にも縛られず、己のためだけに戦い続ける。なんとも心地よいものか。
1:北に向かい、最後の枷(エドワード)に決着を着ける。
2:御坂との休戦を破棄する。一刻も早く強者と戦いたい。
3:弱者に興味はない。


[備考]
※未央、タスク、黒子、狡噛、穂乃果と情報を交換しました。
※超能力に興味をいだきました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。
※これまでの戦いを経て、「純粋に戦いたい」「強い者と戦いたい」という感情がむき出しています。
※糸(クローステール)が賢者の石で出来ていることを確認しました。


864 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:24:04 Z.9pNKKk0



茅場晶彦のチャット内容(一部抜粋)

KoB:あなたは私以外の参加者についても事情を把握している。そうですね?

UB001:もちろん。でも、それをあなたに教えるつもりはないよ。

KoB:それくらいのことは弁えていますよ。ただ、あなたと少し世間話がしたくて。

UB001:ふーん。なんでまた?

KoB:せっかくの機会ですからね。色々と聞いてみたいんですよ。

UB001:構わないよ。ただ、あなた自身が既に知っている範囲でしか答えないからね。例えば、『キリトくん自身や、キリトくんが死んだことに対する感想』とかは答えるけど『キリトくんの死因』とかは答えないから、そのつもりで。

KoB:ありがとうございます。では早速。キリトくんについては私がよく知っているので...アヴドゥルさんについてお話しましょう。

UB001:アヴドゥル。あなたとしばらく行動してた人ね。

KoB:彼は、自分が傷つくのは我慢できるが、他者が傷つくのは見ていられないタイプと見た。おそらく、あのエスデスでさえも味方でいる限りは見捨てることはないでしょう

UB001:ああいう根本から善い人、嫌いじゃないよ。普通、会ったばかりの子にあんなことを聞かされて、避けるどころか気を遣おうとするなんて中々できないことだと思うよ

KoB:同感です。私もまどかの話を聞いた時は耳を疑いましたからね。

UB001:へえ、意外。科学者ってこともあるし興味深々なんじゃないかと思ったけど。

KoB:それは否定はしませんね。アバターならいざ知らず、生身であるのに、頭を吹き飛ばされたり、首を吹き飛ばされたりしたにも関わらず生きているなんて人間を越えているとしか思えない。非常に興味深くはありますよ。...おっと、言っておきますが私はグロテスクな趣味があるわけではありませんからね。

UB001:さて、どうだか。

KoB:そういえば、まどかの死因にはあの魏という男も関わっているのでしょうか。承太郎と足立が生き残り、彼女と花京院が死んでいるとなれば研究所での私の推測も

UB001:そういうのは答えられないって言ったでしょ。

KoB:おっと、失敬。...しかし、もしまどかの死因に関わっているとしたら彼とはなるべく遭遇したくはありませんね

UB001:彼、契約者にしては執念深いからね。もしコンサートホールで姿を見られてたら危ないかも。

KoB:それは怖い。なるべく会いたくはないものですね。

(以下略)


865 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:25:05 Z.9pNKKk0




ヒースクリフが魏志軍に持ちかけた取引は、黒の居場所を教える代わりに銀を探すのを手伝ってほしいということ。
偶然にも、互いに探し人と遭遇しており、魏は合理的判断により、交渉に応じることにした。
とは言っても、手を組んで周るわけではなく、あくまでも情報交換で留めるだけのつもりだったが...

「しかしあの二人、邪魔だと思わないか?」
「奇遇ですね。私もそう思っていたところですよ」

キング・ブラッドレイもエスデスも、殺し合いを優勝するにしろ脱出するにしろ、その強さが厄介だ。
特にエスデスはあの重傷の身体を見れば先は長くないことがわかるし、多くの参加者を敵に回し過ぎた。切り捨てるメリットの方が大きいだろう。
ならば、排除できる内には排除しておきたい。
その意見が合致した二人は、一時的に手を組みエスデスたちの排除を試みた。

尤も、エスデスはともかく、ブラッドレイは生きているだろうが...


「どこまで運べばいいかな?」
「この辺りで結構ですよ」

負傷した魏を背負い、闇夜を駆けていたヒースクリフは、魏の要求通りここ、E-5で足を止めた。

「もう一度確認しようか。私は黒くんと出会ったら、きみの伝言を伝える」
「私が銀を見つけたら地獄門まで連れて行く、ですね」

ヒースクリフが小さく頷き、借りたシャンバラを返すと、魏は一足先に闇夜に消える。

「そこまでして彼を追う執念、どこから来るのか聞かせて貰いたいものだ」

ヒースクリフの言葉が聞こえていたのかどうかはわからないが、魏からの返答はなかった。


866 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:26:14 Z.9pNKKk0


「大きな収穫があった」

茅場晶彦はポツリと呟く。
協力者に魏を選んだのは、黒から得た情報と、UB001とのチャットの内容を照らし合わせての判断だった。
黒に敗北した。執念深い性格。
この二つの事実が合わされば、自然と彼の狙いも絞れてくる。
そこで、カマをかけたところ見事にかかり、一時的な協力者とすることができた。
チャットの件に関しては気になる部分も多かったが、いまは置いておく。
魏と一時的に戦闘を繰り広げたのは、エスデスたちの戦場から離れると共に自分の身体について確認するためだ。
キリトの身体は死亡と共に消滅した。つまり、生身ではないということだ。
ならば、自分は?いつもの通り、彼と同じアバターなのか。この表示されているHPバーや保持スキルの通り、やはり自分だけはアバターの身体なのか。
また、HPはどの程度の攻撃を受ければどれほど減るのか。
それを確認するための戦闘だった。
そのため、魏の血にわざと当たったりもした。
結果は予想通り。
魏の血がいくらか身体を削ろうとも、大したダメージにはならない。
つまりは、首輪さえ守っていれば即死に至ることはほとんどない。
そのことがわかっていたからこそ、ブラッドレイの剣を頭で受けるなどという無茶な作戦もこなせたのだ。

(流石に一撃で50%近く削られたのは予想外だったがね。この手は二度は使えまい)

だが、あのブラッドレイに傷を負わせ、左目にもダメージを遺せたのは大きい。
運が良ければエスデスも処分できたというのだから十分すぎる対価だ。...彼女なら生きていても不思議ではないが、それでも片腕の切断とあの重傷では先は長くないと信じたい。



そしてもうひとつ。
エスデスより承ったこの死体。
まどかと、おそらく暁美ほむらの死体だ。
これを手に入れた理由として、万が一エスデスが生きていた時のために、この死体を使ってエスデスの悪評をばら撒く目的もある。
だが、それはあくまでもおまけだ。
本当の目的はその死体に未だ嵌められているモノにある。

(魔法少女はソウルジェムを破壊されなければ死ぬことはない―――だが、まどかはともかく暁美ほむらのソウルジェムはまだ破壊されていない)

ここから先は趣味の領域、銀に出会うことがメインクエストならば、これはサブクエストにしかすぎないものだ。
優先するつもりはないが、できれば手持ちのグリーフシードの有効期限が切れる前に調べておきたい。
なぜソウルジェムが濁り切ると死ぬのか。
それを調べるためにはこの死体はちょうどいい。
誰か知っている者、佐倉杏子か美樹さやかに尋ねるのもよし。
実際にこの死体を調べてみるのもよし。

(サブクエストにもそれなりに報酬があるのは付き物だ。悪いが、もう少し付き合って貰うよふたりとも)

とにもかくにも、落ち着ける場所が必要だ。
南西側を先に周るつもりだったが、銀が南東にいるのなら話は別。
南西の調査は彼女を保護してからでも遅くは無いはずだ。
音ノ木坂学院...黒のやアカメたちの情報が正しければ、味方になる人間がいるはずだ。
まずはそこへと向かおう。
少々距離があるが、この身体ならば大した問題ではない。

己の欲望を満たすため、茅場晶彦の歩みは止まることを知らない。


867 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:27:50 Z.9pNKKk0


【E-5/一日目/夜中】

【魏志軍@DAKER THAN BLACK‐黒の契約者-】
[状態]:強い決意、疲労(中)、黒への屈辱、背中・腹部に一箇所の打撃(処置済み)、右肩に裂傷(処置済み)、右腕に傷(止血済み)、顔に火傷の痕、左肩に裂傷、脇腹に裂傷、銀に対する危機感
[装備]:DIOのナイフ×8@ジョジョの奇妙な冒険SC(魏志軍の支給品)、スタングレネード×1@現実(魏志軍の支給品)、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る(魏志軍の支給品)、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る(セリム・ブラッドレイの支給品)、黒妻綿流の拳銃@とある科学の超電磁砲(星空凛の支給品)
[道具]:基本支給品×3(魏志軍・比企谷八幡・プロデューサー・一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲(比企谷八幡の支給品)、
     暗視双眼鏡@現実(比企谷八幡の支給品)、アーミーナイフ×1@現実(武器庫の武器)、パンの詰め合わせ@現実(プロデューサーの支給品)、
     流星核のペンダント@DAKER THAN BLACK(蘇芳・パブリチェンコの支給品)、参加者の何れかの携帯電話(蘇芳・パブリチェンコの支給品・改良型)、
     うんまい棒@魔法少女まどか☆マギカ(星空凛の支給品)、医療品@現実(カジノの備品)、鎮痛剤の錠剤@現実(カジノの備品)×4、
     ビタミン剤の錠剤@現実×11(カジノの備品)、ビリヤードのキュー@現実×6(カジノの備品)、ダーツの矢@現実×15(カジノの備品)、懐中電灯×1@現実(カジノの備品) ビリヤードの球(細工済み)×7
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する
0:地獄門に向かい、黒を待つ。道中、銀を発見したらなるべく刺激しないように地獄門まで連れて行く
1:BK201(黒)の捜索。見つけ次第殺害する。
2:強力な武器の確保。最悪、他のゲーム賛同者と協力する事も視野に入れる。
3:合理的な判断を怠らず、可能な限り消耗の激しい戦闘は避ける。
4:あのドールは……。
5:あの男(ブラッドレイ)は危険。もっと準備をしなければ。
[備考]
※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。
※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、ヘミソフィアの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。
※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能の無いごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。
※スタンドの存在を参加者だと思っています
※シャンバラの説明書が紛失している為、人を転移させる謎の物体という認識です。
※シャンバラは長距離転移が一日に一度で尚且つランダム。短距離だとエネルギー消耗が激しいですが、通常通りに使用できます。
※ブラックマリン・シャンバラ共に適正を持ち合わせており、特に後者については出典元であるアカメが斬る!での所持者・シュラと同等の高い適正を誇っています。
※シャンバラの大まかな使用用途を理解しました(長距離制限には気付いてない)。
※あらかじめ水源付近(H7北部の河川)にシャンバラでマーキングを行っています。
※ペルソナとスタンドの区別がついていません。
※銀の変貌に勘付いていますが、黒との決着を優先しています。


868 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:28:28 Z.9pNKKk0


【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:HP45%、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン、神聖十字剣@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、まどかとほむらの縫い合わされた死体、グリーフシード(有効期限あり)×2@魔法少女まどか☆マギカ、指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、クマお手製眼鏡@PERSONA4 the Animation、キリトの首輪
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:もっと異能を知りたい。見てみたい。
1:銀と言う少女を探す 。
2:黒とできれば合流したい。また、魏からの伝言『地獄門にて貴様を待つ』を伝える。
3:チャットの件を他の参加者に伝えるかどうか様子を見る。
4:主催者との接触。
5:ロックを解除した可能性のある田村玲子、初春と接触したい。
6:北西の探索を新一達に任せ、自分は南の方から探索を始める。
7:南の花陽やヒルダの方も余裕があれば探す。
8:キリトの首輪も後で調べる。
9:余裕ができ次第ほむらのソウルジェムについて調べる。
[備考]
※参戦時期は1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。
※平行世界の存在を認識しました。
※アインクラッド周辺には深い霧が立ち込めています。
※チャットの詳細な内容は後続の書き手にお任せします。
※デバイスに追加された機能は現在凍結されています。


869 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:29:56 Z.9pNKKk0



パキリ、パキリと氷を踏みしめる音が奈落に響く。

片腕を斬りおとされ、全身をなます切りにされ、水流にのまれ。
それでも彼女は生きていた。
水流にのまれた彼女は、どうにか一部の水を凍らせることにより、ひとまずは脱出。
その後の落下は免れないが、氷を身に纏い浮かせることにより、エスデス自身の落下を防ぐ。
自在に動くことはできないが、壁に手が届くまで移動するだけならば問題はない。
壁に触れて足場を作り、徐々に階段を作り地上まで昇っていく。

「......」

キング・ブラッドレイというこれ以上ない強者と戦えたというのに、彼女の顔は晴れない。

例え、腕を斬られて奈落に落ちようとも、だ。
こうして生きている以上、彼女はまだ敗北していないのではないか?

(そんなわけがあるか。私は、あの男に完膚なきまでに敗北した)

キング・ブラッドレイの得物が名刀の類だった。
エスデスのコンディションはとても万全と言えるものではなかったため、技の威力がウェイブたちの時と比べて格段に落ちていた。
確かにそれらもあるかもしれない。
自分が万全の状態であれば、また違っていたかもしれない。

(そんなものは言い訳だ。奴の太刀筋に惚れた時点で、私の負けなのだ)

実際は、閃光よりは遅かっただろう。反応しようと思えばできる程度の速さだっただろう。
もう一度戦えば、腕を切りとられることなどないだろう。
だが、それでも。それでもだ。
エスデスがその太刀筋に見惚れ、不様に腕を斬られたという事実は決して消えはしない。
彼女の帝具を含めた全ての力を、一刀のもとに伏せられたという敗北の事実は。

(これが敗北、か。あまり味わいたくはないものだ)

最高の敵との戦闘による充足感よりも、いまの彼女を占めているのは悔しさだ。

エスデスは生まれついての狩人であり強者だ。
こと戦においては、軍での集団戦はもちろん、個人の戦いでも未だ無敗だった。
その強さ故に、エスデスは常に追われる者であり、決して誰かの強さを追うことはなかった。
だが、ここで初めて彼女に壁が出来た。
キング・ブラッドレイという最大にして最高の壁が。

同時に、新たな高揚感が湧きあがってくる。
DIOのように自分と同じ『世界』に踏み込んでいるわけでもなく、ただただ純粋に強いあの男を越えたい。勝ちたいという衝動が。

(初めてだぞ、こんな気持ちは。これが挑戦...なんと甘美な響きだろう)

『最強』の座より引きずりおろされた彼女は、今まで以上に強さに飢えるだろう。
ウェイブやマスタングは格上である自分に立ち向かった。
ならば、今度は自分の番だ。あの男を相手に勝利を掴むため―――強くなってみせる。
例え、直に身体に限界が訪れようと、それが戦いを、強さを求めるのを止める理由にはならない。

あの男を超える。
新たな決意を胸に抱き、彼女の顔はようやく笑みを浮かべることができた。


870 : WILD CHALLENGER(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:32:16 Z.9pNKKk0

【D-6/崖/一日目/夜中】

【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(極大)、全身に打撃、高揚感、狂気、左半身焼却(処置済)全身に斬傷(氷で止血済み)、左爪先消滅(止血済み)、左腕切断(氷で止血済み)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3、マスタングの首輪
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:キング・ブラッドレイを超える。そのためにより多くの強者との戦闘を行う。
1:強くなりたい。
2:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
3:タツミに逢いたい。
4:ウェイブを獲物として認め、次は狩る。
5:拷問玩具として足立は飼いたい。
6:アカメ(ナイトレイド)と係わり合いのある連中は拷問して情報を吐かせる。
7:後藤、魏志軍とも機会があれば戦いたい。
8:もう一つ奥の手を開発してみたい。
9:島村卯月には此方から干渉するつもりはない。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アヴドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止められる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。
※平行世界の存在を認識しました。
※奥の手を発動しました。(夜中)


871 : ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 18:32:50 Z.9pNKKk0
投下終了です。


872 : 名無しさん :2016/03/23(水) 20:19:35 kN1IFhIg0
投下乙です。
なんという戦闘狂の宴、エスデスも大総統も傷だらけながら楽しそうで何よりw
そして横から隙あらば面倒なのは仕留めちゃおうという
エルフ耳とヒースクリフの即席知能犯コンビも実にらしい戦い方です。
ともあれメロン最強決定戦?に1つの決着が着き闘争は次の段階へ。
寝てる間に同盟破棄されたビリビリの今後も心配です。


873 : 名無しさん :2016/03/23(水) 21:11:16 coeh8WGQO
投下乙です

たらい回しにされるまどほむの明日はどっちだ


874 : 名無しさん :2016/03/23(水) 21:28:16 9/IhZ.BY0
今のまどほむ仮面ライダーW状態なんだよなあ


875 : 名無しさん :2016/03/23(水) 21:59:00 iKSZZp660
投下乙です

ニーサンと猫の相棒感好きですね…
この話に成された考察がどのように生かされるのか
ニーサンは単騎で不安だがどうなるのか

そしてこっちは激戦だなぁ
描写が素晴らしいお蔭で大総統の剣技に見惚れるエスデス将軍に共感できますね
そんなエスデスさんをヴァニラ戦のポルナレフ状態にしたエルフ耳の株がストップ高です
結果は大総統の勝利でも、エスデスの勝利でも無く、ヒースクリフ一人勝ちな感じになってるのも面白い(彼も消耗してはいますが)
エルフ耳さんと組んでエスデス大総統の二人に挑んだときは成程こう来たかと唸らずにはいられませんでした
そして、大総統にロックオンされたニーサン。死亡フラグ立ちまくりで逃げて超逃げて
非常に読み応えのある話でした


876 : 名無しさん :2016/03/23(水) 22:06:14 WO6t01960
投下乙です

マーダーだらけのお話とあって色々なことが起こったw
マーダー同盟破棄、エスデス左腕トビ、即席知能犯コンビ結成(?)。本当色々あったなぁ
それにしても魏志軍のスタミナとランダム支給品強すぎませんかね?帝具3つ使用(内二つ支給)って・・・
これはさすがにボス補正とか考えても無理があるのでは・・・?
変えるならヒースとエスデスの登場順変えるとかですかね?


877 : 名無しさん :2016/03/23(水) 22:13:37 iKSZZp660
……?
魏が使用したのはシャンバラとブラックマリンだけじゃないですか?
彼に支給されたのもブラックマリンだけで、シャンバラもプロデューサーから奪った物ですし
違っていたらすみません


878 : ◆dKv6nbYMB. :2016/03/23(水) 22:23:59 Z.9pNKKk0
多くの感想ありがとうございます。

>>876
魏の状態表の疲労(中)は私の直し忘れです。
また、シャンバラで魏を移動させたのはヒースクリフのつもりだったんですが、描写不足でした。
修正次第修正SS投下スレに投下します。すいませんでした。

あと、ヒースとエスデスの登場順を変えるというのはどういうことでしょうか?


879 : 名無しさん :2016/03/24(木) 09:15:16 NjXsCTIY0
>>877 大麻リーガーの能力を使ったものだと勘違いしてました・・・

>>878 ヒースクリフが使ったのですね。把握しました。
大麻リーガーの能力を使って指を吹っ飛ばしたと考えてしまいまして
それならエスデス戦を無くしてヒースと合流すればいいんじゃないかと思いまして。
大麻を使ってないので疲労はギリギリ耐えますね。すいませんでした


880 : 名無しさん :2016/03/28(月) 09:01:33 hZklX5Mw0
指摘するのはいいけどちゃんと読んで指摘しなよ


881 : 名無しさん :2016/03/29(火) 01:03:43 B7lIhYuY0
そうだよ(便乗)


882 : 名無しさん :2016/03/29(火) 23:05:50 5u54orcY0
遅くなりましたが投下乙です

優勝候補のDIOが慢心を突かれてまさかの敗北。まあ、どいつもこいつも技量と応用力高いからな
最後は人として果てたセリム。そして、大総統は修羅の道を進みそうだな

しまむーが改心し、大佐が死んだか。結構な波乱となったなあ
そして、このロワのセリューの影響力の大きさをしみじみ思う

新一グループはここまで生き残るとは思わなかった。愛着がわいてくるな
次に波乱が起きそうだが果たしてどうなるか

なるほど、後藤さんは触手路線に走ったか。ついでに食われた佐天さんが憐れ

人を仕舞ったまま移動できるデイバックはホント便利だな。
エドワードは田村さんと別れたか。どのマーダーも説得するのは難しいよなあ

ついにマーダー同士の潰し合いが始まったか。エスデスは狂気
そんな中、対主催のヒースクリフは上手く立ち回っているな


883 : ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:03:55 90wTp4cc0
投下します。


884 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:04:19 90wTp4cc0
エドワード・エルリック、ジョセフ・ジョースター、佐倉杏子、サファイア、マオらとの束の間の情報交換を終えた狡噛慎也とタスク。
2人は彼らと別れたあと、焼け落ちたコンサートホールを探索していた。

コンサートホールの探索を提案したのは、狡噛だった。
狡噛の最大の使命は槙島聖護を殺害することであるが、この場ではそれよりも最も重要なこととして、まず殺し合いからの脱出ということがある。
北部を目指して進んでいる時から、狡噛はコンサートホールのことが気になっていた。
小泉花陽らスクールアイドルと、本田未央らプロのアイドル。この場には2種類のアイドルが呼ばれている。
戦う力を持たない少女であり、どう考えても血みどろの殺し合いには似つかわしくない彼女たち。
歌や踊りを披露する場であるコンサートホールには、彼女たちがここに連れてこられた理由を解く鍵があるはず。
さらには、彼女たちの存在そのものがこの殺し合いそのものを打破する鍵になると考えたのだ。

「何か見つかったか」

「……、いえ」

だが、狡噛の問いかけに、慎重な足どりでコンサートホールから出てきたタスクが力なく首を振る。
ここが焼け落ちたのは第二回放送の以前に遡る。
今では火は全くといっていいほどない。
危険な場所での業務の経験もある狡噛とタスクならば、注意をすれば火傷などを負うことなく中を調べることは可能だった。
だがいかんせん燃え尽きて崩れてしまった後であり、またエリアの半分近くを占める大きさであることもあり、探索は捗らない。


885 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:04:34 90wTp4cc0
……二人は知る由もないが、この時探索が不自由だったことが、逆に彼らには幸運だった。
なぜなら、スタンド能力を持ち、この場では制限が加えられているものの、手にした者の精神を乗っ取る剣、アヌビス神。
花京院に支給されたそれが、瓦礫の中に埋もれていたからだ。
もしももっと詳しく探索していれば、二人のうちどちらかがそれに触れていたかもしれなかった。

(……くそ)

焦りを表出させるように、タスクは首を振る。
コンサートホールでは何も得られず。
エドワードから預かった前川みくの首輪も、解析をしようにもそのための道具すら見つからない。
だが、タスクとて何もできないままではない。
思考を必死で巡らす中で、あることに気付いていた。
この殺し合いの会場に関することだ。
それは、職務として戦闘機を操りって大空を飛び回る彼だから気付けたのかもしれない。
確認した通り、この島は空の高い場所に浮いている。
それだけでも十分すぎるほど異常なことなのだが、本当にそうだとすると妙な点があるのだ。
一つは、風だ。
空の上というのは、地上とは違い山脈などの遮蔽物が全くない。
それゆえに、常に強い気流が渦巻いており、風速は場所によっては100キロを超すことすらある。
二つ目には、温度。
上空というのは、地上よりも気温がぐっと下がる。それは高い場所に行けば行くほど低くなり、マイナス何十度という極寒にもなる。
これらを考えてこの会場を見てみる。
風は、ほとんどそよ風程度の風しか感じられない。気温に至っては極寒どころか心地よいほどだ。
本当にこの島が上空にあるのならば、これはどう考えてもおかしい。


886 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:04:47 90wTp4cc0
では、これらの事実は一体どういうことなのか。
その結論は、出なかった。
平行世界の存在を元から知り、今もこうして「シビュラシステム」なる機構に管理された国家に暮らす平行世界の住人と共に行動しているタスクとしては。
「何らかの理由により、自分たちの今いる場所は物理法則が通用していない」と考えるのが限界だった。
天才的な科学者であるエンブリヲならば、今ごろこの程度の疑問にはとうに答えを出しているかもしれない、と考え、タスクは歯噛みする。


『ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ』


そんなタスクの思考を遮るように、放送が流れてきた。
身構える。
御坂美琴との遭遇以来、強く感じていた悪い予感。
それが本当のものなのか否かを、ついに知ることになる。
隣を行く狡噛慎也も足を止めている。

放送はまず、首輪交換機が修復されたこと、そして禁止エリアを伝えてきた。
首輪は一つ手にあるが、交換機は使うつもりはない。
また、これから向かう先にも禁止エリアはない。

『続いて死亡者だ』

タスクの体が、ドクン、と跳ねあがる。
狡噛も同時に身構える。

『セリュー・ユビキタス』

狡噛が撃ち殺したはずが生きていた女。
マスタングの話では、彼女は正義狂だったらしい。
撃たれてなお執念で生きていたのかもしれない。
結局、その真実を知ることはなかった。


887 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:05:00 90wTp4cc0
『アンジュ』


――その瞬間、タスクの呼吸が止まった。


「タスク!」

がくりと膝をついたタスクに、狡噛が寄り添う。

「大丈夫か」

「……はい」

ふらふらと立ち上るが、その顔は青く、呼吸は荒い。
この殺し合いが始まった時から、すでに覚悟はしていたのかもしれない。
気の強い彼女のことだ。
思惑が渦巻くこの場所で、長生きができるタイプではなかったのかもしれない。
それでも。
いざその名前が告げられたら、そんな覚悟などは何の役にも立たなかった。

アンジュが死んだ。
彼女の笑顔も、怒った顔も、もう見ることはできない。
全てが終わった後、約束していた喫茶店を開くことも、もうない。

「……それでも……」

ゆっくりと前を向く。

「……俺は」


888 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:05:16 90wTp4cc0
今は、立ち止まってはいけない。
行かなければならない。
アンジュだけではない。
同時に名を呼ばれたサリア、モモカ、そしてアレクトラ、自分の両親たち古の民。
この会場で出会ったプロデューサーや光子、ジョセフ。
散っていった、数多くの命たち。
彼らの犠牲を無駄にしてはいけない。
まだ、同士であるヒルダがいる。
ここで膝を折ったら、アンジュと同じくらい気の強い彼女には、殴られるだけでは済まない。
宿敵・エンブリヲは、未だこの会場を跳梁している。
彼を討ち取らない限り、リベルタスは果たされていない。

「行きます!」

気持ちの整理など付けられるはずもない。
ただ使命感だけを胸に、青年は歩き出す。
その姿に、狡噛は何も言わず、黙って後を追った。






889 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:05:42 90wTp4cc0




会話もないまま、前に進む。
狡噛を守り、エンブリヲを討つ。
そのことだけを考える。
そうしていれば、余計なことを考えずに済んだ。
コンサートホールの回りを反時計回りに進み、どれほどの時間がたっただろうか。
気がつけば、日はもうほとんど暮れている。
同時に、自分たちが2つの島をつなぐ橋を渡っていることにも気付く。
ここを渡りきって真直ぐ行けば、目的である潜在犯隔離施設に到着する。
もうすぐ渡り終わるかというところで、――前を行く狡噛の足がふと、止まった。
何か――と言いかけて、はっとする。
橋のたもとに見える、白い人影――。

「やあ、待ちくたびれたよ」







タスクには、分かった。

狡噛の纏う空気が変わったのを感じるまでもない。

美しさを通り越し、恐怖を与えるほど整った顔。

雪と氷が交わったような肌。

間違いなどありえない。
この男こそが――



「お前は、槙島聖護だ……!」



「――お前は狡噛慎也だ」



橋のたもとの電燈だけが三人を照らす中、二人の男は見つめ合う。


890 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:05:55 90wTp4cc0
「――『僕たちは皆、絶壁が見えないように目をさえぎったあと、安心して絶壁のほうへ走っている』」

「――っ!」

「――悪いが、俺は」

槙島の言葉に動揺するタスクをかばうように、狡噛が前に出る。

「誰かがパスカルを引用したら用心すべきだと、かなり前に学んでいる」

「ははは、そう来ると思ってたよ。オルテガだな。
 もしも君がパスカルを引用したら、やっぱり僕も同じ言葉を返しただろう」

「貴様と意見が合ったところで、嬉しくはないな」

そう言いながら、狡噛はタスクへ目を向ける。

「行け。ここは俺に任せろ」

「……でも」

「行くんだ!」

逡巡するタスクを、狡噛は叱咤する。

「お前には、俺なんかよりも大切な人間がいるだろう! それに、」

言葉を切って続ける。

「――それに、これは、俺とあいつだけの問題なんだ……!」

タスクは、はっとして顔を上げる。
狡噛の顔を見、決して譲れない、という意志をその表情に感じ取り――。


891 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:06:12 90wTp4cc0
「くっ!……」

迷いを振り切るように、駆け出す。

「君の部下かい」

その背中をちらりと槙島が見やる。

「部下じゃない。仲間だ」

「へえ、君に仲間なんて言葉は似合わないと思ってたよ」

「何とでも言え。どんな最悪の人間だろうと、味方にするなら貴様よりはマシだ」

橋の上には電燈に照らされる二人の姿だけ。
言葉を交わすたびに、緊張感が膨れ上がっていく。

「あることないこと、随分と触れて回ってくれたようじゃないか。
 君のようないい大人のやることじゃないと思わないのかい」

「ほざいていろ。貴様こそ、悪の伝道師ごっこはもう終わりだ。
 ――この場で殺してやる」

「ふ……刑事の言葉とは思えない」











――この瞬間、対面して分かった。

彼がたとえ御坂美琴やキング・ブラッドレイのような、超常の力を持っていなかったとしても。
狡噛慎也にとって最大の敵、最大の危険人物は、この男なのだ。
狡噛慎也はこの男を殺さずにはいられないし、殺さなければならない。
脳裏で揺らいでいた天秤。
それはどちらに揺らぐこともなく、土台ごと砕け散った。


892 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:06:25 90wTp4cc0


――この瞬間、対面して分かった。

槙島聖護は、狡噛慎也に固執しすぎるつもりはなかった。
やたらと悪評を垂れ流されるのは嫌だ。そんなある種わがままじみた気持ちだった。
だが、その感情は今、はっきりした害意、そして殺意に変化した。
狡噛慎也こそ自分にとって最大の不確定要素――いや、敵だ。



『『この男だけは、自分がこの手で殺す』』



この時二人は全く同じことを思考していて、



当然の帰結として、戦端は開かれた。











「――!」

狡噛が拳銃を構える。
狙うのは、目の前の男の心臓。
躊躇いなどない。
これから行うのは、果たし合いなどではない。
殺し『合い』ですらない。
求めるのは槙島の死のみ。すべきは、一方的な虐殺、屠殺。


893 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:06:39 90wTp4cc0
引き金を引こうとして――それより速く、槙島が何かを懐から投げつけた。
銃口はそれに引きつけられ、その何かが二人の間で破裂する。

(――酒?)

投げられたのは、狡噛にも馴染みのある酒――スピリタスの瓶。
強いアルコールの臭気に、狡噛の意識に僅かな戸惑いが生じる。

それこそが、槙島の狙い。
酒の飛沫に隠れるように、低い体勢で狡噛に肉薄し――

「――セイッ!」

ビシッ、という音の後、リボルバーがくるくると宙を舞う。
それは橋の上、狡噛から数メートルの距離の場所に落ち――槙島はそれとほぼ同時に追撃をかける。

「!」

連打。
狡噛の顔面に拳が浴びせられる。

「く――」

最初の目論見が外れたことで、狡噛の対応は必然的に後手に回る。
腕を目の前に回し、拳打から身を守る。
だが、防げているのは3割ほどか。
起死回生の一撃を――ダメージに耐えながら機会を伺い、遂にパンチを見舞う。


894 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:06:54 90wTp4cc0
「ふ」

だが、それも槙島の予想の範囲内。
回避しながら伸びきった腕を掴み、関節を取って投げる。

「この殺し合いの真実が――知りたくはないのか」

狡噛の体がばしゃりと音を立ててアルコールの水たまりの中に落ちる。
それでも受け身を取って、全身にダメージが及ぶのは何とか避ける。

「そんなもの――後回しでいいんだよ!」

怯まず、槙島へ向かう。
槙島の頭を挟むような形でチョップを見舞い――掴まれる。
お互いが手を掴み合う形になる。
先にバランスを崩したのは狡噛。
槙島はそのまま足払いをかけ、またも投げる。

「――」

橋の際まで転がった狡噛の目に入ったのは、自分めがけて飛びかかろうとする槙島の姿。
――ちょうどいい。
今いる場所の数十センチ先に広がるのは、無限の虚空。
このまま槙島の勢いを利用し、巴投げの要領で――突き落とす。

「!」

体勢を構え――槙島の懐で何かがぎらりと光った。
槙島に格闘を行うつもりは、ない。
このまま刺し殺される――。
そう気づき、墜落を回避しながらぎりぎりのところでナイフを交わし――きれない。
狡噛の体に鋭い痛みが走った。


895 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:07:08 90wTp4cc0
「――ふ」

「ぐ……」

再び数メートルを挟み、両者は向い合う。

(どこをやられた)

槙島から目を離さず、流血の元を探る。
左胸――いや、左腋。
腋下動脈。
がら空きになったそこを、抉られた。
止血している暇は――ない。
ならば。

(……)

懐にある、鞘に入ったその固い感触を確かめる。
マスタングから譲り受けた、火炎の刃。
これを使うしか、道はない。
このまま槙島に肉薄し、密着する。
そして火炎刃を抜き――起爆させる。
幸か不幸か、自分の衣服には多量のスピリタスが付着している。
よく燃えるはずだ。さんざん転がされた甲斐もあったものだろう。

そんなことをすればもちろん、自分は死ぬだろう。
動脈からの出血による失血死を待つまでもない。

命と引き換えに一人の男を殺す。
人はこんな自分を笑うのだろう。
蛮勇。自己犠牲。ヒロイズム。
何とでも呼ぶがいい。
何と言われようと、狡噛慎也は槙島聖護を殺すことを止められない。
それはすでに、正義感とも、かつての同僚のための復讐とも違う。
ただ自分のために。


896 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:07:20 90wTp4cc0
狡噛慎也が狡噛慎也として生き抜き、狡噛慎也として死ぬために。

この身が文字通り、燃え尽きてでも。

狡噛慎也は槙島聖護を、殺す。


――動いたのは、槙島が先だった。
狡噛は、ナイフを振りかざす彼に組み付く構えを取り――


瞬間、その背後の人影に驚愕する。

(タスク!)

アンジュを弔いに走ったはずの彼が、橋のたもとにいた。

「狡噛さん!」

なぜ戻ってきたのかは、タスク自身にも理解できていなかった。
二人の間にどんな因縁があるのかは知らないし、知ることも許されないのだろう。
だが、アンジュに先立たれ、騎士の役目がもはや打ち切られてしまった今。
もう誰にも死んでほしくない。
彼の心中にあるのは、それだけだ。
だから彼は戻ってきた。
そして血を流し追い詰められる狡噛の姿を認識したときには、同時にスペツナズナイフを発射していた。


897 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:07:36 90wTp4cc0


「――ふふ」


だが、イレギュラーな事態に――槙島は、嗤った。


狡噛の体まで、あと1メートルという所で。

槙島の体が、ひらりと回転した。

そして、発射されたナイフは、その射線上のもう一人の人物。


――狡噛慎也の胸に突き刺さった。


「あ……」

タスクの顔が絶望に染まり――
その時にはすでに、槙島は彼との距離を詰めている。
乱れきった思考では対応する構えすら取ることができない。
槙島の手刀が、タスクの首筋に叩きこまれる。

「――がはっ」

タスクがよろめき、その場に倒れ伏す。
立ち上ろうにも、全身をからめとるような痺れがそれを許さない。

「1分間は立ち上がれないだろう」


898 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:08:02 90wTp4cc0
槙島は、狡噛の同行者、タスクがこの場に現れる可能性があることを察知していた。
戦闘が始まる前の短い問答。
そこからは、彼らの間に、信頼関係――と呼ぶに足りるものがあることを見てとった。
それゆえに、青年は執行官の命が失われることを、黙って見ていることはできないだろう。
その予見は結果、的中することとなった。
皮肉にも、狡噛はタスク自身と、彼のアンジュへの想いを信頼し。
――それゆえに、彼の帰還を予測できなかった。

倒れるタスクに一瞥をくれると、槙島は改めて狡噛に向き直る。

「……思っていたより拍子抜けの結末だが、それでも久々に退屈を忘れた。感謝してるよ」

荒い息をつきながら、狡噛は槙島を見る
そしてデイバッグから取り出したものを見て、驚愕に目が見開かれる。

なぜだ。
なぜおまえがそんなモノを持っている。

「猟犬がこれで逝くというのも、皮肉なものだろう」

執行官、そしてシビュラシステムそのものの象徴。
限られた人間にしか扱えないはずのそれを、なぜよりにもよってこの男が。


899 : 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:08:17 90wTp4cc0
『犯罪係数――』

そんな疑問に答えなど出るはずはないし、そもそも疑問に意味などない。
もっとも胸にナイフを食らい、即死していないのが奇跡だ。
最後の意識の中で、狡噛は歯噛みする。

ここまでなのか。
槙島をこの手で殺すことはできず、自分は死んでいく。
自分を助けに来たタスクも、次に殺される。
この男ははこれから先もこの殺し合いの場に、そして自分たちの世界に、悪意と混乱の波紋を広げ続けるのだろう。
自分が逝き、もはや槙島を止められる者はいなくなる。

もう時間がない。
ドミネーターにエネルギーが集まっていくのを感じる。
慣れた感触だ。
葬ってきた潜在犯たちの顔が次々に浮かんでくる。
彼らと同じように全身をぶちまけ、自分も死ぬ。
きっと間もなく全身を襲うのであろう膨張感を予期しながら、狡噛は目を閉じた。

























「――葬る」


900 : 望まれないもの(後編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:08:47 90wTp4cc0
闇夜に、白刃が閃いた。


それは橋のたもとから放たれ。


「――っ!」


一直線に、槙島の胴体を貫いた。


「が……ぐ、は……」

ドミネーターのエネルギーが虚空を貫く。
ダンスをするかのように槙島の体が回転し、やがて橋に蹲った。

同時に、刀を投げた主であるアカメと、同行者である雪ノ下雪乃、泉新一が橋に駆けてくる。


――アカメに、槙島聖護を殺すことへのためらいはなかった。
ただ、一人の青年が倒れ伏し、その向こうでは槙島聖護が、図書館で情報交換した狡噛慎也に奇妙な銃を向けている。
その光景を目にしたとき、ほとんど反射的に手にした刀を投げていた。
新一も雪乃もすでに行動を重ね、アカメという少女の思考がどんなものかを理解しあっている。
そんなアカメを止められないし、止めなどしない。


901 : 望まれないもの(後編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:09:04 90wTp4cc0


「狡噛!」

「狡噛さん!」

口口に叫びながら、少年少女たちが橋に駆けよってくる。
雪乃がタスクを助け起こそうとする。
新一は狡噛のそばに走る。
そしてアカメは動かない槙島にとどめを刺さんと、体を貫く剣を引き抜きにかかる。

『コウガミ!』

「狡噛さん……」

胸に突き刺さったナイフを見て、新一とミギーが絶句する。
どう見ても助かるはずのない傷。
死んでいないのが不思議なほどだ。

「……めろ……」

そんな状態にありながらも、狡噛は何事かを呟いていた。
聞き取ろうと、新一が口元に耳を寄せる。



この時、狡噛慎也だけが槙島聖護を見ていた。
歴戦の暗殺者であるアカメですら、すでにけりは付いたと考えている。
執念。
それゆえに、今まさに自分が死のうとし、敵もまた乱入者によって瀕死に追い込まれようとも。
狡噛慎也は槙島聖護から目を離していない。


902 : 望まれないもの(後編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:09:21 90wTp4cc0



「槙島を止めろ!」



「え――?」

新一が振り向いた時には、もう遅かった。

体を貫かれ、橋に蹲る槙島。
だが、その手は狡噛が最初に取り落とした拳銃を拾い上げ、
――そしてコート越しに、真後ろにいるアカメを一直線に狙っていた。


「――!!!」


意図に気付いたアカメが、全力で回避せんと横に跳ぶ。
ミギーが触手を伸ばし妨害しようとする。
雪乃ですら体を投げ出す。


その誰よりも早く――弾丸は発射された。










「こんど、は、させなかった、ぞ……」

静寂の中に、ビインというかすかな音だけが反響する。
倒れたままのタスクが発射した2本目のスペツナズナイフ。
それは弾丸の発射と同時に、槙島の体に突き刺さり――。
結果、銃弾は、再び虚空を貫いた。


903 : 望まれないもの(後編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:09:37 90wTp4cc0


「――は、は」


蹲ったままの槙島が、疲れたようにため息をつく。

「どうやら、僕の負けのようだ……執行官」

最後の力を振り絞るように、立ち上がる、
凄絶な姿に、その場の全員が息を呑む。

「……何て言ったら、いいのかしらね」

雪乃がぽつりと呟く。

「雪ノ下、だったね。先ほども会った……。
 ……せいぜい、敗北者として、覚えておくといいさ」

ふらふらと、橋の際へと向かっていく。

「もっと見ていたかった、が、致し方、あるまい……。
 ゲームの幕引きは、自分自身ですることにしよう――」

その行動の意味気付いたアカメが、雪乃が駆け寄り、ミギーが触手を伸ばす。
だがその誰よりも速く――槙島聖護は、橋から中空へと身を躍らせた。


904 : 望まれないもの(後編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:09:54 90wTp4cc0
落ちる直前、狡噛が自分に向けて手を伸ばしていたのを、目に焼き付けながら――。





















(なぜだろう……)


落ちていく中、槙島聖護の脳裏にあったのは、狡噛慎也のことではなく。
自分を剣で貫いた少女のことだった。

あの時、自分の正面の射線上には、狡噛慎也が入っていた。
つまり、狡噛を殺そうと思えば殺せた。

だが――槙島はそれをしなかった。
銃口は狡噛ではなく、アカメに向けられた。
その理由が、槙島にはどうしても分らなかった。

ただあの時、自分はタスクが乱入してきたときにわずかに感じた苛立ちを、更に強く感じていたのだ。

その意味とは、つまるところ。

――邪魔を、された。

自分と狡噛慎也の殺し合いを、決闘を、侮辱された。

そう感じたということではないのか。



『ぬきな!どっちが素早いか、試してみようぜ』



いつか見た気がする、前世紀の映画のワンシーンが頭をよぎり――

(馬鹿な)

すぐさま打ち消す。



(くだらない幻想、だな)



――しかしその幻想は、最後まで壊れることはなかった。













905 : 望まれないもの(後編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:10:06 90wTp4cc0










「まきし、ま……」

身を投げた槙島にしばらく呆然としていた面々が、狡噛の絞り出すような声で我に返る。

「や、つ、は……」

「今、身を投げた――死ぬな!」

新一が、雪乃が、アカメが、自分に駆け寄ってくる。
だが、視界がかすむ。
もう彼らに声をかけることすらできない。
声を出そうとしても、声にならない。

「狡噛さん……こう、がみ、さん……っ!」

タスクが、自分にすがりついて、泣いていた。
なぜ、自分などにそんなに気をかける必要があるのだろう。
お互いに会って一日すらたっていない、行きずりの、仮そめの仲間にすぎないのに。

――だが、悪くはなかった。
遠くなっていく意識の中、狡噛慎也は不思議と温かな感触を覚えていた。

(……そうか)

執行官になって以来、忘れていた感触だった。
これが、孤独ではないということだったのだろう。


906 : 望まれないもの(後編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:10:21 90wTp4cc0
この場での死人は、自分一人だけに留めることができた。
執行官一人の命。
シビュラシステム開闢以来最悪の犯罪者を葬る代償としては、安すぎるほどのものだろう。
おまけに、自分を思ってくれる人間に、見守られてすらいる。
社会のつまはじき者としては、上等すぎる死にざまだった。

奇妙な安らぎに、目を閉じようとして、





(槙、島……)


それでも、「この手で殺せなかった」という思いを捨てられなかった自分は、愚かなのだろうか。




















二人は、初めて出会う以前から、ああなる運命だったんだろう。

すれ違っていたわけでもない。分り合えなかったわけでもない。

彼らは誰よりもお互いを理解し、相手のことだけを見つめていた。



だが、その運命を捻じ曲げられた中、二人は知らず、それに抗い――










【槙島聖護@PSYCHO PASS-サイコパス- 死亡】
【狡噛慎也@PSYCHO PASS-サイコパス- 死亡】

【残り30人】


907 : 望まれないもの(後編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:10:39 90wTp4cc0




【E-2/橋上/一日目/夜中】

【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(大)、頭部出血(中、止血済)、頬に掠り傷、全身にかすり傷、奥歯一本紛失、顔面に打撲痕
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
[思考]
基本:悪を斬る。
0:狡噛……
1:北西の方に向かいロックを探索したいが……
2:タツミとの合流を目指す。
3:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
4:村雨を取り戻したい。
5:血を飛ばす男(魏志軍)と御坂と足立は次こそ必ず葬る。
6:エスデスを警戒。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が学園都市に属する能力者と知りました。
※ディバックが燃失しました
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。


【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(大)、出血(止血済み)、横腹に刺し傷、ミギーにダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム品0〜1 消火器@現実、分厚い辞書@現地調達品、
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
0:狡噛……槙島……
1:北西の方に向かいロックを探索したいが……
2:後藤、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂美琴らしい?)エスデスを警戒。
3:ホムンクルスを警戒。
4:サリア……。
5:イリヤって確か、雪ノ下達が会った……。
6:余裕ができたら指輪やロボットも探してみる。
7:黒って人とも合流した方が良いのか……。
[備考]
※参戦時期はアニメ第21話の直後。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※ミギーの目が覚めました。


908 : 望まれないもの(後編) ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:11:50 90wTp4cc0
【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大) 、腹部に切り傷(中、処置済み)
[装備]:MPS AA‐12(残弾4/8、予備弾倉 5/5)@寄生獣 セイの格率
[道具]:基本支給品、医療品(包帯、痛み止め)、ランダム品0〜1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
0:狡噛さん……
1:北西部へと向かう。
2:比企谷君……由比ヶ浜さん……戸塚くん……
3:イリヤが心配。
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※槙島と情報交換しました。


【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大) 、アンジュと狡噛の死のショック(超絶大)、狡噛の死に対する自責の念(超絶大)、後悔(超絶大)
[装備]:刃の予備@マスタング製
[道具]:基本支給品、前川みくの首輪
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:狡噛さん……っ!
1:アンジュを探し、弔いたい。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:ブラッドレイと遭遇した時は穏便に済ませられないか交渉してみる。
5:御坂美琴、DIOを警戒。
6:エドワードから預かった首輪を解析したい。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。
※マスタングと情報交換しました。
※不調で股間ダイブをアンジュ以外にするかもしれません。
※エドワード、杏子、ジョセフ、猫(マオ)、サファイアと軽く情報交換しました。



※槙島聖護のデイバッグと支給品一式、リボルバー式拳銃@PSYCHO PASS‐サイコパス‐、サラ子の刀@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞は槙島とともに奈落に落下しました。
※サリアのナイフ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、ドミネーター@PSYCHO PASS-サイコパス-(電池切れ)が4人の周辺に落ちています。


909 : ◆MoMtB45b5k :2016/04/02(土) 02:12:22 90wTp4cc0
投下を終了します。期限超過失礼いたしました。
指摘等あればどうぞよろしくお願いいたします。


910 : 名無しさん :2016/04/02(土) 06:00:20 7r4eUUH20
投下乙です

サイコパス勢全滅か
アンジュも狡噛さんも失ったタスクが不安だ…


911 : 名無しさん :2016/04/02(土) 07:16:53 Hfew.N2s0
投下乙です

狡噛さんを殺すのは、やはりこの男だったか
逆もまたしかり
力作乙でした


912 : 名無しさん :2016/04/02(土) 14:15:26 Xl0PDoL.O
投下乙です

タスクの心が心配だが、二人っきりの決着から、看取られる最期に変わった狡噛は救われたと思いたい


913 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/03(日) 01:02:26 6WxIcR3U0
投下します


914 : 白交じりて、禍津は目覚める ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/03(日) 01:03:36 6WxIcR3U0
結局、黒は学園に引き返す道を選んだ。
理由としては先ず、黒子が一般人の穂乃果を連れ無闇に移動はしないということ。
居座り続ける可能性も低いが、友人との合流を考えてる以上、まだあの場所に留まる可能性も高い。
そして何より――。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。黒くん!」

黒が助けた足立からの情報が最大の決め手であった。
足立の情報で数時間前、穂乃果の友人の花陽がまだ学園に辿りついていないことに加え、ヒルダという女性がジュネス付近で銀と別れた事実は、黒の決断をより迅速に確信めいたものへと変えた。
その銀のもう一人の連れであった里中千枝は亡くなってしまったが、銀が生き残っている以上、誰かしら心強い仲間がまだ居るのだろう。
運がよければ学院に向かう可能性があるし、そうでなくても学院で穂乃果達が有力な情報を得ているかもしれない。
どちらにしろ、黒がもう一度南下しない理由はない。

「すみません、軽く走ったつもりだったんですけど」
「君、僕はね……一応怪我人だよ!」

足立が目を覚まし、自力でティバックから脱出したのが数分前。
最初に足立が考えたのは、やはり保身であった。
二度目の気絶でクールダウンした足立は物事を冷静に分析する術を取り戻し、何故自分が生きているのかを再考察する。
恐らく、この目の前のまっくろくろすけは足立が殺し合いに乗った事実を知らない。情報においては、かなり不利な側の参加者なのだろう。
しかし戦闘面では、最低でもペルソナを使わなければ勝てない程の実力はあるのも、間違いない。ここまでの単独行動に加え、幾分傷を負っいながら未だ健在なのがその証拠だ。
以前、槙島に遅れを取った屈辱が足立を学習させ、彼に利口な行動を取らせた。

「大丈夫ですか、その傷」
「ああ、もう本当エスデスの奴ときたらさ……」

今の足立は表向き、エスデスと言う凶悪な参加者に襲われた哀れな一般人という体を取った。
無論、黒もある程度は疑うが、そもそも内容自体に偽りは然程ないのだ。事実だけを掻い摘めば、エスデスが足立に勝手に目を着けて狙ってくる異常者。これだけで矛盾はない。
足立が殺し合いに乗ったという事実を伏せても、エスデスの異常さは大いに説明が付いてしまう。
しかも、黒の求める情報を与えられたのも足立にとってプラスに働いた。
見事に警戒を解かせ、黒に名を言わせる程度には友好関係を築け、交戦は回避できた。

(まあ、ともかくしばらくはコイツが何とかしてくれるだろ。
 あとはどうするかだな)

足立が交戦を避けたのは、身体の疲労度合いから勝ち目が少ないのもそうだが、何より一時的にとはいえ交戦を一手に引き受けてくれる味方が欲しかったのもある。
皆殺しの意思を変える気は無いが、はっきり言ってこのまま戦い続ければ足立は必ず死ぬ。力は可能な限り温存し続けたい。
とはいえ、黒が他参加者から足立の情報を得るのもそう遠くは無い。大きく見積もって学院までは猫を被り続けられるだろうが、そこまで着けば何かしら足立の不利になる情報が待っているはずだ。

(エスデスの奴はここまで姿を見ないってなると、こちらの側には来てないんだろうな。
 後藤もだ。黒もそれっぽい姿は見てないって言うし)

北の方角はエスデスを避け、アカメ達が向かった可能性が高い。
しかし、南の方角は以外にもエスデスと後藤を見かけなかった黒の情報を信じれば、彼らは別の方角へと向かったのだろう。
そう考えれば、この辺に強敵は殆ど居ないと見て間違いはない。
いっそ黒を殺して近辺に姿を晦ませるか、このまま同行して他の参加者もろとも一網打尽にするのも悪くないかもしれない。


915 : 白交じりて、禍津は目覚める ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/03(日) 01:03:56 6WxIcR3U0

グゥ〜〜〜

(そういや、腹減ったな)

腹の虫がなった事で足立はここまでまともな食事を摂れていない事を思い出した。
一応パンや水などで飢えは凌いでいたが、それが腹に溜まる訳もない。

「……良かったら、僕の持ってる食料でも食べますか?」

「え? いや、それは嬉しいけど。良いのかい」

「ええ、沢山ありますから。歩きながら食べましょう」

そう言うと黒のティバックから大量の食料品が出てくる。
考えればアヴドゥルの支給品も魚だったが、鮮度は無駄に落ちていなかった。この奇妙なティバックのお陰なのだろう。
それらから片手で摘めるようなものをチョイスしながら、足立は口へと頬張っていく。
質素なパンや無味無臭の水とは違う、ジューシーでそれでいて香ばしい香りは足立の食欲を更に掻きたてた。

「これ、何処で手に入れたの? もしかして支給品かい?」

「いやイェーガーズ本部ってところから、まあちょっと……」

「いっ!?」

一瞬セリューやエスデスのクソの顔が浮かんだが、逆にあいつらの悔しがるような顔を思うと実に心地いい気分になる。
人の不幸で食事が美味くなるのを感じながら足立は腹を膨らませていく。
見れば、黒は足立の倍以上の食事を摂りながらまだ足りなさそうな顔をしていたが、気にしないことにした。

「美味いなぁ……。ここまで美味い飯食ったの久しぶりかも」

空腹は最高の調味料とはよく言ったものだ。それに疲労も逆にここでは好作用しているのかもしれない。

「なんかさ、生きてるって感じだね」

不意に口を滑らせた一言に足立は驚き、気恥ずかしさを感じてしまった。
しかし、一度開いた口は止まらず言葉を紡ぎ続ける。

「ここに来るまで嫌なことばっかで、上手くいかないことばっかりだったんだよ。本当、どうでもよくなって……。
 でも、やっぱり……」

ここに来る前、『アイツ』に敗北したあの瞬間、自殺まで考えた。それほどにまで人生に絶望した。
現実はクソだ。全てがシャドウになればどれほどいいか、それが邪魔されるくらいなら死んだ方がマシだ。
それが気付けば、こんな飯一つで――


916 : 白交じりて、禍津は目覚める ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/03(日) 01:04:25 6WxIcR3U0

「あーあ、ごめん。今の忘れてよ、ナシナシ。なんか辛気臭くしちゃったね」

「……忘れませんよ。ずっと覚えておきます。
 多分、足立さんも忘れない方がいいと思います。きっと、それは大切なことですから」

言っていて気恥ずかしさを感じる。
ここまでの連戦の疲労もあり、つい口が軽くなったのだろう。

「忘れない方が良い、か……。まあそうだねえ、生きるなんて真面目に考えたことあまりないし」
「そうですね。僕も少し前までは、あまり考えたことはなかったかもしれません」
「今はあるの?」
「今は一人じゃありませんから」
「……。それさ、もしかしたら惚気話になったりする?」
「あっ、すいません。そういうつもりじゃなかったんです」

食料も全部食べつくし、――というよりは黒が一人で全て平らげたのだが――二人の歩幅はその遅れを取り戻すように速まっていく。
恐らく30超えたら絶対太ると思いながら、足立も黒の後を追いかけた。

「ッ! 足立さん下がって!!」

上空から何かが降り注いでくる。
夜中の為、見通しは悪いが月明かりが辛うじて足立にそれを認識させた。
新手の襲撃を予見し、足立は数歩下がりながら黒の背中を見守り、最悪のケースを考え逃走経路とペルソナを出せるよう身構える。
しかし、それが人の形を成していると分かってきた時、足立は構えを緩めた。そう、これは襲撃の類ではない。
これは落下しているのだ。ファンシーで異様に露出した衣装に身を包んだ白銀の少女が上空から降ってきている。

「イリヤ?」

落下した少女は地面に小さなクレーターを刻み、佇む。
数秒後には血と肉片の海を思い浮かべていた足立は唖然としながら、黒に一度視線を移す。
その表情には驚愕と、不安のようなものが混じっているのが見て取れた


917 : 白交じりて、禍津は目覚める ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/03(日) 01:05:03 6WxIcR3U0

『黒さん? 黒さんですか!?』

「黒さん……」

イリヤはルビーを強く握り締め、黒を見つめる。その目は今までに黒が何度も体験してきたもの。
殺意を込めた眼はこれから何が起こるのか、黒に嫌でも先の光景を予想させる。

「止めるんだイリヤ」

武器は握らない。黒が真っ先に行ったのは説得だ。
だがイリヤは無防備の黒に向かい、杖を振るう。桃色の光が眩く輝き、炸裂した。
爆風の余波で足立が悲鳴を上げ吹っ飛んでいく。砂煙のなか、影は疾走し眼前へと迫る。

「止まれない……もう止まれないの!!」

死神の魔手がその身に触れる寸前、イリヤは飛翔し遥か上空へと飛び立つ。
そこから地上の黒へと狙いを付け、魔力の弾丸を弾き出す。
地上が覆われるほどの弾丸の雨。普通の人間ならば、ミンチになっていようそれを黒は生身一つで突破した。
着弾の僅かなタイムラグを見図り、まるで針の穴を通すような繊細な動きで黒は弾丸を避け、ワイヤーを木に巻きつけ一気に上昇。
そのまま呆気に取られたイリヤにワイヤーを放ち、電撃を流す。

「ッ!」

腕に巻きついたワイヤーを切断するも、僅かながらに流れた電撃のダメージでイリヤは飛行を中断してしまう。
堕ちていくイリヤに向かい黒も飛び、その手に持った友切包丁をイリヤの首元へ突き指す。

「もう、殺すな」

黒は友切包丁を手放す。

「なん、で……」

「お前は十分苦しんだ」

「私は二人を助けないと……」

「なら、お前自身は誰が救う?
 もう止めろイリヤ。本当は殺しなんてしたくないはずだ。
 これ以上、自分を責めるな」

まるで心を見透かされているように。いや、自分の事のように黒の顔はイリヤの目に虚ろに写った。


918 : 白交じりて、禍津は目覚める ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/03(日) 01:05:16 6WxIcR3U0

「駄目だよ……そんなの……。
 私が諦めたら――」

死んだ二人を守れるのは自分しか居ない。
イリヤだけが最期の頼みであり、何よりここで折れれば今までに死なせた者達の命も全てが無駄になる。

「戻れないの……私はもう戻れない!!」

「戻れる。イリヤ、お前には帰る場所がある。
 待っていてくれている家族が友達が居るんじゃないのか? そいつらの事はどうするつもりだ。
 人を殺し続けてそこへ帰れるのか、イリヤ!
 ……お前は俺みたいになるな」

「何で、貴方には関係ない!!」

「お前に優しさは捨てられない。
 契約者でもないのに冷酷ぶっているが、お前は――」

「――ようは君さ、友達に依存してるんだよね」

二人の会話を裂くように、道化の声が響き渡る。
足立は狂喜に歪んだ笑みを見せながら、イリヤへと蔑むような目線を下す。

「さっきから聞いてればさ。全部理由は他人に押し付けて、自分は悲劇のヒロイン面してるじゃない。
 聞いてて薄っぺらいんだよ。君は自分が寂しいから、慰めて欲しいから死んだお友達が欲しいんだよ。
 全部自分の為だろ。正当化して美化するなよ、気持ち悪い」

「……私は」

「足立……?」

「君も君さ。
 一々女々しいんだよ。
 言ってやればいいじゃない。この娘は自分の境遇に酔ってるだけの、ただの殺人鬼だってさ!」

「違う、私は……!」

「足立!」

黒が踏み出した瞬間、黒の真横へと光弾が放たれる。
余波で黒の体制が崩れ、足立はその隙に一気に距離を取った。


919 : 白交じりて、禍津は目覚める ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/03(日) 01:05:56 6WxIcR3U0

「ぐっ……!」

足立に気を取られた間にイリヤもまた杖を握りなおし、黒へと殺意を向けている。
再度、桃色の光が黒を照らしだし、足立は歪んだ笑みのままタロットカードを握りつぶす。
現れたマガツイザナギと魔力の砲弾に挟まれた黒は身を屈め、マガツイザナギの剣撃を避けた。
そのままワイヤーを投擲し、一気に砲弾の射線から外れる。だが一瞬にして先回りしたイリヤの斬撃が黒の胸元へ薙ぎ払われた。

「イリ、ヤ……!」

予め巻きつけておいた友切包丁のワイヤーを手繰り寄せ、黒はその斬撃を友切包丁の刀身で捌く。
しかし、咄嗟の防御に手首の動きが完全に着いて来れず不完全な握りのまま、友切包丁は斬撃に飲まれ黒の手元から払われた。
素手となった黒に対し、イリヤは魔力を杖に集中させ光弾を編み出す。
だが接近戦において、歴戦の暗殺者と一般人の魔法少女とでは反応に大きな差が出てしまうのも事実。
一転して黒の魔手がイリヤの首元を掴む。イリヤが距離を取ろうとした瞬間には既に黒の身体は青く光り、その目は赤色に染まる。
その電撃は加減など無い。全力で放つ致死量。
もう、イリヤは殺すしかない。そう判断した黒の電撃。



――へい、さん、おねが、い――

――みんなを、いりやちゃん、を――





「やっぱり」

少女はニコリと笑う。

「黒さんは優しいね」

まるでその姿は天使のように。



電撃は流れず、桃色の光は黒の胸を穿った。








920 : 白交じりて、禍津は目覚める ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/03(日) 01:07:29 6WxIcR3U0




苛立ちが増す。
まただ。また足立の中で苛立ちが増していった。
理由は分からない。だが、この苛立ちは『アイツ』に対して抱いたものと似ている気がする。
だからこそ、腹正しい。
あのイリヤってガキも、黒も人殺しの屑だ。それが、どうして『アイツ』みたいな何かを感じてしまう。
自分と同じようなとこまで落ちても、それでも尚、人との繋がりを肯定している。それがやけに気持ち悪く、嫌悪感を醸しだす。

「気色悪いんだよ」

だから、保身を捨ててまでガキに言ってやった。あのガキの抱える本性をぶちまけてやった。
そして何時までも吹っ切れないあの黒も殺される。自分が救おうとしたガキに。
良い様だ。このまま次はあのガキを。

「あ?」

黒の胸元から、煙を上げ二つの銀色の物体が零れ落ちる。
首輪だ。
首輪がイリヤの魔力弾を弾き、その特性である異能の無力化を発揮し黒を救った。

「何で、何でなの……」

イリヤの目の前に並ぶ二つの首輪。月明かりに照らされた二つは血に塗れながらも、内側にその名を刻み込んでいた。
美遊・エーデルフェルトと戸塚彩加の名が。
特に前者は救わなければならない者の名だった。
それがイリヤの目に飛び込む。
死しても尚、美遊の意志はイリヤを止めたいと願っているのだろうか。

「そうか、そういうことだよね」

美遊もクロもこんな事をしても喜ばない。
そんなことはとっきに分かりきっていたのに。
やはり、何処かで引っかかっていたのかもしれない。

「死から目を背けるな、前を見ろ……」

キンブリーの言ったいたことを改めて理解した。
これが屍を死者を超えて行くことなのだと。例えそれが死者の意志を冒涜するとしても、己が道を進むのなら彼らの顔を忘れてはならない。
黒の言った通り、本当は殺しなんかしたくない。そうだ、今だって本当は逃げたい。


921 : 白交じりて、禍津は目覚める ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/03(日) 01:08:13 6WxIcR3U0

「だけど、決めた事だから」

イリヤに殺されたキンブリーの姿が浮かぶ。
もう引き返すわけにはいかない。
今まで殺した者達の顔を思い浮かべ、全ての優しさを捨てる。
例えそれが美遊とクロに対しての裏切りでも構わない。全て自分の為に、生きていて欲しいから殺す。

「私の意志で……」

例え、自分を救おうとしてくれるものであろうと。立ちふさがるのなら全部が敵だ。

「――黒さん、私は銀って人を殺すからね」

だからこそ宣言する。
自分を繋ぎとめようとする最後の枷に。

「何だと」

「貴方の大切な人を奪う。
 だから、黒さんも殺す気で来ないとなくしちゃうよ」

「待て、イリヤ――」

面白くも無いのに顔は笑顔だった。
無邪気でいて、冷酷な笑顔。
本当の自分の顔を隠し、イリヤは飛び立っていく。

「そうだよね……あのおじさんの言ってた通りだよ。私はただの殺人鬼なんだ。
 もっと、早くに受け入れてれば良かった。だから、こんなに弱かったんだ」

足立の言っていた言葉で目が覚めた気がする。
そうだ、まだ何処かでイリヤは自分の救いを求めていたのかもしれない。
以前のDIOの洗脳も本当はそれがあまりにも居心地がいいから、甘んじていた。
駄目だ。救いなんていらない、全部イリヤだけの為に、イリヤの我侭で二人を生き返えらさなきゃいけない。


922 : 白交じりて、禍津は目覚める ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/03(日) 01:08:29 6WxIcR3U0

(だから、最後の枷だけは早く壊さなきゃ)

未だイリヤを救う意志を見せていた黒こそが、最後の枷になる。
その最後の枷を壊すには、単に殺すだけでは駄目かもしれない。
少なくとも今、そうしようとして失敗したのだ。
だから、その枷を自分と同じ境遇にまで突き落とす。自らと同じ大切なものを亡くした時、黒はイリヤを確実に殺しに来る。
その時こそ、きっとイリヤも黒を殺すことが出来るはずだ。
でなければ、この先きっとブラッドレイにも勝てない。
強くならなきゃいけない。力もその精神も。
だから、その為に邪魔になる枷ならば、如何な手段を用いても壊すしかない。

『イリヤさん……』

「……全部遅いから、こうなるんだよ」

『え?』

誰にでも聞かれるでもなく、イリヤは声を漏らす。
その声の矛先は。








923 : 白交じりて、禍津は目覚める ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/03(日) 01:08:48 6WxIcR3U0


「マガツイザナギ!」

黒の頭上に剣が振るわれ、黒は一気に後方に飛び退く。
足立は笑いながら、地面に転がった首輪を拾い上げた。

「足立、貴様……!」
「ふーん。良いの? イリヤちゃん、君のガールフレンドを殺すつもりだと思うけど。
 早く追ったほうが良いんじゃない?」

足立は手にした見せ付けるように首輪を弄ぶ。
黒も咄嗟にもう一つの首輪は回収したが、貴重な解析サンプルを一つ減らしたのも事実だ。
思わず歯噛みするが、足立の言うとおり首輪よりも銀を優先しなくてはならない。
恐らく、イリヤは銀の場所を足立や黒以上に知っている。
目的は分からないが、ある意味決別のようなものなのだろう。黒と完全に敵対し、その未練を断つための。

「本当は首輪換金なんて興味なかったんだけどさぁ。まあ、その近場で首輪があるなら使いたいじゃない?
 これは遠慮なく貰うよ。
 ……食料まで貰えて、それに君達のゲームもちょっと面白く見させてもらったしね。君には本当に感謝してるよ黒くん」

「チッ」

黒は足立を警戒しながらも背を向け、そのまま駆け出していく。
それを見ながら、足立はほくそ笑んだ。
ここまで全部好都合の方へ進んでいる。
武器を貰い、体制を立て直してから鳴上の居るであろう南へ向かうのも良いし、逆に安全を優先し潜伏するのも良い。
どちらにしろ選択に余裕が出来たのは良い事だ。

しかし、内心でやはり足立の苛立ちは収まっていないのも事実だ。
自分と同じ人殺しの癖して、誰かを欲し求めるイリヤの姿は。
絆を振りかざす、『アイツ』に被るものがあったのだ。
いや、恐らくは同じだったのかもしれない。ただ、『アイツ』は揺るがなかったがイリヤは捩れてしまった。
それが――

「……うざいなぁ。何時までも俺の脳裏にへばりつきやがって」

殺意を昂ぶらせながら、足立は歩みだした。









924 : 白交じりて、禍津は目覚める ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/03(日) 01:10:29 6WxIcR3U0


(俺は、あの姉妹に白(パイ)を重ねてしまったのかもしれない)

黒子に対し、黒は場合によってはイリヤを殺すと暗に言った事がある。
彼女がその正義を為すのなら、逆に汚れ仕事は全て自分が引き受ければ良いと。
だが、あの瞬間。黒はイリヤを殺し損ねた。
恐らく黒は気付かぬうちに、イリヤとクロに妹を重ねてしまっていたのかもしれない。
かつて、黒の死神と怖れられた黒は妹を守る為だけに戦い、多くの命を奪った。
妹もまた人を殺し、黒も人を殺す。そんな自分達に苦悩し続けた末、黒は妹を失った。
より正確には一つになったというべきか、どちらにしろ黒はもう白(パイ)には会えない。他の誰でもない、黒の選択した結果だ。

(そうだ、俺にはアイツの気持ちが分かっていた。もっと早くにイリヤを見つけていれば)

本当は誰も殺したくなかった。
イリヤも同じだったはずだ。恐らく今もだ。
けれど、あの目は覚悟をしてしまった。最愛の姉妹と友の為ならば、全て亡くしても構わないほどの。
もう黒の言葉は届かないかもしれない。

『死から目を背けるな、前を見ろ』

これはイリヤの言葉ではない。黒ともう一度出会う前に、誰かがイリヤにその言葉を埋め込んだのだ。
もしも、黒がその誰かよりもイリヤと出会い説得していれば。イリヤは戻れたかもしれない。

「……」

黒はディバックより、傷だらけの白の仮面を一つ取り出した。
婚后光子の残した最後の支給品。黒自身この傷に覚えは無いが、それでも間違いない自分の愛用していた仮面。
エージェントとしての素性を、殺しを行う時の顔を隠すための仮面だ。

「イリヤ」

黒は妹の為に多数を犠牲にする道を選ばなかった。
だが、イリヤは姉妹と友の為に全てを敵に回す道を選んだ。
同じ道を歩みかけたからこそ分かる。もう一度、イリヤの行く道と黒の行く道は交差しないのだと。
恐らくアレは、黒が白だけを選んだ先にあった筈の未来なのかもしれない。
故に宣言する。

「お前に銀は奪わせない」

イリヤを敵として見定めることを。イリヤより、銀を守り助けることを。


――わかった。お前の仲間も、イリヤも『助ける』


とある少年と交わした約束から目を背くように仮面を握り締め、黒は駆ける。


925 : 白交じりて、禍津は目覚める ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/03(日) 01:10:47 6WxIcR3U0


【F-4/上空/一日目/夜中】


【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:魔力消費(残り1割5分)、疲労(絶大)
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・アーチャー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:デイパック×3、基本支給品×3、DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ、DIOのサークレット、キンブリーの錬成した爆弾(電気スタンド型)、死者行軍八房@アカメが斬る!、美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、クロエの首輪、イギーの首輪、クロメの首輪、空条承太郎の首輪、花京院の首輪、キンブリーの首輪、セリューの首輪、不明支給品0〜1
[思考]
基本:美遊とクロの味方として殺し合いに乗って二人を蘇らせる。
0:銀を殺し、黒も殺す。
1:強くなりたい。
2:少し休憩もしたい。
3:ブラッドレイを殺す。
[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
※アカメ達と参加者の情報を交換しました。
※黒達と情報交換しました。
※「心裡掌握」による洗脳は効果時間が終了したため解除されました。
※クロエに分かれた魔力を回収したため、イリヤ本来の魔力が復活しました。



【F-4/一日目/夜中】

【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷、腹部打撲(共に処置済み)、迷い?
[装備]:友切包丁(メイトチョッパー)@ソードアート・オンライン、黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×2、
首輪×1(美遊・エーデルフェルト)、傷の付いた仮面@ DARKER THAN BLACK 流星の双子
[道具]:基本支給品、ディパック×1、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
0:銀を守る。イリヤは……。
1:銀や戸塚の知り合いを探す。銀優先。
2:後藤、槙島、エンブリヲ、足立を警戒。
3:魏志軍を殺す。
4:二年後の銀に対する不安
5:雪ノ下雪乃とも合流しておく。

[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリト、黒子、穂乃果とは情報交換済みです。
※二年後の知識を得ました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。
※黒がジュネスへ訪れたのは、エンヴィーが去ってから魏志軍が戻ってくるまでの間です。
※足立の捏造も入っていますが、情報交換はしています。



【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(大)、爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血、若干の落ち着き、満腹
[装備]:なし
[道具]ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み) 警察手帳@元からの所持品、戸塚彩加の首輪
[思考]
基本:優勝する。(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:皆殺し。
1:特に鳴上は必ず殺す。優先順位は鳴上>エスデス>後藤>その他。
2:ついでなので、ちょっと首輪換金も試してみたい。
3:落ち着いたので少し冷静に動く。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。
※黒と情報交換しました。


926 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/03(日) 01:11:39 6WxIcR3U0
投下終了です


927 : 名無しさん :2016/04/03(日) 02:43:48 2pgw8g5c0
投下乙です
足立さん他人を煽る時は本当に活き活きしてんなw


928 : 名無しさん :2016/04/03(日) 09:03:15 PgW3g0aw0
投下乙です。
アンタって人はなぜ黙って大人しくしていられないのかwww
そして相手が幼女だろうとその煽りに容赦なし!…そんな足立さんが大好きですw


929 : 名無しさん :2016/04/04(月) 14:26:04 xNemuF8A0
投下乙です

イリヤをぶった斬る足立さんかっこよすぎないですか?
そして黒さんにやさしいと告げるイリヤはかわいいです…


930 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/06(水) 23:49:39 8sCSLgt60
投下お疲れ様です。
普通に間に合いました、投下します


931 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/06(水) 23:51:26 8sCSLgt60


 あぁ、どうして。


 どうしてあたしは、こんなのになってしまったんだろう。








「え、エンブリヲさん!」


 エンヴィーの襲撃によって首輪の解析を一時中断していた初春飾利と高坂穂乃果はエンブリヲを心配していた。
 一人でホムンクルスを遠ざけ、聞こえてくる戦闘音だけが彼の生存を証明している状況である。
 別の教室から聞こえている間は彼を感じ取れるが、会話は流石に届かない。
 そのため、エンブリヲがエンヴィーを制圧した瞬間は彼女達からすればどちらかが負けた意味合いとなっていた。

 負けた、といっても勝負の世界においての死亡であり、エンヴィーを知っている彼女達はエンブリヲの身を心配する。
 彼が負ける姿を想像するわけでもないが、初春飾利にとっては佐天涙子を殺した存在がエンヴィーである。
 高坂穂乃果からしてみれば嫉妬のホムンクルスは天城雪子の死因を作った張本人でもあり、彼の残虐性を知っているのだ。

 そんな心配を破壊するのかのように開けられた扉の先には、傷一つ負っていないエンブリヲの姿があり彼女達は安堵する。

「遅くなってしまったね。エンヴィーは今、大人しくさせたから安心してくれ」

 彼はまるで襲撃が無かったかのように普段通りの姿で教室を歩き椅子に腰を下ろす。
 表情には笑みを浮かべるほどの余裕があるようで、目の前にあるティーセットを掴むと自分で注ぎ始めた。
 軽く口に含み、それを飲み干した所で、初春飾利の方へ向くと口を開いた。


「首輪の解析結果を聞くところで邪魔が入ってしまったが……どうだったのかな」


 殺し合いを強いられる上での強制力となっている首輪の解除は全ての参加者が望んでいると言っても過言ではない。
 多くの生命を守ろうとする英雄も、欲を満たすために暴れる悪人も、願いのために刃を振るう人間も。誰も彼もが望んでいる。
 こんな枷が無ければそもそも運営の言葉を一から十まで聞く必要も無いのだ。


932 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/06(水) 23:53:03 8sCSLgt60

 開幕の儀式で殺された上条当麻。
 その首を爆破によって吹き飛ばされた光景はパフォーマンスとしては完璧であった。
 一般人であれば突然の拉致に加え生命の消失を見せられれば心を掌握されてしまい、運営の言葉を信じるしか道を選べない。
 戦闘能力を持っているような超人であれば話は別であるが、日常において血は馴染みの無いものである。
 目の前で首が無くなる瞬間を見れば――人間は簡単に狂ってしまう。


「残念ながら首輪に関する情報は全てロックが掛けられています。
 解析を試みていますが……まだまだ時間が必要ですね。結果がすぐには出ないようです」


「そうか……それは残念だ。けれどよく頑張ってくれたよ初春……他に何か解ったことはあるかい?」


 例え結果を伴わないことになってもその者の努力を無下にすることは無い。
 初春に労いの言葉を掛けつつエンブリヲは何か別の糸口を掴んだかどうかを尋ねる。
 すると彼女は表情を緩ませた後にディスプレイを指さしつつ言葉を紡ぎ始める。


「参加者の戦闘能力に関する情報フォルダを発見しました」


「戦闘能力限定、と捉えて構わないか?」


「はい。それも開示出来るのは死んでしまった参加者だけのようです」


 ほぅ、と答えたエンブリヲは席を立ち上がりディスプレイの前まで移動しマウスを動かした。
 カーソルの先にはタスクの名前が表示されており――開示不可能なため、何も起きない。
 この時、エンブリヲは舌打ちをしたが初春飾利と高坂穂乃果には聞こえていない。

 次にキング・ブラッドレイにカーソルを合わせるも――これも開示不可能であった。
 ディスプレイは丁度、エンブリヲの身体と重なっているため、後ろの女性陣には見えない構図だ。
 生死を確認した所を見られれば不審がられるが、見えなければどうということはない。
 無論、見えてしまってもエンブリヲならば問題なく邪魔者を排除出来るのだが。


「死人の弱点を開示出来るだけか。それでも有益な情報を手に入れることが出来たよ」


 などと一応は言っているエンブリヲだが、彼はまだ見ていないと等しい。
 彼の頭の中は今頃、一人で喘いでいるだろうホムンクルスを材料に、どう首輪を解除するかで一杯である。
 エンブリヲは人間では無い。もちろん、ホムンクルスでも無いが、人為らざる者と捉えれば同じカテゴリーだ。

 仇にも同じ括りで扱うとなれば、激怒するだろうが今は関係ない。
 人体にどのような影響を与えるか、どの範囲にまで干渉するのか。
 それらを暴く前に一度、初春飾利の元を訪ね解析結果を聞こうとしていたが……結果は特に無し。

 彼女が得た情報だフォルダを利用し参加者の死亡状況が確認出来るのは、首輪解析に関係は無いが有益な情報である。 
 エンヴィーを用いた実験が終了次第、他の参加者の情報を集めるのもいいだろう。

 此処まで考えた所で、席を立つが、エンブリヲの視界に映り込んだのは扉の先で嗤うホムンクルスだった。


「やぁ。お前を殺しに来たよ」


933 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/06(水) 23:53:45 8sCSLgt60






 あたしはどこで間違ったんだろう。

 あたしはただ、彼の幸せを願っただけ。

 それが今じゃ、魔女になって、人間ですら無い怪物になっている。

 
 あたしの視界は異形な見た目に反して、透明感のある、まるで映画をみているような気分だった。

 みんなが見えるだけで、干渉はできない。

 あたしの身体なのに、人間じゃないから、言うことを聞いてくれないのかな。
 
 話したい。攻撃するつもりも無い。

 あたしの思いとは逆に、魔女は暴れ続ける。


 あれはあたしじゃない。

 あたしは美樹さやかで、人間だ。

 魔法少女になってしまったけど、それでも人間だ。

 魔女じゃなくて、人間だ。


 あの魔女はあたしじゃない!




「なに言ってるのさ、あれもあたしだよ。目を逸らさないで」







934 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/06(水) 23:54:59 8sCSLgt60

 屈辱だ。
 人間如きの分際でこのエンヴィーに干渉するなど、許されることじゃない。
 身体の内部を弄ったかどうかは知らないが、感情の昂ぶりが尋常では無いほどになっている。

 あの男、エンブリヲが触れてから可怪しくなっている。犯人は間違いなくあいつだ。
 舐めたマネをしやがって……殺してやる、絶対に殺してやる。

 そのためにもまずは体内を弄ることをしなければならない。
 ただの人間ならこのまま黙って喘いでいるだけだろうが、ホムンクルスならば簡単に治してみせるさ。


「――んぁ……はぁ、は……っし」


 本当に屈辱だ。
 感じたくも無い感情に耐え切れず声を漏らすこの姿を他の奴らに見られたらたまったもんじゃない。
 でも、もう大丈夫だ。今の身体は平常だからもう、遅れは取らない。

 階段を上がっても息が切れることも無ければ振動で喘ぐこともなく普段通りだ。
 エンブリヲに触れられる前に圧倒的質量で押し潰してやればいい。それで殺す。


 ドアによし掛かった所で、あの憎い面を発見した。


「やぁ。お前を殺しに来たよ」





935 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/06(水) 23:55:21 8sCSLgt60


 エンブリヲが大人しくさせている筈だったエンヴィーの登場により初春飾利と高坂穂乃果の警戒心は瞬時に極限まで高まった。
 互いに身を寄せ、不安や恐怖から逃げるように身を固める。初春は一歩前に出て穂乃果を守る形となっている。


「ん……なんだ高坂穂乃果だっけか。大佐が天城雪子を焼き殺した時以来かな?」


 けたけた嗤い高坂穂乃果にとってのトラウマを抉るホムンクルス。
 紅蓮の錬金術師と手を成り行きで組むことになったきっかけの戦闘がマスタング大佐との再戦だった。
 死人は一人と二匹。巻き込まれた参加者の中には高坂穂乃果がおり、彼女は見てしまったのだ。
 事故とは云えマスタングが天城雪子を焼き殺す瞬間を。


「マスタング大佐はいない……か。ま、あんな殺人鬼の近くにいたくないよね」

「……さい」

「あ?」


 人間を嘲笑うことが趣味な部分も含んでいるエンヴィーは意味もなく相手を煽る時がある。
 今回の標的は高坂穂乃果であったが、短い言葉で切り上げた。


「悪いのはマスタングさん……じゃなくて貴方です。貴方がいなければ雪子さんもワンちゃんも、死ぬことは無かった」


「弱いからあいつらは死んだんだよ。それをこのエンヴィーのせいにするなんて……あー、人間はだから嫌いだ。現実を見なよ」


 予定ならば高坂穂乃果の精神は揺らぎ、無駄に焦燥感に駆られ必死な形相を浮かべているところだ、とエンヴィーは一人思う。
 しかし現実は、ホムンクルスの言葉に抗い自分の意思を確立しているではないか。
 視線を逸し初春飾利を見れば彼女の表情もまた此方を睨んでおり、エンブリヲに限れば憎たらしい笑みを浮かべている。


「そうかい、そうかい……つまんないなあ。折角キンブリーが死んでそこそこいい気分だったのに、それをエンブリヲに邪魔されて」

「私の知ったことでは無い。襲って来た貴様が悪い」

「高坂穂乃果のリアクションも全然面白くない」

「……私は貴方を満足させるために生きている訳じゃない、から……」

「そこのお前も同じなんだろ?」

「同じ……貴方が違うだけですよ、エンヴィー」


936 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/06(水) 23:55:59 8sCSLgt60


 一通り喋り切った空間は無音に包まれる。
 それを素早く破ったのが――ホムンクルスだ。
「じゃあ死ねよ」と短く呟いた後に、左腕を突き出す。

 その左腕は変色し、悍ましい緑色、獣のように肥大し高坂穂乃果に襲い掛かる。
 彼女は戦闘の心得が無いため、迫る腕に対し抵抗することが出来ないでいた。
 格闘技を齧っているなどの領域の話では無く「高速で迫る人外の腕」に対し、対処法など知るはずも無い。

 自分一直線に迫る腕。
 高坂穂乃果が出来ることは死なないことを祈って、瞳を閉じるだけである。
 外れればいい。相手の手元が狂えばいい。限りなく零に近い確率を、奇跡を願うしかない。


「――だいじょ、ぶですか……高坂さ」


 奇跡とは滅多に起きないモノだ。
 簡単に連発されてしまっては有り難みが薄れてしまい、奇跡は意味を持たない記号となるだろう。
 幸福が誰にでも訪ればそれは平和な世界だろう。しかし世界は残酷である。
 誰かが幸せになれば、別の誰かが不幸になる。そのように上手くできている。

「う、初春さん……初春さん!!」

 己に迫る生命の刈り取りが、初春飾利に向けられた。
 高坂穂乃果が瞳を開けると己の前に立った初春飾利の胸が緑色の腕に貫かれていた。
 溢れ出るおぞましい血の量から察するにこの傷は――。

「逃げてください……は、やく」

 肺が潰されているのか、思うように発言できず言葉の歯切れが悪くなっている。
 呼吸も困難になっており、肩がしきりに動いている。血も止まっていない。
 逃げろと言われても高坂穂乃果は錯乱状態に陥っており、その場に固まっていた。
 無理もない。目の前で人が死にかけているのだ。それも、自分が原因で。


「じゃあお前から死ねよ」


937 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/06(水) 23:56:35 8sCSLgt60


 殺す対象が変わった所で、それは順番の違いだけである。
 エンヴィーからすれば初春飾利の死に際の言葉などどうでもよく、息の根を止めるために腕へ力を供給する。

「あが、あ……ぐぅ」

 ミシミシと音を立てる初春飾利の身体から時折、何かが折れた音が響く。
 異常なほどの圧力を受けた生身の身体が悲鳴を通り越し、ギブアップのサインを送る。
 もう助からない段階まで、彼女の身体及び内部機関は破壊されている。


「――チィ、またお前か」


 緑色の腕を斧で斬り裂いたエンブリヲはエンヴィーへ距離を詰めると蹴りを放つ。
 ホムンクルスはその一撃を掌で受け止めるも、エンブリヲの全体重を乗せた攻撃によって教室外へ飛び出す形となった。


「出来る限り遠くへ逃げるんだ」


 それだけ言い残しエンブリヲもエンヴィーを追って教室を飛び出す。
 見れば斬り落とした腕が再生しており、俄然、首輪解除のためとしての実験材料の価値が上がったと内心思っている。
 最も、高坂穂乃果やエンヴィーがそれを知る術は無いのだが。



「初春さん……っ」


 残された高坂穂乃果はエンヴィーによって胸から上を潰された初春飾利だったものを見下ろしている。
 自分を守るために死んでしまった。その生命を己のために潰してくれた存在を。

 言葉が出ない代わりに胸の中から溢れ出る嘔吐物を防ぐために、掌で口を覆う。
 収納具の近くまで移動し、その隅に耐え切れない異物を口から垂れ流す。

 初春飾利も、エンブリヲも逃げろと言った。
 生き残っている高坂穂乃果はその言葉どおりに動くのが最善の選択肢だろう。
 襲撃者であるエンヴィーをエンブリヲが抑えている今が、最大の好機である。

 しかし身体が動かない。
 精神が安定するまでには時間が掛かるだろう。
 頬を伝う涙が床に落ちる。先程まで騒がしかった教室が今はとても静かだ。

 風紀委員である初春飾利が守ったその存在。
 もはや高坂穂乃果の生命は彼女だけのものではなく、全てが積み重なった結晶であった。


938 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/06(水) 23:57:10 8sCSLgt60



【G-6/音乃木坂学院/一日目/真夜中】




【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大) 、悲しみ、嘔吐感
[装備]:デイパック、基本支給品、音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(3/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3
[道具]:練習着
[思考・行動]
基本方針:強くなる
0:心の整理をする。
1:この場から離れる。
2:花陽ちゃん、マスタングさん、ウェイブさんが気がかり
3:セリュー・ユビキタス、サリア、イリヤに対して―――――
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません
※エンブリヲと軽く情報交換しました。











 廊下を舞台に争うは方や人造生命体であり、対峙するは神を称する存在である。
 彼らに目的があるとすれば、それは目先の存在を排除することだ。
 脱出や優勝などの道ももちろんあるのだが、今は敵を殺すために動いている。

 一本道である廊下ならばエンヴィーの変異した腕の攻撃を回避するのが困難になる。
 狭い空間の中で放たれる面積比の大きい腕をエンブリヲは斧を盾代わりに活用し防ぐ。
 

「面倒だし……さっさと殺すよ!」


 拉致があかない――訳ではないのだが、苛ついているエンヴィーは腕を戻し宣言する。
 敵であるエンブリヲを、憎き存在を殺すために彼が取る手段は真なる姿の開放だ。

「――ほう」

 その光景にエンブリヲは軽く呟き、何か珍しい催し物を見るかのような瞳を持つ。
 膨れ上がるホムンクルスの身体。沸騰するかのように現れる突起物。
 ぼこぼこと音を立てながら分裂や結合を繰り返す細胞。人造生命体は人間体を超える巨大な生物へと変化することとなる。

 魔獣に相応しい緑色の身体。
 人間さを微かに残す黒い長髪。
 大地を覆う巨大な四肢とそれらに支えられる悪魔の姿。


「殺してやるよエンブリヲオオオオオオオオオ!!」


 魔獣の咆哮は学院の中隅々まで響き渡る。
 それに呼応するように――エンヴィーの身体に耐え切れぬため、音ノ木坂学院は崩壞を始めた。





939 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/06(水) 23:57:51 8sCSLgt60


 身体が辛かろうと。
 体力が低下していようと。
 今にも意識が途切れかけようと。

 エドワード・エルリックは走り続ける。
 己の身体に鞭を撃ち走る姿は正に物語における英雄が相応しい。
 闇に手を染める一人の少女を救うために、最年少の国家錬金術師が奮闘する、

 苦しくないと云えば嘘になる。
 DIOとの戦闘を終えた時点で、意識は失っていた。
 頭の中に眠る全ての風景が飛んでいたのだ。目を覚ました所で疲労は回復していない。
 例え転がってでも彼は前に進み、殺し合いを止めるために、走り回るだろう。

 立ち止まっている時間は無い。
 多少の傷を抱えてでも、殺戮を打破するためにも。


「普通に走っているだけじゃ追い付けないんじゃないか」

「御坂がこっちに居る確証も無いけど、そりゃそうだよな……」


 彼に随行するマオが言葉を漏らす。
 田村怜子から得た情報を元に移動をしているものの、この先に御坂美琴がいる確証は無い。
 そもそも、零に近い状況から無理やり結果を創りだした形に近く、所謂、部の悪い賭けである。

 止めるだの辞めさせるの言い続けても、会えなければ意味が無い。
 努力に伴わない結果に襲われ、残るのは虚無感だけだろう。

 
「んじゃ……ちょっと近道するか!」


 言葉を言い終えたエドワードは立ち止まり、悪知恵が思い付いたような表情をしている。
 近道と言っているが地図上で表せば特に横道がある訳でもない。
 あるとすれば空間――奈落しか目ぼしいものがない状況である。

「近道? あぁ、便利だな」

 エドワードが何を言っているか理解出来ないマオは彼に問いただそうとするも、直ぐに意図を飲み込んだ。
 言葉に漏らしたが本当に便利なものだとつくづく思う。
 その力があれば、何でも出来るんじゃないか。そう思えてしまう。

 錬金術は失われた古代の遺産だと思われていたが、充分、現代にも通用する一種の魔術のようだ。


「道を作りやがったな、エド」

「これで奈落も関係なしに動けるだろ――あっちが光ってるしさっさと行こうぜ」





940 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/06(水) 23:58:13 8sCSLgt60


 タツミの行先は音ノ木坂学院である。
 気絶している鳴上悠と銀を抱えている以上、安全な場所を確保する必要であり、近い建物が学院だった。
 
 参加者が減り続ける中でも時間は止まらず、安息の時は訪れない。
 休める間に休むのが生きるための手段だ。ジュネスが崩壞した今、近場は音ノ木坂学院である。

「ヒルダ……ま、黙ってても仕方が無いか」

 己に怒号を飛ばした女が居る。けれど、逃げていては何も始まらない。
 弁解するつもりもない。ただ、犯した罪を受け入れるだけ。

 殺し合いが加速する中、生存者が徒党を組まなくては生きていけないだろう。
 仮にあのエスデスに襲われた場合、一人と多数では生存確率に大きな差が生まれてしまう。

 そしてヒルダには一つ、詫びを入れる。
 失ったものはもう二度と、戻らない。だがタツミには着けるべきけじめがある。

「車輪……?」

 背後から近寄ってきた気配はころころと自分を通過して転がっていく。
 木製の車輪だ。石に躓きながらも懸命に遙か先まで回転していたが、何処から来たのか。
 よく見ると何やら輪は欠けた後があり、更に目を凝らすと銃弾が埋まっているではないか。

「戦闘が起きているのか……っ、これは」

 そもそもこの車輪をタツミは目撃したことがある。
 それは帝都に居た時――元の世界ではなくつい最近のことだ。
 殺し合いに巻き込まれてからの数時間で見かけたこの車輪、忘れる筈も無い。

 しかし車輪が転がって来たと云うことは、だ。
 アレが参加者と戦闘しているのだろうと、誰にでも解ることだった。

 タツミは音ノ木坂学院とは逆方向へ、踵を返し南へ進む。
 責任は自分にある。これ以上、あの出来事から被害者を出さないためにも、彼は走る。


「待ってろよ――さやか」





941 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/06(水) 23:58:42 8sCSLgt60


「おいおい、なんだってのさこれ……!」


 それは突然の出来事だった。
 ジュネスを目指していたヒルダ、白井黒子、小泉花陽の三人は一度、教会を訪ねようとしていた。
 寄り道も兼ねて、道先にあったため、散策しようとしたところで、不可思議な現象が起きたのだ。

 その出来事にヒルダは驚きの声を上げた。
 教会に入ろうと扉をくぐった先は――この世とは思えない謎の空間だった。
 芸術的、と称すればいいのだろうか。
 壁は湾曲し床も平らではなく凹凸、それもでこぼこと表現するかよりはぐにょぐにょが似合う可怪しさだ。

 扉の先が雪国だった方がまだ受け入れられる。
 手で頭を抑え、とうとう気でも狂ったかと落ち込むヒルダであるがこれは現実である。


「廊下のようにも見えますわね」

「お前、意外と驚かないんだな」

「もう慣れっこですわ。慣れたいわけでは無いのですけれど、ね」


 白井黒子は辺りを見渡し、形状が廊下のように続いていることを確認していた。
 流石に壁に触れることはしない。何が起きるか見当もつかないからだ。


「まるで会場に続いているみたい……コンサートをするような」


 小泉花陽が呟いた言葉に反応しヒルダは現実に意識を引き戻し、周囲をよく見てみる。


「たしかになんか宣伝のポスターみたいなのが壁にあるな」

「絵画かと思いましたがポスター……なるほど。教会に入ったつもりがコンサートホールに通じていた。
 …………自分で言っておきながらそれは無いと思いますの」

「白井さんの能力みたいにワープしたとか?」

「そんな21世紀のような技術は……無いとは言い切れないのが悲しい話ですの」

「いや……此処は教会がある場所と変わってないぜ」


942 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/06(水) 23:59:01 8sCSLgt60

 
 ヒルダがバッグから取り出したデバイスには変わらず教会と同じ座標が表示されていた。
 つまり彼女達はワープした訳では無く、何処か不思議な空間へ迷い込んだ訳でも無い。
 文字通りの「教会に入ったつもりだったがその中は教会じゃ無かった」だけである。


「デバイスが壊れている可能性は……無いでしょうね」

「じゃあやっぱり……う、歌が聞こえる?」


 何やら奥から旋律に乗せた声が聞こえる。
 理解は出来なくおそらく日本語では無いその言語は、聞いたことが無い言葉だった。
 まるで加工されているような、この世のものとは思えないものだ。


「まるで悲しみを叫んでいるような……心が痛い」

「小泉さん、何か言いまして?」

「え!? あ、何でもないです」

「気が遠くなる気持ちも解るけど集中してないと死ぬぞ……って、ええ!?」


 驚きの連続だ。
 殺し合いに巻き込まれてからは幾度なく信じ難いことが起きている。
 例えば自分とは異なる世界の人間がいた。
 例えば時間を止める参加者と遭遇した者もいる。
 例えば大切な存在が殺人に手を染めてしまった。
 例えば……その数多の現象は今も増え続けている。例えば教会が急に元の風景に戻ったり、と。


「……一難去ってまた一難」
「あ、何がだよ?」
「扉が開いてますね……お、奥に居るのは怪獣……?」
「はぁ……本当にびっくりのオンパレードですこと」







 口では軽く、歳相応の少女のような話しぶりである白井黒子だが、その瞳と姿勢は戦闘時へと移行している。
 風紀委員として犯罪者と対峙する時と同じように、この殺し合いの中で危険人物と対峙したように。

「さっきの歌はあれから聞こえて……なら歌っているのは」
「おう、十中八九あいつだな。ラグナメイルと同じサイズかありゃあ? いや、ちょっとは小さいか」

 拳銃を取り出したヒルダは対象を見定め、そのサイズを図る。
 距離はまだまだ離れているが、それでも大きいため相手は規格外の存在だ。
 
「鉛球撃ち込んでもどうにかなる相手じゃねえよなあ」
「まだ敵と決まった訳じゃ……」
「それ、本気で言ってる?」
「………………」

 銃口を遠くに居る対象へ定めるヒルダだが、言葉にした通り鉛球を当てた所で怯む相手には見えない。
 剣を振り回しながら近寄ってくる姿は正に死神だ。モンスターのような外見から悪魔とも言える。
 
 教会へ向かっていることから、あれは敵だろうと決めつけている。

 彼女達は知らないが迫る相手は――とある参加者の成れの果てである。


「――来ますわ、二人共近寄ってくださいまし!」


 かつて魔法少女だった存在から放たれた大量の車輪が開戦の合図となった。


943 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/06(水) 23:59:40 8sCSLgt60


 何処にも居ない。
 イェーガーズ本部で目を覚ました御坂美琴は建物を飛び出し、周囲を散策していた。
 闇夜ではあるが所々を雷光で照らしつつ動いてみるものの、誰一人して発見出来ていない。

 キング・ブラッドレイが自分を休ませてくれたのだろうと予想は出来る。
 きっと彼のことだ。待ち時間を散策に当てたのだろうと思うが、遠くまで行ってしまったのか。
 仮初ではあるが手を組んでいるため、勝手な行動は避けるべきだ。
 と、思うもそこまで義理厚く守る同盟でも無いのが事実である。
 出会ってから数時間程度の関係、優勝するためへの近道として徒党を組んだだけだ。

 別段、此処で別れても何の問題も無いのだ。あるとすれば次に会った時は敵同士ぐらいだろう。


「さっきから南と東の方でチカチカ発光したり馬鹿みたいに大きな音が聞こえるんだけど」


 周囲に人の気配を感じないが、遠くでは戦闘の余波をその身体で受け止めている。
 爆発に近い光や音が響いている中、夜ではあるが離れていても認識出来る存在感を放っている。


「行く宛も無い……から、ね」


 どの道、東へ向かえば予定通りアインクラッドに近づくことになる。
 仮にキング・ブラッドレイが自分を見捨てた場合、そこで合流することも可能だろう。
 最もまだ味方同士である保証は無いのだが。

 大方、何処かで戦闘でもしているのだろうあの老人は、と御坂は思う。
 冷静に振る舞っていながらも戦闘の際に見せる微かな狂気と滾る瞳は戦士のソレであった。
 何かを求めているのだろう。己を満たしてくれる何かを求めて。


「――行こう」


 その先に何が待っているかは解らない。
 そもそも時折、自分は何故戦っているのかという疑問に襲われる。

 死にたくないからか。
 主催者を倒すためか。
 誰かを救うためか。

 まるで自分が自分ではないような、己のことなのに解らなくなる。

 御坂美琴はその答えを求めているのだ。


 私はどうすれば――開放されるのか。





944 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:00:05 gZ4qoUkA0


 悪魔が放った車輪は教会の風通しをよくしていた。
 扉付近が破壊され、ビッグフットでもそのまま通れるぐらいには大きい入り口が出来上がっていた。

 あの一撃を受けると、下手をすれば骨が折れていたかもしれない。
 嫌な可能性を想像したヒルダの表情はよろしくないが、未知の体験がそれを凌駕していた。


「テレポート……?」
「わたくしの能力ですの、大丈夫ですか?」
「私は何とも……ヒルダさんは?」
「だ、大丈夫だ。ちょっとビビっただけだから」


 白井黒子の能力で教会前から避難した彼女達は、互いの安全を確認した。 
 誰も怪我は負っておらず、悪魔からの襲撃に対し回避を成功させた。
 悪魔は此方に迫っており、振るわれる剣の風が感じられ、近づかれてしまうとその余波だけでも脅威となるだろう。


「で、どうするよ。あれをなんとかしないとジュネスには辿り着かないぜ」
「対処……するにも無駄な戦闘は避けたいところですの」
「同感だ。アイツは見ただけでヤバい奴だ、関わりたくない」
「相手の情報が少な過ぎて作戦すら練れませんの。無駄な体力の浪費は避けるべきですわ」
「じゃあ、悔しいが一旦退くしくないな……っと、また車輪だ!」


 白井黒子が小泉花陽とヒルダの腕を掴みテレポートの力を行使する。
 彼女達は瞬時に消えると、北へ現れそのまま走り始めた。

 殺し合いに関係なく戦闘に置いて相手の情報が無いまま戦うのは大きな危険が伴う。
 出方や能力が解らない以上、為す術もなく一方的に殺される可能性も低いとは言い切れない。
 故に彼女達が選んだ選択肢は逃走だ。目的地からは遠ざかるが、わざわざ危険を侵す必要は無い。

 最も悪魔から完全に逃げ切れる保証も無いのだが。


「その能力、本当に便利だよな。ナイフとか身体の中へ移動させたらヤバいんじゃないか?」
「それも可能ですが……残念ですけど、今は何故か出来ませんの」
「出来るのかよ、それ……」
「まぁ、そんなことなんてやりませんけど。おそらくコレのせいですわ」


 コンコンと指先で嵌められた首輪を小突く白井黒子の表情は笑っていない。 
 能力に枷を負荷するこの首輪はおそらく、学園都市の実験ではないかと思ってしまうぐらいの科学力である。
 変な想像はしたくないが、殺し合いの真相はやはり、どうしようもなく闇が深いものだと認識してしまう。

 と、考えてはいるものの、今は逃げることが最優先である。


945 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:00:43 gZ4qoUkA0


「小泉さん、走れますか」
「私は大丈夫です、だから気にしないてください」
「いいガッツだけど無理はすんなよ」
(わたくしのテレポートが在るとはいえ……制限もある中、何処まで逃げ切れるか――ッ!)


 逃走中。
 もちろんその間は敵に狙われない訳が無く、悪魔は継続して彼女達を追っている。
 巨体の怪物は動きが遅いのが定番だ。しかしその分、一歩一歩の距離が大きい。
 悪魔の動きは遅い訳では無く、人間程度の速度ならば簡単に距離を詰めてしまう。

 白井黒子が気付いた時には新たな車輪が迫っており再度、瞬間移動で回避し走り続ける。
 背後を振り返れば依然として悪魔が近付いている。
 距離が詰まれば詰まるほどその存在感に圧倒され息苦しくなり、自然と焦りが生じてくる。

 テレポートを駆使すれば逃げ切ることも可能であるが、生憎、殺し合いには制限が存在する。
 例えば世界の針を止める能力に干渉する程度には、参加者間の中で均衡を整えようとした主催者の計らいだ。
 白井黒子については普段よりも体力の消費が大きくなっており、また、距離もある程度制限されている。
 それに脳に掛かる負担も大きなっており、演算処理に対し過度の能力使用なれば脳が焼き切れてしまうだろう。しかし――

「あたしの武器はこれと剣だけだよ。あんな奴に近寄りたくないから武器は必然的に鉛球だけ。
 そんでも試しに一発ぶち込んでみるかい? ドラゴンと同じで銃火器、それも拳銃じゃ全然歯がたたないと思うけど」

「牽制になれば大勝利、と言った所でしょう。
 無駄に弾を消費する必要もありませんわ。このまま逃げますわよ。着いて来てください」

「は、はい……!」

 一度に瞬間移動するにも質量さえ計算しなくてはならない。無論、三人程度なら制限を考えても可能だ。
 だが転移した先が安全かどうかは保証できない。そもそもそんな長距離を移動できる訳も無いのだが。
 白井黒子にとって武器でありとっておきの切り札でも在るのが能力だ。
 いざという時に発動出来なければ意味が無い。そして今がそのいざという時だ。

「もう一度行きますわよ……人?」

 今一度白井黒子がテレポートを発動しようとした時、ふと行く先に人を発見した。
 その男は彼女達を追い越すと、ブレーキを掛けるように大地を削りながら停止し――拳で車輪を吹き飛ばした。


「殴ってぶっ飛ばしやがったぞアイツ」
「あの人、手袋みたいなのを嵌めていますね」
「ならそれがあの殿方の武器なのでしょう……味方であればの話ですが」


 突如現れた男は悪魔と敵対していることから、おそらく敵意は無いだろうと彼女達は思い込む。
 敵であれば車輪など気にせず此方を襲うだろうが、最終的な判断は男の反応を待つしか無い。
 そして、男は振り返るとその口を動かした。

「久し振りって訳でもないけど、また会ったなヒルダ」










「………………誰だよお前」








 あたしは目の前に立っている女を認められなかった。
 なんでこの女が居るのか全く理解出来ないし、する努力もしない。

 思考放棄だ。こんなの現実じゃないって思い込んだ。
 全部が全部、夢で、デタラメで、不思議な出来事で。

 目が覚めたら夢だった。
 あたしもマミさんもまどかも転校生も死んでいない。


「な、なんであんたが立っているのさ……」


 声にも出した。
 それぐらい認めたくない出来事なんだろう。
 現実が怖くて自然と後ずさりしていた。


946 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:01:07 gZ4qoUkA0


 ピチャピチャと水が跳ねる。
 気にしていなかったけど床は黒くて赤い液体まみれだった。


「なんでってそりゃああたしだから! なーんてね☆」


 目の横にピースを合わせたあざといアイドルみたいな笑顔で女はあたしに言った。
 あたしだから。
 答えになっていないけど、それが答えだった。
 説明になっていないけど、「これが説明」なんだ。

 だってこの女は――あたしだから。


「あたしの目の前になんであたしがいるの……?」


 正真正銘の美樹さやかがあたしの目の前に存在している。
 ドッペルゲンガーならどれだけよかっただろうか。それならまだ、受け入れられる。
 でもこの女は違う。
 

「我は影、真なる我――へっへーん、一度言ってみたかったんだよねコレ」


 影と言い切った。
 だからこのシャドウはきっと――なんでもない。


947 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:01:41 gZ4qoUkA0


「そんなのどうでもいいから、あたしを元の居場所に戻して」

「居場所? ないないそんなの。わかってるでしょ、あたしは」


 手を横に振りながら否定した影は呆れたように笑っている。
 ふざけているようだけど、あたしは本気だから黙る訳にもいかない。


「戻して。まだあたしにはやることがあるの」

「無いでしょそんなの。タツミを殺すとか?」

「違う」

「願いを叶えるために全員殺すとか?」

「……」

「嘘でしょ。本当にあたしはいっつも言葉と考えていることが違うんだからもー。さやかちゃんは困ったちゃんですよ」

「ふざけないで……こっちは本気なんだからッ!」

「何が本気さ、遊び半分だったからこんなことになっているんでしょ」

「――――――――ッ!?」

 月並みの表現だけど、影の言葉であたしの頭の中は真っ白になった。
 違うって叫びたいけど、口が動かなかった。
 妙な呻き声みたいな、声が漏れているだけで何も出来なかった。

 そんな恐怖から知らない間にあたしは後退していた。
 なんで自分の影に怯えているかは解らない。ただ、怖かった。
 目の前のあいつがどうしようもないくらいに、怖かった。

「ひゃ」

 下がり続けていると何かにぶつかって尻もちをついた。
 するとそこは水じゃなくて椅子だった。しかも劇場にあるタイプの椅子だ。
 よく見ると影が立っているのは壇上で、あいつ一人が人形のように笑っていた。


「なんで解らないかな……あたしはいつだって素直になれずに、本気にならないでやっていた」

「嘘、違う……あたしはそんなんじゃない」

「だーかーらー……はぁ。美樹さやかって女はとても醜いんだよ。本気じゃないくせに悲劇のヒロイン気取ってさぁ!!」


 叫ばれた。
 その声は劇場に響き渡って、ミュージカルの主演のようだった。
 反響する声は最期の余韻まで感情を残し、やがて主演を彩るスポットライトが消えると奥のスクリーンに映像が映しだされた。


「きょ、恭介……」


 これから始まる映像なんて解らない。
 けど、ちょっと予想できるのが、自分でとても虚しくなった。





948 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:01:58 gZ4qoUkA0


「だってお前、俺に言ったじゃないか」
「だから知らねえって! あたしは初対面だっつーの! そもそもあのデカブツは殆どお前の責任じゃねえかよ!!」
「……ごめん」
(言ってしまったですの)
(ヒルダさん……それは我慢しないと)


 颯爽と現れた男はタツミと名乗りヒルダとあたかも知り合いのように話していた。
 しかし彼女は彼を知らず、会話が全く進まない。
 そこで戦闘中ではあるが、手短に話した所、結局、ヒルダはタツミを知らず初対面であった。

 白井黒子と小泉花陽から示されたホムンクルス――エンヴィーの話を聞き、彼らは一つの可能性に辿り着く。
 騙された、と。
 正確なことは解らないが真実である。彼らがこの答えを知るのはまだ先の話ではあるのだが。


「あのデカブツは美樹さやかって参加者で身体はお前のバッグに入っている」

「魂はあちらにあるけど身体はこちらにあるため放送には呼ばれていないと言うこと……?」

「対処する方法は無くて今は止めるために来た、でよろしいでしょうか」

「情けないけどその通りだ……誰か佐倉杏子って子を知らないか?」


 タツミが語る出来事は魔法少女と云う概念についてが軸となっていた。
 悪魔の正体は魔女であり、その真なる姿が参加者であり魔法少女である美樹さやか。
 現状として彼女を元に戻す手段がないため、唯一の生存魔法少女である佐倉杏子を探しているが、彼女達の反応から察するに知らないだろう。


「知らないか……此処は俺が引き受けるからお前達は安全な場所へ逃げてくれ」

「逃げろってお前、拳一つで勝てんのかよ!?」

「……誰かが足止めしないと、被害が広がるからな。
 もうこれ以上、悲しみを生まないためにも俺がこの役を引き受ける」

 
 魔法少女と魔女の新たな情報が存在しない以上、さやかを元に戻す手段を知りようがない。
 現時点で彼女を止める方法は倒すか無力化するか殺すしかないのだ。
 その役目を担うと言い出したのがタツミであり、彼は覚悟を決めていた。
 こうなってしまったのも全ては己に責任があるから。もう、誰も巻き込まないために。


949 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:03:02 gZ4qoUkA0



「無理に決まってんだろ……お前が死ねばバッグに入ってる悠と銀はどうすんだよ」

「そうだったな。頼んだぜヒルダ」

「要らねえよッ馬鹿……ってまた攻撃が来るぞ!」


 何度目になるか解らない車輪の襲撃を回避した所で、白井黒子がタツミに近寄った。


「現状として逃げるのが一番真当な手段だと思いますけれど」

「それはそうだ。でも俺は――」

「はぁ……考えてくださいまし。
 無闇に戦っても解決策が無いのなら意味もありませんですの。
 だったら今は生きることを考えてください。その佐倉杏子という方に会えればまだ別の手段があるかもしれませんし」

「だけど……いや、そうさせてもらうか」


 言葉を並べた所で進展しないことを悟ったタツミは一度、己の意見を引き下げ撤退の意思を示す。
 問題はどうやって魔女から逃げるかに移行する。
 白井黒子の瞬間移動に頼ってばかりはいられず、そもそも完全に撒けるのは不可能だろう。

 出来るならばとっくに彼女達三人は戦線を離脱している。
 さてどうしたものかと――とタツミが考えた所で最悪の事態が起きることになる。


「何か聞こえないか、呻き声みたいな」

「地震みたいに揺れて……何か近づいて、ひっ」


 小泉花陽がその異様さに気付く振り返ると、まるで悪鬼が迫っているかのような感覚に陥った。
 周囲に漂う空気を全て邪悪に変貌させるようなソレは、咆哮と共に大地を駆けている。

 緑色の怪物が口を開き、獲物を見下すような強者の瞳で笑っていた。


「どいつもこいつも見たことある奴らばっかじゃん……見飽きたしお前ら全員此処でこのエンヴィーが殺してやるよ」





950 : 魂の拠り所(前編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:03:22 gZ4qoUkA0

 
 結論から述べると、音ノ木坂学院は半壊した。
 真の姿へ変貌したエンヴィーを支えきれなくなった床と柱は脆く崩れ去る。
 かつて廃校の危機に脅かされていた学院は物理的に壊れ、生徒が通うには無理な状態となってしまった。

 無論、箱庭となっている殺し合いの会場に通う生徒などいる筈も無いのだが。

「エンブリヲオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 怪物の咆哮は学院全体を震わせ、窓ガラスが順に破裂していく。
 エンヴィーは現在、大地に立っておりその足が付いている場所は床ではなく土だ。
 断面となった各教室を見渡すも、エンブリヲの姿が見当たらずに苛立っているようだ。

 試しに前足を振るい、学院の一部を崩す。
 バラバラと落ちていく机や椅子。教室と呼ばれたその空間の思い出を全て削ぎ殺すように。


「何処に行った……この短時間で遠くには行けないよね」


 エンヴィーが目を離したのは変異に係る僅か数十秒のみである。
 時計の針が一周すら回らない時間では逃げるにも限界があり、見失うにも限度がある。
 獲物を視界から外された狩人は吠え狂い、己が私欲を満たさんがために学院を再度破壊させる手段をとる。
 大きく振り上げた前足を降ろそうとしたところに、校門の方角で動く影を捉えた。


「見ーつけた!」


 暗闇だろうが気配さえ察知できれば、少しでも見えれば狩りは決まる。
 学院から離れるその影を追い掛け、ホムンクルスは大地を震わし、その土に足跡を残しながら駆け抜ける。
 半壊してるとはいえ学院が大き揺れており、余波で更に建物が崩壞する絵はまさに地獄だ。









「単細胞め」


951 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:04:11 gZ4qoUkA0
あ、今は中編です。タイトルがごっちゃですいません


952 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:04:30 gZ4qoUkA0


 走り抜けるエンヴィーを屋上から見つめるエンブリヲの言葉が風に流され消えて行く。
 彼はホムンクルスが変異する際に、廊下から飛び降り既に大地へ避難していた。
 その後、降り注ぐ瓦礫に対処しながら敢えてエンヴィーに己の姿を認識させ、興味を校門へ導く。
 
 其処にエンヴィーが釣られたことを確認すると、己は瞬間移動を用いて屋上へ。

「精々他の参加者を減らしてくれたまえ」

 エンブリヲが優先したことはディスプレイの中に眠る各参加者のデータだ。
 初春飾利が途中ではあるが導き出した結果を見過ごすわけにもいかず、主催の手の内が見えない以上、情報を求めるのは必然である。
 
 参加者の記録をわざわざ残しているには理由が当然、必要になる。
 或いは主催の慢心だ。この程度の情報ならば与えても問題が無い、と。

 掌の上で踊らせている状況は、端的に言って心が癒されることでは無い。

(あのパソコンは何らかのデータバンクを繋がっているはずだ。潜り込みさえすれば……)

 必ず糸口が埃を被り眠っているはずだ。ならばその埃を払い、真実へ辿り着けばいい。
 エンブリヲの次なる目的地は幸い、生きているディスプレイが眠る部屋となる。





【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(小)、参加者への失望
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ、各世界の書籍×5、基本支給品×2 不明支給品0〜2 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本方針:首輪を解析し力を取り戻した後でアンジュを蘇らせる。
0:ディスプレイから情報を探る。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:広川含む、アンジュ以外の全ての参加者を抹消する。だが力を取り戻すまでは慎重に動く。
3:特にタスク、ブラッドレイ、後藤は殺す。
4:利用できる参加者は全て利用する。特に歌に関する者達と錬金術師とは早期に接触したい。
5:穂乃果、初春を利用する。
6:真姫の首輪を回収した後、北部の研究施設に向かう。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。
※DTB、ハガレン、とある、アカメ世界の常識レベルの知識を得ました。
※会場が各々の異世界と繋がる練成陣なのではないかと考えています。
※錬金術を習得しましたが、実用レベルではありません。
※管理システムのパスワードが歌であることに気付きました。
※穂乃果達と軽く情報交換しました。
※ヒステリカが広川達主催者の手元にある可能性を考えています。
※首輪の警告を聞きました。


953 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:04:49 gZ4qoUkA0


 襲来したエンヴィーが巨躯を存分無なく発揮しようと跳躍を開始した時点で白井黒子は既に行動を終えていた。
 魔女との戦闘で生まれた瓦礫を拾い上げると、能力を行使しエンヴィーの瞳にそれを放つ。

「痛ッ、ナメやがって!」

 眼球に直撃を貰ったエンヴィーは瞼を閉じながらも、攻撃を止めようとせず圧死させるべく落下。
 しかしこれも白井黒子が小泉花陽とヒルダを連れ瞬間移動済みであり、直撃も余波も、誰も受けていない。

 大地が震える中で蹌踉めく彼女達へ向けてエンヴィーが前足を豪快に振るう。
 再度、瞬間移動を行使した回避方法でいなすと、ホムンクルスから距離を取り始めた。

「逃げても無駄だよ、逃さないからねえ」

「俺も逃がすつもりは無いぜ――ッラァ!」

 上空から響いた声に反応しエンヴィーが視線を移動させると一人の男が剣を握っていた。
 月と重なる形で降下する男の刀身に光が反射し、暗闇と云えどその瞳が顕になる。

 不気味なぐらいにまで。一種の恐怖すら覚えるほど澄んだ瞳だ。
 殺し合いの状況だろうと、己を全く崩さない――殺し屋としての眼差しだ。

 ヒルダからすかさず剣を受け取っていたタツミは白井黒子の瞬間移動とは別に跳躍していた。
 エンヴィーの瞼が閉じていることを利用し、出来る限り気配を押し殺しての奇襲だ。
 振るわれた剣は防がれる筈も無く、ホムンクルスの背中に突き刺さった。


「ぐ……イライラすんなああああああ!!」


 苦痛に表情を歪ませながらも身体を揺らしタツミを振り解くために暴れ始め、その振動に剣は抜けてしまう。
 体勢を崩し、宙に放り出された所で彼の目前には尻尾が迫っており、防御した所で圧倒的体積差から完全に相殺することは不可能だろう。
 タツミが覚悟を決め全身に力を張り巡らせた瞬間、空間に白井黒子が割り込みテレポートで彼ごと移動する。

 誰も存在しない空間を尻尾が斬り裂いた所で、被害など生まれる筈も無い。
 着地したタツミ達はエンヴィーとの距離を開けると、もう一体の敵と挟み撃ちにならないように散開した。


「なんでさやかはエンヴィーを襲わないんだ……挟み撃ちか」


954 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:05:19 gZ4qoUkA0


 ホムンクルスが襲来したことにより危険度が急上昇したが、もう一つの脅威が消えることは無い。
 魔女は相変わらずタツミ達を狙い、遠では車輪を放出し近では剣で猛攻を仕掛け続けている。
 車輪を掻い潜ったとしても剣が迫り、その一撃を全力で受け止めるタツミがサイズの壁が聳え立つ。

 防いだ段階でも全てを殺すことは出来ず、また、受け流すことも不可能である。
 衝撃が全身を駆け巡り一種の麻痺現象が身体に襲い掛かる。


「止まってちゃ駄目なんじゃないかなァ!!」


 その好機を逃す程エンヴィーは馬鹿では無い。
 猪突猛進、身体の巨大さを贅沢に活かした力技でタツミを殺しに掛かる。

 それを回避する方法が、最早お手軽なシステムと化している白井黒子の瞬間移動だ。
 タツミが魔女とホムンクルスを引きつけている間にインターバルは既に終了済みである。

 ヒルダの武器が拳銃のみであり、小泉花陽は戦闘経験を積んでいない一般人である。
 魔女とホムンクルスの規格外を相手にする段階で人間側の戦力はタツミと白井黒子のみだ。
 どれだけ実力をフル回転させようと限度があり、一体でも厳しい状況に更に加わると逃げることすら困難となる。

「悪い……なぁ、やっぱりお前らだけでも逃げろ」

「それすら出来ない状況なのは貴方も解っているでしょうに」

 例えタツミが囮になったとしても、無事に白井黒子達が逃走出来る確率は限りなく低い。
 二人共、言葉には出さないが状況は所謂、詰みに近い。

「だから喋ってる程! お前らに余裕なんて無いんだよおおおおおおおおおおおお!」

 地獄門の如く口を大きく開いたエンヴィーの喉元から舌が鞭のように白井黒子に接近した。
 舌は彼女の身体に纏わり付くと空中に移行し、叩きつけんと大地へ急降下。しかし彼女は瞬間移動で脱出。
 
「しまっ――!」

 大地に避難したはいいものの、舌は近くの大地へ落ちることとなりその衝撃が彼女を襲う。
 瓦礫を含んだ質量の攻撃は当り所が悪ければ生身の人間は簡単に死ぬことになる。
 能力者と云えど所詮その身体は一般人だ。無理をすれば人間は生命を簡単に散らせる。

 タツミも間に合わず、遠くで小泉花陽を護衛しているヒルダも白井黒子の救出は不可能だ。
 魔女が助ける訳も無く、エンヴィーの攻撃に対し割り込んだのは誰も出会ったことのない男。

 その姿を知っているのはホムンクルスただ一人。
 眼前に現れた憎き敵の姿に彼は苛立ちと、殺したい獲物を発見した獣王の如く雄叫びを上げた。


「久し振りだねえ鋼のおちびさん……エドワード・エルリックッ!!」




 白井黒子が気が付いた時には大地が隆起し己を守る障壁と化していた。
 迫る瓦礫は全て降りかからずに大地へ転がっている。助けてくれたのは赤いコートの男の子だった。

「無事か――ッ!」

「……? ありがとう。わたくしは白井黒子と申しますの」

「お、おう。エドワード・エルリックだ」

 歯切れの悪い返事をしたエドワードは周囲を見渡し愚痴を零す。

「なんでこんな怪獣大戦争やってんだよ」

「わたくしに言われても困りますの。幾ら錬金術が使えるとは云え貴方のような子供は避難するべきですわ」

「誰が豆粒ドチビだって――痛ってえ!?」

「お嬢ちゃんはそんなこと一言も言っていないだろうに」

「猫が喋って――来ますの!」

 空から雨のように降り注ぐ車輪を回避するために白井黒子はエドワードの腕を掴むとその場から消えた。
 次の大地へ着地した段階でエンヴィーと魔女を視界に収める。敵は近くに固まっていた。
 タツミが魔女の相手をしてくれていたようだが、大量の車輪を捌き切れずに此方へ来たようだった。

「すっげえ……その制服着てる奴は何かしらの能力ってモンを持ってるのか?」

「こちらからしてみれば万能な錬金術の方が驚きですけど……え?」


「お前、錬金術を知っているのか?」

「制服……お姉さまを知っているのですか!?」


 常盤台の学生は白井黒子と御坂美琴の二名だけである。
 エドワードがその制服を知っていることは超電磁砲を知っているのと同意義だ。
 探し人である存在の足掛かりを掴めるとなると、白井黒子はエドワードに接近していた。


955 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:05:44 gZ4qoUkA0


 錬金術を知っていることはつまり、マスタングかキンブリーと接触した人間だけである。
 前者なら別に探してはいないが伝えるべきことが山程ある。
 後者だった場合は本当に言うことは無い、と思うエドワードだがマスタングの行く先は抑えておきたい。

「ち、近いぞ。俺は御坂を探してんだ。それでお前が知っているのは大佐かそれともキンブリーか?」

「お姉様の居場所を知っている訳では無いのですね。
 わたくしが出会ったのは二人共ですわ。マスタング大佐とは日中に別れたっきりですの」

「そうそう! 大佐は参加者の一人焼き殺したんだよ? それもみ・か・た。知ってるかい鋼のおちびさん」

「――――――――――――知ってるよ」

「とんだ発言ですこと。それを仕向けたのは貴方ですわ。全く反吐が出る程の下衆ですわね」

「それにお前が関わってるのもな……エンヴィー!」

 掌を合わせた音が空間に響く。
 その音は誰もが聞き慣れた音であり真理を知った人間が奏でる錬成の調和だ。
 機械鎧に刃を宿しエドワードはホムンクルス目掛け大地を蹴り上げる。

 それに対抗するようにエンヴィーが尻尾を振り回し瓦礫を飛ばす。
 その数は数百を超えているもののエドワードは刃で捌きつつ、距離を詰める。
 
 懐に潜り込んだ所で腹を斬り裂くも、巨体が倒れ込んで来たため錬成を発動し大地を隆起させる。
 潰されないように耐えている中で白井黒子が駆け寄りテレポートで彼を運びだすと次なる場は上空だ。
 数分前にタツミが強襲したようにエドワードを放り投げ背中への攻撃を狙うも――車輪だ。

 魔女が馬鹿の一つ覚えのように連発する車輪がこの一帯を覆っているようだ。
 タツミは接近戦しつつ捌き、ヒルダは小泉花陽を守るように回避を続け、エンヴィーと交戦しているエドワードと白井黒子にも襲い掛かる。

 ホムンクルスへの強襲を中断し、刃で車輪を受け流すとそのまま大地に降り立つ。
 対象は魔女の隣へと移動しており、その光景は壮観だった。

 緑の巨躯と人魚の魔女。
 本来ならば決して交わる筈のない存在が殺し合いの劇場において悪魔の共演を果たしている。

「なぁ、エンヴィーの横にいるのはなんだ……まさかホムンクルスか?」

「違う。あれは参加者の――美樹さやかって女の子だ」

「美樹さやか……さやか――杏子の知り合いの、魔法少女!?」

「猫が喋って……!?」

「その下りはもういい。で、本当に美樹さやかなのかあれは?」

「間違いないさ――俺の目の前で魔女になったんだからな」

「魔女、魔女ォ!? おい、なんで魔法少女が魔女になってんだよあれは敵なんだよな!?」

 近くに居たタツミに話しかけるエドワードにとって驚きの嵐だった。
 立っていられなくなるような疑問と新情報が暴風雨のように襲い掛かる。

 戦闘の最中ではあるが、全てを知るために彼はタツミの言葉に耳を傾ける。














「お前に言いたいことは山程あるんだが……もう一度聞く」






 ホムンクルスと魔女の攻撃を捌きながらエドワードと白井黒子は美樹さやかの一部始終を聞き終えた。
 波乱――運命を歪められた一人の少女の物語は哀れだ。 
 これに過去のこと――佐倉杏子辺りから聞き出した場合、もっと悲惨に感じるだろう。

 殺し合いに巻き込まれた一人の少女は常にタツミと行動していた。
 彼に責任がある訳では無い。そして彼にも責任がある。


956 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:06:08 gZ4qoUkA0


「さやかの肉体はお前のバッグに入っているんだよな?」
「ああ。元に戻せる方法を知っている訳じゃないけど、その時のために」


「もう一つ。ソウルジェムが砕けて魔女が生まれたんだな?」
「……俺がグリーフシードを渡さなかったから」


「まだだ。そのグリーフシードはまだタツミが持っていることでいんだよな?」
「勿論だ。嘘なんて憑かねえ」


「さやかが魔女になったのは放送よりも前でいいんだな?」
「そうだ、魔女に首輪があるんだから生存扱いってことなんだろう」


「よし解った――タツミ」
「……どうした?」




「全部終わったらお前はさやかにちゃんと謝れよ」




 笑顔で言い切った。
 最年少国家錬金術師――通称鋼の錬金術師、エドワード・エルリックは言い切ると鉄パイプを錬成し大地に陣を描く。

「一分でいいからエンヴィーとさやかの相手を頼む」

 彼が何を考えているかは解らない。

「それってどんな意味が、それにさやかに謝るって一体……」

 エドワードは言葉で語らずタツミの瞳を見つめた。
 確固たる信念を持ったその瞳を見てタツミもまた、言葉を語らず剣を握り直した。

「これは貸しですわ」

「貸し?」

「この場を脱しましたら御坂美琴お姉様について知っていることを全部聞かせてもらいますわ」

「……わかったよ。けど」

「覚悟は出来ていますの」

「――おう」

「それと先程、錬成した鉄パイプ――百本程くださいまし」









「そろそろ行こうか」


957 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:06:37 gZ4qoUkA0



 魔女の隣に陣取るエンヴィーはエドワード達を数分ではあるが、放置していた。
 侮っている訳では無い。気になることが一つあったからだ。

 何故、この魔女は襲って来ないのか。

 この一帯に集まった参加者の中で一番の危険人物だと自覚しているエンヴィーからすれば狙われないのが不思議である。
 仮に魔女が殺し合いに乗っているとすれば、数減らしのために協力している可能性もある。
 しかし、幾ら話しかけても返答すらしないこの存在に知性があるとは思えない。あったとしても言語機能は備わっていないのだろう。
 
 意思疎通が出来なければ解るものも解らない。
 同胞のホムンクルスであるグラトニーやスロウスはまだ言葉が通じていた。
 最も解った所でエンヴィーからすれば敵に変わりは無いのだが。

「ま、お前の演奏は前にも言ったけど嫌いじゃないから終わった後にもう一度奏でなよ。その後に殺してやるからさ」

 誰もが気付かなかったが一瞬だ。
 僅かの時ではあるが魔女か少しだけ嬉しそうに――したかもしれない。











 タツミが走り始めた時と同時に白井黒子がバッグの中から鉄パイプを二本取り出した。
 すかさずそれらを瞬間移動で飛ばし、己も大地を蹴り上げホムンクルスに迫る。

「ぐぅぅう……お前から殺す、白井黒子オオオオオオオオ!!」

 鉄パイプが両目に刺さったエンヴィーは賢者の石による再生が終了した段階で大地に足を降ろす。
 瓦礫が飛び散りまずはタツミに迫るが剣で対処し勢いを殺すこと無く走り続けた。
 白井黒子は瞬間移動で避けつつ、エンヴィーの両前足に鉄パイプを移動させ大地を巻き込んで突き刺す。

 更に怒りの度合いが上昇したエンヴィーは舌で強襲するも、それも鉄パイプに防がれる。
 計四本の鉄パイプが舌の上から大地に串刺しとなって突き刺さり、動くことが不可能となる。
 強引に舌を己へ戻すと刺さったパイプは噛み砕き、唾のように吐き捨てた。


「もう一度目を潰させてもらいますの」


 空中に飛び出した白井黒子が鉄パイプを握り締めエンヴィーの瞳目掛け振り下ろす。

「――ッ!?」

 その時、エンヴィーの身体に奇妙な膨張が発生した。
 震え上がるその巨躯に浮かび上がるは無数の顔だ。それも人間の。
 呻き声を上げ始めた亡者の念に気圧された白井黒子は攻撃の手を休めてしまう。

「なんで人が……っ」

「止まってるよ甘ちゃん!」

 爪で斬り裂かんと振り回された凶腕に対し白井黒子は瞬間移動を試みるも、演算が遅れてしまう。
 移動こそ成功させたが、左足に爪が掠ってしまい美しい人体に赤黒い血が流れ始める。
 傷は深くなく、移動に支障は出ない段階であるが当然、走ろうとすると激痛は免れないだろう。しかし。

「エンヴィーは引きつけましたわよ。後はそちらの仕事ですのエドワード」







「後は任せたぜエドワード!」






 車輪を掻い潜り魔女と対峙していたタツミは見事に彼女を錬成陣へ誘き出すことに成功していた。
 無論、無傷な訳では無く身体の至る所から流血しており死亡まではいかないものの、意識が飛んでも不思議では無い。

「後は任された、ってな。こっからは俺の仕事だ」

 錬成陣を描き上げたエドワード。
 彼が立つ大地には肉体だけが残った美樹さやかとグリーフシードが置かれていた。

 迫る魔女を見つめ、掌を合わし、彼女が錬成陣に侵入した瞬間で大地に触れる。
 蒼き閃光が雷光のように駆け巡ると、大きな光に包まれ彼らはその場から消えることとなる。


「それじゃあ、行ってくるぜ」





958 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:07:25 gZ4qoUkA0


 スクリーンに映しだされたのは恭介の病室へ通うあたし――美樹さやかだった。
 客観的に見る自分は違和感を感じる。
 劇場だからか音が全体を震わせるように響いていて、四方八方から音が聞こえる。
 あたしってこんな声だっけ、そんなことすら忘れるぐらいに。


『恭介のために何度も通っていたよね」

「当たり前でしょ。心配だったんだから」

『でもソレは嘘。本当は自分のためだよね』

「な、何を言っているのよ」

『恭介に必要とされたかった。自分を求めて欲しかった。好意を抱いて欲しいからでしょ』


 まるで後頭部を金槌で殴られたみたいに意識がとびそうだった。
 シャドウはあたしに対して、徹底的に追い込むつもりなんだろう。
 席を立って力一杯に叫び返してやった。黙るのが怖いから。


「そんなこと……あたしは!」

『嘘では無いでしょ。ほら、見てみなよ。幸せそうな顔してさ』


 映しだされたのはイヤホンを共有していたあたしと恭介の姿だった。
 本当に幸せだったのは今でも覚えている。
 画面のあたしも頬を染めて、とても幸せそうだった。


『結局は自分のためだったけどね』

「だから違うって! あたしは恭介のために」

『どこがさ! どこが恭介のためだって言うんだい!』


 ステージを踏み付けた音が劇場に響き渡る。
 その時にスクリーンの映像が代わり、映しだされていたのは――思い出しくもない場面だった。


『恭介に音楽を聞かせ続けることが彼のため? 本気で言ってるの?』

「だってあたしは恭介に音楽を――」

『もう二度と! 演奏できない彼にすることが……へぇ、彼のために、ねえ?』

「ちが、違う……」

『ふーん』


 最期まで言い切れなかった。この時点であたしは解っていたんだと思う。
 でも口には出さなかった。だって認めることは怖いから。


『契約したのも本当にあたしって馬鹿だよね。マミさんが死んだのを見たくせに契約するんだもん』

「マミさんを馬鹿にするな!」

『してないから、それに話題を逸らさないで。
 自分の生命を代償に教えてもらった魔女との戦いに対する恐怖をあんたは恭介のために無駄にしたんだよ、マミさんを』

「契約したのは恭介の腕を治すため。それにマミさんの代わりにあたしが……!
 マミさんが死んだのは見学に行ったあたし達の責任もあるから、それであたしは……っ」


 少ししか話していないのに息が切れていた。
 それ程までにあたしは必死だったんだろう。
 心なしか見た目よりも落ち着いていた。自分でも不気味なぐらいに。


『契約した所でさ、なんで恭介に告白しなかったの?』

「それは今、関係無いでしょ……あたしは」

『そのくせに仁美を妬んでっさ……馬鹿じゃないの?』


 恭介の腕を願いで治したあたしは彼にそのことを伝えなかった。
 魔法少女になってあなたを救いました。なんてことは口が裂けても言えない。
 不思議ちゃんを通り越してちょっとヤバい人みたいだもん。それは嫌だった。


959 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:08:38 gZ4qoUkA0


 恭介が学校に復帰してから数日経った時。あたしは仁美から相談を受けた。
 モテモテなんだよね恭介は。
 仁美は告白したいって言った。事前にあたしに言ったのは抜け駆けは嫌だからって。
 良い子だよね本当に。
 勇気が無いあたしは仁美にGOサインを出していた。本心に嘘を憑いて……嘘?


『仁美が恭介と付き合い始めたら嫉妬嫉妬嫉妬……誰が悪いか知ってる?』

「ぅ…………」

『お前だよこの馬鹿。おまえいずべりーふーりっしゅ。
 自分が恭介のことは好き。だから告白はあたしもする、なんて言えば良かったのに』

「………………」

『無言は肯定だからね? 我ながら本当に馬鹿で女々しくて自己中だよ』


 なんでだろう。
 あたしは必死に泣くのを堪えていた。
 頑張って上を向いて瞳に貯まる雫を落とさないように拳まで握っていた。

 辛い。 
 逃げたい。
 本当のことを言わないで。



『自暴自棄になって魔女を狩ってもグリーフシードを使わない』
やめて
『わざと魔力を多く消費する』
やめて
『挙句の果てに助けに来たまどかにキレる。杏子の腕も払う』
もう
『魔女になりかけた所で殺し合いに巻き込まれるも結局は魔女になる』
お願いだから
『少しでも誰かに本心を言っていればこんなことにはならなかった』
助けて
『それは自分の責任。嘘を憑いて、「美樹さやか」を演じていたから』
やめて


『だから遊び半分なんだよ。本心隠してるから追い込まれてるくせに他人のせいにしてさあ』


「やめろ……止めろっ!!」


 もう、嫌だ。
 なんでそんなことを言うのか。
 本当にこいつはあたしの影なんだろうか……あっ。


960 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:09:07 gZ4qoUkA0


『違わない! 認めろ美樹さやか! お前は醜いんだよ!
 他人の目ばっか気にして嘘を憑いて生きている! なのに責任は他人に押し付けるような人間なんだ!!』



「違う……違う違う違う! あたしはそんなんじゃない……あたしじゃないくせに何が解るのよ。
 他人のくせに、よく解かんない存在のくせに偉そうにさっきからさ……何なのよ、あんたは……何なのよ」

『最初に言ったでしょ。あたしは影。あなた自身であり美樹さやかでもある』










「違う、あたしじゃない! あんたなんか、あたしじゃない!!」









『本当に哀れだよね「美樹さやか」ってさああああああああああああああああ!』







 シャドウの周囲を水が、血液が、剣が、車輪が、音楽を渦巻くように集中していく。
 その中心に立っているシャドウに吸い込まれ始め、何かを作っているようだった。
 あたしが瞳を開ければ悍ましい魔女が、見下していた。


『馬鹿だよ。現実も受けいることが出来ないなんて』

「な、んで魔女の姿……」

『なんでってあたしなんだからしょうがないでしょ。魔女になった美樹さやかさん』

「うるさい……うるさい!」


 ソウルジェムを取り出したあたしは変身した。
 もう、耐えられない。
 あたしを追い詰めるこいつを倒すためにあたしは剣を握りたかった。でも。


「ソウルジェムが無い……っ!?」

『気付いたよね? 魔女になったらそりゃあソウルジェムは無いよねー』


 これは認めるしか無いのか。
 目の前の存在は魔女であり美樹さやかだ。

 こいつの言うとおりあたしは醜い存在だ。
 責任を他人に押し付けて、自分のことしか考えない人間だ。

 その通りだと思う。
 でも、認めたくない。


「う……ぅ、……っ」


 涙が止まらない。
 悪いのはあたしなのに。
 なんでかは解らない。

 涙が止まらない。 
 こうなったのも自分の責任なのに。
 今のあたしは誰かに救ってもらいたいと勝手に願っている。

 だからふざけた言葉が溢れる。


「お願いだから……誰か、助けて……」


 本当に馬鹿だと思う。
 こんな状況でさえ、自分の力じゃなくて誰かの力で助かろうとしている。

 こんな願いは誰も聞いてくれないだろう。
 だから、「助けてやるよ」なんて聞こえた時は耳を疑った。

 幻聴でも良い。
 この状況から脱せるなら、救世主は誰でも良かった。

 そして気付けば彼が立っていた。




「魔法少女の場合は真っ白い空間じゃなくてこんな暗い所につくのか。
 これじゃあまるでグラトニーの腹ン中みたいだな……よっ、助けに来たぜ美樹さやか」



 金髪であたしより小さい男は振り向き笑った。
 なんだろうか。あたしはこの人を知らない。背丈からか頼りない印象を受けている。
 でも、不思議と彼を見て安心していた自分がどこかにあった。


961 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:09:38 gZ4qoUkA0


『驚いた……この空間に入ってくる人間が居るなんて』

「この空間って此処はどこだ? 真理かと思えばやけに暗くて気色悪い」

『今、自分で言ったばっかだよ。
 この空間の大半は擬似・真理の扉とマヨナカテレビで構成されているからね。あなたの判断はある意味正解である意味不正解』


 あたしからすればシャドウと男が話していることは全く理解出来ない内容だ。
 グラトニーとか真理とかマヨナカとか。初耳ばかりで考察のしようが無い。

 男は何か気付いているらしく、とても考えを張り巡らせているように真剣な顔つきだ。
 対するシャドウはけらけらと嘲笑っている。あれがあたしなんて今は本当に認めたくない。


「なんで擬似・真理の扉に俺は――まさか」

『ん、思い当たる節でもあるの?』

「いや、何でもない。
 どうせ、今頃は俺達を見下しているホムンクルスの親玉を想像しただけだ」

『面白いこと言うね。もっと聞きたいけど今のあたしは最高の気分だから相手をしてね――ッ!』


 シャドウの後ろに剣が何本も空中から生えるように現れ始め、切っ先を男に向けていた。
「お前が誰だか知らないがその見た目は魔女なんだろ――大人しく元の居場所に戻りやがれよ」
 掌を合わせた彼は血の海へ腕を潜らせるとそのまま槍を引き抜いていた。
 あたしが立っていた時は槍なんて足に引っ掛からなかったから、とても不思議に感じる。
 まるで槍を創り上げたみたいに。

 シャドウが右腕で握った剣を振るう。それに呼応した無数の剣が男に飛んで行った。
 あたしは彼の後ろにいる。けど震えて、泣いて、動けなかった。

 男は槍を演舞のように操りながら迫る剣を次々落としていく。
 あたしに気遣っているかは解らないけど、一本も後ろに漏らしていない。

「気をしっかり持てよ。俺が元に戻してやっから」

「あんたは誰――え?」

「エドワード・エルリック。
 そうだな……佐倉杏子からお前のことを聞いていて、最近の出来事は全部タツミから聞いたって言えば信用してくれるか?」

 何を言われているか、また理解出来なかった。
 久々に聞いた杏子の名前にも反応出来ない程に、あたしは耳を疑った。
 もし意識がはっきりしていたなら。元に戻すってエドワードは言ったことになる。

「元に……それって」

「言葉どおりだけど――まずはこいつからだッ!」

 エドワードは剣を捌ききるとそのまま槍をシャドウへ投げた。
 槍の後ろを着いて行くように走っていて、また掌を合わせていた。
 気になっていたけど、彼の腕は鉄みたいに見える。それに触れると蒼い光が輝いた。

 気付けば腕の先に刃が付いていて向かってくる車輪を斬り裂きながら走っている。
 エドワードがどんな人かは解らないけど、何だかあたしは安心していた。
 
 あたしより小さいのに、戦っている姿を見ると何だかその背中が大きく見えた。

 彼が言っていた杏子とタツミの名前からして事情を色々と知っているんだと思う。
 魔法少女のシステムも知っているだろうし、あたしの馬鹿さもきっと知っているんだろう。
 そんな人があたしのために戦っている。その事実に心が痛くなる。


『制限されていたから結局あの女達を結界に閉じ込めることは出来なかった。
 けどねえ、小さい人間一人に負ける程まで弱くなったつもりはこれっぽちも無いよ』

「誰が……ぶっ飛ばす」


 シャドウが振り下ろした大きい剣を跳躍で避けたエドワードはそのまま刀身に着地した。
 何か怒っているみたいだけど今の会話でどこに怒ったんだろうか。
 そんなことを考えれるぐらいまでには、あたしの心は落ち着いていた。


962 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:10:13 gZ4qoUkA0


 刀身を駆け上がると腕の刃でシャドウの瞳を斬り裂いた。
 痛みを体現するように左腕で顔を抑える姿を見ていると、あたしが傷付いているようで怖かった。


『ああああああああああああ!
 邪魔すんなって……あたしをさああああああ!!』


 また無限の剣が空中に現れて一斉にエドワードへ飛ばされていた。
 血の海に着地した彼はまるで魔法使いだ。
 掌を合わせる音が響いたかと思えば、いつの間にか赤い壁が召喚されている。

 剣が壁に激突しガリガリと削れる音がこの空間に浸透する。
 幾つもの刃が突き刺さって、後ろから見ているあたしからすれば今にも崩れそうだ。


「なあ、解ってるよな?」

「……え?」


 ふとエドワードが漏らした言葉にあたしの胸が急に苦しくなった。
 解っている。
 今のあたしにその単語は猛毒だ。


「この空間とお前とあいつ――もう解ってんだろ」


 やめて。
 どうして助けに来た彼までそんなことを言うのか。


「違う、あたしはあんなんじゃ……っ」

「俺はまだ何も言ってないけどやっぱ解ってんだな」

「あっ」


 裏を取られた気分だった。
 あたしはシャドウがあたしじゃないと拒絶した。
 でも、言われた言葉は本当で、あたしは自分自身に嘘を憑いていた。

「っくそ、壁が保たねえ……ッ!」

 恭介のことが好きだった。
 だから仁美が告白したいって言った時は本当に困った。
 だって、あたしには告白する勇気何て無かったから。

 それで仁美に譲っても、あたしは被害者気取りだった。
 あの女に恭介を奪われた。馬鹿みたいって自分でも思うよ、情けないくらいに。

「自分を受け入れろ……辛いかもしれねえけど、人生ってのはそんなモンの繰り返しだぞ」

 心配してくれたまどかに八つ当たりしたのは本当に自分のことがカスだな、って客観的に思えた。
 魔法少女になれ。今なら口が裂けても言えないよ。

 杏子は最初はあたしに上から目線で説教ばっかりの嫌な奴だった。
 それでも……最期にあたしの隣にいてくれたのも杏子だった。


963 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:10:54 gZ4qoUkA0


 錆び付いたあたしの心はどんな音だろうと決して響かなかった。
 魔女にまで落ちぶれた馬鹿は、理由は知らないけど殺し合いはに巻き込まれる。
 そこからも自暴自棄でタツミにはたくさんの迷惑を掛けた……相手は相手でどうかと思うけど。

 結局、杏子の腕を払ったあたしに、他人の腕を取ることなんて出来なかった。

 最期のあたしは気付けば一人で泣いていた。
 辛くて、寂しいあたしの姿。

 帰る場所すら失ったあたし。

 それでも、まだ名前を呼んでくれる人がいる。

「頑張れよ。タツミは自分の罪を受け入れて戦ってる」

 あたしのために戦ってくれている人がいる。

「杏子もな……あいつだって辛い別れがあったけど今も戦ってると思うぞ」

『うるさいねえ。そいつが醜い自分を受け入れるとでも思ってんの!』

「また車輪と剣かよ……幾らでも落としてやらァ!!」

 ふと気付く。
 あたしは奇跡に縋った女だ。

 その奇跡は三度起きている。

 一つは魔法少女の契約を果たして恭介を救えたこと。

 二つは魔女になりかけの状態から殺し合いに巻き込まれたお陰で生命が延長したこと。

 三つ目は魔女になったのに、こうして意識があること。

 望み過ぎた。
 あたしはこれ以上、何を求めるのか。

 今も戦っている人達がいる。
 その人達に対してあたしは――なんて醜いんだろう。



「ごめんね……本当にごめんね」



 強がった声を出したつもりだったけどすごく掠れていた。
 あたしの言葉にシャドウの攻撃は止まっていた。

 一歩ずつ近づくあたしに対して、シャドウは戸惑っているようにも見える。


『ごめん、じゃないよね。
 何言ってるのさ、狂ったのかい美樹さやか』


 少し視線を下に向けるとあたしの足が震えていた。
 ビビっているんだ。この期に及んで生命を失うことに恐怖している。
 いや、死にたくはないんだけどね。


「あんたの言うとおりあたしは醜いよ。
 自分のことばっか考えてるくせに他人の目を気にして、辛くなったら責任すら他人に放り投げるような女さ」


 言ってやれ。


「あたしってほんと馬鹿。なんてことは言われなくても解ってる」


 言うんだ。


「気付かされたってのも違う。あんたの言うことを最初から理解してた。でも、嫌だからまた嘘を憑いていた」


 これが。


「拒絶して……誰かに救われるのを待っていた」


 あたしのありったけ。


「ごめんね……「あたし」。
 拒絶してさ、自分のことなのに……本当にごめんね」


 シャドウの――「あたし」の腕に手を伸ばす。
 人魚みたいな見た目とは裏腹に暖かい温もりを感じた。

 気付けば魔女の姿は「あたし」になっている。
 目の前には瞳を光らせた「あたし」が困惑の表情を浮かべている。
 その姿は悩んでいるあたしにそっくりだった。

 だから。

「一緒に帰ろう――あたし達の居場所へ」

 悲しませないためにそっと抱きしめる。

『あ…ぁ……』

「だからもう一度、現実と向き合いに行くよ」

『わけわかんないよ……なんで、どうして』

「キュウべぇの真似? 似てないけどさ――あたしのことは「あたし」がよく知ってるでしょ!」

 笑顔で言ってやった。


964 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:11:18 gZ4qoUkA0


 マミさんがあたしに言ってくれたように。
 ほむらが……そんなことあったかな、きっとあったと思う。
 まどかがあたしを励ましてくれたように。
 杏子が最期まであたしを見捨てなかったように。

 その言葉を聞いたら「あたし」は粒子みたいに消えて行った。
 真似するつもりじゃないけど本当にわけわかんないよって感じ。
 ただ、泣きながらも最期は笑顔だったから。離れ離れになった訳じゃない。
 だってあたしは「あたし」なんだから。


「へっ……んじゃ、後は帰るだけだな!」

「帰る――ねぇ、本当に帰れるの!?」


 エドワードの言葉にあたしは食い気味で突っ掛かった。
 本当に帰るかどうかなんて知らなくて、ただ彼の言葉を信じていただけだから。


「任せろ。人体錬成――って言っても解かんないよな」

「ごめんあたし中学生だから」

「……?
 まぁいいか。簡単に言うとお前の肉体は生きている」

「身体は残っているんだ……人形みたいに」

「それでソウルジェムが砕けて魔女になった――つまり、魔女は魂が穢れた成れの果て」

「グリーフシード……帰ったらタツミに謝ってもらわないと。あたしも謝るけど」

「俺は昔にな……肉体を失った弟の魂を鎧に憑着させたことがあるんだ」

「…………………………………………………?」

「その時みたいによ。魔女がお前の魂ならそいつを肉体に戻せばいいと思ったんだ」

「で、できるの……?」

「通行料は幸いグリーフシードで代用出来たからな。
 あれは魔女が変化した存在だから元を辿れば生きた人間を原料にしている……今回限りの使用だ」

「じゃああたしは……人間に、もどれ、る……?」

「一か八かの賭けだったけどよ。
 お前が自分の魂を受け入れたんだ。さ、一緒に帰ろうぜ」

「じゃあ俺の身体も元に戻してくれ」

「ね、猫が喋った!?」

「契約者のことは知らん。お前はバッグに戻ってろ」


 涙が止まらなかった。
 もう、ゾンビみたいに一生を過ごすと思っていた。
 そんなあたしに訪れた四度目の奇跡。

 タイミングを見計らったようにあたしとエドワードの身体が消えて行く。
 きっと現実に――殺し合いの会場に戻るのだろう。

 あたしの人生はまだ終わっていなく、やることがたくさん残っている。
 それでまずは――この殺し合いを終わらせてやる。


「次に来た時は全部返してもらうからな」


 消える間際にエドワードが言っていた言葉をあたしは理解出来ずに聞き流していた。


965 : 魂の拠り所(中編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:12:01 gZ4qoUkA0


 まるで標本にされた昆虫のようだ。
 身体の至る所を鉄パイプで貫通され大地に固定されたエンヴィーの姿は正に置物だ。

 巨躯を活かし豪快に戦闘していたものの、その図体の大きさが仇となった。

 タツミが前線で気を引きつけている間に白井黒子は何本もの鉄パイプをエンヴィーに突き刺した。
 何度も何度も繰り返される中、ストックされている賢者の石の回復速度を凌駕し始め、ホムンクルスは動けずにいた。


「く……お前も天城雪子みたいに殺してやる、殺してやるからな」

「此方の台詞ですわ。暴れると更に刺しますわよ」

「やってみろよ人間風情が調子に乗りやが――エドワード……エルリック」


 苛ついたエンヴィーが目にしたのは気付けば錬成陣の上に立つ鋼の錬金術師だった。
 所々に傷を覆っているものの、致命傷は受けていなようだ。


「戻ってきたってことは……」

「おう! 目が覚めればこいつは美樹さやかだぜ」

「よかった……本当によかった」


 事実として本当に美樹さやかが助かった証拠は無い。
 解るのは錬成した本人であるエドワードだけだが、タツミは彼を疑わなかった。
 言葉は感謝の念だ。もう振り返れない誤ちに向き合う奇跡を得た故に。


「よぉエンヴィー……お前らは殺し合いを企てて何を考えてやがんだ?」

「あん? 何言ってんだよ。僕だって巻き込まれたんだぞ。ラースやプライドは知らないけどね。
 少なくとも一緒に行動していたキンブリーも僕と同じ立場だよ。まさか名簿にホムンクルスの名前があったからって勝手に決めつけてる?」

「て、テメェ……」


966 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:12:53 gZ4qoUkA0
何度もすいません
>>965から後編です


967 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:13:09 gZ4qoUkA0

 動きを抑制されていようがホムンクルスの口は良く回る。
 その言葉に苛立つエドワードだが、顔つきは神妙であった。


「なんだよその顔は」

「お前達、まさか見捨てられた訳じゃないよな」


「――――――どうしてお前はあの時も今も、ニンゲンにそんな哀れむような目でこっちを見るなああああああああああああ!!」


「こいつ何処にそんな体力が残ってんだよ!?」

「やるしかありませんわね」

「エンヴィー……お前……」


 暴れ狂う嫉妬の体現者は己の身体を強引に動かし固定されていた鉄パイプを弾き飛ばす。
 その場で跳躍するとエドワード達を押し潰そうと、しかしその場には誰もいない。

「ちょこまかと逃げてさああああああああああああああ」

 テレポート。
 何度もやられているその能力にホムンクルスは更に苛立ちを募らせる。

「なんだよどいつもこいつも! 苦しめても何度だって立ち向かって来やがって!
 天城雪子の時もだ、美樹さやかの時だって……ああ! なんなんだよお前らニンゲンは!?
 キンブリーの野郎もエンブリヲの野郎にも……今はお前達に――あぁ、屈辱だ……屈辱だよォ!!」

「うるさいな貴様。
 折角のタツミとの再会なのに――凍れ」






 まるで時が止まったようだった。

 その女の登場に誰一人して気付くことは無かった。

「おっと、気配を殺していたからな。気付かないのも無理はない」

 そして全てを見透かしているかのように解答を吐くと――エンヴィーの巨躯が凍り始める。


968 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:13:45 gZ4qoUkA0



「貴方は何者ですの……?」

「エスデス、聞いたことは無いか?」

「ウェイブさんやセリューさんの……」

「ほう。あいつらと出会ったのか。
 セリューは残念だがウェイブは面白い成長を遂げているぞ」

「エスデス……何してんだよテメェ」

「エドワードか。首輪の解析は進んでいるか?」

「何してるかって聞いてんだよ!」

「見れば解るだろうに――なぁ、タツミ」

「その身体……あんた程の奴がどうしてそんな……」


 氷の女王エスデスは帝都に置ける最強の存在であり、殺し合い参加者の中でも最強格の強さを誇る。
 その女を見ろ。彼女を元の世界から知っているタツミは驚くばかりだった。

 左腕は斬り裂かれており、身体の半身が黒く焼け焦げだ。生々しい火傷は見ているだけで痛覚を刺激される。

「私のことを心配してくれるのか――嬉しいぞタツミ!」

「――ッ!?」

 生きている右腕で急にタツミを抱き始めたエスデスには全員が困惑していた。
 遠巻きで眺めている小泉花陽とヒルダでさえ異変に気付いている。

「お前は何なんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「やかましい奴だな――もう死ね」

 エスデスが指を弾くとエンヴィーの顔が凍り始めた。
 その光景に対しタツミは彼女の腕を振り解き剣を向ける。

 エドワードは既に走り始めており、拳を握り氷の女王に迫る。

「何やってんだよエスデス」

「邪魔をするな」

 しかし接近の間にエスデスは氷の壁を生成すると、エドワードの動きは止まってします。
 錬成した刃で破壊しようと試みるも一撃では壊れない。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
 なんなんだよ本当にお前らニンゲンは……ははっ、おかしいだろ? 身体の感覚が失われていく」


「え、エンヴィー!!」


「あはははははははははは! このエンヴィーがまたニンゲンに負ける!?
 なんて屈辱だ……ハハ、嗤われずにいられるか、ふざけんな、お前らも嗤えよ!!」


「………………お前」


「じゃあなエドワード・エルリック。精々あがけよ、この腐った世界でニンゲン共がどれだけ醜かろうと」


 ホムンクルスが凍る際に見せた表情は嘲笑うかのような悪魔のそれだった。
 けれど、瞳はどこか哀愁が漂っており、悲しさを感じさせる程に弱い。

 エンヴィーの最期を見届けたエドワードの感情は本人すら解らない。
 今、解ることと云えば、許せない女が一人、立っていることだけだ。


「む――ホムンクルスか。ブラッドレイ程では無いがまあいい。耐久力のテストだ」


 凍結されたエンヴィーの前に立ったエスデスは右足を一歩後退させる。
 何をするかと思えば空間を抉り取るような回し蹴りを披露し始めたのだ。
 その規格外な威力はエンヴィーの首だけを蹴り飛ばし、その首はヒルダ達の前にまで届く。


「――ッ、危ない!!」


 突然の事態に反応出来ない小泉花陽だが、ヒルダは僅かに動けていた。
 なけなしの力を込め、動けない彼女を押し飛ばす。

 しかしヒルダ自身は動けていないため、氷塊の直撃を受けてしまう。
 身体が押し潰され、臓器や骨が悲鳴を挙げる。
 奇跡的に息はあるようだが、瀕死体であり彼女周辺には血の池が出来ている。

 そして。


『二度目の干渉を確認しました。二十秒後に爆発いたします』


 その音声は世界の終わりを告げるようだった。


969 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:14:06 gZ4qoUkA0


「ふざけん、なよ……っそ」


 叫ぶ元気も残っていない。
 ヒルダが知るよしも無いが、エンヴィーの首輪は一度、警告されていた。
 エンブリヲの干渉によって既にイエローカード状態だった枷に違反が加われば赤となる。

 巻き込まれた側からすれば溜まったもんでは無い。

「ヒルダさん! い、今たすけ」

「来んな!!」

 小泉花陽の身体がビクッと震え走りだした足が止まる。
 ヒルダが氷塊の下敷きになっているのは己の鈍臭さが原因だった。
 自分が居なければヒルダは無傷だった。その事実が小泉花陽の心を締め付ける。

 幸い――かどうかは不明だが、首輪の音声が聞こえているのはヒルダだけである。
 凍っているため音声が外にまで響いていないのが原因である。

 そして厳密にはもう一つだけ不運が重なった。
 それはエンヴィーの生命である。
 
 本来の首輪であれば、死んだ段階でその機能を失い幾ら干渉した所で警告は発生しない。
 エンヴィーの首はエスデスによって飛ばされているため、既に死んでいる――と普通なら思うだろう。
 彼の本体はまだ生きている。けれど脳天が凍っているため外に避難出来ない状態だ。

 彼はこの世界に留まっているが凍っているが故に身動きが取れない。
 そのため彼の首輪は生きており、因果がヒルダに襲い掛かっていることになる。


「なあ」


 ヒルダの声は掠れており、聞き取れるのがやっとの段階だ。

「お前は生きろ。
 それとエンブリヲには気を付けろよな」

 その言葉に自然と小泉花陽の瞳に涙が浮かぶ。
 何故、そんなことを言うのか。まるでこれから死ぬかのようだ。
 まだ、生きている。一緒に脱出する仲間では無かったのだろうか。

 カチカチと無情に進む音が最期に聞く世界になろうとは。ヒルダはどうしようもない状況に笑っていた。
 ふと遠くを見るとエスデスに対し三人が戦っており、此方に来ようとしているものの、来れそうには無さそうだ。

「人間でこんな氷なんてどんなチートなんだよあい……つ……ぐ」


970 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:14:47 gZ4qoUkA0



 縦横無尽に暴れ廻るエスデスはとてもじゃないが人間には見えない。
 普通の人間にしては恵まれた身体能力と戦闘技術を持つタツミ。
 瞬間移動と云うこちらもチート地味た能力を操る白井黒子。
 最早なんでもありの謎の力を使うエドワード・エルリック。

 この三人が束になっても劣勢にならない辺り、あのエスデスは規格外の存在なのだろう。

 そんなことを考えてる間に、もう直爆発だ。
 
 




「呆気なさ過ぎる……戦い眺めてたら流れ弾もらって爆発死……笑えない」





 殺し合いに巻き込まれた時点で多くの人間は運命を歪められている。
 誰もが生き残れる訳では無く、誰も劇的に死ねる訳も無い。

 抗えぬ現実には――屈するしか無い。



「あぁ……あたしもそっちにい、くぜ……っ」



 カチリ、と二十の音が響き終わり――エンヴィーの首輪が爆発した。










「おっと爆発させる能力は持っていないぞ」


 その音を聞いたエスデスは首を傾げながらも三人相手に一歩も譲らない。

 テレポートの奇襲は全て出現地点を予測し予め氷塊を無数に飛ばすことで対処。
 接近戦を挑むタツミに対してはそれに応えるべく氷の剣を精製し対峙。
 エドワードの錬金術に関してはありとあらゆる氷のゴリ押しで封じていた。


「ひ、ヒルダ……?」

「――――――――――――。
 白井! あの女の子だけでも連れて逃げろォ!!」


971 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:15:09 gZ4qoUkA0



 エドワードの叫びに白井黒子は首だけ動かすと瞬間移動の行使に移行する。
「ボサッとすんなタツミ!」
 動く二人に対し爆発四散したヒルダの現実を受けいられないタツミは固まっていた。
 しかし、意識を取り戻しすかさず白井黒子に向けバッグを放り投げた。


「それには悠と銀が眠ってる! そいつらも一緒に逃がしてくれ!」
「かしこまりましたわ。わたくしが戻るまで耐えてくださいまし」
「は!? お前もそのまま逃げろ馬鹿!」
「む、馬鹿って言う方が――失礼ッ」


 バッグを受け取った白井黒子は迫る氷塊を回避するためにその場から消える。
「地獄の果てまで追ってやる。さぁ、逃げるがいい!」
「さっせかよおおお!!」
 氷塊を無限に精製し射出するエスデスの正面に回り込んだタツミは剣を振るいその行動を止める。
 その一撃は防がれるが相手の左腕欠損を狙い脇腹に蹴りが――決まった。
「それでこそ私が愛する男だタツミィ!!」
  

 蹴りの直撃を貰ってもエスデスは止まらずに氷の剣でタツミに斬り掛かる。
 剣を横に構え防ぐも、片腕からは信じられない力で押し負けてしまう。
「どこにそんな力が」
 などと愚痴を零す暇も無く空を見上げれば巨大な氷塊が落ちて来ているではないか。
 そのサイズはざっと――エンヴィーを遥かに凌駕していた。
「やれるかエドワード!?」
「やるしかねえ……やるしかねえぞ!」









「何がありましたの!?」


 小泉花陽の元へ駆け寄る白井黒子は状況を確認する。
 ヒルダだったものは木っ端微塵に吹き飛んでおり、残っているのは彼女の首輪だけだ。
 残飯のようにぐちゃぐちゃと転がる肉片が異臭を放ち、この世を地獄だと錯覚させるようだ。


「わ、……庇って、そr,…………ばくは………………」

「――ッ、安心してくださいまし。一緒に此処から逃げますわよ」


 彼女は当然のように放心状態だった。
 思えばこれまでの彼女は懸命に頑張っていた。
 エンヴィーの襲来により天城雪子が死んだ時も彼女は生き抜いた。
 白井黒子は知らないがその後もセリューとの件や図書館での戦闘でも彼女は運良く生き残っていた。

 まるで幸運の女神に愛されているように。
 けれどここは地獄だ。女神も天使も存在しない。


972 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:15:32 gZ4qoUkA0


 ぺたりと座り込んだ彼女の瞳から溢れるように涙が溢れている。
 大地には水溜りが発生しており、それ程流したのかと心配する黒子だが水分は一つではない。
 強烈な出来事に下の方から水分も流れ、彼女は失禁していた。
 それでも意識を失っていない辺り、強い心を持っているとも言えるのだが。


「さぁ此処から――ッ!?」

「白井さん……?」


 背後から伝わる熱は氷塊が突き刺さった証だ。
 見えない場所だが見なくても解る。致命傷では無いが立つのが辛い。
 膝を着く白井黒子であるが、此処で倒れる訳にも行かないのだ。

 エドワードが、タツミが。そして小泉花陽も戦っている。
 自分だけ怠けては要られないのだ。此処は――抗う場面だ。


「もう少し楽しもうではないか――さぁこのエリアから逃げてみろ!」


 エスデスが指を弾くと――信じられない事態が会場に発生する。
 最早規格外を超えており些細な事では驚かないと思っていた四人に衝撃が走る。



 彼らを包み込むように氷壁が発生し、その高さはざっと見、百メートル級だ。


「く――耐えなさい、白井黒子。小泉さんだけで、……っ」

「白井さん!? ち、血が……」

「気にしないでくださいまし。これぐら――い、なんとも……え?」


 余談ではあるが、魔女から始まった一連の戦闘規模はこれまでの戦いの中でも図一だ。
 近くに居なくても、遠くからでも音や光景を確認出来る程である。

 この騒ぎに駆けつける参加者もいるだろう。それは不思議ではない。
 それを踏まえてでも白井黒子は固まってしまう。



 何故、この人が居るのか。

 会いたかった。

 心の底から求めていた。

 けれど、怖かった。

 自分の中に存在する彼女が消えるのが怖かった。

 実際に遭遇すると頭の中が真っ白になる。

 それでも声を振り絞った。


「この壁に風穴を空けてくださいまし――お姉様」





973 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:15:58 gZ4qoUkA0


 会いたい気持ちはあった。

 実際に会ってみると、なんだろう。



 殺せる気はするけど、身体も脳も動かない。

 私はまだ甘い。



 でも、少しだけまだあの頃に戻れるような気がした。

 そんなこと、許される訳も無いのに。



 この手は汚れているから。

 あの頃に戻れても、私だけ一生黒いままだから。



 でも。




「この壁に風穴を空けてくださいまし――お姉様」




 黒子の声を聞いて身体が自然に動いていた。







974 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:17:36 gZ4qoUkA0


 小泉花陽がこれまでに見た異能の中ではロイ・マスタングが操る焔が印象に残っていた。
 圧倒的な殲滅力を持ったその力は、天城雪子の件もあり嫌でも脳裏に焼き付いている。

 そして今回目撃した超電磁砲――レールガンもまた想像を絶する代物だった。
 急に雷光が輝いたかと思えば、風が吹き終わると同時に氷壁には大きな穴が空いていた。


「氷が一瞬で……す、すごい」


 明らかに自分とは生きている世界の違う人間とは恐ろしいものである。
 どんな状況でも立ち向かう姿はまるで正義の味方だった。
 方向性は違えど、あのセリューでさえ人を魅了する何かを秘めていたのだ。

 小泉花陽にとって氷は忘れられないトラウマである。
 一度――ペットショップに襲われた時には片腕が氷結してしまったこともある。
 その時はマスタングと白井黒子の救出により何とかなったものの、簡単には忘れられない。

 エスデスを見るとそのトラウマが再発しそうになっていたが、雷光はそれを凌駕した。


「これを持って逃げてください、早く」

「これは……でも、白井さんも!」


 急にバッグを渡されてしまい戸惑う小泉花陽は白井黒子にも逃走を促す。
 自分には戦う力は無い。けれど自分だけ逃げるのは、悔しかった。
 

「そのバッグには悠さんと銀さん……という二人の参加者が眠っていますの」


 説明を受けた所で、白井黒子が逃げない理由の解説になってない。
 強い瞳で訴える小泉花陽であるが、白井黒子は背中を見せて言い放った。


「わたくしにはまだやらなくちゃいけないことが――さぁ、早く!」


 その背中はエスデスの氷塊によって血だらけだった。
 今にも倒れそうなその身体でも、白井黒子は立ち上がった。

 かっこいい。

 不謹慎ではあるが、そんな感想さえ生まれてしまう程に正義の味方のソレに近い。

 そしてその背中を持つ人間は皆――覚悟を決めている。
 ロイ・マスタングも、ウェイブも、空条承太郎もそうだった。


「生きて……また、絶対に会いましょう、そしてみんなで……っ!」


「勿論ですわ――後で会いましょう小泉さん」


 その会話を最期に小泉花陽は走る。
 彼女の生命は最早、彼女だけのものではない。

 ヒルダが生かしてくれた。

 鳴上悠と銀の生命も預かっている。

 生き抜け。

 他の参加者が絶望に負けず抗ったように。

 己も、戦え。


975 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:18:23 gZ4qoUkA0



【F-4/一日目/真夜中】



【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません) 失禁
[装備]:音ノ木坂学院の制服
[道具]:デイパック@2、基本支給品@2、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ、スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation 、寝具(六人分)@現地調達、
    サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHO PASS‐サイコパス‐ テニスラケット×2ライフル@現実(武器庫の武器)、ライフルの予備弾×6(武器庫の武器)、鳴上悠、銀
[思考・行動]
基本方針:皆と共に生き残る。
0:生き抜く。
1:この場から離れる。
2:穂乃果が心配。
3;μ'sの仲間や天城雪子、由比ヶ浜結衣の死へ対する悲しみと恐怖。
4:セリムや卯月を探したい
5:雪乃には無事で居て欲しい。
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後。




【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(極大)、気絶  デイパックの中
[装備]:なし
[道具]:千枝の首輪
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:……。
1:さやかを元に戻す。その為に佐倉杏子を探す。
2:未央に渋谷凛のことを伝える。エンブリヲが殺した訳じゃない……?
3:足立さんが真犯人なのか……?
4:エンブリヲを止める。
5:マスタングを見つけ出し、ぶっ飛ばす。
6:里中……。
[備考]
※登場時期は17話後。
※ペルソナの統合を中断したことで、17話までに登場したペルソナが再度使用可能になりました。ただしベルゼブブは一度の使用後6時間使用不可。
回復系、即死系攻撃や攻撃規模の大きいものは制限されています。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。
※イザナギに異変が起きています。


【銀@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(大)  キンブリーに若干の疑い、観測霊の異変?に対する恐怖、気絶 デイパックの中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2 、カマクラ@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
[思考]
基本:…………。
1:黒を探す。
2:千枝……。
3:怖い。
[備考]
※千枝、雪子、モモカと情報を交換しました。
※制限により、観測霊を飛ばせるのは最大1エリア程です


976 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:18:49 gZ4qoUkA0


「お姉様――お久しぶりですの」

「そうね……抱きついたりしないのね」

「わたくしはTPOをわきまえていますから」

「あんた、どの口が言うのよ」

「この口ですわ」

「もう……まったく」

「それで、お姉様はどんな人達と出会ったのですか?」

「私? ……あそこにいるチビ錬金術師とか」

「そうですか。わたくしは沢山の人達と出会いましたわ」

「私は思ったよりも会ってない、かな」

「ロイ・マスタングさん、ウェイブさん、小泉さん、高坂さんを始め沢山の人達と」

「その人達には会ってない」

「その中にキング・ブラッドレイと云う方もいましたですの」







「――そう、なんだ」






 それまでは感動の再会を果たした親友同士だった。
 能力者という枷を外せば等身大の女子中学生である彼女達。
 だが、キング・ブラッドレイの名前が出た瞬間に、その空気は錆び付いた。


977 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:19:35 gZ4qoUkA0


「じゃあ知ってるのよね」


「何をですの」


「私の口から言わせるの?
 そんな嫌な奴だったっけあんたは?」


「お姉様の口から聞かないと信じませんの」


「信じないってやっぱ知ってるじゃん」


「知りません」「知ってる」「知りません」「知ってる」「知りません」


「いい加減にしないと怒るわよあんた」


「わたくしはお姉様の口から聞かないと――信じられる訳ありませんの」

「――黒子」


















「私はもう二人も殺してんのよ……もう、あんたの知る超電磁砲じゃないの」




 
 空気が止まる。
 一切の雑音が発生せず、御坂美琴の余韻が空間を永遠と漂う。

 その静寂を破るのが一滴の雫である。


「どうして……其処までお姉様はあの殿方のために――願いを叶えるつもりに」


 溢れる涙を拭いてくれる者はいない。
 止めることも無く、ただただ流れる続ける涙を御坂美琴は見ていた。


「だから――もう私はあんたの知ってる」

「おだまり!」


 御坂美琴の足元に鉄パイプが現れ、それは白井黒子なりの牽制だった。
 涙を雑に制服で拭うと、涙目ながらその瞳は戦闘時のものと色褪せない。


「あんた、私とやるつもりなの」

「ええ――それが」

「風紀委員だから、でしょ」










「風紀委員である以前にわたくしは白井黒子という一人の人間として貴方を止めますわ――お姉様」


978 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:19:54 gZ4qoUkA0

 覚悟を決めた白井黒子は有無を言わさず鉄パイプを御坂美琴へ仕向ける。
 目の前に居る常盤台の英雄は、確実に誰もが知るあの超電磁砲だ。

 止めるために。
 もう、未知を間違わせないために。

 飛ばす鉄パイプは一本所では無い。
 ありったけだ。四方八方を包む鉄パイプの嵐が御坂美琴に襲い掛かる。


 しかし。


「あんたが私に勝てる訳ないでしょ……ばか」


 電撃を圧縮し己を中心に一斉放出。迫る鉄パイプは全て電撃に弾かれ大地に落ちる。
 猛攻をたった一手で止めた御坂美琴であるが、無論、本気などでは無い。
 DIOとの戦闘時の半分の半分以下の出力で白井黒子の攻撃を終了させるその力は学園都市の中でも最強格の超能力者である。


「こんな簡単に止められると流石にしょっ……っ」


 次なる一手を考える白井黒子だが、大地に膝を落としてしまう。
 無理もないだろう。小泉花陽を逃がす際に喰らった氷塊の傷口が開き始め鮮血が駄々漏れる。
 立っているのが奇跡のレベルであり、能力の行使などもってのほかだ。

「此処で止まってはわたくしもおねえさ……ま」

 美しい。
 それ程に眩く輝く雷光は誰もが憧れる超電磁砲だ。

 果てなき闇を捌くような雷撃が白井黒子に放たれた。





979 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:20:25 gZ4qoUkA0


 エンヴィーを超える氷塊に対しエドワードは錬金術で大地を隆起させ抗っていた。
 彼に氷塊が大地に着陸した場合、その余波でこのエリアが沈む可能性すらある。
 此処で手を抜けば大勢の人間が死んでしまう。それを防ぐためにも此処は譲れない場面だ。


 彼が氷塊に掛かりっきりのため、エスデスの相手はタツミが単体で行う必要がある。

 
 しかし。


「どうした、その程度では勝つどころか傷一つすら付けれんぞ!」


 片腕を失ってもその強さは健在であり、タツミを簡単に往なしていた。
 彼も彼女も連戦により疲労が蓄積している。そして、その度合はエスデスが圧倒的である。
 それを感じさせない程まに振る舞う姿は正に圧巻であり、帝都最強の名に恥じない。


「俺が此処で負けたらお前はまた沢山の人を殺す……それが許せないッ!」

「まだ奇跡的に誰も殺していないがな」

「知るかッ! 遅かれ早かれ――ッ!」

「その熱き思い……やはりお前は最高だなタツミ!
 来い、私が全て受け止めてやるから、思う存分に暴れろ!」

「殺しを遊びでやってんじゃねえええええええええええ!!」


 一歩踏み込んだ段階で左ジャブを飛ばしエスデスの顔面を狙うも首捻り回避されてしまう。
 そのまま歩み続け右膝を腹に叩き込むも氷によって防がれる。
 剣を横に薙ぎ払うも上体反らしで回避され、逆に腹へ蹴りを貰ってしまう。

 蹌踉めきながらも諦めずに立ち向かい、渾身の右ストレートを放つも、やはり回避。
 剣を逆手に持ち肩を狙うも氷の膜を貫けずに終わってしまう。

「ああああああああああああああああああああ」

 強引に力で押し通し、エスデスの右肩を貫こうとするも氷は砕けない。
 剣を軸に左上段回し蹴りを行うも、氷の壁が発生し遮られてしまう。


980 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:20:50 gZ4qoUkA0


 短時間の戦闘ではあるが、圧倒的差と苛立ち、焦りに加え疲労の蓄積も重なりタツミ達の体力は限界だった。
 エドワードにしても連戦に加え擬似の人体錬成を行っているため、身体への負荷は相当だろう。
 白井黒子も能力の連発に加えエスデスの氷によって傷を負っている。

 今、この場で万全な戦士など存在しない。

 駆け付けた青の女ですら、気絶からの復帰したばかりで足がふらついているのだから。


「おま……」


「色々言いたいことはあるし、そっちもあるけど今は――この敵を倒すことが先だよね」


「先程まで倒れていた女ではないか。戦えるのか?」








「勿論……元魔法少女改め――ペルソナ」





 
 タツミからしてみれば彼女が立っていること自体が奇跡だった。
 健全なその姿に心から救われた気分になるも、まだなにも終わってはいない。
 寧ろ、スタートラインにやっと並んだぐらいだ。

 そして彼女が使役するその存在は鳴上悠や里中千枝が使っていた存在と同義だった。

 本当の自分と向き合った人間が使えるもう一つの自分。
 仮面や影、パーソナリティと総称されるそれらを纏めて彼らはこう呼ぶ――ペルソナと。


「オクタヴィア……これが新しい「あたし」の力」


 空間より這い出しペルソナは誰もが見かけたあの魔女と同じ姿だった。
 擬似・真理とマヨナカテレビの複合空間に取り残され真の自分を受けいれた美樹さやかの新しい能力。


「降り注げ――スティンガー・レイン!! ってね!」


 オクタヴィアが剣をタクトのように振るうとエスデスの上空には無限の剣が現れる。
 そしてさやかの言葉通り降り注ぐ――も、氷壁によって全て防がれて終わるのだが。


「な……こいつ、強すぎな……あれ、立てな……わっ」


981 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:21:20 gZ4qoUkA0

 エスデスに理不尽な文句の一つでも言おうとした所で美樹さやかは蹌踉めく。
 気絶上がりの状態で初のペルソナ。それも精神と肉体が安定していない段階での使役だ。

 身体に絶大な負担が掛かり、立っていられなくなる程に疲労が襲い掛かる。

 戦場でこんな隙を見せたら殺される。
 何としてでも立ち上がりたい美樹さやかではあるが、叶わずに倒れる所をタツミに支えられた。


「無理すんなよ。後は俺に任せろ」

「う、うん……お願い……ね」


 そっと美樹さやかから手を離すと大地に突き刺した剣を引き抜き、エスデスを睨む。
 ――相打ち覚悟じゃないとエスデスには勝てない。刺し違えてでも殺す。
 既にこの生命は平和のために捧げると誓っている。サヨもイエヤスも。
 シェーレもブラートも。皆が皆、明日を生きれる訳では無い。
 そしてタツミも同じであり、明日の礎になる覚悟はとうの昔に完了している。


「なあ、タツミ。お前は髪の短い方が好みなのか?」

「んなモンしるかよ。これで最期にしようぜエスデス……お前を、葬る!」


 大地を駆けるタツミは止まらない。
「……そこの女といい感じだったからショートが好みかと思ったがまあいい。
 その気迫、その顔立ち、その覚悟! やはりお前は私が唯一愛した存在だよタツミ」

 歓喜によって放たれる氷塊を剣で撃ち落としながら走り続け、その速度は落とさない。
 漏らした氷塊が身体に刺さろうと、足に刺さろうとタツミは止まらない。

 左肩に。
 
 右脇腹に。

 右膝に。

 胸に。

 至る所に氷塊が突き刺さろうと、彼は止まらない。


 ――平和のためにも、みんなのためにも俺は止まれない。


 身体全体が血液で彩られ、肌色は最早肉眼では捉えられない。
 それでも、彼は走り続ける。


 ――誰かが手を汚さなくちゃいけないなら、俺がその役目を引き受ける。


 剣を掲げる。
 エスデスはもう目と鼻の先である。
 遂にこの刃が、闇の正義の信念が彼女に届こうとしていた。



「終わりだエスデス……何もかもッ!!」


 その信念は確かにエスデスへ届いた。
 右肩から全てを削ぎ落とし、彼女は両腕を失った。

 好機を逃す程、タツミは愚かでは無い。
 追撃を仕掛けようとした所で無情にも氷槍が彼の心臓を貫いた。


「っそ……届かないか……」


「何を言っている、誇れ。
 お前の剣は確かに私の右腕を斬り裂いた。それは変えようのない事実だ」


 タツミの表情は後悔に満ちていた。
 エスデスに褒められようが、決して嬉しがらずにその瞳を閉じる。
 闇に生きる正義の味方が最期に見たのは仕留めきれなかった標的だった。


「すまんなタツミ。両腕が無ければお前を抱くことすら出来ない」


 自分に寄り掛かるタツミを丁寧に寝かしたエスデスは最期の獲物を殺すために歩む。
 それはエドワード・エルリックでは無い。
 彼が防いでいた氷塊は雷光によって破壊されていた。
 
 その犯人こそが御坂美琴――待ち侘びた獲物だ。


982 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:21:46 gZ4qoUkA0

 倒れている美樹さやか、エドワード・エルリック、白井黒子。
 この状況で立っているのはエスデスと御坂美琴の二人だけだ。

 互いの視線が交差し、雷光と氷塊がぶつかり合った音がゴングとなる。


「両腕が無かろうと容赦はしないから」

「してみろ。その瞬間にお前を殺す」

「好き勝手にはさせねえからな」

「お姉様を止めるのは……」

「邪魔だエドワード」

「あんたは引っ込んでなさい黒子」


 割って入るエドワードと白井黒子であるが、対峙する二名の眼中には収まっていない。
 寧ろ、邪魔扱いされて始末だ。しかし、満身創痍の彼らが彼女達を止めることなど不可能である。

「勘違いすんじゃないわよ。
 あんた達の相手はこの女の後……そうね。それまではアインクラッドにでも行って休んでいれば?」

「な、何を言っていますのお姉様」

「だからボロボロなんだから首輪何とかで治療してもらいなさいよ。
 首輪がないなら……さっきあんたのバッグに堕ちてた首輪入れといたからそれ使いなさい」

「それを私が大人しく聞くとでも?」

「どうせ全員殺すの。でもね、適当に死なれるとそれなりに後味悪いのよ」

「お姉様――何を言って」


「喚くな、押し出してやる」







 終わりの見えない会話に痺れを切らしたエスデスが氷壁の波でエドワードと白井黒子をこのエリアから押し出す。


「ま、くそ、御坂ァ!」
「お姉様、黒子は……黒子は!!」


 流れる圧倒的な力に抗えぬまま、彼はあっという間に上のエリアに移動していた。
 何も出来なかった。
 エンヴィーの襲撃も、さやかの魔女も、エスデスも、御坂美琴も。
 彼らは何一つ止めることも、救うことも出来なかった。


 ヒルダとタツミ。
 二人の生命を犠牲にした所で彼らは何を得たのか。


 完璧な敗北である。


 白井黒子は溢れる涙を止めることが出来ない。
 エドワード・エルリックは情けない自分を許せなかった。


 敗者達の夜はまだまだ続く。


983 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:22:52 gZ4qoUkA0




【F-4(南)/一日目/真夜中(放送直前)】




【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、精神的疲労(大)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、数本骨折、気絶寸前
[装備]:無し
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、不明支給品0〜2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、パイプ爆弾×2(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす。
0:……アインクラッドへ。
1:大佐を元の世界に連れ戻して中尉にブン殴らせる。
2:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したい。
3:エンブリヲ、御坂、エスデス、槙島聖護、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
4:一段落ついたらみくを埋葬する。
5:首輪交換制度は後回し。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※エスデスに嫌悪感を抱いていますが、彼女の言葉は認めつつあります。
※仮説を立てました。


【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[思考]
基本:帰る。
0:エドワードと共に行動する。
 



【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(極大)、精神的疲労(極大)、悲しみと無力感、穂乃果に対する負い目、背中に重症、絶望
[道具]:デイパック、基本支給品、、首輪×3(婚后光子、巴マミ、ヒルダ)、扇子@とある科学の超電磁砲、エカテリーナちゃん@とある科学の超電磁砲 、鉄パイプ@28
[思考・行動]
基本方針:お姉様や仲間となれそうな者を探す。
1:…………
2:アインクラッドへ進む。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているということを確信しました。
※槙島が出会った人物を全て把握しました。
※アンジュ、キリト、黒と情報交換しました
※エンブリヲと軽く情報交換しました。


984 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:23:29 gZ4qoUkA0


 残された女は互いを視界に捉えそれぞれの全開を貯めていた。

「露払いはしておいた」

「意外と気が利くのねあんた」

「お前が迷っていてはその雷光が鈍るからな。
 そんな力を持っていながらどうして躊躇う? 弱者を蹂躙し覇道を目指せ」

「あんたみたいになれたら……今だけは幸せだったかもね。
 どうせそんな身体じゃまともに戦えないでしょ、一撃で眠らせて――あげるからねッ」


 放物線を描くコインに雷撃を纏わせ全開の一撃を放つ御坂美琴の代名詞、超電磁砲。
 今まで見たこともないその一撃にエスデスは狂気の表情を浮かべ、全開の氷塊を射出する。

「ブドーをも超えるその雷光――素晴らしい!
 素晴らしいぞ御坂美琴!! あぁ、私は今、最高だ」


 

 強者の戦いは人々を魅了する。
 憧れの戦いは未来と希望を人々に与える。

 形や方向性は違えどエスデスと御坂美琴の力は参加者の中でも最強格だ。
 その二つがぶつかり合えば、全開の殺し合いになることは免れない。

 決着は一瞬で決まる。
 必殺の一撃に駆け引きなど存在せずに、答えは単純だ。

 最期に生きていた者が勝者となる。



 仮にエスデスが万全の状態なら勝負は解らなかっただろう。
 これまでに重ねたロイ・マスタングとキング・ブラッドレイ。
 二名との激戦は無視出来ない程にまで彼女の身体を蝕んでいた。

 本来ならばマスタングとの戦いで焼け死んでいても可怪しくない。
 
 キング・ブラッドレイに斬り裂かれていても不思議ではない。

 此処まで戦えただけでも奇跡だ。

 故に勝者は最初から決まっており、敗者も決まっていた。

 それでも勝利を信じ戦い抜いたエスデスは――将としての器に相応しい人物と云えるだろう。


 

 ――最期はお前と一緒だ……タツミ。



 
 雷光に包まれる中、最期に氷の女王が寄り添ったのは最愛の存在だった。









「気絶している中悪いけど――ごめんね」


985 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:24:09 gZ4qoUkA0


 最期に残った御坂美琴の周囲には誰も残っていない。
 彼女が来る前に離れた小泉花陽も、死んでいったエンヴィーもヒルダも居ない。

 目の前から消えたエドワードと白井黒子も見えない所にまで移動している。
 タツミの死体は――エスデスと共に消えた。


 最期に残った者が勝者だ。


 だが、胸に残るのは爽快感あるものでは無い。


 この戦いの果てに彼女は何を見るのか。


 本当に■■■■のために優勝するのか。


 覚悟は決めていた。


 だが、白井黒子と出会った時に心は揺らいだ。


 その甘さ故に彼女を殺せなかった。


 その覚悟無き信念が参加者を二人も逃がしてしまった。


 自分は何処に進んでいるのか解らない。


 けれど、手は汚れているのだ。もう、あの頃のようには笑えない。


 彼女に帰る場所など無いのだ。


 だから、本当は止まっちゃ行けなかった。


 だから、本当にこれが最期の御坂美琴だから。


 そのけじめに。



「本当にごめんなさい……私には謝ることしか出来ない」



 気絶していた美樹さやかに電流を走らせることで、御坂美琴の覚悟は決まる。
 もう引き返せない。


 例え相手が白井黒子だっとしても。


 彼女は全ての参加者を――殺す。




【初春飾利@とある科学の超電磁砲 死亡】
【エンヴィー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST 死亡】
【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 死亡】
【タツミ@アカメが斬る! 死亡】
【エスデス@アカメが斬る! 死亡】
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】


986 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:24:45 gZ4qoUkA0




【F-5/一日目/真夜中(放送直前)】




【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×2 、回復結晶@ソードアート・オンライン(3時間使用不可)、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、アヴドゥルの首輪、大量の鉄塊
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
1:ゆっくりとアインクラッドへ向かう。(黒子との遭遇を避けるため)
2:もう、戻れない。戻るわけにはいかない。
3:戦力にならない奴は始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
4:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
5:殺しに慣れたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました。


987 : 魂の拠り所(後編) ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 00:25:03 gZ4qoUkA0
投下を終了します


988 : 名無しさん :2016/04/07(木) 01:28:45 1D9SHxpA0
投下乙です。
思いのほか大勢脱落して驚きました。
そして、この大混戦の中さりげなくほぼ無傷で脱出してるエンブリヲ様に草

気になった点があるので。
①美樹さやか及びオクタヴィアについて→前回のssとだいぶ差異があるように思えました。
前回:ひとまずは演奏を聞いてくれる人が欲しい。人間の頃の記憶はおぼろげ。また、制限により結界が張れない。
今回:人間の頃の記憶をハッキリと覚えている。また、問答無用で黒子たちを殺しにかかっており、教会で結界らしきものを張っている。
あと、魔女の中でシャドウが出てくる点が疑問に思いました。あれは、デイパックの中限定だった筈では...?

②番長と銀→もう6時間以上デイバックの中で寝ていることになるので、流石に起きなければいけない筈なのでは...セリュー達と大総統戦以上に外でドンパチやってますし。

③花陽が承太郎のことを知っているような描写がありましたが、花陽は承太郎のことを知りませんので修正をお願いします。

④エンブリヲは、なにかしらの理由で初春が邪魔になったのでエンヴィーに初春を殺させた...という解釈でいいのでしょうか。

⑤御坂やブラッドレイがどこにいるか分からない現状で、奈落に橋を掛けて渡るのは流石に無警戒すぎるのではないかと。

⑥一応、キング・ブラッドレイは『南方へ向かう』と御坂に書置きを残しているので、その追記もお願いします。

以上、気になった点の指摘となります。


989 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 01:44:11 kwaWUi.c0
感想ありがとうございます。


>人間の頃の記憶を覚えている
その描写をしたのは魔女じゃなくてバッグの中に眠る美樹さやかだと思います

>黒子たちを襲う
魔女だから問題ないと思います。演奏を聞く人間の生死については特別視していません。

>結界らしきものが〜
本編で台詞でですが説明してます。

>シャドウについて
美樹さやかの肉体はバッグの中にあります。
放送で名前を喚ばれてない以上、美樹さやかは生存扱いです。


>流石に起きなければいけない筈なのでは
そうでしょうか。私はそうは思いません


花陽は承太郎のことを知りません
>失礼いたしました。該当部分を削除いたします。


>エンブリヲは、なにかしらの理由で初春が邪魔になった〜
何を言われているかよく理解していません。
エンヴィーは初春を奇襲に近い形で殺した。そこにエンブリヲ云々は関係ありますでしょうか。
仮に始末させたしても初春は一撃目の段階で致命傷ですからね。


>奈落に橋を掛けて渡るのは流石に無警戒すぎるのではないかと。
そうは思いません。


>書置き
失礼いたしました。修正いたします。


先に言っておきますが修正したとしても結末が変わることはありません。
それに破棄もするつもりはないことを宣言しておきますので。


990 : 名無しさん :2016/04/07(木) 02:10:11 zBMCHV9Q0
アニメキャラ・バトルロワイアルIF part4
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1459962449/

次ス


991 : 名無しさん :2016/04/07(木) 02:11:30 1lp53gZI0
投下乙です。

学院での戦闘から始まり、驚きの連続の乱戦見事でした。

私も一つ気になった点があるのですが、エスデスがタツミに致命傷を与えるような攻撃をやり続けて殺すということはしないと思います。
余裕がなく意図せずにやってしまったとかならまだしも、エスデスにとってまだタツミは愛する人であり、できる限り殺したくない存在ではないでしょうか?
向かってくるのなら、殺しにかかるよりもまず動きを止めようとするはずです。
結末を変えるつもりがないのでしたら、タツミを殺すキャラを変えるか理由を補足する必要があると思います。


992 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/07(木) 02:16:35 kwaWUi.c0
>>991
仰るとおりエスデスはタツミに惚れています。ですが生死については別です。
簡単な話、原作を読むかアニメの終盤(ラスト2話程度だったような気が)みれば解ります


993 : 名無しさん :2016/04/07(木) 02:17:55 jZ09/dUE0
ニーサンは原作で橋を掛けようとした時物理的に無理だって嘆いてたの考えるとこのショートカットは無理があるのでは


994 : 名無しさん :2016/04/07(木) 02:18:50 1D9SHxpA0
>>989
返答ありがとうございます

①タツミのデイバックの中のさやかの身体はただの死体同然で、そこにオクタヴィア自身のグリーフシードが無い以上、シャドウは出てこないんじゃないかな、と思った次第です。もし、魔女化しても魂が肉体の方に残るという設定がまどマギ原作にあるのなら、それは私の知識不足です。すいません

②セリュー達と大総統の闘いでは、エンヴィー達や後藤と戦った上に人体錬成までしたマスタングが2時間以内に気絶から目覚めてる点から、番長達の目も覚めた方がいいんじゃないかなと思いました

④エンブリヲ云々は、感度50倍が効かない後藤、エド、さやかと既に交戦していた割には、感度50倍を破ったエンヴィーに対してやけに悠長にしていたので、初春は見捨てるつもりだったのかな、と思いました

⑤御坂や大総統を探しているという目的上、当然その二人と戦う腹積りの筈です。御坂に道を壊されたり大総統と橋で1対1になったりしたら逃げ場が無くなるのでは。道というのは、壊される心配のないかなり大規模な道を作ったということでしょうか。だとしたらそれは私の読解力不足です。すみません。


995 : 名無しさん :2016/04/07(木) 02:25:42 qq5E6NfI0
投下乙です
何だこの大乱戦!?(驚愕)ガッツリ落ちたなぁ
さやかを救ったニーサンはやはりヒーロー


996 : 名無しさん :2016/04/07(木) 02:30:11 KrfCD0j20
>>992
エスデスはタツミが死刑になりそうな時独断で見逃そうとしたりとかなり動転してたと思うんですが……
一応そのあとである程度は割り切ってましたけど


997 : 名無しさん :2016/04/07(木) 02:36:28 D./9hfFc0
>>996
別におかしくないでしょ
エスデスなら喜んでタツミと戦うと思うぞ


998 : <削除> :<削除>
<削除>


999 : 名無しさん :2016/04/07(木) 02:39:03 1lp53gZI0
>>992
返信ありがとうございます。

たしかに、部下が死ぬくらいならと殺すことを許可してはいますが、生け捕りが望ましいと言っています。
アニメ終盤でタツミが死んだ時も、いつもの弱肉強食論を言っていたと記憶していますが、エスデスが殺したわけではないです。
しかも一緒に凍って砕け散る前にタツミが死んで悲しんでいるような発言もあったと思います。
実際に原作でナイトレイドと分かった後のインクルシオを着た状態での戦闘でさえ、確保することを優先していました。


1000 : <削除> :<削除>
<削除>


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