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アニメキャラ・バトルロワイアル4th
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ここはアニメキャラクターでバトルロワイアルを行うリレーSS企画です。
企画の性質上、キャラの死亡や流血等、残酷な内容を含みます。閲覧の際には十分ご注意ください。
したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17204/
避難所
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17220/
地図
ttp://i.imgur.com/Yh4LXh8.jpg
【参加者名簿】
7/7【Fate/Zero】
○衛宮切嗣/○セイバー/○言峰綺礼/○ランサー/○雨生龍之介/○キャスター/○間桐雁夜
7/7【銀魂】
○坂田銀時/○志村新八/○神楽/○土方十四郎/○桂小太郎/○長谷川泰三/○神威
6/6【ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
○空条承太郎/○花京院典明/○ジャン=ピエール・ポルナレフ/○ホル・ホース/○ヴァニラ・アイス/○DIO
6/6【神撃のバハムート GENESIS】
○ファバロ・レオーネ/○カイザル・リドファルド/○リタ/○ジャンヌ・ダルク/○アザゼル/○ラヴァレイ
5/5【ご注文はうさぎですか?】
○保登心愛/○香風智乃/○天々座理世/○宇治松千夜/○桐間紗路
5/5【デュラララ!!】
○セルティ・ストゥルルソン/○園原杏里/○折原臨也/○平和島静雄/○ヴァローナ
5/5【ラブライブ!】
○高坂穂乃果/○南ことり/○矢澤にこ/○絢瀬絵里/○東條希
5/5【結城友奈は勇者である】
○結城友奈/○東郷美森/○犬吠埼風/○犬吠埼樹/○三好夏凜
5/5【キルラキル】
○纏流子/○鬼龍院皐月/○満艦飾マコ/○蟇郡苛/○針目縫
4/4【グラップラー刃牙】
○範馬刃牙/○ジャック・ハンマー/○範馬勇次郎/○本部以蔵
4/4【selector infected WIXOSS】
○小湊るう子/○紅林遊月/○蒼井晶/○浦添伊緒奈
3/3【咲-Saki- 全国編】
○宮永咲/○神代小蒔/○池田華菜
3/3【魔法少女リリカルなのはViVid】
○高町ヴィヴィオ/○アインハルト・ストラトス/○コロナ・ティミル
3/3 【のんのんびより】
○宮内れんげ/○一条蛍/○越谷小鞠
2/2【グリザイアの果実シリーズ】
○風見雄二/○入巣蒔菜
70/70
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A:基本ルール
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一名が優勝者となる。
優勝者はどんな願いも叶える事ができる。
参加者間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、参加者は会場内にランダムで配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
ゲーム開始から72時間経過した場合も勝者なしゲームオーバー(参加者全員死亡)となる。
B:スタート時の持ち物について
全ての参加者には騎士の手甲に似た幅広の腕輪が嵌められている。
腕輪には特殊な力を持つ白のカード1枚がはめ込まれている。
それとは別の特殊な力を持つ黒のカードが1〜3枚、赤のカードが1枚、青のカードが1枚支給される。
他のパロロワでいうところの首輪とデイパックに相当する。
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は大小に関わらず全て没収
武器にならない衣服、帽子などは持ち込みを許される。
もし、それらが武器の類なら代わりに同デザインの普通の衣服等を着せられる。支給品扱いではない。
C:【4種類のカード】
白:マスターカード
腕輪に嵌まっているカード。
地図ナビ、時計、名簿、脱落者の確認、点灯などいろいろ行えるカード型端末。
死んだり主催に刃向かったりしたら、このカードの中に魂が封印されて喋ったり動いたりできなくなる。
基本腕輪から取り外せないが、死んで魂がカードに封じられた後に剥がれ落ちる。
物理破壊不可。
※基本的に主催は意思持ち支給品の生殺与奪権も参加者同様に握っている。
黒:ランダムカード
つまりランダム支給品。出したものをカードに収納できる。
それぞれ武器や道具とかのアイテムが収納されている。
一回出してからカードに再収納すると効果欄が浮かび上がって詳細が確認可能。
※支給品枠についての注意
【キルラキル】【結城友奈は勇者である】【なのはvivid】【Fate/Zero】の
制服、スマホ、デバイス、宝具の本人支給は可。
ただし、本人に支給する場合はそれだけで支給品枠を全て使うものとする
(デバイス等を本人以外のキャラに支給する場合は、支給品ひと枠分として扱っても可。
その代わり初登場話で他の参加者から、本人装備を奪う、譲り受けるような展開での入手は禁止)
赤:フードカード
青:ウォーターカード
赤は食料、青は飲料。任意のものが出せる。1回につき1人前までで、10回まで。
一度出したものは元には戻せない。
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D:【侵入禁止エリアについて】
放送で主催者が指定したエリアが侵入禁止エリアとなる。
放送度に禁止エリアは計3マス指定される。
参加者が禁止エリアに入って一定以上の時間が経てば、魂が引き剥がされ死亡する。
意思持ち支給品も状況次第で同じように処理される可能性あり。
禁止エリアは最後の1名以下になるまで解除されない
E:放送と時間表記について
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が侵入禁止エリア、死亡者、残り人数の発表を行う。
禁止エリアは放送度に計3マス指定される。
※本編は0:00スタート。
F:状態表
SSの最後につける状態表は下記の形式で
【(エリア)/(場所や施設の名前)/(日数と時間帯)】
【(キャラ名)@(作品名)】
[状態]:
[服装]:(身に着けている防具や服類、書く必要がない場合はなくてもOK)
[装備]:(手に持っている武器など)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:(収納した支給品)
(黒カードに収納していない初期配布の白、黒、赤、青カード以外の所持品)
[思考・行動]
基本方針:
1:
2:
[備考]
※(状態や思考以外の事項)
・時間帯の表記について
状態表に書く時間帯は、下記の表から当てはめる。
深夜:0〜2時 / 黎明:2〜4時 / 早朝:4〜6時 / 朝:6〜8時 / 午前:8〜10時 / 昼:10〜12時
日中:12〜14時 / 午後:14〜16時 / 夕方:16〜18時 / 夜:18〜20時 / 夜中:20〜22時 / 真夜中:22〜24時
・死亡したキャラが出た場合は以下の通りに表記する
【参加者名@作品名】死亡
残り○○名
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G:一律制限案
バランスブレイカーとなる身体能力及び戦闘能力は制限される。
基本はアニロワシリーズ基準で(他のロワも参考にした方がいいかも)。
ギャグ描写の誇大解釈は無しの方向で。細かい所は書き手任せ。
対象:キルキラルのキャラ、結城友奈は勇者であるのキャラ(変身後)
JOJOのスタンド、Fate/Zeroの英霊達など。
H:〈キャラ個人の特殊能力について〉
バランスブレイカーなるくらい便利すぎるもの、厄介なもの、制限が難しいものは禁止。
蘇生、洗脳、再生、時間操作能力を持った参加者や支給品には何らかの制限を加える。
Fate/Zeroの魔術などは大半は使用できなくなる。物理攻撃不可能な参加者にも攻撃は可能になる。
ただし、能力を削除する事によってキャラの魅力が激減するなら議論。
腕輪や白のカードへの安易な干渉ができる能力などは原則禁止。
細かい所は書き手任せ。
I:{洗脳系能力の扱いについて}
本来の能力と比べて効果を減衰させるか、あるいは2時間単位で解除される仕様にする。
洗脳系アイテムは所持者が同意するか、廃人にならない限りは乗っ取り不可に。
乗っ取っても2時間単位で洗脳は解除されるので、その都度能力を行使する必要あり。
洗脳能力はそれをメインにしているキャラや支給品のみが行使できる(要議論?)。
J:『支給品の制限について』
支給品も参加者と同等にその効力が制限される。
言語能力、一般人と同等以上の戦闘力を持つ意思持ち支給品は、所持者(主)から遠く離れる事ができない。
有用であればあるほど、離れられる距離は短くなる。場合によっては更に制限がつく可能性も。
行動範囲外に入ればどうなるかは議論か書き手任せ。
喋る支給品を支給された参加者には、セットでその支給品の言語能力を封印解除できるスイッチが支給される。
宝具や勇者用スマホなど、一般人が通常なら扱えないアイテムも当ロワでは特に大きなリスク無く大体使用可能。
ただし、その効果は力量にもよるが本来の所有者のと比べ大きく落ちる。細かいところは書き手任せ。
本来の所有者やそれに近い実力者が使えば制限下であるものの充分力を発揮できる。
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K:作品別の参加者・支給品の制限
【Fate/Zero】
・マスターの令呪は没収
・サーヴァントの霊体化禁止
【ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
・スタンドは可視化、物理干渉を受ける
・ヴァニラ・アイスの暗黒空間に腕輪を飲み込むことは出来ない
【結城友奈は勇者である】
・精霊の防御能力にはなんらかの制限を加える。
・スマホに精霊を2体以上付けるのは禁止。
ただし、本人支給をした場合は、そのキャラの参戦時期の時の精霊の数になる。
・NARUKO(勇者専用アプリ)の勇者の位置表示機能は使用不可。
【selector infected WIXOSS】
・ウリスとイオナ(ユキ)は『浦添伊緒奈』の、ユヅキと花代は『紅林遊月』の中身が誰であるか判明するまで支給不可。
※議論及び、話の進行によって、今後各作品の支給品、能力等の問題は当ルールテンプレとは別に『制限まとめ』として今後編集していく予定です。
詳しくは ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/17220/1435887783/325- で。
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L:【予約について】
キャラ被りを避ける、執筆期間を取りたいという場合にはまず予約にて書きたいキャラの予約を行う。
予約はトリップを付け、その作品に登場するキャラの名前を書く。
キャラの名前はフルネームでも苗字だけでも構わない。そのキャラだと分かるように書く。
自己リレーは絶対という訳ではないが、リレー企画の体裁上は予約する場合は自己リレーと予め言っておく事。
序盤はできるだけ避ける事。
M:【予約期間について】
予約をした場合、執筆期間は5日間、3作以上書いた人は最大で7日間。
ただし予約は任意で強制ではない。 延長宣言があれば1日延長可能。
予約が期限切れした場合、無連絡のままオーバーしたら1日待ち
それで投下が無ければその次の日に予約可能。
N:【作品投下のルール】
予約なしで作品を投下する場合、騙り等により起こる混乱等を防ぐためにトリップ推奨。
作品に自信がない場合は仮投下スレで仮投下することも推奨。
O:【作品修正のルール】
投下した作品に問題があり、投下から36時間以内に問題点を指摘された場合は修正要求される可能性あり。
期限は修正要求から最大2日間。それまでに間に合わなければ破棄。
投下から36時間以内に指摘がなければ通しになるが、問題点が企画の進行に阻害が出るくらい大きければ、
時間が経っても修正要求される。もし作者が修正に応じなければ審議で今後の対応を決定。
※トリップの付け方
書き込みページの名前欄に#を入れて、#の後に任意の文字を入れて投稿すれば
◆mAuG2RWWgのようにスレッドに表示されます。
#の後に個人情報などリアルに関わる文字を入れるのは止めた方がいいです。
認証後、トリップ被りや成りすましを避けるためにも、事前にテストスレなどを利用して
出たトリップをグーグルなどで検索して確認する事をお勧めします 。
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P:書き手の注意点
・荒らし目的の行為、又は通す事によって企画の停滞・崩壊を招きかねない内容の作品の投下は禁止。
(これまでの話や原典の設定とは大きく矛盾するSS投下や、無理がありすぎる展開の話、
複数の書き手がリレーを放棄する内容のSS投下など)
・一度死亡が確定したキャラの復活は禁止。
・大勢の参加者の動きを制限し過ぎる話の投下や、新規キャラの途中参加は程度によっては審議の対象。
・時間軸を遡った話の投下の禁止。
話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている等こうした矛盾を解決する為に、
他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意すること。
・中途半端な書きかけ状態の作品投下は基本禁止。
但し、長編を期間を置いてに分割して投下する場合はこの限りではない。
・無理して体を壊さない。
・リレー小説である事を念頭に置き、皆で一つの物語を創っていると常に自覚すること。
・ご都合主義過ぎる、または特定のキャラを贔屓しすぎる展開に走らないように注意すること。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的にそれぞれの作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止。
・各作品の末尾には状態表を必ず記載する。
作品内での死亡キャラの確認表示も忘れずに。
Q:読み手の注意点
・煽り、必要以上の叩きなど荒らしに繋がる行為は厳禁。
・各作品、キャラのファンはスレの雰囲気を読み、言動には常に注意すること。
不本意な展開になったから暴れるのは駄目。
・仮投下された作品への指摘は本投下前に行うこと。
・書き手にも生活があるので急かすのは程々に。書き手が書きやすい雰囲気を作るのも大事。
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ルールは以上です
続いてオープニングを代理投下します
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広い部屋。
洋風の部屋。
ベッドが中央にあって、天窓からは光が差し込む、
あそぶものだけがいっぱい置かれた、たったひとりの少女の為の部屋。
少女はひとりきりだった。
ひとりきりの部屋で、いま、少女は息絶えようとしていた。
「……」
物心ついたときからずっと少女はこの部屋で暮らしてきた。
どうしてなのかは、分からない。
「お嬢様は生来病弱ですから」と、言われたことはあるけれど、
確かに、よく気分が悪くなったり、体が熱くなったりはしていたけれど、
誰とも比べることはできなかったけれど、それだけが理由じゃないんじゃないかって、なんとなく思う。
だっておかしいから。
メイドさんがひとりだけ付いて、彼女に食事や遊具を与えた。
運ばれてきた絵本を読んで、少女部屋の外に無限の、夢限の世界が広がっていることを、
そこにはひとりきりじゃない少女たちが幸せに暮らしていることを知った。
自分にだってそうなる権利はあるはずなのに、それは許されなかった。
たまに様子を見に来るこわい声の人は、彼女を「アレ」と呼んで生存確認だけをする。
部屋に転がってる人形が汚れてないか確認するときみたいに。
自分は人間じゃなくて、人形だったのだろうか? だから権利が無かったのだろうか?
比べる対象をほとんど持たない彼女には、ついぞ分からないことだった。
「シロ……クロ……」
名前をよぶ。
友達のなまえを。
友達は来ない。
おかしい?
いや、これはおかしくない。
少女はひとりきりの世界で与えられた遊具を使って遊んでいた。
その中になぜか対戦カードゲームがあって、それはひとりではできなかったので、
彼女は彼女の頭の――部屋の中に、彼女の友達――娘たちをふたり、つくり出していた。
良い子のシロと悪い子のクロ。
彼女たちを使って、少女はたくさんたくさん、ゲームをした。
カードを使えば、部屋の外の世界まで「彼女の世界」を繋げることができたから、
外にいるはずのたくさんの幸せな少女たちを、幸せで失くすためのゲームをした。
悪い子だとは分かっていたけれど、単純に彼女たちが妬ましかったから、
願うことが、選ぶことができる彼女たちが妬ましかったから、彼女たちをたくさん地獄に突き落とした。
友達が来ないのはその報いだ。
悪い子のクロはいまも他の女の子の所で遊ばせているし、
悪いことをしていた少女を良く思わなかった良い子のシロは少女自身が閉じ込めてしまっている。
だから少女は誰にも看取られない。
誰にも見られない。
だれもかなしんでくれない。
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「どうして……繭が死ななきゃ、いけないの?」
他の子ではだめなの?
「どうして……繭が願っちゃ、いけないの?」
わたしはそんなにとくべつだった?
天窓から見える空に問いを投げかけても、答える人などいないから、雲に吸い込まれていくだけだった。
震える身体は熱くて、寒くて、じとりとしていて、乾いていた。
口から吐くのは魂の温度をした熱っぽい息で、見える景色は万華鏡みたいに回転して、
だんだんとぼうっとしてきた少女の頭は、自分の身体の震えさえ、心地よく感じてきてしまう。
ああ。
これが死か。
消えてなくなる、寸前の、景色か。
動かすと痛みすら感じたけれど、それでも手を伸ばさずにはいられなかった。
越えられない天窓、何度も何度も夏の太陽を見て、何度も何度も冬の雪を見て、
そのたびに外に出たいと思わされ、願わされ、すがりつかされ、裏切られてきたその空に、
少女は最後の最後になって、それでも手を伸ばさずにはいられない。
「死にたく、ない……」
夢の限りに。
「もっと……もっと……もっと……もっと……もっと……もっと!」
少女は、選ばせてほしいと、願った。
「もっと、遊びたい! もっと、呪いたい! もっと、もっと、繭は――生きたいっ!!!」
――「 」。
「え……?」
叫んだ少女に返ってきたのは、死神の鎌ではなく、人の声だった。
『良いよ』という意味の言葉が、少女の耳に届いた。
声の元を見れば、普段開くはずのない部屋の扉が開いていて、
見知らぬ人が立っていて、
優しく笑っていて。
本来ならばそこで死ぬはずだった少女は――延長戦を、許された。
――少女は、自由を与えられる。
――少女は、世界を見せられる。
――少女は、その呪いは、許諾される。
**********************
だから。――ゲームは始まった。
**********************
-
白い部屋。
無機質な部屋。
ステージが前方にあって、壁の窓にだって手が届く、
あそばれるものだけがいっぱい連れ去られた、たったひとりの少女の為の部屋。
少女はひとりきりだった。
しかし少女はいま、70人以上の人間たちを見下ろしていた。
「ルールを説明してあげる」
群れ惑う彼女の遊び相手達を黙らせて、灰色の少女がゲームのルールを説明する。
「これからあなたたちには、この部屋の外にある世界で殺し合いをしてもらうの。
なんでもありの、バトルロワイアル・ルール。制限時間は72時間。
最後のひとりになるまで、武器も、知恵も、作戦も、全部使って戦って、生き残りなさい。
生き残った、たった1人の良い子には――報酬。どんな願いでも、叶えてあげる」
楽しそうに笑いながら片腕を曲げ、顔の近くに持っていった。
そしてもう片方の手で、腕を指差しながら続ける。
「腕輪がついているのは、確認できているでしょう?」
70人弱の遊び相手も自分たちの腕を確認する。
そこには確かに、騎士の手甲に似た幅広の腕輪が嵌められている。
さらに、その腕輪にはめ込まれている、
「白色の、イラストのないカード」の存在も、全員が確認できていた。
「そこに嵌められている「白」の「マスターカード」に、いろんな情報を表示するわ。
ルールの確認がしたいと願えばそこに出てくるし。
時間の確認をしたいと願えば、そこに表示される。
参加者の確認も、暗い所を明るく照らすのだって、自由自在にできるの。
自分がどこにいるのか分からなくなっても、願えば地図と現在位置を表示してあげる。
脱落した子が何人いて、誰なのか――6時間ごとに放送するけど、そのカードでも確認できるの。すごいでしょう?」
「マスターカード」は腕輪から外すことはできない、とっても大事なカードだから、
大事にしなさい――――そう少女は追記した。
続いて、懐から黒、赤、青のカードを取り出して、ステージ下へと見せびらかす。
黒のカードには「?」マークが白文字で大きく刻まれている。
赤のカードにはショートケーキのイラストが描かれている。
青のカードには水滴のイラストが描かれている。
これらはそれぞれが特別なアイテムを召喚する、「アイテムカード」だと少女は言う。
「黒のカードは、ランダムカード。『出てきて』って願ったら、武器とか、道具とかの、アイテムが出てくる。
このカードだけ、出したものをカードに戻して持つことができちゃうの。何が出てくるか、お楽しみ」
「黒」は最低1枚、最高3枚。
何枚あって何が入っているかは、運で決まる。
「赤のカードは、食べ物のカード。『あれが食べたいな』って願ったら、その食べ物が出てくる。
青のカードは、お水のカード。『あれが飲みたいな』って願ったら、その飲み物が出てくる」
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「赤」と「青」は必ず1枚ずつ。呼び出したものは戻せない。
ケーキから、お肉から、オレンジジュースから、お酒まで、自由に呼び出せるけれど、
左下に書かれている使用回数「10」は使うたびに減っていき、「0」になるとカードが消えてしまう。
実際に赤のカードからリンゴを、青のカードからペットボトルを、少女は召喚して見せる。
マジックにも似たその現象にざわめく者、驚く者、警戒を深めるもの、それぞれいたが、
「あなたたちに与えられるのは、マスターカードと、この3種類のカード。
これらを上手く使って、ゲームを勝ち抜いて。
いっぱい願って、いっぱい選んで、いっぱいいっぱい……あはは、争いなさい!!」
「――ふっざけてんじゃねーぞこのモジャモジャ女!!」
高笑いして命じた少女に対し、真っ先に非難の言葉を浴びせたのは猿めいて甲高い男の声だった。
少女が不機嫌顔で見下すと、西洋風の冒険者服を着た赤いアフロの男。顔が濃い。
その隣に、神秘的なオーラを発し、露出度の高い格好をした桃色の悪魔が、彼を庇うように控えている。美人であった。
「モジャモジャ……? あなたのほうがモジャモジャじゃない」
「うるせぇ! あのなあ、いきなり連れ去られたと思ったらカードを使って殺し合えだぁ?
子供のままごとじゃねーんだからそんな道理が通るわけねーだろうが! こちとら忙しいんだよ!」
「そう。ヘルヘイムに行くのに忙しい」
「お、おうそ、そうだ! アーミラ、やっちまえ!」
「うん!」
どこか腰が引けている男の号令に素直に従い、桃色の黒魔が灰色の少女に牙を剥く。
とん、と白い床を蹴るとすでに高速で滑空しており、蝙蝠に似た艶のある黒翼が大きく羽ばたいていた。
「あなた……じゃま!!」
弓矢の速度も砲弾の速度も置き去りにする加速直線運動で近づき、勢いのままに回転。
少女めがけて体幹を伸ばした流星蹴りを繰り出すさまに、躊躇は一切ない。
悪魔が必ずしも悪魔らしい姿をしているわけではないことを知っていたのか、あるいはただ純粋すぎる故か。
真っ直ぐすぎるその攻撃は――しかし届かない。
「だぁめ。いまは繭のターンだもの。相手ターン中に攻撃なんて、ルール違反は――悪い子よ?」
魔族の少女の脚を止めたのは、「竜の手」だった。
繭(まゆ)と名乗った少女の翳した黒いカードから、赤い「竜の手」が召喚され、少女を止めていた。
そのまま手は桃色悪魔の脚を掴み取り――ぎちぎちと締め付ける。
「う……あぁああああああああ!!」
「アーミラ!!」
「アーミラ嬢!!!」
アーミラと呼ばれたそれは明らかに致命的な絶叫をする。
アフロのみならず、リーゼントの貴族風の男が人ごみをかき分け、それを助けんと駆けつけようとした。
だが魔族の速度に比べればそれはあまりにも遅い。
「やっちゃえ! 『バハムート』!!」
「竜の手」はカードから腕までを出し、大きく振りかぶって――投げた。
動作からわずか一拍。
衝撃音が響き、煙が晴れると、アフロ男のそばには擦過傷でずたぼろになった桃色悪魔が倒れていた。
「あ、アーミラ」
「ふぁ……ば……」
アフロ男、ファバロ・レオーネは冷や汗をたらりと流して固まる。
掴まれた脚が捻じれ、ちぎれかけていた。
腕は折れてあらぬ方向に曲がっていた。
頭から血が流れていた。明らかに致死量のそれが、嘘みたいな勢いで広がって水たまりを作る。
「アーミラァっ!!」
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駆け寄って手を取るが、その手は冷たくなり始めている。
なぜ。この数奇なる同行者は、並みの悪魔なら一撃でのしてしまう強さを持っているはずだ。
それがなぜ。わずか一合。一撃で。
あの少女が言っていたのは何だ。あの腕は。『バハムート』?
――『バハムート』と言ったのか?
「ファバロオオオオオオオッ!!! アーミラ嬢はッ!? あ、アーミラ嬢オオオオオオオッ!!??」
遅れてリーゼントの男がその場に到着し、煩い叫びを上げる間にもファバロは思考の渦の中にいた。
ありえない。封印されているはずだ。
どころかその封印を解かせないために色々と作戦を練っていたのでは?
なのに――――だとしたら――それは、あまりにも――最悪だ。
だが一端の賞金稼ぎの想像する最悪など、連鎖する最悪の始まりに過ぎなかった。
「ルール違反の悪い子には、おしおき」
灰色の少女が冷たく告げる。
ファバロとリーゼント男、カイザルが見守る中、桃色少女が力尽きようとしていたそのとき。
そのからだが淡い光に包まれて、そこからまるで魂が抜け出るような光の奔流が、線状のアーチを描いて伸びた。
「あ……アアアアアアアアアアアアッ!!」
「――なっ」
「――にぃ!?」
悪魔のまさに断末魔の叫び声と共に、
光の線は全ての「参加者」に平等に嵌められている腕輪へと吸い込まれていく。
そして光が全て吸い込まれたその後、腕輪からカードが剥がれ落ちた。
ファバロとカイザルは瞠目する。
白紙だった「マスターカード」にイラストが描かれている。
動かぬ絵となったそれは――
「アーミラ嬢……アーミラ嬢が……カードにぃいいいいい!!??」
「あははははっ。これが最後のルール。
繭に逆らったり、刃向かったりしたら、あなたたちの「魂」はマスターカードに閉じ込められちゃうの。
それだけじゃないよ? 死んじゃっても同じ。不死だろうと何だろうと、死んだらみんなカードの中。
出せるのは繭だけ。でも、出してあーげない。弱い子は、永遠に暗くて寒い所で、暮らす運命。そう、運命!」
繭は両手を広げる。
病人らしきその青白い細腕に、漲っているのは呪いだ。
少女を憎む思い。
大人を憎む思い。
世界を憎む思い。
思いは呪い。呪いはまじない。
まじないは魔法となり、少女は世界を創造する。
ここは彼女の世界、羽化できない繭の、彼女だけの為の世界。
演出も、設定も、規律も倫理もぜんぶぜんぶぜんぶ、彼女の思い通りなのだから。
「――選択、しなさい。
たくさん殺して生き残るか。
殺されて永遠にカードの中で暮らすか――ふたつに、ひとつ!!」
**********************
それ以外の選択肢は、ない。
**********************
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説明は終わり、部屋はもう要らないものになった。
地響きとともに白い部屋の床は崩れゆく。ステージを除いてひび割れる。
悪魔の少女との戦闘跡も消える。
動けなかった者、動かなかった者、動きたかった者、困惑も焦燥も恐怖も愉悦も、
瓦礫と化していく部屋と共に、すべてが下に控えていた巨大なワームホールに飲みこまれていく。
「ち……ちくしょぉおおおおッ!!」
「ファバロォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
赤髪のアフロ・ヘアーは崩れる足場に手を伸ばし、寸での所でアーミラのカードを掴む。
リーゼントの騎士は戦友の名を叫びながら落ちて行き、ワームホールへと吸い込まれていった。
遅れてアフロヘアーも宙へ投げ出される。
近くを落ちるアーミラに手を伸ばすが、すでに魂のないそれは青年の手を握り返さなかった。
「……!」
そして少女もまたワームホールへと消える。
逆さまになった視界の中で、青年に残されたのは、絵だけになってしまった同行者のカードだけだ。
物言わぬカードとなったそれに、道具にされてしまったそれに、
いつもひょうきんな表情の青年は、真剣に向かい合う。
「……選択……か……」
そして平等に吸い込まれる。
向かう先は、繭の世界。
バトルロワイアル・ゲームのために造られた、いびつな少女の、ゲーム・マップだ。
すべての参加者はそこで選択する。
生きるか、死ぬか、殺すか、助けるか。
叶う願いはひとつだけ。選ばれる選択肢は、ひとりだけ――。
【ゲームスタート】
【主催】
【繭@selector infected WIXOSS】
【???@???】
【4種類のカード】
白:マスターカード
腕輪に嵌まっているカード。
地図ナビ、時計、名簿、脱落者の確認、点灯などいろいろ行えるカード型端末。
死んだり主催に刃向かったりしたら、このカードの中に魂が封印されて喋ったり動いたりできなくなる。
基本腕輪から取り外せないが、死んでカードに封じられた後に剥がれ落ちる。
黒:ランダムカード
つまりランダム支給品。出したものをカードに収納できる。
一回出してからカードに再収納すると効果欄が浮かび上がって詳細が確認可能。
赤:フードカード
青:ウォーターカード
食料と飲料。任意のものが出せる。1回につき1人前までで、10回まで。
一度出したものは元には戻せない。
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オープニングの代理投下終了です
続いて今までに投下された本編SSを代理投下します
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――咲き誇れ、思いの儘に。
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満天の星を天井にした、高い夜天の下で。
宮永咲が出会った少女は、名前を小湊るう子といった。
「バトルするかどうか選びなさいって、あの人は言ってました。
選択肢があるぶんだけ、みんなはまだしあわせだ……みたいなことも、前に言ってました。
ゲームをするかどうか選ぶのは私たちなんだからだって」
「うん……さっきも、そう言ってたよね」
後方には途切れた森林があり、前方にはゆるやかな坂道と市街地の景色がぼんやりと広がっていることから、ここが付近一帯でもかなりの高所なのだと分かる。
状況が状況でなければ、かつて夜の帰り道でホタルを見た時のように、自然の眺めに見入ったりもしただろう。
しかし二人が視線を落としているのは、腕輪の中で幾度も切り替わるカードの画面だった。
「でも、死ぬか殺すか、ずっと閉じこめられるかしか選べないなんて、ひどいです。
セレクターバトルでは、願いがマイナスになったりルリグになって苦しんでる人たちがいたけど、死んだら苦しむこともできなくなっちゃう」
「うん……殺しなさいって言われても、そんなことできないしね」
わけのわからない『殺し合い』を強いられてから最初に出会った者同士で、互いに警戒がなかったわけではない。
しかし、遭遇した瞬間にお互いが固まってびくりと身構える姿を目の当たりにすれば、『この人も私と似たようなものなんだ』と警戒を解くのに時間はかからなかった。
「るぅ――私も、そう思います。
誰かを傷つけたり、弄んだり、そんな目に遭わされた人の事は、見てきたつもりだから。
誰かを犠牲にするような選択は、したくないです」
すぐに分かったのは、彼女の方が咲よりも、ずっとたくさんのことを知っているということ。
あの灰色の人は何者なんだろうねと呟いたら、意を決したような顔になって語ってくれた。
「……ごめんなさい、何だか、るうばっかり話しちゃって」
「い、いいよそんなの。殺し合いを命令したのが知ってる人だったら、誰だってショックだし。
……私の方こそ、せっかく教えてくれたのによく分かってなくて、ごめんね」
るう子自身もどこからどこまでを話せばいいのか悩みながらだったらしく、最初は要領を得ないような話が続いたけれど、口を挟むことなく聞いた。
別に好きなように喋らせて落ち着いてもらおうとか狙っての配慮では無い。
咲はどちらかと言えばコミュニケーション下手であり、どういうことだと問いただすことさえもできなかったのが、聞き役に回っていた主な理由である。
「ううん。宮永さんはウィクロスとかセレクターとか全然知らなかったんだし、信じられないのが普通だと思います。――あの、たとえば、どんなことが分かりにくかったですか?」
「えっと、最初はカードゲームをやろうっていう話だったのに、どうしていきなり殺し合いに変わっちゃったのかな、とか……」
そう言うと、るう子は困惑したように目を伏せた。
もしかしてずれた質問をしただろうか、と咲は内心で焦る。
「繭は、ウィクロスのカードバトルだけじゃ、満足できなかったのかも」
るう子は小さな声でそう言った。
-
「私、繭もウィクロスのことは好きなんだと思ってました。
普通の子みたいにバトルがしたかったけど、できなかったから、セレクターバトルを皆にやらせてきたんじゃないかなって。
だから私、バトルで勝ってみんなを助けられるなら、止められても戦うつもりで。
繭とも、バトルのおかげで会えた友達の友達だから、きっと分かり合えるんじゃないかって……」
『戦うつもり』と言っていた時だけ、その瞳が戦う者に変わったかのように強く光った。
すごく麻雀に強い人が、人をぞくりとさせるような、怖い感じと少し似ていた。
だから、この子はきっとそのカードゲームが楽しくて強かったんだと思った。
「でも、違ったのかもしれなくて。
繭にとって、ウィクロスはただ復讐するための道具でしかなくて。
今までのバトルでタマもイオナも変われて、繭にも声を届けるはずだったのに、それも意味が無くて。
るぅの願いは悲しい戦いを終わらせることだったのに、本当の殺し合いなんてどうしたらいいか分からなくて。
ウリスがここにいるなら、イオナとタマもどうなってるか分からないのに……」
咲よりも年下の――合宿に遊びにきた夢乃マホと同い年ぐらいの少女が、他の人のことを心配して顔を曇らせている。
そんな姿を見せられては、いつも頼りない宮永咲だって、何か言わなくちゃと思った。
「意味が無いなんて、言っちゃダメだよ」
口にしてみた自分の声は思いのほか大きく、るう子が虚をつかれたように顔をあげる。
「私はね、麻雀をやってるの。好きだし、楽しいって思うから。
でも、るう子ちゃんたちのゲームほどひどいルールじゃないんだけど、麻雀ってお金を賭けたりもする競技だから。勝っても負けても辛かったり、人を傷つけたりすることがあって。
だから私も、麻雀を楽しくないと思ってたけど、それだけじゃないって分かったの」
宮永咲もまた、自分の好きなことを肯定できなかった歯がゆさを、知っているのだから。
「麻雀をしたから色んな人と打てたし、麻雀を通してなら話せそうな人もいるから。
殺し合いだとどっちのゲームも役に立たないかもしれないけど、ちゃんと経験になってくれてる。
繭って女の子のことを知ってるのも、るう子ちゃんにしかできないことだよ。
だから、意味が無いとか、無いと思うな」
「はい……」
「だからね。何とかして、ここから出る方法を考えよう。
帰ったら、また楽しく麻雀とカードゲームをやろうよ」
「はい」
るう子が少しだけ笑みを見せてくれて、本当にほっとした。
そして、うるうるとした眼で見つめられたのが恥ずかしかった。
こんなかっこよさそうな台詞、相手が年下の女の子じゃなければ絶対に言えてない。
「咲さんは強いんですね」
「ぜ、全然そんなことないよ! こうやって座って話すことになったのも、最初に腰が抜けちゃったからだし――」
いい加減に立ち上がろうと腰を浮かせた時だった。
メキリ、と。
背後から聞こえたのは、車輪で落ち葉や木の枝を踏みつぶしたような音だ。
「「――っ!」」
二人は引きつった声をもらし、身を固くして森林へと振り向く。
女子高生が1人と、女子中学生が1人。
一般の男性が凶器を持って飛び出してきただけで、揃ってこの世からお別れしかねない無力さだ。
-
「あの……」
しかし姿を現したのは、儚げな少女の声と、小さな人影だった。
車椅子に乗った、るう子と同年代のたおやかそうな少女。
そのタイヤを手押しでゆっくりと向かってくる動きは、足が悪くて歩けないヒトのそれだ。
しかも、その手にはスマートフォン以外に何も持っていない。
「……すみません、途中からお話を聞かせていただいて」
ぺこりと頭をさげる少女を見て、ほっと二人の警戒も解けた。
この少女を見て殺されるかもしれないと怯える人間がいたら、そちらの方が無理がある。
「ううん、いいよ。車椅子大変だよね。こっちから行くから――」
二人と一人の間にあるのは、家一軒分ほどの距離。
舗装もされていないその勾配を車椅子で進ませるのもどうかと、咲たちはこちらから近づこうとしたのだが。
「いいえ。お気遣いはありがたいですが、不要だと思います」
硬い、拒絶の意思がある声。
それを耳にして、咲たちは初めて気づく。
腕輪からの明かりに照らされた少女の顔が、思いつめたように眉尻をあげ、張りつめた表情をしていることに。
そして、少女が携帯電話を前方にかざしていることに。
その少女の変質は、一瞬にして劇的だった。
携帯電話が、青いガラス片をたくさん散らしたような光でその少女を包む。
光が収束した場所に身を現したのは、青と白の花飾りやリボンに彩られた天女にも似た装いだった。
頭や肩の周囲から生えている肩巾(ひれ)のようなリボンが幾本も地面へと屹立し、少女を吊り下げるようにして足の代わりを果たしている。
突然のことに対する困惑を差し引いた目でみれば、それはとてもきれいな姿だったけれど。
咲はなぜか、光の花びらを散らすその姿に、ぞくりとするような恐怖を覚えた。
恐怖は、次の瞬間に凶器を持つ。
どこからともなく少女の右手に出現したのはL字型をした金属のかたまり。
拳銃みたいな形の武器、と理解するのと同時。
「死んでいただきますから」
問答無用とばかり。
その銃口は、火を吹いた。
�� �� ��
少女――東郷美森は、もとより、その少女たちの会話を聞いていた。
その少女たちをこれから殺すつもりで、潜んでいた。
すぐに飛び出さなかった理由の一つは、色々と考えることが多くて、逡巡していたから。
『勇者』が背負わされた『自殺することさえできない』という宿業はどうなったのだろう、とか。
呼び出した精霊の機動力がいつもよりぎこちない気がするのは、勇者を防御する力が落ちているということだろうか、とか。
バーテックスとも違う、あの巨大な竜は何だったのだろう、とか。
-
四国の中で覚えているどことも違うこの地図の会場は、どこなのだろう、とか。
色々なことを整理して方針を決めるのに時間をかけたこともあったけれど、襲撃を躊躇した理由も別にある。
この場所にいる人達にはみんな死んでもらって、願いを叶える。
東郷美森の願いは、世界をかろうじて延命させている『神樹』を倒すこと。
そして、この場所にいる四人の大切な友達――勇者部の皆の魂を、解放すること。
全てが終われば、先に死ぬことになる四人の仲間たちの後を追って逝く。
それは、やらなければいけないことだ。
勇者部の五人を、永遠に生贄として使い潰される宿命から救うために、必要なことだ。
けれど。
『勇者』の力を使って、人殺しをする。
友奈が『きれい』と言ってくれた勇者の東郷美森が、人間を銃殺する。
それは、いつもの5人の大切な『勇者部』を穢しているような気がして。
本当に、それをやるのだろうかと、身体が震えた。
どのみち、神樹を倒せば人類は生きていられないのだから、最終的にはここにいる70人どころではない大量の人間を殺すことになると、頭では分かっている。
勇者部の皆を解放してもらえれば神樹までも殺す必要はないかもしれないが、
殺し合いが終わった途端に精霊たちが復活して、再び神樹の力で死ねない体にされるかもしれない。やはり神樹は確実に殺しておいた方がいい。
やるしかない、と己に言い聞かせていた時だった。
二人の少女の、会話が聞こえてきたのは。
――誰かを犠牲にして願いを叶えたくなんかない?
勇者たちは、ずっと皆の幸せのために犠牲にされているのに。
『満開』によって体が動かなくなり、好きな人の記憶もなくなり、たった独りで寝たきりになり、それでも死ぬことさえ許されずに戦わされ続けるのに。
――選択しなければいけない?
友奈たちには、選択肢なんて最初から無かった。
『神樹さまを守らなければ世界が死ぬ』なんて言われたら、
『人の役に立つことを勇んでする』人ばかりの勇者部だったから、戦うことは分かりきっていた。
たとえ、『死ねない地獄』へと向かう一本道だったとしても。
――帰ったら、楽しい日常を過ごす?
結城友奈も、犬吠埼風も、犬吠埼樹も、三好夏凜も――そして東郷美森も、
それができれば、どんなに良かったか。
冷静になった。
覚悟は決まった。
無警戒に近づこうとする少女たちの前で、躊躇いなく変身。
すぐさま、短距離用の武器を出現させる。
そばに顕現するのは、いつもそうだったように、精霊の刑部狸だった。
二人の少女のうち、短髪で少し年上の少女が、何かを察したかのように顔色を変えた。
「るう子ちゃん! 危な――」
問答無用で発砲。
もう一人の手を引いて逃げようとした少女の腹部が、ぱっと赤く染まった。
�� �� ��
赤くぬめりと迸った血液と、脇腹の衝撃は恐怖をもたらした。
「咲さんっ!!」
とっさに庇う体勢になってしまった少女の悲鳴が、壁を隔てたように遠い。
信じられない。こんなにあっけないなんて聞いてない。
簡殺されてしまうかもしれないと、怯えていた。
でも、たったこれだけで宮永咲が終わるなんて。全部が、終わるなんて。
抗おうとしても、体から力が抜ける。
体が横殴りにされるように、半身がぐるりと回る。
脚が崩れ、視界がななめ後方へと倒れるがままに流れていく。
腹部の焼けるような熱が、『これで終わりだ』と絶望を伝える。
麻雀に愛された才能だとか、全国大会に出場した実績とか、そんなもの人体を貫通する銃弾の前で何の役にも立ちはしない。
ただ、後ろにいるるう子ちゃんが続けて撃たれるところは見たくないな、と思ったので。
流れていく景色を横目に、目を閉じようとして。
-
――山の嶺から見下ろした世界が、目に入って来た。
夜の中でもここに高さがあること、ずっと下の方に真っ平らな地面があることは、輪郭が浮かびあがって分かる。
街の灯りは、まるで小さな花が咲き乱れたかのよう。
そして、高原の下から上へと吹き寄せる風からは、木々の薫りがした。
似ていた。
形も、匂いも。
いつかの、長野で見た『あの景色』と。
�� �� ��
「リンシャンカイホー?」
「麻雀の役の名前だよ。
『山の上で花が咲く』って意味なんだ」
空はどこまでも青く、高原の風は緑の匂いがする。
見下ろした景色は、小さな花の集まりのようで。
「咲く?」
嶺上開花(リンシャンカイホウ)。
その言葉の意味を教えてもらって、たちまちに好きになった。
「おんなじだ! 私の名前と!!」
「そうだね、咲」
見上げたその人の口には、笑みがある。
ずっと仲良しでいられると、疑わない人だ。
たとえ喧嘩したとしても、きっと仲直りすると決めている人だ。
「森林限界を超えた、たかーい山でさえ、可憐な花が咲くこともあるんだ。
咲、おまえもそんな花のように――強く咲けば――」
それは、とっても素敵なことのようで。
この人がそう言ってくれるなら、きっといつかそんな風になれる。
宮永咲は、信じた。
�� �� ��
-
――まだ、咲いたところを見せてない!
咲は、諦めてはいけない。
そこで、火が灯った。
右足を後方へと無理やりのばし、ザクリと地面を踏みしめる。
倒れそうになった体を、なかばるう子にもたれるようにして維持した。
るう子が驚き、どうにか咲をかばって前に出ようとする動きを、右手をかざして防ぐ。
眼前にいるのは、とどめを刺そうと狙いをつける少女の銃口だ。
あれがもたらす死だけは、止めないといけない。
左手で、黒いカードを探り当てる。
そのカードに何が入っているかはだいたい分かっていた。怯えながらも、一回だけ出し入れはしていたから。
カードを、自摸(ツモ)る。
口にするのは、いつもの言葉。
麻雀なら、牌が見えた時、それをツモる時にそう言うから。
取り戻せ。
いつか、和ちゃんに認められた、自信に満ちた私を。
――靴下は脱いでないけど、がんばる。
「カン」
�� �� ��
腹部に血だまりの少女がそう言った時、東郷美森は次弾の引き金を引いた。
その時点では、命を狩る者と狩られる者のはずだった。
『カン』が言い切られるのと同時。
少女の眼から、『ゴッ』と炎がはじけて揺らぐ。
そしてすさまじい大きさの覇気が東郷を一直線に叩いた。
「きゃっ――!?」
勇者らしかぬ悲鳴が、口からこぼれる。
全ての知覚が、その一瞬で遮断された。
何をされたのかが分からないのに、それが恐怖だということは分かる。
友奈たちと初めて樹海化に巻きこまれて、二年ぶりにバーテックスを見た時に体が震えたような、それは『圧倒的なものに呑まれる』時の恐怖だった。
そして、知覚の戻って来た世界では二つの音が聞こえた。
-
ひとつは、ガキン、と鈍く鳴る金属音。
それは、少女たちを狙った弾丸が遮断された音。
とどめを防いだのは、謎の少女が持つカードから飛び出す『布のような形状の金属の物体』だった。
ただ飛び出しただけのそれは弾丸を逸らすことに成功したものの、そのまま少女の手を滑って地面へと落ちる。
もうひとつは、東郷のすぐ近くで聴こえた『フィン』という音と、小さな光。
それは東郷美森の左胸にある『満開ゲージ』の花びらが、ひとつ花弁を増やした音。
それまで三枚あった花びらが、四枚になった。
とどめを仕損じた。
次弾を撃たなければ。
頭ではそう判断して、しかし感情は、恐怖が、行動を躊躇させる。
少女が圧倒的な気配を纏って攻撃を防いだ瞬間に、満開ゲージ――勇者の『供物』が、一つ埋まった。
たまたま、ゲージが貯まるタイミングになっただけのことかもしれない。
敵を激破した数と満開ゲージの貯まるタイミングは必ずしも比例しない。
一般人に向かって弾丸を撃ちこんでも、ゲージが貯まることだってあるかもしれない。
しかし、ならば、今この時も放出されている『強大な気配』はどういうことだ。
相手は、カンと言っただけだ。
麻雀や賭博遊びなどしたことない東郷美森だったけれど、中学二年生にしては必要以上なほど博学である。
『カン』が麻雀用語だということは知っていた。
その場に『三つ』が集まった時に、相手が放銃をした弾丸(ハイ)とかから『四つ目』を供給して、ひと塊を作る動きのことだ。
そんな言葉に、勇者が花を咲かせるための力が宿るとは思えない。
しかし、それが可能だとすれば。
物事を、とことん考えすぎるまで考えこむきらいのある東郷は、わずかな時間でそこまで考える。
満開ゲージを強制的に溜めることができるのならば。
もう一回でもそれが発生して、満開ゲージが全て埋まった時は、果たしてどうなる。
(もしかして…………強制的な、『満開』も?)
――嶺の上に、花が咲く。
また、『満開』をさせられる。
また、『散華』をする。
また、大切な人を忘れて――。
(――ダメ!!)
考えすぎるのは、悪癖だ。
手荷物――カードを探ろうとする二人をそうさせないため、次の動きを取る。
小型の銃を捨て、狙撃用の巨大な銃を呼び出した。
近距離とはいえ、二人を同時に殺そうと思ったら貫通力のある弾丸を使うべきだから。
銃床を肩にあてて押さえ、安定姿勢を保持。
スコープの中にいる標的たちは、距離が近くていつもより大きい。外しようもない。
だが、異変はとどまらなかった。
ピシ、とスコープに幾すじかの亀裂が生まれる。
まるで大きな地震がきた時の窓のように、のぞき窓はガタガタと震える。
何が起こったと考えるより先に、スコープが破裂した。
-
「いつっ……!」
粉じんのように砕け散った無数の破片。
それが、東郷の右顔面にぶち当たった。
精霊の防御も間に合わず、とっさに閉じた右目をガラス状の破片で叩かれる。
眼球をかばいながらも、それは右目の視界と、平衡感覚――リボンで跳躍して距離を詰めるために必要なものを、しばらく潰す。
それを隙として、もう一人の少女が動いた。
左目には、もう一人の少女が球状の武器を投げる姿が映る。
少し転がすように投擲されたのは、煙幕弾だった。
「…………えいっ!」
弱々しいかけ声とは異なり、煙は爆発的に撒き散らされた。
通常の煙幕榴弾よりも大量の煙を吐くよう改造でもされているのか、折よく風も止まった嶺の上が白煙に包まれる。
闇雲に狙撃銃を撃っても、重たく駆け去る足音の主を捕えた気配はなく。
視界と平衡感覚とが回復した頃には、東郷美森だけがその場に残っていた。
金属の布きれは止血に使われたのか、その場から持ち去られている。
逃がした。
そう認識するのと同時に、どっと重圧がきた。
もし足が動く体だったら、きっと生まれたての小鹿みたいに震えていたと思う。
変身を解いて、地べたに座りこみ車椅子にもたれかかる。
謎の少女の方は、きっと仕留めた。
こんな山の中で、お腹を勇者の武器で撃たれて、そう長く生きていられるとは考えにくい。
勇者部だった東郷美森は、人を殺した。
仕方なかった、とかごめんなさい、なんて言わない。
東郷美森は、これから世界ぜんぶさえ殺すのだから。
そのためなら何だってすると覚悟したはずなのに。
震えが身体を走るのは、彼女がまだ、中学二年生の
そして、満開の恐怖を、今しばし思い出してしまったから。
(あの時……満開ゲージが溜まると思ったら、一瞬だけ躊躇した。
忘れることが、怖かったからだ。
……でも、だけど!
私は、そんな苦しみから、皆を解放する! そうしなきゃ!)
咲いてしまった花は、もう散るばかり。
もし花が散華することに胸を痛め、耐えられないと嘆くなら。
この世から、花そのものを滅ぼしてしまうより他に、道はない。
【F-2/山頂付近/一日目 深夜】
【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]: 健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、満開ゲージ:4
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:車椅子@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[思考・行動]
基本方針: 殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する
1: 参加者を殺していく。
2: 友奈ちゃん、みんな……。
[備考]
※参戦時期は10話時点です
※車椅子は、東郷美森の足も同然であると判断され没収されませんでした
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意識を浮上させた宮永咲が倒れていたのは、神社の境内だった。
-
目覚めて、目に入ったのはがっちりとお腹に巻き付けられた腹巻のような金蔵の布。
そして、耳に入ってきたのは、ガンガンという鈍い音。
るう子がこぶし大の石を握りしめ、咲の腕輪を必死に壊そうとしていた。
何をしてるんだろ。
そう思い、腕輪にはまったカードを見て、気づく。
死んだり、繭に逆らった人はカードに閉じ込められるというルールだった。
だからるう子は、咲の腕輪を壊し、ルール違反をさせようとしている。
生きているうちに、死ぬ前に、カードに閉じ込められたら、ルリグみたいにそこで暮らせるかもしれないから。
いい子だなぁと思った。
そんな彼女に声をかけようとしたけれど。
声は、かすれた。
「ごめん、無理みたい……」
るう子が、はっとしたように咲と目を合わせる。
涙でぬれた目に、咲の顔が写っている。
水面みたいだ、と思った。
色々な記憶が、走馬灯を作っていく。
キラキラした水面と、お魚さん。
病院と点滴。
炎に包まれた車椅子。
黒い服を着ていた姉。
だから、理解した。
これから、どこに行くのかを。
「カードの中に入っても、変わらないと思う。
死んだら、全部、終わりなんだよ。カードから出てきたりとか、会えたりとか、しないんだよ」
「知ってるなら……ちゃんと分かってるなら! どうして、るぅを、庇ってくれたんですか」
叱りつけられるような声をかけられて、申し訳なさがあった。
和ちゃん。
部長。
優希ちゃん。
マコ先輩。
お姉ちゃん。
会いたい人にも、会えないのに。
どうして、るう子を守ろうとしたのか。
「ごめんね……体が、動いちゃった。
私の方が、ちょっとだけ、お姉さんだから、なのかな?」
会いたい人に会えないのが。
もう麻雀ができないことが、悲しくて、辛くて。
でも、ひとつだけ良かったことがある。
あの嶺の上で、思い出して、踏みとどまったこと。
「……でも、私は…………選択したん、だよ。
私にしか……できない……こ、と」
さっき意味が無くなんかないと、小湊るう子に言った。
だから、彼女の選択も彼女を救けてくれたらいい。
哀しみから抜け出して、また楽しくゲームができるような、そんな選択を。
ああ、でも。
最後にひとつ、気になる。
「私――ちゃんと咲けてたかな?」
嶺の上に咲く、花のように。
-
【宮永咲@咲-Saki- 全国編 死亡】
残り69人
【F-3/神社/一日目 深夜】
【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:健康、悲しみ
[服装]:中学校の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:チタン鉱製の腹巻@キルラキル
黒カード:不明支給品0〜2枚、宮永咲の不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
1: 咲さん――!
2: 浦添伊緒奈(ウリス?)、紅林遊月(花代さん?)、晶さんのことが気になる
[備考]
※参戦時期は二期の8話から10話にかけての間です
支給品説明
【東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である】
東郷美森を勇者へと変身させるアプリが入った携帯電話。
近距離、中距離(ショットガン)、狙撃銃、遠距離砲の攻撃手段をそれぞれ使い分ける。
宿った精霊はそれぞれ刑部狸、不知火、青坊主、川蛍。
【チタン鉱製の腹巻@キルラキル】
蟇郡苛が、最終話の決戦で護身用に着用していた巨大腹巻。
針目縫の攻撃を受けても「ちょっと痛かった」程度で済むらしい(ただし大量に出血していた)。
【煙幕弾@現実】
小湊るう子のアイテムカードに単体で支給。
改造でも施されたのか、通常の煙幕弾よりもかなり多量の煙を排出するため、煙の拡散しやすい屋外でもしばらく持つ。
-
「いやぁ、ホンマ助かったわーウチだけじゃ心細くてなー」
「いえいえ、いきなり大きな音が鳴ったので来てみたら、こんなことが……」
倒れているのは大木。
その近くには二人の少女。
その少女たちのバストは豊満であった。
「ウチ、東條希。音ノ木坂学院三年生や」
「東條さんですね……私は神代小蒔と申します。永水女子高校の二年生です」
一人は普通の学校の制服。
もう一人は紅白の巫女服。
そして、その少女たちのバストは豊満であった。
「その喋り方……関西の高校の方ですか?」
「いや、東京の秋葉原にある学校やで……そういう、小蒔ちゃんは学生兼巫女さんなん?」
結構気さくに話しかけてくる希に対して安心感を覚える小蒔。
最初に出会えたのが、優しそうな人でよかったと思う。
「でも、警戒したほうがええで……まだ近くにこんなことやった犯人がおるかもしれんよ、少し離れよか」
「はい」
希は小蒔の手を引き引っ張っていく。
優しく手を引き、誰にも見つからないように静かに歩いていく。
しばらく歩くと誰もいなさそうな茂みを発見した。
一先ずはそこで情報交換をしようとした。
「小蒔ちゃんの知り合いはおるん?」
「知り合いですか? いませんね……」
「ふーん、ホンマに?」
「あっ、はい……東條さんは?」
「……ウチの学校の友達が4人もおるんよ……」
「えっ?」
二人で名簿を一緒に名簿を見る。
希は見知った名前を指差していく。
『高坂穂乃果』『南ことり』『絢瀬絵里』『矢澤にこ』。
同じスクールアイドルグループ『μ's』のメンバーだ。
希は一年生三人と二年生で作詞担当の『園田海未』の名前がなかったことには安堵したが。
それでも皆が心配であることには変わりなかった。
-
「探しに行きましょう!」
「えっ?」
「留まっているより探したほうがいいと思います!
その東條さんのお友達さんもきっと東條さんを探しているはずです!」
「……小蒔ちゃんはええ子やねぇ……けどな」
少し冷静になり、希は徐に小蒔の顔を指差す。
「さっきから気になってたんやけど?」
「? なんですか?」
「その……顔につけてる、それ何なん?」
「これですか? これはスパウザーです」
「えっ、なんて?」
「スパウザーです。平たく言えば戦闘能力を計る計測器です」
まるで漫画に出てくるような道具。
補聴器に小型スクリーンが付いた形状をしている。
装備してる当人曰く『戦闘能力を計る機械らしい』が胡散臭いったらありゃしない。
「ホンマに……?」
「ちょっと待ってくださいね……計測できました。えーっと、東條さんは53oですね」
「53oってなんなん!? 強いん、それ!?」
「東條さんは53o(オッパイ)……つまり、オッパイ53個分の強さということですね」
「いやいや、ウチのオッパイは二個やし!? というかオッパイの一個分の戦闘能力ってどんだけなん!?」
希は本場関西人のようにガンガン突っ込んでいく。
しかし、それを天然なのか、小蒔はのらりくらりと自分のペースで話していく。
「……しかしな、小蒔ちゃん、戦闘力をちゃんと計るなら……」
「ちゃんと計るなら?」
「ふふふふ……ワシワシMAXや!」
「いや……ちょっと、東條さん!?」
一瞬のうちに小蒔は希に背後を取られた。
そして、希は巫女服の上から小蒔の胸を揉む。
「これは88……いや、90……!?
まさか……それ以上あるやん!!」
「ふぁっ!?」
ワシワシと胸を揉む。
ワシワシワシワシと胸を揉む。
揉まれると同時に小薪の心臓の鼓動が早く、どんどん高まっていく。
-
「ふふっ、ウチのワシワシテクニックで堪忍しいや〜」
「……と、東條さん、それ以上は……いけません!」
「ああ、わかったで……」
急に希は小蒔の胸を揉むのを止める。
充分に満足したのだ。
だから、止めた。
胸を揉みしだかれた小蒔は息を整えようとする。
こんなことをされたのは自身生まれて初めてだった。
だが、不思議と嫌な気分にはならなかった。
寧ろ、気持ちよかった。
だが、次に小蒔が感覚は……胸を突き破るような痛みであった。
「ホンマ勘忍な……」
小蒔の胸からレーザーブレードのような光の刃が突き出ていた。
その刃は小蒔の心臓のご丁寧に位置を突き破るように一直線に。
何が起こったか、わからないまま。
神代小蒔の意識はそこで途絶えた。
◆ ◇ ◆
―――私にとってμ'sは大切なもの。
絵里ちもにこっちも穂乃果ちゃんもことりちゃんも大切な友達。
だからな……皆ごめんな……私は、もういつもみたいには笑えんわ……
◆ ◇ ◆
-
ビームサーベル。
最初はただの玩具かと思った。
だが、カードの説明を読んでれっきとした武器だと判明した。
最初は半信半疑だった。
だから、試し斬りを行った。
最初は近くにあった自分よりも太い大木を斬った。
レーザーで出来た刃であっさりと切断出来た。
音を立てて、あっさりと倒れた。
二回目は【今】……寄ってきた女の子で試し斬りした。
胸を揉むのはせめて小蒔ちゃんが苦しまないように。
一撃で仕留められるように、胸を揉んで心臓の位置をしっかり確認して。
こんなことをして自分の心が痛まないと言えば、嘘になる。
だから、その心も【今】斬り捨てた。
―――μ'sを護るために。
「ウチ、やっぱラッキーガールやな……いや」
大きな溜息を吐く。
最初に遭遇したのが何の戦闘能力もない優しい子だった。
だから、希にとってはラッキーだった……覚悟を決めるには。
「こんなことに巻き込まれた時点でラッキーガールも何もあらへんな……」
強力そうな武器も引き当てた。
引くおみくじ全てが大吉になるくらい運がいいというくらい自負している。
本当に運がいい、こんなことに巻き込まれていることを除けば。
「音ノ木坂学院も廃校の危機を回避出来たと思ったら……こんなところに移転とはとんだ災難やね」
希は地図を見る。
地図に記されている音ノ木坂学院。
その学校も廃校のピンチだったはずなのに、こんなところにある。
「皆、学校が好きやし……そこに行くだろう。
なら、ウチは……行かんわ」
少女は一人、歩いていく。
護りたいものを、護るために。
それが例え間違った道だと分かっていても。
【神代小蒔 咲-Saki- 全国編 死亡】
【残り68人】
-
【D-2/墓地近く/一日目 深夜】
【東條希@ラブライブ!】
[状態]:健康
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:黒カード:ビームサーベル@銀魂
[道具]:黒カード:スパウザー@銀魂、腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚、神代小蒔の不明支給品0〜2枚(全て確認済み)
[思考・行動]
基本:μ'sのために……
1:学校には向かわない
2:μ'sのメンバーには会いたくない
[備考]
※参戦時期は1期終了後。2期開始前。
支給品説明
【ビームサーベル@銀魂】
原作46巻第四百二訓〜四百九訓(アニメ版における第262〜264話)のビームサーベ流篇に登場した武器。
ビーム状の刃の剣。小尾一のように刃は巨大化させることは制限がかかっており不可能である。
【スパウザー@銀魂】
原作第20〜21巻第百七十四〜百八十二訓(アニメ版における第115〜118話)の夏休み特別篇に登場した道具。
形状はあの有名漫画に出てくるスカウターであり、戦闘能力を図ることができる。
また戦闘能力の単位は男の場合はk(こんぶ)で女の子の場合はo(オッパイ)となる。
あまりにも桁違いの数値を計測すると、爆発する。
-
♪
誰に会いたいの? 会いたいの?
こころが持っている答えは
ひとつ ふたつ たくさん?
◆
少女は震えていた。
かたかたと、かたかたと。只でさえ小さなその体は、いつもより余計に小さく見えた。
ついこの間までは表情の変化さえ多くなかったけれど、最近は微笑むことも増えてきた顔。
――蒼白に染まっている。額には冷たい汗が浮いて、今にも滴り落ちそうだ。
――歯はがちがちと不協和音を奏で、心臓は今にもはち切れそうなほどの躍動を見せている。
不健康なリズムとスピードで脈打つ心の臓は、きっと自分の恐怖心の強さを表しているんだ――そう思った。
仮にいま、自分の心臓が破裂してなくなってしまったとしても、きっと智乃は驚かなかっただろう。
ホラー映画を見たことがある。
勿論、自分から進んで見ようとしたわけじゃない。
確かあれは、テレビで心霊映像の特集をやった翌日のことだったと思う。
マヤがレンタルビデオ店でホラー映画のDVDを借りてきて、それを見ようという話になった。
それで、皆で見たのだが。……正直な所を言えば、智乃には恐怖以前に疑問が勝る映画だった。
それは実にありきたりな疑問。
ホラー映画やパニック映画を一度でも見たことがあるなら、誰もが抱いたことのあるだろう感想。
即ち、"自分ならもっと上手く立ち回れる"――自分なら、恐怖で動けなくなったりはしないはずだ。
いくら下手に動けば命を失うかもしれない状況だとしても、止まっていては遅かれ早かれ死ぬだけだ。
死を黙って待ち続けて、恐怖を最高潮まで引き立てられてから殺されるくらいなら、自分ならきちんと動く。
自分なら、万一の時だって自分を見失わずにしっかりと行動できる。
智乃は最後、顔を青褪めさせながら感想を語り合う二人に苦笑しつつ、そうして映画鑑賞を締め括ったのだったが。
いざ実際にその立場へ置かれた彼女は、ピクリともその場から動けずにいた。
このままではいけないと頭では分かっているにも関わらず、体がそれについて来てくれない。
立ち上がろうとしても足は痺れてもいないのにガタガタと震え、もし歩きでもすればすぐに転んでしまいそう。
無理もないだろう。誰も、今の智乃を笑うことは出来ないはずだ。
香風智乃という少女は、普通の少女である。
同学年の子どもに比べれば確かに大人びてはいるし、喫茶店の娘として接客能力だって備えている。
けれど、彼女個人の人間性は――過ごしてきた人生は、あくまでも普通の範疇に収まる。
例えば、先の"ルール説明"。
見せしめとして少女が殺されたが、あの光景についてだってそうだ。
-
智乃は、人が殺される瞬間を見たことがない。
怪しげな力を持つカードにだって心当たりはないし、摩訶不思議な魔法を使うことも出来ない。
智乃が経験した不思議なことといえば精々、喋るウサギと一緒に暮らしている程度のものだ。
朝起きて、学校へ行き、友達と話して、友達と遊んで――最近では下宿にやって来た年上の少女によって、その日常もずいぶんと賑やかに彩られて。お風呂に入ったら宿題を済ませ、ぬいぐるみと一緒に就寝する。
そんな暮らしを送ってきた少女が、何の前触れもなく殺し合うことを強要され、目の前で人を惨殺されたのだ。
――これで正常でいられるわけがない。今も目を瞑れば、瞼の裏にあの惨状が再生されてしまう。
「う……」
込み上げてくる嘔吐物を、どうにか喉元で堪え、押し戻す。
荒い息を吐きながら、智乃は小動物のように周囲を見渡した。
「ラビット、ハウス……」
ラビットハウス――
見覚えのある光景だった。
それ以上に、親しみのある、かけがえのない光景だった。
自分が生まれ育ち、そして手伝ってきた喫茶店。
昔はアルバイトの理世と自分と、マスコットのティッピーだけしかいなかったが、今では従業員が一人増え、マヤとメグ以外にもいろんな人が遊びに来てくれるようになった大切な店。
空気も、樹の匂いも、かすかに残るコーヒーの香りも。
五感全てが、これが本物のラビットハウスであると告げていた。
智乃が正気を保てていたのは、ひとえに開始位置、最初に目を覚ました場所が此処であったからかもしれない。
安心感。こんな状況だというのに、慣れ親しんだ店の内装が心を少しずつだが、確かに落ち着かせてくれる。
「ティッピー……? お父さん……?」
智乃はいつの間にか、立ち上がっていた。
そうだ、ここはラビットハウス。
いつも通りの――わたし達のラビットハウス。
でも、と智乃は思う。
これは確かにラビットハウスだ。
けれど、どうしてこれが此処にある?
智乃はハッとなって、腕輪の端末を弄り始めた。
使い方には少し手間取ったが、どうにか名簿と地図の出し方を把握する。
まずは地図だ。会場の一覧図を見て――嫌な予感が、大きくなった。
違う。
こんな形の町を、私は知らない。
ここは、私の住んでいる町じゃない――
「……っ」
次は名簿へ手を動かした。
そこには無情に、智乃の友人たちの名前が記されていた。
心愛、理世、千夜、そして紗路。
今や家族同然だったり、長い付き合いだったり、はたまた可愛がってもらったり。
友好を育んできた人物たちも同じ目に遭っていることに心を痛め、マヤやメグの名前がないことに少し安堵した。
-
「――お父さん……?」
そして、ある不気味な疑問が浮かんでくる。
ラビットハウスがあるのに、どうして父の名前がない?
それに、いつも一緒のティッピーの姿もない。
殺し合いの邪魔だからと、どこか別なところにいるのだろうか? ――――それとも。
「――お父さん! ティッピー!」
震えの大分収まった足で立ち上がると、誰かに見つかることを危惧することさえ忘れて名前を呼ぶ。
――ラビットハウスは、ある。
――なのに経営者である父と、店のマスコットも同然のティッピーの姿はない。
二つの要素が揃った瞬間、智乃の脳裏に浮かび上がるのは嫌な想像だった。
ありえないと一笑に伏すのは簡単なことだ。
なのにそれが出来ないのは、やはり先の"見せしめ"の一件。
人の命を何とも思わず、あっさりと、それでいて残虐に人を殺した彼女。
彼女なら、そういうこともするのではないか。
つまり、父とティッピーは……もう、とっくに――――
カウンターの奥、智乃たち香風家の人間と下宿生の心愛が生活する居住空間へ智乃は向かう。
足は自然と駆け足になっていた。そうだ。そんなことがあるわけがない。
きっとこの奥に進んだなら、心配そうな顔をした父とティッピーが迎えてくれる筈なのだ。
だってここはラビットハウス。
私達の、日常の中心なんだから。
そう思っているのに、智乃はいつからか、小さな果物ナイフを片手にしていた。
これは彼女の支給品の一つである。
異能のカードや、それに準ずる品物が多数存在するこの殺し合いでは決して当たりと呼べるものではない。
これで岩は切れないし、ビームを止めることは出来ないし、剣と打ち合うことも出来ないだろう。
しかし、人は殺せる。
智乃にその認識はなかった。
正しくは、そんな当たり前に意識を向けている余裕さえ今の彼女にはなかったのだ。
半ば無意識的に手にしたナイフを片手に、彼女は居間へ急ぐ。
そこには見知った顔があると信じて。
「お父――」
リビングに繋がる扉へ手をかけ、一息に引いた。
しかしその向こうに、過ごし慣れた居間の風景はない。
壁があった。
奇妙な模様をした壁だった。
-
ベースは白だが、それでも壁紙に使うような模様じゃない。
それに、こんなところに壁があるわけもない。
智乃は茫然とした顔で、その壁を見上げていき――そこで漸く、それが壁なんかではないのだと気付いた。
「貴様、参加者か?」
それは、巨人だった。
少なくとも小柄な上に、錯乱状態にある智乃にはそう見えた。
日焼けした黒い肌と金髪に、太く凛々しい眉毛が特徴的だ。
"巨人"は智乃の顔を覗き込むように姿勢を屈めさせ、目線を合わせてくる。
だが、そんなことはどうでもよかった。
智乃にとって重要だったのは、自分達の家に――自分と、父と、ティッピーと、心愛の家に。
「……? おい、貴様――」
「……あ……ぁ……」
見知らぬ誰かが、それもこんな"悪そうな"人物が居たということ。それだけ。
「――――あ、あああぁぁぁああっっ!!!!」
智乃はナイフを振り被る。
そしてそのまま、振り下ろした。
嫌な音がした。
それで終わりだった。
◆
――血が舞ったのを見た。
ナイフを使って血を出したことは、智乃とて一度や二度じゃない。
料理で使ったり、時には工作で使ったり。
様々な理由で使っていれば、不注意で手を切ってしまうこともままある。
しかし、今回のものは違う。
不注意なんかじゃない。
故意だ。
故意で、誰かを傷付ける為に――殺す為に、手にしたナイフを振り下ろしたのだ。
"巨人"の額が、血に染まっていた。
-
「え」
智乃は一歩、二歩と後退りをする。
それから、ぺたんと座り込んでしまった。
バランス感覚を失ったように、べたんと。
「え……」
智乃は、自分の握ったナイフに視線を落とす。
――紅い。――赤い。
――朱い。――赫い。
――あかい血が、誤魔化しようもなくべっとりとこびり付いていた。
滴り落ちる血の滴が見慣れた家の床に染みを作っていく。やがて刃から柄を伝い、智乃の手にそれが付着した。
「ひっ!」
思わず、ナイフを取り落とした。
水や油なんかとは断じて違うぬるぬるとした感触と、鼻孔を擽る生臭さが、これが現実のことだと告げている。
いっそ終始錯乱できていれば、彼女にとってはまだ幸いだったのかもしれない。
今のは仕方のないことだった、正当防衛だと自己を正当化出来る自分勝手さがあれば、早々にこの場を立ち去るという選択肢を取ることも出来たかもしれない。
いずれにせよ、心にダメージを受けるようなことはなかったろう。形や善悪はどうあれだ。
だが、香風智乃は身勝手な人間ではなかった。
もう一つ言うなら、香風智乃は冷静な人間であった。
滴り落ちた血液が床とぶつかる音と、手で触れた血糊の感触が智乃を冷静にさせた。
目の前にあるのは、言い逃れのしようもない凶行の痕跡だ。
智乃は身勝手な人間ではないから、相手に責任を擦り付けて自分を正当化出来なかった。
相手は何もしていない。ただ自分が勝手に錯乱して、無抵抗の相手を斬った。
さっき起こったことはそれだけだ。――正当防衛? そんな理屈、成り立つ筈もない。
「あ……あ……!」
そうして智乃は理解する。理解してしまう。
逃避すればいいものを、事実をしかと受け止め、把握してしまうのだ。
――人を殺した。
この手で、無抵抗な相手を殺した。
ナイフを握って、
その手を持ち上げ、
姿勢を低くしていた相手の頭を狙って、
ナイフを振り落とした。
「う……お、ぇええっ」
智乃は今度こそ堪え切れずに嘔吐した。
未消化の朝食と胃液が、零れた血を塗り潰していく。
瞳からは滂沱のごとく涙が溢れ出す。
罪悪感と自分への嫌悪感が、瞬時に恐怖を押し潰した。
彼女は震える瞳で、自分が殺した"巨人"を見る。
-
ゆっくりと頭を上げて、その凶行の証を見る。
血は、彼の居た場所へ近付くにつれ量が多くなっていく。
そして遂に、自身の手で殺めた死体を認識せんとして――智乃は、一瞬自分の心臓が確かに停止する錯覚を覚えた。
「おい」
そこには。
「この俺が――本能字学園風紀部委員長、蟇郡苛が――その程度で死ぬと思ったか」
壁が。
今さっき、自分が切り裂いたはずの"壁"が。
頭から血を流しながら、されど傷を抑えようともせずに、立っていた。
◆
蟇郡苛は激怒していた。
それは目の前で怯えた少女に対しての怒りではない。
繭を名乗った少女。奇怪なカードを使い、人を殺した悪魔の様な少女。
大半の参加者にとって恐怖の象徴であろう彼女は、しかし蟇郡にとっては異なっていた。
――よくも。
彼は忠臣である。
鬼龍院財閥のお嬢様であり、本能字学園の生徒会長を務める支配者、鬼龍院皐月に忠誠を誓った臣下である。
彼女との劇的な出会いは一瞬たりとも忘れることはなかったし、望まれればあの時のやり取りを一言一句言い間違うことなく正確に復唱することだって出来る自信があった。
そんな蟇郡だからこそ、許せない。
人を殺したこと? 違う。
多くの人間を不当に巻き込み、犬畜生のように殺し合うのを強要したこと? 違う。
――よくも。
蟇郡は無論、そこにも怒りを抱いている。
彼ら本能字学園四天王もまた、鬼龍院羅暁の目論見を打ち砕くべく団結し、武を唱えた身だ。
顔も名前も知らない人間一人であれ、決して命を軽んじることを良しとしてなどいない。
ましてそんな悪趣味な光景を皐月に見届けさせるなど、無礼千万である。
だが、そうではない。蟇郡苛という男を真に激怒させたのは、この"腕輪"の存在だった。
――よくも、皐月様にこれほどの狼藉を働いてくれたな。
腕輪とは言っているが、要するにこれがある限り、生殺与奪は繭なる娘に握られているということ。
そしてこれは参加者個人の手では外せない。
ならばそれは首輪と同じだろうと蟇郡は考える。
犬は、自分の手で首輪を外せない。そして犬の生殺与奪は、首輪のリードを握る飼い主が常に握っているのだ。
(皐月様を犬と同列に扱う無礼……断じて許さん! この蟇郡、これほどの屈辱を味わったのは初めてだ……!!)
-
皐月の被る屈辱は、蟇郡にとっては彼女の数倍もの屈辱である。
だから彼は今、過去かつてないほどに激怒していた。
只でさえ悪い人相は、そんな精神状態なこともあって当社比三割増しくらいに悪くなっていたのだ。
そこに錯乱した幼い少女がやって来る。
少女は武器を持っている。
そうなれば、何が起こるかは想像に難くないだろう。
あら不思議、お手軽殺人事件の完成である。
一つだけ異なることがあるとすれば、この蟇郡苛という男――"普通"の人生を送ってきた人間ではないということ。
智乃の振るったナイフは、確かに蟇郡の頭を捉えた。
しかしだ。
何の心得もない素人、それも幼い娘が錯乱しながらナイフを振り回した所で、その威力はたかが知れている。
もし蟇郡が顔を覗き込もうとしていなければ、彼の纏う"極制服"に阻まれ、傷一つ付きはしなかっただろう。
それに加え、蟇郡は頑強な男である。
今は親戚の鉄工所で作って貰ったアイテムは持っていなかったが、それでもこの程度ならば恐れるに足らない。
傷の見た目はそこそこ派手だったが、命どころか行動への別条すら皆無だった。
だがそう、見た目だけはそれなりなのである。
額を左から右目の下辺りまで、ナイフで切り裂かれた傷が斜め一直線に刻まれている。
出血も、少女一人に人殺しをしたと錯覚させる程度にはしていた。
「ひ、ひっ……!」
「ええい、そう怯えるな! 貴様を取って食うつもりはない!!」
危害を受けたのは紛れもなく蟇郡の方なのだが、相手は明らかに一般人だ。
極制服など勿論纏ってはいないし、ナイフを使う動きも不慣れ。
――まず間違いなく、この殺し合いに不運にも巻き込まれた一介の少女と見て間違いないだろう。
状況が状況だ。錯乱して斬り付けられた程度で激昂するほど蟇郡は器の小さい人間ではなかったし、第一今のは見方を変えれば不注意過ぎた自分にも責任がないとは言えない。
「傷も浅い! この程度、俺ならば唾でも付けておけば治るわ!
……それよりもだ。貴様、先程"お父さん"と言いかけていたようだが――この家の住人か?」
「……は、はい……」
「そうか……ならば謝罪しよう。些か考えが足りなかった」
傷から滲む血を片手で拭いながら、蟇郡は智乃へと謝罪する。
それに智乃はきょとんとした顔をした。
彼女にしてみれば、相手は殺しかけた相手だ。
反撃に遭うのは確実だとばかり思っていたから、この反応には思わず面食らう。
そして、すぐに自分のしなければならないことに気付いた。
「……私の方こそ、ごめんなさい!」
「貴様が謝る必要はない」
「そんな……でも、私、あなたを殺しそうになって――」
「言ったろう。この蟇郡、錯乱した子女の刃で討ち取られるほど軟な男ではない!
仮に先の一撃で俺が死んだのだとすれば、どの道その程度では皐月様をお守りするなど到底不可能な話だ。
皐月様を守れぬ俺など、最早俺ではない。死んで六道輪廻の旅にでも赴いた方が余程有益である!!」
凛と喝破する蟇郡。
その大声にびくりと智乃は体を震わせたが、そこに敵意がないことは理解できた。
――ついでに、今ので大分頭も冷えた。
-
「それに、俺が怒っているのは主催者――あの繭なる女だ」
主催者、という単語を聞き、智乃は再び"見せしめ"が殺される瞬間を想起する。
「貴様は、奴が許せるか?」
「私は……」
「大方、貴様の友も巻き込まれているのだろう。
ああいった手合いが全くの無作為で参加者を選出するとは思えん。
……悪趣味なことだがな。少なくとも俺には許せん。皐月様にこのような仕打ちを働いた挙句の鬼畜の所業、断じて捨て置けるものではないと実に憤慨している」
心愛たちは、ただ普通に暮らしていただけだ。
何も悪いことなんてしていない。
そんな彼女たちが、きっと今頃は恐怖し、怯え、悲しんでいる。
そう考えると――智乃の中にも、恐怖の他に湧き上がってくる感情があった。
「ません……」
それは、温厚な彼女にしてはごく珍しい感情。
彼女自身、これほどまでに強くその感情を抱いたのは初めてだった。
友達との喧嘩など比べ物にすらならない。
「許せません……!」
許せない。
人の命を弄び、挙句罪もない人々を――自分の大切な友人を巻き込みせせら笑っている繭が許せない。
智乃は今、確かに怒っていた。
蟇郡の言葉は彼女の怒りを煽り立てるようなものであったが、実際、彼はそれを狙っていたのだ。
「ならば、よし」
力なき者がいることは致し方ないことだ。
誰もが極制服を纏って戦えるわけでも、あの繭のように摩訶不思議な力を使えるわけでもない。
むしろそういった者はごく少数派だろう。大概はこの少女のように、無力で平凡な人間。
それでも、心を強く保つことは出来る。
恐怖に慄き、怯え続けるだけではなく――強い怒りを燃やし、それを繭への反逆の狼煙とする気概があれば。
それは、単なる服を着た豚ではない。
確たる志を持ち、明日へ向かわんとする戦士である。
「あ――あのっ」
「?」
「私は、チノ――香風智乃といいます。
蟇郡さんが大丈夫なことは分かりましたが……一応、手当てだけはさせてください」
「分からん奴だな。これしきの手傷、唾でも付けておけば治ると……」
「させてください」
台詞を遮って進言してくる智乃に、さしもの蟇郡も反論ができない。
こういう強情さを発揮してくる奴には覚えがあった。
満艦飾マコ。力はないが、しかし"なんだかわからないもの"を秘めた劣等生。
だから蟇郡は、こういう時には素直に頷いておくのが賢明だと知っている。
-
「……好きにするがいい」
「ありがとうございます。では」
少し微笑んで、智乃は室内の救急箱を持ってくると、手当てへ取りかかりはじめた。
蟇郡は手慣れたものだと内心感心していたが、当の智乃はといえばおっかなびっくりである。
保健の授業で習った知識を必死に思い出しながら、丁寧に止血していく。
それに甘んじながら、蟇郡はふと気が付いた。
「香風。貴様、この家の娘なのだったな? 此処は店か?」
「喫茶店です。名前は、ラビットハウス」
「そうか――茶、か……」
そういえば、こういった大きな闘いの際に、揃三蔵――皐月の執事が入れる茶を飲まないのは珍しい。
そう思い、蟇郡は呟いた。
その声を拾った智乃は、ふと彼へ提案する。
「……飲みますか?」
「なに?」
「お茶じゃなくて、コーヒーですけど」
ここはラビットハウス。
智乃の働く喫茶店だ。
何も全部が全部もぬけの殻というわけでもないだろう。
コーヒーメーカーと豆、コップくらいはあるはずだ。
「……貰おうか」
せっかくの提案を蹴り飛ばすのもどうかという話。
蟇郡は毒気を抜かれた思いで、ふうと溜息を吐き出した。
-
【G-7/ラビットハウス/一日目・深夜】
【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、落ち着いた
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:果物ナイフ@現実
黒カード:不明支給品0〜2枚、救急箱(現地調達)
[思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい
1:蟇郡さんに、コーヒーを淹れる
2:ココアさんたちを探して、合流したい。
[備考]
※参戦時期は12話終了後からです
【蟇郡苛@キルラキル】
[状態]:健康、顔に傷(処置中、軽度)
[服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:主催打倒。
1:コーヒーか……
2:皐月様、纏、満艦飾との合流を目指す。優先順位は皐月様>満艦飾>纏。
3:針目縫には最大限警戒。
[備考]
※参戦時期は23話終了後からです
支給品説明
【果物ナイフ@現実】
香風智乃に支給。
その名の通り、果物を切るのに適した小型のナイフ。
【三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル】
蟇郡苛に本人支給。
蟇郡が着用する三ツ星極制服で、これは最終決戦のために用意された最後の戦闘形態。
全身の布が皐月の縛斬と同等の強度を持っており文字通り『生きた盾』として機能する。
-
以下の部分を未修正のまま代理投下してしまいました
失礼しました
「――お父さん……?」
そして、ある不気味な疑問が浮かんでくる。
ラビットハウスがあるのに、どうして父の名前がない?
それに、いつも一緒のティッピーの姿もない。
殺し合いの邪魔だからと、どこか別なところにいるのだろうか? ――――それとも。
「――お父さん! おじいちゃん!」
震えの大分収まった足で立ち上がると、誰かに見つかることを危惧することさえ忘れて名前を呼ぶ。
――ラビットハウスは、ある。
――なのに経営者である父と、店のマスコットも同然のティッピーの姿はない。
二つの要素が揃った瞬間、智乃の脳裏に浮かび上がるのは嫌な想像だった。
ありえないと一笑に伏すのは簡単なことだ。
なのにそれが出来ないのは、やはり先の"見せしめ"の一件。
人の命を何とも思わず、あっさりと、それでいて残虐に人を殺した彼女。
彼女なら、そういうこともするのではないか。
つまり、父とティッピー/おじいちゃんは……もう、とっくに――――
-
窓に映る月と星々。だが、それに対して感傷に浸る余裕は全くなかった。
とんでもないことに巻き込まれてしまった。
最初に土方十四郎が抱いた感情は至極まっとうなものである。
目が覚めたら知らない場所。突然言い渡された「殺し合い」。
気がついたらここはやけに馬鹿でかい建物の中の一室。
部屋を出ると、『音ノ木坂学院文化祭のお知らせ』とか様々な掲示物が壁沿いに貼られている。学院、ということは学び舎なのだろう。
今自分が置かれている現状が悪い夢だ、という考えはとうに捨てた。
右手首に巻かれている腕輪が、夢ではないという現実を嫌と言うほど見せ付けてくる。
自分は真選組、いわば警察だ。
参加者を殺して生き残るだなんてふざけた話、飲み込むつもりはない。
無論防衛となれば殺すのも已む無しと考えている。
だが、アーミラとかいうのが殺され、カードに吸い込まれた――あれを見る限り、この空間では常識は通用しないと考えていい。
幾ら何度も修羅場を掻い潜ってきた土方といえど、ここまで酷いものはなかったと溜息をつく。
ざっと名簿を確認する限り、坂田銀時をはじめとした知り合いが何人かいる。
と、同時に。
「あいつもか・・・・・・」
少なくとも十四郎にとって一番の頭痛の種は、神威の存在。
彼は自分の知る限りでは一番の危険人物。
好戦的な彼は、ひとたびスイッチが入れば周りの者を次々殺してゆくだろう。
ここが殺し合いの場だというのなら尚更だ。
とにかくこういう時に必要なのは仲間だ。
神威のような者もこの殺し合いに参加しているということは、もしかしたら他にも異様な強さを持った者が参加していてもおかしくはない。
だが、グループを組めば話は変わる。
-
いつも吸っている煙草が見当たらないことに不満を覚えつつ、とりあえず道具を確かめる。確か黒い「ランダムカード」に入ってる筈・・・・・・。
「何だこれは・・・・・・」
――出てきたのは、どうみても何の変哲もない、着物を着た人形だった。
カードを腕輪から抜くと、人形が消えると同時に名前が浮かび上がってきた。
こまぐるみ(お正月バージョン)・・・・・・。
「何でこんなものあるんだオイ! どう考えても殺し合いと全く関係ないぞ!?
何か仕込んでる様子も全くないし、完全にハズレ引いちまったじゃねーか!」
カードを思わず地面に叩き付ける。これはあまりにも幸先が悪い。
「しかもお正月バージョンって何!? もう年あけてからだいぶ経ってるし!?
全くめでたくねーよこんなもの!」
ニコチン切れもあって八つ当たりが激しくなっているが、だからといって現状が解決するわけでもない。
一応カードは拾っておき、次のカードを確認する。
残りが武器でなかったらどうしようか。
武器を持った参加者と合流出来るという保障はどこにもない。最悪ただの足手まといになる可能性も否めない。
可能なら扱い慣れている刀剣類であって欲しいと2枚目を出したのと、廊下の方から「あら?」と声を掛けられたのはほぼ同時だった。
「てめーは・・・・・・?」
十四郎が振り向くと、先ほどまで居た教室とは別の教室から1人の少女が出てきた。
黒髪で、白い花の髪飾りをしている。
身長は低く、知り合いの中だと志村新八あたりと同年代だろうか。
「最初に聞く。てめーは殺し合いに乗っているか否か」
返答次第では即座に武器を取り出すつもりで尋ねる。
-
「大丈夫よ。そんなことよりあなたは? 私は宇治松千夜」
「土方十四郎・・・・・・」
互いに軽く自己紹介を済ませ、しばらく顔を見合わせて様子を伺う。
数十秒の沈黙が過ぎ、千夜が口を開いた。
「・・・・・・あなたはどうするの?」
「こんなふざけた遊戯をとっとと終わらせる。
誰かに攻撃されれば反撃はするが、こっちから殺して回る気は今んとこねーよ」
「そう、それなら良かったわ。あなた、面白そうな人だし」
「なんだと小娘が!」
ふふ、と微笑む千夜を生意気な野郎だと思いつつも、ひとまず安心出来る人間と出会えたのは幸いとしておこう。
そこで彼女に話を持ちかけた。
「てめー、俺と一緒に来る気、あるか?」
え? と返す千夜に、こう続ける。
「一応元居た場所じゃあ俺は警察やってたんでね・・・・・・
お嬢さんの護衛くらいなら、引き受けてやるよ。
それに、仲間ってのは多い方がいいもんだ」
「あら嬉しい。私も会いたい人がいるし・・・・・・。
それじゃお願いしますね〜、ドシロートさん」
「十四郎だ馬鹿! せめて土方と呼べ! 一発ぶん殴ってやろうか・・・・・・」
痛いのは嫌よ〜 とにこやかに返す千夜。
ともかく、まずはいざと言う時に素早く動けるようにこの建物を出よう。
屋上があるのならそこでもいいのだが、今はまだのんびりしていられない。
支給品の確認は、その後でもいいだろう。
* * *
-
宇治松千夜のゲーム開始地点は、土方のスタート地点から2つ隣の教室。
制服を着ていたことから、授業中に寝てしまってそのままこんな夜中になったのかと錯覚した。
だが通っている高校とは明らかに違う風景が、そうではないと教えてくれた。
手元にあった黒いカードの中身を取り出してみると、出てきたのは拳銃。
カードには「ベレッタ92及び予備弾倉」と浮かび上がる。
・・・・・・千夜の顔はこれを見るなり青ざめ、即座にカードの中にしまった。
友人である天々座理世のコレクションのモデルガンの1つだと決め付け、あくまでこれが本物の銃であることを認めなかった。
認めてしまえば、この殺し合いが夢やタチの悪いドッキリではないという、『現実』であるということを許してしまうから。
名簿には、千夜以外にも保登心愛たち4人の知り合いが載っている。
どんなに頑張っても、5人のうち4人は確実に死ぬ。
そんなことを、認めたくはなかった。
ふと、廊下の方から聞こえてきた誰かがツッコミを入れる声。
彼女は普段から色んな形でボケては誰かにツッコミを入れてもらい、それを日常風景の1つとしている。
廊下に出て出会った土方十四郎のツッコミはかなり鋭く、割とすんなり打ち解けることも出来た。
名簿にあった見知った名前、友人の持ち物、そしてツッコミを入れてくれる人。
これらの要因が、彼女に現実逃避への一歩を踏み出させてしまったのである。
これは何かの間違いだ、朝にもなれば元の生活に戻れる、と。
宇治松千夜は、殺し合いという現実を直視していない。
それがどんな運命を招くかなど、微塵にも考えようとはしなかった。
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【A-2/音ノ木坂学院/深夜】
【土方十四郎@銀魂】
[状態]:健康、煙草がないことに若干の苛立ち
[服装]:真選組の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより
黒カード:不明支給品1〜2枚
[思考・行動]
基本方針: ゲームからの脱出
1: 千夜の護衛をしつつ、更に仲間を集める
2: 神威には警戒
【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、現実逃避
[服装]:高校の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針: 土方と共に行動、心愛たちに会いたい
1: 十四郎さんって面白い人ね〜♪
2: これは夢か何かの間違いだ
[備考]:ベレッタを天々座理世のコレクションのモデルガンだと思い込んでいます。
支給品説明
【こまぐるみ(お正月バージョン)@のんのんびより】
参加者の1人である一条蛍が、越谷小鞠を模して作った人形・・・・・・のお正月バージョン。
【ベレッタ92及び予備弾倉@現実】
世界中の警察や軍隊で幅広く使われている拳銃。支給された予備弾倉は3つ。
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代理投下終了です
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代理投下乙でした。
それと>>4のJの
>喋る支給品を支給された参加者には、セットでその支給品の言語能力を封印解除できるスイッチが支給される。
はカットですね。
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>>48
oh……またミスが発覚……
申し訳ない……
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代理投下ありがとうございます
遅ればせながらのことになりますが、拙作「その嶺上は満開」において一部描写の抜けがありましたので
そして現在位置を見て気づいたのですが、東郷さんの現在位置に誤りがありましたorz
東郷さんの現在位置を「F-2」から「F-3」(地図でいう神社の南、山頂の部分)
に修正しまして>>22、>>23の修正版を投下させていただきます
MAPに現在位置を反映していただいたのに、大変申し訳ありませんでした
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ひとつは、ガキン、と鈍く鳴る金属音。
それは、少女たちを狙った弾丸が遮断された音。
とどめを防いだのは、謎の少女が持つカードから飛び出す『布のような形状の金属の物体』だった。
ただ飛び出しただけのそれは弾丸を逸らすことに成功したものの、そのまま少女の手を滑って地面へと落ちる。
もうひとつは、東郷のすぐ近くで聴こえた『フィン』という音と、小さな光。
それは東郷美森の左胸にある『満開ゲージ』の花びらが、ひとつ花弁を増やした音。
それまで三枚あった花びらが、四枚になった。
とどめを仕損じた。
次弾を撃たなければ。
頭ではそう判断して、しかし感情は、恐怖が、行動を躊躇させる。
少女が圧倒的な気配を纏って攻撃を防いだ瞬間に、満開ゲージ――勇者の『供物』が、一つ埋まった。
たまたま、ゲージが溜まるタイミングになっただけのことかもしれない。
敵を激破した数と満開ゲージの溜まるタイミングは必ずしも比例しない。
一般人に向かって弾丸を撃ちこんでも、ゲージが溜まることだってあるかもしれない。
しかし、ならば、今この時も放出されている『強大な気配』はどういうことだ。
相手は、カンと言っただけだ。
中学二年生にしては必要以上なほど博学な東郷美森のことである。
『カン』が麻雀用語だということは知っていたし、実際に麻雀を打ったこともあった。
その場に『三つ』が集まった時に、相手が放銃をした弾丸(ハイ)とかから『四つ目』を供給して、ひと塊を作る動きのことだ。
そんな言葉に、勇者が花を咲かせるための力が宿るとは思えない。
しかし、それが可能だとすれば。
物事を、とことん考えすぎるまで考えこむきらいのある東郷は、わずかな時間でそこまで考える。
満開ゲージを強制的に溜めることができるのならば。
もう一回でもそれが発生して、満開ゲージが全て埋まった時は、果たしてどうなる。
(もしかして…………強制的な、『満開』も?)
――嶺の上に、花が咲く。
また、『満開』をさせられる。
また、『散華』をする。
また、大切な人を忘れて――。
(――ダメ!!)
考えすぎるのは、悪癖だ。
手荷物――カードを探ろうとする二人をそうさせないため、次の動きを取る。
小型の銃を捨て、狙撃用の巨大な銃を呼び出した。
近距離とはいえ、二人を同時に殺そうと思ったら貫通力のある弾丸を使うべきだから。
銃床を肩にあてて押さえ、安定姿勢を保持。
スコープの中にいる標的たちは、距離が近くていつもより大きい。外しようもない。
だが、異変はとどまらなかった。
ピシ、とスコープに幾すじかの亀裂が生まれる。
まるで大きな地震がきた時の窓のように、のぞき窓はガタガタと震える。
何が起こったと考えるより先に、スコープが破裂した。
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「いつっ……!」
粉じんのように砕け散った無数の破片。
それが、東郷の右顔面にぶち当たった。
精霊の防御も間に合わず、とっさに閉じた右目をガラス状の破片で叩かれる。
眼球をかばいながらも、それは右目の視界と、平衡感覚――リボンで跳躍して距離を詰めるために必要なものを、しばらく潰す。
それを隙として、もう一人の少女が動いた。
左目には、もう一人の少女が球状の武器を投げる姿が映る。
少し転がすように投擲されたのは、煙幕弾だった。
「…………えいっ!」
弱々しいかけ声とは異なり、煙は爆発的に撒き散らされた。
通常の煙幕榴弾よりも大量の煙を吐くよう改造でもされているのか、折よく風も止まった嶺の上が白煙に包まれる。
闇雲に狙撃銃を撃っても、重たく駆けだす足音の主を捕えた気配はない。
川蛍を呼び出して、遠隔攻撃用の青い光線で包囲攻撃をするか。
そう判断したけれど、その命令をくだせなかった。
会場の広範囲から目にとまる、高い山の上だ。そして、遮蔽物ゼロの丘という目につきやすい場所。そして、川蛍の青い光線がきわめて目立つ、夜だ。
目撃されたのが、飛んで火にいるような一般の人ならいい。でも、もし殺人を目撃したのが勇者部の誰かだったら――
今さらの迷いに過ぎなかった、と反省したのは刑部狸が顔の破片をそっと取り去ってくれた後だった。
神樹を滅ぼすと決意した時点で、それは『人類を殺すところを皆に見せる』ことに他ならないのだから。
視界と平衡感覚とが回復した頃には、東郷美森だけがその場に残っていた。
金属の布きれは止血に使われたのか、その場から持ち去られている。
逃がした。
そう認識するのと同時に、どっと重圧がきた。
もし足が動く体だったら、きっと生まれたての小鹿みたいに震えていたと思う。
変身を解いて、地べたに座りこみ車椅子にもたれかかる。
謎の少女の方は、きっと仕留めた。
こんな山の中で、お腹を勇者の武器で撃たれて、そう長く生きていられるとは考えにくい。
勇者部だった東郷美森は、人を殺した。
仕方なかった、とかごめんなさい、なんて言わない。
東郷美森は、これから世界ぜんぶさえ殺すのだから。
そのためなら何だってすると覚悟したはずなのに。
震えが身体を走るのは、彼女がまだ、中学二年生の
そして、満開の恐怖を、今しばし思い出してしまったから。
(あの時……満開ゲージが溜まると思ったら、一瞬だけ躊躇した。
忘れることが、怖かったからだ。
……でも、だけど!
私は、そんな苦しみから、皆を解放する! そうしなきゃ!)
咲いてしまった花は、もう散るばかり。
もし花が散華することに胸を痛め、耐えられないと嘆くなら。
この世から、花そのものを滅ぼしてしまうより他に、道はない。
【F-3/山頂付近/一日目 深夜】
【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]: 健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、満開ゲージ:4
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:車椅子@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[思考・行動]
基本方針: 殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する
1: 参加者を殺していく。
2: 友奈ちゃん、みんな……。
[備考]
※参戦時期は10話時点です
※車椅子は、東郷美森の足も同然であると判断され没収されませんでした
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桂小太郎、コロナ・ティミル 投下します
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目を覚ますと、そこは地獄だった。
競技としてではない。正真正銘、本当の殺し合いを要求されている。
コロナ・ティミルは大人しい少女だが、人を思いやることの出来る優しい娘だった。
直接殴りかかっていくことこそしなかったが――内心では、彼女も繭に強い怒りを沸き上がらせていた。
世の中には、色々な事情で犯罪に走る人がいる。幸い直接巻き込まれた事こそなかったが、知識としては知っている。
だからカード使いの少女にも、きっとこんなことをするに到る理由があったに違いないと、そう思う。
それでもコロナは繭へ怒りを燃え上がらせていた。
激しく何かを叫び、物へ当たり散らして暴れたりはしない。
あくまで静かに、だが確かに、その心に怒りの炎を灯しているのだ。
ヴィヴィオもアインハルトさんも、私よりずっと強い。だから大丈夫。簡単に殺されたりはしない。
努めて冷静に、自らの胸にそう言い聞かせるコロナ。
確かに怖いという感情もあったけれど、縮こまっているだけじゃ何も解決しない。
こんな時だからこそ、怖がっちゃいられない――と自らを鼓舞する。
ちょっと前のコロナだったなら、こうはいかなかった。
いい意味でも悪い意味でも凡庸な、どこにでもいる普通の女の子。コロナ・ティミル。
何しろ自分のことだから、簡単にその姿が想像できる。前向きなことなんて何も考えられない自分の姿が。
誰かが助けに来てくれるのをじっと待つ。それか、現実逃避でもして時間を潰し、きっと生き残れなかったろう。
でも今は違う。
チームナカジマの皆と修行し、鍛えて、挫けそうになりながら、一生懸命歩いてきた『これまで』のこと、
そのすべてが私の背中を優しく、それでいて力強く、前へと押してくれているのを感じていた。
コロナは不思議なくらいに落ち着いていた。彼女自身、驚いてしまうくらい。
もちろん怖くないわけじゃない。まだやりたいこともいっぱいあるし、親にだって甘えたい盛りの年頃なんだから。
寝る前に空想した未来図やこの前のリベンジ、エトセトラ。やり残したことは、両手の指じゃとても足りない。
それを奪われてしまうなんて、考えただけでコロナは泣き出しそうになる。
カードの中にはヴィヴィオはいない。アインハルトさんも、ここに呼ばれていないリオも、コーチたちも、誰も。
一人ぼっちという感覚を最後に味わったのはいつだろう。――覚えてない。コロナの周りにはいつも誰かがいた。
そしてこれからも、一人ぼっちになんてなりたくはない。それが、コロナを支える原動力だった。
浅ましいかもしれない。自分本位の考えで勇気を奮い立たせるなんて、落第点と言われてしまうかもしれない。
「でも――悪いことじゃないよね。きっと」
そう信じて、コロナは少し微笑んで、一歩を踏み出した。
ついこの前まで、日課の練習でさえ挫けそうになっていたのが嘘のよう。
殺し合いに参加させられているというのに、しっかり自分を保ち、やるべきことを理解できている。
成長の実感を感じられた時が、何事も一番楽しい。どこかで聞いたような、ありふれた格言。
この前の――アインハルトとの試合は、必死に食らいつくので精一杯だったけれど――
けれど、全然それが辛いとは思わなかった。むしろその逆。確かな楽しみを、そこに見出してたはずだ。
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尚更こんなところじゃ死ねない。
凛とした面持ちで、決意新たに歩き出すコロナ。
それから少し進んだところでコロナは、早速一人目の、自分以外の参加者を見つけた。
「わ……」
一言で言うなら、眉目秀麗。
ロングヘアの黒髪が目立つ外見とは裏腹に、まるで女々しさを感じさせない。
しかし何よりもその外見で、コロナの目に止まったのは。
「あれ――ミカヤさんの?」
彼が腰から提げている、居合刀。
より正しくは、居合刀型のデバイス『晴嵐』。
インターミドルの出場選手、ミカヤ・シェベルが担っていたものだ。
コロナもそう注視して観察したわけではなかったが、多分間違いない――と思う。
と、そんな視線を向けていると。
「む?」
「あっ」
目が合った。
別に疚しいことをしているわけでもないのに、訳もなく気恥ずかしくなる。
そんなコロナへと、長髪の彼は近寄ってきた。
晴嵐の本来の持ち主でもないというのに、すごく様になっている。
――と、コロナは不意に……距離を詰めてくる男の顔色が、実に険しいことに気付く。
険しいを通り越し、鬼気迫ってすらいる。
試合や練習の中でも、一度として見たことがない表情だ。
思わずそれに気圧され、一歩、また一歩と後退り。
そこで、ようやっと彼女は当然の疑念へとぶち当たった。
(もしかして――)
この人、殺し合いに"乗っている"?
瞬間、コロナの背筋を、ぞっと冷たいものが駆け抜けていく。
生まれて初めての、殺されるかもしれないという感覚――戦慄。
無警戒だった。心のどこかで、こんな殺し合いにそうそう乗る人なんて居る筈もないと考えていた。
その判断を後悔する。――いや、後悔してももう遅い。接触は成った、後は自分がどう対応するか。
出来なければ……出来なければ。
-
(ここでッ)
「悪いが、止まってもらおうか」
ここで死ぬ。
そう判断し、拳を構えたコロナ。
しかし、所謂戦闘モードに入ってすらいない。
でも、これでも十分だった。何故ならコロナの体には――
「おまえにも事情があるのだろうが、俺にもおまえを逃すわけにはいかない事情がある」
(落ち着いて――)
>構えた拳を、思い切り引く。
>まっすぐに。
>何度も練習した通りに――
>まっすぐに引いて、そのまま――
「えっ。いや、ちょっと。待て、何か猛烈に勘違いしていないか」
ストライクアーツ――皆と一緒に育んできた、友情の証の力が、宿っている!
「はあッ! …………って、えっ!?」
と。
ここでコロナは、男性の表情が変わったことに気付いた。
いや、顔自体は変わっていない。
鬼気迫る形相のままだし、今にも襲いかかってきそうな風貌のまま。
ただその顔色はあからさまに悪く、おまけによく見ると何だか脂汗も浮いているような。
――あれ? わたし、なにか勘違いしてた?
コロナがそう思った時には、時既に遅し。
「いや待て待て待て待てボディはまずいヤバい俺の体に溜め込まれた<暗黒物質>が――――あべしッ!?」
「ご、ごめんなさ――――――い!!」
コロナの、この局面に限って言うなら、まったくもって無駄に研ぎ澄まされた正拳が、
心なしか紫色になってきた顔色を余計に悪くした長髪男の腹筋に、見事なクリーンヒット。
車は急に止まれないのと同じように、格闘家も急には止まれない。
……寸止めにすればよかったんじゃ? という話ではあるが――考えてもみていただきたい。
殺し合いに巻き込まれ、いくら覚悟が決まっているとは言っても緊張していない方がおかしいだろう。
ましてや年端もいかない娘。その前に、ご丁寧に腰から刀を提げた男が現れ、鬼の形相で迫ってくるのだ。
これは怖い。青◯や伽◯子、天下の貞◯も真っ青である。だからこれは、起こるべくして起こった事故だった。
錐揉み回転をしながら飛んで行く姿はさながら竹蜻蛉。
そしてそれを慌てた面持ちで追いかける、コロナ・ティミル。
殺し合いの場とは思えないシュールな光景が、ショッピングモールの中で繰り広げられていた。
-
●
「いやはや、まったく遠慮のない一撃をかましてくれたものだ」
「――ほ、本当にごめんなさいっ! わたしったら早とちりで……」
「なに、謝ることではない。ただ二〜三週間ほど青アザになり、ふとした刺激のたびに悶絶するだけだ」
「やっぱり根に持ってませんか!?」
不運なのか自業自得なのかよく分からない男。彼の名前は、桂小太郎といった。
コロナと桂の間にあった誤解はあっさりと解け、こうして一息ついている。
咄嗟のことだったから変身をせずに、ありのままの力で正拳突きを放ったのだが、まさかそれが功を奏すとは。
幸い桂は丈夫な質のようで、口振りとは裏腹にもう大分ケロッとしている。
――本人曰く、「この程度なら日常茶飯事」。……彼、一体どんな日常を送っているんだろうか。
「しかし、俺としても幸運だった。いや、殴られたことはまったく幸運ではないが。
如何に俺といえど、この事態は少しばかり手に余る。いち早く他の参加者と合流しておきたいと思っていたのだ」
「あ……わたしもです。殴っちゃったわたしが言うのもなんですけど――桂さんと会えて、ちょっと安心しました」
「うむ。実力があるとはいえ、コロナ殿のような幼子が一人で歩き回るのは危険だからな」
実力があると評価されたことに、コロナは少しだけ嬉しくなる。
桂は『晴嵐』をデバイスとして使うことこそ出来ないが、彼の言を聞く限りでは、相当な実力者に思えた。
そんな人物から実力者と評されれば――こんな状況でも、やっぱり嬉しい。
「まったく。お互い、災難だな」
「そう、ですね……」
災難、どころの騒ぎではない。
こんなもの、ツイているツイていないの次元さえ過ぎている。
正直なところを言えば、コロナは今でも夢であってくれないかと期待しているほどだ。
口にこそしないが、桂も同じ心境だった。一夜の悪夢であったなら、どれほど良かったことだろう。
桂小太郎は攘夷志士である。
今でもお尋ね者なことに変わりはないし、コロナとは違って何度も何度も、死線を潜り抜けた経験を持っている。
その彼をしても、これほど最悪な出来事に出会したのは初めてだった。
奇妙奇天烈なカラクリやアイテムで一騒動、くらいならよくある話。
だが今回の騒動の根幹にある、『カード』の厄介さはまさしく前代未聞と呼ぶに相応しい。
桂は、腕に巻かれた輪へと視線を落とす。
ルールによれば、この腕輪とカードを通じて食糧や水分の供給を受けることが出来るそうだったが。
「主催者は、この腕輪を用いて俺達をいつでも殺す――もとい、カードに幽閉できるらしい。
今は見逃されているのかもしれないが、繭の機嫌一つで俺達の命など、塵にも芥にもなるだろうな」
「……ッ」
「……ままならないものだ。だが、屈するわけにはいくまい」
先ほどまでのボケ倒していた空気はどこへやら。
遠くを見据えて何かを憂いているような、そんなシリアスな顔つきで桂は黄昏れていた。
-
この現状に甘んじているという事もそうだが、何よりも。繭を倒さない限り、誰も生き残れないということに。
無論これは、殺し合いに背く場合の話だ。"乗る"連中は、こんな細かいことを考えはしないだろう。
「コロナ殿。先に言っておくが――俺は繭を討つ気でいる」
腕輪を外しての脱出という手もある。だが、無意味だろう。
敵は世界の垣根を越えて人間を集め、不可思議なカードの力を自在に操る妖術師。
この殺し合いへ完全に終止符を打つためには、元凶の彼女を断つより他にはない。そう桂は踏んでいた。
「倒幕……ではないがな。革命と言っても間違いではないだろう。奴の支配を脱し、斬り伏せる」
当然、簡単に行かないだろうことは確か。
中には殺し合いに乗った者も、少なからず居るはずなのだ。
時間をかければかけるだけ、生き残りの数は減っていく。
その屍を踏み越えて進んだとして。
それで繭に果たして刃が届くのかも分からない。
あまりにも不確かな賭けだった。――しかし、桂がどうする、と聞く前に、コロナが口を開く。
「――わたしも、協力します。協力させてください」
「……そうか。良いのか、などと訊くのは、その様子では無粋のようだな」
フッと気障に笑んで、桂は頷いた。
それに、コロナは決して一時の感情に動かされて同意したわけじゃない。
きちんと考えた。幼いなりに、小さな頭で、『主催者』と戦うことの難しさを考え――自覚した。
そうした上で、彼女もまた『革命』の道を選び取った。
前に進むために。この悪夢のような殺し合いを、完全に終わらせるために。
それに、
「きっと、ヴィヴィオたちも――わたしの友達も、同じことを言うと思いますから!」
ヴィヴィオも、そしてアインハルトも、ここで逃げたりはしないだろうと思えたから。
だからコロナは勇気を出した。勇気を出して、あの繭と戦うことを心に決めた。
その勇気を買ったからこそ、桂は止めない。そんな無粋を働くほど、桂は彼女を甘く見てはいなかった。
まだ未熟なきらいはあるが、強い少女だと思う。断じて、このような殺し合いで散らされてはいけないと感じる。
「そうか。では、暫しの間共にゆこう。――そうだな。まずはおまえの友人達を探すところから始めるか」
「え……でも、桂さんのお知り合いはいいんですか?」
「はっはっは、構うことはない。奴らはどの道殺しても死ぬか怪しい連中だ。黙っていてもいずれ現れるだろう」
信頼しているんだ。コロナはそう思った。
自分も、友であり好敵手<ライバル>であるふたりを信じている。
信じて――必ず再会するんだと、決めた。
こうして、狂乱の貴公子と小さな戦士は、来る『革命』の時へ向けて動き出す。
彼らの攘夷の行方が勝利か敗北か、それを知る者は、今はどこにも居やしない。
-
「――そういえば、桂さん」
「桂じゃない、ヅラだ……あ、間違えた桂だ」
「えっと。結局桂さん、最初に会った時、なんであんなに鬼気迫った顔をしてたんですか?」
「なんだ、そんな事か。いや、実は繭の説明を聞いている時からずっと腹が痛くてな、殴られた時は正直どうなることかと思った。だがこのロワの新たな門出を俺の<ピーー>で彩ることがなくてめでたしめでたしだ」
「……えーと」
コロナは、首を傾げた。
桂は、思い出したかのように顔色を真紫にした。
「トイレ、行かなくて大丈夫なんですか?」
桂は風になった。
数分後、彼は心なしかキリッとした顔で戻ってくるのだが、
彼が果たして無事便器という名のゴールへ辿り着けたのか、それともやらかしてしまったのか。
それを知る者は、桂小太郎しかいない。
【D-6/ショッピングモール/一日目 深夜】
【桂小太郎@銀魂】
[状態]:健康、スッキリ、腹部にダメージ(小)
[服装]:いつも通りの袴姿
[装備]:晴嵐@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:繭を倒し、殺し合いを終結させる
1:コロナと行動。まずは彼女の友人を探す
2:神威、並びに殺し合いに乗った参加者へはその都度適切な対処をしていく
【コロナ・ティミル@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:ブランゼル@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを終わらせたい。
1:桂さんと行動。ヴィヴィオたちを探す
[備考]
※参戦時期は少なくともアインハルト戦終了以後です。
支給品説明
【晴嵐@魔法少女リリカルなのはVivid】
桂小太郎に支給。
元はミカヤ・シェベルが使っていたデバイスで、日本刀の形をしている。
【ブランゼル@魔法少女リリカルなのはVivid】
コロナ・ティミルに本人支給。
ルーテシア・アルピーノが作った魔導器で、コロナの相棒のような存在である。
-
以上で投下終了です。指摘などあればお願いします。
-
乙です
コロナは安定してるけど、なのは勢他の2人はどういうスタートになるか
腹部にダメージてwwやらかしてしまったら次回の登場話どうなるのか
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投下乙です
>いつも通りの袴姿
つまりやらかしてしまっても着替えたりはしてないと…w
格闘技しか知らない(親世代と違って大きな犯罪とは無縁な)女の子が
「主催者を斬る」という覚悟に至るまでの描写がとても健気でした
-
皆さん、感想ありがとうございます。
ttp://www9.atwiki.jp/newani4/pages/1.html
この企画のwikiを作りましたので、よかったらお使いください。
一応最新話までまとめてあるはずですが、不備などあれば申し訳ありません。
-
>>63
乙です!
パロロワwikiではあまり見ないタイプのデザインだからなんだか新鮮だなぁ
-
坂田銀時、絢瀬絵里投下します
-
「こんなこと……夢よね……」
気が付いたらそこは見知らぬ個室だった。
なんで突然、こんなことに巻き込まれたのか訳が分からなかった。
夢を見ているのかと思い、試しに自分の頬を抓る―――痛い。
―――これは夢なんかじゃない。
目を閉じて、一回大きく深呼吸する。
――――スゥ、と、大きく吸い込み。
――――ハァ、と、大きく吐き出す。
「…………ゲホッ」
むせた。
あまりの臭いでむせた。
しかし、それは血の匂いではない……。
日常生活的な悪臭。
(というか……ここ、トイレの個室じゃない!)
電気が付いていないので周囲は真っ暗だ。
彼女――絢瀬絵里は暗い所は苦手だった。
ただでさえ殺し合いという異常事態に巻き込まれて……
スタート地点がこんなところで……
「……もうやだぁ……エリチカ、おうちに帰りたい……」
絵里は膝を抱えて、洋式便座の上に体育座りする。
今の自分は自分でも分かるくらいに非常に情けない姿だとは思う。
こんなところを誰かに見られたら、クールな元生徒会長として威厳が吹っ飛ぶ。
しかし、怖いものは怖いのだ。
その直後であった。
―――ガタガタと、何か震えている音が隣の個室から聞こえてきた。
そして、男の声で何か言っているような声も聞こえてきたが、声が小さすぎて聞こえない。
(いやいや、そんなわけないわ! 幻聴よ!! お、お化けなんているわけないじゃない!!)
少々のパニック状態であり、隣からの変な男の声もきっと幻聴と思いこむ。
そう、高を括って声のする方の個室の壁にそっと耳を当てる。
「……隣に個室に女の幽霊なんていない……きっと温泉旅館にいたアレと同じやつだ……」
(お、女の幽霊ですって……!? しかも、隣にいるですって……!?)
絵里は思う。
『自分の隣の個室にいる男のそのさらに隣の個室に『何か』がいる』。
そう、確信した。
(ここから出なきゃ……!)
絵里はトイレの個室のドアを開ける。
だが、その勢いは自分でも制御できないくらいに勢いよく。
バァン!!!!
まるでドアが大破しそうなくらい音がそのトイレ中に響き渡った。
その音と同時に隣の個室のドアも開いた。
そして、それとほぼ同時に中から銀髪の男が飛び出してきた。
「ギャアアアアアァァァァァァァ!!!!!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!! 誰か助けて誰か助けて誰か助けて……」
軽いパニック状態に陥る二人。
顔を合わせた二人は脊髄反射的に互いに頭を下げ続ける。
ちなみにまだ二人は気付ていないが、このトイレに個室は二つしかない。
「「なんでもしますから、許してええええぇぇぇぇ!!!」」
ん?
◆ ◇ ◆
-
「よろず屋に……かぶき町?」
「……まあ、そんなところだ」
トイレから出てきた二人はまるで何事もなかったように会話する。
絵里の目の前の着物に銀髪で天然パーマの男――坂田銀時。
聞くところによると江戸のかぶき町で『万事屋銀ちゃん』という何でも屋を営んでいるらしい。
「坂田さん……その話、正直信じられないわね」
「いやいや、んなこと言っても……」
怪しい。
現在社会に日本に住む絵里にとって銀時の話は信じられないことばかりだった。
江戸にえいりあんだの天人だの……まるで頭の悪いSF作品のような話だった。
「……けど、今は信じるわ」
「そうかい」
このありえない状況。
それくらい異常なことに少しばかり感覚が麻痺してきた。
絵里は賢いと言われてたくらいには頭の回転は早い方だ。
この坂田銀時という男が信用できるかどうかと聞かれれば信用してもいい方に入ると踏んだ。
(きっと貴女でもこういう行動を取るわよね、穂乃果)
名簿を見てここにいる知り合いの名前を確認した。
希ににこ、穂乃果にことり……学校を廃校の危機から救ったμ'sのメンバーである。
名簿を見て心配になった、それくらいに絵里にとってμ'sは大切な仲間である。
「そういえば、坂田さんの知り合いはここにいますか?」
「……俺の知り合いって言えるのはここからここまでの奴らだ
で、警戒した方がいいのはコイツ(神威)だけだ」
「なるほどね」
銀時の知り合いだと言う五人の名前と特徴を聴き、しっかり覚える。
次に絵里は地図を見る。
現在地は恐らくB-7にあるホテルっぽいことは部屋にある備品等を見て、なんとなくわかった。
(なんで音ノ木坂学院がこんなところにあるの……?)
地図に書かれた『音ノ木坂学院』。
本物か偽物かは分からない。
しかし、μ'sのメンバーならきっとここに向かうだろう。
何故なら……皆、音ノ木坂学院が好きだから。
出来るのならば今すぐにでも行きたい。
そんなことを考えながら絵里は地図の端から端まで隅々まで見る。
その時、とある場所を発見した。
「ねぇ、坂田さん?」
「なんだ?」
「その……『万事屋銀ちゃん』ってここのことよね?」
「………………へ?」
絵里が徐に地図ナビのとある地点を指差して銀時に見せる。
その指先には『万事屋銀ちゃん』とご丁寧にも書かれていた。
「待てェェェェ!? 誰の許可で人ん家をこんなとこに移転させてんだァァァ!?」
銀時はそのことに全力で突っ込む。
自宅がこんなところに勝手に移転されてて突っ込まざるを得ない。
自宅が勝手にロワ会場に移転させられる……そんなジャンプ漫画の主人公はいただろうか?
否、恐らくはいない。
「はい、銀さん終わったよ、銀さんの帰るところがここだよ!!!」
「ちょっと坂田さん、落ち着いて……」
「それとな! その坂田さん呼びはあのネコミミババアを思い出すからやめろ! 親しみを込めて『銀さん』って呼びな!!」
「えぇ……じゃあ、銀さん落ち着いてください」
「俺ん家が勝手に移転させらてて落ち着けるかァァァ! 今の銀さん落ち着けさせたかったら特大のサイズのパフェ持ってこい!」
「えぇーっ……」
一先ず、絵里は自分のフードカードを使ってみる。
最初は胡散臭いとは思ったが、物は試しに使ってみた。
「……ハラショー……」
「うおっ、でけぇな……」
特大パフェが出てきた瞬間、思わずそんな感想が飛び出た。
素晴らしい技術ではあるが、今の状況では複雑だ。
その出てきたパフェにすぐにかぶりつく銀時。
そして銀時は一気にその特大パフェを食べきった。
「ごちそうさまでした」
「……食べたわね?」
「ああ、食べたさ……美味かったぜ」
「それ、私の貴重なカードだったんだけど?」
「………すまねぇ」
「そういえば、さっき『なんでもする』って言ったわよね?」
「…………………言いました」
「よろしい!」
-
◆ ◇ ◆
数十分後。
二人はホテルの探索やら配られたアイテムを確認してホテルの外に出た。
「さぁ、音ノ木坂学院に行くわよ!」
「へいへい……でも、木刀のない銀さん超弱いからね!!
主人公補正が無い主人公ほど弱いものないからね!!」
「はいはい、そんな意味わかんないことはいいから……
でも、頼りにしてるわよ、万事屋さん!」
目的地は音ノ木坂学院。
金と銀の髪がゆっくりと歩いていく。
夜天の星たちだけがそんな彼らを見守っていた。
【B-7/ホテル周辺/深夜】
【坂田銀時@銀魂】
[状態]:精神的疲労(小)
[服装]:いつもの格好
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3枚(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針: ゲームからの脱出
1:絵里と音ノ木坂学院に向かう
2:新八、神楽、ヅラ、長谷川さん、ついでに土方と合流したい
3:神威は警戒
【絢瀬絵里@ラブライブ!】
[状態]:精神的疲労(小)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3枚(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
1:銀さんと音ノ木坂学院に向かう
2:μ'sのメンバーと合流したい
[備考]
※参戦時期は2期1話の第二回ラブライブ開催を知る前。
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投下終了です。
誤字・問題点があればご指摘ください。
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投下乙です
金髪銀髪組は良いコンビになりそうですね
銀さんが「パフェ持ってこい」って言った時に本当にパフェを持ってきた人は初めて見たw
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投下乙
当然っちゃあ当然だけど銀魂勢に軒並み警戒される神威に笑うwww
音ノ木坂には既にマヨラーがいるけど果たしてたどり着けるか…
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花京院典明、ヴァニラ・アイス、範馬勇次郎 投下します
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少年の幼少期を一言で表すなら――それは"孤独"。
とはいえ、花京院典明の生まれや人物像に問題があったかと言えば、否。
彼が生まれたのはごく普通の一般家庭だったし、友人だって作ろうと思えば人並みには作れたハズ。
それでも、彼はそうしようとはしなかった。何故か。答えは、彼に宿りし力にあった。
スタンド能力。それが、花京院に生まれながらに備わっていた異能の力。
法皇の緑(ハイエロファントグリーン)。そしてこの力は、花京院以外には見えない。同じ力を持たない限り。
彼を孤独にしたのは、つまるところ、スタンドの持つその性質であった。
というよりも、花京院自ら選んだのだ――孤独を。
自分と同じものを見ることのできない人間とは、真に心を通わせることなど出来やしないのだから。
彼が初めて自分以外のスタンド使い、邪悪の化身と邂逅する迄に、十七年。
それから紆余曲折あって、正しい心を持った仲間達と出会う迄に、数ヶ月。
そこから今度は、一度は屈服した『世界』を倒すために、数十日間の旅をした。
孤独だった花京院典明はもういない。
彼は自分の背負った恐怖を乗り越え、仲間との絆に支えられ、遂に宿敵の待つ終わりの館へ足を踏み入れ、
「参ったな。まさかこんなアクシデントに見舞われるとは……流石に予想していなかった」
――そこで、『繭』を名乗るスタンド使いに"嵌められた"。
エジプトへ向かう旅の途中、本当に様々なスタンド使い達と戦ってきた。
かつての花京院と同じく、『肉の芽』によって洗脳されていた男。
彼は正気を取り戻し、花京院たちの仲間として迎え入れられたが、それ以外の殆どは悪しきスタンド使いだった。
金目当てで立ちはだかった者。中には、一行が不倶戴天の敵と定める吸血鬼に心底心酔した者もあった。
だが、断言できる。あの『繭』という少女のスタンド使いは――これまで見てきた中で、間違いなく『最強』。
道具として代用できる応用性、近距離型スタンドのそれにも劣らない力を持つ『竜の手』、
極めつけに、彼女へと反逆した者の『魂』を『マスターカード』へ封じ込めるという能力まで備えている。
掟破りも甚だしい。
一つのスタンドでこれだけのことが出来るなんて、正直お手上げと言いたい気分だった。
「彼女もまた、DIOが我々を倒すために差し向けたスタンド使いなのか――いや、違うな。それはありえない」
自分で口にした『可能性』を、間髪入れずに自ら否定する花京院。
根拠は二つあった。花京院がそう思うに至ったのは、マスターカードで表示された名簿を見たから。
そこに載っていない名前と、逆に載っている名前。
「此処にはジョースターさん……ジョセフ・ジョースターがいない。こんな大掛かりな手段を使ってまで僕らを抹殺しにかかって来たのだとすれば、少なくともジョースターの血統を受け継ぐ彼がいないのは不自然だ」
そも。
奴、DIOが真に抹殺したいのは誰か。
答えは分かりきっている。奴にとって因縁のある相手、正確にはその子孫。
『ジョースター』の血を受け継ぐ者たちだ。即ち、空条承太郎とジョセフ・ジョースター。
そこでこの名簿へ立ち返る。承太郎の名前はあるが、ジョセフの名前はない。
確かにジョセフは老いているものの、そんなことに頓着するDIOではないはず。
更にもう一つ。花京院を信へ至らせてくれたのは、むしろこちらの方だった。
-
「そして、DIO――。奴自身が前線へ出てくるということ。これは明らかに不自然だ。奴らしくもない」
自分の根城まで辿り着かれ、流石のDIOも焦ったのかもしれない。
しかしそれでも、花京院はそこへ不自然さを感じずにはいられなかった。
まして、こんな腕輪を巻かれた挙句、命まで握られる醜態。
たとえ信頼の置ける部下であれ、あのDIOがそんなことを許すだろうか。
花京院には、そうは思えなかった。
「……あのDIOさえも予想だにしない、未知の敵か」
口にした言葉に、思わず込み上げる――怖気。
これまで最大の敵だと思っていた人物さえ、ともすれば超えてしまうかもしれない存在。
まず間違いなく、一筋縄では行かないだろう。
主催陣営が一枚岩とも考えにくいし、何より問題はこの『腕輪』だ。
外す手段があるとすれば、剣か何かで腕ごと切断してしまうことか。
しかし、腕の切断を止血するともなれば大掛かりな作業になる。
よしんば成功したとして、皆が隻腕状態では勝てる勝負も勝てない。
これについては追々考えていくことになるだろうが――現時点では、はっきり言ってお手上げ状態だった。
殺し合いに乗るのは言うまでもなく論外として。
何度も修羅場を潜り抜けてきたとはいえ、自分たちだけの力で主催に与し得るかというと怪しいものがある。
旅のブレインであるジョセフは不在、アヴドゥルとイギーの力も借りることは出来ない。
おまけに参加者名簿には、DIOとその刺客、ホル・ホースの名。
正直に言って、このままではキツいものがある。
だが花京院は、戦力となり得るまだ見ぬスタンド使いが、間違いなく参加者として混じっているだろうと考えた。
繭はゲーム性を重んじている。
それはあの場で彼女が見せた言動の節々からも窺えることだ。
であればこそ――ワンサイドゲームで殺し合いが幕を閉じるような参加者選出はしないだろう。
完全に平等な戦力ではないにしろ、花京院たちやDIOへ対抗できる素質を持った者が招かれているハズだ。
それならまだ可能性はある。繭の定めたルールを打ち破り、彼女を倒せる可能性が。
それでも、『対主催』の活動は変わらず茨道。
殺し合いに乗る、DIOたちのようなスタンド使いも紛れ込んでいるのだから、決して油断は出来ない。
何もスタンドがなくたっていい。
スタンドは脅威的な力だが、それを操るスタンド使いは――少なくとも花京院達は、銃弾の一発でもあれば死ぬ。
このゲーム、常に『死』が隣にある。
それを忘れてしまえば、何も成すことは出来ない。
過酷で、悪趣味で、それでいて腹立たしいほど完璧で。
――だからこそ、許せない。
「首を洗って待っていろ、主催者。それに、DIO。
貴様らは必ず倒す……お前達の好きには決してさせない」
そこに込められているのは燃え上がる闘志。
ゲーム感覚で人の命を弄び、糧として愉しむ邪悪な鬼畜ども――奴らを、生かして帰すわけにはいかない。
そのためにまず必要なのは仲間との合流、戦力の確保。道中乗った参加者と出会ったなら、その都度鎮圧。
-
この『バトル・ロワイアル』における行動方針を固め終えて、花京院は凭れかかった壁から背を離す。
地図によればここはD-4、研究所。どこか胡散臭い雰囲気が名前からは垣間見えるが、幸いもぬけの殻だ。
であれば長居は無用という事に為る。もっと人の集まりそうな場所なりに移動するのが賢明だろう。
「先ずは――旭丘分校。此処が近いな」
地図を見、呟き。
学生が集まってくるかもしれないと期待し、歩き出す。
「ク、ク、ク。イイ覚悟じゃねえか――なあ、ちょっとばかし遊んでくれや」
「誰だッ!」
無人だと思っていた研究所内に、どこからか響く男の声。
それに声を荒らげ、即座に臨戦態勢を取る花京院。
彼は運が良かった。後数秒、先程のまま壁に凭れていれば、その勇敢な意思は一瞬にして散っていたに違いない。
爆音にも似た破壊音。コンクリート仕立ての壁面が――花京院がついさっきまで背を預けていた壁が、
まるで砲弾の直撃でも受けたかのように弾け飛ぶ。その向こうから、筋骨隆々とした破壊の権化が現れる。
「な――」
花京院は思わず絶句した。
豪快どころの騒ぎでは収まらない、突然の襲来。
小細工などとは最も縁遠い、ごく原始的な『襲撃』!
そして何より彼を驚かせていたのは。
(なんだ――なんだ、この男はッ!? 今、コイツはスタンドを出して『いなかった』!)
壁を破り、男が現れる一瞬。
粉塵で視界は悪い中、ほんの一瞬だけ見えた光景だったが、それは想像を絶するもの。
コンクリートを破壊するほどの力となれば、当然近距離型のスタンド能力と予想する。
然し。花京院が見たその瞬間――男は、確かに素手で壁面を押し潰していたのだ。
有り得ない。あの体の中に、一体どれほどの膂力が込められているというのか。
「何だ。意外とヒョロい野郎だな」
花京院の動揺など露知らず、首をコキコキと鳴らしてみせる男。
「クク。さっきは随分、威勢のいい啖呵を切っていたな」
「……」
「せっかくの祭りだ。普段ならキサマのような雑魚、相手にもしねぇとこだが。
さっきのを聞いて――少しだけ興味が湧いたもんでな。ちと遊んでくれや、なあ」
花京院は努めて冷静を装いながら、内心ではこの上ない焦りに駆られていた。
『柱の男』と戦った経験のある、ジョセフ・ジョースターならいざ知らず。
-
スタンド使いとの闘いしか経験したことのない花京院にとって、生身でコンクリートを砕くような存在は化物だ。
あの拳を直撃でもした日には、どう打ち所が良くても生き延びられはしないだろう。
ならば、一番上等な選択肢は――。
「――! キサマッ!!」
即断即決。
花京院は曲がり角を勢いよく曲がり、男――範馬勇次郎からの逃走を図った。
これはジョセフからの受け売りだが。勝ち目のない勝負に、無理をして挑むほど不毛なこともない。
彼があの場で一騎打ちに打って出ていたなら、もう勝負は決していたかもしれない。
花京院典明のスタンド能力は、真っ向切っての戦闘向きではないのだから。
(しかし、あんな危険な男をこのまま野放しにしておくわけにはいかない……
あの化け物を自由にさせていては、いずれ必ず多くの犠牲者が出る――僕がどうにかしなければッ)
逃げる花京院。
その背後からは、勇次郎の追い立ててくる音がする。
逃げ場に事欠かない室内なことが幸いした。
花京院は考える。
無力化や撃退ではダメだ。あの男は一度不覚を取ったくらいでは折れず、いずれまた戦う羽目になる。
完全に、確実に。
排除しなくてはならない。
「敵前逃亡とは恥知らずめがッ!」
範馬勇次郎は、花京院典明を追う。
彼ほど暴力という言葉を体現したような存在も、そう居まい。
筋骨隆々とした体は見てくれ以上に硬く重い。鍛え抜かれた筋肉は、人の手で作られた建造物程度軽々打ち壊す。
勇次郎にとって、この殺し合いは――娯楽。
主催の小娘はいけ好かないが、趣向自体は実に彼好みのもの。
存分に強者と殺し合い、潰し合い、喰らい合い。これほど楽しい祭りは、世のどこを探しても見つからない。
花京院は勇次郎の初撃を回避する幸運を発揮したが、それを差し引いても有り余るほど不運だった。
自分を鼓舞する意味合いで口にした啖呵。それを聞かなければ、勇次郎は彼を獲物とはしなかったろう。
だが、結果として聞かれてしまった。勇次郎は、花京院典明を、試し甲斐のある相手と見做した。
「あれだけ大層なことを口にしておいて、よくもまあ抜け抜けと背中を向けられたものだなッ」
敵前逃亡を働いた花京院に、勇次郎が吐くのは侮蔑の言葉。
しかし、それで失望し、興味を失いはしない。
花京院の小癪な考えを、根底から覆して踏み潰す、その姿はまるで猛獣か何かのよう。
勇次郎は花京院を見つけ出すだろう。そして花京院は彼に為す術もなく――捻り潰されるだろう。
「ぬッ!?」
だが、花京院とて無抵抗のままに狩られる獲物ではなかった。
研究所の一室から転がり出てくる、手毬ほどの大きさをした黒い球体。
それが何かしらの意図を持って転がされたものだと勇次郎は理解するが、既に遅い。
球は弾ける。手榴弾のように破片と爆炎こそ撒き散らしはしないが――代わりに、閃光と爆音を発生させて。
-
花京院が使った道具は、俗にスタングレネードと言われる暴徒鎮圧用の武器だ。
ドラマや映画の世界ではお馴染みの道具である。使ったことはなくとも、聞いたことがある者は多いだろう。
閃光で目を。爆音で耳を。一時的に失明、難聴状態にさせることで相手を無力化する。
もちろん、これを投げた花京院もただではすまない。
背を向け、目を覆うことで目への影響は最小限に留めたが――聴覚を埋め尽くす、キンキンという耳鳴り。
この様子では、しばらくの間耳は使い物にならなそうだった。
一方の勇次郎はと言えば。
「――邪ッッッッ!!」
一喝。
声だけで衝撃波が巻き起こるような気合の喝。
信じられないことだが、この一喝で勇次郎は耳へのダメージの殆どを吹き飛ばしていた。
視覚へのダメージは、最初から微弱なものでしかない。
範馬勇次郎は紛れもなく人間である。しかし、常人ではない。彼を表すには、月並みな言葉だが――、
「見つけたぜ」
――『超人』と言う言葉を使うしかないだろう。
花京院は足を伸ばし、勢いよく扉を閉め、飛び退いた。
だが相手は勇次郎。行儀よく扉を開けなどしない。
勢いよく振るわれた回し蹴りがハンマーか何かのように扉を捻り潰し、折れた扉の破片が花京院を直撃する。
「うぐッ!」
苦悶の声が漏れるが、悶え苦しんでいる暇はなかった。
体の上から扉の残骸をどけ、勇次郎から一刻も早く離れようとして。
「よう」
全てがもう遅いのだと気付かされる。
自身が蹴り壊した扉の半分を、まるでギロチンか何かのように持ち上げて。
ニタニタと微笑みながら近寄ってくる範馬勇次郎の姿は、まさしく『鬼』としか形容のしようがない。
だが勇次郎は、花京院をすぐに殺そうとはしなかった。
笑顔を浮かべたまま、来い来いと、手招きをして挑発している。
もしもこの期に及んでまだ花京院が自分に背を向けるようなら、彼は躊躇なく花京院を殺すだろう。
要は、勇次郎の余裕の表れだった。
「どうした? 一発でもいい、俺にキサマの攻撃を撃ってみろよ。もしかしたら俺を殺せるかもしれねえぜ」
心にも思っていないことを。
花京院は心の中で毒づいた。
彼の心中を満たすのは屈辱感と、絶望感を通り越した諦観。
長旅の中で培ってきた経験も、人生を共に歩んできたスタンド能力も、こんな暴漢一人にさえ届かない。
それでも、花京院は自分のスタンド能力――『法皇の緑』を出現させた。勇次郎の言う通りに、打つことにした。
-
「コイツは驚いた! これまたけったいなモンを使うじゃねえか」
「…………食らえ」
『法皇の緑』が、範馬勇次郎へ矛先を向ける。
そこに現れるのは緑宝石(エメラルド)。正しくは、スタンドによるエネルギーの塊。
「――エメラルド・スプラッシュ」
一風変わった仕掛けはない。
だがそれだけに協力。極めた一芸は、時に多芸のそれを凌駕する。
『法皇の緑』が生成した輝けるエネルギー弾が、水飛沫のように範馬勇次郎へ襲い掛かる。
それは決して。そう、決して易しい攻撃などではなかったが。
「ヌルいなあ。それでこの範馬勇次郎を殺せるつもりかよ」
範馬勇次郎にしてみれば、それこそ『水飛沫』でしかなかった。
相手は生身でありながら、近距離パワー型スタンドにも匹敵するパワーを持つ勇次郎。
飛んでくる弾丸(タマ)を腕で掴み取って握り潰し。
身体で受けた分もかすり傷程度の損害に止めてしまう。
掴んだエメラルド・スプラッシュの弾丸を無造作に放り捨てれば、勇次郎は失望したような表情を浮かべた。
「つまらねえ。どうやら見当違いだったみてえだな」
握った扉の破片を、万力にも似た腕力で握り潰す。
それから勇次郎は、もはや興味もないと拳を握り締め、花京院へ肉薄した。
彼本人が重量級なこともあって、花京院はまるでダンプカーが突っ込んできたような錯覚さえ覚える。
花京院の反射神経と身体能力では、範馬勇次郎から逃れることは不可能だ。
いや――本当に彼から逃げたいと思うなら、そもそも勝負になど打って出るべきではなかった。
では、どうして花京院は勝負に出たのか?
彼は範馬勇次郎という『超人』と自分の力量差も理解できない馬鹿だったのか?
答えは否だ。彼の真意は――
「ッ?!」
「範馬勇次郎、か」
勇次郎の手足に、緑の紐状をした物体が絡み付いていた。
それは彼の力ならば容易く引き千切れる程度の強度しかないが、花京院とてそれは承知の上だ。
彼は最初から、無謀な勝負などするつもりはない。
勇次郎が人間を超越していると仮定して考えれば、エメラルド・スプラッシュが通じないことにも考えが及んだ。
しかし。範馬勇次郎という男がどれほどの怪物でも、決して鍛えることの出来ない弱点はある。
それを突くために花京院はこの部屋へと逃げ込み、急拵えの『法皇の結界』を張り巡らせた。
本来は触れた対象へエメラルド・スプラッシュを自動的に放つ技だが、今回のものはそれを拘束に特化させたもの。
触れた相手に『法皇』の体が絡み付き、その動きを止めにかかる。
「ならば覚えておけ、範馬勇次郎」
勇次郎が結界を引き千切る。
-
彼を止めていられたのは、時間で言えば二秒にも満たない間だった。
それで十分。集中すれば狙いを定めることは出来るし、それだけじゃない。
『法皇の結界』に邪魔立てされた驚きとそれを引き千切る動作。
範馬勇次郎をして隙を生む、二つの要素。
それが歯車のようにカッチリと噛み合うことで、花京院典明は満を持して『王手』をかけることが出来た。
「花京院典明。おまえを殺す、スタンド使いの名前だ」
どんなに優れた生物でも、眼球は鍛えられない。
そこを通じて脳を破壊されれば、どんなに優れた生物でも生き延びられない。
人間という生き物に区分される以上。相手が範馬勇次郎であれ、そこは変わらない。
威力を一点特化させたエメラルド・スプラッシュが、彼の両の目を目掛け迸った。
●
「な」
驚きに目を見開いたのは、花京院の方だった。
確かな手応えをもって放った、渾身のエメラルド・スプラッシュ。
勇次郎の両目を突き破り、眼窩から脳髄へ侵入。そのまま頭の内部を破壊し、とどめを刺すはずだった。
にも関わらず、である。
「やるじゃねえか」
範馬勇次郎は生きていた。
右目を潰され、額から微かに流血しながらも、確かに生命活動を保っていた。
一瞬のことではあったが、花京院は彼がどのようにして必殺のエメラルド・スプラッシュを破ったのかが見えた。
彼の右目に、エメラルドの弾丸が突き刺さったまでは良かった。
だが勇次郎はそこで、自分自身の額を使ってエメラルド・スプラッシュを迎撃する選択肢に打って出たのだ。
人間離れした怪力から繰り出される頭突き。
重量の乗った一撃で、目を抉った弾丸は眼窩から外れ、あらぬ方向へ飛び出した。
後は単純だ。勇次郎の額はエメラルド・スプラッシュ相手に少々血を流しこそしたが、遅れは取らなかった。
ただ、それだけの話。花京院典明の敗因は、範馬勇次郎という生物が余りに『理不尽』の塊だったことだ。
作戦もタイミングも、何もかも完璧だった。しかし、勇次郎には通じなかった。
「だが、俺の右目を抉った代金――キサマの命で支払ってもらおうかッ!!」
今度身動きを取れなくなるのは、花京院の番だった。
彼の戦意はまだ消えていない。ただ、彼は敗北を認めてしまってもいた。
完璧に決まった策を、ただの力技で切り抜けられ。
花京院典明という少年は、こう思ってしまった。『範馬勇次郎には勝てないのではないか』と。
勇次郎の腕が、花京院の腹に触れる。
肺の空気が逆流し、彼は吐血した。
それから更に勢いを維持し、花京院の土手っ腹に風穴を穿たんとし――
ガ オ ン ッ !
そこで、範馬勇次郎という生物は、花京院へと伸ばした右腕を残して完全にこの世から消滅した。
【範馬勇次郎@グラップラー刃牙 死亡】
【残り67人】
.
-
何が起きた?
花京院は自分の腹から力なく地へ落ちた、腕輪の巻かれた隻腕を見、思う。
そして同時に、こうも思った。それは彼がこれまで旅してきた中で身につけた、半ば直感のようなものだった。
(マズい――この場に留まっているのはマズいッ!!)
迷いなく、彼は部屋の窓枠へと手を掛けた。
飛び越えることに躊躇いはない。それよりも、この部屋へ留まる方が余程危険に思えたからだ。
範馬勇次郎が死んだ。
エメラルド・スプラッシュを意にも介さない、超人としか言い様のない怪物が――呆気無く死んだ。
腕から先を残して、一瞬のうちにこの世から消滅してしまった。
当然ながら、花京院にそんな力はない。だとすれば、あの場に誰か、第三者が存在したことに為る。
地面へ着地。衝撃を逃すために、学生服が汚れるのも厭わず地を転がる。
素早く体勢を立て直すと、花京院は脱兎のごとく駆け出した。
一刻も早くこの場から離れるために。もちろんそれは殺し合いを止める者として、決して最良の選択ではない。
範馬勇次郎を一撃で殺せるような能力。野放しにしておけば、当然より多くの死人が出るに違いない。
しかし花京院の行動は正しかった。
あの狭い部屋の中で、奇襲の主と戦えば、彼はまず勝てなかっただろう。
ただでさえ急拵えの『法皇の結界』は勇次郎によって破壊され、原型をとどめていなかった。
そこに逃げ場がない以上、無駄死にを晒すよりかは余程賢明な行動を取ったのだ。
「一度体勢を立て直し、それから今後について、もう一度よく考えなくては……」
範馬勇次郎。
そして勇次郎を葬った、未知のスタンド使い。
この『バトル・ロワイアル』には、まだあんな連中がゴロゴロいるというのだろうか。
果たして自分は――そんな奴らを相手に、本当に通用するのだろうか。
膨れ上がる不安に唇を噛みながら、花京院は研究所から離れるべく走る。
【D-4/研究所周辺/一日目・深夜】
【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)、難聴(中)、脚部へダメージ(小)、腹部にダメージ(中)、自信喪失気味
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:繭とDIOを倒すために仲間を集める
1:研究所から離れる
2:承太郎たちと合流したい。
3:ホル・ホースと『姿の見えないスタンド使い』には警戒。
[備考]
※DIOの館突入直前からの参戦です
※繭のことをスタンド使いだと思っています
-
「妙だな」
誰もいなくなった研究所で、下手人はその姿を現していた。
虚空に不気味に顔を出すスタンド。その口から這い出るように現れ、喰らい損ねた勇次郎の隻腕を拾い上げる。
彼はそれを自身のスタンドでもって、残さず喰らい切ろうとする――が、食えない。
「……『腕輪』は我が『クリーム』の力でも飲み込むことは出来ん、というわけか」
忌々しげに呟き『姿の見えないスタンド使い』……ヴァニラ・アイスは隻腕を放り捨てようとし、やめた。
現状では、確かにこの腕輪を外す手段は存在しない。
しかし『サンプル』として予備の腕輪を確保しておけば、追々何かの役に立つ可能性は十分あるだろう。
ヴァニラ・アイスは腕輪を解除する方法があるなら、自らの肉体を犠牲にしても明らかとしたい思いだった。
それは、殺し合いを円滑に進める為などではない。彼にとっては、もっと崇高でかけがえのない理由である。
「見下げたド畜生女めが……よくもDIO様にこのような狼藉を働いてくれたな。貴様は死でも生ヌルい」
ヴァニラ・アイスには許せない。
崇拝するこの世の支配者、DIOへこんな物を装着させる不敬。
自分の身分も弁えず、駒か何かのようにあの方を扱う狼藉。
断じて許せない行いだった。決して生かしておいてはならぬと、自分の全神経が告げていた。
「だが、腹立たしいことに好都合でもある……」
名簿にあった三人の名前。
空条承太郎、花京院典明、――ジャン=ピエール・ポルナレフ。
DIOに仇をなす、ドブネズミのように下等で救いようのないクズども。
……そして、一度は自分が遅れを取った相手。ポルナレフ。奴も存在していることが、ヴァニラには重要だった。
ヴァニラ・アイスは一度、ポルナレフに敗北している。
イギーとモハメド・アヴドゥルを殺しはしたが、あのような男に負けた身で、DIOに顔など合わせられない。
彼は思う。次に自分がDIO様の前に立つ時があるとすれば、あの方の為に他全ての参加者を殺し尽くした後だと。
承太郎を、花京院を殺し、ポルナレフへの雪辱を果たした後であると。
信じているからこそ、ヴァニラはあえてDIOを探そうとはしなかった。
「逃しはせんぞ、花京院。DIO様に支配される栄誉を自ら放棄した裏切り者めが」
ヴァニラは暗黒空間へ潜り込み、外へと脱出。
周囲を見渡し、花京院の姿がないことを確認すると、彼を追い立てるべく行動を開始した。
「貴様も、承太郎も、そしてポルナレフも。皆、このヴァニラ・アイスが始末してくれるわ」
一度死に、蘇った吸血鬼ヴァニラ・アイス。
その殺意は死してなお執拗に、すべての参加者の脅威となる。
【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3、範馬勇次郎の右腕(腕輪付き)、範馬勇次郎の不明支給品0〜3枚
[思考・行動]
基本方針:DIO様以外の参加者を皆殺しにする
1:花京院を追い、殺す
2:承太郎とポルナレフも見つけ次第排除。特にポルナレフは絶対に逃さない
[備考]
※死亡後からの参戦です
※腕輪を暗黒空間に飲み込めないことに気付きました
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投下終了です。指摘などあればお願いします。
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投下乙です
まさかまさかの勇次郎一話退場。こう言う事があるからロワは面白い
果たしてヴァニラに狙われた花京院の運命や如何に
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投下乙
どんな奴でも一瞬で消せるのがヴァニラの恐ろしいところ
「DIO様に支配される名誉を〜」って台詞も狂信者っぷりが出てて好き
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圧倒的強さを見せてからのガオン!
この緩急にもってかれた
クリームの一撃っぷりはやっぱ恐ろしいな
投下乙!
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しかしこれ、バキ勢が面白いことになりそうだw
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投下乙です
勇次郎一話死亡とは…ドムさんマーダー化といい予想の上をいく展開の多いロワだ…
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投下します
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ふと目が覚めた時、私南ことりは見覚えのない場所に立っていました。
街灯がポツポツと光る道、目の前には大きな建物が見えますがそれが何なのか、真っ暗な状態では判断がつきません。
「怖いよ……」
真っ暗な深夜に見覚えのない場所に一人で立っていたことなんてない私は、怖くて震えていました。
思わず手と手を重ねた時に、見覚えのない腕輪が嵌っていることに気が付きます。
ふと、あの夢のような光景で説明されていたことを思い出します。
一人の女の子が殺されて、いきなりカードになったあの光景が脳裏に浮かんできました。
ホラー映画とファンタジー映画が混ざったような。
思い出すだけでも身震いがするものだったけど、その最中にこのカードの使い方についても説明されていたことを思い出しました。
あったのは、赤、青、白、黒のカード。
「…確か、赤と青で食べ物と飲み物が出てくる…んだよね?」
記憶を便りに、食べたいものを念じてみます。
すると、出てきたのは茶色とベージュの色をしたふんわりした食べ物。
「わぁ…、すごい」
一人で食べきれそうな、1/4ホールくらいの大きさのチーズケーキ。
せめて1ホール丸ごと出てきてくれたらよかったんだけどなぁ。
「あ、でも今深夜だし、こんな時間に食べたら体に悪いよね…」
テレビで言っていました。夜遅くに甘いものを食べると、生活習慣病になりやすくなるとか、太りやすくなる、とか。
それで体重が増えたらこの前の穂乃果ちゃんと花陽ちゃんのようにダイエットをすることになってしまうのかな、Printemps皆でダイエットマラソンなんてどうだろう、とか。
今思えば、こんなことをこんなところで考えてしまう辺り、今自分がどんなところにいるのか分かっていなかったのかもしれません。
地面に座って、一旦チーズケーキを脇に置いた私は黒いカードに手を伸ばしました。
すると、出てきたのは赤い糸を巻いた糸束でした。
服を縫うのにも使えそうですが、あまり役に立ちそうな気はしませんでした。
ただ、その赤白く光るその糸束は何だかとっても不思議なものに感じました。
「…何だろうこれ?見たことない糸だけど……」
こんな不思議な糸もあるんだなぁ。服飾の勉強は頑張ってきたつもりでしたが、まだまだだったみたいですね。
糸を仕舞って他に何が入っているのか確認しようと思った、その時でした。
-
――――――ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
「ぴぃ…!?」
静かで物音一つしないこんなところで耳に届いた何かが唸るような声。
もしかして幽霊?!
心臓が止まるんじゃないかと思った私は思わず座り込んだまま後ろに下がり。
ずりっ、ずりっ。
地面を擦るような音と共に何かが近づいてきています。
気が動転した私は頭を抱えたまま蹲って。
「ひぃぃ……」
夢なら早く覚めてほしい、と。
そう思いながら目を閉じていると。
「うぇ〜〜〜〜〜〜……」
聞こえてきたのは女の子の声。
「そ、そこのあなた……」
呼ばれた気がして、目を開いたところにいたのは学ランを着た茶髪の女の子がそこにいました。
何だかとても可愛らしい幽霊さんだなぁって思っていたら。
「何か、何か食べ物をください……、お腹が空いて……」
何だかダイエットのカロリー調整とトレーニングの時の穂乃果ちゃんみたいな、ううん、それよりもかなり重症そうな子が倒れていて。
思わず、脇においていたチーズケーキをカップごと差し出したら。
「ぱくっ」
「あ」
一口で食べられちゃいました。
手ごと。
余談ですが、この時の手を噛まれた痛みで、ああ、やっぱりこれは夢じゃないんだなぁってようやく気が付きました。というよりも確信しました。
◇
「ありがとね!えっと、南さんだっけ?!」パクパクパクパク
その後、放送局内のロビーの椅子に、白いカードで灯りを作って座っていました。
「私は満艦飾マコっていうの!本能寺学園2年甲組の劣等生!」ガツガツガツガツ
「劣等生って…自分で言っちゃうんだ…」
話しながらも満艦飾さんは一生懸命手と口を動かしています。
どうやらカードの使い方についての説明を聞いていなかったらしく、説明してあげるとコロッケのような何かを大量に取り出して食べながら話をすることになったのです。
満艦飾さんいわく、それは家でよくお母さんが作ってくれる、「その辺で拾ったものを全部詰め込んだなんだか分からないコロッケ」らしいのですが、それに何が入っているのか聞く勇気はありませんでした。
-
「うーん、やっぱりお母さんが作ったものと比べたら何か味が落ちるなぁ」
「それで、どうしてあんなところでお腹空かせてたの?」
ともあれ、話を進めます。
いくら何でも、あんなに動けなくなるほどお腹を空かせるような人には見えません。
それが数日間食事を取っていないようにも思えるほどの状態だったのは何か理由があったんじゃないかなぁと。
「そうなの!それがね、これからみんなで最終決戦だーーー!!ってテンションだったところでいきなりこんなところに連れて来られてね!
それで流子ちゃん達を探そうって走り回ってたの。そしたら気がついたらいきなりお腹が減って動けなくなっちゃったの」
「……ゲームの話?そういえば流子ちゃんって名前は…」
満艦飾さんのその名前を聞いて、ふと思い出して名簿を開きます。
さっきまでは気が動転していて開けなかった、カード内の名簿。
知りたくなかったけど、そこには穂乃果ちゃん、絵里ちゃん、にこちゃん、希ちゃんの4人の名前がありました。
もしこれに気付いた時私一人だったら、気が動転してどうにかなってしまっていたかもしれません。
「えーと……、私漢字読めないんだ。南さん、ちょっと名前読んでもらっていいかな?」
「いいよ、えーと……」
幾つか何て読んだらいいのか分からない名前が混じっていることに四苦八苦しつつも全部を読み上げました。
満艦飾さんの知り合いは、纒流子、鬼龍院皐月、蟇郡苛、針目縫の4人だということが分かりました。
ちょっと読むのが難しかったな……。
「流子ちゃんは私の友達でねすごく強いし、皐月様も蟇郡先輩もすごく強いんだよ!みんな集まればきっとこんなところ早く抜けだして帰れるよ!
あ、だけど針目縫はすごく危ないから気を付けないと」
「そうなんだ、私の友達はね……」
そんな感じで、満艦飾さんが食事を終えるまでの間、気がついたら話し込んでいました。
友達のことだったり、μ'sっていうスクールアイドルのグループで活動していることだったり。
「すごい!南さんってアイドルだったんだ!」
「アイドルじゃなくてスクールアイドル…っていって学校の部活でアイドルをやってるってだけなんだけどね」
「すごい!じゃあ歌とか作れたりするの?!」
「私は衣装担当だから―――」
「すごい!じゃあ服とか作れたりするの?!」
「えっと…、うん」
「すごい!」
すごい一つが追加される度に、ズイ、ズイという効果音と共に目を輝かせながら迫ってくる満艦飾さんに圧倒されて。
なんというか、すごくマイペースな子だなぁって思いました。
一人で怯えてた自分とは違って、こんなわけの分からない状況でも明るく振舞っていて。
その明るい様子を見ていたら、何だか穂乃果ちゃんを思い出すような気がしてきました。
「あ、そういえば南さんは音ノ木坂学院に行くんだよね?」
「うん、もしかしたらみんなそこに来るんじゃないかなって思うから」
「じゃあちょうどいいや、私は本能寺学園に行こうと思うんだけど、途中まで一緒に行こうよ!」
「でも、いいの?真っ直ぐ行くより遠回りになっちゃうかもしれないのに」
「大丈夫!!ドーンと泥船に乗ったつもりで!ふん!」
泥船じゃ沈んじゃうんだけどなぁなんて、そんなことを思いながらも。
この底抜けにポジティブな満艦飾さんに救われている自分がいるような気がしました。
「よし、そうと決まったら急ごう!大丈夫、真っ暗でも怖くなんてないよ!」
「こ、怖がってなんてないよ!」
「まずは音ノ木坂学院だね、行こう南さん!」
「うん。…ありがとう満艦飾さん」
-
そんな想いがふと口に出てしまったのか、私は不意にお礼の言葉を述べていました。
「マコでいいよ。苗字だと長いし、それに南さんはケーキくれた恩人だし」
「それじゃあ、私もことりでいいよ」
まだまだ先のことは分かりませんが、。
きっとみんな大丈夫だよね?
誰も欠けることなんてなく、またみんなで歌えるよね?
ねえ、穂乃果ちゃん…、みんな…?
【E-1/放送局/深夜】
【南ことり@ラブライブ!】
[状態]:精神的疲労(小)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
黒カード:生命繊維の糸束@キルラキル、不明支給品0〜2枚(未確認)
[思考・行動]
基本方針:みんなで帰る
1:μ'sのみんなやマコさんの知り合いを探しつつ音ノ木坂学院に向かう
2:現状に少しの不安
[備考]
※参戦時期は2期7話以降のどこか。
※マコの知り合いについて情報交換をしました
※生命繊維の糸束の詳細は確認しておらず、変わった糸としか認識していません。
【満艦飾マコ@キルラキル】
[状態]:健康、満腹
[服装]:本能寺学園の制服、喧嘩部特化型二つ星極制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(5/10)、青カード(8/10)
黒カード:喧嘩部特化型二つ星極制服
[思考・行動]
基本方針: みんなで帰る!!
1:みんなを探しつつ音ノ木坂学院へ向かい、その後本能寺学園に向かう
2:流子ちゃん、皐月様、蟇郡先輩を探す。針目縫は警戒。
※参戦時期は23話終了後。
※μ'sのメンバーについて情報交換しました
※喧嘩部特化型二つ星極制服は制限により燃費が悪化しています。
戦闘になった場合補給無しだと数分が限度だと思われます
【生命繊維の糸束@キルラキル】
極制服や神衣に織り込まれている特殊な繊維「生命繊維」を糸束にしたもの。
衣類に編みこむことで、その量に応じて強力な力を発揮することができるようになる。
現状ではただの切れにくい糸だが、道具や環境が揃って衣類を作ることができれば…?
【喧嘩部特化型二つ星極制服@キルラキル】
満艦飾マコに本人支給。
学ランに学帽、高下駄の形をした極制服。
ステゴロの戦闘スタイルに合わせてマコの身体能力を最大限まで高めるが知力だけは上がらない。また、燃費も悪い。
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投下終了です
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投下乙でした
自分も投下します
-
不思議な世界に突然、連れてこられた挙句に殺し合いを強要される。
この状況に巻き込まれたら常人ならとても平常心を保てそうにない。
だが、そんな中で雨生龍之介は鼻歌を歌いながら平然と病院内の器具を物色していた。
彼にとっては不可思議な事も殺傷沙汰も既に体験済である。
持ち前のポジティブさもあり、龍之介は悩むよりも行動あるのみだと考えた。
病院で使われている器具は材料をアートとして仕上げるのに役立つ。
「さてと、これだけあれば十分だな。……そうだ。このカードは確かランダムカードって言ってたよね。一体何が出てくるのかなぁ」
龍之介が黒いカードを一枚取り出し使用する。
するとカードが消滅し、代わりに支給品の一つが龍之介の目の前に出現した。
「か……かわいい〜」
それは『具』と名づけられたタヌキだった。
当たりかハズレで言えば大ハズレと呼べる支給品であるが
受け取った本人は満足しているので良しと言えるのかもしれない。
♢
不安と恐怖で胸が押しつぶされそうになる。
保登心愛は体を震えさせながら病院内を歩いていた。
殺し合いなんて残酷で酷いこと絶対にやりたくない。
でも逆らえばカードにされてしまうのは恐ろしい。
本当は目を閉じて、耳を塞いで、全てから逃避して泣き出してしまいたい。
だけどここには自分と同じく、無理やり連れてこられた大切な人達がいる。
皆と合流して、皆で元の場所に帰りたい。
チノちゃんのお姉ちゃんとして、今くじけるわけにはいかない。
友への想いが心愛の背中を後押しして、歩みを進ませた。
すると病院の一室で明かりが点いているのに気付く。
もしかしたら、そこに友達がいるかもしれない。
心愛は明かりのある部屋へと入っていった。
-
「あっ……」
「ん?」
室内にいたのは知り合いでは無かった。
オレンジ色の髪をした20代ほどの若い青年がそこにいて、心愛と目が合った。
殺し合いの強要された環境で初めて出逢った男性を見て、心愛は思わず後ずさろうとする。
「ねえ、君も殺し合えって言われて、こんな所に連れてこられたんだよね?」
「あ、はい。そうですけど……」
「俺もなんだよね〜ほんとにまいっちゃうよねぇ」
心愛は安堵した。
彼もこの場所に連れてこられて困惑していたから。
少なくても人を殺しまわって動くつもりは無さそうだと
彼の表情を見て心愛は理解できたから。
二人は軽く自己紹介をしたあとで、情報交換をする事になった。
龍之介は知り合いが誰も呼ばれていなかったが
心愛は香風智乃、天々座理世、宇治松千夜、桐間紗路の4人の知り合いが呼ばれている事を伝えた。
ちなみに情報交換をしている間、心愛はずっと具をモフモフしていた。
「皆はどこに行きそうか心当たりはあるの?」
「うん。喫茶店ラビットハウス、ここに集まると思うの
チノちゃんのお家でね。私の下宿先でもあってリゼちゃんも働いているから」
「じゃあ早速ラビットハウスって場所に一緒に行こうよ。善は急げと言うからね」
「いいの?私の為に付き合ってくれて」
「もちろん!ココアちゃんも、そのお友達も俺がしっかり守護ってあげるよ」
「……あ、ありが……とう」
まだあったばかりなのに、私や友達の為にここまで親身になって助けてくれるなんて
すごい優しい人なのに、一瞬でも怖い人だと思って逃げようとした私は悪い子だ。
「そんな畏まらなくてもいいって、困った時はお互い様って言うでしょ。皆で支えて助け合わなきゃね」
「龍之介さん……私もお姉ちゃんとしてがんばらないと」
「へぇ〜ココアちゃんってお姉ちゃんなんだ」
「うん!チノちゃんは私の妹だからね」
「……やっぱり似てるなココアちゃんは、俺の姉ちゃんに」
「そうなんだ。会いたいな……龍之介さんのお姉さんに」
「もう死んじゃったんだ。5年前にね」
「あ、ごめんなさい!」
「気にしなくていいよ。姉ちゃんはきっと満足して天国へ行って、俺のことを見守ってくれているからさ」
-
そう答える龍之介だが、どこか寂しそうに見える表情だった。
それだけ大切なお姉さんなのだと心愛は理解できた。
一緒に友達を探してくれる龍之介に何か恩返しがしたいと思っていた心愛は
「龍之介さん!今は私のことをお姉ちゃんだと思って甘えていいですよ」
咄嗟に浮かんだ自分の出来る事を言葉に出してしまう心愛。
自分の方が年下なのにお姉ちゃんと呼ばせるのは不自然であると
発言の後で気づいて、羞恥心が湧き上がる。
「お姉ちゃんかぁ。いいねそれ!頼りにしてるよココアお姉ちゃん!」
一瞬きょとんとするが、心愛の気遣いを察知した龍之介は
心愛を姉のように頼ることで、彼女の気持ちに応えた。
「じゃあさ。俺からも一つ頼み事をしてもいいかな?」
「もちろん。私が出来る事なら何でも言って!」
「俺ってさバイトしながら色んな町でアートを作ってるんだよね。
だから、もしよかったら俺のアート作りにココアちゃんも協力してくれないかなぁ?」
「それならガンガンお手伝いしますよ。私をモデルにするなら可愛く作ってね」
「本当!?嬉しいなぁ〜ココアちゃんがいればきっと素敵な作品が作れそうな気がするよ」
龍之介の心はぴょんぴょんと高鳴り、テンションはフォルテッシモに上昇する。
普段は気だるげな態度で、やる気の無い龍之介だが趣味が関わると活発で明るい青年になる変わりようであった。
龍之介は包帯やガーゼ等の医療用具の入った箱を持って病院から出る準備を始めた。
「龍之介さん。これは?」
「緊急の時の為に包帯とかあった方がいいと思ってね」
正確には作品の延命処置に使えると考えて用意した物であるが
死んだ人間がカードに変わるせいで、作品を長く楽しむ為にも生きてくれないと非常に困る。
旦那がいればそんな問題も簡単に解決するのだが、参加者の一覧に青髭の名前は無かった。
-
「病院の中には他に誰もいなかったし、そろそろ出発しようか。
ラビットハウスは、南東にある駅から移動した方が速いね」
「そうですね。あっ龍之介さん。具は私が預かっておきますよ」
「おう。サンキュー」
心愛は龍之介から受け取った具をひたすらモフる。
彼女はモフモフした動物が大好きなのだ。
具に向ける心愛の優しげな表情を見て龍之介は姉を思い浮かべていた。
似ている。本当によく似ている。
昔っから眩しいほどに明るい笑顔を振りまいてくれた姉さん。
小さい頃から俺にとっても優しくしてくれた大切な姉さん。
何一つ夢を持てず、生きているんだが死んでいるんだが分からなかった人生を歩んできた。
そんな俺を夢中にさせるだけの目標を与えてくれた姉さん。
いくら感謝しても足りないぐらい感謝しているよ。
だって……また俺の前に現れてくれたんだから。
ココアちゃんには姉さんと同じように愛してあげるからね。
俺が全身全霊を注いで誰に見せても自慢出来るような立派な作品に作るんだ。
約束したからね。ココアお姉ちゃん。
【A-5/病院内/深夜】
【雨生龍之介@Fate/Zero】
[状態]:健康
[服装]:普段着
[装備]:手術用のメスやハサミ(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚、医療用具(現地調達)
[思考・行動]
基本方針: 心愛と一緒にラビットハウスを目指して心愛の友達を探す。
1: 心愛を使って作品を作りたい。
2: 作品をカード化させずに延命させる方法を探す
[備考]
※キャスターが龍之介の知る青髭ということに気づいていません。
【保登心愛@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:精神的疲労(小)
[服装]:ラビットハウスの制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:1〜3枚
[思考・行動]
基本方針:龍之介と一緒にラビットハウスを目指して友達を探す。
1:怖いけどお姉ちゃんとして頑張る。
-
投下終了です
-
>Pure girls project
ことりちゃんに生命繊維を支給するとはナイスクロスオーバー
これはことりちゃんが極制服衣装を制作する展開が来る…?
マコとのやり取りが見ていて和みました
>姉
こちらも見ていてほっこりする光景ですね…心愛ちゃん早く逃げろ超逃げろ
性癖さえ除けば龍ちゃんはコミュ力も強い頼れるお兄さんだなぁ…性癖さえ除けば
気になったのは、状態表に具がいないことと
あと死後にカードに閉じ込められるのは魂なので、「作品」自体は残るんじゃないかということです
生かしたまま人間オルガンとか作ったりする龍ちゃん的には、魂が残らなきゃNGなのかもしれませんが
-
投下乙です
>Pure girls project
マコはやっぱりいつも通りで安心した
北に向かうってことはの早速のぞみんと鉢合わせる可能性が出てきて笑う
>姉
とんでもない爆弾がラビットハウスへ向かってしまう……
それでも蟇郡先輩ならなんとかしてくれる
-
>>100
指摘ありがとうございます
カードに閉じ込められる設定に関しては勘違いして覚えていたので
三レス目、最後の二桁の、死んだ人間がカードに変わるせいで〜の部分を削ってください。
具に関しては完全に忘れていたので下の書き直した状態表で載せてください。
【雨生龍之介@Fate/Zero】
[状態]:健康
[服装]:普段着
[装備]:手術用のメスやハサミ(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚、医療用具(現地調達)
[思考・行動]
基本方針: 心愛と一緒にラビットハウスを目指して心愛の友達を探す。
1: 心愛を使って作品を作りたい。
2: 作品を延命させる方法を探す。
[備考]
※キャスターが龍之介の知る青髭ということに気づいていません。
【保登心愛@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:精神的疲労(小)
[服装]:ラビットハウスの制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:1〜3枚、具@のんのんびより
[思考・行動]
基本方針:龍之介と一緒にラビットハウスを目指して友達を探す。
1:怖いけどお姉ちゃんとして頑張る。
【具@のんのんびより】
宮内 れんげが飼っているタヌキ。
れんげが芸を仕込ませようとしていたが特に覚えた芸は無い。
-
みなさん投下乙です
投下します
-
「いやぁぁぁぁ! 来ないでぇぇぇぇ!」
「はっはっはっ。元気なお嬢さんですねえ」
前回のラブライブ!
スクールアイドルμ'sのメンバーとしてレッスンに励んでいた私を待っていたのは、最後の一人になるまで殺し合えという女の子の命令。
最初は夢とか何かのイベントって思ったけど、ピンク色の髪の女の子がカードにされたのは夢じゃない!
急いで周囲を見渡したら、私以外にもことりちゃん、にこちゃん、絵里ちゃん、希ちゃんがいた!
みんなを呼ぼうとしたら地面が崩れて、目の前が真っ白になって……
気がついたら、目の前になんかドロドロした顔の人をいっぱい引き連れたギョロ目のおじさんが立ってたの!
「おやおや、いけませんねえ。こんな時間にあなたのような婦女子が一人で出歩いては。私が家まで送って差し上げましょう」
「い、いえ……あの……うち、ここから近いんで結構です!」
「そう遠慮なさらず。ほら、彼らもあなたとお友達になりたいと申しておりますし」
彼らってどう見てもゾンビじゃないですかぁぁぁ!
に、逃げないと……でも夜だしここお墓だし、うまく走れないよ!
「怖がることはありません。さああなたも、めくるめく甘美な死の指先に身を委ね、新たな次元へとその魂を解き放つのです」
「それって結局死ねってことでしょぉおお!?」
いやああああ、映画とかゲームで見たようなゾンビが私を追っかけてくるよぉぉ!
夢だと思いたいけどやっぱり夢じゃない。心臓がバクバクして破裂しそう。
「あうっ」
足元をよく見ていなかったから、石にひっかかって転んでしまった。
私の周りをゾンビが取り囲み、手を伸ばしてきた。
そのとき!
「相も変わらず下卑た真似をしているな、キャスター。これが聖杯戦争ではないことは貴様もわかっているだろうに」
光が走ったかと思うと、私を取り囲んでいたゾンビが一瞬でバラバラになった。
思わず目をつぶる。次に目を開けたとき、私の前には一人の男の人が立っていた。
漫画で見たような剣を構えた、長身の……スラっとした体格の……とてもかっこいい横顔の……黒子に眼が……吸い寄せられ……
-
「……はぅ」
「貴様……ランサー! また私の邪魔立てをするというか! この凡愚め!」
「愚かなのはどちらだ、キャスター。このような無力な少女を弄ぼうなど、英霊の風上にもおけぬ所業。
掲げるべき矜持もなく、あの化性の少女に言われるがまま殺戮に興じる。
ハッ、ほとほと見下げ果てた奴よ。セイバーに袖にされるのもむべなるかな」
「貴様ァァ……! 我が聖女に剣を向けただけでなく、この私と聖女との絆をも愚弄するとは! その罪、万死を以っても償えぬぞ!」
「ふん、何が絆か。彼女は貴様のことなど知らぬと何度も言っていただろう」
「ええい、口の減らぬやつめ! もうよい、貴様の素っ首引き抜いて我が死人の兵団に加えてくれるわ!」
ハッ!? いけないいけない、気を失ってる場合じゃない!
おじさんとランサーと呼ばれたカッコいい男の人は知り合いだったみたい。
でも友だちじゃないみたいで、ギョロ目のおじさんはランサーさんにゾンビをけしかけてきたの!
ランサーさんは剣で戦ったけど、ゾンビがあんまりにも多すぎて剣はすぐ折られてしまった!
「ハハハハ! 自慢の槍がなければランサーも形無しだな!」
「ぬう、言わせておけば……!」
ランサーさんは素手でゾンビに殴りかかるけど、ゾンビは殴られても殴られても全然止まらない!
あの人、あの壊れた剣しか武器がないんだ……!
「くっ、離せ!」
「手間を掛けさせてくれたが、これまでのようですね。貴様の首級を眼にすればジャンヌも目を覚まされるであろう……
ああ、ジャンヌ! このジル・ド・レェ、武功を上げていますぐ貴女の元へ馳せ参じまするぞ!」
ゾンビがどんどんあの人に飛びかかって……! いけない! あの人を助けないと!
何か、何かないの!? ランサーさんを助けられる何か……あの人の力になる何か!
……そうだ、カード! あの女の子が言ってた、武器が出てくる……黒いカード!
これを使えば……お願い! あの人を助けられる武器、出てきて!
「……! あの! これを使ってください!」
私がカードに願ったのは、強い武器。ランサーさんを助けられる武器。
そして、出てきたのは……武器だ!
私はその武器を、ゾンビに羽交い締めにされたランサーさんに放り投げた。
「……これは! かたじけない、少女よ!」
男の人の手が伸びて、その武器……「剣」を掴む。
次の瞬間、剣が光のように閃いてゾンビがバラバラになっていく!
-
「むう……!?」
「いい切れ味だ。征服王の剣、さすがに業物だな!」
私のカードに入っていたのは、世界史の教科書に見たような覚えがある、幅広の剣だった。
パロディ……いや、グラディウスだっけ? そんな感じの名前の。
剣を手にしたランサーさんはあっという間に逆転した。瞬きの間にそこにいたゾンビがすべて切り倒される。
「チィ、粘りおって。だがここでは私には勝てんぞ、ランサー!」
ギョロ目のおじさんが手に持った本を開くと、周りの墓がぼこぼこと盛り上がってきた!
出てきたのは……やっぱりゾンビだ!
「死霊術か! 厄介なものを……!」
「フハハハ! 我が方の兵は無限! さあランサー、慣れぬ武器でどこまでやれるものか見せてみよ!」
「舐められたものだな。ランサーだからといって、騎士たる者が剣に不慣れとでも思っているのか」
「貴様はそうかもしれんな? だがそこの少女はどうです? 騎士の誇りとやらは無力な者を見捨てられぬでしょう!」
「……チッ。外道め……!」
ランサーさんは舌打ちすると、近くにいたゾンビをなぎ倒してジャンプした。
私の隣に降りてきて……ええっ! ちょ、っちょ、お、お姫様抱っこ!?
「この場は預けるぞ、キャスター。だがここに宣言しよう。貴様の首は俺が落とす。セイバーの手を煩わせるまでもない」
「減らず口を。逃げられると思うか!」
「キャスターごときが、ランサーの足に追いつけるものか!」
ランサーさんが私を抱えたままジャンプする。景色が流れ……て……って、高い高い高い!
これちょっと何十メートルか跳んでるっていうか飛んでるっていうかああああ落ちる落ちてる落ちるうううう!
あ、これ死んだ……
……。
「もう目を開けてもいいぞ」
ひゃっ!?
-
「手荒な真似をしてすまなかったな。だがあの場はああするしかなかった。許してくれ」
「いいええ、あの、その……助けてくれてあのがとうございましゅ!」
噛んだ……。恥ずかしい……。
目を開けると、ギョロ目のおじさんはどこにもいなかった。さっきいたお墓からかなり移動したみたいだ。
お姫様抱っこされたままランサーさんの顔を見上げる。
うう、なんだかさっきとは違う意味で胸が破裂しそう。かっこ良すぎるよぅ……。
「……すまん」
「え? なんで謝るんですか?」
「……いや、こっちの話だ。俺はディ……ランサーだ。君の名を教えてくれるだろうか?」
「こ、高坂穂乃果です! スクールアイドルやってます!」
「穂乃果、だな。あいどる……現代における踊り子だったか?」
「は、はい! 踊ります! あと歌います! 良かったらライブ見に来てください!」
「ああ、機会があればな。あと、この剣。助かったよ、ありがとう」
ほわああぁぁ……。笑いかけられた!
なにこれ、すごくドキドキする! ライブがうまくいった時みたいな……なにこれ……!
「い、いえ。私じゃどうせ使えないですし。良かったら差し上げますよ」
「助かる。さて聞くまでもなかろうが、君はこの殺し合いとやらでどうするか決めているか?」
「あ、それはですね、私μ'sのみんなを……友達を探したいです!
みんなすごくいい娘で、殺し合いなんてできる人じゃないんです!
だからその、みんなが危険な目に遭う前に探し出して、あの、その!」
「μ's……ギリシャの女神の名を冠した踊り子か。うむ、気品を感じさせる名だ。
承知した、穂乃果。この剣にかけて、君と君の仲間を守ると誓おう」
「あ……」
あ……これ、なんだろう……
ランサーさんの顔から目が離せない……
「穂乃果、君の友人たちがいそうな場所に心当たりはあるか?」
「あ、ええと……地図、地図。あ、……ええ!? 音ノ木坂学院がある! なんで!? 知らない間に移転したの!?」
「落ち着け。その音ノ木坂学院とやらに、君の仲間はいそうなのか?」
「あ、はい。私たちの学校なので、みんなここに集まると思います」
「では急ごう。幸い、ここからならさほど距離はない」
こうして私は、ランサーさんと一緒に行動することになりました。
お姫様抱っこされたまま音ノ木坂学院に向かう私は、まるで本物のお姫様みたい……とか思っちゃったりして。
大変な事態に巻き込まれたっていうのに、何故か私の鼓動は高鳴っていて、何かが始まりそうな気がしていたの。
でも、不思議。なんだかランサーさんが私を見る目は、なんだか申し訳なさそうで。
それを問い質すこともできず、私はずっと、ランサーさんの黒子を見つめていたの……
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【C-2/一日目・深夜】
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:健康、ランサーへの好意(軽)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:誰も殺したくない。生きて帰りたい。
1:μ'sのメンバーを探す。
2:ランサーさんを見てるとドキドキする……。
3:音ノ木坂学院を目指す。
[備考]
※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか。
※ランサーの「愛の黒子」の効果により、無意識にランサーへ好意を抱いています。時間進行により、徐々に好意は強まっていきます。
【ランサー@Fate/Zero】
[状態]:健康
[装備]:キュプリオトの剣@Fate/zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:騎士道に則り、戦う力のない者を守る。
0:穂乃果に「愛の黒子」の呪いがかかったことに罪悪感。
1:俺が穂乃果と仲間たちを守護らねばならぬ……。
2:セイバーは信用できる。しかしそのマスターは……?
3:キャスターはいずれ討伐する。
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバーと共にキャスターと戦った後。
※「愛の黒子」は異性を魅了する常時発動型の魔術です。魔術的素養がなければ抵抗できません。
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【D-2/墓地/一日目・深夜】
【キャスター@Fate/Zero】
[状態]:健康
[装備]:リタの魔導書@神撃のバハムート GENESIS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:ジャンヌ・ダルクと再会する。
1:ジャンヌ(セイバー)を探す。
2:名簿にはセイバー以外にもジャンヌの名がある……?
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバー、ランサーと戦った後。
支給品説明
【キュプリオトの剣@Fate/zero】
高坂穂乃果に支給。
征服王イスカンダルの剣。
名のある宝具ではなく特別な効果もないが、軽量かつ頑丈。他のサーヴァントとの宝具とも十分に渡り合える。
【ファバロの剣@神撃のバハムート GENESIS】
ランサーに支給。ただの鉄の剣。
【リタの魔導書@神撃のバハムート GENESIS】
ネクロマンサーの少女リタが使っていた魔導書。
死体をゾンビ化して操ることができる。生きている人間をゾンビ化することは不可能。
一度に連れ歩けるゾンビの数は5体まで。しかし墓地や戦場など、遺体が多数存在するフィールドでは倍以上の数を操れる。
ゾンビの筋力や瞬発力は素体となった生前の強さに比例するが、技術や思考力は失われる。
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投下終了です
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投下乙です
西側に滅茶苦茶ラブライブ勢が固まってきたな
何事もなければ穂乃果が音ノ木坂一番乗りだけどどうなるか……
地味に魔道書手に入れたキャスターもヤバイ
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投下します
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「全く、驚くべきことばかりだね」
そう言って、折原臨也さんはとても楽しそうに笑いました。
「俺からしたら、スタンドが見えているあんたらに驚くがな」
やれやれだぜ。空条承太郎さんはそう呟きながら帽子を深く被り直し、缶ビールに口をつけます。
ここは、映画館のロビー。受付カウンターや待ち合い席が並んでいます。
私たちは、そこでお話をしていました。
なんと、私たち三人はすごく近くの位置からスタートさせられていたのです。当然のように、出会います。出会っちゃいます。
殺し合いだなんてとんでもないとあわあわしながら私が言って。
空条さんが知ったことかって顔で、売店のビールを勝手に飲み始めて。
私は折原さんに言われて名簿を確認し、小毬先輩とれんちゃんが巻き込まれていることを知って。
青い顔をしながら泣きそうになる私を、折原さんが優しく慰めてくれて。
ようやく落ち着いた私を尻目に、空条さんと折原さんは情報交換を始めました。
だけど、そこで、空条さんはとんでもないことを言い出したのです。
いわく、空条承太郎さんは超能力者であるということ。
まず、これだけでびっくりです。当然、折原さんも私も信じられませんでした。
だけど、彼の背後に突然現れた、水色の人形のようなおばけを見せられると、信じざるを得ません。
逆に、空条さんは私たちが青い人形さん、スタープラチナさんと言うそうです、が見えていることに驚いていたんですけど……。
どうも、この『スタンド』という超能力は、普通の人間には見えないものであるそうな。
折原さんが「きっと出来るだけ平等に戦えるようになっているんだろうね」なんて、それらしく説明していました。
そして、空条さんの話はそこでは終わりませんでした。
彼は邪悪の化身(すごい言われようです)であるDIOを倒すために、同じ超能力者の仲間たち、この場にも呼ばれている花京院さんやポルナレフさんと旅を続けていたというのです!
なんて、漫画チックな経歴のお方!
ここが殺し合いの場でさえなければ、いつもの皆と一緒にいれば。
れんちゃんや夏海先輩、小毬先輩と一緒に空条さんを質問攻めしていたことでしょう。
だけど、彼のお話の続きを聞くと、私は今わたしたちが置かれているこの現状を思い知らされました。
実は、この『ゲーム』にはそのDIO本人も参加させられているというのです。
しかも、ホル・ホースさんという、DIOさんの部下も一緒に参加していると。
なんと恐ろしいんでしょうか。少なくともこの会場に2人は、とっても危ない悪人がいるのです。
ここで、ようやく今の状況を正しく理解して、私は、泣きました。
さっきは我慢できましたが、でも、もう無理でした。
私は良いのです。最初の時点で、漫画の主人公のような空条さんと、優しそうな折原さんに出会えたのですから。
だけど、もしかしたら今、私が呑気にお喋りしている間にも、れんちゃんが、先輩が!
その、DIOという人に殺されかけているのかもしれないのです!
いいえ、もしかしたら、もう…………。
-
空条さんが、イライラした声で「泣き止め」と言いました。でも、無理でした。
折原さんが、私の頭を優しく撫でながら「きっと大丈夫」と言ってくれました。
ゆっくりと、私が「大丈夫」をきちんと頭の中に収められるまで、何度も、何度も、繰り返し、彼は言葉を重ねました。
「きっと良い人たちと一緒に行動しているよ」「もしかしたら、もうこの近くまで来ているかも」「蛍ちゃんが泣いてると、再会した時に先輩やれんげちゃんも悲しむよ」
そのおかげで、少し落ち着きました。確かに、折原さんのいうとおりです。
泣いていても、始まりません。
泣いて、泣いて、泣いて、ようやく顔を上げた私を、お二人は黙って待っていてくれました。
「今の俺たちにできることは、六時間後の放送で知り合いの名前が呼ばれないよう祈りながら、少しでも俺たち自身が生き残る確率を上げることだ」
折原さんの言葉を基に、私たちは話し合いを続けます。
空条さんはとてもめんどくさそうに、ここから出ていきたそうな顔をしていましたが。
また泣きそうになる私と、折原さんの説得により、なんとかかんとか、一緒にお話を続けてくれる気になったようです。
「首なしに妖刀、自販機を投げつける化け物、か。
折原、あんたのとこも中々にクレイジーだな」
折原さんのお話も、空条さんのものと同じく、にわかには信じがたいものでした。
都市伝説にもなっている首なしライダー。切り裂き魔として世間を騒がせた、妖刀使いの女の子。
そして、腕力だけで自販機やガードレールを投げつける、平和島静雄という怖い人。
「首なしのセルティは俺もよく運び屋として仕事を手伝ってもらっていたから、人となりは分かる。殺し合いには乗らないだろうね。
だけど、園原杏里、平和島静雄は、はっきりいって危険だ。
杏里は斬るだけで相手を操れる妖刀、罪歌の持ち主で、最近池袋で多発した切り裂き魔事件の黒幕とも考えられる。
もしかしたら既に何人か斬って、自分の手駒にしているかもしれない。
平和島静雄はさらに危険だ。はっきりいって、何を考えているのかさっぱりわからない男だよ。
俺が分かるのは、あいつは誰であろうと喜び勇んで暴力を振るう悪いやつだってことだけだね。
池袋でやっていたように、もう何人か殴り殺していても何らおかしくない」
怖いだろうけど、隠していても仕方がない、と折原さんは私を見つめながら言います。
変に黙っていて、いざその人たちに出会った時に警戒できないまま死ぬよりはマシだ、と。
私は、もう泣きませんでした。
折原さんは心配そうに私を気遣ってくれましたが、大丈夫です、と鼻声交じりに返事をしました。
少しでも、お二人の迷惑にならないようにしたかったのです。
もっと、いってしまえば。
これ以上お二人の邪魔をして、愛想をつかされるのが、こわかったのです。
折原さんは優しいですし、空条さんも見た目は怖いですが、悪い人ではないことは話していればわかります。
だからこそ、そんな二人に見捨てられてしまうことだけは、嫌だったのです。
私が彼らに提供した情報は、二人の衝撃告白に比べればいたって普通なものでした。
同じ村の友達が二人いる、と、それだけです。
私も、先輩もれんちゃんも、超能力も使えませんし、自販機を投げ飛ばすことなんてできるわけもありません。
ただ、強調して、れんちゃんも先輩も良い子だから、絶対に殺し合いなんてしないということだけを私は熱弁しました。
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互いの身の上を話し終わり、ようやく、これからどうするのかというお話になりました。
空条さんは言いました。「この、地図に書かれている『DIOの館』が気になる」と。
「DIOやホル・ホースにしろ、花京院やポルナレフにしろ、縁のある人間はここが気にならないはずがねえ」
「確かにねえ。上手くいけば仲間と合流できるかもしれないし、その場でDIOをとっちめることも、出来るかもしれないわけだ。
良いんじゃないかな。一石二鳥ってやつだね」
とりあえず、その『DIOの館』に行くことに決まったようです。
でも、足手まといにしかならない私もついて行っても良いのでしょうか。
そんな思いを敏感に読み取ったのか、折原さんは手際よく、計画を立てていきます。
他の人に会ったら、戦力を考慮しつつ、DIOの館へ行くグループと別の場所で待機するグループに分けること。
その際に、私は待っているグループに所属させること。
空条さんは、好きにしろといいました。自分は、DIOの館に行くだけだ、と。
折原さんも、空条さんと一緒にDIOの館へ行くグループに入る気満々のようです。
「俺的にも、そのDIOってのは早めに潰しておきたいし、さ」
そう言った、瞬間だけ。
折原さんの笑顔の種類が、変わったような気がしました。
日向のような、見ている私を安心させてくれるようなものから。
冷たい、エモノを狙う蛇を連想させるような、尖った笑顔に。
びっくりして彼の顔を見返すと、その時には、もういつもの優しい折原さんに戻っていたのですけど。
「どうしたの?俺の顔になにかついてた?」
「い、いえ……その計画だと、この中で私だけ待たされることになってて、ちょっと寂しいなって」
なんだか悪いことをした気がして、思わずごまかしてしまいます。
ただ、口をついて出たこの言葉も、嘘偽りない私の気持ちでした。
なんだか、仲間外れにされたような気がしてちょっぴり悲しくなってしまいます。
確かに、私なんかがDIOさんに出会ってしまったら、大変なことになってしまうのでしょうけど。
「まだ他の殺し合いをしないって人と会えるかも分からないし、その辺は臨機応変になると思うけどね」
結局、折原さんがその時何を考えていたのか、私にはわからずじまいでした。
分からない方が良いような気も、したのです。
-
「そういえば、出発の前に一つ確認しておきたいことがあるんだった」
お話も終わって、さあこれから移動しようというタイミングで。
突然、折原さんは椅子から立ち上がりました。
そのまま、対面に座っていた空条さんのもとへ歩いて行って。
どうしたんだろう。うすぼんやりとした気持ちで見ていた私には、
何が起きたのか、よく理解できませんでした。
「君はどのくらい強いのかな」
私に、見えたのは。
折原さんの手に、魔法のように突然ナイフが現れて。
それに驚く間もなく。悲鳴を上げるなんて思いつきも出来ない私を置き去りにして。
そのナイフが、いつのまにか、瞬きの間に折原さんの手から空条さんの手に移っていた、というものだけでした。
水色の手が、一瞬だけ見えたような気がします。
「素晴らしい」
折原さんは、心底楽しそうに笑っています。
空条さんは、すこし、怖い感じになっていました。
私は、口をほけぇと開けたまま、固まることしかできません。
「どこまで理解できた?」
「何もしなくても当たらねえことも、何もしなかったらナメられることも、だ」
「すごいなあ、それも全部超能力のおかげなのかな?読心術とか?」
「10や20もケンカしてりゃ、テメエが本気かどうかなんざ分かる。
あんたが、手段を選ばない人種だってのもな」
「悪いね。これから力を合わせて行く仲間がどれだけ強いのか、何が出来るのか、正確に知っておかないと信用がおけないタチでさ」
「折原臨也」
「なんだい、空条承太郎君」
ゴゴゴゴゴ、と。
謎の擬音が、聞こえてくるような迫力で。
空条さんが、一回り大きく見えました。
「次はない」
ぽん、と、無造作にナイフを放り捨て、それを折原さんが器用に空中でキャッチ。
あとは無言で、空条さんは立ち上がり出口へと向かっていきます。
私には及びもつかないやりとりが交わされたのだ、としか私には理解できませんでした。
ただ、正直、こわかったです。
空条さんも。折原さんも。
頼りになる人たちのはずなのに、どこか危なげな感じがするのです。
-
いいえ、きっと私の気のせいなのです。
空条さんも、折原さんも、良い人に決まっているのです。
「ごめんね、蛍ちゃん。びっくりさせちゃって」
ほら、今だって。
折原さんは笑顔で、私の手を取ってくれます。
一緒に行こうと。君を置き去りになんてしないと。
『良い人』じゃないと、こんな危ない場所で、こんなにも優しくはしてくれないでしょう。
彼の手を握り返しながら、私は空条さんの後を追います。
あの怖い感じが気になりましたが、今は出来るだけ離れ離れにならないほうが絶対に安心安全です。
「クールなようでいて、その実熱いところがある」
何かを思い出すような、遠いところを見つめながら、折原さんは独り言をつぶやきました。
「だけど、使える人間である俺や、怖がる蛍ちゃんのことも考えて、怒りを抑えることもできる」
「自分の持つ力が強いと分かっている上で、感情的になりすぎず、己の正義を貫き通す、か」
何か楽しいことを思い描いているように、ニヤニヤしながら。
「俺の睨んだ通り、やはり彼は『アイツ』とは違って、素晴らしい『人間』だよ」
まるで悪戯を思いついた時の夏海先輩のようだ、と。
自分よりも10は年上の人に失礼だとは思いつつ、私は折原さんにそんな印象を受けるのでした。
【G-6/映画館周辺/一日目・深夜】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。
1:DIOの館へ向かう。
2:折原臨也が気に喰わねえ。
[備考]
※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦
※折原臨也、一条蛍と情報交換しました
【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:生存優先。人間観察。
1:DIOの館へ向かおうか。
2:空条承太郎君、面白い『人間』だなあ。
3:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。
[備考]
※空条承太郎、一条蛍と情報交換しました。
【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3
[思考・行動]
基本方針:先輩とれんちゃんと合流したいです。
1:とりあえず二人についていきます。
2:少し二人が怖いです(?)
[備考]
※空条承太郎、折原臨也と情報交換しました。
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投下終了します
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人間賛歌は勇気の賛歌!
なるほど、確かに承太郎はこれ以上ない人間判定だろうなーw
承太郎の凄みも、臨也の拘りもらしく描かれていて面白かったです
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投下乙です
これまた大きな爆弾が……
DIOは果たして素直に館に行くのかも気になる所
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投下乙です
臨也の存在は純粋な対主催勢には厄介この上ないw
杏里や静雄の悪評を拡めるあたり、彼の狡猾さが出てるw
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投下します。
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「ここはゲームセンターかな……?」
その場所は少女にとってとても新鮮だった。
娯楽施設というものは人の心を高揚させる。
しかし、今の彼女にとっては不安でしかなかった。
ゲームモニターの光も、スピーカーから流れるBGMも不安を煽るものでしかない。
「れんげ……蛍……」
そこで彼女はその体を小さくなるようにうずくまっていた。
カタカタと震えながら、まるで小動物のように怯えていた。
(この腕輪……兄ちゃんだったらあっさり外してくれそうだけど……私には……)
こんな状況でも一番頼りになりそうな兄の卓はいない。
いつも騒がしい妹の夏海はこの場にはいない。
だが、旭丘分校に通う年が離れたクラスメート。
『宮内れんげ』と『一条蛍』の小学生の二人がいる。
「私が二人を護らないと……」
きっと二人も怯えているだろう。
だから、年長者として二人を探して護らないといけない。
――護る……どうやって?
――そのために他の人を殺すのか?
(無理無理無理無理だーーーーっ!!!)
結論はすぐに出た。
自分に人殺しという行為は無理だということに。
例え絶対に人を殺せる剣や銃、反応兵器があっても小鞠には使う勇気がない。
(それに『赤マルジャンプ』って何よ!!)
彼女の黒カードから最初に出てきたアイテムがそれだった。
自転車で20分くらいのところにある本屋の毎週水曜日発売の漫画雑誌によく似ていた。
しかし、その週刊漫画雑誌よりも少しばかり分厚く重い。そして、値段もそこそこ高い。
(お腹の辺りに仕込んでおけば……銃弾くらいは防げるかも……)
アニメや漫画でありそうなことではある。
しかし、実際にこんな雑誌一冊分でどこまで防げるかわからない。
でも、一先ずは仕込んでおく。
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その時であった。
(ん……なんだろうこの声……?)
何かブツブツと呟く声が聞こえてきた。
そっとその声の方を覗いてみる。
いたのは一人の男。
痩せ型だが、小鞠の兄貴よりも背が高い。
金髪にサングラスにバーテンダー服。
村でも見かけないような風体の都会の男。
しかし、何かをぶつくさと呟いている。
「殺す殺す殺す殺す殺す……」
(転がす……? 何を……転がすの?)
小鞠はしっかりと聞こえてたが信じたくはなかった。
明確な殺意を持ってその言葉が紡がれていくのを信じたくはなかった。
だが、もう一度聞く耳をたて、ちゃんと聞こうとする。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
(ものすごく殺すって言ってる―――――っ!!!!?)
そして、その直後の光景はさらに衝撃的だった。
「オラァ!!」
男によってゲームの筐体(電○FCの筐体)が持ち上がった。
まるでテレビに出てくるヒーローが悪役を持ち上げてそのまま投げ飛ばす前動作のように。
しかし、小鞠にとってはその光景はただの恐怖でしかない。
「ギャアアアアアァァァァァ!!! 殺さないでぇぇぇぇ!!!」
「ん?」
小鞠はおもいっきりちびった。
中学二年生なのにおもいっきり漏らしたのだ。
そして、そのままは小鞠は意識を失い、音を立てて倒れた。
「気絶してんのか?」
その大声で、男は小鞠の存在に気づいた。
-
◆ ◇ ◆
ある人曰く『池袋最強』。
ある人曰く『池袋の自動喧嘩人形』。
またある人曰く『喧嘩を売ってはいけない男』。
はたまたある人曰く『池袋のフォルテッシモ』。
その男、平和島静雄。
◆ ◇ ◆
「誰が手前の思い通りに動くかよ……!」
静雄はこんなバトルロワイアルを開いた少女に怒りを覚えた。
静雄自身、暴力を振るうことは嫌いだ。
それを強要しようとするあの女は――殺す。
名簿を見た限りここには静雄の数少ない友人であるセルティもいる。
このことにもさらに怒りを覚える。
ついでに折原臨也もここにいる。
臨也は見つけ次第に――殺す。
方針は決まった。
セルティを探して、臨也とあの女(繭)を殺す。
以上である。
だが、今のこの状況には少々困惑した。
静雄の目の前には失禁して気を失って倒れている小学生女子。
「……さて、どうするか……」
果たして、静雄はこの状況でどう動くか。
-
【G-7/ゲームセンター/一日目・深夜】
【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:ゲームの筐体(電○FCの筐体(現地調達))
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)を殺す
1:臨也は殺す
2:セルティを探す
3:この小学生女子(小鞠)をどうするか……?
【越谷小鞠@のんのんびより】
[状態]:失禁、気絶中、恐怖心(大)
[服装]:旭丘分校の制服
[装備]:黒カード:赤マルジャンプ@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2(本人未確認)
[思考・行動]
基本方針:れんげと蛍を守って、一緒に村に帰る
1:(思考停止中)
赤マルジャンプ@銀魂
越谷小鞠に支給。
かつて正月、ゴールデンウィーク、お盆の年三回にドサクサ紛れに発行されていた週刊少年ジャンプの増刊号である。
赤マルジャンプの発売日には、赤マルジャンプを週刊少年ジャンプと間違って買ってしまったケースも多々あった。
また現在は名称を【少年ジャンプNEXT!!】と変更となり隔月刊(年6刊)化している。定価は460円。
週刊少年ジャンプよりも分厚いので、そこそこ重い。
-
以上で投下終了です。
-
投下乙です。
小鞠ちゃん視点の静雄さんに吹いた
連続になりますが自分も投下させていただきます
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AkiLive!【Kaisar side】
「ファバロオオオオオオオッ!!!」
大声で呼んでみるも、共にあの場所から落とされた幼なじみの姿は見当たらなかった。
前後左右を見回しても、そこには奇妙な丸い天井をした建物と、他には草原があるばかり。
いつもの賞金稼ぎの腕輪の代わりにカードがはめ込まれた腕輪を身に着けていなければ、さっき見たことは悪い夢であり、この景色もまた別の夢の続きではないかと思うところだ。
「ファバロ……アーミラ嬢……私はまだ、お前たちが、貴女が、何者かも分からなかったというのに……」
カイザル・リドファルドはうずくまる。
その背には、混乱であるとか、喪失感であるとか、理解しきれないという憤激が重荷のようにのしかかっていた。
今までにも驚天動地の出来事――遭難したところを拾ってもらった村の人々がすべて操られた死体だったり、嵐の中で船をこぎ出したら空から悪魔が降りてきてそのまま空飛ぶ城へと拉致されたりしたことはあったけれど、
仮にそれらのトラブルがいっぺんにやって来たとしても、今回の驚愕と悲憤とには及ばなかっただろう。
アナティ城に保護されていたところを、突然の拉致に巻き込まれたとか。
一度は護ってみせると誓った少女が、たやすく焼殺され、あまつさえカードにされてしまっただとか。
『バハムート』という存在を――あの三天使が、復活させてはならない存在だと断言していた怪物を、あの繭なる少女が使役していたことだとか。
罪のない何十人の人々が、その少女に理不尽な殺し合いを強いられていることだとか。
それにファバロが――父の仇だったはずであり、それなのに先日はなぜかカイザル達を救けにきた男が、この場にいたことだとか。
未だにこの胸に、確かな憎しみは存在している。だというのに、その憎しみの対象であるファバロのことが、己は分からなくなっていた。
アーミラ嬢が焼き殺された時に浮かべていた表情にしてもそうだ。
それまでのファバロは嫌々アーミラを連れているかのように言っていたが、あの時の表情は、決して情を抱いていない人間が浮かべるそれでは無かった。
己と同じく、繭という少女に怒りを露わにしていたかのように。
-
「何故、俺はあの場で真っ先に動かなかった。そうすれば最悪でも、アーミラ嬢は死なずに済んだ……!」
ネブルビルでも、ソード・ヴァレイでも、護るべきものを護れない不覚ばかりが続いている。
騎士の身分は喪っても、誇りだけは喪うまいと掲げておきながら、このザマか。
心中で自虐するだけでは足りずに、カイザルは歯を食いしばり、地面へと涙を滴らせていた。
地面へと手をついた視界は、己の無力さを象徴するかのように狭かった。
「あのぉ……大丈夫ですか?」
少女の声が、上から降って来た。
狭くなっていた視界ではその声の主の接近に気付かず、カイザルは不覚のままに顔をあげる。
「そんな風にうずくまってたら、危ないよぉ?」
おずおずとハンカチを差し出す、小柄な少女がいた。
◇
可憐な少女は、蒼井晶と名乗った。
歳の頃は14,5歳だとうか。
その体はナイフやフォークより重たいものを持たせることさえ憚られるほどに小柄で、ふわふわした茶髪につつまれた顔はオレンジぐらいの大きさしかないほどの小顔だった。
瞳だけがくるくると大きく動き、カイザルの話をふむふむと熱心に聞いてくれる。
「そっかぁ……カイザルさん? リドファルドさん? 本当に辛い思いをしたんだね。
さっきまでアキラアンラッキー! とか言ってたあたしが恥ずかしいよ……」
「好きに呼んでくれて構わない。それに君の嘆きは、全く恥ずかしいことなんかじゃない。
むしろ、眼を覚まさせてもらった」
「アキラが?」
「ああ、まだ私にはやるべきことがあると思い出せた。
この場所にはリタや聖女ジャンヌ、ラヴァレイ殿もいる。
護るべき数十の人々がいて、仲間と援けるべき存在もいる。こうなっては、立ち止まってはいられない」
アキラは両手をつよく握りしめて、同調するようにウンウンと相槌を打った。
「アキラにも、ぜぇーったいに守りたい人、いるよ。
ウリ――浦添伊緒奈っていう女の子を探したいんです」
そしてアキラは、話してくれた。
浦添伊緒奈という少女が、いかに優しくてきれいで頭も良い素敵な女の子かということを。
そして、小湊るう子と紅林遊月なる意地の悪い少女たちに嵌められて顔を傷つけられたところを救ってもらい、困窮生活の中で仕事まで仲介してくれて、いかに大切な恩人となっていったかを。
(『ドクモ』だとか『サツエイメイク』だとかいう言葉の意味するところはよく分からなかったが)
-
「あんなに誰かから大事にされたのはウ――伊緒奈が初めてだよ。
あの子が死んだら、アキラはもうどうしていいか分かんない。アキラはもう、アキラッキーなんて言えないよ」
「そうか……良い御友人なんですね。本当に」
必死に説明する少女を見て、カイザルは素直に感動していた。
なんというまっすぐな友情だろう。
かつては自分とファバロも、決して裏切りなど起こりえない親友同士だと思っていた。
それが今では父の仇となり、命を賭けた決闘をすると約束し、しかも相手の考えていることは全く分からないというふがいない有り様だ。
それに比べれば、彼女たちの絆はとても尊ぶべきものだ。
「安心するといい。君の――アキラ嬢の大切な御友人は、私が探し出して必ず守りましょう。
騎士として……いや、男として、もう貴女がたのような淑女が犠牲になってはならない」
「あ、ありがとうございます!」
アキラはぱっと花が咲いたように笑い、眼じりに浮いた涙を小さくぬぐった。
「で、でも『淑女』だなんて……えへ。なんだかアキラ、照れちゃうな。
アキラあらためアキレディー、がんばります! 騎士さんの探してる人を、一緒に探すよ」
『騎士さん』という呼ばれ方に、背筋の引き締まる思いがする。
「ありがとう。だが、くれぐれも無理はなさらないでください。私が必ず前を歩きますので、誰かが襲ってきたら必ず私の後ろにつくか、私の指示に従って逃げてください」
「はぁーい。リドさんとアキラのアキランデブー、よろしくお願いしまぁーす!」
「リドさん……?」
弱き者を守り、悪魔やあの少女のような存在を挫く。
1人の騎士として……身分は奪われても心は騎士として、それだけは確かなことだ。
◇
「ではひとまず、アナティ城を目指して南下しましょう。
きっとリタやオルレアン騎士団の方々もそこを目指すはず。彼等と合流できればご友人もより安全になるでしょう」
「え? お城のある島に行くんですよね。だったら駅で電車使った方が早くない?」
「『エキ』? 『デンシャ』? 馬の置いてある宿場のようなものですか?」
「えーっと、『駅』っていうのは……」
◇
-
AkiLive!【Akira side(心の声を添えて)】
「そっかぁ……カイザルさん? リドファルドさん? 本当に辛い思いをしたんだね。
さっきまでアキラアンラッキー! とか言ってたあたしが恥ずかしいよ……」
(どうやらほんっとーにお人好しの脳筋さんみたいだね。
最初に泣きながらあんな独り言言ってた時点で分かったけどー。
それは良いんだけど……こいつ、さっきから感極まりすぎ。さっきの泣き顔もきたなすぎ。マジウゼぇ。
だいたい最初の部屋から思ってたけど、いちいち『ファバロオオオオオオオオオ!!!』ってうるせーんだよ。
幼女趣味でホモとかマジ最悪なんだけどぉ?)
「好きに呼んでくれて構わない。それに君の嘆きは、全く恥ずかしいことなんかじゃない。
むしろ、眼を覚まさせてもらった」
(そうでなきゃこっちも困るっつーの。
でも冷静なのにこーんな感じってことは、もしかしてさっきの話もマジなのかよ。
ゲームの世界とリアルを勘違いした痛いヒトとかじゃなくて?
魔法を使う幼女とか悪魔とか伝説の竜とか……しかもジャンヌ・ダルクって世界史に出てくる名前じゃねぇか……
そんなのが本当にここにいるっていうのかよ……)
「アキラが?」
「ああ、まだ私にはやるべきことがあると思い出せた。
この場所には私と共にいたリタや、聖女ジャンヌ、ラヴァレイ殿もいる。
護るべき人々がいて、援けるべき存在もいる。こうなっては、立ち止まってはいられない」
(でも『ウリス』なら、バケモノの一人や二人なら大丈夫だよね☆
あたしよりずぅーっと頭が良いし、要領が良いし、なんたって本当に『カードゲームから出てきた人』なんだし。
ああ、ウリスに早く会いたいなぁ……でも、会った時にアキラが何もできてなかったらウリスをがっかりさせちゃうだろうなぁ……。
ウリスに会った時のためにも、早く誰かを始末しておかないとなぁ……)
-
「アキラにも、ぜぇーったいに守りたい人、いるよ。
ウリ――浦添伊緒奈っていう女の子を探したいんです」
(とりあえずコイツにはヤバいヤツが襲ってきたら盾になってもらうとして……隙あらば武器を使って背中から殺っちまうか?
でもそうなると、相手にアタシが殺し合いに乗ったってばれちまうかもしれないし……なるべく、アタシのことがばれないようなやり方を選ぶしかねぇな。
前に警察に見つかった時みたいなことになったら、アタシだけじゃなくて大好きなウリスも危険になるかもしれないんだし。
それに、それにそれに、賢いやり方を選んだ方がきっとウリスも喜んでくれるよね。
例えば他の連中と会った時に、仲間割れが起こって殺し合うように仕向けるとか……いい子ちゃんの振りなら自信あるもんね(はぁと)
……やばっ、なんだかドキドキしてきた)
「安心するといい。君の――アキラ嬢の大切な御友人は、私が探し出して必ず守りましょう。
騎士として……いや、男として、もう貴女がたのような淑女が犠牲になってはならない」
「あ、ありがとうございます!」
(ウリスは、憎しみの感情をまとったアタシが一番素敵だって言ってくれた……だからアタシは、ウリスの為なら素敵になってみせるよ。
みんな、殺すんだから。ウリスが勝ち残れるなら、何だってする。
ウリスが愛してくれるなら、アキラが死んだ時にいっぱい悲しんでくれるなら、死んだっていい。
そして、ウリスが私のことを忘れないでいてくれたら嬉しい。すっげぇ嬉しい)
「で、でも『淑女』だなんて……えへ。なんだかアキラ、照れちゃうな。
アキラあらためアキレディー、がんばります! 騎士さんの探してる人を、一緒に探すよ」
「ありがとう。だが、くれぐれも無理はなさらないでください。私が必ず前を歩きますので、誰かが襲ってきたら必ず私の後ろにつくか、私の指示に従って逃げてください」
「はぁーい。リドさんとアキラのアキランデブー、よろしくお願いしまぁーす!」
「リドさん……?」
(だって私の命を糧にしてウリスが生きるなら……それって、私の命がウリスの中に入っていく……憧れのウリスの、一部になれるってことだよねぇ?)
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「ではひとまず、アナティ城を目指して南下しましょう。
きっとリタやオルレアン騎士団の方々もそこを目指すはず。彼等と合流できればご友人もより安全になるでしょう」
「え? お城のある島に行くんですよね。だったら駅で電車使った方が早くない?」
「『エキ』? 『デンシャ』? 馬の置いてある宿場のようなものですか?」
「えーっと、『駅』っていうのは……」
(ウリスを愛して、ウリスの『命』になる……ウリスを『生かす』人に。
そう、アキラは、『アキラブリー』よりもさらに先へ行く。
――今のアキラは、『アキライバー』だ!)
【B-3/地下闘技場近く/深夜】
【カイザル・リドファルド@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[装備]:なし(支給品の確認はこれから)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜3枚
[思考・行動]
基本方針:騎士道に則り、繭の存在を挫く
0:『駅』に向かえば早く移動できるらしい。まずはそちらへ…。
1:アキラ嬢を守りつつ、アナティ城へと向かう
2:リタ、聖女ジャンヌ、ラヴァレイ殿と合流する(優先順位はリタ>>>ジャンヌ・ダルク、ラヴァレイ)
3:アザゼルは警戒。ファバロについては保留
[備考]
※参戦時期は6話のアナティ城滞在時から。
※蒼井晶から、浦添伊緒奈は善良で聡明な少女。小湊るう子と紅林遊月は人を陥れる悪辣な少女だと教わりました。
-
【蒼井晶@selector infected WIXOSS】
[状態]:健康
[装備]:中学校の制服
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜3枚(武器があるらしい?)
[思考・行動]
基本方針:ウリスを勝ち残らせるために動く
0:利用できそうな参加者は他の参加者とつぶし合わせ、利用価値が無いものはさっさと始末する。
1:カイザルを利用しつつ、機会を見てカイザルと他の参加者を潰し合わせるなり盾にするなりする。
2:ウリスを探し出し、指示に従う。ウリスの為なら何でもする
3:紅林遊月、小湊るう子は痛い目に遭ってもらう
[備考]
※参戦時期は二期の2話、ウリスに焚き付けられた後からです
※カイザル・リドファルドの知っている範囲で、知り合いの情報、バハムートのことを聞き出しました。
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投下終了です
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投下乙ファバロオオオオオオオッ!!
ロリコンのホモとどっかの性癖四重苦みたいな扱いされるカイザルに草
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投下乙です
>ゲームセンターに行った
[装備]:ゲームの筐体で笑う
>アキライブ!
アキラッキー完全にクレイジーサイコレズじゃねぇかwww
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oh…途中送信で感想が一行のみに……
>ゲームセンターに行った
地味に臨也にも会えそうな位置だから一悶着あるかな?
承太郎vs静雄の小野D対決の可能性
>アキライブ!
これで伊緒奈がウリスじゃなかったらアキラッキーぶっ壊れそう
そしてここの組も駅利用者か
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投下します
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どうしてこのようなことになったのか。
現在起きている出来事は天々座理世の理解を遥かに上回るものであった。
人が死んだ。殺された。目の前で。
学校に通いながら喫茶店のアルバイトをする女学生にとっては、目の前で人が死ぬことすらあり得ない出来事であるというのに。
それどころか死体がカードの中に封印される?
――そんなのないよ、あり得ない。
しかし、実際に目の前で繰り広げられた光景はリゼの目に焼き付いていた。
死ねばカードに封印される。そのカード付きの腕輪がリゼの腕にはあるのだ。
自分もカードになるかもしれないと思うだけで身震いがする。
周囲を見回すと万事屋銀ちゃんなる店が目に入った。
「こ、このカードで説明が見られるんだったよな」
恐る恐る腕輪と結合しているマスターカードなるものに触れてみる。
地図だのルールだのよりも先に確認したかったのは参加者名簿。
白い部屋でリゼは後輩である桐間紗路の姿を目にしていた。
頼むから見間違えであってくれと名簿を確認するが、明らかになったのは予想していたよりも更に悪い現実。
「嘘、だろ。チノ、ココア、それに千夜まで」
シャロだけではなくラビットハウスの同僚たちの名前が名簿には記されていた。
どうして自分たちが、このような目に合わなければならないのか。
目の前の理不尽を嘆いたところで状況が好転するわけでもなく、リゼは頭を切り替えて黒のカードを手に取る。
自衛のための武器が必要という思考に至れたのは、彼女が普段からモデルガンを持ち歩いていた軍人の娘であるが故だ。
説明によれば黒のカードは道具や武器になるものが出てくるらしい。
滑稽無糖な話であるが、あのような光景を見せられれば信じざるを得ないというもの。
「これは……拳銃」
率直に言えばリゼの支給品はアタリだった。
その形状は普段彼女が持ち歩いているモデルガンと同じで、けれどもずっしりとした重さがあるそれは正真正銘本物の拳銃。ベレッタM92である。
ナイフや剣よりワンランク上の、遠距離から人を一方的に攻撃できる武器だ。
持ち方は知っているし、撃つ際の姿勢も熟知しているが、本物を握ったのは初めてだった。
-
「……私がみんなを守らなきゃ」
名簿に記されていた知り合いたちは皆普通の女の子たち。
ならば軍人の娘で護身術の心得もある自分が彼女たちを守らねばならない。
年長者としての義務感もあって意気込むものの体は小刻みに震えていた。
「大丈夫、これもいつものと同じだ。同じ銃なんだ」
自分に言い聞かせながら普段モデルガンを扱うのと同じように銃を構えてみようとする。
しかし、モデルガンならあんなにも自然にできた動作が今はぎこちない。
「肩に力が入りすぎだな」
背後から男の声がした。
「誰だっ!」
慌てて振り返ろうとするも腕を抑えされる。そのまま銃を取り上げられてしまった。
「は、離せ!」
気付けなかった。周囲には気を配っていたはずなのに気配が全くしなかった。
「落ち着け。抵抗しなければ危害は加える気はない」
「そんなこと、信じられるわけ」
「風見雄二だ。俺はこの殺し合いには乗っていない」
そう言ってから風見雄二と名乗った男はリゼから手を離して拘束を解いた。
-
◆◆◆
「つまり、風見さんは外部と連絡をとる手段を探すつもりなんだな」
成程、と風見雄二の話を聞いたリゼは納得する。
殺し合いに乗らないとすれば、あの繭と名乗った少女を打倒してなければならないが、どう考えてもあれは個人で相手にするには手に余る。
ならばどうにかして外部と連絡手段をとって繭に対抗できる勢力を呼ぶというのが、合理的な解決方法である。
「ところで風見さんは軍の関係者なのか」
「どうしてそう思った」
「私の親は軍人でな。何というか身のこなしが似てたんだ」
気配を消して自分に近づいてきたり、この状況でも落ち着いて行動している様子は一般人には見えない。
尚且つ、どこか父を思い起こさせる雰囲気からリゼはそう推察した。
「一時期アメリカ海兵隊に所属していたとだけ言っておく」
「そうか。ならあんまり詳しいことは話せないよな」
軍人が内部の情報をべらべらと話すわけにもいくまい。
父親が軍の関係者であったからこそ、リゼはそのことをよく理解していた。
-
「人をカードにする腕輪。風見さんは心当たりとかないのか。米軍が秘密裏に開発していた新兵器とか」
「少なくとも、俺の知る限りそんなものはないな。カードから物を出し入れする技術も含めて化学では説明がつかない」
「確かに、これって一体どんな原理になってるんだろう?」
「何にせよ腕輪については外部と連絡をとる手段を探すとのと並行して、外す方法を見つける必要があるな」
仮に外部と連絡をとったことが繭に知れれば、ルール違反を見なされてカードに封印されてもおかしくはない。
繭がこちらを監視している可能性がある以上、外部と連絡をとる前に腕輪を外すのが理想的。
最低でも援軍が到着して繭に反逆行為が発覚する段階では、腕輪を外しておかなければならない。
「これが体温や脈拍を感知して作動する爆弾なら、何かしらの機械で誤認させてから腕を切り落とす手段もあるんだが」
「あ、あんまり想像した光景じゃないな」
隻腕になるのとカードにされるのでは前者の方がマシという理屈は分かる。
事前に麻酔をしておけば痛みを伴うこともないのだろう。
しかし、それでもリゼは自分の腕を切り落とすのには躊躇いがあった。
「外部と連絡をとったり腕輪を外したりするのが重要なのは分かるけど、私は他にもやらなきゃいけないことがあるんだ」
「名簿に知ってる名前があったか」
「ああ。ここに連れてこられてる後輩たちを助けなきゃならない。
できれば風見さんにも協力してほしいんだが、駄目だろうか」
図々しい頼みであるという自覚はあった。
だが軍にいた経験がある人間の協力があれば心強いのも事実である。
「引き受けよう。こちらも一人探さなければならん奴がいるしな」
リゼの頼みを雄二はあっさりと承諾してくれた。
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「それに、こんな大規模犯罪を計画する相手だ。簡単に外部と連絡をとったり、腕輪を外す方法が見つかるとは考え辛い。
それなら仲間の保護を優先しつつ、会場を探索して何かしらの通信機器や工具を探した方が効率がいい」
「ッ! ありがとう」
それが合理的な思考に基づく決断であったとしてもリゼにとっては有難いことだった。
「それで、こちらは一人だが、リゼの知り合いは何人ここに連れてこられた?」
「私は……四人だ」
「多いな。名前を確認していいか」
腕輪に付いているカードの参加者名簿を開いて互いに情報を共有する。
「桐間紗路、香風智乃、保登心愛、宇治松千夜。そちらの知り合いで拉致されたのはこの四人で間違いないな」
「ああ。風見さんの知り合いは、この入巣蒔菜って人であってるよな」
「そうだ。一応、護身術を教えてはいたから戦えないわけじゃないが、できれば早めに保護したい」
「護身術、私もチノたちに教えておけばよかった」
今更ながら後悔する。こんな状況になると分かっていればバイトの空いた時間にCQCを覚えこませていたというのに。
「それと、これは返しておこう」
差し出されたのはリゼの支給品であるベレッタM92だった。
-
「その銃は、風見さんが持ってた方がいいんじゃないか」
「平常時ならそれでいいが、今は何があるか分からん状況だ」
「でも、それだとそっちの武器がなくなるんじゃ」
「問題ない。俺にはこれがある」
雄二が黒いカードから支給品を取り出す。出てきたのはキャリコM950。
「……正直、私は人を撃てるかどうか、自信がないんだ」
「……」
「風見さん?」
「自分のためには引き金を引けなくても構わない。だが、他人のためなら迷わず引き金を引ける男になれ」
「え……?」
「俺の師匠の言葉だ」
リゼはハッとする。何を自分は弱気になっているのだと。
少し前は自分の手で仲間を守ると言っておきながら、頼れる人が現れた途端にこの有様。
雄二の言う通りこの場では何があるか分からない。殺し合いに乗った人間に遭遇することもあるだろう。
仮に雄二がその場にいない状況で敵と遭遇し、そこにチノたちが居合わせたとしたら、彼女らを守れるのは自分だけである。
「ちょっと弱気になってたみたいだ」
差し出された拳銃を受け取る。
やはり金属製の銃は重量感があったが、それを握るリゼの手はもう震えてはいなかった。
-
【F-7/万事屋銀ちゃん付近/一日目・深夜】
【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[服装]:ラビットハウスの制服
[装備]:ベレッタM92@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
1: チノたちが心配
2: 風見さんと一緒にチノたちを探す
3:外部との連絡手段と腕輪を外す方法も見つけたい
【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ】
[状態]:健康
[服装]:美浜学園の制服
[装備]:キャリコM950@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
1:入巣蒔菜、桐間紗路、香風智乃、保登心愛、宇治松千夜の保護
2:外部と連絡をとるための通信機器と腕輪を外す方法を探す
[備考]
※アニメ版グリザイアの果実終了後からの参戦。
支給品説明
【ベレッタM92@現実】
天々座理世に支給。
世界中の警察や軍隊で幅広く使われている銃。
【キャリコM950@Fate/Zero】
風見雄二に支給。
衛宮切嗣が愛用している銃。原作ではケイネス戦で使用した。
-
投下終了です
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投下乙です
これは結構有力な脱出派かな?
しかし腕輪は解除したところで無効化しなければいけないからなぁ……
あと気になったのは「これが体温や脈拍を感知して作動する爆弾なら〜」って台詞ですが、腕輪に爆発の機能はないですよ
-
皆さん投下乙です!
>ゲームセンターに行った
こまちゃん!その人良い人だから!殺す連呼するけど!やっぱ駄目だあぶねーわ!
電撃FCはシズちゃんにひどいことをしましたよね…
>アキライブ!
さっそく騙されてるファバロオオオオオオことカイザル……やっぱりそうなるよなあw
アキラッキーはステルスでどこまでキルスコアが伸ばせるか、ウリスと合流できるかがキーになりそうですね、合流できたらヤバそう
>ご注文は狙撃手ですか?
数話ぶりに大安定な話が。やっぱりこういう時に軍人系は頼りになるなあ
リゼちゃんが誰かを守るために引き金を引く覚悟を決めたのは幸と出るか不幸と出るか
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あれ・・・モノホンのベレッタは確か千夜ちゃんにも支給されてなかったっけ
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>>149
これが体温や脈拍を感知して作動する爆弾なら
→爆弾ではなくカード化する腕輪、という意味だったのですが、分かり辛かったかもしれません
>>151
現実から同じ武器の支給ってなしでしたっけ
もしそうなら、別の銃に変更、修正したのを投下しますが
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>ゲームセンターに行った
うん、掴みは上々。静雄のキャラがこれでもかというほど伝わってきました。
濡れた下着はどうするのか?
>ゲームセンターに行った
二人とも相も変わらずだなあ
アキラはますます性格がひどい事になってるけど上手く隠せるかなw
>ご注文は狙撃手ですか?
お互いいい相手と遭遇できたって感じですね
雄二と理世の似ているようで違う互いの価値観との温度差がひしひしと伝わってきました
敵と遭遇した時どうなるか
>>152
いや現実出典の同一武器の支給は大丈夫ですよ
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>>152
なるほど、そういう事でしたか
読み取れず申し訳ないです
同一武器に関しては問題ないと思います
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皆様投下乙です、私も投下します
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「にゃ゛あ゛あああ゛ああ゛あ゛あ!!!」
夜道を自転車で爆走しながら奇声を上げる女が一人、その名は池田華奈。
風越高校麻雀部のレギュラー、それも大将の彼女は点計算はお手のものだがこの異常な状況に即応できるほど賢くはなかった。
それにしてもこれほどの不用意な行動を取るのには訳があるはず、彼女の周囲を見渡してみよう。
その原因はすぐに知れた。必死で自転車をこぐ池田の後方200mを無言で走る外国人。
そのジャック・ハンマーという追跡者は、池田に恐怖を感じさせるに十分な巨漢であり、大量に搭載された筋肉にも関わらず、体をシャープに絞る陸上選手を超えるスピードをも実現していた。
この殺しあいがスタートして3分で出会った二人は、会話すらなく追いかけっこを始めていた。
ジャックの殺意に溢れた瞳は、捕まれば死ぬという事実だけを池田に教えていた。
既に遭遇から10分が経過していたが、池田の足は止まらない。疲れすら忘れ、ただ自転車を前に進める。
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(冗談じゃないしッッッッ)
(なんで私だけッ)
(なんで華菜ちゃんだけ夜の夜中)
(SFホラーをッッ……!)
SFホラー、池田の脳裏に浮かんだ単語はまさしく言い得て妙。
追跡者はターミネーターを通り越し、池田から見ればエイリアンとしかいいようのない、暗黒神話の世界の住民なのだ。
自転車で逃げる池田ですら息を切らしているのに、ジャックはまるで歩いているかのように平静。
時おり振りかえる池田の表情は徐々に険しくなり、やがて絶望に染まる。
下り坂。道の先に見えたのは、かなりの急斜面の下り坂だった。
スピードを落とすわけにはいかない。そんなことをすれば追跡者は容易に池田を捕らえるだろう。
だがこのままの勢いで突っ込めば、転倒の危険は大。その場合も、やはり待っているのは死。
迷う間もなく、自転車は坂に踏みいる。死に物狂いでバランスを保つ池田が、異変に気付く。
-
(圧迫感がなくなったし!)
ずっと感じていた、土を踏む足音と追い付かんとする気迫が消えていた。
まさか、諦めてくれたのか……そんな都合のいい予測は、次の瞬間消えてなくなる。
池田の眼前に、突如ジャックが現した。坂の上から飛び、常識はずれの飛翔で自転車を追い越したのだ。
「おごっ……!」
驚愕も追い付かず、池田の脇腹に激痛が走る。無言無表情のままで、ジャックがドロップキックを放ったのだ。
坂を下る勢いのまま蹴り飛ばされた池田は、自転車から振り落とされて脇道に体を投げ出す。
胃液が逆流する不快感と恐怖で、顔を上げることすらできない。
ザリ……ザリ……。歩み寄るジャックの暴力に怯えるだけの、池田。このままでは死、あるのみ。
だが彼女は、あえて立ち上がり逃亡を試みることはしなかった。
(華菜ちゃんには何の落ち度もないし……! 死ぬ気で謝れば、きっとなんとかなるし!)
錯乱し、震えながら土下座。口早に「ごめんなさい……ごめんなさい」と繰り返し、憐憫を誘う。
-
「……」
そんな池田の姿を見て、ジャックはやはり無言で、だが確かに立ち止まった。
平伏する池田の前に腰を降ろし、じっと見つめる。そのまま、1分が経過した。
「……わかってく゛れ゛っ」
これは助かるかも、と池田が顔を上げ、言葉を発しようとした瞬間。
ジャックの、まさにハンマーのような拳が池田の下顎に着弾した。
顎が粉々に砕け、縮んだ顔は体全体を持ち上げるかのように宙に舞う。
空中で三回転する池田の体から、ビチャリと何かが零れ落ちた。それは喋りながら殴られたことにより千切れた舌。
舌に追従して、池田の肉体も地に落ちる。舌を噛みきった痛みで、不幸にもまだ意識はある。
仮に彼女が出会ったのがスポーツ選手なら、やはりこんな目には合わなかっただろう。
仮に彼女が出会ったのが武の追究者なら、こんな目には合わなかっただろう。
だがジャック・ハンマーは巨凶を追う者。父・範馬勇次郎に勝つために全てを捨てた彼は、もちろん人間性も捨てていた。
ビクビクと痙攣する池田の頭を潰し、完全に殺害すべく立ち上がるジャック。
-
「…………覇王断空拳!」
「!?」
そんなジャックを留めたのは、茂みから飛び出してきた二十歳前後の女性の拳だった。
放たれた攻撃の威力に、ジャックでさえ瞠目する。その一撃の威力は、一流のグラップラーにも劣らない。
女性……アインハルト・ストラトスは、倒れた池田を見て顔を青ざめさせた。
闘士でもない、しかも女性をこんな目に合わせる人間がいるなど、アインハルトには到底許容できるものではない。
義憤を胸に秘め、アインハルトは悪漢に立ち向かう。一刻も早く男を倒し、被害者を介抱せねばとの思いが、いつになく彼女を焦らせていた。
「覇王流、ハイディ・E・S・イングヴァルト!」
名乗りと同時に、衝撃波でジャックを吹き飛ばすアインハルト。
池田から戦いの領域を離さなければならないとの判断であったが、ジャックは彼女の思ったよりも飛ばされない。
強靭な脚力が、ジャックの肉体を支えていた。
間合いを詰めるアインハルトにジャックが応戦し、拳が応酬する。
ジャックの攻撃は当たらず、逆にアインハルトの魔力を込めた連撃はジャックの筋肉の鎧を幾度となく叩いた。
数分の格闘を経て、アインハルトが表情を曇らせる。何発打ち込んでも、相手を倒せる気がしないのだ。
-
(私の打撃が……覇王流が通用していない!?)
「……よく組み立てられた」
「!?」
「完成度の高い技術体系ではあるが」
「"遊戯"の域は出ていない」
「……!!」
ジャックの挑発に、アインハルトの矜持が沸騰する。彼女にとって覇王流とは、自分だけでなく祖先と共に育んだ誉れ。
余裕ぶるジャックに、アインハルトはジョーカーを切った。
(……繋がれぬ拳<アンチェインナックル>!)
完全な停止状態から、魔力衝撃波で急激に加速し炸裂する、回避不可の拳。
必勝の意気で撃ち込みし奥義……しかし。
-
「いいパンチだ」
「ッッ!」
あのエースオブエース、高町なのはですら初見では被弾したその業を、ジャック・ハンマーは避けずに掴み取っていた。
アインハルトが腕に残留した魔力を地面に叩き込み、土煙を上げる。
握られた腕に力が込められる刹那……利き腕を潰される直前に、アインハルトが逃れられたのは幸運でしかなかった。
だがその幸運を活かせるのが、覇王の後継者たる所以、先祖代々に渡り受け継がれた戦闘勘。
アインハルトは即座に戦闘を切り上げ、池田を担ぎその場を走り去る。
土煙が晴れたとき、その場に残るはジャックのみ。
「……今のが魔術か」
一人たたずむジャックは、先の女が見せた不可思議な現象を噛み締めていた。
支給品の一つに、それらしい説明がついたアイテムがあったための推測。
にわかには信じられなかったが……と、そのアイテムを取り出す。
刻印虫。魔術の大家が作ったという、魔力を秘めた異形の蟲。
ピチピチと蠢くそれを瓶から一匹取りだし、口に放り込んでモニュモニュと噛み潰し、飲み込む。
なるほど、先程アインハルトに撃ち込まれた魔力のような不思議な感覚が、ジャックの口内に広がったではないか。
-
「……消えた」
しかし、その魔力がジャックの身体に残ることはない。魔術回路を持たないジャックには、魔力を肉体に留める術がないのだ。
ただ濃いだけの後味を残し、ジャックは物思いにふける。
範馬勇次郎を倒す、それだけがジャックの存在理由だ。
己の力を増す可能性があるアイテムを得るため、関係のない人間でも迷いなく殺す。
自分と同じく勇次郎に呪縛された弟であっても、それは変わらない。信愛の情がないわけではないが、そんなものに縛られていては勇次郎には決して勝てないのだ。
「勇次郎の前に立つ……」
ジャックの呟きは、闇夜に溶けて消えた。
【F-1/道路/一日目・深夜】
【ジャック・ハンマー@グラップラー刃牙】
[状態]:健康、満腹
[服装]:ラフ
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:刻印虫@Fate/Zeroが入った瓶(残4匹)
[思考・行動]
基本方針:勇次郎を倒す
1:出会った人間を殺害し、カードを奪う
2:勇次郎を探す
[備考]
※参戦時期は少なくともマックシング前。
-
「しっかりしてください、しっかり……」
安全な場所まで逃げられたと判断したアインハルトは、池田を介抱していた。
だがそれには殆ど意味がない。池田の命は、今にも尽きようとしている。
虚ろな目を泳がせながら、池田は最後の命の綱、とばかりに子供の姿に戻ったアインハルトの手を握りしめていた。
アインハルトは己のふがいなさを責める。デバイスがなかったから等と言い訳はしない。
ジャックを倒せていれば……いや、最初から逃げていれば池田は救えたかもしれない。
戦いを選んで力及ばず、流派に泥を塗り、助けようとした人間をも死なせる。
まさに大失態、先祖にも友人にも顔向けできない、と考えるほどの自己嫌悪。
胸一杯にたまったその感情が、池田の最期と同時に決壊する。
「死……にたく……ない……し……」
「あ……ああ……」
池田の瞳孔が開いていく。魂が、カードに封じられ腕輪から剥がれ落ちる。
アインハルトは、そのカードを空中で掴もうとし……取り落として、叫び声を上げた。
「う゛わあ゛ああああ゛ああ゛あああ……」
どれだけ涙が流れても、失われた命は戻らない。
【池田華菜@咲-saki- 全国編 死亡】
【残り66人】
-
【F-2/森/一日目・深夜】
【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:魔力消費(小)、強い自己嫌悪
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
黒カード:1~5枚(自分に支給されたカードは、アスティオンではない)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
1:仲間を探す。
-
以上で投下終了です
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咲勢全滅しおった・・・w
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池田ァ!おまえアニロワ3でもそれでシクったよなァ?
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池田ァ!また1話退場かァ!
泣き叫ぶアインハルトちゃんはかわいいと思いました
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宮内れんげ、神威 投下します
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○がつ×にち はれ
めがさめたらまよなかで、でっかいたてものがめのまえにありました。
ひかねぇがいっていた、すごくあごをあげないとみれないたてものでした。
うえをみていると、だれかがふってきました。
―――
「んなっ!? 人が降ってきたのん!?」
知らない場所で、知らない人。
宮内れんげには、映る全てが目新しすぎた。
何か物音がしたかと思うと、突如降ってきた1つの影。
影はすぐさま体勢を整えて、れんげをちらっと見る。
「・・・・・・どちらさまですのん?」
建物から漏れる光で、顔は確認出来そうにない。
が、少なくとも知り合いではないということは何となく理解した。
影はれんげの質問に答えることもなく、どこかへ歩き始める。
「ちょっと待つのん! 質問にはちゃんと答えろって教えられたのん!」
影に追いついたれんげは、腕にしがみついて食って掛かる。
「・・・・・・君、ここがどこか分かってる?」
「質問を質問で返しちゃいけないん!」
影はハァとため息をつき、答えた。
「僕は神威、これでいいかな?
もう1度訊くけど、ここがどこか分かってるかい?」
「全く分かりません!」
自信満々に答えるれんげに頭を抱えた神威。
上から見えた人影が、こんな年端もいかない子供だったとは。
だが神威にとって、腕にしがみつくれんげは邪魔でしかない。
「……可哀想に。子供は殺したくないんだけどね」
-
突然しがみつかれている腕を振り払い、投げ飛ばす。
飛ばされたれんげは、数メートル先にある本能字学園の壁に激突。
ある程度手加減したつもりだが、少しやり過ぎてしまったようだ。
「君は殺し合いというものを理解していないんだね。
どうやらここはそういう場所のようだ。
弱い奴は次々死んでいく、ただそれだけだよ」
笑顔で語り、その場を後にしようとする。
どんな人生であれ、最期は笑顔で見送り健やかに死なせる。
それが神威なりの殺しの作法だが、僅かにその笑顔は歪んでいた。
―――
気が付いたら、吹き飛ばされていた。
激突の衝撃で、意識が消えそうになる。
それでも、宮内れんげは生きていた。
神威が振り返り、こちらを見てにこやかに微笑む。
「おー驚いた、子供相手にやり過ぎたと思ったけど丈夫だ。
壁にぶつかってまだ生きていたなんてね」
「う……ぁ……」
だが、れんげは動けなかった。
何か言葉を発しようにも、口からは荒い息と、少量の血。
そして呻き声が出て来るだけだった。
男はこちらを笑いながらじっと見つめる。
流石のれんげも、何が起こるか直感で察した。
「や……め……」
せめてもの足掻きと言わんばかりに、右腕を男へ伸ばす。
男を睨みつけ、精一杯抵抗する。
それが、意味がないものと分かっていても。
「……やっぱりいいや。
今ここで君を殺すのはやめておくよ」
だが意外なことに目の前の男は、くるりとれんげに背を向け、
「もう一度言っておくよ、俺は神威。
君とはまたどこかで会うことになりそうだ。
それから、いきなりぶん投げてごめんね」
と言い残し、悠々と歩き去っていった。
「待つ……の…………ん……」
ふってきたひとは、とてもこわいひとでした。
いきなりうちをなげとばして、またあうだなんていっていました。
もしかしてあれは――
ほんもののうちゅうじんだったのん?
宮内れんげの意識は、そこで途絶えた。
-
* * *
女と子供は、これまで殺そうとはしなかった。
女は強い子供を産む可能性があるし、子供は将来強くなるかも知れない。
だが、この場においては生き残るのは1人だけ。
ここではそんな美学も、意味を為さないのであろうか。
(……惜しい逸材だったかもねぇ。あの目は本物だ。
将来大物になれたかも知れないけれど……)
神威はれんげに危害を加えたことを、やや後悔していた。
こんな場所といえど、子供を攻撃するのは抵抗がある。
だから殴るのではなく、投げ飛ばしたのだ。
何より、最後に睨み付けてきたその『目』は――。
殺し合い自体は今まで何度も演じてきた。
実の父親や妹を殺そうとしたこともあった。
夜兎とは、昔からそういう種族だった。
神威はその血を忠実に受け継いでいる、ただそれだけ。
だが、今回は違った。
己の血の命ずるままに行うわけではない。
繭とかいう女の手で『用意された』戦場、『強制された』殺し合い。
まるで、ふざけたお遊戯ではないか。
アホと踊るよりとんでもないアホと踊った方が楽しい。
だが、踊らされるのは面白みがない。
いつかはあの主催も殺さなければいけない。
まあ、それでも。
「……彼らもいるみたいだし、別にいいか」
名簿を見ながら思わず口元を歪める。
血の繋がった妹、神楽と、江戸の侍、坂田銀時。
この場にいない高杉を殺せないが心残りだが、別に構わない。
あの夜王鳳仙を倒したほどの修羅。
その『目』、決して忘れてなどいない。
(僕は好物は最後に取っておくタイプだからね……
最後まで死なないでよ? 神楽、お侍さん)
存外、踊らされるのも悪くはなさそうだ。
-
【B-6/本能字学園付近/一日目・深夜】
【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]:ダメージ(中)、気絶
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜3 枚
[思考・行動]
基本方針:???
1:いまの、うちゅうじんなのん?
2:……。
[備考]
※骨が折れない程度に手加減はされました
【神威@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜3枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを楽しむ
1:最終的に主催も殺す
2:あまり女子供に手は出したくないけど……
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投下を終了します
-
投下乙
れんちょん死亡は免れたけど結構ダメージ負ってるな
のんのん勢は蛍以外気絶中というね
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投下乙です。れんちょんが助かったようで一安心
自分も投下します。
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「何処の誰だか知らねえが――」
纏流子は、先刻目の前で繰り広げられた虐殺劇を思い出す。
繭と、そう名乗った女がアーミラなる女を殺した。
彼女の使っていた、カードの能力に流子は心当たりがない。
これまでにも様々な極制服の使い手と戦ってきたが、竜を呼び出すなど生命戦維の力をもってしても不可能な筈だ。
「――いけ好かねえ野郎だぜ」
不快感を隠そうともせず、流子は忌々しげに口許を歪める。
そう、いけ好かない。
率直に言って、気に入らないのだ。
あの見透かしたような態度。
何もかも自分の思い通りに行くと思っている物言い。
アーミラがやらなければ、自分が突っ込んでいたかもしれない。
自分なら、あんな竜の手ごときで殺されたりはしなかったろう。
伸びてきた手を掻っ捌いてあの透かした顔へ肉薄し、そのままぶった切ってやれた筈だ。
もちろん、流子とて馬鹿ではない。
繭はそのような局面にも備えて何かしら姑息な手を用意しているのだろうし、ここで短気を起こしても結局死ぬことになる。そう考えたから、アーミラの二の鉄は踏まなかった。
流子としては、自分があの女に殺されることを危惧するなど――屈辱以外の何物でもなかったが。
「いいぜ。そんなに痛い目を見るのがお望みならそうしてやるよ」
流子はくつくつと笑うが、その眼光は猛禽を彷彿とさせる鋭さだ。
怒りの矛先が誰に向かっているのかなど、言うまでもない。
――――この会場に存在する、全てだ。
「よくもまあ、私をこんなつまらねえゲームなんぞに駆り出してくれたもんだぜ」
纏流子。
彼女の纏っている神衣は、彼女にとっての相棒たる"鮮血"ではない。
露出度が高い所こそ変わらないが、色は全面を通し白を基調とした、清潔感のあるものだ。
名を純潔。神衣、純潔。かつては鬼龍院皐月が袖を通していた花嫁衣装。
尤も。これは、皐月に着こなせる代物ではなかった。
「いいよ、繭。てめえの思い通りに動いてやる」
実に屈辱的だし、腸が煮え繰り返りそうな思いだが、それが一番手っ取り早いというならそうしてやろう。
私はこんなところでは死ねないし、死んでやるつもりもない。
-
漸く自分の価値に、人間という生き物の本懐に気付くことが出来たのだ。
それなのにどうして、こんな所で死ぬことを受け入れられようか。
繭は憎たらしい。だがそれ以上に、私はこの下らない遊びをとっとと終え、帰らねばならない場所がある。
「ただし忘れるんじゃねえぞ。私が最後に殺すのはてめえだ」
そこだけは、何があろうと変わらない。
纏流子は繭という存在を許せないし、許そうとも思わない。
こうしている今だって心の底から嫌悪している。
仮に彼女が純潔を纏っていなかったとしても、そこだけは変わらなかっただろう。
好戦的な笑みと共に、白磁の花嫁衣装を纏う少女が往く。
片太刀バサミはない――しかし問題ない。
純潔の力さえあれば、あんなものが無くたってこの会場に居る連中くらいは軽く捻り潰せるのだから。
「さあ始めようじゃねえか。てめえの言うゲームってヤツをよ」
獰猛に笑い宣戦する彼女を見た者は、きっとこう思うだろう。――怪物、と。
それは彼女が忌んだ自分自身の正体であり、本来の世界線ならば乗り越える苦しみだった。
だが彼女の物語は繭という邪悪に曲げられ。二度と戻ることはない。
今の纏流子は、間違いなく『生命戦維の化物』だった。
【C-3/ガソリンスタンド/一日目 深夜】
【纏流子@キルラキル】
[状態]:健康
[服装]:神衣純潔@キルラキル
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:神衣純潔@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:全員殺して優勝する。最後には繭も殺す
1:とりあえず手当たり次第に暴れ回る。
[備考]
※少なくとも、鮮血を着用した皐月と決闘する前からの参戦です。
支給品説明
【神衣純潔@キルラキル】
纏流子に本人支給。
纏流子の父が開発していたもう一つの「神衣」。
襟の目の模様が蠢くなど「鮮血」同様生物的な動きを見せており、自我を有しているようだが喋ることはない。
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投下終了です。
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ヒエッ……
まさかその時期から参戦するとは……
北西のマーダー率がやばいことになってきた
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投下乙です マーダー不足の問題が解消されるコワイ!
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投下乙です
ヤバい場所にヤバいマーダーが配置されたなぁ
仮投下スレで特に指摘されませんでしたので、本文と状態表を一部修正してこちらにも予約分を投下します
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「――――うわああああああああああああ!!!!?」
江戸時代の家屋を匂わせる和風の部屋の中、ソファに全身を乗せていた矢澤にこは意識が覚醒するとともに跳び起きた。
息で肩を揺らしながら、周囲を見渡す。
デスクの上には『糖分』の二文字が額に飾られている。なぜ『糖分』にする必要があったのか意味が分からない。
目の前には膝丈くらいの高さの机、向かい側にはもう一つのソファがある。
そこから少し目線を逸らすと、筒の上に見ているとこっちまでやる気をなくしそうな表情をした顔をちょこんと乗せた、手が生えている変な置物があった。
「ゆ、床が崩れて――私、落ちて、ない?」
この場で目覚める前に起きたことを思い返す。
いつの間にか白い部屋にいたと思ったら髪の毛がもじゃもじゃした女の子がいきなり『殺し合いをしてもらう』なんて言い出した。
そしたら同じもじゃもじゃアフロの男の人が抵抗して、隣にいた綺麗な人が翼を生やして猛スピードで飛んで――。
――待って。待って、ちょっと待って。
「…でも、夢じゃないのよね」
俯きながら暗い声色でつぶやいた。
戦争とは無縁のスクールアイドルのにこにとって、
それは『頭がどうにかなりそうだった』で片づけられることではなかった。
そんなもの夢か幻だろうと自分で自分を鼻で笑ってやりたいが、にこの目に映る見覚えのない部屋がこれは現実だと訴えていた。
「そうだ!白いカード…」
ふと、にこはある不安から殺し合いを強いた少女の言っていた腕輪とカードのことを思い出し、自分の腕を見た。
確か、あの少女は白いカードには必要な情報が「願ったら表示される」といっていた。
にこは真っ白な長方形に向かって、この狂ったゲームに巻き込まれた者達の一覧を映すよう念じてみる。
夢で終わってほしい…そう願っていたことが全て現実なのだとしたら、あの白い部屋で見た――。
高坂穂乃果。南ことり。絢瀬絵里。東條希。
やはり現実だった。
あの白い部屋にいた、にこのかけがえのない友達の名が、無慈悲にも突きつけられた。
-
「……黒いカード…黒いカードには何が入っているのかしら」
あまりにも残酷な事実に、にこは何も考えられなかった。
この殺し合いが招く最悪の事態のこと考えたくなくて、そのことをできるだけ考えないようにした。
詰まる所、現実逃避だ。
手始めに、ソファに腰かけ、黒いカードを一枚手に取って『出てこい』と念じてみた。
「ヒィッ!?」
出てきた物は、時代劇でしか見たことのなかった刀だった。
にこは自分が殺し合いの渦中にいることを改めて認識し、短く悲鳴を上げる。
おそるおそる、鞘から刀を抜いてみる。どうやら正真正銘本物のようだ。
その刀身は部屋の明かりを反射して光り輝いており、切れ味も相当なものだとにこの素人目から見てもわかる。
「うう…」と声を上げながら、刀を梢にしまう。
「刀って案外重いのね……って何これ?」
現実から目を背けて何気ない感想を漏らしていると、黒いカードから刀と一緒にある物が出ていたことに気付く。
「…イヤホン?」
にこもよく見慣れている、音楽プレーヤーの再生には欠かせないあのイヤホンだ。
黒いカードは1枚しか使っていない。一緒に出てきたことは間違いないだろう。
スクールアイドルのにこからしてみればイヤホンと刀の組み合わせなど異色以外の何物でもない。
にこは怪しく思い、顔を近づけて刀をよく見てみると――
「…何で刀にイヤホン入れる穴があんの?」
柄の部分にイヤホンジャックがあった。
◆ ◆ ◆
イヤホンを通して、曲がにこの耳に入り込んでくる。
そのイヤホンは刀の柄にあるイヤホンジャックに繋がれていた。
どうやらこの刀は驚くべきことに音楽プレーヤーを内蔵しているらしい。
こんな刀にどんな曲が入っているのか。
好奇心半分、現実逃避欲求半分でイヤホンを両耳に、音楽を聴いてみることにした。
明るい曲調の前奏がエレキギターで奏でられ、女の人の歌声が聞こえてくる。
-
怖くなんかないもん だってあなたがいるから
もう覚悟は決めたよ だから引き返したりしない
この人もアイドルをやっているのだろうか。
当たり障りのない世界 そんなのくそくらえ
だって本気の悪ふざけ だからまばたきするな!
及び腰の偉い人 そんなのくそくらえ
だって本気の悪ふざけ なれてくると危ない!
楽しそうに歌う声を聞いているとμ'sのことを否が応にも思い出してしまう。
μ'sがあったからこそ、にこは諦めかけていたスクールアイドルを続けることができた。
高坂穂乃果。園田海未。南ことり。西木野真姫。星空凛。小泉花陽。絢瀬絵里。東條希。
そして、矢澤にこ。この9人は、にこにとって奇跡以外の何物でもなかった。
さあ、規制なんか振り払い、どこまでもいこう
……見たことのない新しい世界へ
だから、そんな奇跡をこんなわけの分からない殺し合いで壊されたくない。
この9人は誰も欠けてはいけない。9人揃って初めてμ'sなのだ。
放送コードがなんぼのもんじゃい! ブレーキなんて必要ねえ!
放送コードがなんぼのもんじゃい! いつも心に白装束
放送コードがなんぼのもんじゃい! 始末書差しかえ関係ねえ!
放送コードがなんぼのもんじゃい! 後戻りはできない
怖い。悲しい。辛い。けれど、この曲を聴いていると、歩き出すためにソファから立ち上がれるくらいの勇気はもらえた気がした。
「なんぼのもんじゃーい……」
歌の練習をしていたときのことを思いながら、少し曲に合わせて歌ってみた。
矢澤にこも、音ノ木坂学院のスクールアイドル『μ's』の一員なのだ。
「――怖いものは××××《ピー》 だってあの人きち××《ピー》だから……!?」
この曲も2番目に入ったのだが、よくよく聴いていると…何かがいけないような気がした。
「ちょっと待てェェェ!!何でこの曲放送コードだとか××××《ピー》だとかきち××《ピー》だとか××《ピー》みたいな単語歌詞に入ってるのよ!!この曲作った人頭おかしいんじゃないの!?」
にこはソファから立ち上がってイヤホンを乱暴に外した。
思えば1番目の歌詞にもくそくらえとかアイドルにしては割と汚い言葉を使っていた。
それとも、この歌を歌うアイドルはそういうキャラ作りをしているのだろうか。
とにかく、ここでじっとしているわけにもいかない。
にこの役に立つかはわからないが、せめてもの護身用にと刀をカードに戻さず持ち歩くことに決めた。
イヤホンをポケットに入れ、手こずりながらも刀をようやく胸の高さまで抱えることができた。
今度は立ち上がるだけではなく、一歩を踏み出す番だ。
にこが意を決し歩を踏み出した瞬間―――
-
「お通ちゃんんん!!」
「ヒギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
ガラガラガラと玄関の引き戸を勢いよく開けて入ってきたのは、袴姿とメガネくらいしか特に特徴のなさそうな地味な少年であった。
突然の出来事にただでさえ高まっていた緊張も最高潮になり、思わず叫んでしまった。
「……」
「……」
ひとしきりの悲鳴が鳴り終わると、今度は沈黙が空間を支配する。
にこは刀を携えたまま固まっている。
少年もどうしていいかわからずその場から動かなかったが、少年の泳いでいた目線が刀を捉えた。
「あ、あの、これは」
刀を凝視する少年を見てなんとなく状況を察したにこは釈明するべくストップしてしまった頭を動かそうとする。
刀を持つ手は震えており、非常に危なっかしい。
「い、いや!違うんです!万事屋の中からお通ちゃんの歌が聞こえたからまさかと思って…と、とにかく僕は乗ってませんから!あなたを襲おうとも思ってませんから!ラブでライブなランデヴーなんてしませんからァァァ!!」
先に釈明したのは少年の方だった。
言葉からは必死さが伝わってきた。
「…ラブでライブなランデヴーって何?」
◆ ◆ ◆
少年の名は志村新八といった。
坂田銀時の営む「万事屋銀ちゃん」で働く、かぶき町における貴重な常識人だ。
外見的特徴はメガネ以外にこれといってない。ぶっちゃけ地味である。
そんな地味なメガネもとい志村新八も、この狂った殺し合いを強要された者たちの一人なのだ。
新八の意識が暗転してから初めて目覚めた場所は、地図によるとF-7らしかった。
なぜそんなことがわかるのかというと、新八の目と鼻の先には慣れ親しんだはずの万事屋銀ちゃんの看板があったからだ。
1階にはスナックお登勢もある。
なんでこんなところに万事屋が…とは思ったが、白い部屋での一件を思うと何があってもおかしくない。
女性が翼を生やして少女に立ち向かったはいいものの、少女が召喚した竜の手によってあっさりと返り討ちにされてしまった。
というか何なんだよあの反則技。なんであの主催者カードバトルしてんの!?しかもいきなりエクゾディアみたく腕だけ召喚したよ!!1ターン目からエクソディアって…最初からクライマックスってレベルじゃねーぞ!!
ってなんでネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲まで地図にあんだよ!!あれ実在したの!?あんな卑猥な形したモン集めるとかあの主催者どんな趣味してんだ!!
…いや、ツッコんでいても仕方がない。
あの少女の話によると、身体が死ぬと魂がこの白いカードに封印されるという。
このルールは単なる死への恐怖とは別の恐怖を煽るだろう、と新八は思った。
あの世にもいけず、永遠にカードの中に閉じ込められるのだ。考えただけで恐ろしい。
名簿にはもう目を通している。
僕の知る人物は銀さん、神楽ちゃん、土方さん、桂さん、長谷川さん、そして神威。
前の4人に関しては簡単に死ぬことはないと思う。
長谷川さんも悪運は妙に強いところがあるので大丈夫だろう。
しかし、問題は神楽ちゃんのお兄さんでもある神威だ。
彼が一度戦闘をすればそこら中が焼け野原になってしまう。
とにかく、神威以外の5人は僕としても信頼できる人物なので、できるだけ早く合流したい。
目の前にある万事屋には、明かりがついていた。
ということは、誰かが中にいるということだ。
僕は神威以外の人物と出くわすことを願いながら万事屋に近づいて――
-
「――それで、好きなアイドルの曲を歌っていたのを盗み聞きして飛んで入ってきたってわけ?」
「盗み聞きって…まぁ事実だけど。お通ちゃんまでいるのかと思ったらいてもたってもいられなくって。名簿に見落としがあるかもしれないし」
「悪かったわね。好きなアイドルじゃなくって」
にこと新八は向かい合ってソファに腰かけていた。
新八はどうやら、寺門通というアイドルが殺し合いに巻き込まれていると勘違いしていたらしい。
新八も大半の参加者と同じく恐怖心を拭えていなかったため、にこの刀を見てビビッてしまい、
自分は殺し合いに乗ってないことを何とか伝えようとした結果があのセリフだった。
ラブでライブなランデヴーてどういう意味だよお前…と新八は自分で自分にツッコミを入れたかった。
万事屋に飛び入ったものの、そこにいたのは自分より小柄な、どう見ても年下の少女だった。
よりにもよって年端もいかない少女に向かって言ってしまった。
「でも、本当に名前も知らないのかい?」
「寺門通なんていうトップアイドルなんて聞いたこともないし、そんな有名なアイドルだったらにこが知らないはずないわ。江戸も万事屋も知らない」
あれから何とか落ち着きを取り戻した二人は互いのことを話した。
当然のことながら、話が噛み合わない。
江戸で寺門通を知らないとなれば相手を鼻フックデストロイヤーファイナルドリームの刑に処すところだが、
今回ばかりは事情が違い、相手は年下の少女なので新八はさして気にしない。
にこから見ると、この新八という地味なメガネが袴姿だということにもツッコみたかったが、
いざ話してみれば江戸だとか侍だとか天人だとか、わけのわからないことばかり話してくる。
にこの世界では、江戸や侍は歴史の授業と時代劇で触れるくらいでこの世に存在していないのだから無理もないだろう。
天人――宇宙人に関してはSF映画くらいでしか知らない。
「僕もにこちゃんの言ってる『みゅーず』は知らないなぁ。石鹸をPRするためのアイドルでもないんだよね?」
「いや、石鹸じゃないから。スクールアイドルだから」
「じゃあ、B'zの姉妹グループとか?」
「いやそれだとμ'zだから。μ'zじゃなくてμ'sだから」
新八も新八で、秋葉原やμ'sやという言葉を聞いて頭上に疑問符を浮かべていた。
ラブライブ!という言葉を聞いてとても気まずそうな顔をしていた。
一応、にこの熱弁により新八にもスクールアイドルは理解することができた。
テラコヤアイドルとかいったら何故か怒られたが。
結局、二人がきっちりと理解できたのは互いのアイドル事情と住む世界が違うことくらいであった。
「…あの、一つ聞きたいんだけど」
「なに?」
「その寺門通ってどんなアイドルなの?」
なぜにこがそれを聞いたのかというと、単なる興味だ。
たとえ住む世界が違っても、歌って踊れるアイドルがいるということは共通している。
新八の世界の話を聞いていると、江戸のトップアイドルについて知りたくなったのだ。
「どんなアイドルっていうと…そうだね、歌って踊れて…あと、どんな逆境にもめげずに頑張れる強い精神を持ってるアイドルの中のアイドルだよ!
あとは、語尾に何か言葉を繋げるお通語で話すってとこもポイントかな。ありがとうきびウ○コって感じで」
「ウン――!?」
先ほどの『放送コードがなんぼのもんじゃい!』みたいな歌である程度は察していたが、割と下ネタを進んで使うアイドルなのね、とにこは思った。
まだμ'sに入っていなかった頃に後輩にキャラ作りについて話したことがあったが、寺門通というアイドルはお通語でキャラ作りをしているらしい。
「じゃ、じゃあアンタは、なんでそのお通ちゃんを好きになったの?」
「お通ちゃんも元は無名だったんだけどね。僕が自暴自棄になって何もかもがどうでもいいって思い始めてた頃、
お客さんが誰もいないのに路上ライブしていたお通ちゃんの姿を見ていると元気が湧いてきたんだ。
勇気をもらえたから、僕はお通ちゃんを応援したいんだ」
-
寺門通の話をしている新八は、なんだか嬉しそうだった。
それを聞いたにこは、μ'sに重なるものを感じた。
μ'sの9人も、逆境にめげずにいたからこそ、前に進むことができた。
アイドルとは笑顔を見せる仕事ではない。笑顔にさせる仕事なのだ。
「…アンタはにこがスクールアイドルってこと、知ってるわよね?」
「うん、μ'sっていう9人のテラ…スクールアイドルなんでしょ?」
「私も最初は怖かったけどね…アンタがここに来る前にお通ちゃんの歌聞いて、ちょっと勇気もらっちゃった。私も形は違うけどアイドルだから、その話なんとなく分かる気がする」
確かに歌詞はツッコミ所満点だったが、なんとなく前に進もうという気になれたのは事実だ。
「私以外のμ'sのメンバーも4人、ここにいるの。μ'sは私にとって奇跡なの。誰も欠けちゃいけないの!だから…その…い、一緒に、探してくれない?」
「もちろん!」
新八は即答した。
誰も欠けてはいけない…それは万事屋にも言えることだ。
銀さんに神楽ちゃん、そして志村新八。
この3人が揃って万事屋銀ちゃんなのだ。
新八はにこの言うことが痛いほど理解できた。
「μ'sって音ノ木坂学院ってとこのスクールアイドルだよね?なら、地図に…あった。ここに向かえば、どっかにいるにこちゃんの仲間も集まってくるんじゃないかな」
そう言って新八は地図が移された白いカードをにこに見せる。
「え!?ちょ、何で音ノ木坂学院がそこにあんのォ!?」
「こっちが聞きたいよ…。一応、ここが万事屋銀ちゃんね。僕がいつも働いてるとこ」
地図を見てにこは愕然とする。
新八によると、二人が今いるこの場所も本来は江戸にあったという。
「にこちゃん、今は考えても仕方ないよ」
「うっ…そ、そうよね。私も音ノ木坂学院に向かおうと思う。駅から電車に乗ったらできるだけ早く着くかしら」
「なら、決まりだね」
今後の方針は決まった。
駅を経由して音ノ木坂学院へ向かい、その過程で協力できる人やμ'sのメンバーを探す。
なぜ鉄道がここに敷いてあるのかは考えたくなかった。
「あ、そうだ。にこちゃんの持ってた刀、使わせてくれない?」
「へ?いいけど…」
「ありがとう。こんななりでも家が剣術道場だから、いざとなったらにこちゃんを守れるかもしれないからね」
新八はソファから腰を上げ、机に置かれていた刀を携える。
袴を着た地味なメガネだというのに、その姿はにこにはとても頼もしく見えた。
こうして、志村新八(16)と矢澤にこ(18)は動き出した。
彼らの行く先に何が待っているのか、それは誰にも分からない。
【F-7/万事屋銀ちゃん内/深夜】
【志村新八@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:いつもの格好
[装備]:菊一文字RX-78@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜3枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
1:にこと、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう
2:銀さん、神楽ちゃん、桂さん、土方さん、長谷川さん、μ'sのメンバーと合流したい
3:神威を警戒
[備考]
※矢澤にこと情報交換しました
※矢澤にこを完全に年下だと思い込んでいます
※万事屋付近にいる天々座理世、風見雄二とは時間帯が深夜だったこともありニアミスしています
【矢澤にこ@ラブライブ!】
[状態]:健康
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2枚、イヤホン
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
1:新八と、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう
2:μ'sのメンバーと合流したい
[備考]
※参戦時期は少なくとも2期1話以降です
※志村新八と情報交換しました
【菊一文字RX-78@銀魂】
沖田総悟が使用している刀。矢澤にこに支給。イヤホン同梱。
長船M-IIの倍の価格で売られている大業物。
最大の特徴は内部にデジタル音楽プレーヤーを搭載している点であり、
連続再生時間は最大でなんと124時間(日数にすると5日と4時間分)にも及ぶという、D-snap(100時間再生)を凌駕している代物。
柄の部分にイヤホンジャックがある。
プレーヤーには寺門通の歌う曲が入っているが、他にどんな曲が入っているかは後続の書き手の方にお任せします。
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以上で投下終了します
タイトルは『9人いないと野球もできない』です
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投下お疲れ様です。
続けて投下させていただきます。
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俺は生きているのか。
フードを深く被った男――間桐雁夜が意識の目覚めと共に己の掌を見つめる。
彼は聖杯戦争と呼ばれる殺し合いとも捉えられる一種の儀式に参加していた。
願いを叶えるために血で血を洗う悲しくて泥臭い人間の腐った信念を詰め込んだこの世の毒吐き世界。
ありとあらゆる手段を用いて他の参加者を殺す現代の裏社会にて彼は死んだ。
愛する者と守りたい者のために己を正当化して夢だけを視界に捉えていた男は死んだ。
其処は暗い暗い蟲の中で、守りたい者に手を伸ばすも何一つ、欠片さえ掴めずに男は死んだ。
そんな男が行き着いたのは天国でも地獄でも無ければ現代の理、つまり死んでおらず受肉している。
意識が在る。身体が在る。生命が在る。
黄泉の世界ではなく常世の世界に身を持った男を待ち受けていたのは一人の少女と殺し合い。
どんな方法や魔術を使用したかは不明だが、全てをカードに包む少女は殺し合いの開幕を告げた。
優勝――最後の一人になれば願いが叶う。まるで聖杯戦争のようだ。
使役するサーヴァントが存在しないため己の力一つで乗り越える、まさに実力主義の世界。
反逆すれば己はカードになると言われている。
一種の結界魔法によって戦わなくても生命が握られている。
戦わなければ生き残れない、ではなく、戦わなくても生命をが握られている状態に逃げ道など存在しない。
ならば間桐雁夜は他の参加者を殺すのか。
否。
もう懲り懲りである。
この手は汚れきっている。
大切な人達を抱きしめるにはあまりにも醜く、血に染まり過ぎた。
彼が夢見るのはもう一度、帰ること。
「葵さん……桜ちゃん……」
まだ彼女達が生きているのなら。
間桐雁夜は彼女達を守る修羅となって永遠に闇の中を彷徨うだろう。
彼女達と共に理想郷に住める未来は彼自身の手で閉ざしてしまっている。
顔向け出来ないならば、裏で彼女達を守る闇の住人になるしかないのだ。
そのためには帰らなければならない。
脱出の方法は不明だが、死者蘇生を行える少女のことだ。
何かしらの手段を用意しているはずだ。ならば接触を試みるべきである。
聖杯戦争における教会のように何かしらの施設があるかもしれない。
まずは情報収集に努めようとするが、始めの接触は思ったよりも早かった。
-
「突然で悪いが貴方は人間を殺して回る欲に塗れた弱者か?」
開口一番とは思えない言葉を発しながら黒髪の女性が間桐雁夜に接触する。
その長い黒髪と凛々しい眉毛、整った身体に黄金比とも読み取れる美しい身体を持った女性。
少々奇抜なセーラー服を着ていることだけが不思議ではあるが。
彼女の言葉に間桐雁夜は何を言われているか理解しているのに処理が追い付かない。
殺し合いに参加するなんてさらさらない。
故に他の参加者を殺すつもりも無ければ、欲に塗れている訳でも――どうだろうか。
ともあれ、間桐雁夜は自分はそんなんじゃない、と告げるために口を動かす。
しかし流石にフードを被ったままでは感じが悪く、年下の女性に対する態度ではないためフードを降ろす。
「俺はそんなんじゃない。誰かが不幸になっても自分に幸運なんて訪れるモンじゃないさ」
そう告げると踵を返しその場を去ろうとする間桐雁夜。
フードを降ろしたことによって露わになる魔術師突貫工事の代償。
日常世界に似合わない傷を少しでも目の前の女性に見せたのは失敗だったかもしれない。
だが、この女性が何を目指しているかは知らないが、彼が関わる理由は無い。
力強く言い放った女性。
その瞳は覚悟在る瞳で、聖杯戦争中の間桐雁夜も持ち合わせていた何かを成し遂げるための覚悟が宿った瞳。
一つの目標――夢のために己の全てを投げ出して泥塗れになっても走り続ける覚悟を持った瞳だった。
「ならば私と共に来て欲しい。
この巫山戯た殺し合いを破壊する私の牙となってくれないか?」
「……は?」
この女性は何を言っているのか。
一緒に来て欲しい。こんな顔の男と関わりを持つ何てどうかしている。
巫山戯た殺し合いを破壊する。正義感溢れる魅力的な女性だ。
私の牙。まるでサーヴァントに対するマスターのようだ。
-
「私は鬼龍院皐月。本能寺学園生徒会長を務めている。
もしこの殺し合いを破壊するつもりがあるなら私に力を貸してくれ」
「俺は間桐雁夜……殺し合い何て巫山戯てると思う。けど、皐月ちゃ……どうする気なんだい?」
「貴方の力を見込んで頼んでいる、間桐雁夜。
感じる説明の出来ない力――私の知らない何だかよく解らない力を貴方は持っている」
鬼龍院皐月はこの殺し合いを破壊するつもりでいる。
どんな理由や思想があれど他人を殺していい理由にはならない。なってはいけない。
正当化してはいけない巫山戯た状況を破壊するために彼女は仲間を集めている。
この会場に居る仲間は蟇郡苛と満艦飾マコ、そして纒流子。
けれど彼らは諸事情により本来の力を発揮出来ない状況に陥っている。
蟇郡苛は己の誇りでもある極制服が度重なる激闘により砕け散ってしまった。
満艦飾マコはどんな状況でも己を貫き通す強い女だ。だが、戦闘能力が大きく欠けている。
妹である纒流子は神衣純血を身に纏い、悪の世界に身を落としている。
この状況で鬼龍院皐月が取る行動は仲間を集めること。
自分一人で羅暁に勝てないのと同じように、殺し合いを破壊するために仲間を集める。
「願いを叶える力がこの世に存在してなるものか。
だが願いに釣られ己の欲を駆り立てられた人間は何処かで道を踏み外す。
誰かが汚す必要の無い手を血で汚してしまう前に、私はこの殺し合いを破壊する」
力強く一歩踏み込みながら鬼龍院皐月は宣言する。
殺し合いを破壊する、と。
轟く言葉は辺りを震わせるようで自然と間桐雁夜の身体も震えていた。
強い信念を持っている鬼龍院皐月に対し自分はどうなんだ。
腐っても一度は誰かのためにその身を犠牲にする程の覚悟を持ち合わせていた筈だ。
もう彼女達の前に現れないで裏から守る? そんな結末のために殺し合いを生き残ることなど出来るのか。
自分が生きてるなら、葵さんが生きているなら、桜ちゃんが生きているなら。
もう一度凛ちゃんを交えて、笑って時を過ごしたい。
刹那でも構わない。その理想郷の一瞬を抱きしめ、永遠の刹那として一生手放さないで生きて行きたい。
そのためには元の世界に帰らなければならない。そのためには殺し合いから脱出しなければならない。
「強いね皐月ちゃんは……おっと馴れ馴れしくてごめんね。
俺なんかでよければ力になってあげるって言いたいけど、実際どうなんだろう。
正義の味方になるつもりはない。けど、もう一度逢いたい人達のために死ぬつもりはない……だからよろしく」
伸ばした腕は刻印蟲に蝕まれ弱々しく、脆い。
けれど彼の言葉どおりもう一度逢いたい人達のために死ぬつもりはない。
まるでヒーローのような言葉は自分でも臭いと間桐雁夜は思う。
もっと別の言葉があるだろうと自分を嘲笑いながら。
「他人の夢を笑う資格は誰も持っていない……よろしく頼む間桐さん」
掴まれた掌を繋ぐ一つの覚悟。
男と女は境遇や生き様は違えど、大切な人達が存在する世界のために己の牙を剥き運命を斬り裂く。
-
「流子……お前が皐月の手を握る日のために私も戦うぞ」
鬼龍院皐月でも間桐雁夜でもない声が響く。
謎の男の声に驚き間桐雁夜は辺りを見渡すが人影一つ見当たらない。
鬼龍院皐月は身動き一つ取らずに黙って己の胸を見つめている。
釣られて視線を落とす間桐雁夜だが中々に膨らんでいるモノ以外に何があると言うのか。
鬼龍院皐月は唾を一度飲み込み呼吸を整えてから言葉を発した。
「鮮血……今のはお前の声か?」
「――皐月!? 私の声が聞こえると言うのか!?」
「セーラー服が喋ってる……喋ってる……?」
「なに、たしか雁屋と言ったな。お前も聞こえているのか!?」
間桐雁夜は喋るセーラー服を初めて見た。当然である。
どうやら鬼龍院皐月と知り合いらしいが、そもそも服と知り合いとはどんな表現だ。
「これも腕輪の影響なのか?」
「解らない。だがこのチャンスを逃す訳にはいかない。
皐月よ、私の声が聞こえる内に協力して流子を取り戻すぞ」
「当たり前だ鮮血。お前に言われなくても最初からそうするつもりだ」
流子。
そう呼ばれる存在を取り戻すことが鬼龍院皐月と鮮血の目的らしい。
殺し合いに参加している知り合いの名前だろうか。
気付けば間桐雁夜は誰が殺し合いに参加しているか把握していない。
鬼龍院皐月と鮮血の話が終わったら自分も確認しようと思い、今は黙って彼女達の会話を聞く。
「流子とは私の妹だ……そして鬼龍院羅暁に操られている」
「妹……その流子ちゃんを助けるのなら、俺も協力する」
「済まない間桐さん。今はどんな力でも欲しいのが現実だ。
私と鮮血だけではもしかしたら流子に敵わないかもしれん――無論、全て正面から捩じ伏せるつもりでいるが」
己の拳を握りながら力強く宣言する鬼龍院皐月。
間桐雁夜には鬼龍院羅暁の名前に心当たりはないが、鬼龍院の姓から紐解くと皐月の親族だろう。
妹が操られている。部外者には踏み入ることの出来ない家庭内事情のようだ。
妹。
その言葉に間桐雁夜は勝手に共感を覚えていた。
例え求められていない救いの手だろうと、自分の視界に捉える不幸を取り除きたい。
もう一度桜ちゃんに笑ってもらいたい。
鬼龍院流子。
名前しか知らない皐月の妹だが愛する妹を救う彼女に間桐雁夜は己の力を貸すだろう。
これでも魔術師の端くれだ。力になれることは少なからず存在するはずだ。
「行くぞ鮮血、雁屋さん。
絡まった糸を全て斬り裂いて、大元を断ち切ってこの世界を、人類に誇りを取り戻す!」
後光が見えると錯覚する程の威厳。
鬼龍院皐月の長くて短い戦争が幕を開けた。
-
【C-6/一日目 黎明】
【鬼龍院皐月@キルラキル】
[状態]:健康
[服装]:神衣鮮血@キルラキル
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、 黒カード:神衣鮮血@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:纒流子を取り戻し殺し合いを破壊し、鬼龍院羅暁の元へ戻り殺す。
1:雁屋、鮮血と共に殺し合いを破壊する仲間を集める。
2:襲ってくる相手や殺し合いを加速させる人物は倒す。
3:纒流子を取り戻し、純血から開放させる。
4:刀剣類の確保。
[備考]
※纒流子裸の太陽丸襲撃直後から参加。
※そのため纒流子が神衣純潔を着ていると思い込んでいます。
※どうせ鬼龍院羅暁が関わっていると思い込んでいます。
【間桐雁夜@Fate/Zero】
[状態]:健康
[服装]:普段着
[装備]:手術用のメスやハサミ(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品1〜3枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出し、日常へ帰る。
1:鬼龍院皐月と一緒に行動する。
2:鬼龍院流子を羅暁(?)から開放する手伝いをする
3:主催者に接触し元の世界へ帰還する魔術を問いただす。
[備考]
※死亡後から参戦。
※魔術回路は理由が不明ですが生きています。
※名簿を確認していません。
【神衣鮮血@キルラキル】
喋る黒いセーラー服である。鬼龍院皐月に支給された。
その正体は纒流子が着るために創られた対生命繊維の兵器。
変身することにより露出度と戦闘能力が大幅に強化される。鮮血自身が武器として振る舞うことも出来る。
無論、赤手甲とセットで支給されているため、変身可能だ。
制限として、本来よりも疲れる仕様になっているが気合でカバーしよう。また、声は参加者全員に聞こえるようになっている。
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ぶつけました。投下を終了します
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申し訳ありません。
雁屋おじさんの状態表装備欄は何もないのが正しいです。
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投下乙です。
皐月さまKAKEEEEEEEEEEE!
鮮血と会話ができるようになってた分、原作にもあった組み合わせで
一風変わった遣り取りが楽しめそうだし、おじさんが飲まれてしまうカリスマも顕在だしで、
とても期待できる正統派対主催になりそうですね
ところで質問があるのですが
>自分が生きてるなら、葵さんが生きているなら、桜ちゃんが生きているなら。
雁夜は葵さんが生きていると思っているのでしょうか。
たしかアニメだと首を絞めて殺したと思い込んでそのままだったような…
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感想ありがとうございます。
恥ずかしながらご指摘のとおり雁屋おじさんは葵さんを殺したと思っています。
(原作でも殺したと思っています)
だから後日、修正します。
内容は変更せず葵さんの記述をなくすか、差し替えになると思います。
ついでに某所。
皐月様は三木杉先生にも敬語で話しています。
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投下乙です
>9人いないと野球もできない
そりゃ江戸の癖にパフェとか原付出てくる銀魂世界はそうそう伝わらないよなぁ
今の穂乃果ことり辺りの状況考えると誰も欠けちゃいけないって台詞がもうね……
>憎みきれないろくでなし
皐月様は流石の貫禄
流子の暴走時期から参戦してるから流子と会った時はどうなるか……
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投下乙です
>9人いないと〜
新八はそういえば寺門通親衛隊だったなぁw
ラブでライブなランデヴーなど銀魂風のギャグも面白かった
行き先は危険人物多数の学院だが果たして
>憎みきれない〜
皐月様のカリスマに惚れたッ
鮮血の声が聞こえるのは心強いな
雁夜おじさんの行動方針が「日常へ帰る」なのが地味にくる
雁夜が雁「屋」になっている箇所があるので
直した方がいいかと思います
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更に感想ありがとうございます。
したらば内に一部修正したものを投下しました。
・雁夜おじさんが葵さんを殺した自覚
・雁屋→雁夜
以上です。
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投下乙です。
皐月様はやはり流石のカリスマだなあ……そして雁夜おじさんの考えがすごく「らしい」
私も投下します。
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犬吠埼樹は勇者である。
だから先の光景を見せられて、恐怖よりも激憤が先に出た。
そこにどんな事情があるにせよ、人を殺すことは許されない罪だ。
そんなこと、小学生だって知っている――なのに主催者の少女は、その禁忌を土足で冒したのだ。
温厚で臆病な樹にしては珍しく、険しい表情で唇を噛み締めて。
彼女は考えていた。どうすれば、この八方塞がりの状況を打破できるかを。
一見すると、この殺し合いは認めたくないが完璧だ。
こういったことに詳しくない樹でも分かるほどに、言ってしまえば隙がない。
四方を海に囲まれた島に閉じ込め、一定時間が経過する毎に進入禁止エリアが増えていく。
それを無視しようとすればペナルティで殺され、主催に刃向かおうとしても殺されるというから参る話だ。
更に、繭は言った。生き残った最後の一人には、報酬としてどんな願いごとでも叶えてあげる――と。
「……願いごと……」
樹には、それを嘘八百と断言することは出来なかった。
少し前の彼女ならそうしていたろうが、今の樹はそういう不思議な力がこの世に存在することを知っている。
支給品の代わりに持たされていた、見慣れたスマートフォンをぎゅっと握り締め、樹は思う。
繭はきっと、本当にそんな夢みたいな力を持っているのだろう。
彼女の主催したゲームを制覇して繭を楽しませた『いい子』には、本当に報酬を与えるのだろう。
樹は幸い、ごくごく平凡ながらも幸せな人生を送れている。
頼れる姉の風もいるし、勇者部の賑やかな仲間にも囲まれている。
だから、殺し合いをしてまで叶えたい願いは持っていない。
しかし、皆が皆そうではない。これをチャンスとし、意地でも報酬を勝ち取りに来る輩が居るはずだ。
「やっぱり、ダメなのかな……」
思わず弱音が零れる。神樹に選ばれた勇者の一人だろうと、樹の心自体は普通の少女と変わらない。
死ぬのは怖い。けれど自分のためだけに誰かを殺すなんて、考えただけで背筋が凍りつく。
矛盾だと分かっていても、樹はそれを変えられない。
怒りが落ち着き、心が冷静になるにつれて悲観的な考えばかりが浮かび上がってくる。
こんな時は、どうすればいいんだったっけ。
樹が思い出すのは、これまで何度も自分を助けてきた五つの掟。
勇者部五箇条。彼女たち勇者部が守り、従うべき掟であって、部訓でもある。
-
勇者部五箇条、その一。
挨拶はきちんと。
勇者部五箇条、その二。
なるべく諦めない。
勇者部五箇条、その三。
よく寝て、よく食べる。
勇者部五箇条、その四。
悩んだら相談。
勇者部五箇条、その五。
なせば大抵なんとかなる。
「……そっか。そうだよね」
今、樹の周りには相談できる相手がいない。
四人の仲間達も今頃は島の何処かで、殺し合いと向き合っているのだろう。
しかし樹は気付いた。自分が無意識の内に、頼れる存在を姉を含めた彼女たち四人だけと定義していたことに。
違う、そうではない。この島には、自分を除いて六十九人もの参加者がいるのだ。
中には自分達と同じく、殺し合いを良しとしない参加者だっているに違いない。
彼らの力や知恵を借りることができれば、樹では思いもつかない未来を切り開ける可能性はある。
「ダメだよね。諦めたりしたら」
だから今はまだ、諦めるべき時ではないと樹は思う。
がむしゃらに足掻いて、やれることは全てやって、それで諦めるならまだしもだ。
まだ自分は何もしちゃいない。――勝手に出来ないと思い込んで、視野を狭めていただけなんだから。
「なせば大抵――なんとかなるっ。
そうだよね、お姉ちゃん。それに、みんな」
自分にできる精一杯をやろう。
そしてみんなで、このゲームを終わらせるんだ。
前向きに宣言する少女の瞳に、もう弱気の虫はいなかった。
犬吠埼樹は勇者である。勇者は、決して恐怖に屈することはない。
「うんうん、実に立派な決意だね。ボク、感動しちゃったよ」
「え」
-
気を抜いていたわけでは、断じてなかった。
あれほど深く悩み込むくらいには、樹は殺し合いの危険性を承知している。
考え事をしている間も、周囲には出来るだけ気を配っていたはずなのに――気付けば、自分の背後に少女がいた。
「あれ〜? どうしたの、そんな狐につままれたみたいな顔しちゃって」
大きなリボンと変わったデザインの眼帯が目立つ少女だった。
可憐な衣装を纏っているだけでなく、本人の出で立ちも日本人離れした可愛らしさがある。
そんなだから、この少女からは現実感というものが欠如していた。
樹の顔を無遠慮に覗き込み、心配するような口振りで喋る彼女の腕には、参加者に填められる腕輪が確認できる。
「あ――あなたも。あなたも、参加者……なんですか?」
「何かと思えばそんなこと? 当たり前じゃない。
大体、偉いえら〜いゲームマスター様がこんな序盤から出張ってくるわけないでしょ〜?」
どこか緊張感のない物言いが、何故にこんなにも不安感を駆り立てるのかが樹にはわからない。
分からないが、彼女も参加者だというのならば情報の交換くらいはして然るべきだろう。
樹は名乗ろうと、眼帯の少女へ向き直る。
その時樹が咄嗟に反応できたのは、少女に対して抱いていた不安感のおかげだった。
「わっ。君、見かけによらずどん臭くないんだね」
少女の後ろ手に、無骨な長物が握られていると気付き。
半ば反射的な動作で後ろへ退いたのとほぼ同時に、少女はそれを横薙ぎに振るったのだ。
樹の左頬に、一筋の赤い線が走り――つぅ、と同じ色をした滴が溢れてくる。
もしあとほんの一秒でも動くのが遅ければ、樹の頭は容易くスライスされていた。
ニコニコ笑う少女に恐怖を覚える樹だが、すぐに自分のすべきことを思い出し――彼女は姿を変える。
無力な少女から、戦う少女へ。
人から勇者へと、犬吠埼樹は『変身』を遂げる。
それに対し、襲撃者……針目縫は暫し驚いたような表情を浮かべていたが。
それもやがて笑みになる。片割れの欠けた大バサミを片手に、勇者と真っ向相対す。
「殺し合いに乗るというなら、あなたを止めます。
勇者として――あなたを見過ごすことは、出来ませんっ!」
「あはははっ、くっさーい。
今時そんなセリフ言っちゃって、恥ずかしくないのー?
……なぁんて言うより、力づくで叩きのめしちゃった方が早いかぁ」
夜の校舎を背後に、戦いの火蓋は切って落とされた。
-
●
「チッ! 化物が、お構いなしかよッ!!」
一方その頃。
針目縫と犬吠埼樹の交戦を他所に、ここにも交戦している参加者たちの姿があった。
もっとも此方の戦いは、既に一方的な様相となりつつあったのだが。
逃げるのはホル・ホース。
西部劇のガンマンを彷彿とさせる見た目に違わず、持っている得物は黒い拳銃だ。
しかし、これは只の銃ではない。
ホル・ホースと同じ力――『スタンド能力』を持つ者でなければ、そもそも視えすらしない異能の火器である。
弾丸までもがスタンド能力によるものだから、その弾道も彼の思うがまま。
つまり一般人にしてみれば、視えない銃より放たれた視えない弾丸が、常識では考えられない軌道を描いて迫ってくるのだ。これを脅威と言わずして何とする。
ただ、今はその銃も弾丸も可視化されている。主催者による、ゲームバランスを保つための措置の一環だ。
スタンド能力をスタンド使いでない人間にも見えるようにする――そんな芸当が人知れず行われた結果、ホル・ホースのスタンド『皇帝(エンペラー)』の殺し合いにおける強みは半減していると言ってもよかった。
無論、それはあくまで一般人戦を前提とした話だ。
スタンド使いとの戦いでも、彼はこれまで遺憾なく『皇帝』の強さを発揮してきた。
だがしかし、今劣勢に立たされているのはホル・ホースの方であった。
「(ちくしょう、やってられねえぜ! あの化け物、こっちの『弾丸(タマ)』が全然通らねえ!!)」
ホル・ホースが押されている理由とはそれだった。
見える見えない云々よりももっとずっと単純な話、彼の弾丸が一発たりとも有効打として機能していないのだ。
原因は分かりきっている。敵が全身に纏っている、影のように黒いライダースーツだ。
見てくれからでは分からないが、どうもあのスーツが相当の強度を有しているらしい。
かれこれ二桁は打ち込んできたにも関わらず、奴が血の一滴さえ流していないのがその証拠だった。
それならばライダースーツに守られていない場所を撃てばいいだろう、そういう話に当然なる。
ホル・ホースとて馬鹿ではない。
当然、そうやって対処出来るならそうした。
彼が今こうして追い詰められているのは、それが出来なかった結果なのだ。
ライダースーツの化け物には、首がない。信じられないことに、首から上がまるで存在していない。
そも、ホル・ホースが攻撃を仕掛けたのもそれが理由だった。
首のないライダースーツが悠々と殺し合いを闊歩しているのを見れば、誰だとて平常ではいられないだろう。
ライダースーツの化け物は、いつしかその手に大きな鎌を握っていた。
漆黒の処刑鎌だ。しかもそれも、まともな材質で出来ていないことが傍目からでも分かるから質が悪い。
影のような何かで作り上げた長物を握り、化け物が哀れなスタンド使いとの距離を着々と詰めてくる。
これにはさしものホル・ホースも参った。彼は迷わず両手を挙げ、首のないその体へと懇願する。
-
「待て待て、ヘヘ……分かった、俺が悪かったよ。降参だ。だからもうやめにしてくれ」
正直、これが通じる相手だとはこれっぽっちも思っていなかった。
自棄になった行動だったといってもいい。しかし、事態は彼の予期しなかった方向へと転がり出す。
首のない体は彼の言葉を聞くなり沈黙し――数秒の後に、出現させた影の処刑鎌を消したではないか。
その後、何やら取り出した電子端末を操作し始めたのだが、彼にとってそんなことはどうでもよかった。
重要なのは、自分では逆立ちしても勝てない相性の悪すぎる敵が、まんまと戦意を引っ込めてくれたことだ。
「(……なァ〜んつってなッ!)」
ホル・ホースは化け物へ背中を向けると、全力で近くに見える分校へとダッシュし始めた。
その潔さたるや、まさに脱兎の如し。
後ろは振り返らない。振り返るのは、逃げ切ったと確信を持ててからだ。
「(あんな化け物に関わってたら命がいくつあっても足りねー。おれはあくまでズルく賢く行かせてもらうぜ)」
DIO然り、さっきの首なし然りだ。
度が過ぎた化け物には関わらず、生き延びることを最優先して欲はかかない。
願いを叶えるという響きには確かにそそられるものがあったが、一攫千金を狙うにもあんまり分が悪すぎる。
決して無茶はせず、堅実に生き延びること。
それが、このバトル・ロワイヤルでホル・ホースが掲げたスタンスだった。
「(薄々予想はしていたが、やはり逃げられたか……)」
彼を追う『化け物』――セルティ・ストゥルルソンは、首から上があればため息でもつきたい気分だった。
主催者、繭の傍迷惑極まるゲームに巻き込まれた挙句、普段から被っているヘルメットが没収されていたのだ。
ホル・ホースはそんな彼女を見て躊躇わずに発砲したが、セルティ自身無理もないことだと思う。
セルティはデュラハンという妖精だ。尤も、今はもっぱら首無しライダーと呼ばれていたが。
とにかくその名の通り、彼女には首から上が存在しない。
ヘルメットもないのだから、それを隠すことさえ出来ない。
大の男ですらああなのだ。早急に誤魔化す手段を考えなければ、この先何度誤解されるか分かったものじゃない。
「(誤解は出来れば解いておきたいし、そうでなくともあの男――何か危ない感じがした。
とりあえず追いかけて話を聞いてもらわなければな……幸い、PDAはちゃんとあるんだし)」
セルティは首のないショッキングな外見とは裏腹に、穏やかで人のいい人物だ。
そんな彼女が殺し合いを良しとする筈もなく、繭を止めて出来るだけ大勢でゲームを終わらせたいと思っている。
その矢先にこれとは、まったく出鼻を挫かれた気分だった。
しかし凹んでもいられない。今はとにかく、あの男を追いかけなくては。
首無しのライダースーツが追いかける。
スタンド使いのガンマンがひたすら逃げる。
その追走劇に痺れを切らしたセルティが、『ある物』をカードから取り出そうとした――その時だった。
ホル・ホースが、不意に足を止めた。
-
●
ホル・ホースは、ひとまずこの旭丘分校へ逃げ込もうと考えた。
室内ならば隠れる場所も逃げ場も豊富なはずだし、延々鬼ごっこを続けるよりも撒きやすいと考えたからだ。
そうして彼は改めて分校に近付き――そこで、驚くべき光景を目にする。
少女が、串刺しにされていた。串刺しにしているのも、可憐な見た目をした少女だった。
その戯画的ですらある光景は、しかし突き刺した少女の手にある無骨なハサミが台無しにしている。
――犬吠埼樹と針目縫の戦闘は、針目縫が制した。
針目は生命戦維の化物だ。
三ツ星極制服を纏った敵が相手だろうと、一方的に戦えてしまう。つまり、彼女は強い。
樹が勇者に変身して高い能力を得ていようが、培った経験とセンスで彼女は針目に劣っている。
勇者という存在の秘中の秘、『満開』を使えば針目を撃退出来たかもしれないが――針目に遊びはない。
正しくは、遊ぶには値しないと判断したのだ。
樹が満開の使用に踏み切るよりも早く彼女の意識を奪い、そうして今に至る。
樹は両手を重ねた状態で、掌の真ん中を貫かれ、壁に串刺しにされていた。
意識は失ったままだ。体にも、裂傷がところどころに見受けられる。
勇者、スタンド使い、首無しライダー、そして生命戦維の化物。
四人の異常な者たちが、今ここに会する。
【F-4/旭丘分校前/一日目・深夜】
【セルティ・ストゥルルソン@デュラララ!!】
[状態]:胴体にダメージ(小)
[服装]:普段通り
[装備]:
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、
黒カード:PDA@デュラララ!!、V-MAX@Fate/Zero、不明支給品0〜1枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いからの脱出を狙う
1:……? この男(ホル・ホース)、どうして止まった?
2:首を隠す手段を探す。できればヘルメットがほしいところ
3:知り合いとの合流。臨也には一応注意しておく。
[備考]
※制限により、スーツの耐久力が微量ではありますが低下しています。
少なくとも、弾丸程度では大きなダメージにはなりません。
-
【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜3
[思考・行動]
基本方針:生存優先。女は殺さない。
1:どうなってんだ、こりゃ……
2:ジョースター一行やDIOには絶対に会いたくない。出来れば会う前に野垂れ死んでいてほしい。
[備考]
※参戦時期は少なくともDIOの暗殺に失敗した以降です
【犬吠埼樹@結城友奈は勇者である】
[状態]:気絶、疲労(大)、胴体に裂傷多数、両掌に刺傷(貫通)
[服装]:普段通り
[装備]:樹のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らず、皆で帰りたい
1:………………。
[備考]
※少なくとも参戦時期は声を失う前からの参戦です。
【針目縫@キルラキル】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:神羅纐纈を完成させるため、元の世界へ何としても帰還する
1:犬吠埼樹を殺す。男(ホル・ホース)達はその後。
2:流子ちゃんのことは残念だけど、神羅纐纈を完成させられるのはボクだけだもん。仕方ないよね♪
[備考]
※流子が純潔を着用してから、腕を切り落とされるまでの間からの参戦です。
※流子は鮮血ではなく純潔を着用していると思っています。
支給品説明
【PDA@デュラララ!!】
セルティ・ストゥルルソンに本人支給。
彼女が愛用しているPDA。基本、彼女はこれに文字を打って他人と会話する。
【V-MAX@Fate/Zero】
セルティ・ストゥルルソンに支給。
アインツベルンが第四次聖杯戦争にあたり用意した大型自動二輪のオートバイ。
セイバーをして驚愕させるほどのスペックを持つが、その分乗りこなすことは極めて困難。
セイバーさえ魔力放出の力業で押さえ付けるしか手段がなく。方向転換も魔力放出で強引にねじ伏せるしかなかった。
当ロワでは出せる限界速度に制限が掛かり、MAX400kmものスピードは出せないが、その分多少乗りやすくなっている。
【樹のスマートフォン@結城友奈は勇者である】
犬吠埼樹に本人支給。
勇者へと変身するためのアプリが入った携帯電話。精霊は木霊。
【片太刀バサミ@キルラキル】
針目縫に本人支給。
纏一身が開発した、生命戦維の生命そのものを断つとされる「断ち斬りバサミ」の片刃。
針目が持っているのはあくまで片割れなので、参加者の誰かにもう片方が支給される可能性もゼロではない。
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投下終了です。問題点などあればお願いします
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投下乙です!
やっぱり縫ちゃんつえー!満開モードではないとはいえ勇者相手に無傷とは
ホルホースは安定の生存優先。首なし含めて女の子がより取り見取りだよ、やったね!
セルティVS縫ちゃんの化け物対決が幕を開けるのか、調ちゃんはどうなってしまうのか、ホルホースはどう行動するのか……
続きが気になります!
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投下乙です
ヒエェ……樹ボロボロじゃないか……
セルティじゃ針目に敵わなそうだしホルホースはトンズラしそうだし駄目かも分からんね…
ただ、>>205で「進入禁止エリアが〜」とありますが、OPでは禁止エリアの説明はされてませんよ
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>>214
修正しました。お目汚し申し訳ないです
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本部以蔵 投下します
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「―――回答は出た」
夜の公園に武人が一人。
ボサボサの髪に汚い胴着、無精髭の男。
一見すれば、ホームレスのようにも見えるが……
その男の纏う空気は超一流の格闘家そのもの。、
「刃牙も……ジャックも……勇次郎も……
否―――全ての参加者でさえも――俺が守護らねばならぬ」
このバトル・ロワイアル。
いわば、ルール無用の殺し合い。
いうならば、超実戦流柔術の土俵である。
勇次郎を含めて現代格闘士は武器を使った本当の殺し合いには慣れていない。
真の殺戮者に対抗できるのは唯一武芸百般を修めた自分だけである。
夜風で男の髪から白いフケが飛ぶ。
しかし、男は一切動じずに自身がなすべきことのために準備する。
周囲には誰もいない。
ならば、この場からすぐに動くべきである。
公園内での戦闘であれば、誰が相手だろうと負ける気は一切しない。
しかし、時は一刻を争う事態なのでここからの移動を余儀なくされた。
次に配られた黒カードを確認する。
武器らしいものといえば最後の一枚しかなかった。
だが……
「しかし、これは剣なのか……」
最後の黒カードから出てきたの剣と呼ぶには歪な形の剣であった。
それは【黄金の鍵】と呼ぶにふさわしい形の剣。
その剣の名は【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】。
他には武器はない。
しかし、これだけでも十分に戦える。
何故ならば彼は生きる伝説とまで呼ばれた達人――――『本部以蔵』その人であるのだから。
「では、行くか」
本部は歩いていく。
全てを守護るために。
その行く先は――――本部のみが知る。
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【A-3/公園/深夜】
【本部以蔵@グラップラー刃牙】
[状態]:確固たる自信
[服装]:胴着
[装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚(本人確認済み、武器等ではない)
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を守護(まも)る
1:一先ず、人が多そうなところに向かう
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後
王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero
本部以蔵に支給。
アーチャーの宝具にして黄金の都に繋がる鍵剣。
空間をつなげ、宝物庫にある道具を自由に取り出せるようになる。
所有者の財があればある程強力な宝具になるのは言うまでもない。
なお。鍵剣自体に攻撃力はない。
本ロワにおいては制限により王の財宝の所持者が持っている黒カードのアイテムしか射出できない。
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投下終了です。
問題点などあれば指摘お願いします。
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投下乙です。
本部が強くて何が悪い(至言)
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投下乙
やっぱり守護キャラじゃないか(憤怒)
強者なことは間違いないけど、果たして異能勢相手にどこまで戦えるのか…
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リタ 投下します
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「死人に『殺し合え』ですって」
高い橋梁から見下ろすと、黒々とした水面が少女の瞳にうつった。
真夜中の入江は闇と同化して、姿をうつす水鏡の役目を果たさない。
黒いワンピースと黒いミニハット。
十歳にも満たないような、どこから見てもただの子どもである――肌の色が、青白いのを通り越して灰色になっていること以外は。
「繭とか言ったかしらあのお子ちゃま。『死人使いが荒い』なんてもんじゃないわね」
達観したように独白しながらも、その瞳には憂いの色がある。
それも当然のことだ。
あの広い部屋で起こったことは、彼女の怒りに触れていた。彼女を怒らせる琴線は、さほど多くないというのに。
バハムートという巨大竜があの『繭』によって使われていたことと、そのバハムートを解放するかもしれない『神の鍵』だったという少女の喪失。
それらは間違いなく世界にとっての大事なのだろうが、その少女――リタにとっては、そこが問題だったわけではなく。
むしろ『鍵の娘を殺した』という客観的事実ならば、世界にとっては有益かもしれないだろう。
これでバハムートが復活することが無くなったと喜ぶ人間だっているかもしれない――もっとも、そのバハムートがなぜか蘇っている以上、意味の無い仮定でしかないのだが。
だが、『アーミラ』を殺害し、『カイザルとファバロを死の遊戯に放り込んだ』となれば、話は変わる。
「あの坊やたち、腑抜けになってないといいんだけどね。
ショックを受けやすいのはカイザルの方だけど、あの5歳児に入れ込んでたのはアフロの坊やの方だし」
リタにとって、世界の行く末だとか、たくさんの人の命のことなどはどうでもいい。
むしろ、二百年もの間を滅んだ村でずっと引きこもり、死んだ家族のゾンビと共にひっそりと暮らしていたような少女に、『世界を守りたいと思え』という方が難しい。
彼女が気にかけるのは、そんな二百年を終わらせた青年と、彼を取り巻く人々のことだけだ。
彼等が見苦しくもがきながらも明日に向かうところを見ているのは、決して嫌いじゃなかった。
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「報酬で、どんな願いでも叶えてあげる――フン。
なら、『カードにされた子達を出してください』って言えば叶えてくれるのかしら。
違うかもね。同じ口で『絶対にカードから出してあげない』なんて言ってたもの。
……あのガキンチョ、そんなにヒトを閉じ込めるのが好きなの?」
思う。
外界から閉ざされた村で、両親の死体をネクロマンサーとしての力を使って無理矢理に動かして、喋らせて、
小さな村で死体と一緒の生活を二百年続けた。それだけでも虚しく、うんざりするような長い時間だったのに。
狭くて何もないカードの中で、まったく誰もいない世界で、未来永劫にわたって過ごすと言うのなら、それはどんな死人よりも苦痛ではないかと。
「そんな運命、私は認めない。死人が世界に関わる理由なんて、それで充分よ」
カイザル達を見つけだし、そんな運命を絶対に回避させる。
そして考えたくもない仮定だが――もし万が一にも、彼らがカードにされてしまえば――その時は、どんな手段を用いてでも、絶対にその牢獄から解放してみせよう。
決断し、彼女は己の手のひらを見下ろした。
ゾンビらしくぱさぱさと乾いた、そして人間らしい体温の無い手だ。
いつもの魔道書も杖も、そこには無い。無くても戦えないわけじゃないけど。
心もとなくなんか無い、と言えば嘘で。
しかし、何もない手の上でもない。
出てきたからだ。
黒いカードを、何とはなしに取り出してみたら。
「にゃあ」
トラじまをした猫――のぬいぐるみ。
同梱されていた説明書に依れば、名前はアスティオン。
その正体は、魔導士の扱うインテリジェントデバイス――魔術を修得しているリタにも聞いたことのないアイテムだった。
つまり、魔術の術式を簡易にするために、その発動を補助したり、強化してくれる人口生命のようなものらしい。
要は、リタも使っているような魔導士の杖に、自力で考える脳みそを与えたようなものだろうかと理解した。
微風に揺れるミニハットをじゃれつきたそうにうずうずと見つめる姿は、ただの子猫にしか見えないが。
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「役に立ってくれるなら何でもいいわ――私の体とも、相性がよさそうだし」
飼い主を探して周囲をキョロキョロする子猫の頭を制するようにかるく押さえ、指でのどを掻いてやることでなだめる。
説明書によれば、アスティオンはデバイスの中でも防御と回復――術者の動きをサポートすることに特化したデバイスであるらしい。
そして、リタはゾンビ――その体を構成するものは、純度100パーセントの『くさった死体』だ。
人間をやめてしまったこともあって力はそれなりにあるが、その反面、『くさった死体』の肉体は時としてひどく脆い。
大剣を豪快に振り回して敵をばったばったと切り伏せるぐらいの腕力はあるにも関わらず、固く結ばれたロープをほどこうとするだけで手がくずれてボロボロになってしまうほどだ。
つまり、肉体を外部からの衝撃に強くするか、もしくは負傷しても回復する手段があれば、ずいぶんと有利に行動することができる。
説明書に書かれている通りに『仮マスター認証』の言葉を口にし、人懐っこそうな猫の瞳に向かって告げてみた。
囁くように。
「アスティオン――――セットアップ」
猫がにゃぁーぉうと高く鳴き、地面に光のラインで三角形の魔法陣が描かれた。
その三角形の三つの頂点にはそれぞれ円形の魔法陣が組まれていて、魔術を理解するリタから見ても複雑な術式だということが把握できる。
すぐに体感として黒いワンピースがパージされ、その肌を埋めるようにして新たな衣服――体を防護するバリアジャケットが出現した。
それは実際の時間にして、ごく一瞬に近い出来事だが。
「………………何これ」
己の姿を見下ろし、彼女は今までで一番冷たい声を出した。
肩の上で、『にゃあ?』と首をかしげるような声が聞こえる。
服装が変わる。それは知っていた。
白と黒の二色で構成された衣服だ。白い上衣と、黒いスカート。下には白いハイソックスで、頭には花飾りのついた黒いカチューシャ。それは良い。
だが、黒いスカートは正面が大きく空いていた。
脚から黒いパンツ――それもいわゆるホットパンツではなくビキニパンツ――を経由してへそに至るまでの素肌が、全て見えていた。
上衣にも、袖は無い。脇が大きく空いていた。
聞いてない。
説明書では、『デザインはマスターのイメージやデバイスの配慮、マスターの暮らす文化圏等によって左右されます』と書かれていた。
こんな衣服をイメージした覚えもないし、こんな衣服を子どもの身体に着せて誰かが喜ぶとも思えない。
ならば文化圏の影響を受けた――とは、あまり考えたくないのだが。
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「……アンタが猫じゃなかったら問い詰めてたところだけど」
着用しているだけでも少しずつ魔力を使うらしいので、ひとまずは着衣を解除する。
アスティオンが掌へと再び降りてきた。
もういいのかと尋ねるように『にゃあ』と鳴くので、『けっこうです』の代わりにその毛並みを乱雑に撫でる。
その体は、本当の生き物のようにあたたかかった。
稼働することで熱が発生する仕組みなのだろうか、と推測する。
そして、思った。
もし、人間ではないこのデバイスが『生きている』から体温を持つというのなら。
体温を持たない――『死んでいる』この身を『殺し合い』へと参加させるあの少女は、よほど悪趣味な皮肉屋なのだろう、と。
【A-4/橋上/深夜】
【リタ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康、羞恥(小)
[装備]:アスティオン@魔法少女リリカルなのはvivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:カイザルとファバロの保護。もしカイザル達がカードに閉じ込められたなら、『どんな手段を使おうとも』カードから解放する
0:右岸を目指す?それとも左岸を目指す?
1:カイザル達の捜索。優先順位はカイザル>ファバロ
2:繭という少女の持つ力について調べる。本当に願いは叶うのか、カードにされた人間は解放できるのかを把握したい
3:アザゼルは警戒。ラヴァレイも油断ならない。
[備考]
※参戦時期は10話でアナティ城を脱出した後。
【アスティオン@魔法少女リリカルなのはvivid】
リタに支給。
アインハルト専用の真正ベルカ式のデバイスで、雪原豹のぬいぐるみの形をしている(外装が雪原豹のぬいぐるみなだけで、本体はクリスタル型)。愛称はティオ。
雪原豹とはいっても、実質、ただの猫であり、喋らずに「にゃあ」と鳴いて意思疎通する。表情も豊かで、物凄く喜んだり険しい目をしたりが忙しい。
攻撃補助をしないが、ダメージ緩和と回復補助能力に特化している(ただしそれも限界があるので、ティオ自体の疲労時には使用できない)。
また、本ロワでは仮マスター登録を行う事により、魔力、またはそれに互換可能な能力を持っている者ならば起動させられるようになっている。ただし制限により本来のマスターが行使した時より性能が低下している可能性がある。
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投下終了です
アレの外見はソーシャルゲーム「神撃のバハムート」に登場する
「ルーキーネクロウィッチ(+無し)」のカードをモチーフにしました。
あくまで外見に取り入れただけですので、具体的にどんな格好か知りたい方はカード名でぐぐってみてください
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すみません、>>224ですが
>トラじまをした猫――のぬいぐるみ。
のところ、正しくはヒョウ柄でした。
支給品説明ではヒョウって書いたのに何やってるんだ自分…
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投下おつー
冒頭のセリフのキレの良さにリタちゃんボイスで脳内再生した
しかし合法ロリゾンビの肌見せとはすごい方向でサービスが来てしまった!w
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乙です。
別作品の参加者と遭遇したら互いのリアクションが楽しみなスタンスですね。
猫で気になったんですが、デバイスってこのロワでは誰でも使用は可能じゃなかったっけ?
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>>230
感想指摘ありがとうございます
デバイスについては、過去のアニロワでは、ほぼ魔力のある参加者限定で扱われていたこともあり、
完全に勘違いして覚えておりました
wikiでルールを確認したところ、
>宝具や勇者用スマホなど、一般人が通常なら扱えないアイテムも当ロワでは特に大きなリスク無く大体使用可能。
とあるようですし、修正スレに支給品説明の「魔力を持っている限定」という部分をぼかした修正版を投下したいと思います
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>>231
修正乙でした。
なんら問題ないと思います。
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投下します
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守れなかった――
どれだけその事実から目を背けようとしても、目の前に転がるものがそれを許してくれない。
つい先刻までは生きていた少女。今となっては顎を砕かれ、変わり果てた有り様で死んでいる。
「あ」
仕方がなかった。
実際アインハルトが助けに入った時には、もう何もかも遅かった。
死体……池田華菜はその時点で重傷を負っていたのだから、彼女が責任を感じる必要は本来ない。
仮に脇目もふらずに逃げていたとして――それで池田が助かったかと言われれば、難しいところだろう。
しかし、アインハルト・ストラトスは真面目な少女だった。
その真面目さが、今度ばかりは仇となる。アインハルトには、罪から逃げることで身を軽くする選択肢がないのだ。
「ああ……」
『彼』として生きていた時になら、死体など山ほど見てきた。
それでも、『アインハルト・ストラトス』としての人生では――これが初めてだ。
おまけに、池田はアインハルトの目の前で息を引き取った。死にたくないと、無念の言葉を遺して。
過去はどうあれ、今はただの幼い少女でしかないアインハルトが、それを受けて平常でいられるはずがなかった。
「ああああああ……ッ!!」
ジャック・ハンマーと出会う前、アインハルトは意気込んでいた。
非道な殺し合いに怒りを燃やし、必ず打倒せねばならないと強く拳を握り締めた。
アインハルトはこんな所では死ねない理由がある。それに、死なせられない好敵手(とも)もいた。
必ず守ろうと思った。あの『グラップラー』に出会ったのは、それからすぐのことだった。
痛感した。自分という存在がどれだけ弱く、無力なものかを痛感させられた。
デバイスがあれば戦えたかもしれない? ――そんなことを悔やんだところで、死んだこの人はもう帰ってこない。
アインハルトは悔やみ、それ以前に恐怖していた。
それはある意味で、彼女にとって幸運なことだったのかもしれない。
バトル・ロワイアルという趣向において、綺麗事は通用しないことを思い知ったのだ。
殺し合いに乗る参加者は確実に存在し、拳で語らうだけでは分かり合えない者もいる。
インターミドルの戦いが熱湯だったとするなら、こちらは冷水だ。
誇りも、熱も、何もかも存在しない。あるのはただ、空寒いまでの無常さのみ。
――恐ろしい。素直にそう思う。これまでのどんな戦いよりも醜くおぞましく、それでいて激しい。
目の前で誰かを失う……赤の他人であれ、それによって生まれる痛みを、アインハルトは今痛感していた。
だが、それは言わずもがな致命的な隙となる。
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「…………子ども、か」
現れたのは、金髪の少女。
少女相応の細腕でありながら、無骨な大剣を軽々持ち上げている。
隻眼の奥底から滲むのは――僅かな罪悪感。子どもを殺すという禁忌を犯すことへの、躊躇い。
アインハルトほどの人物が、接近を感知できなかった。
驚いた表情で振り返り、すぐに臨戦態勢を取るアインハルト。
しかし、聡明な彼女には分かってしまう。感知できなかった、のではない。そうする余裕さえなかったのだ。
少女の心は、先の衝撃的な出来事を前に、今や傷だらけだった。
今のアインハルトには、戦いへ向かえるだけの強さすら抜け落ちている。
その代わりに、守れなかった罪悪感が填っている。
「ごめんな」
此処は本物の戦場だ。
いや、ある意味では本物以上に混沌とした戦場だ。
血で血を洗う地獄絵図――誰も、少女の都合なんて汲んじゃくれない。
言葉少なに大剣を構え、そのままアインハルトめがけ振り落とした。
当然、それでみすみす殺される彼女ではない。
培ってきた反射神経を駆使するまでもなく、横へ飛び退くことで回避する。
只の子どもだと侮っていた相手に、殺すつもりで繰り出した攻撃を避けられた――それは少なからず驚きを生む。
如何に精神的に疲弊しているとはいっても、アインハルトとて死ねない理由がある。
此処に来てから二度目の変身。少女の華奢な体つきは、二十代前後の女性のものへと急成長を遂げる。
「……勇者、ってわけじゃないみたいだけど――参ったな」
参った、とは言いながらも、大剣の彼女に退くつもりは毛頭ないようだった。
それを確認するなり、先に動くのはアインハルトだ。
踏み込むと同時に、敵の土手っ腹へと渾身の正拳を叩き込む。
かはっ。
たまらず肺の空気を逆流させる相手を逃さず、追撃を入れんとして――アインハルトのこめかみに衝撃が響いた。
打撃を受けて蹌踉めいた体勢から、半ば意地でもって蹴りを繰り出されたのだ。
格闘家である彼女が冷静に見たなら大したことはないだろう一撃は、しかしやけに重く響く。
そこで彼女は気付く。自分が初撃に出る前、相手が呟いた独り言。
『勇者』。アインハルトにはまったく未知の単語だったが、この力は素人のものでは間違ってもない。
きっと、その『勇者』へと変身している。なら、どうするか……その答えを出す前に、顔へ鈍い痛みが走った。
大剣の柄を突き出すことで、どうやら視界を潰そうと図ったらしかった。
結局狙いは反れたものの、『勇者』の力で繰り出された攻撃を顔で受けたことに変わりはない。
大きな衝撃にぐらりと視界が歪む。だがそこは覇王流の少女。気合で体を動かし、距離を取って態勢を立て直す。
ぺっと口の中に漂う、折れた何本かの前歯を吐き出した。
-
「(最初は焦ったけど……よかった。そんなに強い相手じゃないみたいだ)」
敵にこんなことを思われていると知ったなら、アインハルトはどう思ったろうか。
大剣の勇者……犬吠埼風に、アインハルト・ストラトスという少女を嘲る意図は皆無だ。
ただ、事実として彼女はそんな感想を持った。侮れない相手ではあるものの、勝てない相手ではないと。
アインハルト自身は認識していないが、彼女の動きは普段に比べ格段に落ちていた。
彼女は近接戦に精通している。天性のセンスと純粋な努力に裏打ちされた強さは、勇者の風にも勝るだろう。
少なくとも、柄での突きは普段なら止めることだって出来たはずだ。
受け止めてから身動きを封じた風に拳を入れ、武器を取り落とさせることだって出来たかもしれない。
しかし彼女はそうしなかった。いや、出来なかった。今のアインハルトは、万全の状態ではなかったから。
心技体とはよく言ったものだが、格闘でも何でも、戦いとメンタルは密接な関わりを持っている。
アインハルトには技はある。それに相応しい体もある。だが、この時に限って言えば心(メンタル)はボロボロだ。
風の大剣が、アインハルトの首を切り落とさんと振るわれる。
――恐ろしい威力なのは見ただけで分かる。もし受ければ、確実に頭ごと持っていかれるだろう。
だから避ける。そして、無防備になる瞬間を見計らって打って出た。
「覇王空破断ッ」
拳と共に、飛んで行くのは衝撃波。
風は咄嗟に大剣を面で構えて受け止めるが、硬直の隙を逃すアインハルトではない。
狙うのは一つ――覇王断空拳だ。
足から練った力を糧に、胴への拳の直打でもって終わらせる。
殺しはしない。只、落ち着くまでは気絶していてもらうだけだ。
渾身の力を込めた拳をいざ見舞わんとし、凜と腕を引くアインハルトだったが。
「――!?」
風の次なる行動には、思わず虚を突かれた。
彼女はなんと、自らの得物であるはずの大剣を――アインハルト目掛けて投擲したのだ。
それはセオリー外れもいいところの行動だったが、しかし狙いは正確で、無視できる行動ではない。
剣の重量と勇者の力が合わさったそれは、型破りであろうと何だろうと立派な脅威だ。
アインハルトはそれを弾き飛ばすべく、やむなく断空の拳を剣へと見舞う。
面の部分に拳は直撃し、剣はくるくると宙を舞い――走ってくる風の手元へと収まった。
そのまま、面での横薙ぎが繰り出される。
これが線の部分でなかったのは僥倖だった。アインハルトは、この薙ぎを避けられなかったのだから。
脳震盪を引き起こしそうになる衝撃。今度ばかりは、蹌踉めくだけでは済まない。
-
地面へと引き倒されたアインハルト。
風はその彼女を見下ろして、一言だけ呟いた。
最初に言ったのとまったく言葉で、勇者は戦いを締め括ろうとしていた。
「ごめんな」
そこだけは、ジャック・ハンマーと違った。
同じ殺し合いに乗っている者でも、この勇者はどこか悲しげに戦うのが印象的だった。
どうして、こんなことを。そう問おうとしたが、それよりも速く、アインハルトを叩き割る剣が落ちてきて――
「――――ちょおおおおっと、待ったぁぁああああ!!!!」
アインハルトの背後から飛び込むように現れた、弐つの刀を持った少女が、それを真っ向から食い止めた。
大剣の勇者はその人物を見て、驚きとも悲しみとも、怒りともつかないごちゃ混ぜな表情を浮かべる。
その反応からしても、二人が既知の間柄にあるのは明らかなことだった。
鍔迫り合いをやめ、後ろへと下がる風。
現れた双刀の少女はアインハルトを庇うように立ち、毅然とその姿を見据え、目に焼き付けている。
「よりにもよって、あんたが乗ってるなんてね――見損なったわ、風」
「……夏凜か。正直、思ってたよ。最初に私の前に現れるのは、多分友奈かお前だってさ」
犬吠埼風は勇者である。
それと同じように、三好夏凜もまた勇者である。
勇者とは弱きを助けて悪を挫くもの。それは他ならない、風自身が定めたことだった。
それを知っているからこそ――夏凜には、今の風が許せなかった。
「一応聞いておくわ。どうして、あんたは殺し合いに乗ったの」
風は勇者部の部長だ。
その彼女が殺し合いに乗り、目の前で参加者を殺そうとしていた。
平静を装ってこそいるが、夏凜にとってもそれは決して少なくない驚きだった。
失望よりも疑問が勝る。どうして、よりによって風なのか。なぜ彼女が殺し合いに乗ったのか。
「どうしてって? ……分かりきったこと聞くなよ」
問われた風は、キッと目を鋭く細めた。
歴戦の勇者であるはずの夏凜をして、思わず気圧されそうになる気勢。
風の戦う理由が決して独り善がりなものではないのだと知るには、それだけで十分だった。
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「世界を変える。バーテックスも、大赦もだ。何もかも、正しい形に変えてやる。
ムカつくけど――出来るんだろ、あの繭なら。だったら私は戦うだけだ。私なら、絶対にやれる」
「……何言ってんのよ! 樹は!? 友奈と東郷はどうするのよ! まさか、必要な犠牲だとか――」
「………………違う。そんなことは、思っちゃいない」
沈黙の後に返ってきた言葉を聞き、夏凜は確信した。
今の風は、正気じゃない。
世界を変えるという願いを叶えるには優勝する必要があり、そうなれば当然、彼女の最愛の妹さえ殺すことになる。
その大きな矛盾を後回しにして、見ないふりをしながら殺し合いと向き合っているのだ。
何が『私なら絶対にやれる』だ。夏凜は、反吐を吐きたい気分にさえなった。
「二対一はちと不利だ。一旦出直させてもらうよ。出来ればお前には、もう会いたくないけどさ」
「……逃すと思ってるの?」
「頼むよ」
風は無防備な背中を向けて、夏凜たちの前から去ろうとするその間際、足を止めて懇願した。
悲痛な声だった。いつもの風らしくもない、言葉を失ってしまうような泣き混じりの声だった。
「私に、皆を……勇者を殺させないでくれ」
そんな台詞を聞いた夏凜は、もう掛ける言葉が思いつかなかった。
きっと今、何を言ったところで風には焼け石に水なのだと冷静に分析する自分が居た。
力づくで無力化させて、ふん縛ってから説教をする選択肢もあったろう。
――しかし風の懇願を聞いた夏凜にはそれが出来なかった。
今の夏凜は孤高ではない。勇者部の一員であって、犬吠埼風の仲間なのだ。
だから……ただ、その背中を見送るしか出来なかった。
●
アインハルトの傷は、幸い命に関わるものではない。
しかし決して軽いものでもなかった。
歯は所々が折れて隙間だらけになり痛々しく、脳震盪の影響もあり、しばらく歩き回らせるのは危険だろう。
子どもの姿に戻った彼女の診察を終え、夏凜はようやく一息をつく。
アインハルトの境遇も、傷を診る片手間ではあったが聞いた。
戦う力を持たない少女一人、自分には守ることが出来なかった。
確かにそれはキツいな、と夏凜は思う。自分の立場に置き換えて考えれば、それがよく分かった。
夏凜も、そしてアインハルトもだ。
力のない人間を守れる力をなまじ持っているから、守れなかった時の痛みは必然的に大きくなってしまう。
たとえ自分の努力ではどうにも出来なかった状況であろうとも、だ。
-
「……あのさ。私が言うのも何だけど、あんまり気に病むんじゃないわよ」
「…………」
「――あー、もう! そうやってウジウジするなって言ってんの!!」
……それはそれとして、他人がこうしているのを見ているとどうにもやきもきする。
夏凜はアインハルトを正面から見つめ、両肩をがっしりと掴んだ。
驚いた表情を浮かべるアインハルトへ、夏凜は言いたいことを整理もせずに捲し立てた。
「覚えときなさい! あんたが悔やもうがどうしようが勝手だけど、死んだ人間は戻らないの!
それに……あんたの友達も此処に居るんでしょ? だったら今、あんたがすることは何!」
「私が、すべきこと……」
脳裏に浮かぶのは、今もどこかで殺し合いの恐怖に曝されているだろう、コロナとヴィヴィオの顔。
インターミドルの戦いで全力を尽くし合ったゴーレムマイスターの彼女と、そして自分の最大の好敵手。
――彼女達は、死なせたくない。いや、死なせられない。
「私は、ヴィヴィオさん達を……」
「守りたいんでしょ? だったらくよくよしない。
いくら力を持ってたって、ダメな時はダメなのよ。大事なのはそれを繰り返さないようにすること」
……我ながら、ずいぶん背中が痒くなってくるような台詞が出てくるものだと思う。
少し前の自分なら考えられなかった。そう考えると、やはり勇者部に入って得たものは大きいのかもしれない。
だからこそ、止めなくてはならないだろう。
凶行に走る風を引っぱたいてでも止めて、根性を叩き直してやる。それこそが、彼女の友人としての務めだ。
「…………」
アインハルトは、夏凜の言葉を噛み締めているようだった。
心なしか、その表情は先程よりも明るい。
此処から先は彼女次第だ。夏凜はあくまで背中を押す役割でしかないのだから。
アインハルトの容態が回復したら、可及的速やかに仲間を増やしていこうと夏凜は考えていた。
友奈達やアインハルトの友人……ヴィヴィオとか言ったろうか。とにかく、その子達も見つけねばならない。
やることは山積みだ。しかし、やるのみ。
「だって――『三好夏凜』は、勇者だものね」
三好夏凜は勇者である。
双刀の勇者は、決して挫けない。
【F-2/森/一日目・黎明】
【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。
1:アインハルトが回復次第動き出す。
2:風を止める。
【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:魔力消費(小)、脳震盪(回復中)、歯が折れてぼろぼろ、鼻骨折
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
黒カード:1~5枚(自分に支給されたカードは、アスティオンではない)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
1:私が、するべきこと――。
2:仲間を探す。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後からです。
-
●
「くそっ……」
犬吠埼風は、仲間の勇者から逃げるように走っていた。
――やれるつもりだった。
参加者を全員殺して、繭に願いを叶えてもらえばすべてが丸く収まると信じていた。
もしもあそこで夏凜が現れなければ、アインハルトは殺せていただろう。
もしもあそこで夏凜が現れなければ、こんな気持ちになることもなかったろう。
「くそっ……」
大赦。
神樹。
勇者。
満開。
散華。
樹。
――様々な言葉が、ぐるぐると頭の中で回っている。
「くそっ……くそっ……!!」
仲間との接触を経ても、風は自分の矛盾には気付かない。
気付かないのではない。気付けないのだ。気付ける筈なのに、無視しているから、気付けないのだ。
後戻りなんてするつもりはない。それに、もう出来ないと風自身思っていた。
結果的に戦う手段を持っていたとはいえ、無力なものだとばかり思っていた子どもに刃を向けた時点で。
「やめろ……もう、私の前に立たないでくれ。私はもう、勇者なんかじゃないんだよ――」
犬吠埼風は勇者ではない。
大剣の少女は、坂道を転げ落ちるように、あらぬ方向へと信念を歪ませていく。
【F-3/森/一日目・黎明】
【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]:腹部にダメージ(小)、精神不安定
[服装]:普段通り
[装備]:風のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:繭の力で、世界を正しい形に変えたい
1:勇者部の皆には会いたくない。
2:出会った参加者は殺す
[備考]
※大赦への反乱を企て、友奈たちに止められるまでの間からの参戦です。
※優勝するためには勇者部の面々を殺さなくてはならない、という現実から目を背けています。
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投下終了です。指摘などあればお願いします。
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投下乙です!
風先輩、乗ってしまったか。これだけ強いのに現実逃避してるというのも珍しい
一方の夏凛ちゃんは安定の対主催、こっちはTHE勇者って感じですね!
曇ってたアインハルトちゃんは彼女に出会えて本当に良かった
それではこちらも投下しますね
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愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛額縁の向こうで、女の子が倒れていた愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
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目が覚めたら、目の前に大きなお山が二つありました。
インパクト、大です。
「どういうことなのん」
宇宙人に襲われてぼろぼろになりながらも、気絶から目覚めてなんとなく意地で歩き続けて。
元気が出ない時は歌を歌うと良い、という言葉をなんとなく思い出して、朧気な意識のままお口を動かし続けて。
いつのまに限界が来たのか、足が動かせず、口も動かせず、ばたり、と呆気なさすぎるくらい倒れて。
大晦日に感じた駄菓子屋の背中の温かさを、思い出しながら。
たった一人で、冷たい地面の固さを、思い知りながら。
うち、宮内れんげは、道のど真ん中でもう一度意識を失っていた。
そして今、覚醒したというわけなのん。
ぼんやりとした頭を頑張っておはようございますして、あれから何が起きたのか理解しようとする。
身体の感覚から、自分が仰向けになって寝かされていることは理解できた。
うちのポリシー上、倒れるときは前のめりだったはずだから、今の状態はそこから変化なく地続きであるという説はなくなる。
つまり、うちが寝ている間に何かが起こり、目の前にお山が二つ出現したということだ。
わずか十数秒でここまで推理できるとは、うち流石なん。
「でも、このお山はなんなのん」
見上げた景色の大部分を占めている、これ。
デカい。説明不要。いや、説明は欲しいのですが。
とりあえず、観察してみる。まず、大きい。それに、お椀みたいに丸っこい形をしている。
数字の8を横倒しにして更に横半分に割ったように、二つ連なる形で並んでいる。
そして、視界の大半を占領しているそのお山が、微かに動いていることに気付く。
見るのも飽きてきたので、とりあえず、次は触ってみることにした。うち、実践派なん。
ぺたぺた。なんだか表面は布っぽい質感なんな。
「ひゃ!?」
硬さを確認するために、少し強く触ってみる。もみもみ。
柔らかいようでいて、しっかりと形状記憶強度をお持ちなよう。
少々の力を入れて揉むと形がむにゅりと崩れるが、ぽわわんとすぐに元の形を取り戻す。
こんなに大きくはないけれど、マシュマロを思い出すふわふわ具合なのん。
「あ、ひゃぁ!?ちょ、ちょっと、やめ……」
何か変わったところがないか、全体を探るようにまんべんなくタッチしてみる。
うちの手では全体を掴み切れないので、何度も何度も、角度を変えてわしづかみ。
このお山の全てを理解するために。おっきな双子山の踏破目指してレッツチャレンジ。
ここまで来たら行くところまでガンガン行くのがうちの流儀なのん。
-
おや…………なんだか、山頂部分に小さなふくらみが。
これは。
と、ここでうちの手が、別の誰かの手に掴まれてしまったのん。
「あ、あのぅ……そろそろ、良い……かな……」
「な、なにやつなのん!」
謎の山を揉むことに夢中になっていたうちは、今までもかけ続けられていたその声、更にその発信源となっていた人にようやくに気付いた。
まるで日の出のように、お山の向こうからおかっぱ髪の女の子の顔が現れたのん。
だけどこれは、あの寒い冬の日みんなで見に行った、眩しく輝く初日の出とは逆だと直感で思う。
いかにも大人しそうな、黒髪と眼鏡というスタイル。自信のなさそうな、眉を下げた表情。
うちの周りには、いないタイプ。
と、ここで流石のうちも状況を正しく理解できたのです。
「分かったん」
宮内れんげは今の今まで、彼女に膝枕されていたのだと。
そして、うちが見上げながらふぃーるどわーくを行っていた、この双子山の正体を!
「このお山、おねーさんのおっぱいなんな!」
もみもみ。もみもみ。
苦笑いをされたのは、きっと気のせいに決まってるん。
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「そう、大変だったね……」
園原杏里は、宮内れんげから行き倒れるまでの経緯を静かに聞いていた。
身振り手振りを加えながら、時たま、杏里にはよくわからない言葉を使いながら。
れんげは宇宙人っぽい男に襲われたことを大仰に語る。
「危ないやつなん!あんりんも気を付けるん!」
「そうだね、気を付けるね」
その男は朱色の髪に細目、三つ編みにアホ毛となかなか分かりやすい特徴を備えていた。
杏里は記憶にその特徴を刻み込みながら、出来れば絶対に会いたくないと重い溜息を漏らす。
会いたくないといえば、名簿にはあの折原臨也の名前も示されている。こちらも絶対に会いたくない。
平和島静雄にも、とある事情によりあまり会いたくはなかった。彼個人が悪い人間だとは思っていないのだが。
唯一セルティだけは、絶対に安心な人物(?)なので、なるべく早く合流したい、が、どこにいけば会えるのかはわからない。
結局、杏里は何をしていいのか分からないまま街をさまよい、そしてれんげを発見、介抱していたというわけだ。
「蛍ちゃんと、小毬ちゃん」
「あんりんは友達いないのん?」
「セルティさんって人はいるけど、他にはいないかな」
セルティや静雄には悪いが、杏里は名簿に彼女の友人、竜ヶ峰帝人と紀田正臣の名前がないことにほっと胸を撫で下ろしていた。
彼らは自分にとって特別な存在だ。もしも自分と同じくまきこまれていたら、ここまで平静ではいられなかっただろう。
少し悩んだが、平和島静雄や折原臨也についてはれんげに伝えるのはやめておいた。セルティについても、良い人だとだけ伝える。
ただでさえこんな状況なのに、れんげを更に不安にしたくはなかったのもあるし。
口下手な自分が、彼らのことをれんげに正しく伝えられる自信がなかったのだ。
この幼気な少女にさえ嘘つきだと思われるかもしれないと想像すると、杏里の口は重くなってしまう。
「あんりんあんりん」
「……どうしたの、れんげちゃん?」
「うち、学校行きたいん」
と、ここでれんげは杏里に行き先を提案した。
彼女が見せた地図の一点、旭丘分校。
ここがれんげの通っている学校、という話らしい。
「こまちゃんもほたるんも、きっと学校来ると思うん。
今日は平日なん。学校行くのが普通なのん」
「え……そう、かな」
まさか、こんな非常事態に学校に登校するなど思いつくだろうか。
だけど、れんげはやけに自信満々な顔をしながら、そうなのん!と断言する。
「行き先なかったらまずは自分の知ってるところいくと思うん。
それに、こまちゃんもほたるんも、うちみたいにいつも通りに決まってるん」
こんな時でも。殺し合いなんて言う訳のわからない非日常でも。
いつもと、同じように生きていく。れんげはそういう子だし、蛍も小毬もそうであると信じている。
毎日が変わらないのんびりとした日々の続きが、この先もずっとある。
そう信じるれんげの瞳には、一点の曇りもない。
「そう、だね」
れんげの強い意志を感じ取ったのか、杏里は静かに微笑んだ。
「きっと、また会えるよね」
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園原杏里は、寄生する。
彼女自身が現実を、殺し合いという現実さえも『額縁の中の風景』としてしか、見れないからこそ。
基本的に他者は全て、額縁の向こうの『自分とは違う存在』としてしか、見れないからこそ。
現実を強く生きていく、他者と強く関わろうとする宮内れんげを己の宿主として、寄生虫として生きていく。
光輝く少女の背後にできた影に隠れるように。
それでいて、れんげという光と離れぬよう付き従うように。
誰も愛せずに、何も真に感じることなく、光を見つめながら暗闇の中を生きていく。
それは、依存というほど互いに情はなく。
それは、共生というほど互いに益はなく。
ただただ、自分に都合よく、勝手に寄生しているだけ。
そう。
(愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる)
園原杏里の代わりにすべてを愛する妖刀、彼女の体内に存在する『罪歌』に寄生するように。
(愛愛愛愛しましょう愛愛愛愛愛しましょうよ愛愛殺すだなんて勿体ない愛愛愛愛愛して愛愛愛愛愛して愛愛して愛愛愛愛愛愛して)
園原杏里の脳裏に響き続ける狂愛の呼び声。
(愛してるこの女の子も愛してしまいましょう?愛してる愛してる愛してる一緒になりましょう?愛してる愛してる私たちの子供にしましょう?)
常人ならば数秒で狂ってしまう呪いの声を、杏里はいつものように額縁の向こうに追いやっていく。
杏里は呪いの妖刀に憑りつかれている。
そして、24時間寝ても覚めても愛の言葉を聞き続けている。
杏里はこの事実を、額縁にかかった絵を鑑賞しているように客観的に見ることで、狂わずに済んでいた。
もっとも、そんなことが出来る時点で、園原杏里は罪歌の持ち主となる以前から狂っていたともいえるのだが。
(愛してるここには平和島静雄も愛してる愛してる愛してる愛してるいるわ愛してる愛してる愛してる今度こそ彼とも愛し合いましょう愛してる)
罪歌は相変わらず人間を、特に強い人間を斬る、愛することしか考えていないようだった。
問題は、今のこの状況が彼女に斬る免罪符を与えてしまいかねないことだ。
揺れ動く杏里の心が、罪歌を十全にコントロールできるか怪しいことだ。
(愛してる愛してる愛してるいいのかしら。愛してる愛してる愛してるもしかしたらこの子は貴女を殺そうとするかも愛してるしれないのよ?)
そんなはずはない。こんないい子が殺し合いなんてするはずがない。
(愛愛愛愛愛馬鹿な子愛愛愛愛愛)
(この世界の愛愛愛愛人間すべてを愛愛愛愛愛愛してしまえば、殺し合い愛愛愛愛愛愛なんてしなくてすむのに愛愛愛愛愛)
(愛愛愛愛愛愛愛そうだ愛愛愛愛愛愛それがいいわ愛愛愛愛愛愛そうしましょうよ愛愛愛愛愛愛し合いましょうよ愛愛愛愛愛愛)
そんなことは、許されない。
確かに、罪歌で相手を切りつけ愛の呪いを植え付ければ、杏里はその相手を服従させることが出来る。
だけど、寄生虫であり虫けらである私が、誰かを愛で支配するなど。
他人を洗脳することなど、出来れば二度としたくはない。
でも、もしも殺し合いに乗ってしまった人間が目の前に現れたら。
その時は、どうすればいいのか。
殺し合いを止めさせるために、斬る(愛する)べきか。否か。
危険人物を罪歌の呪いに犯すことは、正しいことなのか。
もしくは、罪歌が熱烈に愛したがるような強い『人間』と出会ってしまったら。
自分に、罪歌がしっかりコントロールできるのか。
出来なさそうな場合、その人から距離を取るべきなのではないか。
でも、そうなったらみんなにどう説明すればいいのか。
仮に説明したとして、妖刀を身に宿した化け物と、誰が一緒に行動したいなどと思えるだろうか。
「あんりん、どうしたのん?」
「ううん、なんでもないよ。それじゃ行こうか、れんげちゃん」
宮内れんげに気付かれないように、表向きは何も心配していない風を装いながら。
園原杏里の心には、殺し合いという状況に対して、他者とは違う種類の暗雲が立ち込めていた。
-
【B-6/本能字学園付近/一日目・黎明】
【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]:ダメージ(小)
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜3 枚
[思考・行動]
基本方針:うち、学校いくん!
1:あんりんも一緒に来てくれるのん!
2:こまちゃん、ほたるん、待ってるのん。
[備考]
※骨が折れない程度に手加減はされました
※杏里と情報交換しましたが、セルティという人物がいるとしか知らされていません。
また、セルティが首なしだとは知らされていません。
【園原杏里@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:白の学生服。ノーブラ。
[装備]:体内に罪歌
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
[思考・行動]
基本方針:誰かに寄生して生きていく。
1:れんげちゃんに寄生する。
2:セルティと合流したい。
3:静雄、臨也、あと強い人間にはできれば会いたくない。
[備考]
※罪歌は強い『人間』と出会うと杏里の制御下を離れてしまう可能性があります。
※れんげと情報交換をしました。蛍、小毬、悪い宇宙人(神威)のことを知りました。
【罪歌@デュラララ!!】
人間を愛する呪いの妖刀。刀である罪歌には、人間を斬ることでしか温もり、愛を確認する術がない。
斬った相手の恐怖、痛みから彼女の『愛』を感染させ、罪歌の子として使役することが出来る。
罪歌の子は親である罪歌、そしてその宿主の杏里の命令には絶対であり、また彼女たちを助けるために自発的に行動することもある。
罪歌の子に斬られた人間もまた罪歌の子(孫)となるため、かつての切り裂き魔事件ではネズミ算式に感染者を増やし続けた。
本来ならば持ち主は罪歌の声に耐えきれず自我が崩壊して罪歌の操り人形となるが、杏里がそうなっていないのは、世界とその出来事を「額縁の中の出来事」として徹底的に客観視するようになったためである。
ただし杏里も罪歌を完全にコントロールできているわけではなく、不意に罪歌の求める強者=強い力で子供を増やしてくれる『人間』と出会った際には、体内の罪歌が勝手に相手を斬りつけようとする可能性がある。
このロワにおいてどのように制限されているかは実際に感染者を出した書き手様にお任せします。
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投下終了です
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投下乙です
>華の行方
風先輩……
結構近場にいるボロボロの樹や同じく殺し合いに乗った東郷さんに遭遇したらどうなってしまうのか……
>あいあいびより おおきなやまをみた
れんちょんのいつも通りのほのぼのっぷりと罪歌のヤバさとのギャップが……
目的地の分校にはセルティがいるけどその進路には臨也がいるからなぁ
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>>251
投下乙です
れんちょん視点の一人称がかわえええ
そして罪歌がこえええええええ!!
しかし女子高生が小学一年生女子に寄生していると書くとシュールだw
ところで、杏里の状態表に黒いカードが無いようですが
支給品は罪歌がすべてだったということでしょうか
普通に考えればそうなのでしょうが、
黒いカードから出てきたのではなく杏里の体内にあったような描写がありましたし
(OPではいつもの武器は没収するとは説明されていなかったので、
この状況では杏里は「自分には罪歌が支給された」と思うのではなく
「自分には黒いカードが一枚も支給されなかった」と思ってしまうのではないかと思います)
このロワのルールでも「本人の体と一体化するような装備は没収される限りではない」だったと思いますし
罪歌は変身アイテムとも違って支給品枠をすべて使う必要もなかったと思いますので
罪歌=支給品(三枠分)扱いなのかどうかが気になりました
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感想&指摘ありがとうございます
罪歌に関してはそれ相応に強力な武器(洗脳、戦闘力UP)だと思っていましたので、デバイスや極制服のように本人支給=黒カード全使用だと勘違いしておりました
確認したところルールに明記されておりませんでしたので、杏里の道具に
黒カード:不明支給品1〜3 枚
を追加いたします
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>>254
>>2のBの項目で武器は全没収と書いてあるので、最低でも一枠使うかと思います
なので不明支給品は0〜2枚では?
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重ねてご指摘ありがとうございます
黒カード:不明支給品0〜2 枚
に修正いたします
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投下乙です
うわあ、右上の地区には神威、龍之介に加えて厄介なのが出そろいましたね
その周辺にいる金銀組やヅラ組、皐月様組がどのように動くのか楽しみです
それでは、予約分を投下します
-
殺し合い。
突如集められた総勢70人の前で、繭という少女が課した理不尽なゲーム。
海に囲まれて外界と断絶された謎の島で繰り広げられる、血を血で洗うバトルロワイアル。
互いの命の奪い合いの果て、最後に残った者は願いを一つ叶えられるという。
しかし、それを良しとせず、どうにかして抵抗しようとする者も大勢いる。
古代中国では「蠱毒」という、ヘビ、ムカデ、ゲジ、カエルなどの百虫を同じ容器で飼育し、共食いさせる呪術がある。
この殺し合いはまるで人間で共食いさせる「蠱毒」そのもの。
そんな人の命を虫ケラと同等にしか見ていないような狂気のゲームなど、断じて許せるものではない。
一方で、殺し合いに乗る者もいる。
それは殺し合いに巻き込まれた大事な人を救うために敢えて残酷な選択をする者もいれば、
願いを叶えるために乗った者、あるいはちょっとした認識のズレから殺人を犯す者、
あるいは純粋に戦いを楽しみたいだけの者まで様々だ。
-
D-4南方に立つチャイナ娘・神楽は、主催者の繭に立ち向かわんとする者達の一人であった。
「あのモジャモジャ女ァ!!ふざんじゃないヨ!!私が夜兎族だからって殺し合いに乗ると思ったら大間違いアル!!」
支給された黒いカードから出てきた番傘を片手に、どこにいるかもわからない繭へ向かって叫ぶ。
神楽は戦闘種族の生き残りでありながら、命ある者を殺すことを非常に嫌っている。
夜兎の血、夜兎の本能に屈さず、その力を誰かを護るために使うことを願う彼女にとって、殺し合いは到底受け入れられるものではなかった。
「でも…あそこには夜兎族が私の他にいたアル」
集められた白い部屋、大勢の人間の中でちらりと見えたその姿を神楽は思い出す。
その顔を見間違えるはずがない。神楽とは正反対の、闘争本能のままに生きる夜兎。
その名を確認するために、腕輪の白いカードに映る画面を見る。
「銀ちゃんに新八、マヨ、ヅラ、マダオに……バカ兄貴…!」
そこには慣れ親しんだ面々に加え、神楽の兄の名前があった。
その名は神威。風化したはずの夜兎の風習「親殺し」を実践し、神楽の父・星海坊主の片腕を奪った戦闘狂。
あいつのことだ、殺し合いを心から楽しんで嬉々と人を殺してまわるであろう。
そんな危険な人物を放っておくわけにもいかないし、神楽には夜兎の血に流されて殺戮の限りを尽くす兄を止める役目がある。
「神威は私がなんとかしなきゃいけないネ」
兄をよく知る神楽は、神威を見つけ出すべく動くことに決めた。
一刻も早く神威を見つけ、なんとしてでも止めなければ最悪の場合数十人が彼の犠牲になるだろう。
幸い、神楽の知る人物はあっさりと殺されるタマではない。
銀ちゃん、新八、マヨ、ヅラとは今まで何度も死線を超えて来たし、マダオも妙に悪運が強いのでそう簡単には死なないだろう。
できるなら合流したいが、あいつなら大丈夫だ、と思えるくらいには信頼できる。
そうとなったら、ここでじっとしているわけにもいかない。
どこへ向かおうかと周囲を見回していると、ある建造物が神楽の目に入った。
二つの玉の間にそびえ勃つ棒。神楽のいるD-4地区からはっきりと見えるくらいには巨大な一物。
夜の中でも煌々と輝いている金属の兵器。
その名も――。
「あれは、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃないアルか。完成度高けーなオイ」
◆ ◆ ◆
怪我に構うことなく、花京院は走り続ける。
ここまでの全速力で走り続けたら普通の高校生ならばばててしまうのだが、この状況が殺し合いであれば話は別だ。
生き延びるため、こんなところで死なないためにも疲労で膝をついている暇はない。
あの超人・範馬勇次郎を一瞬の内に葬った見えざる敵を振り切らなければならない。
(『ハイエロファントグリーン』に反応はない。もう追ってきてはいないのか…?)
花京院は研究所を出てからは『ハイエロファントグリーン』を紐状にして自分の背後数十mまで展開し、追ってくる敵を探知しながら逃げていた。
しかし後ろを振り返っても敵の姿は闇夜のせいで見えず、『ハイエロファントグリーン』の紐が破壊された感覚もない。
一度は撒いたかとも思ったが――
-
(いや、安心するにはまだ早いッ!)
花京院は足を休めることなく走る。
敵のスタンド能力が詳しくわかっていない以上、立ち止まることは死を意味する。
暗闇の先に、敵スタンド使いの本体が潜んでいてもおかしくないのだ。
幸い、このまま南下すれば旭丘分校へ続く橋があるはずだ。
そこを経由すれば、当初の目的地である旭丘分校へ行くことができる。
「あれは…」
花京院がしばらく走り続けて、そろそろ橋に到着するかという頃。
前方を見据えると、鉄製で先端部がデカくなった棒とその左右に鎮座している玉が見えた。
それが一体ナニかは考えたくもないが、恐らくは端を渡りきってすぐの場所にあるネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲なるものだろう。
そして橋の入口付近に、人が立っていることに気づく。
背丈が花京院より頭一つ分小さい、チャイナ服を着た少女だ。
そういえば白い部屋に集められた者の中には巻き込まれた無関係な少女、果てには小学校に入っているかどうかもわからないほど幼い女の子もいた。
「あれは、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃないアルか。完成度高けーなオイ」
花京院に背を向け、何故か視線の先にあるネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の感想を言っている。
このゲームに乗っているかどうか問い正したいところだが、事態は一刻を争う。
「すまない、そこの君!」
すかさず話かけた――が。
「誰アルか!」
少女の得物の番傘を突きつけられる。
ここが殺し合いの場であるからか、ピリピリした雰囲気に陥りやすい。
「今は信じてもらうしかないが、僕はこの殺し合いには乗っていない!とにかく、話はあとだ!ここを離れないとッ!」
見えざる敵がすぐそこに迫っているかもしれないのだ。
花京院は急ぐあまり、問答無用で神楽の手を引いて橋へ向かおうとする。
「いきなり汚らしい手で触るんじゃないヨ!光ったメロンみたいな一本糞垂らしやがって!!」
このような強引な行動がいきなり受け入れられるはずもなく、手を振り払われた。
仕方ない、と花京院は急ぐ気持ちを抑えて神楽に事情を説明しようとするが、その前に一つ引っ掛かることがあった。
-
「…光ったメロン、とは?」
「お前の目は節穴アルか!お前のケツの穴からずっと向こうに伸びてんじゃねーか!!もしかしてあまりの恐怖に緑色のウ○コ脱糞したことにすら気づいてないアルか?気持ち悪っ!!」
「…君はスタンドというものを知っているかい?」
「スタンドって何アルか?」
…間違いない。この少女は『ハイエロファントグリーン』が見えている。
花京院の背後から伸びている、紐状になったスタンドが見えているのだ。
腰のあたりから出ていることを差引いても糞と間違われたことには心外だったが、
スタンドの見えない者とは根の部分で分かり合うことが出来ないという考えを持っていた花京院にとってこの事実は衝撃的であった。
思えば、研究所で遭遇した範馬勇次郎も花京院のスタンドを目で追っていた。
スタンドの可視化――これも繭のスタンド能力なのだろうか?
…いや、考えるのは生き延びてからだ。
今はこの少女に納得のいく説明をして、共にあのおぞましい敵から逃れなければ!
「信じてくれとは言わないが――」
今のところ『ハイエロファントグリーン』に反応はない。
もしかしたら僕たちの背後には本当に敵はいないのかもしれない。
◆ ◆ ◆
「…本当に一瞬で死んだアルか?」
「ああ。その男はあまりにもあっけなく死んだ。ほんの一瞬の間に」
限られた時間の中、花京院の口から範馬勇次郎のこととその死の瞬間、そしてその勇次郎をこの世から消し飛ばした見えざる敵から逃亡中であることが語られた。
花京院の話を聞くに、殺し合いを楽しんでいた勇次郎は神楽の兄と重なる部分がある。
そして、超人とも形容できる戦闘能力を持った勇次郎を瞬時に葬る敵。
神楽も聞いただけでその能力の詳細はわからないが、とてつもなく危険であることはわかる。
「今にもそいつが追いついてくるかもしれない。今すぐ出発しないと僕たちの命が危ないんだ!」
「透明人間だか光学迷彩だか知らないが、敵が見えないことは分かったヨ。でも、これからどこ行くアルか?」
「そこにある橋を渡って旭丘分校へ行く。学生の集まりやすそうな場所だ」
一応、神楽も花京院の言うことを信じており、殺し合いには乗っていないようだ。
しかし、その信頼を得るために思ったより時間を取ってしまった。
敵が近づいてきてもおかしくないのだが、『ハイエロファントグリーン』は敵を感知せず、背後には誰もいない。
ここまでくると撒いたと思ってもいいのかもしれない。
流石の花京院の心も焦燥より安心の占める割合が大きくなってきていた。
「…私は橋渡るの反対アル」
今にも動き出し、橋へ向かおうとしていた花京院を神楽が止める。
花京院が振り返ると、神楽の深刻な表情が見えた。
「あの橋逃げ場少ないし…なんだか嫌な予感するネ」
神楽の直感が、あの橋を渡るな、と告げていた。
戦闘種族としての本能がそう感じさせているのか、単なる勘かはわからない。
-
「逃げ場が少ない…か」
確かに目前にある橋は人間が5人ほど並んで渡れるかどうかといった幅で、逃げ場が少ないという神楽の意見は的を射ている、と花京院は考える。
花京院が『姿の見えない敵』からここまで逃げることができたのは、いかなる方向にも逃げることのできる外にいたからだ。
だが、もし橋の上のような狭い空間で襲われたら、どこへ逃げればいいのか。
仮に水辺へ身を落とそうとも、水中で動きが鈍くなったところを突かれるであろう。
見えざる敵があの橋の上で待ち伏せしていて、橋を渡ったと同時に範馬勇次郎同様、攻撃を避けきれず消し飛ばされることもあり得る。
待ち伏せ。頭に浮かび上がった可能性を顧みて、花京院は安心に浸って緩んでいた精神を引き締めた。
「――わかった。なら、ここから西へ行って基地を経由して墓地へ向かおう。今は奴から逃げることが最優先だ」
仮に橋に敵が潜んでいるとするならば、目と鼻の先に敵がいることになる。
今は敵から距離を離し、捕捉されないようできる限りの尽力をするべきだ。
その思いの元、花京院は身体に疲労が溜まっているにも関わらず駆け出した。
神楽も花京院に続いて橋を後にする。
月の光が、暗黒から逃れようとする彼らを照らしていた。
【D-4/橋入口付近/一日目・深夜】
【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中)、脚部へダメージ(小)、腹部にダメージ(中)、自信喪失気味
[服装]:学生服、『ハイエロファントグリーン』(紐)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:繭とDIOを倒すために仲間を集める
1:少女と共に『姿の見えないスタンド使い』から逃れるために基地方面へ向かう。
2:承太郎たちと合流したい。
3:ホル・ホースと『姿の見えないスタンド使い』には警戒。
4:スタンドが誰でも見れるようになっている…?
[備考]
※DIOの館突入直前からの参戦です。
※繭のことをスタンド使いだと思っています。
※互いの自己紹介を省いたため、神楽の名前をまだ知りません。
※スタンドの可視化に気づきました。これも繭のスタンド能力ではないかと思っています。
※索敵のため、腰から紐状のハイエロファントグリーンを背後から数十mに渡ってはわしています。
【神楽@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:チャイナ服
[装備]:番傘@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らないアル
1:神威を探し出し、なんとしてでも止めるネ
2:銀ちゃん、新八、マヨ、ヅラ、マダオと合流したいヨ
3:『姿の見えないスタンド使い』を警戒してるアル
4:結局こいつのメロン色の一本糞は何アルか
[備考]
※花京院から範馬勇次郎、『姿の見えないスタンド使い』についての情報を得ました。
※互いの自己紹介を省いたため、花京院の名前をまだ知りません。
【番傘@銀魂】
日光に弱い体質である夜兎族の標準装備。主に外出時に日傘として差している。神楽に支給。
見た目は普通の番傘であるが、戦闘時にはマシンガンのように弾丸を発射する。
また、砲撃や爆発にも耐えるほどに強度が高く、傘を開けば敵の攻撃を防ぐ盾になり、傘を閉じると棍棒のようにそのまま殴りつけることが可能な殴打武器となる。
-
悪寒を感じた神楽。それが元で考え直し、待ち伏せの可能性を考慮した花京院。
二人のどちらかが欠けていれば、その命はなかったであろう。
なぜならば、橋の上には文字通り暗黒空間への入り口が大口を開けて待ち構えていたのだから。
D-4とE-4を繋ぐ橋。
夜空の元で、渡る者もいない寂しい場所の虚空に黒点が浮かび上がる。
その黒点は徐々に大きくなっていき、やがてツノのついた不気味な顔を形作った。
その巨大な口の中からは男の姿が見て取れる。
「橋をわたると思ったが…フフ おしい」
ヴァニラ・アイスは、走り去って豆粒のように小さくなっていく花京院と神楽の後姿を見ながら呟いた。
研究所にいた時点で花京院を見失っていたが、花京院が脱出に使った窓枠の方角からD-4南へ向かっていることは分かっていた。
花京院がそのまま橋を渡って南下するであろうことは容易に推測でき、間抜けにも橋を渡ったところを暗黒空間に飲み込んでやろうと待ち構えていたのだ。
橋はそれなりに狭く、たとえ存在を勘付かれようとも逃げ場がない。
そこを渡れば『クリーム』に確実に飲み込まれていたであろう。
「あのくそガキが余計なことを吹き込んだせいで行先を変えたか」
花京院の隣にいるチャイナ服の少女を見て、小賢しいサルが、と内心で毒づく。
あの娘がいなければ、ヴァニラは花京院を葬ることができた。
「まあ、いい……。花京院が他の奴らと群れればまとめて消し去ることができるからな…」
そう言ってヴァニラは『クリーム』で再度姿を消す。
花京院が他の参加者と合流することはかえって好都合だ。
人は集団の中で群れていると安心する。特に殺し合いの状況では、同じ志を持つ者と一緒にいればそれは顕著に表れる。
そして、安心して緊張の糸が切れたところを不意打ちしてまとめて暗黒空間に飲み込めば効率がいい。
「花京院…あの娘も、貴様がいずれ出会う仲間諸共、このヴァニラ・アイスの『クリーム』で消し去ってやる」
花京院が集団の一員になるまで泳がしておくのもいいかもしれない、と思いながら、ヴァニラ・アイスは花京院と神楽を追った。
【D-4/橋上/一日目・深夜】
【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜3、範馬勇次郎の右腕(腕輪付き)、範馬勇次郎の不明支給品0〜3枚
[思考・行動]
基本方針:DIO様以外の参加者を皆殺しにする
1:花京院と神楽を追い、殺す
2:承太郎とポルナレフも見つけ次第排除。特にポルナレフは絶対に逃さない
3:花京院を泳がせて、集団で群れているところを不意打ちで一網打尽にするのもいいかもしれない
[備考]
※死亡後からの参戦です
※腕輪を暗黒空間に飲み込めないことに気付きました
-
以上で投下を終了します
-
投下乙
完全に花京院のストーカーとなったヴァニラ怖えぇ
なんとか日の出まで持ちこたえればいいけど、墓地周辺に突っ込むとは……またもや死人が出そう
-
DIO、ポルナレフ、言峰綺礼投下します
-
「…おれはな。てめーみたいな悪党は絶対に許さないと心に決めている」
男、ジャン=ピエール・ポルナレフは―――燃えていた。
彼を、彼の心を燃やしているのは義憤だ。
『どうやってこんな馬鹿げた催しを』だとか、『どうして死んだはずのヴァニラ・アイスの名前が名簿に』だとかそんな些細な疑問は既に心から消え失せていた。
理由は単純。
少女が見るも無残な姿で、その尊厳が汚された。
まるでその命は最初から弄ぶために用意されたかのように、彼女の意思など関係なく。
最期の断末魔は、いかに彼女が激痛と屈辱の中にいたのか察するには余り得るほどのものだった。
―――その姿を見て。
―――脳裏に浮かんだのは、遠い昔に亡くした妹の姿。
「いいか!このジャン=ピエール・ポルナレフが彼女の魂の安らぎのために、貴様を討つ」
全く面識のない少女だったが。
それでもポルナレフは―――正しい信念の元に、このような馬鹿げた催しを企てたものを打ち滅ぼすことを誓った。
…が、しかし。
一人でできることなど限られている。
ポルナレフのスタンド『シルバーチャリオッツ』は戦闘に特化したスタンドである。
スタープラチナのような遠視や精密性は望めないし、ハイエロファントグリーンのような万能性は持ち合わせていない。
ポルナレフだけでは―――この状況下では、できることが余りにも少な過ぎた。
「とりあえずは承太郎や花京院と合流しねーとな…ジョースターさんはいねえみたいだが、どうなってるのかも心配だ」
改めて名簿を開く。扱ったことのないタイプの物故、少しばかり手古摺ったが問題は無い。
並んでいる名前の中に、知っている名前は複数あるが―――その中で一際目を引いたのは『ヴァニラ・アイス』という名前だった。
ヴァニラは確かに死んだ。ポルナレフの前で塵になって消えた。
だと言うのに―――何故、奴の名前が此処にあるのか。
「はっ、生きかえったってか?魂の無い吸血鬼の次はゾンビにでもなるつもりかっての」
もし。
本当に生きかえったのなら。
コイツじゃなくて、アブドゥルやイギーが生きかえるべきだぜ―――と。
口の中で零しながら、ポルナレフは動き出す。
蘇ったのならばもう一度地獄に叩き落すだけ。ポルナレフのやるべきことは変わらない。
「…それにしても暗いな。今は夜か?地面はコンクリートのようだし、屋内だとは思うんだけどよ…」
硬い床を踏みしめながら手を突き出し、まるで支えを探す子供のように周囲を探る。
暗闇だとしても月明かりさえあれば周囲の確認は容易いのだが、どうやらここは屋内らしく月明かりすら届いていない。
よって眼が闇に慣れるのを待っているのだが―――生憎とポルナレフはこの状況下でのんびり待つほど優しくはなかった。
-
「わりーがここに留まっていられるほど暇じゃないんでな…。
『チャリオッツ』ッ!!」
―――現れたのは、甲冑の男。
『戦車』の暗示をもつスタンド、『銀の戦車』である。
煌く美しいその甲冑から覗く鋭い眼光は、このスタンドが並の力ではないことと。
それを扱うポルナレフが、歴戦の戦士であることを物語っていた。
チャリオッツが右手に持ったレイピアが、一閃。
いや、一閃ではない。
素早く、高速の域で振るわれたその剣は力強く、且つ流麗で。
本体のポルナレフが命じた、指の先にある壁を性格に切り裂き―――『穴』を作った。
「家主には悪いが…ってこんな状況じゃ家主がいるかどうかもわかんねーな…ま、いっか。
これで周りが見えやすく―――」
破壊された壁から、月明かりが挿し込む。
闇に支配されていた空間が照らし出される。
不自然なほどに閉じられたカーテン。日光が入らないよう一部板で閉ざされた窓。
見覚えがあった。記憶に強く残っていた光景だった。
「…まさか。ここは!『この場所』はッ!」
忘れるはずもない。
忘れることなどできるはずもない。忘れる気すら毛頭ない。
なぜならば、この場所は。
親愛なる仲間たちを喪った部屋。倒すべき邪悪の化身の根城。
そして、この催しに連れられる前にこのポルナレフが存在していた場所。
「―――『DIOの、館』…!!!」
ポルナレフがそう理解したと同時に。
ドン、と鈍い音が響き渡る。
この響きは、他の部屋からだろうか。
「誰か…『いる』…のか…?」
言い知れない恐怖。
この催しに連れてこられる直前―――DIOと出会いその能力の片鱗を味わったときのような冷や汗が流れる。
それを感じながら、ポルナレフは一歩。また一歩と進んでいく。
向かう先は、上階―――物音がした、元DIOが眠っていた部屋である。
▼ △ ▼
-
「きみは…『引力』を信じるかい?」
「…誰だお前は」
それが彼、言峰綺礼がこの場において初めて行った他者との交流だった。
この殺し合いの呼ばれ、正体不明の存在からの説明を受け、また飛ばされた。
その飛ばされた先で、そう時間が経たない内にこの男から声を掛けられたのだ。
相手の表情は見えない。
この部屋が暗いのだろう―――月明かりは腰ほどまでしか届いておらず表情どころか、その姿も危ういほどだ。
投げかけられた言葉と同時に己の衣服の違和感に辿り着く。
軽い、と。
(…ただの衣服に戻っている。あの子供の仕業か)
防弾加工と呪的防護処理が施されているはずの僧衣が、ただの何の変哲も無い僧衣と化している。
言峰でなければ気付かないほどの変化であったが―――慣れ親しみ、頼りにしていたものの一つだ。
多少の変化でも、彼が気付くのは当然と言えた。
しかし、そんな言峰など意にも介さず男は続ける。
「ああ、すまないね…私の友に神父がいてね…ついつい親近感を覚えて名乗ることを忘れてしまったらしい。
ほら、君も聞いたことがあるだろう?
『昔のガールフレンドに似ていた女性を目で追ってしまった』だとか『昔飼っていたペットに似ているからどうしても嫌いになれない』だとか…
そういうアレさ…」
「……」
「私の名は『DIO』。何、そう身構えることはない…少し『話』をしよう。
そうだな、私も名乗ったのだから君も…名前を教えてくれないか?」
男の声は、艶やかだった。
ぬるりと心の奥底に侵入し、染め上げるような安心感。
あくまで此方の意思を伺う形の―――そう、例えるならばまるで慈愛の女神のような。
しかし。
この男からは―――言い表せない、全体を把握できないような『悪の大気』というようなものを感じるのもまた事実だった。
「……言峰、綺礼だ」
「コトミネ。ことみね。言峰…いい名前じゃあないか。
わたしが持つ日本の知識は少ないが…それでも口に馴染むいい名前だと思う」
まるで、口に含んだ食物をゆっくりと味わうように。
反芻し復唱し、まるで長くを共にした友であるかのように親しみを持ってその名を繰り返す。
不気味だ、と。言峰は素直にそう思った。
「ところで、話を戻そうか…『引力』。『出会い』。人と人の間にも『引力』がある…。
わたしたちの出会いは『引力』によって引き寄せられた…この出会いにも『価値』と『意味』がある。そう思わないかい?」
-
こいつは、何を言っている。
それが言峰が抱いたシンプルな感想だった。
このような悪趣味なものに巻き込まれ、殺しを強制されているこの状況下で、哲学の授業でも始めようというのか。
だというのなら、馬鹿らしいの極地。
言峰は師である遠坂時臣と結託し聖杯戦争を裏から動かすため、暗躍している。
このような悪趣味なものに巻き込まれている時点で不本意だというのに、見知らぬ男の哲学を相手する時間などない。
「何が言いたい。ただの世間話だというなら」
「そう焦らないでくれよ…言峰。
仕方ない、急ぐ君に合わせて結論から言うとだな…私と手を組むつもりはないか?」
「…何?」
言峰の眉が、ぴくりと動く。
その瞬間を、男―――DIOは見逃さなかった。
まくし立てるように、次々と言葉を吐き出す。
「簡単な話さ…このDIOにとってこのような催しを勝ち抜くことは簡単なのだけれどね。
わたしは訳あって日光の下を歩くことができないんだ―――太陽アレルギーでね。
そのために昼に私を助けてくれる仲間がほしい、というわけだ」
つまり昼に自由に使える人間がほしい、ということかと言峰はその真意を見抜く。
言峰は聖職者だが聖人君子ではないし、戦闘のいろはも知らない子供でもなければ言われた言葉を素直に信じる純粋な少女でもない。
いくら相手の言葉が上手かろうと相手にただ利用されるだけのつもりはなかった。
つもりは、なかった。
「何、報酬は何もなしというわけではない。
わたしに協力してくれるのなら―――『君が心から望むもの』をみせてあげよう」
ガツンと、金槌で頭を殴られるような錯覚を起こした。
「今の世界に―――己の感性と合わない世界に苦悩しているのだろう?
安心するといい、わたしならその苦悩を取り除いてあげられる」
己の深い部分を、奥底の苦悩を一突きで言い当てるその声は。
まるで、聖母の如き優しい声で―――それは、正面ではなく背後から響いた。
背後。
正面から一瞬で掻き消えたかと思えば背後に現れたDIOは密着しそうなほど言峰に迫り、一言。
「―――友達になろう、言峰」
それが。
言峰綺礼が聞いていた、最後の言葉―――
-
「はあッ―――!!!」
「ぐううっ!?」
では、なかった。
言峰の背中の筋肉がまるで装甲のように隆起する。
ドガン!!と。大砲が壁を打ち抜いたような轟音が響くと共に、DIOの身体が後方へと弾け飛んだ。
フウゥーと、肺に溜まった酸素を排出する。
八極拳―――『鉄山靠』。
身体のバネ全てを稼動させ背中ただ一点に集約された衝撃はいとも容易くDIOの身体を打ち抜いた。
壁が崩れた音が響く。
DIOが衝突した壁が、衝撃に耐えられず崩壊したのだ。
ガラガラと音を立てて山になった瓦礫の中を調べれば、DIOの死体が現れるだろう。
本気で。手加減すらなく。、一切の躊躇を挟まず、打ち抜いた。
心の臓を砕くつもりで叩き込んだ。手応えも十分。
―――DIOの言葉は、言峰を揺るがすには十分だった。
実際、英雄王ギルガメッシュのような人を魅せ酔わせる『カリスマ』を一度目の当たりにしていなければ呑まれ、DIOの甘言に乗せられ傀儡になっていたであろう。
その道は。他者の辛苦を蜜とする生き方は、言峰綺礼にとって最も許されざる道だ。
その道を歩むことはありえない。生涯、ないと宣言しても構わない。
しかし。
あの言葉に―――安心感を感じたのも、事実だった。
「…迂闊だったな、DIO。貴様のようなヒトを惑わす、他者の辛苦を蜜とする存在に左右される私では―――」
「―――中々いい一撃だった…今のは確か、『八極拳』というのだったかな…?」
「ッ!?」
またもや背後から声が響いたその瞬間。言峰は音すら置き去りにして、反転し拳を叩き込む。
正確無比な脳を狙った攻撃。心臓で駄目ならば脳だ、と長年の経験が勝手に判断した。
しかし。
避けようが無い一撃は、空を切る。
先ほどまで声が聞こえていた場所に、既にDIOはもういない。
「人間が鍛錬することでそこまで成長することが出来るとは…驚いたよ、言峰。
このDIOもガードせざるを得ない一撃だった…並みの人間では今ので死んでいただろう」
DIOは―――まるで玉座に座る王のように、窓際に鎮座していた。
月明かりがDIOを照らす。
赤い瞳、金の頭髪。性別を超越したようなその美貌。
どれをとってもミケランジェロの彫刻を凌駕するほどに美しく―――だが一際目を引くのは、その隣に存在する金の大男だった。
丸太ほどの腕と足を持つその姿は否応なくその力強さを訴えかけてくる。
「なん、だ…その金の大男は…?サーヴァントか…!?」
「この『世界』が見えているのか…?
そうか…あの女のスタンド能力か何かか…」
-
DIOは顎に手を当て、考え込むような仕草をした後、言峰を見据えた。
「まあいい…あの女のスタンド能力が何であろうとこの『世界』の前では道端に転がるガムの包み紙と同義よ。
今はそれより大切な話がある…なあ、言峰」
言峰の身体が強張る。
その様子を愉しそうに見つめながら、DIOは言葉を紡ぐ。
それは、道が分からないと泣く子供に優しく道を指し示す大人のように。
「今、君の思っていることを教えてやろう、言峰。
こう考えているのだろう?『このDIOとかいう男の言葉には惑わされてはいけない』と…。
確かに、新しい道へと進むのは勇気がいることだ」
「黙れ」
「このDIOもそうだった…新しい自分になるのは勇気が必要だった。
だがね…『ソレ』を乗り越えたとき、途轍もない満足感と幸福感を得ることができる」
「黙れ…」
「自分に『正直』に生きることだ…言峰」
「黙れッッッ!!!」
私は貴様らのような外道とは違う、と。
言峰は激劫しながら、DIOへと飛び掛る。
筋肉を収縮させる、心臓が血液を全身へと送り込む。
そして、拳がDIOに迫ったその瞬間。
「また会えたな、DIOおおおおおおッ!!」
第三者の声が、その衝突を止めた。
▲ ☆ ▲
ポルナレフがその場にたどり着いたのは、まさに言峰がDIOに一撃打ち込んだその瞬間だった。
隙を見て暗殺しようと構えていたのだ。
(あの野郎ッ!!またあのスタンド能力を使いやがったッ!)
謎のスタンド『世界』。
その能力は未だ不明―――ポルナレフもここに連れられる前、一度だけ体験したが全貌は一切掴めなかった。
そしてそうこうしている内に神父らしき男がDIOに飛び掛ったのだ。
詳しい話は聞こえなかったが、神父の戦闘スタイルはポルナレフも確認していた。
見るからにスタンドを持っているようには見えない。
このままでは―――あの神父は、成す術もなく殺されるだろう。
ポルナレフは、これ以上目の前の人物が死ぬのは耐えられない。
ならば。
自分が出て、戦うしかない。
(アブドゥル、イギー…おれに勇気をくれ)
「また会えたな、DIOおおおおおおッ!!」
そして。時間は現代に再び舞い戻る。
▲ ☆ ▲
-
「ほう…ポルナレフか。久しぶりだな」
「うるせえ、この引きこもりヤローが!」
銀髪を逆立てた男・ポルナレフの乱入により、言峰の勢いは止まる。
敵か味方かもわからない存在を前に戦えるほど言峰は考えなしではなかった。
すると、ポルナレフはゆっくりとその手を横に掲げ、言峰に下がるよう伝える。
「スタンド使いじゃねえてめーに勝てる相手じゃねえ、下がってな」
「スタンド…?」
言峰が、その言葉を復唱する。
スタンドとはあの大男なのかと察したが、確証がなかった。
「今は説明している暇はねえ続きはアイツを何とかしてから―――」
「ほう。このDIOを何とかする、か…大きく出たな。ポルナレフ!」
「黙りな。てめーはここで切り刻んでやる、『銀の戦車』ッ!」
ポルナレフは会話など要らぬとばかりに、その銀の戦車のレイピアを振るう。
しかし当たらない。『星の白銀』並みの精密動作とパワー、スピードを持つ世界には並の攻撃は当たらない。
「いつもより太刀筋が鈍いぞ、ポルナレフ。恐怖しているな?」
「ああ。ここでてめーを倒すことができると思うと喜びで、剣が鈍りそうだぜ!」
「ならばここでその喜びを消し去ってその自慢の剣を研いでやるぞッ!」
一閃。回避。切り払い。回避。突き。回避。
世界の殴打。回避。防御は不可能。世界のパワーを銀の戦車で受け止めることはできない。
よって防御ではなく、回避に専念。
隙を見て、切り刻む。
世界の蹴撃。一撃、二撃、三撃回避。しかし四撃目は回避出来ず、掠りポルナレフの頬に切り傷が刻まれる。
その攻撃が掠ったことによるポルナレフの一瞬の隙。
それは、致命的だった。
「無駄だ。貴様は確かに素晴らしいスタンド使いだが、このDIOの足元にも及ばんッ!
この『世界』の能力を使うまでもない」
「なッ!?」
銀の白銀の足首を、世界が蹴り飛ばす。
ぐらり、と。
ポルナレフの体制が大きく崩れた。
その致命的なまでの隙を―――DIOは、見逃さなかった。
「その程度でこのDIOに勝とうなどどは、100年早いわァ―ッ!!!
無駄無駄無駄無駄無駄、無駄よォッ!!!」
-
世界の豪腕が、銀の戦車を捉える。
一発だけではない―――そのラッシュは、五発にも及んだ。
いくら銀の戦車が甲冑を纏っているとはいえ、直撃では耐えられない。
銀の戦車えと与えられたダメージはポルナレフへと流れ―――肋骨を四本折り、胸骨体と胸骨柄に罅を刻んだ。
どさり、と音を立ててポルナレフの身体が地面へと倒れこむ。
「ぁ―――」
「哀れだな、ポルナレフ。このDIOに仕える、という賢い選択をしていればそうならずに済んだものを。
なあ、きみもそう思うだろう?」
その赤い瞳で、DIOは言峰を見据える。
初のスタンドの戦闘を見た時は呆然としたが、今は違う。
DIOの戦闘スタイルを把握し、一番拳を叩き込みやすい構えを取る。
しかし、DIOは仕掛けてこない。
「一つ話をしよう―――このポルナレフという男はな、昔妹を喪っている。
今の私の部下にその身体を辱められ、屈辱に塗れて殺されたのだ」
ポルナレフの縦に整えられた頭髪を、右足の踵が踏みつける。
ぎしぎしと。ぶちぶちと。
「妹の仇を討つために特訓した。スタンドをだれよちも上手く扱えるよう長年特訓した。
しかし…その特訓した力でさえも!命を投げ打ってでも倒すという覚悟があってさえも!!
このDIOには敵わない…全ては無駄、無駄なんだ」
既に意識も絶え絶えなポルナレフを見下ろしながら、DIOは語る。
男の生涯は無駄だったのだと。
妹の仇を取っても、命を投げ打っても宿敵には勝てないのだと。
自分は仇を討ったのだと。それでもあの男は満足できずに殺されるのだと。
そこまで思考し、言峰は発言する。
「それを私に聞かせて、何のつもりだ」
あくまで冷静な言峰に対し、DIOは笑みを浮かべていた。
満足そうな、ニヤリとした笑み。
そしてDIOはゆっくりと口を開き、
「…んん?ああ、すまないつい興が乗ってしまって話すぎてしまったようだ。
君が『あまりにも興味深そうな顔をしていた』から」
などと、言い放った。
-
「…は?」
思わず、口元を押さえる。
鏡が手元にないため、手探りで己の口元を触る。
ゆっくりと。恐る恐る。
すろと。
確かに、その口元は三日月型に歪んでいて―――
「―――『銀の白銀』ッ!!」
その先は、斬撃に遮られた。
再び現れた銀の白銀の剣が地面を切り刻む。
そして切り刻まれた地面は砂となり、巻き上げられる。
―――煙幕、だった。
周囲が砂煙に包まれる。
直後。言峰の身体は、何者かに突き飛ばされ、後退した。
「ヤツはおれがやる。おまえは逃げな」
己の口から手を離し、我に帰る。
突き飛ばした方角に存在していたのは、満身創痍のポルナレフだった。
頭から血を流し、胸は凹み痛々しい。
常人が見れば、死んでもおかしくない傷だろう。
折れた骨が臓器に刺さっている可能性もある。
「てめーは他の参加者に伝えてくれ。DIOの邪悪さを、そのスタンドを」
それでもポルナレフは立ち上がり、言峰に逃げろと告げたのだ。
全滅を避け。いつか、自分に変わる誰かがこのDIOを倒してくれると信じて。
言峰の直感も、ここは撤退すべきだと告げていた。
今戦っても―――およそ、勝ち目は0.01に満たないだろう。
「…頼んだ」
故に言峰は手段として、闘争を選んだ。
ただ、一言。
ポルナレフに残して、言峰は全速力で撤退する。
「…おう、頼まれた」
-
砂煙が、晴れていく。
DIOの立ち位置は全く変わっていなかった。
微動だにせずに―――逃走用の目隠しだと察した上で。
この男は、待っていたのだ。
「待ってくれるとは案外律儀じゃねーか。この薄汚れた吸血鬼が」
「いや…わたしも言峰には席を外してほしいと考えていたのでね。
今から響く貴様の汚い断末魔を『友達』に聞かせるわけにはいかないだろう?」
「けっ。フラれた身分でよく言うぜ」
DIOは凛とした姿で。
ポルナレフは立つことはできているが、生身の戦闘は難しい。
相対する彼らの空気は、虫一匹入らないほど張り詰めていた。
一触即発。その言葉を体現したかのような空間。
互いの距離は1mもない。
つまり―――どちらの間合いにも、入っているということである。
「それで?未だこの『世界』のスタンド能力すら解明できていない貴様が、このDIOとどう戦うと?」
ポルナレフは、DIOの世界の能力を体験したが、解明するとまでに至ってはいない。
言うならば、ポルナレフは『相手がどんな武器をもっているか全くわからない』状態で戦いを強いられているようなものなのだ。
もしかしら機関銃かもしれない、戦車かもしれない。はたまた、ビーム兵器かもしれない。
相手のスタンド能力がわからないというのはそういうことだ。
圧倒的情報不足。後手に回らざるを得ない戦場。
だが。
ポルナレフは、にやりと不敵に微笑んだ。
「おれたちの旅はいつもそうだった。どんな能力かもわからねえ連中が時間場所関係なく襲ってきた旅だ。
そんな旅の中でおれたちがしてきた戦法はただ一つだ」
銀の白銀が、ポルナレフの頭上で構える。
すると―――ボコボコに凹んでいた甲冑が役目を終え、剥がれ落ちる。
それと同時に、銀の戦車が掻き消える。
次の瞬間。
ポルナレフの周囲に銀の戦車が現れる。
一体ではない。
二体、三体、四体、五体―――総勢、七体もの銀の戦車が集結した。
これらは全て、残像である。
余りにも早すぎるスピードが生んだ、視覚に訴えかける残像群。
これが、銀の戦車の真骨頂。甲冑を外したスタンド。
「正面からぶっ潰すッ!それだけよッ!」
-
「そうか」
そのポルナレフの発言も、DIOは粉微塵ほどの興味も抱かなかったようで。
ずわり、とDIOの身体から剥離するように現れた世界がポルナレフを睨む。
「ならば―――死ぬしかないな、ポルナレフッ!」
DIOのスタンドパワーが膨れ上がる。異様なほどの圧力が空間を軋ませる。
しかし、ポルナレフは挫けない。
死んだ友の分まで、戦わねばならない。
自分を守って散った彼らの思いは、果たさねばならない。
その思いを剣に乗せて。
悪しき吸血鬼の首を絶つ―――!!!
「いくぜDIOッ!!」
「くるがいい、ポルナレフッ!!!」
七つの刃と二つの拳が交差する瞬間。
「Moooooooooooooooooooooooッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」
牛の、乱入を受けた。
-
「「なっ…!?」」
DIOとポルナレフの言葉が同調する。
雷を纏う牛の突進が、DIOの館内部を蹂躙する。
我が道を阻む者は全て轢き殺してやろうと。
壁も床も砕き、蹂躙し制覇する。
それは、戦車<チャリオット>だった。
そう。
彼の征服王イスカンダルの宝具―――『神威の車輪』である。
「おい牛なんて聞いてねえぞ!?チャリオッうわッおい放せぐえっ」
破壊された壁が作り上げた砂塵で、またもや視界が塞がれる。
その中で蛙が潰されたようなポルナレフの声が響き―――音が止んだ頃には、そこには最初からなにもいなかったかのように、誰も存在していなかった。。
「…今のは、言峰か」
只一人―――DIOを残して。
▲ ☆ ▲
「…」
しばらくチャリオットで走り続け、言峰は停止させた。
ぶるる、と力強く響く唸り声に大地が揺れる。
「上手く、いったか」
言峰は改めて己の駆る戦車を視界に納める。
何かが出てくるとは聞いていたが、サーヴァントの宝具まで渡されているとは想定の範囲外だった。
どういう原理なのかもわからない。
そして―――己がポルナレフという男を助けた理由も、わからなかった。
-
『―――君が『あまりにも興味深そうな顔をしていた』から』
DIOの言葉が脳裏に響く。
自分はギルガメッシュのような他人の辛苦を蜜とする人間ではないと。
貴様のような、DIOとは違うと。
それは許されざる道で、言峰綺礼の歩む道ではないと―――そう証明するために、ポルナレフを助けるなどという危険な行為を犯したのだろうか。
「…ふう」
考えても答えは出ない。
己の行動に疑問を浮かべながら、大きく息を吐く。
ポルナレフは現在気絶している。
救出の際に余りに暴れるので、当身で少しの間持ち運びしやすいようにさせてもらった。
「…ああ、名簿があったな」
そして。
ふと思いついたように、名簿を開く準備をする。
しばらく経ったらここも移動しなければならない、
DIOに追いつかれると厄介なのもあるが、朝になるまでに新たなる同行者を得たいということもあった。
ポンっと。
表示された名簿を見ながら―――言峰は、今後への思いを馳せた。
『わたしに協力してくれるのなら―――『君が心から望むもの』をみせてあげよう』
不気味なほどの安心感を植えつけたその言葉が脳裏から離れないことに、一抹の恐怖を覚えながら。
【D-7/一日目 深夜】
【言峰綺礼@Fate/Zero】
[状態]: 健康、精神疲労(中)
[服装]:僧衣
[装備]:神威の車輪@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:早急な脱出を。戦闘は避けるが、仕方が無い場合は排除する。
1:逃げる。
2:DIOの言葉への興味&嫌悪。
[備考]
※まだ名簿等一切を確認していません。
【ジャン=ピエール・ポルナレフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:気絶、肋骨、胸骨体、胸骨柄に罅。(行動、スタンド操作に支障はなし)
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3
[思考・行動]
基本方針:DIOを倒し、主催者を打倒する。
1:(気絶)
2:DIOを倒す。
[備考]
※まだ名簿等一切を確認していません。
・支給品説明
【神威の車輪@Fate/Zero】
ゴルディアス・ホイール。
古風な二頭立ての戦車で、イスカンダルのライダーたる所以とも言える宝具。
その戦闘能力は近代兵器でいうなら戦略爆撃機に匹敵し、小一時間ほどで新都を焦土にしてしまえるだろうとウェイバーは推測している。
牡牛の蹄と車輪が虚空を蹴れば、その都度アーサー王やディルムッドの渾身の一撃に匹敵するであろう魔力とともに紫電を迸らせ、雷鳴が響き渡る。
その様子は大地ではなく稲妻を蹴って駆けるかのようであるらしい。
ちなみに戦車自体も壮麗に飾られているようだ。
御者台は防護力場に覆われており、ジル・ド・レェの怪魔の血飛沫を寄せ付けなかった。
制限として、突進までなら一般人にも使えるようになっているが、騎乗の才を持たない人間には細かい動きは不可能だろう。
-
「ポルナレフを始末できなかったのは不満だが…まあいいだろう。
きみならば、もっと面白いものを見せてくれそうだからね…言峰」
実のところ、DIOは言峰自身の歪みを理解してはいない。
DIOがここまで話術で言峰を翻弄したのは―――その、目によるものが大きかった。
完全なる、虚無。
あれは、自分のことすら理解できていない者の目だ。
自分に価値を認めてくれる人物が存在しなかったンドゥールのような者とはまた違った目だった。
DIOが、初めて出会ったタイプの人間。
だから、適当に言葉を紡ぐことで揺さぶったのだ。
そして。
地面に倒れこむポルナレフの話をしたところで―――DIOの興味は最大限となった。
そして理解した。
この男―――言峰綺礼は、本性と理性の狭間で揺らぐ者なのだ。
ああ。なんと、興味深い男なのだろうか。
本性を理性で押えつけるその強靭な精神力を持つ彼がスタンドを発現すると、どのような能力になるのだろうか。
「わたしは期待しているぞ、言峰」
邪悪なる吸血鬼はほくそ笑む。
時間停止による疲労がいつもより増していることがすこし気になったが、それくらいだ。
大きな問題ではない―――むしろハンデとして受け入れてやろうと思えるぐらいには、晴れやかな気分だった。
まずは引越しでもせねばな、と壊れた我が屋敷を眺めながら。
ホテルのスイートルームなど、地図で居心地が良い場所を探しながら。
吸血鬼は、今後の催しに思いを馳せる。
「―――きみが本性に素直になり、わたしと共に歩むそのときを」
妖艶なまでの威圧感と新たなる友への成長に期待を捧げながら。
【C-7/DIOの館/一日目 深夜】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:腹部・胸部にダメージ(小)、疲労(小)
[服装]:なし
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3
[思考・行動]
基本方針:主催者を殺す。そのために手っ取り早く他参加者を始末する。
1:昼の間過ごせる建物を探す。ホテルのスイートルームなどいいかもしれない。
2:言峰綺礼への興味。
[備考]
※時止めはいつもより疲労が増加しています。一呼吸だけではなく、数呼吸間隔を開けなければ時止め出来ません。
-
投下終了です。
また、ルールで投下できたとはいえ予約期限を少し超過したことをここにお詫び申し上げます。
-
失礼します
ポルナレフの状態表ですが、
※まだ名簿等一切を確認していません。
が余計でした。
収録の際に修正しておきます
-
乙です
この展開は予想できなかったなあw
DIO様がどこか楽しそうで微笑ましい
そしてポルナレフとDIOの館哀れ(つ∀`)
-
皆様投下乙です。
>華の行方
風先輩、乗ってしまわれたか……勇者を殺させないでくれ、という台詞が痛々しいです
アインハルトは夏凜と同行して、安定したかな?
あと、風先輩と夏凜の支給品の赤カードと青カードの残りが(20/20)なのはミスでしょうか。
>あいあいびより〜
説明不要ッ!傍目から見れば和むコンビ、だが罪歌がどうにも怖い
れんちょんはよく知りませんが、独特な子の雰囲気出てました
>Just away!
ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を覚えている花京院www
神楽の天性のカンでガオン!は免れたけれど、まだ追跡されたままで不安が残りますね
>本性の道
ポルナレフは激しく熱い男、そこに痺れる憧れる!
ポル対DIO、最初からクライマックスで読んでいてドキドキしました
それでは、自分の予約分を投下します
-
B-8エリアの砂浜では、波の音が穏やかに聞こえている。
暗く静かな深夜の海を見ながら、ジャンヌ・ダルクは嘆息した。
ラフな私服姿で海を眺める金髪姿の女性は、平常時なら魅惑的に映るだろう。
見渡す限り明かりは見えず、それは、この島の近辺には、人の居住する島がないことを示していた。
他の方角に島がある可能性はあるが、期待はしないほうが賢明だろうとジャンヌは判断する。
「さて、どうするか……」
ジャンヌ・ダルクは聖女である。
元は田舎の農民の娘であったが、神の天啓を授かり、聖なる騎士となった。
王都アナティにおいて、オルレアン騎士団を率いており、民衆からの信頼も厚い。
その実力は、携えたマルテを用いて、一人で巨大なグール数体を瞬殺できるほどだ。
凛とした面持ちで駆ける姿は、まさに戦場の華といえた。
「そもそも私は捕らえられていたはず」
しかし、そんなジャンヌの一番新しい記憶は、牢獄の中だった。
『国王の命を狙い、それを見咎めた騎士団の副官を殺害した』という嫌疑がかかり、投獄されたのだ。
否定も弁解も、権威を失うことを恐れた国王に通じることはなかった。
ジャンヌは牢の中で、泣き喚くのでも怒り狂うのでもなく、ただ神に祈りを捧げた。
聖なる騎士として殉ずるなら後悔はない――その言葉に嘘はなかった。
それが何故か、今はこうして殺し合いに巻き込まれている。
理由は分からないが、ジャンヌにとっては喜ぶべきことのはずだった。
「くっ……」
だが、殺し合いに招かれた今のジャンヌの表情は、心情を反映して苦々しげなものになっていた。
奪われた『神の鍵』を取り戻す、という天界からの使命を果たせなくなったのだ。
鍵を奪い、鍵と一体化した悪魔、アーミラは魂を封印されてしまった。
鍵がなくなってしまえば、もとより不安定だった『バハムート』の封印がより揺らぐのは明白だ。
天界に、守護天使ミカエルに負担をかけることが、ジャンヌにとっては申し訳なかった。
不甲斐なさに歯噛みするが、すぐさま思考を切り替えた。
「一刻も早く、王都に戻らねば」
ジャンヌがしたのは、この島から脱出して、王都に戻るという決意だった。
神の御言葉を頂き、天界の助けになる行動をする。
処刑の危機を免れたことは、むしろチャンスであり、生かすべきことである、と。
ジャンヌの行動方針はどこまでも、神のことを考えた結果であった。
「そのために、殺し合いを止めさせる」
殺し合いを止めさせる。それがジャンヌの考えた主催者への対抗策だった。
少女が望んでいる殺し合いが止まれば、少女は再び参加者の前に姿を現す。
そのときを狙い、少女に攻撃を仕掛けて制圧する。そしてここに連れて来られたときと同様にして王都へ帰る。
無論、竜の手を召喚する力を持つ少女を、単独で制圧するのは困難だ。
しかし、殺し合いを是とせず、主催者に反抗する者は他にも必ずいるはずだ。
そういった人物と協力できれば、不可能ではないだろう。
方針を固めたジャンヌは、あることを思い出した。
-
「そういえば、まだ名簿を見ていなかったな」
ジャンヌは慣れない手つきで、腕輪に嵌った白いカードを操作する。
種々の機能から名簿を選択し、ざっと目を通す。
結果、名前を知る者は五人いた。
ジャンヌと共に、騎士団の一員として戦うラヴァレイは勿論、ファバロやカイザル、リタは信用に足る人間だ。
殺し合いに乗る可能性が高く不安なのは、アザゼルだけだった。
アナティ城での戦いでジャンヌはアザゼルを撃退しているが、それはマルテがあったからこそ。
強力な武器がなければ、どうなることか分からない。
「ふむ……支給品とやらも確認しておこう」
ジャンヌはマルテが出てくることに期待を寄せながら、黒いカードを取り出した。
しかし期待通りにはいかず、三つあった支給品の中で武器と呼べるものは、紅い長槍だけだった。
とはいえ、武器があるのとないのとでは、かなり違う。
説明によれば、この槍は名のある英雄の持ち物らしく、握ると確かに強い魔力を感じた。
槍を携えたジャンヌは、迷いなく市街地に向けて歩き出した。
数分後、ジャンヌは自身の知識とかけ離れた市街を見て、盛大に困惑することになる。
◇
どうにか街並みにも慣れてきたころ、ジャンヌは一人の参加者と遭遇した。
これまでジャンヌが見たことのない服装をした、一人の少女。
ジャンヌが戦闘の意思がないことを証明しようとする前に、相手は無防備にも走ってこちらに近付いて来た。
その行動に面食らい、続いて警戒したものの、その顔からは殺意は読み取れず、ジャンヌは槍を降ろした。
見た目からして若い印象を抱かせた少女は、名を結城友奈と名乗った。
「私はジャンヌ・ダルク。当然だが殺し合いに参加するつもりはない」
「ジャンヌさん、ですか?私も同じです!殺し合いなんて……」
『殺し合い』という単語自体までも、友奈は嫌悪している様子だった。
ジャンヌは友奈の瞳を見た。反抗の意志と、少しの憂いが窺える。
心根の優しい少女なのだろうと判断したジャンヌは、同時にある可能性に思い至る。
「君の知り合いも、ここに呼ばれているのか?」
「っ!……はい。勇者部のみんなが、ここに」
ジャンヌが勇者部とは何か問う前に、友奈自身が話し始めた。
あまり説明上手ではないらしく、ジャンヌは話す内容の要点を掴むのに苦労した。
友奈が全てを話し終えるまでおよそ五分。
ジャンヌが理解したところによれば、勇者部とは人助けをする友達同士の集まりらしい。
「人のためになることを勇んでする」――なるほどそれは勇者といえよう。
勇者の名を冠するあたり、純粋な子供らしいと思いつつ、ジャンヌは言葉をかけた。
「立派だな、君達のその『勇者部』というのは」
「あ、ありがとうございます!……あの、それで……」
「ん?」
緊張しているのか身体をもじもじとさせながら、友奈は次の言葉を紡ぐべきか迷っているようだった。
ジャンヌは想像する。守って欲しいという申し出なら、二つ返事で受け入れるつもりだった。
やがてうつむき加減だった友奈は、意を決したようにジャンヌの顔を見据えた。
「……協力してくれませんか。殺し合いを、止めさせるのを」
投げかけられた力強い申し出は、ジャンヌの目を見開かせるには充分だった。
つい先程、心優しい少女だと思わされたが、それ以上に勇気ある少女であったと認識を改めた。
返事をするより早く、友奈は更に言葉を紡ぐ。
「殺し合いをしようとする人がいたら、全力で止めるんです。それを繰り返せば殺し合いもきっと終わります」
-
それはジャンヌの考えた方法と、殆ど同じだった。
殺し合いを止める、それは力を以て闘争を収めるということであり、それができるのは強者に限られる。
そして、その力とは、多くの場合は武力だ。
騎士として武功のあるジャンヌならいざ知らず、まだ年端も行かない少女が同じ発想をするとは。
少々の意外さと、友奈の自信の出処に疑問を持ったジャンヌは問いかけた。
「あ、ああ。それには同意見だ。しかし、私はこれでも騎士だが、君は……」
言葉の端々から、ジャンヌが友奈の力に疑問を持っていることを、本人も感じ取ったようだ。
友奈はそれに対して、言葉を紡ぐのではなく、妙な板を出すことで答えた。
ジャンヌにとって未知の機械を操っていた友奈は――次の瞬間、光に包まれた。
「なっ!?」
突然の光に、ジャンヌは思わず目を伏せてしまった。
ピンク色の光は、友奈がスマホを用いて変身したことに起因するものだ。
光が収まり、ジャンヌが伏せていた顔を上げると、そこにはがらりと服装が変わった友奈がいた。
予想外の事態に、即座に反応出来ないでいるジャンヌに、友奈はこう言った。
「私――結城友奈は、勇者なんです」
ジャンヌはそれを聞き、『勇者部』が単なる子供の集まりでないことを理解した。
目の前の少女から伝わる力は本物だった。
いや、放たれているのは力だけではなかった。
友奈の何とも言えない、神々しさのようなものに当てられて、ジャンヌは無意識に呟いていた。
「ああ、君も――」
神に選ばれたものなのか、と。
◇
街灯があり、開けた場所に移動した二人。
そこから先の情報交換は、つつがなく終了した。
友奈は『勇者部』の仲間たちの名前、そして大体の性格をジャンヌに教えた。
ジャンヌも同様に、ラヴァレイら騎士たちが頼れることと、悪魔アザゼルが危険であることを教えた。
この先の目的地についても、さして悩まなかった。
この島に点在する施設をくまなく調べていく、という、いたってシンプルなものだ。
道中、意志を同じくする参加者には協力を取り付け、殺し合いに積極的な参加者は打ち砕く。
最終的に主催者を打倒する、という点で、二人の意志は固まっている。
とはいえ、ジャンヌには懸念すべき点があった。
「不安ではないのか?殺し合いに乗る者が大勢いるかもしれないんだぞ」
「えっ?」
「……見たくないものも見ることになるかもしれない、ということだ」
ジャンヌは戦場を何度も経験している。
友奈に力があることは確かだ。戦闘経験もそれなりにあると聞いた。
だが、話を聞く限り、戦場に出た経験があるわけではないらしい。
ジャンヌは戦場を知っている。戦場が生み出す、血生臭くて、残酷な光景を知っている。
言外に人が死んだ姿を見て平気なのかという心配を含ませ、ジャンヌは問いかけた。
いかな聖女も、勇者でさえも――死者は防げないのだから。
「えっと、その……」
ジャンヌは我ながら酷な質問をしたものだ、と反省した。
騎士として、その点はジャンヌが対応すればいい話である。
撤回するべきだろうか、と考えるが、意外にも友奈の返事は早かった。
「私は平気です。覚悟はしたつもりだし……それに」
「それに?」
「私たちのことは、神樹様が守ってくれますから!」
-
純粋な心を感じる、はつらつとした答えに、しかしジャンヌは顔を強張らせた。
答えた友奈はその機微を感じ取ったのか、再び不安げな表情をする。
友奈の言葉が原因で、ジャンヌの脳裏に甦ったのは、牢獄の中で聞いた男の声だった。
ねっとりとした、嫌悪感の塊のような声。
――貴方の身になにが起きようと、慈悲深い守護天使様は救いに来てはくれますまい――
その言葉に、反駁できなかった自分がいた。
悪魔の言葉に耳を貸さないと誓ったからというのもあるが、単純に否定できなかったのだ。
無論、ジャンヌは守護天使ミカエルを心から信仰している。
しかし当時は、国王に反逆者扱いされ、あまつさえ『魔女』と罵られて、心が弱ってしまっていた。
その結果として、悪魔の言葉に揺らいでしまったのだろう。
「あの、私もしかして、不味いこと言っちゃいましたか?」
「ん、あぁ……そんなことはない」
そんなことはない、訳がなかった。それは友奈も悟ったようで、黙ってしまう。
ジャンヌは何か言おうとしたが、口をついたのは新たな疑問だった。
「君は、その神樹様を……疑ったことはないか?」
神を信仰する者からすれば禁忌である問い。
それでも、その問いに、友奈はまっすぐな眼で答えた。
「神樹様を疑ったことなんて……ありません」
神樹は、友奈の住む四国の住民から、多大な信頼を得ている。
四国の海と大地に恵みをもたらしてくれる存在なのだから、当然だ。
学校では毎日必ず、神樹に向かって拝礼をする習慣が出来上がっているほどだ。
会話でもごく自然に神樹“様”と付けていることからも、信仰の浸透度は窺い知れる。
友奈も当然、信仰を当たり前のものだと考えていた。
「神樹様は、恵みを与えてくれるし……何より、仲間と出会わせてくれたんです」
だが、友奈にとっては、神樹を信仰することにはそれ以上の意味がある。
それが勇者部の存在だった。
友奈は、神樹様が自身と仲間たちを引き合わせたことにも、また感謝していた。
危険な戦いに巻き込まれた、という自覚もある。
満開の後遺症『散華』の実態を知り、怒りに震える先輩の姿も見た。
それでもなお、友奈は適性のお陰で大事な友人と出会えたことを喜んだ。
「そうか……強いんだな、君は」
ジャンヌは悟った。信仰の形態の違いもあるが、友奈は精神的に強いのだと。
神樹への揺らがない信仰、否、それは尊敬や感謝の念に近いであろう。
ジャンヌにも同様に、天啓を与えてくれた神々への感謝があるはずだった。
ただ、その想いが、今は悪魔のせいで揺らいでしまっている。
思わず俯く。それは一時の感情なのだ。
そのことでジャンヌは、ひたすら前向きな友奈に、僅かばかりの羨望を抱いた。
それに比べて自分は――と、暗い感情に支配されかける。
-
「わっ、牛鬼!いきなり出てこないでよもー」
「……?」
突然驚いたような声を上げた友奈につられて、ジャンヌは顔を友奈に向けた。
すると、友奈の頭に何かが乗っていた。
それは一見すると人形のような印象を与えたが、よく見ると動いている。
精霊。神樹が勇者に与えた、勇者を助ける重要な存在がそれだった。
しかし、そのことを伝えられていなかったジャンヌは、悪魔が呼んだ生物か何かと勘違いをしてしまう。
そして反射的に、槍を向けてしまう。
「な、なんだ、これは!」
「あっ、ジャンヌさん、これは、その……私のペットみたいなもので!」
しどろもどろになる友奈。
槍を向けられた牛鬼は、慌てて友奈の後ろに隠れる。
友奈の必死の説明で、ジャンヌはその槍を降ろしたが、今度は牛鬼が憤慨したのか暴れ出す。
とはいっても、せいぜい友奈に軽くぶつかる程度だが。
それを落ち着かせるために、友奈は赤カードを使用して、大盛りのうどんを牛鬼に食べさせた。
「もう、驚かせちゃだめだよ?」
器用にうどんを食べる牛鬼をたしなめる友奈と、それを見るジャンヌ。
ジャンヌの目は穏やかで、傍から見れば日常の一コマのようでもある。
その頃には、ジャンヌも自らの中に生まれた疑心を忘れようとしていた。
「……私は、神を信じるだけだ」
願わくば、友奈のように揺るぎない信仰を。
そう願うジャンヌの言葉は、どこか自己暗示をかけているようにも聞こえた。
【B-8/市街地/一日目・深夜】
【ジャンヌ・ダルク@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:健康
[服装]:普段着
[装備]:破魔の紅薔薇@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:2枚(本人確認済み、武器とは判断できない)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止め、主催者を打倒する。
0:自身の信仰心に疑心。
1:結城友奈と施設を見て回る。
2:知り合いと合流したい。優先度は(ラヴァレイ>その他三人)
[備考]
※参戦時期は10話終了時点です。
※友奈の仲間の名前を覚えました。
【結城友奈@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、味覚が『散華』、満開ゲージ:5
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:友奈のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止め、主催者を打倒する。
1:ジャンヌさんと施設を見て回る。
2:勇者部のみんなと合流したい。
[備考]
※参戦時期は9話終了時点です。
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。
【破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)@Fate/Zero】
ジャンヌ・ダルクに支給。
第四次聖杯戦争におけるランサーの宝具の一つ。紅色の長槍。
刃が触れている間だけ、刃が触れた箇所の魔力的効果を打ち消す能力を持つ。
作中では、セイバーが魔力で編んだ鎧を無効化したり、キャスターの宝具を一瞬だけ無力化している。
【友奈のスマートフォン@結城友奈は勇者である】
結城友奈に本人支給。
勇者へと変身するためのアプリが入った携帯電話。精霊は牛鬼と火車。
-
投下終了です。指摘等あればよろしくお願いします。
-
皆さん投下乙です
>Just away!
神楽ちゃんナイス!花京院は彼女のおかげで命拾いしたなー
有力対主催な二人が西に向かったのは良いことだけど、一方でヴァニラも西へ…これは波乱の予感
>本性の道
DIO様からあふれる圧倒的悪のカリスマ!ホテルの銀さんエリーチカ逃げてー!
ポルナレフと言峰は助かってよかったなあ…けどこのことみー、爆弾抱えてる…
>信仰は気高き戦士の為に
友奈ちゃんマジいい子。確かに、あの時期から参戦のジャンヌが見たら眩しいだろうなあ
ド外道鬼畜なラヴァレイを良い人だと思っているのが今後どう出るのか、怖いですね
-
>本性の道
言峰は2での扇動役のイメージが強かったから、こんなふうにしょっぱなから取り乱す姿を見るのは何か新鮮だなあ
-
浦添伊緒奈、長谷川泰三 投下します
-
駅のホームのベンチに腰掛け、思索に耽る。
おかしい。
確かに蒼井晶とのバトルに勝って、夢限少女になって。
再びルリグになろうとしていた筈なのに、何だこの現状は。
何故私――『ウリス』は、まだ『浦添伊緒奈』として存在するのか。
夢限少女になるため条件が変わったとでも言うのか。
別に、殺し合いをしろと言われたこと自体は大した話ではない。
これまでのセレクターバトルから殺し合いになっただけのこと。
また次々と他の参加者たちを蹴落としていけばいい。
問題は別の場所にある。
あの繭の手の上でまた踊らされることに対する不満でも、まして殺し合いに対する恐怖でもない。
与えられた2枚の“手札”に目を落とす。
見たことも聞いたこともない小説と、ただのボールペン。
最初に引いたそのカードこそが、悩みの種。
これがWIXOSSならば、最初に引いた手札にルール上の不備がある場合1度だけ引き直しが利く。
だがこのゲームにおいては、引き直しなどある筈がない。
しかもこのボールペン、どこかで見覚えが――
「あいつの……嫌味か全く」
あの日、歩道橋で、晶に刺された時の。
思わず手をわき腹に添える。
傷はとうに完治しているようで、どうでもいいかと一蹴する。
さて、改めて考える。
小説は、製本の関係で角を使って殴れば一応武器にはなる。
ボールペンは……一度その身を持って体験している。
どちらも多少の殺傷力こそあるが、こんな手札では勝ち残れない。
自分の組んだデッキではない、ゲームマスター、繭によって作り出されたこの『デッキ』には、
勝ち残るのに必要な『カード』は揃っていなかった。
-
ではどうするか。
奪い取ってしまえばいい。
今までセレクターバトルで数多くの他人の夢を壊していったように。
全て踏みにじって、潰して、そして生き残る。
その為に――
『間もなく、電車が参ります』
島式のホームに、田舎で見かけるような古い1両編成が滑り込む。
わざわざボタンを押さなければ扉は開かず、思わず扉にぶつかりそうになる。
乗客は自分ただ1人……いや、既に先客がいたようだ。
サングラスを掛けた、いかにも“まるでダメなおっさん”という言葉が似合いそうな風貌の男。
一瞥すると、相手もこちらに向けて手をひらひらと振って来た。
1、2分ほどホームに停車していた電車は、発車のベルが鳴って動き出す。
ボックスシートに向かい合わせに座った2人は、他愛もない会話を繰り広げる。
大変なことに巻き込まれただの、これからどうしようだの、知っている人が参加しているだの。
名簿に目を通す。
小湊るう子、紅林遊月、蒼井晶、そして名義が浦添伊緒奈になっている私。
確かに見知った名前があるが、今となっては別にどうでもいいことだ。
曰く、この長谷川泰三という男の知り合いで参加者となった者はかなり多い。
曰く、皆かなり強いために合流出来ればかなり戦力になる。
曰く、長谷川泰三はまともに戦えないが武器はある。
「あんた、一緒に組まないか?
他にも色んな奴ら……俺がさっき言った銀さんとかと合流してさ。
そうすればこんな殺し合いなんか、とっととおさらばできるってもんだ」
男の呼びかけは、はっきり言って興味がない。
誰かと組むにしてもこの男に価値はない。
価値があるのは――あくまで男の『手札』だ。
「貴方……もし優勝できたりして、繭に1つ願いを叶えてもらえるとしたら、どうする?」
これはただの戯れだと脳内で感想を結び、問い掛ける。
「そうだなあ……俺は今かなり貧乏な生活送ってるからなあ。
とりあえず金に困らない生活がしたいかなあ」
「そう……そんな願いなら」
-
男の右頬に手を当て、右手でサングラスを取る。
即座にそれを持ち替え、
困惑する男の左目を――
「死んでしまった方がマシじゃないの?」
グサッ。
銀色の光が、貫いた。
「ッ…… あんた、何を――」
グサッ。
次は右目を貫く。
視界を完全に封じられた長谷川泰三に、見下すような目で伊緒奈は短く告げる。
「クソったれ」
男の心臓に、ボールペンが生えた。
* * *
穴のあいた目を隠すように、死体にサングラスを掛けさせる。
ふと窓の外を見ると、列車は川の上を走る橋に差し掛かっていた。
伊緒奈は素早く懐からカードを回収すると窓を開け、死体を窓から放り投げる。
ドボン、と大きな音と水柱が立ったのを見届け、列車は橋を通り過ぎる。
「一緒に組む、か」
徒党を組んでゲームから脱出する糸口を探すため?
繭を倒してゲームを終わらせるため?
「違う」
あくまでそれらを手札として利用するために。
この殺し合いには知らない名前が幾つもある。
中には、異形の力を持った者がいたとしても何ら不思議ではない。
そんな参加者と鉢合わせになった場合、勝てる可能性は薄い。
だが、『手札』を用意すれば仕留められる確率も上がる。
そのために、自身の武器だけでなく、手札となる仲間を探さなければならない。
先ほど殺した男に対する後悔は、全くない。
直接人を殺すのは趣味ではないが、使えない手札を手早く始末しただけのことだ。
これから何人を利用して、何人の夢を壊すことができるだろうか。そう考えただけで感情が昂ぶってくる。
心を一気に壊して自殺に追い込むのも良し、中途半端に壊して操り人形にするのも良し。
ここは広大なバトルフィールドだ。
大人も法律も関係なく、誰をどれだけ傷つけたって許される空間。
列車はあと数分で地図南東の駅に到着する。
それまでに男から奪ったカードを確認しておこう。
これから先には、どんなに美しくて、正しくて、強くて、そして。
どれだけ壊し甲斐のある“心”があるだろうか?
【長谷川泰三@銀魂 死亡】
残り65人
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【C-6〜G-6/鉄道/一日目 黎明】
【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】
[状態]:健康
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?
ボールペン@selector infected WIXOSS
黒カード:長谷川泰三の不明支給品0〜3枚(武器ありらしい)
[思考・行動]
基本方針: 参加者たちの心を壊して勝ち残る。
1: 使える手札を集める。様子を見て壊す。
2: 使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。
3: 蒼井晶たちがどうなろうと知ったことではない。
[備考]
※参戦時期は二期の10話で再び夢限少女になる直前です。
※E-6の川底に長谷川泰三の死体が沈んでいます。
支給品説明
【うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?】
浦添伊緒奈に支給。
著:青山ブルーマウンテンの小説。映画化もされた。
製本の関係で角で殴られると痛いが、そうやって使うものではない。
【ボールペン@selector infected WIXOSS】
浦添伊緒奈に支給。
作中で蒼井晶がウリスに裏切られて情緒不安定になった際にウリスを刺したボールペン。
それ以外は何の変哲もないただのボールペンである。
施設説明
【鉄道@のんのんびより】
作中に出てくる、「地元の一両編成手動式ドアの電車」。
「開く」ボタンを押さないとドアが開かない。
何分おきに走っているか、何本走っているかなどは他の書き手様にお任せします。
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投下を終了します
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投下乙です
マダオォォォォォォ!!
イオナ状態だったらまだしもウリスの状態だったら出会った相手が悪いと言わざるを得ないな……
伊緒奈はマーダー不在&強対主催揃いの南東に行ったけどどこまでやれるのか
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投下乙です
マダオが……予約面子の時点で嫌な予感はしてたけど
>>284
今気付きました。修正スレを使うまでもないと思いますので、wikiで直接修正しておきます。
自分も投下します。
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真選組――それは、江戸の治安を護る特殊武装警察である。
基本的には荒事一点特化。逆に言えば、戦闘以外に関しては壊滅的。
犯人逮捕のついでに暴行・破壊活動もお手の物。おかげで世間様からの目は冷たい。
土方十四郎という男は、その副長を務める人間だ。
このバトル・ロワイアルという趣向にいち早く適応できたのも、ひとえに警察活動で培った度胸の賜物だった。
未だかつてない最悪の凶悪犯罪ではあるが、これと同じくらいに剣呑な状況なら幾度か経験してきた。
その上で彼は考える。
この場で自分が、真選組としてすべきことは二つだ。
一つは、こんな趣味の悪い催しに放り込まれた被害者を出来る限り多く生きて帰すこと。
もう一つは、言わずもがな主催者の打倒である。逮捕が無理ならば、斬り捨てることも辞さない。
「(……今思い出しても胸糞が悪ィ)」
土方は顔を顰めて小さく舌打つ。
攘夷志士や反乱者のような連中とも何度となく戦ってきた彼だが、やり口の残虐さならば間違いなく繭が随一だ。
あの女は決して逃してはならない存在だと、心からそう思う。
それはきっと、この殺し合いへ疑問を抱く全ての人間が思っていることだろう。
「………」
「……? どうかしました、十四郎さん?」
「……別に。何でもねえよ」
土方と彼が現在護衛している少女、宇治松千夜は音ノ木坂学院を後にし、近くの公園を目指していた。
別に公園を選択したことに深い理由があるわけではない。
強いて言うなら、ただ近場にあったから。その程度の理由である。
それに、地下闘技場などという恐ろしげな名前の施設を目指すよりかは余程安全なのは間違いない筈だった。
止せと言ってるのに土方の前方を歩く千夜。
その無邪気とも呼べる振る舞いを見て、土方はもう一度舌を鳴らす。
最初は気付かなかった。
只の脳天気な奴だと思っていた。
だが、少し一緒に過ごしてみて、すぐに違和感に気付いた。
脳天気? ――いや、これはそういうものじゃない。あまりにも、危機感が欠けすぎている。
ああ、と思った。
同時に、今もどこかでケラケラ笑いながら自分達を見下ろしているのだろう主催者への怒りが増した。
千夜は現実を見ていない。
彼女の中で、このゲームは少々刺激的で趣味の悪い夢ということになっているのだろう。
もしくは何かの間違いと信じているのか。……確かにドッキリを疑いたくなるのも分からないでもないが。
-
「それにしても、静かですね」
「そりゃ夜だからな。大体、大声出すような状況でもねェだろ」
これが自分の仲間や知り合いなら、躊躇なく背負い投げの一つでも決めてやるところだが、土方はそれをしない。
彼ら真選組は絵に描いたような武闘派だが、人の心も分からない馬鹿の集まりではない。
加えて状況が状況だ。無理に現実を見せて、追い詰められた彼女がどんな行動に出るか分からない危険もある。
暴走して襲い掛かってくるくらいならまだいい。
子ども一人に殺されるような鍛え方はしていないし、そちらの方がまだ頭を冷やしてやれそうだ。
だが、これは殺し合い。
何が起こるか分からない以上、常に一寸先は闇の中。
――不用意な行動は出来ない。それが、土方十四郎という男にはどうしようもなくもどかしくて仕方がなかった。
「……あら?」
千夜が不意に、足を止めた。
あん? 呟き、一足遅れて土方も止まる。
彼女は前方を指差していた。その方向に視線を向けると、そこには。
「参加者か」
遠目からでも整っていると分かる出で立ちの少女だった。
ただ少し奇怪なのは、纏っているその装いだ。
あれは鎧だろうか? 何にせよ、少女の外見にそぐわない重装備であることは確かである。
目を凝らして見れば、その細腕には土方達が付けている――もとい、付けられていると同じ腕輪が確認できた。
かしゃん。
鎧と鎧が擦れ合う音と共に、その少女は土方達の方へ身体を向ける。
どうやら、あちらも彼らの存在へと気付いたようだった。
翡翠色の双眸が、土方と千夜を見据える。
「あら、こんばんは〜。ごめんなさいね、じっと見つめるようなことして――」
千夜が一歩前へと出る。
友好的に、いつものノリで少女へ駆け寄ろうと踏み出した。
それは彼女にとって、ごく当然の行動だったのだろう。
宇治松千夜は温厚な少女だが、決して人見知りをする性格ではない。
むしろ人見知りをするのは彼女の親友の方であり、千夜はどちらかと言えば進んで声を掛けに行くタイプだった。
とはいえ、彼女とて阿呆ではない。状況を見れば、それが危険な行為だとすぐに分かったろう。
-
しかし、である。今の宇治松千夜は普通ではなかった。
現実から目を背け、これは夢か、はたまた何かの間違いだと逃避に走っている。
千夜にとってはこの地獄のような状況も、普段通り。
こんなことは起こるはずがないのだから。
普段通りでなくてはならないのだった。
だから、千夜には気付けない。
鎧の少女が――自らの得物の柄へと、その片手を付けても。
「……下がれ」
土方は感じ取っていた。
鎧の少女がこちらを向いたその時から、全身が総毛立つような怖気を感じ取っていた。
その源が何であるかなど、数え切れないほどの修羅場をかいくぐり生きてきた土方には語るまでもない。
即ち、殺気だ。それも生半可なものではない。
彼が先刻危惧した、夜兎族の神威のものとはまた別種の、されど劣らない鋭く尖った殺気。
「――下がれェェェェ、千夜ァァァ!!!!」
叫んだ時には、もう遅かった。
目を奪われるように美しい銀色の軌跡が煌めいて、ルビーの雫が舞い散った。
●
「え」
宇治松千夜は倒れていた。
鈍い痛みを感じる。なんだか息も苦しくて、いつしか空を見上げる格好になって寝転んでいる。
――じわり。お腹の辺りに、嫌な感覚があった。
例えるなら、食事中にお味噌汁をこぼしてしまった時のような感覚だった。
あるいは子供の頃、おねしょをしてしまった時にも似ているかもしれない。
お味噌汁ほどではないにしろ、熱を持った液体が肌に纏わりついて気持ちが悪い。
「えっと……」
確か私は、十四郎さんと一緒に公園を目指していたはず。
そこで私が女の人を見つけて、声をかけようとしたら十四郎さんが何かを叫んで。
それから、どうなったんだったっけ。確かめるように顔をあげると、すぐに千夜は異変に気付いた。
――お腹が、赤い。その赤みがゆっくりと広がっていき、その度に肌へ伝わる気持ち悪さが増していく。
-
「あれ」
もしかして、私。
――死んじゃう?
そう思った時、自分の前へ立つ誰かの姿を彼女は見た。
見えるのは後ろ姿だったが、誰かは言うまでもなく分かる。
時代錯誤と言われても仕方のない変な服を着た、ぶっきらぼうなツッコミさん。
でも、今までと一つだけ違うことがあった。
右の脇腹のあたりが、千夜のお腹と同じ色に染まっている。
しかも、そこからこぼれ落ちる赤色の量は――千夜のものよりもずっと多い。
「……怪我はねェか」
「十四郎さん……?」
「無事ならいい。いいから、それ以上喋るな。そんでもって振り返らねェで、うんと遠くまで逃げろ」
土方の前方には、血の滴る剣を握ったあの少女が立っていた。
剣で斬られたなら、鋭い痛みがなければおかしい。
うまく言えないが、包丁で指を切った時のを何倍にもしたような痛みのはずだ。
しかし千夜はあくまでも、何かにぶつかったような痛みだけを感じていた。
そっと、服の下から血に濡れている部分を触ってみる。――痛くない。傷も、ない。
「聞こえねェのか! 逃げろって言ってんだ、とっとと走れェ!!」
その勢いに気圧されるように、千夜は起き上がる。
そして、言われた通りに走り出した。
走る中で、何が起こったのかを彼女の頭は徐々に理解しつつあった。
あの時、土方十四郎は「下がれ」と叫んだ。直後に千夜は吹き飛ばされ、地面に倒れていた。
……これだけ揃っていれば。誰だって、事の次第を理解するだろう。いや、してしまうだろう。
土方は千夜を突き飛ばしたのだ。
自分が傷を負うことも厭わず、護衛すると決めた彼女が殺されることだけは避けんとした。
結果、千夜は助かった。
だが、土方は傷を負った。
斬られた場所はともかく、あの出血量を見るに――相当深く切り裂かれたのだろうと素人目にも分かる。
どうして。どうしてどうして、どうして!
千夜は混乱気味な頭の中を必死にフル回転させ、考える。
-
「夢じゃ、ないの……?」
逆らった少女が殺されて、ココアやシャロ達も殺し合いに参加させられていて。
そんなことがあるわけはないと思ったし、何よりあってはならないと思ったから、千夜はこれを夢だと信じた。
「間違いじゃ、ないの……?」
何かの間違い――つまり、テレビなりなんなりの企画ではないのかとも疑った。
では、土方はその仕掛け人役ということになるのか。
そう納得できればまだ楽だったかもしれない。しかし千夜は、そこまでおめでたい頭の持ち主ではなかった。
足を止め、怒鳴られることも覚悟して振り返る。
土方と少女は未だ睨み合っていた。そして、千夜の見ている前で殺陣を始めた。
その光景があまりにも恐ろしくて、千夜は再び走り出した。
なぜだか、土方とはもう二度と会えない、そんな気がした。
千夜の大きな瞳から滂沱の涙が溢れる。転んで、足を取られて、それでも走った。
大事な制服をどろどろに汚しながらも、懸命に走った。
「(そうさ――夢なんかじゃねえ。こいつはれっきとした現実だ)」
鎧の少女、セイバーと真選組副長、土方十四郎の戦いは一方的な戦況となっていた。
少女の細腕から繰り出されるとは思えない剛剣を受け止める度、刀を握る腕が軋む。
それだけの威力で振り下ろされる剣だから、鍔迫り合うことへも慎重になる必要があった。
下手にぶつかれば、まず間違いなくこちらの刀が折れるか砕ける。
土方の持つ刀も、ある意味では相当な業物なのだが――それでも、セイバーの振るう剣には敵わない。
「(護衛くらいなら引き受けるだとか、偉そうなことを言っといてこの様たあ情けねえ……副長の名折れだな)」
繰り出す剣は全てがいなされる。
無鉄砲に切り出せば正面から止められ、かと言って搦手に走ってもこの剣士はそれを真っ向から破ってくる。
月並みな表現だが、化物としか言いようがなかった。
少女の剣が、土方の胴体に何本目かの刀傷を刻む。噴き出す血と一緒に意識も飛びそうになるが、堪えた。
「づ」
刀を構え直し、裂帛の気合と共に土方は再び猛追した。
「――おおおおおおおおおおォォォォォォ!!!」
「ッ」
そこで初めて、セイバーは反応らしきものを示した。
-
彼女が驚くのも無理はない。今決まった一閃は、人間なら戦闘不能になって当然のものだった。
それに加え、彼は最初の一発も含めた複数の傷を負っている。そのどれもが重傷と呼んで差支えのないものだ。
袈裟方向に振り下ろされる刀を止める。――重い。本当に人間の力なのかと、セイバーをして錯覚してしまうほど。
「俺が倒れないのが不思議かよ」
土方十四郎は人間だ。
天人や夜兎とは違う、れっきとした地球生まれ地球育ちのホモ・サピエンスだ。
英霊の座から召喚されたサーヴァントではないし、当然限界も彼らにすれば呆れるほどの早さで訪れる。
その時は確実に迫りつつあった。いや、セイバーの考え通り、本来ならもうとっくに限界へ達している筈なのだ。
土方は笑う。ああ、テメーには理解できねェだろうなと、言葉にはせず心の中でせせら笑った。
セイバーの突きが腹へ突き刺さる。この刺さり方だ、内臓は持って行かれたろうな――奇妙に冷静な頭で思った。
「いいぜ 冥土の土産に教えてやる」
ハッと目を開くセイバー。
土方に突き刺さった剣ごと、後ろへ飛び退かんと地面を蹴った。
だがもう遅い。さしもの剣の英霊でも、この間合いならば避けられない。
「それが―――侍ってモンだからだァァァァァ!!!!」
放ったのは意趣返しの突きだった。
鬼の副長の名に違わぬ、鬼神のごとき表情と気合いで放たれた一発は、セイバーの構えた剣の横を通過し。
その首筋へとまっすぐに突き進んでいき、……その首の皮一枚を、切り裂いた。
「……今のは、見事でした」
土方は、もう何も語らない。
突きを放ったままの格好で沈黙していた。
セイバーはそんな彼を見て、ゆっくりと黄金の剣を振り上げる。
「覚えておきましょう。東洋の侍」
これまでのものよりも一際深い袈裟斬りが土方十四郎の胴体を裂いて、数秒ほどしてから、彼はようやく崩れた。
セイバーはその姿を見つめ、やがて背を向け、少女が走り去った方向とは別な方を向いて歩き出す。
-
高潔さをかなぐり捨て、騎士道を逸脱してまでも願いを叶える道を選んだとはいえ、それでも彼女は騎士だった。
名前も知らない侍の男が、文字通り命を懸けて作った時間と逃げ道。
それを追い立てるのは、どれだけ落ちぶれたとしても、セイバーの矜持が許さなかった。
鎧の擦れ合う音が遠ざかるのを聞きながら、薄れゆく意識の中、土方は思う。
「(悪いな、近藤さん。俺はもう、アンタの馬鹿に付き合えそうもねェ。
悪いな、総悟。いや、お前にしたら良かったのかもしれねェが。
念願の副長の座だ。精々、俺の分も真選組を支えてくれや。なに、テメーなら出来るだろうよ)」
やり残したことは、山ほどある。
残してきたものも、腐るほどある。
だが、土方は心配はしていなかった。
彼が育て、また育てられてきた真選組は、自分がいない程度で廃れるほど弱くはないと信じていたからだ。
それに、最後は無力な一般人を守って死ねたのだ。侍冥利に尽きるというやつだろう。
……これであの鎧女に勝てていたなら、もう言うことはなかったのだが。
「(後はテメーらの仕事だ、万事屋。まあ、上手くやれよ)」
……正直なところ、戦うばかりで時間感覚が曖昧だ。
千夜は逃げ切れたろうか。鎧女が心変わりを起こしてももう遅いくらい遠くまで、離れられたろうか。
確かめるすべはもうない。後は祈るのみだ。
ゴロリと体を動かして、空を見上げた。もう時間もないようだ。懐へ手をやり、土方はため息をつく。
結局、最後まで一服出来ず仕舞いで終わるとは。これでは化けてしまいそうだった。
「ホント、ロクでもねえ人生だった」
――けどまあ、悪くもなかった。
最期に、かつて愛した女のことを思いながら、真の旗を背負った鬼は、地獄へと戻っていった。
【土方十四郎@銀魂 死亡】
【残り64人】
※A-2の右端付近に、土方十四郎の死体と支給品、村麻紗@銀魂 が放置されています。
-
●
ブリテンの騎士王は、その剣で自身の願いを葬り去った。
その時彼女のマスターであった男が何を考えていたのかは、セイバーには分からない。
しかし一つだけ、確かなことがあった。第四次の聖杯戦争を終えて、確かに理解することがあった。
――私は、王になる器などではなかった。
そしてそれこそ、この自分が真に願うべきことだったのだ。
悔やみ、悔やみ、悔やみ、悔やみ、悔やみ。そうして気付けば、あの何処とも知れぬ場所へと召喚されていた。
繭の行動に憤りを覚えはしたが、それ以上に千載一遇の好機であると思った。
彼女が本当に願いを叶える力を持っているという証拠はない。
それでも。セイバーは、この願いを叶えるためならばどんなに細い藁にでも縋りつく覚悟だった。
騎士王、アルトリア・ペンドラゴンが進んでいく。
勝利を約束する聖剣を携えて、一度は取り逃した願望器の代替を手に入れるべく、血の道を進んでいく。
人の気持ちがわからない王が行き着く先は願いの成就か、それとも二度目の挫折か。
【A-2/深夜/一日目 深夜】
【セイバー@Fate/Zero】
[状態]:疲労(小)、首にかすり傷
[服装]:鎧
[装備]:約束された勝利の剣@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:優勝し、願いを叶える
1:全ての参加者を殺す。
2:自分以外のサーヴァントと衛宮切嗣には警戒。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後です。
-
●
宇治松千夜は走る。
泣き腫らした両目で、制服を汚してまでも走る。
どのくらい走ったのか分からないが、振り返ろうとはしなかった。
自分の逃避が招いた結果を想うと、罪悪感と寂寥の涙が止まらない。
同時に、まるで予想の出来ない未来への恐怖がどんどん込み上げてくる。
皆は大丈夫だろうか。自分はこれからどうなるのだろうか。……考えただけで、声をあげたくなった。
それから更に走って、走って。
やっと千夜が足を止めたのは、視界に人影が見えてからだった。
小さな少女だ。きっとまだ中学生にもなっていないだろう少女が、不安げに周囲を見渡している。
「あ――」
それを見て、千夜の中の何かが切れた。
いくら逃避をしていても、心の奥底では現実を見つめていたのかもしれない。
無理に堪え続け、挙句先のことがあり、千夜の心はもはや擦り切れんばかりに摩耗していた。
少女が、千夜に気付く。様子がおかしいことに気が付いたようで、小さな歩調を急がせ、駆け寄って来てくれた。
だめ、にげなきゃ。伝えようとしたが声は出ず、宇治松千夜はそのままぷっつりと意識を手放した。
「……良かった、気絶してるだけみたい……」
目の前で倒れた千夜を介抱しながら、高町ヴィヴィオは安心したように胸を撫で下ろした。
バトル・ロワイアルが始まってから結構な時間が経つが、他の参加者と出会うのは初めてだった。
しかし、安心はできない。気絶する前、彼女は何かを自分へ伝えようとしていた。
あんな必死な顔で伝えることとなれば、おのずと想像はつく。
それに、眠る彼女の腹をじっとりと濡らしている血糊。
確認したところ、これは彼女の血ではないようだが――だとしても、どこかで誰かが血を流したのは確かだ。
千夜が血を“流させた”という可能性については……とりあえず、考えない。
目を覚まさないことにはなんとも言えないが、ひとまずどこか、人目に付かないところへ運ぶのが吉だろう。
-
「よっ、と」
日々の鍛錬で体を鍛えているヴィヴィオにとって、年上とはいえ女性を背負うくらいは朝飯前だ。
――出来れば、道中でアインハルトさん達にも会えるといいんだけど。
ヴィヴィオはまだ見ぬ親友二人の顔を思い浮かべながら、千夜を背に歩き始めた。
【B-2/深夜/一日目・深夜】
【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、気絶、大きな不安
[服装]:高校の制服(腹部が血塗れ、泥などで汚れている)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:心愛たちに会いたい
1:…………。
2:これから、どうなっちゃうの……
[備考]
※現実逃避からは脱しました。しかし、精神的に非常に不安定です。
【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid
[思考・行動]
基本方針:皆で帰るために行動する
1:女の人(千夜)が目を覚ますまで待つ。
2:その為に、どこか人目につかない場所へと移動したい。
3:アインハルトとコロナを探す
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後です。
支給品説明
【村麻紗@銀魂】
土方十四郎に本人支給。
過去に彼が自分の使っていた刀の代わりとして、鍛冶屋から借りてきた刀。
恐ろしく切れるが、切った者の魂を吸い取ると言われていた妖刀である。
引きこもりの息子が修学旅行だけに行きたいとわがままを言った事で、母親の怒りを買って遂に斬り殺された時に、刀に怨念が宿り、一度腰に帯びた者は、引きこもりの息子の怨念によって、魂を喰われていき、ヘタレたオタクに成り果てる。トッシーの人格はこの刀によって生まれた。
やがて呪いは消え去ったが、愛着が湧いたのか、それ以降も土方はこの刀を愛刀として使っていた模様。
【約束された勝利の剣@Fate/Zero】
セイバーに本人支給。エクスカリバー。
セイバーの宝具で、真名解放することで莫大な威力の光を生み出すことが可能。
本ロワでは制限によって真名解放時の攻撃範囲が狭められている。
【セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid】
高町ヴィヴィオに本人支給。
高町ヴィヴィオの愛機であるハイブリッド型インテリジェンスデバイスで、愛称は「クリス」。
外装はうさぎのぬいぐるみ。
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投下終了です。指摘などあればお願いします。
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投下乙
マーダーセイバーがアニ4に再降臨か……助けてカズマさん
-
投下乙です
トシ落ちたか……
そしてまたまた北西に配置された強マーダーセイバーと千夜ヴィヴィオ組の今後も気になるなぁ
-
マーダー騎士王再臨ッ!!外道騎士王再臨ッ!!
王族キラーの反逆者を呼んでこなくては
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なんでスクライドが落選が惜しまれる
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投下します
-
――男と生まれたからには、誰でも一生の内一度は夢見る【地上最強の男】。
――グラップラーとは、【地上最強の男】を目指す格闘士のことであるッッ!
風を切るように走る少年。
その肉体はトップアスリート並み。
否、超一流の格闘家の肉体である。
(どうすっかなぁ……)
少年の名は『範馬刃牙』。
史上最年少の地下闘技場チャンピオンであり……
この時点ではまだ地上最強の男を目指していた少年だ。
この場にいる刃牙自身の知り合いは……
父・範馬勇次郎。
異母兄・ジャック・ハンマー。
そして、本部さん。
の三人である。
(……親父と戦う場か……)
しかし、これは試合ではなく殺し合い。
本物の戦場であの『鬼(オーガ)』と戦う。
だが、地上最強の親父・範馬勇次郎を超えたい。
例え、それがこんな殺し合いの場だとしても。
(もっと強くなりてぇな……)
刃牙は走りながら思う。
もっと強くなりたい、ただ純粋に。
だからトレーニングを兼ねて走りながら、人を探している。
出来るだけ強い人を。
彼が求めるのは【闘い】であった。
しばらく走っていると刃牙の眼前には二人の人影。
一人は着物を着用した男。
もう一人は見たことない学校の制服を着た女子。
「声、掛けてみるか……」
◆ ◇ ◆
-
万事屋から駅に向かって移動するにこ達。
正直、こんな夜中に運動なんてしたらお肌に悪い。
……なーんて、今はそんなこと言ってる場合じゃないもんね。
「にこちゃん、大丈夫?」
「大丈夫よ、こうみえてもけっこう鍛えてるから!
スクールアイドルだって体力がないといけないからね!」
少し前のにこだったら、多分へばっていた。
海未や絵里に鍛えられていなかったら、すぐにダウンしていたかもしれない。
「なぁ、そこのアンタらちょっといいか?」
……汗くさい臭いがした。
まずそう思った。
後ろを振り向いた。
いたのは少年……って言っていいのかな?
筋肉モリモリのマッチョの男だった。
「いきなりで悪いけど、『範馬勇次郎』って男を知らないか?」
いきなりで驚いちゃったけど……。
礼儀正しそうなところをみると……悪い人ではないのかな?
「名乗ってなかったな……俺、範馬刃牙、17歳」
「ええーっ!? 僕よりも年上!?」
「ええーっ!? 私よりも年下!?」
「え?」
新八君が私の顔を見て驚いた。
ふーん、なるほどね……なんとなくわかっててたけど、そういうことね。
べ、別に、背が低いとかスタイルが子供体型だとか気にしてないわけじゃない。
一先ず、にこ達も自己紹介する。
本当は『にっこにっこにー』ってやりたかったけど、とてもそういう雰囲気じゃないから自重はした。
そこでちゃんと新八君の年齢を聞いた……一年生達と同じくらいが……
そして、刃牙君は頭を掻きながら聞き返した。
「もう一度聞くけど『範馬勇次郎』って男を知らないか?」
「知らないわね……にこがここであったのはそこの新八君が最初よ」
「そうか……」
「その範馬勇次郎ってどんな人?」
「俺の親父だ……で、俺が倒したい奴」
自分のお父さんを倒す……?
ちょっと意味が分からないわね……。
「倒すってどうやって?」
「今の俺じゃ多分勝てない、だから強い奴と戦ってトレーニングする」
「いやいや、刃牙君そんなRPGじゃないんだから戦って強くなるなんて……」
にこも正直そう思う。
「まさか、戦ってその人の持ってる武器を奪うとか?」
「いや、そんなことはしないよ……それに俺武器必要ないし」
……一理あるわね。
その体つきを見れば分かる。
こういっちゃなんだけど新八君よりもすごい体をしている。
腕とか足とが新八君の比じゃないくらい太い。
寧ろ、人体ってここまで鍛えられるのかな……?
-
「いやいや、それに武器なしじゃ危ないから!」
「……試してみるかい?」
「お断りします」
ファイティングポーズを取る刃牙君に対して新八君は即答した。
格闘技には詳しくはないけど、多分新八君が戦っても一発なんじゃない?
新八君が刀で斬りかかる前に刃牙君の拳が新八君の身体に当たるほうが早そう。
それくらいの凄みというか……何かそういうのを持っている。
「さっきも言った通り俺に武器必要ないし、使い慣れてない武器よりも自分の肉体のほうが信じられるしな。
……出来ることなら、もうちょっと食料と水がほしかったかな」
「使わないんだったら、その刃牙君が持ってるその黒カードと私の赤と青のカード交換しない?」
「ん? そういうことならいいぜ!」
交渉成立。
にこの持っていた2枚の赤のカードと2枚の青のカードのトレードした。
そして、その黒カードを見てみる。
「ヘルゲイザー……?」
「よくわからないけど、なんか箒らしい」
「ふーん……」
黒カードの説明をよく読む。
『魔法』という見慣れない文字があった……正直信じられないわね。
でも、『魔法少女にこにーにこちゃん』か……悪くないとは思う。
寒くない、寒くないわよ!!
その後は刃牙君の知り合いを教えてもらったり、μ'sのメンバーや新八君の知り合いのこと教えたりした。
その最中、刃牙君はどうやら新八君の知り合いの方に強い興味を持った様子だった。
そりゃそうよね……ただのスクールアイドルとSFチックな世界観の住人だったらそっちのほうに興味は出るもの。
「じゃあ、俺は行くよ、色々とありがとよ」
「いえいえ、こちらこそ……ところで刃牙君はどこに行くんだい」
「そうだな、地図の真ん中の方を目指そうかな、人集まりそうだし」
「そう……じゃあ、これ大切に使わせてもらうわよ」
「おう、じゃあな」
そして、爽やかに刃牙君は走り去っていた。
……って、超足速い。
【F-7/一日目・深夜】
【範馬刃牙@グラップラー刃牙】
[状態]:健康
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(12/12)、青カード(12/12)
[思考・行動]
基本方針:勇次郎を倒す
1:地図の真ん中の方を目指す
2:出会った人が強い奴なら戦う
3:勇次郎を探す
4:銀時、神楽、桂、土方、神威に興味
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後
-
刃牙君が走り去ったあと、にこたちはまた駅方面に向かって歩き出した。
その道中のちょっとした会話。
「でも、刃牙君の自分の父上を超えたいって気持ち……少しわかるな」
「男の子って皆そういうものなの……?」
「まあ、僕にはもうできないことなんだけどね……」
そう、呟いた新八君の横顔は笑っていたがどこか寂しそうだった。
そうか、新八君のお父さんは……もう……。
なんかセンチメンタルな気分になりそうだったからこの話はやめよう。
「そういえば、にこちゃんって歳いくつなの?」
「18歳よ、幼く見えるのがにこのコンプレックスなのよね」
「すみませんでした、矢澤さん」
「……にこでいいわよ」
「じゃあ、にこさんで……」
【F-7/一日目・深夜】
【志村新八@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:いつもの格好
[装備]:菊一文字RX-78@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
1:にこさんと、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう
2:銀さん、神楽ちゃん、桂さん、土方さん、長谷川さん、μ'sのメンバーと合流したい
3:神威、範馬勇次郎を警戒
[備考]
※矢澤にこと情報交換しました
※範馬刃牙と情報交換しました
※万事屋付近にいる天々座理世、風見雄二とは時間帯が深夜だったこともありニアミスしています
【矢澤にこ@ラブライブ!】
[状態]:健康
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはViVid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/8)、青カード(8/8)
黒カード:不明支給品0〜2枚、イヤホン
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
1:新八と、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう
2:μ'sのメンバーと合流したい
[備考]
※参戦時期は少なくとも2期1話以降です
※志村新八と情報交換しました
ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはViVid
範馬刃牙に支給。
元はファビア・クロゼルグの使用する箒型のデバイス。
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投下終了です。
指摘等あればお願いします。
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投下乙です
殺し合い云々を全く無視して勇次郎と強者を探し出す刃牙が実にらしい
ただ、その勇次郎が既に死んでいるからなぁ…放送後に刃牙はどう動くのか……
あと、青カード赤カードは各10枚ずつ支給されているわけではなく、1枚に10回分の効果があるということですよ
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ご指摘ありがとうございます。
修正SS投下スレに後ほど修正版を投下いたします。
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修正SS投下スレに修正版を投下いたしました
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投下乙です
セイバーマーダーか、土方さんお疲れ
墓地の咲勢を生贄にトリズナーを召喚しよう
バキは放送後どうなるんだろうか、親父の仇を探しに行くのか
そしてラブライブ+魔法少女の組み合わせは…嫌な予感が
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投下乙
ラブライブ未視聴だけど、にこは承太郎より年上なのね……
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投下します
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ほの暗い闇に覆われた映画館が証明によって照らされる。
外部に明かりがもれない構造なのは衛宮切嗣は確認済みだった。
何も写していないスクリーンを前に無人の売店から失敬した煙草を手に彼は席に腰掛ける。
(どうしたものか)
煙草を一本取り出し口に咥え、溜息のような息を吐きながら思案に暮れ、自らの腕輪を調べた。
腕輪やカードに何らかの力のようなものは感知できるが、魔術師である彼がよく知る魔力かと断ぜない不可解な力。
先ほどの白い部屋といい、催眠術に完全に掛かったか、あるいは何らかの方法で異界に落とされたとしか材料不足で
無理やりでも判断しなければ彼にとって動きようのない状況だった。
(……サーヴァントが3体、僕と元マスターの言峰綺礼を含めマスターが確認出来るだけでも3人か)
名簿確認しながら切嗣は苛立ちを吐き出すかのように煙草を噛む。
スタートの場に自らのサーヴァント セイバーの姿が確認したのを思い出し、また煙草を噛んだ。
切嗣は繭と名乗った少女に生殺与奪権を握られているだけに、殺し合いに対して取るべき手段は優勝狙いが一番効率がいいと思っていた。
仮に切嗣が参加者内で随一の力を持つなら、女子供を含め鏖殺するのに支障などないだろう。
衛宮切嗣は感情と行動を切り離せる男だ。
だがサーヴァントが参加者であるなら話が変わってくる。
切嗣は繭にさらわれる前、聖杯戦争というバトルロイヤルに参加していた。
奇跡を起こし得うる願望機を使用するために、7人のマスターと7体の英霊――サーヴァントと最悪最後の一組以下に
なるまで殺しあう争奪戦、それが聖杯戦争。切嗣も願望機の使用が参加理由だった。
切嗣の知る限り願いを叶えるだけの力を聖杯が発揮するには6体の英霊の脱落が条件である。
ここでセイバー、ランサー、キャスターのうち2体以上が脱落してしまえば、聖杯戦争が成たたなくなってしまう懸念が彼にはあった。
その理由は死んだ参加者の魂はカードに封じられるという事実。
聖杯戦争においてサーヴァントが倒されると、その魂が元の場所に戻る際に空間に孔が開く。
その孔を利用して聖杯を起動させるのに、その魂がカードに封じられてはどうしようもない。
優勝者には願いを叶えると言っていたものの、初対面ということもあり願いがどれだけの範囲まで適用されるか判断できなかった。
その上、あの時の繭の楽しそうな様子から察するに、敗者の魂の解放の要求は容易に受託されるものではないと思えた。
手間が掛からない、例えば優勝者のみ元の居場所への帰還などは、よほど機嫌を損なわない限り叶えられそうな感じだが、
切嗣にとってそれは受け入れられるものではない。
衛宮切嗣は人間的には外道と見なされる魔術師である。だが冷血ではない。
彼はこれまでの人生で、何年かの休止があったもののより多くの人を救う為に独自に鍛錬を重ね、心を砕きながら戦場や裏社会で活動していた。
だがその手段と思想は、より多くを救うために必要最小限の犠牲を見極め、容赦なくそれを駆逐するというもの。
それはかつて災厄になりうる幼なじみを前に選択を放棄したがゆえに、惨劇を引き起こしてしまった負い目が原点であった。
そうした行為の繰り返しは現実の過酷さと合わせ彼の心を痛めつけ、遂には超常の聖杯を求めるまでに至った。
そんな彼が聖杯を、自らの意思で願いを叶える事を簡単に諦められる筈がない。
切嗣は思案の前に腕輪から出した黒のカードを取り出して呟いた。
「詳しく調べさせてもらうよ」
声を受け1枚の黒のカードが微かに動き、何枚ものファンタジックなイラストが描かれたカードが現出した。
支給品確認はここに飛ばされた直後に既に行っている。目当ての武器はなかった。
代わりにあったもので目を引くものは有益とは思えない面倒臭そうなアイテム。
1枚のカードが蠢き、それを指に挟んで正面へ向けた。
衛宮切嗣は英雄が嫌いだ。人々のヒロイズムを刺激し戦争を助長する存在であるから。
それは自らのサーヴァントであるセイバーにも向けられ、一度しかこちらから話しかけた事がないくらいだった。
故にここに置いても彼がサーヴァントに話しかける気はない。
だから指に挟んだあれも煩そうなのもあったが、サーヴァントの一種の可能性を考え早々に黒カードに収納していた。
そのカードに写るは1人の女性。
茶色のツインテールに、ドクロのような帽子、胸元にでかいリボンという格好の十代前半の少女だった。
それはただのイラストなどではなく。
-
カード内の少女の、老婆のような声色が入り混じった声が切嗣を咎めた。
「……いきなり閉じ込めるなんて酷いんじゃないすか?」
「……失礼。君が参加者に対する見張りの可能性も考えていたのでね」
「ただデッキを手にした人に協力しろって言われただけっすよ。あのもじゃもじゃ頭に」
支給品 ルリグ――エルドラはカードの中で手をパタパタ動かしながら口を尖らせ渋々質問に答える。
「君はサーヴァント、英霊ではないんだな」
「わたしゃ召使とも英霊とやらとでも呼ばれる謂れはないっすよ」
「そうか」
風格も戦意も強い悪意もないことから、英霊や繭の忠実な部下の類ではないという点だけは信用することに決めた。
しかしエルドラは支給品として役には立つのだろうか?見た感じカードから出られない上にサイズは20センチにも満たない。
「魔術は使えるのかい?」
「ん?。お兄さんは魔法使いかなんかなんですか」
切嗣は言葉に詰まった。彼は魔術師ではあっても魔法使いではない。
彼がいた世界では魔術と魔法はまた別のものだ。
だがエルドラのその反応で切嗣はここが異界である認識をますます強くする。
「まあ似たようなものさ。君は何ができるんだい?」
「何ができるって言われましても……そんな態度じゃ、あ今のナシです。
カードに説明書が付いていたら読んでみたらどうです?」
「……」
「え、怒った?これくらいで目くじら立てないで下さいよ……」
切嗣は怒ってなどいなかった。エルドラが怒ったと勘違いした切嗣の行動は凝視。
掛かるとは思えなかったが、意思操作の術をエルドラに仕掛けたのである。しかし
(馬鹿な)
魔術を行使するのに必要な体内器官、魔術回路に魔力は通っているのにも関わらず術が発動しなかったのだ。
「…………ひょっとして何かしました?」
「……いや、落胆しているだけさ」
ジト目でこちらを疑うエルドラに対し、切嗣は魔術を発動させられなかった焦りを隠すように淡々と応える。
実際、ハズレの可能性が見えてきて落胆しているのも事実なのだが。
とうに読んだ説明書と腕輪からのエルドラのカードデッキに関する記述は、ウィクロスというゲームのカード説明と、
そのゲームのルールしか書かれていなかった。殺し合えと言われて何でカードゲームで遊ばなきゃいけないんだ?
軽くめまいがする。
だが切嗣にとって興味深い、あるいは少々でも希望を抱かせる材料はある。
ウィクロスはさて置き、エルドラからはサーヴァント程ではないが、そこそこの魔力のようなものを感じられた。
現時点では有用であるようには見えないが、ここは未知が溢れる場所。
例え戦力にならなくても、所持しておけばどこかで役に立つかもしれないとそう切嗣は判断した。
邪魔になれば黒カードにずっと閉じ込めて置けばいい。黒カードに収納している間の外の事は分からないようだし。
切嗣は姿勢を正し、今後の方針を考えた。
助手の舞弥はいない、妻であり聖杯戦争の協力者であり歯車であるアイリスフィールもいない。
愛用してきた武器も没収された今、ブランクが祟って下手すれば参加者内で弱い方になっているかも知れない。
だが繭はこうも言っていた、黒のカードを差して『これらを上手く使って、』と。
なら支給品を上手く使えば殺し合いは勝ち抜ける可能性がそれなりにありえるか。切嗣は席を立った。
-
「どこいくんです?」
「…………」
第一に情報収集。武器を揃えるまで極力敵を作らず立ち回らなければならない。
殺しを実行するにしても暗殺が最適か。他の参加者と協力関係を結ぶ必要も出てくるだろう。
早々に見つかればいいんだが。
最悪、繭に願いを叶えさせるにしても、自らの帰還と聖杯戦争の再開を確約させなければならない。
そして、あれだけの非道を働くような繭を野放しにする気もない。
不本意な願いでも叶えざるを得なくらい追い詰め、成就後殺害しなければ行けない。
どんな手を使ってでも。
「ねえ」
「――」
切嗣はエルドラの問いに応えた。
168 名前:正義の在処 ◆WqZH3L6gH6[sage] 投稿日:2015/08/10(月) 07:02:20 ID:joh5PNzo0 [4/5]26
【G-6/映画館内/深夜】
【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]:健康、僅かな焦り
[服装]:いつもの黒いスーツ
[装備]:エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2 (確認済み、銃やナイフは無い)
噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:手段を問わず繭を追い詰め、願いを叶えさせるか力を奪う
1:エルドラの能力と自らの異変を探る
2:1の後、情報アイテム収集を優先に行動を開始する
3:有益な情報や技術を持つ者は確保したい
4:セイバー、ランサー、言峰とは直接関わりたくない
[備考]
※参戦時期はケイネスを倒し、ランサーと対峙した時です。
※能力制限で魅了の魔術が使えなくなってます。
他にどのような制限がかけられてるかは後続の書き手さんにお任せします
支給品説明
【エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS】
ちより(ロワ未参戦の)のルリグ エルドラが収納されたカードゲーム『ウィクロス』のカードデッキ。
外見は茶髪のロングのツインテールの少女。性格は慇懃無礼で軽い調子。
ウィクロスのルールが書かれた説明書付き。エルドラ以外のカードは通常はただの紙切れ。
エルドラ自身、自由意志を持ち会話が可能。繭からロワについての説明は殆どされていない模様。
黒カードに収納されている間は外の事は解らない。
切嗣から見てそこそこの魔力のようなものが感知できるが、セレクターバトルも含めて当ロワにおいて
それがどうエルドラ含めるルリグに影響するかは現在不明。
カードからの脱出ができるかも不明だが、どの道現在の所持者から遠く離れられないように制限が課せられている。
参戦時期は不明。
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投下終了です
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投下修正乙です
合理的な最善を突き詰めて結論を出そうとする切嗣の姿勢が良いですね
他の対主催とは、必要なら協調するだろうけど必要なら切り捨てもするだろうし
これからの動きが楽しみなキャラになりそうです
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投下乙
やっぱエルドラの声はBBAみたいだよな
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投下します
-
風見雄二は天々座理世と共に夜道を歩いていた。
目的地はラビットハウス。リゼのバイト先であるという店は、どういうわけか地図に載っていた。
この悪趣味なゲームを開催するにあたって、繭が同じ外観の建物を用意したと考えれば説明はつくが、そこまでする理由は現時点では不明である。
ラビットハウスを目的地として選んだ理由はリゼの仲間であれば、そこを目指す可能性が高いため。
この地図には映画館や公園のような誰でも知っている場所から、音ノ木坂学院や万事屋銀ちゃんのような特定の人間しか知らないような施設が記されている。
後者であれば人探しの手がかりになるわけだが、雄二の知っている特定の施設は地図には存在しなかった。
リゼの知っている場所であるラビットハウスは地図に記載されていたため、そこに向かうことになったのである。
入巣蒔菜の居場所に関する手がかりはなく闇雲に探すしかない現状。蒔菜がラビットハウスにいる可能性もある以上、この行動は雄二にとっても無駄ではない。
加えて現在地からラビットハウスまでの間にはゲームセンターもある。施設を虱潰しに探していくという意味でも決して非効率ではない行動なのだが、その件でリゼは自分の知り合いを優先してもらって済まない、と申し訳なさそうにしていた。
そんなリゼの手には現在、黒光りする暴力の塊、拳銃が握られている。
ベレッタM92。引き金を引くだけで人を殺傷できる武器。一度は雄二が奪いとり、そして返還したものだ。
人を殺すことの重さを過去の出来事もあって雄二はよく理解している。
手にした銃でリゼが誰かを殺せば、彼女の心は傷つくことになるかもしれないし、場合によってはトラウマを負うことになるかもしれない。
これまで雄二は要人警護をしたこともあったが、間違っても護衛対象に武器を渡すようなことはしなかった。
では何故、今回リゼに銃を渡したのかと言えば、それはここが異常な環境だからである。
既に人が一人死んでいることに加え、ゲームに乗った人を殺す意思のある人間が跋扈している空間。
ここと似たような場所を雄二は知っている。それは戦場。彼はアメリカ海兵隊時代に戦地に足を運んだことがある。
殺人が同然のように行われ、それらが罪に問われず、逆に肯定されているという異常な空間。
戦場で人を殺したくないとか、心が傷つくとか、そんな理由で武器を手放すような真似をすれば、待っているのは死である。
-
その武器が入っているという黒いカードの確認は既にリゼと共に済ませている。
殺し合いの空間で自分の武器を把握しておくというのは基本中の基本だ。
雄二の黒のカードは三枚。リゼの黒のカードは二枚。数字の上では雄二の方が多い。
だが多いことが必ずしも良いとは限らない。雄二の黒のカードの一枚に入っていたのはマグロに腕が生えた不気味な人形。
蒔菜が見ていたテレビ番組にこんなマグロが登場していた記憶があったのだが、説明書を読むと案の定、そこにはマグロマンのぬいぐるみと書かれていた。
特別武器が仕込まれているでもない不気味なマグロの人形である。
これが外れの支給品であることは明白だった。とりあえず蒔菜に渡せば喜ぶだろうと思い、捨てずに黒のカードに収納しておいたが。
一見すれば外れに見えてそうでないものも存在する。
リゼの黒のカードからベレッタM92に続いて出てきたのは洋服だった。
ここにはいない美浜学園に通う少女の一人が普段着ていると同じ柄のメイド服である。
これも外れかと最初こそ雄二は思ったわけだが、説明書を読むとその認識は覆されることになる。
メイド服【暴徒鎮圧用「アサルト」】。同じデザインが数種類存在する中でも防弾使用になっているメイド服らしい。
防弾使用というのであれば、この場では有用な装備品であるためリゼに着用を促し、最初こそ躊躇していたもののリゼも生存率を上げるためならばと受け入れた。
本人曰く私には似合わないんじゃないかとのことだが、別にそんなことはないと雄二は思った。
そして雄二の最後の支給品は装飾の施された刃物だった。
見た目こそ派手だが玩具というわけではなく、武器としては十分に有用なのだが、雄二の目を引いたのは説明書に書かれていた文書だ。
アゾット剣【魔力を充填することによって魔術礼装としても使用可能】
魔力。普通に考えればそんなものは存在しない、あるとすれば何かしらの化学兵器に使用する燃料の隠語と読み取れるが、人をカードにする腕輪の存在を知っていればその解釈も変わってくる。
すなわち本当に魔法のようなものが存在するという可能性。この説明書によれば魔術か。
普通ならばあり得ない。リゼが言ったような米軍の新兵器の方がまだ納得がいく。
-
最初の白い部屋での光景は、最先端のCG技術による立体映像か、或いは参加者全員に薬物を投薬して幻覚を見せていたとも推測できた。
理解の及ばないものを安易に魔法だの魔術だのと決めつけてかかるのは二流の思考であるが、この腕輪とカードだけはどうしても科学では説明がつかない。
目の前に確たる証拠が存在するにも関わらず、その事実から目を逸らし否定し続けるのは三流以下のすること。
腕輪とカードは紛れもない非科学であり、この説明書にある魔術なるものに近いと考えた。
ならば魔術かそれに類する非科学の知識がある参加者と接触できれば腕輪の解除に近づける可能性が高い。
単に腕輪を外すだけならリゼにも言った通り腕を切断するという手段もあるが、それをやった瞬間にカードに封印されては意味がない。
ここで言う腕輪の解除とは白のカードの封印効果を無効化した上で、腕輪を外すことを指している。
非科学の知識を持つものに合えば腕輪を外す手がかりが見つかるかもしれない一方でリスクも存在する。
当初雄二は殺人者であることを隠すことなく堂々とゲームに乗って殺して回る者たちよりも、無害な参加者を装い集団に潜伏して不意打ちや毒殺を狙う人間の方が危険度が高いと考えていた。
だからこそ雄二はリゼと接触する前に彼女の様子を観察して、行動を共にしても問題ない人物かどうかを見極めている。
銃を構えた時点でタイミング良く飛び出して抑え込めたのも、影から様子を伺っていたからに他ならない。
戦う力を持たない女子供であれば堂々と人を殺してまわる人物も十分に危険であろうが、雄二は元軍人であり戦闘慣れしている。支給品でサブマシンガンを引けたのも大きい。
だからと言って油断するつもりもないが、相手が複数いるか薬物でドーピングでもしていない限りは直接戦闘で不覚をとるつもりはなかった。
しかし魔術という非科学の要素が加われば話も変わってくる。
何せ未知なのだ。箒に乗って空を飛ぶのか、口から火を吐くのか、人間離れした身体能力を有しているのか、魔力なるものを動力源にして破壊光線でも撃ってくるのか、現時点ではどれだけ考えようと憶測の域を出ない。警戒することはできても具体的な対策を練ることができないのである。
小説に出てくるような銃弾が通用しない人間がいるかもしれないわけで、そうなれば雄二の直接戦闘での優位性は消し飛ぶ。
参加者を危険度が高い順に並べると、未知の非科学的な能力を有する優勝狙い、脱出派を装って優勝を狙う者、特殊な力、及び人間離れした身体能力を持たない優勝狙いということになる。
-
――その昔、まだこの国に軍隊があったころ、とある将校がこう言った!
――一人十殺! 多勢に対する無勢に際し、一人で十人の敵を屠るまで玉砕は許さんと!
――だが今は時代が違う! そこで一人十衛! 貴様は国民十人の生命を救うことと引き換えに初めて死を許される。
それはかつて、師匠であった日下部麻子に言われたこと。
半人前だから五人にまけてやると言われ、その言葉に従って雄二は五人の少女を救った。
(なあ、麻子。俺はもう半人前じゃないからな。だからあんたが最初に言った通り十人救ってやる)
天々座理世、桐間紗路、香風智乃、保登心愛、宇治松千夜。
丁度五人いる。美浜学園の少女たちに彼女らを加算すれば合計で十人。
全員救えば最初に麻子が言ったノルマを達成することができる。
もちろん分かっている。それが容易いことではないということぐらい。
リゼ以外の四人はこの場にはおらず今この瞬間にでもゲームに乗った参加者に襲われているかもしれない。
リゼの話では彼女らは至って普通の女学生であり、そんな少女たちが殺人者に襲われれば高確率で死亡するだろう。
そしてそれは蒔菜であっても例外ではない。護身術の心得があるとはいえ彼女も普通の女学生であるということに変わりはなく、高い戦闘技術を持つ参加者に襲われれば死は免れない。
戦場で物事を楽観的に考えることがいかに危険であるかを雄二はよく理解している。常に最悪の状況を想定して行動しなければならない。
今この時、この場にいない人間を守ることは、それこそ神とやらでもなければ不可能だろう。
だからせめて自分の隣を歩いている天々座理世だけは、必ず生きて家に帰そうと雄二は胸に誓った。
-
【F-7/道/一日目・深夜】
【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ】
[状態]:健康
[服装]:美浜学園の制服
[装備]:キャリコM950@Fate/Zero、アゾット剣@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0枚、マグロマン人形 @グリザイアの果実シリーズ
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
1:天々座理世を護衛しながら、ゲームセンターを経由しつつ、ラビットハウスに向かう
2:入巣蒔菜、桐間紗路、香風智乃、保登心愛、宇治松千夜の保護
3:外部と連絡をとるための通信機器と腕輪を外す方法を探す
4:非科学能力(魔術など)保有者が腕輪解除の鍵になる可能性があると判断、同時に警戒
5:ステルスマーダーを警戒
[備考]
※アニメ版グリザイアの果実終了後からの参戦。
【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ
[装備]:ベレッタM92@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
1:ラビットハウスに向かう
2:チノたちが心配
3:風見さんと一緒にチノたちを探す
4:外部との連絡手段と腕輪を外す方法も見つけたい
支給品説明
【ベレッタM92@現実】
天々座理世に支給。
世界中の警察や軍隊で幅広く使われている銃。
【メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ】
天々座理世に支給。
小嶺幸の所有物。入巣家と取引のある軍にもミリタリー用品を納入している会社のオーダーメイド。通常用「インターメディエイト」・運動用「アクティブ」・夏季略装「トロピカル」・冬季寒冷地仕様「ヘビーゾーン」・暴徒鎮圧用「アサルト」・医療従事用「メディック」・冠婚葬祭及び慰霊式典参加用「コンサバティブ」の7種類が存在し、アサルトは防弾仕様となっている。
【キャリコM950@Fate/Zero】
風見雄二に支給。
衛宮切嗣が愛用している銃。原作ではケイネス戦で使用した。
【アゾット剣@Fate/Zero】
風見雄二に支給。
遠坂時臣が言峰綺礼に渡した装飾剣。魔力を充填することによって礼装として使用可能。
【マグロマンのぬいぐるみ@グリザイアの果実シリーズ】
風見雄二に支給。
入巣蒔菜の所有物。マグロに手足が生えたような不気味なぬいぐるみ。
-
投下終了です
-
投下乙です
このロワの中でもトップクラスに安定したコンビだなぁ
危険人物も少ないし無事ラビットハウスまで行けそう
ちょっと疑問なのが、「施設を虱潰しに〜」と書いてあるのに、何故すぐ近くの万事屋を探索しなかったのでしょうか?
-
>>341
ミスりました。新八たちと遭遇させると話大幅に書き換えないといけないので、「とりあえず近場にあった万事屋銀ちゃんなる店は探索したが、雄二が調べた時点では誰もいなかった。」と加筆して、リゼと会う前に雄二が調べたことにしときます
修正版は専用掲示板の 修正SS投下スレのみに投下すればいいんでしたっけ。それともこちらに投下するのでしょうか
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>>342
修正SSスレに投下で大丈夫だと思います
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>>343
分かりました。ありがとうございます。修正版投下してきます
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投下乙です
雄二&リゼ組は本当に安心感があるなあ……安心して見ていられる
キャスター、東條希 投下します
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「まんまと逃げ遂せたか、不義不徳の槍兵風情が……」
魂の眠る場所。
魔術師の英霊が、魔導書を潰さんばかりの力で握り締め、憤怒の形相を露わにしていた。
あのランサーに己の行いを邪魔立てされたのは、これで二度目だ。
名簿を見たその時から忌まわしくは思っていたが、よもやこうも早くあの憎き面を拝む羽目になろうとは。
「一度ならず二度までも……ッ」
キャスターのサーヴァント。
その名はジル・ド・レェ。
第四次聖杯戦争においてキャスターのクラスで召喚されたサーヴァントであり。
かつて救国の英雄となりながらも狂気へ落ち、『青髭』『聖なる怪物(モンストル・サクレ)』と恐れられた男。
彼が追い求めるのは、生前から信じ尊んできた麗しの聖女――オルレアンの乙女、ジャンヌ・ダルク。
信仰の果てに裏切られ、陵辱の末に火へとくべられた哀れな彼女。
積年の想いが聖杯により叶えられたかと思えばまた引き離され、しかし再び同じ戦場へと引き合わされた。
整えに整えた準備は全て無為となったが、しかしキャスターの胸にあるのは歓喜であったのだ。
これを運命と言わずして何と言うのか。
最早聖杯戦争など過ぎた話だ。
我が信仰は、この地にて聖女とともに完結する。
だがその為にも、彼女へ相応しき生贄を用意せねばなるまい。
幸い、此処には数ほどの山羊達がうろついている。
盟友プレラーティに賜った教本も今は手元にはない。
万全には程遠いが――だからこそ、キャスターは魂を食らうことで力を充足させておかねばならなかった。
背神の生贄と、自らの糧とする命。
その双方を蒐集することこそが、キャスターのこの場においてすべきこと。
無駄にしていい時間など一秒とてないのだ。
にも関わらず――あのランサーは自分の出鼻を挫いた挙句、癖の悪い足で羽虫がごとく逃走してのけたではないか。
断じて許せんとキャスターは思う。
次に出会ったならば奴の五体を引き裂き、その顔貌をどれだけ醜く歪めようとも終わらない苦痛へ放り込んでやる。
「あぁ、我が愛しの聖処女よ、もう暫しだけ待っていて下され。
この不肖ジル・ド・レェ、必ずや貴女の下へと今一度舞い戻らせていただきます故」
両手を合わせて跪き、天を仰ぐ姿はまさに敬虔なる神の信徒そのものだ。
何も知らぬ者が見た日には、必ずやこう見えるだろう。
殺し合いの運命を嘆き、神へ皆の救済を願う信仰者の姿に。
何故なら過去の聖者を思い返し、その輝きに酔いしれる彼の顔立ちは、つい数十分前のそれとはまるで似つかない。
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――彼を囲うようにして、無数の死人達が歩き回っていなければ……だが。
「(まったく、何なんよこれ……)」
それを墓石の陰から見つめながら……東條希は機を伺っていた。
何の機かなど言うまでもあるまい。
彼女は殺し合いに乗っている。
μ'sを護るために自分の心を切り捨て、既に一人を殺した身だ。
皆と育んだ日々の象徴である学校を目指さないことに決めた彼女の目的地は、此処からは遠いA-5エリア。
即ち、病院だった。
そこを行き先に据えた理由は明快。
傷ついた参加者が集まってくるかもしれないと読んだからである。
そして希は、ハイエナさながらにそれらを手にかけていくつもりでいた。
希は確かにただの女子高生でしかないが、相手が手負いなら、普段敵わないような相手も殺せると踏んだのだ。
まして今の自分には、樹木をあっさり切断出来る切れ味を持った武器もある。決して、分の悪い勝負じゃない。
「(……と思ってたんやけどなあ。ホンマ、ラッキーガールは何処行ったって話やわ……)」
いつから此処は、バイオハザードの舞台になったというのだ。
希にとって、画面越しにしか見たことのないような光景が今、彼女の目の前にある。
いっそのことこのままどんどん現実から乖離していって、最後には殺し合い自体夢になってくれるといいのだが。
「(って、アホか。そんな上手く行くわけがないやろ……)」
先ほど殺した少女、神代小蒔の顔は目を瞑っただけでも思い出せる。
レーザーの刃越しに、彼女を貫いた感触も、何が起きたかわからないまま息絶えている彼女の死に顔も、全て。
あれは夢や間違いなんかじゃない。
全部、れっきとしたリアルだ。
東條希は、人を殺した。
その手は血塗れだ。
どんなに取り繕ったって、その事実だけは絶対に消えることはない。
そして――消そうとも思ってはいなかった。
「(ま、何にせよ、や。此処は見なかったことにして、トンズラさせてもらうと――――っっ!?)」
とはいえ、流石にあの中へと突っ込んでいくのは無謀が過ぎる。
希は出していた顔を引っ込め、早々にこの場を後にしようとした。
だが。
「……おや?」
一瞬、遅かった。
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「……ふむ」
「(アカン、――アカンアカンアカンアカンて! 気付かれてもうたか……?)」
――いや、待て。
希はパニックに陥りかけた自分の頭を、すんでのところで落ち着かせる。
この趣味が悪い景色を作り出している張本人らしい奇妙な男は、どうも完全に希を認識したわけではないらしい。
大方、頭を引っ込める瞬間をギリギリ見たか見ないか……といった所だろうか。
足音がする。
それも、急いだものではない。
あくまで何か居るのかどうかを確認するつもりだけのようだ。
希にとって都合が悪いのは、身を隠しながら逃走に走れる経路が近くにないこと。
逆に都合が良いのは――
「(わざわざ自分から覗きに来てくれる、ってことやな)」
男は本らしきものを持っていた。
一見聖書かと思ったが、明らかに世に広まっているそれとは意匠が違う。
ともなれば、アレが死人達を操っている元凶だということにもおのずと察しは付く。
……危機を脱するついでにあれを手に入れることが出来れば、万々歳だ。
チャンスは一度きり。
奴が様子を伺うため、希の隠れている墓石の裏側を覗き込んだ一瞬だ。
希はあくまで冷静に、ビームサーベルの刃を出現させた。
死人を操るという信じ難い光景を見て、現実感が麻痺しているのか――それとも、相手が悪人だからか。
顔を見せた魔術師の脳天目掛けビームサーベルを突き出すのに、不思議と躊躇いは感じなかった。
だが。
「おやおや、覗き見とはいけないお嬢さんですねぇ」
希の頼みの綱である光の刃が、キャスターの頭を貫くことはなかった。
その髪の毛何本かを焼き切ることは出来たが、彼にとっては痛くも痒くもありはすまい。
剣を突き出したその右手首から先は、キャスターの片腕によって掴み取られていた。
不健康そうな外見はお世辞にも力があるようには見えないが、どれだけ力を込めてもその手はびくともしない。
仕方がないので手を解くのではなく懸命に力を込めて、光を彼へ届かせようとする希だったが。
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「あ……!?」
「しかし、珍しいものをお持ちのようだ。是非此処は一つ、私にお譲り戴けるとありがたい」
「ぎ……ッ」
みしみしと、掴まれた右手が悲鳴をあげ始めた。
経験したことはないが、万力に締め上げられるというのはきっとこんな感じなのだろう。
そんな他人事めいた感想を抱けていたのも最初の内だけ。
「あ゛、ああああぁぁッ――――!!」
発泡スチロールを握り潰すような鈍い音と共に、希の手首から先がぐしゃぐしゃになった。
原型こそ留めてはいるものの、その中身はそうではない。
骨は今ので完全に砕け散り、肉は潰れ、更に常に激痛がそれを希へ懇切丁寧に知らせてくれる。
ビームサーベルがからんと乾いた音を立てて地面へ落ちた。
そしてそれが、彼女にとっての最大の――しかし遅すぎた――ラッキーだった。
「ぬッ」
地へ落ちたビームサーベルの切っ先が、一瞬だがキャスターの足を掠めたのだ。
走る熱さと鋭い痛みは予期せぬもので、彼は咄嗟に掴んだ希の手を離す。
「――〜〜〜〜ッ!」
振り返らずに、希は脇目もふらず駆け出した。
ビームサーベルを奪い返すことなど、脳裏の片隅にすらない。
彼女を支配しているのは潰された右手の激痛と、あの邪悪な男への激しい恐怖だけだった。
しかしそれは正しい判断であると言えるだろう。
彼女が今目の前にしていたのは、墓場をさまよう死人などよりも余程恐ろしき存在、サーヴァントだ。
ビームサーベルを奪われた以上、どれだけ足掻いても希に勝ち目はない。ただいたずらに死期を早めるだけである。
もちろん、逃げるその背中をただ眺めるだけのキャスターではない。
墓地を離れれば操れる死人の数は減ってしまうが、折角の手負いの山羊を捨て置くのも勿体ない。
逃げた彼女を追うのは決まったが――しかし、その前に。
拾い上げたビームサーベルを、彼は適当にぶん、と手近な墓石目掛けて振るってみる。
すると、まるでバターにナイフを滑らせるような滑らかな感覚とともに、間もなく石塊は横一文字に切断された。
「やはり、これは良い」
自分の『宝具』を見つけ出すまでは、これと『魔導書』で戦力の欠けを埋め合わせるとしよう。
機嫌良さそうに笑みを浮かべながら、キャスターは五体の死人を連れて希の後を追った。
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【D-2/墓地/一日目・深夜】
【キャスター@Fate/Zero】
[状態]:健康
[装備]:ビームサーベル@銀魂、リタの魔導書@神撃のバハムート GENESIS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:ジャンヌ・ダルクと再会する。
1:少女(東條希)を追い、魂を食らう
2:生贄を確保しつつ、自身の宝具を探す
3:名簿にはセイバー以外にもジャンヌの名がある……?
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバー、ランサーと戦った後。
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「はぁ、はぁ、はあ、は…………うぐっ……」
追いつかれれば死ぬ。
そう分かっているのに、東條希は今にも座り込んでしまいたい衝動へ駆られていた。
砕かれた右手は動かせすらしないにも関わらず、いつまでも新鮮な激痛を希へ伝えてくる。
無論、それはスクールアイドルなこと以外はごく普通の女子高生である希には過ぎた苦痛だ。
その顔は今や、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。
「何がっ、ラッキーガールや……ホンマ……」
希の体は走りながら、小刻みに震えている。
それが何に対しての震えかなど言うに及ばず。
キャスター。
自分へ傷を与えた、死人使いの男への激しい恐怖だ。
追いかけてきた彼を迎撃して殺し、武器を奪い返そうとは希には到底考えられない。
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だが、それでも希は強い娘だった。
こんな有り様になってもまだ、仲間のために戦うことは毛ほども諦めてはいなかった。
「……この手じゃ、もうアイドルは無理やなあ……」
困ったように笑って、未練らしいものを呟いて、東條希は再び逃げ切るために全力を尽くすのだった。
【東條希@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、右手首から先を粉砕骨折、キャスターへの強い恐怖
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:
[道具]:黒カード:スパウザー@銀魂、腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚、神代小蒔の不明支給品0〜2枚(全て確認済み)
[思考・行動]
基本:μ'sのために……
1:キャスターから逃げる。返り討ちにするのは考えない。
2:μ'sのメンバーには会いたくない
[備考]
※参戦時期は1期終了後。2期開始前。
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投下終了です。指摘などあればお願いします。
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投下乙
こっちも鬼ごっこが始まったか
でもこっちは追われる側もマーダーだからどう動いても面白そうだなぁ
果たしてのぞみんの腕はなんとかなるのか……ちゃっかり腕輪が外れてるのもこの後どうなるのか
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あ、よく見たらちゃんと書いてあった……
つーことは左腕に腕輪があったのかね?
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手首から先らしいから大丈夫なんじゃ?
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ディルも剣を使いこなしてるから、セイバーの適正もあるジルなら剣も使えそうだな
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投下します
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「なるほどな、穂乃果は学校でアイドル活動をして、その集まりでの優勝を目指している、と」
「はい、えっと、だからその…、私自身さっきみたいなゾンビみたいなのとか変な目のあの人みたいなものなんて、見たことなかったし…、それで驚いちゃって…」
「何、それが普通の反応だ。気にすることはない」
「はぅぅ……」
音ノ木坂学院へと向かうランサーは、どうにか落ち着いた様子の穂乃果と会話をしながら歩を進めていた。
人によっては情報自体に有意義といえるものがないと判断するだろうが、ランサーはその会話の中から穂乃果の人となり、そしてそれまでの人生を推察していた。
高坂穂乃果は魔術や聖杯戦争などというものとは無縁の世界を生きていた一般人であるということはすぐに分かった。
問題は、そんな少女を英霊や魔術師も存在するこの殺し合いに巻き込んでいるこの状況だ。
当然人道的に許せる話でないことはいうまでもなく、もし魔術師の観点で見てもおそらく主であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトならば卒倒するのだろうことも容易に考えられる。
聖杯戦争や英霊の存在は魔術師にとっては隠蔽せねばならぬもの。それをこうも公にして一般人の少女と共に集めるなど、正気の沙汰ではない。
(魔術師とはまた別の何者、ということか?)
現状名簿にある知った名はセイバー、キャスター、そして衛宮切嗣。
セイバーであればおそらくあの騎士王のこと、このような下衆な催しに乗ることなく騎士として反抗するだろう。
キャスターは先に顔を会わせた通りだ。どのようなものであっても彼奴が己を曲げることはないだろう。穂乃果のこともありあの時は撤退したが、絶対に倒さねばならぬ相手だ。
衛宮切嗣、セイバーのマスター。主に対してのあの策は決して油断できるものではないが、しかしこのような場ではどのような行動に出るか想像もつかない。
少なくとも最優先で探し、協力を要請する相手としてはセイバーだろう。
彼女と合流することができれば、この上ない味方となってくれるはず。
ふと隣を見ると、安心してお腹が空いたのか穂乃果はカードからパンを取り出して口に加えようとし。
「…あ」
が、何故かランサーがその顔を見るとその手と口の動きを止めて、もじもじしながら手を下げた。
「あ、す、すみませんこんなときに!その、…その、えっと…、ランサーさん、食べます?」
「いや、俺はあまり腹が空かない質なのでな。気にせずに食べるといい。食べられる時間があるうちに蓄えておくというのは重要だ」
「その、別に私も――――」
「…静かに。誰か近づいてくる」
と、何者かの気配を感じ取ったランサーは穂乃果の口の前に指を当てて口を止めさせた。
もしその時ランサーが振り返っていれば、顔を真っ赤に紅潮させ慌てふためく穂乃果の顔が見られただろうが、しかし前を見続けるランサーはそのような様子などいざ知らず。
そうして真っ暗な前方から微かな光を灯しながら歩いてきたのは、学校の制服に身を包んだ少女、そしてそんな彼女を背負って歩くさらに小さな金髪の少女だった。
-
「あなたは?」
「大丈夫だ、俺たちは殺し合いに乗ってはいない。その子は?」
「名前は分からないんですけど、目の前でいきなり倒れて…。あ、私は高町ヴィヴィオっていいます」
「俺はランサー。こちらは高坂穂乃果だ。
君のような少女には荷が重いだろう。私が背負おう」
「私は大丈夫です…けどやっぱり少し疲れたかな…。それじゃあお言葉に甘えて」
と、少女、ヴィヴィオはランサーに背負った少女を預け。
「…あっ」
「どうかしたか?」
「あ、いえ、何でも」
ふと穂乃果が声を漏らしたことに反応。
一瞬気にかけるも、なんでもないという穂乃果の言葉を信じて流すランサー。
(…あのお姉さん、どうしたんだろう?)
ランサーの視界外にいた穂乃果をずっと視界に収めていたヴィヴィオは、そのときの穂乃果の何とも言えぬ表情が何か気になっていた。
◇
「ん…十四郎…さん…?」
「目が覚めたか」
ぼんやりした眼を薄く開いた千夜の視界に、一人の男の顔が映り込み。
「ひ、ひゃっ…?!」
「どうやら怪我はない様子だな。名は言えるか?」
「は、わわわ、う、宇治松千夜です!」
真っ赤になる顔を抑えながら、千夜は質問に答えた。
体に傷がないこと、そして自分の名前を言えることから意識と記憶ははっきりしていることを確かめていたランサー。
その後、ランサーは自分とヴィヴィオ、穂乃果について軽い自己紹介をした後、一体何があったのかを問いかけた。
千夜の体に傷はない。ならばその服の血は一体何なのか。
何から逃げてきたのか。
千夜はこれまでにあったことを、分かる限りで話した。
「…金髪で鎧の少女。その娘は確かに金色の剣を持っていたのだな?」
「はい、その人に襲われて、それで十四郎さんが残って…」
「……そうか」
ランサーは、千夜の語った情報に考え込み。
「ランサーさん?」
「穂乃果、すまないが音ノ木坂学院に向かうのは少し待ってもらえないか?
もしかするとまだあそこにその千夜を襲った者がいるかもしれない。
俺が様子を見てくるから、安全を確認できるまでは待っていて欲しい」
心配するように声をかける穂乃果に対し、そう返答した。
今のランサーは武器はあるといっても元々持っていた自身の二槍が欠けている状態。
それでも並の相手なら遅れを取るつもりもないが、彼女達がいれば万が一、ということもある。
-
「それに、考えたくないことだが、その千夜を襲った者、少し心当たりがあるのだ。
大丈夫だ。もし君の友人と会うようなことがあれば必ず守る。
ヴィヴィオ、二人のことは任せても大丈夫か?」
「分かりました。でもランサーさんも気をつけてください。もし何かあったら私も向かいますから」
「いや、君には二人のことを守っていてもらいたい。俺のいない間に万が一ということがあっても大変だからな。
駅の近くで待って、もし俺が2時間以上戻ってこないようなら君たちの判断で音ノ木坂学院から離れる形で移動して欲しい」
「えっと、……」
「…分かりました」
言いよどむ千夜に対し、穂乃果は不服そうな表情を浮かべつつもランサーの言葉に頷いていた。
「では、ほんの一時の別れだ。必ず戻ってくる」
「ランサーさん、気をt「気をつけてください!私は待っています〜!」
ランサーに言葉を投げかける穂乃果をまるで遮るかのように、千夜がランサーに向けて叫ぶ。
そんな3人の少女に見送られながら、ランサーは静かに、しかし素早く音ノ木坂学院へと向けて走っていった。
◇
(やはり千夜も黒子の呪いにかかってしまったか…)
目が覚めた時のあの少女の反応は穂乃果の時のそれと似通ったもの。
きっと穂乃果と同じように、彼女も呪いにかかってしまったのだろう。
だからこそ、あまり自分が傍に居続けるのは彼女のためにもならない。
しかしあのヴィヴィオという少女は自分の呪いに対しても特にこれといって反応をする様子は見せなかった。
おそらく彼女には何かしら魔力的な素養があるのだろう。
あの華奢な体で千夜を背負っていたことといい、その体運びに見られる訓練された者特有の動きといい。
彼女がただの少女ではないことは確かだろう。
無論、いくら彼女が只者ではないといってもそんな子供に二人を任せることが無責任であることも自覚している。
だが、それでもランサーは引っかかりが抜けなかった。
(セイバー、まさか君が外道に堕ちた、などということはないと信じたいが……)
金髪で鎧を着込んだ少女。
それだけではまだ”彼女”と断定する材料にはならない。
黄金の剣を持っていたという点もそうだ。
自分は破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)と必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を手元に欠いている状態。
逆に言えばこの会場のどこかに別の誰かに配られた可能性だってある。そしてそれはあの騎士王の聖剣とて例外ではないはず。
心境的には信じたい。
だがもしそれが彼女だったならば、あの二人を守りながら戦うことは難しい。千夜を襲ったことから、その何者かは誰であろうと容赦なく斬るつもりでいることは読み取れる。
(せめて、君であったという可能性は間違いであってくれ。セイバー…!!)
それでも、ディルムッドはその少女がセイバー:アルトリア・ペンドラゴンであることだけは間違いであることを願いながら、音ノ木坂学院へと向けて走った。
-
◇
「ん?どうしたのクリス?」
ランサーが立ち去ってそう時間の経たぬ頃。
ヴィヴィオの横を浮遊するセイクリッド・ハートがヴィヴィオに呼びかけた。
「え、あのランサーさんから変な魔力が出てたって?」
コクリ
ジェスチャーで伝えるクリスはヴィヴィオの言葉で頷くような仕草をとる。
クリスが言うには、あのランサーという男からは何か常時発動型の魔力反応があったという。
ヴィヴィオにも影響を及ぼすものであったため、クリス自身がそれに対する防壁を形成していたため何の影響もなかったらしいのだが。
「それってもし受けちゃったらどんな影響があるの?
……え、相手のことが好きになる効果?」
クリスのジェスチャーでそれを聞き取ったヴィヴィオは、笑いながら答えた。
「なーんだ。だったら別に何の問題もないじゃん。
だってさ、人が人のことを好きになるってことでしょ?それっていいことじゃない。
それでみんながみんなのこと好きになってくれれば、喧嘩なんて起きないし」
◇
何かおかしい。
そんな自覚はあった。
それに気付いたのは、千夜さんと会って以降のことだ。
ランサーさんが彼女を抱え上げた時。
千夜さんが目覚めてランサーさんの顔を間際で見つめていた時。
何か、とても嫌な気持ちになった。
初めてあったばかりの人にこんな気持ちを持ったことなんてなかったのに。
ランサーさんが、安全のために先に音ノ木坂学院に向かうって言った時。
もしその途中でμ'sのみんなと会ったらちゃんと助けてくれるって言った時。
そんなのいいから私の傍にいて欲しいって思ってる自分がいた。
だって、それでもしかしたらことりちゃんや絵里ちゃん、希ちゃんやにこちゃんが危ない目に会うかもしれないっていうのに。
(…どうしちゃったの、私?)
初めて自分の中に生まれたその感情に、戸惑うことしかできない。
近くで、ランサーの向かっていった方に熱のこもった視線を向けている千夜を見て。
心の中で渦巻く黒い感情に。
【B-2/一日目・深夜】
【ランサー@Fate/Zero】
[状態]:健康
[装備]:キュプリオトの剣@Fate/zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:騎士道に則り、戦う力のない者を守る。
0:穂乃果、千夜に「愛の黒子」の呪いがかかったことに罪悪感。
1:音ノ木坂学院に向かい、千夜を襲ったという危険人物の存在を確かめる。
2:セイバーは信用できる。しかしそのマスターは……?
3:キャスターはいずれ討伐する。
4:まさかセイバーが…?
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバーと共にキャスターと戦った後。
※「愛の黒子」は異性を魅了する常時発動型の魔術です。魔術的素養がなければ抵抗できません。
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【B-2/駅/一日目・深夜】
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:健康、ランサーへの好意(中)、千夜に対する疎み
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:誰も殺したくない。生きて帰りたい。
1:μ'sのメンバーを探す。
2:ランサーさんを見てるとドキドキする……。
3:ランサーさんが戻ってくるまで駅にて待つ。
4:何、この感情……?
[備考]
※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか。
※ランサーの「愛の黒子」の効果により、無意識にランサーへ好意を抱いています。時間進行により、徐々に好意は強まっていきます。
【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、ランサーへの好意(軽)
[服装]:高校の制服(腹部が血塗れ、泥などで汚れている)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実 、不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:心愛たちに会いたい
1:ランサーさん……素敵な人……
[備考]
※現状の精神はランサーに対する好意によって一旦の落ち着きを取り戻しています。
※ランサーの「愛の黒子」の効果により、無意識にランサーへ好意を抱いています。時間進行により、徐々に好意は強まっていきます。
【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid
[思考・行動]
基本方針:皆で帰るために行動する
1:駅でランサーさんを待つ。それまでの間は私が二人を守る。
2:もし2時間経ってランサーさんが戻ってこなかったら移動する。
3:アインハルトとコロナを探す
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後です。
※ランサーの黒子の呪いについて大雑把に把握しましたが特に重要なことだとは思っていません
※黒子の呪いの影響は受けていません
※各々の知り合いについての情報交換は済ませています。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が薄れるかどうかは不明です。
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投下終了です
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投下早々すみません、千夜の描写について少し指摘を受けましたので修正したいのですが大丈夫でしょうか?
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誰も指摘しているように見えませんが、どこでそのようにおもわれたのでしょうか
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千夜の描写については、自分も修正された方がいいかと思いました
このままでは、土方が自分を庇って(おそらく)死んだ後だというのに、
ランサーの黒子の効果とはいえ明るすぎる、前話の出来事を何も感じていないように思いますし
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予約分の本投下をさせていただきます
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簡単には教えない、こんなに好きなことは。
――ないしょなの。
ふわふわドキドキないしょですよ
はじめがかんじん、つんだ、つんだ
◆ ◇ ◆ ◇
――それが悪い事だとは、分かっていた。
桐間紗路(シャロ)は、どこにでもいる庶民の少女だった。
否。
どこにでもいる、貧民の少女だった。
両親を出稼ぎに出して一人暮らしをして、それでもシャロ自身だっていくつものアルバイトを掛け持ちしなければ家計は回らなかったし、
住んでいる家は良く言えば『レトロ』、悪く言えば『ボロ小屋』と形容していい有り様だ。
そんな身の上だけれど、ご町内でも有名な私立のお嬢様学校に通えるようになった。
一生懸命に勉強したら成績トップの特待生として入試に合格して、学費の免除を受けることができたからだ。
がんばったおかげで進学ができた。シャロにはそれが嬉しかった。
新しい学校では、あこがれの先輩もできた。
天々座理世という一学年上の先輩で、大人びてしっかりしていて、しかしたまにお嬢様らしく世間知らずで可愛いところもある、本物の才媛と言っていい人だ。
そして、リゼがアルバイトをしている『ラビットハウス』という喫茶店にちょくちょく顔を出すようになるのも、
そこで暮らしているココアとチノとも仲良くなり、幼なじみの千夜を含めた五人で遊んだり勉強をしたりするようになるのも、そう時間はかからなかった。
しかし、高校に入ってからできた友達は、シャロの家のことを知らなかった。
どころか、お嬢様学校に通っていることだとか、シャロという漫画のお嬢様っぽい名前だとか、シャロの髪の毛に光沢があって縦にカールしていること(べつにただの地毛である)だとか、いわく仕草に気品がある(普通にそれなりに礼儀ただしく振る舞っているだけなのに)とかいったこと見て、
シャロのことを『よほどのお嬢様なのだろう』と思い込んでしまった。
悪いことだとは、分かっていた。
でも、訂正することができなかった。
いつしかシャロは、昔馴染みの千夜をのぞく三人の間で、すっかり『お嬢様のシャロちゃん』になっていた。
――美人で頭も良いなんて!まぶしい!
その褒め言葉には『しかもお嬢様だなんて!』という誤解まで含まれているようで、褒められるたびにドキドキした。
――きっとシャロちゃんは、家ではキャビアとか食べてるんだろうなぁ〜。
そう言われて、心苦しくないと言えばもちろん嘘だった。
でも、今さら貧しい家の子だとは言えなかった。
必死に、自宅の場所を突き止められないように、自宅への帰途を遠回りしたりして隠してきた。
『お嬢さまのシャロちゃん』が、ご町内でもトップクラスに小さくてボロボロの家に暮らしているところなんて、見られたくなかった。
知られたら、幻滅されてしまう。
今になって思えば、いつまでも隠せるはずがなかった。
なんせ、シャロの家の隣には、ココアたちも出入りする千夜の家があるのだから。
ちょうどそのボロ小屋から出てきたところだった。
千夜の家の前にいたリゼとココアとチノに、ばったり。
貧しいことが、ばれた。
それも、ボロボロの実家をばっちりと見られた。
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終わった、と思った。
頭が真っ白になった。
時間が止まった。
いつまでも、止まっていたような気がした。
それはもう、永遠のように。
ずっとずっと、頭が真っ白で。
そして、気が遠くなった。
そして。
『これからあなたたちには、この部屋の外にある世界で殺し合いをしてもらうの。』
次に目が覚めたのは、本当に悪夢のような場所だった。
◆ ◇ ◆ ◇
「フルール・ド・ラパンかぁ。
おしゃれそうな名前だね。なんて意味なの?」
「うさぎの花……ハーブティーを扱ってる、癒しのお店なの。
お茶のことも勉強できるし、クッキーも焼けるし、ティーカップも可愛いし……おすすめのお店かしら」
「すっごい! あたしは甘いモノが好きだけど、ハーブティーとかあんまり飲んだことなかったよ。どんな味がするの?」
「そ、そんなのモノによって種類とか効能とか全然違うわよ。
そうね、甘いお茶だったら、カモミールとかどうかしら。
ジャーマンカモミールだと、リンゴの香りがして、子どもにも飲みやすいわよ」
「あっ。子どもって言ったなぁ〜。シャロさんの方があたしよりも背が低いのに!」
「ちょ、ちょっとそういう意味じゃ……後ろから頭ぺしぺしするのはやめてぇ!」
後ろから軽く頭を叩かれる刺激にびっくりして、両手がつかんでいた白い毛並みをぎゅっと握りしめてしまう。
すると目の前にある『頭』から不機嫌そうな「ぐるる…」という唸り声が聞こえたので、シャロは慌てて手を離した。
「ご、ごめんなさいっ、定春」
唸り声は止んだので、ひとまず安心。
シャロは、紅林遊月と名乗った少女と一緒に、森の中のケモノ道を進んでいた。
より正確に言えば、二人でシャロの『支給品』に乗って移動していた。
-
とても軽快に、ケモノ道をかき分けて駆け抜け、四つ足で疾走するのは、熊のように大きな体格をした犬だった。
「ごめんごめん……それにしても定春速いっすねぇ。力持ちだし」
「慣れるのには時間かかったけどね。…………お互いに」
遊月と知り合ったのは、定春とお互いに警戒して冷戦状態になっていた時だった。
どうにかこうして順調に移動するに至ったけど、森の中を抜け出して東の町へと進路を取るまで、実に二時間以上も費やしたのは、
グルグルと機嫌悪そうに唸り声をあげる巨大犬をどうにかなだめて落ち着かせて(二人で食べ物のカードを二回ずつも使って、ドッグフードまでも取り出して)、
それなりの友好関係を築くまでに時間を要したからである。
カードの中に戻しておくことも真剣に考えたけれど、遊月と話してそれは可哀想だということになった。
威嚇してくる巨大な犬は怖かったけれど、それはそれとしてシャロも遊月も、犬を小さなカードの中に押しこめっぱなしにしておくには性格が優しすぎた。
(もしもその生き物が巨大なウサギだったならば、絶対に断固として閉じ込めておくところだったけれど)
さらに言えば、こんな巨大な犬と一緒にいれば、殺し合いに乗った人も襲いかかるのには躊躇するんじゃないかという打算も正直なところあった。
「その……ありがと、ね。遊月ちゃんがいなかったら私、たぶん定春もカードの中に戻すとこ――」
「あっ!」
小さな声でお礼を言いかけた時、後ろに乗っていた遊月が驚いたような声を出した。
振り向くと、遊月も後方の景色を見ている。
後ろにあるのは、地図で言うと緑色をしたF-5の森だ。
これからやっと、緑色から黄緑色で塗られた草原へと突入するあたりのはず。
「どうしたのよ?」
遊月は、引きつった笑顔で言った。
「その……さっき、赤いカードを面白いなーと思って見てたら……落としちゃったみたいで……ちょっと拾ってきていい?」
「ええっ!? 大変じゃないの! すぐに定春を戻して――」
シャロもつられて焦ったけれど、遊月はひらりと定春から飛び降りていた。
「いいよ。落としたところは分かってるから待ってて。定春に先に見つけられたら、カード食べられちゃうからさ」
早口で急ぐようにそう言って、止める間もなくぱたぱたと駆け戻っていく。
その背中は、こんな状況でも飾り気が無く普段のままという感じがして、シャロには羨ましく見えた。
「はぁ……なんだか、あの子を見てると、ココアを思い出すわ。
声も違うように聞こえるのに、何だか声聴くとドキっとするし」
-
ココア、と名前を声に出して言ってことで、どんよりと気持ちが曇ってきた。
また、思い出した。
五人ともが、こんなおっかない場所に来てしまったこと。
そして、この場所に連れて来られる直前に、起こってしまったこと。
「ただで『どんなお願いでも叶えてくれる』なら……願ってたのになぁ」
四人が無事なのかはとても心配だし、シャロの独りよがりでなければ、四人もおそらく(特に千夜は)シャロを気にしてくれてはいると思う。
みんな優しい人達だから、殺し合いをするようなことは絶対に無い。
でも、お金持ちだと嘘をついて皆を騙していたシャロのことだ。
リゼたちは、『嘘つき』なシャロのことを信用してくれるだろうか。
みんなとまた会えたら、これまで通りの関係で喜び合えるだろうか。
「ぜんぶ夢なら良かったのに……悪夢から醒めたと思ったら、もっと悪夢だったわよ……」
みんなで殺し合いに呼ばれただけでもぞっとするのに、皆に会いたいのに余計な罪悪感も抱えて行くことになるなんて。
あの時、あんな嘘をつかなければ。隠し通そうとしなければ。
ままらならい自虐に浸りながら、頭をごちんと定春の後ろ頭にくっつけて悶々とする。
……額に犬の白い毛がついてしまったのでやめた。
◆ ◇ ◆ ◇
「あ、遊月ちゃん! 見つかった?」
顔を上げると、まっすぐな黒髪の少女が戻ってくるところだった。
問いかけたシャロは、遊月の右手にすべてのカードが掴まれているのを見つけてほっとする。
しかし、
「うん……それはいいんだけど、あのさ。桐間紗路さん」
すぐに、違和感が襲った。
遊月は、ひどく思いつめたような、怒っているような顔をしていた。
別れた時と、なんだかずいぶん違う表情だ。
-
「改めて、聞きたいことができたんだけど」
怒っている――そして、これはシャロの穿ち過ぎかもしれないけれど。
この顔は、なんだかシャロのことを責めるような眼に見える。
「シャロさんにはさ、繭に言われたような、叶えたい願いが、あるの?」
なんで、いきなりそんなことを聞くの。
そう疑問を抱いたのに、その鋭い眼に気圧されたことで、聞き返せなくなった。
さっきまで他愛無い雑談をしていた相手の豹変に、シャロは焦る。言葉が迷子になる。
「べ、べつに私はそんな願いなんて……」
さっき考えたことは、あくまで『ただで願いが叶うなら』の話だった。
そう自分に言い訳して『無いよ』と答えようとしたけれど。
遊月のまっすぐすぎるほどまっすぐな眼光に、虚偽を言ってはならないと問い詰められている気がして、
「しいて言えば、お金持ちになれたらな……なんて。それぐらい、だけど」
まさか『お金持ちだと嘘をついていたのがばれたので、その嘘を無かったことにできれば』なんて言えない。
結果的に、ふんわりした表現で、嘘では無い答え方をした。
すぐに答え方が不味かったらしいと分かった。
それを聞いて、遊月の眉が吊り上がったからだ。
「そんな願いなら、止めた方がいいと思う」
「えっ……?」
震えながら押し出すように、遊月は言った。
「お金持ちになって、どうすんの?
それで人の気を引いたり、自慢したりできるの?
それって、人の命と釣り合うような願いなの?」
「そんな……!」
ほとんど決めつけているような調子の、冷たい断言だった。
悪意あるような言いぐさへの戸惑いと、反射的な怒りが去来する。
-
「私は別に自慢したいなんて……貧乏じゃなかったら、もう少し自由だったのかなって思っただけよ!」
「そんなことを、こんな時に考えてたの!?」
「こんな時に考えるわけないでしょ! ここに来る前に思ったことよ!!」
「そんなのっ……!」
売られた喧嘩を、というわけではないが。
謂れのない中傷に対して、分からないままに言い返していた。
それは、そのまま遊月の口撃をヒートアップさせる。
「貧乏でもお金持ちでも、関係ないよ!
貧乏だからって終わるなら、その程度の人間関係ってことじゃん」
投げつけられたトゲが、ぐさりと刺さり、
刺さった力はそのまま、巨大な反発になった。
貧乏だけど、もっと堂々としていたい。
それは紗路のコンプレックスであり、リゼ先輩にあこがれているところだから。
「なんでよっ!! なんで遊月ちゃんに、そんなこと言われなきゃいけないの!?」
そう叫んでしまった時だった。
定春が動いた。
元より、人に懐きにくい感じのする犬ではあった。
それが、シャロと遊月が口論するのを見て『決裂したようなら捨てて行ってもいいか』と判断したのか。
あるいは、『早く出発したい』と考える理由が彼自身にはあったのか。
「ひゃっ!!」
四つ足を力強くのばし、走り始めた。
森を出て、進路は北へ。
つまり、遊月をその場に置き去りにする形で。
◆ ◇ ◆ ◇
-
悪いことをした、とシャロは後悔した。
そりゃあ、言われたくないことを言われたのはシャロの方だけれど。
でも、あんな言い方では、『こんな命懸けの場所にいるのに、あの繭という怖いヒトにお金持ちにしてほしいなぁとか夢見てました』と誤解されたかもしれないし。
だから遊月ちゃんも、あんなに怒った顔をしたのかもしれないし。
何より、喧嘩したからと言って、置きざりにするような形で定春を走らせてしまった。それはシャロが悪い。
「大丈夫よね……すぐ近くには、ラビットハウスがあったし。
ラビットハウスなら……先輩たちなら、こんな喧嘩になったりしないし」
今からでも定春をなだめるなり、ドッグフードをあげるなりして、遊月の向かいそうな方角――南東の市街地へと向かってもらうべきだろうか。
そう思いなおそうとしたけれど、それは『ラビットハウスに近づく』ということも意味していた
もしあの子の口から『シャロと喧嘩になってしまった』とかリゼたちに伝わってたら嫌だな、と。
ただでさえ重たく感じていた再会が、よりいっそう重みを増す。
もし、うそつきの悪い子だと思われたら、どうしよう。
「…………そうだ。千夜を、探さなきゃ」
気が付けば、そんなことを呟いていた。
そう、思いついてしまえば、それが一番いい。
千夜を先に探そう。
シャロの幼なじみで、あまりに天然すぎるところがあるから、元から一番心配だったヤツだし。
それに、元から実家の貧乏ぶりを知っていて、シャロが隠していることを気にかけてくれていた。
千夜がそばにいてくれたら、リゼ先輩たちともしっかり向き合える。
千夜を探して守らなきゃいけないし、千夜に相談に乗って欲しい。
『千夜もラビットハウスにいるかもしれない』という可能性からは目を逸らし、シャロは定春が颯爽と走るに任せることにした。
こうして桐間紗路は、ラビットハウスに向かわなかった。
【E-4/F-5との境界付近の道路上/黎明】
【桐間紗路@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、後悔
[服装]:普段着
[装備]:定春(乗用中)@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2 (確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。みんなと合流して、謝る
1:千夜を探す。
2:1の後、ラビットハウスに向かいリゼたちと合流して謝る。
3:遊月ちゃんには悪いことをした…。
[備考]
※参戦時期は7話、リゼたちに自宅から出てくるところを見られた時点です。
◆ ◇ ◆ ◇
-
それが悪いことだとは、分かっていた。
痛いほど、分かっていた。
悪いことをした、と遊月は後悔した。
とても、ひどく、罪悪感をもって後悔した。
桐間紗路の『願い』をのぞき見するという低劣な真似をして、
しかもその『願い』を責めたててしまった。
紅林遊月にもまた、どうしても叶えたい願いごとがある。
彼女はこの殺し合いに呼ばれるまでの間、その願いごとを叶えるために『危険な遊戯(セレクターバトル)』というものをしていた。
バトルのルールは単純明快だ。
ウィクロスというカードゲームを手に入れ、『ルリグ』という特殊な『願いを叶える少女のカード』を相方として勝ち抜けばいい。
戦って勝ち抜いて、いつしかルリグに『願いを叶えるだけの資格を持った』と判断されれば、『夢限少女』という存在になれる。
『夢限少女になる』とは、『願いを叶えられる自分になれる』ということ。
ただし、三回負けてしまえばその時点で失格となる。夢限少女にはなれなくなる。
遊月は相方のルリグ――花代(ハナヨ)からそう説明を受けたし、
そんな奇跡があるのなら飛びつくしかないと、セレクターバトルへ参加した。
しかし、戦いを続けていくにつれて、知ることとなってしまった。
花代も黙っていたが、代償の伴わない奇跡なんて有り得ないことを。
もし三回負けてしまえば、願いは叶わなくなる――絶対に、叶わなくなる。
失格となったら、願いは反転する。
『友達がほしい』という願いを持った少女は、一生友達ができない身体になる。
『お金持ちになりたい』という願いを持った少女は、一生お金とは縁のない極貧生活という巡りあわせが返ってくる。
『好きな人と結ばれて幸せに暮らしたい』と願ったとしたら、好きな人に嫌われるか、あるいは好きな人を永遠に……。
それを知って、遊月は嘆いた。騙されたと思ったし、花代を責めた。
しかし、それでも止まれなかった。
友達だった小湊るう子は、願いが反転することを知ったら戦うことを辞めた。
遊月にも、辞めるように説得をされた。
でも遊月は、辞退することをしなかった。
他の願いを持った少女たちを、『三回目の敗北』という処刑台に送ることになったとしても、勝ち続けることを選んだ。
-
そうまでしなければ、叶わない願いだったからだ。
『友達がほしい』とか『お金持ちになりたい』とか『普通に恋をして好きな人と結ばれたい』なんて願いだったら、本人のがんばりしだいで叶えることもできただろう。
仮に叶わなかったとしても、もしかしたら努力しだいで実現していた可能性はゼロじゃなかった。
けれど、遊月の願いは、普通にかんばっても叶わない。
違う。
最初から遊月には、一生懸命にがんばることさえも許されない。
もし遊月が『私の願いはこういうことです』と口に出したら、社会の全てからお前は悪い女の子だと糾弾され、弾かれる。
そんな願いだった。
奇跡があるとしたら、それにすがりつかなければ耐えられなかった。
だから、初対面の繭という怪しげな少女から『どんな願いでも叶う』と言われた時はドキリとした。
まるで、セレクターバトルのことだとか、遊月に願いがあることを、見抜かれたようで。
まるで、『この戦いは、セレクターバトルの代わりとなる、最後のチャンスなんだぞ』と言われたみたいで。
けれど、願いを叶えるために人を殺せるかと言われたら話は別だ。
遊月はたしかにちょっと人道に外れた願いを抱えているけれど、それでも、人を傷つけることにも本当なら罪悪感を覚えるような、中学二年生の女の子に過ぎない。
ましてこの場には――道をたがえたとはいえ、大切な友人だった小湊るう子もいるし、
セレクターバトルに参加した少女たちだって、願いは異なれど切実な望みを抱いて集まった子ばかりだった。
殺し合いに呼ばれた人たちだって、ここで死ぬわけにはいかないとか、そんな事情があるはずだ。
カードバトルで勝ち抜くことはできても、この手を汚して命を奪い取るようなことはできない。
何より、人を殺した手で『あの人』に触れて、何食わぬ顔で『あの人』に抱きしめられるのは、怖かった。
けれど、『この戦いに勝ち残らなければ、願いは叶わないんじゃないか』という嫌な予感は消えなかった。
人を殺すことで叶えたくはない願いだったけれど、
同時に、あっさりと諦めていい願いでも、なかった。
それは、とてもささやかで小さな願いだけれど、
紅林遊月という少女の、人生に関わることだったのだから。
諦めるしかなかった。
でも、諦めていいのかと、『願い』は絶えず遊月の胸を圧迫する。
このままじゃ叶わない、そうなったらお前は幸せになれないと。
頭では分かっているのに、感情がジクジクと胸を刺す。
一度にひとつ以上のことを背負えるほど、遊月は器用には動けなかった。
シャロと他愛ない談笑をしていても、その会話を楽しめているのかが分からないぐらいだった。
このままでは、この恐ろしい場所で生きていけるのか、ひどく心もとなかった。
だから、どうしても諦められない願いを、この場では封印するために、
遊月は、とても不本意かつシャロに対してひどく身勝手なことに。
その支給品を使うことにした。
カードを落とした振りをして少し遠くまで離れ、そこで私服のポケットに入れていた『それ』を取り出す。
-
「ピルルク……あんたの『ピーピング・アナライズ』。使わせてもらう」
黒いカードから出てきたのは、青い少女の絵が描かれたカードと、一束のカードデッキだった。
『ルリグ』というカードの一人である少女、青い髪に青い瞳。そして青い服。
名前は、ピルルク。遊月も大嫌いな卑劣プレイヤー、蒼井晶が使っていた、本当なら絶対に頼りたくなかった大嫌いなカードだ。
その少女、ピルルクは感情をみせない声で問いかける。
「いいの? あんなにこのアーツを毛嫌いしていたクセに」
「きらいだよ!! やっちゃいけないことだよ!」
このカードのアーツ『ピーピング・アナライズ』は、人間の心を読む。
相手が、どんな願いを以って戦いに臨んでいるかを曝け出してしまう。
本当なら、それはセレクターバトルの対戦中に、カードの持つ技として発動する能力だ。
一般人相手には使えない、ウィクロスのバトルフィールドでしか使えない力だ。
でも、シャロと出会う前に、ピルルクから嫌々ながら聞き出した限りだと、『使える』。
カードバトルで、アーツを使うために何ターンかエナチャージしなければならないように、
『何時間か力をためなければいけない』という制限はついているけれど、使える。
「でも、このままじゃ、いつかもっとひどいことを考えそうで……シャロさんをそれに巻き込みそうで、怖いんだよ!」
人を殺すなんて考えたくはないけれど、
もし遊月がこんな風にガタガタになって、それでシャロの足を引っ張り、悪いこと、致命的なことが起こったとすれば。
そんなのは絶対にいけない。
かといって、『願い』のことをルリグの花代と友達のるう子を除いて、誰にも打ち明けてこなかった遊月に、『こんな願いのことで困ってるんです』と相談できるわけもない。
最終的に遊月が出した結論は、『桐間紗路の心を読むことで紗路が抱いている『願い』を知り、『だから、そんな願いを踏みにじるのは止めよう』と自分自身に釘を刺す』というものだった。
ひどく勝手だ。心を読まれるシャロからすれば、たまったものじゃない。
一度、同じように心を読まれて傷だらけにされたことがあるから、その重さは嫌というほど知っていた。
でも、逆に、自分勝手だとしても、それだけ酷いことをすれば。
それ以上の酷いこと――『死なせる』とかに至る前に、絶対にブレーキがかかる。
罪の重さをしれば、それ以上に酷いことをしようなんて思えなくなるはず。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいと。
彼女には聞こえないのだから、言っても意味の無い謝罪を言いかけて、止めて。
ピルルクから、彼女の願いを聞き出した。
それが、どんな結果を生むかなんて予想もせずに。
ピルルクにこっそりと見させた『シャロ』を、言ってもらった。
-
『家がお金持ちだと嘘をついた。貧乏だとばれたら、がっかりされると思ったから』
たぶん死にたくない、とか大切な人を死なせたくない、みたいな願いだろうなと思っていた。
それ以外の、どんな願いであれ、尊重するべきだと思っていた。
自分の願いだって、人から見たらとても不健全なことなのだから。
しかし、その願いは。
『そしたら、そのウソが友達と好きな先輩にばれた。みんなにボロ小屋みたいな家を見られた』
それが『恋愛』に関する願いであることも、予想していなかったわけではなかった。
たとえば好きな人もここにいて、その人を喪いたくないとか。
だけど、その願いは。
『好きな人に、嫌われた』
その願いは、『嫌われるかもしれない』というものだった。
――「紅林遊月は、双子の弟である紅林香月に恋をしている。
――それは許されないことで、隠しているから、香月は遊月のことを訝しんでいる。
――このままだと、香月に嫌われる。他の女に、香月を取られるかもしれない。
――紅林遊月の願いは、紅林香月の恋人になること。
『恥ずかしい。絶対に幻滅された』
恥ずかしい?
幻滅される?
嫌われる?
自分のついた嘘がもとで、そうなったのに?
相手も笑って許してくれるかもしれない嘘ひとつが、そんなに恥ずかしい?
実の弟に、下心をもって接するよりも?
ひとつ屋根の下で、同じ学校で、思いを悟られないかハラハラするよりも?
-
『あこがれの先輩に嫌われた。……なかったことにしたい』
あこがれの先輩。
それは、何の負い目もなく好きになれる人なのだろう。
自力で、ちょっと勇気を出して向かい合えば、嫌われずに済むことで。
それでも嫌われてしまうようなら、それまでの関係だったというだけだろう。
遊月の願いはどんなにがんばっても叶わない。
違う。遊月には最初から、がんばることさえも許されない。
遊月の顔が、かっと熱くなった。
平静な顔をして、シャロと話をするために、何度も深呼吸をしてから彼女の元に戻った。
だけど。
その時点では、『そんな願いのためにあんな誘惑に惑わされるなら、止めよう』というおせっかいの方が大きかった。
少なくとも、勝手にのぞき見した『願い』に勝手にキレて、くだらないと断じるような下劣で悪趣味な人間にはなりたくなかった。
桐間紗路にとっては切実なことなんだ。己にそう言い聞かせながら、戻った。
だけれど。
「お金持ちになれたらな……なんて」
お金さえあれば、好きな人に嫌われずに済んで、
お金さえあれば、好きな人といっしょにいられる。
シャロがそこまで意図しての発言では無かったとしても、
遊月の耳には、そう聞こえた。
陳腐な例えだけれど、
頭で『プツン』という音がした。
そこから先は、感情の赴くままに言葉を発していた。
◆ ◇ ◆ ◇
「謝らなきゃ……私、すっごい理不尽なヤツじゃん……」
セレクターでもない、普通の女の子を傷つけてしまった。
その罪を後悔しながら、遊月は歩く。
シャロが当初の目的地には向かわなかったことを知らず、市街地の建物が見える方へと。
「大丈夫だよね……定春もいるから、何かあっても逃げられるはずだし……。
私なんかと一緒にいるより、安全だよね……?」
-
遊月は、まだ気づいていない。
シャロから、この場所にいると説明されていた四人。
保登心愛と、香風智乃と、宇治松千夜と、天々座理世。
シャロにとっての『好きな先輩』とは、その中の天々座理世であること。
紅林遊月と道をたがえた結果として、シャロは彼女たちに会えそうな『ラビットハウス』に向かわなくなったということを。
まだ気付かずに、市街地を目指す。
【G-6/F-5との境界付近、市街地の近く/黎明】
【紅林遊月@selector infected WIXOSS】
[状態]:健康、後悔
[服装]:普段着
[装備]:ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2 (確認済み)
[思考・行動]
基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない
1:シャロを探し、謝る。
2:るう子には会いたいけど、友達をやめたこともあるので分からない…。
[備考]
※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャージするのに3時間かかります
※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です
【定春@銀魂】
桐間紗路に支給。
万屋で飼われている身長170cmの超大型の犬。
正体は天人襲来後「たーみなる」建造のために取り壊された神社にあった「龍穴」と呼ばれる場所を守護する狛神で、神社の巫女の阿音・百音の経済的理由により捨てられたところを神楽に拾われた。
当初は神楽にしか懐いていない(神楽以外の人物には牙をむいて襲いかかるほどの)猛犬ぶりだったが、「定春編(原作71〜73訓、アニメ45話)」で狛神に変身して暴走したところを止めてもらった際に銀時達への恩義を感じたのか、賢くなり懐いてきた。
「金魂編(アニメ253話〜256話)」では、銀時をはじめとした神楽以外のメンバーにも懐いていることがはっきりと明らかになり、
人に襲いかかるシーンも戦闘だったり神楽の命令だったりスキンシップだったりをのぞけば減少しつつある。
ただ、それでも人見知りが激しいところ自体は治っていないようで、神楽いわく知らない人が家にくるとやたらと吠えるらしい。
殺し合いの状況はよく分かっていないが、所有者から離れてはいけないという制限はぼんやりと理解しているらしく(それが無ければ勝手に神楽たちを探しに走り出していると思われる)、会場のどこかにいる万屋メンバーの元に帰ることを希望している。
-
【ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS】
紅林遊月に支給。
蒼井晶のアニメ一期でのルリグ、ピルルクが収納されたカードゲーム『ウィクロス』のカードデッキ。
エルドラと同じくロワに関する説明はあまり受けていないようだが、人間に作用するアーツ『ピーピング・アナライズ(後述)』を使用できることは理解している模様。
※ピーピング・アナライズ
ピルルク固有のアーツにして、蒼井晶の十八番である戦法。
またルリグが使える能力の中では、アニメで唯一確認されている、『(ゲーム中での効果だけでなく)現実のプレイヤーへも攻撃(精神攻撃だが)をすることができるアーツ』でもある。
それは、ピーピング・アナライズを受けた人物(対象1人)は、その心に持っている『願い』をつまびらかに覗き見られてしまうというもの。
ただし、彼女と対戦した時の小湊るう子のように、相手が「何の願いも無く、ただ戦うためだけに戦っている」ような時は心が読めなくなる。
本ロワではカードゲームでエナコストを溜めるのに必要な1ターンを現実の時間として見なし、1時間で1コストが溜まるものとし、3コストを消費することで(つまり3時間に一度だけ使用できるという条件で)『ピーピング・アナライズ』を発動できるようになっている。
また、ルリグカード自体も魔力を持っているために、参加者や支給品による魔力(もしくはそれに類するエネルギーの)供給を受けることができれば、エナを溜める手段もこの限りではないかもしれない。
他のルリグカードもコストや魔力しだいではこの会場で持ち技を使えるのかどうか。
それともピルルクのピーピング・アナライズだけが(先述のとおり、カードバトルだけでなく現実の人間にも効果を及ぼせるからこそ)限定的に使えるものなのかは現時点では不明。
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投下終了です
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投下乙です
なんつーピンポイントな参戦時期なんだ……
シャロのラビットハウスには行かずに千夜を探すってのも、あながち間違ってないのがなんともなぁ
遊月も今の精神状態のまま街に行ったら、伊緒奈辺りにコロッと唆されそうなのも怖い
-
投下乙です
探す対象の千夜も千夜でなかなかアレな状態だからなあ
どうなることか
-
修正版を修正スレに投下しておきましたので確認お願いします
-
修正投下乙です
ランサーェ…。本人は真っ当な対主催者なんだが早速嫌なフラグが撒かれているな
セイバーを信じようとするのも切ない…
-
投下乙です。
これはひどい(褒め言葉) 着々と積み重なっていく不安の種。これがいつか火種になると考えると恐ろしい
投下します。
-
カイザル・リドファルドにとって、蒼井晶の語った『駅』と『電車』の話はまさに夢の様な話だった。
なんでもそれは、馬を凌ぐ速度で走る鉄の塊。
屋根と窓も完備されているらしく、それでは最早家と同じではないかとカイザルは驚愕せずにはいられなかった。
勿論彼の想像は大袈裟であるし、晶の説明にも多少誇張が入っていたのだが、それは仕方のないことといえる。
「(あー、しんどかったわ。原始人に勉強教えてるみたい)」
――このカイザル・リドファルドという男は、晶にとって未知の世界から来たらしい。
正直な所、先程までは彼が本当にそうなのかについても半信半疑だった。
しかしだ。彼へ電車と駅について説明している内、晶は彼の言っていることが真実なのだと確信した。
現代人ならどんな箱入りや引きこもりだろうと知っているような知識を一つ語るたび、彼は新鮮な驚きを見せていた。
キャラ作りや演技の一環と呼ぶには、あまりにも真に迫った驚きっぷりだった。
さしもの晶も信じざるを得ない。
紀元前に遡る過去かはたまた別世界かは兎も角、彼と自分はまったく違う環境を生きていた人間なのだ――と。
原始人というたとえも、あながち間違ったものではないだろう。
現代(いま)の常識が通じないという意味では、少なくとも的を外したものではない筈だ。
無論、それに何かを教えるのは難儀な話。
事実最初は事細かに教えていた晶だったが、最後の方には随分とアバウトな説明で放り投げてしまった。
盾目的で利用する魂胆とはいえ、これには人選を誤ったかと結構深刻に考えさせられたが。
「(でもま、脳筋キャラには脳筋キャラなりの仕事ってやつがあるもんね。
こんなでも剣を持ってる姿はそれなりにサマになってるし、精々身を粉にして働いてもらおっと)」
カイザルが支給品を確認すると、中からは一振りの剣が出てきた。
彼にとっては使い慣れたものらしく、これなら十全に戦えるとか何とかまた暑苦しいことを言っていた。
とはいえ、それ以外の支給品は端的に言って『使えない』の一言に尽きた。
いっそ何か使えそうな物でもあれば適当に騙してちょろまかそうかと思っていたのだが、上手くいかないものだ。
しかしながら、カイザルの語った経歴を信じるならば剣を持った彼はまさに鬼に金棒。
素の時点でも現代人よりは優れた身体能力を持っているだろうし、そう悲観することもないと晶は踏んだ。
先程から散々に貶してはいるが、『戦える』というだけでも利用価値は高い。
騙し合いなどにも慣れてはいないようだし、扱いやすさの面でも悪くない。
……現に彼は、晶の口にしたるう子と遊月の悪評を特に疑おうともせず信じてしまったのだし。
そう考えると、これ以上を望むのは高望みというものかもしれなかった。
-
「どうしました、アキラ嬢?」
「……ううん! なんでもないですよー! 今行きまーすっ!!」
守ると誓った少女が悪巧みを働かせていることなど露知らぬカイザルへ屈託のない笑顔で返し、駆けていく晶。
蒼井晶が悪女としての側面を見せるのはあくまでも裏側だけだ。
表にはそんなことはおくびにも出さないからこそ、カイザルのような善人はすぐに信じ切ってしまう。
そういう意味でも、カイザル・リドファルドという男は晶にとって絶好のカモであった。
「む?」
そんなときだった。
カイザルが不意に、怪訝な顔をして立ち止まり、晶を背後へ庇うようにしたのだ。
突然の出来事で流石に呆気に取られる晶だったが、すぐに理解する。
――どうやら、誰か来たらしい。
カイザルの後ろからひょこっと顔だけ出して確認してみて、晶の抱いた第一印象は『こいつもか』だった。
カイザルは騎士と名乗ったが、今昌達の前方へ姿を現した男の出で立ちはまさに、絵に描いたような騎士のそれ。
「(うっわ、これまたいかにもって感じのむさいオッサン……こいつの知り合いかな?)」
顔が背に隠れているのをいいことに、あからさまに顔を顰めて思う晶。
結論から言えば、彼女の予想は的中していた。
カイザルはすぐに一瞬は構えた剣を下ろし、「大丈夫だ」と晶へ言う。
「ラヴァレイ殿……! ご無事のようで何よりです」
「それはこちらの台詞だ、カイザル君。君の方こそ無事で良かった……そちらは?」
「……? あ、彼女は――」
ラヴァレイ。
それはカイザルが先刻口にしていた名前だ。
彼の話によれば、オルレアン騎士団なる団体の副官を務める高潔な騎士。
語る口調にはやけに信頼の情がこもっていたのを覚えている。
「初めまして! あたし、蒼井晶っていいます!
えぇと、ラヴァレイさん? でしたよね。よろしくお願いしまーっす!」
「ああ、此方こそよろしく。……カイザル君、どうしたね? 何やら不可解げな顔をしているが……」
それは晶も思っていたことだった。
せっかく知った人物に会えたというのに、どこか狐につままれたような顔をしている。
-
「そーだよ、リドさん。お腹でも痛いの?」
晶にしてみれば、気が気ではなかった。
このラヴァレイという男と面識があるのはカイザルであって、晶にとっては赤の他人である。
信用できるかできないか、危険か危険でないかも事実上彼の裁量に委ねるようなものだ。
いつ爆発するかも分からない爆弾を抱えながら進むなど、晶はまっぴらごめんだった。
「……いや。失礼ながら、そこまで想っていただけていたとは思っておらず。光栄の至りです」
「? 君は何を言っている? 想わないわけがないだろう、君はアーミラの――」
「!? ラヴァレイ殿、今なんと!?」
…………。
………………。
……………………。
…………………………。
「(ちょっと……何かむさい男同士で面倒くさいことになってるっぽいんだけど。
いやいや、ホントに勘弁してっての。こいつらのいざこざに巻き込まれるとか、洒落になってないから――)」
●
「……信じ難いことではあるが、どうやら君は、私の知るよりも過去から此処へ招かれたようだな」
険しい顔をして、ラヴァレイはそんな衝撃の事実を告げた。
カイザルにとってのラヴァレイは、ある一件でほんの数分関わった程度の間柄だ。
そんなカイザルのことをラヴァレイが覚えている――否、覚えているだけならばそうおかしなことではない。
問題は、話しかけてくる彼の声色だった。
まるで関係の深い相手へ話しかけるような――うまくは言い難いが、そんな雰囲気をカイザルは感じ取った。
だから彼は怪訝な顔をし、それをラヴァレイが指摘し……やがて語れば語るほど、齟齬が明らかになっていった。
ラヴァレイの言う『カイザル・リドファルド』の現況について、当のカイザルはまったく心当たりがないのだ。
第一、彼がアーミラと知り合いだということからしてカイザルにとっては目玉が飛び出すような驚きだった。
彼女はファバロと共に、オルレアン騎士団から追われていた筈。
だがラヴァレイによれば、カイザルはそのことについても知っていた筈だという。
そもそもお互いの居た時間軸が違うというなら、この認識の齟齬にも納得が行く。
繭はまだ復活していないはずのバハムートを使役するような化物だ。
彼女にとっては――彼女の『カード』の力を使えば、確かにその程度のことは朝飯前なのかもしれない。
-
「しかし、驚きました。私とファバロが、そんな……」
「……とりあえずは、だ。彼や聖女ジャンヌとも合流し、皆の認識を一つとしておいた方がいいだろう。
私も君達へ同行させて貰おうと思うが、二人ともそれで構わないか?」
「……ええ。私はもちろん大歓迎です。アキラ嬢は――」
「アキラも大丈夫です!
ていうか、ラヴァさんみたいな強そうなおじさまも一緒ならもっと心強いですし! アキラッキー♪」
人懐っこい笑顔の裏で、蒼井晶はほくそ笑む。
二人が咬み合わない話を始めた時は少しだけ肝が冷えたが、こうして見ればカイザルよりも余程使えそうだ。
彼がカイザルを快く思っているというのもまた、晶への信用に拍車をかけているのだろう。
今のところ、彼らが晶を疑う様子は欠片もない。
もっとも、疑われる要素を晶はまず一切表へ出していないため、それもその筈だったが。
「(どんどんムサいパーティーになって来てて、アタシ的にはすっごい気に入らないんだけど。
でも戦力としても盾としても優秀そうだし、仕方ないから良しとしといてやるわ。
騎士だか何だか知らないけど、この原始人どもってホンッッットに扱いやすいのね)」
こいつらは盾であり、剣だ。
利用の余地も大きい。
うまく動かせれば、他の参加者を大いに潰してくれるだろう。
晶は自分の幸運(アキラッキー)を喜びながら、あくまで守られる姫を演じ続ける。
【B-3/地下闘技場近く/深夜】
【カイザル・リドファルド@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康、動揺
[服装]:普段通り
[装備]:カイザルの剣@神撃のバハムートGENESIS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜2枚(確認済、武器となりそうな物はなし)
[思考・行動]
基本方針:騎士道に則り、繭の存在を挫く
0:『駅』に向かえば早く移動できるらしい。まずはそちらへ…。
1:俺と、ファバロが……。
2:アキラ嬢を守りつつ、アナティ城へと向かう。ラヴァレイ殿も居る以上、体制は万全だ。
3:リタ、聖女ジャンヌと合流する(優先順位はリタ>>>ジャンヌ・ダルク)
4:アザゼルは警戒。ファバロについては保留
[備考]
※参戦時期は6話のアナティ城滞在時から。
※蒼井晶から、浦添伊緒奈は善良で聡明な少女。小湊るう子と紅林遊月は人を陥れる悪辣な少女だと教わりました。
※ラヴァレイから、参戦時期以後の自身の動向についてを聞かされました。
-
【蒼井晶@selector infected WIXOSS】
[状態]:健康、上機嫌
[服装]:中学校の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜3枚(武器があるらしい?)
[思考・行動]
基本方針:ウリスを勝ち残らせるために動く
0:利用できそうな参加者は他の参加者とつぶし合わせ、利用価値が無いものはさっさと始末する。
1:カイザルとラヴァレイを利用しつつ、機会を見て彼らと他の参加者を潰し合わせるなり盾にするなりする。
2:ウリスを探し出し、指示に従う。ウリスの為なら何でもする
3:紅林遊月、小湊るう子は痛い目に遭ってもらう
[備考]
※参戦時期は二期の2話、ウリスに焚き付けられた後からです
※カイザル・リドファルドの知っている範囲で、知り合いの情報、バハムートのことを聞き出しました。
●
何かを望む心は人を強くする。
そしてその強い心が折れる音は、何よりも心地よい。
蒼井晶は、ラヴァレイ達が自身のことを疑っていないと高を括っていた。
しかし、それは大きな間違いだ。
確かに未だ青さを多分に残したカイザルは、彼女を疑おうなどとは微塵たりとも思ってはいないだろう。
だが、このラヴァレイという男は別である。
何故なら彼は二人よりも遥かに多くの場数を踏んできた――正真正銘、『悪魔』のような男なのだから。
彼は感じている。
明るい表情の裏に隠した、強い願いの心を。
誰よりも人の堕落に近い存在である彼を相手に己を隠し通すには、蒼井晶はまだ幼すぎた。
彼は待っている。
その心がポッキリと、真ん中から折れてしまう瞬間を。
悪魔(マルチネ)のように顔を歪めて、道化(アキラ)をただ、じっと見つめていた。
【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:世界の滅ぶ瞬間を望む
1:蒼井晶の『折れる』音を聞きたい。
2:カイザルは当分利用。だが執着はない。
3:本性は極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いています。
支給品説明
【カイザルの剣@神撃のバハムート GENESIS】
カイザル・リドファルドに支給。
彼が使い慣れている鉄の剣。
【軍刀@現実】
ラヴァレイに支給。
軍用に供された刀剣のこと。
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投下終了です。
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投下乙です
晶にとってはかなり相性悪いの引いちゃったなーこれw
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投下乙です
ステルス二人に囲まれるカイザルェ……
この2つの爆弾がいつ爆発するのか……
こっちはこっちで色々抱えてるランサー達とも合流しそうで楽しみ
-
遅れてしまい申し訳ありません。
カイザル後というタイミングでファバロ、アザゼル投下します
-
「たくよお、ついてねえぜ」
ぶつぶつとぼやきながらファバロ・バローネはこれまでを思い返していた。
「変な女に絡まれたと思ったら呪いをかけられ尻尾を生やされヘルヘイムに連れてけと脅されてよお」
始まりはそう、たった一つの嘘からだった。
極寒の地、ヘルヘイム。
行ったことがあるどころか、そもそも実在しているのかも怪しい幻の大地。
今度はそこに行くのだと酔った勢いでホラを吹いたのがケチの付き始めだった。
よりにもよってその言葉を鵜呑みした半分悪魔な女に、ファバロは契約魔法をかけられ、悪魔の尻尾を生やされてしまったのだ。
解呪条件はただ1つ、嘘を誠にヘルヘイムへと連れて行くこと。
いやまあ女を殺しても解除できたのだろうが、この女がこれまた強かったのだ。
後、色々あった。
「なんやかんやで悪魔に拐われたそいつを助けたと思ったら聖女様たちに捕まって天使まで出てきやがって」
本当に色々あった。
どうして殺そうとまでしていた女や、後親の敵とつきまとってきた男まで命がけで助けに行ったのかはファバロは口を濁すだろう。
ただ、彼は彼なりに覚悟もあって、自分が自分であるために二人を悪魔から助けた。
悪魔から助けたと思ったら今度は人間に捕まって天使まで出てきてもううんざりだったのだが。
「悪魔悪魔また悪魔。
おっさんに会ってやっとの想いでお役御免と思いきや、ああくそ、馬鹿なこと言っちまったせいであいつにまた付き合わされることになっちまってよお」
更には悪魔が女を連れ戻しに大群で襲いかかってきて災難だった。
女は世界を滅ぼすだけの力を持つ最強竜、バハムートを復活させる鍵の半分を身に宿していたのだ。
これを聖女ジャンヌ・ダルクの協力もあり、どうにか撃退。
女が探している女の母のことを知ってるというお父さんが出てきたってもんだ。
正確には女のお父さんではなかったのだが、そのお父さんことラヴァレイのおかげでめでたくお母さんの位置が判明。
どこにあるとも分からないヘルヘイムではなく、行き先は地図にものってるブロドシア。
これでもう場所さえ分かったんだから、呪いも解いてもらえるぜって調子に乗っちまったのが運の尽き。
お母さんに会わせてあげると最後まで付き合わされるはめに。トホホ。
「しかも行き先はブロドシアだあ? おいおいヘルヘイムはどうしたんだよ、ヘルヘイムは! ……あ? そういやあいつ何であん時ヘルヘイムって……」
ふとそこまで思い出して首を傾げる。
確かに記憶にある女はとんでもなく抜けてるところはあったが、ことお母さんのことについてはいい加減ではなかったはずだ。
何故今更ヘルヘイムに行くのだと時を巻き戻したかのようなことを口にしていたのだろうかと、あの時のことを思い出しかけて。
振り払うかのように首を振る。
殺し合い、殺し合いだ。
「ああ、わけわかんねえ! 大体なんだよ!
爺さんの奴に殺せって言われたと思ったら俺が殺すまでもなくあいつが死んでて、けどバハムートは蘇っててその上殺し合いだあ!?」
次元をも超えるバハムートの力に導かれるように迷い込んだとある森で。
ファバロは時の観察者たる古の竜と出会い運命を聞かされた。
女が宿す鍵の力を真に扱えるのは人間のみ。
神魔のハーフである女が鍵を宿している限り、世界は滅び行くのみ。
世界を滅ぼしたくなければ、女を殺せ。そう言われていたのだ。
それなのに。女は死んだ。
ファバロが手を下すまでもなく、無残にも殺された。
バハムートは蘇った。女が殺され世界は救われたはずなのにいけしゃあしゃあと別の少女に使役されていた。
堪ったもんじゃない。全く、堪ったもんじゃない。
-
「勘弁してくれよ、なあそう思わねえか、悪魔さんよおお!」
振り向くとそこに悪魔がいた。
呼んでなんかいない。むしろこっちを呼びやがったのは悪魔の方だろう。
この悪魔はいつもいつもファバロに気付かせることなく現れるだけの実力を持っていたはずなのだから。
嘲るかのごとく挑発するかのごとく、ファバロの背を取った上で気配を開放した悪魔へと右手の銃を突きつける。
支給品の一つ、黄長瀬紬とやらの武装セットから取り出したものだ。
ぶっちゃけると人間相手にはろくな殺傷力がなく、ハッタリで、本命は身体に仕込んでおいた投げナイフや手榴弾の方だった。
「ふん、腹立たしいが貴様の言う通りだ、人間。忌々しい。全くもって忌々しい」
そこに嘘はないと見た。
こいつは相当ご立腹だね。
ファバロはそう判断する。
よくよく観察してみれば全身包帯まみれでやけにボロボロじゃあねえか。
聖女さんに怪我させられた分を直せない内に巻き込まれたのなら、そりゃあ怒るわな。
そう、巻き込まれた、だ。
正直信じられねえが、なんとこの悪魔もまた、この殺し合いに巻き込まれた側である可能性が存在するのだ。
「ご機嫌斜めじゃねえか、アザゼル。名簿にてめえの名前があった時はびっくりしたぜ。
てめえが仕掛けた側か、それとも巻き込まれた側か俺には判断できねえからよお」
ご丁寧にも名簿にはファバロがよく知る人物が狙ったかのように乗せられていたが、その中である意味一番驚いたのがこいつだった。
自身の知るアザゼルはこの悪趣味な催しを仕掛けられる側ではなく、開く側だったからだ。
わけが分からねえ案件の一つだった。
「……巻き込まれた側だ。加えて恐らくルシフェル様の目論見でもないだろう」
憮然とした面持ちでアザゼルが応える。
むかついてますよと言わんばかりに組んだ腕の右人差し指はぴくぴくと動いている。
相当のご立腹だ。
ちなみにルシフェルというのはこいつの上に立つ堕天使長だ。
「へ〜、ってことは心当たりがあるってかー?」
ルシフェルの行いではないと断言したからには理由があるのだろうとかまをかける。
こいつのことだ、素直に教えてくれるわけもないかと思いきや。
どうやら相当鬱憤が溜まっていたらしく、むしろ聞け、話させろと言わんばかりに口を開く。
「悪魔ベルゼビュート、側近のマルチネ。そいつが神の鍵における諸々の黒幕だ」
憎たらしげに告げられた2つの名前を心のなかで繰り返してみる。
ベルゼビュートにマルチネ、ね。
「おいおいやけに素直に話してくれるじゃねえか。
どうしたよ、なんかいいもんでも当たったか? なら俺にも分けて欲しいぐらいだぜ。
なんせここにゃあ女もなければ酒もなく、自由もねえと来た。
たっく、気を利かせて支給してくれっつうの」
支給されたカード類は全てチェック済みだ。
酒は一切支給されてはいなかった。
自由と女については言うまでもないことだろう。
奪われ放題で泣きっ面に蜂である。
「口の減らないやつだ。当て逃げならされかけたがまあいい、それは別の話だ。
貴様に話してるのは単にベルゼビュートには俺も借りがある。それだけのことだ」
どうやら本当に眼中にないらしい。
というかあの繭って奴の後ろにベルゼビュートがいると疑って決めつけている様子だ。
それだけの仕打ちを受けたのかもしれない。
悪魔同士共倒れしておいてくれたらいいのによお。
「借り、ねえ。つまりてめえ、今は俺たちとやる気はねえ、と。ありがたいこって」
ひらひらと手をふる。
ありがたいというのはまあ嘘ではない。
相手にしないでいいというならあんまり相手にしたい相手ではないからだ。
けどどっかに行って欲しいと思うこっちの気も知らないでアザゼルは更に話を続けてくる。
-
「貴様たちなどいつでもやれる。それよりも今は先約がある。だから取引だ、人間」
取引、取引ね。
悪魔との取引にはいい思い出がない。
そもそもこんな事態に巻き込まれた発端は半悪魔女との契約魔法が原因だ。
加えて言えばファバロの父親が死んだのは、その部下がこのアザゼルと取引したせいである。
「おいおいおいおい、俺がぁ? お前と取引ぃ? 頭でも打ったかよ」
笑えない冗談だということをアピールするために思いっきり煽る。
どうもアザゼルの方は何か真に受けることがあったのか、思いっきり顔をしかめてから言い捨てた。
「……おかげさまで頭どころか全身打撲だがな。
別に文句はなかろう。貴様にとって俺は親の敵でも何でもない、“ただの悪魔”、なのだろう?」
それはあの日、王城でのアザゼルとの対峙でファバロ自身が言い放った言葉だ。
だから同じくあの日の言葉で言い返す。
「けっ、確かにてめえはただの悪魔だが、お生憎様。悪魔に頼るなっつう親父の教えがあるんでな。
他をあたってくれねえか?」
しっしあっち行けとジェスチャーをするが、アザゼルはどこかに行く気配もない。
「相変わらず口の減らない奴だ。まあいい。お前のお仲間のゾンビ娘とは既に取引済みだ」
初耳だった。
いやいやちょっと待て。
そういえば何やら互いに知っている感じだったがあのゾンビっ娘、勝手に何やってんだ!
「はぁ? リタの奴、置いてけぼりにしたことに拗ねてるのか?」
頭を抱えたくなるが言われてみればブロドシアに向かった自分たちを追ってきたのはカイザルだけでリタはいなかった。
その間に彼女が何かしていても不思議ではない。
そうなると話は別だ。
リタがどういう取引をしたのか、アザゼルから聞かないといけなくなる。
「お前が俺に手を出さない限り、俺も貴様やゾンビ娘、リドファルドの息子は後回しにしてやろう。
何よりも今はルシフェル様を裏切り、あまつさえこのような児戯を企てたベルゼビュートを俺は討つ」
つまりはそういうことらしい。
ベルゼビュートとやらを倒すまでの一時的な協力、といったところか。
敵の敵は味方というが、こいつが味方ぁ? マジか?
だいたいそれに、だ。
そういうことなら一つ気になってることがある。
「ご苦労なこって。けどよ、アザゼル。あのガキの後ろにそのベルゼビュートとやらがいるとも限らねえぜ?」
必ずしもベルゼビュートが繭ってガキの背後にいるとは限らないということだ。
後になってベルゼビュートがいなかったからと逆ギレで牙を剥かれても困るのだ。
まあこれに関して言えばベルゼビュート相手でも信用できはしないのだが。
「……何? たかが人間風情が貴様らはともかくこの俺に気づかせることなくこれだけのことをしでかしただと?」
その可能性は考えもしていなかったとばかりにアザゼルが目を見開く。
おいおい頼むぜ、仮にも今は協力者だっつうならもっとしっかりしてくれよ。
「たかが人間風情、だからさ。あのガキ、バハムート、って言ってたろ」
思い起こすのはつい先程の光景。
半神半魔の力を開放した馬鹿強い女を、更に叩き潰した巨大な竜の腕。
……つっても夢で見たバハムートはもっと大きかった気がするのだが。
今、大事なのはそこではない。
-
「人間風情がバハムートを制御できるはずが……そういう、こと、か」
得心がいったとばかりにアザゼルが頷く。
そういうことなのだ。
「そ。神魔の鍵を完璧に使えるのは人間だけ。そうドラゴンの爺さんも言ってたぜ」
人間ごときが、ではない。
人間だから、なのだ。
神魔の鍵は主神ゼウスと魔王サタンが変じたもの。
その二柱を呼び起こしバハムートを再封印できるのは人間だけなのだ。
制御とはまた別問題かもしれないが、しかし、あの繭という少女なら、ただの人間以上に鍵を使いこなせるかもしれないという予感があった。
「あの娘、間違いなく人間だった。悪魔の俺が人間を見間違えるはずがない。
何故人間風情がと思ってはいたが、人間だからこそバハムートの制御には価値があるということか。
だがそうなるとどういうことだ? 神の鍵は鍵の娘の魂と一体化していたはず。
それを分離することなどできるはずが……」
アザゼルはまだ少女のことを侮っている。
人間だからこそ鍵を起動できた、そうとしか考えていない。
その考えに水を差す。
「できる、としたら?」
あの少女はただの人間ではない。
背後に神がいようが悪魔がいようが、紛れも無く主犯の一人だと言い切れる。
それだけのヒントは既に与えられていた。
「馬鹿な、神にも悪魔にも不可能なことを人間がだと? ふざけているのか」
いかなる神や悪魔も鍵を女から奪えなかったからこそ、神魔の戦いは鍵を所有する女自身の奪い合いになった。
これは神の鍵が物質的なものではなく、魂と一体化するもので、女自身が鍵になってしまったからだ。
ただそれは裏を返せば『魂から鍵を分離できる』ものなら、鍵を移し替えられるということではないか。
「ふざけてなんかいねえさ。てめえも見たはずだ。あいつらがご丁寧に実践してくれたのを、よっ」
腰の道具入れから“それ”を取り出し、アザゼルへと突きつける。
“それ”は何の変哲もないカード。
一人の女の墓標。
「『魂』を閉じ込める……」
アザゼルは今度こそぐうの音も出せず押し黙る。
そういう、ことなのだ。
天使にできなかろうが、悪魔にできなかろうが、繭にはそれができる。
賞金首の腕輪と似たような芸当が。
「そうさ、その上あのガキはこうも言ってたじゃねえか。
『出せるのは繭だけ』ってな。
神だろうが悪魔だろうが人間だろうが魂を入れたり出したりできる、そういう力をあいつは持ってやがるってわけだ。
バハムートのことを吹き込んだり悪魔の鍵を渡した誰かはいるかもしれねえが、鍵の移動に関してだけいやああのガキ一人で成り立たせられるっつう寸法さ」
覚悟を決めるために自ら壊した腕輪の代わりに、また嵌められた腕輪から目をそらして話を続ける。
選択しろ、覚悟を決めろとうるせえんだよ、ガキンチョ。
-
「なるほどな。どこかの馬鹿が鍵の娘をけしかけたがために、女は無駄死にしたと思っていたが。
奴からすれば元鍵の娘は用済みだったということか。
よかったじゃないか。貴様のせいで鍵の々が死んだとは限らなくて」
ただどうにもうるせえのはガキンチョだけではなかったらしい。
ニヤリと、悪魔じみた――正真正銘悪魔だが――笑みを浮かべてアザゼルが急に活き活きと話しかけてくる。
「ああ? 何言ってんだ、てめぇ」
嘘だ。
こいつが何を言わんとしてるかなんて嫌なくらいに分かってる。
「元鍵の娘の迎撃に奴はバハムートを用いた。
ならばあの時、既に鍵の所有権は繭とやらに移っていたのだろうさ。
だがもし俺が奴なら元鍵の娘などという不安要素を残しはしないだろう。
神の鍵を使いこなせるのは人間だけだが、魂の相性という点では人間よりも天使の血を引く半神半魔の方が上だ。
そもそも鍵の所有権の移し替えという事態からして前代未聞。どんな弊害があるか分かったものではない」
それは当然の推測だった。
分かってる、分かってんだよ。
てめえに言われなくとも。分かってるからこそ、いいから黙れ。
「だからあの小娘はこれみよがしに鍵の娘を処分したのさ。
鍵の娘や貴様の性格を読んでいたのかは知らないが、恐らくは元からルール説明と見せしめも兼ねて殺される予定だったのだろう。
つくづく最初から最後まで他人に利用されるばかりの女だったというわ「黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって!」――!?」
突きつけたままだった銃の引き金を引く。
弾は全て、アザゼルの羽から生じた触手みてえな魔力の蛇に叩き落とされるが、その時にはもう懐へと潜り込んでいた。
ナイフを抜き放ち、一閃し、激昂する!
「利用されるばかりだあ? あいつはよぅ、あれだけ会いたがってたお母さんを諦めてまでお母さんを守ろうとした。
てめえらのためじゃねえ、あいつは、自分とお母さんのために泣いたんだよ!
それをてめえら揃ってぐだぐだぐだぐだ!
死んじまった? 運命を変えられなかった?
んなの他の誰の仕業でもねえ。変えてやるっつったのにできなかった俺のせいだ!
だからてめえもあのガキも、すっこんでろ!」
届――かない。
アザゼルは羽を大きく広げると空へと飛び上がり、斬撃をかわしていた。
「くくく、ハハハハハ! これだから貴様は面倒だ!
銃を向ける相手が違っていよう!
鍵の娘の仇はあの小娘だろうが!」
笑みを深くし反撃の蛇が飛ぶ。
そいつらを飛び退って避けながらも銃弾とともに言葉を叩き込む。
「何度も言わせんじゃねえよ。ヘマしたのは俺だ!
お母さんに会うためにつっこんでったのはあいつだ!
だいたい前にも言っただろうが、俺は俺だ、復讐に縛られた生き方なんざまっぴらごめんだってな!」
ああ、そうだ。
復讐なんて真平ゴメンだ。
今でもそう思ってる。
けどそれなら――
「ほう、ならば殺し合いに勝ち残って小娘に願いでも叶えてもらうと?」
生かす、ためなら?
脳裏に幾つもの思い出がフラッシュバックする。
あの女と踊った夜が、美味しそうにごちそうをお代わりしまくっていた幸せな姿が。
ファバ、って初めて名前を呼んできた、ああ、結局ちゃんと呼ばれなかったななその笑顔が。
答えは――こいつに教えてやるつもりはない。
「こちとらあいつを何度も殺そうとしてたんだぜ? んなわけねえだろが!」
糸巻きの形をした手榴弾を放り投げる。
アザゼルが撃ち落とすよりも早く、銃弾を叩き込み、手榴弾をアザゼルの方へと弾いて、押し込み、爆発させる!
「はっ、つくづく貴様は度し難い!
いいだろう、前言通りだ。貴様はいつか俺が殺すが、それは今ではない!
貴様を生かしておいたほうが色々と奴らにとって面白く無いことになるだろうからなあ!」
黒煙を振り払い、アザゼルが高く、高く飛翔して、何処へと飛び去っていく。
こうなってしまっては追いかける術はなく、そもそもこれ以上は藪蛇だろう。
あー、くそとその場に座り込んで空を見上げる。
空にはいつかと同じように星空が広がっていて、近くには湖ならぬ海もあって。
けれど、あの時とは違い、ファバロの隣には誰もいなかった。
「わりいな、アーミラ。約束、守れなくて。最後の最後まで嘘ついちまった。俺は大嘘つきだ」
地面からの感触で薄々分かってはいたが、確認のために尻へと手を伸ばす。
――結果は覚悟していた通りだった。
-
【G-3/海辺/一日目 深夜】
【ファバロ・レオーネ@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:健康
[服装]:私服の下に黄長瀬紬の装備を仕込んでいる
[装備]:ミシンガン@キルラキル、投げナイフ@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:黄長瀬紬の装備セット。他0〜2枚(確認済み)。
[思考・行動]
基本方針:女、自由、酒ってか? 手の内は明かしたくねえんだよ
1:とりあえず酒でも飲みたい気分だぜ。
2:カイザルの奴は放っておいても出会いそうだよなあ。リタにも話聞かねえとだし。
[備考]
※参戦時期は9話のエンシェントフォレストドラゴンの領域から抜け出た時点かもしれません。
アーミラの言動が自分の知るものとずれていることに疑問を持っています。
※繭の能力に当たりをつけ、その力で神の鍵をアーミラから奪い取ったのではと推測しています。
またバハムートを操っている以上、魔の鍵を彼女に渡した存在がいるのではと勘ぐっています。
バハムートに関しても、夢で見たサイズより小さかったのではと疑問を持っています。
【G-3/海辺上空/一日目 深夜】
【アザゼル@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:ダメージ(大)
[服装]:包帯ぐるぐる巻
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜3枚
[思考・行動]
基本方針:繭及びその背後にいるかもしれない者たちに借りを返す
1:借りを返すための準備をする。手段は選ばない
2:ファバロ、カイザル、リタと今すぐ事を構える気はない。
[備考]
※10話終了後。そのため、制限されているかは不明だが、元からの怪我や魔力の消費で現状本来よりは弱っている。
※繭の裏にベルゼビュート@神撃のバハムート GENESISがいると睨んでいますが、そうでない可能性も視野に入れました。
支給品説明
【黄長瀬紬の装備セット@キルラキル】
対極制服用に開発された「ジャミング弾」という針のような銃弾を撃ち出すサブマシンガン「ミシンガン」を始めとした装備セット。
糸巻き型の手榴弾、リッパー型の投げナイフ、トラップなども含まれているが基本使い捨てのものが多い。
-
投下終了
-
投下乙です
おおっ、思わず関心してしまう程の理論だ……>カードで魂と鍵の分離
未だ方針不明のファバロも、危険対主催?のアザゼルのスタンスも面白そうだなぁ
-
投下乙
強気だけど最初からダメージ(大)のアザゼルwww
読者にさえ手の内を見せないところとか
喰えないファバロらしさが出ている文章だった
-
投下します
-
穂乃果の元をランサーが経ってから、早数分の事だった。
武人特有の闘気を纏った一人の中年男性の姿をランサーが発見したのは。
この事から、ランサーはセイバー(仮)の向かった方角と、自分は別の方へ向かってしまった可能性が高いと推測する。
もし、この男性がセイバー(仮)と戦いでもすれば間違いなく生きてはいない。
セイバー(仮)は、男性の居た場所とは異なる方向に向かった考えるのが自然だ。
「いきなりで、すまない。金髪に鎧を着込んだ女性を見なかっただろうか」
もっとも、セイバー(仮)に戦力差を痛感し逃げ出したという可能性もある。
情報を仕入れる為、ランサーは男性へと話しかけた。
「―――ディルムッド・オディナ殿とお見受けする」
「何ッ!?」
「名乗り遅れましたな。それがし……本部以蔵と申す者です」
ランサーの真名を一目で看破した本部と名乗る男。
一見、魔術師の類には見えない。どうあっても人間の武道家程度。
それが、人智を超えた神秘の存在であるサーヴァントの正体を見破るなど、前代未聞である。
「そう驚かれることもないでしょう。その身のこなしと輝く貌を見れば、誰しもがあのフィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナと嫌でも気付かされる。
よもや、現代に過去の英雄を現界させる術が実在したとは驚いたが」
後に本部は現代に蘇った宮本武蔵から、仲間達(とも)を守護(まも)る為に奔走するのだが、今は知る由もない。
「博識……なのだな」
「ディルムつっあん、アンタが探している人物なら知っている」
「それは本当か!?」
「ああ、向こうに死体があった。あの切り口、剣技の腕は間違いねえ。
―――ブリテンの伝説的君主、アーサー王によるものだ」
本部は土方十四郎の斬殺死体を発見した時、そこで起きたであろう戦闘をイメージした。
落ちていた日本刀の歪み、傷付き具合、死体の損傷。
これらと本部の豊富な知識により導き出された一つの答えは、騎士王の剛剣とそれに絶えうる聖剣の存在。
この瞬間、本部はこの殺し合いの場には、常識を超えた神秘が存在するのだと確信したのだ。
「有り得ない。セイバーが殺し合いに乗るなど……」
否、本当にそうであったか?
ランサーは聖杯そのものに興味は無く、当然叶えたい願いも本人自体には無い。
だがセイバーはどうだ? 騎士として高潔な人物ではある。しかし、高潔すぎるが故に聖杯に託す願いがあるのではないか?
自らの王として不甲斐なさを呪い、選定のやり直しを願う事は決して否定しきれることではない。
「……止めなくては。これ以上、彼女の剣を罪無き者の血で汚すことは……」
「ディルムつっあん、アンタそんな剣技で本気で騎士王の剣を封じられるつもりか」
「……? 貴方が何処まで聖杯戦争に関与しているかは知らない。だが、もし俺のクラスがランサーであることを懸念して言っているのであればそれは杞憂だ。
俺にはセイバーの適性もある。この剣も扱ってみせよう」
「なっちゃいねえ……アンタの剣は実戦には使えないッ」
本部の言葉にランサーは首を傾げるしかない。
ランサーが現代に生きる剣道家でもあれば話は別だろう。剣道と実戦は違うという理屈も分かる。
しかしだ。癒やしの水を司る大英雄フィン・マックールが、首領を務めた時代において最強とも言われる筆頭騎士として戦場で振るったランサーの剣が実戦向きではないとは如何なものか。
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「アンタは五度、俺を斬れていた。否、斬らせるよう隙を作った。
だが、一度もそれに気付きもしない。―――名誉ある戦いを重んずる。その自己満足な精神が剣を鈍らせ、周囲に毒を散らす。
勝てんぜ、アンタは」
「では、どうしろと?」
「悪いことは言わない。機関銃(マシンガン)、いやバズーカ砲の用意を」
「……心遣いは有難い。だが、セイバーとは剣を交えて雌雄を決するつもりだ」
「だから、その下らぬ騎士道を捨てろと言っている」
「何だと?」
「奴さん、既に自らを縛る騎士道を捨ててるぜ。
殺し合いへの順応においてはアンタの遥か上を行っている。
この場はアンタの知る、誉ある戦場じゃあない。忠義も名誉も何も無い。ただ、殺し合うそれだけの場だ。
正々堂々? 決闘? 実戦にそんなものはない。
ましてや、誇りをもった相対などある筈もなし。それを捨て去れないアンタが騎士王に向かったところで殺されるのがオチだ」
「俺が潜った戦場の数は一つや二つではない。
現代の、それもただの人間の武道家よりは実戦を経験してきているつもりだ」
「降りな。
仮にあそこの死体が騎士王に手傷を負わせていて尚且つ、騎士道も捨てずに正々堂々と勝負したとしても勝敗は怪しい。
輝く貌(ディルムッド・オディナ)は騎士王(アルトリア・ペンドラゴン)には勝てねぇ」
「……聞き捨てならないな。モトベよ、そこまで断言したのならその証を立てられるのか?
このディルムッド・オディナの剣がこの殺し合いに通じぬという証を」
「ああ―――この本部を超越(こえ)てゆきねェな」
相手はただの人間だ。
ランサーは人間とサーヴァントとの力量差を理解している。はっきり言って人間がサーヴァントに勝つことはできない。
異能を持ち、人知を超えた存在ならばまだしも、本部はただの人間である。達人といえど鍛えた人間のレベルを大きく逸脱しない。
「挑まれた戦いは受けよう。だが、もう一度だけ聞いておくそれは―――」
「本部を倒し先へ行け」そう言いたいのか、問おうとするランサーが口を閉じ会話を打ち切らぬほどの速度で右拳による打撃が放たれた。
あえて剣は抜かず右手で本部の拳をいなし、胴へ向かい蹴りを撃つ。
いなされた拳と同じように本部も流れに逆らわず、身体を反らし蹴りを避ける。
そのまま、本部は伸びきったランサーの右足を左手で掴み、技を決めようと体重を掛けた。
(折られるッ!?)
身体を支えるもう一方の左足を地から離し、ランサーは倒れながら左腕で肘打ちを地面へと打ち付けた。
筋力Bの膂力は地面を大きく揺らし、その振動は技を掛けようとした本部にまで響く。
揺れにより、拘束の緩んだ足を回収したランサーは剣を抜いた。
先のやり取りで痛感したのだ。この男は、本部以蔵という障壁は片手間でやりあえる人間ではないということが。
「無駄の無い見事な構え、俺以上……なのだろうな。
しかし、騎士王……以上じゃねえ」
本部が不敵に笑う。そして、その両手が一つの構えを形作った。
両手に人差し指を立て、片方の人差し指を四本の手で握り、残った人差し指を立てた正眼の構え。
剣を模したその構えは、まさに侍の誇る必殺の構えであった。
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(素手である筈だ。だが、見える……あの両手には刀が握られている)
下手に動けば斬られる。何も無い筈の手に握られる刀。
あれから発せられる圧力がランサーを気落とし、動きを許さない。
どう攻め入るべきか。百戦錬磨のランサーでさえ瞬時に判断できぬ本部の構え。
本部の腕の筋肉が微弱ながら動き出す。それは刀を振り上げる前兆である。
仕掛けてきたのだ。足もまた微弱ながら、ランサーへ詰め寄ろうと動きの予兆を見せた。
(来るか、モトベッ!!)
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」
ゴツンと鈍い音がランサーと本部の耳を刺激した。
数秒の後、本部が崩れ落ちた。うつ伏せになり気を失っている。
崩れた本部の背後から見えるのは、ヘルメットを思い切り振りかぶり息を切らした穂乃果の姿であった。
「穂乃果、どうして……」
「ごめんなさいランサーさん。でも、さっき凄いの感じちゃって、心配になってそれで……」
凄いの。恐らくは先程の本部の構えだろう。
あれが放つ圧力(プレッシャー)が、駅に居た穂乃果達にも届いたのだ。それで、黒子の効果が落ちぬままランサーを心配した穂乃果が、対峙していた本部を不意打ちで黙らせたのも納得がいく。
見れば、慌てた様子で千夜とヴィヴィオが穂乃果の後を追って走ってきている。
「ら、ランサーさんは大丈夫なんですか?」
「今の何? 凄いプレッシャーだったよ?」
「ああ、大丈夫だ。千夜、ヴィヴィオ」
先程の戦い。続けていたとしても、勝っていたのはランサーであることに間違いはないはずだ。
素手と剣。人間とサーヴァント。比べるべくも無く、ランサーは優位な側に立っていた。
しかし、だとしても勝利への確信が持てない。あの正眼の構え、あれを振り払うことが出来ず、脳裏に焼きついて離れない。
もしも穂乃果が来なければ、倒れていたのは―――
「死んではいない……。腐っても武道家か」
本部の安否を確認する。
問題はなさそうだ。受身もきちんと取れており、頭にもたんこぶが一つ出来た程度だ。
「ヴィヴィオ、この男モトベと言うが頼めるか?」
「それは良いですけど……ランサーさんは」
「さっき言ったとおり、音ノ木坂学院に行く。君達は駅に引き返してくれ」
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ランサーの指示に従い、少し重そうな顔をしながらヴィヴィオは本部を背負い、千夜も不安そうな顔をしながら引き返す。
だが、穂乃果だけはランサーの腕を掴み頑なに離れようとしない。
「穂乃果、離してくれ。この先は危険だ、君を連れて行くわけには」
「嫌です、私、あの小汚いおじさんにランサーさんが殺されかけた時、凄く怖くなって……。
もうランサーさんに危ない目に合って欲しくない。お願い、私も連れて行って!」
吊り橋効果というものがある。
ランサーの黒子の効果に加え、本部のプレッシャーによる不安と恐怖が更にランサーへの恋心を刺激してしまったのだ。
穂乃果はもう止まれないだろう。
(どうする……確かに音ノ木坂学院は危険だ。だが一人なら……。
ヴィヴィオも戦闘の心得はあるが、流石に気絶した中年男性に無力な少女二人を任せるのは酷か。
なら、穂乃果は連れて行った方が……)
「ランサーさん、お願い……私も一緒に……!」
ランサーは結局、それを承諾してしまった。
仮に突き放したところで彼女はランサーを追うだろう。一人で独断先行させるよりも、彼女のそばに付き護衛した方が安全だろうとランサーは考えたのだ。
ふと、千夜の方へ視線を向ける。そこには嫉妬の混じった表情で、穂乃果とランサーを見つめている雌の姿があった。
「急ごう、穂乃果」
これ以上痴情の縺れになるのは避けたほうが良い。
穂乃果を連れ、音ノ木坂学院へと急いだ。
【B-2/一日目・深夜】
【ランサー@Fate/Zero】
[状態]:健康
[装備]:キュプリオトの剣@Fate/zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:騎士道に則り、戦う力のない者を守る。
0:穂乃果、千夜に「愛の黒子」の呪いがかかったことに罪悪感。
1:穂乃果と共に音ノ木坂学院に向かい、千夜を襲ったという危険人物の存在を確かめる。(ほぼセイバーと確信)
2:セイバーは信用できない。そのマスターは……?
3:キャスターはいずれ討伐する。
4:俺がセイバーに勝てない……?
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバーと共にキャスターと戦った後。
※「愛の黒子」は異性を魅了する常時発動型の魔術です。魔術的素養がなければ抵抗できません。
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:健康、ランサーへの好意(大)、千夜に対する疎み
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:ヘルメット@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜1枚
[思考・行動]
基本方針:誰も殺したくない。生きて帰りたい。
1:μ'sのメンバーを探す。
2:ランサーさんを見てるとドキドキする……。
3:ランサーさんを危ない目に合わせたくない。離れたくない。
[備考]
※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか。
※ランサーの「愛の黒子」の効果により、無意識にランサーへ好意を抱いています。時間進行により、徐々に好意は強まっていきます。
※釣り橋効果で更にランサーへの好意が高まりました。
【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、ランサーへの好意(軽)
[服装]:高校の制服(腹部が血塗れ、泥などで汚れている)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実 、不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:心愛たちに会いたい
1:ランサーが心配
2:十四郎さん…
3:ランサーと一緒に居る穂乃果に嫉妬。
[備考]
※現状の精神はランサーに対する好意によって自責の念を抑えられ一旦の落ち着きを取り戻しています。
※ランサーの「愛の黒子」の効果により、無意識にランサーへ好意を抱いています。時間進行により、徐々に好意は強まっていきます。
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【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid
[思考・行動]
基本方針:皆で帰るために行動する
0:もう一回駅に戻る
1:駅でランサーさんを待つ。それまでの間は私が二人を守る。
2:もし2時間経ってランサーさんが戻ってこなかったら移動する。
3:アインハルトとコロナを探す
4:本部が目覚めるまで守護る。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後です。
※ランサーの黒子の呪いについて大雑把に把握しましたが特に重要なことだとは思っていません
※黒子の呪いの影響は受けていません
※各々の知り合いについての情報交換は済ませています。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が薄れるかどうかは不明です。
【本部以蔵@グラップラー刃牙】
[状態]:確固たる自信、気絶
[服装]:胴着
[装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚(本人確認済み、武器等ではない)、村麻紗@銀魂及び土方の支給品
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を守護(まも)る
0:……。
1:騎士王の魔手から参加者を守護(まも)る。
2:騎士王を警戒。
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後
※村麻紗@銀魂及び土方の支給品回収済みです。
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投下終了します
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投下乙です
即真名看破したとおもったら一般女子学生の一撃で沈む本部
[状態]:確固たる自信とはいったい……
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投下乙です
本部はやっぱり本部じゃないか(安堵)
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ヘルメットで後ろから殴り倒すってどこかの公安部刑事課の方ですかね…
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投下乙です
ただこれ、最近の刃牙原作の展開丸写しですよね?
本部もアニメの時期と今とではかなりキャラが変わっているので、アニメ化していない時期のキャラ付けをするのはどうかと思います
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こーゆーのこそがオイシイんだよ な
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投下します
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桂小太郎とコロナ・ティミルの両名は、ショッピングモールから北上することになった。
彼がトイレから戻ってきてすぐ、コロナは出発しようと進言したのだが、桂は否と首を振ったのだ。
心なしかスッキリ、キリッとした表情の彼を見て、一瞬「もしや」とも思ったが――考えないことにした。うん、特に妙な匂いもしないし大丈夫だろう。きっと。
それはさておき。
「このような状況で、行き当たりばったりに進むのは賛成出来ない。ほら見ろこの『DIOの館』とかいう施設を。どう見ても危ない人の家だろうこれ。迷い込んだ日には命がいくつあっても足りん」
「そ、そうでしょうか……でも、確かに考えなしに歩き回るのでは危険かもしれませんね」
「うむ。そこで俺は、此処に向かうのを提案したい」
ぴっ。
桂が指差したのは、地図上に表示されている"ゲームセンター"の文字だ。
此処から南下していき、海を渡って別な島へ辿り着く必要があるが、会場全体で見ればそう遠いわけでもない。
しかし、その近くには彼の知り合いが経営しているという"万事屋銀ちゃん"の表記もある。どうせ近場なら、先にそちらへ赴いてみてもいい気がしたが――何故ゲームセンターなのだろう?
「えと、桂さん? どうしてゲームセンターなのか、理由を聞いてもいいですか?」
「どうしてもなにもあるまい。そこにゲームセンターがあるならば、赴くのが真のゲーマーというものだろう」
自信満々にして答える桂。
黙っていれば端正な顔立ちをしていることもあり、そこには謎の迫力がある。
コロナも半ば押し切られるような形で頷いてしまいそうになるが――いやいやいや。
「いやいや、ゲームやってる場合じゃないですよね!? 革命の話はどこに行っちゃったんですか?!」
「ああ。確かにこの島は今、現在進行形で戦場と化しつつある」
「…………」
「だからこそだ! 今こそ俺とコロナ殿が共に"機動戦士ガン○○ 戦場の絆"を――あ、待て待て。ストライクアーツを構えるのはやめるんだ。分かった分かった、おまえの意見を聞こう」
いつの間にかグルグル眼鏡とポスターの刺さったリュックを背負っていた彼だが、コロナがそっと拳を構え始めたのを見て速やかにそれらを何処かに消し去ってしまった。
一体何処へ消し去ったのかといえば、それを説明することは誰にもできないだろう。
ただ一言、かぶき町の関係者にはよくあることと言う他ない。
それ以上深く考えることは無意味であり、時間の無駄である。
コロナは早くも、この桂小太郎という人物との賢い付き合い方を感覚で学びつつあった。
「こほん。ゲームセンターはまず論外として、この"万事屋銀ちゃん"はどうでしょう?」
「万事屋か」
「桂さんの知り合いの方が経営しているんですよね? でしたら、此処に集まってくるかもしれませんよ」
ふむ。
桂は数秒考えるような素振りを見せた後、やがてゆっくりと首を横に振った。
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「いや、奴らは後回しだ」
「え、でも……」
「確かにコロナ殿の言う通り、奴らは万事屋へと集まってくるだろう。それは間違いないと俺も思う。だが、俺は奴らとの合流を急くつもりはない。むしろ、本当の終局であってもいいとすら思っている」
桂は何も、薄情な男という訳ではない。
むしろその真逆だ。
彼は"万事屋銀ちゃん"の面々や真選組の鬼の力量を誰よりも正しく理解し、信用しているからこそ、彼らとは敢えてばらけることを選んだのである。
わざわざ改まって顔を突き合わせずとも、奴らが殺し合いを挫く目的で動くことなど分かっている。
そして彼らには、それを可能とするだけの実力が備わっているのだ。
ならば自分までもがそこへ加わる必要はないと、彼は判断した。
――桂小太郎(おれ)は桂小太郎(おれ)に出来ることをする。だから今は敢えて、再会の道を遠ざける。
「そこでだ。此処などどうだろうか」
「……本能字、学園?」
「学園というからには、それなりの大きさがある建物なのだろう。であれば自然と集まる参加者も多いはずだ。それに、名前のインパクトもある。一文字変えれば本能寺だぞ本能寺。俺ならば、仮に地図の端であろうと此処を目指すな」
桂の基準で考えることが正しいかどうかはさておいて、前半の理由には確かに頷けるものがあった。
更にその近くには病院もある。
医療用品の確保が、こと流血沙汰には事欠かないだろうこのデスゲームにおいて一際重要なことなのは間違いない。
コロナは地図と睨めっこし、内容を読み進めていって……ふと。
此処からは離れた場所ではあるものの、ある施設を発見した。
「放送局……」
「ふむ」
「あの、本能字学園、病院と見て回ったら此処を目指すというのはどうでしょうか。そこから放送をかければ、きっとたくさんの参加者の皆さんに届かせることが出来ると思うんです」
「放送、か――成る程な。悪くない方法だが……」
腕組みをし、桂は考える。
確かにコロナの言う通り、放送設備を使えば対主催の参加者を集めることは容易だろう。
だがしかし、その方法には一つ大きな問題がある。
「誘き寄せられる参加者が、必ずしも善玉とは限らない……それが問題だな」
首尾よく殺し合いに否定的な参加者たちが集まってくれれば万々歳だ。
が殺し合いに乗った参加者や、獅子身中の虫となる姑息な者が声に乗じて集まって来ないという保証はどこにもない。
桂としては特に後者が最悪だった。集団に紛れ、信用しきった所を一網打尽とされてはたまったものではないが、かと言って常に警戒心を露にしていては団結するものも出来なくなってしまう。
「あう……そうですね。少し考えなしでした。ごめんなさい……」
「いや。確かに問題は色々とあるが、目的地として目指してみる価値がない訳では決してないと俺は思うぞ。なに、道中も長いのだ。そこで名案が閃けばそれで良し、閃かずともまた仕方なし。行くだけ行ってみようではないか」
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どの道、追々また新たな目的地を探さねばならなかったのだ。
仮に問題だらけの案だとしても、未来の仕事を少し先回りして終えてしまったと考えればいい。
少なくとも、いつまでもこのショッピングモールでぐだぐだとしているよりかは何倍もマシな筈。
「――ああ、それとだ。これを渡しておく。私の支給品にあったものだ」
言って桂がコロナへと手渡したのは、黒い無骨な機械だった。
サイズは然程大きくなく、見かけによらず意外と軽くて持ちやすい。
「所謂無線機、トランシーバーというやつだ。今後、もし分断されるような時があればこれを使い連絡を取り合おう」
「はいっ、分かりました」
「良い返事だ。……ところでコロナ殿、使い方は分かるのか?」
「説明書がないとはっきりはしませんけど……こういう機械なら多分、触ってみれば大体で分かると思いますよ?」
「ふむ、現代っ子というわけか。まったく恐ろしい時代になったものよ。いいですかコロナ、お母さんスマホなんて許しませんからね!」
お母さんのような裏声を出しながらガミガミと捲し立てる桂。
最初は困惑していたコロナも今では彼のノリに適応できるようになってきた。
このボケにボケで返せるようになれば、立派な"彼ら"の仲間入りなのだが。
賑やかなやり取りを交わしつつ、時に真面目になりながら、お尋ね者と小さな戦士は北上していく。
目指すは本能字学園。攘夷の風は今、つむじ風となって吹き始めた。
【D-6/ショッピングモール周辺/一日目 黎明】
【桂小太郎@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:いつも通りの袴姿
[装備]:晴嵐@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:トランシーバー(A)@現実、不明支給品0〜1枚
[思考・行動]
基本方針:繭を倒し、殺し合いを終結させる
1:本能寺学園へ向かう
2:コロナと行動。まずは彼女の友人を探す
3:神威、並びに殺し合いに乗った参加者へはその都度適切な対処をしていく
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【コロナ・ティミル@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:ブランゼル@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:トランシーバー(B)@現実
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを終わらせたい。
1:桂さんと行動。ヴィヴィオたちを探す
[備考]
※参戦時期は少なくともアインハルト戦終了以後です。
支給品説明
【トランシーバー@現実】
桂小太郎に支給。
通信が可能な一対の無線機。
二つで一つとして支給されているため、当ロワでは区別のためにトランシーバー(A)、トランシーバー(B)のように表記を分けることとする。
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投下終了です。
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投下乙です
ヅラ組は北上か……
このコンビも安定してるけど周辺の神威とDIOが怖いなぁ
皐月様達と合流すればなんとかなりそうだけど
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予約分を投下します
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ホテルから出てしばらく経った頃。
絵里は市街地の中、地図を見ながら音ノ木坂学院を目指して歩いていた。
現在はまだ深夜といえる時間帯で、辺りはまだ暗い。
地図を見ながらでないと自分達の位置がよくわからないのだ。
遠くを見据えると、シルエットが山のように盛り上がった巨大な建造物が見える。
ひとまず、絵里はそこを道標に動いていた。
そして、絵里と当分行動を共にすることになった銀時はというとげんなりした顔で絵里に着物の袖を掴まれながら歩いていた。
「…銀さん、いる?」
「いるよ。銀さんホテルを出てからエリーチカと二人三脚だよ。つーかお前、あん時の威勢のよさどこいったんだよ」
意気揚々とホテルから出発したはいいものの、やはり暗闇の街をそのまま歩くのは絵里にとって心細く、
銀時の着物を片手で掴んでいないと前に進める気がしなかった。
「ねぇ、あそこの角から何か出てこないわよね…?」
街の交差点に差し掛かると、絵里は自分の恐怖を抑えるために銀時に声をかける。
銀時から否定的な返事が返ってくることを期待してのことだ。
「バッ、お前、変なこと言うんじゃねぇよ!!出てくるわけねーだろ!!だ、大丈夫だ…たとえ見えてもスタンドだから…悪霊じゃなくて聖なるヴィジョンだから…!」
絵里の言葉に銀時も体をビクつかせる。
銀時はお化けや幽霊の話になると途端に怖がるようになった。
絵里は銀時がホテルのトイレで幽霊がどうとか言っていたことを今になって思い出す。
そういえばこの人も幽霊が絡む話には滅法弱そうだった。
交差点に抜き足差し足で近づき、銀時と絵里はおそるおそる顔を出す。
…何もいないようだ。
「ごめんなさい…なんだか余計なこと考えさせちゃったみたい」
「だ、大丈夫だから!!暗い所なんてへっちゃらだから!!べ、別に怖くなったわけじゃねーから!!」
余裕ぶろうと鼻をほじりながら話す銀時だが、鼻の穴を突き刺す指が深すぎて鼻血を垂らしており、ガタガタと震えて全身から汗を流している。
明らかに虚勢を張っていた。
「いや、全然大丈夫じゃないわよね?鼻血垂らしてるけど」
「うるせェェェ!!大丈夫っつってんだろうがァァ!!…それよりも、今どこに向かってんだよ?」
「……」
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絵里は銀時をじっとりとした目で見た後、気を取り直して巨大な建造物を指さした。
「あの建物…地図にある本能字学園だと思うんだけど、あそこを目指してみようと思うの」
学校と思われる施設は音ノ木坂学院の他に本能字学園と旭丘分校がある。
地図に示されているほどなのだから、あの山のような影以外が本能字学園とは思えない。
きっと音ノ木坂学院など比べ物にもならないほどの大きな学園なのだろう、と絵里は推測する。
あれほどの規模の学校で生徒会を纏め上げようとするならば相当な手腕がないと苦労しそう、とも音ノ木坂の生徒会長の立場から思った。
「けどよ、ああいう目立つもんには殺し合いに乗ってるヤツだっているかもしれねぇぜ。本当に行くのかよ?」
「そういうけど、ここって結構建物が多いのよね。万が一迷いでもしたら…」
確かに、この市街地はお世辞にも見晴らしがいいとは言えない。
ただでさえ万事屋や音ノ木坂学院が何故か移転している未見の地形なのに、迷わないとは絵里にも銀時にも決して断言できない。
そんなくだらない理由で音ノ木坂学院から逆に遠ざかってしまうのは冗談でも笑えない話だ。
銀時もそれを理解し、絵里の提案に承諾した。
「それと、銀さん。私の持ってるアレについて聞いておきたいんだけど…」
「…ああ、アレか」
本能字学園へ再び歩き出す前に、絵里は黒いカードを片手に銀時へ切り出した。
ホテルを発つ前に確認したアイテムのことだ。
絵里にも銀時にも役に立つどころか使い道すらもわからない、明らかにハズレに見えるアイテム。
-
その名も、『エリザベス変身セット』。
「ハラショー…?」
「全然ハラショーじゃねぇよ!?なんで絵里の髪型してんの!!こんなのかしこくもかわいくもねーよ!!」
絵里が黒カードから出したそれは、絵里の髪型を模した金髪のポニーテールがついている謎の生物・エリザベスの着ぐるみとプラカードであった。
黒カードに浮き出ている説明を見ると、どうやら初めに出した者の髪型がエリザベスの着ぐるみにコピーされるらしい。
「これエリザベスじゃねぇよ蓮蓬だよ。ヘルプエリザベスの方だよ!」
「さっきから言ってるエリザベスって何なの?」
「ヅラのペットだけどオッサンの声で話したり普通に戦えたりする変な野郎だ」
銀時も、月曜にヘルプに入っているエリザベスの属している蓮蓬族に潜入した時にエリザベスに変装したことがある。
そのときに使った着ぐるみが元になっているのだろうか。
銀時は絵里に知る限りのエリザベスの情報を与えたが、中身がオッサンだったりヘルプがいたりと不可解な部分が多かったため、
結局よくわからない生物という認識だけで終始した。
「…これって着る意味あるのかしら?」
「まぁ変装程度には使えるんじゃねーの?」
「変装って、髪型で皆にバレバレなんだけど…」
「もしかしたら変身すると魔法少女みてーに強くなれるかもしれねーぜ?口から大砲出してプラカードブン回す」
「そんなかしこくもかわいくもない魔法少女聞いたことないわよ!?ていうか少女でもないよね!?」
絵里は着ぐるみを手に取り、そこに描かれている顔を見る。
くちばしと円の中心に黒点をつけただけの簡素な目に、申し分程度の睫毛がある。
そんな変な顔に絵里と同じ髪型があるのだから、何とも変な気分だ。
「エリザベスというか絵里ザベスだな」
「うまくないわよ!!」
絵里は絵里ザベスと呼ばれたことを心外に感じながら、今一度エリザベスの着ぐるみを見つめる。
この衣装は本当に役に立つのだろうか。
変身セットとあるが、外見だけ変身するのか能力まで受け継ぐことができるのかは定かではない。
銀時が言うには新八と神楽という子を両脇に抱えられるくらいには力が強いらしい。
正直、ここで着替えるのは恥ずかしいし、これを着た姿を見られるのはもっと恥ずかしい。
もし一人になる機会があれば……あまり期待はしていないが、一応試着してみるのも悪くはないかもしれない。
絵里はハッとしてその考えを振り切り、エリザベス変身セットを黒カードに戻して銀時と共に本能字学園へ向かうのだった。
【B-7/深夜】
【坂田銀時@銀魂】
[状態]:精神的疲労(小)
[服装]:いつもの格好
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3枚(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針: ゲームからの脱出
1:絵里と音ノ木坂学院に向かう
2:新八、神楽、ヅラ、長谷川さん、ついでに土方と合流したい
3:神威は警戒
4:今のところは迷わないために本能字学園へ向かう
【絢瀬絵里@ラブライブ!】
[状態]:精神的疲労(小)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、エリザベス変身セット@銀魂、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
1:銀さんと音ノ木坂学院に向かう
2:μ'sのメンバーと合流したい
3:今のところは迷わないために本能字学園へ向かう
4:エリザベス変身セットを着てみる…?
[備考]
※参戦時期は2期1話の第二回ラブライブ開催を知る前。
【エリザベス変身セット@銀魂】
絢瀬絵里に支給。エリザベスになりきれる変身セット。
エリザベスの着ぐるみとプラカードがセットで支給されている。
ただし、『このアイテムを初めて出した者』の髪型が着ぐるみにコピーされるので、
どちらかといえば蓮蓬篇(アニメ232〜236話)での蓮蓬族変身セットと言った方が想像しやすい。
ホテルにて絵里が黒カードから始めて出したため、エリザベスが金髪のポニーテールの髪型をしている外見になっている。
実際に着用してどのような効果があるのかは後続の書き手様にお任せします。
特に何も起こらないかもしれません。
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以上で投下を終了します
何かありましたら指摘をお願いします
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投下乙です
殺し合いの中でもこの二人は見てると和むコンビですね
でも本能字学園近くには神威がいるのがコワイ…銀さん何か武器持ってないのか
こちらも投下します
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猫っぽい少女と見慣れない格闘術を使う女との短い闘いの後、ジャック・ハンマーはあてどなく彷徨っていた。
求めるのは力。忌まわしき父、範馬勇次郎を打倒するための強い力を欲して、彼は新たな犠牲者を探す。
やがてその目が捉えたのは、猫っぽい少女と同年代くらいの二人の少女だった。
短髪と長髪。短髪の少女は歩きながら何かを食べているようだった。
「……」
瞬時に呼吸を整えたジャックは音もなく走り出す。
一歩、二歩、三歩。蹴り足が地面を叩くたび、土が掘り返される。
瞬時にトップスピードに到達した鋼の如き肉体は、軽自動車に匹敵するほどの衝撃力を内包して少女たちに迫る。
「え?」
10メートルに近く迫ったところで、足音を聞きつけた少女たちが振り返る。
だが、遅い。
その頃にはジャックはすでに3メートルの距離。
硬く握りしめた拳を大きく背中側に振り上げる。
「こんばんわ! 私ばっ」
地面を這うような超低空から、天を目掛けて打ち上げられるアッパーカット。
狙ったのは短髪――満艦飾マコ。飲食中の彼女はすぐには反応できないと見越してのことだ。
疾走の勢いを集約させたアッパーがマコのアゴに着弾し、その小さな身体を10メートル近くまで跳ね上げた。
長髪の少女――南ことりの背後に、ドシャッ、とマコが頭から墜落する。
「……え?」
ことりが振り返った瞬間、マコが天にすっ飛んでいった。
その場には代わりに大男が立っている。筋肉の塊。
「ま、マコちゃん?」
うつぶせのままどくどく血を流すマコにすがりつくことり。
ジャックはことりが状況を理解する前に、彼女の顔にキックを放った。
「逃げで! ごどりぢゃん!」
-
その瞬間、飛び起きたマコがジャックのキックを顔面で受け止めた。
ジャックが渾身の力を込めても、マコはびくともしない。全身でジャックの足にしがみつき、自由を奪う。
「マコちゃん!?」
「逃げで! ごごはばたしにばがぜて!」
ジャックのアッパーで口内を損傷し、うまく発声できないながらもマコはことりを逃がそうとする。
彼女がまとう二つ星極制服は、マコの身体能力を極限まで高めていた。
ホッキョクグマさえ素手で撲殺するジャックの一撃に耐えられるほどに。
しかし身体能力がいくら上昇しようと、マコは戦士でもグラップラーでもない。
生粋の闘争者、ジャックを相手に闘えるレベルではないのだ。
「……」
ジャックは無言で足を振り上げる。
そして、跳躍。回転しながら、自ら地面へと足を叩きつけた。
だがジャックの足にダメージはない。衝撃はすべて、しがみついたマコが吸収したからだ。
剥がれ落ちたマコの胸に馬乗りになって、ジャックは両拳を握る。
ドゴン、と爆撃のように鈍い音が響く。ジャックが手を戻すとにちゃりと血の糸が引かれる。
そして、マコの顔面めがけて嵐のような乱打を放ち始めた。
「ごっ、ごどりぢゃ、にっ、にげっ」
ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!
「マコちゃん――!」
「ば、ばだじならだいじょぶぶだがらっ」
ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!
「りゅ、りゅぶこぢゃんをっ、ざがじてっ」
ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!
「ぶっ、ごどりぢゃ、ごどっ」
ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!
「ま、マコちゃん……」
ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!
ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!
ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!
「…………ご、ど、り、ぢゃ…………」
-
ゆらりとジャックがことりに視線を投げる。
その足元ではマコが、もう動かなくなっていた。
「……ひっ!」
次はお前だと、ジャックの視線は雄弁に語っていた。
その圧力に耐え切れず、ことりは走り出す。
マコの言葉通り、マコを見捨て、自分だけで。
「はっ、はっ、はっ、はあっ……」
後ろからジャックが追いかけてくるかもしれない。
その恐怖はことりが足を止めない理由には十分すぎた。
やがてE-1の橋に差し掛かったことりは、橋の向こうからこちらへと向かってくる人影を見つけた。
「……希ちゃん!?」
「ことりちゃん? ことりちゃんなん!?」
現れたのは、音ノ木坂学院三年生、ことりと同じμ'sのメンバーである東條希だった。
駆け寄った二人は仲間を見つけた喜びに顔をほころばせ、同時に
「希ちゃん!」
「ことりちゃん、あかん! はよ逃げんと、あいつが!」
ことりが今まで見たこともないような緊迫した顔で希が叫んだ。
どういうことか聞き返す前に、希の背後に痩せた老人のような人物――キャスターが現れる。
同時に、ことりの背後にもぐったりとしたマコを片手で引きずったジャックが追いついた。
「これはこれは、花のように愛らしい少女がもうひとりとは」
「……」
腐った死体、ゾンビを引き連れたキャスターがゆっくりと希とことりに迫る。
と、ジャックはその場にいる全員を敵と見定めたか、瀕死のマコを放り出してゆっくりとファイティングポーズを取った。
「ことりちゃん、逃げるよ。あいつはあかん、ウチらを殺す気や!」
「あ、あっちの人も、マコちゃんを……そうだ、希ちゃん、マコちゃんを助けないと!」
「何言うとるん!? あの娘はもうあかん、置いてくしかない。ウチらだけで逃げんと!」
「そっちこそ何言ってるの希ちゃん! マコちゃんまだ生きてるんだよ!? 私を助けるために怪我したのに!」
「そのためにことりちゃんまで危ない目に遭ったら意味ないんよ! そんなんあの娘だって望まんやろ!」
-
マコに手をのばそうとすることりを押し留めながら、希は黒いカードを取り出した。
先ほど殺害した神代小蒔から奪ったもの。
「出てきてや、ヴィマーナ!」
一瞬の閃光の後、希の前に小型の船が現れる。金色のヨットに巨大な妖精の羽がくっついたようなフォルム。
宝具ヴィマーナ。英雄王ギルガメッシュの所有する、空中戦艦である。
キャスターに手首を握り潰された痛みと恐怖で忘れていたが、ことりと会えたことで冷静になった希はこの宝具の存在も思い出した。
ヴィマーナは思考するだけで動かせて、空を飛べる。
機能を制限されたため本来の大きさよりやや小さくなっているが、少なくとも希とことりの二人が乗るだけの大きさはある。
希はことりの手を引きヴィマーナに乗り込んだ。
「さ、逃げるんよことりちゃん!」
「駄目だよ希ちゃん! マコちゃんを置いていけない!」
「いつまでそんなこと言うとるん!? あの娘はμ'sやないんよ!」
「μ'sじゃなかったら見捨ててもいいって言うの!?」
反射的にことりが叫んだ言葉に、希は息を詰まらせた。
希の脳裏に浮かんだのは、このヴィマーナの本来の持ち主――先ほど殺した神代小蒔の顔。
希はこの場所にいる人間を「μ's」と「それ以外」に区別して考えていた。
μ'sでなければ死んでもいい、あるいは殺さないといけない。
そんな思想は、ことりには到底受け入れられるものではない。
「ち、違う……ウチだって、ほんとはそんなこと……」
「だったら、希ちゃん!」
「あなたはノゾミ、というのですか。聞くに、どうやらあなた方は仲睦まじいご様子」
二人の会話に、キャスターが割り込んだ。
「ぜひ、この娘も混ぜてあげてくれませんか?」
「なっ……こ、小蒔、ちゃん……?」
そう言ってキャスターが自分の後ろから連れてきたのは、ゾンビ。
そのゾンビを目にした瞬間、希は息を詰まらせる。
ゾンビの生前の名は、神代小蒔といった。
「この娘はあなたを追いかける途中で偶然見かけましてね。可哀想に、心臓をこの光の剣で貫かれて果てていたのです。
うら若き乙女があのような寂しい墓所に打ち捨てられているのも忍びないので、こうして連れてきたのですよ」
キャスターは光の剣――ビームサーベルを弄びながら、楽しげに希へと視線を投げる。
希は激しく身を震わせていた。汗が次から次へと流れ落ち、目が激しく泳いでいる。
「希ちゃん、どうしたの!?」
「な、なんでもあらへんよ。ウチはあんな娘知らん!」
「鋼をも容易く両断するこの光の剣……この少女は痛みを感じることもなく天に召されたのでしょう。
ああ、そういえばこの光の剣はノゾミ、あなたから譲り受けたのでしたねえ。
迷える子羊を速やかに主の御下へと送り届けるその敬虔さを、私は賞賛いたしますよ」
「……え?」
-
ことりの脳裏で、震える希とキャスターの言葉が合わさってひとつの事実を構成した。
希が、あのビームサーベルで、胸の大きな少女の心臓を刺した。
その結果、あの娘は――死んだ。希が殺した。
「嘘や! ウチはなんも関係ない! あんたがやったんやろ!」
「ご謙遜めされるな、気高き神の使徒ノゾミ。あなたは聖処女と同じく衆中を救済する勤めを果たしたまで。
誰がその罪を責められようか、いや罪などありますまい! 死を以って人心を救い穢れを浄化したあなたこそ、まさに聖女と呼ぶに相応しい!」
「違う! 違う! ウチやない! ウチやない! 信じてことりちゃん、ウチはなんもしてないんよ!」
詩を吟ずるように希の罪を暴くキャスターと、狼狽もあらわにことりにすがりつく希。
ジャックはマコから学ランと学帽、高下駄を剥ぎ取りつつ、興味もなさそうにそれを眺めていた。
己の打撃に数十秒耐えたタフネスの秘密はこの学ラン一式にあると推測したジャックは、まずこれを奪うことで戦力の底上げを測った。
「信じて! ウチは何もしてないんよ!」
「希ちゃん、さっき小蒔ちゃんって……それ、あの娘の名前じゃないの?」
「知らん! ウチそんなこと言ってない! あんな娘知らんて!」
希は必死に小蒔など知らない、自分とは関係ないと繰り返す。
その悲痛な叫びがまるで天上の調べであるかのように、キャスターはうっとりを目を細めて聞き入っていた。
「……聞くに耐えんな」
必死にことりに縋りつく希と、どこか感情の失せた瞳で希を見返すことり。
その二人の前にジャックは極制服を剥いだマコを放り出した。
ビクン、ビクンと痙攣するマコ。原型を留めないほど破壊された顔に、かつての快活な笑みはもうない。
しかし――生きている。まだ生きているのだ。
「マコちゃん!」
ことりは、希の手を振り払ってヴィマーナから飛び降り、マコにすがりついた。
とっさに追いかけようとした希だが、すぐ近くまで迫ってきていた小蒔のゾンビを目にした途端足がすくんでしまう。
血を流しすぎ、ぞっとするほど冷たくなったマコの手を、ことりは優しく包み込んだ。
「……ご、ど、り、ぢゃん……?」
「うん、そうだよことりだよ! しっかりしてマコちゃん!」
「よがっだ……ぶじだっだんば……」
「うん、うん! 私は大丈夫だから! だからマコちゃんも死なないで! お願い、死なないでよぉ!」
「よが……だ……わだじも、りゅうごぢゃんみた……い、に……だれがを……まも、れ……」
-
マコの言葉が最後まで紡がれることはなかった。
命の火が消えようとするマコを必死で揺さぶることりは、自分の後ろにジャックが立ったことにも気づかない。
ジャックが手を伸ばし、ことりの首を締め上げる。
片手で宙吊りにされたことりはバタバタを足を振るが、ジャックの豪腕はびくともしない。
「ことりちゃん!」
「ぎぃ……あ……!」
「死にたくなければ、黒いカードを出せ」
ヴィマーナに乗った希はなんとかことりを助けようとするが、小蒔ゾンビがヴィマーナに登ってこようとするため中々降りることができない。
ことりは震えながらも腕輪から黒いカードを取り出し、ジャックへと差し出した。
ジャックがカードを受け取るためやや力をゆるめた。
その瞬間、ことりは大きく腕を振り、上方に滞空している希へと黒いカードを放り投げた。
希はことりが投げたカードを受け取る。ジャックは自分が謀られたことに気づき、無言で拳を固めた。
「……■■て! 希ぢゃんんっっ!!」
ことりが何と言ったか、希には聞き取れなかった。ジャックに首を絞められて声がかすれていたのだ。
そして、その先を知ることはもうできない。ジャックがことりの腹部に強烈なパンチを打ち込んだためだ。
ことりは、動かなくなった。
もう動かないマコの隣に、落とされた。
「あ……ああ……」
希は自らの頭を掻きむしり、嗚咽する。
ことりは最後になんと言ったのか。あれは、助けて、と言ったのではないのか?
「違う……こんなん、ウチのせいやない……ああ、ああああ……ああああああ!!」
希はヴィマーナに命じた。一刻も早くここから離れろと。
黄金の空中戦艦は瞬時に飛び去っていく。
キャスターは橋の上からそれを眺めていた。
「ふうむ、中々甘美な悲劇でした。では心優しき少女の灯火が消えぬ内に、収穫と参りますか」
キャスターは瀕死のことりとマコの側に屈み込む。
いずれランサーの首を刎ね聖処女の元に推参する時のため、力を蓄えておく必要がある。
繭と名乗った少女は、死ぬと魂は白いカードに閉じ込められると言った。
ではサーヴァントが魂を喰らった場合、白いカードは一体どうなるのか?
それを確かめるためと、魔力補給という実益を兼ねて、キャスターは死にゆくふたりの魂を喰らい始めた。
「しかしあの男……バーサーカーの一種でしょうか……あの身体能力は……」
そう呟いたキャスターの周囲にジャックはいない。
ヴィマーナが発進した瞬間、ジャックは助走もなしに10メートル近くジャンプしヴィマーナの船底に取り付いていたのだった。
-
ガン、ガンとジャックはヴィマーナを殴りつける。
インドの神話に名を残す宝具は、いかに鍛えているとはいえ人間の打撃などでは破壊できるはずもない。
しかしそれを操る希の精神に、ジャックが殴りつける音と衝撃は純粋な恐怖として刻み込まれていく。
希の脳裏に、ことりを置いて逃げたことへの罪悪感は今はない。
目の前にジャックという具体的な脅威がある以上、本能が生存を求めてそれ以外の思考をシャットアウトしているのだった。
「ひっ……! なんで、なんで落ちんのや! もっと、もっとスピード出さな……!」
錐揉み回転、バレルロール、宙返り。
あらゆる機動を行ってもなお、ジャックをヴィマーナから振り落とすことができない。
ヴィマーナで飛んでいられる時間は無限ではない。もたもたしていると空でヴィマーナが黒カードに戻り、希は墜落死してしまう。
もう数十分はこうして飛んでいる。操縦席に這い上がろうとするジャックを、高速運動で何とか押し留めている状態だ。
「どんだけ速く飛んでも落ちへん……そやったらもう、こうするしかない……!」
覚悟を決めて、希はヴィマーナをカードに戻す。
一瞬でヴィマーナの巨大なシルエットが消える。手応えをなくしたジャックともども、希は落ちていく。
眼下に広がるのは海未。この高度からでは、水面に叩きつけられた瞬間に死んでしまうだろう。
ジャックと目が合う。昆虫のように無感情なジャックの瞳から逃げるように、希は再度ヴィマーナを展開した。
「……死ぬのは、あんただけや……!」
希は全速でヴィマーナに離脱を命じる。
数秒後、遠くからバシャーンと水に落ちる音が聞こえた。
あれで死んだのならいいが、と希はようやく一息をつき、目についた建物の屋上にヴィマーナを着陸させた。
数分もしない内にヴィマーナの限界時間が来て、勝手にカードに戻ってしまう。
「助かった……ん……?」
全身の力が抜け、へたり込む。
命の危機から解放されると、とたんに希を罪悪感が襲う。
神代小蒔を殺した罪悪感、ではない。南ことりを見捨てて逃げ出した、ということへの罪悪感だ。
ジャックがついてきたとはいえ、あの場にはまだキャスターがいた。
たとえことりがまだ生きていたとしても、もう――
「あ……」
だが幸いというべきか、その事実を脳が認識する前に希の意識は薄れていった。
右手首の粉砕骨折、過度の恐怖、ゾンビとなった神代小蒔、そして南ことりの■――
もろもろのストレスは、希のキャパシティを完全にオーバーし、気を失わせたのだった。
【南ことり@ラブライブ! 死亡】
【満艦飾マコ@キルラキル 死亡】
-
【C-7/DIOの館・屋上/一日目・黎明】
【東條希@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大)、右手首から先を粉砕骨折、キャスターとジャックへの強い恐怖、気絶
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:黒カード:スパウザー@銀魂、腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚、ヴィマーナ(6時間使用不能)、不明支給品0〜2枚(ことりの分、未確認)
[思考・行動]
基本:μ'sのために……
0:???
1:ことりちゃんは……
2:μ'sのメンバーには会いたくない
[備考]
※参戦時期は1期終了後。2期開始前。
「ヴィマーナ」@Fate/zero
神代小蒔に支給。
英雄王ギルガメッシュの保有する宝具。自在に空を駆ける空中戦艦だが、武装は搭載されていない。
1時間飛ぶと、6時間のインターバルを置かなければ再度の使用は不可能。
【E-7/海上/一日目・黎明】
【ジャック・ハンマー@グラップラー刃牙】
[状態]:健康
[服装]:ラフ
[装備]:喧嘩部特化型二つ星極制服
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:刻印虫@Fate/Zeroが入った瓶(残4匹)
[思考・行動]
基本方針:勇次郎を倒す
1:出会った人間を殺害し、カードを奪う
2:勇次郎を探す
[備考]
※参戦時期は少なくともマックシング前。
※喧嘩部特化型二つ星極制服は制限により燃費が悪化しています。
戦闘になった場合補給無しだと数分が限度だと思われます
【E-1/橋/一日目・黎明】
【キャスター@Fate/Zero】
[状態]:健康、魔力300%チャージ
[装備]:ビームサーベル@銀魂、リタの魔導書@神撃のバハムート GENESIS、神代小蒔のゾンビ
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:生命繊維の糸束@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:ジャンヌ・ダルクと再会する。
1:生贄を確保しつつ、自身の宝具を探す
2:名簿にはセイバー以外にもジャンヌの名がある……?
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバー、ランサーと戦った後。
※ジャック・ハンマーをバーサーカーかあるいは他のサーヴァントかと疑っています。
※神代小蒔の遺体をゾンビ化しました。
※南ことり、満艦飾マコの遺体がそばにあります。
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投下終了です
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お二人とも投下乙です
かしこくもかわいくもないエリーチカはただの絵里ザベス
賢くないチカにエリザベス人形着せるとはw
絶対可愛いチカ
LOVELESS WORLD
うわぁぁぁマコが死んじまったぁぁ。
ヴィマーナは予想外だったな。殴りつけるジャックが不覚にも笑ってしまった
自分も投下します
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陽の欠片も見当たらない時間帯。
鉄をぶつけたような大きな音が街中に響いていた。発生源は暗闇を照らすように白い服装をして線路の上を走る女。
体のラインを隠そうともしない服を着た女は、踏み抜く足音を気にもせず西へ向かっている。
西へ、西へ。足取りに迷いはなく、かつ尋常ではない速度で闇を駆ける。
前髪に入った赤いメッシュ。髪を切るのが面倒なのか肩にかかるまで伸ばしきった黒髪。端正とも言えるだろう顔はひたすら前を見つめていた。
女を表す全体的な象徴は白。白い生地に青い装飾が入った服。穢れなき純白……とは全く別の、襟の眼の模様が一層異質さを引き立たせている。
下には服と同じ装飾のブーツ。それを目視出来ない程の速さで交互に動かしており、女が去った後の線路には何事もなかったように残らない。
その姿は日常とはかけ離れた異常というべき存在だと誰もが気づいてしまう。
獰猛な表情を隠そうともせず周囲に自分の存在を主張させているのは一体何の為であるのか。
女と同じ道に踏み込んでいる者ならば、殺気をばら撒いている事が分かっていたであろう。
纏流子は力強く足を踏み抜き、目的地である駅へ進む。恐らく、人の集まるであろう駅へ殺戮の手を伸ばすために、純白の服を血に染めようと更に加速する。
そこには神衣鮮血を着ていた彼女は居らず神衣純血を纏った纏流子がいた。
羅業と針目縫の策略によって神衣純血を着させられた纏流子が、繭による主催のゲームに否応なしに巻き込まれてから一時間と少し。人が消えた街を彷徨い彼女はここまで参加者の誰とも会わなかった。
苛立ちが彼女を支配していたがある事を思いつき、こうして電車を使わずに直接線路の上を走っていた。
理由とは“広い舞台を闇雲に探すより移動手段として駅を利用する者は多いだろう” という判断のもとである。
では、進行上に電車が来てしまったらどうするのか。回答は単純で“電車ごと叩き潰す”
どう考えても不可能と思えるが神衣純血の力を持ってすれば、途端に可能となる。
道を遮る者は何であろうと破壊して取り除く。それが纏流子のバトル・コロシアムでの指針。
後、数分もすれば駅が見えてくるであろうか。参加者がいれば、そこで繰り広げるのは一方的な蹂躙に他ならない。
生命繊維を限界まで引き出した纏流子は何者もを凌駕する。体の中から溢れ出る力が彼女を包み込み、神衣鮮血を纏っていた頃より圧倒的な実力を持つ。
故に、敗北などあり得ないことは一寸も考えず、纏流子は行く。
そして、現在地はC-6の駅のホーム近く。近年では珍しい一両編成の鉄道。
ただ真っ直ぐに線路上を進んでいた流子の視界に映ったものは遠くに微かに見える列車後部。
追いかけるか、と加速の姿勢を取ろうとした瞬間に改札口より先から何かを叩くような音が聞こえてきた。
数秒だけどちらを取るか迷ったが、改札口の先の方で女の声が続いた事によってそちらを選択した。
列車の方は移動手段に使う者がいるというだけの情報で満足する。これで纏流子の狩場は広がり、スムーズにこの椅子取りゲームを制する事が可能となったのだ。
さて、方針が決まったのならすぐに行動を起こさねばならない。
薄暗いホームに降りて狭い改札口を抜けると夜の闇が纏流子を迎える。
辺りを見回すとすぐに音の発生源であろうと思われる者を見つけた。
ーーそれはベンチに寝転がっている少女の姿だった。
◇
ゲームの宣言から時計の短針が一つ進んだ頃。バス停前の駅の黄色いベンチに一人の少女がいた。
大きめの真っ赤なリボン。黒色の線が入った白色の襟に襟濃紺のスプライトスカート。クルリとした丸い目。保護欲を生じさせる小さな体躯。
茶色の髪は高く左右に縛ってある。が、癖っ毛は纏まりきれていないのか縛った先先から飛び出ていた。
柄の違うニーソックスとスカートの間から白い肌が覗かれる。だらりと力を抜いて座っている姿は無防備という他はない。
身長と容姿は一般的から外れているやも知れないが、それを除けばなんら特別なことはない学生の少女。
少女の名前は入巣蒔菜という。
-
ばたばた、そんな音が鳴るような動作で入巣蒔菜は足を揺らす。
その姿は非常に小さな明かりによってぼんやりと影をなしている。深夜の駅で少女がベンチに一人。見る人が見れば怪奇の一旦として広まるだろうか。もしくは家出少女か。
お家に帰りたいのよ。呟き、足を振る行為に疲れたのかベンチの横になる。それもまた無防備極まりなかったのだが理解している様子はない。
時が止まったかのような静けさの中は睡眠に最適なのだがそんな場合ではなかった。鉛のような動作で直ぐに起き上がった彼女は、うーん、と難しい顔をする。
『少女』の説明は最後まで聞けなかったが、その意味は正しく自分でも理解は出来た。ここは殺し合いのための場所で参加者が呼ばれたのは人と人を争わせるのが目的。
彼らを連れてきた“方法” など知る由もなく、考えたところで答えは出ないので保留。
バトル・ロワイアル。たくさんの人間を集め衝突させる。最後の一人になった者には何でも願いを叶えるという。
しかし、だ。彼女がその最後の一人になることは恐らくないだろう。理由なんて簡単 “なんの力のない自分が殺し合いで生き残れるはずが無い”
例えば今、ベンチに座っている彼女にゲームを肯定する参加者が襲いかかってきたら、なす術もなく命は尽きてしまうかもしれない。
それこそ障子紙のように……とまではいかないが、どちらにせよ扱い慣れた人物に銃など向けられようものなら、素人では対応など出来はしない。
確かに入巣蒔菜は風見雄二から護身術の心得を教えて貰ったが、あくまでも身を守る程度でしかないことは自身でも分かっていた。
無力な存在。ネギを背負った鴨。まさに彼女はその言葉を体現するに相応しい。
入巣蒔菜はベンチに腰を預けて重たく息を吐く。
『少女』は他にも言っていたような気がするが眠かったのでよく覚えていない。
というか、初めの方で寝てしまっていた。白のカード説明までの記憶はあるのだが、それもうろ覚えである。
首を動かし視界に映ったのは腕に嵌められている腕輪。白のマスターカードは基本とする情報を埋め込んだもの。
試しに“明るくなれ” と言ったところ、腕輪からゆっくりと静かに光が湧き出した。
暗かった周囲が闇を食い、見るも間に白く染まっていく。光に虫が寄ってくるように、人も引き寄せられる事など知れず発光を続ける。
驚きがしばらく続きドキドキと鼓動が鳴る。年頃ゆえ何にでも興味を持つ彼女は止まらない。
ベンチの上に置いてあった赤のカードを手に取って利き手で腕輪を擦り付け願う。
「チュパカブラス出てこい、チュパカブラス出てこい、チュパカブラス出てこい」
赤いカードから出てくるのはチュパカブラスではなく食べ物で、腕輪を擦る必要もないのだが勘違いしているのか気にせず続ける。
どうやらルールを聞いていなかったようで得た知識に穴があるようだった。
彼女が呼び出されたのはお昼寝の最中だった。眠くて眠くて仕方のない中、くどくどと話を聞かされれば逃げるように意識を手放してしまうことは仕方のないこと。
今も半目で頭を揺らしながらも起きていようと頑張っている。その努力をここからの移動に使う思考は持ってはいなかった。
そろそろ腕が疲れたのか擦る手を止めると、一言。
「壊れているのかもしれないな」
勿論、カードは壊れてなどいないのだが彼女の中では決定事項らしい。不満そうな顔をしてベンチを叩く。
「これでは残りのカードはゴミか」
入巣蒔菜は手元にあるカードを捨てようとした瞬間止まった。
ひょっとしたら赤いカードだけが壊れているかもしれない。実際に白いカードは壊れておらず明かりが付いて起動した。ならば可能性はある、と考える。
ならこれはもういらん。そう言って、不要になった赤いカードは捨て、黒いカードを持って腕輪を擦り願う。
-
「ネッシー出てぉこい、ネッシー出てぉこい、ネッシー出てぉこい」
アレンジを加えたつもりなのかゆっくりと言葉を出していく。
ネッシーは出てこなかったが入巣蒔菜の前には見知った物があった。熊にも犬にも見える煌びやかな装飾を施されたそれはポーチと呼ばれる小型のかばん。
ポーチには各々の顔のパーツをキラキラとしたラインストーンで貼り付けてある。目や鼻の周りを囲むように小粒のピンク。耳にも大きめのピンクのラインストーン。
口元に取り付けた舌。包帯を巻いたような白い生地。チャックの開け閉めの場所には牙のようなもの。
その正体とは、アルゼンチン北東部に生息する後ろ向きに走るという別名プッシュドッグことヤブイヌのポーチである。
不可思議な現象に彼女は目を白黒とさせるが、非常に眠く細かいことは気にしなかった。
ともあれ、愛用していたポーチが戻ってきた嬉しさは眠気を多少は取ることが出来たのか、バタバタと足を振る。
「なんだこりゃ」
浮かれ喜んでいた彼女は、そこでポーチの横にもう一つ何かが出ていたことに気がつく。
傘である。正確に言うならば紅紫色の日傘。地面に突き刺す大型の物ではなく、雨を避ける用途に使う物でもない。なの通り、日を遮るためにある傘。
持ち上げようと手にするがほんの少ししか浮き上がらない。
重たいんじゃ、ぼけぇ。罵る声も力は出ず傘を手放す。握っていた手は赤く染まっていた。
ポーチを肩に掛け、さて、この役立たずの傘はどうしてやろうかと悩む彼女だがそこで限界が来た。
「仕方ない。ヤブイヌだけで我慢してやるか、ふぁ〜〜」
やはり眠気には逆らえないのか入巣蒔菜は両腕を下げ再度ベンチに横になる。
年端もいかない少女ともなれば明日に備え布団に入って寝る深夜帯。
チクチクとした芝生でも彼女は良かったのだが、生憎とここには彩りのない灰色しかない。
この場を移動しないのは、危機感の意識のなさと体が眠りを求めていてとても重たいから。
じゃあ、お休み。そんな言葉を残して意識は闇に落ちていくーー
寸前、影が出来た。
「いよぅ」
非常燈の明かりを遮る形で彼女の視界に現れたのは少女。
飛びっきりの笑顔で入巣蒔菜に死の宣告をしにやってきた白い悪魔。
◇
突然に現れた少女は真上から入巣蒔菜を覗き込んでいた。
白い服装をしており布で隠している面積の方が多いのだが、肌色の露出部分がそれを裏返している。
表情は恥ずかしがっている様子はないのか笑みを浮かべながら入巣蒔菜を見ている。
まぁ、趣味は人それぞれだよねぇ。彼女は閉じていく意識の中で思い、瞼は下りていくーー
「寝んじゃねぇ!」
「ひゃあっ」
大声を出され飛び上がり、そのままベンチから転がり落ちて冷たいアスファルトの床を回る。
ぐるぐると、列車と化した入巣蒔菜はやがて白い何かに止められる。ちらりと見上げると、そこには黒い笑みから一転、眉を寄せて面倒そうな表情をした白い少女。
「もぅ」
このまま返事しないでいたら蹴られるかと思ったのか、蚊のような小さい声でしぶしぶ仕方なしといった具合に入巣蒔菜は少女に声をかける。
輪にかけて人見知りが激しい彼女は、普段の陽気さとはうってかわって他者に対して表現を著しく低下させる。
この場に限ればただ眠いから、という理由からでもあるかもしれない。
兎も角、少女の問いに対して反応して答えた。振り上げようとした足を止めて纏流子は大きく舌打ちをする。
「おいおい、こんな馬鹿みたいなやつらばかりなのかよ」
とんだ期待外れじゃねぇか、と纏流子は言う。
期待外れの部分は何を言っているのか分からなかったが、馬鹿という言葉の意味は入巣蒔菜には理解出来た。
慣れた友人ならば彼女は口悪く言い返せたものの、相手は初見の人。ので、ベンチから落ちたまま立ち上がらず、顔を地面に伏して入巣蒔菜は動かず。
それに人が気持ちよく寝ようとしているところ、わざわざ耳元で大声を出していた事から察するにきっと悪意ある人で、
仲良くなれそうもなく服の趣味も合いそうにない。と纏流子に対する対応を彼女は決めていく。
「ま、それはそれで楽でいいか。モブが何人掛かろうと構いやしねぇ。それだけ優勝も近くなるっていうなら歓迎するぜ。で、だ。まずはカードを全てよこせ」
-
横暴にして上から目線。初めて会う相手にこうも威圧しているのは、ここがバトル・ロワイヤルならば自然なことかもしれない。
カードは参加者にとって生命線と言っても過言ではない物であるのだが、入巣蒔菜にとっては
不要な物でしかなく元々捨ててしまったカードの所有権は誰の物でもなかった。
赤のカードは壊れて、黒のカードは持てやしない傘一つと既に所持済みのヤブイヌポーチ。青のカードに未練はあったが、逆らうと大変な事になりそうなので我慢。
さっきまでいたベンチに置いてあるカードと地面に落ちている赤いカードを指す。
もちろん、顔を上げないまま。
簡単に手放すことに纏流子は首を傾げたが、どうでもいいかとベンチに向かいカードを拾う。
彼女としては別に殺してから奪っても良かったのだが(というか、そうするつもりだった)少女を見て気がそれてしまった。
赤、青、黒。合計22枚のカードを手にして、煮えたぎっていた体の中の熱が冷めていくのを感じる。
それは鮮血を着た纏流子だった頃の戦いの記憶が微かにだが残っているのかもしれない。
「これは傘、か。こんなもんが支給品かよ。ついてねぇな」
カードと同じベンチに置いてある日傘を見て纏流子は同情するような声を出す。
「こんなんで勝てると思ってんのか。あたしを殺すつもりなら、少なくともこの世にある全ての武器でも持ってこなくちゃ話にならねぇ」
日傘を手に取る事はなく入巣蒔菜を見る。
「これはありがたく頂いていく。それと、ここに来てから他の人間と出会ったか」
ふるふる。地面に顔を付けたままであるので、入巣蒔菜は体ごと否定の意味を込めて振る。
彼女はここで目を覚ましてからというもの、纏流子と出会うまではずっとベンチの上にいた。
「そうかよ、じゃあな」
唐突にーーいや、纏流子にとってカードも情報も得るものは得た。ならばもう入巣蒔菜に用はなく生かしておく理由などない。
本来なら流子の顔など見ることもなく命を散らしていた筈なのだ。それが何の気まぐれかここまで生きている。
けどそれももう終わり。時間切れ。ゲームオーバー。短い間だったが鼓動が鳴り自由に体が動かせる期間を伸ばせた。もっとも、最初から最後まで彼女は動かなかったのだが。
体に風穴を開けようと纏流子は入巣蒔菜に足を伸ばしていく。そうなれば、彼女はこのまま自分が死んだと気がつくこともなく生き絶えてしまうことだろう。
迷いなど欠片もなく一息で踏み抜こうとしてーー
後方に無視のできない存在を感じて振り返った。
「ーーああ、もう始まっていたのか。俺も混ぜてほしいな」
そこには、
傭兵三大部族の一つ、夜兎族の一人である男ーー神威がいた。
◇
-
殺気を出している者が目の前にいる。ならば、やる事と言ったら一つしかない。
口火を切ったのはベンチにある日傘を手に取り神威に目掛けて投げた流子だった。
日傘は弾丸よりも早い速度を伴って迫る。常人ならば避けることなど不可能。『プロ』であっても反応など出来ず肉塊と化す。
戦えるレベルにまで持ち込むには、鬼龍院皐月のような天才か針目縫のような化物だけ。
傘は男を貫きアスファルトすら砕け散ることを確信してーー裏切られた。
神衣純血によって身体能力が飛躍的に上昇した流子が見たのは、小細工などなしでそのまま傘を受け止めた男の姿。挑発のつもりなのか日傘を手に笑みを浮かべて飄々としている。
肉体を一つも散らすことはなく、たった今投げた日傘を持って肩に担いでいたのだ。
顔が歪んでいくのが流子には分かった。少しは遊べる相手が出来たからか。胸に燻る炎は止まることをしらない。
今度はベンチの足を持ち再度投げつける。先ほどとは違うのはベンチを追いかけるように、後ろについて疾走していること。
今度は受け止めることはしないのか、一歩後ろに跳躍して傘を流子に構える。
それを向けられた瞬間、流子の頭の中に警戒のアラームが鳴り、アスファルトを思い切り横に蹴って進路変更。
瞬間、火花が散る。傘の先端から弾丸が飛び出し先程まで流子がいた場所を通り抜ける。轟音が響きベンチが砕け散る。バス停前に黄色いプラスチックの破片が降り注ぐ。
倒した勢いを止めないまま、弾丸の射線から守るためかバス停前から駅前入り口近くの駐車場に移動する。
白線に沿って止められた自動車が流子の姿を隠し、続く形で神威も入っていく。駐車場のスペースは然程広くはない。接触は時間の問題だった。
大型トラックの陰から奇襲を仕掛けたのは流子。硬く拳を握りしめ凶拳が振るわれる。大きく体を反らして攻撃を避けた神威は、一足跳びでトラックの上に立ち傘を構える。
二度目の弾丸が放たれた。しかし流子を狙ってのものではない。逃げるルートを遮るように弾はアスファルトに当たり跳ね返っていく。
それを何度か繰り返し、駐車場から飛び出した流子に神威は深い笑みを浮かべーー吹き飛ばされた。
神威の視界から外れ次第流子はすぐにUターンをして、迅速な動きで行動の選択を与えずトラックを蹴り飛ばしたのだ。
宙を舞うトラック。崩れる足場。これには神威も予想外だったのか、空へ無防備に体を晒してしまう。
絶好のチャンス。足の筋肉を収縮させ流子は空へ飛ぶ。蹴り上げたトラックを一度足場にして加速し、より確実に仕留めるため牙を剥く。
右の拳が胴体を貫かんと放たれる。が、左手で弾かれる。右がダメなら左の拳で心臓を穿つ。が、右手でいなされる。
凶器となった左足が真っ二つにせんと走る。が、空で思うように身動きが取れないにも関わらず、器用に体を曲げ避けられる。
追い討ちを掛けるように右足。が、同じように避けられる。ならばこのスピードに乗ったまま頭をかち割る。が、両足に首を取られ足場を与えてしまう
反撃とばかりにナイフよりも鋭い手刀が流子に迫るが腕を掴まれる。握りつぶそうとされる前に、ゼロ距離での傘による銃の乱射は間に合わない。
神威の手を掴み流子が思い切り投げ飛ばした為だ。きっちりと首を締めていたにも関わらず、強引な力によって振りほどかれた。
上空十メートル付近での攻防は共に無傷。だが、落下していく二人の目に殺意の色は消えてはいない。
トラックが駐車場のアスファルトに激突して遠くにまで響き渡る轟音が鳴る。その結果は当然のように他の車も巻き込んでいた。
直撃を受けてもはや人が乗ることなど出来ない小型車。周辺に散らばる鉄屑はバイクの部品だろうか。
車の窓ガラスが大量に割れた影響か、素足で歩くことなど出来ようもないガラスの破片がそこらにある。
鈍く高い音が鳴った。二人の着地の音だった。お互いに花が開くような笑顔をしていた。決して彩り豊かな花を咲かすとは限らないが。
-
「いけすかねぇな、その顔」
流子は呟く。返事を期待してのものではない。
「俺の流儀なんだ。これから死んでいく者に対して最後は笑顔でーー」
言葉は最後まで続かなかった。両者は立っていた車をバネにして同時に踏み込む。
乾いた音と共に二人の�茲に拳が叩き込まれる。どちらも口元は三日月に曲がっていた。破壊の衝動を抑えきれないのか、今も相手の顔をミンチにしようと力を入れている。
今この時、この舞台でどこまでも自由である二人は、殺し合いを加速させようと更に力を込める。
仕掛けたのは神威。拳を引き、片手に持つ傘をアスファルトに叩きつけた。トラックが落ちた轟音にも劣らずアスファルトが砕け散り破片が散らばる。
これは避けきれないと判断し流子は後ろに飛び退く。驚きが支配したのはすぐ後。飛び退いた流子を追っての追撃。
弾丸が流子を襲うその前に、転がっていたコンクリートの破片を拾い発射口である傘の先端に投げつける。小気味いい音がした直後、逸れた弾丸はあらぬ場所へと飛び散っていく。
しかし、向かって来たのは弾丸だけではない。弾切れなのか用済みになった傘を手放した神威は、いつの間にか流子の間近にまで踏み込んでいた。
その姿、まるで虎のよう。全身が地面に付いてしまいそうな姿勢から突き上げるように掌底。銃弾に意識を持っていかれていたとはいえ、反応する事が出来ず顎に喰らい仰け反る。
人体の急所を狙ったのであろう。重い脳震盪が流子を襲うが歯を食いしばり強引に抑えた。抑えられるものではないのだが、霞がかろうとしていた視界は戻る。
神衣純潔の力が影響を及ぼしているのだろうか。だが、そんなことはどうでもよく。こうして動ける体があれば問題はない。
「ふんっ!!」
続けて首を刈ろうと目の前にまで迫って来ていた手刀を叩き落として、流子は神威を見据える。
やはり笑っていた。このような状況にも関わらず、日常と変わらないような笑みでもって流子を見ている。
腹立たしい。この男を見ているといつでも余裕をこいてる鬼龍院皐月を思い出す。皐月をぶちのめす前に不幸にも下らない催しに呼ばれてしまったが、しかしそれも時間の問題だ。
幸いにも皐月も同じく巻き込まれている。ならば、モブ共々皆殺しにすれば一石二鳥で苦労も減る。
だからまずは目の前の男を殺してから初めて纏流子のバトル・ロワイヤルは始まる。�茲に一発、顎に一発、拳を食らった恨みも当然忘れていない。
なによりこのままやられて終わるたまではない。やられたらやり返す。それはどんなに頭を弄られて記憶を改ざんされていようとも変わることはなかった。
本気も本気。純潔の最大限の力を出そうとした瞬間、男は後方に引き構えを解いた。
何かしようとしている流子に恐れをなしたのだろうか。否、闘争本能の塊である神威が恐怖することなどあり得ない。
では、どういう意図で自ら退くような真似をしたのか。直前まで殺意は継続していた筈だ。
気にせずブチ殺せばいいと思ったが、あんなにも闘志をむき出しにしていた奴が戦闘の手を止めるのが、どうしてか気になった。
そうして場は固着状態に陥る。服に付いた埃を叩いて神威は口を開いた。
「どうやら、君は俺とは違うようだ」
◇
-
殺意はある。それに対する熱意もある。しかし、夜兎族の血統を持つ神威から言わせてみれば目の前の女は偽物でしかなかった。
そう、偽物。まるで表面的な部分だけ入れ替えられたような、塗り替えられたような継ぎ接ぎだらけの紛い物。
殺したいほど憎らしい訳でもなく本能的に戦いを求めている訳でもない。この殺し合いならばどこにでもいる生き残りたいという意思がある。
しかし、核と呼べる物がそこにはない。気が付いたのは一分にも満たない戦闘の最中。いや、初めて見た時からだろうか。
惹かれ合うように出会った瞬間に小さな疑問が頭の隅を占めた。溢れ出る殺意が存在をハッキリとさせているのに、どこか浮いているような印象を持ったのだ。
確信に変わったのはついさっき。何を考えていたのかは分からないがほんの一瞬だけ殺意の方向性がぶれた。
目の前に己を殺そうとする敵がいるというのにだ。偽りの一切ない本物ならば命を捨てるような真似はしない。
凶暴で凶悪で自分勝手な自分と同じなのではないかと思ったが違った。凶暴で凶悪で自分勝手なのは違いはないのろうが、本質をどこかに置き忘れたような違和感がある。
しかし、そんな小さいことは自分を満足させてくれる人物ならばどうでもよかったのだが、少し興味が湧いた。
謂わば、この女は殻を被った状態だと推測する。それがヒビが入り本当の彼女が姿を現したならどれほど楽しめるのだろうか。
その結果、偽物の方が強かったのならそれはそれで仕方がない。しかし、幾たびも強者と巡り合ってきた感が告げるのだ。彼女はそんなちっぽけな存在ではないと。
そして、龍のような暴力的な殺意の矛先は一体どちらに向かったのか。この会場内にいるのならば是非会って殺し合いたい。
やりたいことは沢山ある。どれもこれも捨てる気など一切ない。だからこそ、今も疼いている本能を止めてまで選択をした。
交渉ごとは苦手だが食い込むであろう餌はあった。
◇
流子には全く意味不明な言葉を呟いた後、神威は話を続けた。
「難しいことは面倒くさいから結論から言おう。俺と協力する気はないかな」
どんな話が飛び出すかと思いきや、手を組まないか、と言っている。一人しか生還は出来ないと聞いていなかったのだろうか。そんな間抜けな奴がいるのか。
余りにも期待はずれの言動に流子は落胆する。これ以上聞く意味はないと戦いを再開しようとして「まぁ、最後まで聞いてから判断してほしい」という言葉に不満を覚えながらも構えを解いた。
もう殺すことは決定しているのだ。男の物言いを真似て言うならば、“これから死んでいく者に対して最後くらい話をさせてやる”
隠そうともしない殺意に神威は苦笑いをして口を開いた。
「この会場に集められた参加者は70名だそうだ。これをどう見る」
「はっ、その程度の数、敵でもねぇな。あたしにとってはあたし以外は全員モブキャラでしかない。70どころか7000でも問題はないくらいだ」
「随分と大きく出たな。いや、君にとっては小さいのか」
そう、人間を遥かに超えた生命繊維で生まれた怪物、纏流子は最強だ。ひとたび手を振ればその風圧だけでも周りの物質は吹き飛び、拳を打てば戦艦だろうが何だろうが壊す力を持つ。
鮮血を纏った鬼龍院皐月だろうと純潔を纏った流子には手も足も出ないだろう。
「確かに、君の力なら可能なことだろう。深手一つ負うことなくゲームを制するかもしれない。だけど、同じような者がいないとは限らない」
殺し合いを楽に制し繭を殺し関わった者全てを皆殺しにして、元の世界に帰還をする。そんな目標も目の前の男の存在によって崩れ去った。
思えば銃弾に危機感を感じたのはどういうわけだ。今もなお、神威が立って笑っているのはどういう意味だ。
-
ただの人間ごときが纏流子に一撃を加え傷を与えるーーそんなことは地球上の全ての生物を集めようともありえない。
ひょっとして自分と同じ化物なのだろうか。いや、それはない。滲み出る殺意は凄まじかったが、感は神威を人間だと確信する。
では、何故人間が化物に対抗できるのか。たった一人で軍隊も捻り潰せる流子の攻撃を、ああも避けて受け止められるのか分からない。
もしかしたら、これは異常ではなく正常なのであろうか。集められた大半は人間でありながら化物のような者ばかり。
つまり、言いたいことはそこに秘められていると流子は考える。
「ていうと、なんだ。てめぇみたいな人間もいるかもしれないって言うのか」
「君みたいな化物もそこら中にいるかもしれない。生き残ることが目的なら互いに協力は可能というわけだ」
なるほど、と流子はうなずき、
「それで、どうだい。道中、少しは楽になると思うんだけど」
「無理だな」
提案をキッパリと否定した。
「理由を聞いても?」
「てめぇと組むのと一人で殺していくの。どっちを選ぶのなら一人の方がやりやすい」
「一人より二人じゃないのか。と、数は問題ではなかったか。つまり、俺が問題か」
「あぁ? 死にたいのか。身近に下手なリスクを置いておきたくないとあたしは言ったんだ」
いつ背中を狙われ襲われるかも分からない者といるより、一人でいる方がいいと判断をした流子の論に、神威は確かに正論だと息を吐いた。
ーーしかし。
「ああ、大事なことを忘れていた。君は戦わなくていい。争いごとは俺が全て受けよう」
とんでもない爆弾を投げたことにより、交渉は迅速に収束を迎えた。
◇
「いいか、次はないぞ」
駅に背を向ける形で二人の男女が歩いていた。
纏流子は今にも舌打ちしそうに神威を睨みつけ、息荒く不機嫌であることを主張している。
原因は、散らばったベンチの欠片の中、響き渡る音にも起きずに、アスファルトでいつの間にか寝ていた少女。流子が手を下す寸前で運よく生きながらえた少女。
発端は、交渉がどちらにとってもプラスに働いた後。神威を一時的なパートナーとして同行を認めた流子が、忘れ物を取りに行くような手軽さで少女を殺そうとしたのを止められたこと。
その理由がとても馬鹿らしく、理解など一ミリも出来ずに怒りが収まらなかったこと。
「安心していい。次はあんなことはしないよ」
神威が少女の命を助けた理由は傘の礼であった。黒いカードによって支給されたのであろう自分の傘は少女の物だと後に分かったことが、流子の魔の手を止めるに至った。
強い女に、将来に未知の可能性がある子供は出来るだけ殺さないように。最初に出会った小さな少女を見逃した訳ともまた違う。
なんの悪意もない純粋なお礼。あの騒ぎの中で豪胆にも目覚めなかった少女に、何か感じたのかもしれない。
「で、何処か行く宛でもあるのかい」
「本能字学園だ」
「すぐ近くの施設だね。シンボルマークを近場からしらみつぶしに、ってことかな」
「あぁ、学園なんだから人は集まりやすいだろう」
「それにしても本能字とは大胆な名前だ」
「同感だ。趣味の悪い名前付けやがって」
流れるように進路を決めていく二人に迷いというものは見受けられない。
「それと、あんたが全部やってくれるって件だが……あれは撤回する」
「それはまた、どうして」
「自分より弱い奴の後ろにいるなんてつまんないじゃないか」
「傷の度合いから見れば君の方が弱いと決められるのだけどねーー」
こうしてお互いに名前も知らない人間と化物の二人は場を去っていく。
残ったのは半壊した駅の駐車場と、未だ眠り続ける少女一人。
次の行き先は本能字学園。そこで獲物となる者が現れたなら、今回のような“気まぐれ” などない。
【Cー7/市街地 南/一日目 黎明】
-
【神威@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:日傘(弾倉切れ)@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜3枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを楽しむ。
0:俺が全員相手をするから、君は下がってていいよ。
1:本物の纏流子と戦いたい。それまでは同行し協力する。
2:纏流子が警戒する少女(鬼龍院皐月)とも戦いたい。
【纏流子@キルラキル】
[状態]:健康
[服装]:神衣純潔@キルラキル
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
黒カード:神衣純潔@キルラキル 黒カード:使用済み。
[思考・行動]
基本方針:全員殺して優勝する。最後には繭も殺す 。
0:いいや、あたしが全員殺す。てめぇが下がってな。
1:本能字学園へ行く。
2:神威を一時的な協力者として利用する。
3:手当たり次第に暴れ回る。
[備考]
※少なくとも、鮮血を着用した皐月と決闘する前からの参戦です。
【Cー6/駅/一日目 黎明】
【入巣蒔菜@グリザイアの果実】
[状態]:健康 睡眠中
[服装]:制服
[装備]:ヤブイヌのポーチ@グリザイアの果実
[道具]:腕輪と白カード。
[思考・行動]
基本方針:帰る。
0:……zzz
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※ルールを聞いたのは白のカードの説明までです。ですが、それもうろ覚えです。
※赤、青、黒、のカードは流子に渡りました。
※名簿は見ていません。
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投下終了します
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お三方ともお疲れ様です
ジャックのおこぼれでトップマーダーに躍り出た旦那に笑ってしまった
あとふと気付いたけど、腕輪カードシステムの副次的効果として、支給品の交換や強奪がデイパックの場合よりも容易になってる感じですね
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まきながまきならしくて草w
文章もタイトルもかっこいいなあ
この状態の流子ちゃんがまさかの同盟となるとは
神威に釣られて流子ちゃんまで本来の流子ちゃんらしくなって状態表見てワロタw
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みなさん投下乙です!
>かしこくもかわいくもないエリーチカはただの絵里ザベス
銀さんwwwwwwwwwエリーチカの方が頼りになりそうだぞwwwwwwww
エリザベス変身セットの使い道やいかに。っていうか次の次の投下ー!?二人とも逃げてー!
>LOVELESS WORLD
ことりちゃん…マコちゃん…死ぬ気で友達を守ろうとした君たちの勇姿は忘れない……
ノリノリな旦那も戦闘マシーンなジャックも超こえー!希ちゃんはがんがれ、超がんがれ
>神威純潔(かむいじゅんけつ)
か、勝てる気がしないコンビが……マキナちゃんはホント運がいい
流子ちゃんの洗脳に気付いた神威、偽物が本物に戻る日は果たしてやってくるのだろうか
-
>>450
投下乙です!
流子と神威の化け物バトルにマイペースな蒔菜
それぞれの描写が丁寧で引き込まれました
ただ、C-6の駅のホームからはイオナことウリスが列車に乗り込んでいたはずですが
(ちょうど列車が出発するところを流子が目撃していますが)
ウリスは駅で寝ていた蒔菜に気付かなかったということでしょうか…
-
投下乙です
>かしこくもかわいくもないエリーチカはただの絵里ザベス
ラブライブ未把握だけど普通に可愛いと思いました(小並感)
賢さはまったく感じないけどwww
>LOVELESS WORLD
ヒエエエエエエエエエエ!!
なんということだ……
橋上でマーダー二人に挟まれたときといい、ターミネーターの如く追跡してくるジャックといい、凄まじい絶望感だ……
その上キャスターは魔力300%、ジャックは極制服装備とかもうね……
>神威純潔(かむいじゅんけつ)
まさかの超凶悪な協力関係が
一気に本能字学園周辺が危険地帯に……
ただ、間違いと思わしき点が2つ
一つ目は、冒頭で「西に向かう」とありますが、駅の位置的には「東に向かう」が正しいと思います
「合計22枚を手にした」とありますが、赤、青カードは1枚しか支給されていないので、合計は4枚だと思います
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あ、失礼
合計4枚ではなく赤2枚青2枚黒2枚の合計6枚かと思われます
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投下乙です。純潔流子&神威とは恐ろしすぎるコンビが生まれてしまったなあ……
こちらも投下します。
-
ラビットハウスを目指し、進み始めた心愛と龍之介。
――だったのだが、その足取りはある理由から一旦停止することになった。
「うう……ごめんね龍之介さん。私ったらドジしちゃって」
「いやあ、仕方ないでしょ。急いだっていいことないし、ちょっと休んでから行こうよ」
大好きなモフモフを手に入れたことが理由か、それとも同行者を得たことで少なからず安心したからか。
それは心愛本人にとっても定かではなかったが、進み始めて早々に派手に転倒し、膝を擦り剥いてしまったのだ。
傷の見た目は相応に痛々しいものの、それでもあくまで転倒程度の負傷。
行動に支障はないと心愛も言ったのだが、龍之介が休むことを提案した。
雨生龍之介という青年は殺人鬼だ。
そこに間違いはない。
しかし彼は、殺人以外の面では普通の人間とさして変わらない常識観を持ち合わせてもいる。
「傷は一応手当てしたけど、速攻でマーダーに会ったりしたらちとマズいしさ。
ココアちゃんに死なれちゃったら、俺の作品も仕上げられないもん」
「えぇーっ! そこは私の心配をしてよっ」
「……いっけね、それ素で忘れてたよ。ごめんごめん」
殺し合いの剣呑さも、勿論承知の上だ。
殺し合いという趣向は異常なものだが、聖杯戦争のように現実感が吹き飛んでいるわけでは決してない。
だから龍之介は正常に事態を認識した上で、怪我をしたままでは危険だと判断した。
殺人鬼の彼の方が事態を正しく見ているというのは、皮肉な話だったが。
「もー、龍之介さんったら。お姉ちゃんは悲しいです」
龍之介にとって幸運だったことは、心愛がこの状況にありながらも比較的能天気なことだろう。
これが独りなら、もっと神経を尖らせていたかもしれない。
だが、そうでなくなったことにより、彼女は今確かな安心感を抱いていた。
それがいいことか悪いことかは一概には言えないだろうが、少なくとも今の彼女にとっては好ましくないことだ。
その安心感こそが、彼女に不穏な未来を約束している。
そも。
自分の身よりも、自分をモチーフとした作品の製作を案じる時点で、一歩引くのが普通だ。
普段の日常ならばまだ奇人扱いで済むかもしれないが、此処は殺し合い。
繭によって主催された、文字通りに魂を懸けた、『バトル・ロワイアル』である。
危ういと判断し、逃げるまでは行かずとも警戒心の一つ二つくらいは抱くかもしれない。
それは些細なことかもしれないが、雨生龍之介という危険分子を予期できるという意味では重要な事だ。
-
このまま何も起きずに殺し合いを共に過ごしたとして、心愛に訪れる未来は一つ。
龍之介の『作品』として、生き地獄を味わうことになろう。
およそ予定される限り最悪に近い結末を約束する存在――心愛にとっての龍之介は、そういうモノだ。
「あぁ、でも残念だなあ。此処に旦那がいなかったら、俺、せっかく作った作品見せらんねえや」
「『旦那』?」
「そ、旦那。俺の尊敬する人だよ」
言って龍之介は、心愛の隣へ腰を下ろすと夜空を見上げる。
その目には確かな親愛と尊敬の感情が宿っていて、会って間もない心愛にも龍之介の想いが伝わってきた。
「龍之介さんにとって、大切な人なんだね」
「そうさ。俺も今まで色んな人間見てきたけど――やっぱり、あの人……人かどうかはよくわかんねえけど。
とにかくあの人ほどクールな奴は見たことがねえ。正直敵わないってすら思う」
「へえ……なんだか想像できないや」
「でさ。俺、考えたんだよ。
世の中色んな芸術家が居るけど、殺し合いの中でアート仕上げた奴ってのはいないだろう――って。」
心愛に芸術家の気持ちはわからない。
小学生の頃に絵のコンクールで金賞を取ったくらいのもので、最近はすっかりご無沙汰だ。
当然、殺し合いの中で仕上げるアートがどんなものになるのかもさっぱりである。
危ないからやめた方がいいと思わないわけではなかった。
けれど、彼の真剣な眼差しを見ていると――とてもそんなことは言い出せない。
それどころかむしろ、応援したい気持ちにすらなってくる。
「だから旦那にも是非見てもらいたいんだけど……
持ち帰るってのは厳しいしなあ。いっそあの繭って子から、力分けてもらおっかなあ」
分けてもらう、という表現が面白くて、心愛はくすっと笑った。
笑うなよー、と唇を尖らせる龍之介がなんだかかわいらしくて、もっと笑った。
心愛は思う。
そうだ、殺し合いなんて絶対に続かせてはならない。
皆で喧嘩をやめて、繭ちゃんとじっくりお話したら、きっとあの子も分かってくれるだろう。
龍之介が語ったことから人知れず勇気を得て、心愛は笑っていた。
「よいしょっと。もう大丈夫、ココアちゃん?」
「うん! もうばっちり行けます! 足だってこのとお――あいたた……」
「……やっぱりもうちょっと休んでからにしようか」
苦笑する龍之介と、てへっと頭を小突いて舌を出す心愛。歳の離れた兄妹か何かのような光景が繰り広げられる。
-
と。
その時、あることに気付いたのは心愛だった。
「みてみて、龍之介さん。あれ」
「ん? ――何だろ。あれ、人っぽいけど」
「だよね……おーい! 聞こえますかーっ!」
手を振る心愛を制そうと思う龍之介だったが、もう遅い。
――ま、相手が乗ってたら残念だけどそれまでか。
そんなどこか達観したような感情で、近付いてくるシルエットを見つめる。
近付くにつれて、それが年端もいかない少女であるとわかってきた。
年は間違いなく、心愛よりも更に下だろう。
なのにも関わらず、随分と落ち着いている。
こんな状況でしかも一人で行動していながら、不思議と恐怖している様子は微塵もないようだった。
「まずは答えて。アンタ達も、参加者?」
心愛達を見て、少女の口にした第一声はそれだった。
初対面の相手への対応としては無礼この上ないが、幸いかこの二人はそんなことを気にする質ではない。
「そうだよーっ。ほら!」
「……つまらない質問をしたわね。此処に来てから誰かと会ったのは初めてだから、つい聞いてみたくなっただけよ」
元気に腕輪を示す心愛に毒気を抜かれたのか、少女は肩を竦めて謝罪する。
彼女としても、その質問にあまり深い意味はなかったようだ。
主催側が回し者を送り込む可能性もゼロではないだろうが、居たとしても精々一人二人の筈。
だとするなら、会う相手すべてにその可能性を疑っていくのはあまりにも過剰警戒が過ぎるというものだ。
無論、警戒を怠っているわけでは決してなかったが。
「俺は雨生龍之介。こっちはココアちゃん。んで、君は?」
「リタ」
「リタちゃん、ね。ところでさ」
龍之介は自己紹介を終えるなり、あろうことかリタの額へぽんと手を置いた。
相手が子供とはいえ、女性相手に行うには軽薄な行為だが、本人にその自覚は期待できない。
それから手を離すと自分の顔へ当て、うーんと首を傾げる。
「……おかしいなあ。リタちゃん、めっちゃ顔色悪いから熱でもあるかと思ったんだけど。
でも顔は熱いっていうよりメチャクチャ冷たいし、そういう体質なのかな?」
「……アンタ達、なんていうか……どっちもどっちで前途多難ね。少なくともこういう荒事向きじゃないわ」
-
緊張感の欠如した言動に、リタは思わず嘆息する。
心愛も心愛なら、龍之介も龍之介だ。
自惚れるつもりはないが、この二人でずっと行動していたなら、まず長生きは出来なかったのではなかろうか。
……もしも私が乗っていたら、間違いなく格好の獲物だと思うだろうし。
「顔色が悪いのも、体温が冷たいのも当たり前よ。だって私、ゾンビだもの」
「――はい?」
さしもの龍之介も、思わず聞き返す。
『青髭』ことジル・ド・レェを召喚して聖杯戦争に携わる中で、彼は様々な不可思議を目にし、触れてきた。
他愛無い会話の中で、『青髭』からきちんとした説明をしてもらったこともある。
だが結果は、よく分からなかった。
どうにも現実感がなく、凄いと思いこそすれど、今ひとつ頭へ入ってこない。
しかし『ゾンビ』などと、言ってしまえば俗で分かりやすい形容をされれば話は別だ。
今時の若者である龍之介も、映画やゲームでその存在を知っているし、どういうものかもある程度知っている。
だから素直に虚を突かれた。顔色の悪さを指摘して、そんな回答が返ってくるとは思わなかったからだ。
けれど、もしもそうなら?
本当に、そうだとしたら?
「すっげえ……!」
目を輝かせてそう答える龍之介に、リタは一瞬沈黙し、それから溜息混じりに呟く。
「冗談よ。アンタの言う通り、これはただの体質」
「えぇっ。私すっかり信じちゃってたよ」
「……アンタは少し疑うということを覚えなさい、心愛――だったっけ」
「お姉ちゃんと呼んでもいいんだよ! リタちゃん!!」
「呼ばないわよ」
目を輝かせて寄ってくる心愛を両手で押し返し、リタは龍之介へ視線を向ける。
彼は「なぁんだ」とがっかりした様子を見せ、それからぼうっと夜空を見上げ始めた。
……心愛の足に怪我の処置がしてあることは、初対面の時点から気付いていた。
大方彼女が転倒でもして、痛みが和らぐまで小休憩中、といったところか。
「あのね、リタちゃん。私達、もう少しだけ休んだらラビットハウス――此処に行こうと思うの!
私の下宿先だから、チノちゃ――友達のみんなも集まってくるかと思うんだ。
リタちゃんも折角だし一緒に来るよね?」
-
「……さてね。どうしようかしら。アンタの友達と言うと、なんだか頼れなさそうだし」
「そ、そんなことないよー!
チノちゃんは可愛いし千夜ちゃんは優しいし、リゼちゃんは男らしいしシャロちゃんもお金持ちなんだよ!」
「あら、それは確かに素敵な友達ね。挙げた長所が殺し合いに全く関係ないことを除けばだけど」
しかし、リタは立ち去る素振りは見せない。
なんやかんや言いながら、彼女も同行自体には賛成のようだった。
リタは見かけによらず大人びてこそいるが、やはり小さな女の子をこんな場所で一人にはしておきたくない。
「……ところでリタちゃん、ずっと気になってたんだけど――肩に載ってるその子はなに?!」
「『アスティオン』。私の支給品。触りたければ好きにすればいいわ」
「ほんと!? わーいっ、リタちゃんありがとー!」
「……私に抱きついていいとは一回も言ってないわよ」
それに、やはり道中を共にする人間は多い方がいい。
そう考えていた心愛は嬉しそうに頬を綻ばせる。
それを見てリタは、本当に能天気な少女だと再認識した。
皮肉でもなんでもなく、素直に彼女はこんな所に居るべき人間ではないと思う。
心愛はきっと、戦いだの殺し合いだのといった剣呑な話題からは遠ざけて、陽だまりの中で暮らすべき人間だ。
仮に友人の死があったとしても、その性格上、殺し合いには乗らないに違いない。
頼りにはならないだろうが、リタは彼女をとりあえず信用に足ると判断した。
問題はもう一人――雨生龍之介の方である。
「(考え過ぎだと思うけれどね)」
リタが咄嗟に一度は明かした自分の正体を嘘だと偽ったのは、彼の反応が原因だ。
あの時、龍之介が見せた少年のような驚きと、無邪気な喜びに満ちた表情。
そこから、別段悪意は感じなかった。
だが、一瞬だけ――ほんの一瞬だけ、背筋を蛇が這い回るような悪寒を覚えたのだ。
二百年を生きた彼女にとって、恐怖などという感情は最早無縁のものである。
それでも敢えて、あの瞬間の感覚を表現するなら……それはきっと、『戦慄』という言葉になるのだろう。
後でバレたとしても、この二人相手ならいくらでも取り繕える。
そう判断し、リタはもう一度青年へ目をやった。
どこからどう見ても普通。
顔立ちが整っていること以外に、特筆すべきものはない。
ひょっとして自分は、予想以上にこの状況に動揺を覚えているのだろうか。
だとすれば少し、気を抜いた方がいいのかもしれない。
……ああ。そういえば、まだしていないことがあった。
彼らへカイザル、そしてファバロを知っているか否かを聞いていない。
あまり期待はしていないが、いずれにせよ情報交換を行うことは同行する上で重要になるだろう。
――リタの心を余所に、雨生龍之介は考える。
-
ゾンビ。
不死なる者。
そんな存在ならば、言うまでもなく延命させる必要すら存在しない。
「リタちゃん、さっきの……ホントに嘘だったのかなあ」
誰の耳にも届かないようなか細い声で、龍之介は呟いた。
別にそう思うことに根拠はない。
どちらかと言えば、それは龍之介自身の希望だった。
絶対に死なない存在――正確にはもう死んでいる存在だが、あそこまで人間に近ければ関係はない。
「ま、こればっかりは俺にはわかんねぇけどさ……」
真実がどうあれ、一つだけ変わらないことがある。
保登心愛に続いて、リタ。
彼女もまた、彼の『創作欲』の標的となったということだ。
「ホントかウソか、試すのはその時でもいいよな」
ホントなら、これ以上のことはない。
ワクワクとした想いを胸の内で高鳴らせながら、彼は誰からも認識されない狂気を自覚すらなく研ぎ澄ます。
【B-5/黎明】
【雨生龍之介@Fate/Zero】
[状態]:健康、少年のようなワクワク
[服装]:普段着
[装備]:手術用のメスやハサミ(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚、医療用具(現地調達)
[思考・行動]
基本方針: 心愛と一緒にラビットハウスを目指して心愛の友達を探す。
1: リタに激しい興味。彼女もいずれ作品とする。
2: 心愛を使って作品を作りたい。
3: 作品を延命させる方法を探す。
[備考]
※キャスターが龍之介の知る青髭ということに気づいていません。
【保登心愛@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:足に擦り傷(処置済、軽度)
[服装]:ラビットハウスの制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:1〜3枚、具@のんのんびより
[思考・行動]
基本方針:龍之介たちと一緒にラビットハウスを目指して友達を探す。
1:怖いけどお姉ちゃんとして頑張る。
2:リタちゃんは不思議ちゃんなんだね〜。
【リタ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[装備]:アスティオン@魔法少女リリカルなのはvivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:カイザルとファバロの保護。もしカイザル達がカードに閉じ込められたなら、『どんな手段を使おうとも』カードから解放する
0:とりあえずはラビットハウスへの道のりに同行しつつ、人探しを並行させる
1:カイザル達の捜索。優先順位はカイザル>ファバロ
2:繭という少女の持つ力について調べる。本当に願いは叶うのか、カードにされた人間は解放できるのかを把握したい
3:アザゼルは警戒。ラヴァレイも油断ならない。
4:心愛については信用。龍之介はまだ疑ってこそいないが、妙なものを感じてはいる。
[備考]
※参戦時期は10話でアナティ城を脱出した後。
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投下終了です。指摘などあればお願いします
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投下乙です
ゾンビにwktkの龍之介はいいなぁwww
是非とも絶賛ゾンビ使役中の旦那に会ってもらいたい
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投下乙
龍ちゃんの証拠隠滅や捜査攪乱スキルはロワじゃステルスとして厄介だな
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DIO 投下します
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月明かりに照らされ、北の方面に向かう影が一つ。
百年の眠りから覚めた男、その名は「DIO」。
DIOの館が半壊した今、DIOは新たなる住処を探すべく行動を開始していた。
地図を見た限り、北にはホテルがあったが……
(果たして、本当にこのホテルを目指すべきであろうか)
ここからは近いが、人が集まるとしたらホテルよりも本能字学園の方である。
学校というものは人が多く集まる上に昼の間過ごせそうな施設がありそうではある。
そして、地図にホテルと書かれたからにはこの施設。豪勢なホテルと見るべきである。
休むには最適である考えていいはずである。
しかし、この二箇所に行くのは不可能である。
一番の問題は日の出までの時間。あと3時間ほどであろうか?
行けるとしたらその施設のどちらか一つである。
急がねばならないが、ダメージも少々だがある。
そこで何かないかと自身の黒カードを確認する。
血液があれば体力も受けたダメージも全快したであろう。
だが、そんなもの都合よくは支給されていなかった。
あったのは……
「ほう、自動車か……」
出てきたのは一台のオープンカーであった。
DIOは一度、黒カードを戻して、自動車の黒カードの説明を読む。
そして、理解した。
――――自動車の運転方法を。
「……少し運転してみるか……」
DIOは再び黒カードからオープンカーを取り出した。
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そして、車に飛び乗り、運転席に座る。
もちろん、シートベルトなどは付けない。
キーを差して回し、車のエンジンに火を灯す。
右足でアクセルを力強く踏み込む。
すると、車は前に加速していく。
エンジンから轟音が響かせて、どんどん加速していく。
「ほう、中々の馬力(パワー)と速度(スピード)だ」
ステアリングを握るその手には車体からの振動が全身に伝わっていく。
馬車しか走っていなかった時代から男にとって初めての経験であった。
しばらくは直進していく。
そして、DIOはどんどんスピードを上げていく。
調子に乗ったDIOは思い切って右にステアリングを切る。
だが、ブレーキをかけずに曲がったので車体が右に大きく傾く。
DIOの身体には今まで受けたことのない横Gが掛かる。
シートベルトを使っていなかったのでDIOの身体は車外に飛び出しそうになる。
「むん!」
しかし、DIOは己の腕力で踏みとどまりステアリングを逆に切る。
今度は車体の後部が大きく振られるが、左に滑るように曲がった。
否、曲がるどころか車体が大きくスピンしていった。
それはもうぐるぐると遊園地にあるコーヒーカップのように。
「ほう、これが慣性ドリフトというものか」
これは慣性ドリフトではない。
ここでDIOはようやく左足でブレーキを踏み込んで車を止めた。
そして、ブレーキというものを覚えた。
「大分、この自動車というものにも慣れたぞ」
DIOは邪悪な笑みを浮かべ、再びアクセルを踏み込む。
車の運転方法はほぼ完全にマスターした。
だが、その行き先は未だに決まっていない。
-
【B-7とC-7境界あたり/一日目・黎明】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:腹部・胸部にダメージ(小)、疲労(小) 、ちょっとテンションが高い
[服装]:なし
[装備]:蟇郡苛の車@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:主催者を殺す。そのために手っ取り早く他参加者を始末する。
1:昼の間過ごせる建物を探す。
2:言峰綺礼への興味。
[備考]
※時止めはいつもより疲労が増加しています。一呼吸だけではなく、数呼吸間隔を開けなければ時止め出来ません。
※車の運転を覚えました。
蟇郡苛の車@キルラキル
DIOに支給
ピンク色のオープンカー(新車)。
ボンネットにでかい初心者若葉マークが付いてる車。
もちろん、オープンカーなので日光は防げない。
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投下終了です。
ご指摘等ありましたら、お願いします
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投下乙です
頭文字DIOの始まりか……
DIO×車は車破壊のイメージしかないが蟇郡先輩の車の無事を祈る
-
>>薄氷の殺人
いっけんしっかりしたお兄さんに見えて、うっすらと狂気が見え隠れするのがこわい…
駅に行けばさらに蒔菜もいるんだよなぁ……やったね龍ちゃん!獲物が増えるよ!
ただ、龍之介が「マーダー」というロワ用語をナチュラルに使っているのは違和感がありました
パロロワでは浸透していますけれど、「マーダー(殺人者)」って初めてロワに呼ばれたキャラが
「殺し合いに乗った人物」という意味合いで使う言葉でしょうか…
>>頭文字D
蟇郡先輩の車はどこかで支給されると思ったけどここで来たかぁ…
それにしてもこのDIO様ノリノリである
-
>>473
ご指摘ありがとうございます。
既に収録されているようでしたので、wikiの方で修正させていただきました。
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皆さん投下乙です
>薄氷の殺人
リタちゃん心愛ちゃんと一緒に逃げてー!その人危ないからー!
この組が大絶賛ゾンビハザード中の旦那と出会ったらどうなるのか……
>頭文字D
無免許運転で調子に乗る未成年かな?DIO様ノリノリすぎですw
ホテルじゃなくて本能寺学園に行くルートも出てきたし、面白い人だけどコワイ!
それでは自分も投下します
-
セルティ・ストゥルルソンは、動けなかった。
支給品、凄まじいスペックを誇るオートバイであるV-MAXを取り出そうとしていた手も止まり。
彼女を攻撃し、一度は謀りながらもセルティから逃げ続けていた怪しい男を追っていた足も止まり。
その非現実的な状況に、一瞬、思考も止まりかける。
目の前のガンマンも同じく、足を止めていた。
だが、セルティは男がようやく観念したのだとは全く思えない。
恐らく、いや、きっと。
彼は自分と同じく、目の前に繰り広げられている光景のせいで、動けないのだ。
追いかけっこを繰り広げていた両者を同時に止めたその光景。
百鬼夜行に匹敵する首なしのデュラハンと、百戦錬磨の暗殺者とが同時に、咄嗟には動けなくなったその光景。
フリフリなピンクな衣装に眼帯をした少女が。
緑色の可愛らしい衣装に身を包んだ金髪の少女を。
壁に、串刺しにしていた。
(……どうすればいい)
セルティ・ストゥルルソンは首なしの化け物だ。いわゆる、デュラハンと呼ばれる存在だ。
だが、彼女は同時にお節介で、困った人を見ると助けずにはいられない良識人でもある。
だから、セルティがまず思ったのは、串刺しにされている女の子を助けなければ、という至極常識的なものだった。
一歩を踏み出し……かけて、しかし、そこでセルティの足は、今の自分の状態を思い出して止まってしまう。
今の自分には、ヘルメットがない。つまり、首なしであるということを隠せない。
それは即ち、まともな人間が見れば百人中百人が『化け物』と認識して然るべき状態である。
今の今までガンマンに逃げられ続けていたのも、間違いなくそれが根本的な原因なのだ。
しかもセルティは首がなく、つまり声を出すことも出来ないので、普通の人間と意思疎通を図るためには手元にあるPDAを使う必要がある。
ならば、ここで自分が出ていった時に、どうなるか。
仮に、あの眼帯ピンクな格好をした魔法少女のコスプレっぽい女の子が、殺し合いに乗っている人間だとしよう。
串刺しにしているもう一方。金髪に緑服な、こちらも魔法少女のコスプレっぽい女の子を、今から殺すところだとしよう。
その場合、セルティが思いつく限り、取りうる手段は二つある。
一つ目。力ずくでピンクの方の女の子を止める。
だが、これは無理だ。
お互いの力量差がどうこうという話ではない。物理的に、不可能だ。
何故なら、自分と彼女たちの間には『距離』が空きすぎている。
-
(私が全速力で走ったり、このオートバイを取り出してエンジンを蒸かしたり、『影』で遠距離から攻撃をしたところで、間に合わない)
仮にも相手をあの奇妙な形をした剣(?)で壁に串刺すことが出来るくらいには、あの眼帯ピンクも『やる』のだろう。
先ほどの魔法少女のコスプレっぽいという表現も、あながち冗談では済まされないかもしれない。
少なくとも、この世界には首なしのデュラハンや、弾丸の軌道を自由に操れる超能力者がいるのだ。
他の参加者も、それ相応に現実離れしていると考える方が妥当だろう。
ならば、自分が闇雲に攻撃をしかける素振りを見せた時点で、眼帯ピンクは金髪緑の女の子をまずは殺してから、セルティに対処するに違いない。
もっと距離が近ければそんな隙を与えずには済んだのだろうが、いかんせん、こればかりはどうしようもなく運が悪かったとしかいえない。
そして、もしも万が一彼女の服装が本当にコスプレで、相手を串刺しにしたのも偶然のたまたま上手くいったのであれば、なんて可能性に賭けるほどセルティはリスキーではない。
人の命がかかっているのだ。そんな短絡的には、動けない。
ならば二つ目の方法。相手を説得する。
こちらならば、まだ可能性はあるように思える。
もしも眼帯の女の子が「殺し合いをしなければ帰れないのならば、殺さなければ殺される」という思考をしていたならば、説得の余地は十分に残されているとセルティは考える。
だが、セルティはこちらの方法もまた、すぐには選ぶことは出来なかった。
相手が本気で殺し合いをやりたくて乗っていた狂人の場合は、そもそもこちらの説得に応じるとは思えない。
対話のために差し出したPDA、セルティが他の人間とコミュニケーションを取り得る数少ない手段を破壊されてそれでおしまい、だなんて笑い話にもならない。最悪だ。
ならばもう一方の可能性、相手が今は錯乱しているだけで説得に応じうる人物である可能性はどうか。
いや、こちらもまた、彼女が動くことは出来ないのである。
何度も繰り返すが、彼女、セルティ・ストゥルルソンは首なしの化け物である。
まずこの時点で、他の人間の信頼を得ることなど、ほとんど不可能に近い。
相手がまともな人間であり、今はただ錯乱しているというならば、化け物が近づいてきたところで説得ができるとは思えない。
逆にこの場合は、近づく方が圧倒的に状況が悪くなる。錯乱した人間がどんな行動に出るかなど、予想もつかないからだ。
ならば、最初の前提条件が違う場合はどうか。
つまりピンクの女の子は殺し合いに乗っていた緑服の女の子を止めるために壁に串刺しにしていた場合だ。
この場合でも、セルティが力尽くでピンクの女の子を止めようとした時に、ピンクの子はどんな行動をとるのか予想ができない。
錯乱して緑服の女の子にトドメを刺してしまう可能性もあるし。
そうでなくとも、自分とピンクの子が争っている間に、殺し合いに乗っている金髪緑の女の子を逃してしまう可能性だってある。
説得も、前述のとおり自分が首なしの化け物である以上、難しいだろう。
ガンマンに誤解されたように、セルティは殺し合いに乗っている化け物だと思われても仕方ない風貌なのだから。
あの池袋には奇特な人間が多かったために忘れがちだが、本来首なしなどという見た目は強烈だ。
パニック映画に登場するモンスターと同列に見られ、問答無用で逃げられたり攻撃されたりしても文句は言えないものだ。
結論として、セルティ・ストゥルルソンは、首なしライダーであるがゆえに迂闊には動けない。
-
動いたところで、どんなパターンだったとしても、状況が良くなる兆しが見えない。
思わず、心中で歯噛みする。もしも自分が普通の人間だったならば、こうも選択肢が狭められはしなかっただろうに、と。
少なくとも、あのピンクな少女に声をかけ、殺し合いをしなくても大丈夫なんだと説得することは出来ただろうに。
もしくは、ヘルメットさえ手元にあれば、少なくとも化け物として認識されることもなかっただろうに。
「あれあれあれ〜。西部劇とモンスター映画の夢の共演ってやつぅ?」
だが、セルティ・ストゥルルソンには、そもそも分かっていなかった。
「こんばんは〜。ボク、針目縫っていうの!よろしくね☆」
加害者側の少女、針目縫の異常性を。
人を人とも思わぬ、その残虐性を。
「……おう。よろしくな、嬢ちゃん」
「おじさまったら、かったーい♪もっとリラックスリラックス☆」
例え、セルティがどんな行動を取ろうとも。
「そちらの貴方はお返事ないの〜? あ、そっかぁ!お口がないから喋れないんだねえ」
いや、むしろ、セルティが針目縫に出会ってしまったからこそ。
「そうだ」
この悲劇は、避けられなかったことを。
「いいこと、思いついちゃった☆」
🌸 🌸 🌸 🌸 🌸
-
犬吠埼樹もまた、動けなかった。
戦いに敗れ、壁に磔にされ、意識を失った彼女に、動くことなどできるはずがない。
代わりに、樹は夢を見ていた。悪夢を見ていた。
勇者として針目縫なる少女と戦った際の記憶を、時間を巻き戻すように再び体験していた。
樹は細いワイヤー、糸を何十も同時に操る戦闘スタイルを取る。
標的を縛り上げ、巻きつき、そのまま動けなくなった相手を裁断する。それが彼女の必勝法だ。
大剣のような破壊力はないし、長銃のようなリーチもない。
だが、多くの敵を一度に相手にできる攻撃範囲の広さを避けられる存在などそう多くはないし、何より、剣や銃と違い、糸は相手を傷つけずに無力化する術にたけている。
そう考えると、あくまでも人間サイズの存在が相手となるこのバトルロワイヤルにおいて。
また、決して殺し合いになど乗る気のない樹にとって。
その力は強力なものであり、彼女に適合したものでもあるといえよう。
だが、しかしこの相手に限って言えば。
リボックス社のグランクチュリエ(高次縫製師)にして、自身が生命繊維の化け物である針目縫に限って言えば。
糸による攻撃などは、カモでしかなかった。
「どうして」
樹の放つワイヤーは、そのことごとくが断ち切られた。
縫の武器は片太刀バサミ。
生命繊維と呼ばれる、生きている繊維の命を断つために作られた、まさしく『糸殺し』の武器。
「どうして、こんな!」
「どうしてって?誰かを切り刻むのに理由なんていらないよ♪」
正面から縫を襲う十の糸が、目に見えない速さで振るわれたハサミによって、全て細かくバラバラにされる。
ならばと左右正面の三方向から仕掛けるも、縫は冗談のようにクルクルと回りながら、全ての糸を断ち切っていく。
それぞれの糸が彼女に到達するタイミングの違いなど、コンマ数秒の違いのはずだ。
だが、針目縫はそれを為す。スピンしながら、一番最初にやってきたワイヤーに片側だけの不格好なハサミを合わせる。
次の緑糸を返す刃で殺し、3度目の正直と言わんばかりに眼帯の死角から襲い掛かる3本目を、気配だけで切り刻む。
遅れてやってきた4つ目と5つ目をかわしながらまとめて叩き斬り、6、7、8と、ダンスを踊るように、リズムを取るように、テンポよく。
斬る、殺す、斬る、殺す、斬る、殺す、斬る、殺す。
斬る殺す斬る殺す斬る殺す斬る殺す斬る殺す斬る殺す斬る殺す斬る殺す斬る殺す斬る殺す。
人を喰う羅刹のように。人を喰った笑顔を全く崩すことなく。
斬る。殺す。斬る羅KILL。
「そん、な」
化け物。そう、口に出かかる。
彼女はバーテックスのように大きくもなければ、異形めいた見た目をしているわけでもない。
どちらかといえば自分たち勇者のような衣装を身に纏った女の子だ。そのはずだ。
なのに、こちらのワイヤーを片太刀バサミで尽く無力化していく縫の姿は。
アハハ☆なんて口ずさみながら、戦いを、殺し合いそのものを楽しんでいる彼女の姿は。
自分たちと同じ人間だとは、どうしても思えない。
未知の惑星からやってきた宇宙人だといわれればそのまま納得してしまいそうだ。
理解できる気も、ましてや勝てる気も。
全く、しない。
-
「あなた、よっわーい!飽きちゃった☆」
そんな絶望に囚われかけていた樹が、突然回転を止めこちらに飛びかかってくる縫のスピードに、対応できるはずもなく。
慌てて正面に集中させたワイヤーが潜り抜けられた、と知覚した瞬間。
目の前に、針目縫の顔があった。
「っく……!」
身を捩るも、身体のあちこちが何度も切り刻まれる。
左脇腹が浅く切り裂かれたかと思えば、右肘が骨ごと抉られていた。
その痛みを我慢しながら死ぬ気で後ろに下がった瞬間、お臍の表面に刃が突き刺さる。
あと数センチ下がっていなければ内臓までズタズタだ、なんて他人事みたいに考えた。
とにかく体勢を立て直さなければ。もう一回、気合で後ろに飛ぼうと足に力を籠め。
「はい、ばんざーい」
両腕が、ひょい、と背後から持ち上げられた。
針目縫の姿は、もう正面にはない。
つまり、樹の気合の全力後退をあざ笑うかのように、回り込まれたのだ。
思わず、振り返る。そんなことをしている暇などないというのに。
振り返ったところで、どうしようもないというのに。
だけど、樹は振り返った。もはや勝ち目がないと悟ってしまったからこそ、振り返り。
わけのわからないスピードで自分の背後に居座った針目縫の笑顔を。
「貴方は、間違っています」
「ぐさぁー☆」
睨み返すことしか、できなかった。
「…………んっ」
「あ、丁度良いや」
そんな悪夢から目を覚ました樹を迎えたのは、またしても悪夢だった。
縫に切り刻まれた身体のあちこちが焼けるような熱を発している。
特に、自分の頭の上でクロスに組まれている両掌の痛みがひどい。
「はい、おはよ〜」
「う、ぐ、ああああああああぁぁ!?」
ぐじゅり、ぐじゅり、ぐじゅり。
掌に突き刺さっている異物が、抜き差しされ、抜き差しされ。
爪が、小指が、掌の一部と思しき部分が、上から降ってくる。
あまりの痛みに視界が赤く染まり、気を失いかけるも、もう一度引き抜き、差し込まれ、痛みで現実に引き戻される。
視界の隅に移った落ちていく『中指』を見て、私の手が欠損していくという現実に、引き戻される。
-
「君、あの首なしさんとお話したいよね。そうだよね。そうに決まってるよね☆」
涙目を開けると、ものすごい近くに、針目縫のゆがんだ顔があった。
何を言っているのかは良く分からなかったが、ロクでもないことだということだけは確信する。
導くように遠くを指す縫の人差指に釣られて、正面を見れば。
私たちの戦っていた校庭の入り口のあたりに男の人と、針目縫の言う通り……首なしで立っているナニカが、いた。
「だから、ボクが君に首なし語をマスターさせてあげるよ☆」
ぶちり、と何かが千切れていく音が聞こえる。
ずるずる、と。私の手から、異物が引き抜かれていく感覚が続いた。
掌を抑えつけていた圧迫がなくなり、代わりに、拳を握るべき部分に空いた穴が、夜の冷たい空気に当てられる。
「が、がぁあああああああああああああああ!」
「我慢我慢。勇者なんでしょ〜?」
こんなに涙が溢れ出したことは、生まれて一度もなかった。
こんなに大声を出したことは、カラオケで歌の練習をした時だって、なかった。
痛い。死にたい。いっそ殺してほしい。そんな弱気が頭の中を駆け巡る。
でも、駄目だ。
どんなに苦しくても。どんなに辛くても。
犬吠埼樹は、勇者なのだから。
「ほい、っと」
急激な、浮遊感。
涙でぼやけた視界が空を飛ぶ。
投げ捨てられたのだろうか。痛みがすっと引いていく。
何故、突然針目縫がそんなことをしたのかは分からない。
だが、これはチャンスだ。この機会をモノにしなければ嘘だ。
(勇者部五箇条、その二……!)
なるべく、諦めない!
-
何故か言葉が口から出せなかったので、心の中だけでも強く思う。
そうだ、こんなところで諦めるわけにはいかない。
まだ、バーテックスだって全部倒したわけじゃない。
まだ、あのオーディションの結果だって受け取ってない。
まだ、皆とお喋りもし足りないし、カラオケだって、もっともっと沢山行きたい。
まだ、あの『色紙』のお返事だって、返せてない!
まだまだ、したいことは沢山あるんだ!
だから、動け身体。
まずは、空中で体勢を立て直す。
それから、針目縫から少しでも距離を取る。あの近接能力には、悔しいが勝てる気がしない。
出来れば、さっき見た男の人とも協力したい。どうか殺し合いに乗っていませんようにと強く願う。
それから、針目を倒して、お姉ちゃんや他の皆とも合流して、それから、それから。
…………あれ?
身体が、動かない。
というよりも。
身体の感覚が、ない。
頑張れ、頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ私の身体!
今動かないで、いつ動くの!
-
でも、駄目だ。
なんでだろう。こんなにも、私の頭はやる気に満ち溢れているのに。
東郷さんならそれらしい難しい理屈を並べて、説明してくれるのかな。
友奈先輩なら、夏凛先輩なら、こんな時どうやって頑張るんだろう。
お姉ちゃんなら。
励まして、くれるかな。
……あれ、どうしちゃったんだろう、私。
こんな大事な時に、皆のことばかり、思い浮かんで。
と、ここで。
落ちつつある私の視界が、針目縫と
身体を、見つめた。
その身体は、薄い緑色の、服を着ていた。
その身体は、噴水のように、真っ赤な液体を噴いていた。
その身体に
首はなかった。
-
そう
か
わた
し
は
く
びを
きら
れたん
だ
今、空にすぽーんと打ち上げられている私は。
首だけなんだ。
………………ごめんね、お姉ちゃん。
【犬吠埼樹@結城友奈は勇者である 死亡】
-
針目縫が、動かないわけがなかった。
彼女が、ホル・ホースやセルティ・ストゥルルソンに対処する前に樹を殺すと決めていた時点で。
どう足掻いても、犬吠埼樹に助かる道など存在するはずがなかった。
「こんばんはー☆」
そして、その光景は、異常に過ぎた。
「私は貴方と同じ首なしだよー♪」
『彼女』の首から噴き出した血に濡れることもお構いなしで。
『彼女』の尊厳を力いっぱい踏み躙っていることも気にしないで。
針目縫は、犬吠埼樹の首なし死体を、人形のように後ろから操っていた。
首をなくした樹が、手を振った。
首をなくした樹が、ステップを踏んだ。
首をなくした樹が、かっこいい決めポーズを取った。
「あれえ、どうしたのかな?首なしなら同じ首なしと電波とか、そういうので通じ合えると思ったんだけど。
ほら、早くあの首なしさんのご挨拶を受信しなよー。ぺしぺし☆」
壊れた旧型テレビを直す時のように。
本来首のあったはずの場所を無遠慮に叩く。
それでも何の反応を返さない樹の胴体を、2,3秒見つめ続けて。
針目縫は「はぁ」とわざとらしい溜息をつく。
「マジ、死んでも使えない」
あっさりと、樹の死体を人間離れした膂力でポイ捨てする。
ひゅーん。どさり。それでおしまい。
樹の決意も、悲鳴も、涙も、何もかもが、ただの使い捨ての消耗品であったかのように。
あまりにもあっさりと、針目の中で犬吠埼樹の出番は、終わりを告げた。
「あれ、もしかして怒ってる?」
そこで彼女は、あることに気付いた。
ガンマン風な男の後ろにいたはずの、黒い服の首なしが、男の前に出ている。
そして、こちらに歩いてきながら、その身体から大量の黒い霧のようなものを噴出していた。
首なしは、何も語らない。彼女には、口がない。
首なしに、顔はない。だから、そいつがどんな感情を持っているのかは、普通ならわからない。
-
だが縫は、ソレが先ほどよりも「やる気」になっていることを、肌で感じた。
「お待たせ、次は貴方達の番だね☆」
だが、彼女にとってはそのプレッシャーなど、毛ほどの恐怖も生み出さない。
首なしだから?化け物だから?それがどうした。斬れば死ぬ。刻めば死ぬ。死ななくても殺し続ける。そうすればいつかは死ぬ。
所詮こいつらなど、元の世界に帰るために潰すモブキャラのようなものだ。
自分の力さえあれば、取るに足りない小さな化け物だ。
だって、ほら。
「はい、そんな激おこな首なしさんにはプレゼント―☆」
こんなにも、ちょろい。
縫と首なしには未だ十分な距離が空いている。だからあいつはまだ、余裕をもって歩いてくることができるのだ。
だから縫は、落ちていた樹の首を無造作に拾い上げこちらにやってくる首なしに向かって投げつけた。
縫の力で投げつけられたソレを慌てて受け止めようとする首なし。
もうソレは死んでいるのに。お前は化け物の癖に。
こんなモノは無視して、私に挑みかかってこればいいのに。
人間の慈悲とか、倫理とか、そういうのに囚われている。
やっぱり、こいつは『良いやつ』なんだ。馬鹿だなあ。
「喜んでもらえたかなあ?」
当然、首なしが動揺しながら樹の首を受け止めた隙を見逃すほど、縫は愚かではない。
そのまま、目にも留まらぬ速さで疾走。黒い首なしと少しでも距離を詰める。
慌てた素振りで開始された首なしによる『影』の迎撃を細身の体で潜り抜け。
こちらを絡め取ろうとする影を、樹の糸に対して行ったように片太刀バサミで寸断し、乱舞しながら前へ行く。
捌いて裁いて数歩を進めば、そこはもう針目縫の間合い。
「さっきの子といい芸がないね」
振り下ろしたハサミが、影で固めた漆黒の鎌で迎え打たれる。
少しびっくり。こんなことも出来るんだ。便利そうな能力だね。
でも、ちょっと私とやりあうには役者不足かな?
一合、二合、三合と打ち合い、火花を散らし、四合目で首なしの持つ鎌を弾き飛ばす。
全くもって張り合いのない。まるで弱かった頃の流子ちゃんを相手にしてる時みたい。
せめて、最初に隙を晒さなければ、もう少しは楽しめる勝負になっただろうに。
もしくは、今も後生大事に片手で抱えてるその首を手放せば、もう少しは寿命が延びただろうに。
まあ、そういう駆け引きも含めて、勝負なんだけどね☆
「首がないから、とりあえずテキトーに切り刻んどくね♪」
例えそれが、セルティの能力である『影』で作られたライダースーツといえども。
例えそれが、銃弾程度ならばダメージにならない強度を誇っていたとしても。
針目縫の片太刀バサミに、断てぬものなどない。
ありとあらゆる物質を刻み、繊維に宿った魂でさえ切り刻むこのハサミにかかれば。
デュラハンの不死身の身体を、魂ごと断つことなど、そう難しいことではないのだ。
参加者の中でも随一な再生力を持つセルティでさえも、当たれば必死。
更に、鎌を失い影を刻まれ、今や素手同然となってしまったセルティに、針目縫の一撃を避けることなど、もはや不可能。
セルティ・ストゥルルソンの敗因は、彼女が優しすぎたことだ。
怒りに身を任せ、それこそ完全な『化け物』と化していれば、あるいは針目に一矢報いれたのかもしれないが。
あくまでも『人間』らしい心を失わず、死んでしまった者の遺体にも気を遣ったからこそ。
彼女は本当の『化け物』である、針目縫には及ばない。
セルティ一人では、到底勝ちには至れない。
-
そう。
セルティ・ストゥルルソン一人だけ、ならば。
セルティを斬ろうと振りかぶったハサミがピタリと止まる。
風切り音だけを頼りに、生命繊維の化け物は攻撃から、回避挙動に移った。
首を大きく捻ると同時に、フィギュアスケート選手のように、身体を軟体動物のように捩じる。
一瞬遅れて彼女の身体があった場所に飛来したのは――――弾丸。
顔面への攻撃を回避されると見るや否や、的の大きい胴体狙いに『軌道を変更した』鋼鉄の死神に対し、針目は大きく跳躍し、距離を開ける。
「邪魔くさーい☆」
「お嬢ちゃん、こんな名言を知ってるかい」
ズアァァァと、かっちょつけた効果音と共に。
遂に、その男は動き出した。
今まで『見』に徹していた男が。
『一番よりNo.2!』をモットーに掲げる男が。
「銃は剣よりも強し、ってなぁ」
『皇帝』のホル・ホースが、化け物どもの争いに参戦する。
💀 💀 💀 💀 💀
-
ホル・ホースは、動くべきタイミングを誤らなかった。
「人生の終わりってのは、たいてーの場合あっけない幕切れよぉー。
いつまでも他人の死に囚われてんと、そいつとまとめてオダブツだぜぇ〜?」
それを聞いた首なしは、針目縫への警戒はそのままに、手に持っていた少女の首を『影』で作った籠に安置した。
あくまでも、死人だろうと無碍に扱う気はないようだった。
化け物のくせに、アマチャンめ。
(ふぅ〜。ヒヤヒヤさせやがる。ここでテメエまで死んだら一巻の終わりってやつだったぜぇ〜)
二人の化け物に見せつけたニヒルな笑い顔の裏で大汗をかきながら、ホル・ホースは自分の算段を確認していた。
まず、彼が針目縫に感じたのは、あのDIOに負けずとも劣らぬ、圧倒的『化け物』のオーラだった。
間違いなく殺し合いに乗っていると思わされる、悪の気配。
こんな界隈で仕事をしていれば嫌でも感じざるを得ない『俺よりほんの少し強いかもしれない』と思わされる、実力差。
まず、この時点で彼は、一人で針目縫と真正面から渡り合うという選択肢を排除した。
そして、自分の後ろにいるあの首なしが、このまま自分を縫と挟撃しに来たら『それまで』だろうと、ある種諦観さえ覚えつつあった。
勿論、セルティはセルティでそんなことをする気など毛頭なく、それどころか彼女はホル・ホースのことなど二の次で人命救助を優先する思考だったわけだが。
次に、針目縫があの悪趣味極まりない『遊び』を始めた時点で、これは縫との『共闘』など不可能だと思い知った。
イカレてやがる。死人をこんな風に弄ぶこいつに比べれば、あのJ・ガイルの旦那ですら人間的だと思わされる。
ホル・ホースとて暗殺者として数多くの人間を殺し、場合によっては目標の冷静さを奪うために他者の死を利用したこともある。
だが、アレは違う。アレは本当に、その場その場の思い付きで、楽しむためだけにああいう行為を行っている。死者の身体を辱めている。
なので、少なくともこういう場で、こんなやつと『チーム』を組むなど金輪際御免こうむる。
いつなんどき「飽きちゃったから殺すね☆」などと後ろから刺されてもおかしくない。
ならば、彼が選ぶべきは逃走だ。
名も知らぬ少女の敵討ちなど知るか。
他の参加者の心配なんてする余裕があるわけないし、元よりする気もない、
そもそも、今から始まる化け物同士の殺し合いなんぞに巻き込まれるなんぞ、たまったものではない。
首なしである自分のことを馬鹿にされたと感じたのか、それとも、万が一この『化け物』が義憤なんてものを持ち合わせているのかは知らんが。
ホル・ホースを追いかけていた首なしは、今や彼のことを完全に無視して、針目縫に相対しようとずんずんと前に歩いていく。
黒いスモッグ、あえて言うなら形を成した影のような得体のしれない物質を身体中から噴出させ、進んでいく。
-
これは、千載一遇のチャンスだ。
こいつらが争っている間に、自分は悠々自適にこの場を離れさせてもらうとしよう。
どっちも死力を尽くして相打ちにでもなってくれねぇかなぁ〜。
そう思い、身を翻そうとしたホル・ホースだったが。
最後に一目、やつらがどんな力を持っているのか確認しておこう、と後ろを振り返った彼が見たのは。
「嘘、だろ」
あまりにも一方的な、蹂躙だった。
彼が目を離したほんの少しの合間に、あのホル・ホースを苦しめた首なしが、ふざけたファッションの少女に殺されかけていた。
遠目から一瞬眺めるだけで理解できる実力差。
『ウサギがライオンに追いかけられているのを目撃した』時のような、分かりやすすぎる捕食者と被捕食者の関係。
しかも、あの少女のナリをした化け物は凄まじいスピードで剣を振るい、首なしを追い詰めながら、それこそ片手間で。
ホル・ホ-スの方を見て、余った片手で「やぁ」なんて挨拶の素振りを見せつけて『ニタリ』と、笑ったのだ。
ウサギは、自分もだ。
そこから先の判断は、彼自身も驚くほど神がかり的なスピードで行われた。
背中にゾワリと悪寒が駆け抜ける。全身の汗腺から、止め処なく冷汗が流れ落ちる。
ホル・ホースは、そんな生理的現象が彼を襲う『前』から行動を、もはや反射や本能レベルといった瞬発力で首なしの援護を始めていた。
もしもあのまま逃走を続けていたら、彼は10秒後にはセルティを殺した針目縫に追いつかれ、瞬殺されていただろう。
ひとえに彼を救ったのは、彼自身の生存欲求。どんな手段を使っても生き延びたいという、意志の強さ。
それと同時に、今までの暗殺者稼業で培った、生きるか死ぬかの瀬戸際を見極めるセンスだった。
死ぬ気で、今まで生きてきた中で1,2を争うほどの早抜きで『皇帝』を顕現。銃弾を発射。
女だからとかそういうのは一切無視して、針目縫を狙い撃った。
もっとも、彼の『皇帝』は対象から離れれば離れるほどパワーが弱くなるので、これだけで殺せるとは思っていなかったが。
あくまでも、彼の狙いは針目に首なしを殺させないこと。
そして、この場を生き残れる唯一の可能性に賭けるためだ。
「おい、首なしさんよ。理屈は分からんが、耳はなくても俺の言葉が理解できてるな?」
「今までのは全部水に流して、このホル・ホースとは一時休戦といこうや」
すなわち、首なしの化け物との共闘。
それこそが、絶望的すぎるこの状況におけるたった一つの光明だ。
-
「おじさまはデザートにとっておいたんだから、もう少し待っててくれればよかったのに」
「こんなカッチョイー男をデザート扱いとは、さては俺に惚れたな?」
「ううん。だって、デザートっていうのは一番なまっちょろくて、ペロリとお口に入っちゃうものだもの☆」
「そうまで言ってくれちゃあ、是非ともこの『皇帝』を嬢ちゃんの口ン中で味あわせてやりたくなったぜ」
大口を叩いているのは自分の方だという自覚はある。
針目にかかれば、ホル・ホース一人だけを料理するなど数秒で済むだろう。
銃弾を操作するという能力は一般的な反射神経をもった人間からすれば脅威でしかないが、超人相手にサシでやるにはあまりにも心もとない。
一度避けられて、再度相手の方へ軌道を修正する前に、あの速さで距離を詰められオダブツだ。
実際に、先ほどは彼なりにドンピシャなタイミング、軌道で狙い撃ったつもりだったが、首なしを相手にしていた針目にさえも、傷一つ付けられていない。
実力差、相性差は歴然。絶望的なまでに、歴然としている。
だからこそ、ホル・ホースが針目縫に勝つためには、相手を寄せ付けず、なおかつ自分のスタンドの力が発揮される程度の距離でチャンスを窺いつつ攻め続けるしかないのだ。
そのためには、『皇帝』の軌道修正までに時間を稼いでくれる協力者が必要だ。
そのためには、針目縫を防御に専念させるための、手数が必要だ。
そのためには、いざという時に陽動や切り捨てに使えるような、肉壁が必要だ。
そのためならば。
ホル・ホースは、首なしの化け物なんていう不確定要素の塊にだって、縋って見せる。
「無敵のコンビとは程遠い、即席コンビだがよ。
少なくともここを乗り切るまではよろしく頼むぜ、首なしの旦那」
肯定の返事なんて、もらえるとは思っていなかったが。
首なしは少し考える素振りをした後に、意外にも言葉の代わりに親指を上に立て、サムズアップを返してくれた。
なんだ、案外ノリの分かるやつじゃねえか。
(当然!逃げられる好機を逃す気はないがなぁ〜!
せいぜい上手く利用させてくれや、首なしさんよ)
-
【F-4/旭丘分校前/一日目・黎明】
【セルティ・ストゥルルソン@デュラララ!!】
[状態]:胴体にダメージ(小)針目縫に対する強い怒り、少女(犬吠埼樹)を失った悲しみ。
[服装]:普段通り
[装備]: 犬吠埼樹の首(影の籠の中)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、
黒カード:PDA@デュラララ!!、V-MAX@Fate/Zero、不明支給品0〜1枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いからの脱出を狙う
1:ホル・ホースと共に針目縫を止める。
2:首を隠す手段を探す。できればヘルメットがほしいところ
3:知り合いとの合流。臨也には一応注意しておく。
4:旦那、か……まあそうだよな……。
[備考]
※制限により、スーツの耐久力が微量ではありますが低下しています。
少なくとも、弾丸程度では大きなダメージにはなりません。
【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜3
[思考・行動]
基本方針:生存優先。女は殺さない……つもり。
1:首なし(セルティ)と共に針目縫への対処。勝てなくてもいいから上手いことトンズラこきたい。
2:ジョースター一行やDIOには絶対に会いたくない。出来れば会う前に野垂れ死んでいてほしい。
[備考]
※参戦時期は少なくともDIOの暗殺に失敗した以降です
【針目縫@キルラキル】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:神羅纐纈を完成させるため、元の世界へ何としても帰還する
1:男と首なしを殺す。
2:流子ちゃんのことは残念だけど、神羅纐纈を完成させられるのはボクだけだもん。仕方ないよね♪
[備考]
※流子が純潔を着用してから、腕を切り落とされるまでの間からの参戦です。
※流子は鮮血ではなく純潔を着用していると思っています。
-
投下終了します
-
お疲れ様です。自分も投下します。
-
E-7。エリアの大部分を占める海が、姿を現しはじめた陽の光を受けて輝いている。
今、このエリアの南側にある砂浜に、1人の男が海中からざばりとその巨体を現した。
極限まで鍛え上げられた筋肉は、しかし感情のない瞳と相まって、どこか不自然さを感じさせる。加えて、今はその体にまとっている学ランが違和感に拍車をかけている。
彼の名はジャック・ハンマー。
地上最強の生物である範馬勇次郎を父に持ち、文字通り全てを捨ててその父を越えんとする怪物である。
彼は猛スピードで飛行するヴィマーナから振り落とされ、海に転落したばかり。
常人ならば水面に叩きつけられたショックで、まともに泳ぐこともままならないはずだ。
しかしこの怪物は完璧に受け身をとったばかりか、海獣のごとき泳ぎで海峡を渡りきってみせたのである。
日に30時間の鍛錬という矛盾を越え、北極熊を倒すにまで至った彼の肉体。
その圧倒的な力は、この殺し合いにおいてもすでに3人を屠り去った。
しかし、海から上陸し、砂浜にたたずむ彼の胸に去来するのは--
「これでは、全く駄目だ」
確かに3人を屠ることには成功したが、ジャックが目指すのはあくまで勇次郎の打倒。
そのためにはより強い支給品を得たい。だから、カードを集めなくてはならない。
ドーピングで肉体を作り上げたジャックにとっては、できれば己の肉体を強化できるようなものが欲しいところ。
-
だが、実際にはどうだ。
まずは猫じみた少女を叩きのめした。だが、奇怪な術を使う女が割り込んで逃げられ、カードは得られなかった。
次に出会ったのは二人組の少女と、またもや現れた少女と妙な男の組み合わせ。
少女のうち2人を殺せはしたが、1人は取り逃がし、男はいつのまにか消た。やはりカードは得られなかった。
結局、この殺し合いが始まってから自分が得られたのは、今身にまとっているこの学ランのみ。
カードを奪えないどころか、2度目の遭遇では、あろうことか年端もいかない子供に謀られた。あってはならないことだ。
「これでは、勇次郎には・・・・・・」
敵わない。
それどころか、彼の前に立つことすらできない。
「ふむ・・・・・・」
ジャックは、手近な岩の前にどっかと座り込むと、赤と青のカードをかざす。
現れたのは極厚のステーキ、そして血のような色をした1杯の赤ワイン。
並の男なら文字通り歯が立たないその肉を、切り分けることもせず丸ごとフォークで突き刺し、前歯で噛み切る。
十分に咀嚼した肉をワインで流し込みながら、ジャックは考える。
-
(もっと、闘いを)
カードを奪えていないこともさることながら、ジャックの不満は自分と渡り合える者に1人も出会っていないことだ。
ここまで遭遇したのはいずれも女子供ばかり。強いて言えばあの妙な術を使う女は見所があったが、とうてい自分には敵わない。
彼は最強の肉体を求め、人間性を捨て去った怪物。しかし、人を殺すことに快楽を覚える殺人者でもなければ、弱者をいたぶるサディストでもない。
その力は、あくまでも強者を屠り、父・オーガを打倒するためのもの。
強者を求めたからこそ、海を渡り、強者の集う最大トーナメントへ向かったのである。
これまでの中途半端な戦いにより、忌まわしき範馬の血がフラストレーションを起こしている。それを確かに彼は感じていた。
「さて・・・・・・」
相当なボリュームのあったステーキをものの5分もしないうちに平らげ、白のカードで地図を眺めながら、呟く。
「やはり、この島には」
己の住む世界の常識とは何か全く違う何かが、確かに存在しているらしい。
意識する間もなく連れ去られ、殺し合いに参加させられたこと。
このカードと腕輪。
魔力を持つ刻印虫とやら。
妙な術を使う女。
ただの少女を己の打撃に耐えさせ、着ていると確かに力が増すように感じるこの服。
空飛ぶ金色の飛行機。
-
思い返せば、最初からここまでに遭遇したのは、どれも超常現象じみたものばかりだ。
だが、フランケンシュタインを理想像とし、狂的に人体強化を研究するジョン博士の下で科学を凌駕すべくドーピングとトレーニングを積んできたジャック。
そんな彼にとっては、己の理解を超える事象を受け入れることは容易かった。
それどころか、己の理解を超える事象が存在するということは、己に匹敵する者が存在する可能性があるということであり、そのことに喜びすら覚える。
「万事屋。便利屋のようなものか」
もうしくじるわけにはいかない。参加者を確実に仕留め、カードを奪う。
それには、人が集まりそうな場所に自ら出向いていくことが必要だ。
そう考えた彼は、地図に記載されているうち、自分のいる場所から最も近い施設に狙いを定めた。
「勇次郎ヨ・・・・・・」
異能の者であろうと関係はない。強者を屠り、皆殺しにし、力を得る。そして、勇次郎の前に立つ。
ただそれだけを思い定め、怪物が砂浜を踏みしめてゆく。
-
だが、彼は知らない。
父であり倒すべき宿敵である範馬勇次郎は、腕一本を残しヴァニラ・アイスの暗黒空間に飲み込まれたことを。
この時点ですでにこの世の者ではないことを。
放送で勇次郎の名前が呼ばれたとき、怪物の心にはどのような変化が起こるのであろうか……?
【E-7/F-7側の海辺/一日目・黎明】
【ジャック・ハンマー@グラップラー刃牙】
[状態]:健康、そこそこ満腹、服が濡れている
[服装]:ラフ
[装備]:喧嘩部特化型二つ星極制服
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
黒カード:刻印虫@Fate/Zeroが入った瓶(残4匹)
[思考・行動]
基本方針:勇次郎を倒す
1:人が集まりそうな施設に出向き、出会った人間を殺害し、カードを奪う。
2:勇次郎を探す
[備考]
※参戦時期は北極熊を倒して最大トーナメントに向かった直後。
※喧嘩部特化型二つ星極制服は制限により燃費が悪化しています。
戦闘になった場合補給無しだと数分が限度だと思われます。
-
投下終了です
>1+1+0+1−1
ああ樹ちゃん・・・・・・
-
タイトルを付け忘れていました。『逃れられない 時を知る』です
-
投下乙です
>1+1+0+1��1=
やっぱりロワだと針目の残虐性が映えるな
樹は相手が悪かった
針目は倒せそうにないしセルティとホルには逃げ切って欲しいけど、周囲にはマーダーも結構いるんだよなぁ
>逃れられない 時を知る
ジャックの放送後は本当に気になるなぁ
対主催だらけの南東でどれだけ暴れられるか、刃牙との遭遇はあるのかも気になるところ
-
8人予約、投下します
-
「8人も……います!」
殺し合いの会場、ある市街地。
その時点では、誰も殺し合いに乗ろうとは考えていなかった。
喫茶店で一杯のコーヒーを所望する巨漢。
いつもの店でいつもと同じようにコーヒーを淹れる中学生。
主催者をぶっ殺そうと決意する自動喧嘩人形。
はじめての『ゲームセンター』を体験する少女。
吸血鬼を追いかけようとするスタンド使い。
友人達との再会を切に祈る小学生。
全ての人類を愛し、観察を継続する情報屋。
そして、全ての人類を愛し、救済しようとする魔術師殺しの次なる一手は、
さあ、みんな一緒に――
♂♀
-
一日目 深夜 カフェ『ラビットハウス』
「なかなかのものだった」
「ありがとうございます」
空っぽのティーカップが受け皿に戻される音は、心地が良いものだ。
全てを飲み干して一息ついた蟇郡苛にほっとして、智乃はいつもの所作でティーカップを取り下げる。
「しかし、先ほどオリジナルブレンドだと言っていたが、この店の珈琲は全てお前の手によるものか?」
「はい。まだバリスタとは言えませんが、昼間の店番は私が
……でも、さっき言ったようにココアさん達もいますから、忙しくはないです」
「そうか」
蟇郡の質問に答えたり、ティーカップを洗ったり。
ひとまず落ち着いた時間を過ごしながらも、これでいいのかなと思ってしまうのが、智乃の現状だった。
珈琲を淹れながら多少の会話をしただけでも、この青年に『鬼龍院皐月様』なるとても大事な人物がいることはよく分かった。
この場において、早くその人との合流したいのだということも。
しかし智乃にとっては、移動したいかというと違う。
この『ラビットハウス』は白いカードのマップにも載っているお店だ。
心愛たち4人が、右も左も分からないこんな場所に放り出されたりしたら、まずはここを目指そうと考えるだろう。
だとしたら、智乃はここに残って皆を待つべきになる。
正直なところ、1人でいるのはとても不安だ。蟇郡が、見た目は怖いし言動も少し変だけれど、智乃を許してくれるぐらい良い人だということは感じる。
そんな人とあっさりお別れするのも心細い。さっき蟇郡を襲ってしまった時のように、恐怖に負けてしまったりしたらどうしようと思う。
けれど、蟇郡についていくということは、自分の保身のためだけに心愛たちを放置するかもしれないということで。
やはり、ここは智乃が我慢してでも――。
「あの……蟇郡さんは皐月さんという方を探しに行かれたいんでしたよね。だったら――」
「いや、そう話を急くな香風よ。確かに皐月様の元に駆けつけられぬ俺に価値など無い。
だが、俺も闇雲に探し回るつもりはないし、茶をいただいておきながらその駄賃分の事もせずに出て行くつもりはない」
智乃が焦ったように切り出したことで、逆に蟇郡からは察されてしまったらしい。
「お茶じゃなくて珈琲です……でも」
「それに、まだこの場でやっておくことも残っている」
「はい?」
「珈琲を淹れる間に貴様の支給品も見せてもらっただろう。あのPDAだ」
「あ……」
思い出した。
黒いカードは全てコーヒーミルをゴリゴリ回している間に蟇郡に見せていたし、その中に『腕輪発見機』という名前の紙キレがついた情報端末があったことを。
-
最初はただのメモをする機械だとがっかりしたけれど、冷静になってから調べるうちにそうではないと分かった。
電源をオンにすると、『このエリアに存在する、まだ【カードに誰もいない腕輪】の数を表示します』という説明が出てきたのだ。
『まだカードに誰もいない腕輪』という言葉の意味するところは怖いけれど、それはつまり、『G-7にいる、まだ生きている人間の人数が分かる』ということ。
「人数が分かっても位置が分からんのは不便だが、まずは周囲にいる人数を把握して警戒しておかねばならん。
その中に皐月様や香風の友人がいる可能性もある。
動くにしても、まずはこの近辺を確認してからだ」
「はい……今、切り替えます」
智乃はPDAを手に取り、たどたどしくも指でボタンを押し、説明画面から表示画面へと切り替える。
途端に、その目が大きく見開かれた。
表示されたのは、ちょっと信じられないような大人数。
「8人も……います!」
蟇郡苛と香風智乃を引いても、このエリアに6人。
♂♀
一日目 深夜 ゲームセンター
平和島静雄の暮らしている池袋の街では、ひとつのビルの数階層分を大規模なゲームセンターが占めていることも珍しくない。
特に有名なのは、某大手ゲーム会社が『アミューズメント施設』と称して経営する地上8階から地下1階まで使った超大型店舗だろうか。(非ゲーマーにとっては、むしろ入り口で池袋名物『バクダン焼』を売っていることで有名な建物なのだが)
この建物も、静雄の記憶にこそ無いものの、似たような規模の超大型ゲームセンターであるらしかった。
そして静雄が幼い少女を拾ったのは、建物の中階層にあたる『ビデオゲーム・対戦ゲーム』のフロアだった。
「どうすんだ、これ……」
目下のところ、彼の頭を占めているのは激昂よりも困惑だった。
原因は、目線のすぐ先にある少女の寝顔である。
ともかく床に寝かせっぱなしにするわけにはいかないと、喫煙スペースらしき一角にある背もたれつきのソファーまで運んだ。
ついでに、濡れていた床も拭いた。
ごく短期間だけ酒場で勤めていた経験(ひどく酩酊した客が出すモノを出したことがある)が、こんなところで生きるとは思わなかった。
そして、少女が目覚めるのを待ちながら、頭を悩ませるに至る。
活気のある店内BGMが、少し苛立たしい。
「目が覚めたら、絶対に怯えるよなぁ……今までのパターンだと」
『自分が殺してやると連呼していたせいで人殺しと勘違いされた』とは理解していないまでも。
他人から怖がられ遠巻きにされる経験だけは豊富な静雄のこと。
『この子はもしかして自分に怯えた結果として気絶したのではないか』と察するぐらいのことはできた。
-
こんな小学生くらいの少女まで殺し合いを強いられているのかと思うと、またそこらへんの筐体に八つ当たりしたい衝動が湧き上がってくるが、ともかく少女への対応を優先事項として、苦手とする頭脳労働を試みる。
どうすれば恐怖を与えずに済むのか。
つい最近も同じくらいの年頃の小学生と会話を試みたりしたけれど、あの時に通訳めいたことをしてもらった闇医者は今この場にいない。ついでに、ホットココアの一杯でも持ってきてくれるような少女もいない。
せめて、何かいい感じに子どもの気を引くような道具でも入っていないかと、静雄は確認したはずの黒カードを次々と開陳していき、
「……ひょっとすると、これ使えるか?」
その中の一つを手に取り、首を傾げた。
♂♀
5分後 ゲームセンター
「んう……」
越谷小鞠は覚醒した。
まず感じたのは、家の蒲団と違うものの上に寝ていること。
そして後頭部に、倒れて頭でも打ったような鈍痛があること。
ここはどこだろう。なんでこんなとこで寝たんだっけ
上半身を起こすと、そこにはパチンコ台のような形をした筐体がずらりと並んでいるフロアがあり、
「こ、こんにちは。お嬢ちゃん。怪我は無いかな?」
怪物のような顔をした巨大な『お面』に、話しかけられた。
少なくともそれは、怪物のお面としか形容できない代物だった。
縦にびろーんと長い顔に、ばいーんと飛び出した両耳のような部位と鼻と、ぎょろりとした両目と、表面にはずらりと黒い縞、縞、縞、縞、縞の模様。
「ひいっ……!?」
引いた。
後ずさりして逃げたかったけれど、背中がソファの背もたれにあたって、退路をふさいだ。
「だ、大丈夫だよお嬢ちゃん。逃げなくてもいいよ。怖くないよ」
しかも、お化け仮面の後ろからは、焦ったような男の低い声が聞こえてくる。
もしどこぞの万年白衣男がこの光景を見れば「小児科医だってそんな幼児のあやし方しないよ! むしろ子どもが見たら泣くよ!」と突っ込みを入れていただろう。
そして、その声は越谷小鞠にとって聞き覚えがあるもので。
しかも、よく見れば、大柄な男性のバーテン服が、隠れきれずに背中をプルプルとお面からはみ出させている。
(さっき『殺す殺す』言ってた人だ――――!?!?)
気絶する前に起こったことを、一挙に思い出した。
-
「いやああああああああああああああああああ! 殺さないでえええええええええええええええええええええええええええ!!」
小鞠は叫んだ。
ほとんど狂乱した。逃げようとした。
男があわててお面から首の上を出したのを見て、より焦った。
逃げよう逃げよう逃げよう逃げなきゃ逃げないと逃げなかったら殺される逃げろ逃げて。
手足をバタバタさせて、ソファの背もたれを乗り越えようとした。
暴れながらそうしたのが良くなかった。
ぐらり、とソファが背もたれを力点として傾いた。
その背もたれを乗り越えようとしてた、小鞠の身体も傾く。
「え」
「危ねぇっ……!」
危機を感じて、男も飛び出した。
しかし、焦るあまり、盾のようにしていた仮面のことを男は忘れていた。
男の革靴が、仮面についていた緑色の髪の毛の部分で、ずるりとすべった。
「あ゛」
脚を盛大に滑らせながら、男はとびだすことになる。
ずしゃどっかーん、と衝撃音がフロアにこだました。
男の身体が、その身を以って傾いていたソファを体当たりで吹っ飛ばし、
ソファから落下しようとしていた少女を、倒れたその身体で下敷きに受け止めることになった。
「え…………」
さっきまで恐怖の対象だった男を、身体の下に敷いている。
その事実で、小鞠の思考はいったん真っ白になった。
何が起こった。
理解が追いつかない間に、下を見ると床に転がった怪物のお面が目に入る。
(あのお面で……この人は、隠れようとしていて……)
思い出した。
兄の越谷卓のことだ。
学校でまだ学年が低かったうちは、兄を遊びに誘うことも今より多かった。
ただ定規落としみたいな机上遊戯ならまだしも、『かくれんぼ』のような身体を使った遊びを自習時間にするとなると、妹たちより体の大きな卓が不利になる。
どうにかして数少ない隠れ場所である机の下に身を潜らせるべく必死でかがもうとする兄の動きは、さっきのバーテン服の男の仕草と似ていた。
お面で、必死に己の身体を隠そうとするところが。
見ていて、恐ろしくなるようなものじゃない。
なぜあんな不気味なものを盾にしてまで正体を伏せようとした――姿を見せたら、小鞠が怖がると思ってのことじゃないのか?
そういう理解が、じわじわと小鞠の頭に浸透していった。
「殺さ、ないの……?」
「殺さないよ。絶対に殺さない」
そんな問答を数回繰り返したのちに、じょじょに小鞠は脱力していった。
その後、めちゃくちゃ平謝りをした。
-
♂♀
ここはゲームセンター。だからプリクラの撮影機ぐらいある。
よって、着替えもある。
そういうわけで、静雄は上の階層から女物の衣装を慌てて持ってくることになった。
「これって、もしかして…………メイドさん?」
「悪い、サイズが女子高生用のばっかりで、小さいのがそれしかなかった」
バーテン服を着た男と、メイド服を着た少女。
ゲームセンターではなく、いけないお店かと錯覚しそうな二人がそこにはいた。
ちなみに下着の替えはなかったので現在の小鞠は、はいてない。仕方ない。
それでも恥ずかしそうにもじもじとする小鞠を見て、静雄はともかくこの緊張をほぐしてやらねばと考えた。
平和島静雄はいわゆる『単細胞』と形容される人間だが、基本的には、紳士的であろうと努力する男である。
こんなところに子どもが1人でいる以上、まずは自分が保護者役をするしかないと腹もくくりつつある。
「それよりコマリちゃん。せっかく可愛い格好に着替えたんだから、まずはここで遊ぶってのはどうだ?」
「え……いいの? 静雄さんも友達とか探してたんじゃないの?」
「俺なんかより頭も良いし、しっかりした奴しただから大丈夫さ。
こんな目に遭わされてんだから、少しぐらい楽しんだってバチは当たんねぇよ」
そう言われると、小鞠の眼も数々のゲーム機をきらきらとした目で見つめはじめる。
静雄はひとまずほっとして、フロアの受付窓口からプレイ用の小銭やらコインやらをひとつかみ失敬した。
いや待て、後できっちり支払うとはいえ、店の金を勝手に使うのは法律違反じゃなかろうかと悩んだけれど、すでにわくわくとしている少女の期待にはあらがえなかった。
どのみちゲームの筐体を台座から引っぺがした時点で器物破損罪なのだし、後でまとめて弁償するかと開き直る。
「すごいなぁ……こんなにゲームがたくさんあるお店なんて、初めて見た」
小鞠は不思議の国に迷い込んだアリスさながらにきょろきょろと、面白そうなゲームを探して歩く。
「なんだ、ゲームセンターに来るのは初めてか?」
「うん! あたしたちの村、田んぼと山しかないような田舎だから……」
-
ゲームの筐体をひとつひとつ面白そうに眺めつつ、小鞠は話してくれた。
信号や道路標識なんてひとつもないし、一番近いコンビにでも3時間かかるような田舎だとか、そのコンビニだって24時間営業してないんだとか。
そりゃあたいそうな田舎だなぁと相槌を打ちながら、静雄も想像する。
歩いても牛を引いた農夫としかすれ違わないような田舎道。
小川のせせらぎ。風がふく木陰での日向ぼっこ。
喧嘩も喧噪も何より殺したい奴もいない、自然だけはある村。
そんな場所なら、ずっとストレスの無い生活ができるかもしれない。
「決めた! これにする!」
小鞠が選択したのは、どこにでもあるようなシューティングゲームだった。
先ほどまで殺す殺さないで怯えていた少女とは思えないほどに喜び勇んでモデルガンを握りしめ、
西部劇っぽいバーチャル世界で仮想敵の賞金首をバンバンと撃ちはじめる。
敵に狙われるたびに、必要無いのに「わ、わっ」と焦りながら銃口を避ける動きをしているのが、いかにも幼い子どもらしくほほえましい。
……見た目小学生くらいの女の子にメイド服を着せて遊びに連れ出し、ぴょこぴょこ飛び跳ねるさまを眺めていると書くと、趣味を勘違いされそうな光景だが。
「あーもう負けたぁ! やっぱ難しいねこういうの。……静雄さんもやる?
2人対戦もできるみたいだよ?」
「あー……俺はやめとくわ。こういうのにのめりこむと、また『殺す』とか考えちまいそうだしなぁ」
何気なくつぶやいた直後に、不味かったかと気づいた。
小鞠の顔から、笑顔が引いていったからだ。
やがて、小鞠は問いかけをぶつける。
「静雄さん。最初に『殺してやる』って何回も言ってたのって……何だったの?」
それは、ある程度静雄という人間に安心したからこその踏み込んだ質問だった。
男は極めて気まずそうに、たどたどしく弁解を始める。
「その、な……もちろんコマリに言ったわけじゃねぇ。
『繭』とかいう女のことを考えたら腹が立っちまってよ。
俺のダチとか、テメェみたいなガキまで巻き込みやがって。
首に爆弾付けられたら万死に決まってんだろうが。それが70人もだぞ、いやノミ蟲が一匹混じってるからそいつを引いて69人か。
……いや、最初にカードにされた女の子いるからやっぱ70人だ。こいつは70回殺されて文句言えねぇってことだよな……とかそういうコト考えてたら、ああいう風に――」
「ちょ、ちょっと静雄さん! メダル! メダルが全部、折り紙みたいにくしゃって!?」
「あ…………すまねぇ……」
どうやら、話しているうちに再びその『殺意』を思い出してしまったらしい。
静雄はそこで手の中で無残な姿となったメダルの束に気付いた。
「それで、ゲームセンターの機械を持ち上げたの?」
視線をずらせば、そこには先刻に静雄が持ち上げた筐体が、ブラウン管の画面がある面を下にして転がっている。
「いや、あれは八つ当たりで投げようとしたのか、とりあえず武器にしようとしたのか……すまん、覚えてねぇ」
「武器にできるものじゃないよね!? ってゆうか、誰かに当たったらどうするの!?」
「すまん……そうだよな……殺しに来る奴ならともかく、何もねぇ奴に当たったら悪かったよな……」
「殺しに来る人なら当ててもいいんだぁ……」
「いや、いつも喧嘩でよくやっちまうことだから……」
「よくあるんだ!?」
-
静雄が口を開くたびに常識から外れた言葉が飛び出して、空いた口がふさがらなくなってきた。
あぜんとするとはこのことか。
しかし、静雄の方は思い返せばいたく消沈したらしく、くしゃくしゃにしてしまったメダルを見下ろしている。
「あ、あのさ……私はべつにいいんだよ?
静雄さんが、そんな風に壊しちゃうのを我慢できない人なのは分かったけど。
それでも、私を殺さないこととか、私のために我慢してくれたことは分かったし、安心したから」
さっきは怖かったけれど、こういう風に落ち込んでいることも分かった。
いつの日のことだったか。
一緒に駄菓子屋へと行った大人のお姉さんも、田舎の景色を見て人知れず色々考えている神秘的な人だった。
きっと、大人になると悩むことも増えるんだろうなぁと、素朴な感想を抱いてしまう。
「なんて言ったらいいか……大人には、色々ありますよね?
私はそういうの、全然きにしないつもりです」
静雄もそれを聞いて、苦笑を浮かべた。
「そうか……大人を励まそうとするとは、ませたお子様だぜ」
「もう、さっきからガキとかお子様って静雄さん失礼だよ。私、こう見えても14歳の立派な『ティーンエイジャー』なんだよ?」
英語の問題集で覚えたばかりの大人っぽい英単語を使って、胸を張って反論したのだが、
「そうそう。ガキはガキらしく、バレバレの年齢詐称するぐれぇがちょうどいいんだよ」
全く信じてもらえなかった。
むぅ、と頬を膨らませて、信じさせる方法を考える。
どうしよう、身分証明書とか持ってないし、バスの定期券って生年月日まで書いてあったっけ。
しかし、すぐにおかしくなってきた。
何がおかしいかって、この男にさっきは気絶するほど怯えていた自分自身が。
ありがとう静雄さんと、改めてお礼を言おうとする。
しかし、二人の楽しい交流会を中断させるものがあった。
ゴポリ、と。
放送機材を動かす直前の、くぐもった音が響く。
店内のBGMが、一時中断をする。
スピーカーから流れだしたその放送は、マイクに布をあてて加工したような、くぐもった声で。
『平和島静雄様。本館のどこかにいらっしゃる平和島静雄様。
折原臨也様がお呼びです。大至急、本館1階の北側非常口までお越しください。
繰り返します、平和島静雄様。本館のどこかにいらっしゃる平和島静雄様。
折原臨也様がお呼びです――』
♂♀
-
同時刻 ラビットハウス
「やっぱり、コマリさんっていうお友達のことが心配ですか?」
カウンターの内側から、外側へと。
智乃はおずおずと、新しく知り合った女性に声をかけてみた。
背が高くて大人びているその『一条蛍』さんは、さっきから1人で座って顔をうつむかせていたからだ。
しかし、
「……寝てますね」
両肘から先を卓上について、胸部の大きなものをテーブルの上に乗せるようにもたれて。
顔を下に向けた、その口から漏れてくるのは小さな寝息だった。
「私より、年上の人なのに……」
2階からタオルケットを持ち出して来て、その大人びた女性の肩にかける。
さっきまでは不安そうな顔をしていたのに、あっさりと眠ってしまっているのを見て、嘔吐までした自分は何だったのかため息をはいた。
「そいつは小学五年生だ」
テーブル席に座る、学ランを着た男がそう言った。
さっき、この一行を率いるように先頭に立って、ラビットハウスのドアを開けて入ってきた男だ。
背が高くて目つきも鋭くて怖い印象の男だったけれど、それよりずっとゴツイい外見の蟇郡と遭遇した後だったから、どうにか会話をすることができた。
「空条さん、その嘘はいくら何でも無理があります」
「本人がそう言っていた。本当かどうかは知らん」
「え……」
冗談など言いそうにない男からそう言われて、まさかと思いながらも一条蛍を正面から凝視する。
本当に大きい。いや、欲しいのは胸ではなく身長の方だけれど。
これで小学生なのかは信じられないにせよ、どうやったらここまで大きくなったのかはぜひ聞いておきたい。
あと、頭にウサギを乗せていても背を伸ばすことはできるのかとか……それは聞いても分からないか。
「俺としてはむしろ、一番の最年長者が長々と席を外していることを憂慮すべきだと思うが」
そう言ったのは、別のテーブルに座る蟇郡だった。
大きな横幅の身体で、座席を二人分ほど占拠して窮屈そうに腕を組んで座る。
『最年長者』が誰を指すのかは明確だ。
承太郎一行の中で、この場にはいないただ一人の人物。
「時間がかかるのはしょうがいないです。
G-7にいること以外は、全然手がかりがない人達を探さなきゃいけないんですから」
「それもそうだが……」
カウンターテーブルの上には腕輪発券機があり、『8』の数字を示している。
『万が一にも探索中に襲われたりした時に、殺し合いに乗った人に奪われると大変だから』という気遣いで、残りの参加者を探しに出たその人が置いて行ったものだ。
実は誰が二人を迎えに行くかを決める時の話し合いで色々あって、少しもめたりもして、最終的に蟇郡と承太郎が智乃たちの護衛を担当することになった。
しかし、どうも承太郎だけは、その人物を送り出すことを躊躇っていたように見えた。
だからだろうか、こんなことを言った。
「気にかけるなら、奴が無事に戻ってくるかどうかよりも、
奴が出会った人物をすんなりここまで連れて来れるのかどうかだ」
-
♂♀
同時刻 ゲームセンター
普段の静雄ならば、あんな放送を聞けば矢も盾もたまらず折原臨也を殺しに走り出していただろう。
だが、ここは池袋ではない。
いつ危険が降りかかるか分からない殺し合いの現場であり、そして越谷小鞠がいる。
「え? え? この放送って、何?」
困惑した子鞠の声を聴いて、キレそうになっていた理性をかろうじてセーブした。
彼女を残して臨也を殺しに走り出しても良いのか。
そばで守るため、小鞠も連れて行くべきか……いや、むしろ連れて行く方が危険だろう。
あの放送を聞いた感じだと、臨也は静雄がどこに誰と一緒にいるかまでは分かっていないようだった。
ならば毒を持ったノミ蟲に目を付けられるより、隠していた方が安全のはずだ。
「ちょっと小鞠、ここでじっとしてろ。誰か来ても、出てくるなよ」
「え、私だけ残るの? 静雄さんはどうするの?」
メダル換金所の窓口の下に、死角となるよう小鞠の身体を入れた。
カウンターの背丈は低いし、人が来てもそう簡単には見つかるまい。
「はっはっは大丈夫だよコマリちゃん。何も殺し合いをしてくるわけじゃないから。
ただちょっと、バイキンマンをぶっ飛ばすアンパンマンみたいなことをしてくるだけだから」
「な、なんでまた、ちゃん付けに戻ってるの?」
「いいから、いいから。戻ってきたら、対戦ゲーでも何でも付き合ってやるから」
懸命にさわやかな笑顔を維持。がんばって維持。
彼の上司がここにいれば、こう言っただろう。
今の静雄なら、国民栄誉賞どころかノーベル平和賞だって狙えるかもしれない。
「……分かった」
納得はしていない風ながらも、小鞠は頷く。
これで良し。あとはさっさと抹殺して、さっさと戻るだけ。
いちおう小鞠を不安にさせないよう考慮して、フロアの外に出るまでは、走り出すことを堪えた。
店内BGMが遠ざかり、階段の一歩目へと足をかける。ここでリミッター解禁。
階段を雪崩のように駆け下り、廊下を風のように走るひと塊となった。
「殺し合いをやってる最中に声をかけたってことはつまり死にたいってことだよなァ臨也ァッ……!!」
キレる寸前の静雄にしては、それは可能な限りの冷静な対応だった。
彼の沸点の低さを考えれば、『殺し合いという殺意を抱くしかない環境で、最も殺意を抱いている臨也の名前で呼び出しを受けた』というのに、
小鞠の身柄をまず第一に考えたというのは、これまでの彼の行状を考えれば驚異的な成長だとさえ言える。
小鞠を隠して残していくという選択も、頭脳労働を極端に苦手とする静雄なりに思いつけた精いっぱいの判断だった。
しかし、そこまでベストを尽くしてたにも関わらず。
それでも彼の思考力では、思い至れなかった。
『声の主は、静雄が小鞠と二人きりで四階にいることまでは知らない』と受け取れるような放送がなされた、その裏の意図を。
♂♀
-
数分後 ラビットハウス
最初に気付いたのは、『腕輪発見機』の一番近くにいた智乃だった。
その驚いた顔に、二階のベッドへと運ばれた蛍をのぞく全員が反応する。
男達は智乃の周りを取り囲み、一様に緊張感に包まれた。
なぜなら、『腕輪発見機』に表示されている生存者の人数が、変わってしまったからだ。
『8人』から『7人』へと。
♂♀
同時刻 ゲームセンター
いつもと同じ天敵との殺し合いだと、たかをくくっていたつもりは無かった。
どれほど性質の悪い男かは、嫌と言うほど思い知っている。ただ、しいて言えば経験則から麻痺はしていた。
あの男は、静雄以外の人間を直接に凶器を持って襲いかかるようなやり口で狙ったことは無かった等々、今まで殺しきれなかった経験からくる思考の弛み。
いつにも増して本気の殺意で、指定された場所へと向かった。
非常口のところにその男はいなかったり、隣のビルの入り口が開いていたのでそちらも探したりして、呑気に空回りをした。
その段階になって、やっと嫌な予感を自覚した。
駆け戻った時は、駆け下りた時以上に足を急がせていた。
キレた後になって喪失感だとか後悔を味わうのは、いつもの喧嘩と同じで。
現在のそれを、『後悔』なんて生易しい言葉で形容していいものじゃないことだけは、いつもと違っていて。
それは本当に、『決定的にいつもと違う』こと。
越谷小鞠が、首から上をゲームセンターの筐体に押しつぶされて死んでいた。
「コマリ?」
理解できない。
それが、平和島静雄の現在だった。
数メートルも離れていない場所にその少女が倒れていることは視認できるのに、その意味するところが頭に入らない。
頭に入ってこないと、怒りを抱くことさえできない。
「おい、コマリ…………コマリちゃん?」
呼んでいるのに、声は己のものではなく。
近づいてみても、床に転がった筐体からはみ出ている『首から下』は、
メイド服を着た小柄な少女のもので。
一歩、また一歩と足を近づけても、それは揺るぐことのない現実で。
「おい――」
ゲームの筐体の下から、血が飛び散っていた。
まるで丸いトマトの上に小さなフライパンでも落としたみたいに、赤い液体はべしゃりとギザギザした円形に広がっていた。
なんだ、血痕みたいじゃないかと静雄は思う。
血痕を見て『血痕みたいだ』という感想を持った己に気付かない。
少女の身体に、あと二、三歩というところまで立ち。
筐体と床との間にある隙間――そこにものを挟んだ分だけできた高さ――は、明らかに人間の頭部より細いことに、静雄は気付いた。
まるで、そこに挟まっているのが『球体』ではなく、『潰れた球体』であるかのように。
【越谷小鞠@のんのんびより 死亡】
理解した瞬間に。
静雄の思考回路が、決壊した。
-
(コマリ) (アイツのシワザ?) (殺された) (目を離した隙に) (アノ名前で、店内放送が) (だったら、誰のせいかは、分かりきって) (死ンダ) (今思えば、つまり俺はおびき出されたことに) (今まで一度も、こんな) (殺さないと言ったのに) (狙いは最初から)
(ア ノ ヤ ロ ウ ノ セ イ デ コ マ リ ガ)
もし、今の平和島静雄の顔を見た者がいれば、こう思ったことだろう。
なぜ、この男の頭はバラバラに破裂しないのだろうかと。
こんなに、頭にくっきりと血筋が浮いて、破裂せんばかりにブルブルと震えているのに――と。
そして、巨大な咆哮が放たれた。
「いいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい゛ざあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁや゛あああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!!」
ゲームセンターの外壁が、内側から窓ガラスでも割れるようにぶち破られた。
4階の高さから、躊躇なく飛び降りるのは平和島静雄。
アスファルトを揺らさんばかりに着地し、唸り声とともに暴走を開始する。
殺意の矛先を向けるは、折原臨也。
【G-7/ゲームセンター付近/一日目・黎明】
【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:激昂
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:ボゼの仮面@咲-Saki- 全国編
不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)を殺す
0:殺殺撲殺殺殺殺殺殺臨也殺殺殺殺殺圧殺殺殺殺殺殴殺殺殺殺殺コマリと同じ目に殺殺殺殺殺殺………
[備考]:折原臨也を探し殺すという目的の元に暴走しています。どこに走って行くか分かったものではありません。
♂♀
十数分後 ラビットハウス
緊張感に包まれていたラビットハウスに、偵察に出かけていたその男が帰って来た。
「衛宮さん!」
ドアをくぐるや、智乃が男の名前を呼ぶ。
男――衛宮切嗣もまた、店内に満ちた緊張感の正体を察しているかのように頷いた。
そして、問う。
「僕が不在にしている間に、レーダーの生存者数が1人減ったかい?」
「1人減りましたねぇ。そしてアンタは、その原因に心当たりがあるって顔だ」
そう答えたのは、店内の奥の方のテーブルについていた青年だった。
それは『承太郎一行が合流してから、今までずっとその席に座っていた』男、折原臨也。
-
「ここにはいない二人のうちの一人を見つけたけれど、手遅れだったよ」
「つまり、二人のうちのもう一人に、殺された?」
それまで静観をしていた青年は、知り合って間もない男へと問いかける。
貪欲に、情報を求めるように。
「ゲームセンターで、小さな女の子が殺されていた。
……なぜかメイド服を着ていたが、そばに着替えと、これがあったよ」
衛宮切嗣は、カウンターテーブルの上に二枚のカードを置いた。
一枚は、コシガヤコマリという名前が印字された路線バスの定期券。
もう一枚は、茶色の長い髪をした小さな少女の姿が描かれた、白い裏面のカードだった。
『もう一枚』を見た智乃がおびえたような表情を、蟇郡と承太郎は険しい表情を、それぞれ作る。
「この女の子が、その『1人』ってわけかい。コシガヤコマリちゃんとなると、蛍ちゃんの――」
「ああ、しかもさらに悪い情報がある。特に折原君にとっては」
情報屋は、眉をひそめた。
「この子は折原君が言っていた『平和島静雄』に殺された可能性がある」
♂♀
約1時間と30分前 駅より東、ラビットハウス付近
「ねえ」
切嗣はエルドラの問いに応えた。
「近くに駅がある。そこに行こう」
そして南下した衛宮切嗣が、『その3人』と出会ったのはそれから間もなくのことだった。
空条承太郎。
一条蛍。
折原臨也。
先頭を歩いていたのは空条承太郎だが、積極的に話しかけてきたのは折原臨也だった。
話を聞けば、彼らは一度映画館を出てからもう駅へとたどり着いており、そこから引き返してきたとのことだった。
いったん駅へと向かったのは、あくまで電車のダイヤグラムを確認するという目的だけ。
それは空条承太郎の発案によるものだ。
何でも彼は船だとか飛行機だとか、密室状態の乗り物に乗っているところを敵の刺客に襲撃されるという経験を何度もしてきたらしい。
今回のように一般人少女の一条蛍も混じっている中で、殺し合いに乗った相手――それも、最悪は走行中の列車に飛びこめるような能力を持つ者――に襲撃されでもしたら、彼女を逃がせる保障はない。
よって、今のところは電車を使わない。いずれ使うとしても、緊急を要するような場合に限るというのが、彼らの結論だった。
しかし『いずれ』のために、せめて駅のホームからダイヤグラムだけは確認しておこうと折原臨也が提案して、承太郎もそれ自体には賛成した。
その確認作業を終えて引き返した時点での、遭遇となった。
空条承太郎は、最低限の情報交換だけを済ませると自分だけでも早々に移動したがっているようだった。
彼にとっては吸血鬼DIOを倒すことと、その為に元からの仲間と合流をすることが最優先の方針だったらしい。
しかし、切嗣はそれを引き止める。
短い会話をしただけでも、承太郎が切嗣の知らない能力を持っていることは察することができたし、切嗣としてはその能力も詳しく知りたい。
しかし、何より切嗣の気を引いたのは『吸血鬼』という単語だった。
魔術師にとって、吸血鬼といえばたいていは『使徒』のことだ。
感染させることで村一つを滅ぼす『使徒』のような怪物がこの会場にもいるらしいとなれば、詳しい話を聞かずに別れることなどできなかった。
-
せめてお互いが持つ情報だけでも正確に共有させておこうと切嗣は主張し、折原臨也もそれに同意する。
元より、一条蛍を道中で誰かに預ける算段もするはずだったのだから、改めて話し合いの席を設けようということで落ち着いた。
こうして、『承太郎一行』は四人になった。
話し合いの場所に選ばれたのは、すぐ近くにありマップにもわざわざ表記されている喫茶店『ラビットハウス』。
道中で、『吸血鬼DIO』をはじめとする、彼等が知る限りの危険人物について教わりながらそこに到着した。
「8人も……います!」
その喫茶店には、さらなる先客がいた。
常人の二倍も三倍もありそうな巨漢――蟇郡苛。
腕輪発見機を持つ少女――香風智乃。
その少女が持つ支給品が示す人数は8人――その場にいた6人を差し引いて、あと2人がこの近辺にいると示すものだった。
♂♀
切嗣は、改めて行動を開始した。
まずは残る二人の位置を確かめておくことが必要だという話になるや、その二人の探索として自身が向かうことを告げる。
そこで多少の悶着はあったが、最終的には切嗣が一人で行くことになった。
まず蟇郡がその二人を迎えに行くと言い出したが、智乃が反対したことによって却下された。
蟇郡の外見に恐怖して彼を刺してしまった智乃からすれば、その二人が自分のように怯えた一般人だったとしたら二の舞になる予感しかしない。
たとえ蟇郡が刺されたことを気にしないとしても、刺してしまった方は後悔するものだと主張する。
そこで折原臨也も『コミュニケーションには自信がある』と立候補したけれど、これは承太郎が反対した。
まだ知り合って間もない相手にナイフを向けるような人間に、その『二人』との交渉を任せられないというのが根拠だった。
その反論自体はもっともなものだったが、それを抜きにしても承太郎が臨也を怪しんでいるように見えたのは、おそらく切嗣の見間違いではない。
とはいえ、臨也が信用しきれないから喫茶店に残れと主張するならば、承太郎も臨也と共に残るのが筋ということになる。
そして切嗣の支給品のひとつは、探索に向いたものだった。
『コシュタ・バワー』という名称の二輪車で、いざとなれば建物の壁を走ることもできるがゆえに、『二人』が危険人物だったとしても逃走しやすくなるはず。
そう保証して、切嗣はその『二人』と先に接触する権利を獲得した。
喫茶店を出発した切嗣は、支給品の最後のひとつ――『蝙蝠の使い魔』を開封した。
切嗣の生み出した使い魔では無かったが、魔力のパスを作ることでその感覚器を共有できるようになっている。
カードからバイクを取り出す前に蝙蝠を先行させ、ゲームセンターに入り込ませた。
この近辺で人が立て籠もる施設としては、そこが妥当だろうと踏んでのことだ。
案の定、残る二人はそこにいたし、それは意外な二人でもあった。
折原臨也が絶対的な危険人物だと述べていた男、平和島静雄。
一条蛍の知り合いだという少女、越谷小鞠。
その二人が仲良く談笑し、ゲームセンターのゲームで遊んでいたのだから。
-
『間違いなく殺し合いに乗る――それも、自動販売機を投げつけるほどの絶対的な怪力を振るう人物』という情報は、最初から誤っていたことになる。
折原臨也が平和島静雄のことを誤解していた? ――違う。
折原臨也から聞いた特徴は、『誰であろうと喜び勇んで暴力を振るう悪いやつ』。
そんな分かりやすく目立つ特徴を、それも地元では有名人らしき人物を、同じ町に住んでいて誤解するとは考えにくい。
つまり、折原は平和島を陥れるために、悪評を流したということ。
ゲームセンターの近くでエルドラとコシュタ・バワーをカードに収納する。
さらに二人の会話を盗聴して確信した。
折原が平和島を評した言葉は、少なくとも部分的には正しい。
まず、折原臨也と敵対関係にあること。
そして怒りの沸点が異常に低く、『自分にとって気に入らない行動をした』といったような理由で理性を失い、すぐに暴走をする。
この時点で切嗣は、どう対応をするかを決定していた。
多数を救うために、少数の危険因子は排除する。
初めから切嗣は、二人が『少しでも他の参加者や切嗣に不利益をなし得る者』だった場合は、
今の自分にできる限りの手段を使って排除するつもりで出発したのだから。
そんな衛宮切嗣が、折原臨也と平和島静雄の人となりと関係をおよそ推察してしまえば。
どちらの側に立つかは分かりきっている。
『保身を考えている合理性がある悪人』よりも『善良かもしれないが暴走する怪物』を生かしておく方が、切嗣にとっては100倍も悩ましい。
そのうち理性のタガを外して暴走して、周囲を巻き込みかねないといった理由だけではない。
あの手の人物は、たとえば切嗣が『必要だから』ともう助からない参加者を見捨てようとしても『見捨てるのは良くない』という感情論だけで烈火のごとく怒りを露わに反対して、切嗣を殴り倒すか、最悪は暴力で殺してでも止めようとするだろう。
怒りを露わにしながらも命令には従うだけ、セイバーの方がまだ話が通じるとさえ言える。
平和島静雄を切り捨てる理由こそあれど、命の天秤を傾けるべき理由はなかった。
では、お世辞にも装備が整っておらず、使える魔術も制限されているとおぼしき切嗣が、平和島静雄を追い詰め、排除するための最適な方法とは何だろう。
とてもシンプルだ。
平和島静雄の犯行に見せかけて、越谷小鞠を排除する。
ただの少女である越谷小鞠を、命の天秤から放り出す。
切嗣は、外道ではあっても冷血ではない。
必要ならば一般人だろうと殺害するけれど、積極的に幼い少女を殺すような真似はしない。
むしろ、この状況下で『足手まといになりそうだから』とか安易な理由をつけて少女を殺害しようとすれば、最低限の信用さえおけない冷血漢だと見なされるリスクが極めて高い。
それはとても愚かなことだ。
しかし、逆に言えば。
この非常時に、一般人の少女を敢えて保護する理由は、それ『だけ』に尽きる。
-
元より衛宮切嗣は、『主催者の力を奪い取る』という目的が正攻法――殺し合いに反対する者全員で力を合わせて繭を倒す――によって実現するとは、さほど期待していない。
というより、対主催派の『全員』と力を合わせることなど、まず不可能だ。
切嗣のサーヴァントであるセイバー。そして、切嗣と交戦したケイネス・アーチボルトのサーヴァントであるランサー。さらに、なぜか切嗣をつけ狙ってアインツベルン城まで来た言峰綺礼。
間桐雁夜については御三家の出自でありバーサーカーのマスターであること以外に接点はなかったけれど、この三名については、限りなく協力関係を築きにくいと断言できる。
(キャスターのサーヴァントも脅威ではあるが、あれは切嗣だけでなくすべての参加者にとっての敵となるだろう)
『弱き者を救う』という英霊たちの騎士道精神と、目的のためなら外道にもなる切嗣の在り方が相容れることは決してない。
ましてやこの場には、切嗣とセイバーの関係をぎりぎりのところで繋ぎとめている最大の仲介役だったアイリスフィールもいない。
そして、切嗣がセイバーの行動によって不利益を被るような時に、それを制止するための絶対命令権である『令呪』も、三画とも失われている。
ただでさえ断裂していたマスターとサーヴァントの関係だ。紙でも裂くようにあっけなく破綻するだろう。
ランサーについても、セイバーと似たようなメンタリティだ。
ケイネスと交戦した際に、対峙した時の言動は、セイバーと同類の『騎士様』のそれだった。
今のところ切嗣は、彼等との接触を極力は避けるよう動くつもりでいる。
だが、殺し合いが進行するにつれて、そうも言っていられなくなるだろう。
セイバー達はおそらく、『衛宮切嗣は、願いが叶う確かな保証さえあれば殺し合いに乗るかもしれない。信用してはならない』ということを他の参加者に伝えるはずだ。
(実際、繭が『全人類の救済』という願いを叶えられるようであれば、その力を利用するのも良しと考えているのだから、大きく間違ってはいない)
早々にキャスターとでも相討ちになってくれれば好都合だけれど、アテにするのも楽観視がすぎる。
特に言峰綺礼については厄介だ。
殺し合いに対してどう動くか読めないということもあるし、何より『代行者』としての仕事柄、他のサーヴァントとは違って『逃げながら立ち回る』という動きをすることができる。
そう簡単に脱落するとは思えなかった。
殺し合いが進行し、衛宮切嗣の人となりが露わになるにつれて、切嗣が立ち回ることは難しくなる。そう懸念して動かなければならない。
そういう意味でも、小鞠を殺害したことで平和島静雄が暴走してくれれば、そこにもメリットはある。
単に『殺し合いに反対する人々で集まった』だけでは、切嗣が自由に動けない。
『襲ってくる相手のことは容赦なく撃ち殺します』という行動に訴えようとしても、
反対されるか、あるいは『助けられる限りは救えないのか』という甘い考えで牽制されることもあるだろう。
しかし、そこに『幼い少女さえ平気で殺害するような極悪人がこの近くで暴走しています』という要素が加わればどうなるか。
普段の切嗣に、近い動きをすることができる。
そういったことを、あの場で即座に考え付いたわけではない。
映画館を出発した時から、それこそ『どう立ち回るか』と思考を始めた時から、曖昧に組み立てていた。
ただ、そこに『平和島静雄』と『越谷小鞠』という具体的に嵌まるピースが転がり込んでしまった。
だから計画はできあがった。
それを躊躇なく実行した。
後の布石のために、隣接するビルの入り口の扉はあらかじめ開けた。
すでに非常口から潜入して、放送室へともぐりこんでいる。
あとは、折原臨也の名前を騙って平和島静雄を越谷小鞠から遠ざける。
平和島が指定した場所ではなく放送室にやってくる可能性もあったので退路とする窓は確保しておいたけれど、幸いと非常口へ向かってくれた。
とはいえ、時間的余裕はさほどない。
こちらも全力疾走をして、4階のフロアへと到着する。
越谷子鞠の隠れ場所は、使い魔によって筒抜けになっている。間違えようもない。
-
「お、おじさん……誰?」
イリヤも、年相応の成長をしていれば、この子の外見と同い年ぐらいだろうか。
殺す前に抱いたのは、そんな感想だった。
♂♀
一日目 黎明 ラビットハウス
(灰皿で殴って気絶させたところを、転がった筐体のところまで運んで、圧殺。
ゲームセンターの筐体の重量は約100キログラム。
僕の腕力でも、不安定に傾いた筐体を、さらに床に傾けて押し倒すことぐらいはできる。
灰皿は越谷小鞠を殺害した時に、いっしょに筐体で潰して証拠隠滅とする。
これで、傍目には『ゲームの筐体を投げつけられて殺された。犯人は筐体を持ちあげることができる人物だ』と思われる死体が完成)
あとは、『すれ違いで、ゲームセンターの外壁を破壊して逃亡するバーテン服の男を目撃した』と言えばいい。
報告を終えた喫茶店に蔓延したのは、おおむね切嗣が予想していた通りの反応だった。
表情を動かさなかったのは、空条承太郎ぐらいのものだ。
(彼もまた切嗣から分け与えられたタバコを噛み潰さんばかりにしていたが)
そこに蔓延する空気は、殺人犯に向けられた怒りであり、すぐ間近で少女が殺されていた衝撃であり、そして子どもらしく二階で眠っている一条蛍のことを想っての鎮痛だった。
そんな彼等の感情に指向性を与えてやるように、切嗣は今後の動きについて提案する。
まずは、男手を三人ばかり連れて改めてゲームセンターに向かおう。
越谷小鞠を下敷きのまま放置するのは忍びないし、平和島静雄を知っている折原臨也が殺害現場を見れば、間違いなく平和島の犯行かどうかを断定できるかもしれない。
切嗣と折原の腕力だけではゲーム機の筐体を持ち上げられないだろうと、蟇郡もそれに同道することを申し出た。
空条承太郎も現場を見せろと言い出したが、蟇郡と智乃からやんわりと、しかし(特に智乃からは)切実に、喫茶店に残ってほしいと頼まれた。
なぜなら、一条蛍が目覚めた時に、友人の死を伝える役目の者が必要となる。
まだ一条蛍という名前ぐらいしか知らない蟇郡たちでは、彼女を落ち着かせることができるかどうか。
承太郎は切嗣と臨也の方をいぶかるように睨んでいたが、智乃たちも『辛い役目を任せてしまって申し訳ない』という態度で頼んでいる手前、無下にすることはしなかった。
こうして、ゲームセンターに向かうことになったのが、衛宮切嗣と、折原臨也と、蟇郡苛の三人。
ラビットハウスに残るのが、空条承太郎と、香風智乃と、一条蛍。
切嗣がラビットハウスの前でコシュタ・バワーを呼び出して出発しかけ――しかしすぐにカードに戻した。
どうやらこのバイクは数人乗りの馬車にも変形できるらしいけれど、それでも蟇郡のたいそうな巨体プラス男2人を収容して走れるかは、いささか心もとない。
仕方なく、歩いてゲームセンターへと向かう。
-
「蟇郡さん、気を付けてください」
見送りに、智乃がラビットハウスの外まで来ていた。
あまり感情を顔に出さない少女だったが、今この時は、表情に明るくない色がある。
『悔しい』と『心細い』の中間のような顔。
そんな彼女を見下ろし(態度ではなく身長の都合である)、蟇郡は言い放った。
「俺は本能字学園風紀部委員長にして生徒会四天王の1人だ。
であるからには、この場にいる学園の生徒も皆保護するつもりでいる」
何が言いたいのだろう、と智乃は意味を掴みかねる。
だが、蟇郡は続けて言った。
「香風はこの店の主だろう。
この店を訪れた客が涙するかもしれんというのに、店主が温かい飲み物も出してやらんのか」
「!」
智乃は目を見開いた。蟇郡の言いたいことが伝わったからだ。
「そんなこと……ありません」
「ならば良し」
こうして大きな男と小さな少女は同時に頷き、一時の別れを告げた。
♂♀
(できれば二人きりで話したかったが、そう都合よくもいかないか。
ともかく、これで折原と会話する機会は作れた)
噛み煙草を吐きだし、切嗣はここまでの成果にひとまず満足する。
ゲームセンターへ向かうことを口実としてチーム分割を提案した最大の理由は、折原臨也を見極めるためだった。
幸いなことに『平和島静雄に関する情報が悪意ある誤情報だと知っている』という交渉材料もある。
もしも折原が考えも無しに悪評を振りまくただの道化ならばいずれ彼のことも排除しなければならないし、
そうでないなら――『手段を選ばない理性的な悪人』ならば、その逆の関係を築けるかもしれない。
目下のところ、敵をつくりかねない位置にいる切嗣が欲しているのは『同盟者』だった。
それも、かつてセイバーでなくアサシンのサーヴァントを欲したように。
衛宮切嗣のスタイルを理解した上で動き、他の参加者から不審を持たれたらフォローに回ってくれるような人材と組むことができればありがたい。
つまり、手段を選ばないようなタイプであり、その上で交渉や駆け引きごとを知っている、つまり最低限の信用はできるような人物。
その上で、他の参加者とも折衝できるようなコミュニケーション能力があればなお望ましい。
-
今のところ、折原の行動原理は分からない。
しかし、これまでに得られた印象では、それら条件のうちの幾つかを満たしている。
あとは、そいつが利用できる存在かどうかを確認するだけだ。
蟇郡を先頭にして、後方を歩く二人は互いの視線を交錯させる。
折原が切嗣に対して何を思ったのかは分からないが、
お互いが互いのことを『仮面のような表情だ』と思ったことだけは間違いない、そんな顔をした二人だった。
街の夜風は、生温い。
街に住む人々の熱さと冷たさが、空気に溶けて混じりあっているかのように。
【G-7/ラビットハウス/一日目・黎明】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3
噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。
1:衛宮切嗣の報告に釈然としないものを感じる。
2:折原臨也が気に喰わねえ。
3:DIOの館に向かいたいがまずはこの状況について考える。ゲームセンター行き組が戻ってきたらきっちり問い詰める
4:一条蛍が目覚めたら、越谷小鞠の死を伝える。
[備考]
※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦
※折原臨也、一条蛍と情報交換しました(衛宮切嗣、蟇郡苛、香風智乃とはまだ詳しい情報交換をしていません)
【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:健康 、睡眠中
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3
[思考・行動]
基本方針:先輩とれんちゃんと合流したいです。
1:次々に色んな人と知り合って少し疲れました…
[備考]
※空条承太郎、折原臨也と情報交換しました。
-
【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、落ち着いた
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:果物ナイフ@現実
黒カード:不明支給品0〜1枚、救急箱(現地調達)
[思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい
1:ラビットハウスの店番として留守を預かる。『お客さんたち』にも何かをしたい
2:ココアさんたちを探して、合流したい。
[備考]
※参戦時期は12話終了後からです
【G-7/ラビットハウス付近/一日目・黎明】
【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]:健康、緊張感
[服装]:いつもの黒いスーツ
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS
蝙蝠の使い魔@Fate/Zero
コシュタ・バワー@デュラララ!!
噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:手段を問わず繭を追い詰め、願いを叶えさせるか力を奪う
1:折原臨也を見極め、排除するか利用するか決定
2:1の後、ラビットハウスの一団からも改めて情報収集をする
3:平和島静雄とは無理に交戦しない
4:有益な情報や技術を持つ者は確保したい
5:セイバー、ランサー、言峰とは直接関わりたくない
[備考]
※参戦時期はケイネスを倒し、ランサーと対峙した時です。
※能力制限で魅了の魔術が使えなくなってます。
他にどのような制限がかけられてるかは後続の書き手さんにお任せします
※空条承太郎、折原臨也、一条蛍から知り合いと危険人物について聞きました。
-
【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:生存優先。人間観察。
1:俺が何もしていないのにシズちゃんが自分から嵌められてくれた。
2:ゲームセンターに向かう。とりあえず衛宮切嗣は『人間』なのかどうか観察。
3:空条承太郎君、面白い『人間』だなあ。
4:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。
[備考]
※空条承太郎、一条蛍と情報交換しました。
【蟇郡苛@キルラキル】
[状態]:健康、顔に傷(処置済み、軽度)
[服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放
[装備]:腕輪発見機@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:主催打倒。
1:まだ付近にいるかもしれん平和島静雄に警戒しつつ、ゲームセンターへ
2:皐月様と合流したいのはやまやまだが、平和島静雄が殺し合いに乗っている人物だと皐月様 に報告せねばならないし、まずはゲームセンターの現場確認と、情報交換。
3:皐月様、纏、満艦飾との合流を目指す。優先順位は皐月様>満艦飾>纏。
4:針目縫には最大限警戒。
[備考]
※参戦時期は23話終了後からです
【腕輪発見機@現実】
香風智乃に支給。
形はセルティ・ストゥルルソンが使っているPDAに似ている機械。
そのエリアにいる『まだカード化されていない腕輪(すなわち生存者の腕輪)』の個数を表示する機能を持つ。
表示されるのはあくまで数だけであり、そのエリアに何人いるかは分かっても、どこにいるのかは分からない。
【ボゼの仮面@咲-saki-】
平和島静雄に支給。
永水女子高校の薄墨初美がよく身に着けている大きな民族風の仮面。
鹿児島県トカラ列島の悪石島に伝わる来訪神行事ボゼ祭で使われる仮面。
とてもシュールな面相をしており、子どもが見て喜ぶような人相の仮面ではない。
【蝙蝠の使い魔@Fate/Zero】
衛宮切嗣に支給。
生きている支給品の中では『持ち主から離れてはならない』という制限が緩めに設定させており、
同じエリア内ならば単独行動で偵察をさせることができる。
Fate/Zeroでは、聖堂教会からの呼び出しを受けた魔術師たちが視覚と聴覚を共有した使い魔を教会に派遣することで、自身が教会に足を運ぶことなく監督役からの指示を聞きとらせる等の使われ方をしている。
【コシュタ・バワー@デュラララ!!】
衛宮切嗣に支給。
セルティ・ストゥルルソンの愛馬。シューターという名前を持つ。
無灯火、無登録で、無音の黒漆バイクは重力に関係なく、壁すらも走ることができる。
バイクの姿の他にも、首なし馬の姿や、馬車の形に変形することも可能。
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投下終了です
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すみません、>>515でとんでもない誤字をしておりました
「使徒」ではなく「死徒」ですね、申し訳ありません
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投下乙です
てっきり臨也対静雄かと思ったけど、そうか切嗣が居たか……
完全にプッツンした静雄、不安要素をガンガン排除しにかかる切嗣、切嗣の小鞠殺しを唯一知ってる臨也、危険人物二人にサンドイッチされた蟇郡先輩、切嗣の報告を完全には信じきれてない承太郎、未だ小鞠の死を知らない蛍……一人一人に今後が気になる要素が入ってて面白いなぁ
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投下乙です
切嗣はやはりやらかしたかあ……直前まで楽しそうにしてた描写を見ているからこそ尚更こまちゃんの死が辛いなあ
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投下します
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掬いあげた土塊が宮永咲の遺体の上に被せられる。
青のカードから出したペットボトルの水で汚れた両手を洗浄する。
そして中肉中背の童顔の少女 小湊るう子は両手を合わせ咲の冥福を祈った。
遺体に土を被せ、両手を合わせるだけの簡単な弔い。
心の片隅には近くにいるかも知れない殺人者からさっさと逃げるべきだという危機感はあったが
それでも命の恩人である咲の弔いだけはやっておきたかった欲求が勝った。
いま彼女の横には黒い乗り物が止まっている。所持した黒のカードから出した支給品であった。
埋葬中に危険人物が来なかった1つの幸運にるう子は安堵する。
埋葬を最後まで済ませることができたのだから。これからはこういう事さえ行う余裕はないかも知れない。
それだけにその数分の余裕は心にしみた。
亡き咲に対し感謝の意を伝えようとした瞬間、、風が吹いたような音をるう子聴いた。
るう子は口をつぐみ、感覚を研ぎ澄ませ、不吉さのようなものを感じ取ると乗り物に手を触れる――。
□ ■ □ ■ □ ■
□ ■ □ ■ □ ■
俊敏で規則正しい動きで、金髪の白いライダースーツの女は神社へ足を運んだ。
そして時折思い出すように定期的に右手で手刀を作り横にあるいは縦に振る。
その動きは人に当たれば相応のダメージを与えると思える迫力があった。
――……うん確認
彼女の表情は変わらず、代わりに眼差しは機嫌よく輝いた。左手にはカードの束が握られている
カードの束を手にする前と後とではキレが……格段にとまでは言わないが、良くはなっていた。
あの小人が言った通りである。劇的な上昇とまでは言えないがほぼノーリスクでこの変化は大きい。
移動速度も上昇しているような気さえする。支給品に武器はなかったが超常の力を持つアイテムを入手できたことに
女――通称ヴァローナは静かに感激していた。
彼女の目的は参加者と接触し、敵意がなければ情報収集と支給品確認。
もし開示を拒み、それでいて有用な支給品を持っていれば強奪する腹積もりだった。
敵意があれば、素手で太刀打ちできそうなら戦闘する事もやぶさかではない。
その過程で相手が死んでしまっても強ければ構わない。
そう彼女はどちらかと言えばゲームに乗り気だった。
ヴァローナは殺人快楽者ではない。
人を倒すことも殺すことも好きではなく、脆くないと認識出来るだけの強者を探し、打ち倒すのが彼女の最大の欲望であった。
彼女は確認したいだけだ、自らも含め人間は脆いのかどうかを。
そうし続けることで渇きとも言える心地悪い違和感が和らぐような気がするから。
その欲求ゆえに、そして父親がギャングである出自ゆえに彼女は幼い頃から殺し屋紛いの仕事に携わって来た彼女に、
今参加させられているゲームに対する強い忌避感など抱くはずはなかった。
仕事の関係上敵対した静雄達との戦いの最中に攫われ、非戦闘員としか思えない子供を含めた殺人ゲームの強要をする繭に怒りはある。
弱者をなぶったり、壊したりするのはどうしても気が進まないから。
だが驚嘆すら覚える超常を見せつけた繭に対し、歯向かう気までは今のヴァローナにはない。
「っ!?」
微かだが、エンジン音らしきものが聞こえ、何かが押しつぶされるような音も聞こえた。
ヴァローナは足を早めた。
-
森を抜け、彼女は神社の前に立った。
そこにはタイヤ跡や不自然な土の盛り上がりがあった。参加者の姿はない。
タイヤ跡をたどり、先の森の荒れた茂みの方へ入ったが、参加者の姿は見当たらなかった。
確認できたタイヤ跡からバイクで立ち去ったと推測、追跡した所で追いつけそうにない。
彼女は神社前に戻り思わず嘆息する。
真っ暗闇に覆われた山の中、またもや彼女の手刀が空を切った。
□ ■ □ ■ □ ■
□ ■ □ ■ □ ■
――ほんとは会って話をした方が良かったかも知れない。でも……
やけに低いエンジン音と微妙にサイズの合わないヘルメット。
それらに少々困惑しながらもるう子はスクーターを走らせる。
ぶっつけ本番だったが事前に説明書を読んだこともあり、るう子は支給品のスクーターを扱えつつあった。
るう子は近くにもう誰の気配もないことに気づくと、スクーターを止め黒のカードと懐から計2枚のカードを取り出す。
1枚は宮永咲の絵、もう1枚は咲の支給品で顎鬚の生えた大男の絵が書かれたカードであった。
ゲーム開始前、繭は死んだ参加者の魂は白のカードに閉じ込められると言っていたのを思い出す。
生きたカードであるルリグと深く関わっていたるう子には、大男のカードでさえ参加者ではない別の人の成れの果てに思えた。
過去出会ったどのルリグよりも迫力があり、頼りがいさえ覚えるカードなのに、るう子は無念そうに目を閉じた。
「誰だかわからないけど、あなたもいつか……」
咲の死を前にしてもるう子の志は揺るがない。むしろ2枚のカードを前にしてよりやる気を出したといえる。
セレクターバトルを主にした数々の修羅場を乗り越え、ここに置いては宮永咲の決死の奮闘を心に刻んだるう子はここで挫けるはずがなかった。
さっきは車椅子の少女のような不意打ちを警戒しあえて避けたが、ずっとそうしている訳にはいかない。
以前の自分ならできそうにない選択だけど、こちらから他参加者を発見し接触を試みてみよう。
そう気持ちを引き締め、これから出会う参加者を想いヘルメットを被った。
――さっきの人とは会う勇気はなかったけど、あなたとは……
スクーターの座席に座り、ハンドルを握り走らせる。
ライトの光量を調整しそれを頼りに目的地へ向かう。
舞台の南東の市街地へ。
殺し合いを阻止する手立てを探るために。
□ ■ □ ■ □ ■
□ ■ □ ■ □ ■
盛り上がった土の下にはヴァローナより数歳年下と思わしき少女の遺体があった。
状態からして直後ではないと推測できる。傷からして下手人は銃を持っている。
血痕を辿り、不意を打って銃器を強奪できればと彼女は考えた。
「……その、あの人をそのままにしておくんですか?」
手にしたカードから少女の静かなる問いがかけられた、
カードには緑の長髪を極端に逆立たせた細身の少女の姿があった。
名は緑子。生きたカードルリグの1人でヴァローナの支給品の1つ。
ヴァローナの身体能力を若干ながら上昇させているのは緑子の力アーツの『奇々怪々』の力ゆえ。
本来はルリグの力の大半はウィクロスというカードゲームの中でのみ発現されるもの。
だがこのゲームに置いてはある意味創造主である繭の力もあり、事情が多少違っているようだった。
-
ヴァローナは遺体を見つめつつ呟く。
「……土を被せる?」
「……」
少々怯えのような色をにじませつつ緑子は頷いた。
「……肯定します」
ヴァローナは静かに返答するや、手早く遺体に土を被せた。
緑子からはまだヴァローナにとって必要最低限の事しか聞いていない。
いくら力に憧れがあるといっても、そう容易に超常を受け入れられるほどヴァローナは柔軟ではない。
特別打算的ではないし、ドライでもないが、機嫌を損ね非協力的になっても困ると直感し受け入れる。
別に死者に対して悪感情や他者に押し付ける程の無価値さもない。さりたて抵抗はなかった。まだ余裕はあるし。
殺害したターゲットにそういうことをしたことはなかったなと思いつつ、ヴァローナは次のプランを練った。
【E-3/道路/一日目 深夜】
【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:健康、スクーター運転中
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
黒カード:黒のスクーター@現実、チタン鉱製の腹巻@キルラキル
ライダー(征服王イスカンダル)のカード
不明支給品0〜1枚、宮永咲の不明支給品0〜1枚 (確認済)
宮永咲の魂カード
[思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
1: 最低限の警戒を忘れず、南東の市街地へと向かい協力者を探す。
2: 浦添伊緒奈(ウリス?)、紅林遊月(花代さん?)、晶さんのことが気になる
3: 魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
[備考]
※参戦時期は二期の8話から10話にかけての間です
【F-3/森/一日目 深夜】
【ヴァローナ@デュラララ!!】
[状態]:健康、『アーツ 奇々怪々』により若干だが身体能力上昇中
[服装]:白のライダースーツ
[装備]:手に緑子のカードデッキ
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
黒カード:グリーンワナ(緑子のカードデッキ)@selector infected WIXOSS
黒カード:不明支給品0〜2枚(武器と判断できるものはない)
[思考・行動]
基本方針: 武器を集めた後、強者と戦いながら生き残りを目指す。優勝とかは深く考えない。
1: 緑子から情報を収集した後、武器になりそうなものを探す。
2: 強そうな参加者がいれば戦って倒したい。特に静雄や黒ヘルメット(セルティ)。
3: 弱者はなるべく手を掛けたくない。
[備考]
※参戦時期はデュラララ!!×2 承 12話で静雄をナイフで刺す直前です。
-
・支給品説明
【黒のスクーター】
小湊るう子に支給。
ヘルメット付きで、照明とエンジン音に多少の改造が施されている原付きバイクの一種。
トゥデイっぽい。照明はかなり細かい調整が効き、エンジン音も無音に近いとまではいかないが静か。
若干ステルス使用。最高速度は時速60キロまで。説明書付き。
【ライダー(征服王イスカンダル)の魂カード】
宮永咲に支給。
当ロワ未参戦のサーヴァント、ライダー『征服王イスカンダル』の魂が封じられたカード。
ルリグと違って意思の疎通や行動はできないが、高い魔力は感じられる。説明は腕輪にのみ表示される
関連する宝具があれば何らかの変化はあるかも知れない。今のところ何らかの効果は見当たらない。
【グリーンワナ(緑子のカードデッキ)@selector infected WIXOSS】
ヴァローナに支給。
植村一衣(ロワ未参戦)のルリグ 緑子が収納されたカードゲーム『ウィクロス』のカードデッキ。
外見は逆立った緑の髪の毛をした露出度の高いボーイッシュな衣装と雰囲気のした少女。物静かな性格。
少年口調で一人称は僕。使用可能なアーツについて説明は受けているが、ロワの説明はどれだけされているかは不明。
本来ならカードゲーム内のみで使用できるアーツ『奇々怪々』が使用可能。
他の能力が使えるかは不明。
※アーツ『奇々怪々』について
本来ならカードゲーム内においてシグ二(将棋で言う王将以外の駒のようなもの)を複数強化するのみだが。
当ロワにおいては黒カードから出してカードデッキを手に所持した場合にのみ、身体能力を若干上昇させる効果がある。
デッキを落としたり、カードを損傷させてしまうと効果は失われる。
元はコスト無しに使用できるアーツだけにエナコスト(魔力消費)はないが、もし別のアーツを使ってエナコストを消費した場合、
回復するまで奇々怪々は使用できない。
エナコストの回復は通常1コストにつき1時間。何らかの要因でエナコストが補充されればその限りではない。
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投下終了です
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>>531
訂正です
【F-3/森/一日目 深夜】 →【F-3/神社前/一日目 深夜】
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>>532
投下乙です
るう子は生き残りましたか…目の前で知り合いに死なれた後も1人で埋葬を済ませるとは強い子だ
殺し合いに肯定的な態度を示しながらも遺体を弔うことは肯定するヴァローナに、とても人間味を感じました
ところで、今日一日パソコンに触れなかったために仮投下時に指摘することができず申し訳ありませんが
イスカンダル(ロワ未参戦キャラ)の魂を支給するというのは少々いかがなものかと思います
現状、カードから魔力は感じられるとのことですが、
魔力タンクとしての支給なら、あまりイスカンダルの魂ということにする必要性が薄いように感じました
そして、もし今後イスカンダルのカードがイスカンダルのカードとして活躍する機会がくるとしても
(例えばカードから魂が解放された時にそのキャラとして振る舞う等)
それは『序盤からロワ未参戦キャラを「本ロワオリジナルの支給品」という扱いにすることで幾らでも登場させ放題になる』
ということにはならないでしょうか
現状では他のアイテムを支給しても展開に無理はないように思えます
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確かにそこは気になった
話の中で何か意味のある要素として登場したわけでもないし、変に荒れそうな要素は追加しないほうがいいかもですね
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>>535-536
感想とご指摘ありがとうございます
修正スレで修正稿を投下しました
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>>537
修正乙です
問題ないと思います
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さっそくですが投下します
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「おいこら神父! 戻せって! 戻るんだよ!」
「そう暴れるな。もっとも、御者席から転げ落ちたいのなら止めはしないが」
再度戦車を走らせてから暫し。
DIOがポルナレフと呼んだ銀髪の男は、綺礼が想像していたよりもずっと早く目を覚ました。
重傷を負っていたのは間違いないはずだが、手綱を取る綺礼の肩を揺さぶってがなり立てられる程度の余裕はあるらしい。
無論、何かしらの魔術を行使している様子はない。大したタフネスだと驚嘆せざるを得なかった。
「あの男を――DIOを放っておくわけにはいかねぇ。何としてでも……ッ!」
「命と引き換えてでも倒さねばならない、と言うつもりか」
「ああッ!」
「ならば尚更、戻るのは止めておけ」
綺礼は手綱を操って神牛に停止の指示を送った。
巨大な戦車(チャリオット)が地面を軋ませて停止する。
「DIOとやらは、既にあの館を離れたはずだ」
「はぁ!?」
ポルナレフが怪訝に顔を顰める。
綺礼はそんな同乗者に視線を向けることもせず、淡々と言葉を続けた。
「逃走時に館の内部を可能な限り蹂躙しておいた。特に外壁を重点的にな」
DIOは自身を太陽アレルギーと称した。
光線過敏症という疾病は確かに存在するが、病的に太陽光を避けねばならないものではない。
加えて、あの人間離れした身体能力――この二つを同時に兼ね備えうる存在を、言峰綺礼はよく知っている。
死徒。いわゆる吸血鬼だ。
そう仮定すればポルナレフが必死になるのも頷ける。
この閉鎖環境に死徒を解き放てば、被害者が死徒の下僕となりその下僕が新たな被害者を生み……と最悪のパンデミックが予想される。
ただでさえ、死徒は弾丸を視認して回避しうる怪物だというのに、環境がとにかく最悪だ。
逃げ場がなく、増援も見込めず、ひたすら数を減らし合う殺し合いの場で死徒の軍勢だけが増えていく。これを最悪と言わず何という。
しかし、綺礼とて凡百の徒ではない。
"異端"や"魔"を滅ぼす代行者として多くの死線を潜り抜けてきた。
故にああいう手合への対処法はいくらか心得ている。
館――即ち敵拠点に対する破壊工作もその一環だ。
日光から逃れるためにあの館を利用していたのなら、壁という壁を破壊された館はもはや無価値。
となると、DIOは新たな潜伏先を求めて館を放棄したと考えるべきだろう。
「……なるほど。そういうことなら、今更戻ったところで館はもぬけの殻か。悪ぃな神父。ついカッとなっちまった」
たった一言の説明で、ポルナレフは冷静さを取り戻したらしかった。
直情的ではあるが愚鈍ではない。それなりに磨かれた戦術眼を持っている。綺礼は内心でポルナレフをそう評した。
□ □ □
-
「にしてもよぉ、にわかには信じらんねぇな。あんた『未来』から来たってのか」
「信じられないのは私も同じだ。よもや『年代』すらずれ込んでいようとは」
戦車をカードに収納し、路端に身を隠して情報交換を終えた二人は、奇しくも同じ感想に行き着いていた。
ポルナレフは今を1980年代後半と主張し、綺礼は1990年代と認識している。
念のため、ここ数年の世界情勢について確認してみたところ、確かにポルナレフ80年代末から90年代の出来事を知らないようだ。
湾岸戦争すら知らぬと言われたときは、さしもの綺礼も言葉に詰まらざるを得なかった。
記憶喪失というのもまた考えにくい。
両者の年齢はそこまで離れていないにも関わらず、ポルナレフは1970年代――綺礼が物心付いていたかどうか怪しい時代の出来事を事細かに説明した。
よほど手の込んだ悪戯でない限り、考えられる理由はただひとつ。
「けどまぁ、信じるしかねぇか」
ポルナレフは名簿を開き、ガシガシと後頭部を掻いた。
「話を戻そう。さっきも言った通り、おれが知ってる名前は五人分だ。
味方にできそうなのは二人……甘々の審査基準なら三人ってところだな」
ポルナレフの証言をまとめると次のようになる。
DIOとヴァニラ・アイスは手を組む余地などない極悪人。ヴァニラはDIOの忠臣であり互いに敵対することもない。
ホル・ホースは善人とは言いがたいが、先の二名と比べれば格段に"マシ"
空条承太郎と花京院典明は全面的に信頼できる味方――の可能性が高い。
「味方だと断言はできないのか?」
「ああ。最初は全面的に味方だと思ってたんだが、時代がズレてると分かって確信が薄れた」
ポルナレフは苦々しげに頷いた。
「DIOには人間を操る能力がある。おれは直接見たわけじゃないが、花京院もその犠牲になっていた時期があるらしい」
「なるほど。花京院典明が"その時点"から連れて来られている可能性は考慮すべきだ。空条承太郎はどうだ」
「それも断言はできねぇ。こんなことは考えたくねぇけどよ、もしも、万に一つ、これから先の戦いでおれ達がDIOに勝てていなかったとしたら……」
「……空条承太郎がDIOの手に落ちているかもしれないと」
「せっかくボカしたのに言うんじゃねぇよ! ったく、縁起でもねぇ」
ポルナレフの文句を聞き流しながら、綺礼は先ほどポルナレフに与えた情報を頭のなかで反復した。
セイバー、ランサー、キャスターの三名は綺礼が知る者の可能性はあるが、本名ではないため断定不可能。
仮にそうであると仮定した場合、セイバーとランサーは驚異的な戦闘能力を持つ"騎士"で、キャスターは正気を失った殺戮者である。
雨生龍之介はキャスターの共犯者だが、超常的な力を持たぬごく一般的な――奇妙な表現だが――快楽殺人者。
間桐雁夜はいくらかの秘術を心得ているものの、その代償で放っておいても遠からず脱落する半死人。
そして――
「で、この衛宮切嗣って奴は傭兵なんだな」
「ああ、そうだ。それ以上でもそれ以下でもない。信用はできないが脅威でもあるまい」
綺礼は衛宮切嗣に関する情報の一部を伏せていた。
ポルナレフが「こいつと手を組もう」とも「真っ先に討つべき」とも言い出さず、過小評価の末におのずから"放置"という選択肢を選ぶように。
そうしようと思い立った理由は、綺礼本人にもよくわからない。
恐らくは、衛宮切嗣と己の間にジャン=ピエール・ポルナレフという不確定要素を増やしたくないがために――
「それじゃ、ひとまずの目標は承太郎達との合流ってことでいいか」
「構わないとも。こちらの知る名はどれも共闘など望めない連中ばかりだ」
「いや、話を聞く限りだと、このセイバーとかランサーって奴とは息が合いそうな気がするぜ」
「私の知る者だという保証はないが……な」
これは嘘偽りではない。
セイバー、ランサー、アーチャーの三クラスは、聖杯戦争において決して欠けることのない固定枠だ。
過去三度の聖杯戦争を計算に加えれば、これまでに四人ずつのセイバーとランサーが存在してきたことになる。
現に過去の人物であるポルナレフがここにいるのだから、名簿に記されているセイバーとランサーが過去の聖杯戦争のサーヴァントでない保証はどこにもないのである。
それに加え、たまたま呼称が被っているだけで聖杯戦争と無関係の誰かである可能性も否定できない以上、断定などできるわけがなかった。
「そうと決まれば善は急げだ。さっさと承太郎達を探し出さねぇと」
ポルナレフが一歩踏み出そうとした矢先、一条の光芒が夜空を横切った。
-
「何っ!?」
「む……!」
二人が同時に空を見上げる。
低空飛行の流星とも見紛うその光は、綺礼達がやって来た方角へ飛び去り、すぐに消えた。
「なんだ今の……UFOか?」
ポルナレフは光の正体を掴みかね、唖然とした表情でそちらをみやった。
UFO、未確認飛行物体。確かに、事前知識がなければそう評するより他にあるまい。
しかし、綺礼にとってアレは既知の事象であった。
「……ヴィマーナ」
綺礼の魔術の師にして共謀者、遠坂時臣のサーヴァントたるギルガメッシュ。
かの英雄王が保有する無数の宝具の一つ。飛行宝具ヴィマーナ。
ライダーの宝具がこうして存在している以上、ギルガメッシュの宝具も存在しうると予想はしていたが、こうも早く出くわすことになろうとは。
「個人用の飛行機のようなものだ。無論、科学技術で作られたものではない」
「光が消えた場所は……まさかDIOの館か!」
そう言うや否や、ポルナレフは傷のことなど忘れたかのような勢いで走りだした。
「どこへ行くつもりだ」
「決まってんだろ! DIOの野郎があの光を見て戻って来るかもしれねぇ!」
「……あり得ないとは思うが」
ポルナレフが抱いているDIOへの警戒心と敵愾心は本物だ。
綺礼は諦め半分にポルナレフの後を追うことにした。
神威の車輪は、あえて収納したままだ。アレを使えばあっという間に館にまで戻れてしまう。
一方、徒歩で戻れば到着は夜明け前。仮にDIOが戻ってきたとしても、再び立ち去っている頃合いだろう。
ポルナレフが戦車の存在を失念しているのをいいことに、綺礼はごくさり気なく打算を働かせていた。
□ □ □
東條希の目を覚まさせたのは、右手を苛む激しい痛みだった。
「……痛」
力無く、泣き出しそうな声をぽつりと漏らす。
興奮状態のために麻痺していた痛みが戻っている。
心臓が脈打つたびにズグンズグンと手首が痛む。
まるで『罪の重さを忘れるな』と訴えかけているかのように。
袖をまくりあげて腫れ具合を確かめることすら恐ろしい。
いっそ切り落とした方が楽なのではないかとすら思ってしまう。
「うう……」
起き上がろうとすると、ざり、という砂の感触が肌に触れた。
――地面だ。
しかも、身体に何か布のようなものが掛けられている。
「あ、れ……? なんで、や?」
おかしい。何かがおかしい。
希は痛みと眠気で混濁した思考回路を必死に働かせ、気絶する前の状況を思い出そうとした。
ヴィマーナを降りた場所は、外国風の屋敷の屋上だった。
それがどうして地面に横たわっているのだろう。
「ひょっとして、誰かが、ウチを」
どう考えてもそれ以外にありえない。
希はタオルケットのように掛けられていた布、否、神父が着るような黒い服をその場に残して立ち上がった。
そして、恐る恐る慎重に歩み出す。
冷静に考えれば、わざわざ丁重に降ろしておいてくれたのだから、悪意ある人物の仕業というのはありえない。
だがジャック・ハンマーの恐怖が抜けきっていない希にとって、近くに誰かがいるという事実そのものが恐怖であった。
可能な限り足音を殺し、呼吸を抑えて、曲がり角の向こう側を伺う。
幸いにも持ち物は奪われていない。希は二つ目の支給品をカードから取り出し、ぎゅっと握りしめた。
縛斬・餓虎。鬼龍院皐月の愛刀『縛斬』を打ち直した二振りの刀の一つ。少女の前腕の長さとさほど変わらない短刀である。
超鋼化生命戦維によって作られた規格外の刃物であるが、生命戦維の何たるかを知らない希にとってはビームサーベルに見劣りする"普通の凶器"でしかなかった。
そのため今までは使おうとも思わなかったのだが、もはや選り好みしていられる状況ではない。
……ここに至ってもなお、希は「餓虎が取り上げられていない」という事実に思い至らずにいた。
「誰か……おる……」
曲がり角の向こうに人影が見えた。
夜明け前の薄暗さのせいで姿形はハッキリとは判別できないが、こちらに背を向けているのは間違いない。
あちら側を見張っているのか、立ったまま名簿でも確かめているのか。
その場に佇んでいる理由は分からなかったが、希にとってはどうでもいいことだった。
「やらなきゃ、やられるんや……」
-
希の脳裏をジャック・ハンマーのおぞましい姿が過ぎる。
人影の背丈はジャック・ハンマーとほぼ同じ。それが希の理性を大いに狂わせた。
――実際は"特徴的な髪型"も含めてジャックと同身長だったのだが、薄暗闇にぼやけた輪郭では判別などできるはずもなく――
呼吸を止め
足音を抑え
一歩一歩、大男へと近付いて
あと一足の距離で短刀を振り上げ――
「やめときな」
冷静な声が希の全身をびくりと震わせる。
いつの間にか、硬直した首筋に針のような刃物の側面があてがわれていた。
「こんな状況で何があったのか知らないが、命を無駄にするのだけはやめておけ」
銀髪を綺麗に揃えて立てた独特の髪型の大男がゆっくり振り返る。
それと前後して、希の背後に現れていた骸骨のような甲冑が、剣を執っていない方の手で素早く短刀を取り上げた。
「あ、ああ……う……」
希は力なくその場に崩れ落ちた。
甲冑の骸骨は短刀を大男に手渡すと、大男の身体に吸い込まれるようにして消えた。
「こうなっちまう奴もいるんだろうと思ってはいたけどよ、実際目の当たりにすると……やるせねぇな。あんたもそう思うだろ」
「状況が状況だ。正気を保つ方が難しいだろう」
「ひっ……!」
銀髪の大男の言葉に答えるように、希が気配を殺してやって来た方向から、これまた屈強な長身の男が姿を現した。
苛烈なまでに鍛え抜かれた肉体がインナー越しに見て取れる。
数センチ程度の身長差こそあれど、否が応でもジャック・ハンマーを想起せずにはいられない。
希は恐怖に竦み、立ち上がることもできないまま後ずさりして、コンクリートの塀に背中と後頭部をしたたかにぶつけてしまった。
「おい神父! お前、こいつがおれの方に来るの見てたくせに放ってただろ」
「いざという時に取り押さえる準備はしていたさ。それより、彼女の処遇は決めなくてもいいのか?」
「処遇ぅ? んなもん決まってんだろ」
二人の鋭い眼差しが希を見下ろす。
歯の音がまるで咬み合わない。心臓が破裂しそうなくらいに震える。気絶しなかったことが奇跡的なくらいだ。
むしろ気絶させてくれなかった神様を恨みたくなってしまう。
あの脚は容赦無く自分を蹴り殺せる。
あの腕は容赦無く自分を縊り殺せる。
ことりのようにことりのようにことりのようにことりのようにことりのようにことりのようにことりの
日本人らしき大男がおもむろに手を伸ばす。
希は声にならない悲鳴を漏らし、無残に折れた右腕を盾に竦み上がった。
「ひいっ!」
「……やはり折れているな」
淡い光がぼうっと灯る。
きつく閉じていた瞼をうっすら開けると、大男のかざした手から放たれた光が、希のボロボロの右手を包み込んでいた。
「ひとまず簡易な接骨と内出血の止血は済ませておく。後は添え木でも当てておけば問題ない」
「そいつはよかった。ていうか神父さんよ。そんな治し方ができるなら、おれの肋骨もどうにかしてもらいたかったんだがな」
「治っていなかったのか。随分と元気そうにしていたものだから、もう良いものだとばかり思っていたが」
「全っ然良くねぇからな!?」
二人のやりとりと痛みの薄れた右手を、希は呆然と眺めていた。
何もかもが想像を超えている。ありえないとしか思えない状況だ。
緊張が途切れたことと混乱のあまり、希は再び意識を手放して、糸の切れた人形のように倒れこんだ。
□ □ □
-
「――それで、本当にどうするつもりだ、ジャン=ピエール・ポルナレフ」
「どうするって言われてもな……」
静かに眠る名も知らない少女を前に、ポルナレフは難しい顔をした。
「あんたも勘付いてるだろうが、あの瞬間の覚悟と気迫からして、こいつは既に一人か二人は手に掛けたハズだ。そのくせ気配の殺し方や手口自体はお粗末極まりないときた」
「つまり、ここに来るまではそのような行為とは無縁だった――主催が望む通りの即席の殺人者というわけだ」
その事実を踏まえた上で、綺礼はポルナレフに判断を委ねた。
職業柄、綺礼が殺めた人間の数は少女のそれを桁違いに上回っている。
故に人を殺したという点で少女を咎めるつもりなど微塵もない。
聖職者の立場から考えても、異常極まりない状況を考慮すれば赦す以外の選択肢など存在しない。
ただ、綺礼は確かめたかった。
ジャン=ピエール・ポルナレフという男の価値観と人となりを。
ポルナレフと共に崩壊寸前の館の屋上から少女を助け、わざわざ治療魔術を施したのも、全てはそのためだ。
「――見守るさ」
「ほう」
ポルナレフの瞳に迷いはない。
「助かりたいが為に殺したっていうなら、簡単に責められるものじゃあない。
誰かが殺されて、その復讐のために殺そうとしたっていうなら、おれには責める権利はない。
けれど、ドス黒い悪意で殺し続けてやるって思っているなら、こんな餓鬼でも――」
「――それを見極めるために、見守る、と」
安易な正義感で復讐を否定しない。
それはこの男も復讐者であるからか。
だとすると、DIOの言葉には少なからぬ真実性が――
「おれの考えを受け入れられねぇっていうなら、あんたと同行するのはここまでだ。
魔術とやらで手当してくれたことには礼を言うが、考え方が合わないならスパッと別れた方がお互いのためだろう」
「いや、いい。君の判断を肯定しよう」
綺礼は内心とは裏腹に業務的な微笑を作った。
殺人者を殺人者のままに受け入れる。恐らくポルナレフには積極的に彼女の道を糺すつもりはないだろう。
親しい者を殺される怒りと苦しみ、時に"敵"を殺すことの必要性、そして復讐行為の正当性を身をもって理解しているが故に。
彼女の殺人が『悪』と呼べる領域に踏み込まない限り、ポルナレフはきっと彼女を斬りはしない。
そしてこの異常な環境は、単純な殺人を『悪』の領域から問答無用で遠ざける。
それがどのような結果を生むか――まさに神のみぞ知るというものだ。
「なにはともあれ、彼女が目を覚まし次第、事情を聞き出さなければな」
それは当然の措置だ。他意などない。あるはずもない。
少女がどのような経緯を経て追い詰められたのかなど、状況分析以外の意味を持ちえるはずがないのだから。
-
【D-7/DIOの館近辺/一日目 黎明】
【言峰綺礼@Fate/Zero】
[状態]: 健康
[服装]:軽装のインナー
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2、神威の車輪@Fate/Zero
[思考・行動]
基本方針:早急な脱出を。戦闘は避けるが、仕方が無い場合は排除する。
1:少女(東條希)から事情を聞く。
2:DIOの言葉への興味&嫌悪。
【ジャン=ピエール・ポルナレフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:肋骨、胸骨体、胸骨柄に罅(応急処置済み。行動、スタンド操作に支障はなし)
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3、縛斬・餓虎@キルラキル(一時預かり)
[思考・行動]
基本方針:DIOを倒し、主催者を打倒する。
1:少女(東條希)から事情を聞く。
2:DIOを倒す。
【東條希@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、右手首から先を粉砕骨折(応急処置済み)、気絶
[服装]:音ノ木坂学院の制服、僧衣(言峰綺礼のもの。毛布代わり)
[装備]:なし
[道具]:黒カード:スパウザー@銀魂、腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜1枚、ヴィマーナ(6時間使用不能)、不明支給品0〜2枚(ことりの分、未確認)
[思考・行動]
基本:μ'sのために……
0:???
1:ことりちゃんは……
2:μ'sのメンバーには会いたくない
[備考]
※参戦時期は1期終了後。2期開始前。
【縛斬・餓虎@キルラキル】
二つに折れた鬼龍院皐月の愛刀『縛斬』から作られた二振りの刀の一本。短い方。
縛斬同様、刃が超鋼化生命戦維で作られており、とてつもない硬度と切れ味を誇る。
皐月が不在の間は生徒会四天王によって用いられていたあたり、これ自体は使用に特別な資質を必要としないもよう。
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投下終了です。タイトル入力忘れてた
ちなみにジャックは登場時点で193cm、言峰とポルナレフは185cm、ポルは髪型込みで193cmと身長に妙な共通点が
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投下乙
やっぱりジョジョ勢のタフさは流石だなwww
希もこのままいけば改心ルートっぽいけど、周りにヤバイやつがうじゃうじゃいるからなぁ……
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>>546
気付かなかったぜ
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皆様投下乙です
>殺人事件
切嗣、どこまでも冷静に非道な男……!
静雄と小鞠の会話がほのぼのしていただけに、反動が凄かった
イザヤは切嗣を怪しんでいるだろうし、どうなるか
>交わらなかった線
ヴァローナ初登場も、誰とも出会わなかったか
るう子は襲われなくてよかった(安堵)
どんどんルリグが出てきて混沌としている気がする
>空に碧い流星
ポルナレフと神父、わりといいコンビだなぁ
戦闘力は十分、だけど言峰が少し怖いか?
希は波乱万丈なロワ生活が今後どうなることか
そして自分の予約分を投下します。
-
――もう一歩、踏み出せる?
◆
暗い山道を、東郷美森は慎重に降りていた。
山道はなだらかではあるが、整備はなされておらず足場は悪い。
大きな木の枝が落ちていることもあり、補助もなく車椅子で降りるのは、誰が見ても危険な行為だ。
しかも、市街地と違って足元を照らす街灯はない。
腕輪には、ライトとしても使える白いカードが装備されていたが、それを使うと片手が塞がってしまう。
結果として東郷が頼れるのは、満天の星くらいのものだった。
「はぁっ……」
精神的疲労はもとより、時間が経つにつれ肉体的な疲労も加わる。
更に、車椅子を動かすことに慣れてくると、今度は途端に周囲が気になってくる。
殺し合いに乗った人物が、足が不自由で車椅子を使う少女を見たらどうするか。
東郷の中で答えは一択だった。
そんな想像をすれば、自然と車椅子の速度は下がる。
静寂の森の中、車椅子が小枝を踏み折る音に、ついつい肩を震わせる。
それでも、この程度の難関で躓いていては、優勝は果たせないと己を奮い立たせた。
「くっ……ふぅ……」
そして、東郷は持ち前の集中力を発揮して、無事に森を抜け出した。
勇者に変身して移動する、という手段もあったが、結局その手段は使わなかった。
常時変身していては精神的にもたないし、なにより、つい先程の麻雀少女が放った『カン』が、脳裏に響く。
無意識に変身を敬遠させるほどの、強い力が働いたということだろうか。
舗装された道を少し移動する。近くに人の気配はなかった。
(街の方に向かう人が多いのかも)
東郷は白いカードを取り出すと、地図を開いた。現在地はG-4。
落ち着いて考える場所が欲しかった東郷は、行き先に温泉を選択した。
お城は未知すぎて落ち着かないだろうし、学校では勇者部のことを嫌でも思い出す。
幸いなことに、温泉は道なりに進むだけで到着する。
東郷は疲れた腕に気合を入れて、車椅子を進め始めた。
◆
舗装された道は、当然ながら山道と比べて段違いに移動が楽だ。
他の参加者と遭遇することもなく、温泉に到着した東郷は、玄関の前で停止した。
より正確に言うならば、そこは温泉旅館だった。
東郷が外観を見ただけでそれと分かったのは、この旅館に来たことがあったからである。
大赦が勇者部への褒美として、合宿先を手配してくれたときのことだ。
「これもご褒美とでも言うの……?だとしたら酷い皮肉」
東郷は吐き捨てるように言うと、旅館を後にしようとした。
勇者部の、ひと夏の思い出が詰まった温泉旅館。
殺し合いの場で再び訪れることになるとは予想していなかったし、見たくもなかった。
仕方ない、どこか木陰で作戦を練ろう、と東郷が考えた矢先。
「はあああああああっ!!」
「っ!?」
突如、頭上から聞こえた気合に、東郷は体が固まった。
星空を背に、大剣を振りかぶりながら、勢いよく飛び降りてくる影。
まごうことなき奇襲、それも、そこまで周囲を警戒していなかったタイミングでの奇襲である。
車椅子では避けられないことを確信して、東郷は目を瞑った。
その直後、東郷の身体を風圧が襲う。
だが、それだけだった。
「……」
回避する術は確かになかった。
しかし、防御する術はあったのだ。
卵のようなフォルムをした精霊・青坊主が東郷の頭上に出現し、眉間を叩き割らんと迫った大剣を止めていた。
東郷は粉塵が舞う中でゆっくりと目を開けて、精霊の防御が働いたことに感謝した。
同時に、襲撃者の顔を見て驚愕する。
「……やっぱり精霊に防がれちゃうか」
「風先輩、ですか……?」
眼帯をしていない方の目を、少し悲しげに歪ませながら。
讃州中学勇者部部長、犬吠埼風がそこにいた。
-
◆
「いやー、精霊の守りのこと思い出してさ、どの程度まで守ってくれるのかを試したかったワケよ」
「いくらなんでも、やりすぎじゃないですか?」
「はは、ごめんごめん。でも結果的にはよかったよ、防御は固いみたいで」
勇者部の二人は、成り行きで旅館の中に入って会話をしていた。
東郷の車椅子を押すのは風。スーパーのカートを押すかのように、ぐいぐいと前進させている。
土の付いた車輪が回るたびに廊下が汚れるが、この際は気にしてもいられない。
(友奈ちゃんと比べると雑)
そんなことを思っていると、風は先程の奇襲を謝罪し始めた。
曰く、偶然にも旅館の屋根にいた風が、東郷を発見したのが発端だという。
精霊によって死なないようになっている筈の勇者が、死ぬことがあるのか試したかったとのだ、と。
生きるか死ぬかの殺し合いの中では重要なことだ、確かめられてよかった、と。
明るく言う風だが、東郷の顔には影が差す。
確かに精霊の防御が確認できたことは、大胆な行動が可能になった点でプラスだ。
「それにしても、驚きました」
「ん?あー、私も驚いたよ、殺し合いなんて信じられないよな。現実味ゼロっていうか」
しかし、東郷が気にしているのは何もその点だけではない。
むしろ精霊の防御のことよりも、今後の方針に関わるという意味では重要なことだ。
東郷は深呼吸をしてから、妙に元気な声を出す風に向けて言った。
「いえ、先輩“も”優勝を目指していることに、です」
瞬間、東郷は時が凍りついたかのような錯覚を受けた。
車椅子がぴたりと止まり、それまで明るくしていた、明るくしようと努めていた風が黙り込む。
風が車椅子から手を離したのが分かった。
「……先輩“も”ってことは、東郷も?」
十数秒後に返ってきた風の声は、すこし掠れていた。
いくら片耳が聴こえなくとも、それが図星であったことは理解できた。
この時点で、東郷が嘘をつく理由はなくなった。
「ええ。神樹様を滅ぼして、勇者部の皆を解放するためです」
「神樹様を滅ぼす」というフレーズに、風が反応したことが分かった。
殺し合いに乗るなら、風も同じ理由からだろうと予想していたが正解だった。
もっとも、風の場合は、妹の樹が大きく関わっているのだが。
「風先輩にお願いしたいことがあります」
風の返事を待たずに、東郷は喰い気味に言った。
車椅子を自分で動かして、風と面と向かって話し合おうという姿勢を見せる。
そうして、東郷は交渉を開始した。
「一緒に、来てくれませんか」
◆
温泉から脱兎のごとく飛び出してきた風は、しばらく走ってから道端の木にもたれかかった。
額に浮かぶ汗は、全力疾走したことだけが原因ではない。
(東郷……)
風が東郷を発見したのは、本当に偶然だった。
勇者部の仲間に、どうして接触しようと考えたのかは分からない。
しかも、大剣で襲いかかるという最悪の方法での接触を選んだわけも分からない。
せめて奇襲に失敗してから、すぐに逃走していればよかったのだ。
そうすれば東郷との会話を経て、より心が不安定になることはなかっただろう。
(アタシ、どうして……?)
-
風はぐらぐらしている脳でどうにか考えようとする。
自分自身のとった妙な行動、その意味を。
そうして数分後、あることに気付く。
自分は勇者部の中でも一際冷静な東郷と交流することで、安定したかったのかもしれない、と。
(そっか、アタシ……不安だったんだ)
考えるうちに、風は自身の不安定さに気付いた。
そしてその不安定を埋めるために、誰かと接触したがったのだということにも。
友奈や夏凜の『勇者』であろうとする姿は、今の自分には眩しすぎる。
樹のことは心配ではあるが、姉である自分を信頼してくれている少女の前に、今は姿を出したくない。
ならば、彼女らと比較して東郷はどうか。
部活動中も、戦闘時にも、沈着冷静な態度で判断を下す。
そんな東郷美森という後輩は、言い方は悪いが安定剤としてはうってつけだった。
(もしかしたら、とは思っていたけど)
そこに「東郷も殺し合いに乗ったかも」という偏見が重なる。
勇者システム=死ねないシステムだと発見したのは東郷だ。
最初から友奈や樹、夏凜と違って、大赦に懐疑的だったのは東郷ぐらいだ。
風の知る限りの東郷の今までの行動が思い起こされ、風は東郷にある期待を抱いた。
すなわち、「東郷なら自分をわかってくれるんじゃないか」という身勝手な期待。
それがあったからこそ、風は東郷に奇襲をしかけたのだ。
殺し合いに乗ったということを宣言せずに、けれども確実に相手に伝える。
それには襲うのが手っ取り早い、ということだ。
もちろん、そこまで風が考えていたのかどうかは定かではないが、思考に一枚噛んでいた可能性はある。
「はぁ……自己嫌悪よ、もう……」
風はもたれかかっていた木に背中を預けて、力なく座り込んだ。
つい先程の会話が、テープで再生したかのように脳内に浮かんでくる。
◆
「いや、止めとくよ」
東郷に、二人で行動しようと誘われたとき、風は一瞬迷ってからこう答えた。
その理由は理屈じゃなかった。理屈を重視したなら、断る理由がない。
千載一遇、とまでは行かずとも、それなりの大きいチャンスだったはずだ。
「勘違いしないでほしい、東郷が嫌いだからってわけじゃない」
風の武器は大剣。近距離で薙ぎ払うのが主な攻撃方法になる。
東郷の、狙撃銃をはじめとした遠距離武器と協力すれば、相当に有利だ。
どんな言い訳をしたところで、その事実は確定的だ。
「ただ、一緒に戦うとなると、勇者部の皆を思い出しちゃう、っていうか」
それは理解できていたのに、口から出た返事は拒否だった。
自分自身の言葉に、同じ状況で協力を申し込んできた東郷との意志の差を痛感させられた。
そこには感情に流されてしまう甘さがある、とも言える。
「……分かりました。では停戦協定だけということで。
私はこれから、地図の南東の市街地に行くつもりです」
東郷は断られてもすぐに、風に代案を出してきた。
これはつまり、断ることも想定済みだったということだろうか。
「共同戦線は不可能だとしても、別の形で協力はできるはずです。
私も先輩も、目的はこのバトルロワイアルで優勝して、願いを叶えること」
淡々と話し続ける東郷が怖くなったのは、この頃だ。
風の顔を見据えた東郷の目線は、まっすぐ揺るぎない。
もしかして、と風は考えた。
もしかして東郷は、既に参加者を殺しているのでは?と。
「ですから、参加者を殺し回る場所を互いに分けて――」
いろいろなことが渦巻く混沌とした心中。
そんな中でも東郷は、淡々と話し続けていた。
それは効率を考えれば、いい作戦であることに違いなくて。
そんな作戦を立てられる東郷が賢いのは、とうに分かっていたけれど。
だけど、それが、覚悟の違いを見せつけられているようで、どうにも辛かった。
だから風は、東郷に背を向けた。
◆
一頻り後悔したあとで、風は勢いよく立ち上がった。
くよくよしても仕方ない。
勢いに任せて行動する、それが犬吠埼風という人間に相応しい。
-
「なせば大抵なんとかなる、か……」
唐突に、勇者部五箇条のひとつを思い出した。
結局、自分は勇者部に救われるのかと苦笑しながら。
風は少しばかり顔を上げて、これからのことを考え始めた。
【G-4/道路/一日目・黎明】
【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]:腹部にダメージ(小)、精神不安定
[服装]:普段通り
[装備]:風のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:繭の力で、世界を正しい形に変えたい
1:勇者部の皆には会いたくない。
2:出会った参加者は殺す
3:東郷に言われたように、南東の市街地には行かない?
[備考]
※大赦への反乱を企て、友奈たちに止められるまでの間からの参戦です。
※優勝するためには勇者部の面々を殺さなくてはならない、という現実から目を背けています。
◆
東郷は星空を見上げながら、あの日の夜を思い出していた。
友奈と二人で、この窓から空を見上げたこと。
交し合った言葉も、友奈の温もりも、東郷の胸に深く刻まれている。
(友奈ちゃんを、これ以上、苦しい目に遭わせるわけには――)
皆の解放を強く願うからこそ、東郷は優勝すると決意した。
であるならば、求めるものは確実に勝ちに行ける力。
それは勇者としての力だけでは不十分なのではないか、東郷はそう思い始めていた。
繭はこの殺し合いをゲームだと言っていた。
しかしそれなら、ゲームにおける常識や定石も当てはまるのではないか。
例えば、将棋には、強力な駒は存在しても、最強の駒は存在しない。
戦術や盤面次第では、角や飛車が歩や香車に討ち取られることもある。
そこから予想できることがある。
(私たち『勇者』より強い存在がいる……?)
侵略者バーテックスと戦うための存在である勇者は、普通の人間とは比べ物にならない強さを持つ。
しかし、その勇者を殺せる存在がいなければ、この殺し合いは成立しないのだ。
その事実に改めて気づき、東郷は方針をやや変更する。
(自分の強さを過信しない。確実に参加者を減らすことを考えないと)
その為にとるべきは、謀略、暗殺、隠密。
勇者部随一の思慮深さを持つ東郷は、そうした戦術を次々に考えだす。
例えば謀略。
車椅子という足枷を、他の参加者の良心に訴えかける道具として利用する。
最初に出会った少女達が、東郷を気遣うそぶりを見せたことからも、成功する確率は高いだろう。
例えば暗殺。
戦闘方法が射撃である東郷は、ビルの屋上から参加者を狙撃すれば簡単に殺害できる。
標的が一人なら問題ない、ならば二人以上で行動している場合はどうか。
例えば隠密。
建物などで遮蔽物の多い市街地であれば、容易に姿を隠すことができる。
逃げる必要ができたときに、脚の悪さからくる移動の遅さを補うことにも繋がる。
ここまで考えて、東郷はふと振り返る。
どれも奇跡とか神秘とか真実とか夢とか、そんな『勇者』のイメージとはかけ離れた戦術だ。
しかし、非道な戦術でさえ取らなければならない事情が、東郷にはある。
最終的には自分以外の全員が死亡していなければ、目標が達成できない状況。
この場にあって、手段を清濁で選り好みすることは不可能。
そう東郷は判断した。
――風先輩、一緒に協力して、優勝を目指しませんか。
誰の目から見ても不安定に映るだろう風に、東郷が声をかけたのもまた必然だった。
自分と同じく殺し合いに乗り、自分と同じ勇者の力を持つ人物。
戦闘経験はそれなり、互いの武器の愛称も充分。
二人一組で殺し回るという提案は、相手にとっても悪い話ではないはずだった。
しかし、返答はノー。
更に妥協案を述べていたところ、風は走り去ってしまった。
-
つまるところ、東郷美森は犬吠埼風を見誤っていたのだ。
感情に任せて行動するタイプの風は、理性でもって行動する東郷よりも脆い。
大赦を潰そうとしたときの風は、友奈と夏凜、そして樹の説得で思い止まった。
しかし、神樹を倒そうと壁を破壊したときの東郷は、他の勇者と対立しても尚、行動を止めなかった。
そこには明らかな違いがある。
覚悟――そう言ってしまえば話は早い。
風は東郷よりも覚悟がなく、東郷は風よりも覚悟があった。
だから効率より感情を優先した。それだけのことだった。
「風先輩……私は私で、頑張ります」
思わぬ形での再会に、それほど影響を受けていない自分に驚きつつも。
東郷は、星空に向けて呟いた。
一歩を踏み出し、覚悟を決めた東郷の目には、いつかの麻雀少女にも劣らない光が宿っていた。
【G-3/温泉/一日目・黎明】
【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、満開ゲージ:4
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:車椅子@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[思考・行動]
基本方針:殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する
1:南東の市街地に行って、参加者を「確実に」殺していく。
2:友奈ちゃん、みんな……。
3:自分よりも強い参加者は極力相手にしない。
[備考]
※参戦時期は10話時点です
※温泉について
地図には「温泉」とだけ記載されていますが、宿泊施設が併設されています。
宿泊施設は、アニメ「結城友奈は勇者である」7話において、勇者部が宿泊した旅館と酷似しています。
-
投下終了です。予約期限を超過してしまい申し訳ありませんでした。
指摘等あればよろしくお願いします。
-
投下乙です!
東郷と風の在り方のかき分けが上手いなぁ…
原作では東郷を止めようとした風が、参戦時期と条件の違いでこうなりましたか
風先輩は落ち着きを、東郷さんは覚悟をそれぞれ獲得して、そこには変わらぬ友情があって
でもここは殺し合いですぐ近くで樹ちゃんが死んでいるという何とも言えなさにしんみりきました
そして、市街地の対主催はもう本当に逃げてとしか…
-
投下乙です。
東郷さんと風先輩は道を共にはしなかったか……。
二人の対称的な様子がいいなあ
では私も投下します。
-
本能字学園――今宵この地は、戦場と化す。
●
「うっわ……」
絢瀬絵里はその建物を前にして、思わずそんな声を漏らした。
若干引いたような声色。
闇に覆われた空を貫く勢いで屹立している『それ』は、もはや学園の規模を完全に逸脱していると言ってよかった。
遠目に見ただけでもその大きさの程は窺えたが、こうして実際前にしてみるとやはり圧巻だ。
……果たして、この学園にはどんな生徒が通っていたのだろう。
そんなことを、ごく平凡な環境で育ってきた少女である絵里は思わずにはいられない。
「オイオイ、なんだよこりゃ。
学園ってレベルじゃねーだろ、こんなトコで育てられたらゆとり世代通り越してYUTORI世代になっちまうよオイ」
坂田銀時も呆れたように両手を頭の後ろで組んで、本能字学園のその校舎を見上げていた。
彼の住んでいた江戸では、学校と言えば専ら寺子屋だ。
最近では昔ほど小じんまりしていない所もあるようだが、流石にこれほどのものは江戸にはないだろう。
中も相当な広さがあるようだし、中には他の参加者も一人二人居るのではないかと銀時は思う。
とはいえ、本来の目的地は此処ではない。
あくまで自分達は今、目印としてこのバカでかい学園を利用するべくわざわざやって来たのだ。
せっかく学園の中で待機してくれていた(かもしれない)連中には悪いが、今回は素通りさせて貰うとしよう。
それに――中に居るのは、必ずしも善良な人間だとは限らないのだから。
「銀さん、大丈夫? 疲れてない?」
「こんなんで疲れるほどヤワな体してねえっての。草食系男子なんてもう時代遅れだぜ」
「そ。なら、これから改めて学院を目指そうと思うわ」
言うと絵里は地図を表示させ、改めてその場所を示す。
こうして見れば、成る程。
確かに、この本能字学園は迷わないための目印として実に最適な位置に存在していた。
此処から北西に少し進むと、西側の島へと移動することが出来る。
そこまで行ってしまえば後は楽だ。
ほぼ何も考えず西へ進んでいくことで、目当ての音ノ木坂学院には辿り着ける――アクシデントさえなければだが。
「(折角此処までは平穏に来れてんだ。頼むから、血気盛んな兄ちゃんとかは出てくんなよな……)」
銀時は侍だが、かと言って殺し合えと命ぜられ、血を騒がせるような剣呑な性分はしていない。
むしろその逆だ。
開幕から既に数時間が経過した今ですら、これが何かのドッキリ企画であることを常に願っているほど。
世紀末漫画に出てくるような荒くれ者と出会した日には、彼は憚りもなく絶叫するか、とても嫌な顔をするだろう。
ましてや、この絢瀬絵里という少女は何の力もない女学生だ。
正直な話、主催者とやらは何を考えているのかと思う。
絵里のような娘を夜兎族と同じ土俵で殺し合わせるなど、競走馬とハムスターか何かが徒競走するようなもの。
これが本当にゲームだというのなら、即日回収もしくは炎上モノの大転けをする所だ――などと考えつつ。
-
「………………」
ぐい。
そんな、何かに引っ張られるような感覚を銀時は感じた。
絵里の背にしては低すぎる。
いや、それどころか絵里は銀時の方を見て硬直している様子だ。
「…………いやいやいやいや」
まさか、まさかそんなことあるわけないでしょ。
そう思いながらも、坂田銀時の頭の中では既に不穏な想像が繰り広げられ始める。
殺し合いの舞台となる前に、もしくは殺し合いの中で死んだ子供の幽霊。
それが自分の袖をこうして引いているのではないか――そんな想像をかぶりを振って否定し。
意を決して、嫌な想像を振り払うためにも彼は自身の袖元へ視線をやった。
「……わかしらがさんなのん」
「―――」
――――出、出たァァァァァァァァァァァァァ!!!!
叫びそうになるのをすんでのところで堪えた己を褒めてやりたいと銀時はつくづく思う。
我ながら情けないと思わないでもなかったが、しかし考えてみてほしい。
未だ暗さの多分に残ったこんな時間に小さな子どもが、まったく気付かない間に自分のすぐ近くにいるのだ。
迷子? なんて呑気なことを言える人間は少数だろう。少なくとも坂田銀時はそうではなかった。
見ている絵里が色々失望しそうになるような顔を晒しつつ戦慄する銀時だったが、しかし本当に幽霊なわけもない。
たったった、と。
銀時達が今しがた来た方向から、どこか内気そうな眼鏡の少女が走ってくる。
「もう、れんげちゃん、走っちゃ駄目って言ったでしょ」
「でも、早く学校に行きたいのん」
「本当に危ないんだからね……――あ」
そこで少女は、明らかに勘違いをして脅えている銀時と、既に事の次第を理解しているらしい絵里を交互に見て。
―――― 自分の中で喚き続ける『愛』の旋律がいっそう激しくなるのを感じながら ――――
ぺこりと頭を下げた。
彼らがどういう人間かは分からないが、どうやら不安にさせてしまったのは確からしいと思ったからだ。
そこで銀時も漸く、どうやら彼女達はちゃんとこの世の人間らしいということに気付いた。
彼も男だ。勘違いで子供相手にひどい戦慄顔を晒してしまったとあれば、その沽券に関わる。
「いや、謝ることなんかねーし。銀さんマジで全然ビビってなんかなかったから。
お嬢ちゃんはなーんにも謝ることないから。さっきの顔もその子と睨めっこしたかっただけだから」
「……え、えぇと……?」
思い切り目を泳がせながら弁明する銀時に、眼鏡の少女は困惑している。
はあ、と絵里は深い溜息をついた。
-
「こっちこそごめんなさい、銀さんが早とちりしちゃって。
私は絢瀬絵里。こっちの頼りない男の人は――」
「頼りないとか言うなァァ! ……えー、こほん。坂田銀時デス」
……最初は焦ったけど、いい人達みたい。
どこか凸凹したものを感じさせる二人の自己紹介を聞いた眼鏡の少女は、彼ら二人へそんな印象を抱いた。
しかし彼女の内心は、必ずしもこの出会いを喜んでいるわけではなかった。
それをおくびにも出さず、自己紹介を返すべく口を開く。
「――園原杏里です。こっちは、宮内れんげちゃん……私達も、殺し合いには乗っていません」
園原杏里にとって、坂田銀時という男は『不味い』相手だった。
彼は、まごうことなき人間なのだろう。
それも――相当に強い。
銀時を一目見た瞬間から、杏里の中で叫び続ける愛の声が激しくなった。
堪え切れるかどうかで言うならば、実に疑わしい域だ。
今でこそどうにかなってはいるが、果たしてこの先、彼を斬らずにいられるか否かが極めて怪しい。
しかし、逆に言えば今のままならどうにかなる。
だからまだ、急を要して離れる必要のある相手とは言い難い。
落ち着いた表情の裏で思案を巡らせ、寄生虫の少女は愛の言葉を文字通り『聞き流す』。
「ウチ、学校に行きたいのん。今、あんりんと行くとこだったん」
「学校? ……それって、ここ?」
絵里が目の前にある本能字学園の校舎を指差すが、れんげはふるふると首を振って否定した。
だよね、と絵里は肩を竦める。
れんげの見た目から察するに、学校といえば小学校だろう。
思い切り名前に学園と付いているし、そうでなくてもこんな小学校があってたまるかという話だ。
「うーん……それなら、これ?」
「! そうそう、これなのん!」
「旭丘分校、かあ――」
旭丘分校の位置はF-4。
此処からはお世辞にも近いとは言い難い位置である。
そして運の悪いことに、絵里達の目指している音ノ木坂学院とは全くの別方向でもあった。
折角志を同じくする参加者と会えたというのに、これでは同行は難しいかもしれない。
「私達はこっち、音ノ木坂学院を目指してるのよね」
「あ……全然方向が違いますね」
「ええ。だから、園原さんやれんげちゃん達と一緒に行くのは難しそう」
杏里にとっても、それは残念な話だった。
れんげへの寄生を決めた彼女ではあるが、常に二人で動き続けようなどと思っているわけでは決してない。
何よりれんげは小学生だ。
それを踏まえれば、出来るだけもっと大勢で行動した方が安全が保証されるのは自明の理である。
――坂田銀時という『人間』への懸念は、未だ消えぬままであったが。
-
「銀さん、銀さん」
「ん? どうしたよ、えぇと――ざんげちゃん」
「ウチはれんげなのん。そんな平謝りしてそうな名前じゃないのん」
「……、……で、どうしたってんだ?」
杏里と絵里の憂鬱を余所に、れんげは最初のように銀時の袖を引く。
どうやら彼女は彼女で、何か気になるものを見つけていたらしかった。
小さな子どもというのは、時に大人では気付けないことへ気付いてのけるものだ。
とはいえ、どうせ大したものでもないだろうと銀時は高を括っていたのだが。
「人の声がするのん」
――首を傾げながら放たれたその言葉に、絵里と杏里までもが開いていた口を閉ざした。
会話が途切れたことにより、夜の逆に煩いほどの静寂が耳へと流れ込んでくる。
その中に、確かに話し声のようなものが混じっているのが絵里にも杏里にも、銀時にも分かった。
さっきまではまったく気付かなかったが、れんげは目敏く……もとい耳敏く、誰より早くそれを察知していたようだ。
大したものだという感心半分、未知の参加者が近くに居ることへの緊張半分。三人の心境は概ねそんなところ。
程なくして、おずおずと切り出したのは杏里だった。
「あの――あちらの方から聞こえるみたいですね、この声」
「……校庭、とかかしら」
無視するか、それとも接触を図ってみるか。
どちらが正しいとは、決して一概には言えないだろう。
相手は殺し合いに乗った殺人者かもしれない。
はたまた自分達と同じように、殺し合いを良しとしない人間かもしれない。
最悪――誰かが殺されかけているのかもしれない。
近付いて危険を被るか、見ない振りをして罪悪感を引きずり続けるか、だ。
すっと、絵里の視線が銀時の方を向いた。
それを追うように、ややおっかなびっくりながらも、杏里も彼を見る。
「え゛」
「銀さん」
いついかなる時も、男という生き物は先頭へ立たされるものだ。
坂田銀時は何か反論しようとしたが、やがてごにょごにょと口ごもり。
それから頭をボリボリとわざとらしく掻いて言った。
「あー、わかったわかった分かりましたよ! 俺が先頭で覗けばいいんだろ、覗けば!」
「あの……坂田さん、声が大きいです」
「杏里ちゃん君割と容赦がないね!?」
●
鬼龍院皐月と間桐雁夜が目指したのもまた、本能字学園であった。
理由などなくとも、皐月という支配者が彼の地を目指すのは必然の道理。
本能字学園は皐月の城である。
かつて鬼龍院羅暁が皐月へと作らせたものでこそあるが、この学園はハナから奴の所有物などでは断じてない。
「アレは、私が奴を討つために――生命戦維と戦うために育成した学舎だ」
とはいえよもやこんな形で、この壮観なる姿を拝むことになるとは、さしもの皐月でも予想出来なかったが。
これがもしも本物の本能字学園を移設したものであるならば、何とも皮肉なことをしてくれたものだと思う。
怒りを通り越して笑いが出てくる程だ。
だが、だからこそ彼女は己の城へと先に赴くことにした。
-
奪われた屈辱を、敵とするには皐月をして絶大過ぎる敵の力の程を、余さず受け止めた上で凌駕するために。
「そういえば皐月ちゃん。さっき話してくれた流子ちゃん以外にも、君と同じ学校に通っている子は居るんだったね」
「ああ。満艦飾マコと蟇郡苛。どちらも、殺し合いなど頑として受け入れんだろうな……それがどうかしたか?」
「君が学校を目指したように、その二人も同じことを考えているんじゃないか。
だとしたら、この先で少し待てば合流できる可能性もある。そう思うんだ」
否。
皐月は雁夜の発言を、ろくに考える時間すら無しにそう否定した。
彼女自身の凛とした雰囲気も相俟って、本当に『一刀両断』という言葉が浮かんでくるような切り返しだった。
雁夜の言っていることは別段おかしなことではない。
寧ろ有益な意見だろう。
そもそもこれだけ目立つ校舎なのだから、学園で黙し待つだけでも参加者は集まってくる筈。
それが皐月と同じくこの本能字学園へと通う身であるならば尚更の話だ。
しかし、鬼龍院皐月はそれを否とした。
「確かに、純潔を纏った流子の力は強大だ。今のあれへ挑むには、戦力を充足させた方がいいだろう」
先刻も言ったように、皐月は自分の個人戦力に鮮血の力を足そうと、流子へは及ばないかもしれないと考えている。
なればこそ、雁夜の意見に従い学園で待機するのが最も利口であろうというものだったが――
「だが、最早支配するのみでは足りんのだ」
本能字の将とし君臨し続けるだけでは、纏流子に敵おうと、鬼龍院羅暁という巨悪には敵わない。
皐月はあの日――羅暁へ敗北を喫した大文化体育祭の日、それを悟った。
だから敢えて、皐月は本能字学園へ留まるという選択肢を選ぶことを拒否する。
正気か狂気かのどちらかへ定義するとするならば、間違いなくそれは狂気の論であったろう。
鬼龍院皐月という女を知らぬ者には、到底理解できないものに違いない。
「済まないな。詰まらん我儘に付き合わせることになる」
「……いや。確かに俺には、皐月ちゃんの言ってることはよく分からないが……
それでも、君が言うなら間違いないんだろうな、という気はする。何故なのかは本当に分からないんだけどね」
間桐雁夜は凡人だ。
魔術師の家系から生まれ落ちた落伍者でありながら、分を弁えない無謀へ走り、迷走して死んだ道化だ。
もしも彼が征服王の英霊を召喚していたならば味わうこともあったのだろうが、彼が喚んだのは湖の狂戦士。
故に、雁夜は今日この日、初めて『圧倒的なカリスマ』というものを感じさせられていた。
とてもではないが自分より一回りは年下であろう少女の言葉とは思えないほど、そこには説得力と重みがある。
彼の知らない話だが、皐月は四人の優秀なしもべを有している。
四天王と形容される彼らは皆皐月のカリスマへ触れ、打ちひしがれ、そして彼女へ例外なく心酔した。
今の雁夜はきっと、その過程にある。
マスターとして過ごす地獄に足を踏み入れてから、常に虐げられ続けてきた彼だからこそ。
鬼龍院皐月という何にも怖じず、凛と進み続ける英雄に、ある種救われていたのかもしれない。
やがて近付いてくる、学園などと形容するには大仰すぎるシルエット。
それはただの巨大建造物というだけでなく、ある種威圧感のようなものさえ放っているように雁夜は感じた。
固唾を呑み込み、皐月の後へと続く。
無駄な会話は二人の間にはなかった。
静寂の中に、断続的な足音ばかりが響いている。
どれほど歩いた頃だろうか。
不意に、皐月が足を止めた。
ぎりりと、歯の軋む音がした。
『――皐月』
「ああ」
露出の多いセーラー服――鮮血と皐月の会話は、ごく短く淡白である。
それは二人にとって、それ以上物を語る必要などないことを意味していた。
彼と彼女が共に過ごした時間は決して長くなどない。
しかしそれでもだ。
今、眼前に見える――白磁の神衣を纏い獰猛に笑む、あの少女を助け出したいという想いは共通している。
-
「よう。来ると思ってたぜ、鬼龍院皐月」
彼女は、本能字学園の校庭の、その真ん中で待ち受けていた。
纏流子らしい堂々とした位置取りだが、今の彼女は皐月や鮮血の知る流子ではない。
彼女と直接の面識がない雁夜でさえも、素直に流子へと戦慄の情を覚えている。
禍々しいまでの殺気は、かつて彼が使役していたバーサーカーのサーヴァントにだって劣りはしないだろう。
皐月が敵わないかもしれないと疑うのも、これなら分かる。
だが当の皐月は怯みもせずに、毅然と変わり果てた妹と相対していた。
「随分けったいな病人連れてるじゃねぇか。いつから皐月様は看護師志望になったんだ?」
「その様子では、お前の支給品も純潔(それ)だけのようだな」
「ハッ、十分だよ。鮮血を着こなせもしねェてめえをぶっ殺すのに、武器なんざ要らねえ」
二人の間に漂う空気は、まさに一触即発。
いつ開戦の火蓋が落とされても可笑しくない状況で、雁夜も右手を静かに構えた。
魔術回路が生きている――つまり、雁夜はまだ魔術師として戦うことが出来る。
だが、その戦力は微々たるものだ。
皐月はああ言っていたが、雁夜の助力で戦況が変わる可能性はごく僅かに違いない。
「侮るなよ、流子」
それでも、鬼龍院皐月は一切の泣き言を漏らさない。
「生憎と、今の私には勝算がある」
――四天王の力を借りずとも、纏流子を倒す勝算が。
面白え。
流子が呟き、一歩を踏み出した。
それに合わせて、皐月も迎撃の一歩を踏み出した。
互いの拳と拳が真っ向ぶつかり合って、――此処に宿命の姉妹喧嘩が始まったのだ。
●
「……何だありゃ」
校舎の陰からこっそりと、姉妹の戦いを見ている者がある。
彼――坂田銀時の呟く声は、半笑いですらあった。
校庭に居るのは三人。
痴女のような露出の多い衣装を纏った少女達と、もう一人は――男のようだ。
そして今、銀時の脳へ危険シグナルをけたたましく鳴り響かせている原因は、前者の痴女二人にあった。
雑な言い方をすれば二人は戦っているのだが、どう見ても丸腰の女がする戦い方ではない。
キャットファイトなんて次元を超えた、まごうことなき超人同士の戦いだった。
「銀さん……?」
「――あー、うん。冗談抜きで言わせてもらうとだな。ありゃやべえ。逃げるが吉ってやつだぜ」
いつも通りの調子で言う銀時だったが、その目には真剣なものが宿っている。
彼は只のちゃらんぽらんではない。
園原杏里が抱く『妖刀』を狂喜させるほどの強き人間であり、この場の誰より多くの場数を経験している身だ。
その上で言う。あれにもし巻き込まれるようなことになれば、絵里達はほぼ確実に死ぬと。
-
「? 銀さん、どうしたん? ウチも見――」
「はいはい、良い子だからね〜。銀さんの言うことちゃんと聞きましょうね〜」
「む。ウチ、赤ちゃんじゃないのん」
好奇心から覗き込もうとするれんげを上手くいなしつつ、銀時は杏里と絵里に目配せした。
最初こそ大袈裟と思った絵里も、銀時のいつになく真剣な顔を見て何も言えなくなる。
そして何より、彼女達の耳へもその『音』は例外なく飛び込んでいた。
常人同士の戦いで発生するにしては暴力的過ぎる轟音の数々が、最早耳を澄まさずとも聞き取れる。
何が起こっているかは、それを直に見た銀時にしか分からない。
されど、この場において最も賢い選択肢は彼の言う通りにすることだというのは疑いようもなかった。
「(あんなドンパチやらかす女が、神楽の他にも居たとはねえ……)」
つくづく、ゲームバランスも何もあったものじゃない。
或いは『奴ら』のように個人戦力の高い者同士で潰し合うことも見越した上での参加者選抜なのか。
どちらにしろ、傍迷惑なことに変わりはない。
――あんな戦いがそこかしこで勃発しているならば、犠牲者は既に出ていると考えた方がいいだろう。
「なんだってこんな事に巻き込まれんだか……やっぱ日頃の行いってやつかね」
空を見上げ、ぼやく。
彼も馬鹿ではない。
どれだけおちゃらけた言動をしていようとも、内心ではとっくに理解している。
……この『殺し合い』が、日常の延長線で起こる乱痴気騒ぎとは全く違うものだということ。
適当にオチがついて、寝て起きればみんな元通り……なんて都合のいい展開は存在しないのだと。
今までに何度か、銀時はこういった『本当の鉄火場』に遭遇したことがある。
その中でも、今回のものは最悪だ。
雁字搦めに動きは縛られ、挙句手元には刀すらない。
悪夢、である。
「? 銀さん! 早く行くわよ!」
「おうよ。落とし物とかしてねえだろうなお前らー」
ともかく。
この後どう動くかについては、もう一度話し合う必要がありそうだ。
れんげと杏里の二人だけで旭丘分校へ向かわせるのは、今の争いを見る限り相当危険な筈。
最悪、どちらかに目的地を後回しにしてもらうことにもなるやもしれない。
頼むから、面倒な相手にだけは出会さないでくれよ。
この殺し合いも見ているであろう悪趣味な神様に祈りながら踵を返した時。
銀時は、一瞬でもそんな相手へ祈ったことを後悔する羽目になった。
「やあ、何処行くのさ。折角なんだ、もっとゆっくり見ていきなよ」
その瞬間、杏里達の背後へ現れた笑う青年を、坂田銀時は知っていた。
「かむ……いッ」
驚きを浮かべている時には、もう遅い。
相手は夜兎。それもある宇宙海賊の最強部隊と畏れられる第七師団が団長、破壊の申し子だ。
連中お得意の得物・日傘が精密機械で射出したかのような速度で放たれる。
-
園原杏里の首の皮一枚を裂きつつ、それは正確に坂田銀時の顔面を貫く――かと思われた。
「お?」
雷槍――神威に失策があったとすれば、それは攻撃の軌道線だ。
彼にそれを知る術は当然なかったが、もしも絵里かれんげの真横から傘を通していたなら、それで終わっていた。
防御手段のない丸腰の銀時を貫き殺すなど、彼にとっては赤子の手を捻るようなものだ。
だが。『園原杏里』という存在を介してしまったことにより、図らずも銀時はその生命を拾うことになった。
一瞬だ。
どこから現れたのか、一振りの刀が杏里の手に握られた。
彼女はそれを、寸分の狂いもなく高速で振り上げ、神威の日傘を逸らしたのだ。
次に、刃の一閃が半月の軌跡を描いて神威の首筋へと振り抜かれる。
その動作は神威と銀時をして完璧と呼べるものであったが――相手は夜兎。そう容易くは決まらない。
人間の動きを超えた柔軟で刃を軽々回避し、神威は僅かに後退して相変わらずの笑顔を浮かべている。
「園原さん、今のは……」
「……色々気になるだろうが、今は後だ。テメーら、全員下がってな」
逃げろと、銀時は言わなかった。
彼にしてみれば、神威は立派な『何をするか分からない相手』である。
背中を向けた瞬間、あの日傘でドスリ――などと行かれては洒落にならない。
「おや、そこにいるのはさっきのお嬢ちゃん。また会うことになりそうとは言ったけど、まさかこんなにすぐとはね」
「あ、あの時の……うちゅうじんなのん!」
「れ、れんげちゃん。知ってるの……?」
絵里の頭はもうパンク寸前だ。
すぐ近くで繰り広げられる激しい戦い。
不意討ちでいきなり銀時を殺しにかかった、神威なる男。
その不意討ちを防ぎ、剣道部も顔負けの一太刀を見舞った杏里。
挙句、神威とれんげは一度遭遇したことがあるという。
あまりにも、平々凡々とした日常を生きてきた学生には多すぎる情報量だった。
園原杏里は、不思議な冷静さを持っていた。
罪歌の自動防御により神威の一撃を防ぎ、返しで斬りにかかったが――返しの挙動は杏里の意思である。
罪歌の声は、神威の登場によって声量を増すことはなかった。
それはつまり、そういうことなのだろう。
相手は人間ではない。だとすれば、あの身体能力も頷けるというものだ。
事ここに至るまで、杏里は迷いを抱いていた。
――殺し合いを止めさせるために、斬る(愛する)べきか。否か。
――危険人物を罪歌の呪いに犯すことは、正しいことなのか。
正直な所、それは今でも変わっていない。
ただ、一つだけ確信があった。
この神威という男。彼に限っては、そんなことを考えている場合ではない。
迷いも呵責もなく、確実に命を奪うあの初撃の段階で、園原杏里はそう確信した。
だから彼女は、自らの光(やどぬし)と決めた少女を守るべく、ここで剣を抜き放ったのだ。
「……やれやれ。少しだけ予想外だったな」
杏里の中に眠っていた『罪歌』の存在については、さしもの神威も気付くことは出来なかったのか。
さすがに肝を冷やしたと肩を竦め、彼は日傘を片手に笑ってみせる。
しかし彼は、『園原杏里』という予想外の事態を前にしても毛ほどの焦燥さえ抱いてはいなかった。
折角の祭りなのだ。こうでなければ面白くない――もっとも、あの刀で斬られるのは御免被りたいが。
-
「それは妖刀の類かな。まあ、何でもいいけどさ」
他がどうであれ、戦闘の申し子である神威の目を誤魔化すことは出来ない。
あの時杏里が見せた動きは、どう見ても自力で引き起こしたものではなかった。
僅か一瞬。杏里が返しの刃で神威を斬りに出るよりも前に、彼は杏里の刀を化外の類と見抜いていた。
妖刀などで斬られた日には、まずろくなことにならないのが目に見えている。
その辺りを警戒しながら戦うのは面倒だが――同時に楽しそうでもあり、夜兎の心を踊らせた。
「こんな狭いところで勝負ってのもなんだし、あっちへ行こうよ。
ちょうど今、俺の仲間がやり合ってるとこなんだ」
「……オイオイ。あの痴女二人はテメーのお仲間かよ。見かけによらずああいうのが趣味なのか、ウサギさんよ」
「仲間って言うよりは協力者――いや、後に取っておくデザート、ってとこさ」
言って笑う神威の心中は、銀時には理解できない。
別に理解したいとも思わないが、誘いに乗らないことが何を意味するかも分かっていた。
奴は女子供を進んで殺すよりも、強者との殺し合いを望む質だとは知っている。
だが、しかし。それは必ずしも、『殺さない』こととイコールではない。
「……お前らはなるだけ隅で見てろ。それとだ、杏里ちゃんよ」
「…………」
「『出る』ってんなら俺は止めねえ。
けどな――いざとなったら退け。退いて、あいつらを守ってくれ」
それだけの相手なんだよ、こいつは。
至って真剣な顔で断ずる銀時を待たずして、神威の姿は消えている。
一足先に決戦場へ赴き、いつも通りの笑顔で待っているといったところか。
絵里がれんげの手を引いている。
その手は、小さく震えていた。
「……えりりん、震えてるのん?」
先導するのは銀時と杏里。
無力な絵里とれんげはただ見ているだけだ。
けれどれんげは、自分よりもずっと大きな絵里が震えているのが可哀想で。
「だいじょうぶ。だいじょうぶなのん」
ぽんぽんと、優しく背中を叩いてあげた。
●
「ふん。格好を付けるなよ、銀時。侍が刀も持たず、一体何を成すつもりだ」
戦場と化す校庭へ向かおうとする銀時の背中に、男の声が掛けられる。
彼は一瞬だけ足を止めたが、振り向こうとはせずに背後へ手だけを翳した。
そこへと放り投げられた一振りの剣を――使い慣れた握り心地ではなかったが、しっかりと掴み取る銀時。
彼が振り返ったのはそれからのことだった。
思わず溜息が出る。
まったく、なんてタイミングでやって来るんだテメーは。
-
「……来るんならもっと先に来とけよヅラヤロー。危うく俺が一人で貧乏籤引くとこだったぜ」
「ヅラじゃない、桂だ。全く、素直にありがとう桂様と言えんのかお前は」
黒髪に、袴姿の男だった。
顔立ちは整っているが、どこかシュールなものを感じさせる雰囲気をしているのは銀時と同じ。
銀時は彼から投げ渡された剣を確認し、うげえとやや引き気味の声を漏らした。
「侍渡すにしちゃちと小奇麗過ぎねえかい、こいつはよ」
「文句を言うな。正直俺もそう思ったからお前に渡したが、業物なことには違いなかろう」
「で、ヅラよ。テメーいつからロリコンになりやがった」
『桂』と名乗ったその男と銀時の視線が、彼の同行者らしいツインテールの少女に向けられる。
れんげよりは年上のようでこそあるものの、それでも年は十代前半の筈だ。
断じてこんな所に居ていい人間ではない――しかし、もしも只の護られる者ならば銀時はわざわざ言及しない。
彼は少女の可憐な姿の中に、戦う者特有の『強さ』を見出していた。
問われた桂はフッと微笑すると、彼と同じく少女へ視線を移す。
「見た目は童女だが、肝は据わっている。
彼女もまた俺と同じ、繭の討伐を――革命を引き起こすことを望む人間だ」
「そーかい。狂乱の貴公子サマがそう言うんなら頼もしいや」
狂乱の貴公子。
どう聞いても良いイメージの浮かばない名前に、二人を見ていた絵里の表情が少しだけ翳る。
絢瀬絵里はまったくの一般人だ。
れんげのように独特なテンポを持つわけでもない彼女は、この状況で最も激しく恐慌していた。
そんな様子を見かねてか、桂は歩きながら、彼女達へ改めて自己紹介をする。
「桂小太郎。侍だ」
侍。
先程から何度か出ている言葉だったが、まずそれ自体が絵里達には理解の外だ。
彼女達にすれば、侍などという存在は百年以上も前に廃れたもののはず。
ましてや桂小太郎――その名前は、絵里が歴史の授業で習った長州の武士と一文字違いである。
ひょっとすると、ひょっとするのだろうか。
依然ひとり警戒の色を崩せていない絵里に苦笑しつつ、だが桂は毅然と続けた。
怯える少女の目を見据えて、安心させるような声色で。
「恐れることはない。俺はお前たち、弱き者の味方だ」
――モデル顔負け(自称)の、それはそれは見事なウインクを決めて言った。
「…………ウインクがなければ完璧でしたね」
絵里達を守るように立ちながら彼らへ続くコロナのぼそっと呟いたツッコミで、見事にオチがついた。
-
●
桂小太郎とコロナ・ティミルの二人が此処、本能字学園へと向かう道中は至って平々凡々としたものであった。
というのも、やはりショッピングモールから学園までの距離がそう長くなかったのがやはり何より大きいだろう。
長距離の移動は必然的に、他の参加者と接触する可能性が高くなる。
これがもし仮に、いきなりコロナの提案通り放送局を目指していたなら、こうはいかなかったに違いない。
本能字学園と織田家の関係性がどうだとか、コロナが織田信長を知らず桂が熱弁をしたりだとか。
挙句の果てに本能字学園の地では信長の亡霊が待ち、それに勝利すれば彼が仲間になってくれるだとか。
そんなことあるわけないでしょうと反論するコロナに、根拠としてドラ●エⅤのエ●タークの話を熱弁してみたり。
――(※ちなみにエス●ークがあることをすると仲間になるというのは、このゲームの非常に有名なデマである)
そんな緊張感とは縁遠い道中を経て、彼ら二人は本能字学園へ辿り着いた。
そして最初に目にしたのは、校庭にて鎬を削る少女達の姿だった。
――――うわああああああああ信長だァァァァァァァァァ!!!!!
絶叫しかける桂をコロナがどうにか物理的手段で抑え落ち着かせる場面があり、彼らは決めた。
戦いに乱入し仲裁するのではなく、暫く様子を見、戦いの裏にある事情を把握してから動くことを。
侍として何度も鉄火場を潜ってきた桂も、沢山の魔導師達を見てきたコロナも、共通して目の前の戦いをこう評した。
『普通ではない』。
白い衣装の少女は見ているだけで肌が痺れるような殺気を見せ、セーラー服の少女はそれを真っ向止めている。
後者を援護しているらしきフードの男が少しばかり気になったが、あれに策もなく介入するのは自殺行為だ。
そこで一旦回り道をし、もっと安全な場所から戦況を見守って、介入の時を窺おうと考えた――のだが。
――いざ赴いた先では、桂にとって見覚えのある銀髪の侍が、雷槍の暴れ馬と相対していた。
しかも見れば、侍の癖をして帯刀すらしていない。
あの夜兎を前に逃げるのも無謀な話だとは思うが、しかし丸腰で挑もうとは見下げた馬鹿者だ。
しかしこんな所で遭遇してしまっては、見て見ぬ振りをするわけにもいくまい。
それに――銀時はどうやら、ハーレムさながらに女子供を侍らせているようだった。
如何に白夜叉と恐れられた豪傑といえど、非戦闘員を抱えた状態で宇宙海賊と事を構えるのは無茶であろう。
そこで桂は、彼へ一つ『貸し』を作っておくことにした。
自身の最後の黒カードに入っていた、禍々しさすら感じさせる西洋風の剣。
神造兵装・無毀なる湖光(アロンダイト)。
それが名剣であることは、桂も触れた瞬間に分かった。
にも関わらず何故に剣として劣る晴嵐を握っているのかと言えば、銀時が言ったのと同じ理由である。
泥臭い侍には、この一振りは似合わない。
どうせ武器は二本あるのだし、最悪晴嵐が破壊されたらこちらへ乗り換えればよい……彼はそう考えていた。
……よもやこんな形で役に立つとは思いもしなかったが。
「おやおや、ちょっと見ない間に人数が増えてるようで」
笑顔――時に『殺意』と同義であるその表情を浮かべ、戦場に立つ雷槍の夜兎、神威。
それに相対するのは三人だ。
『白夜叉』坂田銀時。
『狂乱の貴公子』桂小太郎。
『罪歌の母』園原杏里。
これだけの人数差がありながら、一切気圧された様子がない辺りは文字通り、怪物と呼ぶ他ない。
「――おいコラ、テメェ! こっちが終わるまで適当にぶらついて来るんじゃなかったのかよ!?」
「そのつもりだったんだけど……ちょっと俺は俺の方で、見知った獲物を見つけちゃってさ」
-
●
神威へと苛立たしげに吼えたのは、鬼龍院皐月と現在進行形で鎬を削り合う纏流子だ。
皐月と流子の戦いは未だ、全くと言っていいほど終息の気配を見せていない。
当然、押しているのは流子の側。
神衣純潔を纏った生命戦維の申し子は、俄仕立ての連携で打破出来るほど弱くはないのだ。
雁夜の刻印虫が――繭の措置なのか、反動を無視して行使できるようになったそれらがまるで意味を成していない。
今の流子にとってこの程度は羽虫にも等しい。
腕を振り払うだけで虫達が無残に蹴散らされ、彼女へかすり傷すら与えられていなかった。
「チッ……邪魔だけはすんじゃねえぞ」
奴と問答をするのは無駄と判断し、早々に会話を打ち切る流子。
神威と仮初めの協力関係を築いてすぐに分かったことだが、あれは基本話の通じない人間だ。
いや――人間、ではないのかもしれないが。
とにかく、こと戦闘においては特に、流子が神威と足並みを揃えるのは困難だった。
どちらが戦闘を担当し、どちらが下がっているか。
最初に決めた(と流子は思っている)ことからしてこの通り、奴には守るつもりはないと来た。
「よそ見をしている暇があるのか?」
「うるっせェんだよ――てめぇはよォッ!」
語りかける皐月へ苛立ち混じりに吼え、流子は再度宿敵との決闘へと臨む。
皐月は鮮血の変身形態を使いこなしている――着こなしている。
それどころか、流子の知り得ない技まで生み出している。
その戦闘センスは流石と言う他ないが、しかし流子は彼女に負けるなど、欠片も思ってはいなかった。
何故なら、鬼龍院皐月は神衣鮮血と意思疎通することが出来ない。
変身を使いこなしてくることまでは想定済みだった。
されど、そのカラクリには察しがつく。
大方、皐月の指示を鮮血が聞き、技を出している――といったところだろうと。
そう思っていたのだが。
『皐月――左だ! 翔べッ!』
「分かった、鮮血!」
流子がやや優勢ではあるものの、決して戦況は一方的ではない。
皐月は傷付きながらも流子の暴威へ食らいつき、少しずつ学習している。
否。
彼女の命運を繋いでいるのは決してそれだけではない。
現在、鬼龍院皐月の強さを裏打ちしている最大の要素にして、纏流子の計算を最も狂わせているもの。
「ハッ。随分と仲良くなったもんじゃねえか、えぇ? 鮮血よぉ」
それは――鬼龍院皐月と神衣鮮血、この二人が完全に『通じ合っている』ことだった。
鮮血が皐月へ指示をし。
皐月がそれを聞いて動く。
時には皐月が鮮血へ。
鮮血と皐月が息を合わせ、流子の想定よりも遥かに優れた連携を見せている。
当然、流子が鮮血を着ていた頃のそれには遠く及ばないが。
それでも、流子から一方的に蹂躙されない程度の奮戦には繋がっていた。
-
『流子――確かに私と皐月それぞれの力では、お前には及ばないだろう』
「一人と一着、のみではな!」
『だが……今はッ!』
その光景が、流子にとっては堪らなく苛立たしい。
頼んでもいないお節介をべらべらと並べ続けるあの服も、それを纏い正義面する鬼龍院皐月も。
すべてが癪に障る。
最早流子の一挙一動から、遊びや加減といったものは跡形もなく消え失せていた。
当然攻撃は激化する。皐月達も、搦め手でどうにか命綱を繋いでいるといった有り様だ。
しかし、吹けば飛ぶようなか細い綱(それ)が――呆れるほどしぶとい。わけがわからないほど、太いのだ。
「私と鮮血で一人だ―― 鮮・血・閃・刃ッッ!!」
「蚊トンボみてぇに飛び回りやがって――鬱陶しいんだよてめぇらぁぁッ!!」
激昂しながら叩き込む攻撃は空を切り、鮮血閃刃の切れ味が流子の頬に一筋の傷を生んだ。
カウンターで叩き伏せんとするが、その程度のことを読めない皐月ではない。
飛び退き、返しの拳が飛ぶよりも早く決闘の最前線より離脱。
ヒットアンドアウェイの要領で皐月と鮮血は、流子へ僅かではあるが確実にダメージを通している。
双方が双方の声を聞くことで『通じ合っている』からこそ、そこには隙がない。
仮に他の者が鮮血を着てこの状態へ至ったとしても、純潔の流子相手に此処までは戦えないだろう。
そう、普通なら。
「いつまで、そうして無様を晒し続けるつもりだ」
だがしかし、相手は普通の人間ではない。
彼女は鬼龍院皐月。
凡人からは遥か遠く、超人の枠すら凌駕して余りある。
彼女を枠に当て嵌めるには、『鬼龍院皐月』という特殊な枠を作るしかない――それほどの傑物だ。
鮮血を纏った状態での最大の弱点を克服した彼女は、流子をして容易くは攻め落とせない難敵と化していた。
「無様なのはお前だろうが、鬼龍院皐月。
そんな中途半端で醜い神衣を着て、バカみてえに踊ってよ。私は、そうなるのは御免なんだよ!」
皐月は静かに歯噛みする。
今の流子は、鬼龍院羅暁の手で完全に純潔へ服従してしまっている。
それを恥などとは微塵も思わないどころか、あの様子では快楽すら覚えているようだ。
分かっていたことではあるが、やはり易々と解決できる難題ではない。
――だが、それでも。
「愚かな」
それでも、諦めるわけにはいかないのだ。
皐月一人の力では、殺し合いは打倒できないし羅暁にも届かない。
纏流子という存在の助力がなくては、何もかもが終わってしまう。
不屈の闘志を胸に秘め、かつて敵として戦った神衣を着こなし、変わり果てた妹を救い出すべく歯を食い縛る。
それを見て――纏流子は、コールタールのようにドロドロとした苛立ちを沸騰させる。
-
つくづく鬱陶しい。
邪魔だ。
どうしてこの女とあの出来損ないは、こうも人の神経を逆撫でするのだろうか。
再び突っ込んでくる皐月を見、流子は何度目かも分からない舌打ちをした。
その時、視界の端に蟲が飛んでいるのが見えた。
それを片手で叩き潰すと、気持ちの悪いべっとりとした体液が飛沫する。
流子は地面を蹴った。
迫ってくる皐月と『すれ違い』、そのまま疾駆する。
皐月が勢いよく振り返り、流子の意図を理解し――何やら叫んだ。
言葉にはなっていたはずだが、流子にとってはどうでも良いものだったから、理解することも放棄した。
そのまま走り抜け、片目の白濁した惨い面の男の懐へと飛び込む。
「てめぇもだよ。邪魔なのは。知らん顔してんじゃねえぞ」
間桐雁夜が何か口にするよりも先に、彼の腹に大穴が開いた。
蟲を潰すのと何も変わらない適当さで、纏流子はこの時初めて、人を殺した。
●
初撃は神威だった。
低い体勢で走り、妖刀罪歌を躱し、桂の顔面を粉砕するべく蹴り上げを放つ。
晴嵐を真横に構えて受け止める桂だったが、勢いを殺し切れずに身動いでしまう。
そこへ繰り出される追撃。それは奇を衒わない正拳突き。
しかし、『単純』とは決して弱さとイコールではない。
特に彼のような、達人すら超えた域にある戦闘生物の『単純』は兵器の一撃にも等しいのだ。
身を反らして回避――否、避け切れない!
「何だよ、テメーから誘っといてンなヅラ追い回しやがって。俺とも遊ぼうじゃねえか、神威くんよ」
が、神威の拳が桂へ致命傷を与えることはなかった。
銀時が彼の真横から突貫し、体重を乗せた一突きを見舞ったのだ。
夜兎の衣服を僅かに切り裂いた程度で手傷には繋げられなかったが、それでも桂はこれで難を逃れた。
晴嵐の斬り上げをバック転で躱すと――背後から迫る杏里の一閃に靴底を合わせた。
かと思えば剣閃の勢いを利用し、バネ代わりに斜め方向へ弾丸の如く跳躍してのける。
お望みならば、いつでも向かってやる。
とでも言わんばかりに、神威は挑発を買い銀時を狙った。
振るわれる日傘。単なる傘と侮るなかれ、この恐ろしさは彼の妹を従業員に持つ銀時が一番よく知っている。
似合わない聖剣で止める。――流石に業物だ。夜兎の膂力を相手にして、軋み一つ起こしていない。
「硬いなあ。只の刀なら、このまま折り砕いてやるところなんだけど」
「……そこのヅラからの貰い物でな。悪いが、値打ちが知りたきゃお宝鑑定団にでも行ってくれや」
次の瞬間、銀時の右の脇腹に衝撃が走った。
神威の回し蹴りだ。
軽く血を吐きながら、銀時は地面を転がりながらどうにか体勢を立て直す。
しかしそこからの追撃は許さんと、左右から二人の剣士が挟撃を仕掛けた。
晴嵐、そして罪歌。
どちらも生半可な刀などより遥かに優れた代物であり、神威をしても破壊には難儀するだろう。
加え、罪歌は妖刀だ。神威は罪歌が帯びる呪いの形こそ知らねど、絶対に触れてはならぬものとは理解していた。
罪歌を右手の日傘で受け止める。
晴嵐を左手の手首から先のみで同じように受け止め、そのまま刀身を握った。
-
「ほら、折角の妖刀(ワケアリ)なんだ。俺にもその呪いとやら、見せてよ」
そのまま晴嵐ごと桂を、右手側の杏里へ衝突させんとする。
晴嵐を離せば当然最悪の事態は避けられるが、そうすれば神威へ二本目の武器を渡してしまうことになる。
それもまた最悪だ。桂はそれだけは何としても避けねばならんと判断し、晴嵐を離さなかった。
神威の魂胆は今彼が口にした通り。
武器を離せない桂を杏里へぶつけ、あわよくば妖刀で桂へ傷を付けさせる、というもの。
未だ不明の妖刀の力を測りつつ相手一人を潰す、成る程合理的な一手である。
だが、桂も何から何まで神威にやられっぱなしではない。
「……おや」
「あまり、舐めないで貰いたいものだな」
何も難しいことはしていない。
桂はただ、その場に全力で踏み止まっただけだ。
夜兎の剛力相手に持ち堪えるのは至難であり、このまま踏ん張ろうと数秒保つのが精々だろう。
しかしそれだけ耐えられれば、体勢を立て直した銀時が飛び込んでくるには十分な時間を稼ぐことが出来る。
「おおおォォォォ!!」
裂帛の気合を叫びに乗せた銀時の剣を首を逸らすことで躱し、神威は晴嵐を離して杏里の方へ体重を掛けた。
「っ」
罪歌の戦闘経験をしても圧倒できない夜兎の怪力が、華奢な杏里のバランスをそれだけで崩させる。
日傘を刀身から外しつつ飛び上がり、神威は頭上から彼女の頭目掛けて突きの一撃を振り落とした。
人間の頭程度ならそれこそ潰れた果実のようにしてしまえる腕力の為、受ければ自動的にそれで詰みだ。
この兎を相手取る上で、「もしも」だとか「ひょっとすると」といった言葉は意味を成さない。
彼らはイフの可能性さえ残さずに敵を潰す。狩る。それすら分かっていない者に、夜兎の相手は荷が重い。
杏里はその点まだ、彼らの真髄を理解してはいなかった。
だから、『本来なら』――彼女は木っ端の如く、その中身を撒き散らかすことになっていたのだろう。
「ちぃ、やっぱり速いな」
だが生憎と、園原杏里は普通ではないし、一人で戦っているわけでもない。
神威の命を奪い取る石突を、彼女は女子高生にあるまじき速度と精度の斬撃で迎撃していた。
結果それは、確殺といってもいい手応えと間合いで放たれた夜兎族の攻撃から生き延びるという偉業を引き寄せる。
今の杏里と同じ状態に立たされて、こうして生き延びられる者など宇宙広しといえどそうは居るまい。
――彼女も、池袋の町で様々な存在を見てきた。関わってきた。
この神威のように、異常なほど強い人間にも杏里は実のところ覚えがある。
その名は、平和島静雄。
彼女の振るう妖刀・罪歌が最も愛したがった、名実ともに『池袋最強』と謳われる『人間』だ。
彼は神威ほどの速度こそ持ってはいなかったが、力ならばこの青年さえ凌駕する可能性はあるだろう。
杏里は、静雄と遭遇することを望んでいない。
理由は言わずもがな。彼を前にした時、この妖刀を制御しきれる自信が杏里には欠けている。
静雄と神威の違いは、人間であるかそうでないかだ。
少なくとも罪歌はこれを人間だと看做しておらず、杏里自身もそうだろうとそれに同意している。
「けど、これで終わりとは考えないでほしいかな」
弾いた筈の日傘を強引に引き戻し、槍の要領で杏里の心臓めがけ刺突。
止める――だが、本命はこれではない。
彼女の左の脛に激痛。それで杏里はバランスを崩してしまう。
足払いだ。罪歌の力をしても容易くは破れない怪力で刀を封じ、そのまま機動力を削ぎにかかった。
この目論見は見事に成功し、杏里は敢えなく地へ膝を突く格好になる。
止めを刺す瞬間、背後から迫る二人の侍。
振り向き加減に日傘の一撃で双撃に対処すると、銀時の胸倉を掴みあげ、彼をそのまま地面へ叩き付ける。
肺の空気が逆流する感覚にペッと反吐を吐き捨て、白夜叉はされど食い下がろうとするが。
ここで――園原杏里が最も恐れていた事態が発生する。
-
「――なっ、貴様!」
迸った剣閃を止めたのは桂だ。
そして剣閃の主は神威ではなく――味方であるはずの少女、杏里。
銀時が完全に体勢を戻す前に、あろうことか彼女は彼の首筋目掛けて鋭い一閃を放ってのけたのだ。
(愛愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる)
杏里は神威と戦う中でも、あることへ常に留意していた。
それは坂田銀時と過度に接近しないこと。
桂小太郎も相当に危険なラインであったが、銀時に限ってはそれよりも更に一つ上の危惧があった。
罪歌が、愛したがっている。この強く雄々しい侍を斬り、愛したいと狂喜しながら喚いている。
そして今。神威の攻撃によって二人の距離が開戦後では最短の間合いにまで近付いた。
加え杏里にも余裕がなかった。
機動力を破壊とまではいかずとも痛めつけられ、その激痛と焦燥で少しだけ――心へ隙が生まれたのだ。
故に起こるべくしてその事態は発生する。
(愛愛愛愛坂田銀時愛愛愛愛愛しましょう愛すの愛し合うの愛愛愛愛愛愛愛愛)
もし桂が割って入っていなければ、銀時は無傷では済まなかったろう。
この妖刀を前にしては、かすり傷でさえ致命傷に等しい。
罪歌の愛は感染する。切り傷どころか切っ先で皮膚を少し裂いた程度でも、問題なく愛の業病が伝染する。
ネズミ算式に感染者を際限なく増やし続けていく、それが罪歌の最大の恐ろしさだ。
「ああ、やっぱりそういうことなんだ。君、それを完全に制御出来てるわけじゃないんだね」
笑顔のまま、神威はそう言ってのける。
――杏里が銀時と接近するのを過度に避けていることには、戦闘が開始してからすぐに気付いた。
無理矢理にでも足並みを合わせるための苦肉の策だったのだろうが、こればかりは裏目に出たと言う他ない。
戦いの中で相手が何かしら不自然な動きをしていれば、ある程度精通した者ならすぐに気付く。
ましてこの宇宙人は天下の宇宙海賊の最大戦力とされる戦闘の天才だ。
彼はそこから罪歌の特性に目星をつけ、彼女が避ける坂田銀時を用いることで『検証』した。
無論、力づくの精神論で刀を抑え込めない状況を作り上げることも忘れずに。
「へっ……妖刀ってのはどいつもこいつも、本当にろくでもねえな。分かっちゃいたがよ」
「あ――あの」
「……事情は大体分かった。要は俺が杏里ちゃんに近付かなきゃいいわけだ」
言うなり銀時は距離を取りながら、すれ違いざまの斬りつけを神威へ見舞う。
流石に片手間の牽制と相手も油断していたのか、彼はそれを片手で受け止め――掌から血を出した。
「へぇ。良い物使ってるね」
「お褒めに預かり光栄です、とでも言えば満足かよ」
「冗談。俺を満足させるのは得物じゃない――」
神威の笑みが、よりいっそう残酷なものへ変化する。
銀時はそれに薄い微笑みで応えたが、その内心は決して余裕綽々などではない。
こちらは三人。相手は一人。
普通に考えれば圧倒的に此方が優位になる筈の状況で、神威は互角以上の戦況を作り上げているのだ。
『怪物』。
一言、彼を称するならそれが一番手早いだろうとすら思う。
「君自身だ、お侍さん」
迫る怪物。
桂と杏里の助力も、この速度では間に合わない。
―――上等だ。
銀時も聖剣を構え、それを迎え撃つべく地を蹴り神威へと突撃した。
剣と拳――二つの暴力が、最短距離で交差する。
-
●
「『世界』――――時よ止まれ」
●
-
桂小太郎は、その瞬間を見た。
しかし、一部始終を目撃していた彼ですら、何が起こったのかを説明することは困難だった。
銀時と神威への介入が間に合わないと判断した彼は援護に出るべく走りつつ、固唾を呑んでその激突を見守っていた。
長い間侍をしていると、自然に『戦況が大きく動く』瞬間は分かるものだ。
桂は今をこそこの戦いの転機、命運を大きく傾ける瞬間だと直感した。
それに力添えすら出来ないのは歯痒かったが、その無念も含めて銀時へ託したつもりでいた。
だが――桂の直感は、彼も、杏里も、銀時も、神威ですら予期できなかった形で外れることとなった。
今まさに激突せんとしていた二人が、全く同じタイミングでその反対方向へと吹き飛んだ。
体をくの字に折り曲げ、呆気なくだ。
何よりも驚嘆すべきは、桂にはその攻撃が放たれたことも、攻撃の主がやって来たことさえも分からなかった。
気付いた時には二人が吹き飛んでおり、――彼らの間に、一人の男が立っていた。
見ればそれは杏里や、神威が言うところの『観客』である絵里達も同じだったらしい。
理解不能。理解不能。今、何が起こった?
「こんばんは、諸君。いい夜だな……フフ、それともお前達はそうは思わないか?
所詮は短い時をしか生きられぬ人間ども。このDIOの感覚は理解できんかな」
「……いきなり現れて、何中二病みてえなことベラベラほざいてんだ、オッサンよ」
立ち上がる銀時。
見れば神威も既に体勢を直し、ぱんぱんと付着した土埃を払っている。
この二人を戦闘不能とするには、今の一撃ではどうやら温すぎたようだった。
DIO。
そう名乗った男を見て、桂は思う。
この男は――危険だ。その全身から放たれる不思議な魅力に戦慄を覚えながら、晴嵐を握る手に力を込める。
別に、DIOは神威や彼の仲間のように殺気を撒き散らしているわけではない。
むしろその振る舞いは静寂と気品に満ちてすらいる。
男色のケがない桂をして美しいと思わせる整った容貌も相俟って、不思議な落ち着きすら覚える程だ。
だからこそ、桂はDIOをこの場に居る誰よりも恐ろしく、またおぞましく思った。
「今のを受けてすぐに立つとは……素晴らしい。
どうだ、白い侍。そっちの中華男もだ――このDIOに君達の力を、少しばかり分けてはくれないか?」
「はっ。黙れってんだよ、このカマ野郎が」
銀時は取り付く島もない、徹底的な拒絶をDIOへ示している。
だがその額には、一筋の冷や汗が伝っていた。
彼もまた感じている。これは間違いなく、規格外の存在であると本能的に理解した。
単に魅力があるだけならばまだいい。しかしDIOのそれは、さながら迷える者の前に現れる悪魔のような――。
「いいか、よく聞け。俺は仕事柄、性根の腐ったやつなんざ腐るほど見てきたのさ。
――テメーからはその中でも、最悪ってくらいくっせえ臭いを感じるんだよ。
酔っ払ったオヤジが吐いたゲロよりも何倍もひでえ、くっせえくっせえ臭いがプンプン香ってきやがる」
「ほう。このわたしをそう称したのは、君で二人目だよ。侍」
ゴゴゴゴゴ……と。
重々しい擬音が響いてきそうな緊張感の中で、DIOと銀時の視線が交錯する。
「もう名前も覚えていないような、実に下らんゴロツキだったがね。
奴は確か、このDIOには何も出来ず横で見ていただけだったと記憶しているが――さて、君はどうかな」
「……男の癖に能書きの長えことで。器が知れるぜ、ナルシスト君」
-
一瞬の静寂の後――銀時がDIOへと肉薄した。
吸血鬼となり人間を逸脱した身体能力を手に入れた彼をして、目を見張るほどの速さ。
風聞で耳にしたことしかなかった『侍』という存在だが、成る程これは侮れないと、DIOは思う。
だが、それでも勝てない相手では断じてない。
DIOの傍らに立つ金色の大男……彼の『スタンド能力』が、銀時の剣に合わせて拳を放つ。
如何にスタンドの鉄拳とはいえ、銀時が振るう剣は聖剣だ。
本人はその価値など露も知らずに振るっているが、同ランクの聖剣でもぶつけない限り、その刀身は砕けまい。
DIOの手首が裂ける。それに少し驚いた様子を見せ――DIOが小さく何か呟いたのを、銀時は見た。
次の瞬間――再び、坂田銀時は地を転がっていた。
「が……っ」
「どうした、威勢の割にはその程度か」
まただ。
また、何も分からない内に衝撃だけを受けていた。
痛みの感じからして、恐らく打撃のダメージ――あの大男に何かされたのだろうということは分かる。
が、逆に言えばそれだけ。
それ以外に分かることは何一つない。
正体不明の『何か』で侍を打ちのめした邪悪の化身は口元を弧に歪め、ゆっくりと近付いてくる。
膝を突き立ち上がろうとして――
「無駄、無駄、無駄、無駄……おまえはもう、このDIOの前に立つことすら出来ない」
今度は真上から、叩き伏せられていた。
がはっと吐血し、目だけで果敢に吸血鬼を見上げる。
圧倒的な暴力に曝されながら、なおも闘志を失わないのは流石に侍の魂か。
在り方こそ違えど、その姿は過去の宿敵をどこか彷彿とさせる。
確かにこの男は強いのだろう。自分ほどではないにしろ、スタンドを持たない人間としては破格なほどに。
だから――DIOは、手始めに彼を『手駒』とすることに決めた。
それは『肉の芽』。
埋め込まれたあらゆる存在にカリスマを刷り込み、平伏させる洗脳装置。
DIOの髪の毛が奇妙な形状に変形し、彼のスタンドに頭を押さえつけられ動けない銀時へと迫っていく。
肉の芽は精神力でどうこう出来るものではない。
彼がどんなに高潔な魂を持っていようが、それも含めてDIOへの忠誠へと変えてしまう。
「怖がることはない。おまえはこれから、このDIOの部下として幸福に――」
その時、DIOは己の背後から迫る『もう一人』に気が付いた。
そして、三度目の不可思議が発生する。
DIOを残したすべての存在が、まるで凍り付いてでもしまったかのように動きを止めた。
風の流れも、何もかもが停止している。銀時達のみに限らず、離れた場所で交戦している流子達も、すべてだ。
この世界を――『時の止まった世界』を認識できるのは、他ならぬDIOのみ。
動くことが出来るのもまた、彼以外には誰も居ない。
最初に神威と銀時を吹き飛ばしたのも、種を明かせば単純なことだ。
DIOは校庭での争いを認知するなり自らのスタンド能力――『世界(ザ・ワールド)』を用い、時を止めた。
時間を増す毎に過激化していく乱戦模様は、しかし超越者であるDIOにとっては恐るるに足らない児戯だ。
――これだけ参加者が集まっているならば手間が省ける。
無敵のスタンド能力『世界』で君臨し、叩き伏せ、殺すなり手駒を増やすなりすればいい。
それに、『世界』の不具合についても今一度確認し、明らかとしておきたかった。
その試金石にこの激戦をチョイスする辺りにも、彼の絶対の自信が見え隠れしている。
-
「愚かなことだ。自ら死期を早めようとするとはな……
――――無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァ!!」
振り返り、背後で刀を今にも突き出さんとしている長髪の侍へ『世界』のラッシュを叩き込む。
最後の一秒で片足を彼の腹に添え、ほんの軽い力で押した。
それから再び元の方角へと向き直り、――そして時は動き出す。
「――ぐ、あああああああっ……!!」
体へ幾度もの打撃を受け、桂小太郎が吹き飛ぶ。
彼は地面へ何度かもんどり打ってバウンドし、やがてそれが収まると――がくりと脱力し、動かなくなった。
「か――桂さんっ!!」
少女の叫ぶ声が聴こえる。
ちらりと視線をやれば、力なき者達であろうか。
この戦いを見ていることしか出来ない、三人の女子供の姿が目に入った。
一人が一際小さな童女を抱くようにして震えており、もう一人はDIOを強く睨み付けている。
ふむ。
ひとつ呟いて、DIOはまた時間を止めた。
「成る程、これくらいの間を空ければ再度時を止められるか」
止まった時間の中で、彼は確かな疲労感を覚えてもいた。
銀時の剣で受けた手の傷も既に再生が終わり、どこにも疲労の余地はないにも関わらずだ。
やはり、これが『世界』の行使による疲労なのであろうと再確認するDIO。
面倒な真似をしてくれたものだが、しかしこの程度ならば何ら問題はない。
帝王として君臨する彼と他者の力の差は、これしきのことで埋まるほど大きなものではないのだ。
「いい目だ。このDIOに臆さぬとは、面白い娘よ……
だからこそ、おまえは自分が何も出来ない無力を噛み締めながら……同じ場所へ逝くがいい」
もし長髪の方がまだ生きていれば、一足先になるかもしれないが。
しかしどちらにせよ、あの手傷では再度戦えはすまい。
遅かれ早かれ、おまえの大切な仲間とおまえは同じ場所へ逝くことになる。
DIOは黒カードの支給品であったサバイバルナイフを懐から取り出すと、少女の胸元目掛け投げつけた。
「時は動き出す」
「――――ぁ」
「こ、コロナちゃん!? ちょっと、しっかりしなさいよっ、コロナちゃん!!」
時間の再動。
それと同時に、コロナ・ティミルの胸へ、一本の刃が生えていた。
小さな体ががくりと崩折れる。まだ息はあるようだが、どうせ此方も永くは保たない筈だ。
命の灯火が尽きるまでの間、精々恐怖と絶望を味わうがいい。
「テメェ……」
ぐぐ、と――銀時の頭を押さえつけた腕が、下からの力で少しずつ持ち上げられる。
見れば、その眼に灯る光は先程までのものよりも遥かに強く、鋭いものへと変じている。
だが悲しきかな、如何に彼が激昂しようとも、結果は見え透いている。
DIOが少し手に力を加えるだけで、たかが一人間でしかない銀時の頭は木っ端微塵になるだろう。
故にこの時、白夜叉は完全に詰んでいた。
狂乱の貴公子は沈み。
罪歌の少女は高まる『声』を抑えるだけで手一杯。
彼を救える味方など、もう誰もいない。
-
「よし、そろそろ混ぜてよ」
――そう、『味方』は。
「ぬッ――」
時止めのインターバルが終わるほんのコンマ数秒前。
最初の一撃をDIOが打ち込んで以降、ずっと静観に徹していた三つ編みの男――
神威が、日傘を構えて猛獣さながらの勢いでDIOへ急襲を仕掛けたのだ。
咄嗟にスタンドでガードするが、それでも腕がぐしゃりと嫌な音を奏でてひしゃげる。
「貴様……」
「そこのお侍さんは俺の獲物でもあるんだ。
横取りするなとかは言わないけど、どうせなら皆で楽しんだ方がいいでしょ?」
初めて顔へ怒気を浮かべたDIOに、変わらない笑顔で微笑みかける神威。
その隙に銀時も立ち上がり、再び聖剣を構え、ギロリと鋭く吸血鬼を睨み付ける。
彼らだけではない。妖刀を担う眼鏡の少女、杏里も再び戦場へと参入する。
ますます混迷を極める戦場で確かなことがある。
それは、此処で誰か一人のみを不倶戴天と定めるのは自殺行為だということ。
現に神威などがいい例だ。彼は先程銀時を助ける形になったが、彼が銀時の味方かと言えば断じて否。
彼は遊撃手である。その場に応じ、攻撃したい相手を適宜に攻撃する。
そこを見誤れば、途端に夜兎や吸血鬼の凶腕を前に倒れることとなるだろう。
――激化する戦場の片隅で、小さな強さが芽吹こうとしていることなど……彼らはまだ知る由もない。
●
「雁夜さん!」
『な――流子、おまえッ……!』
皐月と鮮血の声を遠くに聞きながら、間桐雁夜は崩れ落ち、虚ろに歪む意識の中で何が起きたのかを理解する。
「(…………腹を、やられたのか……俺……)」
胴体から、ごぽごぽと気味の悪い水音がする。
その音が一度鳴る度に体が冷えていくのを感じ、また視界も霞んでいく感覚を覚えた。
のたうち回りたくなるような激痛を感じているのに、不思議と心は静かだ。
ただ――二度目の人生を得ても、結局何かを成すことは出来ず仕舞いなこと。それだけが心残りだった。
-
「ハハハ……ご立腹かよ、鬼龍院皐月。
天下の皐月様がなんだってあんな虫ケラみてぇなヤツ連れてんのか不思議だったが、ひょっとして盾目的だったりしたのか、ええ? だったら残念だったなあ。今度はいつもみてえに蟇郡でも連れてくるこった!」
「ッ、黙れ!」
皐月が激昂している。
最早視界も覚束ない有り様でありながら、生きている聴覚で雁夜にはそれが分かった。
俺なんかの為に怒ってくれることへの喜びよりも、やはり申し訳無さの方が勝る。
力になるなどと言っておきながらこの体たらくだ。
謝ろうにも、か細く今にも途切れそうな息遣いが精一杯。
「……行くぞ鮮け――がッ!?」
「遅ッせぇ!」
皐月の腹へ、流子の膝が叩き込まれる。
最初こそ皐月の予想外の強さに面食らっていた流子だったが、これだけ戦いが長引けば否応なしに適応もしよう。
これはその結果でもあった。
皐月の動きが鈍っている訳ではない――むしろ力強さのみで言うなら上がっていると言ってもよかった。
雁夜の腹を流子が打ち抜く瞬間は、皐月も見ていた。
だからこそ分かる。希望的観測のしようなど全くなく、あれは致命傷だ。
仮に万全の医療設備が整っていたとしても、あの傷ではまず助からないだろう。
同行していた時間が短いとはいえ、雁夜は皐月と志を同じくした仲間だ。
それを目の前で手にかけられ、何も思わないほど鬼龍院皐月は冷酷な人間ではない。少なくとも、今の彼女は。
その怒りがありありと滲み出た一撃は――力は確かに籠もっているが、それ以外は疎かになっている。
そこを見逃すほど、流子は甘くない。
叩き込んだ渾身の一発に皐月が苦悶の呻きを漏らすや否や、にぃと微笑み追撃。
皐月の顔面へ、横殴りの強烈な打撃を見舞う。
「ぐッ――」
『皐月! まずいぞ、このままでは!』
「ああ、分かっている!」
三発目は正面からの一発だ。
体ごと右に逸らすことで回避し、流子の体を蹴ることで後方へ飛び退こうとする皐月だったが。
そう簡単には逃がさんと、流子が伸ばした右足を思い切り掴み取った。
それから足ごと彼女の体を持ち上げ――振り回し、たっぷりと勢いをつけて地面へ叩き付ける。
「があッ……――ッ、鮮血、閃刃!」
常人なら気絶は必至の大ダメージを受けながらも、そこは鬼龍院皐月。
鮮血を着こなしていない彼女ならば、此処で流子の手元から抜け出すことは出来なかったかもしれない。
しかし。離脱に成功したのはいいが、負ったダメージが大きなことには変わりはなかった。
こめかみから血を流しながら、それでも流子を見据える皐月。
獰猛な笑顔を浮かべ、純潔を纏った破壊者がにじり寄ってくる。
流れてくる血を拭いつつ、それに抗するべく皐月もまた一歩を踏み出す。
そして。同じ頃、間桐雁夜は瀬戸際へと立たされていた。
出血量はとうに致死量を超え、今やいつ命の灯火が消えてもおかしくない状態。
走馬灯を見ることはついぞなかった。
汚れきったこの体には、もう夢を見ることさえ許されないのだろう――そんな気がしていた。
無理もない。あの子達のことを想うには、俺は間違いすぎた。
「ぁ……――――ッ」
けれど――けれど、それでも。
最後の最後に、何か俺にもやれることはないのか。
だってこれで終わりでは、あまりにあまりだろう。
全身を苛む刻印虫の激痛に比べれば、この程度の痛痒は屁でもない。
体感温度は極寒のそれに匹敵し、手が小刻みに痙攣するせいで伸ばした手がひどく不格好だ。
血反吐を撒き散らして悶絶する雁夜の姿たるや、流子が言った通り、死にゆく虫螻とすら大差なかった。
そこに違うところがあるとすれば……それは――。
-
「さ――つ…………き、――――」
血塗れの左手を伸ばす。
そして、最後の魔力を用い、回路を流動させた。
雁夜はそれきり、ぴくりとも動かなかった。
その伸ばした左手は何かを掴むこともなく、べちゃりと地へ投げ出されて。
それでもその口元にだけは、何かを確信した微笑を浮かべて――哀れなる落伍者は、今度こそその生涯を終えた。
【間桐雁夜@Fate/Zero 死亡】
【残り59人】
皐月と流子。
二人の神衣装着者が衝突する、まさにその瞬間だった。
流子の視界へ、これまで数十と潰してきた蟲の一匹が飛び込んできたのだ。
蟲は流子の眼球を目掛けて羽音を鳴らし、一直線へ飛んでくる。
剥き出しの眼球を噛まれてはさしもの流子もひとたまりもないが――しかしこれしき、片手の一動で叩き潰せる。
ましてや群れすら成さないただの一匹。神衣純潔で強化された流子がそれを恐れる道理は真実皆無だ。
「な」
だが――二つの要素が重なり合って、魔術師の悪足掻きは思わぬ成果を挙げることとなる。
一つは、纏流子が完全に油断しきっていたこと。
腹を文字通りぶち抜いたことで、間桐雁夜は既に死んだものとばかり思っていた。
注視すれば彼が生きていることなど容易く分かったかもしれないが、相手は鬼龍院皐月だ。それも、流子の想定を超えた領域で鮮血を着こなしている――通じ合っている鬼龍院皐月だ。
どれだけ戦況が優勢でも、決して余所見をしながら戦える相手ではなかった。纏流子をしても、である。
もう一つは、蟲が流子の目前まで辿り着いたのが、流子と皐月、二つの攻撃が接触し合う寸前だったことだ。
如何に流子が超人的な力を持っていようとも、既に攻撃を振りかぶり、放ち始めている以上、迎撃は間に合わない。
しかし迫ってくる蟲を指を咥えたまま見過ごしていれば、確実にこれは彼女の目を潰すだろう。
痛手としては大きすぎる。流子は已むなく出来る限りの最大限で首から上を逸らし、どうにか掠る程度に留めた。
どうにか難を逃れた。
彼女がそう思った瞬間、顔面へ鈍く重い衝撃が走って、流子は吹き飛ばされていた。
「がッ……て、めえ……!」
「――鮮血」
『……ああ。雁夜の奴め、無茶をする……』
回避のために頭部を逸らしたことで、流子の拳が釣られて僅かに角度を逸らした。
その一瞬を、皐月は見逃さなかった。鮮血も同じだ。
彼女達は力づくで僅かな角度のブレを抉じ開け、無防備な流子の顔面を空いていた左手でもって、全力で殴り付けた。
防御手段のない流子はそれを直撃するしかなく――このような結果になったというわけだ。
『言っておくが、流子。今の一発は、我々だけのものではないぞ』
「然り。間桐雁夜――お前が取るに足らない虫螻と軽んじた男の、最後の『意地』だ」
「ッ……意地、だと……!」
「そうだ、意地だ。そしてお前はそれに敗北した。間桐雁夜は、最後にお前へ勝利したのだ!」
-
後光が射す錯覚すら覚えるような、相変わらずの気迫を放って皐月は喝破する。
雁夜の方は振り向かない。
彼もきっとそれを望んでいるだろうと、皐月は思っていた。
彼女は彼の生き様へ敬意を抱く。仮にどれだけの罪に汚れていようと、その手は最後に勝利をもぎ取った。
他の誰が彼を悪徳と侮蔑しようとも、鬼龍院皐月のみは、間桐雁夜を決して侮辱しない。
「下らねえ……私があんな雑魚に負けただと? 寝言は寝てから言いやがれ……」
鼻血を拭い、立ち上がる流子。
その眼から未だ闘志は消えておらず、だからこの戦いが此処で幕引きとなることはありえない。
それでも。
間桐雁夜の最後の意地が、この姉妹喧嘩へある種の節目を与えたのは確かなことだった。
●
剣と傘とが衝突する。
杏里は手にビリビリと流れてくる痺れに、敵の力の程を改めて実感させられていた。
空中へ居座ったまま繰り出される連打を――止める、止める、止める、弾く、突く。
しかし神威はするりと逃れ、横殴りの一打で杏里を牽制。
決着に導くため、一際深く傘を引いたかと思えば……
「おっと……」
背後から迫っていた、『世界』の拳を察知してそちらの回避へと移行。
その隙を逃さず轟いた剣閃を抜かりなく止め、空いた片腕で握り拳を作り、吸血鬼へ打ち込む。
手応えはあるが、有効打と呼ぶには程遠い。生半可なダメージならば、吸血鬼はすぐに癒してしまうからだ。
「フン――無駄無駄無駄ァ! 貴様の力など、このDIOには遠く及ばんわッ。
踊るしか能のない滑稽な山猿の分際で帝王にゲスな喧嘩を売った罪……軽くは済まんぞ」
「山猿はテメーも同じだと思うがね、俺ァよ」
剣士は杏里のみではない。
疾走しながら現れた銀髪の侍が、通り過ぎざまに神威とDIOへ神速の一太刀を見舞った。
杏里の罪歌のような、反則的なまでの反応速度こそないが、剣の腕ならば銀時は決して劣っていない。
『白夜叉』の名は伊達ではなく、現に今の奇襲は二人の悪鬼へ相応の痛手を与えていた。
神威の右腕からは血が滴り、DIOの脇腹からもじわりと穢れた血液が滲み出してくる。
「いいじゃないか、面白くなってきた」
神威が浮かべる笑顔が、より好戦的なものへと変化した。
次の瞬間には、銀時の懐まで踏み入った彼の鉄拳が、その腹腔を勢いよく打撃する。
何度目かの吐血。意識が持って行かれそうになるのをすんでで堪えながら、彼は更に歯を食い縛った。
「(そろそろ来る頃だろうな……あの野郎の『インチキ』が)」
銀時の危惧した通りに、そこで時が停止する。
誰にも認識できず、介入できないDIOだけの『世界』。
しかし銀時の警戒とは裏腹に、彼が狙いを定めたのは彼ではなかった。
その矛先は神威へと向けられている。
先の意趣返しというのも確かにあるが、この場で最も厄介なのは間違いなく彼であったからだ。
銀時や杏里が優れた使い手なことは確かに間違いない。
それでも彼らはあくまで『人間』だ。DIOにとって人間とは即ち下等な生物であり、恐れる対象ではない。
その点神威はどうだ。
あの動き、反射神経、力――どれを取っても、明らかに人間をやめてしまっている。
「だが、そんな貴様でもこのDIOの『世界』へ踏み入ることは出来ない……」
笑みと共に『世界』の拳を見舞い、時が動き出すと共に神威の体が吹き飛んだ。
-
決して生温い攻撃ではなかった筈だが、彼はそれでも表情を崩すことなく事も無げに立ち上がる。
されど、いくらタフネスがあるとはいえ再生手段を持たない彼ではDIOの優位には立てない。
DIOが負ってきた傷は常に再生を続けている。
これぞ、彼がかつて至高のものと信じた体の最大の強みであった。
満悦の笑みを浮かべながら、DIOは次に銀時へと視線をやる。
それに気付いた彼は、渾名の通り夜叉のように鋭い眼光でDIOを睥睨した。
そして――白夜叉が再び風の如く疾走し、吸血鬼の首を切り落とさんと刃を振るう。
だが同じ手をそう何度も食うDIOではない。
人外の跳躍力を駆使して飛び上がることで攻撃を回避し、『世界』の手刀を銀時の首目掛けて振り落とす。
「チィィッ」
咄嗟に剣を横に構えることで防御し、首と胴体が泣き別れになることだけはどうにか回避した銀時。
後方へ飛び退き仕切り直しを図る銀時だったが、DIOは再度相手に攻撃の機は与えまいと追撃を放つ。
「無駄無駄無駄無駄ッ!
貴様の薄っぺらな考えなど、このDIOには手に取るように分かるッ! WRYYYYY――ッ!!」
繰り出されるのは『世界』のラッシュ。
時間停止が発動していないのがせめてもの救いだったが、脅威なことには変わりない。
徒手空拳の使い手ではない銀時ではいくら足掻いても、これと真っ向から張り合うのは不可能だろう。
だから此処は耐えるしかない。再度剣を横構えで盾とするが――
「ぐ、――ァァァァァッ!!」
「ハハハハハハ! 脆い、脆いぞサムライ!
まるで紙か何かを殴っているようだ……やはり貴様は所詮ただの人間よ。それ以上でも以下でもない。
そして人である以上、お前の末路も既に決まっている……血の一滴まで残さず、このDIOへ利用されて野垂れ死ぬ。それが貴様に待ち受ける未来だッ!!」
「ハァ、ハァ…………、うるっ、せえ。相変わらず能書きの多いヤローだな、テメーは……」
拳の直撃こそ避けたが、刀身越しにかかる衝撃に耐え切れず吹き飛び、それでも尚悪態をつく。
確かに、坂田銀時という侍がDIOと真っ向勝負で勝てる可能性は限りなくゼロに近い。
しかしながら、その程度のことで諦める潔さを彼が持っていたなら、その人生はもっと平穏だった筈だ。
銀時は屈しない。諦めない。何度地を転がろうとも、命が尽き果てるまでは絶対に。
「よく吼える犬だ。さて――そろそろ『首輪』を付けさせてもらおうか」
――来る!
何がなど、改めて語るまでもない。
正体不明の攻撃。DIOが持つ、見ることさえ出来ない打撃。
銀時や神威達に対して彼が優位に立ち続けられる最大の理由こそが、その力――『世界』の能力だった。
そして銀時の予想通り、DIOは時を止めようとしていた。
「――、」
その時、彼は見た。
視界の端。
これまでずっと神威と戦っていた筈の少女が、こちらへと踏み込んでいる。
DIOも、神威が彼女の持つ刃と接触することを過剰なまでに避けているのには気が付いていた。
毒でも塗ってあるのか、はたまたあの娘もスタンド能力の使い手なのか。
それは実際に目の前で誰かが斬られてみないことには確かめようもなかったが、もう一つ厄介なことがある。
彼女の剣の反応速度だ。
特に相手からの攻撃に対しては、銀髪の侍をも凌駕する速度で対応している。
DIOは、『アヌビス神』というスタンド能力を知っている。
その知識と重ね合わせて考えて、どうやら彼女の剣もアレに近いものなのだろうと判断した。
「ふむ」
――先に、排除しておくか。
-
――――時が止まる。
疲労は大分目立ってきたが、それでもまだ余裕はある。
制限された状況下での使い方にも、この戦闘を通し大分慣れてきた。
一飛びでいざこちらへ迫り、己を切り伏せんとしていた少女の前まで辿り着く。
「自動防御(オートガード)のような能力があるようだが……」
そして、その頭部を『世界』の怒涛の拳打が打ち据える。
確実に殺すためのラッシュが少女の急所を一発余さず捉え、誰も感知できない時間の中で致命打を与えていく。
妖刀・罪歌は園原杏里に戦闘能力を与える。
オートガードの領域にすら届く超反応も、DIOの考え通り刀が齎しているものだ。
「止まっている時間の中では――何の意味もない」
時間停止の中では、さしもの罪歌も型なしだ。
触れないようにだけ気を配れば、DIOにとっては脅威とすらなり得ない。
最後の止めに、一際痛烈な拳を彼女の喉笛へと打ち込み、残虐な笑みと共に宣言する。
少女の終焉を。『人間』では決して倒せない、邪悪の化身としての力を存分に鼓舞しながら。
「時は動き出す」
杏里の頭が血を噴いた。
喉がいびつな音を立てて潰れ、口から血が吐き出される。
何が起こったのかを認識する間もなく、彼女は宙を舞った。
眼鏡が砕け、それでも刀を握り締めたまま、受け身も取れずに吹き飛ばされて。
「(あ……れ――わた、し…………)」
薄れる意識の中で、茫然と自分の身に起きたことを思う杏里。
視界がスローモーションになるのを感じて、他人事のように、どうやらこれが今際というものらしいと認識する。
何がどうなってこうなったのかは、何となく分かる。
恐らく、あのDIOという男だ。
彼の持つ、『認識されない攻撃』をモロに受けてしまった……か。
こうして死の淵へ立たされてみると、やはり死にたくないと感じる。
池袋で出会った、たくさんの人。
池袋で経験した、たくさんのこと。
色々なものを思い出す走馬灯の中でも、罪歌の愛の声は未だ煩わしく響いていて、こればかりは最後まで変わらないのだなと少し自嘲したくなった。
最後の一瞬。
地面へ墜落する直前。
視界の端に、自分が『寄生』すると決めた少女が叫んでいる姿が見えて。
「(……れんげちゃん)」
ごめんね、と言いたかった。
けれど、現実とはままならないもので。
結局、言えなかった。
【園原杏里@デュラララ!! 死亡】
【残り58人】
-
●
「――れんげちゃん、見ちゃダメッ!」
繰り広げられる超人たちの戦いに茫然自失となっていた絵里。
しかし、今吹き飛んできたものをれんげには見せてはならないとその体は半ば反射的に動いていた。
ぐしゃりという鈍い音を立てて地面へ落ちた『それ』は、とにかく頭部が惨たらしく潰されている。
首から上のみを見れば、誰だか分からないほど。
――それだけに、首から下が見覚えのある制服を着ていると気付いた時のショックはあまりにも大きかった。
吐きそうになる。さっきまで一緒に話していた少女が、あんな……。
「えりりん、なんで押さえるのん! だって今、あんりんが……!」
「ダメ……見ちゃダメ……!」
その衝動を辛うじて堪えられているのは、やはりれんげの存在が大きかった。
恐怖のどん底にあっても、自分より小さな女の子が近くに居るという事実が、絵里の心を壊れずに留めてくれる。
自分が取り乱していては、れんげが心に傷を負ってしまう。
それどころか、どこか怖いもの知らずな彼女のことだ。
あの戦いの中に突っ込んでいったっておかしくはないと、絵里は感じていた。
しばらく藻掻いていたれんげだが、急に彼女は静かになる。
それから、彼女は絵里に問いかけた。
いつも通りの独特な声色とトーンで、しかし僅かに声を震わせながら。
「えりりん……あんりん、死んじゃったん?」
「…………、」
絵里は答えない。
――答え、られない。
「なんでなん」
「…………」
「なんで、あんりんが死んじゃうん」
「…………」
「約束したのん! あんりんと学校行くって約束したのん!!」
それなのに、なんでコロちゃんみたいに――
そこで、れんげの声は途切れてしまった。
『コロちゃん』。
それは、杏里が殺されるまでの間、必死に手当てしていた少女……コロナ・ティミルのことだ。
彼女は今、絵里達の傍らの地面で荒い喘鳴を漏らしている。
胸に刺さったナイフは彼女を即死こそさせなかったが、確実な重傷を与えていた。
幸いなのは出血量が爆発的なものでないことか――それでも、このまま捨て置けば遠からぬ内に彼女も杏里の後を追うことになるだろう。そして絵里は、そんな大傷の処置の仕方に心得はない。
四苦八苦しても一向に事態は好転せず、それが尚更彼女の心を摩耗させる。
「銀さんも、死んじゃうのん?」
「……大丈夫。大丈夫よ、きっと……銀さんなら……」
「…………」
十秒ほどだったろうか。
れんげは暫く黙った後、急に目を覆う絵里の手を振りほどいた。
不意を突かれたこともあって慌てる絵里だったが、れんげは彼女の危惧した行動に出はしなかった。
「あんりん、教えてくれたん。
この黒いカードには、便利な道具がいろいろ入ってるって」
地べたに座り込んで、三枚の黒カードを広げるれんげ。
目元には涙を浮かべて、それでも健気にカードの中身を改めていく姿はどうしようもなくいじらしい。
しかし、れんげの期待はあっけなく裏切られた。
一枚目は折りたたみ式のナイフ。
二枚目に至っては、タッパーに入ったコロッケだ。
――頼みの綱。祈りながら三枚目のカードから取り出したのも、不思議なデザインのただの手袋だった。
-
「れんげちゃん……」
「……なんでなん」
れんげの目から、ついに堪え切れなくなったのか透明な液体が流れ落ちる。
「あんりんはウチに優しくしてくれたのん。
コロちゃんも、大丈夫だよってウチを励ましてくれたのん」
なのに。
「なのに、なんでウチは何もできないのん? ウチだって、コロちゃんやみんなを助けたいのん」
――杏里は、もう無理だ。しかし、コロナはまだ生きている。
朦朧としていて、話したりは出来ないようだが意識もある。
今ならまだ助けられるかもしれない。絵里もそう思う。けれど、助ける手立てがないのだ。
「ほたるんやこまちゃんだって、泣いてるかもしれないのん。
こまちゃんは怖がりだし、ほたるんは体はおっきいけど結構子供なところもあるし。
だから……ウチが助けてあげなきゃいけないのん!」
れんげは、タッパーからコロッケを一個取り出して泣きながら頬張る。
――何も変わらない。
ナイフを開こうと四苦八苦して、指先を少し切った。
――何も変わらない。
「れんげちゃん……」
「えりりんも、なのん」
「……え」
「えりりん、ずっと怖がっててかわいそうなのん。
ウチ、えりりんにも笑っててほしいのん……だから」
最後。
変わったデザインの手袋に、れんげはぽろぽろ涙を流しながら手を入れる。
この世界は嘘のような現実であって、だからこそ都合のいいご都合主義はれんげ達を助けてくれない。
繰り返そう、この世界は現実だ。
現実にないものは、この世界にはない。
「――ウチ、強くなりたいのん!」
だが、現実にあるものなら、この世界にだってある。
手袋を填めたれんげの手からは、淡い紫色の光が漂っていた。
絵里とれんげが、顔を見合わせる。
れんげの足元に、小さな紙切れが落ちているのを見つけたのは絵里だ。
そこにはこう書かれている。『ブーストデバイス・アスクレピオス』――と。
説明を読み進めていく度に、彼女の表情は怪訝なものになっていった。
これがもしも本当なら、これ以上はないくらいの幸運だが……
-
「魔法の……デバイス…………?」
――信じられない。
こんなものが、現実にあるなんて。
しかし、これに書かれていることがもしも本当ならば。
「……れんげちゃん、よく聞いて。これを使えば、……コロナちゃんを助けられるかもしれないわ」
「!? ……それ、ほんとなのん!?」
「ええ。その手袋の名前は『アスクレピオス』っていうらしいわ。
正直信じられないって気持ちの方が強いけど――魔法の『デバイス』なんだって。
えぇと……魔導師じゃない人が装備しても、威力は多少低いけど魔力を使って攻撃したり……」
ごくりと生唾を飲み込んで、絵里は肝心な所を口にした。
「――回復の魔法も、使えるって」
「回復……それって、コロちゃんやあんりんを治せるってことなのん!?」
「ううん……多分、園原さんはダメだと思う。けど……コロナちゃんなら、まだ間に合うかもしれない」
それに少し落ち込んだ様子を見せるれんげだったが、その時間すら今は惜しい。
暫くあれこれとデバイスを操るのに苦難するも、コツを掴むまでは非常に早かった。
元々、宮内れんげという少女は時に天才肌だ。
非魔導師にも使えるようになっていたとはいえ、これほど早く慣れてみせる参加者はそうは居ないだろう。
「えりりん、回復って……こうでいいのん!?」
「ちょ、ちょっと待って! ……――――、すごい……れんげちゃん、これ、本物みたいよ!」
アスクレピオスが作り出した魔方陣は、横たわるコロナを囲うように輝いている。
絵里が陣の中へ入ると、じんわりとだが力が湧いてくるような気がした。
それからコロナの傷口を見てみると、どうだ。
見る見るうちに、というほどでこそないが、少しずつ、しかし確実に傷が癒えているのが分かる。
その証拠に、コロナの荒い息も少しずつ平静に戻っていき――
「れんげ、ちゃん……?」
「! コロちゃん、大丈夫なのん。ウチが必ず、コロちゃんを助けてあげるのん!」
コロナはきょとんとした表情を見せたが、れんげの手に見覚えのあるデバイスを発見し、静かに頬を綻ばせた。
アスクレピオスは、元々彼女の友人が使っていたものだ。
それがこんなところで自分を助けてくれた。その事実は、なんだか心を暖かくしてくれた。
必死に回復を施すれんげ。説明書と睨めっこしながら、それを見守っている絵里。
「(助けるつもりだったのに、まさかわたしが助けられるなんて)」
気恥ずかしいような、嬉しいような。
そんな複雑な感情で治療に甘んじるコロナだったが――その目が、突然大きく見開かれる。
「れ、れんげちゃん! 逃げてッ!」
宮内れんげ。彼女の後方から、歩を進めてくる者があった。
橙がかった髪を三つ編みに結い、笑顔を顔に貼り付けた青年。
体には所々ダメージを受けた痕が見られたが、それを苦にしている様子は何処にもない。
振り返ったれんげと絵里の表情が固まる。
彼――神威は、れんげのみを見ていた。どこか嬉しそうに微笑んで、静かに死神が歩いてくる。
「やっぱり、俺の予想通りだったみたいだ」
初めて神威とれんげが会った時、彼はれんげを殺さなかった。
子供を攻撃するのに抵抗があったというのもある。
だが、自分を睨み付けた彼女の『目』に惹かれるものを感じ、殺さずに捨て置いたのだ。
再会がここまで早くなるというのは予想外だったが、どうやら見立てに狂いはなかったらしい。
魔法の力を身につけて仲間を癒す彼女の目は、どこまでも澄んだ強さに溢れているように見えた。
-
「……来ないで、なのん。今は、うちゅうじんの相手をしてる暇はないのん!!」
「ありゃ、これはつれないね。折角こうして会いに来てあげたっていうのにさ」
コロナの言葉を無視し、れんげは逃げない。
体は震えていたが、それでも毅然と神威を睨み付けている。
とてもではないが、小学一年生の度胸とは思えない。
現に絵里は神威を前にして、まったく動くことが出来なくなっていた。
これが普通なのだ。先程の彼の戦いぶりを見ていれば尚更である。
「心配しなくても、君を殺すつもりはないよ。
そこの女の子も同じさ。刀の子は面白そうだから少し遊んだけどね」
それに。
言って神威は、れんげ達の更に後方へ目をやった。
「俺が仮にそうするつもりでも、あの二人が許してくれなそうだ」
神威が言い終えた直後だった。
れんげ達の上を飛び越えるようにして吶喊した一人の少女が、神威へと鋭い拳を放つ。
神威はそれを真っ向受け止める。地面にズリズリと音を立てて靴裏のラインが刻まれた。
そこで漸く止まる。――渾身の一撃だったのか、神威の手にはビリビリとした痺れが残っている。
れんげも絵里も、その二人の姿を見た。
神威を急襲した、桃色の髪の少女。
そして彼女に続くようにして現れた、金髪の凛々しい女性。
「友奈。君はその男を頼む。私はあちらの少女を援護する」
「分かりました! ジャンヌさんも、気をつけて……!」
神威の右方を通り過ぎ、遠方の『姉妹喧嘩』へ介入すべく走っていく、ジャンヌと呼ばれた女。
彼の気性上、それを妨げてもおかしくはなかったが、彼はこの時それをしなかった。
夜兎の目は、真っ直ぐ桃の勇者へと向けられている。
……いい目だ。
それはれんげのものとよく似た、眩しいほどに透き通った強さを灯した眼。
顔には笑顔を浮かべたまま、神威は静かに拳を構える。
応じるように、勇者もまた拳を構えてみせた。
「貴女――」
「……おねーさん、誰なん?」
少女達に半身だけを向け、安心していいよ、とばかりの笑顔を見せる。
神威のものなんかとは全く違い、それは見る者を例外なく安心させる――勇気付ける、華のような微笑みだった。
大丈夫。私は二人の味方だよ。助けに来たの。
口にする言葉の一つ一つが、不思議なほど暖かく響く。
目の前の『悪』に向き直り、彼女は宣言した。
――これまでで最も力強く、自分とは何であるかを。
「私は、結城友奈――」
そう、彼女は――
「――『勇者』だよ。」
勇者である。
-
●
「 「 うおおぉぉおおおおおおお――――ッ!!!! 」 」
姉妹の怒声が共鳴し、真っ向からぶつかり合う。
雁夜の死と、彼が遺した最後の置き土産。
それが功を奏してから、皐月は流子へこれまで以上に力強く食らいついていた。
戦況は決して大きく動いてはいない。
皐月が流子を殴りつけたあの瞬間以降、皐月は有効打と呼べるものを一切与えられていなかった。
だがそれは、流子の方も同じだ。
攻めあぐねている訳ではない。持ち前の凶暴性を十二分に発揮し、皐月を常に押し切らんと追い立てている。
しかし攻め切れない。
流石に相手が相手だ、長々戦っている分、流子のパターンをある程度学習しているのだろう。
『皐月、上だ!』
「了解した!」
鮮血との連携もより密になっている。
以前の皐月ならば回避できなかったであろう攻撃も、鮮血の助言で次々躱される。
まさに千日手状態。
このままでは、どちらかがスタミナ切れで倒れるまで延々と続ける羽目になる。
それは流子だけでなく、皐月としても出来れば避けたい幕切れだった。
流子を取り戻すことのみが全てではない。
羅暁を倒すまでには幾らか猶予があるにしても、殺し合いの打破はごく早急に行う必要があるのだ。
当然、纏流子は後のことなどを考えながらで倒せる相手ではない。
――故に皐月は今、すべての打算を捨て去り、流子のことのみを考える!
再び突撃する皐月と、迎え撃つ流子。
もう何十度と繰り返したやり取りだが、常に攻め方、護り方を変えねば不覚を取る。
そう知っているからこそ、二人は極限の集中力を持って臨んでいた。
交差する二人。――跳ね飛ばされたのは皐月だった。
「そら、見たことかよ! ンな出来損ないで、私の純潔に敵うわけがねえんだ!」
「ぐ……、いや、敵うさ。私はそう信じている」
『皐月……』
しかし、流子の言うこともまた正しい。
鮮血と純潔の間には、確かな力の差が存在している。
おまけに、鮮血はそれに加えて繭からの細工を施され、更に弱体化を受けているのだ。
それで長期戦となれば、次第に不利になってゆくのがどちらかは明白であろう。
「そうかよ。だったら証明してみるんだな、鬼龍院皐月ィ!」
叫び、流子が奔る。
皐月は考える。
鮮血が純潔にも敵い得ると言ったのは真実だ。
-
真実、心の底から皐月はそう思っている。
ただ問題は、どのようにしてその瞬間を引き寄せるかだ。
皐月と鮮血は今や一人と一着で『一人』。人衣一体の境地で戦っている。
それでも尚、流子の方が上。であれば、やはり必要となるものは。
新たな戦力――そう皐月が呟くのと、流子の疾走軌道上へ金髪の女が割り入るのは同時だった。
「な――貴女は」
「私はジャンヌ。ジャンヌ・ダルク。
……戦いの鎮圧に来たのだが、どうやら暴れているのはあの娘のようだな」
「……ああ。その認識で合っている」
「ならば、私にも力添えさせてくれ。どうやら君は、私と志を同じくする者のようだからな」
ジャンヌ・ダルク。
世界史を習ったことのある人間ならば誰もが知っているだろう、オルレアン救国の聖処女と同じ名前。
それに皐月は一瞬だけ驚かされたが、しかし些末なことだと切り捨てた。
「私は鬼龍院皐月。あいつは纏流子……私の妹だ」
「……成る程。では、適度に意識を奪う程度に止めた方が良さそうだな」
「オイオイ、誰だよテメェは。いきなり割り込んできて、ワケの分からねえこと言ってんじゃねえぞ」
ムカついた、だから死ね。
とでも言わんばかりに、何の躊躇いもなくジャンヌへ攻撃を加える流子。
常人ならば、呆気なく吹き飛ばされて終わるのが関の山だが――ジャンヌ・ダルクは生憎と、常人のカテゴリに当て嵌めるには度が過ぎた力量の持ち主だ。
彼女は朱槍でもって、それを止める。
止められたことで生ずる一瞬の間隙に、皐月の痛烈な蹴撃がヒットした。
蹌踉めき、流子もこれには堪らず後退する。
どうやら、今のは結構なダメージとして彼女に通せたらしかった。
「うざってえ……」
だが、それは纏流子に限っては弱体化を意味しない。
苛立ちは強まり、その度に彼女の戦力は暴力的になっていく。
破壊衝動と帰還願望が苛立ちで煮詰められ、今や彼女の闘争心は最高潮にまで達しようとしている。
戦いが真に苛烈化するのは、恐らくこれから。
ジャンヌと皐月、二人の戦士は――
「そんなにお望みなら、お望み通りブチ撒けてやるよ――!!」
殺気の爆ぜる音を聞いた。
-
●
「フフフフ……どうした? 先程からこのDIOに、傷一つ与えられていないようだが……」
桂小太郎が倒された。
コロナ・ティミルが刺された。
そして、園原杏里が殺された。
神威は現れた助っ人の少女と戦っており、今銀時は事実上DIOと一対一で戦っていた。
その戦況はといえば、まさに今DIOが言った通りである。
「…………ッ、……ハア……!」
銀時の体に積み重なったダメージは相当なものだ。
如何に歴戦の侍といえども、そのような状況にあっては動きに支障が出るのは避けられない。
時を止めるまでもなく、彼の剣はDIOと『世界』を前に容易くいなされ続けていた。
当然、DIOには坂田銀時をいつでも殺したり、撃破することが出来る。
それをしないのは、ひとえに彼の余裕だった。
ただ殺すのみではあまりにつまらない。
それに、この侍は帝王である自分を散々侮辱し、コケにする発言を繰り返してくれたのだ。
DIOは銀時に肉の芽を植え付け、傀儡とする魂胆であったが、それまでにもう少し遊んでやる気でいた。
有効打にこそなりはしなかったものの、DIOは数度、彼の剣で傷を負わされている。
神威の件も手伝って募った苛立ちを、帝王は目の前の侍で発散せんとしていた。
「ハア、ハア……――――おおおォォォォォォッ!!」
「無駄無駄無駄無駄ァ! そのような猪口才な抵抗、このDIOに通じるとでも思ったか!!」
『世界』の拳が胴を突き上げ、銀時は宙へ打ち上げられて地に墜ちる。
両手の力で起き上がろうとする彼だったが、その頭をDIOが上から踏みつけた。
グリグリと嬲るように靴底を擦り付ける。
相手は、その気にさえなればこのまま銀時の頭を踏み潰せるだけの力を持った吸血鬼だ。
さしもの銀時も、這い蹲った状態からDIOへ力勝負で勝つのはあまりに困難であった。
「フフ……おまえはこのDIOへ背き、されど届かない愚かな人間であったが、そのしぶとさだけは評価に値する。
これからおまえはわたしの部下となり、馬車馬のように歩き回ってわたしの為に参加者を殺すのだ」
「………………ハ、馬鹿言ってんじゃねえよ、厨二病のDIOくん」
踏みつけられたまま、銀時は一切臆することなく悪罵を叩く。
DIOの顔から笑みが消えた。
銀時はそれとは対称的に口元へ笑みを湛え、徹底してこの『帝王』を否定する。
「テメーのやってることは単なるお山の大将だ。中学二年生拗らせたジャイアンみてえなもんだよ。
口開けばこのDIOがこのDIOがって、今時どんな一人称ですかこの野郎。
DIOくん、君アレだろ? 粋がって弱い者イジメしておいて、いざ逆襲されるとボコボコにされて泣かされてたクチだろ。居るんだよねぇ君みたいな奴――」
「随分とお喋りな負け犬だ」
実に淡白に言って、DIOは銀時の髪の毛を掴み上げた。
黄金の頭髪が変異する。
ウネウネと気色悪く蠢いて、坂田銀時の額へと伸びていく。
「偉そうにご高説を垂れているが、結果はどうだ?
おまえはこのDIOに歯牙にも掛けられず、終始徹底して甚振られただけではないか――フフ。
わたしからすれば、おまえの方がよほど頭の病気に思えるよ……
――いや、おまえだけではない。
わたしが最初に叩き潰してやった、あの長髪の侍もそう考えればずいぶんな間抜けだった……雑魚は雑魚らしく隅で丸まって震えていれば、あとほんのちょっぴりは長生き出来たろうになッ!」
-
「――――雑魚ではない。桂だ」
その時、DIOは慢心していた。
すべての敵を叩き潰し、神威はターゲットを変更したことで、敵は取るに足らない侍一人だと高を括っていた。
時間を停止させてしまえば殺すことも、意識を奪って洗脳することも自在であったろうに、彼はそれをしなかった。
一時の余裕に浸るあまり、警戒することを怠った。
過度な余裕と慢心は、時に人へ予期できない不具合を引き起こす。
避けられる筈の攻撃を躱せない。
一度見た攻撃に不覚を取る。
気付けた筈の事項を見落とす。
そしてそれは、人であることをやめた吸血鬼でも同じことのようだった。
「な……何ッ!?」
侍――桂小太郎は、何も難しいことはしていない。
彼も銀時と同じく侍であるため、DIOとは根本的に相性の悪い戦闘スタイルだ。
遠距離から彼を撃つことも出来なければ、デバイス『晴嵐』を本来の形で使いこなしてすらいない。
だからその攻撃手段は実に単純明快。
――背後から駆け付け、ぶった斬る。
DIOが一度は見破り、彼を撃破した時とまったく同じ手段だ。
吸血鬼の右腕が、七割ほどの長さで切断される。
噴き出す鮮血と鋭い痛みに、DIOは怒髪天を衝いた。
「き、貴様ッ」
「いやあ、まさか上手く行くとは思わなかったわ……
説明してやろうか吸血鬼くんよ。テメーが俺のお喋りを律儀に聞いてる間には、もうこいつは動いてたんだよ」
銀時がDIOへと侮辱を吐いていた時間。
それはごくごく僅かなものだったが、DIOから警戒心を一時的に奪い取るには十分だった。
どれだけ余裕を取り繕っても、このDIOという男は非常に高い自尊心の塊だ。
神威という予想外のイレギュラーによって一度でもそれを崩された彼ならば、無視は出来ないだろうと銀時は踏んだ。
そうして、可能な限りDIOの視野を銀時のみへ集中させ――本命である桂の奇襲を成功させたのだ。
……ちなみに、どうやって桂の再起を知ったかと言えば簡単だ。
DIOの後方でゆっくり立ち上がり、静かに手を振っていた。
それだけだ。銀時としては、なかなか笑いを堪えるのが大変だったのだが。
「俺を侮ったな、DIOとやら。
おまえは俺を確実に殺しておけば、こうはならずに済んだというのに」
「そういうこった。お前がどんなバケモンかなんざ興味もねえけどよ……あんまり人間を見くびるもんじゃねえぜ」
「……フ」
DIOは、燃え上がるような屈辱に曝されていた。
人間であった頃を含めても、これほどコケにされたことはなかった。
この二人は――この二人は、殺す。
-
肉の芽で操るなどと生温いことは言わない。
直接血を吸い、搾りカスになるまで吸い上げて、跡形も残らず踏み潰して炎へくべてやる。
「フフ、ハハ、フハハハハハ! 言ってくれるじゃあないか、マヌケな東洋人共が!
だが、貴様らの策などこのDIOにとってはイタチの汚らしい最後っ屁にも劣る愚かで惨めなものでしかないッ!
おまえ達では我がスタンド能力! 『世界』の足元にも及ばないのだからなッ!!」
黄金の人型が出現する。
それと同時に、DIOは本日何度目かの時間停止を行使せんとした。
――疲労は大きい。故にこれで決める。
ザ
「終わりだ侍共ッ! 『世――――」
「創成起動(クリエイション)――ゴライアス!」
時間停止の発動に先駆けて、DIOの真横から、巨大な質量の塊が飛び出した。
驚愕の表情を浮かべるのは彼だけではない。銀時と桂も同じだ。
質量の正体は――全長数メートルはあろうかという巨人。
自然では発生し得ない神話の怪物(ゴーレム)が突如出現し、DIOへと襲いかかる。
「なッ……!?」
ゴーレムを操るその術者は、誰もが予想だにしない人物だった。
クリーム色のツインテールをキャンディの髪留めで留めた、この場においてはれんげに続く年少者の少女。
それでいて桂と共に繭への反逆を掲げ動き出した、勇気ある戦士。
「成る程ねぇ。こりゃ確かにお前が逸材ってのも分かるわ」
「逸材ではない、コロナだ。……まあ、少しばかり予想外だがな。よもやこんな芸当が可能だとは」
馬鹿な――この娘は確かに、先程胸を貫いてやった。
即死には至らずとも、起き上がって戦えるようになるほど軽い傷ではなかった筈とDIOは記憶していた。
しかし今、彼がコロナへ与えた傷は癒えている。
戦う覚悟を決めた者特有の光を灯した瞳でDIOを睥睨し、土の巨人を操っている。
ゴーレムの耐久度はさておいて、このサイズを攻め落とすのはDIOのスタンドを用いても少しばかり手間だ。
となると狙いは必然的に本体、これを操っているコロナ・ティミルとなる。
侍達なら二人同時に相手取っても問題はないが、このゴーレムは面倒極まる。
優先して潰すべきと判断したDIOは巨碗から繰り出される一撃を回避した直後、『世界』を用いて時間を止めた。
胸に肺病を患ったかのような苦しさが込み上げ、さしものDIOも顔を顰める。
少々力を酷使しすぎたらしい――繭が施した忌まわしい細工が、此処に来て彼の首を締め上げる。
「……フン。どれだけ小癪な策を並べ立てようが、大袈裟な手品を用意しようが……このDIOにはすべて無駄よッ」
-
『世界』の拳が、コロナの腹を思い切り殴り付けた。
雨霰のような拳打がか細い体に打ち込まれ、停止の限界時間が訪れると共に、その顔面を横殴りにする。
侍の計略は確かにこの自分へと一杯食わせてくれた。
殺したと思っていた少女が想定外の戦力を連れて殴り込んできたことはDIOの度肝を抜いた。
だが所詮それまでだ。
この『世界』がある限り、わたしに決して負けはない。
次は今度こそ侍共だ。
奴らを完膚なきまでに叩きのめし、まずは内一人の血をもう片方の目の前で一滴残さず吸い上げてやる。
それでこのDIOは力の潤いを取り戻し、下らない侍の気概とやらも粉々に踏みにじることが出来る。
手間を掛けさせてくれた分、きっちりとその分の代金は収めてもらうとしよう。
「時は動き出す」
コロナの体が殴られて歪む。
滑稽なダンスを踊った後で顔面が横殴りに跳ね、その口と鼻から血が飛ぶのが見えた。
――しかし。コロナはその場へ踏み止まる。飛びそうになる意識を引き戻し、
「ぬぅぅッ!?」
彼女は、『反射的に』DIOの土手っ腹へ鋭い殴打を打ち込んだ。
「(……ごめんなさい、アインハルトさん。でも――)」
強靭なボディを持つDIOをして、無視できないだけのダメージがコロナの拳から伝わってくる。
ありえない。
彼は体内の空気が逆流する感覚の中で、心から少女の反撃へ驚愕を示していた。
『世界』の打撃は決まった筈だ。止まった世界で打ち込んだのだから、外れるも何もない。
それを耐えたことも十分驚きに値するが、問題はその後。
時が動き出して衝撃がコロナを貫いた瞬間、ほぼノータイムで彼女はカウンターを放ち、DIOを打ち抜いたのだ。
さながら、ついさっきDIOが殺した刀使いの少女が見せていたように。
しかし園原杏里の罪歌とコロナ・ティミルの格闘技には、ある決定的な差異が存在する。
罪歌は自動防御。
対しコロナのそれは、攻撃を受けてから作動するあくまでもカウンターの技術。
――身体自動操作。
ゴーレムを操る力で術者自身を操作するという、掟破りの戦法だ。
ゴーレムほどの巨体を動かせる力を人体相手に使えば、当然ながら絶大な威力になる。
あらかじめ特定の打撃に反応し、対応する反撃を返すようにプログラムしておけば、この通り。
たとえ時の止まった世界で痛めつけられようが、時の再始と共にカウンターを見舞う芸当が可能になる。
コロナはDIOの力を未だ『視認不可能の攻撃』と認識していたが、究極的には同じことだ。
-
勿論、弱点がないわけではない。
判断から初動までの、コンマ一秒ほどのタイムロス。
カウンターの間合いを読み切れば、それに合わせ迎撃することだって可能だ。
それでも、初見ではまず回避不可能。
間合いを読むとはいえ、何度か拳のやり取りを交わす必要がある。
格闘技の世界では命取りになるタイムロスも――格闘家が相手でなければ、ほぼ帳消しと言って差し支えない。
これぞ、ゴーレムマイスターの彼女が誇る絶技『ネフィリムフィスト』。
逃れようとするDIOへ、何かする間も与えず追撃の蹴りを打ち込む。
DIOの力は確かに強大だ。
それにコロナは知らないことだが、生前の彼には格闘技の経験だってある。
しかし、格闘家として見た場合のDIOはコロナよりも格下だ。
彼女とこのネフィリムフィストの組み合わせを破った覇王流の少女のような技術を彼は持っていない。
相手は不意の奇襲で不覚を取った状態、スタンドの打撃にも自動対応が出来るこの状況。
それなら――十分に、勢い任せで押し切れる……!
「バ、馬鹿なッ! このDIOが、こんな小娘風情にッ! ――ぐおおッ!?」
「(アクセルスマッシュ――からのッ)」
DIOの顎を、コロナのアッパーカットが跳ね上がらせる。
間髪入れずに繰り出すのは、またしても彼女の友人が使用していた技の一つ。
「スパイク……!!」
リボルバースパイク。強烈な回し蹴りが、吸血鬼の側頭部を思い切り蹴り飛ばす。
次で、とどめだ。
殺しはしないが、無力化はされてもらう。
「ネフィリムフィスト――」
コロナの右腕が――少女らしからぬ、否、"人間らしからぬ"豪腕に変化する。
これはゴーレムクリエイトの技術を応用して生み出した頑強な腕部武装。
ゴーレムマイスターでありながらインファイトをもこなす、コロナだからこそ使いこなせる力。
人には余る怪力で振るわれるその拳は、まさしく巨人の拳(ネフィリムフィスト)の名に相応しい。
「――《マイストアーム》…………!!」
「ご……うげェェェェェッ!!?!」
水切りに投げられた石の如く、地面を数度バウンドして転がるDIO。
彼の絢爛な衣装は今や泥に塗れ、起き上がるその顔は屈辱への激しい怒りで満たされていた。
それでも吸血鬼の力は、DIOをまだ再起不能にはさせない。
「WRYYYY……いい気になるなよ! このクソ餓鬼がッ!!」
怒声を吐いたDIOの目から、何かが飛んだ。
眼球内の体液を高圧力で射出する、吸血鬼の能力の一つ――『空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)』である。コロナは咄嗟に腕部武装を盾に防ごうとするが、敢えなくそれはDIOの能力へ貫かれてしまった。
手に走る鋭い痛み。悪足掻きと呼ぶには、彼の放った攻撃は強力が過ぎた。
しかし、コロナは何も一人で戦っているのではない。
-
「で、誰が誰の足元にも及ばないのだったか?」
DIO目掛け、桂が飛び込む形で袈裟斬りを放つ。
彼はそれを『世界』の拳でもって迎撃したが、もう一人の侍にまでは対処が追いつかない。
DIOが殴られている間を縫って背後から接近を果たしていた銀時が、DIOをそのまま聖剣で貫いていた。
血反吐を吐きながら、DIOは怒りに震える。
何故だ。
何故この帝王である自分が、こんなにも追い詰められている……!
「許さん……許さんぞ! このクズにも劣るゴミ糞どもがッ!!
貴様らは必ず――必ずこのDIOが殺す! 一人残らず、恐怖に慄かせた上でだッ!!!」
怒りを爆発させながら、DIOは『世界』の力を使う。
時止めの疲労は、既に戦闘に支障が出るレベルにまで達していた。
認めたくはないが、今の自分は連中に押し切られかけている。
このまま戦いを続けたとして、仮に一人二人を殺せたとしても、残り一人までを仕留めきれるかは怪しいとDIOは冷静に判断した。それに、今でこそ注意が反れているが、神威の存在もある。
「此処は、退く……」
だが、決して忘れるな。切断されて転がっていた片腕を拾いながら、彼は呟く。
突き刺さった聖剣を抜き、DIOは停止した世界の中を駆ける。
「(頭痛がする……吐き気もだ。なんてことだ……このDIOが、気分が悪いだと……)」
スタンドを酷使した代償の体調不良に見舞われながら、彼は校庭を後にし、そこで時が動き出した。
これ以上時間停止を使いすぎるのは不味い。
早急に此処より離れ、休息の出来る建物を探さなくては――。
「必ず殺してやるぞ、侍と小娘よ。
このDIOが再び貴様らの前に現れる時を、精々待っているのだな……!」
程なくして停車させてあった自動車の車内へ戻ると、腕の切断面に切り落とされた腕を合わせる。
吸血鬼の再生能力は、みるみるうちにそれを治癒させていき、完璧でこそないが、ひとまず形を保つ程度に繋ぎ合わせた。これで、後は放っておくだけで遠からぬ内に傷が癒えるはずだ。
屈辱の撤退に憤激しながら、DIOは安息の地を目指す。
【B-6/本能字学園周辺】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、右腕切断(癒着済、再生中)、胴体へ貫通傷(再生中)、全身にダメージ(大)、運転中
[服装]:なし
[装備]:蟇郡苛の車@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:主催者を殺す。そのために手っ取り早く他参加者を始末する。
1:ホテルへ向かい、体を休める。
2:銀髪の侍(銀時)、長髪の侍(桂)、格闘家の娘(コロナ)、三つ編みの男(神威)は絶対に殺す。
3:優先順位は銀時=コロナ=桂>神威。
4:言峰綺礼への興味。
[備考]
※時止めはいつもより疲労が増加しています。一呼吸だけではなく、数呼吸間隔を開けなければ時止め出来ません。
※車の運転を覚えました。
※疲労による運転への支障はとりあえずありませんが、あまり無茶な運転をすると事故を起こすかもしれません。
支給品説明
【サバイバルナイフ@Fate/Zero】
DIOに支給。
元は衛宮切嗣が使用していたもので、通常のナイフに比べて殺傷能力が高い。
-
●
勇者の拳が真っ向から夜兎を狙い打つ。
それを正々堂々拳で迎え撃ちながら、神威は破顔した。
勇者の少女、友奈は思う。
――強い。
今まで戦ったどの敵よりも貪欲に食らいついてきて、その癖身体能力さえ勇者のそれを凌駕している。
あまりにわかりやすい強敵だ。それだけに、生半可な気持ちで挑めば返り討ちに遭うのは見えていた。
「おおおおぉぉぉっ!!」
夜兎の青年、神威は楽しんでいた。
技術に粗はあり、まだまだ未熟と言う他ない拳だが――その愚直さは嫌いではない。
そう言いながら、しかし彼は一切の手加減をしてはいなかった。
「うぐっ……!」
強烈なボディーブローが、友奈の体を真下から打ち上げる。
かはっと胃液を吐き出して打ち上げられた勇者を、両手を組み合わせて真上から叩き落とした。
地面とキスを余儀なくされ、直感的に体を逸らす。
その判断は正しかった。
一秒前まで彼女の頭があった場所に、神威の足が振り落とされたのだ。
もしも急所を逃していなければ、勇者は此処でゲームオーバーとなっていたに違いない。
「ま、だ、ま……だぁぁぁ!」
耐える。
立ち上がり、拳で神威を殴りつけんとする。
止められた。
腹を蹴られ、地を転がった。
あまりにも一方的な戦いに、後方の絵里が時折悲痛な声を漏らしている。
強い。
本当に、強すぎる。
けれど、それでも、不屈の勇者は諦めない。
「やぁぁぁぁッ!」
体重を乗せた拳が躱される。
当然、大振りの技は必然的に大きな隙を生じさせるものだ。
神威は、そんなところを見逃してくれるほど易しい相手ではない。
蹴り上げで顔を強打し、友奈の前歯が折れる。
「ぶ、がっ、ぐぅ……」
止む気配のない暴力の雨。
勇者の顔を、手足を、打ち付けていく。
危うく意識が飛びかけるが、ここで投げ出すようなら勇者は名乗れないだろう。
満開ゲージ。
それへ目をやる。
あと一枚だ。
その矢先に飛んできた拳を回避の構えで受け止めると、最後の一枚が点灯した。
これが齎すデメリットも、友奈は承知している。
しかしここで出し惜しみをすれば、まず間違いなく自分は倒されるに違いない。
そうなれば、後ろの二人にも危険が及ぶ。
何より――せっかく格好つけたのに、真っ先に倒されるなんて……あんまりかっこ悪すぎる。
「───────満開」
-
鮮血が弾け飛ぶ。
唱えた言葉は、勇者の全てを解放する二文字。
桜色の極光が世界を包み、無限に島を覆い尽くす闇すらも霞ませる様な輝きが迸る。
視認することすら困難な輝きの中で、“勇者”は顕現したその巨大なる鋼鉄の拳を以て。
「――ッ」
戦いに狂える夜の兎を、殴り飛ばした。
満開によって更に強化された身体能力は、一時的ながらも彼ら戦闘種族を上回る。
ぴしゃりと吐血して、それでも神威の笑みは衰えず、むしろ更に深く凄絶になっていく。
満開した最強状態の勇者に、神威のえぐり込むような拳がヒットした。
だが折れない。痛烈な返しの拳は避けられたが、その風圧だけでも敵の体勢を崩させるには足る。
「――お」
放つ。
一度で通らないなら、何度だって叩き込む。
「────うぅぅぅおおおおおおおおおおおおっっ!!」
護りながら、
傷付きながら、
それでも、少しずつ前へ前へと押し返しながら――。
「あなたを――――ぶっ飛ばすッ!!」
進む中で何度となく痛打を浴びて、それでも崩折れることなく。
勇者は極大の拳を振り上げたまま、遂に神威の懐へと辿り着いた。
勇気の輝きにまみれたその拳を迎え入れる彼の表情はやはり笑顔で。
――そのまま、彼は――勇者・友奈の拳を前に……文字通り、ぶっ飛ばされた。
夜闇の黒と勇気の輝きが交差す空間。──やがて。
肉と肉がぶつかる音が鳴り止んだ舞台に、少女がゆっくりと帰還する。
輝きの中に見えた極大の拳は其処には無く、先程まで戦い続けていた小さな身体の勇者が一人。
裂の入った手甲や、ところどころ破れた勇者服。顔は痛ましく腫れており、なのに醜さを感じさせない。
そこで、勇者の体がぐらりと揺れた。
「ぁ───」
しまった。判ってはいたけれど、やっぱり、”アレ”は身体に掛かる負担が尋常ではない。
何せ貯蓄した力を一度に全解放するという代物。絶大な力の代償は身体への大き過ぎる疲弊、疲労。
視界に映る彼女達の姿が斜めになっていくのが見える。
世界の何もかもが緩く動いている様に感じながら、少女は崩れ──意識を手放した。
-
●
「ぐ――」
最後の戦場。
鬼龍院皐月とジャンヌ・ダルク、そして纏流子の戦い。
DIOはコロナの奮戦と侍の意地を前に撃退され。
神威は長きに渡り猛威を奮ったが、勇者の鉄拳と相打ちと消えた。
そして纏流子は――
「おい、どうした。私はまだピンピンしてるぜ、えぇ?」
健在、だった。
傷は負っている、疲労も皆無ではない筈だ。
だが現に、皐月とジャンヌという二人の実力者を同時に相手取っているにしては有り得ないほどの余力を残していた。
肩で息を吐く二人に相対し、獰猛に笑む流子。
怒りがその力を後押ししたのか――それとも、これこそが彼女の真の実力なのか。
きっと両方だろう。
神衣とは、それほどの力を装着者へ齎す。
ましてや出生の都合上、流子との相性は最高だ。
これ以上続けて、流子に勝てるという保証も、ジャンヌと皐月が双方無事で済むという保証もない。
「――皐月」
切り出したのは、ジャンヌだった。
皐月は返事をしない。
彼女が何を言い出すのか、薄々分かっていたからだ。
「皐月。君はあちらの皆を連れて、此処から離れろ」
「悪いが、その提案は聞けん。
此処で流子を止めねば、きっと更に大勢の犠牲が出るだろう。故に私は断じて――」
「――勝てると思うか、今の君で」
皐月の言葉を遮ったジャンヌの台詞に、彼女は唇を噛み締める。
そう。
他の誰よりも、鬼龍院皐月こそが最も痛感していた。
――己の力不足を。そして、己の妹の強さと恐ろしさを。
「彼女を想うならばこそ、今は退け。
今の君と私では、きっとこの娘には勝てない。
だが、君は強い女だ。いずれ……その服と更に絆を深めでもすれば、きっと届き得るだろうさ」
鮮血と皐月は今、皮肉にも繭の施しによって通じ合っている。
それでも、かつての流子と鮮血ほどのコンビネーションはまだない。
それには皐月も、そして鮮血も気付いていた。
純潔を完全な形で着こなしている流子と戦うには、此方も完璧な人衣一体で臨む必要があると。
戦いの中で皐月は、着々と腕を上げている。だが、こんな短時間で求める境地へ至れるほど物事は甘くない。
「お前はどうする気だ、ジャンヌ・ダルク」
「此処へ残る。君の妹を、足止めする」
「私の方こそ、問わせてもらおう。――勝てるか」
「分からない」
ざっと靴音を立て、聖女ジャンヌ・ダルクが皐月の前へ立つ。
皐月から見えるのは後ろ姿だけだったが、彼女がどんな顔をしているのかは分かった。
死への恐怖に満ちた顔? ――違う。
不安に染まった顔? ――違う。
皐月には分かる。彼女はきっと、凛とした表情で、生を諦めずに流子と相対する気でいるのだと。
-
「だが、諦めるつもりはないよ。
此処で私が彼女を救い出してしまえば、それに越したことはないのだからな」
「――そうか」
それ以上、問うことはしなかった。
きっと何を言ったところで、彼女の覚悟を動かすことは敵うまい。
ただ一つ想うのは、自分は必ず生きて、再び流子と相見えなくてはならないということ。
最後の一瞬まで自分の為に意地を見せてくれた雁夜。
身を挺して道を作り、希望を生み出してくれたジャンヌ。
彼と彼女の分も、私は勝たなくてはならない。流子に、繭に、そして鬼龍院羅暁に。
二人へ背を向ける皐月。
流子が何か言っていたが、敢えて無視する。
お前と真に語らうべき時は、今ではない。
一度だけ、皐月は足を止めた。
「ジャンヌ・ダルク。オルレアンの乙女よ。
その生き様と輝き、しかとこの鬼龍院皐月の胸に刻んだ。
貴女の意志、決して無駄にはしない。貴女の道に、神の加護があらんことを祈ろう」
その言葉を聞いて――ジャンヌ・ダルクは。
抱き続けていた迷いと悩みが解けて消えていくような感覚を覚え、静かに微笑んだ。
●
「速やかに身支度をしろ。撤退するぞ」
坂田銀時。
桂小太郎。
コロナ・ティミル。
絢瀬絵里。
宮内れんげ。
結城友奈。
そして――鬼龍院皐月。
「……あっちの喧嘩はいいのかい。任せてきちまってよ」
「ああ。だが、終わったわけではない。
私はいずれ、必ずあいつ――纏流子の前へもう一度立つ。
今のままでは勝てん。だから、私はもっと強くなり、その時こそ奴と決着をつけるのだ」
-
この戦場で、二人の命が欠けた。
生きている者達も、その殆どが重度の疲労を負っている。
可及的速やかに腰を落ち着けられる場所を探し、そこで傷を癒やす必要がある――皐月はそう判断した。
幸い、この近くには病院がある。
最低限の魔法的治癒を施してからそちらへ向かい、本格的な回復に入る。
それに異論を唱える者はなかった。
「宮内、だったか。
私は問題ないが、坂田さんと桂さん、そしてティミルに軽い回復を施してやってくれ。
病院へ辿り着く前に倒れては、元も子もないからな」
「わかったのん。ちょっと待つのん――よいしょ!」
紫の魔方陣が広がって、負傷者たちの傷と疲労を気休め程度ではあるが回復させる。
れんげは今や、すっかりアスクレピオスによる回復の手際を弁えつつあった。
実はつい先程、皐月がこちら側へやって来るまでの間も銀時達には回復を施していたため、病院までの移動で倒れるということはこれでない筈だ。
問題ないと言った皐月にも、れんげは同じだけの回復を注いでいた。
魔力にはそれでもまだ余裕があるようで、ひょっとすると彼女は魔導師としての適性がそこそこあるのかもしれない。
「ねー、さっちゃん」
「……どうした?」
「あのおねえさんは、大丈夫なん?」
れんげの小さな手が、未だ戦い続けているジャンヌ・ダルクを指す。
一瞬だけ目を細めた皐月だったが。
「大丈夫だ。きっと――な」
そう言って、れんげの頭へ軽く手を置いた。
こそばゆそうにするれんげ。
それを見、絢瀬絵里は思う。
「(れんげちゃんは、本当に強い子ね……)」
信頼していたお姉さんを殺されて、それなのにこうしてちゃんと皆を助けている。
アスクレピオスという道具のおかげとはいえ、彼女の強くなりたいという想いは見ていた絵里にもひしひしと伝わってきた。きっとれんげなら、皆を助けられるだろう。優しい力と魔法で、皆を癒せるだろう。
――でも、私は?
戦う力もない。
れんげちゃんのように、誰かを助けることも出来ない。
私はいったい、何が出来るんだろうか?
こんなに小さい子でさえ、ちゃんと怖いことと向き合って、乗り越えようとしているのに。
少女は悩む。
その答えが出るのは、果たしていつになることか。
-
「コロナ殿。一つだけ聞かせてはくれないか」
「……はい?」
コロナへ問いかけたのは桂だ。
桂もDIOとの戦いで軽くない傷を負っていたが、れんげのおかげで満身創痍といった状態からは脱した。
だが――こうして生きていられるのは、コロナのおかげでもある。
彼女がもしもあそこで助けに入ってくれなければ、きっと桂と銀時、どちらかは死んでいただろう。
小学生とは思えない勇気だと桂は思う。
だからこそ、彼は聞いてみたくなった。
「何故、お前はDIOの前へ出た?」
「…………」
「コロナ殿は賢い少女だ。奴の前に出れば、あの恐るべき力で殺されると容易く想像できた筈。
なのに、お前は戦った。傷が癒えたなら、れんげ殿と絵里殿を連れて逃げていればよかったものを。
――その理由が聞きたくなった。別に責めているわけではないし、感謝もしている。ただ、聞いてみたいのだ」
桂の真剣な目に、コロナは思わず気恥ずかしくなってしまう。
確かに、彼の言う通りだ。
あの状況なら、全員共倒れになる可能性も十分にあった。
コロナも当然それは予想出来ていたし、れんげ達と逃げるのが最善だとも考え付いていた。
神威がれんげの前へ現れ、それを勇者の少女が引き受けてくれた。
その間にコロナは最低限傷を回復してDIOの元へと走った。
――逃げることも出来たはずだ。なのに、それをしなかった。
「……嫌だったんです」
ぽつりと呟く。
「死んじゃうかもしれなくても、わたし、あそこで逃げるのだけは嫌だったんです」
桂は、自分にとってこの島で初めて出会った仲間だ。
そんな彼を置いて、一人だけで逃げ出すなんて。
それが正しいことだとしても、コロナはそうしたくなかった。
「怖かったし、痛かったです。
今だって思い出すと背中が寒くなります。
それでも、多分何度あの瞬間に戻されても……わたしは、桂さんを助けに行ったと思います」
ぽん。
答えたコロナの頭に、先程皐月がれんげへしたように、桂も手を置いた。
それを左右に動かす。撫でるにしてはやや不器用な手つきだった。
「どうやら俺は、よい仲間を持ったようだ。
では改めて言おう、コロナ殿――いや、“コロナ”。感謝する」
フッ、と伏し目がちに微笑みを浮かべながら、桂は礼を述べた。
今までとあまり行動ややるべき事が何か変わるわけではない。
だが、同じ目的を胸に運命へ立ち向かう身として、距離が縮まったのは確かだ。
そこで芽生えるだろう信頼関係は、このサバイバルな現状では強い力となる。
七人の対主催参加者たちは、そうして本能字学園を後にする。
最後、一度だけ皐月は振り返った。
それからすぐに元の方向へ向き直り、また皆を先導して歩き始めた。
-
【B-6/本能字学園周辺】
【坂田銀時@銀魂】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)
[服装]:いつもの格好
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3枚(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針: ゲームからの脱出
1:病院を目指す
2:新八、神楽、ヅラ、長谷川さん、ついでに土方と合流したい
3:神威、流子、DIOは警戒
【絢瀬絵里@ラブライブ!】
[状態]:精神的疲労(大)、疲労(小)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、エリザベス変身セット@銀魂、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
1:私は、一体何をすればいいんだろう。
2:μ'sのメンバーと合流したい
3:エリザベス変身セットを着てみる…?
[備考]
※参戦時期は2期1話の第二回ラブライブ開催を知る前。
【鬼龍院皐月@キルラキル】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)、こめかみに擦り傷
[服装]:神衣鮮血@キルラキル
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、 黒カード:神衣鮮血@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:纒流子を取り戻し殺し合いを破壊し、鬼龍院羅暁の元へ戻り殺す。
1:病院へ向かう。
2:鮮血たちと共に殺し合いを破壊する仲間を集める。
3:襲ってくる相手や殺し合いを加速させる人物は倒す。
4:纒流子を取り戻し、純潔から解放させる。その為に、強くなる。
5:神威、DIOには最大限に警戒。
6:刀剣類の確保。
[備考]
※纒流子裸の太陽丸襲撃直後から参加。
※そのため纒流子が神衣純潔を着ていると思い込んでいます。
※どうせ鬼龍院羅暁が関わっていると思い込んでいます。
【桂小太郎@銀魂】
[状態]:疲労(大)、胴体にダメージ(中)
[服装]:いつも通りの袴姿
[装備]:晴嵐@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:トランシーバー(A)@現実
[思考・行動]
基本方針:繭を倒し、殺し合いを終結させる
1:今はとりあえず休息したい。
2:コロナと行動。まずは彼女の友人を探す
3:もう少し落ち着き次第、この後のことについて話し合っておきたい
4:神威、並びに殺し合いに乗った参加者へはその都度適切な対処をしていく
【コロナ・ティミル@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:疲労(中)、胴体にダメージ(中)、魔力消費(小)
[服装]:制服
[装備]:ブランゼル@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:トランシーバー(B)@現実
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを終わらせたい。
1:病院へ向かう。
2:桂さんたちと行動。ヴィヴィオたちを探す
3:ルーちゃんのデバイス……なんだか、ルーちゃんが助けてくれたみたい。ちょっと嬉しいな。
[備考]
※参戦時期は少なくともアインハルト戦終了以後です。
-
【結城友奈@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(大)、胴体にダメージ(回復中)、気絶、味覚、その他一つの五感が『散華』、前歯欠損、顔が腫れ上がっている、満開ゲージ:0
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:友奈のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止め、主催者を打倒する。
1:…………。
2:勇者部のみんなと合流したい。
[備考]
※参戦時期は9話終了時点です。
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。
※満開によって散華したものが何かは、後続の書き手さんにお任せします。
【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]:健康、魔力消費(小)
[服装]:普段通り
[装備]:アスクレピオス@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:満艦飾家のコロッケ(残り五個)@キルラキル、バタフライナイフ@デュラララ!!
[思考・行動]
基本方針:うち、学校いくん!
1:うちも、みんなを助けるのん。強くなるのん。
2:こまちゃん、ほたるん、待ってるのん。
3:あんりん……。
[備考]
※骨が折れない程度に手加減はされました
※杏里と情報交換しましたが、セルティという人物がいるとしか知らされていません。
また、セルティが首なしだとは知らされていません。
※魔導師としての適性は高いようです。
支給品説明
【無毀なる湖光@Fate/Zero】
桂小太郎に支給。
円卓最強の騎士、ランスロットの愛用の剣。
『約束された勝利の剣』と同等の強度を誇り、決して刃こぼれする事はない。
また、約束された勝利の剣と同じく神造兵装とされる。
『約束された勝利の剣』の兄弟剣とされ、人類が精霊より委ねられた宝剣。
【アスクレピオス@魔法少女リリカルなのはVivid】
宮内れんげに支給。
ルーテシア・アルピーノの持つデバイス。
グローブ型で、手にはめることで使う。
【満艦飾家のコロッケ@キルラキル】
宮内れんげに支給。
全部で6つ入りのコロッケがタッパーに入って支給されている。
【バタフライナイフ@デュラララ!!】
宮内れんげに支給。
元々は折原臨也の私物。
-
●
七人が去り。
それから数分後に、生命戦維の化け物と聖処女の決着は着いた。
地へ仰向けに倒れているのは、金髪の女。
ジャンヌ・ダルク、その人である。
「終わりかよ」
立っているのは纒流子だ。
彼女に鬼龍院皐月を逃されたことが不服なのか、その顔には隠そうともせずに苛立ちが浮かべている。
ジャンヌは全身の至る所に傷を負っており、最早立つこともままならない様子だった。
しかし、その眼はまだ開いている。
生命の鼓動も、まだ途絶えてはいない。
口元に浮かんでいるのは、笑みだ。
「……てめぇ、何笑ってやがる」
「こちらの話さ。……あぁ、そうだ。君に、一つだけ言っておくことがある」
破魔の朱槍は手元から離れ、流子の近くの地面へ突き刺さり、故に逆転の手立てはない。
聖女ジャンヌ・ダルクは此処で死ぬ。
勇敢なる少女と、革命を願う者たちを逃した果てに、純潔の少女に殺される。
にも関わらず、ジャンヌの顔は敗者が、これから死にゆくものがする顔ではなかった。
「心配せずとも、皐月は君の前にいつかまた現れるさ」
「…………、」
「今よりももっと強くなって、君を救いに来るだろう。
その時こそ、君はその服を自ら脱ぐことになる――私は、そう信じている」
「死ね」
流子は地面へ刺さった朱槍を引き抜くと、横たわったジャンヌの胸の真ん中でそれを突き立てた。
それで終わり。
彼女は生命活動を終え、投げ出した手から力が抜けていく。
勝ったのは紛れもなく、纏流子だ。
なのに、彼女には不思議な感覚が残っていた。
釈然としないような、勝った筈なのに苛立ちだけがどこまでも膨れていくような。
――それが『敗北感』という感情であることに、彼女はまだ気付かない。
【ジャンヌ・ダルク@神撃のバハムートGENESIS 死亡】
【残り57人】
-
「終わったようだね」
「……てめぇ、生きてやがったのか」
「まぁ、流石に無傷ではないけどね――ただ、あの『勇者』ももう少し泳がせた方が楽しめそうだったから」
何事もなかったかのように現れた神威へ、やはりこいつは気に入らねえと舌打つ流子。
流子としては、彼があの攻撃で死んでいても何も悲しむことはなかったのだが。
「で、これからはどこを目指すつもりなんだい?」
「あぁ? 知らねえよ。適当にうろついてりゃ、誰かしら出て来んだろ」
「適当だねぇ……じゃあ、俺が提案させてもらおう」
神威は、流子にある施設を示す。
『DIOの館』。
そう記された場所へ、彼は行きたいらしい。
「こっちの戦いに集中してたら、いつの間にかこのDIOって人が撤退しちゃっててね。
せっかくだから追いかけて、首尾よく会えたらまた遊ぼうかなって」
「……何でもいいが、すぐには行かねえぞ。流石にちっとばかり疲れた」
「……、驚いた。君にも疲れたっていう感覚はあったのか」
「てめぇ、私を何だと思ってやがる」
殺し合いを良しとする、災害のような二人の次なる矛先も定まった。
――本能字の戦いはこれにて幕引き。だが、バトル・ロワイアルは終わらない。
運否天賦の殺し合いは、まだ始まったばかり――。
【B-6/本能字学園校庭】
【神威@銀魂】
[状態]:疲労(中)、胴体にダメージ(大)、右掌に切り傷(軽度)
[服装]:普段通り
[装備]:日傘(弾倉切れ)@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜3枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを楽しむ。
0:俺が全員相手をするから、君は下がってていいよ。
1:本物の纏流子と戦いたい。それまでは同行し協力する。
2:勇者の子(結城友奈)は面白い。
3:纏流子が警戒する少女(鬼龍院皐月)とも戦いたい。
4:DIOとも次に出会ったら決着を着けたい。
【纏流子@キルラキル】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)、顔が若干腫れている
[服装]:神衣純潔@キルラキル、破魔の紅薔薇@Fate/Zero
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
黒カード:神衣純潔@キルラキル 黒カード:使用済み。
[思考・行動]
基本方針:全員殺して優勝する。最後には繭も殺す 。
0:いいや、あたしが全員殺す。てめぇが下がってな。
1:次に出会った時、皐月と鮮血は必ず殺す。
2:神威を一時的な協力者として利用する。
3:手当たり次第に暴れ回る。
[備考]
※少なくとも、鮮血を着用した皐月と決闘する前からの参戦です。
-
長くなりましたが、以上で投下終了です。
-
投下乙です
銀魂とキルラキルの同作対決からの、DIO様乱入による絶望感、
そしてれんちょん覚醒からのコロナ復活に至るまでの流れが熱かった…!
しかしコロナの身体操作がこういう形で活きてくるとは…
それぞれの力を寄せ集めて大きな力を打倒する流れは燃えますね
ただ、状態表から時間帯が抜けているようですので、できれば追記お願いします
-
すみません、書きそびれましたがあと一点
いくら適正があるとはいえ、一般人(しかも本来の所有者ではない)のれんげが
瀕死のコロナも含めた5人を(全快には遠いとはいえ)治療したのに『魔力消費(小)』
というのはいささか制限が軽いように思ったのですが、いかがでしょうか
もし瀕死の人間を含めた5名の治癒が『魔力消費(小)』で済むとしたら、
異能持ちのキャラがデバイスで回復魔法を使った時の治癒能力はどれほど高いのだろう…と思ってしまうのですが
作品自体はすごく面白いと思いましたので、良かったらご一考いただければと思います
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ご指摘ありがとうございます
時間帯については完全に記入を忘れていたので、
【B-6/本能字学園周辺】
↓
【B-6/本能字学園周辺/1日目・深夜】
【B-6/本能字学園校庭】
↓
【B-6/本能字学園校庭/1日目・深夜】
に修正し、れんげの状態表については修正スレに投下しようと思います
-
>>609
神威純潔の時点で、神威と流子の時間帯が黎明まで進んでいますが
そこからさらに駅から本能字学園に移動した上で、あれだけの長時間戦闘していたとなると
もはや早朝になっていてもおかしくないと思います
あと、細かいことですがジャンヌの破魔の赤薔薇に攻撃されてできた傷は、
(真名解放とかしなくても普通にかすり傷になっただけでも)絶対に回復しないという効果がありますので
そのあたり流子の状態表に追記した方がいいと思います
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失礼、回復しないのは黄薔薇の方でした…
自分の把握不足でよけいなことを言ってしまい、大変申し訳ありませんorz
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投下乙です
本能字学園の二転三転する戦局、終始ドキドキしっぱなしでした
神威に流子にDIO、三人とも圧倒的な強さを見せるなかで、
対主催は力を合わせて戦っている感じがして王道の展開って感じがした
犠牲は出たけど彼らも見せ場はあったし、ボロボロとはいえ一大対主催集団ができたのは大きい
にしても、まだ第一回放送前なんだよなぁ…w
指摘というか気になったのですが
死亡者の支給品は死体と共に放置されているんですかね?
流子とかカード回収しそうですが
時間帯は、個人的には早朝でも違和感ないと思います。
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失礼、何を思ったか早朝のつもりが深夜にしていましたorz
【B-6/本能字学園周辺/1日目・早朝】
【B-6/本能字学園校庭/1日目・早朝】
以上が正しい時間となります。
支給品については、とりあえずこのSS内ではまだ回収していないという扱いですので、休憩後にでも漁るかどうかは後続の書き手さんにお任せするつもりでした。
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投下乙です
予想を遥かに超える大混戦だ……
凶悪マーダー三人相手に犠牲があったとはいえここまで応戦できるとは
一気に7人の大所帯となった対主催は南東の街グループみたいな不安要素がないから期待できそう
南下する神威&流子、涙目敗走中のDIOのマーダー勢の今後も気になるなぁ
あと議論スレにも書き込みましたが、時刻が早朝の場合、DIOは日光をもろに受けているのではないでしょうか?
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修正たいへん乙です
>>614
議論スレにも書き込みましたが、自分は特に問題ないと思います
何も、早朝といっても皆が思い浮かべるような明るい時間というわけではなく
wikiの「ルール」の「F:状態表」の書き方で定義されている早朝の時間帯、というだけの意味ですし
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>New SPARKS! ◆X8NDX.mgrA
>本能字の変◆gsq46R5/OE
投下乙です
北ではいきなり戦局が大きく動き、南では静かに状況が動き……
短いですが、こちらもセイバー単体の予約分を投下します
実は投下されている間にこちらのスレを見ずに書いていたので、内容的になんともバッドタイミングな気もしますが
-
黎明。
諸島の北方に位置する橋の袂、その西側の縁に、セイバーは静かに佇んでいた。
血にまみれて久しい聖剣に手を掛ける。
周囲に敵の気配はない。
敵どころか生命が存在するかも疑わしい静寂が、薄明るい黎明の空を満たしている。
これから成そうとすることが何であるかを考えれば、周囲に誰も居ないのはまさに僥倖。
セイバーは聖剣を両手で構えながら、改めて思索を巡らせた。
――令呪に近い強制力が働いているのか、あるいは意図的な劣化を加えた上で現界させられたのか――
――いずれにせよ本来のステータスからは大きく劣化させられている――
――マスターを失って単独行動する弓兵(アーチャー)の能力低下を思わせるほどに――
――ならば、本格的に殺し合いに身を投じる前に、確かめておかなければならない――
――この身に残されている力がどれほどか。そして――
心を静め、聖剣を頭上に掲げる。
マスターであった切嗣との繋がりは絶たれているが、十分な量の魔力がどこからか供給され続けている。
その魔力を聖剣へと注ぎ、黄金の輝きを獅子の唸りの如く滾らせて。
「約束された(エクス)――――」
一秒余りの間の後に、一切の迷いなく振り下ろす。
「――勝利の剣(カリバー)!」
光の斬撃が一直線に橋の真上を駆け抜ける。
膨大な熱量を帯びた余波が欄干を木の葉のように吹き飛ばされる。
舗装材のアスファルトが刹那の間に融解、燃焼を経て気体と化し根こそぎ消え失せる。
次いで瞬間的な熱膨張によりコンクリート製の橋桁が膨れ上がり砕け散る。
破壊は橋脚にまで及び、斬撃によって二つに割り砕かれた橋全体が、無残に焼け焦げ融解した残骸と成り果てて海へ落ちていく。
最後に、飴のように溶け曲がったアーチ部分が水面を叩き、絶望的な蹂躙が終わりを迎えた。
「…………」
静寂の中、セイバーは微かに顔をしかめた。
一撃で地形をも変えうる暴力。対軍宝具の衝突ですら遥か高々度からも視認できる破壊跡を残すほどであり、対城宝具は更にその上をいく。
だが、他の参加者が目撃していれば即座に生還を諦めたであろう光景でありながら、当の本人にとっては不満の残る結果であった。
「やはり弱められている……」
弱体化はセイバー本体のみならず宝具にまで及んでいた。
注ぎ込んだ魔力の量から判断して、破壊規模はこれの数倍あるいはそれ以上に達するはずだった。
しかし実際は想定を大きく下回っていた。この程度ではランクで劣る対軍宝具と大差ない。
――試し撃ちをしておいて正解だ。
セイバーは内心で深く頷いた。
いざというときになって初めて聖剣を振るい、想像以下の結果に終わってしまったら目も当てられない。
無論、莫大な魔力を注ぎ込めば本来の性能を発揮させることも可能かもしれない。
だがそれは最後の手段。行動不能どころか消滅とも引き換えになりかねない切り札と考えるべきだ。
「消耗は……短時間のうちに二回が限度……いや、それでは通常の戦闘に支障を来す。余裕を持たせるなら半日に一度、か」
何はともあれ、大量の魔力を使うだけの価値はあった。
戦場において正確な戦力把握は命綱。千金に値する情報だ。
セイバーは未だに陽炎の立ち上る橋――の痕跡から視線を外し、少しばかり離れた場所に立った。
そして、躊躇うことなく海へと跳躍した。
華奢なシルエットが弧を描き、当然のように水面へ『着地』する。
まるでそこがただの大地に過ぎぬと言わんばかりに、セイバーはそのまま水面を蹴って対岸へと駆け抜けていく。
セイバーはその身に湖の精霊の加護を宿している。
どれほど深くどれほど広い水場であっても、彼女にとっては地面と変わりない。
-
「……皮肉なものだ。これから私は、切嗣が何よりも好みそうな策に手を付けようとしている……」
疾走を続けながら、セイバーは自嘲気味に呟いた。
聖剣で橋を破壊したのは、宝具に科せられた弱体化の幅を計るためだけではない。
他でもない『橋』を破壊すること自体にも意味があるのだ。
地図を見れば誰でも分かるとおり、殺し合いの舞台は三つの島から構成されている。
その島々を繋ぐのは四つの橋梁と一つの鉄道。
仮に、これらが消失したらどうなるか。
島嶼間の往来の断絶は参加者同士の合流と離散を妨げる。
徒党を組んで凶手から身を守ることが困難になり、殺戮者から遠くへ逃れることも難しくなる。
多数の物資を集めて戦術の幅を広げることも、広く情報を共有して戦略を立てることも阻害される。
その一方、セイバーは水上を移動可能なため何の不利益も被らない。
あまりにも大きなアドバンテージだ。
既にセイバーは『願いを叶える何かしらの力』を勝ち取る決意を固めている。
一箇所に留まって獲物を待つなどという消極的な戦略はとうに捨てた。
三つの島を東から南を経て西へと踏破し、刃を向けてくる者達を斬り捨て、橋梁やめぼしい拠点を破壊して回る。
今回は宝具の試し撃ちも兼ねていたため聖剣を振るったが、次からは無理に真名解放をする必要もない。
並の橋であれば、複数回の通常攻撃で橋脚を破壊し崩落せしめることも可能なはずだ。
そうして最初の場所へ戻ってくる頃には、この島々はセイバーという獅子の狩場と化していることだろう。
「これは戦争だ。聖杯戦争ではない、私だけの……!」
そう、この戦いは聖杯戦争とは根底から異なる。
無辜の民が住まう街で、神秘の隠匿という命題を満たし、流血の代行者として己を律しながら剣を振るう時間は終わった。
この地にいるのは殺し殺されるためだけに集められた者達のみ。
被害を最小限に食い留める配慮など必要ないのだ。
セイバーは正々堂々たる戦いを高く評価するが、奇略や謀略を否定しているわけではない。
人間としての、騎士としての、王としての道を踏み外さない範疇であれば、どのような計略であっても選択肢のうちにある。
ただ、聖杯戦争という民間人を巻き込むべきでない戦場では、そんなものを使うべきではないと考えていただけだ。
マスターだった切嗣への反発心も、民間人を巻き込むのみならず人倫に悖る策すら躊躇わない姿勢への憤りに他ならない。
――ああ、そうだ。懸念があるとすれば、ひとつだけ――
その男、いずれ矛を交えることになるであろう衛宮切嗣。
倫理を度外視して評価する限り、切嗣が謀略に長けていることだけは認めざるをえない。
三つの島を戦場と見立て戦略的に戦うと決めた以上、障害となる危険性がもっとも高いのはあの男だ。
こちらが奇策謀術を解禁したと知れば、それに見合った策略を立てて対抗してくるに違いない。
ましてや相手は元マスター。こちらのスキルもステータスも宝具の詳細も全て知られている。
こと衛宮切嗣に限っては、セイバーの方がアドバンテージを握られている状態だ。
だがそれすらも食い破らなければ、願いを叶えることなど到底できはしないだろう。
海峡を踏破し、崖縁の地表へ飛び移る。
今ここに、猛然たる獅子が降り立った――
【A-4/橋の東側/一日目 黎明】
【セイバー@Fate/Zero】
[状態]:魔力消費(中)
[服装]:鎧
[装備]:約束された勝利の剣@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:優勝し、願いを叶える
1:島を時計回りに巡り参加者を殺して回る。
2:時間のロスにならない程度に、橋や施設を破壊しておく。
3:戦闘能力の低い者は無理には追わない。
4:自分以外のサーヴァントと衛宮切嗣には警戒。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後です。
※自己治癒能力は低下していますが、それでも常人以上ではあるようです。
※時間経過のみで魔力を回復する場合、宝具の真名解放は12時間に一度が目安。
(システム的な制限ではなく自主的なペース配分)
※セイバー以外が使用した場合の消耗の度合いは不明です。
[周辺への影響]
A-4の橋が消滅しました。東側の直線上にも被害が及んでいる可能性があります。
近隣エリアや高所からの観測であれば、光の奔流を目撃できたかもしれません。
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以上で投下終了です。単体の繋ぎ話なので手短に。
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投下乙です
セイバーも北東に移動か
流子、セイバーが流れて一気に危険地帯に……
かなりボロボロの対主催7人が更に減りそうでもうね…
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投下乙です 大変なことになってしまわれた・・・
こちらも桐間紗路、小湊るう子投下します
-
浮かぶ想いの情景には 君がいるんだよ 笑ってるんだよ
許したくないの? 求めていないの? それでもまだ――
* * *
黒いスクーターに乗った少女と、白い巨大犬に乗った少女。
同じ道路沿いに移動している2人が鉢合わせするのに、さほど時間は掛からなかった。
「定春ストップ!」
前方のライトと影を見て、紗路は乗っていた定春を一旦停止させようとする。
だが定春は先ほどのことがあってか言うことを聞かず、徐々にライトとの距離は縮まって来る。
このままではぶつかる――! そう判断した彼女は思わず、定春をカードの中に押し込めてしまった。
尻餅を付いた紗路の目の前で、黒いスクーターが停止する。
「だ、大丈夫ですか?」
心配してくれたのか、スクーターに乗っていた少女、小湊るう子が手を差し伸べてくる。
幸いどこかを痛めたなんてことはなかったようで、手を掴んで立ち上がる。
互いに最低限の警戒はしつつも、敵意がないと分かり軽く自己紹介、情報交換を済ませた。
元いた世界での経緯、この殺し合いの場に来てからの出会い、別れ――
「そうだったの……小湊ちゃん、大変な目に」
「るう子でいいですよ。それで、花代さ……遊月に会ったというのは……」
遊月。その名前を反芻するたびに、先刻の出来事を思い出す。
「遊月ちゃんは……何だか様子が変だった。
変だったというか、私の願い……と言っていいのか分からないんだけど、それを聞いたらいきなり私に突っ掛かってきた。
そんな願いならやめてしまえって、今考えると何だか物凄く焦ってるように思えた」
それを聞いて、るう子は何か考えるように黙り込んでしまった。
-
まさか。
今の小湊るう子の知る『紅林遊月』は願いの代償を知っている筈。
セレクターバトルでは願いを叶えるのはルリグであり、彼女自身がその願いを叶えることは出来ないと理解している筈なのに。
バトルの方法が殺し合いに変わったことで、再び願いを叶えようと躍起になっている?
そもそも今、『紅林遊月』として生きているのは――
「違う……時間……」
やっぱり変だ。
今の紅林遊月――“花代さん”は、そんなことをするような人柄だとは思えない。
つまり。
「桐間さんが見たのって、過去の……?」
時間軸のズレ。何のためかは分からないが、それしか辻褄が合わない。
でも、本当にそうだったとしてもどうすればいいのだろう。
今まで通りだったら説得して彼女を止められたのだろうが、そうは行かない。
殺し合いの場ともなると、下手に刺激したらこちらの命が危険に晒される可能性だってある。
「るう子ちゃん?」
紗路の呼び掛ける声にも耳を貸さず、考える。
彼女の進行方向や話から考えるに、遊月の向かった先は……?
「ちょっと、るう子ちゃんってば!」
「……ん、あ、すいません」
駄目だ、これ以上は考えが纏まらない。心なしか頭がぼーっとする。
「顔が赤いわよ……? ちょっと熱あるんじゃないかしら」
額に手を当ててみる。確かに熱っぽい。
「あはは……色々ありすぎた所為か、風邪ひいちゃいましたかね……」
「どうしようかしら……どこか休める場所があればいいんだけど」
紗路も困り果てたようで、地図と睨めっこをしている。
このままるう子を放ってはおけないし、紗路にとっても今後の行き先を決めることは非常に重要な課題だった。
千夜を探さなければいけないのは当然だが、市街地、というよりラビットハウスにはまだ近づきたくない。
一番近いのは神社だが、るう子の言っていた車椅子の少女や不吉な気配がまだ近辺をうろついている可能性もある。
旭丘分校という場所に向かうなり、温泉で体を温めるなりといった手もあるが……。
何より移動手段をどうするか。
るう子は御覧の有様だし、定春はさっきの出来事で機嫌を損ねた可能性がある。
少なくとも今はカードから出そうという気は起こらない。
徒歩ではやはりるう子の具合が心配である。
残りは必然的に彼女の乗ってきたスクーターに2人乗りということになる。
「桐間さんって、運転出来るんですか?」
とりあえずるう子を後部に座らせて、私はハンドルを握る。
こうなったらヤケっぱちだ。一か八かやるしかない。
-
「別に私もシャロって呼んでもらって構わないわ。
あと、しっかり捕まっててよ。私これからどうなるか分からないから!」
「……え?」
困惑するるう子の目の前で、紗路は青いカードを取り出した。
そして、缶コーヒーをぐいっと、一気に飲み干した。
* * *
「さぁ〜、飛ばして行くわよ〜! イェ〜イ♪」
「しゃ、シャロさん?」
桐間紗路は、カフェインを摂取するとハイテンションになる特異体質の持ち主である。
しかも困ったことに、本人はその間何が起こっていたかの記憶が一切ない。
彼女はそのまま勢いに任せ、スクーターを急発進させた。
「シャロさん、本当に行き当たりばったりで大丈夫なんですか!? というか逆方向……まあいいや」
「大丈夫大丈夫〜! 風が気持ちいい〜♪」
こうなってしまうとカフェインが切れるまで止まらないのだなと悟り、るう子も深く追及するのは止めた。
2人を乗せたスクーターは、市街地から離れる形で走り去る。
どこに行き着くかはるう子にも、まして紗路自身にも分からない。
全てはカフェインに委ねられることとなったのだ。
【E-4/道路上/黎明】
【桐間紗路@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、カフェインによるハイテンション、スクーター運転中
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(9/10)
黒カード:不明支給品0〜2 (確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。みんなと合流して、謝る
1:風が気持ちいい〜♪
[備考]
※参戦時期は7話、リゼたちに自宅から出てくるところを見られた時点です。
※小湊るう子と情報交換をしました。
※カフェインは1、2時間程度で切れると思われます。
【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:微熱、スクーター乗車中
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
黒カード:黒のスクーター@現実、チタン鉱製の腹巻@キルラキル
不明支給品0〜1枚、宮永咲の不明支給品0〜2枚 (すべて確認済)
宮永咲の魂カード
[思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
1: 遊月、浦添伊緒奈(ウリス?)、晶さんのことが気がかり。
2: 魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
3: シャロさん……?
[備考]
※参戦時期は二期の8話から10話にかけての間です。
※桐間紗路と情報交換をしました。遊月が過去から呼ばれたのではと疑いを持ちました。
-
投下を終了します
-
投下乙です
シャロちゃんそれ飲酒(?)運転やwww
るう子もシャロもラビットハウスに行けば疑念は解決するのに遠ざかる…
いや今ラビットハウス周囲はヤバいから行っても危険だけど
ハードな展開が続いた分、一般人二人でそわそわ相談してるのは和みますね
-
投下します
-
国立音ノ木坂学院。
穂乃果たち、スクールアイドル『μ'』sの活躍により廃校を免れた学校である。
「ここが私が生徒会長を務める音ノ木坂学院です!」
ランサーはその話をここにくる道中で何度も聞いた。
しかし、穂乃果は熱心に何度でも話す。
「そうか、穂乃果はこの音ノ木坂が大好きなのだな」
「はい! 大事な皆で守った学校ですから!! 今から隅から隅まで学院内を案内しますね!!」
「いや、今はそんなことをしている場合ではない」
「ええー!!」
ぷぅと頬を膨らませ、心底残念そうな表情を浮かべる穂乃果。
「……でもでも、私は学院内を知り尽くしてるんだよ!!
どこに何があるかは知っておいて損はないよ!」
「……確かにそれは一理ある」
「だよねだよね!」
しかし、ここは穂乃果のホームステージ。
学校に詳しくなければ、生徒会長は務まらないと親友の園田海未に言われたことを思い出した。
「じゃあ、行こう!」
そして、軽快にスキップをしながら穂乃果は駆け出して行った。
―――『これまでラブライブ! 〜アニロワ4ver.〜 歌:高坂穂乃果』―――
♪なんと会場に〜 私の学校が〜
♪主催者の力で移転した〜
♪μ'sのみんなも〜 音ノ木坂が好きだから……
♪きっとみんなも〜 ここに来るはず〜
♪だからこそ〜ここを目指した〜〜
♪ランサーさんと出会い〜 守護ってもらい〜
♪私はここまでやって来た〜
♪未来に向かい〜 今日も歌うよ〜
♪少しずつ世界が回〜り〜出〜す〜
「はい!」
「…………」
上機嫌に歌いながら校内を紹介する穂乃果。
しかし、ランサーは警戒を怠らない。
その表情はさながら戦場立ったときとほぼ同じ。
セイバーが外道に堕ちたというならいつ奇襲を仕掛けてやもしれない。
――無駄の無い見事な構え、俺以上……なのだろうな。
――しかし、騎士王……以上じゃねえ
――輝く貌(ディルムッド・オディナ)は騎士王(アルトリア・ペンドラゴン)には勝てねぇ
先程の本部の言葉がランサーの頭の中を巡る。
あの時、穂乃果がいなれば、自分はあの男に勝てたのだろうか?
騎士として、弱き者たちをセイバーやキャスターから守護れるのか?
しかし、そんなこととは裏腹に穂乃果は喜々として学校を案内する。
グラウンドも。
中庭も。
弓道場も。
講堂も。
生徒会室も。
図書室も。
体育館も。
屋上も。
アイドル研究会の部室も。
どこもかしこも一年半通い続けた穂乃果が大好きな学校そのままであった。
ここにあること以外は全く違和感がないほど完全に音ノ木坂学院だった。
しかし、今の穂乃果にとってはそんなことはどうだってよかった。
そして、特にイベントもないまま最後に穂乃果のお気に入りの場所に向かった。
-
「で、ここがアルパカの……?」
いつもはアルパカがいる小屋だった。
だが、そこにいたのはアルパカではなかった。
その代わりに……アルパカの小屋を背にその男は立っていた。
アルパカの小屋があっては背後からの奇襲はできない。
「俺の忠告を無視したからには……騎士王と戦って死ぬ覚悟は出来ているのか?」
そこには王の財宝の鍵剣を構えた―ー本部以蔵が立っていた。
◆ ◇ ◆
「―――俺がディルムつっあんを追わねばならぬ」
気絶から目覚めた直後の一言はそれであった。
駅構内。
そこに千夜と本部を抱えたヴィヴィオはやってきた。
そこのベンチにて千夜は肉体・精神から疲労感から眠気が襲ってきた。
「あまり無理をしないほうが……」
「でも……ランサーさんと穂乃果さんがいない間にこのおじさんが起きたら……」
「そしたら、私が何とかするから!」
「……わかったわ、じゃあ一時間だけ眠らせて……」
そういうと、千夜は眠りについた。
その顔は疲れ半分不安半分……そういった感じである。
その数分後。
本部は目覚めた。
「……おじさん?」
「ディルムつっあんは……いや、名簿にある名前で呼ぶならランサーと言っておくべきか。
……今のランサーじゃ、アーサー王に……セイバーには勝てねぇ。
だからこそ、仲間(とも)として騎士王の魔手から俺が守護らねばならぬ」
(このおじさんとランサーさんは友達だったの……?)
一先ず、ヴィヴィオと本部は情報を交換する。
その際にヴィヴィオから本部はランサーがどこに行ったかを聞いた。
苦渋をなめるような表情で本部は聞き続ける。そして……
「急がねばならぬ」
「え?」
本部が鍵剣を振るう。
すると空間に歪みが生じ、何かが出てきた。
-
「本部さん、それは……?」
ヴィヴィオの知りうる魔法とは全く違う原理。
次元転移や召喚魔法とは全く違うということだけはわかった。
出てきたのは原動機付き自転車。
後輪カバーに『銀』という彫り物がある原動機付き自転車。通称『原付』。
「お嬢ちゃん、これは原動機付き自転車って奴だ。
起源は、自転車に小型のガソリンエンジンを付けたモペッドと呼ばれる乗り物というものだ。
モペッドは本来『原動機が付いた自転車』あるいは『ペダルでこげるオートバイ』のことだが……、
便宜上、日本以外の国ではペダルの有無にかかわらず小排気量のオートバイ全般がモペッドと呼んでいる。
だが、この原動機付き自転車がわけが違う。なんせ江戸時代に作られたものなんだからよぉ〜」
原付について長々と解説する本部。
それにヴィヴィオは話半分くらいしか理解できなかった。
ヴィヴィオにとって聞きなれない単語があまりにも多すぎたのだ。
しかし、どちらかといえば『原付』よりも本部の持っている『鍵剣』のほうが気になった。
「行ってくる」
本部は原付に跨り、エンジンをかける。
原付に付属していたヘルメットを被り、原付をかっ飛ばす。
法定速度完全オーバーで限界速度ギリギリのハイスピードである。
◆ ◇ ◆
「俺の忠告を無視したからに……騎士王と戦って死ぬ覚悟は出来ているのか?」
ただならぬ殺気。
それは穂乃果の素人目にでもはっきりわかるくらいだ。
「ランサーさん……」
「下がっていてくれ、穂乃果」
「やだっ!」
「言うことを聞くんだ! 穂乃果!」
「だって、あの小汚いおじさんがここまで来たのはきっとランサーさんを――――ガッ!?」
「!?」
「ディルムつっあん……少し遊んでもらうぜ」
カーンという軽快な打撃音が響いた。
―――穂乃果の頭部から。
そのそばには王の財宝の鍵剣が転がっている。
「お嬢ちゃんには少なくとも一時間は眠っていてもらうぜぇ」
「ッ!? 穂乃果!? モトベッ! 貴様ァ!!」
「安心しな、殺しちゃいねぇ。
……だが、これでアンタのご要望通りの1対1(サシ)になったぜ、ディルムつっあんよ〜」
本部は王の財宝の鍵剣を穂乃果に向かって投げた。
鍵剣がピンポイントに穂乃果の額に直撃して、穂乃果はそのまま気を失った。
-
王の財宝の鍵剣自体には切れ味はほとんどない。
だからこそ、打撃武器としてはかなり有用性は高い。
なんせ古代バビロニアの宝物庫につながる鍵剣だ。
その頑丈さは言うまでもない。
「守護るものも守護れずに何が騎士道だ? 片腹痛い」
「ッ……黙れ!」
クスクスと笑う本部。
それに対して激昂するランサー。
騎士の誇りを踏みにじられたのだから。
「モトベッッ!!」
いや、それだけではない。
何かが引っかかるそのもやもやとした気分を振り切るかのように本部に立ち向かう。
しかし、そのランサーの迷いとあまりにも直線的な動きは本部に読まれる。
最小限かつ最速の動きでランサーの脇を抜けるように回避行動をする。
そのまま本部は転がっていた王の財宝の鍵剣を拾い上げる。
そして、何処からともかく弾丸のように四角い何かが複数射出された。
「なんだ、この石碑か!?」
「これは『麻雀牌』だ」
まるで石礫のように麻雀牌はランサーに飛んでいく。
五月雨が如く、ほぼ無尽蔵のように射出されていく麻雀牌。
それをランサーはキュプリオトの剣で弾き、切り払う。
「足元がお留守だぜ」
「なっ!?」
一瞬のスキを付いて本部はランサーに急接近する。
そこから腕を掴まれて合気道のような投げと足払いを同時に決まる。
ランサーの身体は空中で一回転し、そのまま脳天を地面にたたきつけられた。
そして、押し倒すような形で本部はマウントポジションを取った。
「タフだなァ〜〜常人なら確実に死んでたぜ……」
ランサーの首筋に本部の日本刀が押し当てられている。
日本刀の無機質な冷たい感触だけが伝わっていく。
「日本刀ってのは引かなきゃ斬れない」
「モトベよ……俺に情けを掛けているのか」
「そうだ……」
完全に負けた。
この本部という得体のしれない小汚い強者に敗北したのだ。
もし本部が殺し合いに乗っていたら確実に自身は死んでいた。
-
「一度死んだぜ、ディルムつっあん」
「……いや、死ぬのは二度目だ……」
だが、そこにあったのは屈辱ではない。
騎士としての戦いに敗れて死んだという清々しさであった。
本部の安い挑発に乗ってしまったが、故に己の実力不足を痛感させられた。
そのような体たらくでは……『死んでいる』のと道義だ。
次の瞬間、ランサーは本部のマウントポジションから脱出した。
そして、そこで高々と宣言をした。
「ランサーのサーヴァントは今ここに死んだ!」
だからこそ、自らの死を受け入れた。
死ぬ時は潔く死にたい。それは自分の騎士としての本懐であった。
今、ここにいるのは……
「ここからは俺の三度目の生だ……故に俺は愛でも忠義でもない。
……俺は『ディルムッド・オディナ』としてこの戦いを戦い抜くことを選ぶッ!」
今、全ての迷いは振り切った。
手には槍がなくても剣がある。
戦うのならば、それだけで十分だ。
「戦いの勝利ってのは誰かのために捧げるもんじゃねぇからな……」
「モトベ殿……まさかそのことを俺に教えるために……」
ランサーは男として大切なことを思い出した。
一度は夢見た『地上最強の男』……いつからだったろうか、そんなことも忘れてしまった。
そして、大切なことを思い出させてくれた本部を自身の仲間(とも)と認めたのであった。
-
「俺はセイバーを倒す……その時まで俺は騎士道を捨てるぞ。モトベ殿」
「それでいい、その気迫がなければ……あの騎士王さんに一太刀も与えられないぜ。
……これは餞別だ、長物ではないが持っていくとよい」
「モトベ殿……かたじけない」
そういうと本部は村麻紗が入った黒カードをランサーに渡した。
彼は生前二本の槍だけでなく二本の剣「モラルタ」「ベガルタ」を所持していたとされる。
故に双剣を使くこともお手の物である……ということを本部は知っていた。
その時である。
二人は東の方から僅かだが光の残滓を目撃した。
この時間帯、太陽の光にはまだ早すぎる。
ここにはいなかった騎士王……そこから導き出される本部の結論は……
「あの光はまさか騎士王の聖剣か!」
「何っ、知っているのかモトベ殿ッ!」
「ああ……間違いねぇ、あの輝き……あんなものを出せるのは騎士王の聖剣ただの一つだけだぜぇ」
「急がねばならない……!」
ランサーは焦る。
こんなところにとどまっている理由などもうないのだから。
そこで最後に本部に頼みをする。
「モトベ殿には南の墓地にいるであろうキャスターの討伐を頼みたい……
モトベ殿の実力であれば……あるいは……」
「ああ、任された……こういうのがオイシイんだよなぁ」
「……それと穂乃果を皆のところに頼む……互いにご武運を!」
、ランサーはこれ以上穂乃果を連れてはいけないと判断し、本部に託して、自身は東に駆け出した。
それを確認して本部は気絶した穂乃果を背中に縛り付けて、原付で来た道を戻る。
「……嬢ちゃん、ヘルメットっていうのは普通はこういう風に使うもんだぜ」
本部は穂乃果が持っていたヘルメットを穂乃果の頭部にかぶせた。
正しいヘルメットの使い方は人を殴るのではない。
ヘルメットは着用者の頭部を危険から守るものである。
今、このように本部や穂乃果の使用方法こそが正しい用途なのだ。
【A-3/一日目・黎明】
【ランサー@Fate/Zero】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:キュプリオトの剣@Fate/zero、村麻紗@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:『ディルムッド・オディナ』としてこの戦いを戦い抜く。
0:東に向かう
1:穂乃果、千夜に「愛の黒子」の呪いがかかったことに罪悪感。
2:セイバーは信用できない。そのマスターは……?
3:キャスターは本部に任せる。
4:俺がセイバーに勝てない……? 否、勝利する!
5:本部を全面的に信頼
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバーと共にキャスターと戦った後。
※「愛の黒子」は異性を魅了する常時発動型の魔術です。魔術的素養がなければ抵抗できません。
※村麻紗の呪いにかかるかどうかは不明です。
【A-2/音ノ木坂学院近く/一日目・黎明】
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:気絶、額にたんこぶ、ランサーへの好意(中)、千夜に対する疎み
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:ヘルメット@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜1枚
[思考・行動]
基本方針:誰も殺したくない。生きて帰りたい。
1:μ'sのメンバーを探す。
2:ランサーさんを見てるとドキドキする……。
3;小汚いおじさん(本部)は信頼できない。
[備考]
※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか(2期1話以降)。
※ランサーの「愛の黒子」の効果により、無意識にランサーへ好意を抱いています。時間進行により、徐々に好意は強まっていきます。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が少々薄れました。
-
【本部以蔵@グラップラー刃牙】
[状態]:確固たる自信
[服装]:胴着
[装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero、原付@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより、麻雀牌セット@咲-Saki- 全国編
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を守護(まも)る
0:駅に戻り、穂乃果をヴィヴィオに預け、自身は南下してキャスターを討伐する
1:騎士王及び殺戮者達の魔手から参加者を守護(まも)る
2:騎士王、キャスターを警戒。
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後
【B-2/駅構内/一日目・黎明】
【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、睡眠中、ランサーへの好意(軽)
[服装]:高校の制服(腹部が血塗れ、泥などで汚れている)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実 、不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:心愛たちに会いたい
1:ランサーが心配
2:十四郎さん…
3:ランサーと一緒に居る穂乃果に嫉妬。
[備考]
※現状の精神はランサーに対する好意によって自責の念を抑えられ一旦の落ち着きを取り戻しています。
※ランサーの「愛の黒子」の効果により、無意識にランサーへ好意を抱いています。時間進行により、徐々に好意は強まっていきます。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が薄れるかどうかは不明です。
【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid
[思考・行動]
基本方針:皆で帰るために行動する
1:駅で本部さん達を待つ。それまでの間は私が千夜さんを守る。
2:アインハルトとコロナを探す
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後です。
※ランサーの黒子の呪いについて大雑把に把握しましたが特に重要なことだとは思っていません
※黒子の呪いの影響は受けていません
※各々の知り合いについての情報交換は済ませています。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が薄れるかどうかは不明です。
原付@銀魂
本部以蔵に支給
銀時が移動手段に使用するスクーター(原動機付き自転車)。車種はベスパ。
平賀源外の改造によってロケットブースター・飛行機能が追加されている。
ただし飛行機能は莫大なエネルギーを消費するため、使用すると1分後くらいに大爆発を起こす仕様。
麻雀牌セット(二セット分)@咲-Saki- 全国編
土方十四郎に支給
一般的な全自動卓用の麻雀牌のセット。
萬子・筒子・索子・字牌の136枚が二セット(計272枚)。
そこそこ固いので当たると結構痛い。
-
以上で投下終了です。
-
投下します。
-
♂♀
少女の名前は一条蛍。
東京の学校から小学生と中学生が混在する旭丘分校へ引っ越してきた小学5年生。
その神からひいきされたとしか思えない整った顔立ち、そして小学生らしからぬ身長と抜群のスタイル。
そんな彼女のランドセル姿は少々痛々しい。
そして。
少女の名前は越谷小鞠。
越谷夏海の姉であり、学校で一番年上の女子生徒ではあるが、蛍とは逆に年の割にこじんまりとした少女である。
あだ名はこまちゃん。
もちろんその理由は名前から……ではなく、細(こま)いからである。
そんな小鞠は可愛い先輩だという想いで接していた。
しかしその想いはいつしか……
♂♀
私は、越谷小鞠先輩のことが大好きです。
どこが好きかと言われたら、全部好きと答えるしかありません。
女子の中では一番お姉さんな筈なのに、百歩譲っても年上には見えないその体格。
小さいことと子どもっぽく見られがちなことを誰よりも気にしていて、からかわれると真っ赤になって怒るところも。
お姉さんぶろうとして空回りしてるところなんて、小動物……そう、ハムスターか何かを見ているような気分です。
最初は常識的だけど変わった、かわいらしい人、くらいの印象だったのですが。
皆に馴染んで、一緒に遊んだりする毎日を送り始めて――程なく、私は小鞠先輩の虜になってしまいました。
-
えへへ、だって本当に可愛いんですよ。
黒板消しトラップに引っかかって頭を真っ白にしてる先輩も。
夏海先輩に子ども扱いされて涙目になりながら小さな手でポカポカ叩く先輩も。
迷子と間違われて迷子センターまで連れて行かれて落ち込んでいる先輩も。
全部、ぜーんぶ。私の大好きな先輩です。
けど、子どもっぽいところだけが先輩じゃありませんよ。
時々……うん、本当に時々ですけど、ちゃんと先輩らしいこともしてくれます。
例えば私と一緒に買物に行ってくれた時は、野菜の置き販売について教えてくれたり。
他にも、都会っ子の私が知らないような(先輩たちにとっては常識ですが)ことをたくさん教えてくれました。
先輩に限ったことではありませんが、皆さんの誰か一人でもいなければ、私は新しい環境に馴染めなかったでしょう。
東京の友達と別れて、知らないことだらけの村に引っ越してきて。
もしも先輩達に会えなかったらと思うと、すごく不安になります。そう、今でも。
れんちゃんが居て、夏海先輩が居て。
そして先輩が居る。穏々とした日々は都会に比べて不便なはずなのに、すごく楽しくて暖かくて。
小鞠先輩が笑うと、それだけで優しい風が胸に届くよう。
あの向日葵のような笑顔で微笑まれると、私は此処に居てよかったな、といつも思います。
いろんなことを毎日おしゃべりして、約束しなくても会えちゃう日々。
思い出がいっぱい、胸の奥に増えていく夏。
そういえば、作りかけのこまぐるみがあったんでした。
今日はちょっと早起きして、続きを作りましょう。
それから学校に行って、問題集を解いて、みんなで遊んで……。
――明日は、何をしよう。考えただけで、とても楽しみです。
♂♀
「越谷小鞠が死んだ」
「――え?」
♂♀
-
♂♀
聞こえる、蝉の声と一緒に、煌めく夏色の風景。
思い出いっぱい、胸の奥に! 増えてく夏、明日は何しよう?
♂♀
短い眠りから目を覚まし、挨拶する蛍へ。
空条承太郎は、淡白にそう告げた。
もしもこれが花京院典明だったなら、もっと気の利いた言葉を添えられたのかもしれない。
もしもこれがジョセフ・ジョースターだったとしても、そうだろう。
きっとポルナレフやアヴドゥルも、何かしら彼女を傷つけないようにと考える筈だ。
承太郎のように事実のみを伝えるとしても、彼らは彼らなりに色々と考えた末、その結論を出す。
しかし承太郎は違った。承太郎はただ、目覚めた蛍にそれを伝えた。
「……もう、空条さん。眠気覚ましにしては、冗談がきつすぎますよ……?」
「……」
寝ぼけ眼を擦りながら、蛍は苦笑する。
おかげで眠気はすっかり覚めたが、いくら何でもジョークにしては悪趣味すぎる。
抗議の意味も含めて冗談がきついと返す蛍――しかし、承太郎の表情は変わらないし、発言を撤回もしない。
ただ、彼は蛍の目だけを見ていた。それが嘘や冗談を言っている人間の顔ではないと、蛍にも分かった。
「え……? え? え?」
助けを求めるように、蛍の目が泳ぐ。
懇願の先は、香風智乃だった。
蛍が軽い睡眠に入る前、この店で出会った幼いバリスタの少女。
それでもどうやら蛍よりは年上のようで、彼女からはどこか小鞠に近いものを感じていたのだが。
「蛍さん」
智乃は、静かに目を伏せた。
承太郎ほど直接的でこそなかったが、その動作が意味するところは同じだ。
越谷小鞠が死んだ。
ちっとも笑えない、蛍にしてみれば怒ったっていいようなブラックジョーク。
それを智乃も承太郎も、一向に撤回する気配がない。
承太郎は黙し、智乃は何を言うべきか迷っているような、そんな素振りを見せている。
その反応は、どんな言葉よりも明確に『越谷小鞠の死』を肯定していて――
「……せん、ぱいが」
小鞠が。
小さくて可愛かったあの人が。
彼女達にしてみればよそ者だった蛍へよくしてくれた先輩が。
たくさん遊んで、たくさんおしゃべりして、たくさんおいしいものを食べた友達が。
-
「死んだ?」
死ん、だ?
体が震える。
底冷えするような寒さが襲いかかってきて、呼吸がままならなくなるのを感じる。
だって。
そんな筈は。
先輩が。
これはきっと何かの間違いで。
小鞠先輩が。
私達の日常から誰かが欠けるなんて、
可愛くて、優しかった小鞠先輩が。
そんなこと、あるわけはないし、
小鞠先輩が――
あってはならないのに。
「……ああ」
静かに、承太郎はそれを肯定した。
瞳の奥から、強い意志の眼光を覗かせて。
怯え、震え、慄く蛍へと、偽りのない現実を告げた。
「越谷小鞠は、殺された」
その時、息が出来なくなった。
♂♀
入道雲広がる空と、陽を浴び、白くなるあぜ道。
トンネルの向こうには何が待ってるんだろ?
怖くなんてないっ! ないんだから!
夏休み、自由研究。ぬいぐるみ作ろう。
もうすぐ夏が終わってくんだね――赤く染まる、里山。
♂♀
-
♂♀
先輩と、冷えたラムネを飲んだ。
初めて一緒に遊びに行った日のことは忘れられない。
一緒に駄菓子屋に行って、見栄を張って一番高くて苦い宇治抹茶金時のかき氷を注文して。
かけがえのない思い出だ。
大好きな先輩と初めて遊んで、楽しくて、今でも時々夢に思い出すくらい。
けれど。
先輩は、もうあのトンネルを通れない。
駄菓子屋にも行けない。
おごったり、後輩らしくおごられたり、そんな些細なやり取りだって、きっと二度と出来ない。
「なんで、ですか?」
お気に入りのワンピースを着て、可愛らしく笑う先輩。
――もう、いない。
考えるだけで、心がくしゃくしゃになる。
「先輩、何か悪いこと、したんですか?」
先輩だって、人間だ。
きっと生まれてから、いたずらの一つや二つしたでしょう。
勉強を出来心でサボったり、些細なドジで怒られたこともあるかもしれません。
……小鞠先輩、ドジっ子だったし。
「だからって、殺すこと、ないじゃないですか。
先輩、笑ってたんですよ。また明日ねって、手を振ってくれたんですよ。
ちょっとお姉さんらしくはなかったかもしれないけど……大きくなりたいって、いつも頑張ってたんですよ」
蛍は、小鞠にたくさんのものをもらった。
形あるものだけじゃなくて、思い出や楽しいことから知識まで、いろんなものをだ。
「死んじゃったら、もう、何もできないのに……
私だって、先輩とまだたくさんお話したかったのに……もっと、遊びたかったのに……」
もっと話したいことがありました。
まだ、やってみたいこともありました。
先輩と一緒なら、どんなことだって楽しく感じられました。
それは私だけじゃなくて、れんちゃんや夏海先輩も同じだったはず。
「返して……返してください……」
彼女は、どれだけ怖かったことだろう。
ただでさえ怖がりで、ちょっと脅かされると涙目になってしまうような人だったのに。
見知らぬ場所で殺し合いをしろと言われて放り出されて、どれだけ怯えていたことだろう。
怖い思いをさせられて、いのちを壊されて、どれだけ痛くて、辛かったことだろう。
「貯めてたお年玉も、ゲーム機も、おしゃれな服も、頑張って作ったこまぐるみも、みんなみんなあげますから……」
先輩がいないなんて、いやだ。
あの学校から、一人でもいなくなるなんてダメなんだから。
先輩が帰ってくるなら、何だってします。
「……先輩を、返して……」
-
♂♀
電車に乗って、遊びにも行こう。
かわいい水着で、海も入りたい。
やりたいことはやってみよう。
夏を越えて、次は何しよう。
いろんなことをおしゃべりしよう。
美味しいものも、いっぱい食べようね。
♂♀
智乃は、蛍の呼吸が落ち着いた後も、しばらく彼女の背中をさすっていた。
余程、小鞠の死がショックだったのだろう。
過呼吸を起こして介抱されている間中、ずっと彼女はうわ言のように呟いていた。
――先輩を、返して。
聞いているだけで、心が痛む。
聞いているだけで、智乃まで泣きそうになった。
それはあまりにも悲痛な声。
こんなに大きな体をしていても、やっぱり彼女は小学生なんだな――と思った。
蛍は大人びている。
体格も、口調も、性格も、同じ年頃の頃の智乃に比べればずっと大人っぽい。
けれど、大好きな先輩の死に泣きじゃくる彼女の姿は、大人なんかじゃ決してなかった。
彼女は、子どもだ。そしてこの殺し合いは、小学5年生の女の子から、大切な人を奪っていったのだ。
「大丈夫です……大丈夫ですから……」
何が、大丈夫なのか。
智乃は、月並みとすら呼べないような慰めしか出来ない自分に嫌悪感を覚えた。
それ以上に、今もどこかで高みの見物をしているのだろう主催者に、激しい怒りが込み上げてくる。
いつも温厚な智乃がこんな感情を覚えるのは、ひどく珍しいことだった。
-
年長者の承太郎は、ただ黙っている。
慰めの一つでもかけてあげればいいのにとは言えなかった。
だって、現に自分がそうすることさえ出来ていないのだから。
泣きじゃくる蛍の背中は、智乃のものよりもずっと大きいはずなのに、触れれば壊れてしまいそうなほど小さく見えた。
彼女の背をさすりながら――ふと、智乃は気付く。
蟇郡と出会った時の自分は、こんな風ではなかったか。
勿論、自分はまだ蛍のように顔見知りを殺されたわけではない。
ただ殺し合いに恐怖して、パニックになって、絶望していただけだ。
蛍のものとは重みが違う。そう知っていながらも、どうしても重ねて見てしまう。
(蟇郡さん……)
彼ならば、蛍へなんと言うだろうか。
智乃の時のように力強く鼓舞して、奮い立たせるだろうか。
……智乃には、それは出来ない。
私に出来ることは精々コーヒーを淹れることと、接客するくらい。
後は任された店番を務めきる、たったそれだけだ。
(……あ)
智乃は、背中をさする手を止めた。
それから立ち上がると、承太郎に会釈する。
少しだけ席を外しますから、蛍さんを見ていてください――と。
承太郎は相変わらずのだんまりだったが、静かに頷くのだけは確認できた。
(確か、あったはず……)
智乃は足を急がせる。
蟇郡さんのような強さを持たない、そんな私にもできること。
それはきっと、たったひとつだ。
『香風はこの店の主だろう。
この店を訪れた客が涙するかもしれんというのに、店主が温かい飲み物も出してやらんのか』
――そうだ。最初から、答えはもらっていた。
-
♂♀
君が笑う、それだけで。
優しい風が、胸に届く。
♂♀
れんちゃんが、もう先輩と会えないと知ったら、どうするだろうか。
……きっと、泣くだろうな。そう思う。
此処にはいない夏海先輩も、卓先輩も、先輩のお母さんも……みんなみんな、泣くはずだ。
私は、先輩と出会ってまだ一年も経っていない。
だからきっと、もしかしたら、夏海先輩達よりも悲しみは浅いのかもしれない。
でも、こうも思う。
これ以上悲しくなるくらいなら、私は転校生でよかった。
胸が張り裂けそうなほど痛くて、頭の中をよぎっていく想い出が涙に変わって流れ落ちていく。
その度に、大好きな先輩と過ごした日々が――少しずつ、少しずつ抜け落ちていくような気がして。
先輩が私達より先に卒業してしまうのは悲しいけれど、先輩が卒業する姿を見てみたかった。
会う度に少しだけ大人っぽくなっていて、けれど背も性格も変わらない、そんな小鞠先輩を見てみたかった。
……なんで、私達がこんな目に遭わなきゃいけないんだろう。
私達はただ、ほんのささやかな幸せを噛み締めながら暮らす、それだけでよかったのに。
「……蛍さんっ」
いつの間にか、私の背中をさすってくれていた智乃さんがいなくなっていた。
それにすら気付かなかったのをちょっとだけ申し訳なく思いながら、顔を上げる。
――今、どんな顔をしているんだろう。きっと、ひどい顔だと思う。先輩にこんな顔見せたら、幻滅されちゃうかな。
「これ、飲んでください」
智乃さんが、ことりと……目の前のテーブルに、小さなマグカップを置いた。
湯気の立つカップに入っているのは、優しい茶色をした液体だった。
……そういえば、此処は喫茶店……それもコーヒーを主にしている店と聞いていたような気がします。
-
「大丈夫ですよ。……苦くなんてないです。蛍さんが元気になるように、ちょっとした魔法をかけたコーヒーです」
……私、ブラック飲めるんだけどな。
手は相変わらず震えていて、かたかたと音を鳴らす。
まるで真冬の日みたいだった。いくら都会でも、冬は寒い。
田舎の冬は、どうなんだろう。先輩に聞いておけばよかったかな。
ふるふる小刻みに動く手で、カップを抑えて――途端、ぽかぽかとした暖かさが手先から伝わってきた。
凍えそうなほどの寒さが、少しだけ和らいだ気がして……私は、ゆっくりコーヒーを口元まで運びました。
「…………おいしい」
不思議な味わいだった。
まろやかで、なのに決してくどくない甘さ。
ただの砂糖とは明らかに違う、優しく包み込むような風味。
こんなコーヒー、飲んだことがない。
「キャラメルです」
そう言って智乃さんは、手のひらに握り締めた小さな包装紙を見せてくれました。
「おじいちゃんから教わったことがあるんです。
お砂糖の代わりにキャラメルをコーヒーに入れると、とっても暖かくて、優しい味わいになるって」
こくり。
もう一口、飲んだ。
喉を伝う暖かさが、ほんわりと体中に広がっていく。
「ラビットハウスにまだ備えてあるか不安でしたけど……その、おいしい、でしょうか」
コーヒーを運ぶためのお皿で口元を隠して、どこか不安そうに聞く智乃さん。
私はと言えば、答えられませんでした。
コーヒーを一口飲むたびに、目から塩辛い雫がこぼれていきます。
キャラメルとコーヒーが絡み合った味わいはとても甘くて柔らかくて、まるで涙と甘みを交換しているようで。
やっと口に出せたのは、
「おい、しい、ですっ……う、う……ぐしゅっ、ひっく……!」
そんな途切れ途切れの、涙声でした。
-
♂♀
揺らめく風鈴の音色に、笑顔の想い出が弾んでく。
――ちょっぴり、切なくなる気持ち。
けれど。それでも。
忘れない、夏色の風景たち。
♂♀
-
先輩。
私は、あなたのよき後輩でいられたでしょうか。
いつもお姉さん扱いしなくて、ごめんなさい。
けど、先輩は今のままでもいいですよ。無理しなくたって、こまちゃん先輩はちゃんとかわいいんですから。
先輩。
少し長いお別れになるかもしれませんが、どうか元気で居てください。
……私も夏海先輩も、れんちゃんも。いつか、いつか、必ず先輩に会いに行きますから。
その時は、出来なかったことをたくさんしましょうね。
肝試しも、今度は私たちが脅かし役をやります。
先輩が憧れていた飛行機にもみんなで一緒に乗りましょう。
都会もいいところですよ。きっと、楽しんでもらえると思いますから。
だから、ちょっとだけ……寂しいのを我慢していてくださいね。
絶対、これでさよならなんかじゃありませんから。
約束、です。
どうか、私とれんちゃんを見守っていてください。
一生懸命生きます。先輩に土産話を持っていくためにも、よぼよぼのお婆ちゃんになるまで頑張って生きます。
小鞠先輩。
今まで、ありがとうございました。
大好きです。いつまでも、いつまでも。
-
♂♀
「香風」
ようやく蛍が落ち着いてきた頃。
これまでずっと口を開かずに居た空条承太郎が、静かで厳かな声で智乃を呼んだ。
彼は表情を智乃の前では、まだあまり動かしていない。
少しだけ緊張するものを感じながら、智乃が返事をすると。
「話がある。店の外でだ」
「え、でも――」
「……何も離れるってわけじゃあねえ。ドア一枚でも隔てられればそれでいい」
承太郎の意図を、智乃もすぐに察した。
彼女だけでなく、蛍もだ。
きっと承太郎は、殺し合いに関する話をしようとしているのだろうと。
現にその通りだった。
空条承太郎が香風智乃に話したい内容とは、殺し合いについてのものである。
そんな物騒な話題を、ようやっと友人の死を受け入れたばかりの少女へ聞かせるほど、承太郎は冷血漢ではない。
もっとも、理由はそれだけではなかったが。
「……分かりました」
こくりと頷き、智乃は承太郎の後へ続いてラビットハウスの外へ出る。
周囲には人影のようなものは見えない。
それを確認した上で、承太郎は切り出す。
単刀直入に、信じられないような発言を――だ。
「平和島静雄に会おうと考えている」
平和島静雄。
その人物のことを、智乃は人伝にしか知らない。
だが、危険人物だということは聞いている。
他ならぬ、越谷小鞠を殺害した張本人だということも。
-
「な……! 危ないですよ、なんでそんなことを……」
「俺は子供の頃、『刑事コロンボ』が好きだったせいか……こまかいことが気になると、夜もねむれなくてな」
承太郎の目は、真剣そのものだった。
止めようとしていた智乃がびくりと反応してしまうほどには、その気迫は凄まじいものがある。
その時、智乃は気付いた。
――彼は、決して冷たい人間なんかじゃないと。
むしろ人一倍の熱いものを内に秘めていて、ただそれを表に出さないだけなのだと。
「衛宮切嗣……そして折原臨也。奴らは本当に信用に足るのか……俺にはどうもそうは思えねえ」
蛍の嘆く声は、承太郎も当然聞いていた。
それに全く何の感情も覚えない人間ならば、彼は元よりエジプトへの旅になど参加はしなかったろう。
承太郎は確かな怒りを覚えている。
私利私欲の為に子どもを殺す外道に、強い不快感を感じている。
「初対面の相手にナイフを突きつけるような野郎の言うことをまるっきり信じろってのは、ちと虫の良すぎる話だ。そもそも平和島静雄の人となりだって、よく考えりゃあいつらが勝手に言っているだけだぜ」
「じゃ、じゃあ……」
「折原の野郎が振り撒いた『悪評』を、利用した奴が居る可能性は否定できねえ」
無論、折原臨也と衛宮切嗣が『シロ』だという可能性もある。
だが、それと同じ程度には、平和島静雄が『シロ』な可能性もある――承太郎はそう踏んでいた。
「だから俺は、平和島静雄に会う。
連中が帰ってきた後にでも、動かせてもらう。付いて来るかどうかは好きにしな」
「もし……その平和島静雄さんが本当に殺し合いに乗っていたら……?」
「ブチのめす」
だが、それは逆の場合も然りだぜ。
承太郎の言葉は、彫像のような重みがあった。
衛宮切嗣の報告がもしも偽りで、折原臨也の口にした平和島静雄の人物評が誤っていたならば。
――その時点で、連中の信用は完全に地に落ちる。
「どんな事情、目的があったにしろ……この『殺人事件』の犯人が私利私欲で越谷を殺したってことに変わりはねえ」
罪のない者を、あろうことか少女を自分の利益の為に利用した。
そういう輩を何と言うか、空条承太郎は知っている。
――『吐き気を催す邪悪』だ。
どんな大義名分があろうと、そんなことをする輩は最低のクズ以外の何物でもない。
これまでDIOの部下として立ちはだかってきたスタンド使い共と、何も違うところはない。
-
「香風。おまえにこれを打ち明けたのは、衛宮と折原に俺が切り捨てられた時の為だぜ。
ヘマを踏む気なんざさらさらねえが、もしもって時の保険だ」
承太郎は静かな闘志で、声に出さず呟く。
ラビットハウスに智乃を先に入らせ、その後へ続きながら。
――少女に見せるには剣呑すぎる眼で、宣戦布告した。
(いつまでも、何もかも思い通りに行くと思ってるんじゃあねえぜ……もし俺の考えが何もかも杞憂だってんなら、てめーらにいくらでも詫びてやる。だが、もしそうでなかったなら……その時は覚悟するんだな)
正義であろうと何であろうと。
空条承太郎は、その『邪悪』を許さない。
【G-7/ラビットハウス/一日目・早朝】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3、越谷小鞠のカード
噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。
1:切嗣と臨也への疑念。
2:DIOの館に向かいたいがまずはこの状況について考える。ゲームセンター行き組が戻ってきたらきっちり問い詰める
3:平和島静雄と会い、直接話をしたい。
4:静雄が本当に殺し合いに乗っていたなら、その時はきっちりこの手でブチのめす。
[備考]
※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦
※折原臨也、一条蛍と情報交換しました(衛宮切嗣、蟇郡苛、香風智乃とはまだ詳しい情報交換をしていません)
【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:健康、泣き腫らした痕
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3
[思考・行動]
基本方針:れんちゃんと合流したいです。
1:先輩、今まで、ありがとうございました。
[備考]
※空条承太郎、折原臨也と情報交換しました。
【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:果物ナイフ@現実
黒カード:不明支給品0〜1枚、救急箱(現地調達)
[思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい
1:ラビットハウスの店番として留守を預かる。
2:蟇郡さんに早く戻ってきてほしい。
3:ココアさんたちを探して、合流したい。
4:衛宮さんと折原さんには、一応気をつけておく。
[備考]
※参戦時期は12話終了後からです
-
投下終了です。
-
投下乙です。
悲しみと優しさと決意と、三者三様の想いが心に刺さる良いSSです。
この三人が真っ直ぐに進んで行けますように。
-
投下おつです
闇ほたるんにならなくて本当に良かった・・・
-
投下乙です。
切なすぎる……
>「だからって、殺すこと、ないじゃないですか。
先輩、笑ってたんですよ。また明日ねって、手を振ってくれたんですよ。
ちょっとお姉さんらしくはなかったかもしれないけど……大きくなりたいって、いつも頑張ってたんですよ」
こことかすごい読んでて心が痛かった
けどそんなほたるんをばっちりケアしたチノちゃんはやはり天使。切嗣とイザヤを(もし犯人だったなら)ばっさり邪悪と切り捨てる承太郎がかっこよすぎてもう
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投下乙です
寒くて、けれど温かいお話だった
先輩が卒業するのを見てみたかった辺のくだりがやばかった
そして承太郎かっこいい
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投下乙です
ほたるんが先輩に再会を約束するあたりで堪え切れなくなった
ほたるんの心情、チノの優しさ、承太郎の強さ、そしてこまちゃんの追悼
全部の要素が噛み合ってて、本当に素晴らしい話でした
-
しんみりした雰囲気を台無しにしかねないですが、投下します
-
午前四時。最初の放送まで残すところ二時間。
生き残り達がいよいよ神経を尖らせるであろう時間帯。
様々な偶然が重なり合った結果、生き残りの殆は島の西部から離れ、中央から東部にかけて散らばっている。
無論、それにも例外はある。
E-1エリア東端、放送局。深夜以来、電灯一つ点いていなかったその施設の一角に、今は煌々と明かりが灯っていた。
建造目的上、放送局には番組収録のために用いられるスタジオが幾つか設けられている。
その一つ――恐らくはニュース番組のセットが残されたままのスタジオが、複数の照明によって眩く照らされていた。
「此度の放映をご覧頂けた幸運なる皆様。私、キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェと申します」
長身を豪奢な長衣で包んだ魔術師が丁寧に一礼する。
近代的なニューススタジオにはまるで似つかわしくない装いだが、当の本人は何一つ気にかけている様子がない。
「皆様、各々方の知己朋友の消息を案じ気が気でないことでしょう。
一体どこにいるのか、今も健在なのか、確かめたくて仕方がないことでしょう」
キャスターは身振りを交え、演説でもするかのように語り続ける。
誰一人それを見ることなく終わるかもしれないというのに。
「ささやかながら、私がお手伝いを致しましょう」
□ □ □
時は遡り、黎明。
ヴァローナはE-3の路端で自らに与えられた装備を再度検めていた。
黒のカードに収められていたものは、カードデッキの他には水晶球が一つとカードキーが一枚。
カードキーの方は詳細不明。どこで使うものなのかも記されていない。
効果欄にも『詳細は第二回放送後に表示されます』とだけ記されている。
「(今は無用の長物。けれど無価値ではない)」
わざわざこんな仕掛けを施しているということは、カードキーを使用した先の『何か』には、それ相応の価値があると考えるべきだ。
強力な装備の隠し場所か、圧倒的優位を得られる設備か、あるいは何らかの特典を得られる権利か。
無論、期待させるだけ期待させておいて落胆させるトラップの可能性もある。
しかしそれを考慮した上でも価値あるアイテムだと言えるだろう。
『もうひとつの支給品、ただのインテリアじゃなかったみたいだね』
「流石に想定外です」
ヴァローナは水晶球を覗き込んだ。
緑子がインテリアと称したのは言い得て妙で、見た目は占い師の小道具と大差ないように思える。
普通なら向こう側が透けて見えるだけのはずだが、この水晶はそうではなかった。
解説に記されていたとおりに念じることで、望んだ場所の風景が水晶球の中に浮かび上がるのだ。
どのような仕組みなのかは分からないが凄まじい機能である。
戦いの場において相手を一方的に捕捉することの有利さは周知の事実。
積極的に攻勢に出る場合でも、遭遇戦を避け体力を温存したい場合でも役に立つことは間違いない。
だが、何度か試しに使ってみるうちに、いくつかの欠陥らしきものも分かってきた。
第一に、有効距離がさほど広くない。エリア1つ分の面積は期待していたが、どうもそれより狭い領域しかカバーできないようだ。
第二に、望みどおりの位置を表示するのがなかなか難しい。こればかりは慣れの問題かもしれないが。
第三に、すべすべとした球状であるため持ち運びにくく、移動しながら使うのが至難の業。
結論を言うと、有用ではあるものの万能には程遠く、頼り過ぎるわけにはいかない代物だということだ。
習熟訓練を兼ねて、ヴァローナは東西にまっすぐ伸びる道路に沿って遠見を続けてみることにした。
ここから東、水晶球が映し出せる距離ギリギリの風景――
「…………」
――人影。
E-2エリアの方からこちらへ向かってくる何者かの姿が見える。
奇妙な風体の男……まるでファンタジー小説から抜け出してきた悪の魔法使いのようだ。
異形の怪物じみたローブにすっぽりと身を包み、両腕と顔は幽鬼の如き青白さ。
今にも眼窩からこぼれ落ちそうな眼球は明らかに焦点が定まっていない。
――アレは本当に人間なのか?
最初に抱いた正直な感想がそれだった。
喩えるなら二足歩行を習得したカエルかイモリ。
もしくは生まれる場所を間違えた深海魚か何かとしか思えなかった。
仮に、ヴァローナに空想怪奇小説を嗜む趣味があったなら、男の容貌を一言で言い表す適切な語を知っていただろう。
書に曰く――インスマス面、と。
『なんというか、その、すごい特徴的?』
緑子の言葉を選びに選んだ表現への返事を考えていると、水晶球の向こうで異変が起こった。
男が不意に立ち止まったかと思うと、何もないはずの虚空を見上げ"こちらに向かって"微笑んだのだ。
-
「……っ!」
ヴァローナはすぐさま水晶球を黒のカードに戻し、デッキを片手に握って身構えた。
迂闊だった。一方的に相手を観察できるものだとばかり思い込んで、あちらからも認識される可能性を失念していた。
最初からそういう仕組みの道具だったのか、それともあの男が特別なのかは分からないし、今はどうでもいい。
きっとあの男はこちらへやって来ることだろう。
原因を探るよりも、まずは未確認の脅威に対処する方が先決だ。
「……」
『……』
不気味なほどの静けさが耳を打つ。
「…………」
『…………』
気を張り詰めさせたまま、数分が経過した。
こちらへ駆けつけて来ているならとうに到着しているはずの頃合いだ。
「………………」
『………………もしかして、帰っちゃった?』
緑子が不安そうに呟いた矢先、夜闇を割って異形のシルエットが姿を現した。
その姿を見てヴァローナは合点がいった。この男、悠長に"歩いて"来ていたのだ。
水晶球越しでも長身だと感じていたが、肉眼でみると妙な威圧感すら感じてしまう。
背丈は目算で190cm半ばから後半。巨漢だと思えないのは、やつれているように見える顔立ちのせいか。
枯れ果て、腐りかけた巨木が分厚いローブを羽織って歩き回っているかのような印象を受ける。
樹木の"うろ"のような眼窩に嵌まった眼球が、ぎょろりとヴァローナを捉える。
「来るか」
ヴァローナが一か八かの先制攻撃に思い至った瞬間、飛び出したままの男の眼球が瞼に覆われた。
笑ったのだ。まばたきをするカメレオンのように。
「こんばんは、お嬢さん方」
男の第一声は、予想外にも柔らかな声色の挨拶だった。
それでもヴァローナは一切警戒を緩めない。
「(……緑子に気付いている)」
やはりこの男は特別な何かを持っている。
水晶球越しにこちらを見たのは奴自身の能力によるもののようだ。
男はヴァローナの警戒心を意に介さず、社交界で挨拶を交わすかのような態度で言葉を続ける。
「何者ですか」
「これは失礼。私、ジル・ド・レェと申します。名簿には仮の名である"キャスター"と記されているかと」
「ジル・ド・レェ……それも偽名であると推察可能です。正式な個人名を開示しないのであれば、敵対者と判断します」
「偽名……はて」
ジル・ド・レェ男爵。世界史においてあまりにも有名な男の名。
そんな名を名乗られてすんなりと本名だと信じられるほど、ヴァローナは素直ではなかった。
名簿に『ジャンヌ・ダルク』の名があることも彼女の認識を後押しした。
"この男と自称ジャンヌ・ダルクは互いに関連性のある偽名を名乗っているのではないか"
十五世紀の人間が目の前にいると考えるよりもずっと、そちらの方が現実味がある。
そもそも、ヴァローナの頭の中には前者の考えは最初から存在していない。
運の悪いことに、ヴァローナはこれまで自分以外の参加者と遭遇していなかった。
緑子のような非現実的存在は認知していても、時代区分としてはどちらも"現代"の存在。
"過去"からの来訪者など妄想に浮かぶ余地すらない。
「困りましたね……ふむ、それでしたら、ジル・ド・モンモランシ=ラヴァルと名乗りましょう」
馬鹿正直に名前を言い直したのを見て、ヴァローナはひとまず臨戦態勢を解いた。
こちらの条件を飲む用意があり、長身ではあるものの強いようには思えないとくれば、これ以上臨戦態勢を続ける意味はなかった。
とはいえ、ヴァローナは男の名乗りを信じたわけではない。むしろ下手な嘘を重ねたことに呆れ返ってすらいた。
何故なら、ジル・ド・モンモランシ=ラヴァルとは他でもないジル・ド・レェ男爵の本名であるからだ。
レェ――Raisとは彼の領地の名。ジル・ド・レェとは『Rais領のジル』を意味する。
つまり、目の前の男がジル・ド・レェ男爵を自称していることには何の変わりもなかったのだ。
ヴァローナは男の名前と素性についてこれ以上問うのを止めることにした。パラノイアの妄想を否定しても面倒なだけだ。
「……キャスター。非攻撃的態度での接近の理由を問います。要求は"水晶"ですか」
「これはこれは。聡明なお嬢さんだ」
-
簡単な推理である。
敵とも味方とも中立とも分からない相手に監視されていると気付きながら、キャスターは焦ることなくのんびりとやってきた。
敵対の意志があろうとなかろうと会いに行くことに変わりはない――
即ち、キャスターにとってこちらのスタンスはどうでもいい事柄に過ぎないということ。
ここから考えられるパターンは「スタンスに関係なく殺すつもり」か「スタンスとは無関係な交渉を持ち込むつもり」のどちらかだ。
隙だらけの姿を晒し続けている点から前者の可能性は低い。
となると、可能性が高いのは後者。交渉のためにやってきたというパターン。
では、キャスターがこちらに持ち掛けてくるであろう交渉とは何か。
キャスターに漏れていたヴァローナの情報は、何らかの手段で遠くのキャスターを観察していたというただ一点のみ。
そしてあっという間に観察を看破したことから、キャスターがこの観察手段に対する事前知識を持っていたことが伺える。
以上を踏まえて考えれば、キャスターは遠隔監視装置が使用されていることに気付き、その持ち主のところへ交渉にやってきただけなのだろう。
交渉の対象は改めて考えるまでもない。
「私は"捜し物"と"尋ね人"を求めて島を彷徨っております。遠見の水晶が得られれば何よりの助けとなるでしょう」
『ど、どうする?』
「交渉材料次第では考慮。無償譲渡を望むなら遠慮を」
「もちろん存じておりますとも。これは如何でしょう。貴女が必要としているものだと思いますが……?」
キャスターが懐から機械的な短い棒を取り出す。
次の瞬間、その棒から眩い光が伸びて刃のような形を取った。
『うわっ!?』
キャスターはゆったりとした動きで手近な木に近付くと、光の剣を軽く振った。
まるで鉈を振って枝を落とすような気軽さで、まぎれもない成木の幹が両断される。
スローモーションのように倒れていく木に背を向けて、キャスターは光の刃を消した。
「如何です? 良い武器でしょう」
「……私がそれを必要としていると推測した根拠は?」
「武器があるのなら、私が現れた時に構えているのでは?」
ヴァローナはしばし思案した。
確かに武器は欲しい。優先順位は索敵専用アイテムよりも上だ。
けれど、本当に一対一の物々交換で終わるのだろうか。
いくら人と物を探すことが目的とはいえ、キャスターにとっても武器は重要なはず。
一方、水晶球は便利なように思えて不便な点も多い代物だ。
水晶球による遠見を知っているのなら、その欠陥も重々承知しているに決まっている。
それらをこちらに有利な条件で交換したことを"貸し"としてくる可能性はないか。
ヴァローナが迷っていることに気付いたのか、キャスターはすっと指を一本上げながら口を開いた。
「実はもうひとつ、貴女に頼みたいことがあるのです」
「……言って」
「もしかしたら、貴女にも大いに利益があるお話かもしれませんが……」
-
□ □ □
ヴァローナとキャスターの邂逅から、時間は更に遡る。
希とジャックが飛行宝具で飛び去った後、地上に残されたキャスターは南下を続け、E-1エリアの放送局を訪れていた。
サーヴァントは現代に関するある程度の知識を与えられた上で現界する。
当然ながら"放送"という概念や"放送局"という施設の役割も把握している。
放送局に足を踏み入れたのも偶然ではなく、その知識を元に『ある計略』を思いついたからだ。
キャスターは精神が錯乱し他者との意思疎通に支障を来しているが、バーサーカーのように知性まで手放しているわけではない。
官憲の目を欺いて子供達を拉致する手腕といい、セイバーを城からおびき出した策略といい、正気だった頃の頭脳の名残りはそこかしこに表れている。
意思疎通という点においても、怯える子供を心から安堵させられる――絶望の落差を強めるためだが――くらいには、本性を偽ることも可能だ。
「ふむ……ふむ……」
長身を屈め、殺し合いの参加者向けに用意されていた資料をめくる。
資料に書かれていることが本当なら、ここの放送設備を使えば島内全域に映像や音声を送ることができる。
主催者の意図は明快だ。これを使って人を集め、殺し合いを加速させろというのだろう。
放送先は各施設や市街地に設置されたテレビ受信機と一部の支給品に限定されるが、その効力は決して小さくあるまい。
「やはり、共犯者は必要ですか」
キャスターは現時点でこの設備を利用することは不可能と結論を下した。
サーヴァントに与えられた知識は万能ではない。
いくらマニュアルが用意されているとはいえ、複数の放送機器を操って全域放送を実行できる保証がないことは、錯乱した頭でも簡単に理解できた。
故に、共犯者が必要だ。機械の取り扱いに慣れた現代人の共犯者が。
龍之介と合流できればそれに越したことはないが、主催者の残したマニュアル通りに機械を動かせる知性があるなら誰でもいい。
「急がなければなりませんね。せっかくの仕込みが台無しになってしまう前に」
□ □ □
――そして、現在。
「此度の放映をご覧頂けた幸運なる皆様。私、キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェと申します」
「皆様、各々方の知己朋友の消息を案じ気が気でないことでしょう。
一体どこにいるのか、今も健在なのか、確かめたくて仕方がないことでしょう」
「ささやかながら、私がお手伝いを致しましょう」
ヴァローナが操作するテレビカメラを前に、キャスターは大仰な身振りで語り続ける。
ここで録画された映像は、ヴァローナの手で速やかに全域放送される手筈になっている。
編集設備も用意されていたが、この映像はどうしても第一回の放送の前に流さなければならなかったので、時間短縮のために無加工での放映と相成った。
「さぁみんな、入っておいで」
キャスターはみなし児をあやす聖職者のような声色で、セットの袖に待機していた"少女達"を招き、予め用意しておいた椅子に座らせた。
顔全体を布で包み隠した、本能字学園の制服を着た小柄な少女――満艦飾マコ。
過剰なまでに豊満な胸元に布を巻いた、巫女服姿の少女――神代小蒔。
首周りを布できつく固定した、音ノ木坂学院の制服を纏う――南ことり。
絶命して間もない彼女達は、ゾンビでありながら破損箇所を隠せば生者と誤認しかねない程度の美観を保っていた。
無論、死体であると理解していれば死体以外の何物にも見えない。
しかしセット脇から自ら歩いてきたシーンを見せられたなら、リビングデッドの実在を知る者以外は簡単に騙されることだろう。
そしてひとたび信じてしまえば、第三者から「あれは動く死体だ」と教えられたところで、生存を信じる心が決して受け入れはしないはずだ。
「不肖ジル・ド・レェ、僭越ながらこの可憐な少女達を保護させて頂いております。
ご友人の方々は是非とも放送局までお越し下さい。彼女達もきっと喜ぶことでしょう」
-
□ □ □
『あの子たち、大丈夫かな』
「分からない」
録画した映像の放映を済ませ、ヴァローナは一旦放送局を後にした。
放送機器のタイマー機能を設定してあるので、主催者による一回目の放送が始まるまでに、同じ映像が自動的に数回放映されるはずだ。
この映像を見た者の何割かは取る物も取り敢えず放送局へ駆けつけることだろう。
ヴァローナの狙いはその参加者だ。
無関係の第三者を装って接近するも良し、脅して武器を奪うも良し、強者を探して刃を交えるも良し。
実のところ、キャスターの提案を承諾するに至った理由の大部分がこれだった。
キャスターは放送局に人を集めて"捜し物"と"尋ね人"が現れることを期待し。
ヴァローナはそれに便乗して武器の確保と強者との戦いを実現する。
利害一致という言葉がこれほど似合う状況はそう多くはない。
『あんな酷い怪我……ちゃんと手当しないと大変だよね』
「…………」
緑子の心配そうな声が、撮影中の"少女達"の様子を思い出させる。
キャスターとヴァローナの関係は同盟ですらない一時的協力に過ぎない。
なので、少女達に一体何があったのか、そもそも彼女達は何者なのかという事情にも踏み込まなかった。
その判断が正しかったのか疑問に思わない、と言えば嘘になる。
重傷を負った少女が、呻き声一つ漏らすことなく、死人のような足取りで歩いているのを目の当たりにしたのだ。
疑問であれ哀れみであれ、何も感情を動かされない者がいるなら、それはもはや人間とは言いがたい。
「……ジル・ド・レェ」
今更ながら、その露骨過ぎる偽名が気にかかる。
ジル・ド・レェは少年への残虐極まりない行為で悪名を残した。
よもや、あの少女達の傷はキャスター自身が――
「…………」
ヴァローナは頭に浮かんだ考えを振り払うように軽く首を振った。
仮にそうだったとして、今更どうなるというのだ。
そもそも、キャスターの目的は"捜し物"と"尋ね人"を見つけ出すこと。
目的達成の過程において、少女達を痛めつける意味などない。
本当に彼が少女達を傷つけたのだとしたら、それは純然たる趣味嗜好に他ならないと言わざるをえない。
――それではまるで、本物のジル・ド・レェ伯ではないか――
□ □ □
キャスターことジル・ド・レェに対するヴァローナの推察は、二つの大きな誤りを含んでいた。
確かにキャスターは捜し物こと宝具『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』と、尋ね人ことジャンヌ・ダルク――と彼が信ずるセイバーを求めている。
だが、それが『目的』ではなく『手段』に過ぎないことに、ヴァローナは遂に気付くことができなかった。
どれほど豊富な知識を湛えていようと、汚染された精神と意思疎通を果たすことなど到底不可能だったのだ。
キャスターの真の『目的』はただ一つ。
この地に招き寄せられる前も、それ以降も変わりなく。
「ああ、ジャンヌよ。貴女に捧ぐ涜神の舞台が整いました!」
ヴァローナの去った放送局の一室で、キャスターは狂ったように宣誓した。
彼を囲むのは五体のゾンビ。三体の少女に加え、墓場で選別した体格の良いゾンビが二体。
最大五体という縛りの中で最大の"絶望(せいか)"を得られるよう考えられた組み合わせだ。
「これより繰り広げられる絶望を! 哀れなる者達を救えぬ神の無力を! 神を恨み憎む嘆きの音色を! どうかご笑覧あれ!」
狂乱するキャスターの手の内で遠見の水晶球が怪しい光を帯びる。
その透明な立体スクリーンは、ヴァローナが用いたときよりも遥かに広く繊細な風景を映し出していた。
ヴァローナの推察のもう一つの誤り。それはキャスターが扱う遠見の水晶球の効力を過小評価したこと。
例えば、銃を支給された者がいるとしよう。
銃そのものの性能は誰が使っても変わらないが、素人が扱えば命中率は激減し、武器としての性能を発揮できない。
逆に玄人が扱えば、素人とは比べ物にならないほどに、銃の性能を引き出すことができるだろう。
遠見の水晶球でも同じ現象が起きていた。
魔術を知らず、扱う術も身につけていないヴァローナが使った場合と、曲がりなりにも魔術師(キャスター)であるジル・ド・レェが使った場合。
後者が前者よりも強力に性能を引き出せるのは当然の理だ。
「さぁジャンヌ! 今こそ知らしめて差し上げよう! 哀れなる子羊達の祈りも! 嘆きも! 決して神には届き得ぬことを!」
-
真の意味での恐怖とは、静的な状態ではなく変化の動態――希望が絶望へと切り替わる、その瞬間のことを言う。
かつてキャスターが龍之介に語った言葉だ。此度の仕込みもまた然り。
今、キャスターは島全域に「三人の生存」という希望をばら撒いた。
その希望が絶望へと切り替わる仕掛けは、キャスターが介入するまでもなく既に済んでいる。
朝を迎える前に辿り着いてゾンビと化した少女と対面するか。朝の放送を迎えて少女の死を知るか。
生きていたという希望が虚構であったと知る絶望。
明確な所在地を知りながら間に合わなかったと思い込む絶望。
その瑞々しい味を湛えたまま贄にできればどれほど良いことか。
聖なる怪物――その"顎門(あぎと)"ゆっくりと開いていく。哀れな贄を喰らうがために。
【E-1/放送局近辺/一日目 早朝】
【ヴァローナ@デュラララ!!】
[状態]:健康、『アーツ 奇々怪々』により若干だが身体能力上昇中
[服装]:白のライダースーツ
[装備]:ビームサーベル@銀魂、手に緑子のカードデッキ
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
黒カード:グリーンワナ(緑子のカードデッキ)@selector infected WIXOSS、カードキー(詳細不明)
[思考・行動]
基本方針: 武器を集めた後、強者と戦いながら生き残りを目指す。優勝とかは深く考えない。
1: 放送局の周辺で他の参加者を待ち受ける。
2: 強そうな参加者がいれば戦って倒したい。特に静雄や黒ヘルメット(セルティ)。
3: 弱者はなるべく手を掛けたくない。
[備考]
※参戦時期はデュラララ!!×2 承 12話で静雄をナイフで刺す直前です。
【E-1/放送局/一日目 早朝】
【キャスター@Fate/Zero】
[状態]:健康、魔力300%チャージ
[装備]:リタの魔導書@神撃のバハムート GENESIS、神代小蒔、南ことり、満艦飾マコのゾンビ
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:生命繊維の糸束@キルラキル、遠見の水晶球@Fate/Zero
[思考・行動]
基本方針:ジャンヌ・ダルクと再会する。
1:放送局で宝具を持つ参加者とジャンヌを待ち受ける
2:名簿にはセイバー以外にもジャンヌの名がある……?
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバー、ランサーと戦った後。
※ジャック・ハンマーをバーサーカーかあるいは他のサーヴァントかと疑っています。
※神代小蒔、南ことり、満艦飾マコの遺体をゾンビ化しました。
【遠見の水晶球@Fate/Zero】
ヴァローナに支給。
千里眼の機能を持つ(もしくは千里眼の魔術の媒体?)水晶球。水晶に遠くの映像が映る。
劇中ではキャスター所有のものとアイリスフィール(未参戦)所有のものが存在する。
アイリスフィールはこれを用いて2.5km以上先の光景を観測していた。
支給品としては、最大でエリア1つ分の範囲から任意のポイントの風景を観測可能。
(同じエリア内という意味ではなく、使用者を中心としてその程度の広さが効果範囲)
使用者が不慣れな場合は精度が落ちたりコントロールが上手くいかなかったりする。
【カードキー(詳細不明)】
ヴァローナに支給。
黒のカードの効果欄には『詳細は第二回放送後に表示されます』とだけ記されている。
-
投下終了です
吐き気を催す邪悪ってこういうことですかわかりません
西のほうが寂しいから何かできないかなと思った結果がこれである
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投下乙です
>タカラモノズ
無事?ランサーを送り出せた本部だけど、お次はキャスター戦か……
このまま南下すればヴァニラにも当たりそうだし勝てるのか…?
そして後ろに女子高生を乗せて原付き走らせる本部という絵面の犯罪感よ
>夏色の風景
この流れは……と思ったけど、なんとか立ち直れたか
やはり日常アニメ勢のこういう描写はくるものがあるなぁ…
承太郎は真相を明かそうとしてるけど、当の静雄は暴走状態でまともに話せなさそうなのがなぁ
>Strange Fake
ま さ に 外 道
こりゃまた凄い爆弾が投下されたな……
主にラブライブ勢の精神負担がやばいことになりそう
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投下します
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高坂穂乃果にとって現在の状況は到底受け入れられるものではなかった。
小汚い男に意識を奪われ、目を覚ましたら信頼していたはずのランサーが傍にいない。
本部とか名乗った小汚い男の話では、ランサーは穂乃果を彼に任せて去ったらしいが、そんな言葉を信用することはできない。
口では何とでも言えるのだ。元より、この浮浪者のような中年はランサーを害していた男。
そんなホームレスの言葉など一片たりとも信じるに値しない。
しかし、ならばどうしてランサーはこの場にいないのであろうという疑問が穂乃果の胸に沸き起こる。
(ランサーさんが、こんな小汚いおじさんに私を任せるわけがないよ)
まず本部の発言は考えるまでもなく嘘と判断。
このような小汚い中年にランサーともあろうものが、穂乃果を任せるはずがない。
(じゃあ、何で。何でランサーさんは私の傍にいないの?)
ランサーが離れたことによって薄れていた愛という名の感情が再燃し始める。
同じくチャームの影響を受けていた千夜はと言えばランサーのことなど忘れたように、土方十四郎とかいう男の死について悔やんでいるようだった。
薄情な女だと穂乃果は思った。結局、あの女はランサーをボディーガードとして利用する気しかなかったのだ。
だからいなくなれば、ランサーのことなどどうでもよくなる。
(私は違う。私のランサーさんに対する思いは本物だもん)
穂乃果と千夜。ランサーのチャームによって感情を歪められた二人であるが、両者に違いがあるとすれば、それはランサーと行動を共にした時間、そして出会った際の状況である。
千夜よりも長くランサーと行動していた穂乃果の方がチャームの影響を強く受けていることに加え、襲われていたところを助けられたという、ドラマティックなシチュエーションが穂乃果の偽り恋心を強固なものにした。
-
(何で、何でランサーさんはここにいないの?)
ランサーは決してこんな薄汚れた中年男に穂乃果を預けていなくなるような人物ではない。
とすればこの中年男は穂乃果をランサーの手から奪い取った誘拐犯ということになる。
だがそうなると新たな疑問も沸いてきた。どうしてランサーは穂乃果のことを助けにきてくれないのか。
何故、この場に颯爽と姿を現して薄汚れたホームレス中年男、本部を打倒しないのか。
(まさか……!)
最悪の可能性が穂乃果の頭をよぎる。
それはこのホームレスによってランサーが既に殺害されたという可能性。
(違う! 違う! 違う! そんなことあり得ない!)
必至に否定するが、ランサーがこの場に現れない理由が他に思い浮かばないのだ。
穂乃果はランサークラスが最速のサーヴァントであるということは知らないが、その速さについては共に行動していたのでよくわかっている。
この浮浪者が穂乃果を攫ったとしても、彼なら容易に追いつけるはずなのである。
(……あの小汚いおじさんが卑怯な方法でランサーさんを殺したんだ)
最終的に穂乃果はその結論に至らざるを得なかった。
無論、正々堂々戦えばあんな浮浪者にランサーが敗北するなどまずあり得ない。
おそらく前と同様に卑劣極まりない手段を用いて、ランサーを死に至らしめたのだ。
「あ、あああああああああ、ああッ!!!」
両膝をつき拳でドンドンと地面を叩く。両目から涙がボロボロと零れた。
-
「ど、どうしたんですか!」
ヴィヴィオとかいう小娘がこちらに寄ってきた。心配しているような素振りを見せているが、こいつは合流後あの浮浪者と親しげに会話をしているのを確認している。信用することはできない。
「何でも、ないよ」
笑顔を作ることがこんなにも難しいことであるということを穂乃果は初めて知った。
大丈夫だから、とヴィヴィオに言いながらも、その心中はとても穏やかとは言えなかった。
(こんな浮浪者にランサーさんが、こんな生きていても意味がないホームレスにランサーさんが、ランサーさんの百万分の一の価値もない薄汚い中年の分際でッ!)
ドス黒い感情とはまさにこのことか。自分でも驚くほどに口汚い暴言が心中に飛び交った。
本来、高坂穂乃果という少女はこのような思考を行う人物ではない。
穏やかで、優しく、真っ直ぐな心根を持ったスクールアイドルのはずだった。
(……殺す。あのホームレスも、ランサーさんを見捨てた奴らも全員殺してやる)
しかし魅了の魔貌が彼女の心を歪めた。それに様々な要因が重なり合った結果、ここに新たな殺人者が誕生することになったのである。
三人の内、女二人は容易に殺害が可能と判断。油断させて後ろから首を絞めれば済む。
しかし、本部はそうはいかないだろう。卑劣な手段を用いたとはいえ、ランサーを倒すということは、認めたくはないが実力者ということになる。
直接的な手段で殺害を試みたとことで、返り討ちにされるのは目に見えている。
もたもたしていたら本部がこの場から去ってしまう。キャスターを倒しにいくそうだが、穂乃果からすれば嘘くさいことこの上ない。おそらくまた何か悪事を働くのだろうと推測する。
(そうだ、黒のカード!)
ヴィヴィオにはお手洗いだと言ってその場を離れてから残りの黒のカードを確認する。
出てきたのは小袋と説明書。内容に目を通した穂乃果の口元がぐにゃりと歪んだ。
青酸カリ。刑事ドラマなどで犯人が被害者を殺害する際によく用いられるあれである。
この毒薬を使用すれば力で劣る女であろうとも男を容易に殺害することが可能。
3人を殺すことが第一目的。では、その後はどうするのか。本部を殺したところでランサーが生き返るわけではない。
(生き返る……ああ! そうかッ! 優勝すればいいんだよ!)
あのモジャモジャのカリフラワー頭が言っていたではないか。優勝すれば願いを叶えてやると。
優勝するためにはμ'sのメンバーも殺すことになるがランサーのためなのだから仕方ない。
ここに来て魅了の魔貌による歪みは最大限に達する。本来の彼女であれば絶対に行わないであろう決断は歪められた愛情によって成された。
(待っててね、ランサーさん。優勝してすぐに生き返らせてあげるから!)
穂乃果は知らない。ランサーは死んでなどおらず、自らの意思で穂乃果を本部に託したということを。
そして、穂乃果が抱く感情は魅了の魔貌によって植えつけられた偽りの愛情だということを。
-
【B-2/駅構内/一日目・黎明】
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:額にたんこぶ、本部に対する憎悪
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
黒カード:青酸カリ@現実
[思考・行動]
基本方針:優勝してランサーを生き返らせる
1:青酸カリを用いて本部たちを殺害。優先順位は本部、千夜、ヴィヴィオ
2:参加者全員を皆殺しにする
3:μ'sのメンバーも殺しちゃうけど、ランサーさんのためだから仕方ないよね
[備考]
※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか(2期1話以降)。
※ランサーが本部に殺されたと思い込んでいます。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が少々薄れましたが、上記の理由によって現在では好意が暴走して、それが本部たちへの憎悪に変わっています。
【本部以蔵@グラップラー刃牙】
[状態]:確固たる自信
[服装]:胴着
[装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero、原付@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより、麻雀牌セット@咲-Saki- 全国編
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を守護(まも)る
1:南下してキャスターを討伐する
2:騎士王及び殺戮者達の魔手から参加者を守護(まも)る
3:騎士王、キャスターを警戒。
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後
【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、十四郎を見捨てて逃げたことへの罪悪感
[服装]:高校の制服(腹部が血塗れ、泥などで汚れている)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実 、不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:心愛たちに会いたい
1:十四郎さん…
[備考]
※現在は黒子の呪いが消えて土方に対する自責の念に駆られています。
【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid
[思考・行動]
基本方針:皆で帰るために行動する
1:穂乃果さんの様子がおかしいので心配。千夜さんも落ち込んでいるようなので励ましてあけたい
2:アインハルトとコロナを探す
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後です。
※ランサーの黒子の呪いについて大雑把に把握しましたが特に重要なことだとは思っていません。
※黒子の呪いの影響は受けていません。
※各々の知り合いについての情報交換は済ませています。
支給品説明
【青酸カリ@現実】
高坂穂乃果に支給。
刑事ドラマなどでよく用いられるメジャーな毒物。
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投下終了します
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投下おつー
他の対主催達は頑張ってるのに昼ドランサー組は何やってるのやら…
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投下おつおつー
>Strange Fake
このゾンビの使い方は想定外だった……
流石旦那、戦力として使うだけじゃないのがえげつない
これはあちこちで波乱ありそう
>優勝をめざして
ランサー本人が意識を変えようが黒子はどうにもならないか
もうだめだこの娘
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投下乙です
しかし、黒子の効果と吊り橋効果が重なっているとはいえ、少し穂乃香の思考が唐突すぎるように感じるのですが……。
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投下乙です。
ですが、穂乃果の心境の変化が少々無理矢理すぎると思いました。
僅か数時間の交流と黒子の効果を差し引いても、二期一話以降の時系列の穂乃果ならばリーダーとして自覚があるはずですのでそう簡単にμ'sのメンバーも殺すという思考には至らないと思います。
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ランサーのチャームや本部への不信感などのフラグを回収したつもりでしたが、強引に見える部分があったかもしれません
μ'sのメンバー殺しについておかしいという意見が多いようでしたら、
「優勝するためにはμ'sのメンバーも殺すことになるがランサーのためなのだから仕方ない。」の部分カットと状態表を、
1:青酸カリを用いて本部たちを殺害。優先順位は本部、千夜、ヴィヴィオ
2:参加者全員を皆殺しにする
3:μ'sのメンバーは……
みたいにぼやかす感じに修正します
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これはこれで面白いからいいと思いますよ
設定的におかしくもありませんし
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投下乙です、穂乃果ちゃんの毒で一波乱の予感!
サーヴァントのスキルにまで昇華された黒子の呪いを受けているのが魔力の欠片もない一般人の穂乃果ちゃんであること
また、主催者が人間の絶望を願う繭であることを考えれば、これくらい制限がゆるくても十分あり得る範囲だと思います
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投下乙です
これはこれで面白いには同意ですが、正直前の話からキャラ変わり過ぎというのは感じますね
原作でチャームにかかったのがソラウさんしかいませんから難しいところですが
愛の黒子って恋愛脳にはなっても、人格が変わったりそれまでの仲間思いな気持ちが消えるものじゃないような…
本部には前話で気絶させられたこともありますし、不信感を持つこと自体はじゅうぶんに有りえると思いますが
それで「仲間と共に脱出」から「殺し合いに優勝する!」にまで変わるのは唐突だと思います
…これ以上は議論スレで話した方がよさそうですね
>>678
黒子の呪いはあるていど魔力があるとシャットダウンできる
(ソラウはシャットダウンすることもできたのに自分から呪いにかかった)ものなので
魔力が低い人ほど惚れやすくなるものではありませんよ
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なんで議論する前提で話を進めているのか甚だ疑問ですね。明確な設定の違背、あるいはその証明がない以上はどう思うかの主観的な問題であり、その決定権は書き手に当然に帰属するものでしょう。
本件は類するケースがないのですから、これを一つのモデルケースとして書き手が確立したものと考えるべきです。
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>>680
自分としてはこの話題が長引きそうだと感じたので議論スレを使いましょうと言ったつもりだったのですが
書き手から決定権を奪うかのような発言に見えたのなら申し訳ありません
ただ、今回の話を書かれた書き手さんは修正を検討されているようですから
たとえば穂乃果の思考に修正をかけるにしても
・皆殺しではなく「本部を殺す」等の方針にしていく
あるいは
・「ランサーを想うあまり、優勝するにはμ'sのメンバーも殺さなければならないことさえ頭から抜け落ちている」といった描写を加える
といったような形の修正もできるのではないかと提案させていただきます
(書き手さんがそういう形での修正はしたくないと思われたのならそれまでです)
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こういっては何ですが……最初に仮投下して反応を待ってから本投下したらよかったのでは……?
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それも思うかどうかというか結果論でしかないでしょう
問題ないと思っていた作品が早期に難癖のような意見をつけられれば
誰だって不安になって譲歩案を出してくることは想像に難くない
◆DbK4jNFgR6様にはもっと作品に対して自信をもっていただき
そのような意見にも屈さず毅然とした対応をしていただければと愚考いたします
面白い作品を読ませていただきありがとうございました
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「キャラの方針転換が唐突過ぎる」という意見を「難癖のような意見」「そのような意見にも屈さず」なんて半ば荒らし扱いするのは流石にダメでしょう
修整訂正は織り込み済みで投下するものですし
ひとつ補足が抜けていたので>>663の続きにこれを追加します
【テレビ放送について】
放送局から送信された映像は各施設や市街地に設置されたテレビ受信機に映される。
また、携帯テレビやそれに類する支給品が存在する場合、それらも対象となる。
キャスターの映像は、午前四時から六時にかけて(=早朝の時間区分の間)定期的に繰り返し放送される予定。
各キャラクターが映像を見たか、たまたまテレビの近くにおらず見過ごしたかの判断は以降の書き手に一任。
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意見が半々に割れているようですので>>676 で書いたように、
「優勝するためにはμ'sのメンバーも殺すことになるがランサーのためなのだから仕方ない。」をカットして、
状態表を
1:青酸カリを用いて本部たちを殺害。優先順位は本部、千夜、ヴィヴィオ
2:参加者全員を皆殺しにする
3:μ'sのメンバーは……
と手直しした上で修正ss投下スレに投下します。
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投下します
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無機質な、しかし見慣れた様相の市街地において、その一画だけは異質な雰囲気を放っていた。
鉄筋コンクリートの家とアスファルトの街とはまるで似ても似つかない、木組みの家と石畳の街。
まるでヨーロッパかどこかに迷い込んでしまったかのようだ。
遊月は予想外の風景に気後れしながらも、地図機能を頼りに目的地へ辿り着いた。
「ここが……ラビットハウス……」
ファンシー趣味の店舗を勝手にイメージしていたが、実際の建物はいい意味で想像からかけ離れている。
ラビットハウスが喫茶店であるとシャロから教えられていなければ、これが飲食店であると気付けなかったことだろう。
扉に手をかけ、暫し逡巡する。
理性では分かっている。ここを訪れるべきだと。訪れなければならないと。
ラビットハウス――ここは遊月とシャロを繋ぐ唯一の場所。
彼女との再会を願うなら、ラピッドハウスの扉を叩くより他にない。
さもなければ広い島を当て所もなく彷徨うだけだ。
「おじゃまします……!」
意を決して扉を開ける。
視界に飛び込んで来たのは、建物の外観に見合ったシックな内装。
板張りの床に木組みの味わいを活かした天井と、そこから吊り下げられたシンプルでお洒落な照明。
そして、店の雰囲気から盛大に掛け離れた、不良の姿。
とてつもなく鋭い眼光が遊月を捉える。
「……おじゃましました」
思わず扉を閉めてしまった。
シックな喫茶店の唯一の客が見るからに危なげな不良だなんて、一体誰が想像できるというのだ。
しかも遠近感がおかしくなったのではと思ってしまうほどの長身で、学生服がはちきれそうなくらいの体格ときた。
ましてや何時誰に襲われるかも分からないこの状況。
遊月がつい現実から目を背けてしまったことを誰が責められるというのだろう。
「……もう一回……」
恐る恐る扉を開け直し、隙間から中を伺う。
不思議なことに店内が全く見えない。
代わりに、隆起した筋肉で張り詰めたシャツと強靭な胸板がそこにあった。
「ひあっ!?」
咄嗟に扉を閉じようとするも、不良の手に扉をがっしりと掴まれて阻まれてしまう。
これは危険な状況だと理性でない部分が警報を鳴らしている。
生命の危機だけでなくそれ以外の面も含め。
咄嗟に逃げ出そうとする遊月に投げかけられたのは、存外に優しい響きの言葉だった。
「入りな。取って食いはしねぇ」
長身の不良は扉を大きく開いて身をずらした。
改めて店の中に目をやると、カウンターの向こうに誰かがいるのが見えた。
先ほどは小柄すぎたせいで気が付かなかったのだろう。
淡い髪色の少女が、店主然とした態度でこちらをじっと見つめている。
あの子が――
遊月は直感した。
あの子が、シャロが話していたラビットハウスの店主の娘、香風智乃だと。
□ □ □
「はい、どうぞ」
「あ……ありがと」
智乃が入れてくれたコーヒーを、一条蛍という少女が運んできてくれた。
結局、遊月はなし崩し的にラビットハウスに招き入れられ、コーヒーまで御馳走になることになってしまった。
大柄な不良――空条承太郎は少しばかり離れた席に腰を下ろしてグラスを傾けている。
グラスの中身がなんとなくアルコールに思えるのは気のせいだと思いたかった。
「……」
品の良いカップに口をつける。
苦味と甘味が絶妙に混ざり合った液体が喉を滑り落ちていく。
ふと、深夜から殆ど水分を補給していなかったことを思い出した。
誰にも遭わないようにラピッドハウスを目指すことばかりに気が向いていて、喉の渇きすら忘れていたのだ。
そんな初歩的なことすら頭になかったなんて、我が事ながら情けなくなってしまう。
-
「……あったかい」
それはきっと、コーヒーの温度だけへの感想ではなかった。
遊月は半分ほど飲み終えたカップをソーサーに置き、静かに息を整えた。
「あのね、智乃さん。私……シャロさんに会ったんだ」
「ほんとですか!?」
これは罪の告白。どんなに苦しくとも、どれだけ責められようとも、決して避けてはならない報いの時。
ひとつひとつの出来事を思い返しながら、遊月は事の成り行きを説明した。
シャロと出会った経緯。
ピルルクの力でシャロの願いを覗き見てしまったこと。
定春の暴走で謝る暇もないまま喧嘩別れになってしまったこと。
どうしてもシャロに謝りたいと思っていること――
全てを語り終えたところで、遊月は自分の頬に冷たい何かが伝っているのを感じた。
「――大丈夫ですよ」
何もかもを聞かされたばかりにも関わらず、智乃の声は、優しかった。
糾弾され、責め苛まれることすら覚悟していたのに。
「確かにシャロさんは気にしてたみたいです」
「…………」
「けど私達はみんな、がっかりなんてしてません。嫌いにもなりません。シャロさんはシャロさんです」
「……でも、私は……」
「ごめんなさいと謝って、それでおしまいでいいと思います。シャロさんもそう思ってるはずです」
友達だから、分かるのか。
遊月が押し黙った代わりに、今度は智乃が色々なことを話し始めた。
それは何の変哲もない思い出話。
笑って、遊んで、慌てて、少し怒って、謝って。
智乃が語る、シャロと友人達とのありきたりの日々は、羨ましいくらいに輝いていた。
――なんて、空回り。
自嘲という言葉ですら生温い。自分があまりにも滑稽に思えた。
シャロは満たされていた。多少のコンプレックスはあっても、温かい友人達に囲まれて、幸せに過ごしていた。
そして全てを奪われた。
極論すれば、遊月にとってこの殺し合いはセレクターバトルの延長戦。
今まで続けてきた、願いを叶えるために他の誰かを不幸にする、ハイリスク・ハイリターンな戦いの続きでしかない。
けれど、シャロにとってはまるで違う。
シャロはここに連れて来られた時点で全てを失ったも同然なのだ。
仮に、最後の一人になって友人達との元通りの日常を願ったとしても、それはマイナスがゼロに戻るだけ。
いわばハイリスク・ノーリターン。恐怖と苦痛の記憶が残るならゼロにすら戻れない。
そんな子によくも『叶えたい願いがあるのか』なんて聞けたものである。
手元にない幸せを求めて腕を伸ばした遊月。
腕いっぱいに抱えていた幸せを根こそぎ取り上げられたシャロ。
ピーピング・アナライズが覗き見たシャロの願いは、奪われた日常の続きに他ならない。
ごめんなさいと謝って、気にしてないよと受け止められて、それでおしまい。
たったそれだけのことだったのだ。
たったそれだけを望んでいたのだ。
「でもおかしいです……みんな気にしてないって言ったのに、シャロさんはまだ気にしてたんですか……?」
智乃が何事か訝しがっているが、もう遊月の意識には入っていない。
遊月は残りのコーヒーを飲み干して勢い良く立ち上がった。
「私、もう行くね。シャロさんを探しに」
「え……危ないです!」
そう言われるのは想像していた。
この島にいる人がみんな優しい人であるわけがない。
無力な参加者を食い物にしようと手ぐすねを引いて待っている者もいるだろう。
それでも、いや、だからこそ遊月はじっとしていられなかった。
「遊月さんも私達と一緒にいましょう。承太郎さんの他にも強そうな人がいっぱいいるんです。一人じゃ危ないです」
申し訳ないくらいに有難い申し出ではあったが、遊月の決意は揺らがない。
-
「ごめんね。でも、危ないのはシャロさんも一緒。みんながここで待ってるより、誰かが探して回った方がいいと思う」
「でも……」
「……コーヒー、美味しかった。ありがとう」
自然と頬に笑みが浮かぶのを感じながら、椅子から立ち上がり、踵を返す。
と、二人のやりとりを静かに聞いていた蛍が、店を後にしようとする遊月の背中にささやかな声援を投げかけた。
「あの……上手く言えないですけど、がんばってください」
「……うん」
ラピッドハウス――ここはとても良いところだ。
シャロもこの店に戻って来れれば、きっと心安らぐことだろう。
振り返ることなくラピッドハウスを出た遊月は、視界の隅に大きな人影が映っていることに気がついた。
そういえば、いつの間にか店内から承太郎の姿が消えていたような気がする。
きっと自分達に気を使って席を外していてくれたのだろう。
「待ちな」
承太郎はラピッドハウスの外壁にもたれかかったまま、一枚の黒いカードを遊月に投げ渡した。
……承太郎の手ではなく、横のあたりから生えてきた別の手が投げたように見えたのは気のせいだろうか。
「餞別だ。余り物で悪いがな」
「あの……本当に、いいんですか?」
「気にするな。俺には"こいつ"が憑いてる」
承太郎の背後から別の人間の輪郭がぬうっと現れる。
憑いているという表現は言い得て妙で、まるで背後霊のようだ。
支給品なのか、それとも元々憑いていたのかは知らないが、さっきカードを投げたのも背後霊らしきモノの仕業なのだろう。
あれが守護霊だとしたら、並大抵の悪霊は拳で殴り飛ばしてしまいそうだ。
「じゃあな」
用件が済むなり、承太郎はラピッドハウスの中へ戻ろうとする。
遊月は慌てて承太郎を呼び止めると、餞別のお礼代わりを送り返した。
「蒼井晶には気をつけてください。見た目は良くても中身は陰険で最悪です」
「……蒼井晶だな。こちらからも一つ言っておくぜ。衛宮切嗣と折原臨也には心を許すな」
「衛宮……折原……」
「連中はゲーセンの方にいるはずだ。一応は俺達の仲間ってことになってるが、どうにも信用が置けねぇ。分かったな」
「は、はいっ」
そうして本当に扉が閉ざされる。
遊月は名残りを惜しむようにラピッドハウスを見つめ、やがて足早に立ち去っていった。
駆け足で先を急ぎながら、受け取ったばかりの黒のカードに念じてみる。
本来であればそれで何かしらの支給品が手元に現れるはずだ。
しかし――
「痛っ!」
焼けつくような痛みが右手の甲に走る。
そこにあったのは綺麗な三つの痣。不思議な力を感じる赤い紋様だった。
【G-7/市街地/一日目・早朝】
【紅林遊月@selector infected WIXOSS】
[状態]:健康、決意
[服装]:普段着
[装備]:ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS、令呪(残り3画)@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2 (確認済み)
[思考・行動]
基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない
1:シャロを探し、謝る。 そしてラビットハウスに戻る。
2:何かあった場合もラピッドハウスに戻る。
3:るう子には会いたいけど、友達をやめたこともあるので分からない…。
4:蒼井晶、衛宮切嗣、折原臨也を警戒。
[備考]
※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャージするのに3時間かかります
※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です
-
【G-7/ラビットハウス/一日目・早朝】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2、越谷小鞠のカード
噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。
1:切嗣と臨也への疑念。
2:DIOの館に向かいたいがまずはこの状況について考える。ゲームセンター行き組が戻ってきたらきっちり問い詰める
3:平和島静雄と会い、直接話をしたい。
4:静雄が本当に殺し合いに乗っていたなら、その時はきっちりこの手でブチのめす。
[備考]
※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦
※折原臨也、一条蛍と情報交換しました(衛宮切嗣、蟇郡苛、香風智乃とはまだ詳しい情報交換をしていません)
【一条蛍@のんのんびより】
[状態]:健康、泣き腫らした痕
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3
[思考・行動]
基本方針:れんちゃんと合流したいです。
1:ここでみんなを待ちます。
[備考]
※空条承太郎、折原臨也と情報交換しました。
【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:果物ナイフ@現実
黒カード:不明支給品0〜1枚、救急箱(現地調達)
[思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい
1:ラビットハウスの店番として留守を預かる。
2:蟇郡さんに早く戻ってきてほしい。
3:ココアさんたちを探して、合流したい。
4:衛宮さんと折原さんには、一応気をつけておく。
5:シャロの状態に違和感。
[備考]
※参戦時期は12話終了後からです
【令呪@Fate/Zero】
空条承太郎に支給。
聖杯戦争に参加するマスターに与えられる、自身のサーヴァントに対する絶対命令権。
期間が短く具体的な命令ほど効果が強く、命令の幅が広すぎたり長期間に及ぶ場合は効果が落ちる。
令呪を宿すことは奇跡といえるレベルの現象だが、一度宿った令呪は普通の魔術師でも移植や譲渡が可能。
支給品として見た場合、絶対命令権としての効力は実質的に無意味。
ただし令呪が持つ魔力を転用して使い捨ての魔力源とすることは問題なく可能。
魔術師でない参加者も、一部の支給品の使用不能時間を短縮し即座に使用するといった使い方ができ、
所有者の同意があれば他人に譲渡することもできる(一画ずつから可。譲渡した令呪は独立した黒カードになる)
体表に顕現させた状態で装備者が死亡した場合、令呪は消滅する(カードに戻されていた場合は消滅しない)
-
以上で投下終了です。
-
投下乙です
おぉう 参戦時期のズレって怖い
遊月はウリスのこと全く知らないからなあw
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投下乙です
これでシャロは遊月の知り合いに、遊月はシャロの知り合いに会ったことになるのか
シャロはどんどん街から離れてるし合流は厳しそうだなぁ
-
投下します
-
「……すっげえ……」
茫然と声を漏らしたのは雨生龍之介だ。
心愛も彼と似たような反応を見せていて、リタだけが怪訝そうな顔をしている。
自らの周りにいる二人の緊張感のなさに呆れるのも忘れ、彼女は頭を働かせていた。
――事態は、今から数十秒ほど前まで遡る。
リタたちが休息を終え、いざラビットハウスへ歩き出さんとした矢先の出来事だった。
夜闇の向こう。
三人が滞在しているB-5エリアの北西方向に、何かとてつもなく眩い光が迸ったのが見えたのだ。
最初に気付いたのは心愛だった。その後龍之介、リタと続く。
電灯の明かりにしては光量が多すぎるし、爆発のそれとも異なったタイプの光。
龍之介は「CG」だとか何とか言っていたが、生憎リタにその意味はわからなかった。
「リタちゃん、さっきの何だと思う? すっげえ光だったけどさ、灯台とかあの辺にあったりした?」
情報交換の中で、龍之介たちはリタが橋を越えてこちらの島へ渡ってきたという話を聞いていた。
それに偽りはないが、だからこそリタはあの光へ良からぬものを感じているのだ。
訝しむような目で光の方向を見据え、小さく口にする。
「……なかったはずよ。あの橋は水面すらろくに見えない真っ暗闇。灯台なんてものがあれば、流石に気付くわ」
「んん……となるといよいよアレ、何だろなあ。ひょっとしてアレかな。セイハイセンソー、とかいうやつの関係者?」
「……セイハイセンソー?」
「あ。……んー、これ言っていいのかな。旦那にどやされねぇかなあ…………、まぁ、いっか。まあ俺も正直よく知ってるわけじゃないんだけど。えっとね―――」
それから龍之介は、リタへセイハイセンソー……もとい『聖杯戦争』についてを語って聞かせた。
もっとも、彼はマスターとしての自覚が低い。
彼自身の口からも言っているが、聖杯戦争についての知識も他の魔術師に比べればごくごく微々たるものだ。
だから、彼の説明にはやや支離滅裂なきらいがあった。
しかし、意味がわからないというほどではない。
人智を超えた存在同士が戦う、それだけでも分かればリタにとっては十分だった。
「……なるほどね。で、その聖杯戦争に一枚噛んだ連中ならさっきの光ももしかしたら……ってこと?」
「ありえなくはないんじゃないかなぁ。俺が見た時とか、プレステ顔負けの勢いでドンパチやってたし」
適当な調子で答える龍之介に、リタは頭を抱えたい想いへと駆られた。
心愛も心愛で、事の重大さには気付いていないようだ。
彼らは確かに無害なの『かも』しれないが、現状認識が甘すぎる。
「私が通ってきた時、あそこに灯台はなかった。なら、さっきの光は誰かが起こしたってことになる」
「まぁ、そうなるわなあ。でもそれがどうかした?」
「……あくまで推測よ。けど、あの光がもし『聖杯戦争』の関係者が起こしたものだとすると」
前置きをした通り、あくまでこれは推測だ。
それも、相当悲観的な方へ偏らせた推測だ。
実際のところは違うかもしれないが、しかしこの状況。あらゆる事態を想定しておくに越したことはない。
「あれ、もしかして橋を壊したかったんじゃないのかしら」
「…………なーるほど」
ここまで言えば、龍之介も理解したようだった。
『プレステ』を知らないリタには、彼の伝えたいことは分からないが……途方もない強さらしいことは分かった。
そんな強者にしてみれば、参加者を殺すだけなら楽勝に違いない。
そして島と島を渡る事実上唯一の手段である橋。それを潰せば、どうなるか。
-
「私が殺し合いに乗っていて、そんな馬鹿げた力を振り回せるんだったらそうする、ってだけの話よ。
逃げる獲物を追いかけて殺すより、逃げ場を最初から塞いでおいた方がやりやすいでしょ?」
「だとするとそりゃマズいよなあ……リタちゃんの推測が合ってたらと考えると、こりゃおっかねえや」
「渡ってから橋を壊したのか、それとも水を渡る手段を持ってるのかは知らないけどね」
でも、私的には此処からさっさと離れたいところ。
龍之介と心愛が離れたがらないようなら、一人ででも逃げさせてもらうつもりだったが。
「よし。ココアちゃん、もう足は問題ないんだよね?」
「うん! 傷はまだちょっと痛むけど、もうばっちり動けるよ〜!」
「そんじゃ、鬼さんが来る前に退散するとしますか。とりあえず駅まで行きゃ、電車もあるかもしれないし」
地図だと路線、ちょうどラビットハウスの近くまで通ってるしさ。
それを聞いて心愛は「ほんとだ!」と喜んでいた。
『電車』というのが何かは知らないリタも、龍之介が珍しく建設的な発言をしたらしい、ということは分かった。
しかし……さて、どうしたものだろうか。
スムーズに移動できるらしいのは結構なことだが、それではリタの目的である人探しを並行させられない。
そこについても、道中で考えておく必要がありそうだ。
こうして彼女たち三人は、釁れの騎士に遭遇することなくこの地を後にする。
それはひょっとすると、これまで一度として捕まったことのない連続殺人鬼の幸運の恩恵だったのかもしれなかった。
【B-5/1日目 早朝】
【雨生龍之介@Fate/Zero】
[状態]:健康
[服装]:普段着
[装備]:手術用のメスやハサミ(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚、医療用具(現地調達)
[思考・行動]
基本方針: 心愛と一緒にラビットハウスを目指して心愛の友達を探す。
1: とりあえず駅へ向かう。
2: リタに激しい興味。彼女もいずれ作品とする。
3: 心愛を使って作品を作りたい。
4: 作品を延命させる方法を探す。
5: あれ? 聖杯戦争の関係者がいるっぽいってことは、やっぱり旦那も一枚噛んでるのかなぁ?
[備考]
※キャスターが龍之介の知る青髭ということに気づいていません。
【保登心愛@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:足に擦り傷(処置済)
[服装]:ラビットハウスの制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:1〜3枚、具@のんのんびより
[思考・行動]
基本方針:龍之介たちと一緒にラビットハウスを目指して友達を探す。
1:よーし、駅に行こう!
2:怖いけどお姉ちゃんとして頑張る。
3:リタちゃんは不思議ちゃんなんだね〜。
【リタ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[装備]:アスティオン@魔法少女リリカルなのはvivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:カイザルとファバロの保護。もしカイザル達がカードに閉じ込められたなら、『どんな手段を使おうとも』カードから解放する
0:とりあえずはラビットハウスへの道のりに同行しつつ、人探しを並行させる
1:カイザル達の捜索。優先順位はカイザル>ファバロ
2:駅までは同行。ラビットハウスを指標として目指すのは変わらないが、同行するかを少々迷い中
3:繭という少女の持つ力について調べる。本当に願いは叶うのか、カードにされた人間は解放できるのかを把握したい
4:アザゼル、『聖杯戦争の関係者』には警戒。ラヴァレイも油断ならない。
5:心愛については信用。龍之介はまだ疑ってこそいないが、妙なものを感じてはいる。
[備考]
※参戦時期は10話でアナティ城を脱出した後。
-
▼
―――破壊する。
橋を渡った先にあった施設を見るなり、セイバーは躊躇なく自らの聖剣を振るった。
真名解放ではない。あくまで武器として、それでも猛烈な威力を持った斬撃の嵐をくれてやったまでだ。
それでも、人間の手による被造物を破壊する程度ならば造作もない。
施設が診療所程度の大きさであったことも幸いし、何箇所かの柱を壊すだけで倒壊には事足りた。
「容易いな」
橋を消滅させ、早くも施設を一つ破壊した。
地図によればここは病院。
道具を回収されぬよう、出来ることなら跡形もなく消し去っておきたかったが、流石にそこまですると消耗過多だ。
次に真名解放を用いる時は、使うに相応しい状況を見極める必要がある。
ここで言う相応しい状況とは、騎士としての誉れという意味でなく、より戦を優勢に進められる状況という意味だ。
誉れも高き王の聖剣。
それも、この殺し合いでは単なる殺戮の道具に過ぎない。
――他ならぬセイバー自身が、そうしたのだ。ならば、後は振り返ることなく歩み続けるだけ。
地図によれば、この付近には本能字学園なる施設があるらしい。
時計回りに会場を闊歩していく以上、通り道として通過する場所だ。
立ち寄り、参加者の有無を確認し――可能ならばこれも破壊する。
どの道、これといって限定された目的地があるわけでもないのだ。
少々足を伸ばしてホテルまで赴くか否かは、その都度判断すれば良いだろう。
先ずは本能字の地を目指す。そう決断し、セイバーは一歩を踏み出した。
「―――待て。何処へ行くつもりだ、セイバーよ」
その足取りを、引き止める声が有る。
改めて驚くべき事でもない。
凛々しく男らしいこの美声を、セイバーは決して忘れることなど出来ない。
……出来ることならば、再び相見えたくはない相手だったが。
「…………」
振り返った先にあった姿は、セイバーの記憶と全く違うことのない偉丈夫だ。
世界中の誰が見ても、誰一人醜男と形容はせぬだろう絶世の美貌。
その顔に点と刻まれた魅了の黒子の効能は、果たしてこの殺し合いにおいても健在なのだろうか。
十八番の二槍は持ち合わせていないようだったが―――その目を見れば、彼が何をしに此処へ参ったかは想像できる。
「……島と島とを隔てる橋が落ちていた―――いや、“消えていた”と云うべきか。
問わせてもらおう、誉れも高き騎士の王よ。あの橋を落としたのは、お前の聖剣か?」
「……驚いたな。よもや貴方が、まだ私を誉れある者と呼んでくれるとは」
答えるまでもない。
彼女が放った答えに、ランサーは何も言わなかった。
ただ、その手に持った二槍を……征服王の佩刀と、彼の新たなる好敵手から授かった妖刀を構える。
それを確認するなりセイバーもまた静かに、刀身のさらけ出された聖剣を構えた。
-
――激突に言葉は要らない。何故ならば、今ここに矛を交える二人の英霊は、どちらも今や騎士ではないからだ。
騎士王は自ら、騎士としての道を捨てた。
輝く槍兵は敗れ、騎士道を捨てることを決めた。
過程も善悪もまるで違えど、騎士をやめた、ということに限っては違いはない。
先手を取られたのはセイバーだった。
踏み出したランサーは、彼女の記憶に残っているそれよりも遥かに勝る速度でセイバーへと肉薄したのだ。
(―――速いッ)
本来の彼の速さより、明らかに数段上の速度だ。
一体何が―――そのカラクリは、彼の足にあった。
気になってはいたのだ。彼の、まるで隣の島からやって来たかのような物言い。
他ならぬ自分が橋を破壊したというのに、一体如何にして対岸へと渡ったのか。
ランサーが足へ装備しているのは、車輪の付いた近代的デザインの靴であった。
水色の薄羽を生やしたそれは、セイバーの知る彼が使っていた道具ではない。
破壊された橋の地点へ赴いたのはいいが、ランサーをしても対岸への移動は難儀だった。
一度海へ飛び込み、それから泳いで登る手段も考えたが、いかんせん時間がかかり過ぎる。
そこで彼が目を付けたのは、自身の支給品だった。
騎士である己には似合わない道具だと思い、時が来次第適切な相手へ渡そうと考えていた品物。
名を、“マッハキャリバー”。宝具でも魔導具でもない、“インテリジェントデバイス”だ。
これを装備し、使用することで、空中へ道を伸ばすことが出来るようになる。
その記述を思い出した彼は躊躇うことなくこれを履き、説明通りの魔法を行使して島と島の間を強引に押し通ったのだ。
元よりランサーはサーヴァント。魔力の量ならば一介の魔導師にすら引けを取りはしない。
マッハキャリバーを駆動させ、加速しての初撃。セイバーの意表を突き、先手の一太刀を見舞う。
生半可な使い手ならばこの時点で必殺出来たやもしれないが―――彼女はそうではない。
身を反らすことでかすり傷程度に手傷を留め、斬り上げで反撃する。
ランサーもそれを受け止め、初手の差などはすぐに無意味なものと化した。
目にも止まらない速さの戦いが交わされる。
だが、それは決して長くは続かない。
“ランサーのサーヴァント”ディルムッド・オディナはセイバー、アルトリア・ペンドラゴンに勝利できない。
「ぐ……ッ」
攻め切れない。
ランサーが直面した問題は、ごくごく単純な、初歩的と称してもいいようなものだった。
征服王の剣が阻まれる。本部以蔵から受け取った刀も同じだ。
セイバーが剣を振るう度に、前に戦った時は感じなかったほどの重さを腕が感じ取る。
それは彼女の覚悟の重さでも有るのだろうが、決してそれだけではないだろう。
ディルムッドは確かに、ベガルタとモラルタという二本の剣を扱うことが出来る。
しかし、今のディルムッド・オディナはあくまでもランサーのクラスとして召喚されたサーヴァントだ。
村麻紗とキュプリオトの剣、この二本が持つポテンシャルを最大限に引き出すことは当然不可能である。
対するセイバーは、自身の象徴でもある黄金の聖剣を振るっているのだ。
実力以前の段階、得物の差――それもまた、サーヴァント同士の戦いを左右する要素として十分に機能し得る。
-
「来い……!」
「……!」
ランサーが命ずると共に、彼の足元から、空中へと“道”が生まれた。
正式名称をウイングロード。
このマッハキャリバーの本来の所持者も愛用していた、移動用の魔法である。
しかし。
使い方次第では十分、接近戦にも応用可能だ。
ランサーの周りに螺旋を描くように広がっていく空中の道。
彼はマッハキャリバーでその上を走行しながら、助走を乗せた一太刀をセイバーへ見舞った。
「ッ」
速度の乗った重い一打を前に、さしものセイバーも体勢を崩す。
ランサーはその隙を決して見逃さない。
懐まで踏み入れば、リーチに優れた村麻紗で彼女の胴を狙った。
騎士王の鎧は切っ先を通しこそしなかったが――サーヴァントの腕力と加速の乗った一撃を前に大きく凹む。
当然、着用者であるセイバーにも少なくないダメージが通った。
「―――、ランサー……貴方は」
「こんな戦いをする騎士であったか、と問うのだろう。ああ、そうだ。俺は今、騎士道を棄てている」
すべての迷いは振り切った。
愛の為? 否。
忠義の為? 否。
「俺はもはやランサーではないのだ、騎士王。
我が名は“ディルムッド・オディナ”……それこそが」
槍はない。
だが剣はある。
騎士王との間に存在する力の差を埋める可能性を持った、マッハキャリバーもある。
ランサーのサーヴァントであることを捨てた彼ならば、騎士王の領域へも踏み入ることが出来る!
「―――貴様を倒す男の名だ」
次に繰り出したのは蹴りだった。
マッハキャリバーによるものだが、相手がランサーの英霊という固定観念に縛られたセイバーは対処が遅れてしまう。
側頭部を横殴りにされ、ぐらりと蹌踉めいた所を一閃。
キュプリオトの剣を用い放った全力の袈裟斬りが、セイバーの鎧へ亀裂を生み出す。
間髪入れず、村麻紗が彼女の首を切り落とさんとした。
情け容赦は存在しない。
自分は殺し合いを打ち砕くために立ち上がった者で、彼女は殺し合いに乗るために立ち上がった者。
であれば―――聖杯戦争から続くこの因縁を清算するには、自分か彼女、どちらかが死ぬより他にないのだ。
「倒す……だと」
しかし。
セイバーは、村麻紗を聖剣で受け止めていた。
拙い――ランサーが直感的に判断した時にはもう遅い。
勢いのいい踏み込みに乗せた突きが、ランサーの腹を穿った。
-
「舐めるなよ、ランサー……いや、“ディルムッド・オディナ”」
怒気すら含んだその声に、ランサーは改めて悪寒を覚える。
貫かれた腹の傷が原因で喀血するのも厭わず、彼はウイングロードを逆走して後退を図る。
だが、それを許すセイバーではない。彼女もまた、ディルムッドのウイングロードへと上がって来ていた。
それを確認するなり、マッハキャリバーを用い加速。ランサーの剣が二本揃って騎士王を切り伏せんと轟く。
「どれだけ猪口才な戦法に頼ろうと、剣の領分で私に敵うとは思わないでもらおうか」
今度はただ止めるのではない。
剣を横薙ぎに振るってランサーの二刀へぶち当て、太刀筋を大きく揺らがせバランスを崩させた。
分が悪いと判断した彼が、何か行動へと出る前に、踏み込んだ聖剣の一閃が左腕を肘先から奪い去っていた。
宙を舞ってウイングロードより落下した村麻紗が地面へ突き刺さる。
二槍を振るい、無双を誇ったフィオナ騎士団の戦士は今や隻腕だ。
腹を貫かれた傷からも血が絶え間なく流れており、対するセイバーは鎧を損傷している以外さしたる傷を負っていない。
それでも、ランサーは不敵な笑みを絶やすことはなかった。
「そちらこそ、あまり俺を舐めないで貰いたい」
キュプリオトの剣を片手で構え、退くどころかそのまま至近距離から加速を開始するランサー。
流石のセイバーもこれには面食らう。
聖剣越しに彼女を襲う加速の力―――そのままランサーは、セイバーへと再びマッハキャリバーによる蹴りを繰り出した。
片腕を削がれたともなれば、当然戦いの感覚も変わってくるはずだが……彼はサーヴァント。輝く貌のディルムッド。
それしきのことで音を上げるほど軟弱な男に成り下がった覚えはない。
蹴撃が止められる。すかさず切り込んだキュプリオトの切っ先が、鎧の裂け目を広げるように斬り捌いた。
「かつてお前に見せた二槍は今はない。それどころか貫かれ、隻腕にまでも成り果てた。
しかし―――この魂の輝きまでもを捨て去った覚えはないぞ、騎士王」
剣の先端からは、彼女の血が滴っていた。
聖剣を携えた騎士王を相手に、槍を失った槍兵が手傷を与えたのだ。
セイバーは、彼女の時間軸ではついぞ決着を着けられなかった好敵手の姿に歯噛みする。
以前のセイバーならば、喜んで彼の奮戦を受け入れたろうが―――しかし、今はそうではない。
あと一撃でも通すことが出来たなら、彼は間違いなく殺せるだろう。
なのに、それがあまりにも遠い。
どのように攻め落とすか―――考えている間にも、敵は再び片腕の身で襲いかかってくる。
何度も同じ手を食うものか。
セイバーは黙したまま宝具を構え、彼を迎え撃つべく走った。
▼
病院を目指し進んでいた、七人の対主催者たち。
坂田銀時。
桂小太郎。
コロナ・ティミル。
絢瀬絵里。
宮内れんげ。
結城友奈。
そして――鬼龍院皐月。
彼女達が駆け付けた時には、既に終わった後だった。
-
「な……」
目の前に広がる、瓦礫と化した目的地。
そしてその傍ら、一人の整った顔立ちの男が、鎧姿の少女に剣で刺し貫かれている。
負傷しているのはどちらも同じのようだったが、やはり貫かれた男の方が全体的に負傷の度合いは酷い。
左腕は半ばほどで断ち切られ、腹にも開いた穴が今も生々しく血を垂れ流していた。
対する少女は、鎧への損傷とその内側からの出血。
打撲なども見られるが、精々その程度だ。
少女の瞳が、七人の方を向く。
突き立てた剣が生温い音を立てて引き抜かれ―――男が、自らの血だまりにぐちゃりと崩れ落ちた。
「……まずいな」
口にしたのは皐月だ。
七人を統率する役回りを進んで担う彼女は、それに足りるだけの実力も当然持ち合わせている。
本能字学園の支配者として、様々な強者を見てきた彼女に危険と言わしめるほどの相手。
見れば、銀時と桂も既に臨戦態勢に入っていた。
何より拙いのは、何といってもこちらが全員、軽く回復したとはいえ相当に疲労しているということだろう。
敵手も状況的には同じだが、程度でいえばあちらの方が優勢で間違いない。
数の優位性は戦いにおいて一貫しないということを、皐月は知っている。
―――セイバーは、現れた大所帯を見、思う。
如何にするべきか、と。
ランサーとの戦いで、セイバーも決して少なくない手傷を負っていた。
鎧の下にまで及んだ刀傷、頭部への打撲、鎧越しに受けたダメージも無視できるものではない。
戦いを続行する上で問題はないが、これからこの七人全員を相手取るとなれば、あまりにも分が悪すぎる。
もっとも、中には非戦闘員もいるようだが―――さて。
「…………」
いや。
ここで戦端は起こすべきではない、セイバーはそう判断した。
一目で分かるだけでも、七人の中に戦えそうな人間は三人。
銀髪の男、長髪の男、そして彼らを率いているのだろうか、黒髪の凛々しい女。
一人は眠っており、残る三人は一見すると単なる子女だが―――内の二人からは魔力の反応を感じる。
真名解放を用いれば、この人数差を覆すことも容易いであろうが……
「追うな」
鎧の擦れる音を鳴らしながら、破壊された病院を後にする騎士の少女。
目の前で参加者を殺した、殺し合いに乗っている人間。
それを追うなと、見逃せと皐月は言った。
「今、いたずらに犠牲を増やすのは我々の本懐ではない。勝敗に関わらず、今事を構えれば確実に犠牲が出るだろう」
背後にその声を聞きながら、セイバーは鋭いな、と思った。
彼女が聖剣の真名解放を行えば、彼ら七人を一網打尽にすることも可能かもしれない。
だが、これは使用と同時に膨大な消耗をもたらす諸刃の剣。
ランサーとの戦いでただでさえ疲労しているのだ。そんな状況で、早々と切り札を抜くのが得策とは思えなかった。
もちろん戦うつもりだというなら全力で応じるつもりではあったが。
……この状態で、あまり無茶な真似をするべきではないな。
-
冷静に判断した彼女が、次なる目的地に定めたのは――本能字学園、ではなく、その更に先にあるホテルだった。
ひとまずはそこまで辿り着き、一度体を休める。
道中での戦闘は適宜対応するとして、だ。
正当な形で決着を着けられなかった“輝く貌”との戦いを終え、釁れの騎士王が往く。
その表情は、しかしながら晴れ晴れとしたものでは決してなかった。
空虚感にも似た、疲弊。
騎士道を捨てたと豪語しながらも、セイバーには眩く見えるほどの闘志を見せて戦ったランサーの姿が脳裏をよぎる。
「……それでも、私は……」
敗北し、死亡すればこの魂は封じられる。
そうなれば、私の抱く願いは永遠に叶わない。
それだけは。それだけは、避けねばならないのだ。
【A-5/病院周辺/一日目 早朝】
【セイバー@Fate/Zero】
[状態]:魔力消費(中)、疲労(大)、胸に切り傷(軽度)、側頭部に打撲(軽度)、精神的疲労(中)
[服装]:鎧(一部破損)
[装備]:約束された勝利の剣@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:優勝し、願いを叶える
1:ホテルへ向かい、体を休める。
2:島を時計回りに巡り参加者を殺して回る。
3:時間のロスにならない程度に、橋や施設を破壊しておく。
4:戦闘能力の低い者は無理には追わない。
5:自分以外のサーヴァントと衛宮切嗣には警戒。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後です。
※自己治癒能力は低下していますが、それでも常人以上ではあるようです。
※時間経過のみで魔力を回復する場合、宝具の真名解放は12時間に一度が目安。
(システム的な制限ではなく自主的なペース配分)
※セイバー以外が使用した場合の消耗の度合いは不明です。
[周辺への影響]
病院が崩壊しました。
しかしあくまで主要な柱を壊して倒壊させただけなので、中から物品を発掘できる可能性は十分にあります。
-
そして、騎士王に敗走した“輝く貌”の彼は、まだ完全に死んではいなかった。
「あ……大丈夫ですか! しっかりしてください、今、この子が治癒を……!!」
目を開けた彼が見たのは、悲痛な表情で顔を覗き込んでいる小さな少女。
どうやらセイバーは、彼女やその仲間達と連戦するのは分が悪いと判断したらしい。
それを良かったと思うべきか否かはさておいて、ランサーは苦笑しながら首を横に振った。
その意味をすぐに理解した少女の顔が、より強い悲しみに彩られていく。
「……恐らく、無駄だ。どうやら霊核を貫かれている。一介の魔術では、どうにもならないだろうな」
負けた、か。
死力を尽くして戦ったが、やはり届かなかったらしい。
片腕を奪われ、腹を穿たれ。最後には心臓を穿たれ、ここにディルムッド・オディナは散る。
指一本さえ動かせない疲労感というものを、彼はずいぶん久々に味わっていた。
ディルムッドでは騎士王に勝てないと、そう言われたことを思い出す。
騎士道を捨ててもその言葉へ抗えなかったのは癪だが―――それでも、まだ終わりではない。
ディルムッドは最後の力を振り絞り、託すように言った。
「悠長に自己紹介をしている時間は、俺には残されていないようだが……名も知らぬ勇者たちよ。どうか、俺の意志を継いでくれ。必ず主催者を倒し、皆を……元の世界へ帰してくれ。
俺の支給品も使うがいい。きっと、お前たちの役に立つだろう……」
「言われるまでもない」
即答したのは、凛とした太眉の少女だった。
見たところ英霊ではないようだが、彼女から感じる凄味は騎士王のものにさえ匹敵しているように思える。
「貴方の命を賭した奮戦は騎士を撤退させ、我々が犠牲を払う未来を防いだ。
安心して黄泉路へと向かうがいい。この巫山戯た催しは―――我らが完膚なきまでに粉砕するッ!」
「……そうか……」
それを聞くと、ディルムッドは安心したかのように目を閉じる。
心残りは一つだけだった。
『愛の黒子』。
ディルムッドが生来持つ呪いのようなそれの効力は、果たして自分の死後、どう変容していくのか。
―――願わくば、どうか跡形もなく消え去ってくれ。彼女たちが、偽りの愛に惑わされることのないように。
「だが……どうか、彼女たちと彼の未来に、幸運があらんことを――――」
虚空へ伸ばした手が、がくりと落ちた。
こうして、ランサーのサーヴァント―――いや。“輝く貌”のディルムッド・オディナは死んだ。
愛という爪痕を二人の少女へ残しながらも、本来の歴史では勝ち取り得なかった満ち足りた死を迎えたのだ。
【ランサー@Fate/Zero 死亡】
【残り56人】
「……逝ったか」
『……そのようだな』
皐月は、ランサーの生命が体から抜け落ちたのを確認し、静かに呟いた。
それから、彼の手元の佩剣を拾い上げる。
……業物だ。縛斬ほどではないにしろ、上等な武器となることには間違いない。
-
受け継いだ意志は、決して無駄にしてはならない。
男の死を最も近くで看取ったコロナも、彼の装備していた靴――デバイス・マッハキャリバーを回収していた。
先も言ったように、彼の戦いがなければ―――今頃、我々は頭数を欠かしていたかもしれないのだから。
「皐月ちゃんよ。ちょっといいか」
黙祷を終えた皐月へ声をかけるのは坂田銀時だ。
その右手には、ディルムッドが振るっていた二刀の片割れが握られている。
一方で左手には、彼が数十分前の戦いで使った無毀なる湖光……宝剣を。
「ヅラが寄越した剣よりも、しっくり来るのを見つけたんでな。こいつをもらってくれや」
言うなり、銀時は聖剣の片割れを皐月へ放り投げる。
「……良いのか? どうやら、それよりもこちらの方が―――」
「いいんだよ。お侍さんにはそういう小洒落た武器は似合わねえのさ。それに……」
死んだ名も知らない男から受け継いだ刀。
それは、彼にとって見覚えのあるものだった。
ここに来るよりも前に、顔見知りが振るっていたものだ。
「せっかく見つけたんだ。ほんとの持ち主に届けて、手数料の一つも取り上げてやるぜ」
その持ち主が、もう既にこの世にはいないこと。
それを彼が知るのは、今からおよそ一時間ほど後の話だった。
【坂田銀時@銀魂】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)
[服装]:いつもの格好
[装備]:村麻紗@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3枚(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針: ゲームからの脱出
0:休息。
1:やれやれ……どいつもこいつも血気が盛んなことで。
2:新八、神楽、ヅラ、長谷川さん、ついでに土方と合流したい
3:神威、流子、DIO、セイバーは警戒
【鬼龍院皐月@キルラキル】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)、こめかみに擦り傷
[服装]:神衣鮮血@キルラキル
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:神衣鮮血@キルラキル キュプリオトの剣@Fate/zero、ランサーの不明支給品1枚
[思考・行動]
基本方針:纒流子を取り戻し殺し合いを破壊し、鬼龍院羅暁の元へ戻り殺す。
1:傷を癒やす。病院の残骸の中に使えそうなものがないかも確認しておきたい。
2:鮮血たちと共に殺し合いを破壊する仲間を集める。
3:襲ってくる相手や殺し合いを加速させる人物は倒す。
4:纒流子を取り戻し、純潔から解放させる。その為に、強くなる。
5:神威、DIO、セイバーには最大限に警戒。
[備考]
※纒流子裸の太陽丸襲撃直後から参加。
※そのため纒流子が神衣純潔を着ていると思い込んでいます。
※どうせ鬼龍院羅暁が関わっていると思い込んでいます。
-
【桂小太郎@銀魂】
[状態]:疲労(大)、胴体にダメージ(中)
[服装]:いつも通りの袴姿
[装備]:晴嵐@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:トランシーバー(A)@現実
[思考・行動]
基本方針:繭を倒し、殺し合いを終結させる
1:今はとりあえず休息したい。
2:コロナと行動。まずは彼女の友人を探す
3:もう少し落ち着き次第、この後のことについて話し合っておきたい
4:神威、並びに殺し合いに乗った参加者へはその都度適切な対処をしていく
【コロナ・ティミル@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:疲労(中)、胴体にダメージ(中)、魔力消費(小)
[服装]:制服
[装備]:ブランゼル@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:トランシーバー(B)@現実、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはVivid
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを終わらせたい。
1:……今は、休みましょう。
2:桂さんたちと行動。ヴィヴィオたちを探す
3:ルーちゃんのデバイス……なんだか、ルーちゃんが助けてくれたみたい。ちょっと嬉しいな。
[備考]
※参戦時期は少なくともアインハルト戦終了以後です。
【結城友奈@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(大)、胴体にダメージ(中)、気絶、味覚、その他一つの五感が『散華』、前歯欠損、顔が腫れ上がっている、満開ゲージ:0
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:友奈のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止め、主催者を打倒する。
1:…………。
2:勇者部のみんなと合流したい。
[備考]
※参戦時期は9話終了時点です。
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。
※満開によって散華したものが何かは、後続の書き手さんにお任せします。
【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]:健康、魔力消費(中)
[服装]:普段通り
[装備]:アスクレピオス@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:満艦飾家のコロッケ(残り五個)@キルラキル、バタフライナイフ@デュラララ!!
[思考・行動]
基本方針:うち、学校いくん!
1:みんなを“かいふく”させるのん。
2:うちも、みんなを助けるのん。強くなるのん。
3:こまちゃん、ほたるん、待ってるのん。
4:あんりん……。
[備考]
※骨が折れない程度に手加減はされました
※杏里と情報交換しましたが、セルティという人物がいるとしか知らされていません。
また、セルティが首なしだとは知らされていません。
※魔導師としての適性は高いようです。
※ランサーが死亡しました。
これにより、愛の黒子の効果は時間経過と共に薄くなっていき、いずれ消滅します。
どのくらいの時間でどれだけ効果が減退するかは、後の話に準じます。
支給品説明
【マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはVivid】
ランサーに支給。
元はスバル・ナカジマが使っていたデバイスで、靴の形状をしている。
魔力がない者でも扱うこと自体は可能だが、本来の使い手には劣るようだ。
ウイングロード程度の魔法ならば誰にでも発動可能。
-
投下終了です
-
投下おつー
ディルムッドが逝ったか……
一人の男としての誉れを抱いて死ねた彼は幸福だが、残された者達がどうなるやら。
奇しくも小汚いおっさんランサー殺害説に拍車がかかってしまうがw
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投下乙です!
ディルムつっあん……綺麗に逝ったか。
戦って死ぬ、原作とのIF展開でランサーは救われましたね……
それと一つ、エリチカの状態表が抜けているようなのですが?
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>>708
完全に見落としていました。
明日中には修正スレの方へ投下します
-
投下乙です
ところで、参戦時点のディルムッドはセイバーが水面を渡れると知らないのに、どうして海の向こう側を目指したんだろう
セイバーがその能力を明かしたのはキャスターとの決戦時で、ディルムッドの参戦時期はそれより前なので
エクスカリバーの痕跡も、現場を見れば西の島から東の島へ向かって放ったのは一目瞭然だろうし
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>>710
アーサー王伝説には湖の精霊も出てくるし、伝承から推測した、じゃ駄目ですか?
原作のライダーはとっさにあの場じゃその可能性を思いつかなかったってことで
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鯖同士なら魔力探知で近くにいれば居場所が分かるのでは
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今夜にでもランサーの行動の理由付けを追加した修正を修正スレに投下させていただきます また、穂乃香たちのことを伝えないのもおかしい気がしてきたので、その辺りも修正で追加しようと思います
-
>>711
さすがにそれはご都合主義が過ぎるかと
>>712
セイバーの場合で半径200m、遠距離の場合は気配感知という専用スキルがあるので距離的に無理では
それにあの距離で分かるなら深夜の時間帯でセイバーの存在に気付いていないのと食い違いが
-
修正次第だけど、現状では流石にこれはナシかなぁ
そもそも東の方から光の残滓が見えたってだけなので、A-3の市街地を調べず橋直行という時点でエスパー入ってますし
セイバーの方も施設破壊はタイムロスにならない程度だから、他を調べた上で追いつけたらそれはそれで違和感
-
そもそも参加者同士が出会うのなんてご都合主義ありきなので気にする必要は無いかと
後これ以上指摘があるなら議論スレへ
-
>>715
書き手さんの修正しだいですが、理由付けは可能な範囲かと思いますよ
セイバーに渡河の手段が無いと考えるなら「通行できなくなるのはセイバーも同じなのになんで橋壊した」ってなりますし
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無しとは思うけど続きは議論スレで、だな
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>>717
普通に「橋の上にいた敵を倒すためにやむを得ず橋ごと」とか「我々を島に閉じ込めるため」とか色々あるのでは
-
セイバーは水面の上歩けるから橋いらないからじゃね?
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>>720
議論スレの議論は終わっているのに説明するのもなんですが、一応言っておきますと
「ランサーはセイバーが水面を歩けることを知らない、海を渡ると思わないはず」
↓
「ランサーがセイバーは海を渡ると思わないなら、セイバーが橋を壊した理由を(自分も海を越えられなくなるのに)不審に思うはず」
↓
「橋を壊した理由なんて色々考えられる」という話の流れですよ
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投下します
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E-4。この殺し合いの舞台である3つの島のちょうど中心部。
小走りで汗を飛ばしながらそこに現れたのは、小柄ながら一目で只者ではないとわかる体躯を持つ少年。
範馬刃牙。父・範馬勇次郎を超えんとし、地上最強の男を目指す闘士(グラップラー)である。
より強くなるための糧とすべく戦う相手を求め、地図の中心に来てみた・・・・・・ものの。
「結局誰にも会えなかった、か……」
新八、にこの2人に出会ってからここまで来る途上。
刃牙は結局、勇次郎はおろか一人の参加者にも出会うことはなく、ここまで来てしまった。
もっとも、途中で頭上を通った電車の中に人影を見かけだが、話しかけることなどできるわけがない。
「あの人の言ってた人たち・・・・・・、誰か一人くらい、会えるかと思ったんだけどね」
特に神威という男は、人間を遥かに凌駕する力を持つ危険人物だという。
父・勇次郎にもどこか通ずるその男には特に興味を惹かれたのだが、致し方ない。
「にしても・・・・・・」
眼前にそそり立つ奇抜でどこか卑猥な見た目の、大砲らしきものを見上げて呟く。
「完成度高けーな、オイ」
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●●●
「さて、と」
ここに来るまで何度か試したことを、この場でも行ってみることにする。
刃牙の眼前にふと現れたのは、腕。
参加者ならば、忘れもしないだろう。ゲーム開始時に悪魔の少女を葬り去った、あの竜の腕である。
いや、本当に現れたのではない。
眼前に対戦相手を空想し、その相手と架空の試合を行う。多くの格闘技において一人稽古、あるいはシャドーと呼ばれる練習法。
腕を想起した刃牙は、そのままその先にあるであろう巨体をも、眼前に出現させようとするが--
「っ」
その巨体は僅かに輪郭を形作るのみで、霞のように消え去ってしまう。
本来の刃牙ならば、後には巨大な蟷螂や超古代の恐竜まで眼前に想起しうる境地に至る。
だが、この時点では、そこまでの水準には至っていなかった。
「来い……」
腕に相対し、構える。
その瞬間、腕が猛然と襲いかかった。
「くっ!」
この場にいるのは紛れもなく刃牙一人。
しかし、もしこの場に他の参加者がいたならば、竜の腕の存在を確かに感じ取っただろう。
極限まで研ぎ澄まされ、他者にもその実感を感じさせるほどの、眼前に敵がいるという「思い込み」の力。
幻の中で繰り広げられる極限の闘争は、しかし。
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(速いっ!)
腕の攻撃は至極単純。武芸も技術もなく、ただただ大振りの殴打を振るうのみ。
しかしその一発一発が異常なほど速く、そしてあまりにも重い。
幻の戦いは、瞬く間に一方的な様相を呈することになる。
(何なんだ、これは)
野生生物との戦いなら、刃牙には経験がある。
夜叉猿。飛騨に住まう、人智を凌駕した類人猿。
しかし、これは野生とは何かが決定的に違った。
まるで、生物を相手にしているはずなのに、機械と闘っているかのような、圧倒的な違和感。
「ぐあっ--ッ!」
爪の先端が刃牙を捉えた。
殴打を回避するのに精いっぱいだった彼は、それだけで大きく体勢を崩される。
その隙を突き、大きく開いた手が全身を握らんと迫る。
「ぐおおおおおお!!」
掴み殺すとでも言うべき、圧倒的な締め付け。
異常握力を誇る喧嘩師、花山薫。あの腕をさらに上回る力で五体を掴まれたような錯覚。
刃牙は全身の筋肉に力を込め、身をよじり拘束から逃れようとするが、全くびくともしない。
あまりの力に皮膚が裂け、血が吹き出し--
そこで、幻想は消えた。
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●●●
「はは・・・・・・」
幻の戦いは、あまりにも一方的な帰結に終わった。
たまらず荒い息をつきながら卑猥な大砲らしきものにもたれかかり、青のカードから出したスポーツドリンクのペットボトルを傾ける。
(ドラゴン、ってか……? まいった、ね、こりゃ・・・・・・)
どうやっても、勝てるビジョンが浮かばない。
恐ろしいことに、自分が相手をしたのは腕一本でしかない。
もしも全身が姿を現せば、あの勇次郎ですら・・・・・・
(世界は、広い、か……)
スポーツドリンクをさらに口に含み、考える。
10年とそこそこの人生だが、多くの強者と闘い、倒してきた。
空手、医者、野生生物、ヤクザ、軍人、バーリトゥード、プロレス、中国拳法、そして自分と同じ血を持つ兄。
それでも、範馬勇次郎には届かない。
父を超える生物などこの世にはいないのではないか、とも思っていた。
(オヤジを、超える、か……)
だが、その父を葬り去るしれない化け物が、何の前触れもなく現れた。
(強くなりてぇな……)
(強く……)
地上最強の生物を倒すことを夢見る少年は、しばし黙考する。
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●●●
(行くか)
しばし体を休め、再度炭水化物中心の食事を取るうちに、腹は決まった。
目指す場所は、ここから真西にある放送局。
ここからなら「分校」や橋を渡ったすぐ先の「研究所」も近かったが、何となくこちらの方に人が多そうな気がした。
それに、誰にも会えないようなら、そこにあるだろう機材を使って呼びかけるつもりでいた。
身に覚えのある者はここに来いと。
(ま、危険極まりない、ってやつだろうけどね)
しかし、危ない橋は何度も渡ってきた身。
それ以上に、この血は強者を求め滾っている。
(オヤジを超える。俺以外の誰かがオヤジを超えるなら、そいつも超えてみせる)
決意を胸に、闘士(グラップラー)の少年が歩む。
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●●●
だが。範馬勇次郎は、ここからそう遠くない場所で、ヴァニラ・アイスの暗黒空間に呑まれた。
何もかもが歪められたこの場においては、史上最大の親子喧嘩に決着が付く可能性は、もうどこにも存在しない。
範馬刃牙がそれを知る方法は、この時点ではまだない。
【E-4/ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲付近/一日目・黎明】
【範馬刃牙@グラップラー刃牙】
[状態]:疲労(小)、体に擦り傷・切り傷多数
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
[思考・行動]
基本方針:勇次郎を倒す
1:放送局を目指す
2:出会った人が強い奴なら戦う
3:勇次郎を探す
4:銀時、神楽、桂、土方、神威に興味
5:勇次郎より強いやつがいる・・・・・・?
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後
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投下終了です
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投下乙です
誰にも会ってないのに切り傷多数の刃牙wwww
放送局のヴァローナはやっと強者にぶつかるけどどうなるかなぁ
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投下します。
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電車が停まった。
地図が示すのはG-6――所謂市街地。
使う価値もない男を殺してから、どれだけの時間が経ったろうか。
人を直接的に殺めるのはさしもの伊緒奈……もとい、ウリスも初めての経験だった。
しかし、感慨は特にない。
壊す価値もない、面白味に欠ける退屈な男。
既に、彼の名前すら半分忘れかけている。
したたかにも、彼が世間話として聞かせてきた『知り合い』の情報についてはある程度記憶していたが。
「ラビットハウス、ゲームセンター、万事屋銀ちゃん……か」
ゲームセンターはまだ分かる。
ラビットハウスとは、しかし一体どのような施設なのだろうか。
名前通りに受け取るなら近頃流行りの動物喫茶か何かを思わせるが、いずれにせよ施設の営業形態に意味はあるまい。
伊緒奈が注目していたのは残る一つ、『万事屋銀ちゃん』だった。
殺した男――長谷川だったか。兎角、その彼が語って聞かせてくれたのを伊緒奈は記憶している。
彼によれば『銀さん』なる、相当腕の立つ男が経営しているという。
万事屋というからには便利屋紛いの真似をして生計を立てているのだろうが、重ねて言うがそこはどうでもいい。
重要なのは、そこを指標として参加者が集う可能性が非常に高いこと。
少なくとも、長谷川の知り合いたちは少なからず此処を目指すのではないかと伊緒奈は踏んでいた。
「目指すだけの価値は十分にありそうね」
彼と顔を合わせたと言えば、ああいった間抜けな男の同類ならすぐに信じ込むに違いない。
嘘とは、多数の真実の中にほんの僅かな虚偽を含めることでこそ信憑性を増していくもの。
『長谷川泰三』という男に会い、情報を共有したのは真実だ。
無論殺したことは偽るが、そこ周りの理由はどうとでもこじつけることが出来る。
こうして狡猾に取り入ることで手札を確保し、アドバンテージを積み重ねていく。
それは殺し合いのみならず、カードゲームにおいても基本と呼べる戦術だ。
ひとまず近場のラビットハウスからゲームセンターと施設を渡りつつ、万事屋を目指す。
伊緒奈は取り急ぎの方針を定めると、その懐から取り出した一枚の黒カードを使用した。
ごとり――重量感を伴って伊緒奈の手元に現れたのは、可憐な少女の外見に似合わない『凶器』だった。
サブマシンガン。
正式名称をイングラムM10。
伊緒奈に無価値に殺された男が遺した支給品である。
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武器があるということを売りの一つとして協力を提案してきただけはあり、伊緒奈の予想以上に強力な品物。
多少厄介な相手を直接抹殺しなければならない状況に立たされても、これならば問題はない。
瞬きをする間もなく引き金一つで終いだ。
尤も、あくまで使うのは万一の時だけ。
武器の性質上これで殺すのは非常に目立つ上、伊緒奈自身、自らの手で殺めるのは趣味ではないのだ。
不要となった『手札』を切る時も、極力は別な手段に頼った方がいいだろう。
しかしそれでも、役に立つ代物であるのは確かだ。
「本当に何の価値もないクソッタレだったけれど、ほんの少し程度は役に立ったわ」
きっと、あと数時間もすれば忘れてしまうような下らない男。
長谷川泰三というクソッタレに、伊緒奈――もといウリスは心の中で少しだけ感謝した。嘲笑混じりに、ではあるが。
このような大仰な物を持っていれば、当然疑われる可能性はある。
しかし彼女はそれを承知した上でなお是としていた。
怯えて逃げ惑うような輩を安堵させる話術も、取り入る術も心得ている。
むしろ好都合でさえあった。浦添伊緒奈の体を操るルリグにとっては。
駅を離れ、歩き出す。
この広大なバトルフィールドに胸の内を湧き立たせながら。
「そこの小娘。止まれ」
だが、伊緒奈の一歩は空中から響いたよく通る声音によって妨げられた。
上方という不可解な位置からの声に、反射的にその方向へ視線を向ける。
すると、どうだ。
そこには不敵な笑みを口元へ浮かべ、伊緒奈を睥睨する青年の姿がある。
――その背から生えた二枚の羽で宙へと舞い、見下したような瞳でそこにいる。
「何かしら、貴方」
「フン、答える義理はない。貴様はただ、俺の命令へ従えばいい……そうすれば取って食いはしないぞ?」
「あら、そう」
動じた様子のない伊緒奈に、上空の悪魔は僅かに眉を顰めた。
見たところ、あれは明らかに人間ではないようだが――中身は所詮人の延長線上に過ぎない。
小娘に肩透かしの反応をされて苛立ちを覚えるような、典型的な小物だろうと伊緒奈は思った。
「……貴様の手にしている、その武器だ。それを俺に渡せ」
「まさかだけど……タダで寄越せとでも言うつもり?」
「ハッ、決まっているだろう。そこな小娘、ましてや人間風情が持つよりは、俺が持った方が余程有意義だろうさ」
「…………、」
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浮かびかけた失笑を堪えるので必死だった。
どうやらあの様子を見るに、この男、本気で言っているらしい。
女性蔑視に人間風情などという言い回しも、全てが月並みだ。
当然、伊緒奈にはみすみす武器を手放してやるつもりなど欠片もなかった。
手札として使えるか否かを考えないわけでもなかったが――無駄そうね、と切り捨てる。
この手の直情的なタイプは、戦力がいかに頭抜けていても手駒としては落第点だ。
それに、伊緒奈は彼の下へ遜るつもりなど毛頭ない。
「どいつもこいつも………………わね」
「なに?」
怪訝な顔をする青年。
伊緒奈の身体能力では、宙を舞う相手を殺すことは出来ない。
だが、その為にこれがあるのだ。
イングラムの筒先を向け、酷薄に伊緒奈は嗤った。
「使えないって言ったのよ」
●
悪魔……アザゼルは、二枚の羽をはためかせて会場の上空を飛行していた。
その片手で掴んでいるのは、意識を失い昏倒している黒髪の少女。
他ならぬ、浦添伊緒奈その人であった。
「人間の割にはいい度胸だったがな。しかし、相手を見るべきだった」
伊緒奈が銃口を向けた瞬間、アザゼルは即座に動いた。
銃口を合わせてから、引き金を引くまでの間には若干の時間がある。
そしてそれだけの間隔があれば、悪魔である彼が伊緒奈の背後を取るには十分だった。
怪我と魔力の消耗で弱っているとはいえ、彼は人外の生命体だ。
少女一人を相手に不意を突くぐらいのことは朝飯前。
背後に回り、彼女が振り向くより早く手刀を打ち込み気絶させた。
それで終わり。彼は斯くして不覚を取ることなく彼女の支給品を獲得し、今に至る。
当然、今の彼には伊緒奈を文字通り裁量一つで殺すことが出来るのだが……
「そら、運否天賦よ」
そも。アザゼルが伊緒奈へ接触して武器を奪おうとした理由の最たるところが、前述した力の衰えだ。
傷が癒えれば自動的に回復する程度のものであれ、それでも不快な障害となることに変わりはない。
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そして、その状況でもしもあの忌まわしき聖女や、悪魔にも匹敵する力を持った参加者と出会しでもすればどうなるか。
語るまでもない。そこで彼は、不本意ながら武器を集め、その力に頼ることにしたのだった。
首尾よく強力な一品を手に入れ、彼は今上機嫌だ。
だからこそ、確実に止めを刺すのではなく、運などという不安定な概念へ結果を委ねるような真似をする。
享楽的に――悪魔じみた娯楽の一環として。
伊緒奈の体を上空から、地上へ放り捨てた。
打ち所が悪ければ死ぬだろうが、逆もまた然りである。
地へと墜落していく悪女の姿を見納めれば、悪魔は興味を失ったようにその場を飛び去っていく。
【G-4/アナティ城周辺/1日目・早朝】
【アザゼル@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:ダメージ(大)、飛行中
[服装]:包帯ぐるぐる巻
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜3枚、イングラムM10(32/32)@現実
[思考・行動]
基本方針:繭及びその背後にいるかもしれない者たちに借りを返す
1:借りを返すための準備をする。手段は選ばない
2:ファバロ、カイザル、リタと今すぐ事を構える気はない。
3:繭らへ借りを返すために、まずは邪魔となる殺し合いに乗った参加者を殺す。
[備考]
※10話終了後。そのため、制限されているかは不明だが、元からの怪我や魔力の消費で現状本来よりは弱っている。
※繭の裏にベルゼビュート@神撃のバハムート GENESISがいると睨んでいますが、そうでない可能性も視野に入れました。
そして。
彼の言った通り、運否天賦の懸けに勝利し――浦添伊緒奈は生きていた。
地面の柔らかい部分に墜落したことでクッションとなり、致命傷にはならずに止めている。
だが、彼女が目を覚ますのはもう少し先の話だ。
心を壊すことを生業とする彼女が目を覚ました時、その目の前にはいかなる光景があるのだろうか――
【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】
[状態]:気絶、全身にダメージ(大)
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?
ボールペン@selector infected WIXOSS
黒カード:長谷川泰三の不明支給品0〜2枚(武器が他にあるかどうかは不明)
[思考・行動]
基本方針: 参加者たちの心を壊して勝ち残る。
0: ………………。
1: 使える手札を集める。様子を見て壊す。
2: 使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。
3: 蒼井晶たちがどうなろうと知ったことではない。
[備考]
※参戦時期は二期の10話で再び夢限少女になる直前です。
※E-6の川底に長谷川泰三の死体が沈んでいます。
支給品説明
【イングラムM10@現実】
長谷川泰三に支給。
アメリカ製の短機関銃。小型であるためマシンピストルに分類されることもある。
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投下終了です。指摘などあればお願いします。
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投下乙です
ウリスはこのままだと放送聞き逃しルートかな
そしてアザゼルはやっぱり調子に乗ってるけどいったい何時、誰にボコられるかが楽しみwww
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>>729
乙です
刃牙のネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲評にはほっこりしました
基本的に好青年らしい刃牙で安心して見れました
あと前回登場時から結構な距離を移動をしていますが、走って移動したって解釈でいいのかな?
>>736
乙です
ウリスの心情の悪辣さが際立ちますね、それだけにダウンさせられたのにはスッとしました
銃器でさえ支給品では大当たりに属しない上に、強大な強者が複数いる事実にアザゼルが気づくことはあるのか
これまで未踏破だったアナティ城にウリスを落としたのも良かったです
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>>738
>走って移動したって解釈でいいのかな?
それで大丈夫です。もし不都合が生じるようでしたら時間帯を変更して修正スレに投下します
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>>739
いえいえ、そこまでは
ご返答ありがとうございました
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投下おつー
VSバハを念頭に置くというのは中々に面白い最強っぷりだが、刃牙勢は放送後どうなるやら。
アザゼルさんは悪魔らしいことしたのに、調子載ってること心配されたり楽しみにされてるのが最高に面白いw
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投下します。
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「酒も飲みてえけど、それより眠ぃや……」
悪魔アザゼルとの不本意な再会を終えた彼は、暫し歩いたところで休憩と洒落込むことにした。
それなりに長い距離を進んだと思うが、一向に参加者と出会う気配がないのは幸運とすべきか、不運とすべきか。
それは定かではなかったが――しかし当のファバロは、穏やかでいいやと呑気に構えていた。
どうせ、急いだところで何かが変わる訳でもないのだし。
男はどっしり構えて、自分の動く時が来るまでのんびりしていればいいのさ。
そんなもっともらしいことを言い訳に自分を甘やかしつつ、草の上に胡座を掻いて欠伸を一つ。
「だーいぶ空も白んできたしなぁ。あったけえベッドにでもありつきてえぜ……」
んでもって、朝起きたら何もかも元通り――とは、行かないだろうけどよ。
ファバロは苦笑しつつ、そのまま地面へ仰向けになって星空を見上げた。
血腥い殺し合いが行われていることが信じられなくなるほどの、見事な星々の絨毯がそこにはある。
まるで、上等な宝石箱だ。
女を口説く上で腐るほど使ってきた文句を、よもやこんな場面で使うとは思わなかったが。
「酒は支給されてなかったけどよ。よく考えりゃ、こいつがあるんだよな」
そんな絶景を見上げながら、取り出すのは青いカード。正式名を、ウォーターカード。
なんでも、これを使えば何でも好きな飲み物が手に入るらしい。
こんなものを出されては、全世界の酒屋が商売上がったりだろう。
益体もないことを考えながらカードを使うと――本当に、ファバロの望み通りに酒が現れた。
酒があるなら肴も欲しくなるが、流石にこの状況であまりのんびり晩酌してもいられない。
瓶を己の口元へ近付ければそれを傾け、一息にぐいっと呷る。
「――――かぁ〜〜〜っ! うんめぇ……!!」
琥珀色の冷たく泡立った液体が上の方からどんどん落下してきて、シャワシャワと泡立ちながら、喉奥へ消えていく。
通り過ぎていった場所から冷たく冷やされていく感覚がひどく心地よかった。
あまりごくごくとは飲まずに、貪欲に啜るようにして呑む。
それがいい刺激になって、ますます食欲が湧いてきた。
こうなっては、堪えることなど拷問だ。
そしてファバロには、進んでそんな拷問を受けたがる嗜好はない。
今度は赤のフードカードを取り出して、そこから酒の肴を引っ張り出す。
酒の肴という漠然とした要求ではあったが、律儀にカードはファバロの要求通りの品々を出してくれた。
熱い熱い、香ばしい玉ねぎのフライに齧り付き、溢れてくる辛味が消える前に酒で押し流す。
こうして適した肴を用意することは酒の味を活性化させ、それどころか一緒に食べる肴の味すらも引き立てる。
あまり行儀の良い酒飲みではないファバロでも知っている、遊び人の常識だ。
それから数分あまりでファバロは酒を飲み干した。
しかし肴が余っていたので、躊躇なく二枚目のウォーターカードへ手を付けた。
彼の至福の時間は、合計で三十分強にも及んだ。
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「ふー、旨かった旨かった。たまにはこうやって外で独り呑みってのもいいねえ」
心地よい満腹感と、少しばかりのほろ酔い気分。
おセンチな気分を吹き飛ばすには、やはりこうして酒を呑むに限る。
「つーかこのカードよ、本当に便利なのな。それに比べて……」
ファバロは、二枚の黒カードを取り出して嘆息した。
アザゼルと再会するよりも前、何よりも最初に確認した支給品の二つ。
残る一つがなかなか良い物だったからよかったが、これらは正真正銘、ハズレとしか言いようのないものだった。
一つは、小さな長方形の箱。説明によると、小型テレビなる品物。
そしてもう一つは、――恐らくタヌキであろう――謎の着ぐるみ。
後者の方は一目で明らかなハズレだとわかるが、前者は如何せん用途があるが使い道がないから質が悪い。
このテレビという道具は放送などを優先して傍受できるらしい。
……もちろん、殺し合いの中で放送が流れる局面など定時に行われる以外にはそうそうない訳で。
一応ボタンを押すと電源だけは点いて白い画面が表示されるのだが、現状はあくまでもそれだけだった。
今一度その箱を取り出して、ああでもないこうでもないと言いながら弄る。
何か使い道はないだろうかと頭を悩ませながら。
「何だ、灯り代わりにでも使えってか?
……冗談じゃねえ、やっぱハズレじゃねえか。灯りならこっちの白いカードで賄えるっての」
つくづくついてねえ――つぶやき、いっそ投げ捨ててやろうかと振りかぶった、その時。
『――の――ご覧頂け―――――様。私、―――ターのサ―――――、ジル・――――と申し――』
「……は? おいおい、どうした?」
光るだけで、何ら利点の見つからなかった箱。テレビ。
それが、突如男の声で喋ったのだ。
繭の言っていた放送の時間にはまだ早いにも関わらず、である。
慌てて投げ飛ばすべく踏み込んだ状態で体を止め、再び箱を覗き込む。
するとそこには……声の主らしき狂気的な出で立ちの男。
ファバロが彼を見て連想した単語は、『賞金首』の三文字だった。
賞金稼ぎとして狩ってきた悪党どもによく似た胡散臭い雰囲気とイカれた面構え。
声色だけは優しげだが、おいそれと信用できる訳もなかった。
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『皆様、各々方の知己朋友の消息を案じ気が気でないことでしょう。
一体どこにいるのか、今も健在なのか、確かめたくて仕方がないことでしょう』
身振り手振りを交えた演説。
――なるほど、胡散臭いを通り越してこいつは気味が悪い。
不気味な風貌と奇妙に紳士ぶった物言いが、余計にそれへ拍車をかけていた。
『ささやかながら、私がお手伝いを致しましょう』
「あん? お手伝いだ……?」
『さぁみんな、入っておいで』
神父か何かを連想させる態度で箱に映った男が言うや否や、新たな三人の人間が姿を現した。
体のシルエットを見るに、性別は女だろう。
中には男ならば誰もが涎を垂らすような豊満な胸をした人物もいたが、しかし生憎と食指は動かない。
――邪な考えを巡らせるには、その光景はあまりにも異質だったからだ。
「…………」
一人は顔に。
一人は胸に。
一人は首に。
彼女たちは、一人の例外もなく布を巻いていた。
顔を隠している少女以外は、相当な美貌を有しているようだったが――
「……なるほどな。こいつら、ゾンビか」
ファバロの目は誤魔化せない。
彼は実際にゾンビと戦ったこともあれば、ゾンビの娘と共に行動をしたこともあるのだ。
何よりもその考えを確信へ至らせたのは、彼女たちに巻かれている布。
首や布ならばまだしも、顔までもをあんなに執拗に隠しているのはどう考えても異様である。
そこで察しがついた。大方あれは、死体の損傷を隠しているのだろうと。
『不肖ジル・ド・レェ、僭越ながらこの可憐な少女達を保護させて頂いております。
ご友人の方々は是非とも放送局までお越し下さい。彼女達もきっと喜ぶことでしょう』
白々しい。
全てのカラクリに気付いたファバロからすると、この一連の『放送』は実に滑稽なものに見えた。
だが、そうでない者はきっと容易く信じ込むに違いない。
いささか目立ち過ぎなきらいはあるが、確かに殺し合いを勝ち抜くための戦略としては優れたものだと思う。
ファバロは放送の終了を確認するなり、小型テレビをカードへ収納した。
それから、腕輪に嵌っているマスターカードで自分の位置を確認する。
――F-1。放送局のあるE-1は、丁度真上のエリアだった。
悪魔と別れ、あてもなく歩く内にこんな所まで来てしまっていたらしい。
「マジかよ」
思わず、乾いた笑いが出た。
つくづく、ツイているのかツイていないのか分からない。
-
●
ファバロは結局、E-1を訪れていた。
別に、放送の主……あのジルとかいう男を狙っている訳ではなかった。
少なくとも、今は。何かきっかけがあるまでは、あくまでも様子見に徹する。
賞金稼ぎの腕輪を持っていた頃ならば、進んで狩りに向かっていただろうが、今は腕輪もない。
それに――あの男からは、これまでに幾度となくやり合ってきた賞金首達と一緒くたにしてはならない何かを感じた。
さながら――悪魔か何かのような。邪悪で不気味なものを、画面越しにふつふつと感じたのだ。
ファバロはこう決めた。
暫くは適当なところで様子を伺って、チャンスがありそうならジル・ド・レェを倒す。
ゾンビ使いなんてものをこんな状況でのさばらせておいては、面倒なことになるのが目に見えている。
ファバロ・レオーネに殺される趣味はない。ましてや、あんな気味の悪い男に死後もいいように使われるなど御免だ。
だから、殺せる内に殺しておく。その代わり、あくまで勝負に出るのはチャンスがあった場合のみ。
彼らしい、ストイックとは縁遠い考え。
それでも、いざとなれば殺せる自信があるというから恐ろしい男だった。
「ん?」
さて、何処に身を潜めていようか。
なるべく見つからないような場所で、且つ放送局の要素を常に観察できる場所でなくてはならない。
おあつらえ向きな場所はないものかと周囲を見渡していると。
いつからそこに居たのだろうか。
はたまた、単にファバロが気付かなかっただけなのか。
――金髪の美女が、白み始めた水平線を背景にファバロを見つめていた。
数秒、時が止まったような感覚へ陥る。しかしそれを引き裂いたのは、女の方だった。
「ちょっ、待て待て待て待て!」
彼女が手にしていた短い棒から――光の刃が突き出した。
それが攻撃的な行動であることはファバロにはすぐに分かり、思わず顔を引き攣らせる。
しかし予想外なことに、待てと言うと素直に女は動きを止めた。
よしよし。二度頷いて、彼女と目を合わせたまま、一歩、二歩と後退りしていくファバロ。
それから彼は、脱兎の如く走り始めた!
(冗談じゃねえ! 何だってよりにもよってイカレたゾンビ野郎のお膝元でこんなことになるんだよ!?)
当然、黙って逃がす美女(ヴァローナ)ではない。
見てくれはちゃらんぽらんの遊び人だが、彼女はファバロを倒すに値する強者だと見なしたのだ。
ヴァローナを発見する前の、あの冷たくすらある目。
自分の障害となり得る存在ならば、排除することに躊躇いはないという目。
あれは断じて、弱者のする目ではない。――そして強者ならば、自分の戦う相手に該当する。
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ヴァローナが追う。
ファバロが逃げる。
早朝の鬼ごっこが、会場の端で密かに幕を開けた。
【E-1/放送局近辺/一日目・早朝】
【ファバロ・レオーネ@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:健康、疲労(小)、少し酔っている
[服装]:私服の下に黄長瀬紬の装備を仕込んでいる
[装備]:ミシンガン@キルラキル、投げナイフ@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(8/10)
黒カード:黄長瀬紬の装備セット、狸の着ぐるみ@のんのんびより、小型テレビ@現実
[思考・行動]
基本方針:女、自由、酒ってか? 手の内は明かしたくねえんだよ
1:なんだこの女!?
2:チャンスがあればジル・ド・レェを殺す。無理そうなら潔く諦める。
3:カイザルの奴は放っておいても出会いそうだよなあ。リタにも話聞かねえとだし。
4:寝たい。
[備考]
※参戦時期は9話のエンシェントフォレストドラゴンの領域から抜け出た時点かもしれません。
アーミラの言動が自分の知るものとずれていることに疑問を持っています。
※繭の能力に当たりをつけ、その力で神の鍵をアーミラから奪い取ったのではと推測しています。
またバハムートを操っている以上、魔の鍵を彼女に渡した存在がいるのではと勘ぐっています。
バハムートに関しても、夢で見たサイズより小さかったのではと疑問を持っています。
【ヴァローナ@デュラララ!!】
[状態]:健康、『アーツ 奇々怪々』により若干だが身体能力上昇中
[服装]:白のライダースーツ
[装備]:ビームサーベル@銀魂、手に緑子のカードデッキ
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
黒カード:グリーンワナ(緑子のカードデッキ)@selector infected WIXOSS、カードキー(詳細不明)
[思考・行動]
基本方針: 武器を集めた後、強者と戦いながら生き残りを目指す。優勝とかは深く考えない。
0: アフロの男(ファバロ)と戦う。
1: 放送局の周辺で他の参加者を待ち受ける。
2: 強そうな参加者がいれば戦って倒したい。特に静雄や黒ヘルメット(セルティ)。
3: 弱者はなるべく手を掛けたくない。
[備考]
※参戦時期はデュラララ!!×2 承 12話で静雄をナイフで刺す直前です。
支給品説明
【狸の着ぐるみ@のんのんびより】
ファバロ・レオーネに支給。
旭丘分校の文化祭で、越谷小鞠が着て腹太鼓を披露した(させられた)時の着ぐるみ。余談だが、非常にかわいい。
【小型テレビ@現実】
ファバロ・レオーネに支給。
会場内で行われた放送や、定時放送を傍受できる。それ以上の用途はない。
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投下終了です。指摘などあればお願いします。
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投下乙
早速ファバロの女難っぷりが発揮されてる
武器はヴァローナが有利っぽいけど、ファバロは勝てるのか……どっちの方角に突っ込むのかも重要になってきそう
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投下します
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改まっての自己紹介は、『ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルト』という、聞きなれない言語圏のフルネーム。
いや、『ヴィヴィオさん』という名前を呟いていた時点で、えらい独特のネーミングセンスだとは思ったけれど。
そして、『Stヒルデ魔法学院中等科』という学校名と、『覇王流』という流派による、身分の開示だった。
しかも、貴女はどこかで『魔法戦』競技をしている方なのですか、という質問までされた。
最初は、漫画やアニメの見過ぎじゃないのかと思った。
しかし、この少女が大人の女性に『変身』した姿を見てしまったのも、見間違えようのない事実なわけで。
彼女――アインハルト・ストラトスの語る出自は、『大赦』という一般人の入れない世界にいた三好夏凜にとっても、にわかには受け入れにくかった。
この宇宙にはいくつもの並行世界――次元世界があり、彼女はそのひとつ、魔法文化の世界『ミッドチルダ』の住人だということ。
「じゃあ、私はあんたから見て『管理外世界』とやらの人間だってことになるの?」
「はい――私も夏凜さんの『勇者』なる変身が、魔導と別のものは分かりませんが」
一方で、アインハルトの驚きはさほどでもない。元から『魔法を知らない人たちの暮らす世界もある』と知っていたからだろうか。
いや、ポーカーフェイスなだけで内心は驚天動地なのかもしれないけれど、少なくとも顔には出ていない。
「あれこれ聞き出して、今さら『信じられません』ってわけじゃないけど……実感がわきにくいのよね」
「申し訳ありません……」
「そこ、謝らなくていいから」
『自分たちが守った世界』以外にも『世界』があった、というのがまず常識やぶりなことで。
途方もない話という感じ方しか、今はまだできなかった。
それも、両手の指では足りないような、数十とか、百とかの単位にわたる数の世界だ。
夏凜たちがいる『世界』は、地球という星の、それも海岸線にして2千キロほどの『四国』という島だけがすべてだった。
その、『四国だけ』の世界さえ、戦うことだけが全ての殺風景な場所にしていたのが、かつての自分だったけれど。
「だったらこの場所も、その『世界』のどこかなのかしら。
四国にはこんな形の小島は無かったと思うけど」
「すみません。私も異世界の地形まで詳しくは……あ、夏凜さん。そろそろ道が見えてくるはずです」
「ええ。こっちもだいぶ足場が楽になってきたわ」
夏凜が森林をかきわけ、アインハルトが後方について白いカードから進路を修正する。
応急処置の後とはいえ、脳震盪の後から激しい運動をするリスクを鑑みれば、さほど急がない速さで、そして夏凜が先行することが望ましいだろう。
-
「さて、と。大きな道には出たけど、どっちに行こうかしら。
アインハルトの怪我のこともあるし、今後のためにも病院は押さえたいんだけど……東回りでも、西回りでも、けっこう遠いのよね……」
「いえ、そんなに私の都合ばかり考えていただかなくとも……夏凜さんにも、探している方がいるそうですし」
アインハルトは、眉をハの字にして申し訳なさそうな顔をする。
腰の低いというか、頼ることを苦手とするタイプなのかもしれない。
「別にそんなの気にしないわよ。探してる奴らのアテがないのはお互い様だし、
だったら一緒に行動した方が人探しだってしやすいでしょ?」
「それはそうかもしれませんが……」
「それともアンタ、私の言うことに従うのがそんなに気に入らないのかしら?」
「いえ! 決してそんなことはありませんが……」
あ、この子けっこう押しに弱い、と気づく。
『お前が言うな』とか言われそうな気もしないことはないけど、弱い。
「だったら良いじゃない。年長者の言うことは聞いときなさい」
「はぁ」
「……それに、『勇者部』が異世界で活動しちゃいけないって決まりは無いしね」
「は?」
「な、なんでもない!」
恥ずかしいことを聞かれそうになって、あわてて地図とにらめっこする振りをしった。
他の勇者部メンバーだったらもっと自然に優しい年長者らしく振る舞えるのかもしれないけど、これが三好夏凜にとっての精いっぱいだったりする。
殺し合いという『災害』に巻き込まれた一般人(と言えるかは怪しいが)の少女を見つけたら、安全を確保する。
それは、『大赦の勇者』である夏凜としても、そうすべき正しい行動なのかもしれない。
けれど、もしかしたら別の理由もあるように思えた。
それは、脳震盪の休息がてらに、お互いの情報を交換し合っていた時のことだ。
守るべき友人たちのことを、彼女はこう言って紹介した。
『一人で戦うことしか知らなかった私に……興味深いことや、新しいことをたくさん教えていただきました。チームメイトで、得難い後輩の方々です』
それは、自分にとっての勇者部の面々のようなものだろうかと思った。
戦って自分の力を証明することが全てだった夏凜に、これから全部が楽しくなると言ってくれた。
義務だからと戦うわけじゃない、戦いに勝った後で笑いあえる幸せをもらった。
それはきっと、同じことだ。
異世界の人間なんて未だに実感はわかないけれど、別に宇宙人というわけでは無かった。
自分より二つぐらい年下の、ただの戦う女の子だと思った。
-
だからこそ、ここは先輩らしく適切な判断をしたいところだけれど――
進路について考える夏凜の耳に、エンジンの唸るような音が聞こえてきた。
+ + + +
小湊るう子は、ほんの数か月前までは普通の中学生だった少女である。
むしろ、いわゆる『クラスのカースト』では、どちらかと言えば下位に所属する方だったとさえ言えるだろう。
セレクターバトルを知ったことで、精神力だとか社交力だとかについては目覚ましい成長をしたけれど、それでも『酔っ払いの運転する乗り物に同乗してしまった時の対処法』なんてものは覚えようもない。
「きゃっはー!!」
つまり、シャロの運転を止める方法が分からない。
よくよく考えてみれば、遊月は市街地の近くにいたんだから引き返した方がいいんじゃないかなぁと思ったりもしたのだが、いかんせん風の抵抗はきついし、頭は少しぼーっとするし、シャロは話を聞いてくれないし。
せめて、誰かが進路上に見えてきたら、接触すべきか回避すべきか、シャロに叫べるようにしておこう。
それだけは気を付けて目をこらしていたら、少女らしき人影を二つ見つけた。
「シャロさん! 前! 前に人がっ」
「うん?」
相手もこちらに対して気付いたらしく、年上の方の少女がこちらに手を振って止まるよう促している。
これは接触すべきだろう。車椅子の少女の時のように油断したところを襲われる可能性も無いではないが、どっちにせよ会話するだけの余地はあるような雰囲気だ。
シャロに停まるよう伝えると、あっさりとブレーキをかけてくれた。
良かった、シャロさんもちゃんとお話に臨んでくれるんだ、とるう子は安心したのだが、
「へーいnice to meet you!! お元気れすかー!」
バイクから地に足をつけたとたんに、ダッシュですっ飛んでいかれた。
なぜ、そんなハイテンションかつフレンドリーに。
そしてなぜ、ろれつが回らないのに英語だけきれいな発音なのだろう。
「すごーい!この子、目の色が左右違っててきれーい!!きらきらー!!」
「あ、あの……」
二人組のもう一人の少女にタックルのようなハグをして、きらきらとした瞳で顔を寄せる。
これが不審者の類であれば、今ごろは痛烈な腹パンか何かをされても文句は言えない行動だった。
しかし、シャロから伝わるのはダイレクトな好意表現、それも過剰にオーバーなスキンシップのためか、困った顔で赤面することしかできないでいる。
-
「髪もミントグリーンできれーい! ハーブの色らー!」
犬か何かにでもするように、髪に頬を寄せて気持ちよさそうにモフりはじめた。
るう子も止めようとしたのだが、追いつくには距離があり、
「少し、頭を冷やしましょうか」
隣にいた少女が、業を煮やす方が早かった。
ウォーターカードによって出現した水が、シャロの火照った顔にばしゃりと襲いかかった。
+ + + +
カフェインによるドーピングが切れると、それはもうたいそうに落ち込んで体育座りをしたシャロの姿がそこにあった。
るう子を運ぶためにやむを得ずしたことだったと知ると、アインハルトも気にしていないと言ってくれたのだが。
「外道メー」
「義輝、追い打ちは止めなさい」
「ううぅ……」
「やはり顔が赤いようですが、ご気分のほどは?」
「うん、風が涼しくて気持ち良かったから……」
しかし、幸いにもアインハルト・ストラトスが支給品として風邪薬を持っていた。
よく薬局で見かけるタイプの風邪薬だったけれど、効能を調べるときちんと『解熱』の二文字は書かれている。
るう子の青いカードからミネラルウォーターを出現させると、まずは座って薬を飲みましょうということになった。
しかも、夏凜が食べ物カードと飲み物カードを手にはりきった顔で「解熱にはリンゴとしょうが湯と葛湯とヘルシー野菜と、サプリは牛黄とイノシトールとビタミンB6に……」と呟き始めたので、それはさすがに皆で止めた。
明らかに用法容量を逸脱した健康食品のために、食料カードを全消費されても困る。
「横になってなくていいの?」
「そこまでは重くないです。のどが痛いわけじゃないから、説明もできるし」
さらに酔い覚ましも兼ねて、シャロの青いカードからハーブティーのポットを出した。
ハーブにはカモミールを選択する。
疲労回復とリラックス効果があり、気を鎮めるには最適。
発汗作用もあるから、風邪の初期症状にだって有効。
苦味もきつくないから、ハーブ初心者にもおすすめ。
少し道を外れた野辺で、適当な切株をテーブルの代わりにして、少女たち四人は茶話の席についた。
4人で飲むためのティーセットを取り出すのは『1回につき1人分』というルールに照らし合わせると怪しい気もしたけれど、どうやらカードは『ティーポット1個で1回』というカウントをしてくれたらしい。
それぞれのカップに口をつけながら、交代でこれまでの経緯を話すことになる。
-
最初は小湊るう子から。
薬を飲んだばかりだから最後でいいと言われたけれど、『どうしても伝えなければいけないこと』もあったので、「聞いてください」とお願いをする。
まずは、ここに至るまでの経緯について。
シャロに一度話していたこともあり、話は手短にまとめられたものだ。
殺し合いが始まってから間もなく、神社より南の山頂付近で、宮永咲という少女と出会い、友好に接していたこと。
そこに殺し合いに乗った参加者から襲撃を受け、咲に庇われながらも逃げ切ったけれど、咲が命を落としてしまったこと。
そこまで話を聞いて、アインハルトたちが焦ったように質問した。
「それはもしかして、金髪に筋骨たくましい大男ではありませんか?」
「それとも、でかい剣を持った眼帯の女?」
「ううん……銃を持った、女の子です」
そう答えると、二人は安堵したような、それでいて苦いような顔をした。
二人にも何か思い当たることがあったのかもしれないが、まずは全てを伝えてからにしようと説明を続ける。
咲の埋葬を終えて、咲のカードとともに山をくだったこと。
スクーターで市街地を目指そうとした矢先に、桐間紗絽と出会ったこと。
ここで、一緒に話した方が分かりやすいだろうと、紗絽がそこに至るまでの流れを語った。
支給品の定春を持て余していた時に、紅林遊月と出会ったこと。
そのまま東の市街地まで向かう予定だったけれど、紅林遊月が『願い』に関する話題になってから豹変し、定春の暴走もあって喧嘩別れに近い別離となってしまったこと。
そして小湊るう子と合流したところから、るう子が話を戻した。
遊月と別れた経緯を聞いて、それはまるで少し前までの遊月のようだと思ったこと。
この場にいる紅林遊月は、自分の知る彼女よりも過去の彼女かもしれないということ。
「待ちなさいよ。いくらなんでも、それは考えすぎじゃないの?」
何を根拠としてそうなるのかが、夏凜には分からなかった。
『主催者は過去にタイムスリップして、過去の友人を攫ってきたのではないか』なんていう推測は、あまりにも飛躍しすぎている。
普通は『紅林遊月に記憶の混濁があるのでは』とか考えるのが自然だろう。
「実は……遊月のことだけじゃなかったから」
カモミールの湯気に目をしばしばさせながら、るう子は話した。
それは、まだ宮永咲が生きていて、お互いの知り合いのことなどを教えあっていた時に聞いたことだ。
元はと言えば、最初に全員が集められた白い部屋で。
『アーミラ』と呼ばれていた少女がアフロヘアーの男と行動を共にしていたように、宮永咲もあの場で知り合いの顔を見つけていた。
ところがその少女――池田華菜は、咲の顔を見るなりこう言ったのだという。
『あっ! 決勝で戦うはずの清澄の大将だし!』
咲が彼女とも対局した県予選の決勝は、もう二か月も前に過ぎたことだ。
それなのに、まるで咲とこれから試合をするかのような物言いをしていたことが不思議だったと、彼女は言っていた。
「そのこともあったから……遊月の話を聞いて、時間を戻したような時から来たみたいだなって思ったんです」
-
「また、急には信じがたいような話よね……あ、でも……」
過去から来たかのような食い違いがある。
そう言われたら、夏凜にも思い当たることがあった。
夏凜が誘拐される前に立ちあっていたのは、犬吠埼風の暴走を止めた現場だった。
だから理不尽な勇者の真実も知っていたし、風が殺し合いに乗った理由にも思い当たることはあったけれど。
友奈から『先輩が人を傷つけるところなんて見たくない』と説得された風が、
そして、樹からも復讐で大赦を潰すことを止められて、皆の前で泣き崩れたばかりなのに、
あんなに追い詰められた顔で暴走するだろうか。
仮に、もしもだけれど、『友奈たちに止められるよりも前の時点で、殺し合いに呼ばれた』としたら――
「私にも、もしかしたらそうかもって奴がいるわね……」
「でも、時を操る魔法なんて、今の時代には失われた技術のはずです。
あの『繭』という人はいったい――」
「それなんですけど!」
「「「わっ!」」」
ここが唯一の機会とばかりに、るう子が話を切り出した。
これを伝えないことには、殺し合いを解決する何もかもが進まないのだから。
るう子たちの世界で、どこかに『繭』という名前の少女がいたこと。
繭は全てを奪われて、閉じこめられた場所にいたこと。
友達も、遊ぶことも、会話することも、身体を動かすことも、愛されることも。
生きていれば、大きなものから小さなものまでたくさんある、無数の『選択肢』を全て取り上げられ、どんな願いも叶わない一生を強制されていたこと。
やがて少女は、『願いを叶えるチャンスがある』『外の世界で活きられる』『幸せというものを知っている』『選択肢がある』すべての少女を、呪うようになったこと。
そんな少女たちに復讐するために、『WIXOSS』というカードゲームを使った『遊び』を作り出したこと。
空想の友達――白い少女と黒い少女から始まった、カードの中にいる『ルリグ』も、
負けたら願いが反転して一生の傷を背負うセレクターバトルのシステムも、
勝ち残っても、新たなルリグとなってカードの中に閉じ込められるという結末も、
すべて、繭の生みだした空想の世界が、現実に投影されたものだということ。
「じゃあ、私たちは繭が八つ当たりするために殺し合いをさせられてるの?」
怒りのこもった声で抗議したのは夏凜だった。
しかし、彼女たちの表情にあのは純粋な義憤ばかりではない。
それも無理からぬことだった。
四人の少女たちには、生い立ちや戦場を経験した数の差こそあれ、皆が自分自身で選び、がんばった結果として今がある。
だから、彼女たちの誰もが想像してしまう。
もし、アルバイトをすることも、友人とお茶を飲むこともできず、ずっと独りきりだったら。
もし、覇王流を極めたくとも、病気で外に出ることさえできない身体だったら。
もし、満開をするまでもなく初めから動けなくなり、戦うための訓練も勇者部の面々と出会うことも無く、狭い部屋でお荷物として腐っていくだけの毎日だったら。
まさに自分たちは、『それら』があることを憎まれたのではないかと。
-
「……でも、だからと言ってヴィヴィオさんたちのような、
平和な時代に生まれた格闘技選手が、こんな戦いをするなんて間違ってます」
しばらくしてアインハルトがそう言うと、四人は確認するように頷き合った。
「とにかく、繭のことが少しでも分かったのはプラスだわ。
じゃあ、次は私たちが話す番だったわね」
とは言っても、夏凜とアインハルトは既にお互いの間で情報共有を済ませている。
アインハルトが金髪の格闘家と交戦した出来事についても、夏凜がまとめて説明すれば良かった。
あとは、それぞれが互いの世界の関することを語る。
アインハルトが、次元世界のことやミッドチルダのこと、そして覇王流のことを紹介した時には、シャロたちもやはり『魔法』という用語に驚いていた。
そして、夏凜はバーテックスのことや、勇者システムのことについて(満開の副作用については、気を遣わせると思ったので伏せて)、世界を守って来たことを語った。
「じゃあ、夏凜ちゃんは私たちの時代よりずっと未来から来た人なの?」
「それは、分かりません……よく似た別の世界かもしれません」
そして、ここで夏凜の世界とシャロたちの世界が決定的に異なることがはっきりする。
シャロとるう子の世界では未だ神世紀に突入しておらず、西暦の年代で呼ばれている。
それは、この世界が四国を残して滅亡してしまう前――時代が『神世紀』に切り替わる、三百年近くも前に使われていた暦の呼び方だ。
もちろん、シャロたちが暮らしている町も四国以外の地名だった。
「アインハルト以外は同じかと思ってた……普通に同じ国の人っぽかったし」
「そうね……夏凜ちゃんもあんまり『未来の人』って感じじゃないし」
「三百年ぐらい未来の人でも、今の時代みたいな服を着るんだね……」
「た、確かにぱっと見は似てるかもしれないけど、アンタ達の時代よりずっと進んでるんだからね!
アンタ達の時代じゃ、車椅子でも階段を登れるレーンとか、まだほとんど無いでしょ」
真っ先にハーブティーを飲み終え、黒いカードから出した一袋分のにぼしをぱくつきながら夏凜があれこれと異文化(?)自慢をする。
なぜ、ハーブティーの後ににぼし?
三人はそう思ったが、突っ込んではいけない気がした。
とにかく、何かを言わなきゃと思ったらしくるう子が曖昧に笑って言う。
「で、でも……だったら、この世界は少なくとも、夏凜さんの世界じゃないですよね。
だって、場所が四国だけなのに、こんな殺し合いが開かれたらすぐ分かるはずだし」
にぼしを口に運ぶ手が、止まった。
「……え、だったらどうして私、勇者に変身できたの?」
-
そう訊ねても、三人が答えを持っているはずも無く。
だからつまり、と夏凜は言葉に迷いながら、疑問点について説明していった。
バーテックスとの戦いでは、勇者が『戦う』という意思を示してアプリを起動した時に、神樹との間に霊的な回路が生成されて、勇者になるための力が供給される。
満開をするにしてもそれは同様だ。勇者自身のレベルアップはもちろん必要だけれど、神樹からの恩恵が無くてはならない。
勇者部のメンバーたちがかつて満開をした時に、地面から根のようにエネルギーが吸い上げられ、勇者たちに力が注がれるところを夏凜も見ていた。
だとしたら、神樹の存在しないこの土地で、夏凜たちが勇者に変身して、すでに交戦まで終えてきたというのは、明らかにおかしい。
「精霊だって、神樹の意思を受けて派遣されたようなものよ。
それが精霊ごと連れて来られてるってことは、神樹が出し抜かれたようなものじゃないの?」
「たとえば……神樹の代替になるエネルギーが確保されているのでは?」
そう言ったのはアインハルトだった。
彼女の暮らしているミッドチルダには『聖王教会』という宗教組織が存在するけれど、
そこで祀られている『聖王』という存在は、過去に実在して、現実の質量兵器を持っていた人間だった。
しかも、その有していた兵器である『聖王のゆりかご』は、伝承によれば月面の土地から魔力を吸い上げることができたという。
アインハルト自身も聖王関係の史実については詳しかったこともあり、神の力だろうと魔力に類するもので代替できるのではないかという発想を述べた。
「じゃあアインハルトちゃんは、繭が神様の力を手に入れたって思ったの?」
「そこまでは……私も学者型ではありませんし」
「でも、あの繭ってやつ……確かに得体が知れないけど、ただの女の子なんでしょ?
神様の代わりをするなんて、そんな無茶なことができるのかしら」
神樹が恵みを与えているおかげで四国の文明そのものが成立している夏凜からすれば、
不思議な力があったとしてもただの女の子がそれに匹敵するなんて、あまりにも荒唐無稽なことだ。
「たぶん、今までの繭にはできなかったと思います。
世界や時間を超えて人を連れてくるのも、武器や食べ物が出てくるカードも、セレクターの女の子以外を巻き込むのも初めてのことだし。
それに、あんなドラゴンみたいな生き物の腕、ウィクロスのカードにもいない」
「確かに、召喚龍を呼び出す術は私たちの世界にもありますが……あんなに大きなものは、見たことがありません」
「で、でもるう子ちゃんの話だと、繭は人の願いを叶えられるんでしょ?」
「ううん、願いを叶えるのはルリグだし、ルリグも普通の女の子だから、夢限少女になっても普通の女の子に叶えられない願いは、叶えられないんです」
「そっか……ごめんなさい」
-
本当に、ぜんぶ普通の女の子なのかしら。
この時、ふと夏凜はそう思った。
るう子から夢限少女になるまでの話を聞いて思い出したのは、満開のことだった。
勝ち続ければ、『もう夢限少女になれる』といつか条件を満たしたと判断される。
それは、戦いの経験をつむうちに勇者としてのレベルが上がり、満開ゲージを満たすのと似ていると思ったのだ。
しかも、新たな夢限少女を生み出すには、ルリグと少女がいっしょに契約の意思を示し、共に攻撃を行うという。やっぱりそれっぽい。
(もしかして、ここに呼ばれてる女の子にも勇者の適性値があったりして……まさかね)
「とにかく! 繭に力を貸してる神様がいるのかは知らないけど、今の私たちにこれ以上分かりようがないんだし。
まずはおたがいの友達を探すとか、やることがあるんでしょ」
夏凜がそう言って場をまとめようとしたが、アインハルトが「あっ……」と声を漏らした。
「そう言えば、私たちヴィヴィオさん達のことをお二人に教えていませんでした」
「あ」
「言われてみれば……」
「私も、遊月のことしか……」
揃いも揃って、知識の面で伝えることが多すぎて後回しになっていた。
いや、夏凜だけはこれまでのことを話すなかで犬吠埼風については触れたのだが。
べ、別に大事な友達のことを忘れていたわけじゃないんですよ、と互いに暗黙の了解をするような、そんな沈黙が数秒ほど流れる。
義輝がわざわざ出現して、「諸行無常―」と言った。
「そ、そうね……私以外にも四人の『勇者』がいることは言ったんだし。
まずはそいつらの名前を…………って、そうじゃないわ。教えるより見せた方が早いじゃない」
支給されていたスマートフォンを操作する。
電話やメール、勇者レーダーのような通信手段はすべて使えなくなっていたけれど、
これまでにやり取りされたデータ……勇者部の皆が写っている『誕生会』の写真は、ちゃんと夏凜のもとに残っていた。
「え、携帯電話……?」
るう子がそれを見て、何かを思い出したようにつぶやく。
-
「ほら、この写真に写ってるのがそうよ!」
大きく表示させて、全員に見せる。
それは、色紙でつくった誕生祝いの三角帽子をかぶり、仲良く一列にならんだ5人の少女だった。
「この人達が……」とシャロとアインハルトが写真に見入る中で、
小湊るう子が、息を呑んだ。
「この人……るう達を襲った、車椅子の……!」
全員が、えっと絶句した。
夏凜は言われた意味が飲みこめず、反射的に言い返す。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。嘘でしょ……そんなの……」
しかし、すぐに理性は気付く。嘘や言い間違いではないことを。
写真に写っている東郷美森は、ソファーに座っている。
その彼女を見て『車椅子の』と指摘したのだから、虚偽の類とは考えられない。
「だってこの人……携帯電話を出したと思ったら変身して、変わった形の銃を使って……それで咲さんを……」
これで、決定的にクロ。
犬吠埼風だけではなく、東郷美森も殺し合いに乗った。
しかも、すでにその手による犠牲者までも生まれている。
「どうして……」
まず思ったのは、疑問。
確かに、風だけでなく勇者部の全員が『満開』の秘密を知っていた様子だった。
けれど、東郷はどちらかというと慎重で、冷静で……皆を救うためとはいえ『友奈を殺すことになる』という矛盾に気付かないはずはない、そんな少女だと思っていた。
「『悩んだら相談』じゃなかったの…」
そして、次に感じたのは歯痒さだった。
こんなに衝撃を受けるくらいなら、どうして風を見逃した。
確かに、あの時の風を攻撃することなんて夏凜にはできなかった。
でも、その結果、勇者部の仲間が人を殺すかもしれないと、戻ってこられなくなるかもしれないと、そこまで考えないようにしていたのは、夏凜の甘さではないか。
何より、友奈がいる。
風と東郷のことを知ったら……それも、東郷が1人で悩み苦しんで人を殺してしまったと聞いたら、友奈はきっと泣く。
そんなのは、見たくないのに。
-
「風も、東郷まで……バカ。本当のバカ!」
どうする?
今からでも神社に東郷を探しに行く……無理がある。とっくに移動してしまっているだろう。
ならば、東郷のいそうな場所をとにかく探し回る?
夏凜だけならそれも有りだったかもしれないけれど、るう子たち3人がいる。
アインハルトは多少は戦えそうとはいえ敗戦で凹んでいた後だし、るう子も薬を飲んだとはいえ体調は悪い。
そんな3人を東郷の元に連れて行って、的にされたらどうする。
だったら、これ以上の犠牲者を増やさないためにも、人の多そうな街に行って東郷のことを伝えて回る?
ぐらぐらと迷う夏凜の意識を、三人の気遣う声が覚まそうと必死になっていた。
「夏凜さん、その……るうは大丈夫ですよ! 夏凜さんが落ち着くまで、待ちますから」
「い、今もう一杯、ハーブティーを出してあげるわ。気持ちが落ち着くようなの」
「私も……待ちます」
外部からの呼びかけ。
それは、バカみたいに優しく感じられた。
この『バカみたい』は、さっき言ったのとは違う『バカ』だ。
人の家に勝手にあがりこんできて、お誕生会を始めるような、そういう意味の『バカ』だ。
「ごめん……一分たったら、ちゃんとするから」
だから、思ったのだ。
私に『バカ』を教えたあんた達が、『違うバカ』になってどうすんのよ、と。
【E-3/エリア南西部/一日目・早朝】
-
【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:にぼし(ひと袋)、夏凜のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:繭を倒して、元の世界に帰る。
1:どこに向かう……?
2:東郷、風を止める。
[備考]
※参戦時期は9話終了時からです。
※夢限少女になれる条件を満たしたセレクターには、何らかの適性があるのではないかと考えています。
【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:魔力消費(小)、歯が折れてぼろぼろ、鼻骨折
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
黒カード:0~4枚(自分に支給されたカードは、アスティオンではない)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:夏凜さん……。
1:私が、するべきこと――。
2:仲間を探す。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後からです。
【桐間紗路@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
黒カード:不明支給品0〜2 (確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。みんなと合流して、謝る
0:夏凜ちゃんにハーブティーを淹れる。
1:私は、どっちに行ったら……
[備考]
※参戦時期は7話、リゼたちに自宅から出てくるところを見られた時点です。
※小湊るう子と情報交換をしました。
【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:微熱(服薬済み)
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10)
黒カード:黒のスクーター@現実、チタン鉱製の腹巻@キルラキル、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
不明支給品0〜1枚、宮永咲の不明支給品0〜2枚 (すべて確認済)
宮永咲の魂カード
[思考・行動]
基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
0:夏凜さん……
1: 遊月、浦添伊緒奈(ウリス?)、晶さんのことが気がかり。
2: 魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
[備考]
※参戦時期は二期の8話から10話にかけての間です。
※桐間紗路と情報交換をしました。遊月が過去から呼ばれたのではと疑いを持ちました。
[備考]4人が共有している推測は以下の通りです。
1:会場の土地には、神樹の力の代替となる何らかの『力』が働いている。
2:繭に色々な能力を与えた、『神』に匹敵する力を持った存在がいる。
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【風邪薬@ご注文はうさぎですか?】
アインハルト・ストラトスに支給。
ココアが熱を出して寝こんだときに、チノが千夜の家まで取りに行った風邪薬。
薬局で市販されているオーソドックスな薬。
投下終了です
wikiに収録する際は、SSタイトル元ネタは「『結城友奈は勇者である』風サブタイ」 でお願いします
カモミールの花言葉です
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投下乙です
>領主様が見てる(?)
ファバロは自由にやってるなあwww
と思いきやキャスターの放送を見てしまう巻き込まれ体質も発揮
ヴァローナに目をつけられて逃げるファバロ、戦ったらどうなるかなぁ
>逆境に耐える
ゆゆゆの設定は他と毛色が違いすぎるから考察が捗るな!
夏凜は知り合いが二人も殺し合いに乗って精神ダメージ大きいだろうけど
この女の子パーティーを引っ張って行って欲しい
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投下乙です。
考察が始まったか……いい対主催グループになりそうだなあ。
自分も投下します。
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万事屋。
その施設の扉を片足で蹴破れば、ジャック・ハンマーは内部を改めにかかった。
淡々と探索する姿はまるで機械兵器か何かのようで、ある種の空寒さすら感じさせる。
いや、事実この会場へ招かれてからの彼は、殺人機械(ターミネーター)と呼んで差し支えあるまい。
少女一人を殺し、後には更に二人へ致命打を与え、英霊の飛行宝具へしがみつく狂気的な執念すら発揮してのけたのだ。
「…………」
靴を脱ぐことさえなく、土足のままで上がり込む。
ジャック・ハンマーは、実に淡々と室内を策敵していく。
何か使える品物がないか、がめつく物色するような真似はしない。
人の隠れる空間がありそうならば探るが、そうでなければ見向きもしてはいなかった。
彼が望むのは力、ただ力。
「…………」
全ては、この肉体を極限まで鍛え上げるために。
今のままでは到底足りぬ。
今のままでは範馬勇次郎へ届かない。
『他の誰か』ではいけないのだ。
ジャック・ハンマーという代用の効かない己自身の手で、範馬勇次郎という名の蝉を飛び越える必要がある。
「…………」
闘争を。
より猛く、この血潮を煮え滾らせてくれる戦いをこそ所望しているのだ。
一方的に殴り殺されるしか能のない雑魚では、いくら不可思議な道理を纏っていようと意味がない。
自分とさえ対等に殴り合い、殺し合える存在こそが、この体をオーガへ届き得るものにまで高めあげてくれる。
彼は探る。
潜む異能者を、強者を見つけ出し、屠ることで血肉に変えるべく体を動かす。
海原へ放り落とされても尚、微小な疲労すら蓄積していないそのタフネスは端的に言って異常だ。
「…………」
だからこそジャック・ハンマーの存在は、全ての参加者にとっての脅威に他ならなかった。
無尽蔵と錯覚させるほどのスタミナで追い回し、出合い頭の襲撃さえ厭わない化け物。
池田華菜を容赦なく粉砕したように。
満艦飾マコへ躊躇いなく惨たらしい暴力を振るったように。
ジャック・ハンマーという男にとって、道徳や倫理といったものは二の次なのだ。
-
「外したか」
家宅捜索を終え、ジャック・ハンマーは小さく呟いた。
成果はなし。
有限である時間を早速無駄にしてしまったようだ。
「…………」
地図を表示させ、近隣の施設を確認する。
――ゲームセンター。
此処から向かうならば、どうやらそこが一番近いらしい。
この身と血を焦がすフラストレーションは、あてが外れたことで更なる高まりを見せている。
出で立ちと噛み合っていない二つ星極制服の下にある、彼の鍛え抜かれた鋼の体が脈動したように見えた。
それは果たして錯覚だったのか、それとも本当に、強者を求める彼の思いが現象として現れた一幕だったのか。
「…………」
果たして、その真実は誰にも分からない。
しかし、ただ一つだけ確かなことがある。
彼の指針はごく正しく、的を射たものであったということだ。
その足が向かう先で、平和の島が噴火している。
噴出した火山灰すら焼き尽くす勢いで、未だかつてなく、名前負けした怪物が激昂している。
やがて時刻が朝に近付いた頃、ジャック・ハンマーは『彼』と行き遭った。
暴れ狂うその姿を視界へ収めた瞬間、彼の心を満たすのは求めたものを見つけた感覚。
この男だ。
こういう者こそ、自分が求めていた相手なのだ。
強者。
範馬勇次郎へ挑むための糧となり、己を高めてくれる存在。
ジャック・ハンマーの目に、感情を爆裂させる彼の姿は先のステーキより何十倍も重厚に映った。
刻印虫。
黄金の船。
魔術。
この会場で出会ったあらゆる超常現象にさえ、彼の存在は勝利して余りある。
気付けば足は地面を蹴り飛ばしていた。
コンクリートがひび割れるほどの脚力でスタートダッシュを切った彼の行方は、最強の男の懐。
とてもではないが自分より屈強そうには見えないそのボディへと、全速力を乗せた正拳突きを叩き込んだ。
-
●
「……あ゛……?」
ジャック・ハンマーの振り抜いた拳は、平和島静雄の腹筋を確かに直撃していた。
だが、彼には吹き飛ぶ気配も、喀血したりする気配もない。軽く胃液の混じった唾を吐き捨てただけ。
粉塵爆発のように荒れ狂っていた叫びや破壊音が沈静化したかのように止まり、ジャックと静雄の目が合う。
――不味いか。
即断し、拳を引こうとしたが、それでも平和島静雄には遅かった。
「おいコラ、待てや」
手首を、静雄の右手ががっしりと捕まえる。
ジャックの腕力は度重なる肉体改造でもって、完全に人間を越えている。
だから、生半可な束縛など引き千切って抜け出すことすら容易い――のだが。
動かない。
びくともしないという域ではないにしろ、彼ほどの男が、バーテンの細腕一本を解けない事態が発生している。
筋力も鍛錬も、とてもジャックに優っているとは思えない体格でありながら、その剛力はあまりに強烈。
「手前、何人様ぶん殴って澄まし顔してやがんだよ。何とか言えよ。せめて謝れ」
その声は、別にドスが効いている訳ではない。
むしろ先程まで彼が見せていた破壊者ぶりと怒号を思えば、穏やかと言ってもいい筈だ。
しかしこれを見て安堵するような輩は阿呆だと、ジャック・ハンマーはそう思う。
『出来る』者ならば、安堵などを覚えるよりも先に疑問視して然るべきだ。
ありえない――断じてこれは、怒りに任せてこれほどの暴威を発揮できる人物が喧嘩を売られた時の反応ではないと。
あまりにも静かすぎる。
バーテンの後ろに広がっている、所々がぐしゃぐしゃになったアスファルトや標識を見れば尚更だ。
状況証拠だけでも典型的な激情家と分かる、そんな単細胞が見せる反応にしては大人しすぎる。平和すぎる。
この状況を的確に称することの出来る言葉を、ジャック・ハンマーは知っていた。
成る程、的を射ていると一人納得するほどに、目の前の彼へその言葉はよく当て嵌まっている。
暴風雨や台風が訪れる前には、奇妙なほどの晴れ間が覗いたり、雨風がぱったりと収まることがあるという。
大きな事件や異変が起こる前の一時的に訪れる不気味な静けさを、古人が称した慣用句。
即ち、嵐の前の静けさ。
今の彼はまさにそれだった。
そして、逃れようのない暴風雨が、火砕流を連れてやって来る。
「――――何とか言えってんだろうが、この仏頂面野郎がぁぁぁぁぁ!!!!」
-
ジャックの腕を掴んだまま、型も何も存在しない力づくの背負い投げを繰り出す。
まるでジェットコースターに乗っているかのような感覚だった。
景色が一瞬で反転し、猛烈な音と衝撃を伴って地面へ叩き付けられる。
この殺し合いに参加させられてから、最も強烈なダメージ。
それどころか、これまでに経験してきた数多くの痛手の中でも頭抜けていると言っていい。
「手前、大方格闘技か何かやってんだろ? だったら当然知ってるよなぁ?
そういう技を素人相手に使ったら死んじまうかもしれねぇって分かっててやったんだよなぁ?
それを分かった上で、初対面の人間に殺す気で打ち込んだんだよなぁ?」
体勢を瞬く間に立て直し、腕を鳴らして歩んでくるバーテンを睥睨する。
埒外の怪力と予想通りの単細胞。
普通、この手の相手は卸しやすいものと相場が決まっているが――彼の場合は、あまりにも長所がずば抜けすぎている。
「……あぁ、勘違いしてんじゃねえぞ。別に“俺は”いいんだよ。
いや良くねえが、力ぁ使う作法も知らねえような野郎に殺されるほど、この体がヤワじゃねえことは知ってるからよ」
ぶちり。
まるでビニールひもでも引き千切るような気軽さで、彼は標識を掴み、引き千切った。
それを右手に持ってもまだ手持ち無沙汰なのか、手頃な大きさの自販機を左手で持つ。
配線が引き千切れて火花を散らしていることなど、彼の目には入らない。
「けど手前、“俺じゃなくても”さっきみてえにしただろ?」
ジャックはこれ以上の待ちは危険と判断し、動いた。
だが、それを完遂する前に静雄の投げた自販機が視界を覆う。
常人ならこれだけで撲殺してしまえるような重量だが、ジャック・ハンマーは生憎常人ではない。
更に、そこへ輪をかけて極制服で強化もされている。
自販機を真っ向から受け止め、僅かに後退を余儀なくされたが、そのまま両手で投げ返した。
しかし平和島静雄は、それを何のブーストもない生身で、片手で掴み取る。
もしもこの自販機を野球ボールか何かに変換して見れば、キャッチボールをする青年二人の絵面が出来上がる。
それはさぞかし心温まる絵であったろうが、現実に投げ交わされているのは自販機だ。
静雄が自販機を投げる。ジャックが止め、投げ返す。
静雄が掴む。投げる。ジャックが止めて投げ返す。
ジャックをしても、自販機の重量を静雄の腕力で投げられたものが直撃すれば無傷では済まない。
だから対処せざるを得ないのだが、こうしている間にも平和島は着々と噴火の準備を完了しつつある。
「手前、知ってるか? 社会からしてみりゃ、俺らみてえなのは少数派なんだぜ」
普通の人間は、自販機を投げられないし標識も引き抜けない。
静雄も昔は冷蔵庫を持ち上げようとして全身の筋が伸び切り入院した経験がある。
人間の体は普通、彼らのような暴れ方には耐えられないのだ。
-
「普通の人間ってのはな、怖がるんだよ。
こんな状況で『殺す』とか言いながらこういうモンを持ち上げてるヤツを見りゃ、絶叫して気絶するほど怖がる」
あの時は参った。
無言で逃げるならまだしも、まさか漏らすものを漏らした上で失神されるとは思わなかった。
悪いことをしたとも思ったし、それ以上にこれからどうするか非常に迷ったものだ。
「んでもって、たとえ殺しに来た奴にだろうと、俺らみてえにこんなモンをぶつけたりはしねえんだとさ」
ジャックは何も喋らず、黙って彼の投擲物を受け止めては投げ返し続けている。
彼には、静雄の言っている意味が分からなかった。
否、そもそも分かろうとすらしていない。
ジャック・ハンマーにとって、他の参加者とは皆糧にすべき存在だ。
範馬勇次郎へ挑み、乗り越えるための前座だ。
普通だろうがそうでなかろうが、攻撃を仕掛けてはならない理由にはならないと信じている。
そして静雄も、目の前の殺人者が自分の言葉に感銘を受けたりはしないだろうと最初から分かりきっていた。
その上で、一人語りのように口を動かしている。
「人を散々騒がせたかと思えば、ガキの分際で大人を励まそうとする。
バレバレの年齢詐称をして誇らしげにしてよ。生意気なもんだよなあ」
――思い返す、思い返す。
――もういないある少女のことを。
――壊されて、いなくなってしまった娘のことを。
「だが手前らみてえなゴミどもは、そんなガキすら平気で殺すんだよな」
静雄のこめかみに、一時は引いていた青筋が再び浮かび上がる。
何本も、何本も。
『あの光景』を思い出す度に、浮かぶ血管の数が増えていく。
――こいつは、ゴミだ。あのノミ蟲程じゃないにしろ、人を人とも思わずに殺して回るクソ野郎だ。
投げ返された自販機を受け止め、そのまま――ぐしゃりと、掌が届く範囲内を握り潰した。
ボーリングの球のように、刻み込まれた指の跡が静雄の手によくフィットする。
そのまま振りかぶると、平和島静雄は――全力で。キャッチボールなどとはわけが違う。
全速力で、一切勢いを殺されることなく、投擲された数百キロもの重量がジャック・ハンマーへ襲いかかる。
-
(……重いッッ)
止めた腕が軋む。
じりじりと後ろへ押し戻され、これまでのように反撃へ移ることさえ許さない。
やがて、ジャックの剛健な腕と静雄に投げられた推進力の間で板挟みにされた自販機は、敢えなく砕け散った。
それは極めて非現実的な光景であったが、現実などという概念をこの二人へ適用する方が誤っている。
原型を失った自販機が、中に残されていた缶飲料が、ぼとぼととぶち撒けられた。
そして。
「手前みてえな奴が、殺すんだ」
いつの間にか、平和島静雄が至近距離まで迫っていた。
自販機を受け止めるのに集中するあまり、その接近に気付くことが出来なかった。
それは本来のジャック・ハンマーであればありえないこと。
そしてそんなことが起こったということは、ひとえにそれだけ、静雄の攻撃が驚異的だったことを物語っている。
ジャックほどの人物でさえ、軽く流すことが出来ないほどに。
「手前みてえな奴がよぉ……」
拙い。
判断するや否や、ジャックは思い切り飛び退いた。
あれだけの怪力だ。
直接殴られれば、それこそ甚大な被害を受ける。
「手前みてえなのがぁぁぁあ――ッ、コマリみてえな奴を殺すんだろうがぁぁぁぁああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
臨也への怒りが。
越谷小鞠という無力な少女を殺した男への怒りが。
殺されたという事実への怒りが。
殺し合いへ乗った輩への怒りへと変換され。
――ここに、平和島静雄の怒りが再度大爆発した。
ジャックはそれを目にし、やはり自分の見立ては正しかったのだと確信する。
これまでに出会ってきた参加者とはまるで別次元だ。
強靭にして頑強。自分の強化を尽くした肉をしても、匹敵するかさえ怪しい限界にまで辿り着いた体。
きっと彼は、争いを好む質ではないのだろう。にも関わらず、これほどの力。
-
羨ましい。そして、自分にとって平和島静雄はこの上なく有益な存在だと分かった。
彼ならきっと、勇次郎へ挑む大きな足がかりとして自分を強くしてくれる。
歓喜すら覚えながら、静雄の左手を受け止める。
だがその瞬間、ジャックは頭を標識を振るうことで――ごく単純に、ぶん殴られていた。
「ぬゥ……ッ」
頭の中で星が明滅する。
それどころか、閃光弾でもぶち撒けられたようでさえある。
堪え切れるか。――無理だ。堪え切れない。
真横に呆気なく、ノーバウンドで吹き飛ばされるジャック。
ホッキョクグマを素手で撲殺する膂力を持つ彼の拳を受けた満艦飾マコは、これのおかげでそれに耐えた。
それと同じ。
如何にジャックといえど、こんな一撃を頭で無防備に食らっていたなら――死んでいたかもしれない。
「ッッ」
だが彼は凌ぎ切る。
脳震盪を気力で凌駕し、返しの刀に全力の拳を平和島静雄の顔面へ叩き込んだ。
さしもの静雄も、これにはぐらりとその体を揺るがせる。
しかし。
「おい」
口からペッと血反吐を吐き出して。
平和島静雄は、ジャック・ハンマーの胸倉を掴み上げた。
好機。ジャックは首を伸ばし、静雄の手首――正しくはそこに通っている血管を噛み千切らんとする。
「痛ぇじゃねえか手前ぇぇぇぇぇぇぇええええ――――!!!!」
それでも、平和島静雄の方が速い。
そのまま、彼を軽く宙へ擲ち。
金属バットで殴り飛ばす要領で、標識を用い打ち付けた。正しくは、“打ち飛ばした”。
人体ほどの重さをノーバウンドで飛行させる怪力は相変わらず。
しかも今回は上空へ向けて打ち上げたのだ。
彼は敢えなく、元来た万事屋の方向へと猛烈な勢いで跳ね飛ばされる。
どうにか。どうにか静雄の下へと舞い戻る手段はないか――ジャックは空気抵抗の中、至極冷静に思考する。
-
だが。
只でさえ頭部へのダメージが蓄積されている状態で、聳える電信柱へ叩き付けられてはさしもの彼も堪らなかった。
一瞬だけ後頭部に鋭い鈍痛を感じ、ジャック・ハンマーはぐらりと揺れれば、そのまま墜落して地面へ。
それきりだった。
追跡者として存分に猛威を奮ったジャック・ハンマーはこれにて一旦沈黙する。
だが。
ジャック・ハンマーは超人の部類だ。
ダウンしている時間はそう長くないだろう。
遅くとも、第一の定時放送が始まる寸前には再覚醒するに違いない。
刻々と、その時は迫っている。
ジャック・ハンマーが、追い求めてやまない最強の存在。
範馬勇次郎。
彼が既にこの世にはいないということを知る、その瞬間が。
【F-6/一日目・早朝】
【ジャック・ハンマー@グラップラー刃牙】
[状態]:気絶、頭部にダメージ(大)、脳震盪(無視できる範囲)、そこそこ満腹、服が濡れている
[服装]:ラフ
[装備]:喧嘩部特化型二つ星極制服
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
黒カード:刻印虫@Fate/Zeroが入った瓶(残4匹)
[思考・行動]
基本方針:勇次郎を倒す
0:平和島静雄を倒す
1:人が集まりそうな施設に出向き、出会った人間を殺害し、カードを奪う。
2:勇次郎を探す
[備考]
※参戦時期は北極熊を倒して最大トーナメントに向かった直後。
※喧嘩部特化型二つ星極制服は制限により燃費が悪化しています。
戦闘になった場合補給無しだと数分が限度だと思われます。
※意識の再覚醒はそう遠くありません。
●
そうして平和島静雄は、再び暴走を開始する。
ただし、先程よりは幾分かその状態は安定化していた。
皮肉にも、ジャック・ハンマーとの交戦が僅かに心を鎮める役割を果たしたのか。
「臨也ぁ……」
それでも、一向にその怒りが衰える気配はない。
嵐のような激しさをこそ消しているが、静雄は臨也を捜し続ける。
越谷小鞠を殺した外道を、文字通り害虫を潰すように蹴散らし殺す為に。
【G-7/ゲームセンター付近/一日目・早朝】
【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:激昂、顔面に痺れ(軽度)
[服装]:バーテン服、グラサン
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:ボゼの仮面@咲-Saki- 全国編
不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:あの女(繭)を殺す
0:臨也を殺す
[備考]:折原臨也を探し殺すという目的の元に暴走しています。どこに走って行くか分かったものではありません。
※G-7、ゲームセンター付近の路面や標識などが静雄が暴れ回ったことで破壊されています。
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投下終了です。指摘などあればお願いします。
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投下乙です
なんだこの化け物同士の戦いは、たまげたなあ……
自販機でキャッチボールしたり標識でホームランしたり、ジャックも静雄もすげえ
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御三方とも投下乙〜
ファバロがファバロらしく満喫(?)したりゾンビ見抜いたりと思ったらw
まさかここでも美女に追われて大変な目に合うことになろうとはw
女の子がいっぺんに合流したか!
やはり繭情報は大きいし、規模の大きいなのは世界の情報とかもからみ合って考察少し進んだな
静雄つええし、かっけええ!
やるせない心情も相まってしびれた
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投下します
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「UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!」
B-7。内観はやや古臭いが、海を見渡せる眺望を誇るホテル。
そのロビーに、荒れ狂う男の姿があった。
「許さん・・・・・・絶対に許さんぞクソボケがああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
ソファーが、テーブルが、調度品が、無軌道な暴力により次々に破壊されていく。
男の名はDIO。
時を止めるスタンド「世界」の力で、文字通り世界の覇権を握らんとする怪物である。
が、今の彼は、本能字学園での戦いで傷つき疲弊し、本来の余裕を完全に失っていた。
今は陽が差し込み始めた時間帯。このホテルに来るのにも、日光を避けながら慎重に車を運転してこなければならなかった。
「よくもこの帝王DIOにコソ泥じみた真似を・・・・・・許さん、許さんぞおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
『此度の放映をご覧頂けた幸運なる皆様。私、キャスターのサー「やかましいわァーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!」
突如スイッチが入ったブラウン管テレビは、しかしキャスターの放送の全容を伝えることなく、ボンという小気味よい音をたてて大破した。
「はァーっはァーっ・・・・・・私は何をやっている・・・・・・帝王たるものがこのような醜態を晒してはならない・・・・・・落ち着け・・・・・・今は体を休める時だ・・・・・・完全数を数えて落ち着くんだ・・・・・・1、4、19、125、2899・・・・・・」
ちなみに完全数とはその数自身を除く約数の和がその数自身と等しい自然数のことであるが、今数え上げられた数字に完全数は存在しない。
「ヴァニラ・アイス、ホル・ホース・・・・・・こいつらはどこをほっつき歩いておるのだ・・・・・・」
デタラメでも数を数えた効果かはわからないが、とにかくにも少々の落ち着きが戻ってきたらしい。
「主人の危機に顔も見せんとは、使えん連中どもが」
-
名簿によると、この場にいる部下は2人。口では使えないと言ったが、ホル・ホースはともかくヴァニラ・アイスの能力は有用だ。
なんとか連絡を取りたい。そう思いながら、1枚残っていた黒のカードから道具を取り出す。
「これを使ってみるか……?」
出てきたのは管楽器のような形状をした機械。
甦ってから時間がたっておらず現代の知識が決して豊富とはいえないDIOでも、それが自らの音声を増幅させるものであることは理解できた。
拡声器を持ち窓辺に立つが、ふと手を下ろす。
「いや、やめておこう」
切断された右腕と胴体の傷は、7割ほど回復したとはいえ未だ完全には癒えていない。
加えて時間停止の乱発による疲労、あのゴーレムによる全身に受けたダメージ。
吸血鬼の能力であれば、いずれも小一時間もあれば復調するはずだが、この場では何故かそうはなっていない。
「あの女の細工か・・・・・・全く忌々しい」
この場で大声が響けば、それを聞きつけて部下以外の者もやってくるだろう。
大挙して押しかけてこられたら、体がこの状態ではその連中に対処できる保証がない。
極めて恥ずべき事態だが、今は回復に専念せねばならない。
いずれ主催の女を含め、全員を殺す。
だが、まずは自分にこれほどの屈辱を与えた芋侍2匹と小娘。それにニヤケ面の三つ編み男だ。
特に前者の3人は、どんな手段を使ってでも徹底的に痛めつけた上で殺害しなくては気が済まない。
「見ていろ。このDIOにふざけた真似をしてくれたこと、必ず後悔させてやるぞ」
一敗地にまみれた帝王が、復讐を果たさんと牙を研ぎ始めた。
-
【B-7/早朝/ホテル内】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、右腕切断(癒着済、7割ほど再生)、胴体へ貫通傷(7割ほど再生)、全身にダメージ(大)
[服装]:なし
[装備]:蟇郡苛の車@キルラキル(ホテル前に停車中)、サバイバルナイフ@Fate/Zero、拡声器@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
[思考・行動]
基本方針:主催者を殺す。そのために手っ取り早く他参加者を始末する。
1:夕刻までホテルで体を休める。
2:ヴァニラ・アイス、ホル・ホースと連絡を取りたい。
3:銀髪の侍(銀時)、長髪の侍(桂)、格闘家の娘(コロナ)、三つ編みの男(神威)は絶対に殺す。
4:優先順位は銀時=コロナ=桂>神威。
5:言峰綺礼への興味。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも花京院の肉の芽が取り除かれた後のようです。
※時止めはいつもより疲労が増加しています。一呼吸だけではなく、数呼吸間隔を開けなければ時止め出来ません。
※車の運転を覚えました。
※疲労による運転への支障はとりあえずありませんが、あまり無茶な運転をすると事故を起こすかもしれません。
支給品説明
【拡声器@現実】
DIOに支給。
おなじみの拡声器。
-
以上です
-
投下乙
DIOの精神テンションは今!第一部頃に戻っているッ!
果たしてカリスマ挽回のチャンスは訪れるのか
-
投下します。
-
結論から言うと。
ホル・ホースとセルティ・ストゥルルソンの二人では、針目縫を打倒することは不可能だ。
少なくとも、普通にやっていては。
セルティの影は針目のハサミを壊すことは出来ないし、素の身体能力でも優っているのは針目の方。
ホル・ホースの弾丸をものともしない強度のスーツも、かの片太刀バサミを相手にどれほど活躍できるかは怪しい。
そしてホル・ホース。
彼の場合、針目縫はセルティ以上に相性の最悪な相手だった。
彼の体は紛れもない人間のものだ。
セルティのように身を守る手段もなければ、先ほど惨殺された『勇者』のような力もない。
なせば大抵なんとかなるなどという胡乱げな理屈で奮戦するには、彼の状況はあまりにも心許なかった。
もし針目が本気でホル・ホースのみを狙ってきたのなら、彼の首と胴が離れるまで数十秒とかからないだろう。
(舐められてるってことかい。ヘッ、男のイロハも知らねえような年頃で生意気なことだぜ)
立派な男を名乗るなら、此処は軽んじられている事実に憤りの一つも燃やすところに違いない。
しかし生憎と、ホル・ホースはその手の誇りやプライドを戦いの中に持ち込まない主義だ。
強いて言うなら女相手への『尊敬』くらいのものだったが、今相手にしているのは間違いなく『尊敬』するべき相手。
すなわち、女。だがホル・ホースは先刻、彼女へと『皇帝』の銃口を向けた。
――冗談じゃねえ。ありゃ、見てくれは女でも怪物だろう。
ホル・ホースはその選択を悔やんではいない。
針目縫は化物だ。
見てくれは妖精か人形を彷彿とさせる可憐なものだが、その内側にはドス黒いものが犇めいている。
そのことは、少女を惨たらしく殺し、死後さえ弄んだことからも明らかだ。
下手な情け容赦を抱いてこれと関われば、今度は自分があの悪趣味な人形劇の主役にされてしまう。
(けど、ま……飛び火が飛んでこねえってことは好都合だぜ)
針目の心中はホル・ホースには推し量れない。
戦術どうこうの質ではなく、もっと人格的な部分で、だ。
今手を出してこないのだって、単に自分を侮っているわけではないのかもしれない。
さっき、奴は自分をデザートと呼んだ。
ひょっとすると、散々奴自身の強さを見せつけ、堪らず逃げ出したところで背中を刺す魂胆なのか。
それは分からないが、ホル・ホースはそれでも現状を好都合だと信じる。
(なんたって、嬢ちゃんがこっちを向かないでいてくれる間は――絶対死なねえんだからよ)
命あっての物種という諺ではないが、生に勝る益はない。
侮辱でも軽視でも何でもいい。
大事なのは生きて、物事を考えられるということだ。
そうすれば、必ず活路が見えてくる。
ナンバーワンよりナンバーツーであること。
それを信条とするこの男は、早くも首なしライダーというナンバーワンに隠れることで、虎視眈々と期を窺っていた。
-
セルティの影で編んだ鎌が、針目縫の持つ片太刀バサミと甲高い音を立てて衝突する。
だが今度は先の打ち合いと異なり、セルティはやや消極的な姿勢で戦っていた。
感情の問題ではなく、戦いのスタイルがだ。
鎌をまた弾き飛ばされるようなことがないように気を配りつつ、敵の間隙を縫うようにして振るう。
当然針目は、たったそれっぽっち戦略を変えただけでどうこうできる存在ではない。それは彼女とて承知だ。
しかしそれでも、確かに効果と呼べるものは挙がっていた。
防戦に徹していることで、針目の攻める速度を低下させている。
あらゆるものを断つ鋏が相手とはいえ、ほんのかすり傷程度の当たりでは影のスーツを貫通できない。
事実針目はむっとしたような顔をして、ムキになり鋏を振るう手を早めてきた。
これを好転と判断するべきか否かは、判断の分かれる所だろう。
針目の手は早くなり、状況は最初よりもむしろきつくなってすらいる。
ただ、池袋に名だたる首なしの化物が――全力で逃げと護りに徹しているのだ。
如何に同じ化物と呼ばれた存在である針目でも、数秒、数十秒の速さで削り切れるほど甘くはない。
更に言うならば。
セルティ・ストゥルルソンの力は鎌(それ)だけではなかった。
「わわっ!」
針目縫の足元から、水面に石でも落としたような波紋と共に黒い影が球体状に現れる。
これで彼女を内へ幽閉できれば、たとえ破壊されようとも絶対に秒単位での隙が生ずるはずだと彼女は踏んだ。
後は容易い。中から出てきた瞬間、首なり頭なりに鎌を叩き付けて昏倒させてしまえばそれで終わりである。
だが当然、そうそう上手く物事は運ばない。
影が閉じ切る瞬間に、その裂け目へと片太刀バサミが突き込まれた。
後はそのまま、抉じ開けるようにして針目が中から現れる。
好機と見たホル・ホースが『皇帝』を発砲するが、弾丸は首から上を軽く動かすだけで躱された。
恐るべき動体視力だ。
閉じかけた影の球を抉じ開ける芸当をやってのけながら、高速で飛来する弾丸まで回避するとは。
怪物だな――セルティは自身のことなど棚上げにしてそう思う。
「芸がないなんて言っちゃってごめんね! すごいよ、まるで手品みたい☆」
尽くした手を手品呼ばわりされては、いよいよもって立つ瀬がない。
これだけやって、まるで消耗している素振りがないのも恐ろしかった。
セルティはギリギリの鬩ぎ合いで、肉体以上に精神が疲労してきているというのに。
頭抜けているのは体だけではない――ということか。
「でも、マジックにしては危なすぎるなあ。プンプンだよ、もう!」
狂気的な笑みと共に再開される鋏での攻撃。
それを鎌で止める。
――危ない。今のを止め損ねていれば、間違いなく串刺しにされていた。
背中に冷たいものが走る感覚に戦慄しながら、セルティは再び数歩後退する。
しかしこの場の判断に限っては、針目縫が勝った。
後退することを予期し、彼女はその超人的な身のこなしでいち早くセルティの背後に回ったのだ。
――しまった!
そう思った時には時既に遅し。
針目の一閃が、セルティの背中に袈裟懸けの斬傷を刻んだ。
そこからの追撃をさせなかったのは、やはりナンバーツーにおいてこそ映える男。
-
「もー、うるっさいなあ」
眉間目掛け駆け抜ける弾丸を、鬱陶しげに地面へ叩き落とす。
それを確認し、ホル・ホースはチッと舌打ちをした。
その反応は彼らしくニヒルなものだったが――内心は違う。
今の舌打ちだって、針目に弾を落とされたことに対してのものではない。
『首なしさんよ、何俺が居るってのに殺られかけてんだぁ〜!? 危ねえだろうがッ!』の「チッ」だ。
(――やべえやべえ! このホル・ホースとしたことが、どうやら出しゃばり過ぎだったみてぇだぜ……
でも仕方ねえだろ今のはよッ! アイツが殺されちまったら、次に狙われんのは百パーおれなんだからよぉ〜ッ!!)
針目は、ホル・ホースへと一歩を踏み出した。
だがその瞬間、体勢を立て直したセルティの大鎌が彼女を襲う。
――言うまでもなく、止められる。背後からだろうと、お構いなしだ。
セルティとホル・ホースは最初のやり取り以来、これまで互いに一切の意思疎通を図っていない。
そんな状況にありながら、セルティは共闘相手を狙わせてはならないことを理解していた。
彼は恐らく生身だ。
あの恐ろしい少女と戦闘していたらしい、最初に殺された少女以上に、きっと体は脆いだろう。
それこそ、奴の攻撃など受ければ、たった一発でも十二分に致命傷として機能し得てしまうほどに。
そしてそのことは、針目縫もまた理解していた。
彼女にとって、ホル・ホースという男はまさしく『デザート』。
影使いの首なしは彼女基準で強くこそないものの、簡単には攻め切れない“少し”面倒な相手だ。
それに比べこの彼はあまりに弱い。
針目の動体視力をすれば止まって見えるような豆鉄砲を撃ってくるだけのお邪魔虫。
だから殺すのはセルティが死んだ後なり、本格的に尻尾を巻いて逃げようとした辺りなりでいい。
まさに食後のデザートのように、彼を認識していた。
が、せっかく仕留め切れるという場面で邪魔立てをされれば針目とて鬱陶しく思う。
仕方のないことだったとはいえ、セルティにあの形で助太刀を試みたのは明らかに失策だった。
セルティの妨害を物ともせず、針目は勿体ぶった足取りでホル・ホースの方へ歩んでゆく。
「お……オイオイ、オイオイオイオイ! やめろ、来んじゃねえよッ!!」
彼は情けなく尻餅を付いた。
それから不格好に後退りしつつ、苦し紛れの射撃を針目へ放っていく。
弾を弾く。
避ける。
軌道を変えて襲いかかったものをまた避けて、
時には叩き落としてから踏み潰す。
セルティが影の壁を生み出した。
――飛び越える。
『皇帝』の弾丸を弾くどころか、器用に角度を調整してセルティへと放つ芸当さえ披露する。
常人はおろか、超人でもそうそう不可能であろう魔域の御業。
しかし、針目縫という存在に限っては赤子の手を捻るよりも数段容易いことだった。
なぜなら彼女はREVOCS社が世界に誇る高次縫製師(グランクチュリエ)。
究極の神衣を作り上げるという崇高な役目を帯びた職人の仕事には、ミクロ単位のズレさえ許されない。
-
これはあくまでその応用だ。
彼女にとっては何も特別なことではないし、何故このくらいのことが出来ないのかと不思議に思ってすらいる。
「ち……ちくしょうッ! なんで当たらねえんだッ! 俺の銃はスタンドだぞッ!?」
「なんだか知らないけど〜、おじさまが弱すぎるだけじゃなーい?」
針目との距離は狭まっている。
背を向けて逃げればまだマシだろうに、彼がそうする気配はなかった。
……もっとも、そうした瞬間、追いかけて刺し殺す算段なのだが。
最後の抵抗なのか、一際激しいペースで乱射される銃弾を払いながら、針目はにっこり微笑む。
それを見て、最早諦めたのか。ホル・ホースもふっと笑い返した。
「下手くそなピストルをどれだけ撃ち散らかしても、ボクには無意味だって気付いてもらえたかな?」
「………」
『皇帝』の弾数に限りはない。
だが、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとは相手が『狩人』の場合を除外した場合の話だ。
少なくとも、針目は彼に狩られる軟弱な獲物ではなかった。
「……あぁ、分かったさ。あのことわざ、ど〜も嘘吐いてたみてぇだなあ」
その時、針目は小さな疑問を抱いた。
いよいよどうしようもなくなって、にっちもさっちもいかなくなった時。
人間とは、生きることを諦めて訳の分からない行動に出たり、馬鹿みたいに笑ったりするものだ。
しかし、今目の前の男が浮かべている笑みは――、
「けどお生憎様だぜ。このホル・ホースは、『下手な鉄砲』なんざ撃たねえのさ」
利益を確信している者の笑み。
そして、その視線が針目ではなく、彼女の背後空間へ向けられていると気付いた時に、針目縫は失笑した。
それは、時間差で襲いかかってくる数発の弾丸だった。
大方、お得意の軌道変更だろう。
僅かにタイミングをずらすことでまぐれ当たりを期待したのかもしれないが、そんな小細工に不覚を取る針目ではない。
わざとらしく振り返って驚くジェスチャーを見せてから、あっさりと片太刀バサミの一振りで終わらせた。
実に――実に呆気なく。ホル・ホースの最後の一手は砕け散り、
「『上手い鉄砲』に、数はいらねえ」
――針目縫の胸を、一発の鉛弾が撃ち貫いていた。
-
●
ホル・ホースは、やけっぱちだった。
針目の標的がセルティから自分へとずれたその瞬間から、これはもう逃げようがないと確信していた。
全て計算ずくに見えるが、尻餅をついたところまでは彼の素である。
だが逆に言えば、それからの行動は全て打算ありきのものだ。
銃の乱射も、情けない言動も。
――全ては最後に勝ちを狙うための布石。
無策に乱射しつつ、時折スタンドの力による軌道変更弾を混ぜる。
これでは相手にスタンドの特性を把握されてしまうが、それで良かった。
それでこそ、相手を真に油断させることが出来るだろうと思ったからだ。
針目縫はDIOをすら思わせる邪悪な怪物だが、しかし思慮深い方ではないとホル・ホースは踏んだ。
いや、賭けた。
外れれば終わりだが、どの道臆病風に吹かれたところで待ち受けるのは死、のみなのだ。
であれば、少しでも望みがある方に望みを託す方が賢明に決まっている。
そして思惑通り、針目縫はホル・ホースの真の狙いに気付かず、『油断した』。
「…………、」
針目は、地を噴き出す自分の胸へ手をやり、きょとんと首を傾げる。
それから、ホル・ホースへ目をやった。
「油断したな、嬢ちゃん。そいつが命取りよ」
彼が手にしているのは、白煙をあげる小さな銃。
その気になれば手のひらにさえ収められそうなほどの。
デリンジャー。古くより暗殺用に愛用されてきた小型拳銃。
これこそが、ホル・ホースが針目縫を殺すために用いた切り札だった。
自分の武器が『皇帝』だけだと錯覚させ、背後からの軌道変更弾による奇襲を『切り札』であると重ねて誤認させる。
それから真打ちたる、このデリンジャー拳銃で勝負を決める。
標的に据えられた時に即興で思いついたというだけはあり、作戦と呼ぶには単純すぎる。
しかし、いざ実際に決行されてみて、土壇場で気付き、対処できる人間はごく少数だろう。
元々このデリンジャー拳銃は、支給されていることは確認していたが、使い時でないと押し込めていた代物だ。
事実セルティとの戦いでも役に立つ場面はなかった。
が、この少女にセルティのような強固な護りがあるようには見えない。
使い所さえ見誤らなければ、ひょっとすると効果を発揮してくれるかもしれない。
そう考え、セルティと針目が打ち合っているどさくさに紛れてカードから取り出し、袖の内側へ隠しておいたのだ。
ホル・ホースはその場から、飛び退くようにして脱する。
彼女の鋏の間合いから外れるためにだ。
撃った箇所からしてまず助からないだろうが、最後っ屁を食らっちゃ敵わない。
……もっとも、彼女が本気になったなら、これしきの距離を文字通りすっ飛ばすことも苦ではないだろうが。
さて、どうなるか。
ホル・ホースがじっと針目の一挙一動へ目を凝らす。
するとそこでは。
-
「ふ、ふふふ」
胸の傷を見て、針目縫が怒るでも泣くでもなく、――笑んでいた。
これまで通り、一見すると愛らしい、しかしその本性を顧みるとどこまでも冷たく恐ろしい笑顔で。
場数を踏んだスタンド使いであるホル・ホースさえも、素直に恐怖したくなるような表情で笑っていた。
「おじさま、やるぅー。普通なら死んでたよ、これ」
「……あん?」
「ボクじゃなかったら、ね☆」
体をくねらせて嗤う針目。
明らかにそれは、胸を撃たれた人間の動きではない。
何かがおかしい。
その違和感にホル・ホースが気付くまで、そう時間は掛からなかった。
「……! 『治って』やがるのか……!?」
針目の胸の傷口から漏れ出る血液の量が、時間進行と共に目減りしているのだ。
――普通なら。
――ボクじゃなかったら。
“針目縫”でなければ、死んでいた。
その意味を理解したホル・ホースは、思わず叫ぶ。
「て、てめえ……『不死身』かッ!」
――――彼が叫ぶのと、一陣の黒い『風』が吹き抜け、彼を攫っていくのはまったく同時の事だった。
●
セルティ・ストゥルルソンは、ホル・ホースの叫びを聞くなり即断した。
針目縫は確かに許しがたい。
しかし、擬似的であるかもしれないとはいえ不死身と錯覚させるほどの生命力を持っている相手。
対するこちらは既にジリ貧の傾向が見え始めており、明らかに彼女と張り合うには戦力が足りないのが現状だ。
――これ以上は拙い。
そう見なしたセルティは支給品のバイクを乱雑に取り出すや否や乗車。
事故にならない程度に抑えてこそいれど、それでも高速なことに変わりはない運転で、ホル・ホースを連れ去った。
一歩間違えば大惨事になりかねない超人技だが、なりふり構ってはいられなかった。
……それに、これでもドライビング・テクニックには一日の長があると自負している。
-
自分に対し銃を向けて来た男など、放っておけばいいと言えばそれまで。
だが、セルティ・ストゥルルソンはお人好しである。
たとえ一時的なものであろうが、共闘関係にある相手を見捨てて逃げ出すような真似を彼女は決してしない。
……尤も、セルティに抱えられるような形になっている当の彼は、突然の事態に未だ混乱しているようだったが。
それにしても、激しく、厳しく、何より苦い戦いだった。
これからのことについて考えるためにも、一旦どこかで休憩を取りたい所だ。
ただ逃げ切れた確証もない以上、此処ならば流石に安全だろうという位置までは最低限離れる必要があるだろう。
(少しばかり暴れ馬だが……まぁ、乗りこなせないレベルじゃないか)
愛馬の代わりに駆る機械の馬の乗り心地を評しながら、セルティは戦地となった分校より逃走する。
――彼と彼女の安息は、もう少し遠くになりそうだ。
【E-4/一日目・黎明】
【セルティ・ストゥルルソン@デュラララ!!】
[状態]:疲労(中)、胴体にダメージ(小)、背中に切り傷(軽度)、針目縫に対する強い怒り、少女(犬吠埼樹)を失った悲しみ
[服装]:普段通り
[装備]: 犬吠埼樹の首(影の籠の中) 、V-MAX@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、
黒カード:PDA@デュラララ!!、不明支給品0〜1枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いからの脱出を狙う
1:今は逃げる。どこかで期を見て休みたいし、男(ホル・ホース)との情報交換もしておきたい。
2:首を隠す手段を探す。できればヘルメットがほしいところ
3:知り合いとの合流。臨也には一応注意しておく。
4:鋏の女(針目縫)はいずれどうにかする
5:旦那、か……まあそうだよな……。
[備考]
※制限により、スーツの耐久力が微量ではありますが低下しています。
少なくとも、弾丸程度では大きなダメージにはなりません。
【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)、混乱
[服装]:普段通り
[装備]:デリンジャー(1/2)@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:生存優先。女は殺さない……つもり。
1:な、なにがどうなってやがる……!?
2:ジョースター一行やDIOには絶対に会いたくない。出来れば会う前に野垂れ死んでいてほしい。
[備考]
※参戦時期は少なくともDIOの暗殺に失敗した以降です
-
●
「ふーん。あの女の子、ボクの体に何かしたんだ」
不服そうに唇を尖らせて、針目縫は呟いた。
彼女の『不服』を買うことがどれほど恐ろしいことを意味するかは、彼女を知る者ならば誰もが承知だろう。
体の不調に針目が気付いたのは、首なしの化け物がバイクでもってガンマン共々逃走した後のことだった。
――胸の傷の治りが、いやに遅い。
普段なら数秒もすれば完治してしまうような軽い傷なのに、三十秒近く経ってもまだ傷口が生きている。
この様子では、たかが小さな銃創相手に一分、遅ければ一分半は回復までに掛かるということになりそうだ。
無論、これしきの傷で動きを阻害されるほど針目縫は弱く出来てはいない。
ただ、それでも総体的に見れば弱体化しているのは確かに違いあるまい。
例えば、もし件の傷を作るに至った銃弾がもう少し位置がズレていて、心臓を直撃でもしていたなら。
「……さてと。もう追い付けないかな〜?」
口ではそう言いながらも、針目はセルティたちが走り去った方向へと歩み始めた。
曲がりなりにも殺されかけたことへの苛立ちも確かにある。
しかしそれ以上に、この体へ手を加えるような真似をした主催者――繭へと、針目は苛立っていた。
針目縫にとって、自らの体は誇りであり、素晴らしいものだ。
素晴らしき、生命戦維で編まれた体。
あろうことか、それにゲスな手で触れ、『改悪』しただなんて。
――断じて、許せる訳もない。針目縫は笑顔の下に邪悪な怒りを燃やし、北へと往く。
自らが好き勝手に弄んだ『勇者』の成れの果てになど、最早見向きさえせずに。
【F-4/旭丘分校周辺/一日目・黎明】
【針目縫@キルラキル】
[状態]:胸に銃創(回復中、行動に支障なし)、繭への苛立ち
[服装]:普段通り
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:神羅纐纈を完成させるため、元の世界へ何としても帰還する
1:男と首なしを追いかけてみるけど、間に合うかなあ。
2:流子ちゃんのことは残念だけど、神羅纐纈を完成させられるのはボクだけだもん。仕方ないよね♪
3:何勝手な真似してくれてるのかなあ、あの女の子(繭)。
[備考]
※流子が純潔を着用してから、腕を切り落とされるまでの間からの参戦です。
※流子は鮮血ではなく純潔を着用していると思っています。
※再生能力に制限が加えられています。
傷の治りが全体的に遅くなっており、また、即死するような攻撃を加えられた場合は治癒が追いつかずに死亡します。
※分身能力や変装能力の制限がどうかは、後の書き手さんへお任せします。
-
●
セルティ・ストゥルルソンとホル・ホースが逃げ去り。
それを追う形で生命戦維の化け物、針目縫も去ったその数分後。
誰もいなくなった旭丘分校を訪れる、少女の姿があった。
片目を眼帯で覆った、どこか浮かない顔をした彼女の名前は犬吠埼風。
同郷の『勇者』と別れ、彼女は取り敢えず北側の島へと渡ることに決めた。
別に意識したつもりはなかったが、東郷の言った南東の市街地へは、彼女の提案通り行かないことになる。
彼女はこれから市街地へ向かい、あの銃で命を奪うのだろう。
誰かを救うためにある勇者の力で、人を、殺すのだろう。
「……銃声、した気がしたんだけどな。誰もいないや」
こんな顔をしてどうする。
何を迷うことがある、やると決めたというのに。
何を慮る必要がある――東郷は、あんなにも見事に殺し合いへ順応していたのに。
部長の私が、どうしてこんなに宙ぶらりんなのだ。
「はぁ……」
分校の中に参加者がいるかどうか確認してからでも、少し中で休もうかな。
ふと、風はそんなことを考える。
身体的な疲れは微々たるものだが、今の内面のままで殺し合いへ挑むなど自殺行為にも程があるというものだ。
少し、色々と、整理したい。
東郷のこと。
勇者部のみんなのこと。
そして、樹のことも。
「……ん?」
そこで、ふと。
風は、そこに転がっているあるモノを見つけた。
片目なこともあって今ひとつ見辛いが、奇妙な形をした何かが、赤い液体らしきものをぶち撒けている。
赤い液体。
否応なしにその正体を連想し、連鎖的にあれが何かも理解した。
-
「死体……か」
やはり、銃声はここから鳴っていたようだ。
大方あれは、この戦いで死んだ哀れな犠牲者の遺骸だろう。
そんなものを進んで観察し喜ぶ趣味はないが、ひょっとするとカードが残っているかもしれない。
少し呼吸を整えてから、死体を検分すべく近付いて――
「……あ」
世界が、止まった。
その死体には『首』がなかった。
すっぱりと、綺麗に切断されていた。
首から上がないから、それが誰かは分からない。
けれど。
着ている服と、その体格。
それを見て――犬吠埼風は、分かってしまった。
「……い、」
べしゃりと。
死体が作る血溜まりに座り込んで。
名前を、呼ぶ。
「い、つき?」
その瞬間――犬吠埼風の中の何かが、完全に壊れた。
【F-4/旭丘分校/一日目・黎明】
【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]:腹部にダメージ(小)、精神的疲労(極大)、錯乱
[服装]:普段通り
[装備]:風のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:繭の力で、世界を正しい形に変えたい
1:???????
[備考]
※大赦への反乱を企て、友奈たちに止められるまでの間からの参戦です。
※優勝するためには勇者部の面々を殺さなくてはならない、という現実から目を背けています。
※東郷が自分と同じ理由で殺し合いに乗ったと勘違いしています。
支給品説明
【デリンジャー@現実】
ホル・ホースに支給。
手のひらサイズの小型拳銃で、暗殺用として主に使用される。
-
投下終了です。指摘などあればお願いします。
-
投下乙です
いつもは慎重さ故のビビリが目立つホルホースだけど、このロワのホルホースはかっこいいな
上手いこと針目からも逃げおおせたしこのコンビには期待
そして風先輩は樹との最悪の再開か……
-
投下乙です
弱者の立場の中でベストの仕事をするホルホースがかっけぇ
正直この二人で針目から生き延びられるとは思ってなかった…!
指摘としては、
「華の行方」から今回の風先輩の描写までが全て黎明の出来事とするよりは
風先輩は早朝の時間帯でも良かったのではないかと思います
-
>>796
確かにそうですね。
風先輩の時間軸のみ早朝へ修正しようと思います。
-
投下乙です
ホル・ホースかっけえ!セルティとの即席コンビにこれからも期待がかかりますね
針目ちゃんは繭のことも狙ってるみたいだけど、もしかしたらこれは交渉の余地があるかも?
風先輩は…ああ…
-
投下します
-
朝四時すぎ。
まだ辺りは薄暗いが、あと数時間もすれば日が昇り、朝が来る。
そして、朝が来るということはあの少女が言っていた放送が来る。
D-6のショッピングモール。
ショッピングモールもしくはショッピングセンターの定義だが……
厳密にあるのだが、ここで明言しないでおこう。
そこにやってきた綺礼、ポルナレフ、そして気絶した希の三人。
神威の車輪から降りて中を探索に向かおうとする。
DIOがいるかもしれないという可能性を踏まえて慎重に。
「その少女を置いていかないのか?」
「いかねぇよ……もしDIOがここにいるなら何かするかもしれねぇからな」
希の持っていた黒カードをポルナレフが回収する。
この右手の状態では刀剣類も重火器も素人である彼女が使いこなすのは難しい。
彼女が6枚も黒カードを所持していたことをみると少なくとも一人はすでに殺している。
「俺がコイツを背負っていく、それでいいだろ」
「…………構わない」
自身も怪我をしているがポルナレフが希を背負う。
その際、ポルナレフの背中に柔らかい感触が当たる。
「……ポルナレフ、鼻の下が伸びてるぞ」
「うるせぇ」
少女の寝顔は年頃の少女そのもの。
こんなところで出会っていなければ声を掛けていたかもしれない。
そんなことを考えつつも、冷静に辺りを警戒しながら探索する。
ショッピングモール内はまるで人の気配がない。
誰か潜伏して気配を消しているのか、それとも本当に誰もいないのか?
それを確かめるかのように、慎重さに重点を置く。
結果的にはショッピングモール内に『誰もいなかった』。
それでもショッピングモール内を二人は歩いていく。
しばらく歩いていくと、テーブルや椅子が多く並べられているスペースに出た。
そこで少し休憩を取ることにした。
「ここは食事処か」
「にしても……だだ広ぇな、おい」
「フードコートだからな」
フードコート。
『GOHAN-YA』『うどん屋』『ラーメン屋』などが軒を連ねている。
しかし、調理器具はあれども食材や調味料等が何一つない。
水道は止められているが、ガスと電気は動いている。
不自然な点がやけに多いが、休憩スペースとしての役割は十分に果たしていると言える。
-
一先ず、ここで二人は休憩を取ることにした。
見晴らしは悪くない、むしろ、この広さとフードコートの造りならば誰か来てもすぐに気付く。
二人がそこに陣取り、気絶した希を近くの寝具店で拝借してきた毛布と敷布団で横にする。
「で、何を食うんだ?」
「ふむ……」
綺礼は悩む。
赤いカードから何でも好きな食べ物が出るという。
ここは素直に麻婆豆腐を出すべきなのか?
だが、この状況で麻婆豆腐の一品だけで足りるのか?
その時、ふと視線を反らした際にラーメン屋の写真が綺礼の目に映った。
『これ』だ、という答えが直感できた。
そして、綺礼の前に『それ』は出てきた。
「なんだ、そりゃ?」
「『麻婆ラーメン』だ……そこのラーメン屋に見本があったからな」
綺礼が微差した先には……
『麻婆ラーメン(1600円)』
『辛そうで辛くない、むしろ辛かったことを脳が認識しようとしてくれないラー油入り』
そう、立て看板に商品見本と店主らしき男の写真があった。
赤い。
ただただ赤い。
血のような赤さではない。
本格的な中国料理を思わせる赤さである。
しかし、麻婆ラーメンの発祥は日本と言われている。
皿の上の豆腐、挽肉、分葱が非常に食欲をそそる。
それを綺礼はレンゲを用いて、口に運ぶ。
豆板醤と花椒の辛みからくる旨味が綺礼の舌を刺激する。
喉を刺激し、食道を通り、胃へと到達する。
だが、綺礼の胃はさらに麻婆を求め、胃液を出し続ける。
それに応えるように綺礼はレンゲを動かし、麻婆を口に運び続ける。
「美味いのか、そんな赤いのに……というか、ラーメンなのか、それ?」
そのポルナレフの問いに、綺礼はレンゲを止める。
少し考えて、麻婆ラーメンの器をポルナレフの前に差し出す。
「食うか?」
「いらねぇよ!」
「……そうか」
綺礼は少々、残念そうな表情を浮かべるが再びレンゲを取る。
なお、ラーメンの麺の部分は申し訳程度しか入っていなかったが、綺礼は特に気にすることはなかった。
一方のポルナレフが取り出したのは……。
普通のサンドイッチのように見えるもの。
これはフランスの定番の軽食『クロックマダム』だ。
焼いたパンの間に挟まったハムとチーズ、その上には目玉焼き。
それを丁寧にナイフとフォークを使い、切り分ける。
ナイフで目玉焼きを切ると中から半熟の黄身が流れ出す。
その黄身が溶けたチーズやパンと絡み合う。
それをフォークを用いてこぼさぬように口に運ぶ。
「……ゥンまああ〜いっ!」
多少オーバーリアクションかもしれない。
しかし、美味しいことには変わりない。
ポルナレフはクロックマダムを一気に食い終える。
そして、青カードからコーヒーを一杯の取り出し、優雅に食事を終える。
「本当、こんな状況じゃなきゃな……」
コーヒーカップを置き、ポルナレフはため息を吐く。
その時、フードコート内のモニターから何やら映像が流れ始めた。
定時放送にはまだ時間が早い。
そして、モニターに映る一人の男。
「なんだぁコイツは……?」
「キャスターか……!」
「何っ、コイツがか!?」
『此度の放映をご覧頂けた幸運なる皆様。私、キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェと申します』
-
◆ ◇ ◆
夏も終わり、もうすぐ2学期が始まる。
廃校問題も解決しても、ウチらμ'sは活動を続けている。
今度は文化祭や街のイベントでもライブがあるゆうてたな。
だから、もっと練習せな……
ダンスも、歌も、マイクパフォーマンスも、フリートークも、演技も……
……ん? 演技ってなんや?
μ'sのみんなでライブで寸劇でもするんやったんかな?
えーっと、確か言い出しっぺは穂乃果ちゃんで……
絵里ちが意外にもノリノリで……
脚本はみんな好き勝手に書いたから……
海未ちゃんが殺陣をやりたいゆうて……
凜ちゃんがアクションをやりたいゆうて……
ヒロインの座を巡ってにこっちと真姫ちゃんと言い争って……
花陽ちゃんがそんな二人を見て「誰か助けてー!」って叫んでて……
それを……ことりちゃんが……衣装を作りながら………………
あれ……ことりちゃんはどこにおるん……?
おかしいな。
あれ、何のために演技やったけ……?
寸劇のため?
いいや、違う。
演技で……人を騙さないと……誰を騙すん……?
皆を……参加者を……騙さないと……
何のために……?
μ'sのため……?
そうや、ウチはμ'sのために……
-
「―――――希ちゃんは嘘つきだよ」
ベージュの髪に緑のリボンの女の子がそこにいた。
見慣れた笑顔でウチに話しかけてきた女の子。
違う。
違う。
違う!
ウチは嘘つきなんかやない!
「だったら、なんで私と■■ちゃんを置いて逃げたのかな?」
違う!
ちがう!
チガウ!!
「違わないよ、希ちゃんは嘘つきでズルい娘だよ?」
………。
………。
「だからさ、早くこっちに来てよ……ねぇ、希ちゃん?」
………もう、いやや。
ウチは、ただ………。
……μ'sを護りたかっただけなんや……
◆ ◇ ◆
-
「ああ! 胸糞悪ぃぜ!」
キャスターの何度も流れる映像を目にしてポルナレフは感情を露にする。
綺礼からキャスターのことを聞いていなかったら、ここまで怒りを露にしなかっただろう。
綺礼が言っていたキャスターの特徴と放送に出てきた男の特徴が完全に一致していた。
だが、それだけではない。
『ジル・ド・レェ』と言えばポルナレフの出身国のフランスでは『救国の英雄』とも呼ばれた偉人だ。
フランス人であるポルナレフはその偉人の末路まで知ってはいたが……。
そんな男が『正気を失った殺戮者』と成り果ててこの地にいるのだ。
「落ち着け、ポルナレフ」
「分かってる、分かってるけどよ……けどよ……!」
恐らくはあの少女三人はキャスターの持つ何かスタンドのような超常能力で操られている。
そう考えるともうすでにあの少女三人の命は……。
ポルナレフの心に非常にやるせない気持ちだけが残った。
一方の綺礼は別のことを考える。
キャスターの放送の手際の良さだ。
確かにサーヴァントには聖杯から現代の知識はあれどもここまで出来るのだろうか?
そこで綺礼は一つの仮定を考える。
(恐らくはキャスターには共犯者がいる。
雨生龍之介もしくはそれに準する者が確実に一人以上……キャスターの近くにいる。
恐らくはキャスターの『罠』と考えていいだろう……)
――きみは…『引力』を信じるかい?
DIOの言葉が綺礼の脳裏に過る。
なぜ今その言葉を思い出したかは、定かではない。
しかし、今はそのことを置いといて、思考を切り替える。
「放送局か……ここからだと南下して、西に進むのが早いか」
「ポルナレフよ、DIOはどうするんだ?」
「……それ、なんだよな」
ここにDIOはいなかったことを考えるとDIOが向かったと思われる場所のめぼしいところは三つ。
一つ、本能字学園。
二つ、ホテル。
三つ、駅。
ここのいずれかにDIOが潜んでいると考える二人。
……尤も彼女が持っていたヴィマーナのようなものがあればこの前提は一気に覆る。
どちらにしろ、放送局とは反対方向である。
-
「そういや、コイツと同じ服を着ていた子が一人いたな」
「ああ、そうだな……ん?」
「どうした?」
「彼女の様子が何か変だ」
「なにぃ?」
寝かしていた少女の様子を見て、その変化に気付くのは容易であった。
先程よりも少女の顔色が明らかに悪くなっている。
気を失っていても、この放送の声が耳に届いていたかは定かではない。
だが、青ざめており、血の気が引いているような寝顔である。
「……何かキャスターと関係があるのか?」
「かもしれないな……」
無理矢理にでも起こすか、それとも彼女が自分から起きるのを待つのか?
それでも動き出した時間は待ってはくれない。
6時の定時放送は目前に迫っていた。
【D-6/ショッピングモール/一日目 早朝】
【言峰綺礼@Fate/Zero】
[状態]:健康
[服装]:僧衣
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
黒カード:不明支給品0〜2、神威の車輪@Fate/Zero
[思考・行動]
基本方針:早急な脱出を。戦闘は避けるが、仕方が無い場合は排除する。
1:少女(東條希)から事情を聞く。
2:DIOの言葉への興味&嫌悪。
【ジャン=ピエール・ポルナレフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:肋骨、胸骨体、胸骨柄に罅(応急処置済み。行動、スタンド操作に支障はなし)
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3、縛斬・餓虎@キルラキル(一時預かり)
不明支給品1枚(希の分)、ヴィマーナ(6時間使用不能)、
スパウザー@銀魂、不明支給品2枚(ことりの分、確認済み)
[思考・行動]
基本方針:DIOを倒し、主催者を打倒する。
1:少女(東條希)から事情を聞く。
2:DIOを倒す。
3:キャスターに怒り。
【東條希@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、右手首から先を粉砕骨折(応急処置済み)、気絶(もう少しで覚醒する?)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
基本:μ'sのために……
0:???
1:ことりちゃんは……
2:μ'sのメンバーには会いたくない
[備考]
※参戦時期は1期終了後。2期開始前。
施設紹介
【ショッピングモールのフードコート】
参加者の縁の店から、参加者の縁のない店までたくさんある。
結構広く、テーブルと椅子も結構たくさんある。
調理器具はあれども食材や調味料等が何一つない。
水道は止められているが、ガスと電気は動いている状態である。
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投下終了です。
-
投下乙です
ポルポルと言峰の朝食シーンが和むっていうか地味に飯テロしてきやがる…!
一方で希はごろごろと追い詰められる…放送を寝ていて見過ごしたのが不幸中の幸いと言えば幸いだが
しかしことりのあの高音な声に責められたところ想像するとひやりとする
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投下お疲れ様です
麻婆ラーメンとはまさかのプリヤネタww
ジルドレの放送が着実に行き渡っているようで、それを知った希の反応が実に楽しみです(ゲス顔)
では、私も仮投下の段階で問題がないと判断しましたので、微修正して本投下します
-
時刻が黎明に入り、普段の日常ならば既に床に入っているような時間帯の頃、志村新八と矢澤にこの両名は映画館の前で一旦休憩を取っていた。
万事屋を出発してからかなりの時間が経ったが、彼らに危険が及ぶようなことは全くと言っていいほどなく、順調に当面の目的地である駅へ向かっていた。
途中で17歳とは思えない筋肉隆々とした範馬刃牙という少年に会ったが、逆に言えば彼くらいしか遭遇した者はいない。
ところが、このまま数時間歩き通して流石に疲労が溜まったのか、新八もにこも膝が痛くなってきた。
まだ歩けるには歩けるが、いざというときに動けなければ困る。
なので、ここに留まって一服することにしたのだ。
「ふぅ…」
にこは映画館の前で地面に尻をつき、一息つく。
長時間立っていることはスクールアイドルをする上で慣れてはいるが、やはり厳しいものがある。
「にこさん、これどうぞ」
「え、これって…」
新八はスポーツドリンクの入ったペットボトルをにこに差し出す。そのラベルには『歩狩汗』と書いてあった。
「新八が出す必要ないじゃない。にこのカードで――」
「さっき刃牙君に2回分使っちゃったじゃないですか。僕の分を使ってくださいよ」
そういえば、にこはヘルゲイザーのカードと引き換えに食料と飲料を2回分失っていた。
それを気遣って新八が自分の青カードでスポーツドリンクを出してくれたのだろう。
そう思うとなんだか申し訳なくなり、小さい声で礼を言ってから、ペットボトルを受け取った。
喉が乾いていないといえば嘘になるので、にこはペットボトルへ口をつけて水分を体内に運ぶ。
ゴクゴクと喉を通る水が身体の渇きを癒していく。
力がみなぎって、いつでも動ける気力が湧き上がってきたような気がした。
半分ほど飲んで、ボトルに蓋をしめる。疲れているといってもヘトヘトまでとはいかないのでこれくらいの水分を補給すれば十分だ。
新八へ目を向けると、にこの持つものとは別のペットボトルを片手に水分補給をしていた。
青カードを2回も使う必要があったのか疑問に感じたが、ペットボトル1本で済ませた場合に起こる不具合をすぐに察して赤面しながら目を伏せた。
新八も新八で、同行者が女の子ということもあってそっちの方面にも気を遣っていた。
「そ、そういえばお腹も空いたわねー」
青カードを2回使ったことをすぐに忘れるために、それとなく切り出してみる。
一応万事屋を出てから何も食べておらず、刃牙へ渡した食料を見て食欲がそそられたのは事実だ。
「あ、それなら僕の赤カードで何か出しますよ。えーと、何出そうかな…まあいいや、何か出ろ!」
すぐさま新八は赤カードを振りかざして食料を出す。
特に何を食べたいとか考えてもいなかったので、とりあえず適当に出して出て来たもので腹ごしらえしようと思っていた。
しかし、その考えが裏目に出てしまう。
-
「………」
「……何コレ」
赤カードから出てきた食料。新八が何も考えず適当に出したもの。
それは黒く焦げた…とても食料とは思えない、思いたくない暗黒物質《ダークマター》であった。
見ていると食欲が引き立てられるどころか減衰していき、新八とにこの顔はみるみるうちにひきつっていく。
そこら中に漂う異臭が鼻を突き、これを食してはいけないと脳が警鐘を鳴らしている。
そして、2人は心から理解した。これは食料ではない、毒料だと。
「なんでよりにもよって姉上のダークマターが出んだよ!!こんなもん食べるくらいだったらそこらへんの土食うわ!!ふざけんなよあのカリフラワー頭ァァ!!」
「これ新八のお姉さんの料理なの!?アルパカの方がまだマシな料理作れるわよ!!」
こうして、新八は赤カードをもう一度使う羽目になった。
今度はにこの手で食料を出してもらったので、なんとか食料にありつけることができた。
◆ ◆ ◆
万事屋を発ってから現時点まで、新八とにこは刃牙以外と誰も会わずに映画館前まで来た。
今一度言うが、彼らは殺し合いに乗った危険人物とは誰とも遭遇していないのだ。
ここ数時間、2人だけで駅へ向かって移動する中、ずっと無言だったというはずもなく。
「にっこにっこにー♪あなたのハートににこにこにー♪笑顔届ける矢澤にこにこー♪にこにーって覚えてラブにこ♪」
「……どう?」
にこが目の前に座っている新八に向かって持ち前の自己アピールを披露できる程度には緊張感がなくなっていた。
住む世界は違えども、二人とも好きなものがアイドルだということもあり、いつもの調子でおしゃべりする程度には打ち解けていた。
他に話す人物がいないことも大きく、殺し合いの中にいることが嘘であるかのような束の間の平和がそこにはあった。
(ぐっ…なんて破壊力だ…!)
それを見た志村新八は思わず感嘆の声を上げて拍手しようとする自分をどうにかして抑える。
このにこのアピールは新八からすると、非常に高評価であった。
ファンを湧き立たせる力を"破壊力"と形容するならば、その『にっこにっこにー』は寺門通の『お通語』と同じくらいの破壊力を(新八の基準では)有していた。
志村新八は寺門通に一筋ではあるが、アイドル業界に関しても明るい。
仮にμ'sとかいうテラコヤアイドルが江戸にあったとするならば、寺門通とタメを張れるアイドルになっていたであろうことが新八にはわかる。
しかし寺門通親衛隊隊規の十四条には「隊員はお通ちゃん以外のアイドルを決して崇拝することなかれ」というものがある。
絶賛したいのはやまやまだが、果たして寺門通を差し置いて賛辞を送っていいのかどうか考えあぐねていた。
-
「……まさかアンタ『寒い』なんて思ってんじゃないでしょうね!?」
「…へ?」
しばらく黙っていて何の反応も示さない新八ににこがつっかかる。
かつて後輩に『寒い』とか言われたのがよほどこたえていたのだろうか、凄みのある剣幕で新八に迫る。
「いや、すっごいかわいかったです!最高です!世界のYAZAWAです!!」
「それ別のYAZAWA!!新八、やっぱりアンタも『寒い』って――」
「思ってませんって!!本当に良かったです!!江戸でやったら大ブレイク間違いなしですよ!!」
とんでもない誤解を生んでいたことを察し、新八が必死ににこの自己アピールから感じた所を伝えた。
新八の弁解に嘘偽りがないと判断したのか、にこは気まずそうに「まあ、いいわ」と言って引き下がった。
「そろそろ出発しない?十分休憩とれたし、もう3時過ぎちゃってるわ」
にこは傍らに置いていた板のような物を拾い、それに目を落として現在時刻を確認する。
「それ」に表示されている時刻は3時を過ぎていた。
タブレットPC。にこに支給された黒カードの中の1枚に入っていたものだ。
表示画面に直接触れて操作が可能で、にこの住む年代では既に普及している。
新八は過去に宇宙船だとか頑侍だとかのオーバーテクノロジーに触れてきたが、タブレットPCというからくりの技術には大層驚かされた。
どうやらにこの世界の地球人の技術は江戸よりも進展しているらしい。
にこが言っていた、「江戸は歴史の授業では習ったがもうなくなっている」という言葉はあながち間違ってはいないかもしれない。
「あ、そうだ。出発するのは僕の黒カードの中身を確認してからでもいいですか?」
ふと、新八はにこのタブレットPCを見て自分にも支給された黒カードがあることを思い出す。
取り出してみると、新八の腕輪にある黒カードは全部で3枚あった。
にこの黒カードは刀とタブレットPCで2枚分と、刃牙から譲り受けた魔法の箒。残りの黒カードがあと1枚あるかないかだろう。
どうせなら役に立つものが入っていればいいが、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を配置したりわざわざ志村妙のダークマターを用意してくる主催者のことだ。
この時点で嫌な予感しかしない。
頼むからツッコまざるを得ないようなモンは出ないでくれと切に願いながら、新八は黒カードからアイテムを出した。
「……」
「…花陽――」
それを見て、新八はメガネを曇らせ、にこは目を見開いた。
新八の黒カードから出てきたのは、μ'sの大切なメンバーの一人である小泉花陽――
-
「のメガネじゃないの」
「なんでメガネ!?」
1枚目の黒カードから出てきたのは、小泉花陽――小泉花陽のメガネであった。
にこはプライベートで何度かコンタクトを外してメガネを装着した花陽を見たことがあるため、その赤い柄を見て瞬時に判別できた。
「いくら僕がメガネくらいしか特徴ないからって支給品までメガネにする必要ねーだろうが!!
そりゃ確かにメガネのおかげで助かったことあるけど!!周りが性転換してるのに僕だけメガネの柄の色が変わっただけで済んだけども!!」
「自覚してたんだ…」
「自覚って…え、ちょっと待ってください、にこさんの僕の第一印象ってまさか――」
にこは申し訳なさそうに新八から目を逸らしたあと、先ほどの『にっこにっこにー』をしていたときと同じポーズをとり、
「な、何のことだか全然わからないにこー♪にこはー、新八君のことメガネスタンドみたいだなんてぜーんぜん思ってないにこ?」
としらばっくれた。
「腹立つ…!さっきは可愛いと思ったけど今は滅茶苦茶腹立つ!!」
頬にビキビキと血管が浮き出る感触を感じつつ、気を取り直して2枚目の黒カードを手に取り、アイテムを召喚する。
無論、新八の心は殆どを嫌な予感に支配されていた。
それでも。それでもまともなアイテムが出てくれるという一抹の希望に縋りながら、出てきたそれを見た。
「またメガネね」
「うん…なんとなくそんな気はしてた」
その黒カードの裏側に記載されているアイテム名の欄を見ると、【岸谷新羅のメガネ】と書いてあった。
――僕って一体何?
そんな思いの元、新八は涙を堪えながら最後の黒カードを手に取る。
もはや期待などしていない。過去に人間かけたメガネとか揶揄されたこともあるが、こうもメガネが関わってくると諦観しか生まれない。
悲愴感と共に黒カードからアイテムを出す。
「メガネね」
「メガネですね…」
黒カードの裏側を見る。【越谷 卓のメガネ】と書いてあった。
-
「マジでホントふざけんなよあのカリフラワァァァ!!なんで黒カードの中身が3枚ともメガネなんだよ!!
アレか、僕がメガネのおかげで命拾いしたことあるからってメガネをゲームの残機みたいに扱えってのか!?
できるわけねーだろ!!ここは現実で心臓一突きされたら一巻の終わりなんだよ!!スマブラじゃねーんだよ!!」
目を血走らせて怒り狂う新八をよそに、にこもヘルゲイザーの入ったカードを取り出す。
説明によると、これは魔女が使う箒らしく、この殺し合いの場では素養に左右されるものの誰でも魔法が使えるようになっているらしい。
「プチデビル」という存在が必要な魔法は行使できないようだが、悪魔なんてにこは見たこともないし見たくもないので特に気にしないことにした。
「使える魔法は……相手に幻覚を見せたり視覚を奪ったりする魔法――何よ、魔法少女らしくないわね」
にこの理想的な魔法少女らしい魔法といえば、「箒を飛ばす魔法」くらいか。
「箒を飛ばす」のだからきっと箒に跨って空を飛べるのだろう。
一応、攻撃魔法も使えるらしい。
ひとまず、黒カードからヘルゲイザーを出してみる。
実際に見てみると、確かにただの箒だ。柄の部分には六芒星を模した飾りが付いている。
「…ちょっとやってみようかしら」
にこは何かを思いつき、早速それを実行に移す。
虚空に向かってウィンクをしながら、
「魔法少女――」
ヘルゲイザーを片手に人差し指と小指を突き立て、
「にこにーにこちゃん!」
咄嗟に考えた決め台詞と決めポーズをとる。
「にこっ♪」
なんとなく、魔法少女っぽくなれたような気がする。
殺し合いなんて異常な状況にいるけど…こんな夢でしか味わえないような体験をするのは悪くないかもしれない。
「何寒いことやってんですか」
「キッパリと寒いって言ったわこの人!!世界のYAZAWAって言ってた割には随分と熱い手の平返しじゃない!?」
落ち込んだ様子で、ポーズをとっていたにこの背後から新八が声をかけた。
メガネを黒カードに回収したのだが、依然としてその表情は暗い。
切り札になり得るアイテムなのに3つともメガネを引き当ててハットトリックを達成してしまったのだから当然といえば当然か。
「私がやろうとしてるのは寒いことじゃなくてま・ほ・う!」
「ああ、それって刃牙君がくれた箒ですよね?本当にそれで魔法なんて使えるんですか?」
「やってみないとわからないわ!『箒を飛ばす魔法』っていうのを使ってみようと思うの」
「『箒を飛ばす魔法』…魔女宅みたいに空を飛ぶ魔法なのかな」
どこか哀愁が漂っているメガネに内心で同情しながら、箒に跨って実際に魔法を使おうとする。
-
(えっと…)
しかし、よくよく考えればどうやって魔法を使えばいいのかわからない。
にこは魔導士でもなければ、特別な素質を持っているわけでもない。
とりあえず、『箒を飛ばす魔法』の最も近くに『箒星』と黒カードの説明に書いてあったのを思い出し、
「――箒星」
と唱えた。
――すると。
「…にこさん、動いてます!箒が動いてます!」
「ホントだ…すごい…まるで魔法少女みたい…」
僅かにだが、にこの跨る箒が動き始めた。
しかし、それと同時ににこの体に容赦なく疲労感がのしかかった。
魔法とは、魔力を消費して発動するもの。
素質を持たないにこからただでさえ少ない魔力を持っていかれるので、短時間で疲労が蓄積してしまうのだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「まだいけるけど…ちょっときついかも…」
にこが辛そうな表情を浮かべたのを見て、新八が心配して駆け寄る。
今のところ中程度の疲労で済んでいるが、重ねて魔法を行使したとなれば気絶は免れないであろう。
しかし、にこを襲う災難はこれだけではなかった。
「あの…なんかこの箒、様子が変ですよ?」
「へ?」
新八がヘルゲイザーの異変に気づく。
先ほどから箒が小刻みに震えていると思えば、穂の部分が光っていた。
力を溜めているようにも見えて、まるで急発進しようとしているロケットのようで――
「にこさん、コレ危ないです!早く降り――」
新八が言い終える前にヘルゲイザーは空へ向かって一直線に飛び出した。
…それに跨るにこと咄嗟にヘルゲイザーの柄を掴んだ新八を乗せて。
「「ウオアアアアアアァァァァァァァ―――――――!!!!!!」」
数瞬と待たぬうちに、地面がみるみる遠くなっていく。
にこも新八も、自分達が空を旅しているのだと直感的にわかった。
にこが発動した魔法は、『箒星』。
確かに「箒を飛ばす魔法」だが、その実は「箒を猛スピードで飛ばして攻撃する魔法」である。
そのため、ヘルゲイザーは跨っているにこのことなど気にも留めず、定められた方向へ一直線に突進したのだ。
箒の向いていた角度が上向きだったので、結果的に空を飛ぶことになってしまったのは皮肉という他ない。
「……にこさん、目を開けてみてください」
「……新八、私空を飛んでいるわ」
2人は夜空の彼方へと消えていった…。
その向かう先はヘルゲイザーのみぞ知る。
-
【G-6/上空/一日目・黎明】
【志村新八@銀魂】
[状態]:メガネ
[服装]:特になし
[装備]:メガネかけ器@銀魂
[道具]:特になし
[思考・行動]
基本方針:………。
1:………。
[備考]
※腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)、
黒カード:3枚(小泉花陽のメガネ@ラブライブ!、岸谷新羅のメガネ@デュラララ!!、越谷 卓のメガネ@のんのんびより)、菊一文字RX-78@銀魂は、メガネかけ器に装着されています。
【矢澤にこ@ラブライブ!】
[状態]:魔力消費(中)、疲労(中)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはViVid、タブレットPC@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
黒カード:不明支給品0〜1枚、イヤホン
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
1:新八と、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう
2:μ'sのメンバーと合流したい
[備考]
※参戦時期は少なくとも2期1話以降です
※志村新八と情報交換しました
※範馬刃牙と情報交換しました
※歩狩汗@銀魂×2、志村妙のダークマター@銀魂がG-6/映画館前に放置されています。
※ヘルゲイザーに乗ったにこと新八がどこへ向かうかは後続の書き手様にお任せします。
※箒星は魔法に素養のないにこが発動しましたので、そんなに遠くへは行かないかもしれません
【タブレットPC@現実】
2010年頃から本格的な普及が始まった、パーソナル・コンピュータの一種。
板状の外見で、表示画面に直接触れるような操作が可能である。
画面には現在時刻が表示されていますが、機能の詳細は後続の書き手にお任せします。
【小泉花陽のメガネ@ラブライブ!】
小泉花陽が1期にて、主にμ'sに加入する前にかけていたメガネ。
かけるとかよてぃんになれる気がする。
【岸谷新羅のメガネ@デュラララ!!】
岸谷新羅がアニメでかけているメガネ。
かけると一人称がころころと変わる気がする。
【越谷 卓のメガネ@のんのんびより】
越谷 卓がアニメでかけているメガネ。
かけると存在感が薄くなる気がする。
【メガネかけ器@銀魂】
志村新八に本人支給。
新八専用のメガネスタンド。
腕輪はメガネかけ器に装備されている。
ある意味スタンド@ジョジョの奇妙な冒険ともいえるかもしれない。
-
「おいィィィィィィィィ!!僕の状態表だけなんかおかしいだろうが!!完全にメガネが本体になってんだろうが!!」
【G-6/上空/一日目・黎明】
【志村新八@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:いつもの格好
[装備]:菊一文字RX-78@銀魂、メガネ
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
黒カード:3枚(小泉花陽のメガネ@ラブライブ!、岸谷新羅のメガネ@デュラララ!!、越谷 卓のメガネ@のんのんびより)
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
1:この箒はどこへ向かっているんだ…?
2:にこさんと、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう
3:銀さん、神楽ちゃん、桂さん、土方さん、長谷川さん、μ'sのメンバーと合流したい
4:神威、範馬勇次郎を警戒
[備考]
※矢澤にこと情報交換しました
※範馬刃牙と情報交換しました
※万事屋付近にいる天々座理世、風見雄二とは時間帯が深夜だったこともありニアミスしています
【矢澤にこ@ラブライブ!】
[状態]:魔力消費(中)、疲労(中)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはViVid、タブレットPC@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)
黒カード:不明支給品0〜1枚、イヤホン
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
1:私空を飛んでいるわ
2:新八と、鉄道を使って音ノ木坂学院に向かう
3:μ'sのメンバーと合流したい
[備考]
※参戦時期は少なくとも2期1話以降です
※志村新八と情報交換しました
※範馬刃牙と情報交換しました
※歩狩汗@銀魂×2、志村妙のダークマター@銀魂がG-6/映画館前に放置されています。
※ヘルゲイザーに乗ったにこと新八がどこへ向かうかは後続の書き手様にお任せします。
※箒星は魔法に素養のないにこが発動しましたので、そんなに遠くへは行かないかもしれません
【タブレットPC@現実】
2010年頃から本格的な普及が始まった、パーソナル・コンピュータの一種。
板状の外見で、表示画面に直接触れるような操作が可能である。
画面には現在時刻が表示されていますが、機能の詳細は後続の書き手にお任せします。
【小泉花陽のメガネ@ラブライブ!】
小泉花陽が1期にて、主にμ'sに加入する前にかけていたメガネ。
かけるとかよてぃんになれる気がする。
【岸谷新羅のメガネ@デュラララ!!】
岸谷新羅がアニメでかけているメガネ。
かけると一人称がころころと変わる気がする。
【越谷 卓のメガネ@のんのんびより】
越谷 卓がアニメでかけているメガネ。
かけると存在感が薄くなる気がする。
-
以上で投下を終了します
-
お二方投下乙です
>I'll smile for yours
そうか、ポルナレフにとってはジルは祖国の英雄なのか……ハッとした繋がりだ
のぞみん……というかラブライブ勢には辛い展開が続きそうだ
>芸風ノーチェンジ
一方こっちのラブライブはノリノリなのであった……!
投下タイミングのせいなのは分かるがこのなんだ格差w
銀魂キャラは自前の空気で鬱鬱しいロワに潤いを与えてくれる……
-
乙でござい
>かけると一人称がころころと変わる気がする。
志村ー、そのメガネ原作版のじゃねーかwww
-
投下乙です
>I'll smile for yours
こっちにもキャスターの放送が流れたか
しかし既に死んでることがバレたり、テレビ破壊されてまったく聞かれなかったり散々だなwww
希はマーダー路線を貫くかそれとも……
>芸風ノーチェンジ
支給品不遇ランク1位に躍り出たぱっつぁん
映画館に放置されたダークマターも地味に怖い
-
投下します
-
東の島に降り立ったセイバーが最初に目にしたのは、半壊した病院だった。
どうやら先ほど放った『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の余波が届いていたらしい。
威力を弱められているとはいえ、さすがに聖剣。光の斬撃の通過した後は消しゴムをかけたように綺麗さっぱりと消失し、繰り抜かれている。
構造を支える柱もその内に含まれていたらしく、土台を失った病院は自重に耐え切れず内側に押し潰されるようにしてゆっくりと崩壊した。
さすがにこの有り様では立ち寄る人物もいまい。仮に人がいたとしても圧死しただろう。
探知能力を持たないセイバーは、念を入れて瓦礫の中を丹念に捜索する。
人の気配がなく、また圧死体もないことを確かめてから病院を後にした。
「さて……」
時間を費やした割に収穫はなかったが、これから負傷者が治療設備を利用できなくなることを考えればまるきり無駄でもない。
病院よりやや東に進み、南には本能字学園。更に東にはホテル。
どちらに進もうか思案していたセイバーは、本能字学園方面から弾丸のように飛び出してくる車を見つけた。
車に乗っているのは金髪の大柄な男性。物陰より見つめるセイバーに気づくことなく、見事なドリフトを決めて過ぎ去っていく。
ちらと見えただけだが、男は負傷しているようだった。本能字学園には男が負傷するだけの敵がいるのだろうか。
ここでセイバーは黙考する。
本能字学園に向かい、数も質も不明の敵と相対するか。それとも少なくとも単独であることは判明している男を追うか。
さほど迷わず答えを出す。セイバーは疲労しない程度の速度で車の後を追い、ほどなく車を発見する。大きなホテルの前に横付けされていた。
いかにサーヴァントの足であっても、力を抑えていては車の全速には敵わない。
金髪の男が到着してから十分ほど経っているため、運転席にその姿はない。
セイバーは聖剣を抜き、足音を殺してホテルのエントランスへと踏み入った。
「どこにいる……?」
ロビーに男の姿はない。
が、ついさっきまでここにいたことは間違いない。めちゃくちゃに破壊された設備や調度品が物語っている。
「察知された、か?」
セイバーは元々奇襲向きのクラスではない。
何らかの探知能力を持っている相手ならば、先に発見されたとしてもおかしくはない。
すでにホテルから離れたか、あるいは上の階にいるのか。
セイバーの目が上へ向かう階段を探し始めたとき、ポーン、と軽快な電子音が響いた。
それはエレベーターの到着を知らせる音。目を向けると、今まさにエレベーターが開こうとしていた。
-
(上から誰かが降りてきた……)
やはり、先に察知されていたらしい。
だとしても、セイバーは広間にいて、未だ見ぬ敵はエレベーターで降りてくる。ならば地の利はセイバーにあった。
エレベーターの扉がゆっくりと開き、うっすらと人影が見えた。
敵が自由を得る前に、セイバーは全力で地を蹴って剣を袈裟懸けに振り下ろした。
鉄の箱を柱ごと両断する。中に人がいれば間違いなく諸共に切り裂いている、はずだ。
しかしセイバーの手に肉を斬った感触はなかった。
「消えた……?」
「おやおや、ご挨拶なことだ。初対面の人間にこれは不躾ではないかね、君ィ」
セイバーの背後から、彼女の様子を面白がっているような声が響く。セイバーは反射的に前転し、距離を取る。
体勢を立て直したセイバーが見たのは、足を組んでソファに座り優雅にワインを舐める金髪の男の姿。
(気配を消していた……違う! 確かにここには、誰もいなかったはず……!)
今度こそ驚愕に身を打たれ、セイバーは愕然とした。
アサシンのように陰に潜んでいたという訳ではない。男の輪郭は直前までエレベーターの中にいた人物のそれと全く同じだ。
あの一瞬でエレベーターの中からセイバーの斬撃を回避しつつ背後に回り、あまつさえそれをセイバーに悟らせなかった。
尋常ならざる手練である。セイバーの全身が緊張に張り詰め、魔力が陽炎のように立ち昇る。
この距離ならばセイバーは一瞬で距離を詰め、男の首を叩き落とせる。その自信がある。
だが男の双眸には全く警戒の色がない。
危機を認識していないのではなく、セイバーの攻撃を容易くいなす確信あるからこその余裕だ。
男の能力の正体が掴めず攻めあぐねるセイバーを見て、男は楽しそうに微笑む。
「なるほど、どうやら君は“やる気”のようだ……だが、私の力を警戒し無策で突っ込んでくることもない。
炎のような闘争心と、氷のような克己心、そして鉄をも断つ無双の剣を兼ね備えた素晴らしい良い戦士だ。
良いぞ。実に良い……このDIOの前に立つ資格がある」
獅子の如きセイバーの闘気を、男――DIOはそよ風のように受け流した。
爛々と光る瞳は不可思議な魅力を放ちセイバーに絡みつく。が、セイバーはその蠱惑的な誘惑の視線を斬り払うように剣を構えた。
「得体の知れない能力を使う。だがその程度で私の剣を阻めると思うなよ」
「ほう、まだ私と戦う気概があるか。君も何か、奥の手を隠しているのかな?」
DIOの問いには無言で返す。
セイバーが持つ最大火力、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』。
騎士の王たるセイバーが全力で解き放つ宝具ならば、どんな能力が相手だろうと諸共に消し飛ばせる、はずだ。
だがどうしたことか、理屈の上ではそのはずと思えるのに、いざ実行しようとするとその決断が下せない。
男の能力、それを解き明かさない限りは、いかに宝具といえど通用しないのではないか――
「フフフ、申し分ない。パーフェクトだ、お嬢さん。
どうだろう。私と友達に……いや、これはよそう。そう……私と手を組む気はないか?」
靄のようにまとわりつく不安に身動きの取れないセイバーに示されたのは、予想外の一言だった。
-
◆
セイバーと名乗った少女のスタンスは、DIOと同じく殺し合いに乗ること。
最終的な目標が繭の殺害か願いを叶えるかという相違はあったものの、辿る過程は同じだ。
警戒を緩めないセイバーに、DIOはまず己が出会ってきた他の参加者の話をした。
DIOは全身に傷を負っていた。DIOほどの力を以ってしても、これほどのダメージを負う敵がいる。
その事実はセイバーにさらなる警戒と、また、ある種の必要性を認識させた。
すなわちそれは、協力者の存在だ。
「全員で70人だったか、今は何人死んだかわからんが、それでも数十人だ。一人で殺し尽くせると考えるのは現実的ではない」
「だから私に手を貸せと?」
「君の殺意は本物だ。殺し合いを止める、などと嘯くヌケサクどもよりはよほど信頼できる。いずれ決着を着ける時が来るのだとしてもな」
「ある程度参加者を減らすまでの、期限付きの同盟ということか」
「悪い話ではあるまい。単純に考えても手間は半分で済む。少なくとも、いま我々がやりあってお互い無用な消耗をするよりはよほど利口だろう」
DIOからすれば、日中は動けない自分に変わって参加者を間引く有能な駒がほしい。
セイバーにしても、自分でも手強いと感じるDIOが暴れ回ればその分敵が減り負担も減る。
お互いが優勝を目指している以上、遠くない未来に破綻する関係であるのは間違いない。
が、その間に得られる利益は決して安いものではない。
「無論、いずれは戦うとしてもそれは私か君が単独でも目的を果たせる、という段階まで来てからだ。
それまでは情報を共有したり道具を融通したり、状況によっては共闘してもいい。忌々しいが、この場には一筋縄ではいかん強者が数多くいる」
「それには同意する。私が知る限りでも、油断ならない敵が三人はいるからな」
そこにDIOは含めていないのだろうが、セイバーの憂慮はDIOも同じくするところだ。
神威、銀時、桂、コロナ。そしてあの場の違うところで戦っていた他の参加者。それに承太郎、ポルナレフ、花京院。
単純に数えても片手の指に余る敵がこの場にひしめいている。
それらを同時に敵に回しては、いかにザ・ワールドとて捌ききれるものではない。
「ああ、そう言えば、君の持っているその剣と似た、すさまじい切れ味の剣を見たぞ。黒く染まっていたがな」
「私の剣に似た、黒い剣……もしや、無毀なる湖光か? ラン……バーサーカーの剣、奪われていたのか」
「やはり知っていたか。君にとってどういう剣か知らんが、今あれを持っている男は私が殺す。壊しても文句は聞かんぞ」
「ふん、その心配は無用だ。あれは貴様などが折れるような脆い剣ではない。
……いいだろう、貴様の提案を呑もう。生存者が十人を切るまで、貴様と組む」
DIOのもたらした情報が何らかの後押しになったようで、セイバーはついにDIOの申し出を受けた。
ここに仮初めの同盟は結ばれた。二人は手早く情報を交換し、それからの方針を探る。
-
「ではそうだな、とりあえず半日はお互い自由行動としよう。積極的に殺して回るもよし、情報や武器を収集するもよし、傷を癒やすもよし。
そして日が沈んだら、南にある私の館――半壊しているが――で一度合流し、改めてどう動くか決めるというのはどうだ?」
「もし一人では手に負えないような強敵、集団がいれば共同で排除するという訳だな。いいだろう」
「できれば先ほど教えた二人は始末しておいてくれると助かるのだがね」
「それはこちらも同じことだ」
空条承太郎、花京院典明、ジャン=ピエール・ポルナレフ。銀髪の侍(銀時)、長髪の侍(桂)、格闘家の少女(コロナ)、三つ編みの男(神威)。
以上七名がDIOの敵であるが、セイバーにはこの中から承太郎、銀時、桂、コロナ、神威への手出しを禁じた。
承太郎はジョースターの血統であり、血を吸えばDIOの力が増すため。残り四人は単純にDIOの手で殺したいと考えているため。
と言っても、どうしてもセイバーが必要と判断した場合はこの限りではない、とも言い添えたが。条件を守って死んだのでは本末転倒である。
さらにホル・ホース、ヴァニラ・アイスはDIOの部下であり、こちらも手出しは禁じた。
セイバーにとっていずれ敵となることが確定しているDIOの部下を見逃すかどうかわからないが、そこは運否天賦に任せるしかないだろう。
言峰綺礼については特に教えなかった。興味はあるが、まだ仲間や部下という関係ではない。
DIOとの間に引力があれば、また巡り会うこともあるだろう。それまでに死ねばそれだけの男だったというだけのこと。
セイバーからは衛宮切嗣、言峰綺礼、ランサー、キャスターの名を聞いた。
衛宮切嗣。冷徹な殺し屋であり、人間でありながら悪辣な策を用いる油断ならない男であること。
言峰綺礼。セイバー自身詳細は知らないが、とにかく危険な男であるらしいとのこと。
ランサー。手練の戦士であり、武器を持たせればセイバーと互角の技量であること。
キャスター。狂人であり、魑魅魍魎を操る。しかし肉体的には脆弱で、直接的な脅威ではないこと。
セイバーの口から言峰の名が出た時は驚いたが、彼女の知り合いが特に警戒していたというだけで詳しい情報は持たないらしい。
「ヴァニラ・アイスかホル・ホースに会ったら、私がここにいると伝えてくれ。
こんなところか。ふむ……ランサーやキャスターといった君と似た名の輩より、衛宮切嗣という男が気になるな」
「切嗣は人間だが、裏を掻くことに長けている。まともに対すべき相手ではない」
「わかった、警戒しておこう。君こそ気をつけ給えよ、特に空条承太郎……ジョースターにはこのDIOも手を焼いている。
奴のスタンドは近距離パワー型でも類を見ない力と聞く。君と正面からやり合うこともあるいは可能かもしれん」
DIOにとっての空条承太郎、セイバーにとっての衛宮切嗣。
二人が最も警戒する相手がまさに南の地で既に邂逅していることなど、神ならぬ二人には知る由もない。
「では私は行く。貴様はどうする?」
「先ほど派手にやりあったばかりなのでな、もう少し休んでいくよ」
「同盟を持ちかけておいて、自分は行動しないというのか。獲物にあれこれと注文をつけたことと言い、呆れたものだな」
「言ってくれる。だが君の言うとおり、心苦しいのも事実だ。
そうだな、良ければこのカードでも提供しようか? 私に食事は必要ないのでな」
赤いカードを取り出してひらひらと振る。吸血鬼であるDIOに普通の食事は意味がない。
先ほどのように嗜好品としてワインなどを嗜むことはあるが、それにしても別になくても問題はないものだ。
セイバーはDIOの持つカードをじっと見、不意にホテルの出口に視線を投げる。
-
「……では、表に停めてある車をもらおう」
セイバーの申し出に、DIOは軽く眉を上げる。
人のことを言えるほどDIOとて達者ではないが、この小柄な少女が車を運転できるとはとても思えなかったからだ。
当然DIOは知らぬことだが、セイバーのクラスには騎乗スキルが装備されている。
生前のセイバーが見たことも聞いたこともない乗り物であっても、座席に座りハンドルを握れば直感的に運転することが可能だ。
「本気か? あれはあれで面倒な乗り物だが」
「だが足になる。使い様によっては武器にも。協力の見返りとしては十分だ」
セイバーが冗談や駆け引きではなく本気で車を要求していると知り、またDIOの提案に乗ったこともあって判断はすぐに済んだ。
貴重といえば貴重な車だが、どうせDIOはあと数時間身動きがとれない。
承太郎や銀時らを殺すなと条件をつけている以上、ここらで譲歩しなければセイバーが同盟を破棄すると言っても非難できない。
懐からキーを取り出し、セイバーに放り投げる。
「よかろう、持っていくがいい。どうせ元々は私の所有物ではない。あれと引き換えに私の敵を始末してくれるなら安いものだ」
「礼は言わんぞ」
「必要ないよ。では、もう一度会う時を楽しみにしている」
妖艶な笑みを見せるDIOに背を向けて、セイバーはホテルから出て行った。
車が豪快な排気音を響かせる。DIOはザ・ワールドを出してしばらく警戒していたが、車は速度を緩めることなく朝の街に消えていく。
「距離を取って仕掛けてくるかと思ったが……慎重な女だ。我がスタンドの謎を解くまで危険は冒さんということか」
紳士的な態度から一転、冷徹な帝王の顔が現れる。
セイバー。剣を執り鎧を身にまとう騎士を気取った前時代的な女。
しかしその腕前は酔狂ではなかった。エレベーターを破壊した一閃、あれはザ・ワールドの全力のラッシュと比較しても遜色ない威力だった。
両腕が万全ならば少し遊んでやっても良かったが、片腕ではあの女のパワーを受け止めきれないと――内心では腸が煮えくり返るほど怒り狂っていたが――認めざるをえない。
無論、ザ・ワールドの本質――時を止める力を用いれば、今の状態でも勝てはするだろう。
が、それではDIOにとっての利益は少ない。
ここで手強いあの女を消耗しつつ仕留めるよりも、好きに暴れさせてやって邪魔者を間引き、しかるのち雌雄を決する。
お互い相容れないことは強く感じ取った。慌てずともいずれ死合う時は必ず来る。
その時、セイバーが時間停止を乗り越える方法を見つけ出していなければ、DIOの勝利は揺るがない。
-
「……おっと、いかんな。油断、慢心は足を掬う。帝王たらば同じ愚は繰り返さんもの」
DIOはセイバーを過小評価はしない。
神威や銀時のように、ザ・ワールドを以ってしても一撃で屠れない強者がいる。おそらくセイバーもその類いだ。
仕留めることは不可能ではないにせよ、それには何度も時間を止める必要が、つまりはザ・ワールドの手の内を晒す必要がある。
どれだけ強力な能力であろうと、その実態を敵に知られてしまえば攻略の糸口を掴まれたも同然だ。
時間を止める。荒唐無稽なまでに理不尽であり、かつ強力な力。
自分の認識できない瞬間に、複数の行動を一切の予備動作や硬直もなく完了する。
勘の良い者であれば、何度か体感する内に違和感を抱いてもおかしくはない。
万全であればその「何度か」の頻度を短縮できるが、現状ではセイバーを仕留めるまで何度、時間を停めねばならないかわかったものではない。
そして仮にセイバーがザ・ワールドの秘密に辿り着き、撤退を選んだならば。
陽光に邪魔され追撃できないDIOに打つ手はなくなる。
「あれだけの力、肉の芽を使えれば役には立っただろうがな」
肉の目によるセイバーの支配。DIOにはそれができない理由があった。
スタンドの時間停止にかかる負担が通常よりかなり増大しているのと同じように、吸血鬼としての能力にもある程度の抑圧が加えられていたからだ。
肉の芽はDIOの細胞を操作して生み出すものであるが、芽を作る負担が通常より激増していた。
セイバーが訪れる直前、DIOは神威や銀時との戦いを思い返した。あの時は時間を停めずに肉の芽を作ったからかさほど意識しなかった。
だが、落ち着いてから時間停止と同時に肉の芽を作ってみてわかったことがある。
肉の芽を作りながら二秒時間を停めただけで息が上がってしまい、DIOの意志に反して時間が動き出した――つまり、ザ・ワールドの能力が強制的に解除された。
同時に二つの能力を使用すると、疲労は加法ではなく乗法となって押し寄せる。僅か数秒でザ・ワールドの能力を維持できなくなるほどに。
肉の芽を使おうとするならば、時間停止を用いず敵を無力化する必要がある。
そしてセイバーは、時間停止なしには打倒し得ない強敵。ゆえに、肉の芽で洗脳することはできなかった、ということだ。
確かに時間を停めて肉の芽を使えるのなら、DIOに敵などいない。それでは殺し合いにならないからゆえの措置なのだろう。
理屈としては納得できても、不快感はこらえがたい。あの繭という女はDIOの得た力を徹底的にコケにしているのだ。
「さて、さすがに疲れた。少し眠るとするか……」
時間停止の使用と、セイバーとの話し合いに気を張っていたのもあって泥のような疲労を感じる。
DIOは破壊されたエレベーターを見て嘆息し、自らの足で階段を登り個室へと向かうのだった。
-
【B-7/ホテル/一日目 早朝】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、右腕切断(癒着済、7割ほど再生)、胴体へ貫通傷(7割ほど再生)、全身にダメージ(大)
[服装]:なし
[装備]:サバイバルナイフ@Fate/Zero、拡声器@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
[思考・行動]
基本方針:主催者を殺す。そのために手っ取り早く他参加者を始末する。
1:夕刻までホテルで体を休める。その後、DIOの館でセイバーと合流。
2:ヴァニラ・アイス、ホル・ホースと連絡を取りたい。
3:銀髪の侍(銀時)、長髪の侍(桂)、格闘家の娘(コロナ)、三つ編みの男(神威)は絶対に殺す。優先順位は銀時=コロナ=桂>神威。
4:切嗣、ランサー、キャスターを警戒。
5:言峰綺礼への興味。
6:承太郎を殺して血を吸いたい。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも花京院の肉の芽が取り除かれた後のようです。
※時止めはいつもより疲労が増加しています。一呼吸だけではなく、数呼吸間隔を開けなければ時止め出来ません。
※車の運転を覚えました。
※時間停止中に肉の芽は使えません。無理に使おうとすれば時間停止が解けます。
※セイバーとの同盟は生存者が残り十名を切るまで続けるつもりです。
【B-7/ホテル近辺/一日目 早朝】
【セイバー@Fate/Zero】
[状態]:魔力消費(中)
[服装]:鎧
[装備]:約束された勝利の剣@Fate/Zero、蟇郡苛の車(オープンカー)@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:優勝し、願いを叶える
1:島を時計回りに巡り参加者を殺して回る。
2:時間のロスにならない程度に、橋や施設を破壊しておく。
3:戦闘能力の低い者は無理には追わない。
4:自分以外のサーヴァントと衛宮切嗣、ジョースター一行には警戒。
5:銀時、桂、コロナ、神威と会った場合、状況判断だが積極的に手出しはしない。
6:銀時から『無毀なる湖光(アロンダイト)』を回収したい。
7:ヴァニラ・アイスとホル・ホースに会った時、DIOの伝言を伝えるか、それともDIOの戦力を削いでおくか……
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後です。
※自己治癒能力は低下していますが、それでも常人以上ではあるようです。
※時間経過のみで魔力を回復する場合、宝具の真名解放は12時間に一度が目安。(システム的な制限ではなく自主的なペース配分)
※セイバー以外が使用した場合の消耗の度合いは不明です。
※DIOとの同盟は生存者が残り十名を切るまで続けるつもりです。
※蟇郡苛の車は窓から上が切り取られ、オープンカー状態になっています。
※魔力で車をコーティングすることで強度を上げることができます。
[周辺への影響]
A-4の橋が消滅しました。東側の直線上にも被害が及んでいる可能性があります。
近隣エリアや高所からの観測であれば、光の奔流を目撃できたかもしれません。
「約束された勝利の剣」の余波で病院が崩壊しました。
-
投下終了です。
タイトルは 「騎士王タイプ:トライドロン」で
それと早速一つ修正です
>>826の
>妖艶な笑みを見せるDIOに背を向けて、セイバーはホテルから出て行った。
のあとにこれが入ります。
セイバーが剣を一閃させ、車の窓ガラスから上の部分を全て切り離した。
車を運転しつつ剣を振るうには、オープンカーのほうが都合がいいからだ。
低下した耐久性を補うために、セイバーはかつてバイクでもそうしたように魔力を車にまとわせる。
セイバーの魔力が装甲のように車を覆い、目論見通り耐久性はカバーできた。
-
投下乙です
ただでさえ強力なマーダー二人が情報、そして共闘というカードを手に入れたか
くわえてセイバーは足もゲットしてDIO様はカリスマ回復と恐ろしさを増しつつありますね
しかしエネルギー補給のためとはいえ赤いカードにつられるセイバーにくすりときました
ただ、セイバーの状態表の
>時間のロスにならない程度に、橋や施設を破壊しておく。
「橋」はもう消した方が良くないですか?
移動手段を潰されたらDIOにとっても迷惑でしょう
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消さなくても良いでしょ
DIO飛べるし
-
実際直線距離でも3分の2ブロックくらい使ってる距離を飛べるかって言われるとどうなんだ
-
そもそもDIOが飛べる(?)ことをセイバー知りませんしね
「このDIOは空が飛べるのだから気を遣わなくていいぞ」って自信満々に言えるほどの飛行能力かっていうと…
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支配下とか運命共同体って程の共闘でもないんだしそこまでセイバーが気を使わなくてもいいのでは
-
言ってもそこまでセイバーが配慮するかなぁ
してもおかしくないですし次話でそういう方針になるかもしれないけど
ただこの話でわざわざ指摘して消すほどでもないだろと思うんですけど
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影響力の大きさとかじゃなく「一人は限界があるから互いに参加者を減らして楽しよう」って方針なのに
下手にDIOがやりにくそうになる手を打つかなぁって印象です
とはいえ、議論スレに持ち込むほどではないと思うので判断は書き手さんに任せます
-
本投下します
-
――Who killed Cock Robin?
――I, said the Sparrow,
――with my bow and arrow,
――I killed Cock Robin.
* * *
真っ暗な空間。
何かから逃げるように走っていた。
私はこの光景を、よく覚えている。
あの時だってそうだった。鎧の女の人に襲われて。
私を庇って、十四郎さんは……。
『手前の所為だ』
どこからか、そんな声が聞こえて来る。
少しの間だったが、同行していたから分かる。紛れもない土方十四郎の声。
(え?)
声も出せず、ただひたすら走り続ける。
-
『手前が銃を出さなかったから、俺は死んだ』
(違う。だって、あれは、モデルガンで)
『いいや本物だ。あれを出していれば、結果は変わっていたかも知れねぇ』
(違う。だとしても、襲ってきたのはあの鎧の女の人で)
『手前が現実を認めてさえいれば、違う結果が見えていた』
(違う。やめて。私は何も悪くない。私は、私は……)
『俺を殺したのは……』
「ッ……」
宇治松千夜は、そこで目を覚ました。
荒い息を吐きながら、辺りを見回す。
「あ、起きましたか。随分うなされてましたよ」
「ごめんなさい……夢、だったのかしら」
ヴィヴィオが話しかけてくる。クリスも心なしか心配そうにこちらを見ている。
時計を見る限り、本当に1時間程度しか眠れなかったらしい。
夢は深層心理の表れとも言う。彼はあんなことを言いそうな人ではないと思っていたのだが……。
「十四郎さんを、殺したのは……」
自責、後悔。そんなことを考えているうちに、どうやら本部たちが帰ってきたらしい。
笑顔で出迎えようかとも思ったが、今の自分には出来そうになかった。
* * *
-
足首が痛い。
カイザルとラヴァレイ。2人の騎士をボディーガードに付けたことによる少しの精神的な余裕が招いた結果。
こういうのを、『慢心』とでも言うのだろうか。
「アキラ嬢、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよー。問題なく歩けま……痛っ!」
カイザルが馴れ馴れしく駆け寄る。気持ちは分かるが、非常にむさ苦しい。
「(あーあ。確かにあいつら盾にするために弱者のフリをして行こうとは思ったけどさぁ。
流石に派手にすっ転んで足いためるのってどうなの、ホント。
こんな姿、ウリスには見せたくないなあ)」
「どうしますかね。地図を見る限り、駅とやらまでそんなに遠くはないでしょうが。
少し休んで行かれますか、アキラ君」
「出来ればそれでお願いしまーす。はぁ、あきらアンラッキー……」
支給品に湿布や氷などがあれば良かったのだが、そこまで甘くはないらしい。
青いカードから冷凍スポーツドリンクを出し、それでしばらく冷やすことにした。
「(へぇ、こんなのもきちんと出てくれるんだ。感心感心)」
半時間ほど経ち、流石にこれ以上やると霜焼けになってしまうためスポーツドリンクを足から離す。
だが、それでもすぐには歩けそうにはない。
無理をすると余計に酷くなるのが、この手の怪我にはつき物だ。
「ふむ……なら、少し地下闘技場とやらを見て来るか。
何か役に立つ物が置いてあるかも知れない」
「ラヴァレイ殿、1人では危険です。私も一緒に……」
スポーツドリンクを飲む晶の傍らで、騎士2人が何か相談をしている。
「君にはアキラ君の護衛をお任せしたいのだ。何、私1人でも十分だ」
「はぁ……。それでは、お気をつけて!」
「(いちいち敬礼してんじゃないわよ。流石は上司と部下ってか)」
今ここで油断させ、2人を殺すことは可能だ。だが、それでは何ら面白くない。
なるべくいい気にさせたところを、一気にどん底へ突き落とす。
この時の心の折れる音と言ったら――。
「(あの2人はまだまだ泳がせておくに相応しい)」
それにしても。
「(私でさえもこの殺し合いの場に放り込み、私が封印を解こうとしていたバハムートを召喚して見せたあの小娘……)」
一体何者なのだ。可能性としてはベルゼヒュートだが、奴にこんな真似なんて出来ただろうか。
考えても答えは出そうにない。今は闘技場に向かうしかないようだ。
数十分後。
「……ラヴァさん、遅いですね」
「ええ。やはり、私も付いていくべきだったか……」
「(いや、あんたは私の盾でしょ。今私襲われたらどうするつもりなのよ)」
なかなか帰ってこないラヴァレイの身を案じていると、彼の向かった方から何かを引きずるような音が聞こえてきた。
この音は何だと言うが早いか、カイザルは走り出していた。
「ラヴァレイ殿、御無事でしたか! それは……」
無事に帰ってきたラヴァレイは、猫車を持っていた。
「薬の類などは見当たらなかったが、支給品にあったのでな。
これならアキラ君も移動出来るだろう」
「そう……ですね! アハハ……(マジで言ってんのこいつ……私は荷物じゃないっつーの! いや悔しいけど今はお荷物か)」
こんな2人に肩を持たれるよりはこちらの方が精神的に楽だと考え、晶は何も追及しなかった。非常に不本意ではあったが。
* * *
-
駅に戻ってきてからというもの、千夜はずっと土方十四郎という男のことを悔やんでおり、ヴィヴィオはそれに付きっ切り。
本部とかいう浮浪者は、少し様子を見てくるとか言って一旦駅の外へ出て行った。
チャンスは今しかない、私はそう判断した。
3人まとめて殺してしまおう。そして、優勝して、ランサーさんを……。
手元にある青酸カリのカプセルは、カプセルを開けると毒の液体が出てくるようだ。
咄嗟に打ち立てた計画はかなり短絡的ではあるが、事態は一刻を争う。
私は、赤いカードを取り出した。
「2人とも、差し入れだよ〜」
駅のホームのベンチで休んでいる千夜とヴィヴィオに、穂乃果が駆け寄る。
2人の横に座った彼女の手には、サンドイッチが3つ。
「いいんですか? 私たちもまだ赤いカードあるのに」
「いいのいいの。好きなの選んで頂戴」
「好きなのって……全部タマゴじゃないですか、具」
そう言いつつもヴィヴィオはそれを2つ受け取り、1つを千夜に渡した。
千夜も短く「ありがとう」と告げると、再び黙りこくってしまった。
「その子……うさぎ? は食べるの?」
「クリスは食べなくても大丈夫だよ」
「そっか。じゃあ本部さんにも差し入れして来る」
そう言い残し、穂乃果は本部の居る方へ走り去る。
「……あれ。千夜さん、食べないんですか?」
「御免なさい。今、そんな気分じゃなくて」
「もうすぐ朝ですし、食べないと今後どうなるか分かりませんよ。
とりあえず穂乃果さんにも悪いですし、私が食べましょうか」
「じゃあ……お願いするわね」
ヴィヴィオに手渡し、直後に違和感を覚えた。
無論、かなり早い朝ご飯と言ってしまえばそれまでなのだが。
何故、高坂穂乃果はこのタイミングで差し入れをしたのだろう。
わざわざ自分の赤カードを使ってまでする理由などない筈なのに。
まさかと思った時には。
ヴィヴィオは既に、受け取ったサンドイッチを口に入れた後だった。
-
「美味しい、かしら」
やや引きつった顔で尋ねる。
「普通に美味しいで……あれ、ちょっと味が……ぅぐ……」
ヴィヴィオの顔が徐々に青ざめてゆく。様子が変だ。
まさか本当に、このサンドイッチには。
気づいた時には、ヴィヴィオは痙攣し、口から血を吐いていた。
「ヴィヴィオちゃん!?」
「ぢや……さ…ん……」
喉を掻きむしりながら千夜を睨み、ベンチから転げ落ちる。
クリスが慌てて支えようとするが、間に合わない。
「ち、違うの、これは……」
何故ヴィヴィオは、私をここまで恨めしそうな目で見るのだ。
私は何もしていないのに。悪いのは、きっと、穂乃果で。
「ぢや、ざん……なん…で…」
違う違うちがう私のせいじゃない私は悪くない私は関係ないきっと彼女のサンドイッチにも毒がしこまれていてけっきょくかのじょはしぬことになるんだやめてちがうわたしのせいじゃないわたしはわるくないおねがいだからそんなめでみないで――
バァン! と大きな音がホームに響き渡る。
我に返った時には、既にヴィヴィオは動かなくなっていた。
そして、手には、ベレッタが握られて。
「あ……れ?」
ヴィヴィオの口元だけでなく、胸元からもじわりと赤い染みが広がってゆく。
引き金は……引かれていた。
「いやあああああああああ!!」
すべてを悟り、千夜は逃げるように走り出した。
後に残されたのは、口にされることはなかったもう1つのサンドイッチと1つの死体、
それらの傍で只々うろたえることしか出来ないクリスだけだった。
【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはVivid 死亡】
【残り56人】
-
単純な割に合理的。穂乃果はそう結論付けた。
水などの飲み物に毒を仕込んだ場合、飲んで貰えない可能性だってある。
だから食べ物なのだ。それも、サンドイッチのように片手が塞がり、かつ手軽に食べられる代物。
そうすることで、捨てるか手早く食べるかの2択を相手に迫る。
ヴィヴィオたちに差し出した3つのうち最後の1つは、自分で食べるものではない。
本部以蔵を殺すために毒が仕込んである3つ目だ。
彼は駅周辺の様子を確認したらすぐに出発するだろうし、タイミングを見てそれを渡せばきっと食べる。
時間がない。チャンスは、今しか――
「本部さーん。差し入れで……」
「待たれよ」
穂乃果の言葉を遮ると、本部は顎で少し遠くを指し示す。
見ると、複数の影がこちらに向かって来ている。
邪魔が入ったか。思わず舌打ちしそうになるのを堪え、影を注視する。
本部ほどではないがかなりガタイの良い男が2人、何故か猫車に乗せられている小柄な少女が1人だ。
「(ちょっと……これどうするの? このままじゃコイツを迂闊に殺せないじゃない)」
今の高坂穂乃果は、『好意を抱いていたランサーを奪われた』という思い込みによる殺人衝動によって突き動かされている。
ここまで淡々と計画を実行に移せているのも、第三者の乱入が無かったからというのが非常に大きい。
計画の破綻に苛立っても仕方がない。とにかくこの場を切り抜けるしかないようだ。
「(あのさー。何で私、ゴツいおっさんたちばっかりに遭うの?)」
ラヴァレイに押してもらっている猫車に乗りながら、思わず顔をしかめる。
正直、晶にとってこれ以上の道具(ボディーガード)は不要だ。
何とかして2人に駅の前で仁王立ちしている男を消してもらいたいところだが。
「(ん……? 何だ、女もいるじゃないの)」
こちらの存在に気づいたらしく女は物陰に身を隠し、男はこちらをじっと見ている。
「我々に敵意はない! ここを通してもらおうか!」
カイザルが叫ぶと男がこちらに歩み寄り、じっと晶を睨む。
苛立ちを隠し、察してくれと言わんばかりに腫れている足首を指差した。
「そのお嬢ちゃん、足を怪我しておるのか」
「ええ。そちらはお2人で?」
「いいや、向こうにあと2人――」
突如耳に届いて来た銃声と悲鳴。
数秒ほど互いに顔を見合わせ、彼らは黙ってホームへ向かう。
既にホームは蛻の空。生きた人間は残っていない。
それに彼らが気づいた時、何が起こるのだろうか?
-
【B-2/駅付近/早朝】
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:本部に対する憎悪、動揺
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(6/10)、青カード(10/10)
黒カード:青酸カリ@現実
[思考・行動]
基本方針:優勝してランサーを生き返らせる
1:この場を何とかして切り抜け、本部を殺害する
2:参加者全員を皆殺しにする
3:μ'sの皆を殺すのは残念だけど、ランサーさんを生き返らせるためなら仕方ないよね
4:い、今のって!? それにこの人たちは……?
[備考]
※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか(2期1話以降)。
※ランサーが本部に殺されたと思い込んでいます。
※ランサーが離れたことで黒子による好意が少々薄れましたが、上記の理由によって現在では好意が暴走して、それが本部たちへの憎悪、殺人衝動へ変わっています。
【本部以蔵@グラップラー刃牙】
[状態]:確固たる自信
[服装]:胴着
[装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero、原付@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより、麻雀牌セット@咲-Saki- 全国編
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を守護(まも)る
1:南下してキャスターを討伐する
2:騎士王及び殺戮者達の魔手から参加者を守護(まも)る
3:騎士王、キャスターを警戒
4:急いでホームへ向かう
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後
【カイザル・リドファルド@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康、動揺
[服装]:普段通り
[装備]:カイザルの剣@神撃のバハムートGENESIS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜2枚(確認済、武器となりそうな物はなし)
[思考・行動]
基本方針:騎士道に則り、繭の存在を挫く
0:この2人(本部と穂乃果)から話が聞きたい。
1:俺と、ファバロが……。
2:アキラ嬢を守りつつ、アナティ城へと向かう。ラヴァレイ殿も居る以上、体制は万全だ。
3:リタ、聖女ジャンヌと合流する(優先順位はリタ>>>ジャンヌ・ダルク)
4:アザゼルは警戒。ファバロについては保留
[備考]
※参戦時期は6話のアナティ城滞在時から。
※蒼井晶から、浦添伊緒奈は善良で聡明な少女。小湊るう子と紅林遊月は人を陥れる悪辣な少女だと教わりました。
※ラヴァレイから、参戦時期以後の自身の動向についてを聞かされました。
【蒼井晶@selector infected WIXOSS】
[状態]:健康、左足首捻挫(軽度)、猫車に乗せられている。
[服装]:中学校の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
黒カード:不明支給品1〜3枚(武器があるらしい?)
[思考・行動]
基本方針:ウリスを勝ち残らせるために動く
0:利用できそうな参加者は他の参加者とつぶし合わせ、利用価値が無いものはさっさと始末する。
1:カイザルとラヴァレイを利用しつつ、機会を見て彼らと他の参加者を潰し合わせるなり盾にするなりする。
2:ウリスを探し出し、指示に従う。ウリスの為なら何でもする
3:紅林遊月、小湊るう子は痛い目に遭ってもらう
4:カイザルたちに男(本部)を始末してもらいたい
5:何よ今の……こいつらから話を聞く?
[備考]
※参戦時期は二期の2話、ウリスに焚き付けられた後からです
※カイザル・リドファルドの知っている範囲で、知り合いの情報、バハムートのことを聞き出しました。
【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実 、猫車(蒼井晶乗車中)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜1枚
[思考・行動]
基本方針:世界の滅ぶ瞬間を望む
1:蒼井晶の『折れる』音を聞きたい。
2:カイザルは当分利用。だが執着はない。
3:本性は極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する
4:さて、どうしたものか……。
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いています。
支給品説明
【猫車@現実】
ラヴァレイに支給。
工事現場などでよく見かける手押し車。
* * *
-
夢の中も合わせれば、ここに来て3度目の疾走。
目的地はない。誰かに会いたいという気分でもない。
普段なら既に動けなくなるほど走っているのに、体は止まろうとしなかった。
穂乃果たちは追ってくるだろうか、そんなことはどうでも良かった。
ただただ、逃げたかった。
ランサーという一時的な心の支えを失い、目の前で散った命を見て、千夜の精神は既に限界に近かった。
「私が、彼女、を……」
絞り出すように呟く。
毒を仕込んだのは恐らく高坂穂乃果。その上彼女は、私や本部以蔵をも殺そうとしていた。
結果的に、高町ヴィヴィオが死んだ。私がトドメを刺す形になった。
ここにおける『悪』が誰か、なんていうのはどうでもいい。
穂乃果から受け取る前に気づいていれば。
もっと早く「食べちゃいけない」と教えてあげていれば。
彼女が死んだのは、私のせいだ。それは、土方十四郎も同じ。
自分が2人を殺したと言っても、何らおかしくはない。
随分と走り続け、いつの間にか倒れていた。最後の気力を振り絞り、物陰に身を潜める。
当分動けそうにない。何より、しばらく一人になりたかった。
――誰が殺した? クック・ロビン。
――それは……。
【B-2とC-2の境界付近/早朝】
【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(極大)、情緒不安定
[服装]:高校の制服(腹部が血塗れ、泥などで汚れている)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実 、不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:心愛たちに会いたい
1:私が、殺した……。
2:しばらく1人で居たい。
[備考]
※現在は黒子の呪いは解けています。
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投下を終了します
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投下乙です
>騎士王タイプ:トライドロン
引きこもりモードになるDIO様はなんとか動いてくれるやつを味方に付けたか
マーダー密集してきたし病院壊されたし対主催連合はかなり追い詰められてるな
あと、蟇郡先輩の車は元々オープンカーなので修正文は必要ないかと思います
> それはあなたと雀が言った
穂乃果の暗殺は成功したけどトドメは千夜が刺すまさかの事態に
そして残された駅組は5人中マーダー3人という
それでも本部なら……本部ならきっと守護ってくれる……
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投下します
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結論から言えば、花京院典明と神楽が『姿の見えないスタンド使い』に急襲を受けることはなかった。
橋での一件があってから、既に結構な時間が経過しているが――会場は実に静かなものだ。
花京院が常に緊張感を張り巡らせているのもあって、二人の間に会話も殆どない。
ともすれば、殺し合いの存在自体を疑いたくなるような時間が随分続いた。
基地へ寄るか否かは迷ったが、結局、やはり素通りすることになった。
逃げ場の少ない場所でこそ真価を発揮する敵を相手取るのに、わざわざ閉所へ移動する必要も感じられない。
それならば、万全を期して敵を撒くように努力する方が有意義……花京院の意見へ、神楽も反対することはなく。
基地から墓地へと進んだ後は南下し、旭丘分校を目指す。
そこについては何ら変わりはない。
ただ、仮にそこまで逃げ延びて尚も一度の襲撃すらなかったなら。
その時は、この終わる気配のなき鬼ごっこについて一考する必要があるだろう。
時間は決して無限ではない。
姿の見えない敵は確かに脅威だが、真にすべきことはまだ他にも無数にある。
見えないから分からないというだけで、実はもうとっくに追跡を振り切っている可能性とてゼロではない筈だ。
……もっとも、その逆もまた然り。故に油断など、出来る筈もないのだが。
彼は歩く。
彼女も歩く。
ただ黙々と、緊張感を背負いながら。
前だけを見据えながら――歩く、歩く。
「――――根暗かァァァ!!!!」
「!?」
その沈黙を破ったのは、言うまでもなく神楽だった。
女子としてあるまじき目を見開いた表情で花京院を指差し、思い切り叫んでいた。
同行者の突然の奇行に、只でさえ気を張っていた花京院は唖然としてしまう。
頭の中が真っ白になるような衝撃と浮かんでやまない疑問符、それがやがて混乱を連れてくるのはやはり必定。
肩を上下させて息を荒げている神楽を見、花京院は凄く険しい顔をした。
神楽はなんだか彼の姿が劇画タッチに見え始めた。
更にその背景には「ゴゴゴゴゴ……」と太いフォントの効果音が浮かんでいる――そんな気もする。
ひょっとすると沈黙の中で気疲れしていたのかもしれないが、見えたのだから仕方ない。
「まさか……『スタンド攻撃』ッ!?」
-
「んなわけあるかァァァ! 逃げるのは分かったけど静かすぎって言ってんだヨ!
こっちが黙ってれば本気で何も喋らねーし、これじゃ疲れも当社比三割増しアル!!」
「わ、分かった! 分かったから声を抑えてくれッ!」
やっぱり変な色の一本グソ垂らしてる奴は駄目ネ、とぶつぶつ呟いている神楽を尻目に、花京院は額へ浮いた汗を拭う。
常に周囲へと気を張り続けていた状況での出来事だったこともあり、その焦りも尋常なものではなかった。
大きい声を出すな、それと君は何を言っている――色々と言いたいことはあったが、確かに彼女の言う通りかもしれないと、そう思う自分が居るのもまた確かだった。
神楽の行動は軽率の一言に尽きるものであったが、おかげで花京院は自分が如何に緊張していたかを自覚出来た。
ほんのちょっと予想外の出来事が勃発するだけで、これほどパニックになりかけるのだ。
『姿の見えないスタンド使い』以外にも殺人者が潜伏しているような状況へ臨むには、少しばかり危険な状態だった。
「……確かに、君の言うことももっともだ。それによく考えれば、僕達はまだ自己紹介すらしていなかった。
遅くなったが、僕の名前は花京院典明。スタンドの名は『法皇の緑』……改めてよろしく頼む」
一度は止めた足を再び進めながら、しかし無言ではなく会話を織り交ぜる花京院。
自分の意見を聞き入れられ満更でもないらしい神楽も、特に不平を垂れるでもなくそれに応じる。
「神楽アル。
正直、そろそろ私の中でのお前の名前が『メロン糞 たれ蔵』になる所だったヨ。
運が良かったネ、花京院」
「……それは流石に、御免被りたい名前だな……」
女性としては少々慎ましさに欠け過ぎているように思われたが、説教するような身分でもない。
それに、非常に不名誉な名前で覚えられるのを防げただけでも僥倖だ。
……自分のスタンド能力については、まだ口にするのも憚られる下ネタで覚えられているようだったが。
もっとも、花京院は道中、『法皇の緑』の能力については軽く説明したが、名前については一切触れていなかった。
だから、仮の名前で覚えられても仕方ないと言えば仕方ない。
「それで、そのハイエナマント・ブリーチとやらに反応はずっとないアルか?」
「ハイエロファント・グリーン、だ。
……ああ。例のスタンド使いも、ひょっとするととっくにやり過ごしたのかもしれないな。
だが、油断は出来ない。奴のスタンド能力がもし、透明化や迷彩の類ではなく……上手くは説明できないが、とにかく此方の予想もつかないようなものだったとしたら、何らかの手段で感知を掻い潜っている可能性もある」
「おおう……もっと頑張れヨ、ハイエースパンツ・アイーン」
「…………」
前言撤回。
正しい名前を教えようとも、どうやらお構いなしらしい。
まぁ、少しでも良い方向に名前が推移してくれただけでも良しとしておこう。
それ以上に今気にすべきは、今神楽へと語って聞かせたある『懸念事項』の方だ。
単なる透明化能力ならば、法皇の緑による感知を破ることは出来まい。
しかし花京院は見ている。
範馬勇次郎という怪物のような男を、断末魔の声すらあげさせずに文字通り『消し去った』瞬間を。
感知反応がないことから振り切ったと判断しようにも、どうにもそこだけが納得出来ない。腑に落ちない。
これまでの旅の中でも見たことがないような、空前絶後の凶悪なスタンド能力。
姿が見えないことも相俟って、その恐ろしさはあまりに大きく強く、花京院の脳裏へと記憶されていた。
-
そんな様子は露知らずで少し先を行く神楽。
数秒ほど経って、彼女は突然、思い出したように口を開いた。
花京院には背を向けたままでだ。
「けど花京院、命が惜しけりゃ注意しとくヨロシ。
少なくとも一人、私はンな小細工じゃ予防策にもならねーバケモンを知ってるアルヨ」
「……それは、感知した時にはもう遅い――という意味か?」
「まぁ、私もどこまでかは正確には知らねーけどネ……でも」
その時。
神楽の横へと足並みを並ばせた時、花京院は気付いた。
神楽の瞳。
大きな眼窩に収まっている目を満たす感情の色彩が、これまでのものとは明らかに異なっていることに。
否応なしに理解させられる。
どんな言葉よりも強い信憑性が、小柄な少女の両目に詰まっていた。
「アイツなら。神威のバカ兄貴なら、何をしたっておかしくないアル」
神威。
兄貴。
――神楽の、肉親か。
花京院は声にこそしなかったものの、心の中では密かに納得する。
彼女がこれほど真剣な面持ちで語るのも、事情を知ってみれば頷ける話だ。
化け物と形容するしかないほどの凶悪な参加者……それが彼女にとっては実の兄だというのだから。
だから、花京院は問わずにはいられなかった。
干渉のし過ぎだろうと自覚しながらも、問わねばならないと思った。
直感的に理解したのだ。神楽が浮かべている表情、そこにある『覚悟』の意味を。
「神楽……君は、その『神威』を倒すつもりなのか?」
「当たり前アル」
即答した。
答えを口にするまでに、一秒の迷いさえもなかった。
「あのバカ兄貴は、きっと今頃水を得た魚の勢いで暴れ回ってるに決まってるネ。
誰かをぶっ殺すことに躊躇いなんざゼロで、傘振り回してバッタバッタとリアル無双ゲーするような奴アル」
「………」
「もしも止められなきゃ、そん時ゃ何十人と犠牲が出る筈ヨ。――けど」
-
神楽の番傘を握る手に、力が篭もる。
傘が軋むほどの腕力をその細腕で発揮しながら、彼女は宣言した。
笑って誤魔化すことなどせずに、堂々と。
「アイツを殺さなきゃならないってんなら、私がやるネ」
神楽と神威は、血を分けた実の兄妹だ。
もしどちらか片方しか生き残ることが出来ないというのなら。
もし、あのバカ兄貴が数えきれないほどの死体の山を作り上げているというのなら。
「それは私の役目アル。腐っても私達は同じオヤジのキンタマから生まれた兄妹ヨ。そこは譲れない」
あの化け物を生み出したのは、言わずもがなかつて彼が片腕を奪った父親だ。
しかし星海坊主は此処にはいない。居るのはただ一人、神楽だけ。
ならば当然、彼を終わらせるのは神楽の役目ということになる。
この役目を誰かに譲ってやる気はさらさらなかった。
姿の見えないスタンド使いだか、繭だか知らないが――そいつらも同じだ。
勝手にこの役目を持って行こうと言うならば、噛み付いてでも止めてやる。
「――神威は誰にも殺させない」
花京院は、いつの間にか喉が渇いていることに気が付いた。
それは生理現象によるものなどではない。
気圧されたのだ。
肉親を殺すと語るこの少女のあまりの迫力に言葉を失い、ただ圧倒されていたのだ。
神楽――この少女も、やはり只者ではないようだ。花京院は改めて、そう理解するのだった。
【D-2/墓地付近/一日目・黎明】
【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、脚部へダメージ(小)、腹部にダメージ(中)、自信喪失気味
[服装]:学生服、『ハイエロファントグリーン』(紐)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:繭とDIOを倒すために仲間を集める
1:墓地へ向かった後、神楽と共に島を南下する
2:承太郎たちと合流したい。
3:ホル・ホースと『姿の見えないスタンド使い』、神楽の言う神威には警戒。
4:スタンドが誰でも見れるようになっている…?
[備考]
※DIOの館突入直前からの参戦です。
※繭のことをスタンド使いだと思っています。
※スタンドの可視化に気づきました。これも繭のスタンド能力ではないかと思っています。
※索敵のため、腰から紐状のハイエロファントグリーンを背後から数十mに渡ってはわしています。
-
【神楽@銀魂】
[状態]:健康
[服装]:チャイナ服
[装備]:番傘@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らないアル
1:神威を探し出し、なんとしてでも止めるネ。けど、殺さなきゃならないってんなら、私がやるヨ。
2:銀ちゃん、新八、マヨ、ヅラ、マダオと合流したいヨ
3:『姿の見えないスタンド使い』を警戒してるアル
[備考]
※花京院から範馬勇次郎、『姿の見えないスタンド使い』についての情報を得ました。
●
花京院典明の予想は、的中していた。
姿の見えないスタンド使い――より正しくは、この世界とは別の空間に存在するスタンド使い。
ヴァニラ・アイスは、執念深くも未だ彼と彼女を追尾している。
『法皇の緑』による感知の盲点として、警戒を解きつつある彼らを嘲笑いながら、彼は尚も追う。
正直なところ、迷いはした。
此処で花京院と神楽を殺し、駅へ北上してDIO様の館を目指し右側の島へ向かうべきか。
それか、当初の予定通り花京院達がもっと大きな集団になった所で事を起こすか。
(DIO様の身を案ずるなど、おこがましい考えだ)
直接命を下されずとも分かる。
彼は殺し合いの中で他者の命を吸い取り、頂点へ立つことを目指していると。
ならば、そんな彼に対し自分が出来る一番の孝行とは何か?
――言うまでもない。より多くの参加者を、可及的速やかに殺してゆくことだ。
警戒が薄れてきていることも含めて、実に好都合だ。
鼠同士で寄り固まったところを、皆まとめて始末してやろう。
日が昇るまでに誰とも出会うことがなければ、その時はその場で片付けてしまえば良いだけのこと。
(DIO様、もう少々だけお待ち下さい。このヴァニラ・アイス、貴方の道に転がる犬の糞どもを掃除して参ります)
【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜3、範馬勇次郎の右腕(腕輪付き)、範馬勇次郎の不明支給品0〜3枚
[思考・行動]
基本方針:DIO様以外の参加者を皆殺しにする
1:花京院と神楽を追い、殺す
2:承太郎とポルナレフも見つけ次第排除。特にポルナレフは絶対に逃さない
3:花京院達が他の参加者と接触しているところを見計らい、皆まとめて始末する
4:日が昇るまでに誰とも出会えないようならば、その時も早々に見切りをつけて始末。
[備考]
※死亡後からの参戦です
※腕輪を暗黒空間に飲み込めないことに気付きました
-
投下終了です。指摘などあればお願いします。
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投下乙です
そりゃあずっと無言で移動とか銀魂勢には耐えらえませんわw
でもスタンドにあんなあだ名つけられてもきれない花京院はえらい
原作だと神威と神楽は最終的に良い(?)関係に収まったけど、ロワだとやはりどちらかが殺す結末になってしまうのか…
そしてぴったりマークするヴァニラさんがKOEEEEEEEEEEEE
ところで気になったのですが、死亡後から参戦している(太陽の光を浴びるとまずいことを知っているはずの)ヴァニラが
『陽が昇るのをタイムリミットとして襲撃する(陽が昇った時のことを何も考えていないように思える)』という方針を立てているのはちょっと体によろしくないのではないでしょうか
-
投下乙です
凄いタイムリーな話だなぁ
神威は神楽の予想通り大暴れだが果たして辿り着けるか……その前にヴァニラを倒せるか……
>>855
襲撃後、潜伏先を見つけて移動することまでを含めた上での「陽が昇るまでに」だと思いますが……
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最近難癖染みた指摘多くないですかね……
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>>856さんの言う意味での「陽が昇るまでに」のつもりでしたが、分かりにくかったようなのでちょこっと付け足したのを修正板に落としときます
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仮投下版に修正を加えたものを投下します
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狩猟とは常に己の忍耐との戦いである。
時にはいつ来るとも分からない獲物を待ちぶせ、時には獲物の痕跡を探って広大な大地を彷徨う。
たとえ丸一日の労力が無駄に終わることになったとしても、次の日にも同じことを続けられる忍耐力。
それこそが狩猟に要求される最大の能力だ。
無人の市街地を駆け抜けながら、ランサーはあまりにも基本的な心得を思い返していた。
「(だが……これは狩猟よりもよほど厄介だな)」
思わず歯噛みせずにはいられなかった。
ランサーを狩猟者、セイバーを獲物と喩えるのは容易いが、この表現は的を射たものとは言い難い。
これが"狩猟"であるならば、特定の標的を執拗に追いかける必要はない。
追跡困難と判断した時点でその標的を諦め、別の狩り易い標的を探すべきであり、そのサイクルをいつまでも続けられることこそが狩猟に求められる忍耐である。
唯一無二の標的を追い続ける忍耐力は狩猟に求められるものではないのだ。
――思い出されるのはグラニアとの逃亡の日々。
怒りに燃えるフィン・マックールは、フィオナ騎士団の総勢のみならず盟約を結んだ外地の兵までも動員し二人を狩り立てた。
過剰とも言える兵力数は、しかし決して過ぎたものではない。
野に解き放たれた野兎一羽。
他のどの野兎でもなく、そのたった一羽を探し出し仕留めることがどれほど困難か分からぬ者はいないだろう。
現実的な手段で成し遂げようとするなら人海戦術で探し当てるより他にない。
翻って、現状はどうか。
総勢七十人――死亡者を十人程度と仮定して、残る六十人前後のうち標的はセイバーただ一人。
それを追うもディルムッド・オディナただ一人。
もはや藁の山から一本の針を見つけ出すにも等しい難行だ。
「(……やはり手がかりが少なすぎる)」
ランサーが得ている手がかりは、学院から見て東の方角に光を見たというただ一点のみ。
その光が具体的にどこで発せられたのかすら定かではなかった。
故にランサーは、ひたすら東へ進みながら破壊の痕跡を探し続けることしかできないでいた。
それでも『不可能だ』と諦めきれないのは、偏に宝具の破壊力の凄まじさを知っているからに他ならない。
光輝の眩さと魔力の迸りから察するに、開放されたのは対軍、あるいはそれ以上の種別の宝具。
ならば地表や周辺構造物に少なからぬ被害がもたらされているはずである。
その痕跡さえ見つかれば有力な手がかりとなるはずだ。
「…………」
この先に、痕跡が、あるのならば。
「だが……いや……」
ランサーは次第に歩みを緩め、やがて立ち止まった。
そも、あの光とセイバーの間に関係がある保証はどこにもない。
冷静になって考えてみればすぐに分かることだ。
仮にセイバーが東におらず、事もあろうに穂乃果を連れた本部の進行方向上に現れたとしたら。
……結果は火を見るより明らかだ。
脳裏にセイバーとの緒戦とキャスターを相手取った共闘の光景が過ぎる。
ランサー同様、セイバーの宝具は一つではない。彼女は聖剣を覆い隠す風の宝具をも備えている。
しかもそれは単なる隠蔽宝具ではなく、様々な用途に転用可能な万能の逸品なのだ。
後方へ解き放てば音の数倍に比する速度を踏み込みに与える超突風となり。
前方へ解き放てば大量の怪魔を粉砕し肉片に変えて薙ぎ払う破城槌となる。
セイバーがこの宝具を封じられていなかったとしたら――
万軍すらも吹き飛ばす豪風を二人に向けてしまったとしたら――
いくら本部が技巧者であろうと対抗することは不可能だ。穂乃果もろとも肉片と化して散るだろう。
自身の宝具を持っていないキャスターを任せられ得るとしても、こればかりはどうしようもない。
竜巻を格闘技術で止められる人間はいない。あの宝具はそういう類のものなのだから。
無論、そのような事態にならない可能性もある。
本当にセイバーが東にいた場合でも、偶然二人と行き違った場合でも、風の宝具を封じられていた場合でも、悲劇は回避し得る。
だがそれらは楽観論だ。期待して動いて良いものではない。
「そうでなくとも……やはり、この選択は短絡的だったかもしれない」
ランサーは己の貌を掌で覆うように掴んだ。
幸運が重なって無事に駅まで辿り着けたとしても、穂乃果の安全が保証されるわけではない。
それも、他ならぬこの魔貌のために。
――もうランサーさんに危ない目に合って欲しくない――
――お願い、私も連れて行って!――
-
穂乃果からそう懇願されたとき、ランサーはこう考えた。
仮に突き放したところで彼女はランサーを追うだろう、彼女のそばに付き護衛した方が安全だろう、と。
もしも穂乃果が推測通りのことを考えていたなら、意識を取り戻した後で自分を追って駅を抜け出してしまうに違いない。
一人彷徨い歩いた先で危険人物と――あるいはセイバーと出遭ってしまったらどうなるか。
今までこの可能性に思い至らなかったのは不覚の一言に尽きる。
彼女の身の安全を案ずるならば、彼女を納得させられぬうちに別行動を取らせるなど愚策の極み。
これでは穂乃果を死地に誘おうとしているも同然。暗愚魯鈍にも程がある。
「穂乃果よ、早まってくれるな……」
ヴィヴィオや本部に引き止めて貰えることを期待することはできない。
何故なら、彼らは穂乃果が「思い入れのある学院に行きたいから」ではなく「ランサーに危ない目に遭って欲しくないから」付いて行ったのだという事実を知らないからだ。
この事実を知らなければ、音ノ木坂学院を訪問できた時点でランサーに付いて行く動機が消えたと思い込んでしまうだろう。
本部は気を失っていたし、穂乃果が心情を吐露したのはヴィヴィオと千夜が本部を伴ってその場を立ち去った後のこと。
唯一、千夜だけは表情を窺い知れる程度の距離にいたが、穂乃果の発言が聞こえていたかは定かではない。
千夜が偶然にも穂乃果の発言を聞き取り、その違和感を彼らに過不足なく伝え、なおかつ彼らが穂乃果の単独行動の可能性に思い至り目を配ってくれるという、極めて都合のいい偶然が重なることに期待するようでは、いよいよ愚昧というより他にあるまい。
最初から気をつけておくことができない以上、ほんの少し、誰にとってもやむを得ない理由を告げて席を外せば、それだけで事が済んでしまう。
まして本部にはキャスターへの対処も託している。駅に穂乃果を届けるなりすぐさま墓地へ向かってしまう可能性も充分にあるのだ。
ひょっとしたら、完全に客観的な視点から確率を計算すれば、最悪の事態に至る可能性は意外と低いのかもしれない。
そもそも最悪の事態に至る展開もまた、複数の不幸な偶然が積み重なった上にしか起こらないのだから。
実はランサーも思考の隅ではそう考えていた。だがそれは最悪の可能性を再優先に考えない理由には成り得ない。
現代風に喩えるなら、装填数六発の回転拳銃に一発だけ弾丸を仕込んだロシアンルーレット。
発砲に至る確率はほんの17%未満であるものの、それを引き当ててしまった結果はあまりにも致命的。
しかも引き金を引くのはランサーだが、銃口を突きつけられているのはランサー本人ではなく、高坂穂乃果という無辜の少女なのである。
それでいて穂乃果にはさしたる益もなく、ただ自分自身の満足感が充足されるのみ。
この状況で引き金を引く者がいるとしたら、キャスターにも肩を並べる真性の下衆であると断じて相違あるまい。
そのような愚行に片足を踏み込みかけていた己を甚く恥じるばかりだ。
思索の末、ランサーは低層の建物を踏み台に跳躍を繰り返し、近隣で最も高い建物の屋上に降り立った。
ここなら広範囲を見渡すには充分な高さがある。おおよそエリア1つ分かそれ以上の範囲を見渡すことができるだろう。
夜間故の視認性の悪さも、サーヴァントの超常的な視力にとってはさほど問題にはならない。
――本来ならば濃霧が立ち上っていようと4km先を見通すことができるのだが、この戦場における弱体化は視覚にも及んでいるようだ。
「これが最後の賭けだ。何も見つからなければ、すぐにでも――」
-
川の河口、否、島々を分断する海峡の向こうに病院と思しき建築物が見える。
いかにも傷ついた者達が集まりそうな場所だ。
仮にランサーが無差別殺戮を試みるなら、真っ先に目をつけておく施設の一つだろう。
支給品というシステムが存在する以上、弱者を殺め装備を奪うことは戦力の拡充に直結する。
恥も外聞もかなぐり捨てて勝利を目指すのならという前提ではあるが、序盤の戦略としてこれ以上に有効なものはないはずだ。
あまり快くない想像を働かせながら、視線を手前の方に戻していく。
やがて、今まで見落としていたことが不思議なくらいの『違和感の塊』が目に止まった。
「(橋が――ない?)」
地図が正しければ、現在位置と病院の間の水域をまたぐ橋が存在することになっている。
しかし、どんなに目を凝らしてもそれらしきものは見当たらない。
ランサーは建物から飛び降り、本来橋があるべき場所へと一直線に駆け出した。
時間的猶予はない。最速のクラスの名に恥じぬ俊足で車道を走り抜け、瞬く間に郊外の岸壁まで辿り着く。
そこに広がっていたのは目を疑わずにはいられない光景だった。
橋梁の崩壊自体は想定の範囲内だが、破壊の痕跡が明らかに異質。
爆破による崩壊でも、橋脚の破壊による崩落でもなく、純然たる熱量で丸ごと焼き払らわれている。
一体どれほどの熱量を束ねればこんな芸当が出来るというのか。
「…………」
動かぬ証拠が目の前にある。
しかしながら、ランサーは安易にその場を動こうとはしなかった。
焦りに任せて行動を起こすべきではない。戦士としての経験がそう告げていた。
確かに、この破壊が宝具によってもたらされた公算は高い。
だがそれは『セイバーの宝具によってもたらされた破壊』であることを保証しない。
ランサーは腰に提げた――すぐさま抜き放てるようカードには戻していない――キュプリオトの剣に手をかけた。
征服王イスカンダルの剣。それがここにある以上、名簿に名のないサーヴァントの武具も存在しうると考えるのが道理である。
そう、アーチャーの宝具もまた然り。
バーサーカーに放たれた無数の宝具の中に、真名解放によってこれほどの破壊をもたらす宝具があったとしても何の不思議もないのだ。
しかも問題はそれだけではない。
――仮に、橋を破壊したのがセイバーであると仮定しよう。
次に浮かぶ疑問は『何故』だ。
対軍宝具、あるいはそれを凌駕する対城宝具や対国宝具の真名解放ともなれば、魔力消費は極めて膨大なものとなる。
大量の魔力を何の意味もなく浪費するサーヴァントなどいるはずがない。
セイバーには橋を壊さなければならない理由があったはずなのだ。
「それも……橋を渡る前に」
破壊の痕跡を見る限り、宝具の真名解放がこちら側の岸で行われたことは確定的だ。
これから渡ろうとする橋を破壊したというのなら、それこそ相応の意味があったに違いない。
真っ先に思い浮かぶのは、不可抗力。
橋に陣取った強大な敵を倒すため止むを得ず橋を巻き込んだというパターンだ。
この場合は単純明快。敵の撃破と引き換えに橋は破壊され、セイバーは渡海を諦めた可能性が高い。
無論、舟などの渡海手段を確保した可能性もあるが。
次に可能性が高いのは生存者の封じ込めだ。
海峡を渡る手段が豊富に存在するとは考えにくく、常人が自力で泳ぐには過酷過ぎる。
つまり、3箇所の橋と1箇所の鉄道橋が破壊されてしまえば、この島にいる参加者の大部分は他の島に移動できなくなる。
こちらの仮説が正しければ、セイバーは未だにこの北西の島に残っているはずだ。
そして三番目、最も可能性の低い仮説。
三つの島を結ぶあらゆる交通手段を途絶させ、全ての参加者から移動の自由を剥奪する――
-
「……くっ」
宝具を用いた痕跡さえ見つければ手がかりになるとばかり思っていたが、いざ見つけてみると結果は真逆。
橋が落とされていたという事実が、ランサーに理不尽な選択を突きつけてきていた。
海を渡ったと判断して渡海を試みるべきか。
未だこの島にいると判断して引き返すべきか。
前者は、単なる移動の一環として渡った場合と、諸島全体を巻き込む計略が発動された場合に分かれる。
後者は、島を移ることを諦めた場合と、この島に狙いを絞った封じ込め戦略を取った場合に分かれる。
全体の被害を考慮するなら『島を渡った』と判断するべきだ。
しかし、この島には見知った者達がいる。無力な少女達がいる。
その中には、己の魔貌によって冷静さを失い、いつ死地へと迷い込むかもしれない高坂穂乃果がいるのだ。
もしもセイバーがこの島に残っていたとしたら、彼女達が凶刃に斃れることも覚悟しなければならない。
無様な槍兵が見当違いの方角を彷徨い歩いているうちに――
今、ランサーの前には天秤がある。
片方の腕には、他の2つの島に送り込まれた顔も知らぬ多数の命。
もう片方の腕には、己の呪いが心惑わせた少女を含む少数の命。
選んだ側が『当たり』ならば両方が危機から逃れられる。
選んだ側が『外れ』ならば選ばれなかった側が危機に陥る。
あまりにも不自由な二択。それでもどちらかを選ばなければならない。
ランサーは苦悶を飲み込み、強く瞼を閉じた。
まさにその瞬間だった。まるで天啓のような策がランサーの頭に思い浮かんだのは。
「そうか、これならば……!」
□ □ □
結論を言おう。
ランサーは橋の袂を去り、駅に向けて全速力で引き返していた。
『多数』を切り捨て『少数』を選ぶに等しいこの決断。
正しき天秤の守り手たらんとするならば、迷うことなく『多数』を選ぶべきである。
しかし、ランサーはそのように振る舞うことを良しとできなかった。
親しき者も見知らぬ者も強き者も弱き者も『1』と数え、純然たる数量の多寡で生死を切り分けるなど、到底許容することができなかったのだ。
そんなものは人間の考えではない。正しくあり続ける機械装置の在り方だ。
もしも人間がこのような思考回路で動こうとするなら、人間らしい感情を捨て去るか、或いは人間らしい感情を際限なく痛めつけ続けるより他にない。
故にランサーは海峡を前に踵を返した。
騎士として、サーヴァントとしての判断ではなく、心あるヒトとしての、ディルムッド・オディナとしての決断だった。
しかしながら、この判断は決して『多数』を――セイバーが海峡を渡った可能性を切り捨てたものではない。
仮にセイバーがこちらの島にいるとしたら、次に向かうであろう場所は島南部の二つの橋か駅のどちらかである。
橋の破壊が不本意だったなら代わりの移動経路を求めて、意図的な破壊工作なら次なる標的として、いずれにせよ橋か駅を目指すに違いない。
そしてセイバーが東の島へ渡っていたとしても、鉄道を利用して東の島の駅、あるいは南の島の駅に向かえば、セイバーの移動経路に先回りすることも不可能ではない。
また鉄道による移動は、南方にいるであろうキャスターとの遭遇を回避しつつ南の島へ向かえうことができる手段でもある。
即ち、一度駅に引き返すという判断はほぼ全ての可能性に対応できる一手なのだ。
妙手とも言える策を思いつきながらも、ランサーの表情は依然として晴れやかではない。
それどころか、駅に近付くにつれて煩悶の色を強めてすらいた。
薄暗い無人の街を疾走しながら、ランサーはこれから先の行動方針を整理する。
まずはまっすぐ駅に引き返す。到着後はすぐさま全員の安否を確認し、北東の橋が壊されていた事実を報告しなければならない。
そこから先は自分一人で決めるべき事柄ではない。
橋の消滅という要素を踏まえた上で、この島に残り続けるか、鉄道を使って別の島へ移動するか、キャスターとの遭遇を覚悟の上で南下するか。
全員でまとまって動くか、複数に分かれて行動するか。いずれの選択肢を選ぶかは全員の協議の上で決める必要があるだろう。
駅に残った面々に何事もなければ、それで話は終わりだ。ランサー単独での行動も最低限の偵察としての意味が出てくる。
無論、何事もなければ、だが。
-
「(彼女らの身にもしものことがあれば――)」
ランサーが想定する恐るべき事態は三つ。
まず、危険人物が駅を襲撃すること。
次に、穂乃果が単独行動を取ってしまうこと。
そして、あまりの恐ろしさのためにこれまで想像することすら拒んできた、最後の可能性。
ヴィヴィオと千夜との別れ際の光景が脳裏を過ぎる。
あのとき、千夜は形容しがたい表情で穂乃果のことを見つめていた。
魅了の魔貌が彼女らに植え付けてしまった感情の発露と考えて間違いないだろう。
万が一、その感情が縺れてしまったら。誰にも望まれぬ形で暴走してしまったら。
被害者と遺された者のみならず、加害者の心までもが打ち砕かれる最悪の事態。
それによって引き起こされる不幸のドス黒さは、先に挙げた二つを凌駕してなお余りある。
「(――全てはこの俺の責。身命を賭して償うより他にない)」
想定しうるあらゆる悲劇の原因は、魅了の魔貌が振り撒いた災禍の萌芽と、不確実性を無視した愚かな独走に帰結する。ランサーはそう考えていた。
悲劇が現実のものになってしまったならば、贖いを担うべきは自分自身。
例え、彼女らの一人が罷り間違って他の誰かを手に掛けてしまったのだとしても、罪を背負うべきは己である。
では何を以って贖いとするべきか。生き残った者だけではなく、命を失ってしまった者にも届く贖いとは。
答えは、ひとつ。
聖杯戦争においてケイネス・エルメロイ・アーチボルトに聖杯を献上すると誓ったのと同じように。
この戦いに勝ち残り、願いを叶える権利を以って、彼女達の生と尊厳を取り戻す。
ただ、それだけだ。
【A-3/市街地/一日目・早朝】
【ランサー@Fate/Zero】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:キュプリオトの剣@Fate/zero、村麻紗@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
0:穂乃果、ヴィヴィオ、千夜の中に犠牲者が出ていた場合、生き残りを保護しつつ優勝を狙う方針に転換する。
1:一旦B-2の駅に戻ってA-4の橋の情報を共有し、今後の方針を決める。
2:穂乃果、千夜に「愛の黒子」の呪いがかかったことに罪悪感。
3:セイバーは信用できない。そのマスターは……?
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバーと共にキャスターと戦った後。
※「愛の黒子」は異性を魅了する常時発動型の魔術です。魔術的素養がなければ抵抗できません。
※村麻紗の呪いにかかるかどうかは不明です。
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投下終了です
修正といいつつ容量が2倍近くに増えた件
それと、早速ですが一箇所訂正
【A-3/市街地/一日目・早朝】
↓
【B-3/市街地/一日目・早朝】
橋から駅に向かってるならこっちの方が自然なはず
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投下乙です
行動方針について質問があるのですが
>生き残りを保護しつつ優勝を狙う方針に転換する。
というのは、最後の一人にならなければ優勝できないというルールと矛盾していないでしょうか
優勝を狙うなら生き残りも全員殺すのが普通では?
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そもそも最悪の可能性云々言ってるのに、
リタのように「繭が本当に願いを叶えてくれるか」っていうのに触れないのね
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そもそも仮投下の時点で問題が指摘された訳でもないのに内容を大きく変えるのはどうかと
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別に自発的に修正するのを禁止するルールは無いけど
内容が変わったなら、仮投下ないし修正スレを通さなかったのか…
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よくもまあ議論が終わったばかりだというのにこんな内容で投下が出来ますね……
仮投下をしておきながら内容をがらりと変える、おまけに最悪の可能性を考えるのを強調しておきながら主催者を全面的に信用した思考回路 正直、どうしたらこうなるのか全く理解できません
ランサーの考えもいささか短絡的に過ぎるでしょう
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展開をごり押しして企画を私物化したいなら個人サイトでやればいいのでは……議論の際の居丈高な態度といい正直不快です
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wiki収録してくださった方、ありがとうございます
>>847
完全に勘違いしておりました。ありがとうございます
オープンカー関連の記述を削除しました
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とりあえず◆zUZG30lVjY氏の投下作についての話は修正スレですればよいのでは
読み手の方にも感情的になっている節のある方がいますし、一度空気を入れ替える意味も込めて
それと◆0safjpqWKw氏、修正乙でした。
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理詰めとはなんだったのか
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ディルムッド・オディナとして戦い抜くって方針だったのにあっさりサーヴァント思考に戻るって……
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言いたいことがあるならちゃんと議論スレで言いましょうね
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感想も言えないスレ
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投下します
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空に、一条の流れ星が走っていた。
しかしそれは天体現象とは輝きの質が異なり、また、星と呼ぶには妙な形をしている。
極めつけに、その流れ星は空から流れ落ちてくるのではなく――地より天へと流れ“上がって”いた。
自然ではあり得ない不可解な現象だが、生憎と、そもそもこれは自然現象などではない。
魔法のデバイス・ヘルゲイザー。
このバトル・ロワイアルに際して、支給品の一つとして与えられた代物を使用したというだけのことだ。
もっとも――、より正しくは“使用してしまった”と言うべきかもしれないが。
「……ねえ、新八?」
「なんでしょう、にこさん」
志村新八と矢澤にこ。
ヘルゲイザーへ跨りながら二人は、とてもいい笑顔で笑っていた。
男である新八はともかく、どう控えめに見ても美少女なにこなどはとても絵になる。
背景に夜空が広がっていることもあって、それはまさにアイドルの楽曲PVのような光景だった。
されど、隣の芝生は何とやら。
今彼らが浮かべている笑顔は、半ば諦め、ヤケクソ気味のものだ。
彼も彼女も、訓練された魔導師ではない。
なので当然、こんな見事なまでの飛行をしている以上、当然の問題が浮かんでくるわけで。
「これ、ちゃんと止まるんでしょうね?」
「………さあ……」
「さあじゃないわよっ!? えっ!? もしかしてこれ、アフターケア無しとかだったりするの!?」
「お、落ち着いて下さい」
混乱するにこを宥めて、新八は考える。
確か、この箒を動かしたのはにこだった筈だ。
寒……もとい個性的な決め台詞と決めポーズを取って、上機嫌そうにしていたのを覚えている。
「……なんか、凄い失礼なこと考えてない?」
ジト目で指摘するにこから真剣そのものな表情で目を逸らす新八。
それからすぐに彼は何かに気付いたように目を見開き、「あっ」と声をあげた。
「そうか、分かりましたよにこさん!」
「本当!?」
「そもそも、この『箒を飛ばす魔法』を使ったのはにこさんじゃないですか。
なら、きっと止められるのもにこさんなんですよ。まったく制御不能な欠陥品ってわけでもないでしょうし」
「確かに……、そういえばそうね」
-
となると、それこそ世に言う魔法使いさながらに箒で滑空し、ゆっくり降りていくことになるのだろう。
さっきの魔法……『箒星』には面喰らったが、これだってその内止まる筈だ。
魔法を一度使っただけでにこはあれだけ疲労感を感じたのだから、きっとそう遠くない内に。
後はそこから、このヘルゲイザーを操って安全に着地すれば一件落着。
「でも、そう上手くいくかしら……」
にこは自分達の真下に見える地面を見、表情を曇らせる。
結構な高度だ。
厳密な高さを測らなくとも、この位置から墜落などしようものならどうなるかは想像に難くない。
そして、ヘルゲイザーに乗っているのは彼女だけではないのだ。
もしもにこがミスをすれば、新八も大事故に付き合わせることになってしまう。
「大丈夫ですよ、多分」
「多分って、アンタねえ……」
「為せば成る、為さねば成らぬ、ですよ。
そりゃ僕だって怖いですけど……でも、不思議と心配はしてません。
にこさんなら、なんだか当たり前にこなしちゃうような気がするんですよね」
「新八……」
「なんたって、世界のYAZAWAですし?」
「アンタ、後で絶対痛い目見せてやるからね。覚えてなさいよ」
ギロリと鋭い視線で射抜かれた新八は、口笛を吹いてまた目を逸らした。
まったく、余計な一言がなければちょっと格好いいかなとも思ったのに。
にこは唇を尖らせる。
……その矢先だった。
今まで上向きに進行を続けていたヘルゲイザーが急に停止し……そのまま、コントロールを失う。
「にこさん!」
「分かってるわ!」
にこは箒の柄をがっしりと握り締めると、自分がこれに跨がり、空を飛ぶ姿を強くイメージした。
途端、襲いかかってくる倦怠感。
箒星を行使した時に比べれば微量だが、それでもこの感覚だけはどうも慣れない。
「こんな箒に振り回されてお陀仏なんて、笑い話にもなりゃしない……!」
しかし、そこは矢澤にこ。
少ない魔力を持っていかれる感覚を堪え、自由落下に身を任せるばかりだった箒を、その場へ留めることに成功する。
額に浮いた脂汗を拭いたい思いだったが、今片手だけでも箒から外そうと思えるほどの余裕はなかった。
これでようやく、第一段階。
次にこの箒を安定させつつ、地面まで帰り着いて始めて成功と呼べるのだ。
-
「ファイトですよ、にこさん!」
「……応援ありがと。にこにー、頑張っちゃうんだから!」
ゆっくりと。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
箒が安定する。
箒が、平衡感覚を取り戻していく。
にこの大きな息遣いがした。
少しずつ――少しずつ。
箒が高度を下げていく。
凄い、と素直に新八は思った。
きっと自分達以上に平凡な、殺し合いとは無縁の生活を送ってきただろう女の子が、今必死に頑張っている。
しかも、それは無駄な頑張りでもヤケクソでもない。
ヘルゲイザーの扱いを土壇場の中で覚えながら、格段にコントロールを安定させてきているのだ。
一際強い風が吹いた。
「ぶっ」
にこの小柄な体が、それに合わせて大きく揺らぐ。
しかし、後ろには新八がいるのだ。
筋骨隆々とまではいかずとも、大の男がクッションになっていれば、それしきの揺らぎ程度で放り出されたりはしない。
逆に、新八の方が危なかったくらいである。
やれやれ――風圧に靡く前髪を片手で押さえ、新八は微笑んだ。
(なんだ。全然、寒くなんかないじゃないですか)
その時、ヘルゲイザーが全てのコントロールを失った。
ヘルゲイザーから放り出されながら、新八は、ゼラチンのような雨を浴びた。
-
●
「あ゛……く゛…………」
志村新八は、地へと倒れ伏していた。
その後頭部からはじっとりと血が漏れ、胴も所々赤い汚れを帯びている。
立ち上がろうにも、力がまったく入らない。
どうにかこうにか首から上だけを動かして、自分の足を見て――あ、と思った。
右足が、膝の下辺りから曲がってはいけない角度に曲がっていた。
左足が、足首の先を肉団子か何かのように潰れさせていた。
これでは、なるほど確かに歩けないわけだ。
「な゛、にが」
何が起きた。
にこさんがミスをした?
いや、違う。彼女の操縦は
――だとしたら、探さないと……
動かない体を動かそうと全身で力を込め、どうにか倒れた体を転がすことは出来た。
瞬間、走る――激痛。
声にすら出来ないような、神経を直接嬲られるような痛みが新八の全痛覚を支配する。
無理もない。
彼は、下を見るだけで高所恐怖症でなくともぞっとするような高度から、受け身さえ取れずに転落したのだから。
考えてみれば当たり前のことだが、少なくとも今の新八にはその程度の余裕さえなかった。
意識が飛びかけるほどの痛みに耐えて体を転がした褒美なのか、幸いすぐににこの姿は発見できた。
新八と同じように地面へ倒れて、どうやらまだ意識も取り戻していないようだ。
「に゛……こ、さん…………」
這うようにして、一挙一動ごとに激痛へ苛まれながら新八は彼女の元へと急ぐ。
そうして辿り着いた頃には、既に這々の体だった。
歩けば五秒とかからない間合いの移動に数分もの時間を費やしたことからも、彼の困憊具合が窺えるだろう。
――困憊? いや、違う。
「大丈夫、ですか。にこ、さん……」
砕けて軋む手を伸ばして、その肩を揺さぶる新八。
-
すると、彼女の首から上だけががくりと彼の方を見た。
「―――」
その顔は、美しいスクールアイドルのものではなかった。
「あ……」
左から右にかけて、顔面に抉れたような傷痕が走っている。
恐らく顎下より入ったのだろう傷は、その可憐な容貌を割れたスイカのように変えてしまっていた。
そして彼女は新八と違い、墜落の際にも打ち所が悪かったのだろう。
左の側頭部がぐしゃぐしゃになり、中身をでろでろと垂れ流し、そこに羽虫が一匹止まっている。
それはもう、輝かしいスクールアイドルの姿でも、箒に跨がり夜空を駆け抜ける魔法少女の姿でも何でもない。
ただの、死体だった。
「う……あ、ぁッ…………――――――!」
瞳から慟哭の涙を溢れさせながら、新八は喉が嗄れるような声にならない叫びをあげた。
落ちる瞬間に浴びたゼラチンのような質感の雨が何であったのかを知り、嘔吐さえした。
程なくこれから自分がどうなってしまうのかを知り、女の子一人守れず息絶える不甲斐なさにまた叫んだ。
にこの死を知ってから数分間彼はそうして泣き、吐き、叫び続け。
十分が経つ頃には、ぴくりとも動かなくなっていた。
あの高さから落ちて、無事なわけがない。
木に引っかかりでもしない限りは、即死かそうでないかの些末な違いだ。
そして新八は後者だった。
四肢をほぼ使い物にならない状態にされ、割れた頭蓋から出血し、内臓も落下の衝撃でズタズタ。
そんな有様となりながらも、彼は残酷なことに、僅かな時間だけ生かされた。
同行者の末路と、自分の結末と、これからへの不安を抱きながら残された時間を生き、彼はそれから呆気なく死んだ。
【矢澤にこ@ラブライブ! 死亡】
【志村新八@銀魂 死亡】
【残り54人】
-
●
――仕留めた。
夜闇に飛ぶ、人を乗せた飛行物体がコントロールを失って墜落していくのを確認し、東郷美森は呟いた。
温泉を後にし、市街地へ向かうべく車椅子を進めていた東郷が『それ』に気付いたのは偶然だった。
そろそろ空が白み始める頃ね、などと思って空を見上げた時。
東郷の居る地点よりそう離れていない位置の空に、何かが飛行していることに気が付いたのだ。
最初はドローンのような飛行装置か、そうでなくとも何かしらの道具であろうと思っていた東郷だったが、よく注視しているとどうもそうではないらしい。飛行物体の上に、人のような姿が視認できるのがその証拠だった。
無論、勘違いの可能性も十分にある。
しかし、もしも本当にあれを駆っているのが人間ならば――逃す手はない。東郷はそう判断し、行動した。
わずか一瞬の内に勇者への転身を終え、射程に優れる狙撃用の巨大な銃を取り、後は簡単だ。
銃を扱うことに長けた勇者としての技量を、遺憾なく発揮する。
最初の接敵では不覚を取ったが、そもそも『敵がいる』ことに気付かれてすらいない状況ならば東郷に敵はない。
飛行物目掛け、一発を見舞った。
当てられずとも、混乱を誘って次弾で仕留める腹積もりだったが、弾丸は首尾よく初弾で命中したらしく。
見る間に飛行物体は制御を失っているのが素人目にも分かる落下をし、乗っているシルエットが投げ出されるのを確認すると、そこで東郷は変身を解除し、前述の言葉を口にしたのだった。
あの高さならば、まず即死。
そうでなくとも、致命傷。
よしんば生き永らえたとしても、そこそこの手傷を与えられたのは間違いない。
東郷としては無論暗殺に成功していた方が都合が良かったが、生きていられてもリスクは皆無だ。
月明かり程度の光源があるとはいえ、まだ辺りは暗い。
この闇の中で、姿の見えない襲撃者に当たりをつけるのは尋常なことではない。
当然、リーチのある銃を持っていれば容疑者の可能性は高まるが……東郷の場合は、その心配もない。
転身を解けば、凶器は消えるのだから。
今後、もしも対主催の中へ潜り込まねばならない事態が生じたとしても。
東郷美森が今の殺人で不利益を被ることは、百パーセントあり得ない。
「……変わっちゃったわね、私も」
東郷は車椅子を進める前に、ぽつりとそれだけ呟いた。
されども。その胸中に、迷いのようなものは一切存在しない。
ただ、終わらない悲劇を終わらせるため。そのためなら、少女は外道にでも畜生にでもなれる。
【G-4/一日目・早朝】
【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、満開ゲージ:4
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:車椅子@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[思考・行動]
基本方針:殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する
1:南東の市街地に行って、参加者を「確実に」殺していく。
2:友奈ちゃん、みんな……。
3:自分よりも強い参加者は極力相手にしない。
[備考]
※参戦時期は10話時点です
-
●
若き二つの芽が断たれた、その半時ほど後のことだった。
今はもう動かない二つの屍が転がる『そこ』へ、降り立つ者の姿がある。
全身に痛手を負った、両翼の悪魔。
今はある理由から人間、ひいては殺し合いを良しとせぬ参加者へ力を貸している身の彼を、アザゼルという。
「奇遇だな」
先刻、愚かな人間を一人空より投げ捨ててやったばかりだというのに。
よもや、その矢先に墜落死体などと出会すとは。
アザゼルは悪魔として、これまで幾度となく人を殺め――そうでなくとも、その死を目撃している。
そんな彼だから、全身を隈なく打撲し、手足が歪に痛めつけられた少年の死体を見れば、それが墜落死の類であろうと察しを付けるのは実に容易かった。
「しかし、近くにこれほどの死体を生めるだけの高所もない。
あるとすれば空――俺のように宙を舞うことの出来る人間が、俺と同じやり方で殺したか。もしくは」
二人の近くへ落ちている箒型デバイス、ヘルゲイザーを拾い上げ、小さく微笑んで。
「撃ち落とされたか。不運なことだ」
彼は、名も知らない哀れな犠牲者に同情はしない。
しかし、最後に役に立ってくれたなと傲岸な感謝を抱いてはいた。
少年の方は碌な支給品も持っていないようだが、この箒はそこそこ有用かもしれない。
悪魔らしい略奪精神で、アザゼルはヘルゲイザーをまず奪い取る。
少女に抱かれるような形で落ちたことが幸いしたのか、特に損傷した様子がないタブレットPC。
用途の判別は付かなかったが、後に検証してみる価値はあるか。
そう思い、アザゼルはこれも奪い取ることにした。
それからにこの持つ黒カードを憚ることなく取り出し、死者へ黙祷すらすることなく、それを拝借した。
アザゼルはこの通り、傍若無人で得手勝手な悪魔だ。
殺し合いに乗ってこそいないが、それで他の参加者と足並みを揃えられるかといえば難しいに違いない。
ファバロ・レオーネを嘲ったように。
まだ本性を表す前の浦添伊緒奈へ、支給品を強請ったように。
基本、彼の世界は自分を中心としている。劣った存在である人間ごときに、配慮などは期待できない。
故に当然死者は顧みず、ただそれが生む利益のみを重視する。
-
「さて。どうやら目敏く空路を狙う輩も居るらしい。一つ休憩がてらに、俺も支給品を検めるとするか」
先ずはにこから拝借したものでなく、自分に与えられたカードの一枚を引き抜いた。
「……カード。外れのようだな」
黒カードより出てきたのは、数十枚のカード束だった。
言わずもがな、どう見ても凶器にはなりそうにない。
不機嫌そうに舌打つと、アザゼルはそのカードを纏めて投げ捨てようと手を振り上げ――
「――――るぅ」
――ようとして、何かを聞いた。
「るぅは、どこ?」
「……何?」
怪訝な顔をしてカードを見、さしものアザゼルも僅かに驚いた様子を見せた。
そのカードには、少女の姿が描かれていた。
そしてそれが何かを憂いるような表情で、「るぅ」なる人物はどこに居るのかと、アザゼルへ問うているのだ。
彼はまだ知らない。
このルリグ――『タマ』こそが、現状主催者・『繭』へ最も近い存在であることを。
アザゼルが望んでやまない『借りを返す』機会を大きく引き寄せる、重大な意味を持った代物であることを――。
【G-2/温泉周辺/1日目・早朝】
【アザゼル@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:ダメージ(大)
[服装]:包帯ぐるぐる巻
[装備]:ホワイトホープ(タマのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜2枚、イングラムM10(32/32)@現実、タブレットPC@現実、ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはVivid、矢澤にこの不明支給品1枚
[思考・行動]
基本方針:繭及びその背後にいるかもしれない者たちに借りを返す
0:……何だ、こいつは。
1:借りを返すための準備をする。手段は選ばない
2:ファバロ、カイザル、リタと今すぐ事を構える気はない。
3:繭らへ借りを返すために、まずは邪魔となる殺し合いに乗った参加者を殺す。
4:この死体(新八、にこ)どもが撃ち落とされた可能性を考慮するならば、あまり上空への飛行は控えるべきか。
[備考]
※10話終了後。そのため、制限されているかは不明だが、元からの怪我や魔力の消費で現状本来よりは弱っている。
※繭の裏にベルゼビュート@神撃のバハムート GENESISがいると睨んでいますが、そうでない可能性も視野に入れました。
支給品説明
【ホワイトホープ(タマのカードデッキ)@selector infected WIXOSS】
アザゼルに支給。
小湊るぅ子のルリグ・タマヨリヒメ(タマ)が収納されたカードゲーム『ウィクロス』のカードデッキ。
外見は白髪ツインテールの幼い少女。タマ以外のカードは殆どがただの紙切れである。
ロワに関する説明はどうやら受けていないようだが――。
-
投下終了です。指摘などあればお願いします
-
乙です
にこ新八はさすがに無用心過ぎたか南無
マーダーである美森と現状危険対主催であるアザゼルの区別がよく描写されていました
死亡者が増えた以上に話も進んだ感じです
あと気になる所はアザゼルの現在位地が温泉周辺なら場所はGの2ではなくGの3では?
-
投下乙です
うわあああああああああ!!
アザゼル狙撃か?とも思ってたけど、新八にこのダブル狙撃とは……
東郷さんはどんどんキルスコア稼いでるし、南東の街連中が危うくなってきた
そしてアザゼルには今後のキーになるであろうタマが渡ったか
相性悪そうだけどまともにコミュニケーション取れるのか……
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投下乙
刃牙が一般人を守護る方針で行動しなかったばっかりに……
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>>888
凡ミスでした。そのように修正します
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投下おつ!
まさか堕とされるのがそっちだと!?
このうわあああああ感、アザゼルじゃなかったろうな……。
アザゼルの方は何気に順調。ファバロから聞いた考察の裏付けもとれそうだな
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投下乙です
面子からして誰か落ちるとは思ってたけどまさかこの二人が落ちるとは…
東郷さんが順調な一方でアザゼルもキーパーソンになりそうな気がする
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投下します
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駅に向かって走り続けるランサーは、ふと立ち止まった。
広い三叉路。左に行けば駅に続き、右に行けば最初の目的地だった音ノ木坂学院がある。
右手の道の先、夜であれば見逃してしまいそうな黒い影。
朝日に照らされ始めた今では、それが人の身体――遺体だとはっきり認識できる。
「……あれが、セイバーと戦って敗れたという、トウシロウか」
遺体の傍らに立ったディルムッドは目を伏せる。
侍は全身に傷を負っていた。一つとして、軽傷と呼べるものはない。
どれもが致命の一撃。命を刈り取ることを目的として放たれた、「殺す」ための剣ばかりだ。
特に、腹部への突きと胴部に走る袈裟切りの一撃が深い。真正面から渾身の力で斬り伏せられたことが容易に想像できる。
思わず簡単しそうなほど見事な切り口。しかしディルムッドの表情は暗い。
ディルムッドの見立てでは、この男は腹部か胴部、どちらかの一撃でほぼ間違いなく力尽きたのだろう。
だが下手人――セイバーはそれだけでは飽き足らず、駄目押しの一撃を加えた。
放っておいても絶命する男に、辞世の句を残すことすら許さず、無慈悲なまでの死を叩きつけた――あの、正しき騎士たらんと揺るがぬ誇りを掲げていたはずのセイバーが。
「モトべの言う通り……お前は、騎士道を捨てたのだな。俺などよりも遥かに……苛烈に、徹底的に」
騎士王と交わした剣を思い出す。
胸踊り血が沸き立つ、騎士の誇りを賭けたあの決闘を。
ディルムッドが生前経験したどんな戦いにも勝るとも劣らない、清澄かつ純粋なあの剣劇を。
初戦はディルムッドが優勢だったものの、まだ決着はついていない。
片腕の自由を奪われてもなお衰えぬあの闘志に、ディルムッドは身震いするほどの敬意と歓喜を掻き立てられた。
騎士王の名に恥じぬ、煌めく星々にも勝る気高さ。
相手にとって不足なし、どころではない。かの王を剣で打ち倒すことこそ、騎士たる者が心震わし挑む大いなる試練――!
「……なるほど、これが甘さか。確かにこんなものを抱えていては、今のセイバーには及ばんな……」
それら全てを――セイバーは、打ち捨てている。
自らを縛る鎖を斬り裂き、身を軽くして、ひたすら前へと突き進んでいる。
今一度覚悟を新たにし、ディルムッドは刀を抜く。
キュプリオトの剣ではなく、本部から預かった村麻紗を――眼前に伏す、一人の侍の魂を。
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「トウシロウ、東洋の侍よ。埋葬してやりたいところだが、今は時間がない。
だが、お前の意志は俺が継ぐ。お前が騎士王と打ち合ったこの刀に誓おう。
騎士王は必ずや俺が討ち果たす。お前が遺した、この剣でな」
ディルムッドは刀を納め、土方十四郎の亡骸を抱えて跳躍した。行き先は、ほど近くにある音ノ木坂学院。
先を急ぐ身ではあれど、ディルムッドは土方の遺体をあのまま野晒しにしておくことはできなかった。
日が昇れば急速に腐敗が始まる。せめて日の当たらぬところで眠らせてやりたい。
場所の検討も付いている。先ほど穂乃果に案内された際、最後に見た場所、アルパカの小屋だ。
ディルムッドの足ならば、寄り道しても一分とかからない。
あのときは本部が立っていたためじっくりとは見聞していないが、本来の主であるアルパカがいないことはわかっている。
決闘の場から一跳びで小屋の前に到着し、中に土方の遺体を横たえようとして――
「……むっ!?」
突如、ディルムッドの足元が光を放った。
警戒し、瞬時に小屋を出ようとしたディルムッドだがその背中が硬いものに突き当たる。
視線を巡らせれても、そこに壁などない。
あったのは光の帯。小屋の中心から放射線状に広がった青い光が、ディルムッドの退出を防いでいる。
そして光は徐々に勢いを増し、やがて目も眩むほどの光になって――!
「……なん、だと……?」
光が収まった時、ディルムッドの見る景色は一変していた。
狭いアルパカ小屋ではない。
木造の建物。その教室の一つ。
「ば、バカな……ここは音ノ木坂学院ではないぞ。どこだ、ここは!?」
土方の遺体を横たえ、ディルムッドは地図を開き、現在地を確認する。
F-4。旭ヶ丘分校。ディルムッドと土方十四郎の遺体は、音ノ木坂学院から遠く離れた南の島に転移していた。
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「何故だ、何故……!」
そのとき、ディルムッドの腕輪からすとんと一枚のカードが落ちる。それは黒カードではなく、IDカード。
キャスターに破壊された「ファバロの剣」と同じく、ディルムッドに支給された黒カードの変化した物体。
その効果は、特定施設のアンロック。
殺し合いの会場となる西の島、東の島、南の島は橋と電車によって繋がっているが、地続きではない。
橋と線路が全て破壊された場合、水面を渡る手段を持たない者は島に閉じ込められてしまう。
無論、そこまでの事態はそうそう起こるものではないが、かといって確実に起こらないとも断言できない。
そうなった場合のフェイルセーフ。
それが、三つの島に一つずつ存在する学び舎――音ノ木坂学院、旭ヶ丘分校、本能字学園――を繋ぐ、ワープ装置であった。
本来、このワープ装置は殺し合いが始まってから12時間で自動的に開放されるものだった。
が、ディルムッドの持っていたIDカードはそのタイマーをパスし、装置を使用可能にするカードキーだったのだ。
ディルムッドは殺し合いが始まってすぐキャスターの気配を察知したため、己のカードで最初に出てきた剣を掴むやいなや行動を開始した。そのため、残るカードを確認できていなかった。
穂乃果と合流した後も、愛の黒子の呪いにかかった穂乃果をケアすることで忙しく、また征服王の剣という獲物も手の中にあったため確認を怠っていた。
そして知らぬままアルパカの小屋というワープ装置のある施設に踏み入ったため、IDカードを認証した装置が自動で起動し、ここに転移させたのだった。
「装置は一度起動すると……バカな! 六時間は再使用不可だと……!」
黒カードに戻したIDカードから効果詳細が浮かび上がり、ディルムッドは絶句する。
一度起動した装置は再使用が可能になるまで六時間かかる。
つまり西の島の装置は停止しているため、ここから東の島に行くことはできるが、すぐに西の島へ舞い戻ることは不可能なのである。
「ここから走って駅まで、どれだけ時間がかかる……!」
本来であれば、ワープ装置は重要な移動手段となっただろう。
だが先を急ぐ槍兵には、これ以上ないほどの不幸となってその背中を刺したのだった。
「どうすればいい、どうすれば……!?」
ディルムッドの――ランサーの問いに答える者は、誰もいない。
日が差し暖かくなり始めた学校で、土方十四郎の亡骸だけが冷たい汗を流すランサーの慟哭を聞いていた。
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【F-4/旭ヶ丘分校教室/一日目・早朝】
【ランサー@Fate/Zero】
[状態]:ダメージ(小)、焦り
[装備]:キュプリオトの剣@Fate/zero、村麻紗@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:IDカード
[思考・行動]
基本方針:『ディルムッド・オディナ』としてこの戦いを戦い抜く。
1:可及的速やかにB-2の駅に戻る。
2:穂乃果達から離れたことに対しての後悔。
3:状況が許す限り、セイバーの追討を優先。場合によっては鉄道も活用する。
4:穂乃果、千夜に「愛の黒子」の呪いがかかったことに罪悪感。
[備考]
※参戦時期はアインツベルン城でセイバーと共にキャスターと戦った後。
※「愛の黒子」は異性を魅了する常時発動型の魔術です。魔術的素養がなければ抵抗できません。
※村麻紗の呪いにかかるかどうかは不明です。
※A-4の橋の消滅を確認しました。
※セイバーの行先に関しては、向こう岸へ渡った場合とこちら側に残った場合の両方を考慮しています。
・支給品説明
「IDカード@アニロワ4オリジナル」
音ノ木坂学院、旭ヶ丘分校、本能字学園を結ぶワープ装置の認証キー。
ワープ装置は本来ゲーム開始から36時間経たなければ開放されないが、このIDカードを持つ人物だけはそのセキュリティを回避して装置を使用できる。
・施設説明
「ワープ装置」
音ノ木坂学院、旭ヶ丘分校、本能字学園にそれぞれ設置されたワープ装置。
橋、電車が不通になった時のための安全装置のため、ゲーム開始から12時間経たなければ開放されない。
ただしIDカードを持つ者であればセキュリティを回避できる。
また、一度使用すると送信側(つまり使用者が最初にいる場所)の装置は六時間システムダウンし、受信も送信もできなくなる。
音ノ木坂学院のワープ装置はアルパカの小屋、旭ヶ丘分校のワープ装置はれんげたちの教室。
本能字学園のワープ装置については後続の書き手にお任せします。
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投下終了です
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投下乙です
ワープ装置!そういうのもあるのか…!
タイムリーになりますが、こちらも旭ヶ丘分校にいる犬吠埼風を投下します
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この世に何を思い
何を感じてる
🌸
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泣いて、泣いて、泣いた。
供物として捧げ光をなくした左目で、右目とお揃いの大粒の涙を浮かべて。
もう永遠に歌うことが出来ない、声どころか顔そのものを失ってしまった妹の代わりに、声を枯らす勢いで。
まだ温かかった身体がどんどん冷たくなっていくのを、死体になっていくのを感じながら。
私は、勇者ではなく、殺人鬼でもなく。
妹を失った姉として、ただ泣いた。
皆殺しにするということは、妹を、樹を殺さなければいけないことも、分かっていたはずだった。
仮に私がそうしなくても、樹はこんな場所で長く生きることが出来るような性格ではないことも、理解していたはずだった。
でも、駄目だった。
言い訳も開き直りも、私に一時の安らぎをもたらすことはなくて。
これからの展望も合理的な考えも、私の足を動かす原動力になりはしなくて。
樹を殺したやつを殺す、という、人殺しとしての真っ黒な考えさえも。
今の私にとっては、とても虚しい、意味のないことのように思えた。
ただ、後悔だけが、悲しみに覆いかぶさるように私の心を削っていく。
もしも、あとちょっとだけ早くこの場についていたならば。
もしも、東郷と会話せず、真っ直ぐに分校を目指していたならば。
もしも、あの少女を殺そうとした時に、一瞬でも迷わなければ。
もしも、もしも、もしも。
いくつもの、もうどうしようもない選択が、どうしてそうしなかったのかと、余さず心に突き刺さる。
ズタズタになった思考回路が行きつく果ては、やっぱり『この殺し合いに呼ばれる前に』考えていたことと同じで。
-
「ごめんね」
もしも私が、樹を勇者部に誘わなければ。
「ごめんねぇ、いつきぃ……」
私が、樹を殺したも同然だ。
その事実が、刺さり続ける棘の中で、一番、死ぬほど、辛かった。
埋葬してあげなくちゃ。このままじゃあんまりにかわいそうだ。
泣き疲れて、冷静になってようやくそう考えて。
私は、樹の死を受け入れ始めている自分に気付いて、また涙を流した。
どうしてこんなに悲しいのか。
どうしてこんなに苦しいのか。
どうして樹が、こんな目に遭わないといけないのか。
そうして私は
ようやく、自分の過ちに気付いたのだった。
🌸 🌸 🌸
-
学校の裏手にあった森林部。
木々が乱れ生えるその場所の中で、一番広そうなスペースを確保して。
それでも少し手狭だったので、変身して大剣を振るい、邪魔な木を伐採してから。
土を掘る。墓穴を、掘る。
大剣をスコップ代わりにして、黙々と穴を広げていく。
「こんなもん、かな」
最後に、首のない彼女の腕輪から、全てのカードを抜き取っておく。
赤のカード。青のカード。数字が10のままだったので、一度も使われていないようだった。
そういえば私も、ここにきてからまだ一度も食事をとっていない。
『私みたいにうどんを沢山食べないと、女子力上がらないわよー?』
『えぇ〜!そーなんですかー!?』
『風先輩、女子力とうどんの相関関係について、資料の提示を』
『いや、ほら、それはそのー。あれよあれ』
『素直にデタラメだって言えばいいのに……』
甘い思い出を、振り払う。
黒のカードは一枚、樹のスマートフォンしかなかった。
きっと、私と同じように樹もスマートフォンだけが支給されたのだろう。
『なんですか、これ?』
『勇者部専用の、特別なアプリってやつよ!』
『勇者にしか扱えない伝説の武器ってやつですね!ひゅー、かっこいー!』
『……来年、樹にもダウンロードしてあげなきゃね……』
苦い後悔を、呑み込んだ。
最後に、マスターカード。白のカード。
そのカードに描かれたイラストは、確かに、私の知る犬吠埼樹そのものだった。
もしかしたら別人かもしれない。樹の服がたまたま背格好が似ている誰かに支給されて、たまたまその子がそれを着たまま死んだのかもしれない。
そんな希望は打ち砕かれ、首なしの彼女は、間違いなく私の妹である犬吠埼樹であると、思い知らされた。
-
樹の身体を、穴に入れる。
思っていた以上に軽い身体を、これ以上痛い思いをしないように、静かに横たえる。
無言で、黙々と、土をかけた。
樹の足が、見えなくなっていく。
今日の勇者部はいったい何をしようかと、会話しながら二人で歩く通学路を、思い出した。
樹の身体が、見えなくなっていく。
新しい服選びについて行って、樹にはまだ早いセクシーな下着をわざと見せつけた悪戯を、思い出した。
樹の手が、見えなくなっていく。
いつか、家事が何にも出来ない樹にも、料理だけは教えようと考えていたことを、思い出した。
樹の顔は、土をかぶせるまでもなく見えなかった。
彼女の顔は胴体から切り離され、今やどこにあるのかも分からない。
その代わりと言わんばかりに、脳裏に樹の顔が浮かんだ。
美味しそうにうどんを頬張る顔が。
いつまでも変な夢から目覚めない寝顔が。
私の思い付きに振り回されて困った顔が。
タロットカードを慎重にめくる真剣な顔が。
『お姉ちゃん、大好き!』
…………笑顔が。
連鎖して、彼女との楽しい日常の記憶が、畳みかけるかのように押しかけてくる。
忘れないでと、懇願するように。
樹とのこれまでの思い出が、浮かんでは消え、浮かんでは消え。
ずっと覚えていてと、縋り付くように。
樹とこれから一緒に進もうとしていた未来予想図が、どうしようもなく頭に残って。
声を漏らしそうになる口元を、無理やりに引き締める。
ねえ、樹。
多分、放送であんたの名前が呼ばれたら、私はもう一回泣くと思う。
だって、仕方ないじゃん。世界で一番大切な妹が、二度も『殺される』んだもの。
我慢できる自信なんて、これっぽっちもありゃしないわ。
でも、それで終わりにする。
涙を流すのも、鼻水を垂らすのも、泣き言を言うのも、それでおしまいにする。
そこから先は
血も涙もない人殺しとして、私は生きて行こうと思う。
-
ただ。
樹は、私が返り血に塗れるところなんて、見なくても良い。
樹は、私に斬り殺される人の悲鳴なんて、聞かなくて良い。
人肉の匂いも、筋繊維を断ち切る感触も、口の中に広がる血の味も。
何も感じずに、この『カード』の中で、眠っていて良いんだ。
ただ、ひとつだけ。
「ずっと、一緒にいて」
それが私の、樹への最後の我儘。
樹の魂が入ったカードを、胸に抱きしめる。
樹はここにいる。確かに、この中にいる。
たかがカードという紙切れ一枚。
こんなにも薄っぺらい、だけど絶対に超えられない壁の向こうで、私と共にある。
私が全てを犠牲にするまで『ここ』にいる。いてくれる。
死してなお、分たれることなく、私の許にいてくれる。
それだけでいい。それだけでいいんだ。
それだけで、私は立ち上がれる。
それだけで、私は前に進むことが出来る。
「樹と一緒なら、私は何にだって立ち向かえる」
「樹と一緒なら、私は何時までだって頑張れる」
樹と一緒なら。
樹のためならば。
誰だって
勇者部だって、殺して見せる。
-
誰一人として殺せず、かつての仲間たちに背を向けて逃げ出す弱気な私とはさよならだ。
世界を正しくするだとか、そんな綺麗事で自分を着飾るのはもうおしまい。
違うのだ。それは、本質的には犬吠埼風の願いではないのだ。
だから本当にこれで良いのかと迷ってしまうし、東郷の意志の強さに引け目を感じてしまう。
そうだ、私の本当の願いは。
私は、妹さえ――樹さえ幸せになってくれれば、それでいい。
それこそが、犬吠埼風の本当の願い。
最愛の妹が幸せになるために、結果的に正しい世界が必要となるだけで。
世界も、大赦も、バーテックスも、本当は樹に比べれば、どうだっていいことなのだ。
樹が望む世界を、私は願う。
その結果として皆が生き返るのならば、それで良い。
その結果として世界が正しくなるのなら、それで良い。
その結果として殺人鬼になった姉なんて要らないと言われたら……それでも、良い。
それで犬吠埼樹が幸せになってくれるのならば、私は全ての選択を受け入れよう。
だって、私は樹のお姉ちゃんだもの。
たった二人きりの、家族なんだもの。
樹の夢を奪った、張本人なんだもの。
もちろん、こんな願いが間違っていることなんて、百も承知だ。
樹のためなんて言い訳をする気もない。これはただの私の、世界への我儘だ。
妹を勇者部に引き込み、化け物と戦わせ、声を失わせ、可能性を摘んだ私が、自分のために行う罪滅ぼしだ。
私は自分のためだけに他者を傷付け、場合によっては仲間をも殺し、屍の山頂で樹と再会することを目指すんだ。
-
そうだ。だとしたら。
『勇者』が皆の平和のために戦う正しきものなのだとしたら。
自分を犠牲にしてでも、世界のために戦う尊きものなのだとしたら。
私は『勇者』でなくても良い。
勇者なんて肩書は、捨てても良い。こちらから願い下げだ。
私は私のために、私の願いのためだけに、戦う。
「さよなら、私が勇者である世界」
「さよなら、樹が幸せになれない世界」
「私は新しい世界へ、樹のための世界へ行くわ」
無想する。
全てが終わり、何もかもが更地になった、果てにある。
樹が幸せになる世界を。
声を取り戻し、自由を取り戻し。
友達とカラオケに行ったり、演劇で音声をやったり、ボーカリストとして拙くも頑張って活動していく、彼女の日常を。
はにかんだ笑顔を見せる、私のたった一人の妹の姿を、夢想する。
もしも、許されるならば。
もしも、こんな人でなしの私でも、新しい世界で樹に一声、二声、かけることが許されるのならば。
私は、あの日言えなかったことを言おう。
あの日、樹にどうしても伝えられず。
本当は、誰よりも先に言うべきで。
私が優勝しなければ、もはや永遠に届かない、その言葉を。
-
「樹」
彼女の魂がこもったカードを、前にして。
リハーサルのつもりで、精一杯気持ちを込めて。
今の樹には決して聞こえていないだろう、祝辞を述べよう。
「ボーカリストオーディション、一次審査突破おめでとう」
声が出せる新しい世界で。
可能性が満ちた、素晴らしき新世界で。
彼女の努力を、応援しよう。
彼女の才能を、祝福しよう。
彼女の挑戦を、見守ろう。
彼女の夢を
「あんたは、自分の夢を叶えなさい」
私は、何を犠牲にしても、叶えてあげる。
例え勇者部を、私自身を、犠牲にしてでも。
お墓に、土を最後までかけ終わる。
もう、ここに未練はなかった。もしも次に会うのならば、笑顔でと決めていた。
振り返ることなく、前に進む。もう戻ることは出来ない道を、一歩一歩踏みしめていく。
さよならは言わない。諦めるつもりなんて、あるはずない。
代わりに、ポケットにしまった大切な『魂』にそっと、手をふれる。
無機質な樹のカードが、今はほんのわずかに温かく感じた。
🌸 🌸 🌸 🌸 🌸
-
埋葬からの帰り道。
とりあえずあの学校で放送までは待機しようと、先ほど来た道から引き返しながら。
ふと、考えた。
『勇者』じゃなければ、私は何者なのだろう。
皆のために戦う『勇者』は捨てた。
この世界は一人だけしか生き残れない、願いを叶えられない世界なのだから。
何の力も持たない『村人』にはなる気がない。
誰かに助けてもらうのを待つだけの、何かに救ってもらうのを待つだけの輩には、絶対になるものか。
それじゃあ。
力を持っているのに、自分のためだけにしかそれを用いる気がない存在とは、私とは。
何者なのだろう。
勇者部を作り、勇者部五箇条を作り、大赦からのお役目を果たそうと頑張っていた今までの私の在り様。
そんな、寄り掛かっていた『勇者』という絶対的な正しさの殻を脱ぎ捨てて、裸になった私の心。
『樹のための世界』という強い望みを支えるための、新たな『土台』が欲しかった。
『勇者』という呪縛から卒業するための『依代』が必要なのだと、強く思った。
そうしないと、私の心がまた『勇者』に引き付けられそうな、嫌な予感がした。
私は、犬吠埼風は、何者であるべきなんだろうか。
……ああ、そうだ。思いついた。
-
『私を怖がって悪者扱いを始めたのは、村人たちの方ではないか!』
『話し合えば、また悪者にされる!』
あの時そういう台詞を入れたのは、私だっけ。
当たり前だ。力持つものが自分のためだけに力を振るえば、皆から排斥されるに決まっている。
そのことを理解していながら、それでも今の私は自分の望みの、贖罪のためだけに生きていく。殺していく。
もう、どちらが正しいとか正しくないだとか、そんな話し合いをする気は、一切ない。
『結局、世界は嫌なことだらけだろう、つらいことだらけだろう!』
今度はこういう台詞を入れようと考えていたのも、私だ。
そうだ。世界は嫌なことだらけだ。
信じていた存在から騙され、本来喜ぶべき報せに絶望し、悲しくって死にたくなる。
だから、そんな間違った世界なんて、消してしまうのだ。
『見てみぬふりをして、堕落してしまうが良い!』
それだけは、違う。
私は、見た上で、理解した上で。
勇者から、堕落する。
正義から滑り落ち、使命から転げ落ち。
自分が作った『勇者部』からも。
楽しくて、ゆるくて、優しい空間からも、身を投げる。
もう、あの場所に戻る気なんてない。
ここから先は、ずっとずっと堕ちていくだけの、私でいる。
友奈とも、東郷とも、夏凛とも。
『勇者』として、並び立つ気はない。
そうして願いが叶うのならば、それでいい。それがいい。
もしかしたら、私は自分が究極的にはそんな存在だと自覚していたからこそ。
己の感情でしか動かない、己のしたいことに身を委ねる、エゴイズムの塊であると無意識に感じていたからこそ。
あの『役』を自ら、買って出ていたのかもしれない。
「なーんて、考えすぎかな」
よし、決めた。
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もはや、犬吠埼風は『勇者』ではない。
「でも、今の私にはぴったりな役柄だわ」
今の犬吠埼風は――――
「『待っていろ、勇者ども!我が闇の力が、貴様ら全てを喰らい尽くすであろう!』」
――――『魔王』である。
「待っててね、樹」
【F-4/旭丘分校/一日目・早朝】
【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:風のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20)
黒カード:樹のスマートフォン@結城友奈は勇者である
犬吠埼樹の魂カード
[思考・行動]
基本方針:樹の望む世界を作るために優勝する。
1:放送までは学校で休息。食事もとっておきたい。
[備考]
※大赦への反乱を企て、友奈たちに止められるまでの間からの参戦です。
※優勝するためには勇者部の面々を殺さなくてはならない、という現実に向き合い、覚悟を決めました。
※東郷が世界を正しい形に変えたいという理由で殺し合いに乗ったと勘違いしています。
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以上で投下を終了します
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投下乙
何処とは言わんがゆゆゆ勢は大きい子がマーダーで貧しい子が対主催になる法則があるようだ
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それでは自分も投下します
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本能字学園における死闘からしばらくの時が経過した。
栄養(エネルギー)の補給と小休止を終えた二人は、神威が要求したとおりC-7エリアの「DIOの館」を目指して南下を始めた。
エリアひとつ分の縦断に相当する移動だが、周囲を警戒して慎重に進みでもしない限り、さほど時間の掛かる距離ではない。
当然のことながら、圧倒的強者たる二人が草食動物のように辺りを気にかけるわけもなく、驚くほどにあっさりと目的地までたどり着くこととなった。
「どうやら無駄足だったみてぇだな」
流子は館の惨状を前に、嘲り混じりに神威を見やった。
DIOの館は既に廃墟も同然の有様だった。建物としての形を維持できているのが不思議なほどだ。
真っ当な考えの持ち主なら崩落を恐れて近付きすらしないだろう。
「さっさと次に……って、おい何してんだ」
「念のため中も調べておこうと思ってね」
「……ったく。十分だけ待ってやる。少しでも過ぎたら館ごとぶっ潰すぞ」
「はいはい」
冗談とは到底思えない脅しを聞き流しながら、神威はひとり館の門を潜った。
瞬間、布や紙の焦げたような臭いが鼻腔をくすぐる。
玄関ホールを抜けた先の絵画ギャラリーも、隣室のミュージックホールも徹底的なまでに破壊されている。
臭いの原因は焼け焦げた絵画やカーテンのようだ。
部屋同士を仕切る内壁も屋内と屋外を区切る外壁もズタズタで、床に至っては曲線状の破壊痕が際限なく刻み込まれている。
この様子なら遠からず自重に耐え切れず崩れ去るに違いない。
「ふむふむ」
ぱっと見ただけなら、ここもまた本能字学園と同様に死闘の舞台になったのだと思えてくる。
しかし、図書室まで足を踏み入れたところで、神威はおぼろげながらに感じていた違和感の正体に気がついた。
「こいつは『戦闘』の痕跡じゃあないな」
破壊の仕方がひどく単調だ。バリエーションに乏しいと表現してもいい。
床に刻み込まれた轍状の跡と動物の"蹄"らしき陥没。
横一直線に切り崩され"縦"の破壊痕が殆ど見られない壁。
可燃物という可燃物を焼き払った高熱の"何か"の散布。
神威が確認した限りでは、館内部の破壊痕はすべてこれら三つに該当している。
「おおかた、館そのものを破壊することが目的だったってところか。
見るからに恨み買ってそうだったし、ここぞとばかりに仕返しされたのかも」
図書室周辺を軽く探索したのち、神威は二階へと足を運んだ。
衣装室に学習室、使用人用と思しきベッドルームにバスルームと、二階にはさほど見るべきものはなさそうに思える。
そして三階、外から見る限りでは大したフロア面積ではない階層だったが……
「ここがDIOの部屋かな。うん、陰気そうだし間違いない」
明らかに空気が違う。雰囲気が違う。血の残り香が漂うベッドルームなど尋常ではあり得まい。
館を破壊した者も三階までは手が回らなかったのか、他の階と比べて原型が残されている。
せいぜい壁を割られ家具の一部を焼かれた程度だ。
だがそれでも所詮は寝室。果たして価値のあるものが見つかるのかどうか。
「ベッドの下には何もなし。他に何か隠してあるとしたら……」
焼け焦げた引き出しに手を伸ばし、軽々とこじ開ける。
民生用の鍵など夜兎の怪力の前では無施錠も同然。
包装紙を破り捨てるかのような容易さで、神威は引き出しに秘匿されていたものを手に入れた。
「ふぅん。案外マメなんだね」
それは一冊の手記だった。日記と言い換えても良いだろう。
下階の絵画と同様、全体のいくらかが焼け焦げているものの、ページの大部分は健在だ。
神威がその手記を流し読みし始めた矢先、建物の外から激しい崩落音が聞こえてきた。
窓の隙間から外を伺ってみると、建物を囲む塀を破壊する流子の姿が見えた。
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「せっかちだなぁ。まだ時間は残ってるのに」
神威は手記を懐に仕舞うと窓の戸を叩き割って軽やかに外へ跳び出した。
三階分の高さからの落下もまるで意に介さず、普段通りの表情のまま、破壊を続ける流子の元へ歩み寄る。
「おう、早かったじゃねぇか」
「そちらこそ。館を壊すのはもっと後の約束じゃなかったかな」
「あん? ただの試し切りだっての」
そう言うなり、流子は破魔の紅薔薇を一閃させた。
分厚い石製の塀が粘土のように引き裂かれ、音を立てて崩れ落ちる。
「頑丈で良い武器だぜ。私の動きにもきっちり付いて来やがる。元の得物が手に入るまではこいつで十分そうだ」
「拾い物だったみたいで何より。こちらも面白そうなものを拾えたよ」
神威は懐に仕舞っておいた手記を流子に投げ渡した。
雑に片手で受け取ってぺらぺらと目を通す流子だったが、やがてこの世の終わりでも来たかのように顔をしかめた。
「……全っ然読めねぇ。ぜんぶ英語じゃねぇか」
「知ってた」
「バカにしてんのか。ブッ殺すぞ」
「まさか。俺もさっぱり読めないよ。だけど……」
黒のカードを取り出し中身を出現させる。
手元に現れたのは、小さなキーボードと画面が一体になった手のひら大のデバイス。
いわゆる電子辞書だ。
「大外れだと思ってたけど、使いどころは案外あるものだね」
………………
…………
……
額を突き合わせての解読作業の末、幾つかの有意義な情報を引き出すことができた。
(流子は五分でキレた)
まず、DIOは吸血鬼と呼ばれる存在であること。
次に、名簿にある名前のうち、空条承太郎、花京院典明、ポルナレフの三人はDIOを討たんとする者達で、ホル・ホースとヴァニラ・アイスはDIOの配下であること。
そして、DIOを含む彼ら六名はスタンドなる特異な能力を身に付けていること。
「ハンッ! 面白ぇ。スタンドだか何だか知らねぇが、まとめてブチ殺してやるだけだ」
「いい顔してるじゃない。たまには寄り道もいいものだろ?」
流子に向けて軽く手記を放り投げる。
刹那のうちに紅薔薇の穂先が走り、手記を細切れの紙片に変えた。
情報は独占度が高ければ高いほど価値が上がる。
下手に持ち歩いて他人の手に渡る可能性を残すより、こうやって処分してしまった方が得策だ。
「太陽が苦手な吸血鬼、か。少し親近感が湧いてくるね」
「で、次はどうするつもりだ? DIOの野郎を探しだしてぶっ潰すのか」
「いや、それは後回しだ」
-
電子辞書を黒のカードに戻し、東の空を見やる。
夜空の趣きは陽光の気配に取って代わられ、薄ぼんやりとした暗さを残すのみ。
本格的な夜明けがもう目の前まで迫っている。
「DIOが本当に吸血鬼なら、日中はどこかでヒキコモリを決め込むはずだ。
シラミ潰しに探すのも面倒だし、日が落ちるまでは別の連中と遊ぶことにするよ」
「ああそうかい。だったら今回は私が行き先を決めるぜ。この島でコソコソしててもキリがねぇ」
「いいよ。どこにする?」
「それにしても――"天国"に行きたがる吸血鬼ってのも、妙な話だよね」
【C-7/DIOの館 門前/1日目・早朝】
【神威@銀魂】
[状態]:疲労(小)、胴体にダメージ(中)、右掌に切り傷(軽度)
[服装]:普段通り
[装備]:日傘(弾倉切れ)@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(8/10)、電子辞書@現実
黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを楽しむ。
0:俺が全員相手をするから、君は下がってていいよ。
1:本物の纏流子と戦いたい。それまでは同行し協力する。
2:勇者の子(結城友奈)は面白い。
3:纏流子が警戒する少女(鬼龍院皐月)とも戦いたい。
4:DIOとも次に出会ったら決着を着けたい。
[備考]
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。
【纏流子@キルラキル】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(中)、顔が若干腫れている
[服装]:神衣純潔@キルラキル、破魔の紅薔薇@Fate/Zero
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(19/20)、青カード(19/20)
黒カード:神衣純潔@キルラキル 黒カード:使用済み。
[思考・行動]
基本方針:全員殺して優勝する。最後には繭も殺す 。
0:いいや、あたしが全員殺す。てめぇが下がってな。
1:次に出会った時、皐月と鮮血は必ず殺す。
2:神威を一時的な協力者として利用する。
3:手当たり次第に暴れ回る。
4:他の島にも足を伸ばしてみる。
[備考]
※少なくとも、鮮血を着用した皐月と決闘する前からの参戦です。
※DIOおよび各スタンド使いに関する最低限の情報を入手しました。
【電子辞書@現実】
神威に支給。電池式で電池寿命120時間。
社会人向けの製品で、ジャンルを問わず膨大なデータが登録されている。
国語辞典や和英辞典だけでなく、他の外国語や大百科事典、果ては防災辞典や家庭医学辞典まで網羅。
暇つぶしに最適なワードパズルのアプリケーションまで用意済みと至れり尽くせり。
市場価格で3万円は軽く超える高級品である。
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以上で投下終了です
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投下乙です
>フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ
これまた面白そうなギミックが出てきたなぁ
ランサーはやる事為す事空回ってて駅つく頃には全てが終わってそう
>犬吠埼風は■■である
風先輩は完全に覚悟完了しちゃったか…
東郷さんも乗ってるし友奈は散華しちゃったしで夏凛の負担がやばい
>Stairway to...
黒歴史日記を会場に設置されるDIO様ははっきり言って不憫
このマーダーコンビはどっちの方角に行っても面白そうなのが凄い
一つ質問なのですが、何故流子達はジャンヌ、雁夜、杏里の支給品を拾わなかったのでしょうか?
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…そう言えばDIOの日記ってアニメ(三部)に出てましたっけ?
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アニメ化されてない6部の情報って出しても良いんですか?
あと、英語読めないのは地味にヤバいです
日本人とそれ以外のキャラが筆談出来なくなるしセルティはそもそも意思疏通そのものが出来なくなっちゃう
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DIOの弱点に繋がる情報が会場内に置いてあるっておかしいでしょ
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そろそろスレチだし以降の指摘は議論スレで
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そもセルティの出身国であるアイルランドでは英語が第二公用語になってまっせ
っつってもそういう意図の話じゃないんだろうけど
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バハムート世界の言語って何なんだろうか
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ミスタルシア語か何かじゃね?w>バハ世界言語
投下おつー
魔王風先輩は心情伝わってきて凄いやばかった
最後の演技がかった宣言もばっちり脳内再生できてしまったのが辛い
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<削除>
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申し訳ないがナチュラルに本部をディスるのはNG
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投下させていただきます
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悪魔は、腰を下ろしていた。
そもそもからして、今の彼は健康体には縁遠い。
体中に巻かれた痛々しい包帯がその証拠といえる。
悪魔なだけはあり、これでも人間よりは頑強な自信はあるが。
何せ状況が状況だ。予期せぬ疲労の隙を突かれることだけは、絶対に避けねばならない。
アザゼルは苛立たしげに舌打つ。人間を超えた存在である彼にとっては、こんな考えを余儀なくされる時点で屈辱だった。
どこで道を踏み外したのか。言うまでもない、あの忌まわしい人間どもに一杯を食わされた日からだ。
あの日から、坂道を転げ落ちるように没落していった自覚がある。
もちろん、そんなドン底にずっと甘んじて腐敗するほどアザゼルは腑抜けてはいない。
必ず元の栄冠まで返り咲き、自分を見下した連中にも然るべき報いを与える。
その手始めに、まずはこの殺し合いを首謀しているであろう因縁の相手――ベルゼビュートを殺す。
そうすることが正しいと、疑う余地もなく信じていた……の、だが。
「繭、か」
其の名を、不機嫌そうな面持ちで口にし、反芻する。
それは言わずもがな、このバトル・ロワイアルの開催を宣言した女の名だ。
アザゼルは当初、彼女は単なる張りぼてに過ぎず、その裏にベルゼビュートが潜んでいると睨んでいた。
一体いかなる手段を使ったのか知らないが、たかが人間一人の手腕で悪魔を嵌めるなど不可能。
その驕りにも似た決め付けが……かつてアザゼルを敗走させた悪癖が、そう信じ込ませていたのだ。
しかし、あの人間は言った。神魔の鍵を何らかの手段で分離させ、繭がバハムートを制御しているかもしれないと。
彼女の背後に、アザゼルが復讐を果たすべき悪魔は存在しないかもしれないと――確かに、一理はある。
アザゼルは彼と喧嘩別れのような形で離れた後も、ずっと考えていた。
ベルゼビュートのいない可能性を。たかが人間と侮った白い少女が、自分を完全に凌駕している可能性を。
一概に妄言と片付けるのは憚られる信憑性が、あの男の言葉にはあった。
それでも、完全に信用しきってはいなかった。割り切りの悪い悪魔の自尊心が、認めようとしていなかった。
だが――こうなってはいよいよ、認めざるを得ないやもしれない。
彼には馴染みのない畳の上へ腰を下ろすアザゼル。その正面には、一枚のカードが置かれていた。
端正だが人相はよくない彼。その彼が、小さなカード相手に会話を続ける絵面はシュールそのものであったが。
あいにくと彼はパントマイムをしているわけではない。そのことは、カードの絵柄を注視すれば自ずと理解できる。
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御揃いの髪飾りで結われた髪を動く度小さく揺らす、色彩の白い少女。
歳はまだ幼いだろう。顔立ちは現実感がないほどに愛らしく、どこか幻想的な雰囲気を醸している。
カードの中の少女が喋る。現実には起こり得ない不可思議な事象が、このカードが普通のものでないことを証明していた。
彼女が動き、喋れることを知った彼は、しかし外で会話を試みるほど愚策ではなかった。
殺し合いの重大さも、厄介な参加者がいることも承知している。
武器を手に入れたことと元のスペックを加味しても、手負いの身ではやはり不安が残る。
だから安牌を選択した。幸い近くに施設があったことから、その中へ休息がてらに足を踏み入れて。
「度し難いが、信じる他ないようだな。
ベルゼビュートが存在していようがいまいが、あの繭という女は脅威と見なすに値すると……」
どうやら、嘘を吐いているわけでもないようだからな――
アザゼルは悪魔だ。
嘘や悪意には人一倍敏感であるし、こんな年端も行かない娘が相手ならば隠し事の一つや二つはすぐに分かる。
だから彼は、彼女の語ったことを信用することにした。
カードの少女……説明によると『ルリグ』の彼女は自らを『タマ』と名乗った。
ルリグは、この会場ではアーツなる力を用いて持ち主をサポートすることが出来るらしい。
それだけでもアザゼルにとっては有益な存在だったのだが、真の利益はそこではなかった。
『るう』はどこかとしきりに問う彼女。その正しい名前は、小湊るう子――それは名簿にもあった名前だ。
タマの様子からして、その『るう』は殺し合いを良しとはしない性格らしかったが、それでも他の参加者について情報を得られるに越したことはない。良い機会だと話を聞いていく内に、明らかとなったのは衝撃の事実。
何と――このタマというルリグは、繭と面識があるというのだ。
問い質して、返ってくる答えは要領に欠けていたが、しかし苛立ち任せに放り捨てていい局面ではない。
らしくもない辛抱強さで、どうにかアザゼルはタマの持つ情報を引き出し、理解を深めていった。
繭という少女の素性。セレクターという特別な少女達による、札遊びを発展させた潰し合いのゲーム。
勝ち続けたセレクターは夢限少女となり、其の末に悪魔以上に悪辣な末路を迎えるという仕組み。
人間を見下しながら、悪魔として人間に触れ続けた彼には話を聞くだけで理解できた。
繭という少女は、一言で言って只者ではない。
編み出す趣向が人間のそれとは思えないほど悪辣に尽きる。
そのことは、このバトル・ロワイアルのルールからも分かる話だったが。
-
友人を探す少女から無遠慮に情報を聞き出す辺りは、流石に悪魔か。
しかし殺し合いに背く者としては、彼の行動で得た成果はあまりにも大きかった。
誰も近付くことの出来なかった繭の情報を、一足先に手に入れることが出来たのだから。
「……アザゼル」
「何だ」
「アザゼルは、るうを……殺す、の?」
アザゼルとしては、現状単なる道具であるタマに名など教える理由があるとも思えなかったが――
頑として名前を聞かせてときかない為、埒が明かないと判断したアザゼルが折れる形となり名を名乗った。
「生憎だが、今の俺にはそれよりも優先すべきことがある。そして」
小湊るう子を殺すか否か。
こんな有様となる前のアザゼルであれば、答えるまでもないことだった。
人間ごときと足並みを揃える理由はどこにも存在せず、ただ殺すだけだ。
しかし今のアザゼルは、皮肉にも敗北と手傷がきっかけで冷静となっていた。
繭であれベルゼビュートであれ、この自分を嵌めるという屈辱を働いた輩を殺すためにも。
今必要なのは殺戮ではなく、主催の牙城へ踏み入るための備えを揃えること――そうアザゼルは理解している。
タマから繭の話を聞いた今では尚更のことだった。
加え、小湊るう子に限って言えばそれ以外の理由もある。
・・・・・
「小湊るう子――お前のいうその女は、接触を図るだけの価値がある」
タマのみではなく、セレクターとして彼女と関わったというるう子の話も耳に入れておきたい。
下剋上を志す悪魔は、現状の身の丈に合った堅実さで、しかし確実に……繭への距離を詰めつつあった。
と。
その時、不意にアザゼルは時計へと目を向けた。
――時刻はじきに、最初の節目の時刻へ達そうとしている。
午前六時。第一回放送の刻限が、目の前にまで迫ってきていた。
【G-3/宿泊施設/1日目・早朝】
【アザゼル@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:ダメージ(大)
[服装]:包帯ぐるぐる巻
[装備]:ホワイトホープ(タマのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜2枚(確認済、武器がある)、イングラムM10(32/32)@現実、タブレットPC@現実、ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのはVivid、矢澤にこの不明支給品1枚
[思考・行動]
基本方針:繭及びその背後にいるかもしれない者たちに借りを返す
0:放送を聞いてから、小湊るう子を捜す
1:借りを返すための準備をする。手段は選ばない
2:ファバロ、カイザル、リタと今すぐ事を構える気はない。
3:繭らへ借りを返すために、まずは邪魔となる殺し合いに乗った参加者を殺す。
4:繭の脅威を認識。
5:この死体(新八、にこ)どもが撃ち落とされた可能性を考慮するならば、あまり上空への飛行は控えるべきか。
[備考]
※10話終了後。そのため、制限されているかは不明だが、元からの怪我や魔力の消費で現状本来よりは弱っている。
※繭の裏にベルゼビュート@神撃のバハムート GENESISがいると睨んでいますが、そうでない可能性も視野に入れました。
※繭とセレクターについて、タマから話を聞きました。
何処まで聞いたかは後の話に準拠しますが、少なくとも夢限少女の真実については知っています。
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投下終了です
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乙です
まさに怪我の功名
意外と落ち着いててタマとのやり取りも意外とよかったです
るう子発見は東郷さんいるから難しそう
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投下乙です
今のところ一番主催に近づいてるアザゼルだけど、いかんせん危険対主催思考なのがなぁ……
[状態]:ダメージ(大)のおかげで冷静になってるアザゼルすき
あと、奇数月の15日ということで、月報用のデータを貼っておきます
一応仮投下分も含めてます
アニ4 77話(+77) 54/70(-16) 77.4(-22.6)
-
月報ありがとうございます
本投下に写らせていただきます
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それは、本部以蔵という名前の小汚いおじさんに、高坂穂乃果が倒されていた間のこと。
短い棒きれみたいなものを、額に思いっきりぶつけられて。
頭がぐわんぐわんして、ばったりと倒れて。
なんとか起き上がらなきゃ、ランサーさんを助けなきゃと暗闇の中でじたばたして。
そんな時に見えた、悪夢のような、妄想のような。
結局のところは、ただの夢だったのだけれど。
ある意味では、夢じゃなかった。
暗闇に包まれたアルパカ小屋の近くで、本部以蔵がランサーに挑発らしき言葉を投げている。
殺すつもりかもしれない。
そう危惧したのは、初対面の時に感じたぞっとするほどの殺意あるプレッシャーだった。
今またあの男は、同じだけの恐ろしい気迫でランサーに戦いを迫っている。どんな目に遭わされるか、分かったものじゃない。
立ち上がれ、高坂穂乃果。あなたがランサーさんを守らないで、誰が守るんだ。
念を込めて身を起こし、ヘルメットを振りかざす。
ランサーさんは、絶対に殺させない。
声を張り上げてそう叫ぼうとした。
その時、よく知っている声がした。
『だめだよ。穂乃果ちゃん』
ぐい、と。
ひどく冷たくて柔らかい手に、足首を掴まれた。
「ことりちゃん……っ!?」
早く会いたかったはずの幼なじみは、能面のように冷たい顔をしていた。
ずるりずるりと、地面の下からでも現れるように、幾本もの手が――音乃木坂学園の、青い制服の袖から伸びる手が、絡みついてくる。
「なんで!? ランサーさんが危ないんだよ!
どうしてことりちゃんたちが邪魔するの!? 私が止めなきゃ――」
『止めなくていいよ。だって、穂乃果ちゃんがおかしくなったの、あの人のせいなんでしょ?』
『そうやね。あんな男のために命を賭けるなんておかしいわ。穂乃果ちゃんは大事なμ'sのリーダーなんやから』
『9人全員でもう一度ラブライブに出るって決めたじゃない。
なのに、あんたはあの男ばっかり。にこ達のことなんて思い出さなくなってる』
『千夜って子に嫉妬して、醜い顔をしたのも知ってるわよ?
もし、あれが私や希だったとしても、穂乃果はあんな嫌な顔をしたんでしょう?』
こんな時に何を言ってるの。
そう言い返して、地面と足を縫い付けるその四人をはずそうともがいた。
目の前では、ランサーを殺そうとする本部が、神速の攻防を繰り広げている。
早く、あれを止めないといけないのに。皆はどうして、私が好きになった人に死ねなんて言うの。
そう主張しようとして、穂乃香はやっと気が付いた。
-
ことりたち4人の身体には、下半身がなかった。
皆、小さな白いカードから体が生えていて、悪霊のように穂乃果の身体を絡めとっていた。
「ひっ――」
『あんたが私たちのことを忘れて男とよろしくやってた間に、可愛いにっこにーの体がこんなになっちゃったわよ。あんたのせいよ』
『ランサーさんが心配だから、止められたのに学園まで付いてきたんだよね。
私たちだって学園に向かってるかもしれないのに、私たちのことは心配してくれなかったんだね』
『知っとるよ。あの人が学校に向かおうとした時も、μ'sのことはいいから自分のそばにいて、って思ったんやね。
”穂乃果ちゃんは恋に目覚めたからμ'sの仲間を見捨てる”。そう占いに出てたんやもの』
『穂乃果は一度にたくさんのことを追えるほど器用じゃないって、自分でも分かってるでしょ?
それなのにあなたときたら……私、生徒会長をあなたに任せたのは失敗だったわ』
『楽しそうに学校デートして、歌まで歌っちゃってさ。その間に、私たちがどんな目に遭ったか考えてもみなかったの?』
「違う! 違う違う、違うの!」
『何が違うの』と。
四人が口をそろえて、冷徹な恨みをこめて穂乃果を責める。
ランサーと一緒にいることに夢中で、μ'sのことを忘れたりなんてしない。
そんなことあるわけないと反論しようとしたのに、できなかった。
だって皆が言ったことは、およそ当たっていたのだから。
高坂穂乃果はμ'sのリーダーなのに、ランサーと一緒にいられるだけで浮かれきっていたから。
足元から背中へと這い上がってきたことりが、追い打ちとなる言葉を囁いた。
『前にも穂乃果ちゃんはこういうことがあったよね。
ラブライブに出ることに夢中になって、周りのことを全然見てくれなくて。
自分が満足するためだけに無理な練習をやらせて、結局自分が真っ先に倒れて。
それでラブライブに出られないって皆をがっかりさせて、私には悩みがあったのに、全然相談に乗ってくれなかった。
あの時と同じように、穂乃果ちゃんは皆を傷つける。μ'sのぜんぶを壊そうとしてるよ』
その言葉が、背後からぐさりと、穂乃果の心臓を貫いた。
違わない。
だってカードにされた皆を見せられても、呪いの言葉を聞かされても、目の前でランサーが無数の麻雀牌に穿たれていくのを見ていれば胸を掻き毟られるのだから。
ランサーが、死んでしまう。
穂乃果が守れなかったせいで、死んでしまう。
どうしてだか分からないけど、とてもドキドキして、幸せな気持ちにさせてくれる人が、消えてしまう。
そう、どうしてだか分からないけど、いつからこうなったのかも知らないけれど、この気持ちは本物に間違いないはずで。
『うちにとって、μ'sは奇跡……でも、穂乃果ちゃんにとっては、その程度だったんやね』
『私、本当に穂乃果が羨ましいわ……素直に、思っている気持ちを行動にうつせて……だからこそ、私たちを捨てられるのね』
『そんなことで、あたし達のことを忘れちゃうの? やっぱり、あんたの『好き』っていい加減なものだったのね』
『穂乃果ちゃん、最低だよ。自分が舞い上がってばっかりで、私の話を聞いてくれない、そんなのあの時と同じだよ』
「やめて! こんな……こんなの、いつもの皆じゃない! 皆はそんなのじゃない!
皆は……μ'sはもっと自分のやりたいようにして、自由で! 好きなことができて!
だれかを強制したり見捨てたりなんてしない! こんな……そんな顔した皆なんて知らないよ! こんなの偽物だ!!」
-
本部以蔵が獣じみた獰猛な叫び声とともにランサーの身体を投げ飛ばし、容赦なく地面へと叩きつける。
ランサーの頭から鮮血が舞ったように見えて、穂乃果は絶叫した。
「いやだ!! 偽物なんていらない! 私とランサーさんに入ってこないでよ!
あのおじさんだって死んじゃえ! ランサーさんを殺す人なんか――」
――本部の日本刀がランサーの首へと振り下ろされ、黒髪に彩られた美貌が宙を高く飛んだ。
それは、結局のところただの夢であって。
目が覚めて数分もたてば、どんなストーリーだったのかさえ曖昧になる程度の悪夢だったし、友人の声だって幻聴だった。
けれど、そんな声を聴かせたのも、そんな声を図星であるように狼狽したのも、彼女の心が生み出したことだった。
そもそも高坂穂乃果に、ただの歌って踊れる女子高生に。
『殺しあいをしろと命じられた』
『抵抗すればカードにされて、二度と出られない』
『どこかで友達が化けものじみた人たちに襲われて殺されるかもしれない』
そんな極限の環境で『恋愛に夢中になって浮かれる』なんて、心の負担にならないはずがない。
自分の心を安定させるため、だれかと助け合っていくために恋愛をするならまだしも、ランサーへの恋心はそんなものではない。
穂乃果には『好きなことに邁進したせいで、周りの皆をないがしろにする』ことに酷いトラウマがあった。
そんな自分になることを恐れていた時から、殺し合いに呼ばれた。
誰よりも出場したかった念願の第二回ラブライブにさえ『あの時と同じことになるかもしれない』という理由だけで出場を断念しようとしたほどに、気にしていた。
だから、異性に魅力を感じたとしても、そこには必ず『でも、それだけに夢中になって、人に迷惑をかけるなんてだめだ』という、躊躇だとか戒めが働く。
本来の、この時の彼女なら、そうなっていた。
しかしその感情は、愛の黒子によって植えつけられた恋情だった。
もちろん、その黒子と魔貌に、人の心を洗脳してしまう効果などありはしない。
恋心を喚起するという意味では感情を操っているのと大差ないけれど、それもあくまで『恋愛感情を抱く』という一点に限ったことだ。
しかし、それでも、その効能にはある種の強制力があった。
『愛の黒子』によって生まれる好意だったからこそ、穂乃果の好意は『負の感情』にはなりえない。
もちろん、相手を恋しく思うあまりに嫉妬の感情が芽生えたり、恋しい相手が離れていくことによって不安や焦りを覚えたりするように、
『恋愛感情を抱いた結果』としての負の感情が生まれることはある。誰にとっても。
しかし、『恋愛感情そのもの』をストレスとして認識することはできなかった。
英霊が生前に残した伝承の再現とはいっても、つまるところは魔力によって発生する魅了の魔術の類に過ぎない。
そこに『ランサーさんに惹かれていくのが怖い』『ランサーさんに夢中になるのは疲れる』といった自制や躊躇が存在していれば、そもそも魅了の効果だって発揮されていない。
心にとって毒となるストレスだろうとも抗えずに酩酊し、心地よく感じられるからこそ魅了される。
それはもはや、冷水の中に浸かっていながら、そこが心地よい温水だと錯覚しているのに等しい。
-
こうして、高坂穂乃果の感情は反転する。
冷たく感じられるものは温かくなり、温かかったものは冷たくなる。
ランサーを好きになっていくことへの躊躇や不安は、全て押し込められて、ランサーへの好意の下に圧迫される。
ランサーを好きになればなるほど『ほかの皆だって大事だ』と思う自制心も大きくなり、しかし後者のことを穂乃果は認識できない。認識するだけうっとうしいものとしか思えない。
結果として、『それら』を外側から突き付ける存在――彼女とランサーを引き離そうとする全てのものが、穂乃果にはひたすら煩わしくなっていく。
ひどく煩わしいものに、凶暴な感情が生まれていく。
(ランサーさんが、こんな小汚いおじさんに私を任せるわけがないよ)
まず本部の発言は考えるまでもなく嘘と判断。
このような『小汚い中年』にランサーともあろうものが、穂乃果を任せるはずがない。
そしてその場には、『薄情な女』――宇治松千夜もいた。
ランサーのことなど忘れたかのように、土方十四郎とかいう男の死について悔やんでいるようだった。
自分が足手まといになってしまったことを悔やむ、少女の姿。
それはまるで、ランサーが心配だと意気込んで学校まで同行しながら、何もできずに引き離されてしまった自分を見せつけられるかのようで。
それなのに、同じようにランサーの身にも何が起こったのか分からないのに、この少女はランサーについては何も心配していないように見えて。
(私は違う。私のランサーさんに対する思いは本物だもん)
穂乃果は、そう結論づけてしまった。
そして、『ランサーさんが死んだ』という思い込みの下に、その捻じれは殺意へと成長していくことになる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
この駅にすべりこむ電車があるとしたら、間違いなく一両編成か二両編成だろう。
その駅は、それぐらいに小さかった。
とはいっても、山の中のド田舎の執着駅というよりは、そこに向かうための郊外の乗り換え駅といったおもむきだ。
駅のホームはかろうじて二つあるし、片方のホームには『立ち食い麺処 こんすけ』という看板のついた食事処も一応あった。
蒼井晶を除いた人間は、みんなそのホームの一つへと向かってしまった。
そちらの方角から、銃声が聞こえたからだ。
「ハァ、むさいおっさん達は幼女たちの安否が心配だしぃ、ホノホノは心ここにあらずでガン無視くれちゃったしぃ……と、ゆーわけでぇ、アキラは今のうちに脱ぎ脱ぎターイム」
まず様子を見に行ったのは、ラヴァレイと本部なる壮年男性の二人だった。
晶は足を捻挫していたのだから皆でぞろぞろと様子を見に行くわけにもいかなかったし、何より銃声の正体は、この場に新しく表れた危険人物のものかもしれない。
よって、中学生の晶と女子高生の高坂穂乃果なる少女、護衛としてカイザルの三人は、改札のあたりで待つようにと指示された。
しかし、高坂穂乃果はじっとしていられなかったらしい。
晶が捻挫した脚でゆっくりと階段を上って改札についた頃合いで、やっぱり心配だからと勝手にもホームへと走り去ってしまった。
穂乃果の独断専行に、カイザルだって困惑した。
そこで晶は、さも健気そうな演技をして、私は駅員室でじっとしているから穂乃果を追ってほしいと上手く言いくるめてカイザルを追い払った。
理由は単純。
-
駅員の事務室なら、救急箱くらいはあるだろう。
誰かがそのことに気付いて『では改めて晶君の手当をしよう』とか言い出す前に、応急処置を完了させておきたかった。
同性の高坂穂乃果もいるとはいえ、捻挫の手当をするのはやはり慣れていそうな大人の仕事になる可能性が高い。
つまり、『3人の誰か』に靴下を脱がされて素足をベタベタと触られることになる。
カイザル→限りなくアウトに近いセーフだけど、やっぱりこんな時じゃなかったらアウト
ラヴァレイ→完全アウト
小汚いオッサン→論外
つまり、今この時間に自分で済ませるしかない。
「アキラ様のおみ足なんて、ウリスにしか触れねぇんだっつーの……良し」
幸いにも、移動中はずっと猫車で運ばれていたこともあるし、悪化する様子は無さそうだった。湿布を一枚貼っておけば足りるっぽいということで、処置はすぐ完了。
(最初の放送までに最低一人は殺しておきたかったんだけど、この人数だと厳しいかなぁ……)
きょろきょろと見回した室内は、事務室というよりは宿直室のようなおもむきだった。
寝泊りできそうな生活用品は色々と揃っているけれど、武器になりそうな道具は見当たらない。
流し台は存在したものの、戸を開けても包丁の類さえ見当たらなかった。
ブラウン管仕様の小型テレビでは、『吸血忍者カーミラ才蔵』とかいうくそダサい映画が流れている。
さっきもったいつけるような提供クレジットとCMが挟まれたから、おそらく『×曜ロードショー』のような形式だろう。
(だとしたら……ここでまとめて4人殺しっていうのは、いくらなんでもしんどいかも)
ここは自分よりもガタイの良いおっさんばかりが揃っているだけに、誰か一番御しやすい人間を上手く唆せれば良いのだけれど――
「一人きりにしてすまなかったね、アキラ君」
ぼんやりと今後のことを考えていると、鎧を着込んだ年長の方の騎士が帰ってきた。
後ろには暗い顔で、高坂穂乃果が付き従っている。
「さっきはごめんね。勝手に動いたりして……」
「いえいえ〜。いない間にアキラも手当バッチリできましたし、全然気にしてませんから〜」
内心ではかなりむかついていたけれど、まずは何が起こったのかの方に興味がある。
「それで、ラヴァさん達だけが戻ってきたってことはぁ……」
「ああ……ヴィヴィオという少女は、すでに殺されていた。胸のあたりに、穿たれたような致命傷があってね。
そして、チヤという少女はどこにも見当たらなかったよ」
「ええ〜っ。それじゃあ、チヤって女の子がヴィヴィオちゃんを殺して逃げたってことになっちゃいますよ〜?」
-
驚きながらも、がっかりしたような安心したような拍子抜けを味わった。
少女を殺した殺人者が近くにいるのはぞっとしないけれど、どさくさにまぎれてアキラもウリスへの奉仕活動を実行するチャンスだったかもしれないのに。
「いや、まだそうと決まったわけではない。駅に進入した何者かに襲われた可能性もあるのだから。
いずれにせよ、遺体の安置も兼ねて本部殿とカイザル君が現場を検めているところだ。
二人が戻るまで、私が君たちの護衛と侵入者の見張りを努めよう」
「え〜っとぉ……じゃあ、電車に乗るのはしばらく後回しになっちゃうんですかぁ?
これから千夜っていう女の子探し? それとも、本部とかいうおじさんを連れて、皆で電車に乗ることになるのかなぁ?」
「いや、聞けばモトベ殿は殺し合いに乗った『キャスター』なる人物の討伐に向かうらしいし、詳しく話を聞かんことには判断ができないだろう。
それに、この場を離れたという『ランサー』なる戦士が、戻ってくる可能性もある。
東の方角で目撃された光を確認しにいったとのことだが、それが空振りに終わるやもしれないのでな」
「え? じゃあこの事件が解決しても、ランサーって人を待ってなきゃいけないんですかぁ?
その人も危ないことになってるかもしれないんですよぉ?」
「少なくとも、放送を聴けば無事かどうかは判断できるだろう。
もっともモトベ殿の話では、今のランサー君ならばそうそう死にはしないと自信がある様子だったがね」
「えっ……」
虚をつかれたような声を出したのは、晶ではなかった。
「どうしたんだね、ホノカ君」
「い、いいえっ。なんでもないです」
高坂穂乃果は呆けたような顔をして、しばらく口を半開きにしていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ガサリガサリと、草をかきわけるような音がした。
街路樹のこんもりしたツツジの影に見を潜めていた宇治松千夜は、びくりと身をこわばらせた。
まず怖かったのは、駅にいた誰かが追いかけてきたのではないかということ。
次に怖かったのは、もし殺し合いにのった人だったらどうしようということ。
――人を何人も殺しておいて、自分が死ぬのは怖いの?
ヴィヴィオの声でそう問われたような気がして、逃げるべきという考えはたちまちに砕けた。
ツツジの樹の下をにゅっとくぐるように、それは思いのほかすぐに姿を現した。
-
「クリス、ちゃん……」
地面に小さな足をつけず、浮いている。
ヴィヴィオが連れていた、空を飛ぶうさぎのぬいぐるみだった。
どういうわけか、その手には自身が収納されていた黒いカードを持っている。
その小さな黒い目と縫い付けられたバツ印のような口に、表情が宿ることはない。
その顔は怒っても、眉をつりあげたり鬼のような顔をしたりしない。
しかしその無表情こそ、千夜にとってはヴィヴィオの受けた苦しみを代弁する存在でしかなかった。
「い、いやっ。近づかないでっ……だめなの。今の私に近づくのも、近づかれるのもダメなのっ!」
座り込んだまま、それを正視できずにかぶりを振る。
クリスの方も、顔には出ないけれど確かに怒りの感情はあったらしい。
拒絶の言葉もおかまいなしに、千夜にその小さな体をぶつけて、ぽかぽかと殴りつけるような動きをした。
その小さく柔らかな拳を、まるで鋭い豪雨に打たれるように感じながらも、
ウサギが怖いなんて、まるでシャロちゃんみたいだと余計なことが頭をよぎった。
そうしたら、思い出してしまった。
――ウサギ。
――ラビットハウス
――甘兎庵
――ティッピー、あんこ、野良ウサギたち
ウサギは、彼女たちの日常に欠かせない存在だった。
まるで大仏のある町の鹿みたいに、町のどこに行ってもウサギたちが風景に溶け込んでいる町だった。
友達の喫茶店や千夜の甘味処でも、店員の一人であり家族の一員として、マスコットウサギがいた。
その『日常』を、裏切ってしまったのだと理解した。
「ごめ、なさい……」
ヴィヴィオを無言で責めていたクリスは、その言葉に動きを止めた。
彼(?)からすれば、大切な主にとどめを刺した(ようにしか見えなかった)人間が逃げたから、とっさに後を追った。その程度の理解でしかなかった。
-
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
目をとじて、カードも地面にすべて取り落として、血を吐くような謝罪の言葉を繰り返している。
デバイスに『頭に血がのぼる』という状態があるのかはわからないが、ともかくクリスは似たような状態からだんだんと冷めていった。
これが人間だったならば、胸ぐらをつかんで殴りつけようとした人間が、殴る前に勝手にぶっ倒れてしまったような心境なのだろうか。
ヴィヴィオを撃った時は、とっさに防御(セイクリッド・ディフェンダー)を発動させられなかった己を責めた。
千夜が走り出した時は、まだヴィヴィオの遺体にしがみつき揺さぶっていた。
しかし、千夜もヴィヴィオの敵なのかと判断していた。だから逃げ出したことに気づくや、その飛行能力で高所からの視界を利用して追いかけた。
しかし、冷静になってみれば、ここまで謝意に沈んでいる少女に本当に殺意があったのかどうか疑わしく見えてくるし、そもそも原因を作ったのは間違いなくヴィヴィオに毒を盛った存在――おそらくは高坂穂乃果なのだろう。
その彼女とヴィヴィオの遺体は、いまだ駅にいる。
むしろ、とクリスの自律思考は判断を切り替える。
彼女こそ、ヴィヴィオが毒を盛られて苦しんでいるところを見ていたただ一人の目撃者であって――ここまで罪の意識を持っているなら、言葉を話せないクリスの代わりに、何が起こったのかを皆に話して、主の無念を晴らしてくれるのでは?
――ピッ
千夜にいつものジェスチャーで『ペコリ』と頭をさげる。
そして彼女の肩をつかみ、駅に向かって歩いてほしいとグイグイ引っ張った。
どうにかしてこの謝意を、そしてヴィヴィオを殺した犯人の正体を、駅にいる人間に伝えてもらわなければならない。
千夜はその変化に、追いつけないでいる。
この先ずっと責められていくのだとばかり思っていたら、その励ましているようにも見えるジェスチャーに、ただ戸惑った。
「私を……どうするつもりなの……?」
ヴィヴィオの遺品は、彼女に『立て』と言わんばかりの動きをする。
千夜が、『逃げるか戻るか』の選択肢を迫られていることを理解するには、もう少し時間がかかりそうだった。
【B-2とC-2の境界付近/早朝】
【宇治松千夜@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(極大)、情緒不安定
[服装]:高校の制服(腹部が血塗れ、泥などで汚れている)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:ベレッタ92及び予備弾倉@現実 、不明支給品0〜2枚、
黒カード:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはVivid
[思考・行動]
基本方針:心愛たちに会いたい……でも
1:駅に戻る? クリスから逃げる?
[備考]
※現在は黒子の呪いは解けています。
※セイクリッド・ハートは所有者であるヴィヴィオが死んだことで、ヴィヴィオの近くから離れられないという制限が解除されました。千夜が現在の所有者だと主催に認識されているかどうかは、次以降の書き手に任せます。
-
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――もしセイクリッド・ハートが千夜が逃げ出したことに気づいて、追いかけようとしなかったら。
彼(?)にとっては結果的な判断ミスだったのだが。
事件の解明はずいぶんと簡単に済んだだろう。
クリスには言葉をしゃべる機能こそなかったけれど、豊富なジェスチャー表現を駆使できるだけのAIはある。
何より少しだけ待っていれば、その場には本部以蔵とラヴァレイと、高坂穂乃果もやってきた。
もしクリスがそれを見ていれば、必ずや怒りを顕にして穂乃果にぶつかるなり攻撃する仕草をしていたことは想像に難くない。
そうなれば、死んだ少女の遺品から攻撃されいてる彼女を、誰もが不審な目で見たことだろう。
クリスがその場を不在にしたことは、結果として事件の全容を不明瞭にさせた。
「痛ましいものです……幼い少女が、こんな苦しそうな顔で事切れているとは」
「そうだな……」
高町ヴィヴィオの遺体は、もう一つのホームに建てられた屋根つきの場所――蕎麦処の中にひとまず安置された。
もしあのままホームに残されていれば、電車でこの駅に降り立ったすべての人間の前に遺体を晒してしまうことになる。あまりにもよろしくない。
念のために蕎麦屋の入り口にはつっかい棒を立て、不用意に開けて遺体と対面する者が出ないようにした。
「しかしあの傷口――ファバロの持っていた小型のクロスボウにも似ていたが、それ以上に鋭く、小さい。よほど鋭利なもので射撃されたのでしょうか」
「あの傷口はおそらく、9×12mmパラべラム弾によるものだろう。
実は遺体を改めた時に、空薬莢も見つけておいた」
「ミリパラ……?」
「世界で最も広く使用されている弾薬だ。利点は比較的反動が弱いことと、小さいがゆえに多弾倉化が容易となること。
今や、小型機関銃(サブマシンガン)や『女性でも撃てる』ことを売り文句にした小型拳銃の弾丸にはたいがいこの9ミリが採用されてる。
ベレッタ、スプリングフィールドXD、グロック17、ジグ・ザウエル、ブローニング・ハイパワー、イングラム……もちろんあの傷口に限っちゃ、マシンガンで撃たれたってことは無さそうだがね。
ちなみにパラべラムってのはラテン語の『Si Vis Pacem, Para Bellum』(平和を望むならば戦いに備えよ)って諺からだ。
もっとも、グラップラーの世界じゃ『強く鍛えておけば喧嘩をふっかけられることも無くなる』なんて、誰も信じちゃいないがね」
「は、はあ……では、殺害者は、その拳銃を持っているはず、ということですか?
その一撃が致命傷となったのですから」
-
怒涛のような解説に気おされながらも、カイザルは結論を促そうとした。
しかし、本部は首を横に振った。
「いや、たしかに致命傷は拳銃だが、あの嬢ちゃんを殺した凶器は別にある。
ありゃあ鎬紅葉じゃなくたって分かる。確かに遺体から匂ったんだよ、アーモンド臭がな」
「アーモンド……?」
カイザルが住んでいる世界では、テレビドラマも推理小説も存在しない。
暗殺の手段として毒物が使われることはあっても、一個人が『アーモンド臭が特徴の青酸カリ』の名前と効能を『よく殺人に使われる毒物』として把握しているわけではない。
「青酸カリってのは俗称で、正式な薬品名はシアン化カリウムという。
分かりやすい特徴として、収穫前のアーモンドのような甘酸っぱいにおいがすることから『アーモンド臭』として知られている。
巷じゃあ毒物の代名詞のように扱われているが、本来は治金や鍍金、昆虫標本なんかにも使われる有用な化学薬品だ。
ただし口から摂取した場合、胃酸と反応して青酸ガスを発生させる。これが肺から血液に入り全身を巡るとヘモグロビンなどに含まれる鉄原子と反応して、酸素の運搬やエネルギー(ATP)の産生などの機能を破壊する。
少量……耳かき一杯分より少し多いぐらいの量でも大人一人を死に追いやる、強力な代物だ。ガキならもっと少ない。
今回使われたのは間違いなくこいつだろう……第一、胸を射殺されて即死したなら、あんな苦悶の表情を浮かべる時間も無ぇだろうよ。
ヴィヴィオって嬢ちゃんはまず最初に毒の入ったサンドイッチを食わされた。そのあとに射殺されたんだ」
その解説を聞くにつれて、カイザルの顔色が青ざめていく。
「食べ物に毒……ではまさか、彼女たちの中で差し入れを持ってきた者が……」
「いや、それも考えにくい。サンドイッチを差し入れたのは穂乃花の嬢ちゃんだったが……嬢ちゃんが毒を盛ったんだとしたら、あまりにもリスクがでかすぎる」
本部は少し前のことを思い出しながら、カイザルにその根拠を語った。
彼女は本部に向かって『差し入れがある』と言いかけていた。
本部たちを三人とも――もしくは三人の誰かを殺害しようと毒を盛ったのだとしたら、
『千夜とヴィヴィオに毒入りのサンドイッチを渡した後で本部を呼びに来る』などという愚かな行為をするはずがない。
三人を仕留めるなら、まず最大戦力である本部へと真っ先にサンドイッチを渡すべきだった。
本部にはスクーターという移動手段がある。これから出発するタイミングでいきなり片手がふさがるサンドイッチ(食料カード一食分の大きさがある)を手渡されても、移動しながら気軽に食べることはできない。
あの場で飲み物も無しにサンドイッチを立ち食いするよりも、どこかで座って皆でいっしょに食べてから出発しようとなっていた可能性は低くなかった。
わざわざ穂乃果に食料のカードを使わせてしまったともなれば、本部もその代わりに何か食べ物を三人に与えていくぐらいのことはしただろう。
そしてもし本部がホームまで向かえば、その時点でヴィヴィオと千夜が毒殺死体となって転がっていたことになる。
誰が毒殺したのかは、あまりにも明白だ。穂乃果が乱心したというなら、他にいくらでもやり方はあっただろう。
サンドイッチを用意したのは穂乃果かもしれないが、だからといって彼女が毒も盛ったと疑ってかかるには状況がおかしい。
それが本部の見解である。
-
「なるほど……しかしそれでは、チヤという少女はホノカ嬢の差し入れに毒を盛った後で、さらに念を入れて射ち殺すような真似をしたことになります。
いったいどうしてそこまで……」
「こいつは仮説だが……何も強力な毒物だからといって即死するわけじゃねぇ。
ヴィヴィオの嬢ちゃんには格闘技の心得があったようだし、毒で苦しみながらも、暴れるなり体術を使うなりして足掻こうとしたんじゃあねぇか。
そして、相手の方も思わぬ抵抗にびびって銃を持ち出してしまった……」
そんな解説なり考察なりを語って時間を費やしたりしながら、二人はラヴァレイたちの待っている事務室へと足を戻すことにした。
「もっとも、これから嬢ちゃんから黒いカードのチェックと身体検査はさせてもらうがね。、もし青酸カリを持っていたんならコトだ」
「身体検査を……?」
「……おい、いぶかるような眼で見なさんな。もちろんもう一人のお嬢ちゃんにやってもらう」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
本部以蔵の失敗は、あまりにも矛盾が生じないよう徹底的に理詰めで考え過ぎたことだった。
神の視点から見れば、それは単なる穂乃果のうっかりミスに過ぎない。
日頃から推理ドラマなどあまり見ない穂乃果は、青酸カリがそこまで即効性の毒であるというイメージが無かった。
しかも、高坂穂乃果は自他ともに認めるおっちょこちょいな少女である。
いくら冷静に毒殺計画を立てたとしても、おっちょこちょいな人間がおっちょこちょいで無くなるなんてことは有り得ない。
さらに言えば、穂乃果は基本的にあれこれ計画を立てて行動することに弱い。
現在のμ'sメンバーを勧誘していった時だって、基本的に押せ押せで、かつその場に応じての対応だったように、『相手がこう出てきたら自分はこうしよう』とあらかじめ想定して動くのは大の苦手だった。
だから、本部に二人の毒殺死体が露見する可能性をうっかり失念していた。
それだけのことだった。
(どうしたんだろう……私)
だから、色々な偶然が重なったおかげで計画が破綻しなかったことを、穂乃果は未だに自覚していない。
証拠品となる3個目のサンドイッチはホームに向かう途中で落としてしまったことにしたし、問題はない。
皆がホームへと向かった時にはひやりとしたけれど、ヴィヴィオの死体は銃殺されたようにしか見えなかった。
だからほっとすると同時に、やっぱり自分の行動は間違っていなかったんだと自信をつけた。
毒で殺すまでもなく、最初から千夜は危険人物だったのだと、証明されたのだから。
やっぱり、殺さなきゃいけない人だったんだ。そう思おうとした。
それなのに、ヴィヴィオの死体を見てから、ずっと身体が震えている。
寒気のような、痙攣のような何かが、体に染みついて離れようとしない。
(やだ……これじゃ私、今さら殺したことが怖くなったみたいだよ……そんなはず、ないのに)
ゴロリと転がった少女の遺体は、仰向けになっていた。
虚空を見る目は、ぎょろりと穂乃果を向いていた。
ライブの時の観客のキラキラした素敵な目とはぜんぜん真逆の、これ以上ないほどに絶望しきった目だった。
-
(もう殺した人に怯えるなんて……まだ一人しか殺せてないのに、そんなはずない)
当たり前のことだ。
頭でいくら殺してやると凶暴に念じても、実際に殺人を実行して(どうやらトドメを刺したのは千夜のようだったけれど)結果を背負うとなると全く違ってくる。
もし、つい昨日まで人を傷つけたり殺したりするようなことなど考えもしなかったような女子高生が、
愛の黒子を受けた結果とはいえ自分で毒殺した『はじめての死体』を見ても平然としていたりすれば、それは『暴走』を通り越して『人格改造』でしかない。
(そう……これは、怖気付いたわけじゃなくて。
きっと、さっきラヴァレイっておじさんに変なこと言われたからだよ)
しかも、本部の殺害に失敗しただけでなく、新たな来客が三人も訪れたことが穂乃果を不安にさせていた。
このタイミングでまた青酸カリの差し入れをして皆を殺せるかどうかは怪しい。
それだけでなく、三人の中のラヴァレイという男は、もしかしたら何かに気づいているのではないかという感じもする。
事務室に穂乃果と戻る最中に、意味深なことを話しかけられた。
『ヴィヴィオ君は、君の大切な友人だったのかね?』
そんな風に尋ねられた。
なぜ出会ったばかりの、それもかなり年下の少女を『大切な友人』呼ばわりするのか。
その意図がわからず、穂乃果は曖昧に否定すると理由を尋ねた。
『君の様子が、とても悲しんでいるように見えたものだからね。
かつてニコール――大切な方を失った時の私を見ているようだと思ったのだよ』
ぎくりとした。見抜かれたと思ったから。
そう、今の穂乃果は一生でいちばん深く悲しんでいる。
ランサーを、穂乃果が足でまといになったせいで本部に殺されてしまったのだから。
ランサーが心配だと言ってついて行きながら、ランサーとのデート気分で浮かれきっていただけで、何の役にも立てなかった。
真っ先に気絶して、足でまとい以外の何ものでもなく、目覚めたらすべてが終わっていた。
(それに……)
ついさっき、晶とかいう少女に今後の方針を問われた時の言葉。
それを聞いて、胸がざわざわとした。
『少なくとも、放送を聴けば無事かどうかは判断できるだろう。
もっともモトベ殿の話では、今のランサー君ならばそうそう死にはしないと自信がある様子だったがね』
-
そう、放送を聞けば、ランサーの生死は確定される。
いくら本部がランサーは生きて別行動をしていると言っても、放送で名前が呼ばれたら騙せない。
『おそらく追っていったセイバーに殺されたのだ』とかなんとかごまかすつもりかもしれない。
けれど、本当にそれだけで、全員をごまかし切れると思っているのだろうか……。
(ダメ。考えちゃだめだ……優勝すれば、ランサーさんは生き返る。生き返らせるんだから)
ぶるぶると内心で首を振って、穂乃果は気分の切り替えにつとめようとした。
たしかに、人を殺したことで罪の重さはあったかもしれない。
でもそれは『ランサーを死なせてしまった』という過ちを償うためでもある。
考えなきゃいけないのは、今、怪しまれないことだ。
ラヴァレイの目から見ても、穂乃果は悲しんでいるように見えたらしい。
これは問題だ。穂乃果はまだ放送で『知り合いの誰も呼ばれていない』ことになっている。
それなのに悲しんでいたりしたら怪しいと思われ――
(…………………………知り合い?)
放送で呼ばれるかもしれない知り合いの名前。
それが頭をよぎった時に、思考の渦に『何か』が出現した。
今までモヤがかかっていた部分が、急にくっきりとしてきたように。
知り合いとは誰だ。考えるまでもない。
思い出したのは、ランサーと初めて出会った時の約束だ。
『良かったらライブ見に来てください』と。
なんのライブ?
決まっている。
高坂穂乃果にとっていちばんの自慢であり、好きな人ができたら胸を張って見せられる9人の勇姿。
(そうだ、なんで思いつかなかったの……?)
-
大好きなライブ。
『僕らのLIVE、君とのLIFE』。
(そうだよ……ランサーさんが生き返るなら、μ'sの皆だって生き返らせれば良かったのに……)
殺し合いに乗ろうと決めた時は、『ランサーの命』と『μ'sの皆』をぼんやりとしか天秤にかけなかった。
でも、そもそも天秤にかける必要などなかったとしたら。
優勝すれば、好きな人は生き返る。その考えを信じているし、この手も汚している。
ならば、この先にμ'sの誰かが死んでしまったとしても、ランサーと同様に蘇生を願うことに躊躇いはない。
ランサーのためにμ'sの絆を捨てることはない。どちらも助ければいい。
(ランサーさんのために、皆を見捨てる必要なんて無かったんだよ……)
そんなに何人も生き返るのか、なんて疑問を挟む余地はない。
最善の結果があるなら、絶対にそれを目指す。
高坂穂乃果は、そういう性格だった。
(そうだ……私は絶対に、絵里ちゃん、にこちゃん、希ちゃん、それにことりちゃんを殺すなんて、できっこなかったんだ……)
ランサーへの好意が消えてしまったわけではない。
いや、今この瞬間にも消えつつあるのかもしれないが、その好意はもはや『本来の高坂穂乃果』を圧迫するところにいない。
何者にも塗りつぶされない思考。それを発見したことによる開放感が、穂乃果の胸をいっぱいに満たそうとしていた。
――ザザッ
その濁ったような音は、テレビのたてる砂嵐だった。
「此度の放映をご覧頂けた幸運なる皆様。私、キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェと申します」
-
あまりにも聞き覚えのある声――この島でいちばん最初に目撃した『恐怖』が、テレビ画面の向こうに姿を現した。
「……………え!?」
腐乱死体を引き連れ、高坂穂乃果を殺害しようとした男。
ランサーはキャスターと呼んでいた、あのランサーでも逃亡を選択する絶対的な危険人物。
「皆様、各々方の知己朋友の消息を案じ気が気でないことでしょう。
一体どこにいるのか、今も健在なのか、確かめたくて仕方がないことでしょう」
その放送に動揺したのは、高坂穂乃果だけではなかった。
(ジル・ド・レェだと……!?)
偶然による同性同名にしては、よくある名前ではない。
それはまさに、複数の名前を使い分けてきたラヴァレイ――その正体の、真の名前である。
その名前を騙る、魔術師らしき男。
滅多にないことだが、彼の意識にはその男にばかり目が向くという隙ができた。
「さぁみんな、入っておいで」
ブラウン管のなかで口上を述べていたキャスターは、画面の外に待機していたらしき『何者か』を招く仕草をする。
そして、それぞれに痛々しく血止めの布を巻いた少女が三人、その映像へと映し出された。
「アキラ君。この映像は、遠見の水晶玉のようなものかね?」
「えっと、これはテレビって言って……あ〜、どう説明したらいいんだろ」
それまで『原理のよく分からない娯楽製品』ぐらいにしか思っていなかった『テレビ』とはどういう仕組みなのか、ラヴァレイは晶へと問い詰めていた。
だから、穂乃果の小さなつぶやきを、その時ばかりは聞き逃した。
「ことりちゃん……」
せっかく思い出せたのに、なぜその彼女が『そこ』にいるのか。
その放送は穂乃果にとって、『最悪』が形になったようなものだった。
それは、ずっと一緒にいたいと思っていた親友の姿で。
その親友は、首元に怪我でもしているみたいにきつく布を巻いていて。
その親友は、キャスターの危険性などなにも知らないかのように、淡々とキャスターの招きに従っていて。
高坂穂乃果は、たしかにキャスターの操るゾンビを目撃していた。
しかし、そのゾンビは墓から蘇ってきた亡者――誰が見ても腐乱死体だと分かる容貌だった。
だから、穂乃果の中では『キャスターの操るゾンビ』と『南ことり』は繋がならない。
「不肖ジル・ド・レェ、僭越ながらこの可憐な少女達を保護させて頂いております。
ご友人の方々は是非とも放送局までお越し下さい。彼女達もきっと喜ぶことでしょう」
『怪我をした南ことりは、極悪人であるキャスターに騙されて連れてこられている』という光景にしか受け取れない。
-
「…………助けなきゃ」
少しだけタイミングが遅ければ、躊躇したかもしれない。
座り込んでいたままだったかもしれない。
あるいは、千夜やヴィヴィオを平気で殺そうとしたように、『なにも感じない』ように錯覚していたかもしれない。
しかし、今の穂乃果に『一番の親友を見捨てる』という選択肢はない。
死んでも生き返らせればいいとか、今から行ってどうなるという理屈なんて欠片も浮かばなかった。
本部以蔵の敵なのだからつぶし合わせればいいとか、そんな計算すらできなかった。
即断、即決。
すぐに立ち上がる。
すぐに走り出す。
「どうした、ホノカ君!」
その挙動が開始されてから、やっとラヴァレイは背後を振り向き、呼び止めた。
しかし、高坂穂乃果には聞こえていない。
追いかけようにも、テレビについて聞き出すために晶に詰め寄った格好になってしまい、かえって晶が進行方向を邪魔する位置にきてしまった。
そしてラヴァレイにも予想外のことだったが、高坂穂乃果はアイドルのために急な石階段走り込みという過酷なトレーニングを日夜こなしている。
もちろん、それは人間の域を出るものではないし、仮に駅にいる人間で徒競走でもすれば晶を除いて穂乃果が最下位となるだろう。
しかし、ラヴァレイが『ただの少女なら、このぐらいの動きだろう』とたかをくくっているよりは、はるかに早い。
こうして伸ばした手は、あまりにも遠い位置で空振りをした。
「おい!いったい全体何があった!?」
「ラヴァレイ殿!? 今走っていった人影は――」
事務室を出ると、本部とカイザルがホームから駆け戻ってくるところだった。
「理由は分からないが、ホノカ君が急に動転して逃げ出してしまった。
私の責任だ。すぐに追って連れ戻――」
「それより、入口のところにスクーターあったじゃん!
あれに乗った方がすぐ追いつけるってば」
事務室から飛び出してきた晶が、駅階段の下を指差す。
たしかにそこには、本部以蔵が鍵付きで止めていた原動機付自転車があった。
-
「あれは――たしか馬よりも早い乗り物だったか?」
「そう! アキラなら無免許だけど運転大丈夫だから!
ここはアキラに行かせてください! バイクなら捻挫は関係ないし」
ここぞとばかりに志願し、真っ先に階段を降りる。
何も、殺人の成果をあげられそうになくて焦っていたのは穂乃果だけではなかった。
ここで、見るからに『何か』を知っている穂乃果を取り逃がせば、皆殺し狙いとして致命的に出遅れてしまう。
そんな焦りが、晶を奮い立たせていた。
それに、ここで穂乃果が逃げ出してしまえば、むさいオッサン三人組の中に取り残されることになる。
それは、すごく、嫌だ。
元から蒼井晶には、ボールペンで人を刺して病院送りにするぐらいの火事場の馬鹿力はある。
スクーターぐらい、運転をやってみてできないことはないと思う。
「アキラ嬢! ならばせめて私も一緒に。私は貴女を守ると約束しましたので」
「カイザル君、ここは私が――」
「いえ、自分の方が駅で起こったことについては詳しいですから、ホノカ嬢の話を聞けることがあるかもしれません。
それに、ラヴァレイ殿もモトベ殿の話から状況を把握していただかねばなりませんし」
「……じゃあ、リドさんとアキランデブーで」
正直言えばアキラ一人の方が都合が良かったけれど、ここは『盾』を連れて行った方がいいかもしれない。なので、折れた。
その時、本部が忘れられては困ると言わんばかりに声をあげた。
「おい、やる気を削ぐようで悪いが、そのバイクは俺のもんだ。
それに約束っつうなら、俺だって嬢ちゃんたちのことをディルムッつあんからよろしく守護るようにと――」
アキラは、ただでさえイライラしていた。
そんな時に、この発言だ。
「――何、言ってんだよ」
こいつにだけは言われたくないと思った。
だから、言った。
-
「アンタに守護らせた結果がこれだから!!」
正論を言ったと思う。
アキラはウリス以外皆殺しにするつもりなので『お前が言うな』だが、それでもアキラの方がたぶん一理ある。
◆ ◆
「モトベ殿。ずいぶんときついことを言われましたな」
晶とカイザルが二人乗りで遠ざかっていくのを見届けて、ラヴァレイはもう一人の留守番に声をかけた。
アキラに同行できなかったことは残念だが、ラヴァレイにとってはそれでも好都合だった。
ラヴァレイに背中を向けたままの柔道着に向かって、追求する言葉をかける。
「しかしアキラ君の問いかけは、今の貴殿が直面しなければならないことだ。
もし仮にここにランサー君が戻ってきたとしたら、申し開きのしようもないのだから。
貴方は、『この駅にいたすべての参加者を護れず、殺され、逃げられた』という事実を、どう受け止めていくのか」
好都合のひとつは、この『本部以蔵』なる人物が有用なのかそうでないのかを、見極めることにあった。
なるべく多くの心を壊したいという欲求はあるけれど、その嗜好にかまけて殺し合いでの立ち回りを疎かにするつもりはない。
『キャスターを討伐する』と言っていた本部以蔵。
それをなし得るほどに有用な戦力であるならば利用するだけの価値はあるかもしれないが、
それを任せられない、それこそ『一般人の少女たちに翻弄され、すぐ近くでの殺人を許してしまう』ほどの道化だったのならば、生かしておく必要性は薄い。
幸いにも、カイザルたちがこの場を離れてくれた。
殺したあとで、『モトベ殿とは情報交換を済ませたあと、キャスターの討伐に先行して出発した』とでも言えば、気がつかれることはない。
「いずれお聞かせいただきたい……もちろん、ホノカ君から目を放してしまった私にも言えることだが」
そしてもうひとつは、まさにそのキャスターに関する情報を引き出すことだった。
『キャスターのサーヴァント』を名乗ったジル・ド・レェ。
本部が討伐を頼まれているという、『南方の墓地にいるやもしれぬキャスター』。
放送局と墓地の位置と移動時間を考えても、二つの『キャスター』は同一存在なのだろう。
まずは『キャスター』に関する情報を引き出し、その後で始末するかどうかを決定する。
「いや、結論をせかすつもりもない。まずは先ほど起こったことについて説明いたしましょう。
それにモトベ殿にも話していただきたいことがある。
貴方のいう『キャスター』なる人物かもしれぬ者が、先ほど映像に映ったのですからな……」
【B-2/駅構内/早朝】
-
【本部以蔵@グラップラー刃牙】
[状態]:確固たる自信???
[服装]:胴着
[装備]:黒カード:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:こまぐるみ(お正月ver)@のんのんびより、麻雀牌セット@咲-Saki- 全国編
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を守護(まも)る
1:――
2:南下してキャスターを討伐する
3:騎士王及び殺戮者達の魔手から参加者を守護(まも)る
4:騎士王、キャスターを警戒
[備考]
※参戦時期は最大トーナメント終了後
【ラヴァレイ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:軍刀@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜1枚
黒カード:猫車
[思考・行動]
基本方針:世界の滅ぶ瞬間を望む
1:『キャスター』に関する情報を引き出し、モトベを今のうちに始末するかどうか決定する
2:蒼井晶の『折れる』音を聞きたい。
3:カイザルは当分利用。だが執着はない。
4:本性は極力隠しつつ立ち回るが、殺すべき対象には適切に対処する
[備考]
※参戦時期は11話よりも前です。
※蒼井晶が何かを強く望んでいることを見抜いています。
【B-2/駅付近/早朝】
【カイザル・リドファルド@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康、原付に同乗中
[服装]:普段通り
[装備]:カイザルの剣@神撃のバハムートGENESIS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品1〜2枚(確認済、武器となりそうな物はなし)
[思考・行動]
基本方針:騎士道に則り、繭の存在を挫く
1:アキラ嬢を守りつつ、ホノカ嬢を連れ戻す
2:俺と、ファバロが……。
3:アキラ嬢を守りつつ、アナティ城へと向かう。ラヴァレイ殿も居る以上、体制は万全だ。
4:リタ、聖女ジャンヌと合流する(優先順位はリタ>>>ジャンヌ・ダルク)
5:アザゼルは警戒。ファバロについては保留
[備考]
※参戦時期は6話のアナティ城滞在時から。
※蒼井晶から、浦添伊緒奈は善良で聡明な少女。小湊るう子と紅林遊月は人を陥れる悪辣な少女だと教わりました。
※ラヴァレイから、参戦時期以後の自身の動向についてを聞かされました。
-
【蒼井晶@selector infected WIXOSS】
[状態]:健康、左足首捻挫(湿布済み)、スクーター運転中
[服装]:中学校の制服
[装備]:原付@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
黒カード:不明支給品1〜3枚(武器があるらしい?)
[思考・行動]
基本方針:ウリスを勝ち残らせるために動く
0:利用できそうな参加者は他の参加者とつぶし合わせ、利用価値が無いものはさっさと始末する。
1:高坂穂乃果を捕まえる。いざとなったらカイザルを盾に。
2:カイザルとラヴァレイを利用しつつ、機会を見て彼らと他の参加者を潰し合わせるなり盾にするなりする。
3:ウリスを探し出し、指示に従う。ウリスの為なら何でもする
4:紅林遊月、小湊るう子は痛い目に遭ってもらう
5:カイザルたちに男(本部)を始末してもらいたい
[備考]
※参戦時期は二期の2話、ウリスに焚き付けられた後からです
※カイザル・リドファルドの知っている範囲で、知り合いの情報、バハムートのことを聞き出しました。
◆
愛の黒子による効果は、ランサーがそばにいないことで一分一秒刻みに失われていく。
今はまだ、『親友を助ける』という意識と並列して存在しているけれど、それもゆくゆくは。
「ことりちゃん、ことりちゃん、ことりちゃん、ことり、ちゃんっ…………」
彼女は、まだ気がついていない。
そもそも最初に殺意を抱いて、高町ヴィヴィオを殺してしまったその理由が、手の中の砂のようにこぼれ落ちつつあることを。
そしてもうすぐ、最初の放送が流れることを。
そして、その放送で、『南ことりと矢澤にこが呼ばれ』て、『ランサーが呼ばれない』可能性を。
【B-2とC-2の境界付近/早朝】
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:動揺
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:ヘルメット@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(6/10)、青カード(10/10)
黒カード:青酸カリ@現実
[思考・行動]
基本方針:優勝してランサーとμ'sの皆を生き返らせる
1:今はただ、ことりの元へ
2:本部を殺害する
3:参加者全員を皆殺しにする(μ'sの皆はこの手で殺したくない)
[備考]
※参戦時期はμ'sが揃って以降のいつか(2期1話以降)。
※ランサーが本部に殺されたという考えに疑念を抱き始めました
※ランサーが離れたことで黒子による好意は時間経過とともに薄れつつあります。また、それに加えて上記の疑念によって殺意が乱れ、『ランサーだけでなくμ'sの皆も生き返らせよう』という発想を得ました。
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投下終了です
1000近いので次スレも立てに行ってきます
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次スレ立てました
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1442319677/
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新スレ立ても含めて乙です
作品の方は生き死に込みでここが分岐点って感じでした
ラストのクリスと穂乃果の損得抜きの感情の発露がいいなあ
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投下とスレ立て乙です
予約はしていませんが、坂田銀時、桂小太郎、綾瀬絵里、結城友奈、鬼龍院皐月、宮内れんげ、コロナ・ティミルで投下します
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「なぁ、桂」
「どうした、銀時」
「最近の病院ってのは、随分と解放的になったもんだな」
「うむ、これならば日当たりや風通しでクレームが付くこともあるまい」
「いやぁ、入院するならやっぱこういう病院でなきゃ。外気も日光もフリーパスで入ってくるぞこれ」
「オジサンたち現実逃避しないで欲しいのん」
病院を求めてA-5へ向かった一行。
しかし彼らを出迎えたのは、無残に崩壊した病院の姿だった。
「オジサンではない、桂だ」
「いやいやおにーさん達にも現実逃避くらいさせてくんない? これどう考えてもヤバイっしょ。
痕跡が完全にビームラ○フルだよビ○ムライフル。ひょっとしてガ○ダムでも支給されてんの?」
「待て銀時。○ームライフルにしてはごん太過ぎる。これはビーム○グナムかバス○ーライフルと見た」
「二人が何を言ってるのか分からないのん……」
現実逃避はともかく、ビームという表現は的確だ。
病院の残骸はまるで凄まじい熱の塊に薙ぎ払われたかのように焼け焦げている。
残骸だけでなく周囲のアスファルトも一旦どろどろに溶けてから冷え固まったのは明らかだ。
「しかしだな、これはどう見ても人間業ではあるまい。それとも伝説の必殺技○め○め波の使い手が実在するとでも言うのか」
「あの……」
息をするようにボケ倒す大人達に、コロナが遠慮気味に声を上げた。
「できる人、いると思います」
「なんと! 少女よ亀○流の使い手を知っているのか!」
「そ、そっちじゃなくて! トップクラスの魔導師なら、これくらいの規模の魔法を使えてもおかしくないと思うんです」
それを聞いて押し黙る面々。
先ほどの死闘で戦った相手も人間離れした怪物揃いだったが、彼ら以外にも桁外れの化け物が存在するという事実。
言葉を失う理由としては十分すぎた。
気まずい雰囲気を打ち破ったのは、気絶した友奈を背負っていたために少し遅れて来た皐月だった。
「恐るべき敵がいようと我らのすべきことは変わらない。それよりも今は休息を取るべきだろう。
誰か毛布の代わりになりそうなものを持っていないか。この少女を休ませたい」
「あ……私、持ってる!」
穂乃果はエリザベス変身セットを取り出すと、友奈のための毛布の代わりとして差し出した。
「これを着せれば暖かいはずよ。使って!」
「エリチカちゃーん? ヒーローちゃんのこと絵里ザベスにしないであげてくんない? 普通に包めばいいよね? 着せる必要ないよね?」
「ヒーローちゃんじゃなくて結城友奈さんなのん」
「あー、それじゃユキザベスかユナザベスだな……ってそれはどうでもいいんだよ」
なにはともあれ、気絶した友奈を温かい布で包んで休ませる。
その上で改めて、銀時と桂、そして皐月の三人で今後のことについて話し合うことになった。
名実ともに無力な絵里はもちろんのこと、れんげやコロナも重責を負うには幼すぎる。
真っ先に話題を切り出したのは皐月だった。
「皆が休息を取っている間、私はA-4エリアの橋の様子を見に行きたいと思う」
「橋ィ? あんた向こうに用でもあんのか」
「いや、ない。だが確かめておく必要はある」
皐月は地面に刻まれた焼け跡を指差した。
「この攻撃が東西を一直線に横切っているのなら、その延長線上にある橋にも被害が及んでいる可能性が高い。
橋にもしものことがあれば、戦場の北部は事実上の袋小路。殆どの者は自然と南側へ集まっていくことになるはずだ」
「俺達が合流したいと思ってる連中も、なるべくならお近づきになりたくない連中も揃って南行きか。堪んねぇなそりゃ」
「確かに一理ある。だが単独行動はリスクが高いぞ」
「構わない。そもそも単独行動ではないからな」
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訝しがる二人に、皐月はセーラー服の形を取った鮮血の襟を軽く摘んだ。
「私には鮮血が付いている」
「うむ。皐月のことは私に任せてくれ」
「「しゃ、喋ったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
「オジサン達うるさいのん。寝てる人がいるの考えるのん」
「あ、すんません」「オジサンではないです、桂です」
小学生に叱られ、気を取り直して話し合いに戻る。
それでもやはり“喋るセーラー服”のインパクトは強烈で、すぐには話の本筋には戻れない。
「いやいや、まさかあのエロ衣装に自我があるとは、この海のリ○クの目をもってしても見抜けなかったっていうか?」
「海の○ハクも一生の不覚と悔やむこと請け合いの盲点であった」
それはただの節穴だと突っ込めるものはここにはいない。
「鮮血は生命繊維というもので繕われている。生命繊維は着用者に凄まじい戦闘能力を与える反面、取り込まれ暴走するリスクも伴う。
あの形状は人体と生命繊維の接触面積を最小限に抑え、鮮血の力を引き出しつつ暴走のリスクを抑制するためのものだ」
「露出しまくりの理由は分かったけどよ、服に自我があるってのはどういう理屈なわけなのかね」
「それは……」「……私にも分からん」
皐月と鮮血が声を揃えて返答する。
分からないものは分からないのだから、こう答えるより他にない。
「あー、まぁいいや」
「ともかく、皐月殿と鮮血殿は西の橋を見に行くのだな」
「そんじゃ俺達は留守番ついでに使えそーな薬や包帯でも残ってねーか探すとすっか」
皐月が訝しげに口を挟む。
「医薬品をか? 病院はあの有様だぞ」
「消し飛んだのは建物の半分で、残りは普通にぶっ潰れただけだろ? だったら無事な道具の一つや二つは残ってるさ」
「戦場では消毒液の一瓶であっても貴重な物資。無駄にはできん」
「……そうか。ではこちらのことは貴方達に任せても構わないだろうか」
「おう。泥船に乗ったつもりで期待してな」
これでひとまずの方針は決まった。
皐月は西へ赴き、銀時と桂は瓦礫漁りに乗り出す。
その間に、コロナと絵里は友奈の手当ての続きを始めていた。
私物扱いでポケットに入っていたハンカチを青カードから出した水で濡らし、赤カードから食料品扱いで取り出した氷を包んで、友奈の腫れ上がった頬を冷やす。
ただそれだけの簡単な手当てでも、何もしないよりはずっとマシなはずだ。
「これで良くなるかな……」
「良くなりますよ、きっと」
-
一方の病院跡。
ずん、と瓦礫が投げ捨てられる音が響く。
いくつ瓦礫をひっくり返してもなかなか無事な医薬品は発掘できず、銀時も次第に独り言が増えてくる。
「あー……こいつはロッカーか。中身は……ナース服にナース服にナース服にナース服にナース服っと。
帰ったら吉原のコスプレオプションOKな店で使ってやるから、今は引っ込んどいてくんないかなー」
同行する少女達にはとても聞かせられない独り言を吐きながら、ひときわ大きな瓦礫を脇にどかす。
「おっ、こいつは……」
「銀時喜べ!」
ようやく『目当ての物』を発掘したところに、何やら箱らしきものを抱えた桂が駆け寄ってきた。
「遂にテレビを掘り当てたぞ!」
「何探してんだオメーはよぉぉぉぉ!」
桂は誇らしげにテレビを掲げたまま、これ以上ない真顔で反論する。
「何を言う銀時。笑いは心の処方箋と言うではないか。テレビを見れば四角い○鶴がまぁ〜るくおさめてくれるのだろう」
「十代女子しかいねぇ空間でそのネタは分かって貰えないと思うよ俺は! ていうそのフレーズとっくに廃止されてるからね!
だいたい瓦礫の下のテレビなんて点くわけねーだろ! 百パーぶっ壊れてるってそれ!」
「ふんっ、そこで黙ってみているがいい。こう配線を繋いでだな」
「む、こうか?」
「いやきっと間違えたのだ。これでいい」
「ふんぬ、ぬぐぐ……!」
「斜め四十五度からチョォォップ!」
「諦めてんじゃねぇかぁぁぁぁぁ!」
それでもやはりテレビの画面は暗いまま。
ノイズの一つも吐き出さない。
「だから言ったろ? こういう家電は地上十五メートルの高みからの自由落下に耐える術がないんだって。いや十五メートルかは知らんけど」
「むぅ……しかし参った。テレビがダメとなると、成果らしい成果はこの鎮痛剤と抗生物質しかないではないか」
「それ今一番欲しい奴ぅぅぅ! なんでついでみたいに言ってんのお前ぇ!」
――――
-
やがて皐月が帰還し、お互いの成果を報告しあうことになった。
A-4エリアの橋――皐月の推測通り、高熱で焼き払われたかのように破壊されていた。
桂が見つけた鎮痛剤と抗生物質――それぞれ紙容器に入った錠剤とプラスチック容器に入った軟膏だったため、薬瓶のように割れることなく回収できた。
銀時が見つけたガーゼと包帯――未開封のものを幾つか回収。梱包が破れ土や粉塵まみれになったものは残念ながら諦めた。
ナース服五着――ちょうど女子の人数分揃っていたことで冷たい眼差しを浴びるも、偶然だと強弁し弁解に成功。
最後を除き、どれも成功と言えるだけの成果はあったと言えそうだ。
「薬は結局二つだけか。だいぶ粘ってもこの程度ってのは世知辛いもんだ」
「上々の成果と見るべきだろう。私の方は嫌な予感が当たってしまったと言わざるを得ないが、裏を返せば今後の方針を決めやすくなったとも言える」
皐月の発言に桂も頷いた。
「うむ。となると、次に目指すべきは駅だな」
「私もそう考えている。負傷者を抱えたまま徒歩で移動し続けるのは下策だ」
「おっし、それで決まりだな」
三人の意見はすぐに一致した。
現状、どちらの島へ移動するにしても電車を利用するのが最善だ。
疲労を抑えられ、移動時間も短縮できるとくれば頼らない手はない。
懸念があるとすれば、同じことを考えた他の参加者と駅で鉢合わせしてしまう可能性があることだ。
しかしそれも、自分達が探している相手と出くわす可能性がある、と言い換えることができる。
「まずは入手した医薬品で最善の治療を施そう。移動は放送を待ってからでも――」
―― ザザ…… ――
皐月が更に方針を煮詰めようとした矢先、病院の瓦礫の方から異音がした。
気絶した友奈を除く六人の視線が一斉にそちらを向く。
桂が発見し瓦礫の上に放置されていたテレビの画面にノイズが走る。
あのテレビは壊れていたわけではなく、単に放送電波そのものが発信されていなかっただけだったのだ。
映し出される異形の容貌。
六人は言葉もなく、その映像に注意を奪われた。
映像は残酷なまでに淡々と進み、やがて始まった時と同じくらい唐突に終わりを迎える。
重苦しい沈黙を破ったのは、抜け殻のように呆然とした絵里の呟きだった。
「今の……ことり、だった……」
映像に映っていた少女の一人は、絵里と同じ音ノ木坂学院の制服を着ていた。
彼女が絵里の知人であることは誰の目にも明らかだ。
絵里は真っ黒な画面を見やったまま、不意に立ち上がるとどこへともなく駆け出そうとした。
「待ちな」
それを引き止めたのは、今までになく抑揚を殺した銀時の声だった。
「でも私、行かなきゃ……ことりが……!」
「んなこたぁ分かりきってんだよ。デメキン野郎の思う壷だから止めろなんて言うつもりもねぇ」
-
銀時は漆黒の西洋剣を杖代わりに立ち上がった。
そして潤んだ絵里の眼差しを受けながら、憮然と腕を組んだままの皐月に目を向けた。
「皐月ちゃんよ。駅の次にどこ行くかはまだ決めてなかったよな」
「……駅に着いた後は南下する路線に搭乗。然る後、旭丘分校を経由して放送局を強襲する。これでいいか」
「ああ、俺は構わねぇ」
旭丘分校の一言を聞いたれんげが目を輝かせる。
「学校いっていいん!?」
「無論だ」
皐月は堂々たる仁王立ちの姿勢で他の五人を見渡した。
「今や我らは一蓮托生。だがそれは各々の妥協と諦めの上に成り立つものではない。
譲れぬもの、捨て置けぬものがあるのなら、互いの助力を以ってそれを成すべきだと私は考える。
学び舎の件も友朋の件も然り。いずれも合理の名の下に切り捨てられてよいものではないはずだ」
難解な言い回しを多用した皐月の発言は、れんげには部分的にしか伝わらなかったかもしれない。
それでも、南ことりのところへ行きたいという絵里の願いも、旭丘分校に行きたいというれんげの願いも叶えるつもりだという意志だけは間違いなく伝わっている。
「絢瀬絵里。すぐにでも放送局へ向かいたいという思いは理解できる。
だがせめて、我らと共に立ち向かってはくれないか。一人で動くのはあまりにも危険過ぎる」
「理解できるって、そんないい加減な……!」
「映像に小柄な少女が映っていただろう。あれは我が校の生徒だ。
本能字学園の学徒に虜囚の辱めを与えた報い、今すぐにでも与えてやりたいところだが……」
皐月はそこで言葉を切った。
落ち着き払った態度の裏には燃えるような怒りが隠されている。
絵里はそれを敏感に感じ取り、静かに矛を収めた。
冷静になって考えれば、ひとりきりで未知の土地を行くよりも集団で行動した方が確実に放送局へ辿り着けるに決まっている。
人間離れした危険人物がウロウロしていることを考えると、単独行動は完全な自殺行為だ。
自分一人では放送局までことりを助けに行くどころの話ではない。
「……私からも頼む」
怖い顔で押し黙っていた鮮血が不意に口を開く。
「満艦飾マコは私にとっても大事な人間だ。無い腹わたが煮えくり返る思いだってしている。
だが、一時の怒りに身を任せてしまえば全てが台無しになりかねない……どうか堪えてくれ。少しの辛抱だ」
他の六人にはまだ明かしていないが、満艦飾マコは鮮血の本来のパートナーである纏流子の唯一無二の親友である。
そんな相手が傷めつけられ囚われていると知った以上、鮮血とて平静ではいられない。
鮮血の真摯な訴えを聞かされた少女達は、静かに顔を見合わせ、そして――
「「「ふ、服が喋った!」」のん!」
心の底から、驚いた。
-
【A-5/病院(崩壊)付近/1日目・早朝】
【坂田銀時@銀魂】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)
[服装]:いつもの格好
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜3枚(本人確認済み)、包帯とガーゼ(残り10分の7)
[思考・行動]
基本方針: ゲームからの脱出
1:駅、旭丘分校、放送局の順で移動する
2:新八、神楽、ヅラ、長谷川さん、ついでに土方と合流したい
3:神威、流子、DIOは警戒
【絢瀬絵里@ラブライブ!】
[状態]:精神的疲労(大)、疲労(小)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚(本人確認済み)
[思考・行動]
基本方針:皆で脱出
1:放送局に行ってことりを助けたい
2:μ'sのメンバーと合流したい
3:エリザベス変身セットを着てみる…?
[備考]
※参戦時期は2期1話の第二回ラブライブ開催を知る前。
【鬼龍院皐月@キルラキル】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)、こめかみに擦り傷
[服装]:神衣鮮血@キルラキル
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、 黒カード:神衣鮮血@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:纒流子を取り戻し殺し合いを破壊し、鬼龍院羅暁の元へ戻り殺す。
1:駅、旭丘分校、放送局の順で移動する。
2:鮮血たちと共に殺し合いを破壊する仲間を集める。
3:襲ってくる相手や殺し合いを加速させる人物は倒す。
4:纒流子を取り戻し、純潔から解放させる。その為に、強くなる。
5:神威、DIOには最大限に警戒。
6:刀剣類の確保。
[備考]
※纒流子裸の太陽丸襲撃直後から参加。
※そのため纒流子が神衣純潔を着ていると思い込んでいます。
※どうせ鬼龍院羅暁が関わっていると思い込んでいます。
【桂小太郎@銀魂】
[状態]:疲労(大)、胴体にダメージ(中)
[服装]:いつも通りの袴姿
[装備]:晴嵐@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:トランシーバー(A)@現実、鎮痛剤(錠剤。残り10分の9)、抗生物質(軟膏。残り10分の9)
[思考・行動]
基本方針:繭を倒し、殺し合いを終結させる
1:駅へ向かう。
2:コロナと行動。まずは彼女の友人を探す
3:神威、並びに殺し合いに乗った参加者へはその都度適切な対処をしていく
【コロナ・ティミル@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:疲労(中)、胴体にダメージ(中)、魔力消費(小)
[服装]:制服
[装備]:ブランゼル@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
黒カード:トランシーバー(B)@現実
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを終わらせたい。
1:みんなと駅へ向かう。
2:桂さんたちと行動。ヴィヴィオたちを探す
3:ルーちゃんのデバイス……なんだか、ルーちゃんが助けてくれたみたい。ちょっと嬉しいな。
[備考]
※参戦時期は少なくともアインハルト戦終了以後です。
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【結城友奈@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(大)、胴体にダメージ(回復中)、気絶、味覚、その他一つの五感が『散華』、前歯欠損、顔が腫れ上がっている、満開ゲージ:0
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:友奈のスマートフォン@結城友奈は勇者である、エリザベス変身セット@銀魂(未着用。毛布として使用中)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止め、主催者を打倒する。
1:…………。
2:勇者部のみんなと合流したい。
[備考]
※参戦時期は9話終了時点です。
※ジャンヌの知り合いの名前と、アザゼルが危険なことを覚えました。
※満開によって散華したものが何かは、後続の書き手さんにお任せします。
【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]:健康、魔力消費(中)
[服装]:普段通り
[装備]:アスクレピオス@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:満艦飾家のコロッケ(残り五個)@キルラキル、バタフライナイフ@デュラララ!!
[思考・行動]
基本方針:うち、学校いくん!
1:うちも、みんなを助けるのん。強くなるのん。
2:こまちゃん、ほたるん、待ってるのん。
3:あんりん……。
[備考]
※骨が折れない程度に手加減はされました
※杏里と情報交換しましたが、セルティという人物がいるとしか知らされていません。
また、セルティが首なしだとは知らされていません。
※魔導師としての適性は高いようです。
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投下終了です
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駅組と七人組を比べると結束の度合いがまるで正反対で面白い
銀魂勢はやっぱり癒し、絵里とれんげもいい味出してる
それだけに定時放送が辛い
そして旦那の放送は七人組にも伝わったか
作者さん達、乙でした
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スレ立て&投下乙です
>低迷の原因は手前の中から
遂に言われちゃったなあ、本部
千夜ちゃん駅に戻って来そうだし今度こそ守護れるか……
そしてこっちにもキャスター放送の影響が来たか
黒子の効果も薄まってきたし、放送後にはランサーの生存とことりにこの死が判明するし今後の穂乃果のスタンスが気になる
> One for All , All for One
冒頭とか薬探すくだりとか完全に銀魂で笑った
目的地は放送局だけど、ただでさえ遠い上に南からのルートだからかなり険しい道のりになりそう
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本投下します。
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男に対し、悪寒を感じたのは事実だ。
考え過ぎ。そう一蹴した筈であった。
……そうであって、欲しかった。
* * *
休憩を終えて、駅へ向かう道中のことだった。
龍之介と心愛、そしてリタは、互いに持っている情報を交換していた。
分かったのは、全員揃って他に出会った人物はいないということだけ。
龍之介はその本性については当然触れなかったし、リタもあまりペラペラと語る口ではない。
この場の主導権を握っていたのは、能天気でお喋りな心愛も同然であった。
「…………結局、見つからなかった最後のピースはティッピーのすぐ近くにあったんだよね〜。あの時はビックリしたよ」
彼女の口からは住んでいる街、知り合った人々、起こった出来事などなど……。
次から次へと言葉がマシンガンのように撃ち出され、2人は時々相槌を打つことくらいしか出来ない。
リタは興味無さそうに、それでも一応の情報源として聞いておく。
どちらかと言うと彼女が気になったのはそちらではなく、龍之介の態度だ。
龍之介は、熱心に心愛の話を聞いていた。
相槌を打っているだけではあるが、その顔は妙に活き活きしている。
まるで彼女の言う友人たちにも興味がある、といった顔。
何故だ? 何故赤の他人である筈の龍之介が、そこまで。
-
「…………それでね、チノちゃんったら私の居ない間にマヤちゃんメグちゃんと内緒でプールに行ってたんだよ〜。あ、リゼちゃんも一緒にね」
「お喋りはいいけれどあなたたち、自衛の手段くらいあるんでしょうね」
リタは口を挟んだ。
龍之介に一抹の不安を感じたのは事実だし、心愛の長話にうんざりしたというのもある。
どちらの意味合いが強いかは……考えなかった。
2人は顔を見合わせる。
言われてみれば、碌に支給品を確認していない。精々狸が一匹出てきた程度だ。
それも今は「モフりたいけど歩く時はさっきみたいにコケちゃうし」とカードにしまっている以上、龍之介と違って心愛は丸腰。
「でも私、これしかないよ?」
心愛が取り出したのは、ライターと携帯ラジオ。
「火なんてヘタに使うと危ないし、ラジオはここじゃ……」
『此度の放映をご覧頂けた幸運なる皆様。私、キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェと申します』
ノイズ混じりに、突然ラジオが音を発した。
誰もが動揺する中、1人だけ違った反応を見せた人物がいた。
「あれ、旦那?」
「え?」
龍之介は、旦那=キャスター=ジル・ド・レェということを知らなかった。
キャスター自身が彼に『青髭』と名乗った程度で、その上互いに聖杯戦争に一切興味を示さなかったからだ。
『皆様、各々方の知己朋友の消息を――』
突然プツンと声が途絶え、ラジオはうんともすんとも言わなくなってしまう。
「あれ、壊れちゃった?」
「ちょっと見せて心愛ちゃん。……あー、これ手回しで充電するタイプだ。全く回してないから充電切れたんだよ」
ラジオの側面に付いていたハンドルをしばらく回す。
ある程度充電を終えた頃には、既にキャスターの放送は聞こえなくなっていた。
「終わっちゃったね。何を言ってたんだろ」
「んー……まあいいんじゃない? とりあえず駅までもうすぐだし、早いとこ行っちゃおうか」
そうだねーと返し、2人はその場を後にする。
後ろではやや彼らから少し距離を取りつつ、リタが龍之介を睨み無言で付いて来ていた。
* * *
-
「どうするの、これ」
駅に着いた一行は、無防備にもベンチで寝ている少女の処遇に困っていた。
死んでいるようではなさそうだが、青いカードも赤いカードも持っていない。
おまけに、靴下が左右で違うという少し変わった風貌。
誰かに襲われ意識を失った後カードを奪われ、犯人は電車で逃走。
駅周辺に見える戦闘の痕跡から、そう考えるのが自然なのだろうが……。
何分この少女、なかなか目覚める気配がないのだ。
無闇に起こすのも悪いと考え、そっとしておくことにする。
「それで、2人はこれからラビットハウスとやらに向かうのよね」
「そうだよ。んじゃ俺ちょいとトイレ行って来るから、電車来たら待ってて」
「……」
ホームを去る龍之介を尻目に、リタは考える。
果たして彼は安全と判断しても良い人間なのか。
先程の出来事から、そうではないとはっきり理解出来た。
彼はキャスター……『ジル・ド・レェ』のことを確かにこう言った。
“旦那”と。
これだけで、危険だと決め付けても何ら問題はないだろう。
200年も生きている(?)と、流石に名前くらいは聞いたことがある。
リタは“ジル・ド・レェ”に関して、悪趣味な魔術を使うことが出来る、程度には把握している。
そのジル・ド・レェと龍之介が、知り合いの関係にある。
これだけでも十分厄介なのに。
「ねえ……心愛って言ったかしら」
「何? リタちゃん」
「あの男、『作品を作って、旦那に見せたい』……そう言ったのよね」
「うん。龍之介さんの旦那って人、呼ばれてたんだね〜。作品を見せたいって願ってたみたいだし」
更に厄介なのがそれだ。
彼の支給品までは把握していないが、彼が刃物の類を現地調達していることはリタも知っている。
見る限り木や石を切るといったものではなく、肉を切るのに適している刃渡り。
心愛によると『怪我をした時のため』と言っていたらしいが、どうも信用ならない。
怪我をした、だけなら包帯や薬品などで事足りるではないのだろうか。
一体、何を切るために?
「(こんなこと、想像したくはないんだけどね……)」
彼の言う“作品”の“題材”。
それはもしかしなくても、我々参加者なのではなかろうか。
それも、かなり悪趣味なやり方で。
心愛は底なしの能天気、悪く言えば単純な馬鹿。
ベンチでくたばっているとおぼしき少女に至ってはまだ名前すら聞いていない。
雨生龍之介という男の魔の手から逃れる為には、私がどうにかしなければいけないらしい。
カイザルたちとも合流したいのに、すぐ傍にとんでもない脅威がいる。
今後のことを思うと、思わず頭を抱えたくなるのであった。
* * *
-
3人から一度離れた龍之介は、改めてそのカードを見る。
他のカードは現状使えないものばかりだったが、そのカード――ブレスレットだけは、非常に価値が高かった。
そのブレスレットは、かつて龍之介がキャスターからプレゼントとして受け取った代物。
これを使って次々と冬木市の子供たちを誘拐、“パーティ”を執り行おうとした。
結局邪魔が入って破壊されてしまったのだが、どういう因果かそれが再び龍之介の手中にある。
カードに書かれた説明を見る限り、当時のそれより大幅に制限は掛けられている。
①:使用者より年齢が下の者にしか通用しない。
②:並行して催眠を掛けられるのは2人まで(ただし使用者より強い魔力で防御される)。
③:対象を夢遊病患者のようにするだけで、意のままに操れるわけではない。
④:洗脳の効果は一度につき2時間程度。
⑤:魔力の消費は少し大きめ。
⑥:ブレスレットが破壊されるとその時点で洗脳効果は切れる。
乱用されないために主催者の設けたパワーバランスなのだろうが、それらの制限があってなお、龍之介にとっては魅力的だった。
心愛、リタ、そしてホームで出会った名も知らない不思議な少女。
彼女たちを連れてラビットハウスへ向かい、“お茶会”を開こう。
やがて心愛の友人なども、その“お茶会”のメンバーに加えよう。
無論作品の延命など課題は幾つも残っているが、その時になってから考えればいい。
キャスターを召喚するまでにも40余名もの人間を殺害して来たが、どれを取っても計画性皆無。
それでも卓越した証拠隠滅、操作撹乱の技術を用いることで、今まで警察の捜査線上に上がったことは一度も無かった。
雨生龍之介とは、そういう男なのだ。
若干気掛かりなのは、携帯ラジオの放送を聞いてからのリタの態度。
何だか自分のことを疑っている、そんな視線だった。
旦那がジル・ド・レェと名乗り、それに対し反応を示したことが原因だろう。
まあでも、いずれそんなことを気にしなくてもいいような状態にすればいいだけだ。
そう結論付け、あくまで一般人の顔を装った殺人鬼はホームへと舞い戻る。
時計を見る限り、もうすぐ定時放送とやらの時間だ。
4人で軽い朝食にするのもいいかも知れない。
もっとも、4人目がいつ起きるかなど分かったものではないが。
【C-6/駅/早朝】
【雨生龍之介@Fate/Zero】
[状態]:健康、少年のようなワクワク
[服装]:普段着
[装備]:手術用のメスやハサミ(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜1枚(本人確認済)、ブレスレット@Fate/Zero、医療用具(現地調達)
[思考・行動]
基本方針: 心愛と一緒にラビットハウスを目指して心愛の友達を探す。
1: 旦那ともいずれ合流し、作品を見てもらいたい。
2: リタに激しい興味。彼女もいずれ作品とする。
3: 心愛、心愛の友人、少女(蒔菜)で作品を作り、“お茶会”を開く。
4: 作品を延命させる方法を探す。
[備考]
※キャスターが龍之介の知る青髭ということに気付きました。
※心愛の友人に関する情報を得ました。
【保登心愛@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:足に擦り傷(処置済、軽度)
[服装]:ラビットハウスの制服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:具@のんのんびより、ライター@現実、携帯ラジオ@現実
[思考・行動]
基本方針:龍之介たちと一緒にラビットハウスを目指して友達を探す。
1:怖いけどお姉ちゃんとして頑張る。
2:リタちゃんは不思議ちゃんなんだね〜。
3:この子(蒔菜)何があったんだろ?
-
【リタ@神撃のバハムートGENESIS】
[状態]:健康
[装備]:アスティオン@魔法少女リリカルなのはvivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
黒カード:不明支給品0〜2枚(本人確認済)
[思考・行動]
基本方針:カイザルとファバロの保護。もしカイザル達がカードに閉じ込められたなら、『どんな手段を使おうとも』カードから解放する
0:とりあえずはラビットハウスへの道のりに同行しつつ、人探しを並行させる
1:カイザル達の捜索。優先順位はカイザル>ファバロ
2:繭という少女の持つ力について調べる。本当に願いは叶うのか、カードにされた人間は解放できるのかを把握したい
3:アザゼルは警戒。ラヴァレイも油断ならない。
4:龍之介を警戒。心愛たちを彼から逃がしたい。
[備考]
※参戦時期は10話でアナティ城を脱出した後。
※心愛の友人に関する情報を得ました。
【入巣蒔菜@グリザイアの果実】
[状態]:健康 睡眠中
[服装]:制服
[装備]:ヤブイヌのポーチ@グリザイアの果実
[道具]:腕輪と白カード。
[思考・行動]
基本方針:帰る。
0:……zzz
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※ルールを聞いたのは白のカードの説明までです。ですが、それもうろ覚えです。
※赤、青、黒、のカードは流子に渡りました。
※名簿は見ていません。
【支給品説明】
【ライター@現実】
保登心愛に支給。一般的なジッポライター。
【携帯ラジオ@現実】
保登心愛に支給。充電は手回し式で、回しておかないと割とすぐに電池が切れる。
放送を受信する以外の用途は今のところ不明。
【ブレスレット@Fate/Zero】
雨生龍之介に支給。
アニメ1期10話で出てきたもので、龍之介はこれを使って子供を何人も洗脳、誘拐した。
洗脳を受けた対象はぼーっとした状態になり、その間の記憶は一切残らない。
また、洗脳されていても対象が使用者に声を掛けられれば付いて行く。
このロワでは以下の制限が掛けられている。
①:使用者より年齢が下の者にしか通用しない。
②:並行して催眠を掛けられるのは2人まで(ただし使用者より強い魔力で防御される)。
③:対象を夢遊病患者のようにするだけで、意のままに操れるわけではない。
④:洗脳の効果は一度につき2時間程度。
⑤:魔力の消費は少し大きめ。
⑥:ブレスレットが破壊されるとその時点で効果は切れる。
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本投下を終了します。
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投下させていただきます
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ファバロ・レオーネは逃げ足には自信があった。
因縁の相手には日頃追い回されているし、今はもういない鍵の娘との旅路でもその才能は遺憾なく発揮されてきた。
だから焦燥の形相を浮かべつつも、心のどこかで彼は高を括っていたのだ。
覚悟は据わってるみてぇだが、所詮は若いお嬢ちゃんだ。逃げようとして逃げ切れない相手じゃねえだろ……と。
確かに、一切の躊躇いなく殺しにかかってくる精神性は恐ろしいが。
それでも聖女様のようにぶっ飛んだ力を持っているわけでもないだろうし、相手は一人。
いつかのオルレアン騎士団のように、数でゴリ押してくるわけでもない。
なら多少難儀ではあれ、いける。
彼らしくもない――あるいは彼らしい、そんな考え。
しかし、これだけの布石(フラグ)があれば、もうお分かりだろう。
その考えは、一周回って気持ちいいほどにファバロのことを裏切ってくれた。
「っ……しつけぇぞ!」
振るわれるビームサーベルを、華麗な側方倒立回転でいなすファバロ。
一見すると余裕のように見えるが、その額には脂汗が浮いていた。
ヴァローナはそれを見抜いているのかいないのか、ごく冷静に着地した彼へ兜割りの要領で光の剣を振り下ろす。
この間に、まったく逡巡らしいものがない。
両足をバネのようにして後方へ退くファバロへの追撃は、迷いのない踏み込みから繰り出される正拳だった。
サーベルを片手持ちにしての、型破りも甚だしい虚を突く一撃。
カードデッキを握り締めたままの拳。
――やっべ。
そう思った時には、ファバロの腹筋を鋭い衝撃が打ち据えていた。
幸いだったのは、彼女が片手落ちだったことだろうか。
もしも万全の体勢から繰り出されたものだったなら、ひょっとすると痛みだけでは済まなかったかもしれない。
「……不快感。いつまで逃げ回るつもりですか」
やっとこさ身体を立て直したファバロに、ヴァローナが初めて口を開く。
見た目に違わず、綺麗な声だと思ったがそれどころではない。
荒事には職業上慣れているはずのファバロをして、手強いと言うしかない相手だった。
それもその筈だ。彼女は、古今東西のあらゆる格闘技を収めている。
ファバロは確かに賞金稼ぎとして、様々な技術の使い手や危険な賞金首と相見えてきた。
しかし、ヴァローナの収めている格闘技術の中には、当然ファバロの知り得ないものが存在する。
初見の技を乱打されれば、さすがのファバロといえども初見での対抗は不可能。
ゆえに、防戦一方となるのも無理もない話である。
-
「へっ。あいにく俺は女に甘いもんでね」
それは、戦いを求めるヴァローナにとっては紛れもない挑発だ。
体力はあるようで延々猿か何かのごとく飛び回り、ヴァローナから逃れ続けるファバロ。
ヴァローナの目には、彼が遊んでいるようにも写っていた。
だが、真実のところは違う。ファバロ・レオーネは今この瞬間、間違いなく窮地に立たされていた。
体術もさることながら、彼女の持っている光の剣――ビームサーベルが何よりも厄介だった。
輝く刀身を何度か避けてきたから分かるが、あの切れ味はそこらの鍛冶屋が打つ剣などとは比較にならない。
万一斬られるようなことがあれば、致命は必至。
彼女のような手練れの人間でなくとも、これを人体に当てることが出来れば容易に場馴れした実力者を殺害できよう。
「! 危ない、避けて!」
ヴァローナ目掛け、ファバロがミシンガンを放つ。カードデッキの少女が叫んだ。
口では女に甘いなどと言っておきながら、その動作にはわずかほどの迷いもなかった。
彼は女好きだが、しかし必要とあらば手に掛けたり、利用したりする一面を持っている。
むろん、賞金首になった悪輩のように無差別に殺戮する趣味はない。あくまで、必要ならば、だ。
そして今は――その〝必要な場面〟だと判断した。
アーミラは死んで、自分が奔走する意味も、鬱陶しい尻尾も消えたわけだが……だとしても、殺される趣味はない。
ヴァローナは一瞬、ミシンガンという奇抜な武器に目を細めた。
しかし武器の性質にある程度の当たりを付け、多少大袈裟に回避することでこれも凌ぐ。
それから肉薄、鋭い蹴り上げでファバロの手首を跳ね上げた。
鈍痛に顔を顰めるファバロ。その顔面を、正しくは右の頬を、今度は痛烈な裏拳が殴り飛ばす。
体勢を大きく崩し、アフロ頭がぐらり揺らめいて、そのまま彼は大きく吹き飛ばされた。
地面をゴロゴロと転がった後、止まり――苦しげな呻きのみを残して、ピタリとファバロの動きが停止する。
「……」
昏倒。そんな単語がヴァローナの脳裏に浮かぶ。
動きも、迷いなき動作も、見込んだ通り悪くはないものだったが。
それでも、池袋で遭遇したかの『最強』や『黒ヘルメット』に比べればずいぶんと期待外れだった。
倒した――しかしながら、ヴァローナはファバロへとゆっくり近付きはじめた。
一歩、二歩、三歩、四歩、五歩…………、淡々と倒れたファバロへ迫っていく。
やがて青年との間合いがビームサーベル二本分ほどにまで狭まった瞬間、ファバロが自棄糞気味に跳ね起きた。
-
「ホンッッッットに可愛げのねぇ女だな、てめえ!!」
そのまま投擲したのは一本のナイフ。それも、投擲用に特化したものだ。
彼の支給品にあったもので、元は黄長瀬紬という男が使用していた装備セットの中の一つ。
ファバロの算段では、油断して背を向けたところをグサリとやる予定だった。
もしも阿呆な賞金首ならば、それしきの手立ても見抜けずに、敢えなく彼に敗れ去るだろう。
ヴァローナは首を横に少し逸らすことで、たやすくファバロの投擲を躱した。
既にファバロは立ち上がっていたが、いよいよ腹を括らねばならないかと、不吉なことを考え始めてもいた。
ファバロの不運は、相手がこのヴァローナという女だったことだ。
彼女は騎士ではない。力に溺れ、足元を見誤る愚鈍な悪党でもない。
刃も銃器も平等に使いこなし。〝人間の強さ〟を探求する彼女だから、決して自らの力に溺れない。
だから搦手にも強く、正面から戦っても強い。――ファバロ・レオーネにとっては、言うまでもなく相性の悪い相手だ。
「肯定。よく言われます」
「……そうかよ!」
こちらのスタミナも無限ではない。
それに、恐らくあっちの方が総量なら上だ。
逃げ切ろうにも、どうにかして距離を離すか、視界から外れないことにはどうにもならない。
いつかは追いつかれる。それなら、一か八か、男らしく勝負……と洒落込んだ方がまだ生き抜く望みはある。
ファバロはそう判断した。当然、自分の勝ち目が限りなく薄いことも承知した上で。
心地の悪い緊張感を感じつつ。いよいよ俺も年貢の納め時かねぇ――なんて、らしくない弱音を呟いて。
ミシンガンを構え、その銃爪へ指をあてがった。
ハイエロファント・グリーン
「『 法 皇 の 緑 』ッッ!!」
その時ファバロとヴァローナの足元を、メロンの果肉のような色をした長い紐が蛇のように通り抜けた。
それは二人の身体へグルグルと巻き付いて……
簡易的ながら十分な拘束を、いざ一騎打ちをせんとしていた彼らの身体へと施した。
-
「……おいおい、何だぁ!? 男相手に拘束プレイされて喜ぶ趣味はねーぜ!!」
「心配するな、僕にもそんな趣味はない……だが、あいにく僕達にはどちらが悪でどちらが善なのか分からなかった」
だから、少々手荒な手段を取らせてもらった。
歩道をザッザッと踏みしめながらやって来る、この『紐』の主と思しき少年。そして、番傘を携えたやや幼気な少女。
恐らく双方ファバロよりも、ヴァローナよりも年下であろう。
にも関わらず、普通の暮らしを送ってきたものではありえない……修羅場を潜り抜けてきた独特の気迫が彼にはあった。
対するヴァローナはといえば、鋭い目つきで現れた二人を睥睨している。
彼女は彼女なりに、二人から強者の気配を感じ取っただろうか。
『……今暴れたらいくら何でも不利だよ。大人しくしておこう』
ヴァローナが手にしているカードデッキの少女……『緑子』が、静かに諫言する。
彼女も拘束状態下で暴れるのは得策ではないと判断したのか――
「……了解」
戦いへ水を差されたことを咎めるでもなく、ただ彼らの動きへ目を配らせていた。
言うまでもなくファバロにしてみれば、これは幸いだった。
どうやら現れた二人は、様子からして殺し合いへ乗ってはいないらしい。
言っても思想云々かんぬんは二の次だ。重要なのは、自分を劣勢から救い出せるかどうか。
おちゃらけた外見に反して現実的な思考を持つ、実に彼らしい考えだった。
「ま、お前らにも色々事情があるんだろうけど、とりあえず落ち着くアルヨ」
「俺は落ち着いてるんだけどなあ。このべっぴんさんが俺のこと、なかなか離してくれなくてよ……まったく、モテ」
「言わせねーヨ、丸めたハナ◯ソみてーな頭しやがって」
「ははは……いや、言い過ぎじゃね?」
-
やや強引な形にはなったが、ひとまず場を治めることはできたか――
スタンド『法皇の緑』の使い手……花京院典明は、ひとり安堵の息をついた。
花京院典明と神楽の二人は、特に他の参加者と遭遇することもなく墓地へ到達し、それを通過。
その後は予定通りに南下したのだが、放送局周辺で争っているアフロ頭と金髪美女の姿を確認した。
戦況的には後者が優勢らしかったものの、どちらが〝吹っかけた〟側なのかは後から来た者には分からない。
美しい女と奇抜なアフロ頭では、前者に肩入れしてしまうのが人間というものだが……勘違いで片方を拘束し、しめたとばかりにもう片方が凶行に出でもすれば最悪だ。
だから花京院は、少々乱暴だが、両方を拘束することにした。
一騎打ちともなれば、自然とその緊張は高まる。
その隙を突くのは難しいことではない。それはファバロも、ヴァローナでさえも同じことだった。
花京院の作り出した膠着状態。
これからはとりあえず、双方が落ち着くまでを待ち、話をしていくのが定石か――
そう、彼が考えた矢先の出来事だった。
奇妙な音がした。
「あ?」
最初に、ファバロが怪訝な顔をした。
眉間に皺を寄せて、つい先程まで自分と戦っていた女の方を見つめている。
「どうしたネ、おちゃらけたツラを余計に――」
いつも通りの辛口で彼の視線を追った神楽も、その表情を凍らせた。
天真爛漫を絵に描いたような彼女が、持ち前の辛口もそこそこに、ただ茫然と〝それ〟を見つめている。
ついで、花京院がそれを追った。
やはり、反応は同じだ。
目を見開いて、ただ、その光景を見ている。
「え? ……え? 嘘、だろう?」
彼女の手に握られたままの緑子が、引き攣った笑顔を浮かべ、冗談だろうと問うていた。
彼女の持ち主であるはずの美女は、今や美女である所以を失っていた。
下顎より上の頭部が、まるでごっそりと〝削り取られた〟かのように消失して、白い歯がずらりと並んでいる。
どくどくと溢れだす血が地面を濡らして、生臭い死臭をじわじわと漂わせ始め。
やがて強い潮風が吹くや否や――その体がぐらりと揺れた。べしゃり。水っぽい音と共に、それはやがて崩れ落ちた。
生死の確認など、するまでもない。
ハイエロファントの拘束を解く。ファバロの体が自由になる。
次の瞬間、花京院典明は大声で叫んだ。
「下がれッ! 『奴』だッ!! 『姿の見えないスタンド使い』が居るッ!!!」
ガオンと、音がした。
放送局の扉が、まるで〝削り取られた〟かのように消失していた。
それはまさしく、『姿の見えないスタンド使い』がその内部へ踏み入った証だった。
【ヴァローナ@デュラララ!! 死亡】
【残り53人】
-
【E-1/放送局近辺/一日目・早朝】
【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、脚部へダメージ(小)、腹部にダメージ(中)、自信喪失
[服装]:学生服、『ハイエロファントグリーン』(紐)
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:繭とDIOを倒すために仲間を集める
1:『姿の見えないスタンド使い』ッ!
2:承太郎たちと合流したい。
3:ホル・ホースと『姿の見えないスタンド使い』、神楽の言う神威には警戒。
4:スタンドが誰でも見れるようになっている…?
5:僕が拘束していなければ、彼女は……
[備考]
※DIOの館突入直前からの参戦です。
※繭のことをスタンド使いだと思っています。
※スタンドの可視化に気づきました。これも繭のスタンド能力ではないかと思っています。
※索敵のため、腰から紐状のハイエロファントグリーンを背後から数十mに渡ってはわしています。
【神楽@銀魂】
[状態]:健康、呆然
[服装]:チャイナ服
[装備]:番傘@銀魂
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らないアル
1:……え……?
2:神威を探し出し、なんとしてでも止めるネ。けど、殺さなきゃならないってんなら、私がやるヨ。
3:銀ちゃん、新八、マヨ、ヅラ、マダオと合流したいヨ
4:『姿の見えないスタンド使い』を警戒してるアル
[備考]
※花京院から範馬勇次郎、『姿の見えないスタンド使い』についての情報を得ました。
【ファバロ・レオーネ@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:疲労(中)、右頬に痺れ、酔いも覚めた
[服装]:私服の下に黄長瀬紬の装備を仕込んでいる
[装備]:ミシンガン@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(8/10)
黒カード:黄長瀬紬の装備セット、狸の着ぐるみ@のんのんびより、小型テレビ@現実
[思考・行動]
基本方針:女、自由、酒ってか? 手の内は明かしたくねえんだよ
1:は……?
2:チャンスがあればジル・ド・レェを殺す。無理そうなら潔く諦める。
3:カイザルの奴は放っておいても出会いそうだよなあ。リタにも話聞かねえとだし。
4:寝たい。
[備考]
※参戦時期は9話のエンシェントフォレストドラゴンの領域から抜け出た時点かもしれません。
アーミラの言動が自分の知るものとずれていることに疑問を持っています。
※繭の能力に当たりをつけ、その力で神の鍵をアーミラから奪い取ったのではと推測しています。
またバハムートを操っている以上、魔の鍵を彼女に渡した存在がいるのではと勘ぐっています。
バハムートに関しても、夢で見たサイズより小さかったのではと疑問を持っています。
※放送局周辺に、ヴァローナの死体(下顎から上を消し去られた状態)が倒れています。
-
二人目の参加者を屠ったヴァニラ・アイスは、その痕跡通り、放送局の内へと身を逃れさせていた。
金髪の女を屠るのは、非常に簡単なことだった。
ご丁寧に花京院の手により動きの止められた的を、無感動に暗黒空間へと飲み込んだだけ。
既に空が白んで久しい以上、一瞬で事を済ませる手腕が必要だったが……それしきの技巧はとっくのとうに備えてある。
とはいえ、これ以上外へ留まるのは自殺行為だ。放送局の扉を乱暴に削り取りながら、建物の内部へと侵入。
これから再び日が沈むまで、自分は積極的に参加者を殺して回ることはできないが――
「蜘蛛の巣へかかった愚かな羽虫のように、自らやって来たならば話は別だ」
底冷えするような冷たい声音で笑って――ヴァニラ・アイスは、足を踏み入れた者すべてを食い殺す狩人となった。
当初は花京院典明とその同行者を早急に殺害する予定だったが、無論諦めたわけではない。
その為に、わざわざ自分の侵入した痕跡をこれ見よがしに残してやったのだ。
追ってこい。ヴァニラは暗黒空間へ再び身を潜め、クックッと悪辣に嗤った。
しかし、彼はまだ知らない。
この放送局を根城として構えているのは彼だけではなく、既に先客がいることを。
その『先客』が、会場全体からこの地へと参加者を呼び寄せようとしていることを。
つまるところ、ヴァニラ・アイスにとって……最も好都合な状況が完成しようとしていることを――
【E-1/放送局/一日目・早朝】
【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜3、範馬勇次郎の右腕(腕輪付き)、範馬勇次郎の不明支給品0〜3枚
[思考・行動]
基本方針:DIO様以外の参加者を皆殺しにする
1:放送局を根城とし、訪れた参加者を殺していく
2:わざわざ証拠を残してやったのだ。追って来るがいい、花京院……
3:承太郎とポルナレフも見つけ次第排除。特にポルナレフは絶対に逃さない
[備考]
※死亡後からの参戦です
※腕輪を暗黒空間に飲み込めないことに気付きました
-
投下終了です
-
投下おつかれさまです
さよならヴァローナ、結構好きなだけにショック
放送局戦の下ごしらえとしては実に上々な話でした
花京院に緑子とはその発想はなかった
それと状態表にヴァローナの遺品についての記述は必要かと思います
遅くなりましたがこちらも投下します
-
ある殺し合いの舞台においてE-4と区別される領域。
そこの丁字路の中央に浮世離れした派手な少女――針目縫が立っていた。
大げさなほどの身振りで左右の先、逃げたガンマンと首なしを探る針目。
はたから見れば、可愛らしい少女が途方にくれてるだけのように見える。
だが少女の本質は残忍さを色濃く持つ化け物。
道路だけでなく、空や森の向こうまで索敵の範囲は及んでいる。
よくよく見ればその動きは人らしさどころか、生物らしさもどこか欠如しているようでちぐはぐに見える者もいただろう。
数分経ち、針目は「飽きた」と呟きながら、丁の字に背を向けたを返した。
「あーあ、退屈」
不満を口にしながらもにこやかな笑顔のまま歩む針目。
だが、ホル・ホースに一矢報いられた苛立ちや、殺し合いの主催による身体の不調による苛立ちは失せていない。
針目が追跡を中断したのは、計画性のある行動を取るために過ぎないのだから。
先程、戦いの舞台だった旭川分校は通り過ぎた。
索敵は怠っていない、標的が確認されない限りはもう興味が無い場所。
針目は歩きながら腕輪を操作し地図を確認する。
「ふむふむ」
針目が注目したランドマークは3つ。北西、北東、南東に位置する駅。
当初は60を超える数の参加者を楽しみながら蹂躙し、メインディッシュであるあの2人――
纏流子と鬼龍院皐月とのやり取りを最後の楽しみとして取っておこうと漠然と考えていたが、
自身の身体を主催の女の子に手を加えられ、弱体化させられたならそれだけではいけない。
針目は一瞬腕輪を煩わしく睨み、すぐいつもの笑顔に切り替えると東の森へ入り、徐々にスピードを上げる。
僅かな葉擦れの音を立てながら、上がり坂を、荒れ地を物ともせず針目は向かう。向かう。
「あ」
山を駆け、森を突っ切ろうとした最中、彼女は右目で発見する。山小屋を。
立ち止まること無く、躊躇なく軽やかなステップを踏みながら山小屋の前に立ちドアノブを握る。
鍵は開いており程なくして彼女は小屋の中に入った。
休息を取る為ではなく、自身の身体を確認する為に。
□ ■ □ ■ □ ■
-
あれから30分以上経った。
虚空から生じたが如く何本もの赤い糸は、針目の身体に吸い込まれるように消える。
「……」
再生能力や身体能力のみならず、変身能力にも制限が掛けられている。
姿を変える速度は変わらないものの、変身中は身体能力が明らかに低下していた。
その事実を認識した針目は笑顔のまましばらく無言だった。内にあるのは変わらぬ苛立ちと困惑。
床にはよく調べないと解らないくらいごくごく微量の血痕が蒔き散らされていた。
針目はさっきまで自らの肉体の頭部と両腕以外の部位を現在の再生能力が及ぶ範囲で調べ上げていた。
「ボクのこの不調は腕輪か、または別のカラクリが原因ってヤツなのかなあ?」
メス代わりに使用していた片太刀バサミの柄を握りながら、音もなく床に何度も刃を突き刺す。
体内に毒など生命繊維の活動を低下させるようなものは確認できなかった。
血液を調べてもナノマシンの類のものさえ見つけられなかった。
窓の外を見る。夜闇は晴れつつある。
「……」
見かけに寄らない罵詈雑言が、形にできないほどの怒りが、悪意が針目の心の中に渦巻いた。
「……でも、ボクは思い通りにならないもんね」
だが持ち前の自尊心をもって冷静さを取り戻すや、再度赤い無数の糸を現出させ自身の身体を覆い始める。
ゲームに乗り、他の参加者を蹂躙しつくしたいが、その欲求は多少抑える事に決めた。
一刻も早く制限を解き、自由を取り戻すために。それには他参加者を最大限利用するのが近道だと針目は判断する。
赤い糸は針目の身体全体を隠し、姿を体積をも小さく変化させた。
「名前は……偽名使うまでもないか」
赤い糸が消えると、そこに現れたのは針目縫とは似つかない年下の少女。
飾り気のない短髪に左目を隠すよう前髪以外は一時間以上前に殺害した少女に似た姿だった。
犬吠埼樹に似た姿。
元の姿は目立つ上に鬼龍院皐月を始めとした本能字学園の関係者に警戒されてしまっている。
こちらの悪評も本能字学園の関係者ににばらまかれている可能性が高い。
だからこそ他の参加者にあまり警戒を持たれないよう化けたのだ。
「もっと、いいモデルがいるといいんだけどなあ……」
と、ハサミはカードに戻し足でドアを開けて、のびをしながら針目は開始前の会場の様子を思い出す。
特に目立ったアフロ髪の青年や知己と思わしきピンク髪の少女を見る限り、参加者は知り合い同士でここに招かれた可能性が高い。
腕輪の解析解除を実現するには協力者に等しい利用価値のある駒が必要。
だからモデルに決めた参加者を動きがとれないようにした上で隔離し、その身柄をいただく。
モデルの信用を持って駒を増やし、最終的には腕輪の解除をさせる。それが目的。
殺しさえしなければ定時放送でばれることはないだろう。人質として利用もできる。
針目は感覚を鋭敏にさせながら、更なる速度で山を駆けた。目的地は南東にある駅。
外にせよ屋内にせよ、そこで待ちぶせ参加者と接触し、選別する。
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腕輪解析、貴重な情報源となりうる有能な駒。能力のないクズでも人望がある変身の1パターンとなりうる駒。
そしてどちらでもない戦いになりさえしないモブに等しいゴミや、先ほどの首なしや皐月のようなナマイキにも強い猿。
「……いけない、いけない、忘れちゃ」
針目は思わずここに連れて来られる前のスタンスに戻りつつあったのを自覚し、おどけるように舌を出した。
唯一の心の拠り所である鬼龍院羅暁に言い訳するかのように。 山を抜けた。
上を見るとすっかり夜が明けている。森を抜けた。前方に線路が見える。
他の参加者の姿はと辺りを見回そうとした直後
「ちぇっ、間に合わなかったかぁ」
放送が始まり針目縫はため息を付きながら足を止めた。
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【G-6/駅付近/一日目・早朝】
【針目縫@キルラキル】
[状態]:疲労(小)、犬吠埼樹にそっくりな女の子に変身中、繭への苛立ち
[服装]:普段通り
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:神羅纐纈を完成させるため、元の世界へ何としても帰還する。その過程(戦闘、殺人など)を楽しむ。
0:駅へと向かい周囲か屋内で他の参加者と接触する。どうするかは参加者とその時の気分次第。
1:腕輪を外して、制限を解きたい。その為に利用できる参加者を探す。
2:身柄を利用できる参加者を確保して、変身対象として利用したい。
3:何勝手な真似してくれてるのかなあ、あの女の子(繭)。
4:流子ちゃんのことは残念だけど、神羅纐纈を完成させられるのはボクだけだもん。仕方ないよね♪
[備考]
※流子が純潔を着用してから、腕を切り落とされるまでの間からの参戦です。
※流子は鮮血ではなく純潔を着用していると思っています。
※再生能力に制限が加えられています。
傷の治りが全体的に遅くなっており、また、即死するような攻撃を加えられた場合は治癒が追いつかずに死亡します。
※変身能力の使用中は身体能力が低下します。度合いは後の書き手さんにお任せします。
※分身能力の制限がどうかは、後の書き手さんへお任せします。
※犬吠埼樹そっくりな女の子に変身しています。違いは髪型と服装くらいです。
※胸の銃創は治りました。
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投下終了です
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投下乙です
とんでもないのが放送局に居座ったなぁ
花京院超がんばれ
針目は状態表では大人しくなったけど悪い予感しかしない
次は誰と遭遇するのやら
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投下乙です
>こんなに■■なことは、内緒なの
やっとリタが龍之介の本性に気づき始めたか
このまま南下したら南東がどんどん混沌としてくるな
リタの心労がマッハでやばい
>魔領にて
日の出間近にやりやがったなヴァニラ……
完全に対主催ホイホイと化した放送局だが、花京院達は果たして乗り込むのか
ヴァニラの正体(吸血鬼)に気づけば乗り込まないだろうけど、ヒントが少なすぎるからなぁ……
>夜と朝の間に
なんだこの高性能マーダー!?(驚愕)
大暴れした挙句、ステルス転向とか出来ちゃうのが変身能力の怖いところ
ゆゆゆ勢に会ったらどうなるか楽しみ
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新スレのほうに投下します
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新スレへ投下を終えました。
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乙&梅
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1000なら咲勢はジョーカー
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1000の方どうぞ一言
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1000ならなっつんは既に死んでいる
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