■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■

アニメキャラ・バトルロワイアルIF

1 : 名無しさん :2015/07/23(木) 04:01:22 9tci6eH.0
アニメキャラでバトルロワイアルをする企画、アニメキャラバトルロワイアルIFのSS投下スレです
企画の特性上、キャラの死亡、流血等の内容を含みますので閲覧の際はご注意ください。

【したらば】ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17138/
【wiki】ttp://www7.atwiki.jp/animelonif/
【前スレ】ttp://yomogi.2ch.net/test/read.cgi/asaloon/1427714952/
【地図】ttp://i.imgur.com/WFw7lpi.jpg


【参加者】
5/7【ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
○空条承太郎/○ジョセフ・ジョースター/○モハメド・アヴドゥル/○花京院典明/ ● イギー/○DIO/ ● ペット・ショップ
5/6【クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
○アンジュ/○サリア/○ヒルダ/ ● モモカ・荻野目/○タスク/○エンブリヲ
3/6【ラブライブ!】
○高坂穂乃果/ ● 園田海未/ ● 南ことり/○西木野真姫/ ● 星空凛/○小泉花陽
5/6【アカメが斬る!】
○アカメ/○タツミ/○ウェイブ/ ● クロメ/○セリュー・ユビキタス/○エスデス
5/6【とある科学の超電磁砲】
○御坂美琴/○白井黒子/○初春飾利/ ● 佐天涙子/○婚后光子/○食蜂操祈
6/6【鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
○エドワード・エルリック/○ロイ・マスタング/○キング・ブラッドレイ/○セリム・ブラッドレイ/○エンヴィー/○ゾルフ・J・キンブリー
3/5【PERSONA4 the Animation】
○鳴上悠/○里中千枝/ ● 天城雪子/ ● クマ/○足立透
4/5【魔法少女まどか☆マギカ】
○鹿目まどか/○暁美ほむら/○美樹さやか/○佐倉杏子/ ● 巴マミ
4/5【アイドルマスター シンデレラガールズ】
○島村卯月/○前川みく/ ● 渋谷凛/○本田未央/○プロデューサー
4/5【DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
○黒/○銀/ ● 蘇芳・パブリチェンコ/○ノーベンバー11/○魏志軍
3/4【寄生獣 セイの格率】
○泉新一/○田村玲子/○後藤/ ● 浦上
3/4【やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
● 比企谷八幡/○雪ノ下雪乃/○由比ヶ浜結衣/○戸塚彩加
2/3【Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/ ● 美遊・エーデルフェルト/○クロエ・フォン・アインツベルン
2/2【PSYCHO PASS-サイコパス-】
○狡噛慎也/○槙島聖護
2/2【ソードアート・オンライン】
○キリト(桐ケ谷和人)/○ヒースクリフ(茅場晶彦)


56/72

【基本ルール】
最後の一名以下になるまで殺しあう。
その一名になった者は優勝者として如何なる願いも叶えることができる。(「死者蘇生」「巨万の富」など)
参加者のやり取りに反則はない。

【スタート時の持ち物】
※各キャラ所持のアイテムは没収され代わりに支給品が配布される。
1.ディバック どんな大きさ・物量も収納できる。以下の道具類を収納した状態で渡される
2.参加者名簿、地図、ルールブック、コンパス、時計、ライトの機能を備えたデバイス。(バッテリー予備、及びデバイスそのものの説明書つき)
3.ランダム支給品 何らかのアイテム1〜3個。
 ランダム支給品は参加作品、現実、当企画オリジナルのものから支給可能。
 参加外、およびスピンオフの作品からは禁止。
(とある科学の超電磁砲のスピンオフ元である、とある魔術の禁書目録からアイテムを出すなどは禁止)
4.水と食料「一般的な成人男性」で2日分の量。

【侵入禁止エリアについて】
・放送で主催者が指定したエリアが侵入禁止エリアとなる。
・禁止エリアに入ったものは首輪を爆発させられる。
・禁止エリアは最後の一名以下になるまで解除されない。

【放送について】
6時間ごとに主催者から侵入禁止エリア・死者・残り人数の発表を行う。

【状態表】
キャラクターがそのSS内で最終的にどんな状態になったかあらわす表。

生存時
【現在地/時刻】
【参加者名@作品名】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:
1:
2:
※その他

死亡時
【参加者名@作品名】死亡
残り○○名


2 : 名無しさん :2015/07/23(木) 04:01:56 9tci6eH.0
【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:00:00〜02:00
 黎明:02:00〜04:00
 早朝:04:00〜06:00
 朝 :06:00〜08:00
 午前:08:00〜10:00
 昼 :10:00〜12:00
 日中:12:00〜14:00
 午後:14:00〜16:00
 夕方:16:00〜18:00
 夜 :18:00〜20:00
 夜中:20:00〜22:00
 真夜中:22:00〜24:00

【予約について】
キャラ被りを避けたい、安定した執筆期間を取りたいという場合はまず予約スレにて書きたいキャラの予約を行ってください。
予約はトリップを付け、その作品に登場するキャラの名前を書きます。
キャラの名前はフルネームでも苗字だけでも構いません。
あくまでそのキャラだと分かるように書いてください。

【予約期間について】
予約をした場合、執筆期間は五日間、三作以上書いて頂いた方は最大で七日間です
ただし予約は任意ですので強制ではありません。

【作品投下のルール】
予約なしで作品を投下する場合、必ずしたらばにある投下宣言スレにて、投下宣言を行ってください。

※トリップとは
酉、鳥とも言います。
名前欄に#を打ち込んだあと適当な文字(トリップキーといいます)を打ち込んでください。
投稿後それがトリップとなり名前欄に表示されます。
忘れないように投稿前にトリップキーをメモしておくのがいいでしょう。
#がなければトリップにはならないので注意。

【能力・支給品の制限について】

◆クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
・パラメイルの様に強すぎる初期支給品は自重
(登場話で破壊など、納得できる理由もありうるので展開次第)
・エンブリヲの復活能力、死者蘇生の禁止

◆PERSONA4 the Animation
・ペルソナは可視で物理干渉を受ける

◆ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
・スタンドは可視で物理干渉を受ける
・スタンドDISCの支給は禁止
・アヌビス神は支給可能だが人格の乗っ取りは考慮すること

◆アカメが斬る
・帝具の相性(使用可否)は書き手の判断に任せる
・奥の手の再使用にインターバルを設けることを推奨
・八房の死体ストックをゼロにする

◆とある科学の超電磁砲
・パワードスーツは支給禁止

◆ソードアート オンライン
・アバター状態での参加が可能かつ推奨される
・ユイは支給禁止

◆魔法少女まどか☆マギカ
・ソウルジェムは本人支給。
・魔女状態での参加は原則禁止(展開次第で魔女化するのはあり)

◆その他、何かしら制約を受ける能力や支給品
・洗脳、時間停止、強い再生能力、テレポートなど

◆強い制約を受ける能力や支給品
・首輪やそれに準ずるものへの安易な干渉、死者蘇生、時間逆行など
(他ロワの例:参加者単独ではほぼ不可能、禁止に近い制約)

※これらの制限は書き手の任意で設定できるが、便利すぎると思った場合は仮投下を推奨する


3 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/23(木) 21:59:03 3h.TAs0.0
スレ建て乙です!

それでは新スレ一番槍、投下します


4 : 溢れ出る気持ちは誰のもの? ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/23(木) 22:01:29 3h.TAs0.0


――もしも、またみんなと一緒に笑えたら。


それはとっても嬉しいなって――







島村卯月が目を覚ましたのは放送よりも前だった。
彼女は運が良い。寝過ごしては大事な情報が手に入らないから。


「……ひっ」


寝起きの彼女が真っ先に取った行動は歯磨きでも洗顔でもない。
普通の少女に似合わない挙動で腕を首に回した。
首輪の金属がひんやりと掌に伝わる中、彼女は何回も手を擦っていた。

「ある……ある……」

触っても物足りない。
右拳を握り、首輪を含め自分の首を島村卯月は殴り始めた。
「ひぐっ……ある……」
衝撃により呼吸が出来なくなる時もあるが、彼女は構わず殴り続ける。
メトロノームのように何度も一定に、機械のように何度も何度も何度も……。

「ある……あ、る……」

やがて疲れたのか、拳を解きだらしなくベッドに右腕を降ろす。
疲労したのは右腕だけではなく、彼女の瞳は黒く濁っていた。
睡眠を取った人間の瞳とは思えないそれは、数時間前の悲劇が焼き付いてる。

セリュー・ユビキタス。

島村卯月が殺し合いの中で一番最初に出会った参加者である。
その笑顔の輝きは人一倍で、正義感溢れる強い女性だった。
その強さは人間を殺せる程の覚悟を持っていて、島村卯月とは別次元の存在。

「あるよ……りんちゃん……みおちゃん……わた、私」

輝かしい笑顔を持っている女性はセリュー・ユビリタス以外にも知っている。
同じ仲間であり親友である渋谷凛と本田未央を始めとする少女達。
アイドルの理想像を共に目指す島村卯月にとっての宝物。
でも、セリュー・ユビリタスの笑顔は悪魔のようだった。

「私は……首、あるよ……」


セリュー・ユビリタスが生命を奪った南ことりには首がない。
あぁそうだ。南ことりは死んだ。
誰が殺した、それはセリュー・ユビリタスだ。


5 : 名無しさん :2015/07/23(木) 22:02:49 3h.TAs0.0

セリュー・ユビリタスはどんな人間だ。

恐怖に怯えている島村卯月を剥げました強い人間だ。
近くの見回りも率先して行った勇気在る人間だ。
その強さの源は何処から来る、それは人間を殺すことの出来る覚悟と倫理観だ。

覚悟を持っていれば、倫理観が常識を逸脱していれば人を殺せるのか。

ならば南ことりはセリュー・ユビリタスと同じ人種なのか。
違う。彼女――南ことりは普通の女子高生だった。
運が悪かった。殺し合いに巻き込まれた時点で彼女の運命は大きく変わってしまった。

大切な仲間を守るために。
仲間と共に叶える夢と自分のためだけに叶える夢。
道の選択を悩んでいた南ことりの背中を押し、腕を引っ張ってくれた存在。
その存在を始めとする仲間を――守りたかっただけ。

「ことりちゃん……私は生きてるよ……」

セリュー・ユビリタスに首を切断された女性の名前を呟きながら、首を触る。
触るよりも絞めるに近いその動作はまるで自分の生命を確かめているようだった。
生きている、自分は南ことりと違って生きている。

生きているという当たり前の感覚が今の島村卯月にとってどれ程嬉しいものなのか。
顔こそ笑顔ではないが、生命在ることを彼女は人生の中で一番喜んでいた。

「嬉しい……っ、私、ちょっと疲れてるか……な」

自分が壊れそうだ。
死体を、それも生首を初めて目撃した島村卯月の感情は大きく歪み始めている。
生きている、が当たり前ではなく、選ばれた人間だけ。
生存が彼女の中で肥大していき、嬉しいと小言を漏らすほどに膨れていた。

だが否定したい。
自分ではないようで。
嬉しいと言葉を漏らす自分が自分ではないようで。
生命の実感を真摯に受けている自分が、もう戻れない道を歩んでいるようで。

「――ひっ」

突如流れるノイズが彼女の心を圧迫する。
ベッドから身体を動かしはしないが、視線は扉の向こう側を見つめている。
誰かが部屋に来たと思ったが、実際は放送に係る音声のノイズであった。
思えば上条当麻なる男性が殺された時、広川が何かを言っていたような気がする。

誰に言われたわけでもなく、島村卯月は自然とバッグの中から名簿と地図と筆記用具を取り出していた。





「ことりちゃん……」

死者を読み上げる広川。
彼が一番最初に宣告を告げた名前は島村卯月が知っている南ことり。
数時間前まで生を帯びていたその存在を思い出しながら、名簿に線を引いていく。
禁止エリアを塗り潰すよりも心労が溜まる作業だ。
――人間の死を作業と捉えていいのだろうか?


6 : 名無しさん :2015/07/23(木) 22:04:01 3h.TAs0.0

「……首は、ある……」

何度目か解らないが、首に手を伸ばし生命を実感する。
私は生きている、夢じゃなくて、現実で生きている。
現実逃避したい現状から逃げずに、自分に何度も何度も言い聞かせるように首を触る。

「美遊・エーデルフェルト、知らない。浦上、知らない。比企谷八幡、知らない。
 佐天涙子、知らない。クロメ、知らない。クマ、知らない……」

告がれていく名前を復唱しながら名簿に取り消し線を増やしていく。
数時間の間にどれだけの人間が死んだのか。
改めて考えると、目覚めた時、近くにセリュー・ユビリタスの姿は無かった。
彼女は何処かで南ことりの時と同じように他の参加者を殺していたかもしれない。


「渋谷凛、知らない」


復唱しながら取り消し線を引く。
同じ行動を起伏無しに何度も繰り返す姿は正確無比のロボットのようだ。
弱音を吐くことも無ければ強がることもない。
プログラムされた記号を只管に何度も繰り返す冷たくて悲しい機械のように。

「モモカ・萩野目、知らない」



「星空凛……あっ、ことりちゃんの友達……」



南ことりが死ぬ前に。
まだ己を隠していた頃、語ってくれたスクールアイドルの仲間。
アイドルグループの存在は知らなかった。
部活の一環として活動する彼女達と同じ舞台に立てれればいいな、そう思っていた。

「あれ……星空凛ちゃんはもう潰してある」

星空凛の名前が記載されている欄に取り消し線を引こうとした時、既に引かれていた。
名前を復唱しながら線を引いていたため、間違いをすることは無いはずである。
不思議に思いながら、呼ばれていく名前に線を引いていく。

結果として十六人の名前が呼ばれ、引かれた線は十五。一人足りない。

名簿をもう一度見渡すが、線の数は十五。

しかし足りない理由はすぐに解った。





「渋谷凛……凛ちゃんの名前が呼ばれた時、間違って星空凛ちゃんの名前に線を引いたんだ」















「トイレ、行ってきます」





誰に言ったかも解らずに、バッグを持って島村卯月は立ち上がった。






7 : 名無しさん :2015/07/23(木) 22:05:37 3h.TAs0.0

水を流すのは何度目だろう。
吐きすぎて胃から固形の物は出て来なくて、気持ち悪い液だけが出て来ます。

凛ちゃんの名前に気付いた時、時間が止まりました。
私だけが世界に取り残されたみたいで。
でも、実際は凛ちゃんだけが世界から除外されてたみたいなんです。

信じられないと思いました。でも、受け入れるのは早かった。

ことりちゃんの名前が呼ばれた時点で、この放送に嘘はないと思いました。
だってことりちゃんは私の目の前で死んだから。

死んだから……素直に思える私が私じゃないみたいで気持ち悪い。

「なんでこんなことになったんだろう……」

もう、涙も出て来ません。
たくさん泣いて、たくさん吐いて。
凛ちゃんはもういない。私は、島村卯月はもう二度と渋谷凛に出会えない。

ニュージェネレーションズはもう二度と、あの笑顔で舞台に立つことが出来ない。

どこで間違ったんだろう。
最初にセリューさんに心を許したのが悪かったのか。
ことりちゃんの暴走を止められなかったのが悪いのか。
私には解りません。

プロデューサーならどうするんでしょうか。
未央ちゃんならどうやったのかな。
私だから駄目だったのかな。誰か教えてください。


8 : 名無しさん :2015/07/23(木) 22:06:26 3h.TAs0.0

どうすれば凛ちゃんを助けれたのかな。
高い山の頂上に咲く花のようにかっこいい凛ちゃん。
孤高を気取る訳でもなくて、心優しい友達思いの凛ちゃんが大好きです。

誰が凛ちゃんを殺したんだろう。
知りたい、いや、知りたくない?
知ってどうするんだろう……私にも解りません。

「追い掛けるのはできないよ……ごめんね凛ちゃん」

私も死にたくなってバッグに入っている糸で死のうとしました。
首を吊ろうにも糸は細くて、巻き付けた首から血が出る程鋭利だったので、やめました。
説明書みたいな紙を読むと、とても頑丈なので、服の下に纏いました。

「これから……」

服を来た所で、私はどうすればいいんだろう。
トイレを出て、うがいを済まして顔を洗いました。
試しに鏡の前で笑顔を作っても、悪魔が笑っているような……本当の笑顔じゃ無い気がします。

凛ちゃんが死んだこと、信じられません。
でも放送が嘘だなんて思えません。
私は何を信じればいいんでしょうか。

今頼れる人間、それはセリューさんだけです。

あの人は人間を殺せる怖い人で、でも、私に危害を加えない人でもあります。


ひ弱な私は彼女に頼るしかありません。


「セリューさん……外にいるのかな……?」


だから私はセリューさんを探すために外に向かおうと思います。
この選択が正しいか間違っているか何て解りません。

そもそも今の自分が誰かなのも解りません。

目が覚めてから首を触っている時、島村卯月が別人に変わっているようでした。

ことりちゃんと自分を比べた時、島村卯月が別人に変わっているようでした。

壊れた機械のように放送で呼ばれた名前に線を引いた時、島村卯月が別人に変わっているようでした。

凛ちゃんの名前を無意識で飛ばした時、私は島村卯月でした。

自殺を図った時、私は誰だったのでしょうか。

凛ちゃんの死を現実だと認識した時、私は何を考えていたのでしょう。

私には解りません。

でも、どうすることも出来ません。


今は悪い魔法に掛けられていて、魔法が解けたら全部夢のように消えてくれれば。

それはとっても嬉しいなって。


こんな時に、こんな事を考えてしまう私は本当に島村卯月でしょうか。


9 : 名無しさん :2015/07/23(木) 22:11:02 3h.TAs0.0



【D-4/イェーガーズ本部内/一日目/早朝】



【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:悲しみ、セリューに対する依存、自我の崩壊(極小)、精神疲労(大)、『首』に対する執着、首に傷
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!
[道具]:ディバック、基本支給品、賢者の石@鋼の錬金術師
[思考]
基本:元の場所に帰りたい。
0:どうすればいいのかわからない。
1:セリューとの合流。
2:助けてもらいたい。
3:凛ちゃんを殺したのは誰だろう。
4:助けて。
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※渋谷凛の死を受け入れたくありませんが、現実であると認識しています。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※自分の考えが自分ではない。一種の自我崩壊が始まるかもしれません。
※『首』に対する異常な執着心が芽生えました。
※無意識の内にセリューを求めています。
※彼女が所有している名簿には渋谷凛を除く、第一回放送で呼ばれた名前に取り消し線が引かれています。


【千変万化クローステール@アカメが斬る!】
ナイトレイドの一員であるラバックが所有していた糸の帝具。
用途は罠、索敵、防御、攻撃など多種多様な万能で豊富。
とっておきの一本と呼ばれる界断糸は強度、鋭さ共に通常の糸を遥かに上回る。
奥の手は存在するが原作では未登場である。


10 : 溢れ出る気持ちは誰のもの? ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/23(木) 22:12:48 3h.TAs0.0
投下を終了します


11 : 名無しさん :2015/07/23(木) 22:27:43 2NUlAjw60
投下乙です!速筆さが羨ましい…

島村さんの心情描写が見てて哀しい、切ないを通り越してただただ哀しい
これまで某物理学教授並みに気絶していて、彼女の視点が語られることが無かったので
特にしぶりんの名前のくだりはもう…!


12 : ◆dKv6nbYMB. :2015/07/24(金) 00:24:41 D/H4fye60
投下乙です。

島村さんかなり危ういな。
セリューさんは果たして彼女の心を癒してあげることはできるのだろうか。


投下します。


13 : 邂逅 賢者の意思/意志 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/24(金) 00:28:48 D/H4fye60
「16人、か」
早い。とてつもなくペースが早いとジョセフ・ジョースターは思う。
その中には、彼の知っている名もいくつかあった。

イギー。

殺し合いに連れてこられる前からの彼の仲間。
ジョセフの瞳に、悲しみの色が浮かぶ。
イギーは、アヴドゥルと協力してようやく捕まえたスタンド使いだ。
強力な猛者である彼がこうも早く命を落としたことにはもちろん驚いている。
だが、仲間である彼の喪失はそれ以上に大きな悲しみを与えていた。
承太郎やアヴドゥルは無事だろうか。
花京院は我々の仲間なのだろうか。それとも、敵の頃の彼なのか。
前者であればすぐにでも合流したいが、もし後者であった場合は、承太郎がいない時はどうすればよいものか...
この地に呼ばれた他の仲間たちのことを気にせずにはいられなかった。




佐天涙子。クロメ。巴マミ。


再会を誓った者たちの知己の名。
親友を失った初春には、明らかに悲しみの色が浮かんでいた。
辛うじて、本当に辛うじて理性を保っているが、少しのキッカケさえあれば我を忘れて泣きだしそうにすら見える。仮にそうなったとしても、ジョセフは初春を責めはしない。
タツミたちも心配だ。
詳しい身元を証明はしなかったものの、タツミのかなり複雑な関係性を考えればクロメという少女は敵ですらあったのかもしれない。
それを踏まえても、知り合いが死んだとなればその心中が穏やかでは決してないはずだ。
だが、それ以上に心配なのは美樹さやかだ。
彼女が殺人を思いとどまったのは、友の存在のおかげだ。
その友が一人失われた。彼女の精神は追いやられるはずだ。下手をすれば、再び殺し合いに乗るかもしれない。
やはり、無理にでも4人で固まって行動すべきだったかと今さらながらに思う。



モモカ。南ことり。星空凛。園田海未。


新たに合流した少女たちの友人の名。
アンジュは知己の死に対してどう思っているのだろうか。なんとなく直情的なタイプだということはわかるが、関わった時間も少ないため彼女についてはほとんど知らない。
一人で行動するタイプらしいが、もしも立ち直れなくなっているのなら、早く彼女を保護してくれるような人物と出会えればいいが...
真姫という少女は、放送を聞いたあと気絶してしまったようだ。
アイドルという、生死をかけた戦いとは無縁の場所にいる彼女だ。友人が一度に三人も死んでしまったとなればそれも当然かもしれない。
励まそうにも、ジョセフは真姫とはロクに言葉すら交わしていないのでそれは無茶というものだ。
とはいえ、全てを田村怜子に任せるのは正しい選択なのだろうか。
このままDIOを追うことは本当に正しいのだろうか。



「ワシは...どうするべきなんじゃろうなぁ」
返事は無い。
当然だ。いまジョセフがいるのは、霊安室と化した空き教室。
これから同行するはずのサファイアは初春たちと共に倒れた真姫のもとにいる。
故に、ここにいる生者はジョセフだけ。同室しているのは、かつて園田海未と巴マミと呼ばれた、物言わぬ骸なのだから。
「お前さんたちはどう思う?」
しかし、それでもジョセフは言葉を漏らさずにはいられなかった。
彼にしては珍しく吐いた弱音であった。


「...イカンな。どうにも頭が煮えたぎっちまっておる」
仲間の死。
ここにはいない知人の心配。
これからの自分の行動。
そして、広川への怒り。
あまりにも多くのことを気にかけ過ぎて、頭が混乱してしまいそうだ。
(ひとまず情報を整理しようかの)
ジョセフは、教室に置いてある紙切れに、放送から得た気になる情報を書き纏めると共に頭の中で整理することにした。


14 : 邂逅 賢者の意思/意志 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/24(金) 00:30:10 D/H4fye60


息を大きく吸う。吐く。吸う。吐く。
その行程を何度か行うと、ようやく呼吸が整い、心臓の鼓動も僅かに治まってきた。

―――佐天涙子

放送で告げられた友の名。
死んだ。上条当麻と同じく死んだ。
自分がもたついている間に彼女は死んだ。
彼女が死に直面している間、自分はなにをしていた?
最初に赤目の少女と出会った。迷っていて仕留めれなかった。
銀髪の男と出会った。自分の隠したい部分を曝け出された挙句、あっさりと逃げられた。
再び出会った赤目の少女と彼女率いる集団と戦った。仕留めきれなかった。
ブラッドレイという眼帯の偉丈夫と戦った。あっさりと攻撃を躱され、仕留められなかった。
食蜂操祈と共にいたDIOという男と戦った。真っ向から能力を叩き伏せられ、不様に逃走した。
ここまで醜態をさらしてなにが学園都市のレベル5だ。この場においてはそんなもの糞の役にも立っていないじゃないか。
だが、そのおかげで自分はこうして友の死を悲しむことができている。
それは、自分がその死に直接関わっていないから。
どこかの誰かさんが、もたついている自分の代わりに彼女を殺してくれたからだ。


―――君は心のどこかで、友人たちが誰かに殺されることを望んでいる。自分の手を汚したくないから


銀髪の男の声が蘇る。
...ああ、そうだ。まさにその通りじゃないか。

(もたついてたのは、私が誰も殺したくないからじゃない)

覚悟していた?なら、なぜ銀髪の男を追いつめて殺さなかった?
なぜ、赤目の少女たちを探すのを諦めた?
なぜ、ブラッドレイを背後から撃とうとすら思わなかった?
なぜ、逃走する前にDIOの傍に居る食蜂操祈を殺そうとすらしなかった?
確かに、生き残る上では合理的で冷静な判断だったといえるだろう。
何れも実行していれば無駄な労力だったかもしれない。
しかし、それで済ませられるだろうか。答えはNo。

(結局、私はあいつらに頼りたかっただけ...あいつらが黒子たちを殺すことを押し付けたかっただけ)

銀髪の男を仕留められなかったのは、彼の言葉を肯定したくなかったから。
赤目の少女たちを探すのを諦めたのは、いずれ彼女たちに自分を止めてほしかったから。
ブラッドレイやDIOの実力を知るや、牙を突き立てることすら考えなかったのは彼らの報復が怖かったから。
これで人を殺す覚悟を決めたなどと言えるはずもない。

『私は上条くんを生き返らせるために人を殺そうとしました。でも、誰も殺していませんから許してください』

もしも、自分を止められる誰かが現れた時に、そんな悲劇のヒロインを気取るつもりだろうか。



―――私は私の意志で、殺す。私の意志であいつを救う!


そう啖呵をきったことすら、逃げ道を閉ざしたくないための口実にすぎないように思えてきた。


15 : 邂逅 賢者の意思/意志 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/24(金) 00:32:52 D/H4fye60

「......」
ふと、佐天がどのように死んだのかが気になった。


―――下手に長引かせれば、隣にいる者にグサリ!...などといった結末をきみ自身が辿ることになる


自殺などということは有り得ないだろう。
何もできずに死んでしまったのか?
自分より弱き者を守るために戦いの果てに敗れたのか?
それともDIOのような強者に蹂躙されたのか?
まさか、裏切られた者に刺されたのか?
...どの道、無念のうちに死んだはずだ。
もしもその死が苦しいものだとしたら...

(黒子や初春は...私が殺さなきゃ)

痛みも苦しみもないように、最大火力で殺してやらねばならない。

(逃げるのはもうやめなさい、御坂美琴!)

DIOを殺してさっさと殺しに復帰する。
同行者に知られぬように、御坂は改めて決意した。





「16人...だと!?」

エドワード・エルリックは焦っていた。
『殺さない覚悟』を常に持つ彼は、できれば誰も死んでいないことを願っていた。
しかしその反面、犠牲者がゼロだという可能性は低いと覚悟はしていた。
エンブリヲに御坂美琴、そしてDIO。強力且つ明らかな危険人物に計三度も遭遇している。
彼らの毒牙にかかれば、みくのような一般人は一溜りもないだろう。放送で呼ばれた渋谷凛という少女もその内の一人だ。
それにしても、この短時間で16人もの死者が出るのは異常だ。
その死にいくつ彼らが関与しているかはわからないが、少なくとも、エドワードの遭遇者以外にも火種は数多くいるとみて間違いないだろう。

(こっちはみくのやつも連れ戻さなきゃならねえってのに...!)

ただでさえ、DIOという強大な相手がいるにも関わらずだ。エドワードがそちらに対処している間にも、殺し合いは確実に進むことになる。
それに、自分の知る中では、現状殺し合いに反逆する可能性が高いのは大佐とアンジュだけ。その二人にしても、害を為す人物に対しては容赦しないだろう。
簡潔に言おう。人手が足りない。それも、圧倒的にだ。
どうにかして信頼できる協力者が欲しい。そのために必要なのは情報だ。


『なに探してんだ?』
『いやあ、ここ温泉だし、もし広川って人がアイドルのファンだったら、覗き用の監視カメラくらいはあるかなと思って』
『ファンなら殺し合いなんてさせねえだろ。つーか、監視カメラってなんだよ?』
『知らないのかにゃ?アイドルに限らずぶっとんだファンっていうのはなにをするかわからないんだにゃ』
『そっちじゃなくてよ、監視カメラってのは...』


今まで手に入れた情報を思い出せ。


『パイプ爆弾、ねぇ。明らかに俺の知ってる爆弾よりも精度も技術も高いよな...』

考えられる限りの情報を絞り出せ。

エドワードは、今までの、そして広川の放送から得た情報を逃すまいとペンを奔らせた。


16 : 邂逅 賢者の意思/意志 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/24(金) 00:34:38 D/H4fye60


放送から得た情報は大きく分けてふたつ。
ひとつは禁止エリア。
ふたつめは死者の数。


禁止エリア。
これについては、深く考慮する必要はないだろう。
奴の言葉通りなら、これはランダムで選ばれた場所なのだから。

(重要なのはそれだけか?)

(いいや。もっと大事なことがある)

禁止エリアに入れば首輪が爆発する。広川は確かにそう言った。
だが、禁止エリアに一歩でも踏み込めば即座に爆発する可能性は低い。
なぜなら、このバトルロワイアルは、広川による殺戮ショーではなくあくまでも殺し合い。
禁止エリアは参加者の行動を制限するものであり、できればうっかり足を踏み入れて死亡などという事態は防ぎたいはずだ。
それに、今までの道のりからの判断になるが、『ここからここまではG-7』などという境界線は見当たらなかった。
おそらくなにかしらの警告がなされ、爆発までにはタイムラグが発生するはず。
それが時間なのか、禁止エリアに入ってからの歩数かはわからないが。
これについては、実際に試してみる他ないだろう。
とにかく、このタイムラグは今後の生存に大きく関わってくる。可能な限り早く調べたいものだ。


死亡者。
まず、死者の数が嘘の可能性は限りなく低いだろう。
たしかに嘘を織り交ぜれば、一時的な混乱を招くかもしれない。
しかし、それは本当に一時だけ。参加者が情報を交換していけばそのうち真実に辿りつくのは火を見るより明らか。
しかも、『広川は参加者の生死も把握できない無能』と思われれば、殺し合いの進行は確実に遅くなるだろう。

(そんなことを奴が望むはずがない。だから死者や禁止エリアに嘘偽りはない)

(だが、どうやって状況を確認する?)

殺し合いである以上、参加者の生死はもちろん、死亡までの過程も重要なものであるはずだ。
だがどうやってそれを確認する?
盗聴器ではどうだろうか。確かに会場中か首輪か、もしくは両方にあるだろう。
しかし、音声から得られる情報はたかが知れている。それだけで全ての動向を把握できると思うほど間抜けではないだろう。
監視カメラ?いや、それはないだろう。仮にそんなもので状況を把握していたとしても、だ。カメラである以上、確実に死角というものは存在する。
そもそも、参加者に簡単に壊されるような監視装置で状況を把握するなど以ての他だ。幾つかは置いてあるかも知れないが、それに任せきりなわけではないはずだ。
ならカメラが首輪にあれば?なるほど、たしかにこれなら簡単には壊せない。
だが、首輪に布でも巻いてしまえばそれだけで意味がなくなる。だからこれだけで監視をするのはリスクが高いといえる。
それに、視界に映るものが全て真実だとは限らない。
となれば、視界以上に確実に生死の判断ができるものが必要だ。

(たとえばそう)

(心臓の鼓動ではないだろうか)

心臓が完全に停止する。それは、人間や犬などの哺乳類なら確実な死を招くものだ。
それを首輪で測ることができるのなら、可能性は高い。
なんにせよ、首輪が監視手段の要であることはほぼ間違いないだろう。


17 : 邂逅 賢者の意思/意志 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/24(金) 00:36:05 D/H4fye60
(...しかし、これらは何れはみなが気づくもの)

(これで交渉するには厳しいものがある)

これでは纏めた意味がほとんどない。
思い出せ。奴の言葉を。見つけ出せ、奴の油断を。

―――素晴らしいペースだ。この調子でいけば時間切れで全員が死亡なんて結末にはならずに済みそうだな。

この世に完璧なんてものは存在しない。奴の言葉の端々になにか隙があるはずだ。

―――だが、もし早く終わらせたいと願うなら速やかに殺し合いを進行させることだ。

それこそがこのゲームを崩す転機になりうるものだ。

―――下手に長引かせれば、隣にいる者にグサリ!...などといった結末をきみ自身が辿ることになる。

それが脱出に直接繋がらなくとも、なにかに役立てることができるはずだ。

さて、これで放送は終わりにするが...ひとつ忠告を忘れていた。

なにかないか。なにか―――

―――身体の構造上、首輪を外せる術を持っていると思い込んでいる者がいるようだが、当然ながらそれにも対策は講じてある。試すのは勝手だが、そのことを頭の片隅においておいてほしいとだけ言っておこう。

...待て。広川はなんと言った?

―――身体の構造上、首輪を外せる術を持っていると思い込んでいる者がいる

―――試すのは勝手だ

なぜ、試すことは許される?





『身体の構造上首輪を外せる術を持っている者』。それは、首を切断しても生きていられる者ということだ。
例えば、それは人間の身体を乗っ取った吸血鬼/限りなく不死に近い身体を持つホムンクルスが当てはまる。
おそらくこの忠告は彼らに向けてだろう。首輪を外す技術を持つ者ならば、『身体の構造』なんて言葉は使わないからだ。
次に広川は『試すのは勝手』と言った。つまり、試すこと自体はできるはずだ。

(もしも首輪を外すことが死に直結するのなら、そんな自殺染みた行為、殺し合いを観たい者からすれば絶対に止めるべきことのはず)

(心底止めたいと思うなら、『それをした瞬間お前達の首輪は爆発する』とでも言うはずだ。だが広川は『やっても無駄だ』としか告げていない)

(奴はわざわざ『対策』という言葉を使っておる。つまり、対策とは『爆発以外のなにか』であるはずだ)

(となると、導き出される答えは)


『首輪を外すだけでは、ゲームから逃れる手段には成り得ない。しかし、首輪の解除自体は死に直結しない』




老練なる策士と国家錬金術師。

場所は違えど、辿りついた答えは同じだった。


18 : 邂逅 賢者の意思/意志 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/24(金) 00:37:40 D/H4fye60



(...これ、ワリと使えるんじゃねえか?)

優勝を目指す者からしても、首輪という存在はかなり厄介な代物であるはずだ。
なんせ、優勝したからといって広川が願いを叶えない可能性はある。
その時に首輪をつけられたままでは広川を脅すこともできない。
つまり、全ての参加者にとって首輪は邪魔な存在であることは共通事項なのだ。
首輪を外せるのならわざわざ殺しあう必要もないと判断する者は多いはず。
そうなれば、殺し合いの進行は確実に遅くなる。
なら、後はさっさと首輪を解除できる術を探し出せばいい。

(けど、それにはどうしてもサンプルが必要だ)

首輪のサンプル。それは即ち参加者の犠牲ということ。

(...やるしかないか)

死んだ母を求め、己の片手足と弟の身体を失ったあの日から、エドワード・エルリックは決して殺人を侵さないと決めている。
その信念は、この殺し合いの場でも貫き通す所存だ。
ならば、首輪のサンプルはどこから入手しようというのか。

(死体から回収...するしかねえな)

16人の死者の内、全ての首輪が使い物にならないということはないだろう。
亡くなってしまった者たちには申し訳ないと思う。だが、このクソッタレゲームに叛逆するにはどうしても首輪のサンプルが必要なのだ。

(それと、もしホムンクルスの奴らも何も知らされていなければ...どうにか協力してもらう必要がある)

もしも、この会場にいるホムンクルスが皆黒幕と繋がりがあるなら協力は見込めない。
しかし、彼らもまた他の参加者と変わらぬ被害者であれば、『身体の構造上、首輪を外せる術を持つ可能性が高い者』として協力を得なければならない。

(プライドはともかく、エンヴィーのやつならその誘いに乗る可能性は高い。...気は進まねえけど)

以前、グラトニーに共に飲まれたときは、出られる方法を提案すればそれに協力はしてくれた。
今回の状況もそれだと同じだ。こんな狭苦しい状況、脱出するチャンスがあれば逃す奴ではないだろう。
とにもかくにも、だ。せっかく見つけ出した情報だ。これを活かさない手はない。

(もしかして、DIOの奴も首輪のことを知れば、案外あっさりみくを返してくれるなんてことは...ねえよな)

DIOはみくを実験動物にすると言っていた。そんな悪党が、まだあくまでも予想の範疇でしかないこちらの意見を聞き入れる可能性は低い。
首輪云々は一先ず後に回して、実験を止めるためにDIOからみくを奪い返す方が先決だろう。
だが、自分と御坂の二人だけでは不可能に近いことは身を持って証明済みだ。
どの道、まずは味方の数を増やさなければならない。大佐でも誰でもいい。とにかくDIOを抑え込むのに必要な戦力が必要だ。


19 : 邂逅 賢者の意思/意志 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/24(金) 00:40:38 D/H4fye60
「よし、そうと決まればさっそく人数集めだ!みく、必ず助けてやるからな!」
「意気込むのはいいけど、さっさと協力者を探すわよ」
「わかってるよ。んで、どこからまわる?」
「音ノ木坂学院が近いけど、わざわざ学校を目指すような奴らにはあまり戦力として期待できないと思うわ。イェーガーズってところか図書館あたりがいいと思う」
「イェーガーズってのは軍部基地っぽいからわかるが、なんで図書館なんだ?」
「...図書館なら学校よりは大人も集まりやすいでしょ。ほら、早く行くわよ」
「勝手に決めるなよ」
「嫌なら私一人で向かうわ。じゃあ、後で温泉で合流で」
「...わかったよ。行先はその二つでいい。お前を一人にさせたらなにするかわかんねえからな」

学校は目指さないが図書館は目指す。
どう見てもチグハグな言動について、エドワードは考える。

(こいつ、戦力になる奴にあてがあるな)

学校に寄らない理由はなんとなくわかった。あのDIOを相手にするには、戦い慣れしていない者は足手まといにしかならない。
ならば、なるべく戦力となる者だけを選び向かった方がみくを助け出せる可能性は高い。それ自体には同感だ。
しかし、それで図書館を候補に挙げるのはおかしな話だ。
確かに大人はいるかもしれない。だが、そこへわざわざ向かうのは一般人の方が多いはず。
それでも図書館を候補にあげた理由はひとつしか考えられない。

(こいつには手を組んでいる奴がいる。しかも、参加者を殺してまわろうって奴だ)

エドワードが初めて御坂と会った時は、話し合うことすらせずに襲いかかってきた。
そんな奴が、ゲームから脱出しようとする者と手を組むはずがない。
となれば、相手は殺し合いの肯定者。それも、最低限、御坂と張り合える程度の実力者だろう。

(けど、わざわざ殺る気満々の御坂と手を組もうってんだ。そいつがただの戦闘狂である可能性は低い)

と、なれば脱出の鍵さえ見つけてしまえばその相手を説得することは可能かもしれない。

「...なあ。お前ってなんで殺し合いに乗ったんだ?」
「はぁ?」
(そのためには、まずは御坂のやつに殺しをやめさせなきゃな...)

そして、エドワードは語った。
先程の思考から見つけ出したひとつの解答を。


20 : 邂逅 賢者の意思/意志 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/24(金) 00:42:26 D/H4fye60


田村、初春、新一の三名と別れを告げ、ジョセフ・ジョースターとサファイアは北へと歩みを進めた。
脱出に必要な首輪のサンプルは、巴マミと園田海未のものがあったが、新一と田村と話し合い、両者の知り合いが納得してから回収すべきだと判断したために回収しなかった。

『...本当に、私などが一緒でもいいのですか?』
「なあに。最初も言ったが、ワシは死神から最も嫌われた男でな。乗り物は悉く大破するし、飛行機の墜落事故には小型セスナを含めれば4回も遭っておる。大気圏に限りなく近い場所からダイヴしたこともあるが、こうして元気に生きておるよ」
『......』

冗談にしか聞こえない体験談を笑い飛ばすかのように語ったジョセフ。
気を遣ってくれてるな、とサファイアは申し訳なく思った
そして同時に、今度こそ死なせたくないと決意した。

『ジョセフ様。エドワード・エルリック様を発見したら、一度田村様のもとへ返りませんか?』
「なぜじゃ?」
『田村様が仰るには、DIOは強さだけは本物のようです。それに、初春様の友達の御坂様もそうとうな能力を持っているそうですし...』
「ふむ...」

サファイアの言葉に、ジョセフは改めて方針を考える。
確かにDIOは倒すべき相手だ。
しかし、手がかりがあるとはいえ少人数で、しかも承太郎やアヴドゥル抜きで挑むのは少々荷が重いだろう。
それに、DIOが北にいるということは、同時にタツミとさやかはDIOと遭遇する危険性はかなり低いということだ。
一度、彼らと合流してから戦力を整えるべきではないだろうか。


「そうじゃな。エドワード・エルリックという少年と合流し、御坂美琴を説得してから決め直す必要があるかもしれんのう」
『御坂様...もですか』
「なぁに。説得に必要な材料は揃っておる。ワシに任せておきなさい」

ジョセフは既にさやかの説得に成功している(と思っている)。
さやかのとき同様、友人の名を出して思いとどまればよし。
それがダメでも、願いを叶えるための別の方法を提示してやればいい。

「殺し合いに乗る輩のタイプは大きくわけて三つ。ひとつは、単純に戦闘や殺しが好きなやつ。もうひとつは、どうにかして生き残りたいやつ。最後は願いを叶えたいやつじゃ」
『いずれにせよ、強固な意志であればあるほど説得は難しいのでは?』
「まあのう。しかし、前者はともかく後者ふたつは説得の余地は十分にあると思う」
『生き延びたいと思う者はともかく、願いを叶えたい者は...』
「田村から聞いたのだが、広川という男は思考はともかく、あくまでも普通の人間らしい。そんな奴が、時間や平行世界に干渉はできんはずだ」
『と、なると...』
「うむ。必ずや、奴の協力者や異次元に干渉する『なにか』を手にしているはず。優勝しなければ願いが叶わないというのは、言い換えれば広川が『優勝しなければ願いを叶えてくれない』だけにすぎない」
『つまり、願いを叶える手段さえ知ることができれば』
「殺し合い自体が意味を為さんものになる。そのために、まずは首輪を外さねばな」
『ですが、よろしいので?こんなことを広川に聞かれたら...』
「心配いらん。参加者のうちの何人かがゲームから脱出しようと考えるのは奴も予想済みじゃ。でなければこんな面倒な催しの主催なんぞできんわい。要は、その方法さえ知られなきゃいいのよ」

それに、と一旦言葉を切り、ピストルを持つような仕草を見せつける。

「もしワシがピストルなど持った途端に『今から全員皆殺しじゃー!』などと、殺し合いに乗ったような様を見せつければ、そっちの方が怪しく思われるわい」
『そういうものでしょうかねぇ...』
「広川はワシらの性格や関係を既に把握しておる。自然体に振る舞うのが一番じゃよ」


そして、歩くこと十分程度だろうか。

ジョセフは、前方の道を歩く金髪の少年と中学生ほどの少女を発見した。

(金髪にあの身長...彼がエドワード・エルリックかのう)

アンジュから聞いた特徴は一致している。それに、二人組であることから殺し合いに乗っている可能性は低いと見た。
ならば、早々に合流すべきだろう。


21 : 邂逅 賢者の意思/意志 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/24(金) 00:44:38 D/H4fye60




「そんなことありえるわけないじゃない!」
「だから、まだ予想の範囲だって言っただろうが!...けど、無闇に殺しまわるよりこっちの方が絶対可能性が高いはずだ」
「...と、とにかく私は自分の信じた道を進むから」
「好きにしろ...って言いたいところだがよ、俺の目が黒いうちは、殺しなんざ絶対にさせないからな」
エドワードは、首輪は外せる可能性が高く、主催の持つ願いを叶える方法を奪ってさえしまえば、優勝する必要はない旨を御坂に伝えた。
尤も、あくまでも予想の範囲にしかすぎないこの意見は彼女に受け入れられなかったが。

「おぉ〜い!」

どこからか響く声。
振り返ると、やたらと体格のいい老人がこちらに手をふっている。

「ワシの名はジョセフ・ジョースター!きみはエドワード・エルリックか!?」
(...なによあいつ。こんな殺し合いで声をかけるなんて馬鹿じゃないの?)

訝しがる御坂を余所に、エドワードは呼びかけに答える。

「ああ、俺はエドワード・エルリックだ!」
「きみのことはアンジュから聞いておる!ワシもこんな殺し合いに乗るつもりはないから、一度きみと話がしたい!」

ジョセフの言葉に、思わずエドワードの頬が緩んだ。
もしも、マスタングら元々の知り合いから聞いたということであれば、それを利用して自分を利用・殺害しようとする可能性はある。
しかし、アンジュとは数時間前に別れたばかり。放送でも呼ばれていないので、アンジュを殺害して情報を得た可能性は無い。
もちろん、アンジュを利用する悪党の可能性もないことはないが、少なくとも前者よりは危険は低い。

「ああ!こっちこそよろしく頼む!」


こうして、老練なる策士と鋼の錬金術師は邂逅する。
しかし、ジョセフ・ジョースターはまだ知らない。
エドワードに同行している少女が、殺し合いに乗ってしまった少女、御坂美琴であることを。
そして、DIOがエドワードの仲間を拉致したために、もはや一刻の猶予もないことを。
エドワード・エルリックはまだ知らない。
DIOがジョセフの血を吸ったとき、DIOは更なる高みへと上り詰めることを。


22 : 邂逅 賢者の意思/意志 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/24(金) 00:46:37 D/H4fye60
【G-4/一日目/朝】



【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中〜大)
[装備]:いつもの旅服。
[道具]:支給品一式、三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、市販のシャボン玉セット(残り50%)@現実、テニスラケット×2、
     カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、エドワード・エルリックのコート
[思考・行動]
基本方針:仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡吹かせる。
0:エドワード・エルリックと情報交換をする。
1:北に向かい、初春の友人の御坂美琴の説得とサファイアの仲間であるイリヤの探索。 DIOを倒しに向かうかは保留。
2:仲間たちと合流する
3:DIOを倒す。
4:DIO打倒、脱出の協力者や武器が欲しい。



[備考]
※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。
※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。
※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。
※殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語で認識されると考えています。
※初春とタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※時間軸のズレについてを認識、花京院が肉の芽を植え付けられている時の状態である可能性を考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。


[サファイアの思考・行動]
1:ジョセフに同行し北に向かい、イリヤとの合流を目指す。
2:魔法少女の新規契約は封印する。



【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(大)深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟? 、吐き気、頬に掠り傷、焦り
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×6
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:DIOを倒すまでエドワードと組む。 DIOを倒したあとはエドワードを殺す。
1:図書館へ向かいキング・ブラッドレイを探す。
2:黒子達はこの手で苦しまないように殺す。
3:戦力にならない奴は、エドワードに気付かれないように慎重に始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
4:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
5:一先ず対DIOの戦力を集める。(キング・ブラッドレイ優先)
6:殺しに慣れたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※御坂がエドワードに優勝を狙う理由を話したかは後の方にお任せします。


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、コートなし、焦り、右の額のいつもの傷
[装備]:無し
[道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
不明支給品×3〜1、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×4(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ、みくの不明支給品1〜0
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
0:DIOを倒しみくを助ける。 ジョセフと情報交換をする。
1:DIOを倒すまで御坂と組む。DIOを倒したあとは御坂をぶちのめす。
2:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したいが、御坂を連れて会うのは不味いか?
3:エンブリヲ、DIO、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
4:対DIOに備えて戦力を集める。
5:御坂に人は殺させないし、死なせもしない。
6:首輪のサンプルを手に入れる。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。 関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。


23 : 邂逅 賢者の意思/意志 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/24(金) 00:47:12 D/H4fye60
投下終了です。


24 : 名無しさん :2015/07/24(金) 01:11:08 3GkWvN4.0
投下乙です

>幸せ砂時計 ◆jk/F2Ty2Ks
みくにゃんの足ががががががががが
このコンビ容赦なさすぎ

>白色の爆弾
イリヤの心理掌握の爆弾が見事に点火
クロエもイリヤ探しているけど再会しても無事な気がしない

>ツキアカリのミチシルベ ◆BLovELiVE.
今度はセリューかよ!?
平常運転とはいえ穂乃果達にはヘビーすぎる・・・

>亀裂 ◆w9XRhrM3HU
キンブリーもエンヴィーも生き生きしているなあ
銀ちゃんファインプレーだけどヤバいフラグてんこ盛りなのがなあ

>溢れ出る気持ちは誰のもの? ◆BEQBTq4Ltk
しまむらさんはしまむらさんだよー
うわあ、もう卯月が見ていられない

>邂逅 賢者の意思/意志 ◆dKv6nbYMB
首輪に関して新解釈出てきたが果たしてその真偽や如何に
そして美琴はまだ誰も手に掛けていないせいか揺れているな


25 : 名無しさん :2015/07/24(金) 12:53:34 meFMxLM.0
投下乙です

みくにゃんが酷い事に
ニーサン無敵の賢者の石と錬金術で何とかして下さいよォー!

イリヤは次あたりで倒れてしまいそうだが大丈夫か
クロとの合流もうまくいく気がしない、うまくいって欲しいが…

セリューさんは正義の味方デスネー(棒)
ウェイブと大佐は順調に泥舟に

キンブリーに踊らされるのを銀ちゃんがなんとか凌いだか
キンブリーとエンヴィーはその調子でウェイブと大佐の悪評をどんどん広めてほしいですね

うわあああ島村さんの色相が…
助けてコーガミさん!

御坂さんはマーダーやれそうにないっすね
サファイヤとニーサン、ジョセフの考察に期待


26 : ◆w9XRhrM3HU :2015/07/26(日) 20:34:06 XaQ/AU7c0
投下します


27 : ダークナイト ◆w9XRhrM3HU :2015/07/26(日) 20:35:32 XaQ/AU7c0
「あなたは高坂さんのご友人を殺した方の仲間なのだということを、しっかりと受け止めた上で決断してくださいまし!」

「俺は―――」

「分かりました! 私が彼女を追います!!」

ウェイブの決断よりも早く、セリューの声が響き渡る。
この場に居ないはずのセリューの声にウェイブは言葉を遮られた。

「セリュー、お前イェーガーズ本部まで先行してたんじゃ」
「ええ、行ってきましたよ。この正義都市探知機で、人は誰も居ないことを確認しました!」

見ればセリューの右腕に巨大な円盤状のモニターがくっついていた。
コロの中に収納された武装、十王の裁き。
その内の一つ、都市探知機は主に民間人を戦闘に巻き込まないよう、その有無を調べる際に使用するレーダーだ。
これを使ったことで、セリューはイェーガー本部周辺に人が居らず、安全であることを即座に確認し終えウェイブの元へ引き返した。
ウェイブの怪我もさることながら、マスタングも酷い怪我だ。自分の介抱が必要になるかもしれないと考えたのだ。

「行くって、お前がことりって娘を殺したから……」
「その通りです。だからこそ、高坂さんには直接話して、理解して欲しいんです。
 私はウェイブが信じた高坂さんが正義だと信じてます。だから、誤解されたまま終わりたくない。
 私も、皆さんの仲間になりたいんです!!」
「貴女、正気なn……」
「これは私の責任でもありますからね。では、行ってきます! ウェイブはマスタングさんとイェーガーズ本部のガハマちゃん達をお願いしますね!!」

まるで台風のように喋るだけ喋ると、セリューは二人の話も聞かず走り去っていく。
セリューは黒子とウェイブの会話を聞き、自身の責任を改めて実感した。
確かに悪・南ことりを殺害したことは、胸を張って正義と言える。だがその友人にとっては、受け入れがたい重い事実でもある。
またしても配慮が足らなかった。すぐ気絶する島村の時もそうだが、穂乃果に対しても同じ失敗を犯してしまった。
これはセリューのミスであり、責任でもある。せっかくウェイブの信じた仲間を、こんな形で失いたくはない。
ウェイブの決断前に戻ってこれたのも運命だろう。この責任はセリューが果たさねばならないのだと、天が導いているに違いない。
南ことりの死によって守るべき弱者、穂及果が悪の道を走らないよう正義の道へと導く責任を果たさねばならないのだ。

「これは私にしか出来ない。 悪とはいえ、友人を殺してしまった私の重大な責任です!
 高阪さん、私が貴女を決して悪の道に進ませはしませんからね!」

「あの、馬鹿……!」

穂乃果とセリューを二人っきりにするのは不味い。
咄嗟にそう判断したウェイブがセリューの後を追おうとして黒子に腕を掴まれる。

「私が行きますわ。ボロボロの貴方より、空間移動を使える私の方がセリューさんには追いつけるでしょうし」
「俺だって……」
「さっきとは状況が変わりましたわ。セリューさんと高阪さんが接触する前に追いつかないと、どうなるか貴方にも分かっていますわよね?
 ……もう貴方の返事を聞く暇はありませんの」

僅かに花陽とマスタングに一瞥をくれてから、黒子は空間移動によって姿を消した。
残されたのは、気絶した花陽と、切断された右腕の苦痛に耐えるマスタング。
そして、ウェイブだけだった。


28 : ダークナイト ◆w9XRhrM3HU :2015/07/26(日) 20:35:56 XaQ/AU7c0

「今からでも、三人を追おう。私の怪我なら平気だ。運が良ければ医療を極めた錬金術師に出会えるかも知れない」
「駄目だ。イェーガーズ本部にセリューが保護した奴らも居るし、その怪我で無理したら本当に死んじまう……」

黒子が与えてくれた選択の時間。
ウェイブはあの場面で即答すべきだったのだ。
追うにしろ、追わないにしろ。時間を取ってしまったが為に、セリューが穂及果を追うという最悪の事態を招いた。

「俺が、迷わなければ……」
「ウェイブ……」

いくら後悔しても過ぎた過去は巻き戻せない。
それに、危ないのは穂及果だけではない。マスタングも治療が必要で、イェーガーズ本部の二人の民間人も早急に保護すべきだ。
後悔をしている暇などない。

「悪いなマスタング。俺の治療は手荒になるかもしれない」
「それは構わんが、あの三人は……」
「黒子に任せるしかねえ。それよりも自分の事を心配しろ」

頭を無理やり切り替えて、ウェイブはイェーガーズ本部へと歩みだした。
全てが丸く収まるよう祈りながら。







走っていると嫌なことを考えずにすんだ。
多分、頭にあまり酸素が回らくなるからかもしれない。
穂乃果は特別走るのが好きな訳ではないが、今だけはずっと走り続けていたいと思った。

「はぁはぁ……」

息が上がり、体が運動を悲鳴を上げるが、強引に動かし続ける。
止まりたくない。止まってしまったら、嫌な現実と向き合わなければならない。
嫌だ。もうあんなものは一秒たりとも見ていたくない。

「待ってください! 高阪さん!!」

穂乃果の思いを嘲笑うように、一つの声が飛んできた。
走っていた足が、反射的に止まってしまう。
そのまま、今度は足が小刻みに震える。足の疲労からではなく、恐怖の為にだ。
穂及果の耳に響いたのは聞きたくも無い、忌まわしい女の声。
誰でもない。セリュー・ユビキタスその人の声。
震えた足が立つことを止め、膝が崩れて思わず、腰が抜け穂及果は尻餅を付いてしまう。
逃げようとする意志に反して、体が言うことを聞かない。

「話を聞いてください、高阪さん!」

殺される。そう思った穂及果に反して、セリューは優しい笑みを見せた。
ことりを殺した殺人者とは到底思えない、綺麗な笑顔にギャップを感じる。

「話って……」
「ええ。良いですか? 貴女は悪・南ことりの死に悲しむ必要なんて全くないんです」
「……え?」
「彼女は、死んで当然なんですから!」

揺ぎ無い強い信念と正義は必ず通じるとセリューは信じている。
だからこそ、セリューは熱意を以って、穂乃果に悪・南ことりの残虐性を説いてゆく。


29 : ダークナイト ◆w9XRhrM3HU :2015/07/26(日) 20:36:22 XaQ/AU7c0

「悪・南ことりは人を殺めることに何の躊躇いも無い。血も涙も失った獣、外道なのです!
 危ないところでしたよ。高阪さんに何食わぬ顔で近づいて、友達を演じられたまま放っておけば、いずれ何をしでかすか……。
 私、その前に南ことりを殺せてよかった」
「違うよ……ことりちゃんは、友達を演じてなんて、外道だなんて……」

否定されているようだった。
ことりを殺すばかりかその性格も、今まで培ってきたことりとの思い出も全部が間違っている。そう言われているようだ。
恐怖が消え、徐々に穂乃果の中に憎しみが湧きあがる。

「確かに、ご友人を失ったのは辛いと思います。でも、それも乗り越えなければなりません!
 私も二人の恩人を、ナイトレイドによって殺されました。あっ、この場にはその一人、アカメも居るので高阪さんも気を付けて下さいね」

「セリューさんが、殺したから……ことりちゃんを……」

「その通りです! 私は正義を為しました! 悪を一人この世から抹消しました! 
 これは喜ぶべき事なのです! 高阪さん、目を背けてはいけません。厳しい現実ですが、逃げてはいけない。
 少しずつで良いです。南ことりが悪であるという事を理解しましょう。私も一緒に貴女を支えますから!」

「支える……?」

「はい! 私達、もう仲間ですから!」

そう、仲間である。
ウェイブが信じた仲間なのだ。それはもうセリューにとっても、掛け替えのない仲間だ。

「そうだ。私、高阪さんじゃなくて、穂乃果ちゃんって呼んでも良いですか?」

セリューは実に晴れ晴れとした気分だった。
結衣の時もセリューが正義を説き、彼女は思い留まってくれた。ならば穂乃果もそうであるべきだ。
やはり、正義は素晴らしい。こうして正義により、一人の少女を悪の道から引きずり上げることができた。

「……」

「嬉しいです! 仲間が増えるというのは本当に良い事ですね!
 さあ、戻りましょう。皆さんが心配してますよ、穂乃果ちゃん!」

感激し、感動し、身が震えているのだろうとセリューは思った。
ここまで、自分の話を真摯に受け止めてくれるとは、穂乃果は何と良い娘なのだろう。
絶対に守らなくてはならないと、セリューは強く決意する。

「セリュー、さん……」
「はい!」

穂乃果が顔を上げる。涙で濡れた顔には悲しみが見える。
でも、その悲しみを今彼女は乗り越えようとしているのだとセリューは思った。
支えなければ。仲間として、友として!
セリューの体をその使命感が突き動かし、穂乃果へと手を伸ばした。

「死んで……」

穂乃果の手には黒のローブのようなものが握られていた。
恐らく、そのロープでセリューの首を絞め窒息死させるのが狙いだろう。
もっとも、それはレベルアッパーのイヤホンのコードであり、人を殺傷するには細すぎてあまりにも心許ない。
だが、そんなことはセリューには関係が無い。重要なのは、明確な殺意を以って穂乃果が人を殺めようとしていることだ。
セリューは迷い無く、穂乃果の鳩尾に足蹴りをぶち込んだ。
足がめり込み、穂乃果の目からは更に涙が滲み出てくる。


30 : ダークナイト ◆w9XRhrM3HU :2015/07/26(日) 20:36:45 XaQ/AU7c0

「がっ、あぁ……」

アイドルの口から漏れたとは思えない、醜悪な呻き声がセリューの耳を撫でる。
実に不快だとセリューは思った。

「……残念です。貴女まで悪に染まるとは。せっかく、仲間だと思ったのに……!
 悪・高阪穂乃果、排除する」

無様に転がっていく穂乃果をゴミの様に見ながら、淡々とセリューは穂乃果の殺害を宣言した。
穂乃果の元までセリューは歩み寄り、日本刀を抜く。
その横でコロも腕を組み、穂乃果を見下したような表情を浮かべ、餌を待っていた。

「喜べ、南ことりを殺した刀でお前も殺してやる」

日本刀を穂乃果の丁度、首の辺りに狙いを定めで振り下ろす。
その瞬間、セリューとコロが何かに触られた。
奇襲を想定し穂乃果の止めを後回しに、距離を取ろうとした一人と一匹は一瞬にして消えた。

「……本職の警察が聞いて呆れますわ」
「白井、さん……?」
「立てますの? 高阪さん」

消えたセリュー達に変わり、穂乃果に手を差し伸べたのは黒子だった。
手を取り、穂乃果は勢いに任せたまま黒子に抱きついた。

「こ、高阪さん?」
「ありがとう……私、死んじゃうかと思って……それで……」

黒子に抱きついたまま、穂乃果はお礼を言いながら、黒子の胸の中で泣き声をあげる。
驚きで固まった黒子だが、穂乃果の泣き声を聞いて一度、穂乃果の頭を撫でた。
それから、黒子は優しく穂乃果の顔を自分の胸から引き離す。

「高阪さん、逃げますわよ」
「逃げるって……」
「セリュー・ユビキタスからですわ。彼女は貴女を殺すべき対象と見ているのは間違いありませんの。
 空間移動でなるべく遠くに飛ばしましたが、すぐに追いかけてきますわ」
「花陽ちゃんやマスタングさんは……」
「あの二人はウェイブさんが付いてますわ。それよりも貴女の方が……」

「正義閻魔槍!!!」

黒子が言い終わるより早く、腕に巨大ドリルを着けたセリューが隕石の如く降ってくる。
穂乃果と黒子が居た場所にクレーターが出来上がるが、そこにはセリューは狙った二人の死体はなかった。


31 : ダークナイト ◆w9XRhrM3HU :2015/07/26(日) 20:37:04 XaQ/AU7c0

「チッ、逃げたか! コロ、9番! 正義都市探知機!」

子犬のような容姿から、熊のような巨大で獰猛な姿を変えたコロがセリューの右腕に被りつき、武装を変更する。
先程も使用した都市探知機で、セリューは二人が何処に居るか探し当てるつもりだった。
だが、セリューの右腕に付いている都市探知機は何の反応もしない。

「何だ? どうして動かない!?」
「ガウ……」
「コロ? 何この紙……」

コロが手渡した紙をセリューが受け取る。
それは説明書だった。コロもといヘカトンケイルの扱いを記す説明書であった為、大半の記述は本来の所有者のセリューには無意味なものだ。
たった一点、制限による記述以外は。

「……都市探知機は12時間に一度しか使用できない……?」

都市探知機に課せられた制限は、一度使用に12時間のインターバルがなければ再度の使用は不可能であるというものだった。
参加者の位置情報は、戦闘に関してかなりの優位性をもたらす。公平性を考慮しての制限だろう。

「そうか。一度コロは広川の手に渡ったから、その時に十王の裁きも……忌々しい」

下手をすれば、他の十王の裁きも制限を課せられている可能性は高い。
この説明書は後で読み込んでおく必要がある。
セリューは説明書を懐に仕舞い込んだ。

「高阪穂乃果、そして逃亡を手助けした白井黒子、あの二人は何としても殺さないと……」

恐るべき悪だ。
ウェイブの信頼を勝ち取ったかと思えば、その内にあれほどの悪を内包しているとは。
やはりウェイブは実力は完成されているが、メンタルが脆すぎる。
ちゃんと話したところで、ウェイブはこちらの話を理解できないかもしれない。
彼は何処か甘すぎるのだ。人としては信頼に足る好青年ではあるが、正義をちゃんと認識していないところがある。
ここは内密に二人を始末し、話をウェイブ好みにでっち上げておくべきだろう。

「でも、場所が分からない。変成弾道弾でこの辺りを吹き飛ばしてもいいけど、もし関係の無い人が居たら。
 ……仕方ない。地道に探すしかないか」

周囲の探索を行い、それでも見つからない場合は一旦イェーガーズ本部に引き返そうと予定を立てた。
幸い、コロは鼻が利く。近くに居れば発見も難しくはない。
セリューはコロに穂乃果と黒子の匂いを追うよう命令を下した。

「何処に居ようが絶対に見つけ出してやる……!」

その顔は笑顔だった。
まるで倒すべき悪が現れたことに、感謝しているかのように邪悪に歪んでいた。


32 : ダークナイト ◆w9XRhrM3HU :2015/07/26(日) 20:37:47 XaQ/AU7c0




【C-5/1日目/朝】

【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、左肩に裂傷、怒り、悲しみ、迷い
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!、
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。
0:キンブリーは必ず殺す。
1:イェーガーズ本部に向かう
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:首輪のサンプル、工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:仲間たちとの合流。
6:今後の方針を固める。
7:穂乃果……
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。

【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(極大)、精神的疲労(極大)、左肩に穴(止血済み)、両足に銃槍(止血済み)、右前腕部切断(焼いて止血済み)
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:ディパック、基本支給品、冷凍されたロイ・マスタングの右腕
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:穂乃果と、そして仲間たちと話してみる。
1:傷の治療のためにイェーガーズ本部に向かうべきだが―――?
2:エドワードと佐天の知り合いを探す。
3:ホムンクルスを警戒。 エンヴィーは殺す。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。


【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません)、精神的ショックにより気絶中
[装備]:音ノ木坂学院の制服
[道具]:デイパック、基本支給品、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ
    スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す?
1:??????????????
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後。


33 : ダークナイト ◆w9XRhrM3HU :2015/07/26(日) 20:38:13 XaQ/AU7c0

【C-6/1日目/朝】


【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、スピリタス@ PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春などの友人を探す。
1:穂乃果をセリューから逃がす。
2:エンヴィーは倒すべき存在。
3:御坂を始めとする仲間との合流。
4:マスタングに対して――。
5:セリュー・ユビキタスに対して強い警戒心と嫌悪感。
[備考]
※参戦時期は不明。

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的ショック(大)、錯乱中、セリューに殺意
[装備]:練習着
[道具]:基本支給品、鏡@現実、イギーのデイパック(不明支給品0〜2)
     幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、コーヒー味のチューインガム(1枚)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す?
0:嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
1:黒子と逃げる
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※幻想御手はまだ使っていません。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています


【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:日本刀@現実、肉厚のナイフ@現実、魔獣変化ヘカトンケイル@アカメが斬る!
[道具]:ディバック×2、基本支給品×2、不明支給品0〜4(確認済み)、首輪×2
[思考]
基本:会場に巣食う悪を全て殺す。
0:ウェイブに知られないよう内密に黒子と穂乃果を殺す。見つからなかった場合はイェーガーズ本部に戻る。
1:悪を全て殺す。
2:0を終えた後、イェーガーズ本部へ。
3:エスデスを始めとするイェーガーズとの合流。
4:ナイトレイドは確実に殺す。
5:取り立ててμ'sメンバーを警戒する必要はない?
6:ウェイブには穂乃果と黒子の件に関して、話を都合のいいようにでっち上げる。 
[備考]
※十王の裁きは五道転輪炉(自爆用爆弾)以外没収されています。
※他の武装を使用するにはコロ(ヘカトンケイル)@アカメが斬る!との連携が必要です。
※殺人者リストの内容を全て把握しました。
※ことりの頭部はコロによって食べられました。
※穂乃果と黒子を悪だと認識しました。
※都市探知機は一度使用すると12時間使用不可。
※都市探知機の制限に気付きました。


34 : ◆w9XRhrM3HU :2015/07/26(日) 20:38:27 XaQ/AU7c0
投下終了です


35 : 名無しさん :2015/07/26(日) 20:52:58 9gVQsoUU0
投下乙です

もう何回、正気ですか!セリューさん1?と突っ込んだかw
黒子の中一とは思えぬ頼もしさ、穂乃果との逃避行ははてさてどうなるか
そしてウェイブ君は順調にドツボに嵌っていってますねぇ


36 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/26(日) 21:19:10 KaotDwxc0
投下お疲れ様です。

いやーやっぱセリューは良いキャラしてますよね、一番最初に書きたかった。
ことりちゃん殺したのは自分なのに穂乃果の説得に名乗りでる辺りも可愛い。
頑張れ黒子…黒子を応援してます。
ウェイブと大佐はしまむーを救ってもらいたいですね…。

それでは私も投下します。


37 : 足立透の憂鬱 ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/26(日) 21:21:49 KaotDwxc0

「さて、これからの事について話そう」

コンサートホールの淵に座り脚を組みながら語り掛けるエスデス。
座ることにより強調される身体のラインと胸部、長い脚と整った顔立ちは正に美女。
氷のように美しい彼女だがその性格に難があるのが非情に残念である。

コンサートホールの客席最前列に座る人物が数人。
アヴドゥルの隣に承太郎が座り、一つ席を開けてまどかが座っている。
彼女から二つ席を開けた所に足立が座っておりその隣にヒースクリフが座っている構図だ。

(頼むから可笑しな事を言うんじゃあないぞ)

アヴドゥルはエスデスの言葉に嫌な予感を感じながら次なる言葉を待つ。
出会いは最悪だった。まさか交戦状態に陥るなど誰が予想出来るのか。
強烈な性格を持つエスデスだがそれで見た目はパーフェクト、神は遊んでいるのだろうか。

「まずはまどか。大分落ち着いたか?
 先ほどは随分と大変だったが……生きていて何よりだ」

「あれは皆さんのおかげです……ご迷惑をお掛けしました」

エスデスが最初に話し掛けたのは鹿目まどか。
エルフ耳の男に襲撃された鹿目まどかは他の助けもあり生き延びていた。
元凶は逃がしてしまったが再度襲われる危険もあるため、こうしてエスデスは皆をコンサートホールへ集め直していた。

「……殺し合いに乗った馬鹿がいたからな。気にすんじゃねえ」

「承太郎の言うとおりだ。君が気負う必要はないぞ」

「ありがとうございます。承太郎さん、アヴドゥルさん」

謝罪をするまどかに精神的負担を掛けないように承太郎が返答する。
それに続きアヴドゥルも発言しまどかのフォローに回る。
さり気なく、自然に言葉を紡ぐことよって負担を減らすのは大人の勤めだ。
大人と言ってもそれ程まどかと年が離れている訳ではないのだが。

(そうだお前らはまどかのフォローに回ると思っていたよ)

声には出さないがエスデスの顔は終始笑っている。
精神が一番不安定であるまどかに話し掛け彼女の口から言葉を引き摺り出す。
現環境で話を振らなければまどかは沈黙を貫くだろう。
最初に話し掛けたのはエスデスなりの優しさである。
しかしその優しさは仲間に掛ける優しさではなく、手駒に掛ける優しさ。
承太郎達がフォローするのを含めて全て彼女の思い通りに進んでいた。

「話というのも情報交換……と言いたいがまぁ、粗方済んでいるだろう。
 私が提案するのは変わらずDIOの館に攻めこむことだが……意見を聞きたい。特に承太郎とアヴドゥル」

全員が全員顔を合わせての情報交換は済んでいない。
しかし足立とヒースクリフが、まどかと承太郎が、エスデスとアヴドゥル。
それぞれが交換を終えており、エスデスが居ない間にもアヴドゥルとヒースクリフ達は交換している。
アヴドゥルと元から知り合いである承太郎にとっては無意味に近い。
つまり、ある程度の情報は持っており特別な時間を設ける必要がない。
情報交換を行いたければ道中にでも勝手に話せばいいだけのこと。


38 : 足立透の憂鬱 ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/26(日) 21:23:18 KaotDwxc0

エスデスが進めるのはDIOの館に攻めこむ事。
アヴドゥルから聞かされた危険な男であるDIO。
エスデスの興味は全力で彼に注がれており、今でもDIOを勝手に狙っている。

「意見ってのはなんだ。
 まさかとは思うが俺が何か言ったら攻め込むことを中止するタマには思えないが」

「言うな承太郎……私はDIOに対する知識が無くてな」

「エスデス……テメェまさかDIOのことを知らねえ癖に攻め込もうとしてるのか?」

「ああ。私がDIOについて知っていることはアヴドゥルが教えてもらった悪ということだけだ」

信じられないぜ。口には出さないが承太郎は帽子を深く被り思った。
椅子に腰を掛けるのも大分大雑把になってしまう。
エスデスがDIOのことを知らないで倒すと言っているのが理解出来ないといった態度だ。
当然である。会ったこともない人間を見ず知らずの他人から聞いた情報だけで殺す。
普通の人間には出来ない発想である。
DIOが倒すべき相手に変りないため何とかなるが、仮にDIOが悪ではなかったとしたら。
誰が責任を取るのだろうか。

「私を睨んだところで何も変わらないんだ承太郎……私だって苦労している、何故か此処でも苦労している」

まどかを挟み横目で睨んでくる承太郎に対しアヴドゥルは小声で釈明を行う。
承太郎の視線は「なに面倒なこと吹き込んでやがる」と言った威圧的な視線であった。
しかしアヴドゥルがエスデスに言ったことはDIOが危険人物であることだけ。

全てはエスデスが勝手に盛り上がっているだけであり、アヴドゥルに非はない。
小声を聞いた後でも承太郎はアヴドゥルを睨んだまま。
その瞳はお前が喋ろと命令しているような冷たい視線であり、アヴドゥルは仕方なく口を開いた。

「足立さんやヒースクリフさんにもまだ説明していなしエスデスにもちゃんとしたことは言っていない。
 まどかも承太郎から聞いているかどうか怪しいから私の口からある程度だけ話させてもらおうか。DIOは……吸血鬼だ」

「は?」

「どうした足立、間抜けな声で」

アヴドゥルの口から語れるDIOの詳細。
彼が知っていることを「ある程度」だけ話し始めた。
まずはDIOの正体――人外なる吸血鬼であること。
足立は驚きの声を上げ、エスデスがそれを問い詰める。


39 : 名無しさん :2015/07/26(日) 21:24:35 KaotDwxc0

「どうしたって……吸血鬼が存在すると思います?」

「可笑しくないと思うぞ」

「……あっはい」

有りの儘リアクションを取った足立は会話が自然に成立してしまい唖然とする。

「何か言いたいことがあるのか」

「言いたいことって言うかまぁ、俺はスタンドだとか魔法少女だとか馴染みが全くなくてですね。
 そう簡単に吸血鬼とか信じられないんすよ。この殺し合いも含めて、ね」

「実際に起きているんだから受け入れるしかあるまい。
 それに足立よ、お前だって「今」力が無いだけじゃないか?」

「何を言っているか解りませんね……アヴドゥルさん、続きー」

エスデスに何を言っても通じない。
自分の中にある固定概念が絶対であると認識している女に何を言っても無駄だ。
足立は自分の主張が通らないと諦め、アヴドゥルに話しの続きをするように溜息を吐きながら振った。

その言葉にアヴドゥルは頷き、席から立ち上がる。
主張する側の人間が傍聴側と同じ目線で話すよりも効果が上がる。
舞台の淵に座るエスデスと客席に座る足立達を視界に捉えるように立ち位置を調整した。

「言ったとおりDIOは吸血鬼だ。
 過去にジョースターさんの……空条承太郎のお爺さんに当たるジョセフ・ジョースター。
 更に時を遡りジョースターさんのお爺さんであるジョナサン・ジョースターの友がDIOだ」

「吸血鬼だから何世代に渡っても生きてるんすねー……はぁ」

「ジョナサン・ジョースターはその生命と犠牲にDIOと共に海底に沈んだ……はずだった。
 長い年月を経て首だけだったDIOはジョナサン・ジョースターの身体を乗っ取り現世に復活した」

(首だけって……最初に言っとけって話しなんだよなぁ)

「随分と奇妙な存在なんですね、DIOは」

「そうだヒースクリフ。信じられないと思うが事実だ、なぁ承太郎」

「……ああ」

流れるように進むDIOの正体。
本来ならば吸血鬼など誰も信じないが、聞いている人間は皆異能を持っている。
一部例外が居るが、どいつもこいつも日常に相応しくない経歴を所有しているのだ。
今更吸血鬼の一人や二人では驚かない……可笑しな話ではあるが彼らはそれなりに修羅場を通り抜けてきた。

「お前らの知り合いなんだ、アヴドゥル。
 DIOもスタンド能力を持っているのだろう? そのスタンドとやらを教えてくれ」

「その通りだが能力は不明でな……ん?
 エスデス、今お前は「まるでスタンドを知らない」ような言い方だったと思うんだが私の耳が詰まっていたかもしれない。
 済まないがもう一度言ってくれないか?」

「お前は何を言っているアヴドゥル。私はスタンドを知らないから聞いているんだ」

「あー、そうか……そうなのかエスデス」

アヴドゥルの頬を伝う汗が静かに床へ落ちた。
彼がエスデスと出会った時、彼女は氷のスタンドを発現していた。
魔術師の赤の炎を相殺するほどの能力で、本人曰く三割程度の力だと言うのだ。
DIOの刺客と同格かそれ以上のスタンド使いだと思っていたがどうやら違うらしい。


40 : 名無しさん :2015/07/26(日) 21:26:13 KaotDwxc0


「幽波紋とは……私の魔術師の赤や承太郎のスタープラチナのようなもの、と言えばいいか?」

「それは知っている……が、まぁいい。
 私に説明するのも面倒なんだろ。DIOが吸血鬼ということも解った。
 ならば太陽が昇っている今が好機だな……これから私が編成を発表させてもらう」

「――は?」

エスデスの発現には毎回驚かされる。
アヴドゥルは驚愕の声を挙げ、また始まったと半ば諦めている。
黙って聞いていたまどかは何の脈絡なく提案されそうになる編成に頭の処理が追い付いていない。
ヒースクリフは黙って聞いている。
承太郎はエスデスへ鋭い視線を送った後、早く喋れと促した。
足立はもうどうにもでなれと言わんばかりの態度で手を振っていた。

「私とアヴドゥルとヒースクリフが外に出て更に仲間を集める。
 索敵と悪を殺すことも含めたちょっとした遠征に向かおうと思う。他は留守番だ。
 なにか意見があれば気にすること無く発言してくれ――ますはアヴドゥル、この中で少しだけではあるが一番付き合いがあるからな」

「そうか、ならば言おう。意味が解らん」

「DIOは危険な奴なんだろ? そして此処は殺し合いの会場だ。
 わざわざ奴の名前が記載されている施設があるんだ、攻め込むのは普通だろう。
 編成についてだが……あまり聞くな。お前とヒースクリフは私と共に外へ出る、なぁヒースクリフ」

結局私の言い分は無視されているではないか。
と思い、拳を握るアヴドゥルだがどうせこの女には伝わらない。
若干音を響かせるように客席に腰を降ろした。

エスデスに振られたヒースクリフは眉を動かす。
席を立ち上がることはしないが、自分の意思を示すため口を動かした。

「人選について気になることもありますが……構いません」

「……まじ?」

「少しの間だけ行ってきます」

ヒースクリフの肯定に、隣に座っていた足立は何度目になるか解らない驚きの声を上げた。
付き合いは短いがこの中では一番ヒースクリフと長いのが足立。
エスデスとの合流も素直に受け入れていたことから、ヒースクリフは思ったよりも好戦的らしい。

「……承太郎」

「骨は拾ってやる……が、死ぬんじゃあねえぞ」

「当然だが……損な役回りは私以外に適任が居ると……はぁ」

承太郎に助け舟を要求したアヴドゥルだが悲しい瞳であしらわれる。
どうにでもなれと思いながら重い腰を上げて彼らは仲間と敵を求めてホールを出た




41 : 名無しさん :2015/07/26(日) 21:26:47 KaotDwxc0

「私達を指定した理由……あるのかエスデス」

ホールの外に出たアヴドゥルはエスデスに編成の理由を問う。
この女のことだ、何も考えずに選んだ訳ではないだろう。
言葉を聞いたエスデスはアヴドゥルの方へ振り返ると、黒い笑みを浮かべて答えた。

「鹿目まどかは精神的に疲労しているからな。あいつには残ってもらい安静にしてもらわなくてはならん。
 大人しい見た目をしているが襲撃者を殺す覚悟を持っている……面白い手駒だからな」

手駒。
この言葉に怒りを覚えるアヴドゥルだが、今は黙ってエスデスの話を聞く。
ヒースクリフは興味を示しながらエスデスの声に耳を傾けていた。

「精神が歳相応に脆いなら誰かが傍で支えてやらんとな。
 この面子の中であいつと一番付き合いがあるのは承太郎だ。セットで置いておけば鹿目まどかの疲労も和らぐだろう」

(こ、この女……頭が良く回るそれもジョースターさんと同じくらい……ッ!
 やはり敵に回すと厄介な女だぞこいつはぁ……エスデス、何を考えているんだ)

戦闘を求めるイカレタ美女エスデス。
性格と人間性に難有りだが他人への配慮と一瞬で他者の状況を見抜き、良采配をする手腕。
相当なやり手である。しかも上位の戦闘能力を所有していると来たもんだ。

敵に回すと自分が劣勢になるのは間違いない。
エスデスの言葉が本当ならクロスファイアー・ハリケーンは彼女の力三割で相殺されてしまう。
何処まで規格外の女なのか。流れる汗は止まらない。

「もう一人の足立だが……感性が一番一般人に近いからな。
 言い換えればあいつは一番の弱者、まどかの気持ちが一番理解出来るかもしれない」

「足立さんは刑事と言っていました。きっと彼女を支えてくれるでしょう」

ヒースクリフの言葉を聞いてエスデスの口角が更に上がる。
最も彼女は足立が何か隠しているのが気になっているため、敢えて安全な状況に置いた。
身の安全がある程度保証されていれば、賊は動きやすいだろう。

「私なりの配慮だよアヴドゥル……だからそこまで警戒する必要もない。
 神経を張り巡らせても精神を疲労するだけだ……どうもスタンドとやらは使用の都度疲れるらしいからな」

「むぅ……疑っていたのは事実だが、そう言われると申し訳ないな。すまなかった」
(この女ぁ〜私が常に臨戦態勢を取っていたことに気付いてるッ!)

エスデスには常に警戒しなくてはならない。
隙を見せれば殺される。最も今はその気にはないようだが。

「それでこれから何処へ向かうのでしょうか」

「そうだなヒースクリフ、これから向かうのは――」

バッグから地図を取り出したエスデスは男二人に見えるように広げるととある地点に指を置いた。
その場所はコンサートホールから然程離れていなく、探索といっても数時間も掛からないと思われる。

――能力研究所。


42 : 名無しさん :2015/07/26(日) 21:27:27 KaotDwxc0

【D-2/コンサートホール前/一日目/朝】
【エスデスと愉快な(巻き込まれた)仲間たち】


【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:健康、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限あり)×3@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品(確認済み)(2)
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:もっと異能を知りたい。見てみたい。
1:要所要所で拠点を入れ替えつつ、アインクラッドを目指す
2:同行者を信用しきらず一定の注意を置き、ひとまず行動を共にする
3:神聖剣の長剣の確保
4:DIOに興味。安全な範囲内でなら会って話してみたい。
5:キリト(桐ヶ谷和人)に会う
6:花京院典明には要警戒。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。


【モハメド・アヴドゥル@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、精神的疲労(小)
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、ウェイブのお土産の海産品@アカメが斬る!
[思考]
基本:殺し合いを止めDIOを倒し広川ら主催陣を倒し帰還する。
0:仇は必ずとるぞ、ポルナレフ、イギー
1:能力研究所に向かって……逃げたい。
2:エスデスは相当ヤバイ奴。まどかも危険な匂いがする。
3:ジョースターさん達との合流。
4:DIOを倒す。
5:もしこの会場がスタンド使いによるものなら、案外簡単に殺し合いを止めれるんじゃないか?
※参戦時期はDIOの館突入前からです。
※イェーガーズのメンバーの名前を把握しました。
※アカメを危険人物として認識しました。タツミもまた、危険人物ではないかと疑っています。
※エスデスを危険人物として認識しており、『デモンズエキスのスタンド使い』と思い込んでいます。
※ポルナレフが殺されたと思い込んでいます。
※この会場の島と奈落はスタンド使いによる能力・幻覚によるものではないかと疑っています。
※スタンドがスタンド使い以外にも見える事に気付きました。
※エスデスがスタンド使いでないことを知りました。


【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:健康 
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:能力研究所に向かい人を探す。そのあとコンサートホールへ戻る。
1:DIOの館へ攻め込む。
2:クロメの仇は討ってやる
3:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
4:タツミに逢いたい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。
※足立が何か隠していると睨んでいます。


43 : 名無しさん :2015/07/26(日) 21:28:03 KaotDwxc0

コンサートホールに残された三人は黙っていた。
会話の切り口が掴めずに、エスデス達が去ったあとは終始無言。
流石に疲れたのか、やっとの思いで足立が口を開いた。

「改めてだけど俺、足立透。一応刑事なんだけど武器も何もなくて頼りにならないけどよろしくね。
 そんじゃ、俺トイレ行ってくるから」

右手を頭部に当て出来るだけ笑顔で彼は発言した。
一番の年長者である自分が場を保てなくてはどうするのか。
そんなことを思う人物ではないのだが、足立は仕方なく喋っていた。

「よ、よろしくお願いします。それと足立さん、武器がないなら――」

トイレに行こうとする足立を呼び止めたまどかはバッグから何かを取り出した。
その球体は足立もよく知っている非日常の象徴である兵器。

「一つだけお渡ししますのでどうぞ……簡単には使えないとは思うんですけどね」

「主榴弾か……うん、ありがとまどかちゃん」

まどかに軽い礼を言いながら足立は彼女の手に握られていた主榴弾を取りポケットに入れる。
単発の高火力兵器のため、周りの状況も考えながらではないと使えない。
最もスタンドやら吸血鬼やら魔法少女やらが存在する会場で気にする必要もないが。

「承太郎……くんもよろしく」

「…………あぁ、よろしく」

年齢に似合わない外見の承太郎が放つ威圧感は凄まじい。
何故学ランを着ているか訪ねたくなるが学生だからだろう。
足立は手を振りながらトイレに向かった。


【D-2/コンサートホール/一日目/朝】


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)、精神的疲労(小)
[装備]:DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:デイパック、基本支給品、手榴弾×2、穢れがほとんど溜まったグリーフシード×3、『このラクガキを見て うしろをふり向いた時 おまえは 死ぬ』と書かれたハンカチ
[思考・行動]
基本方針:主催者とDIOを倒す。
0:まどか、足立と一緒にエスデス達の帰りを待つ。
1:偽者の花京院が居れば探し倒す。DIOの館に関しては今は保留。
2:情報収集をする。
3:後藤とエルフ耳の男、魔法少女やそれに近い存在を警戒。 まどかにも一応警戒しておく。
【備考】
※参戦時期はDIOの館突入前。
※後藤を怪物だと認識しています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※魔法少女の魔女化以外の性質と、魔女について知りました。
※まどかの仲間である魔法少女4人の名前と特徴を把握しました。
※まどかを襲撃した花京院は対決前の『彼』だとほぼ確信していましたが、今は偽者の存在を考えています。
※DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダースが一本近くに落ちています。
※エスデスに対し嫌悪感と警戒心を抱いています。


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ソウルジェム(穢れ:中)、花京院に対する恐怖(小) 精神的疲労(中) 全身打撲(中)
[装備]:魔法少女の服
[道具]:手榴弾
[思考・行動]
基本方針:ゲームに乗らない。みんなで脱出する。
0:危険人物を...?
1:魔法少女達に協力を求める。悪事を働いているなら説得するなどして止めさせる。
2:早く仲間と合流したい。ほむらと会えたら色々と話を聞いてみたい。
3:これ以上大切な人を失いたくない。
【備考】
※参戦時期は過去編における平行世界からです。3周目でさやかが魔女化する前。
※魔力の素質は因果により会場にいる魔法少女の中では一番です。素質が一番≠最強です。
※魔女化の危険は在りますが、適宜穢れを浄化すれば問題ありません。
※花京院の法王の緑の特徴を把握しました。スタンド能力の基本的な知識を取得しました。
※承太郎の仲間(ジョースター一行)とDIOの名前とおおまかな特徴を把握しました。
※偽者の花京院が居ると認識しました。


44 : 足立透の憂鬱 ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/26(日) 21:29:45 KaotDwxc0

「あぁ……どうなってんだか」

鏡に映る顔は窶れている。
なんで俺がこんな目に会わなくちゃいけないんだ。世の中クソだな……。

ま、主榴弾が手に入ったのは有り難いが使い所がねえぞコレ。
スタンド使いとかいうペルソナの上位互換に通じるとは思えない。
魔法少女だってよく解かんないし吸血鬼ってなんだよ馬鹿か、こいつら馬鹿なのか?

本当に何ていう一日だよ……全く。

「エスデス……アイツが一番頭おかしいでしょ」

美女の癖に頭がイカれてやがる。
名前しか知らないDIOを攻め込むとか常人の発想じゃねえ。
しかもアイツ……俺に対して『今、力が使えない』とか言いやがった。
ペルソナを知っているのか……いや、アイツは俺とは何も関係性が無いはずだ。
じゃあハッタリか……あぁクソ! 何なんだあの女は!!
もう外行ったまま帰ってくんな! 顔や身体が良くてもそれ以外がクソ過ぎる。

「そういやまどかちゃんはこの手榴弾、一つ渡すって言ったな」

ってことは他にもなにか持ってんだろ。


――何とか殺せないもんかねぇ。


特に空条承太郎、アイツも絶対やばいでしょ。
ペルソナ使えない俺じゃ無理無理って話。

黙って薬飲んで死んでもらいたいが――上手くいくか微妙だな。


【足立透@PERSONA4】
[状態]:健康、鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×8@現実
[思考]
基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:何とかまどかと承太郎を青酸カリで殺せるように立ち回る。
1:ゲームに参加している鳴上悠・里中千枝の殺害
2:自分に扱える武器をほぼ所持していない為、当面はヒースクリフと行動を共にする
3:隙あらば、同行者を殺害して所持品を奪う
4:いざという時はアヴドゥルに守ってもらう。
5:DIOには会いたくない。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後
※ペルソナのマガツイザナギは自身が極限状態に追いやられる、もしくは激しい憎悪(鳴上らへの直接接触等)を抱かない限りは召喚できません
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。


45 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/26(日) 21:31:49 KaotDwxc0
投下を終了します


46 : 名無しさん :2015/07/26(日) 21:52:49 9gVQsoUU0
投下乙ですー
アヴドゥルマスターとエスデスのコンビはいいですねぇ。エスデスに振り回されるアヴさんのコンビが実に小気味良い
足立さんは心底クズではあるんだけど憎めないなぁ。なんだか応援したくなるマーダーだ
そして地味に茅場さんがこのチーム屈指の良識派なんじゃなかろうか、原作で何千人ってネトゲプレイヤー死なせてるけど

気になった点は、足立さんとヒースクリフさんは前話でDIOの説明を受けているのでそこは少し修正した方がいいかと


47 : 名無しさん :2015/07/26(日) 22:46:04 JkKiul9s0
投下乙です

卯月の心が挫ける様子は上手く描けているなあ。
ここまで不安定だと、セリューが来たらさらにボロボロになりそうで怖いや

そして、ビリビリという爆弾を抱えた3人組。友人への殺意はこう描写したか
果たして、さやかの時のように上手く行くのか

セリューさんは全くぶれなくてすごいというか、良くここまで嫌がらせを思いつくなあと
悪人判定で危険対主催から本格的にマーダーに変化してきたな

こっちはこっちで腹黒いエスデスグループ、苦労人が量産されているな
足立は今のところただのツッコミポジだが、ここからどう動くか


48 : 名無しさん :2015/07/26(日) 23:36:56 YU6BR4kw0
投下乙です

>ダークナイト ◆w9XRhrM3HU
セリューさんの歪んだ正義感が一周回って清々しく感じてしまう
黒子がすごい頼りになるけど、ついつい中一ということを忘れてしまう

>足立透の憂鬱 ◆BEQBTq4Ltk
エスデスさんは本当上司という点で見たらすごい優秀だなあ
足立はアヴドゥルと別の方向で苦労していて軽く同情する


49 : 名無しさん :2015/07/27(月) 10:32:48 1jTj8JMo0
投下乙乙!

セリューさんの正義感狂いすぎィ!この人絶対おかしいよ!(ほめ言葉)
黒子と穂乃果が離脱してしまって、かよちんの明日はどっちだ

エスデスチームはDIO様の拠点に攻め込むのか、みくにゃんを助けて…くれそうにないっすね
そして足立さんがキョンに見えてきた


50 : ◆dKv6nbYMB. :2015/07/28(火) 01:06:50 c0Nr20os0
投下します。


51 : 汚れちまった悲しみに ◆dKv6nbYMB. :2015/07/28(火) 01:10:05 c0Nr20os0
イェーガーズ本部に残された由比ヶ浜結衣は、気絶している島村卯月の看病をしていた。

「...大丈夫、かな」

傍らで眠る少女の頬をそっと撫でてみる。
セリューから聞いた話によれば、南ことりという悪人を殺したときに気絶してしまったらしい。
当たり前だ。いくら悪人だからといって、目の前で殺人現場を見せられれば、気絶くらいしてもおかしくはない。
ましてや、殺人者名簿にも載っていないような一般人ならなおさらだ。

「でも、仕方のないこと、なんだよね?」

震える声で、誰に言い聞かせるでもなくポツリと呟いた。
もしもセリューが殺されていれば、南ことりはここにいる卯月も殺したかもしれない。
それだけでなく、ヒッキーたちも彼女に殺されてしまったかもしれない。
理由はなんであれ、誰かを殺そうとする者は殺さなければならない。
嫌だ嫌だと拒否しているだけでは、友達の命だけでなく、己の命すら守ることはできない。
だから、自分も浦上という男を...


「...間違って、ないんだよね?」

答える者は、誰もいない。



どれほどの時が経っただろうか。

(...どうしようかな)

島村卯月は未だに目が覚める様子はない。
かといって、目が覚めた途端にまた気絶されても困る。
セリュー曰く、とても繊細な子らしいので、目が覚めた瞬間に汚い服の知らない女がいれば気絶してしまう可能性も十分にあるのだ。

「あっ...」

思い返せば、いまの自分の身なりは汚いなんてものじゃない。
上半身は嘔吐物で汚れ、ところどころに返り血もついている。下半身に至っては、黄色のシミが目立つほど染み込んでいる。
むしろ、これで警戒するなと言う方が無理がある。

(着替えとかあるかな)

とりあえずのやるべきことを決めると、結衣は眠る卯月はそのままに、衣服を探しに部屋を出た。


52 : 汚れちまった悲しみに ◆dKv6nbYMB. :2015/07/28(火) 01:12:17 c0Nr20os0


イェーガーズ本部中の部屋を探し回ったが、結局見つけた衣服は大きめのシャツ一枚のみ。
途中、何故だか破壊されていた厨房を見つけ、怯えながら探していたために全てを周れたわけではないが。
とにもかくにも、シャツ一枚で動くのは厳しいものがある。
そのため、汚れた制服を洗い、渇くまでの繋ぎにしようかと考えたときだ。

(...臭い)

改めて気づいたが、とてつもなく臭い。
汗、吐しゃ物、血液、尿、その他etc...
とにかく色々なものが混じったその匂いは他人のものであれば到底耐えきれるものではないだろう。

(ついでに身体も洗っておこう)

そんな状態に陥れば、一人の女子としてはこう考えるのも当然のことである。





シャアアア―――...

湯気が立ち込める部屋の中、結衣は一糸纏わぬ姿で立ち尽くしていた。

(気持ちいい)

肌に触れる熱気が。
顔を、首を、実った果実を、腹部を、太ももを、臀部を。髪から爪先までをあますことなく濡らしていく湯が。
毎日浴びているはずのシャワーが、今まで感じたことのないほど快感に思えて仕方なかった。

「おっと、いけないいけない。服もちゃんと洗わなきゃ」

洗面器にお湯を張り、汚れた制服と下着を入れる。洗剤はなく、石鹸しかなかったが仕方ない。
石鹸を手で擦り泡立たせ、その手で衣類を揉みしだく。
すると、たちまちお湯の色はたちまち変色し始めた。
若干黄色がかったものに、うえっと舌を出しそうになりながら、お湯を変え、石鹸をつけ、揉みしだく。
その行程を何度か繰り返すと、お湯も変色することは無くなった。途中、嫌な臭いがした気もするが、それはなんとか石鹸の匂いでごまかした。

「よしっ。これでいいかな」

制服を絞り、お湯をきる。そのまま頭上に掲げれば、目に映るのは、若干黄ばんでいるものの、赤色が混じっただけのいつもの制服。

「......」

赤が混じっただけの、いつもの制服。
黒に混じれば目だたないはずの赤色がやけに目立つ制服。
どれだけ洗っても落ちなかった赤色のついた制服。
もうこれ以上あか色がおちそうにない制ふく。
うらかみのちがついたあかぐろい―――


53 : 汚れちまった悲しみに ◆dKv6nbYMB. :2015/07/28(火) 01:16:23 c0Nr20os0
「...もう少しだけ、いいよね?」

誰に断るわけでもなく、結衣は呟いた。
本来の目的は果たしたのだ。すぐに卯月のもとへと戻るべきなのだが、こんな制服を見られれば、いらぬ誤解を生んでしまう可能性もある。
なら、もっと綺麗にすべきだろう。
そんな言い訳を作り、洗面器にお湯を張り、石鹸をつけた手で制服を洗う。

―――ごしごしごし

まだ落ちない。

―――ごしごしごしごし

やっぱり落ちない。

―――ごしごしごしごしごし

気が付けば、手が真っ赤になっていた。そうだ、手が汚れてるから落ちないんだ。

―――ごしごしごしごしごしごし

あれ、おかしいな。いくら洗っても落ちないや。

―――ごしごしごしごしごしごしごし

どれくらいせっけんをつければいいんだろう。どうすればこの汚れはおちてくれるんだろう。

―――ごしごしごしごしごしごしごしごし

どうしておちないの?せりゅーさん、ゆきのん、ひっきー。どーすればこのあかいのおちるのかな?ねえ、おしえて。ねえ...






―――ごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごし





...たすけ―――ザザッ


54 : 汚れちまった悲しみに ◆dKv6nbYMB. :2015/07/28(火) 01:19:48 c0Nr20os0

『おはようしょくん』


突如聞こえてきた男の声に、結衣の身体がビクンと跳ね上がる。
思わずタオルと石鹸を落としそうになり、わたわたと手と石鹸とタオルが宙で入れ替わり立ち替わりに舞い踊る。
なんとかタオルは掴めたものの、石鹸はつるつると滑って結局落ちてしまった。

「あ、あれ?」

腕を確認する。いつもの肌だ。両腕を包んでいた赤色なんてどこにもない。

(な、なんだったんだろう、さっきの)

疑問符を浮かべる結衣を余所に、言葉は淡々と紡がれていく。

『この放送は6時間ごとに行い、その都度『禁止エリア』及び『脱落者』を読み上げる。一度しか流さないので、記憶力に自信のない者はメモをとるのをお勧めする。30秒待とう。それまでに各自準備をしてくれ』

どこかで聞いたことあるようなと他人事のように思っていた結衣だが、声の主が広川だとわかると、慌てて言葉通りにメモを探しまわった。
(え、えっと、なにをきけばいいんだっけ。えっと、えっと...)
『準備はできたかな?...では、今回の禁止エリアを発表しよう』
メモなどシャワー室にないことに気が付くと、シャワーを止め、慌ててシャワー室から出ようとする。
その時だ。

ツルッ

「えっ」

タオルで擦りすぎたせいで流れ出た泡は、滑り落ちた石鹸の存在を隠していた。
それに気付かず、結衣は床の石鹸を踏み、足を滑らせ―――


ゴッ

「―――――」

『最初にも説明した通り、禁止エリアに踏み込むこめば首輪が爆発――――』

結衣が声にならない悲鳴をあげるが、お構いなしに広川の放送は続く。


『―――美遊・エーデルフェルト。
浦上
比企谷八幡―――』


(ヒッキー...?)

自分が殺した男と、大切な者の名を最後に、結衣の意識は闇へと消えた。




【由比ヶ浜結衣@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(大)。後頭部にたんこぶ 全裸 気絶
[装備]:MPS AA‐12(残弾6/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率
[道具]:ディバック×2、基本支給品×2、フォトンソード@ソードアート・オンライン、ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 エスデス用のシャツ
[思考]
基本:死にたくない。
1:比企谷八幡と雪ノ下雪乃に会いたい。
2:セリューと行動を共にする。
3:悪い人なら殺してもいい……?


※制服・下着は浴室にあります。
※MPS AA‐12(残弾6/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率は浴室の外に置いてあります。
※ロクに放送を聞いていません。


55 : ◆dKv6nbYMB. :2015/07/28(火) 01:20:32 c0Nr20os0
投下終了です。


56 : ◆dKv6nbYMB. :2015/07/28(火) 02:21:03 c0Nr20os0
状態表に現在地を入れるのを忘れていました。
【D-4/イェーガーズ本部/一日目/朝】


【由比ヶ浜結衣@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(大)。後頭部にたんこぶ 全裸 気絶
[装備]:MPS AA‐12(残弾6/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率
[道具]:ディバック×2、基本支給品×2、フォトンソード@ソードアート・オンライン、ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 エスデス用のシャツ(現地調達)
[思考]
基本:死にたくない。
1:比企谷八幡と雪ノ下雪乃に会いたい。
2:セリューと行動を共にする。
3:悪い人なら殺してもいい……?


※制服・下着は浴室にあります。
※MPS AA‐12(残弾6/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率は浴室の外に置いてあります。
※ロクに放送を聞いていません。


57 : 名無しさん :2015/07/28(火) 06:31:38 DRSI5KYo0
投下乙です。
ガハマちゃんもジワジワ着実に危ない精神領域に入ってきてますね、がんばれ!
物理的にも危ない領域ですがこっちも期待w


58 : 名無しさん :2015/07/28(火) 09:48:52 MrH98yyI0
投下乙です

セリューさんと関わった人たちは全員犯罪係数が上昇してますね…
八幡が死んでしまった事を空気読まずにセリューさんあっさり伝えそうで怖い


59 : 名無しさん :2015/07/28(火) 19:52:56 eUIbXbD60
投下乙です
由比ヶ浜もなんだか不穏な感じになってきなあ
でもそれ以上に見た目がヤバいw


60 : 名無しさん :2015/07/29(水) 01:37:38 OzaPuW9I0
あ、◆w9XRhrM3HU氏に一つ指摘が
穂乃果の苗字が通して高阪となっていましたが正確には高坂ですよ


61 : ◆QAGVoMQvLw :2015/07/29(水) 21:59:44 uMUvaf5E0
仮投下作に問題が無かったようなので、こちらに本投下したいと思います。


62 : 端緒 ◆QAGVoMQvLw :2015/07/29(水) 22:01:05 uMUvaf5E0
音。
人間も寄生生物もそれを”聞く”能力を持つ。
聴覚と呼ばれる感覚によって、周囲の状況把握から音声での会話まで、
多様な機能を発揮する。

音とはそもそも、空気の振動に過ぎない物だ。
人間はそれを耳と呼ばれる器官によって感知して、脳で認識する。
耳は外側の耳介から内部の鼓膜、蝸牛、聴神経等極めて複雑な構造を為している。
それらの構造は全て人間の聴覚を成立させるのに必要不可欠な物だ。
しかしそれは寄生生物には適応されない。
寄生生物の多くは人間の頭部に寄生し、普段は人間に擬態する。
当然、耳の外観も偽装している。
しかしそれはあくまで偽装であり、眼のように本当に聴覚器官を形成している訳ではない。
その必要が無いからだ。
例えば人間の右腕に寄生した例を見てみれば分かる。
その寄生生物は、脳を残した宿主の人間と会話を行っている。
その際、眼や口は形成しているが、耳を作り出すような真似をしてはいない。
耳が無くとも音声で会話が可能なのだ。

寄生生物の細胞は全てが筋肉、骨格、脳神経系などのあらゆる種類の体組織に変化することができる。
そしてそれらは総じて人間の物よりも優れた能力を発揮できた。
感覚器官も含めてである。
寄生生物は自身の体表の触覚で空気の振動を、人間の聴覚以上の精度で感知できる。
だから耳が無くとも音声での会話が可能なのだ。

この殺し合いにおいても全く同じ原理でもって音声を聞いている寄生生物が存在した。
複数の寄生生物を一つの身体に宿す固体、後藤である。

『おはようしょくん。既にルールは把握しているだろうが、念のためにもう一度確認しておく。』
(これが放送か。声の主は擬態でなければ広川で間違いないな。ノイズが混じっていることから機械を通している。
だが、音源を特定できん……)

広川による殺し合いの定時放送。
後藤がそれを聞いているのは地図上の分類においては、H-4エリア。
放送直前の戦闘において、後藤はH-3のアインクラッドに瞬間移動させられた。
その場で拡声器を使い参加者を呼び寄せることも考えたが、
首輪探知機で確認してみたところ、付近に参加者が居ないことと、
何より脱落者を発表される、定時放送が近かったことから、
放送がされるまで西に移動することとした。
下手に声色を使っても、その声の主が脱落者として発表されては、
警戒をされて参加者を遠ざけてしまう。

『この放送は6時間ごとに行い、その都度『禁止エリア』及び『脱落者』を読み上げる。』

周囲を警戒しながらも放送を聴く後藤。
その全身で以って。


63 : 端緒 ◆QAGVoMQvLw :2015/07/29(水) 22:02:03 uMUvaf5E0
複数の寄生生物を宿す後藤は、寄生部分が全身に及んでいる。
全身で音声を認識できるのだ。

『禁止エリアは3つ。

B-2。
E-6。
A-5。

以上の三つだ。』

メモを取ること無く、その脳に禁止エリアを記憶する。
寄生生物は脳の構造も、その機能も人間と違う。
人間の顔や声まで、詳細に再現できるその認識・記憶能力は、
生物の脳機能と言うより、機械の記録機能の方が近い。

――放送内容の記憶と同時並行して、放送音の知覚に脳機能のキャパシティを振る。
――寄生生物の高度な脳機能は、人間には不可能なマルチタスクによる情報処理を可能とする。
――放送音はまるで周囲一帯から隈なく発振しているかのごとく、均質に周囲全体から響き渡っていた。
――しかし注意深く音=空気の振動を辿ると、そこにも偏向が感知できた。

『南ことり
美遊・エーデルフェルト
浦上
比企谷八幡
佐天涙子
クロメ
クマ
渋谷凛
モモカ・萩野目
星空凛
蘇芳・パブリチェンコ
巴マミ
園田海未
天城雪子
ペットショップ
イギー


以上16名だ。』

おそらく全員が死亡したであろう脱落者16名の中に、関心のある名前は無かった。
後藤にとって関心があったのは個々の名前ではなく、その個数にある。
脱落者16名中、後藤の殺害数はおそらく2名。
単純に考えれば後藤の預かり知らないところで14名が死んだ計算になる。

(確か人間は自殺をする珍しい生き物だが……14名もそうしたとは思えんな)

自殺。生存本能の極めて強固な寄生生物には最も理解し難い行為。
しかし人間にはそれほど珍しい行動ではない。
それでも14名の全員がそうしたとは考え辛い。
人間とは痛がりで怖がりな生き物だ。そう易々と自分を殺す決断はできない。
統計的な確率としても多過ぎる。
即ち他殺と言うことであり、そこに殺害者が存在することになる。
人間同士の戦いを目撃したことからも、ある一定数は殺し合いに乗っていることになる。
後藤にとっては獲物の競合相手だが、それ自体は問題にするべきことではない。
殺し合いである以上競合相手が出るのは当然のことで、それも殺し合いの楽しみの内と割り切れる。
ここで問題にすべきなのは、56名も生存していると言う事実だ。
先ほどまでの考察の、ちょうど逆向きの推測ができる。
それだけの生存者がいるということは、参加者のおよそ過半数が殺し合いに乗っていない計算になる。

(人間の多くは殺すことに抵抗がある。自分にも、他人にも…………では何を目的とする?)

寄生生物である後藤は、感情的で不合理な人間の心理は理解できない。
しかし思考を論理的に推測することはできる。


64 : 端緒 ◆QAGVoMQvLw :2015/07/29(水) 22:03:20 uMUvaf5E0
人間は殺すことに抵抗がある。死ぬことには更に抵抗があるだろう。
ならば殺し合いその物から脱出しなければならない。
そのために必要な条件は――

――全身が寄生生物で構成されている後藤は、全身の細胞で放送音を感知する。
――まるで映画の音響のごとく均質な放送音から、ソナーのごとき精度で空気の振動の発生源を探知。
――後藤の脚から細い触手が地を這うように伸びる。
――触手の先端が蛇の鎌首のごとく持ち上がる。その先端では小さな機械が掴まれていた。

後藤の現在地はH-4の岩場。
その岩陰の目立たない位置にその機械は設置されていた。
小型で球形の黒い機械。大きさは卓球の球より少し小さいくらいか。
これが人目の付かない場所にあれば、そうそう見つかることは無いだろう。
機械の表面には小さい穴が無数に開いており、中の機械を覗くことができる。
やはりそれはスピーカーのようだった。
後藤はそのスピーカーをバックに仕舞う。

広川の声が機械を通っている。
即ち放送には機械が必要であるのだから、音源にはスピーカーがあることは予想できた。
高度な音響技術で周囲一帯から音が発しているように演出していたが、後藤を誤魔化し切れる物ではないし、
それ自体は家庭用の音響機器に使われている技術の発展した物に過ぎない。
おそらく無線によって遠隔から操作されているのだろうが、機械の専門知識の無い後藤には詳しく調べることは不可能。
そもそもこのスピーカーは内部構造に関わり無く、後藤の目的にとっては直接役に立つ物では無い。

しかし機械に精通し、そして何より殺し合いからの脱出を目的とする参加者にとってはどうだろう?

これは主催者に繋がる数少ない、貴重な手掛かりであるはずだ。

ここでは仮に”脱出派”とでも呼称する。
人間は群れたがる生き物だ。殺し合いが進めば参加者の多くが徒党を組んでいくに違いない。
そうなれば”脱出派”が主流となっていくだろう。
その時後藤が脱出の手掛かりを掴んでいたら、”脱出派”の動向を予測することができる。
あるいは脱出の手掛かりを餌に”脱出派”を釣ることも可能になってくる。

『身体の構造上、首輪を外せる術を持っていると思い込んでいる者がいるようだが、当然ながらそれにも対策は講じてある。』

後藤の首にも嵌っている金属の輪。
それに接触している部分は硬質化した状態のまま変形することはできない。
今の状態では首輪を外すことはできない。
しかし外側から観察することはできる。
後藤は首の周辺から触手を伸ばし、その先端に眼球を作る。
首輪を隈なく観て回っても、均質な金属面が覆うのみで穴や繋ぎ目は観られない。
”脱出派”にとって、これを解除することは絶対条件になる。
もし解除の手掛かりを掴んだら最上の餌になるだろう。

(前の食事の時に首輪を回収すればよかったな)

先刻、星空凛と蘇芳・パブリチェンコで食事した際、
二人の首輪をその場に放置していた。
回収すればサンプルとして利用できたし、
爆弾が内蔵していると言う話が本当なら、単純に武器としても活用できた。


65 : 端緒 ◆QAGVoMQvLw :2015/07/29(水) 22:05:10 uMUvaf5E0
いずれにしてもこれからは首輪が、殺し合い全体の動向のキーワードになるだろうから、
回収できるなら、そうするに越したことは無い。

(……首輪と言えば、俺の物にも一つ工夫をしておくか)

後藤の首の皮膚が広がり、首輪を覆い尽くす。
これで後藤の首輪は硬質化のプロテクターで覆われた形になる。
ちなみに首輪の外側の硬質化は自由に解除できた。どうやら内側の硬質化だけが固定されるらしい。
そして首輪を覆うプロテクターの更に外側に、首輪と同じ形状を作り出す。
形状から金属の質感まで、首輪と全く同じ外観のダミーである。
ペットショップの戦いの例のように、後藤の敵は分かり易い弱点である首輪を狙ってくるだろう。
その際、首輪の防備を固めていればそれだけで強みになるし、
更にダミーを作っておけば、その首輪を破壊させることで敵の油断を誘うことができる。
正直、大した効果は期待できない細かい細工だが、この戦いにおいては工夫を惜しまないと決めている。
いずれにしても弱点の補強はしておいて越したことは無い。
首輪に本当に爆弾が仕込まれているのか? その爆発で後藤が死ぬのか?
定かなことは何も分からないが、可能ならば今すぐにでも解除したいのが正直な気持ちだ。
もし本当に首輪の解除方法を本当に得ることができれば――

(しばらくは工夫を重ねながら殺し合いをするか。脱出の手掛かりはそのついでだな)

合理性で動く寄生生物は無駄な思考はしない。
後藤は無い手掛かりから思考を切り替えて、殺し合いに向かう。
後藤はルールがあるから、それに沿って殺し合っているのではない。
本能の赴くままに殺戮の道を行くのだ。


【H-4/岩場/1日目/朝】


【後藤@寄生獣】
[状態]:両腕にパンプキンの光線を受けた跡、全身を焼かれた跡、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、不明支給品0〜1、スピーカー
[思考]
基本:優勝する。
1:泉新一、田村玲子に勝利。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※凜と蘇芳の首輪がC-5に放置されています。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。


66 : ◆QAGVoMQvLw :2015/07/29(水) 22:05:56 uMUvaf5E0
投下を終了します。


67 : 名無しさん :2015/07/29(水) 22:09:17 hmWqfl3A0
投下乙です

ただ本能の赴くままに殺し合いに臨む後藤。ワイルドと言うかなんと言うか不思議な味があるキャラだなぁ
随所に覗く寄生獣の台詞や設定が丁寧に練り込まれていて思わずニヤリとしました


68 : 名無しさん :2015/07/30(木) 21:15:02 k.aUDHmE0
投下乙です

ガハマさんは罪悪感と喪失感のダブルの苦悩だよなあ
悲しみを受け止める際にセリューがいなかっただけマシなのか

そして、後藤さんもマーダーとはいえ独自に考察を始めたか
こういうキャラが早めに真実に近づいたりするんだよな


69 : 名無しさん :2015/07/31(金) 21:47:12 96If2Mdo0
投下乙です
後藤さん冷静沈着で頼りになりそうだけど優勝狙いという
えてしてこういうキャラが一番怖い


70 : ◆H3I.PBF5M. :2015/08/01(土) 16:51:56 t2nVOgGI0
投下します


71 : Fiat justitia, ruat caelum ◆H3I.PBF5M. :2015/08/01(土) 16:52:58 t2nVOgGI0

 悪が蔓延る乱れた時代。世は正しき力、秩序の護り手を必要としていた。
 弱き民を護り外道を断罪すべく、日夜悪と戦い続ける特殊警察、イェーガーズ。
 セリュー・ユビキタスは、その誉れ高いイェーガーズに名を連ねる正義の執行者である。

「出てこい、高坂穂乃果、白井黒子! 潔く正義の刃をその身に受けろ!」

 あえて大声を出し挑発するも、反応はない。標的を完全に見失ってしまった。
 セリューは今、単独で行動している。目的は敵性分子の追跡及び排除だ。
 このミッションは、イェーガーズの同胞であるウェイブに知られることなく完遂せねばならない。
 何故なら高坂穂乃果と白井黒子はセリューの知らぬ間にウェイブを籠絡し、悪の手先へと堕落させようとする恐るべき魔女どもであるからだ。
 セリューが断罪した悪・南ことりの仲間である高坂穂乃果は、セリューにまでその牙を剥いた。
 もし彼女が南ことりとは違う、護るべき潔白な存在であるなら、弱者の味方であるセリューに対し、決してそんなことはしなかったはずだ。

「……この辺りにはいませんか。もしや、先にウェイブさんのところに戻った?」

 無論セリューとて、自分が攻撃された、という事実だけで高坂穂乃果を悪と断定するほど短絡的ではない。
 イェーガーズ本部にてセリューが保護しているガハマちゃん――由比ヶ浜結衣がその好例だ。
 暴漢に襲われた結衣はセリューに襲いかかってきた。が、制圧し対話を行った結果、結衣は悪ではないことが判明した。
 民間人が突如あのようなストレスに晒された場合、錯乱して思わぬ行動に出ることは決して有り得ないことではない。つまりは情状酌量の余地がある。
 だからこそセリューは彼女を赦し、庇護し、共に悪を駆逐するべき仲間として受け入れた。
 しかし、高坂穂乃果は違う。
 彼女は確固たる殺意を以ってセリューに襲いかかってきた。純粋な善意から手を差し伸べたセリューに対して、だ。
 それは、許されるべきことではない。正義の体現者であるセリューを害そうとするなど、錯乱していてもあってはならないこと。
 であれば、それはもはや錯乱ではなく、計画的な殺意。つまり高坂穂乃果の本性は唾棄すべき邪悪である。
 議論の余地はない。高坂穂乃果は抹殺せねばならない悪。そして、奴の逃亡を幇助した白井黒子も同様に。

「白井黒子は遠距離を一瞬で移動する技、あるいは帝具を所持している。自分の身に留まらず、直接触れた物や人物も対象となる……。
 厄介ですね。ランさんのマスティマと違い、空間を切り取るように移動するため痕跡を残すこともない」

 当初はコロに内蔵された都市探知機を用いれば用意に追いつけると考えていたが、忌々しくも広川の手によってコロの機能は制限されている。
 二人を取り逃がしてから数十分を探索に費やしたが、成果はない。撒かれてしまったと考えるべきだ。
 都市探知機が再び使えるようになるまでおよそ半日。さすがにそこまで時間はかけられない。
 一旦イェーガーズ本部に戻り、ウェイブに施された精神操作を解いてから改めて高坂穂乃果たちを狩りに出るべきか。
 もしセリューより先に高坂穂乃果たちがウェイブに接触していたのだとしたら、話はややこしくなる。
 ウェイブも籠絡されたとはいえ、さすがにイェーガーズの戦友であるセリューと高坂穂乃果たちを天秤にかけて、判断を誤ることはないだろう。
 だが心根の優しいウェイブでは、己の手でけじめをつけることは難しいはずだ。
 さりとてセリューが代わりに手を下すとしても、ウェイブが一度は信頼した人間を、彼の眼の前で処刑するのはさすがに心が痛む。
 最善なのは高坂穂乃果たちがイェーガーズ本部に戻る前に追いつき、秘密裏に処分することだ。
 見た感じでは、白井黒子は相当に消耗していた。あの瞬間移動の技はセリューの眼にも強力すぎる。連発するのは負担なのだろう。
 であれば、イェーガーズ本部に先行された可能性はさほど高くないかもしれない。
 仮にセリューより先に着いたとしても、それで疲労困憊となってしまえば後から来るセリューに対応できないからだ。
 状況から判断するに、高坂穂乃果と白井黒子は一旦身を隠して体力の回復を待ち、機が熟してから再度セリューを襲うという可能性が高い。
 ならばこれ以上、成功の見込みが薄い探索に時間を取られるのは愚策である。


72 : Fiat justitia, ruat caelum ◆H3I.PBF5M. :2015/08/01(土) 16:53:34 t2nVOgGI0

「仕方ないですね。一旦戻ってウェイブさんと合流しましょうか……コロ?」

 そんなとき、コロが突然走り出した。
 すわ標的を見つけたか、と思ったが、コロが戦闘態勢に移行していないためそうではないとわかる。
 駆けていくコロを追ったセリューの視界に映ったのは、湖岸の砂浜に倒れる一人の女性だった。
 二つに分けた長く青みがかった黒髪、余分な贅肉のない引き締まった筋肉。おそらく日常的に訓練を受けている、兵士としての身体。
 しかしその身体も今は弛緩していて、完全に気を失っている。見覚えのない表情。結衣に見せてもらった殺人者リストにも載っていなかった顔だ。
 が、セリューの視線はその女のある一点に釘付けにされていた。

「あれは……まさか、ブドー将軍の帝具、アドラメレク……!?」

 帝国の武の頂点。護国の英雄、帝国軍の大将軍ブドー。
 セリューの直属の上司ではないが、イェーガーズも帝国軍の一部であるという広義の意味で考えれば、セリューにとっても上官である。
 そのブドーの帝具を、見たこともない女が装着している。
 このとき、セリューは追跡していた高坂穂乃果たちは一旦保留し、コロに臨戦態勢を取らせ女に対処することを決断した。

「アドラメレク……直接この眼でその力を見たことはありませんが、エスデス隊長に匹敵するほどの攻撃力を持っていると聞きます。
 もしあの人がその力を自在に振るえるのなら……!」

 もしあの女が高坂穂乃果同様の悪なら、セリューにとって無視のできない脅威となる。
 強靭な膂力と体躯から対人戦闘に活躍するコロだが、逆にその図体の大きさから大火力の攻撃にはいい的になり、相性が悪い。
 思いつく中では戦友であるボルスの“煉獄招致”ルビカンテなどがそうだ。イェーガーズの宿敵であるナイトレイドにはそこまでの火力を持った敵がいなかったため、問題となることはなかったが。
 そしてアドラメレクは、間違いなくルビカンテ以上の超絶的な威力を秘めている。故に、看過できない。

「かなり消耗しているようですね。今なら、殺るのは容易い……ですが」

 だが。それだけの力を持っているのなら。
 逆に彼女が悪でなかったのなら、セリューと同じく正義の志を胸に秘めているのなら、これほど心強い仲間はいない。
 今殺してしまえば、彼女がどういう存在かはわからないままだ。
 正義か、悪か。それを確かめることは愚策ではない。悪ならば殺せばいいし、正義なら手を取り合えるのだから。
 静かに、そして油断なく、セリューは女へと近づいていく。
 しかし女は、セリューが一息に斬りかかれる間合いまで接近しても反応がない。
 セリューは慎重に、女の手からアドラメレクを取り外した。
 そのときセリューは、女が負傷していることに気づく。左肩に銃槍、左足と首に処置済みの傷。
 左肩から出血は既に止まっているが、おそらくアドラメレクで強引に灼いて塞いだのだろう。肉が焦げて引き攣っている。
 戦地ではよくあることだが、とても適切な応急処置とは言えない。これではかなり痛みが残っているだろう。コロが慰めるようにその傷跡を舐め、血を啜る。

「誰かと交戦した……しかも、アドラメレクを以ってしてもこれほどの傷を負う。なんてことでしょう、この島にはそれほどの手練れが……!」

その事実がセリューを戦慄させる。
実際その力が振るわれるのを見たことはないが、アドラメレクの力は聞き及ぶだけでも想像を絶する。
本来の使い手ではないとはいえ、そんじょそこらの帝具使いや悪漢が太刀打ちできるものではないはずだ。


73 : Fiat justitia, ruat caelum ◆H3I.PBF5M. :2015/08/01(土) 16:54:25 t2nVOgGI0

「う……」

 と、コロに舐められたことが刺激になったのか、女が身動ぎした。
 セリューはアドラメレクを自分のバックへと放り込み、いつでもナイフを引き抜けるように準備して、女の覚醒を待った。

「気が付かれましたか」
「う……アン、ジュ……」
「しっかりしてください。傷は浅いですよ」
「ちが……。あな、たは……?」
「私はセリュー。イェーガーズのセリュー・ユビキタスです」

 一言一言、噛んで含めるように名乗る。女の眼の焦点が合うまでセリューは辛抱強く待った。もちろん、いつでも首を掻き切れるように警戒は怠らず。
 意識がはっきりしてきたらしい女に、セリューは自分のバックから水を取り出して飲ませてやった。自分は敵ではないというスタンスを証明するために。
 水を飲み、深呼吸を何度か繰り返して、女は何とか調子を回復したようだった。

「あなたが助けてくれたのね。ありがとう、私はサリアよ」
「もう一度名乗りますね、私はセリューです。イェーガーズの、セリュー・ユビキタス。ご存じですか?」
「イェーガーズ? ごめんなさい、聞いたことがないわ」
「そうですか。いえ、お気になさらず。大したことじゃありませんから」

 帝都に暮らす者ならイェーガーズを知らぬはずがない。
 が、結衣も島村卯月もそうだったのだ。さほど珍しいことではないのかも、とちょっとショックなセリュー。

「ん、ちょっと待って。たしかイェーガーズって地図に載ってたわね。イェーガーズ本部だったかしら」
「はい、私たちイェーガーズの拠点にして、正義を志す者の集う場所です。あそこなら安全ですよ」
「へえ……でもアカメはそこには行くなって言ってたわね」

 何の気なしにサリアが漏らした一言に、セリューが示した反応は激烈だった。
 サリアの手を引いて押し倒し、瞬時に引き抜いたナイフを首筋に突きつける。

「ちょ……っつぅ!」
「お前、ナイトレイドか」
「ちょっと、何するのよ! どういうつもり!?」
「質問に答えろ。アカメと関わりがあるということは、お前はナイトレイドの一味なのか」

 先ほどまでのフレンドリーな態度から一転、一切の感情を排した無機質な声でセリューはサリアを問い詰める。
 サリアからは見えないが、背後では巨大化したコロが今にもサリアの頭を噛み砕かんと顎を開いている。セリューの一瞥で即座に獲物を喰らう構えだ。
 そのときになってようやく、サリアはアドラメレクが自分の手にないことに気づく。イニシアチブを完全に奪い取られたと。
 抵抗は無駄だと察したか、サリアは力を抜いた。


74 : Fiat justitia, ruat caelum ◆H3I.PBF5M. :2015/08/01(土) 16:55:12 t2nVOgGI0

「アカメとは、電撃を打つ変な子供に襲われたとき、一緒に戦ったのよ」
「ならばやはり、お前はナイトレイドの……」
「まあ、もう敵と思われてるでしょうけどね」

 望み通りの回答を得て、勇んでナイフを振り下ろそうとしたセリューの手を止めたのは、多分に諦念の混じったサリアの独白だった。

「……どういうことだ? お前はナイトレイドの一員ではないのか」
「そんなダサい名前の組織はお断りよ。言ったでしょ、敵に襲われたときに一緒に戦ったって。
 アカメとはここに来て初めて出会った関係よ」

 それはつまり、セリューと卯月・結衣の関係と同じ、ということだ。
 ナイトレイドのアカメと共闘したというだけで本来ならば正義執行には十分な理由であるが、今はやや状況が異なる。
 本当にナイトレイドを知らず、成り行きでアカメと行動を共にしただけであるならば、それだけで悪とは断定できない。

「では、お前はアカメの仲間ではないのか?」
「さっきまではそうだったかもね。でも、もう違う。もうシンイチは、私を仲間とは思ってくれてないでしょうね」
「シンイチ……泉新一という奴か。むう……」

 ナイフを手に熟考する。どうやらサリアの辿ってきた道のりは中々に波乱に満ちていたようだ。
 アドラメレクは回収できたのだから、殺してしまっても問題はない。
 が、サリアは宿敵ナイトレイドの足跡を握っている。情報を引き出してから判断を下しても遅くはないはずだ。

「死にたくなければ、お前が出会った人間のことを詳しく話せ」

 セリューはナイフを引き、サリアを解放してその対面に移る。反対側にコロを配置して、挟み撃ちの形にすることも忘れずに。
 高圧的な物言いにサリアは眉をひそめたものの、自身の今の体調とセリューの手にある刃物、そして荒い息を吐く筋肉の化け物に囲まれているとあっては抵抗は死を意味する。
 ややあって、サリアは素直に話し始めた。


75 : Fiat justitia, ruat caelum ◆H3I.PBF5M. :2015/08/01(土) 16:55:41 t2nVOgGI0

  ◆


 雪ノ下雪乃、比企谷八幡、泉新一との出会い。
 尖った耳の男の襲撃、八幡の死。
 アカメの来訪。ちょっとした言い合い。
 雷を放つ少女との戦い。槙島聖護に拉致されたこと。
 巴マミ、園田海未との音ノ木坂学院での語らい。
 そして、アンジュとの再会、決裂。
 アンジュの殺害を邪魔する巴マミ、園田海未との交戦……セリューから死んだと聞かされても、心は凪いだままだった。
 仲間を殺されたことで、シンイチひいてはアカメと雪乃も、サリアを敵とみなすだろう。


 長い話になった。
 サリアが自分に非があると思われないよう話を改ざんするとしても、セリューがどういう立場の人間かわからないのであれば、意味がない。
 だからサリアはありのまま、起こったことを話した。ただ、エンブリヲのことだけは一切話さなかった。自分がここで死ぬとしても、エンブリヲに危険が迫ることは許されないからだ。
 セリューは基本的に口を挟まなかったが、途中、電撃を放つ少女のことには質問してきた。

 曰く。その少女はこのアドラメレクを使ってたのか? ――ノー。何も着けていない掌から電撃を発射してきた。
 曰く。その少女の名を知っているか? ――ノー。アカメとは話したらしいが、名前までは知らない。
 曰く。その少女の外見的な特徴を教えろ。 ――年齢は14、5。肩までくらいの短髪、とても戦闘向きではないシャツにベスト、短めのスカート。
 曰く。……その少女の衣服は、こんなものだったか?

 セリューはやけに具体的に、少女の着ていた衣服について述べた。ベージュ色のベスト、左胸のところにある紋章の柄。
 それらはサリアの記憶にあるとおりだったので、素直に首肯した。
 最初はアドラメレクを使いこなせる人物かと警戒して質問してきたようだが、サリアの答えは別種の解答をセリューに与えたようだった。
 そして、話し終え。
 うつむき何事か考えているセリューを見て、さてどうやってこの場を切り抜けようかとサリアが思案したとき。

「申し訳ありませんでしたっ! 私てっきり、あなたも悪の一味かと勘違いしておりました!」

 ナイフを放り出し、額を地に擦りつけんほどの勢いで、セリューは頭を下げてきた。
 土下座とまでは言わないまでも、偽りなき謝意の表現である。あまりにも落差の激しい反応に、サリアこそどう反応していいか戸惑ってしまう。

「ええと……? あなた、一体何を言っているの?」
「あなたの話を聞いて、私、恥ずかしながら自分の勘違いに気づきました!
 殺人者アンジュを追う者であり、殺人集団μ'sの一人を処刑したあなたが悪であるはずがありません!」
「さ、殺人者? 殺人集団? 一体何のことなの」

 顔を上げたセリューは、あの無機質な表情からはかけ離れた満面の笑顔で、サリアの手を強く握る。
 強い力だが、害意はない。むしろ親愛、信頼の表れと受け取れる、そんな握り方だった。


76 : Fiat justitia, ruat caelum ◆H3I.PBF5M. :2015/08/01(土) 16:57:21 t2nVOgGI0

「実は私、以前に殺人を犯した者が記載されているリストを見たことがありまして。
 その中にはあなたの名前はありませんでしたが、アンジュという女は確かに載っていました!
 これだけでもあなたとアンジュの間には天と地ほどの開きがありますが、そこへさらにアンジュとμ'sが繋がっていたという事実!
 私はこれまで南ことり、高坂穂乃果という二人の悪と直面してきましたが、その二人も何を隠そうμ'sだったのです!
 やはりμ'sはただの娯楽提供者などではなく、悪に染まった外道の集団だったのですね!」
「あ、ああ……そうなの?」
「さらに! あなたを襲ったその電撃使いの女は、服装からしてまず間違いなく白井黒子と同じ組織の者と見て間違いないでしょう!
 あ、白井黒子とは高坂穂乃果の逃亡を手助けした悪です! であればその電撃使いも、紛れもなく悪!
 アカメを襲ったことからナイトレイドではないのでしょうが、生かしておいて良い相手でないのは間違いありません!」

 どうやらサリアの語った出来事は、セリューの中で彼女の論理にピタリと符合したようだ。
 アンジュが殺人を犯していたと聞いても、サリアからすれば、まあそうだろうな、くらいにしか思わなかった。
 サリアたちノーマはマナを使える人間に迫害される立場であるし、アンジュは実際にその人間たちの国へ殴り込みに行った。
 その過程で警備だか警察だかを何人殺していようと、別に驚くことでも憤ることでもない。
 逆にサリアは、訓練こそ受けてはいても、アルゼナルのメインターゲットは基本的にはドラゴンだ。人間同士で殺し合ったことなどほとんどない。
 例外はあのアルゼナル崩壊の日くらいだが、それにしてもサリアは侵入者迎撃ではなくアンジュの移送を担当していた。
 あの日銃撃戦に参加したノーマももちろんいただろうが、サリアはそうではない。
 単に運が良かっただけではあるが、サリアはその手を血に染めたことはまだないのだ。

「あなたとアンジュの間に何があったか、それは私にはわかりません。
 ですが、アカメを仲間と信頼する泉新一、アンジュ、μ's、白井黒子と電撃使い! これらの要素が絡み合い、導き出される答えは明白!
 奴らこそが、悪! 疑問を差し挟む余地はありません! であれば、悪と戦ったあなたは、すなわち正義です!」

 そう単純なものではないだろうとサリアは思ったが、どうにもヒートアップするセリューに水を差すのも躊躇われた。
 もしサリアが「いや、それはちょっと言い過ぎでは?」とでも言うと、おそらくセリューはサリアを「悪と内通する者」と、再び評価を翻すことだろう。
 どうもセリューという人物は思い込みが激しいようで、自分がこれと決めた結論に向かって一直線に進んでいくタイプであるようだ。
 元々彼女の中にあった疑念、疑いレベルに過ぎなかった事象が、サリアの証言を得て確固たる事実へと変化したのだ。
 多分にアンジュを悪人扱いして話を進めたサリアにも原因はあるのだが、それにしてもこうまで単純に物事の善悪を判断するのはさすがに予想外だった。
 だが、考えてみればアンジュが悪でありサリアが正義と思われることは、別にサリアにとってマイナスではない。むしろ、仲間を失い孤立無援のサリアにはプラスと言える。
 それに、セリューがそういう人間であるとわかった今なら、彼女の思考を誘導することも決して難しくはない。

「正義、だなんて言われるとちょっと照れるわね」
「恥じることはありません! ここには多くの悪が蔓延っており、常に力なき民が脅かされています!
 私たちはそんな人たちを守る盾となり、また悪を滅ぼす刃として戦わねばならないのです!」
「それについては同意するわ、セリューさん。アンジュを生かしてはおけないもの」
「セリューでいいですよ、サリアさん。あ、私はちょっと呼び捨てはやりにくいので、サリアさんって呼ばせてくださいね?」

 セリューの言うことを否定せず、受け入れる。それだけで、こんなにもセリューは信頼を寄せてくる。
 もはやセリューの瞳にはサリアに対する敵意は一片も見当たらない。
 とりあえずの安全を確保したと、サリアは息を吐いた。

「あ、こんなところで長話もなんですね! どうぞ、イェーガーズ本部へとご案内します! あそこならサリアさんの怪我の手当もできますから」
「……いえ、悪いのだけどあなたと一緒には行けないわ、セリュー」

 サリアを担ごうとするセリューの手を、サリアはやんわりと固辞した。


77 : Fiat justitia, ruat caelum ◆H3I.PBF5M. :2015/08/01(土) 16:58:41 t2nVOgGI0

「ど、どうしてです? 私たちの目的は同じですよね?」
「ええ。悪を滅ぼし、広川を打倒して元の世界に帰る。それはあなたも私も変わらないわ」
「なら!」
「私には、どうしてもお護りしなければならない方がいるの」

 当然、エンブリヲのことである。
 セリューを利用できるとしても、サリアが優先するべきはまずエンブリヲの安全であり、その次がアンジュの抹殺。セリュー他はその次だ。

「ど、どなたです? 何なら私も同行して一緒に捜索を手伝いますよ?」
「その前に一つ聞かせて。あなたが見た殺人者のリストだけれど、どの程度の情報が載っていたの?」

 ここでサリアが気になったのは、セリューが見たという殺人者のリストだった。
 サリアは載っておらず、アンジュは載っている。であれば間違いなく、サリアが敬愛するエンブリヲの名もあるはずだ。
 なにせサリアが知っているだけでも、エンブリヲはアルゼナルに押し寄せてきた人間の艦隊を消し飛ばしている。殺害人数という点ではアンジュなどとは比べ物にならないだろう。
 そんなエンブリヲを、セリューが知ればどうなるか。確証はないが、悪と判定する可能性は高そうだ。
 だからこそ、セリューとエンブリヲが出会ってしまう前に、エンブリヲが悪ではないという事実をセリューに刷り込んでおかなければならない。

「ええと、殺人歴がある人物全員の顔と名前ですね。殺害数や殺人に至った経緯などは載っていませんでした」

 セリューの答えに、サリアは内心喝采を上げた。これなら操縦は容易い。

「ねえ、聞いてセリュー。私はエンブリヲというお方にお仕えしているの」
「エンブリヲ……その名は確か」

 予想通り、セリューの眼尻が釣り上がる。だがそこから感情の色が失われる前に、サリアは畳み掛ける。

「そのリストに名前はあったのでしょうね。でも待ってほしいの。エンブリヲ様は決して私利私欲のために悪事を行う人ではないわ」
「……と言うと?」

 サリアの言葉に聞く価値があると判断したか、セリューは先を促す。食いついてきた。
 知りうる限りのエンブリヲの経歴を、セリューに理解できる程度に改変して話す。

「エンブリヲ様は、ある国をずっと陰から護ってきたの。
 王族ではないのだけど、国民たちが安心して日々を暮らせるように犯罪の芽を詰んだり、他国の侵攻を防いできたの」

 ほとんどがでっちあげだが、別に丸きり嘘という訳でもない。

「その過程で少なくない人を手にかけてしまったのは間違いないわ。
 そうしなければ国を、民を、護れなかったから。エンブリヲ様は殺さねば護れない矛盾にに苦しんでいた。
 決して、人を殺すことを楽しむような人ではないのよ。だからセリュー、エンブリヲ様は」

 決して悪ではないわ、とサリアは続けようとしたが、言葉を最後まで紡ぐ必要はなかった。
 何故ならセリューの瞳は、ついさっきまでの親愛の情を取り戻していたからである。

「なるほど、エンブリヲさんという方は我々イェーガーズと同じく、治安維持の任に就いておられるのですね!
 それでは殺人を犯していても仕方ありません。それは悪ではないのです。何故なら悪を滅ぼしているのですから!」

 きらきらと輝く眼でセリューは喜ぶ。
 彼女を懐柔するのは、本当に簡単だった。


78 : Fiat justitia, ruat caelum ◆H3I.PBF5M. :2015/08/01(土) 17:00:01 t2nVOgGI0

  ◆


「では、名残惜しいですがここでお別れですね」

 でき得る限りの応急処置をサリアに施し、情報を交換した後。
 セリューは朗らかな気持ちでサリアとの別れを迎えていた。

「あなたに会えて良かった。死なないでね、セリュー。あなたみたいな良い人が、こんなところで命を落としてはいけないわ」
「ありがとうございます、サリアさん! 私も志を同じくするサリアさんと出会えて本当に嬉しいです! 必ずまた、生きて会いましょう!」

 サリアはアンジュを追うために東に戻る。
 セリューはウェイブや高坂穂乃果たちを放り出す訳にもいかず、サリアには同行できないのだ。

「もしエスデス隊長に会うことがあれば、セリューとウェイブさんはイェーガーズ本部にいると伝えてください!
 隊長は本当にすごくすごく強いんです! 私たちイェーガーズが集まれば、殺し合いなんて一晩で終結させられますよ!」
「エスデスさんね、探してみるわ。もしあなたもエンブリヲ様と会うことがあれば、サリアが探していたと伝えてくれる?」
「お安いご用です! ……あ、忘れるところでした。これ、お返ししますね」

セリューはしまっていたアドラメレクを取り出し、サリアへと手渡す。

「いいの?」
「丸腰では危険ですよ。私が持っていたところで、ブドー将軍の帝具なんて使いこなせませんからね。
 ならば同じく正義の使徒であるサリアさんに使っていただいた方が良いですから」

 強力な武器を手渡す。それは揺るぎ無い信頼の証。
 エンブリヲを護り、邪魔な人間を間引く鋭い刃。それが、サリアがセリューに抱いた印象であり、仲間とはこれっぽっちも思っていない。
 セリューに同行しなかったのは、彼女がいつ爆発するか知れぬ爆弾とほぼ同義であるからだ。
 いつ豹変するか知れない彼女と行動して精神的に消耗するより、自由に動かして適度に暴れ回ってくれた方が良い。
 セリューが島の西側に留まるならば、東にいるはずのアンジュを掻っ攫われることはまず考えなくていいだろう。
 それにイェーガーズ本部と図書館は距離的に近い。
 セリューには、アカメと図書館で合流する予定だったと伝えた。彼女の準備が整えば、図書館でシンイチとサリアを待つアカメに対し攻撃を仕掛けるはずだ。
 もはやアカメはサリアにとっては味方ではない。セリューとは違う意味で苛烈なまでに悪を憎むアカメは、サリアの所業を決して許さないのだから。
 雪ノ下雪乃、泉新一については、あえて考えないようにした。彼らを敵と断ずるにはまだ、サリアの方の心構えができていない。

「サリアさん、ナイトレイドには気をつけてくださいね。アカメはもちろんのこと、タツミさんも悪に染まってしまったようですから」
「タツミね、了解。気をつけるわ。じゃあ私からも一つ。槙島聖護という男には気を許さないで」
「槙島聖護……殺人リストにありましたね」
「単純な強さという意味ではおそらくあなたが恐れるほどではないわ。でもあいつは……何ていうか、人の隙を突くのが上手い。
 あいつに好きに喋らせていると、いつの間にかいいように利用されてしまうわ。注意して」


79 : Fiat justitia, ruat caelum ◆H3I.PBF5M. :2015/08/01(土) 17:00:45 t2nVOgGI0

 槙島はサリアにアドラメレクを譲ってくれた人物ではあるが、感謝の念など全くない。
 むしろアンジュやアカメとは違うベクトルで危険だと直感している。
 観察力、心理掌握に優れ、言葉一つで人を操る。肉体ではなく、精神の化け物とでも形容するのが相応しい。
 サリアですら手玉に取れたのだから、セリューなど槙島にとっては格好の獲物でしかないだろう。

「弁論で心を操る敵ですか……厄介ですね。ウェイブさんもその手にやられたようです」
「μ's、と言ったかしら。あなたが見た南ことり、高坂穂乃果、そして私が会った園田海未。
 この三人は私たちの敵だった訳だけど、もう一人いるんでしょう? そいつは放っておいていいの?」
「小泉花陽、ですね。たしかに彼女もμ'sの一員のようですが……どうでしょうか。
 もし高坂穂乃果同様の悪であれば、高坂穂乃果は小泉花陽を見捨てて逃げたことになります。
 もしかしたら、μ'sに属してはいても、裏の顔までは知らないのかもしれません。殺し屋が活動する際、全く関係のない組織や店に潜り込んで素性を隠すのはよくある手です。
 どちらにせよ、小泉花陽の本性を見極めるためにも、私は一度本部へ戻ろうと思います」

 理想の展開としては、セリューがアカメ他の危険人物を片っ端から駆逐してくれることだ。
 人数が減ればそれだけ自身とエンブリヲは安全になる。仮に生き残ったのがサリア、エンブリヲ、そしてセリューたちだけならば、敵対する理由もない。
 サリアに協力的なセリュー、戦友のウェイブ、上司エスデス。当面はこの三人が敵ではないというだけでも収穫だ。
 敵と言えば、サリアが聞き逃した放送で、モモカ・荻野目の名も呼ばれたらしい。
 サリアはさほど彼女と交流があった訳ではないが、それでも少しの間、生活を共にした仲である。
 アンジュを憎むのは別に、モモカを悼む気持ちは否定できない。それが弱さだと、わかってはいるのに。

「もしお互い生き延びることができたら、そうね、十二時間後に私もイェーガーズ本部に向かうことにするわ。
 もしあなたがその時間に本部にいたら、狼煙でも音でもなんでもいいから合図を上げて。それがない限りは安全と判断できない」
「わかりました。十二時間後、次の次の放送のときに、ですね。
 できればそのときにはお互いの探し人を見つけていて、みんなで会いたいものです」
「それができればいいわね……それじゃ、行くわ。また会いましょう、セリュー」

 こうして、サリアはセリューと別れた。
 多くの情報だけでなく、セリュー他イェーガーズという協力者も得た。エンブリヲを護る騎士団は着々と集まりつつある。

「あとは、エンブリヲ様に知られることなくアンジュを抹殺できたら完璧なんだけど」

 エンブリヲより先にアンジュを発見し、今度こそアドラメレクで灼き尽くす。
 それにはまず東の市街地に舞い戻り、アンジュを見つけ出さなければならない。
 振り返ると、セリューがまだ手を降って別れを惜しんでいる。

「……単純で危険だけど、根は悪い娘じゃないのかもね」

 できれば彼女と敵対することは避けたい。
 そう願いながら、サリアは一人、無人の野を進んでいった。


80 : Fiat justitia, ruat caelum ◆H3I.PBF5M. :2015/08/01(土) 17:02:24 t2nVOgGI0

【C-5/1日目/朝】

【サリア@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:両肩負傷(処置済み)、左足負傷(処置済み)
[装備]:“雷神憤怒”アドラメレク@アカメが斬る!、シルヴィアが使ってた銃@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品、賢者の石@鋼の錬金術師
[思考・行動]
基本方針:エンブリヲ様と共に殺し合いを打破する。
0:東の市街地に戻る。
1:アンジュを殺す。
2:エンブリヲ様を守る。
3:エスデスと会った場合、セリューの伝言を伝え仲間に引き入れる。
4:アカメ、タツミ、御坂美琴には特に警戒。
5:三回目の放送時にイェーガーズ本部へ訪れ、セリューと合流する。
[備考]
※参戦時期は第17話「黒の破壊天使」から第24話「明日なき戦い」Aパート以前の何処かです。
※セリューと情報を交換しました。
 友好:セリュー、エスデス、ウェイブ、マスタング、エドワード、結衣、卯月
 危険:高坂穂乃果、白井黒子
 不明:小泉花陽


【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:日本刀@現実、肉厚のナイフ@現実、魔獣変化ヘカトンケイル@アカメが斬る!
[道具]:ディバック×2、基本支給品×2、不明支給品0〜4(確認済み)、首輪×2
[思考]
基本:会場に巣食う悪を全て殺す。
0:イェーガーズ本部に戻る。
1:悪を全て殺す。
2:エスデスを始めとするイェーガーズとの合流。
3:エンブリヲと会った場合、サリアの伝言を伝えて仲間に引き入れる。
4:ナイトレイドは確実に殺す。数時間後に図書館を襲撃し、アカメを殺す。
5:小泉花陽が穂乃果同様の悪か見極める。
6:ウェイブには穂乃果と黒子の件に関して、話を都合のいいようにでっち上げる。 
7:十二時間後にイェーガーズ本部で合図を上げて、サリアを迎え入れる。
[備考]
※十王の裁きは五道転輪炉(自爆用爆弾)以外没収されています。
※他の武装を使用するにはコロ(ヘカトンケイル)@アカメが斬る!との連携が必要です。
※殺人者リストの内容を全て把握しました。
※都市探知機は一度使用すると12時間使用不可。都市探知機の制限に気付きました。
※サリアと情報を交換しました。
 友好:サリア、エンブリヲ
 危険:アンジュ、槙島聖護、泉新一、雪ノ下雪乃、御坂美琴(名前は知らない)


81 : 名無しさん :2015/08/01(土) 17:03:45 t2nVOgGI0
投下終了です


82 : 名無しさん :2015/08/01(土) 17:40:05 aUnlgkS20
投下乙です
また図書館に危険人物が追加か


83 : 名無しさん :2015/08/01(土) 21:06:54 78Z8PRME0
投下乙です

シンイチやマキシマムから与えられた恩を仇で返すとは汚いなさすがバイトリーダー汚い
安定のガイキチセリューさんは図書館に向かうようだけど大総統やセリムの参加者屈指の強者がいるからなあ


84 : 名無しさん :2015/08/02(日) 00:20:23 lwm/RsG.0
投下乙です
セリューが平常運転でハラハラする
花陽ちゃんは衝動的な行動さえ取らなければセーフっぽいけど、どうなる?


85 : 名無しさん :2015/08/02(日) 10:59:05 ZySEasjs0
投下乙です

サリアさんは実に裏切り者だなあ。清清しささえ感じる
セリューマジ歩く火薬庫
そしてかよちん逃げて超逃げて


86 : 名無しさん :2015/08/02(日) 11:38:36 VOwmWE6.0
投下乙です。
なんというセリュー・ユビキタス劇場w
セリフや思考がいちいちツボに来ます。
頭が冷えたサリアも仕切り直しでこれからが楽しみ。


87 : 名無しさん :2015/08/02(日) 16:34:26 /G9.Teic0
投下乙。どうしてこうなったw こいつらこれでも対主催組なんだぜ
セリューはことりの襲撃がなければ、ラブライブ組への風当たりも少し弱くなったんだろうか


88 : ◆w9XRhrM3HU :2015/08/04(火) 03:04:39 DC2esiTE0
投下します


89 : 白色の悲喜劇 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/04(火) 03:09:26 DC2esiTE0


「ひっ、な、何!?」

飛翔するイリヤの右足に一本のワイヤーが巻き付く。
黒から一刻も早く離れたい衝動と、不意の出来事によりイリヤは更に錯乱は増すばかりだ。
ワイヤーの主、黒はワイヤーを強く握ったまま契約能力を行使した。
電撃がワイヤーを伝い、イリヤの身体を流れていく。

「痛っ! や、やめて!!」
「何?」

電撃は加減されていた。
イリヤの錯乱を抑える為、黒はあくまで小学生女児が浴びても、意識を失う程度に能力を調節していたのだ。
しかし、ここで誤算が生じる。黒の認識は転身前のイリヤにしか当て嵌まらない。
今のイリヤはマジカルルビーの力を得て、転身した戦闘用の姿だ。当然、その耐久度も同じ年齢の子供とは比べ物にならない。

「やだっ、いやだっ!!」
「くっ……!」

電撃はイリヤの意識を奪うには至らず、いたずらに猜疑心を刺激しただけに過ぎない。
無我夢中で手のステッキを振るい、その先から放たれる魔力の衝撃波に黒はワイヤーの手を緩めた。
その隙に全身全霊を以って、イリヤはより高く上昇しワイヤーの射程外まで飛び上がる。
しかし、蓄積された疲労がイリヤの動きを阻害する。
イリヤの意に反して、上昇どころか落下してしまう。
そのまま、重力に従い地面に叩きつけられると転身が解除された。

「うっ、くぅ……」

身体を打ちつけた痛みに耐えながら、立ち上がろうとする。
今までルビーの忠告を無視し、転身を続けたツケをここにきて支払うことになった。
身体を支えようとする手足も小さく痙攣し、息も上がってくる。
それでも、イリヤの意識を繋ぎとめるのは恐怖心。近づいてくる黒の死神の足音。
猜疑心は今までのやり取りの中から、恐怖心へと変貌していった。

「あっ、あぁぁ……いや……」
『イリヤさん、落ち着いてイリヤさん!!』

ルビーの声がイリヤに届くことはない。イリヤの中により作られた空想の視点では、彼女は絶体絶命の危機にまで陥っているのだから。
黒が警戒しながら、それでもまだ敵意はなく、むしろイリヤの容態を伺っているのすらイリヤは気付きはしないだろう。

「た、助けて……戸塚さん」
「え?」

(戸塚を警戒していない?)

「イリヤ!!」

黒の足元に一本の矢が射られる。地に着き刺さった矢が光を帯て起爆する。
爆風から飛び出す黒に向かい、更に数本刀剣が投擲された。
バックステップでイリヤから離れ、黒はワイヤーで刀剣を纏めて巻きつけて勢いを殺す。

「大丈夫!? イリヤ!!」

その間に、クロエは倒れたイリヤの元へ駆け寄りイリヤを抱上げた。
イリヤは緊張の糸が切れたのか、一度安心しきった笑みを浮かべた。


90 : 白色の悲喜劇 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/04(火) 03:09:59 DC2esiTE0

「イリヤに何を……」
『ま、待って下さい。これは「あの人、殺し合いに乗ってるかもしれないの!」

ルビーの制止はクロエの耳に入ることはなかった。
イリヤの叫び声にかき消され、その誤解が解けぬままクロエは投影した弓矢を構えた。

「やるしかないってわけね。ここは引き受けたから先に逃げなさい」
「クロ……」
「早く、私もすぐ追いつくから!」

クロエの弓から、刀剣を更に変化させた数本の矢が連射される。
人の動きを超えた、機械染みた弓裁きは正確に黒へと狙いを定め、ただの一本も外さない。
黒は戸塚の首根っこを掴み、木に巻きつけたワイヤーで釣り上がる。
着弾した矢は爆発し、黒が居た場所を抉っていく。黒は爆風に煽られながらも着弾は避け、クロエの横方に回り込んだ。
クロエは弓を放り、両手に双剣を投影。一気に踏み込み、黒へ間合いを詰める。

「いたっ、……へ、黒さん!」
「イリヤを追え、あいつはお前を警戒していない。俺もすぐ行く」
「黒さん……」

戸塚を突き飛ばし指示を与えると、包丁を片手に黒も疾走する。
クロエの意識を引き付け、初撃の突きをいなし、斬りかかると見せて包丁の柄でクロエの頭を打つ。
フェイントを見切ったクロエは屈んでかわす。そして上体を起こす時、黒の顎下で双剣を交差させバツの字で振るう。
黒は空を見上げるように後方へ反り、紙一重で双剣を避け、そのままバク転で距離を取った。

(不味い、一人逃がした……早くコイツを倒してイリヤの元に……)

瞬間、視界が暗転する。
瞼を閉じたわけでもなく、クロエの視界が黒に染まっていた。
それは黒の着ていたコートだ。咄嗟にクロエに向かい投げたのだろう。

(コートは囮、本命は)

クロエの耳には既に、コートに隠れ投擲された包丁の風を切る音が聞こえていた。
コートを避け、包丁を剣で叩き落す。
同時にワイヤーの収縮音がクロエの耳を撫でた。黒がクロエの眼前から消え、黒からすれば目の前、クロエからすれば背後の建物の窓へと飛び込んでいた。
弓矢を投影し、建物に狙いを付け射る。
建物そのものを消し飛ばすのは今のクロエの魔力量を考えるとあまり良策ではないが、黒が飛び込んだ部屋だけを消し飛ばすのであれば比較的燃費を抑えられる。
だが、爆風から飛び出した黒は更に隣接した別の建物の屋上へと飛び移っていた。
素早い。逃げ足、危機感知能力が非常に優れている。
一々狙撃していたところで、避けられ続けるのが関の山。クロエも高く跳躍し屋上へと乗り込む。

「水?」

クロエの着地地とその周辺にばら撒かれていたのは水。
黒が水に触れ、その目が赤く輝いた。
水を媒介にするのだから、恐らくは凍結か電撃系の攻撃だろうと当たりを付ける。
クロエは足をバネに上空へと飛び上がった。

「なっ!?」

だが、足に力を込めすぎた結果、水に足を取られ尻餅を付いてしまう。

「これ、ローションじゃない!」

次の瞬間、黒の手から電撃がローションを伝い流れた。






91 : 白色の悲喜劇 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/04(火) 03:10:53 DC2esiTE0





「待ってよイリヤちゃん!」

イリヤに追いつくのはそう難しくはなかった。
運動神経抜群のイリヤではあるが所詮は転身なしでは普通の子供、テニス部で鍛えた戸塚の方が早い。
ましてや、疲弊しきったイリヤならば尚更だ。
腕を掴み、互いに息を切らしながら見つめ合う。
イリヤの顔は恐怖に塗られながらも、ある程度冷静だった。少なくとも戸塚に対し猜疑心はない。
落ち着いた声でイリヤは口を開く。

「戸塚さん……私……」
「イリヤちゃん、黒さんは悪い人じゃないんだ」

黒という名を出した瞬間、イリヤの顔が歪んだ。
これで確信を得た。イリヤは黒に対して異常な猜疑心を抱いているのだと。
理由は分からない。もしかしたら、精神的な病気なのかもしれない。とはいえ、このまま放っておくわけにも行かない。
戸塚は少し考えてから、意を決した。

「分かった。黒さんは人は信じなくていい。でも、僕は信じてくれないかな?」

今までお世話になりながら、何という言い草だろうと我ながら思ってしまうがイリヤの警戒を解かせるにはこれしかない。
イリヤも再び落ち着きを取り戻し、静かに頷いた。

(とはいえ、どうしよう? 情けないけど、正直僕一人でイリヤちゃんを守れるとは思えないし……)

イリヤが戸塚を信じたのはいいが、これで黒との合流もこれでし辛くなった。
もう一度黒と会えばイリヤは再び錯乱する。
何とか黒にこの事を伝えつつ、黒の姿をイリヤに見せない方法を考えなければならない。
最悪、黒と別れ別行動を取ることも考慮に入れるべきだろう。
だが、戸塚に戦闘力はほぼ皆無だ。
殺し合いの中、イリヤを連れて二人だけで行動するのはあまりにも心許ない。
やはり、黒と合流するのが一番心強いが。

(駄目だ、人に頼ってばかりじゃ。何とか自衛の方法も考えないと)

「どうしたんだ? 女の子二人で」

不意に響いてきた男性の声。
振り向いてみると、甘いマスクに黒いコートの少年が居た。
女の子という呼ばれ方に不満を覚えたが、今の戸塚にそれを訂正するほどの余裕はない。
それよりも、何処か頼もしさのある少年に少し安堵感が沸いてしまっていた。

「俺はキリト、殺し合いには乗ってない。少し話を聞いていいかな?」

それから戸塚は今までの出来事を全てキリトと名乗る少年に伝えた。
イリヤが警戒する事柄は全て小声で話し、キリトは腕を組みながら思考に耽っていた。

「クロだ……。殺し合いに乗る奴じゃないと思うけど、間違いない」
「仲間なんですか?」
「知り合いだよ。別れ方はかなり悪かったけど。そのクロと黒って人が戦ってるのか」
「はい。さっきも言いましたけど、クロエさんって人は誤解してるんですよ」
「分かった。俺が行って止めてくる。
 そうだ、廃教会にエンブリヲさんっていう人が居るんだ。
 俺が帰るのを待ってる筈なんだけど、多分あの人なら力になってくれるかもしれない」

キリトは放送後、辺りの偵察に行ってくるとエンブリヲを廃教会に残し一人で行動していた。
それから時間はあまり経っていない。エンブリヲが止むを得ない状況に陥り、教会を離れる可能性は少ないだろう。

「分かりました。ありがとうございます」
「二人の事は俺に任せてくれ」

キリトはそう言うと黒とクロエの争っている戦場へと走っていく。

「イリヤちゃん、取り合えずそのエンブリヲさんって人に会わない?」
「でも私、田村さんに会いたい……」
『正直、田村さんがずっと学校に居るか分かりませんし、誰かに会って情報を仕入れるのも大事だと思いますよ。
 色々予定はズレましたけど、クロエさんとも会えた訳ですし、焦りは良くないと思います』
「う、うん。分かった。でももう黒さんには会いたくないよ」

未だ猜疑心の解けないイリヤの手を戸塚が取りながら、二人と一本のステッキは廃教会へと向かった。





92 : 白色の悲喜劇 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/04(火) 03:11:42 DC2esiTE0


「それで、イリヤが変に喚き出したってこと?」
「そうだ」

全身ローション塗れになったクロエが不機嫌気味に口を開く。
黒はそれを気にする素振りもなく、淡々と肯定する。
電撃を流されたクロエだが、それは一時的に痺らせる程度に加減したものだった。
その後、黒が今までの一部始終を話し、未だ怪訝そうな顔をしながらもクロエは一応の納得を見せた。

「少なくとも、私を殺すつもりは今はないみたいだしね」

シャワーを浴びる暇もなく、適当に民家から持ってきたタオルでローションを拭くが、いまいち気持ち悪さが取れない。
勘違いから戦闘を吹っ掛けたクロエが悪いが、せめて別の方法はなかったのか問い詰めたくなる。

「こんなものが役に立つとはな」

ペットボトルに入った謎の液体。これが黒の最後の支給品だった。
何を考えて、広川がこんなものを支給したのか分からないが、物事は何でも工夫次第ということだろう。
この点に関しては、あの後藤と同意見だ。

「まあいいわ。とにかく、イリヤを追わないと。
 私が会って、イリヤと話すからアンタは隠れててよ? 何故か怪しまれてるんだから」
「ああ、分かってる」

クロエがローションをふき取るのを諦め、渋々タオルを放り出す。
そして話を纏め、二人がイリヤと戸塚の追跡を開始しようとした時、イリヤ達が向かった道からキリトが焦った表情で走ってくる。

「クロ、か? 戦ってたんじゃ」
「キリト? アンタ……」
「待ってくれ、言いたい事は分かってる。ただ俺は、クロの姉妹のイリヤって娘から話を聞いてここまで来たんだ」

モモカを殺害し、逃げたことでキリトへの信頼はなくなっていることはキリト自身良く分かっていた。
だが今はその事を言い合う場合ではない事をキリトはクロエに言い、イリヤと出会った事をクロエに伝えた。

「今は廃教会に居るはずだ。エンブリヲさんも居るはずだし、安全だろ」
「エンブリヲ……? エンブリヲですって!」
「ああ、そうか……。とにかく話を聞いてくれ、駅のあれ、実はタスクって奴の罠なんだ」

クロエは決してキリトに好感を持ってはいないが、殺し合いに否定的であるとは思っている。
故にモモカ殺害に関して責める前に話を聞いていたが、途中から聞くのが馬鹿らしくなってしまった。

「それ、本当に信じたの?」
「当たり前だ! エンブリヲさんは俺を立ち直らせてくれたんだ! 例え、NPCでも!」
「何よ、NPCって何? だから、モモカを殺したのも許されるって事?」
「それは……。でも、とにかくあの二人は安全な場所に居るのは間違いない。それだけは保障できる」

ヒルダの話では、エンブリヲは女をたらし込んでヤリ捨てる。最低最悪のナルシストだとクロエは聞いていた。
イリヤもそこまで股の緩い女ではない、そもそもそんな年齢ではないが、更に性質の悪いことにエンブリヲはレイパーでもあるという。
あの疲労したイリヤがそんな男の手に渡るなど、考えたくもない。

「ふざけたことしてくれたわね、この馬鹿ッ!」
「何だよ……。そんなに信じられないなら、エンブリヲさんと直接話せよ」
「言われなくてもそうするわ!」

キリトとの話を打ち切り、クロエは全速で駆け出した。





93 : 白色の悲喜劇 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/04(火) 03:12:25 DC2esiTE0




「あぁぁ……ん……!!」
「な、何これ……」

戸塚とイリヤの身体に今まで感じたことのない快感が走る。
廃教会に着いた二人はエンブリヲと合流し、その紳士的な態度に警戒を解いていた。
だが突如二人に触れたかと思うと、エンブリヲは変貌した。

「君たちの感度を50倍にさせてもらったよ」

その眼は野獣、口も釣り上がり、獲物の前で舌なめずりを行う肉食獣のように変わる。
エンブリヲの今までの紳士な態度は幻のように消えた。
醜悪な笑みを浮かべたまま、エンブリヲは戸塚の首の下を優しく撫でる。
それすらも快感に変化し、戸塚は股間を押さえながら悶えてしまう。
悶える動作もまた服が擦れ、新たなる快感を生み出し更に身体を敏感にする。

「っあ、ぁ……く……」
「フフ、中々辛抱強いじゃないか。……それに比べ、君はいけない娘だね、イリヤ?」

戸塚に比べ、最早イリヤは立つことも出来ず涙目で足を震わせながら脂汗を流していた
口から漏れる嬌声は小学生とは思えぬ濃厚な艶かしさを醸し出す。
脂汗でぺったりと濡れた夏服は、イリヤの未発達な肢体を余すことなく強調する。

「余程、感じているらしいね。服を全て脱いだらどうだろう?
 摩擦による快感はなくなるはずだ」
『マスターいじりは私の生きがいといってもやりすぎですよこれは!』
「うるさい」
『んほぉおおおっ!!! 』

飛び掛ったルビーの感度を50倍にする。絶頂しながら、ルビーは地べたに転がってよがり狂う。
イリヤの手が服を掴み布が擦れる音を立てながら、キャミソールを脱いだ。
シャツの上から圧迫していたキャミソールが消えたことで、快感は僅かに薄まったがそれだけでは足りなかった。

「まだ一枚しか脱いでいないよイリヤ?」

シャツを脱ごうとして、僅かに残る理性が羞恥を思い出させる。
脱いで快感から逃れたところで、今度はエンブリヲにその生まれたままの裸体を視姦されるのだ。
気持ち悪い。屈辱的だ。だが、理性すら吹き飛ばさん快感の波がイリヤを襲う。

「やああぁぁぁっ、んっ、いっ、く……!」

どちらにしろ、男を悦ばせる事に変わりはない。裸体であろうとも、快感によがり悶えるのも、エンブリヲからすればどちらでも良い。
イリヤの次の行動を今か今かと待ちかねているエンブリヲの頬を光弾が過ぎる。
頬に一筋の赤い線が浮かび、痛みが伝わる。


94 : 白色の悲喜劇 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/04(火) 03:13:33 DC2esiTE0

「は、離れ……て……」
「やれやれ、彩加。危ないな、そんな銃を持っていたとは。
 やはり、君からお仕置きをするべきかな?」

瞬間移動で戸塚の背後を取ったエンブリヲがパンプキンを取り上げ、戸塚を押し倒す。
既にエンブリヲの局部は再生を完全に終え、服の上からでも分かるほどそそり立っていた。
目を見開き、戸塚の服を眼光で脱がそうとしたとき、違和感に気付く。

「………………まさか、君は、男……」

ほぼ零距離の至近距離だからこそ気付いた。
戸塚彩加は男だということに。
エンブリヲは男に見惚れ、抱こうとしたのだと。

「馬鹿な、有り得ない……。そんな、私が選んだ女性が男だと……?」

女性の扱いに関して絶対の自信があったエンブリヲからすれば、屈辱以外の何物でもない。
男という不浄の存在を、よもや抱こうとしたなど調律者としてあってはならない愚行だ。

「……違う。私が間違っていたのではない。
 君の性別が間違っているのだよ彩加。そうだ、私が君を女性へと作り直そう」

自らの過ちを否定するように、エンブリヲはガイアファンデーションを取り出した。
ガイアファンデーションの姿を変える能力と、エンブリヲの力を組み合わせれば戸塚を性転換させるのも容易いかもしれない。
容姿だけは完璧なのだ。残るは身体だけだ。
姿を変える能力で戸塚を女にし、それをエンブリヲの力で定着させれば性転換手術は終了だ。

「や、やめて……」

「待っていてくれ、すぐに私が愛せる身体へと―――おや?」

「イリヤ!」
「戸塚!」

廃教会のドアが蹴破られ、クロエと黒が同時に剣とワイヤーをエンブリヲへと放つ。
エンブリヲは戸塚を抱いたまま、姿を消し、剣とワイヤーは空を切り、エンブリヲを捉えないまま後方へと移動した。

「ふむ、邪魔が入ったね。教会で私と愛を結ぶというのは中々風情があると思ったのだが」
「お前が、エンブリヲか」

「ク、ロ……?」
「ど、どうしたのよそれ」

顔を火照らせ、目は蕩けながら、胸と股を抑えるイリヤ。
その姿は女性のちょっとした行為中を思い起こさせる。
クロエも知識はあるが、よもやイリヤのそのような姿を見るとは思いも寄らない。

「んっ、ふっあ……やぁ……見ない、でぇ……」

明らかに肉体の異常だ。
痛覚の共有の魔術も存在するのだ。人の快感を弄る術があってもおかしくはない。


95 : 白色の悲喜劇 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/04(火) 03:14:08 DC2esiTE0

「エンブリヲさん、これは一体……」
「ありがとう、キリト君。このような美しい女性を二人、いや二人になる予定か。
 ともかく、君には感謝しているよ」
「そ、そんな……NPCが裏切るはずは……」

本来、決まった行動しか取らないはずのNPCがこのような暴挙に出るなど考えづらい。
いやそうプログラムされたNPCなのか?

「俺は、あの娘を本当に殺したのか……」

苦悶の表情を浮かべ、死んでいったモモカの姿が脳裏に蘇る。
そもそも、何故NPCが存在すると思った? アバターに差がある?
SAOでもそうだったが、プレイヤーの実力によって差が生まれるのは当然だ。差があるからNPCなど馬鹿げてる。
元からNPCなど存在していないのでは。

「三対一、か。クロエと言ったかな? 君も迎えたいのだが、流石に分が悪い。
 ここはイリヤと彩加の二人を先に迎えてから、君も後で堕としてあげよう」

「ふざけないで! この変態ナルシスト!!」

クロエが剣を投影し躍りかかるが、エンブリヲは余裕を崩さない。
剣は空を切り、再びエンブリヲは消える。今までのように姿を現すことはなく、もう二度とその姿を見せない。
見れば、イリヤと戸塚の姿もない。
教会にはクロエ、キリト、黒の三人だけが残った。

「逃がした……? イリヤ? イリヤ!」

エンブリヲの逃亡を許したという事実を認識した時、クロエはイリヤの名前を叫んだ。
もしかしたら、まだ近くに居るかも知れないという淡い希望を持ってだ。
だが、クロエの声が木霊するだけで、イリヤの声は何処からも響かない。

「嘘だろ、エンブリヲさん……嘘だろッ!」

裏切るように設定されたNPC。そう片付けるのは簡単だ。
だが、違う。キリトは既にこれがゲームでない事に気付いてしまった。

「俺が、本当に人を殺して……俺のせいで女の子がまた二人……」

今までは逃避の為にゲームだと思い込んでいた。
しかし、その逃避も限界が来た。元々、こんな逃避が長く続くはずがなかった。
キリトはそこまで現実逃避するほど弱くもなければ、自分を騙し続けられるほど強くもない。
エンブリヲの本性を見ずとも、キリトは近いうちに現実に気付いただろう。
それが、人を再び殺める前だったのは幸運だったのかもしれない。


96 : 白色の悲喜劇 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/04(火) 03:14:28 DC2esiTE0

「俺のせいで……俺の……」
「何で、あんな変態に……アンタさえ居なければ……!」

今にもクロエはキリトを殺しに掛かりそうな程、顔を歪めていた。
そのまま、キリトの胸倉を掴み、顔面に拳を叩き込む。
行き場のない怒りを拳に込めて何度も殴り続ける。

(痛くない……全然、痛くない……)

痛ければ、どれだけマシだったか。少なくとも、その時だけは苦痛という苦しみに逃げていられる。
苦痛という断罪を受けているという安心感がある。
だがアバターの身体はそれすら許さない。

「止めろ」
「離しなさい、この―――」
「黙れ!」

黒がクロエの手を止め、その頬を平手で打つ。
頬が赤く染まり、力が抜けたのかクロエは尻餅を付いた。

「コイツを殴る前に、奴を追うのが先だ」
「……」

淡々と述べてから黒はディバックを背負い直し教会のドアへと向かっていく。
クロエも頬を抑えながら、一度キリトを強く睨んでその後に続いた。

「どうすれば、いいんだ俺は……」

本当なら、あの二人の後に着いて行きエンブリヲから少女達を救いたい。
だが、ここに来てから、やること為すことが全てが裏目になる。
仮にあの二人に続いたところで、また何かをしてしまうんじゃないかと自分自身を信じられない。
それに、最後に見せたクロエの目をキリトは忘れることが出来なかった。
全てがキリトのせいではないだろう。黒に襲い掛かってしまったクロエ、そして無力なイリヤと戸塚を先に行かせた二人にも判断ミスがある。
けれど、もしキリトが現実を見て、エンブリヲに騙されていなければ……。この事態が起こらなかったのは事実だ。

「クソッ……」

無力さに打ちひしがれながら、キリトは床を叩いた。


97 : 白色の悲喜劇 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/04(火) 03:15:47 DC2esiTE0


【F-6 廃教会/1日目/朝】

【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷
[装備]:黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×3
[道具]:基本支給品、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
0:エンブリヲを追う。
1:銀や戸塚の知り合いを探しながら地獄門へ向かう。銀優先。
2:後藤、槙島を警戒。
3:魏志軍を殺す。
4:イリヤの変化に疑問。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。


【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康、焦り
[装備]:なし
[道具]:デイパック×2 基本支給品×2 不明支給品1〜3 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:イリヤを守る。
1:エンブリヲ追って、イリヤを絶対に助ける。
2:魔力の補給についてどうにかしたい。
3;キリトには……。
[備考]
※参戦時期は2wei!終了以降。
※ヒルダの知り合いの情報を得ました。
※クロスアンジュ世界の情報を得ました。
※平行世界の存在をほぼ確信しました。


【キリト@ソードアート・オンライン】
[状態]:HP残り5割程度、魔力残り4割 、自信喪失
[装備]:一斬必殺村雨@アカメが斬る!
[道具]:デイパック 基本支給品、未確認支給品0〜2(刀剣類ではない)
[思考]
基本:……
1:……

[備考]
名簿を見ていません
登場時期はキャリバー編直前。アバターはALOのスプリガンの物。
ステータスはリセット前でスキルはSAOの物も使用可能(二刀流など)
生身の肉体は主催が管理しており、HPゼロになったら殺される状態です。
四肢欠損などのダメージは数分で回復しますが、HPは一定時間の睡眠か回復アイテム以外では回復しません。
GGOのスキル(銃弾に対する予測線など)はありません。
※村雨の適合者ではないため、人を斬ってその効果を発揮していくたびに大きく消耗していきます。
魔力から優先して消耗し、もし魔力が尽きればHPを消耗していくでしょう。


98 : 白色の悲喜劇 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/04(火) 03:16:00 DC2esiTE0

【F-6/1日目/朝】

【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(極大)、服を着た、右腕(再生済み)、局部(完全再生)
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2
[思考・行動]
基本方針:アンジュを手に入れる。
0:イリヤと戸塚を浄化する。戸塚は女にする。
1:悠のペルソナを詳しく調べ、手駒にする。
2:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
3:タスク、ブラッドレイを殺す。
4:サリアと合流し、戦力を整える。
5:タスクの悪評をたっぷり流す。
6:クロエもいずれ手に入れる。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※能力で洗脳可能なのはモモカのみです。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。


【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:失神、全裸、疲労(絶大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:仲間と合流して殺し合いをやめさせる。
0:…………
1:エンブリヲから逃げる。
[備考]
※登場時期は17話後。現在使用可能と判明しているペルソナはイザナギ、ジャックランタン。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。


【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大 倒れる寸前)  『心裡掌握』下 、美遊が死んだ悲しみ、黒に猜疑心、感度50倍
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ(感度50倍)
     DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ DIOのサークレット
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 
不明支給品0〜1 美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:クロと合流しゲームを脱出する。
0:エンブリヲから逃げたい。
1:クロとの合流。
2:音ノ木坂学園に向かう。
3:田村、真姫を探し同行させてもらう。
4:花京院、、新一、サリアを探して協力する。
5:南下して美遊とクロに会えなければ図書館に向かう。
6:黒に猜疑心。もう会いたくない。
7:美遊……。

【心裡掌握による洗脳】
※トリガー型 5/8時間経過
『アヴドゥル・ジョセフ・承太郎を名乗る者に遭遇した瞬間、DIOの記憶を喪失する』 
『イリヤ自身が「放置すれば死に至る」と認識する傷を負った者を見つけた場合、最善の殺傷手段で攻撃する』
※常時発動型 3/6時間経過
『ルビーの制止・忠告を当たり障りのない言葉に誤認し、それを他者に指摘された時相手に対し強い猜疑心を持つ』

[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
※アカメ達と参加者の情報を交換しました。
※黒達と情報交換しました。


【戸塚彩加@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(中)、黒への信頼 、八幡を失った悲しみ、感度50倍
[装備]:浪漫砲台 / パンプキン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、各世界の書籍×5、不明支給品0〜1
[思考]
基本:殺し合いはしたくない。
0:エンブリヲから逃げたい。
1:八幡達を探しながら地獄門へ向かう。
2:雪乃達と会いたい。
3:八幡の変わりに雪乃と結衣を死なせない。
4:イリヤちゃん一体どうして……
5:黒さん……


99 : ◆w9XRhrM3HU :2015/08/04(火) 03:18:21 DC2esiTE0
投下終了します
あとタイトルを間違えて入力してしまいました
白じゃなくて黒色の悲喜劇でお願いします


100 : 名無しさん :2015/08/04(火) 07:51:49 EaU/AtKo0
投下乙です

キリトさんまた大ポカを…小学生に手を出すのは不味いですよエンブリヲ様!
ニーサン、イリヤと彩ちゃん助けてくれー!


101 : 名無しさん :2015/08/04(火) 08:33:09 GOBPn7qc0
投下乙です

今の所対主催者の足引っ張ることしかしてないぞ、キリトさんェ…
戸塚くんの可愛さにはブリヲも勘違いしても仕方ない
というか未だにデイバッグ内でアヘってる人が居るんですけど、それは大丈夫なんですかね…(不安)


102 : ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:18:59 IxG7ftSM0
投下乙です。

いくらブリヲでも、可愛いとはいえ男は嫌だったか。
でも女に変えればいいやってのはどうなのよ
果たして黒さんは戸塚くんを寝取られる前に辿りつけるのだろうか

自分も本投下します


103 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:21:55 IxG7ftSM0
「やぁ、キョウコ」

杏子がジュネスへと向かう道中のことだった。
突如背後に現れたノーベンバー11は、まるで友人に挨拶をするかのように笑顔で挨拶をした。

「どのツラさげて出てきやがったてめえ!」

杏子は即座に槍を構え、ノーベンバーを刺そうとするが
(こいつは妙な鎧を持ってやがったな....正面から向かったところで無駄か)
あの鎧を破壊するのは骨が折れそうだ。そんなことに気が向いてる内にまた凍らされるのはゴメンだ。
殺るなら不意打ち。それに決まりだ。
そう判断すると、杏子はひとまず槍を納めた。

「いい判断だ。冷静さまでは失っていないようだ」
「チッ。なんのようだよ」

今にも跳びかかりたくなる衝動を抑えて、杏子はノーベンバーに問いただす。

(最初の戦いでは不覚をとったが、それはこいつの能力を知らなかったからだ)

杏子は考える。
言い訳にしかならないが、能力を知ってるのと知らないのではだいぶ状況が違ってくる。
それはジャックもわかっているはずだ。合理的判断を心がけているこいつがそれをわからないはずがない。
だから、わざわざあたしに話しかけるということは、そのリスクを考慮したうえでも、あたしを退けられる自信があるからだろう。
もしくは、それすらハッタリで『私はお前より常に優位にいるぞ』とアピールすることであたしを牽制するつもりか...
どちらにしても、この男はいますぐ殺しあうつもりはないことは確かだ、と。

「話が早くて助かる。...この殺し合いについて、きみの意見は変わらないか?」

意見が変わらないか。すなわちそれは、このまま殺し合いに乗るか主催者に叛逆するかということだ。
イエスと答えれば、杏子は敵とみなされるだろう。それはそれで望むところなのだが、もし既にこいつに仲間がいた場合、杏子の勝ち目は薄い。
ノゥと答えても、それがすんなりと通じる相手とは思えない。
なにより、自分自身でもその答えがよくわかっていないのだ。
優勝したところで、これといって欲しいものなんてない。また元の生活に戻るだけだ。それだけならわざわざ優勝しなくてもできるのかもしれない。
かといって、どこぞのお人好しのように、死んでまで貫きたい信念などありはしない。
これらを擦り合わせても答えは出ない。
イエスかノゥ。いまの自分はどちらでもない。
だったらウダウダと悩むことはない。そのままを伝えればいい。


104 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:23:20 IxG7ftSM0

「別に乗ることは間違っているとは思わない。けど、わざわざ脱出しようとするのを邪魔しようとは思わないよ。あたしはただ、生きれればいいのさ」
杏子の出した答え。それは、必要に応じて考えを変えること。
脱出の手がかりが掴めれば、それに便乗すればいい。
優勝するしかにないのなら当初のように殺し合いに乗ればいい。
要は、広川に命を握られているこの環境さえどうにかなればそれでいいのだ。

「奇遇だね。私もそう考えていたところだよ」
「?」
「どうにも、このゲームは厄介なようでね。一人で攻略するのは難しい仕組みになってるらしい。脱出を目指すにしろ優勝を目指すにしろ、ね」
「そうかいそうかい。それで、あたしと組もうって考えたわけか。頭沸いてんのか?」
「そこまでは期待していないさ。ただ、私はこう見えても怖がりでね。ちょっとついて来て貰いたい場所があるんだ」
「...何処に行く気かは知らないけど、お断りだね。あたしになんのメリットもない」

なんなんだこいつは。
最初に会ったときからそうだった。
いきなり現れたと思えば、偽名は名乗るわ説教かましたうえに猫(マオ)まで奪っていくわで腸が煮えくり返る思いをさせられた。
しかも今度は手を貸せと提案してくる。
いい加減にしろとヤキをいれたいところだったが、奴のペースに乗せられては駄目だと自制する。


「それがきみにもメリットはあるんだよ。実は、猫ちゃんが持っていかれてしまったんだ」
「...は?」


予想外の言葉に、杏子は思わずあんぐりと口を開けてしまった。


105 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:24:54 IxG7ftSM0
(さて、どうしたものか...)

幸運にも、ノーベンバーはまたしても先に杏子を発見することができた。
このまま無視して、杏子がDIOのもとへ向かうことを祈ろうかとも思ったが

(妙なタイミングで遭遇して噛みつかれても困るからな)

自分を敵視している彼女のことだ。
見つかれば即座に槍で攻撃してくるのは想像に難くない。

(ここはあえてこちらから接触するとしよう)

こちらから接触すれば、杏子の行動を監視できるうえ、不意打ちをくらう恐れも無い。
寝首をかこうとはするかもしれないが、それを防ぐ猫という大義名分もある。
それに、ノーベンバーとしてはDIOの本性についても気がかりであった。

(彼が単に力の強い猛者なだけか、それとも私たちに害を為す危険人物か...なるべく早く知りたいしな)

しかし、DIOは自分があれだけ疲弊した帝具『インクルシオ』と似た性能を持つ帝具『グランシャリオ』を大した疲労も見せずに着こなしていた。
万が一交戦することになれば、自分一人の力では厳しいものがある。
そのため、自分以外の戦力が欲しかった。戦闘力と信頼を秤にかけ、期待した戦力は猫の元々の仲間である黒、そしてこの場では猫の相棒だった杏子だ。

(先にこちらが有利な状況を作りたいが...)

先程のDIOとの遭遇を思い出す。
DIOはグランシャリオこそ着ていたものの、下手な小細工をせずにこちらに接触してきた。
そのとき、自分は警戒心を抱き、とっさに能力を使う準備をしてしまったが、あくまでもそこで留めた。
やはり生き物というやつは、正面からこられるのが一番苦手らしい。

(接触方法はDIOに習うとするとしよう)

そして、ノーベンバーはDIOと同じように、小細工なしで向き合った。
狙い通りと言うべきか、杏子はノーベンバーに手出しをすることはなく、ひとまずは話し合う形に落ち着いた。

(さて、この選択がどう出るか...)


106 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:26:17 IxG7ftSM0



「んふふ〜ねこちゃ〜ん」
「うにゃぁ〜」

少女が、猫を抱きしめて頬ずりをしている。
傍からみれば、少女が動物を愛でているという微笑ましい光景だ。
少女の精神が正常であるとすればの話だが。

(...まったく、もったいないことをする)

猫(マオ)は、みくの切断された左太ももを見て思う。
みくと戯れている際に、さりげなく右足首を確認したが、中々のものだった。
柔らかな肌。かといって、ぜい肉だらけのだらしないものではなく、それなりに引き締まった感触。
たまらない。素直にそう思った。
きっと、左足首もそれはいいものだっただろう。
それだけに、この少女の左足が無くなったことを残念に思う。


(いますぐにでもあの悪党に足首の良さのなんたるかを叩き込んでやりたいが...はぁ)

当然、ただの喋る猫同然の自分がそんなことができるはずもなく。
出来たとしても、一笑に伏せられて殺されるのがオチだろう。
そもそも、鍵をかけられたこの部屋では、脱出することすら敵わない。

(いまの俺にできるのはこれくらいか...)

猫がみくの頬を舐めると、それだけでみくの顔は笑顔に包まれた。
いくら操られているとはいえ、この状況ではずっと塞ぎこんだままよりは気が楽だ。
偽りの笑顔だろうと笑顔は笑顔。ないよりはマシだろう。
猫は、みくの腕から逃れ、ごろりと仰向けに寝転がり腹を見せた。

「ごろにゃ〜ん」
「か〜わ〜い〜い〜!」

俗にいう、服従のポーズである。


さあ、今の俺はただの猫だ。好きなだけ撫でろ。愛でろ。
頭でも腹でも、好きなところに触れればいい。


「ふわああああああ!もふもふうぅぅぅ〜!」

ふふっ。いきなり腹に顔を埋めてくるとは、なかなかアグレッシブじゃないか。
いいぞ、そのまま頬で腹を撫でていろ。そうすれば、お前は未知なる至福の一時を...

「ねこちゃん、ねこちゃ〜ん!」

ひゃっ!?き、急に変なところをまさぐるな!全く、最近の若いのは風紀が乱れ気味ときくが...
ひゃわっ!?そ、そこは駄目だ!そこは俺のじゃくて...んっ!

「しっぽピーンってなってるにゃあ」

な、なんだこの子は。まるで暗殺者のように俺の急所を的確に...まずい、このままではんああっ!

「にゃはっ、ねこちゃんおもしろ〜い」

馬鹿な、この俺がこ、こんな小娘にいいようにされるなんて...悔しい、でも...


にゃあああああああああああああ――――――――ッ!!



「随分とお楽しみだね、猫ちゃん」
「......」

笑顔で覗き込んでくるノーベンバーと目が合った時、猫(マオ)の表情は固まった。
母親に見られてはいけないものを見られてしまった男子中学生とはこういうものかと、なんとなく思った。


107 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:27:47 IxG7ftSM0
DIOが吸血鬼と教えられていたノーベンバーは、日光を防ぐのなら上階より地下の方が確率が高いとふみ、階段を下りた。
しかし、部屋に入ってみればいるのはDIOではなく、虚ろな目で笑い呆けている、片足のない少女。
猫が共にいることから、この少女が、DIOの言っていた『傷心の女の子』に違いないが、まさかここまでとは思わなかった。


(いや、これは傷心なんかじゃない)

「おじさんだぁれ?」
「私かい?私はジャック・サイモン。そこの猫ちゃんのお友達さ」
「ねこちゃんの、お友達!」


止血処置されている様子からみて、片足になってからそこまで時間は経過していないはず。
だというのに、少女は心底楽しそうな笑顔を浮かべている。

(これは、何者かに精神を侵されているな)

ノーベンバーは、組織のエージェントとして様々な人間を見てきた。
その中には元々常人の理屈から外れた者もいたが、これはそんなものではない。
また、片足を失ったショックで狂った人間にしては、笑い方がまともすぎる。
狂ったから笑うのではなく、楽しいと思うから笑う。
人間として当たり前の行動だ。
その『当たり前』を短時間でできる状態にするには、他者の介入が必要である。
もっとも、この少女が自分達以上に死地を経験してきた者なら話は別となるが、少女の肉付きからしてまずないだろう。
そして、この介入はメンタルケアなどではなく、少女がこうなるように洗脳したと考えるべきだ。

(それに、この少女が片足を切断された理由...)

もしも、DIOが自分と会う前に危険人物と遭遇し、少女がその敵に片足を切断されたのなら、DIOはそのことを話題に出したはずだ。
なぜなら、他人にも危険人物を伝えることで、DIOを脅かそうとする者を排除できる確率は高くなり、目指すのが脱出にしろ優勝にしろ、動きやすくなることには変わりがないからだ。
即ち、少女の足を切断したのはDIOである可能性は高い。
そんなことをする理由は、拷問か猟奇趣味か、それとも薬かなにかの実験か...どう考えてもロクな理由ではない。
しかも、下手に生かしておくぶんタチが悪い。吸血鬼として、生血のストックでも蓄えているのだろうか。
紳士ぶった態度の裏にこんな残虐性を持っていることを知れてよかった。
下手に信頼を置けば、いずれは自分もこうなっていた可能性は高い。
最悪、彼と戦うケースの想定もしておくべきだろう。


「しかしお前...カギがかかってたのによく入って来られたな」
「伊達にエージェントはやっていないよ。あの程度のカギ穴ならピッキングは余裕でできる」
「それは心強いこった。それにしても、せっかくの助けがお前とはな...はぁ」
「できれば、私もきみの仲間が一緒なら心強かったんだがね」
「まあいいさ。とにかく、一刻も早く脱出経路を確保しよう。ここにいるのはなにかとマズそうだ」
「それは私も思っていたところだよ。だが、この少女はどうする?」
「うぅむ...できれば連れ出してやりたいところだが...」
「ねこちゃ〜ん、んふ〜」
「この通りでな。お前一人では連れ歩くのも厳しそうだ」
「できればそんなリスクは負いたくはないものだがね」


DIOの本性も知れたのだ。すぐにでもここから離れるべきなのだが、この少女、みくをどうすべきか。


108 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:29:36 IxG7ftSM0
今後の方針を話し合う一匹と一人の背中をドアの隙間から見つめるのは一つの影。


(...ちょっとマズイ展開になってきたゾ)

DIOの言葉に従い、最上階の部屋で休憩していた食蜂。
数十分ほど休憩し、食蜂は能力の観察のために地下室を訪れた。
しかし、鍵の開けられたドアを発見したため、不安に駆られながらも足音を殺し、僅かにドアを開けて覗きみたところ不安は的中していて。
地下室には、見知らぬ白スーツの男が佇んでいた。
男が、自分に気取られることなく侵入していたことにも驚いたが、それだけではなく猫も普通に言葉を発していたことにも驚いた。

(やっぱり、あのネコちゃんかかったフリをしてたってわけねぇ)

自分の能力の制限のせいか、あのネコが田村怜子と同じく能力が効かない体質を持っているのかは分からないが、これでは自分の能力にも自信が持てなくなる。
もしあの白スーツの男が彼らと同じ体質だったら。もしも自分の能力が制限により効果を発揮できなかったら。そんなマイナス思考ばかりが頭に浮かんでくる。
勿論、試してみればよいだけの話なのだが、男が前者であった場合、こちらの存在に気付かれ殺される可能性が高い。
生き残ることが目的の食蜂は、そんなリスクを背負おうとは思えなかった。

(ここはとりあえずDIOさんに報告だゾ☆)

DIOが眠っているのは頂上の5階。大声を出せば聞こえるかもしれないが、それではこちらの存在をあのスーツ男に知られてしまう。
男にバレないように、物音を殺しながらゆっくりとドアから離れ...


「動くな。死にたくなけりゃあな」
「ッ!?」

食蜂の喉元に、槍の穂があてがわれる。
いつの間に背後に立っていたのかと、思わず背後を振り返ってしまう。
が、しかし何をすることもできず、右手を掴まれ壁に叩き付けられてしまう。

「キャッ!」
「動くなっつってんだろマヌケ。あんたがDIO..じゃねえよなぁ」

痛みと共に、自分がどんな状況に追い込まれたかを整理する。
この場には、最低でも一般人には気配を気取られることなく動ける侵入者が二人。
自分は拘束されている。大声をあげてDIOを呼び出そうものなら、即座に殺されるだろう。
加えて、前川みくの有り様を見つけられれば...

「彼女が洗脳の能力を持つ者かい?」
「ああ。こう見えてとんでもない悪党だ。油断するなよ」

状況は、絶望的である。


109 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:33:11 IxG7ftSM0
「さて。とりあえず名前から聞いておこうか。私はジャック・サイモン。きみは?」
「......」
「答えな」

杏子が拘束した食蜂の腕を握り絞める。
本来なら大した脅威にならない女子の腕力だが、魔法で強化されたその力は軽く成人男性を凌駕する。
そんな力で絞められれば、大した訓練を積んでいない食蜂にはたまったものではない。

「っつ!」
「このままあんたの腕をへし折ることもできるんだぞ?」
「...食蜂操祈よぉ」
「ミサキ...ねぇ」
「なによぉ」
「いや、私の知り合いにもミサキという女性がいてね。それだけさ。気にしないでくれ。さて、次の質問だ。彼女にはどんな暗示をかけたんだい?」
「別に私はなにも...」
「しらばっくれても無駄だ。お前が洗脳の能力を持っていることは俺が知っているからな」

猫の言葉に、食蜂は溜め息をつき、尋問に応じることにした。
とはいうものの、ノーベンバー達が得た新たな情報はみくが『五感で感じる全てを好ましく、自分に都合がよいものと認識する』と洗脳されたことくらいで、後はDIOからノーベンバーが聞いた内容とほとんど同じだった。

「で、どうするんだ?」
「そうだな。このままなにもせず退散というのが常法かもしれないが...」
「それがいいな。触らぬ神に祟りなしというやつだ。俺も賛成だ。杏子、あの子を連れて一緒に逃げるぞ」
「お断りだ。あたしはこのままこの女にDIOってやつのところまで案内してもらおうかな」
「正気か杏子?」
「あたしはまだDIOってのをよく知らないからね。一目見ておきたいのさ」

チラリ、と片足の少女を横目で見る。

『今すぐ家に乗り込んで坊やの手足を潰してやりな。アンタ無しでは何もできない身体にしてやりゃ、身も心もあんたのもんだ』

かつて、美樹さやかに対して挑発で言ったことを思い出す。
目の前の少女が失ったのは、その時の言葉の中のたったひとつ。されど大切なひとつ。
正直、見ていて気分がいいものではなかった。
片足の少女の様子を見るに、DIOという男も取り押さえている女も、自分と同じロクデナシなのだろう。
しかし、どう方針を決めるにせよ、いまの杏子には情報が必要だった。
素直に情報を引き渡すならそれでよし。邪魔をするなら殺すだけ。どう転んでもロクデナシ相手なら後腐れもないだろう。
杏子は、食蜂の両腕を背中で組ませ、破れたカーテンで縛り上げた。

「...別に、こんなことしなくてもDIOさんのところに案内くらいはするんだけど」
「うるせえ。信用できるか」

どん、と背中を押しよろける食蜂に、背後から槍を突きつける。

「妙な真似をしたらぶっ刺すからな」
「...はぁ〜い」

とぼとぼと階段を上っていく食蜂と、槍を構えながら後に続く杏子。

「...で、俺たちはどうするんだ?」
「私としては、このままきみを返してもらいたいんだが...なにも言わずにいけばDIOの敵としてみなされるかもしれないからね。一言挨拶しに行くよ」
「楽観的な奴だな」
「そうかな?これから先、いつDIOに狙われながら考えて過ごすよりは合理的ではあると思うがね」
「はぁ...わかったよ。俺もついていく。あんな悪党に付け狙われちゃおちおち睡眠もとれやしない」

ノーベンバーと猫(マオ)も、杏子の後へとついていく。

「なんだ、結局あんたらも来るのか」
「元々は彼のことを知るために来たからね」
「...そいつも連れてくのかよ」
「この場に放置しておくよりはいいだろう。それに、なにか使い道があるかもしれないしね」
「んふふ〜ネコちゃんと〜おともだち〜」

その背に、壊れた少女を背負って。


110 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:34:29 IxG7ftSM0



ピシュン ピシュン

獣はかける。新たな戦場を求めて獣は駆けていく。
獣が望むのは、闘争。血で血を洗う、生存競争。
獣の目的は、全ての者の殺害。
目指すは、自分を散々苦しめてきた異能力の溜まり場。
即ち、能力研究所―――








両腕を背中で縛られながら歩く食蜂。
食蜂の背を槍の柄で押さえながら後に着いていく杏子。
その後ろを、みくを背負いながら歩くノーベンバーと猫(マオ)。

「それにしても、どこもかしこも暗いね、ミサキ」
「あなたも聞いたらしいけど、DIOは吸血鬼だもの。カーテンは全部占めてあるのよ」
(じゃあ、ここらのカーテンを全部開けてやればDIOってのも...)
「余計なことは考えない方がいいよ、キョウコ。下手に刺激すれば厄介なことになりかねない」
「わかってるっての。保護者気取りかてめえ...いいか、あんたと馴れ合うつもりはない。ここの用事が済んだら絶対にブチ殺すからな」
「それは怖いな」


そんな雑談を挟みつつ、四人と一匹は階段を上っていく。

四人が四階へと着いた時だった。
いち早く異変に気が付いたのは、契約者猫(マオ)。
本来なら気が付くはずのなかったソレ。
猫(マオ)は、あくまでも動物の身体を媒介にしているだけだ。しかし、野生動物の身体に組み込まれている危機察知能力はここに来て微かに引き出されていた。
「きをつけろお前達!」
足元からの声に、食蜂、杏子、ノーベンバーは思わずギョッとする。

その瞬間、壁や床、天井をバウンドしながら、しかし凄まじい速さでなにかが駆けあがってくる。
それがなにか。正体を確認するよりも早く、それは三人の間に下り立ち


「がっ...」

杏子と食蜂が、ノーベンバーと背負われたみくが吹きとばされ、それぞれ側の部屋に叩き込まれた。
無事だったのは、危機を察知しても動けなかった猫(マオ)のみ。


111 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:35:09 IxG7ftSM0
「...防がれたか」

下り立ったそれ...後藤は、なんとなしに呟いた。
手応えはあった。が、殺ってはいない。
杏子にもノーベンバーにも、後藤は刃と化した腕を振るっていた。
しかし、両者の命を刈り取るはずのそれは、なにか硬いものに防がれた。
結果、4つの骸ができるはずだった攻撃は、敵を吹き飛ばすだけにとどまった。

「やれやれ...いきなり仕掛けて来るとは、随分なご挨拶じゃないかミサキ」
「悪いが、気絶しちまってるよ。あたしにしかれて頭をうったらしい」
「ふむ?彼女ごと攻撃されたか。なら、彼は彼女の仲間ではないのかな?」

それぞれの部屋から姿を現す曲がった槍を手にした杏子と帝具グランシャリオに身を包んだノーベンバー。
後藤の予想通りといったところか、杏子は手にしていた槍で、ノーベンバーは咄嗟に発動した帝具グランシャリオで後藤の攻撃を防いでいた。
しかし、後藤はそれを残念とは思わない。
そうでなくては戦い甲斐がない。

「私はジャック・サイモン。きみは?」
「後藤だ」
「では後藤、きみに問いたい。きみは、この殺し合いにどう臨む?」
「決まっている。全ての参加者を殺すだけだ」
「即ち、私たちと組む気すらない。そう捉えてもいいかな?」
「ああ」

頭部を包んだ仮面の下で、ノーベンバーは僅かに冷や汗を流す

(猫ちゃんの警告がなければどうなっていたかわからないな)

グランシャリオを発動できたのは、猫(マオ)の警告あってこそ。
それがなければあのパワーにスピード。最低でも腕の一本や二本は失っていただろう。
それに、どうやら話し合おうと言う気はこれっぽちもないらしい。

「...だ、そうだが。どうするキョウコ?」
「...決まってんじゃん。どの道コイツはやる気マンマンなんだからさ...」

杏子は槍を後藤へと構え、堂々と宣言する。

「殺しちゃうしかないでしょ」

それを涼しい顔で受け流し、後藤は両腕を再び刃へと変える。
狙いはこの女と鎧の男。

「来い。お前たちの戦いを見せてみろ」


112 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:39:57 IxG7ftSM0



先手をうってでたのは杏子。
槍を構え、後藤へと突きつけた。
後藤は跳躍して槍を躱し、天井へと足をつける。こうなってしまえば、天井も地面と同じ。
スタートダッシュを切るときのように、後藤が地面を蹴った。
後藤が杏子へと放つのは体当たり。しかし、ただの体当たりでもその威力は恐ろしい。
寄生生物の身体能力は、常人のそれを遙かに上回る。更に、両手足もパラサイトである後藤は、地面を蹴るのにもっとも適した足型を作ることができるため、他の寄生生物以上に力強く且つ素早くスタートダッシュを切ることができる。
そこから生みだされる加速力は、常人ではとらえられないほどの速さを生む。
そして、物質とは速度が上がればあがるほど衝突時の力は強いものとなる。
その力により、後藤の体当たりは、鉄球をまともに受ける以上の衝撃を生むこととなる。
並みの人間なら為す術も無く地に倒れ伏すことだろう。

「舐めてんじゃねえぞ。こちとらバケモン染みた奴らと戦い続けてきたんだ!」

しかし、杏子は魔女という異形を相手に勝ち残ってきたベテランの魔法少女。
初見ならまだしも、一度見た技を喰らい続けるようでは魔法少女の世界は生き残れない。
そのため、必然と「避けれる」技術が身についていた。
後藤の体当たりを躱した杏子は、反撃を試みようと振り返る。
しかし、これまで杏子が相手取ってきたのは本能のみで人々を襲う魔女。
後藤も本能に従い戦いを求めるが、そこには殺意があり知能があり意思がある。
同じ本能で戦う者だが、その質は比べるべくもなかった。


(はえぇ...!)

振り向いた時には、後藤はもう次の攻撃準備に移っていた。
壁を蹴り、今度は刃と化した腕を突出し再び杏子に肉薄する。
躱しきれずに槍の柄で受けるが、魔力で強化されたはずの両手に痺れが走る。

(つっ...!こりゃ、何度も受けるのは無理だな)

それでも槍を放さず、後藤の方へと振り返る。
が、しかし後藤の姿はない。
まさか逃げた?

(違う!上だ!)

予想通り、後藤は天井へと足をつけ再び杏子へと襲いかかる。
天井、床、壁。四方八方から跳ねまわるピンボールのように繰り出される攻撃を躱し続けることは不可能に近い。
これが、5体のパラサイトをその身に統一できる後藤のみに許された屋内戦闘。
後藤のもっとも得意とする戦法だ。
さしものベテラン魔法少女といえど、次第にその身に切り傷が増えていく。

「いい反応だ。屋内で俺の動きについてこられた人間はお前が初めてだ」
(反撃ができねえ...!)

後藤の言葉通り、反応はかろうじてできる。
しかし、もしここで反撃に出れば、決定的な隙を作ることになる。
後藤相手にその隙は命取りとなる。
杏子がとれる戦法は、後藤の猛攻を防ぎながら機を伺うことだけ。
しかし、こうも速く動かれてはその隙もつけやしない。
せめて美樹さやかのような超回復魔法があれば、一度だけ刺されるのを我慢して反撃に出ることはできるのだが、生憎杏子の魔法は回復に向いていない。どころか、理由はわからないが本来の魔法はもう随分と前から使えなかった。
槍と身体能力だけでしばらく戦ってきた彼女と後藤は、この広くない廊下という舞台では相性が悪すぎた。
そして、ついに均衡は崩される。


113 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:41:39 IxG7ftSM0
「ぐあっ...!」

杏子の右太ももに一筋の線が入り、血が溢れだす。

「切断までは至らなかったが、これで機動力は落ちたな」
「ハッ、調子乗るんじゃねーぞ」

太ももに魔力をかけ、どうにか止血だけは済ませる。

「寄生生物でもないのに傷を塞げるとは。変わった奴もいるものだ」
「あんたに言われちゃお終いだ」
「だが、なんのリスクも負わないわけではないらしいな。だからここぞという時にしか使わない」
(バレたか...)

魔力による身体修復は、魔法少女なら誰でもできることではある。
しかし、杏子は回復魔法は専門ではない。本来の魔法は幻術であるため、どう応用しても回復魔法が得てとなることはない。
そんな魔法少女が回復魔法など使えば、より一層ソウルジェムは濁ってしまう。
グリーフシードが無い以上、魔力は温存しておくに越したことはないが、後藤は温存などして勝てる相手ではない。
魔女や魔法少女などよりも厄介な敵だと認識していた。


(ったく、ついてねえなちくしょう)


杏子はここに来るまでのことを思い出し苛立ちを募らせる。
思えば、ここまでロクな目に遭っていない。
初めに出会ったのは、幽霊のようなものを操る学生服の男。ほとんど手も足も出なかった。
次に会ったのはジャック・サイモンとか名乗る変な男。足を凍らされた挙句、猫まで奪われた。
それからしばらくは一人だった。放送でマミが死んだことを知らされた。
またジャックに会った。今度は連れションみたいな誘いで連れてこられた。猫がDIOとかいうのに盗られてなかったら無視してた。あとイラついた。
仕舞には眼前の化け物。ただでさえ厄介なのにこの狭い場所だと相手の方が有利すぎる。
ジャックと会わなければこんな場所でこの化け物と戦うことなどなかった。よく聞けば、この化け物の声もジャックに似てる。
いまの杏子の苛立ちの半分にジャックが関与していることに気が付くと、更に苛立ちが募った。


(そういや、あの野郎どこいった?)


先程から後藤が攻撃を仕掛けているのは杏子のみ。
簡易的に周囲を確認するが、ノーベンバーの姿は見えない。
どころか、猫(マオ)も見当たらない。

(まさかあいつ、あたしに化け物押し付けて逃げやがったのか?)

この場に姿の見えないノーベンバーと猫(マオ)とみく。
杏子のみに集中する攻撃。
この状況から判断した答えに怒りは頂点にたち、後藤を倒した後に必ずシメると杏子が決意するのと同時。
後藤が、弾けるように杏子へと肉薄する。
この場にいないノーベンバーにわずかに気をそらしてしまったため、反応に遅れる。
迫りくる刃を慌てて槍で防ぐが、ピシリと柄にヒビが入るのを見て杏子の心に焦燥が生じる。
槍は一旦戻せば修復できるが、そんなことをすれば顔面を串刺しにされるのは確実。
とはいえ、このままでは間違いなく槍の限界が訪れる。
どうするべきか。そんなことを考えているうちに、ひび割れは柄全体に広がっていく。
そして、その時は訪れ。

―――バキリ

槍の柄はへし折れ

「え〜いっ」

間の抜けた声と共に放たれた白粉で、杏子と後藤の視界は塞がれた。


114 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:43:39 IxG7ftSM0
みくが手にしているのは研究所に備え付けられていた消火器。
しかし、いまの彼女に杏子の手助けをするなどという思考は生まれない。
ならばなぜ消火器を使用したのか。

「にゃあああああああ!おもしろいにゃあああ!」


みくにかけられた暗示は、『五感で感じる全ての物が好ましく自分に都合がよいものと思う』ことである。
食蜂からそれを聞きだしていたノーベンバーは、みくに『この消火器を指示したタイミングで使えば面白いことになる』と告げた。
普段のみくならば首を傾げるような要求。しかし、今の彼女はそれすらも自分に都合がよいものと捉えてしまう。
言い換えれば恐怖を感じず言いなりになる人形のようなものだ。
消火器を持ち、使用するといった手順にかける時間をみくに任せ、ノーベンバーは煙の中を駆けだす。
グランシャリオは、ただの防具ではなく、使用者の身体能力をも高める。
そのため、ノーベンバーは普段より速く動くことができるのだ。
走る勢いを殺さず、跳躍し後藤へ蹴撃を浴びせようとするノーベンバー。
しかし、視界が塞がれているはずの後藤はそれを難なく盾と化した右腕で受け止めた。
人並み外れた感覚を持つ寄生生物の前では、煙幕など足止めの意味を為さなかった。

「煙幕など俺には通用しない。当てが外れたな」
「こんなことだろうと思ったよ。だが、思いがけない物が役に立つのが社会の常さ」

仮面で見えないノーベンバーの顔。
しかし、後藤には彼が笑っているかのように見えた。

ノーベンバーがチャックの開いたデイパックを空中へと放り投げる。

「こなくそっ!」

猫(マオ)が、ノーベンバーの背を踏み台にして天井まで跳躍。そして、宙をまわるデイパックへと勢いよく体当たりをし、中身を押しだす。
圧しだされた逆さの鞄からは当然中身は零れ落ち、その中身は、後藤へと降り注ぐ
その中身は...

「机...!」

机。研究室で使われているそれなりに重量をもった机だ。
杏子が交戦している間、ノーベンバーが部屋で見つけデイパックにねじ込んだものだ。
後藤は、咄嗟にそれを躱し、ノーベンバーへと刃を振るう。

ザシュ

横なぎに振るわれた刃は、ノーベンバーが手にしていたペットボトルをグランシャリオの装甲ごと切り付けた。
ペットボトルは切り裂いたが、グランシャリオを切り裂くことは敵わなかった。
しかし、グランシャリオを解いたノーベンバーは斬られた場所を押さえて膝を着く。
彼はなぜ跪いているのか。
それを考えるより前に、ノーベンバーを殺すために距離を縮めようとする。が、しかし

(動けん...?)

後藤の足元から漂う冷気。
いつの間にか後藤の両足が凍りついていた。

「助かったよ。きみ相手ではこうでもしないと水を撒くことなんてできなかったからね」

冷気の出所は、膝を着いたノーベンバーの指先。
ペットボトルを切ったときに零れ落ちた水を伝っている。

「フェイクか...」

煙幕も、煙に紛れての襲撃も、猫(マオ)を使った不意打ちも。
全ては、ペットボトルを後藤に斬らせ、水を撒くことへの布石だったのだ。


115 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:45:01 IxG7ftSM0
「きみには色々と興味はあるが、私も死にたくはないんでね。終わらせてもらうよ」

懐をまさぐり、ドミネーターに手をかける。

「ここに来てから、お前と同じ氷を使う異能を持った鳥と戦った」

後藤が、唐突に口を開く。

「お前の能力はそいつの下位互換にある。だから」

ドミネーターを構え、照準を合わせる。
後藤の足の氷が弾ける。
ペットショップとの戦闘の時と同じく両脚の氷を内側から破壊したのだ。

『執行モード、デストロイデコンポーザー。対象を完全は』
「お前の氷では俺を止められない」

ドミネーターが変形を終える前に、後藤がノーベンバーの眼前にまで迫る。

『いじょします。ごちゅうい』

―――メキリ

音声を聞き終る前に、ノーベンバーの鳩尾に、後藤の足が減り込む。

「――――ッ!」

肺から空気を絞り出されるような感覚と共に、ノーベンバーはサッカーボールのように吹き飛ばされた。
ノーベンバー11は契約者である。しかし、契約者といえども身体能力は人間と変わらない。
パラサイトの力はその人間よりも遙かに強い。いくら訓練されているとはいえ、並みの人間よりは優れている程度の身体能力では耐えることはできなかった。
床を転がるノーベンバーへと追撃をするべく、後藤は再び駆けようとする。
しかし、背後からの殺気に身を翻し、迫る槍を躱す。

「余所見してんじゃねーぞボケ」
「その槍は先程破壊したはずだが、時間が経てば戻せるのか」

感嘆したかのように述べる後藤だが、杏子を殺すことにはなんの変化もない。
再び槍と刃が交差する音が鳴り響いた。


116 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:47:08 IxG7ftSM0
ノーベンバーがふらりと立ち上がり、能力の対価である喫煙を行う。

「ゲホッ...」

例の如く咳き込むと同時に僅かに吐血する。

「おい、大丈夫か!?」
「私の心配はいらないよ。それより、彼女の相手をしてやってくれ」

駆け寄る猫(マオ)に対して、ノーベンバーが指し示す先には、未だ洗脳の効果により笑顔でいるみく。

「ゴトウは、戦う者から優先したいタイプらしい。少なくとも、いまのその子やミサキには興味がないようだ」

後藤は、部屋に叩き込まれているはずの食蜂の方には向かわず、杏子の相手ばかりしている。
食蜂を狙った隙をつかれるのを警戒しているのか、単に戦闘好きなだけか。
いずれにせよ、杏子と自分が動ける間は標的はこの二人に絞られるだろう。

(参ったな...少し内臓を痛めたかもしれん)

後藤は強い。ノーベンバーは改めてそう認識する。
いまは杏子と戦っているが、おそらく彼女は負けるだろう。
そうなれば、次は自分の番だ。

(どうする...どうすれば奴を倒せる?)

現在の手持ちであらゆる手段を模索するが、どれも通用する気がしない。
やがて、杏子もこちらへと吹き飛ばされてきた。

「くっそ...」
「...どうだいキョウコ。彼には勝てそうかな?」
「負けりゃ死ぬだろ」
「それもそうだ」

自分と比べて、まだ杏子は幾分か余裕があるように見える。
やはりというべきか、身体能力だけでいえば、自分より優れているようだ。


117 : STRENGTH ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:48:02 IxG7ftSM0
「さて、杏子。ここで質問だ」
「あ?」
「選択肢は三つ。①私を殺す・放置して奴と一人で戦う②可能性の低い助っ人が来るのを待つ。③協力して奴を殺す。きみはどれがいい?」
「......」


杏子は考える。
①ジャックを無視して一人で戦う。
できればこれに○を付けたいが、こんな場所では勝ち星が見えない。後藤がこちらを逃がすつもりもない以上、屋外へと出ることも難しい。
②仲間が来るのを待つ。
仲間、いねえよそんなやつ。ここで会ったのは敵ばかり。暁美ほむらが辛うじて可能性はあるが、こんな厄介な場面にとびこんでくるような阿呆ではないと思う。
③協力して後藤を殺す。
絶対嫌だ!なにが悲しくて散々コケにしてきた奴と手を組まなきゃいけないんだ!...とはいうものの、殺されるよりはマシだろう。
と、なると、答えなんざ最初から決まってるようなものだ。


「...仕方ねえ。あいつ殺したら、絶対あんたもシバくからな!策はあるんだろうな?」
「あるにはあるが、結構な賭けだ」
「この際なんでもいい。とにかく試すぞ」
「今度は二人がかりか」
「悪いねゴトウ。私も必死なんだ」
「構わん。戦いに工夫が生まれるならそれでいい」



方や、ベテラン魔法少女とMI6最高のエージェント。
方や、最強の寄生生物。
その睨み合いは、常人なら足を震わせてしまうほどに空気を張り詰めさせていた。
訪れる静寂。


―――いくぞ!


誰が言葉として発したわけではない。
しかし、杏子、ノーベンバー11、後藤。
彼らは、眼前の敵を殺すために同時に駆けだした


ここから始まるのが、本当の闘争だ。



「騒がしいな」



そんな空気は、たったひとつの存在に塗り潰された。


118 : STRENGTH -世界-  ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:49:24 IxG7ftSM0


コツ コツ コツ

音を立て、階段からゆっくりと下りてくる男が一人。
男は、四階と五階を繋ぐ踊り場で足を止め、階下の者たちを見下ろした。

心の中心に忍び込んでくるような凍りつく眼差し。
黄金色の頭髪。
透き通るような白いハダ。
男とは思えない妖しい色気...
杏子は一目で理解した。
この、目を逸らすことのできない圧倒的存在。
この男こそがDIOだと!

「やあ、ジャック。まさかこんなにも早く客人を連れてきてくれるとは、素晴らしい手腕だ」
「褒められるのは光栄だが、一人は招かれざる客ってやつでね」
「ほぉう。ところで、みさきちゃんを知らないかな?金髪の女の子なんだが」
「彼女ならどこかの部屋で隠れてるよ。心配はいらないさ」

あくまでも表向きは対等に。
しかし、ノーベンバーはこの男に屈服はしないまでも、確実なる格の差を見せつけられたような感覚を覚えた。
DIOがなにをしたわけでもない。立っているだけだ。
だというのに、先程までの緊張した空気は、全てこの男に塗り替えられている。
決して緊張が解れたわけではない。むしろ、緊張は強まっている。
『いかにこの男を前にして生き延びるか』。
杏子とノーベンバー11は、長年の戦いの経験からその感覚を感じ取っていた。


「招かれざる客とは、きみのことかな?ええっと...」

DIOの視線がノーベンバー達から後藤へと移る。
後藤はどこ吹く風でDIOを睨み返している。
いや、睨んでいるのではない。DIOと言う男を観察するために凝視しているのだ。
後藤が口を開く。

「後藤だ」
「後藤...ふふっ、そうか。きみが後藤か」


119 : STRENGTH -世界-  ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:50:49 IxG7ftSM0
DIOはさも愉快そうにくつくつと笑い声を漏らす。

「どうした?」
「いや、失敬...少し前に田村怜子という女性と出会ってね。きみの話を聞いたんだ」
「別人ではなく、俺の知っている田村怜子か。そいつはどこにいる?」
「そうだね。少し前と言っても、四時間は経っているからな...まあ、南のエリアを探せば会えるんじゃないか」
「南か」

思いがけない形で、目的の一つである田村怜子の情報を手に入れた後藤。
しかし、彼はいまだにDIOを観察している。

「どうしたのかね?」
「不思議な奴だ。お前は人間ではない。しかし、寄生生物でもないようだ。お前はなんなんだ?」
「ほぉう、やはりわかるか。このDIOが人間を超越した存在であることが」


後藤は考える。
このDIOとかいう奴は人間を超越した存在らしい。
この男に対して食人衝動はほとんど湧かない。
しかし、自らを人間を超越した存在だと称するのだ。かなりの力を期待していいだろう。

「DIO。お前は面白いやつだな」

後藤は狙いをDIOへと変更。
相手が相手なら竦んでしまうような後藤の視線をDIOは愉快そうに受け流す。

「私は訳あって協力者を求めていてね。きみにその気があれば」
「興味ないな」

後藤は、DIOの言葉すら聞かずに階段へと足をかける。
一段、二段、三段...

「まあ待ちたまえ。私としても、きみが攻撃を仕掛けて来れば応戦せざるを得ないが...きみに考え直すチャンスを与えよう」

DIOの言葉に、後藤は思わず足を止める。

「なにをするつもりだ?」
「簡単なことさ。やはり私に協力したいと思い直したらその階段を二段を下りたまえ。逆に、死にたければその階段を上るがいい」

DIOの語るチャンス。
後藤はそれに対して数瞬も思いを巡らせず、言い放つ。

「俺は全ての参加者と戦い殺す。お前を食う気はおきないが、殺すことには変わりない」

明らかなる拒絶の言葉。
後藤は誰とも手を組まない。
同じ寄生生物の田村怜子とも。元の世界での同朋である広川とも。人間を超越したDIOとも。
このゲームで闘争が当然なら、後藤はただ本能に従うだけ。
それを止めることなど、何者にもできやしない。


「なら...その階段を上るといい」

だというのに、DIOは一切動じない。落胆の色も浮かべない。
どころか、楽しそうに僅かに上唇を舌でペロリと舐めたようにも見えた。
しかし、後藤はそんなことを気にも留めない。
後藤は躊躇わず、その一歩を踏み出した。


120 : STRENGTH -世界-  ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:52:03 IxG7ftSM0
「ふふっ、そうかそうか。階段を下りたな?後藤、きみはこのDIOの仲間になりたいというわけだな」
「?」

後藤の頭に疑問符が湧く。
こいつはなにを言っている。俺はお前の言う通り、階段を上ったぞ。
後藤は足元を見比べる。前に出した左足は階段に乗っている。後ろの右足は...

「...?」

一段目にまで下りている。
もう一度、階段を上ってみる。
二段目。ちゃんと上っている。
三段目。ちゃんと上っている。ここから先はDIOを拒絶する一歩だ。
四段目。ちゃんと上...

「...!?」

まただ。また、気が付いたときには『踏みしめたはずの四段目から二段目にまで下がって』いた。

「どうした?動揺しているのかね、後藤。『動揺する』...即ち、それは人間を超越したこのDIOに恐怖しているからではないのかね?
それとも、『登りたい』とは心で思ってはいるが、あまりに恐ろしいので無意識のうちに逆に身体は降りていたといったところかな」

DIOの言葉を無視し、後藤は階段を駆けあがる。
しかし、結果は同じ。やはり後藤は『二段下がった体勢』になっていた。

「...後藤よ。知能ある生物には必ず『不安や恐怖』が存在するが、それはなぜか考えたことがあるか?」

DIOが後藤に優しい声音で語りかける。

「それは突き詰めれば『死にたくない』からだ。不安や恐怖によって、それを克服しようとするのが優れた生物の生きる意味だ。
後藤、きみの恐怖は生物として正しいんだ。きみは田村のような愚か者とは違う。このDIOに仕えてみないか?その恐怖をすぐに取り除いてあげよう」

DIOの誘いに後藤は答えない。ただ立ち尽くしているだけだ。
再び訪れる静寂。
ただDIOを見つめる後藤。それを笑みを浮かべながら見下ろすDIO。
やがて、後藤は口を開いた。
思ったことを、そのままDIOに伝えた。




「これがなんだというんだ?」


121 : STRENGTH -世界-  ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:53:43 IxG7ftSM0
後藤のその言葉に、DIOの眉間に皺が寄り、表情が険しいものへと変わる。


「たしかに妙な力だ。だが、俺の身体にはなんの異変もない。なら、貴様の能力にはなんの脅威も感じない」

後藤が、膝を屈めて跳躍する。
そして、天井を蹴り踊り場へと降り立った。

「むぅ...!」
「工夫しろ。人間を越えたのならば、その程度はできるだろ」

後藤の刃が、DIOへと振るわれる。それも一本ではなく、枝分かれした五本の刃がだ。
両腕を合わせればその数は十。DIOはそれを跳躍で躱す。
ふわりと浮いたその身体は、最上階へと運ばれる。

「全く、寄生生物とやらはどこまでもこのDIOを苛立たせたいらしい」

頬についたかすり傷を指でなぞりながら、後藤を見下ろすDIO。
彼の表情からは、笑みはすでに消えている。

「いいだろう...知るがいい。絶対的な力の前では、貴様の言う工夫など何の意味もないということを!」

そして、DIOは口にする。
世界を支配する能力の名を。
その名も




「『世界(ザ・ワールド)』」


122 : STRENGTH -世界-  ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:56:20 IxG7ftSM0


「な、あっ...!?」

杏子が気が付いたときには、全てが終わっていた。
ガシャンと音を立てて砕け散るガラス。吹きとばされる後藤。
先程まで後藤がいた踊り場には白い鎧に全身を包んだDIOが日光の下に立っている。
杏子は一切目を離していなかった。
だが、わかったのは『後藤が何度も階段からおりていた』ことと『後藤が窓を突き破って吹きとばされた』結果だけ。
これで言葉を失うなという方が無理というものだ。

「さて、と」

くるりと踵を返し、DIOは杏子とノーベンバーを見下ろす。

「せっかく来てくれたんだ。ジャック、そしてキョウコ。少しお話をしたいんだが...いいかな?」

語りかけられる言葉はとても優しい。
心の底から安心できるような気さえする。
だからこそ、杏子は言葉に言い表せられない恐怖をこの男に覚えた。

(ち...ちくしょう...)

嫌な汗が噴き出す。
思わず、息が乱れそうになる。
DIOは、あの後藤をああもあっさりと撃退した。
自分たちがあれほど手こずっていた後藤をだ。
己の腹部に手を当てて考える。
もしも、DIOのあの力が自分に向けられたら生き残れるのだろうか。
...駄目だ。どう考えても敵うはずが...


「もちろんさ。私たちはそのために来たのだから。ねっ、キョウコ」

不意に頭におかれた手により、杏子は我に返る。
杏子とは対照的に、ノーベンバー11は、しっかりとDIOと向き合っていた。
お前もあの意味不明な一部始終を見ていただろう、お前はあのDIOの力になにも感じなかったのかと杏子は彼に問いたくなった。
しかし、今の自分を省みて、そんなことを聞こうとした自分に腹が立った。

「...ああ。あたしもあんたには会ってみたいとは思ってたからな」

表面上は冷静に。しかし、内心に恐怖を隠しながら杏子もまたDIOと向き合った。


123 : STRENGTH -世界-  ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 09:59:09 IxG7ftSM0
(チッ。全くもって忌々しい生物め)

階下の二人に向けた声色とは裏腹に、DIOの腸は煮えくり返りそうだった。
後藤を貫くはずだった『世界』の拳は、後藤の身体が想像以上に硬かったため、窓から突き落とすのが精一杯だった。
だが、それ以上にDIOを苛立たせたのは後藤の態度だ。

(寄生生物というやつは、どいつもこいつもこのDIOをコケにしてくれる)

DIOは、己を猿と同等だと揶揄した田村怜子を、ただ殺すだけなら簡単だと思っていた。
しかしそれではつまらない。過程や方法などどうでもよいと思ってはいるが、どうせなら寄生生物よりDIOの方が優れていると証明しておきたかった。
そのため、自分の能力の片鱗を見せつけることによって、彼女と同じ寄生生物の後藤を従えればと考えた。
あれだけ脅しかけたのだ。従わぬにしても、恐怖を感じたまま戦おうとすればまだよかった。
しかし、後藤は動揺こそはしかけたものの、終始DIOに屈服する素振りさえ見せなかった。
それが余計にDIOを苛立たせた。
窓から地上を見下ろせば、ケロリとした様子の後藤の姿が見える。

(来るのなら来るがいい後藤。その時は、全力を持って貴様を始末してやる)

誰にも知られぬ怒りを胸に秘め、DIOは窓に背を向けた。



(そろそろ終わったかしらぁ)

こそこそと、扉の片隅から様子を窺うのは食蜂操祈。
最初に後藤からの襲撃を受けた杏子に下敷きにされ、一時的に気絶した食蜂は、そのまま気絶したふりをして部屋に留まっていた。
物音が止んでから数分経ったのを見計らい、こっそりと様子を窺っているのだ。

「みさきちゃん」

上階から響くのはDIOの声。その声に、食蜂の心は安堵に包まれた。

「もう隠れることは無いぞ。そうだな...せっかく客人が来てくれたんだ。紅茶でも淹れてくれないか?」

【F-2 能力研究所/4〜5階/1日目/朝】


【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:健康
[装備]:悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。
0:ジャックと杏子と話合いをする。
1:ジョースター一行を殺す。(アヴドゥル、ジョセフ、承太郎)
2:花京院との合流。
3:昼間動ける協力者が欲しい。
4:寄生生物は必ず殺す

[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術、DTB世界の契約者についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。
※悪鬼纏身インクルシオは進化に至らなければノインテーターと奥の手(透明化)が使用できません。


【食蜂操折@とある科学の超電磁砲】
[状態]:額に肉の芽、『上条当麻』の記憶消失。 疲労(中)、御坂に対する嫉妬と怒り
     心理掌握行使可能人数:2/2名(イリヤへの能力行使が解除され次第、1名分回復)後頭部にたんこぶ
[装備]:家電のリモコン@現実
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り脱出する。
1:DIOに自分を認めさせ、生還する。
2:みくで能力の制限を把握する。
3:次に御坂と会ったときは……。
[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了後。
※『肉の芽』を植えつけられた事によりDIOに信頼を置いているが、元々他者を信用する神経を持ち合わせていない事もあり、
  毎時毎分DIOへの信頼は薄まっていく。現時点で既に「行きつけの店のカリスマ美容師」に対する程度の敬意しかないようだ。
※『心理掌握』の制限は以下。
  ・脳に直接情報を書き込む性質上、距離を離す事による解除はされない。
  ・能力が通じない相手もいる(人外) ※定義は書き手氏の判断にお任せします。
  ・読心、念話には制限なし。
  ・何らかの条件を満たせば行動を強制するタイプ(トリガー型)の洗脳は8時間で解除される。
  ・感覚、記憶などに干渉して常時効果を発揮するタイプ(常時発動型)の洗脳は6時間で解除される。
  ・完全に相手を傀儡化して無力化するのは、2秒程度が限界。
  ・同時に能力を行使できる対象は二人まで。
   一人に能力を行使すると、その人物の安否に関わらず2時間、最大対象数は回復しない。


124 : STRENGTH -世界-  ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 10:01:22 IxG7ftSM0
【前川みく@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:左足の太ももから下を喪失(処置済)、疲労(大)、『心理掌握』下。
[装備]:猫耳
[道具]:猫@DARKER THAN BLACK 黒の契約者
[思考]
基本:生きて帰りたい。
0:にゃあああ〜〜
1:エドワード君〜〜


[備考]
※エドワード・エルリックの知り合いについての知識を得ました。
※登場時期はストライキ直前。


【心理掌握による洗脳】
※常時発動型 6/5時間経過


『五感で感じる全てを好ましく、自分に都合がよいものと認識する(喜怒哀楽のうち、"楽"以外の感情が全く発達しなくなる)』


【ノーベンバー11@DARKER THAN BLACK黒の契約者】


[状態]:インクルシオを装備した事による疲労に重ねてグランシャリオを装備したことによる疲労(大)、腹部にダメージ(中)、内臓にダメージ(小〜中)、黒にエイプリルを殺された怒り?
[装備]:ドミネーター@PSYCHO PASS-サイコパス-
[道具]:基本支給品一式、狡噛のタバコ&ライター@PSYCHO PASS-サイコパス-、
      帝具・修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!、ロックの掛かったドミネーター×1@PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考]
基本方針:契約者として合理的に判断し行動する。今の時点で殺し合いに乗る気はない。
0:地獄門を目指す?その過程で拠点を確保する。
1:参加者と接触し情報を集める(特に黒、銀)。
2:極力戦闘行為は避け、体力を温存する。
3:黒と出会った場合は……。
4:とりあえずDIOに猫を返してもらえるか進言する。話し合いが終われば早急にDIOから離れたい。


[備考]
※死亡後からの参戦です。
※黒の契約者第23話から流星の双子までの知識を猫視点で把握しました。
※杏子と猫の情報交換をある程度盗み聞きしています。
※修羅化身グランシャリオはインクルシオよりは相性が良く、戦闘にも無理をしなければ耐えられます。
※ペットボトルは真っ二つに割れましたが、テープ等で補強すれば使用可能です。
※現状、グランシャリオと能力の併用は体力的にできません。グランシャリオに慣れてくれば使えるようになりますが、体力は大幅に削られます。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:精神疲労(大)、疲労(中)、全身に切り傷及び打撲(それぞれ小〜中)、ソウルジェムの濁り(小〜中)、ノーベンバー11に対する苛立ちと怒り(大)、DIOに対する恐怖(中)、殺し合いに対する迷い
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実 大量のりんご@現実 不明支給品0~2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いについて考える。
1:巴マミを殺した参加者を許さない。
2:ジュネスに向かう。
3:殺し合いを壊す。それが優勝することかは解らない。
4:承太郎に警戒。もう油断はしない
5:ジャック(ノーベンバー11)はボコる。絶対にボコる。猫も取り返す。
6:情報交換を済ませたらDIOからさっさと離れたい。

※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。


125 : STRENGTH -世界-  ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 10:03:06 IxG7ftSM0
「奴のあの異能...」

後藤は、先程までいた能力研究所を見ながら考える。
階段を上ったらいつの間にか降りていた。
気が付いたら、いつの間にか打撃を受けて吹きとばされていた。
この殺し合いで何度も吹き飛ばされてきた後藤ですら、その経験を活かせないほどに唐突なことだった。
わかったのは、その打撃の威力は先に出会った承太郎と同程度の威力だったということだけだ。
今まで見てきた異能のどれよりも奇妙なものだった。

「厄介だな」

DIOの能力の解決の糸口はまだ見えていない。
しかし、その程度では後藤がDIOに恐怖を覚えることはない。
そういえば、とDIOが田村怜子と出会っていたことを思い出す。
DIOにせよ田村怜子にせよ、いずれは戦うことには変わりないのだが...

(田村怜子を食らってからDIOと戦うのも悪くはないかもな)

DIOの謎の能力。
今度くらえば、いまのように五体満足で済まないかもしれない。
それに対抗するために田村怜子を補充するのも悪くはない。
だが、DIOがここにずっと留まっている保障はない。
いなくなった場合、また探し回るのも面倒だ。

DIOに再び戦いを挑むか、田村怜子を探しにいくか。
後藤が選んだ道は―――

【F-2/1日目/朝】

【後藤@寄生獣】
[状態]:両腕にパンプキンの光線を受けた跡、全身を焼かれた跡、疲労(中)、腹部に拳の跡(ダメージ0)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、不明支給品0〜1、スピーカー
[思考]
基本:優勝する。
1:泉新一、田村玲子に勝利。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。
5:もう一度DIOと戦うか、先に南に向かい田村怜子を探すか...

[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。


126 : ◆dKv6nbYMB. :2015/08/04(火) 10:03:49 IxG7ftSM0
投下終了です。


127 : 名無しさん :2015/08/04(火) 10:05:05 EaU/AtKo0
投下乙です

ノーベンバーぐう有能。杏子ちゃん交えたDIOとの二度目の会談は一体どうなるか気になる所ですね
DIOの大好きな階段勧誘を受けても後藤さんは実にクールだ。スピードワゴンよりクールかもしれない
そして地味に田村さんピンチか


128 : 名無しさん :2015/08/05(水) 00:51:15 a3IEFxZE0
投下乙です

>黒色の悲喜劇
キリトここが正念場だぞ!
そして状態表でようやく出てきた番長にちょっと笑ってしまった

>STRENGTH
圧倒的な印象で登場したDIOに動じない後藤さん
不思議な階段現象あっても「これがなんだというんだ?」って言える辺りさすがだな


129 : Future Style ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 08:18:40 Wjn37oSo0
投下します


130 : Future Style ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 08:19:20 Wjn37oSo0
「6時間で16人……多いな…」

名簿に引いた線を見返しながら、狡噛はその放送の内容を思い返す。
狡噛自身の知り合いは槙島聖護ただ一人。故に名前個人個人に思うところはない。
だが、16人という人間が死んだ、という事実は見過ごすことはできなかった。

16人。
つまり単純計算でも一時間に2、3人の人間が命を落としている。

その中にはあの黒が言っていたような後藤という怪物によるものもあるのだろう。
だが、おそらくはそれだけではないはずだ。
まだそう多くの人間に出会っているわけではないため何とも判断はつかないが、おそらく戸塚彩加や本田未央、そして肉体的には人間の域を出ないだろう槙島聖護のような者だっている。
そしてそんな人間全てが自分と出会ったような、守られるだけの存在であるとも思いにくい。

だとすれば。

「この状況そのものに恐慌状態に陥ったか、あるいは強要されたこの状況で止むに止まれず殺し合いに乗った者もいたということか」

例えば、殺さなければ殺されると判断して殺し合いに乗った者。
例えば、同じ殺し合いに呼ばれている知人、友人、肉親を守るために殺し合いに乗った者。

非合理な判断ではあるが、全ての人間がその行動に踏み切らないほどの強さを持っているかと言われれば、そうではないだろう。
もしそうであるなら、槇島によるノナタワー襲撃の際の市民の混乱など起きるはずもない。

「…少し待ちの態勢でいすぎたみたいだな」

放送後、狡噛は図書館にいたタスク、未央の二人の元を離れて移動を開始していた。
目的地は音ノ木坂学院。

そこに向けて一歩一歩足を進めていた狡噛。
そんな時だった。背後から不意に歩くような気配が移動してくるのが耳に入った。

足音は二人組。
慌てているのか足並みは乱れており、気配を隠すような様子もない。

(遭遇してみるか?)

足音から推察すると、二人とも成人男性よりも一回り小さい、中〜高校生かあるいはあまり大柄でない女性か、くらいの体格。
何かしらの情報を持っているかもしれないし、もし子供だったとするなら見捨てるわけにもいかない。
音ノ木坂学院へと向けていた足を一度止め、足音の場所に向けて歩き始めた。




131 : Future Style ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 08:20:13 Wjn37oSo0

「はぁ……はぁ……」
「し、白井さん、大丈夫…?」
「大丈夫、ですわ。これくらい…」

セリューから逃げるために幾度となくテレポートを行使してきた黒子。
それは考え無しにやったことではなく、セリューが連れていたコロを撒くために行ったことだ。

コロは犬のような生体をしていたこともあり、もしかすると臭いを嗅ぎつけられて追跡される可能性を考慮して移動には足とテレポートを併用していた。

だが、エンヴィー、ゾルフ・J・キンブリー、後藤といった面々と休息もそこそこに戦ったことで積み重ねられた疲労、そして佐天涙子の死やセリュー・ユビキタスとの遭遇といったことによる精神的な動揺。
それら全てによる影響もあって、黒子の疲労は限界まで溜まりつつあった。

息が上がり、顔色も悪い。その体調が芳しくないのは穂乃果が見ても一目瞭然だった。

「どうやら、撒いた、ようです、ね……、はぁ、はぁ…、ですができるだけ離れる必要はありますわ、休んでいる暇など……」
「…………」

休もう、とは穂乃果には言えなかった。
こうなってしまったのは自分のせいなのだから。

―――――彼女は、死んで当然なんですから!

―――――悪・南ことりは人を殺めることに何の躊躇いも無い。血も涙も失った獣、外道なのです!
―――――危ないところでしたよ。高阪さんに何食わぬ顔で近づいて、友達を演じられたまま放っておけば、いずれ何をしでかすか……。
―――――私、その前に南ことりを殺せてよかった

それでも、あの時セリューに投げられたあの言葉を許すことはできなかった。

あの時、ことりの首を貪ったコロの姿を受け入れることはできなかった。

今の状況が最悪なのは穂乃果とて分かっている。最善な選択ができたわけではないことも理解している。
花陽やマスタングをおいてきてしまった不安だって心を締め付けている。

だったら。

「…白井さん、捕まって」
「高坂さん?」
「ずっと守られて、こんなことにしてばっかりだけど、せめて肩くらいなら……」

と、黒子の肩を抱えて歩き出す穂乃果。
今の自分にできることがこれくらいしか思いつかなかった。

そのまま、自分の体に伸し掛かる黒子の重さを実感しながらも一歩ずつ歩みを進める穂乃果。
だが、その歩みはあまりにもゆっくりで。

ズキン
「…っ……」

加えて、先ほどセリューに蹴られた痛みがぶり返してきた。
穂乃果にとってはあのような暴力を振るわれたのは初めてであり、痛みに対する耐性などなかった。

それでも耐えて10歩ほど進んだが、それが限界だった。

バランスを崩して倒れこむ穂乃果。

「高坂さん…!無理をされては―――」
「…………っ……」

気がつけばその瞳からは涙が流れていた。

何に対する涙だったのかは分からない。
ことりを、そして海未や凛を失ったことに対する涙?
怪我をしたマスタングや友人の花陽をおいてきてしまった自分の不甲斐なさに対する涙?
自分が原因でこんなことになっているのに何もできない自分に対する涙?

何なのかは分からない。あるいはそれらがごちゃ混ぜになっているのかもしれない。

「…、私は大丈夫ですわ。これくらいの荒事、学園都市では日常茶飯事―――…?…これは……」

と、穂乃果より先に起き上がった黒子は、ふと視界の隅に映った音楽プレイヤーに目を奪われた。


132 : Future Style ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 08:21:07 Wjn37oSo0

「これは、高坂さんの支給品ですの?」

おそらくは転んだ拍子に地面に落ちてしまっただろうその物体。
一見するとただの音楽プレイヤーであり、何の用途があるわけでもない所謂ハズレにあたるものだと考える。
だが、黒子の中で何か嫌な予感がしていた。その音楽プレイヤーを見た時にデジャヴのようなものを自分の中に感じ取って。

拾い上げた黒子は、その音楽プレイヤーの中を確かめ。

「…!レベルアッパー…?!どうしてここに…?」

中に入っていた音楽データの名前に思わず目を剥く。
その時だった。

カツ、カツ、カツ

「…!誰ですの?!」

迫ってくる足音に警戒して地面に落ちている木の切れ端を拾い上げて構える黒子。

「落ち着け、俺は殺し合いに乗っていない」

現れたのは、両手を上に上げた男。
敵意も武器もないことを示すポーズなのだろうが、黒子とてそれで信用できる精神状態ではなかった。

「…あなた、名前は?」
「狡噛慎也、まあそこから踏み込んで何者かと聞かれたなら刑事だとしか言い様がないな」

普段であればここまで警戒することもないだろう黒子だが、蓄積された疲労、そしてエンヴィーという変身能力を持った参加者の存在が安易に目の前の男を信じることを許さなかった。

「………少し失礼しますわ」

と、黒子は警戒を解くことなく狡噛の元に迫り。
その腕に手をやって。

「む?」

次の瞬間、狡噛の体がほんの30cmほどズレた場所まで移動して出現した。
それを確認した時、ようやく黒子の警戒心が緩んだ。

「今のは?」
「分かりましたわ、あなたの姿と名前は信じます。
 私は白井黒子、こちらは高坂穂乃果ですわ。先に名乗るべきところで名乗れなかったことは謝罪しますわ」
「気にするな。だが、それよりもその様子は只事じゃないな。何があったか、話してくれないか?」
「ええ。分かりましたわ」




133 : Future Style ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 08:22:40 Wjn37oSo0
そこから黒子は穂乃果と共に道の脇に腰を下ろしてこれまでにあった出来事を狡噛に話した。

小泉花陽やロイ・マスタングとの出会い、そして放送より前に知らされた友の死。
その下手人達、そして後藤との戦い。
それらを切り抜けたところで遭遇した、セリュー・ユビキタス。
そして彼女によって貶められた高坂穂乃果の友人。

(……こんな子供が、それだけの修羅場を、か…)

一人はただの高校生、もう一人も超能力とやらを持っているようだがまだ中学生の女子だ。
ついさっきまではまだ別の仲間がいたというが、それでもこんな子供がそれだけの状況を必死でくぐり抜けてきたという。
自分が槙島一人に狙いを絞り、図書館に留まっていた間に、だ。


ともあれ、話の中には槙島聖護の名が出てくることはなかった。それはすなわち南西のエリアには槙島はいなかったということだろう。
無論、彼女達が去った後で南部を走る電車で移動、などという可能性も有り得るわけだが。

「それで、そのセリュー・ユビキタスという女だが、イェーガーズという部隊にいる、と言っていたんだな?」
「ええ。他にはウェイブさん、既に死亡したクロメさん、あとはまだお会いしてはおりませんがエスデスというお方もそうだ、と」
「いや、君の説明で納得がいった。図書館付近の道にさらし首になっている男がいてな。イェーガーズにより正義執行、などという書き置きと共にな」
「あの女…、何ということを……」
「男の体の特徴から言って、そいつ自体は何かしらの犯罪者だった可能性は高い。だがそれをあんな場所に放置していく、ということは他者に余計な刺激を与えることもある。
 やはり君たちの話を聞くと、どうやらかなり独善的な人間のようだな。そのセリュー・ユビキタスという女は」
「――――…ことりちゃんは」

と、それまでおとなしく話を聞いていた穂乃果が口を開いた。

「あの人には、ことりちゃんもそんな人達と同じだって思われたんですか……?」

穂乃果にとっての大切な親友だった南ことり。
もしかしたらその首も、それと同じように並べられていた可能性があるという事実に心が締め付けられるような気がしていた。

「…君の友達が殺し合いに乗っていたと、セリュー・ユビキタスは言ったんだな?」
「…はい。でも、ことりちゃんはそんな子なんかじゃ……」
「おそらく彼女のいう南ことりという少女に対する見方にはかなりのフィルターがかかっているだろう。
 だが、その始発点である『南ことりが殺し合いに乗った、あるいは人を殺そうとした』という点に限っていうならば事実の可能性は高い」
「…っ!」

そのようなことを言われるとは思っていなかったのだろう、穂乃果はショックを受けた表情で息を詰まらせる。

「どうして…、そんなこと――――」
「落ち着け、だからといってその子がセリュー・ユビキタスのように悪い子だ、などと言うつもりはない。
 そもそも人が人を殺す理由なんて数え切れないくらいある。
 娯楽のために殺す者、恨みをもって殺そうとする者。
 恐怖にかられて衝動的に殺してしまう者もいれば、そうしなければいけないという強迫観念で殺す者だっている。
 一つ聞きたい。南ことりにとって、君の友達はどういう存在だったか、分かるか?」
「それは………、私にとっては大切な幼馴染で、大切な友達です。きっとことりちゃんも同じはず……」
「俺はその子のことを知らない、だが聞いた情報からの印象で可能性として考えられるのは。
 この状況で恐慌状態に陥ってしまったか、あるいは君たちのことを生かすためにそれ以外の皆を殺すという道を選んでしまったか」
「…………」


「当然その行為自体が悪かと言われればその女が言うように悪であることには変わりないだろう。
 だが、その行動に向くまでにはその人間の様々な思いがある。本当に救えない悪なんてそう居るものじゃない。
 そんな人間にもやり直せる機会を与えるために、俺達みたいな刑事がいて、法ってものが存在してるんだ」
「じゃあ……ことりちゃんは……」
「きっとやり方を少し間違えてしまっただけなんだろう。
 死んで当然、などと言われるような悪じゃない。それは君がよく知っているはずだ」
「ことり…ちゃん……、う…あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

声を上げて泣きじゃくる穂乃果。
往来で声が響くのは避けたいものだが、黒子にも狡噛にもその穂乃果の涙を止めることはできなかった。


134 : Future Style ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 08:24:00 Wjn37oSo0



「さて、話を進めようと思うが、大丈夫か?」
「お話なら私が。…そういえば一つ気になることがあるのですけど」
「何だ?」
「狡噛さんが言われていた、色んな世界の人間が集められている、と言われていた件ですが。
 それに加えてシビュラシステム、というものについて言われていましたが」
「ああ、それがどうかしたか?」

そう言って黒子が取り出したのは、一つの音楽プレイヤー。

「これは過去、私のいた学園都市のとある事件で広まったプログラムなのですが……」

中に入っているレベルアッパーという音楽データ。
それは、過去に学園都市の能力者のレベルを気軽に引き上げることができるプログラムだった。

使用者の脳波に直接干渉し脳波パターンを統一させ、一つの巨大なネットワークを作ることによって高度な演算能力をもつ演算装置を作り上げ、能力者のレベル以上の能力を引き出すというものだ。
だがそれはネットワークを繋いだ能力者の脳に強制的な演算をさせて負荷をかけ、使用者を昏睡状態に陥らせるという副作用がある危険なもの。

「その事件は既に解決し、首謀者の方も逮捕され裁きを受けたのですが。
 気になるのはこれがここにある、という意味ですわ」
「なるほどな。話を聞く限りじゃこれは君の世界のその多くの超能力者が使ってこそ意味を持つものだ。
 ただのハズレ支給品である可能性もあるが、そうでないなら何かしらの意味を持つのではないか、と」
「そうですわ。それもあの広川という男が何かしらの手段で、効果を持たせる環境を整えている可能性もあると」
「それでシビュラシステムについて聞きたいということか」
「ええ、この機会ですから念のためと思いまして――――」

と、黒子は狡噛とそのシステムについての可能性について考えを広げている、その時だった。


カツリ


「ほう、興味深い話をしているな」

突如現れた気配に咄嗟に身構える黒子と狡噛。
そこにいたのは軍服にも見える服を纏った、眼帯の男。

「…あんたは?」
「キング・ブラッドレイ、というものだ。偶然通りすがりに興味深い話をしている様子なのが耳に入ってな」
「あんたが、そうか。図書館で待ち合わせをしてると言っていた―――」
「――――――」

男がそう名乗りを上げた瞬間、狡噛は一瞬黒子の表情が引き攣ったのを見ていた。

「どうかしたかね?」
「いえ、何でもありませんわ。私は白井黒子、そしてこちらは高坂穂乃果さんと狡噛慎也さんですわ」
「ふむ。私はこの殺し合いというものからどうにかして抜け出せないものか、と動いておる。
 図書館で待ち合わせをしている者がいるのでその手土産に何か情報がないものか、と思ったものでな。二人との約束を一つ反故にしてしまった以上、それくらいは無ければ流石に面目も立たぬ」
「分かった。信じよう」

(…白井さん……?)

と、そうして3人が話を進めていく中で、一人それに混ざることができなかった穂乃果は黒子の様子がおかしいことに気付いていた。
何というか、気張っているようにも見えて。



「ふむ、学園都市にシビュラシステム、そして地獄門か。なかなかに摩訶不思議なものが存在する世界もあるものだな」
「ああ、だが俺はそのシステムの中枢が何なのかまでは知らない。俺自身は一介の捜査官にすぎないからな」
「私もですわ。例え広川の協力者に学園都市に関わる研究者がいたとしても、私自身に把握できる範囲のものにはありません。
 このレベルアッパーに関しては、初春という友人ならば解析可能かもしれませんけど」
「なるほど、ではその辺りには様々な角度から情報を集めていく必要がある、ということか」

(何か、白井さん警戒してる…?)

黒子の周囲にだけ感じる、妙にピリピリした空気を傍から見ていた穂乃果は感じていた。


135 : Future Style ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 08:24:32 Wjn37oSo0

「そういえば一つ聞きたいのだが」

と、そんな時に会話の中でブラッドレイは別の話を持ち出すように切り出した。

「君たちはエドワード・エルリック、ロイ・マスタングの二人を知らぬかね?」
「…え、マスタングさん?」
「知っているのかね?」
「白井が言っていたが。重症を負ってその治療のためにイェーガーズ本部に向かったと」
「――ほう」

その時、黒子はブラッドレイの変わらぬ表情のまま周囲の空気だけが変わったようにも思え。

「あ、あの!!」

テレポートを発動させようとしたその時、話を聞くだけだった穂乃果が後ろから呼びかけるように声を発した。
突然響いた大声に思わずそちらを振り向く一同。

「何かね?」
「あ、その……えっと……」

だが、呼びかけたはいいが特に何か言いたいことや考えがあったわけではない。
直感的に何かがまずいと思って声を出して空気を変えてみようと思っただけだった。

考えるように視線を動かすこと10秒ほど。

「その、……私だけ何もしてないってのは落ち着かないですし、その」

と、バッグに手を突っ込んだ穂乃果は。
一枚のチューインガムを取り出し。

「……ガム、噛みます?」



(あの様子、キング・ブラッドレイという男は何かしらの危険人物だったということか)

高坂穂乃果のあの行動の後は毒気を抜かれたのかあの剣呑な雰囲気になることはなく。
特に大きな動きもないまま、ひと通りの情報交換の後狡噛は自分の目的のために一人先に立ち去っていった。
当然槙島聖護のことについて警告しておくことも忘れない。

(少なくとも白井黒子はあの男が危険人物だという情報をロイ・マスタングから聞いていた、ということか)

情報交換の途中で割り込まれたことはある意味幸運だったのだろうか。
キング・ブラッドレイは要警戒対象には違いないだろうが、しかしこちらから下手な行動に出なければ積極的に動くことはない、そういうスタンスで動いているのだろうと推察した。


「全く、子供に助けられてばかりだな、俺は」

黒と誤解のまま戦いに入った時は戸塚によって助けられ。
キング・ブラッドレイとの会話の中では高坂穂乃果の機転によって事無きを得ている。

「待ってばかり、というのもやっぱり性に合うものじゃないな」

少しスロースターターすぎたかもしれないが、情報はそれなりにも集まっている。
それらを纏められる存在、状況を打破しうる存在を探索しつつも自分の足で槙島を探すこと。
それが現状の目標だ。

だが、槙島だけに拘っているわけにもいかないという事実も決して忘れてはいけない。
己の体と一丁の拳銃しかない今の自分でどこまでのことができるか分からない。
それでもホムンクルスや後藤なる危険な参加者。彼らを排除することは遠回しには槙島の死を遠ざけることにもつながるはずだ。

ただ、一つ気がかりなことが狡噛にもあった。

「高坂穂乃果…、音ノ木坂学院か……」

自分の推察の中で、槙島聖護が向かう可能性が高いのではないかと考えた場所。
そして彼女の友人も向かっているのではないかという考えがあった施設だ。
現状不安定な少女にその事実を告げて余計な不安を煽るのはまずいのではないかと敢えてそれを告げはしなかったが。

(もし彼女達がそこに向かうかもしれないなら、先に向かって槙島の所在を確かめておくか?)


後ろから彼女達が追ってくる気配がないことを確認した狡噛は、早歩きで進み始めた。


136 : Future Style ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 08:25:16 Wjn37oSo0


【D-5/一日目/黎明】

【狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】
[状態]:健康、左腕に痺れ、槙島への殺意
[装備]:リボルバー式拳銃(4/5 予備弾50)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考]
基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:槙島を見つけ出す。
2:槙島の悪評を流し追い詰める。
3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
4:危険人物は可能な限り排除しておきたい。
5:音ノ木坂学院に向かう?

[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒、戸塚、黒子、穂乃果の知り合い、ロワ内で遭遇した人物の名前と容姿を聞きました。




「さて、白井黒子くん、聞きたいことは分かっているようだね?」
「……ええ。マスタングさんから伺っておりますわ。キング・ブラッドレイはホムンクルス、私達の交戦したエンヴィーの仲間であると」

万が一の時に備えて穂乃果の手を握ったまま、黒子はブラッドレイを前にそう答えた。

「ふむ、まあマスタング大佐であればそう言うのであろうな。それで、他にはどのようなことを聞いている?」
「そこまで詳細なことは聞いていませんけど、あなたが殺し合いに乗っている可能性のある要警戒人物ということですわね」
「なるほどな。それだけかね」
「…ええ。把握しているのは」

ふう、と一息つくような動作を見せるブラッドレイ。
その様子に舐められているのかと思った黒子は今度は自分の番とばかりに問いかけた。

「…安全な人間の振りをして皆の中に紛れ込んで一網打尽、という算段だとでも言われるんですの?」
「そう警戒するな。私とて巻き込まれた立場だ。エンヴィーがどのような考えで動いているのかはまあ想像はつくが、奴のようにそう無益に人を殺していこうなどとは考えておらん」
「つまりは、益があるならば殺すという理解でよろしいですのね?」
「……っ…」

穂乃果の、黒子の手を握りしめる力が強くなっている。

「そうだな、否定はしない。だが私としてはそう積極的に殺すつもりでいるわけではない。君にはまだ利用価値もあるようだしな。
 最も、私としても襲われたというのならば我が身を守るために火の粉は払わねばならん。
 その場合、先に死ぬことになるのは――――」

と、いつの間に抜いたのか穂乃果の眼前に細身の刺剣が突き付けられていた。

「力量も考えればこちらの少女、ということになるのだろうかな?」
「な……」

一時たりとも二人はブラッドレイから目を外しはしなかった。
それでも穂乃果はおろか、黒子すらもその動作を捉えることができなかった。

眼前に突き付けられた剣に、体がこわばって身動ぎすらもできなくなる穂乃果。
脳裏に浮かんでくるのは、先ほどセリューから真っ向に殺意を向けられたあの時のような恐怖。

しかし目の前にあるものはそれと比してもあまりに近かった。

「君は無力な存在のようだ。実際エンヴィーやエンブリヲのような存在と遭遇すれば蹂躙されるしかないだろうな。
 別に私は力のないことを責めたりはしない。だが、逃げ、守られるだけの者であるならば、抗う気概すらも持たぬ者というのであれば話は別だ」
「…わ、私は……」
「そういえば、最初に会った少女、園田海未と言ったか。彼女もまた無力で守られるだけの存在だったようだが」
「え……っ、海未ちゃん……?」
「…っ、高坂さんから離れなさい!」

黒子が警告を発すると同時に、ブラッドレイの突きつけた剣の先に石が転移。
切っ先数センチほどの位置に石が移動し、分断された先端部分は音を立てて地面へと落ちた。

「ほう」

その能力に関心するように声を上げるブラッドレイ。

(―――っ…、転移先の精度が…!)

剣の根本から石を転移させてへし折るつもりだったが、しかし幾度も連続してテレポートを使用したことで、黒子の演算精度は大きく下げられていた。

それでも一瞬の隙にはなった。その間に穂乃果の元に駆け寄ろうとする黒子の体がふらつく。
ここにきて体までもが限界を迎えつつあったのだ。


137 : Future Style ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 08:25:59 Wjn37oSo0


膝をついた黒子はそれでも穂乃果に逃げるように叫ぼうとして。

しかし穂乃果はブラッドレイを見据えたまま、動かなかった。

「―――高坂さん?」
「あなたが、……海未ちゃんを、殺したんですか?」

震える声で、しかしはっきりとブラッドレイに向けて問いかける穂乃果。

「なるほど、友のことを告げられれば問い詰めるだけの気力は残っているか」
「…答えて!」
「そうだ、と言ったらどうするのかね?」
「…………」

答えを受けて、穂乃果は歯を食いしばって睨みつけるようにブラッドレイを見据える。
園田海未。南ことりと並ぶ、大切な幼馴染の親友。
それを殺した相手が、目の前にいる。

(私は――――)

―――――喜べ、南ことりを殺した刀でお前も殺してやる

だというのに、その感情より先が、自分がどうしたいのかが見えなかった。
殺意を向けようとすると、セリュー・ユビキタスのあの時の表情が脳裏にちらついて動けなくなる。

今の自分が、このキング・ブラッドレイという男を殺せるのだろうか。
物理的にはおそらくは無理だろう。殺そうとした瞬間、きっとその手の剣が胸を貫いている。
それを思い浮かべたら、身が竦み、足が震えて動けなくなる。
セリュー・ユビキタスに受けた理不尽な暴力が頭をよぎる。

そして。
ここで殺そうとすれば、きっとセリュー・ユビキタスの言うような悪になってしまう。そんな気がした。
そうなってしまえば、あの女の言うことりの汚名をそそぐ資格もなくなる。
大切な友達は、ずっと悪人と誹られたままその存在を冒涜されることになる。

(―――どうしたら、いいの…?)

では、この想いは。
友達を殺されたというこの感情はどうすればいいのだろう。

(分からない、分からないよ……)



「冗談だよ。私ではない」

そんな迷い続ける穂乃果を見かねたのか、ブラッドレイは剣を下げた。

「え……」
「確かに遭遇したことは事実だが、情報交換の後色々あった後空を飛んで去っていったのだ。
 位置を推測するなら、おそらく向かった場所は音ノ木坂学院かな?」
「音ノ木坂学院で…?」
「そこで何があったのかは、私の知るところではないがね。行ってみれば何か分かるかもしれんな。
 さて、白井黒子くん、これで私がただ無闇に他者を殺し回っているわけではないことは”理解”してもらえたかね?」
「…………」

膝をついたまま、苦々しい表情を浮かべた黒子に向けてブラッドレイが問いかける。
いくら疲労困憊の状態とはいえ、その言葉の裏にあるものを感じ取れぬほど黒子の頭が鈍っているわけではなかった。


138 : Future Style ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 08:27:43 Wjn37oSo0


「……分かりました。今はあなたの言葉に従いますわ…」

無論、それは本心で信じているわけではない。
だがここでもし尚も抵抗した場合、命を落とすことになるのは穂乃果となるのは明らか。
現状のコンディションでテレポートによる逃走もままならない以上従うしかなかった。

「さて、マスタング大佐の情報、感謝するよ。
 ふむ、そうだな。ではお礼として2つほど、ちょっとした情報を教えておこうか」

と、こちらに背を向けたまま、ブラッドレイは顔が見えるかどうかというところまで振り返って告げる。

「…何ですの?」
「まず一つだが。さっきの君の考察を受けて私自身気付いたことがあったのだが。
 名前は言えないが、私の知人には私の世界の、私の国の中でしか自分の力を発揮することができない者がいる。
 能力は非常に強力だが、国の外に出てしまえばその能力を使うことはできないのだよ。
 だが、その者の名も名簿に載っている」
「…つまり、もしその人が能力を使うことができたとするなら……」
「この会場は、何かそういう特殊な仕掛けが施されているのかもしれん、ということだな。それが何なのかは私には皆目検討もつかんが」

ブラッドレイの言うことが嘘か真か判断することはできない。
だがそれでも一つの情報として、黒子はその情報を頭の中に叩き込み。

「…それで、もう一つは?」

残りの一つのことについてを問いかけ。

「君は、御坂美琴という少女を知っているかね?電撃を使う短髪の少女だ」
「…!!お姉さま!?お姉さまに会われましたの!?」

思ってもみなかった名がその口から出たことに思わず疲労すらも一瞬忘れて声を上げて問う黒子。

「ああ、ここより東の場所でな」
「…っ、高坂さん、行けますか!?」

と、鈍った体に鞭打って穂乃果の手を引き走ろうとする黒子。
しかし、その足は次にブラッドレイから投げかけられた言葉で止められた。

「だが気をつけたまえよ。あの娘は殺し合いに乗っているようだったのでな」



「さて、どうしたものかな」

黒子と穂乃果の二人から離れるブラッドレイは今後の動向について思案する。
図書館に向かうのが当初の目的ではあったが、しかしマスタングの所在、そしてその状態を確認してしまった。

人柱候補である彼のことは、極端な話腕や足の1,2本が欠損したとしても命さえ無事で錬金術が使えるならば問題はないと考えている。
だが、それでも怪我が重ければそれだけこの場で生き残るのは難しくなる。
もし命を落としでもした場合はまた新たな候補が必要となりお父様の計画の遅延にも繋がってしまう。
エンブリヲという存在に別の可能性ががあるとはいえ、確定とは言えない以上可能な限りは避けたい事態だ。

どちらにしてもイェーガーズ本部には向かうとして、図書館のタスク達の元にはとりあえず顔だけ出していくべきか、それともマスタングの元へと向かうことを優先するか。



「それにしても、白井黒子と高坂穂乃果か」

白井黒子。
学園都市という施設についての情報、そして空間転移という稀有な能力を持った者だ。
生かしておけば何かしら脱出の力になるかもしれない。今回は積極的に動きはしなかったのは彼女の存在が大きかった。
無論、マスタングからの情報を得ているという以上は完全に騙しきることはできないだろうから、ある程度の冷酷な部分を出すことで具体的なスタンスは覆い隠したのだ。

本来ならば図書館に向かわせるところだったが、彼女達は今現在危険人物と認定され追われている立場だという。
万が一にでもその巻き添えをくらってタスクのような人材を失われるのはことだ。かといって自分に同行させるわけにもいかない。何しろホムンクルスであることは割れている立場だ。


139 : Future Style ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 08:28:06 Wjn37oSo0


セリュー・ユビキタス。彼女達を追う存在の名。
独自の正義感で動く存在だというらしいが、白井黒子を悪と認定し殺そうとしていることを考えれば大いに人格に問題があるように思える。
ブラッドレイの見立てではあの少女が悪と呼ばれるような存在には見えない。
脱出を目指す者、その力を持つ者達にとっても得にはならないだろう。
それに殺人者名簿なるものから人を殺害した者についての情報を得ているらしい、というのは少々不都合でもある。
マスタングを保護に向かうついでに始末してしまうことも一考しておく。


そして高坂穂乃果。
彼女は何の力もないただの人間。言ってしまえばただの足手まといだろう。
だが、死んだ友の名を耳にした時に自分に問いかけた時の目はまだ死んではいなかった。
白井黒子の手前間引くこともしなかった。せめて生き残らせたことに得があったと思える者であればいいのだが。

「まあいい。もし君たちに生き残る意志と力があるのなら、また会う機会もあるだろうしな。
 その時を楽しみにしておるよ」

その先に待ち受ける試練は音ノ木坂学院で起こった何かか、あるいは殺し合いに乗った御坂美琴か。
あるいはその両方か。

ブラッドレイは期待するように、きた道を一度だけ振り返り、自分のなすべきことのために進み始めた。



【D-5/図書館近く/1日目/朝】

【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、腕に刺傷(処置済)、左腕に痺れ(感覚無し、回復中)
[装備]:デスガンの刺剣(先端数センチ欠損)、カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2(刀剣類は無し)
[思考]
基本:生き残り司令部へと帰還する。そのための手段は問わない。
1:図書館に向かいタスクらと一旦合流するか、それともマスタングの確保を優先するか?
2:稀有な能力を持つ者は生かし、そうでなければ斬り捨てる。ただし悪評が無闇に立つことは避ける。
3:プライド、エンヴィーとの合流。特にプライドは急いで探す。
4:エドワード・エルリック、ロイ・マスタング、有益な情報、技術、帰還手段の心得を持つ者は確保。現状の候補者はタスク、アンジュ、余裕があれば白井黒子も。
5:エンブリヲは殺さず、プライドに食わせて能力を簒奪する。
6:御坂は泳がしておく。
7:セリュー・ユビキタスは邪魔になるようなら排除する
[備考]
※未央、タスク、黒子、狡噛、穂乃果と情報を交換しました。
※御坂と休戦を結びました。
※超能力に興味をいだきました。




(…想定はしていましたが、それでも実際に告げられるのは想像以上にきついですわね……)

そうしてキング・ブラッドレイが立ち去った後。
強引に起こした体を焦燥感が無理にでも突き動かそうとする。
もう手遅れか、それともまだ間に合うのか。

せめてこの疲労さえなければ、もっと自分の考えをまとめ冷静に判断を下すことができたかもしれない。
しかし今はひたすらに焦りが先走る。

無論、嘘だと言えれば楽だっただろう。
しかし黒子にはその言葉が真実であるという直感があった。

「…早く、向かいませんと……」


140 : Future Style ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 08:28:44 Wjn37oSo0



「白井さん…!そんなフラフラで―――」
「いえ、休んでいる暇はありませんわ。こうしている間にも、お姉さまが……」

ふらつく体をおして進もうとする黒子。
しかし穂乃果の目から見てもその様子は大丈夫には見えなかった。

テレポートの連発により蓄積された疲労。
そして、ブラッドレイの残した情報による焦燥が黒子の精神を摩耗させていた。

「――――っ」

そうして無理をおして進もうとして、足をもつれさせて躓き。
受け身を取ることもかなわず地面に転がった黒子は、そのまま意識を落としていた。

「白井さん…?」

声をかけながら体を揺らす穂乃果。
息はしているが、目を覚ます気配はない。

「…………」

目を覚ますのを待つ暇がないことは穂乃果にも分かる。
じっとしていれば、いずれセリュー・ユビキタスが追いついてくるだろう。
それに、あの黒子の、ブラッドレイから御坂美琴の情報を告げられた時の表情。
これまで自分を守ってくれた、頼りがいのある存在だと思っていた少女のそれとは思えなかった。

「私が、やらなくちゃダメなんだよね…?」

意を決したように、穂乃果は黒子の体を背負い上げた。
ずっしりと体に伸し掛かるその体重は、しかし支えてみれば思った以上に軽かった。

(こんな、にこちゃんとそんなに変わらない体で、ずっと私達のこと……)

そしてゆっくりと歩み始めた穂乃果。

走っていた時と比べればあまりにも遅い歩み。

一歩足を踏み出すごとに、脳裏に色んな光景がよぎっていく。

名も知らぬワンちゃん。雪子ちゃん。
戦いの中で死んでいった、出会ったばかりだった者達。

ことりちゃん、海未ちゃん、凛ちゃん。
自分の知らない場所で命を落としていった仲間。

真姫ちゃん。
まだ会えぬ、まだ生きていると信じたい仲間。

花陽ちゃん、ウェイブさん、マスタングさん。
自分が弱いばかりに、見捨てるような形で離れてしまった仲間達。
マスタングさんとは結局話すことはできなかった。ウェイブさんも信じたいのに、未だにセリューの存在が心を揺さぶり続けている。


(私が弱かったから……)


あのレベルアッパーを使えば、自分にも何か力が宿ったのだろうか?
例え自分自身がいつか意識を失うことになったとしても、誰かを守れただろうか。

ワンちゃんのバッグに残っているのは指輪と変な球だけ。説明書を読んでも何が書いてあるのか理解できなかったし自分には役に立ちそうな道具ではなかった。

今の自分は無力だ。
実際、自分はただのスクールアイドル。超能力者でも戦士でもない。
そんな身で、できることなどないのかもしれない。

だけど。


(……私は、もっと強くなりたい)

白井さんに守られるだけの存在でなく、みんなの力になれるような強さが。
セリュー・ユビキタスやキング・ブラッドレイのような人達にも屈することがない強さが。
ことりちゃんのことを信じることができるような強さが。
花陽ちゃんや真姫ちゃんを、ウェイブさんやマスタングさん達大切な仲間を守れるような、強さが。


それは一人の、ただのスクールアイドルの小さな願い。

しかしそれは穂乃果の胸の内に、小さくとも確かに宿った光だった。



穂乃果は知らない。
イギーの残したバッグに入った道具の持つ、秘められた力に。

確かにそれはイギーにとっても高坂穂乃果にとっても役には立たないものなのだろう。
だが、見るべき者が見ればその真価を知る道具。


球体の持つ、因果を遡って切り札に対するカウンターを発動させる効果。
指輪の持つ、空を舞う神の兵器を駆る鍵となる効果。

彼女はまだ、その事実を知らない。


141 : Future Style ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 08:29:06 Wjn37oSo0

【D-5/1日目/朝】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的ショック(中)、決意
[装備]:練習着
[道具]:基本支給品、鏡@現実、イギーのデイパック(逆行剣フラガラック@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞)
[思考・行動]
基本方針:強くなりたい
1:黒子と共にセリューから逃げつつ、音ノ木坂学院へ向かいたい
2:でも花陽ちゃん、マスタングさん、ウェイブさんも気がかり
3:セリュー・ユビキタスに対して―――――
4:レベルアッパーが少し気になっている
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています


【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、焦燥、疲労による気絶
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、スピリタス@ PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春などの友人を探す。
0:お姉さま…
1:セリューから離れる。
2:初春と合流したらレベルアッパーの解析を頼みたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているということを知りました。


【逆行剣フラガラック@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
イギーに支給。
バゼット・フラガ・マクレミッツの所有する、『宝具(エース)を殺す宝具(ジョーカー)』。
敵が切り札を発動した直後に発動することで、『時間をさかのぼって敵が切り札を発動する前に発動し、敵の心臓を貫く』という特性を持つ。
発動前は砲丸球のような形をしている。
本ロワにおいては魔力、あるいはそれに準ずるものを持っているものであれば誰でも使用可能という調整がなされている。
ただしそのまま使用すると手が焼ける恐れがあるため注意。


【指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
ラグナメイルの起動キーが埋め込まれた指輪。無論これ単体では意味をなさない。
どの機体のものかは不明(ミスルギ王家の指輪である可能性も有り)


142 : ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 08:29:47 Wjn37oSo0
投下終了です


143 : ◆BLovELiVE. :2015/08/05(水) 12:50:56 D2iMc.RM0
あ、すみません
ちょっと見返してると自分で違和感を感じる部分が残っていました
修正したいのですが続きの予約とwiki収録はしばらく待ってもらってもよろしいでしょうか?


144 : ◆BLovELiVE. :2015/08/06(木) 01:35:41 Qt/7Y3is0
おまたせして申し訳ありません
>>135の狡噛パート以降について修正・加筆したものを修正スレにて投下しておきました
加筆の結果、狡噛の進行方向が変更することになりましたので念のため確認お願いします


145 : 名無しさん :2015/08/06(木) 22:53:02 rFWRSpBw0
投下乙です

一般人男性なのに感度50倍に耐えられる戸塚は凄いんじゃないだろうか
果たしてキリトさんは立ち直れるか。周りのキャラが恵まれているのでラストチャンスか

ノーベンバーの機転が生きたか。なんやかんやでみさきちDIOはいいコンビ
DIOと後藤の再戦がどうなるかも気になるところ

修正の件は了解しました。コーガミさんは頼りになるなあ
これまで支えてきた黒子を穂乃果が支える構図もいい感じ


146 : 名無しさん :2015/08/08(土) 00:42:56 vluzKfJ20
修正乙です
狡噛さんは本当頼りになるな
穂乃果の決意が良い結果に結び付くと信じたい


147 : ◆dKv6nbYMB. :2015/08/10(月) 10:59:47 6mgRBnd60
投下します。


148 : 我が侭な物語 ◆dKv6nbYMB. :2015/08/10(月) 11:01:45 6mgRBnd60
エスデスから逃れたほむらと花京院は、病院で医療品を探していた。

「...あまり置いてませんね」
「まあ、広川が求めるものが殺し合いである以上、そこまで期待するべきじゃないだろう」

本当は、めぼしい物は入れ違いとなった佐倉杏子が持って行ってしまったのだが、二人がそれを知る由はない。

「さて、早速傷口の消毒をしよう」
「...その前に、いいですか」
「なんだい?」
「その、お互いに支給品を確認しませんか?お互いに使いやすい物もあるかもしれませんし、手当をしている間に襲撃される可能性もありますし...」

ほむらの支給品は、帝具『万里飛翔マスティマ』。空を飛べるだけではなく羽根を飛ばすことで武器になるのだが、生憎使い方をよく知らないほむらではこの帝具は武器にはなりえない。
そのため、ほむらは一刻も早く武器を手に入れたかったのだ。
花京院は少し考え込む素振りを見せる。

「...わかった。ちょうど、わたしには使え無さそうな物があったからな。きみに使えるものがあればいいが...」

そして、二人はそれぞれの支給品をデイパックから取り出した。
花京院が取り出したのは、一振りの剣とベレッタ。
ほむらが取り出したのは、万里飛翔マスティマ。


「...なんだい、これは」

花京院の現実的な支給品と比べれば、そんな言葉が出ても仕方ないだろう。

「...空が飛べるらしいです」
「それはすごいな」
「実際に試したわけじゃないんですけどね。飛べる時間も限られているようですし」
「ふむ...しかし、この殺し合いでは、飛べることはあまりアドバンテージにはなりそうもないな」

花京院の言葉には、ほむらも同意だった。
まず、飛ぶ行為自体が目立つ。エスデスのような好戦的な者が近くにいれば狙ってくれと言っているようなものだ。
次に、この殺し合いには異能力を持つものが多くいるということだ。
空を飛ぶことによる最大の利点は、相手の攻撃が届かない事。
しかし、自分の知る限りでも、氷をとばせるエスデスに、遠距離攻撃だけでなく、リボンで相手を引きずりおろせるうえ、足場を作れる巴マミがいる。
それに、能力だけでなくとも、銃火器で狙撃されれば十分に危険だ。
よほどのことが無い限りマスティマは使い道はないだろう。


「わたしの方は何の変哲もないものだが...そうだな、きみの護身用としてはこの刀がいいんじゃないかな」

花京院がほむらに渡したのは、刃渡りがとても美しい刀。
刃物に関してはド素人のほむらですらそう思うほど、その刀は美しかった。

「いいんですか?」
「ああ。私には『体質』があるからね。自衛くらいはこれでできる」
「...ありがとうございます」

欲をいえば、使い慣れているベレッタを欲しかった。
しかし、先のエスデスの件から、銃を欲しがる一般人などいないだろうと思い直し、まだ包丁などの家庭用品に近い刀で了承した。
刀は刀で使い道はある。
この刀の切れ味がどの程度かはわからないが、時間停止と組み合わせればかなり強力な武器となるだろう。
ほむらは受け取った刀をデイパックにしまった。

「さてと。今後の方針は応急手当をしながらでもいいかな?」
「はい」

消毒液、脱脂綿、ガーゼ...治療に必要な物を揃え、花京院はほむらに手を差し伸べた。


149 : 我が侭な物語 ◆dKv6nbYMB. :2015/08/10(月) 11:02:31 6mgRBnd60
「しみるかい?」
「だいじょうぶです」

ほむらの傷口に優しく消毒をしながら、花京院は語りかける。

「さて、今後の方針だが...わたしはここに留まるのもありだと思っている」

一旦、ほむらの手当を止め、花京院はデイパックからタブレットを取り出す。

「わたしたちのいる場所は病院だ。おそらく、負傷した参加者の多くはここを目指すことになるだろう」
「でも、それって...」
「ああ。負傷した参加者を狙う、ゲームに乗った参加者も目指す可能性は高い」

しかし、と花京院は言葉を一旦区切る。

「きみの友達も連れてこられているのだろう?ならば、わかりやすい目印となる場所で待っていた方がいい」

花京院の言う事は尤もだった。
この地図には、『地獄門』『DIOの館』『音ノ木坂学院』など特徴的な施設が多くある。
おそらく、参加者になにか関連する施設の名称であることは想像に難くなく、知り合いが複数いる参加者はそこを目指すだろう。
それに対して、自分達に関連する施設が見当たらない。
『廃教会』は佐倉杏子の家かもしれないが、わざわざそこを目指すのは彼女くらいだろう。
自分達も知る一般的な名称で、見滝原にもある場所は『病院』『図書館』『発電所』の三つ。
この中で一番便利と思われるのはやはり病院だ。医療器具があれば、魔法少女の魔力も節約できる。
それに、ほむらの知る四人、特にまどかは優しい子だ。
自分が怪我をしていないにしても、他の怪我人を気遣って病院を目指す可能性は高い。

「ただ、問題はここが端の方だということだ。遠くにいる参加者は危険を冒してまで来ようとは思わないだろう」

会場の中央部なら集まりやすいのだが、いかんせんここは端の方。
周辺ならともかく、B-8にある発電所やG-7の闘技場辺りにまどかがいれば、此処で待っていても会える可能性は低い。
自分たちが知っている施設は少ないとなると、確固たる自信を持ってここを目指すという意思は持てない。同行者がいれば、そちらの要求に合わせてしまうだろう。
花京院に残ってもらって自分は別の場所を探したいとも思ったが、DIOのこともある。
ほむらは、エスデスがDIOを殺そうとしていることを花京院に伝えていない。
もし伝えれば、彼はエスデスを倒しにいこうとする。しかし、あの圧倒的な力には、自分たちでは相手にならないだろう。
時間停止を使って殺すことはできるかもしれないが、もしDIOが本当に悪人だった場合、そして殺し合いを破壊し広川たちと戦うときに、あれほどの戦力がいなくなるのも惜しい。
それに、DIOを敵視しているのはエスデスともう一人、アヴドゥルという人がいるらしい。
もしもアヴドゥルがまどかと出会い、DIOは危険だと伝えていれば、まどかと花京院が出会ってしまった時、間違いなく問題が生じるだろう。
そうなると、花京院から離れるべきではないと思う。

「それに、ここが浮遊島というのも厄介だ。周りが海などならまだ助かる望みはあるかもしれないが、奈落に落ちたら最後だ。遠くにいるのなら、わざわざ落ちる危険がある場所には立ち寄らないだろう」
「奈落?」
「ああ。きみと会う前にA-1に寄って確認したんだが、底が見えない真っ暗闇だったよ」
「真っ暗闇...太陽が出たら、底が見えるんでしょうか?」
「どうだろう。ちょうどここからも見えるし、確認してみようか」

席を立ち、窓から外を確認すると、少しの足場を残して、そこから先は文字通り底が見えない奈落だ。
まだ陽が昇りきっておらず、辺りも薄暗いとはいえ、こうも底が見えないのは不気味そのものだ。

「どう思います?」
「幻覚...と決めつけるのは早計かな。現実的に考えればこの浮遊島も奈落も有り得ないものだが...」
「有り得ない?」
「基本的に島というのは海や地面が無いと成り立たないものだからね。この浮遊島というものは自然的な法則を無視しているんだ」
「自然的法則...」

花京院の言葉について、ほむらは考える。
花京院が指摘するまでは、この島についてなんの疑問も抱いていなかった。
この島はおかしい。改めて考えればわかることだ。
浮遊する島。底が見えない奈落。
常識から外れているものが当たり前のように存在しているのだ。

(おかしいものが、当たり前...)

ほむらは知っている。
おかしいことが当たり前のようにできる世界のことを。
ほむらは持っている。
それを確かめる手段を。
故に、ほむらは口にした。

「なら、調べてみませんか?」


150 : 我が侭な物語 ◆dKv6nbYMB. :2015/08/10(月) 11:03:21 6mgRBnd60



ほむらの怪我の応急処置を終えたあと、ほむらと花京院は病院と奈落の境目、つまり崖っぷちに立っていた。

「...本当にやるつもりかい?」
「はい。大丈夫です、テストのついでに少し調べるだけですから」

ほむらが円盤状のマスティマに触れると、両肩から僅かに離れた場所へ浮き、翼が生える。
それと同時に、ほむらの身体が僅かに浮き上がる。

(...説明書の通り、飛ぼうと思えば飛べるみたいね)
「それでは、行ってきます。もし放送から10分以内に戻って来なければ、私を置いて花京院さんの思った通りに行動してください」

そう言うなり、ほむらは奈落へと降りていった。

(...この辺りでいいかしら)

ある程度まで降下すると、今度は滑空し奈落に対して平行に飛ぶ。
やはりというべきか、奈落には底が見えない。
欲をいえばこちらも調べたいと思うが、飛行時間に限界があるため無茶はできない。
それに、今回調べたいのは奈落ではない。
ほむらが着目したのは、会場の端。
島の端ではなく、地図上の端。即ち、奈落によって徒歩ではいけない場所だ。
わざわざ低く飛んでいるのは、奈落の底を確認するためだけでなく、どこにいるかわからない敵に姿を見られるのを防ぐためだ。
やはりというべきか、こちらも奈落と同様先が見えない。

(もし、これが私の予想通りなら...)

どれほど飛行しただろうか。
突如、ほむらの眼前に巨大な壁が現れた。
暗がりで見えなかったのではない。本当に、突然壁が現れたのだ。
壁に沿って上昇し、頂上まで辿りつく。
誰もいないことを確認すると、マスティマの羽根を消し、地上へと降り立った。


(やっぱり...!)

ほむらが確認できたのは、発電所と思われる施設。即ち、ここはB-8地点であることがわかる。
つまり、この会場に行き止まりはなく、C-1からB-8まで一瞬で移動したことになる。

ここから考えられる答えは二つ。
ひとつは、この会場が地球ではない小さな星のひとつだということ。
インキュベーターという異星人のことを知らなければ、こんなことは思いつかなかった。
しかし、地球と同様にこうして人間が普通に生きていられる基準を満たす星などあるのだろうか?
いや、そんな星があれば巷でもっと話題になっているはずだ。若しくはインキュベーターだけがそんな星を知っている可能性もある。
しかし、この場には魔法少女ではない人間が複数名いる。
魔法少女の素質を持つ者には、第二次成長期の少女であることが最低条件だ。
それ以外の者には、インキュベーターに干渉できないし、奴らの方からも直接は干渉ができないはず。
これらを踏まえると、『インキュベーターは魔法少女もその素質を持たない者でも、誰にも気づかれない内に他の星へ転送することができる』という前提が無ければ成り立たないこの可能性は限りなく低いといえる。

もうひとつの可能性...ほむらは、こちらの可能性の方がかなり高いとふんでいた。
気が付いたら同じ場所から出られなくなっていた。
現実にはありえないものが当たり前のように存在している。
見覚えのある建築物が存在する。
これらを両立するものを、ほむらは身を持って知っている。

(この会場は、魔女の結界によく似ている)


151 : 我が侭な物語 ◆dKv6nbYMB. :2015/08/10(月) 11:05:17 6mgRBnd60

ほむらが考えたもう一つの答え。それは、この会場自体が魔女の結界であるということ。
勿論、普通の魔女ではなくインキュベーターがなにかしら手を加えたであろう魔女の結界だ。
お菓子だらけの空間。
地面が無く、上下左右など方向感覚がメチャクチャな空間。
自分の住んでいた街を丸ごと模倣した空間。
魔女の結界の中では、とにかく常識の理屈が通じないものが存在する。
魔女が狙った標的を、気付かぬうちに結界内に連れ込むこともできる。

それに対して、この会場の浮遊島。
全く底が見えない奈落。
ワープしたとしか思えない現象。
いつの間にか集められた大勢の人間。
参加者に関係があると思われる施設の数々。
魔女の結界と共通点がありすぎるのだ。

故に、ほむらは『この殺し合いの会場は、魔女の結界によるものである』と結論を出した。

もしこの仮説が真実なら、魔女を探し出して殺してしまえば殺し合いを続けることは困難になるだろう。
勿論、この仮説に確たる証拠があるわけではない。
しかし、この調査でインキュベーターが関わっている可能性はかなり跳ね上がった。
ならば、魔女を探す手間をかけることは無意味ではないはずだ。
問題は、『魔女が誰で、どこにいるのか』だ。
単純に考えれば、自分の知る中では魔法少女は五人。魔女はこの五人の誰かがそうであると考えるのが定石だろう。
しかし、参加者である以上、殺し合いの途中で殺されてしまうような場合も考えられる。
そんなことがあれば、終了を待たずしてバトルロワイアルは存続困難となる。
なら、この五人がこの会場を作っている魔女である可能性は極めて低いだろう。

(...ちょっと待って。そうは言い切れないんじゃないかしら)

そもそも、本来ならば魔女という存在はまどかの祈りで過去や未来、全ての時間軸から消し去られた。
自分が魔女と成り果てたのは、インキュベーターがソウルジェムを外界から隔離し干渉不可能な状態にしたからだ。
その結界に、まどかや美樹さやか、佐倉杏子、巴マミなど知り合いが取り込まれたのは、インキュベーターが内側から誘導し連れ込むことだけは可能にしたからだ。
つまり、この会場が魔女の結界内ならば、インキュベーターが干渉しない限り作ることができない。
そして、魔女の存在を知らなかったインキュベーターが干渉する可能性が高いのは、やはり魔女を唯一知る暁美ほむらだろう。
自分の知らない者たちがいる件に関しては、インキュベーターが記憶になにか細工をすればできないことはないかもしれない。
ならば、現状、尤も簡単に殺し合いを終わらせられる可能性が高いのは...

(...私が、死ぬこと?)

インキュベーターの狙いがなにかは分からない。
しかし、魔女が死ねば、結界は崩れ去り、この殺し合いは優勝者を待たずして終わるだろう。
そうなれば、まどかは助かり、奴らの狙いを防ぐことができる。

(...でも、もしかしたら、そう思わせることこそ奴らの狙いなのかもしれない)

もしも自分が魔女であることを知れば、自害してでもこのバトルロワイアルを終わらせようとするのは奴らも知っているはず。
ならば、奴らの目的は『暁美ほむらの死』を利用することにあるかもしれない。
どうやってかはわからない。
ただ、奴らは今まで人間の理解を超える方法で策をろうじてきた。
ならば、その方法については考えるのは後に回そう。
とにかく、いまは生きよう。少なくとも、自分が魔女であることが判明するまでは。
そう思い直し、花京院の待つ病院へと戻ろうとマスティマを発動させたときだ。

―――ザザッ

『おはようしょくん』


152 : 我が侭な物語 ◆dKv6nbYMB. :2015/08/10(月) 11:07:43 6mgRBnd60


(くっ...まずいぞ、これは)

花京院は焦っていた。
ほむらに潜航させていたハイエロファントグリーンが、突如解除されてしまったのだ。

(まさか勘付かれて逃げられた...?そうなれば、わたしの立場が無くなってしまう!)

もしも、花京院がゲームに乗った者だと言いふらされれば、それだけ多くの敵を作ることになってしまう。それは避けたい。
しかし、何かしらの偶然でほむらから解除されてしまっただけかもしれない。
とにもかくにも、ほむらを探し出さねば答えはわからない。
花京院は、ハイエロファントグリーンに辺りを観察させた。
間もなく発見したのは、少女と女性の二人組。

(あの女...!)

あの蒼く長い髪に、グンバツなスタイル。
間違いない、エスデスだ。

(まずい、奴にはわたし一人では勝ち目はない!)

どう考えても始末すべき厄介な女ではあるが、生憎ここには花京院一人しかいない。
不意打ちのエメラルドスプラッシュでも傷一つ付けられなかった奴だ。
アヌビス神はほむらを操る手段のひとつとして渡してしまったし、そのほむらも何処へと消えてしまった。
この場にあるのは、拳銃ひとつとハイエロファントグリーンだけ。
まともに戦ったところで勝ち目はないだろう。
傍に居る少女を人質にとろうとも考えたが、そこまで近づけば、エスデスに気付かれてしまうだろう。

(ここは、大人しくしておくべきだろう)

幸運にも、エスデスは病院をほとんど調べようとはせず、病院の裏側にいる花京院に気付かずに去っていった。
その数分後、ノイズ音と共に、広川の放送が始まった。


エスデスのインパクトに気を惹かれ、出会いがしらに殺害したはずの鹿目まどかの存在に気付かなかったのは、花京院にとって幸か不幸か。
それは誰にもわからない。


153 : 我が侭な物語 ◆dKv6nbYMB. :2015/08/10(月) 11:09:12 6mgRBnd60

(16人か...)

放送を聞いた花京院は、なんとなくそう思った。
ここに来てからすぐに殺害した少女の名もあるのだろうが、花京院はそれほど興味がなかった。

(悪くは無いペースだな)

花京院の目的は、DIOを優勝させること。わずか6時間で16人も死んだのなら、それだけDIOを脅かそうとする者は少なくなる。

(もっとも、ジョースター一行、及びエスデスとかいう女が誰一人として脱落していないのは残念だが)

ジョースター一行。DIO様の敵であり、いずれは自分が戦わなければならない相手。
エスデス。先程発見したばかりなので死んでいなくて当たり前だが、ほむらの話やあの氷を生みだす能力から判断すれば、必ずやDIO様の厄介な種となる。

(できれば、あまり危険は冒したくないものだが...)

もしも、肉の芽が無くとも忠誠を誓ったヴァニラ・アイスやンドゥール、エンヤ婆といった生粋のDIO信奉者ならばこんなことを思いもしないだろう。
肉の芽を植え付けれた花京院も、DIOのために命を捧げることはできる。
しかし、単純にDIOへの恐怖を突かれて肉の芽を植え付けられた彼には、『可能な限り危険な目には遭いたくない』という防衛本能が自然と働いていた。
未だ能力を知らないジョースター一行、当面の大敵であるエスデスへの対抗策を練りながら、ほむらがここへ戻ってくるのを待つことにした。
それから数分後、こちらへと戻ってくるほむらを見て、花京院は内心ホッと胸を撫で下ろした。


「無事でなによりだ。お疲れさま」
「この会場に端はありませんでした」

花京院の労いの言葉もロクに聞かず、ほむらはデバイスを取り出し地図の画面を開いた。

「このC-1から真っ直ぐ北上するとC-8に出ることになります」
「ほむらちゃん?」
「会場の端へと飛ぶのに必要な時間はおよそ2、3分。時間を空けて飛べばマスティマも問題なく使えるはずです」

まるで花京院など眼中にないかのように、ほむらは得た情報を述べていく。
花京院から見れば、ほむらはどう見ても焦っていた。
再びハイエロファントグリーンをほむらに潜航させるのも容易くできるほどにだ。


「花京院さんの探すDIOの屋敷も飛んでいけば時間を短縮できます。
そこで、これから目指す場所は
エスデスと合流するコンサートホール。
DIOさんが目指すであろうDIOの屋敷。
私の知り合いが目指す可能性があるかもしれない廃教会に絞りたいと思います。
花京院さんはどこから探すのがいいと思いますか?」

なにをそんなに焦っているのか、花京院には思いもよらなかったが、自分に選択権があるのなら好都合だ。
エスデスが人を集めているというコンサートホールか。
DIOが目指す可能性の高いDIOの屋敷か。
ほむらの知り合いの目指す可能性がある廃教会か。
それとも、最初の提案通りに病院で参加者が来るのを待つか。


「わたしは...」

花京院が出した答えは―――


154 : 我が侭な物語 ◆dKv6nbYMB. :2015/08/10(月) 11:12:36 6mgRBnd60


巴マミ。

私は、あの人が苦手だった。

強がって無理しすぎて、その癖誰よりも繊細な心の持ち主で...

あの人の前で真実を暴くのは、いつだって残酷すぎて、辛かった。

でも、決して嫌いじゃなかった。

だって、あの人は―――

『魔女としてのきみが、無意識のうちに求めた標的だけがこの世界に入り込めるんだ』

不意に、私の魔女の結界について説明するインキュベーターの言葉が脳裏をよぎった。

もしも...もしも、私が心の底から彼女を拒絶していれば、彼女は死ななかったのだろうか。

その答えはわからない。

けれど、私に出来るのは前に進むことだけ。

そう、まどかを救い、この命が尽きるそのときまで。


【C-1/病院の裏側の崖/一日目/朝】


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ(新編 叛逆の物語)】
[状態]:疲労(中)、ソウルジェムの濁り(小) 全身にかすり傷 精神的疲労(中)
[装備]:見滝原中学の制服、まどかのリボン
[道具]:デイパック、基本支給品、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る! アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース(まどかの支給品)
[思考]:
基本:まどかを生存させつつ、この殺し合いを破壊する
0:これからの方針を決める。
1:まどかを保護する。
2:協力者の確保。
3:危険人物の一掃
4:まどかの優勝は最終手段
5:DIOは危険人物ではない...?
6:信用を置ける者を探し、自分が魔女かどうかの実験をする。(杏子が有力候補)



[備考]
※参戦時期は、新編叛逆の物語で、まどかの本音を聞いてからのどこかからです。
※まどかのリボンは支給品ではありません。既に身に着けていたものです
※魔法は時間停止の盾です。時間を撒き戻すことはできません。
※この殺し合いにはインキュベーターが絡んでいると思っています。
※時止は普段よりも多く魔力を消費します。時間については不明ですが分は無理です。
※エスデスは危険人物だと認識しました。
※花京院が武器庫から来たと思っています(本当は時計塔)。そのため、西側に参加者はいない可能性が高いと考えています。
※一度解除されましたが、再び花京院のスタンド『ハイエロファントグリーン』の糸が徐々に身体を浸食しています。ほむらはそのことに気付いていません。
※この会場が魔女の結界であり、その魔女は自分ではないかと疑っています。また、殺し合いにインキュベーターが関わっており、自分の死が彼らの目的ではないかと疑っています。


【万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!】
 翼の帝具。装着することにより飛翔能力を得ることが可能。
 翼は柱を破壊する程度の近接戦闘は描写から可能であり、無数の羽を飛ばして攻撃することも出来る。
 飛翔能力は三十分の飛翔に対し二時間の休息が必要である。
 奥の手は出力を上昇させ光の翼を形成し攻撃を跳ね返す『神の羽根』。



【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康 
[装備]:額に肉の芽
[道具]:デイパック、基本支給品×2、油性ペン(花京院の支給品)、ベレッタM92(装弾数8/8)@現実、花京院の不明支給品0〜2 まどかの不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:DIO様を優勝させる。
0:これからの方針を決める。
1:ジョースター一行を殺す。(承太郎、ジョセフ、アヴドゥル)
2:他の参加者の殺害。ただし、今度からは慎重に殺す。
3:DIO様に会いたい。また、DIOの部下が他にもいるかどうか確かめたい。


※参戦時期は、DIOに肉の芽を埋められてから、承太郎と闘う前までの間です
※額に肉の芽が埋められています。これが無くならない限り、基本方針が覆ることはありません。
※肉の芽が埋められている限りは、一人称は『わたし』で統一をお願いします。
※この会場内のDIOが死んだ場合、この肉の芽がどうなるかは他の方に任せます。
※『ハイエロファントグリーン』が他人に憑りついたとき、意識を奪えるかどうかは他の方に任せます


155 : ◆dKv6nbYMB. :2015/08/10(月) 11:13:11 6mgRBnd60
投下を終了します


156 : 名無しさん :2015/08/11(火) 11:01:46 jH0fZEpI0
投下乙です

なんだかんだでまどか勢はデビほむ含めて皆マミさん大好きなんだな…と言うのが伝わってきました
花京院は肉の芽を埋め込まれてもやっぱり花京院らしく冷静さや考察力は有していて怖い、アヌビスをしれっと渡したり
コンサートホールに行けば承りとまどかに再会することになるがさて


157 : 名無しさん :2015/08/11(火) 19:41:18 e5EiddnQ0
投下乙です
会場の超自然的要素が増えたな
そして、マミさんの影響力の大きさを思い知らされる


158 : 名無しさん :2015/08/11(火) 22:48:24 EErFyll20
投下乙です
地味に会場についてのアドバンテージを得たのかな
にしてもマミさんの影響力は絶大だなあ


159 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:09:44 UmYj8i/A0
投下します。


160 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:10:29 UmYj8i/A0


島村卯月がセリュー・ユビキタスとの合流を求め、イェーガーズ本部の外に出ようと歩いている。
暗く沈んだ雰囲気と、時折首を叩く病的な動作を見て、普段の彼女を連想できる者はいないだろう。
彼女が元の世界で本来目にするはずもなかった物……殺人行為、惨殺死体、生首。
彼女が元の世界で本来体験するはずもなかった事……拉致、凶行の強要、親友の死。
それら過大なストレスが心という器にヒビをいれ、封じ込めていた中身が零れ出し、血肉と混ざっていく。
全身を流れる混迷に濁った血が、卯月の認識を変転させる。

「……?」

エントランスに足を踏み入れた卯月の耳に、聞き慣れた音が届く。
シャワーの音、水が流れる音。静寂を切り裂いて響くそれに、卯月は身をすくめる。
誰かがこの建物の中にいる―――普通に考えれば気を失う前まで一緒にいたセリューだろう。
不安定な精神状態の卯月はしばし迷ったが、音が聞こえる方へと行ってみることにした。
しばらく進むと、湯気が視界に入った。立ち昇る熱気を追いかければ、女性用の浴室の扉が開け放たれている。
それだけではない、扉からすらりと長い足が飛び出しているではないか。

「大変、助けなきゃ」

抑揚のない声に自分でも驚きながら、卯月が駆け寄る。
浴室に入ってみると、石鹸が立てた泡が床を埋め尽くし、濡れた学生服と下着が散乱している。
目を回して気絶しているのは、セリューとは別人の同世代と思しき少女。
スタイルも良し、器量も良し。しかし全裸でなければどこにでもいそうな、普通の女の子と見えた。
苦労して浴室の外に引っ張り出し、風邪を引かないように体をタオルで拭く。
下着も何もないが、一枚だけ洗濯籠にかかっていたシャツを着せる。
ほどなくして少女が目を覚まし、ハッと飛び起きる。
卯月を見て、周囲を見て、状況を把握したらしく嘆息した少女は、シャツの前のボタンを一つ外して座り込んだ。

「あはは、ごめんね。変なところみせちゃって……島村さん、だよね?」

「……それ、私の、名前、ですね」

「? 私は由比ヶ浜結衣。セリューさんから、話は聞いてるよ」


161 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:13:19 UmYj8i/A0

複雑な感情で答えた卯月の返答をどう受け取ったのか、結衣は平静に対応する。
一時の恐慌状態から、セリューとの交流で落ち着きを取り戻した結衣は、一人でいるときはともかく、他人の前では普通に振舞える程度には精神状態を安定させている。
他人の顔色を伺う悪癖も、今の卯月にはプラスに作用した。自分が平素の状態でない事を看破し、あえて明るく振舞う結衣の姿に警戒心が解けていく。
共通の知り合いで同じく保護を受けている相手、セリューを互いが知っていたこともあり、二人は出会ってすぐだが、友好的な関係を結ぶ事が出来た。

「……私、セリューさんを探しに外に行きたいんです」

「ダメだよ! 危ないし……きっともうすぐ帰ってくるから、一緒に待ってよ、ね……?」

卯月を押し留める結衣の言葉には、二人の危険人物に襲われた彼女の実感がこもっていた。
立て続けに浦上、キリトという人間から襲われて逃げ、ドン底にまで落ちていた結衣の心も、セリューと出会ってイェーガーズ本部に辿り着いてからは乱れていない。
ゆえに、何の理由もなくここを離れるという選択肢はありえなかった。自分と同じ境遇の卯月がそんな事をするのも、黙って見てはいられない。
セリューに信じて託されたのだから、と必死で説得する結衣の真に迫る物腰に、やがて卯月も折れた。

「由比ヶ浜ちゃん、ありがとう。私、ここでセリューさんを待ちます」

「絶対そうしたほうがいいって! ……あっ、制服乾かさなきゃ! たまむん、手伝ってー」

「は、はい」

知り合って2分で愛称を付けられ、あたふたと結衣を補助する卯月。
揺るぎない強さを持つセリューと、明らかに無理をしてまで、朗らかに接してくれる結衣と一緒なら、こんな状況でもなんとかやっていけるかもしれない……。
疲弊した卯月の精神が、一時の安らぎに身を委ねようとした時だった。
物音と、声が聞こえる。一人ではない、複数の人間が、イェーガーズ本部に入ってきたのだ。
二人の表情が固まった。このバトル・ロワイアルの場に置いて、力を持たない者にとって他人とは全て恐怖の対象。
どちらからともなく、抱き合って体を震わせる。
逃げる、隠れるという発想が出る前に、足音は浴室に迫ってきた。
見れば、シャワーのノズルからは、まだ水が流れている。この音に引き寄せられてきたのは卯月も同じだというのに迂闊だったか。
慌てて水を止めるも、既に手遅れ。
女性用の浴室の前で足音は止まり、数秒の間を置いて扉は開け放たれた。


162 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:14:45 UmYj8i/A0






扉を開けたのは、どこか垢抜けない雰囲気の青年だった。
入室するやいなや投げつけられた洗面器や浴剤の空容器に驚き、エスデスのシャツを纏った豊満な肢体に背筋が凍る戦慄を覚えた男、その名はウェイブ。
絶対的支配者・エスデスに対し現状をどう弁明するか。ウェイブのその思案による一瞬の硬直が、卯月と結衣の動きをも止める。
ウェイブが立ち込める湯気の先にいるのがエスデスではない、と気付くのと、結衣が絶叫するのはほぼ同時だった。
この状況で、結衣が武器を持っていなかったのは互いにとって幸運だったといえる。
彼女がディバックからショットガンを取り出していれば、ウェイブは慌てて扉を閉めて平謝りすることもなく、結衣たちがウェイブに害意がないと察することもなかっただろう。
自分の勘違いに気付いた結衣が、扉を少しだけ開けてウェイブの鏡合わせの様に頭を下げる。

「すいませんでした……」

「き、気にするなって」

見れば、頭を掻くウェイブの後ろには二人の人間がいる。
怯えた表情の少女と、満身創痍といった様子の男性。
少女は眼の焦点が合っておらず、結衣や卯月と同じくつい最近目覚めたばかりと見える。
だが男性の方は更に深刻だ。結衣から見れば意識があるのがおかしいほどの重傷。見ている方が気を失いかねない、ズタズタの血まみれ。
自分が撃ち貫いた浦上を連想し、結衣が息を呑む。卯月も心配よりも恐怖が勝ったらしく、結衣の背中から顔を出して様子を伺っている。

「お前ら、セリューが言ってたウヅキとガハマか? 俺はウェイブ、イェーガーズのメンバーだ」

「ガ、ガハマじゃなくて結衣って呼んでくださいね。ウェイブさん……セリューさんから聞いてます」

「セリューさんは? セリューさんはいないんですか?」

「……あいつは、ちょっと俺たちから離れてる。後ろの二人は花陽とマスタング」

浮かない表情でウェイブが紹介した仲間の名を聞いて、結衣と卯月は似通った反応を見せた。
結衣の持つ殺人者名簿には、ロイ・マスタングの名が乗っていた。だがセリュー達と行動を共にしているのなら、彼女やウェイブと同じ理由で、浦上やキリトのような殺人鬼ではないのだろう。
卯月は花陽の名を、今は亡い南ことりから聞いている。彼女が凶行に走った理由、自身にとっての―――や、本田未央、前川みくと同じ大事な友人。
警戒とまではいかないが、顔を強張らせた二人を見てウェイブはその考えを察した。
セリューから、二人と行動を共にするに至った簡単なあらましは聞いている。
殺人者名簿の存在、さらに殺人を犯そうとした南ことりを島村卯月の目の前で断罪したと語ったセリューの言葉から、結衣たちの心中を読むのはそう難しいことではなかった。
二人の緊張をなくす為に言葉を継ごうとするウェイブに、マスタングが割り込む。


163 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:17:06 UmYj8i/A0

「君達は自分が島村卯月、由比ヶ浜結衣だと証明できるか?」

「は?」

「……っ!! ッ、ああっ……」

突拍子もないマスタングの言葉に結衣は困惑し、卯月は狼狽して2、3歩後退する。
マスタングは知る由もないが、今の卯月にとって自我の証明に意識を向けさせるのは彼女の精神を容易に追い詰める一手だった。
二段式の洗濯籠に背中をぶつけ、しりもちをついて激しく震え出すその急変に、その場にいる人間が一様に動揺する中、マスタングだけが別の物に目を向けていた。
卯月が転んだ拍子に落とした一塊。赤い光を放つそれは、流体でありながら"石"と呼ぶべき固形を保っている。

(―――賢者の石! エンヴィーめ、やはりマヌケだな貴様は!)

マスタングは咄嗟に錬成の構えを取ろうとして、今の自分に即時攻撃の手段がないことがない事に気付き歯噛みする。
片腕を失い、即席の炎陣手袋も使い切っているのだ。賢者の石……ホムンクルスが体内に満載する活動力の源を落とした者を、即座に焼き殺せない。
だがそれも、今回はプラスに働いた。一瞬で怒りを沸騰させたマスタングに、考える時間を与えたのだ。
いくらエンヴィーでも、マスタングの前でこんなミスを犯すだろうか。見れば、鋼の錬金術師・エドワードがエンヴィーから借りたという体内石とも形態が異なる。
支給された物品だとすれば、先ほどの戦闘であれだけ消耗しておいて、自身の命を補充する為に使っていないはずがない。
マスタングの殺気が膨らんだことにその場で唯一気付いたウェイブも、マスタングが現状で無茶を出来ないことはわかっていた。
冷静さを取り戻していくマスタングの気配を感じ、素早くフォローを入れる。

「いや、悪い。人の姿に化けられる悪党が」

「無事だったんですねウヅキちゃんーーーーーーっ!!!!」

「「ひっ!?」」

「うお、セリュー!? お前……」

だがそのフォローは虚しく無効化。突如その場に駆け込んできた影の叫び声にかき消された。
マスタングに気を取られていたとはいえ、ウェイブにすら直前まで感じ取られないほどに気を消す術を修めた女。
セリューは恐怖の声を上げる花陽にも喋っていたウェイブにも構わず、飛び込むように部屋に走りこむ。
否、比喩ではなく実際に飛び込んだ。震える卯月が悲鳴を上げるが、関係なしにその体を抱きしめる。

「この首の傷……痕跡から見て何らかの衝動により自分でつけたんですね! 偶然とはいえ弱い民の方が斬首の工程を見ればむべなるかな、本当にごめんなさい!」

「セ、セリューさん!?」

「ガハマちゃんも健在で何よりです! ……その格好は一体……?」

「……」


164 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:21:59 UmYj8i/A0

一瞬で場の空気を変えたセリューを前に、マスタングと花陽は絶句する。
嬉々としてことりを殺害したと語り、その首を餌とした先ほどとは明らかに異なる印象。
その姿は、保護している仲間の安全を心から喜ぶ、善人としか思えないそれだった。
会話から見て、首を落とした瞬間を見せられた卯月はそのせいで心に傷を負い、先ほどのような緊迫状態に陥る羽目になったらしい。
それが意図せぬ偶然であったのなら、セリューが卯月に謝罪するのはごく自然なことだろう。
だが、そうして他人を傷つけた事を悔やむ感性が存在するという事こそが、一つの事実を花陽に再認識させる。
卯月に謝罪し、花陽を一瞥すらしないということは、セリューにとってことりを殺してその首を晒す行動は、彼女にとってことりの友人に謝罪するに値しない正当な行為だという事実だ。
意識を失う直前、最後に見た何もかもを投げ捨てて逃げ出した穂乃果の姿が花陽の脳裏に浮かぶ。自分も逃げ出したい……心からそう思う。
だが、穂乃果を追いかけていったセリューが一人で戻ってきた理由を知らずにそんな行動に出るわけにはいかない。
花陽の思いを汲んだのか、マスタングがセリューに声をかけた。
卯月に飛び掛って首の傷を舐めるコロを叱り、引き剥がそうとしていたセリューが即座に応じる。

「セリューくん、黒子くんや穂乃果とは……」

「はい、その件で皆さん、特に小泉さんにお話しなくてはならないことがあります! 道中、サリアさんという善い人に出会って色々情報も得たのですが……
 立ち話もなんですから、会議室に行きましょう! ガハマちゃんはこれを着てくださいね!」

「あ、ありがとう、セリューさん」

言うが早いか、セリューはディバックから胴衣のような服を取り出して結衣に渡し、脱兎のごとく駆け出した。
マスタング達はしばし無言になるが、卯月と結衣がセリューの後を追ったのを皮切りに、会議室へ向かう。

(嫌な予感がするぜ……)

ウェイブは冷や汗を流しながら、殿を歩く。
今自分が想定している最悪の事態になったとき、セリューを止められるのか。
誰も傷つけずに、事態を収容する事が出来るのか。
別れ際に黒子から投げかけられた言葉を思うウェイブの足取りは、重い。


165 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:24:35 UmYj8i/A0



会議室の位置は、セリューとウェイブが知るイェーガーズ本部のそれと同じだった。
部屋の内装も完全に二人の記憶と一致する……しかし、エスデスと初めて会った日の騒動で破損した壁の修繕痕がない。
自身が投げ飛ばされて出来た傷跡だ、ウェイブが見間違えるはずもない。

(俺達の国の人間じゃない広川が、イェーガーズ本部をこれだけ正確に再現して建て直せるのかよ?)

ウェイブは疑問に思ったが、自分が考えても答えが出ない、と結論して思考を打ち切った。
今はそれよりセリューとの会話に集中しなければならない。
席に着いた面々を見渡すと、やはりマスタングの様子が気になる。
時折意識を失っているように見えるほど最悪のコンディション、一刻も早く本格的な治療が必要だろう。
女性陣も、セリューを除いて一様に陰のある表情をしている。
ウェイブたちとは違い彼女たちは荒事とは無縁の民、ここまでこの戦場で生き残ってきただけでも相当なストレスを溜め込んでいるのだろう。
会話を仕切れる黒子は不在、年長のマスタングが不調となれば、ウェイブが切り出す他なかった。

「セリュー……穂乃果とは会えたのか? それと黒子がお前を追いかけていったんだが、すれ違ったのか?」

「その話は後で。まず、小泉さんに聞きたいことがあるのですが、いいですか?」

セリューはウェイブの追求を手で制し、花陽に槍を向ける。
その表情は笑顔。花陽は、セリューが穂乃果を組み伏せて何かを試し、解放した直後のことを思い出す。
あの時も、セリューはにこやかに笑っていた。その笑顔のまま、南ことりの末路を告げた。
表面上を取り繕う、などというものではない、本当に心からの笑顔。
ならば、今度はこの笑顔から何が飛び出すのか。
戦々恐々とする花陽。セリューは淀みなく二の句を次ぐ。

「μ'sについて、高坂さんからお話をお聞きしたんですが、どうも理解できない点がありまして」

「えっと……」

「貴女たちが所属するμ'sという組織ですが、アイドルという職人の集まりと考えてもいいのでしょうか?」

「おい、何が言いたいんだよセリュー」

聞いたままの質問ですが、と返すセリュー。怪訝な顔をする一同の中で、卯月だけがセリューの真意を察した。
卯月もまた、ことりとの語らいで自分と相手の微妙な温度差を感じていたからだ。
セリューの口ぶりから、穂乃果には追いつけ、何らかの理由で彼女だけ先に帰ってきたのかもしれない、と僅かな希望を抱いた花陽が息をついた。


166 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:26:40 UmYj8i/A0

「アイドルというのは娯楽を歌や踊り、軽快な会話などを用いて民に提供する、多芸な歌姫のような職業なんですよね?」

「あの、μ'sはアイドルじゃなくて、スクールアイドルで、組織……とは言えないというか」

「スクール、が付くのは……スクールアイドルはアイドルになる為の教練を積む、候補生のようなものという事ですか?」

「いえ、必ずしもそうじゃなくて……スクールアイドルは職業のアイドルとは違って、アイドルをやりたいって気持ちがあって学校の生徒なら誰にでもやれるんです」

「??? ウヅキちゃんもアイドルだけど学校というのに通ってるんですよね? スクールアイドルではないんですか?」

「私は……スクールアイドルという言葉、聞いたことがありません。346プロでの活動は、今は仕事だと思ってます」

「え? そんな……日本に住んでたら……あっ」

卯月の認識を聞いて、花陽は黒子と出会った時の事を思い出す。
黒子もまた、今の花陽のように「日本人なら学園都市を知らないはずがない」といった旨の発言をしてはいなかったか。
花陽の心中など知らず、セリューの語気が僅かに強まる。

「互いの証言に矛盾が出ていますね。どちらが正しいんでしょうか」

「……恐らくは、どちらも正しい、が正解だ。この地には、全は一、一は全という言葉が陳腐に思えるほど、未知が溢れている」

「セリュー、お前は見てないが、マスタングは錬金術って技を使う。それはアメストリスって大国だと学べば才能がある奴なら誰でも習得できるらしい」

「錬金術……アメストリス国……東方の未開の地にある国と関係があるとも思えませんね。確かウヅキちゃんの支給品の説明書にそんな記載がありましたっけ」

「後藤って、人間みたいな危険種も見たが……あれも、俺達の世界にはいない生き物だと思う」

「ふむ……異国ではなく異世界、ですか。イェーガーズのことを誰も知らないのは不思議でしたが……」

最初の広川の言葉の通り、多種多様な能力を持つ者がこの殺し合いには参加している。
しかし、互いにそれらの能力を常識として認識しているにも関わらず、別の能力を持つ者はその常識自体を知らない。
ゲームが加速し、参加者同士の交流が進めば、それは次第に浮き彫りになり……。
国、大陸などという枠ではなく世界が違うのではないか、との推論が出されるのも無理はなかった。
セリューが一息ついて呟く。

「矛盾はなし。ウヅキちゃんたちの世界のアイドルは仕事、μ'sの世界のスクールアイドルは遊びということですね」

「……」


167 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:28:33 UmYj8i/A0


(職責を負わない気楽な集団ならば、南ことりや高坂穂乃果のような危険な人間が紛れ込むこともある、か?)

セリューは導き出された答えを口にしながら、花陽の脅威判定を脳内で下げていく。
どうやら彼女は予測正しくμ'sに巻き込まれた民……否、μ'sという団体自体に危険性がないようだ。
μ'sという子供のままごとチームに、数名の異常者が潜伏しているとセリューは推測した。
そしてセリューはひとまず花陽への疑いを抑え、本題に入る。

「高坂穂乃果の件ですが、追いついて二人きりになった途端に私を殺そうとしてきました」

「何っ!?」

「う、嘘……嘘だよ! いい加減にしてください、そんなことあるわけないよっ!」

「……いや、ないとも言い切れん」

驚愕するウェイブと、流石に声を荒げる花陽が、セリューの言葉を肯定したマスタングを信じられないものを見るかのような目で見つめる。
マスタングの目は、憎悪に燃えていた。

「なに言ってんだマスタング! 俺はお前より、花陽は俺より穂乃果との付き合いは長いが、お前にもあいつはそんな奴じゃねえってのは分かるだろ!」

「あなたはやっぱり……やっぱり……!」

「ウェイブ、花陽。君たちなら想定できるはずだろう。穂乃果の姿をした物が、誰かを襲う可能性を」

「……まさか、エンヴィーか!!」

エンヴィー。突然出てきた単語にセリューが首を傾げる。
そういえばウェイブ達とセリューが合流した際にも、その名が出ていた。
マスタングがセリューにエンヴィー、引いてはホムンクルスの危険性を教える。
花陽や黒子たちと語らった、エンヴィーの能力の詳細や変身の見破り方。
それを知っていながら、天城雪子という罪もない者を焼き殺したマスタングの過ち。
しばらく話を聞いていたセリューはマスタングの告白に眉を顰め、口を挟んだ。


168 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:32:35 UmYj8i/A0

「そのエンヴィーという化物は、コロと同じようにダメージを負うと自動的に再生するんですか?」

「ああ、どれだけ傷を負っても、体内の賢者の石のストックが切れない限りは不死身だ。治療系の錬金術と同じように、だが桁違いに精密に素早く再生する」

「高坂穂乃果を撃退した際、顔に傷を負わせましたが……再生しているかどうかは直後に離脱されたので……あ、再生が自動なら、足や手を攻撃して様子を見れば変身の有無を判別できるのでは?」

「……それはわかっている。だがエンヴィーの変身体だった場合、こちらが攻撃を一旦止めれば奴は一瞬で懐に飛び込んでくるだろう。ホムンクルスは最大火力の連撃で仕留めるのが鉄則だ」

「悪を滅する為なら、私もそうします。しかし民を利用した姑息な手段を使う相手ならば、利用された民を救うことを最優先に考えるべきでしょう? 現に貴方は一度、善人を殺している」

「セリュー、マスタングを責めるな。あの時は……」

「はい! 今は私もいます、天城さんの事は忘れてはいけませんが、マスタングさんの力は悪を倒す為に不可欠なもの! これからは力を合わせて頑張りましょう!」

マスタングを厳しく糺す表情から、一瞬で笑顔に戻るセリュー。ホムンクルスとその根源、"お父様"についてもマスタングに質問に移る。
彼女の中では、マスタングが犯した過ちは、彼の悔悟の念と、悪を滅するという強い意志……エンヴィーのことを話していた時の隠しきれない怒りで、帳消しに出来ると考えられていた。
マスタングは、セリューへの警戒を未だ解いてはいないが、彼女が悪辣の徒ではないと確信もしていた。"確信してしまえる"程に明確な彼女の正義に、危機感を覚えてもいたが。
だが、戦いに身を置かず、悪意に耐性のない花陽は、セリューの苛烈な正義とエンヴィーの卑劣な悪逆の区別が付かない。ことりを殺したと言い、今また穂乃果を悪し様に語る女を睨みつけている。
ウェイブからホムンクルスの仲間、キンブリーという男にクロメが殺害され、八房を奪われ躯人形にされたと聞き目尻に涙を浮かべるセリューを見ても。
血が出る程に拳を握り締め、「正義を成す為に帝国が与えた帝具を悪用し、帝都を守るイェーガーズを悪の手先にするなど絶対に許さない、断罪してやる」と正義に燃えるセリューを見ても。
花陽には、未だセリューを許容することは出来なかった。

「私を襲った高坂穂乃果がエンヴィーかもしれない、というのなら心配がありますね。白井黒子ですが、悪を仕留めようとした私の邪魔をして一緒に逃げているんです」

「っ……! 黒子ならそうするだろうよ、じゃあ助けにいかねえと!」

「ええ、彼女は先ほど聞いた超能力の……テレポートを使わずに逃げていました。相当消耗している様子で」

「彼女には無理をさせ、苦労をかけたからな……待て、穂乃果は先ほど話したホムンクルスの能力で攻撃はしてこなかったんだな? そして黒子はテレポートを使わなかった……」

「ええ、そうですね。首を絞めようとしてきたのを振り払い、森に走って逃げたのを追撃しようとした所で先ほど話したサリアさんが乱入してきて、そのどさくさで見失ってしまったので交戦すらしてないです」

マスタングが顎を鳴らし、考える。

(その状況ならば、エンヴィーが穂乃果と黒子、どちらに化けていた場合でも……親友を殺した相手を前に錯乱した穂乃果を黒子が助けた、という場合でも辻褄は合う。
 エンヴィーが正体を現さず彼女達のどちらかと逃げたというならば、人質兼油断を誘う盾として利用するつもりということだ、すぐには殺されないだろう。
 問題は後者だった場合だ。その場合はなんとかしてセリューと彼女達の間を取り持つ……簡単にいくとは思えんが……)

マスタングの思考は、セリューの「そういえば」という言葉で中断する。
セリューは結衣の方を向いて、相手が喜んでくれると信じる、純真な顔で言った。


169 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:35:51 UmYj8i/A0

「そのサリアさんと和解して得た情報なんですが! ガハマちゃんの言っていた"ヒッキー"……はちまんくんを殺した下手人が分かったんですよ!」

「ッッ……え……」

「サリアさんも名前は知りませんでしたが外見的特徴からいって、殺人者リストに載っている男の一人に間違いありません。ただ少々状況が複雑で……ガハマちゃん?」

結衣が明るく振舞っていたのは卯月の為だけではない。気を失う寸前に聞いた放送の中にあった、最も聞きたくなかった名前。
それを聞いたことが夢の先触れだと信じたいがための、逃避としての明るさでもあった。
セリューの言葉が引き金とはなったが、やがて向き合わなければならない感情が、結衣を支配している。
その色彩が赤青定まらぬうちに、結衣はセリューに向き合う。内からの不安をかき消す為に外に働きかける、彼女の処世術だった。

「……ヒッキーは、本当に、死んだのかな。セリュー……さん」

「はい! サリアさんから得た情報の中のはちまんくんは、ガハマちゃんから聞いた彼の人となりと一致します! まず間違いないと思いますよ」

「っ……なんで、ヒッキーが。ヒッキーが何を……」

「その襲撃者、魏志軍がサリアさん達……泉、雪ノ下、そしてはちまんくんを襲撃した際、泉の盾にされて殺された、との事です」

「雪ノ下って、ゆきのん? 盾にされたって……ゆきのんがいてなんでそんな」

「泉……泉新一は、後にナイトレイド・アカメと共謀した悪党との事ですから。はちまんくんがガハマちゃんのいう素敵なオトコノコだったとしても、知力に優れる雪ノ下さん、戦士であるサリアさんよりも
 優先して切り捨てる対象となった、ということなのではないかと。そんな浅薄な考えで人に優劣を付けるなど、襲撃者以上に許せません! 魏志軍、泉新一。この両者は必ず裁きます!」

「ナイトレイド……たしか、ウェイブが言っていた殺し屋集団とかいう……」

「はい、金を貰って人殺しをする兇賊どもです! 帝国の大臣を連続して襲撃したことからも、革命軍の回し者との説もありますね」

ヒートアップするセリューの言葉を聞く結衣は、反対に色をなくしていく。
雪乃が八幡を切り捨てた一味の中にいて、自分はそこにはいない。八幡と最後に会ったのは、彼を見殺しにした雪乃。自分はもう、二度と八幡に会うことはない。
自然と、意識が自分の手に移る。襲われ、あらがい、人殺しになった自分の手を見る。悪人だったとはいえ、正当防衛とはいえ、人を殺した。
結衣がそんな業を背負っていた時に、八幡は死んでいた。殺されていた。その事実を咀嚼している内に、結衣は一つの感情に辿りつく。

雪乃に会いたい。会って、心の内をぶちまけたい。――――をぶちまけたい。

そんな結衣を見て、セリューはやはりにこやかな笑顔で彼女の手を取った。

「ガハマちゃん! ガハマちゃんの、凶賊に大事な人を殺された辛さはよくわかります! しかし貴女は既に悪を一人狩った実績があるとはいえ戦う人ではありません、私に任せてください!」

「任せる、って……」

「もちろん仇討ちです! 雪ノ下さんが悪に染まっているかどうかは親友だという貴女の目をお借りするかもしれませんが、その他の外道は私たちが狩ります!何も心配は要りません!」

「おいセリュー、アカメはともかく他の奴らは本当に……」

「泉新一は右腕が伸縮する特性を持つらしく、後藤という危険種と類似した戦法を取り名簿でも名前が極めて近い位置にあります。私とウェイブ、マスタングさんとエドワードくんのような関係かと。
 殺人者リストに名が載っていない事から戦闘よりも参謀のような役割を持つ個体だと考えれば、狡猾にはちまんくんや雪ノ下さんを騙したという可能性も高いでしょう?
 放っておけば被害者は増えるでしょうし、ウェイブさんは大事な人を殺されたガハマちゃんを見て何も思わないんですか?」


170 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:39:53 UmYj8i/A0

「セ、セリューくん。少し発想が飛躍しすぎではないかね。君の結衣くんを思う気持ちは分かったが、そのサリアという女性の証言だけでそこまでは……」

「はい、サリアさんは全面的に信用できる方ですが、証言や情報が誤解を含むことがあるのは承知しています! だからこそ自分の目で確かめて正義を執行しましょうよ、マスタングさん!」

セリューは熱く語っているがその実、有限実行と決めているわけではない。
彼女の善悪の判断はあくまで自身で行うものであり、良くいえば柔軟、悪くいえば観念的なのだ。
彼女自身にしか理解できない正義に依って行動する、それがセリュー・ユビキタス。
そんなセリューへの不安をより深めながらも、一同は互いが遭遇、または情報を得た人物について情報を交換する。

「後藤、泉はホムンクルスと同種の化物、ナイトレイドはいうまでもなく悪。槙島という男や、アンジュという女性もサリアさんの話では兇賊ですね」

「黒子くんと同じ制服の女性が無差別に人を襲っているというのは……ルイコから聞いた、御坂という電撃使いの超能力者が該当する。何故そんな凶行に走ったのかはわからんが」

「白井さんと同じ組織なら、信用できると思っていたのですが。何か秘密があるのかもしれませんね……それと、既に死んでいますが巴マミという女も、サリアさんを襲ったアンジュの仲間らしいです」

言葉を切り、花陽に視線を流すセリュー。
感情を簡単に爆発させられるタイプではない花陽は、複雑な思いを咄嗟に隠すこともできず、目をそらす。
そんな反応を一顧だにもせず、セリューの口からは更なる悲報が告げられた。

「その巴マミとサリアさんの戦闘に介入した結果、園田海未は死んだとの事でして。小泉さん、彼女は高坂穂乃果や南ことりと同じく、普通の女の子なんですね?」

「……」

「イエスと取りますよ。彼女はブドー大将軍の帝具を持ったサリアさんに劣らない力を得ていたとの事です。泉と行動を共にしていたらしいので、強力なアイテムを渡されて唆されたのかもしれません」

「人心を操るというのは、厄介だな。ナイトレイドのアカメ、という者を中心とした戦力はかなり危険な規模になっているようだな」

「幸い、サリアさんのお陰であちらの動きを読むことは出来ています」

図書館に集結するというアカメら危険人物を一掃し、またその中にいるであろう雪ノ下雪乃を救出するというセリューの意見は、結衣だけではなく、マスタングやウェイブにも賛同された。
だがセリューの目は海未の死の顛末を聞かされ、更に混乱を深める花陽から離れていない。
その混乱の中にあるものを見抜かんと、自分を見ようとしない花陽に言葉を投げかける。


171 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:45:32 UmYj8i/A0

「園田海未が戦った理由は、実際に会っていないので分かりません。しかし、南ことりは自分の意思で人を殺そうとした」

「……!」

「小泉さんに聞きたかったのは、そのことなんです。彼女は貴女の中で、人を殺そうとする人間に見えていましたか?」

「そんなわけないっ! ことりちゃんはっ……」

「ウヅキちゃんも、南ことりが私を殺そうとする所を見ていました。私を殺した後は、無論ウヅキちゃんも殺すつもりだったでしょう。何故、彼女が悪に染まったのか。その理由を、考え付きませんか?」

花陽が、卯月に視線を移す。疲弊したその顔を見て、セリューの言っていることが真実だと気付く。
仲間を殺された、という受け入れがたい現実に、仲間が人を殺そうとしていた、という事実が混ざっていく。
改まって、ことりがセリューに殺されるに至った状況に向き直ったとき、花陽は考えたくもない事を、考えざるを得なくなる。

「セリュー……お前、μ'sのみんなは普通の女の子ってわかったんだろ。錯乱して暴れてるのを殺したんじゃないだろうな?」

「この状況で、恐慌状態に陥る民の方がいるのは分かってますよ。ですが、南ことりは間違いなく自分の意思で悪に染まっていたんです」

「広川の言葉……いかなる望みでも叶える、という言葉に惑わされたのかもしれない」

「悪党に乗せられたり脅迫されていたとしても、悪の道に進むことは許されませんよ。仮に優勝してμ'sの仲間を生き返らせ、丸く収めようとしていたとしても、その過程で南ことりは
 μ'sの仲間の死を許容し、自分で手を下さなければならなかったかも知れない。それは、「南ことりは人を殺すような人間ではない」と信じる他のμ'sに対する裏切りではないのですか?」

「やめて……もうやめてください……」

花陽のことりへの印象からすれば、セリューの言った「自分が汚れ役になり、仲間を生き返らせる」という思考で凶行に及んだというのが事実のように思える。
μ's全員が家に帰れる、それは確かに文句のつけようがない最高の結果。だがその為に、仲間の為に、殺人という禁忌をことりは犯そうとしていた。
花陽はことりの気持ちを思い、胸を締め付けられるような痛みを感じた。申し訳なさ、悲しさ、そして―――ほんの、ほんの僅かな……嫌悪。
先ほどの会話ではないが、別世界の存在としか言いようのない異質な存在であるセリューだけではなく、自分たちと同じ普通の女の子である卯月をも、ことりは殺そうとしていたと聞かされて。

(ごめん……ごめん、ことりちゃん……私たちの為にって考えてくれたのに……私、ことりちゃんにありがとうって言えないよ……なんで……なんでこんな事に……)

ことりを拒絶した、と花陽自身が自覚したその時、大粒の涙が零れ落ちているのに気付く。
アイドルに憧れた。一緒に精一杯、頑張っていけると信じていた。夢が、信頼が、崩れ落ちていく。
それでも、セリューが次に言った言葉には、反発しなければならないと思った。

「危ないところでしたね。悪の道に進み、広川に媚を売るような南ことりの本性を知らなければ、μ'sの皆さんはあの女に殺されていたかもしれません!
 仲間面をして楽しいお遊びグループ、μ'sに潜り込んでいた悪を狩ることが出来て、本当によかった!」


172 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:49:53 UmYj8i/A0

「……です……」

「はい?」

「遊びなんかじゃないです……っ! あなたが殺したことりちゃんも、穂乃果ちゃんも、凛ちゃんも真姫ちゃんも海未ちゃんだって、本気の全力でスクールアイドルをやってたんです!」

ことりが選んだ道が間違いだったとしても、許されないことだったとしても。
"μ'sのために"という気持ちだけは否定してはならないことだと、花陽は叫ぶ。
そんな少女を見て、セリューはやはり笑顔を崩さない。正義に濁った目は、微動の揺らぎも見せずに何かを観測している。
「そうなんですか、ごめんなさい」と謝罪したセリューは、泣き続ける花陽から視線を外した。同時に、結衣が花陽の肩に手を置いて気遣う。

「私、μ'sを誤解していたみたいです! ところでマスタングさん、先ほどのお話だと義手さえあれば、エドワードさんのように陣を描かずに錬金術が使えるんですよね?
 ウヅキちゃんさえよければ、彼女の支給品の賢者の石と私の義手を使ってみませんか? 私には十王の裁きがありますので問題ありませんよ!」

「自分の腕を保存している。その手は必要ないよ。賢者の石を使わせてくれるならありがたいが……」

「ウヅキちゃん、いいですか?」

「はい……」

泣いている花陽を見て、記憶の底に沈んでいたことりの最後の言葉を思い出しそうになっていた卯月は、セリューの声にビクッ、と反応し、反射的に肯定した。
おぼつかない手付きでディバックから支給品を取り出そうとして、紙片を落としてしまう。
床に落ちた紙をしゃがんで拾おうとして、「私が拾いますよ」というセリューの言葉に、やはり頷くだけで従う。
紙の一枚、名簿を拾い上げたセリューは、死亡者に線が引かれていることに気付いた。

「マメですね、ウヅキちゃんも……ややっ! でも引き忘れがありますよ、消しておきます!」

「あ……」

「はっ、こちらのリンちゃんは確かウヅキちゃんの友達……彼女を殺した兇賊も、必ず見つけ出して裁きます!! それが、賢者の石を使わせていただく対価ということで!」

ガリガリと、「渋谷凛」の字の上に容赦ない横線が引かれていく。
卯月は色のない瞳に僅かに動揺を浮かべたが、笑顔で名簿を返却するセリューに何も言えずに賢者の石を差し出した。

「すまない。ウェイブ、私の言うとおりに床に陣を書いてくれ」

「マスタング、腕はどこに置けば……氷がまったく溶けてねえ、どうなってんだ?」

「この容れ物、色々と不思議ですよね。夜明け前に本部に着くまでの間、ガハマちゃんと色々試してみたんですが人間も入れるんですよ。
 ひっくり返せば中身は全部出てくるんですが、取り出したい物がはっきりわかっていれば手に吸い付くように取り出せますし、
 自分以外が入れた物でも、相手の事を頭に浮かべると取り出せるみたいです。これだと一つあれば十分ですよね」


173 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 16:57:08 UmYj8i/A0

ウェイブの手を借り、会議室の床に錬成陣を描くマスタング。その中心にはマスタングと、損傷した彼の腕、そして賢者の石。
やがて陣が完成し、マスタングが流した錬成エネルギーが赤い閃光を放つ。その場にいた者の目がそちらに引き付けられる中、花陽だけは別の物を見ていた。
セリューがディバックの中から取り出した、もう一つのディバッグ。その背負紐に、見慣れたものがついている。
緑色のリボン……ことりが髪留めに使っていたものだ。それが、ディバッグに結わえられていた。忌まわしい記憶を辿れば、コロに捕食されたことりの首、髪を留めていたのはこのリボンではなかった。
殺害後にセリューがディバッグの区別の為に剥ぎ取ったのならば、悪と罵ることりの髪をわざわざ整えることはしないだろう。
つまり、ことり自身が殺される前に……何らかの意図で、普段つけていたリボンを解き、ディバッグに取り付けたということになる。

「……く」

「マスタングさん!?」

閃光が収まり、マスタングが五体を取り戻す。だが神経が繋がっているか、錬金術が使えるか確かめる前に、気を失ってしまった。
賢者の石により治療系の錬金術の効果を底上げし、全身の傷はふさがったが、酷使した体力は限界を迎えたのだ。
マスタングを床に寝かせ、ウェイブは今後の方針をどうするのか、と他の面々に問いかけた。

「本部に留まるのは、エンヴィーが高坂穂乃果に化けて白井さんと行動しているならば、彼女から情報を聞き出された場合、襲撃される恐れがあり避けたほうがいいかと。
 万一、本物の高坂穂乃果がここに戻ってきた時の為に図書館に向かう、と書置きを残して移動しませんか?」

「後藤みたいな奴がその書置きを見つけたら、危険は変わらないんじゃないか? 俺としてはここで穂乃果を待ったほうが……」

「図書館のあるエリアの森の中に、掘っ立て小屋があるんです。私が作業に使ったので少し散らかっていますが、片付ければ5、6人休めるくらいのスペースはあります。
 私とウェイブさんが交代で図書館への道を見張りながら、マスタングさんが起きるのを待ってナイトレイド共が集う図書館を襲撃しましょう!」

地図を指しながら説明するセリューに、卯月は力なく賛成、結衣は雪乃と会うために賛成。
花陽は危険な外に出ず穂乃果を待ちたい気持ちがあったが、真姫らしき人物が泉新一と行動を共にしている可能性を聞かされて、移動を了承した。

「寝具はもう準備済みで、こっちのディバッグの中に詰めています。マスタングさんは……自衛できるウェイブさんにもう一つのディバッグを持ってもらって、中に入ってもらいましょう」

「なんか嫌だな、これ……」

自分のディバッグにスルスルと入っていくマスタングを見つめるウェイブの背後から、花陽は気になっていたことりのディバッグ……寝具を詰めているというそれに歩み寄る。

「セリューさん、これ、私が持ちます」

「いいんですか? もし途中で戦闘になったら、私は前に出るのでディバッグが破壊される心配をしなくていいのは助かります!」

「……穂乃果ちゃんへの書き置きも、私が書きます……」

「ありがとうございます! きっと彼女とまた会えますよ、小泉さん!」


174 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 17:03:48 UmYj8i/A0





イェーガーズ本部を後にし、集団の先頭を歩く女の表情は、後ろの四人には見えない。


(μ'sを誤解していた)

(μ'sは犯罪者集団でも、運悪く狂人を抱え込んだだけの市井の集団でもなかった)


周囲の警戒のセンサーを張り巡らせ、集団の先頭を歩く女の表情は、後ろの四人には見えない。


(μ'sの者たちの絆は、イェーガーズに勝るとも劣らない強い物だった)

(だが確固たる目的意識を持たず、精神の弱い民たちの集団にとって、その強い絆は)

(彼女達を兇賊へと導く、悪の因子として機能する)


悪と判定した者の姿を両目で探しながら、集団の先頭を歩く女の表情は、後ろの四人には見えない。


(小泉花陽は現状、悪ではない。しかし既に悪に染まった高坂穂乃果と関わることで、同じ道を選ぶ可能性が高い)

(本当は小泉花陽に高坂穂乃果を殺害させて、正義への道を歩んでほしかったけど、その刺激にアイドルの弱い精神は耐えられないだろう)

(彼女は守るべき民として……そして、高坂穂乃果を釣る餌として、全力で保護する)


上司エスデスにキョロクでかけられた言葉を思い出しながら、集団の先頭を歩く女の表情は、後ろの四人には見えない。


175 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 17:05:42 UmYj8i/A0


(エスデス隊長は、私には余裕がなさすぎる、メリハリをつけろと教えてくれた。それを実行する)

(……隊長なら、無力な民は気絶させて事が収束するまでディバッグの中に入れるか、帝都の民でないならば救う必要なし、と判断するだろう)

(私は弱い。エスデス隊長のような絶対的な力がないから、正義を体現するために護るべき民の存在を欲している)

(後ろに護るべき民がいるのを実感することで、悪を徹底的に殲滅する為の力が全身にみなぎるのを感じる)


悪の巣窟を十王の裁きで吹き飛ばし、廃墟を正義の炎が焼き尽くす光景を想像して集団の先頭を歩く女の表情は、後ろの四人には見えない。


(マスタングさんもウェイブさんも、高坂穂乃果に騙されて彼女を信頼してしまっている)

(エンヴィーというホムンクルスの擬態を真っ先に思いつき、彼女自身への疑いを隠したがったのがその証拠だ)

(白井黒子のテレポートに重量制限があるのは後藤から逃げた時の話で分かっている。エンヴィーの体重が非常識な値の物だということも、マスタングさんの言葉で分かっている。
 テレポートで逃げられた時点で、私を殺そうとした高坂穂乃果と白井黒子はどちらも本人)

(顔に傷が付いていない高坂穂乃果を見つければ、会話の余地がない状況ならマスタングさんかウェイブさんが攻撃してくれるかもしれない)

(嘘を吐くのは辛かったし、穴だらけで露見する可能性も高いけど、正義の為にあそこで何も手を打たないわけにはいかなかった)


イェーガーズ本部を後にし、集団の先頭を歩く女の表情は、後ろの四人には見えない。


(絶対正義の名の下に。悪は必ず殲滅する)


セリューの、悪を追い詰めたときにしか見せない本当の笑顔は、後ろの四人には見えない。


176 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 17:08:21 UmYj8i/A0

【D-4/一日目/早朝】


【由比ヶ浜結衣@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(中)、精神疲労(大)。後頭部にたんこぶ セリューへの信頼
[装備]:MPS AA‐12(残弾6/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率  スズカの服@アカメが斬る!
[道具]:ディバック×2、基本支給品×2、フォトンソード@ソードアート・オンライン、ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 エスデス用のシャツ(現地調達)
     自分の制服、下着
[思考]
基本:死にたくない。
1:マスタングが目覚め次第、図書館に向かい雪ノ下雪乃を探す。
2:雪ノ下雪乃に会って……?
3:セリューと行動を共にする。
4:悪い人なら殺してもいい……?

【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:悲しみ、セリューへの依存、自我の崩壊(小)、精神疲労(極大)、『首』に対する執着、首に傷
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!
[道具]:ディバック、基本支給品
[思考]
基本:元の場所に帰りたい。
0:どうすればいいのかわからない。
1:セリューと行動を共にする。
2:助けてもらいたい。
3:凛ちゃんを殺したのは誰だろう。
4:助けて。
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※渋谷凛の死を受け入れたくありませんが、現実であると認識しています。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※自分の考えが自分ではない。一種の自我崩壊が始まるかもしれません。
※『首』に対する異常な執着心が芽生えました。
※無意識の内にセリューを求めています。


177 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 17:09:01 UmYj8i/A0

【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、左肩に裂傷
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:ディバック、基本支給品×2、不明支給品0〜4(セリューが確認済み)、首輪×2、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!、ディバック(マスタング入り)
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。
0:キンブリーは必ず殺す。
1:D-5の山小屋に向かう。アカメと後藤の仲間以外は、できれば説得したい。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:仲間たちとの合流。
6:穂乃果……
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。

【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:気絶、疲労(大)、精神的疲労(極大)、セリューへの警戒
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、賢者の石(8割ほど消費)@鋼の錬金術師
[道具]:ディパック、基本支給品
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:セリューは善人ではあるようだが……
1:治療した腕で錬金術が使えるか試す。
2:ホムンクルスを警戒。 エンヴィーは殺す。
3:ゲームに乗っていない人間を探す。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。


【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(極大)、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません)、セリューへの恐怖
[装備]:音ノ木坂学院の制服
[道具]:デイパック×2(一つは、ことりのもの)、基本支給品×2、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ
    スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation 、寝具(六人分)@現地調達
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す
1:マスタングが目覚め次第、図書館に向かい西木野真姫を探す。
2:穂乃果と会いたい。
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後。
※イェーガーズ本部に穂乃果への書き置き(図書館に向かう)を残しています。


178 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 17:10:29 UmYj8i/A0


【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:日本刀@現実、肉厚のナイフ@現実、魔獣変化ヘカトンケイル@アカメが斬る!
[道具]:なし
[思考]
基本:会場に巣食う悪を全て殺す。
0:D-5山小屋に向かい、南ことりの死体を片付けて周囲を警戒する。
1:悪を全て殺す。
2:エスデスとの合流。
3:エンブリヲと会った場合、サリアの伝言を伝えて仲間に引き入れる。
4:ナイトレイドは確実に殺す。
5:マスタングが目覚め、花陽と結衣の友人の見きわめが済み次第図書館を襲撃する。
6:都市探知機が使用可能になればイェーガーズ本部で合図を上げて、サリアを迎え入れる。
[備考]
※十王の裁きは五道転輪炉(自爆用爆弾)以外没収されています。
※他の武装を使用するにはコロ(ヘカトンケイル)@アカメが斬る!との連携が必要です。
※殺人者リストの内容を全て把握しました。
※都市探知機は一度使用すると12時間使用不可。都市探知機の制限に気付きました。
※他の参加者と情報を交換しました。
 友好:エンブリヲ、エドワード
 警戒:雪ノ下雪乃、西木野真姫
 悪 :後藤、エンヴィー、ラース、プライド、キンブリー、魏志軍、アンジュ、槙島聖護、泉新一、御坂美琴


179 : 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/12(水) 17:11:52 UmYj8i/A0
以上で投下終了です。


180 : 名無しさん :2015/08/12(水) 17:53:58 g.CnjVfQ0
投下乙です。
なんというかセリューさんがリーダーシップ取ってて頼もしいやら恐ろしいやらw
良くも悪くも彼女の確固たる意志が強烈に出ていると思いました。
女子部の火種も健在でこの先どう転がるのか…。
多人数の捌き方もお見事でした、面白かったです。


181 : 名無しさん :2015/08/12(水) 19:14:37 l1PUaEaE0
投下乙です
セリュー、悪認定した相手の前じゃなければ割りと理知的、フレンドリーで逆に怖い
ことりチュンが遺したディバッグには何かありそうな予感!大佐は腕は治りましたがセリューの本性に気付いて止められるのか
かよちんは健気だしガハマさんは危うい、しまむーは可哀想だしでこの女の子たちはどうなってしまうのか楽しみです


182 : 名無しさん :2015/08/12(水) 23:10:15 33SSrXuM0
セリューさんマジ歩くサイコハザード。一緒に居るだけで犯罪係数が上がっていくw
全員ドミネーター向けたらエリミネーターモードに変わりそうで笑ってしまう
歪んだ正義に導かれる者達の行きつく果てがどうなるか非常に楽しみです


183 : 名無しさん :2015/08/13(木) 15:30:53 7Eo1W1Ps0
投下乙です

見滝原の魔法少女は誰もが一度はマミさんに憧れるもんなぁ
そしてそれはかつてのほむほむにも言える事で…悪魔になってまどか最優先でもその根幹は変わらないのか
ほむほむにしがみついて空にGO院する花京院を想像すると笑える

セリューがいつの間にか集団を率いてメンバー全員の色相をにごらせてて草
女の子トリオはどうなってしまうのか
そしてしっかりしろ大佐ァ!乗せられてどうする!


184 : ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 22:48:45 2r/ucO8g0
投下します。


185 : 再会の物語 ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 22:50:05 2r/ucO8g0
「……………………君、何か隠してないかい?」
「…………はい」

これからの行き先について問う暁美ほむらに対して、しばらく沈黙していた花京院典明は、
全く関係の無い質問で答えた。
しかしほむらはそれに頓着することなく、素直に返事をする。
その表情からは、ほむら固有の意思や生気が抜け落ちているように見えた。

「そうか……もし良ければ、何を隠していたか話してくれないかい?」

そんなほむらの様子を注意深く観察しながら、花京院は質問を重ねていく。
花京院がここで注意を払っているのは、ほむらの意識の状態である。
もしほむらが花京院の言動に、僅かでも不審を覚えるようなら、
それは花京院の失策を意味していた。

「…………はい」

しかし、ほむらは相変わらず機械的な返事を繰り返す。
それによって花京院は自分の策が成功したことを確信した。
暁美ほむらを『ハイエロファントグリーン』で操作することを。

ハイエロファントグリーンは花京院のスタンド。
狭い場所に潜伏することを好み、人間の体内に潜入すればその者を操作することができる。
そのハイエロファントグリーンをほむらの体内に潜入させることに成功したのだ。
ほむらは人間ではない魔法少女なのだが、問題なく操作できたらしい。
もっとも花京院はほむらが魔法少女であることに気付いていないが。
ほむらが何かを隠していることには勘付いていた。

「さあ、早く話してくれ」
「……………………」
「…………まあ、無理だろうな。自分のスタンドの限界は、自分が一番分かっている」

しかしほむらは自分の隠し事をそれ以上何も語らない。
ハイエロファントグリーンの操作は、あくまで相手の意識を奪って行うもの。
相手の意識は無いのだから、知識を引き出せる類のものではない。
先ほどのほむらの答えは、花京院が操作して応えさせたものだ。
花京院は幼い頃からハイエロファントグリーンを使役してきた。
能力はよく熟知している。その限界も。
先ほどの質問は、あくまでほむらを支配できたかを確認するついでに過ぎない。

「……相談相手もいなくなったことだし、早く方針を決めるか」

ほむらの意識が無くなったことで、花京院は独断で方針を決定できる。
花京院としてはDIOとの合流を優先したいから、まずDIOの館を目指したいところだ。
ほむらの話では北に飛べば、地図の南端に辿り着きそこからDIOの館に向かえるらしい。
しかし、花京院にとってそれはリスクが大きかった。
北の奈落を飛び越えるためには、マスティマで飛ぶほむらにつかまって行かなくてはならない。
しかし先刻マスティマで飛んで行ったほむらから、ハイエロファントグリーンが解除されていた。
花京院にその理由は不明。おそらくハイエロファントグリーンの射程から外れたのだろうが確かめる術は無い。
もしほむらにつかまって飛んでいる途中にハイエロファントグリーンが解除されたら、非常にリスクが高い。
下手をすれば奈落に突き落とされかねないのだ。
そもそもほむらはマスティマで、花京院を確実に運べるのだろうか?
ほむらは自信ありげだったし、どうやら普通の人間より身体能力が高いのは確かなようだが、
途中で力尽きない保証は無い。
マスティマだって保つかどうかは分からないのだ。
奈落を越える前に、その辺で飛行実験をする手もあるが、
殺し合いの中でそれをするには、やはりリスクが高すぎる。

そうなると次に候補にあがってくるのは、コンサートホールだった。

コンサートホールにはおそらくエスデスが居る。


186 : 再会の物語 ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 22:51:44 2r/ucO8g0
そこに向かうのは一見、奈落を飛び越えるくらいリスクが高い行為に思えた。
しかし状況的に考えればエスデスが先に居る場所に、後から訪れる形になる。
それは戦術的に考えれば花京院が優位に立てる形になる。
コンサートホールの正面から堂々と訪ねればすぐにエスデスと対面してしまうが、
コンサートホールの裏口や側面から潜行すればエスデスの状況を偵察することができる。
エスデスの戦力や目的を大まかにでも把握してから、そこを離れれば安全に情報を得ることも可能だ。
無論、容易に偵察を許すほどエスデスは甘くないだろう。
しかし仮に見付かったからといって、即それが命の危険に繋がるのかも疑問だ。
放送の前にエスデスを見かけた時、はっきりとどんな人物かは確認できなかったが、
誰かを連れ立っていたのは間違いない。
見付かっても、即危害を加えられるとは限らないと言うことだ。
それに今ならほむらを先行させることができる。
いざとなったら、ほむらを囮に逃げることも可能だろう。
それでもハイエロファントグリーンの射程内に花京院が付いていく必要があるが。

行き先として最後に候補に上がるのは、ほむらの言っていた廃教会となる。

しかし花京院としては、あまり気は進まなかった。
廃教会を目指す根拠となるのは、ほむらの知人が向かう可能性があるという情報のみだし、
もし今のほむらが知人と遭遇した場合、態度の違和感などから、
花京院がほむらの意識を支配していることが露呈するかもしれない。
いずれにしても花京院にとってメリットは薄い。

「……やはり最もリスクが少ないのは、病院で待つことかも知れないな」

どこにも行かず、病院で待機する選択肢もある。
地図の北西に位置するこの病院に人が訪れる率は、おそらくかなり低いだろう。
花京院は地図の北西部のかなり広範囲を動き回ったが、ほとんど参加者に会うことはできなかった。
ほむらもエスデス以外に出会ってはいないようだし、あわせて推測してみると、
どうやら北西部には参加者がほとんど居ないようなのだ。
そうなると、ほとんどの参加者にとって病院はかなり遠い施設となる。
参加者が病院を目指す理由となると、多くは治療や安全のためということになる。
しかし長距離の移動は様々な意味でリスクが高くなるのだから、安全性を考えればそれを避ける。
治療のための設備も、何も病院にしかないと言うことでもないだろう。
ましてDIOは吸血鬼。他の参加者を待ち伏せするつもりも無ければ、病院には訪れないだろう。
いずれにしても病院で待っていても、実りは薄いと予想できる。
その分、安全であるとは言えるが。

「…………肝心なのはわたしの安全ではない、DIO様の安全だ……」

花京院は自分が先ほどから、否、
殺し合いが始まって以来、自分の安全のことばかり考えていることに気付く。
元々花京院は慎重な性格の上、防衛本能が残っているため致し方ないことではあった。
しかし花京院は、それ以上に使命感の強い人間だ。
今の花京院の果たすべき使命はDIOの優勝である。それは自分の安全より優先される。
花京院はそれを思い出し、考えを改める。

どう行動したところでリスクを避けることはできない。
当然、危険はなるべく避けるべきだがDIOのためにならなければ意味が無い。
花京院のリスクとDIOのメリット。それらを天秤に掛けて、最も効率的にDIOの優勝に貢献する選択。
全てを考慮して取った花京院の決断は――――











空条承太郎のスタンド『スタープラチナ』。
その特徴の一つに高い視力がある。


187 : 再会の物語 ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 22:53:20 2r/ucO8g0
高速度カメラ以上の動体視力。望遠鏡以上の遠隔視。顕微鏡以上の精密さ。
それらを併せ持つ人知を超えた視覚、それこそスタープラチナの強さの所以の一つである。

承太郎は現在、コンサートホール内の客席に座っている。
そしてスタープラチナの眼で、コンサートホールの入り口の方を見ていた。
客席から玄関までには扉とホールがあるが、扉は開き入り口までの視界が通っていた。
もっとも客席から入り口まではかなりの距離があるので、肉眼ではほとんど何も視認できないが、
それはあくまで人間の話である。
スタープラチナの眼には、入り口前で話すエスデスたちの姿も、
そのエスデスが広げる地図も、そして地図上で指している部分も明確に視認できた。
エスデスが指している施設は能力研究所。
状況からおそらくエスデスたちはそこを目指すのだろう。

エスデスたちの目標を確認できた承太郎は、「やれやれだぜ」と小さく呟いて帽子を深く被り直した。
とりあえずエスデスたちの帰還が遅くなった時は、どこへ迎えに行けば良いのかが見当が付けられる。
そもそもエスデスが目的地や帰還する時間を予め相談していれば、こんなつまらない気の使い方をせずにすんだ。
やはりエスデスは頭は良いが、根本的に協調性が欠ける人間のようだ。
一緒に行かせた仲間を心配にすらなる。アヴドゥルのことだから、そう大過は無いとは思っているが。
それに承太郎にはエスデスの居ない所でしたい話がある。
そのために柄にも無い保護者の真似事をしたのだ。

やがて足立透がトイレに発ち、その際に扉を閉めたため入り口が見えなくなったが、
既にエスデスたちの行き先を確認しているため問題ない。
承太郎にとっては、上手く二人きりの形になれた。
客席に座る承太郎は、近くに座る鹿目まどかと向き合った。

承太郎の視線を受けて、まどかはどこか気後れしている様子だった。
先ほどまでと承太郎の様子が違うことに気付いているのだろう。
承太郎自身も今の状況で保護者役をやるつもりは無い。
本来の承太郎として、まどかと対峙する。

「……………………」
「……………………あ、あの人をその…………殺そうとしたからですか?」

気まずい沈黙を経た後、前触れも無くに口を開いたのはまどかだった。
話し始めるタイミングも言葉も脈絡の無いものだった。
しかし承太郎はその意味を理解した様子で返答する。

「おめーは、やはり奴を殺そうとしたんだな……」

まどかの言う”あの人”。そして承太郎の言う”奴”。
それは同じ人物、魏志軍のことを指していた。
先刻の放送から間もなく、まどかや承太郎たちは魏志軍と戦っている。
その時にまどかが魏志軍を明らかに殺害しようとしていた。
それ以来、二人は今までそのことを話題にはしていない。
しかし話題にこそならないが、蟠りのような形で二人の間の空気に残っていた。

「奴を殺そうとしたことを、どうこう言うつもりはねーぜ。敵を殺すってことには、俺も覚えはあるからな……」

承太郎はDIOの仕向けてくるスタンド使いの刺客と幾度も戦ってきた。
それは正に命の奪い合い。僅かな油断や隙が命取りになる世界。
その世界を生き抜いてきた承太郎は、場合によっては敵を殺す必要があることを知っている。
事実として承太郎とその仲間も、スタンド使いとは言え同じ人間である敵を何人も殺している。

「それじゃあ……わたしが…………変身できない振り……してたから…………」

口篭っているかのようなまどかの言葉。


188 : 再会の物語 ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 22:54:54 2r/ucO8g0
そこからはどこか萎縮している様子が伺えた。
元々まどかは萎縮すると上手く口が回らなくなる。
逆に言えば今の承太郎は、まどかが萎縮するほどの威圧感を放っていた。

「『騙まし討ちをするな』なんてマヌケな説教をするつもりもねーぜ」

承太郎たちのスタンド使いとの戦い。それは僅かな油断や隙が命取りになる殺し合いだった。
不意打ちや騙まし討ちは当たり前。
敵は勿論、承太郎の味方も勝利のためにあらゆる手段を尽くす。
それがスタンド使いの戦いだ。
承太郎自身、ギャンブラーとの戦いではイカサマまで行っている。
いずれにしても、まどかの取った戦術それ自体を責められる立場ではないと承太郎は自覚していた。

「…………じゃあ、どうして怒ってるんですか?」
「だから怒ってるわけじゃあ無い。説教も責めるつもりも無いぜ。
おめーが騙まし討ちしようが、奴を殺そうが……俺を囮に使おうがな」

責めるつもりの無いと言う承太郎の言葉とは裏腹に、まどかは思わずビクリと身体を振るわせる。
承太郎は軽く嘆息してから、珍しく饒舌に話し続けた。

「奴との戦いで、おめーは変身しないで隙を伺っていた。
俺やアヴドゥルがどれだけ身を張って奴と戦おうが、奴が閃光弾を投げてくるまでな。
……おめーはあの閃光弾を、最初は手榴弾だと思ってたな?」
「……………………」

まどかの無言は承太郎の問いに対する肯定を示していた。
魏志軍は承太郎たちとの戦いにおいてスタングレネードを使用している。
外見は変哲の無い金属製の筒であり、閃光を放つまでそれがスタングレネードだと分かる物ではない。
しかし承太郎とまどかには同じような投擲武器に心当たりが在った。それは二人が持つ手榴弾。
魏志軍がスタングレネードを投げた時、承太郎は咄嗟に手榴弾を連想した。
だからこそ防護体勢を取るために大げさにしゃがみ込んだのだ。その際、ついでに反撃のための石を拾っている。
まどかも、おそらく同じタイミングで魔法少女に変身をしている。
承太郎は変身の瞬間を確認していない。
しかし魏志軍の投げたスタングレネードが閃光を放つ前に、もう変身していたはずだ。
それで弓を構えて狙いを定めなければ、スタープラチナの投石とほぼ同じタイミングで矢を撃てなかった。
それはおそらく手榴弾の爆発に備えての変身。
まどかは人間より強靭な魔法少女である。
その肉体と魔法を駆使すれば、自分の身を守ることも比較的容易だ。
そして承太郎やアヴドゥルを手榴弾から守ることも。
結果的に承太郎とアヴドゥルは無事だったが、あの瞬間はかなり危険性が高かったことに違いない。
しかしまどかは承太郎やアヴドゥルを守ることより、魏志軍の隙を狙い撃ちすることを優先していたのだ。
それ以前に承太郎とアヴドゥルが参戦した時点で、魏志軍の隙を伺うことを止めて変身していれば、
二人のリスクは更に減っていた。

「俺もアヴドゥルも勝手に戦った。おめーに守ってもらおうとも思わねえ。
だが成り行きだろうと一緒に戦う仲間より、敵を殺すことをおめーは優先させた」

まどかは何も返答しない。
押し黙るまどかを見て、承太郎はまた嘆息を漏らす。
承太郎は他人からよく威圧的な人物だと誤解され易い。
今もまるでまどかを問い詰めているような雰囲気になっている。
承太郎としては戦いの中で感じたことを、まどかに確認したかっただけだ。

まどかが戦いの中で行った細かい行動や判断。
それ自体は、戦いの中での不確定要素と呼んで良いほど些細な部分だろう。


189 : 再会の物語 ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 22:57:36 2r/ucO8g0
しかし命がけの戦いの世界を、仲間と共に潜り抜けてきた承太郎は、
僅かな挙動や表情から、その者が持つ戦いに対する云わば気構えのような物が見て取れたのだ。
それは承太郎という戦士として類まれな才能と感性の持ち主だからこそ読み取れた微細な襞。

まどか自身もまた、承太郎と立場は違えど戦いの世界に身を置く者である。
承太郎の話したような単純な二元論を意識した訳ではないが、
結果的にでも承太郎とアヴドゥルより敵を殺すことを優先したことは間違いないし、
何より短い付き合いだが承太郎と言う人物には、どんな言い訳も通用しないだろうことは感覚的にでも理解していた。
だからこそ何も言えなかったまどかだが、ようやく言葉を放つことができた。

「ごめんなさい…………わたし……承太郎さんとアヴドゥルさんのこと、考えてなかった……」
「考える必要も無いな。俺とアヴドゥルは別行動を取るんだ」
「そんな! ま、待って……」

立ち上がり荷物を纏める承太郎。
その言葉と態度からまどかとの決別の意思を示していた。

承太郎は最初からまどかの真意を確認するため、二人きりになるタイミングを見計らった。
エスデスが居る所で話をすれば、どんな余計な邪魔をされるか知れたものじゃない。
だからこそエスデスの目論見にあえて乗り、柄にも無い保護者役を請け負った振りをして、
わざわざまどかを気遣うようなことを言ってまで、留守番役を買ったのだ。
そしてまどかの真意が自分の想定通り、仲間を守るより敵を殺すことを優先するものだった。
ならば分かれて行動した方が良い。
そう判断して別れを告げるたのだ。
しかしまどかにとってはあまりに予想外で唐突な展開。慌てて承太郎を問い詰める。

「待って下さい!! い、今ここを離れたら……アヴドゥルさんともエスデスさんともヒースクリフさんとも、
会えなくなっちゃうんですよ!?」
「気に入らないのはおめーよりも、むしろエスデスの奴だ。アヴドゥルの行き先は分かってる。
今から追い掛ければ、すぐに追いつく」

承太郎はまどかに見向きもせず立ち去ろうとする。
まどかとの間にあるのは、戦い方での小さな行き違いだ。
どちらに非がある訳でもない相違。それゆえに話し合っても無駄だと考えている。
そして何より承太郎はエスデスの独善的な態度や行動が気に入らなかった。
おそらくこれ以上承太郎とエスデスが同行しても、衝突は免れないだろう。
それほど性格的な相性の悪さを感じていた。
だから今から能力研究所に向かうアヴドゥルに追い付き、エスデスとも別れ二人で行動しようと考えている。
その前にまどかに別れを告げたのは、承太郎なりに義理を果たしたつもりだった。

まどかはそんな承太郎の態度に、理不尽な物を感じていた。
承太郎とは殺し合いの中で最も長い時間を共に同行した相手である。
いつ命を落とすか分からない殺し合いの中で、何度も命を助けられた承太郎の存在を、
まどかはそうと意識しないまでも、内心とても頼もしく思っていた。
だからこんな形で突き放されたことで、意外なほどに動揺を覚えるし
碌に話し合いもしないで別れようとするのは理不尽だと感じたのだ。
まどかは初めて、自分がそれほど承太郎を頼りにしていたことに気付くが、
承太郎にとってはそんなことを知る由もないし、知ったところで決断が変わるわけでもない。
しかしまどかにとっては、自分のこと以外にも気掛かりなことはあった。

「きょ……槍使いの子に会ったら……どうするんですか?」
「さあな。会った奴が敵なら、ぶちのめすまでだ」


190 : 再会の物語 ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 23:00:09 2r/ucO8g0
「こ…………殺しちゃうんですか!?」
「そうなっても、おめーに文句を言われる筋合いは無えよな」

承太郎はこれ以上、まどかと議論をするつもりは無かった。
ましてや指図を受けるなど御免だ。
それゆえに、あくまでまどかを突き放す。
承太郎にとっては面倒を避けたいだけで他意の無い言葉だった。

まどかにとってはこれ以上無く理不尽な態度だった。
まるで相談することも無く、立ち去ろうとするのみならず、
自分が佐倉杏子を気に掛けていることを知っているのに、それを無視するような態度が。
身勝手なのは、自分なのか承太郎なのかも定かではないが、
まどかは思わず怒りに駆られた行動に出た。

承太郎はまどかに目もくれず、客席の出口まで足を進めていた。
そして足立が閉めたドアに手を掛ける。
ドアが大きく音を立てて開いた。
承太郎の手に拠ってではない。
承太郎が持ったのと反対側のドアに桃色の閃光が刺さり、音を立てて弾け飛んだのだ。

 ド ド ド ド 
  ド ド ド ド

まどかの方を見ると、閃光と同じような桃色を基調にした華美な衣装、
魔法少女の姿に変身して、弓を構えていた。
その眼は承太郎を強く見据えていた。

「……まだ…………話、終わってない…………」
「おまえ…………」

 ゴ ゴ ゴ ゴ
  ゴ ゴ ゴ ゴ

承太郎に当てるつもりの無い威嚇射撃であることは分かっていた。
それでも威嚇をされて大人しくできる承太郎ではない。
息を荒げて睨むまどかを、それ以上の鋭さで睨み返す。

緊迫した空気が二人を包み込む。
その緊迫を破ったのは――――

「――――まどか」











「ハァハァ……ようやく着いたな。これがコンサートホールと見て良いだろう」

特徴的な形状の建造物を前に、花京院は息を整える。
花京院の選択はコンサートホールに向かうこと。
DIOの優勝にとって、エスデスが大きな障害となるのは間違いない。
エスデスの戦力や目的などの情報を得ることができれば、DIOの大きなアドバンテージになり得る。
一方的にエスデスを偵察できる機会を逃さないためにも、花京院はコンサートホールを目指した。


191 : 再会の物語 ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 23:01:33 2r/ucO8g0
奈落を飛び越えてDIOの館に向かうことともかなり迷ったが、
やはり得体の知れない翼で飛ぶ女子中学生につかまって奈落を越えるのは、リスクが大き過ぎると思えた。
当の女子中学生であるほむらは、自身と花京院の二人分の荷物を持って先を行っていた。

「しかし、君は息も乱さないんだな……」

二人分の荷物を抱えて先を歩いていたほむらだが、まるで疲労している様子は無い。
男子高校生である花京院は、決して体力的に同級生に劣るものではない。
そうでなければ過酷なエジプトへの旅を行うことはできなかったはずだ。
しかし自分の分の荷物まで持っているほむらと、明らかに体力的な差が出ている。
ほむらが女子中学生であるどころか普通の人間であるかも、本気で怪しく思えてきた。
これなら本当に、花京院を抱えて奈落を越えるのも余裕だったのかも知れない。
もっとも、コンサートホールに着いた今更予定を変更するつもりは無いが。

「まあ、『使える』と考えるのが前向きなんだろうな」

これからのことを考えても、ほむらの体力はありがたい面は大きい。
偵察中に敵に見付かった場合も、ほむら自身を戦力にできるのだから。
もっとも偵察と言う活動の要諦を考えた場合、ハイエロファントグリーンで操作する者は、
利便性が高いとは言い難かった。
ハイエロファントグリーンでの操作は、花京院が近くに居なければ行えない。
何しろ本人の意識が無いので、花京院が状況を認識した上であらゆる行動を逐一操作しなければならないからだ。
だからほむらを先行させるにしても、花京院も状況を確認できる位置で追わなければならない。
あるいはハイエロファントグリーンを解除してそれだけを潜行させた方が、偵察には有利かもしれないが、
今から解除した場合、意識を取り戻したほむらに状況の変化から怪しまれる。
ほむらの体力を知った今は、可能な限り敵に回すことなく、
できれば使い潰すまで戦力として手放したくないところだった。

コンサートホールは南側が正面だったらしく、花京院が着いた北側は都合良く裏面だったようだ。
民家のごとき無愛想なドアが一つ付いている。
しかし花京院はドアの近くにある、頭くらいの高さの小さな窓から入ることにした。
まず侵入するのはほむらだが。
ほむらはここでも、驚くべき身体能力を発揮した。
窓に飛びついたほむらは、鍵の開いていた窓を容易く通り抜けると、
片手で窓枠に掴まったまま、もう片方の手で花京院の身体を引き上げたのだ。
やはりほむらは、尋常の女子中学生ではない。
得体の知れない薄気味悪さすら覚えるが、戦力として考えれば頼もしい。
こうしてほとんど音も無く、コンサートホール内に侵入できたのだから。
にもかかわらず、直後に爆発じみた破壊音が鳴る。

驚き慌てる花京院だが、すぐに自分とは関係の無い音だと悟る。
どうやらコンサートホールの奥で何かが起きたようだった。
花京院は周囲に人の気配が無いことを確認すると、
ほむらを先行させて、音の方へと向かい廊下を進んだ。
危険性はあるがいざとなったら、ほむらを盾に逃げられる位置を保ちつつ。

花京院は知らなかった。
因果律をも
世界の理をも捻じ曲げる
人間の感情の極みを

廊下を進んだ先にコンサートホールの最も大きな部屋、おそらく客席があるようだ。
音はその客席の方からしているようだった。人の気配がする。
入り口の陰に身を隠しながら、客席の様子を探る。
南側の出入り口の付近で何か騒ぎが起こっておるようだが、花京院のいる位置からは遠過ぎて様子が見えない。
花京院は、ほむらを椅子に隠れさせながら先行させて、
騒動を視認できる位置まで移動させる。


192 : 再会の物語 ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 23:03:27 2r/ucO8g0
異変はその時に起こった。

「――――まどか」



自分の名前を呼ぶ声がする。
鹿目まどかは、自分の名を呼んだ相手の方に振り向く。

殺し合いはまどかにとって、辛いものでしかなかった。
すぐに出会った者には頭を潰された。
手榴弾でも死なない怪物に襲われた。
尊敬する先輩の死を告げられた。

友達と会いたかった。
その友達の声がする。

「――――ほむらちゃん!!!」

自分を呼ぶ声に、まどかは呼び返す。
何故そこに居るのかは分からない。
そんなことはどうでもいい。
ただ、会えただけで嬉しかった。

しかし、ほむらにとってはその程度のことではなかった。

まどかに再び出会うことは、生きる目的とすら言えた。

そのためなら因果律をも、世界の理をも乗り越えられる。

これこそ人間の感情の極み

希望より熱く

絶望より深いもの





(なんだ? あいつに何が起きたんだ!?)

隠れて様子を伺っていた花京院は困惑する。
ハイエロファントグリーンで操作していたはずのほむらが、勝手に立ち上がって姿を現し喋ったのだ。
花京院はそんなことを指示していない。
解除されたわけではない。ハイエロファントグリーンは、今もほむらの体内に存在する。
だからこそ、何故こちらの指示と外れた行動に出たのかが分からない。

(あいつは『何かを見て』反応した感じだった。『何を見た』か、確認するか)



夢にまで見たまどかに会えたほむらは、しかしすぐに困惑に襲われる。


193 : 再会の物語 ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 23:04:49 2r/ucO8g0
自分は病院の付近に居たはず――ここはどこ?
自分の前に居たのは花京院だった――何でまどかが居るの?
状況が掴めない。

体内に何かが居る。
何か得体の知れない物が、ほむらの体内を動いていた。
それは確かにほむらの口の中から外を覗いている。

ほむらはデイパックからアヌビス神を取り出した。
アヌビス神の美しい刀身は、まるで鏡のように周囲の景色を映し出した。
ほむらの口中にあるそれも。
得体の知れない、筋のような緑色の光が走る。
その緑色には覚えがあった。

(これは花京院の”体質”!!)

アヌビス神の長い刃渡りは、緑色以外にも覚えのある物を映し込む。
それは物陰からこちらの様子を伺う花京院の姿。

何か明確な根拠のある推測では無かった。
しかし状況の変化と意識の空白。
体内を動く花京院の”体質”。
そして 花京院のこちらを伺う視線。
それらが合わさって、ほむらに直感的な推測を与えた。
花京院がほむらを操っていたと。



勝手にアヌビス神を取り出したほむらの様子を見て、花京院は確信する。
ハイエロファントグリーンに取りつかれながら、ほむらは意識を取り戻していると。

花京院の不運は魔法少女という存在を知らなかったことだろう。
魔法少女とは魂を外付けにして、それが肉体を操作する存在。
ある意味ハイエロファントグリーンの操作と競合するシステムで動いている。
その性質ゆえ人間よりもハイエロファントグリーンの操作に対して耐性があるとも言える。
何より、ほむらの持つ常軌を逸したまどかへの情念。
それによってまどかに出会った際に極めて強い精神的な衝撃を受けたのだ。
意識を取り戻すほどに。

理由は分からずとも、花京院の注意深さは、
ほむらが意識を取り戻したことをすぐに察することが出来た。
意識を取り戻した以上、花京院に操られていたことにもすぐに気付く。
そうなれば花京院の敵に回るだろう。

花京院は即座にほむらを殺す判断をする。
ハイエロファントグリーンは未だほむらの体内に居るのだから、殺すことは容易なはずだ。
花京院の誤算はほむらの行動が更に早かったことである。

ほむらは瞬時に判断する。
花京院は敵だ。
体内に取り付かれている以上、自分を殺すことに手間は掛からないはずだ。
そして、今の状況でそうなれば自分だけの問題ではない。
まどかも危険に晒すことになる。それだけは避けなければならない。

まどかの安全が掛かっている以上、ほむらの決断に躊躇は無い。
ほむらはその手に持つアヌビス神を、花京院に向けて投げつけた。


194 : 再会の物語 ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 23:06:46 2r/ucO8g0
魔法少女の力によって投げられたアヌビス神は、刺されば確実に命を奪う勢いで花京院に迫る。
こうなればもうほむらを殺しても遅い。アヌビス神を止めることは出来ない。
ほむらの誤算は花京院の判断が予想以上に早かったことである。
体内にある異物が消え去った。
緑色は花京院の前に現出する。
人の形を為したそれは、両手の前から閃光を発した。
閃光の正体は細かい宝石を弾丸のごとく射出した物。
それは飛来するアヌビス神を弾き飛ばした。

(まさか自分の安全を考えることなく、わたしを攻撃してくるとはな、
どうやら、ほむらを甘く見ていたようだ……)

ほむらに攻撃された瞬間、花京院はハイエロファントグリーンを解除していた。
そして自分の元に戻し、エメラルドスプラッシュでアヌビス神を迎撃。
慎重な花京院は、いつでもハイエロファントグリーンで防御できるように心構えをしていた。
しかしこうなってはもう、ほむらに再び取り憑くのは難しいだろう。
いずれにしてもほむらは敵となったのだ。
早急に排除しなければならない。
花京院はもう一度、こんどはほむら自身目掛けエメラルドスプラッシュを放った。

「オラオラオラオラオラオラアッ!!」

しかしエメラルドスプラッシュは全て拳で迎撃された。
ほむらにでは無い。
筋骨隆々の青い戦士の拳がエメラルドスプラッシュの尽くを打ち落としたのだ。
そして青い戦士の傍らには、学ランを着た長身の男が立っていた。

「……ようやく会えたな、花京院」
「空条承太郎……!」

花京院はその男、承太郎をDIOの念写した写真で知っていた。
DIOの仇敵であるジョースター一族のスタンド使い。
しかし問題は出会ったことの無い承太郎が花京院を知っているらしいことだ。

「……偽者でなく、やはり肉の芽だったって訳だ。やれやれ……こいつは、ちと面倒な話になりそうだ」
「……何故、わたしを知っている?」
「おめー、俺に会ったこと無いってのか? ……なるほど、話が見えてきたぜ」

ほむらにハイエロファントグリーンを憑かせていたらしい花京院の姿を見た承太郎は、
スタープラチナの視力で額の肉の芽を確認する。
更に花京院は承太郎の仲間だった頃の記憶が無いらしい。
かつての仲間の無残で不可解な姿。
しかし承太郎はいかなる状況でも、冷静な判断が出来る男だった。

(どういう原理かは知らねえが、こいつは『俺とまだ出会っていない時』の花京院らしい……)

例えどういう状態であろうと、この花京院が本物である以上、
承太郎にとって救助対象だ。
まずは花京院から肉の芽を取り除く。話はそれからだった。

――しかし彼女にとってはまるで違う対象だった。
――思い出されるのは為す術なく死をもたらされた記憶。
――自らに死をもたらす恐怖の対象。

「あなたは……花京院を知っているのね」

ほむらは自分と花京院の戦いに割り込んできた承太郎に話し掛ける。


195 : 再会の物語 ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 23:08:48 2r/ucO8g0
承太郎が何者かは知らないが、助けられたのは事実だ。
今は花京院を排除するためにも承太郎とは共闘する形を取りたい。
そのためにほむらは承太郎に話し掛けた。

「おめーは暁美ほむらだな、まどかから聞いてる。
今からあの花京院を……避けろ!」

承太郎が叫ぶと同時に、ほむらが飛ぶ。
ほむらが居た位置をエメラルドスプラッシュが通り抜けた。
どうやら花京院は会話をする暇も与えないつもりらしい。
花京院のハイエロファントグリーンにはエメラルドスプラッシュが在る。
距離を置いた戦いでは、おそらく花京院の独壇場だ。
しかし今のほむらの位置は、ちょうど花京院を承太郎と挟む位置に居る。
承太郎と同時に掛かれば挟み撃ちに持っていける。
ほむらが承太郎に眼で合図を送ると、二人は同時に花京院へ飛び掛った。
次の瞬間、ほむらの脚に何かが巻き付いた。
見覚えのある緑色の触脚が座席の陰から伸びて来ている。
腕にも、胴にも見覚えのある緑色が巻き付いて、全身の動きが封じられた。
承太郎の方を見ると、現出さしているスタープラチナが同じような状態になっている。
ほむらはハイエロファントグリーンに拘束されたと気付く。

「接近戦を仕掛けてくると思っていたよ。挟み撃ちの形にすれば。
既にわたしの周囲には、ハイエロファントグリーンの『結界』が張られているとも知らずにね」

承太郎とほむらの二人を同時にするとなれば、花京院は戦力的に不利だと自覚していた。
それでも花京院には二つの有利な点があった。
一つは飛び道具の存在。
エメラルドスプラッシュを使えば、遠距離戦ならば一方的な戦いをする事が出来る。
しかしそれは敵も当然、承知している。
接近戦を挑んでくるのは目に見えていた。
そこで二つ目の有利な点。地の利を活かすことにした。
ここはコンサートホールの客席。
並ぶ座席がハイエロファントグリーンを隠すのに最適の死角を生んでいた。
ハイエロファントグリーンを触脚状に伸ばし、周囲に張り巡らして『結界』と為す。
そこに目論見通り飛び込んで来た二人を拘束した。
しかし触脚を伸ばして拘束している状態では、そこから更に攻撃することは難しい。
花京院はバックからベレッタを取り出す。
それでとどめを刺すべく、銃口をほむらに向けた。

――花京院さんがわたしの友達に銃を向ける。
――死をもたらすために。
――その様はまるで悪魔か死神に思えた。

(触脚を伸ばして来ると思っていたぜ。接近戦を挑めばな。
今のおめーは『スターフィンガー』を知らねえからな)

スタンドの全身を拘束された承太郎は、握っていた拳を開いて指は自由に動くことを確認する。


196 : 再会の物語 ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 23:10:59 2r/ucO8g0
花京院の戦術を良く知っていた承太郎は、座席の陰に触脚を伸ばして拘束してくることを予測していた。
そうすれば花京院の油断を誘うことが出来る。
そして自由になっている指に力を溜めて、一気に打ち込んだ。

「流星指刺(スターフィンガー)!!」

ほむらにとどめを刺すつもりの花京院だったが、ベレッタの引き金を引くことは出来なかった。
自分の頭に向けて、スタープラチナの指が伸びて来たからだ。
不意を衝かれた花京院には反応できない速さで、スタープラチナの指が額に打ち込まれた。
そう思ったが、いつまでも痛みも起こらない。
スタープラチナの指は、花京院の額に在る肉片を摘んでいた。

承太郎の目論見は的中した。
花京院の隙を作り、額の肉の芽をその指に摘む。
承太郎はハイエロファントグリーンの性能を良く知っているが、花京院はスタープラチナを知らない。
それゆえに実行できた作戦。
そして肉の芽を摘むことが出来れば、スタープラチナのスピードと精密動作性で引き抜くことは可能。
何しろ承太郎には、一度それに成功した経験があった。
ただその時と違ったのは、
桃色の閃光が、スタープラチナの指の横を通り抜けたことだ。
閃光は花京院の額に突き刺さると、その頭を容赦無く破壊した。
肉が抉れ、
骨が砕け、
破壊は脳まで達する。
花京院の頭は肉の芽諸共、跡形も無く砕け散った。

――まるで悪魔か死神のように見えた。
――その男を殺さないと友達も、自分も死んでしまう存在に。
――だから二人が男と戦っている時も、じっと息を潜めて待った。
――魔法の矢でその男を射抜ける機会を。

「花京院!!」

――承太郎の悲痛な叫びが聞こえる。
――まるで冷や水を浴びせられたように、思い知らされた。
――まどかは、自分が悪魔でも死神でもなく、人を殺したんだと。



【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース 死亡】


197 : 再会の物語 ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 23:13:19 2r/ucO8g0
【D-2/コンサートホール/一日目/午前】


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:精神的疲労(小)
[装備]:DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:デイパック、基本支給品、手榴弾×2、穢れがほとんど溜まったグリーフシード×3、『このラクガキを見て うしろをふり向いた時 おまえは 死ぬ』と書かれたハンカチ
[思考・行動]
基本方針:主催者とDIOを倒す。
0:?????
1:まどかと別れてアヴドゥルと合流して、更にエスデスと別れて行動する。
2:情報収集をする。
3:後藤とエルフ耳の男、魔法少女やそれに近い存在を警戒。 まどかにも一応警戒しておく。
【備考】
※参戦時期はDIOの館突入前。
※後藤を怪物だと認識しています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※魔法少女の魔女化以外の性質と、魔女について知りました。
※まどかの仲間である魔法少女4人の名前と特徴を把握しました。
※DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダースが一本近くに落ちています。
※エスデスに対し嫌悪感と警戒心を抱いています。



【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ソウルジェム(穢れ:中)、 精神的疲労(中) 全身打撲(中)
[装備]:魔法少女の服
[道具]:手榴弾
[思考・行動]
基本方針:ゲームに乗らない。みんなで脱出する。
0:?????
【備考】
※参戦時期は過去編における平行世界からです。3周目でさやかが魔女化する前。
※魔力の素質は因果により会場にいる魔法少女の中では一番です。素質が一番≠最強です。
※魔女化の危険は在りますが、適宜穢れを浄化すれば問題ありません。
※花京院の法王の緑の特徴を把握しました。スタンド能力の基本的な知識を取得しました。
※承太郎の仲間(ジョースター一行)とDIOの名前とおおまかな特徴を把握しました。
※偽者の花京院が居ると認識しました。


198 : 再会の物語 ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 23:14:45 2r/ucO8g0
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ(新編 叛逆の物語)】
[状態]:疲労(小)、ソウルジェムの濁り(小) 全身にかすり傷
[装備]:見滝原中学の制服、まどかのリボン
[道具]:デイパック、基本支給品、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!
[思考]:
基本:まどかを生存させつつ、この殺し合いを破壊する
0:?????
1:まどかを保護する。
2:協力者の確保。
3:危険人物の一掃
4:まどかの優勝は最終手段
5:DIOは危険人物ではない...?
6:信用を置ける者を探し、自分が魔女かどうかの実験をする。(杏子が有力候補)

[備考]
※参戦時期は、新編叛逆の物語で、まどかの本音を聞いてからのどこかからです。
※まどかのリボンは支給品ではありません。既に身に着けていたものです
※魔法は時間停止の盾です。時間を撒き戻すことはできません。
※この殺し合いにはインキュベーターが絡んでいると思っています。
※時止は普段よりも多く魔力を消費します。時間については不明ですが分は無理です。
※エスデスは危険人物だと認識しました。
※花京院が武器庫から来たと思っています(本当は時計塔)。そのため、西側に参加者はいない可能性が高いと考えています。
※この会場が魔女の結界であり、その魔女は自分ではないかと疑っています。また、殺し合いにインキュベーターが関わっており、自分の死が彼らの目的ではないかと疑っています。
※アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダースが付近に落ちています。


【万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!】
 翼の帝具。装着することにより飛翔能力を得ることが可能。
 翼は柱を破壊する程度の近接戦闘は描写から可能であり、無数の羽を飛ばして攻撃することも出来る。
 飛翔能力は三十分の飛翔に対し二時間の休息が必要である。
 奥の手は出力を上昇させ光の翼を形成し攻撃を跳ね返す『神の羽根』。

※花京院典明の死体の近くに花京院の支給品(デイパック、基本支給品×2、油性ペン(花京院の支給品)、ベレッタM92(装弾数8/8)@現実、花京院の不明支給品0〜2 まどかの不明支給品0〜1)が落ちています。


199 : ◆QAGVoMQvLw :2015/08/13(木) 23:16:51 2r/ucO8g0
投下終了します。
問題点がありましたら指摘をお願いします。


200 : 名無しさん :2015/08/13(木) 23:20:38 yLpkf5wY0
投下乙です

か、花京院ー!まさか放送後初の死者が彼になるとは。まどかのフラグと肉の芽が噛みあい過ぎた…
承太郎は救えたはずの仲間失うしほむほむも折角世界すら書き換えて救ったまどかがまた魔法少女になってるの見たらどうなるのか分からないし
最悪クリームヒルトさん登場しそうでコワイ!


201 : 名無しさん :2015/08/14(金) 16:18:49 9tEMZQtI0
投下乙です

これは承りやりきれんなぁ…まどかも最初に頭吹っ飛ばされた+正当防衛ではあるし
誰が悪かったかといえば、肉の芽埋め込んだDIOな訳で…
これはこの場で唯一の大人である足立さんに期待せざるを得ない


202 : 名無しさん :2015/08/15(土) 16:03:34 v3stzVXQ0
投下乙です
ついにまどかがキル数稼いでしまった
二人とも正義漢タイプなのに、見事にすれ違っちゃってるなあ
ホントは悪役の足立さんがキーパーソンになりそうなのが不思議な状況


203 : 名無しさん :2015/08/16(日) 01:18:15 3xB72T9.0
投下乙です

>正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ
あれ?セリューさんが頼もしく見える?
とりあえず大佐はエンヴィーに警戒しすぎで軽く被害妄想入っている感ある

>再会の物語
待望の再会だったけどなんとも後味の悪い結果になったな
花京院は終始タイミングが悪かった気がする


204 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:05:27 SVKwwpvs0
無理だと諦めていましたが予約期間中に書き終えることが出来ました。

投下します


205 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:11:06 SVKwwpvs0
すいません、状態表がまだでしたので数分お待ちください


206 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:28:24 SVKwwpvs0
遅れてすみません今度こそ投下します


207 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:29:50 SVKwwpvs0


【これからの物語】


疲労の果てに意識を手放したマスタングが回復するまでの間、仮拠点とする小屋を目指すセリュー達。
彼女を先頭に動いており、その数は五名である。
セリューに一番近いのは島村卯月である。極自然に傍をキープしている。
その後ろに由比ヶ浜が瞳を濁らし不安そうな表情を浮かべながら歩いてる。
後続にはウェイブが小泉花陽に気遣いながら歩いており、当然ではあるが女性の比率が多い。

一見総合戦闘力が著しく低いチームに見えるが、大方何かしらの力を所有しているのだ。
唯一の男性であるウェイブは帝都の軍人であり、彼の力は一種の完成形とも呼ばれている。
先頭を歩くセリューは生物帝具との連携で見た目からは想像出来ない破壊力と爆発力を秘めている。
一般人である由比ヶ浜は銃火器を所有しており、島村卯月は誰にも知られていないが帝具を所有している。
小泉花陽は戦闘能力を所有していないが、それが普通であり日常世界で異能を持っている人間の方が極端に少ない。

襲撃者が現れたとしてもある程度は対応出来るだろう。寧ろ返り討ちも視野に入る。

「小屋までもう少しですよ! さぁ!」

笑顔で振り向いたセリューは人差し指を天高く上げると激励の言葉を掛ける。
実際に歩いた距離と時間が比例しなく、遅い移動速度に彼女は発破を掛けたつもりだった。
しかし一行は元気に言葉を返す訳でもなく下を向いたり愛想笑いで流していた。

「私も頑張りたいんですがちょっと休憩しません?」

「俺も賛成だ。セリュー、少し休むぞ」

一刻も早く行動したいのはセリューだけであり、島村卯月とウェイブが休憩を提案した。
セリューはぐぬぬと声に出した後、数秒黙ってから承諾し一行は近場に腰を降ろした。

「気遣い出来ない私がいけませんね……」

「セリューさんが頑張っている証拠です。お茶どうぞ」

落ち込んでいるセリューに対し島村卯月はバッグからお茶を取り出し渡す。
仲の良い女性達を見ている光景はとても微笑ましいが状況が状況である。
殺し合いの中では非日常が理となり日常が浮いてしまう。彼女達は浮いている。

由比ヶ浜結衣と小泉花陽は目の前で仲良くお茶を飲んでいる二人に対し引いている。
何故彼女達はこうも平然としているのだろうか。或いは振る舞えるのだろうか。

由比ヶ浜結衣はセリュー・ユビキタスの恐ろしさを知っている。
島村卯月が彼女と仲良くしている光景が信じられない。

小泉花陽は愛する仲間をセリュー・ユビキタスに殺されている
島村卯月が彼女と仲良くしている光景が信じられない。

本来ならばセリューは正義を掲げ悪を断罪する言わば正義の味方とも捉えられる存在だ。
殺し合いの場でも戦闘・精神共に他の参加者を支える人物になれるだろう。
問題は尖り過ぎた正義感だ。彼女の中に存在する正義はこの世全ての悪を断罪する、つまり殺すこと。
定義は彼女が悪と認定した存在だ。誰かの知り合いだろうと悪は殺す。

爆弾に何て誰も触りたくない。
セリュー・ユビキタスに近づく島村卯月を由比ヶ浜結衣と小泉花陽は理解出来ない。

「ことりちゃんの荷物……」

小泉花陽はセリューから若干強引気味に譲り受けたバッグの中に腕を入れる。
このバッグは殺された南ことりが持っていた形見のような物。自分が持たなければと思っていた。
絶対にセリューには持たせたくない。これ以上私達の思い出を汚さないでほしい。小泉花陽の心が叫んでいる。


208 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:30:46 SVKwwpvs0

セリュー・ユビキタスの存在を許せない――いや、彼女は本当に同じ人間なのか。
人殺しの気持ちなど理解出来ないし、その人殺しが正義を掲げているなど有り得るのだろうか。
解らない、けれど殺し合いの中で彼女達に立ち止まっている暇など無いのだ。生きたいならば生きてみせるしかない。

力を貸して欲しい。そんな気持ちで南ことりのバッグから出て来たのはヘルメットだった。
少々機械的な部分はあるが変哲もない普通のヘルメットである。
小泉花陽はヘルメットの上部に付属していた紙を取ると書かれている文章に目を通す。

『サイマティックスキャン妨害ヘルメット』

名前から察するにサイマティックスキャンを妨害するヘルメットなのだろう。正直な感想である。

『自分が滞在しているエリア内の人の中で一番良好なサイコパスを自分のサイコパスとして監視システムに送ることが出来る』

説明を読んでも理解が出来ない。だが、このヘルメットは南ことりに支給された物だ。
彼女が使用したかどうかは不明だが、彼女の温もりを感じれる支給品はこのヘルメットだけである。
きっと南ことりが残してくれたヘルメットが自分を助けてくれる――小泉花陽はバッグに支給品を戻した。





「由比ヶ浜、顔色が悪いけど大丈夫か?」

「へ? あ、あぁ……えへへ」

一人輪の中から外れて座っていた由比ヶ浜結衣にウェイブは声を掛ける。
急な声掛けに可愛い声を上げた彼女の隣に座り、適当に草を毟る。
手放した草は風に乗ってどこまでも、どこまでも運ばれて流されていく。

「あのな、セリューは熱くなるとテンション上がって周りが少し見えなくなる奴なんだ」

セリューの仲間であるウェイブは彼女の言葉を疑わない。
しかしその言い分が万人に受け入れられないのも理解しているのだ。
殺伐な世界で生き抜いて来た彼らだからこそ理解出来る生と死が隣り合わせの緊張感。

由比ヶ浜結衣は彼らと同じように帝都で生きて来たのか、それは違う。
何の罪も無い、戦う必要も無い由比ヶ浜結衣にとって殺し合いの現実は非情である。
既に聞いている通り彼女の知り合いである比企谷八幡は放送で名前を呼ばれ死んでいる。

ウェイブはその傷を癒せるとは思わないが少しでもフォローしようと思い由比ヶ浜結衣に声を掛けた。

「少し……ですか。ウェイブさんとセリューさんは前からの知り合いだから……」

「それも解ってるつもりだよ。さっきは済まなかった、盾とかアイツが変なこと言っちまって」

彼は頭を下げる。
セリューはサリアと名乗った女性から聞いた比企谷八幡のことを話した。
内容は知人にとって聞かせたくない結末。それでもセリューは悪気無く、笑顔で言葉をガトリングのように連打した。
放たれた無数の弾丸は由比ヶ浜結衣の心を容赦なく穴開きにし、彼女の心は風すら通り抜ける程に空っぽ。
話題が小泉花陽を始めとするスクールアイドルに流れていなければ由比ヶ浜結衣は壊れていたかもしれない。

ウェイブは自分の言葉が少しでもセリューに対する印象が変わればいいと思っていた。
嘘も狡賢さも無い、仲間を大切にしている絆が存在する故に出て来た言葉だ。しかし。

「セリューさんには従っていますけど正直……いや、なんでもないです。
 ――よっし! そろそろ行きません? セリューさん、私は大丈夫です」

「おい……」

会話を無理矢理終わらせるように元気を装って由比ヶ浜結衣は立ち上がった。
行動の理由は唯一つ、セリューの話をしたくないからである。


209 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:31:41 SVKwwpvs0

笑顔で立ち上がった由比ヶ浜結衣を見てセリューと島村卯月は同じタイミングで彼女らも笑顔になる。
三人の可愛らしい女性が笑顔だ、端から見れば何と微笑ましい光景だろうか。

由比ヶ浜結衣は心に闇を仕舞い込み、自分の生命を助けるためにセリューに同行している。

島村卯月は現実を受け入れながらも目を背き、矛盾から逃げるようにセリューに依存している。

セリュー・ユビキタスの笑顔には悪を根絶やしにする野望と夢が詰まっており、その性質は狂人である。

毒と闇と泥。暗いモノを背負い込む彼女達の笑顔、何時まで続くのだろうか。

「解りました! ガハマちゃんの言葉通り歩き出しましょう!」

右手を高く上げて太陽を指さすセリュー。その笑顔はお天道様にも負けない程に輝いていた。





イェーガーズ本部に辿り着いた狡噛慎也を待っていたのは静寂。
足跡こそ有るものの、人の気配が全く無く時既に遅しの言葉が適当な状況であった。

――穂乃果から聞いていた連中は動き始めていたか。

一通り中を見回った狡噛慎也は西の方へ続いている足跡を見つめていた。
中で感じたことと言えば特段何もなく、血痕があったぐらいだ。話しに聞くセリュー・ユビキタスとやらに違いない。
小泉花陽、ウェイブ、ロイ・マスタング。穂乃果と黒子から聞いた三人の姿も無かった。
彼らはセリュー・ユビキタスと一緒に行動していると考えて間違いないだろう。

――足跡の数からして五人か。

穂乃果達から聞いていた数と異なるが然程問題はない。
寧ろ建物の中に他の人物が居る可能性の方が高く、自然な結果である。

――大きさ的に少年少女が多いな。
――しかし成人男性サイズが一人分しかない。ウェイブとマスタング、どちらかが別のルートを通ったか?

足跡の大きさからセリュー一行を推測する狡噛慎也であるが、成人男性が一人しか確認出来ない。
小柄な人物ならば納得は出来るが、穂乃果達から説明は受けていない。
不自然と考えるべきか、或いは何かしらの理由で背負われて行動しているか。

戦闘で負った傷によって行動出来ない仲間を背負い歩く。
そう考えれば可怪しいことは存在しない。もしくは既に消されているか。

――無い、な。どちらかが殺されていれば生き残っている方が抵抗する筈だ。

聞けば軍人であると言う。
仲間を見捨てて逃げる程愚かな男達ではないと信じたいのが本音だ。
ならば生きている線に賭け、足跡を辿るしか無い。


「晒し首を考えるような女だ。ロクな奴じゃないのは解っている」


無意識にタバコを取り出そうとした狡噛慎也は火を点けることなく、一度溜息を憑いてから歩き出した。





210 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:32:55 SVKwwpvs0

小屋に辿り着いたセリュー一行は先頭である彼女を残して外で待機している。
セリュー曰く、片付けがあるから待っていてくれ。
言葉通りに従う彼女達はウェイブが見張りを担当し女性三人が休憩している。

剣を握り剣先は下ろしている。
人影或いは奇襲があっても対応出来るように警戒度は限界にまで高めていた。


「その服装――お前」


「軍服に反応か。見覚えがあって私を知らないとなると君はマスタング君と出会ったのかね?」


現れた眼帯の男。見た目は初老でマスタングと同じ青い軍服を纏っている。
ウェイブはマスタングから眼帯の男の話を聞いており、下ろしていた剣を持ち上げ臨戦体勢に移行。
どうしてホムンクルスばかりと遭遇するかは不明だが泣き言も言っていられないだろう。
彼と同じくマスタングから眼帯の男を聞いていた小泉花陽の表情が一瞬で緊張に包まれていた。
聞いた話が本当ならエンヴィーやキンブリーと同じように最も出会いたくない存在の一人であろう。

眼帯の男を知らない由比ヶ浜結衣と島村卯月。最初は状況を飲み込めなかったが流石に理解出来る。
ウェイブが言葉を多く語らずに臨戦態勢に移行したのだ、つまり目の前の男は敵であると。
由比ヶ浜結衣は眼帯の男から遠ざかり、島村卯月は自然とセリューが居る小屋へ近付いていた。
そして思い出すは殺人名簿。

「マスタングから話は聞いているぜ――ホムンクルス」

構えた剣が力みによって少し揺らぐ。
目の前のホムンクルスは隙一つ見せずに立っている。
武器も構えていないのに気を抜いていると吸い込まれそうな程に威圧感を放っている。
ウェイブの唾を飲む音が明るい草地に響いた。

「なら話は早い。マスタング君は何処かね、白井黒子君と高坂穂乃果君から聞いた話だと随分と傷を負っているようだが」

「テメェ、あの二人に何をしたッ!?」

「何もしとらんよ若造」

ホムンクルスの口から語られた彼女達の名前にウェイブの脳内には絶望の可能性が生まれる。
本能のままに叫ぶがホムンクルスは何もしていないと告げる。確証も無いままに。

「信じられっかよテメェといいエンヴィーといい人を化かす野郎のことなんざ」

「彼女達にも言ったが私も巻き込まれている立場何でね。出来れば争い事は避けたいんだよ。
 闇雲に参加者を減らしても帰れる保証など無いのでね……さて、彼女達は私を信じてくれたが君はどうかね」

「穂乃果達がお前を信じた証拠があるのか? あってもエンヴィーと同類の奴を信じる気にはならないな」

「君の言う通りだ。私には証明出来るモノが無い。白井君と高坂君の名前を知っているのも。
 君達とマスタング君が知り合いだと知っているのも。此処に君達が居ることを知っているのも――聞き出してから殺している可能性もある」

ホムンクルスの言葉が終わると同時にウェイブは走り出していた。
剣を掲げ一瞬で距離を詰めると眼帯側に刃を寄せ瞳を斬り捨てるように横に一閃。
しかし刃がホムンクルスに届くことはなく、響く金属音が肉を切れていない証明となる。


211 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:33:56 SVKwwpvs0

バッグから剣を縦に取り出したホムンクルス――ブラッドレイはウェイブの一撃を防いだ。
両腕で振るった攻撃に対し、予備動作無しで片手で受け止める。
力の差を見せ付けるつもりであったが、流石に咄嗟の行動では脆く、若干ではあるが靴底が大地を削る。


「行動の速さと踏み込み、太刀筋。素晴らしい力を持っているが惜しいな」

(このジジィっ、今のを防ぐのかよ――ッ)

「お前達は此処から逃げろ――っおぁ!?」


女性三人に対し叫ぶウェイブであったが彼の体勢が大きく崩れてしまう。
ブラッドレイが力を緩めるとウェイブの力は明後日の方向へ大きく逸れてしまい、数歩進んでしまった。
その足をブラッドレイに払われ、ウェイブは大地に倒れ込むこととなってしまう。辛うじて剣を手放してはいないが。

「少し話でもしようじゃないか」

「――ィ」

ブラッドレイはウェイブの顔近くに剣を振り下ろし彼に恐怖を刻み込む。
一度殺されるビジョンを持たされてしまえば、即座の行動に対し大きな抑制力へと変化する。
ウェイブの動きさえ止めてしまえば後は弱者だけだ、恐れる必要など無い――無論ブラッドレイは油断しないが。


「私はキング・ブラッドレイ。君達の名前を一人ずつ答えてもらおうか」

「……ゆ、由比ヶ浜結衣です」

「ぁ……小泉……花陽です」

「俺はウェイブだ……ちくしょう」

「島村卯月です」


「――ふむ」


島村卯月の名前を聞いた瞬間にブラッドレイの眉が少しの動きを見せた。
女性の中で一人だけ声を詰まらせること無く言い終えた精神力には感心する。
戦争とは関係ない彼女の境遇を考えれば大したものだ。

島村卯月、やはり彼女も盟友なだけはある。

「渋谷凛君と本田未央君の知り合いで間違いないかね?」

「未央ちゃんとり……凛ちゃんを知っているんですか!?」

ブラッドレイの口から出て来た大切な名前に反応した島村卯月は危険を省みず彼に近付いた。
一歩一歩に重さはなく、彼女達を思う気持ち一つで島村卯月は危険人物に近付いている。

最も渋谷凛と本田未央の名前を聞いてから彼女の脳内に危険信号は発生していない。
現段階においてキング・ブラッドレイは危険人物ではなく、大切な人達を知っているおじさんの認識である。
島村卯月の顔に闇は浮かんでいなく、心の何処かで渋谷凛が生きていることを夢見ていた。

「本田未央君から聞いている。同じ……アイドルグループの仲間とな。
 そして渋谷凛君のことだが……残念であった。彼女は強い女性だったんだがね」

「二人は何処に居るんですか!? 教えてください!!」

「……君は」

迷い一つ無い瞳で島村卯月は二人の居場所をブラッドレイに尋ねている。
その姿は必死さに溢れていて、渋谷凛の居場所すら尋ねているのだ。ブラッドレイは考える。
彼女は死体の場所を尋ねているのか、それとも渋谷凛の死を受け入れていないのか。


212 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:35:06 SVKwwpvs0

前者ならば簡単だ。自分が手を下したのだから場所は解っている。
後者の場合ならば最善の注意を伴って彼女のフォローに回るべきだが、その必要は無い。
状況の展開によっては此処で島村卯月を殺す可能性があるのだから。

「辛いようだが渋谷凛君を殺したのはおそろくエンブリヲだろう。
 私が駆けつけた時には既に遅くてな……逃してしまった。仇を取ってやれなくて済まな――?」















「エンブリヲさんのことはセリューさんが味方だって言ってましたよ、嘘憑かないでもらえますか?」


瞳は濁っていない。
全てが泥のような穢れで構成されている真っ黒で、一種の芸術性さえ感じられるような黒。
瞳は濁っていない――純粋な程に穢れで染まっているから。

島村卯月の最重要決定権はセリュー・ユビキタスに依存している。
セリューが正義を第一に考え行動しているように、島村卯月はセリューの判断を第一に行動している。

セリューが悪と言えば悪であり、正義と言えば正義である。
唯一小泉花陽に対するスクールアイドルへの批評や暴言は同じアイドルの仲間として認めていない節がある。
しかしそれ以外の要素は全てセリューに依存していた。

現にブラッドレイの発言によるエンブリヲが悪の証明はセリューが味方と言っているため、偽りの戯言と捉えていた。

「……セリューとやらに随分と肩入れしているようだね。
 白井君達から聞いた話だと人格に問題がある危険人物だと思っていたが」

「島村はこの会場で一番最初に会ったのがセリューだ。なぁブラッドレイ、あんたもあいつの仲間に会ったならわかんだろ?
 巻き込んじゃいけねえ人達がどれだけ恐怖に怯えているか、どれだけ不安になっているか。
 ……確かにセリューはちょっと突っ走ることもあるけど平和を目指す気持ちと正義を信じる心は本物なんだ」

「それらしいことを言っているつもりだがね、ウェイブ君。
 君とセリューとやらは仲間らしいが他の皆は違うだろう。信頼感が違う。
 白井君達を殺しに掛かったらしいではないか、それでも君達は彼女を信頼するのかね」


ブラッドレイの言葉を聞いていた四人に電流が駆け抜けた。
一番最初に反応を示したのは小泉花陽だ、考えるよりも先に発言していた。「やっぱり」と。


213 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:37:49 SVKwwpvs0

あの二人がセリューを殺そうとするなど可怪しいと報告を受けた時に思っていた。
穂乃果は自分の大切な仲間だ。その仲間が人殺しに加担するなど有り得ない。
黒子は自分がこの会場で初めて会った人だ。年下ながら頼れる存在であり、小泉花陽を支えていた人物でもある。
氷を操る鳥に襲われた時も彼女は助けてくれた。何よりも殺しに加担するような人間何て有り得ない。



二番目に反応したのは由比ヶ浜結衣である。
その言葉一つが全てを物語っており、彼女の方針が大きく傾いた。
「あの人、やっぱ信用出来ないよ……」




三番目に反応したのは島村卯月だ。
彼女の中でセリュー・ユビキタスという存在は絶対である。
いつの間にか島村卯月の心を支配していた――恐らく南ことりが殺された時から。

あの時目撃してしまった光景が脳内に焼き付いている。忘れたくても忘れられない。
自分の首を触り目を泳がせながら、彼女の呼吸は乱れていく。

セリュー・ユビキタスが嘘を憑いていない、など絶対に言い切れることはない。
寧ろ聞いていた状況で白井黒子と高坂穂乃果が襲ってくる方が可怪しいのも理解している。
セリューの人格が破綻しているのも解っているつもりだ、けれど絶対である。
彼女は絶対だ、彼女に逆らえれば自分も殺されてしまう。首。彼女に従っていれば殺されることはない。

けれど、自分が所有していた名簿――渋谷凛の名前を潰され時、心から泥が溢れそうになっていた。

そして今も。



「セリューさんが嘘を……?
 でも、凛ちゃんと未央ちゃんを知っている人が嘘を憑いているのも信じられない……あれ?

 私、何か可怪しいことでも言っているので、しょ、う、か……」



次に反応していたのがウェイブ――最初に反応していたのは彼かもしれない。
ゆっくりと立ち上がり、ブラッドレイの間合いから離れ彼の行動を監視する。

セリューの報告があった時、マスタング恒例のエンヴィー発言があったために流れてしまった。
言えばよかった、マスタングにお前はエンヴィーに囚われ過ぎだ、と。
因縁や恨みが在るのは解るが、何でもかんでもエンヴィーに疑いを掛けた所で何も進まない。

現に高坂穂乃果を敵視した時も、島村卯月達を敵視した時も。有り得ない、そう言いたかった。
気絶している彼を責めても仕方がない。今はブラッドレイに悟られないことを祈るばかりである。

エンヴィーが高坂穂乃果に変化したとして、何故白井黒子が協力するのか。
考えなくてもセリューの報告は崩壊しており、エンヴィーの件で流されていなければ恐らくイェーガーズ本部は血で染められていた。


「島村……可笑しくねぇ。お前は何一つ可笑しくないんだ……悪いのは、悪いのは……!」


誰が責任を取るのか。
同僚が為出かした取り返しの付かない事態にウェイブは拳を握り震えていた。


214 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:38:48 SVKwwpvs0



「さて、君達に教えて貰いたいのはマスタング君の居場所とセリュー・ユビキタスの居場所だ。
 マスタング君から聞いているとは思うが別に私は無差別に殺し回っている訳ではない。
 脱出を第一に考えているのでね。図書館にはその手掛かりとなる人物が居るのでな。彼と合流する前にマスタング君を借りたい。
 ついでだが、本田未央君も図書館に居る。白井君達は音ノ木坂学院にでも行っていると思うが確証はない」


ブラッドレイが語った言葉には彼女達が求める情報があった。
島村卯月は本田未央に逢いたい。嘘や偽りの無い事実である。
小泉花陽は高坂穂乃果と合流したい――もう離れたくないから。

「一方的に話して申し訳ないがマスタング君とセリュー君の居場所を教えてもらえるかね」

「……………………」

誰もブラッドレイの言葉に答えない。
この中で一番行動するべき人間はウェイブであり、彼も自覚している。女性に押し付ける訳がない。

マスタングの居場所を教えても、ブラッドレイとは敵対関係だ。そして彼はエンヴィーの仲間。
教えた所で良い結末が訪れることは想像出来ず、マスタングが殺される未来が見える。

剣を構え、再び臨戦態勢に移行する。

セリューの居場所を教えても十中八九殺されるだろう。
仲間を売るような真似など誰がするものか、なら自分が此処で相手をして――。


「セリュー・ユビキタスなら彼処の小屋に居ます! お願いです、助けてください!!」


その言葉を聞いたブラッドレイの眉が動き、彼は黙って彼女が指を指した小屋へ歩き出す。
剣を軽く回した後に空を斬り、自分の状態を確認しながら着実に小屋へ向かっている。

渋谷凛を殺した所で、セリューに自分の悪評をばら撒かれては意味が無い。
何故殺したのか、敬意を示した渋谷凛に見せる顔が無い――のは二の次三の次であり、自分が動きやすい環境を創る必要がある。
無論渋谷凛に対しての思いは偽りではない。
殺人名簿が本物ならば自分やセリムのことが記載されているのは間違いないだろう。
タスクや本田未央と友好を築いた所で殺人名簿が露見されてしまっては信頼など簡単に崩れ落ちる。

ロイ・マスタングのことも記載されている筈だが軍人等何かしら理由を説明したのだろう。
でなかれば話で聞いているセリューとやらが殺している筈だ、つまりブラッドレイにも弁解する余地があった。過去形だ。

マスタングから自分のこと――ホムンクルスの情報が渡っていれば全てに意味が無くなる。
ウェイブの反応からして既に素性が明らかにされてしまったようだ。エンヴィーとも交戦していれば確実に黒判定であろう。


「礼を言うよ由比ヶ浜君。タスク君達と協力して首輪を外せることが出来たら君のも外してあげよう」

「タスク……やっぱりセリューの言っていることは全部デタラメ……ならヒッキーも――」


エンブリヲが正義でタスクが悪。セリューの証言である。
タスクが正義でエンブリヲが悪。ブラッドレイの証言である。

白井黒子と高坂穂乃果はセリューを殺しに掛かった。セリューの証言である。
セリューに白井黒子と高坂穂乃果は殺され掛けた。ブラッドレイの証言である。

比企谷八幡は盾にされて死んだ――セリューの妄言である。


215 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:41:44 SVKwwpvs0


ブラッドレイの発言から由比ヶ浜結衣のセリューに対する姿勢は完全に変わった。
いや、元々一貫していたが、恐怖故に隠していた思いが全面に飛び出すのだ。

セリュー・ユビキタスこそが悪である、と。







最悪だ、とウェイブは走り出しながら考えていた。
今まで黙っていたことが、目を背けていたことが此処に来て最悪の形で爆発してしまった。

元々セリューの行き過ぎた正義には注意をしなければと思っていた。
けれどそれは帝都の、世界の、民のためであり、仕方のない正義だと思い込んで自分に言い聞かせていた。
それがどうした、殺し合いに巻き込まれてからセリューが殺したのは小泉花陽の友人であり、守るべき存在ではないか。

自分はクロメ、天城雪子、名前も知らないけれど仲間だった犬。
助けたくても助けれない参加者が居た。自分の弱さが原因で救えなかった参加者が。
救える生命は全て救う――イェーガーズの仲間も同じ志を持っていると思っていた。

それは間違っていないと思う。

だがセリューが正しいかどうかを聞かれると黙ってしまう。


「やらせるかよォ!!」


縦に振り下ろした剣は振り返ったブラッドレイの剣によって防がれる。
更に一撃を加え体勢を崩そうとするが、ブラッドレイは顔色一つ変えずに防いでいた。

『セリューが間違っていようと仲間を見捨てるつもりはない』

仲間が殺されるのを黙って見ていられる程ウェイブは大人ではない。
溢れ出る怒りを剣先に乘せ、何度もブラッドレイの剣に叩き付けていた。

「戦う相手を間違えているんではないかね……まぁいい」

ウェイブが剣を振り上げた瞬間、ブラッドレイは空いている左腕でウェイブの顔面を掴み込む。
外から加えられる力によって歪む顔面だが、その力からは直ぐに開放された。

「――ガッ」

力だけでブラッドレイはウェイブの身体を宙に上げると、そのまま大地へ叩き付ける。
脳天から大地に叩き付けられたウェイブの口から血が飛び出し、草地を赤で染め上げた。
ブラッドレイは斬り付けようとしたが、自分の得物を優先するためにその場を後にし、再び小屋を目指す。

彼が歩き出したと同時に小泉花陽はウェイブの傍に駆け寄り、バッグから水を取り出した。
大丈夫ですかと声を掛けるも、目元を抑えて「ちくしょう」と小さく呟くだけだった。







「さっきからの物音は一体――!!」








「私はキング・ブラッドレイ。君をこれから殺す者だが何か言い残すことはあるかね」


216 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:42:18 SVKwwpvs0

小屋から出て来たセリューは得物を見付けた獣のように走り出す。
その表情は狂っているまでに黒い笑顔、悪を殺せる喜びに満ち溢れていた。

「殺人名簿にも載っていた男キング・ブラッドレイ! 私を襲うということは貴様は悪! 悪だ! 死ね!!」

日本刀を取り出しブラッドレイを斬り付けようとするセリューだがその一撃は防がれる。
構いなしに力で押し切ろうとするも、均衡を崩すことは出来ず、逆に押し返されてしまう。

後ろへ数歩蹌踉めいてしまい、その隙を狙ってブラッドレイが踏み込んでくる。
彼が繰り出す突きの下に刃を潜らせ、上に振り上げることで剣先を上空へ誘導し回避する。
ブラッドレイは瞬時に剣を引き戻し再度突きを繰り出すも、セリューは上から叩き付けるように防いだ。

「マスタングさんと同じ軍服だがお前は悪だ、いやマスタングも悪かもしれない。
 エンヴィーと間違えて天城雪子を殺したらしいが嘘を憑いていたに違いない……その軍服は全員悪だ!」

「彼はそんなことをしているのか」

「馬鹿の一つ覚えのように会う人間全員に貴様はエンヴィーかエンヴィーか……そうやって人を殺しているんだ!」

「全く……本当に私の知っているマスタング君かね?」

剣を日本刀で上から押さえ付けていたセリューは踏み込み、ブラッドレイに頭突きをかます。
しかし躱されてしまい、彼に背を向ける形になったため、急いで振り返るが遅い。


「なっ」


下から上げられたブラッドレイの一閃に日本刀は遠くに飛ばされてしまう。
無防備になったセリューに対し彼は喉元を斬り裂こうとするが、これも遅い。

上空から降りてくる物体を避けるために大きく後退し、発生する砂煙から目を守るために腕を盾にする。
砂煙が晴れると其処にはグラトニーのような異形の怪物が降臨していた。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアア」

「近くで喚くでない、狗め」

生物兵器であるコロが犬には似合わない肉と力を身に付けた姿でセリューを守るために小屋から飛び出して来た。
吠えるコロにブラッドレイは愚痴を零す。これで二対一だ。
ウェイブが真っ直ぐに走れるまでもう少し時間が掛かるだろう。
力量から察してウェイブは中々の腕を持っているが所詮はそれまで。
セリューも剣の腕は高くなく、この戦闘での懸念事項と言えば目の前に居るホムンクルスのような怪物だけである。

先に片付けるべきは怪物だ。走り出そうとするブラッドレイだが戦闘を中断するように声が聞こえてくる。


「やめてください、由比ヶ浜ちゃん!」

「離してよ……離してよったまむん!!」


217 : 名無しさん :2015/08/21(金) 00:43:24 SVKwwpvs0


戦闘が行わている地点から少し右に逸れている大地。
其処にはショットガンを構える由比ヶ浜結衣とそれを防ぐ島村卯月の姿があった。
島村卯月は両腕で銃身を掴み、対象となっているセリューに弾丸が飛ばないように力を振り絞って銃口を下へ逸らしていた。

「なんでセリューさんを撃とうとしているんですか!?」

「なんでって……あの人生かしといちゃまた被害者が出ちゃうよ……人が死んじゃう。
 ヒッキーや首だけの……南ことりのように死んじゃう人が……もうやだよぅ……。
 なのに自分は大切だからって穂乃果ちゃん達に襲われたって嘘を憑いていたんだよ、そんなこと有り得ないのに……ねぇ!」

溜め込んでいた泥が溢れ出し島村卯月に浴びせるように言葉を吐き出す由比ヶ浜結衣。
出会いも最悪だったセリューを信じるなど無理であった。恐怖で支配されている状態を信頼とは言えない。
同じ立場である島村卯月が仲間だと思っていたが違う。彼女は本気でセリューを信頼している節があった。

疑念は更に積もる。
比企谷八幡のことを自分の目の前で盾にされただの捨てられただの言いたい放題であった。
許せなかった。警察がどうしてそんなことを言えるのか。許せなかった。

ブラッドレイの言葉から泥はもう許容範囲以上に溜まり込んでしまった。
元々高坂穂乃果達を知らない由比ヶ浜結衣であるが、セリューから報告を受けた時に疑問が生まれていた。
一緒に行動していたマスタング達が有り得ないと言っていたのだ。どちらも会って間もないが信用は後者に傾いていた。
心の何処かでセリューを信じたくなかったのだろう。


「たまむんはさ……もう、壊れちゃったんだね――って私も、だから一緒だね」

「由比ヶ浜ちゃ――きゃっ!?」


緩んだ笑顔を一瞬だけ覗かせて。
由比ヶ浜結衣は島村卯月を飛ばし、尻もちを着かせた後で、ショットガンを一人、構えた。


218 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:43:59 SVKwwpvs0


由比ヶ浜結衣と島村卯月のやりとりを見ていたセリューの全身から汗が噴き出るような感覚に襲われる。


(高坂穂乃果達とのやり取りを誰かに――そんなの一人しかいない)


無論高坂穂乃果に襲われたことは偽りではない。
しかし説明の時には大分自分を美化していた自覚がセリューにはある。
元々高坂穂乃果達と行動していたウェイブとマスタング、小泉花陽には悟られなくなかったが遅かったようだ。

「ウェイブさんを攻撃したのはお前で間違いないな。そして妙なことを吹き込んだのも」

「はて、妙なこととは何のことかな。私の目では白井黒子君達が殺しに加担するような人間には見えなかったがね。
 そして私も詳しくは知らないがエンブリヲは君の価値観で定める悪に該当するがまぁ……気にしないだろう」

ブラッドレイは自分が逃した白井黒子達と接触したらしい。
マスタング達への説明時にはエンヴィーの線も含んでいたが、彼らは自分を黒と見るだろう。
唯一幸いなのはマスタングがバッグから出ていないことだ。
話を聞く限りブラッドレイとマスタングは敵対しているらしく、まだ自分側に引き込めるかもしれない。

などと考えているが、セリューの思考はこの後、一時途絶えてしまう。





島村卯月を押し飛ばした由比ヶ浜結衣はショットガンの狙いをセリューに定める。
ブラッドレイと戦闘を行っているが、会話に伴い動きを止めている今が好機。

震える指に無理矢理力を注ぎ込んでじっくりとトリガーを引く。

「だめ……だめぇ!!」

身体を起こした島村卯月はショットガンの銃身に多い被り強制的にセリューから狙いを逸らす。
対する由比ヶ浜結衣も無理矢理ショットガンを持ち上げ、再度構えるが今度は身体に島村卯月が纏わり付く。

「どうしてそんなにセリューを庇うの!? 庇って何があるの!?」

「セリューさんは私を助けてくれました……セリューさんは私を守ってくれたんです」


219 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:44:45 SVKwwpvs0


「目を……覚ましてよたまむん……っ」

「私はもう……セリューさんがいないと……凛ちゃんみたいに……りん…………ぁぁ」

話している内に由比ヶ浜結衣は島村卯月がセリューに依存していることを確信した。
確かに彼女に守ってもらえば生存率は上がるかもしれないが問題はそのセリューにある。
人格や行動、価値観に大きな問題があり、現に争いの火種になっている。

目を覚ませ。強い言葉を投げ付けたいが涙を流す島村卯月を見ると言葉が詰まってしまう。

開放してあげなきゃ、セリュー・ユビキタスから。

比企谷八幡をネタとして扱ったセリュー・ユビキタスを。

そして何よりも自分のために由比ヶ浜結衣はトリガーを今度こそ引いた。







「凛ちゃんみたいに死んじゃうのは嫌だ……嫌あああああああああ……






 ………………あれ、私、撃た、れ……………………」








起き上がったウェイブは言うことを聞かない身体を無理矢理走らせた。

小泉花陽は現実から逃げるように顔を伏せた。

キング・ブラッドレイは目を見開いていた。


由比ヶ浜結衣はショットガンを手放し膝から崩れ落ちていた。

セリュー・ユビキタスはコロに腕を喰わせて鉄球を発動していた。



島村卯月はセリュー・ユビキタスを庇ってショットガンの餌食となってしまった。


220 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:47:56 SVKwwpvs0


「ああああああああああああああああああああああああ」


怒りによって表情を歪めたセリューが咆哮と共に大地を駆ける。
これから起こるであろう最悪の事態を防ぐためにウェイブも走るが速さが足りていない。
ブラッドレイとの戦闘によって本調子ではない。今の彼じゃ間に合わない。

由比ヶ浜結衣は自分が犯した罪から逃げるように意識を手放している。
迫るセリューの姿は見えているが、逃げることもせずに、黙って薄ら笑いを浮かべていた。

「ウヅキちゃんをよくもよくもよくもよくもよくもよくもぉおあああああああああああああああああああああ!!」

豪快に振り回された鉄球は遠心力を味方に付け飴細工のように由比ヶ浜結衣の頭部を粉砕した。
飛び散る鮮血と跡形も無く吹き飛んだ頭部から彼女が絶命したのは覆しようのない事実である。
その光景を見ていた小泉花陽は現実か夢か解らなくなっていた。
人が死んだ。しかしこんな呆気無く、簡単に人の生命は終わるものなのか。
苦しんで死んでしまった天城雪子とは異なり、一瞬で死んでしまった由比ヶ浜結衣。

考える内に頭が混乱し、溢れ出る嘔吐感を抑え切れず、彼女は下を向いたまま体内から嘔吐物を吐き出した。




「ウヅキちゃん! ウヅキちゃん!!」




頭部が失くなった由比ヶ浜結衣の身体を蹴り飛ばしたセリューは倒れている島村卯月の身体を持ち上げる。
無慈悲に飛んで行く由比ヶ浜結衣の死体から溢れる鮮血が血の雨となってセリューを包み込む。

島村卯月の身体を何度も揺らすが、反応は一切ない。
何故彼女が死なないといけないのか。どうして死ぬべき人間が死なないのか。
オーガもスタイリッシュも。大切な人達が死んで、悪が蔓延る世界は反吐が出る。受け入れられない。
悪が蔓延るなら。自分が断罪するしかない。


「ウヅキちゃん……後で埋葬してあげるから少しだけ待っててね」


瞳から溢れ頬を伝う雫を指で拭き上げると、セリューの顔は正義の味方へと変貌する。
牙無き人を守り、明日に恐怖を夢見る民を救う正義の味方。
世界を汚す悪と戦う正義の味方。
例え血が飛び散っても行く末は誰もが笑顔で暮らせる世界を目指して、正義の味方が悪を殺す。

己に無理矢理付加値を与え、正義を執行するための建前を創り上げる。

「悲しみのところに申し訳ないが、君も島村卯月君の後を追ってもらう」

島村卯月の元へ駆け寄ったセリューを始末するべくブラッドレイが近付いていた。
自分の悪評を振り撒くセリューを生かしたところでメリットは何一つ生まれない。
彼女が生きていれば多くの死者が出る。問題はないが脱出の手掛かりとなる参加者が殺されてしまっては意味が無い。

白井黒子達から受けた話通り人格が破綻しているセリューを生かす理由など――無い。


221 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:48:37 SVKwwpvs0


「お前が来なかったらこんなことにはならなかった」

セリューはショットガンを拾い上げると片手でそのまま弾丸を放つ。
身体を改造している彼女ならば反動など生身の人間程影響は受けず、無動作で行動。
不意を突く形になるがブラッドレイは信じられないことに剣一つで弾丸を全て捌く。
その光景に瞳を丸くするセリューだが、これから殺す存在だ、驚く必要も萎縮する必要もない。

「キング・ブラッドレイ、亡き友島村卯月のためにもお前を此処で殺す」

ショットガンをバッグに収納するとセリューは鉄球を振るいブラッドレイの眼帯側から仕掛ける。
死角を狙う初歩的な攻撃だが効果は見込める――と思い込んでいた。

「破壊力は有るかもしれんが大振り過ぎる」

自然な動きで鉄球の下を掻い潜ったブラッドレイは剣を構えセリューに接近。
躱された事に驚き、行動が遅れるセリューだが黙って斬られる訳にもいかず、蹴り出しブラッドレイの腹を狙う。
しかし逆に足を掴まれてしまい、身動きが不可能となってしまう。

迫るブラッドレイの剣は簡単にセリューの左目を貫いた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「私とのお揃いは嫌いかね」


刺さった後も力を込めて眼球を抉り潰すブラッドレイ。
痛みに耐え切れず顔を歪めて荒れ狂うセリューは強引に腕を振るい、鉄球を呼び戻す。
自分と鉄球の間にブラッドレイがいるため、背後からの攻撃となるが簡単に当てれる程ブラッドレイは愚かではない。

「くそおおおおお……殺してやる、死んで悔い改めろ!」

引き抜かれた剣、開けられた穴から血が吹き出しセリューは左腕で抑え流血を止める。
生まれたての赤児のように叫ぶ訳ではなく、生きている右目は憎しみを込めてブラッドレイを睨んでいる。

対象である彼は剣を抜いた後、セリューの目の前から離脱し鉄球を回避。
ウェイブ、セリューと連戦しているが未だに傷は無し。圧倒的な強さを見せ付ける。

「オラァ!!」

ブラッドレイの背後から剣を振り下ろしたウェイブだが一歩動かれ回避されてしまう。
気配を殺したつもりであったが、ブラッドレイに感知されていたようだ。

無防備となったウェイブの腹に膝蹴りを決め、彼の身体を折り曲げるともう一度足を振り上げ腹を蹴飛ばす。
大地を何度も跳ね上げながら転がっていくウェイブ、彼と入れ替わりにコロが身体を肥大化させブラッドレイに迫る。

口を大きく広げ噛み殺さんと覆い被さるように落下するがその地点にブラッドレイはいない。

「!?」

殺すべき対象が消え、戸惑うコロ。
ブラッドレイは――己より上にいた。


222 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:49:33 SVKwwpvs0

ウェイブを蹴り飛ばした後、迫るコロに気付いていたブラッドレイはコロよりも高く跳び、視界から逃れた。
コロの鼻の上に降り立つと有無を言わさず剣を横に一閃し、コロの両目を潰す。

「!?!?!?!?」

何が起きたか理解出来ないコロは本能と野生に従い己の目先に居るであろうブラッドレイを殺すべく両腕で潰しに掛かる。
しかし両腕は掌を合わせ豪快な音を響かせるだけに終わり、ブラッドレイは既に大地へ降下していた。

「錬成でも行うつもりか?」

掌を合わせた行為に皮肉を一つ飛ばすもコロにはそれこそ理解出来ないだろう。
煽られていると直感し大きく吠えるが、ブラッドレイは耳を防ぐ訳でもなく、迫る鉄球に対処しようと着地と同時に足を動かした。

「死ねええええええええええええええええええ!!」

着地の瞬間なら身動きは取れまい、セリューは鉄球を振るいブラッドレイを殺す。

「手応えアリ――なっ!?」

鉄球に付着していたのはブラッドレイではなく、彼が羽織っていた軍服。

「流石に今のは危なかったが……生憎、この目はよく見えるのでな」

(正義秦広球では動きが大き過ぎてブラッドレイには当てられない……)

鉄球が通り過ぎた地点から更に右へ視線を移行させるとブラッドレイが立っていた。
これだけ戦闘を行っても傷一つ付けられない、今まで対峙して来た悪の中で一番強い。
自分とウェイブとコロを相手に此処まで振る舞える人間はエスデスぐらいしか思い浮かばない。
エスデスよりも強いとは思わない。だが、キング・ブラッドレイは強い。認めざるを得ない。



「しかし私も四人相手は疲れる……どうかね、マスタング君。同じ世界の者として此処は一つ共闘するのもいいと思うが」


「黙れラース。お前まで生きているとなると広川の存在に疑問を抱くな。まるでお父様とやらも生きているように感じてしまう」



セリューが振り向くと、マスタングがウェイブに肩を貸しながら此方へ歩いている。
目が覚めたマスタングはバッグから出てくると傍に倒れているウェイブを助け、セリューの横まで辿り着く。
何も発言せずに視線を横へ逸し倒れている島村卯月とその奥に在る由比ヶ浜結衣だった身体を見つめる。

何が起きたか理解は出来ない。だが結果だけは解る。
誰にぶつければいいか解らない怒りを胸に秘め、彼はブラッドレイへ言葉を投げる。


「お前の目的は何だキング・ブラッドレイ。参加者を殺し回る男だとは……思いたくは無い」

「私の目的はこの会場から脱出し父上の元へ帰還すること……だが君は何を言っている?
 『お前まで生きている』『お父様とやらも生きている』……まるで私達が死んでいるかのような発言だな」

「そうだホムンクルス。お前もセリムもお父様もエンヴィーも……グリードも全員死んだ。
 記憶を操作されているのかもしれんがお前程の男が広川に洗脳されるとは思わん。
 私を騙すつもりかもしれないが、その程度で欺けると思われているとは元部下として心外だ」


「良く回る口ではないか。
 聞いた話ではエンヴィーと間違え参加者を一人殺したそうではないか。
 どうだ、イシュヴァール人と同じように焼き殺したのかね、マスタング大佐」

「――ッ!!」


ブラッドレイの言葉を聞いてマスタングは無意識の内に焔を錬成していた。
迫る焔を軽く首を撚るだけで回避するブラッドレイは余裕の表情を浮かべている。
後ろでコロを燃やしている焔が、ブラッドレイの恐怖を演出しているかのように盛り上げている。


223 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:50:48 SVKwwpvs0


セリューはコロが燃やされていることに怒りを覚えるが、ぶつける相手はブラッドレイに絞る。

「マスタング……さん。貴方も断罪することになるかもしれませんが今はブラッドレイを一緒に殺しましょう」

「……話してからでは遅い、か」

「ええ。貴方がバッグの中で寝ている間にウヅキちゃんとガハマちゃんは殺されました」

「……っ、そうか。それは――本当なのかウェイブ」







「あぁ……本当、だ……ブラッドレイに殺された」


甘い。
セリューの行き過ぎた正義を目撃しても咎めなかったように。
出会う参加者全員にエンヴィーの疑いを掛けるマスタングに忠告出来なかったように。

ウェイブは真実を押し殺して現場が一番動く選択をした。偽りを吐いて、戦場を調整する。
此処で自分が本当の結果――由比ヶ浜結衣を殺したのがセリューと告げても状況は好転しない。
マスタングが敵に回る可能性も在る。それは避けるべきだ。ブラッドレイは強い、頭数が必要である。

「ウェイブ、何故そんな辛い表情を浮かべているんだ?」

「気にすんなよ馬鹿野郎……俺達は遅過ぎんだ……」


「君は本当にロイ・マスタング君なのかね。私が知っている彼よりも大分小さい男に見える。
 バトル・ロワイアルで君が何を得たかは知らないが……その身柄、私が引き受けよう」


駆けるブラッドレイにマスタングは焔を錬成、これを回避される。
今度はコロを焼かないよう方角を調整したのが仇になったか、一人顔を歪めるマスタング。
二人の間にウェイブが入り、剣を剣で防ぐ。
その隙間を縫うように焔が迫る。当然のようにウェイブは回避するがブラッドレイも回避する。





しかも彼が移動した先はウェイブの目の前。剣を振るいウェイブの腕を斬り裂く。
「――テメェも斬られろ!」
ウェイブの左腕を美しく辿ったブラッドレイの剣。
斬り落とすには程遠いが一般人なら喚く程の傷を負ったウェイブ。だが弱音は吐かない。

密着したブラッドレイを斬り裂くべく右腕を払うも、上半身を折り曲げることで回避されてしまう。
体勢を整えたブラッドレイがウェイブを始末するべく動こうとするが、背後から匂う火薬に足を止める。


「塵一つ残らないように吹き飛ばしてやる! あの世で詫び続けろキング・ブラッドレイィィイイイイイ!!」


コロとの連携により正義初江飛翔体を放ったセリューが歪んだ黒い笑みを浮かべて叫んでいた。
初江飛翔体とは無数の小型ミサイルとでも覚えればいい。
キング・ブラッドレイを殺すために彼を包囲するようにミサイルが降り注ぐ。

「――ふむ」

ブラッドレイはミサイル全てを視界に捉え、自分が生き残る最善のルートを導き出そうとしている。
ミサイル全てが一斉に爆発する訳ではなく、誘爆して広がっていく。ならば抜けれる道は必ずある筈だ。
その目で捉えられぬモノなど存在しないと思っていた。が、外部からの干渉は予知出来ない。


「聞きたいことは山程あるがもう一度眠れ――フラスコの中の小人!!」


パチン。
乾いた世界に指を弾く音が響く。
マスタングはブラッドレイの恐るべき瞳を知っている。
無数のミサイルに囲まれようと一度に全て爆発すれば、「回避出来るかどうか見させてもらおうかッ!」


224 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:51:15 SVKwwpvs0

弾かれた指から焔が生まれミサイルに迫る。
既にウェイブとマスタングは爆発の範囲から逃れ――ている訳でもないが距離を取っていた。
伏せれば重症は免れる地点にまで移動済み、爆発の中心に居るのはブラッドレイだけだ。

次に近いのはセリューだがコロに庇ってもらえば死ぬことはないだろう。
決して表には出さないがマスタングは仮にセリューを巻き込んで殺してしまっても――真意は彼だけが知っている。

「余計なことをしおって!」

ブラッドレイの口から初めて怒りが零れる。
焔が到達するまで時間はそう掛からない。生き残る道は運任せと入ったところか。
無論生き残るが、その後の戦闘では不利になってしまうだろう。

マスタングを回収しセリューを殺す。
その後に図書館へ向かいタスク達と合流――計画が大きく逸れてしまった。
一度に多人数を相手にするのは不得意ではないが、個性が強過ぎた。
しかも近接のウェイブ、高火力のマスタング、全身武装のセリューと隙が無く、破壊力が高い組みだ。

此処まで傷を負っていなかったのが奇跡であろう。ホムンクルスでもなければ。


「さぁ死ね! 悪は滅びろ! イェーガーズの名の下に正義を執行する!!」


勝った。
勝利を確信してセリューが高らかに己の正義に酔いしれ天へ叫ぶ。
彼女が最後に見たのは無数の初江飛翔体に囲まれ、焔に追い打ちを掛けられるブラッドレイの姿。
そう、最後に見た光景だ。

最後に見た光景だ。



派手に暴れていた戦場にたった一つの乾いた銃声が響いた。



「……え?」



正義に酔っていたセリューが急に真顔となり驚いた声を上げる。
呆気に取られたようなその声はブラッドレイ達全員の耳にこべり付いている。
この状況を説明出来る存在などホムンクルスを含めて誰一人としていない。


225 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:51:59 SVKwwpvs0



「な、んで……」


蹈鞴を踏むように後退していくセリュー。
その足取は今にも崩れそうな程に脆く不安定である。

その光景を見てウェイブは叫びながら走ろうとするがマスタングがそれを抑える。
暴れ狂うウェイブだが走れば爆心地へ赴くことと同義であり、マスタングは全力で彼を止めている。
無理矢理頭を大地に擦り付け、爆発に備える形となってしまった。


「セリュー!! ちくしょおおおおおおおおお」


セリューはやがて己の生命が行方不明になったような、生きている感覚を無くす。
身体をスタイリッシュに改造された時でも感じなかった生命の損失を感じていた。


放たれた弾丸はセリューの口内に着弾し、彼女の意識は闇へ消えようとしていた。
弾丸が飛び抜けていないことからまだ、セリューの口内には残っているのだろう。
ブラッドレイもウェイブもマスタングも銃を持っていない。
持っているとすれば自分の中に入っているショットガンぐらいだが、バッグの中に収納されている。
それに弾丸は散弾ではなく、単発。つまり銃そのものが違う。

ならば射手は新手の悪しか存在しない。

焔がミサイルへ到達する最中、セリューが見た光景はマスタング達の後ろで銃を構えているスーツ姿の男だった。


「悪は……こひゅ……こ、コロ……殺す……」


現実から逃げるように何度も後退していた彼女を待っていたのは――浮かぶ会場故に存在する奈落。



「セリュ……あ」



ウェイブが延ばした腕は遥か遠くであり、届くはずも無い。

彼が掴んだのは虚しいだけの空気であり、マスタングの焔がミサイルを爆発させていた。


226 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:53:19 SVKwwpvs0



「な、んで……」


蹈鞴を踏むように後退していくセリュー。
その足取は今にも崩れそうな程に脆く不安定である。

その光景を見てウェイブは叫びながら走ろうとするがマスタングがそれを抑える。
暴れ狂うウェイブだが走れば爆心地へ赴くことと同義であり、マスタングは全力で彼を止めている。
無理矢理頭を大地に擦り付け、爆発に備える形となってしまった。


「セリュー!! ちくしょおおおおおおおおお」


セリューはやがて己の生命が行方不明になったような、生きている感覚を無くす。
身体をスタイリッシュに改造された時でも感じなかった生命の損失を感じていた。


放たれた弾丸はセリューの口内に着弾し、彼女の意識は闇へ消えようとしていた。
弾丸が飛び抜けていないことからまだ、セリューの口内には残っているのだろう。
ブラッドレイもウェイブもマスタングも銃を持っていない。
持っているとすれば自分の中に入っているショットガンぐらいだが、バッグの中に収納されている。
それに弾丸は散弾ではなく、単発。つまり銃そのものが違う。

ならば射手は新手の悪しか存在しない。

焔がミサイルへ到達する最中、セリューが見た光景はマスタング達の後ろで銃を構えているスーツ姿の男だった。


「悪は……こひゅ……こ、コロ……殺す……」


現実から逃げるように何度も後退していた彼女を待っていたのは――浮かぶ会場故に存在する奈落。



「セリュ……あ」



ウェイブが延ばした腕は遥か遠くであり、届くはずも無い。

彼が掴んだのは虚しいだけの空気であり、マスタングの焔がミサイルを爆発させていた。


227 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:54:15 SVKwwpvs0



【それからの物語】



爆発が大地を容赦なく抉り、崩し、砂煙が舞い、草地は跡形も無い有様となる。
逸早く身体を起こしたマスタングは周囲を警戒しながら近況を確かめる。

「何も見えん……ウェイブは居るようだが」

砂煙と爆風が吹き荒れ視界は全て埋められてしまい、自分が何処に立っているかも解らない。
解ることと云えば近くで倒れているウェイブぐらいだ。

「花陽くんも無事だといいが……目を離しすぎた」

マスタングが目を覚ましバッグから出て来た時には既にブラッドレイが襲来していた。
交戦中のため自らも参加したが、戦闘に参加していない小泉花陽に対する配慮が欠けていた。
戦地からは離れていたが、無事であることを祈るばかりだ。
何とも詰めが甘い。自分を嘲笑うように分析するマスタングだが物理的に詰めの甘さを体感する。


「本当に目を離し過ぎだ、ロイ・マスタング大佐」


「ブ……ラッ……」


人間離れしたホムンクルス――ラースの眼ならば声を出して居場所を自ら曝け出しているマスタングに接近するなど容易いことだった。
拳を腹に叩き込まれたマスタングは唾を吐き、戦意虚しくその意識を手放してしまう。
倒れるマスタングの身体を受け止めたブラッドレイは半信半疑で己のバッグにマスタングを収納し始めた。
明らかに容量を超えているが、するするとバッグに吸い込まれていくマスタングを見ていると広川の技術力に感心せざるを得ない。

「君には失望……とはいかないが本当に私の知っているマスタング君か確かめさせてもらうとしようか。
 それに言っていた私や父上が死んだとは面白いことを言うではないか……まるで未来から来たようだ。
 あの錬成は人柱の証……真理に触れているのが『未来らしい』。どうやら私が思っている以上に事態は大きく動いているようだ」

計画に必要な人柱。それに該当するマスタングが死ぬ前に確保しようとしていたが既に人体錬成を済ませていた。
ブラッドレイの知るマスタングは決して人体錬成を行わない人間だった筈だ。
マーズ・ヒューズの時にも行わなかった。
もしものためにホークアイ中尉を媒体に人体錬成を行わせる計画もあったが、それも確実とは言えなかった。

気になると云えば白井黒子から聞いたマスタングは腕を欠損していたはずだ。
だが彼の腕は健在であった。つまり賢者の石を使用した疑いがある。

そしてセリューが言っていた参加者の誤殺。
ブラッドレイの知っているマスタングとは異なる人物が彼のバッグに収納されていた。



「ガァ……マスタングを、返せ……!」


228 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:55:22 SVKwwpvs0

背後から奇襲を仕掛けたウェイブに対し、振り向き様に拳を放つブラッドレイ。
顔面に吸い込まれた拳はそのままウェイブを吹き飛ばした。

「筋は悪くない。
 今の君は迷い過ぎだ……私が完全ならば此処で殺しているんだがね。流石に疲れたよ」

無数の爆発から無傷で生還するのは流石のキング・ブラッドレイでも不可能だった。
己に向かう爆発に付着する面積を最小限に抑え、ミサイルの嵐を掻い潜っていた。
元々雷光の錬金術師――御坂美琴との交戦で左腕が不完全な状態であった。
もう少しで本調子へ回復するが、現状無理な交戦を重ねるのは体力の無駄な消費である。

よってウェイブは此処で見逃す。
マスタングを回収しセリューを殺す当初の目的は達成出来たのだから。
無論若くして強さを持っているウェイブの未来が楽しみであると――大総統キング・ブラッドレイとしての思惑が在るのかもしれない。

この場所から去ろうとする前に迫る魔弾を剣で弾き返す。

「全くムードも何もあったもんじゃない」

「完全な不意を狙って余計な行動はしていないが、お前は怪物かキング・ブラッドレイ。銃弾を弾きやがって」

「その声――狡噛慎也君か。君は私よりも先に消えたから此方へ来ていないと思っていたよ。
 それにしてもこの状況で私を狙ってくるとは君の眼は随分と人間離れしている」

「俺は人間だ。お前の居場所が解ったのは声だ」

狡噛慎也。
ブラッドレイが白井黒子達と遭遇する前に彼女達に接触していた男。
シュビラシステムと云う興味深い世界から来たと告げる執行官。警察官だ。

「頼まれたんだよ。お前を殺せと云う頼みじゃ無いのが残念だ」

「高坂穂乃果から救援でも求められたのだろう。
 私もセリュー・ユビキタスを排除しようとしていたから助かった」

「食えん奴だ。最後の一番汚い仕事を俺に押し付けやがって。
 お前ならあのままセリュー・ユビキタスを斬る事も出来た筈だ。何が狡噛慎也君、だ。
 最初から気付いていたんだろう、お前みたいな奴は上手く人々に紛れ込める潜在犯だ」

「褒め言葉として受け取ろうかね。
 君も私と会話して気づいている筈だが私はむやみに人を殺すつもりはない」

「それが最悪なんだ。お前はそうやって一般の目からは安全圏に居ようとする、質が悪いクソ野郎だ」

「はっはっは……君といい雷光といい渋谷――まぁいい。面白い若者ばかりだ――また会うことを楽しみにしているよ狡噛慎也君」

その発言を最後にブラッドレイは砂塵の中へ消えて行った。
狡噛慎也は後を追うことも無く、風が全てを流すのを待っていた。


砂塵が消えた時、キング・ブラッドレイの姿は無かった。


229 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:56:19 SVKwwpvs0

狡噛慎也の瞳に映るのはミサイルよって分断されてしまった大地。
奈落の向こう側には本田未央の知り合いである島村卯月の死体が見える。
しかし駆け付けるにはエリアを大きく迂回しなければ辿り着けない。

主にセリューとマスタングの戦闘により炎だの銃声だの響いてしまった今、このエリアに滞在するのは危険である。

――恨むなら広川を恨め。

セリュー・ユビキタスでもない黒幕或いはそれと繋がっている広川を恨め。
セリューも世界と運命が違えば正義感に燃える正義の味方だったかもしれない。
巡り合わせが悪いと思え。それで納得出来ないかもしれないが死んでしまえば物語は潰えてしまう。


――広川は俺が殺してやるさ。槇島と一緒に、な。


狡噛慎也は倒れているウェイブの傍に駆け寄ると息を確認する。
口元に手を持って行った結果、息はある。つまりウェイブは生きている。


「ウェイブさんをどうするつもりですか……狡噛さん」


恐る恐る近付いて来た小泉花陽が震えた声で狡噛慎也に話し掛ける。
セリューとブラッドレイの戦闘が激化しマスタングが加入した後に狡噛慎也は駆け付けていた。
彼が真っ先に取った行動は無力で震えていた小泉花陽の保護だ。
森の中へ彼女を逃し名前を聞く。――ビンゴだ。狡噛慎也は胸の中で当たりを引いたことを確信した。

高坂穂乃果の名前を出し小泉花陽の顔に笑みが宿る。
事情と彼女の無事を説明した狡噛慎也は元凶であるセリューを殺さんと動き出した。
遠目でも解る。ドミネーターが不要な程に悪と断定出来る存在だった。

焔と巨大な怪物とミサイルが吹き荒れるB級映画のような戦争を彼は弾丸一つで終わらせた。


「セリュー・ユビキタスの仲間だから殺す、と思っているのか?
 心配するな。こいつを殺すつもりなんて無い、一緒に助けてやる――っと」


ウェイブの身体を担いだ狡噛慎也は空いている手で東を示し小泉花陽に訴える。

「言った通り高坂穂乃果達は音ノ木坂学院を目指している。俺達も行くぞ」

小泉花陽は高坂穂乃果の無事を確認する度に笑顔になっている。
大切な人が生きている――もう誰も失いたくない思いなんて抱きたくないから。


――煙草は……やめておくか。


そして戦地を後にして彼らは音ノ木坂学院へ向かう。



【由比ヶ浜結衣@俺の青春ラブコメはまちがっている。 死亡】


230 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:57:56 SVKwwpvs0

【D-5/一日目/午前】

※限りなく正午に近い。
※東西を分けるように奈落が出来ました。

【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、腕に刺傷(処置済)、左腕に痺れ(感覚無し、回復中) 、両腕に火傷
[装備]:デスガンの刺剣(先端数センチ欠損)、カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2(刀剣類は無し)
[思考]
基本:生き残り司令部へと帰還する。そのための手段は問わない。
1:図書館に向かいタスクらと一旦合流する。
2:稀有な能力を持つ者は生かし、そうでなければ斬り捨てる。ただし悪評が無闇に立つことは避ける。
3:プライド、エンヴィーとの合流。特にプライドは急いで探す。
4:エドワード・エルリック、ロイ・マスタング、有益な情報、技術、帰還手段の心得を持つ者は確保。現状の候補者はタスク、アンジュ、余裕があれば白井黒子も。
5:エンブリヲは殺さず、プライドに食わせて能力を簒奪する。
6:御坂は泳がしておく。
7:マスタングが目を覚ましたら認識の齟齬について問い正す。
[備考]
※未央、タスク、黒子、狡噛、穂乃果と情報を交換しました。
※御坂と休戦を結びました。
※超能力に興味をいだきました。


【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:気絶、疲労(大)、精神的疲労(極大)、セリューへの警戒
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、賢者の石(8割ほど消費)@鋼の錬金術師
[道具]:ディパック、基本支給品
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:キング・ブラッドレイに対処する。
1:治療した腕で錬金術が使えるか試す。
2:ホムンクルスを警戒。 エンヴィーは殺す。
3:ゲームに乗っていない人間を探す。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。


231 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 00:58:35 SVKwwpvs0

【狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】
[状態]:健康、左腕に痺れ、槙島への殺意
[装備]:リボルバー式拳銃(4/5 予備弾50)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考]
基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:小泉花陽とウェイブを連れて音ノ木坂学院へ向かう。
2:槙島の悪評を流し追い詰める。
3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
4:危険人物は可能な限り排除しておきたい。
5:キング・ブラッドレイに警戒。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒、戸塚、黒子、穂乃果の知り合い、ロワ内で遭遇した人物の名前と容姿を聞きました。


【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:気絶、ダメージ(中)、疲労(中)、左肩に裂傷、左腕に裂傷
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:ディバック、基本支給品×2、不明支給品0〜4(セリューが確認済み)、首輪×2、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!、ディバック(マスタング入り)
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。
0:キンブリーは必ず殺す。
1:マスタングをブラッドレイから救う。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:セリューの仇を……取るのか?
6:穂乃果……
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。
※自分の甘さを受け入れつつあります。


【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(極大)、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません)、セリューへの恐怖
[装備]:音ノ木坂学院の制服
[道具]:デイパック×2(一つは、ことりのもの)、基本支給品×2、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ
    スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation 、寝具(六人分)@現地調達、サイマティックスキャン妨害ヘルメット@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す
0:狡噛慎也、ウェイブと共に音ノ木坂学院へ向かう。
1:西木野真姫を探す。
2:穂乃果と会いたい。
3;μ'sの仲間や天城雪子、島村卯月、由比ヶ浜結衣の死へ対する悲しみと恐怖。
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後。
※イェーガーズ本部に穂乃果への書き置き(図書館に向かう)を残しています。


232 : 名無しさん :2015/08/21(金) 00:59:52 SVKwwpvs0
リボルバーの残弾マイナス1です、見落としでした


233 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 01:00:26 SVKwwpvs0

私はこの世界に生きている悪が嫌いだった。

生かしておいても何一つ世界に役立たない屑が嫌いだった。

私はいつからか正義を追い求めて軍に入り、悪を排除するために生きていた。

その中でオーガ――偉大な師に出会った。

でも、悪に殺された。

ナイトレイド、その名は一生忘れない。

生物帝具をも得た自分ならばナイトレイドにも負けない。

オーガさんの仇を取れる。嬉しくて仕方無い。


自分の両腕と引き換えにナイトレイド一人を殺した。

足りない。

自分には強さが足りない。

エスデス将軍の元、特殊警察イェーガーズが結成された。

自分以外強烈な色物集団だが、其処が自分の居場所だった。

笑顔になれる、自分が居ていい場所、帰っていい場所。




でもスタイリッシュが死んだ。


みんな私から離れていく。


悪は嫌いだ。


殺さなきゃ。殺さなきゃ。断罪しなきゃ。


何時だって人々は正義に憧れて、平和を夢見ている。


私は戦う力を持っている。だから悪を殺して平和を勝ち取るんだ。


だから。




「私、まだ死にたくないよぉ……なんでこんなことになっちゃったのかなぁ」



セリュー・ユビキタスの瞳から溢れ出る涙は、美しく、儚く、一人の女性として見せる表情だった。

神が居れば此処で彼女を助けるのだろう。

神は存在しないかもしれない。だが彼女を助ける――仲間は此処に居る。


234 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 01:01:20 SVKwwpvs0

それは奇跡だった。
全てが偶然の重なりによって生まれた奇跡である。
キング・ブラッドレイや狡噛慎也も気付いていないたった一つの奇跡がセリュー・ユビキタスに祝福を齎した。

由比ヶ浜結衣がショットガンを放った時、銃弾は全て島村卯月が受け止めた。
だが島村卯月は血を流しただろうか。否、流していない。
銃弾を喰らっても平気な身体である可能性は無い。島村卯月は普通の人間である。

何故彼女は血を流さなかったのか。
それは衣服の下に纏っていた帝具クローステールが銃弾から守ってくれたから。
ナイトレイドの一員であるラバックが使用していた糸の帝具が島村卯月を守っていた。

ラバックはクローステールを使い多様な戦法を用いていた。
罠を張ったり盾として使用したり、衝撃を吸収するクッションとしても用いていた。
クローステールの恐ろしい所は一回でも身体に付着すれば心臓まで辿り着き斬り裂くこと。

セリュー・ユビキタスは由比ヶ浜結衣を殺し島村卯月に近付いて触れていた。
この瞬間――クローステールはセリュー・ユビキタスの足に付着していたのだ。

狡噛慎也の銃弾に倒れたセリュー・ユビキタスは奈落へ落下した。
しかしその寸前まで口内を撃たれているのに彼女は言葉を発していた。
本来ならば声はおろか呼吸も出来ない筈だが彼女は何故言葉を発せたのか。

今更ではあるがセリュー・ユビキタスの身体全てが生身であるとは言い切れず、事実機械人間の側面を持っている。

残弾は全て没収されているが――彼女の口内には隠し銃が備わっているのだ。
狡噛慎也が放った銃弾は隠し銃に当たり、セリュー・ユビキタスは生きていた。

そして足に付着していたクローステール。

全ての奇跡が重なった今、奈落の底へ落ちる前に、彼女は島村卯月によって陸地へ引き上げられていた。



「私――生きている?」


「セリューさん……っあぁ……良かった、私、私……」



陸地に上がったセリューは自分が生きていることに戸惑いを隠せない。
走馬灯まで見たのだ、死を覚悟していた。
悪を断罪出来ない今後と自分の弱さに涙を流しなから死んだ筈だった。
近くに寄り添っている傷付いたコロを見て、更に涙を流す。

そんな彼女を待ち受けていたのは涙を流して自分を抱きしめる島村卯月だった。


235 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 01:01:55 SVKwwpvs0

抱きしめられながらも現実へ適応出来ないセリューは咄嗟に左目を触る。
既に血は止まっているが、何も見えないのだ。
キング・ブラッドレイに潰された左目――つまりこれは現実。


「ウヅキちゃん……ウヅキ……ちゃん……ありがとう、私死にたくなかった……っ」


そして現実を認識する。
同時に涙が溢れ出るのを堪え切れなくなり、感謝の言葉と共に全てを流す。
悪と云えどキング・ブラッドレイの強さは本物であった。
今まで対峙してきた悪の中で一番の強さであり、人間離れした力には恐怖を感じていた。

「私、セリューさんが生きていて本当に良かった……あぁ」

「ごめんね……心配かけてごめんね、私が弱くて悪を裁けないから」

二人の女性が互いに抱き合い互いに涙を流す。
行き過ぎた正義の成れの果てに待っていたのは断罪でも執行でも無く島村卯月だった。
セリューが会場で初めて出会った無垢な民。
戦う力を持たない彼女が自分を救うとは思ってもいなかった。
守るべき存在に守られてしまいセリューは己の弱さを感じるが、今は違う。どうでもいい。

島村卯月。

彼女は絶対に守り抜く。正義に誓い彼女を生きて還す決意を此処に固めていた。

「ウヅキちゃん、私に着いて来てくれる? これからたくさん危険なことが待ち受けているけど、ウヅキちゃんは」

漏れた言葉は正義の味方らしくない弱音だった。
戦いの果てに待っているのが自分を受け入れない世界だとしたら。
憧れのためだけに戦い続けた結果、最後に訪れるのが誰もいない世界だとしたら。

セリュー・ユビキタスは壊れてしまう。
キング・ブラッドレイによって自分の証言の偽りが明かされた時、この世から消えたいと思った。
事態は自分で変える事が出来ず、ウェイブとマスタングが味方にならなければ確実に死んでいた。

もう、死にたくない。


236 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 01:02:51 SVKwwpvs0


「私はセリューさんに着いて行くことしか出来ません。首が、生命を守ってください……。
 勝手でごめんなさい、でも私にはセリューさんしか……凛ちゃんみたいに死にたくな……うぅ」

彼女達は互いを求め合い、互いを大切し生きている。
人間は弱い。一人では生きれない。けれど、心を閉ざしていれば一生独りで幕を降ろしてしまう。

寄り添い合って生きなければ人間は脆く崩れてしまう。
それはセリュー・ユビキタスも島村卯月も同じであり、彼女達は人間である。

その涙は造られたモノではなくて、本物の涙だ。美しいと称せる程に輝いている。



「ありがとうウヅキちゃん。私、必ず貴方を守るから、だから――私も頑張るから一緒に頑張ろうね」

「はい……はいっ」



残された彼女達が進む道は茨以上に尖っており、これから幾つもの死体を見るかもしれない。
だが進むしか無い。己の正義を信じて進むしか無い。
戦わなければ死んでしまう。セリューの行動と人格は強烈過ぎた。今更悲劇のヒロインを気取れない。



彼女達が進む先は悪が蔓延るあの場所。



島村卯月の友である本田未央が居るあの場所。



――図書館だ。


237 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 01:04:30 SVKwwpvs0


【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(絶大)、精神的疲労(大)、左目損失(止血済み)、切り傷(それなり)
[装備]:日本刀@現実、肉厚のナイフ@現実、魔獣変化ヘカトンケイル@アカメが斬る!
[道具]:なし
[思考]
基本:会場に巣食う悪を全て殺す。
0:島村卯月を最後まで守る。
1:悪を全て殺す。
2:エスデスとの合流。
3:エンブリヲと会った場合、サリアの伝言を伝えて仲間に引き入れる。
4:ナイトレイドは確実に殺す。
5:図書館をへ向かい襲撃する。
6:都市探知機が使用可能になればイェーガーズ本部で合図を上げて、サリアを迎え入れる。
[備考]
※十王の裁きは五道転輪炉(自爆用爆弾)以外没収されています。
※他の武装を使用するにはコロ(ヘカトンケイル)@アカメが斬る!との連携が必要です。
※殺人者リストの内容を全て把握しました。
※都市探知機は一度使用すると12時間使用不可。都市探知機の制限に気付きました。
※他の参加者と情報を交換しました。
 友好:エンブリヲ、エドワード
 警戒:雪ノ下雪乃、西木野真姫
 悪 :後藤、エンヴィー、ラース、プライド、キンブリー、魏志軍、アンジュ、槙島聖護、泉新一、御坂美琴




【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:悲しみ、セリューへの依存、自我の崩壊(小)、精神疲労(極大)、『首』に対する執着、首に傷
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!
[道具]:ディバック、基本支給品
[思考]
基本:元の場所に帰りたい。
0:セリューに着いて行く。
1:セリューと行動を共にする。
2:セリューに助けてもらう。
3:凛ちゃんを殺した人をセリューに……?
4:死にたくない。
5:未央ちゃんは図書館に居る……?
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※渋谷凛の死を受け入れたくありませんが、現実であると認識しています。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※自分の考えが自分ではない。一種の自我崩壊が始まるかもしれません。
※『首』に対する異常な執着心が芽生えました。
※無意識の内にセリューを求めています。


238 : 正義執行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 01:04:48 SVKwwpvs0
投下を終了します


239 : 名無しさん :2015/08/21(金) 01:35:32 lFOa5otc0
投下乙です

大総統つえええww改めてこの人の凄さを再確認した
ガハマさんは退場か。最初から最後までかわいそうだったなぁ。
セリューと島村さんのサイコパスが濁り過ぎてヤベぇ…


240 : 名無しさん :2015/08/21(金) 01:36:40 9NrhJScI0
投下乙です
指摘なのですが、由比ヶ浜にとって自分の殺人を正当化して精神の安定役となっていたセリューへの認識が、前回までの描写と食い違っているのに理由はあるのでしょうか?
展開のために急にセリューを嫌っているように見えるのですが・・・


241 : 名無しさん :2015/08/21(金) 01:46:30 QxDhMu3Y0
前回の八幡が盾にされたとかいう超解釈で不信感抱いたってことでおかしくないと思いますが


242 : 名無しさん :2015/08/21(金) 01:57:12 lFOa5otc0
精神安定の為とはいえ由比ヶ浜は内心ボロボロの一般人だし、心変わりしても不思議ではないと思う
まぁ描写の追加修正は必要になるかもしれんが


243 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 01:58:13 SVKwwpvs0
>>239
前話でセリューにヒッキーのことをボロクソ言われましたよね。
殺し合いに巻き込まれて精神の疲労が大きくて闇を抱えている中放送でヒッキーの死を知りました。
その後セリューに盾にされただの切り捨てられただの。普通そんなことを言う人の傍に居たくないと思います。
その後はμ'sに対してマシンガンのように一方的に責めるセリューを見て良い感情を抱くでしょうか?
というのが私の解釈です。

納得してもらえないようでしたら心理描写を前半に加えます。破棄はしません。
ただ、夜も遅いので投下は明日以降でお願いします。
返信待ってます。


244 : 名無しさん :2015/08/21(金) 02:06:17 9NrhJScI0
>>243
氏のSSに共通する特徴として、
>普通そんなことを言う人の傍に居たくないと思います。
この氏の見解における"普通"という認識が読み手に伝わってこない、説明不足、描写不足なところがあると私は思います
今回は心理描写を追加すれば問題ないと思います、返答ありがとうございました


245 : 名無しさん :2015/08/21(金) 02:14:22 lFOa5otc0
何この上から目線な物言い


246 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 02:17:52 SVKwwpvs0
>>245
ストップです。

>>244
後日追加パートを書いて投下します。
ご指摘ありがとうございました。


247 : 名無しさん :2015/08/21(金) 11:46:15 7QVtwpO20
投下乙です

大総統つえええええ!さすがだわこの人w
戦争を一発の弾丸で終わらせた狡噛さんもすごくかっこいい
島村さんはなぁ…階段から転げ落ちていってるシンデレラって感じだ
セリューさんこのまま突っ込んでいったら普通に返り討ちにされそうだがどうなるか
そしてガハマさん…南無


248 : 名無しさん :2015/08/21(金) 19:37:06 NObaguaA0
投下乙です!こちらも指摘点をまとめました

①不明支給品が所持品にないにも関わらず、花陽がディバックから新しい支給品を取り出している
②セリューは八幡を悪く言っておらず、前回のSSで雪乃に会って真相を確かめるという方針になっているにも関わらず、結衣が何故かセリューを敵視している
③前回のSSでセリュー一味がイェーガーズ本部に残した穂乃果への伝言を、本部を「一通り見回った」狡噛が発見していない
④後藤の襲撃を受けてその脅威を知り、情報交換で同等の危険種であるとの認識を強めているホムンクルス(ラース)の言葉を一行が鵜呑みにしている
⑤マスタングからラースの情報をエンヴィーと同様に得ているはずのセリューが、「同じ軍服を着ているからマスタングも悪」といった発言をしている
⑥前回のSSで不得手な治療系の錬金術を行い、腕欠損から保ち続けてきた意識を失うに至ったマスタングの回復が早すぎる
⑦相手を潜在犯と見なした狡噛が何もせずにブラッドレイを見送っている

キャラの細かい違いは解釈の違いとして、上記7点が特に気になりました
修正時にはこちらも追記、補足をお願いいたします


249 : 名無しさん :2015/08/21(金) 20:05:31 t/RT5uHc0
投下乙です。
大総統スゲーとか、大佐頭冷やせとか感想は色々あるけど修正後の方が良いのかな

ここは投下スレなので、議論はこっちでやってくれると助かる
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17138/


250 : 名無しさん :2015/08/21(金) 20:16:11 31bh/kMI0
簡潔にまとめられているので他に気になった点を
>>212で卯月がブラッドレイに反論しているところですが、

>「エンブリヲさんのことはセリューさんが味方だって言ってましたよ、嘘憑かないでもらえますか?」

いかにセリューに依存しているとはいえ、エンブリヲが凛の死因と聞かされてもそれについて何の疑問も抱かず即座に嘘と断定するのは些か強引に感じます。
状態表でも
>:凛ちゃんを殺したのは誰だろう。
とありますし。


251 : 名無しさん :2015/08/21(金) 20:18:02 31bh/kMI0
と、リロードしていませんでした
議論スレに移ります


252 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/08/21(金) 21:43:32 SVKwwpvs0
修正や返答を議論スレにてしましたので報告します。


253 : ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 02:50:45 K6E52DvM0
投下します


254 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 02:51:34 K6E52DvM0
「クロメ……」

第一放送を聞き終えたアカメはただ一言、そう呟いた。
名前からして、アカメと近しい誰かが死んでしまったのだろう。雪乃と同じく、それも恐らくは血縁者。
ただ、雪乃と違い。アカメの目は涙ぐんではいたが、悲しみの他に安堵感が混じっているようにも見えた。
血縁があるからといって、決して良好な関係だけではない。
もし、この放送で雪乃の姉の名前が流れていたら、雪乃も同じ顔をしたのかもしれない。
もっともアカメの場合、雪乃の姉妹関係とはまた異なるのだろうが。

「すまない雪乃。足を止めてしまって」
「いえ、それは良いのだけれど……。もう大丈夫なの?」
「心配ない。早く行こう」

死者の名前に線を引いた名簿を仕舞い、二人は図書館へ急いだ。





狡噛と入れ替わる形でプロデューサー、セリム、光子は図書館へと辿り着く。
最初は光子が図書館前の生首に悲鳴を上げていたが、何とかタスクが宥め落ち着かせることで冷静さを取り戻した。
この事でタスクは近いうちに、生首を処理したほうがいいかもしれないと考え直す。
そして幸い、未央とプロデューサーが知り合いということもあり、五人はすぐに警戒を解いた。
もっとも、プロデューサーが連れていたセリムがブラッドレイの息子であったのにタスクは引っかかったが。

「イェーガーズ、ですか……」
「狡噛さんが言うには、正義感が強すぎる狂人らしいです。あまり関わらない方が良いって言ってましたけど、やっぱりあの生首は放っておく訳にはいかないかもしれない」
「そ、そうですわね……」
「……僕、怖いです」
「プロデューサー……」

正義と称して生首を置く狂人がこの近くに居るなど考えたくもない。
ガクガク震えながら、光子と未央はプロデューサーの後ろにセリムは光子の後ろに隠れる。

そんな、生首の話で空気が重くなった五人に第一回放送を告げる鐘が鳴った。


「……モモカ」
「そんな……佐天さんが……」

放送の内容は最悪と言っていいだろう。セリムを除いてこの場に居た全員の知り合いの名が呼ばれたのだ。
更に言えばあの後藤の名が呼ばれていない。奈落に落ちても尚、生き延び殺戮を繰り返している。
内心、光子は後藤が生きていることに安堵感を抱いていたが。

「嘘、だよね……プロデューサー……?」
「それは……」
「だって、絶対嘘だよ……。アニメやドラマじゃないんだから人がそんなに死ぬわけ……」

渋谷凜。
未央と同じ346プロのアイドルだった。
放送が正しければ、彼女は死んでしまったのだろう。何処の誰とも知らない者に無残にも殺された。
死ぬ間際の彼女はどんな顔を浮かべていたのか、決して笑顔である筈はない。
恐怖に歪み、死にたくないと何度も叫びながら死んだのかもしれない。

「嫌だ……嫌だよ……そんなの、死ぬなんて……」

考えられない。人が死ぬのも、仲間が殺されるのも。
ここに来て未央は変態に襲われたが、貞操の危機はあっても命の危機はなかった。
それに後で会った人物も鳴上やタスク、あくまで表向きではあるがブラッドレイなど殺し合いに進んで乗る者は殆ど居ない。
だから、自然と誰かがこの事件を解決して、自分達は誰一人欠ける事無く生きて帰れるのだと思ってしまう。
だが、ここに来てから生首に凜の死と立て続けに、これが殺し合いであると現実を突きつけられてしまった。


255 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 02:52:02 K6E52DvM0

「本田さん……」

誰も未央に掛ける言葉が見つからない。
タスクは何時でも死を覚悟していた。だから、最悪の場合も想定し受け止められる。
光子もタスクほどではないにしろ覚悟はあったし、佐天の死は悲しいが未央と凜ぐらい交流が深かった訳でもない。
だが、未央はタスクや光子と違い戦いとは無縁の世界で生きてきたのだ。
同じ世界に居るプロデューサーともまた精神面が大きく違う。まだ幼い少女が突然仲間の死を宣告され、動揺するなというのが酷だ。

「とにかく、落ち着こう未央」
「落ち着くって……しぶりんが死んでるのに……」
「う、嘘なのでは……ありませんか? そう、あの放送は貴女のような方を動揺させる為の嘘に決まっていますわ!」

咄嗟に、光子はそう断言した。

「嘘……そうか、嘘だよね……」
「え、ええ……。そもそも、何で私達があんな広川の言う事を信じなければいけないんでしょう? 嘘ですわ嘘」

タスクとプロデューサーは、それが如何に希望的観測、現実逃避か良く分かる。
広川が嘘を流すメリットが大してないのだ。
近しいものの死に動揺し、殺し合いに乗るか錯乱して暴れる者も居ないとは限らないが、それならもっと殺し合わせざるを得ないルールを追加するなりやりようは別に色々ある。
光子も悪気はないのだろう。ただ、錯乱した未央を落ち着かせる為に咄嗟に言ってしまっただけだ。

「……なら、探しにいかないと。早くしぶりんを見つけて……」

嘘も方便というが、光子の言った説は未央を一先ずは落ち着かせたらしい。
しかし、決して事態が好転した訳ではない。早い内に現実を教えなければ、彼女はどこかでそのしっぺ返しを喰らう。
問題はどうやって、その事を教え落ち着かせるかだ。

「光子さん……。あの人、大丈夫なんですか?」
「そ、それは……」

セリムが心配そうに小声で光子へと話しかける。
光子も自分の軽率な発言に後悔していた。結果的には未央は前向きに元気を取り戻したが、それが良くない事ぐらいは光子にも分かる。
放送を挟み、それから五人は次に今までに会った人物との情報を交換しようよした時、仕掛けが新たな来訪者の訪問を告げた。
黒い髪の少女達が仕掛けに警戒しながら、入り口へと向かったタスクを睨む。
タスクは仕掛けを止め、少女達に弁明し少女達を何とか納得させた。

「そうか……確かに図書館は会場の真ん中にあって、人が集まりやすいからな」
「ああ、とにかく中に入ってくれ。奥にも俺と同じ殺し合いに乗っていない人が居る」

「アカメ! 雪ノ下!」

その時、髪を逆立てた少年が息を切らしながら走ってきた。
二人の少女、アカメと雪乃の反応を見るに知り合い同士らしい。

「随分、早いのね泉くん。
「はぁ、はぁ……。ここまで、全速力で来たんだ……」

髪を逆立てた少年、新一はミギーの細胞が体に流れ強靭な身体能力を手に入れている。
先に図書館に向かいながらも、一般人である雪乃のペースに合わせたアカメ達と、一人で全力疾走した新一では追いつくのに時間はそう掛からない。
結果として、大した時差も無く図書館で合流できたのだ。


256 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 02:52:24 K6E52DvM0

「……サリアさんは?」
「その事は後で……」

新一が苦虫を噛むような顔をしたのを見て、雪乃とアカメに嫌な予感が浮かぶ。
一回放送でサリアの名前が呼ばれなかったが、もしやその直後に殺害されたのではないかという可能性。
だが、二人の予感は更に最悪な現実に塗りつぶされることとなる。



「サリアが人を殺した?」

「何をやっているの……あの人は……!」

「サリアが? 最後は一緒に戦ってくれたのにどうして……」 

雷神憤怒アドラメレクにより、巴マミと園田海未の命を奪ったサリア。
一応は、誤殺なのかもしれない。彼女が狙ったのはアンジュだ。
更にそれを煽ったのは槙島でもある。だが、それでもサリアの行為が正当化されることはおろか、許されることは決してない。
既にアカメはサリアを友好関係から、葬るべき存在へと切り替えている。次に合間見える時、彼女は何の躊躇いも無くサリアを殺すつもりだ。
そして、新たに合流したタスク達もアドラメレクの力に驚嘆し、警戒していた。

「何の為に……何の為に……比企谷君は死んだの……あんな人の為に……」

決して雪乃はサリアを好意的には見ていない。
むしろ、サリアは雪乃が抱く嫌悪心の塊。けれど、雪乃と同じく八幡に命を救われたことも事実。
それを嘲笑い、不意にされたのだ。
雪乃には、アドラメレクの強大な力の恐れよりもサリアへの怒りだけが募っていく。

「……話は変わりますが、そのアカメさんは外の生首に書かれてたイェーガーズを知っているんですよね?」

サリアの話を打ち切り、プロデューサーはアカメにイェーガーズについて尋ねた。
これにはタスクや新一、表には出さないがセリムも興味があったことだ。

「……何処から話すべきか……。そうだな、先ずはナイトレイドから話そう」

簡潔にではあるが、アカメがナイトレイドに所属する暗殺者の一員である事を明かす。
当然、暗殺者と聞いて反応はあまり良くないが、何故暗殺者として生きているか。帝都が如何に腐っているかを説明し、その反乱軍の一員として自分の身を捧げている事を告げた。
タスクも、反乱という点はアカメと似た境遇だったこともあり、納得はする。セリムもアメストリスと関係ないテロリストであるなら、危害はないだろうと判断。
だが、残るプロデューサー達を初めとした現代日本の住人達は、話が突拍子過ぎて理解するのに精一杯である。
更にアカメはイェーガーズが、その帝都を守護する警察組織であると教え、しかしその実態は国の後ろ盾を得た危険な集団であることを伝える。
その中には、あの光子を襲ったクロメもまた在籍しており、危険であるという事実は更に説得力が高まった。

「よく分かりませんけど、そのイェーガーズは警戒した方が良いのでしょうか?」
「確かに、私を襲ったセーラー服の少女もアカメさんの話を聞く限りでは、そのイェーガーズらしいですし」

セリムが頭に?マークを浮かべながら質問する。
人間関係がかなり複雑だ。殺し合いには乗っていないが、帝都と呼ばれる場所では反乱分子で犯罪者であるナイトレイド。
逆に警察だが、ここでは殺し合いに乗るかもしれないイェーガーズ。
把握するには一苦労する。


257 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 02:53:47 K6E52DvM0

「少なくとも、エスデスは乗る可能性が高い。仮に乗らないスタンスでも戦いを求める危険性は変わらない筈。無力な参加者を保護するとしても帝都の民だけだ。
 クロメも……死んだが、乗っている側だったらしいな。白服の男に殺されたのは自業自得だ」
「でも、狡噛さんが言うには、あの生首を置いたのは正義感の強い人だって言っていた。
 なら殺し合いには少なくとも表向きは乗らないんじゃないか?」
「イェーガーズにも色々居る。多分、生首を置いたのはセリュー・ユビキタスだ。
 私の仲間から聞いただけだが、異常な正義狂らしい」
「正義狂……狡噛さんの推理と一致するな」

アカメの――より正確には、一時期イェーガーズに居たタツミの――情報と狡噛の推理を合わせると生首を置いた犯人はほぼ間違いなくセリュー。
エスデスはやるにしても正義などまどろっこしい事は書かず、もっと威圧的で恐怖を煽り挑発的な文を書きそうだ。
そもそも、クロメはそんな事はしない。

「それと、光子。お前の服、御坂美琴と同じ物だな?」
「 ? 何か? それに御坂さんをご存知ですの?」
「御坂は殺し合いに乗ったみたいだ」

淡々と殺意を含ませながら言うアカメに光子は呆気に取られた。
彼女は誰か別人と勘違いしているのではないだろうか。御坂が乗るなど、天地がひっくり返ってもそんな事は無い。

「上条当麻。一番、最初に殺された少年の知り合いらしい。
 多分、彼が関係して乗ったんだろう」
「は? そんな馬鹿なこと……。人違いではありませんの……?」

アカメは首を横に振り、その外見特徴を話した。
それは光子を以ってして、御坂美琴その人だと認めなけれならないほど、特徴も能力の規模も一致している。
断じて、御坂が殺し合いに乗る事はないと強く否定したかったが、一つだけ心当たりが浮かぶ。
光子も詳細を知っているわけではないが、御坂と最も親しい黒子が定期的に類人猿と忌々しく呼んでいた人物。
今思えば、あれは嫉妬だったのではないだろうか。黒子は傍から見ていても、気持ち悪いほどに御坂が好きである。その黒子が嫉妬する人物となれば必然的に男、それも御坂と非常に仲睦まじい男性だ。
もしも、あの殺された上条という少年がその類人猿だとして、あの黒子が嫉妬するほどの愛情を御坂が持っていたのだとすれば……。

(いや、でも……。だからといって、ここには白井さんや初春さんも居ますわ……。いくら何でもそんな)

恋は盲目と言うが、光子には御坂が学友を犠牲にしてまで、殺し合いに乗るとは考えられない。
何か誤解があるのかもしれない。話してみる限り、アカメという少女は物事を極端に捉えやすいと感じた。
様々な事情が重なり、彼女が誤認してる可能性は十分にある。
とにかく今は話し合いその誤解を解くべきだろう。

「奴を葬る為のヒントを探しているんだが。光子、何かあの電撃の弱点を知らないか?」
「ほ、葬るって……。そんな……本当に御坂さんでしたの?
 ここには、御坂さんの友人が何人も居ますわ。それなのに殺し合いに乗るなんて……」
「事実だ。御坂は乗ってしまった。誰かに危害が及ぶ前に葬らなければ」
「……貴女が何か極端に捉えて誤解しているんじゃ……」
「いや、本当に御坂って奴に……。少なくとも、電撃を操る茶髪の女の子には襲われたんだ」

ムキになって反論する光子に新一が口を挟んだ。
光子と同じ、現代の価値観を持つ新一や雪乃も御坂が殺し合いに乗ったと証言したのだ。
光子もそれ以上は何も言えない。
それから、プロデューサーが遭遇した後藤、血を飛ばすエルフ耳、エンブリヲなどの危険人物や狡噛やイリヤ、優しいおじさんDIOなどの友好人物など、一通りの情報交換を終える。
DIOとイリヤに関してはまたアカメ達の情報と新一の得た情報とで一悶着あったが、新一の情報から一先ずDIOは警戒対象。イリヤは保護すべき対象でもあり、洗脳されている可能性もある警戒対象となった。
その後、互いの探し人を記憶し合い、一向はまたそれぞれの目的の為に図書館を発つつもりでいた。


258 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 02:54:09 K6E52DvM0

「私はここでセリューを待つ。狡噛という奴の言ったとおりなら、生首の様子を見にここに戻ってくるかもしれない
 罪のない民が犠牲になる前に仕留めたい」

そう言って、アカメは戦いの支度を始める。
同じようにタスクも時間を見て、自分はここを発つ予定だと話した。

「一応、キング・ブラッドレイと待ち合わせてたんだけど。来ないからな……。俺は先に行く事にするよ」

ブラッドレイの事も気になるが鳴上の回収に加え、アンジュとの合流も急がないといけない。
そのブラッドレイの息子のセリムを残すのが気掛かりだが、子供であるし、すぐに何かをするということも無いはずだ。

「そっか……。私はプロデューサーと一緒に行くね。短い間だけど、ありがとうタスクくん」
「ああ、未央とプロデューサーさん、エンブリヲには気をつけてくれ」
「うん。鳴上くんの事任せる形になっちゃうけど……。私もアンジュって人に会ったら、タスクくんの事教えておくから。
 しぶりんも探してあげないと」
「本田さん、それは……」

前向きに明るい未央だが、タスクやプロデューサーの目からはその明るさが照らし出す影が見え透いている。
そこに不穏な気配を感じながらも二人は見てみぬフリしかできない。
いずれは、現実を教えるべきだが、今はまだ希望に縋っているのも決して悪ではない。

「僕は図書館に残ってます。タスクさんと父が待ち合わせてをしてたみたいだし、もしかしたら遅れてくるかもしれません」
「セリムくん……」
「プロデューサーさんと光子さんは先に行って下さい」
「ですが」
「大丈夫ですよ。父が近くに居るというだけでも安全ですから。それにアカメさんも居ます」

セリムがニッコリと笑う。
確かにセリムの言うとおり、二人もここにずっと留まるわけにはいかない。
プロデューサーは、未央の件や他にも同じ346プロのアイドルを探さねばならないし、光子も御坂の事がある。

「セリム君、そのお父さんの事なんだけd「見つけましたよ。BK201!」

新一の台詞が遮られる。

「あの、時の……」

魏志軍。新一達を襲撃し八幡を殺害した契約者。
新一と雪乃からすれば、もう二度と顔を合わせたくないあの忌まわしい男だ。
仕掛けは鳴っていない。既に腕から血を流しているということは、仕掛けを破壊した後ということだろう。

「貴方方と一緒とは。縁がありますね。確か泉くんでしたか?」

以前の戦いで、名前を呼ばれているのを聞かれたのだろう。
殺人者に一方的に名前を知られているというのは非常に気分が悪い。


259 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 02:54:45 K6E52DvM0

「ですが、今は貴方などどうでもいい。私と戦って頂きますよ。BK201」
「BK201?」
「全く、無力な一般人に紛れるのが上手い。確か以前も、ウェイターに化けてあのパーティに潜入していましたね」 

魏の印象が違う。
最初に新一と雪乃の前に現れたときは、冷静そのものだった。
だが今、顔は大きく歪み、そこに以前は見られなかった感情が浮かび上がっていた。
喜びと憎しみ。契約者が決して見せないであろう感情を浮き彫りにし魏は血を投げる。
狙う先は仕留め損ねた新一や雪乃、ましてや戦えない者を守ろうと勇み出るアカメ、タスク、光子でもない。

「ぷ、プロデューサー!!」

未央の叫び声と共にプロデューサーの服に血が付着する。
「早く脱げ!」と叫ぶ新一の声に釣られ服を脱ぐ。彼にとって幸いだったのが、比較的すぐに脱ぎやすいブレーザーにのみ血がついたことだ。
放り投げたブレーザーが光り、血の付いた部分が消し飛ぶ。
もし、脱ぐのが遅れていればプロデューサーの体に風穴が空いていたことだろう。

「プロデューサー? 貴方は度々、設定を変えているようだ」
「一体、何の事だか私には……」
「皆さんはお下がりになって! 貴方、私を常盤台中学の婚后光子と知っての狼藉ですの!」
「知りませんね」
「止めろ光子。素人の脅しじゃ、アイツには効かない」

精一杯凄みを出そうとしてる光子をアカメが止める。
これなら、プロデューサーが凄みを出していた方がよっぽど効果があっただろう。

「くそっ。ミギー、おいミギー!」
『……逃げろシンイチ。それと―――』
「ミギー? ミギー!!」

更に間の悪いことに、ミギーの眠りの時間と魏の襲撃が重なってしまった。

「逃がしませんよ。BK201!!」
「お前の相手は私だ」

戦いの足手纏いにならないよう奥へ避難するプロデューサー達を追う魏にアカメが立ち塞がる。
舌打ちをしながら、腕を振るい血を飛ばす。
アカメは血飛沫の広がる範囲を瞬時に見切り、横へ飛ぶ。そのまま、刀を抜き神速の剣裁きで魏の胸元へ薙ぐ。
僅かに後ろに反り、わざと掠らせながら刀の直撃を避ける。血を付ければアカメの刀を破壊できるからだ。
だが刀は服を切らず擦っただけだった。

(峰打ち?)

峰打ちでも、鉄の塊をアカメの腕力で振るえば、それは十分凶器になる。
魏の能力が血を付けたものを消し飛ばすと聞かされていたアカメは、その対策として斬るのではなく打つ戦い方を選んだ。
最も村雨があれば、その気負いも必要なかったのだが。


260 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 02:55:07 K6E52DvM0

「行きますわよ!!」

「……?」

更に『風力使い』を用い、光子は手にした本や本棚を魏へと砲弾の如く浴びせた。
向かってきた五冊と三つの本棚の内、三冊を血を飛ばし迎撃する。
二冊を身を反らし回避。三つの本棚を屈んで避ける。そこへ、分厚い本を掴んだタスクが突っ込んでくる。
牽制に放った血を避けながらタスクが本で殴り掛かった。
腕を立てガードしながらタスクへ血を飛ばすが、割り込んできた遮蔽物が血を遮る。
光子が本棚に触れ『空力使い』で飛ばしたのだ。

「ッ!?」

そのまま遮蔽物が刀で切断され、アカメとタスクが踏み込む。
アカメの首を狙う一撃。当たれば呼吸困難、下手をすれば首の骨が折れる。魏はとっさに首を反らして、首輪に当てて弾く。
弾かれた反動をものともせず、胸への薙ぎ払い。やはりここも首と同じく当たれば暫くは息が吸えなくなる。
後方へと飛びのけ回避。そして、反撃に血を投げる。
アカメが屈んで血を避け、魏の横方からタスクが本を投擲した。
魏の横腹に命中。堪らず横腹を抑え膝を折ったところで、後ろに回っていた新一が後頭部に蹴りをかます。

「チッ」

担いでいたディバックで蹴りの衝撃を和らげる。
殺しきれなかった衝撃で前かがみになる魏に、眼前まで迫ったアカメが刀を振るい上げていた。
血を飛ばし刀を壊すか、アカメを殺す頃には魏の頭がかち割れている。
舌打ちをしながら、クラクラする頭を無視し強引に足をバネに横へ飛んだ。
刀は空を切り、魏が居た場所に小さな亀裂を作り上げた。

(やはり、打撲で攻めてくるか……)

魏の能力を警戒し、可能な限り出血を避けた戦い方をしている。
能力が割れているのはかなりの痛手だ。

(埒が空かない)

魏と黒に匹敵する運動能力、技術を持つアカメとタスク。
技術はないが、動きは人を超えた新一。動きは劣るが強力な能力を持つ光子。
各個撃破ならばまだ容易いが、同時となるとかなりの難敵だ。
考えれば、ここまで多対一の戦いが多かった。八幡殺害時は実質一対一ではあったが、まどか戦に関しては三対一で更に控え二人である。
ついてなさ過ぎる。

何にせよ。勝機を得るには、この四人を分担する他無い。

「―――!」

魏の腕が振り上げられる。
血はアカメでも新一でも光子でもタスクでもなく。図書館の天井に付着していた。
指を鳴らす音と共に、天井の一部が消し飛び崩落する。
動きから血が来ると予測し身構えたアカメ達の頭上から瓦礫が降り注いだ。


261 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 02:55:33 K6E52DvM0

「今の内に各個撃破といきましょうか」

瓦礫の雨の中を真っ先に避け、魏の前に立ったアカメへと魏は躍り掛かる。
血が飛ぶ。アカメからすれば見慣れすぎた魏の攻撃方法。最低限の動きでそれをあっさりかわす。
更に、アカメへ放たれる顎下を狙った蹴り。首を上げ、顎が靴先に触れるか否かの紙一重で避ける。
そのまま、蹴りに紛れて投げた血も、髪に数本付着したがアカメ自身には一滴も触れない。
指を鳴らす音と共に、数本髪が飛び散っただけでアカメは全くの無傷。
アカメは生粋の暗殺者だ。たまたま強い異能や身体能力を手に入れた一般人とは訳が違う。
いかな相手でも適応し敵を葬るからこそ、ナイトレイドの切り札として重宝され、尚且つ帝国から指名手配され危険視されているのだ。
その心理は如何なる時を持っても冷静そのもの。葬るべき対象の能力を測り、確実に正確に戦いを運んでいる。

「スピードは私が上のようだな」

「……何?」

ただでさえ感情が高ぶっている魏に向かい、偶然ではあるが忌々しいあの男の台詞を浴びせられた。
怒りがこみ上げ、アカメに対する殺意が高まる。
内から溢れ出す情に従い、魏は強く踏み込みこんだ。
魏の変化を察知したアカメはこれを好機と見て、自らもまた飛び込む。
血を流した右手で裏拳を放つ。アカメは後方へ飛んでから裏拳をよけ血を屈んで避ける。
アカメは屈んだまま足をバネに前進した。魏の懐に潜り込み、刀の切っ先を胸に突きつける。

「ッ……」
「お前、激情に流されすぎだ」
「……ええ、全く。その通りですよ」
「―――!?」

刀が胸を穿つ。迫る死の寸前、魏が浮かべたのは微笑。
魏の左手に嵌められた一つの指輪が怪しく光る。その次の瞬間、魏の右手の血がひとりでに動き出し、無数の刃となってアカメへと撓った。

「あまりに胡散臭かったので、使用は控えたのですが……。こんな事なら先に使っておくべきでしたね」

血の刃に四方を囲まれたアカメは刀で全ての刃を弾き落とした。
だが、それも既に想定済み。血が付着した刀は魏が指を鳴らせば砕け散る。
刀のないアカメでは決め手に掛け、脅威は少ない。

「……水龍憑依ブラックマリン」

パチンと乾いた音が響き渡る。
刀の刀身を纏う鞘が消し飛んだ。

「鞘……」

「触れたことのある液体なら、自在に操ることができる帝具……だったな」

砕かれた鞘から再び銀色の輝きを見せた刀。その刀身には傷一つなく、驚嘆した魏の顔を映し出す。
血の刃に囲まれたあの瞬間、居合いの構えにように刀を鞘に仕舞い。鞘を纏ったまま血を受けたのだ。
そして、鞘から即座に刀を抜けば刀は無傷で済む。

「お前の能力とその帝具を見た瞬間から、お前の奥の手は読めていた」
「まさか……知っていて敢えて……」

「―――葬る!」

もしこの場にアカメさえ居なければ、ブラックマリンの能力でこの場に居た全員を皆殺しにすることも可能だったかもしれない。
だが、魏の計算違いはアカメが帝具の存在を知っていたこと。
しかもよりにもよって、アカメの仲間からその情報がナイトレイドに流れた帝具であったことだ。


262 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 02:56:21 K6E52DvM0

「なっ!?」

地鳴りのような響きが図書館を揺らす。
よくよく聞けば、それは聞き慣れた水音だと分かる。
ただし、普段日常で聞くようなものではなく。それは災害などで人に牙を向く濁流の音だ。
ブラックマリンが操れるのは血だけではなく液体。故に触れた事のある物ならば、なんであろうと操る。
床を食い破った濁流がアカメを飲み込む。直撃を避け、完全に飲まれる前に離脱したが、水の勢いに刀を手放してしまう。

「水、どうして……」

ブラックマリンの弱点は、無から液体を生み出せないこと。
無から氷を生み出せる、エスデスのデモンズエキスと違い。その能力を発揮出来る場所が限られている。
だから、魏がブラックマリンの使用を控えたのも。使わなかったのではなく、使えなかったのだと考えていた。
その思い込みがアカメの判断を鈍らせ、地中からの不意打ちへの対応を遅らせてしまった。

「水なら十分にあるでしょう? ……水道を流れる水がね」

アカメの誤算。それは現代の施設を知らなかったことだ。
彼女の住む世界、時代には水道なんてものは存在していなかった。
しかし、この会場は一部を除けば、おおよその技術は現代に準じている。
つまりブラックマリンが、その真価を発揮できない施設は非常に少ない。
先の攻防でアカメが帝具を知っていたというアドバンテージが有利に働いたのであれば、今度はアカメが現代を知らず、魏が現代の住人であったというアドバンテージが有利に働いた。

「くっ」
「アカメ!」

刀を手放したアカメに魏の操る水を凌ぐ術はない。
水がドリルのように高速回転しアカメを狙い打つ。
瓦礫の雨から逃れ咄嗟に飛び出した新一が、比較的大きめな瓦礫を掲げる。
水がは更に回転し圧力を増し、瓦礫の盾を打ち砕く。崩壊した瓦礫から水の槍が流れ込んだ。

「ぐあああああ!!」

新一は横腹を抉られ吹き飛ばされる。
盾が消えたアカメに血が飛んでいく。瓦礫を蹴り上げ血を受けるが、ブラックマリンで加速した血は瓦礫を貫通する。
アカメは疾走し魏の横方に回り込む。血がそれを追尾したのを見計らい、魏へと向かい特攻した。

「血を追い寄せて、私の寸前でよけるつもりですか。浅はかな」

「―――!」

右足の痛覚が刺激される。
バランスを崩しアカメは無様に転がっていく。
見れば、足を水が貫いていた。血が滲み。、水が傷口を染み痛みが増す。


263 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 02:56:54 K6E52DvM0

「先ずは貴女から」

「させませんわ!!」

瓦礫が意志を持ったかのように魏に向かってくる。見れば、光子がタスクの肩を借りながらも瓦礫の中から生還していた。
あのまま潰れているのが理想だったが、事はそう上手く運ばない。
魏はアカメに止めを刺す前に瓦礫を水で弾き落とし、視線を光子へと向ける。
そして虫を払うような動作で水を叩きつける。タスクに連れられ、水は光子達に直撃はしなかったが床を砕き、その床の破片が散弾となって二人の体を打ちつけた。

「……!」
「あぁっ」

二人は苦悶の声を上げながら床を転がっていく。
だが、アカメは魏の注意が反れた僅かな時間を見逃さない。刀のある場所まで一気に駆け抜けた。
刀を手に取り、アカメは魏へ向き直る。
迫り来る濁流を正面から切り裂き、一直線に突き進む。
濁流を両断しながら、勢いを衰えさせず走る様は人間業ではない。ましてや、足を負傷した少女の芸当とは目で見ても現実とは信じられない。
もっとも魏は驚嘆しながらも、余裕のある動作で指を鳴らした。
その瞬間、アカメの貫かれた右足が激痛を誘発する。足という支えの異常にアカメは為す術もなく倒れ付した。
それでも、水の攻撃を刀で受け流したのは流石というべきだろう。けれども、力なく吹き飛ばされ床を転がるアカメに次の反撃の手はなかった。

「あっ、うっ」
「お忘れですか? 貴方の足には私の水が浸入していることを」

アカメの右足を水で貫いた時、その足の内部には水が浸入していた。
ブラックマリンの支配下に置かれた水は、アカメの足の内部を掻き乱し痛みを起こしたのだ。

「手間取りましたが、終わりにしましょう」

「こっちでs……だ!!」

魏が視界の端で動く、黒い存在に気を取られた。
その口は大きく三日月に歪み、今にも大声で笑い出しそうなほどの笑みを浮かべている。
アカメを殺す喜びから、そのような笑みを見せたのか。違う、契約者に笑みなどなく殺人は合理的に判断し必要だから行うだけ。
では、その魏を契約者の常軌から逸しさせているのは何か。他ならぬ、黒の死神BK201への屈辱に他ならない。

「やっと、やる気になりましたか。BK201!!」

先に動けないアカメを殺すという判断も、未だ蹲りダメージから回復できない新一、タスク、光子を殺す事すら頭の隅。
今の魏には合理的判断など一つもない。あるのは受けた屈辱を晴らすという一点の感情のみ。
やはり、使い慣れたワイヤーとナイフを没収されているのだろう。
BK201、いや黒が懐から銃を抜く。その時に違和感に気付いた。手付きが慣れていない。

「―――お前は」

考えてみればおかしい。これだけ水をばら撒いてやったのだ。電撃を水に伝わせる戦い方を何故しない。
何故、銃を持つ手が震えている。何より、この間合いで何故、臨戦態勢が取れていない。
互いに疾走し必殺の間合いへと詰め寄った瞬間、黒の右手に銃、そして左手には奇妙な物体があった。

疑問が確信に変わった時、二人はこの場から消え去った。


264 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 02:57:32 K6E52DvM0







「消えた……?」

痛む体に鞭を打ちながら、タスクはプロデューサーと魏の居た場所を調べる。
図書館にに何かしらのギミックがあった訳でもない。
プロデューサーが消える寸前に持っていた物体によるものだと気付くのに時間は掛からない。

「帝具だ。あれも間違いない」

足を引き摺りながらも、アカメもタスクの元へと歩み寄る。

「俺達はプロデューサーさんに、助けられたのか?」
「ああ。そして、恐らく……」

プロデューサーの手には銃が握られていた。
だが、アカメやタスクからすれば素人であるとはっきり分かるほど持ち方がなっていない。
あれでは飛ばされた先で魏に発砲したところで、当たることは殆どない。

「早く、探しに行かなきゃ」

未央は虚ろな目をしながらフラフラした足取りで出口へと向かっていく。
タスクが未央の腕を掴み。取り押さえる。

「離してよ……プロデューサーを探さなきゃ」
「プロデューサーさんは、もう……」
「分からないよ……。もしかしたら、生きてるかもしれないじゃん!」

未央がタスクを振り払おうと強引に腕を動かす。
タスクは握る手を更に強めた。
力では勝てない未央がタスクから逃げるには一つしかなかった。
足元がお留守なタスクに向かって思い切り足を振り上げる。
足の先にあるのは、男の最大の弱点。

「―――ッ!!!」

声にもならない悲鳴でタスクは股間を抑えながら蹲る。
その間に未央は走り去りってしまう。
見守っていたアカメ達も未央を取り押さえようとするが、怪我の痛みが邪魔をする。

「未央を追わないと……があぁぁ」

この近辺には、セリュー以外にも光子を襲った白服も居る。未央一人でそんな連中と出会ったらなど考えたくもない。
股間の痛みを根性で堪えながら、タスクが内股で未央の後を追う。

「私も、私も行きますわ。タスクさん」
「光子……」
「あの、えーと……殿方の弱点を潰された貴方を一人には出来ませんし……」
「……今は君の力があると心強いよ。ぐぅ……」

二人は図書館に残るアカメ達に別れを告げ、図書館を発つ。だが、ここで計算外だったのは未央の足の速さだ。
少女の足である為、追いつくのはそう難しくないと考えていたが、既に未央の姿はなくタスクたちは未央を見失っている。
アイドルは華やかに見えてかなりの体力を消耗する為、日ごろからそれなりに鍛えてきた。激痛に悶え、出遅れたタスク達を撒くぐらいの体力は付いている。
更に言えば、既に図書館前の通路は、何人もの参加者が行き来し数え切れない足跡がある。これでは未央の足跡を判別できない。

「どっちだ。どっちに行った……?」

タスクが選んだ道は……。


265 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 02:57:49 K6E52DvM0









「生きてるよ……絶対、生きてるよね……」

渋谷凜が生きていないだろう事も、プロデューサーが死んでしまったかもしれないことも。未央は分かっていた。
それでも。それでも、もしもの事があるかもしれない。

「諦めないから……私……」

未央は走り続ける。ありもしないもしもに縋りながら。







結論から言えば黒ではなかった。
電撃も使わず、飛び抜けた体術もない。黒にしては弱すぎる。
目の前で胸に風穴を空けたプロデューサーの死体を見下ろして魏は溜息を吐く。

「仲間を守る為に、自己犠牲ですか……」

プロデューサーの持っていた奇妙な物体。それも魏の持つブラックマリンと同じ帝具であることを魏は察する。
能力は対象を別の場所に飛ばすといったところか。荷物を調べてみたところ説明書の類がない為、断言は出来ないが。
プロデューサーが持っていて、使えそうなものは拳銃程度。後は外れの支給品しかない。
何かに使える可能性も考慮し、一応プロデューサーのバック中の荷物を自分のバックに移す。その際、猫が泣き喚いていたが無視した。
そして空っぽになったバックも同じく自分のバックの中に放り込む。
ブラックマリンの操作に使う水を見つけ次第、空のバックの中に保存しておけば如何な場所でもその能力が使える。

「……あの男の事になると私は」

魏は黒の顔を知らない。この時点で黒とは、仮面を付けた姿でしか対峙していないからだ。
そこに加え、プロデューサーは蘇芳が初めて見た時、黒をごつくした感じと思う程度には黒と似ている。
顔を知らない魏からすれば、背格好だけで間違えるのも無理はない。ただしそれは人間に限る話だ。
それこそ、未熟な契約者である蘇芳とは違い、合理的判断が可能である契約者なら尚更。
けれども、魏はその時、合理的判断が出来なかった。あれが黒であると決めつけ、ブラックマリンがあったとはいえ人数の不利すらものともせず突っ込んでいく。
そもそもあの人数の手練を相手に生還できたのも、水の奇襲によるところが多い。
何処の田舎に住んでいたのか知らないが、アカメが水道の事にも気を回していれば、今頃死んでいたのは魏だったかもしれない。
契約者ではありえない不合理すぎる判断。魏はあの時、例え死ぬとしても、戦わずにはいられなかったのだ。

「少し頭を冷やしますか」

手の中にある人を転移させる帝具を弄ぶ。
今は水の確保とこの帝具の能力の解明を急ぐべきだろう。
使い方が分かれば、ブラックマリン同様有用性は高い。
脳裏にこびり付く黒を振り払うように魏は歩を進めた。


266 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 02:58:21 K6E52DvM0






(勇気ある逃げない人間というのは本当に乗せやすい)

場所は変わり、再び図書館。
セリムは図書館に残ったアカメ、新一、雪乃の目を盗みとある一枚の影に食わせていた。
それは支給品の説明書。セリムに支給された帝具、次元方陣シャンバラ。能力は人をマークした場所に転移させる帝具だ。
説明書では長距離移動の場合、ランダムに飛ばされるとある。かなりギャンブル要素の高いアイテムといえる。
セリムはわざとそれをプロデューサーの前で落とした。
プロデューサーが魏に狙われていたのは一目で分かる。あの場で一番、捨て駒としては使いやすかった。
雪乃や未央に気付かれないよう、そして偶然を装うのは難しかったが、数十年にわたり国民を騙してきた演技力はここで真価を発揮する。
何の疑いも無く説明書を読み、シャンバラを手にしたプロデューサーの行動は説明するまでも無い。
未央を守るため、セリムや未来ある少年少女を死なせない為、彼は最初で最期の戦いに赴いた。

(あのまま、アカメ達が殺されれば、私が相手をしなくてはなりませんからね)

戦える人材が消えてしまえば、自身を守る為に影の使用するしかない。
だが、あの血は厄介だ。如何に影が優れた硬度を持っていたとしてもあれは容易く消し飛ばす。
それに加え、あの水を相手にするのも面倒だ。
負けるとは思わなかったが、確実に消耗する。何より、正体が露見するのだけは避けなければならない。

(まただ。母の顔が浮かぶ)

人を守ろうとする人の顔。凜がセリムを守り死んだ時も、プロデューサーが一人立ち向かい死んだ時も。事故に合い掛けたセリムを守ろうとした母と似た顔をしていた。
それを見ていくたびに、胸に穴が空いたような虚無感を感じるのは何なのだろうか。

(……関係ありませんね。帰る為に利用できるものは利用するだけです)

セリムは最初、この殺し合いに優勝すればいいと考えていた。
お父様が始めた事ならば従っておくべきだからだ。
だが、様子を見る限りお父様の手口には到底思えなくなってくる。
殺し合いが始まり数時間、何らかの手段でセリムにコンタクトを取ってくるとセリムは予想したのだが、未だに音沙汰は無い。
現に今、トイレに行くといい一人になった。連絡をよこすなら絶好の機会であるのに対し、何も起きない。
今までのお父様の行動を良く見ていたからこそ分かるが、彼は秘密主義が過ぎるということはなかった。
何かしら、ホムンクルス達にも指示を与えるはずである。それが、今回に限って何の指示もない。
明らかにお父様以外のやり方だ。

(参加者を排除したところで、それがお父様の意志でないのなら、計画は大幅に狂う……。
 “今”は乗らないが正解でしょうね)

お父様と関係のない殺し合いである以上、下手に人柱を死なせるわけにもいかない。
無論、ホムンクルス達もだ。ならば、何が起きているか見極めるまでは乗らないべきである。
乗らないと決めた以上、保護される側に回ったほうがやりやすい。昼間こそ能力を使えるが、夜中にはまた無力な存在になってしまうのだから、一括して無力を装っていた方が都合が良い。
それに仮に人柱と遭遇したとしてもこちらへ手を下すことは難しくなる。
無力な子供をホムンクルスと言い、信じるものはそうはいない。
かといって、人柱達はホムンクルス傲慢(プライド)の傍に何の関係もない参加者を放置して離れることもしないだろう。
こうして、人柱を縛りつけ、尚且つ監視できる絶好の体制が出来上がるのだ。


267 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 03:01:17 K6E52DvM0

(それにラースもタスクの話を聞く限りでは、“表”向きは乗っていないようですからね。彼の邪魔をする訳にもいかない。
 一先ず今はラースと合流し、これからの事も検討しますか)

トイレから戻り、プライドの顔からセリムの無垢な表情に戻す。

(セリム・ブラッドレイ……。キング・ブラッドレイの関係者……)

彼の計画は殆ど完璧だった。自ら手を下さず、襲撃者を撃退し使える駒を温存する。
たった一つ。駒の中にジョーカーが混じっているのを除けば。
泉新一はキング・ブラッドレイが人を殺めたことを知っていた。
本来ならば、皆の居る前でそれを言い出すつもりだったが魏の介入で話が流れた。


『……逃げろシンイチ。それと―――セリムは人間ではない……』


パラサイトは人に紛れた同種を判別できる。その影響でミギーはセリムの正体も看破できたのだろう。
ミギーが最後に残した言葉がブラッドレイへの追求を躊躇させる。
もし、セリムが乗っていたとしたら? ブラッドレイは異様な強さを誇るとサファイアは語っていた。
だとすれば、息子のセリムは? 人ですらないセリムはどれだけの強さを持つのか。
ミギーの居ない新一は、その地雷を踏もうとは今はもう思えない。

(どうする……。逃げないとヤバイ、特に雪ノ下は戦えないんだ。でも……)

「セリム君、怪我は無いかしら?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「あまり無理をするな」
「ありがとうございます。お姉さん達」

既にアカメと雪乃は守るべき対象として、セリムと接している。
幼い容姿は女性と打ち解けるには打ってつけだ。女性の母性を刺激するのかもしれない。
ブラッドレイが来るまで、二人はセリムの保護を止めないだろう。少なくとも父親であるラッドレイと合流するまでは、セリムと別れることはしないはずだ。
最悪、雪乃は殴って気絶させれば、そのまま連れて行くことも出来る。問題なのがアカメだ。ミギーが無い新一ではアカメに勝てない。
簡単に返り討ちにされる。

(しかも、ブラッドレイだけじゃなく。セリューって奴まで来る。……クソっどうすれば)

一人で逃げろ。ミギーならそう言っただろう。
未央の追跡に自分も名乗り上げて、図書館から離れようか本気で考えたぐらいだ。
だが、八幡に助けられた新一は、八幡が守ろうとした雪乃を見捨てることが出来ない。
もしここで逃げて、雪乃を死なせれば八幡は何の為に死んだのか。八幡の死を無意味なものにする訳にはいかない。

(どうすればいい……いっそブラッドレイの事を言って……。でも、それでセリムが俺達を殺そうとしたら……)

ミギーが目覚めるのを待ちながら、新一は沈黙をずっと守っている。
今、真に味方に付けられる者は一人も居ない。
そんな新一を嘲笑うように、雪乃に手当てしてもらった横腹の傷が少し痛み出した。


268 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 03:01:47 K6E52DvM0



【プロデューサー@アイドルマスターシンデレラガールズ】死亡



【D-5/一日目/午前】

【婚后光子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(特大) 、腕に刺し傷、凜と蘇芳の死のショック(大)
[装備]:扇子@とある科学の超電磁砲
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 不明支給品2〜1(確認済み、一つは実体刀剣類)
    エカテリーナちゃん@とある科学の超電磁砲
[思考]
基本:学友と合流し脱出する。
1:御坂美琴、白井黒子、食蜂操折、佐天涙子、初春飾利との合流。
2:タスクと一緒に未央を探す。
3:何故後藤は四人と言ったのか疑問。
4:後藤を警戒。
5:御坂さんと会ったら……。
[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了以降。
※『空力使い』の制限は、噴射点の最大数の減少に伴なう持ち上げられる最大質量の低下。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、鋼の錬金術師の世界観を知りました。
※アカメ、新一、タスク達と情報交換しました。

【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)
[装備]:スペツナズナイフ×2@現実
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:未央を追いかける。
1:アンジュを探す。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:ブラッドレイとの合流は……。
5:セリムはブラッドレイの息子らしいが……。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。

【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康、
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
0:消えたプロデューサーを探す
1:渋谷凛、島村卯月、前川みく、プロデューサーとの合流を目指す。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※プロデューサーと凜は生きているかもしれないと考えています。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。


269 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 03:02:06 K6E52DvM0


【D-5/図書館/一日目/午前】


【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(小)、足を負傷(治療済み)
[装備]:サラ子の刀@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:なし
[思考]
基本:悪を斬る。
1:図書館でセリューを待つ。
2:セリムが父親と合流するまでは一緒に居る。
3:タツミとの合流を目指す。
4:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
5:村雨を取り戻したい。
6:血を飛ばす男(魏志軍)と御坂は次こそ必ず葬る。
7:クロメ……
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が学園都市に属する能力者と知りました。
※ディバックが燃失しました
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。

【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:健康、八幡が死んだショック(若干落ち着いている)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、MAXコーヒー@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている、ランダム品0〜1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:セリムがお父さんと会うまでは図書館に居る。
2:知り合いと合流
3:比企谷君……
4:イリヤが心配
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。

【セリム・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:健康、虚無感?
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:今は乗らない。
1:無力なふりをする。
2:使えそうな人間は利用。
3:アカメ達と行動しつつ様子を見る。
4:ラース(ブラッドレイ)と合流し今後の検討。
5:凜の仲間に会ったら……。
[備考]
※参戦時期はキンブリーを取り込む以前。
※会場がセントラルにあるのではないかと考えています。
※賢者の石の残量に関わらず、首輪の爆発によって死亡します。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、とある科学の超電磁砲の世界観を知りました
※殺し合いにお父様が関係していないと考えています
※新一、タスク、アカメ達と情報交換しました。


【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(中)、横腹負傷(治療済み)ミギーにダメージ(小) ミギー爆睡
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム品0〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:セリューとブラッドレイが来る前に何とか雪乃やアカメを連れて図書館から離れたい。
2:後藤、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂美琴らしい?)を警戒。
3:セリムを警戒。
[備考]
※参戦時期はアニメ第21話の直後。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。


270 : 間違われた男 ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 03:02:39 K6E52DvM0



【一日目/G-7/午前】


【魏志軍@DARKER THAN BLACK黒の契約者】
[状態]:疲労(大)、背中・腹部に一箇所の打撲(ダメージ:中) 右肩に裂傷(中)、顔に火傷の傷、黒への屈辱、右腕に傷(止血済み)
[装備]:DIOのナイフ×8@ジョジョの奇妙な冒険SC、スタングレネード×1@現実、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品×2(一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲、暗視双眼鏡@PSYCO-PASS、
     アーミーナイフ×1@現実 ライフル@現実 ライフルの弾×6@現実、 空のディバック、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!
     パンの詰め合わせ、流星核のペンダント@DARKER THAN BLACK、参加者の何れかの携帯電話(改良型)
     カマクラ@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。、黒妻綿流の拳銃@とある科学の超電磁砲、うんまい棒@魔法少女まどか☆マギカ
 [思考]
基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する
0:なにか強力な武器・力が欲しい。最悪、他者と組むことも考える。
1:BK201(黒)の捜索。見つかり次第殺害する。
2:奇妙な右手の少年(新一)、先の集団(まどか、承太郎、アヴドゥル)は必ず殺す。
3:合理的な判断を怠らず、消耗の激しい戦闘は極力避ける。
4:水の確保とシャンバラの能力を確認する。

[備考]
※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。
※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、本パートの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。
※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能のないごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。
※スタンドのことを参加者だと思っています
※閃光を放ったのは誰かは知りません。
※シャンバラの説明書が紛失している為、人を転移させる謎の物体という認識です。
※シャンバラは長距離転移が一日に一度で尚且つランダム。短距離だとエネルギー消耗が激しいですが、通常通りに使用できます。


【水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る!】
指輪の帝具。水棲の危険種が水を操作するための器官を素材としている。装着者は触れたことのある液体なら自在に操ることができる。


【次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!】
一定範囲の人間を予めマークした地点へと転送する。エネルギー消耗が激しい為乱発は出来ず、短距離は通常通り使用できる。
長距離の場合制限が掛かり、一日に一度が限度で主催が予めマークした場所にランダムで飛ばされる。


271 : ◆w9XRhrM3HU :2015/08/22(土) 03:03:13 K6E52DvM0
投下終了です


272 : 名無しさん :2015/08/22(土) 08:34:57 RrKqKpaE0
投下乙です

大総統つえー、さすがハガレンの実質的なラスボスだ。ガハマさんお疲れさん。
ウェイブと大佐は正しくダメンズだなぁ、次話でセリュー撃った狡噛さんに斬りかからないか心配だ
島村さんは完全にセリューにズブズブで彼女が死んだら一体どうなるのかと言う不安が…

エルフ耳ニキ多勢に無勢の中よく頑張ったなあ。アカメのスピードは上発言は原作再現で思わずニヤリと
黒さんに間違えられるプロデューサー不運。でも確かに髪とか似てるわこの人w
タスクが移動したと言う事は、シンイチ次第で図書館に血の雨が降る可能性ががが


273 : 名無しさん :2015/08/22(土) 08:39:55 gdTj6C5c0
>>270
投下乙です
黒さんと間違えられたPェ
予約見た時は確実に死んだなと思ってた魏志軍(エルフ耳)が生存してる上、かなり強くなったのは度肝を抜かれた
もしかしたら彼も優勝候補の一角なんじゃないかだろうか


274 : 名無しさん :2015/08/22(土) 09:54:01 7m172rqs0
投下乙です。
死線を見事くぐり抜けるエルフ耳さんこそマーダーの星
願わくば流星となりませんように。
プロデューサーさんは男見せてかっこ良かったです、安らかにお眠り下さい。
そして苦労人シンイチの受難はまだまだ続く…超がんばれ!


275 : 名無しさん :2015/08/22(土) 10:21:03 C0opN33Q0
予約時点ではエルフ耳…お前、消えるのか?と思っていただけにこの活躍は凄い
プロデューサーはちゃんみお守護れたんだな…南無
そしてシンイチ、某所の宗次郎戦のような活躍期待してるゾ


276 : 名無しさん :2015/08/24(月) 00:46:09 p5ZQzetE0
修正および投下乙です

再び本気を見せたエルフ耳さん。プロデューサーと違って、今回散々だったタスクは頑張れ
セリムは一応、対主催転向だけど、新一はどう振る舞えばいいんだろうな、これは

大総統の圧倒的な強さと冷静さは恐ろしいな。セリューに対するそれぞれのスタンスも面白かった
そして、セリューとしまむーの共依存状態や大佐やウェイブの行く末など、先が気になる展開も多かったな


277 : ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:18:40 uhm.Spdk0
遅れて申し訳ありません
これより投下します。少し長くなってしまったのでタイトルが変わっている部分で分割とさせてください


278 : noise ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:20:05 uhm.Spdk0
「君が、御坂美琴じゃと?」
「何よ、文句でもあるっての?」
「いや、君は殺し合いに乗った人間じゃと聞いておったのでな…」
「言ったでしょ。DIOってやつをぶっ倒すまでの協力だって」
「むぅ……」

エドワードと美琴がジョセフと合流後、3人は情報交換を行い。
そしてその少女が御坂美琴であるという事実にを知るまではそう時間はかからなかった。

「だから勘違いとかしないでよ。私はあくまであいつを倒すまでの間は協力してあげるって言ってるだけなんだから」
「…ではDIOを倒した後はどうするつもりじゃ?」
「聞かなくても分かるでしょ」
「初春という子が、君のことを気にかけておったぞ?」
「……関係ないでしょ、あんたには」
「君が乗ったのはあの最初に死んだ少年のことか?」
「しつこいわよ。これ以上踏み込むようだったらこの休戦も破棄するものだって見なすわ」

ジョセフを睨みつけながらバチリ、と威嚇するように電気を放出する美琴。
脅しではないことは分かる。おそらくこれ以上の説得をすると彼女との戦闘となってしまうだろう。

「あー、分かった分かった!これ以上は何も言わん!だからその電気は止めてくれ!」
「………」
(むぅ、やはり一筋縄ではいかんか、少し時間がかかるかもしれんのぅ…)

美琴のその様子には説得を受けることそのものよりも、それによって戻される自分に拒絶感を感じているようだった。
そこにあの上条当麻という少年の死が大きく影響していることは察することができる。

だが下手にいきなり踏み込みすぎるとおそらく彼女の逆鱗に触れてしまうだろう。
少しずつ、彼女が道を踏み外さないように見守りつつ時間をかけてその心を支えていくしかない。

「それで、じーさんは学校から来たってのか?」
「ああ、あそこには今は真姫、初春という娘と田村玲子という婦人がおる」
「それで、図書館には…」
「ああ、泉新一という青年が向かっておる。アカメと雪ノ下雪乃という少女と合流する、と言ってな」
「………」

チラリ、と美琴の顔色を伺うジョセフ。

泉新一、アカメ、雪ノ下雪乃。美琴が一度襲ったという三人だ。
中でも新一、アカメの二人は戦力とするならばそれなりに期待できる。
しかし果たして、一度襲撃をかけたという美琴のことを三人は信用するだろうか。
逆に一触即発となっても何ら不思議ではない。
そしてそうなればDIOを倒す仲間を集めるどころではなくなってしまうだろう。

キング・ブラッドレイが始末してくれているならばいいのだが、そうでない可能性を考慮すれば悪い。

「どうしたんだよ、図書館に向かって仲間を探すんじゃねえのかよ」
「……気が変わったわ。別の場所を当たった方がいいわね」
「イェーガーズ本部とかいうところか?」
「しかし、そこまで向かって仲間を探す、となるとDIOを逆に見失ってしまうのではないか?」

イェーガーズ本部の場所はここからかなり離れた場所、図書館よりさらに向こう側だ。
そこから北東に向かうとなるとかなりの時間を要することになる。

二人の情報から、DIOの存在はここからさらに北へと向かったことは確認できている。
そしてエドワードはDIOに攫われた前川みくという少女を助けに行きたいと言っていた。

「じゃが、やはりDIOがいったいどのような状況にあるのか分からぬままに探しにいくのも危険…。
 ワシの紫の隠者で念写できればいいのじゃが」
『ジョセフ様、少々よろしいでしょうか?』
「む?」

と、ジョセフの隣で突如声をかけてきたサファイア。

『そのジョセフ様の能力による念写についての説明は受けております。そしてその能力にかけられた制限も。
 ですから、少し試してみたいことがあるのですが』




279 : noise ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:20:55 uhm.Spdk0

「…本当に大丈夫なのじゃな?」
『分かりません。しかし可能性はあります』

その手に掴んだサファイアに、ジョセフは手をかざして問いかける。
もしそれが可能であるのならば、この先の施設における研究所の探索、DIOの所在と現在の状況を確かめるのには大いに役立つ。
しかし、失敗すればおそらくサファイアは普段念写に使用しているカメラのように破壊されることになる。

それでも。

『皆様が命をかけて戦われておられるのです、私だけ何も賭けずに生きているのは嫌なのです』
「…分かった。じゃあ行くぞ」

サファイアの想いを汲んだジョセフは、その手に紫の茨を生み出し、サファイアへと巻きつけ。

「紫の隠者(ハーミット・パープル)!!」

バチッ、と電流を流すかのような閃光が走り、サファイアへと流れこむ。

『う、あああああああああああああああ!!!』
「どうした!?やっぱり無理か!?」
『だ、大丈夫です――――、まだ……!』

悶えるように叫び声を上げるサファイア。
魔術のことなど全く分からぬジョセフだが、それでもこの念写を人体に向けて使ったらどうなるのかという情報はない。
サファイアは人体ではないが、しかし人格を持った存在。この念写の影響がどういうものを与えるのかは分からない。

しかし、サファイアの意志は固い。

『もう、少しです……!』
「無理ならいつでも止める!決して無理はするな!」
『っぁああああああああああ!!!』

と、やがて大きく一声絶叫した時だった。

サファイアの体から現れた投影機から光が発し、空中に映像を写し出した。

「いけたか?!」

そこに写り込んだのは、研究所のような施設の中の光景。
のっぺりとした表情で腕を刃のように変化させて振るう男。
漆黒の鎧を着込んだ何者か、槍を携えた赤い少女。
そして、等身大の黄色の人形を横に侍らせた男。


「こいつだ…!こいつがDIOだ!」
「ビンゴか。じゃが些か厄介な状況に陥っておるようじゃな…」
「……何だこの男…、キメラか?」
『はぁ…はぁ…、私の探索能力とジョセフ様の念写能力を合わせたことで、北東地域に限定したものですが現時点でのDIOとその周囲の様子を映し出すことができました…』
「体は大丈夫か?」
『少々疲労を感じますが、機能に大きな障害を負った様子はありませ――』

ボンッ

「何じゃ!今の爆発は!?」
『…探知機能に異常が生じたようです。
 自己修復にはとりかかりますが、しばらく先ほどのやり方は使用できないと考えてください』
「お主自身は大丈夫なのか?」
『動作には大きな問題はありません』
「それならよかった、安心したぞ」

と、空中に投写された映像を確認するジョセフ。


「それにしてもこの男は…」
『ジョセフ様』
「ああ」

ジョセフとサファイアにはそのDIOと同じ場所にいると考えられる謎の男の存在に心当たりがあった。

田村玲子が言っていた、彼女の知り合い、といってもおそらくは敵である存在。
闘争と殺戮を好む寄生生物。
後藤。

「まずいな、奴がいるとなるとDIOの近くの危険度は跳ね上がっておる…」
「じゃあ急がねえとみくは…!みくはどうなってんだよ!」
『申し訳ありません。どうやらこれが限界だったようで…』
「とにかく分かったのはあそこにはDIO以外にもヤバイやつがいるってことでしょ。だったら尚更味方は必要じゃないの?」
「そんな呑気にやってる間にみくが危ねえだろうが!」

DIO以外にも危険な相手がいるとなればこの三人でもどうにかなるか分からない。
故にあくまでも戦力を増やしてから向かうべきと言う美琴。しかしエドワードにとって優先すべきはみくの安全。DIO以外の脅威が確認された今一刻も早く向かう必要がある。

同じ目的を目指していながらも、しかしその先に求めるものが異なる二人の行動方針は咬み合わない。

「まあ、落ち着け二人とも。ここはクールに、な」

そんな二人を宥めるジョセフ。

「DIOとあの男、後藤が協力し合っているようには見えん。むしろ敵対しておると考えるべきじゃろう。
 なら、これは逆にチャンスじゃ」

DIOは強敵ではあるが、あの後藤という男も一筋縄でいく相手ではないと聞いている。
その二人が戦っているというのであれば、逆に攻め込むチャンスでもある。


280 : noise ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:21:24 uhm.Spdk0

「…その二人が潰し合って消耗したところを、ってこと?」
「そういうことじゃ。その隙に前川みくという娘も救出してやればよいじゃろう」
「決まりだな。行こう」
「嬢ちゃんも、それでいいな?」

エドワードとジョセフが向かうという。向かう二人に対し、向かわないというのは自分だけ。
かといってここで向かわないことを選んだとしても仲間を見つけられるとは限らない。

「初春という娘から話は聞いておる。確か学園都市のレベル5、要するに超強いってことじゃろ?
 ワシらがおってもまだ勝てないと思うほどに自分の力に自信がないのか?」
「誰に向かって言ってんのよ!ちっ、…分かったわよ」

あからさまな挑発に乗って、舌打ちしながらも返答する美琴。

エドワード・エルリック、ジョセフ・ジョースター、そして御坂美琴。
戦力としては心許ない、しかし後藤がいるとなればみくの命の安全を考えれば一刻を争う。

だが、エドワードとジョセフはそれで怖気づく性質ではない。
不利な状態でも、守りたいもののために死地に向かおうとするその姿。

何故か、それが美琴には妙に苛立たしく感じられていた。


そうして北に向けて走り始めたジョセフ。

その道中、ふとジョセフはエドワードと美琴に問いかけた。

「二人とも、一つ確認しておきたいんじゃが。
 君たちが体験したDIOの能力についてだが――――――」



「さて、杏子、と言ったか。確か君も魔法少女と言ったが、イリヤスフィールとはまた別の魔法少女ということになるのかな?」
「少なくとも私の知り合いにそんなやつはいないね。だけど興味はある。どんな奴だったんだ?」
「喋るステッキを使って変身する小学生くらいの子供だ。その力があれば空を飛ぶことも可能らしい」
「ああ、じゃあ私達の知ってるやつとは別だな」

能力研究所の一室。
入り組んだ室内で、警戒心を隠すこともなく表す杏子に対してDIOはそれを受け流すように紳士的な口調で話しかける。

「さて、君の魔法少女というのは一体どんな仕組みなのか、聞かせてくれないかな?」
「…大したもんじゃないよ。ただ、変な生き物に騙されていいように使われて戦わされる、バカの集まりみたいなものさ」
「ほう、詳しく聞かせてもらいたいな」
「その前に、少しいいかな」

と、杏子とDIOに追随するように歩いていたノーベンバーは割り込むように話しかけた。

「話が終わったら、あの猫は返してもらいたいんだ。
 杏子と会えた以上、君がこの猫ちゃんを連れている意味もないだろう?」
「フフフ、ならそこに背負っている娘と交換としてもらおうか。彼女は大切な実験要員なのでね」
「実験って何だよ?」
「操祈から聞いているのだろうが、彼女の能力制限を図る必要があってね。みくにかけた洗脳がいつ解けるかを図る必要があるのだよ」
「……なるほど。一考させてもらおう」

ノーベンバーはそれ以上の追求をすることは止めていた。
果たしてこの少女の足を引きちぎる必要はあったのか、という部分。
契約者の視点で見てもそれが効率のいい、合理的な手段には思えない。
だが、同時に言っても無駄だろうということも同時に察しがついていた。
意味は無い。ただこの男がそうしたいからやったということだ。まるで息を吸うように、歯を磨くように。

そこには合理、非合理の理屈などない。ただ男の性質がそういうものだったという、ただそれだけの理由。

できれば一刻も早く離れたいところだが、下手に逃げようとしてあの時の後藤のように謎の現象に見舞われたらそれも叶わない。
それは杏子も分かっているのだろう。だからこそ、あくまでもこの場では穏便に済ませようとしている。

ならば、この少女に関しては諦めるしかない。
情がないわけではないが、己の命と天秤にかけられるものではない。
それが契約者のするべき合理的な判断。

「さて、それじゃお話をしようじゃないか。佐倉杏子」




281 : noise ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:22:12 uhm.Spdk0

能力研究所。
その内側は多くの部屋、通路によって構成され非常に入り組んでいる。

DIO達のいる一室がどこであるか、それを見つけるのは容易なことではない。

カツ カツ カツ

それでも、後藤は闘争の気配を感じて迷うことなく一歩ずつ足を進めていく。

田村玲子を探し彼女を取り込むことで己の力を高める。それも重要ではある。
だが、己を成す衝動は闘争。
例え相手が得体のしれない力を持っていたとしても、それが引く理由にはならない。
体の傷も、戦いに差し支えるほどのものではない。
田村玲子の位置は大まかな地点すら分かっていれば見つけ出すことは難しくはない。

カツ カツ カツ

それに、この場にいることで大きな闘争が発生する。
そんな予感があった。

部屋の扉を開く。
だが中には人一人いない。

「………」

このまま虱潰しに探して行っても時間だけが過ぎていくだけだ。
そう考えた後藤はバッグから首輪探知機を取り出す。

同じ建物の中にいるのであれば探し出すことは可能だろう。

探知機の反応は6つ。
一つは自分。残りはあのDIOや鎧の男、そして槍を携えた女達だろう。

場所はちょうど自分のいる付近。しかしそんな気配はない。

「階層違いか」

同じ座標の、別の階層にいる、ということなのだろう。
だがいちいち階段を使って向かうのも手間だ。

ふと部屋を見回して、その隅に窓ガラスがあることを確認する後藤。

そのまま腕を刃へと変形させ、一片の躊躇もなく研究室のガラスから飛び出し。
そして外壁に刃を突き立てて張り付く。
そのまま、蜘蛛のように壁を伝って上の階へと上がり始めた。

その時だった。

壁に張り付いた後藤に向けて何かが炸裂するかのような轟音が奔ったのは。



その音は、彼らが会話をしていた一室までへも響いていた。

「…奴は追ってきたようだな。すまない、話の続きは後ということでお願いできないかな」
「ああ、大丈夫だ。こちらとしてもあの後藤という男が追ってきたなら迎え討たなければまずいしな」
「にゃははは、みんな集まってきたのかにゃ?じゃあみんなで一緒に遊ぼうにゃ〜」
「…こいつはどうするんだよ」
「そうだな、操祈。彼女の傍にいてやってくれ。俺は客人を迎えに行かなければならないのでな」

冷静に表情を崩すこともなく部屋を立ち去るノーベンバー、その後ろで槍を構えて退室する杏子。

その最中、杏子はふと後ろを振り返る。

「おい、行くんじゃねえのかよ?」

出迎えると言ったDIOが部屋から出る気配がかなり遅れているようにも見えたのだ。
杏子にしてみればこの男に背後を任せるという事自体に気が置けない。何しろ少女の足をもぎ取っておきながら平気な顔をしているような男だ。
加えてあの得体のしれない能力。
例え気休めだとしても後ろを取られたくはない。

「…すまない。少し先に行っていてくれないか?あの鎧の疲労が少し抜けていないみたいでね」
「そうかい」

DIOの答えに、まだ付いてくるつもりはないということが分かった杏子はそのままノーベンバーについて外へ向けて駆けていった。



(この感覚…、どうやら来たようだな)

会話中は特に意識していなかったが、あの音で意識を戻すと共に体の中で何かが知らせていた。
この会場に着いてからというもの、エジプトにいた時と比べればあまりにも弱くなっていた感覚。
それが、たった今はっきりとした形で感じられている。

これが何を意味しているのか。

「――――空条承太郎、あるいはジョセフ・ジョースター!」

己の因縁のある、ジョースター家の血を引く男の存在。
それがすぐ近くまで迫っているということ。




282 : noise ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:23:38 uhm.Spdk0

「何やってんのよ!いきなりそんなものぶっ放すやつがある!?」
「うるせえ!こういうのは先手でドカンとやっておかねえとダメだろ!」

地面から生えるように作られた巨大な砲台の傍で、美琴とエドワードが叫び合っている。
ジョセフの勘とサファイアの探知機能を便りに多くの建物が立ち並ぶ地帯を駆けていた3人は、当たりだと思える一つの建物へとたどり着いた。
だが、その時目に入ったのが壁を蜘蛛のように伝って歩く何者かだった。
両腕や足を刃のように変形させて壁に突き刺しながら進んでいく姿は普通の人間のものに見えるはずもない。

かといってこの距離。どう対処すればいいのか。
それを考えていた時に、地面から大砲を錬成したエドワードが轟音と共に砲台を撃ち出していた。

「でもあんた、それ当ててないでしょ!先手必勝が聞いて呆れるわよ!」
「あいつを引きずり下ろせればそれでいいんだろ!」
「むぅ、もしこの中にDIOがいるとするなら、もっと派手にやってくれても…いや、それでは奴以外の人間を巻き込んでしまうかもしれんか…」

エドワードとしてはみく救出に逸る思いがあり、それが後藤という危険な存在かもしれないということから考えるより先に手が出てしまった、という辺りだった。

壁面には大きな穴があき、そこに後藤の姿はない。
後藤がいた場所はその中心部からはある程度離れた、しかし崩れ落ちている場所。
直撃を避け、壁を崩すことで地面に叩き落とすことを目的とした一撃だ。

カツ、カツ、カツ

そして、もしジョセフから聞いた後藤という男がそのとおりであるなら、あれで死ぬとも到底思えない。

目の前で起き上がっている後藤は、脚の関節をまるで飛蝗のように逆方向に曲げてバネのようにして着地していたのだろう。
地面に叩き落とした時のダメージがある程度あることは期待したが、その様子はない。

「ち、本当にキメラみたいな奴だな…」
「お前、後藤という名じゃな?」
「俺の名前を知っているということは会ったな。田村玲子か泉新一に。
 奴らはどこにいる?」
「教えると思うか?」
「教える気がないならそれで構わん。力づくで聞き出すだけだ」

腕が触手のようにうごめいたと思うと、幾重にも枝分かれして刃へと変形する。

「来るぞ!まだこの後はDIOと戦うことになるじゃろう!深追いはするな!」
「ち、誰に向かって言ってんのよ!」

美琴が電気を放出して後藤へと走らせる。

青白い光は地面を伝っていき。
しかし後藤はその光を横に大きく飛んで回避。

「うおりゃああああ!!」

その移動した後藤へとエドワードが走る。
手には先に作り出した砲台から再錬成し直した巨大な槍が握られている。

向かい来るエドワードに気付いた後藤はしなる刃を向ける。
しかしエドワードはその軌道を読むように体を捻り紙一重のところで避けて接近、その腕に向けて槍を叩きつけた。
だがその腕はまるで岩を殴っているかのように固く、後藤自身も怯む気配も見せない。

「ち、固え…!」
「小さな体に助けられたな」
「誰がチビだって!!」

後藤に槍を叩きつけた態勢のエドワードに向けて、外した刃が後ろから迫る。
エドワードの背中を貫かんと来るそれに対し。

「紫の隠者(ハーミット・パープル)!!」

ジョセフの腕から出された茨がその腕を絡め取って押さえつけた。
その隙に槍を再度叩きつけた後その反動で離脱する。


「手を合わせて謎の力を引き起こす男、その服を着た風や瞬間移動をする女。
 お前たちも奴らと同類の力を持っているということか」
「…?誰のことだ…?」
「風と瞬間移動…、婚后さんと黒子…?」

すぐにその存在に行き着いた美琴。
一方でエドワードには心当たりがない。
知っている存在はホムンクルスとキンブリー、マスタング。
しかしその二人は錬成陣を用いた錬成を行う。自分のように錬成陣無しでの錬成はできないはずだ。
自分たち以外に錬成以外の力を使う者がいるということだろう。そう解釈して思考を打ち切る。

「ええいっ!」

再度後藤に向けて地面を走る電流。
しかしその行動を予測していた後藤はあっさりとその軌道を回避。

「お前の力はそれだけか?」

接近戦において最も不慣れである者は美琴だと判断した後藤は、電撃を素早い身のこなしでかわしつつ刃の攻撃範囲まで迫り。
そのまま目にも留まらぬ動きで、巨大化させた刃を一気に振りぬく。

「―――フ」

一瞬、美琴が笑みを浮かべたような気がして。
その瞬間、後藤の腕が一気に大きく美琴から外れた場所まで逸れる。

「む」


283 : noise ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:24:22 uhm.Spdk0

思わず目を腕にやる後藤。
その腕の触手部分に先のエドワードが振りぬいていた槍がまるで腕を巻き付けるかのようにあった。
バチリ、と槍から一瞬帯電しているかのように電気が走る。

電気を通す金属であれば、手元から離れていても美琴にとっては磁気を操ることで自在に動かせる。
あの腕の機動力を封じるために、その一つを封じたのだ。

態勢を崩してたたらを踏む後藤。
そこに横からエドワードが迫り。

両手を合わせて槍に触れる。
まばゆい閃光が走り、槍が形状を変化させる。

触手を捉えていた槍は地面へとしっかり根付き、加えて檻のようにその腕を拘束して離さない。


「じーさん!今だ!」
「じーさんじゃない!ジョセフじゃ!」

そのまま後藤へと向けて、今度はジョセフが迫る。
抜け出せぬ後藤は動ける左腕を素早く展開。

「おっと!」

その速さに驚きつつもどうにか回避しながらも迫る。
しかし三本全てを回避しきることはできず、その中で一本がジョセフの体へと迫る。

「――!」

思わず腕で刃から庇うジョセフ。
だが後藤の刃は腕で防ぎきれるようなものではない。
その場にいた誰もがジョセフの腕が切り落とされ、そのまま体をも切断される未来を見た。

だが。

「次にお前は『何だその腕は?』という」
「何だその腕は……む?」


ジョセフは腕すら切れておらず、もう一方の手を眩く光らせながら握りしめる。

切れた服の奥に見えたのは人の肌とは思えぬ灰色。そこにあったのは生身の人体ではなく鉄の義手。
あくまでも人の体を斬ることを目的として振りかぶった一撃では鋼鉄を切り裂くには至らなかったのだ。

「波紋疾走 (オーバドライブ)!!」

その手に溜め込んだ波紋ごと後藤の顔へと叩き込まれたその一撃は、後藤の体を大きく後ろに吹き飛ばした。


「ふぅ、じゃがさすがに今のは冷や冷やしたぞ」
『…もう少しご自身の安全を考えてください』
「なぁに、義手が少し傷ついたくらいじゃ。結果オーライじゃよ」

サファイアの諫めにも軽口を返して答えたジョセフは、再度後藤を見る。
常人であればしばらくは動けないだろう一撃だったが、しかし相手は人間ではない。
いっそ吸血鬼のような存在だったならば終わったのだろうが、そうもいかないだろう。

「不思議な一撃だ。体の中に何かを流し込まれたような感覚を覚える」
「…しかし何じゃな。この男の声、何故だか知らんが妙に気に障る気がするわい」
「だが威力自体はDIOのものと比べればそれほどでもない。それでは俺は殺せん」
「じゃろうなぁ…」

別にジョセフ自体、今の一撃で倒せることを期待していたわけではない。
だが、それでもこの後藤という男の戦い方、力に関して測ることには成功していた。

二度目はないだろうが、素早い一撃は人体を切り裂くことは容易でも鉄のような物質を切り裂くには威力不足。
おそらくはそれでも斬ることはできるのだろうが、そうなった場合は大振りの一撃を放つことになるのだろう。
そしてエドワードの一撃を見るに体自体もその刃と同じ程度の硬さを持っている。内側はどうかは知らないがあの肌色の肉体の下には鎧のように防御されているのだろう。

それだけの情報を得るためにこちらは手の内をある程度晒してしまったが。

だが、これ以上時間をかけているわけにもいかないだろう。
何しろ、この先にはDIOがいる。ジョセフの接近はおそらくDIOの知るところだろう。
今は日中。あの建物の中から出てくることはないはずだが。
これ以上近くで戦闘行為が続くのはDIOの逃走、ひいては攫われたという前川みくという少女の救出にも失敗することになる。

(ここは戦力を分担して動くべきか…?)

危険ではあるが、目の前の後藤を倒すことは必要なことだが優先事項ではない。
最悪前を前川みく救出までの時間さえ稼ぐことができるならば。


と、そこまで考えたときだった。

「うおりゃあっ!!」

窓を割って、赤い少女が後藤に向けて槍を抱えて突っ込んできた。
拘束されていた後藤の腕が切り落ち、片腕と引き換えにその体に自由が戻る。

「ずいぶん楽しんでるみたいじゃん。さっきはずいぶんとコケにしてくれた借りを返させてもらおうか!」
「この娘は…確か…」

ジョセフの記憶では、確か佐倉杏子という名前。
美樹さやかの知り合いの魔法少女の一人のはずだ。

「…君は、佐倉杏子という名前か?」
「あん?何で私の名前…、誰かに会ったのか?まあいいや。
 あんた達、こいつの敵なんでしょ?こいつぶっ飛ばすまでの間でいいから、とりあえずちょっと手を組まない?」
「それは願ったり叶ったりじゃが……」


284 : noise ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:25:17 uhm.Spdk0
ジョセフとしても敵対するつもりのない者であれば友好的にするつもりではある。
だが、それが後藤を倒すまでの間、というのは妙に引っ掛かる。

しかし思考をその事に回し続ける時間はなかった。

切断された後藤の片腕が蠢き、形を崩したと思うと後藤の本体の元へと迫っていき。
そのまま何事もなかったかのように、後藤の腕は元の形を取り戻して再生していた。

「な……」

驚愕で絶句する杏子と美琴。

「…話には聞いておったが……。体に5体の寄生生物を飼っておる、だから五頭(後藤)ということじゃと。
 じゃがこうして実物を目の当たりにするとすさまじいものじゃな…」

少なくともこいつを倒すには腕や脚を切り落としたとしても一時の時間稼ぎにしかならない。
するのであれば、その核である心臓を叩くしかないだろう。
だが、そこは堅牢な肉体の鎧で包まれており自身の力では破ることは難しい。

だとするとこの場でキーとなるのは―――

(この御坂美琴という嬢ちゃんじゃが…)


「ふむ、やはり苦戦しているようだね」

と、今度は研究所の正面玄関からスーツを着た一人の男が現れる。
特に武器を持っている様子もないが、その佇まいは戦い慣れした者のそれだ。

「君は…?」
「私はジャック・サイモン。まあ言いたいことはあるだろうが、今はこの名前で通らせて欲しい。
 見るとあの後藤という男とは敵対しているみたいだね。どうだろう、ここは共同戦線を張らせてもらう、というのは?」

男がいかなる力を持っているのかは分からない。しかし共に戦ってくれるというのであれば願ってもないこと。
様子を見るに佐倉杏子とは共に行動した仲なのだろう。彼がいれば彼女の手綱は握っていてくれるのかもしれない。

ただひとつ、見過ごせないことがあった。

それは、この男がDIOがいると思われる建物から出てきた、という事実。

「おい、この建物の中にDIOはいるのか!?みくは無事なのか?!」
「ああ、二人ともこの中だ。みくという子も命には問題なかったが―――」

逸る気持ちのままエドワードがジャックに問いかけていた、その時だった。

ダッ

地を蹴った後藤が、エドワードとジャック目掛けてその刃を振りぬいたのは。
両腕の合計6つの刃が迫る。しかし二人の反応が間に合わない。

素早い一撃はグランシャリオ、鋼の義手でかろうじて防ぐ。
しかしその後で追撃をかける大ぶりの一撃。回避しなければまずいそれまでは対応が間に合わない。

ガキィン

しかし、その瞬間二人の間に砂鉄を操る美琴、そして槍を構えた杏子が割り込む。

その一撃を防いだだけで砂鉄は霧散し槍は砕け散り二人は吹き飛ばされる。

「悪ぃ、美琴!」
「助けられたね杏子」
「礼なんていいわよ、あんたはDIOを倒すために必要なんだから、こんなところでやられちゃ困るのよ!」
「礼なんていらねえよ。あんたは私がぶっ飛ばすっていっただろうが」
「おやおや二人とも似たようなことを言うね。それは所謂ツンデレ、というやつかな?」
「「誰がツンデレだっ!」」

ノーベンバーの軽口に過剰に反応する二人。

「さて、エドワード君といったかな。前川みくのいる部屋なら知っている。
 王子様のように迎えにいくというなら急いだ方がいいかもしれないね」
「みくはどこにいるんだ!?」

ノーベンバーからみくのいる部屋を聞き出すエドワード。
それなりに高い階層にある一室に、DIO、食蜂操祈と共に、あるいは操祈のみと共にいるという。

それだけを聞いて、エドワードは急いで研究所の中に突入していく。


285 : noise ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:26:00 uhm.Spdk0

「…最も、今の彼女に会うというのならそれなりの覚悟をしておかないと―――ってもう行ってしまったか」
「…………」

と、そこまで様子を見るように構えていた後藤が動き始めた。
残った4人はそれぞれどの方向から攻撃が来てもいいように構え。

そんな彼らを通りすぎて、エドワードを追って研究所の中へと入っていった。

「?!やべえ!あいつを屋内に入れたら―――」

あの壁や天井を縦横無尽に飛び回り読めない軌道からの攻撃を繰り返すあの時の戦いが思い出される。
おそらく後藤自身皆が追ってくるだろうということは読んでいるのだろう。追わねばエドワードが危ない。
その上で、自分に有利な状況での戦いをするつもりなのだ。

「ち、追うぞ!
 …ジャック・サイモンと言ったか。あんたはDIOとはどういう関係なんじゃ?」
「彼とはここで会っただけの仲だ。少し話をしただけだよ。仲間、というには彼のやり方はあまり趣味に合わないものでね」
「分かった。嘘を言っておる目には見えん。あんたの言葉は信じよう。DIOは中なんじゃな?」

話しながら、残された4人もまた後藤を追って建物の中に突入していった。



物陰の奥から外の様子を眺めるDIO。

「なるほど、ジョセフ・ジョースター、老いぼれの方が来たか。
 嬉しいぞ、わざわざこの俺に血を提供しにきてくれるとはな」

インクルシオの鎧があればあの場所で戦いに交じることも可能だったが、むしろ消耗したあいつらを一網打尽にしてやった方が効率がいい。
そう思い研究所内で待機していたが、そううまくいくものでもなかった。いくら老いぼれとはいえ腐ってもジョースターというところか。
連れてきた者も一度は叩きのめしたとはいえ地力は高い連中ばかり。
だが、そんなやつらを完膚なきまでに叩き潰す、ないしは屈服させてこその帝王だろう。


後藤の存在が気がかりではあるが、いくら老いぼれとはいえあんな生物にやられるようなジョースター家の男ではないだろう。
もしもの時はジャックと杏子が始末、ないしは足止めしてくれる。

ならば、こちらはこちらで自分のやるべきことを優先するとしよう。
後藤を始末するならば、その後だ。

「フフフ、いくら貴様達が強くとも、この『世界』の前では塵にも等しいということを教えてやる」

陽の光が入らぬ薄暗い空間で、DIOは微笑を浮かべて獲物を待ち続ける。




結果として、後藤を追う事自体はそう時間のかかることではなかった。
それなりに開けた通路の一つに、まるで待ち構えるかのように後藤は立っていたのだから。

しかしそれは皆にとっても助かるものではなかった。

「ち、やっぱ屋内じゃ…」

縦横無尽に壁や地面を足場に飛ぶ後藤に、多節棍と化した槍を振るい広範囲に打撃を仕掛ける杏子。
しかし後藤はそれを安々と弾き飛ばして刃を杏子へと振るう。

直撃は避けるが、脇腹を刃が掠めて傷を作る。

その着地した後藤の背後から、美琴が雷撃を放出。
死角に位置するその攻撃を後藤が避けられるはずもない。そう思っていた。

ギロリ

攻撃が当たる直前、その後頭部に美琴を睨むかのように瞳が姿を見せる。

ヤバイ、と判断した美琴は咄嗟に自身の体から発した磁力によって背後の巨大な金属製の機器の元へと吸い寄せさせて後退。
コンマ一秒の差で、美琴のいた場所を刃が通り過ぎていった。


「まずいな…」

ジョセフとノーベンバーは物陰でその様子を伺っている。
別に逃げているわけではない。ただ、あまりにも状況が悪かった。
二人が後藤と屋内での戦いを行うのは不利、と判断するにはそう時間のかかるものではなかった。
無策で戦うのは無謀、と判断した二人だったが、しかし杏子と美琴は後藤が発した挑発のような言葉にまんまと乗せられて今の状態に至っている。

かといって見捨てるわけにもいかず、こうして判断を待っている状態だ。

「おい、ジャックよ。あんたの能力は、確か氷を作り出すというものじゃったな?」
「まあ無から作り出せるというわけではないがね。水気、ないしは水分があるならというところだ」
「なるほど。…水分か。あの嬢ちゃんの協力も必要になるが、やってみる価値はあるか」


286 : noise ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:26:35 uhm.Spdk0
周囲に散らばった多数の金属片を磁力で操り、弾丸のように一斉に射出する美琴。
しかし後藤はそれを腕を巨大な盾のようにして防ぐ。

杏子がそこに思い切り槍を叩きつけるが、逆にかわされて盾に殴られて吹き飛ばされる。
その次の瞬間、杏子がいたことで死角となっていた場所から美琴は電撃を放つ。
だがそれは盾で防ぐでもなく、飛び退き壁に張り付いて回避。

「ち、しつこいってんのよ…!!」

物理的な攻撃は受け止めるが、電撃だけは当たろうとしない。少なくともその体に電気を流すこと自体は有効なのだろう。
だがそれは後藤自身も分かっていること。不用意に撃って当てられるものでもない。

「どうした?その程度か?」

そのまま壁を蹴って美琴の元に飛びかかる後藤。
回避も間に合わぬ速度でその腕の刃が迫る。

その寸前だった。
視界に割り込むかのように眼前に何かが写り込んだのは。

爆弾か、薬物か、あるいは何かしらの攻撃手段か。
直感的になぎ払う後藤。そして直後にその体は美琴の元に到達する。
刃が美琴へと振るわれるタイミングがずれたことでその身が斬られることはなかったものの、その勢いまで殺すことはできず、体当たりの衝撃が美琴を突き飛ばす。

「ぐあっ…」

地面を転がる美琴の体。
だが、追撃はない。

後藤は自分がたった今薙ぎ払った何かに目をやる。
それはペットボトルに入った水。

水は地面を伝い、一人の真っ黒な鎧を纏った男の足元まで伸びる。
その男の体から光が発したと思うと、後藤の足元がこぼれた水を通して凍り始めた。

しかし後藤はそれが脚に到達する寸前には飛び退く。
その手自体は一度見たものだ。
だが今は勝手が違い、あの時と比べれば相手取る者が多い。凍らされて氷を砕く間にも別の誰かの攻撃が迫ってきては面倒だ。

再度壁を蹴ってノーベンバーのグランシャリオを着込んだ体に向けて全身を丸めて体当たりを放った。
刃であれば鎧を切り裂くに留まる可能性があるが、こちらならば鎧の内部にも衝撃を与えられる。

吹き飛ぶノーベンバーの体、同時にグランシャリオも解除される。
そして、地面を見ると自分の体からノーベンバーの元に向けてもまた水が残っている。
またペットボトルの水をこちらの突撃と同時に撒いたのだろう。

故に後藤はノーベンバーの体を触手で殴り飛ばした。
斬ればそれで終わっただろうが、死ぬまでの一瞬の間にまたしても能力の発動を許すのも手間だ。

「ふ、ふふふ」
「何がおかしい?」
「いや、うまくいったなと思ってね」

おかしそうに笑うノーベンバーに対し、後藤は訝しげにしながらも近寄る。
あの男の体はこちらに氷を届けさせられる距離にはない。


「ところで知ってるかな?水というものはね、電気をよく通すんだよ」
「―――!」

バチリ、と。


287 : noise ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:27:08 uhm.Spdk0

美琴の放った電撃は濡れた地面の端を捉え。
後藤に避ける暇も与えぬほどの速さで水を伝ってその体に到達する。

「ぬ、がああああああああ!!」

体に流された電流は後藤の動きを止める。
威力自体は後藤の巨体の心臓にトドメを刺すほどのものではない。
しかしその肉体に流された衝撃は体の統率を乱し、動きを鈍らせる。

そんな状況にあっても、後藤は冷静に周囲の状況を見極めようと知覚に全てを費やす。
佐倉杏子の槍が迫る。統率の乱れた体に強引に支持を出し、急所だけは避けるように体を守らせる。
胸を狙った一撃は弾き飛ばして終わる。

『執行モード、デストロイデコンポーザー』

ふと、後藤の耳に届いた音。
音の発生源はジョセフ・ジョースター。
その手に構えられた、異常に大きな銃のような武器。

『対象を完全排除します。ご注意ください』

回避するには脚の統率が戻らない。何しろ最も電気の影響を受けた箇所だ。
受け止めるために、後藤は腕を巨大な盾に変形させて防御を図り。

しかし放たれた光弾は後藤の盾を吹き飛ばした。

「やったか?!」
『いえ、当たりましたがあの男本人には届かなかった様子です』

視界が晴れた先には、右腕を喪失しながらもまだその2つの脚でしっかりと地を踏みしめた後藤の姿。
デコンポーザーの射程がギリギリ後藤の体に届かなかった。ドミネーターの説明自体を詳細に見ていなかった弊害だった。

しかしその腕が再生する様子はない。
先の一撃は確かに後藤の体を破壊したのだろう。

「―――やってくれたな」

歓喜か苛立ちか、それとも怒気か。
それまで無表情だった顔をいずれかの激情に任せ、後藤はその腕を再度作り変える。
両腕に刃こそ戻ったものの、その数は先と比べれば半減している。

「やはり俺も少し遊びがすぎたようだ」


288 : noise ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:27:50 uhm.Spdk0




そんな時、屋上の階層から轟音が響いてきた。

「む、まさかDIOとあの小僧が」

上の階にいるのはみくを助けに行ったエドワードのはず。
そこから響いてきた音は、DIOと遭遇したことを示しているのだろう。

気がかりではあるが、目の前の後藤もまた健在。
放置していくわけにもいかない。

と、そこで後藤の前に杏子が立ち塞がった。

「あんたら、気にしてるんだろ?なら行きな。
 今のこいつなら私らでも戦えるかもしれないし」
「…じゃが……」
「私はDIOのやつと戦おうとかってわけじゃないけど、あいつのことは気に入らねえ。あんた達が倒してくれるってんならそれに越したこともねえしな。
 それに、こいつには個人的な貸しがあるだけだ。それを返すまでは離れられねえってだけだ」
「分かった。では当てにさせてもらおう。嬢ちゃん、着いてきてくれ。行くぞ」
「言われなくても」

先行して走り去る美琴。
追って先に向かおうとしたジョセフは、ふと杏子の方へと振り向く。
まるで言い残したことがあるかのように。

「ところで杏子ちゃん、と言ったか。巴マミ、という人を知っておるか」
「…………」

無言。
この場合のそれは肯定を意味するものだろう。

「ワシも聞いただけで直接会ったわけでもないが、彼女は強大な力を持った者を相手に立ち向かい、死んでいったそうじゃ」
「…それが何だってんだよ」
「別に深い意味はない。ただ知り合いなら伝えておかねばと思っただけじゃ」

それだけを伝え、ジョセフは美琴を追って走っていった。


「…………」
「センチメンタルになっているところ悪いが」
「そんなんじゃねえよ」

後藤の腕が迫る。
刃の数こそ減っているが、しかしその威力は変わらない。
正確に受け止め続けるその目の前では再度グランシャリオを纏って手にした大剣でもう一方の刃を受け止めるノーベンバーの姿。

(…誰かのために戦ったって自分のためになんてならないってのにさ。ホント、あんたはやっぱバカだよ)

ふと思いを寄せた一人の魔法少女の姿。
誰に呟いたわけでもない言葉は、しかし何故か自分の中に得も言われぬ感情を生み出し続けていた。





289 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:29:00 uhm.Spdk0
「みく、どこだ!」

走るエドワード。
下の階ではひたすらに激しい戦闘音が響き続けている。

みくを救出したら自分も一刻も早くそこに向かわなければならない。
だからこそ、みくを急いで探し出さねば。


「みく!」

扉を開くが、誰もいない。
この階層であることに間違いはないはずだ。

「クソ、どこだ…!」

ジョセフやサファイアがいれば探知することも可能だっただろう。後藤であれば首輪探知機で探し出せただろう。美琴であれば能力をレーダーに応用して探索できただろう。
しかしエドワードにはそういったものが何もない。

気持ちだけが焦れていく。

そんな時だった。

「おい、あの嬢ちゃんを探しているのか?」

エドワードの耳にふと声が響く。
どこだ、と周囲を見回すがそこにいるのは黒猫が一匹。

「そう、こっちだ。話してるのは俺だ」
「な、猫が……、いや、詳しいことは後だ。
 前川みくの居場所、知ってるのか?」
「…ああ。あんたは彼女の仲間か?今あの嬢ちゃんは少し大変なことになってる。
 仲間なら早く助けてやってくれ」

互いの自己紹介もそぞろに、廊下を走る黒猫を追って、エドワードは走りだした。





ガタン

「みく!大丈夫か!!」
「あ、エドワード君にゃあ〜」

猫の導きでたどり着いた部屋。
そこに前川みくともう一人名も知らぬ金髪の少女がいた。

こちらに笑顔を向けるその顔を見て、大丈夫そうだとほっと胸をなでおろしてみくに近づいたその時だった。


あまりにそれが自然すぎて見過ごしてしまうかとも思った。あるいは目の錯覚なのかとも。

「よかった、いなくなってからずっと心配してたんだよ〜」

楽しそうな声を上げる姿はどこまでも自然で。

だというのに、その脚に本来あるべきものがない姿はどこまでも不自然で。
そんな状態で屈託ない笑顔をこちらに向ける様子は、限りなく不自然だった。

真っ赤に染まった片足の太ももから先の部分は引きちぎられたかのように欠損していて。
まるでかつて自分が人体錬成に失敗したあの日のようで。

何が起きたのか、理解できない。いや、理解したくなかったとでも言うべきだろうか。


290 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:29:37 uhm.Spdk0

「…ちょっとお先に〜…」

その様子に気付いた金髪の少女―食蜂操祈が部屋からこっそり抜けだそうとした、その時だった。
エドワードは横を通りすがった彼女の服の襟元を掴み、思い切り壁に叩き付けた。

「痛っ…」
「――お前、みくに何しやがった」

顔を伏せたエドワードの表情は操祈には見えない。
ただ、声だけでも激昂しているのは能力を使うまでもなく十分に察せられた。

慌ててリモコンを取り出そうとする操祈の手をはたき落とし、怒鳴りあげて問い詰める。


「あいつの脚に、一体何しやがった!!!」


「やれやれ、騒がしいと思って来てみれば、いつぞやの小僧か」

と、その時背後から耳に届いた声。
近づいてくる気配などなかったにも関わらず、いつの間にかそこにいたかのように佇んでいる。
いや、エドワード自身が激昂していたからこそ気付かなかったというべきか。

「てめえ……」
「彼女は私の大切な友達だ。あまり手荒なことをされるのは困る。
 この子猫ちゃんに何をしたのか、ってことを聞きたいのかい?簡単な話だ。少し実験材料となってもらった、それだけだよ」
「実験……?」
「ああ。操祈ちゃんの能力には制限がかかっているらしくてね。それを確かめるために彼女の感覚を弄らせてもらったんだよ。
 その過程で彼女は脚を失ったが、まあ大した問題ではないだろう」
「―――――――」

その言葉で、エドワードの中で何かが切れた。

「てめええええええええええええええええええええ!!!」

両手を合わせてその腕の義手を刃へと変化させてDIOへと向けて振りかざす。
しかしDIOはまるでその程度児戯だとでもいうかのように、突き出された腕を握りしめて受け止めた。

「無駄ぁ!!」

横に放るようにその小柄な肉体を放り、宙に浮いたエドワードの体に拳を叩きつける。
息を詰まらせるエドワードだが、幸か不幸かその時の彼は痛みを感じるほど冷静ではなかった。
受け身を取って起き上がったエドワードは、地面を錬成。
柱のように形を変えた床がせり上がり、DIOに向けて突撃をかける。

だがそれすらもDIOはスタンド・『世界』を顕現させ、その拳のラッシュで粉砕。
と、その攻撃が止んだと同時に、視界が阻まれた隙を付くかのようにエドワードは手に作り出した長槍をDIOの肉体に向けて突き出す。

しかしDIOのいた場所は槍が届く直前にエドワードのすぐ横に移動していた。

対応できぬまま殴り飛ばされ、廊下に叩きだされるエドワード。

「怒りとは人の感情をこうも狂わせる。人に恐れという感情すらも忘れさせる。
 だがそれは時として死すらも意識させぬままに行動させる。生き物としては不適合なものだとは思わないかね?」
「っ…、知る、か!!」

今の一撃で冷静さを取り戻したのか、エドワードはDIOからジリジリと距離を取るように移動し始めた。
要するに前川みくから自分を引き離そうとしているのだ、とDIOは判断する。
乗ってやろうではないかとDIOはゆっくりとエドワードに向けて歩みを進める。

やがてDIOが廊下へと出てしばらく歩いた辺りで、DIOの足元に光が走った。
何が起こるのかと警戒したところで背後の壁や床が崩れ、引き返す道を塞いだ。

「ほう」

つまりは前川みくから自分を引き離したということだろう。
だが別に不都合があるわけでもない。援軍など期待してはいない。

「いい度胸だが、それはこのDIOの前では無謀でしかないことを思い知るがいい」

カツ、カツ、と。
DIOは先にいるだろう獲物へ向けて笑みを浮かべてゆっくりと歩き続けた。





291 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:31:01 uhm.Spdk0


「…ここか」
「あいつ、ずいぶんと派手にやってるじゃない」

ジョセフと美琴の視線の先にあるのは崩れ落ちた廊下。
おそらくはエドワードの仕業だろうし、その先にDIOはいるのだろう。

早く向かわねば、いくら何でも彼一人で相手にできるような者ではない。
と、その前にふと部屋の中を覗きこんだ二人。

「おう、嬢ちゃん達無事か?」
「にゃ〜エドワード君は〜?」
「あの小僧なら、DIOを追い払ったらすぐに――――っ」

と、笑顔を浮かべる少女に近づいた二人は、その欠損した脚を見て息を詰まらせた。
あまりに笑顔が自然すぎて、そのような異常な状態であること自体を想定していなかったこともある。

「……っ」

口を押さえる美琴。
その脳裏に思い浮かんできたのは、かつて絶対能力進化計画で一方通行に命を奪われた一人の少女が道端に残した体の一部。
あいつはその少女をただのモルモットにしか思っていなかったが、DIOもそいつと同類ということなのだろう。

「…あんた、そこまで堕ちてたとは思わなかったわ」

不快感を押さえつけ、視線を向けたところにいたのは壁に背を預けて座り込んだ金髪の少女。
自分にとっては気に入らない存在ではあったが、それでもあの下衆の片棒をここまで担ぐような奴だとは思っていなかった。

どうしてこんな状態の女の子がこんな自然な笑顔が浮かべられるのか。
こいつが一枚噛んでるとしか思えない。
おそらくはそういう洗脳を能力で施したということなのだろう。

「あらぁ、人のことが言えるのかしら御坂さぁん」
「…どういう意味よ」
「あなたが殺し合いに乗った理由は想像が付くわ。だけどそれで本当に”彼”がそんなこと望んでると思うのかしら?」
「…あんた何言ってるのよ…。私とアイツの、何を知ってるのよ!」
「あら?今私何て言ったの?彼って誰?え?」

何故か問いかけられた美琴以上に混乱している操祈。
その様子はおかしく、何かが不自然だ。

「…嬢ちゃん、少し額を見せてもらおうか」

と、ジョセフは操祈の髪をかきあげその額を露わにした。
そこには蠢く謎の瘤が存在していた。

「やはりな。肉の芽を植え付けられてDIOの手駒にされておったか」
「…これは治せないの?」
「少なくともワシには無理じゃ。せめて承太郎がおれば…。
 今はDIOを追うことが先決じゃ。あの崩れた道の先におるんじゃろうな。頼めるか?」
「いいわよ。ただ一つだけ。DIOとあの後藤ってやつをぶっ殺したら」
「ああ、そういう約束じゃったな」

エドワードとはそういう約束だった、と聞いている。
であればこの少女との休戦協定が破られた時こそ、逆に機会だろうとジョセフは考える。
彼女に人殺しを思いとどまらせる説得が可能な機会だと。





292 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:31:52 uhm.Spdk0

壁や床、天井はボコボコに変形し、激しい隆起があることが確認できる。
エドワードが多用した錬金術の結果だろう。
しかし、それでも尚もDIOは健在だった。

体に多少の汚れこそあるが、大きな傷もなく余裕の表情を浮かべている。
対するエドワードはボロボロの状態で壁に背を預けて座り込んでいる。

エドワード自身、多くの異形の生物、人外と戦った経験はあった。
その中にはDIOと同等、いやそれ以上の身体能力を持った者もいた。
しかし、DIOの持った謎の能力がどこまでもエドワードを追い詰めていた。
能力自体の解明もできぬままに我武者羅に戦って勝てる相手ではない。

それでも普段のエドワードであればもっと冷静に戦うこともできただろうが、今の彼は冷静さを欠いていた。
みくの脚を奪ったことの怒り。それはDIOだけではなくあんな状態になる前に助けることができなかった自分自身にも向いているものだった。

「なかなかに面白い能力、そして人間にしてはよくやる身体能力だ。殺すには些か惜しい。
 どうだ、もし君が望むならば君を部下にしてやってもいいと思うのだが」
「…は、くたばれ下種野郎」
「そうか、残念だよ」

果たしてこのまま殺すべきか、それとも肉の芽を植え付けるべきか。
考えたDIOだが、エドワードの精神力を鑑みれば万が一があっては困る。ここは殺しておくべきだろう。

そうしてザ・ワールドの拳を構えてエドワードへと叩きつけようとしたDIO。
その時だった。

DIOのすぐ横を、電気を纏った何かが高速で通過していった。

「ほう、ずいぶん遅い到着じゃないか。
 御坂美琴、そして――ジョセフ・ジョースター」
「DIO、ようやく会えたな!」

飛来した元の場所に空いた壁の穴の向こうから姿を現すジョセフと美琴。
どうやらギリギリ間に合ったらしいとジョセフは胸を撫で下ろす。

その髪の奥からサファイアが姿を現し、DIOに向けて問い詰める。

『DIO!イリヤ様はどこですか!?』
「君はあのルビーとかいう道具の仲間か?
 彼女なら少し前に離れていったよ。少し操祈ちゃんの能力で洗脳させてもらうというおまけ付きだけどね」
『っ!あなたは…!』
「落ち着くんじゃサファイア。
 DIO、色々とやってくれたようじゃな。その精算に加えてその体、エリナおばあちゃんのためにも返してもらうぞ!」
「エリナ?ああ、あの田舎娘か。くだらん」

と、DIOはゆっくりとジョセフに向けて指を突きつけながら宣言する。

「お前はその血を吸って殺すと予告しよう」
「やってみろ!」
「私のことも忘れてんじゃないわよ!」


◇◇◇


293 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:32:27 uhm.Spdk0

「ジャック、君たち契約者という存在は合理的に考え判断して行動する、と。
 そう言っていたね」

「ああ、程度の差こそあるが契約者は良心の呵責や情などに流されることなく判断し、行動することができる」

「改めて聞いてみても、素晴らしいものだと思うよ。人は誇りや優しさなど、ちっぽけなものに流されて理知的な判断ができずに判断を誤る。
 もし俺の世界にいたら部下に数人は欲しかったかもな」

「………」

「どうかしたかな?」

「いや、話を続けよう」

「生き物の根幹にあるのは生存への欲求だ。
 食欲、性欲、睡眠欲、その全てが生きることに繋がる。唯一性欲だけは個人ではなく種族としての生ということになるのだろうがね。
 もしそれが脅かされる感情があるとしたら、ジャック、君には何か分かるかな?」

「そうだね、例えば恐怖、かな。強い者に対する命の危険を感じた時、とか」

「ああ、人は強い力を持つものには恐怖し時には己の尊厳を投げ捨ててでも屈服する。
 だがそれは恥ずかしいことではない。人が生きること、それは自分を死から遠ざける、すなわち”安心”を得ることだ」

「分からないものではない。契約者は合理的に、すなわち最優先することは基本的に自分の命だ。
 諜報機関に雇われている者であっても、その点を考慮した場合完全に信用されているものはいない」




「時としてDIO、君は死んだことはあるかい?」

「…死に近い状態に追いやられたことはあるな。だがそれでもこうして生き延びてきたからこそ俺はここにいる」

「そうか。私は一度死んだことがあるんだよ」

「ほう、それは興味深いな。その感想を聞かせてもらってもいいかな?」

「そうだね。………案外大したことではなかったよ。
 それと同時に、死ぬことなんてそう恐れるようなものじゃないってことにも、気付いてしまった」

◇◇◇

「ち、攻撃の数が減ったら少しは楽になるかと思ったけど、そう簡単にはいかねえか…」
「ふぅ……」

物陰に身を隠しつつも刃を躱す杏子の横でタバコの煙を吐き出すノーベンバー。

「今そんなもん吸ってる暇かよ。ずいぶん余裕じゃねえか」
「これは能力を使う対価でね。私だって実は嫌煙家なんだよ。
 タバコというのはその煙から発生する副流煙による受動喫煙の方が吸った本人よりも害が強くてね」
「あーもう、そういう話なら後で聞いてやるから、今はあいつをどうにかすることから考えろよ!」
「時に杏子ちゃん、水の残りはあるかな?」
「もうねえよ。あれだけ使っても全然動きすら止まらねえじゃねえか」

地面はびしょ濡れになってところどころノーベンバーの能力で凍らされた場所が見えるものの、それだけだ。
氷結自体が足止めにもならなくなってきている。これはあの生き物も学習していっているということか。

「時に杏子ちゃん、君は確か殺し合いに乗ったって言っていたな。
 その理由を聞かせてもらっていいかい?」
「はあ?何だよこんな時に」
「いいから」

ちっ、と舌打ちをしながらも、杏子は口を開く。


294 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:33:27 uhm.Spdk0

「別に殺し合えって言われたから、とかそんなんじゃねえ。
 人間、生きていくためには誰かを蹴落として生きていかなきゃいけない、それが世の常じゃん。
 生きるために他人を蹴落とす、なんて、言うほどおかしいことか?」
「果たして君は本当にそう思っているのかな?」
「どういう意味だよ」
「さっきの話、盗み聞きしたわけじゃないんだけどね。君と同じような存在である子は人を守って命を落としていったという。
 少なくとも契約者にそんな行動に出る者はいないさ。自分の命を投げ出して、なんて、それこそよほど強い執着や感情が発現しないかぎりはね。
 君と私たちは違う、合理的に生きることが全てってわけでもない。あるいは非合理な想いと引き換えにその力を手にした、なんてことも有り得るかな」
「………」

杏子は口を開かない。
そこで彼女の脳裏に浮かぶのは一体何か。
願いが失わせたものか、あるいは



「さて、じゃあ宿題だ。その答えが解けた時には君に殺されてあげてもいいぞ」
「は?あんたふざけてんの?」
「ふざけてなどいないさ。
 君が本当はどうしたいのか、どう生きることが正しいと思うのか。その答えをはっきりとさせることだ。
 だが、その前に――――」

と、ノーベンバーは目をやる。
斬撃の連打が止んだと思うと、壁を跳んで後藤が突撃をかけてきた。

咄嗟に飛び退く二人。


「あまりにも遅いのでな。こちらから仕掛けさせてもらったぞ」
「そうかい。まあこちらとしてもたった今行こうと思ったところだったからね。
 タイミングとしてはちょうどいい、か」

両腕の刃を一対ずつ振りかざしながらも迫る後藤。
対するノーベンバーは無手で後藤を見据えている。

「もう一人いたはずだが?」
「彼女なら逃したよ。今の私はさしずめシンガリってやつかな」
「理解できんな。人間というものは時としてそうやって他者のために己の命を投げ出す」
「そうだね、私としてもあまり理解できるものじゃないさ」

契約者として見ても非合理極まりないものだ。
自分の命は何にも代えられぬものだというのに、それをこうして捨てようとしている。

それは死ぬことに対する恐怖。人は死んでどこに行くのか、それが分からぬからこそ恐怖し、死を恐れる。

だが、ノーベンバーは一度死んでいた。
死んだ人間は決して蘇らない。それでもノーベンバーはこうして生きている。

そして猫から、自分の仲間、ジュライとエイプリルが自分の死の影響を受けることなく生き、そしてエイプリルは死んだと聞いた。
そうすると案外死というものも大したものではない、と感じるようになってきていた。

合理的に動く契約者、それが生に重点をおくことがなくなったら一体どうなるのか。

「まあ、少なくともギリギリのところで命をかけることくらいは何ということもなくなるだけだがね」


295 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:33:53 uhm.Spdk0

と、ノーベンバーは再度濡れた地面を凍らせるために能力を発動させた。

「…?」

もう幾度と無く使用し、そのたびに破られてきた力。それをここで使用する意図が掴めない。
何か狙いがあるのだろうか、と考えた後藤はそれを受けることなく、跳躍して回避。
壁を蹴ってノーベンバーのいた場所へと攻撃を仕掛けようとしたが、しかしノーベンバーは凍った床を滑るようにして移動している。

何もいなくなった場所へと脚を下ろした後藤は、再度跳躍しようと地を蹴ろうとして。


「ところで知っているかな?凍った地面というのは非常に滑りやすいんだ」

その溜め込んだ力が全く見当外れの方に放出されるかのように後藤の脚がスリップ。
勢い良く転倒しかけたその体を、しかし驚愕しつつも脚を、腕を地面に突き立てて地面との衝突を防ぐ。

その時だった。


「おりゃあ!!」

ノーベンバーの後ろから、漆黒の影が巨大な槍を振りかざして後藤に迫った。
それはグランシャリオをその身に纏った佐倉杏子。

(そういうことか)

得心がいったかのように心中で鎧を纏っていなかった理由を納得する。

両腕、両足を動かせない今、動かせるのは本体である自分自身でしかない。

頭を刃へと変形させて杏子の槍を受け止める後藤。
しかし元々魔法少女として常軌を逸した身体能力を持っていた者がグランシャリオを纏ったことによる相乗効果で、杏子の力は飛躍的に上がっていた。

一撃を防ぐだけで後藤の頭はあらぬ方向に弾かれる。

「取ったぜ化け物…!」

その隙に狙ったのは後藤の首。
狙ったことに深い根拠はない。ただそこを狙えば死ぬのではないかという勘のようなものだ。

風を斬るような音が鳴り響き。

一閃した槍は後藤の首の付け根に赤い線を作った。

後藤の首から血が流れ出し、切れ目から後ろへと傾き。

同時に地面に突き立っていた刃が形を崩し始める。




ついに殺した。

そう確信した杏子はグランシャリオを解除して後ろへと振り向く。
滑りそうな氷の上を、タバコに火をつけながらゆっくりと歩み寄ってくるノーベンバーの姿がそこにあった。

「へ、ざっとこんなもんだよ。じゃあ、次はあんたをボコらせてもらおうかい」
「おやおや、まだ宿題の答えは見つかってはいない――――――」

その時の杏子は、後藤を倒したものと考えていた。油断していたと言ってもいいだろう。
だから、それに反応することなどできなかった。

杏子の後ろから迫っている、一本の刃の存在に。
気付いたのはノーベンバーのみ。


296 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:34:26 uhm.Spdk0

「え?」

急に駈け出したノーベンバーに体を引き戻され。
その胸に一本の刃が突き立ち、血を地面に垂らしていた。

「だろう?」
「あんた、何で……」
「何、一度死んだ身だ。仲間からも組織からも、生への執着からすらも開放された身としてはこういうのもいいんじゃないかなってね」

ゴホッ、と口から血を吐き出すノーベンバー。
言うまでもなく、それは致命傷だろう。

そして刃の先には小さな異形の生物が、そしてそれは後藤の首元へと繋がって元あった場所に徐々に戻りつつある。

「賭けのようなものだったが、思いの外うまくいったようだな」

首を撥ねれば死ぬ。それは確かだ。人に擬態した寄生生物とて例外ではない。
頭部が肉体から切り離されると、その体を維持できずに干からびて死ぬだけだ。

だが、後藤の場合事情が少し違っていた。
複数の生物をその身に宿した後藤は例え首を切り離されようともまだ死には届かない。
そのまま時間が経過してしまえばたどる結末は同じだが、まだ後藤以外の寄生生物はその肉体をほんの僅かに維持できる。

だから敢えて首を落とされることで肉体を一瞬だけ崩壊させて地面に突き立った刃を解除し、そして瞬時に肉体に再接続。
無論これは相手がこちらを注視していればできないことだ。頭だけとなっても生きていることが分かれば、それだけでは非力な個体でしかない寄生生物は魔法少女を相手取ることなどできない。

故にこれは後藤自身の幸運と言ってもいいだろう。

「てめえ、そいつは私の――――」
「そうだ、最後に一つだけ言っておこうかな」

と、ノーベンバーはまるで自分が今にも食われそうな状況だということを気にする様子もなく、いつもの軽口を叩く時のような口調で杏子に話しかけていた。
その後ろから、体を取り戻した後藤の、巨大な口が迫っていることに気付いてかそうでないのか分からぬまま。

「ジャック・サイモンという名前が偽名だというのは名簿を見ていたら分かると思うからね。放送で呼ばれた時のことを考えてあっちだとどう書かれているのかを伝えておこうか」

その頭に、無数の牙が生えた異形の口腔が覆いかぶさり。

「ノーベンバー11。それが私の―――――」

グシャリ

まるでりんごを齧るかのような感覚で、ジャック・サイモン、ノーベンバー11の頭は後藤に捕食され、その生命を終えた。


【ノーベンバー11@DARKER THAN BLACK 黒の契約者 死亡】


◇◇◇


297 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:35:15 uhm.Spdk0

「一瞬で体が移動した、のう…」

「ああ。移動するだけならまだしも、気がついたら殴られたような衝撃と一緒に吹っ飛ばされてた。
 俺にも何が起こったのか全然分からなかった」

「…あれは傍から見ててもわけが分からなかったわね」

『なるほど、そのスタンド能力の謎が解けぬままにDIOに挑むのは危険ですね』

「かといって後手に回っておってはいつまでたっても奴には勝てん。ここは何か手がないか……。
 そうじゃな、何か支給品はないか?」

「って言っても、俺のところにあるのは使い方が分かんねえものばっかりだったし」

「………」

「その使い方が分からないと言った道具、少し見せてもらってもいいかの?」

「別に構わねえよ。一番分からねえのはこれなんだけどよ」

『?!これは……』

「どうしたんじゃサファイア」

『ジョセフ様、もしかするとDIOの力が一体どういうものなのか、図ることができるかもしれません』


◇◇◇

ジョセフと美琴の二人が共にDIOへと攻めかかる。
その力は後藤とはまた別の強さがあった。

黄色い人型のスタンドから放たれる力は美琴が操る瓦礫を弾き飛ばし。
ジョセフが放つハーミット・パープルは波紋が到達する前に引きちぎられる。

地力だけでも圧倒的だった。

「フン、『世界』以外の力も持ってはいるが、お前たちの前では使う必要もないというところかな?」
「舐めてんじゃないわよコラァ!」

手から電気を放つ美琴。しかし射線上にいたはずのDIOはいつの間にか美琴の背後へと回り込んでいる。
エドワードの言っていたことに納得するが、それに驚いている暇はない。

「隠者の紫(ハーミット・パープル)!」

DIOの腕に茨を巻き付けるジョセフ。
無論それで動きが捉えられるとは思っていない。
だが、せめて一瞬でも時間が稼げれば、美琴の撤退の役には立つだろうと思ってのことだ。

「ふ、無駄無駄無駄ァ!」
「ぬおっ…!」

しかしDIOはその茨を引きちぎることなく、逆に絡みついたまま美琴の元へとジョセフの体を引き寄せて放り込んだ。
勢いよく叩きつけられた美琴とジョセフの体は吹き飛び、地面を転がる。

「フン、やはり貴様のスタンドが一番生っちょろいぞ」
(チ、やはり波紋を警戒してか体を殴ってはくれんようじゃな…)

未だにエドワードが動く気配はない。
彼がもし動いてくれてさえいれば、もっと有利に戦えたのかもしれないが。

しかしいたとしてもやはり今この場にいる面々では、接近戦での殴り合いに対する力が決定的に欠けていた。


298 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:36:03 uhm.Spdk0
(ここは…)
「嬢ちゃん、ここから離れるんじゃ」
「何よそれ、舐められたまま背中を向けて逃げろっての?!」
「ああ、そうじゃ。こういうのは往々にして年寄りの役割と決まっておる。
 君のような若い者を生かすことができるなら本望じゃからな」
「ざっけんじゃないわよ!ここであいつをぶっ倒さなかったら――」
「戦うことばかりが全てではない。もしかしたら、何かの奇跡が起きて君が殺し合いに抗う人間となってくれることもあるかもしれん。その可能性に賭けたいんじゃ」
「…バッカじゃないの」

立ち上がった美琴は、ジョセフに背を向ける。

「まあアレじゃ。生きておったらまた会おう」

走り去る美琴を、後ろ目で見送りながらジョセフはDIOを見据えて構える。

「話は終わったか?」
「待ってくれるとはずいぶんと親切じゃのう」
「貴様の血を吸うことができるなら、殺し合いに乗った小娘一人程度気にするものでもない」
「ふ、そうか。じゃあワシも少し本気を出させてもらおうかの――!!」

と、バッグから何かを取り出すように手を突っ込みながら真っ直ぐにDIOへと直進する。

「フン!何を持っているのかは知らんが、このDIOの前では小細工など無駄!
 ならば見せてやろう!味あわせてやろう!この『世界』の力を!」

スタンド・『世界』はDIOの叫びに合わせて大きく構え。

――――――――世界(ザ・ワールド)!!!

その瞬間、世界が停止した。



ジョセフの動きも、呼吸も、心臓の鼓動も。
それはジョセフだけではない。エドワードのそれらも、いや、この会場にいる全ての参加者の”時”が止まっていたことだろう。
ただ一人、DIOを除いて。

「その体には波紋が流れているのだろう?ならそのむき出しの頭ならば何もあるまい」

ザ・ワールドの拳を顔面に叩きつける。
ジョセフの顔が無残な形に潰れるのを確認。
だが念には念を入れる。

すかさず地面に転がっていた、エドワードとの戦いの名残である先端の尖った細長い棒をジョセフの胸に向けて投げつけた。

その一撃は体を貫通して後ろへと吹き飛ばし。


「――――そして時は動き出す」

静止した世界が動き始め。


299 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:37:29 uhm.Spdk0



「隠者の紫(ハーミット・パープル)!」
「何っ!?」

あらぬ方向からジョセフのスタンドの茨がDIOに向けて飛来。
咄嗟に構えたことで体に巻き付くはずだった茨は腕に絡みつくに留まった。

「アーンド!波紋疾走(オーバードライブ)!!」

だが、それを振りほどく暇はない。
波紋が腕を流れ始めたことを感じ取ったDIOは、自らの腕を引きちぎって後ろに後退。
全身に波紋が流れることは阻止したものの、残された腕はボロボロに崩れて消え去り。

「ち、仕留め損なったか」
「ジョセフ・ジョースター!?貴様は確かに俺の攻撃を受けて――――」

と、さっきまでジョセフのいた場所に目をやるDIO。

そこにいたのはジョセフではなく、カレイドステッキ・サファイア。
そしてその手(?)に握られていたのは、黒衣にドクロの仮面を被りナイフを携えた男の絵が描かれたカード。

(あれは、イリヤに持たせたカードと同類の…!?)

クラスカード・アサシン。
暗殺者の英霊の魂を宿したそれは限定展開することで、僅かな間使用者と寸分たがわぬ外見の身代わりを作り出す能力を発現させる。

DIOが時を止めたのが一秒という超短時間であったがゆえに、攻撃の際の手応えで判別することができなかった。

「ち、おのれジョセフ・ジョースター!貴様ごときに腕をやられるとはな…!!」
「腕で済めば御の字じゃと思ったほうがいいぞ」

と、ジョセフがその場から飛び退いた。
その先にあるのは奥行きのある廊下。そこから微かに見える小さな人影、そして聞こえるバチバチという音。


(まさかあの小娘………)




「さっきは私の超電磁砲をまるでおもちゃみたいに扱ってくれてさぁ」

と、美琴が拾い上げたのは一つの鉄塊。あの崩壊した廊下に転がっていたものの一つ。

「なら、これなら受けられるか、試してみろってんのよ!!」

ポイ、と宙に打ち上げたそれに向けて、美琴は思い切り自分の拳を叩き込んだ。
最大限の電流を手にまとわせた、最大の一撃を。


300 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:38:02 uhm.Spdk0



(ち、ここは回避を――――)

飛来するであろうものに直感的に嫌な気配を感じたDIO。しかも今は片腕を失っている状態。
咄嗟にその射線上から離れようとした。が、足が動かない。

「ぬ!これは――」
「オレのこと、忘れてもらっちゃ困るぜ」

エドワードがDIOの足元を錬成し、その足を地面へと縫い付けて全く身動きが取れない状態へと縛り付けていた。

「おのれこのクソガキがあぁぁぁぁぁ!!」

次の瞬間、撃ちだされた鉄塊が美琴の超電磁砲の勢いで飛来し。



「ザ・ワールド!!」

しかしそれは命中することなく、壁に大きな穴を空けて外に向けて飛び出していった。

DIO自身がいたはずの場所を見やると、そこには地面に大きな穴が空いていた。
覗きこんでも下にはDIOの姿はない。おそらくはもう逃げたのだろう。


「逃してしまったか…」
『しかし私達の勝利といえるでしょう』
「あんたの芝居、少し臭いのよ。もっとマシなこと言えなかったの?」
「そうかぁ?まあワシとしてもそう深く考えての言葉じゃなかったかららしくはなかったかもしれんが…」

孫の承太郎がこの場にいたら何と言っただろうか。

「じゃが、最後の言葉だけは一応本心多めのつもりだったんじゃがな」
「…………」


そんなことを考えながらもふらつきながらも起き上がったエドワードに視線を移す二人。

「肩を貸そうか?」
「これくらいどうってことねえよ…。そんなことより、みくのところに戻らねえと……!」

そうだ。あの部屋にはみくと操祈の二人がいる。特に操祈はDIOの仲間だ。合流を考えるのが自然な流れだろう。
だとすれば、あそこにいるみくもまた危ない。

「急いで戻るぞ…!!」


301 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:38:52 uhm.Spdk0



「あーもう!何なのよこれ!」

思わずそうぼやき声を上げる操祈。
その手首と足には縛り上げるかのように茨が巻き付いている。

あの後警戒された操祈はジョセフのハーミット・パープルによって体を縛られて拘束されていた。
当然リモコンは手の届かない場所だ。
と言っても、現状特に意味のあるものではないのだが。

みくはたまににゃぁ〜などと声を上げながら寝息を立てている。
あの足のない姿で笑顔を浮かべる姿があまりにも痛々しく、見ていられなかったために意識を落とされたのだ。

(そういえば、私ってどうしてこんなことに協力してるんだったかしら?確かDIOさんにそうするように言われて…。
 あら?だったらどうしてDIOさんの言うことに従ったのかしら……?)

することもなく、そんなふうに思いを馳せる操祈。
何か大切なものを忘れている気がする。
そもそもどうしてDIOに従おうとしたのか。その理由も薄れつつある。

カツ、カツ、カツ

そんな時に聞こえた一対の足音。

「…DIOさんかしら?」

例えその理由が分からずとも、今は信じてもいい人であるという思いまでは抜けてはいない。
きっとこの拘束も解いてくれるだろう。そんな淡い期待をしながら、扉の近くまで移動して。
足音が入り口の前で止まったことを確認し、声を出す。


「DIOさ――――」

スパッ




(あら?)

どうして自分はこうして地面へと寝転がっているのだろうか。
どうして手は自由に動くのに、手のひらや足の感覚はないのだろうか。

そして何より、今目の前に転がっている足は、一体誰のものなんだろうか?

それが自分の足であり、そしてその近くに転がっているのが自分の手の先で、そしてそれを巨大な口がボリボリ、と貪っていく姿を見た時。
何が起きたのかを理解し。


「え、あ…」

声を出すどころではなかった。
腹から下を切り落とされ、内蔵と血が零れ落ちていく。

「あのノーベンバー11とかいう男とこの女で少しは血を取り返せるかと思ったが、やはり足りんな」

そこにいたのはDIOではなく後藤。

そのこちらを見る視線は、獲物を食らう獣そのもの。

「あ……嫌………」

身動き一つ取ることができない操祈に死への恐怖が振りかかる。
だけど、こんな時に助けてくれるような人は―――

その脳裏に一人の少年の顔が浮かび上がりかけ。

「フン、やっているようだな、薄汚い野獣よ」

若干苛立ちを交えたような聞き慣れた声が響き渡った。

「DIOか」
「貴様もこっ酷くやられたようだな。腕さえこうでなければ貴様など八つ裂きにしたのだが。
 そんなことよりも今貴様が食っているものだが」


302 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:39:35 uhm.Spdk0

と、DIOはインクルシオをその身に纏い、一気に後藤に向けて拳を振りぬいた。

「それは俺のものだ。勝手に食い散らかすな」

陽の光が室内を照らしだす中、後藤は壁を突き破って建物の下へと吹き飛び墜落していった。

「あ…DIOさん……」
「全く、ずいぶんとやられたようだな、操祈」

DIOの目から見ても、既に助かるような姿ではない。
下半身を失って流れ出ていく血は、あと一分もその生命をもたせないだろう。

「治してやる手段がないわけではないが…、生憎と俺も血が足りないのでな。
 せっかくだ、このDIOの糧となることを光栄に思うがいい」

そう言ってDIOは操祈の首に手をやり、残った血液をゆっくりと指から吸い上げた。

少しずつ薄れゆく意識の中で、操祈はどうしてこんなことになったのだろうとこの場に来ての行動を走馬灯のように思い返していた。
最初にDIOと出会って、その後イリヤという少女と出会い。
真姫に対して洗脳をかけようとして田村玲子に脅され。
自分たちのところを離れたイリヤに対して酷い命令を植えつけたような気がする。
そしてここにきてからは前川みくの足を奪ったDIOの支持に従うままに、痛みを忘れさせた。

(…私は……何をやっていたのかしら……)

ここにきて、DIOという存在をどうしてこんなにも信用していたのか、それが分からなくなってきた。
私が信じていた人は、もっと強くて光に満ちた――――――


―――――――その幻想をぶち殺す!

ふと脳裏によぎった言葉を思い返し、操祈は全てを思い出した。

(ああ、そういう、ことだったのね……)

何故忘れていたのだろうか。
忘れられることが、覚えられないことがどれほど辛いのか理解していた私が。
私は、一体何をやっていたのだろうか。

(―――やっぱり、死んだ後も私は、”あなた”の隣にはいられないのね―――――)

きっとこんな非道なことに加担した私は、彼と同じ天国にはいけないだろうから。
だがそれも罰なのだろう。
だから、せめて自分のせいで傷つくことになったかもしれない人達に、イリヤスフィールに、前川みくに懺悔するように謝罪の言葉を思いながら。

食蜂操祈の意識は闇の中へと堕ちていった。


【食蜂操折@とある科学の超電磁砲 死亡】




303 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:40:11 uhm.Spdk0

「ち、後藤!!どこ行きやがった!!」

ノーベンバー11を食われた後、後藤は「血が足りん」などと言ってこちらを放置して逃走をしていた。

一旦グランシャリオを解除した杏子は、その言葉の意味を考えるより先に後藤に確実にトドメを刺すために研究所内を走り回っていた。
どういう経路で行ったのかは分からない。
だが後藤に対する苛立ちを解消しなければどうにもできない。

階段を駆け上がり、上の階へと到達した杏子は、ふと思い立ってあの二人、食蜂操祈と足を失った前川みくがいた部屋へとたどり着いていた。
扉は開いており、中からは動く人の気配が感じられる。

後藤か、それとも食蜂操祈かと思いながらも中を覗き。

「――――っ」

そこにあったのは、大量の血溜まりとその内側で干からびてミイラのようになった少女の死体。
その隣で佇むのは、鎧を着込んだ何者か。
DIOだった。

「やあ、杏子。ジャック・サイモンはどうしたのかい?」
「…くたばったよ」
「そうか」
「こっちからも幾つか聞かせろ。後藤のやつは見なかったか?」
「彼なら、今頃そこの外にいるはずだよ」
「そうかい。それともう一つ。そこの女、やったのはお前か?」

敵意と警戒を込めて、槍を握りしめながら杏子は問う。
髪の色から判別するに、おそらくは食蜂操祈。
何故彼女が干からびているのか。

「彼女は後藤に食われかけていてね。もう虫の息に近かったから、このDIOの糧として有意義に活用させてもらったのだよ」
「なるほどね」
「別に気にすることはあるまい。どうせ死ぬ命だったんだ。そして君だって同じ信条だったのだろう?」
「ああ、そうだな。それは否定しない」


「ただ――――」

と、杏子はその体にグランシャリオを再度纏い直す。

「今ので確信した!やっぱりあんたのことは気に入らねえ!!」

元々戦うつもりはなかったし後藤を優先するつもりでもあった。
しかし、今目の前にいるこいつも後藤と同じくらいには腹立たしい存在なのだと認識して。
その瞬間、この男のことを放っておくことができなくなっていた。

「ほう、この帝王に挑むか。いいだろう、遊んでやる」

そうして突き出した杏子の槍は、DIOの体を研究所の外へと叩き出した。



「やはり、まだ足りんな」

一人と半分の血肉を食らったが、それでもまだ餓えは癒えない。
やはり一体分を消滅に追いやられたのが響いているようだ。

苛立つ思いと、戦いへの渇望がまだ燻ってはいる。
だが、それよりも先に失った一体分をどうにかしたかった。
現状でも戦えなくはないが、万全には程遠く体を覆うプロテクターの隙間も増えている現状だ。

「やはり田村玲子か泉新一を探すか」

DIOから聞いた、田村玲子は南側にいるという話。
大まかな場所すら分かれば、後は寄生生物同士の脳波によって詳細な場所の判別が可能だ。

まずは田村玲子。
やつを食らって万全な状態へと体を持ち直した後でDIOを、そしてこの場で戦った多くの人間を殺すとしよう。

体を成す一つを失った獣、しかしその足はまだ止まらない。
血塗れた牙は、その手の刃は、新たな体、そして獲物を求め続ける。


304 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:40:31 uhm.Spdk0

【F-2/1日目/午前】

【後藤@寄生獣】
[状態]:両腕にパンプキンの光線を受けた跡、全身を焼かれた跡、疲労(大)、ダメージ(大) 、寄生生物一体分を欠損
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、不明支給品0〜1、スピーカー
[思考]
基本:優勝する。
1:泉新一、田村玲子に勝利し体の一部として取り込む。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。
5:南に向かい田村怜子を探し取り込んだ後DIOを殺す

[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。
※寄生生物一体を欠損した影響で両腕から作り出せる刃の数が2つに減って全身のプロテクターの隙間も広がっています。




「ち、てめえ…!」

片腕のDIOに対し、比較的万全の状態でなおかつあちらよりも性能が上であるはずのグランシャリオをまとっているにも関わらず杏子はDIOに食いつけずにいた。
理由は簡単だ。
あれほど大見得を切ったDIO自身がまともに戦おうとしないのだ。

適度に牽制しては距離をとってこちらの攻撃射程から離れる。
杏子の精神を逆撫でする戦い方には苛立ちを隠しきれなかった。

「私が怖いのかよ!?ちゃんと戦え!」
「まあそう焦るな。こちらもいい場所を探しているところだ」

と、DIOはビルの並ぶ建物群を駆け回っていた。

そして、やがて一つの建物の前で止まる。

「ふむ。次の根城とするにはこの辺りか」
「何ごちゃごちゃ言ってやがる!」

そう呟いたDIOに向けて、杏子は槍を構えて突撃。
グランシャリオと魔法少女を合わせ、そこに杏子自身の苛立ちの感情が混じったことで後藤の時以上の威力を吐き出し。

「ザ・ワールド!!」

しかしそれもDIOのその力の前では何の意味もなかった。
いきなりDIOが目の前に現れたと思うと体はスタンドの拳を受けたかのように大きく吹き飛んでいた。
そこから態勢を立て直すこともできぬままに、拳のラッシュが襲いかかり。


305 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:40:55 uhm.Spdk0

やがて杏子のグランシャリオは解除されて地面に倒れこんだ。

「て、めえ……」
「まだ意識があるか。ふむ、この腕の代わりとして使うべきか、それとも……」
「お前…何を……」
「静かにしているといい。目が覚めた時には、君には何の不安もない幸福が包んでいるよ」
「やめ、ろ……!」

ゆっくりと手を伸ばすその姿に嫌な予感を感じ拒絶するように身を捩るも意味をなさず。
杏子の声はやがて闇の中に消えていった。



『私が受けた攻撃は顔を狙っての拳が一発、そしてあの長い棒による刺突です。
 しかし不可解なのは、この2つの攻撃に全くタイムラグが存在しなかったことです』
「つまりは、やつはその2つの攻撃を同時に放った、ということか?」
『そうなるのですが、しかし先ほどの瞬間移動と合わせるとただ複数の動作を同時に行う、などというものではないようにも感じられます』

サファイアとジョセフがDIOの攻撃の分析を進めながら、3人はみくのいた部屋に辿り着いた。


「…………」

目の前に転がっている、食蜂操祈だったものを見下ろす美琴。
仲がいい相手、などというつもりは微塵もない。
むしろ仲は悪かった方だろう。
それでもこうして無残な姿で事切れている様子を見れば何も思わないことなどない。

時、DIOも後藤もどこにもおらず。
ただ眠る前川みくだけがそこにあった。

「何であいつ、こっちは生かしたのかしら」
「…時間稼ぎ、かのう。足の無くした女の子をワシらが放置していけるはずもないとでも踏んでおるのじゃろうか」

だが、だとするならばDIOはこの建物の外に出た、ということになる。
この燦々と日の照る空間に。
何かしらの、太陽から身を守る術を手にしているということか。

「おい、起きろみく」
「にゃあ?あ、エドワード君にゃあ〜。みく待ってたんだよ♪」
「ああ。悪いな、少し待たせちまった」

その笑顔はあいも変わらず輝いている。
足の欠損さえなければ、エドワードも笑顔で返せただろう。

立ち上がろうとするみくだが、しかし片足で立ち上がることなどできずバランスを崩して倒れこんでしまう。

「にゃはは、何か立てないにゃ。まるでカカシさんにでもなったのかにゃあ?」
「………」

ギリッと歯を食いしばるエドワード。
ジョセフもそのみくを見る瞳は険しいものだった。

「カカシ系アイドルっていうのも面白いかもしれないにゃあ。
 そうだ、エドワード君、もしみくがアイドルデビューしたら、CD買ってほしいな。
 ネコでカカシ系アイドルなんて、何だか珍しくて面白いと思うにゃ」
「…ああ。
 みく、帰ったらお前にはいい義足を作ってやる…。それで元通りには…できねえと思うけど。
 すげえ腕のいい奴を知ってるんだ。だから、頑張ろう、な?」
「ぎそく?よく分からないけど嬉しいな。
 大丈夫、みくは自分を絶対に曲げないから!どんなことがあっても絶対にアイドルになるって思いは曲げないにゃ!」
「ああ、その意気だ……」

みくが言葉を口にするたびに、エドワードの心が削られていくような感覚に陥っていた。
少女が無くした足は戻らない。それこそ賢者の石でもなければそのような奇跡を望むべくもない。

彼女が正気を取り戻した時、一体どんな顔をするのか。それを考えるだけでも気が変になりそうだった。

「…………」

そんな様子を静かに見つめていた美琴は、やがて意を決したようにエドワードに声をかけた。

「ねえ、ちょっといい?」


◇◇◇


306 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:42:01 uhm.Spdk0
「...なあ。お前ってなんで殺し合いに乗ったんだ?」

「はぁ?何よいきなり」

「曲がりなりにもこれから手を組むかもしれないってやつのこと知ろうって思っただけだろ」

「別に、何だっていいでしょ?」

「……そういやお前、さっき学園都市がどうとか言ってたよな。もしかして最初に死んだあの上条当麻ってやつ…」

「…………」

「だったら、悪いことは言わねえ。戻れなくなる前に殺し合いに乗るなんて止めろ。そいつだって、そんなこと望むはずねえ」

「あんたに、一体何が分かるのよ…!」

「あそこで死んだあいつのことは全然知らねえけど、それでもあいつは自分の友達がそうやって人を殺すようなやつになって喜ぶやつじゃねえってことぐらいは分かるだろ!
 お前だって、それは自分が分かってんじゃねえのかよ!」

「……………」

「それに、あいつを生き返らせたいって言うんだったら別に最後の一人まで残る必要はねえんだよ」

「…どういうことよ?」

◇◇◇

そうではない。
そうではないのだ。




「私の支給品を使ったら、この前川みくって子を救うことができるかもしれないわ」
「…本当か?」

この時のエドワードは精神的に弱っていて判断力が正確とはいえなかった。
それに曲がりなりにも後藤やDIOといった面々と共闘したことによる信頼関係がある程度は3人の間で存在した。

だからこそ、後は隙さえ伺えれば実行に移せると思った。

「だから、ちょっとその子のこと私に見せてくれない?」
「ああ、頼むぞ美琴」


ゆっくりと足を進める。
その歩みはこれまでの人生のどんな時間よりも長く感じられた。

今ならまだ引き返せる。
まだ戻れる。

心の中で誰かが叫んでいた。

それでも、私は選んだのだ。
他のだれでもない、自分の意志で、その選択を。
だから、それを今更現状に甘えて崩すわけにはいかなかった。

脳裏に浮かび上がっていく色んな人達の顔。
初春。
佐天さん。
婚后さん。

黒子。

そして、上条当麻。

(みんな、……ごめん)

彼らに心の中で謝罪の言葉を述べて。

「初めまして、前川さん、だっけ。私は御坂美琴」
「にゃあ?エドワード君の友達にゃ」
「…ええ、そんなところかな」
「どうしたのかにゃ。何だか、すごくつらそうな顔をしてる気がするにゃ?」
「……えぇ?そうかな…?」
「だけど大丈夫!みくはアイドルだから、御坂のことも笑顔にしてあげるからにゃあ!」
「そう。ありがとう」

短いやりとりで揺れる心に蓋をして。

「じゃあ、少しだけ、ビリっとくるからね」

バチッ


こうして、御坂美琴は初めて己の能力で人の命を手にかけた。




307 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:42:28 uhm.Spdk0

『ジョセフ様!御坂様を止めてください!』

気付いたようにサファイアがそう声をあげて。

「じゃあ、少しだけ、ビリっとくるからね」

その言葉にジョセフがピンと来た時には全てが遅かった。

「嬢ちゃん!止めるんじゃ!!」

バチッ

前川みくの体に、御坂美琴の体から放出された電流が流れたように見えて。
次の瞬間、その体が一瞬痙攣したかと思うとみくの体は完全に動かなくなった。

「…!おい…、美琴!何をしやがった!」
「この子の体に電気を通して心臓を止めたわ。一瞬だから痛み自体はそんなになかったはずよ」
「おい!みく!みく!!!」

揺さぶりながら呼びかけるエドワード。しかし全く反応することはない。
心拍を確かめるが、鼓動は完全に止まっていた。

「てめえぇ!!」

激情の余り、美琴に殴りかかるエドワード。
大ぶりで避けられたはずのそれを、美琴は避けることなく受けて地面に尻もちをつく。

「何でだ!何でみくを殺した!!」
「あんた、本気でこいつを守っていけると思ってんの?」

怒りの眼を向けるエドワードに対し、美琴は死んだ魚のように虚な瞳で話しかけていた。

「足をなくしたこの子が、本気でアイドルをやっていけると思ってんの?この子が正気を取り戻した時、本当に全てを受け入れられると思ってるの?」
「そんなこと…、だからって生きていなきゃどうにもならねえだろうが!!」
「それにこの子に義足を作ってあげるって言ってたけど、この殺し合いの間はどうするつもり?足を無くした足手まといを連れたまま、ずっと生き残れるつもりなの?
 現にこの子に構っていたらDIOの思うように逃げられてるんでしょ?」
「そんなの、みくが死んでいい理由にはならねえだろうが!」

正論を語るように言葉を紡ぐ美琴。しかしそんなものをエドワードは決して受け入れられない。

その様子を見て、美琴はため息を一度ついてエドワードの手を振り払って壁に空いた穴に向く。

「おい、まだ話は終わってねえだろ…!」
「その様子だと、流石に共闘はもう無理ね。私は先にDIOを追うわ。
 あんた達はその後、ってところかしら」
「待て、美琴!!」

そのまま、呼びかける声にも振り返ることなく。
御坂美琴はエドワード、ジョセフの前から立ち去っていった。





308 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:42:52 uhm.Spdk0

「ぐ……おぇっ……」

一人になったところでむせ返るように腹の奥から響いてきた嘔吐感に口を押さえる美琴。
さっきのようにエドワードとの戦いでの時とは比べ物にならない不快感だった。


――――何だか、すごくつらそうな顔をしてる気がするにゃ?

あのほんの短いやりとりの中で言われた言葉が脳内でリフレインする。

その言葉を投げかけられた時はまだ間に合うはずだった。
だが、この道を選んだ。

そう、選んだ時点でもう戻れないのだ。
上条当麻を殺されたから、とか。槙島聖護に言われたから、とか。
そういう問題ではない。

自分で、皆を殺して願いを叶えてもらい、上条当麻を生き返らせると、そう決めたのだから。
だから、もうその選択をした時点で引き返すことも省みることもできない。

例えその選択の果てに、彼と共に歩む資格を失うとしても。


「……は、ははは」

乾いた笑いが漏れてくる。
もう全てを諦めたかのような、空虚な笑いが。

「ねえ、黒子…」

呟いたのは、自分が最も信頼している一人の少女の名。


「あんた、いつだったか言ったわよね。もし私が災厄をまき散らすようなやつになっても、自分のやることは変わらないって」


「あんただったら……私を止めて……いや」

殺してくれるかな?



重い足取りはゆっくりと、DIOを探して歩み始めた。
もう帰ることはできない光へと背を向けて、闇の中に進んでいくかのように。




(すまん、初春ちゃん…、御坂美琴のこと、止められなかった…)

ジョセフ、サファイアは鎮痛な面持ちで、みくの傍に跪くエドワードを見つめていた。

「何でだよ……。何でこうなっちまうんだよ……」

エドワードの口から放たれるのは強い後悔、そして自身を責める想い。

「何が国家錬金術師だ…、何が人柱だよ…、女の子一人助けられないで…何が…俺はっ……!」

絶望に沈むエドワード。
その姿に、ジョセフとサファイアは声をかけることもできぬままに見守るしかできなかった。


【前川みく@アイドルマスター シンデレラガールズ 死亡】


309 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:43:16 uhm.Spdk0


【F-2/一日目/午前】

【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中〜大) 、ダメージ(大)
[装備]:いつもの旅服。
[道具]:支給品一式、三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、市販のシャボン玉セット(残り50%)@現実、テニスラケット×2、
カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ(アサシン2時間使用不可)、ドミネーター@PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考・行動]
基本方針:仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡吹かせる。
0:エドワード・エルリックに対応。
1:御坂美琴の説得とサファイアの仲間であるイリヤの探索、DIOの追撃をしたいが…。
2:仲間たちと合流する
3:DIOを倒す。
4:DIO打倒、脱出の協力者や武器が欲しい。
[備考]
※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。
※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。
※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。
※殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語で認識されると考えています。
※初春とタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※時間軸のズレについてを認識、花京院が肉の芽を植え付けられている時の状態である可能性を考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。


[サファイアの思考・行動]
1:ジョセフに同行し北に向かい、イリヤとの合流を目指す。
2:魔法少女の新規契約は封印する。




【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、精神的衰弱
[装備]:無し
[道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
不明支給品×0〜2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×4(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ、みくの不明支給品1〜0
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
0:みく……
1:???????
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。 関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。



【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟? 、吐き気、頬に掠り傷
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×4
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:DIOを追撃し倒す。 DIOを倒したあとはエドワード達を殺す。
1:もう、戻れない
2:戦力にならない奴は、エドワードに気付かれないように慎重に始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
3:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
4:一先ず対DIOの戦力を集める。(キング・ブラッドレイ優先)
5:殺しに慣れたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。




310 : time ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:43:32 uhm.Spdk0

「つまり、ここに近づいてくるやつがいたらぶっ殺しちゃえばいいんだよな?」
「そういうことだ。俺は少し疲れたのでな。できれば夜まではゆっくりしたいが、まあ疲れが取れるまででも構わん」
「りょーかい。あんたには食い物分けてもらった恩もあるしね」

そう言って、DIOは立ち並ぶ建物の一つの中に入っていく。
その周囲で、杏子は槍を回しながら周囲を見回す。

「さて、頼まれたからにはしっかり仕事しないとな」

DIOが休んでいる間、とりあえず自分のやるべき仕事を果たすとしよう。
それが今の自分のやりたいことなのだから。

「…ん?そういや、何か忘れてるような…」

ふと、何か大切なものを忘却している気がした。
誰かに何か言われたような。
誰かに伝えられた何かがあったような。


「…ま、いっか」

そう言って杏子は周囲を見張りながら、DIOに分けてもらった食料に手を伸ばす。
その額で蠢く肉の瘤を意識することなく。



「あの嬢ちゃん、まさか……」

その杏子の様子を影から眺めている猫。

あのDIOの言うことを聞くというのは明らかにおかしい。
だが、今の自分に何かできるか?

「なんとかしないと、まずいことになるぞ…」

猫は考える。今どうするのが最善か。どうすればいいのか。


【F-1/一日目/午前】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:疲労(大)、右腕欠損
[装備]:悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。
0:休息し疲労を回復させた後、ジョセフ達を殺す。
1:ジョースター一行を殺す。(アヴドゥル、ジョセフ、承太郎)
2:花京院との合流。
3:休息中の見張りは杏子に任せる。
4:寄生生物は必ず殺す

[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術、DTB世界の契約者についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。
※悪鬼纏身インクルシオは進化に至らなければノインテーターと奥の手(透明化)が使用できません。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:精神疲労(中)、疲労(中)、全身に切り傷及び打撲(それぞれ中)、ソウルジェムの濁り(中)、額に肉の芽
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ、帝具・修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実 大量のりんご@現実 不明支給品0~2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いについて考える。
0:建物に近づいてくるやつはぶっ殺す。
1:巴マミを殺した参加者を許さない。
2:殺し合いを壊す。それが優勝することかは解らない。
3:承太郎に警戒。もう油断はしない
4:何か忘れてる気がする。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。

※杏子の傍を猫が見守っています


311 : ◆BLovELiVE. :2015/08/24(月) 02:44:02 uhm.Spdk0
投下終了です
おかしなところなどあったら指摘お願いします


312 : 名無しさん :2015/08/24(月) 06:06:36 P54BQUdE0
投下乙です

みくにゃん…嫌な予感はしてたがここで脱落か
ビリビリも遂に殺しをやって杏子は肉の芽と先行きが不安だ…


313 : 名無しさん :2015/08/24(月) 11:01:39 Ju1eKk5A0
投下乙です!!

ノーベンバーかっこよかったよ!ただ杏子ちゃんが…洗脳されちゃったのが無情、思い出せる時は来るのか
みさきちは、上条さんが死んだときから運命は決まっていたのかもしれないなぁ
そして前川さん関連はホントにキツイ、生きてる時も結末も、ニーサン…


314 : 名無しさん :2015/08/24(月) 11:04:49 PgVKWFug0
投下乙です
ノーベンバーカッコよすぎるぜ
御坂さんは一線を超えたな黒子と対決することになりそう
あと地味に後藤さんが契約者キラーになってて草


315 : 名無しさん :2015/08/24(月) 14:47:40 FdygVPP20
投下乙です

ぎゃあああああ!みくにゃんがあああああ!
ビリビリは一線超えちゃったな、黒子が死んだらもう止まれないだろう
後藤さん強いなー、でも三木失って地味にピンチか、田村さんで補給しなくちゃね


316 : ◆rZaHwmWD7k :2015/08/25(火) 21:09:04 6eEwIyHs0
投下します


317 : ◆rZaHwmWD7k :2015/08/25(火) 21:09:51 6eEwIyHs0

「何やってんのさキンブリー?」

エンヴィーは背を向けているキンブリーに訝しげな視線を向けて尋ねた。
もうそろそろ次の列車が来る頃だと言うのに、目の前の男は自分に周囲を見張るよう伝えて自分は死体に何か細工している様だった。
バチリとキンブリーの掌から幾度目かの瞬きが起きる。

「すみませんね。思ったより時間がかかりましたが、仕事には手を抜かない性分ですから、私」

にこやかなキンブリーを見てはぁ、とため息をこぼす。
この男は切れ者だが、いささか仕事熱心に過ぎる。最早職人気質と形容するべきかもしれない。
そんなエンヴィーの様子を見てもキンブリーは笑みを崩さず、背後の“クロメ”だった者をエンヴィーの前に移動させた。
まるで良く出来た人形細工を誇る芸術家の様に。
だが、その“クロメだった物“を見たエンヴィーの眉間の皺はさらに深まることとなった。

「キンブリー。お前ってネクロフィ…」
「違いますよ。失敬な」

エンヴィーの見たクロメ自体は先ほどとまでと変わってはいない。
しかし、度重なる戦闘でボロボロだった衣服はまるで新品の様だった。
既に死亡している肉人形の鉄砲玉にわざわざ時間を割いて服を整えたキンブリー考える事がエンヴィーには分からない。

「まあ、そんな顔をしないでくださいよ…ホラ」

そう言って、キンブリーはチラリとクロメの服を掴み下腹部の辺りまで上げて見せる。

そこには、おびただしい量の爆弾が巻かれていた。


318 : 災厄の紅蓮は東方に消え… ◆rZaHwmWD7k :2015/08/25(火) 21:10:48 6eEwIyHs0

ひゅーとそれを見たエンヴィーは口笛を鳴らす。

「大したもんだ…でもこれ、戦いになったら逆にこっちが危なくない?」
「ご心配なく。私が錬成エネルギーを彼女に指定して流して初めて爆発する仕組みですから、例えるなら、雷管を抜いている状態ですかね」

それに、失敗してもたかが死ぬだけですよとキンブリーは付け加えた。

「へえ…でもよくこれだけの爆弾錬成できたもんだ、爆弾狂の本領発揮ってトコかな?」
「それは褒め言葉と受け取っておきましょう…彼女はそちらの犬と違って何か特別な力を有している訳でもなさそうなので」

エンヴィーは再びクロメに視線を戻す。
成程、確かに鉄砲玉として見ればゆっくりとは言え消耗つつある様だ。
激しい戦いになればそれだけで使いモノにならなくなってもなんら不思議ではない。
八房の本来のスペックなら消耗も全快させる事もできるのだが、二人には知る由もない。

だが、爆弾として見れば別だ。
高い機動力と、死しているが故の不死性で敵を追い詰め、諸共に爆発する。
脆弱な人間にとってはとてつもない脅威だろう。

そこまで思考して、エンヴィーの脳裏を過ったのは、詳細名簿に記されていた八房を構えるクロメの姿。
だが、その八房は今、キンブリーの手の中にある。
闘いに敗れた彼女は武器を奪われ、命を奪われ、死者の尊厳を奪われた。
だが、こんな武器を持っているのだ、彼女が生前八房を振るった相手にやっていた事もそう変わりは無いだろう。

「ハッ、傑作だね。この女程、因果応報って言葉が似合う奴もそういないや。
 ……しかし、こんな大したものも無い所でよくこれだけ仕込みができたもんだ」
「ええ、これが無ければ、もう少し時間がかかったでしょう」

 そう言って、キンブリーは懐から円状のガラスの様な物体を取り出した。


319 : 災厄の紅蓮は東方に消え… ◆rZaHwmWD7k :2015/08/25(火) 21:12:06 6eEwIyHs0

「何それ?」
「流星の欠片と言うそうです。何でも契約者と呼ばれる者達の能力を極限まで高めるとか。
 ここでは、私が使う錬金術や帝具、また魔術や超能力と呼ばれる未知の力でさえも例外ではない様ですね」

「そんな便利なモノがあるんだったら、なんで大佐と闘った時に使わなかったんだ!」

駅のホームにエンヴィーの怒号が響く。
そこまで強力な支給品があれば、大佐たちも皆殺しにできていただろうに。
だがエンヴィーの怒りもどこ吹く風、と言う様子でキンブリーは微笑みながら反論する。

「元々これは彼女の支給品だったんですよ。だから何が入っているかは把握できても、
 それがどんな効果を持つかはここで一時腰を据えるまでは分からなかった…何しろ戦い続けでしたから」

一瞬クロメを見た後、エンヴィーにまた視線を戻す。
それは、暗に奪った支給品の詳細な確認作業を行っていたら、エンヴィーを助けに入るのが間に合わなかったかも知れないと語っていた。

「ッチ、そう言う事ならまぁ…」
「理解して頂けた様で幸いです……おっと、列車が来たようですね」

ガシガシと頭を掻くエンヴィーを尻目にキンブリーは電車の方に視線を移す。

「乗りましょうか」
「東に行くんだね?」

到着し扉を開こうとする電車を尻目にエンヴィーが尋ねる。
キンブリーが頷くとエンヴィーはイギーの屍人形をぬいぐるみの様に持ち上げさっさと入っていってしまった。
場にはキンブリーとクロメだけが遺される。

「皮肉なモノですね、あなたが欲していた物は私に支給され、私が欲する類の物は、アナタに支給されていた」

キンブリーはそう言ってクロメを一瞥するが今までどおり、答える声は無い。
それは、クロメよりキンブリーが世界に選ばれた事の証明だった。
死を築く者は死に追われる。
それは多くの世界が混ざり合うこの戦場でも変わらない。

朝日を浴びながら、死神に魅入られた男は殺した少女を引き連れ電車へと入っていった。


320 : 災厄の紅蓮は東方に消え… ◆rZaHwmWD7k :2015/08/25(火) 21:12:55 6eEwIyHs0


列車と言えば蒸気機関のキンブリーにとって電車内は未知の空間だった。
明らかに無人であるのに、クロメ共に搭乗すると同時に独りでに扉が閉まり、車両が動き出したのも興味深い。
東のエリアに至るまでにこの列車を調べる時間が無いのが残念だ。
そんな一廉の科学者らしい事を思いながらエンヴィーを探し、直に二人用の座席にエンヴィーを発見した。

最も、その姿はキンブリーが見慣れているモノでは無かったが。

「今度はウェイブに変身したのですか?」
「バカの一つ覚えみたいに大佐に執着するより手を変え品を変えの方が『亀裂』は入れやすいだろ?」

まぁ最終的には大佐はこのエンヴィーがトドメを刺してやりたいトコだけどねと言い、手をひらひらと振る。
その手の詳細名簿はウェイブと記された項目が開かれていた。

「焔の錬金術師に変身するのは変更ですか?」
「大佐の奴はほっといても千枝ってお嬢ちゃん達が悪評を流してくれるだろ?ならこのエンヴィーはできるだけいろんな人間を演じてみようと思ってさ」
「焔の錬金術師の悪評を流すのと連動して、その仲間の姿で攪乱することによってさらに焔の錬金術師を追い詰めていくと言う訳ですか」

詳細名簿を受け取り、ふむ、と一考する。

「悪くないかもしれませんね」
「だろ?」

先程の怒りはどこへやらと言った様子で、キンブリーの言葉を聞いて破顔する。
まるでいたずらを褒められた子どもの様な無邪気さがそこにはあった。


321 : 災厄の紅蓮は東方に消え… ◆rZaHwmWD7k :2015/08/25(火) 21:13:57 6eEwIyHs0

「ただ襲うだけじゃない。弱い奴ならそのまま殺して、大佐やウェイブ達みたいに
 “デキる”連中がいたらキンブリー、お前が割って入るんだ」
「また加勢しろと?」
「無実の女の子を焼いた悪魔軍人ロイ・マスタングの仲間の見境なく人を襲う極悪集団イェーガーズは、紅蓮の錬金術師の助けによって追い払われましとさ、めでたしめでたし…」

こんなトコかなと締めくくるエンヴィー。
それを聞いたキンブリーはクツクツと肩を震わせてただ、嗤う。

「三文芝居ですね、まるで」
「あのイシュヴァール殲滅戦も始まりは三文芝居の一発の弾丸だった、それにシナリオが三流でも役者が一流なら化けるもんさ…できないとは言わせないよ、キンブリー」

実際にイェーガーズの構成員であるクロメとウェイブの姿をしたものに襲われれば嫌でもイェーガーズの危険性を実感するだろう。
そして、ウェイブの姿をしたエンヴィーの襲撃をキンブリーが退ければ、他の参加者に恩と大佐たちの悪評を売る事ができる。
その後、ウェイブを追う体でエンヴィーと合流すればいい。
鋼の錬金術師やマスタング一向が接触した参加者には警戒されるかもしれないが、それならば改めて実力行使に出ればいい。

様は、参加者の間に楔を埋められればそれでいいのだ。
本当に自分達に齎された情報は正しいのか、隣に居る人間は信頼できるのか。
隣に居る人間はエンヴィーでは無いのか。

人は個人ではわかりあえても、集団と言う枠組みに一度嵌められてしまえば、煽るのは容易い。

「仕事と言うのならばお受けしましょう。しかし、鋼の錬金術師やイェーガーズの首領…エスデスと言う方に遭遇した時は?」

鋼の錬金術師
その名を聞いた瞬間、エンヴィーの様子が僅かな間変わる。
先程の様に、怒るでもなく、嗤うでもなく、ただ醒めたモノへと。


322 : 災厄の紅蓮は東方に消え… ◆rZaHwmWD7k :2015/08/25(火) 21:15:49 6eEwIyHs0

「…エスデスって女と会った時はまた大佐辺りに変身して攪乱すればいい、問題はオチビさんだ」
「ええ、鋼の錬金術師殿は、焔の錬金術師と違い、本質を見抜く;眼;を持っています。下手に嵌めようとすれば、こちらが出し抜かれるでしょう」
「なるべく会うのは避けるか、協力するポーズを出したほうがいいかもね。『生き残るためには悪魔に魂を売っても良い』って公言するオチビさんの事だ、
多分乗って来るだろ。その後後ろから撃ってやりゃいい」

「それを彼が言ったのですか?本当に?」

珍しく意外そうな顔でキンブリーはエンヴィーに尋ねた。
肩を竦めながら、エンヴィーは一言で返す。

「一瞬だけらしいけどね」
「ああ、それならばむしろ彼らしい」

納得いったと言う様子で、男は何度も頷く。

「では、この列車を降りたら急ぐとしましょうか、焔の錬金術師がこのエリアに至る前に」

情報戦とは陣取り合戦の様なモノであり、早く動けば動くだけ場を掌握できる。
若干出遅れている感は否めないが、大佐たちの動向次第でいかようにも巻き返せるだろう。
できれば悪評を広める過程で首輪をもう一つ入手しておきたいところだ。

「降りたらどこへ行く?」
「さしあたっては北上、学園を経由してこの流星の欠片の原産地である地獄門という場に足を延ばしますか、首輪を解析できそうな研究施設も丁度近くにありますし」
「ふーん、ま、行先についてはまかせるよ」

一呼吸おいて楽しくなって来たねぇとエンヴィーは呟いた。
あの千枝という少女が復讐の刃を向けてきたらあの大佐はどうするだろうか?
おとなしく断罪を受け入れるのか、それとも逆に焼き殺すのか。

キンブリーもまた、列車を降りた先で待ち受ける事態に期待を寄せる。
願わくば、あのイシュヴァールの様な心躍る仕事ができるように。
懐の流星の欠片の力を存分に震える様な戦いができるように。

―――ほんの数刹那、流星の欠片がランセルノプト放射光により妖しく煌めいた…。


323 : 災厄の紅蓮は東方に消え… ◆rZaHwmWD7k :2015/08/25(火) 21:17:30 6eEwIyHs0
【東に向かう電車内/1日目/午前】

【エンヴィー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ニューナンブ@PERSONA4 the Animation、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[道具]:ディパック、基本支給品×2、詳細名簿
[思考]
基本:好き勝手に楽しむ。
 1:色々な参加者の姿になって攪乱する、さしあたってはウェイブ。
 2:エドワードには……?
 3:ラース、プライドと戦うつもりはない、ラースに会ったらダークリパルサーを渡してやってもいい。
 4:強い参加者はキンブリーに大佐たちの悪評を流させて潰しあわせる。
5:キンブリーと一緒に行動し他の参加者を殺す。
[備考]
※参戦時期は死亡後。




【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)、高揚感
[装備]:承太郎が旅の道中に捨てたシケモク@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ
[道具]:ディパック×2 基本支給品×2 雪子の首輪
 躯爆弾・クロメ@アカメが斬る! 帝具・死者行軍八房@アカメが斬る!、躯人形・イギー@現地調達 流星の欠片@DARKER THAN BLACK 黒の契約者
[思考]
基本:美学に従い皆殺し。
 1:エンヴィーと共に行動する。
 2:ウェイブと大佐と黒子は次に出会ったら殺す。
 3:少女(婚合光子)を探し出し殺す
 4:首輪の解析も進めておきたい。
 5:首輪の予備サンプルも探す。
 6:音ノ木坂学園を経由して北上、研究所と地獄門を目指す。
[備考]
※参戦時期は死後。
※死者行軍八房の使い手になりました。
※躯人形・クロメが八房を装備しています。彼女が斬り殺した存在は、躯人形にはできません。
※躯人形・クロメの損壊程度は弱。セーラー服はボロボロで、キンブリーのコートを羽織っています。
※躯人形・クロメの死の直前に残った強い念は「姉(アカメ)と一緒にいたい」です。
※死者行軍八房の制限は以下。
 『操れる死者は2人まで』
 『呪いを解いて地下に戻し、損壊を全修復させることができない』
 『死者は帝具の主から200m離れると一時活動不能になる』
 『即席の躯人形が生み出せない』
※躯人形・イギーは自由にスタンドを使えます。
※千枝、ヒルダと情報交換しました。

【流星の欠片】
地獄門内物質。汲んでも汲み尽くせぬ灰色の科学の玉手箱。
契約者の能力を極限まで高める作用があり、かつて多くの契約者が流星の欠片を巡った争いで命を落とした。
破壊されても、地獄門内部にいけば再生可能。
当企画で発揮される効果は契約能力に限定されず、「魔法」「魔術」「超能力」「錬金術」「スタンド」「ペルソナ」「帝具」など、純正機械や体術以外の道具・能力にも適用される。
増幅能力は賢者の石と同程度の効果。


324 : ◆rZaHwmWD7k :2015/08/25(火) 21:18:12 6eEwIyHs0
投下終了です


325 : 名無しさん :2015/08/26(水) 18:59:37 5Jb23jDY0
投下乙です
このマーダーコンビは安定してるなあ。ウェイブの受難は続きそうだ
流星の欠片はここで出てきたか。上手く使えば脱出の鍵にもなりそうだが果たして


326 : 名無しさん :2015/08/26(水) 19:12:48 2qvn05Rk0
投下乙です
流星の欠片は黒さんの手に渡れば心強いけど
近くにエルフ耳も居るんだよなぁ
それにしてもこのコンビ凶悪だけど見てると何か楽しそうで和む


327 : ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:10:23 66iZ3gtY0
投下します。


328 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:12:32 66iZ3gtY0
「待ってくれ」

キリトは教会を出ていく黒とクロエを呼び止めた。

「俺も彼女たちを探しに行く」
「...はぁ?」

その言葉を聞いた瞬間、クロエの表情に陰りがみえた。

「もう俺なんかに信用は置けないのはわかってる。けど、だからってこのまま何もしないわけにはいかない...」
「アンタまだわかってないの?ハッキリ言って邪魔なのよ」
「わかってる。こうなったのは全部俺のせいだ。俺がエンブリヲを信じたから、俺があの子を...殺したから...」
「だったらなんで...」
「だから俺があいつを、エンブリヲを止めなくちゃいけないんだ!それしか、俺には...!」

生きる価値が無い。
拳を握りしめ俯くキリトを見てクロエは複雑な思いを抱く。
わかっている。モモカのことも、イリヤたちのことも全てがキリトの所為ではない。
むしろ、悪いのはモモカを操りキリトを騙したエンブリヲだ。
しかし、その事実だけを素直に受け入れられるほど彼女は冷静ではなく、つい厳しく当たってしまう。

「...とにかく、アタシはもうあんたの顔は見たくない。探すならあんた一人で探してちょうだい」

クロエからしてみれば、キリトの意も汲んだ精一杯の妥協。
キリトは暗い表情で頷き、クロエたちに背を向ける。

「待て」

だが、それを呼び止めるのはクロエの同行者である黒。

「お前は俺たちと共に行動しろ。二手に分かれるよりは奴を捕えやすい」
「な、なに言ってんのよ。二手に分かれた方が効率がいいじゃない」
「奴を見つけたところでまた逃がせば意味はない」

尤もらしい理由を付けて黒に詰め寄るクロエだが、それはあっさりと否定される。

「それに、完全に奴を捕えるにはキリト、お前が必要だ」
「...俺なんかが一緒でも」
「お前にしかできないことだ。俺に考えがある」


329 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:14:54 66iZ3gtY0


後藤という怪物に襲われた時、黒さんは僕を守ってくれた。自分が危ない目に遭っていたのに、それでも逃げろと言ってくれた。それからもずっと支えてくれた。

雪ノ下さんが殺されそうになった時、八幡は雪ノ下さんを守って逝った。

僕は黒さんと離れた途端に捕まった。イリヤちゃんを守るどころか巻き込んでしまった。

黒さんは僕を守ってくれた。

八幡は命を賭けて守った。

僕はなにも出来ていない。男の子の癖に、他の人どころか自分の身すら守れない。

僕は、僕の無力さがどうしようもなく悔しかった。






「興味を惹く物は、帝具と書籍、このカードくらいか」

廃教会を後にしたエンブリヲは、戸塚とイリヤの支給品を確認していた。
帝具パンプキン。戸塚のような戦闘訓練を積んでいないものでもそれなりに使えるものだ。かなりの当たりと思っていいだろう。
各世界についての書籍。全てが書いてあるわけではないが、自分の知らないものを知れる、いわゆる知識欲を刺激されるのは心情的にも悪くない。
そして、イリヤの持っていたカード。一見普通のカードだが、なぜかエンブリヲの心を擽るものがあったために、つい手にとってしまった。

「これはどういうカードなんだい?」
『ぜ、絶対に話しませんよ。この程度のことで口を割る私では...』
「ふむ、すなわちきみが情報を隠すだけの価値はある、と」
『しまったぁ!?...い、いえそれはただの子供向けのおもちゃですハイ』
「まあいいさ。このカード、気に入ったよ。使い方はイリヤを調教してから聞くとしよう」

エンブリヲの言葉に抗議の声を上げるルビーだが、エンブリヲが触れると嬌声をあげ横たわってしまった。

「さて、と」
「はあっ...はぁっ...」
「待ってておくれよ、彩加。必ずきみの穢れを浄化してあげるからね」

デイパックの中で息を荒げる戸塚の頬を愛おしそうに撫でると、今にも絶頂しそうな程の恍惚な表情で戸塚の身体が跳ね上がる。
戸塚が気を失ったのを確認すると、エンブリヲは横たわるルビーを入れてデイパックを閉じた。
戸塚彩加は男である。
だが、それは真実ではない。幾多もの女性を扱ってきたエンブリヲが男に心惹かれることなどあり得ない。
つまり、戸塚は『男』という汚れを付けられているにすぎないというわけだ。
そのためには戸塚の穢れを浄化してやらねばならない。それも早急にだ。
だが、自分が行為に及ぼうとすると決まって邪魔が入る。
4度も邪魔が入れば流石にそれを自覚する。
そのため、今回は浄化をする前に周囲の確認をおこなった。
案の定、背後の建物から影が延びているのが見えていた。

(ふっ、やはりね。まったく、広川は私に嫉妬しているらしい)

この殺し合いの主催者は、この調律者をわざわざ巻き込むような輩だ。
自分の邪魔をしやすいように他の参加者を配置しているに違いない。
まあそれも仕方のないことだろうとエンブリヲは鼻で笑った。

「いま隠れたきみ。安心してくれ。私は殺し合いにのっていないよ」

ならばこそ、それを看破したうえで浄化してやろう。
邪悪な笑みを浮かべたエンブリヲは、来訪者に背をむけたまま声をかけた。


330 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:16:30 66iZ3gtY0


それは突然だった。
連なる建物の内部を探していたタツミとさやか。
なんとなく窓から外の景色を眺めていたさやかが、いきなり地上へと現れた男を発見したのだ。
慌ててタツミを呼ぶさやかだが、一瞬目を離した隙に男は消えていた。

「ほんとだって。あたし、確かにこの目で」
「わかったよ。俺もそういうのには心当たりがある」

タツミの心当たりは、帝具シャンバラ。
対象者を別の場所へと転送できる帝具だ。
それを身を持って知っているため、タツミは瞬間に人が消えるという事実だけは素直に受け止めることができた。

「...とりあえずこの辺りを探してみるぞ」


タツミとさやかは、屋外へと降りて探索することにした。
探索すること10分程だろうか。
タツミは背を向けて屈んでいる男を発見。
さやかを手招きで呼び、さやかも足音を殺しながらタツミのもとへと駆けていく。
物陰から姿を確認するが、男はこちらには気づいていないようだ。
男はキョロキョロと辺りを見回し、やがてこちらへと視線を向け動きを止めた。
気付かれたか、と思いもしたが、男の視線の先が自分より逸れているのが気にかかった。
男の視線の先を確認すると、自分の背後より影が延びていた。

「おい、影...」
「ご、ごめん」

偵察の際に影が見えないようにする。殺し屋ならば当然の心得だ。
しかし、さやかは魔法少女ではあるものの殺し屋ではない。
ましてや、魔女の結界では姿を隠す意味などほとんどない。
そのため、つい己の影への確認を怠ってしまった。

「いま隠れたきみ。安心してくれ。私は殺し合いにのっていないよ」

男が背を向けたまま呼びかけてくる。
やはり気付かれてしまったようだ。

「うっ...ご、ごめんってば」

さやかを責めているつもりはないが、半ば信用していないこともあってつい睨んでしまった。
このまま隠れていても仕方ないだろうと判断し、さやかへと合図を送り、二人は男の前へ姿を現した。


331 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:18:06 66iZ3gtY0

さやかを責めているつもりはないが、半ば信用していないこともあってつい睨んでしまった。
このまま隠れていても仕方ないだろうと判断し、さやかへと合図を送り、二人は男の前へ姿を現した。

「...隠れていて悪かった。俺たちは殺し合いに乗るつもりはない」
「隠れていたのは仕方ないよ、こんな状況だしね。私の名前はエンブリヲ。きみたちは?」
「......」
「...まあ、名乗りたくない事情もあるかもしれないな。とにかく、よろしく頼むよ」

差し出される右手に、思わず手を差しだしそうになるさやかをタツミが手で制す。

「...疑ってかかるみたいで悪いけど、あんたが殺し合いに乗っていないって証拠を見せてくれ」

タツミがエンブリヲを警戒するのは、彼の持つ三つのデイパック。
例え信頼した者といえども、自衛のためのデイパックを手放すとは考えにくい。
と、なれば同行者がいない以上、彼のデイパックは他者から奪った物となる。
ならば疑ってかかるのは当然だ。


「...きみの言いたいことはわかった。ただ、先に言わせてくれ」
「なんだ?」
「このデイパックには人が入っている」

その言葉に、タツミは思わず身構える。

「早まらないでくれ。これは比喩なんかじゃない。本物の、生きた人間が入っているんだ。最も彼は気絶しているがね」
「嘘をつくな。どうやったらそんな鞄の中に人が入るっていうんだ」
「きみ達も知っているとは思うが、このデイパックには有り得ない量の物が入る。だから、私は人が入れるか試してみたんだ。
なるべく人を助けたいと思うのは当然だが、流石に気絶した人を背負ったままでは行動できないからね」
「なら、その場でデイパックを開けてくれ」

タツミの言葉通りに、エンブリヲはデイパックを傾け、中にある物を取り出した。
ズルリ、とウナギのようにデイパックから出てきたのは気絶している全裸の男。
全身が汗まみれでほのかに嫌な臭いを放っていた。

「わわわっ!」

思わず取り乱し両手で己の顔を隠してしまうさやか。
当然だろう。なんせデイパックから取り出されたのは本当に人間でしかも全裸の男。
となれば、もちろん股ぐらに生えている男の象徴も見てしまったわけで。

(ち、ちいさいころに見た恭介のモノとは形が全然違う...毛も生えてるし...)

見てはいけないはずなのに、つい見たくなる衝動に駆られて指の隙間から覗いてしまう。
見ては視線を逸らして、見ては逸らして。
その繰り返しをしている内に、困ったような笑顔を向けてくるエンブリヲと目が合い、恥ずかしさのあまり赤面してしまった。


332 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:20:58 66iZ3gtY0
「彼は、ある男に襲われていたんだ。その名はタスク...奴は悪魔だ!」
「タスク?」
「奴は言葉巧みに私の大切なアンジュを騙し、その純潔を奪った卑劣漢...そして気絶しているこの彼もまた、奴の被害者...!」

エンブリヲは、拳を握りしめ、クッ、と悔しそうに俯きながら話を続ける。

「私が辿りついた時には遅かった...おそらく薬でも投与したのだろう。彼は抵抗もできず衣服をはぎ取られていた」

なんで脱がしたんだろうとなんとなく疑問に思うさやか。
支給品を奪うならまだしも、男が男の服を無理やり脱がす。なんの目的で?
『それは禁断の恋の形ですのよ〜!』
なぜか友達の声と共に頭の中に浮かんだバラ色の背景。
それを追い出すかのようにぶんぶんと頭を振った。


「幸い、奴の牙が届く前に止めることはできたが、彼はそのまま気を失って...くっ」
「それじゃ、残りふたつも」
「ああ。あのふたつにも同じように被害者が入っている」
「...他のも見せてくれ」

タツミの警戒心はまだ消えていない。
普通に考えればエンブリヲの言葉通り、他のデイパックにはそれぞれ人が入っているはずだが、倒れている男はフェイクで隙を見せた瞬間に襲ってくるかもしれない。
ならば確認すべきだ。本当に人が入っているのか、エンブリヲは殺し合いに乗っていないのか。
エンブリヲはタツミの言葉通り、他のデイパックの中身を出してみせる。
中から出てきたのは二人の少女。
服こそは着ているものの、一人は気を失っており、もう一人はその目に生気を灯していない。

「だ、大丈夫?」

一番幼い銀髪の少女にさやかが触れると、ビクンと身体が跳ねあがり、喘ぎ声も大きくなる。

(ひでぇ...!)


青年を襲っただけでは飽き足らず、こんなにも幼気な少女にまで手をかけるなど、外道の所業だ。
仮にタスクの目的が殺人でないにしろ、こんな強姦染みたことをする以上、それは悪だ。
握り絞める拳に自然と力が入るのが自分でもわかった。

「奴をこのまま放っておけば、被害は広まるばかりだ。どうか、私に力を貸してくれ」

エンブリヲが殺し合いに乗っていないという確信はまだ持てていない。
しかし、殺し合いに乗っているのなら、こうまで重傷人を連れて行動するメリットはほとんどない。
人質に使うにしても、三人は多すぎるはずだ。
つまり、エンブリヲもまた殺し合いに乗る者ではない可能性は高いとタツミは判断した。
尤も、それはまだ仮定だ。彼の言葉が現実かどうか、冷静に見極めなければならない。
警戒心を隠しつつ、差し延ばされる手に応じて、タツミもまた手を差し出した。


「だ...めっ...にげ、て...!」


333 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:22:31 66iZ3gtY0
いつの間に目を覚ましていたのか、気絶していた少女―――もとい少年、戸塚が、振り絞るように声を発した。
戸塚は、タツミを見ている。即ちそれはタツミに向けられた言葉である。
逃げて。彼女たちは保護されている人間だ。
ならば、誰から?
その意味を理解した時にはもう遅い。
舌うちが聞こえたと思えば、エンブリヲの手は、タツミの腕を掴み


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

タツミの全身に、耐えがたい快楽が走り抜けた。



「できれば君たちとは穏便に事を済ませたかったが...彩加、きみは意外にも強い子なんだね」
「くぅっ...」
「彩加、きみが悪いんだよ。きみが大人しくしていれば彼らとは何事もなく済んだんだ」
「ど、どういうことなの?」

この場でただ一人、さやかは未だに状況を理解できていなかった。
エンブリヲがタツミの腕を掴んだ瞬間、タツミが声にならない嬌声を上げてうずくまってしまったのだ。

「に、げろ、さや、か」

快楽に支配される身体に鞭を打ち、タツミがゆらりと立ち上がる。
タツミは腐っても男であり殺し屋だ。
未知なる感覚に全身を包まれようとも、それに耐えるだけの精神力は持ち合わせている。

「悪いがきみには用はないんでね」

だが悲しいかな。心まで堕とされることはなくとも、身体は正直な反応を見せてしまう。
強靭な精神とは裏腹に、エンブリヲがタツミの肩に手を置くだけで、タツミの腰は砕けてしまった。

「さて、さやかと言ったかな。次はきみの番だが...今まで出会ってきた女性に比べれば、少々見劣りするかな」
「なっ!?」
「だが安心したまえ。きみにはきみの魅力がある。例えばそう...その身体などね」

エンブリヲの目が細くなりさやかの身体を睨むと、さやかの服がはじけ飛んだ。

「や、やだっ!」

なにが起こったのか分からなかったが、さやかは反射的に右手で胸を、左手で秘部を隠す。
エンブリヲは笑みを浮かべつつその様を愉しそうに見つめていた。


334 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:23:36 66iZ3gtY0
「先程の悠への反応を見ていて思ったが、やはり穢れを知らない女性はいいものだ」
「ゃ...こないで!」
「大丈夫。きみに苦痛は与えないさ。私はタスクのような屑とは違う。ちゃんときみを愛し、快楽の内に堕としてあげるよ」

ゆっくりと歩み寄るエンブリヲ。じりじりと後退するさやか。
こんな変態、今すぐにでも斬り捨ててやりたいとさやかは思う。
しかし、いまはソウルジェムはタツミが持っており、魔法少女へと変身することができない。
魂を抜かれただけの少女にできることは、涙で瞳を潤ませ拒絶の意を示すことだけだ。
さやかのその反応が、エンブリヲの局部を刺激し、ズボンの上からでもわかるほど怒張していた。

「さあ、私を受け入れるんださや「伏せろ!」

エンブリヲの言葉に被さるように発せられた怒声。
何事かとエンブリヲが振り向けば、目に映るのは斧を振りかぶっているタツミ。

「ラァッ!...くああっ」

斧を投擲するとともに、タツミの全身に快感が走り、膝から崩れ落ちてしまう。
全身が性感帯となった身でも尚投げることができたのは称賛すべきだろう。
エンブリヲは投げられた斧を首を傾けるだけで躱し、タツミへと向き合う。
斧は、空を切りしゃがんださやかの頭上を飛び越していった。

「やれやれ。どうやらきみは、完全に動けなくしておいた方がいいかもしれないな」

エンブリヲが懐から取り出したものを見て、タツミは目を見張った。

(あれはマインのパンプキン...!あいつも帝具を盗られてるのか!)
「サヨナラだ」

エンブリヲが照準を定め、引き金に手をかけた瞬間

ドッ

「なっ...?」

突如、エンブリヲの背に激痛が走る。
己の背中を確認すれば、そこに刺さっているのは、先程タツミが投擲した斧。
なぜ、と言葉を漏らすこともなく、エンブリヲは前のめりに倒れた。

「た、タツ...」
「来るな!」

突然の制止に、さやかは思わず言葉を呑んで立ち止まる。
いまは成り行きで行動を共にしているものの、一度は本気で殺しあった仲だ。
ロクに動けないいまのタツミでは、もしさやかが再び命を狙ってきた時に抵抗ができない。
どうにか今の症状が治まるまでは、さやかに隙を見せたくはない。
そんな意味を込めて制止をかけたのだが...

(ま、マズイ...これは非常にマズイ...!)

タツミは殺し屋と言えども思春期の少年である。
巨乳のおねーさんや美人な女将軍に口付けなどされれば顔も赤くなるし、覗きにも興味が無いと言えば嘘になる。
同性愛の気は無いし、彼女ができれば素直に嬉しいと思える程度には異性に対する興味を持っている。
そんな全身性感帯と化している健全な思春期の少年の前に、それなりに発育した身体つきの少女が全裸で立っていればどうなるかは語るまでもあるまい。
とにかくいまのさやかはタツミにとっては刺激が強すぎるのだ。
もちろん、さやかがタツミに襲い掛かれば(性的な意味ではない)タツミも殺し屋としてのスイッチが入り、普段と同じように行動できるだろう。
しかし、それを差し引いても『全身が快楽を感じすぎて動けない』などという情けないにもほどがある状況、知られたくないのは男子の面子を考えれば当然である。


335 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:24:48 66iZ3gtY0
「そ、その...なんつーか、目のやり場に困るっていうか...」
「へ?...あっ」

自分が全裸であることを思い出して、さやかは慌てて両腕で身体を隠そうとする。

「ど、どうしよう。あたし、代わりの服なんて持ってないよ!」
「...と、とりあえず、適当にカーテンでも取ってこいよ。服は後で探そう」

赤面しながらタツミの言葉に頷き、近くの建物へと入ろうとするさやか。
が、しかし、何者かに右足を掴まれ止められる。

「へっ?」

驚くのも束の間。一瞬にして、さやかの全身を快感が突き抜けた。

「あひいいいいぃぃぃ!?」
「やれやれ、この私が一杯食わされるとはね」

さやかの足を掴んだのはエンブリヲ。口の端から血を流しつつもゆらりと立ち上がると、背中のベルヴァークを抜き取り、己のデイパックに入れた。
普通の人間ならば死んでいるはずの一撃。
タツミの誤算はふたつ。ひとつは、感度が暴走しているために斧に十分な威力を持たせられなかったこと。
もうひとつはエンブリヲが人間でなかったことだ。

「エンブリヲ...!」
「悪いが、きみごときに捧げるほど私の命は軽くない。...とはいえ、いまのは少々頭に来たかな。アンジュ以外の人間、ましてや男に攻撃されて悦ぶ趣味はないんでね」
「はあっ...ぁうっ!」
「きみはただでは殺さないよ。まずはきみの大切な者から奪ってみせよう」

エンブリヲはさやかの耳元へと顔を近づけ、ふぅっと優しく息を吹きかける。
瞬間、さやかの背筋にゾクゾクと甘い電流が走り、嬌声が漏れだした。

「ひゃあああっ!?」
「いい反応だ。...どうした、きみはそこで見ているだけなのかい?」

エンブリヲは、『お前の女は、直に私のものになるぞ』とでもいうかのように嫌らしい笑顔を貼り付け、さやかの火照りきった顔をタツミに見せつける。

「こ、このやろう...!」

タツミからしてみれば、エンブリヲの言っていることは的外れにも程がある。
さやかは決して大切な者などではない。
開幕早々殺し合いに乗ることを決めた女だ。ジョセフと初春がいなければこの手で既に殺害していた。
タツミは未だにさやかを信用はしていないし、彼女も彼女で未だにこちらの命を狙っている可能性は充分にあり得る。
タツミの立場を考えれば、身体を張って守ることもない存在だ。恋愛感情どころか、友情や信頼感情も抱いていない相手だ。
聖人君子でないタツミに、彼女を救う義務などない。


336 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:26:04 66iZ3gtY0
「...きょう、すけぇ...」

だが、それでも。

「ほう?きみには想い人がいたのか。それでいて純潔を保っているとはね。なら、その純潔は私が散らしてあげよう。純潔を奪われたきみを見た時の反応が楽しみだ。そう思わないかい?」

『悪』が弱者を蹂躙するのなら。

「ゃ...めて」

『弱者』の声がタツミに届いたなら。

「やめ...て...」

『弱者』が涙を流したのなら。

「そいつを離しやがれぇぇぇ!」

タツミが動かない理由など、ない!



快楽で痺れる身体に鞭を打ち、タツミはエンブリヲへと一直線に駆けだす。
一か八かの賭けだった。だが、ベルヴァークも回収されたいま、もうこれしか方法はなかった。
タツミの右拳がエンブリヲの顔へと迫る。
が、しかしエンブリヲは消えた。文字通り、音すらなく消えたのだ。
タツミの拳は空を切り、その勢いのままに前のめりになる。
その先に待つのは転倒、ではなく。

「えっ」
「あっ」

タツミが倒れ込む先。それは、同じく感度を限界にまで高められた全裸のさやか。
突然のことに、二人は踏みとどまることもできず、身体が重なり合い


「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」」

二つの嬌声が、重なりあった。


「不様だね」

快楽に悶えて転がるタツミを見下ろすエンブリヲ。
息を荒げながらも睨みつけるタツミの頬を、腹を、つま先で小突きその反応を見ながら悦に浸っている。

「きみは悠とは違って特殊な力もなさそうだね。ならば、きみを殺しても私に損はないようだ」

エンブリヲは、側に転がっているさやかの脚に触れ、秘部を見せつけるように開かせる。

「精々死ぬ前に私を愉しませてくれ。大切な者を守れなかった絶望の悲鳴をあげてね」

自身のいきり立った局部を曝け出し、タツミを嘲笑うエンブリヲ。
絶頂に近い感覚を常に味わわせられたうえで行動したため、タツミの体力は大幅に削られている。
最早抵抗する力も残されていないタツミには、もはや打つ手はない。

「...ねえ」

両目を右腕で隠し、息を荒げながらさやかが尋ねる。

「あんたは、こうやって何人女の人を傷付けてきたの?」
「傷付ける?私は愛しているのだが...まあ、美しい者が絶望する瞬間の顔はいつみてもたまらないものだがね」

さやかは最早抵抗する力も無いようだと認識すると、エンブリヲは局部をさやかに近づけていく。

「あんたにとって、女の人はみんな道具なの?愛するっていうならその人の気持ちを考えてあげないの?」
「おかしなことを言うね。調律者たる私に愛されるんだ。ましてや初めての相手がこの私なら、これ以上ない幸運じゃないか」

エンブリヲはさやかを見ていない。
エンブリヲにとっては、ここにあるのは今まで溜め込んできた欲望を思いのままに発散できるモノにすぎない。

「そう...なら、もういいよ」

さやかが抱き着くような仕草でエンブリヲの首に両腕を回す。
どうやらその気になったようだと思い、エンブリヲは身体をさやかに近づける。
そして、局部が秘部に触れんとしたとき、さやかは耳元で囁いた。


「―――死んで」


337 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:29:27 66iZ3gtY0



何かが弾けるような音がする。と、同時に

ゾ ブ リ

入った。
熱い感覚がエンブリヲの局部を貫く。
これでいい。ようやく成功した。
どこか達成感すら覚えるエンブリヲの局部を包む激痛。

「...?」

エンブリヲは感じた痛みを疑問に思う。
なぜ挿入した自分が痛みを感じる?感度50倍のことを除けば痛みを感じるのはさやかのはずだ。
なのになぜ?
エンブリヲは思わず己の局部に視線を移す。
見えたのは、血に濡れる局部。
さやかの"初めて"を奪った際のものにしては出血量が尋常ではない。
ならば、なぜ?
その答えを知った瞬間、エンブリヲは目を見開いた。
血を流していたのはエンブリヲの局部。
突き刺さっているのは、小さな短剣。

―――エンブリヲは、本日二度目となる局部破壊を味わった。

「ぐあああああああ!」

激痛に苦しむエンブリヲの股間に膝蹴りをいれ、さやかが立ち上がる。


――― 一か八かの賭けだった。だが、ベルヴァークも回収されたいま、もうこれしか方法はなかった。
できればこの手は使いたくなかったとタツミは思う。
タツミは、さやかと衝突した際、エンブリヲにバレないようにさやかのソウルジェムを渡していた。
それが何を意味するのかわからないタツミではない。
しかし、あのままではタツミは殺され、他の者も奴の手にかかっていただろう。
だから賭けるしかなかった。魔法少女となったさやかなら、この場を切り抜けられる可能性がある。
...尤も、そのさやかがこちらに牙を剥けば一巻の終わりだが。


「あはは...なんでもやってみるもんだねぇ」

魔法少女の武器はなにも手から出るだけではない。
地面から生やすこともできれば、衣服の中から出すことだって出来る。
だが、さやかはまだそれを行ったことがない。
しかしそれでもさやかは試した。
普段の剣よりも小さな、当たり所によっては殺傷力を持つ程度の短剣を、エンブリヲの局部の下から生やそうとした。
結果、それは成功し、エンブリヲを撃退する成果を出すことができた。

「ふ、ふふ...とんだじゃじゃ馬だったね。だが、いつまでその余裕が持つかな?」

激痛に顔を歪めながらも、エンブリヲは斬られた局部を押さえながら立ち上がる。

「もう一度味わわせてあげるよ。脳髄が蕩けるほどの快感をね」


338 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:30:06 66iZ3gtY0

エンブリヲの姿が消え、一瞬でさやかの背後に回る。
なぜ先程まで効いていた感度50倍が解かれているのか。
そのタネは、いつの間にか着ている服に関係しているのだろう。
恐らく、金髪の小さな少年のように、何かしらの道具を使って中和させたはずだ。
だが、その後も感度を増幅され続ければどうなるか。
決まっている。再び快楽の虜になるだけだ。
金髪の小さな少年を相手にする時も、身動きさえ封じれば悠と同じ状態に成り果てるだろう。
その確信を持っていたからこそ、エンブリヲはさやかの腕を掴んだ。
再び喘ぎ悶え、跪くさやかの姿を観るはずだった。


「―――これがなによ」

観る、はずだった。

薄ら笑いを浮かべるさやかの拳が、エンブリヲの顔面を捉える。
その細身のどこからそんな力が溢れるのか、エンブリヲは空を舞い、幾度か地面をバウンドしながら吹き飛ばされた。



エンブリヲの誤算はひとつ。
さやかはエドワードと違い、人体について詳しい知識があるわけではない。
故に、自分の感覚を操作して通常の状態に戻すだとか、理論的な方法を行使できるはずもなかった。
さやかが行ったことは単純。全ての感覚を『遮断』すること。
ゼロになったものを50倍にしてもゼロにしかならない。
錬金術と違い、あまりに理不尽で非論理的な方法。
しかし、それができるのが魔法少女、魂を抜かれた抜け殻の身体を持つ少女なのだ。

「ちぃっ...」

流れる鼻血を拭きながら立ち上がる。
屈辱だ。一度ならず二度までも局部を破壊され、更には自身の力までもが完全に破られたのだ。

「残念だよ、さやか。きみには私を理解することができないらしい」
「そんなの、こっちから願い下げだよ」
「ふっ、強情なのは嫌いではないが...オイタが過ぎたね」

エンブリヲは、先程デイパックに回収したベルヴァークを取り出す。
さやかは魔法で作った剣を作り構える。

「あんたは殺す。あたしが、この手で...!」

突撃するさやか。
それを迎え撃つするエンブリヲ。
二つの刃が交差する。


―――その瞬間だった。

黒い影が二人の間に割り込む。
影は、ベルヴァークを一振りの刀剣で防ぎ、さやかの剣は腕を掴み阻止する。
驚き動きを止めてしまう二人に、柄での打撃と蹴撃を浴びせ、互いに距離をとらせる。


「もう、こんなことやめてくれ」


割り込んだ影、キリトは懇願するようにつぶやいた。


339 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:31:48 66iZ3gtY0



「...なによあんた。邪魔しないでくれる」

突然の来訪者に、殊更に嫌悪の表情をだすさやか。
そんなさやかには応えず、キリトはエンブリヲへと向き合う。

「エンブリヲ、もうこんなことは止めろ。こんなに人を傷付けまわってどうなるっていうんだ」
「傷付ける...?ふふっ、きみがそれを言うかい、人殺しのキリトくん」

『人殺し』。
その単語に、キリトは思わずたじろいでしまう。

「私はモモカを操った。けど、手を下したのはきみだ。助ける方法なんていくらでもあったはずなのにねぇ」
「......」
「モモカは苦しかっただろうね。もっと生きたかっただろうね。きみが今さら偽善者ぶっても、許すことはないだろうね」

キリトは生身の肉体であれば血が出るほどに唇を噛みしめ、拳を震わせている。
それは、エンブリヲに対する怒り。...ではなく。

「...確かに、俺は最低なことをした。誰かが許してくれるわけもないし、モモカさんはきっと俺を殺したいほど恨んでるだろう」

キリトが抱いている感情は後悔。今までの行い、そして自分が元凶となった事件の数々。

「けど、だからってなにもしないでいていいわけがない」

現実を認めたキリトは、震える声で、いまにも泣き出しそうな顔で、それでも決意する。

「俺はもう、誰にも死んでほしくない。この命に代えても殺し合いを止めたいんだ」

それは決意というには脆いものかもしれない。
だが、確かにキリトは決めたのだ。
誰にも許されなくてもいい。
それでも、殺し合いを止めることがモモカへの償いになるのなら、それを達成した後で死んでもいい。
そんな自棄な決意を、確かにキリトは固めていた。


340 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:33:58 66iZ3gtY0

訪れる静寂。
やがて、口を開いたのはエンブリヲ。

「...わかった。この場でこれ以上争うのは私も望まないところだしね」
「エンブリヲ」
「だからここはお暇させてもらうよ」

そういうなり、エンブリヲは後方へと駆けだした。
向かう先には、気絶している戸塚とイリヤ、鳴上。

(本来の力があれば敵ではないが...仕方ない)

エンブリヲの取った手段は逃走。
身体能力に優れ、妙な剣を使い、変わった身体を持つキリト。
キリト程ではないが身体能力に優れ、感覚操作が効かない美樹さやか。
この二人を同時に相手取るのはいくらエンブリヲといえど骨が折れる。
加えて、エンブリヲもここに至るまでに、体力を消耗する瞬間移動を何度も使っており、タスク、エドワード、キング・ブラッドレイら強者たちと交戦を続けている。
決して万全とはいえない状態
だから退く。
ただ退くわけではなく、手ごまはしっかりと回収した上でだ。

(ここを切り抜ければ、調教をする時間などでもいくらでもある。その時は...フフッ)

チラリと後ろのキリトたちを見やると、やはり追ってきているのが確認できる。
だが、この距離ならばキリトたちに捕まる前に戸塚たちを連れて瞬間移動することはわけないだろう。
それに、万が一捕まりそうになっても、数回瞬間移動をする程度の体力はまだ残っている。
戸塚とイリヤをどう調教してやろうかと邪悪な笑みを浮かべながら、イリヤたちのもとへと迫る。



「―――ほんと、どうしようもない男ね、あんた」


そんな声がエンブリヲの耳に届くと同時に、彼の足に何かが絡みつく。
なんだこれは。
それを発する間もなく、エンブリヲの全身に痺れるような激痛が走り、彼の意識はそこで途絶えた。


341 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:34:53 66iZ3gtY0



「まさか、あんな手にひっかかるとはね」

倒れるエンブリヲを見ながら、クロエは呆れたように溜め息をついた。
黒の作戦は想像以上に単純だった。
3人の中で一番身体能力が優れるキリトがエンブリヲの注意を引き、黒とクロエはその隙をついて罠を張るといったものだ。
勿論、これはキリトの身体能力と武器についてエンブリヲが身を持って知っているからこそできたことである。


「奴は後先をロクに考えない男のようだったからな」

黒がエンブリヲという男をそう判断したのは、教会の一件から。
エンブリヲは、キリトに他の者への対処を任せ、イリヤたちに事を起こそうとしていた。
いくらキリトがエンブリヲを信頼していても、決して『信奉者』ではなく、『エンブリヲに会えばわかる』と判断できる程度には彼は自分の意思を持っていた。
わざわざ教会で事を為す合理性はなく、イリヤたちを動けなくしてから場所を移すのが定石だ。
それをしなければ、邪魔が入ることくらい容易に察せる。
だというのにそれをしなかったのは、キリトを想像以上に甘くみていたのか、後先を考えず欲望のままに動くタイプだからだろうと黒は判断した。
それに、エンブリヲは瞬間移動を持っていたとはいえ、追いつくことは不可能ではないと考えていた。
なんの前触れもない瞬間移動。その技ひとつで殺し合いが破綻してしまうほど強力なものだ。
異能を制御できる主催がこれを放置しておくはずがない。
使えば疲労がたまるか移動距離を制限されているか。若しくはその両方が課せられているだろう。
黒は『エンブリヲは連続して瞬間移動を使えない』こと確信し、逃走経路にワイヤーを張っておいたのだ。

「で、殺しちゃったの?」
「いや、こいつには聞かなくてはならないことがある」

黒が求めるのは銀(イン)の居場所。
放送では銀の名前は呼ばれなかった。つまり、生きているということだ。
クロエが里中千枝という少女から聞いた情報では、僅かの時間だがエンブリヲが操ったモモカという少女が銀と会っているらしい。
こんな殺し合いの場においても強姦をしようとする男だ。
銀のことを知り、見つければ殺さずにどこかに確保している可能性は高い。
ならば、それを聞きだす必要がある。

「...でも、もしこいつがその銀って人を見つけてたら、その...」
「それがどうした。あいつがどんな目に遭っていようが、あいつを助けない理由にはならない。俺は必ず銀を助ける」

言いにくいように言葉を澱めるクロエだが、それを理解した上で黒は言い切った。
クロエは、いつでも冷静なように見えた彼の本当の人間性を垣間見たような気がした。


342 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:36:09 66iZ3gtY0



ふらふらとおぼつかない足取りのさやかを、キリトは支えようとする。

「...大丈夫。ちょっと疲れただけだから」

キリトの助けを断るさやかだが、やがて魔法少女の衣服が解け、再び全裸になってしまう。
驚きの声を上げるキリトに見られてしまうが、いまのさやかには身体を隠す余裕もない。
感覚の遮断は、決して無敵ではない。
使えば使うだけ魔力は消費され、疲労も溜まりやすくなる。
感度の暴走でより消耗させられた体力のツケが、ここにきて周ってきたのだ。

(とりあえず...服がほしいな)

そんなことを漠然と考えながら、美樹さやかは意識を手放した。


「え、えっと...」
「あんた、ちょっといいか?」

突如全裸になって倒れたさやかに戸惑っていたキリトに、タツミが呼びかける。

「その、悪いけどさ、俺たちをあの黒コートの人たちのところまで連れてってくれないか?」

いまのタツミには身体をロクに動かす力も残っていない。
未だに残っている感度の暴走は、動くだけで体力を削られてしまう。もちろん、運ばれる際に触れられるだけでもだ。
しかし、それは黒の近くで横たわる三人も同じ。
特に鳴上は、これ以上体力を消耗すれば本当に死んでしまう可能性もある。
あの三人を放置して黒たちだけを呼ぶこともできないため、タツミが限界まで我慢するしかない。

「運ぶって...動けないんだな。わかった」
「うああっ!」
「えっ?」
「だ、大丈夫だ。気にしないでくれ」


感度が暴走しているとはいえ、男に抱かれて感じてしまう。今までにはなかったことだ。
『大丈夫だ、すぐに良くなる』
『これだけ女が揃っている中で誰にも興味を示さない。つまり隠された選択肢が出てくるというわけだな!?』
『俺もさ、始めは興味なかったんだけど、従軍中に色々あってさ』
何故か、頬を染めながらそんなことを話しかけてくるブラートの顔がよぎるが、いまは置いておく。

「こっちの子は、俺のコートを着せておくよ」
「助かる。今の俺には刺激が...いや、なんでもない」

とにかく、いまは情報交換だ。
いまだ身体に鞭打つ快楽に耐えながら、タツミはさやかと共にキリトに抱きかかえられた。


343 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:38:07 66iZ3gtY0
『はうっ!あ、あの変態は...?』
「黒が気絶させたわ」
『そーですか。いやー、ありがとうございます。これで一件落着ってやつですかねぇ?』
「大丈夫か、戸塚」
「は、はい、なんとか...僕よりも、イリヤちゃんを」
「大丈夫、イリヤ?」
「クロ...私...っ!?」

クロエの姿を見て瞳に生気を取り戻しかけたイリヤだが、黒の姿を見た途端、全身を震え上がらせた。

「イヤぁ!来ないで!」
「大丈夫よ、イリヤ。あの人は味方だから」
『あの人はなにもしませんよ、落ち着いてイリヤさん』
「嫌だよ、あのひとは...あのひとは!」


どうにか落ち着かせようとするクロエとルビーだが、イリヤは完全に錯乱していて話をすることすらままならない。

「...クロエ。今は俺がいない方がいいようだ。戸塚たちの介抱とあいつらとの接触は任せた」
「...気が進まないけど、しょうがないわね。で、そいつはどうするのよ」
「イリヤから離れるついでに情報を聞き出してくる。...それと、そこの全裸の男から介抱してやってくれ。そのままだと本当に持ちそうにない」

エンブリヲを担ぎ、背を向ける黒。
わざわざ離れて情報を聞き出すということは、イリヤや他の者には見せられないことであると察し、引き留めることはしなかった。
黒がある程度離れたのを見計らい、クロエはイリヤの肩に手をおいた。

「いい?落ち着いてきいて。あの人はね...」

クロエの眼を見つめると、ようやくイリヤの震えは治まった。


【F-7/一日目/午前】

【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷
[装備]:黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×3
[道具]:基本支給品、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
0:エンブリヲを拷問して銀のことを聞き出す。 知らなければ殺す。
1:銀や戸塚の知り合いを探しながら地獄門へ向かう。銀優先。
2:後藤、槙島を警戒。
3:魏志軍を殺す。
4:イリヤの変化に疑問。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。


【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(極大)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(大) 気絶
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る! 浪漫砲台 / パンプキン@アカメが斬る!
各世界の書籍×5、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考]
基本方針:アンジュを手に入れる。
0:イリヤと戸塚を浄化する。戸塚は女にする。
1:悠のペルソナを詳しく調べ、手駒にする。
2:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
3:タスク、ブラッドレイを殺す。
4:サリアと合流し、戦力を整える。
5:タスクの悪評をたっぷり流す。
6:クロエもいずれ手に入れる。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※能力で洗脳可能なのはモモカのみです。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます


344 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:39:21 66iZ3gtY0

【キリト@ソードアート・オンライン】
[状態]:HP残り5割程度、魔力残り4割 、自信喪失
[装備]:一斬必殺村雨@アカメが斬る!
[道具]:デイパック 基本支給品、未確認支給品0〜2(刀剣類ではない)
[思考]
基本:もう誰も死なせたくない。命を投げ打ってでも殺し合いを止める
1:タツミたちをクロエのもとに運び、情報交換をする。

[備考]
名簿を見ていません
登場時期はキャリバー編直前。アバターはALOのスプリガンの物。
ステータスはリセット前でスキルはSAOの物も使用可能(二刀流など)
生身の肉体は主催が管理しており、HPゼロになったら殺される状態です。
四肢欠損などのダメージは数分で回復しますが、HPは一定時間の睡眠か回復アイテム以外では回復しません。
GGOのスキル(銃弾に対する予測線など)はありません。
※村雨の適合者ではないため、人を斬ってその効果を発揮していくたびに大きく消耗していきます。
魔力から優先して消耗し、もし魔力が尽きればHPを消耗していくでしょう。




【タツミ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(極大)、感度50倍
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、テニスラケット×2、
[思考・行動]
基本:悪を殺して帰還する。
0:キリトに運んでもらい、情報交換をする。
1:さやかと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でジョセフたちと合流する。
2:さやかを監視する。さやかに不穏な気配を感じたら即座に殺す。
3:アカメと合流。
4:もしもDIOに遭遇しても無闇に戦いを仕掛けない。
[備考]
※参戦時期は少なくともイェーガーズの面々と顔を合わせたあと。
※ジョセフと初春とさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※首輪を解除できる人間を探しています。
※魔法@魔法少女まどか☆マギカでは首輪を外せないと知りました。
※さやかに対する不信感。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(絶大)、ソウルジェムの物理ダメージ(小)、精神不安定 、全裸、気絶
[装備]:基本支給品一式、テニスラケット×2、グリーフシード×1、ほぼ濁りかけのグリーフシード×2 ソウルジェム(穢:大)
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:やっぱりどうにかして身体を元に戻したい。そのために人生をやり直したい。
0:服が欲しい。
1:タツミと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でタツミたちと合流する。
2:いまはゲームに乗らない。でも、優勝しか願いを叶える方法がなければ...
3:まどかは殺したくない。たぶん脱出を考えているから、できれば協力したいけど...
4:杏子とほむらは会った時に対応を考える。
5:エンブリヲは殺す
[備考]
※参戦時期は魔女化前。
※初春とタツミとジョセフの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物と認識しました。
※ゲームに乗るかどうか迷っている状態です。
※広川が奇跡の力を使えると思い始めました。
※魔法で首輪は外せませんでした。


345 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:40:06 66iZ3gtY0


【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック×2 基本支給品×2 不明支給品1〜3 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:イリヤを守る。
1:イリヤを落ち着かせ、倒れた者たちの介抱及びタツミたちとの情報交換をする。
2:魔力の補給についてどうにかしたい。
3;キリトには……。
[備考]
※参戦時期は2wei!終了以降。
※ヒルダの知り合いの情報を得ました。
※クロスアンジュ世界の情報を得ました。
※平行世界の存在をほぼ確信しました。


【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(極大)  『心裡掌握』下 、美遊が死んだ悲しみ、黒に猜疑心、感度50倍
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ(感度50倍)
     DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ DIOのサークレット
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1  
不明支給品0〜1 美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:クロと合流しゲームを脱出する。
1:音ノ木坂学園に向かう。
2:田村、真姫を探し同行させてもらう。
3:花京院、、新一、サリアを探して協力する。
4:黒に猜疑心。もう会いたくない。
5:美遊……。


【心裡掌握による洗脳】
※トリガー型 5/8時間経過
『アヴドゥル・ジョセフ・承太郎を名乗る者に遭遇した瞬間、DIOの記憶を喪失する』 
『イリヤ自身が「放置すれば死に至る」と認識する傷を負った者を見つけた場合、最善の殺傷手段で攻撃する』
※常時発動型 3/6時間経過
『ルビーの制止・忠告を当たり障りのない言葉に誤認し、それを他者に指摘された時相手に対し強い猜疑心を持つ』


[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
※アカメ達と参加者の情報を交換しました。
※黒達と情報交換しました。



【戸塚彩加@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(極大)、黒への信頼 、八幡を失った悲しみ、感度50倍
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考]
基本:殺し合いはしたくない。
1:八幡達を探しながら地獄門へ向かう。
2:雪乃達と会いたい。
3:八幡の変わりに雪乃と結衣を死なせない。
4:イリヤちゃん一体どうして……
5:黒さん……



【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:失神、全裸、疲労(限界寸前)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:仲間と合流して殺し合いをやめさせる。
0:…………
1:エンブリヲから逃げる。
[備考]
※登場時期は17話後。現在使用可能と判明しているペルソナはイザナギ、ジャックランタン。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。


346 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:40:49 66iZ3gtY0




『そこの全裸の男から介抱してやってくれ。そのままだと本当に持ちそうにない』






殺さなきゃ


―――どうやって?


殺さなきゃ


―――どうやって?


殺さなきゃ


―――どうやって?




...殺さ、なきゃ


347 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:43:19 66iZ3gtY0




『イリヤさん!?』

突然のことだった。
イリヤは、なんの前触れもなく無言でルビーを掴み、転身を行う。
なにを、とクロエが問いかける間もなく、彼女を突き飛ばした。
ステッキを向けた先には、大量の汗をかき気絶している鳴上悠。

『イリヤ自身が「放置すれば死に至る」と認識する傷を負った者を見つけた場合、最善の殺傷手段で攻撃する』

邪魔となるクロエを除外し、鳴上へと狙いを定める。
ここまでは問題ない。だが、ここで誤算が生じる。
かねてよりの転身での消耗に加えて、エンブリヲに体力をすり減らされていたため、彼女の疲労はかなりのものとなっていた。
ぐらりと身体が傾きかけるが、どうにか持ち直す。
異変に気づき、エンブリヲを捨てた黒がワイヤーの有効範囲まで駆け出す。
タツミたちを抱えたままキリトが駆け出す。
突き飛ばされたクロエもまた、これから起こるであろう最悪のケースを直感して弓矢を投影する。

だが、それでも。
エンブリヲを担ぎ、背を向けていた黒も。
タツミたちを抱えていたキリトも。
突き飛ばされたクロエも。
それを止めるには、誰の反応も遅すぎた。

突きつけたステッキから放たれた光弾は、渇いたコンクリートに鮮血を撒き散らした。




なにも考えられなかった。
これから何が起こるのかも想像がつかなかった。
ただ、このままではいけないと身体が勝手に動いていた。
気が付けば、僕は全裸の人とイリヤちゃんの間に立っていた。
駄目だ、と声をあげることすらできず、立ち上がるのが精いっぱいだった。
これ以上は動けない。なにもできない。すぐにでも倒れてしまいそうだ。
そう認識するより早く、僕の身体はごっそりと削られた。

脳裏によぎるのは、あのとき僕を守ってくれた黒さんの背中。そして、雪ノ下さんを守った八幡の姿。


「ぅぁ...」

戸塚の身体を経由し僅かに軌道が逸れた魔力の弾丸は、鳴上に当たることなく地面を穿った。
戸塚は、削られた胴体を押さえることすらできず、苦悶の声を上げて血だまりに沈む。

「え...なんで、私...」

イリヤは、ステッキを握る己の手と戸塚とを交互に見比べる。
自分が何をしたのか理解が追いつかない。
気が付けば転身していた。
気が付けば戸塚の身体を貫いていた。

わからない。

「い...や...」

わからない。

「あ...あぁ...」

わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからなわからないわからないわからないわからな―――――

「ああああああああああぁぁぁぁあああぁああぁああ!!」


348 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:44:54 66iZ3gtY0


絶叫をあげるイリヤ。
彼女へと黒のワイヤーが投擲される。

「死ね...!」

ワイヤーの持ち主は、エンブリヲを投げ捨てた黒。
黒の眼に宿るのは、怒り。そして殺意。
ここまで共に行動し、それなりに信頼を築いてきた同行者に手をかけられたのだ。
理由がなんであれ、許せるはずもない。
イリヤの状態異常のことも忘れ去るほどに、黒は感情的に行動した。

「だ、ダメッ!」

ワイヤーはイリヤを庇ったクロエの腕に絡みつく。
『イリヤが戸塚を撃った』という事実を理解するのに数瞬の遅れが生じ、このままでは黒がイリヤを殺すと確信したからこその行動だ。

「お願い、話しを」

言い終わる前に電流を流され、クロエは悲鳴を上げて気絶する。
あくまでも気絶。
黒は、クロエをイリヤ諸共殺害するほどには冷静さを失ってはいなかった。

「ひっ」

だが、それだけでもいまのイリヤには刺激が強かった。
倒れるクロエを見て、自分も殺されると思い込み、植え付けられた黒への猜疑心は瞬く間に恐怖へと変貌し、家族を気遣う心すらも塗りつぶした。

「いやだああああああああああ!」

イリヤは逃げ出した。
大切な者を救うことからも。
『黒』という殺人鬼からも。
自分が戸塚を刺した現実からも。
なにもかもから目を背けて、イリヤは背を向け逃亡した。

(殺す...!)

黒は確信した。
イリヤは危険な存在だ。
このまま放っておけば、必ず災いを呼び起こすタネになる。
その標的になる確率が高いのは、自分とその関係者である銀。
そして、その確信以上に殺意を滾らせたのは、彼女を気遣っていた戸塚を裏切ったという事実。
黒は、イリヤを殺すべく駆け出した。


「だめ...だよ、へい、さん」


その足を止めさせたのは、ひとつの声。


349 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:45:51 66iZ3gtY0



八幡が殺されたと聞かされたとき、とても悲しかった。
今すぐにでも泣き喚いて、現実逃避ができればどれほど楽だったかと思う。
でも、八幡はきっと雪ノ下さんや由比ヶ浜さんを守りたかった。
自分を犠牲にしてでも守りたいと思っていたはずなんだ。
だから、僕も守りたいと思ったんだ。
雪ノ下さんを、由比ヶ浜さんを、イリヤちゃんを、黒さんを。
そして、八幡の意思を。
...けど、やっぱり駄目だった。
イリヤちゃんは更に怯えてしまった。
黒さんはイリヤちゃんを殺そうとしてしまった。
雪ノ下さんにも由比ヶ浜さんにも一度だって会うことすらなかった。
僕に誰かを守ることなんてできなかった。
僕は役立たずだ。

「へい、さん、おねが、い」

だから、僕のことなんて気にしなくていい。
悲しんでくれなくてもいい。

「みんなを、いりやちゃん、を」

言いかけたところで、咳き込んでしまう。
口から血がいっぱい込み上げてくる。
これ以上、ことばも出せそうにない。

「...わかった。お前の仲間も、イリヤも『助ける』」

よかった、伝わったみたいだ。
...でも、やっぱり悔しいや。
男の子の癖に、こうやって、最期まで黒さんに頼ることしかできないんだ。

「そんな顔をするな。お前は立派な男だ」

そんな僕の思いを察してくれたのか、黒さんは最初にあった時と同じようなことを言ってくれた。
最初に言われたときは嬉しかったけど、お世辞にしか聞こえなかった。
けど、なぜか今回はお世辞には聞こえなくて。
それが、泣きたいほどにうれしかった。

(...ありがとう、黒さん)


350 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:46:57 66iZ3gtY0



「......」

戸塚の最期を看取った黒は、辺りを見まわして状況を確認する。
横たわるエンブリヲ。
自分が気絶させたクロエ。
戸塚が守った気絶している全裸の男。
キリトに抱きかかえられている少年と黒のコートを羽織い気絶している青髪の少女。
イリヤはもうこの場にはいない。
いまこの現状で動けるのは自分とキリトだけだ。

「そんな...俺は、また...」

...いや、違う。キリトはもう動けない。
今回は彼に責任などない。何故なら、全く関与していないからだ。
...そう、彼は何もできなかったのだ。
ようやく僅かでも前へ進める道を見つけたというのに、彼は何もできなかった。
そのショックから立ち直るには、時間を要することは想像に難くない。
現状、動けるのは自分だけだ。

「キリト。お前はここにいる奴らを看ていろ。イリヤは俺が連れ戻す」
「......」

キリトは生気の抜けたような顔で俯いているだけで黒の言葉に答えない。
だが、返答を待っている時間も惜しい。
黒はイリヤの去った方角を見て

瞬間

―――ピュンッ


黒の頬を光線が掠め、地面に着弾した。

「貴様...!」
「ふふっ、驚いているようだね」

光線を放ったのは、パンプキンを操るエンブリヲ。
何故か、先程まで負っていたダメージはほとんど見受けられず、ニヤついた表情で立っていた。

「なぜ私がピンピンしているかって?簡単さ、きみ達が捕まえたこれは私の分身。つまり本体はこちらというわけさ」
「分身だと...!?」
「尤も、分身とはいえタダじゃあないんだが...今回はこの帝具二つに免じて勘弁してあげよう」

エンブリヲは重傷を負っている自身をデイパックに入れ、ついでと言わんばかりに瞬間移動で倒れたクロエのもとへと現れる。
黒がワイヤーを投擲するが、しかしそれは瞬間移動であっさりと躱されてしまう。
黒は、イリヤが走り去っていった方角にクロエをデイパックに詰めこみこの場から走り去るエンブリヲの姿を確認した。

「追うぞ、キリト。エンブリヲは俺が追う。お前はイリヤを追え」
「でも、おれ、おれ...」

僅かにでも決意を固めていた先程とは違い、道に迷ってしまった幼児のように戸惑うキリト。
普段の彼ならば、にべも言わずに黒に合意しただろう。
だが、度重なる不祥事をしでかし、目の前でも命を奪われた彼は違う。
最早、彼には自信など微塵もない。
そして、自信が無ければ行動などできるはずもない。


351 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:47:40 66iZ3gtY0
「行ってくれ」

とまどうキリトの背中を後押しするのは、瀕死同然のタツミ。

「こいつらの介護は俺がする。だから、あんたはあの子とエンブリヲを止めてくれ」
「...俺に」
「できるかどうかどうかなどは関係ない。いまは、お前の力が必要だ」

タツミと黒の言葉を受け、キリトは思い悩む。



俺があの子を止める。

―――できるのか?

今までなにもできなかった俺に

―――できるのか?


俺はモモカを殺してしまった時、逃げた。
現実からも、罪からも、何もかもから目を背けて逃げ出した。
いま思い返しても、死にたくなるほど後悔している。
じゃあ、あの子は?
...ああ、あの子も俺と同じだ。
自分がしたことを認められなくて逃げ出したんだ。
だったら、もう答えは出ている。
もう、俺のような馬鹿は増やしたくない。
その気持ちだけは本当だ。
だから...

「...わかった。俺、あの子を説得してみる」

例え、説得自体が失敗に終ろうとも、これ以上悲しみを増やしてはいけない。
自信などない。
しかし、いまは自分が動かなければならないのだ。


「いくぞ」

黒とキリト。
黒の死神は、交わした約束を守るため。
黒の剣士は、悲しみの連鎖を断ち切るため。
二人の男は、護るべきもののために駆けだした。




【F-7/一日目/午前】


【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷
[装備]:黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×3
[道具]:基本支給品、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
0:エンブリヲを追い、仕留める。イリヤはキリトに任せる。
1:銀や戸塚の知り合いを探しながら地獄門へ向かう。銀優先。
2:後藤、槙島を警戒。
3:魏志軍を殺す。
4:イリヤに対して...
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリトとは情報交換済みです。



【キリト@ソードアート・オンライン】
[状態]:HP残り5割程度、魔力残り4割 、自信喪失
[装備]:一斬必殺村雨@アカメが斬る!
[道具]:デイパック 基本支給品、未確認支給品0〜2(刀剣類ではない)
[思考]
基本:もう誰も死なせたくない。命を投げ打ってでも殺し合いを止める
1:イリヤを説得する。

[備考]
名簿を見ていません
登場時期はキャリバー編直前。アバターはALOのスプリガンの物。
ステータスはリセット前でスキルはSAOの物も使用可能(二刀流など)
生身の肉体は主催が管理しており、HPゼロになったら殺される状態です。
四肢欠損などのダメージは数分で回復しますが、HPは一定時間の睡眠か回復アイテム以外では回復しません。
GGOのスキル(銃弾に対する予測線など)はありません。
※村雨の適合者ではないため、人を斬ってその効果を発揮していくたびに大きく消耗していきます。
魔力から優先して消耗し、もし魔力が尽きればHPを消耗していくでしょう。


352 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:48:33 66iZ3gtY0


「...すまねえ」

一人残されたタツミが行ったのは、戸塚への謝罪。
自分は動けなかった。彼は動いていた。
自分が動けない間にも、彼は最後の力を振り絞って鳴上を守ってみせた。
目の前でみていたというのに、自分はなにもできなかったのだ。

「...すまねえ」

もう一度だけ、彼に謝り、タツミは決意する。
彼が守った命を守ろうと。彼の死を無駄にはしないと。

(そのためには...)

タツミは、眠るさやかを横目でみる。
さやかは、自分と戦った時、あと一歩というところで目を瞑っていた。きっと殺しに慣れていないせいだろう。

『あんたは殺す。あたしが、この手で...!』

あの時の言葉は、正義感から出た言葉か。それとも、相手がエンブリヲだから慣れるために殺しても構わないと思って出た言葉か。
どちらにしても、一度優勝すると決めた彼女にはロクな結果が待ち受けていないだろう。

美樹さやかは危険だ。文字通り爆弾のような女だ。しかし

(こいつはまだ...殺せない)

自分一人であれば、早々に彼女から離れるなり殺すなりできる。
しかし、この場には守るべき男がいる。
帝具を失い未だに感度が暴走している自分一人では、もしも強襲があった場合に抵抗できない。
だが、それは美樹さやかが敵に周れば同じことでもある。
一応、ソウルジェムは回収しておくが、それでも綱渡りな選択になることには変わりない。
この選択が吉と出るか凶と出るか。
それを知る者は、誰もいない。



【F-7/一日目/午前】

【タツミ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(絶大)、感度50倍
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、テニスラケット×2、ソウルジェム(穢:大)
[思考・行動]
基本:悪を殺して帰還する。
0:鳴上悠の看病をしつつ、キリトと黒の帰りを待つ。
1:さやかと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でジョセフたちと合流する。
2:さやかを監視する。さやかに不穏な気配を感じたら即座に殺すが、現状は保留。
3:アカメと合流。
4:もしもDIOに遭遇しても無闇に戦いを仕掛けない。
[備考]
※参戦時期は少なくともイェーガーズの面々と顔を合わせたあと。
※ジョセフと初春とさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※首輪を解除できる人間を探しています。
※魔法@魔法少女まどか☆マギカでは首輪を外せないと知りました。
※さやかに対する不信感。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(絶大)、ソウルジェムの物理ダメージ(小)、精神不安定 、全裸、気絶
[装備]:基本支給品一式、テニスラケット×2、グリーフシード×1、ほぼ濁りかけのグリーフシード×2
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:やっぱりどうにかして身体を元に戻したい。そのために人生をやり直したい。
0:服が欲しい。
1:タツミと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でタツミたちと合流する。
2:いまはゲームに乗らない。でも、優勝しか願いを叶える方法がなければ...
3:まどかは殺したくない。たぶん脱出を考えているから、できれば協力したいけど...
4:杏子とほむらは会った時に対応を考える。
5:エンブリヲは殺す
[備考]
※参戦時期は魔女化前。
※初春とタツミとジョセフの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物と認識しました。
※ゲームに乗るかどうか迷っている状態です。
※広川が奇跡の力を使えると思い始めました。
※魔法で首輪は外せませんでした。




【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:失神、全裸、疲労(限界寸前)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:仲間と合流して殺し合いをやめさせる。
0:…………
1:エンブリヲから逃げる。
[備考]
※登場時期は17話後。現在使用可能と判明しているペルソナはイザナギ、ジャックランタン。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。

※戸塚の支給品(基本支給品、不明支給品0〜1)が近くに落ちています。


353 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:49:53 66iZ3gtY0

エンブリヲは、黒たちに嘘をついた。
局部を破壊され、電撃を流されたのは間違いなく本物のエンブリヲ。
即ち、いまデイパックに入っているのが本物であり、黒たちから逃走しているのが分身である。
逃走している方が本物だと思い込めば、狙われるのは必然的に分身側になる。
分身が殺されるまでは、本体である自分の安全は確保されるということだ。

(彩加を失ってしまったのは残念だったが、まあ仕方ないだろう。それよりも、イリヤを確保しておきたい)

エンブリヲが目を覚ましたのは、イリヤの絶叫のおかげだ。
黒に投げ捨てられ、頭を地面に打ちつつも見た光景は、血だまりに沈む戸塚と狂ったように逃げ出すイリヤの背中。
詳しい事情はわからないが、なんとなくわかったのは『イリヤが戸塚を殺して逃げ出した』ということだ。
おそらく不慮の事故というやつだろう。
イリヤの精神はすり減っているに違いない。

(だからこそ、御しやすいのだがね)


幼く未熟で、且つ強力な力を持っている。
これほど使いやすい駒はそういないだろう。
調教すれば、立派な僕になるはずだ。
加えて、クロエはイリヤの仲間だ。イリヤが従えばそれに続いて従順になるだろう。
さて、どのように手籠めにしてやろうかと、デイパックの中のエンブリヲは邪悪な笑みを浮かべた。


【F-7/一日目/午前】

【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(極大)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(大)
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る! 浪漫砲台 / パンプキン@アカメが斬る!
クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、各世界の書籍×5

[思考]
基本方針:アンジュを手に入れる。
0:イリヤに追いつき、クロエ共々調教する。ついでに黒、キリトから逃げる。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:タスク、ブラッドレイを殺す。
3:サリアと合流し、戦力を整える。
4:タスクの悪評をたっぷり流す。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※能力で洗脳可能なのはモモカのみです。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます
※いま逃げているのは分身です。本体はデイパックの中にいます




【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:気絶、全身に電撃のダメージ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2 不明支給品1〜3 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:イリヤを守る。
1:......
2:魔力の補給についてどうにかしたい。
3;キリトには……。
[備考]
※参戦時期は2wei!終了以降。
※ヒルダの知り合いの情報を得ました。
※クロスアンジュ世界の情報を得ました。
※平行世界の存在をほぼ確信しました。
※クロエのデイパックに詰められています。


354 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:54:04 66iZ3gtY0


『止まってくださいイリヤさん!』

ルビーの呼びかけにも答えず、イリヤは己の状態を顧みることもなくがむしゃらに走り続ける。
いまの彼女には何者の声も届かない。

―――殺した。

(ちがう!)

―――わたしは、この手で殺した

(ちがう!)

―――あんなにも心配してくれた戸塚さんを殺した。

(ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう!)

彼女が選んだのは逃避。
本来の彼女なら有り得ない選択肢だ。だが、エンブリヲと『心裡掌握』がもたらした結果により、彼女の精神はこれ以上なくかき乱されていた。
『心裡掌握』が解けたとき、彼女は戸塚彩加を殺したという現実と向き合うことはできるのだろうか。



【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(極大)  『心裡掌握』下 、美遊が死んだ悲しみ、黒に猜疑心、精神不安定
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
    
[道具]:ディパック×1 DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ DIOのサークレット 基本支給品×1 
不明支給品0〜1 美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞

[思考]
基本:クロと合流しゲームを脱出する。
0:もうなにもわからない
1:音ノ木坂学園に向かう?
2:田村、真姫を探し同行させてもらう?
3:花京院、、新一、サリアを探して協力する?
4:黒に恐怖心。もう会いたくない。


【心裡掌握による洗脳】
※トリガー型 4/8時間経過
『アヴドゥル・ジョセフ・承太郎を名乗る者に遭遇した瞬間、DIOの記憶を喪失する』 
『イリヤ自身が「放置すれば死に至る」と認識する傷を負った者を見つけた場合、最善の殺傷手段で攻撃する』
※常時発動型 2/6時間経過
『ルビーの制止・忠告を当たり障りのない言葉に誤認し、それを他者に指摘された時相手に対し強い猜疑心を持つ』


[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
※アカメ達と参加者の情報を交換しました。
※黒達と情報交換しました。
※イリヤがどこへ逃げたかは次の方にお任せします。



【戸塚彩加@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 死亡】


355 : 混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 10:55:46 66iZ3gtY0
投下終了です。
なにかご指摘などあればお願いします。


356 : 名無しさん :2015/08/29(土) 11:12:51 pCrk.liM0
お疲れ様です。
さやかの状態表で、第二回放送後にタツミ達と合流するとありますが
これはジョセフ達とですよね?それ以外は特に指摘は見られないと思
うのでかなり細かいですが修正お願いします。


357 : ◆dKv6nbYMB. :2015/08/29(土) 11:22:20 66iZ3gtY0
ご指摘ありがとうございます。

>>344
>>352
修正

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(絶大)、ソウルジェムの物理ダメージ(小)、精神不安定 、全裸、気絶
[装備]:基本支給品一式、テニスラケット×2、グリーフシード×1、ほぼ濁りかけのグリーフシード×2
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:やっぱりどうにかして身体を元に戻したい。そのために人生をやり直したい。
0:服が欲しい。
1:タツミと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でジョセフたちと合流する。
2:いまはゲームに乗らない。でも、優勝しか願いを叶える方法がなければ...
3:まどかは殺したくない。たぶん脱出を考えているから、できれば協力したいけど...
4:杏子とほむらは会った時に対応を考える。
5:エンブリヲは殺す
[備考]
※参戦時期は魔女化前。
※初春とタツミとジョセフの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物と認識しました。
※ゲームに乗るかどうか迷っている状態です。
※広川が奇跡の力を使えると思い始めました。
※魔法で首輪は外せませんでした。


358 : 名無しさん :2015/08/30(日) 21:39:51 USmvDS9.0
番長はアヘ顔状態からいよいよ脱出か


359 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/31(月) 04:55:27 j8xYFLnY0
遅れて申し訳ありません、投下します


360 : 死への旅路 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/31(月) 04:56:14 j8xYFLnY0

白井黒子を背負って進む高坂穂乃果の足取りは重い。
彼女がスクールアイドルとして日々のレッスンで鍛えた体力と持ち前の高い運動神経を考慮すれば遅すぎる歩みは、人を一人背負っているという事情のせいだろうか。
否、問題は穂乃果の心にあった。友人を失った絶望。友人を伴わずに逃げた後悔。
激動する状況の中で、出会った人間の本質を見極められないまま孤立している恐怖。セリュー・ユビキタスに追われる恐怖。
一日前までは想像すらしなかった事態に直面した彼女の精神は、周囲の静寂が深まるのに反比例して、少しずつ内に響く警鐘を高めていく。
ここでは、一秒先の生存が保障されていない。人が人を殺す姿を見た。何の躊躇いもなく自分を殺そうとする者たちを見た。
状況に流されるままの間は、それらに対処する事で頭がいっぱいだったが、一度落ち着くと一切見通せない先の展望に不安が募る。
本当にこのまま逃げ続けていいのか。進んだ先に、何かがあるのか。立てた決意に、意味はあるのか。

「……海未ちゃん。ことりちゃん……」

今は亡い、友人の名を呼ぶ。
キング・ブラッドレイに聞かされた、空を自在に飛ぶという異能を手に入れその心を力にする術を得た幼馴染。
セリュー・ユビキタスに吐き捨てられ、狡噛慎也が推察した、道を過った幼馴染。
それぞれがそれぞれの選択をして力を行使し、その結果として死に至ったという事実が、彼女の心を締め付ける。
辿った末路の詳細は不明だが、穂乃果に断言できることは一つだけ。
二人とも自分のためでなく、他人を助けるためにその道を選んだという確信があった。
対して自分はどうか。周囲が見えず、自分のことしか考えていないと言われれば過去の経験から思い当たる節はいくらでもある。
今、この苦境に追いやられているのもまた、状況に振り回されて喚き散らし、他人の足を引っ張った挙句の軽挙妄動が原因ではなかったか。
時折足を止めて振り返り、置いてきた者たちの姿を想起する穂乃果。
彼女は必要以上に自分を責め、力がない事をもどかしく思っていた。

「……っ!?」

その忸怩が、三度穂乃果の足をぐらつかせ、体を転倒させる。
踏み抜いた木切れの上で足が滑り、先ほどのように受身を取ることもできず倒れ伏す。
背から放り出された黒子は地面に激突してうめき声を上げ、二人分のディパックからは荷物が飛び出して周囲に四散する。
土の味を覚えた唇を震わせながら、穂乃果は情けなさに涙すら流した。
恐怖に怯え、歩くことすら満足に出来ない自分が強くなどなれるはずがないと、止まらない涙で顔を濡らす。
失った、二度と戻らない大切な者を思えば決意が萎える。今度こそ失いたくない大切な者を思えば身が竦む。
戦う者ではない穂乃果の精神は、抗いうる力を得ないまま、このバトル・ロワイアルの場に居るだけで磨り減っていく。
黒子が意識を失い、狡噛と分かれた今、穂乃果はここにきて初めて、真実一人になったといえた。
死と暴力が横行している現実を実感した彼女が"一線を越える"覚悟をするには、未だきっかけが見つからない。
友人を失った悲しみ。友人を殺された怒り。そんなもので発露する闘争心は一瞬の灯でしかない。
何の変哲もない女学生である穂乃果が力を求めて戦いに身を投じるには、彼女自身を納得させる"火"がその身を焦がさなければならない。
そして往々にして、火元とは思わぬところに転がっているものである。


361 : 死への旅路 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/31(月) 04:57:03 j8xYFLnY0

「……大丈夫かい?」

起き上がるために地面に両手をついた穂乃果の頭上から声が響く。
物静かな、それでいて好奇心という熱を隠し切れない声色。
声をかけられるまで気配を感じられなかった事に疑問はない。
それだけ穂乃果は混乱していたし、声をかけてきた男は平静そのものだった。
その声を聞いて、穂乃果は一人の男を思い出す。
殺し合いという場において、本来あって当然の警戒、動揺、戦慄、戸惑い……そういった気負いの一切ない口調。
友人の声を真似ていたこともあって、その異質さは穂乃果の耳にこびり付いて記憶されていた。
後藤……そう名乗った怪物。エンヴィー、キンブリーといった殺人鬼とも異なる雰囲気の男。
顔を上げて見える、生死とは別の物を見ているような冷たい眼差しも共通している。

「手を貸そう」

「あ、あの……」

返事を待たずに、男は穂乃果の利き手を掴んで引き起こす。
横たわる黒子に歩み寄り、楽な姿勢を取らせて脈拍を測る。
気を失っているだけだね、と呟いて周囲に散乱した穂乃果たちの荷物を拾う男。
慌てて穂乃果も、自分の荷物を拾い集める。横目でその様子を眺めながら、男は名を名乗った。

「僕の名前は槙島聖護。君たちの名前も、教えてくれるかな」

「マキシマ……」

穂乃果はその名を知っている。
先ほど出会った狡噛が言及していた、凶悪な犯罪者……彼は"潜在犯"と呼んでいたが。
狡噛は極力感情を抑えてその危険性を説明していたが、隠し切れない槙島への害意は穂乃果にも察することができた。
一見したところ、とても危険人物には見えない柔らかい物腰だ。だが印象的には事前の情報もあって、危険な雰囲気が漂っている。
セリュー・ユビキタスの豹変ぶりを間近で見ている彼女としては、内心穏やかではなかった。
しかし、先ほどのキング・ブラッドレイへの黒子の対応を見ていたのが幸いし、穂乃果はその動揺を押し殺すよう努めていた。
これ以上、自分をこれまで護ってきてくれた黒子に迷惑をかけるわけにはいかない、その一心で笑顔を見せる。

「槙島さん、ですね。私、スクールアイドル高坂穂乃果です! この子は、お友達の白井黒子さん」

「元気がいいね」

槙島は笑顔を見せない。穂乃果から視線を外して、黒子をじっと見つめていた。
スクールアイドルの笑顔を目の前にしても、槙島は何の感慨もないようにただ佇んでいる。
観察されている、と穂乃果は直感する。何の為に、かまでは分からないが……。

「アイドルとはね。考えてみれば、そういった人種と会話する機会は滅多にない。色々と話をしてみたいけど、今はもっと大事な事があるからね」

「大事なこと……ですか?」

「僕たちが置かれている状況の整理だよ。情報交換、と言い替えてもいい。君も僕も、この殺し合いで今この瞬間まで生き残っている。互いに有益な情報を持っているかもしれない」

淡々と語る槙島。ひとまず荒事を起こす気はなさそうだ、と判断した穂乃果は黒子の手を握りながら応じた。


362 : 死への旅路 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/31(月) 04:59:03 j8xYFLnY0





穂乃果の話を聞き終えた槙島は、新たに得た大量の情報を吟味するように目を閉じた。

「……成る程、君は僕より随分濃密な時間を過ごしてきたんだね。羨ましいな」

「羨ましいって……」

思わず非難の声を上げそうになるが、すんでのところで踏みとどまる穂乃果。
狡噛から聞かされていた、槙島の他人を煽動して犯罪に走らせる性質を思い出し、相手のペースに乗せられるのは不味いと感じたのだ。
しかし、槙島の言葉は疲れた脳に真水のように染み込んでくる。

「人間は万物の尺度である。あるものについてはあることの、あらぬものについてはあらぬことの。……多くの人に会うという事は、それだけ多くの視点や生き方があると知るチャンスでもある。
 特に今は……こんな異常な状況だ、君が出会ってきた人間は君がここに来るまでの人生で出会った人たちとはまるで違う生き物に見えたんじゃないかな?」

「……」

「彼らをただ受け入れるでもなく、認めず切り捨てるでもなく、自分の成長の為の糧とする。そうすれば、君が今感じている不安も少しは紛れるかもね」

「でも、そんなに簡単に……」

考え方を変えれば、見え方も変わる。状況にがんじがらめにされたまま彷徨うだけではいけないのは穂乃果にも分かる。
もっと賢く立ち回ることができればどんなにいいか……しかし、簡単に気持ちを切り替えられれば苦労しない。
幼馴染二人を失った心の穴は決して埋めることはできないだろう。

「君の事を羨ましい、と思えるのはそこだ。友人の代替品を見つけようとはしない。きっとその友人たちも君に同じ思いを抱いているだろう。
 仮に友人を殺されそうになれば、君だって南ことりのようにその敵を殺すことを厭わないだろう?」

「……ことりちゃん」

「彼女が道徳を踏み越えられた事こそが、君たちの魂の輝きの強さと……繋がりを示している。システムに飼い慣らされた者たちが語るそれとは違う、輝かしい友情。羨ましいよ。
 生者の過ちは正さねばならないが、死者の過ちは逸話となる。君が真に故人を想うのなら、悲しみ涙を流すのではなく、彼女らの足跡をしっかりと見た上で自分の道を選ばなければならない」


363 : 死への旅路 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/31(月) 05:00:15 j8xYFLnY0

本心とも皮肉ともつかぬ言葉だったが、穂乃果にとっては奇妙に心がやすらぐ言葉でもあった。
狡噛は「過ちを犯したがやり直せたはず」と語り、槙島は「友達の為に人を殺すのは間違っていない」と賞賛する。
穂乃果とて、ことりが本当に人を殺そうとしたとは思えないし、殺そうとしたのならばそれは間違いだと頭ではわかっている。
しかし相次ぐ心労から、ことりを認める人間がいるという事だけでも、穂乃果には救いに思えてしまう。

「でも……二人とも、死んだんです。凛ちゃんだって。皆の事を思うと、前に進むのが怖くなって……」

「君は強くなりたい、といったね。恐怖は足を止めるだけでなく、足を速めることもある。本当に人間の足を止めるのは諦めだ。君はもう、諦めているのかい?」

「……諦め、たく。ない、です。でも、どうすればいいのか」

「必要なのは、君が何を諦めたくないのかをはっきり理解する事だね。目的が定まらなければ、手段だって立てられない」

それを探す助けになるといいけれど、と言って槙島は黒子の体を抱き起こして気付けをする。
訝しむ穂乃果だったが、黒子の目に光が戻ったのを見て正面に駆け寄った。
寝起きの硬直は意外なほど短く、穂乃果の姿を認めて同時に周囲に気を配り、背後から自身に触れていた槙島を空間移動させる。
抵抗なく数m後ろの空間に飛ばされた槙島は慌てることもなく、呟く。

「これは、超能力かな。 その制服と校章、やはり御坂美琴の友人とは君の事か」

「……貴方は? お姉さまを知っていますの?」

「白井さん、この人は槙島聖護さんです」

黒子の背後に位置する槙島に表情が見えないよう、穂乃果は連れ合いの顔の正面で目配せをする。
覚醒から合間なく能力を行使した影響で頭に疼痛を覚えながらも、黒子は自身の能力の精度を推し量る。

(……すぐにテレポートでこの場を離れるには、コンディションが悪すぎますわね)

「体調が悪そうなところを起こしてしまったのは謝るよ。でも、こちらの話は君にも聞いてもらわないとね」

「ブラッドレイさんや、セリュー・ユビキタスの話をしてて……」

穂乃果の言葉から、黒子は穂乃果が槙島との情報交換で生存している仲間や狡噛についての詳細はボカして伝えていると気付く。
危険人物と認識している相手には正しい対応だ、と内心で舌を巻く。気絶する刹那は心配でしかなかったが、その気持ちも少し薄れた。
だがそれよりも、今は美琴の話を聞かなくてはならない。

「実はこの事件に巻き込まれて最初に会ったのが彼女でね、少しだけだが話もしたよ」

「話……ですの? どのような?」

「僕以外の誰かと戦った後で、かなり情緒不安定な様子だったから気になってね。これからどうするのかと問いかけたのさ」

「でも、御坂さんって確か……ブラッドレイさんの話だと」

「上条当麻。最初に命を落とした、あの面白そうな子は、君とも共通の知り合いかな? 白井黒子」

「……知り合い、という程ではありませんわね」


364 : 死への旅路 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/31(月) 05:02:04 j8xYFLnY0

黒子の顔が歪む。今の短い会話で、彼女は自身の最悪の推測が的中したことを完全に確信した。
ルームメイトの黒子から見ても、美琴の上条当麻への感情は他の誰とも重ならない種類の物と認めざるを得ない。
だが、黒子としては納得できない事もある。

「上条当麻を蘇らせる為に、誰であろうと殺してみせる。彼女はその初志を貫徹せんと、僕に襲いかかってきた」

「お姉様がそんな浅はかな選択をするとは思えませんわね。何か、別の要因があったのでは?」

「別の要因なんて、殺し合いをさせられている場所なら空気ひとつで用意できる。でも、彼女が"殺す"と覚悟をしたことは、彼女自身の選択である事は確かだよ。
 御坂美琴は自分の意思で、明確な目的を持ってこのゲームに臨んでいる。友人を殺してでも、彼女にとって上条当麻の生還は果たしたい願いらしい」

「……お姉様といつどこで会われたのか、お聞きしても?」

「ああ。逃げおおせた後に一度姿を見かけたから、その時の事も話すよ」

槙島の答えを聞いたところによれば、キング・ブラッドレイと交戦した前後の時間帯に美琴は数人のグループを襲撃したらしい。
放送で呼ばれた者の何名かは、美琴によって葬られたのかもしれない。
黒子の知るレベル5は一個の軍隊に比肩する戦力を持つ。それが殺戮を目的に行動すればどれだけの被害が出るかは想像したくもない。

「……貴重な情報を頂いたのには感謝しますが。貴方の態度、あまり深刻そうには見えませんわね」

「君と比べられても困る。僕は彼女の選択も尊重したいが、君にとってはなんとしても止めたい事なんだろう? 君と彼女、どちらが我を通せるのか。僕はそれが見たいだけだからね」

「邪魔はしないが協力もしない、ということでよろしくて?」

「どうやら君には御坂美琴以上に……恐らくはずっと以前から、有事に"選択する事を決めていた"覚悟があるようだからね。余計な茶々を入れる必要はなさそうだ」

君にはね、と結びながら槙島は不意に手から何かを宙に浮かせる。
重力に従い槙島の手に落ちるその鉄球に、穂乃果は見覚えがあった。
説明を読んでもまるで理解が出来なかった支給品……フラガラック、という不思議な道具。
穂乃果がそれに気付くと同時に、槙島が鉄球を投げ渡した。

「高坂穂乃果君の物かな、この道具。一緒に落ちていた説明書を読むと、どうやら使用するには特別な力が必要らしい。
 だがこれを使う者に求められるのは、本当は敵対する者の切り札に身を晒す覚悟だと僕は思う」

「あっ……」

「白井黒子君には、きっとその覚悟はあるだろう。年下の女の子が出来る事だと考えれば、君だって…」

「高坂さんに何か唆すつもりですの?」

黒子の眼光が強まる。穂乃果が槙島の口車に乗せられるのを見逃すわけにはいかない。
だが槙島は肩をすくめると、「何も御坂美琴の真似事をしろっていうんじゃあない」と告げ、穂乃果に言葉を次ぐ。
説明書を拾って読む黒子にも正面から否定できない、甘言を告げる。


365 : 死への旅路 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/31(月) 05:03:27 j8xYFLnY0

「白井君には、彼女自身が、彼女がやらなければならないと思っている事がある。高坂君はいつまでも守られる立場でいるのは嫌だと思っている。
 いつかは白井君が高坂君だけを気にするわけにはいかない時も来るだろう。高坂君にだって南ことりや園田海未がそうしたように、守らなければならない物の為に戦う道を選ぶ―――」

権利がある、と言う槙島は、初めて笑顔を浮かべていた。シニカルでいながら、根底では他者への強い興味が窺える笑み。
黒子は目の前の男が、悪意や欲望よりも優先する何かの為に犯罪行為に及ぶ人間だと推測した。
日々相手にする学園都市の悪漢とは違う、複雑怪奇な背景がある特殊な犯罪者。この男と決着を付けられるのは、その内面を理解できる者だけではないのか……。
とはいえ、穂乃果が軽々に敵に立ち向かう覚悟を決めたところで黒子の助けにはならない。訓練を積んでいない民間人に頼るなど、風紀委員としてありえない行動だ。
彼女の身にも危険が及ぶのは明白な以上、黙っているわけにもいかなかった。

「高坂さん、その道具は槙島さんのおっしゃる通り、異能を持つ人間にしか使えない、と説明書にはありますわ。わたくしに……」

「っ……でも、レベルアッパーっていうのを使えば、私にだって……槙島さん、そうですよね!?」

「あの音楽プレイヤーの事だね。理屈の上では、君が考えている通り作用するだろう」

「じゃあ……」

「だが、それはやめたほうがいい。君にとって決していい結果は生まれないだろう」

穂乃果にも、黒子にも予想外の言葉だった。
槙島は黒子を見ながら、一転つまらなそうに語る。

「御坂君や白井君の能力は、聞いたところによればパーソナル・リアリティ……個々人が見ているミクロな世界のズレを、表層のマクロな世界に反映させて発現させている。
 そしてレベルアッパーとは、その自分だけの現実を認知しきれていない微弱な能力者たちの脳を繋げてネットワークを作り、掻き集めた大きな力を行使するという物、だろ?」

「訂正が必要なほど、間違ってはいませんが……」

「他者の現実は、自己が見る悪夢だ。現実と悪夢が交わって出来上がる力がどれだけ都合のいいものであっても、それは人間の輝きを薄めるものだ。個を蔑ろにしてはならない」

「えっと……」

「こっちの方が"無理がない"、ってことだよ」

槙島が自分のディパックから一丁の拳銃を取り出す。躊躇なく差し出されたその銃口は槙島の手に包まれている。
穂乃果は殆ど反射的にその銃把を握った。冷たい感触が、手から腕に、腕から全身に広がる。
彼女がこの空間に来てから見てきた他人を殺す為の力は、ゲームに出てきそうな大剣、自在に爆発や炎を操る秘術、肉体を変貌させる生態……現実離れしたものばかり。
一本の拳銃はきっと、穂乃果の世界のどこかにも普通に存在した武器だろう。簡単に扱えるとは思えないが、これは人間が人間を殺すのに必要な過程を省くために創造した叡智の結晶。
非力な穂乃果にも、使い方は教われば分かる……ただの道具に過ぎない。槙島は簡単に扱い方を説明すると、それを譲渡する旨を伝えた。


366 : 死への旅路 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/31(月) 05:05:09 j8xYFLnY0

「貴方……それで高坂さんに何をさせるつもりですの?」

「覚悟の助勢のつもりで、何かをしてほしいって訳じゃない。高坂君がこれで何を撃つのか、何を撃たないのかは彼女が決めることだ。
 彼女の幼馴染の一人は、殺されて首を晒された。それを見て高坂君が逃げたのも無理はないが、もし逃げずにその事態に立ち向かっていたなら、既に覚悟は終わっていただろう」

「逃げな、ければ」

「キング・ブラッドレイという男の話によれば、もう一人の幼馴染……園田海未君は音ノ木坂学園に向かったというじゃないか。僕の知る限りでも、複数の人物があそこを目指していた」

槙島が出会った人間の名を並べる。泉新一、雪ノ下雪乃、アカメ、サリア、アンジュ、田村玲子、そして―――西木野真姫。
思わず、穂乃果が動揺を顔に出す。いけないとわかっていても止められない。小泉花陽と同じく、放送で名を呼ばれていないμ'sのメンバーだ。
今最も知りたい者の名を出された穂乃果の心中を知ってか知らずか、槙島は雪乃とアカメを除く全員が学院に足を運んでいた、と証言する。

「僕は、あの学舎の方で激しい光と音が激突するのを見た。彼ら彼女らが流血を伴う交流をした事は、まず間違いないと思うよ」

「じゃあ……海未ちゃんは、そこで?」

「行ってみれば、何かが分かるかもしれない。もしそこで君の幼馴染が死んでいたのなら……その姿を見て、君は今度こそ道を選ばなければならない。
 親友を殺した者へ復讐を誓うのか。親友の想いを想像し、自分の中の彼女たちに殉じるのか。どの道を選ぶのも君の自由だ。だが、選ばずに逃げる事だけはしてはならない。
 そうして魂の輝きを見せた友人たちを悼むのなら、君は強くなる事が出来るだろう。僕は君の輝きを見たい。本当にそれだけなんだよ」

「……音ノ木坂学院に行くことに、異存はありませんが。貴方はこれからどちらに行かれますの?」

穂乃果は掌の中にある銃を見つめながら、「音ノ木坂学院に向かわねばならない」という情動をより強く感じていた。
真姫がそこにいたという確証を得たという事もあるが、何より海未がそこで何に巻き込まれたのか。本当に死んだのか、どうやって死んだのか。
それを知らなくては、前には進めないという思いに支配されていた。
黒子も穂乃果が明確な目的を持った事実は尊重したい、と思っていた。たとえ槙島の嗜好がもたらした傾向といえど、即座に否定するべきではない、と。
穂乃果は最初の印象よりずっと強い人間だと、黒子は感じてもいた。厳しいようだが、生き残る為には彼女自身にも友人を失った悲しみを乗り越えてもらう必要はある。
そうして一緒に行動し、彼女が間違った道を選んだのならば正す。美琴が道を踏み外したのを止められなかった自分だからこそ、手の届く範囲で繰り返される過ちを見過ごしてはならない。
美琴の居場所が掴めない以上、穂乃果の親友を保護できる可能性もある場所に向かうのは当然でもある。

「図書館に寄るかどうか……まあ、島の北西側に行こうとは思う。行っていない所はたくさんあるからね」

「……そうですの」

狡噛の事を伝えるべきか、と黒子は迷う。
彼は槙島を相当に敵視していた。一方の槙島は明瞭に明かしていない、黒子たちが出会った友好的な人物の中に狡噛がいないのか、とは聞いてこなかった。
情報交換と言っておきながら、細部を聞き出さないのは、宝箱でも開ける趣きなのだろうか。
北西に向かうというなら、イェーガーズ本部を通る可能性もある。ならばウェイブ達の為にも、余計な負担を増やす意味はない。
上手くいけば、セリューとかち合って足止めをしてくれるかもしれない。黒子は狡噛の事を明かしてイェーガーズ本部へ槙島の興味を引かせる道を選ばなかった。


367 : 死への旅路 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/31(月) 05:06:04 j8xYFLnY0

「私たちはこれで。高坂さん、行きますわよ」

「あっ……はい。あの、槙島さん。セリュー・ユビキタスには……」

「注意するよ。同じくらい、話もしてみたいけどね。……財あれば恐れ多く、貧しければうらみ切なり。人を頼めば、身他の有なり―――」

穂乃果の手を引き、あくまで警戒を怠らずに槙島の元を去ろうとする黒子の耳に、槙島の声が届く。
顔だけを向ければ、独り言のように世の無常を謳いながら、こちらと逆方向に歩いていく男の背中が見えた。
武器を手放しておきながら何の恐怖もないように一人立ち去っていく槙島聖護。
有益な情報を提供し、指針を決める助けになった相手だが、黒子は彼に憎憎しげな視線を向けて呟いた。

「―――人を育めば、心恩愛につかはる。世に従へば、身、苦し……」

「白井さん?」

「何でもありませんの……」

「あの人、思ったより悪い人じゃなさそうだったけど……ウェイブさん達の事、教えなくてよかったのかな」

「いえ。あの槙島聖護という男はこちらを殺すつもりでいましたの。恐らくは、私たちが彼が決めた何らかのルールに沿わなければ」

黒子の断定するような口調に穂乃果が目を見開き、黒子の掌にじっとりと浮かぶ、精神性の発汗を認めた。
穂乃果には気付かない何かが、あの会話の中で展開されていた。
その流れを掴んでいた黒子は、最悪の事態への対応策を練ると同時に、美琴の選択の主因が槙島にあると看破していた。

(他人を煽動する目的が営利でなく、好奇心と興味であっても、槙島という男は相手の破滅を笑って見送る人間に間違いはなさそうですの。本質がどうあれ、あの男は社会にとって……)

決して相容れぬ人間に、自分の最も大切な人間が惑わされて取り返しのつかない道を歩もうとしている。
黒子とて風紀委員であるまえに一人の人間だ。本当ならば体のコンディションなど考慮せず、槙島を打ちのめしてやりたいと思うくらいの怒りは胸に抱えている。
だが、今の自分の隣には穂乃果というこれから自分が歩く道を決めようとしている少女がいる。その一点だけが、黒子の理性を保たせていた。

(お姉様……)

黒子が陽の上がった空を見て思うのはただ一つ。
美琴が本当に、取り返しのつかないところまで進んでしまっていた時に。
どのような言葉をかけ―――否、言葉をかけることが出来るのかという、自問だった。






【F-5 道路/1日目/午前】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、決意
[装備]:練習着、トカレフTT-33(6/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3
[道具]:基本支給品、鏡@現実、デイパック×1、指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考・行動]
基本方針:強くなる
1:黒子と共に音ノ木坂学院へ向かう
2:花陽ちゃん、マスタングさん、ウェイブさんが気がかり
3:セリュー・ユビキタスに対して―――――
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています


【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、焦燥、怒り
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、逆行剣フラガラック@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春などの友人を探す。
0:お姉さまを…
1:穂乃果と共に音ノ木坂学院へ向かう
2:初春と合流したらレベルアッパーの解析を頼みたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているということを確信しました。
※槙島が出会った人物を全て把握しました。


368 : 死への旅路 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/31(月) 05:07:09 j8xYFLnY0


「あの猟犬……余程僕に怨みがあると見えるな……」

黒子たちと別れて数分、槙島は苦笑しながら朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
しばらく市街地を歩き回っていたが誰にも会わず、いよいよ移動しようとした矢先にいい情報を得られた、と喜びながら。
穂乃果に最初に名乗ったときから、彼女が自分の事前知識を得ていたのはわかっていた。
会話を進めるうちに、自分がここで出会った人間からの情報だけ、にしては尋常でない警戒心を隠している事に気付く。
それだけ悪意を持って槙島の事を他人に伝えそうな人物として彼が思いつくのは狡噛と美琴のみ(サリアについては興味が薄く、忘れている)、黒子の様子から見て美琴と接触していないのは明らか。
ならばやはり狡噛は、このバトル・ロワイアルでも自分を追い詰める為に行動をしていると見ていいと槙島は考えた。そして、歓喜した。

「あちこちに見るべき輝きがあると言っても、観察はあくまで一人遊びだ。子供のころから一人遊びは苦手で、二項対立を欲しがった。ここには狡噛慎也だけじゃなく、槙島聖護もいる」

自分が積極的に関わり過ぎれば、自分の見たい輝きはくすんでしまう。興味と失望は紙一重の綱渡りだ。
そのジレンマを気にすることなくぶつかり合える、自分に似た存在。相対する概念。
銃の対価として無断で拝借した、アルコールそのものと言える蒸留酒が詰まった瓶を取り出して眺める。
95〜96%という高純度のこのウォッカの製造過程と同じように、槙島は自身を蒸留させるかのように犯罪を犯し、犯させ、危険な橋を渡り続けて自分を試してきた。
その終点がこのバトル・ロワイアルだというのなら甘んじて受けようと、槙島は笑う。


槙島の見る自分だけの現実は、無数の輝きと、自分の対極の一項だけが在る、これ以上なくクリアな色相の世界だった。


【E-5 道路/一日目/午前】

【槙島聖護@PSYCHO PASS-サイコパス-】
[状態]:健康、上機嫌
[装備]:サリアのナイフ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品一式、トカレフTT-33の予備マガジン×1 スピリタス@ PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考]
基本:人の魂の輝きを観察する。
1:狡噛に興味。
2:面白そうな観察対象を探す。
[備考]
※参戦時期は狡噛を知った後。
※新一が混ざっていることに気付いています。
※田村がパラサイトであることに気付いています。
※穂乃果、黒子が出会った危険人物の詳細と、友好人物の情報を断片的に得ました。


369 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/08/31(月) 05:08:00 j8xYFLnY0
以上で投下終了です。


370 : 名無しさん :2015/08/31(月) 13:25:26 GI4/A0K60
投下乙です、凄い…!

マキシマムが実にマキシマムだ。穂乃果の様な参加者にとって彼の存在は毒にも薬にもなるのかも
どちらにしても劇薬であることは変わりないが
武器をあっさりと手放すのも彼の異質さがよく出ている、それでいて死ぬ気がまったくしないのも…


371 : 名無しさん :2015/08/31(月) 22:18:27 XMZas14A0
投下乙
イリヤ爆弾の炸裂は覚悟していたが、戸塚が犠牲になってしまうとは。彼は最後まで天使だった
影の薄かったキャラに結構フラグが積まれたので、次は番長にも頑張ってほしいところ

そして、マキシマムとの問答回。この人はいつも楽しそうだな。
黒子が防波堤になってなんとかなったが、穂乃果の決断が気になるな


372 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:27:11 /ZVSL/9I0
遅れて申し訳ありません。

足立、まどか、ほむら、承太郎で投下します。


373 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:28:22 /ZVSL/9I0

残された三人は言葉を交わすよりも先に行動を開始していた。
承太郎は頭部を木っ端微塵に粉砕された花京院の身体へ近付いている。
鹿目まどかは虚ろな目を抱えたまま倒れそうなぐらいふらふらな状態で後退している。
その彼女を追うのが暁美ほむらであった。

何が起きたかわからない。三人が抱いている偽りない感情である。
花京院の襲撃があったのは事実だ。DIOに操られている状態での交戦となった。
事前に肉の芽らしき情報が手に入っていた承太郎は昔と同じようにその芽を毟り取った。

これにより花京院はDIOの支配下から開放され本来の自分を取り戻すはずだった。
しかし承太郎達に訪れたのは頭部を粉砕された花京院だった者の死。
肉の芽を取り除いた後に放たれた一筋の光の矢が花京院を殺した。

何が起きたか解らない。

花京院を殺した人物が鹿目まどかな点も相まって現場は混沌と化している。
エスデスに同行した方がまだマシだったかもしれない。思いたくもない現実が待っているかもしれないのだ。

さて、承太郎は花京院の死体に近付きその顔を見るが当然の如く頭部は粉砕されている。
倒れている身体についていない、床を見ても赤い血しか付着していない。
DIOを倒す仲間だった男はまた操られ、そして死んだ。
過去からやって来た線もあるが今は関係ない。そんなことはどうでもいい。
仲間が死んだ、花京院典明という男が死んだ事実に何も変わりはないのだから。


「……おい」


過去から現実へ向き直した承太郎は後ろに居るまどかと乱入者に声を掛ける。
まどかの仲間である暁美ほむらという名前らしいが重要なことではない。

「なんで殺した、言え」
「まどかだって混乱している。今は触れないであげて」
「テメェには聞いてねえ。なんで花京院を殺したんだ」
「……………………」
「承太郎さん、だから今はまどかを――」
「黙れって言ってんだよこのアマ」

承太郎の横に浮かび上がるスタンドに警戒するほむらは盾に手を伸ばす。
何時でも時間停止を発動出来る状態に。どんな事態でも動けるように、まどかを守るように。
ラッシュの応酬を見るに承太郎の戦闘能力は一級品と見て間違いない。
スタンドと呼ばれる未知の力に対し自然と恐怖を覚え、魔法で勝てるか危うい。
視線だけは承太郎から逸らさず、黙って立っているまどかを守るようにほむらは数歩前に出た。

「まどかは殺しなんてする子じゃないわ」
「そいつはどうかな。まどかはついさっきも人を殺そうとしていたぜ」
「そんな……!? 適当な嘘をつくんじゃない!」

「なら花京院を殺したのは何でだって俺は聞いている」

誰も答えない。
ホール一帯を緊迫感が包み込み、ほむらの頬を汗が伝う。

「――訳は知らないけれどまどかは貴方と友好関係を築いていた。
 仲間である貴方が襲われているのは助けた――うん、これが一番妥当じゃないかしら?」

「都合の良い解釈過ぎんぜ。そいつは俺に攻撃もして来たし俺は別行動を取るつもりだった。
 仮に俺を助けたとしても頭を矢でぶっ飛ばすなんざ度が過ぎてんだよ。まどかは――その女は確実な殺意を持って花京院を殺した」

「まどかがそんなこと」「する訳無いって言うつもりらしいが実際に起きてんだ」「何が理由が」「あるなら教えろ」

言葉の応酬は続く。

「お前も魔法少女って奴なんだろ」「だったらどうしたって言うの」「赤い槍のガキもそうだが人を襲うことに躊躇しねえガキ共だ」

(佐倉杏子――気の強い彼女なら有り得るわね、余計なことを)「まどかも例外なく何人か襲っている……殺人鬼じゃないのは一緒に行動して解ってるつもりだった」

「ならまどかがそんなことをしない子だって貴方も解っているはずよ!」

「仲間が殺されてたんじゃテメェの口から吐かせるしか無えんだ。お前も『俺が今鹿目まどかを殺した』らキレるに違い無え」

言葉を返さず、場を見極めようと思考を張り巡らせるほむら。
承太郎はまどかに対し警戒しているよりも魔法少女という存在自体に警戒している。
赤い槍のガキは佐倉杏子で間違いない。まどかを含め承太郎は二度、魔法少女に悪い印象を持っているようだ。
ほむら自身まどかが花京院を殺した理由など知らない。寧ろ現実から逃げたいぐらいである。
放心状態のまどかを庇うように承太郎と論戦しているが彼が有利なのは当たり前である。

それでなくても承太郎に味方したい――大切な仲間が目の前で殺されればほむらも同じだ。


374 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:29:01 /ZVSL/9I0

承太郎の発言には筋が通っている。そしてほむらの発言はまどかを守る一心で脆い。
突かれれば粉々に砕け散ってしまう程には芯の無い供述であり、まどかは優しい子だ。と強引に進めるしか無い。
承太郎が言う通りこの場でまどかが殺されればほむらは彼を殺す。それも徹底的にこの世から排除する。
故に花京院が殺された承太郎の気持ちは痛いほど解る――それでも。

「キレるどころか殺すわよ。
 今はまどかを安静にさせたいの。会話も荒れ事も後にしてもらえるかしら」

まどかを最優先にする。



「ヤバイヤバイハライタァイ……いやートイレ長くてごめんね承太郎君。
 さっきから物音凄いし取り込み中みたいだったけど……この死体、僕がトイレに行っている間に何があったの?」





とっくに火が点いて導火線がみるみるうちに減っていく状況に救世主が現れた。

「うげ……ちょっとグロ」

救世主がどうかは不明だが承太郎とほむらの衝突を遅らせることに貢献している。
トイレに行っていた足立は戦闘と思われる音と二人の言い争いを聞いて歩いて来た。

何故彼が戦闘中に来なかったかは不明である。長時間トイレに篭っていたのだろうか。
空条承太郎、鹿目まどか、花京院典明、暁美ほむら。
エスデス達が去ったコンサートホールに残った役者達が演じる劇に何故足立は居なかったのか。
まるで彼だけが物語から切り取られたように不自然な未登場である――しかしほむらには関係ない話だ。

「どなたでしょうか……?」

「あっ僕? 足立透、名簿見れば一発で解るからねよろしく。
 一応刑事なんだけど銃とか全部没収されててさ……面目ないってのが現状、君は……まどかちゃんの友達かな?」

「暁美ほむら……まどかの友達の」

「ほむらちゃん、ね。燃え上がれ―って感じでかっこいい名前だけど……承太郎君、説明いい?」

謎の少女の名前も解ったところで足立は承太郎に状況説明を求めた。
足立の中で承太郎はかなりレベルの高い話しかけたくない存在である。
出会った瞬間に解る年齢からは想像出来ない威圧感、一緒に居れば心苦しい。
足立のスタンス的にも離れたいのだが――この話は別に関係ない。
年下、それも子供しかいない面子の中で一番年上でしっかりしているのが承太郎だ。
故に足立は承太郎から説明を聞く――そして遅れた役者を主役に禍い物のストーリーが幕を開ける。


「簡単だ足立さん、まどかが花京院――俺の仲間を殺した」


375 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:29:56 /ZVSL/9I0



「ふむふむ……いや、殺しは駄目でしょ常識的に考えなくても駄目だよまどかちゃん」



一通り説明を聞いた足立は客席に座り、顎に手を付けながら黙っているまどかに注意をする。注意なんて優しい内容ではないが。
承太郎の説明中にほむらが「それは違うわ」と根拠が無いことばかり間に挟んで来ていた。大切な友達を庇うためだろう。
響きなら感動的だが現実は優しくない。受けるべき罰は存在しており、鹿目まどかを守る法律は存在しない。

元を辿れば殺し合いを開いた広川が悪いのだが、手を殺しに染めた人間全員お咎め無し、なんて上手い話は存在しない。
それならばどこかの犯罪者も同じように人を殺して、樂しんで、広川に責任を押し付けるだろう。

(どこかの犯罪者も……ね。
 トイレ行ってる間にクソ面倒いことになってんじゃねぇよクソ……ま、籠もってた訳じゃないけど)

胸の中で毒を泥の中へブチ込むと足立の視線は自然とほむらへ移る。
花京院と一緒に現れた彼女。承太郎に襲いに掛かったことを考えれば彼女も『悪』の仲間と考えられる。
正義だから悪を倒す。そんな簡単に物事を解決出来る状況ではないため、無駄な記号は考えない。

友達を殺された男子高校生空条承太郎。
花京院を殺した女子中学生鹿目まどか。
その友達である女子中学生暁美ほむら。


「あ、だちさん……ほむらちゃん、承太郎さん……私、わた……っ!」


涙を流し呼吸が乱れたまままどかは頑張って言葉を発せようとしている。
今まで黙っていたが心の整理でも出来たのだろうか。しかし過呼吸気味となっており、パタンと客席に座ってしまう。
背中をさすり大丈夫と声を掛け続けるほむらとそれを睨む承太郎。溜息をつく足立。
エスデスが去り混沌とは無縁になる予定だったコンサートホール、何故こうなってしまったのか。

「まどかちゃん……い、今はとりあえず落ち着こっか! ほらこの水でも飲んでさ」

目の前の少女は殺人犯であり魔法少女である。
現行犯として逮捕し事情聴取を行うのが適当な場面ではあるがこの状況で法が万全を成すというのか。
足立はまどかを落ち着かせるためにバッグから自分に支給されているペットボトルを差し出した。


376 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:30:29 /ZVSL/9I0

まどかをペットボトルを握ると少しだけ頭を下げて礼を述べる。まだ言葉を発するには呼吸が乱れている。
その光景を彼女の背後から睨む暁美ほむら。眼光が鋭く、足立は困ったように嗤っていた。

「はは……そんな睨まなくても」

「睨んでいるつもりはありませんでした。すいません足立さん」

「あ、そう? そんな風には見えねえんだよ……おっとなんでもないからね」

手を振り、引き攣った笑みを浮かべると足立は彼女達に背を向け承太郎の方へ歩き出す。
一連の流れを説明してもらったが、承太郎視点の情報が一番真実味を帯びていた。
暁美ほむらの供述は無意識に鹿目まどかを庇っている、云わば使いものにならない情報。
スタンド能力を含め承太郎から話を聞き出したいところだが彼は外に出る準備をしていた。


「ちょ、承太郎君!? 君さ、いや何してんの」

「俺はエスデスの野郎からアヴドゥルを引っこ抜いて別行動だ。アンタとはお別れだ足立さん」


バッグを担ぎ、客席を畳んだ承太郎は少ない言葉だけを残し歩き始める。
それを止めようと足立は慌てて承太郎の前に飛び出し腕を大きく広げて、進路を妨害する。

「いや君が居なくなったら誰がまどかちゃん達を守るのさ」
「もう一人の魔法少女がいるだろ」
「そうじゃなくてさ、まどかちゃんは君の友達を殺したんだろ? だったらその友達であるほむらちゃんも危険人物じゃないの?」
「……逆に聞くが友達を殺した奴と一緒に居たいと思うか?」
「……………………」
「じゃあな。俺がアヴドゥルを連れて此処に戻って来た時、足立さんが居ないことを祈るぜ」


足立の静止も気にせず承太郎は歩き続ける。
本来ならば鹿目まどかを問い正し状況と返答によっては――喋れない状態ならば自分が抑えるしか無い。
エスデスからアヴドゥルを連れ戻し、再びコンサートホールに来た時、喋れる状態にはなっているだろう。
その時こそが真実を知る時だ。死んだ花京院、魔法少女。
何故彼が死ななくてはならなかったのか。その全てを明かす時が必ず訪れるはずだ。





「まどか……? ま……ッ!? まどか!! ねえまどか!! しっかりして!!」





けれど承太郎がコンサートホールを出ることは無かった。





377 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:31:00 /ZVSL/9I0

私はあの人を殺そうと思って弓を引きました。

偶然とかじゃなくて、確実に仕留めようとしていました。

前に襲って来た男の人と同じように――今度は成功……なんて言いたくない。

私はもう大切な人を失いたくない。

マミさんは死んだ。名前を呼ばれていたからもうマミさんには会えない。

誰がマミさんを殺したかなんて私には解らないです。

解ることは人を殺す悪魔が存在していることだけ。

もうマミさんみたいに悲しいことが起きないようにするには――私ってこんな考え出来たんだなって。


殺し合いに巻き込まれてから自分が自分じゃないような気がずっとしていました。

思えば最初からとんでもない幕開けで。花京院さん――承太郎さんの友達に襲われました。

あの時は解らなかったけど今なら解る、あれはスタンドによる攻撃だって。

魔法少女じゃなければ私は死んでいました。思いたくはないけどやっぱりこの身体は人間じゃないみたい。


その次に出会ったのが承太郎さんでした。

私が傷を再生している間に後藤と言う怪物と戦っていました。

承太郎さんはスタープラチナのスタンドを使って怪物と対決、退けることに成功しました。

ちょっと怖い見た目だけど、威圧感通りの強さを持っている人。

話を聞けば赤い槍の魔法少女……杏子ちゃんに襲われたと言っていました。

気の強い杏子ちゃんなら有り得そうで、私が止めなきゃ。変な意思が生まれました。

時間が経って私達はエスデスさんと出会いました。

とっても美人で、色っぽくて、大人なお姉さんで憧れちゃうかも……なんて。

エスデスさんはほむらちゃんと承太郎さんの友達であるアヴドゥルさんと知り合いでした。

私を襲った花京院さんが偽物かもしれない……そうだったらどれだけ良かったのか。


378 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:31:37 /ZVSL/9I0

コンサートホールでは計六名のグループが結成されたんです。

新しく承太郎さんの友達であるアヴドゥルさん。それに足立さんとヒースクリフさんを加えて。

多くの人が一緒で私は安心していました――そこを狙うように放送が始まってマミさんの死を知りました。

その時のことはあまり覚えていません。覚えていたのはソウルジェムが濁っていたことぐらい。

錯乱していた私はヒースクリフさんからソウルジェムを貰って何とか穢れを浄化することが出来ました。

そして魔法少女の事を話したんです……怖かったけど受け入れてもらえて良かった。


一人で涙を流している時、私を襲って来た――魏志軍さん。

あの人はどんな能力を使ったかは不明ですが私の首を一部吹き飛ばしたんです。

語弊がある言い方かもしれないけど……私は反射的に拳を突き出していました。

自分らしくもなくて、慣れていない拳は簡単に避けられて承太郎さん達の加勢が無ければ本当に死んでいたかもしれません。

魏志軍さんが逃げようと閃光弾を投げた時――私は弓を引いていました。

何でかは解りません。ただ、死にたくなかった。そう、私は死にたくなかった。

此処で殺さなければ私もマミさんみたいに死んじゃう、そんなの嫌だ、死にたくない。

きっとこれが正解だと思います。自分のことなのによく解りません。


だから私は花京院さんにも弓を引いた――殺される前に殺せば死ぬこともないから。


……なんて皆に説明することなんて弱い私には無理でした。

こんなことを言えば軽蔑されてしまう。それが怖い。私は悪くない、いや、悪いのに。言いたくない。

どうすればいいの。こんな状況じゃ、殺し合いに巻き込まれてる中、正しい判断何て出来ません。

私は死にたくなかった。それだけなんです。

なのに、なのに。

どうして涙が溢れでるんだろう。





379 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:32:27 /ZVSL/9I0

ほむらの叫び声に足立と承太郎は振り返る。
なんだなんだと覗き込んでみるとほむらが血相を変えて苦しんでいるまどかに近付いている。
その距離は密着に近く、まどかの肩を掴んで必死に訴えていた。

「どうしたのまどか!? 急に苦しみだして……ねぇ!」

首を自らの手で押さえ込んでいるまどかの表情は何かに苦しんでいた。
床には足立から受け取ったペットボトルが転がっており、落としてしまったのだろうか。水が零れている。
呼吸が更に荒くなっており言語の発音も通常通りとはいっていなく、聞き取るだけで精一杯な状況であった。

「まどかちゃんどうしたの……僕が解るかい、まどかちゃん!」

ほむらを押しのけて足立はまどかの瞳を覗き込む。
目と目が重なり、まどか自身に意識があることを確認する。どうやら此方からの声は聞こえているようだ。
何度も大丈夫か、と声を掛けるがまどかからまともな返事は返ってこず、事態には何の進展も訪れていない。
押し退けられたほむらは何度か足立を睨むが、流石にこの状況でまどかに触れるな! などと言えるはずがない。
刑事である彼なら自分よりも人体には詳しいはずだ。魔法少女絡みで無ければ任せた方がいいだろう。

(魔法少女絡み……ソウルジェムは……穢れているわね)

元から色が芳しくないまどかのソウルジェムであったが、やはり穢れている。
この会場で何があったか聞いてはいないが、相当な苦労を経験したのだろう。巴マミの死の件もある。
精神的弱さを持ちながら頑張って、振る舞って、意地を張っていた先輩魔法少女の巴マミ。
彼女の存在は後輩魔法少女であるまどかに――ほむら達にとってとても大きな存在だ。その背中を見て彼女達は生きて来た。
故に彼女の死はまどかにとってもほむらにとってもさやかにとっても杏子にとっても――無視することの出来ない件である。

ほむらは一瞬戸惑うが、視線を承太郎に移した。まどかをずっと視界に捉えていたいのだが、彼をノーマークにするのは危険過ぎる。
現状まどかに対して敵対意識を持っていると思われるのが彼――空条承太郎である。
彼がもしまどかに対して危害を加えるようであれば魔法を使うことに一切の躊躇いを持たない。

その本人である承太郎はゆっくりと此方に近付いている。
逆に言ってしまえばそれだけであり、スタンドも発動していなかれば武器の類も持ち併せていない。

「まどかちゃん、とりあえず水でも飲んで……くっ、どうすりゃいいんだよッ!」

彼女を落ち着かせようと足立は落ちているペットボトルを拾い上げ、彼女の口に水を注ぎ込む。
しかし当然のように逆効果であり、彼女は水を吐き散らしてしまう。足立は律儀に蓋を閉めていた。


その瞬間を空条承太郎は見逃さずに捉えていた。


足立は頭を抱え込み「どうしよう」「どうすれば」と狼狽えていた。
刑事とは思えない光景であるが、彼にとってもこの状況はイレギュラーであることは確かだ。
こんな無差別殺し合いを経験したことのある人間がどれだけ存在するのだろうか。それこそ概念を超えた先にある並行世界まで話を広げなくては。


380 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:33:10 /ZVSL/9I0

誰もまどかに対する有用な治療が見当たらない中、時間だけ過ぎていき、悪魔の審判は呆気無く訪れることになる。
彼女の震えが止まった時、承太郎の動きも止まった。足立の動きも止まっている。ほむらだけが絶望の表情を浮かべていた。
まどかの顔は足立と重なっているため、その表情が見えているのは彼だけであり、ほむらからまどかの顔は見えていない。

止まる彼女の身体を目撃した時、ほむらは活動が停止したように輝きが止まったソウルジェムを見てしまっていた。
それが示す答えは一つの時が止まり、この世界線に留まる意味を消失させる暁美ほむらにとっての『世界の終わり』。









「私……わ……」

まどかの口から零れる言葉はとても弱い。ちょっとした物音で掻き消されるぐらいには響いていない。
お腹ではなく必死に喉元から絞り出したその声はまるで最後の灯火を連想させる。

人の死とは呆気無いものである。
流れ弾一発で死んだり、寿命で死ぬ者がいる。戦争でその身を焦がしたり、世界のために死ぬ者だっている。
宿命の相手と拳を重ねてその果てに息絶える者。邪悪の支配から開放された直後に頭部を撃ち抜かれて死んだ者。
人間の人生に死は憑物である。それが鹿目まどかの人生に訪れた、それだけの話しである。

鹿目まどかが最後に見たのは目の前に居る足立であった。

殺し合いに巻き込まれてから自分の精神は可怪しくなっていたかもしれない。
死にたくない一心と巴マミのような犠牲者を出したくなかった。まどかは思う。
何が正しい選択だったかなんて今となっては何一つ解らない。巻き込まれた時点で人生は終わっていたのかもしれない。

鹿目まどかは人を殺している。何れ裁きは訪れる。それが今な、だけ。

鹿目まどかが最後に見たのは目の前に居る笑みを浮かべた足立であった。




「死にたくない――死にたくないよ、ぉ……」




【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】




糸が切れたマリオネットのように倒れたまどかの身体を見てほむらは上を見上げた。
その瞳からは絶え間なく涙が溢れ、心ここにあらずと謂わんばかりに何かを呟いている。
聞き取ろうと承太郎が後ろから耳を澄ました時、一種の狂気を感じてしまった。

「まどか、まどか、まどか……まどかまどかまどかまどかまどかまどかまどかまどかまどかまどかまどか……あぁ」

死を受け入れることが出来ず、現実から逃げるように彼女は死んだまどかの名前を壊れた玩具のように何度も呟く。
承太郎は関わることを諦め、哀しみを持った瞳で彼女を見た後、足立に近付いた。
足立もまどかの身体に触れ脈や息、瞳孔を確認し死を確かめた後に承太郎の元へ歩み出す。

「ねえ承太郎君……花京院って奴はこんな能力も持ってるのかな」

「俺の知っている花京院にはそんな能力は……そもそもアイツが死んでいるならスタンドだって動かねえと思う」

「じゃあ! 誰がまどかちゃんを殺したんだ! あの苦しみ方は尋常じゃない、身体の中に干渉してる!
 それこそ毒とかスタンド能力? そんなところだろ!」

足で大地を踏み締めると同時に荒げた声で怒りを露わにする足立。刑事である自分が無力だったことに怒りを覚えているのだろうか。
対処出来ていない現実、何もなかった自分。狭間など存在するはずもなく、残ったのは鹿目まどかが死んでしまった事実のみだ。
一番年長者である足立は自分の不甲斐なさに怒りを……そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない。

「――じゃあ、もう一度整理しようか足立さん。
 まず俺たちはエスデス達と別れた後コンサートホールに残った」

「そうさ、それで僕がトイレに行っている間、ほむらちゃん達が来たんだろ?」


381 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:34:20 /ZVSL/9I0

承太郎が冷静に状況整理を始める中、ほむらはまどかの名前を呟きながら彼女に近付いていた。
足元に横たわっている身体を持ち上げ、膝を付きながらほむらの意思は一度止まってしまう。
抱えたまどかの身体は冷たい。魔法少女であれど死んでしまえば死体は人間と変わらない。
この現実を受け入れることなど――彼女に出来るのだろうか。

「そうだ。俺達は花京院とほむらの襲撃にあった。ついでにほむらは花京院の野郎に操られていたが自力で振り解いた」

「操る……それでまどかちゃんを」

「いや、まどかには何もやっていねえ。それは俺が保証するぜ足立さんよぉ」

足立は花京院のスタンド能力を見ていなければ、彼がどんな人間かも解っていない。
未知の能力で襲撃があったと聞けば犯人は花京院、彼がまどかを殺したと考えても可怪しくない。

「じゃあまどかちゃんは何で死んだんだ……外見に目立った傷跡は無いから身体の中で何かがあったはず」

「何でってついさっきアンタも言ったよな足立さん……『それこそ毒とかスタンド能力』てっな」

「だからそのスタンド能力でまどかちゃんを……んだよ承太郎君、その目は」

「何でもない、俺は何でもないって目をしている」

足立を睨む承太郎。その眼光に足立は難色を示し承太郎に問い正そうとするが彼は之を流す。
何でもないと告げた後、再び状況生理のために言葉を紡ぎだした。


「俺は花京院をDIOの支配から開放した。アイツの頭に埋まってる肉の芽を取り出した後にまどかが殺した」

「正当防衛……って擁護出来る範囲を飛び越えているけど、自分達を守るためにやったんだよねぇ」

「それは知らねえが、アイツが花京院を殺したのは事実だ……なぁ足立さん、疲れてないか?」

「はぁ……承太郎君、君が何を言いたいかは知らないけど僕だって黙ってる訳にもいかないんだよ。
 まどかちゃんの死体を安全な場所に移してほむらちゃんを支えたりってやることはたくさんあるの、解る?」

「……そうか。俺は疲れているなら手に持っているペットボトルでも飲んでくれ。そう言おうとしただけだが……まぁいい。
 まどかは花京院を殺した後、禄に会話が通じない程度には混乱していた。その時に足立さんが来て落ち着かせるために水を飲ました」

「……………………」


承太郎が淡々とこれまでの経緯を説明していく。
彼も喋り続けて疲れたのか、バッグからペットボトルを取り出し水を飲み始める。
喉音を大きく鳴らしながら減っていく水。承太郎は足立を見つめながら水を飲んでいる。
相手を威圧するように眼力を込めて彼を見つめており、その視線は彼の目線と交差している。

「足立さんもその水、飲んだ方がいいんじゃあないか?」

「……へぇ、気遣いどうも」

「いいのか? なら話しを進める。
 まどかはその後苦しみだして……これは足立さんも知っているよな。
 その後アンタはまどかに水を飲ませて落ち着かせようとするが、失敗。丁寧にキャップを閉めた。
 苦しみが止まらないまどかは死んじまった。死因は足立さんが言っている通り身体内部がヤラれたからだろう」





382 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:34:57 /ZVSL/9I0

さて、ここまで話した承太郎の説明だが足立は一つの確信があった。
しかしそれに気付くとはつまり、だ。承太郎は解っていてこの茶番を行っている。
あからさまに強調されるとある単語は確実に足立を追い詰めている、それも精神的に、だ。

――このガキ……あぁクソ野郎だ。

まどかの状況を語るに当って足立はスタンド能力による干渉を指摘した。
だが、同じスタンド使いである承太郎は花京院のスタンドにそんな能力は存在しないと吐き捨てる。
彼女が死んだ理由を押し付けるには充分過ぎる能力だったが……失敗に終わる。

――あんなあからさまに水飲みやがって……あぁクッソ!
  何処でバレた……あのガキ、ご都合主義だってんならぶっ殺すぞ!

承太郎はまどかの死因を否定し、長丁場の中で足立に水分補給を促した。
確かに大事な行動ではあるが、死者が出て、その親友が居る中で提案するには悪ふざけが過ぎている。

――お前も今直ぐこの水、口ん中に注ぎ込まれてえのかよぉ……なぁ承太郎ぉ……。






「なぁ承太郎君……何処で俺が殺したって気付いたんだい?」


「俺が見た時、アンタはまどかが落としたペットボトルを大事にしてたよな? あの状況で。
 まどかが苦しみだした直前はアンタが持って来た水を飲んだ……その事に気付いちまったんだよ足立さん……いや足立。
 テメェは俺が飲めって言ってもその水を飲まねえ――これで黒だ。まどかはテメェが殺したんだろ、その水に毒か何かを仕組んでな」


――見ていただけ……? 
  このガキは、本当に――


「ご都合主義もいいとこ過ぎんだろこのクソガキがああああああああああああああああああ!
 たまたま見てただけで俺が殺した、しかも毒まで解った? 冗談じゃねえ、人生ナメてんのか、アァ!?」


「それがテメェの本性か……足立」




「足立さん、貴方が……ッ。


 お前がまどかを殺したんだな」






383 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:35:42 /ZVSL/9I0

まどかを殺したのはお前か。

私が意識を取り戻したのはその瞬間であった。

承太郎さんが暴いた足立透の真実――毒殺の言葉を聞いて私は正気に戻った。

そう、大丈夫――私は正気に戻ったのよ。

まどかが死んだ時、私はまったやってしまったと後悔をした。
けれどこの空間に彼女が居ることは異端な状況であり、概念となった彼女は何故此処に居るのか。
会場が魔女の結界に包まれている可能性も考えたけれど、まどかが死んだ事実に変わりはない。
時間軸を跨げなくなってしまった私にとって、幻であろうとまどかと触れ合える時間を大切にしたかった。


             だけど足立透はまどかを殺した


あの男は許せない。
インキュベーターが絡んでいるとしか思えないこの状況何て今はどうでもいい。
まどかを殺したのはあの男、目の前に居るこの男。
まどかを殺した、まどかを殺した、まどかを殺したこの男が。

憎い。あぁ憎くて、殺したい程に憎んでいる。
許す必要など無い、神が審判を下さないならば私が今此処でこの男を殺してやる。私が正義だ。
殺し合いの黒幕何て後回しだ、今此処でこの男を殺さなければまどかが報われない。

だから私は時を止めた。
次に銃弾――所有していないからマスティマを発動し羽を射出する。
足立透の目の前には無数の羽がお前を殺すために構えている――時が動けばお前は羽に貫かれて死ぬ。

私が盾に触れた時、お前は死ぬ。
血を浴びたくないから私は足立透と軸をずらした場所に立って時を動かす。

まどかを殺したこの男、私の力で殺してやる。





「――は?」


気付けば俺の目の前には無数の尖った羽がめっちゃ並んでた。

意味解かんねえよなぁ。


384 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:36:34 /ZVSL/9I0

俺はこの羽に貫かれて死ぬ?
そうだよな、それしか想像出来ないって話しだよなぁ。クソ、クソ、クソ。

何で急にこんな羽があんだよ……斜めの方でほむらが笑ってやがる。
あのガキも魔法少女って言ってたな……じゃあこれは魔法の力です、ってか?
ナメやがって、そんなモン認められっかよ、でもあのガキは俺を恨んでるよな。

愛しのまどかちゃんを殺した悪、って感じだよな。
何が悪で何が正義だか理解もしてねえこのガキに俺は殺されんのか?
冗談じゃねえ……どの世界にもクソガキが溢れていやがんのかよ、おい誰か答えろよ。

ふざけやがって、何が殺し合いだ。強要したらはいやります、って話になんねえだろうよ。
広川も相当頭がイカれてやがる……承太郎もだよ。
あぁ……死にたくねえなぁ……走馬灯みたいにクッソ長え時間だなぁ……。

死ぬ……? 俺が死ぬ……はは、ありえねえよなぁ。
どうせ戻っても……あの世界に戻ってもクソな未来しか見えねえしな。
あぁ死にたくねえなあ……へっ堂島さんの小言が懷かしい。

此処で死ぬってよぉ……つまんねえ人生だよな。
死にたくねえ……死にたくねえ!
何で俺が死ななきゃならねえんだよ、おい、有り得ねえだろ。
俺が何をしたっていうんだよ……殺人犯したガキ一人殺しただけだぜ?
意味も解かんねえ魔法に殺される……冗談もいいとこだよなぁ。あのガキ共みたく理不尽な奴らだよなぁ!
神様何て存在しねえけど一回ぐらい俺に微笑んでもいいんじゃねえか!?
どうせ俺は此処で死ぬんだよぉ、なら――ちょっとぐらいいい夢見させろよ現実でさぁ!
死にたくねえんだよ、しつこいけど俺は死にたくねえんだよ。願い叶えてくれんなら今直ぐ叶えろクソ――例えばよぉ。




「ペ――ペルソナァァァァアアアアアアアア!!」




俺は掌にあったカードを無我夢中で握り潰した。










突如足立の目の前に現れたスタンド――ペルソナは禍々しい闘気を纏っていた。
近寄りたくない、近くに居るだけで気分や体調が悪くなる。そんな気を放っている。
手にしている得物を振るうと足立に向けられていた無数の羽を簡単に相殺していた。

「な……それはいったい」


「マガツイザナギィ……お前らを殺す俺のペルソナだよォ!! アハハハハッハハハハハハハハ!!」


腕を広げ高笑いの足立、勝ちを確信した表情で己のペルソナの名を告げる。
マガツイザナギ。
殺し合いに参加している鳴上悠が持つペルソナ・イザナギに酷似している禍津の力。
全体的な色調は紅であり、連想するのは血液や地獄といった禍津そのもの。

殺し合いに巻き込まれた時点では使用不可能だった力が足立の危機に応えた。
突然現れた――足立は知らないが時間停止によって放たれた羽。
自らに迫る生命の危機に応じて現れたペルソナは足立にとって救世主であり、起死回生の瞬間である。

「テメェもスタンド使いだったの――ッッッ!?」

「おっと余計なことはすんな……って聞こえてないかなぁ承太郎くぅん?」


385 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:37:02 /ZVSL/9I0

ペルソナの発言に合わせ承太郎はスタンド――スタープラチナを展開するがその拳は足立に届かない。
行動するよりも先にマガツイザナギの斬撃が彼の腹を斬り裂いており、その場に倒れてしまう。
スタンドも消えてしまい、コンサートホールには足立の笑い声だけが響いていた。

「アハハハハハハ! ざまあないねえ……お前が気付かなきゃ用心棒としてもうちょっと生きれたのに残念だなぁ」

追い詰められていた足立だったが今は承太郎を彼が追い込んでおり、精神的ではなく物理的に逆転している。
マガツイザナギはまだ全ての能力を明かしていない。見たところ承太郎のスタンドは近接戦闘型である。
今のように遠距離や空間に干渉する方法ならば一方的に嬲れる。逆転ホームランは存在しない。

「アハハハハハハ……笑い止まんないよ……っああ?」

腹を抱えて笑っている足立の肩に何者かが手を置いていた。
承太郎は倒れている。ほむらはまどかの死体を回収して遠くで此方を睨んでいる。
この場に居るとすれば他は花京院の死体であり、誰も居ない筈である。
何者かがやって来た可能性も在るが、流石に足立・承太郎・ほむらの三人が揃って気付かないことはないだろう。


「誰だよ……って!? へぶぅ!」


振り向いた先には拳を後ろへ目一杯引いて一撃に備えるスタープラチナ。
足立が危機を察したと同時に拳は放たれ足立の顔面を捉え、彼を大きく殴り飛ばした。

コンサートホールの壁にぶち当たり、余りの衝撃からか辺りは砂煙が巻き上がり、彼を確認出来ない。
死んではいないが足立から目を離すのは危険過ぎる。
承太郎は何とか立ち上がるが己の出血量は想像以上であり、今直ぐにでも意識を手放したい程の痛みである。
気力だけで動いており、治療を受けなければ生命は長くない――以って数時間だろうか。

彼は足立に止めを刺すために砂煙が晴れるのを待つ。
斬撃による奇襲に備え自分の正面はスタープラチナで客席を攻撃し即席の壁を創る。
しかし承太郎の目に飛び込んできたのは足立が投げた手榴弾であった。
距離が離れているため自分に害はないが――問題は其処ではない。

コンサートホールは爆発音が響いた後、火の海となり舞台は地獄へと変わり果てる。

「あの野郎……ッ……待ちやがれ」

溢れ出る鮮血を無視して承太郎は足立を追い掛ける。
その生命――このままでは潰えてしまう現実を感じながら。




【D-2/コンサートホール・大ホール/一日目/昼】
※手榴弾によって大ホールは火の海となっています。
※※アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダースが落ちています。




【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:出血(絶大)腹に斬傷(致命的)疲労(絶大)精神的疲労(絶大)
[装備]:DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:デイパック、基本支給品、手榴弾×2、穢れがほとんど溜まったグリーフシード×3、『このラクガキを見て うしろをふり向いた時 おまえは 死ぬ』と書かれたハンカチ
[思考・行動]
基本方針:主催者とDIOを倒す。
0:足立を追い掛ける
1:まどかの件は後でほむらに問い正す。
2:アヴドゥルと合流して、更にエスデスと別れて行動する。
3:情報収集をする。
4:後藤とエルフ耳の男、魔法少女やそれに近い存在を警戒。 まどかにも一応警戒しておく。
【備考】
※参戦時期はDIOの館突入前。
※後藤を怪物だと認識しています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※魔法少女の魔女化以外の性質と、魔女について知りました。
※まどかの仲間である魔法少女4人の名前と特徴を把握しました。
※DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダースが一本近くに落ちています。
※エスデスに対し嫌悪感と警戒心を抱いています。


386 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:37:36 /ZVSL/9I0

足立が承太郎の相手をしている間にほむらはまどかの死体を回収しバッグに仕舞い込んでいた。
死体とは云えバッグに人体を収納するのは気が引けるが仕方がない。まどかをあのまま放って置く訳にもいかない。

(あの男……時間停止の後に反応出来るなんて)

時間を止められたその『世界』は暁美ほむらと彼女が許した存在しか概念を知覚出来ない。
現に足立は時間停止の中一切動かず、彼はあの『世界』を認識していなかった。
故に開放された『世界』の理の中で彼はペルソナを瞬時に発動しマスティマを防いだことになる。

信じられないが目の前で起きているこの現実を受け入れるしか無い。頭を切り替える。
手榴弾の爆発から逃れた彼女は裏口までその身を避難させていた。
承太郎のことは気になるが……其処まで気に掛けるような存在でもない。
彼はまどかを殺そうとしていた……非情ではあるが此処で死んでもほむらは何も思わない。

(何も思わない訳無いじゃない……殺し合いに巻き込まれてから自分が自分ではないみたい、ね)

更に頭を切り替える。
これからの方針は――まどかを殺した足立を殺すこと。
殺人は駄目だとか倫理とか道徳は関係ない。大切な存在を殺した足立を殺す。
その後できっとソウルジェムも限界を迎えるだろう――足立を殺した時、それが暁美ほむらの人生に幕を降ろす時かもしれない。

まどかの死に耐えられる程、精神は安定していない。
今までは死んでも世界線を移動すれば『別の鹿目まどか』に出会えた。
しかし彼女が概念となり、自分の軸移動の魔法が失われた今――もうまどかに会えることはない。
これが魔女の結界ならば最後まで踊らされていたことになるが、まどかを殺した足立を殺せれば本望である。

マスティマを使用し天へ昇ったほむらは辺りを見渡す。
帝具の発動時間は残り多く見積もっても五分程度であろう。

その間に足立を見つけ出し、どんな方法を用いてでも殺す。

まどかの仇は私が――絶対に足立を殺す。





【D-2/コンサートホール・上空/一日目/昼】





【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ(新編 叛逆の物語)】
[状態]:疲労(大)、ソウルジェムの濁り(絶大) 全身にかすり傷、精神的疲労(絶大)、まどかの死に対する哀しみ(測定不能)、足立を殺す決意
[装備]:見滝原中学の制服、まどかのリボン
[道具]:デイパック(中にまどかの死体)、基本支給品、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!
[思考]:
基本:足立を殺す
0:足立を殺す。
1:足立を殺した後、ソウルジェムを浄化する方法も、まどかを生き返らせる方法も無ければ自分も死ぬ。
[備考]
※参戦時期は、新編叛逆の物語で、まどかの本音を聞いてからのどこかからです。
※まどかのリボンは支給品ではありません。既に身に着けていたものです
※魔法は時間停止の盾です。時間を撒き戻すことはできません。
※この殺し合いにはインキュベーターが絡んでいると思っています。
※時止は普段よりも多く魔力を消費します。時間については不明ですが分は無理です。
※エスデスは危険人物だと認識しました。
※花京院が武器庫から来たと思っています(本当は時計塔)。そのため、西側に参加者はいない可能性が高いと考えています。
※この会場が魔女の結界であり、その魔女は自分ではないかと疑っています。また、殺し合いにインキュベーターが関わっており、自分の死が彼らの目的ではないかと疑っています。


387 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:38:42 /ZVSL/9I0



「ほんっっとうにクソなガキだな……あー、殴られた所これ骨折れてんじゃねえか?」


時は遡りスタープラチナに殴り飛ばされた足立はホールを飛び出し入り口付近で顔を触っている。
殴り抜かれた右頬は確実に骨が折れており、痛みが顔から全身に広がっている。
我慢出来ない訳でもないが、痛みは痛みであり原因である承太郎へは怒りが込み上げてくる。

「これでお前も死ねッ!」

ピンを引き抜き、ホール目掛けて手榴弾を放り投げる。
その後自分は歩き始めコンサートホールから脱出し心地良くもない日差しを浴びる。

「どっかぁ〜ん……黙って死んどけや」

爆音が響く中、足立はポケットに手を入れながら能力研究所へ――歩かない。

「エスデスいんだろ? あのクソ女に会いに行くんだなんて御免だね。アイツは身体だけの女、あとはクソ」

ならば足立が目指すのは――市庁舎である。
南下すればイェーガーズ本部。エスデスがトップを務める部隊だ、近寄りたくない。
無視して更に南へ向かえばDIOの館。吸血鬼(笑)が潜んでいると思われる館へ誰が行くものか。

北にある病院へ近付けば仮に承太郎が生きていれば治療に向かうだろう。
つまり目ぼしい建物を目印にするならば元より選択肢は限られていた。

「さぁて……この傷はお前だからな承太郎」

足立は殴られた痕跡を承太郎に襲われたと言いふらすつもりでいる。
彼の悪評を流し自分は悲劇のヒロインへ仕立てあげ、正義(笑)の集団へ紛れ込む。
失敗してもその時にはペルソナを駆使しその場を切り抜け、敵を殺せばいいだけだ。


「俺にもやっと出番が……って言ってもペルソナが使えるようになっただけか。
 マイナスがゼロになっただけだろ……めんどくせえし本当に世の中――クソだな」


禍津の名を冠する男。
その目に光は映らず、映っていても刺激のない灰に覆われていた。



【D-2/コンサートホール・入口(外)/一日目/昼】



【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感 、右頬骨折
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
[思考]
基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:対主催に紛れ込んで承太郎の悪評を流す。
1:ゲームに参加している鳴上悠・里中千枝の殺害。
2:自分が悪とバレた時は相手を殺す。
3:隙あらば、同行者を殺害して所持品を奪う。
5:エスデスとDIOには会いたくない。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後
※ペルソナのマガツイザナギは自身が極限状態に追いやられる、もしくは激しい憎悪(鳴上らへの直接接触等)を抱かない限りは召喚できません
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。


388 : お前がまどかを殺したんだな ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/05(土) 02:39:11 /ZVSL/9I0
以上で投下を終了します


389 : 名無しさん :2015/09/05(土) 17:53:30 DWqtoOPg0
投下乙です。仲間割れを付け込んで自爆しての足立覚醒か、彼らしい感じが良く出てるなあ
まどかがここで死ぬのは予想外だったが、ほむらのメンタルはいつまでもつのか


390 : 名無しさん :2015/09/05(土) 22:09:03 x6YrV.MU0
投下乙です
まどかはここで脱落するとは予想外、足立もやるなぁ
代わりに承りとほむほむ敵に回してしまったけどこの二人死にぞこないだからなぁ…


391 : ◆dKv6nbYMB. :2015/09/05(土) 23:33:09 Y.Q2xV3s0
投下乙です。
足立さんついに覚醒したか。色々と不憫だったぶん、これから暗躍も活発になるんだろうな。
そして花京院に続きまどかも脱落してしまったが、残った二人も今までのことを考えると協力し合うことはないだろうしどうなるか。

投下します。


392 : 帝王に油断は無い ◆dKv6nbYMB. :2015/09/05(土) 23:35:27 Y.Q2xV3s0


誰にも触れさせはしない。

誰にも邪魔などはさせない。

これは俺だけに許された力だ。

俺だけの『世界』だ。








能力研究所での騒動から数十分が経過する。
ジョースターの反応や、杏子から何も報告がないことから、ほとぼりは収まったとDIOは認識した。

「杏子、一旦見張りを引き上げてくれないか」

日光に当たらないよう、暗がりから声をかける。

「なんでだよ。まだ始めたばっかだぞ?」
「研究所でのお話がまだ済んでいないからな。今の内に聞いておこうと思っただけさ」
「つっても、また後藤みたいなのが来たら面倒じゃん」
「...もう十分程度は経っている。私に個人的な恨みを持つ奴らや後藤なら、とっくに仕掛けてきているはずだ」
「そうかなぁ...まあ、あんたがそういうならいいか」

杏子との会話から、DIOはふむ、と顎に手をやり考える。
本来なら肉の芽を植え付けられた者は、DIOの忠実な部下となる。
まずDIOに対して敬称を使わないのは有り得ないし、ましてや意見するなど以ての外だ。
今までは操折が人の精神を操れる能力を持っているからだと思っていたが、どうやら肉の芽は効力そのものが弱まっているようだ。
いまの杏子はDIOを信頼しているようだが、不利な状況に陥れば逃げ出してしまう程度のものかもしれない。
下手をすれば、一時期は殺し合いに表立って乗っていた彼女のことだ。有り得ないことだが、もし自分が致命傷でも負えば裏切る可能性すらある。
肉の芽を植え付けたからといってその能力を過信すべきではないな、と心の片隅で決心した。


393 : 帝王に油断は無い ◆dKv6nbYMB. :2015/09/05(土) 23:36:46 Y.Q2xV3s0
「で、あたしに聞きたいことってなにさ」
「そうだな...きみが言っていた、『変な生き物に騙される』という部分から聞かせてくれ」
「...聞いても、面白くもなんともないけどね」

杏子は語った。
キュゥべえの存在
自分が願った奇跡
味わった絶望
魔法少女の過ごし方...
ただ一点、己の心臓部であるソウルジェムについて以外の全てをDIOに打ち明けた。


「な?面白くもなんともねえだろ」
「いや、個人的には興味を惹かれたよ。魔法少女に魔女か...場所が場所ならもう少し詳しく聞きたかったが、あまりに掘り下げすぎて、夢中になるあまり邪魔が入るのも好ましくない。このバトルロワイアル自体にはそこまで関係ないみたいだしね」
「んじゃ、あたしからも質問いいか?」
「ああ、構わない」
「あんたが出してた『スタンド』...だっけ。後藤にやってたアレはその『スタンド』って奴の能力なの?」

DIOは考える。
相手の能力を知るということは、言い換えれば相手の弱みを知ることでもある。
杏子がDIOの能力を知りたがるのは、そのような打算か、はたまた純粋なる好奇心か。
杏子は、後藤との一件では明らかに『世界』の能力に対して狼狽していた。恐怖心すらあっただろう。
『世界』について知りたいと思うのは、恐怖心をごまかすための無意識の内の防衛反応だろう。
ならば、正体すらも明かさない方が手綱を握りやすい。
得体のしれない恐怖というものは、反抗する気持ちを削ぎやすいものだ。

「悪いが、それは企業秘密というやつだよ」
「ちぇっ、わかったよ」

企業秘密。即ち、これ以上踏み入るなという警告を杏子は本能的に感じ取ったのか、それ以上『世界』について言及することはなかった。
それから、DIOと杏子はそれぞれこのバトルロワイアルでの経験を語っていく。

「そのイリヤって魔法少女、なにからなにまであたしとは違うみたいだな」
「少なくとも、キュゥべえという単語は出てこなかったかな。それより、きみが最初に出会った学ランの男...間違いなくスタンド使いだ」
「やっぱりか。道理でなんとなく似てると思った」
「似ている?」

杏子がなんとなく言った言葉に、DIOの眉がピクリと動く。


394 : 帝王に油断は無い ◆dKv6nbYMB. :2015/09/05(土) 23:40:41 Y.Q2xV3s0
「な、なんだよ。あたし変なこと言ったか?」
「いや、気にしないでくれ。...その男について、きみの思ったことを聞かせてくれないか?」
「そうだな...タイプっていうのかな。頑丈で、パンチ一発一発が重い上に速い。その辺りが、あんたのスタンドに似てるなって思っただけ」
「そうか...」

杏子の遭遇した男に対する印象を聞いて、DIOは確信する。その男は空条承太郎であると。
承太郎のスタンドの詳細についてDIOは何も知らない。
しかし、ジョナサンの肉体の影響により、自分がスタンドに目覚めると共にその子孫にもスタンドが伝わっていることだけは確かだ。
現に、ジョセフとの交戦で彼のスタンドも確認できた。しかも、この会場では使えない自分のもう一つの茨のスタンドとそっくりな形状のだ。
そのことから考えれば、『世界』に似たタイプのスタンド使いが空条承太郎であると判断するのは難しくは無い。

(この会場の中で、こうも容易く我が因縁と遭遇することになるとはな。ジョナサン、これも貴様が奴らを呼んでいるということか?)

厄介なものだ、と思う傍ら、思ったよりも早く百年前からの因縁を決着を着けられると思うと、内心せいせいするといったところだった。

「もういいのか?だったら、見張りに戻るよ」
「その前に、きみの元々の知り合いについて聞かせてくれ。できれば、きみの知り合いには協力を持ち掛けたい」

いまのDIOのコンディションは、決して万全ではない。
ジョセフ率いるあの三人程度なら蹴散らすのはわけないが、あの三人に承太郎やアヴドゥル、田村怜子ら寄生生物がもし纏めて襲いかかってきた場合、杏子と二人だけでは苦戦は必至だろう。
そのため、元々の部下である花京院だけでなく、杏子のような戦力のある駒を引き入れておきたい。
DIOの言葉に、杏子はわずかに悩む素振りを見せたが、まぁいいか、と呟き話し始めた。

「あたしの知り合いは全部で四人。鹿目まどか。はっきりいってコイツは足手まといもいいとこの甘ちゃんだ。高い素質は持ってるらしいけど、契約してなきゃ何の意味もないさ。
美樹さやか。まどかに比べれば使えるけど、ハッキリいってあたしとウマが合わないから協力は難しいと思う。
暁美ほむら。こいつは...あたしにもよくわからない。ただ、結構場数は踏んでるらしいし、利害の一致があれば話せる奴だ。協力を持ち掛けるなら、こいつが一番いいと思う。
巴マミ...ハッ、馬鹿な奴だったよ。魔法少女の癖に使い魔を狩ったり、わざわざ新人の面倒をみたりさ、お人好しにも程があるってんだ。だからこんなところで早々に死んじまうんだ」

(死者に対して思い入れのある者ほど、口を軽くし、死者への暴言を吐きやすくなる。その巴マミについて触れることは時間の無駄になるな)

「...死者を振り返ったところでどうにもなるまい。それで、彼女たちはなにができるんだい?」
「さっきも言ったけど、鹿目まどかには何も期待しない方がいい。連れて歩くだけ邪魔になるさ。
美樹さやかは、回復の魔法が使えるけど、まだペーペーの素人だから戦力としての期待は難しい。
暁美ほむらは...よくわからねえや。あいつとは戦ったこともないし、付き合いが長いわけでもないし...あっ」


395 : 帝王に油断は無い ◆dKv6nbYMB. :2015/09/05(土) 23:41:41 Y.Q2xV3s0
ふと、なにか思い当たったことがあったのか、杏子はポンと手を打った。

「どうした?」
「そういえば、あいつも妙なことができるんだよ。突然消えたり、いつの間にか場所を移動させたりさ」
「突然消える...場所を移動させる...」
「これさ、あんたが後藤にやったことに似てない?」






―――ギ ギ ギ

どこかで、何かの歯車が微かに動いた気がした。




突然消える。
気が付けば場所を移動させられている。
何故だ。なぜ、暁美ほむらという女はそんなことができる。
これではまるで...

「ひょっとして、ほむらの魔法はあんたと同じだったりして」




―――ギリ ギリ ギリ




歯車の音が鳴りはじめる。
『世界』と噛み合っていたはずの時の歯車が再び動き始めた。


396 : 帝王に油断は無い ◆dKv6nbYMB. :2015/09/05(土) 23:44:52 Y.Q2xV3s0



「ったく、なんだってんだよー」

DIOとの情報交換を終えた杏子は、親に叱られた子供のように唇を尖らせ拗ねていた。

「あたし、なにか癇に障ること言ったかな」

杏子がDIOとほむらの力が似ている、と何気なく言った瞬間、DIOからは微笑みが消え、部屋中を圧迫するような殺気と警戒心が織り交じった空気に包まれた。
そのすぐ後、DIOはなんでもないと言っていたが、明らかに自分の言葉を受けたせいであることはいまの杏子にもわかる。

(まあ、本人が気にするなって言ってるんだ。あたしはあたしに任されたことをやればいい)

DIOから追加された依頼は、『建物に近づく者がいれば始末すること。ただし、特定の人物は除く』といったものだった。
DIOが指名したのは、彼の部下である花京院典明、DIOが殺し合いで出会ったイリヤという魔法少女、杏子の知り合いである暁美ほむらと美樹さやか、ついでに鹿目まどか。そして、杏子と面識のある空条承太郎とジョセフ・ジョースター。
後者二人に関しては意図が解らないが、それはDIOがわかっていればいい。
自分が知る意味はない。

「さてと、誰が最初に来るのやら...」

杏子は、まるで番犬のように建物の入り口で来訪者を待っていた。

『君が本当は―――――のか、どう―――ことが―――と思うのか。その―――を――――とさせることだ』

時折、頭の中を走るノイズに微かに苛立ちを憶えながら。




DIOは考える。
杏子との情報交換は実に実りあるものだった。...腹立たしいと思うくらいにだ。
鹿目まどかという少女は、何の変哲もない者らしいが、それはそれで非常食としても手ごまとしても使いやすい。
美樹さやかは、回復の魔法が使える。それがあればこうして回復を待つこともないのではないだろう。杏子はともかく友人であるまどかがいれば扱いやすそうだ。
だが、問題はそんなことではない。
暁美ほむらという女。間違いない、そいつの能力は時間停止だ。
正直に言えば、制止した時の世界に足を踏み入れる者がいるなど考えたくもないことだ。
だが、少なくともこの会場にはその世界に干渉できる者が自分を含めて二人...いや、『三人』もいる。

この会場に連れてこられる前、時折なにものかに見られる感触を味わっていた。
おそらく、ジョセフ・ジョースターの念写だろう。そして、その能力は自分の茨のスタンドも持っている。
『ジョセフ・ジョースターが自分と同じスタンド能力を持っている』。
今までならば、大して問題にしていなかったことだ。
しかし、これが奴の孫の承太郎にも当てはまるのなら。
奴もこの『世界』の能力を受け継いだのなら。

(空条承太郎...奴もまた、この『世界』の能力を受け継いでいる可能性は高い)

もしも、この事実に気が付かないままに奴と相対した場合、奴に一杯食わされる可能性は十分にある。
例えばそう、動けないふりをされ、迂闊にも近づいたところを腹を突き破られるなどだ。

(認めざるをえない、か)

制止した時の世界に入門できる者が揃ったとき、どうなるかはわからない。
だが、この瞬間から自分の力は強力ではあるが『無敵』ではなくなった。
それを自覚しなければならない。
侮れん、と思うと同時にこの手でケリを着けねばならないとも思う。


「制止した時の中で動けるのはたった一人でなくてはならない...思うに、自動車という機械は便利なものだが誰も彼もが乗るから道が混雑してしまう。止まった時の中は一人...このDIOだけだ」

そして、帝王はしばしの休息へと身体を預ける。
己の世界に立ちはだかるであろう愚者たちを蹂躙するために。


397 : 帝王に油断は無い ◆dKv6nbYMB. :2015/09/05(土) 23:46:11 Y.Q2xV3s0

【F-1/一日目/午前】


【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:疲労(大)、右腕欠損 、浅い睡眠
[装備]:悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。 最早この帝王に油断はない。
0:休息し疲労を回復させた後、ジョセフ達を殺す。
1:ジョースター一行を殺す。(アヴドゥル、ジョセフ、承太郎)
2:花京院との合流。
3:休息中の見張りは杏子に任せる。
4:寄生生物は必ず殺す
5:杏子を餌に、彼女の同類を配下に置く。ただし、暁美ほむらは始末する。


[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術、DTB世界の契約者についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。
※悪鬼纏身インクルシオは進化に至らなければノインテーターと奥の手(透明化)が使用できません。
※暁美ほむらが時間停止の能力を持っていることを認識しました。また、承太郎他自分の知らない参加者も時間停止の能力を持っている可能性を考えています。
※魔法少女についての基礎知識を得ました。
1.魔法少女とは奇跡と引き換えにキュゥべえと契約してなるものである。
2.ソウルジェムは魔法を使う度に濁り、濁りきると魔法が使えなくなる。穢れを浄化するにはグリーフシードが必要である。



【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:精神疲労(中)、疲労(中)、全身に切り傷及び打撲(それぞれ中)、ソウルジェムの濁り(中)、額に肉の芽
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ、帝具・修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実 大量のりんご@現実 不明支給品0~2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いについて考える。
0:建物に近づいてくるやつはぶっ殺す。ただし、特定の人物(花京院、イリヤ、まどか、ほむら、さやか、ジョセフ、承太郎)以外。
1:巴マミを殺した参加者を許さない。
2:殺し合いを壊す。それが優勝することかは解らない。
3:承太郎に警戒。もう油断はしない
4:何か忘れてる気がする。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※DIOへの信頼度は、『決して裏切り・攻撃はしないが、命までは張らない』程度です。そのため、弱点となるソウルジェムが本体であることは話していません。


398 : ◆dKv6nbYMB. :2015/09/05(土) 23:46:48 Y.Q2xV3s0
投下を終了します


399 : ◆BLovELiVE. :2015/09/05(土) 23:58:49 yWYI9TiA0
投下乙です

ギリギリになってしまいましたがこちらも投下させていただきます
まだ読めていないので感想はまた後ほど


400 : No brand people ◆BLovELiVE. :2015/09/06(日) 00:00:15 /MyRBu5.0
全身が痛い。
ブラッドレイに殴られ、斬られた場所だろう。
いや、もしかしたら後藤にやられた場所もあるのかもしれない。
何しろあれだけの戦いだ。
少し傷が開いたようにも感じられる。

(…俺は……)

まるで担がれているかのように体が定期的に揺れるのを感じる。
いや、担がれているのか。


何か、大変なことがあったような気がする。
虚ろな意識のフワフワした感覚の中で頭を働かせる。

確か、ブラッドレイと戦い。
――――が撃たれ。
マスタングが連れ去られて、取り返そうとしたところを吹き飛ばされた。


撃たれたのは誰だ?
力なく奈落の底に落ちていったのは誰だ?

俺は、誰の手を掴もうとしたんだっけ?


「…――――――セリュー!!」

その名を思い出した時、ウェイブの意識は覚醒した。



未央はひたすらに走り続けた。
行方が知れなくなったプロデューサーを探して。

凛が死んだということからも、プロデューサーが死んだかもしれないということからも逃げるように。
心のどこかでは分かっていたはずなのに、そう思っていないと自分の中の何かが壊れてしまいそうだったから。


(プロデューサー…、どこ…、どこなの…?)

走り続ける未央、その耳にふと届いたのは激しい爆発音だった。

アクション映画でよく聞くような爆弾やミサイルのようなものでも爆発したかのような轟音。
そしてそれが響いた辺りの場所からは黒い煙が立ち込めている。

反対方向に逃げてきたが、もしかしたらあそこにプロデューサーがいるんじゃないか。
そう考えたらいてもたってもいられなくて、思わず駆け出していた。
その爆発の元が一体何なのか、誰がやったのか、もしかしたら危険じゃないのか。
そんなことは完全に頭から離れていた。

急いで走りだす未央。

何か揉めるような声が聞こえ、視線の先に映ったのは顔は見えないが黒いスーツを着た男、そして彼に掴みかかろうとする見たことのないもう一人の男。

(―――プロデューサー…!!)

瞬時にプロデューサーだと判断した未央は、バッグの中に入っていた一本のバットを取り出し。

「プロデューサーから離れろおおおおおおお!!!」

駆け寄りながらそれを思い切り、掴みかかる男に向けて振り下ろした。




401 : No brand people ◆BLovELiVE. :2015/09/06(日) 00:01:20 /MyRBu5.0

「あの、穂乃果ちゃんと白井さんは大丈夫だったんですか…?」
「ああ。精神的に疲労してはいるようで白井黒子は意識を失っていたが少なくともブラッドレイに襲われた、などということはなかったようだ」
「そうですか…、よかった……」

ウェイブを抱えた狡噛の後ろを体を縮こまらせながらも歩む花陽。
狡噛の答えにほっと胸をなで下ろしているが、あまり精神状態が優れているとはいえなかった。

目の前で命を落とした島村卯月、由比ヶ浜結衣、そしてセリュー・ユビキタス。
銃で撃ち抜かれる卯月の体と一瞬でその体を粉砕された結衣の姿がどうしても脳裏から離れることはなかったし。

セリューに対しても決して好印象を抱いていることなどなかったが、それでも死んだという事実を目の当たりにした花陽の心には重く伸し掛かってくるものがあった。

ブラッドレイに連れ去られたマスタングのことも気がかりではあったが、ブラッドレイという男はセリュー・ユビキタスに比べれば花陽の中ではそう警戒心はなかった。
だから、任せても大丈夫なんじゃないかという気持ちも残っていたのだ。

そんな時、狡噛は花陽に問いかけた。

「そういえば、あそこにいた時に君が聞いた情報について教えてもらってもいいか?覚えてる範囲で構わない」
「えっと…、どこから話したら…」

記憶を辿りつつ、花陽が口を開こうとしたその時だった。


「―――――セリュー!!」

突如大声と共に抱えられていたウェイブが起き上がったのは。

抱えられていたことに気付いたウェイブはそのままその手を振りほどき、立ち上がって警戒態勢を取ろうと後退し。
しかし目覚めていきなりの運動に体をふらつかせる。

「…っ、痛っ」
「無理をするな。怪我人が寝起きで激しく動くと体に悪いぞ」
「……あんたは?」
「俺は狡噛慎也。ただの刑事だ。
 高坂穂乃果に頼まれてな、小泉花陽とロイ・マスタングを助けにきただけだ。
 最も、ロイ・マスタングの方はキング・ブラッドレイに連れて行かれてしまったようだが」

表情を変えることなくそう告げる狡噛。
穂乃果の名前を出されたことで警戒心を解くウェイブだが、その脳裏にふと嫌な可能性が浮かんできた。

「……まさか、セリューを撃ったのは」
「ああ、俺だ」
「――――――ッ!」

セリューを撃った。
その告白に思わず頭に血が上り、襟元を掴み上げるウェイブ。

「ウェイブさん!?」
「…………」
「どうした、殴らないのか?」

そのまま狡噛を睨みつけたまま動かなくなったウェイブ。
掴まれた側の狡噛はそれで尚も静かな瞳でウェイブを見つめたままじっとしている。

「分かってる、俺だって分かってるよ…!
 あいつを死なせたのはアンタじゃない、あいつを止められなかった俺なんだってことぐらい…!」

絞りだすように、震える声を出すウェイブ。

そう、あの時自分が穂乃果を追っていれば、何があったかは知らないとはいえセリューが穂乃果を悪とすることも、その事実とも嘘ともつかない情報に踊らされることはなかっただろう。
マスタングの疑いにもう少し深く考えられていれば、セリューを戒めることもできただろう。

セリューだけではない。
結衣や卯月が死んだのも、その嘘が巡り巡った末の結果だ。

だから、自分にセリューのことを責める資格はないのかもしれない。

「だけど、それでもあいつは、俺の仲間だったんだよ…!」

だが、理性では分かっていても溢れ出る感情まではどうしようもなかった。

「ウェイブさん…」

そのまま震える手で狡噛を睨み続けるウェイブ。

その時、こちらに向かって走り寄る足音のようなものを狡噛は捉えていた。
ウェイブは自身の感情をどうにかすることが精一杯なのか聞こえている様子がない。

「プロデューサーから、離れろおおおおおおお!!!」

ウェイブの後ろから何かを振り上げる少女の姿が見えたその時、狡噛はウェイブの体を思い切り突き飛ばした。
ようやく耳に届いた声に力が緩んだ瞬間だったこともあってあっさりと後ろに下がるウェイブの体。
それは少女の体へと衝突し、手が振り上げられた態勢のまま倒れ込んだ。

「ぐぇっ……」
「落ち着け、本田未央。この男は安全だ」
「…あ、……狡噛、さん…」

と、狡噛はその手を振り上げていた少女・本田未央に目を向け。
同時に狡噛の姿を見た未央は落ち着きを取り戻したように名前を呟く。


402 : No brand people ◆BLovELiVE. :2015/09/06(日) 00:04:26 /MyRBu5.0
「何があった?タスク達と共に図書館で待ち合わせをしているはずじゃなかったか?」
「その…プロデューサーさんが、プロデューサーさんが…!」

しかしすぐにまた焦るように口を走らせる未央。
ウェイブから抜けだした未央は、慌てるように走りだそうとして。

「未央!!」

その向こう側から走ってきた二人の人間に名前を呼ばれて足を止めた。

学生服を纏った少女に肩を貸されるようにして早歩きで歩く男。
狡噛は先ほど図書館にて遭遇した相手であるためその男が誰なのかは知っている。

「よかった…、間に合った……」
「ぜぇ、ぜぇ、痛みがぶり返されたというのは分かりますが、それでもキツイですわね……」
「その、すまない、婚后さん。ありがとう」

肩から降ろされた男、タスクは少し歩き辛そうに不安定な歩幅を進めつつ未央の元に寄る。

「何があった?」
「図書館で襲撃を受けまして、どうにか皆で追い払うことには成功したんですが。
 ただ、未央のプロデューサーって人が支給品の効果でいなくなってしまって…」
「タスク、プロデューサーは?ねえ、プロデューサーはいなかったの?!」
「…残念だけど、俺達は君を追いかけてくるので精一杯で。さっきすごい爆発が聞こえてきたから、そっちの方には行ってないだろうと思ってこっちに向かってきたけど」
「そんな……」

顔から血の気を引かせる未央。
その瞳には絶望の色が見えていた。

「…プロデューサー……?もしかして346プロってところの、島村卯月ちゃんと同じ…?」
「…!しまむーを知ってるの?!」

そんな時にふと、プロデューサーという単語に反応して花陽が呟く。
その呼ばれた名に反応した未央は、目にわずかに希望の光を取り戻したかのように顔をあげて花陽に迫る。

「教えて!しまむーは、しまむーはどこなの?!」
「えっと、その……」

その様子に思わずたじろぐ花陽。

花陽は目の前で卯月が銃で撃たれるところを見ていた。
今の未央に対してその事実を伝えることはどうしても躊躇われていた。

「…そうだな、積もる話もあるだろう。ここは一旦情報交換としないか?」

その花陽の沈黙の意味を察した狡噛は場の空気を入れ替えるかのようにそう言った。

「じゃあ図書館に戻ろう。残してきた皆が心配だ」
「…!待ってよ、プロデューサーはまだ見つかってないんだよ…!?」
「これ以上探しまわっても疲れるだけですわ。きっとプロデューサーさんの方から戻ってきてくれるはず…」

生きていれば、と口にしかけたが飲み込む光子。

「それまで待てないよ!もし危ない目に会ってたら…!」
「……未央、プロデューサーさんはもう―――」

これ以上は、と言いかけたところだった。

「いけません!!」

そこに声が響き渡って、タスクの言いかけた言葉を遮る。
その大声を上げたのはその場にいた誰もが予想していなかった人物だった。

「アイドルにとってプロデューサーとは仕事上の繋がり以上の人間、ステージ、衣装、スケジュールなどを支えることで夢を、アイドルとしての生を守っていく存在!
 いわば上司でありながら父であり友であり、アイドルを輝かせる光!!
 プロデューサー無くしてはアイドルは輝くことができない、未央ちゃんのようなアイドルにとってプロデューサーは決して欠けてはならないものなんですよ!?」
「…花陽……?」

今まで見たこともないような剣幕でまくし立てる花陽の姿に、思わず唖然として呟くウェイブ。
それまで気弱そうだった少女の突然の豹変にその場にいた皆が一様にして驚いていた。

「…はっ…!そ、その、すみません」

その空気に気付いた花陽は正気に戻ったように顔を赤面させて縮こまっていく。

未央の姿、そしてプロデューサーという単語から今の彼女の考えていること、状況を思った時、どうしても我慢することができなかった。
状況は分からないとはいえ、なんとなく確信がないのに未央に対してプロデューサーという存在のことを諦めろと言っているように感じ取れたから。

ただ、言葉自体は無意識に近いものだったが。


403 : No brand people ◆BLovELiVE. :2015/09/06(日) 00:04:53 /MyRBu5.0

「………ぷふっ」

そして、その姿を間近で見ていた未央は思わず吹き出していた。

「あ、ハハハハハハハハハハ!!」
「わ、笑わないでください…」

ますます体を萎縮させる花陽に対して、未央は笑い続ける。
ショック療法のようなものなのだろうが、その様子に少しだけ未央の雰囲気が晴れたようにも感じられた。

「…何だったんだ?」
「ま、まあ彼女も落ち着いたようですし、一旦図書館に戻りませんこと?」
「いや、俺達は別で向かう場所がある。問題がないならここで済ませてもらっても構わないか?」
「分かりました。…じゃあ光子さん、後のことは頼んでもいいか?」
「え、構いませんけど…タスクさんはどこかに向かわれるんですの?」
「俺はもう少しこの周囲だけでも探してみようと思う。だから30分後くらいにまた図書館で会おう」

どうやら、タスクには花陽が言わんとしたことは伝わったようだった。

未央へと歩み寄り、ポンとその肩に手を置いて。
そのまま一同から離れようとするタスクに気付いた未央が声を上げる。

「あ、待って!それなら私も―――」
「君は皆と一緒に待っていてくれ。その方が安全だ。
 大丈夫、俺なら少しくらい危なそうな目にあっても生き延びる自信があるから」

タスクは未央に向けてそれだけを伝えて、走り去っていった。




「アイドルにとって上司であり友であり父、か……」

ふとタスクは花陽の言葉を呟く。


親。それはかつて自分がエンブリヲとの戦いの果てに失ったものだ。
友も今でこそヒルダやヴィヴィアンのような皆がいるが、それもアンジュに出会ってから巡り会えたもの。
だからそれらを失う心細さというものはタスクは身を持って理解していた。

きっと、あのプロデューサーはもう生きてはいないだろう。
それはタスク自身よく分かっていた。
だからこの行動自体意味のあるものではないのかもしれない。

だけど、それでもあの少女は自分やアンジュ、他の皆のような戦士とは違う、大切な人と死に別れるなんてこととは無縁に生きるべき子だ。
だから一縷の希望でも捨てるべきではないと、できる限りのことはしてやりたいと、そう思っていた。

それに、もし図書館に近付く危険人物がいるならばこちらで先んじて止めることもできるだろう。


走りだしたタスク。
しかし、彼は知らない。
図書館に潜む者のこと、そしてタスクの進む方向とは反対方向から迫る、一つの脅威の存在に。


【D-5/一日目/午前】

【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)
[装備]:スペツナズナイフ×2@現実
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:未央を追いかける。
1:アンジュを探す。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:ブラッドレイとの合流は……。
5:セリムはブラッドレイの息子らしいが……。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。


404 : No brand people ◆BLovELiVE. :2015/09/06(日) 00:05:55 /MyRBu5.0





「さて、どこから話したものでしょうか…、あ、そうだ。お名前から伺わせていただいても?
 私は婚后光子、学園都市のレベル4にして常盤台中学二年生ですわ」
「常盤台のレベル4?もしかして白井さんとは」
「あら、彼女と会われていたんですのね」
「色々あって離れちまったがな。まあ向かったらしい場所は知ってる。今も無事なことを祈るしかねえ」


光子の自己紹介に次いで狡噛、花陽が自身の名前を名乗っていく。
そこで花陽が名乗った時、光子が反応を示した。

「あなた、もしかして星空凛さんの…」
「凛ちゃん?凛ちゃんを知ってるんですか?!」

光子の口から出た名に思わず声を上げる花陽。
その様子に、光子は辛そうな表情をしながら彼女の最期を告げた。
短い期間だが共に行動し、その最期を見た者として。

「そう…ですか……」
「後藤…やっぱりあいつが…!クソ、少し無理してでもあそこでぶっ倒しておけば…!」

あの時に凛の声を使ったのはそういうことだったのだともっと早く意識しておけばよかった。
そうウェイブは後悔する。


そして、最後にウェイブが名乗る番となった。
しかし、

「ああ、そうか、俺が最後だな。俺はウェイブ。
 帝都特殊警察、イェーガーズの一人だ」
「……イェーガーズ…?!」

その名を聞いた時、光子の顔に警戒の色が露出した。

「おい、どうした」
「…………………」

問いかけるウェイブの質問にも答えない。どころか、同時に未央もまたウェイブから離れた。
光子はそんな未央を庇うように前に出つつも体をジリジリと後ろに下がらせる。
靴が地面を擦る音が空気を小さく振動させる。

「落ち着け、婚后光子、本田未央」
「だ、大丈夫ですよ!ウェイブさんは悪い人じゃないです!」

その様子の意味を、図書館の前に晒されていたものを思い出して察した狡噛が嗜め、同時に花陽がウェイブに対する警戒を解こうとする。
戸惑うのはウェイブただ一人。

「こいつは安全だ。少なくともアレをやったやつよりは遥かにマシなやつだろうってのは俺と小泉花陽が保証する」
「…信じても、よろしいのですわね?」

狡噛と花陽の言葉を信じて警戒を解く二人。
見に覚えのないことに困惑するウェイブに対し、何があったのかを狡噛が説明した。

「図書館の前にさらし首が……?」
「それをやったのはセリュー、だろうな」

その事実に案外動揺するかとも思っていたが、ウェイブは思いの外冷静だった。

さらし首になっていたという男に覚えはある。
由比ヶ浜結衣がここにきてすぐに襲われたという暴漢のことだろう。
不慮の事態で死なせてしまったその男をセリューが見つけ、図書館の前に晒したのだろうとウェイブは推測した。

「…お前、その行動の意味が分かっていないのか?」
「どういうことだよ?そいつは結衣を襲ったやつなんだろ?なら仕方ねえじゃねえか」
「確かにそいつが殺されたこと自体は話を聞く限りは正当防衛に違いないだろう。
 だがその首を晒したらそれを見た者はどう思うのか分からないのか?」
「確かに見ていいものじゃないかもしれないけどよ、…でも帝都じゃ珍しいことじゃなかったんだぜ?」
「……………」


405 : No brand people ◆BLovELiVE. :2015/09/06(日) 00:07:27 /MyRBu5.0
狡噛はここにきてようやくこのウェイブという男、いや、彼の生きてきた世界というものを理解した。
シビュラシステムの存在しない世界があり、超能力者を育成する学園都市なる世界があり、契約者という異能を持った者がいる世界がある。
おそらくはこの男の生きてきた世界はそういうことが許される世界だったのだろう。
罪人に対する見せしめという行為が許されているという。

それも治安維持組織を称した者がそれを認めている、となると国そのものがかなりきな臭い。

本来見せしめという行為の意味は反抗する者に対する警告のような意味合いも持つ。
つまりはそれだけのことをしなければ治世が維持できない国、ということでもある。

(セリュー・ユビキタスのあの歪みも納得だな…)

「いいか、ここはお前のいた世界のようにイェーガーズとやらの組織に対する後ろ盾がある世界じゃない。
 そんな場所であんな名前と一緒に首を晒すなんてことをしてみろ。イェーガーズという者に対してどんな印象を与えることになるか分からないのか?」
「…それは………」
「どうして高坂穂乃果があの場から逃げ出したのか、それも分かりきってないんじゃないか?」
「…………」

ウェイブは口を噤む。

やはり懸念していた通りのようだった。



その後は、光子はまず図書館に集まっている面々についての情報を話した。
自分やタスク、本田未央を始めとして泉新一、雪ノ下雪乃、セリム・ブラッドレイ、そしてアカメ。

アカメの名を聞いた時のウェイブの表情は険しいものだった。

「…なあ、アンタ達は知らないんだろうから警告させてもらいたいんだが。
 そのアカメってやつは、帝都の平和を乱してる賊で―――」
「ナイトレイド、と言われる暗殺部隊なのですわよね。それはお伺いしておりますわ」
「な、アンタ達それを分かった上で一緒に行動してるのかよ?!」
「ええ、あの方そんな悪いお人には見えませんでしたし。確かに少し過激なところは見受けられましたが…」

光子の脳裏に浮かぶのは御坂美琴を殺すと言ったあの時の顔。
しかしそれさえ除けば悪い人ではないと思っていた。

「あの方は確かに暗殺者という罪人だとは伺っていますがそれにも理由があってのこととお聞きしていますし。
 少なくとも私達に対して害を成す者ではないと判断できましたもの」
「理由って何だよ!帝都の治安を乱すことを許される理由があるのかよ…!」
「その帝都の治安自体、ずいぶんと腐敗している、と伺っていますが」

横行する富裕層や政治家達による民への狼藉、しかし決して法は彼らを裁かない。
だからこそ、そんな者達に対して裁きを与えるために行動しているのだ、と。

「お前、そんなこと信じるのかよ!相手は罪人だぞ!」
「はい。少なくとも自らの罪を隠すことなく明かしてくれた方ですもの。
 それに……」

と、光子は目を伏せて、思い出したくないことを考えるようにしてそれを口にした。

「…私、一度そのイェーガーズの方に襲われていますの。さらし首の件といい、アカメさんよりもあなた達のいうイェーガーズの方が信用しかねますわ」
「襲われた…?イェーガーズにそんなやつは……」

おそらくイェーガーズの名を騙る何者か、おそらくはエンヴィー達のような者のしわざか、とウェイブは思おうとした。

「確かクロメ、というお方でしたかしら」
「クロメ…!?嘘を言うな!あいつがそんなことを―――」
「本当ですわ!まるで薬物中毒者のように襲いかかってきて…。
 その後白服の男の手にかかったみたいで、私はその隙にどうにか逃げることができたのですが…」

白い服の男。
それはウェイブも会った他ならぬクロメの仇、キンブリーだろう。

否定したかった。しかしキンブリーが殺したということを知っている彼女の証言に間違いがあるとは考えられないこともウェイブ自身が分かっていた。
嘘にしてはその部分以外の状況が合致しすぎている。


406 : No brand people ◆BLovELiVE. :2015/09/06(日) 00:08:47 /MyRBu5.0

「クソ…!どうなってんだよ…!」

ウェイブは混乱し、心の内に強い迷いを生み出す。

しかし狡噛はそんなウェイブの迷いが晴れることを待ってはくれない。
光子との情報交換を進め続けた。

泉新一という男が言っていた情報。
比企谷八幡――結衣の友人の最期。
彼は襲ってきたエルフ耳の男の攻撃からその場にいた皆を庇って命を落としたらしい。

セリューはこれを、八幡を泉新一が盾にしたのだと言っていた。


音ノ木坂学院で起こった出来事。
サリアという女がアンジュという女との諍いの果てに暴走し、持っていた武器でその場にいた皆を攻撃し。
結果、泉新一を始めとするその場にいた皆を巴マミ、そして園田海未が守って命を落とした。

セリューはこれに対し、アンジュとその仲間である巴マミという女はサリアを襲った悪だ、と判断していた。



「海未ちゃん……」

知ることができた、一人の仲間の死の真実に花陽は小さく身を震わせた。
凶行に走ってしまったことりを知ってしまい不安だったのだ。他の皆が同じような道に走ってしまったのではないか、と。

だけど海未、そして凛は最期まで自分の知る二人ではあった。

「その、音ノ木坂学院には真姫ちゃんもいたんですよね…。怪我とかはしてなかったか、聞いてないですか…?」
「…ご友人の死に塞ぎこんでいるとはお聞きしていますが、特に怪我をなされたとは聞いておりませんわ。おそらく無事なのではないでしょうか」
「そうですか…、よかった…」

そして、せめて一人の友人の無事を確認することができた。
それだけが花陽にとっては幸いだった。



「待てよ、それが全部本当のことだって言えるのかよ…?」

しかし、ウェイブはそれでも光子の言うことに対して疑いの言葉を投げていた。
先ほどと同じ、しかしその言葉には力がなかった。

それは彼女を本心から疑って、というわけではない。
ただ、自分の仲間であったセリューのことを信じたい、その一心だった。

「全て伝聞ではありますが、しかし私人を見る目にはそれなりに自信がありますの。
 泉新一さんは少なくとも嘘をつくような方には見えませんでしたわ」
「だけど……!」



確かに思い込みが激しく、時としてずれてしまったことを言い過激な道に走りがちではあったが、それでも。
死して尚も、まるでブラッドレイに言われた時のように彼女の名誉を傷つけられるのは―――――

(――――あ…)

そこでウェイブは思い至った。

死者の首をひと目に触れるところに晒すことの意味。

セリューが穂乃果の友人、ことりに対して行った行動に対する穂乃果の思い。
それに対して、彼女や花陽がどれほど傷付いたのか。


(…やっぱり、何も分かってなかったんだな、俺……)

そんな者に、セリューの嘘が見抜けるはずなどなかったのだ。


407 : No brand people ◆BLovELiVE. :2015/09/06(日) 00:09:08 /MyRBu5.0


「…ねえ、どういうこと?!しまむーが死んだって…?!」

そうしてこちらから情報を明かすこととなり。
花陽が容量をつかめないながらも一生懸命、説明しづらいことも言葉を詰まらせながら全て説明した。

彼女にはウェイブのように状況に応じて言うべきことを言い分けるような器用さはなかったため必然的にそれまでのこと全てを話すこととなってしまっていた。
無論、その中には本田未央と同じアイドルグループに所属していたという島村卯月の死の情報も含まれていた。


彼女が死んだという情報もそうだが、その時の状況自体が未央からしてみれば何を言っているのか分からないほどだった。
キング・ブラッドレイが渋谷凛の死の状況、エンブリヲの手にかかったことを伝えた時に彼女はセリューが嘘をつくはずがないと言って信じなかったという。
エンブリヲに殺された、という事実も衝撃ではあったが実際に彼に遭遇し危険な目にあった未央からすればそれは決してありえないという話ではない。
何が彼女にそう判断させたのか。

その後は錯乱しているかのようにセリューを殺そうとする結衣から庇い、銃撃を受けて命を落とした。
その結衣も直後にセリューの手にかかったという。

未央からすればわけが分からなかった。
人の生首を晒すような人間を、どうして卯月がかばったのか。
何が彼女をそうさせたのか。


「…悪いのは俺だ。俺がセリューが言った嘘を見過ごしてたから……。セリューに依存してた卯月に、何もしてやれなかったから…」


一つ一つが決定的だったわけではない。
ただ、それが最悪の形で繋がってしまったのがあの時だった。

「何で、何でよ!!何でしまむーが……、何で……」

ウェイブの胸を叩きながら責める未央。
特に強く殴られているというわけではないはずなのに、それが胸を打つたびに強い痛みをウェイブは感じていた。
体ではなく、心に。

「未央ちゃん、…その」

そんなウェイブが責められる姿を見ていた花陽は、小さく未央に呼びかけた。

「ごめんなさい!」
「え…?」

予想外のところから放たれた謝罪の言葉に、未央のウェイブを責めていた動きが止まる。

「私もよく分かってるわけじゃないけど、でもきっと卯月ちゃんがおかしくなっちゃったのは、私達のμ'sのメンバーのことりちゃんのせいかもしれなくて…。
 ことりちゃんが人を殺そうとして、それが原因でセリューさんに殺されちゃって…、もし卯月ちゃんがおかしくなったんだとしたらそのせいかもしれないから…。
 だから、同じμ'sのメンバーとして、その…ごめんなさい…!」

ことりちゃんが何を考えていたのか分からないけど、でも人殺しをしようとしたことは間違いなくて。
そのせいで傷付いておかしくなった人がいるのも事実で。
確かにセリューさんがその原因だったとしても、きっかけがそこだというのなら、背負わなければならないものだから。
だから目の前で一人責められるウェイブさんを助けるために、そしていつか穂乃果ちゃんや真姫ちゃん達がその事実から責を受けたりしないために。
せめて自分だけでも受け止めて、謝らないといけない。

そう思った花陽は、必死で未央に向かって頭を下げ続けた。

「ウェイブさんの……セリューさんのせいだけじゃないの…、だから…」

そう泣きながら謝罪する花陽。
未央はそんな彼女を見て怒りが静かに引いていくのを感じていた。

ここで花陽を責めるのは簡単なことだ。
だがそれで本当に気が晴れるのだろうか。泣きながら頭を下げる彼女に向けて、このやりきれぬ思いをぶつけて。

もしかしたら自分が卯月のポジションにいた可能性だってある。
もし最初にタスクに救われていなければ、鳴上悠と会うことなくエンブリヲの襲撃を受けていれば。
死の恐怖、とは言わずとも何か大切なものを変えられていたかもしれない。
ただ、運がよかっただけなのだから。

そしてそれはウェイブに対しても同じことだろう。セリュー・ユビキタスに対する感情を彼にぶつけてもただの八つ当たりでしかないのではないか。

「…ごめん、私も周り見えてなかったみたい……」
「未央ちゃん……」
「守られてばっかりの私なんかに、みんなを責めたりする資格なんてないよね…」
「そんな事言ったら、私だって……」
「ごめん、ちょっと無理。少しだけ、…お願い……」

そうして一言花陽に謝罪した未央は。
その胸にすがりつくようにして、しばらく小さく肩を震わせていた。


408 : No brand people ◆BLovELiVE. :2015/09/06(日) 00:11:04 /MyRBu5.0


「…………」
「悩んでいるのか?」
「当たり前だろ…!だけど、分かんねえんだよ…!俺だって俺なりのやり方で精一杯やってきた。
 だけど、それでも誰かを傷つけてばっかりで…」
「案外人生なんてそんなものだ。自分なりに考えて最善を尽くそうとしても、それがうまくいくとは限らないものだ。
 だが、お前はそのイェーガーズという組織に少し縛られすぎているんじゃないか?」
「………」
「お前が守りたいのは、そのイェーガーズや国なのか、それともお前が信じる正義、どっちなんだ?」
「…俺は」

いつだったかにある人物に問われたことに近いことを、狡噛はウェイブに投げかけた。

「あの…ウェイブさん」

今だ答えの出せぬウェイブに対し、ふと光子が手をあげて呼びかける。

「私、確かにイェーガーズは危険、とは伺っておりますがウェイブさん個人がそうとは聞いておりませんの。
 それに私の目から見ても、アカメさんとウェイブさんが悪い人とも思えませんし…」
「何が言いたいんだよ?」
「元の世界でどうだったかということを分からない私が言うのも厚かましいことかもしれませんが…。
 ずっと…とはいえませんがせめてこの場にいる間だけでも協力をする、ということはできませんの?」

それはウェイブが全く考えたことがなかったこと。

「無理に決まってんだろ。俺はイェーガーズであいつはナイトレイド…。」
「…ねえ、それってそんなに重要なの……?」

起き上がった未央は、ウェイブを見ながらそう問いかけた。

「だってさ、二人とも別に殺し合いやってるとかじゃないんだし、帰りたいって目的は一緒なんでしょ?
 だったら変にいがみ合うよりも、一緒に帰れるように協力とかってできないの?同じ人間なんでしょ?」
「……………」

同じ人間。

ナイトレイドとイェーガーズ。
片や帝都の平和を乱す暗殺者集団、片や帝都を守る治安維持部隊。
なればこそ倒さねばならぬ相手だ、とウェイブは思って戦い続けてきた。
そんなふうに考えたことなど一度もない。

そして今も。

(…それは本当に正しいのか?)

アカメは自分の素性を明かした上で信頼関係を築いている。
それが偽りのものであったとしたならば許すことはできないだろう。
だが、もし本心からであるものだったら?

以前だったら前者の判断で迷わなかっただろう。
しかしセリューの行動を振り返り、そして生きていた頃のクロメの行動を光子から聞き。
本当にこれまで通りの行動だけで、イェーガーズとしての使命を全うするだけの行動で正しいのか。
それが分からなくなってきてしまっていた。

そんな時、花陽がふと悩むウェイブに代わるように光子に問いかけた。


409 : No brand people ◆BLovELiVE. :2015/09/06(日) 00:11:33 /MyRBu5.0

「光子さん…、凛ちゃんが庇ったっていう子、セリムって名前の…、その子ってまだ図書館にいるんですか?」
「ええ、もし何事もなければそのはずですわ」
「…狡噛さん、すみません。穂乃果ちゃん達のところに行く前に少し寄り道させてもらってもいいですか?」
「会いに行くのか?セリム・ブラッドレイに」
「待て、花陽!マスタングが言ってただろう!あいつは―――」
「分かってます!でも、もしかしたらって可能性もありますし、それに凛ちゃんが命を賭けて守ったっていう人だったら、私その子に会わないといけないと思うんです」

小さなころからずっと共に過ごした大切な幼馴染。
彼女が守ったという子は本当にマスタングの言っていたような倒さなければならない存在なのか。
そして、凛ちゃんはその子に何を残したのか。

それを確かめたかった。

「危ない橋だぞ?」
「大丈夫です。その子のことを確かめるだけですから」

その選択が危険なことは花陽自身がよく分かっていた。
だから自分の言葉が強がりなことも気付いている。
それでも、目を背けたくはなかった。


「だから、もしよかったら狡噛さんは穂乃果ちゃん達のところに行ってあげてください。
 音ノ木坂学院は、最初向かう場所だったんですよね?」
「…だったら俺も、図書館に一緒に行かせてくれ」

そこでウェイブは、花陽の選択に同意するようにそう言った。

「答えは出たのか?」
「…いや、正直まだ俺にもどうしたらいいのか、何が正しいのか分からねえ。
 セリューのことも、イェーガーズのことも、ナイトレイド…アカメのことも」
「アカメさんと、戦うの?」

不安そうにそう問いかける未央。
それに対し、ウェイブは、

「いや、まずは話してみる。あいつが本当に俺の思ってたような悪いやつなのかどうかを」

迷いなく、自分の選択を口にした。

「もしそれで協力できるならそれに越したことはねえし、あいつがお前たちを騙して取り入ってるなら見過ごせねえ。
 それに、図書館にはマスタングや結衣の友達もいるんだろ?だったらやらなきゃいけねえことは山積みだ」

少なくとも連れ去られたマスタングを見捨ててはいけない。
それに、結衣の友人には説明しなければならない。彼女の最期を、下手人であるセリューの仲間として。

「俺もどうしたらいいのか分からなかったんだけどよ、花陽見てたら考えるよりも動いたほうがいいんじゃねえかって思えてきてな。
 だから、俺もまず確かめることから始めようと思う。俺自身の目で」

少なくともあの時の穂乃果の悲しみに気付けなかった今の自分に穂乃果の元に向かう資格はない。
彼女に会うならせめて自分の成すべきことをした上で、自分なりの答えを見つけてからにしたいと思った。

「だから光子、あんたは黒子のところに行ってやってくれねえか?」
「わ、私が?」
「様子見てりゃなんとなくだけど分かるよ。黒子があんまりいい状態じゃないって聞いてから何か落ち着いてなかったぞ?
 安心しろ、未央や図書館のやつらのことは俺が死なせねえ」
「…任せてもよろしいのですね?」

黒子が向かった場所、音ノ木坂学院。
光子の記憶では、美琴も東部のどこかにいたという。
つまり現状の情報でも東には黒子が存在し、美琴も最低でも彼女のいた痕跡が何かしらの形であるはず。

向かわぬ手はない。しかし図書館にいる皆を放って行くことも躊躇われていた。


「…分かりましたわ。皆のこと、よろしくお願いします」

ウェイブの言葉に、若干躊躇いつつも皆から離れるように、ゆっくりと立ち去っていった。





410 : No brand people ◆BLovELiVE. :2015/09/06(日) 00:12:11 /MyRBu5.0

(どうするべきか、俺は)

高坂穂乃果の願いは小泉花陽、ロイ・マスタングを助け出すこと。
マスタング自身の安全が確保できているとは言いがたいものの、少なくとも小泉花陽は救助できた。
であれば当初の目的自体は達成した、というにはまだ中途半端なところだ。

小泉花陽は高坂穂乃果の力になることを望んでいる。だがここで彼女が離脱する以上、2つを両立することはできない。

ではどうするべきか。ここで小泉花陽に付き添うか、それとも彼女の言うように音ノ木坂学院に向かうか。

ここで狡噛は別の要素を視野に入れて考える。

情報交換の中で出てきた、槙島聖護の名前。
音ノ木坂学院で暴れたサリアを、おそらくはけしかけたと思われる。

奴が音ノ木坂学院にいて今なおいるというならば、高坂穂乃果達の元に向かうべきだろう。
しかしその情報から既に数時間が経過している。あるいは既に移動をした後である可能性も高い。
ならば奴が向かってくる場所はどこか、と言われれば当初の考察通り図書館だろう。

奴がどちらを選ぶだろうか。それが今自分がどちらを選ぶかの指針となる。

(考えろ、奴ならどう動く…?)

狡噛慎也の選択は―――――



「花陽ちゃんは強いよね…」
「えっ?」

ふと、未央がそう花陽に向けて呟いた。


「だってさ、もし私がしまむーとかしぶりんが人を殺した、とか言われても絶対に受け入れたりとかしないと思うし。
 正直しまむーのことだって、今もちょっと受け入れきれてないし……。
 なのに花陽ちゃん、友達のこと信じてなかったとか、そういう感じにも見えなかったのにちゃんと受け入れてたじゃん。
 だから、何か強いなって思って」
「そ、そんなことないよ…!私なんて…」

いきなりの褒め言葉に、謙遜するかのように慌てて手を振るう花陽。
そんな彼女の脳裏に、ふと遠い昔の記憶が蘇ってきた。

「そういえば昔、友達に似たようなこと言われたなぁ…。
 『私は逃げないから、どんな時も正面から立ち向かっていくから強い』って」

思い出して、そして心の中に悲しみもまた蘇ってくる。
だって、それを言ってくれた子はもういないのだから。

「そっか…、いい友達だね」
「うん」

「ねえ、未央ちゃん、卯月ちゃんとは一緒の、アイドルをやってたんだよね?」
「…うん、やって、たんだ」
「私もね、スクールアイドルっていう、部活をやっててアイドルにすごく興味があるの。
 私、一緒にいたのに卯月ちゃんのこと何も聞けなかったし、そういうのも含めて、話、聞かせてもらっていいかな?
 も、もちろん辛かったらいいの!ちょっと聞いてみたいなぁって思っただけで」
「ううん、大丈夫!聞きたいならなんでも聞いてくれていいんだよ!
 花陽ちゃん――――花…はな、はな…――かよっち!」
「ふぇ?」

若干空元気っぽさは残っているものの、それでも気力自体は大丈夫なように感じられていた未央。あるいはまだ気持ちの整理ができていないだけなのかもしれないが。
そんな彼女の口からいきなり飛び出した言葉に思わず抜けたような声を出してしまう花陽。

「ほら、だって花と陽でかよって読めなくもないじゃん。それに何か響きもいいし。
 だからさ、花陽ちゃんのことかよっちって呼んでもいい?」
「うん、大丈夫だよ」
「よし、せっかくだしかよっちがどんなことしてたのかも聞かせてもらっていいかな?」
「うん、いいよ」

本田未央と小泉花陽。
共に普通の少女であり、片やアイドル、片やスクールアイドル。
そんな二人は、図書館に到達するまでの間、他愛もない会話から小さな精神的な安息を得ていた。


411 : No brand people ◆BLovELiVE. :2015/09/06(日) 00:12:49 /MyRBu5.0



(ナイトレイドと協力、か…)

それはこの場にきてから全く考えてもいないことだった。

だが実際この事態に反乱軍が関わっているかと言われれば可能性はかなり低いだろう。
事態は自分の知る帝具の範疇を越えたものだ。そんな力がやつらにあれば帝都はとうに落ちている。

それでもあいつらがこの場でも極悪非道な行為に身を染めている、ないしは人にいい顔をして騙しながら生き抜いている可能性を考えれば協力などできるはずがないと思っていた。
しかし実際はアカメは自分の素性を明かした上で、特に人を襲うような真似もしていなかったという。

果たしてそれはフェイクなのか、それとも素であるのか。
それを剣より先に言葉で見出さなければならないだろう。

そして、

(もしあいつがそれで問題ないようなやつだったら、この場だけでも協力、か…)

帝都であれば成立しなかっただろう協力関係。
しかしここにはイェーガーズの後ろ盾となる国はない。
自分達の評価に悪影響を与えかねないようなしがらみは今だけでも捨てる必要があるのかもしれない。


(全く、もしこんな俺を…)

特に意味があったわけでもない。
セリューが既に死んでいる今となっては。
だが。

(もしセリューがみたら一体何て言うんだろうな…)

正すことができなかった歪みを抱えた同僚に思いを馳せながら、そんな特に意味のない仮定をウェイブは頭の中で呟いていた。


ウェイブは知らない。
そのセリュー・ユビキタスはまだ死んでおらず、今向かおうとしている図書館に迫っているかもしれないということを。




【D-5東部/一日目/午前】

【婚后光子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中) 、腕に刺し傷
[装備]:扇子@とある科学の超電磁砲
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 不明支給品2〜1(確認済み、一つは実体刀剣類)
エカテリーナちゃん@とある科学の超電磁砲
[思考]
基本:学友と合流し脱出する。
1:御坂美琴、白井黒子、食蜂操折、佐天涙子、初春飾利との合流。
2:東部に向かい白井黒子、御坂美琴を探す。(当面の目的は黒子の向かった音ノ木坂学院)
3:何故後藤は四人と言ったのか疑問。
4:後藤を警戒。
5:御坂さんと会ったら……。
[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了以降。
※『空力使い』の制限は、噴射点の最大数の減少に伴なう持ち上げられる最大質量の低下。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、鋼の錬金術師の世界観を知りました。
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。


412 : No brand people ◆BLovELiVE. :2015/09/06(日) 00:13:30 /MyRBu5.0



【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、左肩に裂傷、左腕に裂傷
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:ディバック、基本支給品×2、不明支給品0〜4(セリューが確認済み)、首輪×2、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!、ディバック(マスタング入り)
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。
0:キンブリーは必ず殺す。
1:図書館に向かい、アカメとの対話、結衣のことを雪ノ下雪乃に伝え、ブラッドレイからマスタングを助ける。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:セリュー…
6:今は穂乃果に会う資格がない
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。
※自分の甘さを受け入れつつあります。



【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(中)、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません)
[装備]:音ノ木坂学院の制服
[道具]:デイパック×2(一つは、ことりのもの)、基本支給品×2、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ
    スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation 、寝具(六人分)@現地調達、サイマティックスキャン妨害ヘルメット@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す
0: 図書館に行き、凛が庇ったというセリム・ブラッドレイと話したい。
1:その後音ノ木坂学院へ向かう。
2:穂乃果と会いたい。
3;μ'sの仲間や天城雪子、島村卯月、由比ヶ浜結衣の死へ対する悲しみと恐怖。
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後。


【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
0:プロデューサーはタスクに任せ、図書館で彼が戻ってくるのを待つ。
1:しまむー…
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※プロデューサーは生きているかもしれないと考えています。
しかし情報交換や卯月のことを聞いて凛のことはもしかしたらということも考慮しています。
死そのものを受け入れられているかは不明です。
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。



【狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】
[状態]:健康、左腕に痺れ、槙島への殺意
[装備]:リボルバー式拳銃(3/5 予備弾50)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考]
基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:皆について図書館に向かうか、それとも音ノ木坂学院に向かうか。
2:槙島の悪評を流し追い詰める。
3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
4:危険人物は可能な限り排除しておきたい。
5:キング・ブラッドレイに警戒。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒、戸塚、黒子、穂乃果の知り合い、ロワ内で遭遇した人物の名前と容姿を聞きました。


413 : ◆BLovELiVE. :2015/09/06(日) 00:14:17 /MyRBu5.0
投下終了です


414 : 名無しさん :2015/09/06(日) 08:29:00 oeyi4ffw0
投下乙です
肉の芽にも制限掛かってたか。これは後々のフラグになりそう

ウェイブはやっと持ち直せたか。フォローしてくれた狡噛さんと花陽に感謝だな
ひょっとするとセリューvsウェイブ&アカメが見れるかも?


415 : 名無しさん :2015/09/07(月) 00:16:17 jUVN9F1Y0
投下乙です
なんか杏子に能力バレそうになっているDIO。
ただ、他参加者の警戒もできたのでイーブンと言ったところか

ウェイブは持ち直しそうだが死亡フラグが立ったな
アイドル同士やセリムの因縁も強化されてなかなかいい感じ


416 : 名無しさん :2015/09/07(月) 23:30:29 olZyreMM0
投下乙です
少し気になったのですがウェイブや狡噛は大総統が危険人物であると説明していないのでしょうか?


417 : ◆BLovELiVE. :2015/09/08(火) 23:26:43 aCD5i.RA0
すみません、どうもその辺りについての説明が抜けてしまっていたみたいです
情報交換内での説明自体はしているはずですがその点について触れたものを後日修正スレに投下しておきますので少々お待ちください


418 : 名無しさん :2015/09/09(水) 00:09:41 hvmynzXU0
分かりました。対応ありがとうございます


419 : ◆QAGVoMQvLw :2015/09/10(木) 16:02:28 cK/YF5Ww0
投下します。


420 : 母なる証明 ◆QAGVoMQvLw :2015/09/10(木) 16:03:57 cK/YF5Ww0
「これからの方針はどうしますか?」

田村玲子と初春飾利の待つ保健室に戻った西木野真姫は前置きも無く話を切り出した。
仲間を亡くして間もない真姫だったが、いつまでも気落ちしている訳にはいかない。
もう既に散々悲しみに浸っている。
その上で今後の行動方針を選択すると決めたのだ。
今は一刻も早く、次の問題に気持ちを切り替えたかった。

「は……はい!」

初春はまるで教師にでも見咎められたかのごとく反射的な返事をする。
初春も友達を亡くしたばかりだが、既にある程度気持ちの整理はついていたようだった。
真姫が音楽室に行っていた時間は初春にとってもメンタルケアの役に立ったようだ。

「……………………」

逆にすぐに返事を返すと思っていた田村は、無言で窓の外を眺めていた。
どこか物思いに耽っている様子である。
真姫の田村に対する印象は良く言えば注意深く、悪く言えば抜け目無いと言った所だった。
短い付き合いだが、周囲に異変があれば誰よりも早くそれに気付き適切に対処してきている。
だから田村の、今のような気の無い反応はそれだけで意外だった。

「あの…………田村さん?」
「…………ええ、聞いているわ。今後の方針よね」

先ほどと一転して不安げに名前を呼ぶ真姫。
それに対して田村は徐に返答してから、何かに気付いたように真姫の方へ振り返った。
真姫と初春の微細なしかし寄生生物には明確に感知できる表情の変化から、田村は安堵の感情を読み取る。
目や口など顔のパーツの位置が固定している人間と違い、
頭部が不定形の寄生生物は、目であろうと口であろうと好きな部位に作り出せる。
従って人間のような前後左右上下の固定的な感覚は無い。
声を掛けられても、わざわざ振り返って顔を見せるような動作に必然性が無いのだ。
しかし人間は顔を使って反応を示さないと、強い違和感があるらしい。
田村もそれを知っているから、人間と会話をする時は同じ人間のように”顔を使う”。
それは人間のように自然な反応ではなく、知識や経験に基づく擬態に過ぎない。
深く思考に耽っていれば怠る場合もある。
それほど先ほどの田村は、珍しく熟孝を強いられていた。
真姫の提示した「今後の方針」と言う議題は、それほど今の田村にとって難しい問題だった。
しかしそれは、いつまでも避けて通れる問題ではないだろう。

「ところで西木野さん。私は最初に出会った時、同じようなことを聞いていたわよね?」

田村の口ぶりで、真姫は出会った当初にも”今後の方針”について話し合ったことを思い出した。

『ところで西木野さん。私たちはこれからどうするのがいいと思う?』
『まずは殺し合いに乗っていない人を探しましょう』

その時の田村の口調と、今の田村の口調は、まるで機械で再生したかのごとくに酷似していた。


421 : 母なる証明 ◆QAGVoMQvLw :2015/09/10(木) 16:20:16 TwCvMrbs0
おそらく真姫の記憶を想起させるため、意図的に模倣したのだろう。
些細なことだが、それは確実に人間を越えた業だった。

「……ええ、その時は殺し合いに乗っていない人を探そうって言いましたけど……」
「今も大筋は変わらないんじゃないかしら?」
「……そうですけど…………」
「では具体的にどう動くかよね。『殺し合いに乗っていない人を集めるにはどうすれば良いか?』。
このまま学校に居ても人が集まりそうだけど、私たちの戦力では受身のまま待ち続けるのはリスクが大きいわね」

話の主導権はいつのまにか田村に持っていかれた。
真姫は元々話を牽引する性格であるし、初春は荒事に慣れているジャッジメントではあるが、
二人とも一介の教師であった田村の主導に不満を持つ様子は無かった。
田村と最初から同行していた真姫はそれを予想していたし、初春も田村の主導に逆らう意思は無い。
それほど田村の態度は沈着冷静であり、二人にとっては頼もしくすら映っていた。

「でも! ……学院が一番知っている人が集まりやすいんじゃないでしょうか?」

話の主導権を握られることに不満は無いが、しかし真姫は慌てて田村の話に口を挟む。
真姫にとっては殺し合いに乗っていない人を集めること以上に、
生き残ったμ'sのメンバー、穂乃果や花陽と早く合流することが優先される目的だ。
そのためには、やはり現在地である音ノ木坂学院に居続けるのが最も蓋然性が高い。
だから真姫は田村が音ノ木坂学院を離れるようなことを言い出したと思うと、
反射的に音ノ木坂学院に残る意思を示してしまった。

「……そうね。知人に会っていった方が、人脈を広げ易いかも知れないわね」

同意を仄めかしただけで顔を明るくする真姫を観察しながら、田村は人間の思考の幅の狭さを再確認した。
音ノ木坂学院に残るか否かの判断そのものは、意見の分かれるところだろう。
田村たちに与えられた少ない情報から、人の集まる確率や安全性を推測するしかないからだ。
しかし真姫はおそらく確率計算などしていない。
何らかの合理性に基づいて判断するのではなく、漠然とした印象に基づいて感情的な判断をする。
しかしそれは真姫個人の性格ではなく、人間全般に当てはまる性質であることを田村は知っていた。
そして寄生生物には短所に思えるその性質も、同じ人間の思考や行動を読むのには適している。
思考の幅の狭さに思えるその性質も、寄生生物には無い視点や角度からの思考を生むかもしれない。
もっとも、今の田村には有益を生むために観察しているつもりは無い。
ただ純粋に人間を知りたいのだ。

「初春さんは、誰かと待ち合わせをしていたわね?」
「はい」
「待ち合わせ?」
「私とジョセフさんとさやかさんとタツミさんとで、二度目の放送の後に禁止エリアになってなかったら闘技場でって……」

初春は田村たちと以前に行った情報交換で、ジョセフやさやかやタツミと交わした待ち合わせの約束の話をしていた。
その場に居合わせていなかった真姫にとっては初耳の話だが。

「待ち合わせの場所に私や西木野さんが行ったら迷惑かしら?」
「そ、そんなことないですよぅ」
「と言うより、あなた一人で行動するのは危険なんじゃないかしら?」
「はい。一緒に来てくれた方が助かります」

言外に待ち合わせ場所まで同行すると提案する田村に、初春は快く承諾する。
実際、戦力をほとんど持たない初春の立場になれば闘技場まで一人で移動するのはリスクが大きい。
ジャッジメントとしては些か情けないことだが、田村や真姫の同行は自分から頼みたいくらいだった。

「西木野さん。学院にはしばらく留まるとして、二度目の放送後は私たちも闘技場に行かない?
ここに留まり続けるより人と会える確率は高いだろうし、あなたのお友達も誰かについて来るかも知れない」

思案する真姫を、今度は初春が不安げに見つめる。
ここで断られたくはないが、無理に同行を願うことはできない。
真姫は田村と初春の顔を見た後、意を決するように答えた。

「…………わかりました。二度目の放送の後は闘技場に行きましょう」

破顔する初春を見て、真姫はやはりこの決断がベストだと感じる。


422 : 母なる証明 ◆QAGVoMQvLw :2015/09/10(木) 16:21:42 TwCvMrbs0
学院に居たい気持ちはあるが、いつまでもここでじっとしている訳にもいかない。
どこかで区切りは必要だろう。
田村の言うように四人もで待ち合わせをしているのだから、穂乃果や花陽も誰かと来る可能性だってある。
何よりこの状況で初春を突き放すのは、さすがに酷に思えた。

「じゃあ、放送まではここで待機。それからは禁止エリアにならなかったら闘技場に向かいましょう」

田村の正直な感想としては、真姫を上手く誘導できたと言う物だった。
真姫はおそらく学院を離れたがらないはず。
しかし田村としては、いつまでも学院で待ちの態勢のままで居たくなかった。
だから初春の待ち合わせの話を持ち出して、更に初春自身が田村と真姫の同行を希望するように話を持っていった。
可能な限り穏当な言葉遣いで。
人間とは目の前の同じ人間に対して情が湧く物である。
初春が危険な単独行動を望まないのなら、真姫も別行動を取るのに躊躇するだろう。
そこへ闘技場に行けば仲間に会える可能性を示唆すれば、真姫の心情の後押しになる。
確率的な計算は要らない。人間に必要なのは感情の後押しなのだ。
それは人間に習えば、共感とか同情とか言われる物なのかも知れないが、
今の田村には、覚えが無い訳でもなかった。
だから田村も真姫に他意があって誘導したわけではない。
田村の意図としては、真姫と同行しながら出来るだけ多くの参加者に会いたいのだ。
しかし結局のところ正確な遭遇率など誰にも計れない。
田村とて最善の方針を手探りで探している状態なのだ。

「今後の方針はそれで良いとして……西木野さんとは充分に情報交換をしていなかったわね」

田村はそれから新たに浮き上がった課題に取り組む。
田村と初春が参加していた情報交換に、真姫は参加していなかったため、
互いの情報の齟齬が表れた。
今は問題というほどのことではないが、より重い場面では情報の齟齬も命取りになりかねない。
改めて情報交換をすることにした。
そうは言っても、特別なことは何も無い。
以前に情報交換を行った初春と共有している情報を、真姫の前で再確認しただけだ。
真姫は異なる世界や時間軸の話ですら特に反応を示さない。
理解や納得をしていたと言うより、実感が無い様子だった。
終始黙って聞いていたが、田村の話が一段落すると質問を挟んだ。

「……そのぅ……後藤さんってどんな人なんですか?」

質問したのは真姫ではなく初春だったが。
初春は殺し合いの参加者の、しかし田村の旧知である後藤のことを聞いてきた。
田村の旧知で危険であるとのことだから、何の不思議も無い。
真姫も同様に関心がある様子だった。
しかし二人が関心を寄せているのは後藤よりも、むしろ田村の方だろう。

「人、ではなく寄生生物よ。私と同じくね」

だから田村は、二人の関心に沿って話をすることにした。
二人はおそらく後藤の話を聞きたいと言うよりも、それに乗じて寄生生物とはいかなる存在かを問いたいのだ。
何故なら田村もまた寄生生物なのだから。
しかし田村自身のことを聞くのは、二人にとって気が引けるのだろう。

「後藤は複数の寄生生物をその身に宿している。頭部から四肢、更には体表面のほとんどまで寄生部分は及んでいる。
そして、強い本能を持っている」
「……本能?」
「この種……人間を食い殺せ、という本能だ」

場の緊張感が急速に増す。


423 : 母なる証明 ◆QAGVoMQvLw :2015/09/10(木) 16:23:05 TwCvMrbs0
田村は構わず、淡々と話を続ける。
その口調は先刻より冷たい物になっていた。

「それが殺戮と闘争を求める本能に結びついている。西木野さんと初春さんにとっては極めて危険な存在だろうな」
「……田村さんにとっては違うんですか?」
「…………私にとっても、ある意味危険だ」
「それ意味わかんないです」

真姫の口ぶりは明らかに詳しい説明を求めている。
一方の田村の口ぶりは、珍しく鈍重だった。

「…………後藤は私が作った」

それでも田村は思考に耽りながら重々しく話を続ける。

「作ったと言っても一つの人体に複数の寄生生物を宿しただけだが……、
だから生体実験を行った。その程度のことよ」
「……………………」
「同胞の中でもとりわけ強力な固体を私は作った。自信作と言ったところだ。
しかしここでは無敵という訳にもいかないでしょうね。それでも彼は殺戮を行う」
「その……後藤は、殺し合いに乗っているとは限らないんじゃ?」
「殺し合いに乗る意思すら無いでしょうね。彼はどんな生物よりも闘争と殺戮を求める。
ここに来る以前の世界においても後藤は多くの人間を殺した。後藤が生きることは殺戮することと同義だ。
それでも人間社会に潜伏しなければならないから、行動には自ずと制約があったけど、
しかしここでは……制約の無い殺戮機械だ。それは作った私が保証する」

真姫と初春は田村の話に、ある種の戦慄を覚える。
何か憤りの類がある訳では無い。
真姫も初春も田村の詳しい事情は知らないし、後藤がいかなる存在かも話でしか知らない。
しかし殺戮機械となる生物を製作したなどという話は、真姫にも初春にも想像を絶したことだ。
そしてそんな想像を絶した真似をした田村の底知れなさに、ある種の戦慄を覚えたのだ。

「……殺戮するから田村さんにとっても危険なんですか?」
「確かに彼は私も攻撃するだろうけど、そういう意味で危険だと言ったんじゃないわ。
だって彼は私を殺さないもの」
「それは、作ってくれた人だからですか?」
「私を生かしたまま、戦力として吸収するから」
「やっぱり意味わかんないですそれ……」

相変わらず底知れない話を続ける田村。
初春は言葉も無い様子だが、真姫は更に質問を挟む。
どれだけ底知れなくとも、真姫は田村を少しでも知りたかった。

「そうね……簡単に説明すれば、後藤は私の頭部を取り込むことができる。
そうなれば彼の中で生き続けることになるから死の危険は無い。
でも危険だから会いたくは無い……それ以前に私が彼を守るから」
「な、なんでそんなに危険なのに守るんですか!?」
「言ったでしょう、後藤は殺戮を行う。そうすれば自然と敵を増やすことになる。
いずれ悪評が広まり、後藤は追う側から追われる側に回るでしょうね。
彼も無敵じゃない。多種多様な世界から集められた、多種多様な異能に襲われたら劣勢にも回るかもしれない……」

そこまで話して、田村の言葉が途切れる。
表情から内心を察することができない田村だったが、
この時は何か言葉を選ぶのに迷っているよう、真姫には思えた。


424 : 母なる証明 ◆QAGVoMQvLw :2015/09/10(木) 16:24:21 TwCvMrbs0
やがて田村は徐に続きを話す。

「……私はきっと、無敵の自信作が多勢にいじめられている姿は見ていられない。
彼を守るため戦うでしょうね。そうなれば私も、後藤と同じ危険な怪物と見なされる。
だから会いたくは無い。会わなければ他人事で済んでいられる。
……それでも…………こうして彼のことを考えていると、無事が気になる……」

そこで話を切った田村は、また物憂げな視線を窓の外に移した。
田村の様子に、真姫も初春も掛ける言葉が中々見付からなかった。
それでも真姫は思い切って口を開く。

「…………後藤、さんが心配なんですね……」
「心配? ……そうね。きっとそう…………。
心配だわ。あまりいじめられてないと良いけど…………」



話を聞き終えた真姫と初春は、ますます田村が分からなくなった。
田村は本能で人間を食い殺す後藤と同種の生物であるらしい。
ならば田村も同じ本能を持っているのではないか?
二人ともそう疑問に思ったが、結局それを聞くことはできなかった。
田村が自分たちとは違う生物であることを強く意識される。
しかし二人とも不思議と田村に悪感情は無かった。
真姫は以前に田村に助けられていたし、初春もそれを聞いている。
何よりそれ以上に窓の外を眺める今の田村の表情が、
これまでの話における不可解さとの落差を感じさせた。

今の田村はまるで、子を心配して想いを馳せる母親のようだった。





それはこの殺し合いに参加する直前、田村が死ぬ直前。
田村は生涯を賭けた幾つもの疑問の一つにある答えを出した。
『寄生生物と人間は1つの家族だ。我々は人間の「子供」なのだ』。
寄生生物と人間が1つの家族ならば、寄生生物全体もまた1つの家族と見なせるだろう。
皆が何かに寄り添って生きる、それのみでは生きてゆけないただの細胞体。
それが田村にとっての寄生生物。

死ぬ直前とは言え、田村は家族を知った。
無論その言葉は知っていたが、それを実感で理解したのである。
だから田村は人間が言うところの共感や同情、そして心配が今なら漠然とでも理解できる。

真姫と初春に話した話の中で田村は一つ嘘、と言うより言葉の上での誤魔化しがあった。
田村が後藤を守るとしても、それは無敵の自信作だからではない。
同種にして田村が作り上げた後藤は、殺し合いの参加者において最も近しい家族だろう。
もし後藤の襲撃を受けても、後藤を傷つけることはおろか無闇に抵抗する気も起きないだろう。
例え後藤に胴体を破壊されて頭部を吸収されても、それは自分の作った無敵生物の一部となることなのだからそれで構わないと思える。
意識を無くして二度と観察も考察もできなくなっても「ああそうか」と思うだけだ。

田村は今後の方針について話した。
そして自分が後藤を心配していると確認した。
それは今まで棚上げにして、あえて考えないようにしていたある事柄を明確に自覚する。
今後の方針を更に進めて考えていけば、それは殺し合いの脱出方法に行き着く。
具体的には首輪を外して会場から脱出することだろうか。
もしその手段を手に入れれば、やはり田村は最も近しい家族にそれを使うことを望むだろう。

(……そうなれば、さぞ非難されるでしょうね)

後藤と共に脱出するなど他者、特に人間にはさぞ愚劣で滑稽な提案だと受け取られるに違いない。
しかし田村はもう、家族を知ってしまったのだ。
そして田村は既に自分の子供を命がけで守っている。
田村は殺し合いに参加する直前、警察の銃撃から死をとして赤ん坊を守ったのだ。
そう、どれほど手間が掛かったとしても、母親は子にとにかく生き延びて欲しいと願う物なのだ。


425 : 母なる証明 ◆QAGVoMQvLw :2015/09/10(木) 16:25:26 TwCvMrbs0

【G-6/音ノ木坂学院内/午前】


【西木野真姫@ラブライブ!】
[状態]:健康
[装備]:金属バット@とある科学の超電磁砲
[道具]:デイパック、基本支給品、マカロン@アイドルマスター シンデレラガールズ、ジッポライター@現実
[思考]
基本:誰も殺したくない。ゲームからの脱出。
1:田村玲子と協力する。
2:穂乃果、花陽を探す。
3:ゲームに乗っていない人を探す。
4:第二回放送まで音ノ木坂学院で待機し、後に闘技場へと行く。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノへ行く。
[備考]
※アニメ第二期終了後から参戦。
※泉新一と後藤が田村玲子の知り合いであり、後藤が危険であると認識しました。



【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品 、巴マミの不明支給品1〜3
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
1:後藤と共に脱出できる道を探る。
2:西木野真姫を観察する。
3:人間とパラサイトとの関係をより深く探る。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
6:第二回放送まで音ノ木坂学院で待機し、後に闘技場へと行く。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノへ行く。
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ'sについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。広川または協力者は死者を生き返らせる力を持っているのではないかと疑っています。



【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1〜3、テニスラケット×2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する。
1:田村玲子としばらく共に行動する。第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノでタツミたちと合流する。
2:佐天や黒子と合流する。
3:御坂さんが……
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺し合い全体を管制するコンピューターシステムが存在すると考えています。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※ジョセフとタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているらしいということを知りました。
※泉新一と後藤が田村玲子の知り合いであり、後藤が危険であると認識しました。


426 : ◆QAGVoMQvLw :2015/09/10(木) 16:26:40 TwCvMrbs0
投下を終了します。
誤字脱字などの問題点があれば指摘をお願いします。


427 : 名無しさん :2015/09/10(木) 21:23:51 Vk.fYyZA0
投稿乙です
一つ指摘ですが、田村玲子はシンイチと情報交換した時に「広川や後藤とは敵対している」って旨の事を言ってたと思うんですが、いきなり後藤を保護したいって方針に変わるのは少し唐突じゃないですかね…


428 : 名無しさん :2015/09/10(木) 22:30:24 s8X2lCo20
投下乙です。田村さんの爆弾発言で一気に危険状態になったか
細かい感想は議論が終わった後の方が良いかな

該当箇所は66話「敵意の大地に種を蒔く」か
一行の会話且つ本人の内面描写なしなので、ちょっと弄れば整合性はつけられるかな
31話だと積極的に会いたくないとしか言ってないようなので
そして、以降の発言は議論スレの方で頼む


429 : 名無しさん :2015/09/10(木) 22:55:07 kSA4lYfA0
その日にいきなり議論というのもな
とりあえずここで意見が出揃うのを待つのも手じゃないか


430 : 名無しさん :2015/09/10(木) 23:00:29 Aa/iMZ2M0
その意見を議論スレで出してねって話では


431 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/11(金) 00:22:44 POqAm9ow0
投下お疲れ様です。
感想を書くところですがまだ読めていません。
ですが私は勝手ながら予約期間中に時間が取れそうにないので先に投下させていただきます。すいません。


432 : 雷光が照らすその先へ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/11(金) 00:24:29 POqAm9ow0


「誰も来る気配が無い……暇か」


腕を頭の後ろに組み杏子は退屈そうに右足で大地を蹴っている。
建物――潜在犯隔離施設に近づく参加者を始末するように命じられている彼女。主の命令無しには動けない。
槍を用いる幼き騎士が守るは帝王DIO。休息を守り抜くために彼女は自分の睡眠時間を削ってまで身体を張る。

「なぁ嬢ちゃん……杏子」

「お……マオじゃん。そう言えばアンタもいたっけ」

暇を持て余した杏子に声を掛けるのは人間ではなく一人の黒猫。
彼女に支給されていた契約者のマオだ。一時期ノーベンバー11と共に行動していて離れ離れになっていたが此処で再開する。
しかしどちらも喜びの感情を示してはいなかった。

「あの男と仲良く建物に入って行ったがどうしたんだ?」
「どうしたってなんだよ。DIO様と一緒に行動してただけだろ?」
「一緒に行動……? いや、ちょっと待て杏子」
「なんだよさっきからさー」

「お前今DIO『様』って言わなかったか?」

杏子がDIOと共に建物へ入る瞬間をマオは目撃していた。更に遡り彼女がDIOの命令を聞いている瞬間にも居合わせていた。
DIOの素性――どうしようもない屑のような存在を知っているマオからすれば有り得ない。杏子も同じだろう。
敵対関係に近かった彼らが何故こうも仲良く行動しているのか。誰が見ても不思議であり奇妙であった。
杏子が放つ言葉の節々からマオは事態の重さと気色悪さを再度思い知らされた。

「言ったけど……お前さっきから可怪しいよ? 別に気にする必要ないだろ」
「お前こそ正気か、DIOの命令なんぞ聞く必要も無い。悪い夢でも見てるんじゃないか?」

「……聞き捨てならねえな、マオ。あたしはDIO様から建物に近づく奴はぶっ殺していいって言われてんだけど?」
「お、おい! 槍を構えるな馬鹿!」

生命を捧げるに値する主を貶された杏子の怒りは槍へと集まる。
構えられたその姿勢は心臓を一突きで貫く必殺の一撃を連想させる。驚いたマオは鈴を響かせながら彼女を止めるべく話を続ける。

「ぶっ殺す? 俺の知ってる嬢ちゃんは此処まで馬鹿じゃなかったぞ」
「馬鹿馬鹿ってうっせーな……アンタ、喧嘩売ってんの?」
「冗談じゃない。俺はただ急にお前がDIOの命令をすんなり聞いていることに疑問があるんだ」
「うーん……なんでだろうね、分かんないや。でもさ、DIO様の命令を聞くことに躊躇い何て無いし問題ない」
(思考停止状態か……まさかDIOの能力か? 契約者や魔法少女のような能力があっても可怪しくは無いが……ん?)

杏子と会話を行っても事態に進展は生まれないと悟ったマオ。
DIOに何らかの記憶改竄或いは干渉を受けていると予測した方がしっくりと収まってしまう。
別に異能を用いなくても科学の力で記憶の一つや二つ、弄ることに苦労はそう掛からないだろう。
会話の中で一点気になった新たな疑問を杏子へ投げる。

「MI6の伊達男は何処に行った?」
「誰だよソイツ」
「ノーベン……ジャック・サイモンと名乗った契約者がいただろ、アイツはどうなった」
「――――――――死んだよ」
「何っ!? それは本当――誰か来るな」

少しの間が生まれた後に杏子が紡いだノーベンバー11の死。
マオは知っている。彼が強い契約者であることを。故に彼の死には驚きを示す。
嘗て自分と同じ空間で契約者に訪れる結末を知った伊達男。彼は己の運命を知りながらも組織に歯向かった。
その結果は彼は死んだ。だがそれが無意味な死ではなく彼が行動を起こさなければ全世界の契約者が死んでいた可能性もあった。
と、考えられるかもしれない。全ては推測の域から進行しないが。

マオにとってMI6の伊達男は黒と対峙し生き延びた珍しい存在でも在る。
契約者は合理的な考え方しかしない。死を哀しむことなど――どうだろうか。

彼の死を告げる杏子に色々と聞きたいことはあるが、訪来者によって会話は途切れることになる。


433 : 雷光が照らすその先へ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/11(金) 00:25:07 POqAm9ow0

その姿に杏子は見覚えがあった。
成り行きではあるが一緒に戦った一人の少女を見て自然と頬が緩む。

「おっ、えーと……誰だっけ」
「御坂美琴――もう忘れたってあんたねぇ……」
「そうだ! 御坂美琴なー。お前何しに来た?」
「何しに来たってのも妙な質問ね。こっちさ、DIOとか怪物とか来てない?」

「DIO様ならあっちの建物で――やっべ、言わない方がDIO様のためか」
「――DIO様? 様って何よ杏子……?」
「DIO様はDIO様だろ……あたしはDIO様の命令で建物に近づく奴をな……って。
 これも言わない方がいいよな……今度からそうすっか」

間違いを犯したことに気付いた杏子の顔に青が帯掛かるが前向きに捉えにししと笑いを零す。
DIOの命令を守ることは絶対ではあるが、何も言いふらす必要は全く以て無い。寧ろ邪魔である。
彼女が余計なことを口走ってしまえばDIOの居場所が拡散されてしまう。従者ならば主の情報は必要以上にばら撒く必要はない。

杏子の発言を聞いた御坂は数分前に成り行きではあるが一緒に戦った杏子に違和感を覚える。
野蛮で好戦的な彼女であったが、DIOに尻尾を振るような人間とは感じ取れなかったはずだ。
それもDIOの命令で人を殺すなど常識もあったもんじゃない――人を殺すことに対して言える立場ではないが。

(――きもっ、でもさっきまであんなのは無かったわね)

御坂は杏子の額に埋め込められている何かを見つめていた。
彼女が知ることはないがそれこそがDIOの操る諸悪の根源、肉の芽。
得体も正体も知らない其れを彼女と一匹の黒猫が見つめていた。そして彼女は息を吐く。杏子が喋る。

「あからさまに息吐いてどうした? なんだ、緊張でもしてんのか、顔も何だか暗いし」

「そうかもね――これで緊張でも感じてないと本当に私壊れちゃうかもねっ」

杏子の言葉を適当に流し、けれど何処かに後悔と後ろめたさを含んで返答する御坂。
若干屈む姿勢となり大地に落ちている手頃な小石を拾うとそれを指で弾き上空へ飛ばす。

宙に舞う小石を見つめる杏子と黒猫。時が止まったように彼女達は魅入っている。
回転を加えながら落下する小石は最初の地点である御坂の目の前で来ると――雷光を纏う絶大なる一撃へと昇華する。


「っ――まじかよまじかよ……まじかよ!!」


杏子の右側を抉るように放たられた超電磁砲。認識する前に通り過ぎていた。
現実を受け入れるように後ろへ振り向くと、潜在犯隔離施設の屋根が一部吹き飛ばされているのを確認出来る。
建物が破壊されている光景を視界に焼き付けたところで、手放していた意識が彼女に再び宿る。

「おい! DIO様を殺すつもりか!?」





「当然じゃない――あんな奴、殺した方が世界のためよ」





魔法少女は怒りを胸に槍を構え駆け出す。
契約者は己が立ち入る空間では無いと悟り距離を取る。

超能力者は覚悟を決めたような冷めた瞳で睨むように。潜在犯隔離施設から飛び出した一つの影を見つめていた。
何処か哀しみを漂わせながら拳を握っていた。


434 : 雷光が照らすその先へ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/11(金) 00:26:14 POqAm9ow0

杏子は槍をバラし多節棍へ变化させると御坂を囲むように展開し力強く引き寄せた。
自分側に引き寄せれば囲みの部分は一斉に中心である御坂へ向かい彼女を拘束することが出来る。それが算段であった。

しかし御坂は難なく多節棍の下を潜り抜け攻撃を回避すると雷撃を放出し杏子へ直接叩き込む。
身体から放たれた雷撃は防がれることなく杏子の元へ届き、轟音を響かせながら周囲が崩れていく。
常人なら死んでも可怪しく無い雷撃だが、魔法少女は生き残ってしまう。更なる苦痛が待っていようとも。


「はぁ……ぐっ、テメェ……御坂美琴ォ!」

「――お願いだから私のためにも一発で死んでよ。もう、私に――」

「何言ってるか聞こえねえんだよ! テメェはあたしがぶっ殺すって決めた! だから――ちょ、ふざけんな」


魔力を普段よりも消費しソウルジェムの濁りと引き換えに雷撃を耐え抜いた杏子は吠える。
DIOを狙い自分にも危害を加える御坂美琴を生かす理由は存在しない。此処で殺す、絶対に殺す決意を固める。
御坂が独り呟いた心の叫びも届かず殺さんと槍を投擲しようと試みるも実行する前に終わってしまう。
殺害対象である超能力者はまた小石を上空へ弾いていた――つまり潜在犯隔離施設を半壊させた一撃が迫るサイン。

バチバチと走っている雷光が雪のように美しく見える。儚く宙を舞う雪のように。
見惚れている暇も無く小石は再び御坂に弾かれ杏子へ走る雷撃――超電磁砲へ変貌してしまう。

だが黙って受ける訳にも行かないが
                超電磁砲は彼女の胴体へ直撃する結果となる。


「――――――――――――――――――――」


声にならない叫びを吐き出した彼女は身体を折り曲げて遥か彼方へ飛ばされる。
本来人間として出し得ることの無い音を響かせ、雷光を纏いながら彼女は西へと飛ばされる。

風が彼女の身体を削り、電撃があらゆる器官を破壊する。
思い出も記憶も全てが段々と手の届かない所へ逃げてしまう。いや、杏子が遠ざかっている。
誰も彼女を止めることも助けることも出来ずにただ独りぼっちに西へと飛ばされている。







「何かで防がれたけど――生きていてくれるなら私は」

言葉を最後まで言い切らずに飲み込んだ。
半壊した建物をただ独りで見つめている瞳は哀しみのブルーを帯びており、全てが暗く映っている。

「巻き込んじゃってごめんね猫ちゃん」

「――みゃ、みゃ〜お」

後ろへ振り返った彼女は戦いに巻き込んでしまった黒猫へ謝罪を述べる。
想像よりも低い声で鳴いた黒猫へ近づくと、目の前でしゃがみ込む。


435 : 雷光が照らすその先へ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/11(金) 00:26:43 POqAm9ow0

「エドと一緒にいた子だよね? あんなところから逃げて来たのにまた戦いでごめんね」
(そういやこの嬢ちゃんは俺が喋っているとこを見てないか――本当に見ていないのか?)

黒猫の頭を優しく撫でた御坂の表情は殺し合いに巻き込まれてから初めて見せる柔らかい笑顔。
全てを忘れて目の前の癒やしに没頭出来る最初で最後の瞬間を噛み締めるように黒猫を撫でている。

「怪我は無いわよね、うん大丈夫。
 もう私は離れるからさ……少しだけ触らせてね」

何処にでも居るような下校中の女子中学生のように猫と戯れ合う。
最も対する黒猫の心理は御坂に対し疑いを持っている。
特別接していた訳ではないがエドと共に戦っていた少女が杏子と殺しあうだろうか。
ターゲットがDIOなら激突も仕方がないが、何も彼女達が殺し合う必要はない。まるで操られているように。
もしかしてではあるが、御坂も杏子と同じように何かしらの外部因子によって自我を塗り替えられているかもしれない。

「私さ。殺しちゃったの。馬鹿、だよね。最低、だよね。信じられないよ、ね……。
 本当に生き返るかどうかも怪しい、正直有り得ないと思う所もあるけど私はそれに縋るしか無いの」

黒猫の、マオの考えが一瞬にして変わってしまう。
御坂は今、何と言った。彼女は何を告げた。殺した。この言葉が表す意味など一つしかない。

「あの子アイドルだって……うん、とっても可愛かった。応援したくなるような子だった……けど。
 片足が無くて、本当の自分も知らないあの子に待っている現実を考えると私が怖くなっちゃったの」

(片足――まさか!?)

「気付いた時には自分の人生が終わっているって辛いよ……私だってあいつが死んだ時は受け入られ無かったもん。
 気付かないで死ぬことがあの子のためかもしれない。勝手過ぎるけど願いを叶えるのと、あの子を救う行為が一致したの」

(この嬢ちゃんは、御坂はもう――)

「救うだって。あはは……何で偉そうに語ってんのさ私は。あの子を殺したことに変わりは無いのに……でももう、止まらない。私のためにも、あの子のためにも」

立ち上がった御坂は何か決意したような表情で空を見上げる。
自分の中に燻るヘドロを嘲笑うような晴天。自分が輝きで浄化されそうで反吐が出るようだ。
彼女の視線は自然と西へ流れる。潜在犯隔離施設から飛び出た影と杏子が飛ばされた方角である。


「ありがとう猫ちゃん。私が勝手に話しただけだけど、声に出した方がちょっとは整理ついた、かな?」


パンパンと膝を払った彼女は黒猫をお礼を告げる。
猫に人間の言葉が通じるかは不明だが、そんなことは関係ない。
自分に対して今一度価値観と人生を向き合うのに有意義な、彼女が人間であると感じ取れる瞬間ではあった。間違いなく。

「じゃあね――猫ちゃんと私だった頃の私」

その一言だけを残し御坂は黒猫の元を去る。
その背中は誰よりも小さく、誰よりも哀しみを背負っている。

去り際に。
彼女の頬から涙が落ちるのを、マオは見逃さなかった。


「あんな顔されちゃあ放って置けないってか……やれやれ契約者ってのは合理的……いや」


マオは御坂を追う。
彼女に聞きたいことは山程存在する。
杏子が遠くへ飛ばされた今、ノーベンバー11の真実を知る人間は御坂しか近くにいない。
みくのことを知っているのも彼女しかいない。それ以前に――。


「アレを放置してりゃ俺も御坂も後悔しちまうな」


436 : 雷光が照らすその先へ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/11(金) 00:27:13 POqAm9ow0


【F-1/一日目/昼】
※御坂の超電磁砲によって潜在犯隔離施設の屋根が一部崩壊しています。


【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟 、吐き気、頬に掠り傷
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×4
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:DIOを追撃するために西へ。 DIOを倒したあとはエドワード達を殺す。
1:もう、戻れない
2:戦力にならない奴は始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
3:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
4:一先ず対DIOの戦力を集める。(キング・ブラッドレイ優先)
5:殺しに慣れたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。



【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[思考]
基本:???
0:黒達と合流する。
1:御坂を追い掛ける。
2:御坂と会話を行い情報を集め――彼女をどうするか。
3:杏子が心配。





「いてて……絶対に許さねえからな……殺す、殺してやる」

超電磁砲の一撃が直撃する前にグランシャリオを発動していた杏子は生きていた。
コンクリートを削りながら飛ばされており、やっと止まった彼女は立ち上がりながら吠える。

「DIO様はさっき空飛んでたの見えたから西へ行くけど……御坂、次会ったらテメェを――殺す」

グランシャリオを解除した彼女はDIOと合流するために移動を優先する。
新しい怒りと憎しみを覚えた彼女を止める存在は現れるのか。

止まらない物語に書き換えられてしまった彼女を救う存在は現れるのか。





【E-1/一日目/昼】


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:精神疲労(中)、疲労(大)、全身に切り傷及び打撲(それぞれ中)、ソウルジェムの濁り(中)、額に肉の芽
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ、帝具・修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実 大量のりんご@現実 不明支給品0~2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いについて考える。
0:DIOと合流するために西へ。
1:特定の人物(花京院、イリヤ、まどか、ほむら、さやか、ジョセフ、承太郎)以外。
2:巴マミを殺した参加者を許さない。
3:殺し合いを壊す。それが優勝することかは解らない。
4:承太郎に警戒。もう油断はしない
5:何か忘れてる気がする。
6:御坂は殺す。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※DIOへの信頼度は、『決して裏切り・攻撃はしないが、命までは張らない』程度です。そのため、弱点となるソウルジェムが本体であることは話していません。


437 : 雷光が照らすその先へ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/11(金) 00:28:32 POqAm9ow0


「イ、インクルシオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


眠りによって安息を取っていたDIOだが事態は急変を辿り大慌てで帝具を発動する。
自分が根城にしていた潜在犯隔離施設の屋根が急に吹き飛ばされていたのだ。
気付いた時にはバチバチと電子を周囲に漂わせながら、全てが吹き飛ばされていた。理解するのに少々だが時間が掛かる。

一番の問題は屋根が破壊されたことによって日光が建物内に降り注ぐことである。
吸血鬼の天敵である陽の光から身を守るべくDIOは帝具を発動、一命を取り留めることに成功していた。


「ふぅ。危ないではないか……しかしこのDIOの眠りを妨げるとはなあ」


インクルシオを纏っている今ならば日光を気にする必要が無い。
堂々と潜在犯隔離施設から外を見つめる――その先には交戦している杏子と御坂の姿。

「なる程。あの青臭い女がこのDIOに対して電気を撃ってきたのだな。
 今直ぐにも相手をしてぶっ潰したいところではあるが……どうせ追って来るだろう」

このまま戦闘に乱入しても悪くはない。寧ろ怒りをぶつけるには丁度いい。
だが帝王足る者もう少し……などと言った問題ではなく、単純に陽の光の下で戦うにはまだ若干の不安が在る。
御坂の標的が自分ならば追って来るのは確実。建物の中で彼女を殺せばそれでことが足りる。
それに電撃を放つ戦力はそれだけで大きな魅力となる。手駒の確保が出来るなら行うべきである。

「このDIOを追って来い女共……そして俺の糧となれ」

太陽を背景に駆けるのはインクルシオを纏った悪の帝王DIO。
彼の行先は西。建物は北方司令部、病院、コンサートホール。

一番近いのは北方司令部だがDIOはどの建物へ逃げ込むのか。
そしてその建物の中に一つだけ因縁であるジョースターの血統を持つ男がいる。

DIOが何処へ向かうかは不明だが動き出した世界を止めるにはまだピースが足りていない。


【E-1・西/一日目/昼】


【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:疲労(大)、右腕欠損
[装備]:悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。 最早この帝王に油断はない。
0:近くの建物へ避難したあと追って来るであろう御坂を殺す。その後ジョセフ達が近くにいれば殺す。
1:ジョースター一行を殺す。(アヴドゥル、ジョセフ、承太郎)
2:花京院との合流。
3:休息中の見張りは杏子に任せる。
4:寄生生物は必ず殺す
5:杏子を餌に、彼女の同類を配下に置く。ただし、暁美ほむらは始末する。
[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術、DTB世界の契約者についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。
※悪鬼纏身インクルシオは進化に至らなければノインテーターと奥の手(透明化)が使用できません。
※暁美ほむらが時間停止の能力を持っていることを認識しました。また、承太郎他自分の知らない参加者も時間停止の能力を持っている可能性を考えています。
※魔法少女についての基礎知識を得ました。
1.魔法少女とは奇跡と引き換えにキュゥべえと契約してなるものである。
2.ソウルジェムは魔法を使う度に濁り、濁りきると魔法が使えなくなる。穢れを浄化するにはグリーフシードが必要である。


438 : 雷光が照らすその先へ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/11(金) 00:30:49 POqAm9ow0
以上で投下を終了します。何かありましたらお願いします。
また、投下していて思ったのですが前の話でマオはノーベンバー11の死を知っていたかどうか私の中であやふやでした。
確認して違ったら後日修正スレに投下します。すいません。


439 : 雷光が照らすその先へ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/11(金) 00:32:01 POqAm9ow0
それにこのインクルシオは空を飛べませんね……色々とすいません。


440 : ◆BLovELiVE. :2015/09/11(金) 21:44:58 DulsEFQw0
投下乙です
マオに一人独白する美琴が悲しい…
DIOも休めないなぁ。仮投下と合わせればまた激戦となってしまうのかどうか

あと遅れてすみません。
この前投下したSSについての指摘で狡噛さんがブラッドレイが危険人物であるということを説明しなかった理由について加筆したものを修正スレに投下しておきましたので確認お願いします


441 : 名無しさん :2015/09/12(土) 01:37:59 EWdGx0ns0
投下乙です

休もうとする度に襲撃されるDIO様に草
杏子はこのまま肉の芽状態のままになってしまうのだろうか

修正乙です。後でwikiの収録分に追加させていただきます


442 : ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:22:50 Aq1j5D5U0
投下します


443 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:24:32 Aq1j5D5U0
「なあ、エスデス。お前はイェーガーズの長だと言っていたな」
「ああ」
「仲間を増やすのなら、能力研究所よりイェーガーズ本部という場所の方がいいんじゃないのか?」
「ふむ。まあ、お前の言い分もわからんでもないが、余計な心配は無用だ。確かにクロメは死んだが、残るウェイブとセリューも私と同じく悪を討つための駒を増やしているだろう。
ならば、一所に固まるよりはこうして分散しておいた方が悪を追い詰めやすい。そうだろう、ヒースクリフ?」
「私に同意を求められても困りますが...エスデスの意見には一理ありますね」
「いや、しかしだな...」
「同じイェーガーズの一員なら、エスデスと似たような方針をとるかもしれません。そうなると、イェーガーズ本部で大人しく待っている可能性は低いと思います」
「わかっているじゃないかヒースクリフ」
「私も異能力というのは個人的に興味がありますから」
「ほぉう」
「...わかった。このまま研究所へ向かうとしよう」

溜め息をつき、しぶしぶとエスデスの後についていくアヴドゥル。
正直に言えば、アヴドゥルはエスデスをどこかに押し付けたかった。
わざわざ彼女の仲間であるイェーガズの本部へ行こうと提案したのも、彼女の部下なら彼女の手綱をひいてくれるかもしれないという希望的観測からだ。
流石に全員が全員、エスデスと同じわけではあるまい。仮にそうだとしても、今回のように遠征をするのなら、人数が増えるだけ自分とエスデスが組まされる可能性は低くなる。
時期を伺い、『お前とは敵対しないが、しばらく別行動をとらせてもらうよ』などと告げて承太郎やまどか、一般人の足立とヒースクリフを連れてエスデスから逃げることもできる。
尤も、現実にはこうしてあっさりと否定されてしまったし、ヒースクリフもノリ気であったのだが。
そんな適当な雑談を交えつつ研究所へと向かう一行。


「アヴドゥル、私は何も考え無しに一番近いからここを選んだわけではないぞ」
「なに?」
「長年の勘が告げているんだよ。あそこには戦いの火種が渦巻いているとな」

エスデスが笑みを浮かべると同時。

「アヴドゥルさん、あれを」
「研究所の方角...あれは、煙か?」
「そうら、みたことか」


444 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:25:20 Aq1j5D5U0



ガツン。ガツン。

何度も、何度も床を殴りつける音が木霊する。

「ちくしょう...ちくしょう...!」

護れなかった。
片足を失い、精神を壊され、それでも生きようとしていたみくを。
止められなかった。
御坂がみくを手にかけることを。

雫が床に落ちてはねる。
彼はなにもできなかった。
国家錬金術師。人柱。
そんな肩書きはこの場では無意味だ。
エドワード・エルリックはどうしようもなく無力だった。


『ジョセフ様...』
「...いまのワシらには、どうにもできん」

ジョセフもエドワードと同じだ。
彼も何もできなかった。
御坂の言った支給品がなにかを確認する。
御坂が殺し合いに乗っていることを考慮して拘束しておく。
止める方法などいくらでもあったはずだ。
だが、現実は残酷だ。
ジョセフ・ジョースターはどうしようもなく無力だった。

(いまのワシにできることは...)

ジョセフは踵を返し、エドワードに背を向ける。

『どこへ行かれるのです?』
「ジャックと杏子を探しにいく。彼らが苦戦しているのなら手を貸さないわけにはいかん」
『エドワード様は...』
「いまは一人にしておいた方がいい...が、万が一のこともある。もし彼が現実に耐え切れず自殺でもしようものなら...」
『...わかりました』

ジョセフはみくのことについてはほとんど知らない。
薄情とも思われるかもしれないが、悲しみの度合いはエドワードに比べれば低い。
そのため、この場で一番動けるジョセフが彼らを探さなければならないのだ。
階下からは何の音も聞こえない。
戦いは終わったのか、それとも膠着状態でいるのか。
無事に勝てていればいいが、そうでない時は...

(いずれにせよ、用心せねばな)


445 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:26:05 Aq1j5D5U0


足音を殺し、物陰に隠れながら棟内を確認するジョセフ。

(酷い有り様じゃわい...)

崩れた壁、ひび割れた床に天井...
どれほど暴れ回ればこれほど荒れるというのか。
電気系統も壊れているようで、薄暗く奥まで見通すことができない。

(念写が使えればいいのだが...文句ばかり言っておれんな)

ゆっくりと、身をかがめながら曲がり角に差し掛かったときだ。


―――カツン カツン カツン

足音がする。
おくびも警戒心を抱かず、自分がここにいるとアピールしているかのような足音だ。

(まさか後藤か?)

足音は一つ。
ジョセフが認識しているのは、ジャック、杏子、後藤の三人。
ジャックも杏子も、DIOに対してはいい印象を持っていないようだった。
ともすれば、DIOも警戒対象に入っているはずであり、なにより足音が一つだけなのは考えづらい。
となると、敵陣においてもこうも悠々と歩けるのは消去法で後藤となる。

(二人は負けたということか...?クソッ!)

もしこの足音が後藤であるならば、また二つの若き命が失われたことになる。
あの時杏子たちに後藤を任せたことは正しかったのか。その答えを知る者は最早いない。
二人の仇をとってやらねばと思う反面、自分一人では勝ち目がないとも思う。

(逃げることは可能、だがな)

いまのジョセフに使える物には、シャボン玉セットがある。
シーザー程練られたものではないが、さやかの時と同様に波紋を流して使用すれば時間稼ぎにはなる。
その隙にエドワードのもとへ辿りつき、彼と共に撃退ないし脱出すればいい。
近づいてくる足音に対してジリジリと後退しながら、シャボン玉とハーミット・パープルを使えるよう準備だけしておく。
だが、万が一別の者であればシャボン玉を無意味に消費するのは好ましくない。
どの道、まずは拘束すべきだろう。
足音が曲がり角に差し掛かるタイミングを見計らい、スタンドを行使する。

「ハーミット・パープル!」

人影に茨が迫る。
暗がりでハッキリとは見えないが、後藤ほどは背丈が大きくないように見える。
人違いか?などとジョセフが思った瞬間。


―――全てが、凍った。


446 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:26:52 Aq1j5D5U0
「は...?」

それは一瞬だった。
スタンドが突き出した右手と共に凍らされたかと思えば、床も天井も、一瞬にして凍りついたのだ。
逃げようにも、氷に足をとられて身動きができない。

(ジャック...?いや、違う。彼は水分が無ければ能力を発動できんと言っていた。それに、こんな能力が使えるのなら後藤にもひけをとらないはずだ)

氷の上を人影が歩いてくる。
人影は、手を伸ばせば届くほどの距離で動きを止めた。
ここまで近づいてきてようやくジョセフは人影の正体を認識できた。
ジョセフが彼女に抱いた印象は、氷のように美しい女。

「私に攻撃してきたということは...お前がここで暴れた者と判断して間違いないな」

聞き惚れそうな透き通る声で、女はジョセフに声をかける。

「...あ〜、驚かせたのはすまんかった。このままでもいいから、事情を話させてくれんかのう」

身動きがとれない状態に内心冷や汗をかきつつ、ジョセフは冷静に交渉する。
本当ならすぐにでも拘束をといてほしいものだが、非があるのは先に攻撃した自分だ。
不必要にこちらが有利になるように持ち掛ければ警戒が強まるのは当然であるため、あえて自らが不利な状況での対話を望んだ。

「わかった。話してもらうぞ」

女がパチンと指を鳴らすと、ジョセフの右腕と両脚の氷が弾けてとんだ。
あっさりと解放されたことを意外に思いつつ、ひとまず礼を言おうとした矢先だ。

「ただし、私の暇つぶしに付き合った上でな」

突如女はジョセフの顔面を掴み、床へと押し倒した。

「ぬおっ...!」
「悪く思うな。ここに連れてこられてから、興味深いことは多くあったがちょっぴり退屈していたんだ」

倒されたジョセフの両手両足が再び氷で拘束される。

「だ、だから事情は話すと言って...」
「それが真実かどうかは別問題だ。故に、徹底的に搾り取ってやる」
(こ、コイツのこの目...イカレてやがる、クレイジーだ!)

女が浮かべているのは笑顔。その目は、獲物を見つけた肉食動物よりも鋭く、今まで見てきたドス黒い悪とも違う濁りに包まれている。
その目と女の言葉から、ジョセフは直感した。
こいつがやろうとしていることは、尋問という名の拷問であり、こいつはそれを愉しみながらやりのける危険な女だということを。


447 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:27:52 Aq1j5D5U0
「さて...そうだな。まずは、手から出した茨について聞こうか」

女は、氷で作った剣をジョセフの右目に向ける。

(マズイ、このままでは非常にマズイ!)

身動きのとれない現状。
逆らえば殺される。
逆らわなくとも拷問される。
どうすればいい、どうすればこの場を切り抜けられる...!

「この後に及んでなお諦めていないか。だが、それもいつまで続くかな」

必死に頭を回転させるジョセフだが、女はそれを待ってはくれない。
剣はジョセフの右目へとゆっくり近づき...




「エスデス、誰かいたのか?この氷は普通ではないが...」

どこか聞きなれた声が曲がり角から聞こえる。

「見ろアヴドゥル。賊を一人掴まえたぞ」
「あ、アヴドゥルじゃとぉ!?」
「その声...ジョースターさん!?」

氷の上を滑りそうになりながらも、人影がジョセフへと駆け寄ってくる。
そのがっしりとした体格に、凛々しい眉、厚い唇は、間違いなくジョセフの戦友モハメド・アヴドゥルのものだった。

「やはりジョースターさんか!エスデス、拘束を解いてくれ。彼は私の仲間なんだ」
「そうか...だが、本当にこいつはお前のいう『ジョースターさん』か?」
「なに?...ああ、そうか。そうだったな」
「な、なんじゃアヴドゥル。どういうことじゃ?」

勝手に納得するように話す二人に、さしものジョセフも困惑の色を示す。

「ジョースターさん、スタンドを見せてもらえませんか?」
「それは構わんが...この氷が邪魔でのう」
「エスデス、腕の部分だけ拘束を解いてくれ」
「こいつのスタンドとは、先程の茨のことか?」
「そうだ。なら、この人は間違いなく...」
「姿かたちだけなら模倣は難しくない...そうだろう?」
「む、むう...しかし、念写してもらおうにもここにはテレビのようなものはない」

会話の内容から、どうやら他人に変装している者がいるということだけはわかった。
しかし、スタンドですら証拠にならないというなら、どうやって本物であることを示せと言うのか。


448 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:29:31 Aq1j5D5U0
「...ジョースターさん。我々は、カイロでついにDIOの館を見つけ、突入しようとしてここに連れてこられた...そうですね?」
「...?なにを言っておる。確かにカイロであると見当はついておったが、ワシらはまだ奴の居場所を突き止めておらんかったじゃろ」
「!貴様...偽者か!エスデス、このまま押さえていろ。こいつは私が焼き尽くしてやる!」
「なんでそうなるんじゃあ!?」

自分はDIOの館を見つけていない。
アヴドゥルはDIOの館を見つけている。
この意見の食い違いから、ジョセフはサファイアの言う『平行世界』の可能性に思い当たる。
容姿から立ち振る舞いに言動まで、間違いなく目の前の男はモハメド・アヴドゥルである。
しかし、彼がDIOの館を見つけたという、未来の時間軸から連れてこられたとすれば、この食い違いにも納得できる。
問題は、アヴドゥルはその可能性を知らないということだ。
知らなくても当然だろう。音ノ木坂学院にあれほど参加者が集まったというのに、平行世界の存在を知っていたのはサファイアだけだったのだから。

「い、いいか。落ち着いて聞けアヴドゥル。平行世界というものがあってだな...」
「訳の分からないことで誤魔化すつもりか...そうやってまどかの時のように人を欺き手にかけようという腹だな!?」
(やっ、やっぱりこうなるのォ〜?チクショウ、広川!お前のくだらない仕掛けはこれを狙っていたのなら予想以上の効果をあげたぞッ!...ん?いま、まどかと言ったか?)
「アヴドゥル。お前いま、まどかと言わなかったか?」
「そうだ。貴様も放送で知っているだろうが、彼女は奇跡的に生き延びたのだ。涙ながらに教えてくれたぞ、貴様の外道染みた行為をな...」
「誤解だ。儂は彼女の友達から聞いただけじゃ!」
「言い訳はそれだけか...『マジシャンズ・レッ』」
「落ち着いてください、アヴドゥルさん」

怒るアヴドゥルを止めたのは、ジョセフの話術でもエスデスでもなく。
遅れてやってきた、まるでコスプレのような鎧や盾を身にまとった男性だった。


「これだけの情報で決めつけるのは早計ではありませんか?」
「ヒースクリフ...しかし」
「...ジョースターさん。その友人からは、まどかのことをなんと聞いていますか?」
「心優しい少女だと聞いておるよ。容姿の方は念写で見させてもらったが、桃色の髪のツインテールで小柄な少女だ」
「友人の名は?」
「美樹さやか」
「...アヴドゥルさん。彼があなたのいうジョセフ・ジョースターであるかどうかはわかりませんが、まどかを襲った犯人かどうかを論じれば高確率で『シロ』です」
「な、なぜだ?」
「犯人はまどかに名乗る暇すら与えずに襲撃した...つまり、彼女については知らないはずです。そんな男が『まどかを殺した』と認識した後に彼女の友人と遭遇しまどかの容姿を知れば、取るべき行動は限られてくる」
「ボロが出ない内に始末する...か?」
「ええ。しかし、美樹さやかの名前は放送で呼ばれていない。つまり生きているということです。尤も、状況が許さなかったか、まどかが生きていると知り、美樹さやかと遭遇される前に殺してここまで来た可能性も無きにしも非ず、といったところですが...それを言い出せばキリがない」
「ならどうしろというんだ」
「もっと単純なことでいいのでは?例えば、自己紹介などどうでしょうか。即席で趣味まで模倣するのは難しいと思います」


449 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:31:13 Aq1j5D5U0
アヴドゥルは、顎に手をやりしばし考え込む。
やがて顔をあげ、ジョセフに問いただした。

「...名前に生年月日、それに趣味をお願いします」

まるで日本の面接だな、と思いつつジョセフは答えた。

「ジョセフ・ジョースター。一九二〇年九月二七日生まれ、妻の名まえスージーQ、趣味・コミック本集め」
「一九八一年の映画『類人猿ターザン』の主演女優は?」
「ボー・デレク」
「『今夜はビート・イット』のパロディ『今夜はイート・イット』を歌ったのは?」
「アル・ヤンコビック」

やけに自信満々に答えたジョセフの口にした名に、エスデスとヒースクリフの二人は首を傾げる。

「誰だそいつらは...ヒースクリフ、お前は知っているか?」
「いえ。聞いたことがあるような、ないような...」

そんな二人をよそに、アヴドゥルは納得したかのように振り向いた。

「本物のジョースターさんのようだ。あんなことを迷いもせずに答えられるのは彼くらいだ。エスデス、氷を解いてくれ」

おもちゃをとられた子供のような不満げな表情を浮かべつつも、仕方あるまいと呟き、ジョセフを拘束していた氷を解除した。



「ふぃー、助かったわい。ヒースクリフと言ったか、礼を言おう」
「いえ、お構いなく」
「すみません、ジョースターさん」
「気にするな。お前も、ロクな目に遭っとらんのじゃろう」
「ジョセフ・ジョースター。お前はここに一人でやってきたのか?」
「そういうわけではないんじゃが...ううむ、どこから話せばいいものか」


450 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:32:05 Aq1j5D5U0
どうしたものか、とジョセフは考える。
この氷使いの女はエスデス。タツミからは、危害は加えないかもしれないが少々厄介な奴だと聞いており、自分もそれを実感している。
アヴドゥルが共に行動していることから、ゲームに乗る者ではないのはわかるが、いまの状態のエドワードに会わせてもいいものか...
そんなことを考えていた時だ。


「無事か...おっさん」

ジョセフの背後から聞こえたエドワードの声。
ジョセフはもう立ち直ったのかとも思ったが、エドワードの姿を見てすぐに考えを改める。

「ワシは大丈夫だが...きみこそもういいのか」
「...ずっと止まってるわけにもいかねえよ」

どうにか己の足で歩いてはいるが、その目には先刻までの生気は宿っていない。
無理をしているのは誰の眼から見ても明らかだ。

「お前がジョセフの同行者か。ならば洗いざらい話して貰うぞ、今までのこと、そしてここでなにがあったかをな」

だが、そんなことなどお構いなしとでも言うように、エスデスはエドワードに命令する。
エドワードは、短く「ああ」と頷き、彼女の用件にしたがい、近くの部屋での情報交換を提案する。
その様子を見たジョセフは、なんとなくエスデスを気に入らないと思い、アヴドゥルに視線を移した。

「...私だって、苦労しているんですよ」

ジョセフの視線の意図を察したアヴドゥルは、深く溜め息をついた。





背もたれのついた椅子が五つ並べられる。
一つの椅子を中点として、四つの椅子が半円状に並べられる。
中点にはエスデスが座り、部屋の入口に近い順からエドワードとサファイア、ジョセフ、アブドゥル、ヒースクリフの順に座る。
喋るステッキサファイアの存在にはさしもの三人も困惑や興味の色を示したが、いまは情報交換を優先すべきだろうというサファイア自身の進言により、どうにか質問攻めからは逃れる。


451 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:32:58 Aq1j5D5U0
「さて、ジョセフ・ジョースター。まずはここで起きたことを話してもらおうか」
「構わんよ」

ジョセフは語る。エドワードと御坂との遭遇。後藤、DIOとの戦い。そして御坂の裏切りを。

「DIOがここに...」
「なんとか撃退することはできたが、トドメは刺せておらん。追おうにも、みくや御坂のこともあったので不可能だった。それに奴のあの奇妙な能力には迂闊に踏み込むのは自殺行為じゃ」
「奇妙な能力ですか」
「ああ。本当に奇妙な能力だった。突然消えたり、コンマ一秒の差もなく同時に攻撃を叩き込んだり、な」
「―――ほほう」

ジョセフたちの体験に感嘆の声をあげたのはエスデス。
奇妙な能力を聞いて恐怖や困惑の色を浮かべるどころか、興味や好奇心といった感情を醸し出しているのだ。

「どうかしたのか?」
「いいや、なんでもないさ。なんでも、な」

隠すつもりもない笑みを見て、そんなわけないだろうと思いつつ、アヴドゥルはヒースクリフと共にジョセフからもたらされた情報を整理していく。

「後藤ですか...まどかと承太郎からは随分危険なやつだと聞いています」
「!承太郎と会ったのか!?」
「ええ。いまはコンサートホールでまどかと足立と共に待機しています」
「そうか...」
「ただ...棟内を探索中、後藤と奴を引き受けたという二人は見つけられませんでしたが、血だまりの中に白いスーツの切れ端と人間の腕らしきものは見つかりました」
「ッ!...そうか」

白いスーツの切れ端。
間違いない、ジャック・サイモンのものだ。
そして人間の腕ということは...少なくとも彼は片腕を失っている。
そんな状態で後藤から逃げおおせるのは贔屓目に見ても厳しい。
彼の生存は絶望的とみていいだろう。
杏子は脱出した後藤を追ったか、それとも肉の一かけらも残さずに食われたか...
それを知るには後藤本人に会うか放送を待つしかない。
若き命を失ったことに歯がゆさを憶えるが、ギリッと歯ぎしりをすることで感情が爆発するのをどうにか抑える。

「おまえさんたちの方はどうじゃ。こちらとしては承太郎やまどかなど気になることが山ほどあるのだが」
「あの二人とはコンサートホールで合流し、いまは別行動をしている。それだけだ」
「それだけって、おまえさん...」
「お前はここで起きたことを話した。私たちはコンサートホールでのことを話した。これで対等だろう?」
「もっと知りたければこちらから話せということか...仕方ないのぉ」

この座る位置からしてそうだが、エスデスはチームの主導権を握りたいと思う性格らしい。
手順を踏めば主導権を取り返すことはできるかもしれないが、いまはそんなことをしている場合ではないし、余計な問題は起こしたくない。
情報交換を円滑に進めるため、ジョセフはあえてエスデスに主導権を握らせたままにしておいた。


452 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:34:52 Aq1j5D5U0
「ワシはG-7の闘技場で目が覚め、その近辺で美樹さやかと初春という少女と出会ったんじゃ」

一呼吸を置き、タツミの存在を知らせるべきかどうかを考える。
タツミは、彼の仲間であるアカメの名を知らせることは禁句としていたが、彼自身については禁止としていない。
タツミがエスデスを完全に敵だと認識していれば、ジョセフにアカメと同じように扱えと伝えるはずなので、タツミに関して告げることに問題はあまりないと判断する。

「その後、タツミという少年と合流し、ワシと初春、さやかとタt」
「タツミと会ったのか!?」

突然の声に思わず驚いてしまうジョセフ。いや、彼だけでなく他の三人もだ。
当然と言えば当然だ。なんせ、先程までは女王気質にしか感じられなかった彼女の雰囲気が、タツミの名を聞いた途端に一変したのだから。

「あ、ああ...確かに会ったが...」
「タツミは元気だったか?」
「う、うむ。いまはさやかと共に行動しておるよ」
「そうか。ふふっ、タツミのやつめ...こんどこそ逃がさないからな」

ほんのりと頬を染め想いを馳せるエスデス。その様は、乙女が初恋の人に向けるものとしか思えなかった。
他の者、特に彼女にロクな印象を持っていないアヴドゥルにはその様子が殊更異様なものに見えた。
アヴドゥルは、エスデスからはアカメとイェーガーズの名前しか聞いておらず、名簿でみた限りではアカメと関わりのある者だろうなと思っていた程度だ。
いままでエスデスにその考えを伝える機会がなかったが、まさか彼女がタツミという名にこうも反応するとは思ってもいなかったのだ。

「つ、つかぬことを聞くがエスデス。そのタツミという少年とはいったい...」
「私が惚れた男だ」

(惚れた男―――だと!?)

アヴドゥルとヒースクリフに衝撃が走る。
二人のエスデスに対する認識は、戦闘狂のイカれた女だ。
三度の飯より戦争だとでも言いそうな彼女が男に惚れたというのだ。
意外性どころの話ではない。

「...どう思う、ヒースクリフ」
「...まあ、恋愛は個人の自由ですから。そのタツミという少年のことはひとまず置いておきましょう。いまはそれでいいですか、エスデス」
「ああ。あまりに嬉しかったものだからつい、な。ジョセフ、続きを話してくれ」

アヴドゥルはタツミをアカメと同じ暗殺者ではないかと疑っている。
しかし、それを知ってか知らずかのエスデスのこの態度だ。
もしアヴドゥルの懸念が真実であれば、エスデスはどのような反応をするのだろうか。
タツミに対して怒りを燃やすか、この場で暴れまわるか...ロクなことにならないのは容易に予想できる。
それに、タツミが暗殺者であると判明すれば、エスデスは彼の仲間に当たるジョセフにも手を出すかもしれない。
故に、この場はタツミには触れず、後から個人的にジョセフからこっそりと聞こうとアヴドゥルは密かに思った。

尤も、エスデスは気に入った相手は過去に構わずスカウトするような人間だ。
ましてや、惚れた男相手なら尚更自分の物にしようと情熱的になればこそ、アヴドゥルの懸念するようなことにはならないのだが、それを彼が知る由はない。


453 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:37:19 Aq1j5D5U0


それからジョセフは、音ノ木坂学院での一件、そしてこの能力研究所での一件について語り、次いでエドワードが温泉近辺での出来事を語った。
その後、アヴドゥルが己の知り得る情報を開示していく。
エスデスと別れ、仲間を集めていたこと。
花京院の偽者と思しき男がまどかを殺そうとしたこと。本物と思われる花京院がほむらをエスデスから助けたこと。
どうにか生き延びたまどかは承太郎が保護し、いまは足立とコンサートホールで待機しているということ。
魏志軍という男の襲撃もあったが、無事欠員や重傷もなく撃退できたこと。
これだけなら不安要素などさほどなかった筈だ。そう、『参加者が異なる時間から呼び寄せられている可能性』を知らなければ。

(イヤな予感が当たってしまったか...!)
「ふむ...情報を整理すると、現状警戒すべき悪はDIO、後藤、魏志軍、エンブリヲ、サリア、御坂美琴。保留で佐倉杏子といったところか」
「いや、警戒対象には花京院もいれてくれ。...アヴドゥル。慌てずに聞け。そのまどかを撃ったという花京院は本物の可能性が高い」
「!?そんなバカな、彼がそんなことをするはずが...!」
「わかっておる。だが、彼にはそれをやりかねない時間があるのだ。サファイア、説明してくれ」
『わかりました。平行世界...というものをご存じですか?』
「SF小説などでもよく題材に使われるパラレルワールドのことですか」
『その認識で間違いありません。広川は殺し合いを円滑に進めるために同じ世界の参加者でも異なる時間から連れてきている可能性が高いのです』
「つまりは、どういうことなんだ?」
『花京院さんは、一時期肉の芽というDIOの細胞によりあなた達の敵だったと聞いています。彼はおそらく、承太郎様に敗北する前の、その肉の芽がつけられている時間から連れてこられたのだと思います』
「...!だ、だがそれではエスデスからほむらを守ったというのは矛盾するのでは」
「いいえ、矛盾ありませんよ」

時間軸がどうであれ、花京院がまどかを撃ったことを認めたくないアヴドゥル。
反論したのは、彼の同行者であるヒースクリフだった。

「もし花京院が偽物であった場合、まどかを攻撃した際の状況が成立しないんですよ」
「どういうことだ」
「偽者を騙るメリットは、そのモデルに殺意を押し付けられることです。つまりそれには名乗りはもちろん、モデルが殺し合いに乗ったことを広めるスピーカー役が必要となります。
ですが、花京院はそのどちらもすることなくまどかを殺しにかかった。...彼女の名前すら聞かずにね。わざわざスタンドの模倣までして花京院の悪評を広めるには、効率が悪いとは思いませんか?」
「だ、だがそれではほむらを庇った理由は...」
「それがほむらを庇ったのではなく利用するためだとしたら?まどかの殺害は支給品を増やすためだけのものであり、それからは他の参加者に紛れて殺人を繰り返すつもりだったとしたら?」
「...!」
「また、本物の花京院自体が全く別の場所にいて、偽物の花京院がエスデスを攻撃したとしても、彼女に名乗ることすらしないのは不自然なんですよ。アヴドゥルさん、あなたがあれほど警戒する力の持ち主なんでしょう?
花京院を追いこむのにこれ以上ない人材のはずです。なのに一度たりとも名前も姿も明かさなかったというのは...」
「なんということだ...このままでは承太郎たちが危ない!」

椅子から立ち上がるアヴドゥルの手を掴み、ジョセフがどうにか諌めようとする。

「落ち着くんじゃアヴドゥル!」
「ですがこのままでは!」
「いえ、彼は大丈夫でしょう」

動揺するアヴドゥルとは対照的に、ヒースクリフはあくまでも冷静に見解を述べる。


454 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:38:55 Aq1j5D5U0

「承太郎は私たちと合流する際に、偽物であることよりも肉の芽について警戒をしていました。つまり、彼は花京院が肉の芽に操られている可能性も忘れていないということです。
それに、彼は花京院に勝っているのでしょう?手の内を知り尽くしている相手です。多少は苦戦しても、易々と敗北することはないでしょう」
「そ、そうか...」
「...ただ、心配なのはむしろ花京院です」

一度は収まりかけたアヴドゥルの動揺が、再び色濃くなっていく。

「まどかは花京院に致死寸前にまで追い込まれました。それだけでなく、先輩の死で精神が不安定になっています。
もし、そんな彼女が花京院と遭遇すれば...もし、花京院に承太郎や足立が追い詰められれば...」
「――――ッ!」

その先は考える間でもないと言わんばかりに、アヴドゥルが部屋の入口へ駆け出そうとする。

「ジョースターさん、すぐにコンサートホールへと戻りましょう!」
「待て、勝手な行動を」

するな、と言葉を繋ぐ前に、ジョセフの背筋が一瞬で凍りつく。
殺気だ。エスデスの放った殺気がジョセフの足を縫いとめたのだ。

「ジョセフ、事情は後で説明してやる。ヒースクリフ、グリーフシードとやらはまだあるか?」
「ええ」

ヒースクリフはデイパックからグリーフシードを一つ取り出し、アヴドゥルに投げ渡す。

「アヴドゥル、そのグリーフシードを持ってすぐにコンサートホールへ戻れ。手遅れにならんうちにな」
「うっ...し、しかし」
「早く行け、まどかたちを殺したいのか?...約束だ。私はこいつらを殺さん。こいつらには別の仕事を任せるだけだ」
「...その言葉、嘘じゃあないだろうな」
「二言はない」

アヴドゥルは、横目でジョセフに視線を送ると、ジョセフはそれに無言の頷きで返す。

「...この場は信じるからな」

アヴドゥルは一人部屋から走り去っていく。
ジョセフは内心止めたいと思っていたが、エスデスの刺すような視線により断念をせざるを得なかった。

「お前さん...どういうつもりじゃ」
「余計な邪推をするな。私は自分の駒は裏切らないだけだ」
「ならばなぜワシらを止める」
「お前達には別の仕事があるといっただろう。...ヒースクリフ、私は少し席を外す。アヴドゥルが焦っていた理由を教えておけ」

頷くヒースクリフを確認すると、エスデスはジョセフたちには一瞥もせず部屋から姿を消した。


455 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:40:28 Aq1j5D5U0
「...先程、魏志軍という男に襲撃されたと話しましたよね。その際、まどかは彼を殺そうとしたんです。承太郎とアヴドゥルさんを囮にね」
「なんじゃと?さやかからは優しい子だと聞いておるが...」
「おそらく、彼女もそんなつもりはなかったでしょう。しかし、先輩の死に続き再び殺されかけたんです。...彼女も、必死だったに違いありません。その行動の結果が、二人を囮のように扱ってしまったとすれば不思議ではありません。
だからエスデスは、まどかと一番信頼関係が築きあげられている承太郎、感性が一般人に最も近い足立をコンサートホールに残したのです。私がこちらにいるのはまあ...数合わせです。自分が負担になっているとまどかに思わせないためのね」
「そういうことか...なら、ワシらもすぐにアヴドゥルと共にコンサートホールへと戻ろう」
「それはできません。エスデスはあなた達に『仕事を与えるからここで待っていろ』と言いました。これを破れば、あなた達は敵とみなされ厄介なことになるかもしれません」
「しかしじゃな...」
「このままあなた達がいけば、私は彼女の怒りを買い殺されるかもしれない...お願いです、もう少しだけ待っていてください」

ジョセフからすれば、殺し合いに乗っていなくとも危険人物であるエスデスの言うことなど聞くいわれはない。
しかし、懇願するように頼み込むヒースクリフの表情は本気だ。
エスデスはこのままジョセフたちを逃がせば、ヒースクリフを殺すだろう。

「...あんたらがここに来るまで、何事も無かったんだよな」

今まで口数の少なかったエドワードが尋ねる。

「ええ。コンサートホールからここまではさして苦労もありませんでした」
「だったらよ、あのアヴドゥルって人はコンサートホールまでは危険な目に遭う可能性は低いってわけだ」
「む...確かに、後藤やDIOがコンサートホールの方面に逃げていれば必ずすれ違うはず...」
「待とうぜ、ジョースターさん。わざわざヒースクリフさんを危険な目に遭わせる必要はねえよ」

そう言った彼の眼は、先程よりは生気を取り戻していた。
時間をおいたのが利いたのだろう。精神的な疲労はまだ見えるが、会ったばかりの他者にも気を遣える程度には冷静さを取り戻していた。

「ありがとうエドワードくん。すみません、ジョセフさん」
「仕方あるまい...お前さんも、だいぶ苦労しているようだしな」

三人はひとまず席に着き、それきり言葉を発することなくエスデスの帰りを待った。
五分程経過しただろうか。
ドアを空けてエスデスが姿を現した。

「待たせてすまなかったな。ジョセフ、エドワード。お前達はこっちの解析を頼む」

入って来るなり、エスデスはジョセフとエドワードに円状の物を投げ渡す。

「っとと...なんじゃこれは」

ジョセフ達が渡されたのは、金属だった。
その形状から、これは皆に着けられている首輪であることをジョセフは察した。
だが、彼らはロクに交戦しておらず、首輪を手にするには誰かを殺さなければならないはずだが...


456 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:41:40 Aq1j5D5U0
「―――おい」

エドワードがエスデスを睨みながら口を開く。

「あんたらは此処に来るまで誰も殺してないって言ってたよな」

その声には、怒りが、敵意が隠すことなく込められている。

「だったら、この首輪はどこから持ってきやがった」

エスデスはその怒りも敵意もどこ吹く風といった表情で言い放った。

「サンプルならすぐそこにあっただろう」

瞬間、エドワードが掴みかかろうとエスデスに肉薄する。
彼を突き動かしたのは純粋な怒りだ。
エスデスに掴みかかる寸前で、しかしそれは背後から肩を掴まれ遮られる。

「落ち着いてください」

エドワードを取り押さえたのはヒースクリフ。
それを見たジョセフは目を見張る。

(速い...!)

一番近くにいたジョセフでさえ、エドワードを取り押さえるには至らなかった。
だが、エドワードが跳びかかることを想定していたとしても、それなりに経験を積んだだけの人間とは思えない程に素早かったのだ。
ジョセフからしてみれば、さやから魔法少女にすら匹敵するほどに見えた。

エスデスが、動けないエドワードを見下す。

「なにを憤っている。奴らは死んだ。なら、死体をどう扱おうが私の勝手だろう」
「だからって...!」
「呆れたやつだ。人間は死ねばそれだけの肉塊だ。そんなこともわからないのか」

エドワードは言葉を詰まらせる。
人間の身体など水、炭素、アンモニア、石灰、リン、塩、硝石、イオウ、マグネシウム、フッ素、鉄、ケイ素、マンガン、アルミニウムと幾何かの元素の合成物でしかない。
エスデスの言葉は極端ではあるが、かつてエドワード自身が幼い頃の修行で得た答えと似通ったものだ。
だが、それでも弔うこともせずに平然と遺体を辱める行為と言動にエドワードは怒りを覚えずにはいられなかった。


457 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:42:50 Aq1j5D5U0
「...ふっ。どうあっても納得できないようだな。だが...」

エスデスがエドワードの頬を掴み、顔を近づける。

「奴らがこうなったのはお前が弱かったからだ、エドワード・エルリック」

エスデスの冷たい吐息が、視線が、言葉がエドワードに降りかかる。

「憶えておけ。弱者は何をされようが文句は言えない。私の行動を否定したければ、強くなってみせろ」

エスデスとエドワードの視線が交差する。
やがて、エスデスはエドワードの頬から手を離し、踵を返した。

「これ以上ここにいても意味はないな。行くぞ、ヒースクリフ」

名前を呼ばれたヒースクリフは、エドワードから手を離し、エスデスの後を追う。

「待てよ」

投げかけられるエドワードの声に、エスデスの足がピタリと止まる。

「こんな状況だ。あんたのやったことも間違ってないのかもしれない」

エドワードの一挙一動に対して、いつでも反応できるようにジョセフとヒースクリフは互いに動ける準備をする。

「だが、やっぱりあんたは気に入らねえ」

言い放つエドワードの眼には、確かに敵意や怒りが宿っている。
しかし、彼はそれ以上エスデスをどうすることもなく、部屋が静寂に包まれる。
やがて、エスデスは小さく笑みをこぼすと、再び歩きはじめた。

「ここから先はお前達の好きにするといい。また会おう、エドワード・エルリック。それにジョセフ・ジョースター」

片手をあげ去っていくエスデスに続き、ヒースクリフもまたエドワードたちに会釈をして部屋から立ち去った。


458 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:44:45 Aq1j5D5U0



「さてと。これからの方針だがな、私は北へ行こうと思う」

能力研究所の裏口で、エスデスはヒースクリフとこれからの方針について話し合っていた。
話し合うと言っても、エスデスが一方的に決めているだけであるのだが。

「ふむ...しかしここから北ですと、範囲が随分と狭いですが...」
「だからこそだ。DIOは手傷を負っているのだろう?となれば、なるべく参加者との接触を避けたいと思うはずだ」
「故に北、ですか...しかし、アヴドゥルさんたちの到着を待たなくてもよろしいのですか?」
「奴の能力を聞いたら俄然戦る気が湧いてきた。奴との戦いは一人で集中したい。お前がアヴドゥルを遠ざけたのもそれが理由だろう?」

瞬間、ヒースクリフは木々がざわめき小鳥が逃げ出す錯覚を覚えた。
エスデスの眼光が鋭くなり、ヒースクリフの背筋に怖気が走る。
だが、彼はそれを恐怖とは思わない。

「...はて、なんのことでしょうか」
「とぼけるなよ。花京院の件について、お前はわざと奴が本物である可能性を強調していた。アヴドゥルをコンサートホールへ戻らせるためにな。
お前は他人の能力についてえらく関心を持っていたようだからな。DIOの能力を聞いたときの私の反応を見て、思ったんだろう?『奴らの戦いを見てみたい』とな」
「......」
「アヴドゥルやまどかのように他人の能力を警戒するのではない。しかし、足立のように腹に一物を抱えているわけでもない...他人の能力を知ってお前はなにがしたいんだ?」

一歩間違えばエスデスに命を刈り取られかねない状況。
しかし、エスデスの問いに、彼は笑みを浮かべている。
彼は、エスデスのような戦闘狂ではない。かといって、この状況で気が触れたわけでもない。

「私はただ興味があるだけですよ。私の知らない未知の存在にね」

彼は、ただ知りたかった。
科学者としての好奇心。
ゲームクリエイターとしての創作意欲。
湧き上がってくる少年のような好奇心。
彼はそれらを満たしたかった。
主催に接触しようという彼の目的も、己の欲求を満たすための手段の一つにすぎない。
いまのヒースクリフ―――否、芽場晶彦にとってこのバトルロワイアルはそれが全てだった。

彼の答えを得て、エスデスは小さく笑みをもらす。

「お前も変わったやつだ...己の欲望を満たすためなら、手段を択ばない。それが自らを危険に晒すことになろうともな」
「それはあなたも同じでしょう」
「違いない」


エスデスと芽場晶彦は、互いにくすくすと笑い合い、やがて笑いが収まると北へと向かって歩き出した。


459 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:46:10 Aq1j5D5U0
エスデスはほくそ笑む。

(DIOの能力は間違いない...時間停止だ)

よもや、一日に二度も同じ領域に踏み込んだ者たちに遭遇するとは、夢にも思っていなかった。
平行世界だかなんだか知らないが、自分のいた世界ではこんな体験はできなかっただろう。

(おまけにDIOは私と違い、何度も時間を止められるらしい)

今度ばかりは死ぬかもしれないな、と思いつつも、彼女の笑みは未だに絶えない。

(そうだ。極限までの命のやり取りこそが真の闘争だ。さあ、どちらかがくたばるまで楽しませてくれよ、DIO)

勿論、彼女は負けるつもりなど微塵もない。
そして、DIOを殺した後も彼女の戦は終わらない。
とにかく出会う参加者たちと戦いを挑み、気に入れば勧誘し、そうでなければそのまま殺す。
そのためにわざわざエドワードを挑発し、アヴドゥルを一人戻らせたのだ。
首輪を外させることもそうだが、それ以上に闘争の火だねとなればこれほど嬉しいことはない。
欲をいえば、前川みくの首切りをエドワードにやらせたかったが、あまり遊んでいてはDIOを逃がしてしまう可能性がある。
アヴドゥルを先にコンサートホールへ向かわせたのも、楽しみが減るのを防ぐためだ。
コンサートホールにいる者たち、特に承太郎はこのまま自分と相容れるとは考えにくい。おそらく終盤までには確実に離反するだろう。
闘争の火だねはまだまだ多い。
DIOとの戦いからが、自らにとってのバトルロワイアルが始まることをエスデスは確信する。



そして、彼女を迎えるように雷鳴が鳴り響く。

(どうやら、私の読みは当たったらしい)

研究所での闘争には乗り遅れてしまったが、今度こそ逃すわけにはいかない。
距離からして、急げばさして時間はかからないだろう。

「急ぐぞヒースクリフ。今度こそ愉しい戦に乗り遅れんようにな」



【F-2/一日目/昼】


【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:健康、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限あり)×2@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品(確認済み)(2)  ノーベンバー11の首輪
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:もっと異能を知りたい。見てみたい。
1:要所要所で拠点を入れ替えつつ、アインクラッドを目指す
2:同行者を信用しきらず一定の注意を置き、ひとまず行動を共にする
3:神聖剣の長剣の確保
4:DIOに興味。安全な範囲内でなら会って話してみたい。 エスデスとの戦いを見てみたい。
5:キリト(桐ヶ谷和人)に会う
6:花京院典明には要警戒。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。
※平行世界の存在を認識しました。


【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:健康 
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:DIOと戦うために北へ向かう。見つからなければコンサートホールへと戻る。
1:DIOの館へ攻め込む。
2:クロメの仇は討ってやる
3:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
4:タツミに逢いたい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。
※足立が何か隠していると睨んでいます。
※平行世界の存在を認識しました。


460 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:47:54 Aq1j5D5U0
エスデスたちが北上するのとほぼ同時刻、ジョセフとエドワードは研究所の入口から外へと出た。

「みくという子の埋葬はいいのか?」
「...確かにしてやりたいけど、あんたの仲間を追うのが先だ。早く行こう」

先刻よりはだいぶ立ち直ったように見えるエドワードの言葉に、ジョセフは頷きで返す。
狙ってやったのかどうかは知らないが、エスデスの言動はエドワードに火を点けてしまったらしい。
尤も、エスデスのそれは、スポ根漫画によくある敢えて悪役を演じて鼓舞するものではなく、単純に本人が愉しみたい故のものであるだろうが。
とにかく、アヴドゥルの後を追おうとした矢先のことだった。

「ムッ!?」

北部で雷が鳴り響く。
この晴れ渡った空で雷が落ちることなどありえない。
ならば、一体だれが。心当たりはひとつしかない。


「...ジョースターさん。やっぱり、あいつをこのまま放っておくわけにはいかねえよ」

エドワードがポツリと呟く。

「御坂...じゃな」
「ああ。あいつ、あのままだと絶対に止まらねえよ」

そういうなり、エドワードはいきなり両手を合わせ

「ぬおおおおお!?」

ジョセフとエドワードの間に、隆起した壁が立ちふさがる。

「あんたはあのアヴドゥルって人とコンサートホールに行ってくれ!あいつは俺が止める!」
「待つんじゃエドワードくん!」

ジョセフの呼びかけに答えず、エドワードが走り去っていく。
先手を取られた。
エドワードが『あいつを放っておくわけにはいかない』と言った瞬間、ジョセフは彼が単独行動に出る可能性を察していた。
そのため、いつでもスタンドを出せるようにしておいたのだが、エドワードはそれすらも読みきり、錬金術を用いてジョセフから離脱した。

(くっ...どうする、どうすればいい!?)

彼を放っておくわけにはいかない。
しかし、それはコンサートホールの方も同じだ。
コンサートホールか、エドワードの後を追うか。
彼の選択肢は―――


461 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:50:50 Aq1j5D5U0


『奴らがああなったのは、お前が弱いからだ』

エスデスの言葉が脳内で反芻される。

(そうだ。みくが死んだのは、あいつにみすみす殺させちまったのは俺の責任だ)

彼女達だけではない。
後藤に殺されたと思われるジャック・サイモン
エドワードと彼は、交わした言葉も少ない。ただ、みくの居場所を教えてもらっただけの間柄だ。
だが、それでも命が失われたという事実は彼には重い。
自分が後藤と共に戦わなかったせいで死んだとすれば...いや、事実そうなのだろう。
エドワードの左拳が悔しさで握り絞められる。

(...だからって、これ以上死人を増やしてたまるかよ!)


だが、ここでエドワードが膝を折るわけにはいかない。
今までもそうだった。
かつて、自分達が追い求めたものの巻き添えで殺された男がいた。
彼の家族は悲しんだ。彼女たちに糾弾されるのは当然だとすら思っていた。
だが、彼女達は糾弾するどころか、悲しみに耐えながら言ってくれた。
ここであなた達が諦めれば彼の死は無駄になる、自分達の納得する方法で前へ進めと。
今回もそうだ。
ここで全てを諦めれば、それこそみくたちやジャックの死を無意味なものとなってしまう。
エドワード・エルリックに出来るのは、いくら無力感に打ちのめされようが、どれだけ泥にまみれようが、己の信念を貫き成し遂げようと前へ進むことだけだ。

(俺のせいで殺しに乗ったってんなら、これ以上殺すってんなら、百万発ぶん殴ってでも止めてやる。首を洗って待ってやがれ、御坂美琴...!)

『鋼』の二つ名を与えられた国家錬金術師、エドワード・エルリック。
爆弾狂、ゾルフ・J・キンブリーすら認めた彼の『殺さない』覚悟は、このバトル・ロワイアルという非常な現実の中でもまだ折れていない。


【F-2/一日目/昼】

※能力研究所内に、前川みくの死体(首切断)、食蜂操祈(ミイラ体、首切断)、ノーベンバー11の残骸が放置されています。


【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中〜大) 、ダメージ(大)
[装備]:いつもの旅服。
[道具]:支給品一式、三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、市販のシャボン玉セット(残り50%)@現実、テニスラケット×2、
カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ(アサシン2時間使用不可)、ドミネーター@PSYCHO PASS-サイコパス- 食蜂操祈の首輪
[思考・行動]
基本方針:仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡吹かせる。
0:アヴドゥルを追いコンサートホールへと戻るか、エドワードの後を追うか...
1:仲間たちと合流する
2:DIOを倒す。
3:DIO打倒、脱出の協力者や武器が欲しい。
[備考]
※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。
※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。
※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。
※殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語で認識されると考えています。
※初春とタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※時間軸のズレについてを認識、花京院が肉の芽を植え付けられている時の状態である可能性を考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。



[サファイアの思考・行動]
1:ジョセフに同行し、イリヤとの合流を目指す。
2:魔法少女の新規契約は封印する。


462 : ぼくのわたしのバトルロワイアル ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:53:53 Aq1j5D5U0
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、精神的疲労(大)
[装備]:無し
[道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
不明支給品×0〜2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×4(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ、みくの不明支給品1〜0 前川みくの首輪
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
0:雷のもとへ向かい、御坂をボコしてでも殺しを止めさせる。
1:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したい。
2:エンブリヲ、DIO、御坂、エスデス、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
3:ひと段落ついたらみくを埋葬する。

[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。 関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※エスデスに嫌悪感を抱いています。




アヴドゥルは走る。
道に躓き、転びそうになりつつ、それでも走り続ける。
彼が求めるのは仲間の安否。

(私の嫌な予感はこれだったか...!)

もしも花京院がコンサートホールを襲撃すれば、まどかは恐怖から彼を殺してしまうかもしれない。
そして、まどかが彼を殺せば承太郎はまどかを殺すだろう。
あの場に残っているのは一般人の足立だけ。刑事とはいえ、一般人がスタンド使いと魔法少女を止めることは不可能だ。
つまり、惨劇を止められる者はあの場にはいない。
だが、そんなことはあってはならないのだ。

(早まるなよ、承太郎、まどか、花京院!)


アヴドゥルは冷静ではなかった。
ジョセフ自身が先に行けと促したこともあるが、あれほど警戒していたエスデスにジョセフを預ける形になったのは、心のどこかでエスデスに信頼を置いていたのかもしれない。
一方的な約束ではあったが、キッチリ時間を守り、コンサートホールに承太郎たちを連れてきたこと。
彼女なりに気を遣い、まどかに悲しむ時間を与え、負担にならない編成を組んだこと。
あれほど強大な力を持っているのに、全てを殺しまわるのではなく、一応は主催を倒すことを目的としていること。
危険で厄介な女ではあるが、警戒心の中にほんのわずかにでも『頼もしい』『信用できる』と思う心がなかったとは断言できない。
故に、冷静さを欠いたアヴドゥルは彼女の言葉に従ってしまったのかもしれない。

魔術師は気づかない。
彼の想いを嘲笑うかのように、コンサートホールの方角から煙が立ち昇っていることに。


【E-2/一日目/昼】

【モハメド・アヴドゥル@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、精神的疲労(小)
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、ウェイブのお土産の海産品@アカメが斬る! グリーフシード(有効期限あり)×1@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:殺し合いを止めDIOを倒し広川ら主催陣を倒し帰還する。
0:仇は必ずとるぞ、ポルナレフ、イギー。
1:急いでコンサートホールに戻り、花京院の件を伝えて惨劇を防ぐ。
2:エスデスは相当ヤバイ奴。まどかも危険な匂いがする。
3:ジョースターさん達との合流。
4:DIOを倒す。
5:もしこの会場がスタンド使いによるものなら、案外簡単に殺し合いを止めれるんじゃないか?
※参戦時期はDIOの館突入前からです。
※イェーガーズのメンバーの名前を把握しました。
※アカメを危険人物として認識しました。タツミもまた、危険人物ではないかと疑っていますが、ジョセフと行動していたことから警戒心は薄まっています。
※エスデスを危険人物として認識しており、『デモンズエキスのスタンド使い』と思い込んでいます。
※ポルナレフが殺されたと思い込んでいます。
※この会場の島と奈落はスタンド使いによる能力・幻覚によるものではないかと疑っています。
※スタンドがスタンド使い以外にも見える事に気付きました。
※エスデスがスタンド使いでないことを知りました。
※平行世界の存在を認識しました。


463 : ◆dKv6nbYMB. :2015/09/12(土) 10:54:38 Aq1j5D5U0
投下を終了します。


464 : 名無しさん :2015/09/12(土) 15:10:11 jou9dkU20
投下乙です
色々と状況が動いたな
エスデスとヒースクリフはいいコンビだ


465 : 名無しさん :2015/09/12(土) 19:38:30 hiFqoUFA0
投下乙です

エドはメンタル強いなぁ、御坂を止めてくれ!
ヒースクリフも中々いい味でてる、考察にも期待したいですね

前川みくの死体(首切断)>部下共々絶対許さねえぞ拷問BBA!(憤怒)


466 : ◆QO671ROflA :2015/09/12(土) 21:16:26 POJd6opo0
投下します


467 : インヴォーク ◆QO671ROflA :2015/09/12(土) 21:18:07 POJd6opo0
その男・魏志軍は、極端なまでに疲弊していた。
あの突飛な殺し合いの開幕宣言から数時間足らずの間にも、彼は数々の戦闘行為を繰り広げて来たのだ。
少なくともここまでの戦績としては上々と謂えよう。
現に彼はここまでに全参加者72人中2人の殺害に成功し、数多くの所持品の確保にも成功している。
尤も今日の朝方に流れた広川の《定時放送》によれば、魏が1人殺害した時点での死者数は16人であり、少なくとも15人が魏以外の何者かに殺されているのだが。
そんな魏も自身の本命にして憎き仇敵であるBK201こと《黒の死神》との遭遇は依然として果たせずにいた。

(今頃あの男は一体何処で何をしているのだろう。
このままでは黒の死神との遭遇以前に野垂れ死ぬかもしれない)

疲弊しきった魏志軍の脳裏に倦怠感にも似た不安が過った。



彼の第三の支給品にして先の戦闘で最大の戦力となった《水龍憑依ブラックマリン》なるこの指輪は、水と接する事で本領を発揮するらしい。
しかし魏の手元には、既に攻撃に転用出来るだけの飲料水など残っていなかった。
飲料水は大部分を飲み干し、その上、奪った飲料水の1つは容器ごと破裂してしまっている。
魏の契約能力“物質転送”の本質は「自傷行為」にある。
その自身の血液を媒介とした特殊な能力が故に、考えなしの無暗な契約能力の連続使用は出来ず、彼としてはこのブラックマリンを戦闘で重用する事を決めていた。
そうともなれば彼の目標は容易に定まる。
それは彼の脳裏を過った最も合理的なプランであり、疲弊を押し切り黒に対する執念が勝ったが故の判断。
一刻も早く水源を見つける事だった。



水源の発見は案外容易なものだった。
どうやらここは地図で見たF〜H南部を流れる河川の下流に位置するらしい。
辺り一面には雑木林が生い茂り、まさに自らの位置情報のカモフラージュも可能な休養を取るには最適のスポットであり、同時に死角の多い奇襲を仕掛けるにも最適のスポットであった。
しかし、それは当然の事ながら逆のパターンも有り得る。
いくら水源付近と言えど、既に満身創痍同然の魏が他のゲーム賛同者と対峙したなら高確率で敗北。すなわち殺されるであろう。
ましてやその相手が《黒の死神》ならば、それこそ最も忌避すべき事態だ。
契約者・魏志軍はただただ途方に暮れる。


468 : インヴォーク ◆QO671ROflA :2015/09/12(土) 21:22:22 POJd6opo0
ひとまず辺り一面に生い茂る樹木に腰かけた魏は、ふと先の戦闘で手に入れたあの《黒の死神》に良く似た男の支給品らしき帝具に目をやる。
先の戦闘の様子から察するに、この帝具は能力研究所にあったワープ装置と同じような効果を持つのは間違いない。
使用用途さえ分かれば彼の契約能力とブラックマリンの特性上、最大の防具に変貌するだろう。
魏はその帝具に手をかける。
しかし何ら変化は現れなかった。やはりこの支給品の説明書が奪ったディバックから発見出来なかったのは痛かったようだ。

(この帝具が転移現象を引き起こす直前に紫を帯びた対極図が見えましたね……)

魏はその帝具シャンバラをスタンプを押すかのように空中で軽くプッシュする。

どうやら魏の読みは的中したらしい。
その場に滔々と浮かび上がった対極図はあの時視認した物に相違ない。

(これは一度セット出来ればこの対極図のポイントまで瞬間移動出来るのではないか)

この魏の推測は、その直後から何度も繰り返された数多の実験で明確なものとなった。



この瞬間転移の帝具の使用用途を理解した魏は歩みを進めた。
コンパスによる位置関係的にも、やはり現在位置は支給された地図に書かれている河川の下流と見て間違いない。
そうともなれば、この付近にはカジノがあるはずなのだ。
仮に進行方向が間違っていたとしてもこの付近はジュネス等の相当数の施設が密集している。
この転移帝具さえあれば、カジノ・もしくは他の施設で休養を取ったとしても、万に一つ敵に侵入された際にはさっきセットした水源の対極図のポイントまで瞬間転移すればいいのだ。
休養を取って万全のベストコンディションを整えた上で水源まで移動出来れば、たとえ相手が大人数だとしても彼には十二分に勝機はある。
魏は不釣り合いながらも、先の戦闘で疲労しきった右足を引き摺りながらカジノを目指した。


469 : インヴォーク ◆QO671ROflA :2015/09/12(土) 21:24:18 POJd6opo0
予想に反してカジノはすぐに見つかった。
寧ろこの短距離でカジノを発見出来た事は、シャンバラに長距離制限が設定されている事実など気付ける筈もない彼にとっては好都合なのかもしれない。
いざカジノの室内に入ると、そこには魏の想像していた光景とは全く異なり、賑やかさには欠ける物静かなアミューズメントエリアが奥へ奥へと広がっていた。
どうやら照明こそ付いているものの、デジタル系統のアミューズメント機器に電力は1つたりとも供給されていないらしい。
それ以前に、誰一人として他者がいない現状こそがこの不気味な空間に拍車をかけていた。
魏は少しずつ歩調を早めていく。
道中で発見したビリヤードのキューやダーツの矢など戦闘で使用出来そうな備品は全てディバックに詰めた。
ただでさえより殺傷能力の高い武器を欲する彼にとっては、有効価値のある物は何であろうと確保しておきたかったのだ。



長い1階の連絡通路の小径を駆け抜け、魏はようやくエレベーターを発見したが、どうやらこれにも電力は供給されていないらしい。
魏は溜息も吐きながらも、やもなく足を引き摺りながらも隣にあった階段を上る。
それ以外にも上の階に上がる方法はあったのだろうが、疲弊して思考が鈍っていようと曲がりなりにも“契約者”の端くれである魏は合理性を重んじたのだ。

ようやく辿り着いた2階は、1階以上の静けさの漂う謂わばスタッフルームのようだった。
ここでも魏に些細な幸運は訪れていた。
真っ先に魏の目に入ったのは「救護室」のプレートである。
彼は即座に救護室のドアノブに手をかける。
幸いにも能力研究所とは違い、鍵はかかっていないようだった。
尤も万が一鍵がかかっていても魏の契約能力を持ってすれば、この扉の破壊は容易そうであったが。
救護室内には運良く照明とその他の電気も供給されているらしく、更には簡易な医療器具と薬品が揃いに揃っていた。
所詮はカジノの備品だと思っていた魏だったが、自分の想像以上に充実する医療用のショーケースを目にし、若干ながらも感心した。
マフィアの幹部であった魏には当然ながら最低限の医療知識は備わっている。
薬品のショーケースをその場にあった懐中電灯で叩き割った魏は、数々の戦闘負った傷に応急処置を施していく。

(ここにある医療器具もおそらく今後の局面で役に立つかもしれませんね…
特にこの鎮痛剤は確保しておきたいところ)

魏は量こそ多くはないものの、1階の備品よろしく医療品を全てディバックに詰め込んだ。
大量に完備されていたビタミン剤を服用した魏は、救護室のベッドに寝そべり、今後の計画を練り始めた。

少なくともこの時、魏志軍はこのカジノこそが歴戦を勝ち抜いて来た対主催者達の集合場所となっていた事など知る由もない。


470 : インヴォーク ◆QO671ROflA :2015/09/12(土) 21:25:10 POJd6opo0
【H-7/カジノ2階救護室/1日目/午前】

【魏志軍@DAKER THAN BLACK‐黒の契約者-】
「状態」:疲労(大・回復中)、黒への屈辱、鎮痛剤・ビタミン剤服用済み、背中・腹部に一箇所の打撃(ダメージ:中・応急処置済み)、右肩に裂傷(中・応急処置済み)、右腕に傷(止血済み)、顔に火傷の痕
「装備」:DIOのナイフ×8@ジョジョの奇妙な冒険SC(魏志軍の支給品)、スタングレネード×1@現実(魏志軍の支給品)、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る(魏志軍の支給品)、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る(セリム・ブラッドレイの支給品)、黒妻綿流の拳銃@とある魔術の超電磁砲(星空凛の支給品)
[道具]:基本支給品×3(魏志軍・比企谷八幡・プロデューサー・一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲(比企谷八幡の支給品)、暗視双眼鏡@現実(比企谷八幡の支給品)、アーミーナイフ×1@現実(武器庫の武器)、ライフル@現実(武器庫の武器)、ライフルの予備弾×6(武器庫の武器)、パンの詰め合わせ@現実(プロデューサーの支給品)、流星核のペンダント@DAKER THAN BLACK(蘇芳・パブリチェンコの支給品)、参加者の何れかの携帯電話(蘇芳・パブリチェンコの支給品・改良型)、カマクラ@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。(星空凛の支給品)、うんまい棒@魔法少女まどか☆マギカ(星空凛の支給品)、医療品@現実(カジノの備品)、鎮痛剤の錠剤@現実(カジノの備品)×5、ビタミン剤の錠剤@現実×12(カジノの備品)、ビリヤードのキュー@現実×6(カジノの備品)、ダーツの矢@現実×15(カジノの備品)、懐中電灯×1@現実(カジノの備品)
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する
0:まずは全身の疲労を回復させる。万が一、休養中に攻撃を受けた場合はあらかじめセットした水源にシャンバラで移動する。
1:BK201(黒)の捜索。見つけ次第殺害する。
2:強力な武器の確保。最悪、他のゲーム賛同者と協力する事も視野に入れる。
3:合理的な判断を怠らず、少なくとも休養中の現在は消耗の激しい戦闘は絶対に避ける。
[備考]
※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。
※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、ヘミソフィアの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。
※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能の無いごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。
※スタンドの存在を参加者だと思っています
※閃光を放ったのは誰かは知りません。
※シャンバラの説明書が紛失している為、人を転移させる謎の物体という認識です。
※シャンバラは長距離転移が一日に一度で尚且つランダム。短距離だとエネルギー消耗が激しいですが、通常通りに使用できます。
※ブラックマリン・シャンバラ共に適正を持ち合わせており、特に後者については出典元であるアカメが斬る!での所持者・シュラと同等の高い適正を誇っています。
※シャンバラの大まかな使用用途を理解しました(長距離制限には気付いてない)。
※あらかじめ水源付近(H7北部の河川)にシャンバラでマーキングを行っています。


471 : ◆QO671ROflA :2015/09/12(土) 21:25:37 POJd6opo0
投下終了です


472 : 名無しさん :2015/09/12(土) 23:54:52 jG8mNTjU0
投下乙

エルフ耳は一時休息か
何気に所持品の数が凄いことになってるな


473 : 名無しさん :2015/09/13(日) 00:41:25 p4drUe3Y0
投下乙です

杏子の洗脳されっぷりが悲惨で、そして御坂も切ないな。
猫はこのロワの癒しだと思えてきた

アヴさんは何勘違いしてるんだw
考察チームは色々頑張ってるな。エスデスに食らいつけるヒースクリフもなかなか

魏志軍はマーダーとして着々と力をため込んでいるな


474 : ◆rZaHwmWD7k :2015/09/13(日) 11:00:59 vMZXkLZY0
投下します


475 : パラサイト・イブ ◆rZaHwmWD7k :2015/09/13(日) 11:01:40 vMZXkLZY0
乗用車並みのスピードで大地を駆ける一人の―否、一匹の獣。
最強のパラサイト“だった”その獣の名は、後藤と言った。
だが、今は違う。
かつてMI6最高のエージェントと呼ばれた契約者の策によってその半身はもがれた。

故に今の後藤は五頭/五統には成りえない。

(たかが半身の一部をもぎ取られた程度でッ、あの有様とはな…)

駆ける後藤の脳裏を過るは、研究所に離脱する際行った、自身の性能テスト。
内容は以前暴力団を襲撃した時とさほど変わりは無い、その対象が人間からコンクリート製の柱に変わっただけだ。
本来ならば鉄すら易々と両断する硬質化した寄生生物の刃。
しかし、寄生生物一匹の半分ほどの質量では、全力の斬撃を幾度か繰り返しようやくコンクリート製の柱を両断できると言った所だった。

(足りんな…やはり実質的な隻腕ではプロテクターの隙間は広がり、バランスも狂う)

それでも人間の柔肌を引き裂くには余分な威力を秘めているし、今なお三体の寄生生物を総べる後藤を仕留められる者は少ないだろう。

しかし、それでは、その程度の強さでは後藤の求める『最強』には程遠い。

きっと今の後藤の表情を表すならば「失望」「怒り」と人は呼ぶだろう。

異能者とは言え、人間の策に嵌り戦闘力を大きく低下させた自身への失望。

そして、この種を食い殺せと言う命令が寄り集まった結果、生まれた人間の憎悪からくる怒り。

それらの感情は混ざり合い、さらなる強さと闘争のへの渇望を齎す起爆剤となる。


476 : パラサイト・イブ ◆rZaHwmWD7k :2015/09/13(日) 11:04:18 vMZXkLZY0
(あの銃…あれはあの男の能力では無いとすれば、あの一丁で打ち止め、とはいかないかもしれんな)

ショットガンの制圧射撃すらものともしないプロテクターの装甲を貫き右腕を消し飛ばした異形の銃。
次にあの銃を装備した相手と戦う際は発射までの微妙なタイムラグの内に回避か、殲滅に移る必要がある。
どちらの行動を選択するにせよ、あの黒い銃を装備した敵は、優先的な抹殺対象に定める事に決め、思考を切り替えた。

「―――田村玲子がいるとすれば、やはり音ノ木坂学園か」

田村玲子がまだ“田宮良子”だった頃に泉新一の高校に教諭として潜伏していた事は後藤も知っている。
さらに、人間の子どもの出産後は度々同種の会議を欠席して大学に足を運び、講義を受けていた事も広川の口から以前聞いたことがある。

ならば、このバトルロワイアルでも教育施設を目指す可能性は高いと後藤は踏んでいた。
方角も南に位置しており、DIOから与えられた情報と合致する。

何故田村玲子が学校と言う場所にそこまでの価値を見出したかは理解できないし、するつもりもないが、貴重な手掛かりは活用しなければならない。
何しろ、田村玲子と泉新一の両名が死んでしまえば後藤が再び完全体になるための道は閉ざされるのだから。

並み居る異能者達に勝利するためには後藤は『最強』の生物であり、生物種の、生物種の頂点で居なければならない。

田村玲子も泉新一も寄生生物としての力を秘めているが、この場所ではそれは絶対のアドバンテージになりはしない。
2人が自分以外の誰かに殺される前に何としてでも片方だけでも喰らわなければならないのだ。

「誰にも邪魔はさせん。待っていろ泉新一、田村玲子…」


477 : パラサイト・イブ ◆rZaHwmWD7k :2015/09/13(日) 11:05:06 vMZXkLZY0
田村玲子は後藤にとっても決して侮れない相手だ。
単純なスペックの差で言えば、単体の寄生生物である田村玲子に勝機は万に一つもないだろう。

しかし、田村玲子にはそれを補って余りある高い知能がある。
その頭脳をもってして、万に一つの勝機を見いだすかもしれない。

それを越えて見せてこそ最強のパラサイトであることの証明であり、さらなる高みに至る事ができる。

後藤は、地位も、経歴も、出自も、人種も、性別も、名も何も必要としない。
求めるモノはただ強さと殺戮だけだ。

誰にも縛られず、やがて命が終わるまで、後藤は闘う事を止めない。
そんな彼を縛ることが出来るものが居るとするのならば、
それはみんなの未来を守らねばと、ふと思った“誰か”だけだろう。


478 : パラサイト・イブ ◆rZaHwmWD7k :2015/09/13(日) 11:05:47 vMZXkLZY0



研究所を出発してしばらくした後、後藤は初めて走る速度を緩めた。
休息を取るためではない、現在位置の確認のためだ。

その時、先ほどまでとは違い、ディパックからデバイスを取り出し難くなっているのに軽い苛立ちを覚え、仕方なく立ち止まる。

後藤に利き腕の概念は無いが、思えば人間として広川の傍らで行動している時は右腕を、三木を使う事が多かったかもしれない。

「……」

そんな事を思いながら細くなった触手を器用に使い、デバイスの地図機能を使用する。
現在位置はG-4の丁度中央の辺り、時間を考えれば驚異的な速度だった。
闘いになる事を考慮してある程度スピードを落としても放送前には学園にたどり着くだろう。

スピードこそすれ数刻前と比べれば落ちているが、現在とでは身に纏う気迫が違う。
今の後藤はまさしく鬼気迫る手負いの獣だった。
このまま直線に進めば学園にたどり着く。
田村玲子が学園に居るとするならば、戦いは近いだろう。

デバイスをディパックに放り込み、再び走り出す。
速度を上げながら右腕を一瞥する。

「三木、お前は最期まで俺の右腕でしかなかったが、分相応の働きはした―――精々休め。
 戦いは俺が続ける」

誰の耳にも届く事の無い後藤の呟き。
本来人間が言う死者への弔いと言う感情は寄生生物には存在しない。

この言葉も後藤にとって新たな右腕を手に入れる前の“区切り”でしかない。

だが、この場所に連れてこられる前の後藤ならば恐らくこんな言葉はいうことは無かっただろう。
闘いこそが存在意義である後藤も、このバトルロワイアルを通して変化しつつあるのかもしれない。

それは進化なのかそれとも―――、


479 : パラサイト・イブ ◆rZaHwmWD7k :2015/09/13(日) 11:06:33 vMZXkLZY0

【G-4/1日目/午前】

【後藤@寄生獣】
[状態]:両腕にパンプキンの光線を受けた跡、全身を焼かれた跡、疲労(大)、ダメージ(大) 、寄生生物一体分を欠損
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、不明支給品0〜1、スピーカー
[思考]
基本:優勝する。
1:泉新一、田村玲子に勝利し体の一部として取り込む。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。
5:南に向かい田村怜子を探し取り込んだ後DIOを殺す


[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。
※寄生生物一体を欠損した影響で両腕から作り出せる刃の数が2つに減って全身のプロテクターの隙間も広がっています。
※黒い銃(ドミネーター)を警戒しています。


480 : ◆rZaHwmWD7k :2015/09/13(日) 11:06:59 vMZXkLZY0
投下終了です


481 : Broken heartーー命儚い 恋せよ少女よ ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:00:37 M0cJSCFo0
随分と遅くなりましたが投下します


482 : Broken heartーー命儚い 恋せよ少女よ ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:01:28 M0cJSCFo0
【0】



少女は目覚めた。



【1】



二日分の食料とは果たしてどのような物を想像するか。まず水は必須だろうか。続いて長持ちするインスタント食品に缶詰。乾パンやビスケットなどもいいかもしれない。
上記で挙げた食品は年単位での保存が可能なものに限っている。二日と聞かれて人間が想像してしまうのは、それ以上も備蓄が不可能な状況が続くかもしれないと想定してのこと。
一週間やそこらですれば腐ってしまうようなものは、災害時を考えてしまい人は選ばない。
では、その前提を覆したならどういった選択をするのだろうか。例えば、三日後に世界が終わることが確実ならば、何を想像するのか。世界一美味しいと言われる料理? 評判が高いグルメがお勧めする料亭のフルコース? 自らが好物の食べ物?
このバトルロワイヤルではそんな贅沢な選択は出来ないのが現状なのだが。

「喉、乾くわね、これ」

ぽりぽり、と。カロリーメイトを口に咥えてアンジュは、ぽつりと呟いた。
目の前にあるミスタードーナツと英語で表記してあるお店は、外から中を広く見られるガラス張りの仕様になっており、その前を通りかかった彼女の興味を引かせるには十分だった。
ガラス越しに見えるのは棚に陳列された色とりどりのドーナツの数々。
ホワイトチョコと食紅を混ぜて表面に色付けしたイチゴのソースが塗ってあるオールドファッションやチョコをコーティングした上にこれでもかというほどチョコクランチを塗したダブルチョコレート。
モチモチとした生地が特徴の蜂蜜風味のグレーズをコーティングしたポンデリングにサイドには同じく蜂蜜を塗ったハニーチェロ。色々な味を楽しめるように一口サイズに分けたD.ホップ。

デイパックに入っていた“二日分”の食料より何と華やかなものであるのかとアンジュは思う。
小腹が空いたとデイパックを漁っていたら出てきたのが、種類だけは無駄にある味気ない質素な固形物。これは参加者全員に支給された物なのだろうか。それとも自分にだけなのか。
そんなことを考えて、仕方なしに封を破り食べていたところ見つけたのがこの店。

自動ドアを潜ると店内を漂っていた甘い香りが襲う。綺麗に磨かれた床は店内での調理の弊害で油でテカっていた。入り口から右側には白いテーブルと椅子が二つ並んでいる。店の規模としては小さい店舗のため店内飲食に使用される備品は少ないようだ。
残っていたカロリーメイトを全て口に入れ包装紙は近くのゴミ箱に捨てて、迷いなく真っ直ぐにドーナツが並ぶ棚の列にまで来たアンジュは早速とばかりに物色を始める。
どうして商品が陳列しているのか。まるで先程まで誰かがいたように食べかけのドーナツがテーブルの上にあるのか。腐っていやしないだろうかなんて野暮なことは考えない。
目に付いたものから取っていきトレーに乗せていく。美味かろうが不味かろうがアルゼナルで出される栄養さえあり腹が膨れれば上等という味気がない食事よるマシだろうという判断のもとである。

「少し多すぎたかしら」

トレーいっぱいに積まれたドーナツを見て後悔が寄せるが、食べきれなかったら残せばいいかと軽い気持ちでトレーをテーブルに乗せる。
そこで飲み物がないことに気付き、レジ前から入ったすぐ側にある保温ポッドとカップを取ってテーブルに戻る。
一息ついて、ドーナツを手に取り食べるとやはりというか甘いの一言に過ぎた。
店内にある時計に目をやると時刻はもうすぐ昼に付くというところだった。随分と歩いたもので、長い間陽の下にいたせいか疲労が溜まっている。
結局、学園を出てからのアンジュは誰とも出会えずに街を彷徨っていただけであった。
エンブリヲの後を追って西の方角を目指したはいいが背中の影すら捕まらず、残ったのは彼女に対する堪えようがない呆れと怒り。
道中、あった出来事といえば放送の時間。そう、特に何もなく本当にただそれだけ。
口内に残る甘さを消すためカップを手に取り口に付ける。砂糖の入ってないコーヒーは飲みなれていないせいか想像していた以上に苦い。


483 : Broken heartーー命儚い 恋せよ少女よ ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:02:11 M0cJSCFo0
「これは失敗したわ」

苦味はせっかくの溺れていたい砂糖漬けの空間に亀裂を入れる。誰とも理解出来ない言葉を吐くと、カップを手の届かないテーブルの奥に置いて椅子の背もたれに寄りかかる。
糖分を多量に取った影響からだろうか。ふつふつと眠気が襲ってくるような気がして、やっぱり失敗だったか、と呟く。
そう、何もアンジュとて、ただお腹が減ったからと此処に来たのではない。彼女なりに自分の考えを纏めたく落ち着ける場所を探していてどちらかと言うなら食事はついでだ。

流されているな、と思ったのはエンブリヲを中心に物事が進んでいたことに気がついた時。
実際は彼ではなくアンジュを中心に進んでいるのだが、それはまた別の話。
何故か、死んだ人間(正確には人間ではない)が目の前に現れてからというもの、あの激動の日々を再現したかのような騒動に巻き込まれている。
誘拐され、殺し合いを強要した“奴ら”に対しては考えるのは無駄であると思っている。皇女だった頃は頭のゆるいお姫様でしかなくて。そんな元となった今現在のアンジュは当然頭の出来など良くはなく、過酷な実践によって得たのはこの鍛え上げられた体と現実だけであり。
考えるという役目はタスクがおり、自分がするべきことはそれを行動に移すこと。

歯車がズレているような噛み合わないサリアとの会話に学校での情報交換によって得た知識。
正直なところ、だ。時間軸のズレだとか平行世界だとかそんな強引に当てはめるような論はどうでもいい。巴マミという自称ではない魔法少女がいるのは認めよう。“魔法”など使えない筈のサリアが天をも貫く雷光を操ったのも認めよう。
だが、だからなんだというのだ。世界が違うから何か解決することでもあるのか。エンブリヲは生きていてまたしつこく自分を付け回し、サリアは殺人という禁忌を犯した。
言葉にすれば簡単なこと。思考が乱れるようなノイズはいらない。地に足を事実が付いていればそれ以外は不必要なもの。遅かったのは情報か。悪かったのは冷たい態度で突き放したアンジュか、人の話を聞こうともしないサリアか、元凶であるエンブリヲか。

不器用な彼女は問題の解決の仕方も分からなく、ただ途方に暮れていた。



【2】



抜けるような青空だった。
もうじき太陽も真上に登るだろうという頃、街中に足音が一つ響いている。アスファルトに叩きつけられた白いブーツに包まれた足が、前へ前へと進むのはどうにも違和感のあるものだとサリアは思った。
自分の体の傷は決して浅くはない。アンジュに撃たれた左肩の銃槍もそうだが最も酷いのは、深夜に襲われたチャイナ服を着た耳の長い男からの血による攻撃の跡。
右肩は肉が少し抉られており、まるで消失したように綺麗になくなっている。水滴にすれば、ほんの2、3滴浴びただけというのに、その威力は凄まじいの一言だった。
もしも多量に人体に浴びていれば、あの少年のように路上に朽ち果てていたことだろう。
サリアはこのバトルロワイアルにおいて殺人を犯してはいるが、殺し合わせるという催しについては否定的な考えである。現状からの脱却、もしくは主催者を打倒することを目的としている。もちろん、優先すべきなのはエンブリヲなのだが。

学校での出来事はあまりの怒りによって頭に血が上ってしまった故の行動だ。アンジュを殺害せんとする自分を邪魔した巴マミを屠ったことに多少の罪悪感はあったが、そんな悲観した感情も時間が経てば元どおりに戻った。
陽によって熱に侵されたアスファルトが陽炎を放っている中を進む。金色の刺繍を施した黒の服装は血に汚れておりボロボロであり、その下には肉が消えた右肩に、左肩左足は銃槍。
既に灼いて止血はしてあるが全身を襲う痛みは常に続いている。それでも耐えられるのは鍛えた体に依るものなのか、エンブリヲに会いたいという目標が薬になってサリアを支えているのか。


484 : Broken heartーー命儚い 恋せよ少女よ ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:03:09 M0cJSCFo0
機能していない信号機を上に横断歩道を渡り右に左に目を配らせながら進んでいく。重症と言える状態のサリアだが参加者との積極的な交流のため、安全の確率が上がる路地裏など細い道は行かず、視界が広い大通りの道を歩いている。
なにより必要なのは情報だ。自らの足で測った結果、この舞台である箱庭は十キロに近い広さがある。闇雲に探し回っていては求めている者に出会える確率が低いのは語るまでもない。
やるべきことは主に二つ。エンブリヲを侮辱したアンジュを生かしておけば、いずれ彼に危険が及ぶ。彼に出会うまでにアンジュを始末しておかなければいけない。
その為には参加者の情報が必要になる。誰が何処に行ってどう出会ったか。中には危険人物もいるがそんな些細なことでやらない理由にはならない。

デイパックからペットボトルを取り出して口に含む。ラベルにミネラルウォーターと書かれたそれはランダムに支給された物とは違う基本の支給品。
多量に摂取はせず二口ほど飲んでペットボトルをデイパックに戻す。歩き詰めで疲労が溜まっているからか吐く息は荒い。
休憩をしようと考えたのはスピード制限の赤い標識が設置されてある場所を通り過ぎて、風通しも良さそうな一休みに良さげなベンチがあったからだ。
今にも崩れそうな廃屋の前にあるベンチは東からの陽を塞いでくれる。建物を後ろにしているため正面だけを注視していれば襲撃の危険性は減る。
多くの車が通るのだろう二車線道路。会社の広告などといった立ち並んだ看板。スーパーマーケットに止まっているクレープ屋、店前に売られている大きなスイカ。
そんな日常の風景に少しだけ違和感を覚えたが、些細な問題だろうと浮かんだ疑問を消しベンチに腰を下ろす。

休んでいる間でも考えるのはやはりエンブリヲのことだった。彼だけがわたしを理解してくれた、愛してくれた、話してくれた。信頼してくれた、彼だけが、彼だけが。あぁ、愛しい愛しいあなたは何処にいるの。会いたい、会いたいわエンブリヲ様。心が張り裂けそうなこの気持ちはどうすればいいの、わたしを見て、触れて、抱きしめてくださいーー。
とりとめのない思考は終わりを見せることはない。夢見がちな年頃である少女は盲目的でその愛の形は時間が過ぎていくごとに肥大していく一方だった。
幸せを失うのは何時だって唐突だ。何の前触れもなくアンジュの顔が浮かんできたのは、此処に拉致されてきてから彼女との会話によるものか。
エンブリヲを想っていたサリアにとって存在すら許せない人間は何時だってどこだって邪魔をする。
憎い。ただひたすらに憎い。タールのようにドロドロと胸の内を侵す感情は憎しみ以外に何があるというのか。
あぁ、憎い憎らしいあなたは何処にいるの。会いたい、会いたいわアンジュ。心が張り裂けそうなこの気持ちはどうすればいいの。わたしを見て、泣いて、叫んで、跪けーー
一方は愛し一方は憎んでいる。メーターなど等に超えて壊れたメトロノームのように振れている。決定的な感情の違いはあるものの、どちらも想っていることには違いはなかった。

サリアは銃を懐から取り出す。黒光りする銃は小さいながらも柔らかな贓物や肉を引き裂き人体を突き破ぶる性能を持っている。
幾度も手にして幾度も撃ってきた。成果の対象は人間ではなかったが、対人を想定した訓練も数え切れないほどしてきた。
銃を握り右腕を真っ直ぐ伸ばす。自分の体に対して正面ではなく横向きに。頭も並行に脇を締めてサイトを覗く。
ターゲットである黄色い標識が目に映る。頼りなく、前後左右に揺れて不安定な状態に思わず舌打ちしたくなる衝動を抑えて銃を下ろす。
人間というのは精密機械だ。肉体を支える手足にちょっとした怪我でも負えば、大小なりと影響は出る。それが銃を使うとなれば、例え扱いに長けたプロであっても大きな弱点となり、
標準は等しくブレる。両肩に左足、大怪我と言っても差し支えない傷があるサリアはこうして座っていてももまともに狙える状態にない。


485 : Broken heartーー命儚い 恋せよ少女よ ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:04:09 M0cJSCFo0
これが動いている標的となると更に難易度は極端に上がる。支えきれない両肩に、左足の傷により足腰は重心の安定が取れなくなる。

結果、僅か、一キロにも満たない銃に振り回されてしまう。繊細な作業などやろうにも腕が震え出来はしない。
いざ、戦闘になれば得意分野である腰に取り付けたナイフの方がマシというものだろう。
住宅地の一つから家屋を漁り見つけたフォールディングナイフ。無骨に銀色に輝く刃は小さいが、接近戦を挑まれた時の身を守る程度のことは出来る。小物故の携帯性というのも便利だ。重力の負担も軽減でき、すれ違いざまの不意打ちも可能となる。

サリアは腕に身につけている手甲を見る。槙島聖悟から貰ったアドラメレクと言う籠手は自在に電撃を操る帝具と呼ばれる代物。
精神的に不安定であり十全ではなかったとは言え、電気の扱い方も特性も戦闘経験も知り尽くしている殺意を持った御坂美琴を相手に生き残れるほど。
巴マミの大砲に押し切られてしまうかと賢者の石を力強く握りしめた時、内から湧いてきた力は偶然によるものではない。
剣は拳よりも強し。銃は剣よりも強し。雷は銃よりも強し。200㎞/sにも及ぶ雷の速度は比較するまでもなく、人間では決して抗えない“壁”がある。
この道具でもってアンジュを殺すとサリアは誓う。焼き焦げて声も出せないのに許しを乞うアンジュの姿を想像してドロドロとした感情が洗い流されていくようだ。

次の目的地を決めるため地図を取り出して周辺の施設を確認する。地図に載っているマークの付いた施設ならば人は集まりやすいと判断して、先ずはここから最も近い廃教会に行ってみようかと指針を決める。
決めたのなら、後は迅速な行動あるのみだ。時間にして小半刻もいなかったが十分な休憩は取れた。
もっと休ませろと痛みで訴えてくる体を無視してサリアは立ち上がって歩き出す。
数十メートルほど進んで、なんの前触れもなくふと思った。

アンジュに抱いているこの感情は本当に憎しみ?

答えは出ず、止まった足は廃教会へ続く舗装された道へと再び動き出した。



【3】

広々とした空間に木製の長椅子が横に縦に何台も並んでいる。椅子に挟まれるように真っ白な床、その上には赤い絨毯が入り口である扉から奥まで続く。
壁にある色鮮やかなステンドグラスから陽が挟み室内を照らしている。とても幻想的な光景なのだが、そこには一つの不純物が混じっていた。
礼拝堂、奥にある祭壇の前に立つ男。
名を、エンブリヲ、という。

黒色と白色が混じった悲劇劇から一転、エンブリヲは逃げ延びて教会に戻って来ていた。
自身がデイパックに隠れるという策に嵌った彼らが追いかけて来ている様子はない。ただでさえ広舞台の中。密集した建物が並ぶ市街地。隠れる場所などいくらでもある。
未だ痛む局部が連続して発動する転移を遅らせたのが原因か、イリヤを見失ってしまったことが唯一の失敗であった。彼女の飛翔する速度が異常に速かったのも一因している。
これは無理だと悟ったのは西と東を繋ぐ大きな橋の近く。東西南北、何処に向かったのか分からなくなってしまった。
途方に暮れたがクロエが手元にいる以上、彼女は必ず来るだろうという確信に近いものがあったのも徹底という選択をさせた。
その後、休める場所はないものかと教会に訪れたのは、休息のために単純に近い施設であったからである。

「サリアがいれば少しは楽が出来るんだがね。まったく、使えん女だ」

主人であるエンブリヲが必要と求めているのに現れる影もない。
外見は中々に優秀な容姿の彼女だが中身は初めて恋を知った思春期の女のよう。
シャボン玉のように触れれば割れてしまう言葉にも、一々初心な反応を示して愛を囁いて欲しいと頬を染めて言う。
都合がいい時だけに呼び出して使える人形。今まで愛してきた女たちと全くの同種の存在。
サリアはエンブリヲにとってこの地球上の何処にでもいる人間の一人でしかなく、いつでも替えの聞く愚かな女。

イリヤス・フィールフォン・アインツベルン。蕾のような未だ成長途中にある小さく可愛らしい彼女のことをエンブリヲは考える。
暴走までの仮定は知らないため、何故戸塚彩花を殺し逃走に走ったのかは理解は出来ないが、一つだけ分かることはあった。
それは、何としてもイリヤをこの手に収めたいという欲。


486 : Broken heartーー命儚い 恋せよ少女よ ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:05:06 M0cJSCFo0
容姿もさる事ながら見るものを引き寄せられる雪のような銀髪、無垢な赤色の瞳。近くにいると考えたのは、彼女には頼れる仲間がいて止められるはずだろうと信頼していたから。
ゲームに乗っておらず、二人を救うために教会へやって来た時から、彼らはそういう者たちだと分かっていた。

クロエとイリヤ。鏡のように合わせた瓜二つの顔、輝くような銀髪。恐らくは双子だろうか。
まるで汚れを知らない宝石のよう。磨いていないにも関わらずキラキラと光り輝いている。
そんな二人に自分の愛が加われば、なお輝きは増すというものだろう。彼女たちは可能性に満ちている。
第二次性徴期に入ったばかりだろう幼い容姿は、時間を掛けて育てていけば純情になることだろう。
期待しているのだ。アンジュが予想を超えた結果を見せた時以来の胸の高鳴りを覚えている。果たして、黄金とも言える輝きを持つアンジュに二人は届きうるのだろうか。
世界を作った者に手に入れられない物があるなど我慢のならないこと。全てを手に入れてこそ創造主であり調律者と言える。その為には多少の犠牲が出てくるのは仕方のないこと。

肩に掛けてあるデイパックに視線を移す。中にはイリヤの片割れであるクロエが入っている。
正しく“入っている”
表現として間違ってはいない。奇妙なことに、このバッグには『底』がない。
底がないのなら広さは無限大と言える。なら、物質は一体何処に彷徨っているのか。非常に興味はあったが、同時に解決出来ない問題でもある。

「何はともあれ、だ。まずはこれを何とかしてからか」

エンブリヲは自らの股間、その奥にある局部を眺める。
シンボルを貫かれた痛みは残っていた。麻痺させて緩和しているが完全に無くせるというわけではない。
ナイフによる傷は治りかけているが鈍痛は継続中だ。慣れるものではなく、何処かで横になりたいとすら思っている。
礼拝堂の中を覗いたのは人がいるかどうかの確認。目に叶う者であれば、クロエと共にしてやろうという算段であった。
収穫はなかったが、覗くだけで園内にある宿直室に行こうとしていた足は中に踏み入れた。
神を崇める教会に、神と呼ばれることを嫌う調律者がいる。その、何とも皮肉な話が気に入ったのだ。

愛おしそうに局部を撫でて、エンブリヲはこの現状を引き起こした張本人たちを思う。
一度目はキング・ブラットレイという男から、ナイフで憤っていた己を貫かれた。二度目は同じように美樹さやかという少女から同じようにナイフで貫かれた。
あの痛みと衝撃は忘れられるものではない。いや、絶対に忘れはしないと憤る。
特に、眼帯の男。キング・ブラットレイ。猿でしかない下等な存在が、格が違う自分を傷つけたというのは我慢の出来ないことだった。
それだけではなく、あろうことか調律者であることを否定する暴言。神に等しい存在に対して決して許せるものではない。
タスク共々、ブラットレイはただでは殺さない。痛みという痛みを与えた後に、彼らが存在していた欠片すら消し飛ばす。
さやかについては復讐ではなくたっぷりとお礼をしてあげるのだ。痛みではない。あるのはひたすらな快楽だけ。
攻める姿を想像したのか、胸の内に燻っていた炎は冷めていく。

「さて、どんな情報がこの中にはあるのかな」

説教台の上に置いた五つの本を見る。様々な『世界』の情報が乗っているという未知の領域の本。
外装はなんの変哲もない。それぞれの世界の特徴が書かれている表紙ーーなどというのはなく、灰色のハードカバーの硬い感触があるだけ。
さて、どれを読もうかと眺める。右端の『石仮面の謎』というのは面白そうかもしれない。それとも、隣の『エントロピーを求める生物』も興味を唆られる。
あるいは『アイドル界の歴史』『シュビラとは』 どれもこれも知識の欲を満たすには十分そうである。しばらく悩んで手に取ったのは『fate』と書かれた本。
この本を選んだ理由は特別何もない。あえて言うなら手が届く範囲で一番短かった、からか。

本を開くと、各章の目次が記載してある。


487 : Broken heartーー命儚い 恋せよ少女よ ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:05:38 M0cJSCFo0
一章「始まり」


二章「奇跡」


三章「友達」


エンブリヲはすらすらと淀みなく読んでいく。そう分厚い本ではないのでページを捲る早さも相まって、あまり時間を掛けないうちに一章まで読み終えてしまう。
小さく息を吐き、自分が思い違いをしていたことを悟った。
これは『世界』というよりは『物語』と言った表現の方が正しい。世界の歴史ではなく、一人の人物に終点を当てた話。

少女はある日大きな力を手にした。その力で街を脅かそうとしている化物を倒していく。
幾度もピンチに陥ったがその度、心身共に成長して進化していく。また、同じ力を持つ協力者が現れたことによって少女の周りは更に混沌を増していく。
無事、全ての化物を倒した少女たちだが、それは事件の始まりでしかなかったーー

「なるほど、引き込まれる話だ」

細部にまで隙間なく書かれた文章はまるで実際に見てきたようで読者を物語の世界へと入り込むような錯覚を受ける。
もちろんこれはフィクションに過ぎないのだが、普段は絶対に読まないような本がこうも夢中にさせるような内容だと感慨も覚えるというものだった。

「少女は強い意志を持っているのだろう。しかし、巻き込まれた出来事に対して誰よりも初心であるが故に、真剣ではなかった」

優秀な協力者に負けない勢いで少女は急成長を遂げていく。時には、常識を覆すような考えで危機を乗り越えてきた。
魔法という!漫画やアニメといった子供なら誰もが夢を持つだろう力を手に入れた少女は、化物との戦いをそれら空想の延長線上として楽しんでいた。それを協力者の女の子は許さなかった。

「一体、彼女はどんな環境で育っていたのだろうね」

少女と同じく巻き込まれたに過ぎない子供が生き死にが掛かる戦いに怯えなく向かう。
それは誰が見ても違和感が頭をよぎる光景。少女の考えに対して怒りを向けることなく抑え込み、抱え込もうとする他者を寄せ付けない意志の力。
しかし、周りに高い壁を築いていた彼女はそこで掛け替えのないものを得ることになる。
一緒に戦いあった中で閉じていた鉄の心がゆっくりと溶けていく。空の外には少女の姿。

そして、もう一人の少女へと話は繋がっていく。

求めるのは、代わり映えのない穏やかな日常に家族の愛情。
そんな持っていることが当たり前のものが少女にはなかった。いや、なかったことにされた。
存在の否定。全てを無くしてしまった少女は白になって生まれ変わる。
争いのない少女が求めた日常の世界へと変わって。

「何とも皮肉な話だね、子のため行った行為がこうも裏目にでるとは」

何もかも失った少女だが何の奇跡か生まれ変わった白い少女の中で生きていた。
意識も知識も経験も闇に呑まれたというのに確かに少女はそこにいた。
白い少女が成長していくと同じように本来の黒の少女も育っていく。

そして、奇跡は起きた。

一つの人格として肉体を得た少女はずっと求めていた日常を生きていくことになる。

「……うん?」

続きを読もうと紙を捲った手が止まりそこには何も書かれていない真っ白な頁。
残りの頁も全て消えてしまったように白だけが存在している。

ーー空白。

「まだ、少女たちの物語は終わっていないーーそういうことか」

ぱたん、と。読書は終わりだと告げるようにエンブリヲは本を閉じる。

「物語、物語か。彼らからしてみれば、私はまさに悪役と言うに相応しいのだろう」

ここに来てから出会ってきた者たちはいずれも激しい感情をぶつけてきた。
親しみ、困惑、快楽、怒り、苦しみ、恐怖、殺意。どれもが刃となってエンブリヲを襲うが、こうして生きていてそれに見合うものもすぐ目の前にある

「そう、都合よく話は進まない。事実、どうやら天秤は私の方に傾き始めたみたいだ」

開けていく扉を眺めながらエンブリヲは笑う。
少しづつだが駒は揃い始めている、と。
現れたのは青い髪の少女。

「やぁ、愛しのサリア。お久しぶりだね」


488 : Broken heartーー命儚い 恋せよ少女よ ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:06:27 M0cJSCFo0
【4】



店を出た後のアンジュは変わらず誰とも会わないまま街の中を彷徨っていた。
エンブリヲを見つける手段など徒歩では現実的に難しく、乗り物であっても広いフィールドの中では焼き石に水だ。前回から時間が経っているのも問題になる。
市街地中心を探し回るが影すら踏めず。だからというわけではないがーー面倒くさくなった。
そもそも、だ。何故、あの変態を追わなければいけないのだろう。凛を救うという名目はあくまでもついでに過ぎない。それに彼女はもう“呼ばれている”
死体を担ぐ趣味などなく。一度殺した相手をもう一度殺すなんて得るのは疲労だけだ。ここはルールのない世界。ゴギブリのようにしつこい奴だが、放っておけばくたばるだろう。

簡単に言えばアンジュはやる気を失っていた。誘拐され、見知らぬ場所に連れてこられて、殺し合いをしろと言われ、暑い中歩き詰めで、サリアと一悶着あって。

モモカが死んで。

少し前にあった放送の時間は淡々と進んだ。アンジュは街の静けさと一緒に静かに聞いていただけ。
首を上に向けて見上げた。首輪を嵌められて命の取り合いをしている場所とは思えない雲一つない快晴な空があった。
青い模様の中に、未だ消えていない薄くなった月が存在を主張しており、昼の空であろうとも馴染むように上手く嵌っている。
それを見て、ふと思った。どうして夜でもないにも関わらず月はそこにあるのだろうか、と。
空っぽになった思考の穴を埋めたかっただけで、別に答えは求めていないのだけれど。

「物騒な人がいるものね」

遠くの空を見て呟く。視線の先には青い空を覆い尽くすような黒煙。建物に火を付けて回る愉快犯の仕業か。この舞台を火の海にして参加者をあぶり出すのが目的か。
市街地から外れた川岸に位置する場所にあるホテル。まるで溶岩を使用したかのような溶けたホテルの壁をアンジュは思い出す。
飛んで火に入る夏の虫とはこのことか。光を求めて、参加者は少なくとも集まるのだろうか。
それが虫であるとは限らないのだが。火を恐れない動物もいるように獲物を刈り取る狩人だっている。

「どうすんのよ」

目的のなくなった今、どうするのか。今のアンジュには行動の指針といったものがない。
野次馬根性であの黒煙を目指す、引き続きエンブリヲを追いかける、学園に戻ってまだいるかもしれない集団と合流する。
どの考えもまるで興味が湧かない。何をするにしても億劫で、今この時立っていることすら疲れている。視界は真っ暗で進むべき方角が見えない。
自動販売機の横にあるゴミ箱を蹴り飛ばそうとして寸前で思いとどまる。
何をしてもこの欠けてしまった欠片は埋まらないと分かってしまったから。

「馬鹿じゃないの」

それは、

それは誰に向けて放った言葉だっただろうか。


489 : Broken heartーー今 衝撃的な体験が紡ぐ たった一つの愛 ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:08:40 M0cJSCFo0
【6】



「エンブリヲ様!!」

触れれば火傷してしまうような熱を内包する声が礼拝堂の中に響く。
いや、彼女の心は実際に焼けているのかもしれない。エンブリヲを求めてここまで色々なことがあった。突然の襲撃者、アンジュとの決裂、突き抜けた正義の使者。
愛し合っていなかった分だけ触れ合った時の反動は高くなる。いつか読んだことのある本に書いてあったことは本当なのだと思う。
だってこんなにも胸が熱い。火傷なんて彼に出会った時からしていた。それは、この止め処なく溢れる気持ちが証明している。
グリム童話の塔の上に閉じ込められたラプンツェルもこんな気持ちだったのだろうか。外の世界を何も知らない彼女は彼という王子様と愛し合う。
なんと甘美なことか。恋い焦がれた二人はこうして出会えたのだ。

偶然か、はたまた必然か。その出会いは運命と言っていいのか。教会への行進はサリアの目的とする願いを叶えてくれた。
重厚な扉を開けると煌めくスタンドグラスに彩られた礼拝堂の奥には何を成してでも守りたい存在がいた。
離れていた時間はそんなに経っていないというのに胸に訪れる気持ちは一体なんなのだろうか。
礼拝堂の奥に立つエンブリヲは少しだけ驚く素振りを見せた後、迎え入れるように腕を広げて来訪者を歓迎した。
瞳に映るのは歓喜の色。自分と同じように喜んでくれているのだと思い、迫る気持ちを抑えられずその胸に飛び込むように駆け出す。

勢いを止めないままエンブリヲに抱きつくと黒いスーツに顔を埋める。息を吸いこむと軽い香水の匂いがした。
いつの日か抱かれた時と同じ安心する香りだった。ゆっくりと確認するように背中に手を回すと、答えるように背中を抱きしめる大きな手。
それは揺りかごに包まれているようで。彼女を唯一理解してくれる人の抱擁は何事にも代え難いもので、頭の中に砂糖をいっぱいに詰め込まれたような気さえしてくる。
甘い、甘い、他のことなど見失ってしまうようなーー

「その怪我は……あぁ、なんということだ。直ぐに直してあげよう」

束の間の再会も終わりは来るもの。サリアの全身に渡る怪我を見たエンブリヲは抱きしめていた手を解き、マナの力にて治療を始めようと暖かな光が手首を覆っていく。
対象は最も酷い怪我であろう左肩。血で汚れた服を脱ぐとそこには骨にまで届きそうかという抉れた姿。
手を当てると光が傷に乗り移っていくように吸収して浸透していく。これはいわばエンブリヲが生産したものをサリアの中に送っているに相応しい行為。
例え、体で愛し合わなくても心で通じ合わなくても遠く離れていようとも、確かに彼の存在は私の中にあるということ。
失われた細胞が光と同化して体に入り込み消失していた肉が徐々に再生をしていく。破壊された組織が元の形に戻り傷がどんどんと修復されていく。
胸に顔を預けたままサリアは子供に戻ったかのような感覚に陥る。
エンブリヲが右手で治療を施しながら左手では壊れ物を扱うかのように頭を撫でている姿は、子を慈しむ母のようであり、受け止めてくれる胸の大きさは父のようで。
恋人のように愛し合う二人を演じているようで。

(……違う。演じているんじゃない。この愛は断じて偽物なんかじゃない)

早鐘のように脈打っている心臓も触れ合った箇所から伝わる低めの体温も静かな礼拝堂に響く息遣いもトマトのように真っ赤になった顔も、全て偽りのない本物だ。
これが私の世界。私だけが入ることの許された誰であろうとも譲ることの出来ない居場所。
そんな考えとは別にどうしても譲れないことがあった。エンブリヲの命であっても背けたくなるような、彼女の世界に亀裂を入れた人物。
全てを持っていてそれだけでは満足もせずようやく手に入れた新たな場所も奪おうとしている者。

ーーアンジュ。

「サリア、どうしたんだい、サリア?」

蕩けるような甘い声と、何時の間にか目を合わせる距離にまで顔を近づけていたエンブリヲの微笑みがとりとめのない思考を消す。
しばし呆然として、ほぅ、とサリアは息を吐いた。なにせ、目の前には狂おしいほど求めていた存在がいたから。
吊り橋効果と言うのだろうか。不安や恐怖といったものを強く感じているとき、出会った人に対し恋愛感情を抱くという。
それが、この特異な場所による影響かアンジュとの接触による強いストレスが原因か。
彼女の場合、元からそういった感情を持っていたため相乗効果も働いているのだろうが、エンブリヲを想うサリアの心は以前より膨れ上がる一方だった。

「い、いえ、なにも問題はありません」
「……ふむ、どうやら相当に疲れているみたいだね、それに君も苦労もしてきたようだ」


490 : Broken heartーー今 衝撃的な体験が紡ぐ たった一つの愛 ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:09:24 M0cJSCFo0
エンブリヲは怪我の治療のため裸となったサリアの体を見る。肌身となった自分を見られるのは一度ではないのだか、慣れるものではなく羞恥に震えてしまう。
かといって、背中に回している手を解く気などなく嫌だというわけでもないため耐え忍ぶ。
女性ながら筋肉は引き締まり、無駄な肉など何処にも付いてなく均整の取れた美しい体型を眺めるエンブリヲの熱っぽい視線は収まることはない。
適度に焼けた肌をじぃぃと眺められる。
艶やかな首筋、小ぶりながらも整った乳房ーーを覆っているピンクのブラジャーーにすらっとした腰周りは適度よく鍛え上げられたためか細く引き締まっており、その下は触れば、硬く柔らかいという不思議な感触が返ってくるだろう腿に小さなヒップーー
いわゆる、ランジスタ・グラマーとは対極に位置する。女性として貧相な体型がらも戦士としては十分な合格点を出せる裸体。

「え、エンブリヲ様?」

食い入るように見つめているエンブリヲに“何か粗相をしでかしたのでは?”と焦るサリアだが、否定するように首を振った姿に安堵の息をこぼす。

「いや……美しい体だ、と思ってね。見惚れていた」

そんな些細な言葉にまでサリアは顔から火が吹き出そうなほど赤面してしまう。
本当にこの人のことが好きなんだな、と再認識してしまう。
もう行き場のないわたしを受け入れてくれて、認めてくれて、愛してくれた。
好きで、好きで溜まらなくてーーだから、欲だって出てくる。
一方通行ではなく堂々と向かい合って心から触れ合いたい。抱きしめられたい。囁かれたい。

「サリア、このままでいいから話してくれないだろうか。君が見てきたこと、体験してきたこと、全てを」
「はい、エンブリヲ様」

たった一つだけの愛が欲しい。



【6】



硬いアスファルトの道路。役目を失いつつある街灯。等間隔にある葉を揺らす街路樹。その下にある栄養を含んだ土。
密集する住宅地。そこから外れに建つ瀟洒なマンション。コンクリートで出来た大量のブロック塀。赤い外装が目立つ家屋。
車道沿いにあるファミレス、移動店舗に外装した小型車、一帯を商業スペースにした中にある大型デパート。
窒素と酸素が主成分の人が呼吸する為に必要な空気、真上からジリジリと降り注ぐ陽。
全身を流れる血液、動くたびに収縮する筋肉、息を吸えば口から肺へ運ばれてくる新鮮な空気、違和感なく世界を識別出来る視覚、触れれば感じられる感覚、脈拍する心臓の鼓動ーー

ーーあれから。空虚な心を胸に埋めたまま、問題の解決も出来ずにいたあの時より少し後。

変わらず、何も変わらず、何一つ変わらず。人気が死んだ街の中をアンジュは歩いていた。
先ずの目標もなく目標とする目的もなくふらふらと当てもなく、間も無く昼に差し掛かる陽光が照らす空の下を歩く。
自暴自棄、になったのではない。こうしている今も周囲の警戒はしている。道幅が狭い路地や十分に開けた広さを持つ場所など、どんな状況にも対応できる範囲での道を選んでいる。
むしろ、だ。自暴自棄になりたくても出来ないのがもどかしい。アルゼナルで叩き込まれた訓練からの習性は、生きることを捨てようとする行為を良しとしなく、本能で勝手に動いてしまう。こればかりはどうしようもなく。どうにかしようとも、危険を察知する体は正直であり、

ーーあの苦しみながらも生き抜いた日々を否定するようなことはしたくなくて。

だから、くすぶってしまう。

蒔を燃やそうにも肝心の蒔がなく、行動を起こすにも火種が必要で。
立ち止まっている、のではなくて、行く先の方向が見えないまま進んでいる。
それがいつ壁にぶつかるともしれない状況が、もしかしたら延々とこのままではと思う危機感を抱いている自分が、もう気づいているのに其方を振り向こうとしないわたしが滑稽で。
何時までも現実から背けることなんか出来はしないのに時間だけを無駄に消費している。
何をすることも出来ない、なんていうのは自分で限界の境界線を張っているだけ。
一歩踏み込めば、恐らく見えてくる景色があるというのに。でも、出来ない。それは本当にアンジュというわたしが望んでいることなのか分からないから。


491 : Broken heartーー今 衝撃的な体験が紡ぐ たった一つの愛 ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:10:27 M0cJSCFo0

あぁ、違った。分からない、ではない。

ちゃんと、理解している。放送がなにを意味するべきものなのかも理解している。
何処からか聞こえて来たーー機械によるものか、”魔法”かーー音声は死者の発表をするものだった。
悪趣味だな、とは思う。72人を誘拐し、この催しに巻き込んだ張本人は、何処かで”見ている”かと考えると、くすぶっていた炎が一瞬だけ燃えあがろうとする。
殺意は、ある。あいつが”納得”をしない結果を見せて弾丸を頭にぶち込めれば、どんなに滑稽であるか。
自身は、ない。現実は厳しく、何処にいるかすら分からない奴に弾は届くはずもなく。


後悔は、ある。



【7】



「思えば、最初から疑問に感じていた。この世界は一体何なのだろうと」
「わたしが作った作品ではない。となると、似た力を持つ者の仕業か」
「だが、それにしては、少々作りが”荒い”いや、これはそういう問題ではないのかもしれない」
「数十キロに及ぶ箱庭。地図によると浮かんでいるそうだが、それはまた後にしよう」
「サリア、確か君は音の木坂学園に行ったのだったね。学校と言うのだから、備品ぐらいは揃っていたのだろう」
「此方も、ジュネスーーショッピングモールで様々な商品を見た」
「私が寄った喫茶店では『イカスミスパゲティ』なる物や、赤子に与える『ベビーフード』も商品に記載されていた」
「自動販売機には『いちごおでん』『レインボートマトジュース』『凝縮栄養飲料』どんな効果があるのか気になるところでもあるがね」
「そのモールの駐車場に並んでいる自動車、街に出れば広がる家々」
「さて、ここまでの話で何か気になることはあるかい」
「ちょっとした違和感でもいい。少し、考えてみようか」
「……ほう、素晴らしい回答だ、正解だよ」
「そうだ、この箱庭は創造したのではなく”元から存在した世界から取ってきた”ものだと、私は思う」
「家屋はある、だが人はいない。森はある、山はある、だが虫はいない。水がある、空気がある、緑がある、人々が生活していた名残がある」
「君が出会って来た『血を飛ばしさせる男』『手に化物を飼う少年』『電撃を操る少女』『魔法少女』『言葉を話すステッキ』」
「電撃を操る少女には及ばないまでも強力な武器。赤い石、これは「魔力増幅装置」といったところだろうか」
「どれもこれも私が知らないものばかりだ。そして、それは一つの結論に達する」
「ーー正しく、『世界』の集まる場所なのだろうな、ここは」
「私が出会った参加者の一人にジュネスを知っているものがいた」
「会場の施設は、恐らくその世界から取ってきている」
「パラレルワールドだって? そんなものではない。 言うなら、アナザーワールドだ」
「最後の一人になれれば生き残れる。これもほんの少しだが怪しくなってきたな」
「アンジュにわたし、ヒルダ、サリア、モモカ、タスク。ここに連れてこられた者は6名」
「皆、同じ世界の出身だ。なら、他の世界の人間も同じ数だと考えよう」
「参加者総数72名、単純に分ければ、12の世界がある」
「可能性は極端に低いがね。これは異世界同士の戦争とも取れる」
「まぁ、わたし自身、そんなことはあり得ないと思うが」
「自分で決めたルールは破っては駄目だろう」
「ともあれ、うふふ、異世界とは、これは面白くなってきた」



【8】



「さぁ、終わったよ。綺麗さっぱりとは言わないが、これで大分楽になっただろう」
「……あっ」

これというアクシデントもなく、情報の交換をしながら怪我の治療は滞りなく進んでいった。
静かに、胸から顔を外されて温もりが離れていくのを感じてサリアは小さく声を漏らす。お気に入りの玩具を取り上げられてしまったように、行き先を失った手が空を彷徨う。
そんな姿を見てエンブリヲは微笑むように笑い手を取る。大丈夫だ、何処にもいかない、とでも言うように視線を合わせ藍色の瞳を覗き込む。
それだけで彼女は赤子のように大人しくなり、瞳から逃げるように視線を逸らしてしまう。

「多少痛みは和らいでいるはずだが、どうかな、サリア」
「はい! エンブリヲ様のお陰で、すっかり痛みもなくなりまし……たたっ」


492 : Broken heartーー今 衝撃的な体験が紡ぐ たった一つの愛 ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:11:58 M0cJSCFo0
見せつけるように急激な動きをした為かサリアは苦痛に顔を歪める。
左肩二発の銃痕、右脚刺し傷、傷と呼んでいいのか、血しぶきによって出来た「後」の右肩。
どれも身体機能の欠損に大きな影響を伴う、決して小さな傷とは言えないものばかり。
それが今は、弾丸やナイフによって抉られた穴は塞がり消失した肉も戻ってきている。

「無理はいけないな、我慢していては余計に悪化するだけだよ。まず、自分の体のことを一番に考えるんだ」
「そんなこと、私には出来ません。エンブリヲ様を差し置いて自分の身を心配することなんて」
「……そうだな、君が傷つくことは何も君一人の問題ではない、ということだ」
「それって、どういうことでしょうか?」
「愛する人が自分の為に傷ついていくのを誰が喜ぶというんだい。その透き通るような可憐な肌に傷があるのは、なによりわたしが悲しくなってしまう」

エンブリヲは目を細め俯く。

「あ、あの、エンブリヲ様は私のことを愛してくれてる、そういう意味で捉えていいんですかっ」
「当然じゃないか。何を言っているんだい、まさか怪我で忘れてしまった訳ではないだろう」
「忘れてません! 毎日のように、貴方を想っています」

愛してる。その言葉に衝撃を受けたのか驚愕したままのサリアは、エンブリヲの投げ掛けに否定をして、赤らめたほおで想いを口にする。

「と、なるとわたしたちは両想いということになる」
「ーーっ、はい」
「この世界より脱出を果たしたら、君を妻に向かいたいと思っている。わたしが作る新世界の女神として」

全ての人類を過去のものとして、二つの異なる世界を融合させ新しく生まれ変わらせる。
そこではエンブリヲが認めた者以外生きていくことは許されない。
そんな数少ない一人としてサリアは、今、この場で本人から選ばれた。
否、無数の中の一人ではない。一つしかない席に、女神になって欲しいと言っている。

「それって……アンジュよりも、ですか」

不安になったのだろう。輝きかけていた表情が沈んでいく。
口に出したのは、エンブリヲが求めている女ーーアンジュ。
元同僚であり、決定的な亀裂を生んでしまった、もう二度と戻れない場所にいる遠い人間。
ずっとサリアの前を歩いていた人。

「そうだとも、サリア、君だけを愛そう。だから、君もわたしのために精一杯働いてほしい」

瞬間、サリアの瞳から涙がこぼれ落ちた。
ポロポロと、雨粒が落ちていくように。
限界などないかの如く、止め処なく溢れる。
それを拭おうとは思わない。
これは「証」だから。居場所の、愛の。

ーー本当に馬鹿な女だ。

聞きなれた、そんな声が聞こえてきて。
涙で溢れている顔を見せたくないと、伏せていた顔を上げて。
霞む視界の中、見えたもの。

それは。

愛する人に迫る少女の姿。

その手には凶器。



【9】



スッと息を吐きデイパックから飛び出した少女は勢いまま転がるように落下して、柔らかな赤い絨毯に右手を突き出し体に伝わる衝撃を支える。バネの要領で右脚を踏み込み進路逆方向へと戻り、左手に持った剣をエンブリヲの右肩から左脇腹まで袈裟斬りに切り裂いた。
鈍く光った鋭利な刃物は皮膚を突き破り、筋肉が裂かれ、内臓に刺さり、心臓を破る。
本来、循環する血が破壊されて内臓に行き器官が壊れていく。肉が引き裂く感触を少女は剣を持つ左手に感じながら、止めていた息を吸い込み蒸せ返る血の匂いに端正な眉を上げた。

それも一瞬、追い討ちを掛ける形で右手に忽然と姿を見せた剣を逆袈裟斬りの要領で振りかぶる。
狙いは左肩から右脇腹。再度、肉が裂かれる音が礼拝堂に響く。呻く声はもう聞こえない。一度目に切りつけた以降、死んだ蛙のようにピクリとも動かない。
痛みはあったのだろう。驚愕と苦痛、そして憤怒が伴ったエンブリヲの表情は乱入者である少女に向けて放たれていた。まだ、辛うじて生きていたのだろう。
中身はぐちゃぐちゃで意識があることすら奇跡だというのに、死ねなかったのだろう。だから、呆然としたままである彼女へと向けられようとしていた少女の刃は届かず、エンブリヲへと二度目の追撃が実行された。
人体の急所が詰まっている首を狙わなかったのと同じで、それは少女なりの良心だったのか。どちらにせよ、エンブリヲの死の運命は変えられなかったのだろうが。


493 : Broken heartーー今 衝撃的な体験が紡ぐ たった一つの愛 ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:13:04 M0cJSCFo0
流れるように展開していく襲撃者である少女の手際の良さは迅速かつ無駄がない。デイパックから現れた瞬間から現在に至るまで十秒と経っていなかった。
殺意を持って相手を殺すことだけに特化させた刃は、相手の意図を張る前に切断し生命を奪いせしめた。
赤い絨毯が真っ赤になろうと血を吸っている。飛び散った血の飛沫は真っ白な信徒席に降りかかって、赤く染まっている。
当然、傷を付けた本人である少女は少量ではない返り血を浴びている。

少女の名はクロエ・フォン・アインツベルンといった。



【エンブリヲ@クロスアンジュ天使と竜の輪舞 死亡】



【10】



真っ白になったサリアの意識が戻ったのは目の前の現実を認識した時。正しくは、聞いたこともない悲鳴を上げて力なく倒れていったエンブリヲを目にした時。 もっと正確に言うなら、少女の二度目の斬撃が結果的に自分を救ったと分かった時。
ぐるぐると回転する思考は彼女が生きてきた中で、状況判断における最も最適で最速の答えを出し、行き着いた先は目の前の少女を障害と見なして排除すること。
それからの行動は驚くべきほど早かった。エンブリヲのデイパックから溢れ落ちた化粧品箱ーーガイアファンデーションを少女に向けて蹴り飛ばし、一歩、後ろに下がる。
無意識にポケットから取り出した、右手に砕く勢いで握りしめていた賢者の石。そこから体に流れてくるチカラの本流を両手に身につけた小手に流し込み、

ーー雷光が吠える。

「死ねええええええ!!」

殺意を持った叫びが応えるように、周囲に作り出された雷光が少女の視界を埋め尽くし迫る。逃れるすべなどなく少しでも触れたならば、忽ち電流は体を伝わり追撃する雷の矢群が消し飛ばす。
少女の武器は左右に手にしている二つの剣、少女の距離は剣が届く間合いではない。
揺らぐことのないだろう勝利にもサリアの顔は憤怒に満ちている。思うことは、一つ。
ただ、目の前の少女を殺せ、と。怒りが怒りを呼び、世界をも壊さんとする勢いで咆哮する。
砕けてしまいそうなほど強く噛み締めている歯は、今にも脆く崩れ去ってしまいそうで。
血液が沸騰しているかのように額に浮き出た血管は、今にも切れて破裂してしまいそうで。
目の前のたった一人の少女を殺すためだけに、残りの力を振り絞って全てを差し出すように。
轟音を響かせて少女に向かって走っていくアドメレルクの雷光は周囲もろとも吹き飛ばし、巴マミが迎えた結末と同じく散りすら残らず消し飛ばすーーそんな、結果をサリアは確信する。

しかし。

「ーーーーえっ」

今、雷光が少女を貫かんとした、その瞬間。

少女の姿が掻き消え。

背後から、風邪を切る音。

激痛。

「あぁぁぁあぁぁぁぁぁっっ!!」

雷撃の着弾の轟音に掻き消されるようなサリアの叫びが、一部、崩壊した礼拝堂に響き渡る。
咄嗟の判断か、激痛による反射か。二度目の雷撃を真下ーー地面に向けて放つ。
血を吸った赤い絨毯が消し炭になり白いコンクリートは砕け散って周囲に散らばっていく。
衝撃によって吹き飛ばされたサリアは、何一つ。理解の出来ない現状に混乱する。
右肘から先、アドラメルクを装備した箇所より上が綺麗に切断されていた。
そこから溢れ出るのは、止まることを知らない、血、血、血。

脳裏に映るのは少女の姿。

どういうこと。何で、こんなに痛いの。何故、私の右手がないの。
あいつはーーあの少女は死んだはず。避けられるわけがない、逃げられる場所なんかない。
じゃあ、私の後ろにいて切ったやつは誰。誰よ! 誰なの!
あぁ、エンブリヲ様。痛い、痛いです。泣きそうなほど痛いですーー

サリアは受け身を取ることも出来ず、雷撃によって砕かれたコンクリートの上に落ちる。
肺にある空気が押し出され血が混じった吐瀉物を撒き散らし、呼吸が上手く行えず小刻みに空気を求め吸う。
鋭利な何かに斬りとばされた右腕の激痛。落ちた衝撃による全身の痛み。右腕の断面から流れ続ける血液。刻々と死が近づいてくる足音。

「……まだァッッ……!!」

そう、まだ戦いは終わってはいない。サリアは意識が落ちないように全身に力をいれた。
考えるのは少女を殺す方法、それだけ。自らの腕を切った犯人を少女と断定したわけではないが、溢れ出る感情の行き先はそこしかない。
右手に握りしめていた賢者の石は腕ごと持って行かれている。
左手に残ったアドメレルクは、賢者の石という裏技があってそこで初めて武器となる。
サリア単体の魔力では到底追いつかず、無理をすれば許容量を超えて雷撃が出ることもなく力尽きてしまう。
何より、”消えた”少女に対して、ちっぽけな攻撃が届くかどうか。

「……関係ぃないッッ……!!」


494 : Broken heartーー今 衝撃的な体験が紡ぐ たった一つの愛 ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:14:14 M0cJSCFo0
今更、自らの身を心配するほどサリアは馬鹿ではない。
致命傷を負った自分はもう助からないと分かっている。
後、数分もすれば体から血が抜けきり、終わってしまうのだろう。

それでも。

このまま、何もせず死ぬわけにはいかない。

誰のために、というわけではなく。

ただ、自分のため。

「ーーーー無様なものね」

そんな時、耳に届いた声。

聞いているだけで、不快になる声。

声がした礼拝堂の入り口を見る。

陽を背に銃を構えている人影。

見覚えのある顔、服装、髪、女。

その瞬間、サリアの中で全てがつながった。

ここで殺意は少女からアンジュに移った。



【11】



アンジュが行き着いた先は、もう二度と結びつくことなど不可能な域にまで達した少女との再会。

「ねぇ、サリア。あんたは運命っていうの、信じるかしら」

この場に不釣り合いなアンジュの問い。

「正直な話、ね。エンブリヲはわたしがこの手で殺すと思っていたの」

一歩、一歩、サリアに向かって歩いていく。

「あいつの言葉を真似るようで嫌だけれどさ。運命、そう運命。似合わないわよね」

アンジュは笑う。

「別に、理由なんてないわ。ただ、そう思っただけ」

サリアの胸に標準を合わす。

「でも、わたしは運命を信じるわ。だって、こうして出会えたじゃない」

サリアの手には懐から取り出した銃。

「あぁ、でも、あんたには、理由はある」

引き金に指がかかる。

「そんな姿のあんたは見たくない」

もう、拳銃から指を離しているサリアに向けて言う。

発砲音は鳴らなかった。




【17】



温かい。

緩やかな水面に浮かんでいるような背中に伝わる感じはとても気持ち悪い。
これはなんだろうか。服に異様に張り付いてくるから、水ではないことは確かだ。
赤い……赤い……血? どうして……
そっか、私、撃たれたんだ。だから、こんなにいっぱい血が流れてる。

やってくれるなぁ、アンジュったら。しっかりと一発で仕留められた。
やっぱり、凄い。きっと、一生掛かっても追いつかないんだろうな。
あれ? これ、この傷はアンジュからやられたんだっけ。他にも誰かいたような気がする。
……まぁ、いいか。思い出せないってことは、きっと大したことじゃないわよね。
それよりも傷を自覚したせいか、痛い。泣いてしまいそうな程痛いわ。

でも、流れない、流さない。流せるわけないじゃない。
嬉し涙はなら幾らでも流すわ。だけど、痛みや悲しみではいけない。
同じこと、やったんだもの。遺恨を残してしまったんだもの。それぐらいのことしたもの。

殺した彼女たちにも友達や家族、そんな大事な人がいたんだろう。
その人たちはきっと泣いてしまうだろう。悲しくて、やり切れなくて。
そして、やり切れなくて感情は、必ず在るべき方向へ向かう。

それがないと、胸に溜まったドロリとしたこびり付くものは取れない。
でも、ごめんなさい。あなたたちのそれは、私が向かった方向では取れないわ。
でも、方法は一つじゃない。私は答えを見つけられなかったけど、確かに在るはずよ。

なんて、どの口が言うのか。

少し、疲れた。それに何だか眠くなってきた。
痛みはまだある。恥なんて捨てて転げ回りたいけど、体は全く動かない。


495 : Broken heartーー今 衝撃的な体験が紡ぐ たった一つの愛 ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:15:38 M0cJSCFo0
モモカ、短い付き合いだったけど死んだと知った時の気持ちは本当に弱さなんだろうか。
ヒルダ、問題児筆頭の一人、この殺し合いで一体どんな選択をしてるだろうか。
タスク、はどうでもいいか。
アンジュ、あんたの全てが気に入らない。絶対に許さない。一生恨んでやる。まぁ、死んだあとは別よね。
ねぇ、ジル。私、新しい居場所を手に入れたの。とても優しくて、温かな人のところ。
あなたにもヴィルキスにも最後まで認めて貰えなかったけど、わたし今とても幸せよ。

そう、ほんの少しの時間だけでも幸せだった。

エンブリヲ様。
あの人といると心が温かくなって好きって気持ちが止まらなくなる。
ごめんなさい、守れなくてごめんなさい。
もう少し力があったら、居場所をくれた貴方を守れたというのに。
恩の一つも返せないで、本当にごめんなさい。

あぁ、痛いわ、我慢なんて出来ないぐらいに。

この結末は自業自得だって、そんなこと私が一番分かってる。

あれ、
なにか、
動いてる、
わたし?

エンブリヲ様?

もう、目は見えないのに触れている箇所から彼だって分かる。
抱きしめたかった。抱き締めて貰いたかった。でも、どこも動かない。彼も動かない。
動け、私の体、頑張れ、動いて。ちょっとくらい言うこと聞きなさいよ。
いくら奮起しようとも、微塵たりとも動く気配はない。

悔しい。

でも、それでいいのかもしれない。
最後に触れ合えただけでも、私には幸せすぎる。

体の感覚が失われていくのが分かる。
もう、何も聞こえない、何も見えない。何も感じない。
それなのに、伝わる温かさは確かにここにある。

そうだ。

伝えないと。

エンブリヲ様は言ってくれたのに、私は曖昧な返答をした。

…………

…………?

意識が飛びかけた。

最後の最後なんだから、もう少しだけ頑張れ、私。

想っています、ではなくて。


ーーあなたを愛してます。



【サリア@クロスアンジュ天使と竜の輪舞 死亡】



【18】



街中の一角に建つ廃教会。礼拝堂に位置する場所は嵐が去った後のよう。
長椅子が伸び並んでいたであろう座席の半分。引きちぎられたかのようにパーツの一部が瓦礫となって、砕かれた地面のコンクリートの破片とそこら中に散らばっている。
色鮮やかに輝いていたステンドグラスは割れ、白い壁にはぶつけられた破片が突き刺さり至る所に傷がついている。

祭壇の前。二人の人間が死んでいた。

よく見ると男女だろうか。女が男の上に折り重なるようにして倒れている。それは男の背中を抱きしめているようでもあり、横たわった女の表情は笑っているよう。
女ーーサリアを担いで、男ーーエンブリヲの元にまで連れて行ったアンジュは、血で汚れた手を拭おうともせず、二つの死体を見る。

何か感慨が沸くのではないか?


496 : Broken heartーー今 衝撃的な体験が紡ぐ たった一つの愛 ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:16:44 M0cJSCFo0
そう、彼女は思ったが、特別、胸に迫るものはなく、糸が切れたようにしばらく眺めていた視線を死体から切って、入り口へ歩き出す。
血で染まっている手や服を見て、何処かで着替えないとな、とそんなことを考えて。
行く先などないというのに、また街を彷徨うのか、当てもなく外へ踏み出そうとーー

「貴方の名前、『アンジュ』でいいかしら」

後ろから声が聞こえた。アンジュは振り返るが、姿は何処にもない。
隠れる場所は限られているので、しらみつぶしに探せば見つかるのだろうが。
そんな気力もなく、少女と思われる声に、ええ、と答えた。

「民宿に行きなさい」

今度は、問いというより命令に近い。
何を言ってるんだこの女は、と思うアンジュだが、続く少女の声に首を傾げた。

「いえ、行っても、行かなくてもいいわ。決めるのはあなたよ」

少女の平坦な声はこの案件に何も思っていないようで。
だからこそ、アンジュは混乱する。
そこに何があるのか、と聞くと更に混乱させる少女の声。

「あなたの望んでいる答えがあるかもしれないわ」

だから、なんだそれは。
そう、言いたい気持ちを抑えて、アンジュは少女の声から逃げるように太陽の下へと歩き出した。




【F-6/道路/一日目 昼(放送直前)】

【アンジュ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(中)、音ノ木坂学院の制服(下着無し)
[装備]:S&W M29(2/6)@現実 不明支給品0〜1
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾54@現実
シルヴィアが使ってた銃@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす?
0:民宿に行く?
[備考]
※登場時期は最終回エンブリヲを倒した直後辺り。

※真姫を除く一同の行った情報交換はこれまでのロワ内での出来事、そして知る限りでの要警戒人物や協力可能な人物についてです。
警戒対象:DIO、食蜂操祈、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン(ただし保護対象でもある)、サリア、御坂美琴、エンブリヲ、キング・ブラッドレイ、エルフ耳の男
  また、自分たちの仲間であっても時間軸の違いによって敵対させられていることがある可能性を認識しました。



【19】



アンジュが去ってからしばらく時間が経ち。

壊れた長椅子の影に身を潜めていたクロエ・フォン・アインツベルンは、少女が完全に去ったことを確認してから立ち上がり、
被害を受けなかった近くの長椅子の席に座り、腰を落ち着ける。
ふぅ、と息を吐いたのは、ここまでの度重なる心労と疲労による影響か。

「世話の焼けるやつ」

呟いた言葉の意味は、先ほどここから立ち去っていった少女のこと。エンブリヲを殺しサリアを直前まで追い詰めた瞬間、銃を構えて現れた時は驚いたものだった。
気が付かなかったのは、既に行動を開始していたから。武器を持つ突然の侵入者に隙を見せるわけにはいかなかった為、長椅子の影に隠れてそのままアンジュとサリアの会話を聞いていた。
当人たちにしか分からない内容で、意味など一つも理解は出来なかったのだが。

ヒルダからアンジュの容姿を聞いていたことが、幸いしたか。
誰にとっての、というのはこれからアンジュが決めていくこと。
クロエはただ背中を押しただけ。
自分もそうされたように。


497 : Broken heartーー今 衝撃的な体験が紡ぐ たった一つの愛 ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:19:07 M0cJSCFo0
これまでのことを考える。


他人を助けようなどとした結果は散々なもので。
イリヤは私が辿り着く前に、既に“なにか”をされていた可能性が高く。
それが魔術的なものなのか、科学的なものかは分からないが。
行動を起こすのが遅かった、ということだけは事実で。
何に対しても、自分は甘かったのだ。
一度決めたことならば、もう迷ってはいけない。
そうでもしないと寄り道をしてしまい、目標がはっきりとしない暗がりに迷い込んでしまう。


だから、行動を起こした。


イリヤの害となる障害を取り除いておかないと。いずれイリヤに危険が及ぶ。
そう、これは必要なこと。クロエが出会ってきた悪と呼べる者はエンブリヲしかいないが、美遊が呼ばれた放送の死者は随分と多かった。
それだけ、ゲームに乗る参加者が多いということ。
強力な武器の存在も確認している。全くの素人でも、プロを相手に出来るほどの殺傷力を秘めた物も一つだけではないかもしれない。


だから、殺した。


これからのことを考える。

まずは、自由に動き走ることの出来るこの体。自分の命。
もっとも、優先すべきもの。これがなければ、イリヤを助けることなんて出来はしない。
消えてしまうからなんだイリヤが悲しんでいるかもしれないーー
なんて馬鹿な思考。私がいなくなったら、誰がイリヤを守るというのか。

そして、何処に向かうか。
まるで“爆弾”のように暴走したイリヤを最後に見てから時間が経ちすぎている。
やみくもに探す、というのは、この広い庭では得策ではない。
やはり『足』が必要かもしれない。自動車やバイクを操れるような者をだ。
なにか、目印と言えるものがあればいいのだが、そんな都合のいいものはなく。
本当のほんとうに心配で、今にも動き出したかったが、耐える。

今は身を休める時。

硬く握り締められていた“腕”から取り出した赤い宝石を手に持ち。
クロエは立ち上がって池のようになっている重なった死体とは逆の方向に歩く。
すなわち、入り口へと向かっていく。
その近くに置いてあるデイパックを抜け目なく回収するために。
そこで、ふと疑問が頭をよぎる。

誰が置いた?

クロエでないと言うならば、答えは決まっている。
周囲を見回すが、探し物は見つからない。

「やられた」

サリアが握っていた銃は何処にも見当たらなかった。





【F-6/廃教会内 礼拝堂 /一日目 昼(放送開始)】
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全身に電撃のダメージ
[装備]:
[道具]:デイパック×4 基本支給品×4 不明支給品1〜3サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 “雷神憤怒”アドラメレク@アカメが斬る!天使と竜の輪舞 。賢者の石@錬金術士。二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台 / パンプキン@アカメが斬る!、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ。
[思考]
基本:イリヤを守る。
1:廃教会で放送を聴いたあと、イリヤを探しに出発する。
2:『足』の確保をしたい。
3:デイパックの整理をしたい。
[備考]
※参戦時期は2wei!終了以降。
※ヒルダの知り合いの情報を得ました。
※クロスアンジュ世界の情報を得ました。
※平行世界の存在をほぼ確信しました。


※各世界の書籍は、 “雷神憤怒”アドラメレク@アカメが斬る!の雷撃で消し炭になりました。
※ガイアファンデーション@アカメが斬る!は雷撃の衝撃により壊れました。


498 : Broken heartーー今 衝撃的な体験が紡ぐ たった一つの愛 ◆ur4vKVfv.g :2015/09/14(月) 02:20:12 M0cJSCFo0
投下終了します
誤字脱字、他、ありましたらお願いします


499 : 名無しさん :2015/09/14(月) 03:52:46 IFdbJKHg0
投下乙です
ただクロエが強すぎじゃないですかね……
賢者の石ブーストのアドラメクレを正面から相手して瞬殺はちょっと
しかも電撃が相手だと知らない初見ですよ
かわすのも難しいでしょう
それにブリヲもなんでクロエが気絶してる時に感度50倍を掛けなかったんでしょうか
同じティバック内に居れば掛ける暇もあったと思いますけど
あれだけ妨害やら反撃にあってブリヲも前話でやっと邪魔が良く入ると学習したところに不用心過ぎではありませんか

ついでにこれは勘繰り過ぎかもしれませんが時間が放送開始とあるのはクロエの生存ロックにしか見えないのですが


500 : 名無しさん :2015/09/14(月) 03:58:48 mfaqR.Q20
はいはい議論スレ議論スレ


501 : 名無しさん :2015/09/14(月) 23:25:15 vayrs6qY0
どうなんのかねぇ


502 : 名無しさん :2015/09/14(月) 23:50:26 FIDEgG0k0
投下乙です

後藤さんがどんどん近づいてくる。田村班はこれを乗り越えられるのか
三木追憶とは少しずつ精神的な変化がありますね

ブリヲ追憶話の方は議論中のようなのでまた後日


503 : ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:12:48 vZD5qWBg0
投下します


504 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:18:26 vZD5qWBg0
花京院の死体が火に包まれ、燃えてゆく。
肉が焼かれる不快な匂いは、不思議としない。コンサートホール内に充満する、煙の匂いに消されているのだろうか。
あるいは、承太郎にそこまでの余裕がないだけなのか。
仲間の死と、その遺体が焼かれる様に苛立ちと空しさを覚えながらも、承太郎は傷口を押さえながら意識を繋ぎとめる。
既に足立とほむら、そしてまどかの死体は何処にもなく、コンサートホールには承太郎しかない。
今ここで気絶すれば、花京院と同じく灰になるだけだ。

「花京院……」

かつて救い、そしてもう一度救える筈だった仲間。
思えば中々に気の合う奴だった。
戦いを終え、日本に帰国した後。相撲の雑談をしながら、一緒に登校をするという穏やかな日常もあったのかもしれない。
だが、それは決して起こり得ないと否定されてしまった。

「……広川の野郎、この落とし前はきっちり付けねえとな」

下手人はまどかだが、元々の元凶は広川だ。
花京院との話の食い違いから推測するに、あの花京院は『承太郎とまだ出会っていない時』から呼ばれた可能性が高い。
広川があえて時間をずらし花京院を呼んだのも、このような惨劇を引き起こすのが狙ってのことと考えられる。
だとすれば、他の参加者にも同様、呼ばれた時期によるすれ違いが起こる可能性は高い。
今頃、それを眺めながら広川は何処ぞでふんぞり返り、ほくそ笑んでいるのだろう。

(…………待て、“今”の花京院はどうなってる?)

ふと、承太郎の脳裏に疑問が沸いた。
過去の花京院が死んだとして、現在の花京院は無事なのか。
単純に考えれば、過去を改変したことにより、現在の花京院は死んでいることになっているはずだ。

(仮に今の花京院も死んじまってるとしてだ……。この場合、歴史ってのはどうなっちまうんだ?)

エジプトへの道中、様々なスタンド使いと戦い撃退してきた。特に灰の塔、吊られた男、恋人、死神13の戦いは花京院による活躍が大きい。
灰の塔はその性質上、狭い飛行機内で星の白金や魔術師の赤では対抗は難しく。吊られた男は花京院が救援に来なければ、ポルナレフは死んでいた。
恋人戦も同じく、花京院が居なければジョセフは死亡している。
死神13は伝聞での把握ではあるが、花京院の気転がなければ全滅していたかもしれないらしい。
花京院の死亡は間違いなく、歴史に大きな歪を残す。下手をすれば、殺し合いを終え帰還したはいいが、そこでジョースター一行は既に全滅、という可能性もある。

(……タイムパラドックスって奴か。これじゃまるでバック・トゥ・ザ・フューチャーの世界だぜ)

タイムパラドックスには幾つか解釈があるが、正直なところは誰にも分からない。
そもそも、承太郎には時間を越える術がないのだから、確かめようもない。
案外元の時代では何も変わらないのかもしれないし、大幅な変化がもたらされている事も否定できない。

(どっちにしろ、禄でもない事をしやがる。予測できないってのが一番性質が悪いぜ)

バック・トゥ・ザ・フューチャーのクリストファー・ロイド演じるドクが慌てふためくシーンが容易に目に浮かぶ。承太郎も同じ気分だ。
そんな憂鬱な気分で、更に痛み出す傷を抑えながら、星の白金で承太郎は炎の中の花京院の首輪を回収した。
先行きは暗いが、まだ生憎とここで死ぬつもりもない。
知り合いの首輪を解析用のサンプルにするのは気が引けたが、この先サンプルが確実の手に入る保障もない。

(……? 熱くねえ。炎の中にぶち込まれていたのにか?)

スタンドを介して、熱さが手を伝わるだろうと思ったが、思いのほか首輪に熱は通っていなかった。
首を傾げながら、承太郎は懐に首輪を仕舞う。
そして燃え盛る炎を眺めて、息を大きく吸い込んだ。
タイムパラドックスや花京院に対しての感傷で少し、行動が遅れてしまった。
傷の治療もして、足立も追跡しなければならない今、無駄なことで足を止めるわけにはいかない。

「……やれやれだぜ」

これからのハードスケジュールを思い承太郎は辟易しながら何時もの口癖を呟いた。





505 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:19:02 vZD5qWBg0



(―――私は弱い……)

セリューはブラッドレイとの戦闘で改めて自らの弱さを自覚した。
帝具もあり万全セリューと帝具無しとはいえ、イェーガーズの一員であるウェイブ。そして国家錬金術師ロイ・マスタングの三人掛かりでも止められない、ブラッドレイという化け物。
強すぎる。実力はエスデスと同等。考えたくはないが、あの二人が争った結果、エスデスが負ける可能性も十分にある。到底セリューでは勝てない相手だ。

(勝てない……私は正義なのに……勝たなくちゃいけないのに……!)

弱さは罪だ。
断罪せねばならない相手であっても、力が及ばなければ意味がない。
だが、今のセリューには力がない。強さが足りない。
セリューの正義では、ブラッドレイという悪を裁くことが出来ない

「せ、セリュ―さん……?」

「……あっ? 卯月ちゃんどうしたの?」

恐る恐る、卯月がセリューに話し掛けて来る。
様子を見るに、何度か呼びかけていたらしいが、考え事に夢中で気が付かなかったらしい。

「あの、ウェイブさんが……アカメって人と手を組むみたいです……」

「…………? 何言ってるの……ウヅキちゃん?」

「私、クローステールをウェイブさんに巻きつけておいたんです。それで糸電話みたいに声も聞けるかなって思ったら上手くいって」

「と、取り合えずクローステールは早く回収して! 気付かれる前に!」

「は、はい!」


506 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:19:35 vZD5qWBg0

それから卯月から話を聞く限り分かったのは、ウェイブに対してセリューは悪だと思わされているかもしれないという事だった。
しかもそれを話していたのが、セリューを撃ったあのスーツの男らしい。
自らの行為を正当化させ、さもセリューを悪だと断定させる行動は見事だとしか言い様がない。
そして何より、スーツの男は高坂穂乃果が寄越した援軍という事実。
その目的は小泉花陽の回収及び、仲間を増やす事だろう。既に高坂穂乃果は何人もの参加者を抱き込み、軍団を結成している可能性が高い。
高坂勢力だとでも呼ぶべきだろうか、ウェイブもそれに組み込まれようとしている。

(高坂勢力……。厄介なのは、自らが正義だと名乗っていること。勢力の首領が表向きは弱者を装っていること。
 こうして信用を得る事で勢力に引きずり込み、手駒を増やしていく悪質さ。アカメすら引き込もうとするその貪欲さ、ナイトレイド以上か……)

高坂勢力が今どれほどの力を持っているか知らないが、セリューが正面から戦って勝てるか分からない。
もしかしたら、ブラッドレイですら高坂勢力の一員であるかもしれない。
敵の戦力は未知数だ。エスデスと合流でもしない限りは、直接的な戦闘は避けなければいけない。
だが、それは悪を黙って見逃すという事だ。本当ならば今すぐにでも特攻して、悪を一人でも滅ぼさねばならない。

(でも……今の私には守らなきゃいけない人が居るから……!)

ここで死ねば、卯月を守る者が誰一人として居なくなる。それだけは絶対に避けなければいけない。
もう絶対に失いたくない。彼女だけは何があっても守る。
卯月の存在がセリューの激情を抑え、冷静さを取り戻させた。

(こうなると、当初の予定だった図書館襲撃も止めるべきか? しかしアカメが……だけどウヅキちゃんと私だけで……)

セリューが選んだのは後退だった。一度引き返し体制を立て直す。
ブラッドレイ戦で気付かされたセリューの弱さ。それが未だに尾を引きセリューに根付いている。

「悪を……見過ごさなければいけないなんて……!」

「セリューさん……」

「ご、ごめんねウヅキちゃん。声に出ちゃった……。でも私、絶対にウヅキちゃんだけは守るから」

「……はい」

向かうのはコンサートホールか病院辺りになるだろう。
最初イェーガーズ本部に戻ろうかとも考えたが、図書館に集まった高坂勢力がセリュー討伐に乗り出すとすれば真っ先にイェーガーズ本部が狙われる。
向こうからは、セリューが死んだと認識されているのだろうが、放送を超えればすぐにばれる。何よりクローステールでの盗聴に気付かれているかもしれない。
何にせよより安心した場所に行って損はない。
だが、セリューはそこでコンサートホールから上がる煙に気が付いた。

「セリューさん、あれ……」

「火事ですね」

大して寒くもない、この島の環境で暖を取るものなどそうはいない。料理を作ろうとして火の扱いを誤るようなものも早々居ないだろう。
セリューはあの火事は戦闘による二次的な被害であると即座に直感した。

「た、助けて……くれ!!」

「止まって下さい。何があったんですか?」

「あ、頭のおかしい女子中学生に追われてるんだ……。は、早く逃げないとヤバイ!!」

それを証明するかのようにスーツの男―――セリューを撃ったのとはまた別人―――が走ってきた。


507 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:20:25 vZD5qWBg0



市庁舎に寄ったのは失敗だと足立は痛感した。
市庁舎に辿り付き中を散策してから、数分も経たない内にほむらに発見されてしまった。

(クソが! 他にも施設なんていくらでもあったろうが、なんでわざわざ市庁舎にクソ!)

マスティマの襲撃を受け、マガツイザナギで迎撃しながら足立は市庁舎を飛び出す羽目になる。
本来なら、ここに潜伏しながら後の方針を考えるつもりだったのが、台無しだ。
やはり世の中クソだと内心で何度も毒を吐きながら、足立は走り続け前方に人影を見つけた。
一人はただの女子高生だが、もう一人は片目が潰れているものの、ごつい義手を付けて強そうな雰囲気を醸している。
ただのコスプレ野郎かもしれないが、この際何でもいい。事態の好転に賭け、足立はこの二人組みを巻き込む事にした。

「足立、貴方だけは……!」

遅れて辿りついたほむらの前に足立を下がらせながら、セリューが前に出る。
足立を庇おうとするセリューに苛立ちながら、それでも理性で騙されている事を考慮し、攻撃の手を止めた。

「退きなさい。そいつは……」
「一体何があったか、話してくれませんか? 私こう見えても警察で……」
「……警察」

足立の前例もあり、ほむらは相手が警察であってもそう簡単には信用できなかったが、戦えない一般人を連れていることも考えると、まだ足立よりはマシに見えた。
自分を落ち着かせる意味も含め、ほむらは今までに起きた出来事を全てセリューに説明する。
当然、足立はそれを否定。まどか殺害には関与していないと言い張る。
話を聞いたセリューはその全てに納得はしないものの、足立に疑惑の目を向けながら、卯月と共に距離を置く。

「足立透、暁美ほむら。……残念ながら、二人とも殺人者名簿に載っていましたね……。すみませんが、ほむらさんの話を全面的に信用することは難しいです。勿論足立さんも」
「殺人者名簿?」
「は? え? 何それ……」

名簿は一人に付き一つ。それも名前しか載っていない簡素なものだった。
それをセリューはまだ名乗ってもいない、ほむらと足立の名前まで当ててみせる。

(殺人者名簿ってことは、俺の今までの殺人がばれてるって事か? ふざけんなよ広川! 
 俺は、ただテレビに放り込んだだけで殺したのはシャドウじゃねえか、何で俺にばかりこんな……! 支給品と言いペルソナ制限と言い、クソ主催過ぎるだろ!!)

「そうね。私は人を殺したことがある。でも、それは必要な事だった」
「必要、ですか?」
「ええ、そうよ」

動じる足立とは打って変わりほむらは殺人について自ら認めた。
これがセリューの受けた印象に大きく影響したのは言うまでもない。

「お、俺も刑事だからさ……。その、場合によってはそういうこともさ……」

「……」

(信じてねぇって面だ。ふざけんなよクソアマが! 何が殺人者名簿だ、クソクソクソ! 広川のクソ野郎、俺ばかりに不利なモン押し付けやがって!)

咄嗟に良い言い訳を思いつけなかった足立は、その苛立ちも含め広川への殺意を高める。
今更、警察がどうこう言っても、最初に付いた悪印象を拭うのは難しい。
それもこれも殺人者名簿なんてものさえなければ、こんなことにはならなかった。
実際、セリューに警察であると明かし警戒を解かせる予定だったのだ。それが殺人者名簿の話を聞いてから切り出しては、体のいい言い訳にしか聞こえない。

「足立さん、貴方が警察ならそれを証明できるものはありますか?」
「え? 証明……ああ、証明ね……」

足立としては逆にセリューに対して警察であるか証明して欲しいところだったが、自分を信用させる前に相手を疑うのも逆効果だ。
渋々、懐から警察手帳を取り出した。

「どう? これ警察手帳なんだけど」
「……玩具じゃありませんかこれ? 私はこんなもの持ち歩いてませんけど」
「はあ? 何言ってるのさ、警察なら手帳ぐらい持ち歩くでしょ。ドラマなんかじゃ嵩張るから持ち歩かないとか言う、馬鹿な刑事が居るけどさ」

武器と見なされなかったのか、没収を免れた警察手帳を見せる足立だが、当然セリューには見覚えがない。
とはいえ、セリューは足立が異国か異世界の警察である可能性も考慮し、卯月へと視線を向けた。
名前の響きが近い卯月なら、これが警察手帳なる警察の証明になるか分かるかもしれないからだ。


508 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:20:44 vZD5qWBg0

「なんか大きくないですかそれ……」
「本物はこういう大きさなんだよ。ドラマのあれは偽物でさ」
「でも、セリューさんが違うって言うなら。違うと思います、それ」
「なっ、さっきからドラマと違うって言ってるだろ!!」

ここに来てからの足立の行動にミスはあれど、それでも明確な失敗は殆どないだろう。
少なくとも警察手帳を見せた点は正解だ。
ただ、足立の不運はこの場に呼ばれた参加者は異世界の住人達であること。更に言えば、ほぼ同質の世界の住人である卯月が冷静な判断力を持たず、結局はセリューの判断に従ってしまったということだ。
幾重にも重なる不運の連続はつい足立の声を荒立たせ、卯月を威圧してしまう。
セリューが卯月を庇うように前に出ながら、敵意を持った目で足立を睨む。

「分かったかしら? これでこの男を庇う理由はないわ」
「……いえ、確かに怪しいです。ですが、まだ完璧な証拠がありません。
 彼女は一般人ですから、その警察手帳を知らないだけかもしれませんし」
「あれは……」
「わ、分かってくれたかい!? そうだよ、俺は……」

「証拠ならあるぜ? “足立さん”」

この場に新たに響く第三者の声、皮肉を込めてさん付けで呼んだ声の主は学ランを羽織った巨漢。

「じょ、承太郎……くん」
「よぉ、足立さん。てめえにやられた腹が随分と痛むぜオイ。
 こいつを塞ぐ為に、炎で焼いた時の痛みは忘れられねえ。
 俺はこう見えても陰湿な性質でな、やられた分はやり返さなきゃ気がすまねえ」

承太郎の乱入は更にセリューの疑惑を高めていく。

「しょ、証拠ってなんだい? その傷だって俺のせいだとは……」
「俺のデバイスに付いていた参加者追跡機能。俺の支給品らしい。
 そいつを見れば、お前の今までの行動が容易に把握出来るぜ」
「なっ……」
「俺が出てくと言った時、妙だとは思わなかったのか? 何故、エスデスが能力研究所に向かうと俺が分かっていたのか?」
「あの時の……」

『ちょ、承太郎君!? 君さ、いや何してんの』
『俺はエスデスの野郎からアヴドゥルを引っこ抜いて別行動だ。アンタとはお別れだ足立さん』
『何処に居るか分かってるの!?』
『あいつらは能力研究所に向かってる』
 
エスデスの行き先を足立が知っていたのも、元を辿れば承太郎から聞き出していたからだ。
では、その承太郎は一体何処からその情報を仕入れていたのか?

「これ以上ない証拠だよな? 足立さんよ……」
「……」

言い逃れは出来ない。
開き直った足立は演技を止め、以前承太郎に見せた邪悪な笑みを浮かべた。

「このクソガキ……何度も何度も白々しくさん付けで……。もういい、お前ら纏めて死ね。
 利用できると思ったけど、お前ら広川も全員クソだしさぁ、死体全部トイレに流してやる」

タロットカードを握りつぶす。足立の背後から巨大な人影、マガツイザナギが姿を見せる。
ほむらとセリューは即座に距離を取り、マガツイザナギを警戒。
だが、承太郎は対照的に帽子の唾を人差し指で持ち上げ、不敵な笑みを浮かべていた。


509 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:21:23 vZD5qWBg0

「やーれやれだぜ。証拠ってのは最後まで見てから判断するものだぜ? お陰でマヌケは見つかったがよ」
「あぁ? 承太郎……マガツイザナギに手も足もでねえくせに……」
「そいつはちと厄介だが、使い手の頭脳がひたすらマヌケらしいからな。そこまで脅威じゃあねえな」
「何、強がっちゃってるわけ? 今更凄んでも怖くなんかないんだよねぇ。ペルソナさえあればさぁ」
「おめー、俺が参加者追跡機能の話を出した時、俺のデバイスを確認しなかったよな。
 アレが嘘って事を少しも考えなかったのか?」
「まさか……!」

あの状態で、まだ挽回の余地はあった。今の話が全て承太郎の嘘であったのなら、セリューへの心象も傾く。
しかし、足立は話を早とちりし、早々に見切りをついてしまった。
あの時、まだ思考を止めず事態の好転に賭けていれば、セリューを味方に付けられていた可能性も残されていた。

「このクソガキ!!!」

承太郎の狙いは最初からこれだ。足立の本性を暴くこと、これこそが何よりの証拠になる。
元より、参加者追跡機能など存在していない。そもそもあれば、花京院が偽物かどうかで揉める事などない。
少し考えれば分かるはずのこと。それを承知で承太郎は賭けに出て、そして勝った。
嵌められた怒りに任せ足立がマガツイザナギを承太郎にけしかける。
だが、その瞬間左腕に激痛が走った。

「ガッ、な、何だ……」
「だから言ったんだ。使い手がマヌケだってな」

既に横方に回ったほむらのマスティマに貫かれた左腕。
白い羽は血に染まり、赤い紅翼となって足立に振るわれる。
マガツイザナギを引き戻し、剣で受けるが左腕のダメージの影響か力が入らず、後退する。

「足立!!」
「うるせえ! 愛しのまどかちゃんの仇ってか?  どうせあのガキはただの殺人鬼だろうが!!」

「話は全て掴めました。―――正義閻魔槍!!」

そこへ加え変形を済ませたコロとセリューが踊り掛かる。
コロの拳をマガツイザナギで裁くが、本体である足立に対してセリューの攻撃が迫った。
腕にドリルを着けたセリューの義手は、生身で受ければ一瞬でミンチへと変わり果てる。
コロの相手で手一杯なマガツイザナギを一旦消す。そしてもう一度タロットカードを握りつぶしマガツイザナギを展開。

「一緒にぶっ飛んでろ!!」

マガツイザナギが野球のバットのように剣を振りセリューを薙ぎ払う。
ドリルでガードするも勢いを止めきれず、コロの方向へと吹っ飛ばされる。
コロがセリューを受け止め、一時的に隙が出来たのも束の間。いつの間にか距離を詰めたほむらが眼前に立っている。

(コイツ、本当にどうやって移動してんだよ!?)

足立の頭蓋を叩き潰す為、マスティマが振るわれたその瞬間、ほむらに限界が訪れる。

「こんな、時に……!」

疲労の蓄積に加え、ソウルジェムの濁り、マスティマの使用での限界が同時にほむらへと圧し掛かる。
体が動かず膝を付き、マスティマでの防御も出来ない。
足立はこの好機を笑みを以って迎えた。


510 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:21:48 vZD5qWBg0

「やーと俺にも運が向いてきたって事か。アハハッハハ!!!」

「くっ……」

「残念だったねぇ。悪者の俺を倒せなくってさ、ほむらちゃーん。ていうか、勝った俺のほうが正義か」

刃が落とされる。時を止めたところで動けなければ意味がない、羽があっても羽ばたけなければただの飾りでしかない。
まどかの敵も討てないまま。ここでこの男に殺され、生涯を閉じる。
それがほむらに決定付けられた運命。

「ごめん……まどか……」


「!? ぐええ!」

虫の潰れたような悲鳴をあげながら、地面を転がっていく足立。
マガツイザナギが横から叩きつけられた鉄球によって、足立と同じく吹き飛ばされている。
その鉄球に付いた鎖の先に居るのはセリュー。

「クソッ痛ェ……」

「お前は正義なんかじゃない……!」

鉄球を取り換え、コロの口から取り出したのは大砲。
間髪入れず、砲弾が射出されマガツイザナギを襲う。
一発目は剣で弾くが、二撃、三撃目が足立の周囲に降り注ぎ砂煙によって視界が潰れていく。
その隙に卯月がセリューが予め指示した通りにクローステールでほむらを回収する。

「クソックソックソッ!! 何なんだよ、あのビックリ人間は……!」

「オラァ!」

怒りが冷める間もなく、星の白金の拳がマガツイザナギの顔面に叩き込まれる。
ペルソナのダメージが本体にフィードバックし更に宙を舞う。
直接殴られるよりは衝撃は抑えられたが、それでも直接顔面に星の白金の拳を貰ったのは大打撃といっていい。
顔を抑えて体制を直しながら、追撃の拳をぶちかます星の白金をマガツイザナギでいなす。
二者の拳と剣の応酬が砂煙を晴らし、視界をクリアにしていく。

「大したスタンド、いやペルソナか。持ってる割には、やっぱり本体がなってねえな」
「チィ……。3対1で調子乗ってんじゃあ―――」
「てめえは、いくらでも状況を好転出来たんだ。あの参加者追跡機能の嘘は俺にとっても賭けだった。
 だが、てめえはそれを諦めた。自分で道を切り開けもしない雑魚ってことさ」
「……!!」

視界が晴れ、承太郎のにやけた顔を見た足立は更に激情を増す。
マガツイザナギが大きく剣を振り上げる。
その瞬間、開いた横腹に向けて星の白金の拳が減り込んだ。


511 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:22:07 vZD5qWBg0

「ぐぅ……!」

先のマガツイザナギの攻撃は、今までにないほど単調で読みやすい。
怒りに任せたその太刀筋は、星の白金の目ではっきりと見切っていた。
怯んだマガツイザナギに対し、承太郎はそのまま胴に拳を連続でぶち込み続ける。
胴への攻撃を無視し、マガツイザナギは強引に剣を承太郎に向け振るうが、更に頬を殴り飛ばされる。
ダメージが足立にも伝わり、頬に強い衝撃が走る。折れた頬の骨にも激痛を誘発し、足立の顔が苦痛に悶えた。
承太郎は駆け出し、激痛で操作を手放したマガツイザナギの横を走りぬけ、足立の間合いへと突っ込む。
数秒も経たず、承太郎は星の白金の射程距離内へと距離を縮める。
マガツイザナギの迎撃と防御は間に合わない。消して出すにも、その動作の内に殴られる。それも恐らくは全力のオラオラを喰らう羽目になってしまう。
いくら足立が警察としてある程度鍛えたとしても、あんなものを喰らえば再起不能。最悪死ぬ。

「何!?」

次の瞬間、承太郎の前に爆炎が舞い上がり、粉々に飛び散った破片が降り注ぐ。
星の白金の脚力で爆発から遠ざかり、破片を拳で打ち落とす。
足立が手榴弾を使ったと分かった時、既にマガツイザナギを下がらせ自身を爆発から守らせていた。

「誰が手榴弾は一つって言った、バーカ!!!」

まどかを殺害した際に足立はまどかの手榴弾をスっていた。
ペットボトルについて気を取られていたせいか、まだ足立を疑っておらず星の白金を発現させていなかったせいか、承太郎はその事に気づけなかった。
故に承太郎は手榴弾をコンサートホールを焼いた一発のみだと思い込み、二発目を想定していない。
承太郎が想定外の攻撃に足止めを食らっている隙に足立は離脱する。

(クソッ三人相手じゃ分が悪い。殺人者名簿さえなきゃあの化け犬女を味方に付けて、クソガキ共を……。
 肝心なとこで広川の奴……!!)

怒りは次から次へと沸いてくる。まだまだ暴れたりないが、これ以上あの三人に構って反撃を貰うのはご免だ。
特に承太郎は侮れない。非常にイラつく相手だが、絶対に勝てる保障がない限り戦わない方が良い。
怒りを抑えながら、足立は戦場を後にした。






512 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:27:40 vZD5qWBg0





まどかとの出会い。マミを初めとした魔法少女達との思い出。
頭を駆け巡る記憶の奔流は、普通の人間で言う走馬灯というものなのだろうと、他人事のようにほむらは思った。

(案外、悪くないものね)

あまり良い記憶といえるものは数少ない。それだけの戦場を何度も何度も繰り返してきたのだから。
それでも、過ぎた記憶を振り返ってみると案外悪くないものもある。
考えてみれば、過去には何度も戻ったが、こうして過去を振り返って事はあまりなかったからかえって新鮮だ。

「ごめんね、まどか……。私もまどかと同じところに行けるか分からないけど……これで一緒に……死ねる……」

ソウルジェムが穢れきり、円環の理に導かれるより早くソウルジェムを破壊すれば、あるいは死ねるかもしれない。
あくまでかもしれないであって、試したこともない方法だ。何より、まどかが喜ぶはずもない自己満足に過ぎない。
それでも、目の前でまどかを死なせ、足立を殺せもしなかったほむらにはこれが唯一の救いでもあり、罰でもあった。

「……駄目、死ぬなんて言わないで!」

「?」

手を強く握られた。その手はとても冷たかったが、その手の主は涙ぐんで、とても優しい顔をしていた。

「グリフ……シード……?」
「これで、魔法少女の穢れとやらは浄化できるんですよね。ほむらちゃん!」

元から穢れを随分溜め込んでいたのか、ほむらのソウルジェムの穢れを全て浄化は出来なかったが、それでもまだ活動可能な程度には回復した。
ほむらにとって不幸中の幸いだったのが、承太郎がグリフシードを持っていたことだ。
いくら魔法少女に疑念を持っている承太郎も、死に掛けたほむらを見れば人命を第一に優先する。
三つのグリフシードは完全に穢れ、使い物にならなくなったが、ほむらの命を繋ぎとめる事には成功した。
承太郎は複雑な心境のまま、帽子を深く被りほむらに視線を向けている。

「……一つ貸しになるのかしら?」
「返さなくていいぜ。もう、お前らとはあまり関わりたくねぇ」

素っ気無い態度でそう言い残し、背中を向けた。どうやら、一人別行動を取るらしい。
ほむらの意識が虚ろな間に、最低限の情報交換は済ませたのだろう。
承太郎はそのまま去っていった。

「良かった。ほむらちゃんが無事で……」
「えーと……貴女は……」
「名乗り遅れましたね。私はセリュー、セリュー・ユビキタスです!」

セリューは満面の笑顔で涙を拭い、そう答えた。

「貴女、泣いてたの……?」
「え? ああ、すいません。何だろう、私ほむらちゃんがあまり他人に見えなくて……それで」

セリューとしても、ここまで感情的になったのは久しぶりだ。
ほむらに対しては何かの親しみを感じている。
それは彼女の正義。その根っこにある復讐心だろう。
セリューにとって正義とは復讐である。幼い頃に父を悪に殺された恨み、オーガを殺された恨み、スタイリッシュを殺された恨み。
その恨みを悪にぶつけ、復讐を果たす事がセリューの正義だ。
ほむらも同じだ。まどかを殺され、足立を殺したいと思う復讐心。
セリューは本人も知らない内に、その同属に惹かれたのかもしれない。


513 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:28:20 vZD5qWBg0

「……そう」

ほむらも自分の為に誰かが泣くのは、少し悪くない気分だ。
泣くことはあっても、泣かれることはあまりない。気遣うことはあっても、気遣われることは少ない。
そんなほむらにとって、セリューの涙はまどかを喪ったほむらに温かい救いのようにも感じられた。

「ありがとう。セリューさん。
 けれど、私のソウルジェムはまた穢れてしまうわ。だからその前に足立を……」
「こう言っては何ですが、あの様子では足立に追いつく前にまた……。
 そこで、ほむらちゃん。グリフシードと言いましたっけ? 実は心当たりがあるんです」
「心当たり?」
「ええ、一つはヒースクリフさんという人が持っているらしいんですけど。距離が遠すぎるんで、これはあまり現実的じゃありません。
 ただ私の荷物にグリフシードというアイテムが入ってて、それを近くに居る知り合いが持ってるんですよ」

セリューのランダム支給品の一つはグリフシードだった。
セリューからすると、何の使い道のないそれはディバックの底で眠るだけのガラクタではあったが、今のほむらには何物よりも変えがたい命綱だ。
だが、不運なことにセリューは荷物をウェイブに任せてしまっている。グリフシードの回収をするには、ウェイブ及びスーツの男などの高坂勢力とも接触する必要がある。
そのことをセリューはほむらに説明した。

「―――こ、高坂勢力って……。少し飛躍し過ぎなんじゃ……」
「そう思われるのも無理はありません。でも、信じて下さい。高坂穂乃果は非常に危険です。
 足立透のように人を欺く天才なんです」

まどかが死んだショックが抜け切れないせいか、この時ほむらは判断力が落ちていた。
加えて、ほむらはセリューに対して警戒を解いて、若干信頼し始めている。
自分の為に泣いてくれた少女が嘘を言っているようには見えず、ほむらの中ではセリューは純粋で優しく真っ直ぐな女性という印象を植え付けていた。。

「……そうね。足立みたいな参加者が他にも居ないとも限らないものね」
「そこでです。逆に言えば、高坂勢力は来る者を拒まずなんですよ」
「?」
「私の同僚のウェイブも懐柔されました。まだ、上手く立ち回れば何とかなるかもしれません」

貪欲に勢力を増やす高坂勢力。それ故に正義を名乗り、誰もが加わりやすいよう表向きは振舞っている。
そこへセリュー達が今までの行為を反省し、改めて共に戦わせて欲しいと願えばどうなるか。
あくまでセリューは殺し合いには乗っていない。改心しただの敵意がないことを示せばウェイブは確実に擁護してくれる。スーツの男も早々、断ることはないだろう。
そこへほむらや卯月の擁護が入れば尚更だ。
こうして勢力内に紛れ込み、内部から潰していったり。勢力を誘導してブラッドレイなどの巨悪と潰し合わせるのもいいかもしれない。
最悪、乱戦が予想される図書館に遅れて乗り込み、漁夫の利を得ると言う方法もある。
その際にウェイブとグリフシードも回収できれば万々歳だ。

「……協力してくれるのならありがたいわ。確かに、このままでは足立を追うどころじゃない。
 でも、セリューさんは良いのかしら? 私は殺人者よ。足立と同じ。そしてまた殺人を犯そうとしている。手助けをする義理は……」
「違いますよ! 私、人を見る目には自信があります! 貴女は悪に落ちるような人じゃない。足立も殺すのではなく、裁いているんです。ただの殺人ではありません! 
 私はほむらちゃんを信じてますから!! 同じ正義の志を持っているのなら、私は誰であろうと見捨てられません!」

セリューの言葉は、媚薬のようにほむらに染み渡り、心地よい。
今まで一人で時を繰り返し、戦ってきたせいか。四人の魔法少女以外とは殆ど関わりを持たなかったせいか。

「……分かったわ。セリューさん、貴女が信じるなら私も貴女を信じようと思う。
 それ以外にグリフシードを手に入れる方法がないようだし」
「ほむらちゃん……。はい! 一緒に頑張りましょう!!」

何より、セリューの正義を貫こうとする頑なな意志が、あの「茶番」の世界でしていた正義の魔法少女達のように見えて。
もう一度、あの「ごっこ遊び」を続けられればと。僅かにでもほむらは願っているのかもしれない。

だが、ほむらは知らない。セリューの正義の正体が復讐であることも、その狂気さえも。
何より、ほむらが信頼を置く巴マミを悪と断定していることすら、知らされていない。
この脆く薄い、絆のような勘違いが、どのように破綻していくのだろうか。
まだ誰にも知る由はない。


514 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:28:45 vZD5qWBg0

「私も……私も頑張ります……」
「ウヅキちゃん。うん、みんな一緒ならきっと大丈夫だよ。絶対、悪をやっつけましょうね!」
「私も、もっともっと、頑張りますから……。セリューさん」
「ウヅキちゃん!」

(まどかが生きてたら、私も……)

卯月を強く抱きしめるセリューを見て、ほむらは自分とまどかを重ね合わせてしまう。
ああ、違う。これは友情とは違うというのを何処かで理解しながらも、今のほむらにそれを否定するほどの気力は起きない。
ただ目の前のハリボテだけを見つめて、裏側を見ようともしない。

(お父さん……私、仲間が出来たよ……!)

そして、セリューも気付かない。
彼女にとって真の仲間は今までに存在しなかった。
ウェイブですら、セリューの狂気を目にし距離を置いている。エスデスも決して、セリューに心の底から共感もしない。
彼女は常に孤独だった。けれど、ここにきてから島村卯月だけはセリューのそばに居てくれる。
だから、もう一人じゃない。






515 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:29:10 vZD5qWBg0




「足立の野郎を逃がしちまったのはかなり不味いぜ」

承太郎は傷の痛みを無視しながら走り続ける。
足立は狡猾にして、殺人に逃避もなく、度胸がある。敵に回せば非常に厄介だ。
承太郎から逃げて、安全を確保した後は恐らく承太郎の悪評を流し始めるだろう。
それだけでも面倒だが、セリューとの情報交換で分かったが、この周辺には厄介な連中が多い。

疑心暗鬼の人間火炎放射器ロイ・マスタング、爆弾魔と変身能力を持つ化け物。驚異的な実力を持つブラッドレイ。そして、後藤。
特にマスタングは殺し合いに乗っていないのが尚、性質が悪い。足立が一番付け込み易いタイプだ。
騙されて、こちらが消し炭にされるなんて堪った物ではない。前例があるだけに、警戒度はこの中である意味一番高い。

「野郎が連中を利用する前にケリをつけてえが。やれやれ、クレイジーな連中が多すぎだぜ」

足立はただでさえ、強力なペルソナであるマガツイザナギも使役している。
傷のハンデもあったが、恐らく正面からの真っ当な戦闘では勝ち目は薄いと承太郎は分析する。
だからこそ、足立を煽り冷静さをなくして戦いを優位に進めていた。
出来れば、足立が冷静さを取り戻す前に仕留めたいところだ。

「それに、ここに来てから後手後手に回ってばかりだ。アヴドゥルには悪いが、当面は再合流できねえな」

セリューとの情報交換で分かったことだが、参加者は南の方角に密集しているらしい。
後藤があえて、南下した辺りからもそれが伺える。
つまり、北側に居た承太郎は情報についてかなりの遅れを取っていることになる。
アヴドゥルを連れたいところだが、待っている暇も無い。何より魔術師の赤ならば、そう易々と殺されることもないはずだ。
一先ずは他参加者との積極的な接触と、足立を仕留める事が当面の方針か。

(コイツに関しても心当たりが出来たしな)

懐から取り出した首輪。未だにひんやりと金属特有の冷たさが残っている。
懐に財布などを入れると温かくなることがあるが、この首輪は熱を弾いている。

(まだ、この首輪は生きてやがる。熱を通さねえのも、スタンドの干渉を阻んでるのと同じ機能なのかもしれん。
 正直なとこ、サンプルにされるのを恐れて死者の首輪は機能停止して解析不能なんて事になってねえか心配だったが、そうでもないらしい。
 とにかく、コイツはまだ使える)

出来れば専門家に任せたいが、最悪の場合はスタンドも弾く首輪を素手で解体することになるかもしれない。

「足立といい、首輪(コイツ)といい。ヘヴィなスケジュールになってきやがった。……やれやれだ」






516 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:29:25 vZD5qWBg0
『自分で道を切り開けもしない雑魚ってことさ』

「クソッ!!」

承太郎の台詞が何度も何度も足立の中で反響していく。
気に入らない台詞だ。聞いてて苛立つ。あの台詞は持っている奴だけが吐けるクソのような台詞。
道を切り開く、才能(チケット)を持っている奴だけが、上から目線でさも自分の力のように吐くクソ下らない台詞だ。

「承太郎……!!」

足立は怒りに任せて歩を進ませる。幸い、ほむらのソウルジェムや承太郎が怪我人なのもあって、追ってはすぐは来ない。
休息も兼ね、徒歩で歩んでいくと目の前に人が倒れているのは発見した。

「うえっ……」

より正確には人であった物だ。
均整の取れた女性らしいスタイル。服装は見るからに今風な女子高生。
殺し合いなど起きなければ、今頃は恋などして青春を楽しんでいたのだろう。
首から上が、砕けた肉片にさえなっていなければ。

「……ティバック?」

その死体の横に土や血に汚れたティバックが落ちている。それも何個もだ。
ここで戦闘があり、何人か手放したのを回収せずに去って行ったのだろう。
後ろの追っ手を確認しながら、バックを回収し中身を改める。

「これアサルトライフル……いやショットガンか?」

先ず手にしたのは銃だ。足立が欲しがっていた念願のまともな武器。
一般人からすれば、使うのが躊躇される代物だが足立は銃が撃てるという理由で、警察を選ぶぐらいには銃に詳しい。
拳銃に比べ、慣れてるとは言い難いが、扱えないことはないだろう。
そしてもう一つがフォトンソード。SFチックな玩具のようなものだったが、恐る恐る試してみるとビームの刃が飛び出し地面に鋭い切れ込みを入れた。
威力は十分だが、足立が扱うには少しハードルが高いかもしれない。

「殺人者名簿……?」

あったのは散々苦汁を味合わされた殺人者名簿だった。

「そういやあの化け犬女、名簿を取り出してなかったな。……全部暗記してんのか」

ページを開けば、多くの参加者の顔写真だ。同時にそれらが人殺しであることも書かれている。
足立はページを捲り続け、自分の名が記されているページで止めた。
そのまま片方の手で名簿を押さえ、もう片方の手でそのページを破る。破ったページはクシャクシャにし握りつぶす。
残ったページの痕跡もまた丁寧に消去していく。


517 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:29:39 vZD5qWBg0

「工作はこれぐらいでいいか」

足立の顔に怒りはなく、そこには満面の笑みがある。新しい玩具を見つけた子供のような無邪気で、だが邪悪な大人の笑顔だ。
市庁舎に向かうはずが、気付けばイェーガーズ本部まで来てしまったが、結果から見れば大正解だった。
武器も補充でき、こんな面白い玩具が手に入ったのだ。これを使わない手はない。

「疑われてもこいつを見せておけば、俺はただの刑事って証明できるしな。しかも、予めヤバイ奴も予想できる。
 最高の道具だよこれ」

名簿をティバックの中に入れ、急ぎ足で足立はこの場を離れる。
一先ず目的地は使えそうな参加者の居そうな場所だ。利用できる参加者が居なければ名簿も意味を成さない。
そうなると、人通りが多そうな図書館を目指すことになるか。だが、乱戦に巻き込まれるのも面倒だ。
いっそ南下して、駅から電車を使うのも良いかもしれない。

「さーて、どっちに行こうかね……」




【D-5/一日目/昼】


【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感 、右頬骨折
[装備]:MPS AA‐12(残弾6/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率、フォトンソード@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)、
    ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み)
[思考]
基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:対主催に紛れ込んで承太郎の悪評を流す。
1:ゲームに参加している鳴上悠・里中千枝の殺害。
2:自分が悪とバレた時は相手を殺す。
3:隙あらば、同行者を殺害して所持品を奪う。
5:エスデスとDIOには会いたくない。
6:殺人者名簿を上手く使う。
7:図書館か、電車か……。
8:承太郎死ね! 広川死ね! 
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後
※ペルソナのマガツイザナギは自身が極限状態に追いやられる、もしくは激しい憎悪(鳴上らへの直接接触等)を抱かない限りは召喚できません
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。


518 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:30:25 vZD5qWBg0


【D-4/一日目/昼】

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:出血(絶大)腹に斬傷(炎で止血済み)疲労(絶大)精神的疲労(絶大)
[装備]:DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:デイパック、基本支給品、手榴弾×2、グリーフシード(使用不可)×3、『このラクガキを見て うしろをふり向いた時 おまえは 死ぬ』と書かれたハンカチ
[思考・行動]
基本方針:主催者とDIOを倒す。
0:早急に足立を追いぶちのめす。
1:アヴドゥルとまどかの件は時間がないので後回し。
2:情報収集をする。
3:首輪解析に役立つプロを探す。
4:後藤とエルフ耳の男、マスタング、キンブリー一味、ブラッドレイ、魔法少女やそれに近い存在を警戒。
【備考】
※参戦時期はDIOの館突入前。
※後藤を怪物だと認識しています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※魔法少女の魔女化以外の性質と、魔女について知りました。
※まどかの仲間である魔法少女4人の名前と特徴を把握しました。
※DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダースが一本近くに落ちています。
※エスデスに対し嫌悪感と警戒心を抱いています。
※セリューと軽い情報交換済みです。少なくともマスタング、キンブリー一味、ブラッドレイは知ってます。



【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(絶大)、精神的疲労(大)、左目損失(止血済み)、切り傷(それなり)、ほむらに親近感、自分の弱さを痛感
[装備]:日本刀@現実、肉厚のナイフ@現実、魔獣変化ヘカトンケイル@アカメが斬る!
[道具]:なし
[思考]
基本:会場に巣食う悪を全て殺す。
0:島村卯月を最後まで守る。
1:悪を全て殺す。
2:エスデスとも合流したいが……。
3:エンブリヲと会った場合、サリアの伝言を伝えて仲間に引き入れる。
4:ナイトレイドは確実に殺す。
5:図書館に向かい上手く立ち回る。
6:方法を選ばず、勢力を潰す。ウェイブはグリフシードと一緒に回収する。
7:ウェイブは何とか説得したいが、応じない場合は……。
8:都市探知機が使用可能になればイェーガーズ本部で合図を上げて、サリアを迎え入れる。
9:ほむらは正義だと思うので手助けする。
[備考]
※十王の裁きは五道転輪炉(自爆用爆弾)以外没収されています。
※他の武装を使用するにはコロ(ヘカトンケイル)@アカメが斬る!との連携が必要です。
※殺人者リストの内容を全て把握しました。
※都市探知機は一度使用すると12時間使用不可。都市探知機の制限に気付きました。
※他の参加者と情報を交換しました。
 友好:エンブリヲ、エドワード
 警戒:雪ノ下雪乃、西木野真姫
 悪 :後藤、エンヴィー、ラース、プライド、キンブリー、魏志軍、アンジュ、槙島聖護、泉新一、御坂美琴
※穂乃果が勢力を拡大しているのではと推測しています
※承太郎と軽い情報交換をしています。少なくともヒースクリフとエスデスの居場所は掴んでいます。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ウェイブの未確認支給品のひとつはグリフシードです。


519 : 不穏の前触れ ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:30:36 vZD5qWBg0


【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:悲しみ、セリューへの依存、自我の崩壊(小)、精神疲労(極大)、『首』に対する執着、首に傷
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!
[道具]:ディバック、基本支給品
[思考]
基本:元の場所に帰りたい。
0:セリューに着いて行く。
1:セリューと行動を共にする。
2:セリューに助けてもらう。
3:凛ちゃんを殺した人をセリューに……?
4:死にたくない。
5:未央ちゃんは図書館に居る……?
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※渋谷凛の死を受け入れたくありませんが、現実であると認識しています。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※自分の考えが自分ではない。一種の自我崩壊が始まるかもしれません。
※『首』に対する異常な執着心が芽生えました。
※無意識の内にセリューを求めています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ(新編 叛逆の物語)】
[状態]:疲労(大)、ソウルジェムの濁り(絶大と大の間ぐらい) 全身にかすり傷、精神的疲労(絶大)、まどかの死に対する哀しみ(測定不能)
    足立を殺す決意、まどか死亡のショックによる判断力低下、セリューに親近感
[装備]:見滝原中学の制服、まどかのリボン
[道具]:デイパック(中にまどかの死体)、基本支給品、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!
[思考]:
基本:足立を殺す。
0:今はグリフシードの入手。足立追跡はその後。
1:一先ず今はセリュー達と行動しグリフシードを手に入れる。
2:高坂勢力は良く分からないが、一応警戒しておく。
3:足立を殺した後、ソウルジェムを浄化する方法も、まどかを生き返らせる方法も無ければ自分も死ぬ。
[備考]
※参戦時期は、新編叛逆の物語で、まどかの本音を聞いてからのどこかからです。
※まどかのリボンは支給品ではありません。既に身に着けていたものです
※魔法は時間停止の盾です。時間を撒き戻すことはできません。
※この殺し合いにはインキュベーターが絡んでいると思っています。
※時止は普段よりも多く魔力を消費します。時間については不明ですが分は無理です。
※エスデスは危険人物だと認識しました。
※花京院が武器庫から来たと思っています(本当は時計塔)。そのため、西側に参加者はいない可能性が高いと考えています。
※この会場が魔女の結界であり、その魔女は自分ではないかと疑っています。また、殺し合いにインキュベーターが関わっており、自分の死が彼らの目的ではないかと疑っています。


520 : ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:31:37 vZD5qWBg0
投下終了です


521 : ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 00:34:28 vZD5qWBg0
良く見たらグリフシードじゃなくグリーフシードなんすね
wikiに載った時に直接直しときます


522 : 名無しさん :2015/09/15(火) 04:34:48 Tn.cu.Mc0
投下乙です!
広川はいったいどれだけ足立に試練を与えれば気が済むのかw彼には番長との対決まで頑張って欲しい
そして息を吹き返しつつあるセリューさん、この人もしぶといなぁ。


523 : 名無しさん :2015/09/15(火) 06:54:50 xCgG8L520
投下乙です
足立もセリューもしぶといなぁ
しまうーがクローステイル使いこなしすぎてワロタ


524 : 名無しさん :2015/09/15(火) 07:26:33 4g5QBxxE0
投下乙です。
祝セリュー・ユビキタス復活。
やはりセリューさんに落ち込んでる姿は似合いませんw
まだまだ働いて下さい。
しかし前の方々も書いてますがこの5人の
それぞれベクトルは違えどタフっぷりは凄い。
特に不幸・足立さん、応援してます。次はいい事ありますように。


525 : ◆w9XRhrM3HU :2015/09/15(火) 22:38:42 vZD5qWBg0
>>517
>>518

すいません足立と承りの状態表差し替えで

【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感 、右頬骨折
[装備]:MPS AA‐12(残弾6/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率、フォトンソード@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)、
    ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み) 警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:対主催に紛れ込んで承太郎の悪評を流す。
1:ゲームに参加している鳴上悠・里中千枝の殺害。
2:自分が悪とバレた時は相手を殺す。
3:隙あらば、同行者を殺害して所持品を奪う。
5:エスデスとDIOには会いたくない。
6:殺人者名簿を上手く使う。
7:図書館か、電車か……。
8:承太郎死ね! 広川死ね! 
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後
※ペルソナのマガツイザナギは自身が極限状態に追いやられる、もしくは激しい憎悪(鳴上らへの直接接触等)を抱かない限りは召喚できません
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:出血(絶大)腹に斬傷(炎で止血済み)疲労(絶大)精神的疲労(絶大)
[装備]:DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:デイパック、基本支給品、手榴弾×2、グリーフシード(使用不可)×3、
『このラクガキを見てうしろをふり向いた時 おまえは 死ぬ』と書かれたハンカチ。花京院の首輪
[思考・行動]
基本方針:主催者とDIOを倒す。
0:早急に足立を追いぶちのめす。
1:アヴドゥルとまどかの件は時間がないので後回し。
2:情報収集をする。
3:首輪解析に役立つプロを探す。
4:後藤とエルフ耳の男、マスタング、キンブリー一味、ブラッドレイ、魔法少女やそれに近い存在を警戒。
【備考】
※参戦時期はDIOの館突入前。
※後藤を怪物だと認識しています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※魔法少女の魔女化以外の性質と、魔女について知りました。
※まどかの仲間である魔法少女4人の名前と特徴を把握しました。
※DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダースが一本近くに落ちています。
※エスデスに対し嫌悪感と警戒心を抱いています。
※セリューと軽い情報交換済みです。少なくともマスタング、キンブリー一味、ブラッドレイは知ってます。


526 : ◆fuYuujilTw :2015/09/16(水) 08:16:55 bdieuDeg0
投下します。


527 : ◆fuYuujilTw :2015/09/16(水) 08:17:45 bdieuDeg0
先ほどまで親友が死んだということを消化できないでいた彼女も、西木野真姫の慰めと時間によって少しばかりは癒されたようであった。
……2人の目は先ほどとは少々異なっていた。私が言うのもなんであるが、2人とも重い悲しみを背負うには少々若すぎるのではないかと思っていた。
人間という生物はやはり私が考える以上に面白い。特にその関係は。西木野真姫と初春飾利は同じ少女だというのもあるのだろう。
しかし私は声をかけられずにいた。単純に、迂闊な言葉は彼女を傷つけるのではないかと考えたからだ。西木野真姫は声をかけた。
西木野真姫と初めて会った時のことを思い出す。確かにこのような場に放り込まれて、初対面の参加者に対して落ち着けという方が無理なのは分かる。
ただ、彼女はそうでなくともどちらかというと人見知りをする方であると思っていた。だからこそ、彼女の行動は少々意外であった。
純粋な合理性などからは推し量ることの難しい人間の行動。人間というのはその揺らぎがあるからこそ、愚かであるように見えると共に面白いのではないか。

私たちは情報室にいた。
”田宮良子”であったころ、特に担任などを受け持っていた訳ではなかった。そのため、こうやって学校の中で中高生と向き合うのはどこか懐かしくもありながら新鮮であった。

「初春さん、あなたが思うにこの殺し合い全体を管轄するコンピュータが存在すると言う訳ね」

「そうですね……」

話を聞くところによると、彼女の住む学園都市の技術は我々の知るそれを凌駕しているらしい。誰でもその世界の常識に依拠して考えるのは至極自然なことであろう。
私や西木野真姫の常識の範疇にあれば、どれほど優れたコンピュータであったとしてもそこまで万能であることはないだろうと考えるものだ。
だから私たちよりも優れた技術を知っている彼女の言っていることは理解できる。

「それで初春さん、先ほどここで色々試してもらったみたいだけれども、どうだったのかしら」

「とりあえず分かったこととして、会場全体の色々な場所へネットワークが敷かれているようです。インターネットの接続なんかは遮断されているので、ネットワーク自体は外部から隔絶されています。
ただメインコンピュータが会場のどこに設置されているかは私でも分からないんです……」

初春飾利のような情報分野に明るい人間をも参加させているのだからわざわざ殺し合いを易々と止められるような真似はしないだろう。

「ネットワーク上に何かファイルやアプリケーションはあるの?」

「ええ。でもやはりパスワードがかかっているんです。ごめんなさい……私もハッキングには自信があるんですが、パスワードって単純だけど強力なセキュリティなんです……何か手がかりがなければ……」

持ち物も確認してみたが、流石にパスワードを記した紙などはなかった。
パスワードを間違えた瞬間に首輪を爆発させられるかもしれない。わざわざそのようなリスクを冒すこともない。

「それとさっき見つけたスピーカーですけど、各場所に設置されているコンピュータで制御されているみたいです」

放送があったときにその放送源を探したところ、様々な場所に小さなスピーカーが設置されているのが分かった。
超常的な力をうたう割には意外と理解しやすい方法に頼るものだ。
コンピュータにせよ、このスピーカーにせよ、壊されてしまったら進行に支障が出るのは間違いがない。
つまり、主催者側とて万能ではない。何らかの技術体系に頼らざるを得ない存在。
技術というのは案外脆いものだ。
だからそこを突けばあるいは――。


528 : To the other side ◆fuYuujilTw :2015/09/16(水) 08:19:00 bdieuDeg0

先ほどの放送があったときに、少々気になる部分があった。

ーーー身体の構造上、首輪を外せる術を持っていると思い込んでいる者がいるようだが、当然ながらそれにも対策を講じてある。
試すのは勝手だが、そのことを頭の片隅に置いておいてほしいとだけ言っておこう。


この首輪には爆弾が埋め込まれているらしい。
そもそも首輪の役割自体はなんだろうか。すぐに思いつくのは参加者を意のままに操る手段。
命を握っていると脅されれば、殺し合いに乗る参加者もいるのではないか。
また参加者の捕捉。首輪を通じて参加者の会話などを盗聴している可能性も大いにある。
GPSのようにどの参加者がどこにいるかを把握する役割も果たしているだろう。
加えて各参加者の生存状況の確認。装着者の生命活動が停止した場合自動的に首輪の機能を停止するようにしておけば都合が良い。
最初の広川の説明によれば、首輪が爆発する条件は禁止エリアへの侵入、会場の外に出る、首輪の破損、そして主催者側への反抗。
放送内容から推し量るに、広義の意味で主催者側への反抗に含めるのならばともかくとして、首輪の解除自体は死に直結しない可能性がある。
放送の前にはそのようなことは告げられていなかった。
殺し合いを円滑に勧めたいのならば、無理に外そうとすれば首輪が爆発して死亡すると説明しておけばいいだけの話だ。
これが人間ばかりであるのならば、首輪を外すことができない以上そんなことは説明するまでもない。
しかしこの場には後藤のような異形の生物も参加している。
首輪を外せるような身体の構造を持っている参加者は後藤ぐらいしか私は知らないが、
わざわざそんな警告を発するということはその他にも首輪を外しうる参加者がいるのかもしれない。
主催者側からすれば特定の参加者がルール上有利になるという事態は避けたいはずだ。
だから、首輪の解除自体は何らかの手段で可能かもしれないが、そのことは主催者も想定済みなのではないだろうか。
そうなると先ほど考えたコンピュータやスピーカーの破壊も同様である可能性はある。
先ほど危険を承知で一つのスピーカーを破壊してみたが、特に何も起こることはなかった。
やはりコンピュータやスピーカーが破壊されたとしても別の代替手段を用意していると思われる。
首輪の解除と一緒でコンピュータやスピーカーは私のような対主催派にあえてアクセスを可能にして有利になるようにと考えてかもしれない。
どのようなことがあったとしてもゲームの破壊はありえないと考えているのか、それとも希望を見せてもがく様が見たいのか。


この首輪は私の知る技術を凌駕している。
肉体の変化を完全に止めるなどという技術は確立されていない。言ってしまえば生理現象や成長、老化を止めているということに近い。

「初春さん、あなたの知る範囲で、肉体の変化や生理現象、成長を止めたりする技術はなにかあるかしら」

「いいえ、流石にちょっと……でも……学園都市ならそういうものもあるのかも……」

そこで今まで黙っていた西木野真姫が重い口を開いた。

「……こんなことは……言いたくないんです……。でも、やっぱり……、その……いつか首輪を回収する必要はあるんじゃないかと思って……」

西木野真姫にとって非常に辛い決断であったはずだ。
それは彼女の友人やその知人の遺体を激しく傷つけるということを意味する。
これが寄生生物であれば、死体はただの物体であると考えこのような逡巡に至ることもない。
しかし人間はそうではない。

「…………本当にそれでいいの?」

「……決して私たちが勝手に決めていいことじゃないって分かってる……。
死を無駄にしたくないなんて言葉、白々しいと思う……。でも……。本当に、ごめんなさい」

それは私たちに向けた言葉ではなかったのだろう。


529 : To the other side ◆fuYuujilTw :2015/09/16(水) 08:21:14 bdieuDeg0
私は3人の遺体が安置されている教室に来た。どの遺体もひどく損傷している。
頭部を変形させ、なるべく切り口がきれいになるよう首を切る。床が血で染まる。
そして園田海未の首輪を取り外した。私は3人の手をそれぞれの胸の前で合わせた。
トイレの水道で血を洗い落としじっくり見てみるが、やはり何の変哲もない金属製の首輪のように思える。
そして情報室に戻った。



「初春さん、どうかしら」

「ちょっと私にも……」

「西木野さん、ちょっと私の首輪から何か音がするかみてくれる?」

「えっと……耳を当ててみたんですが、特に何も……」

西木野真姫はμ'sで作曲を担当しているという。聴覚に関しては普通以上だ。
おそらくは防音設計、あるいは最初から音などしない設計であろう。

「少し見苦しいけど我慢してね」

頭部を変形させ、首輪に通す。

「ひっ……!」

初春飾利が声をあげる。
西木野真姫は手で目隠しをしてあげた。

首輪に接触している部分の肉体は変形することができない。
この首輪は機能を停止していない。
そうすると先ほどの仮定が崩れる。
首輪を通じて参加者の生死を判断するという仮定だ。
つまり、参加者の生死は首輪以外の方法で判断される。
例えば心拍音、脳波、その他諸々。
脳や心臓に機械が埋め込まれているなどとはあまり考えたくはないが、有り得ない話ではない。
あるいはそんな必要などないのかもしれない。
例えば脳波自体を信号として飛ばすのだ。
寄生生物同士は信号を発することでお互いの存在を感知することができる。
私にとってはそちらの方が考えやすい。
あくまでも仮定にすぎないが、考慮に入れる必要はある。
また、会場に設置された複数のコンピュータからして、殺し合い全体を統轄するコンピュータの存在はほぼ確実だといってよいだろう

「西木野さん、デイパックを貸してもらえるかしら」

「はい」

「ちょっと離れててね」

デイパックの中から金属バットを取り出して振りかぶり、首輪に思い切り打ち付ける。
大きな金属音が響いた。

「傷一つついてないわね……」

逆にバットの方が少しばかり凹んだほどだ。
衝撃にはかなり強い構造をしているらしい。

(今分かることはこのぐらいか……)


530 : To the other side ◆fuYuujilTw :2015/09/16(水) 08:22:39 bdieuDeg0



先ほど初春飾利から魔法の話がでてきた。
初春飾利の言う優れた技術分野の話であれば私たちにもまだ想像はつくかもしれない。
彼女の超能力にしても、技術的に開発された側面がある。しかし、魔法などというものは私たちの理解を遥かに超えている。
それはDIOやジョセフのスタンドなる存在も同様だ。魔法少女、スタンド使い。最初の広川の言葉には錬金術といった言葉もでてきた。
私たちの世界の理とは別の理で動いている者がこの会場に存在している。
加えて、参加者間の事実関係の齟齬。
やはり私の世界とは別の世界から参加者が集められているなどとは考えるべきではないか。
それは先ほどの、参加者が異なる時間軸から連れてこられた可能性があるという話とも関係がある。
つまり広川の言う死者の復活とは、単純に死人を蘇らせるのではなく生存している時間軸から連れてくるという可能性だ。
私であれば銃撃を受け意識を失い生命活動を停止させるその瞬間。
主催者側は時間を遡行したりする力を持っている、その方がまだ楽なのではないか。
仮に本当に死者を復活させることができると考えてみる。
それならば最初に上条当麻を見せしめとして殺したときに蘇らせる方が良いのではないか。
主催者側としても、ゲームの開始以前に参加者が減ることは本来望ましいことではないであろう。
加えて自分の言う死者の復活を見せつけることにより、自らの強大さを更に誇示し得るし、殺し合いに乗る参加者を増やすこともできるかもしれない。
あえてそうしないのは、単純な死者の復活はできないかリスクが伴う、あるいは参加者に死んだら終わりだと思わせておきたい。
こういった理由ではないか。


この殺し合いの理由について、私は最初に考えてみた。
例えば広川は自身の目的たる人間の数を減らすため。そしてその見返りとして協力者は己の楽しみのためにこの殺し合いを開かせている。
別にこの例に限らずとも広川と協力者の目的の合致という推測が妥当だろう。
しかし、広川はただの人間に過ぎない。超常的な能力や優れた技術を持っているのは協力者の側と考えるべきであろう。
それならば広川がいなくともこの殺し合いを進行させることは可能だ。
しかしあえて広川を主催者側の代表として選んだことには何か理由があるはずである。
広川の優れた部分は、人間でありながら寄生生物をまとめあげる統率力、一都市の市長選程度とはいえ勝ち抜く求心力、そして自らの主張をどんな手段を用いてでも貫き通す野心である。
例えば常識が異なる存在同士をまとめあげることなどに関してはこれ以上ない適任であろう。
また協力者は何らかの理由で表に姿を見せたくない、あるいは見せられない存在であるのではないか。
姿を見せることで一部の参加者が団結するなどして対処されてしまう。
そのため広川が目隠しとして表に出ているのではないか。
ただの人間である広川がどのような存在であるかを知ったとしても大した得にはならないからだ。

1回の殺し合いで減らせる人間の数などたかが知れている
広川の主たる目的はこの地球上の人間の更に上に天敵を作ることだ。
そのための方法として殺し合いはそぐわない。
例えばなんらかの手段で広川が別の世界の存在と接触したとしよう。
その世界に、我々の世界の人間に対し天敵となりうるような存在がいたとしよう。
その場合広川はこの殺し合いの進行役と引き換えにその存在を我々の世界に連れてくるだろう。
完全な推測でしか考えることはできないが、協力者についても少し考えてみたい。
協力者はおそらく時間を遡行する能力を持っている。様々な世界間を移動しうる能力を持っている。学園都市の技術力にも匹敵しうる高度な技術を持っている。
魔法のような、科学の枠に囚われない力を持っている。協力者がこの全てを有するならば恐るべき力を持っている存在だといえるだろう。
しかし、仮に広川をまとめ役として置いているのならば、協力者は1人ではなく複数人いると考えるべきだ。
つまり、様々な世界から協力者と参加者を集めている。
その場合、協力者毎の目的は様々であろう。
やはり最初に考えたように、複数利害の一致が最も考えやすい。そのとりまとめ役が広川ということだ。
それにしても殺し合いだけが目的ならば、後藤のような戦闘狂ばかり用意させればよいだけの話だ。
つまり、単純な殺し合いをみたいというだけではないのではないか。
そこには共通する何らかの主たる目的が存在するのかもしれない。
その目的は複数の世界にまたがった殺し合いの必要がある何かである。
もっとも広川は単なるお飾りに過ぎず、もっと話は単純なのかもしれないが。


531 : To the other side ◆fuYuujilTw :2015/09/16(水) 08:23:35 bdieuDeg0

(さて……どうするか……)

先ほど電撃を浴びた時こそ西木野真姫を守ることはできた。
しかし、初春飾利と西木野真姫の2人を守れるかどうかは不安が残る。それこそ後藤のような強大な力をもつ参加者に遭遇したときにどう対処するべきであろうか。
彼女たちを戦いに巻き込むわけにはいかない。そして私の敗北は彼女たちの死をも意味する。
そうなるとやはり戦力となる参加者がいると心強い。初春飾利は2回目の放送の後、別の参加者と合う予定らしい。
彼女の話では、それなりに戦うことはできるそうだ。
先ほど、泉新一は図書館に向かうと言った。あのときに無理にでも同行していれば良かったのかもしれないが、西木野真姫や初春飾利の状態を考えるとやはりそう急ぐことはできなかった。

「初春さんは2回目の放送の後、闘技場へと向かうのよね」

「ええ。そこでタツミさんたちと」

「西木野さんはどうしたいの?」

「私は……ここで待っていてもいいんですけど、待ってても会えるかどうかも分からないし……。一緒に闘技場に行こうと思います」

「そう。じゃああと少しここにいましょう」



しかし彼女たちは知らない。大きな脅威がすぐそこまで迫っているということを。

【G-6/音ノ木坂学院内/午前】

【西木野真姫@ラブライブ!】
[状態]:健康
[装備]:金属バット@とある科学の超電磁砲
[道具]:デイパック、基本支給品、マカロン@アイドルマスター シンデレラガールズ、ジッポライター@現実
[思考]
基本:誰も殺したくない。ゲームからの脱出。決意。
1:田村玲子、初春飾利と協力する。
2:穂乃果、花陽を探す。
3:ゲームに乗っていない人を探す。
[備考]
※アニメ第二期終了後から参戦。
※泉新一と後藤が田村玲子の知り合いであり、後藤が危険であると認識しました。

【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品 、首輪、 巴マミの不明支給品1〜3
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
1:脱出の道を探る。
2:西木野真姫、初春飾利を観察する。
3:人間とパラサイトとの関係をより深く探る。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ's、魔法少女、スタンド使いについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。協力者は時間遡行といった能力があるのではないかと考えています。

【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1〜3、テニスラケット×2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する。
1:田村玲子、西木野真姫としばらく共に行動する。第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でタツミたちと合流する。
2:黒子と合流する。
3:御坂さんが……
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺し合い全体を管制するコンピューターシステムが存在すると考えています。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※ジョセフとタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているらしいということを知りました。


532 : ◆fuYuujilTw :2015/09/16(水) 08:23:55 bdieuDeg0
投下を終了します。


533 : ◆dKv6nbYMB. :2015/09/18(金) 01:25:11 xUkhZ2xs0
投下します。


534 : 足立透の憂鬱Ⅱ ◆dKv6nbYMB. :2015/09/18(金) 01:30:24 xUkhZ2xs0
「やっちゃったなぁ...はぁ」

無事にあのクソガキどもから逃げることができた俺、足立透は後悔と共に深い溜め息を吐いた。
それは、そもそも追われる原因となったまどかちゃんを殺したことへの罪悪感。などでは当然なく...

「これからあのクソガキたちだけじゃなくて、あのクソ女からも逃げ回らなきゃいけないんだよなぁ...メンドクセェ」

そりゃあ、殺人者名簿とかショットガンとか、ようやくマトモな物をゲットできたのは嬉しかったよ。
けど、歩いてるとだんだん気持ちが落ち着いてきて、嫌でもこれからのことを考えようとしてしまう。
放送の時間も近い。まどかちゃんの死は確実にエスデスたちに知れ渡るだろう。それはいい。問題は承太郎だ。
生きてても厄介だが、仮に承太郎があいつらと合流する前に死んでも厄介だ。
あいつらが死んだことを知れば、エスデス達はこう疑問に思うだろう。

『足立透は何処へ行った?』...ってね。

そりゃそうだ。
魔法少女とかいうゾンビのまどかちゃん、スタンドとかいう便利能力だけでなく無駄に鋭い観察力を持つチート染みた承太郎。
この二人のバケモンが死んで、なんでパンピーの俺が生き残ってるんだって思うのは当然でしょ。
ましてや、アヴドゥルはともかく、ヒースクリフは俺を信用しきってはいないように見えたし、エスデスなんざ、俺がペルソナを隠してたことに薄々勘付いてる気さえしたし。...いや、隠してたわけじゃないんだけどね。
承太郎が生きていればそれはそれで直接事件のことからペルソナのことまで赤裸々に伝えられるだけだ。真実だから弁解の余地もない。
あのコンサートホールが燃え尽きて俺も死んだと思ってくれればラッキーだが、世の中そんなに甘くないだろう。生きてる限り放送で呼ばれないし。
それに、いま思い出したが承太郎の仲間はアヴドゥルだけでなくジョセフとかいう奴もいる。
仮にそいつと接触した奴に『承太郎は悪人だ』って吹きこめば、『そもそもお前が悪人だからそんな目に遭ってるんじゃないのか?』って思われること間違いなしだ。
百歩譲っても、ジョセフと承太郎のことで疑心暗鬼になってくれれば儲けものってのがいいところだ。俺を信用することは期待できないだろう。
それに、『あいつ』と里中千枝の存在もある。
わざわざテレビの中まで追ってくるような奴らだ。もう俺の悪評を流している可能性は十分に高い。
エスデス、承太郎、ほむら、セリュー。あと元々の知り合いの『あいつ』と里中千枝、更にはこいつらと接触したであろう奴ら。
俺の敵多すぎだろ。しかもどいつもこいつも厄介だし。

「...あれ。おれ、詰んでね?」

...いやいや、俺だってそこらの考えも無しにまどかちゃんを殺したつもりはないよ?
あそこで殺さなきゃ、エスデスたちが帰ってきた時に厄介な連中が六人に増えちゃうからタイミングは悪くなかった。
あの六人相手だとペルソナを使えても勝てる気がしない。
それに、あの状況ならまどかちゃんが死んだのは花京院の最後のイタチっ屁って考えるのが普通でしょ。
あわよくば、怒った承太郎がなんらかの方法でまどかちゃんを殺したと思い込んだほむらが承太郎と同士討ちなんて期待できるじゃん。
どっちか片方でも消えてくれれば万々歳、せめて両方とも重傷を負ってくれればそれで充分だったんだよ。
まあ、それは悉く見破られちまった挙句、こんな目に遭ってるんだけど...ほんと、これだからクソガキってウゼェわ。

(まあ、なっちゃったもんは仕方ないか。幸い、ペルソナは使えるようになったし、殺人者名簿なんてものも手に入ったし)

現状は確かに悪い。だが、手段が全く無くなったわけじゃない。
正義ヅラした連中に潜り込むことができなければ、殺し合いに乗った参加者の懐に入り込む選択肢もある。
いまのところ他の参加者から警戒されている・殺し合いに乗っていると判明しているのは、後藤、DIO、魏志軍。
後藤はモンスターらしいから論外。誰がそんな奴と組めるかよ。
DIOは吸血鬼らしいけど、人間を部下にしたりしてるぶん、後藤よりは話も通じやすいはず。上手くやればエスデスや承太郎とぶつけて潰しあわせれるかもしれない。...餌と見られたら終わりだけど。
魏志軍。まあ、いまのところ一番組みやすそうなのはこいつかな...魔法少女とスタンド使いを圧倒できるほど強くはなく、ピンチになったら逃げるくらいの判断はできる奴だ。隙さえ見せなければ従えることもできそうだし。

(そんな綱渡りな方法、できればとりたくないけどね)

そんなことを思いながら、俺はとりあえずの目的地である図書館を目指すのであった。


535 : 足立透の憂鬱Ⅱ ◆dKv6nbYMB. :2015/09/18(金) 01:31:35 xUkhZ2xs0


「...んだよ、コレ」

図書館へと辿りつく寸前のことだった。俺は非常に胸糞悪い思いをした。
考えてもみなよ。よし着いたぞ、と思って意気込んだらお出迎えが生首だよ?これで図書館に近づこうと思う奴はいないだろう。
しかも御大層に『イェーガーズにより正義執行』なんて紙が貼ってある。
ハッキリ言ってこの生首は犯罪者面だ。大方、こいつから手を出して返り討ちにあい、首を晒されているんだろう。
牽制のつもりなんだろうが、方法が古すぎるだろ。何百年前の話だってんだよ。
てか、イェーガーズっていったらエスデスが隊長のアレだろ?
リーダーがクソなら部下もクソってことか。
気付いたのが中に入る前でよかったよ。

(ていうかさ、もしここに人がいるならこの生首を片付けてやろうとするのが常識だよな?)

死者への冒涜はいけません。そんなこと、薄っぺらい道徳の授業ですら習うような常識だ。だが生首はこうして放置されている。
この生首があれば図書館を警戒する参加者は大勢いるだろう。それでも足を踏み入れるやつは、『あいつ』や承太郎のような怖い物知らずか、エスデスのようなアホくらいだ。
つまりだ。ここには人がいないし、いるにしても平気で生首を放置できる奴ら、ひいてはイェーガーズのクソ共の可能性が高い。

「誰がこんな不気味なところ入るかよ」

堂島さんじゃないけど、俺の勘が騒ぐのさ。ここはヤベェ。近寄っちゃいけねえってな。
そんなわけで俺は急きょ進路変更。図書館と生首を後にして駅へと向かうことにした。




駅に辿りついた俺は、とりあえず周辺とホームを調べてみることにした。

(ごめんくださぁ〜い、誰かいませんかぁ?)

勿論、声には出さない。そんなことして不意打ちかまされて死亡、なんて展開は間抜けすぎる。
ゆっくりと、警戒しながら建物を物色していく。
いまのところ、なにも見つからないし誰にも会わない。

「おっ...とと」

突如、眩暈に襲われる。頭もクラクラするし、なんだか身体もダルく重たくなってきた。
コンサートホールでの承太郎の一撃に、ほむらの羽根、加えてあいつらから受けたマガツイザナギを介してのダメージが今さら響いてきたのだろう。
むしろよくここまでもったものだ。

(疲れてんのかな、俺。...喉も結構渇いてきたし)

とりあえず水分補給をして喉と頭を潤そう。
俺はデイパックからペットボトルを取り出し、キャップを空け―――

「...いやいや、流石にこれはない」

ペットボトルに蓋をする。
コイツには毒が入っている。うっかり口を付ければまどかちゃんと同じように悶え死ぬこと間違いなしだ。
足立透、自ら仕込んだ毒入りの間接キスでうっかり死亡。この会場の中で最も間抜けな死に方になるだろう。


(よく考えたら、このままだと水が飲めないんだよな)

いま持っているペットボトルは一本だけ。
洗って使おうにも、ペットボトルに付着した青酸カリが落ちるかどうかなんてわからない。
そんなもの誰が好き好んで使うものか。
トボトボと歩く俺の目に止まるのは、駅員室の表札。

(はぁ...捜索は後回しにしよ。一旦休憩した方がいいわ)

そうして俺は、安息と新しいペットボトルを求めて駅員室に入るのだった。


536 : 足立透の憂鬱Ⅱ ◆dKv6nbYMB. :2015/09/18(金) 01:33:46 xUkhZ2xs0



洗面所にテーブルにテレビに冷蔵庫。
畳みのしかれた駅員室に置いてあるのは最低限生活に必要なものだけだった。
洗面所の蛇口の栓を捻ると、水が出ることが確認できた。
俺はとりあえずそれで喉を潤し、部屋の中を物色する。
結論だけ言おう。なにもなかった。
冷蔵庫に中にはペットボトルも食糧もなかった。
なにか代わりに使えるものを求めて、俺はデイパックの中を探した。
見落としているだけでなにかあるかもしれない。そんな淡い期待を込めて手にしたのは、空の水鉄砲。

「...この際、欲張ってられないか」

水鉄砲に水を入れ、ペットボトルの代わりにする。
ゴミ同然だと思っていた水鉄砲にこんな使い道があったのはよかったが、ペットボトルよりも入れられる量はかなり少ない。
頼りないにもほどがある。
俺は何度目か分からない溜め息をつきつつ、畳にゴロリと寝そべった。

「...ほんと、メンドクセェな」

何度目になるかわからないこの呟きと共に、殺し合いについて思いを馳せる。
そもそもだ。俺は優勝を目指しているとはいえ、別に殺しに興味があるわけじゃない。
警察になったのは合法的に拳銃を持てるから。山野や小西をテレビに入れたのはムカついたから。
けど、それだけだ。結局、拳銃で殺したことなんてないし、山野のときは死ぬとは思ってなかった。小西の時だって、カッとなって入れちまっただけだ。
殺しについては特になんの感情も抱いてない。『ムカツく奴がイタイ目に遭ってるのがスカッとする』。そんな、誰でも持ってる当たり前の願望を叶えただけさ。
そんな俺を殺し合いになんか巻き込んで、広川のやつはなにがやりたいんだか。しかも、乗り気になったらなったでペルソナを封じるわ支給品はカスみたいなもんだわ。
洒落にならねえよマジで。
そういうのはエスデスみたいなキチガイにやらせておけばいいんだ。
俺はもうあのテレビの中に帰って人類がシャドウになるのを待たせてもらいたいよ。
そう、此処に連れてこられる前に、あのガキ共に追い詰められたときみたいにさぁ。
こうやって、テレビの中に入って...

「...な〜んちゃって。ペルソナを封印できるような奴だ、この力も封印されてんだろ」

俺は冗談半分でテレビへと手を伸ばした。
やっぱ入れないよチクショウ。こういう時はむしろ入れてあれっ?ってなるはずだろ。
偶然にも俺の一挙一動を見ることができて推理できた承太郎とは違い、俺に偶然はないらしい。
広川のやつ、俺のこと露骨に嫌いすぎだろ。せめて他の参加者と同等に扱えや。


537 : 足立透の憂鬱Ⅱ ◆dKv6nbYMB. :2015/09/18(金) 01:34:53 xUkhZ2xs0
「...いまごろ、『あいつ』はどうしてんのかなぁ」

他の参加者について触れるにあたって、ふと、なによりも気にくわない『あいつ』のことが気になった。
俺と同じく連れてこられた『あいつ』。何も無い俺とは違って、なにもかもを持っていた『あいつ』。
ここに連れてこられる前と同じように、人助けと称した自己満足をしているのだろうか。
俺とは正反対な奴だ。ひょっとしたら、支給品から同行者までクソな状況だった俺とは違い、何から何まで恵まれているのかもしれない。
逆に言えば、だ。じわじわと運が向いてきている(気がする)俺に反比例して、『あいつ』は運が無くなってきているかもしれない。
まさかとは思うが、まどかちゃんみたいにパニくって人を殺しちまったのだろうか。
そうだったらお笑いだ。...まあ、ないだろうけどさ。

(...ま、少なくとも放送で死んだかどうかはわかるんだ。今さら気に掛けることでもないか)

いまの調子で戦いになれば正直厳しい。またあのバケモン共のような奴らに囲まれれば今度こそ殺されるかもしれない。
二回目の放送の時間も近い。行動するのはそれからでもいいだろう。
重たくなる目蓋にどうにか耐えつつ、俺はあのクソ主催の言葉を待つことにした。


【D-6/一日目/駅員室/昼】

【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ、右頬骨折 精神的疲労(中)、疲労(大)
[装備]:MPS AA‐12(残弾6/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率、フォトンソード@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み) 警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:対主催に紛れ込んで承太郎と暁美ほむらの悪評を流す。無理ならゲーム肯定派と手を組む(有力候補は魏志軍)。
1:ゲームに参加している鳴上悠・里中千枝の殺害。
2:自分が悪とバレた時は相手を殺す。
3:隙あらば、同行者を殺害して所持品を奪う。
4:エスデスとは会いたくない。
5:DIO...できれば会いたくないし気が進まないけど、ねぇ。
6:放送を聞くまで積極的な行動は避ける。
7:殺人者名簿を上手く使う。
8:承太郎死ね!広川死ね!
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。


538 : ◆dKv6nbYMB. :2015/09/18(金) 01:35:36 xUkhZ2xs0
投下を終了します


539 : 名無しさん :2015/09/18(金) 20:19:56 1y3RchCg0
投下乙です

セリュー足立回。セリューさんが楽しそうで何よりです。なんだこの超推理は
そして、まさかのほむら参入。すぐに見切ってしまいそうだが果たしてどうなるか

三人娘?の考察回。考察を試みたものの、そう簡単にはいかないか
コンピューターはどこの作品からか気になるな。あと、首輪問題に関しては了承しました

足立さんの掘り下げ回。彼は悪人だけどここじゃとことん苦労人だよなあ
ペルソナも徐々に把握者が増えているようで有難い


540 : 名無しさん :2015/09/18(金) 21:30:17 7Xs.10DE0
投下乙乙!
田村さん主導の元、考察回か、この考察が何かの糧となることを切に願い。
しかし平和な学園に迫りくる後藤さん

足立さん掘り下げ回かーこの現実に絶望して疲れた大人って雰囲気はホント好きだ
番長の事が気になってる描写がお気に入りです


541 : ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:32:07 ./StRQ3A0
投下します


542 : ダイアモンドの犬たち ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:32:51 ./StRQ3A0

 夢を、見ている。
 朝起きて、従姉妹である堂島菜々子といっしょに朝食を摂り、市内唯一のショッピングモール・ジュネスの屋上へ向かう。
 屋上のフードコートには、見知った顔が勢揃いしていた。

「よっ、悠!」

 花村陽介。最初にできた友達であり、親友と呼べる仲だ。

「おはよう、鳴上くん」

 里中千枝。赤と緑の緑の方であり、気安い付き合いのできる女子だ。

「先輩チーッス」

 巽完二。見た目はヤンキーだが、別に粗暴というわけではなく意外と礼儀正しい後輩だ。

「おはよー、先輩!」

 久慈川りせ。現役アイドル(休業中)の後輩。無邪気に懐いてくる可愛いやつだ。

「おはようございます、鳴上先輩」

 白鐘直斗。高校生探偵と噂の後輩。最近女の子と知って結構驚いた。

「おはよう、みんな」

 俺――鳴上悠は、みんなに挨拶を返す。
 これが俺の仲間。彼らは単なるクラスメイト・後輩という仲には留まらない。
 いまこの街を、稲羽市を騒がせている連続殺人事件を共に追う仲間たち。
 この事件は、警察には解決できない。
 何故なら事件は現実ではなく、テレビの中で起こっているからだ。
 テレビの中に入ることができ、そこの蔓延る化け物――シャドウと戦うことができるのは、俺たちだけ。
 心に秘めたもう一人の自分。困難を打ち払う力、希望の象徴――ペルソナだけが、シャドウに立ち向かう唯一の手段。
 最近、久保美津雄という少年が逮捕された。事件の犯人として。
 だが俺達は、彼が犯人ではないことを知っている。関係者ではあったとしても、真犯人は別にいる。
 直斗が身を挺して事件はまだ終わっていないと証明し、俺たちは引き続き事件を捜査し続けている。

「……? 誰か、休んでるのか?」


543 : ダイアモンドの犬たち ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:33:19 ./StRQ3A0

 ふと気がついた。
 いま、俺の目の前には五人しかいない。陽介、里中、完二、りせ、直斗。
 ここに俺を加えた六人が、事件を追う仲間――自称「特別捜査隊」の、フルメンバーのはずだ。
 だが、何故か。どうしようもなく、何かが足りないという違和感がある。
 何が足りない? 誰がいない?
 ふと、里中を見る。もはや見慣れた緑のジャージ。それを普段着にするのは女子としてどうかと思う。
 他の皆は学生服を着ている。俺もそうだ。
 当然のようにジャージを着て登校している里中がおかしいのであって、普通は学生服の黒を見慣れているはず。
 そういえば里中は緑のカップそばが好きだった。いつだったか、屋上で食べていたのを見たことがある。
 あのときは、そう。陽介が里中のそばをがっつり食べて、俺も天城の“赤いきつね”をごっそりいただいて……。
 ……そうだ、天城だ。天城雪子だ。なんで忘れていたんだろう。
 ここには天城がいない。あの目も覚めるような赤いカーディガンが、里中の緑と対になって映えるあの赤色がない。
 ついでのように思い出したが、クマもいないな。あいつは陽介のところで世話になっているから、やっぱりいないとおかしい。

「里中、天城は休みなのか? あと陽介、クマも」

 天城の幼馴染で、親友の里中に聴く。風邪か何かで休むのならまず里中に連絡しているだろう。
 もし体調が悪いのなら、今日は天城抜きでテレビの中に入ることも考えなければいけない。

「……何言ってるの、鳴上くん?」

 だが、その瞬間。仲間たちがさっと表情を消した。
 俺が何を言っているのかまるでわからないという顔。何故そんなことを訊くのか、本気で理解できていないという表情だ。

「何って、二人がいないから。もし風邪でも引いたなら、捜査に行くのはしばらく延期しても」
「そうじゃなくて!」

 強く、里中に遮られる。一体どうしたんだ。
 気が付くと、俯いた里中以外の仲間たちはみな、俺を見て……いや、はっきりと睨んでいた。
 何か、触れてはいけないことに触れてしまったみたいに。それは疑いようもなく、俺を非難する視線だった。

「悠、それちょっと洒落にならないぜ。どうしちまったんだよお前」
「洒落にならないって……お前こそ何言ってるんだ、陽介。天城とクマがどうかしたのか?」
「せ、先輩。本気で言ってるんすか?」

 苛立った陽介と、本気で驚いている完二。

「なに、言ってるの先輩……なんで今さらそんな……う、ひぐっ」
「久慈川さん、落ち着いて。大丈夫、大丈夫だから」

 りせが、急に泣き出した。その肩を直斗が慰めるように抱く。
 一瞬で、空気が変わっていた。さっきまでのにこやかさは消えて、肌を灼くピリピリとした風が俺に吹き付ける。


544 : ダイアモンドの犬たち ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:34:19 ./StRQ3A0

「な、何だよ。俺、何か変なこと言ったか?」
「鳴上くん……本当に忘れちゃったの? そんなのってないよ……だって、だって二人は……」

 里中が、涙に濡れた目で俺を見る。
 いつも朗らかに笑っている里中の顔じゃない。深い悲しみと絶望を刻んだその表情は、やがて仮面のように感情を消して。


「だって、■■と■■きちはもう死んじゃったんだよ!」


 叩きつけるようなその叫びとともに、熱風は焔の竜巻となって俺を呑み込んだ。
 血よりも紅い灼熱の嵐。魂すらも呑み込んでしまいそうなその狂熱は、俺の全身を灼き尽くそうとし……


……いやああああああああああああああああああああああ……


 迸ったのは俺の叫び、ではなく。
 聞き慣れた、涼やかで透明感のある、彼女の……天城雪子の、断末魔だった。
 黒く焦げた、炭化したその物体が、かつて人であったことなどとても信じられない。いや、信じたくないんだ。
 長く艷やかだった黒髪も、トレードマークの赤いカーディガンも、一緒くたに真っ黒の炭へ置き換えられている。
 その……物体が、俺に手を伸ばす。


……たすぇ……ち、ぇ……なるか……ぁ……ぁぁ……


 ひっ、と喉が鳴る。
 どう見たって生きているはずがない。人があれだけの焔に晒されて、生きていられるはずがない。
 しかしその炭人形は、ゆっくりと、しかし確実に、地面を這って俺に縋り付こうとしてくる。
 本能的に後ずさる。背中が何かにぶつかる。重い感触。冷たい。
 首だけで振り返る。


……センセイ……


 そこにいたのは、こちらも見慣れた赤と白のキグルミ。否、キグルミのような生き物。
 そいつの名前を呼ぼうとして吸った息と、無意識に吐き出された息が肺の中で衝突して一瞬、呼吸が途絶する。
 胴体を大きく鋭い氷の剣で貫かれ、完全に貫通しているそのキグルミの名前を、俺は知っているんだ。
 俺の足を、炭人形が掴む。
 俺の背中に、キグルミがのしかかって来る。


……鳴上くん……センセイ……鳴上くん……センセイ……


 炭人形が、キグルミが、口々に俺の名を呼ぶ。
 やめろ、やめてくれ。その声で、その呼び方で、俺を呼ばないでくれ。
 俺に……認めさせないでくれ!


 お前たちが……もう、いないってことを……


545 : ダイアモンドの犬たち ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:35:02 ./StRQ3A0

  ◆


「……ハァッ、よ……っと」

 ナイトレイドの殺し屋、タツミ。彼はいま、疲労の極致にあった。
 先だってのエンブリヲとの交戦からさほど時間は経っていない。
 エンブリヲとクロエは黒が追った。戸塚を殺害したイリヤはキリトが追った。
 タツミはその場に残された男女、美樹さやかと鳴上悠の面倒を見るために残った。
 未だ身体はエンブリヲの攻撃の影響が抜けきっておらず、満足に動くことも難しい。
 感覚の暴走は時間とともに治まってきているものの、重りのように全身を包む疲労は無視できない。
 エンブリヲの真似をするようで癪だったが、タツミはさやかと悠を自分のバッグへと入れて、休息を取れる場所を探してここまできた。
 建物の名は、ジュネス。
 奇しくもバッグの中に眠る悠と縁深い、またエンブリヲが最初に本性を剥き出した場所でもあった。

「ベッドがある……ここにするか」

 さやかや悠と違い、タツミにショッピングモールやインテリアショップといった現代の知識はない。
 モール内を彷徨い歩く内、大型家具を展示しているエリアにたどり着き、別々のベッドの上に二人を横たえた。

「さて……とりあえず、何か隠すものがいるな」

 努めて意識しないようにしていたが、さやかも悠も全裸である。
 意識がない半死人を相手に欲情も何もないが、それでも出来るだけ裸身を見ないように気遣いながら、適当に引き剥がしたシーツを二人に覆い被せる。
 そこでタツミにも限界が来た。近場のソファへ吸い込まれるように倒れ込む。
 途端に湧き上がってきた睡魔に必死に抗いながら、タツミは戸塚が持っていたバッグを改めた。

「頼むぜ、何か武器が入っててくれよ」

 タツミに支給された帝具、二挺大斧ベルヴァークはエンブリヲに奪われてしまった。
 いま手元にあるものといえば、テニスラケットというらしいいかにも頼りない木製の扇のようなものだけ。
 触っただけで大した強度がないとわかる。タツミが全力で振るえば容易に壊れてしまうだろう。
 ただでさえ絶不調なのにこの上ほぼ丸腰では、誰かに襲撃されれば一溜まりもない。
 万感こもごも到る思いでバッグから取り出したのは、一対の手袋だった。
 説明書きには、硬化のルーンを刻んだ手袋とある。
 試しにその手袋を着用し、手近な椅子を殴ってみる。
 効果の程が半信半疑だったためさほど力を込めていないのに、頑丈な樫の椅子は、けたたましい音を立てて割れ砕けた。
 それでいて、タツミの拳には反動となる痛みも全く無い。おそらくちょっとした刃物や銃弾でも弾き返せるだろう。

「こういうのは姐さん向きだよなぁ」

 ここにはいないナイトレイドのメンバー、レオーネを思い出し、タツミは苦笑する。
 もちろん、タツミとて経験がないわけではない。インクルシオを受け継いだ当初は、専用武器であるノインテーターを生み出せずもっぱら素手で戦っていたものだ。
 だがやはり、専門家には及ばない。
 剣戟特化のアカメと対照的に、レオーネは格闘戦を得意とする。この手袋を持たせてやれば、水を得た魚のように暴れ回ったことだろう。


546 : ダイアモンドの犬たち ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:35:18 ./StRQ3A0

「いや、姐さんやラバがここにいないのは喜ぶべきことなんだ。ここにイェーガーズが集まってるってことは、いまの帝都は丸裸に近いんだからな」

 特にエスデスの不在は大きい。帝国守護の片翼を担う大将軍が行方不明とあっては、革命軍の勢いは生半には止められないはずだ。
 そしてエスデスだけでなく、クロメ、セリュー、そしてウェイブというイェーガーズのメンバー大半がここにいる。
 アカメとタツミ、二人だけしか欠いていないナイトレイドが大きく有利……と思いかけて、タツミは頭を振った。

「いや、マインの帝具をエンブリヲが持ってたってことは、ナイトレイドの帝具も奪われてる可能性があるか。くそっ、やっぱ広川をなんとかしなきゃいけねえな」

 いくらイェーガーズがいないとはいえ、帝具がなければナイトレイドも開店休業間違いなしだ。
 タツミが改めて打倒広川を誓っていると、微かなうめき声が聞こえてきた。

「う……ん」
「気がついたか」

 美樹さやかが目を覚ましたようだ。
 殺し屋として磨いた本能が、疲労を無視してタツミの全身を緊張させる。
 忘れたわけではないが、さやかは味方ではない。いつ殺すべき敵に回るかわからない不発弾のようなものだ。
 一応、魔法少女の力の源らしいソウルジェムとグリーフシードは奪ってある。
 本調子ではないとはいえ、この二つの小さな石を握り潰すくらいの力は十分に残っている。
 もしさやかが弱ったタツミに逆襲を仕掛けてくるならば、躊躇いなくそうするつもりだった。

「……そんな睨まないでよ。別にあんたをどうこうしようとかいまは考えてないから」
「それで安心できるほど人間出来てないんだ。俺は」
「はいはい。どっちにしろ、あんたが盗ったんでしょ? あたしのソウルジェムとグリーフシード。だったら手を出せるはずないじゃない」
「理解が早くて助かる」

 目覚めた美樹さやかは、全裸であることに目元を引きつらせたものの、隣で同じような格好をしている悠を見て罵声を吐き出すことはしなかった。
 しっかりとシーツを胸元へ引き上げ、タツミの視線を拒むようにして睨みつける。

「ただ、そろそろあたしのソウルジェム、穢れが溜まってきてヤバいんだけど」
「悪いがいますぐ返すって訳にはいかない。俺も見ての通りヘロヘロで、お前だけ元気になりゃ一方的にやられちまうからな」
「だからしないってのに。まあ、いいわ。そっちもあたしを殺すつもりはないってことよね」
「いまはな。お前がこの先も変な真似しなけりゃ、仲良くやっていけるんじゃねえか」
「どの口で言うのよ……」

 タツミは会話しつつさやかの様子を観察していたが、エンブリヲと相対していたときのような殺意と憎悪は感じ取れなかった。
 ひとまずは落ち着いていると判断しても良さそうだ。ポケットの中で固めていた拳を解く。

「しばらくはここで休む。が、お前には眠る前にやってもらいたいことがある」
「……これのこと?」

 さやかが嫌そうに、これ――昏睡状態の鳴上を指す。
 汗やら体液やら想像したくないアレで汚れきった男の肉体など、思春期の少女からすれば目を背けたくなってもおかしくはない。
 タツミもそこは同意するものの、男として同情する部分もあり、さやかほど顔を歪めてはいないが。


547 : ダイアモンドの犬たち ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:35:52 ./StRQ3A0

「そいつ、ほっとくと多分死ぬ。水を飲ませるにも何か食わせるにも、とりあえず意識を回復させないと」
「で、あたしに治療しろって?」
「あいにくそれができそうな道具を俺たちは持ってない。お前、傷を治すのは得意なんだろ?」
「自分の身体だけよ。他人の治療なんて試したことない。それ以前にこれ以上魔法を使ったらあたしが死ぬわ」
「駄目元でいいんだよ。別にお前の命と引き換えにしろって言ってるわけじゃない。お前がこれ以上は無理って判断したらそこでやめていい」
「あたしへの見返りは?」

 タツミは懐からグリーフシードを取り出す。まだ濁っていない、まっさらな最後の一つ。

「とりあえずソウルジェムの穢れだけは取り除けるってことね。選択の余地なんてないじゃない」
「誰にとっても損のない話だろ。お前が殺し合いに乗る気がもうないって言うなら、断るはずがない」
「……わかったわよ。ただし、うまくいくかなんて保証しないわよ」

 タツミがさやかにソウルジェムを放る。シーツで自分を隠したまま、さやかは悠の顔に掌を向けた。
 自分で言ったとおり他人の治療などしたことは無いようで、手つきはいかにもたどたどしい。
 が、その指先からゆっくりと淡い光が悠に吸い込まれていき、さやかの額に汗が浮かぶ。

「これ、結構キツい……!」
「さっきも言ったが、無理はすんなよ。お前が死んだら意味は無いしな」
「よく言うわよ。今だって、あたしがこいつに何かしないか見張ってるくせにさ」

 さやかの言葉通り、もし悠に何か危害を加えようとすればその瞬間に、タツミの手の中でグリーフシードは粉々になるだろう。
 その行為がさやかの死を招くと、タツミはそう確信しているがゆえに。

「……っ、もう無理。これ以上はあたしが死ぬ」
「お疲れさん。大分顔色が良くなった……もう大丈夫だろう」

 数十秒、治癒の魔力を悠に注ぎ込み続けてさやかの顔は蒼白だ。
 だがその甲斐はあったようで、目に見えて悠の体調は回復したようだ。
 二人が見守る前で、ゆっくりと身じろぎする青年。

「うう……?」
「ふう、とりあえず一安心……かな」

 ここでようやく、タツミは溜め込んでいた息を吐いた。


548 : ダイアモンドの犬たち ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:36:24 ./StRQ3A0

  ◆


「あんまり一気に飲むなよ。少しずつ、口を湿らせるくらいにしとけ」
「ああ、ありがとう」

 覚醒した鳴上悠は、タツミと名乗る男に介抱されていた。
 未だぼんやりとしている悠を気遣うように、タツミは水と食料、それに情報を与えていった。

「……そうか、エンブリヲがそんなことを。済まない、肝心なときに力になれなくて」
「気にすんなよ。お前が何をされたか、俺も身を以て体験した。ありゃあ……キツい。抵抗できなくたって無理はねえ。
 むしろ、そんだけ長い間あいつに囚われていてよく発狂しなかったもんだ。俺ならどうなってたことか」
「多分、ペルソナのおかげだ。意識がなくても、俺の精神の内側で防壁になっていたんだと思う
「ペルソナ。お前の力、か。聞いた感じじゃ、ジョースターさんのスタンドって力に似てるような気がするな」
「俺の方は、人間に近い形の力……そっち風に言うなら、パワーある像(ヴィジョン)か、そういうのが出る」
「ジョースターさんは身体に巻き付く茨だったが、孫の方はお前と似たような人型が出るらしい。案外、呼び方が違うだけで本質は同じなのかもな」
「どうだろう。実際に会ってみれば、もう少し詳しくわかると思うけど」

 この場に美樹さやかの姿はない。悠が起きる少し前、服を探してくると言って一人で別行動を取っているのだ。
 目を離すのは多少不安ではあったものの、ソウルジェムをタツミに預けていったため逃げるつもりはないだろうと判断し、許可した。
 実際服は必要である。さやかの分も、悠の分も。
 そのため悠の分も見繕ってきてくれと頼んでおいたが、男物の服を探すのに手間取っているのだろうか。

「……俺の方の知り合いは以上だ。そろそろそっちの話も聞いていいか?」
「こっちは、里中千枝、天城雪子、クマ、足立透が元々の知り合い。
 ここに来て初めて会ったのがエンブリヲと、本田未央って女の子。あと、タスクってやつも一瞬だけど顔を見た」
「……そうか。で、そっからずっとあの変態野郎に捕まっていた、と」
「あと、エンブリヲに捕まっている間、一回だけ外に出たことがあったんだ。
 そのときは俺も意識が朦朧としていたけど……女の子がいた。長い黒髪で、全裸で。多分あの娘もエンブリヲに捕まったんだ」

 それは、エンブリヲに捕まって数時間後の事だった。
 デイバッグの中で無限の責め苦に苛まれていた悠を解放してくれた、凛とした少女の声を思い出す。

――あいつを、やっつけて。

 彼女はたしかにそう言った。そして悠はその言葉に応えて、全力でペルソナを解放し……

「……でも、ダメだった。エンブリヲを倒せなくて、俺はまた動けなくなって」
「あまり言いたくないが、その娘……多分」
「ああ。本田さんが言ってた、渋谷凛って娘だと思う」

 長い黒髪、飾り気のないピアス。
 いまにして思い出せば、未央から聞いていた彼女の親友と合致する。


549 : ダイアモンドの犬たち ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:37:59 ./StRQ3A0

「名前、呼ばれたんだよな」

 悠は気を失っていたため放送を聞き逃していたが、タツミからその欠落した情報を補填されていた。
 その中に、渋谷凛という名は確かにあった。
 悠は、彼女を……救えなかった。

「エンブリヲの野郎、どこまで腐ってやがる!」
「いや……待ってくれ。彼女を殺したのは、エンブリヲじゃないかもしれない」

 憤るタツミ。しかし悠は、エンブリヲが凛を殺したという点については、違和感を感じていた。
 悠が凛を助けられなかったのは事実だ。彼女がエンブリヲに組み敷かれたのも朧気ながら覚えている。
 あのとき、悠は僅かながら意識を保っていた。
 霧がかかったような記憶をゆっくりと掻き分けていく。

「たしかあのとき、もう一人いた。顔も声も思い出せないが、体格的に少なくとも大人の男だった……と思う。
 そいつとエンブリヲが戦って、劣勢になったエンブリヲが俺を連れて逃げたんだ。そこで俺の意識は途切れた」
「エンブリヲが逃げるまで渋谷凛は生きてた。でもその後、彼女は死んだ」
「よく思い出せないが、凄まじい強さだった、と思う。そいつがエンブリヲに近づいて光が奔るたび、エンブリヲは追いつめられていった」
「近づいて光が奔るってことは、刀剣を武器にしてるってことか。アカメやクロメ、エスデスなら多分不可能じゃない……が、あいつら女だしな。
 じゃあウェイブか? いや、あいつはたしかに強いが帝具なしでそこまで一方的にやれるとは思えないな……」

 二人して思い悩むも、そもそも知らない人物であった場合は答えなど出ない。
 とりあえずいまは、渋谷凛を殺害したのはエンブリヲではない、という事実だけが確かだ。

「本田さんに会ったら、謝らないとな……」

 結果的に助けられなかったとはいえ、悠が生前の渋谷凛に出会ったことは確かだ。
 ならばその最期を……不確かな形とはいえ、友人である本田未央に伝える義務が、悠にはある。
 直接の死因でないとしても、渋谷凛の尊厳を踏み躙ったエンブリヲを必ず打ち倒すと心に決める。
 そして、これで悠が開示できる情報も終わりだった。彼はこれ以降、ずっとエンブリヲに囚われたまま他者と接触していない。
 黙りこんだ悠を見て、タツミはふっと息を吐き、一度固く目を伏せる。

「……で、ここからは言い辛いんだが……」

 先ほどタツミが放送について話したとき、意図的に伏せた名前がある。
 悠の口からも、その人物の名前は出た。ゆえに、彼の精神的ショックを考慮して落ち着くまで待とうとしたのだ。

「天城雪子、それにクマ。この二人の名前、呼ばれたんだろ?」
「っ、お前……?」

 仲間と紹介した二人が、自分の知らない間に命を落としていた。その事実を突きつけるのは、殺しを生業とするタツミであっても重い役目だった。
 渋谷凛の死を知らなかったことから、悠が放送を聞き逃していたのは確実だ。にも関わらず、タツミが告げる前に、悠は知っていた。
 大切な友人が二人、命を落としたことを。


550 : ダイアモンドの犬たち ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:38:15 ./StRQ3A0

「知ってたのか?」
「何となく……夢で見たんだ。正夢になってほしくは、なかったけど」

 茫洋と呟く悠は、先ほどまでの理知的な声から遠く、今にも消えてしまいそうなほど頼りなく見える。

「そっか……本当に。天城とクマは、死んだのか……」

 事実として知ってはいても、心が、精神がそれを受け入れるにはまだ早い。タツミにはそんな風に見えた。
 思わず声をかけようとするが、困ったことに言葉が出てこない。
 タツミとて、仲間と死に別れたことはある。
 ナイトレイドの先輩メンバーである、ブラートとシェーレ。右も左も分からないヒヨッコのタツミを、優しくも厳しく鍛えてくれた大恩人たちだ。
 しかし彼らはあくまで殺し屋である。殺す以上、殺される覚悟はあっただろう。悠の仲間のように、突然理不尽に命を奪われたわけではない。
 経験で言えば、故郷の幼馴染であるイエヤスとサヨの死がそれに近い。
 タツミはあのとき、復讐を選んだ。友人たちを無残に殺した帝都の悪を、自らの手で誅することができた。
 悠にそれをするなとは……言えない。他ならぬタツミが言って良いはずがない。
 だがもし、悠がその死を認めないと、優勝して仲間を生き返らせるという道を選んだのならば……殺さなければならない。
 タツミが、この手で。同じ痛みを知るタツミが、それ以上の悲劇を防ぐために、修羅の道を往かねばならない。

「お前、これからどうする気だ。まさか……」
「……まずは、里中を探さないと。天城が死んだのなら、あいつは相当参ってるはずだ。
 これ以上仲間を、友達を死なせる訳にはいかない。今度こそ、必ず……」

 が、悠の返答を聞いて、タツミは胸中の殺意を霧散させた。
 少なくともいますぐ悠が悪に堕ちるということはなさそうだ。危ういものの、まだ悠には仲間を救うという意志がある。
 里中千枝という少女を保護すれば、友を守るという一念においてその道は定まるだろう。
 懸念すべきはその里中という少女まで命を落とせば、悠を繋ぎ止めるものがなくなるということだが……そこはタツミがなんとかする他ない。
 彼が仲間と示した三人の人物の内、二人がもういないのだ。残る一人に依存とも言える拘りを示すのは無理からぬ事……

「……ん? 待て、お前もう一人、足立ってやつを知ってるって言ったよな?」
「あ? ああ、足立さんは叔父さん……堂島さんの部下で、刑事をやってる人だ。あまり頼りにならないけど」
「そいつはお前の仲間じゃないのか?」
「足立さんは警察だし、ペルソナ使いじゃないからな。あの事件は警察じゃ手に負えないものだし。
 まあ、刑事ならこんな殺し合いをなんとかして欲しいところだけど、足立さんだしな……あまり頼りにならない」
「二回言うほどかよ」

 悠があまりにも軽く言うのでつい流しそうになったが、タツミは激しい違和感を覚えていた。
 ペルソナ使いではない。力のない一般人? 叔父の部下だが頼りにならない。悠たちと遠い関係?
 ……そんな奴が何故、この場にいる?


551 : ダイアモンドの犬たち ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:39:13 ./StRQ3A0

「いいか、悠。俺の知り合いはアカメ、、ウェイブ、クロメ、セリュー、エスデスだ。この内アカメは俺の仲間。残りは全員敵だ」
「それはさっき聞いたけど」
「いいから聞けよ。いま席を外してるが、美樹さやかってやつは鹿目まどか、暁美ほむら、佐倉杏子、巴マミの四人が知り合いらしい。
 で、こいつらはまどかって娘以外は魔法少女なんだと。さやかと同じでな」
「魔法少女か。ハイカラだな」
「茶々入れんなよ。いいか、おかしいと思わないか? ここに集められた奴はみんな、何かしらの接点がある。
 俺たちみたいに敵と味方だったり、さやかたちみたいに魔法少女だったり。ジョースターさんは敵と味方がいて、その上全員がスタンド使いらしい」
「ああ、それで……待ってくれ。タツミ、あんたが言いたいことって、まさか」

 そこまで言って、悠も気付いたようだった。
 殺し合いが始まって早々にエンブリヲに捕まったため今まで考えもしなかったが、確かにおかしい。

「足立さんはなんで、ここにいる……?」
「刑事ってのがどんなのか知らないが、少なくとも事件を追うお前らの敵ではないんだよな?」
「ああ、でも味方かって言うと、あまりそんな気はしない。シャドウが関わる事件に普通の人は無力だ」
「敵でも味方でもない。これでまず俺たちのケースからは外れる。残るは」
「特殊な能力を持つ共通項……俺たちの場合、ペルソナ……」

 もちろん、無作為に足立が選ばれたという線もなくはない。
 だが、鳴上悠、里中千枝、天城雪子、そしてクマ。全員が例外なくペルソナ使いであり、稲葉市の連続殺人事件に関わっている。
 無害な一般人である足立透がたまたま選ばれて殺し合いに放り込まれた?
 それとも、事件の関係者だから選ばれた? もしかしたら、ペルソナ使いだから? あるいは……

「事件の関係者、かつペルソナ使いである可能性がある……よな」

 悠の脳裏に浮かんだ可能性を、タツミが口にした。
 その論理の飛躍とも言える暴論……しかし、悠は知っている。
 先日逮捕された久保美津雄は、事件の犯人ではない。
 シャドウを認めず、己のペルソナに変えることもできなかった彼は、テレビの中に入る力を持たない。
 真犯人は別にいる。そいつの影を、悠たち特別捜査隊は追い続けている。
 その影が、足立透であるならば。

「足立さんが、真犯人……?」

 呟いた推測に背筋が泡立つ。
 論拠も何もない。だが仮に足立がペルソナ使いであり、テレビの中に入る力を持っているとすると……何故その力を、隠していたのだろうか。
 足立は正義感溢れる性格というわけではない。力を持っていても、危険に首を突っ込むのを嫌がるというのは理解できなくもない。
 だが、ペルソナに目覚めているのならば、少なくとも悠たちが何をしているかは確実に知っているはずだ。
 それを刑事として手伝うでもなく、しかし邪魔するでもなく……いや、雪子や完二をテレビの中に突き落としているなら、はっきりと邪魔をしているか。
 刑事という立場ならば、事件の被害者たちと二人きりで会っていてもさほど怪しまれることはない。辻褄は、合ってしまう。
 悠の中で、急に足立透という存在が得体の知れない何かに見えてくる。
 その狼狽をあまり良くない兆候と見たタツミが、悠の肩を叩いて強引に思考を止めた。


552 : ダイアモンドの犬たち ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:39:59 ./StRQ3A0

「おい、悠。俺が振っておいてなんだが、あまり考えこむな。証拠なんて何もない、仮説でしかないんだ」
「……そうだな。俺は今まで足立さんは頼りにならないとは思ってたけど、やっぱり真犯人っていうのはちょっと強引すぎる」
「もしかしたら本当に、ただ巻き込まれただけの一般人かもしれないしな」
「それでも警戒はしておいたほうが良いと思うけど」

 と、横槍を入れてきたのは美樹さやかだった。
 服を着てどことなくさっぱりした様子の彼女は、抱えていた男物の服を悠に投げつけると、自分がいま来た道を指差した。

「ここ真っすぐ行って上の階に、小さなスポーツジムがあったわ。そこにシャワー室もあったから、あんたも行ってきたら?」

 遅くなった理由は、身体を清めていたかららしい。
 精神的に幾分リフレッシュした様子のさやかは、タツミの前で豪快にベッドへダイブする。

「あー疲れた。ちょっと寝る……」

 タツミが自分を害することはないと確信しているからか、さやかはほどなく寝息を立て始めた。実際疲労も極まっていたのだろう。
 その様子を毒気を抜かれたように男二人が眺めていたが、やがてタツミが悠を促した。

「よくわからんが、身体を洗える施設があるってことだよな。先に行ってこいよ、悠」
「いいのか?」
「ああ……お前も、一人で考える時間が必要だろう。ただし、この建物から外に出るなよ。俺たちには休息が必要だ」
「わかった、タツミ。そっちの、美樹だっけ? 起きたらよろしく言っておいてくれ」

 会話をする内に、どうにか一人で動けるくらいにはタツミも悠も持ち直していた。
 タツミに手を振り、替えの服を抱えて悠は歩く。やがてさやかに示されたスポーツジムを見つけ、裏手のシャワー室に滑り込んだ。
 カランを捻る。熱いお湯が全身を叩き、溜まりに溜まった汗と汚れを洗い落としていく。
 疲労も垢のように流れ落ちていき、じんわりと眠気を感じてくる頃、悠は気付く。


553 : ダイアモンドの犬たち ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:40:31 ./StRQ3A0

「……俺、泣いてるのか……」

 シャワーに紛れ、自分でもわからなかったが、悠の両目からは止めどなく涙が溢れ出ていた。

 天城雪子と、クマの死。永遠の、離別。

 決して取り戻せない欠落を、今になって心が意識し始めたのだ。
 タツミやさやかといった他人が目の前にいれば、まだ気を張って耐えることが、忘れていることができた。
 だがもう、無理だ。ここには悠しかいない。
 この痛みを忘れさせる何かが、ここには何もないのだ。

「あ……ああ……ぁ……っ」

 脳裏を駆け巡る、走馬灯めいた思い出。そのどれもに、雪子とクマの姿があった。
 稲羽市に来て、まだ一年にも満たない僅かな時間。
 その内どれだけを、二人と共有していたのか。何故もっと、その時間を大切にしていなかったのか。
 これから有り得たはずの未来に、二人の居場所はもうないのだ。
 胸を刺す痛みは耐え難く拡がり続ける。エンブリヲから与えられた苦しみなど比較にならない、真実の痛み。


 鳴上悠は、決して失ってはならない絆を喪失したのだ。


「――――――――――――――ッ!」


 絶叫は、水音に吸い込まれて、消えた。
 雪子とクマを殺した仇も、みすみす渋谷凛を死なせた不甲斐ない自分の弱さも。
 どちらも到底、許せるものではない。
 胸の内に生まれた怒りは、確かな破壊の力となって、悠の前に生まれつつある。
 イザナギやジャックランタンとは違う、怒りによって呼び覚まされたペルソナ。全てを破壊する、ただそれだけの存在。
 そのペルソナが目覚めるとき、悠が選ぶ道は……。


554 : ダイアモンドの犬たち ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:41:52 ./StRQ3A0

【F-7/ジュネス/一日目/昼】

【タツミ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(大)
[装備]:バゼットの手袋@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、テニスラケット×2、ソウルジェム(穢:極大)、グリーフシード×1、ほぼ濁りかけのグリーフシード×2
[思考・行動]
基本:悪を殺して帰還する。
0:キリトと黒の帰りを待つ。
1:さやかと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でジョセフたちと合流する。
2:さやかを監視する。さやかに不穏な気配を感じたら即座に殺すが、現状は保留。
3:アカメと合流。
4:もしもDIOに遭遇しても無闇に戦いを仕掛けない。
5:エンブリヲを殺す。
6:足立透は怪しいかもしれない。
[備考]
※参戦時期は少なくともイェーガーズの面々と顔を合わせたあと。
※ジョセフと初春とさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※首輪を解除できる人間を探しています。
※魔法@魔法少女まどか☆マギカでは首輪を外せないと知りました。
※さやかに対する不信感。


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、ソウルジェムの物理ダメージ(小)、精神不安定、睡眠
[装備]:基本支給品一式、テニスラケット×2
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:やっぱりどうにかして身体を元に戻したい。そのために人生をやり直したい。
0:しばらくは大人しくしている。
1:タツミと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でジョセフたちと合流する。
2:いまはゲームに乗らない。でも、優勝しか願いを叶える方法がなければ...
3:まどかは殺したくない。たぶん脱出を考えているから、できれば協力したいけど...
4:杏子とほむらは会った時に対応を考える。
5:エンブリヲは殺す。
[備考]
※参戦時期は魔女化前。
※初春とタツミとジョセフの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物と認識しました。
※ゲームに乗るかどうか迷っている状態です。
※広川が奇跡の力を使えると思い始めました。
※魔法で首輪は外せませんでした。


555 : ダイアモンドの犬たち ◆H3I.PBF5M. :2015/09/21(月) 16:42:13 ./StRQ3A0

【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:仲間と合流して殺し合いをやめさせる。
0:…………。
1:里中を見つけないと。
2:未央に渋谷凛のことを伝える。エンブリヲが殺した訳じゃない……?
3:足立さんが真犯人なのか……?
4:エンブリヲを止める。
[備考]
※登場時期は17話後。
※現在使用可能ペルソナは、イザナギ、ジャックランタン。
※上記二つ以外の全所有ペルソナが統合され、新たなペルソナが誕生しつつあります。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。


【バゼットの手袋@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
戸塚の最後の支給品。
硬化のルーンを刻んだ手袋。拳撃の威力を増加させ、また拳への反動をカットする。


556 : 名無しさん :2015/09/21(月) 16:43:18 ./StRQ3A0
投下終了です
議論スレの件については明日書き込みます


557 : 名無しさん :2015/09/21(月) 16:57:08 oC9QmLZI0
ニーサンやウェイブや黒子が死んだら更に大佐がやばいw


558 : 名無しさん :2015/09/21(月) 18:18:20 mOpozQjs0
投下乙
番長は目覚めたけどメンタルがやばそう
新たなペルソナのフラグもあって不穏だ


559 : 名無しさん :2015/09/21(月) 19:23:18 R0OlEgm60
投下乙です

テクノブレイク寸前だった番長、復活とともにさらに不穏なフラグが…
足立…生きろ


560 : ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:13:13 /wDRvtsY0
予約回りが整うまで待ちたかったのですが、この分だと間に合いそうにもないので投下しておきます。


561 : I say... ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:16:31 /wDRvtsY0
――――それは旋律だった。
指が踊り、その無機質で単調な音は連なることでひとつの調べを生み出す。
用途は違えど、それは鍵盤を叩く楽器のものと、大差はないだろう。
「どう? 使える?」
ディスプレイを覗き込む真姫の声に、
「いけます。インターフェイスは少し古いですけど、ユーザビリティにそれほど違いはありませんので」
「そ、そう」
何それ意味わかんない。口には出さないが、そんな表情の真姫である。
そんな2人を眺めていた田村は部屋を見回す。
μ's部室――――いや、アイドル研究部だったか?――――あたり一面には美少女と呼ぶべき女子のポスターやらグッズやら……。

数分前のこと――――。

「……そういえば案内もしてなかったわね」
ここを去ると決めた時、不意に真姫が口にした。
失礼でもあるし、せっかくだから、何かのヒントになるかもしれない……そんなニュアンスで、彼女は2人に母校を紹介した。
今まで守られてばかりの自分――彼女なりに、役に立とうと思ってのことだろう。そう察した2人に断る道理はなかった。
しかし廃校寸前までいった学校に目新しいものはなく、どれも普通の――といっても田村の認識は経験よりも知識が主であるが――設備であった。

最後に紹介されたこの部室、その奥にあるコンピュータに初春は目を引かれた。

「…………」
「もう一度試す気になった?」
「そうですね」
田村の問いに初春は頷く。
「闘技場に行ったらしばらく触れなくなりますし、チャンスはもう」
そこまで言って、小さな唇は閉じてしまう。
これから先、コンピュータのある施設に行ける可能性、
そしてなにより……。

自分が生きている可能性……。

「いいですか?」
「構わないけど……」
真姫の許しを得た初春は、その筐体に手を伸ばす。

――――それが数分前のこと。


562 : I say... ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:17:00 /wDRvtsY0

「でも不思議ですね」
「え?」
「インターフェイス……ハードウェアは旧式なのに、中のソフトウェアは私達が使っているものと遜色ないんですから。定期的にアップグレードしているんですか?」
「う゛ぇえ? そういうのはちょっと……にこちゃ……先輩の私物だから」
でも、と真姫は付け加えて、
「その人そういうことには詳しくないっていうか、あんまり興味ないと思う。そっちにお金使うくらいなら別のものに……」
真姫の視線は部屋中のアイドルグッズをさまよう。
「うーん。なおさら不思議ですね。このヘッドセットやマイクも高級品ですよね、これ」
デスクの隅に無造作に置いてあるそれらに初春は目を向ける。
「そっちなんて部室にあったかどうかも。……そもそもどうしてここ片付いてないのよ。にこちゃん持って帰ったんじゃなかったの?」
真姫は顎に指を添えてぶつぶつ呟いた。どうも、自分の記憶にある部室とは少し違うらしい。
「そうですか。やっぱり不思議ですね」
初春はコンピュータに向き直り、再び作業を始める。

「これがあなたの言っていたμ's?」
「あ……」
手持ち無沙汰な田村が手近なファイルを手にとっていた。
そこには全国大会の『ラブライブ!』で優勝した時の写真や練習風景が収められていた。
「は、はい。そうです……」
真姫は恥ずかしそうにうつむく。自分で話しはしたものの、いざ見られているとなると、途端に緊張や羞恥がわいてきたようだ。
「この歌はオリジナル?」
ページをめくっていた手が使用曲の楽譜の欄で止まる。
「あ、はい」
「アイドルの曲はたいてい、作詞家や作曲家に頼むらしいけど」
「スクールアイドルですから。全部自前で……私が作曲……海未が作詞で……」
「そう」
田村はそれ以上追求せず、静かにファイルを閉じた。
真姫は重い空気から逃れるように初春に声をかける。
「えっと……それで、どうにかなりそう?」
「ネットワークはローカルエリア限定ですからね。
本当ならハッキングして世界中のコンピュータの余剰能力をお借りして解析したいんですけど……オーバーレイさせることができるのは、先ほど手を加えた情報室のコンピュータだけですから、同時並行でダミーを織り交ぜて走らせても、天文学的な時間が必要になりますね」
「う゛ぇ……?」
とうとう理解さえ断念したようで、真姫は田村を縋るように見る。
その視線にこたえるように、
「パスワードは別にして、この端末だけで根本的な解決はできそう?」
「それは無理でしょうね。全体を管制するコンピュータシステムにアクセスするには、この端末では権限がありません。これはその子機に過ぎませんから」
ふむ……と田村は息を漏らし、
「つまりこの機械は脳に対する手に過ぎないということかしら」 
「生物学的解釈ですね」
「ごめんなさい。専門がこれしかないの」
「いえ。……そうですね。それでいいと思います」
脳が命令を下して手を動かすことはあっても、手が命令を下して全体を動かすことは……。
「いや、例外がいたな」
「?」
泉新一を思い浮かべた田村は不思議そうな顔をした初春に続けてくれと促す。
「ともかく、やるだけやってみようと思います。たとえ1%でも、何かの役に立つかもしれませんし」
「えーと」
真姫が首をひねりながら、
「つまり学校中のパソコンを使ってもわからないってこと?」
「はい。多分これは専用のIDカードか何かでアクセスするものでしょうね。
記憶による単純な手入力での解除は想定してません」
「スマホ……携帯電話のロックとは桁違いってことね」
真姫はようやく合点がいったといった様子である。
「現時点でこれだけありますからね」
初春が使っているものとは別のディスプレイが点灯する。
そこに表示された数字の集合に、真姫は「う゛ぇ」と声を漏らした。


 0 4 5 1 2 5 5 54 45 53 6411
 45 565  47 77 45 14 15 25 45  
 1143 644  742 313 0 1474 343
  0  14 1447 22  6 6 4 0 12 3
 57 125 52 1 2  36 4 4 2  4123
 0 47          4112 2234


563 : I say... ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:17:44 /wDRvtsY0


「7……いえ、8進数ね。これがパスワードに使われている法則かしら」
「そうです。これだけわかっただけでも大きな進歩ですよ」
「これ自体に意味は」
「そうですね……パスワードの設定は、普通アルファベットと数字――つまり10進数――を混ぜた意味のない言葉でするものなんですが、
このロックはプログラムによってるところが多いので、そういう意味ではポピュラーな8進法を用いることはそこまでおかしくないと思います」
0〜7が特に意味もなさそうに散っている画面。一般人が見れば何かの故障にしか感じないだろう。
「意味わかんない」という真姫の呻きは当然である。





「田村さんはあれ、わかるんですか?」
廊下をともに歩く田村は「基礎だけよ」
「数字――正確にはそれによる結論は万国共通だから。コミュニケーションのひとつとして」
「すごいですね……」
自分だって勉強を疎かにしていたわけではない。両親の病院を継ぐため――医学部に入るため、それ相応の努力はしてきたつもりだ。
それでも、今まで培った知識がこういうところで役に立たない。

戦う力どころか、何の知識もない。

いったい自分は……。

「だけど、それだけよ」
田村が見下ろす。真姫はその瞳に、最初の頃とは違って温かさを感じるようになってきた。
「そこに流れるものを読み取ることはできない。
そこに残る思いを考えること、感じること……それはいくら知識を持ったからといってできることではないわ」
長く細い――それでいて頼もしい指が真姫の髪を通り、肩に置かれる。
「それができるのは、人間だけ」
くすぐったさや安堵に目を細めた真姫は、
「と言われても……」
プリントアウトされた数字の群れを眺める。一応、ということで真姫にも持たされたもので、同様の印刷物を田村も渡されている。
A4判の紙面、その上半分には0〜7の数字が一見無秩序に並んでいる。何かの暗号で、何か法則性があるかもしれない。
なんでもいいから気づいたら教えてほしいというのが初春の頼みである。
「意味わかんない……」
「数字を数字として見れば、それは機械にしかわからないでしょう。
そこに何を見るか、それが人間の可能性なのかもしれないわ」
「0から7の数字……8や9は使わないってことで……」
考えれば考えるほど、わからない。例えばこれが4桁程度なら、何かの語呂合わせや山勘でも浮かぶかもしれない。
しかし、これだけ膨大だと、もはや何が手がかりだとか、こういう法則性があるとか、そういう次元の話にさえならない。

でも、こんな感じのものどこかで……。

そう思って十数年の人生を振り返るが、だめだった。
うん、無理だ。自分にできることなど、音楽関連が精々だ。
こういうITだのPCだのは初春の専門だ。
頭を振りながら真姫は音楽室の扉を開き、すっかり馴染みとなったピアノのイスに腰掛ける。
やめよう。今は余計なことを考えないで、これからすることに集中だ。

ドアの前に立ってこちらを見る田村に穂乃果を想起しながら真姫は、
「どこでもいいから座って下さい」
「無理をしなくてもいいのよ」
 適当な席に礼儀正しく座る田村に真姫は首を振った。
「ずっと助けもらってばっかりで、でも私にはこれくらいしか返せるものがありませんから……」
初春同様、ここを離れれば、自分にできることは何もない。
ただでさえ役立たずで、何もできていないのだ、せめてこれくらいは――――。


564 : I say... ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:18:24 /wDRvtsY0

鍵盤に指を置く。それだけで胸が締め付けられる。
目の前で散っていった海未の姿がちらつく。
「っ……」
無視するように、手を動かす。
しかしうまく動いてくれない。どうしてか。
きちんと動くように命令しているのに。
「あのー」
うまくいかない演奏を始めて数分――いや、自分が長く感じてるだけで一分も経ってないだろう――の後、初春が顔を見せた。
「あ、ごめん。気が散っちゃった?」
「いえ、そうじゃなくて」
音楽室に足を踏み入れた初春は真姫の操るピアノを見回す。それからぺたぺたと触り始め、あちらこちらを探り始めた。
「あ、やっぱり」
「どうしたの?」
「ええとですね」
初春はピアノの下から這い出てきた。
「どうもここのピアノが校内のネットワークに入ってるらしくて、音声データが流れてくるんですよ。そういう機能使ってたんですか?」
「え……知らないけど。……今まで勝手に使ってたから、そういうのあるのかも」
バツが悪い真姫は顔をそらす。
「うーん……わかりました。作業に戻ります」
釈然とはしないが、ここで解決するものでもないと察したのか、初春は立ち上がる。
「あ、待って」
「はい?」
「邪魔になってない?」
「……えーと」
答えに困ったように初春は天井を見上げる。
「大なり小なりデータの流通というのは、マシンのリソースを消費するものでして、それは同時にパフォーマンスにも影響が……」
「うん、わかった。ごめん」
パタンと真姫は蓋を閉める。要するに、足を引っ張っているのだ。
田村に助けられ、その上初春にまで……真姫はもう鍵盤に手を置く気にはなれなかった。
まさか恩返しのつもりが、迷惑をかけることになるとは思わなかった。
「すみません……」
「ううん……」
重い空気が漂い始めた中、すっと田村が立ち上がる。
「またの機会に聞かせてもらうわ」
「ごめんなさい」
「気にしなくていいわよ。それより、渡しておきたいものがあるの」
田村の腕に導かれ、真姫の手にそれが置かれる。
「何かあった時は、迷わず使いなさい」
それは田村が荷物整理をした時に見つけたものだった。
それは死んだ者がこの世に遺したものだった。
「でも、これはふたつしかなくて……」
「初春さんもひとつ持っている。これで平等よ」
それを証明するように初春もポケットからそれを出した。
きらきらと光るその石は、場違いな輝きを湛えている。
田村がこれを手放す、何かあった時に自分が使う……それはつまり……。
「わかり、ました……」
震える手で受け取る。

それはつまり、一人になっても逃げて生きろということ。


565 : I say... ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:18:47 /wDRvtsY0



音楽室に、結局また、一人。
残された真姫は硬直したように座り、持っている紙を見る。
ほかにすることがなかった。
どうせ無理なのに。でも他にやることもなくて……だから時間まで、こうしていようと。

まるで昔みたい。
 
真姫は自嘲した。
休み時間は図書室、放課後は音楽室……一人でずっと、閉じこもって……。

そんな毎日を変えてくれたのが穂乃果だった。
それは、海未が役割を与えてくれたから。
μ'sには海未と自分が必要だったから。
海未の詩と自分の曲が必要だったから。
「海未……」
海未だったらどうしたの?
海未に救われた私は、何をしたらいいの?
「……?」
ふと、何かが頭の中を走った。
具体的にはわからない。ただ、何かが引っかかった。
紙を指でなぞる。ただの数字の集合、そのはずだ。

そのはずなのに。

「なに、この……」
違和感。
「ううん、そうじゃない」
既視感だ。これは、何かを思い出そうとしている。
さっきもそうだった。けれど、こんなもの見たことはないはずだ。
こんなもの見覚えがないのに、頭のなかで引っかかって、記憶の一部が顔を出そうとしている。

いつだ。

いつ見た?

μ'sがライブをする時?――違う。
海未と歌を作る時?――違う。
穂乃果と出会った頃?――違う。

もっと前、もっと根本的な……。
だけど、海未が関係しているような……。
「わからない。でも……」
不思議なことに、海未とこれが無関係だと思えない。
この数字の集合と、海未を結ぶ何か。

それが何か。

「海未との思い出にこんなのない。けど、どこかで海未が……海未がここにいるような……」 

意識せず紙を床に落とした真姫は両手で頭を抱え、うつむく。

「っ……何か、何か忘れてる。何かが足りない……」

自然、視線はさらに下を向き……。

黒のそれが映る。

「ピ……ア……ノ……?」

――――これじゃ弾けないよ。だって、オタマジャクシいないもん。

それは、何年も昔――自分が曲を作るはるか前、音楽を始めた頃の記憶。
はっとなった真姫は弾かれるように紙を拾い上げ、あたりを見回す。
「ない。ない……」
机をひっつかみ、中を探る。何もない。すぐに次の机へ。
「ここにも、ここにも……!」
まどろっこしくなり、机をひっくり返す。騒音とホコリが舞う。
真姫はそんなことお構いなしに次々と机を掴んでは漁り、何かを探す。
「どこ!? いったいどこに」 
ここにある机すべてを探したが、目当てのものは見つからない。
今度は壁に設えられた棚や引き出しに目をつける。もはや、見境がなかった。
「なんでどこにもないのよ!」
音楽室をめちゃくちゃに引っ掻き回し、やがて引き戸の棚を力任せに開いた時、何かが転がり落ちた。真姫は素早くそれを拾い上げる。


566 : I say... ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:19:15 /wDRvtsY0

それは、一本のペン。

「あった……!」
その場で座り込み、乱暴に紙の余白に何かを書き込む。
品がないだとか汚いだとか、そんなことはまるで考えなかった。
やがて書く場所がなくなって、ようやくその手は止まる。
「海未……」
ペンを放り、真姫はその紙を抱きしめる。
震える体が、落ちる涙が、彼女の心を素直に現した。
「海未……」
ようやく気づいた。 

彼女は、ここにいたのだ。

彼女の存在は、ここにある。

これは、彼女が自分に遺してくれたもの。

「ありがとう……」
彼女のために泣くのは、これで何度目か。







――――今一度考えてみよう。
二人と別れた後、図書室に立ち寄った田村は、整然と並ぶ本の背表紙を眺める。
――――この殺し合いの意味とは、なんだ。
 
広川の役割は先程考えた。利害の一致、都合のいい窓口、中継役。
しょせん奴そのものに力はない。それは初めから自分で言っている。
 
――――「わたしの名は広川。今から行うバトルロワイアルの司会進行を務める」

裏で誰が――あるいは何が――暗躍しているかはしらないが、広川の狙いは――自分が知っている時点では――地球の環境という観点から生態系をコントロールすること、あるいはコントロールできる生物の確保にある。

以前はそれが自分たちパラサイトであった。


567 : I say... ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:19:42 /wDRvtsY0

……しかし、それはおそらく失敗したのだろう。
自分が命を落とす時点で、パラサイトはジリ貧であった。
遅かれ早かれ、人間に対策を講じられ、肩身の狭い思いをして生きることになるだろう。
そう、人間の犯罪に紛れて、少しづつ人を食う――それが精一杯だ。
しかしそれでは人間の出生率には太刀打ちできない。
結局、パラサイトは広川の思うような成果を出せないことになる。

だから協力しているのだろう。

パラサイト以上に強力で、狡猾な生物の選定……あるいは育成のために。
多種多様な種類や能力の生物を集め、殺し合わせる。その果てに残ったものをいただく……そんなところか。
別の世界から人間の天敵を連れてくる以外にも、そういう可能性はある。

そもそも、広川の目指す世界とは、そこに存在する生命がもたらすバランスあってのものであったといえる。
それを異物ともいえる別の世界の産物で補うのは――出来る限り避けたいのではないだろうか。
それは在来種の生態系に外来種を持ち込むことと同義であり、それでも構わないのなら、広川自身が別の世界(広川の考える理想郷)に移住した方が話は早いだろう。

自分が後藤を作ったように、広川もまた、新しい何かを生み出そうとしているのかもしれない。
ただ、後藤のように単純に力が優れているだけではだめだ。それはすでに人間が証明している。
田村は持っていた本を開く。歴史書である。パラパラとめくっていくと、それは戦争の移り変わりを記していた。
単純な殴り合いからやがて道具を使い始め、ついには地球そのものを破壊し得る兵器の登場まで記されている。

人間のもつ知能とは、人間をここまで強くする。人間自身が強いのではない。人間の知能が種の限界を超えてしまうのだ。

だからこそ、真姫や初春のような一見すれば無力な少女までここにいるのだろう。
極限状態での、あらゆる種に対する実験――――それがこの殺し合いの意味であると田村は結論づけた。

そう、実験なのだ。だからこそ、失敗も想定している可能性もある。それは殺し合いの頓挫であったり、参加者(被験体)の脱出であったり……。
いや、もしかしたらそれさえ成功の範疇なのかもしれない。
だいたい、普通は突然殺し合えと言われて快諾するものでもないだろう。そういう人種ばかり集めるなら、ここまで広い舞台はいらない。
後藤のような戦闘狂ばかりを集めて、闘技場だけのエリアを用意すればそれでいい。

自分たちに反抗しようとする個体――勢力の出現は、おそらく実験の準備段階から想定している。
欲しいデータは、殺し合いを了承した人間への対抗、あるいは殺し合いに身を委ねるまでの過程、脱出に至るまでの方法……これくらいか。
最も興味があるのは、最後のそれだろう。極限状態での戦力と知能を測るには最適だ。

ここで問題となるのは、いつ首輪を使うか。
田村は自身にはめられた首輪を指で擦る。
これはどちらかと言うと脅しの道具や計測機器の役割が強く、実際に爆破するのは禁止エリアに入った時、あるいは何の準備もなく会場の外に出ようとした時くらいのものであろう。
仮に主催者へ反抗したとしても、限界まで使わず――さすがに殺されそうになった寸前では使うだろうが―――そのまま放置するのではないだろうか。

その場にあった道具で猿にバナナを取らせる実験と同じ理屈だ。実験ではそこまでの過程が大事なのであって、バナナ(ここでは優勝賞品や脱出による自由)などくれてやればいい。
仮に何らかの要因で首輪が使えなくなったとしても、それまでのデータを持ち帰り、別の被験体や別の趣向で同じような殺し合いを催せばいい。
主催者的にはそう考える可能性は充分にある。ここでまずいのは、そのまま捨て置かれた場合、自分たちは元の世界に帰る方法を失うことだ。
たとえば広川が自分専用の乗り物か何かで別の世界に逃亡した場合、こちらは追うことどころかこの世界から逃げ出すこともできず暮らす羽目になる。
……自分はそれでも構わないが。
田村は真姫と初春を思い浮かべる。彼女たちは元の世界にかえしてやりたい。

要するに、この殺し合いは実験なのである。失敗は失敗として、次の糧へ。更なる成功のために、実験は積み重ねてもいい(というより実験とは本来そういうものだ)というある種の余裕、怠慢があり、そこに付け入る隙があるかもしれない。


568 : I say... ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:20:14 /wDRvtsY0



「田村さん!」
ここまで大きな声は初めて聞いたかもしれない――田村がそんなことを思いながら振り返る。
勢い良く横に開かれたドアは強くぶつかって跳ね返り、騒音を伴って戻る。
挟まれそうになった真姫は慌てて図書室に入り、肩で息をしながら、
「多分、解けました」
涙の跡をそのままに、まっすぐ自分を見上げる彼女はどこか頼もしく、場違いだと思いながらも美しいと感じた。




「数字譜……か」
真姫に言われるままにμ'sの部室に再び訪れた田村は、机上に置かれた紙の群れに目を落とす。それは二組に分かれていた。
ひとつは初春の手によって現時点で解析されたパスワード。
もうひとつは……。
「0〜7の数字で作られた楽譜。たしかに辻褄は合う。よくわかったわね」
「昔ちょっとだけ習ったことがあるんです。それに、大切な友達と一緒に作ったものですから……」
真姫の手によって楽譜に変換されたパスワードがテーブルに並べられている。
田村は真姫に手渡されたファイル――そのページに記載された楽譜とそれを見比べる。
これが五線譜……音符(オタマジャクシ)に彩られたそれと同じ曲だという。いったいどんな曲なのだろうか。
「西木野さん、この曲は」
「全部覚えています。絶対間違えません」
ずっと不安で怖がる声ばかり聞いていたからか、彼女の力強い声はまるで別人のようだ。
「なら、それを今度は数字に変換して初春さんに入力してもらえば」
「多分、それは無理です」
テーブルを見下ろす初春が首を振る。
「単に数字が並んでるだけなら問題ないんですけど」
見てください、と楽譜となった数字の周りにある点や線を初春は指す。音域や種類を表現する記号であろう。
「これを表現することは、私にはできません。いえ、正確にはそのデバイスを使いこなせない、でしょうか。
要求されているのは数字だけじゃないと思うんです」
「音声入力……なるほど」
外見の割に不自然に発達したコンピュータといい、ピアノに仕掛けられた細工といい、つまりはそういうことか。

試されているのだ。

音ノ木坂学院……スクールアイドルによって救われた学校。
参加者であるスクールアイドルは、おそらく全員がそこを目指す。
事実、園田海未と西木野真姫はここに来た。
いや、たどり着けたと言うべきか。
問題は、その状況がヒントであると気づけるかどうか。 

「気がつかなかったわ」
「私だってそうですよ。私なんて端末さえあればってそればっかり」
「しかし、コンピュータシステムという発想は初春さんならではよ」
田村は初春と真姫を交互に見て、
「誰が役に立つという話ではないの。誰かと寄り添って生きていこうとする心が道を開くのかもしれない」
「あの……」
真姫が恐る恐るといった様子で口を開く。
「歌にしても、いいですか」
すると初春は不思議そうに、
「デバイスの鍵盤で入力して――えっと、コンピュータのキーボード代わりですね――直接データを送るので、それは構いませんけど……。
逆に言えば、マイクを経由した外部入力じゃないので、歌にする必要性は……あ、その方がリズムを取りやすいとか」
「それもあるけど、一番は……その……」 
返答に窮したらしい真姫に田村は素知らぬ風で、
「それでは、行きましょうか」


569 : I say... ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:20:46 /wDRvtsY0


良くも悪くも、少しの間で随分変わるものだ。
廊下をともに歩く真姫を横目に田村は思う。
最初は恐怖で震え、先程までは絶望や無力感で俯いていた彼女が、今では決意を秘めて前を向いている。
「何もできない自分がそんなに嫌だったかしら?」
「……嫌じゃないわけ、ないじゃないですか」
「そうね」
「いきなりこんなことになって、目の前で友達が……自分だって強くもないくせに、命がけで戦って……見てるしかなかったのが情けなくて悲しくて……」
「…………」
「そんな私でも、ようやく役に立てる……自分の番が来たんだって、だから頑張らないと」
まっすぐな瞳が、わずかに揺れた。
その理由を田村は察していたし、初春もそうだろう。
「わかっているのでしょう?」
真姫の足が止まる。田村はそれに合わせた。
「この選択が正しい保証はない。そしてそのリスクも」
初春は笑って送り出した。考えてはいても、他に方法はなかったからだろう。少しでも自信をもって欲しかったのかもしれない。
その希望に、初春自身も縋りたかったのかもしれない。
「もし間違っていれば……いや、合っていたとしても、広川次第では」
「わかってますよ」
震える指が、自身の首輪を掴む。カタカタと金属が揺れる音が、静かな廊下に響いた。
「本当は怖くて、嫌です。死にたく……ないです」
きゅっと指が首輪を挟む。
「でも、いつまでも海未のことから目をそらしたくないんです。
海未には届かないかもしれないけど、海未に少しでも追いつきたいから。だから……」
田村の腕が、真姫の頭に回る。そのまま胸に抱かれた少女は、
「死にたくない……怖い……!」
本当なら折れている心を、決意や使命で塗りつぶしているに過ぎない。
一皮むけば、こうなる。

ただの少女なのだ。

生き死になんて真剣に考えたことのない――直面したことのない平和の中で生きてきたのだ。
好奇心や種の本能で生殺与奪を行ってきた自分とは、根本的に違う。
田村は目を細め、真姫の背中を撫でようとして―――やめる。
だとしても、掛ける言葉は同情や応援などではないだろう。
この少女に必要な言葉は――――。
「待っている」
信頼。
その意志を、認めてやることだろう。
「はい……!」
服を掴んでいた指が離れる。小さな一歩が始まり、それが繰り返され、進んでいく。
「もうここで……見送りはいいです」
「わかった」
振り返らず進む真姫、その背中に意図せず腕を伸ばしていた田村は、不思議そうに自分の手を見る。
「これも母親……か」
命令したはずのない手を、田村は握りしめる。


「西木野さん、何か言ってましたか」
「いえ。何も」
「よかった」
胸をなでおろす初春は、ディスプレイに向き直る。
「でも、無理して歌わなくても。弾くだけでいいのに」
「鎮魂歌のつもりなのでしょう。いえ、手向けかしら」
田村の言葉に初春は複雑そうな表情を浮かべた。
なんと言っていいかわからないといった様子だ。
「それに、本来は歌が正しいんじゃないかしら。あの楽器はヒントに過ぎないのよ」
「演奏だと人も物も用意するの大変ですからね。でもこんな状況で歌っていうのは」
初春は机に置いてあるファイルを開き、中の楽譜をぱらぱらとめくる。
最初はただの備品や部活の思い出くらいにしか感じなかったそれが、今ではとても重要なソースコードのように映っているようだ。
「だからこそ、なのでしょうね。そこに気づけるかどうかが試金石となる」
ただ強いだけではそれに気づけない。弱ければそれに気づくまでもたない。
対象の戦力と知能を測るには適していると言える。
コンピュータを操作する。楽譜を手に入れる。
このふたつが符合するなど、いったいどれだけの者が気づけるだろうか。
それに、と田村は付け足し、
「存外歌というものは、別の世界では重要なものであるのかもしれないわ」
「歌が、ですか」
「それ自体に特別な力があるのかもしれない。あるいは、歌が鍵となって発動する何かが」
「そこまで重要なら……この高そうな機器が置いてある意味もわかりますね」
初春は手元のオーバーヘッドタイプのヘッドセットをつけようとして――花飾りが邪魔になったのでやめた。
「……来ました」
音楽室から送られてくるデータを処理するために、初春はキーボードに手を伸ばす。
その曲が、真姫の旋律が解析しきれなかったパスワードの空白を埋めていく。
スピーカーから流れる音の群れは、安全性の観点から絞っているとはいえ、室内の者が聞くには充分であった。
「期せずして、またの機会が訪れたな」
田村はただ、耳を傾ける。
少女がこめる、その想いを。


570 : I say... ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:21:15 /wDRvtsY0



その曲は、初めて自分がμ'sのために作った曲だった。

だからすぐに気づいた。

海未と初めて一緒に作った歌だったから。
「海未……私ね、やるよ」
鍵盤を覆う蓋を持ち上げる。元々重いものだったが、こんなに重く感じたのは初めてだった。
「怖いけど、やるよ」
真っ白なそれに指を滑らせる。
「見ていてくれなくてもいい。ただ、聞いていてほしい」
腰掛け、すっと息を吸い、指を置く。大丈夫、もう指は震えない。
今はただ、自分の想いを届けるために。
「あんたの生きた証が、守ったものが無駄じゃないって証明するために」

私は――――。

「I say...」
 
自分でも驚くほど、自然に歌えている。
数日前は当たり前だったのに、まるで奇跡のように感じる。

『うぶ毛の小鳥たちも
 いつか空に羽ばたく
 大きな強い翼で飛ぶ』

――――あんたと私で初めて作った歌には、お似合いの舞台ね。
無人の音楽室を眺め、真姫はふっと息を漏らす。
――――あんな気恥ずかしい詩で曲作らせといて、蓋を開けたらガラガラなんだもの。
恥を晒したというか、恥を晒さずに済んだというか……まぁ、後々皆に聞かれたんだけど。

『諦めちゃダメなんだ
 その日が絶対来る
 君も感じてるよね
 始まりの鼓動』

――――私にとってのμ'sは、あの時から始まったんだ。穂乃果に頼まれて海未の詩で曲を作って、花陽と凛と一緒に入って。

『明日よ変われ!
 希望に変われ!
 眩しい光に照らされて変われ
 START!!』

絶望的な状況で奏でられる始まりと希望の歌。
それを皮肉だと嘲笑する者は誰もいなかった。


571 : I say... ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:21:46 /wDRvtsY0
 
――――ただのクラスメイトだった花陽と凛、顔も知らない上級生だった穂乃果や海未……。今では大切な仲間達。

今となっては遠い過去のように感じられる、楽しかったあの日々。
ともに歌を作った少女は目の前で散り、ともにμ'sに入った少女はどうして死んだのかさえわからない。
過去のそれが彼女に光を与える一方、現実のそれが彼女の心を蝕む。

『悲しみに閉ざされて
 泣くだけの君じゃない
 熱い胸 きっと未来を切り開く筈さ』
 
――――μ'sは私にたくさんのものを与えてくれた。だから私はね、海未。

流れ落ちる涙を止める気にはなれなかった。
ただ流れるままに、溢れ出る感情をそのままに、少女は歌い奏でた。

――――言われなくたって、あんたが、あんた達がいなくなっても、μ'sを続けてやるわよ。

『悲しみに閉ざされて
 泣くだけじゃつまらない
 きっと君のチカラ
 動かすチカラ
 信じてるよ…だから START!!』
 
慟哭とも違う。
絶叫とも違う。
絶望と希望が混濁した――――
――――そんな歌。


   

――――すべてを終え、指が止まる。
喝采はない、まったくの無音。
ここには、独りだけ。
そのはずなのに。
「……海未?」  
潤んで霞み、ぼやけた視界の中、真姫は彼女を見た。
ピアノの向こうに、音ノ木坂学院の制服を着た、いつも厳しさと優しさを秘めた彼女の微笑みを――――。
「海未!」
目をこすり、視界がはっきりしていくにつれ、彼女は消えていく。
「だめ――――!」
手を伸ばす。しかし、その先には何もない。
その手を掴む者は、もういない。
結局、伸ばした手は空を切る。
「見てるなら何か言いなさいよ……!」
胸の前で手を握り、真姫は顔を伏せる。
「バカ……!」


572 : I say... ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:22:27 /wDRvtsY0



「パスワード解析完了……そのまま入力……成功です」
「そう」
「あの、西木野さんを迎えに行かないんですか?」
「待っていると言ったから」
頑として動こうとしない田村に初春は、
「……田村さんって頑固だって言われません?」
「協調性のなさは自覚しているつもりよ」
「あ……そうですか」
腕が空いていたら肩すくめでもしていただろうか。初春は小さなため息を漏らした。
「それで、中身は」
「ええ。そうですね……管理ソフトといったところでしょうか」
「それは全体を統轄する……」
「いえ。やはり子機にはそこまでの機能は持たされてませんね。周辺の子機とのリンクを可能にするだけで……」
「収穫なしか」
「いえ、そうでもありません。親機がネットワーク上に存在しないということは」
その先を遮るように、ガチャリと扉が開く。
「……お待たせしました」
更に増えた涙の跡とともに、真姫が戻ってきた。
「ああ、待っていたとも」
田村は小さく笑う。真姫もつられて、わずかに口角を上げた。
――――こういうのも愛情って言うのかなぁ。
初春の呟きを拾う者はいなかった。



「お疲れ様です、西木野さん。おかげでパスワードは解除できました」
「ああ、うん。それで」
文字通り懸命に演奏したのだ。成果物が気になってしまうのは道理。
「中に入っていたのは周囲のエリアに存在するコンピュータを管理するシステムです。すごい成果ですね!」
「ええと」
何がすごいの?とまでは言えなかった。ここまでやって、大したことはなかったと認めることになってしまうようで嫌なのだろう。
「まず、状況を整理しましょう」
よいしょっと。
初春は一台のディスプレイをテーブルに置く。二人に見せたいものがあるのだろう。
それから初春は田村と真姫からコンピュータに向き直り、カタカタとキーボードを叩く。
「これが今私達がいる会場……とでも言いましょうか、その全体図です」
二人の前に、地図が表示される。これは基本支給品にあるものと同一のものだ。
「言うまでもなく、ここは私達の世界にある施設を模倣したものを設置しているだけで、実際のものではありません。外見はそっくりでも、中身は別物です」
「作り物なのね。ま、薄々そんな気はしてたけど」
「はい。さらにそれをひとつの大陸とでも呼ぶべき土台に載せて……」
「え?」
真姫は地図をじっと見て……。
「ここって、もしかして浮いてるの?」
「そうなるな」
田村の肯定に、
「何それ意味分かんない……」
「思えば、ここに連れてこられてから学院を目指して……地図をじっくり確認する余裕はなかったからな」
初春は苦笑して、
「私もさっき気づいたばかりです。それで話を戻しますけど」
「あ、うん」
「多分、――首輪もですけど――この浮遊を維持しているのもコンピュータシステムの一種だと思うんですよ。これを掌握して降下させることができれば」
「外部との連携も可能かしら」
「はい」
「でもメインコンピュータ?ってのがないとダメなんでしょ?」
真姫の問いに、
「そうですね。その手がかりが先程見つけた管理システムなんです。
これは、周辺のエリアの子機どうしをリンクさせてネットワークを形成させるもので、わかりやすく言うと、LAN(local area network)からMAN(metropolitan area network)に拡張させるものなんです」
「ごめん、よくわかんない」
「今までは校内のコンピュータしか使えなかったが、これからは校外のコンピュータも使えるようになったということだ」
田村の説明に「ああ、そういうことですか」と真姫は頷いた。
「それを使ったらメインコンピュータってのが見つかったってこと?」
「いえ、ありませんでした」
「それじゃダメじゃない」
「たしかにそれが一番だったんですが、でも進歩ですよ」
ディスプレイ上にあるマップの一部分が点滅する。
E-5・H-5・E-8・H-8を頂点とした四角形が、その存在を強調していた。
「ここまでが、私達の掌握したエリアになります」
「4分の1……」
あれだけ神経すり減らして半分の半分……。
真姫の顔に不満と落胆が浮かんだ。


573 : I say... ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:23:26 /wDRvtsY0

「えっと、それじゃあ残りの4分の3にあるかもしれないってこと?」
ここにはない。それならあるとすれば残りのエリアということになる。
「ここで考えられる可能性はふたつです」
初春は背を向けたまま指を二本掲げる。
「ひとつは、残りのエリアに全体を統轄するメインコンピュータがある。
もうひとつは、全エリアのコンピュータが相互に連携してシステムを管理している」
「どっちにしろコンピュータを支配していくのが脱出の方法……」
「私はそう考えてます」
初春は振り返り、不敵な笑みを浮かべる。
今まで非力であったが、ようやく自分の本領を発揮できる。
そこから生じる自信や勇気が彼女を支えているようだ。
「そしてその解決策が、おそらくは歌」
田村はディスプレイ上の地図を指でなぞり、
「四等分された支配地域、歌に関連する施設……この仮説・法則性が正しければ、目指すべきは」
田村の視線に気づいた真姫は、
「えっと……まずはコンサートホール、次は……346プロ?っていうのがプロダクションならそこも……それくらいしか」
「私の認識でもそうだ。後は別の世界の人間にはどう見えるか、だな」
「じゃあ、とりあえずはどっちかに向かうってことですか」
「いや、346プロだ」
「?」
首を傾げる真姫に初春が、
「二回目の放送の後に闘技場へ行く予定がありますから」
「あっ……そういえばそんなこと話していたわね……」
「さっきまで色々ありましたからね。忘れちゃってもしかたないですよ」
「現地でどういう結果になるか――この仮説が正しいかどうか――わからない。
場合によってはそのままコンサートホールに行くかもしれないし、闘技場で合流することもあり得る」 
「行きはこれだけど、帰りは歩きだから、電車が近くにある346プロなんですね」
真姫は田村から渡された水晶を取り出す。
「確認していなかったが……いいのか? それを今使うということは」
ことは急を要する。行きも電車を使う手はあったが、それにかかる手間と危険を避けたい。
「せっかく逃げるために渡してくれたのはありがたいんですけど、前へ進むために使いたいんです。私にも、できることがあるってわかったから……」
「私も同感です」
初春は強くうなずいた。
田村は相変わらず淡白に「そう」
「えっと、着いたらやることは、コンピュータと楽譜を探して、それに合う歌を見つければいいのよね。……あれ、もしかしたら簡単かも」
「気づけた後だからそう感じる。コロンブスの卵だ」
田村は続けて、
「それに気づけた人間はあなたしか私は知らない」
「解析にしても歌にしても、やってる最中はずっと無防備ですからね。この状況でそんなこと普通はやりませんし、理屈がわかっても避けたいですよ。
特に歌は周辺への影響が懸念されます。今回は防音性のある音楽室だったからよかったですけど」
歌声を聞いて誰がやってくるか、何が起こるかわからない。知り合いが来てくれれば御の字だが、殺人鬼を呼んでしまったら目も当てられない。
初春の言葉に真姫は「そういえば」
「さっき見つけた管理システムってのを使えばいいんじゃない? それならもっと安全に」
「多分無理でしょうね。ここからでは別のローカルエリアになりますし、向こうに持っていってもプロトコルが違うでしょうから。
ここの中身は皆さんのデバイスに入れておきましたが、期待はしないでください。もし使う時があるとすれば、それは向こうのロックを解除した時でしょう」
基本支給品のひとつである小型の機械を手に取り、真姫は「ふーん」
「一からやり直し……でも進歩よね」
「ええ。進歩です」
初春は微笑み、真姫もくすっと息を漏らす。


574 : I say... ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:24:30 /wDRvtsY0
「たしかに進歩ね」
「?」
「前向きになった。強くなった」
田村の言葉に真姫は胸を張り、
「いつまでも落ち込んでばかりじゃ海未に笑われますから。これからは私も役に立ってみせます」
「そう。助かる」
「いつまでもお母さんに頼ってる私じゃないんだから!」
「……ええ」
最初に気づいたのは田村だった。しかし咎めなかった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
時間が、停止した。
物理的な意味ではない。あくまで精神的に。
何かおかしな――場違いな何かが今、あった。
「…………へ?」
次に気づいた初春が間の抜けた声を出し、遅れて真姫が口を手で覆う。
「う゛ぇ!? ちがっ。これは」
「あ、ああ……先生を無意識にそう呼んじゃうあれですか。たまにありますよね」
「昔教師をやっていたから。そういう可能性もあるわね」
フォローになっていない説明をする二人を前に、真姫の顔は茹で上がったタコのようである。
「も、もう! いつまでもここにいないで、早く行きましょ!」
まとめた荷物を片手に、真姫は水晶を掲げる。
いたたまれなくなって空気を変えようと必死なのが誰にもわかった。
だからといってそれを咎める程二人の性根は悪くはないので、それにならう。
「転移! 『346プロ』――――!」
異口同音に唱える。それを鍵に、三人の手にある水晶は作動した。

母と呼ばれたのは初めてか。手元の石が光る時、田村はふと思う。
悪くはない。
それに。
子を持ったパラサイトは、不器用で、けれども優しくまっすぐな少女を一瞥して、
あの子も彼女のように育ってくれればいい。
――――そう思う。



【B-7/346プロ/昼】

【西木野真姫@ラブライブ!】
[状態]:健康
[装備]:金属バット@とある科学の超電磁砲
[道具]:デイパック、基本支給品、マカロン@アイドルマスター シンデレラガールズ、ジッポライター@現実
[思考]
基本:誰も殺したくない。ゲームからの脱出。決意。
1:田村玲子、初春飾利と協力する。
2:穂乃果、花陽を探す。
3:ゲームに乗っていない人を探す。
[備考]
※アニメ第二期終了後から参戦。
※泉新一と後藤が田村玲子の知り合いであり、後藤が危険であると認識しました。

【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品 、首輪、 巴マミの不明支給品1
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
1:脱出の道を探る。
2:西木野真姫、初春飾利を観察する。
3:人間とパラサイトとの関係をより深く探る。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ's、魔法少女、スタンド使いについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。協力者は時間遡行といった能力があるのではないかと考えています。

【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1〜2、テニスラケット×2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する。
1:田村玲子、西木野真姫としばらく共に行動する。
2:346プロ探索の結果で、第二回放送後に闘技場へと戻るか、コンサートホールへ行くか決める。
3:闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でタツミたちと合流する。
4:黒子と合流する。
5:御坂さんが……
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺し合い全体を管制するコンピューターシステムが存在すると考えています。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※ジョセフとタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているらしいということを知りました。

  
転移結晶(テレポートクリスタル)@ソードアート・オンライン

手に持って任意の場所を指定することでその場所に移動できる。
対象は一人だけ、一度使えば消滅する。


575 : ◆12UGzMfJS2 :2015/09/22(火) 09:25:38 /wDRvtsY0
投下終了します。


576 : 名無しさん :2015/09/22(火) 09:56:35 L1/48rpA0
投下乙です
真姫も立ち上がって考察も進んだか。ここから一気に考察も進むといいが

一つ気になったのですが
真姫は穂乃果や花陽が来る可能性を考慮して音ノ木坂学院に留まっていたはずです
346プロという遠距離まで移動すると入れ違いとなる可能性についての言及はないんでしょうか?


577 : 名無しさん :2015/09/22(火) 19:30:02 N6jqXT3c0
同じ支給品を複数出すのはいいんでしょうか?


578 : ◆H3I.PBF5M. :2015/09/22(火) 21:28:41 nZBGO2mQ0
投下乙です。
アイドルという存在に重要な意味を持たせる考察はお見事でした。
これまで一方的に保護される立場だった真姫にも戦闘以外の見せ場ができ、面白い立ち位置になったと思います。
転移結晶かぶりについては既に賢者の石が二つ出ている前例もあるので問題はないでしょう。

ただ、「現時点では真姫たちは転移した先の状況がまるでわからないのに、躊躇いなく転移結晶を使うのか」という点が疑問です。
「徒歩で向かって危機に遭遇すれば転移で逃げる」のならまだしも、安全が確認されていない施設に一方通行の転移を行うのはあまりにリスクが高すぎます。
仮に346プロに好戦的な参加者がいた場合(メタ的には当然誰もいないのですが)、一般人を二人抱える真姫たち一行は途端に窮地に陥ります。
道中の手間と遭遇するかもしれない危険を避けるために、目的地で遭遇するかもしれない危険を無視する、というのは田村の思考としては無理があるのではないでしょうか。
特に田村は現状の戦力が不十分であると認識しています。あえて危険を冒すほど切迫した状況でもありません。
危機を切り抜ける手段を用意しているのなら別ですが、ここからさらに予備の転移結晶を持っている、とするのはさすがに強引ですし。


それと別件ですが、予約ルールについての議論が終了しました。書き手諸氏は議論雑談スレ385の確認をお願いします。
議論中にも予約・投下が行われていたので、該当ルールが適用されるのは現時点の予約から、で。


579 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/22(火) 23:25:15 4zdsTlvI0
投下お疲れ様です。
音楽要素で展開するとは……弱い人達は寄り添い合わないと生きていけませんよね。
大切な人と出会えればいいのですが……。

指摘に関しましては既に大方出ているので私からは省かせていただきます。

さて、氏の反応がまだではありますが、仮投下した作品を投下します。
仮投下した時から24時間も経過していないので、初めて目を通す方が大勢だとは思いますがよろしくお願いします。


580 : 扉の向こうへ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/22(火) 23:26:19 4zdsTlvI0

図書館へ足を進めるブラッドレイは何度か左掌を握ったり開いたりと動作を繰り返している。
数時間前に交戦した雷光の錬金術師――ではないが、電撃を操る少女、御坂美琴の一撃に左腕が不完全な状態に陥れられた。
痺れが残っている状態では実質片腕での戦闘を強要され、使えたとしても本調子とは呼べない。

左腕が回復していれば先のセリュー及び人造人間のような狗相手に時間を掛ける必要は無かっただろう。
ウェイブ、マスタングと敵が増え最終的には狡噛慎也までもがブラッドレイの敵に回っていた。
相手する敵全員が同盟を結んでいる訳ではないが、片腕が封じられている中での戦闘は好ましくない。

仮に近接戦闘をウェイブが担当し中距離から圧倒的な火力と殲滅範囲でマスタングとセリューが手を組み襲って来たら。
とてもではないが一度は死を覚悟するだろう。おまけに先の戦闘を一発の弾丸で終わらせた狡噛慎也もだ。

「これで左腕が使えるようになったか。雷光め、余計なことをしよって」

感覚が戻ったことを確認し、適当に風を切る動作で左腕を振り回す。
痛みも感じなければ動きに不自然さや違和感を感じることもない。この瞬間、ブラッドレイの左腕は痺れから開放された。

「図書館に行ったとして、居るのはタスクと本田未央の二人。
 セリューとの戦闘によってあの一帯を自由に移動するには空でも飛ばん限り無理だ。
 狡噛慎也達は一度図書館へ向かっている可能性が高いことを考えると――少し面倒なことになる」

タスクとの情報交換は殺し合いからの脱出に繋がる貴重な突破口の可能性を秘めている。
一緒に居る本田未央にそのような価値は無いがあの渋谷凛と同胞を考えると一人の人間として興味が湧いてくる。
なんにせよブラッドレイにとって図書館へ向かわない理由は少ないのだ。あったとしても時間を少々無駄にするだけである。

彼の足取を重くするのが狡噛慎也を始めとする自分の正体を知っている参加者である。
ホムンクルスであることをわざわざ自ら宣言する必要も無く、ブラッドレイは一人の人間として振舞っている。
しかしロイ・マスタングはホムンクルスの情報を的確に他の参加者へ伝えており、素性が一部の参加者に筒抜け状態である。
恐らく大佐から話を聞いた白井黒子達が狡噛慎也にブラッドレイの正体を告げ、セリュー戦へ投入した可能性もある。

「狡噛慎也は私を敵として認識している。マスタング大佐から話を聞いたウェイブやセリューも同じだろう。
 彼らが何処まで広めたかは知らんが……全く。殺す必要が無い人間まで手を掛けることはしたくないんだがね」

ブラッドレイの方針は殺し合いから脱出すること。
父上の下へ帰還し、来るべき約束の日に備え己の義務と使命を全うすることである。
そのために犠牲を祓うことに心が傷付くことはなく、斬り捨てる人間は問答無用で斬り捨てる。


581 : 扉の向こうへ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/22(火) 23:27:01 4zdsTlvI0

ブラッドレイがその手で殺害した参加者は二人。両者女性であり幼き子供であった。
美遊・エーデルフェルトと渋谷凛。
前者は園田海未を逃がすために全力を持って立ち向かってきた少女。
後者である渋谷凛は力を持たない人間であったが、その信念は天晴であった。

ブラッドレイが渋谷凛を殺害したことは誰も知らない。
しかし美遊・エーデルフェルトを殺害したことを知っている参加者――園田海未がいる。
彼女自身の名前は放送で呼ばれており既に死んでいる。だが情報は漏れているだろう。
音ノ木坂学院付近で彼女と接触した参加者はブラッドレイを危険人物として認識している可能性が高い。

地図上では図書館と音ノ木坂学院はそれ程遠くない。
既にブラッドレイの情報が広まっている可能性もある。
なんにせよ移動を遅らせる理由は存在しない。足を図書館へ進めるだけだ。

(地図……国土錬成陣のような配置で建物は置かれてはいない、な。考え過ぎか)

セリム・ブラッドレイ。
名簿に載せられている名前に違和感を覚える。
彼を参加させる理由は一体何なのか――参加させてどうするつもりなのか。
謎が多い殺し合いの中、答えを得るには主催者との接触が必要不可欠だろう。

交錯する情報の中で信じれる物はどんな状況、どんな世界であれど己のみ。
自分の直感を信じれない者に未来など訪れることはなく、ブラッドレイ自身が確認しなければならない。
他人の又聞きだけでは対象の人間性も解らない。一方的な情報は恐ろしい物だ。
現にブラッドレイがマスタングに抱いている感情には齟齬が発生している。

やはり目を覚ましたら対話が必要であろう。
出来れば邪魔が入らない場所で情報を確認し、現状の打開を図るべきだ。
その後に脱出策を練っても遅くはないはずだ。


582 : 扉の向こうへ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/22(火) 23:27:40 4zdsTlvI0

しかし脱出に当って無理に死者を出す必要が無いならば。
ブラッドレイがその刃を振るうことは大幅に減少されるだろう。

「平行世界……信じられんが真理とやらに広がる一つの可能性とでも捉えようかね。
 参加者の多くがアメストリス出身ではなく――私とは関係ない世界の人間ならば殺す必要は無いかもしれん」

存在を知られていようと害はない。ホムンクルスの情報を持ち帰られても所詮は干渉出来ない他人の世界だ。
そもそも軍内部に事情を知っている人間だっている。敵であるエドワードやマスタングでさえもブラッドレイがホムンクルスであることを認識している。
けれど殆どの人間が初対面となる殺し合いの状況で、人外のレッテルを貼られると行動に支障が生まれてしまう。
最初から警戒されていれば情報交換はおろか、落ち着いて会話することさえままならない可能性がある。

「……ふむ。首輪を外す或いは脱出に使える人間を殺す必要はない。
 だが何も進展が生まれないとすれば――主催者に会うしか方法はあるまい」

広川。
自分を含む多くの参加者を招き殺し合いを開催した始まりの男。
今回の真実を知るには彼との接触が不可欠である。主催者が彼なのか、将又複数人なのか。それさえも分かっていない。

「平行世界とマスタング大佐の話……全てが成立するとなれば広川は未来過去現在……時間を超えることが出来るかもしれん」

ブラッドレイが知っているマスタング大佐はホムンクルスに仇なす人類側の敵であった。
計画のために無理矢理にでも人体錬成を行わさせ、人柱にし父上の礎にさせようとしていた。
しかし実際に出会ったマスタングは手合せ錬成を行っていたのだ。

真理に触れた者が行える錬成――つまりロイ・マスタングは人体錬成を犯していることになる。
大切な人間の窮地に居合わせれば彼は人体錬成を行うと見積もっていたが、何故なのか。
話を更に聞けばホムンクルスは全て死んだ、エンヴィーだけではなくお前も生き返った……まるで未来から来たようなことを言っていた。

「エンヴィー、プライド、グリード、スロウス、父上……それにキンブリーも死んでいただろう。
 マスタング大佐やエドワード・エルリックの『世界』では約束の日を超えることは出来なかった、と」

頭が回る男だ。未来を見据えた若き野心家であるマスタング大佐ならば口を回し心理戦を仕掛けるかもしれない。
だがあの状況で、セリューが暴れ回り、死者が出ている状況でそんなことを仕掛けるとは思えない。

「エンヴィーに嵌められて参加者を殺したらしいな。今更一人殺したことで心を弱める男でもあるまい。
 そうで無ければ戦場で背後を取られるか、軍を退役しているか。
 どこぞの少佐と違って彼は逃走を選ばなかったからな。やはり――彼が言っていた話は『事実』と捉えて間違い」

面倒な状況になっている。それも自分が干渉出来ない次元の話であることが理不尽さを強調する。
エドワード・エルリック、ロイ・マスタング、キング・ブラッドレイ……彼らが存在していた世界の結末はホムンクルスの敗北らしい。
信じられない――訳ではないが、一つの可能性としては受け入れられる。人間が勝っただけの話と捉えればいい。

奇妙な点と云えば何故ロイ・マスタングが未来から参加しているのか。
彼と接触した際の短い会話から察するにエンヴィーは死後から参加しているらしい。
ホムンクルスならば新しい容れ物宿った考えれば納得出来る話だが。容姿に触れておらずに、生き返ったと言っていた。

「時間移動と蘇生……錬金術を超えた力を持っているというのかね、広川は」

完全なる人体の復元。ホムンクルスと云った異形ではなく有りの儘に再現する力。
彼の口振りからデメリットは特に感じられず、説明していないだけの可能性もあるが。
時間移動が可能ならばそれは神の力と称しても過言ではない。マスタングとブラッドレイの認識の齟齬が可能性を現実へ駆り立てる。


583 : 扉の向こうへ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/22(火) 23:28:08 4zdsTlvI0

殺し合いに生き残れば願いが叶う。
その願いに係る代償が零であり、不可能な事象が無いとなればこの上ない魅力的な話である。

「実に魅力的だがわざわざ忠誠を誓い貴様の奴隷に成り下がるつもりは無いがね。
 この首輪を外せば貴様の命令なぞ誰が受け入れるか。こんなモノで私を飼い慣らせると思うなよ」

しかしブラッドレイの主――父上は一人である。故に彼が他の存在に頭を垂れることはない。
思い通りに殺戮劇を演じる人形ではなく、この男は一人の人間でありホムンクルスであるのだ。
己の意思で行動し、己の力で生き抜き、己の信念を以って死んでいくだろう。

「私は貴様の計画――殺し合いを潰してやっても構わない。
 本当に最後の一人しか帰れないのならば他のホムンクルスを殺してでも貴様に会ってやろうではないか。
 ……とは言ってもそんな状況になる前に志ある若者達が何とかするかもしれんがな。

 まぁいい。どうせ盗聴しているのだろう? だからこうしてペラペラ喋ってやったぞ。
 先の放送で死者を読み上げたが……監視も付いているとなれば隠す必要がないのでな。
 知っての通りだとは思うが――約束の日を迎えるまでこの老体、朽ち果てる訳にはいかないのだよ」

自分が殺した人間を読み上げた広川。
この情報は漏れておらず、ブラッドレイ――参加者の行動が監視されていることの証明だ。
大方首輪に盗聴機能や生存を認識する機能が組み込まれているに違いない。
その仮設を踏まえた上でブラッドレイは首輪に語り掛けていた。声を聴いているであろう広川へ向けて。

彼に従うつもりはないが、殺し合いを放棄する宣言ではない。
帰る方法が殺し合いの優勝ならブラッドレイはその刃を赤く染め上げる。戸惑いも後悔も存在しない。
タスクのような首輪を外せる可能性を持った参加者が居れば無駄に血を流す必要は無いのだが。

(さて――首輪と云えばだがマスタング大佐が外していないと云うことは錬金術では不可能だったか。
 平行世界が本当なら知識が圧倒的に足りないのだろう……ふむ、早く目を覚ましてもらわなければ面倒な――ん?)

マスタング大佐。
ブラッドレイが所有しているバッグの中に収まっている人柱候補だったはずの男。
知らぬ間に人体錬成を行い真理に触れていた男はどうやら未来から来たらしい。
全てを確かめるために本人と会話を行いたいが目を覚ましておらず、このまま行けば図書館で面倒なことになるかもしれない。
タスク達と会話をしている間に焔を出されては何一つ有り難いことがない。唯でさえ狡噛慎也やウェイブ、小泉花陽が先に接触しているかもしれないのに。
そして懸念点は更に増えてしまった。


(これは糸……向かう先は――セリュー・ユビキタスと交戦した場所へ向かっているな)


584 : 扉の向こうへ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/22(火) 23:28:44 4zdsTlvI0

今後の方針や考えを整理しながら歩いていた時、不意に視線に映ったのは日光を反射する一つの線。
それはブラッドレイの進路先から回収され彼が歩いてきた道を戻っていた。

(セリュー・ユビキタスが生きているのか? 死体は確認していないが……ッ!)

死体。
セリュー・ユビキタスの死体は奈落の底へ落とされてしまい、確認をしていない。
それに大量のミサイルが爆発したあの状況では死体の一つにそこまで気を配れる訳がない。

今、戦場跡地にある死体は二つ。
一つはセリュー・ユビキタスが殺害した由比ヶ浜結衣。
鉄球で首を吹き飛ばされ、残った身体も蹴られてしまい原型を留めていないだろう。

もう一つの死体が島村卯月の死体である。
由比ヶ浜結衣が放ったショットガンによって身体を吹き飛ばされて死んでしまった彼女。
経緯は不明だがセリュー・ユビキタスに依存しており、彼女が死んだ今、島村卯月が生きていても辛いだけだ。

(島村卯月……身体を吹き飛ばされただけだ。血が一切出ておらん)

ブラッドレイは思い出す、島村卯月がショットガンによって吹き飛ばされた瞬間を。
あの時、血は出ていたのか。鮮血は舞っていたのか。

答えは否。

考えられるのは島村卯月が服の下に何かを隠していたこと。或いは人外の存在だが後者は有り得ないだろう。
あの場に向かう糸、生きていると推測される島村卯月。
彼女が糸を回収しているとして何をやろうとしていたのか……不明である。
渋谷凛と同胞である島村卯月。セリュー・ユビキタスに依存していた彼女だがこうも行動するとは予想が付かない。
形はどうであれ強い意思を持っているのは確かである。それが他者に依る物かは不明であるが。

(まぁいい。今から戻っても意味は無い。彼女は私を危険人物と認識してしまったからな……それは図書館に居る人間も同じになる可能性が高い)

ウェイブ達が合流していたら自分の素性が明かされてしまい、厄介極まりないことになる。
無駄な戦闘は行いたくない。というよりも必要以上に暴れる必要が無い。
脱出出来ればそれでブラッドレイの問題は大方解決してしまう。残された参加者がどうなろうと彼には関係ない。
そのためにも首輪を外せる可能性を持ったタスクと合流するために図書館へ向かう。

(糸……セリューと共にいたあの狗もそうだがまさか……回収してみる価値はあるか)

先程見かけた糸とセリューを守っていた狗――コロと対峙した時、ブラッドレイはナニカを感じていた。
そのナニカは彼がアメストリスでも感じているとある物に似ていた。しかし彼の知る世界にあのような狗は存在しない。
平行世界の欠片……彼の知らない技術が使われたアレの可能性も在る。出来れば回収したいものだ。

「少々急ぐとしようかね……くれぐれも馬鹿なタイミングで目を覚まさないように、な」

己のバッグに視線を配るとブラッドレイは図書館へ急ぐように速度を引き上げた。



【D-5/一日目/昼】



【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、腕に刺傷(処置済)、両腕に火傷
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2(刀剣類は無し) デスガンの刺剣(先端数センチ欠損)、カゲミツG4@ソードアート・オンライン 、ロイ・マスタング
[思考]
基本:生き残り司令部へと帰還する。そのための手段は問わない。
1:図書館に向かいタスクらと一旦合流する。
2:稀有な能力を持つ者は生かし、そうでなければ斬り捨てる。ただし悪評が無闇に立つことは避ける。
3:プライド、エンヴィーとの合流。特にプライドは急いで探す。
4:エドワード・エルリック、ロイ・マスタング、有益な情報、技術、帰還手段の心得を持つ者は確保。現状の候補者はタスク、アンジュ、余裕があれば白井黒子も。
5:エンブリヲは殺さず、プライドに食わせて能力を簒奪する。
6:御坂は泳がしておく。島村卯月は放置。
7:マスタングが目を覚ましたら認識の齟齬について問い正す。
8:自分が不利だと判断した場合は殺し合いの優勝を狙うが……
9:糸や狗(帝具)は余裕があれば回収したい。
[備考]
※未央、タスク、黒子、狡噛、穂乃果と情報を交換しました。
※御坂と休戦を結びました。
※超能力に興味をいだきました。


585 : 扉の向こうへ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/22(火) 23:29:15 4zdsTlvI0

「ふむ」

足を止めたブラッドレイは声を漏らしバッグへ視線を落とす。間が生まれた後に言葉を発した。

「マスタング大佐が入っているが……質量は何処に飛ばされて……まぁいい」


586 : 扉の向こうへ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/22(火) 23:30:33 4zdsTlvI0

「……此処はまさかバッグの中か?」

目を覚ますと同時に身体を起こし、周囲を伺い自分が置かれている状況を確認するマスタング。
自分が倒れていたのは瓦礫の上。天井は存在しない暗闇。数歩動けば瓦礫は無くなり血の海が広がっている。
天井が無ければ、この様子だと壁も存在していないのかもしれない。記憶どおりならばブラッドレイに気絶させられバッグに収納されていたはず。

「これはブラッドレイが持っていた剣……どうやら本当にバッグの中に私は居るのか」

賢者の石を使用し気を失った時もバッグの中に収納されていたが、あの時、意識は回復しなかった。
酷い振動感に襲われた後、気付けば自分は外で倒れており近くにいたウェイブに肩を貸してもらっていた。
こうしてバッグの中で目を覚ますのは初めてであり、嫌でも殺し合いの異常さを思い知ることになる。

「質量を無視して人体をも収納出来るバッグか……全く広川はどんな力を持っているんだ」

錬金術ではない異能の力。
天城雪子のようなペルソナかもしれないし、セリュー・ユビキタスが使用していた帝具かもしれない。

「錬金術……この場所、私は一度来たことがある……?
 それは賢者の石を使った時ではなく、そうだ。アメストリスの時に、まだ殺し合いに巻き込まれていない時に――」

身体を襲う謎の感覚は過去に一度体験したかのように、マスタングにとって何か知っているような感覚であった。
しかしそれが何時襲われたのか、どのような状況で体験したかが思い出せず、結果として答えに辿り着けない。
『肝心な所が思い出せない? だから無能って言われんだよ大佐』
などと鋼の錬金術師が言いそうで苛立ちが胸の中を駆け回る。そして実際にその台詞を目の前の異形に言われマスタングは臨戦態勢に移行する。

「貴様は」
『エンヴィーか? って馬鹿の一つ覚えのように聞くのか?」
「わざわざ私の姿に变化する必要もあるまい。
 貴様は誰だ、どうして私の姿をしている。そして此処は何処だ答えろ」



『我は影、真なる我――なんだけどこの世界は色んな世界が混ぜってて本来の姿や性質からは掛け離れてるんだ」

「その説明じゃ解らんぞ」

マスタングの前に現れたのはマスタング――の姿をしたナニカである。
鏡と対面しているような感覚で、ナニカはマスタングと同じ声、同じ仕草で語っている。

『本当はお前が自分で殺している本当のマスタング像が出て来るんだけど今はぐちゃぐちゃでな』

「ほう、ならば貴様は私自身であると?」

『そのとおり。本当の自分と対面するのがマヨナカテレビ何だけど此処は色んな世界の面倒なモンを混ぜて創ったご都合主義空間みたいな所』

「だから貴様の説明は解らんと言っている。もっと砕いて話せ……でないと燃やす」

「自分からそうやって敵意剥き出しにするからいらん誤解を招くんだぞロイ・マスタング。
 全く……ご都合主義空間ってのは質量を無視したバッグのことだ。人体まで入るなんて有り得ないと思っただろ?
 大方見当は付いていると思うがお前の知らない知識や力が使われているんだ……知っている力もあるけどな。それと俺はシャドウって呼んでな。呼び名ないと辛いだろ」

シャドウと名乗った存在の言葉を頭の中で整理するマスタングだが全てが雑音にしか聞こえない。
しかしこの状況自体が雑音のような理解に苦しむ現状なのも事実であり、全てを受け入れなくてはならないらしい。

国を統べる器ならば嫌なことは見ない。そのような子供の理論が通じる筈がない。目を背けるな。
手で顎を抑えるとマスタングは一人、状況を整理する。


587 : 扉の向こうへ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/22(火) 23:31:00 4zdsTlvI0

(シャドウと名乗ったこの男だが……言っていることが嘘か本当か解らん)

判断材料が少な過ぎる。バッグの中なのは確実のようだがそれすら正しいかどうかも解らない。
だが否定から始まっては何一つ進展しないため、今は状況の理解に務める。

(『色々な世界が混ざっている』……聞いたことのない超能力の理論や学園都市が該当するな。
 佐天君や白井君が嘘をついているとは思えん。天城君のペルソナだって私の知らない力だったな)

アメストリスではない何処か遠い国……ではなく世界を包む次元が異なる異形の地に拉致された可能性が高い。
それはマスタングや鋼の錬金術師だけはなく佐天涙子や白井黒子、小泉花陽やウェイブも一緒である。
知らない世界の人間達ならば自分の世界で該当するところの錬金術に連なる能力があっても不思議な話ではない。

(私が交戦した後藤もホムンクルスではなく別の世界の怪物という訳か)

故に自分の知識だけで太極を見極めるのは至難であり、強行するのは愚かである。
つまり見境無しにエンヴィーを警戒する行為は仕方が無い側面もあるが実に非効率であり、他者に不快感を与える行動だった。
自分の行いを省み、マスタングの頬を汗が伝う。もう一度高坂穂乃果達に合流することがあれば謝罪を行わければ。

(マヨナカテレビ、これは知らん。
 奴はご都合主義空間と言ったが確かにこのバッグの中は何でも収納出来る……何でもアリだな)

質量を無視して収納出来るバッグは異形を象徴する一つの要素である。
戦争にこんな物を持ち込めば簡単に他国を制圧することが可能だろう。何せ人体まで収納出来るのだから。

「一つ聞くが本当にバッグの中か? 以前、私は気付かなかったが」
『あん時は気絶してたろ。自分の意志で出ることは不可能だからなこのバッグ』

(バッグの中で確定としておこうか。そして自分の意志で脱出は不可能、と)

自分が置かれている状況に脱出不可の記号を加え更に脳内を回転させる。

(シャドウ、つまり影か。私自身を写す鏡……)

『んだよジロジロ見て』
「貴様、私の影と言ったな。どの部分が影なんだ」



『はぁ……さっき言ったけど色んな世界の色んなモンが混ざってるこの空間じゃシャドウも本来のシャドウじゃないんだよ。
 本当ならお前の隠している本心が具現化するんだけど、なぁマスタング。お前も今ぐちゃぐちゃなんだよ、だから俺も意味不明な存在って訳』

「……?」

『ついでに俺――シャドウに会うには極限状態まで弱っている時じゃないと出会えないから覚えておけ。
 ま、俺に会わない方が得だし、出れる手段があるとも思えないけどな。そもそもお前が何で意識を保ってるか俺は知らねえけど』

「………………」

『解らないか? 復讐に走ろうとしたのを中尉や鋼の錬金術師、スカーにまで止められたのにお前と来たら……。
 まぁエンヴィーを見付けて殺したくなる気持ちも解るから無駄に責めることもしねえよ、俺自身だからな。
 けどよマスタング。今のお前、最低にだせぇぞ? 全並行世界からボッコボコに叩かれちまう。
 
 国を統べる男が一人の餓鬼(ホムンクルス)見ただけで復讐鬼に早変わりだ、悪魔みたいな表情しやがって。
 そんな奴が国をな……スカーにも言われてただろ、反省しろ無能。大総統にまでボロクソ言われやがって……聞いてんのか?』

シャドウが一人でマスタングが殺し合いに巻き込まれてから行った所業を紛糾していた。
その間マスタングは一切口を開かずに黙って彼の話を聞いていた。
発言を促されてから、マスタングはその口を開き自分の意思を言葉にした。

「貴様の言っている通りで自分に腹が立つ」

『……お前なら黙れ! とか言って燃やしてくると思ったけど」


588 : 扉の向こうへ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/22(火) 23:31:30 4zdsTlvI0

「確かにそうしたい所だが……私は何度も愚かな行いを繰り返すつもりはない。
 エンヴィーに固執していたのは事実だ、認めよう。だがあいつとは不本意ながらも決着をつけて私も受け入れた。
 ならばもう一度、今度は復讐心に全てを委ねないで私の手で――また引導を渡してやるだけだ」

拳を握りマスタングは己の弱さを受け入れた。
佐天涙子が死んだのも、天城雪子が死んだのも、由比ヶ浜結衣が死んだのも己が弱いからだ。
特に天城雪子に関しては関係者や親しい存在に対する言い訳など存在しない。全ては自分が原因である。

だが、マスタングは足を止めない。

此処で足を止めるならばとうにイシュヴァールの時点で軍を退役している。
今更人を殺した程度で自我を崩壊させる程脆く、弱い人間ではない。そして。

「色々な世界からの人間が巻き込まれて居るのなら私達は本来出会わないことになる。
 私と出会ったことが原因で死んでしまった彼女達――私が殺してしまった天城雪子君。
 その罪と彼女達の証を背負って私はこの殺し合いを潰して生き抜いていくしかないんだ」

『お前の説明も全然解らないじゃないかマスタング』

「死んだ者達の分も生き抜いてこの殺し合いを破壊すると言っている。
 私はもう止まることは許されない。そして愚かな行為を行うことも、な」

決意。
既に固めていた信念を言葉にすることによって一層固く己の中で位置付ける。

『なら全員殺して願いを叶えるのか?』

「本気で言っている訳でもないだろうシャドウ。
 私は救える人間は全員救う……いや、この手が届く範囲で全ての人間を救ってやる。
 だが、貴様が言っていた通り、エンヴィーを見てからの私は情けなくて愚者その者だった。
 最初の間は自分の身を守りつつ、必要があれば自分の事をフォローして行かなければならない」

事故とは言えマスタングが天城雪子を殺したのは事実だ。
その罪は消えること無く、マスタングを永遠に縛り付ける証となっている。
彼に対して不信感を抱く者もいるだろう。一度参加者を焼き殺した人間火炎放射器だ、近寄りたくない。
説明も踏まえマスタングはこれからの茨の道を進むことになるだろう。下手をしたら殺人鬼以上に警戒されてしまうかもしれない。

『……お前なら悪魔みたいな形相で俺を焼き殺すと思ったんだがな』

「自分で自分を燃やす趣味はない……確かに気持ち悪いと思っているのは事実だが」

『ぐちゃぐちゃしたお前の影である俺は『マスタングを否定する存在』なんだよ。
 否定し続けてお前を壊そうと思ったけど回復するのが早過ぎるぞ……ったく。
 エンヴィーが絡むだけで無能になりやがって。また同じこと繰り返すなら鋼の錬金術師に会わす顔無くすぞ?』

「余計なお世話だ」

マスタングは掌を合わせると血の海から剣を一本錬成し大地に突き刺した。
剣先で何かの術式を書くように動かしながらシャドウに話し掛ける。

「お前はさっきマヨナカテレビと言っていたが此処はそのマヨナカテレビとやらが大半を占めているのか?」

『占めている?……あぁ違うな。マヨナカテレビの要素は俺――つまりシャドウと現実じゃねえ空間だけだ。
 バッグの中はお察しの通り有り得ない空間になってるからな。その有り得ない要素の一つがマヨナカテレビっぽいナニカだ。
 勘違いすんなよ……何でこうもペラペラ喋ってんのかねえ……」

「ならばこの空間の大半を占めているのは――合っているか?」


『合っているも何も錬成陣描いている時点で察しがついてんだろ、なら聞くな。
 ――お前の予想通りこの空間は『擬似・真理の扉』の要素が一番占めてるかもしんねえな』

「勿体ぶらず答えを言え」

『うるせえテメェで調べろ』


589 : 扉の向こうへ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/22(火) 23:32:06 4zdsTlvI0

マスタングが目を覚ました時に感じた既視感はアメストリスで行われていた。
セントラルに攻め込んだ際、人柱達がお父様の元へ送られた後にブラッドレイとセリムに襲撃された時。
ラースとプライドによって強制的に人体錬成を行ってしまったマスタングは真理に触れてしまった。

その時だ。

「擬似・真理の扉か……鋼のから聞いたことがある。
 私や中尉、ノックス先生がグラトニーから逃げた後にリン・ヤオとエンヴィー諸共飲み込まれてしまったと。
 それはお父様が創りあげた擬似・真理の扉だった……だが何故此処がその空間に似ているんだ?」

『知るか無能。広川にでも問い詰めろ』

(いちいち癪に障る奴だな……)

結果としてマスタングが最初に感じた感覚の予測は当たった。
しかし答えが解っただけで肝心な方程式が解らない。広川は何故、どうやって、何のためにバッグを擬似・真理の扉に繋げたのかも解らない。
だが質量を無視するという点では、この空間に繋げれば何でも入るだろう。どうやって取り出しているかは不明ではあるが。
鋼の錬金術師も出る際には人体錬成を行わなければ出れなかったらしい。エンヴィーも脱出を諦めていたと云う。
自分の意思で出れないのは支給品と同じ扱いなのだろう。他人に出されるか先のようにアクシデントでも無ければ脱出は不可能と考えていい。

しかし考えれば考える程異質である。何故此処に擬似・真理の扉があるのか。
そもそも何故殺し合いを行っているのか……どうやら嫌でも広川に会わなければならないらしい。

『お前帰れるのか?』

「賢者の石がまだ余っている。不本意ではあるが使わせてもらうさ」

錬成陣を書き終えたマスタングは賢者の石を取り出し一つの覚悟を決める。
(バッグの中だが私は私のバッグを持っているのだな……まぁいい)
掌を合わせ一度無理矢理に発動した禁忌を今、マスタングは未来へ生きるために行使する。

「なぁシャドウ。私はこれから何処に出る?」

『無事に行けばキング・ブラッドレイのバッグから飛び出るだろうよ。ヘマすんなよ無能』

タイミングが悪ければマスタングは危険人物としての登場になるかもしれない。
もしそうであればブラッドレイに殺され、彼を英雄に演出する人形にされるかもしれない。

「そうか――もう此方に来ない事を祈っている」

『此方のセリフだ……次来る時はちゃんと自分をしっかり持て。
 じゃねぇと俺もちゃんとならねえからお前を殺して乗っ取ることも出来ねえんだよ』


「強欲のような奴だ……私自身ではあるがな!」


赤い閃光が周囲に満ち溢れた時、異形の黒き瞳が錬成陣に現れた。

(賢者の石にさせられた――貴方達の生命、私が使わせてもらいます)

無数の影がマスタングを呑み込んでいき、擬似・真理の扉と呼ばれた空間には誰も残らない。
彼は影――マスタングが消えればシャドウも消える。










「半ば強引にやってみたが……成功、か」


590 : 扉の向こうへ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/22(火) 23:33:23 4zdsTlvI0

マスタングが目を覚ました時、彼を包むのは一面に広がる白、或いは透明の空間。
何処までも広がる感覚は先のバッグの中に似ており、色合い的には光と闇を演出しているようだ。

そんな空間で異質を放つのが石で構成されているような大きな扉。真理の扉と呼ばれるそれ。
そしてその前で座り込み此方を睨んでいる真理だけであった。

『こうやって面を向き合って話すのは初めてだな錬金術師』

「貴様が真理だな。鋼のから聞いたことがある。一度会ったのはセントラルで人体錬成を勝手にやらされてしまった時以来だな」

『以来って言ってもそう簡単に何度も来る所じゃないけどな』

本来ならばマスタングが出逢うことの無かった存在。辿り着く予定も無かった境地である。
大切な人を救うために人体錬成を選択するマスタングはエンヴィーとの決着を終えて死んだ。
彼が人体錬成を発動してしまったのはホムンクルスによって強制的に扉を開かさせられたからだ。

最も殺し合いに巻き込まれてからマスタングはエンヴィーとの再開を得て、一時期復讐鬼になってしまっていた。
己の影との会話で冷静さと本来の心情を取り戻しているため、同じ過ちを繰り返すことは無いと思われるが。

「あの場所から人体錬成を行っても貴様に会えるのか?」

『さぁな、そもそもお前は何で此処に来たんだ? まぁいいか。お前は後ろの扉を通って外に戻るだけだ』

「確かに何故真理の扉前に飛ばされているかは疑問――後ろだと?」

真理が指した指先を辿るように振り向いたマスタングの目の前には扉が広がっていた。
そして真理の方へ向き直ると、彼の背後にも扉が広がっているではないか。

「何故真理が二つある、真理とは一つではないのか!?」

『お前や鋼の錬金術師達には二つあるんだよ、じゃあな』

「シャドウといいどうして誰も解るように説明を――チッ!」

真理の空間に居るのに答えを知れないとは理不尽だな。と、悪態を零したい状況ではあるが時間が無い。
背後の扉から這い出てくる無数の影がマスタングを中へ引き摺り込む。
腕を伸ばして粘ることも諦めたマスタングは黙って現状を受け入れる選択を取った。
彼が最後に見たのは笑いながら手を振る真理の姿であった。

(私が次に目を覚ます時、ブラッドレイのバッグから飛び出すのだろう)

誰が居るかは不明である。当初通りであればウェイブ達と合流しているだろう。
しかしブラッドレイが到達することを考えると血が流れるのは確実である。
彼にマスタングの未来――約束の日の結末を伝えればどのような反応を取るのか。
戦闘の際に告げているが、詳細は説明していない。改めて対話の場を設ければいいのだがどうだろうか。
相手はホムンクルスだ。マスタングがバッグから出た瞬間、彼の行動次第で殺し合いが大きく動くだろう。

(佐天涙子、天城雪子、島村卯月、由比ヶ浜結衣……名も知らない犬、賢者の石にさせられた人達。
 仇を取れるかどうかは知らんが、君達の存在を私は忘れない。そして罪も背負って生きる。
 私がそちらに行くにはまだ早過ぎるんだ。全てを終わらせた後で――今は黙って天から見ていてくれ)

次にマスタングが目を覚ます時。
それは殺し合いにおいて一つの佳境であり、正念場であり、太極を見極める重要な場面であろう。


591 : 扉の向こうへ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/22(火) 23:33:48 4zdsTlvI0



【???/昼/一日目】


【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、セリューへの警戒、迷わない決意、過去の自分に対する反省
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:ディパック、基本支給品、錬成した剣
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:殺し合いを破壊するために仲間を集う。もう復讐心で戦わない。
1:飛び出した先で穏便に情報交換を済ませる。
2:ホムンクルスを警戒。ブラッドレイとは一度話をする。
3:エンヴィーと遭遇したら全ての決着をつけるために殺す。
4:鋼のを含む仲間の捜索。
5:死者の上に立っているならばその死者のためにも生きる。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。
※並行世界の可能性を知りました。
※バッグの中が擬似・真理の扉に繋がっていることを知りました。


※次にマスタングが登場するのはバッグから飛び出した時です。(書き手向け)


【バッグの中について】
これはwikiに載せる予定はありません。
以前からバッグに人が仕舞えることに疑問を抱いており、私なりに考えてみました。
が、マヨナカテレビや擬似真理の扉と言ってはいますが殆どが設定や名前を借りたオリジナルとなっています。
特にシャドウなんかは顕著です。前にチャットを借りようとしたのは此処ら辺を一度話したかったので……。
指摘等あると思います。もし修正不可能と判断しましたらブラッドレイのパートだけを投下しようと思っております。

上記が仮投下の際に記載した内容です。
新たにシャドウに対して「極限状態まで追い込まれないと具現化しない」と追加しています。
仮投下時に目を通していない方も多いと思われますので、意見等ありましたら遠慮せず書き込んでください。


592 : 扉の向こうへ ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/22(火) 23:34:40 4zdsTlvI0
以上で投下を終了します。
色々と踏み込んだ話となっているので意見等お待ちしております。


593 : ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:08:03 nqMw3sZQ0
投下乙です
個人的な意見ですが、ほぼオリジナルのシャドウ関連は書く人によってばらつきが生まれるんで難しいのではないでしょうか
ブラッドレイのパートまでにとどめておいたほうがいい気がします

ではこちらも投下します


594 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:08:48 nqMw3sZQ0

「電車がまもなく到着いたします。危険ですから、白線の内側にお下がり下さい。電車とホームとの間が広い所は、足下に充分ご注意願います……」
「……あん? 何だこの音」

疲労のあまりうとうととしていた足立を目覚めさせたのは、機械のアナウンスだった。
駅員室から飛び出した足立の前に、南から来た電車が停車する。
足立は物陰に隠れて誰が出てくるのか観察しようとした。

「ふ〜、到着っと!」

電車の扉がスライドし、現れたのは緑色の服を着た女。
足立はそいつを知っていた。そいつの名前も、そいつの容姿も、そいつの立場も、全て知っていた。
そいつの名前は「里中千枝」。
足立を連続殺人事件の真犯人と見抜き、テレビの仲間で追いかけてきた「正義の味方」。
そんなやつが、いま、たった一人で足立の前に現れたのである。

「フヘッ。へ、へへへハハハハハ。マジかよ。こんな偶然ってあるかよ。最高じゃないか……」

停車した電車から他に降りて来る者はいない。
足立の口元がだらしなく歪み、抑えきれない声が漏れた。
足立は物陰からゆっくりと立ち上がり、懐にフォトンソードを隠し、鉄の棒を握ってホームへと歩いて行く。
ショットガンはバッグの中だ。あんなものを手に持っていれば警戒されてしまう。

「やあ、里中ちゃん」
「えっ? あっ、足立さん! 良かった、無事だったんですね!」

足立が声をかけると、千枝はほっとしたように笑顔を見せた。

(……なんだこいつ? 俺を警戒してないのか?)

病院で、そしてテレビの中で対峙したときの千枝は、怒りと憎しみの視線を足立にぶつけてきた。
だがこの千枝は、知り合いに会えたという安心感すら感じる。

(殺し合いに巻き込まれたからって、以前の確執は一旦おいておこうって? 甘いよねえ、そんなのさぁ!)

足立に駆け寄ってくる千枝は、ペルソナを出す様子すらない。
そういえば、こいつの親友である天城雪子は放送で呼ばれていた。
親友をなくした精神的ショックから足立への警戒心を忘れたのか、それとも単に錯乱しているだけなのか。
どっちでも良かった。足立にはどちらでも都合がいい。


595 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:09:19 nqMw3sZQ0

「里中ちゃん、一人なの?」
「そうですけど。そうだ足立さん、鳴上くんを見てませんか? あたしもまだ合流できてなくて」
「く……くく……」
「足立さん? どうかしたんですか?」
「どうかしたかって……こんなの、笑わずにはいられないだろぉ! ペルソナァァーーーー!」

千枝は一人で行動していた。電車の中には誰もいない。あの忌々しい鳴上悠もこの場にいない。
足立が行動を起こすのは、至極当然の事だった。

「えっ」

出現した赤いペルソナ、マガツイザナギが槍を千枝へと突き出した。
千枝はその矛先が自分を貫き、自分を地面へと縫い止めるのを、呆然と凝視した。

「がっ、ぎぃああああああっ! ごっ、ご、ああ、ああ!」
「へっへっへ。こういうの、カモがネギ背負ってやってくるとか言うんだっけ? ねえ、里中ちゃーん」

心臓や肺などの重要な臓器は避けるように刺したため、一瞬で絶命はしていない。
昆虫の標本のように串刺しにされた千枝が、口から血泡を吐きながら足立を睨む。

「あっ、あがぎざん……なんで……ごんなごど……!?」
「なんで? なんでって、お前がそれをおれに聞くの? 嫌だなぁ、わかりきったこと質問しないでよ。
 どうせお前ら、おれのこと殺人犯だって触れ回ってるんだろ? だからさ、これって正当防衛だよね?
 過剰防衛? あはは、そうかも。でも誰も俺を裁けないよねえ、こんな殺し合いしてるとこじゃあさあ!」

エスデスやまどかといったキチガイ女たちに振り回され、承太郎やセリューという正義バカに悪と認定され、ほむらとかいうサイコレズに命を狙われる。
ゲーム開始から続いてきた理不尽な不幸は今ようやく終わり、足立透のターンがついに始まったのだ。
目の前で苦しむ憎きクソガキ、里中千枝が弱々しく手を伸ばす。
足立はその手を、手に持った棒で思い切りフルスイングした。バキッと骨が砕ける音がする。

「あぎゃっ!」
「ホームラン、ってか? へへ、あ〜スッキリする〜。世の中こうでなくちゃな。おればっか辛い目に遭うとかやっぱおかしいんだって。
 こうやってお前らが苦しんで、俺が気持ちよくなる。それでプラマイ0、公平な世界ってもんだよねえ?」

足立は上機嫌で千枝の腹を蹴ったり、手足に鉄の棒を振り下ろしたりして痛めつける。
そのたびに潰れたカエルのような声をあげる千枝がたまらなく爽快だ。いま、千枝の命運は足立の手の中にある。

「やめ……やめで……あだぢざん……だずけで……」
「冗談、こんな面白いこと止めるわけないでしょ! 散々ストレスためてきたんだ、ここらで解消させてもらわないと割に合わないっての!」
「ごああああ! ぎぎぎごごああああおおお!」


596 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:10:23 nqMw3sZQ0

マガツイザナギを操作して千枝を貫く槍をグリグリと動かす。そのたびに千枝の体は切り裂かれていき、血と苦悶の声が撒き散らされる。
だが、それを楽しんでいたのもつかの間。

「……ぁ……」
「あれ? 死んじゃった? もう、つまんないなぁ。もっと頑張ってくれよ」

千枝の瞳から光が消え、抵抗もなくなった。さすがに遊びすぎたようで、死んでしまったのか。

「ん〜、マヨナカテレビとかクスリとかじゃなく、こうやって実際に手に掛けたのは初めてだけど。
 案外なんてことないな。俺って本当に殺し屋の才能とかあるのかも」

足立は上機嫌でマガツイザナギを消し、動かなくなった千枝の死体を蹴る。
千枝が持っていたバッグを拾い上げ、その中に入っていた拳銃を発見する。

「おっ、ニューナンブじゃん。いいねえ、刑事にはやっぱこれがなくっちゃ!」

元々足立は銃を持ちたいがために警察官になったのだ。
ショットガンも悪くないが、やはりこの日本の警察が正式採用しているニューナンブを持ってこそ、刑事という感じが出る。
足立は最後に、動かなくなった千枝を見下ろす。

「……そういやまだ、お前役に立つじゃん。その首輪、いただいておこうかな」

再度マガツイザナギを呼び出す。
その鋭い槍が、屍となった千枝の首筋に振り下ろされる。
こうして足立は、仇敵の一人を殺害することに成功したのだった。


【里中千枝@PERSONA4 the Animation 死亡】


597 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:11:29 nqMw3sZQ0



D-8、民宿の隣に設置された駅に電車は停車した。

「もうすぐ駅に着くな」
「「……」」
「駅から北へ向かうか、東へ向かうかを乗客が選ぶんだっけな」

ぽつりと呟いたのはヒルダで、無言を返したのは里中千枝と銀。
やがて駅に停車し、ヒルダがホームの操作パネルで東に進路をセット。
ヒルダが車内に戻る。動き出すまで多少時間がかかる。三人はまた無言。

「……待って」

その静寂を、そっと銀が打ち壊した。

「あん? なんだ、銀」
「千枝も、聞いて」
「なに、銀ちゃん?」

この人形のような少女が自分から発言することは極めて珍しい。
短い道中の中でもヒルダと千枝はそれをわかっていたため、驚きながらも銀の言葉を待った。

「さっきの、キンブリー。あの人を信用するのは、危険」
「え、なに言ってるの銀ちゃん。キンブリーさんは雪子を殺したマスタングって人の敵なんだよ? だったらきっと良い人だよ」
「千枝、お前はもうちょっと冷静になれ。そりゃ銀を保護してくれたのは助かったが、それだけで人を信用すんじゃねえ」
「だってヒルダさん、マスタングは雪子を殺したんだよ!?」
「わかってるよ、だけどな、それだけで」
「落ち着いて、二人とも」

銀をそっちのけでさきほどの言い合いを再開しようとした二人を、銀が制した。
こうなると思っていたからヒルダも車内では特に話そうとしなかったのだ。いまの千枝には冷静になる時間が必要だったから。
そう思ってたはずなのについ熱くなってしまった自分を情けなく感じ、ヒルダは頭をガシガシとかいて銀に向き直る。

「すまねえ、脱線した。で、なんでキンブリーが危険なんだ? そりゃあたしもあいつはちょっと人を煽るっていうか、気に入らないところはあったけどよ」
「だからそれは」
「ストップだ、千枝。まず銀の話を聞け。あたしに言いたいことがあるならその後で聞く」
「む……わかった」
「さっき、私はマスタングが東に逃げたって言ったけど、あれは嘘。私はマスタングを見つけてない」
「えっ? 銀ちゃん、それどういうこと?」

淡々とした銀の告白に千枝は驚いた。
嘘をついてマスタングから遠ざけた怒りではなく、なぜ銀がそんなことをしたのかが疑問だった。


598 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:12:22 nqMw3sZQ0

「一つめは、マスタングと離れるため。こっちには絶対に来てないって確定してるから」
「……あたしらをマスタングに近づけないため、か。ああ、考えてみりゃ千枝だけじゃねえ、あたしだってマスタングの話を聞いて頭に血が登ってた。
 参ったな、あのときお前が一番冷静だったわけだ。保護者ヅラしてたあたしがバカみたいじゃんか」
「ヒルダさん……」
「千枝、銀を責めるなよ。銀はあたしらを心配してああ言ったんだ」
「わかってるよ、そんなこと」

銀を置いて二人で口論したことが急に恥ずかしくなり、千枝もさきほどの怒りを収める。

「一つめってことは、まだ他に理由があるのか? 銀」
「ある。むしろ、こっちのほうが重要」
「その理由って、何なの銀ちゃん」
「マスタングを見つけたのは嘘だけど、観測霊を使った事自体は本当。
 さっき、あそこには私たちとキンブリー以外にもう一人……ううん、もう二人と一匹、隠れてた」
「な、なにっ!?」
「黒髪の男と、黒髪の女。それに犬。私たちからは見えないように隠れてた」

ドール――感情を失くした霊媒体質の人間はそう呼ばれる。銀はそのドールの一人だ。
特定の触媒(銀の場合は水)を使用することで観測霊と呼ばれるエクトプラズムを動かし、諜報活動に利用されている。
銀はその観測霊を用いて、キンブリーとの接触中に周囲を探索した。
そのとき、銀は隠れていた第三者、つまりキンブリーの仲間であるエンヴィーとクロメ、イギーを発見していたのだ。

「銀、それをあのキンブリーはお前に伝えたか?」

ヒルダの問いに銀は首を振る。つまり、キンブリーはヒルダと千枝だけでなく銀にも仲間がいることを秘密にしていたのだ。
何のためかはわからない。が、キンブリーが本当にマスタングを憎み銀たちのような無力なものを保護する方針ならば、仲間がいることを伝えない方がおかしい。

「それに、黒髪の女の子と犬は様子がおかしかった。まるでドールみたいな、生きている人間の感じがしなかった」
「人間の感じがしない、か。元々そういう奴らなのか、あるいはキンブリーたちに何かされたのか」
「ま、待ってよ。それだけでキンブリーさんたちが怪しいって決まったわけじゃ」
「千枝」

キンブリーの立場が悪い方向に流れていることを察した千枝が反論しようとする。
そのとき銀はおもむろに千枝の手を握った。そしてじっと見つめる。

「な、なに銀ちゃん。どうしたの?」
「……まだあるの」

そして銀はもう片方の手で自分のバッグから水の入ったボトルを取り出した。
水。つまりは、銀の能力が及ぶ触媒。
銀はあのとき、周囲の状況を探ると同時に、キンブリーのバッグの中も調べることができていたのだ。

「……キンブリーの荷物の中に、煤のついた首輪があった」
「っ、おい銀、それって……!」


599 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:13:26 nqMw3sZQ0

銀の言わんとすることが、ヒルダにもわかった。
煤のついた首輪。つまりは、何らかの高熱に晒された人物から、取り外したものだ。
高熱に晒された。この場合、真っ先に連想される被害者は一人しかいない。

「……それが、雪子の首輪だっていうの?」
「内側に名前が書いてあった。天城雪子。間違いない」
「そんな……」

膝から崩れ落ちそうになる千枝をヒルダが抱きとめる。ヒルダもまた動揺していた。
無論、これでマスタングではなくキンブリーたちが雪子を殺した犯人だ、となるわけではない。
が、キンブリーが雪子の首輪を隠し持っていたことは事実だ。つまりは、死んだ雪子の首を切り落とし、首輪を奪いとった。
怒りに震える千枝に共感し、復讐が悪いことではないと言った、あのキンブリーが。
あの仮面のような笑顔の裏で一体何を考えていたのか。ヒルダの背筋を悪寒が走る。

「……もしかすっと、さっきはあたしらが考えてるよりずっとやばい状況だったのかも知れねえな。
 場合によっちゃ、その隠れてた仲間が一斉に襲いかかってきてあたしらを殺そうとしたのかも知れねえ」
「だから嘘をついて、キンブリーから離れようとした」
「いや、銀。いい判断だったぜ。もしあの場で口に出そうものなら、間違いなくあの野郎はあたしらを切り捨てようとしただろうからな」

話が終わり、重い空気が三人の間に流れる。
彼女たちは知らぬ間に命の危険をかいくぐっていたのかもしれない。
やがて電車が動き出した。東へ。もう後戻りはできない。

「だとすると千枝、落ち込んでる場合じゃねえ。お前にはやってもらうことがある」
「……なに?」
「もうすぐ駅に着く。でだ、多分キンブリーも電車に乗ってこっちに向かってくるだろう。
 が、さっきの話を聞いた後じゃあいつらは信用できねえ。あたしらから遠ざかってもらう必要がある」
「……つまり、クロエちゃんがやったみたいに、電車を止めるの? あたしのペルソナで」
「そうだ。あたしらの中じゃ、そんな大規模な破壊ができるのはお前だけだからな」

ヒルダはバッグから銃を取り出す。
人間相手に使うには十分だが、馬鹿でかい剣を生み出したクロエや千枝のペルソナ相手には豆鉄砲だ。

「あたしらが通りすぎた後、東に向かう線路を壊せ。それであいつらの電車は通れなくなって、あたしらを追えなくなるはずだ」
「線路を……でも、クロエちゃんが壊した線路はもう復旧してるよ? 時間が経てばまた直るんじゃないのかな」
「そりゃそうだろうが、すぐってわけじゃねえだろ。あたしらが逃げるには十分な時間がかかるはずだ。
 その稼いだ時間で、他のお人好しな参加者に出会う可能性に賭けるしかねえ。鳴上、黒、そんでアンジュ……とかな」

千枝の友人、鳴上悠。千枝と同じペルソナ使いで、冷製で頼れるリーダー。
銀のパートナー、黒。熟練の契約者で、戦闘に優れている。
アンジュ。憎たらしいクソ姫さまだが、こんな悪趣味な催しには断固として反旗を翻すだろう。モモカの死もある……早急に合流し、無事を確かめねば。

「千枝、早く。キンブリーたちもそろそろ駅に着くはず」
「わ、わかった。やってみる。ペルソナ!」


600 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:14:30 nqMw3sZQ0

千枝が電車の最後尾に立って、自分たちの電車から十分な距離を保ってペルソナ・トモエを召喚した。
ヘルメットを被った筋肉質の女が、薙刀を振り下ろす。線路はあっさりと破砕され、さらにローラーをかけるように徹底的にトモエの舞は続く。
爆弾でも直撃したかのように破壊され尽くした線路は、しばらくは通行不能だろう。
駅を出てすぐ実行したのが功を奏した。これがもう少し先だったら、空中を渡る線路を切断すれば千枝たちの電車にも影響が出て停車したかもしれない。
だが、陸地にある線路はただの障害物と判定されたようで、千枝たちの電車の運行には影響がない。

「これでとりあえず時間は稼げる。さて、東に着いたら休む間はねえぞ。誰かしら見つけて仲間にしねえと」
「……どこに向かうの?」
「ん? うーん、そうだな。千枝、なんかあるか?」
「それじゃ、とりあえずジュネスに向かうのはどうかな? あたしらの街のショッピングセンターなんだ。
 駅から近いし、あたしの知り合い……鳴上くんと足立さんもそこに来るかも」
「ジュネスな。ちょど腹も減ってきたし、何か食い物でもあるかも知れねえ。よし、そこにしよう」

しばらくは電車の運行に任せ、じっとしているしかない。
座席に背を預けたヒルダに、銀は自分のバッグを差し出した。

「ヒルダ、これ使って」
「ん、なんだ銀。食い物でもくれるのか?」
「違う。私の支給品」

銀が渡したのは、銀に支給された一つのベルトだった。
その名は百獣王化ライオネル。ナイトレイドの殺し屋の一人、レオーネが使うベルト型の帝具である。

「なんだこりゃ。こいつを何に使えって?」
「帝具。装着車の身体能力と五感を高める。奥の手は治癒能力の強化……だって」
「へえ、どれどれ……」

ヒルダは銀に言われるがまま、ライオネルを腰に巻いた。
その瞬間、ぴょこんとヒルダの頭に二つのケモノ耳が飛び出した。
それだけでなく、しっぽやフサフサとした毛皮が手に生えていた。

「ぷっ、ヒルダさんなにそれかわいい!」
「な、なんだこりゃ! おい千枝、笑ってんじゃねえ!」
「それがライオネルの力。百獣の王になれる……らしい」
「くっ……確かに力はみなぎってくるけどよ。くっそ、恥ずかしいぞこれ!」

沈痛な空気は去って、車内には久しぶりに笑い声が満ちる。

「しかし、帝具か。他にもあったってことは、あたしのこれも何かに使えるかも知れねえな」

ヒルダがポケットから取り出したのは、骸骨の装飾がついた指輪。
絶対制限イレイストーン。帝具を一つ、問答無用で破壊する電撃を出す指輪である。
武器に使えそうもなく、帝具も他になかったため存在自体忘れていたが、こうして他の帝具があるということは使いみちも出てくる。
敵が強力な帝具を持っていたらこいつの出番だ。

「千枝、お前が持ってな。あたしはこのベルトと銃があれば十分だ」
「わかった。銀ちゃんに戦わせる訳にはいかないもんね」
「そういうこと……お、そろそろ着くな」

やがて少女たちはF-8駅に降り立つ。すぐ近くにはジュネスがあり、徒歩で迎える距離だ。
そこで待っている出会いをまだ彼女たちは知らない。
千枝の探し人である鳴上悠がそこにいることを、そこにいるのが銀の探し人である黒の協力者であることを。


601 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:15:24 nqMw3sZQ0

【F-7/駅/1日目/昼】

【里中千枝@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(小)、マスタングに対する憎悪
[装備]:絶対制限イレイストーン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:殺し合いを止めて、みんなで稲羽市に帰る。
 0:雪子の仇を討つ?
 1:鳴上悠と合流したい。
 2:マスタングとイェーガーズを警戒。
 3:キンブリーは怪しい?
[備考]
※モモカ、銀と情報を交換しました。
※キンブリーと情報交換しました。


【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)
[装備]:グロック17@魔法少女まどか☆マギカ、百獣王化ライオネル@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、不明支給品1
[思考]
基本:進んで殺し合いに乗る気はない。
 1:千枝に協力してやる。
 2:エンブリヲを殺す。
 3:アンジュに平行世界のことを聞いてみる。
 4:マスタングとイェーガーズを警戒。マスタングは千枝とは会わせないほうが良いかもしれない。
 5:キンブリーは信用しない。
[備考]
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。
※クロエの知り合いの情報を得ました。
※平行世界について半信半疑です。
※キンブリーと情報交換しました


【銀@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1
[思考]
基本:…………。
 1:黒を探す。
 2:ヒルダ、千枝と一緒にいる。
[備考]
※千枝、雪子、モモカと情報を交換しました。
※制限により、観測霊を飛ばせるのは最大1エリア程です。


※E-7、E-8の線路が崩壊しました。復旧には1,2時間ほどかかります。


【百獣王化ライオネル】
ナイトレイドの一人レオーネが装備するベルト型の帝具。
身体能力を飛躍的に向上させる他、五感も強化される。また、装着時には獣の耳のようなものが生える。
奥の手は超治癒力の「獅子は死なず(リジェネレーター)」。ただし四肢欠損などなくなった部位が大きすぎる場合は再生できない。

【絶対制限イレイストーン】
大臣オネストが持っていた指輪型の帝具。
帝具を破壊する(もしくは機能を停止させる)電撃を出せるが、使えるのは一度限り。使用後は自壊する。


602 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:16:42 nqMw3sZQ0



「……やりやがったな、あのクソガキども」
「してやられましたねえ」

千枝たちが東に向かって数十分後。
同じく電車に乗ってきたエンヴィーとキンブリーは、民宿の駅から北に向かうことを余儀なくされていた。

「やっぱバレてたんじゃんか。キンブリー、お前胡散臭いもんなあ」
「おやおや、あなたに言われるのは心外ですね。まあ、一本取られたということにしておきましょうか」

キンブリーは不満たらたらのエンヴィーを適当にあしらう。
先ほどの会話で少し煽りすぎたかもしれない。どうやらあの少女たちにいらぬ不信感を与えてしまったようだ。

「まあ仕方ありませんね。追うこともできないではありませんが、止めておいたほうが良いでしょう」

エンヴィーが大型の鳥に変身する、あるいは躯人形のイギーに鳥型のスタンドを作らせるなどすれば、破壊された線路を超えて千枝たちを追うことは可能だろう。
が、当然電車の速度にはかなわない。追いつけるかどうか不明で、さらに疲労も蓄積する。メリットは一つもない。

「どのみち焔の錬金術師一行には敵と知られているのです。悪評が撒かれるのも時間の問題ですからね」
「幸い、このエンヴィーの存在はあいつらも知らないはずだ。まだやりようはある……か」

エンヴィーは千枝たちに自分の存在がバレたことを知らない。
だからこそ、あえて追うほどの価値もないと放置する選択をした。

「おっと、こちらもそろそろ駅に着きますね。誰かいるかもしれませんが、どうします?」
「今度は引っ込んでなよキンブリー。まずはこのエンヴィーが様子を見てくる」

先ほどはキンブリーに任せて失敗したのだから、今度は自分が楽しむ番だとエンヴィーは張り切っていた。
得意の変身能力を使い、一人の少女に化ける。

「おや、里中千枝の姿で行くのですか?」
「万が一大佐たちがいたらさすがにヤバい。となると誰かに変わった方がいいわけだけど、大佐たちが誰と接触したかわからないからね。
 その点、さっきの線路をあのガキどもが壊したってことはこっちには来てないってことだ」
「彼女たちが焔の錬金術士と接触した可能性は限りなく低い、ということですか。ではなぜ三人の中から里中千枝に?」
「大佐が焼き殺した雪子って子は里中の親友だったらしいじゃん。だったら里中の姿でよくも雪子を殺したな!って言ったらさ、大佐がどんな顔するかなって思ってね」
「ふむ、妙手ですね。先制攻撃を封じ、さらに負い目も与えるということですか」
「もし大佐じゃなかったらそのまま里中のふりで不意打ちして動けなくするよ。首輪のサンプル、もう一個ほしいんだろ?」
「そこはお任せしますよ。そうすると私は隠れていたほうが良さそうですね?」

見るからにただの少女である千枝に扮したエンヴィーが一人だと知れば、マスタングだろうとそれ以外だろうと油断するだろう。
エンヴィーがどういう行動をするにせよ、キンブリーの存在は伏せておいたほうが都合がいい。


603 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:17:37 nqMw3sZQ0

……そして、電車は停車した。

「ふ〜、到着っと!」

誰がどこから見ているかわからない。もう演技は始まっている。
さきほど直に里中千枝の反応を観察できたため、口調も大体は把握している。
車内に伏せたキンブリーの姿は外からは見えない。傍目には千枝が一人で乗ってきたと見えるだろう。
さて誰かいないものかときょろきょろ辺りを見回したエンヴィーの前に、ゆっくりと一人の男が近づいてきていた。
顔写真付き名簿で見た顔だ。

「やあ、里中ちゃん」

たしか名前は足立透。役職は警察官。アメストリスで言う憲兵隊のようなものか。
千枝も足立のことはとくに注意しなかった。あまり頼りにならない刑事さんだ、と言う程度にしか。
これらの情報をさっと脳裏に並べ、エンヴィーは対応を練った。

(足立透は里中千枝とさほど親しくはないが、敵対関係でもない。まずは友好的に接して油断させるかな)

「えっ? あっ、足立さん! 良かった、無事だったんですね!」
「里中ちゃん、一人なの?」
「そうですけど。そうだ足立さん、鳴上くんを見てませんか? あたしもまだ合流できてなくて」

鉄の棒を構えた足立は、警戒するでもなく穏やかに接してくる。
これはちょろい獲物だとエンヴィーがほくそ笑んだそのとき。

「く……くく……」
「足立さん? どうかしたんですか?」

突如、足立は身を折って笑い出した。
こんな反応は予想外で、エンヴィーも一瞬あっけにとられる。

「どうかしたかって……こんなの、笑わずにはいられないだろぉ! ペルソナァァーーーー!」
「えっ」

その油断を、足立は見逃さなかった。
突如目の前に現れた巨大な人影。これには覚えがある。
天城雪子が使っていたあの力と同じだ。名前も同じ、そうペルソナ。
足立透がペルソナを使えることなど、予想外もいいところだ。名簿にも千枝からもそんな情報は得ていない。
ぽかんとする千枝=エンヴィーの腹に、足立のペルソナは槍を突き刺してきた。


604 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:18:18 nqMw3sZQ0

「がっ、ぎぃああああああっ! ごっ、ご、ああ、ああ!」
「へっへっへ。こういうの、カモがネギ背負ってやってくるとか言うんだっけ? ねえ、里中ちゃーん」
「あっ、あがぎざん……なんで……ごんなごど……!?」
「なんで? なんでって、お前がそれをおれに聞くの? 嫌だなぁ、わかりきったこと質問しないでよ。
 どうせお前ら、おれのこと殺人犯だって触れ回ってるんだろ? だからさ、これって正当防衛だよね?
 過剰防衛? あはは、そうかも。でも誰も俺を裁けないよねえ、こんな殺し合いしてるとこじゃあさあ!」

……そして、エンヴィーが抵抗しないのをいいことに足立は暴虐の限りを尽くした。
キンブリーはまだ出てこない。この程度でエンヴィーが死ぬことなど有り得ないと知っているからだが。
まあ、出てきたら出てきたでエンヴィーはこう言うだろう。

引っ込んでろ、こいつはこのエンヴィーが殺す。と。

「……そういやまだ、お前役に立つじゃん。その首輪、いただいておこうかな」

エンヴィーが落とした荷物を漁っていた足立が、ペルソナを出した。
足立のペルソナが振り下ろした槍を、瀕死の千枝……に擬態したエンヴィーは。

「……は?」

歯で、がっしりと受け止めた。
そして伸ばした手で足立のペルソナを掴む。折れた手はとっくに再生していた。
捕まえたマガツイザナギを、思い切り振り回す。そして地面に叩きつけた。

「がっ!?」

ダメージが本体にも流れ、足立が頭を抑えて呻く。
その足立の前で、千枝の姿をしたエンヴィーはゆっくりと立ち上がった。
全身の傷はすさまじい速度で治癒していく。同時に、賢者の石の魂も蒸発するように消えていく。

「……やってくれたねえ、弱っちい人間ごときが」

漏れ出た声は、かつてないほどの怒りに震えている。
騙し、利用するはずだった人間にここまで傷つけられた。
ありていにいって、今のエンヴィーは激怒していたのだ。
その怒りは足立を殺すだけでは到底収まらない。
勝利を確信し、絶頂の極みにいた足立を一瞬にして絶望の底へ蹴り落とし、地獄の苦しみを与えねば気が済まない。

「な……なんっ……里中千枝じゃ、ない……!?」
「クックックッ……さあ。お仕置きの時間だよ、にんげえええん!」

エンヴィーは、忌み嫌っていた本当の姿……醜いキメラの姿を解放した。
小山ほどもある巨大な獣。戦車と正面からぶつかっても打ち勝てる、圧倒的なパワー。
滞空するマガツイザナギに、エンヴィーは全身で体当りした。
爆撃のような音と衝撃を伴って、マガツイザナギがホームのあらゆる全てを巻き込みながら吹き飛ばされていく。


605 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:19:07 nqMw3sZQ0

「あががががががががが!」
「ほらほらほらほらぁ! どうしたのさ、もっと抵抗しろよ! つまんないだろぉ!」

目の前の状況が信じられない足立はペルソナの操作もおぼつかない。
エンヴィーはその隙を逃さず、殴り、蹴り、投げ、のしかかり、マガツイザナギにダメージを与えていく。
エンヴィーの真の姿と、マガツイザナギ。二つの巨大な力のぶつかり合いは、小さな竜巻でも発生したかのように駅を蹂躙していく。

「こ、この化け物がぁ! 死ねよ!」

ふらつく足立がマガツイザナギを立て直し、エンヴィーを捕まえる。
その背中に向けてショットガンを連射。しかし散弾の小さな弾丸など、巨大なエンヴィーには豆鉄砲も等しい。

「あ? 今何かしたか、おチビさん」
「あ……く、くそっ! じゃあこれならどうだ!」

足立は懐からフォトンソードを抜いた。超高熱を発する光の剣だ。
これにはいくらエンヴィーの表皮が強靭だからといって一溜まりもない。
逃げようとするエンヴィーを、マガツイザナギががっちりとホールドして逃さない。

「死ね!」
「おやおや、これはいけませんねえ。あなたには過ぎたオモチャです」

エンヴィーにフォトンソードを突き立てようとした足立は、背後からありえない声を聞いた。
振り返る……その目に映ったのは、人形のような顔色をした黒髪の女と、そいつの振るう刀。
躯人形クロメと死者行軍八房は、足立の両腕の肘から先を軽々と切り飛ばした。

「え? え? え……ぎ、ぎぃやぁあああああああああっ!」
「うるさいですよ、あなた」
「ぎゃっ……!」

足立の両腕から一拍遅れて吹き出した血を、キンブリーがそっと添えた手が抑えた。
次の瞬間……ボンッ! と音が響き、足立の腕は肩辺りまでに短くなっていた。
キンブリーが足立の腕の一部を爆弾に錬成し、強引に止血したのだ。
当然、その痛みは想像を絶するだろう……足立の悲鳴は、しかしキンブリーには子守唄にように心地よいものだった。

「キンブリー、いいとこだったのに邪魔しないでよ」
「これはすみませんね。ですがエンヴィー、この男は使えますよ」
「あん? また人形にでもするのかい?」
「いえいえ、それではクロメさんとこの犬のどちらかを破棄しないといけないでしょう。そうではなく、ね」

激痛のあまり足立の精神集中は乱れ、ペルソナは消えてしまった。
人間の姿に戻ったエンヴィーが歩いてきて、悶え苦しむ足立の腹めがけて強烈な蹴りを放つ。

「おごぉっ!?」
「言っとくけどキンブリー、こいつは殺すよ。あれだけ調子に乗ってくれたんだ、許す訳にはいかない」
「それは構いませんよ。ただね、これはあなたにとっても損のない話なんですよ」


606 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:19:31 nqMw3sZQ0



痛みと焦りで乱れる足立の思考は目の前でやりとりされる二人の話を理解できないが、それでも自分が今殺されようとしていることはわかる。
頼みの綱のペルソナは通じなかった。できてもエンヴィーと互角。
しかしいま、この場にはエンヴィーだけでなくキンブリー、クロメ、イギーがいて足立を取り囲んでいた。
自力では逃げられない。足立は頭をフル回転させ。どうにか生き残る道を探した。

「ま……待て! 待ってくれ!誤解なんだ! おれはあんたたちを殺すつもりなんてなかった!」
「よく言うよ。先に仕掛けてきたのも、あれだけ痛めつけてくれたのもお前じゃないか」
「あ、あれはあんたが里中千枝だと思ったからなんだ! あんたがあいつじゃないならおれだって何もしやしなかった!」
「それについては一理ありますね。エンヴィー、あなただって焔の錬金術師の件で覚えはあるでしょう」
「まあね。で……それが何? 誤解だから許せって? そりゃ都合が良すぎるんじゃないの?」
「じょ、情報を提供する! おれの知ってること、支給品、全部やるから!」

体裁などどうでもいい。足立は両腕のないまま頭を地面に擦り付け、土下座の態勢をとった。
足立の頭をエンヴィーが踏みつける。

「いらないよ、お前の嘘くさい情報なんか。信用できるわけないだろ」
「まあ待ってくださいエンヴィー。等価交換の法則を思い出しなさい。
 もし彼が本当に貴重な情報を持っていたら、殺すのは止めましょう。
 それに、あの手際から見て彼も紛れもなく本物の外道。我々の同士になれるかもしれませんしね」

構わず足立の頭を砕こうとしたエンヴィーを、キンブリーが抑えた。
足立は攻めるならこのキンブリーだと思っていた。こいつはどこか、足立と同じく享楽的な犯罪者の香りがしていたのだ。
エンヴィーとキンブリーの名が記されていた殺人者名簿がこんなところで役に立った。

「お前がそこまで言うなら……じゃあ謳ってみなよ。ただしつまらなかったらブチ殺すよ」
「あ、ああ……まずは……」

エンヴィーが乗ってきた。足立はとりあえず、相手を交渉の席につかせることに成功したのだ。
後はここから、エスデスやセリュー、承太郎といった手強い人間の存在を教え、そいつらと戦うために力になりたいとか何とか言って、取り入るつもりだった。

「……これが、おれが今まで会ってきた奴らだ。特にエスデスと承太郎、あとほむらってやつはやばい。
 俺のペルソナがまるで通じなかった。多分、さっきのあんたの馬鹿でかい……ぐあああ! わ、悪かった! 殺さないでくれ!」

エンヴィーを罵倒したつもりはなかったが、馬鹿でかいといった瞬間に頭がきしむほど強く踏まれ、足立は必死に命乞いをした。

……長い話を終えて、足立は息継ぎした。

「な、頼むよ。おれ、あんたたちの力になるからさ。な?」
「……エンヴィー、彼の情報は実に有益でした。殺すのは止めにしましょう」


607 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:20:07 nqMw3sZQ0

そして、結果として足立は生存を勝ち取った。
キンブリーに、殺すよりも有効な使い途があると思わせることに成功したのだ。

「ほら、足立さん。立ってください」

キンブリーがエンヴィーに合図して足をどけさせ、足立に手を差し伸べる。
が、足立は両腕を切り落とされ、キンブリーの手を取れない。

「ああ、そうでしたそうでした。いやあ、すみませんね。先ほどはエンヴィーを助けねばと私も夢中でして」
「い、いや……あれは俺が悪かったから……」

ふざけんなクソが。死ね、いやいつか殺す。
殺意を顔には出さず、媚びるような笑顔を浮かべて足立は顔を上げた。
そして、キンブリーの満面の笑顔と向かい合った。

「……あ、あの?」
「ん? どうかしましたか、足立さん」
「助けて……くれるんですよね?」
「ええ、私たちはあなたを殺したりはしませんよ」

足立の後ろでは、バキバキと何かが立ち上がる音がする。
そして巨大な影が足立を覆う。
足立を一呑みにできそうな、巨大な獣が後ろにいる。
足立の左右を、クロメとイギーが取り囲む。
正面にはキンブリー。

「ならなんで……おれを……囲んでるんですか……?」
「それはね足立さん、あなたを逃さないためですよ」

その瞬間、足立は反射的にペルソナを召喚……しかしエンヴィーによってマガツイザナギは地面に引き倒され、イギーのスタンドによって拘束された。
足立の首筋にクロメが刀を突きつける。

「嘘吐き……殺さないって言ったのに……」
「殺しはしませんよ。ただ、私は生かすとも言ってませんよね?」

笑うキンブリー。その笑顔は、まるで死神のようだった。
キンブリーは己の指先を小さく噛みちぎり、出血させる。
その指先で地面に複雑な模様……見る人が見れば錬成陣とわかるもの……を描いていく。

「できました。クロメさん、足立さんをここへ」

キンブリーに促され、クロメが足立を突き飛ばす。荷物は全て奪われていた。
マガツイザナギも完全に封じられている。逃げられない。
マガツイザナギと同じくイギーの砂が足立を地面にひっつけ、動けなくさせた。


608 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:20:24 nqMw3sZQ0

「な、何をする気だ! やめろ! 」
「考えたもんだねえ、キンブリー。まさかこの場で賢者の石を錬成しようだなんて」

後ろではエンヴィーが愉快そうに足立の抵抗を眺めている。
先ほどの屈辱と殺意を忘れさせるほど、目の前で起きている出来事はエンヴィーにとって愉快だった。

「でもキンブリー、お前よく賢者の石の錬成式なんて知ってたね」
「賢者の石とはイシュヴァールからの長い付き合いでしたからね。収監されている間、飽きるほど錬成式を思考したものですよ」

そう、キンブリーは足立の魂を抽出し賢者の石を錬成しょうとしているのだ。

「ああ、そういやお前はイシュヴァールで貸し出したやつを返さなかったんだっけ。抜け目ないねまったく」
「褒め言葉と受け取っておきますよ」
「でもキンブリー、賢者の石は一個作るのに何千って人間の魂が必要なんだよ?こいつ一人じゃ無理でしょ」

キンブリーが図抜けて優秀な錬金術師であることはエンヴィーとて知っている。
優秀でなくては国家錬金術師には選ばない。ただ彼の場合、あまりにその思考が異質すぎたため人柱の候補から漏れていただけだ。
だがいかに優秀だとて、不可能を可能にできるわけはない。賢者の石はそれほどたやすく錬成できるものではないはずだ。

「通常はそうなのでしょうが、先ほどの……ペルソナでしたか?
 ああいった特異な能力を操る人間ならば、魂の重量も常人とは比較にならないでしょう。試してみる価値はありますよ」

天城雪子と戦ったときから、キンブリーはペルソナに目をつけていた。
キンブリーやマスタングが修める錬金術とは所詮、物理法則の操作だ。等価交換の法則は絶対であり、無から有は生み出せない。
だが彼らは、ペルソナ使いは何もないところからあの巨像を生み出し、常識外の力を振るう。
その対価となるものは何か。キンブリーの見立てでは、それは精神や心といったもの、すなわち魂。

「何千という魂を抽出する通常の手順で生み出されたあなたと同等の力を誇るペルソナ。
 単純に互角とまでは言いませんが、それでも驚くべき力であったことはあなたも認めざるをえないでしょう」
「……くくっ、やっぱりお前は面白いね、キンブリー。こりゃ確かに、ただ殺すよりよっぽど楽しめるよ」

楽しそうに笑うエンヴィー、キンブリー。
足立はここにいたってようやく、自分が今までどれだけ甘い環境にいたのか思い知らされた。
承太郎もまどかもほむらもセリューも、根はお人好しで単純だった。だから騙せた。
だがこいつらは違う。こいつらは足立と同じ、心底からの外道……心が腐りきった悪なのだ。
関わるべきではなかった。手を出すべきではなかった。
里中千枝、そして鳴上悠への憎しみを捨てられなかったばかりに、足立は失敗してしまったのだ。


609 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:21:31 nqMw3sZQ0

「いやだ……おれ、おれは……死にたくない……なんでおればかりこんな目に……」
「死にはしませんよ。あなたは賢者の石となって永遠に生き続けるのです。光栄な事と思ってくださいね? では、さようなら」
「バイバーイ☆」
「いやだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

エンヴィーがひらひらと手を振る。キンブリーが錬成陣に手をおいて、最後の仕上げをする。
地面から飛び出てきた何本もの影の手が、足立の前身に絡みついてきて……


生きたまま魂を肉体から引き剥がされ、別の何かへと加工されていく。


自分が何かに作り変えられていく感覚。それでいて足立の意識は閉ざされない。


足立は自分の体を上から見下ろしている。魂が完全に肉体と分離したのだ。


抜け殻となった足立の肉体は、エンヴィーによって頭を握り潰され、首輪を奪われる。


元の姿に戻ったエンヴィーが足立の荷物をひっくり返し、好き勝手に文句を言っている。


だが足立は、その様子を見ていながら喋ることも、動くことも、何もできない。


やがてキンブリーの手に小さな赤い石が錬成されたころ。


死にたいと思っても死ねないので――そのうち足立は考えるのををやめた。




【足立透  賢者の石になったため再起不能】


610 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:22:02 nqMw3sZQ0

【D-6/一日目/駅/昼】

【エンヴィー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、賢者の石残りエネルギー60%
[装備]:ニューナンブ@PERSONA4 the Animation、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[道具]:ディパック、基本支給品×2、詳細名簿、顔写真付き殺人履歴名簿 (足立のページ除去済み)
[思考]
基本:好き勝手に楽しむ。
1:色々な参加者の姿になって攪乱する、さしあたってはウェイブ。
2:エドワードには……?
3:ラース、プライドと戦うつもりはない、ラースに会ったらダークリパルサーを渡してやってもいい。
4:強い参加者はキンブリーに大佐たちの悪評を流させて潰しあわせる。
5:キンブリーと一緒に行動し他の参加者を殺す。
6:足立から得た情報を元にこれからの行動を決める。
7:千枝たちについてもなにか手を打つ。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※足立が得た情報のすべてを手に入れました。


【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)、高揚感
[装備]:MPS AA‐12(残弾6/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率、フォトンソード@ソードアート・オンライン
    流星の欠片@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、足立透の魂から錬成した賢者の石@アニロワifオリジナル
[道具]:ディパック×2 基本支給品×2、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7 雪子の首輪、足立の首輪
 躯爆弾・クロメ@アカメが斬る!+帝具・死者行軍八房@アカメが斬る! 躯人形・イギー@現地調達
[思考]
基本:美学に従い皆殺し。
1:エンヴィーと共に行動する。
2:ウェイブと大佐と黒子は次に出会ったら殺す。
3:少女(婚合光子)を探し出し殺す
4:首輪の解析も進めておきたい。
5:音ノ木坂学園を経由して北上、研究所と地獄門を目指す。
6:足立から得た情報を元にこれからの行動を決める。
[備考]
※参戦時期は死後。
※死者行軍八房の使い手になりました。
※躯人形・クロメが八房を装備しています。彼女が斬り殺した存在は、躯人形にはできません。
※躯人形・クロメの損壊程度は弱。セーラー服はボロボロで、キンブリーのコートを羽織っています。
※躯人形・クロメの死の直前に残った強い念は「姉(アカメ)と一緒にいたい」です。
※死者行軍八房の制限は以下。
 『操れる死者は2人まで』 『呪いを解いて地下に戻し、損壊を全修復させることができない』
 『死者は帝具の主から200m離れると一時活動不能になる』 『即席の躯人形が生み出せない』
※躯人形・イギーは自由にスタンドを使えます。
※千枝、ヒルダと情報交換しました。
※足立が得た情報のすべてを手に入れました。
※ペルソナ能力者の魂から賢者の石を錬成できるようになりました。魔法少女や契約者も同じ様に錬成できるかは不明です。


【足立透の魂から錬成した賢者の石@アニロワifオリジナル】
その名の通り足立の魂から錬成した賢者の石。
マガツイザナギが含まれているため、足立一人の魂で錬成することができた。
通常の手順で生み出された賢者の石と同じ力を持っているかは不明。


※足立の基本支給品、水鉄砲、鉄の棒、毒入りペットボトル(少量)、警察手帳
 承太郎が旅の道中に捨てたシケモク@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ は破棄されました。


611 : 惡の華 ◆4BAstd0IF. :2015/09/23(水) 16:23:20 nqMw3sZQ0
投下終了です


612 : 名無しさん :2015/09/23(水) 17:01:43 oJpLoRdQ0
>>593
シャドウに頻繁に会うとは思えないしいいんじゃない?
もう少し制限つければ


613 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/09/23(水) 20:19:39 BBv8pOoA0
投下お疲れ様です。
指摘のあった件について議論スレに書き込みました。
それで、私から二つ程……。

1 最初の足立が千枝を殺したパートですが、どんな立ち位置でしょうか?
  おそらく千枝を殺したと見せかけて実はエンヴィーでした。だとは思うのですが、
 >こうして足立は、仇敵の一人を殺害することに成功したのだった。
  と、あるので少し気になりました。些細なことですが。

2 観測霊ってバッグの中にも飛ばせるんですかね。
  水辺があれば可能とは思いますが何でもありなような気が……。


614 : 名無しさん :2015/09/23(水) 20:35:42 5c7zOaFw0
キンブリーって賢者の石の構築式知ってましたっけ?
彼はイシュヴァ―ルの内乱の時にドクターマルコ―が作っていた物をそのまま流用して、その後は刑務所暮らしで知っているとは考えづらいのですが
自分で作れるのなら出所後いくらでも量産してもおかしくないですし
実際に作った事の無い賢者の石を足立を材料にしてすぐに作ろうと言う思考は彼にしては少し早計過ぎるような


615 : 名無しさん :2015/09/23(水) 21:10:39 bX5Ctw4o0
投下乙です

気になった点が三つ
①銀の観測霊について
観測霊は銀の登場話で契約者以外にも見えるようになっています。エンヴィーにもキンブリーにも気付かれないのは難しいと
思います
②足立の行動について
足立は承太郎たちに幾度も煮え湯を飲まされています。それをふまえて殺人者名簿を手にして慎重に行動しようとしているときに、エンヴィーが化けた千枝と自分の知る千枝に齟齬が生じていることに気付いた上での行動にしては軽率すぎる気がします


616 : 名無しさん :2015/09/23(水) 21:16:50 bX5Ctw4o0
>>615
③電車について
銀たちは朝に電車に乗っていますが、昼まで電車で移動しているのは時間がかかりすぎている気がします
キンブリーたちも同様に、午前に乗ったにしては放送が近い時間に到着するのは時間がかかりすぎていると思います


617 : 名無しさん :2015/09/24(木) 19:04:24 cAexM6TQ0
突然口数が増える銀と言い、帝具の後出し登場と言い、露骨な贔屓をするのはどうかと


618 : 名無しさん :2015/09/24(木) 19:32:07 LPZzwisc0
まずそこまで頭の回る子じゃないしね銀ちゃん


619 : 名無しさん :2015/09/24(木) 22:02:45 /WGXozEc0
千枝組の生存ロックにしか見えないのが何とも


620 : 名無しさん :2015/09/24(木) 22:25:32 agRWufY.0
投下乙です

ダイアモンドの犬たち
ついに目覚めた番長。色々フラグを立てているので暴走が怖いな
さやかとタツミのコンビも結構好きかな

扉の向こうへ
デイバッグにこんな仕掛けがあったとは。
真理の発言もちょっと意味深だなあ

残りの2作は議論中なので感想を控えさせてもらいます


621 : ◆H3I.PBF5M. :2015/09/26(土) 03:46:33 Z8x5yu960
チャットでの議論の結果、本日より

・10作以上書いた書き手三人の意見があれば、投下された作品の内容を問わず不採用とすることを可能とする

以上の新ルールが決定しました。
この議論は以下八名の書き手の賛成によって成立しています。

◆w9XRhrM3HU ◆BEQBTq4Ltk ◆dKv6nbYMB. ◆BLovELiVE.
◆jk/F2Ty2Ks ◆fuYuujilTw ◆H3I.PBF5M. ◆rZaHwmWD7k (敬称略)


622 : ◆BLovELiVE. :2015/09/26(土) 23:34:00 kcnYN21I0
すみません、SS自体は完成したのですが◆w9XRhrM3HU氏の予約分との距離が面子を見る限りかなり近そうでもしかしたら展開によっては影響があるかもしれない不安があるので一旦仮投下スレの方に投下させていただこうと思います


623 : ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:00:48 GIKLjAhs0
投下します


624 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:02:04 GIKLjAhs0
後藤が音ノ木阪学院から向かうルートを外れたのは、ふと点けてみた首輪探知機に四つの反応があったからだ。
一つは単独で西の方から動いており、残りの三つの内、二つは一箇所に止まり、最後の一つはこの辺りを移動し続けている。
田村玲子や泉新一とその右手ならば、あの知能と高い戦闘力を考慮すれば、単独行動を取るかもしれない。
逆に肉の盾として人間を囲い、一箇所に止まり続け殺し合いに乗る参加者との遭遇リスクを減らそうと考えても不自然じゃない。
学校から離れていない可能性もなくはないが、どちらにせよ。どれかが、田村玲子か泉新一である可能性は低くないと考え、後藤は一旦進路をずらし寄り道をする事にした。

「……外れか」

「あ、貴方は……」

しかし、運のないことに、後藤の推測は外れた。
後藤が見つけたのは以前交戦した婚后光子。
興味深い異能力者ではあるが、単独では後藤の相手ではない。

「腹を満たすには少し小さいが……まあいいだろう」
「後藤……」
「……戦う前に聞いておくか。泉新一か田村玲子、どちらかに会ったことはないか」
「泉……」

両者とも、聞き覚えのある名前だ。特に新一に関しては直接出会っている。
新一の警戒していた通り、後藤はこの二人を殺害するつもりだ。

「知っていたところで、貴方に教える義理はありませんわね」
「そうか」

光子はジリジリと後ろに下がりながら、前かがみになってしゃがむ。
後藤が変形を終え、刃を奔らせるのと光子がコンクリートに触れ演算を終えるのはほぼ同じ。
「空力使い」の噴射で地面は隕石の落ちたかのように窪み、ひとつのクレーターを形作る。
安定した足場をなくし狼狽する後藤。刃は光子へは届かずない。その間に距離を取り、光子は後藤を倒せる噴射物を見繕う。
近くの建物に触れ噴射点を設置し、後藤に向けて飛ばす。

「大きいだけだな。速度がまるで足りん」

「ッ!」

後藤を押し潰さんとする砲弾と化した建物。その下を純粋な脚力のみで後藤は潜り抜ける。
後藤の背後で建物が地面に激突し、大きな地響きを立てた。
そのまま、一瞬で後藤は光子へと肉薄する。
二射撃目に移ろうとする光子に足払いを掛け、転ばせる。
空力使いは触れるものがなければ、無力。空中ではなおさらだ。
ほんの僅か。地面に叩きつけられる前の短い浮遊時間の間こそ、光子が能力を行使できぬ安全な時間。

「……やっ……」

後藤が刃を振るう。
狙うのは光子の首。光子の首輪を解析用のサンプルとして手に入れるからだ。

「―――こ、の!!」

だが、ここで後藤の失策は光子の首輪を万が一にも誤作動させないよう、気を使い僅かに腕の動きが鈍ったこと。
その結果、悪あがきが間に合ってしまう。
自らに設置した噴射点で光子は強引に飛んでいく。後藤の刃が空を切り、コンクリートの突き刺さった。

「……確か、自分も飛ばせたんだったな」

以前と同じミスを繰り返したことを反省しながら、後藤は光子の飛ばされた方角を追いかける。
確か、記憶が正しければあの方角には二つの首輪の反応もあったはず。
そこに田村がいれば丁度良い。






625 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:02:39 GIKLjAhs0



「あの忌々しいゴキブリめ……撒いたか?」

ゼェゼェ、息を切らしながらエンブリヲは何度も背後を確認する。
瞬間移動で一度は撒いたものの、すぐに追いつかれ何度も何度も瞬間移動を使いながら、尚もしつこく追いかけてくる黒。
黒い服装で素早く走ってくるその様はまさしくゴキブリと言ってもいい。
イリヤに追いつくどころではなく、むしろ見失い、興じたくもない鬼ごっこをするハメになってしまった。

「害虫め……いずれは駆逐してやろう」

だが、その黒も完全に撒いた。もうあの黒いコートは見えない。
近くにあったコンビニに入り、ペットボトルの紅茶を手にする。
息を整えながらディパックを置き、ノソノソとディパックから這い出ると分身を消した。

「……ここの女性は些か乱暴が過ぎるな」

股間を擦りながら、美樹さやかとの邂逅を思い起こす。
男性の局部に剣を刺すという蛮人の如き所業。強さこそあれど美しさはない。
最早、抱く価値はなく、憎しみの対象でしかない。

「やはり、私に相応しい女性はアンジュだけ、ということか。
 これはアンジュ以外に、現を抜かした罰だとでも思っておこう」

ペットボトルの蓋を開け、紅茶に口を付ける。
茶葉の香りと、砂糖の甘さが蕩け合い、味気なかった口内を満たし、水分を求める喉を潤していく。
普段から飲む紅茶と違い、あくまでジュースとして作られたインスタント。それでも、今のエンブリヲにはこの上ないオアシスに感じられた。

「……紅茶を飲んで、生き返ったと感じたのは久しぶりだ」

続けて二口目を飲み、エンブリヲは満足そうに蓋を閉めた。

「さて、クロは……今は保留だな。どうせ感度50倍でろくに動けないだろうからね。それよりも……」

ディパックの中で念には念を入れ、クロエの感度を50倍に設定しておいた。
一人で自由に動くことは早々出来ないだろう。
ディパックを注意しながらもエンブリヲは立ち上がり、コンビニの店内を見渡す。
それから、ある商品棚の前に立つと陳列している商品をどかし始める。
そして、奥にある一つのスピーカーを取り出した。

(ふむ、やはり放送はスピーカーか。それもかなり旧式だな。
 無線だが、マナのような力を使っている形跡もない。……広川の技術が、高いのか低いのか図りかねるね)

スピーカーの中身を解体してみるが、特にこれといった特徴もない。
マナを使わない単純な科学技術で作られている。
下手に手の内を見せるよりは、より低い技術で賄おうとしているということか?

(少なくとも広川には私を不確定世界から切り離し、独立させる力。それに加え、異世界への干渉及び時系列の操作。そして異能を制御出来る。
 私の目から見てもあの男は異常だよ)

不死を奪い、異能を丁度良く調節し、参加者の呼ばれた時間―――少なくとも、アンジュの台詞から推測するに、彼女はエンブリヲを倒したと思っている時間から来た―――を操作する。
挙げていけば実に広大で底の知れない力の持ち主だ。

(しかし、だ。認めたくはないが、広川は私と同等かそれ以上の万能の力がある。
 その割には殺し合わせる方法がまどろっこしい。首輪を嵌めさせて、数日中に最後の一人になれ……。
 私なら、殺しあわさざるを得ないルールなり環境にしている。広川はあえて自由を与えることで参加者の葛藤が見たいのか。だが、広川はその手の人種ではないように見える)

エンブリヲの長年の経験からの判断だが、広川は娯楽に没頭するようなタイプには見えない。
どちらかといえば仕事人間、何らかの信念を抱きそれを真っ当しようとする人間だろう。
だがこの殺し合いはどちらかといえば、無駄の多い娯楽的な催しだ。
広川の性格に反している。


626 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:03:03 GIKLjAhs0

(つまり、無駄を入れる理由があったのだ。……どうして? 我々に自由を与え何がしたいのだ奴は?)

考えられるのは、先ず広川が傀儡であることだ。
広川自身に力はなく、広川を操り殺し合いを主催する真の黒幕が居る。
これならば、広川の性格を考慮しても矛盾は少ない。

(元より、趣味の悪い催しだ。娯楽目的以外は殆ど考えられん……。まあいい、今はそんな事を考えても仕方ない)

そういえば他者の、それも人間の考察など、随分と久しい。調律者としての力を手に入れてから、人間の目線で物を見たことなど一度もなかった。

(全く忌々しいことだ。私がこんな下らん、考察をせねばならんとは)

腸が煮え繰り返りそうなのを堪えながら、エンブリヲは冷静であろうとする。
落ち着かせるように首輪を撫で、手にひんやりとした冷たさを感じた。

(首輪か……。不確定世界に干渉できれば……。とにかく今は解析用のサンプルが必要になるな)

普段のエンブリをならばわざと死に、不確定世界の自分と入れ替わることで首輪を強引に外せた。
だが今はその術が潰された以上、首輪を解析し解除しなければならない。
ここまで女に感けてばかりで何も考えていなかったが、そろそろサンプル回収にの為、積極的に参加者を殺す必要が出てくる。

(……いっそ、サンプル調達の為にクロをここで殺してしまうか? 戦力になると思ったが、ここの女共は蛮人だ。
 容姿が如何に優れていようと私の愛を理解すら出来ない、野獣の如き下等さだ。それにこの少女は放っておけば、いずれ私の寝首を掻きそうな予感がある)

クロエを使いやすい駒だと思い温存していたが、果たして彼女を御しきれるか?
不死の力があった頃ならばともかく、現状のエンブリヲは下手に死ぬことが出来ない。
クロエを調教しようにも、リスクとメリットを考えるとリスクの方が大きい。 
以前、モモカの目を介して見たからこそ分かるが、クロエはただの少女ではない。如何に経験を積んだかは分からないが、クロエは間違いなく戦士だ。
何時何処でも、生きてさえいればエンブリヲを殺そうとする。そんな少女を手元に置き続けるのは危険すぎる。
クロエの自由を奪っている、感度50倍もエドワードのように脳に干渉する術がないとも言い切れない。
ここで殺し、首輪を奪ったほうが保身を考えるなら安全かもしれない。

(今まで散々な目に合ってきたからな。……やはり、慎重を期するか)

二度に及ぶ局部破壊はエンブリヲに慎重さを取り戻させ、性欲を捨てさせた。
警戒しながら、ディパックをひっくり返しクロエが滑り落ちてくる。
体をひくつかせながら、声を懸命に押し殺しているのは、エンブリヲに屈しない為の意地か。

「くっ、殺しなさい……!」

「ああ、そうさせて貰うよ」

素っ気無く返答すると、エンブリヲはパンプキンをクロエに向けた。
下手に近づいて逆襲を食らうこともなく、射撃も確実に外さない絶妙な距離。


627 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:03:22 GIKLjAhs0

(何で、近づかないのよ……!?)

クロエはエンブリヲが性欲に負け、距離を詰めてくるのを見越し最後の力を溜めていた。
だが、予想に反しエンブリヲは保身を取り、決して近づかない。

(あれで射撃されたら……かわせない……どうすれば……)

感度50倍の快楽は拘束具のようにクロエに纏わりつき、自由を許さない。
投影も集中できず、普段の双剣を創る程度。それだけではパンプキンを防ぐのは難しく、防いだところで身動きできなければ次弾で終わる。


「さようなら、クロ。成長すれば美しい女性に育っただろう」

「嫌だ……イリヤ……」


―――世界が逆に回転する。

顔面が熱く、激痛が走る。妙な浮遊感と共にエンブリヲは吹っ飛ばされた。
最後に見たのは、ガラスをぶち破りコンビニ内に飛び込んで、エンブリヲに激突した少女と、その後ろを追いかけてくる化け物の姿。
奇妙な光景を目に焼き付けながら、エンブリヲは意識を落とした。





628 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:03:54 GIKLjAhs0




クロエを救ったのは、コンビニのガラスをぶち破り突入してきた光子。
エンブリヲを巻き込んで、二人は壁に叩きつけられた。
呻き声を上げながら、意識を無くした二人を尻目にクロエはもう一人の乱入者に視線を向ける。
風を切る音と同時に甲高い金属音が耳を付く。
黒の短剣に阻まれた乱入者の刃は勢いのまま弾かれて、自身も一気に後方へ跳躍する。
クロエが双剣を携え、前に立つ後藤を睨みつける。

「アンタ、何よ……」
「後藤」

エンブリヲが気絶した事で感度50倍が解け、クロエの体に自由が舞い戻った。
体の調子を確認しながら、クロエは干将・莫耶を構えなおし、後藤との間合いを計る。

(不味いわね。魔力が……長期戦はキツイ)

体力自体はさほど問題はない。快感も鳴上と違い、短時間で解けた為後遺症は殆どない。
だが、魔力だけは着実に減っていき、底まで近いのが嫌でも感じられらた。
戦いを長引かせれば長引かせるほど、消滅の危険性が高まる。

そんなクロエの思いを知ってか知らずか、一気に跳躍し後藤は両腕の刃をクロエに斬りつける。
同じくクロエも両腕を振るい双剣で受け止め、二者の得物は火花を散らす。
十を超える斬り合いを経て、先に引いたのはクロエ。
干将・莫耶に皹が入り、軋んできている。骨子の想定が甘い、魔力不足による投影の精度が落ちてきているのだ。
あのまま斬り合えば、確実にクロエが殺されていた。
干将・莫耶を再度補強し直す。その様子は興味深そうに観察していた。

「電撃、氷、風、炎の次は剣か……異能というやつは種類が多い」

軽く呟いてから、後藤が再びクロエの間合いへと踏み込んだ。
初撃の上段を狙う薙ぎ払いを、剣を滑り込ませ受け流す。更に袈裟掛けに振り下ろした刃を屈んで避け、後藤の懐に潜り込む。
それから、クロエは後藤の胴にもう一つの剣で突きを放った。だが、剣は刃によって弾かれる。


629 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:04:20 GIKLjAhs0

(速い……!)

振るいきった腕を引き戻し、防御に回す。後藤が行ったのはたったのそれだけ。
言ってしまえば、ただの人間でも武器さえ持てば理屈上は可能な動き。
しかし、その速度が尋常ではない。秒すら待たず、より精密なその動きは人の域を出た者の動作。
後藤は防御を終え、再度攻撃に移る。
クロエは刃を弾きながら有力打を考え出す。
体を変質させる能力から考え、後藤は急所となる部位を硬質化させている可能性が高い。
恐らく守りが薄いのは、機動性を重視した脚部であるとクロエは推測した。
刃を弾きながら、転移を使い後藤の死角へ回り込む。
そして剣を後藤の足首へ奔らせる。

(獲った!)

速さもタイミングも全てが上々、だが後藤はそれを容易に先回り攻撃を回避し反撃を放つ。
クロエは干将・莫耶をクロスさせ刃を防ぐ。しかし、不調のなかで投影した干将・莫耶は限界を向かえ砕け散る。
そのままクロエは吹き飛ばされ、背中から地面に打ちつけられた。

「なんて奴……転移先を先読みした……?」

以前取得した、異能の先読みが生きた。クロエの視線の変化を即座に読み取り、網を張ったところ予測通りに事が運んだ。
この事から、後藤は自身の技量の上達を自覚すると共に、まだまだ甘いことを懸念する。
クロエは不意の自体にも反応できた。できるほど、後藤の反撃が遅かったのだ。

「やはり、練習が足りんな」

魔力の残量をざっと計算する。
剣の投影は数度、それ以上の高火力の行使は一度か二度が限度。コンディションは最悪に近い。
ここで打つ手は勝利ではなく、逃走が一番現実的だ。
もっとも逃走も非常に難しい。少なくとも後藤はクロエの逃走も考慮に入れ、逃走に使われるであろうルートに気を配っている。
それを掻い潜るのは至難だろう。

(キス……誰かキスさえさせてくれれば……)

「!?」

クロエの視界に黒い影が飛び込み、後藤に迫る。
異変を察知した後藤が屈む込む。影は後藤の頭上を通り過ぎながら、華麗に着地し懐からペットボトルを取り出す。
以前の戦いと既知感を感じながら、後藤は投げつけられた液体を跳躍し回避。


630 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:04:42 GIKLjAhs0

「あの時の黒い男か」

「黒!?」

遅れて現れた最後の乱入者。後藤がこの場に来て一番最初に戦い逃した男。

「考えれば、お前から異能の先読みのヒントを得たんだったな」

ある意味、後藤に異能を教えた始まりと言ってもいい。不思議と妙な因縁を感じてしまうものだ。
殺し損ねたという因縁を晴らすには絶好の機会だ。何より、先読みのいい手本にもなる。
この戦いで後藤の先読みに何が足りないのか、学び直すことができる。

「クロエ、戦えるか?」
「悪いけど、あまり戦力にならないわ……」
「そうか……下がってろ」

クロエを下がらせ、黒が一歩踏み出す。後藤は黒を伺いながら二本の腕で構えを作った。
黒が見た、以前の数に任せた攻撃とは明らかに戦闘スタイルが違う。
変えたのか、あるいは変えざるをえなくなったのか。

「―――ッ!」

後藤が一気に跳躍する。天井を足場に更に加速し黒へと特攻。
黒は商品棚へと飛び移り、包丁を投げる。後藤は後ろへ飛び包丁を避けながら壁に足を付け、黒の居る商品棚へと飛んでいく。
駄菓子やジャンクフードなどのお菓子が飛び散りながら、黒は後藤の後ろへと降り立ち結び付けていたワイヤーで回収しておいた包丁を後藤の首に突き刺す。
包丁は甲高い音を立てながら、砕け折れる。本来武器として作られたものではないとはいえ、後藤の首の強度は硬化された為、金属並みだ。

「チッ」

体が変質化出来るのなら、硬くもなれる。そう結論付け黒は後ろへ下がる。その瞬間、黒の居た場所を後藤の後頭部が刃化し抉った。
やはり速い。当てるのは中々難しいと後藤は感心しながら黒の方へ振り返る。


631 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:05:12 GIKLjAhs0

「……首に」

首、より正確には首輪に違和感を感じる。見れば首輪にワイヤーが巻き付いていた。
それを黒は強引に引っ張り、そして同時に電撃も流す。首輪に衝撃を与えることで誤爆を誘発させるつもりだ。
しかもワイヤーに触れれば感電のオマケつき。
衝撃は首輪のプロテクターた防げるが、皮肉にもそのプロテクターから感電してしまう。
それを理解した後藤は、左手の刃を元の手に戻し、ワイヤーを掴んだ。

「流石は日本製、良質のゴムを使ってる」

左手に嵌められていたのはゴム製の手袋。コンビニ内にあった物を利用したのだろう。
黒との初戦、ノーベンバー11と御坂の連携の際、電撃の応用力を思い知った後藤は既にその対策も意識していた。
電撃の流れるワイヤーに触れても尚、後藤は以前変わりなく動きワイヤーを逆引っ張り返し、黒を引き寄せる。
そのまま勢いに流され後藤の右手の刃を前のめりになりながら避け、ワイヤーを包丁で断ち切り勢いを殺せぬまま壁に叩きつけられる。
体を打った痛みに声を上げる暇もなく後藤の刃を避け続ける。だが、ついには壁際まで追い詰められた。
正面から来る刃の突きを屈んで避け、黒は後藤の懐に潜り込み手を伸ばす。全身に電撃を纏わせた黒の手を後藤は左手で掴む。

「……少し前に、お前と声の似た契約者に同じ台詞を言われたことがある」

「何?」

「あの時は―――」

援護に来た仲間に助けられたが。黄の姿を脳裏に浮かべながらそう言い掛けようとして、黒の視線は弓矢を構えたクロエに向けられた。
クロエの唇は唾液で塗れており、横で倒れている光子もクロエと自らの唾液で唇を汚していた。つまり魔力補充を行ったのだ。
放たれた矢は後藤のプロテクトを以ってしても、防げぬと容易に判断させる。黒から離れ、矢が黒を貫こうとした瞬間、軌道を修正し後藤を追跡する。

「―――これも異能か……!」

赤原猟犬(フルンディング)。
「一度放たれた矢の標的は変えられない」という絶対の原則を覆し、標的を狙い続ける赤光の魔弾。

「溜めも長いし、お陰で魔力カラカラだけどね……」

真紅の尾を描き赤原猟犬は後藤の逆力に容易に追いついていく。
逃れきれない。そう判断した瞬間、赤原猟犬が後藤に着弾し起爆。
爆音が鼓膜を鳴らし、爆風がコンビニのガラスを片っ端から打ち破った。


632 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:05:41 GIKLjAhs0

「……終わったわ。……全く変態の次は化け物なんて、どんなビックリ人間ショーなんだか」

全身の力が抜けたのか、クロエが崩れ落ちる。
そんなクロエを横目に黒は気絶している光子の元へ向かう。

「エンブリヲが居ない……逃げたのか?」

黒が飛び込んだ時には、横で寝ていたエンブリヲが消えている。
周囲を警戒しながら、光子を揺らすと瞼を開き徐々に意識を取り戻す。

「う、うーん……」
「気付いたか?」
「……? ご、後藤は!?」
「奴はもう居ない」

慌てる光子を黒が落ち着かせ、後藤を倒した経緯を話すと光子は安堵の表情を見せる。

「クロ……」
「イリヤ?」

黒と光子が情報交換を交わしている間、ボロボロになったコンビニ内を銀髪の少女が恐る恐る覗き込む。
それはクロエの知るとおり、紛れもなくイリヤ。クロエは疑問を浮かべながら、イリヤへと近寄る。

「待て、そいつに近寄るな!」

「―――!?」

その瞬間、クロエの胴を斧が切り裂く。咄嗟に後ろに下がったことにより、傷は深くなく出血は少ないがイリヤに斬られたショックは重い。
次の行動に移るより早く、イリヤに腕を掴まれ引き寄せられ拘束される。
明らかにイリヤの……少女の力ではなかった。

「フフ……随分と姉妹愛が強いようだね」
「エンブリヲ!?」
「本当はこのまま逃げても良かったんだが、あの電撃の恨みは忘れないからね。害虫風情が……」

首を左腕が固定され、首下に斧を突きつけられる。クロエに妙な真似をするなという意思表示と共に黒達に動くなと示していた。
イリヤの姿から成人男性のエンブリヲのものへと変化する。

「さて、あの化け物を倒してくれた事は君達には感謝しているよ。……だが私を害した罪を忘れたとはいわせない」

エンブリヲは斧でクロエの頬を突きながら黒と光子に手持ちの荷物を寄越すよう要求。
渋々二人はディパックを放り渡す。エンブリヲは警戒したまま、二つのディパックを拾い上げる。

(転移……駄目だわ。魔力が足りない。投影も妙な真似をしたらばれるわね)

拘束されながらも気を伺うクロエだが、性欲に走らないエンブリヲは思った以上に隙がない。
局部破壊は、予想以上にエンブリヲに好影響を与えたのかもしれない。


633 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:07:36 GIKLjAhs0

「……あ、熱いですわねー」
「……」
「ち、ちょっと胸元開けてしまいますわ……」

そんななか、光子は目の前の男がエンブリヲであるとタスクの情報から推測していた。
そこで思いついたのがお色気作戦である。タスクの話を聞く限り、女性を好む色欲魔であることに間違いはない。
自慢じゃないが、光子は自分の容姿にそこそこ自信はある。少し胸元を見せればすぐにエンブリヲは油断するはずだ。

(……はしたないですが、これで悩殺されない男は居ませんわ)

自分の知りうる中で最も色っぽいポーズ、角度を計算しエンブリヲへとアピールするがエンブリヲは見向きもしない。
最早、局部破壊の為、彼は性欲をそそらせる事が出来ないのだ。

「残念だが、君のような女狐には何度も騙された。そういう手には乗らないよ」
「なっ……!?」

決死の策も無駄になり、冷ややかな視線を送られるだけの光子は屈辱を覚える。

「それよりも、無駄な動きをした罰だ」

斧の柄でクロエの胴の傷を抉る。クロエが苦悶の声を上げていく。
二人の表情が変わるが、動けば更にクロエを傷づかせることになり、動けない。

「いい気分だ。人間は私の手の内で踊る事こそが似合っているよ。やはり、私が導かねばね」

「そうか? お前も人間に見えるがな」

エンブリヲの背後より、声が掛けられる。
無機質な男の声、長身の痩せた体型。その姿は後藤のもの。
ただし、身に纏った服はボロボロで至る所が傷付いているが、その立ち振る舞いは以前と何も変わらない。


634 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:08:05 GIKLjAhs0

「貴様、死んだ筈じゃ……」

遠目ながらもマスタングが雪子を焼き尽くした光景を後藤が見た時、雪子の首輪はあれだけの炎を浴びながら傷一つなかった。
同じく後藤の首輪も後藤の硬化を無効化するなど、明らかに首輪には異能などの参加者の持つ能力を弱体化及び無効化する力を持っている。
一か八か赤原猟犬が着弾するその寸前、後藤は全身を硬化させながら、赤原猟犬の動きに首輪を合わせた。
結果は目の前の光景が物語っている。無傷でもないしかなりのダメージはあるが、四体の寄生生物のどれを失うでもなく後藤は生還した。

「チィ―――」

クロエを突き飛ばし、後藤の振るう刃を紙一重で斧で受け止める。
だが、衝撃に耐え切れずエンブリヲは吹き飛ばされた。

「瞬間移動か」

「何?」

瞬間移動で後藤の背後に回ったエンブリヲ。しかし既に刃に先回りされる。
刃が腕に掠り血を吹きながらも、だがエンブリヲは勝利を確信し笑った。
一瞬にして後藤の感度は50倍にまで引き上げられ、その全身を快楽地獄が覆いつくす。

「ぬ、ぬおおおおおおお!!?」

唐突に現れた未知の感触に戸惑いながら、後藤は直立不動のままエンブリヲ視線を向けた。

「何だ、これは……動き辛いぞ」
「フッ、分かってもらえたかな、これが調律者の力だよ。君のような害獣では到底及ばないね」
「……なるほど、痛覚ではなく快感を攻撃手段にする。中々、工夫はされている。だが、DIOと同じで大した脅威はないな」
「何だと……?」

しかし、後藤はぎこちないながらも体を動かしエンブリヲへと体当たりをかます。
あまりの速さゆえ、回避しきれなかったエンブリヲはそのまま吹っ飛ばされ、トイレのドアへと激突しトイレの中へとぶち込まれる。
不快なアンモニア臭を吸いながら、エンブリヲは痛む体に鞭打ち瞬間移動でその場から離れる。
エンブリヲの居た場所を再度、後藤が体当たりで抉り小さいクレーターが出来るのをみながら、エンブリヲは疑問を口にした。

「馬鹿な、感度を50倍にしたはずだ……何故動ける?」
「これは動けない異能じゃない。動き辛くするだけの異能だ……。繁殖には役立つだろうがな」

藤に感度50倍が効かないのではなく、効いてはいるが、本人が気にしないだけに過ぎない。
寄生生物は鈍感なのだ。快感があろうがなかろうが、動きに支障がなければどうでもいい。
エンブリヲが舌打ちをしながらパンプキンを抜く。
ピンチによりパンプキンの威力は増幅されていくが、ピンボールのように跳ね続ける後藤には掠りもしない。


635 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:08:39 GIKLjAhs0

「速い……!? 何故当たらない!」

「当てる為の工夫をしろ。人間は地球上でもっとも賢い動物のはずだろ」

「調子に乗るな!」

二人の戦闘を他所に黒と光子がクロエを回収しコンビニを離脱しようとする。
後藤はエンブリヲを無視し、黒の元へと直行する。
戦闘欲求を満たすという点において、エンブリヲより黒やクロエの方が価値があると判断したのだ。
それがまた、エンブリヲのプライドを酷く傷つける。

「逃げるな! 戦え!!」

後藤の刃が迫った瞬間、コンビニの壁が捲り上がり砲弾となって後藤に襲い掛かる。
この現象が「空力使い」のものである事はすぐに察しが付いた。
砲弾を避け、黒達に追いつこうとした瞬間、天井の瓦礫が崩壊する。狙ったのは後藤ではなく天井だったのだ。
コンクリートの雨の中を後藤が脱出する。

「―――逃げ足が速い奴らだ……」

瓦礫を抜けた時には既に黒達の姿はなく、エンブリヲの姿も確認できない。
首輪探知機でも反応がないことから遠くへ去ったのだろう。

(……仕方がない)

戦闘欲求を満たせないもどかしさを覚えながら、後藤は思考を切り替えた。
光子との戦闘で分かった事が一つある。光子に泉新一の名を聞かせた時、僅かにだが反応があった。
光子の進行方向から合わせて考えると、泉新一は西に居る可能性が高い。いっそ西に向かうのもアリかもしれないが。

(……やはり、田村玲子からだな)

後藤の勘としては泉新一が居るかもしれない西側の図書館も気になったのだが、泉新一の右手の寄生生物は同種の中でも冷静沈着で頭も回る。
乱戦を警戒し、会場の真ん中にある施設に止まり続けるとは考え辛い。
ミギーに対して後藤は一日に数時間の深い眠りや、泉新一に感化された心情の些細な変化などの事情を知らぬ為、この推測は外れているのだが。

方針を定めた後藤は脚部を変化させ走り出す。

再び五体のパラサイトを経て、完璧な後藤となる為に。






636 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:10:03 GIKLjAhs0


「くっ、害獣め……!」

エンブリヲが後藤への毒を吐く。
後藤も同じだ。タスクやブラッドレイ同様、忌々しい下等生物。
その手の輩に限ってエンブリヲに楯突き、邪魔を始める。

「滅ぼさなくては……。あのような害獣を、私の作る世界で野放しにする訳にはいかない」

タスク達への怨念を殺意に変えながら、エンブリヲは冷静さを取り戻し、ディパックを拾った。
それはクロエの持っていたディパックだ。どうやら、黒と光子は自分の分は回収したらしいが、クロエの分までは手は回らなかったのだろう。
これで更に装備を充実させることが出来る。

「……私は少し、期待していたのかもしれないな。私の創造から離れ、独立している異世界に」

そしてエンブリヲは自嘲気味に呟いた。

「人は野蛮で好戦的でまるで獣だ。
 だから、私は世界を創り直した。今度は道を誤らぬよう私自らが手を加えた。しかし、今度は堕落する。
 人間は何も変わらない。だが、私の知らない異世界ならば……そう思っていたが、やはりここでも人は同じだ。
 むしろ野獣と言っていい。更に悪化している始末だ」

これまでの経緯を振り返りながら、エンブリヲは自らの体に刻まれた傷の数々に視線を向ける。
あまりにも、粗暴で野蛮で下賎過ぎる猿共。調律者を理解しえぬ愚か者しか居なかった。
思い出すだけで、二度も破壊された局部が疼く。
ある意味、異世界の人間は更に下等な退化を遂げていると言ってもいいだろう。

「私は失望した。そして決めたよ。期待をするのはもう止めだ。この殺し合いの世界もまた全て一つに融合し新たな世界として創り直す。そしてそこで生きるのは私とアンジュ、君だ」

全ては世界の調律と愛しきアンジュの為に。その先に新世界を描きながら、エンブリヲは戦いを決意する。

「フフッ、広川。待っていたまえ、この場の全てを抹消しアンジュを連れて君の元へ行くと必ず約束しよう。
 調律者として、思い上がった愚者に正しい罰を与えなければね」





637 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:10:34 GIKLjAhs0

後藤達を撒いたのを確認し黒は足を止めた。
魔力不足で動けないクロエを降ろし、黒も腰を下ろして一息つく。

「ねえ、悪いけど私をあの娘のところへ連れてってくれない?」
「……? 構わないが」

クロエの頼みを聞き、黒はクロエを担いで光子のところへ連れて行く。するとクロエは光子の顔を両手で固定すると顔を近づける。
光子が頭を傾げているとそのままクロエは強引に引き寄せ、そして唇を重ねぶちゅっとキスをした。

「ん……んぅ……んん……ぅぅ……」
「何をしている? 苦しがってるぞ」
「ふぅ……こうしないと私が死ぬのよ」

キスの刺激が強すぎたのか、光子が呆然とした顔をする。

「な、何ですの……一体何が……。それに私のファーストキスが……」
「悪いけど、もうこれ二度目よ」
「え……?」

衝撃の告白を受けながら、光子は両手を付き顔を項垂れる。
それから数分立ち直れなかったが、ふと思い出したかのように光子は顔を上げた。

「……貴方、もしかして蘇芳さんの知り合いの黒さん、でしょうか?」
「どういうことだ? 俺にはそんな知り合いは居ない」

放送で呼ばれていた名前の一つに蘇芳という名があった。
黒も妙に印象に残っていためにすぐに記憶を思い起こせたが、よもや知り合いと言われるとは思いもよらない。
疑問を浮かべながら、黒は光子に今までの経緯と共に蘇芳についてたずねていく。

情報交換を終えて分かったのが、蘇芳が黒の時系列より二年先の未来から来たということ。そこではどうやら猫が生きており、MI6のドールを連れて黒と四人で旅をしていたらしい。
到底信じられない話だが、クロエが割り込み参加者の呼ばれた時期が違うかもしれないと、考察を話した事で黒もその事実を認め始める。
もっと詳細を聞きたかったのだが、短い付き合いもあり、尚且つ蘇芳もそもそも事件の詳細を全て知っている訳ではなかった為、それ以上は何も聞き出せなかった。

「時間のズレなんて、到底信じられませんが……」
「私と最初に行動してたヒルダも、エンブリヲを殺したって言ってたのに、当の本人はあれだけピンピンしてるのよ? 多分、他の参加者もこういう話の食い違いが多いんじゃないかしら」

そういう魔術を知識として知っているのかクロエはあっさりとそう決め付ける。
光子はやはり話しにあまり付いていけないが、タイムマシンの開発に広川は成功したのだろうと無理やり結論付けて納得した。

「でも、そうなると蘇芳さんは、誰も知り合いの居ないなか死んだのですね……」

短い付き合いだが後藤との死闘で共に戦ったなかだ。知り合いにその死を伝えるのが、蘇芳に対しての供養代わりになるのだろうと思っていたが、その知り合いすら居ない。
ずっと蘇芳は一人で誰にも知られず死んでしまう事になる。
その事に光子は少し空虚さを覚えた。


638 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:11:23 GIKLjAhs0

「……二年後に会うのなら、今度は殺し合いに巻き込まれる前に助けてやればいい」
「え?」
「だから、お前の伝言は無駄じゃない」

光子を気遣ってか、黒は優しく言葉を掛ける。
その言葉が心に染み、光子の空虚さを消していく。

「そろそろいいかしら? 私はイリヤの元に行くつもりだけど」
「……イリヤの行き先に一つ心当たりがある」
「何処?」
「騒ぎ出す前に、イリヤは音ノ木坂学院に行くと言っていた」

それは奇しくも光子の行き先を同じ施設だった。
イリヤと情報を交換した際、黒はイリヤが田村という女性を信頼しているのを話の中から感じ取っていた。
あの錯乱した中で無意識に信頼できる大人の元へ向かうのは、子供としては自然な行動だろう。

「確証はない、ただの憶測だがな」
「……いや、イリヤはあれでマザコンなところがあるし、その田村って人をママに重ねてたのかも」
「実は、私もそちらに用がありますの。良かったら、ご同行させてもらっても?」
「良いわ。というか、私からしても来て貰ったほうが助かるのよ。色々と」
「色々……?」

一先ずの行き先を決めたところで、戦闘の後ということもあり僅かに休息をとる。
そのまま黒は口を閉じ思案に耽った。

(……何故、二年後の未来。俺は銀と一緒に居ない?)

蘇芳の話を鵜呑みのするのであれば、二年後に銀は黒の元に居ない事になる。
あの話に出てくるのは、猫、ジュライ、蘇芳、そして黒だけだ。
死んでいるか、あるいは何らかの要因で別れざるを得なくなったのか。
何にせよ、彼女の身に何かがあったのは間違いない。
銀を早期に見つけ保護することで最悪を回避すべきだ。

(銀……)

銀との合流もそうだが、戸塚の仲間も探しておく必要がある。
それが最期にイリヤと戸塚の仲間を助ける。それが最期に戸塚と交わした約束だ。

(雪ノ下雪乃か……こいつも後で合流しておく必要があるな)

イリヤの情報が確かなら、既に所在は掴めている。
不安と交わした約束を胸に募らせながら、黒は今の僅かな休息に身を任せた。





639 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:11:38 GIKLjAhs0


(魔力の残量は決して多くない……下手な魔術で無駄遣いできないわ)

光子から魔力を補充したクロエだが、その量はイリヤのものと比べれば微々たるものだ。
早目にイリヤ、最悪イリヤでなくとも魔術師に関連する人物に魔力供給をしてもらうべきだろう。

(イリヤ……無事よね? どうしてあんなことに……)

イリヤが戸塚を殺そうとした場面をクロエは未だに忘れられない。
人が変わったかのように動き、全裸の男を殺そうとし庇った戸塚を死なせてしまった。
分からない。どうして、イリヤがあんな凶行に走ったのか。

(洗脳かしら……。それも、本人の意識を残す、えげつない……)

だとしたら、クロエはその犯人を許すことが出来ない。
イリヤは人殺しだ。望まぬ殺人を犯し、その罪を背負い続けなければいけない。
何故、イリヤなのか。手を汚させるならもっと適任が居たはずだ。

(なんで……イリヤなのよ……)

強い怒りが込み上げる。イリヤを道具にように操った存在が居るのだとしたら、クロエはその存在を許すわけにはいかない。

(―――必ず探し出して……イリヤを弄んだ罪は清算させてやる)

口には出さず決意を固めながら、イリヤは空を見上げる。

(……そういえば、本当なら今日は海に行ってたのよね……)

今頃は付き添いで来てくれる筈の士郎や、学校の友人達はイリヤ達の事を探しているのだろうか。
龍子辺りは一人でも構わず海水浴に行っていそうだが。

(帰った時、皆に何て言えば良いのかな……)


640 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:12:00 GIKLjAhs0
【F-5 市街地/1日目/昼】


【後藤@寄生獣】
[状態]:両腕にパンプキンの光線を受けた跡、全身を焼かれた跡、疲労(大)、ダメージ(大) 、寄生生物一体分を欠損
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、不明支給品0〜1、スピーカー
[思考]
基本:優勝する。
1:泉新一、田村玲子に勝利し体の一部として取り込む。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。
5:南に向かい田村怜子を探し取り込んだ後DIOを殺す
6:西に泉新一か……。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。
※寄生生物一体を欠損した影響で両腕から作り出せる刃の数が2つに減って全身のプロテクターの隙間も広がっています。
※黒い銃(ドミネーター)を警戒しています。



【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(極大)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(大)、参加者への失望
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!
     クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、各世界の書籍×5
     基本支給品×2 不明支給品1〜3 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本方針:アンジュを手に入れる。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:広川含む、アンジュ以外の全ての参加者を抹消する。
3:特にタスク、ブラッドレイ、後藤は殺す。
4:サリアと合流し、戦力を整える。
5:タスクの悪評をたっぷり流す。
6:首輪のサンプルを入手しておきたい。
7:休みたい。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※能力で洗脳可能なのはモモカのみです。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます


641 : 調律者は人の夢を見ない… ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:12:14 GIKLjAhs0


【F-5/1日目/昼】

【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、胴に傷(手当て済み)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:イリヤを守る。
1:音ノ木坂学院に行く
2:魔力の補給についてどうにかしたい。
3;キリトには……。
4:後藤を警戒。
5:イリヤを操った犯人を見つけ出す。
6:支給品を取り返したいが……。
[備考]
※参戦時期は2wei!終了以降。
※ヒルダの知り合いの情報を得ました。
※クロスアンジュ世界の情報を得ました。
※平行世界の存在をほぼ確信しました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。


【婚后光子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大) 、腕に刺し傷
[装備]:扇子@とある科学の超電磁砲
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 不明支給品2〜1(確認済み、一つは実体刀剣類)
エカテリーナちゃん@とある科学の超電磁砲
[思考]
基本:学友と合流し脱出する。
0:クロエと共に音ノ木坂学院に行く。
1:御坂美琴、白井黒子、食蜂操折、佐天涙子、初春飾利との合流。
2:東部に向かい白井黒子、御坂美琴を探す。(当面の目的は黒子の向かった音ノ木坂学院)
3:何故後藤は四人と言ったのか疑問。
4:後藤を警戒。
5:御坂さんと会ったら……。
[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了以降。
※『空力使い』の制限は、噴射点の最大数の減少に伴なう持ち上げられる最大質量の低下。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、鋼の錬金術師の世界観を知りました。
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。


【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(大)、右腕に刺し傷
[装備]:黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×2
[道具]:基本支給品、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
1:銀や戸塚の知り合いを探しながら地獄門へ向かう。銀優先。
2:後藤、槙島、エンブリヲを警戒。
3:魏志軍を殺す。
4:イリヤに対して...
5:二年後の銀に対する不安。
6:雪ノ下雪乃とも合流しておく。

[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリトとは情報交換済みです。
※二年後の知識を得ました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。


642 : ◆w9XRhrM3HU :2015/09/27(日) 06:13:52 GIKLjAhs0
投下終わりです


643 : ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:28:11 XJxGhC.o0
投下乙です
エンブリヲの感度50倍を動きづらいだけと評する後藤さすが。そりゃ確かに後藤にしたらクロや黒の方が興味あるよなぁ
参戦時期ズレで知り合いのいなかった蘇芳がいたのにも意味ができたってのがよかった

あとこちらも夜仮投下したものを投下します
ただ、少し位置が前のSSでの場所と近く、かなりドンパチさせたことと首輪探知機を持っている後藤という不安もあるのですが
まず位置とかはそのまま投下して様子を見させてもらおうかと思います


644 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:31:44 XJxGhC.o0
「ねえ白井さん、白井さんのこと、少し聞かせてもらってもいいかな?」

ふと、穂乃果は黒子に向けてそんなことを問いかけていた。

「構いませんが、いきなりどうなさいましたの?」
「さっき槙島さんや、色んな人と話してる時にえっと…御坂さん?だったかな。白井さんの友達の名前を聞いて。
 だけど、私ってそういえば白井さんのことよく知らなかったなって。だから」
「…そういえば確かに、そういったことについて話す時間がありませんでしたものね」

黒子は顔を伏せる。
その表情で、槙島との話の中で、その御坂美琴という彼女の友人が人殺しになってしまったかのしれないということを思い出す。

(…やっぱりまずいこと聞いちゃったかな……)

もしかしたら、ことりの件に自分の中に整理をつけたくて聞いてしまったのかもしれない。
大切な人が人殺しをする側に立ってしまったという時のことについて。

(最低だな…私…)
「そうですわね、どこから話しましょうか」

自己嫌悪に陥りそうになった穂乃果だが、しばらくした後、黒子はポツポツと話し始めた。

私達は学園都市という、学生に対する超能力開発を目的とした場所に住んでいること。
そこでは今の自分がやっていたテレポートのような、超能力を使える者が多数存在するということ。


「超能力かぁ…、何だかゲームの中みたいですごいなぁ」
「皆がそうなれるというわけでもありませんけどね。特に超能力を得られなかった人達は私達のような能力者を妬んでスキルアウト…いわゆる不良の道に奔る者もおりますの。
 まあ、この場に呼ばれてる皆はそのような方はおりませんが」

御坂美琴、婚后光子、食蜂操祈。自分を含めて皆常盤台中学に通っている高レベルの能力者。
食蜂操祈とは付き合いはなく話に聞く程度の仲、婚后光子はいけ好かないが少なくとも信頼はできると思っている。
そして初春飾利、佐天涙子も、能力者としては決して強くはないが正しい道を歩む大切な友人だ。
そう、大切な。

「中でも、お姉さま…御坂美琴は私の憧れの方ですの。
 学園都市に7人しかいないと言われるレベル5の一人、私の敬愛する人物なのですわ」
「………」

説明しつつも、その言葉にいつものようなキレがないことを自覚する黒子。
穂乃果ですらもその様子に気付くほどには、あの槙島との会話で明らかとなったことが後を引いているようだった。

気持ちを切り替えるようにして、黒子は話を進める。


「超能力者といっても、特に特別なことをやっているわけではありませんわ。
 一緒にショッピングをしたり、お茶をするために集まったり、パジャマパーティをしたり。
 初春と、佐天さんと、そしてお姉さまとはよくそうやって過ごしたものですわ」
「白井さん、もう、大丈夫だから。ごめんね」
「…高坂さんが謝られることはないんですのよ」

話していく度に、その表情が曇っていく様子を見ていられなくなった穂乃果は途中で会話を止めさせた。

だって彼女の話すうちの一人、佐天涙子はあのエンヴィーに殺された、と聞いている。
そして御坂美琴は。


645 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:32:18 XJxGhC.o0

「ねえ、白井さん。その友達を殺したっていうエンヴィーのことは、恨んでる?」
「…そう、ですわね。少なくともあそこで私達を襲った彼を見た上で、それで許したなどとは決して言えませんわ」
「………仇を取りたいって、思う?」

迷うようにそう問いかける穂乃果。

無抵抗な少女を殺し、今なおも人を襲っているのではないかというあのホムンクルス。
かつて彼の親友を殺し、そしてこの場でも黒子の友人を殺した存在。

今ならマスタングが向けた怒りが少しだけでも理解できるような気がしていた。
だからこそ、聞いておきたかった。

「仇…、確かに彼の存在は決して見逃すことはできませんわ。
 だけど、戦いの時にその感情をぶつけることだけを考えることだけはしたくはありませんわね」

それに対する返答は断言ではなくそうありたいという願望だった。

「マスタングさんとは事前に、相手がエンヴィーかどうかの見極めははっきりとさせておくと打ち合わせをしておりましたの。
 だけど、マスタングさんは結局エンヴィーに嵌められて天城さんが犠牲になってしまいましたわ。…そこまで冷静さを失わせるものがあったのでしょう。
 あの時はまだ自分を保っていられましたが、今は少しだけ自信がありませんわね」

御坂美琴のことを聞いて以降、自分の心に弱さが生まれているのを感じていた。
無論どんな状況でも自分の信念を捨てるつもりはない。
だが、今の現状で佐天涙子の仇である者を前にして冷静にいられるか分からなかった。

「だけど、これだけは言えます。
 その激情に任せて仇を討ったとしても、その人に残るのは人を殺したという罪だけですわ。
 それは決して、その人を幸せにするものではないということです」
「………」

その言葉はまるで穂乃果にも向けているようにも感じられた。

ことりを殺し侮辱したセリューへの、そして未だ知らぬ海未を殺した何者かに対して向けるだろう感情を持った自分に対して。


もしかしたら、槙島聖護に渡された拳銃を向けるかもしれない、自分に対して。




「ねえ、少しいいかしら?」
「…何よ」

それは放送より前、アンジュが音ノ木坂学院より出発するより少し前のこと。

一人退出したと思われていたアンジュは、誰にそれを言うこともなく真姫のいる一室へと足を運んでいた。

塞ぎこむようにしている赤毛の少女に、ゆっくりと歩み寄っていく。

「…やっぱり恨んでるんでしょうね、私や、サリアのこと」
「………」
「あの時の私にも責任がなかった、とは思わないわ。サリアの様子がおかしいことに気付かなかったんだし」
「…もう、いいわよ」

やはり塞ぎこんだ真姫は、そう告げるだけ。

少し前の自分だったならこのぐらいのことで心を揺さぶられることはなかったのだろう。
だが、エンブリヲとの戦いの中であった出来事、サラ子との交流やサリア達との戦い、そしてモモカやタスクを一度は失い失意のうちに落ちたりといった事柄を通し。
それでも目の前の少女を、3割くらいは自分の責任で死なせてしまった少女の友人を放置していけるほど図太い精神は残っていなかった。

それもノーマだの人間だのといったことに囚われているような、自分の嫌悪するような人間だったらこんな気持ちになることもなかったのだろうが。

「恨むなら恨んでくれても構わないわ。ただ、サリアのことは私がちゃんと責任を取るわ」
「…別に、恨むとか、そういうんじゃないわよ」


646 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:32:37 XJxGhC.o0

そう素っ気無く言う真姫は、ゆっくりと顔を上げて光のない目をどこへともなく向けながら口を開いた。

「ただ、私よりも穂乃果やことりの方が心配なの」
「その子達もあなたの友達なの?」
「そうよ。高坂穂乃果、南ことり。海未とずっと一緒にいた幼馴染。
 私達がμ'sを結成した時も、ううん、そのずっと前から海未と一緒にいたの。いつも3人一緒で、すごく仲がよかったから」
「…いつも一緒の、幼馴染、か」

アンジュの脳裏に浮かび上がったのは一人の侍女の姿。
物心ついた時から一緒にいた、大切な少女。

もし自分が彼女を失ったとしたら。

「分かったわ。その子達のことは覚えておくわ。
 もし会うことがあったら、ちゃんと説明しておくから」
「………」

まだその時の真姫の心は晴れてはいなかった。
だからこそ、あの時失った命に対する罪からは逃げず、しっかりと向き合い。
その上でサリアと相対し、エンブリヲを再度倒すことを心に決めて。

サリアは静かに音ノ木坂学院を去っていった。




違う。
違う。

違う違う違う違う違う。

(私じゃ、あんなの私じゃ……)

イリヤは走り続ける。
だけど、いくら走っても、逃げようとしても。
あの時戸塚を刺した記憶は、そしてその感触は手から離れてはくれない。

「私は――――私は………!」
『!?イリヤさん!?その魔術行使は今は―――』

錯乱のまま、イリヤはルビーをかざし一つの魔術を行使した。
それはかつて、今のように自分すらも分からなくなった時に行使した魔術。

長距離を一瞬のうちに移動する、転移魔術。

しかし、それは起動することはなかった。

(何で……?どうして……!!)

クロに分裂したことで魔力の出力を落とされた今のイリヤでは、以前のような高度な魔術を発現させることはできない。
そんな普段のイリヤであれば気付くようなことも今の錯乱した彼女では気付かない。
逆に更なる混乱をイリヤの中に生み出すだけ。


「嫌……嫌ぁ…!」

再度駈け出したイリヤはその先に2つの人影があることにも気付かぬまま走り続け。

やがて、まるで突撃するかのような衝撃と共に人影を吹き飛ばし、その反動で倒れ込んだまま意識を失った。




647 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:33:34 XJxGhC.o0


「くそ…、どこだ……?!」

全力で駆け出していたイリヤを追っていたキリト。
しかし彼女の足は想像以上に早く、見失わないようにするのが精一杯だった。

(さっきの俺もこんな感じだったのか…?)

思い出すのはモモカを殺したあの時、逃げることしか考えていなかった自分。
あの時はそれこそ疲労すらも気にしないほどに全力で駆けていたからこそ気にすることもなかったが、今の状態ではそうもいかない。
疲労は確実に感じており、それがイリヤを追う足を確実に遅めていた。

(でも、だからって…)

見捨てられるわけがなかった。
いや、あの時逃げてしまったからこそ、今度こそはと思っていた。

これはゲームではない。SAOのあの時と一緒だ。
やり直し、コンティニューはできないのだ。
死んだ人間のこと、人を殺したという罪。それらは全て背負って生きていかねばならない。

だからこそ、手を伸ばせる限りは守りたいとそう思ったのだ。


そうして、必死でかけ続けるキリトの視界の先に二人の人影が映り。
イリヤがそれと衝突して倒れ伏せる光景が入った瞬間、キリトの駆ける速度は増していた。



「痛た…」
「この子は…?」

地面に尻もちをついた穂乃果、そして倒れ伏した白い少女を見る黒子。

地面に倒れた少女は歩く二人の元に突如現れ、穂乃果と衝突した後で気絶したのだ。

「高坂さん、大丈夫ですの?」
「私は大丈夫。だけどその子は?」
「特に怪我をしている、という感じでもありませんわね。
 ぶつかる前のあの必死な感じといい、何かから逃げているかのようでしたが。
 ……高坂さん、後ろに」

何かに気付いたかのように穂乃果を自分の後ろに下げる黒子。
その視線の先から現れたのは、全身が真っ黒で尖った耳が特徴的な一人の少年だった。

「…大丈夫だ。俺は殺し合いなんかに乗ってない」

自分たちの様子を見ていて何かを察したのだろう。
少年は背負っていた刀を地面に置きながら、警戒を解こうとするかのようにそう答えた。

「その子は……」
「大丈夫ですわ。気を失っているだけです」
「よかった…。俺はキリト。その子のことも含めて何があったのかを話しておきたいんだが、大丈夫か?」
『そうですね、私としてもイリヤさんがどうしてこうなったのか少し整理させていただきたいですし』

と、イリヤの髪の中から星形の何かが飛び出した。
一瞬驚く黒子と穂乃果に対して物体、カレイドステッキ・ルビーがかくかくしかじかと説明して自分の存在を説明した。

「…魔術、というのですわね。俄には信じがたいですが」

やはり魔術という非科学的なものについて語られて困惑する黒子。
しかし黒子も穂乃果も、ホムンクルスや帝具という様々な未知の存在と遭遇している。
その中の一つなのだとすれば、案外すんなりと受け入れることができた。


648 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:34:15 XJxGhC.o0

「それで、この子に何があったんですの?」
「いや、俺にも分からないんだ。さっきいきなり目が変に光ったかと思うと豹変したみたいに……人を殺したんだ」
「殺したって…、こんな子供が…?」
『…はい。私としても何が何だか分からないですが、その説明自体は事実です』
「何があったのか、詳しく教えていただいてもよろしいですか?」

キリトは差し当たってイリヤ周りで起こったことに限定してルビーと共に説明を始めた。
殺した少年、戸塚と同行していた黒という人物に対して突如拒絶反応を示し始めたこと。
その逃げた先でエンブリヲなる人物に囚われてしまったこと。
捕まった彼女を助け出すために戦い、そして一安心といったところで突如イリヤが槍を構えて疲労困憊の人物を殺そうとしたこと。
そして、そんな彼を庇って戸塚は命を落としたこと。

「…一つ聞きたいのですが、それはそのエンブリヲなる者に何かされたから、ということは考えられないんですの?
 例えば、操られていたとか」
「その可能性は……どうなんだ?」
『いえ、分かりません。見落としていた可能性こそありますが、しかしあの変態がそんなことを果たしてするかという疑問も…』
「…ではもう一つ。ルビーさん、それ以前にあなた方が会われた方々についてお聞きしてもよろしいですの?
 少し心当たりがないわけでもないですの」
『分かりました』

ルビーは、ここに来て以降のそれまでに会った人達についてのことを話し始めた。





意識が覚醒する。
どうやら少し眠っていたようだ。

何故こんなところで眠ってしまったのか。

ズキン、と痛む頭を抑える。
どうやら転んでしまった時の打ちどころが悪かったようだ。

何故転んだのか。
意識を失う前の記憶を呼び起こす。

放送が流れ、その中で呼ばれた名前。

渋谷凛。
エンブリヲに連れ去られた、ほんの僅かとはいえ共に行動した少女。
間に合わなかったのか。

そして、

「モモカ……」

その直後に呼ばれた名前。
自分に仕えていた侍女。小さな頃からずっと傍にいてくれた存在。

何かの間違いだと思いたかった。
一度タスクと共に彼女が死んだと思った時も結局生きていた。
だから今度も生きているだろうと、そう思いたかった。

だが、巴マミ、園田海未。そのしばらく後で呼ばれた二人が自分の目の前で命を落とす姿をはっきりと見ていた。
真実の中で嘘を混じえたところでただ放送の真偽を疑わせるだけ。そうなれば死者の放送そのものが無意味となる。
つまり、モモカは自分の知らぬところで確かに死んだということになるのだろう。

その事実に打ちひしがれていくうちに、足元も覚束なくなり、ふとした拍子に転んだまま受け身を取ることもできず意識を失っていた。
それが現状の原因だったのだろう。

「モモカ…、モモカ……っ!」

エンブリヲを追うことも忘れて、失ったものに対する想いに胸を締め付けられるアンジュ。
戦いが終わり、全てが平和になって、喫茶アンジュを開いて、ようやく穏やかな日々が過ごせると思っていた。

なのに、エンブリヲは未だこの場で生きていて、サリアはまだそのエンブリヲに心を囚われていて。
そして、モモカは。

だけど、だからといって立ち止まることはできない。
今までもそうだったように、戦いが続くのならば戦い続けるしかない。

だから。

「モモカ……ごめんね、次にあなたに会えるのはずっと先になると思う」

こんなところで死ぬつもりはない。
だからもしモモカと会える時は、おばあちゃんになって死ぬ時なんだろう。
きっと子供や孫に見送られながら、できればタスクも傍で看取ってくれながら。
ベッドの上で穏やかに死ぬ時に、やっと会えるようになるのだと思う。

「だから、それまで待っててね」




649 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:34:57 XJxGhC.o0

「食蜂操祈……。やはり彼女と会っていたのですわね」
「知り合いなのか?」
「一応は。話に聞く程度ですが、私と同じ学校にいるレベル5の超能力者ですわ。
 能力は心理掌握(メンタルアウト)。読心や洗脳、記憶操作能力においては学園都市最高クラスの能力者です」
「洗脳……、もしかして…」

穂乃果が眠り続けるイリヤを心配そうに見つめる。
もしこの子に何かしらの条件をトリガーとして人を殺すことを組み込まれているのだとしたら。

「ですが果たして彼女はそのようなことをする人だったでしょうか……。
 ルビーさん、その同行していたDIOという方も危険な方ではなかったのですわね?」
『はい。イリヤさんは全幅の信頼を寄せられている人ですね。人間でないなりに優しくしてもらっていたということで』
「…それだけでは信用に足るものではありませんわね……」

例えばの話だが、先に会った槙島聖護。あの男もそうだ。
もし彼が穂乃果や自分を気に入らなかったら殺すだろうという仮定があったとしても。
それに気付けなければ彼はあくまでも穂乃果を優しく諭してくれた人としか見えない可能性もある。

「一旦保留ですわね。しかしだとすると今の彼女はそのスイッチがいつ入ることになるかが一切読めないという危険な状態ということになりますが」

と、黒子はキリトへと視線を移して問いかける。

「しかし見捨てるつもりはないのでしょう?」
「当たり前だ、こんな小さな子を放っていけるわけないだろ。そんな危ない状態だっていうなら尚更だ」
「同感ですわね」

問いかけに対して迷いなく答える二人。
むしろそのような状況にあるのならば見捨ててしまえば被害の拡大に繋がってしまうだろう。それならば手元に置いておき見守っておいたほうが被害を防ぐという意味ではよほど安全だ。
それに何より、こんな子供を放置していけるほど冷酷な性格をしている二人でもない。

「それでここから南にいるという皆の話ですが」
「ああ、みんな散り散りになってる。黒はエンブリヲを追って「エンブリヲ様!?」

と、そのキリトの口からエンブリヲの名が出た時、突如一人の少女の声が3人の近くで叫ばれるのを耳にする。
驚いて振り返ったキリト達の目前には、黒い服に身を包んだツインテールの女。

「教えて!エンブリヲ様はどこにいるの!?」
「な、何ですのあなたは!?」
「落ち着け!」

キリトの肩を掴んでそのまま怒鳴りかからんというほどの勢いで話すその女。

(…やっぱりゲームのようにはいかないか)

もしこれがゲームの中であれば気配察知の能力も使えたのだろうが、今はそんな能力を使える環境にはいない。
改めてゲームとこの場所での違いを実感するキリト。

そんなキリトの目の前で焦るようにしつつも落ち着きを取り戻した少女は自分の名を名乗る。

「…悪かったわ。私の名前はサリア。アンタ達は?」
「俺はキリトだ」
「白井黒子ですわ」
「高坂、穂乃果です」
「黒子に、穂乃果、ね…」
「どうかなさいまして?」
「何でもないわ。それよりエンブリヲ様の居場所、知ってるんでしょ?!教えて!」

しかし名乗り終わった途端、再度キリトに掴みかからんばかりの勢いで

「お待ちなさい、エンブリヲとは―――」

黒子がサリアに対して問いかけようとした時、キリトがサリアに見えない位置から、人差し指を口元に当たる場所へと重なるように出していた。


(…?どういうつもりですの?)

黒子達はエンブリヲという男の所業をキリトから聞いている。
そのエンブリヲに対して様付けで呼ぶような女が安全とは思えない。

「その前に、君はどこから話を聞いてたかな?」
「たった今通りがかったところよ。そしたらエンブリヲ様の名前が聞こえてきたから」
「分かった、それじゃあ情報交換としよう。君がこれまでにあった出来事を全部話してくれたら俺たちもエンブリヲの居場所を教えよう」
「…分かったわ」

(なるほど、先に情報を聞き出して、ということなのですわね)

納得したように沈黙する黒子。
穂乃果は分かっていなかったようで、サリアの視界の外で静かに口元に指をやってジェスチャーをする。

こうして、サリアとの情報交換が始まった。


650 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:35:25 XJxGhC.o0

「まず、最初にここに来てから変な男に襲われたわ。
 尖った耳の、そうね、ちょうどアンタみたいな感じのね」
「…?俺みたいな?まさかアバター…?」
「血を飛ばしてきて、それに触れたら体を削られるのよ。
 それで私庇われてね。八幡っていうやつが死んだわ」
「血を飛ばして体を削る、ね…」


「それでその後アカメっていうやつと遭遇してね、一緒に埋葬したの。
 その直後だったかしら。電撃を撃ってくる、そう、ちょうどアンタと同じ服を着た女に襲われたのは」
「……!」

黒子の顔が歪む。

「その直後だったかしら。槙島聖護って男に会ったのは。私もちょっと油断してたのかしら。
 不覚を取って攫われてしまったのよ。恥ずかしい話よね。
 幸い、泉新一が助けてくれたんだけど。
 で、その後だったかしら。場所は確か、音ノ木坂学院だったけど」
「音ノ木坂学院…?!」

その単語に穂乃果が強い反応を示す。

「巴マミと園田海未っていう二人に会って、そうね、あとそこに浮いてるステッキ、あんたも見覚えがあるわ」
「海未ちゃんが…!」
『サファイアちゃんに会われたのですか?!』
「…よくは分からないけどね、その持ち主だっていう、確か美遊とか言ってたけど。あの子の死体もあそこに置いてあったわ。
 確か殺したのは、キング・ブラッドレイって言ってたかしら」
「――――!」

思わずその名に顔を見合わせる穂乃果と黒子。

「それで、その後田村玲子と西木野真姫と、あとアンジュってやつが一緒に来たんだけどね。
 ……ちょっと、それでね」

そして顔を伏せて言い辛そうな表情を浮かべたサリア。
その顔で何があったのかを察するのは難いことではない。

「…死んだんですよね、海未ちゃんが」
「……ええ」
「殺したのは、誰なんですか?」

硬い声で問いかける穂乃果。

「…殺したのは、アンジュ。私の昔の仲間だった女よ」

そして絞りだすような声で、サリアはその質問に答えた。






「へえ、誰が殺した、ですって?」


651 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:35:57 XJxGhC.o0
と、そこで聞こえてきた声に振り返った一同。
そこにいたのはカッターシャツにベージュのベスト、赤いストライプの入った青いスカートという制服のような服を着込んだ短い金髪の少女。
それが音ノ木坂学院の制服であることを穂乃果と黒子は知っている。
まるで怒りでも浮かべているかのように、こめかみをピクピクとさせながらこちらを、正確にはサリアを睨みつけていた。

「アンジュ…!」
「しばらく会わないうちに随分と嘘が達者になったのね、サリア。
 エンブリヲの犬は随分と舌が回るようになってるってことかしら?」
「アンジュ…?あなたが…?」

戸惑うように金髪の女・アンジュを見つめる穂乃果。
そんな穂乃果の質問に答えるように、アンジュは穂乃果をチラリと見て答えた。

「そうよ。私がアンジュ。あんたの友達を死なせた原因の一つ。
 だけど、それが全部ってわけじゃないわよ。
 確かにあの時の二人のことは私にも責任はある。だけど、実際に死なせたのは―――」
「黙れアンジュ!それ以上口を……!」
「あんたでしょ、サリア」
「嘘を言って!あんたが殺したのよ!あの二人を!」

互いに罪をなすりつけあうように叫ぶサリアとアンジュ。
アンジュは冷静を装うように自然な口調で話すが、しかしサリアは激情にかられるように話している。

「ねえ、アンタ達なら、私のいうことを――」

と、信頼を求めるかのようにキリト達の方を向き直したサリア。

しかしキリト達は既にサリアから距離を取っていた。
まるで、サリアのことを警戒するかのように。

「悪いけど、アンタのことは最初からあんまり信用はしてなかったんだよな。
 だって”あの”エンブリヲを様付けで呼ぶやつなんて、いくらなんでも、な」
「…っ!そう、アンタ達も、アンタ達もエンブリヲ様の敵なのね」

冷たくそう告げたサリアは、銃口を離れた穂乃果へと向けて放つ。
乾いた音と共に放たれる銃弾を、黒子が咄嗟のテレポートで回避。
そのままサリアのすぐ傍まで移動、同時に駈け出し追いついたキリトもまた取り押さえようとし。
しかしその視界はサリアの翻した黒いコートによって遮られた。

キリトは直感的に剣の鞘を構えた、その瞬間コートを貫くような形で銃弾がキリトへと飛び掛かり。
反対側の黒子に向けては鋭い蹴りが放たれて、その体を後ろへと弾き飛ばす。

後ろに下がった二人が態勢を立て直した時、サリアの両腕には手甲のような武器が装着されていた。

「エンブリヲ様の邪魔になるっていうなら、皆死んでしまえばいいのよ…!!」
「情報交換の時に仰られたことは全部嘘ということですの?」
「ふん、一応アンジュと関係のないところは本当のこと言ってたつもりよ」

サリアにしてみればそれが敵を増やすという行為にならない限りはみだりに嘘を言ってしまえば敵を増やしてしまうことは分かっている。
ただ一つ、アンジュに関することに嘘をつき、それがアンジュの怒りに触れてしまった。それが問題だとサリアは思っていた。
既に最初の、エンブリヲに対しての信頼をしていたところから間違っていたとは微塵も思ってはいない。
サリアにとってはエンブリヲを認めないものこそが悪なのだから。

「だけどこれまでね。アンタ達のことはセリューから聞いてるわ。それにアンタも、エンブリヲ様の邪魔にもなりそうだって言うならここで殺すしかないわ」

言うが早いか、サリアはその手甲から雷の弾を射出。
黒子は穂乃果を庇いつつテレポートで移動、イリヤを抱えた穂乃果を雷撃の弾から防ぐことができる建物の影へと潜ませた。


652 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:36:32 XJxGhC.o0
キリトはその特性が電撃であることを確認したことで態勢を防御から回避へと変更。
速度こそ避けられないものではないが、その放たれる弾数に限りが見えない。

避け続けるだけでは消耗戦となってこちらが不利だ。

アンジュが自身を狙う雷弾を避けながら手にした銃を撃ち出す。
しかし銃弾はサリアの前面に展開された雷の盾が防ぎ届かず。

盾を収めた瞬間すぐ傍にテレポートで移動してきた黒子がこちらの体を取り押さえようと迫る。
雷球を撃ち出すにはあまりにも近すぎる距離。

「鬱陶しい、のよアンタ達!!」

しかしサリアは今度は全方位に向けて一斉に電撃を放出。
周囲の地面を焦がす電流が黒子の体を捉え、その動きを止める。

「ぐ、あっ…!」

体を貫く電流に悲鳴を上げる黒子。

しかし放電を止めたサリアの、その左の手甲に黒子の手が触れ。
次の瞬間、左腕に装着されていたアドラメレクは30メートル離れた地面へと移動していた。

「あんた…!」
「残念、ですわね…、私、電撃を受けるのには、慣れていますのよ、っと!!」

そのまま左側の頭上へとテレポート、重力に任せたドロップキックを放つ。
左腕で受け止めるが、素手で受けたその衝撃は強く足は自然に後ろに後退する。

「うおおおおおおおおおおっ!!」

その隙をつくかのようにキリトが突撃。
鞘に収められたままの刀をその体に叩きつける。

「―――がはっ」

その衝撃で息を吐き出すサリア。
しかし次の瞬間、怒りを叩きつけるかのように周囲に雷撃を放出。

後退しその攻撃範囲から逃れる黒子とキリト。



「ち、全く。改めて見てもサリアのやつ、なんてもの持ってんのよ…!」

キリトの後退先近くで吐き捨てるようにぼやくアンジュ。
拳銃一つでどうにかできる武器ではなく、かといってあれの一撃で一度痛い目を見ている以上近付くことも難しい。

あのエンブリヲを連想する転移能力を使う黒子はまだしも、そういったものがないにも関わらず率先して接近戦を挑んでいくキリトには関心する思いだ。

だが、だからこそ一つだけ解せないこともある。

「…ねえ、何であんたその剣を抜かないのよ?」
「……」


653 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:37:42 XJxGhC.o0
さっきから接近戦を挑むにも関わらず、この少年は剣を鞘に仕舞ったままで戦っている。
見たところ剣技に関しては素人とは思えない立ち回りをしている。タスクにも負けない、いや、それ以上のものがあるだろう。
命を奪うつもりがないにしても急所を避けるなど狙い所はあるはずだ。
なのに、ずっと剣を抜いていない。

ずっと気になっていたのだ。

「…この刀は、人に少しでも傷を負わせるとそこから呪いが発生して命を奪う、危険な武器なんだ。
 それで、俺は実際に一人の人間の命を……」

―――アンジュリーゼ様…

ふとキリトの脳裏に浮かび上がってきた、あの時の少女が最期に呟いた名前。
そして、今近くにいるこの人は何という名だったか?

「なるほどね、それで下手に振るうと命を奪うかもしれないから怖いってわけ」
「…………」
「分かったわ、ならそれ私に貸しなさい。あんたが持っているよりは少しはマシに動かせるでしょうし」

果たしてこれは今言うべきことなのだろうか。
優先すべきはあのサリアを取り押さえることのはず。
だが、そうなれば彼女は自分の仲間の命を奪った剣を振るって戦うことになってしまう。
果たしてそれが正しいことなのか。

「……アンジュって言ったよな、あんた。
 モモカって名前に、心当たりはあるか?」
「モモカ?!あんた、モモカを知ってるの!?」

その名を出した瞬間、掴みかからんばかりの勢いで詰め寄ってきたアンジュ。
どうやら思った通りだったようだ。

ならば、俺は。

「ああ」

その罪と、向き合わねばならないのだろう。

「俺が、殺した」



(…く、お姉さまのものと比べればどうということはないとはいえ…、連続して受けるのはキツイですわね)

幾度となく放たれた雷撃は確実に黒子の体の痺れを蓄積させていた。
麻痺が黒子の動きをかなり鈍らせており、黒子自身の肉弾戦の能力に著しい障害を与えている。
幸い、転移能力を使うこと自体は可能であるため、幾度となく打ち出される雷球や雷撃に対する対応はできている。

とはいえ今まで使っていたような金属矢のような武器が手元にない。

「ちょこまかと…!」

目を見開いて手元の雷球を溜め始めるサリア。
その目の前に、黒子は地面から拾った砂を転移。
サリアの目に入った異物が彼女の目を閉じさせその視界を封じる。

「っ!よくもぉ!!」

閉じられた目のまま周囲に雷を乱射し始める。
狙いが定まらぬままに放たれる雷球は、しかし逆に不規則で射程を読むことができない。

視界を塞がれた隙に建物の影へと移動。
壁に雷が衝突する度にコンクリートが砕ける。
どうやら完全に見失っているようだ。少なくともこのまま痺れが取れ動けるようになるまでこうして待機する間は欲しい。


654 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:38:06 XJxGhC.o0

「お姉さまでもここまでの乱射は疲労は免れないはずなのに…、どうやって…」

もしあれがあの篭手による攻撃であるとするならば、何かがその力の源となっているはずだ。
篭手自体に貯められたエネルギーか、あるいは使用者自身の体力や生命力か。
しかし後者であるならば彼女に全く消耗の気配が見られないことがおかしい。
前者であるならばエネルギー自体が膨大である可能性も考えられるが。

壁からほんの僅かに顔を覗かせて後ろの様子を探る。

目を擦りながら周囲に電撃を放出し続けるサリア。
その手の内に何か小さな赤いものが見えた気がした。
まるで生き物の血をイメージさせる、赤く光る石のような何か。

(あれが、もしかして)

あれさえ取り押さえれば、この止むこともない猛攻も抑えることができるかもしれない。

手を数度開閉させる。
痺れは残っているが行動に支障が出るものではない。
逆にこの痺れが痛みに対する麻酔ともなる。

「行きますわよ…!」

壁から飛び出すと同時、サリアの閉じられた目が開き。
それまで乱射されていた雷球が弾を節約するように狙いを定めて放たれる。
しかしそれをテレポートで避け、その死角に移動し。

「何度も同じ手を、喰らうかぁ!」

幾度と無く同じやり方を続けたことでサリアにも対応する手段を確立済みだった。

周囲の全方向に、死角がなくなるほどの電撃が放出。

上下左右の数メートル間全てを覆う雷。
それはサリアを中心として円を描くように放たれたものである。

はずだった。

「ぎ…!がっ……!」

そんなサリアの足元。
本来であれば巻き込まれるはずのないサリア自身へと、電撃が伝っていた。

彼女の雷が放たれている範囲、その電気が伝う場所。
そこには落ちたペットボトル、その口から漏れ出た水が地面に水たまりを作っていた。
その水はサリア自身の、電気を受ける彼女の足元に。

(以前お風呂でお姉さまの電気を受けた時は酷い目に会いましたものね)

アドラメレクからの放電を止めたその瞬間、サリアの頭上からドロップキックが迫りその体を吹き飛ばした。

同時にその手から赤い石が離れ、地面へと落ちる。

「…賢者の石が……!」

落ちた賢者の石を慌てて拾いに行こうと、痺れる体に鞭打って動くサリア。

そしてそんな彼女の先に回って石を拾いに向かう黒子。

二人は互いのことに夢中で、周囲の状況把握が疎かになっていたところもあった。
だからこそ、遅れてしまう。

そんな二人の近くで、戦いに混じらぬ場所で。
拳銃を構えている一人の少女がいたことに。





655 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:38:37 XJxGhC.o0

私には何が何だか分からない。
あのサリアって人がどんな人なのか、アンジュって人が何者なのか。

あんな電気を出す武器を前に、私に何ができるのかも分からない。

でも、そんな私でも一つだけ分かっていることがある。

この人が、今目の前で白井さんや皆を殺そうとしているこの人が。


―――――海未ちゃんを、殺したんだ。



その告白をした直後だった。
反転した視界と共に、自分が地面へと押し付けられていたのは。
仰向けに倒れたキリトの眼前にあるのは黒光りする銃口。

そして、それを突き付けているのは、他の誰でもない、アンジュだった。

その食いしばるような表情でキリトを睨むその顔にあるのは憎悪か、それとも怒りか。
あるいはその両方か。

「…………」
「…………」

しかしその引き金が引かれることはなく、沈黙の時間が過ぎ去る。
周囲に響く、黒子とサリアの戦いの音も意識に入らぬままに。

「……でよ…」
「………」
「何でよ……」
「すまない…。全部、俺の責任だ」
「何でよ!!何でアンタみたいなやつが、モモカを殺したのよ!
 何で、そんな顔できるやつが…、モモカを……!」

いっそ殺した相手がどうしようもないクズだったのなら。
この引き金を引くことを迷ったりなんかしなかったのに。
まだ、迷いなく仇を討つことだってできたのに。

「………全部、一から全部説明しなさい。
 何があったのか、どうしてモモカを殺したのか、全部。
 嘘を言うことは許さない。本当のことだけ、話しなさい」
「…分かった」

銃口を離さぬまま。仰向けのキリトに馬乗りとなったまま。
キリトは何があったのかをゆっくりと話し始めた。



バランスを崩したサリアの体が地面に倒れこむ。
黒子がその銃声の主へと目をやると、そこにいたのは拳銃を構えた穂乃果の姿。

そして、放たれた銃はサリアの脇腹を掠めるように横から撃ち抜いていた。

「…はぁ……はぁ……」
「高坂さん…?」

さっきまでずっと隠れているようにと指示したはずの彼女がどうして拳銃を構えて立っているのか。

「っ、よくも――――」

口を開きかけたサリア、しかし再度銃声が鳴り響いてその口を止めさせる。
狙いすらも定まっていなかった銃弾は起き上がろうとしたサリアの数センチ先の地面に凹みを作っている。

「…動かないで……。白井さんも、お願い」

感情のこもらぬ口調での懇願。しかしその奥にある強い想いを感じ取った黒子が開こうとした口が止まる。

「サリアさん、あなたなんですよね?海未ちゃんを、殺したのは」
「…私じゃないわよ」
「嘘を言わないで!!」
「本当よ!私が狙ったのはアンジュ!周りのやつはそれに勝手に巻き込まれそうになって。
 そいつらを庇って勝手にくたばっただけよ!」
「じゃあ結局あなたのせいじゃん!!」

サリアを問い詰めるように、銃口を構え直す穂乃果。
今度は反動で手が変な方向に向くことがないように。

「いけません、高坂さん!それ以上は!」
「邪魔、しないでよ!こいつさえ、こいつさえいなかったら海未ちゃんは…!」

テレポートで取り押さえることは難しくはない。
しかし今の彼女はとても情緒不安定な状態。もし万が一彼女を抑えようとした時に銃が暴発でもしてしまえば。

もしいつものように金属矢の一本でもあれば、拳銃を破壊することで対処できたはずだというのに。
いや、もしそれをやったとしても穂乃果はきっと諦めはしないだろう。

だから、この場は下手に取り押さえるよりも穂乃果自身を説得するしかない。

「高坂さん、その怒りは私にも理解はできます。ですが、だからといってその怒りに任せて撃ってしまえば、あなたはもう戻ることはできませんのよ?」
「…今更、どこに戻れっていうの?
 ことりちゃんも海未ちゃんも、もういないんだよ?」
「だからです。あなたはセリュー・ユビキタスのような人とは違うのでしょう?
 それに忘れたのです?あの時その復讐心に身を焦がしたマスタングさんがどんな過ちを犯したのか」
「…………」


656 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:39:30 XJxGhC.o0

思い返す、エンヴィーに怒りをぶつけるマスタングの姿。
あの時穂乃果は確かにマスタングのその姿には恐怖心を持っていたはずだ。

それを知っているならば、それと同じ道に落ちてはならない。
そう黒子は告げる。

だけど、それでも。
理不尽な死を与えられた親友の仇に対する怒りは、ことりの生そのものを侮辱したセリューに匹敵、いや、理不尽に殺されたという一点ではそれ以上のものを与えていた。


「彼女は私が対処します。だから、高坂さんは―――」
「槙島さんは言ってたもん…。自分で選ばなきゃいけないって…!
 セリューの時みたいに逃げてばっかりじゃダメだって!」

彼はきっとこのためにこの拳銃を自分に渡したのだ、と。
穂乃果は槙島に対して少なくない感謝の念を抱くほどに、目の前の仇に対する殺意を募らせていた。

――――親友を殺した者へ復讐を誓うのか。親友の想いを想像し、自分の中の彼女たちに殉じるのか。
――――どの道を選ぶのも君の自由だ。だが、選ばずに逃げる事だけはしてはならない。
――――そうして魂の輝きを見せた友人たちを悼むのなら、君は強くなる事が出来るだろう。

(そうだ、私は、この人を…許せない)

許せないのなら、どうするのか。

そう、きっとこの人を生かしておけば、この先もっとたくさんの人を殺すんだろう。
もしかしたら、真姫ちゃんや花陽ちゃんも。

だから。

「だから、私は、あなたを――――――」
「いけません!」

もう説得では間に合わない。力づくで止めなければならない。
引き金にかけた指に力をこめようとする穂乃果に向けてテレポートを発動させようとし。


黒子が思っていたよりも、そして転移を発動させるよりも僅かに早く、一発の銃声が響いた。










「全く、何て顔してんのよ、あんた」


657 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:40:40 XJxGhC.o0
穂乃果の手からは拳銃は離れて地面を転がっている。
そしてそんな穂乃果から少し離れた場所に立ち、銃を構えたアンジュが穂乃果へと話しかけていた。

「キリト、あんたはサリアを見張ってなさい。あの子は私が話をつけるから」

その後ろに立つ黒い少年に向けてそう言いながら、アンジュは穂乃果の元に歩み寄る。

「…邪魔、しないでください」

銃を撃たれ、その衝撃でサリアを殺す手段を奪われた穂乃果は怒りを向けてアンジュを睨みつける。
しかしアンジュはそんな穂乃果に臆する様子も見せることなく。

「そいつを殺したいっていうなら私がやるわ。ここまでになったらもう説得ってのも無理みたいだしね。
 だからアンタはサリアの死体の顔を蹴ったりすればいいわ。それくらいの権利はあるもの」
「違う、私が、私がやらないといけないんです!だって、この人は海未ちゃんの――――」
「どうしても殺したいっていうなら、私を撃ってからにしなさい」
「え…っ」
「そいつは一応、私にとっては仲間みたいなものだったんだし。
 それにさっきも言ったけどそいつが暴れることになったのは私のせいだもの。半分くらいは私もあんたの友達の仇よ」

と、アンジュは穂乃果に銃を投げ渡しながら未だ動けぬサリアの前に立つ。
抵抗する意志もないことを示すように、その手には何も握られていない。

「何のつもりかしらアンジュ」
「あんたは少し黙ってなさい」

正直、らしくないことをしているという自覚はアンジュにもあった。

別に復讐がダメだとか、人を殺してはいけないとか。そんな綺麗事を言うつもりは本来であればない。
だが、復讐の対象が仮にも自分の仲間だったはずの人間で。
それが目の前で行われようとしていて。
さらにその復讐の一因に自分も関わっているというのであれば。

そこから生じた責任から逃げるようなことはしたくはなかったのだ。

この少女の怒りは理解できる。だからこそ、放っておくこともできない。

「ほら、どうしたの?仇が目の前にいるのよ?撃たないの?」
「………っ」
「撃てないのなら止めておきなさい。
 あなたには、人の命は背負えないのよ」

震える穂乃果の手の拳銃を握るアンジュ。

「西木野真姫から聞いてるわ。大切な友達だったってことも知ってる。
 だけど、もしそれで撃ったらあなたはまだ生きてるあの子と同じ場所にはもう立てないわよ」
「…あなたに、何が分かるんですか」
「分かるわよ。だって私も大切な人を放送で呼ばれてたんですもの」

と、アンジュは視界の端に佇む黒い少年へと目を向ける。

「小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた従者だったのよ。
 どんな時も私を信じて、慕ってくれて。世界の全てが私を見捨てて裏切った時だって、あの子だけは私の味方でいてくれた。
 そんな子がね、そこのチンチクリンに事故で殺されたってのよ」
「チンチクリンって……」

暗い表情を浮かべつつも肩を竦めるキリト。


658 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:41:00 XJxGhC.o0

「恨んで、ないんですか?」
「恨んでるわよ。決まってるじゃない。
 だけどその恨みを除いたらこいつを殺す理由が見つけられなかったのよね。殺し合いに乗ってるとか、そんな風でもないし。だからただの仇討ちなんて八つ当たりにしかならない。
 でもそんな八つ当たりしたってモモカは帰ってこない。むしろ殺したこっちの寝覚めが悪くなるだけよ。
 だから言ってやったわ。本当に悪かったって思うんなら、私に許されるその時まで必死で罪滅ぼしになるくらい生きて償えってね。
 だってこんなやつ殺したってさっぱりもしなさそうなんだもの」
「…………」
「その銃、渡してくれるかしら?」

穂乃果の震える手は、それでも銃を離そうとはしない。

「でも…、向き合わなきゃいけないって、逃げちゃいけないって、槙島さんも……」
「その言葉自体、あんたの選んだものじゃないんでしょ?何言われたか知らないけど、自分の気持ちをいちいちそんな男に言われた通りにして、それがあんた自身の選択だって言えるの?
 私なら、そんな選択なんてごめんよ」
「ぅ……」

息を詰まらせる穂乃果。
そのまま動かない彼女に向けて、黒子が静かに歩み寄る。

「高坂さん、銃を下ろしてくださいます?」
「……………」
「ねえ、穂乃果、だったかしら。あんたの友達、最期に何て言ってたか思う?」

―――――生きて、真姫。私たちのμ'sを、どうか―――

「最期まで、助けた友達と、アンタ達の仲間のことを心配していたわ」
「………っ」

穂乃果の脳裏に浮かび上がる光景。
それはどんな時も一緒にいて、自分やことりのことを見守ってくれていた少女の顔。
いつも自分の無茶に付き合わせて色々迷惑もかけてきて。

でも、そんな自分のこともいくら迷惑をかけても付いて行く、だからその無茶で見たことのない世界へと連れて行って欲しいと言ってくれた。
そんな、ことりに並ぶ大切な存在だったのだ。

「心配だって言うなら、傍にいてよ…!…ずっと一緒だって、そう約束したのに、何で死んじゃうの…!
 海未ちゃんの馬鹿、馬鹿ぁ…!」

銃を下ろすと同時に崩れ落ちる穂乃果。
その目からはひっきりなしに涙が流れ落ちている。

「…!アンジュ!」
「さて、残ったのはアンタだけ、ど!!」

と、振り返ると同時、その背後にあった銃口に向かい合うように手の銃を向けるアンジュ。
痺れが取れた様子のサリアが、腹の傷を庇いながらその手に握りしめた拳銃を向けている。

「あら、さっきみたいに雷、撃たないのかしら?」
「うるさい、アンタ一人だけにいちいち無駄な体力使ってられないのよ」
「撃つ前に幾つか聞かせて欲しいんだけど。アンタ、今日の日付がいつか言える?」
「はぁ?何言ってんのよ」

怪訝そうな顔を浮かべながらもアンジュの質問に答えるサリア。
その答えを聞いて、アンジュはやはりという顔を浮かべる。


659 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:42:11 XJxGhC.o0

「やっぱりね。アンタ何も知らないのね。エンブリヲの本性も、ジルが何を背負ってたかも」
「何言ってんのよ」
「聞きなさいサリア。アンタはエンブリヲにとってただの使い勝手のいい駒なのよ。
 その気になればいつでも捨てられる、替えの聞く着せ替え人形。
 ねえ、あんたの大根騎士団にいた子達、最期はあの男にどんな扱いをされたか、知らないでしょ。
 あんたよりも未来から来た私なら知ってるのよ?」

あの決戦の中で、サリアの部下はエンブリヲの捨て駒としてラグナメイルの操縦権を奪われ、ドラゴン達の餌食となって食われていくあの光景。
その中でのサリアの絶叫は本物だった。

「嘘を言わないでよ。エンブリヲ様がそんなこと、するわけがないじゃない」
「ジルもその一人だったのよ。そうして捨てられ、部下も仲間も愛も、全部を失った。アンタが同じ道を行くのも目に見えている、いえ、実際にそうなった。
 アンタはそれでもエンブリヲに従えるの?」

もしあの出来事の後で尚もエンブリヲに従うどうしようもない女だったら迷わず撃てただろう。
しかし、まだエンブリヲに裏切られる未来も知らないサリアであるのならば可能な限り手を尽くしたいと、そう思っていた。
あの時、ジルが、アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツがそうしたように。

「ハ、バカ言わないでよ。あんたみたいな奴の言うそんな見え透いた嘘なんて、信じると思ってるの?」
「サリア……!」
「アンタには分からないのよ!ヴィルキスを奪ってリベルタスの要なんて呼ばれるようになってエンブリヲ様にも愛されるアンタなんかには!
 私にはもうエンブリヲ様しかいないのよ!」
「………私、あなたのような人間は随分と見てきましたわ」

と、そのサリアの絶叫に対し、黒子が口を開く。

「他の皆と比べて自分なんて、と。そんな風に自分を虐げた末にチンピラと化した学生は風紀委員としてたくさん見てきましたけど。
 今のあなたは、まるで彼らみたいですわよ」
「私が、チンピラですって…!」
「少なくとも彼らと同等、とは言えますわね。
 自分を認めない世界なんていらない、自分の居場所を守るためならどんなこともする、と。
 そうやってちっぽけな自分のプライドに固執してばかりの輩の」

認められないものの気持ちは黒子には一端を理解することはできても決して共感することはないだろう。
黒子自身は持っている者なのだから。だからきっとサリアの気持ちも理解できはしないと思う。

「ですが、そんな中でも自分なりの生き方を見つけて努力を続ける人はおりますわ。
 どんなに能力が低くても、その自分に出来る限りのことをして頑張ろうとする人は」
「私だって、死ぬ気で頑張ってきた。だけど誰も私のことを認めてはくれなかった!」
「 だからと言ってそのエンブリヲなる男への愛のために、他の皆を傷つけて、それでいいと思っておられるんですの?」
「ええ。エンブリヲ様の作る世界のためですもの。ある程度の犠牲はつきものよ。
 それに、エンブリヲ様の気が向けば生き返らせてもらえるかもしれない。モモカも、そこのアンタの友達も」

そのあまりに心ない言葉に、穂乃果は立ち上がりアンジュはサリアの顔スレスレの位置に発砲する。
あまりに不意すぎた発砲に思わず銃を地面に取り落とすサリア。

「ことりちゃんや海未ちゃんの命を、そんなおもちゃみたいに言わないで!」
「次にモモカを穢すようなこと言ったら、その脳天ぶち抜くわよ」

それでもその銃の直撃を避けたのはアンジュなりにまだ殺すべきか否かを図っているということだろう。


660 : さまよう刃 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:42:50 XJxGhC.o0

「っ…」
「だけど私は、そんなろくでなしのアンタでもまだ見捨てきれてないのよね。…全く、どうしてこんなに甘くなったんだか。
 さっき言ったことは全部本当だし、アンタはエンブリヲの傍にいても幸せになんてならない。
 だから、あんたがエンブリヲから離れてくれるなら、私はこの銃は収めるわ。
 穂乃果も、それでいいわよね」
「………」

問われた穂乃果は、まだ気持ちの整理が付かないのだろう。
しかし少なくともその申し出に反対をしない程度には落ち着いてくれた様子だ。

後は、サリア自身の返答を待つのみ。






だが、それでも。


「もう、いいわよ」

アンジュの言葉は、サリアには届かなかった。



もしこの場に、あの時サリアと共にジルの最期を看取った人間が。
タスクやヒルダが存在して、彼女の最期に告げた言葉を教えさえすれば、あるいは彼女の心にも届いたかもしれない。
だけど、そうはならなかった。

そして、だからこそ。

サリアの、アンジュに対する憎悪と化した妬みも。
エンブリヲに敵対する人間に対する敵意も。
消し去ることは、できなかった。

「エンブリヲ様の敵になるなら…、アンタ達皆、死ねばいいのよ!!」

跪いた態勢のまま雷帝の篭手が光を放ち、周囲へと膨大な雷を放出した。






661 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:44:04 XJxGhC.o0
「くっ…!」
「サリア!!」
「アンタ達の言葉になんて、絶対に惑わされない!
 私が信じるのは、いつだってエンブリヲ様だけ!その心を乱すアンジュ、アンタはここで死になさい!」

穂乃果を庇いながらテレポートを繰り返す黒子。
これ以上は実力行使で止めるしかない。

そう判断した黒子は、地面に落ちていた石を握りしめ、雷を放ち続けるサリアの姿を見据える。

(できれば今のコンディションで、やりたいことではなかったのですが……!)

篭手という体に密着した武器。
少し演算がズレれば腕の中に石が転移し決して浅くない傷を残す可能性もあった。

黒子としては無力化さえできればそれでよかったのだが、しかしそれに失敗してしまった以上多少力づくで止める必要もある。
見据えた黒子が、それを転移させようとした、その時だった。

覆いかぶさるように、黒子の視界を何かが真っ黒に塗りつぶしていた。


バチッ

そして次の瞬間襲いかかったのは、全身の毛が総毛立つような感覚。

「が……っ……」

サリアが投げつけたのは、己の着込んでいた騎士団の制服の上着。
そしてそれによって視界を奪われた黒子の驚愕により転移は大きくずれ込み、その石はアドラメレクの表面を掠める程度の位置に転移するに収まってしまう。
さらに直後に放たれた雷球が、黒子の体へと直撃。

体を襲う痺れに倒れこむ黒子、その手から賢者の石が零れ落ちる。

一気に近寄ってそれを拾い上げるサリア。
そしてそのまま、体を痙攣させる黒子に向けて再度雷球を放とうとしたところで、視界の端に一瞬黒い影が映り。

咄嗟にその方向に篭手を構えた瞬間、キリトがサリア目掛けて鞘を叩き付けた。

「ぐ…っ…」

銃槍の残る腕で受け止めたことでうめき声を漏らすサリア。
それでも体を下げることを強い意志で抑え、雷を放出。

キリトはその攻撃を読むように後ろに飛び退る。

だがサリアはそれに追従するかのように範囲を広げて雷を放出し続け。

「きゃああああああっ!!」

その一角が倒れた黒子を連れて離れようとする穂乃果の元へと届く。

思わず手元にあったバッグで体を庇うようにする穂乃果。
到達した電撃はバッグを弾けさせ、中身を周囲にバラ撒かせた。


662 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:44:43 XJxGhC.o0
食料が、水の入ったペットボトルが、手鏡が周囲に散らばる中。
思わず穂乃果が握った手にあったものを見て、サリアの電撃が止んだ。

「…!!それは…、エンブリヲ様が私にくれた…!」

穂乃果が握りしめたもの、それは一つの指輪。
サリアの愛機であるラグナメイル・クレオパトラの起動キーにして、エンブリヲが彼女に渡した、サリアにとっては大切な宝物。

「それは私のっ…!返せ!!」


目を剥いて穂乃果に向けて飛びかかるサリア。
それに対し、アンジュが牽制するようにその手の銃を発砲。

篭手を構えて防ぐが、その衝撃に思わずたじろぎ足を止めてしまう。


「穂乃果、それをこっちに渡しなさい!」
「えっ…?は、はい!」

声に応じてサリアの指輪を投げ渡す穂乃果。

「アンジュ!あんたがそれを持つんじゃないわよ!」
「今のうちよ!」

その言葉で彼女の狙いを察した穂乃果は、慌てて周囲に散らばった支給品を持てる限りかき集めて黒子のバッグに収め。
そして黒子を抱えて離れるように走る。

篭手の嵌った腕を振り回してアンジュの体を捉えようとするサリア。
しかし片腕の傷もあってバランスをとることが難しいのか、アンジュを捕まえることができない。

「やっぱりアンタ、格闘戦は大したことないわね」
「……!」

そんなアンジュの煽りに、サリアは顔を真っ赤にして雷球を放つ。

(……やっぱり私じゃ、ジルの代わりは無理ね)

その姿に、アンジュは一瞬だけ悲しそうな瞳をジルに向ける。

幾度となくいがみ合った仲で、エンブリヲとの戦いとなってからは何度もぶつかり合って。
それでも最後は共にエンブリヲを倒すために協力することができた仲間。

だが、あの時のように和解するために必要だったピースを、自分では用意することができなかった。

(仕方ないわね…。サリア、アンタはやっぱり――――)
「アンジュ、それを返せ!!!!」


663 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:45:00 XJxGhC.o0

避けられないように、全方位を覆うかのように放たれた雷撃。

あまりに広範囲をカバーしているそれを、避けきることができない。
迫り来る閃光に思わずアンジュが目を閉じてしまい。

「はあっ!!」

しかしそれが彼女の元へ届くことはなく、直前で真っ二つに分かれそのまま消滅。

目を開いたところにいたのは、その手の刀を鞘から抜いて振りかざしているキリトの姿。

「ようやく抜く気になったのかしら」
「…俺には人を斬ることはできなくても、それでも守るために剣を取ることはできるからな」
「でもいいのかしら?今の、腕痺れてるんじゃない?」
「…これがどれくらい電気通すのか確かめただけだよ」

最も、一瞬かつそこまで高出力というわけでもなかったのが幸いしてか、痺れ自体は深刻なものではないが。

言って村雨を鞘に収めてサリアを取り押さえるために突撃をかけるキリト。
対してサリアも迎撃するかのように雷球を撃ち出す。

(…このくらいなら――!)

しかしその連撃を難なく避けてキリト自身の攻撃範囲内までたどり着く。

バチッ

それと同時に、アドラメレクに光が奔り始める。

(そこか…!)

一斉放電の前兆を察知したキリトは、しかし直感的に急旋回。
キリトが範囲内から逃れると同時に、周囲数メートルを覆う落雷が発生。
轟音と共にサリアの周囲の地面を粉々に砕いた。

その眩い光に思わず目をそらしながらもキリトは次の攻撃に備え。

しかし追撃がくることはなかった。

彼女が駈け出した先にいるのはアンジュ。
そう、今彼女が全てにおいて優先していることがアンジュの始末であることを失念してしまっていた。

「まずい…!」

光に目をそらしていたアンジュに、雷撃が掠める。
衝撃にたじろぐ彼女に、サリアの電気を纏った拳が迫り。

「死ね!!アンジュ!!」






「――――ルビー!」

その時、サリアの放ったその拳を星形の光が受け止めていた。
盾のように展開されたそれは拳を受け止めた直後に砕け散り消失するも、その軌道は大きく逸れてアンジュを掠めるに留まった。

さらにそんな彼女を拘束するように、その全身を星形の光が固定する。


「…君は……」

声が聞こえた方へと向き直ったキリトが見たもの。
それは一人の少女が桃色の衣装を身にまとい、星形のステッキを構えて立っている姿だった。




664 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:45:50 XJxGhC.o0

ずっと意識を失っていたと思われていたイリヤ。
しかし彼女が目を覚ましたタイミングというのは案外早いものだった。

(ごめんなさい…、ごめんなさい……)

訳も分からぬまま、イリヤはあの時命を奪った戸塚に対して謝り続けることしかできなかった。

いっそ全部が夢だったら、どれだけよかっただろう。

(もう…いやだ……、こんなの…、私じゃない……)

こんな自分なら、死んでしまったほうが―――――



『また逃げるのかしら?』

また?またって何のこと?

『だってそうじゃない?以前だってあなたは逃げ出した。自分の知らない自分の力を受け入れることが怖くて』

そう、確かにあの時だって逃げた。
だけど今回はそれが原因で人が死んだのだ。
それとこれとは、全く関係ない。

『それじゃあ聞かせてもらいたいんだけど、ここにきてあなたは何をしていたのかしら?
 DIOって人に保護されて、かと思ったらより安全そうな田村さんのところに行こうとして。
 黒って人からは猜疑心から逃げ出して。
 クロや美遊が戦っている間、あなたはずっと逃げてばかりだったんじゃないの?
 自分の安全のことばっかりで』

その問いかけに、答えることができなかった。
確かにあの時の自分の行動が何故起こったことなのかは分からない。
しかしそれがそういった、逃げ続けてきた行動の結果なのだとしたら。

『結局、”私”には追い詰められると逃げるっていうところを変えることはできなかったのよ。あの時の戦いを経てもね。
 そうして安全圏に逃げようとして、逆に追いつめられるんじゃ世話ないわね』

もし、そうだとしたら。
あなたは私にどうさせたいの?

『だったらさ、もういっそのこと全部から逃げちゃっていいんじゃないかしら?
 戦うことからも、自分の罪を受け入れることからも。いっそのこと、生きることからも。
 そうすれば、これ以上逃げることもないんじゃないかしら?』

生きることから、逃げる。
何故だろう。ずっと死ぬことは怖いと思っていたはずだったのに、その響きがとても甘美なものにも聞こえてきていた。

だって、人を死なせたという罪は決して消えることはない。
もしかしたら、これからまた人を死なせることがあるのかもしれない。

その度に、こうして苦しむことに、人を苦しめることになるというのなら。
私は――――


665 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:46:14 XJxGhC.o0



―――自分で選ばなきゃい…ないって…!…………逃げてばっかりじゃダメだって!


逃げてばかりじゃ、ダメ。
誰か外で言い争っているのだろうか。
そんな声が、イリヤの耳に聞こえてきた。

私は、あの時逃げた後で、一体どうしただろうか。
お母さんの言葉を受けて、一人で戦う美遊の元に危険を承知で向かったのだ。
自分の力を受け入れて、自分の中の恐怖を乗り越えて。

クロの時だってそうだった。
例えどんな非日常な世界に巻き込まれようとも起こったことをなかったことになんてしないと、そう言ってクロを受け入れようとした。

だとしたら。
今の自分は一体何をやっているのだろうか。

人と殺し合いとなった時のことが怖くて。
ただ自分を無意識のうちに安全な場所に向かわせようとしていて。
なのにいざ危険な目に会おうとしたら逃げ出そうとして。
挙句、自分の力に恐れを成して今もこうして現実から逃げようとしている。

それでは、あの時の自分と何も変わっていないではないか。


やがて、戦いをしているかのような音が周囲に響き渡ってきた。
誰かが襲われていて、それに対して戦っている人が、立ち向かっている人がいるのだろう。


『あら?もう行くの?』

正直なところ、背負ったものはあまりにも大きくて、自分自身どうしたらいいのかも分からない。
でも、だからといって何も分からないと、そのまま逃げ出すだけの自分ではいたくはなかった。

目の前で戦っている人たちにも、きっと何かできることはあるはずなのだから。

『そう。なら今回の私の出番はここまでかしらね。
 だけど忘れないでね。いつでも”私”の中には、逃げを選ぼうとする自分がいるということを』

そんな言葉を最後に、夢とも現実ともつかない声はイリヤを離れて消えていった。



『イリヤさん!?』

薄く目を開くイリヤ。
周囲の戦闘音は酷いが、どこかの物陰に隠れさせられているため戦いの余波は届いてはいない様子だ。

「起きたの?大丈夫?」

ぼやけた視界がクリアになっていくと、傍には二人の人がいた。
自分より年上の女の人で、心配そうに顔を覗き込むのは「ほ」という文字の書かれたシャツを着た人。そしてその傍で倒れているのはその人より年下のような、制服を着たツインテールの人。


666 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:46:36 XJxGhC.o0

「…私は……」
「出ちゃダメだよ…。今、外は危ないことになってるから」

と、不安そうに外の様子を探る人。
きっと、まだ誰かが戦っているのだろう。

「…行かなきゃ……」
「えっ?」
「私にも…、できること…、しなきゃ……。
 ルビー!」
『い、イリヤさん?!
 よく分かりませんが…、現状は了解です!』

転身して飛び出したイリヤの視界に入ってきた光景。
それはビリビリと電気を飛ばしながら金髪の人に襲いかかる女の人がいたという光景。

誰が敵で誰が味方なのか分からぬ現状。
しかしどちらが助けなければならない人なのか。
それを考えれば、イリヤの行動は迅速で迷いはなかった。

「――――ルビー!」



「君は…、大丈夫なのか…?」
「私…、何も分からないんです。
 自分がどうなっちゃったのか、どうして戸塚さんを殺しちゃったのか」

立ち上がって震える声で、キリトに問いかけるイリヤ。
強い後悔、そして自分に対する恐怖がその中に見えていた。

自分がどうなったのか分からない。
もしそれが、あの時白井黒子と情報交換した際に名前があがった洗脳能力者によるものだとしたら彼女の錯乱も無理はない。

「だけど、逃げたくはないんです。
 今皆が戦ってるこの場所からも、何も分からない自分自身からも…」


だけど、今の彼女は分からないなりに立ち上がって戦おうとしている。
その背負いきれぬ罪を小さな背に背負ったまま。

彼女の気持ちは、キリトには痛いほどよく分かっていた。


「俺も、ここに来てすぐの頃、一人の人を死なせてしまったんだ。
 武器の効果を確かめることも忘れて、ただ我武者羅に人を助けようとして、それで。
 俺も一回は逃げ出してしまった。そのせいでもっと酷い事態にみんなを巻き込んでしまった。
 だから俺も戦ってるんだ。罪を償うため、なんて言うつもりはない。同じことを繰り返さないために。一人でも多くの人の助けになるために」
「……私にも、できるかな?」
「できるさ。きっと」

イリヤの肩に優しく手を置きながら彼女を励ますキリト。
そんなキリトに、イリヤはぎこちないながらも小さく笑みを浮かべ。

そしてサリアのいたはずの場所で、更に鋭い放電音が響き渡る。
腕が引き抜けないことに焦れたサリアが、離れようとするアンジュに痺れを切らして周りを壊す勢いで拘束を振り切ったのだ。

「殺さなくてもいい!せめて取り押さえるくらいで大丈夫だから!でも無理なら離れてくれ。俺一人でもどうにかする」
「大丈夫です!」

アンジュへの追撃を始めようとするサリアに向けて、キリトとイリヤが立ちふさがる。

「ち、また私の邪魔を……!」


一度目は魔法少女二人の手により妨害され。
今もまた二人の人間に邪魔されようとしている。さらにその一人はあの時と同じような力を使う者。
幾度となく、アンジュとの戦いを妨害する者がいる事実に苛立ちを隠せぬまま、サリアはアドラメレクをぶつけ合って雷を生み出しながら迎撃を始めた。


667 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:47:02 XJxGhC.o0




「やっぱり武器の差はどうしようもないわね」

空になった拳銃に弾を詰めながらぼやくアンジュ。
人を殺すのにそこまで凝った道具など必要ない。ナイフ一本、弾丸一発でも人は殺せる。

だが、戦いという環境においてはそれでは尚不利だった。
特にアンジュ自身はまだサリアのことについて振りきれていない部分もあった。

キリトや割り込んできた少女のような力は、例え本人達が殺しに否定的であったとしても戦いそのものには大いに役立つものだ。
今のサリアのような、得体のしれない力を持っている状況では。

「で、その子はまだ目を覚まさないの?
 あの空間転移があればもう少しは楽に取り押さえられると思うんだけど」
「白井さんは、まだ…」

その物陰に潜んでいた穂乃果は、未だ意識を失っている黒子を介抱している。
戦いに一切入ることができない彼女なりにできることをやっているということなのだろう。


「アンジュさん、アンジュさんの友達を殺したっていうのが、あそこにいる人だっていうのは本当なんですよね」
「ええ、少なくとも本人はそう言ってたわ」
「…アンジュさんはあの人が罪を償える人だから許した。でも、あのサリアはどうなんですか?
 私の友達を殺して、でもああやってまだ人を殺そうと襲っていて…。アンジュさんの仲間だから、許せってことなんですか…?」
「そう、ね。否定はしないわ。仲間だからちょっと甘くなってるところがあるってのは。
 ただ、誤解しないで欲しいんだけど、私はあの男のことを許したわけじゃないわ。それは言ったはずよ」

視線の先では、幾度にも放たれる電撃に攻めあぐねつつも、イリヤの砲撃や障壁の援護で切り込もうとするキリトの姿があった。
未だ村雨の刃は鞘に収まったままだ。

「だから、生きてる限りずっと恨み続けてやるわよ。そうすればあいつもそれに答えるように同じ失敗を繰り返したりなんてしないし、その分しっかり働いてくれるでしょうしね」
「でも、サリアは……」
「そうよ。あいつとは違う。たぶん、もう無理なのかもしれない。
 だからその分私を恨みなさい。許さなくても堪えることで向き合うっていう手段もあるはずよ」
「………強いんですね、アンジュさん」
「そりゃそうよ。私を誰だと思ってるの」

銃を構えて不調がないことを確認したアンジュは、その手に握られたものに意識をやりながら考える。
サリアの指輪。自分の母親の形見の指輪と同じ、ラグナメイルの起動キーでもある道具。

これがここにある意味は何だ、ということは今は置いておく。
今必要なのは、これをどうするかだ。

とりあえず、まずあの武器をどうにかしないことにはどうにもできない。
何かいい手はないか。





668 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:47:24 XJxGhC.o0

「放射(ファイア)!!」

イリヤが放った光弾は雷球によって撃ち落とされる、のみならず相殺しきれずそのまま迫ってくる。
彼女の攻撃力ではアドラメレクの防御を打ち破ることができない。

『厄介ですねアレ。正直我々の世界にある英霊の宝具に匹敵する代物かもしれません』
「だけど、それを操ってるのはただの人間なんだ。必ずどこかに隙はあるはずだ…けど」

だが、装備面の問題だけではない。
あくまで不殺を貫くキリト、イリヤとこの場にいる全てを殺しつくそうとするサリア。
その意志の差は数や基礎能力の差を埋めるほどのものだった。



「サリア!」

そんな時だった。
この場において唯一サリアを殺す覚悟を持ちうる、しかし力を持たない者、アンジュがその名を呼んで声を張り上げたのは。

周囲に放電しつつも振り返るサリア。
その先にいたアンジュの手に握られていたのはサリアの指輪。

「これが欲しいんでしょ?返すわよ!!」

と、思い切りサリアの上を行くように指輪を投げるアンジュ。

「早く取りにいかないと、また私が拾うわよ」

そんな言葉を聞いてか聞かずか、キリトやイリヤに目もくれずに指輪に向けて走るサリア。

その背はあまりに隙だらけだった。

二人に視線を向けるアンジュを見て、キリトはその背に向けて駈け出し。
せめて意識を奪うくらいはできるように、とその首筋に鞘を振り下ろす。

だがその足音でキリトの接近を悟ったサリアは、それでも尚も攻撃を防ごうと構え。
その腕を、イリヤの障壁による拘束が押さえつけた。

「今だ…っ!」
「離せえええええ!!」


怒りをぶつけるように、拘束されていない腕をもう一方の腕にぶつける。

(まずい…っ!)

そのモーションは大きな一撃が来る時のものであることは既に読んでいる。
それを止めようと、それまでの態勢を崩さぬままに、狙い通りの攻撃を打ち込み。

しかし、それはサリアを止めるには至らなかった。

全身の毛が総毛立つ感覚が身を包む。


669 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:47:55 XJxGhC.o0


「キリトさん!」

慌てたイリヤが、キリトに向けて障壁を展開するのと。

「――――雷帝、招来!!」

周囲を穿ついくつもの雷の柱が空から降り注ぐのは同時だった。

イリヤの障壁によりほんの一瞬キリトにそれが達するのが遅れたことでキリトに退避の隙ができる。
だがそれでも掠った一撃がそのHPを削ったのをキリトは感じ取った。

『イリヤさん、右に避けて!次は左です!』

イリヤはルビーの援護もあってどうにか避け切り。
そしてアンジュや黒子達の元へはアンジュ自身が遠くまで指輪を投げたこともあって雷撃は届くことはなかった。

そうして追撃を退けたサリアが、指輪の元に駆け寄ろうとして。


「……あ」

しかし地面に落ちた指輪は、雷帝招来に巻き込まれ真っ黒に焦げた姿に変わり果てていた。

「エンブリヲ様から、貰った指輪、が……」

サリアの心に生まれた強い失意の念。
それはやがて、そうなる状況を作り上げたアンジュに、キリトに、イリヤ達に、この場にいる皆への憎悪へと形を変える。

「よくも、よくもよくもよくもよくもよくも、よくもぉっ!!」


怒りのままにサリアは、アドラメレクの飛行能力を生かして飛び上がった。

打ち付けられた篭手の中心には、少しずつ電気が溜まって巨大な球体を形作りつつある。
その光景をアンジュは一度見ていた。
あれは、音ノ木坂学院で彼女が最後に放った一撃。

園田海未を死に至らしめるきっかけとなった、アドラメレクの奥の手。

「ヤバイのが来るわ!みんな離れるわよ!」
『いえ、あれはたぶん逃げるのは間に合いません!』

ルビーが叫び、キリトとイリヤは空中に飛び上がる。
しかし賢者の石によるバックアップとアドラメレクの能力を合わせたサリア。
対して能力そのものに大きな制限を受けたキリトとイリヤの飛行速度の差はあまりに顕著。

移動している間にも、その手に作られた雷球は少しずつ巨大化していく。
しかしその距離は未だ開いたまま。

「……間に合わない…!」
『諦めてはダメです!ここで止められなかったら、下にいる皆様が…!』
「…頼みがある。ほんの少しでもいい。あの攻撃をあの盾で防いでくれ。
 止められなくてもいい!少しでも勢いを減衰させてくれ、もしかしたら―――」

そう、イリヤの前に先行して飛ぶキリトは懇願する。
その様子に、何か嫌な気配を感じたイリヤだったが迷っている暇はない。


「ルビー!障壁をありったけ、お願い!」
「ソリッド―――――シュータァァァァァァァ!!!!!」

絶叫と共に放出された、巨大な雷の玉。

その射程先に、幾重もの星形の障壁が展開。
しかし一瞬食い止めることすらもできぬまま、まるで激流に流されるかのように一枚一枚が破壊されていく。


670 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:50:39 XJxGhC.o0

そして二人の元に到達するその寸前。

キリトは鞘から引き抜いた村雨を構えた状態で、その刀身を光らせる。
それは、彼自身のソードスキル発動の態勢の合図。

「はあぁぁぁっ!!!」

そして迫り来る雷球を、その刀身で一気に斬りつけた。

相手にとっては切り札に近い一撃。
一瞬で切り裂けなければ感電し、死に至るだろう攻撃。

それを、キリトは――――

一瞬で切り伏せていた。


「えっ?」

最も驚いたのはキリトだろう。
アンジュから聞いていたその攻撃とはあまりにも威力の印象の差がありすぎた。

そしてその違和感を感じていたのはイリヤも同じで。

『イリヤさん!危ない!』

それを払拭できぬ隙を付くように、切り裂かれた閃光の奥から飛び込んできたのは、雷を纏ったサリアの拳だった。






(何よこれ……、さっきと比べたら全然威力が出てないじゃない…!)

ソリッドシューターを放とうとする瞬間、実はサリア自身もとある事象にて焦っていた。
チャージしているソリッドシューターの出力が、先の時と比べて数段階ほど威力が落ちているのだ。

サリアは知らなかった。
アドラメレクの攻撃には帯電残量、それ自体に蓄えられた電気の残量という問題があったということを。
巴マミや園田海未達を死に至らしめた時はほとんどの人間を一度の攻撃で無力化した上での戦いであったため、そこまで問題にはならなかった。
しかし今回の戦いにおいてはそれが難しい面子ばかりだったことが彼女にとっては不幸だった。
先の戦いでは余力を残し、減らした残量もこれまでに戦闘が行われなかったこともあって十分に蓄える時間があった。
だが今回は戦闘慣れした者達であったこと、さらにサリア本人の怒りで冷静さを失い幾度も攻撃を続けてしまったことで奥の手そのものの出力を大きく下げるほどのものになっていた。


(…だけど、これでも、アンジュを殺すくらいなら……!)

それでも発動を止めはしない。
この一撃を叩き込めれば、アンジュもろともこの場の全員を殺すくらいはできる。

だが、あの向かってきている二人によって万が一のことがあるならば――――







対応が遅れたイリヤは、その一撃で吹き飛ばされ地面に墜落する。

キリトが切り返すために体を動かそうとするが、しかし一瞬で斬り伏せたとはいえ村雨を通じて感電してしまった体の動きは遅い。

幾度も殴りつけてくる拳を受け止めることしかできず、少しずつ体力を減らされていく。


671 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:51:06 XJxGhC.o0

(っ……、せめて、あと一瞬でも隙があれば……)

刀を構えられる間合いにさえ離れられれば、反撃は可能だ。

だが、麻痺の取れない体では離れて構えるという2ステップの行動を踏むことができない。
せいぜい、墜落しないように浮遊を続けるのが精一杯だ。

顔面を、腹部を打ち据えていく拳。痛みはないがHPが削られていくのが分かる。
サリアのアドラメレクの帯電残量の問題を知らないキリトには、ただサリアの罠に嵌ってしまったのだという風にしか感じられなかった。
もしここで撃退に失敗すれば。

(下にいるみんなが、でも、それだけは…!)

だからこそ引くわけにはいかなかった。
あの時死なせてしまったモモカのためにも。自分の失敗のせいで危険な目に合わせてしまったイリヤのためにも。

引くことはできず、しかし隙も作れない現状。
空であるためにアンジュ達の援護も期待できない。


自分の死を覚悟した、その時。




「遅れましたわ!」

サリアの背後から、いきなりドロップキックを放つ態勢の少女が姿を現す。
目を覚ました黒子が、キリトの支援のためにテレポートで空中まで駆けつけてきたのだ。

「ち、邪魔を!」

蹴られた衝撃で思わず振り向くがそこに黒子はいない。

直感的に僅かに残った電気を放電。すると体に組み付こうと転移した黒子の体を捉え、その動きを止めさせた。
墜落していく黒子の体。しかしそれでも地面付近まで転移し、麻痺する体にフラつきながらも着地する。


ほんの数秒。しかしそれはキリトにとっては大きな助けだった。

放電を続けるその手のアドラメレクに向けて、キリトは村雨を構え。
アドラメレクの右腕部。そこに僅かに入った亀裂―――黒子が武器破壊を狙った時に僅かに掠った際にできた罅に向けて。

「うおおおおおおおおおお!!!」

一直線に刀身を突き出した。

バチッ、と罅が広がると同時にアドラメレクから音が奔り。
広がった亀裂から漏れ出た電気から発生した爆発は、サリアとキリト、二人の体を吹き飛ばした。






672 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:52:11 XJxGhC.o0


「キリトさん!」
「キリト!」

名前を呼ぶ声が聞こえたキリト。

「…どうにか、墜落は避けましたが……」

あのまま地面に激突して死ぬだろうと思っていたが、しかしどうやら黒子のテレポートで助けられたようだった。

まだ生きているのか、と思い地面に倒れたまま自分のHP残量を調べるキリト。
しかし、そこにあったはずのゲージは完全に尽きていた。あの最後の爆発が決め手だったようだ。

ふと手を見ると、既にアバターの崩壊は始まっている。
しかしそれはこれまでのSAOやALO、GGOといったゲームの時と比べてとてもゆっくりなようにも感じられていた。
まるで死を実感させるための運命のいたずらのように。

「悪ぃ、俺、ここまでみたいだ…」
「…!バカ!誰が死ぬことを許可したの?!モモカのこと、まだ全然許してなんかないのよ!」

怒りをぶつけるようにキリトに掴みかかるアンジュ。
周囲を見回しても、高坂穂乃果、白井黒子、意識を失ってはいるがイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
皆健在だった。

「はは、すまない。だけどさ……。
 俺、今度はちゃんと守れたん、だよな?」
「…ええ。私も、高坂さんもイリヤさんも。みんな無事ですわ」
「そうか…。よかった……」
「よくないわよ!あんた―――」
「アンジュさん」

それでも納得できないように叫び続けるアンジュに向けて、穂乃果は静かに呼びかけた。
まるで励ますかのように。

「これで俺…少しは……みんなの力に……」

薄れゆく意識と消滅していく体の中で、キリトは静かにあげていた手を下ろして。


ふと、それはキリト自身の首輪へと触れていた。

消えかけた体で、キリトの中に一つの違和感が生まれる。

(……首輪…?)

それは参加者全員に装着されている、主催者による拘束。
一律してこの場にいる皆につけられたそれ。しかし自分だけ他の皆とは一線を画して異なるものがある。

自分が、MMOゲーム内におけるアバターであるということ。


673 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:53:19 XJxGhC.o0


そうであるなら、この首輪は本当に他の皆と同じものなのか?
この体が消滅しつつある中、残ろうとしている首輪はアバターの何を見ているのか。

気付いた違和感は大きくなり、せめてこの体が消滅する前に何としても伝えなければならないという強い意志をキリトに与えた。

(―――これだけは、伝えないと)

消滅する体を必死に動かして、意識を支えながら目を開いてキリトは声を上げる。

「みん、な、言っておきたいことが、ある……!」

「名簿で、俺の名前の下にあった名前、ヒースクリフっていうやつは…」

エンブリヲに騙されていた時に確認していた名簿。
そこに記されていた、ヒースクリフという名前。

あの時は信じられなかった。既に死んだはずのあの男が、またヒースクリフとしてこの場にいるということに。
だからこそ、その名前はNPCなのだと勝手に思い込むことで流していた。
その後は様々なごたごたがあったため思考の隅に追いやられてしまっていた、その名前。

「もしかしたら…あの広川ってやつと、繋がりが、あるのかも、しれない」
「…!それはどういう意味ですの?!」

これ自体は状況証拠だけの、大きな根拠のない推測だ。
自分がアバターとして殺し合いをするゲームに参加させられ。
その上で自分と彼だけがこの場所にいるというその事実は考えてみればあまりにも怪しい。
ヒースクリフ、いや、フルダイブ技術を作り上げたあの茅場晶彦がいるという事実は。

「多くを話してる時間はない…、だから、気をつけてくれ。だけど……」

だが、これ自体はただの憶測でしかない。
そうでない可能性だって、十分にあり得るものだ。

「もし、そうじゃなかったら、俺の首輪を、アイツに渡して解析をさせてみてくれ…、そうしたら、もしかしたら何か分かるかも、しれない」

もしこの首輪に、アバター自体に影響を及ぼす効果があったのなら、もしかするとそれを通じて自分の体の場所が、引いてはこの場所や主催者のいる場所に関わる何かが分かる可能性もある。

システムに干渉しているのかもしれないと思うほどの気力で立たせていた意識に限界が生じてきた。

「…分かりましたわ。ヒースクリフ、ですわね」
「ああ、頼んだぞ皆。生きて、こんな場所から、絶対に――――――」


それだけを言い残して、桐ヶ谷和人のアバター、キリトは完全に消滅。
この殺し合いというデスゲームから、姿を消した。
ただ一つ、その首にはめられていた首輪を残して。


【キリト@ソードアート・オンライン 死亡】




674 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:53:40 XJxGhC.o0

アンジュやサリア、キリト達による激しい戦いが繰り広げられた近くを流れていた川、その下流。
エリアを幾つか跨いだ先にあったその川べりから、水を打ち上げるような音と共に何者かが上陸した。

「…よくも…よくも……」

アドラメレクの暴発によって吹き飛ばしたサリアは、その体を川に着水させており運よく命を生き永らえさせていた。
しかし、その代償は彼女にとっては少なくない傷を残していた。

爆発した右腕のアドラメレクを装着していた右手、そこから右肩から顔の右半分に至るまでの箇所に火傷を残している。
その痛み、そして戦いの中で失った様々な大切なもの。

「エンブリヲ様から頂いた指輪も、私の顔も……よくも……!」

それらの怒りは彼女の精神を燻らせていた。

「殺してやる…、アンジュも…、エンブリヲ様の敵は…!」


あの場所にいた人間。
アンジュは言うまでもなく、キリトという男はエンブリヲ様の敵。高坂穂乃果と白井黒子も決して味方になることはない存在。
エンブリヲ様の敵が多いというなら、こちらで一人でも減らしていけばいい。

だが、アドラメレクは半壊し攻撃力が大きく欠けている現状だ。
今はとにかく武器が、そしてエンブリヲ様の味方となってくれる心強い味方が欲しかった。
セリュー・ユビキタスのような。


結局聞き損ねてしまったが、この近くにはエンブリヲ様がいるのだろう。
あのキリトという男が実際に会ったと言っているのだから。


「エンブリヲ…様……」

そのまま起き上がったサリアは、しかし激戦の疲労から静かに意識を闇の中に落としていった。



【G-6北部/川付近/一日目/昼】

【サリア@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(特大)、ダメージ(大)、脇腹に銃弾が掠った傷、顔右側から右手にかけて火傷、両肩負傷(処置済み)、左足負傷(処置済み) 、強い怒り、気絶
[装備]:“雷神憤怒”アドラメレク@アカメが斬る!(左腕部のみ)、シルヴィアが使ってた銃@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品、賢者の石@鋼の錬金術師
[思考・行動]
基本方針:エンブリヲ様と共に殺し合いを打破する。
0:東の市街地でエンブリヲ様を探す。
1:アンジュ、及びエンブリヲ様に敵対する者を殺す。
2:エンブリヲ様を守る。 あと可能ならば仲間を増やしたい。
3:エスデスと会った場合、セリューの伝言を伝え仲間に引き入れる。
4:アカメ、タツミ、御坂美琴には特に警戒。
5:三回目の放送時にイェーガーズ本部へ訪れ、セリューと合流する。
[備考]
※参戦時期は第17話「黒の破壊天使」から第24話「明日なき戦い」Aパート以前の何処かです。
※セリューと情報を交換しました。
 友好:セリュー、エスデス、ウェイブ、マスタング、エドワード、結衣、卯月
 危険:高坂穂乃果、白井黒子(自分で敵対者と判断)
 不明:小泉花陽
※アドラメレクの帯電残量がかなり少なくなっているためしばらくのタイムスパンが必要です。


675 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:54:42 XJxGhC.o0



「それで、アンタ達は音ノ木坂学院に向かうってことでいいのね?」
「ええ、高坂さんのご友人のこともありますし、そこに初春もいるというのであれば願ったり叶ったりですわ」

その後、死体も残らなかったキリトを彼女たちなりに埋葬した3人は一通りの情報交換を済ませた後、互いの目的の場所に向かうため出立する段階となっていた。

「でも、これ本当に私が持って行ってもいいの?アンタのところの初春って子にお願いした方がいいんじゃないの?」
「こちらも彼女に任せようと思っているものがありますし。それに首輪やこの場所に関することを探りたいのであればある程度分かれて担当した方が万が一のことがあった際にはよろしいと思いますし」

キリトの首輪はアンジュが持つこととなっていた。

音ノ木坂学院に向かう黒子、穂乃果に対し、アンジュはこの付近での遭遇情報があったというエンブリヲを追うのだという。

そして問題は、意識を失ったままのイリヤスフィールだが。

「本当にいいの?その子、何か聞く限りだとやばいんじゃないの?」
「大丈夫ですわ。私が責任を持って、この子の面倒を見させていただきますから」

情報交換の中で出てきた、アンジュがジョセフ・ジョースターから聞いた危険人物の情報。
その中にあった、DIOという名。

イリヤ自身がこの場所で最初に会ってある程度の時間を共にしたという人物だ。

もし彼が危険だとするのであれば、そんな男と共にいたという食蜂操祈もかなり怪しくなってくる。
彼女の洗脳を本当に何かしらの形で受けていたのだとしたら。

だが、だからと言って見捨てられるものでもなかった。

『もし黒さんやクロさん達に会ったら、よろしくとお伝えしておいてください』

そう言って一人を背負った二人は立ち去っていく。
目的地である音ノ木坂学院へと向けて歩いて。



「エンブリヲ、モモカをこんなところでまで操ってくれてたなんてね」

近くにいるだろうあの男に向けて、静かに怒りを燃やすアンジュ。

キリトから聞いた、エンブリヲが彼女を操っていたという情報。
それはエンブリヲに対する殺意を増幅させるには十分なものだった。

もう死んでしまったあの男ばかりを責め続けるわけにもいかない。
その情報だけでも、まだ怒りを叩きつけられる相手がいると分かっただけでもマシだろう。

手元にあるのはそのモモカを殺したという村雨なる刀。効果は当然聞いているがだからこそ捨てていくわけにもいかないから一応持ってきたものだ。

サリアはまだ生きているだろうか。
それはもうしばらくした頃に始まる放送で分かることだろう。
だが、生きていたならば間違いなくエンブリヲの味方としてまた立ち塞がることは想像に容易い。

「…元仲間のよしみよ。今度会ったら、ちゃんと殺してあげるわ、サリア」

自分に彼女の説得は無理だった。だからこそ、今度はちゃんと殺そうと心に決め、アンジュは歩み始めた。


676 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:54:59 XJxGhC.o0






(あの人、さっきので死んだ…のかな?)

穂乃果が思うのは先の爆発で吹き飛ばされたまま行方が分からなくなったサリア。
もしかしたら川に落ちたのかもしれないが、だとしたら現時点で生死を確かめる術はない。

死んでいるのであればもうそれで終わる話だ。
だが、もし生きていたのならば。

(次にあの人に会うことがあったら…私は……)

許すつもりはない。
だけど、あの時皆が止めたように、自分を律して、堪えることができるのだろうか。

分からなかったが、穂乃果にとってはそれだけが不安だった。



【F-6/市街地/一日目/昼】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大)
[装備]:練習着、トカレフTT-33(3/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:強くなる
1:黒子と共に音ノ木坂学院へ向かう
2:花陽ちゃん、マスタングさん、ウェイブさんが気がかり
3:セリュー・ユビキタス、サリアに対して―――――
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません


【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、体に痺れ、焦燥、怒り
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品(穂乃果の分も含む)、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、逆行剣フラガラック@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春などの友人を探す。
0:お姉さまを…
1:穂乃果と共に音ノ木坂学院へ向かう
2:初春と合流したらレベルアッパーの解析を頼みたい。
3:イリヤのことは保護すると同時に気をつけて見張っておく。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているということを確信しました。
※槙島が出会った人物を全て把握しました。
※アンジュ、キリトと情報交換しました


677 : 私たちは未来の花 ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:56:27 XJxGhC.o0
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(極大)、『心裡掌握』下 、美遊が死んだ悲しみ、黒に猜疑心、気絶
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:ディパック×1 DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ DIOのサークレット 基本支給品×1 
    不明支給品0〜1 美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:クロと合流しゲームを脱出する。
0:???????????
1:音ノ木坂学園に向かう?
2:田村、真姫を探し同行させてもらう?
3:花京院、、新一、サリアを探して協力する?
4:黒に恐怖心。だけど逃げるだけでいいの?


【心裡掌握による洗脳】
※トリガー型 2/8時間経過
『アヴドゥル・ジョセフ・承太郎を名乗る者に遭遇した瞬間、DIOの記憶を喪失する』 
『イリヤ自身が「放置すれば死に至る」と認識する傷を負った者を見つけた場合、最善の殺傷手段で攻撃する』

[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
※アカメ達と参加者の情報を交換しました。
※黒達と情報交換しました。



【アンジュ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(大)
[装備]:S&W M29(3/6)@現実、音ノ木坂学院の制服(下着無し)
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾54@現実、キリトの首輪、不明支給品0〜1、不明支給品0〜2(キリト分)
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
1:エンブリヲを殺すために情報のあった場所を探る。
2:タスク達を探す。
3:サリアはもし生きているなら殺す。
4:エドワードは味方……?
5:ヒースクリフに会ったら敵か味方かを見極め、味方になりそうならキリトの首輪の解析を頼みたい。
[備考]
※登場時期は最終回エンブリヲを倒した直後辺り。


678 : ◆BLovELiVE. :2015/09/27(日) 16:58:30 XJxGhC.o0
投下終了です
ただ、今回の話が前SSでの後藤達の場所と入れ違い、というかかなり近い場所となっています
もしかしたら探知できない可能性も示唆されているとはいえ後藤の持っている首輪探知機の存在もあるため、もし位置関係などに問題がありそうならば指摘をお願いします


679 : 名無しさん :2015/09/27(日) 16:59:34 7HtNK0FY0
投下乙です

キリトさんは過去を清算して散ったか、いい最期だった。かっこよかったよ
穂乃果もイリヤも着実に前に進んでいて頑張って欲しい、後藤さんが爆走してくるけど

探知機については
>※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります
と明記されているので個人的には問題は無いかと


680 : 名無しさん :2015/09/28(月) 02:11:11 m1tr8Efo0
投下乙です

遂にブリヲがマーダー化してしまったか。益々厄介になりそうだな
クロのくっ殺でちょっと笑ったw

この人数差を凌ぎ切るとかサリアは手強い…。久々に登場の姫様も格好良かった
そしてキリトさんも良く頑張った。最期は立派に主人公してたぞ


681 : 名無しさん :2015/09/29(火) 21:30:20 Vx4S4MOc0
お二人とも投下乙です

ブリヲが遂にマーダー化か、感度五十倍、瞬間移動、帝具三つって何気にヤバいマーダーになりそうだ
後藤さんはサラッと感度魚十倍を破った二人目の参加者になってて笑う
誰にも知られず死んでいった蘇芳が少し報われて良かった…

キリトさん…振り回されてた印象が強い彼だけど最後の最期で輝けたなぁ
イリヤのあの会話は原作イリヤの事も匂わせてるのかな?何にせよ前進できつつある彼女に幸あれ
そしてサリアさんは執念深さも相まってしぶといなぁ。穂乃果やゆきのんとの因縁がある彼女だけど果たしてこれからどうなるか


682 : ◆H3I.PBF5M. :2015/10/01(木) 16:48:36 ga67xGXw0
遅れましたが感想を

「調律者は人の夢を見ない…」 ◆w9XRhrM3HU氏
黒と婚后さんはカラテモンスター後藤と何かと縁があるなぁ
性欲を捨てたエンブリヲ、意味合い的には裸のAUOみたいなものなのに何故か笑えるのが面白いところ

「私たちは未来の花」 ◆BLovELiVE.氏
キリトさんカッコイイヤッター!アンジュにモモカの死の真相を伝えられて、さらにヒースクリフとのフラグも残せて最期にいい仕事をした
主に黒子のおかげで安定感のある女性陣チーム、でもまだイリヤの洗脳が生きてるのがコワイ

この二作のあった位置は近接しているので次で合流してもおかしくないけど、後藤がどうするのかが気になる
エンブリヲもサリアと合流できそうだし、平穏無事には済まなさそうですね


それと連絡
金・土のどちらでもいいんですが22:00くらいに、プリヤに詳しい書き手さんいたらチャットに入ってもらえると助かります
今回は感想もあったのでこっちに書きましたが、話したいことがあるときは議論スレにでもこんな感じで告知しておくと良いかもしれません


683 : ◆dKv6nbYMB. :2015/10/03(土) 23:59:02 ngADOAD60
投下します。


684 : 嵐の前に ◆dKv6nbYMB. :2015/10/04(日) 00:00:30 pm4c3EXI0
「てめえ...舐めてんのか?」
「......」

ヒルダさんが怒っている。
銀ちゃんは、ずっと黙っている。
私に向けられていない、この事態の経緯はこうだ。
キンブリーさんと別れた後、ヒルダさんは尋ねた。マスタングが東に向かったのは本当かと。
銀ちゃんの返答は、「わからない」。
ヒルダさんと私は顔を見合わせ、勘違いだったのか、嘘をついたのか、など理由を聞き出そうとした。
が、しかし銀ちゃんの答えは「わからない」か沈黙のみ。
そのことが、ヒルダさんの怒りを買うこととなったのだ。

その光景を見て、私は頭の片隅で考える。

(なんで?なんで、銀ちゃんはそんなことをするの?)

私は時間が経過すると共にマスタングへの憎悪を募らせていたが、銀ちゃんの不可解な行動で徐々に怒りは疑問に塗り替えられていった。

(銀ちゃんは嘘をついている?なんで嘘をついてまで私たちを連れだしたの?)

銀ちゃんが嘘をついているのだとしたら、なぜそんなことをする必要があるのか。
銀ちゃんは、マスタングが東へ向かったと告げた途端、私とヒルダさんを電車に連れ込んだ。
電車が発車しそうだったというのもあるけれど、それにしては判断が早すぎる。
あの場にいたのは四人。普通は二人ずつに分担するはず。
なのに、銀ちゃんは迷わず私とヒルダさんを連れ込みキンブリーさんを一人にした。
キンブリーさんは、それなりの腕前であると自負していたけれど、話し合うことすらせずに一人で行動させるのは、正直薄情だと思う。

(...銀ちゃん、キンブリーさんのことが嫌いなのかな)

そんなことを考えている間に、状況は悪化していって。


「いいか、お前の能力が失敗したってんならそれはいい。勘違いだったってんなら、我慢してやる。けどな、あたしらはお前の気まぐれや見え張りに付き合ってやるほど暇じゃねえんだ」
「......」
「もう一度聞く。雪子を殺したマスタングは、東へ向かったのか?」
「...わからない」

ヒルダさんの表情からは怒りが消え、代わりに一瞬にして曇ってしまった。
もう決めた、一発ぶん殴る。いまにもそんなことを言いだしそうだ。
ヒルダさんの拳が振りかぶられたので、私は慌てて間に滑り込んだ。


685 : 嵐の前に ◆dKv6nbYMB. :2015/10/04(日) 00:01:04 pm4c3EXI0
「待って、ヒルダさん!」

一応、その制止の声は聞こえたようで、ヒルダさんは拳を止めてくれた。

「なんだよ、お前はむかつかないのか?」
「い、いや、そのぉ、銀ちゃんもなにか伝えたいことがあるんじゃないかなぁって」
「言いたいこともクソも、こいつはずっと黙ったままじゃねえか」

ヒルダさんのいう事は尤もだ。
伝えたいことがあるのなら、口に出せばいい。
なのに、銀ちゃんは話さない。なんでだろう。

(...落ち着いて。いままで問題に行き詰ったとき、あたしたちは...)

事件に臨むとき、あたしたちは必ず情報の整理からしていた。
進展があるとき無いとき様々だけど、それのおかげで徐々に一歩進んだような気持ちになれた。
だから今回もそうしよう、そうしたいと思った。

銀ちゃんは、私とモモカさんが逸れた後、雪子と共に行動していた。
雪子は私たちを追うため銀ちゃんから離れ、その後クマの救助の声を聞きいて駆けつけ、そこでキンブリーさんと遭遇。
キンブリーさんは言っていた。クマは既に殺されており、そこで雪子はマスタングという男に殺された。
キンブリーさんは、クロメとウェイブというイェーガーズの人たちと戦っていたため雪子を守ることができなかった。
キンブリーさんは、マスタングとウェイブから命からがら逃げだせた...うん?あいつらを逃がしてしまった?どっちだろう。とにかく、あいつらから離れられたキンブリーさんは、銀ちゃんの待つ駅へ向かい、彼女と合流した。
そこからは私たちの知っている通り、銀ちゃんがマスタングを追うと言って、私たちを連れだした。
...駄目だ。やっぱり、銀ちゃんが話してくれないとなにもわからない。

「教えて、銀ちゃん。どうして嘘をついたの?」

私は銀ちゃんの肩に手を置きジッと目を見据え、銀ちゃんも私を見つめ返す。
やがて、銀ちゃんはその口を開いた。

「...私は、キンブリーのことをよく知らない」

銀ちゃんの言葉に、私はそれはそうだと思う。
なんせ、この場にいる誰もが彼とは知り合いではなく、少々会話をしただけにすぎないのだから。

「だから、マスタングが雪子を殺したかわからない」

銀ちゃんの言葉に、私の頭の中は真っ白になりかける。
なんで?キンブリーさんはあいつが雪子を殺したって言ってたよ?
銀ちゃんはマスタングを庇うつもりなの?
なんでなんでなんでなんでなんで―――――!


686 : 嵐の前に ◆dKv6nbYMB. :2015/10/04(日) 00:03:00 pm4c3EXI0
「落ち着け、千枝」

頭に乗せられたヒルダさんの手により、ハッと我に返る。
ヒルダさんは、頭を掻きながら溜め息をついた。

「そういうことかよ、銀」
「......」
「え?どういうこと?」

納得したかのようなヒルダさんの言葉に、私は疑問符を浮かべる。

「要は、キンブリーの言葉を真に受けて先走るなってことだろ?」

ヒルダさんの言葉に、銀ちゃんが無言で頷く。
そこまでされて、ようやく気付くことができた。
キンブリーさんの言葉に矛盾はない。けど、それが真実かどうかは別問題だ。
ロイ・マスタングは本当に雪子を笑いながら焼き殺したのか。
それは、キンブリーさんの主観での出来事でしかないし、本当はなにかあってそうしたのかもしれない。
雪子を殺したのは、キンブリーさんの知るマスタングによく似た別の誰かなのかもしれない。
もしかしたら、雪子を殺したのは本当はキンブリーさんなのかもしれない。
どれが真実であろうとも、キンブリーさんの主観でしかない言伝だけで真実を決めるのは早計だと今さらながらに思う。


「だ...だったら、最初からそう言ってくれれば」
「それで素直に受け入れたかよ、お前は」

ヒルダさんの言う通りだ。
おそらく銀ちゃんがそう言っても、私は聞き入れはしなかったし、銀ちゃんに怒りをぶつけていたかもしれない。
でも、こうして銀ちゃんが何故嘘をついたのかと考える時間があったから、少しだけ頭も冷えてそれなりに受け入れることができた。

「...わるかったな、銀。っと、ここで停車だな」

ヒルダさんの言葉通り、電車はここ、民宿のある島で一時的に止まることになる。

「一旦降りるぞ。何回か通ったが、念のためだ。なにか変わったことがあるかもしれねえ」


687 : 嵐の前に ◆dKv6nbYMB. :2015/10/04(日) 00:03:55 pm4c3EXI0


ヒルダさんに促されるままに、私たちは民宿とその付近を探索していた。
どれほど探したかは覚えていないが、結局、私たちはなにも見つけることはできなかった。
いまは、民宿の一室で私たちはタブレットの地図を眺めている。
次の目的地を決めるためだ。

「ここから北に行けば、マスタングがいるかもしれねえエリアで、東に行けばお前の知るジュネスってところがあるエリアだ。お前らはどっちに行きたい?」
「私たちが決めていいの?」
「あたしの知り合いが目指す場所に心当たりがないからな。マスタングから真実を聞き出すのもよし、あんたらの心当たりを探すのもよしだ」

私だけでは決めかねると、助け舟を出すように銀ちゃんに視線を移す。

「...私は、黒と合流したい。黒は、地獄門を目指すと思う」

地獄門。最初に会った時も言っていたけれど、私の知らない場所だ。

「地獄門...こっからは遠いな。北から行こうが東から向かおうが、距離はあんまり変わらないな」
「なら、千枝が決めて」
「いいの?」
「黒と会えるなら、私はどっちでもいい」

結局、決定権は私に委ねられることになった。
改めてそう聞かれると、結構困るものだ。
少し前の私なら、迷わずマスタングを追うために北を選んだだろう。でも、頭がそこそこ冷えた私には、そんなにあっさりと答えを出すことはできなかった。
北に行ってマスタングに真実を問いただし、クロならそのまま―――してしまえば被害は広がらず、雪子の仇も討てる。でも、もし私たちが返り討ちにあえば被害は更に広まることになる。それに、私がマスタングを追っている間にも鳴上くんや足立さんも危険な目に遭っているかもしれない。
ジュネスへ向かえば、鳴上くんや足立さんとも合流できるかもしれない。足立さんはともかく、鳴上くんと合流できれば心強いしなによりもう友達を失わなくてすむ。足立さんにだって死んでほしくなんかないし。
けど、マスタングがクロだった場合、私たちがジュネスへ向かっている間に被害者が増える一方になるかもしれない。
そんなリスクとメリットを天秤にかけ、私が選んだ答えは―――


688 : 嵐の前に ◆dKv6nbYMB. :2015/10/04(日) 00:04:43 pm4c3EXI0


私たちを乗せた電車は進む。
その身体を揺らしながらも、真っ直ぐに進んでいる。
車内は沈黙に包まれており、電車の揺れる音だけが木霊するだけだ。
膝を抱えて席に座っている私や席に寝そべるヒルダさんとは違い、銀ちゃんは膝に手を置き、礼儀正しく座っている。

「...ねえ」

ヒルダさんと銀ちゃん、どちらにも向けられた私の言葉に、二人はピクリと反応する。

「もし本当にマスタングが雪子を殺してたら...私は、どうすればいいのかな」

もし、キンブリーさんの言ったことが本当で、マスタングが人を人とも思わぬ外道だったら悩むことなんてない。
けれど、いまはこんな異常な殺し合いの最中だ。事故や気が触れた可能性だって十分にある。
もしマスタングがなにかの事故で雪子を殺してしまったのなら。
もしマスタングが殺し合いに耐えられずに気が触れてしまったのなら。
私は、どうすればいいのだろう。

「......」
「......」
「......」

再び沈黙が車内を支配する。
二人は私の問いの答えを考えてくれている...というわけでもなさそうだ。
ヒルダさんは怒りでも悲しみでもなく、若干呆れのような感情を含ませた表情で私を見ている。
銀ちゃんは、何の感情を見せることもなく私を見つめている。
まるで、二人が『言わなくてもわかるだろう』と訴えているようにも見える。
けれど、私にはいくら考えても、なにが正しいのかわからなくて。

「...ねえ。もしも、もしもだよ」
「?」
「二人の大切な人が殺されたら」
「死なせないよ」

どうするの、と言いかけた言葉は、しかし銀ちゃんに遮られてしまった。

「銀?」
「あの男は、こんなところで死なせない」

そう言った銀ちゃんの言葉は、今までのどれよりも力強くて。
人形のようだと思っていた彼女とは思えない言葉だった。


689 : 嵐の前に ◆dKv6nbYMB. :2015/10/04(日) 00:06:54 pm4c3EXI0
「...そう、だよね。ごめん、変なこと聞いちゃって」

わかってる。
私たちがするべきことは、大切な人たちを死なせないようにすることだ。
大切な人が死んだときのことなんて、聞くべきことじゃないし考えるべきことじゃない。
だというのに、私は聞いてしまった。
答えがほしかったから。
大切な人が殺された時、どうすればいいのか。なにが正しいのかを誰かに教えて貰いたかったから。

「...お前の友達、鳴上って言ったか」
「...うん」
「逆にあたしから聞くがよ、鳴上がマスタングを許せって言ったら、お前は許すのかよ」
「それは...」
「仮に許すとしても、だ。お前はそれで納得できるのか」
「......」

私は黙り込むことしかできなかった。
鳴上くんはたしかに大切な友達だ。
でも、もし鳴上くんが『雪子のことは水に流してマスタングを許そう』なんて言っても、私はマスタングを許すことはできないと思う。
許さなくちゃいけない状況になっても、それで納得することなんて以ての外だ。

「結局、どうするかなんて自分で決めるしかないんだよ。キンブリーじゃねえけど、はっきりとした目的や信念があるなら、仇討でもなんでも好きにすればいい。マスタングを殺すことがあんたのやりたいことから外れるなら殺さなければいい。あたしはあんたが決めた答えなら、それを邪魔をするつもりはないよ」

それだけ言うと、ヒルダさんは私から視線を外し、再びシートに横になった。
もう言う事はない、後は勝手にしろという意思表示だろう。

「そう...だよね」

声にして改めて確認する。

「私の答えは...私のものなんだよね」

キンブリーさんやヒルダさんの言う通りだ。
事を成すには、自分の意思や信念をハッキリと持たなければならない。
マスタングに会い、真実を確かめたとき。私の答えを決めるのは私でなければならない。
結果によっては、鳴上くんとぶつかることになるかもしれない。
それでも、答えを決めるのは自分でなければならない。

...でも、頭ではわかっていても、未だに私の中身はぐちゃぐちゃだ。
怒り。悲しみ。違和感。苛立ち。焦り。色んなものが渦巻いている。
マスタングが犯人だった時、私は私でいられるのかな。
電車が止まる時までには、答えを出せるのかな。
いまの私には、膝を抱えたまま黙り込むことしかできなかった。


690 : 嵐の前に ◆dKv6nbYMB. :2015/10/04(日) 00:07:54 pm4c3EXI0
【D-7/電車内/一日目/午前】
※電車は北か東に向かっています。



【里中千枝@PERSONA4 the Animation】
[状態]:健康、マスタングに対する憎悪
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:殺し合いを止めて、みんなで稲羽市に帰る。
0:雪子殺害の真実を見つける。雪子の仇を討つ?
1:マスタングとイェーガーズを警戒。
2:鳴上、足立との合流。
[備考]
※モモカ、銀と情報を交換しました。
※キンブリーと情報交換しました


【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:健康
[装備]:グロック17@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:進んで殺し合いに乗る気はない。
1:目的地に着くまでは休憩している。
2:千枝に協力してやる。
3:エンブリヲを殺す。
4:アンジュに平行世界のことを聞いてみる。
5:マスタングとイェーガーズを警戒。マスタングは千枝とは会わせないほうが良いかもしれないが、千枝には決着はつけさせておきたい。
6:キンブリーの言葉を鵜呑みにしない。
[備考]
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。
※クロエの知り合いの情報を得ました。
※平行世界について半信半疑です。
※キンブリーと情報交換しました



【銀@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:健康  キンブリーに若干の疑い
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:…………。
1:黒を探す。
2:千枝とヒルダにしばらく同行する。
[備考]
※千枝、雪子、モモカと情報を交換しました。
※制限により、観測霊を飛ばせるのは最大1エリア程です。


691 : 嵐の前に ◆dKv6nbYMB. :2015/10/04(日) 00:08:54 pm4c3EXI0




―――追記。




これは語るまでもないことなのかもしれない。
二人との会話の中で感じた僅かな違和感。私もヒルダさんも銀ちゃんも、誰もそれには触れなかった。
二人が気づいていないのか、それとも私が気にし過ぎているだけなのか...

違和感というには本当に些細なものかもしれない。
でも、正体のわからないそれは、私の中のもやもやをより一層深めていたことだけは確かだ。
この『違和感』は、いったいなんなんだろう...?


692 : ◆dKv6nbYMB. :2015/10/04(日) 00:09:34 pm4c3EXI0
投下終了です。


693 : <削除> :<削除>
<削除>


694 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:19:55 k3tWCTF60
鳥バレですねお恥ずかしい


695 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:23:10 k3tWCTF60

図書館の机の上にはコーヒーカップが四つ置かれている。
雪ノ下はコーヒーを口へ運び一息つくとカップを戻し、疲れているのか目を擦る。
思い返せば殺し合いに巻き込まれてから随分と濃い時間を過ごしたものである。
無かった事にしたいぐらい濃い、とても濃い時間を。

「軍のトップ……セリム君のお父さんは相当強い人なのね」
「はい! 血は繋がっていませんが自慢のお義父さんです!」

殺し合いの中で一番寛げる今、セリム・ブラッドレイから彼の父であるキング・ブラッドレイの事を聞いていた。
容姿の特徴は眼帯。なんとも年頃の思考を刺激するようだが、話を聞く限りでは非の打ち所が見当たらない人物である。
軍の頂点に立つ男ならばカリスマ性と強さを兼ね備えているのだろう。
流石に現役時……子供を持つ年齢となれば劣っている可能性も十分考慮出来るが、それでも雪ノ下のような一般人よりは強い。

「早く会えるといいわね」
「そうですね……会える内に会いたいものです」

「会える内…………ね」

本当に濃い時間を過ごしたものだと思う。雪ノ下は視線を下に落として考える。
寛げる時間なんて本当は無いのかもしれない。外には殺人鬼が潜んでいるかもしれない。
もうこんな時間は、悪夢は終わって欲しい。誰も死ぬ必要は無い、そう、無い。

死んでいい生命など始めから生まれないのだ。こんな運命は間違っている。

「シンイチ、菓子」
「今の無くなったよ、アカメが全部食べたからな」

雪ノ下がセリム・ブラッドレイの隣に座っているならば、アカメは彼の対面に座っている。
彼女の隣に泉新一が座っており、小さいテーブルを四人で囲っている状況だ。

アカメは給湯室から見つけてきたコーヒーや茶菓子を配っていた。
配り終えるとコーヒーに手を付けず、茶菓子ばっかりを食べており皆が食べる分量も消費していた。
泉新一が幾らか探して持って来ていたが、それも尽きてしまったらしい。

茶菓子が無くなったことに対して頬を膨らませ何か文句を言いたげなアカメ。
その視線の先には泉新一が居るが、彼に訴えても茶菓子は出てこない。
彼は適当に笑いでその場を流し、アカメが平らげた皿を給湯室へ運ぶ。
椅子を引く際に、彼が見ていたのはセリム・ブラッドレイである。その挙動、全てが危険である。

(…………どうする)

皿を回収し、シンクに着くと蛇口を捻り今後を考える。
眠る間際にイギーが告げたセリム・ブラッドレイは人間では無い事実がシンイチを苦しめる。

なんとかこの場を抜け出したいところだが、生憎女性陣はセリム・ブラッドレイを見捨てるつもりはない。

傍から見れば可愛らしい子供である。殺し合いに巻き込まれた哀れな参加者の一人。
力の無い子供を見捨てる方がどうかと思う……抜け出す提案をしようにもセリム・ブラッドレイだけを放置する案など思い付く筈も無く……。

(このままじゃキング・ブラッドレイも来る……どうすれば)

音ノ木坂学院で仕入れた情報の中にキング・ブラッドレイは危険人物である。一つの懸念事項がある。
しかも彼は図書館へ向かっているらしく、このままだと襲撃に会う可能性が高い。
表向きは善良な参加者を振舞っているようだが――この状況でブラッドレイ親子が揃うのは非常に危険である。

親であるキング・ブラッドレイが素性を隠しているように、子であるセリム・ブラッドレイも素性を隠しているかもしれない。
それを裏付けるようなセリム・ブラッドレイは人間じゃない、と言うミギーの発言も相まって、ブラッドレイ親子は非常に危険な親子と言える。


696 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:24:16 k3tWCTF60

さて、危険な事が解っているならばとっとと逃げろ。と言う話になってくる。
問題を理解しているのに放置するのは犯罪に近い。その場の罪から逃げ出せば後に何倍にも膨れあがる。

しかし雪ノ下雪乃とアカメはセリム・ブラッドレイに対し普通の子供として接している。
つまり危険意識が薄い。無いと言っても過言ではない。
そんな彼女らにセリム・ブラッドレイの危険性を説くをしても、不審がられるだけである。

(本田やタスク……先に戻ってくれば……いや…………)

「どうすれってんだよ……っ!」

蛇口を捻って水を止めると、苛立ち混じりに皿を食器棚へ置く。
結果としてセリム・ブラッドレイを刺激しないようにここから離れるしか無い。
そして、それは至難の業であり、外部要素――現状を打開する新しい出来事が必要である。
誰かが図書館に来れば……なんとかなるかもしれない。しかし。

(キング・ブラッドレイやセリュー・ユビキタス……先に来ないでくれよ)

助け舟が来るか嵐が先に来るか。
泉新一は一人、誰も預かり知らぬところで神に願う。






「シンイチ、もう食べる物は」
「ない」
「……………………そうか」
「アカメさんはよく食べる方なんですね!」


給湯室から戻り椅子に腰掛ける泉新一を迎える一同。
アカメは彼よりも茶菓子を所望していようだが、無いと返答を受けてまた膨れた態度を取る。
雪ノ下は我関せずといったようにコーヒーを口につけ、セリム・ブラッドレイは子供のような態度。

(これだけ見てると子供にしか見えない。けど――)

キング・ブラッドレイも表向きは真当な人間であった。本田未央やタスクとの交流を聞く限りでは。
同じようにセリム・ブラッドレイもまた――(さっきから同じことばっかりだな)牙を潜めているかもしれない。

「……顔色が悪いようですけど大丈夫ですか?」

「え? あ、あぁ……大丈夫だよセリム君」

「具合が悪いなら少し横になっていた方がいいぞシンイチ。私が見張りをする」

「此処に来てから泉君も過酷な時間を過ごしのよね……無理は良くないわね」

「いや俺は大丈夫だよ、ごめんな心配かけて」

皆の気遣いに対し泉新一は大丈夫と告げコーヒーカップを手に取る。
最初に反応してきたのがセリム・ブラッドレイなのは少々驚いた。
これが上手く人間社会に適応するための業なのかもしれない……そんなことを考えながら口にコーヒーを。

苦い。

コーヒーが苦く感じるのは味なのか、それともこの状況に対する泉新一の焦りを示しているのか。


そして図書館に新しい風が吹き荒れる――扉が開いて誰かが来るようだ。





図書館に向かう男女四名。
先頭に本田未央と小泉花陽。その後ろにウェイブと狡噛慎也が続いている。


「だから私はさ、私の笑顔でみんなが笑顔になればそれはとっても嬉しいな……ってHAPPYじゃない?」

「うん……! そうだよ未央ちゃん!」

「えへへ、ありがとね、かよちん!」


とても殺し合いとは思えない年頃な少女達の輝かしい会話である。
流れは不明だがアイドルを目指したきっかけの話となり、本田未央が喋った。その通りである。
話を通じていく際に小泉花陽はμ’sのメンバーから「かよちん」と呼ばれていることを知り、かよっちからかよちんに修正したようだ。

小泉花陽がゆっくりとした時間を取れるのは最初に肉丼を食した時以来か、或いは346プロダクションで白井黒子とロイ・マスタングと一緒に休憩した時だろう。
思えばあの時食した肉丼は嘔吐により全て流れてしまった感覚がある。我ながらよく食べれたものだ。
白井黒子。高坂穂乃果と一緒に行動している彼女。
キング・ブラッドレイの話では生きているようで……その情報は心の底から喜べる朗報であった。

ロイ・マスタング。
狡噛慎也の話だと今はキング・ブラッドレイのバッグに囚われているらしい。
魔法使いのように焔を操る彼は強い人間であった。彼が居なければ小泉花陽はも死んでたかもしれない。
エンヴィーの執念に囚われていた彼は外から見るととても可哀想な人間であった。
天城雪子の件もあり、彼がもし強い人間でなければ支える人間が側に必要である。

(でもあの人は自分で前に歩ける人だから……)

「どうしたのかよちん?」

「えっ……なんでもない、よ」

本田未央の声に我を取り戻す。
白井黒子やロイ・マスタングの事を考えても自分に出来ることは何もない。
彼らは生きている、そして強い人間だ。信じるしか無いだろう。


697 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:25:12 k3tWCTF60

「ウェイブ、一ついいか」

「どうした狡噛? そんな畏まらなくでもいいだろ」

明るいと思われる会話をしている少女達の後方では大人の男達が一つ打ち合わせをしようとしていた。
狡噛慎也は本田未央達がこちらに気づいていないことを確認して息を吐くように提案する。

「図書館での情報交換だが俺に任せてもらってもいいか?」

「いいぜ、寧ろ頼む。さっきの会話でブラッドレイに触れなかったのも話を無駄に広げないためだろ?」

「……気付いているならそれでいい。セリム・ブラッドレイを無駄に刺激するのは避けたいんでな」

ウェイブがこちらの提案を予測していたようで狡噛慎也は若干驚くも、特に言及はせずに会話を終わらせる。
帝都とその他世界の価値観に現実を感じていたウェイブだが、腐ってはいないようだ。
本田未央も幸い、島村卯月の件でキング・ブラッドレイに悪い印象は持っていないようである。

――傍から見れば犯罪者であるセリュー・ユビキタスを殺そうとした男だ、話だけ聞けば何も悪い印象は抱かない。

図書館に居るメンバー……聞いた限りだとブラッドレイに警戒はしていないようだ。
上手くその場を収めて解散し、危険人物を隔離出来ればいいのだが。

小泉花陽が図書館へ向かうと言った以上、乗りかかった船だ。自分も付いて行く必要がある。
生命を賭ける程の話でも無いが、高坂穂乃果の願いを無下にすることは流石に良心が痛む。そして。

――槙島聖護……来るとすれば図書館か。あいつは書籍から引用して語る癖があったからな。
  図書館に来ないとすれば奴は北に向かうだろう……確証も無い勘だがな。

狡噛慎也とて図書館に行く理由はある。
問題があるとすればキング・ブラッドレイと槙島聖護の襲来が重なることぐらいか。

「なぁ狡噛……俺が余計なこと言ったら問答無用で遮断していいからな」
「それぐらい口が回れば問題無い、って訳にもいかないか。まあ自覚があるなら頼むぞそっちこそ、な」

ことを忘れて適当なことを言ってしまっては交渉も情報交換もクソもない。
ウェイブが少しは冷静で良かった、と思う狡噛慎也。
ただ「少し」で、ある。これで全て解決出来るとは到底思えないのが図書館の魔境さを表している。

懸念事項が一つ解消されただけではあるが、それは味方内での解決であり本題は違う。
素性を隠しているセリム・ブラッドレイからの逃亡、図書館へ向かっているキング・ブラッドレイからの退避。

ブラッドレイ親子が揃いに揃って殺し合いを左右する要素になっているのは何かの因果なのか。
こうなれば図書館をいっそ燃やしてしまえばいいのでは無いだろうか……などと考えたくもなる。

こうして狡噛慎也の長い一時が始まろうとしている。


698 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:26:49 k3tWCTF60

先に歩いている本田未央と小泉花陽にも断りを入れる必要があるため、男性二人は女性陣に近づく。
特に小泉花陽はキング・ブラッドレイと実際に対面しており、セリム・ブラッドレイがホムンクルスであることを知っている。
 
狡噛慎也がブラッドレイ親子に関する情報を伏せたとして、引っかかるのは彼女だろう。
先に忠告をしなくては下手に会話をこじらせ、ブラッドレイを刺激する可能性がある。
嘘は駄目。なんて妄言は大人の世界――少なくても殺し合いにおいて適用されるはずもない。

「なぁちょっといいか?」
「ふぇ!?」
「……そんな驚かれるとなんか怖いぞ」
「す、すいません!……はぁ」
「いや、まぁ……和んだから良いよ、こっちもごめんな」

話し掛けようとウェイブが小泉花陽に接触するも想像以上に驚かれてしまい、固まってしまう。
勢い良く謝る彼女に対しても固まるが、逆に緊張が解れたようだ。
図書館にはアカメが居る。セリム・ブラッドレイの件を抜きにしてもウェイブにとっては大きな局面となる。
何せ今まで自分が信じて来た価値観と向き合うのだ、不安が無いと言ったら嘘になってしまう。当然だ。
結果として小泉花陽のリアクションに救われた形となった。一息つく訳でもないが連戦が続いていたため、大した休息を取れていなかった。

どんな形であれ心労を減らしてくれたことには感謝だろう。
互いが笑顔となり、一瞬ではあるが殺し合いの会場に笑みが溢れる。

「なるほどなるほど」
「どうかしたのか、顔がニヤついているぞ」
「いやなんでもないですよ狡噛さん……そうかそうかぁ」

それを後ろから眺める狡噛慎也と本田未央だが、彼女もまた笑顔になっている。方向性は違うようだが。

「ほほぉ〜これはこれでアリ?」

単にゴシップネタが好きなだけである。


「取り込み中悪いがこれから図書館では話すことも沢山あるだろう。
 その中で主導権は俺に握らせてほしいんだが……任せてもらえないか?」
「私は大丈夫ですけど……どうしたんです?」
「私も解りました。ね、未央ちゃん? 狡噛さんに任せようよ」
「助かる……何が起きるか解らないからな。あまり余計なことは喋らないように頼む」

などと会話をしている内に彼ら四人は図書館へ辿り着く。
これから始まる会話は一部で腹の探り合い――ホムンクルスとの心理戦になる。
と言っても危険人物が図書館に入る前にセリム・ブラッドレイからの逃亡が目標だ。

交渉役は主に狡噛慎也。鍵と敵はセリム・ブラッドレイ。

「扉は私が開けますね」
「じゃあ開けてくれ本田」
「はーい……ってウェイブさんは何で剣を構えて……ん」

扉に手を掛けた本田未央はウェイブが臨戦体制に移っていることに疑問を抱く。
しかし何か気にしている様子、迂闊に触れない方がいいと判断し黙って扉を開いた。

すると。

「ただいま――っ」


扉が開いた瞬間にウェイブとアカメが飛び出す形となって両者対面となる。

互いに剣を構えている。目の前には元の世界から対立している宿敵のようなもの。
ウェイブは己の信じる正義のために。アカメは皆を守るために。


699 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:27:24 k3tWCTF60

(なんだよ……)

暗殺者は他三人を守るように自身を前線に投げており、仲間には指一本触れさせないと謂わんばかりに睨みつけてる。
女性の一人は子供を守るように身体で視覚を遮り、もう一人の男も皆を守ろうと前へ出てくる。

(これじゃあ……)

本田未央は一触即発な空気に戸惑いながらも後続の狡噛慎也と小泉花陽を図書館の部屋の中へ誘導した。
狡噛慎也はウェイブの横を通る際、彼の肩に手を置いた。

(まるで……)

本田未央が「この人達は敵ではない」と説明すると、アカメ以外の三人は彼らを受け入れた。
泉新一は警戒を完全に解いた訳では無いが、本田未央が受け入れていることもあって余計な口出しはしていない。

「此処で戦うつもりなら――葬る」

刀を構える音が一室に響く。
透き通った鋭利な金属音が部屋に居る全員の神経を集中させていた。
ナイトレイドとイェーガーズ、共に世界のために争ってきた組織。
出会う場所が殺し合いの場であろうとその因縁、矜持に変化はあり得ない。

(アカメは仲間を守るために刀を握っている)

ウェイブが部屋に入った時、彼は剣を握り締めていた。
武器を構えた男が突然乱入してくれば誰だって身構える。アカメは皆を守るために前へ出た。
他の仲間も子供を守るため、戦うために行動している。

一つの先入観として、ナイトレイドと徒党を組んでいるならばその仲間も悪の認識があった。
だが、目の前の人間はそう見えない。
仲間を守るために奮闘する――弱き者を守るために活動する存在にしか見えない。

(まるで――正義の味方じゃねえか)

仲間のために刀を握り、己の正義のために剣を握る。
前者と後者、どちらも聞こえはいいがこの場の意味合いでは大きく異なる。

ウェイブの中で何かが崩れ去ると同時に、彼は剣を手放した。






『俺はナイトレイドを狩るよりも殺し合いから皆を守って広川を殺す』
『私もだ。此処で争うぐらいなら先にお前から葬る』
『だから今だけは――』
『――今だけは手を結ぶ』

短い会話だった。
ウェイブとアカメが休戦を結ぶのに掛かった会話は明らかに短い。
彼らは敵対していた。己が掲げる正義を信じて世界のために戦っていた。
根っ子は両者同じであり、イェーガーズが帝都の内部を正す組織ならばナイトレイドは外から正す組織であった。

図書館の会話自体は狡噛慎也主導で進んでいる。

イェーガーズ自体に内部を正そうとする者は多くなかった。しかしナイトレイドは全員信念を持っていた。
殺し合いに置いてウェイブとアカメが手を結ぶ大きな壁は彼が彼女を受け入れること。

殺し屋を見逃し、手を結ぶことを了承するか蹴っ飛ばすかの二択。
実際にはアカメが他の参加者を守る姿を見て、ナイトレイドの先入観は大きく崩れることとなった。

民を守る一人の女性にしか見えない。手配書が出回る帝都に蔓延る悪逆非道の集団に所属している殺し屋には見えなかった。
殺し合いに巻き込まれてから――まるでイェーガーズの方が悪ではないだろうか、と疑い始めてしまう。
主にセリュー・ユビキタスの行動になるのだが、やはり倫理観が大きく常人とは離れている。

彼女とてイェーガーズの一員であり、信じる正義は本物であった。
行き過ぎただけである。無論彼女の正義は悪逆非道をも兼ね備えており、悪い行動が目立っていた。
道理も説明出来ない正義はただの暴力であり、その執行者はキチガ――道を踏み外している。

晒し首の件も同じだ。
自分達の常識を世界の理と勝手に捉えているから、民に不快を与えていることに気付かない。

「クロメのことなんだけどよ」

コーヒーを口に含ませたあと、歯切れ悪く彼女を思い出す。
「……イェーガーズでのクロメはどうだった?」
もう逢えなくなってしまった妹。遠くに行ってしまった妹の日常を姉は尋ねる。
「菓子ばっかり食っててさ。奪うつもりも無いのにあげない! とか言ってきてな」
姉妹は似る者なのか、と聞いていた泉新一が内心に思っている。
アカメは少しだけ微笑むとウェイブの言葉を待つため彼の方へ向いた。

「仲間思いの奴だったよ。俺の大切な仲間だった」

「――それはよかった」

少しだけ。
ほんの少しだけテーブルに涙が一滴、静かに落ちていた。




700 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:27:54 k3tWCTF60

「そのキンブリーという奴を知っているのかセリム?」

狡噛慎也主導で進む情報交換は基本的に円滑に進んでいた。

提示されて来たサリアの件や血を使う男の話など収穫はあった。

プロデューサーが見つからず、タスクが別行動を取って探しにいったこと。
ウェイブ達が遭遇したホムンクルスエンヴィーと錬金術師であるキンブリーのこと。
その交戦で天城雪子が生命を落としたこと。セリュー・ユビキタスとの戦闘があったこと。
本田未央の友達である島村卯月が生命を落とし、セリューも狡噛慎也の手で死んだこと。

どれもキング・ブラッドレイ関連を伏せて狡噛慎也は説明していた。
セリュー・ユビキタス戦に駆け付けた正義の味方として話している。
此処で大総統が殺し合いに乗っている――などと話せばセリム・ブラッドレイがどう動くか全く予測が出来ない。
時折ホムンクルスという単語をチラつかせ尻尾を掴もうとするが、相変わらずセリムは幼い子供のそれと同じ。
狡噛慎也はカマをかけるため、キンブリーの名前を使う。

「どうして僕にそんなことを聞くんですか?」
「キンブリーの名前が出た時、少し反応してたからな。知り合いか?」
「いえ……話には聞いたことがあります。上官殺しで捕まった錬金術師が居ると」

「ゾルフ・J・キンブリー……クロメを殺した男」

結局セリム・ブラッドレイの皮を剥がすことは出来ない。
キンブリーの名前を刻んだアカメは妹の敵である彼をこの手で葬ると決意する。
この世界に――裏の世界に踏み込んだ時から常に死と隣り合わせで生きてきた。
死んでも仕方がない。だから、せめて。この手で仇を取ろうと一人、新たな決意を固めていた。

「もしかしたらキング・ブラッドレイさんはそのエンヴィーって奴らと遭遇しているかもしれない」
「そうだな。位置的には遭遇していても可怪しくはないな。
 大総統と呼ばれていただけのことはある――あの男が簡単に死ぬとは思えないがな」

泉新一が地図を広げながら位置情報を確認する。
それに対し狡噛慎也は返答するも、そもそもブラッドレイ関連は嘘を含んでいるため適当だ。

「セリム君の前でそんなことを言うのは関心しないわね」
雪ノ下雪乃は子供の前で親の生死を話す彼らに苦言を呈する。
「それは私も思いました。そう言えば由比ヶ浜――かよちん?」
本田未央も雪ノ下雪乃と同意見を呟き、狡噛慎也の話に補足を入れようとする。
死んだと聞いていた由比ヶ浜結衣の話は説明しなくていいのか――と、言おうとしたところ、小泉花陽が本田未央の袖を引っ張った。
無言で首を横に振り「今は静かにしてよう」とサインを送る。受け取った本田未央は解ったと小声で呟いた。

「キンブリー……あいつだけは」

ウェイブはキンブリーと遭遇している。人形と化したクロメとも遭遇している。
許せない。あの男だけは許せない。
大切な仲間を殺し、その死後さえ縛るあの男を許す道理など彼の中で存在する訳がない。
忘れたくても忘れられない復讐心を燃やしながら彼は一言呟いて立ち上がる。

「ちょっと外の空気吸ってくるわ」

これでは復讐心に囚われ焔を燃やすマスタングと変わらない。
頭を冷やす意味も込めてウェイブは外へ出て行った。














「他に外に行きたい奴はいるか?」

狡噛慎也の発言に誰も手を挙げることはない。
それを確認すると狡噛慎也自身も外へ出ると発言し、部屋を後にした。

「なら俺も席を外そう」

――泉新一から聞いたが槙島聖護……あいつは何処に居る。

高坂穂乃果の証言と同じようにあの男は音ノ木坂学院付近にいるようだ。

――地図で考えれば音ノ木坂学院から西か北、或いは南か。

もし図書館に現れなければ北か南に行ったことになるだろう。
この場を後にし高坂穂乃果と合流するよりも自分は別行動を取った方が槙島聖護と早く遭遇出来るかもしれない。
幸いウェイブとアカメの戦力もある。最悪自分が離れても戦える力が残っている。

タバコを取り出し火を点けると、狡噛慎也は外に続け扉に手を掛けた。




701 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:28:24 k3tWCTF60

「…………海未ちゃん」

泉新一から聞いた音ノ木坂学院の話を聞いた小泉花陽。
彼女はこれで死んでしまったμ’sの結末を知ることとなった。
何でこんなことになったのか……それは誰にも解らないだろう。
本来の人生において、殺し合いに巻き込まれる予定などあり得ない、運命は残酷である。

けれど小泉花陽は死んだ仲間と違って生きている。前を向ける。未来に向かって生きていける。

立ち止まっていては死んだ仲間に合わせる顔が無い。
だから――星空凛が守ったセリム・ブラッドレイと出会いたかった。

目の前の少年はロイ・マスタングからホムンクルスと聞いていた。
そのホムンクルスはあのエンヴィーやキング・ブラッドレイと同じである。
見ているだけではただの少年にしか見えない。本当にホムンクルスなのだろうか。
きっとそうだ。ロイ・マスタングが嘘を憑いていることは無い。

「ねぇセリム君」
「小泉花陽さん……その、星空凛さんは」
「――っ」

どうにか聞き出そうとした核心を相手側から示されてしまった。
言葉が詰まってしまう。何を聞けばいいのか。
最期を聞くのか――そんなの知りたくない、心の何処かで生きていることを願っているから。
ホムンクルス――何のために狡噛慎也とウェイブが伏せて話していのか解らなくなってしまう。

「僕を庇うように、それで、その……ごめんなさい」

「セリム君が謝ることじゃな、いと思うから……それに凛ちゃんだって」

後悔は無いと思う。その言葉が出て来ない。
死んだことに対して後悔を抱いていないのか、そんなの本人にしか解らない。
その行動自体に後悔何て絶対に抱いていない――少年を守れたのだから。

「すいません、僕も少し席を……」

「いいよセリム君。それじゃ泉君が外まで案内――って泉君は?」

「彼なら外に出て行ったわ。セリム君、一人で大丈夫かしら?」

「大丈夫ですよ本田さん、雪ノ下さん」

彼も星空凛の死に対して何か思うことがあったのか、外に出ると提案した。
それに反応する本田未央と雪ノ下雪乃。泉新一も外に出ているようである。

一人で大丈夫と言い放たセリムは扉から出て行く。部屋に残されたのは女性四名。

顔を伏せている小泉花陽の頭をそっと撫でる本田未央。
彼女も渋谷凛と島村卯月――大切な仲間を失っている。だから小泉花陽の気持ちも理解出来る――かもしれない。
自分だってまだ気持ちの整理がついていない。しかし本人が解決するしかない。だから。

「今は泣いていいんだよ……かよちんは今、泣いていい」

気持ちの嫌な部分を涙と共に流せばいい。
自分の胸を貸した本田未央は優しく耳元で呟いた。



そしてまた、図書館の扉が開き、新たな参加者がやって来る。






702 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:29:08 k3tWCTF60

「何一人で黄昏れてる」

「狡噛か……いや、案外アカメとすんなり終わってよ。なんか安心しちまった」

図書館の前で座っているウェイブの隣に立った狡噛慎也が声を掛ける。
煙草の煙と共に言葉を吐き出し、一人何か考えているウェイブを気遣う。
勿論狡噛慎也は煙草が吸いたいこともあって外に出ているのだが。

「お前らの領域に口を出すことはしないが、こんな状況じゃ正義も悪もあったもんじゃない」
「同感だ。自分の信じる正義って奴と他人の信じる正義って奴は場面が違えば本当にくだらない」

数多の世界が重なりあったこの空間に常識など通用する筈がない。
寄生生物、帝具、錬金術、ホムンクルス……どれもファンタジーで現実味に欠ける。
それにスタンドやペルソナ、下手をすれば彼らに機動兵器が襲い掛かって来る可能性もある。
不可能はあり得ない。そう思わなければやっていけない。

「すいません、一つ聞きたいことがあります」

「お前は……泉新一か」

新たにやって来た泉新一の顔色はお世辞にも良いとは言えない。
何か言いたげそうな表情をしており、彼らは黙って言葉を待つ。

「セリム・ブラッドレイとキング・ブラッドレイについて――」

「奴らはホムンクルスだ――とかか?」

「知ってて……!? 奴らってことはキング・ブラッドレイも」

「ラース、と言われいたホムンクルスだ」

「じゃあさっきの情報交換はセリム・ブラッドレイを刺激しないためにわざと……なら、こっから早く!」

「そうだな……そろそろ潮時だろう。
 此処でセリム・ブラッドレイだけを置いていくのは不可能だ。
 適当に敵襲が合ったと嘘を吐いて図書館から離れるしか無いな」

泉新一は驚く。ブラッドレイ親子の素性を知っているのは自分だけだと思っていた。
先ほどの情報交換ではホムンクルスについて触れられていたのはエンヴィーだけ。
ならば狡噛慎也は全て計算して話していた――セリム・ブラッドレイを刺激しないために。

泉新一にとってこの転機は有り難い。手詰まりだった状況から脱出出来るのだ。
ミギーが眠っている間、絶望に近い状況だったがまだ希望は残されている。


「誰がホムンクルス何ですか――狡噛慎也さん?」


しかし絶望はまだ残っている。
尋常じゃない殺気を放ちながらセリム・ブラッドレイは男性陣三名に問を投げる。

汗が止まらない。
泉新一は振り返らない。向いてしまえば其処にはホムンクルスが笑っている。

「自分から言ってくるとは狙いは何だプライド」

「そうですね……あまり面倒なことにはしたくありませんが貴方達は私の正体を知っている」

「じゃあ此処で殺すって話になるんじゃないだろうな」

「話が早くで助かりますよウェイブ」


散開。


703 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:29:37 k3tWCTF60

プライドの言葉と同時に三名は大きくその場を離れた。
図書館を戦闘に巻き込まないために少ない時間で大きな距離を離すために。
彼らが居た場所は無数の影によって大きく陥没していた。

「これがマスタングの言っていた影を使う能力か」

「やはりマスタング大佐から聞いていたんですね。
 さっきの話では一切私やラースの正体に触れていない。逆に怪しいと思いまし――っ」

声を遮るように狡噛のリボルバーが放たれるも影で防がれてしまう。
新たに襲い掛かってくる影を右へ大きくスッテプし避ける。

「本当に怪物なんだなお前は。
 その癖に人間を気取って紛れ込んでいるとは質が悪いな人造」

更にリボルバーから銃弾を何発か放つも全てが影に遮られ無駄弾となる。
その隙を付いてウェイブが背後に接近し斬り掛かろうとするも影に進路を塞がられる。

見の危険を感じ、大きく後退しながら影の猛攻を剣で受け流す。
一つ一つの衝撃が予想よりも大きく、セリム・ブラッドレイもキング・ブラッドレイと同じホムンクルスであるといことを実感する。





「遊んでいる暇は――逃しませんよ」

戦闘の隙を狙って泉新一は図書館へ走っていた。
中に残っている仲間に危険を知らせこの場から離脱することが目的だがプライドは逃さない。

鋭利な影が串刺しにせんと襲い掛かるもウェイブが割って入り、これを防ぐ。
狡噛がプライドの右目をリボルバーで吹き飛ばす――つもりがこれも影に防がれる。

決定打を与えられていないが、泉新一を図書館へ行かせることには成功した。

「邪魔をしないでもらいたいですね、人間」

「こっちの台詞だホムンクルス。お前と言いキング・ブラッドレイと言い……ったく。
 同じ世界のマスタングに同情したくなっちまう」

「マスタング大佐は別行動と聞きましたが今は何処に」

「お前が知る必要は無い。あの世に持っていく土産なぞ不要だろうッ」

背後に回りこんだ狡噛の銃弾が今度こそプライドを捉えた。
後頭部に着弾した傷は――赤い閃光と共に修復されていく。

「俺は二日酔いでも何でもないぞ。ホログラムでもあるまい――怪物め」

目の前に居る存在は人間ではない。
犯罪者はどれも理解出来ない行動を取るが、彼は人間であった。
しかし目の前のプライドは正真正銘の怪物だ。

さて、どうする。

狡噛慎也とウェイブは何を目標にこの場を遣り過せばいいのか。




704 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:30:53 k3tWCTF60

階段を一気に駆け上がる。
息が切れようが足を休ませることはしない。
一時の誘惑に負けてしまい、未来を溝に捨てる行為など痴がましい。
泉新一は図書館から皆を率いて脱出させなくてはならない。
そのために狡噛慎也とウェイブがプライドの相手を引き受けている。自分の役目を果たせ。


「外でセリム・ブラッドレイが――……?」


勢い良く扉を開けた泉新一は声を詰まらせる。
小泉花陽だけが何やら怯えるように震えており、それ以外は平然としていた。

「セリム君がどうかしたの? 泉君?」

給湯室からコーヒーを運んで来た本田未央が外から帰ってきた泉新一へ。

「いやだから……そのコーヒー、誰のだ?」

お盆の上に置かれているコーヒーカップに違和感を覚える。
テーブルの上にはアカメ、雪ノ下雪乃、本田未央、セリム・ブラッドレイの四つが並んでいる。
次の一つは誰の物になるのか。まさか自分ではあるまい。

「そう言えば泉君、セリム君はまだ外かしら」

「そうだねー折角……って泉君、どうしたの?」

泉新一の耳に女性の声は届かない。
何で小泉花陽が怯えているのか。どうして新しいコーヒーカップが運ばれて来たのか。
その答えは彼の視線の先に居る男が物語っている。直感で解ってしまった。

「私の息子がどうかしたのかね――泉新一君?」

その声を聞いたことは無い。
その姿を見たことは一度も無い。
その男と繋がり何てあってたまるものか。
だけど、知っている。いや、解ってしまったのだ。この男を。


「キング・ブラッドレイ……ホムンクルスのラース……ッ!!」

何のために狡噛慎也が情報を伏せていたのか。自分でも馬鹿らしくなる。
現状をそのまま言葉に出してしまった。
ホムンクルスの情報は事前に狡噛慎也から聞いている。エンヴィーだけだが。
しかし、それだけで警戒する対象になる。唯一の戦力であるアカメは既に抜刀していた。

「ホムンクルスってさっき狡噛さんが言っていた……?
 嘘ですよね、ブラッドレイさん……ブラッドレイさんがホムンクルスだなんて」

本田未央の口から溢れる本音。
ホムンクルスとは怪物だ。傷が再生したり他人に変身出来たりするらしい。
とにかく人間じゃない――キング・ブラッドレイが人間ではないことを信じられない。

「それはどう思うかね、小泉花陽君」

ブラッドレイは自分の口から語らず小泉花陽に話題を移した。
彼女は彼が到着してからずっと震えていた。
その光景を皆は「恐怖の対象はブラッドレイ」など認識してない。それは誤りだった。

「貴方もセリム君も……やっぱり、ホムンクルスなんですね……っ」

小泉花陽の言葉を引き金に三者が動き出す。
キング・ブラッドレイは両手に剣を握り、自分の正体を知る人間を殺すために。
アカメは仲間を守るためにその間に強引に割り込んだ。
泉新一は戦う力の無い少女達を守るために走る――戦えないのが情けない。

金属音が響く。
剣同士が鬩ぎ合い、両者互いに引くことを知らないらしい。

「セリム・ブラッドレイはお前の息子ではないのか!?」

「聞いていたろうに。奴と私はホムンクルスで私は奴の弟だ。
 手荒な真似はしたくないがタスクも居ない以上長居するつもりはない。掃除をして帰らせてもらう」

「は――ッ!?」

「嘘だ」

二本の剣でアカメの刀をかち上げると、無防備になった彼女の胴体にブラッドレイは蹴りを叩き込む。
ピンボールのように軽く飛ばされた彼女は本棚を巻き込んで大きく吹き飛ばされた。

「アカメ! っくそ!」

女性三人を安全な場所に避難させようとしていた泉新一が声を荒げる。
ブラッドレイは此方に向かいその足を走らせている――対処しなければならない。


705 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:32:00 k3tWCTF60

適当に本棚から本を抜き取りブラッドレイに投擲を開始。
その腕力は常人離れしているが、簡単に引き裂かれてしまう。
距離はもう近い。電気スタンドを手に取り即席の武器として立ち向かう。

「戦う意志は見上げたものだが――舐められているな」

ブラッドレイの攻撃を防いだつもりであった泉新一の胸に横一文字の傷が浮かび上がる。
電気スタンドごと斬り裂かれた彼は呼吸が止まってしまい、僅かな瞬間ではあるが硬直してしまう。

「そのまま落ちて死にたまえ。私の正体を知らなければ少しは長生き出来たかもしれんがな」

アカメ同様蹴り飛ばされた泉新一は窓ガラスを突き破って外へ放り出されてしまう。
腕を伸ばしても届かない。ミギーが起きていればこんなことには――腕は掴まれた。

「諦めないで!」
「もう私の前で誰も死んでほしくないのよ……!」

雪ノ下雪乃と本田未央が泉新一の腕を必死に掴んでおり、彼の落下を阻止していた。
引き上げようと頑張ってはいるが、ブラッドレイは待ってくれない。
彼女らごと斬り裂こうとするも、彼の目の前に本棚が滑り込んで来た。

バックステップでこれを回避。直撃していれば人間の骨は折れている。
崩れた本棚の影から接近してくるアカメの攻撃を左腕の剣で防ぐ。
空いた右腕の剣で身体を斬り裂こうとするも空を斬る。アカメは既に背後へ移動していた。

「面白い!」

ブラッドレイは生きている本棚を掴み、それを引き倒す。
床に大量の書物が散らばりアカメの足を止める雑音となった。
足を取られたアカメの隙を狙い突きを放つ。

彼女は刀身上を滑らせるようにその突きを受け流すと、勢いを殺さずブラッドレイに肉薄。
肘打ちを叩き込むに成功すると、足を蹴り上げ足元にある書物をブラッドレイの顔面に直撃させた。

どれも有効な一撃になっているとは思えないが一撃は一撃である。
距離を取りブラッドレイの動きと泉新一達の動きを視界に捉える。
彼は引き上げられており、時間稼ぎの必要はもう少しで終わる。最も時間稼ぎで終わらなければいいのだが。

書物によって眼帯を外されたブラッドレイはそれを拾い、ポケットに仕舞い込んだ。

「視えているのか」

「この眼は良く視えるぞ――貴様の太刀筋もな」

風のように一瞬で距離を詰めたブラッドレイは剣を横に払う。
アカメは上半身を仰け反らせて回避、続く攻撃も刀で防ぎ、弾き飛ばす。
一歩踏み込みブラッドレイの肩を狙うも、刀の柄を片方の剣で抑えられ失敗。

もう片方の剣で顔を刺されようとなるも、強引にブラッドレイの腕を掴み切っ先を逸らす。
剣先は頬を掠め取り血が流れるも戦闘に支障はない。身を低くし接近する。しかし。

「視えていると言ったばかりではないか」

気付けば目の前にはブラッドレイの右膝がカウンターのように置かれていた。
避ける術も守る業もない。つまりアカメは直撃を顔面に貰う形となった。


706 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:32:59 k3tWCTF60

身体を折り曲げたところに追い打ちで顎を蹴り飛ばされ大きく天井を見上げる。
意識が一瞬飛んだようだ。急いで刀を防御行為に移行するため引き寄せるも遅い。

「しまっ――ッ!」

既にブラッドレイの剣はアカメの首を跳ね飛ばさんと迫っている。
刀の位置はまだ胴体部分、回避行動に移行するにも気付くのが遅過ぎる。
クロメの仇であるキンブリーにも会えないまま此処で死ぬ。

否、断じて否。

「しっかりしろアカメ!!」

力任せに泉新一がアカメの身体を引っ張り強引にブラッドレイの一撃上から首を逸らす。
本田未央達に引き上げられた彼は止血をする暇も割いてアカメ救出に走っていた。
しかしミギー亡き今、彼にブラッドレイと正面から戦う力は無い。

「勇気ある行動は時に無謀で愚かな行動となるが……自らを捨て仲間を助ける覚悟は見上げたものだな」

よって迫る剣を防ぐ方法など最初から存在しないのだ。戦闘に割り込んだ時点で彼の死は決まっていた。

「お前もしっかりしろシンイチ!!」

ならば戦う力を持った者が皆の分まで戦えばいい。
泉新一に助けられたアカメは彼と同じように身体を引き寄せブラッドレイの攻撃を回避。

続けて刀を振るうも空を斬る。更に一撃。防がれる。一歩踏み込んで強めの一撃。これも防がれる。
何度も何度も刀を振るうがブラッドレイに直接刀を触れさせることは出来なかった。

「はぁ……はぁ……」

息が上がってくる。
顔面に貰った一撃が効いており、身体が思うように動かない。
泉新一も胸から出続ける出血に苦しまされ、今は本田未央達に止血をしてもらっている。

対するブラッドレイは途中肉弾攻撃を貰ったのみ。大きなダメージは零である。
剣を振り、血液を飛ばすとアカメの方へゆっくりと歩き始める。

「首輪を外す段取りを確認しようとしたがタスクが居なくては意味が無い。
 それに私の正体を知っている君達を生かしといては何かと不都合なんでね……セリムも知っているならば尚更だ」

「全員殺して願いを叶える……馬鹿げているな」

「抜かせ小娘が。最初から願いなどあてにしておらんよ。
 無駄に殺す必要も無いが帰る術が無いならば広川から直接聞く必要がある。そのためには」

「全員殺して最期の時……その力をどうして脱出に役立てない」

「言いたいことはそれだけか。生憎もう直面倒な連中が来るかもしれんからな」

そしてブラッドレイを剣を振り上げる。
外でプライドが戦っていれば戦闘音を聞いて誰かがやって来るだろう。
それに生きていると思われる島村卯月も来る……彼女は別段、警戒対象でもないが。


707 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:33:33 k3tWCTF60

プライドも表向きは一人の市民として振舞っていたようだ。
素性がバレてしまえば今後が動きが制限されてしまう恐れがある。芽は早々に摘むべきだ。

「アカメさん!!」

叫び声は届いても動力にはならない。泉新一も、本田未央も、雪ノ下雪乃も誰もが助ける力を持っていない。
黙って見ているしかない。アカメが殺される瞬間をその目で。

これ程自分が無力と感じてしまう時が嘗てあっただろうか。
弱い。弱い自分が情けない。動ける人間になりたかった。



ならば、動ける人間こそがこの場を打開する鍵になる。



「――むッ!?」


一室に走る赤い閃光。

その発信源はブラッドレイのバッグだ。
彼はこの光を知っている――錬金術の光――それも賢者の石を使用したものだ。
バッグの中に入っている存在と言えば一人しか居ない。

「邪魔をするか、ロイ・マスタング!」

バッグを外へ放り投げる。
窓を突き破ってしまえば後は落ちるだけ。脅威にならない。しかし。

「捕った!!」

何が起きているか解らないが本田未央はそのバッグをキャッチした。
舌打ちをするブラッドレイを見て何かいけないことをした気分になるが関係ない。
何故ならばバッグから一人の男性が登場したからだ。


「この状況――言い逃れは出来んぞラース」


「邪魔ばっかりしよってこの人間風情が」


炎の錬金術師ロイ・マスタング。
遅れながら図書館を舞台にするホムンクルス戦最期の参加者の登場だ。

「私を救ってくれて礼を言おう。こんな状況で無ければお茶にでも誘うんだがね」
「あっはい……」

本田未央に短い礼を述べると掌を合わぜ床に置く。
青い閃光が走ると床は盛り上がり、アカメ、泉新一、雪ノ下雪乃、本田未央を囲むように壁へと錬成された。

「言いたいことは沢山あるがまぁいい。図書館にはこれだけの書物がある。よく燃えると思わないか?」

「貴様ッ!」

「後でゆっくり話そうじゃないかラース。バッグのことも、アメストリスのことも――何もかもッ!!」


パチン。
掌を合わせ指を弾く。


焔が錬成されると同時にブラッドレイは駆け出し窓から身を投げ出す。
狭い室内の中で焔の錬金術師と戦うには部が悪すぎる。広範囲で燃やされては避ける以前の問題だ。
戦略的撤退とでも表そうか。無事着地したブラッドレイは東へと走る。

「全くまるで狙ったかのように飛び出して来たもんだ」

愚痴の一つでも零したくなるがまあいい。
奴らを残しておいても付近ではプライドが戦っているらしい。
どの道彼が処分してくれるだろう。ならばこの場は任せても問題無いだろう。

「さて――私はどうする、か」

自分の正体はどうやら思ったよりも広まっているらしい。
この付近にはタスクがいるようで、接触する価値はまだありそうだが――どうするべきか。


708 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:34:28 k3tWCTF60

スプリンクラーが図書館内の鎮火に励んでいる中、泉新一達は壁から出て来た。
燃えた書物は全体の二割程度といったところだろうか。何にせよブラッドレイを退けれたのは大きな成果と言える。
あのままでは全員死んでいた。からくりは不明だがバッグから出て来たマスタングに感謝するべきだ。
しかし一向に休む暇は無い。

「私の知り合いがいないようだが……ウェイブや小泉花陽君はいないのか」

「ウェイブと狡噛慎也さんは外でセリム・ブラッドレイと戦っているよ……助けにいってくれ」








「……ん――あ、かよちんは?」












森の中をプライドは一人歩いている。
交戦していた狡噛慎也とウェイブは遮断物の多い森の中ならば戦えると判断し移動していた。

「全く無駄な努力ですね」

しかしその程度で戦力を軽減させられるプライドではない。
元に二人には傷を与えており、狡噛慎也に関しては足に傷を負わせている。
そう遠くへは移動していないようだが――補足した。

「上着が木からはみ出していますよ、狡噛さん」

ジャケットが見える。逃げたつもりだろうが爪が甘いとは人間は愚かである。
プライドは優しい神ではない。当然のように情けを掛けることもなく影は狡噛慎也を貫いた。


「やってくれますね――ッ!!」


しかし影が貫いたのは上着のみ。そもそも狡噛がわざと置いておいたダミーである。
本人は別の場所に身を潜めており、リボルバーから弾丸を放ちプライドの足止めを行う。
よく見れば出血しており、プライドが言っていたとおり右足を掠められているようだ。


709 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:35:12 k3tWCTF60

狡噛が時間を稼いでいる間にウェイブは――木の上から飛び降りプライドに奇襲を掛ける。
手に持っているのは剣とバッグ。

「この中にでも入っていろホムンクルス!!」

プライドの頭に被せるようにバッグを振るうも彼は横に飛び、これを回避。
すると間髪入れずに影はウェイブを包囲、逃げ場が無くなってしまう。

「能力の無い人間にしては良く頑張ったとは思いますが……お別れです」

「チッ……この怪物め」

プライドが腕を振り上げる。
これが降ろされれば影は一斉にウェイブを殺しに掛かるだろう。
そして次は狡噛慎也が対象となる。完全な手詰まりだ。為す術もない。



「セリム君!!」



戦場に似合わない少女の声が響く。
「貴方はたしか小泉花陽さんでしたね」
「やっぱりホムンクルス……じゃあ凛ちゃんは怪物を助けるために死んだの……っ」

影を操り銃弾で貫かれても再生するその姿は人間では無い。
泉新一の報告を聞いてから走って来たものの、嫌な予感は当たるものだ。

信じたくなかった現実が目の前に反り立つ壁となって障害となる。

「星空凛……彼女は僕を庇って死にました」

プライドは思い出す。ホムンクルスとは異なる怪物に襲われた時を。
その時に庇ってくれた一人の少女のことを。

「彼女には感謝しています……おかげで私も少しは素性を隠すことが出来ました。
 それも此処に居るウェイブや狡噛慎也のせいで結局は無駄死となりましたがね」

「無駄じゃない!!」

「言い切れますか?」


710 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:35:57 k3tWCTF60

プライドの言葉に反射で叫ぶ小泉花陽。
無駄死? 誰が? 星空凛が? 冗談じゃない。
彼女は守るために死んだ。誰を、プライ――いや、セリム・ブラッドレイを。

「凛ちゃんが守ったのはホムンクルスプライドじゃなくてセリム・ブラッドレイ……貴方を守ったの」

「何を言って……なるほど。私の正体と大総統の息子としての姿、両方を知っているんですんね。残念ながらこっちの姿が本物ですよ」

「貴方は何も思わないの……何も思わないの!?」

「―――――――――――――」

少女の叫びにプライドは眉をひそめる。
星空凛に庇われてから思考にノイズが走るのは事実である。
ブラッドレイ夫人と重なったソレは自分を守ってくれる対象であった。

以前ラースに人間に染まり過ぎたと忠告したこともあった。しかしそれは自分も同じらしい。
長い間セリム・ブラッドレイを演じている中で、情けないが人間に染まっていた。
ブラッドレイとしての生命も悪く無い――そう思っていたかもしれない。

自分を守ってくれる人間。その点で言えば星空凛も同じだ。
こんな自分を守ってくれた少女だ。何も思わない何て嘘になる。
人間らしい感情を得た――自分でも信じられないとプライドは思う。

それだけは伝えなければ――人間としての、セリム・ブラッドレイとしての声を。













「何も思いませんね。
 たかが会って数時間の人間に抱く情などありません」



ブラッドレイ夫人と同格……そんなことはあり得ない。
一つ認めよう。人間に対して情が生まれたのは事実である。
長い間演じたセリム・ブラッドレイの仮面は思ったよりも心地よかった。それだけだ。

「これで満足ですか……では死んでください、貴方も」

絶望によって全ての希望を砕かれた小泉花陽は無言だった。
その瞳はただプライドを見つめており、身体を動かす気配は感じられない。

ウェイブは影の包囲網の隙間から抜け出すと、彼女の盾になるように目の前へ。
狡噛慎也は銃弾を補充し、この場を打開するべく脳内の思考を回転させている。

「凛ちゃんは」

「?」

「凛ちゃんはそんな人のために死んでなんかいない!!」



「人間では無くてホムンクルスですが……さようなら」

彼女の声が虚しく響くと影が襲い掛かる。
ウェイブが剣を握り構えてはいるが、全てを防ぐことは無理である。


711 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:38:09 k3tWCTF60

四方から遅い掛かる影から逃げる方法は上だけ。しかし飛ぶ方法など存在しない。
グランシャリオでもあれば展開は大きく違っただろう。少なくとも狡噛慎也共にこんな傷を負う必要は無かった。

だが助かる方法もある。
逃げれないかと見上げた上空からアカメが降って来た。
もう一度、アカメが降って来た。

「お前何で」

「舌を噛むぞ」

ウェイブと小泉花陽を抱えるとその場から大きく跳躍し近くの木に着地する。
新たな乱入者に驚くプライドではあるが、殺す対象が増えただけである。

「来てしまいましたかアカメさん」

「それがお前の本当の姿かセリム・ブラッドレイ」

「ええ、ホムンクルスのプライド。そう呼んで貰って構いませんよ。呼べる機会があるなら」

アカメが着地した木に向かって影が襲い掛かる。
彼女は二人を抱えたまま木々を飛び移りながら移動しこれを回避。
大地に着地した所を影が狙うも、大地の隆起によって出来た壁に防がれる。

「貴方は――ロイ・マスタング!」

「これはこれはお久しぶりですねセリム・ブラッドレイ……いや、ホムンクルスのプライド」

「お前ブラッドレイはどうした」

「なに、図書館で一戦交えて来たよ。逃げられはしたが」

「な……皆は無事か?」

「少なくても君よりは無事だぞ、ウェイブ」

図書館から駆け付けたアカメとロイ・マスタングによりプライド戦は転機を迎える。

「無駄弾を消費した甲斐があったな」

狡噛慎也が放った銃声とプライドの影による森林破壊は周囲に轟音を響かせていた。
危険人物が近づいて来る可能性もあったが助けを呼ぶにはこれしか無かった。
泉新一には皆を逃がすことを頼んでいた。元より図書館に戦える人間は少ない。

しかし結果として駆け付けてくれたのは図書館に居た人間ではあるが。


「皆は下がっていてくれ!」


掌を合わせたマスタングはプライドを包むように大地をドーム状に錬成する。
「手合せ……まさか真理に!?」
「ついでにお父さまとやらも倒したがな」
「貴方は何を――チィ!」
プライドを包み込んだ大地に向かって焔を飛ばすロイ・マスタング。
密閉された空間に対して放たれる焔は蒸し焼きのように対象を焼き尽くす。

「生きていたら話を聞こうではないかホムンクルス!!」


焔が吹き荒れる。
離れている狡噛慎也達にまでその熱さが届いてくる。
あの即製釜の中に入っているプライドもただじゃ済まないだろう。

そこまで見届けて狡噛慎也は出血の影響もあり意識を失ってしまった。





712 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:38:47 k3tWCTF60

狡噛慎也が目を覚ましたのは森の中では無く、図書館に備わっている宿直室のベッド。
知らない天井だ、などと思いながら身体を起こすとどうやら上半身が裸になっている。

「あ、お早うございます狡噛さん! ……服、来てくださいね?」

横を見れば本田未央がタオルを絞っている。身体を拭いてくれていたようだ。
年頃の女の子らしく半裸体に恥じらいを感じているらしい。脱いでいる意味も無いので狡噛は上を着る。

「プライドはどうした?」

「プライド……?」

「セリム・ブラッドレイのことだ」

「あ……セリム君は逃げたらしいです……って聞きました」

「そうか。知っているとは思うがあいつはホムンクルスだからな」

「……はい。でも人間と何一つ変わらないんですね」

本田未央は未だに信じられていない。セリム・ブラッドレイが怪物である事実を。
キング・ブラッドレイの戦闘はこの眼で見た。人間離れしているのは素人でも解る。
きっと同じ親子であるセリム・ブラッドレイも怪物――思いたくはないが、きっとそうなのだろう。

狡噛慎也は若干重くなった空気を変えるために話題を変える。

「他の奴らはどうした」
「皆は音ノ木坂学院へ向かいましたよ。それで私は狡噛さんの看病で残っちゃいました」
「残ったと言っても襲われたらどうするだ?」
「襲う……えぇ!? 狡噛さん、いや、えぇ!?」
「…………………他の参加者に襲われたらどうするつもりだったんだ」

「その時は私が戦うさ。勿論前者の場合でも戦うがね」

扉の奥から現れたマスタングが冗談交じりに会話に混ざる。
本田未央は自分の勘違いを認識し、恥ずかしくなったのか絞ったタオルで顔を拭いている。

「プライドは」
「燃やす直前に釜を破って逃げられてしまった」
「キング・ブラッドレイは」
「あの男にも逃げられた」
「他の連中はどうした」
「音ノ木坂学院に向かっている。高坂君もいることだしな。
 一緒に行動しても良かったが君が気を失っていたからな。留まっていても危険が生まれるだけだから先に向かわせたよ」

「――死人は」

「誰も出ていない。よくプライド相手に持ち堪えてくれた。礼を言う」

頭を下げるロイ・マスタングと興味が無いのか煙草を探す狡噛慎也。
聞きたいことは聞けたし現状も確認出来た。
マスタング含め図書館周囲では中々に目立つ戦闘を行ってしまったため、他の参加者の目に付いた可能性が高い。
長居は無用である。狡噛は本来通り――槙島聖護を考える。

図書館に来なかったことを考えると奴は音ノ木坂学院から北或いは南に移動している可能性が高い。
この時点で確立は二分の一である。

そして安直な考えではあるが北には潜在犯隔離施設がある。
狡噛慎也と槙島聖護が知る唯一の施設が存在している北に槙島聖護は居るかもしれない。
知っている施設があるから、という本当に安直な考えではあるが確率は元より二分の一である。

「なぁ――俺は東経由で北に行こうと思う」

さて、二人はどう反応するか、だな。
それよりも誰か俺の煙草を持っていないのか。


713 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:39:21 k3tWCTF60

【D-5/東/一日目/昼】


【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、左肩に裂傷、左腕に裂傷、全身に切り傷
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:ディバック、基本支給品×2、不明支給品0〜4(セリューが確認済み)、首輪×2、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。
0:キンブリーは必ず殺す。
1:音ノ木坂学院に向かうが……
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:セリュー…
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。
※自分の甘さを受け入れつつあります。


【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(中)、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません)
[装備]:音ノ木坂学院の制服
[道具]:デイパック×2(一つは、ことりのもの)、基本支給品×2、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ、スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation 、寝具(六人分)@現地調達、サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す
0:何でこんなことになったんだろう……。
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:穂乃果と会いたい。
3;μ'sの仲間や天城雪子、島村卯月、由比ヶ浜結衣の死へ対する悲しみと恐怖。
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後。


【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(大)、頬に掠り傷、顔面に打撲痕(もう少しで治ります)
[装備]:サラ子の刀@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:なし
[思考]
基本:悪を斬る。
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:キンブリーは必ず葬る。
3:タツミとの合流を目指す。
4:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
5:村雨を取り戻したい。
6:血を飛ばす男(魏志軍)と御坂は次こそ必ず葬る。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が学園都市に属する能力者と知りました。
※ディバックが燃失しました
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。


【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:健康、八幡が死んだショック(若干落ち着いている)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、MAXコーヒー@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている、ランダム品0〜1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:知り合いと合流
3:比企谷君……
4:イリヤが心配
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。


【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(中)、横腹負傷(治療済み)ミギーにダメージ(小) ミギー爆睡、胸に裂傷(止血済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム品0〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:後藤、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂美琴らしい?)を警戒。
3:ホムンクルスを警戒。
[備考]
※参戦時期はアニメ第21話の直後。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。


714 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:39:59 k3tWCTF60


【D-5/図書館/一日目/昼】


【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
0:狡噛さんの話を聞く。
1:しまむー…
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※プロデューサーは生きているかもしれないと考えています。
しかし情報交換や卯月のことを聞いて凛のことはもしかしたらということも考慮しています。
死そのものを受け入れられているかは不明です。
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。


【狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】
[状態]:健康、左腕に痺れ、槙島への殺意、右足に裂傷(止血済み)、全身に切り傷
[装備]:リボルバー式拳銃(0/5 予備弾30)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考]
基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:東経由で潜在犯隔離施設へ向かう。
2:槙島の悪評を流し追い詰める。
3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
4:危険人物は可能な限り排除しておきたい。
5:キング・ブラッドレイに警戒。 ただし下手に刺激することは避ける。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒、戸塚、黒子、穂乃果の知り合い、ロワ内で遭遇した人物の名前と容姿を聞きました。


【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、迷わない決意、過去の自分に対する反省
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:ディパック、基本支給品、錬成した剣
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:殺し合いを破壊するために仲間を集う。もう復讐心で戦わない。
1:狡噛の話を聞いてみる。
2:ホムンクルスを警戒。ブラッドレイとは一度話をする。
3:エンヴィーと遭遇したら全ての決着をつけるために殺す。
4:鋼のを含む仲間の捜索。
5:死者の上に立っているならばその死者のためにも生きる。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。
※並行世界の可能性を知りました。
※バッグの中が擬似・真理の扉に繋がっていることを知りました。


715 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:40:33 k3tWCTF60

マスタングの焔が迫る直前に釜を破壊しプライドは逃げることに成功した。
バックドラフト現象気味となり少々吹き飛ばされたが傷は負っていない。
今回の戦闘を通して特段致命傷も受けていないため、痛手があったとすれば素性が判明したことだろう。

この先、自分の正体は広まる一方を務めることになる。
しかし自分の方針は変わらず、今まで通り無垢な子供を演じるつもりでいる。
もう一度他の参加者に紛れ込み、あわよくば同士討ちしてくれれば有り難いものだ。
どうしても夜は動きが取り辛くなってしまう。

「先程は少々遊び過ぎましたが……次に会った時は確実に殺しましょう」

戦闘を楽しんでいた節がある。
最初から全力で攻撃をしていれば狡噛慎也とウェイブは簡単に死んでいただろう。
ロイ・マスタングの加勢も無かったことに出来た。

(ロイ・マスタング……彼が人体錬成を行っていたとは)

計画に必要な人柱。
その資格を持っていたのがロイ・マスタングであったがどうやら扉を開いたらしい。
ならば彼の確保も優先する事項になるだろう。


【C-5/一日目/昼】

【セリム・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:今は乗らない。
1:無力なふりをする。
2:使えそうな人間は利用。
3:アカメ達と行動しつつ様子を見る。
4:ラース(ブラッドレイ)と合流し今後の検討。
5:正体を知っている人間の排除。
[備考]
※参戦時期はキンブリーを取り込む以前。
※会場がセントラルにあるのではないかと考えています。
※賢者の石の残量に関わらず、首輪の爆発によって死亡します。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、とある科学の超電磁砲の世界観を知りました
※殺し合いにお父様が関係していないと考えています
※新一、タスク、アカメ達と情報交換しました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。

【E-5/一日目/昼】

【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、腕に刺傷(処置済)、両腕に火傷
[装備]:
[道具]:デスガンの刺剣(先端数センチ欠損)、カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[思考]
基本:生き残り司令部へと帰還する。そのための手段は問わない。
1:特に決まっていない。
2:稀有な能力を持つ者は生かし、そうでなければ斬り捨てる。ただし悪評が無闇に立つことは避ける。
3:プライド、エンヴィーとの合流。特にプライドは急いで探す。
4:エドワード・エルリック、ロイ・マスタング、有益な情報、技術、帰還手段の心得を持つ者は確保。現状の候補者はタスク、アンジュ、余裕があれば白井黒子も。
5:エンブリヲは殺さず、プライドに食わせて能力を簒奪する。
6:御坂は泳がしておく。島村卯月は放置。
7:マスタングが目を覚ましたら認識の齟齬について問い正す。
8:自分が不利だと判断した場合は殺し合いの優勝を狙うが……
9:糸や狗(帝具)は余裕があれば回収したい。
[備考]
※未央、タスク、黒子、狡噛、穂乃果と情報を交換しました。
※御坂と休戦を結びました。
※超能力に興味をいだきました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。


716 : ここがいわゆる正念場 ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/05(月) 01:42:18 k3tWCTF60
以上で投下を終了します。何かありましたらお願いします。
個人的にはもう放送へ入ってもいいかなと思っております。とりあえず図書館周辺はもう書かなくても大丈夫かと


717 : 名無しさん :2015/10/05(月) 09:51:08 rmp2C8j20
投下乙です
誰も死なないとは意外


718 : 名無しさん :2015/10/05(月) 10:42:25 EawiuAso0
投下乙です
図書館組も難局を乗り越える事ができたようで何より
内容とは関係ありませんが、酉バレしてしまったようなのでIDが変わる前に新規酉を用意した方がいいと思います


719 : 名無しさん :2015/10/05(月) 12:30:41 dUF33O4s0
投下乙です
ブラッドレイ親子は対主催集団に正体バレしてここから苦しくなるかな
人が集まる学園は次の山場になりそうだ

あと指摘ですがセリムの状態表にある思考3は削っていいかと


720 : 名無しさん :2015/10/05(月) 19:12:31 7cqlyioU0
投下乙です

3人組
銀ちゃんの愛の深さが頼もしいと同時に、どっちか死んだら大変だろうなと
他2人の復讐のスタンスも見えてきて、大佐と出会った時が楽しみだ

図書館戦争
まさかの対主催組勝利展開。大総統はそろそろマーダーにシフトかねえ
持ち直した大佐とウェイブですが、それだけにその反動が怖いや


721 : 名無しさん :2015/10/06(火) 00:35:00 9E./LLtw0
投下乙です

名無しで恐縮なんですが1点。
>>701にて、
花陽が新一との情報交換で音ノ木坂学院の話を聞くくだりで、
海未の死に関して原因などを初めて知るように読み取れましたが、
108話のNo brand peopleで、婚后光子と情報交換した際に聞いている気がします。
私の認識や読み取りが違えば大丈夫ですが、念の為、確認頂けるとよいかと…

※たぶん修正も軽微で済むと思いますし。


722 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/06(火) 00:44:52 KAxt27W60
感想ありがとうございます。

>>719
セリムの状態表思考欄の3を削除いたします。

>>721
ご指摘のとおりです。申し訳ありません。
>>701の冒頭の地文を修正します。

X泉新一から聞いた音ノ木坂学院の話を聞いた小泉花陽。
 彼女はこれで死んでしまったμ’sの結末を知ることとなった。

○泉新一から改めて音ノ木坂学院の話を聞いた小泉花陽の顔が雲掛かる。
 大切な友達の死を聞くのは何度繰り返しても慣れることは不可能である。


723 : ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:38:06 8gGxqL2M0
投下します


724 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:40:06 8gGxqL2M0



彼女は決して彼女自身を許さない。
信頼にも友情にも背を向け、暖かな、本当に暖かな笑顔すら裏切った自身を許しはしない。
故に、彼女が彼女自身に与えるモノは、『死』と『罰』だけなのだ。




725 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:41:02 8gGxqL2M0

声が、消えない。
あの時からずっと。


―――どうしたのかにゃ。何だか、すごくつらそうな顔をしてる気がするにゃ?
―――だけど大丈夫!みくはアイドルだから、美琴ちゃんのことも笑顔にしてあげるからにゃあ!

きっと、前川みくは痛々しい程に空虚な笑みを作っていた美琴を助けたかったのだろう。
たとえ食蜂操祈の精神操作を受けていても、彼女は誰かを気遣える、優しい少女だった。

穢れを知らないお姫様の様な輝き確かに持っていた。
その言葉に、その輝きに、御坂美琴は魅せられた。

だが、そのみくの言葉は今の美琴にとってはエンドレスリピートされる呪詛の様で、
否、呪詛にしてしまったのは美琴自身だ。

だからこそ進まなければならない、最後の時までずっと。血反吐を吐いてでも、みくの呪詛を、消せない罪を背負って。
でなければ、前川みくの死は無意味なモノになってしまう。
それだけは、今の御坂美琴には許容できなかった。

「―――行かなきゃ、戦うのよ」

見敵必殺の意志を胸に秘め。
同じくこの殺し合いで運命を弄ばれた者達を殺すために。

ふわりと、金属製の街灯に向かって美琴の体が浮き上がる。
磁力を使った、美琴だけの長距離移動法。

そして、闇色の眼をした電撃姫は陽光を背に、飛ぶ。


726 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:42:09 8gGxqL2M0



モハメド・アヴドゥルは燃え盛るコンサートホールの前に臍を噛む思いで立っていた。
嫌な胸騒ぎは既に確信へと変わっている。
舐めるようにコンサートホール全体を覆っている炎を見れば、自分が研究所に向かっている間に何か尋常ではないことが起きたのは疑いようがない。

流石にここまで火の手が回ったコンサートホールに突入するのは危険すぎると判断し、魔術師の赤の炎の探知機を使って、様子を探ってみたが前後左右上下、全ての方向に反応は無かった。

つまり、コンサートホールの中に生存者は居ないのだ。

「折角、ジョースターさんの居場所とDIOの尻尾を掴んだと言うのに、承太郎達の身に何かあったのではジョースターさんに顔向けが出来ん」

ギリギリまで接近しても炎の探知機の範囲は直径にして三十メートル程だ、コンサートホール全域を捕捉できる物ではない。
歯がゆさを感じながら炎が治まるまでコンサートホール内の捜索を諦め、その周辺の捜索に切り替える。

承太郎達が無事ならば、まだ近くにいるかもしれない。

(無事でいてくれ、承太郎、花京院、まどか、足立……!)

恐らく空条承太郎をどうこうできる参加者は少ない…少ないと信じたい。
だが、この場所では何でも起きる。

万が一、億が一の可能性がアヴドゥルの脳裏を駆け巡り、焦燥を加速させる。
そしてそれはアヴドゥルの視野を確実に狭めていた。

それだけでは無い。

(何だ…この悪寒は、まさか本当に承太郎や花京院の身に何かが?)

警鐘をけたたましい程に鳴らすアヴドゥルの第六感。
何か最悪な事が―――、


727 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:42:59 8gGxqL2M0

「あーあーよく燃えてるねぇ。こりゃハズレかな」

背後で苛立ちを隠そうともしない声が響いた。
思わず振り返ってみると、声色通り剣呑な雰囲気を纏った赤髪の少女が立っている。

「なぁ、おっさん。この辺で電撃ぶっ放すあたしと同じくらいの齢のバカ女見なかったか?」
「…すまんが、見ていない」

ぶっきらぼうに尋ねられ、少々面喰いながらも平静を保ち、返答する。
だが、その返答を聴くや否や少女は舌打ち一つを残して踵を返そうとするではないか。

「ま、待て!君はもしかして佐倉杏子かッ!?」

少女の醸し出す触れる物全てを傷つけるナイフの様な雰囲気のお陰でそのまま見送ってしまいそうになったが、少女の容姿が鹿目まどかから聞かされていた佐倉杏子のイメージとアヴドゥルの脳内で合致したため、慌てて呼び止める。


「……何だよ、おっさん。誰からあたしの名前を聞いた?」

ただ呼び止めただけではそのまま立ち去ってしまいそうだったため、名前を出したが、どうやら失策だったらしい。

少女、杏子は警戒を露わにしてまどかの様な槍を持った魔法少女の姿へと変わる。

(どうやら、偽物の心配は無い様だな……)

ヒースクリフの説明を受け、この会場に他者の姿を騙るスタンド使いがいる可能性は低い事は解っていたが、どうしても不安の種として摘めないモノがあったので、杏子が魔法少女へと変わるのを見て僅かに安堵する。

だが、如何せん遭遇のタイミングが最悪だった。
時間がれば警戒を何とか解いて杏子と情報交換を行いたい所だったが、こうしている間にも仲間は負傷して助けを求めているかもしれない。
一刻を争う状況で、見るからに足並みが揃わなさそうな少女を連れて歩く決断は憚られた。


728 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:43:59 8gGxqL2M0

「私に敵意は無いから落ち着いてくれ、私の名はアヴドゥル。君の名前は鹿目まどかから聞いている。そして私はそのまどかと、仲間を探している。見なかっただろうか?」
「……いや、見てねぇな」
「そうか、ならば私はまどかと仲間を見つけたら、異能力研究所に戻ろうと思う、
 まどかが会いたがっていたから君も気を静めたら足を運んでほしい」

それだけ伝えて今度はアブドゥルが踵を返そうとする、が、
アヴドゥルと言う名を聞いてから杏子の様子が明らかに変わった。

「へぇ…アンタがアヴドゥルか…そっかそっか、ラッキーだったよ」
「何?」

急に上機嫌に成ったかのようにクツクツと顔を伏せて笑う杏子。
アヴドゥルはその様子を不気味に思い、一歩後ずさる。



それと同時に、杏子が猛烈な勢いで彼に迫った。

「ぐおおおッ!」

鮮血が走る。
杏子が薙ぎ払った槍の穂先は、2秒程前までのアヴドゥルの丁度左胸の位置にあった。

たった一歩の後退が、アブドゥルの命を救ったのだ。
だが、この幸運は何時までも続きはしない。
仕留め損ねたとみると杏子は身を反転させ強烈な蹴りを叩き込む。
その蹴りはアブドゥルの左腕に吸い込まれ、痺れを伴う痛みが走り、握りしめていたグリーフシードが宙を舞った。


729 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:45:04 8gGxqL2M0

杏子は猫の様な俊敏さで後退し、そのままグリーフシードを手中に収める。

「へぇー、あんたグリーフシードまで持ってたのか、後生大事に握りしめてたの見ると
 一個だけみたいだけど、ホントツイてたよ…いや、あんたにはツイてないかな?」

杏子の脳裏に蘇るはDIOの言葉。

―――空条承太郎とジョセフ・ジョースター。この二人は私の元へ誘導してくれればそれでいいが…ええと、何だっけ、そう、アヴドゥルと言う男は出来る事なら排除しておいてくれて構わない。

「オッサンに恨みは無いけど、さっきの憂さ晴らしも兼ねて、その心臓あの人のために貰い受けるよっ!」


先程の交錯と、その言葉でモハメド・アヴドゥルは全てを理解した。
佐倉杏子の額には、肉の芽がある。

(なんと言う事だ…偽物の疑いが無い分かったと思ったら、既にDIOの魔手が及んでいたとはな…)


交渉の余地は無い、あったとしても、戦って勝ち取るしかない。
心中で、DIOに対する怒りを募らせながら無言のまま杏子を見据えた。
全てを悟ったその顔に動揺は微塵も浮かんではいない、戦士の顔だった。
彼の怒りに呼応するように、幽波紋――魔術師の赤が顕現する。

「悪いが急いでいる上に、それはまどかの物だ。返して貰うぞ」

まどかの名前に杏子の体がピクリ、と震える。
肉の芽を埋め込まれて尚その名には思うところがあるのかもしれない。
だがそれも一瞬の事、すぐさま獰猛な笑みを浮かべ、返答する。

「―――上等だよ、奪い返してみせな」

その言葉から一秒後、両者は地を蹴った。




730 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:45:55 8gGxqL2M0

魔術師の赤が嘴を限界まで開き、焔を撒き散らす。
その威力はさながら火炎放射器の如く。
しかし、杏子は焦る様子もなく跳躍、焔の射線の上へと舞い上がる。
そして槍を投擲、狙うは本体であるアブドゥル。

「遅いッ!どこぞのフランス人と比べれば百年遅いぞッ!」

だが、スタープラチナ程ではないとは言え、魔術師の赤も優れた格闘能力を有している。
槍を払いのけ、迎撃の炎で杏子を出迎える。
迫りくる火炎を空中で身を翻し、髪の毛の毛先が燃える臭いを確かに感じながら、杏子は新たな槍を形成して躱す。

(パワーやスピードは承太郎やDIO様のスタンドには一歩劣るが、火力が桁違いだな、本体のおつむも悪くねぇ…でも)

二度の戦闘を経て、杏子はスタンド使いの性質を掴みつつあった。
いかな強力な人形だとしても、本体は生身の人間だ、後藤の様に強力な防御力を有している訳でも無いし、御坂美琴の様に電子に愛された申し子と言う訳は無い。

(あのブ男に直接ブチこめりゃ勝ちなんだけど…やっぱり炎が厄介だな)

人間を超越した魔法少女とも言ってもあの高温の火炎をまともに受ければただでは済まない。
DIO様の命令は遂行したい所だが死ぬのは御免だ。
となれば次の一手は、

「大したもんだよ。ホント、アンタもあの人に『支配』されてりゃ、死なずにすんだのにねぇ。広川も最後はDIO様に殺されるんだろうし」

バックステップで距離を取りながら、アブドゥルを嘲笑う様に挑発する杏子。
しかし、アブドゥルは動じる様子もなくきっぱりと宣言する。

「そんな事にはならない。私達は、“ヒト”は生き残る。承太郎やジョースターさんがいる限り、あの男や広川の思うとおりになりはしない」

「御託は良いよ、戦って死ねば誰も彼も結局は黙るから。
…ここからは出し惜しみ無しだ、覚悟しな」


731 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:46:48 8gGxqL2M0
 
そう言って取り出すは一振りの剣。
彼女がまだ“彼女”であった頃に一人の契約者から遺された、帝具グランシャリオ。
それがどんな効果を持つかアヴドゥルは知らなかった。
しかし、歴戦のスタンド使いの直感が――あれはヤバいと警鐘を鳴らす。

「レッドバインドッ!」

攻撃と拘束を兼ねたレッド・バインドが杏子へと迫る。
だが、僅かに遅い。

「グランシャリオオォォオォッ!!」

アブドゥルを殺害するために。絶叫と共に杏子の姿が変わる。
杏子とグランシャリオの相性は本来の使用者であるウェイブ程ではないが、ノーベンバ―11より遥かに高かった。
そして、近接戦を得意とするベテラン魔法少女としての佐倉杏子の身体能力はウェイブを凌駕している。

使用すればソウルジェムの濁りが加速するのは避けられない為、切り札として温存しておいたが、未使用のグリーフシードがあるのならば多少の無茶は効く。

力が全身から湧き上がってくるのを感じながら、漆黒の鎧が全身を覆っていく。
ただの人間を魔法少女と拮抗するまでに強化する鎧を纏った魔法少女。

(ヤバい!こいつは掛け値なしにヤバいぞ!!)

その脅威を過不足無く的確に感じ取ったからこそ、アヴドゥルは先手を取った。
魔術師の赤はいまだ発動中のレッド・バインドを鞭の様に振るい、杏子へと撃ちかかる。

「ハッ!!」

だが、空気を裂く気合の一閃と共に、あっけなくレッド・バインドは切り裂かれた。


「馬鹿な!?」
「貰いっ!」

そのまま杏子は一瞬で魔術師の赤へと距離を詰めると、目にも止まらぬ速さで刺突を繰り返す。
その一つ一つがまさに正確無比。少女の歴戦が感じられた。


732 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:47:57 8gGxqL2M0

(ッ、このままでは不味い……!)

今の彼女はあのジャン・ピエール=ポルナレフのスタンド『シルバーチャリオッツ』に匹敵する戦闘力を有している。

防御力だけ見ればチャリオッツ以上かもしれない。

「もう、このアヴドゥル容赦せんッ!!クロスファイアー・ハリケーン!」

冷静に彼我の戦力を分析し、放つは自身の最大火力の攻撃。
煌めく十字の炎は当たれば強固な鎧を通してもその威力を発揮するだろう。

そう、当たれば。

杏子は迫りくる焔の十字架を見て不敵に笑うと、炎目掛けて一気に突っ込んだ。

(自殺する気か!)

心中で驚愕するアヴドゥル。
数瞬後、その衝撃はさらに強い物となる。

「クロスファイア―ハリケーンを突き破って来ただとッ!!」

否、突き破って来たと言うには少し違う。
杏子が取った行動は地に這う様に限界まで身を伏せ、クロスファイア―ハリケーンと触れる体の面積を最小限にしてトップスピードで躱した、と言う方が近い。


しかし、アヴドゥルにとってはどちらにせよ全身から血の気が一気に引く事態なのは間違いない。
必殺の意を込めて放ったクロスファイア―・ハリケーンが明後日の、コンサートホールの方向へ飛んでゆく。
そして、杏子が遂に魔術師の赤の懐へと飛び込んだ。

「グッ!!」

腕を交差し、防御の姿勢を取る魔術師の赤。

舞い散る鮮血。
アヴドゥルのねらい通り、頭部と上半身の防御は成功したが、その代償として杏子の槍は、足を抉っていた。

「はっ、大当たりだ」

黒の装甲のお陰で顔は見えないが、恐らく勝ち誇った顔をしているであろう杏子は追撃として魔術師の赤に三節根を叩き込む。
そのまま魔術師の赤ごと、炎の燃え盛るコンサートホールに叩き込まれそうになるが何とか踏みとどまった。

そして、訪れた静寂。
魔法と幽波紋が交差する戦場に生まれた凪の時間。


733 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:48:56 8gGxqL2M0

「さーて、これで終わりだけど、何か言い残す事は?」

完全に機動力が削がれたアヴドゥルでは次の自分の一撃を避けられないと察し、彼を煽る杏子。
だが、憂さを晴らそうとする彼女の期待とは裏腹にアヴドゥルは落ち着き払った様子で宣言した。


「それが、予言だとするならば、」

「占い師の私に予言で戦うのは十年…いや、二十年は早いぞ、魔法少女」

その言葉に杏子の顔が失望と怒りに歪む。
期待を裏切られた者が浮かべる表情であることはアヴドゥルにも想像がついた。
苛立ちに身を任せ、腰を深く落とし、ピタリと矛先を魔術師の赤とアヴドゥルに付ける。


「もういいよ、アンタ、期待外れだ」


―――死んじまえ。



突貫。
魔術師の赤に向けて突き進むその勢いは砲弾の如く。
たとえ迎撃の炎を放っても、避けられるか、当たってもその勢いのまま串刺しにされるか。
足を負傷した状態、後方は燃え盛るコンサートホールと言う位置もあり、回避するのも難しい。
初撃は躱せても、追撃は凌ぎ切れないだろう。

どちらを選んでも、“受け”の姿勢では致命にして必死。

(――ならば迎え撃つッ!)

アヴドゥルの選んだ選択は、真っ向勝負。
魔術師の赤が杏子に向かって突進していく。
放つは“審判”のスタンドすら一撃の元に砕いた炎を纏った蹴り。


不利である事は百も承知。
だが、いつだって彼の魔術師の赤は立ち塞がる敵を倒し、道を拓いてきた。
ならば、今回も命を預けよう――数十秒後の勝利を勝ち取るために!
益荒男の咆哮が響く。

「おおおおおぉぉおぉッ!!!!」

黒の砲弾と炎の蹴撃。
両者の激突の瞬間、世界が固唾を飲むように振動した。





734 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:50:25 8gGxqL2M0

「……ってぇ…やってくれたな畜生がっ…!」

ガラガラとコンサートホールの瓦礫を掻き分け掻き分け立ち上がる杏子。
さすがに今の衝撃は堪えた様だが、炎立ち上るコンサートホールに吹き飛ばされて尚、その戦意は衰えていない。

対するアヴドゥルも立ち上がってはいたが、顔は下がり、既にその身は慢心創痍と言った様子だ。

「よく粘ったけど、あんたもここで終わりだな」

非情に宣言し、今度こそ仕留めるために槍を再び構える。スタンド使いと言う種の土壇場の頭の回転力と爆発力を侮ってはならない。

その宣言を受け、アヴドゥルがゆっくりと顔を上げる。
そして、それと同時に、



「ッチ♪ッチ♪」



杏子の体が炎に包まれた。

「がッ……ぁッ!?」

(何、で、あの鳥頭が炎を撃ってくるハズ…)

何が起こったのかが分からない。
明らかに自分を覆う焔の威力は火事により自然発生したものではない。
グランシャリオを通してでも凄まじい熱気、そう数十秒前に自分が破った十字架の炎の様な。
だが、自分が槍を構えるまでアヴドゥルは炎を出すような素振りは一切見せなかった。

(…い、や、待て、その前なら?)

自分の必殺と魔術師の赤の必殺が交錯したあの瞬間。
すさまじい衝撃に吹き飛ばされ、一瞬視界がホワイトアウトしたあの刹那。
果たしてモハメド・アヴドゥルもそうだったのか?

「気付いたようだな、そう、私がクロスファイアー・ハリケーンを撃ったのは互いに吹き飛ばされたあの時だ、お陰で意識は飛びかけたがな」

何時アヴドゥルが炎を放ったかはこれで分かった。
しかし、なぜ杏子が気付かなかったのか?
そのままアヴドゥルは語り続ける。

「私の魔術師の赤の炎は自然の法則通り上方や風下に燃えていく訳では無い。 
 炎を自在に操ることが可能だからこそ、『魔術師の炎』と呼ばれている」

「それを応用すれば、避けられた炎でトンネルを掘る事も出来る
 ……そのトンネルに炎を流すこともな」

(そうか、コイツ…!)

猛烈な炎に飲まれながらも、何とか視線を横にずらし、自分の数十センチ隣に不自然に空いた穴を捉える。
恐らく、この穴からあの十字架の炎を当てたのだろう。


735 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:52:12 8gGxqL2M0

「グ、畜生……!!」

嵌められた怒りを胸に、杏子は怒涛の炎の奔流に晒されながらも何とか脱出を試みる。
困難ではあるが、燃え盛るコンサートホールからの脱出は不可能ではないと判断したからだ。
しかし、それをみすみす見逃すほどモハメド・アヴドゥルは甘い男ではない。


「“今”は命まで取る決断はせんが…散々暴れた分の落とし前は付けさせて貰うぞ、
 C・F・H・S(クロスファイア―・ハリケーンスペシャル)ッ!!」

駄目押しと言わんばかりに殺到していく視界を覆う程の量の炎の十字架。

「ガッああぁぁあぁあぁッ!!」

燃え盛る紅蓮の炎は、今度こそ杏子を捕え、蹂躙する。
漆黒の鎧が赤く染まって見える程の炎は、脱出が不可能であることの証左だった。
そして、遂に杏子が跪く。

(グ…息、が、こいつ全部織り込み済みで……)

局地的かつ猛烈な焔の渦は大気中の酸素すら情け容赦なく奪い尽くす。
結果、意識が薄れていき、このままでは保って数分だろう。

「成程大した鎧だが…ただでさえ周りは火事の中、空気まで生成できる訳では無い様だな。
 このまま窒息して根を上げるまで付き合おう」

最大の関門は見事破った。
アヴドゥルにとってここからが本当の勝負だ。
出来る限り、杏子のダメージを少なく、完全に窒息するまで炎の十字架で拘束、
グランシャリオの展開と魔法少女化が解けた所で魔術師の炎に回収させる。

エンジンの全てが停止した飛行機を無事着陸させるかの如く困難な苦行ではあるが、グランシャリオのお陰で焼き尽くす心配はない、勝算はある。
本来ならばここで完全に焼き殺す事が最善なのだろう。
だが、まどかの談に寄れば、佐倉杏子は気性が荒く喧嘩っ早い所もあるが、根は善良な少女だと言う。
ならば、今の彼女を貶めているのは肉の芽であり、許されざるはDIOだ。
近辺に承太郎がいる可能性もあるため、できる事ならかつての花京院やポルナレフの様に呪縛から救ってやりたいと言う気もちが勝った。

もし承太郎達が離れてしまっていても、魔法少女はソウルジェムと言う宝珠さえ奪ってしまえば無力化できると言う。
ただの年相応の少女なら、あのグランシャリオの様な厄介な支給品の類さえ取り上げて、ディパックにでも放り込んでおけば承太郎と合流するまでは保つだろう。

アヴドゥルに訪れた確かな勝利のヴィジョン。


736 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:54:36 8gGxqL2M0

だが、


―――――後ろを振り向いた時、

――――お前は、

――死ぬ



「――――ッ!?」


暴威は、突然運命を絡め取る。


737 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:56:02 8gGxqL2M0

ゾクリ、とコンサートホール到達前に感じた悪寒。
その根源は肉の芽を埋め込まれた佐倉杏子だと思っていた。
けれど、今はハッキリ違うと分かる。

(何だこの悪寒は…何、が…)

答えは、意外なほど早くでた。
その答えを出したのは――皮肉にもアヴドゥルでは無かったが。



「あ、御坂あああああァァァッ!」

割れんばかりの絶叫で杏子が叫ぶ。
未だグランシャリオが解除されていない以上、顔は依然として見えないが、その双眸は見開かれている事だろう。

その声に釣られ、アヴドゥルも振りむいた。
振り向いてしまった。

見えたモノは、40メートル程離れた場所で、帯電した大気と、宙を舞うコインと、虚のような目をした、一人の少女。

少女の唇が動く。

―――さよなら。


雷光が、迸った。
その正体は、少女の代名詞。
アカメやDIOに放った生ぬるい物とは違う、かつて一万人の能力者が生んだ幻想猛獣すら一撃で消し飛ばした、音速の三倍で全てを貫く、漆黒の意志が篭められた超電磁砲。
それは両足だけでなく、杏子との戦闘により疲労が蓄積していたアヴドゥルに避けられるものではなかった。

死ぬのだろうなと彼は直感的に理解する。
だから、最後の最後に占い師として予言を遺す。

「――それでも、人は生き残るぞ。広川」



……そして、男の結末は本来の物語の筋書き通りに。
モハメド・アヴドゥルは、炎の魔術師は、両腕と首輪を残し、この世から消失した。



【モハメド・アヴドゥル@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ 死亡】


738 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:57:02 8gGxqL2M0


「畜生…!!」

コンサートホールから離れたC-2エリアで杏子は言い難い屈辱感に打ち震えていた。
一度ならず二度までもあの御坂美琴に殺されかけた。

せっかく手に入れたグリーフシードももうあの戦闘分で溜まった穢れを浄化したら真っ黒になってしまい、苛立ちが募る。

何より気にいらなかったのが、あのモハメド・アヴドゥルだ。

あの時、明確な死が迫っていたと言うのに、あの男は鳥頭のスタンドを出して、自分を殴り飛ばしてみせた。
攻撃のためではない。アヴドゥルが振り向いた時、丁度グランシャリオは解除されていた。
つまりあのままで居れば、アヴドゥル諸共杏子は吹き飛んでいたのだ。


あの状況からどう動いてもアヴドゥルの死は不可避だっただろう。
しかし、それでも反射的に自分の身を守ろうとするのが人間と言う物のはずだ。
それなのに、モハメド・アヴドゥルは最期に誰かを生かす事を選んだ。

「どいつもこいつも、あんな顔で、あんな死に方しやがって…!」

数十秒前まで殺そうとしていた相手に助けられる、その事実に心中で憤怒が駆け巡る。
今の杏子にはDIOを除く世界全てが腹立たしかった。

勝手に死んでしまった巴マミも、
モハメド・アヴドゥルも、
空条承太郎も、
後藤も、
広川も、

『君が本当は―――――のか、どう―――ことが―――と思うのか。その―――を――――とさせることだ』

この、頭に時折響くノイズも。

「殺す、絶対に殺してやる、御坂ァ…!」

憤怒はより禍々しい殺意や憎悪に代わり、一番矛先が向けやすい――御坂美琴に向けられる。
しかし、一度の共闘と二度の不意撃ちで杏子は美琴の力量を大まかにだが掴んでいた。
魔女よりも怪物じみている、本気の殺し合いならばこの会場でも十指に入るかもしれない。
だからこそ、意識が戻った後、ソウルジェムの濁りなどを鑑みて杏子は逃走を選んだ。

一対一ならグランシャリオを纏えば負けるとは思わないが、勝てるかと言えば厳しいと言わざるを得ない。
万全を考えるならDIOと共に迎え撃つのが賢明かもしれない。

だが、その考えが頭に浮かんだ途端再び頭に小さなノイズが走る。

「何だよ、死人は黙って死んでろよ」

何故かこの苛立ちは、例えば美琴を殺すでもしないと精算できないと言う確信があった。
DIOと共に美琴を待つその間はずっとこの苛立ちと煩わしいノイズにチクチクと苛まれるだろう。

ならば美琴を追って今度は逆に自分が奇襲を仕掛けてみるか?
必然的にDIOとの合流は遅れるが、DIOにとっても大きな障害となる美琴を消せばそれで杏子の面子は立ち、ノイズも消えるかもしれない。

「あーもうっ!どうするかな畜生っ。イライラする……!」

溢れ出る苛立ちに辟易しながら、杏子の選んだ道は――――、

【c-2/一日目/昼】

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:精神疲労(中)、疲労(大)、ソウルジェムの濁り(小)、イライラ(極大)、額に肉の芽
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ、帝具・修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実 大量のりんご@現実 不明支給品0~2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いについて考える。
0:DIOと合流するか、美琴を着けて殺すか…?。
1:特定の人物(花京院、イリヤ、まどか、ほむら、さやか、ジョセフ、承太郎)以外。
2:巴マミを殺した参加者を許さない。
3:殺し合いを壊す。それが優勝することかは解らない。
4:承太郎に警戒。もう油断はしない
5:何か忘れてる気がする。
6:御坂は殺す。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※DIOへの信頼度は、『決して裏切り・攻撃はしないが、命までは張らない』程度です。そのため、弱点となるソウルジェムが本体であることは話していません。


739 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 17:59:35 8gGxqL2M0


「間に合わなかったか」

急に宙に浮き、飛んで行ってしまった美琴を必死に追いかけた猫だったが、残っていたのは男の物らしき両腕だけだった。
しかし、コンサートホールに到着する直前、遠目にだが西へ走っていく杏子と、南へ走っていく美琴の姿を捕えることが出来たので追跡は無駄ではなかったと言える。

契約者らしく合理的かつ、冷静に両腕を検分する。
まだついさっきできたばかりのモノの様だ、となると下手人はあの走っていった二人のどちらかだろう。

「涙を流せる人間の癖に、契約者みたいな真似しやがって」

形容しがたい言葉を胸に抱きながらこれからどうするかを考える。
状況は思ったよりも早く、悪い方へ進んでいる様だ。

ならばどうする?どちらの少女を追う?
二回目の放送を前にして、契約者は独り岐路に立つ。

【D-2コンサートホール前/一日目/昼】

【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[思考]
基本:???
0:黒達と合流する。
1:どちらを追いかける?。
2:御坂と会話を行い情報を集め――彼女をどうするか。
3:杏子が心配。


740 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 18:01:43 8gGxqL2M0



震える手で首輪だけを何とか回収した。
そして走った、走り続けた。
そうすれば、新たに犯した罪からも逃げられるような気がして。
だが、コンサートホールから少し離れたエリアに至ると共に、吐き気は限界を迎えた。

吐いた。
吐いて、吐いて、魂すら吐き出してしまそうになって―――不意に何も感じなくなった。

これで二人目。
エドワードの時とは違い肘から先だけになった両腕を見れば、生死など疑うべくもない。

心の何処かでブレーキをかけ、威力を抑えていた頃とは違う、一線を越えてしまった美琴が放つ超電磁砲が直撃すれば人体など簡単にこうなってしまう。
そして、思わぬ形で訪れた好機は、否応なく自分に選択を迫った。

「二度目は、最初の時よりはマシね」

その事実は、今の自分が前川みくの死を転機として変わりつつあるのを嫌でも実感させられる。
今の御坂美琴は前の御坂美琴よりずっと冷血で、冷静で、きっと強い。
何故なら。

「杏子は、仕留め損ねちゃったか、悪運の強い奴」

今の御坂美琴にとって二度目の殺人は既に過去の出来事で、もう次の殺しに思考を裂きつつあるのだから。
今なら学園都市230万人の第三位たる自分の力を出しきればきっとアカメにも負けないだろう。
『最強』でも『最弱』でも無い彼女では自分の幻想は殺せない。

でもそれが、何故か途方もなく悲しく、重かった。


741 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 18:02:35 8gGxqL2M0

「追わなきゃ」

心を削ぎ落とされるような感覚に陥りながら、幽鬼の足取りで再び歩き出そうとする。
だが、踏み出した一歩は覚束なかった。

「…………ッ!思ったより、まいってるのかしら。
 出し惜しみせず、使うしか、ないか 」

霞んだ意識を必死に繋ぎ止め、ノロノロとディパックから美しい結晶を取り出す。

「―――回復結晶。対象は、御坂美琴」

優しい光が美琴を包み込む。
今までの疲労とダメージが蓄積していた体が正常に戻っていく。
けれど、心だけは決して癒されることは無かった。

「これで、3時間は使えない、か」

2分後、光は消え失せ、世界には独りぼっちの少女だけが残る。

「さて、これからどうするか決めないと」

DIOを殺す。これは大前提だ、それが変わることは無い。
しかし、疲労から解放され、頭が冴えていくと同時に、単独ではその大前提すら未だ困難だろうと言う結論に至った。

隻腕となり、大きく力を低下させた今でもあの男の能力は得体が知れない。
それに“犬”たる杏子も付いてくるとなれば、二対一では勝算は皆無に近しい。


742 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 18:03:47 8gGxqL2M0

だが、今の自分に協力しようと言う者など……。

白井黒子にも、初春飾利にも、婚后光子にも、最早合わせる顔は無い。
エドワードやジョセフも今となっては自分を明確な敵として認識しているだろう。

それだけの事を自分はしたのだから。
やはり、どれだけ困難でも独りで全てをやり遂げるしかないのか。
ヒーローが自分に手を差し伸べる少し前、妹達を捨て身で救おうとしたあの時の様に。

―――また会おう、雷光よ。

いや、一人だけいた。
今の自分にも協力が仰げ、尚且つ腕の立つ者が。
キング・ブラッドレイ。

「……あいつ、まだ図書館の近くにいるのかしら」

待ち合わせをしていると言っていたからブラッドレイの代わりに誰かが居るかもしれないが、それならそれでいい。
やるべきことは変わらない。
鏖殺するだけだ。
前川みくの様に、あの男の様に。

「よし、決めた」


進むべき道は定めた。
腹も決まった。
心は軋み続けるけれど、ガラスの靴を魔術師の炎で溶かして作った錠で閉ざし、進みだす。

―――俺と組んでいる間、お前に絶対に殺しはさせねえからな


743 : 無数の罪は、この両手に積もっていく ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 18:06:54 8gGxqL2M0

協力者の事を考えていたからだろうか、不意に数時間前までの協力者だったエドワードの言葉が脳裏をよぎった。


「……どんな場所にも、アイツみたいなバカは居るもんなのね、嫌になるわ。まったく」

ようやく進み始めようとした時にこれだ、本当に、嫌になる。
あのバカ達が掲げる理想論など、今、一番思い出したく無いのに。

でも、
あぁ……でも、

「それでも、アイツやエドは、最後までその生き方にしがみつくんでしょうね」

儘ならない現実に打ちのめされながら、
それでも自分を曲げようとしないからこそ、上条当麻は、エドワード・エルリックは、人の輪の中で、美琴ができないような事をやらかすのだろう。

羨ましいなぁと思った。
御坂美琴は、人の輪の中心に立つことはできても、その中に混ざる事はできない。
だからこそ美琴はDIOを抹殺した後、エドワードを殺す。
今の美琴はエドワードを否定しなければ立ってはいられないのだ。

上条当麻のために、上条当麻とどこか近しい信念を持った者を殺す。
そこに大いなる矛盾があるのは分かっている。

「……今更何考えてるのかしら、もう、止まるわけにはいかないじゃない」

それでも、少女は血と泥の中を這いずってでも行軍を続ける。
背負いきれない、大きすぎる罪を科されて。
かつての友との邂逅に怯えて。


――みくは絶対に自分を曲げないから!

「そう、よね。自分を曲げちゃいけないよね…」

全ては夢を夢で終わらせないために。

たとえ、それが悪夢なのだとしても。



【c-3/一日目/昼】

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟?
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×3
[道具]:基本支給品一式、回復結晶@ソードアート・オンライン、アヴドゥルの首輪、不明支給品0~1
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:図書館に行ってブラッドレイと合流した後DIOを殺す。代わりに誰かいれば殺す。
1: DIOを追撃し倒す。 DIOを倒したあとはエドワード達を殺す。
2:もう、戻れない。戻るわけにはいかない。
3:戦力にならない奴は始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
4: ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
5:殺しに慣れたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。

【回復結晶@ソードアート・オンライン】

使用すれば中度の傷、疲労、ダメージを回復させる、ただし対象が致命傷の場合発動しない。
一度使用すれば再使用できるのは3時間後。
精神的な疲労の場合も発動不可。


744 : ◆rZaHwmWD7k :2015/10/11(日) 18:07:53 8gGxqL2M0
投下終了です


745 : 名無しさん :2015/10/12(月) 19:17:05 H785RFmM0
投下乙です
アヴさん死んだー。美琴が覚悟完了から完全なマーダーと化して切ないな
そして、原作通り、カウンセリングでは役に立ていない猫…

それと今週土曜日まで第二回放送募集中


746 : ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:07:12 ZNf7CDUc0
投下します


747 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:09:26 ZNf7CDUc0

エンブリヲ、そして後藤との戦いから脱した黒、クロエ・フォン・アインツベルン、婚后光子。
戦いの合間の僅かな休息を取るべく腰を下ろした矢先、三人の目に飛び込んできたのは南の空に走る幾本の雷だった。
三人は無言で立ち上がり視線を交わす。あの雷が落ちた地点で戦闘が起きているのは明白だ。
各々が自身の体調をチェックし、消耗してはいるが戦えなくはないと判断した時、クロエが身を捩った。

「っ……。この感覚は……?」

クロエを襲ったのはごく軽い、言ってみれば静電気に触れたくらいの軽い痺れと痛み。
この場でそんな現象を起こせるのは黒一人なのだが、当然黒の手によるものではない。

「どうした?」
「痛覚共有。イリヤが受けた痛みが私にも伝わったのよ」

黒の問いかけに答えるクロエ。それはクロエがイリヤを殺そうとしていたとき、遠坂凛に仕掛けられた抑止力である。
イリヤが受けた痛みはクロエにも伝わる。しかし逆はない、一方通行の呪いだ。
この殺し合いに放り込まれてから何故か呪いは発動していなかったが、呪いそのものは解呪されていたわけではなかった。

「イリヤとの距離が遠い場合は発動しないようになっていたのかしらね。とにかく、あそこにイリヤがいる。私は行くわ」

黒と光子を置いて駆け出したクロエの足に、背後からワイヤーが飛んだ。
イリヤのもとに駆けつけることだけ考えていたクロエはワイヤーに足を取られ、危うく転倒しかけた。

「何するのよ! 邪魔する気!?」
「落ち着け。お前一人が行ったところで何ができる」
「そうですわよ、クロエさん。行くなら全員で、ですわ」
「え……? ついてきてくれるの?」

激昂しかけたクロエだが、黒と光子が同行を申し出ていると知ってその怒りは急速に萎んでしまった。
満面の笑みで頷く光子と対象的に黒は陰気な顔だが、反対しているという訳ではない。その証拠に黒はワイヤーを巻き取るとすぐに放てるように仕掛け直した。

「でもイリヤは、あの戸塚って娘を殺したのよ? それで助けてくれるの?」
「戸塚は最期にイリヤを助けてくれと俺に言った。あいつの遺志を無駄にする気はない」

黒は淡々と戸塚の遺言をクロエに伝える。
イリヤの状態がおかしいのは黒もわかっている。だからこそ、唯一イリヤを知るクロエを一人で行かせて無駄死させることはできなかった。

「……わかった。疑ってごめんなさい。それとありがとう……力を借りるわ」
「気にするな。行くぞ」
「あっ、ちょっと待って下さいまし!」

と、水を差したのは今度は光子だった。光子は自分のバッグから重たげに物を取り出した。
それは黒もとても馴染みのある四角くて薄い鉄の板。一言で言えば中華包丁だった。


748 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:09:57 ZNf7CDUc0

「黒さん、刃物の扱いはお得意なんですよね? これを使ってください」
「使えと言われても、それは包丁だろう。確かに俺も包丁を武器として使っているが」
「いえ、見た目は確かに包丁ですが、これは何かの武器らしいんですわ。ええと、確か魔剣クラスの激レアドロップとか何とか……」

光子が取り出したのは、もちろんただの中華包丁ではない。
銘を、友切包丁(メイトチョッパー)。
ソードアート・オンラインで暴れ回った殺人ギルド「ラフィンコフィン」のリーダー「Poh」が使用する、大型のダガーである。
見た目こそ中華包丁だが、鋼鉄の鎧すらやすやすと切り裂くその切れ味はゲーム中でも最強クラス。
黒の剣士キリトが愛用する二本の剣と同様に、このダガーもゲームから飛び出てこの場に存在する。

「……すごいわ、それ。確かにただの包丁じゃない。とんでもない切れ味よ」

クロエに宿った英霊の力が、キリトの時と同じように友切包丁の威力を鑑定する。
一斬必殺村雨のような強力な呪いの力などはない、単なる武器だ。だがその秘める威力は半端ではない。
これほどのものをクロエが投影しようとすればどれだけの魔力と時間が必要になるか。
紛れもない業物。然るべき人間が扱えばすさまじい脅威となるだろう。

「よくわからんが、武器としては有用なんだな?」
「ええ。少なくとも今あなたが持ってる安物の包丁なんかよりはね」

クロエに太鼓判を押され、黒は光子から友切包丁を受け取った。
いつも使っているナイフとは勝手が違うが、確かに手から伝わる重量感は頼もしい。
柄の部分にワイヤーを引っ掛けられるよう少し弄り、やがて黒は満足して友切包丁を腰に吊った。
目を合わせ、三人は走り出す。言葉にしないが、それぞれ複雑な心境を抱えていた。
黒は警戒を。あの雷の威力は自らが行使する契約者の能力と比較にならない高出力だった。黒はワイヤーなどを介さず直接電撃を撃ち放つことなどできない。
クロエは焦燥を。痛覚共有が伝えてきた痛みは極軽いものだが、到着するまでイリヤが無事である確証はない。
光子は不安を。彼女の知り合いである学園都市第三位、御坂美琴がいるかもしれない。もし彼女が殺し合いに乗ったいたらどうすればいいのか。
そして三人が共通して考えていることが、エンブリヲと後藤の介入だった。黒たちが雷を見たように、あの二人も異変を察知している可能性は低くない。
もしかするとあの雷の元に敵も味方も集まることになるかもしれない。
十数分も走り続けて市街地を抜けたとき、不意にクロエが声を上げた。

「光子! 私を飛ばせて!」

どこに、とか何故、とか訊きもせず、光子はクロエの望み通りその背中に触れて噴射点を設定した。
カタパルトで射出されたかのようにクロエが吹き飛んでいく。嵐の中心にいるような風圧の中、クロエは既に投影を終えていた。
使い慣れた弓と、矢となる剣。無論、空中にあっては弓矢で正確な狙いを付けることは不可能だ。
だが問題はない。目的は当てることではなく、ここにいると叫ぶことだ。

「い……けぇ!」

放たれた捻れ剣はまっすぐに飛んで行く。
そして今まさにイリヤに襲いかかろうとしていた敵……後藤というクリーチャーの近くに着弾、爆発した。
狙撃者の存在に気づいた後藤は、クロエの予想通りイリヤたちから一旦距離を取る。
すぐに黒と光子が追いついてきて、そこは七人の生存者が混在する戦場に早変わりする。
クロエ、黒、光子。後藤。イリヤ。

「し、白井さん!」

そして光子の知り合いである白井黒子、そして高坂穂乃果。
後藤は自分以外の全てを獲物と見定め、闘争の歓喜に打ち震えた。


749 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:11:11 ZNf7CDUc0




どうしてこうなったのかと考えるなら、運が悪かったとしか言い表せないだろう。
サリアとの戦いを終え、アンジュと別れた高坂穂乃果、白井黒子、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
いかにイリヤが小柄な小学生といえど、気絶した人間一人を背負っての移動は遅々としたものだった。
穂乃果も黒子も決して体格に恵まれているわけではない。そこに折からの疲労も重なり、音ノ木坂学院に到着するのは何時間かかるかといった有様だった。
そして……北から、それは来た。
後藤。
星空凛を殺害し、直接穂乃果と黒子の前にも現れた人ではない化け物。
突然の殺戮者の襲来に、穂乃果の思考は一瞬空白に染まる。黒子が襟首を引っ張らなければ、穂乃果の首は高々と宙を舞ったことだろう。

「探し人は見つからないのに、二度と会いたくない方とはよく会いますわね……!」

イリヤを穂乃果に押し付け、黒子は疲労を無視して後藤の前に立ち塞がる。
後藤は数時間前、ウェイブやマスタングとともに撃退した時からさらに戦闘を重ねているらしい。全身に傷を負っている。
しかしいささかの躊躇もなく戦闘を続行する気であるのは、何も訊かずとも目を見ればわかった。

「お前たちか。あの炎を放つ男と剣を使う男はいないのか?」
「あいにく、今ちょっと別行動してますの。できれば私たちも先を急ぎたいのですが」
「見逃せと? 出来んな。お前の異能もなかなか面白い。こうして出会ってしまった以上、覚悟を決めて俺と戦え」
「ああもう、やっぱり話の通じないお人ですのね!」

煙に巻ける相手ではない。当然、勝てるどころか今の状態ではまともに戦える相手ですらない。
黒子は何とか撤退の道を探るが、後藤は既に黒子の異能をほぼ完全に把握しきっている。
今の黒子の消耗状態では一度のテレポートでそう遠くまで移動することはできない。転移地点にあの瞬発力でついてこられては、いつか動けなくなったところを追いつかれる。
前回と違って転移結晶はもうない。後藤を無理やりテレポートさせることはもうできない。
イリヤが起きればまだ可能性はあるかもしれないが、サリアから受けた電撃のショックが大きいのかまだ目を覚ます気配はない。
穂乃果は当然戦力としては期待できず、穂乃果が所持している拳銃など豆鉄砲も同然だ。
槙島聖護に示唆された鉄球、逆光剣フラガラックも使えない。ついさっき歩きがてら手にしたところ、ひどい頭痛を感じたのだ。
黒子が能力を使用する際は脳内で複雑なベクトル計算をするのだが、あの鉄球を使おうとするとどうやらその計算に干渉してしまうらしい。
学園都市の十人である黒子は知らないことだが、超能力者が魔術を使用するのはごく一部の例外を除いて脳の構造的に不可能なのだ。
これは黒子の脳をモニターしていたルビーからも警告されていた。無理に使おうとすれば脳が焼き切れてもおかしくないと。
やらせるつもりもないが、穂乃果も使えない。こちらは単純にフラガラックを起動させるだけの魔力がないからだが。
状況を打開する手がない。

「白井さん、私がルビーさんを使って魔法少女になれば……」
「いけませんわ。アンジュさんから園田さんのことを聞いたでしょう」

園田海未は魔法少女になり、その反動で死んだ。アンジュから聞いた話をルビーはそう分析した。
海未と同じ、魔法少女の素質など持っていない穂乃果がなったところで結果は同じだ。

「でもこのままじゃ私たち三人とも殺されちゃうよ!
「そうはなりませんわ。高坂さん、今からあなたとイリヤさんを可能な限り遠くまでテレポートさせます。その後は全力で逃げてくださいまし。私が時間を稼ぎますから」
「そんな……駄目だよ、それじゃ白井さんが!」
「私も気は進みませんが、これが今打てる最善の手なんですの。わかってくださいまし」


750 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:12:03 ZNf7CDUc0

黒子はこの時、半ば死を覚悟していた。どこからどう考えてみても、この状況を三人揃って切り抜ける方法は思い浮かばない。
それならば多少なりとも抵抗の目がある自分が残り、穂乃果とイリヤを生き残らせる方がいい。それが風紀委員としての、黒子の正しきあり方だ。

「対応を考える時間は与えた。行くぞ」

何をするでもなく二人の相談を見ていた後藤だが、ついにゆらりと動き出す。
その腕が刃へと変わり、弛めた両足が後藤の体を弾丸のように飛び立たせる。

「速いっ……!」

演算の時間はごく僅か。黒子は穂乃果とイリヤをまずテレポートさせ、次いで自身も転移する。
が、穂乃果たちを優先した分のタイムラグが祟り、消える寸前の黒子の腹部を後藤の刃が掠めていた。
先の戦いで後藤は黒子の能力を見切っている。完全に実体が消えるまでの時間を図り、そのコンマ何秒か前に届くように刃の長さを伸長させたのだ。
テレポートが終了した穂乃果はあたふたしながら着地。その背後にどさっと黒子が着地、ではなく落下した。脇腹から漏れ出る血が黒子の制服を赤く染めている。
傷自体は浅いものだが、テレポートの演算集中を乱されたことで黒子の脳は衝撃を受け、自己防衛のために意識をシャットダウンさせていた。

「惜しいな。お前が万全であったなら、もっと楽しめただろうに」

呆然と立ち尽くす穂乃果の前に後藤が迫ってくる。後藤は最初から穂乃果を脅威と見なさず、黒子を仕留めることだけ考えていた。
そして初手で黒子を無力化した今、穂乃果は打倒する価値ある敵ではなく。ただの餌にほかならない

「あ……い、嫌……」
「恐怖で動けんか。人間とは脆いものだな」

手にした銃は震えに震え、とても狙いがつけられない。
無論銃で撃たれても何のダメージもない淡々と言い、後藤は穂乃果を捕食すべく刃を展開した。
その刃が穂乃果の命脈を断つべく振り上げられる。

「ぬっ!?」

だが、刃が穂乃果の命を刈り取る直前、後藤は突然後方に跳んだ。
次の瞬間、大きな爆音と光が穂乃果を薙ぎ倒す。
くらくらと揺れる意識を繋ぎ止めた穂乃果は、目の前にイリヤが立っているのを見て、いつの間に起きたのかと思わず背後を振り返る。
しかしそこには依然意識を失ったままのイリヤが倒れていた。

「あ、あれ? なんで?」
『クロさん!』

イリヤの懐から羽の生えたステッキ、マジカルルビーが飛び出して現れたもう一人のイリヤを認める。

「また会えたわね、ルビー。イリヤは無事?」
『はい、今は気を失っているだけです。クロさんこそご無事で何よりです』
「無傷ってわけでもないんだけどね。厄介な奴がいるみたいだし」

クロエは後藤から視線を動かさない。先ほどの戦いで、この敵は黒化英霊すら凌駕しかねない強敵だということは身に沁みてわかっている。
そこに黒と光子が追いついた。

「し、白井さん! 血が……大丈夫なのですか!?」
『白井さんのご知り合いの方ですか! 大丈夫です、すぐに止血すれば命に関わる傷ではありません!』


751 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:12:50 ZNf7CDUc0

流石にこの状況ではいつものようにふざけていられず、ルビーは簡潔明瞭に状況を伝える。

「よく会うな。お前たちならば不足はない」
「俺はおまえになどもう会いたくはない。ここで死ね」

後藤と黒が眼光をぶつけ合う。彼らには都合三度目の決闘だ。
黒とクロエは一瞬目配せし、交代するように黒が後藤の前に進み出た。

「こいつは俺と光子で抑える。あの娘を助けてやれ」
「お願いします、クロエさん! 白井さんは私の……友人なのです! どうか!」
「治療魔術は得意じゃないんだけど、そうも言ってられないか!」

光子の空力使いの後押しを得て、クロエは後藤を飛び越えて穂乃果の側に着地する。
あたふたとする穂乃果に構わず、クロエは黒子の傷を覗き込んだ。

「腹部裂傷……臓器、骨までは達していない。これなら、傷口を閉じるだけでなんとかなるわね!」
「白井さんは助かるの!?」
「やるわよ。でも今のままじゃキツいわね。だから……ごめんなさい、もらうわ」

クロエはおもむろに穂乃果の肩を掴み、有無を言わさず唇を重ねた。
一方黒と光子は後藤と戦闘を開始していたため、その様子を見咎めることがなかったのが穂乃果にとっては幸運だろうか。

「んんっ!?」
「ん……ちゅ……はっ、うむっ……」
「んんんーっ!?」

突然の衝撃に固まる穂乃果に構わず、クロエはひたすら穂乃果の舌に自らのそれを絡ませ吸い上げた。
貪るようなキス。事実、クロエは穂乃果から遠慮なしに魔力を貪っていた。
三十秒ほどたっぷり補給を行い、へなへなと腰が砕けた穂乃果を放り出してクロエは黒子の脇腹に手を当てて意識を集中した。
傷を治すのではなく、人体の構成を把握しその欠損を修繕する。そんなイメージを核に魔術を発動させる。

「これで……っ!」

時間にすれば十秒にも満たない短い時間。しかしその結果、青ざめていた黒子の顔色は確かにやや赤みが差して持ち直したのだった。
脱力するクロエ。穂乃果から目一杯魔力を補給したとはいえ、そこは一般人。補填した微々たる魔力は黒子一人治療するだけであっさり使いきってしまった。

「ねえ、悪いんだけどもう一回」
『クロさん、駄目です。これ以上は高坂さんが保ちません』
「でもどうしても今、必要なのよ。あの二人だけじゃあいつは倒せないわ」

再度穂乃果から魔力をいただこうとしたクロエだが、その穂乃果は座り込んだまま失神していた。
元々疲労が溜まっていた上、強引に魔力を吸い上げられたため、瞬間的に意識が途絶したのだ。
では黒子から、という訳にはいかない。治療したとはいえ、未だ昏睡している黒子から魔力を吸い上げることなど論外だった。

「じゃあイリヤからいただくしかないわね」
『ですがクロさん、イリヤさんは今……』

クロエのオリジナルであるイリヤからなら、穂乃果とは比較にならない量の魔力を補給できる。
イリヤには一見して外傷はなく、痛覚共有から考えても何かのショックで失神しているだけだ。
もしクロエが魔力を吸おうとした場合、その干渉で目を覚ますかもしれない。


752 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:13:41 ZNf7CDUc0

「なにか様子がおかしいってことでしょ。それはわかってるけど、誰彼構わず無差別に襲いかかる訳じゃない。でなきゃこの子たちがイリヤと一緒にいるはずはないもの」
『ええ、それはそうなのですが。どういう状況で戸塚さんのときのような行動に至るか、まだ把握できていないのです』
「そのときは……私がなんとかするわ。今度こそね」

クロエはイリヤに強引にキスし、穂乃果のように魔力を吸い上げる。

「……んむぅっ!?」

その過程でイリヤは覚醒するが、クロエは両手でがっちりとイリヤを抱き込んでいたため、振りほどけない。
背後で鳴っている戦闘音に焦りを触発されながら、クロエは流れ込んでくる魔力を体の隅々まで循環させ始めた。

「く、クロ? クロなの?」
「起きたわね、イリヤ。早速で悪いけど働いてもらうわ。あいつを倒すわよ」
「あいつって……ひっ!? あの人……」

イリヤは後藤ではなく、後藤と戦っている黒に恐怖の視線を向ける。
無意識に逃げ出そうとするイリヤの腕を、クロエは指が食い込むほど強く握り締めた。

「逃げるな。認めなさい、あなたは確かにあいつの仲間を、戸塚って子を殺したのよ」

甘えを許さないクロエの厳しい口調が、夢の中で満たもうひとりの自分の言葉とオーバーラップする。
ここで逃げてはいけない。逃げれば、イリヤを信頼してくれているクロエやルビー、イリヤが殺した戸塚を裏切ることになる。

「それでもあいつは、あなたを助けようとしてくれてる。戸塚って子はね、あなたを助けてあげてって言い遺したんだって。
 なのにあなたは恐怖に負けて、また逃げるの? 黒からも戸塚からも、そして自分からも」

逃げる。それ自体は簡単だ。転身して、空を飛んでいけばいい。
だがそうすればこの場にクロエと黒、穂乃果と黒子、そして名前は知らない少女が残されることになる。この場合、今度こそイリヤは全て失う。
クロエだけ連れていくことは不可能ではないが、絶対にクロエは受け入れない。実力を行使してでも抵抗し、ここに残ってあの敵と戦おうとするだろう。

「クロは……怖くないの? あんな怖い人達と一緒にいて、戦って……」
「怖くないわけないでしょ。私だって怖い。怖くてたまらない。けど、もっと怖いことがある」

クロエはまっすぐにイリヤの瞳を覗き込む。
その瞳には厳しさだけでなく、イリヤを否定しない柔らかさも確かにあった。

「私は、そしてあなたは、それを知っている。知っているからこそ、二度とあの痛みと出会うことがないよう、出来ることがある。そうでしょ?」

クロエが言っていることが、イリヤにもわかる。死んでしまった親友……美遊のことを言っているのだ。
クロエとイリヤにとってかけがえのなかったはずの少女。その死を告げられたとき、身を引き裂かれるような痛みを覚えたはずだ。
ここにはイリヤにとって大事な人が、クロエが、穂乃果が、黒子がいる。
彼女たちを失わないために、どうすればいいのか。


753 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:14:15 ZNf7CDUc0

「戦って……守る」
「そうよ。私たちが守るの」

イリヤの手には力がある。魔法少女、理不尽な現実を打破する力が。
あの黒い服の剣士……キリトのように、今は目の前にある現実と戦うときなのだ。

「……ルビー、いけそう?」
『いつでも大丈夫ですよー!』
「ごめん、クロ。迷惑かけちゃったね」
「妹が姉に迷惑をかけるのは別におかしくないわ」
「だから私がお姉ちゃんだってば!」

じゃれあっていつもの調子を取り戻し、並んで立つイリヤとクロエ。
しかしイリヤから魔力をクロエに分配したということは、イリヤ自身の魔力は半減したということになる。
加えて二人ともここまで激戦を経ていて、かなり消耗している。

「とは言ったものの、どうすればあいつを倒せるかしら」
「そもそもあの人……人なの? 手から剣が生えてるように見えるんだけど」
「人の形をした化け物ね。戦えば戦うほど、相手の能力や戦術を学習して強くなっているみたい
 セイバーの剣術とランサーの反応速度、ライダーの機動力とアサシンの慎重さ、キャスターの知略とついでにバーサーカーの闘争本能を併せ持つって言えばわかりやすいかしら」
「な、なにそれ……?」
「生半可な攻撃じゃ通じないし、強力な宝具だと発動を察知して回避されるか発動する前に潰される。
 多分あなたの物理保護も貫かれるわ。絶対にあいつの攻撃を受けないで」

今は何とか黒と光子が耐え凌いでいるが、徐々に劣勢に追い込まれているのは明らかだった。
ここにクロエとイリヤが加わったところで押し切れるかは望み薄だ。

「有効打はないけど、こうしてずっと見てるわけにもいかないか。イリヤ、行くわよ」
『待ってくださいクロさん! 白井さんのバッグを探してみてください!』
「ルビー?」

ルビーの申し出に異論を挟まず、クロエは迅速にバッグをひっくり返した。
そして出てきたものを手に取り、破顔する。

「……これって! ちょっとルビー、お手柄よ!」
『いやあ、それほどでもないですよー』
「ルビー、浮かれてないの!」

この状況を打開できる可能性がある。それを知っていたのは気を失った黒子と穂乃果、そしてルビーの三人。
そして穂乃果と黒子では使えなかったが、ここには魔力を自在に操る魔法少女たるイリヤとクロエがいる。
反撃の狼煙が、上がった。


754 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:15:12 ZNf7CDUc0




右から迫る刃を、右手に持った友切包丁で弾き返す。
光子から受け取ったこの大型のダガーはクロエの評を覆すことなく素晴らしい威力を発揮していた。
後藤が変化させた寄生生物の刃は人体をバターのように切り裂く。
その刃を何度受けても友切包丁は刃こぼれ一つしない。どころか、繰り返す内に後藤の刃の方に細かい傷が無数に走っていく。
友切包丁を操る黒も、短刀の扱いには熟練している。黒は元々契約者ではない普通の人間であり、その時代から鍛え上げた戦闘技術で契約者を殺す「黒の死神」と恐れられていたのだから。
だが、どれだけ黒が練達の戦士であろうとも、肉体的にはやはり人間だ。
尋常ではない洞察力と反射神経で後藤の攻撃を凌ぎ続けているが、どうしても対応しきれない攻撃はある。
右からの攻撃を防いだ瞬間、左からまったく同時に同じ鋭さの刃が飛んで来る。左手に友切包丁はなく、電撃能力では刃を防げない。

「この私の前で、そんな狼藉は許しませんわ!」

その隙を埋めるのが、この場での黒の相棒……婚后光子だった。
電柱、ガードレール、ポストといた金属物質を空力使いで飛ばせばそれは立派な質量兵器となる。
まさに黒を切り裂こうとしていた後藤の刃は、光子が飛ばした赤いポストの前に後退を強いられ、獲物を逃す。
一呼吸の間を得た黒がバックステップし、間合いを取り直した。

「ご無事ですか?」
「助かった。お前は能力をよく使いこなしている」
「お褒めに預かり光栄ですわ。黒さんこそ、よくまあそんな包丁であの悪漢と渡り合えるものです」
「包丁の扱いには慣れているからな」

軽口を叩き合う。だが二人の表情に余裕はない。クロエが離脱してからずっと、こうして後藤の攻撃を二人で協力して防ぎ続けていた。
五分も経っていないはずなのだが、周囲は光子が能力であらかた吹き飛ばしてしまったので小さな平原のような様相を呈してきている。
何もないということは、光子が利用できる質量弾もまたないということだ。

「よく粘る。人間は武器を持つとこうも変わるものか」

息も乱さない後藤に対し、黒も光子も流れる汗は滝のようだった。
段々疲弊する一方の黒と光子に対し、後藤はまるで戦うことで栄養を得ているかのように衰える様子はない。
自らの異能だけでなく、鍛え上げた技術や周囲の状況を利用する二人の人間との戦いは後藤に新鮮な驚きと満足を与え続けていた。

「ここで増援か。お前たちは本当に俺を楽しませてくれる」

後藤の視線は黒たちではなく、最初に離脱してようやく戻ってきたクロエに向けられた。
その両手には既に双剣が構えられていて、後藤を相手に退く気配は全くない。それが後藤にはたまらなく嬉しい。

「クロエさん! 白井さんは?」
「待たせたわね。彼女はもう大丈夫よ」
「そ、そうですか。良かった」
「イリヤはどうした?」
「あの子は後ろで見てるわ。悪いけど戦うのは私だけ」


755 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:16:04 ZNf7CDUc0

黒は肩越しにイリヤを振り返る。視線が合うとイリヤは小さく震えたが、それでも逃げ出したりはしない。
見てるだけとクロエは言ったが、イリヤが何らかの役割を持っていることは容易に推察できた。

「俺たちはどうすればいい?」
「察しが良くて助かるわ。私も前に出るから、何とかしてあいつを追い込んで本気にさせて」
「な、何を言ってるんですの! それではクロエさんが危険ですわ」
「手があるの。それにはあいつが本気であればあるほど、強力な攻撃をするほど都合がいい。だからお願い、私を信じて」

有無を言わせない口調でクロエは断言した。
光子はそれでも食い下がろうとするが、黒が光子を制して言った。

「おそらくこの中では俺の能力が一番有効だ。だが発動までの僅かな時間で奴は回避する。隙を作れるか?」
「やってみる。……ありがとう、黒。あなたは私とイリヤを信じてくれるのね」
「俺が信じるのは自分だけだ。お前たちに気を許した訳じゃない」
「そっか。ふふ、でもいいわ。少なくとも背中を預けるくらいには、私たちを評価してくれてるってことだものね」
「……先に行く」

黒が友切包丁を構え、後藤に向かっていく。
クロエも双剣を振りかざし、黒の背中を守る位置についた。

「最後よ。あなたを終わらせてあげる」
「楽しみだ」

クロエの啖呵を、後藤は表情を変えず受け取る。
右から切り込む黒を左手の刃で迎撃。逆方向からクロエが切りかかる。後藤は右の刃で受ける。
二人がかり、二方向からの攻撃を、後藤は左右の手で危なげなく捌いていく。

「お前たちの技は十分に観察した。武器が剣である以上、この距離では俺にはもう通じない」

荒れ狂う二人の斬撃をこともなげに受けながら、後藤は残った頭部を刃に変形させた。
両手の刃を受け持つことで必死な黒とクロエは、追加で放たれる頭部の刃に対応できない。
後藤が唯一強く警戒しているのは黒の電撃だが、能力発動までの一瞬の隙があるのは黒もクロエも同様だ。その一瞬があれば、後藤は余裕で先手を取れる。
物体を飛ばす光子は周囲に障害物がない現状ではほぼ無力。光子程度の体術では後藤・黒・クロエがせめぎ合う距離に介入できない。

「……とでも思っているなら、大間違いですわよ!」
「む!?」

威勢のいい気合とともに、光子は大能力・空力使い(エアロハンド)を発動。
飛んで来るのは鋭い矛先を持つ無姪の剣。
クロエがあらかじめ投影し、バッグに入れて光子に渡したものだ。
無銘とはいえ十分な硬度を持つ剣を、光子の能力が強烈に加速させる。
その威力は後藤をして脅威と認識させ、斬り合っていた二人を放棄して回避を迫らせるものだった。
両足を変形させ、大きく飛び退く。


756 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:17:22 ZNf7CDUc0

「異能の組み合わせ……か! 良い工夫だ!」
「あなたに褒められても嬉しくないけど、まだ終わってないわよ!」

空中にいる後藤の視線の先、クロエは十分な時間を込めて弓と矢となる剣を投影した。
落ちてくるだけの後藤を狙い撃ちにする。

「吹き飛びなさい!」
「その攻撃は何度も見た」

剣は後藤に向かってまっすぐ飛んで行く。後藤は片腕を刃に、もう片方は平面上の盾にして待ち受ける。
刃で剣を弾く。その瞬間、クロエの意志によって剣は爆発した。壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。投影した宝具を自ら爆発させることで強烈な破壊力を生み出す技。
後藤はその爆発を盾で受ける。硬質化した盾は爆風の威力を殺し、しかしその爆圧で後藤の体を大きく押し出す。
そのせいでクロエが予測した着地点がずれ、追撃の矢は間に合わない。
噴煙の中から両足を疾走に最適化させた後藤が飛び出し、襲いかかる。
黒がその間に割り込み、友切包丁で切りかかった。
後藤は両腕を交差させ、硬質化。黒の斬撃を受け止め、瞬時に刃を軟化させて刃を絡めとる。
動きを止められた黒は反射的に友切包丁に電撃を流そうとしたが、一瞬早く後藤の蹴りが黒の腹部を直撃した。

「がはっ!」
「お前は後だ」

移動用の足で蹴ったため、黒専用の防刃防弾コートが貫かれることはなかった。だが黒の生身の肉体は衝撃のダメージを避けられない。
現時点で黒にとどめを刺すより、さらなる攻撃を用意しているクロエを先に潰すのが後藤の状況判断。
崩れ落ちる黒をパスし、後藤はクロエにとどめを刺すべく走る。
光子の援護。次々と襲い来る宝具の雨の中、後藤は一時も立ち止まらず駆ける。
やがてクロエが投影した宝具が尽き、光子の打てる手がなくなったところで後藤は跳躍。クロエの前に着地。
クロエは何とか一本の剣を投影し終えたところだった。

「このっ!」
「残念だったな。だが良い連携と工夫だった」

剣は後藤が屈めた頭の上を過ぎ去っていった。
淡々と後藤が呟き、刃を突き出す。クロエの腹部を貫いた。

「がっ……!」
「終わりだ」
「ええ……あんたがね!」

喀血しながらも、クロエは壮絶な笑みを見せた。
その表情に勝利の確信を感じた後藤は、反射的に背後に視線を投げる。
そこには外れた剣が、今にも後藤に噛み付こうとする猟犬のように迫ってきていた。
後藤の背中にクロエの剣が突き立つ。先端を細く、針のように尖らせた剣。
これでは致命傷にはならない。否、傷の内にも入らない。表皮に僅かなヒビを入れ、内部に浅く刺さっただけだ。
それを理解した後藤は、剣を振り払うこともなくクロエに向き直った。


757 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:21:22 ZNf7CDUc0

「ぐっ……だが、この程度。大したダメージではない」
「剣は、そうでしょうね。で、それがあなたの慢心。そして敗因よ」

そして気付く。クロが放った矢は、未だ後藤に突き立っている剣は、その柄に一筋の細い糸……ワイヤーが巻きつけられていたことに。
クロエは自身を餌にして、このワイヤーをギリギリまで後藤の意識から隠そうとしていたのだった。
ワイヤーに繋がった剣を弾き飛ばそうとする後藤。だがその視覚は、ワイヤーの先で青白い燐光を放つ死神のような男を捉える。
後藤に剣を放つ前、クロエはあらかじめワイヤーも投影していた。黒の得意技を真似て、黒に必殺の攻撃を促せるように。
ランセルノプト放射光がオーラのように迸り、黒の目が赤く輝いた。

「死ね……!」

刃を振るうよりも早く、黒の電撃がワイヤーを伝って後藤の全身に叩き込まれた。
僅かとはいえ剣先は後藤の体内に潜り込んでいる。そこに電撃が殺到した。

「ぬ……があああっ!?」

体内を蹂躙する電撃の暴威は、後藤を構成する寄生生物たちを激しく動揺させた。
後藤の命令下から脱し、各々が好き勝手に動いて自己保存を図ろうとする。
電撃が致命的な損傷を臓器に与える前に、後藤は自身の頭部を刃に変えてクロエの剣を殴打。何とか電撃から離脱を成功させる。

「やって……くれる……!」
「呆れた。これでも死なないの?」
「人間、ども……許さん……殺す……ころす……ころ、すころ……こすここころろおすかかかここす……」

電撃が言語中枢に混乱をきたし、後藤の口から漏れる言葉が意味を成さなくなっていく。
痛打を受けた際の生物の防衛本能は、寄生獣にも同様にある。
今や後藤は思考を放棄し、ただ本能のみで目の前の人間たちを殺し尽くす一匹の獣と化した。
メキメキと後藤の全身が音を立てて変形していく。両手両足を地面につき、至るところから刃を生やした鋼鉄の獣の姿に。
回避されたらとか、異能の先読みだとか、そういった人間的な思考は今の後藤にはない。
持てる全ての力を使ってこの人間を殺す。それだけが今の後藤を突き動かす。

「クロエさん! 逃げて!」
「クロエ!」

変貌する後藤の前にはクロエが立ち尽くしている。黒がクロエを助けるべく立ち上がろうとしているが間に合わない。
そして後藤が、弛められたバネのように全身から力を解放して、音速の弾丸となってクロエに襲いかかる。

「グァアアアアアアアアアアッ!」
「……チェックメイトよ、フリークス!」

そして……これこそが、クロエが待っていた瞬間だった。
後藤の刃がクロエを分断する寸前、クロエは残った最後の魔力で転移を敢行した。
転移座標は後方、イリヤのいる場所。転移終了と同時にイリヤを転移。瞬きの間に、クロエはイリヤと入れ替わった。
イリヤは、既に準備を終えていた。


758 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:22:16 ZNf7CDUc0

「後より出でて先に断つもの(アンサラー)……」

イリヤが構えた拳の先で浮かぶ鉄球から、鋭い剣が生えている。
紫電を放つその切っ先は、手を伸ばせば届く距離にいる後藤へと向けられている。
だが遅い。転移で生じたタイムラグは極小とはいえ、無ではない。
イリヤが宝具を解放するより先に、後藤の刃がイリヤへと届く。

「……斬り抉る戦神の剣(フラガラック)!」

イリヤは構わず宝具を解放した。
後藤の刃が指先から腕、肩、胴体、心臓、脊髄を順番に貫いていくのを感じながら……同時にフラガラックの切っ先が、後藤の胸を貫いた。
黒と光子が見ている前で、後藤がビデオを巻き戻したかのように下がっていく。
飛び出す前の位置に戻った後藤の胸には大穴が開いていた。
しかし対峙するイリヤは、無傷。

「な……何が起こったんですの?」

光子は確かに、イリヤが後藤に貫かれる光景を見たはずだった。
だが一瞬後、それはまるで幻だったかのようにイリヤには傷一つない。
これこそが、「斬り抉る戦神の剣(フラガラック)」。逆光剣の異名を持つ、因果を逆行する一撃。
相手の攻撃より後に発動しながら、相手よりも先に届く。
先に攻撃が届いたことで相手は死んだのだから、逆説的に相手の攻撃はなかったことになる。
結果、残るのは先制攻撃を行ったはずの後藤だけが致命傷を負い、倒れる光景。
かつてイリヤたちを苦しめた魔術協会の魔術師、バゼット・フラガ・マクレミッツの誇る必殺の宝具が、ついにその真価を発揮したのだった。

「やった……の?」
「そのようだ」

放心して呟くイリヤに、黒が声をかけた。
びくりと震えたイリヤだが、イリヤは歯を食い縛って自分の中の恐怖を押さえつけ、黒と目を合わせる。

「あの……私、あなたに謝らないといけないんです」
「戸塚のことだな。俺もそれを訊きたい」
「私はあの時、」
「待て。今は、逃げないのならそれでいい。落ち着いてから改めて聞く」

黒はイリヤを静止し、後ろを指し示す。
そこにはクロエと光子、そしてようやく気がついた穂乃果が黒子を背負ってやってきていた。

「クロ? どうしたの!?」
「ちょっと……魔力使いすぎちゃった。補給よろしく」
「ま、またあのはしたない行為をなさるんですの? うう……記憶を消したいですわ」

後藤の最後の一撃が僅かに掠め、また限界まで魔力を絞り尽くしたクロエは自力で立つこともできず光子に抱き抱えられていた。
力なく笑うクロエだが、その瞳はイリヤによくやったと言っているようで、イリヤも思わず顔をほころばせて小走りに近寄っていく。


759 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:23:32 ZNf7CDUc0

「もう、まったく無茶するんだから。私が魔力あげなきゃ死んじゃうじゃない」
「ああしなきゃ勝てなかったでしょ」
「それはそう、だけ、ど……」

みんなの見ている前でキスをするのは恥ずかしいが、さすがに今のクロエにそんなことを言うのは空気が読めていない。
そんなことを考えながらイリヤがクロエに近寄ったとき。
イリヤの意識の奥底に潜む悪意が、蠢いた。


クロエが。

深い裂傷を負い、出血もしていて。

魔力で構成される身体は、魔力が枯渇して今にも消えそうだ。








放っておけば、死ぬ。








(殺さなきゃ)


760 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:24:03 ZNf7CDUc0

スイッチが切り替わった。
ルビーに命じることなく、強引にステッキに魔力を充填。
ごく無造作に、イリヤはステッキを振り抜いた。

「……イリヤ?」

放たれた魔力の斬撃は、クロエだけでなく光子までもろともに切り裂いた。
鮮血が舞う。黒と穂乃果は、呆然とその光景を見ていることしかできなかった。

『い……イリヤさん……?』
「え?」

ルビーの声が震えていた。
どうしたの、と言おうとして、イリヤは目の前で赤い血溜まりの中に沈む二人の少女を見る。
光子と言うらしい、黒子と同じ服を着た少女。
もはや見慣れた赤い衣をまとう、自分と同じ顔をした少女。

「クロ?」

イリヤは何が会ったのかわからないというように、、自分の手を見る。
まさに魔力を発射した直後のステッキが、熱を帯びてそこにある。
イリヤは直感した。
また、やってしまったのだと。
戸塚の時と同じように、しかも今度はよりによって、クロエを。
この手で殺してしまったのだ。

「あ……え……? わ、私、が……?」
『イリヤさん、危ない!』

ルビーの警告。黒がワイヤーをイリヤの首に巻きつかせていた。
黒の目が赤く輝き、電撃を流す。
同時に倒れていたクロエが、バネ仕掛けの人形のように飛び起きて一閃。小指程度の長さの刃でワイヤーを断ち切った。

「く」

クロエは死んでいなかった。生きていた。
あの瞬間、光子は反射的にクロエに覆いかぶさった。だから光子は即死し、クロエは僅かながら命を永らえた。
その事実をイリヤが認識する前に、クロエはイリヤに唇を重ねた。
イリヤは目を見開く。黒もさすがにクロエを巻き添えにする形では手が出せない。
やがて、クロエはイリヤから離れる。

「一人じゃ、ないから」
「クロ?」

そしてイリヤに弱々しく笑いかけ、消えた。
カラン、と首輪が落ちる。クロエが首に巻いていたものだ。
それだけが、消えたクロエの実在を示すたった一つの証だった。
イリヤはその首輪を手にすると、次の瞬間空に高く飛び上がっていた
一瞬でビルの屋上以上の高さに飛翔したイリヤには、黒のワイヤーは届かない。
そのまま流れ星のように空を横切って行くイリヤを、黒と穂乃果はただ見送ることしかできなかった。


761 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:25:02 ZNf7CDUc0




何が起こったのか把握できないまま、事態は動いてしまった。
後藤を倒したと思ったのも束の間、イリヤが突如クロエと光子を殺害し、逃亡した。
黒はあの時、イリヤを殺すつもりはなかった。無力化するつもりだった。
だが、クロエに阻まれた。それは一体何を意味しているのか。
落ち着いて考えている暇はない。後藤を倒したとはいえ未だ近辺にはエンブリヲが潜伏していて、ここに長く留まるのは危険だ。

「ひとまず身を隠す。そいつを寄越せ。俺が担ぐ」
「で、でも光子ちゃんが……こんなところに光子ちゃんを置いていくんですか!?」

物言わぬ屍となった婚后光子を指さし、穂乃果が涙ぐむ。
穂乃果も急展開のあまり動転していて、落ち着いて話ができそうにない。そもそも穂乃果は黒と初対面であり、黒が信用できる人物かも知らないのだ。
黒は一瞬喉元まで出かかった苛立ちを何とか飲み込んだ。

「……今は埋葬している時間はない。このバッグはどうやら人も入るようだ」

エンブリヲがしていたように、黒は光子の遺体を自分のバッグに収納した。落ちていた光子の荷物も回収する。
契約者として合理的に思考するなら、黒はこのとき、友切包丁で光子の首を落とし首輪を回収しておくべきだった。
だが黒はそうできなかった。傍らの穂乃果、光子と知り合いだったらしい黒子の存在と、何より共に死線を潜り抜けた光子への敬意から。
しかし首輪は必要である。クロエの首輪をイリヤが持ち去ったため、広川への反抗を目指すならどうにかして入手する必要があるのだ。
当然穂乃果は、そして目覚めれば黒子も反発するだろう。その時が来るのを憂鬱に感じながら、黒は気を失った黒子を肩に担ぐ。
いかにバッグに人が入るとはいえ、生きている人間を入れたら何らかの悪影響が出ないとも限らない。

「お前も来い。考えるのはそれからだ」
「で、でも……」
「この黒子という娘も安静にさせなければならない。急げ」

黒子を引き合いに出してようやく、穂乃果はのろのろと立ち上がった。
いい加減、黒も疲労の限界だった。これではまともな判断力は望めない。
ここで散ったクロエと光子。手を下したイリヤ。この件について考える前に休息が必要だ。
黒はちらりと倒れて動かなくなった後藤に視線を投げる。三度戦うことになったあの異形の化け物は、多くの命を摘み取った。
未来の黒の知り合いであるという蘇芳・パブリチェンコ、穂乃果の後輩である星空凛。間接的には婚后光子、クロエ死亡の遠因でもある。

「蘇芳。俺はお前のことは知らないが……仇は取った。これでお前が満足するかは分からないが」

穂乃果に聞こえないよう、顔も知らない未来で出会う少女にそっと手向けの言葉を捧げた。
そして後ろから穂乃果がついてくるのを確認し、黒は重い足を踏み出す。
彼ら彼女らの耳に死を告げる鐘が鳴り響くまでもう僅か。
それでも黒は足を止めず、ひたすらに前を向いて走り続けていく。





【後藤@寄生獣】 死亡】
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 死亡】
【婚后光子@とある科学の超電磁砲 死亡】


762 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:29:01 ZNf7CDUc0

【F-5/1日目/昼 放送直前】

【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(極大)、右腕に刺し傷、腹部打撲
[装備]:友切包丁(メイトチョッパー)@ソードアート・オンライン、黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×2
[道具]:基本支給品、ディパック×1、不明支給品1(婚后光子に支給)、婚后光子の遺体
    完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation、扇子@とある科学の超電磁砲、エカテリーナちゃん@とある科学の超電磁砲
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
1:銀や戸塚の知り合いを探しながら地獄門へ向かう。銀優先。
2:後藤、槙島、エンブリヲを警戒。
3:魏志軍を殺す。
4:イリヤに対して―――――
5:二年後の銀に対する不安。
6:雪ノ下雪乃とも合流しておく。
7:黒子が起きたら光子の遺体から首輪を入手し、埋葬する。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリトとは情報交換済みです。
※二年後の知識を得ました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。

【友切包丁(メイトチョッパー)@ソードアート・オンライン】
中華包丁のような形状をした肉厚の大型ダガー。殺人ギルド「ラフィンコフィン」のリーダー「Poh」が使用する。
現時点で最高の鍛冶屋がつくった最高の武器すら軽がる抜くモンスタードロップの<<魔剣>>。当時のSAO最強クラスの武器の一つ。
フルアーマーの装甲すらたやすく貫けるほどの斬れ味を持つ。


【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大)、混乱
[装備]:練習着、トカレフTT-33(3/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:強くなる
0:何がどうなってるの??
1:黒子と共に音ノ木坂学院へ向かう
2:花陽ちゃん、マスタングさん、ウェイブさんが気がかり
3:セリュー・ユビキタス、サリア、イリヤに対して―――――
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません


【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(極大)、精神的疲労(極大)、気絶
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品(穂乃果の分も含む)、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春などの友人を探す。
0:お姉さまを…
1:穂乃果と共に音ノ木坂学院へ向かう
2:初春と合流したらレベルアッパーの解析を頼みたい。
3:イリヤのことは保護すると同時に気をつけて見張っておく。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているということを確信しました。
※槙島が出会った人物を全て把握しました。
※アンジュ、キリトと情報交換しました
※逆光剣フラガラック@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ は消費されました。


763 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:30:17 ZNf7CDUc0

少女は一人、荒野に佇む。
ルビーはイリヤの受けたショックを慮ってか、いつもの無駄口を控えじっと主の言葉を待っている。
イリヤは頭のなかにずっとあった重苦しい感じが消えているのを理解していた。
おそらくあれこそが、イリヤを意図しない凶行に走らせた元凶。
今はもう雪のように消え去ったが、だからといってイリヤの罪も消えるわけではない。
イリヤはそんなルビーに何も言うことはなく、じっと手元の一枚のカードを見ていた。
クラスカード・アーチャー。赤い衣の弓兵が描かれた一枚の紙切れ。
それはついさっきまで、クロエ・フォン・アインツベルン……もう一人のイリヤの核を担っていたカード。
しかし今、クラスカードからはクロエの残り香を感じることはできない。
影も形もいなくなった半身。その残滓はクラスカードではなく、イリヤ自身の内にある。
新たに生まれたのではなく、取り戻した。
クロエとの最後のキスを思い出す。

「血の味がしたな……」

あのときクロは、いつものようにイリヤから魔力を補給するのではなく、逆に魔力を送り込んできた。
自分が致命傷を受けたと即座に理解したのだろう。どんな手を尽くしても助からないと、誰よりも正確に自分の辿る末路を予測したのだ。
そして、助からないならば、やれることをしようとした。
たった今自分を殺した相手であるイリヤに、かつて奪ったもの……イリヤが生まれた時から所有していた莫大な魔力を、自分の体を構成する魔力を、残らず譲渡したのだった。
クロエとて突然の凶行に走ったイリヤの精神に何らかの異変を感じ取ってはいただろう。数時間前、戸塚を殺したときもそうだった。
婚后光子を殺害したとその目で見ても。イリヤが誰かれ構わず傷つけるような危険人物であると証明してしまっても、なお。
クロエは、数十名に及ぶ見知らぬ人々の命よりも、イリヤただ一人を選んだ。
仮にイリヤが残った全員を殺害するとしても構わない。イリヤが死ぬよりはよっぽどマシだ……そう考えて。
そして、クロは消えた。遺体などどこにもない。
あるのは首から外れて落ちた首輪と、クロという存在の核であったアーチャーのクラスカードのみ。
まとめてみれば、元々あったものが出ていき、また戻ってきた。それだけの話だ。
しかしイリヤが今感じている喪失感は、決して何も戻ってきてはいないのだと……失ったものは決して取り戻せないのだと、これ以上なく克明に突きつけてくる。

「ねえ、ルビー。もし……」

どれだけ時間が経ったか、ぽつりとイリヤが声を漏らす。
応答を求められたルビーは何と発言すべきは幾重にもシミュレートし、しかし適切な一言を見出だせず沈黙を続ける。
そんなルビーに構わず、イリヤは言った。








「もし私が優勝して美遊とクロを生き返らせるって言ったら、手伝ってくれる?」


764 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:31:08 ZNf7CDUc0

【G-5/1日目/昼 放送直前】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(絶大)、魔力全快
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・アーチャー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:ディパック×1 DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ DIOのサークレット 基本支給品×1
     不明支給品0〜1 美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:???????????
0:???????????
[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
※アカメ達と参加者の情報を交換しました。
※黒達と情報交換しました。
※「心裡掌握」による洗脳は効果時間が終了したため解除されました。
※クロエに分かれた魔力を回収したため、イリヤ本来の魔力が復活しました。


765 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:33:15 ZNf7CDUc0

























後藤はまだ、死んでいなかった。


766 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:33:47 ZNf7CDUc0

逆光剣に心臓を貫かれ、胸に大穴を開けてなお、生存していた。
後藤はフラガラックの直撃を受けた瞬間、己の敗北を認識した。認識し、受け入れたうえで、抵抗を開始していた。
心臓を失ったため全身に血液を送ることができない……ならば、心臓の代替品を作り出せば良い。
先に失った寄生生物は一体。本体である後藤を除けば、まだ三体の寄生生物が残されている。
後藤は伏したまま微動だにせず、二体の寄生生物に体内を移動、心臓の位置を補完するように命令した。
残る一体は万が一人間たちがとどめを刺しに来た時のために温存。だがこれでは心臓生成に時間がかかりすぎ、肉体部分が壊死してしまう。
そのため後藤は最後の一体に、デイバックの中にある支給品を抜き出させた。
確認して早々に自分には不要だと判断し、今の今まで存在自体を忘れ去っていたもの。だが、今の後藤にとっては何よりも必要なものだ。
その名は百獣王化ライオネル。ナイトレイドの殺し屋の一人、レオーネが使うベルト型の帝具である。
帝具と呼ばれる人間たちの武器。装着車の身体能力と五感を高める。奥の手は治癒能力の強化。
ただでさえ人外の運動能力を誇る後藤に身体能力と五感を高める効果など必要なかった。後藤が求めるのは闘争であり、一方的な虐殺ではないからだ。
だが、ここでは治癒能力強化こそが必要だ。敗北を受け入れ誇りに殉じる高潔さなど、人間ではない後藤が持ち合わせているはずもない。
寄生生物は可能な限りの速さでライオネルを後藤の腰に巻く。
その瞬間、ぴょこんと後藤の頭に二つのケモノ耳が飛び出した。それだけでなく、しっぽやフサフサとした毛皮が手に生えていた。
消えかかる意識を必死に繋ぎ止め、後藤は全霊で思考する。

(……奥の手……治れ……)

人間ではない後藤に帝具を使えるかどうかは賭けだった。
主催者である広川が何を思い後藤にライオネルを支給したのかはわからない。
だが現実にライオネルがここにある以上、生きるため/戦うために後藤が使うのは当然であり、それもやはり広川の意図するところなのだろう。
暗闇の海を泳いでいるような、時間が何万倍にも引き伸ばされるような感覚を味わったのち……

「……どうやら、成功したようだな」

やがて灯りのスイッチを切り替えたように明瞭に、後藤は覚醒した。
両手をついて体を持ち上げる。その両手を後藤は見る。両手、両足、確かにある。
ライオネルの奥の手、「獅子は死なず(リジェネレーター)」は本来部位欠損など大きすぎる損傷は回復できない。
しかしこのとき後藤が行ったのは心臓の再生ではない。そちらは配下の寄生生物にやらせ、ライオネルには全身の細胞を賦活させ壊死を防がせたのだ。
ライオネルが肉体の崩壊を防いでいたため、後藤と二体の寄生生物は全力で心臓の再生に取り掛かれた。
結果として心臓は無事再生し、またライオネルの恩恵で全身の負傷も癒えていた。

「……?」

が、後藤は身体に僅かな違和感を感じた。寄生生物に命じる。刃に変形したのは左腕のみ。
変形しないのは腕だけではなかった。両足も変形しないし、全身を覆う皮膚のプロテクターも出すことができなくなっていた。
後藤の命令に従う寄生生物は、左手の個体だけになっていた。
心臓に擬態させた二体はどんなに命じても何の反応も返さない。だが死んだわけではないのは、同族を感知する反応でわかる。
休眠状態とでも言うのだろうか。確かにそこにいるのに、まるでそこにはいないかのように無反応。
寄生生物二体。死を免れる代償としては安いものかもしれない。


767 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:34:35 ZNf7CDUc0

だがこれではもはや、とても「五頭」とは名乗れないな、と呟こうとして、後藤は気付く。
その場で軽くジャンプ。跳躍した後藤の身体は、優に5メートルは垂直に飛んだ。
両足を変形させた状態なら軽く倍の高度は出るだろう。が、それは単なる機能の劣化を意味しない。
後藤は今、両足を変形させていない。つまりはボディとなった人間の性能そのままの跳躍のはずなのだ。

「奴らの反応が……心臓だけではない。全身に散らばっている?」

集中して気配を探ってみれば、再生した後藤の全身に寄生生物たちの気配は散らばっている。
頭部、両手、両足というざっくりした区分けではない。まさに全身、細切れにした破片を霧吹きで吹き付けたかのように細かく散っていた。

「心臓からの血流に乗って、奴らの細胞が全身に散ったとでも」

推論を口にする。それはほぼ的を得ているように後藤には思えた。
細分化され、一個の寄生生物としての体裁さえ保てなくなったのなら後藤の命令に反応しないのも道理だ。それでいて気配を失っていないのも。
そして実際、何が起こったかなど後藤にはどうでもいい。重要なのはその結果、己の機能がどう変化したかだ。
頭部、そして左腕は従来のように変形するし、刃にもなる。
それ以外の部分は皮膚も硬質化させることができず、弱体化した。一瞬そう考えた後藤だが、そうではないと思い直す。

「そうか。つまり今の俺は、泉新一と同じということだな」

泉新一と彼に宿った寄生生物は、人間の頭脳と寄生生物の力、さらに人間を超越した運動能力を有する強敵だ。
彼らはどういう経緯か人間の頭脳と右手の寄生生物という共生関係を成していた。
今の後藤はまさにこの状態だ。違いがあるとすれば、頭脳も肉体も後藤が支配できるという一点。
後藤は試しに走り、跳び、格闘技の演舞のように拳や蹴りを繰り出す。そして確信する。空を切るこの四肢は生身でありながら刃に匹敵する威力を内包している。
人間の頭部に全力の拳足を叩きつければ、陥没ないし破砕させることなど容易だ。
数分の間動き続けておおよその機能を把握した後藤は腰のライオネルのことを思い出した。
奥の手を無事発動させ、もはや無用の長物となったライオネル。そのバックル部分はくすんだ石のように輝きを失っていた。
人間ではない後藤が奥の手を使ったからなのか、あるいは本来の出力を遥かに超過して使用されたからなのか。どちらにせよ後藤はライオネルに興味を失くし、外して捨てて踏み潰した。
そして落ち着いたところでようやく、後藤は先ほどから感じていた疑問を吐いた。

「妙だな。なぜ奴らは俺にとどめを刺していかなかった?」

後藤が悠長に運動機能のテストを行えたのは、この場に後藤しかいないからだ。直前まで戦っていた人間たちの姿はどこにもない。
再生行為は後藤の体内ですべて行われたため、騒音はほとんど鳴らなかったはずだ。
だが、それだけであの手強い死神のような男が後藤の生死確認を怠るだろうか?
あるいは後藤の始末よりも重要な事が起こったか?
どうであれ、この場から人間たちは立ち去り、後藤は回復する時間を得た。結果がこれであるならば、後藤に特に不満はない。

「少し戦い方を考える必要がありそうだ」


768 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:34:51 ZNf7CDUc0

後藤が失ったものは、寄生生物が一体に減少したことによる攻撃・防御能力の低下。
後藤が得たものは、全身に寄生生物二体が散らばったことによる運動能力の増加。
今までのように身体を変形させて跳び、皮膚を硬質化させて攻撃を防ぎ、全身から生み出した刃で攻撃することはもうできない。
人間のように攻撃を躱し、人間のように近づいて殴り蹴り、左腕を一つしかない刃に変えて攻撃する。
それはちょうど、三度戦ったあの男……黒と呼ばれる強い人間の戦い方に酷似していた。

「黒、と言ったか。奴とは是非もう一度戦ってみたい」

黒から受けた斬撃と電撃を思い出す。
ワイヤーを通じて放たれる電撃は後藤の細胞を乱し、短刀から繰り出される斬撃は後藤の刃と互角以上の鋭さだった。
三度交戦して仕留めきれなかったことから見ても、認めざるを得ない。
身体機能で圧倒していても、戦闘経験という一点において後藤は黒に遠く及ばない。強い人間。後藤が全力で挑むに相応しいほどの。
そして、クロエ、黒子と呼ばれていた女二人も黒に見劣りしない。また彼らと戦う時を思うと、本能の昂ぶリを抑えられない。

「奴らと戦うのに万全を期すならば、田村玲子、そして泉新一を先に処理するべきか」

戦力低下は著しいが、考えようによってはまだ挽回の余地はある。
首尾よく二体の寄生生物を吸収できればマイナスは相殺され、強化された身体能力が残る。そうすれば後藤はもっと強くなるだろう。

「……放送か」

歩き出そうとした後藤の足を止めたのは、広川の声だった。
もし僅かでも仕損じていれば彼が読み上げる言葉の羅列に自らも含まれていた。
改めて思い知らされた人間たちの底力を思い返しつつ、後藤はしばし足を止めて広川の言葉に聞き入るのだった。


769 : 世界の片隅であなたたちの名を ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:35:20 ZNf7CDUc0

【F-6/1日目/昼 放送直前】

【後藤@寄生獣】
[状態]:寄生生物一体分を欠損、寄生生物二体が全身に散らばって融合
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、スピーカー
[思考]
基本:優勝する。
1:泉新一、田村玲子に勝利し体の一部として取り込む。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。
5:田村怜子を探し取り込んだ後DIOを殺す
6:西に泉新一か……。
7:黒、クロエ、黒子ともう一度戦いたい。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。
※黒い銃(ドミネーター)を警戒しています。
※百獣王化ライオネル@アカメが斬る! は破壊されました。
※寄生生物二体が全身に散らばって融合した結果、生身の運動能力が著しく向上しました。
※寄生生物が一体になった影響で刃は左腕から一つしか出せなくなりました。全身を包むプロテクターも使用できなくなりました。
※ミギーのように一日数時間休眠するかどうかは不明です。


【百獣王化ライオネル@アカメが斬る!】
ナイトレイドの一人レオーネが装備するベルト型の帝具。
身体能力を飛躍的に向上させる他、五感も強化される。また、装着時には獣の耳のようなものが生える。
奥の手は超治癒力の「獅子は死なず(リジェネレーター)」。ただし四肢欠損などなくなった部位が大きすぎる場合は再生できない。


770 : ◆4BAstd0IF. :2015/10/17(土) 15:35:52 ZNf7CDUc0
投下終了です


771 : 名無しさん :2015/10/17(土) 16:02:27 l6crSGNc0
投下お疲れ様です
戸塚の願いのために戦う黒さんがかっこいい
登場キャラのほとんどが女性だけど戦闘が熱い!
後藤相手に全力で……でもライオネルはヒルダの支給品で出てたような


772 : 名無しさん :2015/10/17(土) 17:51:03 shqvKOS.0
投下乙です
イリヤがついに吹っ切れて今後どうなるか注目だな
そして後藤はしぶとい

>>771
ライオネルがでた話は破棄されてるよ


773 : 名無しさん :2015/10/17(土) 19:00:42 6yM0TjFI0
投下乙です!
いやあ後藤さん強かった、次はいよいよ田村さんとのバトル来るか?
そしてイリヤァァァァ!ビリビリも光子さん死んじゃってさらにエンジンかかってくるだろうしこれは不味い
いろいろきついが黒子、穂乃果、黒さんのチームは負けないで欲しい


774 : 名無しさん :2015/10/18(日) 20:17:51 bD9gN3ls0
放送案の決定方法について告知します

明日の0時から投票開始

ルールは一人一票、携帯、スマホ、図書館や満喫などの公共施設からの投票は禁止
多重やルール無視の投票が発覚した場合はその票を無効となります


775 : 名無しさん :2015/10/18(日) 20:18:18 bD9gN3ls0
一応上げとこう


776 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/20(火) 00:14:16 8hmdGC1g0
投票の結果、私が書いた放送【E】が採用されました。
投票してくださった方々、ありがとうございます。

それでは、第二回放送投下します。


777 : 第二回放送 :2015/10/20(火) 00:15:03 8hmdGC1g0


世界の針は止まらない。
血が流れようが、裏切りが起きようが、死者が出ようが殺し合いは止まらない。
止まると云えば死者の時間だけであり、個人の世界が永遠の停滞を引き起こすだけである。


云わば運命が終わる――与えられた時が使い果たされる。
この会場には運命に叛逆している参加者も存在している。死者が新たな生命を得ているのだ。
本来の時間軸ならば絶命しているはずの生命が、殺し合いの会場に形を以って現界している。
あり得ない現象であり、説明するならば日常に似合わない魔法だの錬金術だの――異能の仕業としか考えられない。


永遠に停止した世界の針を自分で再び動かすことなど不可能である。
他人による干渉だったとしても、簡単に出来ることではなく、平行世界でも限られた人間だけである。



もし殺し合いの運営に『世界』を動かす能力を所有している存在がいるならば。



それは『神』と同義なのかもしれない。










さて、私の声が聞こえた時点で察していると思うが放送の時間だ。
よく聞いて貰いたいが明るいこの時間帯中に外で棒立ちはおすすめしない。
それが原因で死なれても何も面白くないし、私にも責任は取れないからな……。


では禁止エリアの発表を行う。
この放送後に順次に侵入不可になるエリアは【C-6】【E-1】【G-1】だ。


閉鎖されたエリアに侵入すれば首輪が爆発するから気をつけたまえ。
最も僅かではあるが猶予の時間が発生するから誤って侵入しても安心してくれ。


弱者は強者を禁止エリアに放り込めばジャイアントキリング――下克上を狙えるかもしれないな。



次に死者の名前を読み上げる。



花京院典明
プロデューサー
ノーベンバ―11
食蜂操祈
前川みく
由比ヶ浜結衣
戸塚彩加
鹿目まどか
キリト
モハメド・アヴドゥル
婚后光子
クロエ・フォン・アインツベルン



以上十二名だ。



殺し合いが始まってから半日が経過した。
十二時間の間に死んだ参加者の数は二十八名にも及ぶ。


その殆どが子どもや女性……何とも悲壮溢れる現実だな。
君達はその手で何人殺した? 何人守れなかった? 何人救えなかった?


力を持っている人間が大した戦果を挙げられずに守るべき存在の屍だけが積み上がる。
生きている人間の時は止まっていない。死んだ人間と違って君達はまだ行動出来るのだよ。


この言葉をどう受け止めるかは自由だ。
殺し合いを主催している人間の戯言なのだからな。有用に使える情報だけ切り取ればいい。


この世界に生まれ落ちたその命、最期の瞬間まで精一杯輝けるよう遠くから祈っているよ。


それでは六時間後に――と言いたいところだが、今回はもう一つ話すことがある。


778 : 第二回放送 :2015/10/20(火) 00:15:44 8hmdGC1g0




半日が経過したところだが、ここで一つ新しいルールを追加させてもらう。
平行線を辿ってもつまらないだろう? 殺人鬼に怯え続けるだけは辛いからな。


救済システムに近い物だが――『首輪交換制度』と名付けさせてもらおうか。


なに、簡単だよ。その名の通り『首輪と引き換えに物資を提供するシステム』だ。


首輪を持って【武器庫】【アインクラッド】【古代の闘技場】に行けばそれで交換してもらえる。
今、指定した施設には【無人の首輪交換ボックス】が配置されているから確認してくれ。
色は黒で特に面白みも無い外見をしているからすぐに解るだろう。


参加者に支給された武器は全てランダムであった。
それでは積極的に殺し回っている参加者には失礼だからな。


願いのために戦っている人間に何も与えられなくて。怯えているだけの存在に武器が渡っては不公平だからな。


首輪を回収するには殺人或いは死者の解体が必要となるがそれぐらいは我慢してくれ。
今は武器だけしか交換出来ないが時間が経過すれば別の物資や情報も提供するように努力させてもらう。


……おっと、『首輪の数が多ければ多い程優れた武器が出る』のは当然の話だ。
労力に見合った報酬を与えられるのはシステムにとって当たり前だからな。


『異能など高い戦闘力を保有している参加者の首輪は単体でも価値がある』ということも加えておこう。
ただの学生と国家を担う軍人の首輪が同一では色々と問題があるのでね。すまない。


それと『出てくる武器の種類は完全にランダム』だ。狙撃手に刀剣が出て来ても恨まないでくれ。


さて――色々と話したが今回の放送はこれで終わりにするとしよう。
首輪交換制度は是非とも活用してほしい。
力のほしい者、殺したい存在が居る者、復讐したい存在が居る者……私は全ての参加者の味方だよ。信じるかは自由だがね。


一方的な放送のため君達の声は聞けないが――気付いている者もいるようだから黙っておこう。
その代わりと言っては何だが『武器が必要無い参加者には何か情報を与えるボタンを交換ボックスに備える』ようにしておこう。
首輪を投入して知りたい情報を言えば応えるかもしれないぞ。無論、武器と同じように等価交換だから情報の価値が上がれば必要な首輪の価値も上がる。



さて、これで本当に最期だ。
六時間後にまたこうして君達に話せることを祈っておこう。







放送を終えた広川は汗を拭う。
彼が言った【気付いている者】とは首輪の盗聴を把握してる参加者のことである。
首輪を通して彼らの声は主催陣営に響いており、全ての音声つが監視されている状態だ。


何処かに隠れて叛逆の可能性を示しても、敵に聞かれている。
世界が始まりの音を鳴らそうと、闇は全てを把握していた。



『首輪交換制度は君が思いついたのかね』


779 : 第二回放送 :2015/10/20(火) 00:16:18 8hmdGC1g0




広川は声の方向へ――振り返る。


其処には無機質な空間が広がっていた。
構成される色素は灰と薄暗い黒だけ。天から差し込む光も存在しない。


何もない玉座のような物に座った金髪の老人が広川に疑問を投げていた。


「……………………力を持たない人間は奇跡に縋るしか無いのでね」


『そうか。私としては血が流れれば問題は無い』


「殺し合いはこれから加速するでしょう。だから鮮血が飛び交う」


金髪の老人が持っているワイングラスは静かに揺れていた。
中に注がれている液体が赤ワインかどうかは彼しか知らない。
金属音が響く中で、彼らは何をしているのか。殺し合いを監視しているのだろうか。


確かに広川が数分前に立っていた場所には巨大なモニターがあり、各参加者を映している。
しかし金髪の老人が気になっているのは一部の参加者だけらしく、人数の割に視線が動いていない。



『私にとっての時間はまだ先だ……もう少し死人が出てから動かせてもらう』


「まだ半日しか経過していませんからね……それでも多くの死人が出ているのは事実ですがね』


『少し席を外させてもらうぞ』












「解りました――――――――フラスコの中の小人」


【生存者 残り44人】


780 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/20(火) 00:18:09 8hmdGC1g0
以上で投下を終了します。
予約解禁日は……決まってないような決まっているようなw
現状では水曜日となっていますがどうなんでしょうね?


781 : 名無しさん :2015/10/20(火) 00:24:59 LqZuc.Qk0
水曜日で良いでしょう
伸ばす必要もないですし


782 : 名無しさん :2015/10/20(火) 22:08:07 bvrNdI/M0
投下乙です

大波乱。色々死んでイリヤがとんでもないことになってしまった。
後藤さんと黒の因縁がどうなっていくかも楽しみだ

そして、放送はお父様主催にご褒美システム。波乱の幕開けとなりそうだ


783 : 名無しさん :2015/10/21(水) 22:24:32 jnG2UUjA0
投下乙です

ご褒美制度かーこれまた血風が吹き荒れそうな要素がw
お父様主催、成程、しかしこうなるとどうやってお父様は幻想殺しの力を封じたのか…?


784 : ◆isnn/AUU0c :2015/10/25(日) 22:59:21 HyYAoUjA0
投下します。


785 : 名前のない怪物 ◆isnn/AUU0c :2015/10/25(日) 23:00:30 HyYAoUjA0
「あれは……」
これからどこへ向かおうか。セリムが悩んでいると、不自然に荒れた地面が目に入った。
「そういえばここでしたね」

星空凛は、ここで死んだ。

自分を庇って。


不思議な事に、埋葬したはずの場所は掘り返され、そこに死体はなかった。
血にまみれた首輪がふたつ、不自然に落ちている。

いったい何が目的なのか。首輪を残して死体を持ち去る必要とは……。
 
風が舞い、佇むセリムの鼻先を彼女の髪が通り過ぎていく。
それだけが、あの少女の存在を証明していた。

「謝りませんよ」

彼女の友人への言動は、ホムンクルスとして――正体が露呈してしまった以上、ああするしかなかった。
他に方法があったかもしれない。しかし、あの場で迎合するには、あまりに障害が多かった。
もし自分の正体を誰も知らなければ……。


最後に見た小泉花陽を思い出す。
 
あんな顔は、見ずに済んだ。


自分はホムンクルス。父上から生み出された存在。
人間が表現するなら――――怪物。

父上のために自分は生まれ、父上の命令で動く。
父上が絶対であり、父上が認めてくれればそれでいい。

ホムンクルスのプライドとしての自分は、父上がいることで成立する。

今までは、そうだった。
これから先もそうだと――――思いたい。

これが最後のチャンス……決めなければいけない時は、もうすぐそこまで来ている。

周囲に響く広川の声にセリムは空を見上げる。

―――――来たか。


786 : 名前のない怪物 ◆isnn/AUU0c :2015/10/25(日) 23:01:21 HyYAoUjA0



……いったん状況を整理しましょう。


放送を聴き終えたセリムは地図と名簿を眺める。
禁止エリアは特に気をつけるものはない。問題は人数。
残りは44名。幸運なことに人柱候補もホムンクルスも無事だ。
次に、ここから潜り込めるグループを探す。はじめにこの中から敵対している者を省く。
情報交換する上で知った、その者たちと親しい者も除く。
彼らが合流した際、包囲される恐れがある。

首尾よく潜入したら、うまく保護されるように行動して。

それから。

それから……

「それから……」

持っていた地図と名簿が、くしゃりと歪む。

――――もうわかっているんでしょう?

頭のなかで、声がする。

――――黙れ。

しかし声の主は――もう一つの思考は止まらない。

――――充分待ちました。もしかしたらと思って第二の放送まで。しかし何もない。半日もあって何もないということは……。

――――やめろ。

それは疑念だった。
初めは小さなノイズのようなそれは、時が経つにつれ大きくなり、セリムの心に重くのしかかっていた。

それは、ひとつの決断をさせるまでに重大になっていた。

――――父上は――――。

――――やめろ!


――――父上は、私達を捨てたんだ。


その結論にたどり着いた時、セリムは寒気を感じた。
心臓がまるで耳の奥にあるように早鐘を打ち、意図せず声が漏れる。


787 : 名前のない怪物 ◆isnn/AUU0c :2015/10/25(日) 23:02:12 HyYAoUjA0
違和感は、最初からあった。

なぜ自分たちホムンクルスがこんなことをやらされているのか。
なぜ人柱候補まで参加しているのか。

自分は何の指示もなく、一参加者として首輪をはめられている。
捕らえた人柱候補をこんなところに放っている。

最もそばにいた自分だからこそ断言できる。
これは、父上の判断ではない。
別の誰かだ。父上は関係していない。
では、なぜその誰かの掌中に自分はあるのか。

簡単だ。

父上が、その誰かに自分たちを引き渡したのだ。


おそらくは、取引があったのだろう。


父上の欲する真理を相手が用意し、相手はこの殺し合いのためにホムンクルスや人柱候補を要求した。
目的が達成された以上、その手段である自分たちに父上がこだわる理由はない。
二つ返事で了承したことだろう。

あれだけ側で仕え、あれだけ尽くしてきた自分を――――。

これまでの献身でもって、そんなはずはないと否定しようとするが、それが仇となった。
これまでのそうした経験で、かの者がどう判断するかわかってしまう。

自分のために戦い死んだラストに、父上は何か感じたか?
自分の半身ともいえるグリードに、父上は何を行った?

そして、瀕死のグラトニーは……。

そこまで考えて、セリムは呻いた。
あの気だるそうな態度はそのままに、自分は捧げられたのだろう。
放送から一歩も歩いていないのに、息苦しさを感じる。

恐怖。絶望。愁傷……負のそれらはセリムの心を埋め尽くす。

父上の目的のためにこの命を――――賢者の石を使えと命令されれば、セリムは疑いもなく使うだろう。

しかし、それさえない。もはや使い道のない道具は、使うことさえない。

ただ、捨てられるだけ。


あの退屈そうな視線が自分に向けられない。

それはセリム――――ホムンクルスのプライドにとって、存在否定そのものだった。


788 : 名前のない怪物 ◆isnn/AUU0c :2015/10/25(日) 23:02:54 HyYAoUjA0


そして絶望はそれだけに留まらない。

キング・ブラッドレイ大総統――――ラースまでここにいるということは、新体制による統治が始まるということだ。
政体そのものに興味はない。問題は……。

穏やかな笑みを浮かべる女性――――大総統夫人の姿が、鮮明に脳裏に描かれる。

ホムンクルスの夫と息子、その存在の中継のような彼女の利用価値は、もはやない。
父上にとっては文字通り矮小な価値の命だ。

なまじホムンクルスに近しい彼女だ。

ラースは知らないが、自分は必要以上の情報を与えていない。
しかし、どんな情報が渡っているかなど第三者には知る由もない。
だったら、その口が動く前に封じた方が都合がいい。

そう判断するだろう。

ゆえに、彼女への対処はおそらく……。


セリムはあまりの息苦しさに、とうとう膝をついた。

ホムンクルスのプライドが必要ない以上、その擬態であるセリム・ブラッドレイの存在――――居場所も必要ない。

アメストリスの表と裏、どちらにも自分が存在する場所は――――ない。


「父上……!」

何もない空に、無理やり顔を向ける。

「私は何をすればいいのですか! 何をすれば……!」

嘆きのような叫びは、空しく流れていく。

「答えてください!」

返答なんてあるはずがない。
本心ではわかっていた。それでも、そうせずにはいられなかった。

半日あって、指示も救援もない。
会場がセントラルにありながら、父上が手出しできないなんてありえない。

わかっていた。

「答えて……」

はたして、求めた答えが降ってくることはなく……。

「…………!」
 
投げ出した顔には土がつき、持っていた紙もろとも握った拳は地を叩く。


希望はない。

希望は……。


789 : 名前のない怪物 ◆isnn/AUU0c :2015/10/25(日) 23:06:34 HyYAoUjA0


いや、

希望は……。

 
『一方的な放送のため君達の声は聞けないが――――』


セリムは顔を横に向け、くしゃくしゃになった地図を開く。
現在位置とそこを確認したセリムはよろよろと立ち上がる。


……彼女も、こういう気分だったのでしょうか。

小泉花陽のあの顔が張り付いたように離れない。

頼みの綱が、信じたものが根底から否定される。

何をすればいいかわからない。たった少しの――――小さな希望でも縋りたくなる。


『武器が必要無い参加者には何か情報を与えるボタンを交換ボックスに備えるようにしておこう。
首輪を投入して知りたい情報を言えば応えるかもしれないぞ』


交換ボックスがあるのは【武器庫】【アインクラッド】【古代の闘技場】。
ここから一番近く、安全――――自分の正体を知る者と遭遇する可能性が最もない――――なのは【武器庫】。
そこで主催のあの男と話せば、真実ははっきりする。

それはこの推測を確定させるだけなのかもしれない。しかし、もしかしたらそれを否定してくれるかもしれない。
その小さな希望に、セリムは縋った。

存在を――――名前を取り戻すために。

金属音とともに、少年の手に首輪が握られる。

『情報の価値が上がれば必要な首輪の価値も上がる』

これだけでは足りないかもしれない。どれほど必要になるかわからないが、多いに越したことはないだろう。
そのため、可能な限り首輪は道中か現地で手に入れる。
自分の正体を知らない連中が首輪を持っていた場合は、協力を仰ごう。あるいは隙を見て奪おう。
自分の正体を知る連中は簡単だ。その場で始末すればいい。そうすれば確実に手に入る。


790 : 名前のない怪物 ◆isnn/AUU0c :2015/10/25(日) 23:07:22 HyYAoUjA0

幸い、夜まではまだ充分に時間はある。自分の力なら、首輪を手に入れるくらい可能なはずだ。
自信はある。けれどセリムの足取りは重い。
真実が、自分にとって都合がいい保証はない。
その真実が希望を無にする可能性――――それが少年の歩きを遅くする。

知らないうちは、まだ希望が持てるのだから。

自分のあの残酷な告白を受ける前の、彼女のように。

セリムはあの少女の絶望で埋め尽くされた顔を思い浮かべ、足を動かす。

小さな光を求める虫のように、居場所を――――名前を失った怪物は歩いて行く。
その小さな肩に、彼を守った少女の髪が一本、舞い落ちる。


もし……もし彼女が、自分を許し、受け入れてくれるなら……。

――――それもまた、小さな希望。


【C-4/一日目/日中】

【セリム・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2 、星空凛と蘇芳・パブリチェンコの首輪
[思考]
基本:今は乗らない。
1:武器庫へ向かう。
2:無力なふりをする。
3:使えそうな人間は利用。
4:正体を知っている人間の排除。
5:ラース(ブラッドレイ)と合流し今後の検討。
  
[備考]
※参戦時期はキンブリーを取り込む以前。
※会場がセントラルにあるのではないかと考えています。
※賢者の石の残量に関わらず、首輪の爆発によって死亡します。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、とある科学の超電磁砲の世界観を知りました
※殺し合いにお父様が関係していないと考えています
※新一、タスク、アカメ達と情報交換しました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。


791 : ◆isnn/AUU0c :2015/10/25(日) 23:07:45 HyYAoUjA0
投下終了します。


792 : 名無しさん :2015/10/26(月) 00:41:42 dkL69RmM0
投下乙です

セリムは不安定になってきたか。もし花陽と再会したらどうなるんだろう


793 : 名無しさん :2015/10/26(月) 06:20:00 yvmxO5lY0
投下乙
セリムはどうなるんだろうなあ
このロワ内で居場所を与えてくれる人に出会えればもしくは…


794 : 名無しさん :2015/10/26(月) 23:02:40 bWOw1Uwk0
投下乙です

こうなると前回のセリムの振る舞いは強がりか。お父様はこの様子をどう見ているのやら
なんか、某オバロでナザリックの面々がアインズに放置される様を想像してしまった


795 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/28(水) 00:38:47 exKcpK0Q0
投下します


796 : ならば『世界』を動かす ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/28(水) 00:40:39 exKcpK0Q0

雷鳴が轟いた後に放送が流れ、前回の放送から六時間が経過したことになる。
新たに追加される禁止エリアが発表――される前に交換制度が告げられた。

(首輪を渡さなさいでおけばよかったかもな)

死人と化した前川みくの首をエドワード・エルリックに渡したのは失敗だったかもしれない。
個数に見合った報酬を受け取る際には主催陣営の人物と接触できる可能性が高く、報酬よりも興味を唆られる。
手元に首輪が残っていれば後一人殺すだけで、核心に迫れたかもしれない。
たった一人の人間を殺すだけで、エスデスにとって死者の一人や二人などどうでもいいこと。
新たに首輪を回収すればいいだけの話である。エドワード達が首輪を解析出来たならばそれはそれで成功である。

(こんな時にDr.スタイリッシュが居れば役に立ったのだがな……さて)

Dr.スタイリッシュとはエスデス率いる帝都の特殊警察イェーガーズの一員だった男のことである。
優れた技術力を持った異端者だったがナイトレイドとの戦闘で死亡してしまった。

仲間の死亡と云えばこの会場でクロメが死んでいる。
先の放送でウェイブとセリューの名前は呼ばれておらず、タツミやナイトレイドのアカメの名前も呼ばれていない。
エスデスの知り合いの名前は呼ばれていないが、広川が告げた名前の中に知っている男の名前があった。

(アヴドゥル……惜しい男だった)

エスデスが会場で初めて出会った参加者が彼、モハメド・アヴドゥルだった。
自分に対しDIOの危険を説いた珍しい男であり、スタンドなる能力を用いる強者だった。
魔術師の赤の炎は本気ではないといえ、デモンズエキスを溶かす程の能力だった。

エスデスの無茶に近い振りにも反応し、殺し合いの中でも己を崩さない強い精神を持っていた男だった。

(だった……死んでしまえばそれで終わりだ。
 世話になったなアヴドゥル……代わりにDIOは私が殺してやる)

彼の他にも鹿目まどかが死んでいる。
空条承太郎と足立透が一緒に残っていたはずだが呼ばれた名前は彼女のみ。

実力者である空条承太郎と何かを隠しているような素振りを見せていた足立透。
彼らを相手に鹿目まどかを殺害することは難しいだろう。相手も相当な手練だと予測される。

(鹿目まどかか。コンサートホールの距離を考えるとアヴドゥルを殺した奴と同一人物かもな)

だからどうした、という話ではないが近くに犯人がいるかもしれない。
轟いた雷鳴の件もあり、エスデスの中に秘められた獣が声を上げているのだ。
彼女はこの会場に来てから碌な戦闘を行っていない。アヴドゥルとの戦いも、花京院やほむらとの交戦も。

(花京院……そう言えば呼ばれていたな)

エスデスが殺し合いに巻き込まれてから出会った人間はどれも強い色を持っていた。
その中のほとんどが何かしらの覚悟や強さを持っていて、強者を求める彼女からすれば滾る場である。
花京院もその一人であったが、ここで死ね存在に抱く興味などたかが知れている。
鹿目まどかとてそうである。どれだけ素質を秘めていようが死ねばそこで彼女の世界が終わりを告げる。

それはアヴドゥルも同じだ。
彼の世界は止まり、停滞した。その針はもう二度と動くことはないだろう。
動いたとしてもそれは第二の人生、或いは傀儡となって死を体現しながら生を彷徨うだけ。

(お前が言った『DIOは危険』……楽しみにさせてもらうぞアヴドゥル。
 天から見ているがいい、スタンドを用いる因縁の吸血鬼と私の――世界を)

溢れる笑みはまるで冷気でも纏っているのか、傍から見れば不気味で仕方ない。
氷の女王は此処で一度、どう動くか判断すべく思考の海深くへ潜ることとした。


797 : 名無しさん :2015/10/28(水) 00:41:49 exKcpK0Q0


(首輪交換制度だが……これは首輪を預けたエドワード達に一度任せよう)

広川の放送で告げられた首輪と武器を交換する制度だが、エスデスは特段読み上げられた施設に向かうことはしない。
彼女が手に入れた首輪はサンプルとして彼らに渡しているため、このタイミングで施設に向かっても何も得られない、はず。

主催者側の手が仕込まれた物体を見るのも悪くないが、今は宴に乗り遅れないように興を優先する。

(禁止エリアになる北から攻めるとしよう)

西側へ続く北唯一の道が数時間後には禁止エリアとなってしまう。
そうなれば、侵入することは事実上不可能となり、そのエリアを調べることすら出来ない。
今から向かえば首輪には何の支障も生まれない。
北から向かい、コンサートホールに向かえば鹿目まどかやアヴドゥルを殺した人物と接触出来るかもしれない。
はたまたナイトレイドとの遭遇や、イェーガーズとの合流も出来るかもしれない。

エスデス、こんなところで黙って止まる人間でもなく、その身は常に狂気と戦争を纏っている。

アヴドゥルが死んだ場所――西へ行けば彼女が求めているであろう刺激を手に入れることが出来る。
首輪交換制度も魅力的ではあるが、後回しにしても問題ないだろう。

(回数制限の話もされていなからな。今は――この場を樂しむだけだ)







「なあヒースクリフ……私は前に言ったとおりに北へ向かう。
 お前はエドワードとジョセフに一度合流してくれ、なにまだ近いところにいるだろう」

「……狙いを聞かせてもらっても」

「奴らはこの近く――動いていなければ南にいる。
 私が預けた首輪もあるからな。これからの動きを色々と練っているかもしれない」

「それで?」

「首輪交換制度の話も出たからな、頭がきれるお前だ、奴らの力になってやれ」

「本当の狙いは?」

エドワード達と合流するように指示を飛ばすエスデスだがヒースクリフは簡単にイエスと言わなかった。
出来る限り彼女から言葉を引き出すような返答を行い、必要以上に発言させている。
未だにその実態を感じ取れないエスデスの本性を引き摺り出そうとするも、彼女とてそれを見抜いてる。

見る者を不安に落とし込む美しい笑顔を浮かべなら首輪について言及しているが、厄介払いにしか捉えられない。

「先程とは随分違う提案ですが……私もDIOを倒しに行くのでは?」




「DIOはそう遠くへ行ってはいない。そしてアヴドゥルもこの近くにいるはず。
 コンサートホールも近いからな――私が戦いたい奴が近くにいるんだ、邪魔をする人間は先に遠ざける」



「その強引な発言に私が靡くと」

エスデスの提案は暴れたいから離れろ、獲物を横取りするな、というような野蛮そのもの。
別に反論するつもりもないが、死者の名前を聞いた後での発言となると意味合いが変わってくる。

彼女の仲間であるイェーガーズの一員が呼ばれている訳でもない。
ただ、一緒に行動していた鹿目まどかとモハメド・アヴドゥルの名前が呼ばれている。
前者はコンサートホールに滞在しており、後者は数分前まで共に行動していた男だ。

エスデスなりに仇でも討ろうとしているのだろうか。それらを含む発言をしていた。
しかしそうなれば、必要以上に自分を外す理由が無くなるとヒースクリフは考える。
単純な頭割り計算で考えると、戦える存在が多い程戦局は有利になる。


798 : ならば『世界』を動かす :2015/10/28(水) 00:42:34 exKcpK0Q0

エスデス自身が己の力に絶対的な自信があるため、邪魔者を外す考えに至ったのも解る。
だが、コンサートホールでの編成時における指導者としての一面を考えると何か隠している節がある。

襲撃直後に精神的疲労や負担が過大であった鹿目まどかに対して最も理想な編成を考えたのがエスデスである。
悟られないように、誰にも責任を与えずに話を企て、実行した彼女がこうも説明無しに告げるだろうか。

ヒースクリフは喰らいついたが、その予感は的中であり、エスデスが口を開く。

「強引も何もこれが最善だろう。北から西へ続く道は禁止エリアになるならば早く動かないと行けないだろう?
 仮に襲撃にあって万が一に我々がエリア内に滞在させられれば、それだけで死んでしまう。
 別れて行動し、私が先行して後からお前らが南から挟み込めば問題は無いだろう。

 それにな……私の監視下から外れるのはお前にとって魅力的な提案だと思うが、どうだヒースクリフ?
 勿論お前たちに首輪の解析をしてもらいたいのも事実だし、私がDIOと戦いたいのも事実だがな」

提案自体に異論は無い。
内容についても、許容範囲内であり、反対する理由も見つからない。

「監視下……自分で言う辺り自覚があった、と――まぁいいでしょう」

呆れを含んだ笑みとため息を零すと彼は踵を返す。
エスデスの表情も見つめないで、右手を掲げると己の意思を示した。

「アヴドゥルさん達を殺した人物は近くにいるかもしれない。しかし、何処にいるかは正確には不明。
 別れて行動した方が遭遇する確率は上がる。異論は無い、首輪が気になっていたのも事実だしな。
 ただ――出来れば私にも一発入れれる程には残してくれると大変有り難い」

「私が殺さないで生け捕りにする人間だと、一緒に行動して感じ取れたか?」

「まさか、こっちまで殺されるんじゃないかと思っていたが……真実は不明だった」

それだけ言い残すとヒースクリフは南へ向けて歩き出す。
エスデスとて、無駄に会話へ時間を回し肝心な場所で時間切れ――という訳にもいかないだろう。
話を長引かせてもメリットは存在しない。適当に切り上げるのが両者のためである。

「そうだヒースクリフ」

しかしエスデスはその場を動かずに、彼に何かを確認するべく声を飛ばす。
彼は振り向くことはしないが、足を止め、耳を傾け、彼女の声を待つ。


「放送を聞いてから表情に変化が見受けられたが首輪交換か、それとも――アヴドゥル達以外の知り合いが呼ばれたか?」







「――――――ご想像にお任せしますよ」


言葉だけを残し、振り向くことはない。

背後から聞こえてくるのは氷のように冷たい足音だけだった。






【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:健康 
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:DIOを殺す。
1:DIOの館へ攻め込む。
2:クロメの仇は討ってやる
3:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
4:タツミに逢いたい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。
※足立が何か隠していると睨んでいます。
※平行世界の存在を認識しました。


799 : 名無しさん :2015/10/28(水) 00:44:17 exKcpK0Q0


エスデスが去った後、凍りついていた時間が動き出すように軽くなる。
彼女からエドワード達と合流するよう指示されたヒースクリフだが、必ずしも従う理由は無い。

(監視下から外れる……好きに行動しろと)

元々成り行きとその性質からかエスデスが指揮を執っていた。
誰かに命令された訳でもなければ、戴冠式を行った訳でもない。
殺し合いを止めるために活動する一人のレジスタンスとして立ち上がった――一昔前のネットによく転がっていた創作だ。
しかし現実はそうでもなく、彼女は己が欲する欲を満たすために動き出した。

監視下から外れると言った発言もおそらくは自由になれという合図だろう。

氷のように冷徹な女性であったが、何かと他の参加者を気に掛けていた。
まどかとアヴドゥルの名前が呼ばれた時、彼女とて少しは表情に変化があった。
仇を取る――真偽は不明だが、一緒に行動していてくだらない嘘は吐かない人物の印象を受けている。

一度殺すと宣言した今、彼女が向かう先に居る危険人物は例外無く排除されるだろう。
例外があるとすれば、彼女の興味を惹く異形或いは強き者と云ったところか。

(首輪交換制度か……報酬制度は珍しいことでもない)

参加者のモチベーションを維持するために運営側が介入を行った結果が首輪交換制度なる物。
とある施設に設置されたボックスに首輪を投入すれば代わりに武器が手に入るシステムらしい。

討伐に応じた報酬や資材が手に入るシステムは特段珍しいものでもなく、予想の範囲内である。
気になることとなれば、なぜこのタイミングで投入したのか。最初から置けば積極的に殺し回る参加者もいただろう。

考えられる点は幾つか存在する。
一つは最初から第二回放送後に投入が決まっていた場合。
決められていた線路の上を走ってるだけであり、何ら問題はない。

一つは何かの実験のため。
殺し合いのシステム自体に、未知が多く、何かを試している節がある。
例えば主催側が何かを見据えて今回のバトル・ロワイアルを開催しているのかもしれない。


800 : ならば『世界』を動かす :2015/10/28(水) 00:45:50 exKcpK0Q0


スタンドや帝具を始めとする独自のシステム、或いは異能を引っさげ多くの人間を招く。
その際に意識を支配し、気付かれることも無く拉致するその技術力と科学力は見上げたものだ。
ヒースクリフ自身のこともある。巨大なサーバーや組織が裏に潜んでいる可能性もある。
しかし実験の内容については検討も付かず、考察の域を出ることはない。考察と呼べるかも危ういだろう。

一つに主催側にとって何か不都合が起きた可能性である。
アクティブユーザーを増やすために、興味を抱ける企画やイベントを開催するように。
殺し合いの速度が思ったよりも芳しくないために、テコ入れを行っているかもしれない。

(私の手元には首輪が一つ残っている)

そして彼は首輪交換制度を試せれる機会を持ち合わせている。
幸い施設もそう遠くはない――その施設にも立ち寄りたいと思っていた。

(アインクラッド……行く価値はあるな)

エスデスにはエドワード達との合流を最初は促されていたが、実質強制権は無い。
彼女の言葉を借りれば監視下を外れた訳であり、自由である。

(監視……ログインの他にも例えばこの首輪からバイタルサインを得ているかもしれん)

首輪に触れながら一つ考えているが――行動する他に選択肢は無いだろう。
死んだアヴドゥル達には申し訳ないが、仇はエスデスに全て討ち取ってもらうことにする。
南東の方角へ向き直すと彼は足を動かし、その目標をアインクラッドに定める。

殺し合いに巻き込まれてから大きな戦闘に遭遇していないが、これから戦況は加速するだろう。
首輪交換制度の導入によって少なくとも会場に武器が確実に増える。
ヒースクリフは首輪交換制度を主催者への接触手段として用いることを決めている。
どんなシステムかは立ち会わなければ解らないが、主催の手が込んだ物に接触出来るのは確実である。

総ての謎の解明に繋がる糸を掴むために、彼は進む。



そして氷のように冷たい風が流れると。


「君は此処で何を成し遂げて逝ったのかな――キリト君」


氷の女王にも見抜かれていた放送。
読み上げられた唯一の知り合いの名前に、様々な感情を抱いて。


「私と同じようにデータを抜き取られたのか、アヴドゥルさん達のように不思議な力で巻き込まれたか」


ヒースクリフが最期に見た存在。
その身を貫いた一人の男の姿を思い出し。


「君はその手で――何を掴んだ」


生者は足を進める。




【F-2/一日目/日中】



【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:健康、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限あり)×2@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品(確認済み)(2)  ノーベンバー11の首輪
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:もっと異能を知りたい。見てみたい。
1:アインクラッドを目指す。
2:首輪交換制度を試す。
3:神聖剣の長剣の確保。
4:主催者と接触したい。
[備考]
※参戦時期は1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。
※平行世界の存在を認識しました。


801 : 名無しさん :2015/10/28(水) 00:49:44 exKcpK0Q0

男はこの会場で何を成し遂げた。
一緒に行動していた少女一人守ることも出来なかった男は何を得た。

失った生命は二度と蘇ることはない。
その真理を知っている男は、二度と過ちを、失敗を、悲劇を生まないために会場を駆ける。

自分の不甲斐なさから少女が誘拐されてしまった。
再開した少女の人体には欠損が見られ、記憶さえ弄られてしまい、その意思は確固たる己の物とは言えなかった。
辿り着いた先に待っていたのは少女を救えなかった――目の前で殺されてしまった。

甘い。

手に掛けた雷光の少女は殺しの道を歩む覚悟を決めて存在だった。
一度肩を並べて共闘しただけで、彼女に対する警戒は気付かない内に薄れていた。


『さて、私の声が聞こえた時点で察していると思うが放送の時間だ』


会場に流れる放送に対し足を止めることなく、耳だけを傾けて彼は走る。
立ち止まってまた間に合わない何て御免だ――もう誰も失いたくないから。

『次に死者の名前を読み上げる』

「――――――――――ッ」

聞きたくない。
死を実感する瞬間が今、会場全体に振り降りる。

『プロデューサー』

「な――――――――――――ッ」

呼ばれた名前は『彼女』の知り合いだった。
アイドルのプロデューサー……彼女にとってみれば大切なパートナーのような存在なのかもしれない。
裏で支える大人、精神的支柱、彼女たちの味方であり信頼出来る存在。
その名前が呼ばれてしまった。だが、足は止めない。

『前川みく」

「――――――――――――――――」

出会いは決して良い印象とはいえない。
何せ爆発とセットだ、出来れば思い出しくない出会いの部類に入る。

謎の口調にキャラ付け。正直、聞くだけでも辛い物があったかもしれない。
けれど、それが彼女の個性であり、人間性であり、悪い感じはしなかった。
そして何よりも光り輝くあの笑顔が、見る人総てを笑顔にするあの笑顔が。

今もエドワードの脳裏に焼き付き、生前の元気な姿で彼の中に生きている。

「全部終わらせたら――だから、それまでちょっと待ってくれ」

今、彼がすべきことは御坂美琴を止めること。
彼女を止めなければ前川みくのように、失う必要の無い生命がこの世から消え去ってしまう。
だから――言葉を詰まらせて、彼は総てを救うべくその足を止めないで会場を駆ける。

『モハメド・アヴドゥル』

「――――――――――――――しょ」

広川が読み上げた名前、それは数分前に出会ったことのある男の名前。
また、救えなかった。

「ちくしょう……チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

胸に秘める様々な感情をたった一つの叫びに纏め込んで、空に消えていった。


802 : 名無しさん :2015/10/28(水) 00:51:22 exKcpK0Q0

雷鳴が轟いた時間と瞬間。
その回数は一度ではなく、エドワードの脳裏に浮かぶ影は一人の少女と男。

「御坂が――させるか……させるかってんだよ!!」

思い浮かぶ最悪の展開と結果を掻き消すように大地を蹴り上げる。
跳ね上げられた小石が勢いを付けて進路方向へ飛ばされていく。


「当たったら危ないぞ、エドワード」


「お前……マオ!」


声が聞こえた場所を見渡しても誰もいない。
下へ視線を動かすと、瓦礫の上に一匹の黒猫が語りかけていた。

「なぁ、お前御坂を見てないか!? あの電撃女だよ、見てないか!?」

黒猫――マオの元へ駆け寄ったエドは声を荒げて御坂の居場所を尋ねる。
その必死な形相と、一度御坂に遭遇したマオは総て察し、顔を掻く。
前川みくの件とエドの性格を考えると、合理的な考えではなく、御坂を止めるために動くのだろう。

「あの嬢ちゃんならこっから南へ行った」

「南か……サンキューなマオ。それと――」

御坂の居場所を知ることが出来たエドは何やらまだ聞きたいことがあるらしい。
明らかに戦闘が行われたであろうその場所を見渡しながら、聞きたくもない現実へ近づく。

「此処であった戦闘ってまさか――」

「聞かなくても解るだろうに。やり手は嬢ちゃんで死人は……濃い目の顔をした男だった。確か名前はモハメド――」

「――アヴドゥルだ……そっか。なぁ、マオ。御坂が此処で戦闘してからどれくらい時間が経ってる」

「其処まで経っちゃあいないが、全く経ってない訳でもない。
 今から追い付くにはそれなりの時間が掛かるだろうが――行くんだろ?」

総てを見透かしたようにマオは呆れた表情でエドを見つめる。
彼の顔は何処か引き締まっていて、その中に悲しみを帯びているような複雑な表情だった。

御坂がアヴドゥルを殺したことは直感で解っているような気がしていた。
根拠も存在しないし、外れて貰った方が有り難い予感だった。でも現実は正直だった。

エドはマオの言葉を聞くと、機械鎧の腕を振り上げ、合図を送ると再び会場を駆ける。
最年少の国家錬金術師はその身体で殺し合いを、一人の少女を止めるために、己を傷付けてでも総てを救うべく駆ける。


「なら俺は俺の仕事をやるか」


エドが御坂を救うなら――佐倉杏子を救うのは自分しかいないだろう。
えらく焼きが回っているが、どうしたもんか、と空を見上げても太陽が輝いているだけであった。



【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、精神的疲労(大)
[装備]:無し
[道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
不明支給品×0〜2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×4(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ、みくの不明支給品1〜0 前川みくの首輪
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
0:南へ向かい、御坂をボコしてでも殺しを止めさせる。
1:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したい。
2:エンブリヲ、DIO、御坂、エスデス、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
3:ひと段落ついたらみくを埋葬する。
4:首輪交換制度は後回し。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。 関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※エスデスに嫌悪感を抱いています。


【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[思考]
基本:俺も焼きが回ったか。
0:黒達と合流する。
1:佐倉杏子を追いかける。
2:御坂美琴はエドワードに任せる。


803 : 名無しさん :2015/10/28(水) 00:52:47 exKcpK0Q0



今までに無い苛立ちを覚えながら、佐倉杏子は北にある北方司令部前まで来ていた。
御坂美琴を追い掛け、殺すことも考えたが、DIOに言伝無しでの行動は考えられない。
主に己の居場所を告げずに離れるなど何事か。そもそも護衛の任務を任されている手前、勝手に離れる訳にもいかない。

「あー……次会ったら絶対殺してこのモヤモヤしてるあたしの心を晴れさせてやるからな」

放送で告げられた鹿目まどかの死も相まって佐倉杏子の苛立ちは上昇を続ける。
巴マミのように深い悲しみを覚えることは無いが、それでも知った顔が死ぬのは精神に響く物がある。
肉の芽によって支配されていなければ違う反応があったかもしれないが――今は苛立ちが勝る。

「ノーベンバー……誰だそいつ、いや数字……じゃなくて秋のえっと……あぁ!! なんなんだよ!!」

記憶に走るノイズの正体を掴めないまま、苛立ちと焦燥感が彼女を包み込む。
大切なことを忘れている気がする。けれど、巴マミとの思い出は生きている。
ならば失った記憶は――殺し合いに巻き込まれてから? それさえも解らない。

「DIO様に会っても解決する訳ねーけどさ、はぁ……」

少女は路頭に迷う。
しかしその手を掴んでくれる神も、天使も、聖職者もいない。
DIOに縋っても総てを手に入れる訳でもない。
信じれるのは己自身、巴マミと別れてから一人で生きてきたように、自分こそが総て。


「だからアンタが解決してくれっかなぁ――そんな殺意全開で来てんだからさ、殺る気満々なんだろ?」


人間、苛立ちやストレスが溜まっていたら発散することを考えるだろう。
運動や食事、趣味や道楽に身と時間を費やし、社会で疲れた自分を癒やすように。

佐倉杏子にとってのストレス発散方法――肉の芽も合わさって他者を殺すことだろうか。


「お前今DIOと言ったよな……ふふ、少しは楽しませてくれよッ!!」


804 : 名無しさん :2015/10/28(水) 00:54:01 exKcpK0Q0


だが、喧嘩を売った女はおそらく佐倉杏子が出会った女性の中で一番凶暴であろう。
遠くから殺気を放ち、此方に向かっていた女は何時でも戦闘を行える状態であった。
北方司令部まで来たのはいいものの、肝心のDIOの居場所が解らない状態じゃ行動が出来ない。
建物の中に居ると予想はしているが、確認する前に女が来てしまった。ならば戦闘を行うかもしれない。


「それじゃあ行くよ――グランシャリオオオオオオオオオオオオ!!」


何度目になるか解らない黒き外装を纏う佐倉杏子。
戦う準備は出来たと正義の味方のような骨格を纏い、当に覚悟は完了している――女を迎え撃つ。

「その帝具はお前に不釣合いだ……返してもらおうか」

「ハッ! 何訳の解かんねえこと言って――なっ!?」

迫る女に槍の一撃を加えんと行動しようにも足が動かない。
足元を見ると何故か凍っており、その場から一歩も動くことが出来ない状態になっていた。
槍で強引に氷を削るが、女はその最中でも迫っており、まもなく近接戦闘に突入するだろう。


「面倒なことしやがって……編込結界!」


力任せに大地を殴り付けた佐倉杏子はそのまま魔力を流し込む。
彼女と女の中間地点にある大地から槍が浮かび上がると何重もの鎖に分裂する。

そして編み込むように何度も何度も重なりあった鎖の防護壁が聳え立つ。

「面白い」

その奇妙な業に女は興味の笑みを浮かべると右腕に氷の刃を握らせ――軽く一閃。
すると数秒後に鋭い音が響き、鎖の結界は簡単に崩れてしまった。
その光景に驚く佐倉杏子は未だ氷を削れていない。つまり、動けない。
結界に戸惑っている間に氷を削る算段であったが、敵対している女は予想よりも遥かに強い。

今も距離を詰められて、心臓に氷柱を刺されている。




「グランシャリオの上から……お、お構いなしにか……ぉ」



「それは私の部下の物だ。返してもらうぞ」




引き抜かれた氷柱を追うように鮮血が溢れ出る。
苦痛からグランシャリオの状態が解けてしまった佐倉杏子は倒れそうになるが女に支えられる。

敵である自分を何故支えるのか。疑問を覚えるがすぐに解決することになる。
グランシャリオを奪われると、豪快に回し蹴りを顔面にもらい、身体ごと北方司令部の壁に激突した。


805 : 名無しさん :2015/10/28(水) 00:55:29 exKcpK0Q0

パララと瓦礫や埃と共に大地へ落ちる佐倉杏子だが、意識はまだ生きている。
魔法少女である自分の身体と運命に感謝する……それでも引き換えに得た人生は最悪だったが。

薄っすらと瞳を開ければ映るのは足。あの女の足だろう。

「心臓を貫いても生きているのか! 面白いな魔法少女……たしか佐倉杏子と言ったか」

「テメェ……どこで、あた、しの名前を」

「鹿目まどかから聞いたよ。彼女は残念だったが死んでしまえば終わりだ」

反撃の一撃を加えようにも、心臓の修復に使用する魔力で精一杯な状態である。
唯でさえ魔力の消費を避けたい中、この場で攻撃を行うなど不可能な話だ。
それを補うためのグランシャリオであったが、取り上げられた今、黙って死を待つしか無い。


「お楽しみの後にお前の身体を使って実験でもするとしよう」

「……なに?」

「何処まで手を加えれば絶命するか――試させてもらうぞ魔法少女」

「――――――――――――――ひっ」

彼女の額にある肉の芽を凍らして。
そしてエスデスは北方司令部へ足を踏み入れる。







【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:精神疲労(中)、疲労(大)、ソウルジェムの濁り(中)、イライラ(極大)、額に肉の芽 (氷)、身体に風穴(修復中)
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実 大量のりんご@現実 不明支給品0~2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いについて考える。
0:…………。
1:特定の人物(花京院、イリヤ、まどか、ほむら、さやか、ジョセフ、承太郎)以外。
2:巴マミを殺した参加者を許さない。
3:殺し合いを壊す。それが優勝することかは解らない。
4:承太郎に警戒。もう油断はしない
5:何か忘れてる気がする。
6:御坂は殺す。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※DIOへの信頼度は、『決して裏切り・攻撃はしないが、命までは張らない』程度です。そのため、弱点となるソウルジェムが本体であることは話していません。


806 : 名無しさん :2015/10/28(水) 00:56:55 exKcpK0Q0


「やぁ、私に何か用かな?」

コツコツと歩く音が建物に響き渡る。

「人を探していてな」

決して光の届かない建物に一人の女が踏み入った。

「この建物には私しか居ないのだが……まさか」

互いの顔はまだ見えない。


「そのまさか、とやらかも知れんな」


建物の中からは不気味な妖気しか感じられない。


「なら名前を聞かせてくれるかな……座ったままで失礼だがね」


距離が近くなる。そろそろ顔を拝める程度には。


「どうせこれから貴様は死ぬんだ、何も謝る必要は無い」


氷が精製される音が響いて氷柱の剣が具現化される。




「貴様、DIOだな」




「このDIOに向かって舐めた口を聞く女――誰だ?」




椅子から立ち上がることはせず、けれど虫けらを見下ろすように声を飛ばして。






「私の名前はエスデス――亡き友モハメド・アヴドゥルに代わって貴様を殺す人間だよDIO」






勢い良く放たれた氷柱が開戦の合図となった。
「くだらん」
DIOはそれを掴み、粉々に握り潰すと、エスデスに返すように投げ、己も立ち上がる。

「ちょうど血を求めていたところだ、誰かは知らんが……このDIOとの糧となるがいい!!」


807 : 名無しさん :2015/10/28(水) 00:59:44 exKcpK0Q0

常人離れした脚力で一気に距離を詰めた人外達は互いの拳を重ね合わせる。

「右腕が無いようだが大丈夫か?」
「ハンデ、そう受け取ってもらって構わない」

DIOの右腕が欠損していることに気付くエスデスだが彼は余裕の表情を浮かべている。
舐められた物だ……距離を大きく取ると氷をマシンガンのようにDIOへ放つ。

その速度と量は花京院のエメラルドスプラッシュを簡単に越えて行く。


「フハハハハハハハハハハ!! このDIOを止めたくばその三倍の弾幕を持ってくるがいい!!」


腕を広げ、天井を見上げて高笑いを響かせるDIO。
余裕のその身体に迫る氷の弾丸を――浮かび上がったスタンドが防ぐ。


「無ゥゥゥゥ駄ァッッッ!!!!」


適当なコンクリートの柱を腕力のみで抜き去るとそれを薙ぎ払う。
すると目の前に迫っていた氷の弾丸は総て壁に激突し消滅してしまった。

「そうでなくてはつまらんぞDIO!」
世界が薙ぎ払ったコンクリートの上に立っていたエスデスは腕を付着させ柱を凍らせた。
そのまま表面を滑るように駆け落ちると踵落としを世界に叩き落とす。
一撃は阻まれるが、距離を詰めることには成功し、踵から世界を凍らせようと試見る。しかし。

「無駄ァ! 無駄と言っておろうがあ!!」

力任せに大地へ足を振り下ろし、その振動と衝撃を活用して一歩だけ後方へ下がるDIO。
彼とエスデスの間にスタンドである世界が割り込む形となり、拳のラッシュを叩き込む。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」


荒れ狂う拳の嵐をエスデスは両腕を交差させ耐え凌ぎ、その場から動かない。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」


両腕を氷で覆い隠すことにより、防御性能を向上させた彼女だけに出来る業。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄――無駄ァッッ!!!!」


ラッシュの〆は一歩踏み込み、重心を乗せた強き一撃。
氷は砕け散り、エスデスは無防備な状態なってしまい、更に拳が迫る。

「ぶっ飛ばされろ! エスデスゥ!」

反動を利用した豪快な一撃がエスデスの顔面に直撃し、轟音を響かせながら壁に激突する。
「ふふ……ハハハハハハッハハハハハハハハ!!」
砂塵が晴れる前に立ち上がったエスデスは奇妙で不気味な高笑いを響かせる。
「女ながらに大した生命力だが……これで終わりだ!」
人間三人分はあるであろう瓦礫を彼女へ放り投げるとDIOは勝利を確信して再び椅子に座る。






「な、何〜〜〜〜このDIOの尻がッ! 凍っているッッ!?」






椅子に座ると伝わるヒンヤリとした波紋はただの氷。
こんな芸当が出来る相手など一人しかおらず、砂塵の中からエスデスの姿が映る。


808 : 名無しさん :2015/10/28(水) 01:00:40 exKcpK0Q0


「き、貴様……何故このDIOと戦う」

「アヴドゥルは言った。DIOは危険な男だから気を付けろ、と。
 気になるじゃないかあ、どれ程の男なのかこの眼で確かめたくてな……実に強い男だよDIO」

一歩ずつ距離を詰めるエスデスはまるで未来から来た殺し屋のように凄みを感じさせている。
美貌も重なってとても絵になっているが、笑みと口元に付着している血液が不気味さを演出させる。

「アヴドゥルに言われただけでこのDIOを狙うのか……信じられん思考回路だなァ!」

踵で椅子を蹴り飛ばし、強引に尻と隔離したDIOは怒り共に世界を具現化させ彼女に拳のラッシュを叩きこませる。


「お前の言ったとおりだぞアヴドゥル、DIOは強い――手は抜いてられんなあ!!」


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄――!? む、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」


DIOは驚愕する。
スタンドの奥で拳の応酬を繰り広げているエスデスが笑いながら世界と拮抗しているから。

「デモンズエキスで武装すれば肉弾戦だろうと対応は出来る……どっちか無駄か競おうではないか」

拳を氷で包み込んだ女王は拳闘家顔負けのラッシュを世界に浴びさせている。
空中で激しく火花を散らす拳と拳、北方司令部の建物に振動が響き渡る。

「くだらんッ! 楯突くなよこの人間がァ!!」

ラッシュが吹き荒れようと拳の数が増える訳ではない。
世界の拳がエスデスの拳を掴み、両者の動きが止まる。次の一撃を繰りだそうと世界が右足を振り上げる。
エスデスの顎を蹴り上げ――氷で防がれる。

「お前も人形に頼らず直接来たらどうだ?」


809 : 名無しさん :2015/10/28(水) 01:01:18 exKcpK0Q0


腕を振り下げ世界の拳から開放されると、後方へ距離を取るついでに氷柱を投擲。
DIOはその氷柱を蝿を落とすように左拳で粉砕し、近くに世界を引き寄せた。

「人形劇でも見せてくれるのかDIO? 私は飽きっぽいぞ」

「そんなことはせんよエスデス。少々貴様のことを甘く見ていたようだ。
 女だからといって舐めていたが……このDIOが今まで出会ってきた女の中で戦闘力だけならば一番だ」

「それは光栄だ」「だが!」「ん?」


「『スピード』!『パワー』! このDIOの『世界』が上回っているッ!!
 生身でよくぞここまで戦ってくれたなエスデス、貴様に『世界』の一時を体感させてやろうッ!!」

エスデスと世界が一斉に大地を蹴り上げ、空間を跳ぶように距離を詰める。
互いに顔面を捉えるべく拳を突き出し、両者に直撃する瞬間――世界が止まる。



「――――――――ッ!?」



気付けばエスデスは世界の拳の直撃を受けており、遥か後方に飛ばされていた。
何が起きているか解らない――訳でもなく、この瞬間に総てを確信した彼女の表情は笑顔である。
壁に激闘しながらも死神のように立ち上がり、その視線は遠くで勝ち誇っているDIOを射抜いていた。

「面白い……ッ! やはり私の思っていたとおりだよDIO!」

右の掌から氷を槍のように射出し、彼の心臓を貫かんとするが右に跳ばれ避けられてしまう。
間髪入れずに何度も射出しながら距離を詰めるエスデス。依然としてDIOに攻撃を与えられないが、世界は目の先である。

右手を氷で武装した彼女は嗤い共に拳を突き出す。対する世界も拳を突き出し、互いが衝突する。
誕生した衝撃波が北方司令部の建物を豪快に揺らすが、犯人たちは止まらない。




「しぶとい女だ……だがこれで終わりよ――『世界』!!」




幾らぶっ飛ばしても何度も立ち上がってくるエスデスに悪態をつくDIOだが総てを終わらせるために世界を止めた。
『世界』の能力である時間停止を用いた結果、先程も彼女を簡単に吹き飛ばしていた。

「止まった世界で動けるのは頂点に君臨する……このDIOだけだ」

永遠の刹那を噛み締めるたった独りの帝王は余裕の表情を浮べながら語る。
この声を聞く存在など、世界には居ないが、それでも彼の声は曲がりにも世界に響いている。

「もう少し太ければこのDIOの腕になったんだがな……惜しい、実に惜しいぞエスデス」

欠損した右腕の補充を考えていたが、女性である彼女の腕は細すぎた。
戦闘能力は文句無しであるが、合わないものは仕方ない。そして血を吸うのももったいない。
故にDIOが選ぶのは肉の芽による新たな下僕の補充である。


810 : 名無しさん :2015/10/28(水) 01:02:20 exKcpK0Q0


食蜂操祈と花京院典明が死んだ今、下僕は佐倉杏子とイリヤの二名である。
どちらも戦闘能力を保有こそしているが、幼き少女であり、戦果は期待出来ない。

しかしエスデスならばどうだろうか。

「喜ぶがいいエスデス、貴様はこのDIOの――――――なッ!? き、貴様ッ!?」

エスデスの顔を覗き込もうとしたDIOの顔色が絶望に近い何かに変わっていく。
あり得ない、こんなことはあっちゃあいけない。

「何故だッ! 何故ッ! 貴様はッ!!」

『世界』が後方へ下がり、その軸足に体重を乗せ、強力な一撃を放つ体制に移行する。
肉の芽を中断したDIOは冷や汗を流しながら、止まった世界で彼女を睨む。


「あり得ない……この力はッ! この『世界』はッ!! 帝王であるこのDIOのみに許された力ッ!!!」


『世界』の右拳が彼女をぶっ飛ばさんと迫る。
DIOの不安を消去するために風を切り裂く一撃は彼女の顔面に吸い込まれていった。


「何故貴様が止まった『世界』を認識している――――――――エスデスッ!?」












「もう時は動いているぞDIO」











『世界』の拳はエスデスが精製した氷の膜に阻まれ、彼女に損傷を与えることは出来なかった。
お返しだと謂わんばかりに彼女はスタンドごと吹き飛ばすように巨大な氷を創りあげ――爆ぜた。

粉砕した氷は零距離の弾丸となり、嵐のようにDIOを襲う。

「く――舐めおってこの人間があああああああああああああああああああ!!」

世界のラッシュで無数の弾丸を叩き落とすが、総ては不可能であり、幾つかは身体を掠っている。
幾らか生々しい傷が出来上がるが、それでも弾丸は止まらず、彼を殺すべく絶え間なく流れてくる。

「まだそんな力を隠していたか……面白い!」

「気化冷凍法――使うつもりは無かったがな」

吸血鬼の力を利用し、己の目の前にある水分を凍らせたDIOは即席で氷の壁を精製した。
これにより弾丸は総て壁に衝突し、吹き荒れた嵐が収まった。


811 : 名無しさん :2015/10/28(水) 01:03:01 exKcpK0Q0

エスデスが世界の領域に辿り着いていることを知ったDIOの表情は悪い。
対する彼女は樂しみにしていた獲物が自分の想像を遥かに上回る存在で嘲笑っている。

どちらが悪か解らないが――そんな記号で判断すような存在ではない。

「認めようエスデス……貴様は強い、故に」

「さっきも言ったがそれは光栄だ。私も楽しめたからな……後は」



DIOは怒りに任せ、目の前の人間を殺すべく『世界』を飛ばす。



「頂点はこのDIOのみッ! ここで死ねェィッ!!」



エスデスは大地に両掌を付着させ、DIOの足元に巨大な足場を氷で創り上げた。



「吸血鬼は陽の光に弱いのだろう――太陽まで運んでやるッ!!」



『世界』が到着するよりも早く、エスデスの氷がDIOを持ち上げる。
長い塔のように伸び続ける氷は止まることを知らず、そのまま天井へ到達し――



「こ、この女〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」



天井を突き破ってDIOを、吸血鬼を遥か蒼穹の頂きへ送るべく伸び続ける。


そこは吸血鬼の弱点でもある――太陽に近付いていた。







812 : 名無しさん :2015/10/28(水) 01:03:55 exKcpK0Q0

大地に倒れこむ佐倉杏子の胸に空いていた風穴は魔力による修復で塞がれていた。
しかし喰らった衝撃や失った血液を補えている訳でもなく、呼吸を乱しながら大地に伏せていた。
その身体の上には氷や瓦礫があり、身動きは出来そうに無い。

凍らされていた足を開放することには成功しているものの、身体を動かすには厳しい状態である。
瞳には情けなさと虚しさが帯びており、その顔は後悔の色に染まっている。

「全部、全部思い出した……ちくしょう……ッ!」

エスデスによって凍らされた肉の芽は真髄総てを包まれ、永遠の零度によりその効果と活動を停止した。
それに伴い佐倉杏子にはこれまでの記憶と行動が総て開放され、己の脳には物語のように再生されているのだ。
御坂美琴のことも、モハメド・アヴドゥルのことも、マオのことも、DIOのことも――ノーベンバー11のことも総て。

DIOに対する怒りと、己に対する苛立ちを言葉に乘せて吐きながら拳を大地に叩き付ける。
自分は何をしていた、あの男に従って、尻尾を振り、媚を売って生きていた……反吐が出る感情が吹き荒れる。

「ふざけやがって……」

今すぐにでもぶん殴りたいが生憎、エスデスに完膚無きまでに敗北したこの身体では動けない。
グリーフシードが無い今、魔力に対して最大限の注意を払っている関係もあり、傷の治りは遅い。

「此処に来てからあたしは何してんだよ」

殺し合いに巻き込まれた彼女は優勝するべく参加者を殺そうとした。
しかしその結果、戦果は零であり、何処か迷っている自分がいた。

次に出会ったジャック・サイモン――ノーベンバー11。
論された自分の中には人間としての佐倉杏子と絶望に染まった魔法少女としての佐倉杏子が対立し始める。

そして追い打ちを掛けるように知らされる巴マミの死――佐倉杏子は総てに置いて中途半端であり、願いも大切な人も何もかも。

「何も出来てねえ……何も、ただ知り合いが死んでいくだけだ……」

その手が掴んだ物は奇跡でも友情でも愛でもない。
何せ何も掴めていないのだ、感情だけが先走り、彼女はただ独りで倒れている。


「へっ……最期くらいはさ……あん?」


「無事か嬢ちゃん……お前、その傷はどうした!?」


そんな彼女に寄り添うように現れた一匹の黒猫。
見覚えがあるその姿に佐倉杏子は言葉では表現出来ない表情を浮かべる。

「下手踏んだだけだよマオ……DIOの野郎に洗脳される前から、あたしは最初から駄目だったんだ」

「DIOの野郎……ッ! お前、自分を取り戻したのか」

佐倉杏子の言葉遣いから違和感が消えていることを察したマオは総てを理解する。
明らかに別人のような言動を取っていた彼女が己を取り戻し安堵するが、状況は何一つ変わらない。


813 : 名無しさん :2015/10/28(水) 01:05:00 exKcpK0Q0

奥の建物である北方司令部の中からは絶え間なく戦闘音らしき豪音が響いている。
恐らく佐倉杏子を倒した人物も中で暴れていると予測し、早々にこの場を立ち去りたいところである。
しかし、瀕死である彼女を運ぶには猫の身体じゃ到底無理な話であり、移動することは不可能だ。

「よくあたしの居場所が解ったな」

「あれだけ煩くしてれば誰でも解る、猫だしな」

「はは……お前は早く此処から逃げな、此処に居たら死ぬぞ」

遅かれ早かれ戦闘が終われば勝者が建物から出て来るだろう。
当然、佐倉杏子の姿を目撃する訳であり、瀕死の参加者が居れば首輪を回収するために殺される未来が簡単に見える。
お前まで付き合って残っていれば死んでしまう、と彼女なりの優しさを込めてマオを追い払おうとする。しかし。


「そんな泣きそうな面で何言ってやがる、早く此処から逃げるぞ」


マオは逃げるどころか自分の身体を拘束している瓦礫を退かそうと必死に小さい身体で押していた。
その光景に驚き、何処か嬉しみを覚えながらも彼女は。

「そんなことしても無理だ……合理的な考えはどうしたんだよ」

「知らん。可能性が少しでもあるなら無理をしてでも賭けるのが人間だろ?」

「……猫じゃん」

「言ってな……だが全く動かんぞ」

顔を伏せた佐倉杏子はマオに気付かれないように少しだけ涙を流す。
何故かは解らない。だが、こんな自分を救おうと頑張る姿を見て、心に光が差し込んだ。
希望が彼女の中で微かに芽生え、生きる気力が湧いてくるが――現実は非常である。


「屋根が突き破られて――クソッ!!」


最小限の動きだけで首を捻ると、背後の建物の天井が破れ巨大な氷柱が出現していた。
絶え間なく天に伸び続けるそれを見てみると、僅かにだが人影が見える。
その存在を忘れる訳が無い。佐倉杏子は自分が求めるべき相手の名を叫ぶ。

「DIO……アイツもあの建物に……けど」

己に降り注ぐ瓦礫から逃れる術など存在するはずも無く、黙って押し潰されるのを待つしか無い。

「杏子、立てるか!? 無理してでも走れ!」

それでもマオは自分だけ逃げることはせず、未だに彼女に乗る瓦礫を取り除こうとしている。
激励の言葉を投げ、奮い立たせようとするも、状況は何一つ変わらない。
二人揃って死の未来から逃げ出せない――死神の足音が聞こえてくる。


(はぁ……最期くらいはさ)


マオが到着する前に生まれた独り言を思い出す。
これまでの人生を振り返って、散々ではあるが、その中でも幸福はあった。
自分の支えになった巴マミ、何かしらの影響を与えたいけ好かないジャック・サイモンことノーベンバー11。
家族や彼らの姿が脳内を駆け巡り――会いに行く前に最期の仕事を行うだけ。


「愛と勇気が勝つストーリーってあるじゃん。
 あたし、さ。好きなんだよね……だからあんたは生きなよマオ。ついでに御坂を救ってやってくれ」

「何言って――おい!」


槍を瞬時に精製し持ち手の部分でマオを瓦礫落下地点――自分の側から遠ざける。
彼女の行動に抗うマオだが、小さいその身体では不可能。彼だけが生存圏内へ移動した。

「杏子……お前」

御坂を救ってやてくれ。
こんな状況で他人を心配する佐倉杏子はお人好しだった。
最初の出会いからでは想像出来ない――いや、出来たが、彼女の心を覆っていた氷は溶けていた。
殺し合いに巻き込まれ精神的不安に煽られていた偽物の心ではなくで、彼女が本来持っている心が。

その顔は泥に塗れていようが、笑顔だった。


「じゃあな――マミさん達の所に行ってくる」


そして瞳を閉じる。
殺し合いに来てから何も出来ていない自分が最期にしたのが一匹の猫を救うこと。


814 : 名無しさん :2015/10/28(水) 01:05:56 exKcpK0Q0


言葉だけで見ると意味が解らない……自分の行いだが自然と笑いが溢れる。

(そういやまどかも……生きてるのはさやかとほむらだけか)

魔法少女の運命に弄ばれた知り合いも今や自分を含め三人が死亡。生きているのは二人だけ。
杏子は知らないが既に魔法少女は赤と青しか生きていなく、その片翼である赤も此処で死ぬ。

(エスデスって言ったっけ……お前の氷よりも何倍も冷たかったぞ、ジャック……じゃなくてノーベンバー11)

あの女は強かった。悔しいがグランシャリオ込みでも勝てなかった。
皮肉と苛立ち混じりにノーベンバー11へ八つ当たりをするが……死後の世界まで取っておこう。


(DIOの野郎をぶん殴ること頼むの忘れてた……あのチビ、エドワード辺りに任せるか)


付き合いは限りなく短いが、鋼の錬金術師は何処か信頼を預けれる存在だった。
自分と背丈が似通っている男だが、自然と肩を並べられる存在だった印象が強い。
彼ならばDIOを倒し、御坂を救ってくれるかもしれない……それこそ最期に愛と勇気が勝つような筋書きだ。



「じゃあなマオ、あたしは先に行ってるから絶対に追い掛けてくんなよ」



迫る瓦礫を気にせず、最期だけは笑顔でマオに別れを告げる。
走馬灯のように長い時間だった。いや、これが走馬灯なのかと実感している。

何時まで経っても瓦礫が落ちてこない。
人生を振り返るには充分過ぎる時間が経過している。

瞳を再度閉じて自分の死を待つ。
有りもしない奇跡に縋った哀れな人生であったが、出会いも会った。
笑顔で死ねるならそれはそれでいいかもしれない――けれど彼女の世界は止まらない。






「勝手に諦めるな!! お前はまだ生きてんだろ!!」





一度見たことがある機械鎧の腕を持った男が佐倉杏子に向かって叫んでいる。
決して大きいとは言えない背丈と背中ではあるが、何故か安心感が生まれてしまう。

「誰ももう……死なせてたまるかよ!!」

瓦礫を阻むように錬成された大地の屋根が佐倉杏子の生命を守る。
死を覚悟していたが、どうやらまだ生きれるらしい。
彼女の瞳から涙が流れる。その真意は彼女自身にしか解らないであろう。

愛と勇気が勝つストーリー。


815 : 名無しさん :2015/10/28(水) 01:07:13 exKcpK0Q0

駆け付けてくれたエドワード・エルリックの姿は何処か彼女にとっての救世主であった。

「お前、御坂はどうした?」

「これだけ煩けりゃ気になっちまう……こいつを治療してからとっとと御坂を止めに行く」

倒れている佐倉杏子の身体を瓦礫から背負うと、エドはこの近くにある病院へ向かう。
救える生命が目の前にあるならば、その身を危険に犯してまででも救おうとするのが彼である。

「馬鹿だな……お前、本当に馬鹿だよ」

先程まで氷が近くに存在していたせいもあり、エドの背中は何故か暖かく感じた。

「いいのか、あたしは――」

「殺し合いに乗っているなら俺が止めてやるから覚悟しとけよ」

「な……」

「解ったなら喋るな。とっととこっから離れるぞ。余計な体力使って死にました何て俺は絶対に認めねえからな」

「だとよ、嬢ちゃん」

錬金術師と魔法少女と契約者。
その姿、能力、生き様は総て違えど何かの縁が一同に介した。
DIOと御坂。それぞれの共通点に思いを馳せながら佐倉杏子を治療するために――病院へ。




【D-1/一日目/日中】




【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、精神的疲労(大)
[装備]:無し
[道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
不明支給品×0〜2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×4(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ、みくの不明支給品1〜0 前川みくの首輪
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
0:佐倉杏子を病院へ運んだ後、南へ向かい、御坂をボコしてでも殺しを止めさせる。
1:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したい。
2:エンブリヲ、DIO、御坂、エスデス、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
3:ひと段落ついたらみくを埋葬する。
4:首輪交換制度は後回し。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。 関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※エスデスに嫌悪感を抱いています。


【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[思考]
基本:俺も焼きが回ったか。
0:エドと一緒に行動して杏子を治療する。



【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:精神疲労(中)、疲労(大)、ソウルジェムの濁り(中)、身体に風穴(修復済)
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実 大量のりんご@現実 不明支給品0~2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いについて考える。
0:…………馬鹿ばっかだ。
1:DIOはぶん殴る。
2:巴マミを殺した参加者を許さない。
3:殺し合いを壊す。
4:御坂は――
5:死ぬのはまだらしい。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。


816 : 名無しさん :2015/10/28(水) 01:09:17 exKcpK0Q0


氷柱によって天へ運ばれるDIOは狂気混じりにエスデスに向かい、叫ぶ。
それは様々な感情を込めた――怒りの言葉。


「WRYYYYYYYYYYYYYYY!! このDIOを太陽に近付けるなどやってくれたなァ!!」


吸血鬼の弱点でもある陽の光。
浴びるだけでも致命傷であるそれをエスデスは、彼を発光源である太陽に近付けている。
謂わばオーバーキルである行動に対し、黙っているDIOでもなく、その身体を外装に包む。


「インクルシオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


帝具によって覆われたその身体に陽の光が届くことはない。
DIOにとっての奥の手を発動し、彼女を殺さんべく、氷柱の支柱を滑るように落ちる。

「エスデスッ!!『世界』に抗った貴様に『死』の贈り物だァ!!」

具現化した『世界』は右腕を氷柱に突っ込んで、力任せに叩き折った。
全長軽く見ても五十メートルは超えるであろう巨大な武器を持った『世界』は、地上で待ち受ける彼女を殺すべくそれを振り下ろす。

「インクルシオか! 本来の持ち主と一度は手合わせしたかったがこの際貴様でも構わんッ!」

自分の知っている帝具を目の前にエスデスの心は更に高鳴りを見せる。
唯でさえ殺しがいのあるDIOにナイトレイドの中でも屈指の強さを誇ったあのインクルシオがある。

「この状況――私は最高だぞDIO!! 受け取ってみせろおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

大地から己を殺さんと降って来るDIOに対しエスデスは両の腕を突き出す。
冷気を集中させ、最小限にまで圧縮を掛ける。舞う小雪が彼女の美しさを更に演出する。

DIOは彼女を殺すべく全力を以って『世界』を動かす。
右腕欠損、連戦の影響と不利な状況であったが頂点に君臨する帝王が負けるなどあり得ない。


「このDIOを追い詰める人間など一人しかおらんッ! そして奴は既に死んでいるッ!!
 万が一にも貴様が勝つなどあり得ん!! ぶっ潰れろォ!! エスデスウウウウウウウ!!」


全力を以って氷柱を彼女へ振り下ろした。


「ここまで楽しめるとはな……改めて礼を言うぞアヴドゥル!! 
 DIOは! この私が! 今! 此処で殺してやる! あの世で見ているがいいッッッ!!」


圧縮から開放された冷気は巨大な衝撃波動――ビームのように『世界』の持つ氷柱と激突する。
鬩ぎ合う巨大な力と力はその行き場を無くし――北方司令部を跡形も無く吹き飛ばした。


















「この屈辱は忘れんぞエスデス……貴様はこのDIOが直々に殺してやる」


力がぶつかり合った後。
DIOは『世界』を用いて時を止め、崩壊に便乗し戦場から移動していた。
エスデスには勘付かれる可能性もあったが、建物を破壊する程の氷が目眩ましとなってくれたようだ。

しかし帝王の怒りは静まらない。
唯の人間に昼とはいえ、右腕欠損とはいえ、疲れがあるとはいえ此処まで追い詰められた。
自分のプライドに泥を塗った彼女は徹底的に殺す。

そのためにも右腕の確保と休息が必要であり、DIOは近くの建物――コンサートホールを目指す。


817 : 名無しさん :2015/10/28(水) 01:10:39 exKcpK0Q0



【D-2/一日目/日中】



【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:疲労(大)、右腕欠損 、全身に傷(小)、怒り、
[装備]:悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。 最早この帝王に油断はない。
0:コンサートホールへ避難し、時を待つ。
1:ジョースター一行を殺す。(アヴドゥル、ジョセフ、承太郎)
2:エスデスの殺害。
3:寄生生物は必ず殺す。
4:右腕の確保。
[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術、DTB世界の契約者についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。
※悪鬼纏身インクルシオは進化に至らなければノインテーターと奥の手(透明化)が使用できません。
※暁美ほむらが時間停止の能力を持っていることを認識しました。また、承太郎他自分の知らない参加者も時間停止の能力を持っている可能性を考えています。
※魔法少女についての基礎知識を得ました。
1.魔法少女とは奇跡と引き換えにキュゥべえと契約してなるものである。
2.ソウルジェムは魔法を使う度に濁り、濁りきると魔法が使えなくなる。穢れを浄化するにはグリーフシードが必要である。
※エスデスが時間停止の能力を持っている、或いは世界の領域に侵入出来ることを知りました。









「フハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!  
 面白い……私は今、楽しみに満ちている……ッ!!」

瓦礫の中から這い出て来た氷の女王の嗤いが空間に響く。
獲物であるDIOこそ逃がしてしまったが、実に充実した時間だった。
故に最期のお楽しみである生命が終わる瞬間に辿り着けなかったのは残念である。

ならば、また殺しに行くまで。

「南に行けば雷光・東に行けばエドワード、ジョセフ、ヒースクリフが居る。
 前者は新たな戦争、後者は主催者への接触に近付ける可能性が高いな……あの魔法少女も生きているのか」

DIOを見失った今、エスデスが次に出る行動とは何なのか。
狂気に促されるように戦争を求めるか、仲間の元へ駆け寄り殺し合いを打破する鍵となるか。


「いや――奴らと殺り合うのも悪くないな」


氷の女王が目指すべき場所。


それは雷光が照らす先か。


幾つもの参加者が反射する東か。


直感を信じDIOを追い掛けるか――どれになる。



【D-1/一日目/日中】



【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(大)、全身に打撃痕(痛みは無し)、高揚感、狂気
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:亡き友アヴドゥルの宿敵DIOを殺す。
1:何処に向かうか考える。
2:クロメの仇は討ってやる。
3:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
4:タツミに逢いたい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であることを知りました。 また、DIOが時間停止を使えることを知りました。
※足立が何か隠していると睨んでいます。
※平行世界の存在を認識しました。


818 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/10/28(水) 01:13:09 exKcpK0Q0
以上で投下を終了します。
また、エド達の位置をC-1に訂正いたします。


819 : 名無しさん :2015/10/28(水) 01:27:39 FdHO21zg0
乙です
狂気ですか、エスデスの向かう方向はどの道荒れそうでいいですね
トリオ結成は意外でそれでいてらしさが感じられました


820 : 名無しさん :2015/10/28(水) 01:42:07 nNjkzCak0
投下乙です。
エスデス隊長ここまでの鬱憤晴らすかのような大暴れw
本格戦闘第一戦、まずは判定勝ちといったところでしょうか。
DIOさまも最後いいやられっぷりでGJ!
杏子は洗脳解除とニーサンゲットで仕切り直し、
先が楽しみになる面白い話でした。
あと猫よく頑張った。


821 : ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:09:36 1KOXsU/Q0
投下乙です。
エスデス隊長が楽しそうでなによりです。
杏子、ニーサン、猫はビリビリを止められるのだろうか。

「このDIOを追い詰める人間など一人しかおらんッ! そして奴は既に死んでいるッ!!万が一にも貴様が勝つなどあり得ん!!」

DIOのこの台詞ホント好きです。

本投下します。


822 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:13:29 1KOXsU/Q0


承太郎は考える。

(足立はどこへ向かった)

近くにある主だった施設は図書館と駅。
足立が扇動を行動方針とするなら人が集まりやすいであろう図書館。
足立が逃走を第一とするなら駅になるだろう。
承太郎は、始めは図書館に向かっていると考えた。しかし

(やつはいまのところ、五体満足じゃあねえはずだ)

承太郎、ほむら、セリューからの攻撃はどれも通用していた。
いまの自分程ではないがかなり疲労しているはずだ。
それに、コンサートホールには直にエスデスたちが帰って来る。
コンサートホールを燃やした時、足立はエスデスを避けるために南下した。
下手に周辺に留まるよりは南下して悪評を広め、対抗勢力を作ろうとするのが定石だろう。
また、ジョセフが既に接触している参加者に自分のことを話せば、疑いが掛かるのは足立だ。
下手に状況を見極めようとして承太郎が現れれば、今度こそ逃げ場は無くなるだろう。
となれば、駅に向かっている可能性は高い。
仮に駅に向かっていなくとも、電車を破壊するなりすれば万が一逃がした時も足止めができる。
承太郎は図書館へと向きかけていた進路を変更、駅へとその歩を進めることにした。


823 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:14:52 1KOXsU/Q0


「な、なんだよこれ...」

何処へと消えたプロデューサーを探しに単独行動に出ていたタスク。
結局彼の痕跡も見つけられず戻ってきた彼を待ち受けていたのは、荒れ果てた図書館。
エルフ耳の男の襲撃でも、ここまでは荒れていなかった。

彼が真っ先に気にかけたのは、仲間の安否。
この場には少なくともアカメ、新一、雪ノ下、セリムがいた。
そして、単独行動に出る前に行動していた未央、狡噛、光子、花陽、ウェイブも向かっているはずだった。
それがこの有り様だ。気にかけるなという方が無理だろう。

既に事態は沈静化しているようで、図書館は静まり返っている。
とはいえ、状況を確認しないわけにはいかない。
気配を可能な限り殺しつつ、図書館へと足を踏み入れる―――その寸前。
路上に転がる浦上の首と目が合う。
大規模な戦闘の煽り受けたのか、『イェーガーズにより正義執行』と書かれた紙もどこかに飛ばされてしまっている。

「...このまま放っておくわけにもいかないよな」

もしもこの首が原因で争いが起こってしまったのなら、この首を放置していた自分にも責任がある。
それに、狡噛の検分でこの男は犯罪者である可能性が高いとわかっていたが、それでもこのまま放置しておくのは気がひける。
あのエンブリヲを殺しても、生首を路上に放置しておいて気が晴れることはないだろう。
ならば、奈落に捨てるのではなくちゃんと埋葬しておきたい。
タスクは、図書館の状況確認だけでなく、ついでにスコップのような物も調達することにした。



極力足音を殺し、図書館内部へと侵入するタスク。

(ヒドイな...なにかが燃えたような跡もある)

燃えた本棚。荒れ果てた内装。
隠密行動は得意な方ではあるが、こんな有り様では緊張するなという方が無理だ。

「――――――」

どこからか話し声が聞こえる。
タスクは、その声の出所へと足を赴ける。

「これは―――だ。これがあれば―――」
「よくわから―――ど、―――ですね、錬金―――」

閉ざされた部屋から聞こえるのは、男性と少女の声だ。
そして、自分の耳に間違いなければ、少女は本田未央である。
内容が全て聞こえるわけではないが、どう聞いても敵対しているようには聞こえない。
そのため、中にいるものたちは少なくとも乗っている者ではないと判断した。

(とはいえ、他人の空似ってケースもないわけじゃないからな。ここは...)

コンコン、と扉を軽く叩き、部屋の中にいる者たちに自分の存在を気付かせる。

「突然すまない。俺の名はタスク。殺し合いには乗ってない。あんたたちと情報を交換したい」
「タスクくん!?無事だったんだね!」

自分の安全を喜ぶ声から、中にいるのが未央だと確信する。
ホッと胸を撫で下ろし、同時にプロデューサーを見つけられなかったことに胸を痛めながら部屋の中へと足を踏み入れる。
部屋にいたのは、未央と軍服の男だった。


「よかった...タスクくん、その、プロデューサーは...」
「...すまない」

途端に未央の顔が青ざめる。
プロデューサーが顔を見せない時点で薄々勘付いていたようだが、それを受け入れられるかは別の問題だ。
震える彼女の肩に手を置き、軍服の男がタスクに向き合う。

「タスクと言ったか...私はロイ・マスタング。未央の知り合いのようだが...いまは狡噛の治療道具を探していたところだ。すまないが手伝ってくれないか?」
「狡噛さんが?...わかりました」


824 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:19:48 1KOXsU/Q0



「俺がいない間にそんなことが...」
「ああ。とはいえ、私も途中から割って入ったので全容を知っているわけではないが、聞いたことはこれで全てだ」

狡噛の眠る宿直室の隣の部屋、タスクとマスタングは二人で情報交換を行っている。
タオルや洗面器など簡易的な看病道具を見つけた後、未央は、なにかをしていないと落ち着けないと、狡噛の看病を申し出たため、こうして男二人で状況を整理しているのだ。

「...ところでマスタングさん、これ本当に武器になるんですか?」
「ああ。こいつがないと私は戦えんのだ」

この情報交換の間、マスタングはずっと己の血で布の手袋に陣のようなものを描いていた。
そして、タスクもまたマスタングの依頼通り、左指を軽く噛みきり、右指に血をつけ、マスタングと似たような陣を見よう見まねで布の手袋に描いている。
タスクは疑問に思い尋ねたが、マスタングは武器となるものとしか答えなかった。

(傷の再生は,,,ない)

マスタングがタスクに陣を書かせていたのは、傷の再生具合を確認するため。
ホムンクルスは、如何な傷でも賢者の石を消費して自動で再生してしまう。
指を噛みきった程度ならば、瞬きする間に修復してしまうだろう。
しかし、タスクの指は修復していない。
それに、奴なら―――エンヴィーなら、こんな美味しい状況を逃さないだろう。
現状、戦闘員はマスタングだけであり、未央と気絶している狡噛を守らなければならない。
加えて、エンヴィーが『マスタングは真理を見ておらず、攻撃手段も封じられていると思い込んでいる』うえでのこの状況だ。
もし目の前にいる男がエンヴィーならば、マスタングを痛めつけ、未央たちを人質にとるなり殺すなりしようとするはずだ。
しかし、いくら隙を見せようが殺気を微塵も感じさせない。

即ち、このタスクはエンヴィーではない。
マスタングはそう確信し、内心ほっと胸を撫で下ろした。



「でも、まさかセリムまで人間じゃなかったなんて...」
「奴はああ見えてホムンクルスの中でも最も厄介なやつだ。見た目に騙されると痛い目をみる」

タスクは、情報交換の中で得たもの...キング・ブラッドレイ、そしてセリム・ブラッドレイがここにいた参加者たちを襲っていたという事実にある種のショックを受けた。
そしてそれ以前にもキング・ブラッドレイは島村卯月と由比ヶ浜結衣を殺していたこと。
セリムはともかくキング・ブラッドレイについては、完全に信用していたわけではない。
しかし、一目でかなり強いと判断できてしまった男だ。殺し合いに乗れば、かなりの脅威になるだろう。
ただ、ひとつ気がかりなことがあった。


825 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:21:01 1KOXsU/Q0
「なんで、キング・ブラッドレイは図書館の人たちを襲ったんでしょうか」
「わからん...むやみやたらに殺しまわる男ではないと思っていたが、私の思い違いだったかもしれんな」
「でも、それだと俺が無事なのはおかしいんですよ。正直に言えば、俺はあいつには勝てません。でも、あいつは『自分は邪魔をする人間を殺すことを躊躇わない』ことを最初に俺に話したんです」

もしも最初から殺し合いに乗ることを指針としていたなら、ブラッドレイはタスクを騙そうとするか問答無用で殺しにかかるはず。
しかし、彼はあらかじめ自分が敵になる可能性もあると断言したうえでタスクたちと接触した。
殺し合いを肯定した者としては行動が不自然である。

「俺、ブラッドレイが方針を変えざるをえなかったことがあると思うんです。だから、あいつがここに来たときは、どうにか穏便にすませれないか交渉したいと思います」
「そうか...正直、ラースは敵に回すと厄介なことこの上ないが、味方であれば心強い。だが、既に結衣と卯月を殺してしまった以上、私を含め他の参加者からの警戒は免れないだろうがな」

マスタングの言葉に、部屋が沈黙する。
すでに事態が動いてしまった以上、キング・ブラッドレイとの衝突は避けられない。
ならば、これ以上自分達の敵を増やしてはならない。
そのために、少しでも自分にできることはやりきろうとタスクは決心する。


「...マスタングさん。なにかスコップのようなもの持ってませんか?」
「いや、持っていないが...なにに使うんだ?まさかそれで戦うわけでもないだろう」
「実は、図書館の外にセリューって奴が置いた生首があって。埋葬してやりたいと思うんです」
「...なんだと?」

タスクは事情を説明した。
狡噛の推測、セリューが周囲への牽制用に男の首を晒していたこと。
御大層に『イェ-ガーズにより正義執行』の紙が貼られていたこと。
最初はセリューを刺激しないために放置していたが、思い直したこと。

マスタングは息を飲んだが、同時に彼女ならやりかねんと心のどこかで納得していた。

「...スコップの代わりならいくらでも落ちている。私も埋葬を手伝おう」

マスタングとタスクは、ブラッドレイと戦った部屋から適当に木片を調達し、浦上の首のもとに向かった。
そして、周囲を確認しつつ、浦上の首を持ち運び、図書館の近くの木陰に木片で穴を掘る。
首だけだったのが幸いし、穴を掘る時間はそうかからなかった。
タスクは穴の中に丁寧に浦上の首を横たえてやり、優しく土をかけて埋葬した。


826 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:22:31 1KOXsU/Q0
「...さて。中に戻ろうか」
「先に戻っててください。俺はもう少しここで見張ってます」
「む...では、私が変わろう。きみも疲れているだろうしな」
「大丈夫です。俺の癖みたいなものですから、こうしないと気が済まないってだけですよ」
「...そうか。なら、お言葉に甘えさせてもらおう」


マスタングは先に図書館へと入り、すぐに上階へと足を進める。
図書館に着く前でのキング・ブラッドレイとの戦闘、タスクから得た情報、ウェイブ達から聞いた図書館での出来事の全容。
これらを繋ぎ合わせ、生じた問題の答えを得るために、狡噛のもとへと足を進める。
部屋の前へと辿りついた時、声が聞こえた。

「残ったと言っても襲われたらどうするつもりだったんだ?」
「襲う......えぇ!? 狡噛さん、いや、えぇ!?」
「......他の参加者に襲われたらどうするつもりだったんだ」

どうやら、狡噛は目を覚ましていたらしい。
ならばちょうどいい。

「その時は私が戦うさ。勿論前者の場合でも戦うがね」

扉を開け、警戒されないようにマスタングは冗談交じりに会話に混ざった。






「...ひとつ、聞かせてくれ」

自分は東へ向かうがどうするかという狡噛の質問の返答の代わりに、マスタングは質問を返す。

「図書館に着く前のことだ。私は、ウェイブとセリューと共にラース...キング・ブラッドレイと交戦していた。結果、セリューを失ってしまったんだが、奇妙なことが起きたんだ」

あの時、セリューを失った要因は一発の弾丸。つまり、誰かがセリューを撃ったのだ。
現場にいたのは、マスタング、ウェイブ、キング・ブラッドレイ、花陽の四人。
戦っている真っ最中だったマスタング、ウェイブ、ブラッドレイの三人は、あの時セリューを撃つ暇などなかった。
ならば消去法で花陽となるが、ド素人の一般人があそこまで正確に撃てるかは甚だ疑問に思う。
そもそもあの場に落ちていた銃火器はショットガンのみで、弾丸が一発ということ自体が有り得ないのだ。
そうなれば、答えはひとつ。

「あの時、私たち以外の誰かが介入した。そうとしか思えんのだ。狡噛慎也、きみの意見を聞きたい」


827 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:23:57 1KOXsU/Q0

セリューとはあまりウマが合わないような気はしていた。彼女の語る正義を異常だとも認識していた。
しかし、彼女はウェイブの仲間であり、共に戦った仲でもある。
そんな彼女が殺されれば黙っているわけにはいかない。
言葉こそは意見を求めるものだが、その行動はまるきり違う。
両手を合わせ、狡噛を睨みつける。
返答によっては、お前を―――

「だ、ダメです!」

マスタングから醸し出される殺気を感じ取った未央は、慌てて声を張り上げる。

「狡噛さんを殺すなんて、そんなこと...!」
「私は質問しているだけだが...それとも、きみがなにか知っているのか?」
「そ、そういうわけじゃ...」

未央は現場に居合わせず、真実を知っているわけでもない。
ただ、このままではマスタングが狡噛を殺しかねないことだけはわかった。
だから、慌てて止めた。
理屈なんてない。ただ、狡噛に死んでほしくない。マスタングに殺してほしくない。
そんな、感情論で引き留めただけにすぎなかった。

そんな未央とは対象的に、当の狡噛は


「お前の想像通りだ、ロイ・マスタング。セリューを撃ったのは、俺だ」


あまりにもあっさりとした自白に、マスタングは呆気にとられる。
そんな本人とは裏腹に、自然と指に力が籠められる。
遅れて湧き上がってくる怒りをどうにか抑え、合せた両手を静かに下ろした。

「ッ...そう、か」
「...俺を殺さないのか?」

マスタングは知っている。
狡噛がウェイブと共に生命を張ってまでプライドから皆を護ったことを。
そんな男が、私利私欲のために人を殺してまわる、ましてや愚かな自分のように感情の赴くのままにセリューを殺害するはずがない。
なにか理由があるはずなのだ。セリューを殺さざるをえなかった理由が。

「もう、虚偽の情報に踊らされるのはうんざりなんだ。話してくれ、あの時なにがあったのかを」


828 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:25:16 1KOXsU/Q0


「ふむふむ。ほむらちゃんの知り合いは、美樹さやか、佐倉杏子、巴マミ。そして殺されてしまったまどかちゃん、と」
「...ええ」
「...残念ながら、私は面識はありませんね」
「...そう」

図書館へと向かう道中で、ほむらとセリューは歩きながらの情報交換に勤しんでいた。
セリューから情報交換を持ち掛けられたため答えはしたが、ほむらは対して興味は無かった。
残る知り合いは美樹さやかと佐倉杏子がいる。死んでほしくないとは思うが、まどかがいないいま、わざわざ探そうという気力もない。

そんなほむらとは対照的に、セリューは驚かざるをえなかった。
自らが正義だと判断したほむら。その彼女の知り合いに、悪が一名紛れているではないか。

(巴マミ...サリアさんの情報では、間違いなく悪だったはず。ならば、奴も南ことりのように本性を隠していた...?)
「つかぬことを聞きますが、亡くなった巴マミさんと鹿目まどかさん...どのような人だったかを教えてくれませんか?」
「...構わないわ。巴マミは...繊細な人だったわ。けど、強かった。私の知る中では誰よりも強かったわ。
まどかは優しい子だったわ。誰にでも優しくしてくれて、けれど、一度決めたことは絶対に曲げようとしなかった」
「...失礼ですが、お二人はこのゲームに乗るようなことは?」

普段ならこんなことを聞かれようものなら警戒してしかるべきである。
しかし、まどかの死に半ば自棄になりかけている彼女にとって、警戒すべきものなどもはや存在しない。
したところでまどかが生き返ることはないのだから。

「ない、と断言するわ。特に巴マミは一般人を殺すくらいなら自害するでしょうね」

ほむらは知っている。
巴マミはたった一人で街を護ってきた正義の味方だ。
そんな彼女が殺し合いに賛同などするはずもない。
するとしたら、魔女の真実を知り、かつ参加者全てが魔法少女だったときくらいだ。
一般人を殺すくらいなら自殺してしまうような、責任感の塊のような人だ。
鹿目まどかは誰よりも優しい子だ。
そんな彼女が殺しをするはずもない。
...いや、殺しをする可能性はある。
誰かが襲われていたとき。どうしても止められないと判断したとき。
彼女は己の手を汚してしまう。
かつて魔女化の真実を知り、杏子を殺し、ほむらを殺そうとした巴マミにそうしたように。
しかし、殺し合いに賛同することは決してない。
そんなことをしていれば彼女の心はとっくに壊れているだろう。


829 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:26:25 1KOXsU/Q0

セリューは顎に手をやり、ふむ、と考え込む。

(ほむらちゃんが嘘を言っているとは思えない...となると、サリアさんの証言と食い違ってくる)

巴マミはサリアを襲った。間違いなく悪だ。
しかし、巴マミをよく知るらしいほむらは、ゲームに乗ることは有り得ないという。
どうやらこの問題、思ったよりも複雑になりそうだ。結論を出すのはまだ早いだろう。
ならば、もっと聞き出すべきだ。
どの道巴マミは死んでいるのだ。判断を下すのはそれからでも遅くない。

「ほむらちゃんは今までどうしてたんですか?」
「私は...」

そして、ほむらはこれまでの経緯を語り始めた。
病院でのこと、花京院と出会ったこと、そしてコンサートホールでの事件のこと...。

「なるほど...その花京院という男にほむらちゃんは操られ、まどかちゃんは花京院を殺害、その後足立がまどかちゃんを殺した、と」
「私にもわからないのよ。なんであんなことになったのか、なぜまどかが彼を殺したのか...」
「簡単なことです。まどかちゃんは正義の味方だったんですよ」

自信満々に答えるセリューに、ほむらは思わず「え?」と声を漏らした

「さっきも言いましたけど、私こう見えて人を見る目には自信があるんですよ。先程の足立との戦闘で、ほむらちゃんは正義であると判明しました。
そのほむらちゃんの友達なんです。きっと素敵な子だろうと思っていたのですが、あなたの話を聞いて確信しました」

未だに困惑の色を浮かべるほむらにお構いなしにセリューは言葉を意気揚揚と紡いでいく。

「まどかちゃんは、悪・花京院がほむらちゃんと承太郎さんに襲い掛かったのを見ていられなかったのでしょう。
優しいまどかちゃんは、正義の心で悪を断罪したんです。それだけに足立は許せません。まどかちゃんを騙し、毒殺するとは...必ずやあの悪を討ちとりましょう、ほむらちゃん!」
「は、はぁ...」

セリューの物言いや握られる手に戸惑いながらも、ほむらの心は若干軽くなっていた。
まどかが花京院を殺したことで、承太郎からはまどかを散々に言われ、足立からは殺人鬼だと罵られた。
そんなことはないと否定したかったが、現実に彼女は悲劇を起こしてしまったのだ。
如何な事情があれ、自分以外の誰もまどかを味方してくれる人はいないのではと思っていた。
しかし、セリューはまどかは悪ではない、正義だと躊躇いなく断言してくれた。
まどかの味方は他にもいたのだと思うと、無性に嬉しくなった。
ただ、ひとつだけ欲をいえば。

「...あまり、花京院のことを悪く言わないであげて。彼は、承太郎の友達らしいの」
「え?でも、承太郎さんは...」
「彼が言うには、花京院は洗脳されていたらしいの。詳しいことは私にもわからないけど...」

洗脳されていたとはいえ、花京院は自分を操り、まどかを傷付けようとした張本人だ。
だというのに、なぜ庇いだてするようなことを言ってしまったのか。
病院に向かう途中に聞いた彼の独白に思うところがあったのも理由の一つかもしれない。
しかし、それ以上に、承太郎の友人だからだろう。
彼は目の前で友人を失った。その気持ちは痛いほどわかるつもりだ。今まで自分が何度も経験してきたことなのだから。
そのせいか、つい花京院を擁護するような言葉を発してしまった。


830 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:30:10 1KOXsU/Q0
ほむらの言葉に、うむむと再び顎に手をやり考えるセリュー。
花京院典明は、ほむらを操り、彼女と承太郎を襲った。間違いなく断罪されるべき悪だ。
ならば、彼を友と呼ぶ承太郎もまた悪なのか?
いや、足立との戦闘や死にかけていたほむらへの対処といい、どう見ても悪ではない。悪を挫き、人の命を助ける。どう見ても彼は正義だ。
ならば、小泉花陽が悪・南ことりや高坂穂乃果の本性に気付かなかったように、花京院の本性を知らなかった?
しかし、襲われた承太郎本人が洗脳されていたと言うのなら、それが真実である可能性は高い。
問題は、その洗脳をした犯人は誰か、という点である。

「ほむらちゃん、花京院を洗脳したという犯人に心当たりはありますか?警戒対象に入れておきたいのですが」
「そんなこと言われても...あっ」

『わたしが知っているのは一人...DIO様だけだ』

ふと、花京院の言葉を思い出す。
DIO。エスデスやアヴドゥルという人が敵視している人物であり、地図にも館が記載されている。
花京院は、彼を尊敬していると言っていた。
それが、洗脳によるものなら、答えは出ているも同然だ。

「私と行動しているとき、花京院はDIOを探していると言っていたわ」
「DIO...なるほど、殺人者名簿にも載っていた男です。その男がクロであると断定しても間違いではないでしょう」

洗脳術を操る男、DIO。
承太郎の友人ですらも操ることができるとは、なんと恐ろしい男か。
問答無用で洗脳ができるなら、高坂勢力以上の脅威になるかもしれない。
同時に、セリューはとある可能性に思い当たる。
サリアを襲った巴マミ。
おそらく、彼女は既にDIOに遭遇していたに違いない。
そして洗脳され、凶行に走ったのだ。
そう考えれば全ての辻褄があう。
やはり自分の見る目に間違いは無かった。
セリューはそう確信した。

高坂穂乃果、後藤、魏志軍、御坂美琴、エンヴィー、ゾルフ・J・キンブリー、キング・ブラッドレイ、槙島聖護、アンジュ、泉新一、足立透、そしてDIO。
奴らは放っておけば必ずや罪のない人々をその手にかけていくだろう。
許せない。滅さねばならない悪だ。
しかし、悔しいが、この巨大な悪に立ち向かうにはまだ戦力が足りない。
そのため、一刻も早くエスデス隊長との合流が望まれる。


831 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:32:02 1KOXsU/Q0
「ほむらちゃん。図書館についてグリーフシードを手に入れたら、エスデス隊長と合流したいと思います」
「エスデス...エスデス、ね」
「?どうかしましたか?」


エスデス。セリューの知り合いらしいのだが、ほむらからしてみればロクな印象が無い。
ここに連れてこられて初めてあった人間だが、顔を合わせた途端勧誘され、そのすぐ後に襲撃されたのだ。
確かに強さは兼ね備えているらしいが、これでいい印象を持てというのは無理というものだろう。
足立を殺すための戦力としてはこれ以上なく心強いが、また襲われてはたまったものじゃない。
一応、自分になにか非があったのかを確認する意味も込めて、ほむらはセリューにエスデスとの出逢いについて話した。

「ああ、それ、隊長の力試しですよ」
「力試し?」
「ええ。私やウェイブもイェーガーズの顔合わせの際に御教授されました。ですから、隊長がほむらちゃんを悪とみなしたわけじゃありませんから安心してください」

言われてみれば、確かにエスデスは本気で殺しにかかることはなかったような気もする。...いたぶるつもりがあったのは充分痛感したが。
そもそも、あれだけの力を持つならとっくに花京院諸共掴まっていてもおかしくはないはず。
仮に、自分を殺すつもりでいてもセリューが一緒ならすぐに殺されることはないだろう。

「...わかったわ。正直、足立があなたの言う危険人物たちと手を組んだら、私たちだけでは心もとないものね」
「では、図書館でグリーフシードを回収したのち、コンサートホールへと戻りましょう。ウヅキちゃんはそれでいいですか?」

島村卯月は、ずっと俯いている。
セリューとほむらの情報交換を聞いている間、口を挟まずずっと俯いたままなのだ。

「ウヅキちゃん?」
「あ、あの...」

なにかを言いたそうに口を開きかけ、やはり思いとどまって視線を逸らして。
卯月はそれを繰り返し、ようやく思いを言葉に変えた。

「エスデスさんと出会えたら、私はいらない子なんですか?」

卯月は、ほむらとセリューに嫉妬に近い感情を抱いていた。
セリューは、ほむらと話している時は楽しそうだった。
彼女に向けられる笑顔は、自分に向けられるものとは違うような気がした。
まるで、気の合う友人を見つけた時のような笑顔だった。
それに加えて、セリューが尊敬するエスデスと合流した時、自分はお祓い箱になるのではないか。
護られるしかできない弱者は、捨てられるしかないのだろうか。
嫌だ。そんなことをされれば待つのは死だけだ。
この殺し合いに居場所なんてない。ただ、セリューと共にいれば生きられる。
死にたくない。ただ死にたくないだけだ。
だから、私を―――


832 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:34:12 1KOXsU/Q0
「ていっ」

そこまで思いかけて、卯月の思考は無理矢理止められる。
卯月の頭に、セリューの手刀がコツンと当たったのだ。

「そんなこといっちゃ駄目ですよ。ウヅキちゃんはいらない子なんかじゃない」
「で、でも...わたし、セリューさんになにもできない」
「なに言ってるんですか。ウヅキちゃんは私を助けてくれた。ううん、いまも一緒にいてくれるだけで、凄く心強いんですよ」

セリューは、卯月の頭に優しく手を乗せる。

「安心してください。私は絶対にウヅキちゃんを見捨てませんから」

卯月の顔に笑顔が戻る。
笑顔と共に向けられる言葉は、いまの卯月にとってこれ以上なく心地よいものだった。

「ほむらちゃん」

卯月が振り返りほむらの手を握る。

「一緒に、頑張りましょう!」

ほむらは手を握る彼女をみて、ついキョトンとしてしまう。
しかし、そんな彼女とは裏腹に、卯月から向けられた言葉が、まっすぐに見つめてくる瞳が、結界の中で興じた『ごっこ遊び』を彷彿とさせてしまう。

「...ええ」

それを知ってか知らずか、ほむらの口元は微かに緩んでいた。



そんな彼女達を見て、セリューは思う。
いまこの場に悪はいない。
ずっと自分の傍に居てくれる『仲間』。
自分に似た匂いを持つ『仲間』。
イェーガーズの他にも新しくできたこの大切な『仲間』たちを死なせたくないと。

「さあ、もうすぐ図書館ですよ。はりきっていきましょう!」

この殺し合いに連れてこられてから、幾度となく笑顔を見せてきたセリュー。
いまの彼女の笑顔は、その中でもとびきりに輝いていた。


833 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:36:38 1KOXsU/Q0




狡噛は語る。
高坂穂乃果と白井黒子、キング・ブラッドレイとの遭遇。
セリューが穂乃果たちを殺そうとしたこと。
更にはそれをマスタング達には偽り、穂乃果たちを悪と認定したこと。
そして、図書館に辿りつく前のあの戦いの真実。
セリュー・ユビキタスが島村卯月を撃った由比ヶ浜結衣を殺し、キング・ブラッドレイにその罪をなすりつけようとした―――犯人を断定したのはウェイブだが―――という真実。
それらを繋ぎ合わせれば、ウェイブの仲間だということを差し引いてもセリューを排除するには十分すぎる理由だった。

「私の知らないところでそんなことが...」
「俺は彼女たちの依頼を受けあの場に辿りつき、キング・ブラッドレイよりもセリューの方が危険だと判断した。それが俺が撃った理由だ」

マスタングの拳が強く握り絞められる。
彼が抱いているのは怒り。
その矛先は、自分を騙そうとしたセリュー、彼女を撃った狡噛、どちらでもない。

(私はいったい...なにをやっていたというんだ!)

殺したいほど憎んでいるのは、自分。
セリューの異常なほどの歪みにもっと気に掛けるべきだった。
それこそ、殺した相手の生首を仲間の前で喰わせた時点でだ。
心のどこかで安心していた。
ウェイブの仲間だから、折り合いをつけてやっていける。
ウェイブがいれば、もうあんな暴挙にでることもないだろう。
そんなものは、ただの都合の良い幻想だった。
ことの重大さに気付く機会はいくらでもあったのに、当の自分はどうしていたか。

怪我人であるのをいいことに、セリューをみすみす黒子たちのもとへ向かわせてしまった。
黒子達への対処をセリューに任せ、自分はエンヴィーのことでいっぱいいっぱいだった。
卯月が落とした賢者の石だけで、彼女をホムンクルスだと決めつけるほどに周りが見えていなかった。
セリューの報告に対してもそうだ。
穂乃果がセリューを襲ったというだけで、穂乃果をエンヴィーだと決めつけて、彼女の気持ちに目を向けなかった。
いや、向けてはいたが、おざなりになっていたことは事実だ。
親友を殺され、侮辱され、遺体を弄ばれて。それでも殺意を抱かない者がいるものか。現に自分がそうではないか。
あの時、穂乃果と黒子のどちらかがエンヴィーである、などという極論を出さずに、セリューに疑いの目を向けるべきだったのだ。


834 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:37:37 1KOXsU/Q0
「すまない...彼女の暴挙は、私の責任だ。なのに、きみに責任をとらせる形になってしまった」

だから、マスタングは頭を下げて謝罪をする。
狡噛が手を汚さざるをえなかった状況を作ってしまったことに対して。
軍人でありながら、冷静に対処できなかった自分を戒める意味も込めて。

「気にするな...とはいえないが、その辺りはウェイブと折り合いがつけてある。それに、俺も元は執行官だ。罵声を浴びるのも汚れ仕事も慣れている」
「それでも、私は謝罪しなければならない」
「...なら、謝る相手は俺じゃないな」

狡噛が顎でマスタングの後方をしゃくる。その先にいるのは未央。

「その子は、島村卯月の友達だ」
「ッ!そう、だったのか」

マスタングは未央に頭を下げ謝罪する。

その背中が小さく見えて。
その姿がどうしても見ていられなくて。

「...マスタングさん」

だから未央は

「歯、食いしばってください」

バ ッ チ ィ ン

鋭い音が部屋中に鳴り響いた。
未央に左頬を引っ叩かれたとマスタングが理解したのは数秒後だった。



卯月のことは、既に花陽たちから聞いている。
そして、謝罪も花陽から受けた。悲しみも受け止めてくれた。
原因であるセリューも既に死んでいるため、どうにか折り合いをつけることができた。
そのため、マスタングを責めるつもりはなかった。
だが、彼は自責の念に押しつぶされそうに見えて仕方なかった。責められなければ、彼は抱えたまま潰れそうだった。
そして、もし彼に怒りをぶつければ自分の中にあるものが止まりそうにないのも理解していた。
だから未央は彼を叩いた。
彼を責められるとしたら、それは自分ではないから。
キャラではないことを理解しつつも、いまはこれで事を収めるために叩いた。

「...スッキリしましたか?」
「...すまない。ありがとう」


いくらか緊張が解けたためか、マスタングも未央も微かに微笑みを浮かべている。

やがて未央が洗面器の水を変えようと席を立ち、マスタングが代わりに行こうと申し出る。
マスタングは、未央から洗面器を受け取り部屋を後にした。


835 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:38:53 1KOXsU/Q0
「...どうした、そんな顔をして」

部屋から去っていくマスタングの背を見つめている未央。
その視線が気になり、狡噛は声をかけた。

「いえ...どうしても、マスタングさんが怒りに身を任せて人を殺すような人には思えなくて...」

未央は、図書館に戻って来る前にマスタングについても聞かされていた。
彼の心はエンヴィーに囚われており、疑いをかけられるかもしれないとのことだった。
その話からどんな恐ろしい人間かと思っていたが、実際に関わってみても恐怖の感情は抱かなかった。


「人間、いつだってそういうものさ。昨日まで仲良く遊んでた奴が、翌日には殺人犯になっていることなんてザラにある。ましてや、そこに復讐が混じれば尚更だ...尤も、俺の世界にはそいつを防ぐためのシステムがあるわけだが。
それでも、どうしても人間の怒りや憎しみなんていう負の感情は消えないらしい」

「...私も」
「?」

「私も、プロデューサーやみんなが殺されたら、マスタングさんみたいになるのかな」

未央の問いに、狡噛はしばし考え込むように、表情を俯かせる。
やがて、そっぽを向くように答えた。

「さあな」

―――大切な者が殺されたとき、あなたならどうするか。

その答えが人によって千差万別なのは既に痛感している。
狡噛慎也は部下を無残に―――直接ではないにしろ―――殺された。
彼は槙島聖護を殺さない選択肢を選べなかった。
常森朱は目の前で友人を殺された。
彼女は槙島聖護を殺す選択肢を選べなかった。
それと同じだ。
マスタングは、エンヴィーという男をどうしても殺さざるをえなかった。
だから怒りに任せて行動してしまった。
なら、未央はどういった手段をとるのか。どうすれば納得できるのか。
出来れば手を汚してほしくないとは思うが、それを決めつけるほど狡噛は無責任ではない。

ごろりと背を向ける狡噛。
そうですよね、と目を伏せる未央。

結局、未央はその答えを出すことはできなかった。


836 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:40:11 1KOXsU/Q0



未だに残る左頬の熱さを感じ、洗面器の水を取り替えながらマスタングは思う。
自分も参加し、多くの犠牲者を出したイシュヴァール戦。
目の前でみすみす死なせてしまった左天涙子。
あろうことか怒りに身を任せて殺してしまった天城雪子。
セリューの暴走に巻き込まれてしまった由比ヶ浜結衣。
己が冒したこの罪は決して消えることはないだろう。
しかし、だからといって償いをしなくてもいいことにはならない。
例え消えることがなくとも、罪を冒した者は償いを続けなければならないのだ。

ならば、ほんのわずかなことでもいい。
このゲームを破壊するために戦う者たちの気休め程度になることもいくらでもしよう。
自分の身を戦地に晒すだけでなく、それ以外にもできることならなんでもしよう。
それが免罪符になど決して成り得ないが、それらが無駄ではないと信じよう。

見張りを終えたタスクが、階段を上りマスタングと合流する。

「マスタングさん、とりあえずいまのところは何もなさそうです」
「ありがとう。それと、狡噛が目を覚ました。挨拶しておくといい」
「そうですか、よかったぁ」

狡噛の無事を知り、ホッと一息をつく。
同時に、これからぶつかるであろう壁に不安を抱く。
もうすぐ放送の時間だ。
おそらく、プロデューサーの名前は呼ばれることになる。あの状況での生存は...絶望的といっても過言ではないだろう。
そうなったら、未央を支えてやらなければならない。
それだけではない。ブラッドレイやエルフ耳の男、更にはエンブリヲのような強者がひしめくこの会場だ。
この放送でアンジュやヒルダの名を呼ばれない可能性がない保証などどこにもない。
もしも、彼女たち...特にアンジュの名が呼ばれたら。
自分はどう動くべきなのだろうか。


そんな不安を抱えながら、彼はなんとなく窓の外へと目を向けた。

そう、彼はなんとなく景色を眺めようとしただけだ。


突如タスクはマスタングを押し倒す。
あまりに突然のことで、マスタングは何の抵抗もできずに覆いかぶさられた。

「な、なんだねいきなり」
「...気付かれては、ないな。マスタングさん、外から身体が見えないように気をつけて確認をお願いします」

壁に背を預け、窓から外の様子を窺うタスク。
それに倣い、マスタングも外の様子を覗き見た。

彼は信じられないものを見た。

(なぜだ。なぜお前たちがここにいる)

こちらに向かってくる者たちがいる。
人数は三人。どれも女性だ。
一人は、名前も知らない少女。残る二人は

(島村卯月...セリュー・ユビキタス!)


837 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:41:25 1KOXsU/Q0


「これは...」

図書館は荒れ果てていた。
浦上の生首を置いたときは、外観はここまで荒れ果ててはいなかった。
何かが燃えたような痕跡すらある。
これらのことから、ここで戦闘があったことは容易に察せる。
そして、高確率でロイ・マスタングが関わっているであろうことも。

(彼がここにいれば、ウェイブもいるとみて間違いないはず)

ウェイブはマスタングを信用していた。
そんな彼が、マスタングを見捨てて別の場所へと向かう可能性は低い。
ウェイブからグリーフシードを貰い、可能ならばウェイブを引きだして悪を排除。不可能なら一旦出直せばいい。
しかし、彼らが襲撃され、悪が拠点にしている可能性も否定できない。
例えばキング・ブラッドレイ。あの異常ともいえる身体能力の高さならウェイブたちを退けることも充分に可能である。
例えば足立透。セリュー、ほむら、承太郎の三人でも仕留めることのできなかったあの力は厄介だ。それに、ほむらや承太郎を出しぬきまどかを殺害したという手腕もある。
最悪、奴に扇動された者たちと戦う可能性も考慮したほうがいいだろう。
そんな警戒心を抱きつつ、階段を上りきったそのときだ。




「止まれ!」

声が鳴り響く。
声の主を見れば、それは間違いなくロイ・マスタング。


「マスタングさん、無事でs「よもやここまで間抜けだとはな、エンヴィー!」

セリューは思わず「は?」と声を漏らす。
再会早々のエンヴィー断定発言。
こちらを睨みつけ、いつでも鳴らせるように指を構えている。
間抜けはどっちだ、と言いたくなったが、そこは我慢して自分が本物であることを照明しようと考える。

「私は本物です。本物のせr「セリューは死んだ!私の目の前で、そしてウェイブからもそう聞いている!」

パチン、と指が鳴り、セリューの足元に焔が走る。
火は一瞬で沈下したが、これはただのおどしではないという意思表示だろう。


838 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:42:12 1KOXsU/Q0
セリューは思う。
最悪のタイミングだ。
こいつは、否、あの場にいた者たちはセリュー・ユビキタスは死んだものだと思っている。
それがこうしてここにいる。
ただでさえ全ての者に疑心暗鬼だった男だ。
ここにいるセリュー・ユビキタスはエンヴィーであるという条件は揃ってしまっている。

本来なら即座に殺して然るべきなのだが、厄介なことにマスタングの強さは本物であり、加えていまは守るべきものたちがいる。
呆気にとられる卯月とほむらに、「大丈夫です」と笑顔を向け、どうにかマスタングとの対話を試みる。

「ウェイブさんが一緒なんですか?なら、彼と会わせてください」
「敵に味方を預ける馬鹿がいるか」


パチン

壁に焔の走った跡がつく。
手袋を履きかえる。


「なら、ウヅキちゃんに聞いてみてください。私とウヅキちゃんはあなたたちと別れた後もずっと一緒に行動しています」
「彼女が目を覚ます前に入れ替わればわかるはずもない。いや、ひょっとしたら卯月やそこの少女がエンヴィーなのかもしれん」


パチン

天井の電球の一つが燃えて消える。
手袋を履きかえる。


「コロが私に懐いています。私が本物であるなによりの証拠です」
「それがエンヴィーの変身能力に通用するかどうかはわからんだろう」

パチン

セリューの傍のドアに焦げ跡がつく。
手袋を履きかえる。


839 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:43:32 1KOXsU/Q0
セリューの胸中に苛立ちの感情が募っていく。
まだ焔を当てるつもりはないようだが、話し合おうという気もないのかこの男には。
いまはこんなことをしている場合ではないのに。
一刻も早くグリーフシードを手に入れなければならないのに。

「じゃあ、どうやって本物だと証明すればいいんですか!」
「お前がここに来て断罪した者たちの名をあげろ。流石にエンヴィーもそこまでは把握しきれまい」

マスタングの眼光が鋭くなる。
この時、セリューは理解した。
エンヴィー云々はあくまで建前で、本当はこちらを聞きだすつもりだったのだと。
おそらく、由比ヶ浜結衣を殺したことをウェイブや花陽から聞いたのだろう。
ここで嘘を吐けばこの男は躊躇いなく攻撃してくるはずだ。
執行現場に居合わせた卯月はともかく、同行者のほむらを不安にさせるかもしれないが仕方ない。
あの時、由比ヶ浜結衣を裁いた自分になんら非はないのだから。

「...南ことり。そして、由比ヶ浜結衣です」


マスタングとセリューの間に、緊張を伴う沈黙が訪れる。
いつ指が弾かれてもいいように、足に力を込める。
この狭い範囲内でマスタングの炎を躱すのは難しい。
だが、一点突破に集中すれば、勝機はまだある。
否、ここで自分が死ねば後ろの二人も危険にさらすことになる。
もしマスタングが自分を敵とみなしても勝たねばならぬのだ。

やがて、この硬直を終わらせたのはマスタング。

「...本物、だな。疑って悪かった」

おろされた右腕を確認し、セリューはひとまず胸を撫で下ろした。
ついでに、この男ももう断罪対象にいれるべきかと本気で考えた。

「こちらにきてくれ。なにがあったのかを説明しておきたい」


840 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:45:49 1KOXsU/Q0


「しまむー、無事だったんだね!?」
「みお...ちゃん」

未央が、困惑する卯月に構わず飛びつく。

「よかった...死んだって聞かされてたから、ずっと心配してたんだよ」
「生きてる...私、生きてるよ」
「わかってる。わかってるから...!」

やがて、卯月の顔がくしゃりと歪み、彼女の瞳から涙が流れだす。
護るべき市民が、大切な者と再会できた。
それは警察としても個人としても嬉しい結果だ。
あの歓喜の涙を見れば、いままでの自分の行いの甲斐があったとすらセリューは思う。

しかし、この結果は『ベター』であっても『ベスト』ではない。

辺りを見回す。
ウェイブの姿は見当たらない。
デイパックも置いていない。
この部屋にいたのはマスタングと本田未央の二人だけだ。

「さて、とりあえず私が目を覚ましたところからだが...」
「その前にいいですか?」

ベッドに腰をかけ、説明しようと口を開いたマスタングを遮り、セリューが手をあげる。

「ウェイブさんはどこですか?いるんでしょう?」
「ウェイブはここにはいない」
「は?」

セリューは思わず間抜けな声をあげてしまう。
さっきの問答ではここにいると、いや、マスタングはここにいるとは言っていない。
そもそもだ。ウェイブは自分を撃った高坂勢力の男に、『セリュー・ユビキタスは悪である』という観念を押し付けられかけていた。
そうなれば、いくら彼でも庇いだてしてくれる望みは薄い。
むしろそんな彼からの情報を受けても未だにセリューは悪ではないと認識しているマスタングを褒めるべきか。
いや、そんなことはどうでもいい。
問題は、ウェイブがいなければここにグリーフシードがないことだ。


841 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:47:27 1KOXsU/Q0
「なら、ウェイブさんからなにか預かってませんか?ほら、グリーフシードとかいうものとか」
「いや、なにも預かっていないが...」
「じ、じゃあ、近辺の偵察にいってるんですよね。それならすぐに戻ってくるはずです。そうですよね?」
「...どうしたんだセリュー。少し落ち着いて」
「はいかいいえか、いいからさっさと答えてください!時間が無いんです!」

殴りつけられる壁の音に、未央と卯月がビクリと震えあがる。
そんなセリューに驚愕と違和感をおぼえつつ、マスタングは考える。
セリューは明らかに焦っている。
彼女が望むのはなにか。ウェイブとの合流?それもあるだろう。
だが、気になったのは彼女が口にしたグリーフシードという単語だ。
おそらく支給品に入っていた道具であるのだろうが、用途がわからない。
だが、いまの彼女にとって大切なものであることは容易に察せる。
そして、歪んでいるのは確かだが、彼女の他者を気遣う気持ちも本当であることも事実である。
ならば、本当のことを教えてやったほうがいいだろう。
万が一暴走した時は、自分が止めればいいのだから。

「...ウェイブは、音ノ木坂学院の方面へと向かっている。15分程前のことだ。急用なら私たちもついて行こう」
「当然です!15分...大丈夫、私たちならきっと間に合います。ウヅキちゃん、ほむらちゃん。一刻も早くウェイブさんを追いかけましょう!」
「は、はい!未央ちゃん、いこう!」

再会の余韻に浸ることもなく、一同は図書館を起つ準備を始める。
その中で、ただ一人だけは立ち尽くしていた。
否、彼女は準備を既に終えていた。







「もういい。もう、いいのよ」


842 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:49:02 1KOXsU/Q0
どこか諦めたような、それでいて僅かに温もりをふくませる声でほむらは告げた。

「もう、いいって」

いつの間にか、ほむらの服装が変わっている。
ほむらが左手の盾に手をかけるのを見て、セリューは、彼女の言葉の意味を察した。

「諦めないで!ウェイブさんには必ず追いつけます!だから、だから...!」
「あなたと島村さんはこんな私を心配してくれた。まどかを庇ってくれた。それだけで十分よ」

寂しげな笑顔を浮かべるほむら。

それと同時に。

―――ザザッ

ノイズが響き渡り、マスタング、未央、卯月の注意がそちらに向く。

ただ一人、セリューだけはほむらから意識を逸らさなかった。

セリューは手を伸ばす。

駄目だ。それをやってはいけない。

ほむらがなにをするかはわからない。
しかし、本能的にそれを察した。
大丈夫。彼女が動くよりも早くこの手は掴めるはずだ。
セリューの手がほむらに触れる寸前








「ありがとう」

―――カシャン


暁美ほむらは、その姿を消した。


843 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:50:57 1KOXsU/Q0


―――セリュー達とマスタングが遭遇する前のこと。

「...みんな。落ち着いて聞いてくれ。セリュー・ユビキタスは生きていて、しかもここに向かっている」
「えっ!?」
「大丈夫だ、未央。接点の無いきみとタスクは彼女に敵視はされない。だが...狡噛、きみはセリューが来る前に逃げるんだ」
「なに?」
「彼女はきみを見つければ即座に殺しにかかってくるだろう。そうなれば、彼女を殺す他なくなってしまう」
「このまま殺すわけにはいかないのか」
「ああ。彼女はウェイブの仲間だし、同行者が二人もいる。一人は知らないが、もう一人は島村卯月だ」
「しまむーが!?」
「お前が言っていたエンヴィーとかいうのじゃ無さそうだな」
「ああ。彼女たちは見分け方を既に知っている。仮にエンヴィーだとしたら、見分け方を知っている者は殺されているはずだ。
二人は生きていたと考えた方がいいだろう。戦場では珍しくないことだ」

「島村卯月。彼女はセリューに依存しきっていると言っていたな...どんな形であれ、支える者は必要だというわけか」
「そうだ。...私は、再びあのような行いをさせないためにセリューを監視しようと思う」
「正気か、マスタング」
「どうだろうな。だが、鋼の...エドワード・エルリックなら、安易に殺すよりも身を張って止めることを選ぶだろう」
「...タスク、未央。お前たちはどうする」
「俺は狡噛さんについていきます。一人で行動してブラッドレイと遭遇すれば逃げ場がありませんから」
「...私は残ります。しまむーもいるのなら尚更です。だから...ごめんなさい、狡噛さん、タスクさん」
「気にするな。お前はお前の護りたいもののために動けばいい。...マスタング、未央を頼むぞ」
「当然だ。必ず守ってみせるさ」
「それと未央。...あまりセリューを刺激するなよ。いくらお前が島村卯月の友達とはいえ、逆鱗に触れれば奴はお前を殺しかねん。本当に残るつもりなら耐えるんだ」
「...はい」

「さて、問題はどう脱出するかだが」
「下手に入口から出て鉢合わせするのはまずいだろう。ここは...」

マスタングはベッドの下に潜り、両手を合わせて床に手を置く。
バチィ、という音ともに発光し、それがおさまるとのそのそとベッドの下から這い出る。

「よし...下にはいないな」
「なにをした?」
「床の一部を錬金術で分解した。ここから下の部屋に降りれるようになっている。これが見つかっても、未央の逃走経路だと言えばそれですむ」
「これが錬金術...やっぱりマナとも違うのかな」
「狡噛、タスク。私が合図をしたらこの穴から逃げろ。私はセリューにエンヴィーであるかどうかの疑いをかける。その際、威嚇のために一度指を鳴らす。そうすれば私に集中せざるをえないからな。
その後、もう一度指を鳴らした時が合図だ」
「...お前は、また汚名を被るつもりか?」
「この場で無駄な血を流すくらいなら、私は道化にでもなってみせるさ」


844 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:52:01 1KOXsU/Q0
そして数分後。


狡噛は駆ける。
未央はセリューの件に関してはあまり納得していないようだったが、それでも自分があの場に留まれば更なる混乱を招くだけだろう。
そう判断したために、狡噛はマスタングの提案に乗ったのだ。
...尤も、未央を引き留めなかった理由は別にあるが。

―――さて、私の声が聞こえた時点で察していると思うが放送の時間だ。

聞こえてきた広川の声に足を止め、タスクに周囲を見張らせ、近くの木陰に姿を隠す。

そして、与えられた情報を整理していく。
禁止エリア。死者数。そして、新たに明示された『首輪交換制度』。

まずは禁止エリア。
潜在犯隔離施設は含まれていないが、東西を挟む形で指定されてしまった。
槙島はそんなことを気にしないだろうが、逃走経路を制限されるのは厄介であり好都合でもある。
どちらにしろ向かわない理由はない。


次に考えを巡らせたのは、死亡者ではなく首輪の交換制度について。

これは一見、弱者や武器を切らした者に対する救済措置に聞こえる。
しかし、その実態は首輪の回収にあると狡噛は考えている。

広川は、積極的に戦う者への礼儀だと言っていたが、ならば尚更不自然だ。
殺し合いに乗った者の中には首輪を外すことを考慮せずに戦う者もいるだろう。
むしろ、解析して外そうとしないぶん、この殺し合いではかなり都合のいい人種だ。
そういった者たちには何も与えず、彼らの残した死体から『怯えているだけの存在』がチャンスを得ることができるこの制度は不自然だ。
それなら、殺し合いが始まる前にあらかじめこの制度を開示しておき、最初から首輪を武器との引換券として扱った方が効率的なはず。
それに、首輪と武器・情報は等価交換だと言っていたが、広川はその価値を示していない。
首輪一つにつき何が等価に値するのか、異能者のものは一般人の首輪に対してどれほどの価値があるのか。
首輪交換所のある場所へ行けばその価値が判明するかもしれないが、それが明示されていなければ首輪を入れてみるしかない。
武器に恵まれず、異能も持ち合わせていない者なら、ナイフ一本でも十分ありがたいし、広川の言葉が嘘ではないとわかれば、積極的に首輪を回収しようと行動するだろう。
また、弱者を保護する者の中には情報や弱者のための武器を得ようと首輪を入れる者もいるかもしれない。
もしそうであれば、この制度は、参加者に違和感なく首輪を回収させるためのものだろう。


そうする必要があると広川が判断した理由はなにか?おそらく『首輪を解析できる可能性』を見つけてしまったからだろう。
それが参加者の手によってか、支給品の中にそういう物があったか、はたまた解除できる可能性が新たに生まれたか...それはいま考えても仕方ないだろう。
そして、広川にとって解析されると厄介なのは、首輪の解除―――ではなく、奴らの居場所がわかるなにかがあるからだ。
前回の放送では、広川は『首輪を外そうと試すのは勝手だ』と言っていた。
以前は戯言だと聞き流していたが、マスタングから聞いたホムンクルスの不死身性を聞けば、ああ言ったのも納得できる。
非現実的ではあるが、首輪は『爆発すれば何者であろうと死をもたらすが、解除自体はできるもの』であったらしい。
そして、広川には首輪が解除されようが殺し合いが破綻することはないという自信があった。だから口を滑らせた。
だが、時が経過するにつれて、広川は参加者の誰かが自分の場所を逆探知できる可能性を発見してしまったのだろう。
そして、自分の場所を知られるのは、殺し合いの根幹に関わるものだとしたら。奴にとっては絶対に避けたい事態だ。
だから、首輪を回収するためにあんな制度を取り入れた...こんなところだろう。
尤も、これはただの予想であるため、断定はできないが。


845 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:54:24 1KOXsU/Q0
最後に死者数。
12名。やはりまだ多い。
幾つか知った名前もあった。
プロデューサー。
未央やタスクが生死を気にかけていた男。覚悟はしていたとはいえ、悔しさにタスクが拳を震わせている。
戸塚彩加。
狡噛が図書館で初めて会った男、黒の連れ。彼のおかげで黒との交戦を中断できたといっても過言ではない。
由比ヶ浜結衣。
彼女もまた雪ノ下雪乃の友人で、セリューが殺した少女。
婚后光子。
図書館に着く前まで同行していた少女。

呼ばれた中にセリューの名は無かった。
やはり生きていて、マスタングの発見したセリューは本物であったのだろう。
そして、槙島聖護。
奴の名を呼ばれないことに、妙に納得してしまう。
ここは人外や異能の溜まり場だ。
驚異的な身体能力や異常な能力を持つホムンクルスたち。
自在に物質を錬成する錬金術師。
瞬間移動を使える女子中学生。
聞けば、電気を操る女や身体を自在に変化させる後藤なる化け物などもいるらしい。
実践経験を積んでいるとはいえ、あくまでも人間である自分や槙島では到底太刀打ちできない連中ばかりだ。
だというのに、槙島が殺される像が見えない。考えつかない。
奴を殺せるのは自分だけだ。
そんななんの根拠もない、意地にも似た思いを胸に抱き、狡噛は再びその足を進める。




―――大切な者が殺されたとき、あなたならどうするか。

ふと、未央との会話で浮かんだ問いが脳裏をよぎる。
アカメとウェイブは、組織として対立している仲だった。
聞けば、イェーガーズはナイトレイドに。ナイトレイドはイェーガーズに仲間を殺されているらしい。
それでも、彼らは手を組んだ。協力して殺し合いを破壊することを望んだ。
ならば自分はどうだ。
仮に槙島聖護が―――万が一にもありえないが―――なるべく犠牲を減らして殺し合いから脱出しようと考えていたなら、槙島聖護が脱出に欠かせない存在だとしたら自分はどうするか。
槙島聖護と手を組む?
ウェイブとアカメのように、今までの因縁は置いておいて、殺し合いが終わるまではお互いに手を出さない?


『変にいがみ合うよりも、一緒に帰れるように協力とかってできないの?同じ人間なんでしょ?』


846 : Inevitabilis ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:56:37 1KOXsU/Q0
不可能だ。
狡噛慎也/槙島聖護は知っている。
仮に、槙島聖護がこの会場で誰にも手をかけず、殺し合いを破壊しようとしていたとしても。
狡噛慎也は躊躇いなく引き金を引くだろう。
槙島聖護は躊躇いなく引き金を引くだろう。
他の誰の為でもなく、ただ自分の為だけに。

未央が残ると言ったとき、強く引き留めなかったのはそのせいだ。
槙島は狡噛を殺すための手段は択ばない。自身を取り巻く事態を楽しむためには手段を択ばない。
未央を人質にとって逃走するくらいなら可愛いものだ。より残酷な方法で殺すことにも一切の躊躇いが無い。
槙島聖護はそういう男だ。息をするかのように人を弄べる男だ。
ならば、マスタングという護衛がついていた方がまだ安全ではある。卯月の友達である以上、セリューも簡単には手を下さないはずだ。


狡噛慎也は、潜在犯隔離施設目指してその足を進める。


彼の抱く殺意の全てを、あの男へと向けて。


【D-5/北東部/一日目/日中】

【狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】
[状態]:疲労(小)、槙島への殺意、右足に裂傷(止血済み)、全身に切り傷
[装備]:リボルバー式拳銃(0/5 予備弾30)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考]
基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:東経由で潜在犯隔離施設へ向かう。
2:槙島の悪評を流し追い詰める。
3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
4:危険人物は可能な限り排除しておきたい。
5:キング・ブラッドレイに警戒。 ただし下手に刺激することは避ける。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒、戸塚、黒子、穂乃果の知り合い、ロワ内で遭遇した人物の名前と容姿を聞きました。


【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)
[装備]:スペツナズナイフ×2@現実
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:狡噛を護衛する。
1:アンジュを探す。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:ブラッドレイと遭遇した時は穏便に済ませられないか交渉してみる。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。
※マスタングと情報交換しました。

※浦上の生首は図書館の近くに埋葬されました。


847 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 09:59:26 1KOXsU/Q0



「......」

承太郎の足が止まる。
放送で流れた知己の名。

花京院典明。

救えたはずの、救えなかった戦友。

鹿目まどか。

花京院を手にかけた同行者。

モハメド・アヴドゥル。

この殺し合いで一度再会し、再び別れることになった、スタープラチナの名付け親。

正直に言えば、あの男が死ぬなど信じられなかった。
魔術師の赤。そのスタンドの強さは承太郎自身が身を持って知っている。
そして、アヴドゥルという男が、どのような状況でも己を見失わない強い男であることも。
だが、死んだ。自らのあずかり知らぬところで、あの男は命を落とした。
前者二人の名が呼ばれたことから、この放送に嘘偽りは決してないことが断言できる。
同行していたはずのエスデスとヒースクリフの名が無かったことが気にかかったが、本人に会った時に問いただせばいいだけだ。
そんなことよりも。

「アヴドゥル...」

もう一度、戦友の名を呟く。
イギー、花京院、アヴドゥル。
たったふた月にも満たない付き合いだった。
だが、こうして失ってわかることもある。
言いたかった言葉は山ほどある。
聞きたかったことは数えきれないほどある。
やりたかったことは腐るほどある。

今さらになって。
今さらになって、彼らの存在の大きさを嫌というほど思い知らされる。

だが、悲しみの果てに現実逃避をするほど、承太郎の精神は脆弱ではない。
やるべきことは決まっている。まずは足立を仕留める。そしてDIOを倒す。
当面の目的が決まっている以上、承太郎が道を見失うなどあり得ない。
大切な者を失った悲しみを背負いながら、承太郎は再びその歩みを進めた。


848 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:00:42 1KOXsU/Q0



「うわぁ!?」

突如響いた広川の声に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
どうやら、今までの疲労が溜まっていたせいで数分だが眠ってしまったらしい。
慌てて誰もいないか確認するが、周囲には何者も確認できない。
不幸中の幸いだったと胸を撫で下ろす。

そして読み上げられる死者の名。
その中には、足立にとって邪魔な存在の名前はなかった。

(チッ、だれも死んでねえのかよ...)

鳴上悠、里中千枝、承太郎、ほむら、エスデス、セリュー。
結局、彼の敵は誰一人として脱落していなかった。
また広川の嫌がらせかと思ったが、自らが殺したまどかの名も呼ばれたことから単なる事実だと納得せざるをえなかった。
...いや、正確には、足立の知る者は一人消えていた。

(なんで死んだのがあの人なのかね。どうせなら一緒にいたあのクソ女がくたばってろよ)

モハメド・アヴドゥル。
足立がこの殺し合いで出会った二人目の男だ。
彼とは数時間程度の付き合いだったが、どんな人間かはなんとなくわかっていた。
エスデスが来るのを知りつつ、自分は残り、表向きは一般人の足立とヒースクリフを逃がそうとした。
魔法少女の説明を聞いたときは、嫌悪の感情を出していた足立とは違い、どうにかまどかを励まそうと悩んでいた。その甘さをエスデスに注意されたくらいだ。
スタンド使いは一般人を守らなきゃいけない、みたいな正義感からだったのか知らないが、お人好しにもほどがある。どうにも合わないタイプだった。
たかだか会って数時間の付き合いだ。そんな男に悲しむ感情は持ち合わせていない。
ただ、どうせ死ぬなら彼よりもエスデスの方がよかったという思いは偽りがない。

(ま...とりあえずこっちを選んだのは正解だったかもね)

いまごろ図書館付近にいると思われるのは承太郎とほむらとセリュー。
あれほど満身創痍の三人が誰一人呼ばれていないというのは、やはりあの辺りにゲーム肯定派がいなかったということだろう。
図書館にいるかもしれない人物に助けを仰ぐにしても、こちらは自分一人だけなのに対して、あちらは三人に加えて一般人が一人。
どちらの発言の信憑性が高いかなど小学生でもわかることだ。
そのための殺人者名簿だが、足立がしたように警察の仕事柄とかいえば乗り越えられそうでもある。
やはり図書館近辺で囲まれて逃げ場を無くすリスクを考えれば、すぐに南下して悪評を流し、疑心暗鬼に陥らせた方がまだ楽だろう。


849 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:01:34 1KOXsU/Q0
電車の時刻表を確認する。
電車が発車するまで5分程度ある。

「さて、と...ぼちぼち移動しようかね」

それなりに休息もとれたのだ。これで電車に乗り遅れれば目も当てられない。
承太郎はアヴドゥルを探しにいっただろうし、万が一ほむらやセリューが電車の発車時刻までに追いつけば追い払えばいい。
そう決めた足立が、駅員室の敷居をまたいだときだ。

「おっ...と」

足元の段差に躓き、上体が崩れる。
と、同時。

「!?」

足立の頭上をなにかが猛スピードで通過する。
飛来したそれは、壁に衝突し、一部を破壊して地に落ちる。
石だ。拳大ほどの石が足立目掛けて飛んできたのだ。

「わっ、とっ、とっ!」

次々に飛来する石を、足立はどうにか躱していく。
投擲が止み、ようやく足立はソイツを向き合うことができた。


「んだよ、クソがぁ...!」

足立は知っている。
石を放った者の正体を。

「なんでてめえがここに来てんだよ...!」

そいつは、足立がここに来てから1・2を争うほどに憎悪を抱いた男。
足立がこうなった原因を作った男。
足立は、そいつの名をありったけの憎しみを込めて叫んだ。

「どれだけ俺の邪魔をすれば気が済むんだよ。なぁ、承太郎ォォォォォ!」


850 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:02:48 1KOXsU/Q0



「『スタープラチナ!』」
「マガツイザナギィ!」

空条承太郎と足立透。
二人の男は、間髪いれずに己の像(ヴィジョン)の名を叫ぶ。
もはや推理も駆け引きも必要ない。
ただ、己の敵を排除するためにその力を解放する。

「この死にぞこないがぁ。わざわざ殺されに来るなんてなぁ」
「言っただろ。俺はこう見えても陰湿なタチなんでな。お前に斬られた腹の痛みはどうやっても忘れられねえよ」

スタープラチナとマガツイザナギ。
二つの力の衝突は風を生み、木々を揺らし砂埃が巻き上がる。

「それで俺を殺せば満足ってか?とんだ正義の味方だよ。ここに連れてこられる前もそうやってたくさん殺してきたんだろ?」
「てめえに言われたくねえな。足立"さん"」
「―――ッイチイチうぜえな、クソガキがぁ!」

マガツイザナギの剣が心臓を穿とうと突き出される。
スタープラチナは跳躍しそれを躱す。
地に刺さった剣を引き抜こうとするがもう遅い。
スタープラチナはそれを強靭な力で踏みつけ固定する。
足立は一旦マガツイザナギを戻そうとするが、もう遅い。
スタープラチナの拳はマガツイザナギの顔面を捉える。

「ぐっ」

マガツイザナギが受けたダメージは足立にも伝わり脳を揺らす。

「やはり、能力は上等でも本体がポンコツなら宝の持ち腐れだな」
「うるさいうるさいうるさい、黙れッ!」

足立は激昂し、怒りと憎しみを言葉に乗せる。
幾多にも振るわれる斬撃を捌きつつ、スタープラチナは空いた顔面に、胴体に、肩口に拳を叩き込む。
しかし、承太郎得意のラッシュを放つ前に、雷撃が放たれる。
マハジオダイン。マガツイザナギの技の一つだ。
いくら頑強なスタープラチナとはいえ、いまのコンディションでまともに受ければ生命に関わる。
電撃を寸前で躱し、承太郎はスタープラチナでマガツイザナギにロウキックを入れさせた。
隙をついてラッシュを仕掛けようとするが、今度は無造作に振るわれる剣に邪魔をされた。


851 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:04:49 1KOXsU/Q0
(チッ、威力が...動きも...!)

思ったように身体を動かせない現実に、承太郎は内心舌打ちをする。
承太郎の傷は深い。疲労も相当のものだ。
そして、スタンドのパワーは本人のコンディションに直結する。
足立がまだ逆上していて気付いていないのは幸いだったが、長期戦は望めない。
狙うは短期決戦。それしかない。



「クソッ、クソッ、クソッ!そもそもなんでお前は追って来るんだよ?アヴドゥル連れてエスデスから離れるんじゃなかったのかよ!?」
「もちろんあいつを忘れていたわけじゃねえ。だが、このままテメェを放っておくほうが厄介なんでな」
「そんなにあのガキ殺したのが許せねえってか?放っておけばどの道お前が殺してただろうが!」
「あいつは関係ねえ。場合によっちゃ俺が殺したかもしれねえのは否定しねえがな」

承太郎の言葉を聞いた瞬間、足立の顔がこれ以上ないほどに憎悪に歪む。

(んだよそれ!?アヴドゥルさんが死んだ八つ当たりでもするつもりかよ、このクソガキはよぉ!)

何故だ。
なぜ自分がこんな目に遭わなければならない。
承太郎自身もまどかを殺すつもりだった?ならむしろ自分は恩人だ。
承太郎は手を汚さずに済んだのだから。
そもそもだ。まどかを殺さざるをえなかった状況を作ったのは誰だ。花京院だ。
なら、その花京院の死因を作ったのは誰だ。それは...



足立の表情から感情が消える。
承太郎はその様子に疑問を持つが、しかしマガツイザナギの攻撃は止まらない。
振るわれた剣はスタープラチナの頬を掠め、地を砕き、スタープラチナを切り裂かんとなお振るわれる。
それをスタープラチナで迎え撃ちながら承太郎はトドメを刺す機会を窺う。

「ハハハ...そういうことかよ、承太郎」

突如、足立が笑い声をあげる。
狂ったのではない。彼の意識は正常だ。
だというのに、先程までの激昂が嘘のようにひいていた。
それどころか、さも愉快とでも言わんばかりに邪悪な笑みを浮かべている。

「わかったよ、きみが一人で僕をここまで追いかけてきた理由が」


852 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:07:24 1KOXsU/Q0
マガツイザナギがその手の剣で斬りかかる。
繰り出される斬撃は、さきほどまでの感情任せの単調なものではない。
斬撃を放ちながらも、スタープラチナの動きを観察することを忘れない。
承太郎もそれを察し、思い切った攻撃を放つことができない。そんなことをすれば、マガツイザナギは容赦なく承太郎の命を刈り取るだろう。
結果生じるのは、じわじわと体力を削ることになる持久戦。

「きみは知られたくなかったんだよ、自分が冒した失敗を」

足立の声が、耳元で囁かれるかのように承太郎に染みわたる。


「きみはまどかちゃんが花京院を殺したって言ったけど、それが全てじゃないよねぇ」

マガツイザナギの右手に電流が走る。
それを察知したスタープラチナが一旦距離を置く。

「エスデスはアヴドゥルさんに言ってたよね。彼女はきみたちと違う。きみらと一緒とはいかないって」

放たれるのは先程の電流。ではなく煙。
ポンッ、と間抜けな音を立てて小さな煙がマガツイザナギの掌から昇る。
挑発だ。まるで道化師のように、足立は挑発したのだ。

「考えても見なよ。まどかちゃんは出会って早々頭を吹き飛ばされたんだよ?いくら死なないからって、それを怖がるなってのは無理があるでしょ。
そんなのできるやつは聖人君子、いやただの化け物さ。だけどきみはそれをあの子に押し付けた。『俺の友達だから頭をブッ壊された程度我慢しろ』。そうやってきみはあの場から立ち去ろうとした。ヒドイ話だよねぇ。それで追い詰められない奴がどこにいるよ?」

再びスタープラチナとマガツイザナギがぶつかり合う。

「そもそもさ、きみ、まどかちゃんと僕を置いてって、花京院が来たらどうなるかわからなかったの?
もしまどかちゃんがきみを引き留めずにそのまま行かせたらさ、花京院は確実にほむらとまどかちゃんを殺してたよ?僕だってそのままペルソナが使えずに殺されてたかもしれない。そうなればあっという間に3人も殺した殺人鬼の完成さ。
それでもきみは花京院を許したんだろうね。肉の芽って奴を引っこ抜いたら『あいつらを殺したのはDIOのせいだ。お前のせいじゃない』。そうやって笑って受け入れて、彼が殺したことはうやむやにしてあげたんだろう?やっさしいね〜」

繰り出されるスタープラチナの拳を、マガツイザナギは避け、剣で捌いていく。
更に、余裕があることを見せつけるかのように、マガツイザナギは右の人差し指と中指を揃え、いつでも来いとでも言うようにクイクイと動かす。
先の戦闘では、承太郎が足立の攻撃を見切っていた。
今度は逆だ。足立が承太郎の攻撃を見切っているのだ。

勿論、戦闘慣れしている承太郎と、大した訓練も経験もない足立だ。
承太郎の全ての攻撃を捌ききることはできず、肩や腹部に拳が当たってしまう。
しかし、足立は着実に承太郎からのダメージを減らしている。
味わわされた屈辱、恨み、怒り。
負の感情が足立を徐々に成長させているのだ。


853 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:11:03 1KOXsU/Q0
「いまの状況だってそうさ。きみはアヴドゥルさんの向かった場所を知っていた。僕が向かったのは彼とは別の方向だ。なら僕を追い回すより先にアヴドゥルさんに教えなきゃダメでしょ。
彼を信頼していた?確かに彼は強力なスタンドを持っていた。けど、それだけで生き残れるかなんてわからない。現に後藤やDIO、エスデスみたいな厄介な奴らもいるし、花京院はきみの目の前で死んだ。
こんな状況で生き残れるなんて、どういう確信よ?」

足立が、マガツイザナギにフォトンソードを持たせる。
二振りの刀を構えるマガツイザナギに、かつて戦ったポルナレフを操ったアヌビス神の姿が重なる。

「でもきみはそうしなかった。なぜかって?きみはアヴドゥルさんから失望されるのを無意識の内に避けたんだ。
きっと彼ならまどかちゃんを支えようとした。そのお蔭で彼女は花京院を殺さなかった。彼ならほむらと協力して花京院を取り押さえることができた。
あの場に残ってたのがきみじゃなくてアヴドゥルさんだったら花京院たちは死ななくてすんだ。きみは無意識のうちにそう悟ったんだ」

フォトンソード、高熱を発する光の剣だ。
いくらスタープラチナといえども、この刃を受け止めるのは不可能だ。
スタープラチナは振るわれるフォトンソードを避け、マガツイザナギの剣を拳で受け流しどうにか反撃の隙を窺う。

「だからアヴドゥルさんが僕と遭遇する前にカタをつけてしまおうと考えた。もし僕が生きていれば、きみがあの子を追い詰めたことも言いふらしちゃうだろうからね。
全てが終われば後は事実を伝えるだけさ。『鹿目まどかと足立透は殺人鬼だった』っていう、きみはな〜んにも悪くない事実って奴をさ。尤も、肝心の彼は死んだんだ。きみの思惑も無駄になっちゃったけどね」

足立も二刀流には慣れていないせいか、アヌビス神やポルナレフほどの剣捌きではなく、太刀筋は大雑把ですらある。
ならば―――見切ることは、可能。
フォトンソードを持つ右腕の手首を殴り、動きを止める。
その衝撃で、マガツイザナギはフォトンソードを落とした。
しかし、右手首を押さえながらも、足立は笑っている。

―――かかったな。

そう言わんばかりに、足立の口が三日月の輪郭を描く。


マガツイザナギの剣がスタープラチナの胸部を一文字に裂いた。
必殺の武器は囮。最初から本命はこちらだった。

「きみが余計なことをしなければ丸く済んだんだ。花京院もまどかちゃんも生き延びて、僕はもうしばらく手を出せなかった。
もうわかってるだろ?確かに花京院を殺したのはまどかちゃんで、彼女を殺したのは僕。アヴドゥルさんを殺したのは他の誰かだ。けど、それを後押ししたのはきみだ。きみなんだよ」


854 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:11:59 1KOXsU/Q0
スタープラチナの動きが一瞬止まる。
その隙を突き、マガツイザナギの剣が幾度も振るわれ、その度に浅くは無い斬傷を増やしていく。
本体である承太郎の全身からも血が溢れ、その場に蹲ってしまう。
その様子を見て、足立の笑みは更に深まった。

――どうだ。思い知ったか。これが大人の現実だ。
才能があると思い込んで、イキがって好き勝手やって、でも現実にぶつかればこんなもんさ。
きみみたいなクソガキにこうして人生の先輩として御教授してあげたんだ。授業料はもらっていくよ。


マガツイザナギが剣を構え、振り上げた姿勢をとる。
いつ思わぬ反撃が来ても対応できるように、ゆっくりと距離を詰めていく。
承太郎は反抗の色を見せない。
そして、剣が承太郎の脳天を切りさける距離にまで迫ったとき。
刃は振り下ろされ

『オラァ!』

その剣は、スタープラチナの両掌に押さえつけられた。
刃を横合いから挟むように受け止める。俗にいう真剣白刃どりである。

「いいてえことはそれだけか」

花京院を殺させた責任は自分にある。認めよう。
アヴドゥルが死んだ責任は、すぐにあとを追わなかった自分にある。認めよう。
この厄介な状況を作りだしてしまった責任は自分にある。認めよう。
だが、いくら足立が正論ぶった美辞麗句を並べようとも、それが足立透を野放しにしておく理由にはならない。
如何な理由があれ、喧嘩を売って来たなら必要以上にぶちのめす。
それが承太郎の戦いだ。生き方だ。



スタープラチナはそのままマガツイザナギ自身を引き寄せる。
雄叫びとともに放たれるのは頭突き。
スタープラチナとマガツイザナギの額がぶつかり合う。
次いで、右の拳がよろめくマガツイザナギの顔面に叩き込まれる。
マガツイザナギが大きく後方に吹き飛び、壁に衝突し崩れ落ちる。
そのダメージは足立にも伝わり、うめき声を漏らして膝から崩れ落ちた。
これ以上ない絶好のチャンスだ。
ましてや承太郎ならば決して逃しはしないだろう。



「そうだね。僕としてもさっきのが真実かどうかなんてどうでもいいんだよ」



だが、承太郎の追撃はなかった。


855 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:12:57 1KOXsU/Q0
「でも、きみの軽率な行動がまどかちゃんを追い詰め、花京院を殺し、アヴドゥルさんを殺し、僕にもペルソナを与えてしまった。それは変えようのない事実さ」

全身の力が抜け、膝をつく承太郎。
それとは対照的に、足立は痛みに耐えながらふらふらと立ち上がる。
互いに疲労困憊ではあった。
だが、コンサートホールで致命的なダメージを受け、且つそれを焼いた激痛も納まらないままに戦闘を開始した承太郎。
受けた傷は多いものの、致命的な怪我は負っていなかった足立。
更に言えば、ペルソナはスタンドとは違い、受けたダメージの全てが本体にフィードバックするわけではない。
その両者の差は、ここにきて尾をひいた。

「そしてきみは不様に僕に殺される。ほむらのソウルジェムとかいうのも限界なんだろ?後は真実を知るのはあの化け狗女たちだけだ。あいつらだけなら僕も随分動きやすい。
きみの見えはりが色んな人を巻き込んだ挙句この現実を作ったんだ。哀れなもんだよねえ」

承太郎を見下して足立が嘲笑する。
滑稽だ。才能に満ち溢れ、あれほど自分に生意気な啖呵をきったクソガキが、いまはこうして不様にくたばっている。
もう笑いが押さえられない。

「ただ、きみのことだ。迂闊に近づいて一発逆転なんてこともあり得る...だから、ちょっと疲れるけど確実に殺すことにしたよ」

しかし、それが油断には繋がらない。
ここに連れてこられる前といい、コンサートホールのことといい、油断した時はロクな結果にならなかった。

承太郎から距離をおき、マガツイザナギの掌に電流を溜める。
承太郎のスタンドは、自分のペルソナやアヴドゥルのように遠距離の攻撃はできない。精々、物を投げつける程度だ。
先程までの戦闘で、それは判明している。
ショットガンを使おうとも思ったが、あのスタンドなら弾を掴むなり防御するなりで防がれてもおかしくない。
ならば、あいつには防御不可能なこの技の方が安心だ。


「きみにはちょっぴり感謝してるよ。おかげでだいぶいい状況になった。それ以上にムカついたから許さないけど」

マガツイザナギが掌を承太郎へと向ける。
承太郎もスタープラチナも動けない。
全身の至るところから力が抜け、まともに立つことすらできない。
いまの彼にできることは、ただ己に来る死を待つことだけ。
しかし、それでも承太郎は屈しない。
彼の鋭い眼光はいまにも足立を睨み殺さんほどに威圧感を放っている。
足立はそんな彼の態度に舌うちをし、死の宣告をくだす。

「じゃあね、承太郎くん」

―――マハジオダイン。
雷撃が承太郎へと放たれる。
避ける術はない。だが、それでも承太郎は目を逸らさない。
迫りくる死の脅威から目を背けない。
それが承太郎の眼前にまで迫った、その時。





―――カチリ





世界の全てが、止まって見えた、気がした。


856 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:14:01 1KOXsU/Q0


いままで、何度も時間を巻き戻してきた。
その度にまどかを死なせてきた。殺してきた。
その度にまどかの大切な人たちを傷付けてきた。
それでも一度だって彼女を救うことはできなかった。
その挙句、彼女を概念なんてものに仕立て上げてしまった。そうなれる道を作ってしまった。
まどかを苦しめていたのは、いつだって私だった。

彼女は誰にでも優しい女の子だ。
私は、彼女が優しくしてくれた大勢のうちの一人でしかない。
私の人生にはまどかが必要だった。
けれど、彼女の人生には私なんていらなかった。

彼女が必要としたのは、もっと素敵な人たちだろう。



例えば、美樹さやかや巴マミのような心のおける親友。



―――自分は違う。



例えば、空条承太郎のような、強くて頼りがいのある者。



―――自分は違う。



例えば、セリュー・ユビキタスのようなどこまでも純粋に正義を信じる者。



―――自分は、違う。


857 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:17:27 1KOXsU/Q0
心のどこかで、いっそ優勝を目指してしまおうかとも考えた。
けれど、もしまどかを蘇らせても、私が関わった時点で決していい結果にはならないだろう。
今までも、ここでもそうだったように。
それに、そもそもが手遅れだ。
ウェイブという人が図書館におらず、且つグリーフシードが無かった時点で、私には足立を追う選択肢しかなかった。
そして、結果がどうあれ、私の命はここまでであることも理解していた。

奴は戦闘の連続で疲労が溜まっている。ならば、私たちの悪評をばらまくか、なるべく人との接触を減らそうとするはず。
人が集まりやすいと思われていた図書館にも向かっていないことから、おそらく奴は電車を利用するはず。
そこにいなければ、私は無駄死にとなる。
幸いというべきか、轟音が響いていることから誰かが争っていることだけは判明している。
ならば、私は足立がそこにいることを願いながら向かうことしかできない。


―――さて。足立を殺す上で問題が生じる。

私の戦力と呼べるものは時間停止とマスティマだけ。
真っ先に思いついたのは気付かれないうちの不意打ちだが、足立は時間停止直後の攻撃に反応できる男だ。
よほどの隙が無ければトドメを刺せる可能性は限りなく低い。そのよほどの隙ができるまで待つことは不可能だ。
時間停止もおそらくあと一回が限界だ。使えば魔力は限界を迎える。
なら、私には何ができる?
考えろ。残された手段を。
見つけ出せ。足立透を発見する前に。
なにかないか、なにか

『まるで天使、ね』

ふと、マスティマを見た時のことを思いだす。
あの時、自分はなにを思ったか。たしかあのときは



―――なんだ、あるじゃない。残されたとっておきが。





轟音が響く元を辿って。
その先にあるのは電車と駅。
見つけた。足立透だ。
いままさに足立が承太郎にトドメを刺そうとしている。
足立のペルソナが雷撃を放った瞬間。

私は時間を止め、何の躊躇いも無くその中に飛び込んだ。


858 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:18:33 1KOXsU/Q0




「...は?」

足立は己の目を疑った。
マハジオダインで生じた煙が晴れると、そこには横たわる承太郎。
そこまではいい、そうなるように攻撃したのだから。
問題は倒れているもう一つの影だ。
いつの間にいたのか?
そんな疑問が脳裏によぎるが、もはやどうでもいい。
予想外の事態に、足立の顔が歪んでいく。

「は...ははっ、ラッキー」

足立が浮かべたのは、驚愕ではなく愉悦。
倒れている影の正体は、足立が最も警戒している内の一人。
電撃に下半身をのまれ、上半身だけになった暁美ほむらだった
予想外の出来事ではあったが、足立にとってこれ以上なく嬉しい誤算だった。

「なんできみがくたばってるわけ?しかも承太郎も庇いきれてないし、まさに無駄死にじゃない!」

おそらく、マハジオダインが当たる寸前に、あの突如現れる移動方法を使って承太郎を庇ったのだろう。
その結果、承太郎共々ボロ雑巾のようにくたばっているのだ。
もうどうしても笑いが止まらない。止める気もない。
警戒を保ちつつも、足立は腹を抱えて笑い転げる。

「あぁ〜、ヤバイヤバイハライタァイ...いやー、スッキリした」

ここまで自分を散々コキおろし痛めつけてきた承太郎。
一度は死を直感させられた暁美ほむら。
二人のクソガキの有り様を見れば、足立に渦巻いていた不平不満もかなり解消されていた。

「とはいえ、ちょっと不安があるからね。ちゃんと殺しておかないと」

承太郎はどう見ても重体だ。常人ならとうに死んでいる。
流石の承太郎でも放っておけば死ぬだろうが、しかし万が一死ななければ後々厄介なことになる。
マガツイザナギにフォトンソードを拾わせ、足立は承太郎へと歩み寄る。

「こんどこそ終わらせてやるよ。あの世で花京院たちに謝ってくるんだね」



―――ようやく、ようやく終わる。




マガツイザナギが、剣を振りかぶる。
承太郎の反応は無し。
スタンドの発現も無し。
演技ではない。完全に意識を失っている。
承太郎の全てを終わらせるため、マガツイザナギの剣は振り下ろされた。




―――この時を、まってた


859 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:21:07 1KOXsU/Q0
ゾクリ、と背筋が凍るような感覚を覚える。
殺気だ。常人では放ちえない殺気が足立を襲ったのだ。
慌てて振り向くと、そこには空を舞う上半身だけの暁美ほむら。
足立を攻撃してきたような白の羽根ではなく、禍々しい黒の翼を背に生やしている。
ほむらはマハジオダインを防ぐ際に、己のソウルジェムと上半身だけを守り、他の防御を捨てていた。
雷撃にのまれた下半身を苛む激痛に耐え、足立が隙を見せるその瞬間までジッと息を潜めて。

(ええ、そうよね。承太郎が生き延びるかもしれないと思ったら、お前はトドメを刺しに来るわよね)

奇しくも、まどかが魏志軍や花京院に対してやってしまったように、ほむらは承太郎を囮に使ったのだ。
そして、思惑通りに足立が承太郎にトドメを刺そうとしたその瞬間。
ほむらは、最後の魔力を振り絞り、残された最後の力を行使した。
それは、限界まで自らが追い詰められ、ようやく発動できる最後の魔法。
悪魔の如き、漆黒の翼。


上半身だけの人間が、尚生命を保ち襲い掛かってくる。
あまりの理不尽な光景に、足立の顔が驚愕に包まれる。
承太郎へと振り下ろしかけた剣を慌てて引っ込め、ほむらの迎撃へと向ける。
しかしもう遅い。
剣に翼が絡みつき、その動きを完全に封じる。
本来の力なら全身の動きを封じられたはずだが、できたのは右半身だけ―――充分だ。これで足立に逃げ場はない。
ほむらが足立の首をへし折ろうと右腕を走らせる。
マガツイザナギは、左腕に持ったフォトンソードでそれを迎撃。手首から先を斬りおとす。
これでマガツイザナギはもう動けない。マハジオダインを使う暇もない。
ほむらの牙が、喉元に食らいつくかのように足立へと肉薄する。






ほむらの歯が、足立の首へと食い込む。

「や、やめ...!」

ブチリ。

頸動脈を噛みきられた首から血が溢れ、足立の目がグルリと回る。
倒れた足立は、ピクピクと痙攣し、涙を流しながらうわごとのように小声で呟いている。
どうだ。思い知ったか。これがまどかが味わった痛みだ。まどかを殺したお前はそのまま不様に死んでいけ。
やがて、足立が動かなくなるのを見届けると、ほむらの目蓋が重くなる。

――いままで彼女を護れなかった。役に立てなかった
ここでもそうだ。
私はいつだって彼女に対して無力だった。
そんな私でも、仇を討つことだけはできた。


ようやく、私は彼女に―――


860 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:21:55 1KOXsU/Q0









「こんなこったろうと思ったよ」





...それは、彼女の強すぎる執念が見せた、残酷な幻影。


861 : I was waiting for this moment ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:24:51 1KOXsU/Q0


時間が巻き戻るかのような錯覚に襲われる。

どこまでが本当だったのか―――そう、右腕を斬られたところまでだ。



足立は知っていた。
魔法少女は、頭を吹き飛ばされても死なない。
それどころか時間さえあれば元に戻ることができる。
なら、下半身を失ったところでまだ動くことができるのではないだろうか。そんな予感がしていた。
だから足立はわざと隙を作った。あれほど自分に殺意を抱いていたほむらなら、この機を逃すわけがない。
その予想は見事に的中し、ほむらは生きていた。そして、自分を殺すために牙を剥いた。
飛びかかってくるほむらの胸にショットガンを当てる。
足立は、躊躇いなくその引き金を引いた。


銃声。


幾多もの時間軸で聞きなれたそれが、ほむらを破壊した。
ほむらの身体は鮮血を撒き散らして地面に落ちる。
彼女の牙も足立に届くことはない。



まどかの仇を討つために決死の策をとったほむら。
皮肉にも彼女を敗北へと導いたのは、足立が魔法少女を知るキッカケとなったまどかだった。


862 : Puella in somnio ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:27:58 1KOXsU/Q0


「ぅあ...」
「へーえ。まだ生きてるんだ。驚いた」

下半身を失って。
胸に巨大な風穴を空けて。
それでもなお、暁美ほむらは生きていた。

「あのさ、僕は別にサドっ気があるわけでもないし、内臓見て喜ぶようなグロ趣味も耐性もないわけよ。僕の気は十分晴れたからさ、そのまま大人しく死んでくれないかな」

ズル、ズルと内臓を引きずり、残された左腕で足立のもとへと向かう。

「あ、だちィ...!」

その目に宿るは、憎しみ。

「ころしてやる...」

最早自分ではどうすることもできない。そんなことはわかっている。

「ころして、やる...!」

しかし、それでも彼女はその思いを止めることはできなかった。

「は〜あ、仕方ない。きみのソウルジェムってやつ?左手についてるそれでしょ。砕いてあげるから大人しくしてなよ」

足立がショットガンでほむらの左腕に狙いをつける。
承太郎は正真正銘死にかけなうえ気絶している。
暁美ほむらはこの様だ。
最早、足立透を止める者は誰もいない。



「―――正義、閻魔槍」




―――否。悪を裁く正義の味方はここにいる。


863 : Puella in somnio ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:29:42 1KOXsU/Q0
迫りくるドリルをマガツイザナギの剣で受け止める。
しかし、その勢いを殺しきれず、本体の足立ごと押し切られる。


「足立透!ほむらちゃんと承太郎さんをよくも!お前は私が断罪してやる!」
「空気読まないなぁ、きみ」

セリューが辿りついたときには、全てが終わっていた。
傷つき地に倒れ伏す空条承太郎。
下半身を失い、血だまりに沈む暁美ほむら。
そんな二人を差し置き、ただ一人立っている足立透。
まただ。また、こうやって悪は自分から奪っていくのか。
許せない、ああ許してなるものか。

「コロ!1ば―――」
「おっと。僕の相手をしてる暇があるなら、彼らを治療してあげた方がいいんじゃないかな」
「お前が殺しておいてなにを言っている!」
「二人とも生きてるよ。まあ、虫の息ってのは変わらないけどね」

足立の言葉に慌てて二人の安否を確認する。
承太郎の脈をとる。―――微かだが、確かに動いている。
ほむら。残された左腕で、今もなお足立を殺すために動こうとしている。

背後で足立のショットガンが放たれるが、巨大化したコロはそれをあっさりと防ぐ。

「生きてただろ?今から急いで手当をすれば間に合うかもね。尤も、きみが僕の相手をしてたら二人共死んじゃうだろうけど」

足立の言葉にギリリと歯を食いしばり、憎しみをあらわにする。
悔しいが、いまは足立の言う通りだ。
心境としては、どうにかして足立を殺したいというのが本音だ。
しかし、二人は決着が着くまでもちそうにない。
ならば、ここは...奴に従う他ない。


864 : Puella in somnio ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:33:28 1KOXsU/Q0
「じゃあね、"自称"正義の味方さん」

マガツイザナギで牽制しながら、足立は電車に乗り込んでいく。

『間もなく、電車が発車いたします。ご注意ください』

セリューの世界には電車など存在しない。
しかし、この場から遠ざかろうとするこの鉄の箱を見れば、これで逃げようとしていることは明白だ。

「コロ!7番!」

それを認識したセリューは、コロに右腕を喰わせて、巨大な大砲に変化させる。

「―――正義、泰山砲!」

電車を破壊するため、弾を発射する。
しかし、それは着弾する前に電撃で軌道を逸らされ、砲弾はあっけなく奈落へと落ちていく。
泰山砲は連射のきかない武装だ。
連射するならば初紅飛翔体なのだが、キング・ブラッドレイとの戦闘できらしてしまっている。


「...足立透。精々、残されたわずかな時間を怯えながら待っていろ。お前は私が必ず殺してやる!」

電車が凄まじい速さで射程圏外へと遠ざかるのを、セリューは見ていることしかできない。


「......」
「ほむらちゃん...?」

そして、新しくできた大切な仲間を救うことも彼女にはできない。

セリュー・ユビキタスはどうしようもなく無力だった。


865 : Puella in somnio ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:35:11 1KOXsU/Q0


身体はこんなにめちゃくちゃになっているのに。
魔力を使い果たし、ソウルジェムも濁りきっているはずなのに。
私は未だに生きている。
これもまた幻なのだろうか。それとも、現実...?
どちらにせよ、死ぬまでにはまだわずかに猶予がある。
この有り得ない現象を言い表すなら、紛れもなく奇跡と呼べるものだろう。



(まどか)

ズルリ、ズルリ。

残った左腕で、どうにか身体をひきずり進む。
その先にあるのは、デイパックからとびでたまどかの遺体。
電撃を浴びたときか。ショットガンを受けた時か。そのどちらかの衝撃で零れ落ちたのだろう。
幸い、とでもいうべきか、彼女の身体にほとんど傷はついていなかった。


(まど、か)

ズルリ、ズルリ。

進む度に、激痛が走る。
それでも構わない。あの子に会えるのなら。
例えそれが命を失った入れ物だとしても。
せめて、最期の時は彼女といたい。

ズルリ。

ようやくたどり着いた。
あとは手を伸ばせばそれだけで届く。

(...まど...か...)

あと少し。
あと少しで届く。
指先が彼女に触れそうになり。




『キュゥべえに騙される前の、バカなわたしを助けてあげてくれないかな』




(...役立たずで、ごめんね)

やっぱり、やめた。


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ (新編 叛逆の物語) 死亡】


866 : Puella in somnio ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:36:18 1KOXsU/Q0


目が覚めた時と同じように、広川の放送が流れて。

ほむらちゃんがいなくなったとき、セリューさんは真っ先に駆けだしていきました。
なぜかはわからないけど、私は彼女を止めようとしてしまいました。
けれど、伸ばした手は届かなくて。
セリューさんを追って、マスタングさんが慌てて出ていきました。
けれど私は、私を置いて去っていくセリューさんを見ていることしかできませんでした。

それでも広川はお構いなしに放送を続けます。
広川は言っていました。首輪を集めればいいことがあるって。
でも、いまはそれどころじゃなくて。
問題はその前のことです。
広川は脱落者...死亡者の名前を読み上げました。
プロデューサー。
前川みく。
その中には、私の大切な人が二人も含まれていました。
もう、その時点で私はなにも考えられなくなりました。

プロデューサーたちが死んだ。
ほむらちゃんがいなくなった。
セリューさんもいなくなった。

気が付けば、私はセリューさんの後を追うように足を進めていました。


けれど、それを止めたのは未央ちゃんでした。
未央ちゃんは私の手をとり言いました。

「...わかってたの。プロデューサーは、あの男に殺されたって。でも、信じたくなかった。生きていると思い込みたかった」

プロデューサーは殺された?誰に?どうやって?未央ちゃんは知ってるの?
それを聞く前に、私の身体は自然に前へと進もうとしてしまいます。

「私はもう、誰も失くしたくない。しまむー。正気に戻って...!」

誰も失くしたくない。
わかってます。わかってますから、手を離してください。でないとセリューさんが...


867 : Puella in somnio ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:37:18 1KOXsU/Q0
「もうあの人と一緒にいちゃ駄目だよ!でないと、しまむーもいなくなっちゃうよ!」

その言葉を聞いた瞬間、私の頭は疑問符で埋め尽くされました。
なんで?なんでそんなこと言うの?

「あの人はおかしいの。あの人は、平気で人を殺せるんだよ」

セリューさんはおかしい。ことりちゃんを殺したから?由比ヶ浜ちゃんを殺したから?
じゃあ...セリューさんに助けられた私は、なに?

「お願いしまむー、マスタングさんと一緒にタスクくんたちのところに向かおう、ね?」

そうして未央ちゃんは私に縋り付いてくれます。
未央ちゃんは私を心から心配してくれているのもわかります。
でも、でも。
未央ちゃんが必要としている"島村卯月"は、私なのでしょうか。
プロデューサーは言ってくれました。
私を選んだ理由は笑顔だと。
その彼はもういません。
彼の褒めてくれた笑顔は、もう作れそうにありません。
そんな私は、未央ちゃんの望む"島村卯月"なのでしょうか。
笑顔が作れない私は、本当に"島村卯月"なのでしょうか。
わからない。もう、なにもワカラナイ。
だから、せめて―――




「私から、価値を奪わないで」




そう言って私は、未央ちゃんの手を振り払ってしまいました。


868 : Puella in somnio ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:39:47 1KOXsU/Q0
慌てて階段を駆け下りて、入口から出ると、誰かに肩を掴まれました。
掴んだのは、入口で待っていたマスタングさんです。

「セリューから言伝があった。あのほむらという少女は彼女が探すから、私はきみ達を保護していろ、とな」
「そんな...じゃあセリューさんは一人で」
「無論、彼女も満身創痍だから放ってはおけない。しかし、ほむらを守りたいというセリューの気持ちは尊重したい。だから、私はきみたちと共にセリューのもとへと向かおうと思う」

マスタングさんの言葉に、私の心は温かいなにかで満たされたような気がしました。
セリューさんと会える。"いまの私"を受け入れてくれる彼女に会える。
そう思うと、私はいてもたってもいられないような気分になりました。

「未央。きみもそれでいいか?」

追いついてきた未央ちゃんは、複雑な表情を浮かべて。
それでも、なんとか納得してくれたみたいです。

「は、はやく行きましょう」

そうして私は二人をせかすように促します。
"いまの私"を認めてくれる彼女に無事でいてほしいから。
そして私たちは駆け出します。
道すがら、時折響く轟音に怯えながら。
私は、彼女のもとへと辿りつきました。



セリューさんは泣いていました。
ほむらちゃん―――身体のほとんどを失ってしまった彼女を抱いて、涙を流していました。
ほむらちゃんの姿に、首を斬られたことりちゃんが、頭を失くした由比ヶ浜ちゃんが重なって、脚が震えてしまいます。

「ウヅキ、ちゃん...」

セリューさんの声は震えていました。

「私、また...まもれなかった...」

その声は、私が助けたときよりも悲しみに溢れているように思えました。

「だい、じょうぶです」

だから、私は彼女を抱きしめました。
震える手足に耐えながら、彼女を抱き寄せました。

「私も、セリューさんを守りますから」

"いまの私"をウヅキと呼んでくれる彼女を失いたくない。
いまの私は、その一心でいっぱいでした。

「う...ぁあああぁぁ...!」

セリューさんは、声を上げて泣きました。
それにつられて、私の瞳からも涙が零れてきます。
親しくなった人が死んでしまって悲しい。当たり前のことです。
―――でも、ああでも。
セリューさんは悲しんでいるのに。
私もほむらちゃんが死んで悲しいのに。

わたしの表情が、笑みを浮かべているのはなんでだろう。


869 : Puella in somnio ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:41:06 1KOXsU/Q0


「ぃ、あ...」
「見るな...見なくて、いい」

下半身が消失したほむらの死体を見て、未央の喉から、なにかが込み上げそうになる。
未央も、この会場に連れてこられてから浦上という死体を見ている。
しかし、あの首は全く接点の無い者で且つ既に死んでいた状態からのもの。
恐怖はしたもののどこか他人事のように思っていたかもしれない。
しかし、今回は違う。
先程まで生きていた人間が、こうも無残な姿で息を引き取っている。
死んでしまった仲間たちも、こうやって死んだのかもしれない。
一歩間違えば、未央自身がこうなってもおかしくない残酷な惨劇。
現実とは思いたくない。だが、これは確かに現実だ。

(すまない...私がきみを止めることができれば...!)

マスタングは、ほむらについて何も知らない。
なぜ彼女が皆を置いて飛び出していったのか。
なぜここで死ぬことになったのか。
マスタングは何一つ知らない。
だが、それでも。
護れるかもしれなかった命を失うことは、彼にとっても重たいものだった。
何もできなかった無力感。現実への絶望。自責の念。様々なものがマスタングの背中を押しつぶそうとしてくる。

(命を奪うのはいくらでもできるのに、救うことはできない...なあ、鋼の。きみはいつもこんな重たいものを背負ってきたのだな)



ほむらの傍に倒れている学帽学ランの青年、承太郎の容態を確認する。
全身に電流による火傷が見られ、腹部には一度は焼き潰した傷跡も見える。
常人ならとうに死んでいるはずの傷だが、彼の脈はまだ動いている。

幸いとでもいうべきか、斬られたと思われる部位からは火傷のおかげで出血が少ない。
適切な処置を施せばまだ助かる望みは充分ある。
もう救えるはずの命を失うのは御免だ。
焔の錬金術師は改めて決意を固める。

(どこかに身を落ち着けたいが...しかし、治療するにしても図書館にはプライドやラースが来るかもしれん)

図書館に戻り、ホムンクルス達と遭遇することになれば、承太郎の安全は保障できない。
しかし、危険人物に遭遇する確率はどこにいようと存在する。

(どうする...どう行動するのが正しい選択だ...?)


870 : Puella in somnio ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:42:52 1KOXsU/Q0
【D-6/駅近辺/一日目/日中】

【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(絶大)、精神的疲労(極大)、左目損失(止血済み)、切り傷(それなり)、ほむらに親近感、ほむらを失った悲しみ、自分の弱さを痛感
[装備]:日本刀@現実、肉厚のナイフ@現実、魔獣変化ヘカトンケイル@アカメが斬る!
[道具]:なし
[思考]
基本:会場に巣食う悪を全て殺す。
0:島村卯月を最後まで守る。
1:悪を全て殺す。足立透は必ず殺す。
2:エスデスとも合流したいが……。
3:エンブリヲと会った場合、サリアの伝言を伝えて仲間に引き入れる。
4:ナイトレイドは確実に殺す。
5:方法を選ばず、高坂勢力を潰す。ウェイブは回収する。
6:ウェイブは何とか説得したいが、応じない場合は……。
7:都市探知機が使用可能になればイェーガーズ本部で合図を上げて、サリアを迎え入れる。
[備考]
※十王の裁きは五道転輪炉(自爆用爆弾)以外没収されています。
※他の武装を使用するにはコロ(ヘカトンケイル)@アカメが斬る!との連携が必要です。
※殺人者リストの内容を全て把握しました。
※都市探知機は一度使用すると12時間使用不可。都市探知機の制限に気付きました。
※他の参加者と情報を交換しました。
友好:エンブリヲ、エドワード
警戒:雪ノ下雪乃、西木野真姫
悪 :後藤、エンヴィー、ラース、プライド、キンブリー、魏志軍、アンジュ、槙島聖護、泉新一、御坂美琴
※穂乃果が勢力を拡大しているのではと推測しています
※承太郎と軽い情報交換をしています。少なくともヒースクリフとエスデスの居場所は掴んでいます。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ウェイブの未確認支給品のひとつはグリフシードです。
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。



【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:悲しみ、セリューへの依存、自我の崩壊(中)、精神疲労(極大)、『首』に対する執着、首に傷
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!
[道具]:ディバック、基本支給品
[思考]
基本:元の場所に帰りたい。
0:セリューに着いて行く。自分の価値を失くしたくない。
1:セリューと行動を共にする。
2:セリューに助けてもらう。
3:凛ちゃんを殺した人をセリューに……?
4:死にたくない。
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※渋谷凛の死を受け入れたくありませんが、現実であると認識しています。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※自分の考えが自分ではない。一種の自我崩壊が始まるかもしれません。
※『首』に対する異常な執着心が芽生えました。
※無意識の内にセリューを求めています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。


871 : Puella in somnio ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:45:07 1KOXsU/Q0
【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康 深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
0:しまむーとマスタングさんと共に行動する。
1:しまむー…
2:セリューに警戒。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。





【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、迷わない決意、過去の自分に対する反省
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:ディパック、基本支給品、錬成した剣 即席発火手袋×10 タスクの書いた錬成陣のマーク付きの手袋×5
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:殺し合いを破壊するために仲間を集う。もう復讐心で戦わない。
1:セリューが暴走しないように見張る。どこで承太郎を療養させるべきか...
2:ホムンクルスを警戒。ブラッドレイとは一度話をする。
3:エンヴィーと遭遇したら全ての決着をつけるために殺す。
4:鋼のを含む仲間の捜索。
5:死者の上に立っているならばその死者のためにも生きる。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。
※並行世界の可能性を知りました。
※バッグの中が擬似・真理の扉に繋がっていることを知りました。

【タスクの書いた錬成陣のマーク付きの手袋】
マスタングがタスクに書かせた錬成陣マーク付きの手袋。
タスクが錬金術を理解しておらず、錬成陣が完全ではないためこの手袋では発火できない。要するにただの手袋。




【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:出血(絶大)腹に斬傷(止血済み) 胸部に斬傷(止血済み) 疲労(極大)精神的疲労(極大)全身に切り傷とマハジオダインのダメージ 気絶
[装備]:DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:デイパック、基本支給品、手榴弾×2、グリーフシード(使用不可)×3、『このラクガキを見て うしろをふり向いた時 おまえは 死ぬ』と書かれたハンカチ
[思考・行動]
基本方針:主催者とDIOを倒す。
0:早急に足立を追いぶちのめす。
1:......
2:情報収集をする。
3:首輪解析に役立つプロを探す。
4:後藤とエルフ耳の男、マスタング、キンブリー一味、ブラッドレイ、魔法少女やそれに近い存在を警戒。
【備考】
※参戦時期はDIOの館突入前。
※後藤を怪物だと認識しています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※魔法少女の魔女化以外の性質と、魔女について知りました。
※まどかの仲間である魔法少女4人の名前と特徴を把握しました。
※エスデスに対し嫌悪感と警戒心を抱いています。
※セリューと軽い情報交換済みです。少なくともマスタング、キンブリー一味、ブラッドレイは知ってます。


※ほむらのデイパック、基本支給品、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!、まどかの死体が付近に落ちています。


872 : Puella in somnio ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:49:32 1KOXsU/Q0


「はあっ、はあっ...」

全身が痛む。ここに連れてこられる前に『あいつ』に斬られた時と同等かそれ以上の激痛が足立を苛む。
客席に横になり、どうにか息を整えようとする。

「クソッ、あの化け狗女...最後の最後で余計なことしやがって」

ギリギリだった。本当に危なかった。
コンサートホール、駅に着く前の戦闘、そして駅での戦闘。
激戦に次ぐ激戦は、足立の体力を限界寸前にまで浪費させていた。
もしあのままセリューと戦っていれば、足立は確実に死んでいただろう。
事実、最後のマハジオダインで体力はほとんど使い切ってしまったし、全身を包む倦怠感と虚脱感がそれを物語っている。


「けどまあ...いいかぁ。厄介なクソガキ二人を始末できたしなぁ」

承太郎。あれで死なないとは考えたくない。
だが、どちらにしてもだいぶ痛めつけてやった。死んでいなくてもあの重体だ。ロクに動けるはずもない。
ほむら。あいつは死んだ。確実に死んだ。
ヒースクリフが持っていたグリーフシードとかいうのがあれば、あいつはあの妙な移動方法で殺しにかかってきたはず。
だというのに、死んだふりまでしていたのはおそらくグリーフシードを持っていないからだろう。
万が一にも奇跡が起き生きていてもあの惨状だ。あくまで頭だけを吹き飛ばされたまどかとは違い、下半身が消失したほむらは、五体満足で生き残るのは不可能だ。
それならば、大した脅威にはならない。

デイパックから水鉄砲を取り出し、かちかちとトリガーをひき、喉を潤していく。

(...首輪を集めれば、か)

放送で広川が提示した首輪交換制度について思いを巡らせる。
足立がここまでで殺した人数は全部で三人。少なくとも二人。しかもそのどれもが一般人からは程遠い化け物どもだ。
にも関わらず足立は特典を貰えない。なぜか。首輪を持っていないからだ。
即ち、この特典を利用するためには積極的に殺しにまわるより、如何にして首輪を得るかが重要になってくる。
極論をいえば、敵を殺して首輪を回収しても、首輪交換機とやらに入れる前に横取りされれば誰も殺していない者が特典を得ることになるのだ。


(ホント、面倒なことしやがって。どうせなら何人殺したかで特典をつけろや。やっぱ広川クソだな)

自分への見返りが何もない特典への毒を吐きながら、足立透は休息へと身体を傾けた。




【D-7/一日目/電車内/日中】

【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(極大)
[装備]:MPS AA‐12(残弾4/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率、フォトンソード@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み) 警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:対主催に紛れ込んで身の安全を確保する。無理ならゲーム肯定派と手を組む(有力候補は魏志軍)。
1:ゲームに参加している鳴上悠・里中千枝の殺害。
2:自分が悪とバレた時は相手を殺す。
3:隙あらば、同行者を殺害して所持品を奪う。
4:エスデスとは会いたくない。
5:DIO...できれば会いたくないし気が進まないけど、ねぇ。
6:しばらく交戦は避けたい。休みたい。
7:殺人者名簿を上手く使う。
8:広川死ね!
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。


873 : ◆dKv6nbYMB. :2015/10/28(水) 10:50:15 1KOXsU/Q0
投下終了です。


874 : 名無しさん :2015/10/28(水) 12:24:07 oQiGpDzM0
投下乙です。
◆4BAstd0IF.さんいらっしゃいましたら至急議論スレのチェックをお願いします。


875 : 名無しさん :2015/10/28(水) 12:28:48 ZU1UlWI.0
投下乙
遂にエスデスとDIOが戦ったか!
どっちも格を落とさない全力戦はお見事!
ジョナサンに言及するDIOもまたいい味が出てます
杏子は肉の芽から開放されて本当に良かった
エド達は御坂を止めるために頑張ってもらいたい


876 : 名無しさん :2015/10/28(水) 17:43:32 0vYYOAFc0
お二人とも快作投下乙です!

エスデスTUEEEE!DIO様も活き活きとしておられる。二人とも楽しそうで素晴らしい…
ブッ潰れよのところはちょっと笑ってしまった。どっちも満面の笑みだったんだろうなぁ
ニーサンマジヒーロー、まどか勢って本質的にはヒーローや正義の味方に憧れてるからなぁ…
対御坂同盟として頑張って貰いたい

狡噛さんカッコいいヤッター、ほんと安定してるなぁこの人
そして足立大暴れ、承りをボコボコにするとは…マガツイザナギのッパネーっぷりは
しまむーはもう破滅しか待ってないんだろうなぁ
セリューさんがここからどうなるかこれからも目が離せない


877 : 名無しさん :2015/10/29(木) 17:41:05 kWXZSxLo0
投下乙です

まさにエスデスの独壇場ッ!!「もう時は動いているぞ」は痺れた
DIO様はかっこつけてるけどまったく休めてなくて笑う。休んでもええんやで
72人もいればニーサン見たいなお人よしもいるわけで…杏子ちゃんのこれからに期待

ほむほむ脱落かーまどかの死体に最後触れなかった彼女の心中や如何に
足立はイキイキしてるなぁ、承りへの糾弾は足立節が炸裂してて震えた
メンタルフルボッコなセリュー、るるるな島村さんなど不安要素マシマシすぎるw


878 : 名無しさん :2015/10/30(金) 15:29:31 rSEL/tKM0
投下おつかれさまです。
まさかのラスボス同士で本気で殺し合うとは思わなかったw
DIO様はこっからどうやって動くのか・・・楽しみです。
あと議論スレで関係した議論があるので確認お願いします

ほむら脱落か、時止め勢が減り始めていく・・・。
主催バトルになったとき生き残ってるメンバーが気になってくるw


879 : ◆dKv6nbYMB. :2015/11/01(日) 00:48:23 5PTK0TMI0
投下します。


880 : Crazy my Beat ◆dKv6nbYMB. :2015/11/01(日) 00:49:59 5PTK0TMI0
ジョセフ・ジョースターは走る。

エドワードの壁の錬成により、ジョセフは彼を見失ってしまった。
始めは、アヴドゥルとコンサートホールにいる者たちと合流してからエドワードを探そうと思った。
しかし、ジョセフには不安要素があった。
後藤、御坂美琴―――そして、DIO。
まず、御坂が周囲に響くほどの雷を放たなければならないのは誰か。
自分が遭遇した中で当てはまるのは、後藤とDIO。
両者とも、御坂とは敵対している間柄であり、協力関係を結ぶ可能性も低いだろう。
しかし、敵の敵は味方...という言葉もある。
もしも、エドワードが一人で奴らと遭遇すれば、切り抜けるのは難しいだろう。
特に後藤やDIOは話が通じない相手だ。説得すら不可能。
対して、アヴドゥルの向かうコンサートホールは、承太郎、まどか、ついでに足立という刑事がいる。
何事もなければアヴドゥルは三人と合流でき、花京院について伝え、何事も無く済む。
仮に花京院がコンサートホールを攻めたとしても、承太郎が負けるとは考えにくい。
まどか―――何故だか魔法少女になっているらしいが、平行世界の関係だろう―――の行動によって結果は変わってしまうだろうが、それまでにアヴドゥルが辿りつくことを信じたい。
どちらに向かうのもリスクを伴っている。しかし、どちらがリスクの低い選択肢かといえば...

(...頼んだぞ、アヴドゥル)

彼が選択したのは、エドワードの後を追う事。
ジョセフは知っている。
アヴドゥルは頼れる男だ。時折、熱くなって周りが見えなくなることはあるが、冷静な時の彼は何よりも頼りになる。
それはスタンドの強さだけではない。
彼は、エジプトへ向かう旅の前にDIOに遭遇し、その恐怖を直に体験した。
それでも彼は自らの正義に従い共に戦ってくれた。
それほどにタフな精神を持つのが、モハメド・アヴドゥルという男だ。
彼ならば、コンサートホールで起こるかもしれない悲劇を回避できるはずだ。
ならば、自分はエドワードのもとへ向かうべきだ。
そんな、信頼とリスクの釣りあいを考え、ジョセフは選択した。

...そして、彼はこの選択を後悔することになる。



(クソッ、エドワードはどこへ行ったのだ!?)

探し回ること幾何か。
どこにもエドワードの姿はない。
そして、雷光も全く響かないためどこで戦闘が起きているかどうかもわからない。

(まさか、あの一撃で全てが決まってしまったのか?)

あれ以降雷光が響かないのは、結果はどうあれ決着が着いている可能性が高い。
例えば、御坂が後藤と遭遇していたとする。
あの雷撃はかなりの威力だ。いくら後藤といえどもまともに食らえば命の保証はない。
しかし、あれほどの力を出すということは。おそらく連続して発動するのは不可能。
一撃目さえやりすごしてしまえば、後藤なら隙をついて御坂を殺すことも可能だ。
そして、それはDIOにも同じことが言える。あの一瞬にして消える謎の移動方法があれば御坂を殺すことは充分にできる。
どちらにせよ早くエドワードと合流しなければ...

そんな時だった。


881 : Crazy my Beat ◆dKv6nbYMB. :2015/11/01(日) 00:51:45 5PTK0TMI0
「なっ...!?」

突如、南西の方角から雷光が迸る。

(馬鹿な!?なぜ御坂があそこにいる!?)

エドワードが北へと向かったのは、あの雷光を見たからだ。
即ち、御坂は北部にいる―――はずだった。

(まさかすれ違ったというのか!?くっ、なんて悪いタイミングで...!)

だが、南に御坂がいるということは、北部へ向かったエドワードは無事でいるはず。
ならば、一刻も早く合流し、御坂を追わねばならない。

(まて...あの方角は―――)

なにがあったか。
わかっているはずなのに、脳内が考えることを拒否しようとする。
だが、嫌な予感がするのは確かだ。
あそこにはなにがある、なにが―――

『コンサートホール、です』

サファイアの下した答えに、ジョセフは慌てて踵をかえす。

『ジョセフ様!』
「止めてくれるなよ、サファイア!」
『いいえ、止めません。すぐに向かいましょう!』

コンサートホールにはアヴドゥルや承太郎たちがいる。
花京院はコンサートホールへ向かったのか。
アヴドゥルは間に合ったのか。
承太郎たちは無事なのか。
あの雷光はなにをもたらしたのか。

それらを知るために、ジョセフは駆ける。


だが、『時』は彼を待ってはくれない。


882 : Crazy my Beat ◆dKv6nbYMB. :2015/11/01(日) 00:53:16 5PTK0TMI0

―――ザザッ

ほどなくしてノイズと共に語られるのは、知りたくもない知らなければならない現実。



『では禁止エリアの発表を行う。 この放送後に順次に侵入不可になるエリアは【C-6】【E-1】【G-1】だ』

放送が流れても、ジョセフの足は止まらない。
与えられる情報を無駄にしないよう、しっかりと脳内に刻み込んでいく。

『次に死者の名前を読み上げる』

広川は外で立ち止まることはお勧めしないなどとほざいていた。
しかし、立ち止まる暇などない。
こうしている間にも仲間たちが危機に陥っているかもしれないのだから。

『―――花京院典明』

「―――!」

呼ばれる名に、心臓が締め付けられるような感覚を覚える。
しかし、ジョセフは立ち止まらない。
既に、火の手が上がるコンサートホールが見えていたのだから。

『―――鹿目まどか』

「ッ...!」

呼ばれてはいけない名前が、また呼ばれた。
それでもまだ彼の足は止まらない。
コンサートホールに残る彼の仲間は、まだ彼の到着を待っているのだから。

そして、コンサートホールに辿りついたとき、彼は見つけた。

見つけて、しまった。


「―――ぉ」


地面に落ちている二つの手。
褐色肌の、逞しい両腕。



『―――モハメド・アヴドゥル』

「――――おおおおおォォォォォ!!」


戦友、モハメド・アヴドゥルの両腕を。


883 : Crazy my Beat ◆dKv6nbYMB. :2015/11/01(日) 00:55:09 5PTK0TMI0




ガッ ガッ

地面を殴りつける音が木霊する。
その音の主はジョセフ・ジョースター。
膝を着き、頭を垂れ、己の拳から血が出るほど殴りつけている。

ただ、悔しさに。悲しみに。怒りに身を任せて。
みくを失ったエドワードと同じように、彼はただ地面を殴りつけている。


(なぜ)

花京院典明。
此処に連れてこられる前からの大切な仲間だった。
彼がいなければ皆が死んでいたことも多くあった。
誠実で、勇気ある立派な少年だった。

(なぜだ)

鹿目まどか。
美樹さやかの友達で、とても優しい子だと聞いていた。
さやかと共に帰ろうと約束したのが、遠い過去のように思えてくる。



(なぜ彼らが死なねばならんのだ!)

モハメド・アヴドゥル。
エジプトで知り合った大切な仲間。
誰よりも、そして彼自身のスタンド以上に熱き魂を持っていた。
真っ直ぐで正義感溢れる男だった。




皆、未来ある若者たちだ。こんな場所で死んでいい者たちではなかった者たちだ。


「う...おおおおおおぉぉぉぉぉ!」

ガツン

一際大きな音を立て、ジョセフの拳はようやく止まった。


884 : Crazy my Beat ◆dKv6nbYMB. :2015/11/01(日) 00:56:14 5PTK0TMI0

『ジョセフ、様』
「...大丈夫。ワシは大丈夫じゃ」

ジョセフは息を荒げながら立ち上がる。

「...お前さんも、呼ばれたんじゃろう」
『...はい』

サファイアの知る名前。今は亡き己の本来のマスター、美遊・エーデルフェルトの友達であり、イリヤの家族でもあるクロエ・フォン・アインツベルンも放送で呼ばれていた。

『...ジョセフ様。私はこれほど自分が無力だと思い知らされたことはありません』

ここに来てから自分はなにが出来た。
自分がついていながら、キング・ブラッドレイに美遊を殺された。
自分がついていたから、美遊の護った園田海未は巴マミと共に死んでしまった。
自分がついていながら、御坂にみくを殺す隙を与えてしまった。
自分は生きていながら、イリヤにもクロエにも会うことはできず、結局クロエは死んでしまった。
もう、美遊に顔向けもできやしない、と自らの存在を恥じる。

「ワシもじゃよ。だが、それでも進まねばな」

アヴドゥルの両腕を拾い、燃えさかるコンサートホールへと近づけていく。

火葬。

死者を弔う方法の一つだ。

「すまなかった、アヴドゥル...いままで、ありがとう」


炎の弱い場所を進み、アヴドゥルの両腕を床に横たえる。
本来なら炎の中に投げ入れてしまえばすむことなのだが、アヴドゥルは長年来の親友だ。
そんな友の遺体をぞんざいに扱うことなど、ジョセフにはできなかった。

「...行くか」

踵を返し、コンサートホールを後にする。
その足が向かう先は、エドワードがいると思われる北部―――ではない。


885 : Crazy my Beat ◆dKv6nbYMB. :2015/11/01(日) 00:59:37 5PTK0TMI0
『ジョセフ様、そちらは』
「わかっておる。だがな、彼女が向かう可能性が高いのは南じゃ」

御坂は、能力研究所へ向かう前、図書館で戦力を募ると言っていた。
おそらく戦力にあてがあったのだろう。
それも、御坂と同じく殺し合いに乗った強力な戦力が。
ならば、止めなければならない。
御坂に隙を作り、殺し合いに乗らせてしまった責任をとらなければならないのだ。

『御坂様と出会ったらどうするつもりですか?』

サファイアの問いにジョセフは答えなかった。
否、言葉に出さずともその目を見ればわかる。
そして、こうなってしまった以上サファイアも彼の決意に反対はしない。
むしろ自分も同じ気持ちだ。
ならばこれ以上の言葉は不要。
ジョセフはサファイアと共に、南へとその歩みを進めようとした。


その時だ。





「!?」


突如、轟音が鳴り響く。
何事かと目を向ければ、そこに広がるのは信じられない光景。
スタンドも月までブッ飛ぶような衝撃を憶えた。

目算50m以上の氷柱が隆起し、建物を破壊している。
それだけではない。
なんとその氷柱がへし折れたかと思えば、宙へと持ち上がり、まるで棍棒のように振り回されているではないか!

(オー、ノォー!!ワシはスーパーマンでも見ておるのか!?)

アメリカンコミックさながらの光景を見つつ、ジョセフはその心当たりを考える。
あの巨大な氷柱。ジョセフの心当たりはエスデスとジャック・サイモン。
後者は本名がわからないため、生死不明となっているが、あんなふざけた量の氷を操ることはできないはずだ。
だとすれば、あそこで戦っているのはエスデスに違いない。
そして、怪力を備え、雷光を伴わず、エスデスですらあれほどの力を出さざるを得ない強者といえば...

(間違いない、あそこにいるのはDIOじゃ!)

DIOとエスデス。
両者が強いことは身を持って思い知っているが、それでも彼らの戦いがあれほどのものとは思ってもいなかった。
そして、あれほど派手に暴れれば、間違いなくエドワードはあれのもとへと赴くはず。

そう確信した瞬間、巨大な氷柱が巨大な轟音と共に砕け散り、氷の破片が、水が、冷気を伴った暴風がコンサートホールへと降り注ぎ、その火の勢いを瞬く間に弱めていく。

(冗談じゃない、あんなのに巻き込まれれば一溜りもありゃせんぞ!)

南へと進めていた進路を急きょ変更。
ジョセフは北部へと向かって走りだした。


886 : Crazy my Beat ◆dKv6nbYMB. :2015/11/01(日) 01:00:27 5PTK0TMI0


北部へと走りながらジョセフは思う。

(少々オイタが過ぎたのぉ、お嬢ちゃん)


アヴドゥルの腕の切断面には、焼き焦げた跡がついていた。
そんな跡ができるのは、炎や雷など熱を発するものでしかありえない。
加えて、先に発見した雷光だ。
アヴドゥルが自殺でもしない限りは、下手人は御坂美琴で間違いないだろう。
彼女は、完全にゲームに乗ったと考えるべきだ。
そして、アヴドゥルと御坂にはなんの関連性も無かったはずだ。
なんの躊躇いも無く、目につく者全てを消し去ろうとするのなら。
その対象が、かつての友であろうとも関係ないのなら。
彼女はもう打ち倒すべき敵だ。

(すまんのお、初春...お前さんとの約束は果たせんかもしれん)

ジョセフがエドワードとの合流を後回しにしようとしたのは理由がある。
ジョセフは御坂を止めるつもりでいる。それはエドワードと同じであり、本来ならば彼と合流した方が心強い。
だがしかし、彼と決定的に異なる覚悟がある。
それは、エドワードは決して『殺さない覚悟』を持っており、ジョセフには場合によっては『殺す覚悟』を持っていることである。
おそらく、エドワードと共に御坂に立ち向かい、彼女を押さえることができたとしても、エドワードは決して御坂を殺さないだろう。
だがしかし、その隙を突かれてエドワードと自分が殺される可能性も充分にある。。
御坂が殺しに乗ってしまった責任は自分にある。
だからこそ、この手で止めねばならないのだ。


相手は子供とはいえ、最強ランクの強者。

百年前からの因縁を抱えた吸血鬼にも。

冷静と激昂の怪焔王にも。

古代から来た風纏う天才戦士にも。

全ての生物の頂点を追い求めた石仮面の創造者にも。

今までの『最強』たちにもひけをとらない強敵だ。

(だが―――いつものことだ)

彼の戦いはいつもそうだった。
一見無謀とも思える戦いの連続だった。
しかし、策をろうじて切り抜け、理不尽ともいえる不利を覆し、勝利を掴みとってきたのがジョセフ・ジョースターという男だ。

(久しぶりじゃな...メラメラと湧き上ってくる、この気持ちは...『仁』という気持ちは)

花京院典明。モハメド・アヴドゥル。
戦友二人の死を経て、彼の精神テンションはいま、全盛期のあの頃へと戻っていた。

幾多の『最強』と戦ってきた、血気盛んな戦士だったあの頃へと。


887 : Crazy my Beat ◆dKv6nbYMB. :2015/11/01(日) 01:01:19 5PTK0TMI0

【D-2/一日目/日中】

※コンサートホールの屋根はあまり残っていませんが、炎はだいぶ収まりました。



【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中) 、ダメージ(中) 仲間たちを失った悲しみ アヴドゥルを殺された怒り
[装備]:いつもの旅服。
[道具]:支給品一式、三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、市販のシャボン玉セット(残り50%)@現実、テニスラケット×2、
カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ドミネーター@PSYCHO PASS-サイコパス-(電池切れ) 食蜂操祈の首輪
[思考・行動]
基本方針:仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡吹かせる。
0;衝撃の会った場所(D-1)へと向かい、エドワードの安全を確保してから南へ向かう。単身で向かうか、チームで動くかは保留。
1:御坂を止める。最悪、殺すことも辞さない。
2:仲間たちと合流する。
3:DIOを倒す。
4:DIO打倒、脱出の協力者や武器が欲しい。
5:さやかが気になる。
[備考]
※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。
※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。
※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。
※殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語で認識されると考えています。
※初春とタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※時間軸のズレについてを認識、花京院が肉の芽を植え付けられている時の状態である可能性を考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。



[サファイアの思考・行動]
1:ジョセフに同行し、イリヤとの合流を目指す。
2:魔法少女の新規契約は封印する。


888 : ◆dKv6nbYMB. :2015/11/01(日) 01:01:59 5PTK0TMI0
投下終了です


889 : ◆dKv6nbYMB. :2015/11/02(月) 10:09:42 UBuiS9CA0
投下します


890 : 新たな力を求めて ◆dKv6nbYMB. :2015/11/02(月) 10:11:52 UBuiS9CA0
広川の放送を聞き終え、後藤はそれを脳内で反芻する。

(俺の知る中で強者と呼べる名は『ノーベンバー11』『婚后光子』『クロエ・フォン・アインツベルン』のみ。ノーベンバー11は俺が殺した。だが、後の二人は何故死んだ?)

光子とクロエとは、戦ってほとんど時間が経過していない。
だと言うのにあの二人を殺すことが出来る者がまだいたというのか。
だとしたら、どうやって。

(まあいい。奴らを殺した者に会ってから判断すれば問題ない)

後藤は獲物への執着を残さない。
例え、いくら強力な力を持っていようとも。
例え、それが自分への脅威であったものだとしても。
生物は死ねばそれだけのものだ。
そこになんら灌漑を憶えることはない。
再戦を望んだ獲物が殺されれば、殺した者を殺せば済む話だ。

そして、広川の提示した首輪交換制度。
後藤はこれに大した魅力を感じなかった。
後藤の知りたい情報は参加者、特に吸収対象である泉新一と田村怜子、そして幾度となく自分を退けてきた黒(ヘイ)、DIOくらいのものである。
しかし、参加者の場所は首輪探知機を見ればわかることであり、それが目的の人間でなくとも避ける道理は見当たらない。
かといって首輪を入れて下手な武器と交換されても困る。生半可な武器を扱うくらいならこれまでのように己の身体だけで戦った方がいい。

(尤も、いまの俺では"今まで通り"は不可能だがな)

後藤はいままで、躱せない/躱す必要のない攻撃は強固なプロテクターで防いできた。
しかし、それは寄生生物が五体分、それも両手足と頭部全ての寄生生物を統一できることが前提の戦法だ。
いまの後藤の身体には四体、しかもそのうち二体は破壊された心臓の修復にあて、身体に散らばった状態になってしまった。
現在統治できているパラサイトは頭部の『後藤』と左腕の一体だけ。
代償として素晴らしい身体能力を手に入れたが、今まで通用しなかった攻撃も命取りになるだろう。

例えば、此処に連れてこられる前に戦った自衛隊によるショットガンのような銃撃。
例えば、承太郎の操る人形による強烈な打撃。
例えば、黒や槍を操る女のような刃物による斬撃。
例えば、ペットショップやノーベンバー11のような物理的な能力に近い異能。
例えば、調律者と名乗る男のような瞬間移動。
例えば、DIOのような認識外からの攻撃を加えることができる異能。


盾を使って受け流す、プロテクターで身体を守る。それができたからこそ、後藤は相手の動きを観察し見切る余裕があった。
だが、今までさして脅威でなかった力も、文字通り必死になって避けなければならないというわけだ。
黒やライフルの少女のように、先を読んで敵の攻撃に当たらないように避ける。
後藤も異能に対しては練習してきたが、やはりそれでも幾度かは受けてしまった。
これが銃火器のような物理的な力に対しても意識が広がれば、あっけなく攻撃を受けてしまうだろう。


891 : 新たな力を求めて ◆dKv6nbYMB. :2015/11/02(月) 10:13:48 UBuiS9CA0
(今の俺に足りないものは―――やはり経験だ)

実践に勝る経験はない。
後藤にとって、このような身体で戦うのは初めての経験である。
一通り身体を動かして力を試してみたが、それはあくまでも身体の調子を確認しただけ。
敵を仮想し脳内シュミレーションするのは大切なことではあるが、それは自分がどの程度の相手にどの程度戦えるのかを把握してこそ意味がある。

(こんな有り様で奴と戦えばあっけなく殺されるだろう)

後藤の指す"奴"。黒(ヘイ)。
おそらく付近のエリアにいるのは間違いなく、首輪探知機を使えば再び会いまみえることはできるはずだ。
しかし、未だに己の力を把握できていない現状で黒と戦えば、今度こそあの電流を死ぬまで流されるだろう。
勿体ない気もするが、いまは黒との戦いはお預けだ。奴との戦いはこの身体に慣れてからだ。

(勿体ない...?俺はなにを言っている)

ふと、自分の中に渦巻くものに違和感を覚える。
後藤にとって闘争は本能である。
より強い敵を求め、より工夫された技を己の身に刻み込む。
そうしていくことによって、己を『最強』へと成長させ、己に害なす者を排除していく。
後藤の敵はその糧であり、未練も執着も持ち合わせていない。
そのため、再戦したいと思っていた者が殺されてもそいつを殺した者を殺せばそれでいい。
その筈なのに、黒との戦いを逃してしまうことを惜しく思ってしまう。

(...どうやら、俺はあの男を大きくし過ぎてしまっているらしい)

黒とはもう三回も戦っている。
黒は確かに強者だが、どの戦闘でも黒一人なら確実に殺せていた。
実際、黒の異能は殺傷能力こそ高いものの、DIOのように感知不可能なものではなく、身体能力も後藤の方が上回っていた。
殺せなかったのは彼の周りにいる者たちの力があってこそだ。
しかし、現実に彼は未だに生きている。
そして、このままでは黒を殺せないというイメージを後藤に焼き付けている。
黒の存在はいま、後藤にとっての壁となっていた。

(当面の目標は...奴だな)

後藤は走り始める。
向かう先は西。
田村怜子は後回しにする。
欠けた寄生生物の補充も大切だが、それ以上に、尤もいまの自分に近い存在と戦い身体を慣らしておきたい。
奴の戦い方を学ぶことも重要だろう。
高い身体能力を持ち、片腕に寄生生物を宿した獲物。
それでいて、数多くの寄生生物と戦い生き延びてきた獲物。


即ち―――泉新一。


【F-6/1日目/日中】


【後藤@寄生獣 セイの格率】
[状態]:寄生生物一体分を欠損、寄生生物二体が全身に散らばって融合
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、スピーカー
[思考]
基本:優勝する。
0:西に向かいひとまず泉新一と戦い奴の戦闘を学ぶ。黒との戦いは後回しにする。
1:泉新一、田村玲子に勝利し体の一部として取り込む。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。
5:田村怜子・泉新一を探し取り込んだ後DIOを殺す
6:黒、黒子とはこの身体に慣れてからもう一度戦いたい。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。
※黒い銃(ドミネーター)を警戒しています。
※百獣王化ライオネル@アカメが斬る! は破壊されました。
※寄生生物二体が全身に散らばって融合した結果、生身の運動能力が著しく向上しました。
※寄生生物が一体になった影響で刃は左腕から一つしか出せなくなりました。全身を包むプロテクターも使用できなくなりました。
※ミギーのように一日数時間休眠するかどうかは不明です。


892 : ◆dKv6nbYMB. :2015/11/02(月) 10:14:22 UBuiS9CA0
投下終了です


893 : 名無しさん :2015/11/02(月) 20:10:15 H/FVr6jk0
投下乙です
ジョセフはこういう路程を通っていたか。サファイアもいろいろ辛いわな

そして、後藤さんは黒との因縁が強くなってきたな。新一逃げてー


894 : 名無しさん :2015/11/02(月) 21:35:16 U/EwrmOQ0
二連投下乙ですー

ジョセフはまぁそうなるよなぁ
殺そうとするジョセフ、救おうとするニーサン。ビリビリとの結末や如何に

後藤さんはただ戦いに生きるって感じでブレないなぁ、黒さんをライバル視してるがこの因縁はどうなるか
そして新一逃げて超逃げて


895 : ◆dKv6nbYMB. :2015/11/07(土) 00:20:40 M7D3.mIM0

本日、チャットにて意見が出ました。

【予約期間について】

予約期間は12日、延長は2日の計14日とする。なお、三作以上投下されていない書き手については、予約期間を10日とする
何事もなければ9日(月)の予約から反映とします。

意見等ある方は書き込みをお願いします。

なお、議論にチャットに参加していた書き手は次のとおりです。

◆fuYuujilTw ◆dKv6nbYMB ◆BLovELiVE. ◆w9XRhrM3HU ◆BEQBTq4Ltk(敬称略)


896 : 名無しさん :2015/11/07(土) 22:29:14 30q4TpYY0
上記のとおり予約期間について一つ提案がありますので確認お願いします

短いですが投下します


897 : 奈落の一方通行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/07(土) 22:30:44 30q4TpYY0

流れる放送で特筆すべき点は首輪交換制度になる。
停車中の電車内で耳を傾けていたキンブリーとエンヴィーの表情は固くも緩くもない。
彼らにとっての大切な存在が会場に招かれている訳でもなく、誰が死のうが感情が揺らぐことなどない。

「鋼のオチビさんは呼ばれてないのか」

気になる点と云えばアメストリスで散々交戦を重ねてきた錬金術師ぐらいだろう。
知り合いの名前も半数がホムンクルス側の人間であり、例え彼らが死んでもどうでもいい。

「きっと彼の信念を守り抜いて行動していることでしょう。
 常識も倫理も価値観も通じないバトル・ロワイアルでどこまで貫けるか見ものですね」

エンヴィーの声に対しキンブリーは微かに嗤いを含んだ声を飛ばす。
敵であれどエドワード・エルリックの持つ信念と貫き通す意思は美しい。
人間の枠に収まる彼が殺し合いを打破するべく、通常に機能しているならさぞ潰しがいがあるだろう。
電車の中には彼らの声が響く。少女と犬の骸は何も話さない故に。

「それにマスタング大佐とウェイブも……高坂穂乃果に花陽って呼ばれてた女と………………」

「瞬間移動を操る少女……黒子と呼ばれていたことから白井黒子。
 まさか誰も死んでないとは……運が良いのやら悪いのやら解りませんね」

「せっかくマスタングの奴に罪を擦り付ける形で一人殺したのにつまらないなぁ」

「今更たった一人の人間を殺したぐらいで揺らぐ存在でも無い話ですね。
 イシュヴァールを生き抜いた彼なら尚更だ。一緒に居たウェイブも白井黒子も本質は知りませんが状況をちゃんと理解していた」

鋼の錬金術師ともう一人招かれている敵が焔の錬金術師――ロイ・マスタングである。
一度、エンヴィーは二度であるが交戦を重ねており、その一団は誰一人として死んでいないようである。
あの場では氷を操る鳥と奇妙な触手を操る男も襲来していたが、随分と運の良いことだ。

「つまらないなぁ……人間ならそのうざったい感情に駆られて憎しみで殺せばいいのに」

「生と死に隣り合わせで立っていない高坂穂乃果と小泉花陽の二人しか取り乱すことは無いでしょう。
 一緒に行動しなくても彼女達をフォローするか、マスタング大佐と引き離せば表面上は回復の兆しを見せますからね」

参加者も絞りを掛けられてくる半日が経過している中、交戦した集団から死者が出ていないのは少々驚きとエンヴィー。
しかしキンブリーは想定通り……かどうかは不明だが、何も感情を示さない。

(このまま生きていくのもまた彼らの人生……散るまで精々足掻いてもらいましょうか)
「さて、このまま電車に乗れば首輪交換制度の場所である闘技場まで行けますね」

話題を変え主催から提案された首輪交換制度。

「首輪を持っているのはお前だろキンブリー、試すのかい?」


「それなんですが……エンヴィー、貴方は一人で闘技場に向かってもらいたい」


予期せぬ提案に固まるエンヴィーは黙って話の終わりを待つ。


898 : 奈落の一方通行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/07(土) 22:31:38 30q4TpYY0


「このまま二人仲良く電車に乗っていても面白みも何も無い。
 手を組んでいるならば別れて行動するのも悪く無い……天城雪子の首輪は貴方に渡します。
 少々惜しいですが私には八房で得た二体の骸がある……つまり首輪を二つ所有していることと同義」

「別に構わないけどお前はこれから何処に行くんだよ」

「電車から降りれば民宿が見えますよね。建物を探索した後は北上しようかと」

キンブリーの提案に特段反対する意見は無い。
どう行動しようが勝手であり、共に動いていたのも同胞の好に近い。

興味も何も無く、どうでもいいと云った表情を浮べながらエンヴィーはキンブリーから天城雪子の首輪を受け取る。

「大佐に焼き殺された次は武器と交換か……全く同情するよお前には」

皮肉の一つを零しつつ天に居るであろう彼女に嗤う。

「首輪交換制度ですが主催と接触出来るなら情報を聞き出して置いてください」

「それぐらい解ってるさ。それで、次の合流はどうする」

「私も北上のついでに武器庫に趣き首輪交換制度を試すつもりでいます。
 両者の中間地点から考えるに……次の放送を終えた四回目の放送時に図書館で待ち合わせといきましょう」

決まりだね、言葉を返したエンヴィーは座席に座り込み足を組む。
外を見つめると北から煙が上がっており、何処も争い事に欠けないようだ。

扉に手を翳し外へ出ようとするキンブリーは一瞬止まると、

「私の錬成で直ぐにこの電車を動かしましょう。
 それでは――何に祈るかは解りませんがまた会う日まで」

それだけ言い残し、彼を追うように骸が付いて行く。








「これで電車は動き出す」

錬成エネルギーを流し込まれた電車は間を置かずに東へ走り出した。
見送るキンブリーが目指す場所は近場にある民宿。主に散策をメインとする短い滞在になりそうだ。

北から上がっている煙を見れば流石はバトル・ロワイアルと言うべきか、どこもかしこも騒乱に満ちている。
電車に乗っているだけでは興が削がれてしまう……と、此処で一つ想定外の出来事が発生する。

「おやおや別の車両に誰か乗っていましたか……これは彼に悪いことをしてしまった」

走り去る窓に一人の男性が映る。
今となってはどうでもいいことだが、悪いことをしてしまったと感情の篭ってない謝罪が風に消える。

ホムンクルスと同じ電車に乗っている……一般人ならば考えるだけでも恐ろしい。

「人が簡単に消えて行く会場で貴方達はどうしますかね」

お父様の元に強力するホムンクルスを相手に戦ってきた二人の国家錬金術師。
色や性質は違えど両者共に、芯を持っている強い人間だ。

「私達も知り得ない規格外の人外が蔓延る中で何処まで人間は抗えるのか」

前を歩くキンブリーの背後には二体の骸が黙って付き添う。
言葉も感情も持たないが、強さは一級であり、死体の面から見ても最悪の兵器と云えよう。

「その信念を何処まで貫けるか……樂しみにさせてもらいます」

民宿の扉を開けても、人の気配は感じない。
潜んでいる可能性もあるが、危険が無い場所などあり得ない。



「それはそうと……貴方も私達と同じ立場の参加者ですからね。
 自分だけ賢者の石で回復――とは卑怯だと思いませんかね、ホムンクルス」



キンブリーの声が風と共に東へ流れる。
その先は電車、彼が錬成エネルギーを流し込んだ電車。

総ては平等に――少しの遊び心で時限爆弾に錬成し直した電車。


「別に此処まで来て貴方達と協力する義もありません」


899 : 奈落の一方通行 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/07(土) 22:32:50 30q4TpYY0


【東に向かう電車内/1日目/日中】


※キンブリーによって電車が爆弾と化しました。
※爆発時間はおよそ二時間後。
※但し、衝撃等外部からの干渉で爆発する可能性あり。


【エンヴィー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ニューナンブ@PERSONA4 the Animation、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[道具]:ディパック、基本支給品×2、詳細名簿、天城雪子の首輪
[思考]
基本:好き勝手に楽しむ。
0:闘技場で首輪交換制度を試す。
1:色々な参加者の姿になって攪乱する、さしあたってはウェイブ。
2:エドワードには……?
3:ラース、プライドと戦うつもりはない、ラースに会ったらダークリパルサーを渡してやってもいい。
4:強い参加者はキンブリーに大佐たちの悪評を流させて潰しあわせる。
5:キンブリーとは四回放送時に図書館で合流。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※電車の爆弾化には気付いていません。


【D-7・民宿入り口/1日目/日中】


【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)、高揚感
[装備]:承太郎が旅の道中に捨てたシケモク@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ
[道具]:ディパック×2 基本支給品×2
    躯爆弾・クロメ@アカメが斬る! 帝具・死者行軍八房@アカメが斬る!、躯人形・イギー@現地調達 流星の欠片@DARKER THAN BLACK 黒の契約者
[思考]
基本:美学に従い皆殺し。
0:北上した後、武器庫で首輪交換制度を試す。
1:民宿を調べる。
2:ウェイブと大佐と黒子は次に出会ったら殺す。
3:少女(婚合光子)を探し出し殺す
4:首輪の解析も進めておきたい。
5:首輪の予備サンプルも探す。
6:余裕があれば研究所と地獄門を目指す。
[備考]
※参戦時期は死後。
※死者行軍八房の使い手になりました。
※躯人形・クロメが八房を装備しています。彼女が斬り殺した存在は、躯人形にはできません。
※躯人形・クロメの損壊程度は弱。セーラー服はボロボロで、キンブリーのコートを羽織っています。
※躯人形・クロメの死の直前に残った強い念は「姉(アカメ)と一緒にいたい」です。
※死者行軍八房の制限は以下。
『操れる死者は2人まで』
『呪いを解いて地下に戻し、損壊を全修復させることができない』
『死者は帝具の主から200m離れると一時活動不能になる』
『即席の躯人形が生み出せない』
※躯人形・イギーは自由にスタンドを使えます。
※千枝、ヒルダと情報交換しました。


900 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/07(土) 22:34:02 30q4TpYY0
投下終了です


901 : 名無しさん :2015/11/08(日) 00:17:32 bTZ/sssY0
投下乙です。
ロクなことしねえなキンブリーw
爆弾電車とエンヴィーという嫌がらせに乗り合わせてしまったのはどこのキャベツなんでしょうかねぇ

気になった点がいくつかあります

キンブリー達の電車の時間について
第二回放送直後、千枝たちはF-8からC-8まで2時間以内に着いています。
それに対して、キンブリーたちが現在いる場所は千枝たちの半分の距離です。
キンブリーたちが乗ったのは午前の時間帯であり、千枝たちの半分の距離を2時間以上かけて進んでいることになります。
徒歩での移動ならともかく、電車ではこの時間のズレは生じないと思います。
また、放送まで電車で待っていたとしても、疲労の少ない二人が民宿も散策せずに一時間以上もD-7で待つ理由もないと思います。


電車に乗り合わせたのは足立だと思いますが、キンブリーと同じ距離を倍以上の速さで進んでいることになります。
ほぼ死にかけなのに休まずにすぐ別の電車に乗ってることになりますし。

以上気になった点の指摘となります。


902 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/08(日) 00:26:39 ZL2m4L2M0
>>901
○キンブリーとエンヴィーは民宿散策してから電車に戻った
○本編(投下したものと同一)
○キンブリー「やっぱ電車から降りる」

みたいな流れに修正しようと思います。
大幅な追加はないと思いますので本来の期限中に修正スレに投下します。


903 : 名無しさん :2015/11/08(日) 10:47:32 re7UlDSA0
投下乙です

足立www


904 : 名無しさん :2015/11/08(日) 17:07:03 7IXU1xhg0
投下乙です

キンブリーとエンヴィーは別行動か
電車を爆弾化するとはキンブリーもなかなかえげつないな
そして知らないところでとばっちりを受ける足立ェ


905 : ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:34:36 8XkTUNYY0
投下します


906 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:36:48 8XkTUNYY0

夢を…夢を見てたんだ。
夢の中のあの人は何時だって、強くて、正しくて、優しくて…
それでいて、誰よりも寂しがり屋だった。
それをあたしは良く知っていたハズなのに。
強情だったあたしは、あの人を自分から遠ざけてしまった。

いくら悔やんでも、もうあの人との間に新しい何かが生まれる事は決してない。
もしこの馬鹿げたゲームが始まった時に、何もかもかなぐり捨ててあの人ともう一度会おうとしていれば、もしかしたら会えていたかもしれない。
でもそんな事はもう知りようの無い事。

今となっては、まどかも、あの人――マミさんも死んでしまったんだから。
もう、ユメの中でしか、会えない。



けど、何でかな…うっすらと目を開けてみればマミさんが居るような気がしたんだ。
視界の端に、マミさんと同じ金の髪が見えたからかもしれない。
それに気づいたあたしはいてもたってもいられず、目を見開く。
でも、やっぱり夢は夢で…




どこにもマミさんは居なかった。
変わりに居たのは、似ても似つかないチビで、

「なぁんだ……アンタか」



でも、不思議と悪い気はしなかった。





907 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:38:14 8XkTUNYY0

体を起こし、きょろきょろと辺りを見回す。
すると大の大人でもすっぽり納まりそうなベッドが目に入り、消毒液の匂いが鼻についた。

「ここって病院?」
「らしいな」

らしいな、と言うのは、エドワードの知る医療機関である病院とは大きく様子が違っていたからだろう。
無論、そんな事杏子は知る由は無いが。
そうして一通り見回し終わった後、猫の姿が無いことに気づいた。

「猫の奴は?」
「マオには、警報代わりに練成したでかい鈴尻尾に取り付けて出入り口の見張りをやって貰ってるよ。
 アイツならただの猫やってりゃ、この殺し合いに乗ってる奴もやりすごせるかもしれないからな」

事実、正規の参加者の証である首輪を持たない猫はただの猫のフリをしてDIOや御坂美琴をやり過ごしている。
最も、通常の猫ならば本来美琴の体内から放射される微弱な電磁波を避けるため、綱渡りな所ではあったのだが。

「あんたがここまであたし運んで来たのか」
「猫の奴は誰か来ても対応しやすい様に勝手口のソファーに寝かせろっつってたんだけどな…俺も一回鉄骨腹にぶっ刺さった事があって、ちゃんとしたトコで寝たほうが治りがいいと思ったんだよ」


「……そっか、助かったよ」


誰かに感謝の意思を示すというのは久方ぶりだった。
けれど、案外すんなりその言葉を口にすることができてよかったと思う。


908 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:38:58 8XkTUNYY0

だが、当のエドワードの顔は、どこか憂いを含んでいた。
ほっとしたような、苦虫を噛み潰したような、何とも図り難い表情だった。


「体はお前が勝手に治したみたいだし、礼を言われるべきなのは、俺じゃねえよ」

そう言って、杏子の枕元を指差す。
そこには一片の穢れの無い杏子のソウルジェムと、グリーフシードが4つ、置かれていた。

「俺は魔法、なんてのは門外漢だからよくわかんねぇけど、その賢者の石が
 濁っちまったらやべえんだろ」

そう言って話し続けるエドワードの顔は窓の外に向けられ、伺えなくなる。

「その賢者の石の汚れを取るグリーフシードってのは、みくのディパックに入ってたもんだ」

杏子にも聞き覚えのある名前だった。
記憶の糸を手繰り寄せ、一人の少女を導き出す。

前川みく
足を奪われ、幻想(ユメ)を奪われ、先ほど放送で呼ばれた少女だ。
目の前の少年が助けようとして、助けられなかったのであろう少女。

誰にも救われる事の無かった少女が遺した物が、自分を救ったのだ。
けれど、目の前で失われた少女の遺した物に縋るしか無かった少年の心中は、きっと。

合点がいってしまった。
故に、目の前のエドワードに何と声をかけていいのかが分からない。
相変わらず、顔は窓の外へと向けられていて、見えることは無い。


909 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:40:00 8XkTUNYY0


「―――悪い。俺はもう行くけど、お前はどうする?」


気を使わせたのを察したのか、言葉を切り出したのはエドワードの方だった。
どこへ?とは聞かなくとも分かる。
御坂美琴を”救い”、DIOを、広川を倒しに行くのだろう。
そして、どんなに傷ついても彼はその道を走り続けるだろう。

対する杏子は、どうすればいいのか、どうするべきなのかがもう分からなかった。
殺し合いに乗り、様々な参加者と戦った。
しかし結果は惨憺たる有様であり、一度は生きる事すら手放した。

「あたし、は……」

分からない。
これからも殺し合いに乗って槍を握ることを想像しようとすれば、
どうしてもあのエスデスと言う女の顔がちらつく。
あの女は自分が生きていると知れば、今度こそ殺そうとするだろう。
そう考えれば、死が少し先延ばしになっただけなのかもしれない。

どこか、諦観に近い感情が杏子の中で渦巻き、
溶けたはずの氷が心を再び覆っていた。


「―――あたしは、これからも一人で好きにやらせてもらうよ。
 助けてもらったのに悪いけど、さ」


違う。
こんな言葉を言いたかったのではないと人間の佐倉杏子が叫んでいた。
でも、自分のために戦い続けることを選んだ魔法少女の佐倉杏子はそれを否定する。

「あたしは、あんたみたいにもう誰も死なせないって戦える程、馬鹿じゃないんだ。
 あたしはあたしだけのために戦ってきたから――じゃあね」


エドワードは何も言わなかった。
そのままベッドから立ち上がると、杏子は自分のソウルジェムとディパックを掴みそのまま病室の扉へ向かって歩く、

そのままドアに手をかけた、その時だった。


910 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:40:47 8XkTUNYY0




「仲間にならねーか?」
「は?」



呆れた。本当に呆れた。
お前何処まで莫迦なんだと。

「その言い方だとどうせ具体的なアテ何て無いんだろ、
 それなら一緒に来いよ」
「いや、人の話聞いてたのか、テメェ?」
「別にお前が殺し合いに乗ってないならお前の生き方を邪魔する気も資格も俺にはねーよ。
 でも、お前には俺に借りがあるだろ。無いとは言わせねぇぞ」

何処までも真っ直ぐな金の両眼が杏子を見据える。

「これも俺が持っててもしょうがねぇし、お前にやる。
 でも等価交換だ。借りを利子含めて返済するまで付き合って貰う」

差し出されたのは、杏子が最も欲している物の一つのグリーフシードだった。
だが、彼女は手を伸ばせない。
ここで手を伸ばせていれば、巴マミを拒絶することも無かっただろう。
美樹さやかとももう少しマシな関係が築けたはずだ。

「……あたしが殺し合いに乗ってたって言ってもか?」

諦めて欲しかった。
自分のためだけに誰かを手にかけようとする。
きっと、このお人好し/馬鹿には一番許せないタイプの人間だと思ったから。


911 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:41:33 8XkTUNYY0

「今更そんな事でとやかく言う俺様じゃねえよ」

しかし、エドワード・エルリックは佐倉杏子の拒絶を一蹴した。

「大体、てめえ一人でガタガタ言ってたら御坂の奴はどうなるんだよ」
「あ……」

両腕を組み不遜に宣言するエドワード。
そんな彼を何とか魔法少女の佐倉杏子は否定したくて、言葉を叩きつけた。

ある意味で恐怖を感じていたのかもしれない。
だって世界は、何時だって理不尽で、報われなくて、救いようがない。
だからこそ、人は奇跡を求めて魔法少女は生まれる。
それがあの日から杏子の信じる現実だったから。

「あたしら魔法少女は魔女を倒す為だけの石ころだ!ゾンビみたいなもんだ!」
「それがどうした、俺は生き残るためならホムンクルスとだって組むぞ」
「もし、あたしが襲った参加者に襲われたらどうするつもりだよ!」
「そん時は一緒に頭下げるさ。軍の狗になった時点でプライドもくそもねえんだ
…いざとなったら、俺が時間稼ぐからその間に尻尾撒け」

エドワードの言っている事のおかしさを一言で表す語彙が存在しないのが悔しかった。

「………ッ!?」

抑えがたい衝動に駆られた杏子はエドワードのコートの襟を掴み、壁に叩きつける。
そのまま視線で殺さんとするかの様に睨みつけるが、
エドワードには寸毫の動揺も無かった。


912 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:43:04 8XkTUNYY0

「……あたしは、この場所に来てから、自分のためだけに殺し合いに乗った」

「もう聞いた」

「でも、ここじゃ何にも出来なかった、知り合いがただ死んでいくだけだった」

「俺も大して変わりはねえさ」

吐息がかかる距離で言葉が飛び交い、視線が交錯する。

「テメェとは違うッ!!あたしはあたしのためだけに力を使った、でも何もできなかった
何も掴めなかったんだよ…!」

後藤にはノーベンバ―11を殺されただけだった。
DIOには肉の芽を埋め込まれ、惨めにも下僕にされた。
エスデスには魔法少女として積み上げた研鑽を真っ向から打ち壊された。

「だから……!」

心中で自分はこんなにも弱かったのかと自嘲する。
誰かのために力を使うことは他でも無い父に否定された。
自分のために力を使う事は、自分が“喰われる”側に回った事で、それが本当に正しいのか、自信が持てなくなった。

「だから、こんな自分のために力を使っても何も掴めないような奴はアンタの足手纏いにしかならないよ――足手纏いは、必要ないだろ?」


何時しか、居なくなったはずの人間としての佐倉杏子が剥き出しになっていた。
エドワードには、そんな目の前の少女が寄るべき十字を失くした、迷子に見えて仕方なかった。
故に、力強く言葉を紡いでいく。

「これまで何も掴めなかったからって、これからも何も掴めないとは限らねぇだろ」
「………」

ぎりぎりと、自分の胸倉を掴む力は強まっていく。
息苦しさを感じながらも、それでも彼は身じろぎ一つしなかった。

「たとえ過程の段階で何も掴めなくても、最後に何かもぎ取って、
 自分の足で立って笑ってる奴がいたとしたら、そりゃそいつの勝ちだろ」

間髪入れずに言葉を付け加える。付け加え続ける。

「俺は、広川をぶっ潰す。二度とこんなくだらねえ茶番ができねえ様に、アイツの力を
 全部ブン獲って弟の――アルの所に帰る」


913 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:44:34 8XkTUNYY0

エドワード・エルリックは別に正義の味方と言う訳では無い。
寧ろ、そんな言葉を公言する人間には思い切り眉に唾を付けて向き合う人間だ。
死にかけている人間が居れば助けるし、理不尽には憤り拳を握る。
でも、それは人として当然の事。
彼が普通の人間より違う点があるとするならば、命と言う不確かなモノを少しだけ重く見ていると言うだけだ。

死んだ母を望み、弟の体と、立ち上がるための足を失った始まりの日。
ラッシュバレーで目にした生命の誕生の瞬間。
ウィンリィ・ロックベルが傷の男に銃口を向け、背筋が凍りついたあの感覚。

それらの過去は、いつしか殺さない覚悟を形作っていった。

「少なくとも、あんな糞野郎に踊らされ続けるより、よっぽどマシな生き方だろうが…!」

少女の指を、機械の腕が一本一本丁寧に解いていく。
固く、固く握りしめられていたはずのその掌は、あっさりと開かれていった。
そして、その掌に、全てのグリーフシードを握らせる。

「何で…?」

呆然と、手の中のグリーフシードを見ながら、少女は問いを投げた。

「何で、あたしなんだ?
 お前は、御坂の奴に裏切られたんだろ?だからみくはくたばって……ッ!」

絞り出す様な声。
だが、偽りを許さないと言う確かな意志が感じられた。

少年が口を開き。


「…“勇気と愛が勝つ話”」


杏子の眼が見開かれる。
だが、エドワードは構うことなく続けた。


914 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:45:54 8XkTUNYY0


「今はどうであれ、それを信じてたお前も確かにいたんだろ」


人は、真に恐怖を感じた時、本当の自分と向き合う事になると言う。
そして、死とは全ての知的生命体にとって普遍の恐怖の対象だ。
杏子は迫る死の足音を聞きながら、それでも愛と勇気が勝つ話が好きだと、笑ってみせたと言う。
その話を猫の口から聴いたとき、エドワードは確信したのだ、
それが佐倉杏子の答えだと。


だから、

「信じようと思った。一緒に共闘(たたか)えると思ったんだ」


そう宣言する少年の金の双眸はどこまでも澄んでいて、
不覚にも、綺麗だと思った。
迷いも、また裏切られるのでは無いかと言う恐怖もあったはずなのに。


「やっぱり、バカだろテメェ。理解させる気なんか最初から無いだろ…」


杏子は顔を覆い、縋るように蹲った。
そんな杏子の脇を通り過ぎ、エドワードは扉に手をかける、
まだ、エドワード・エルリックは佐倉杏子の友人でも、戦友と言う訳でも無い。
だから、ここでは待たない。

「あんたは自分の足で立って、前へ進めるよ。そのための立派な力も足もあるじゃないか」


そう一言残し、エドワードは目の前の扉を開けた。


915 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:47:14 8XkTUNYY0



信じる。

その言葉はとても遠い物に思えた。
望んでいた結末は望まれてなどいなかった。
あたしは、何よりも救いたいと思っていた家族を救えなかった。

あの大ばかはその道を進もうとしている。
傷と危険ばかり増えて、代価としては小さすぎる物しか得られない道を。

誰よりも死に怯え、生に執着している目をしている癖に。

なら、自分は?
何度自問しても、やっぱり答えは纏まらなかった。

「甘すぎるんだよ」

毒づきながら手の中のグリーフシードを見る。
足をもがれたみくの姿と、御坂の奴の姿が浮かんだ。

―――あんな奴、死んだ方が世界のためよ




「あ――――!」

その時だった。
何かが氷解した様な感覚が走り。


あたしがやるべきことが分かった気がした。
そして、

「マミさん…ごめん」

こんな事言ったらあの人は悲しむだろうから、最初に謝っておく。


916 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:48:37 8XkTUNYY0

「あたしは、最後まで自分のためだけに生きて、戦うよ」

それが、後悔せず、誰も呪わずにいられる唯一の方法だと思うから。
でも、瓦礫が降ってくるあの時あたしは確かに後悔してたんだ。
自分のために戦ってたんじゃなくて、とどのつまり広川に踊らされてただけだって気付いたから。

一度死んだマミさんをもう一度殺しやがったあの糞野郎に。

結局あたしは、自分のために戦うことすら、できていなかったんだと思う。
認める。あたしはきっと間違えたんだ。

だから、今度こそ本当の意味で自分のために戦いたい。
誰にも踊らされずあたしらしく、納得できる、後悔の無い生き方がしたい、そう決めた。
出来る事なら、もしくたばっても、マミさんに顔向けできるような生き方を。

一人ぼっちじゃ無理かもしれないけど…今のあたしには仲間って言ってくれる奴が、最後まで一緒にやってくれそうな奴がまだいたみたいだから。
ドライな人間気取ってる割に、親父みたいに正直すぎて、甘すぎるけど。
それでも、救いようのないあたしを信じるって言った奴。

もう一度、手の中のグリーフシードに目を向け、一人ごちる。

「あんたは、あたしの事なんて知らないんだろうけどさ」

忘れてはならないもう一人。

「こっちはあんたに借りがあるんだ」

それは誰に向けての言葉だったか。

「借りの分、ちゃんと止めてやるよ――同じ、間違えたあたしが」


人生はいつだって取り返しがつかない。
間違えてしまった答えはきっとそのまま。
それを覆すなら、新たな答えを導き出すほかない。
だから、もう一度、問い直そう。
正しい答えを知るために。


気づけば、足は再び走り始めていた。




917 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:50:09 8XkTUNYY0

「よぅ、思ったより早かったな。もう済んだのか?」
「どうだろうな…でも、ここから先はあいつが決める事だ」

エントランスのソファーに腰掛け、背中合わせに語り合う。
少年と猫が会話しているその光景は、傍から見れば異質そのものだっただろう。

「なぁ、マオ」
「何だ」
「誰かを信じるっていうのは難しいな」
「契約者は常に合理的に物事を判断するだけだ、その契約者の俺にそんな事を言っても仕方が無いだろう」

話ながら、エドワードは手の中のみくの首輪へと視線を落とした。
もう、ついた血は渇ききっていた。

「みくのディパックにあのグリーフシードってやつとその説明書が無けりゃ、
どうなってたかわからねぇ……意地を通すってのも楽じゃねえな。本当に」

警報装置がわりに付けられていた鐘が取れた尻尾の調子を確かめながら猫はエドワードを一瞥する。

「それでも、譲るつもりなんてないんだろう?」

一人救えば、一人生まれた事になるのか、
救った命は、他の命を奪わずにいられるのか、
答えは出ない。

「約束、したからな」

だが、彼は跪かない。過去と未来への誓いが、それを許さない。
胸を張って、弟の下へと帰るために。

「みくも言ってた――自分を曲げないって。俺も、そうでありたい」


猫はそれを聞くとやれやれと言わんばかりにかぶりを振った。


918 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:51:18 8XkTUNYY0

「それで、これからどうするつもりだ。具体的な展望はあるんだろうな」
「杏子の奴がもし俺と一緒に行くって言ってくれたら、ジョースターのじいさんと合流しようと思う」
「ジョースター?」

聞いた事のない名前に一瞬頭に疑問符を浮かべる猫だったが、研究所まで同行していた仲間だと聞き、納得する。


「さっき杏子の支給品こっそり見てみたら車があったんでな。俺の知ってるタイプの車じゃなかったけど、
研究所に向かうときにあのじいさん車があればいいのにってぼやいてたし運転できるかもしれねぇ」
「成る程、車を使えばあの嬢ちゃんにも追いつけるだろうな」


「もっとも、杏子の奴が一緒に行かねぇって言ったら御破算だけどな――っと、噂をすればなんとやらか」


コツコツと、通路の奥から赤いポニーテルの少女が現れる。
瞼がほんの少し朱を帯びている気がするが、きっと気のせいだろう。

「それでどーすんだ。お前」

杏子は答えない。
ただ、手に持っていた林檎をエドワードに投げ、
林檎は放物線を描き、エドワードの左手に納まった。


「あんたの誘いに乗ってやるよ。
でも、御坂の奴をぶっ飛ばして、DIOの野郎をぶっ潰すまでだ」

まるで数時間前に自分と御坂が会話した時に戻った様だ。
最も、あの時と違う点は自分が協力を持ちかけた所か、
そんな事を思いながら、エドワードは苦笑する。


「恩を過剰に着せられる謂れは無いしね、後のことは私が決めるさ」

他に違う点があるとするならば、今の佐倉杏子はあの時の御坂美琴とは違い
憑き物が落ちたような、穏やかな表情だった。

「さっきまでしおらしかったのに、復活の早いこったな。直に治る体と言い魔法少女ってのは心身共に医者いらずか?」
「まぁね。何時までもしょぼくれてんのもあたしらしくないしさ」

もう少ししおらしくしていれば可愛げもあるだろうにと感じながら、
投げ渡された林檎へと視線を落とす。


919 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:52:42 8XkTUNYY0

「喰うかい?」
「後で返せって言っても、知らねーぞ」

エドワードは憎まれ口を叩くついでにあんぐりと大きく口を開け、林檎に齧り付く。
連戦で疲労が溜まっていた体には林檎の酸味が丁度良かった。
咀嚼音と共に減っていく林檎とエドワードを、杏子は目を丸くして見る。

「な、何だよ」

珍しいモノを見るような目で見てくる杏子にエドワードは怪訝そうな顔を浮かべた。

「……いや、そう言えば何の遠慮も無く渡された食いもんを喰う意地汚い奴は珍しいなーと思って」
「まったくだな」
「んだとコラ!お前が渡したんだろうが!」

自分の軽口と、猫の同調する声に炒られた豆がはじけるが如く怒るエドワードがおかしくて。
いつの間にか杏子ははにかんでいた。


―――君が本当はどうしたいのか、どう生きることが正しいと思うのか。その答えをはっきりとさせることだ。


この選択が正しいのかは分からない。また間違いを積み重ねただけなのかも知れない。
でも、独りでいる時より……楽、であるのは確かだった。


【C-1(病院)/一日目/午後】


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、精神的疲労(大)
[装備]:無し
[道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
不明支給品×0〜2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×4(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ、前川みくの首輪
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
0:ジョセフと合流し、南へ向かい、御坂をボコしてでも殺しを止めさせる。
1:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したい。
2:エンブリヲ、DIO、御坂、エスデス、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
3:ひと段落ついたらみくを埋葬する。
4:首輪交換制度は後回し。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。 関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※エスデスに嫌悪感を抱いています。



【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[思考]
基本:…手のかかる奴らだ。
0:エドと杏子と共に行動する。


920 : 翔べない天使 ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:55:11 8XkTUNYY0

『自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)』と言う言葉がある。
自分の認識世界と、現実世界のミクロなズレを観測し、実際に反映させる、
学園都市に在住する学生たちが行使する超能力の源とも呼べる能力だ。

本来ならば能力者だけが持つこの力だが――この世界では様々な自分だけの現実に類似する力が見られる。

例えば、自分だけの真理と構築式、地殻エネルギーを用いて万物を異形へと変える錬金術師。

例えば、自分だけの現実そのものと言える、自信の精神エネルギーを観測し、実体あるヴィジョンとして反映させるスタンドやペルソナ使い。


そして、魔法少女である佐倉杏子もまた、自分だけの現実に近しい力を持っていた。
自らの信じた祈りによって時に世界に影響を及ぼす力を。

しかし、このバトル・ロワイアルは“魔法少女としての”佐倉杏子の自分だけの現実を真っ向から否定し、闘いの濁流の中に飲み込んだ。

何度も何度も敗北の苦渋を舐めさせ、彼女の大切な人間を、矜持を、自信を壊した。
壮絶な過去を背負ってるとは言え、まだ年端もいかぬ少女にとってそれは筆舌に尽くしがたい苦しみだっただろう。
故に、肉体が小康を得た後も、彼女のソウルジェムは呪いを生み、
一人の少年がまた自身の無力さを痛感するに至ったのだ。

しかし、結局灰被りの少女が遺したグリーフシードによって佐倉杏子が魔女と化すことは無く。
彼女の自分だけの現実は、また性質を変えた。

その結果―――、



佐倉杏子はあの日失った、本来得意としていた魔法を、取り戻しつつある。


その事を、まだ彼女は知らない。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実 大量のりんご@現実 、グリーフシード×4@魔法少女まどか☆マギカ、
アストンマーチン・ヴァンキッシュ@やはり俺の青春ラブコメは間違っている、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いについて考える。
0:御坂美琴は―――
1:DIOはぶん殴る。
2:巴マミを殺した参加者を許さない。
3:殺し合いを壊す。
4:エドワードと組む。

※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません

【アストンマーチン・ヴァンキッシュ@やはり俺の青春ラブコメは間違っている】
奉仕部顧問平塚静の愛車。
女性が運転すれば婚期を逃すとか逃さないとか。


921 : ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:58:39 8XkTUNYY0
エドワードの
>[状態]疲労(中)、ダメージ(中)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、精神的疲労(大)

>[状態]疲労(中)、ダメージ(小)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、精神的疲労(中)
です、失礼しました


922 : ◆rZaHwmWD7k :2015/11/09(月) 21:58:53 8XkTUNYY0
投下終了です


923 : 名無しさん :2015/11/10(火) 23:03:35 bAjUlEEY0
投下乙です
やっぱりニーサンは頼りになるぜ


924 : 名無しさん :2015/11/10(火) 23:21:30 Y/ycHtq20
投下乙です
さすおに
杏子ちゃんはこのまま頼もしい対主催になってほしいな


925 : 名無しさん :2015/11/12(木) 00:14:43 jliwRWv60
投下乙です
なんやかんやで仲良しだったエンヴィーとキンブリーは別行動をとるか。
巻き込まれた足立悲惨だなあ

ここのニーサンは相手の台詞を利用したり、女性キャラとのフラグ構築力が高いな。
猫も結構いい味出している


926 : ◆dKv6nbYMB. :2015/11/12(木) 10:00:40 KXkRTcjw0
投下します。


927 : 汚れた指先で ◆dKv6nbYMB. :2015/11/12(木) 10:04:00 KXkRTcjw0


私は走っている。
今にも崩れ落ちそうな一本道を、まるでなにかから逃げるように、何かを追い求めるかのように。
ただただ、息を切らしながら走っている。

「どこへ行くんだよ。喧嘩売ってきたのはおまえだろ」

右腕の変化する少年―――泉新一が並走し、刃と化した右腕を振るってくる。
舌うちをしつつ、手首から流れる血を新一へと振り掛ける。
しかし、突如現れた目の死んだような少年―――比企谷とか呼ばれていたか―――が間に割って入り、新一へとかかるはずの血を防ぐ。
指を鳴らし、比企谷の身体を消し飛はす。しかし、彼は苦しみの声もあげずに嗤って告げる。

「俺なんかに構ってていいのか?」

比企谷の影から、新一が姿を現し、私の鳩尾に拳を叩き込んだ。

「ぐっ...」
「どうだ、こいつが比企谷の痛みだ!」

新一の拳の威力に私の身体は僅かに宙を舞い、そのまま一本道から落ちていく。

「ぐあっ!」

どれほど落ちたのか、地面に背中を打ちつけ苦悶の声をあげてしまう。
あれほどの高さから落ちれば命はなかったはず。
だが、私にはそんなことを考える暇も与えられなかった。

「ウェヒヒ、もう逃げられないよ」

背後からかけられる声に、振り向き様に血を浴びせ、指を弾く。
しかし、その対象―――鹿目まどかは、倒れない。
首に風穴が空いたと言うのに、尚こちらを睨み笑みを浮かべている。

「『魔術師の赤』!」

どこからともなく響く男の声と共に、炎が私の周りをぐるりと囲い込む。
そして、逃げ場を無くした私の前に現れるのは、青の巨人。

「オラァ!」

再び、私の鳩尾に拳が叩き込まれる。
しかし、その威力は新一の比ではない。
肺から空気を絞り出されるような感覚のまま吹きとばされる。

「ッ、ハァ、ハァッ」

地面を転がり、どうにか息を整えようとするが、どこからともなく飛来してくる桃色の矢はそれを許さない。
再び逃げるかのように、我武者羅に当てのない道を走っていく。

「皆を襲撃したのはお前だ...なら、私に葬られてもなにも言えまい」


今度は、赤い目の少女―――アカメとかいったか―――と、茶髪の青年が、逃げ道を塞ぐかのように立ち塞がっている。

「さあ、覚悟なさいまし」

制服を着た少女―――婚后光子とか名乗っていた―――が、妙な能力で本棚やイスなどを飛ばし、その影からアカメと青年が私へと攻撃を仕掛けてくる。
体術は私とほぼ同ランク...それが二人もいれば苦戦は必至。
痛みが、疲労が、私の身体を急速に蝕んでいく。

「邪魔だ!」
「邪魔なのはあなたです。私の仲間たちを殺させはしない」


アカメたちを殺すため、血を飛ばそうとした私の懐に潜り込む一つの影。
BK201に似ており、しかしその実態はまるで違うただの男。
男がかざした奇妙な物体が押し付けられると同時。


928 : 汚れた指先で ◆dKv6nbYMB. :2015/11/12(木) 10:06:32 KXkRTcjw0
「ッ!?」

周囲が、全くの"白"に包まれる。
新一たちも、まどかたちも、アカメたちも誰もいない。
ただただ、純白の空間の中に、私だけが立ち尽くしていた。

(チィッ、このままではマズイな...身体を休めなければ)

襲撃がなくなったのは好都合だと私は休息のために腰を下ろした。
その時だ。

「―――!」

ふと視線をあげた先に、黒色の影が見える。
その姿は黒色の髪。背丈。全てが黒色の装いの死神の背中。
今度は間違いない。

「BK201...!」

私は、痛む身体を無視して、あの男のもとへと歩いて行く。


「クッ、ハハハ...この時をどれほど待ちわびたか...!」

奴は、背を向けたまま立ち尽くしている。

「貴様から受けた屈辱...一時も忘れたことはない...」

やがて、奴との距離を縮めるのさえじれったくなり、私は駆けだした。

「さあ、私と戦え!BK201!」

手にしたナイフで、手首を切りつけ血を流し、そこで気付いた。

「...!?」

奴との距離が、縮まらない。

奴は、私に背を向けたまま突っ立っている。

奴は―――私を見ようとしない。

「なにをしている?私はお前の敵だ。早く私を殺しに来い!」

いくら走ろうともなにも変わらない。

いくら叫ぼうとも奴は変わらない。

どうあがこうとも、私と奴の戦いは...訪れない。

そして。

「...!」

奴の身体が、巨大な刃物で貫かれる。
鮮血が飛び散り、奴の両手がダラリと垂れ下がる。
そのまま奴の身体は、地面にうち捨てられる。
そして、奴と目が合った。
『生』の光を失った、私がいままで数多く作りだした、死者の目と。


奴が"私ではない何者かに殺された"。

そう認識した瞬間、奴の死体は消え失せ、純白の空間には私だけが取り残された。






929 : 汚れた指先で ◆dKv6nbYMB. :2015/11/12(木) 10:08:00 KXkRTcjw0


「―――ッ!」

飛び起きると共に意識が覚醒する。
呼吸は乱れ、嫌な汗がベットリと身体を濡らしていた。

「...?」

辺りを見回し、いまの状況を確認する。
自分がいるのは、ベッドの上。
休息を兼ねてここをしばらく拠点にしようと計画を練っていたところまでは憶えている。
が、しかしそれ以降の記憶がいまいちハッキリとしない。

「寝ていた...のか?」

今までの戦闘の疲労が溜まっていたのか、みっともなく惰眠を貪ってしまったようだ。
幸運だったのは、誰もこの施設を訪れなかったことだ。
流石に誰かが部屋に足を踏み入れれば気が付いただろうが、それでもこんな迂闊な行為には溜め息もつきたくなる。
と、なれば、先程の光景は...

(夢...契約者が夢を見る...?馬鹿らしい)

契約者は夢など見ない。
曰く夢とは不合理的なものであり、合理的にしか行動しない契約者にとっては不要なものだ。
誰が言ったかは知らないが、事実、契約者となってからは夢など見たことは無い。
ならばなぜいまさら...

(いや、待て...本当に、あれはただの夢か?)

そもそも、ボディーガードをやっていた時から、ロクに休憩をとらずに仕事にあたることはいくらでもあった。
そんな私が、いくら疲れていたとはいえ、こんなところで眠るとは考えにくい。契約者なら尚更だ。
何者かが干渉した?
いや、集団の中の一人に狙いをつけて悪夢を見せ、そこから亀裂が入るキッカケを期待するのならまだわかる。
だが、私は一人だ。しかも、ゲームに乗った側の人間だ。
眠らせたのなら、拘束なり殺害なりしなければ不自然だ。そのまま放置する理由が見当たらない。
仮に干渉したとすれば、それは参加者以外の人間と考えるべきだろう。



(...そういえば、アンバーは未来を読み、それを伝えることが出来ると聞いたことがある)

アンバー。契約者集団、イブニングプリムローズの首謀者だ。
噂にしか過ぎないが、もし彼女が私に干渉したのだとしたら、アンバーがこの殺し合いに関わっていることになる。
正直、あの広川という男だけでこんな殺し合いを管理できないと思っていたため、別段不思議なことではないが。
ならばなぜ私に干渉を?

『さて、私の声が聞こえた時点で察していると思うが放送の時間だ』

私の思考を遮るかのように、広川の声が鳴り響く。
アンバーのことは気になるが、いまはこちらの方が大切だ。
私は、与えられる情報を聞き逃すまいと紙とペンを用意した。


広川が告げたのは、『禁止エリア』『死亡者』そして新たなルール『首輪交換制度』。

まず、禁止エリア。地獄門の付近が一つ指定されたのは痛いが、まだ道が閉ざされたわけではない。
それに、いまの自分がいるエリアとは全く関係のない場所ばかり指定されたため、ペナルティによる死亡の危険はないと見ていい。

次に死亡者。
12名。思ったよりも殺し合いは順調に進んでいるようだ。
ほとんどが知らない名前だったが、三つ知っている名があった。
『プロデューサー』『婚后光子』『鹿目まどか』。
プロデューサー。BK201と間違えたせいで一杯食わされたが、それだけだ。この手で殺せたため特に思い入れも無い。
婚后光子。図書館での戦いで妙な能力を使われたが、私が終始有利でありトドメを刺さなかっただけなので遺恨もない。
鹿目まどか。妙なトリックで私の能力から逃れた少女だ。いま思えば、あの閃光を放ったのは彼女だったかもしれない。大した強さではなかったが、右肩の傷と能力を破られた屈辱が果たせないと思うと、あまりいい気はしない。

(いい気はしない...?私は何を言っている)

なぜ、まどかだけには思うところがあるのか。
プロデューサー。一杯食わされた借りは、彼との一騎打ちで返した。
婚后光子。そもそもやられていないので借りもなにもない。
鹿目まどか。だいぶ痛めつけたが、彼女には大して効いていないように見えた。それに対して私の右肩の傷はまだ痛む。認めたくはないが、結果を見れば、よくて引き分け。少なくとも、彼女に勝利を収めたとは言えないだろう。
だが、この借りを返す相手はいない。もう死んでいるのだから。

「そうか...そういうことですか、アンバー」

なぜあんな夢を見せられたのか。
その答えを得た私は、あの男―――プロデューサーと呼ばれた男のもとへと向かうことにした。


930 : 汚れた指先で ◆dKv6nbYMB. :2015/11/12(木) 10:08:49 KXkRTcjw0


古代の闘技場の付近。
私が殺したプロデューサーという男の死体が転がっている。
刃物は持っているし、人体を斬ることに抵抗はない。
しかし、首輪を回収しているところを襲撃されては敵わない。
ならば手早く終わらせるべきだろう。
私は指先をナイフで軽く切り、僅かに血を滲ませた。
そして、その血をプロデューサーの首をなぞるように塗りつける。
これで準備は整った。


―――パチン

指を鳴らす音と共に、血の付いた部分が消失する。それに伴い、プロデューサーの胴体から離れた首がごろりと地面を転がった。
そして、彼の首輪を回収し、闘技場の中へと足を踏み入れ広川の示唆した無人ボックスを探す。
その道すがら、首輪を眺めながら思う。
この首輪は本当に不思議なものだ。
こうして取り外しても機能は停止せず、加えて能力で破壊できない。
まどかに能力を使った時、私は確かに首輪にも血を着けていた。
しかし、結局首輪は破壊できず、彼女の首にしか効果はなかった。
彼女が死ななかったタネもそこにあるのだろうか。

(まあ、私にはあまり関係ないことですね)

要は、私が禁止エリアに逃げ込むヘマをしなければ、この首輪はただの参加者の証だ。
狙うのが優勝である以上、わざわざ首輪の考察にかける時間は惜しい。

私が見た、奴が何者かに殺される夢。あれがただの夢ではなく、アンバーからの警告だとしたら。
このままゆっくりと行動していれば奴と戦う機会が永遠に訪れないとすれば。
肩の傷の借りでさえ惜しく思ってしまう私だ。
唯一敗北を喫したあの男が、私と会う事すらせずにくたばれば、私のプライドは二度と取り戻せないだろう。
それだけは嫌だ。合理的ではないかもしれないが、それだけは避けねばならないのだ。

「色は黒で特に面白みも無い外見...あれだな」

石造りの闘技場の片隅。
広川の言った無人ボックスらしきものがポツンと置いてある。
扉を開き、中に入る。
外からボックスの中が見えなかったように、中からも外が見えないようだ。カギもかけられる。心置きなく首輪の交換に勤しめということだろうか。
中にある機械は、ATMに酷似している。
違う点を挙げるなら、金銭を入れる場所にご丁寧に『首輪投入口』と書いてあるところか。

『いらっしゃいませ。こちらは、首輪交換コーナーです。首輪をお持ちの方は、こちらにお入れくださいませ』

指示通り、空いている投入口に首輪を置くと蓋が自動でしまった。
なるほど、こうして首輪を回収するのか。

『確認中です...首輪ランク1.コード、プロデューサー。他に首輪をお持ちですか?』

タッチパネルに『はい』と『いいえ』のボタンが表示される。
『いいえ』を押す。

『それでは、ご用件をお願いします』

次いで画面に表示されたのは、『道具交換』と『情報交換』のボタン。
私は、躊躇わず『情報交換』のボタンを押した。

『それでは、質問がおきまりでしたら、赤いボタンを押しながらお願いします』

画面が切り替わり、赤のボタンが画面の中央に表示される。
私はそれを押しながら、一呼吸置き答えた。


「BK201...黒と、その周辺の参加者の居場所を教えなさい」


931 : 汚れた指先で ◆dKv6nbYMB. :2015/11/12(木) 10:09:24 KXkRTcjw0

【G-7/古代の闘技場/一日目/日中】

※G-7、闘技場付近に首を切断されたプロデューサーの死体が放置されています。


【魏志軍@DAKER THAN BLACK‐黒の契約者-】
「状態」:疲労(中〜大)、黒への屈辱、鎮痛剤・ビタミン剤服用済み、背中・腹部に一箇所の打撃(ダメージ:中・応急処置済み)、右肩に裂傷(中・応急処置済み)、右腕に傷(止血済み)、顔に火傷の痕
「装備」:DIOのナイフ×8@ジョジョの奇妙な冒険SC(魏志軍の支給品)、スタングレネード×1@現実(魏志軍の支給品)、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る(魏志軍の支給品)、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る(セリム・ブラッドレイの支給品)、黒妻綿流の拳銃@とある魔術の超電磁砲(星空凛の支給品)
[道具]:基本支給品×3(魏志軍・比企谷八幡・プロデューサー・一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲(比企谷八幡の支給品)、暗視双眼鏡@現実(比企谷八幡の支給品)、アーミーナイフ×1@現実(武器庫の武器)、ライフル@現実(武器庫の武器)、ライフルの予備弾×6(武器庫の武器)、パンの詰め合わせ@現実(プロデューサーの支給品)、流星核のペンダント@DAKER THAN BLACK(蘇芳・パブリチェンコの支給品)、参加者の何れかの携帯電話(蘇芳・パブリチェンコの支給品・改良型)、カマクラ@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。(星空凛の支給品)、うんまい棒@魔法少女まどか☆マギカ(星空凛の支給品)、医療品@現実(カジノの備品)、鎮痛剤の錠剤@現実(カジノの備品)×5、ビタミン剤の錠剤@現実×12(カジノの備品)、ビリヤードのキュー@現実×6(カジノの備品)、ダーツの矢@現実×15(カジノの備品)、懐中電灯×1@現実(カジノの備品)
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する
0:BK201の居場所を聞く。方針を決めるのはそれから。
1:BK201(黒)の捜索。見つけ次第殺害する。
2:強力な武器の確保。最悪、他のゲーム賛同者と協力する事も視野に入れる。
3:合理的な判断を怠らず、可能な限り消耗の激しい戦闘は避ける。
[備考]
※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。
※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、ヘミソフィアの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。
※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能の無いごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。
※スタンドの存在を参加者だと思っています
※シャンバラの説明書が紛失している為、人を転移させる謎の物体という認識です。
※シャンバラは長距離転移が一日に一度で尚且つランダム。短距離だとエネルギー消耗が激しいですが、通常通りに使用できます。
※ブラックマリン・シャンバラ共に適正を持ち合わせており、特に後者については出典元であるアカメが斬る!での所持者・シュラと同等の高い適正を誇っています。
※シャンバラの大まかな使用用途を理解しました(長距離制限には気付いてない)。
※あらかじめ水源付近(H7北部の河川)にシャンバラでマーキングを行っています。
※プロデューサーの首輪で黒たちの居場所が聞けたかどうかは次の方にお任せします。


【首輪交換BOX】
現実にあるATMに酷似したもの。
首輪投入口に首輪を入れれば、その価値に見合うだけの武器か情報を得ることができる。

・タッチパネル式である。
・サイズは、成人男性が一人で入れる程度。
・首輪の価値を知るには、首輪を入れるしかない。入れた首輪は返ってこない。
・情報交換を望む場合は赤のボタンを押しながら質問しなければならない。赤のボタンを離し終えた時が質問の終わりを意味するので、途中で質問を区切ることは不可能。
また、首輪の価値に釣りあわない情報を求めた場合はエラーと表示され、別の質問を要求される。


932 : ◆dKv6nbYMB. :2015/11/12(木) 10:10:32 KXkRTcjw0
投下終了です。
首輪BOXについて色々と条件指定したので、意見・ご指摘があればお願いします。


933 : 名無しさん :2015/11/13(金) 23:02:54 7kJ9iC9M0
投下乙です
彼もまた、参加者の死に少しずつ影響を受けているのか
そして、黒一途なのは変わらず。その程度の情報なら大丈夫かな


934 : 名無しさん :2015/11/15(日) 23:06:56 alHySuI60
月報です

話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比) 
133話(+20) 43/72 (- 5) 59.7 (- 6.9)


935 : ◆BLovELiVE. :2015/11/22(日) 10:30:47 oZ3tsk7U0
投下します


936 : いつも心に太陽を ◆BLovELiVE. :2015/11/22(日) 10:33:30 oZ3tsk7U0
音ノ木坂学院。
かつて生徒数の減少によって統廃合の危機にあった伝統校。
μ'sの活躍によって廃校自体は免れたものではあったが、しかし現状のあまり多くない生徒数自体が増えるわけではない。
だけど、いくら生徒数が少ないといっても、例え休日であったとしても生徒は誰かしら学校内にいるはずのものだ。
部活だったり、何かしらの校内活動だったり。もしそういったことがなかった場合でも、先生はいる。
人の気配が全く感じられないことなどそうあるはずがない場所だ。それこそ夜遅く、などでもない限りは。

だから、その音ノ木坂学院に通う生徒の一人である穂乃果がそこに到着した時、最初に感じたのは不気味さだった。
殺し合いをさせられているという異常な場所に存在する、自分にとって日常の象徴のような空間。
だけど外面は気持ち悪いほどに似せられているのに、蓋を開けばその内側は空っぽのような。
学校であるのに人一人いない、びっくりするほど静かな空間というのがそれを如実に表わしていた。

穂乃果、そして黒子を抱えた黒。
3人は、まずまだ目を覚まさぬ黒子の介抱のために保健室へと向かっていた。
傷の様子も視認できる範囲では回復しているようにも見えるが、それが本当に完治しているものなのかも分からない。

そうして校内を自分の知識通りに案内し、保健室へとたどり着いた穂乃果。
部屋の配置も自分の知る音ノ木坂学院と全く同じだった。

真姫に会いたい気持ちを抑え、室内の棚から包帯やガーゼ、消毒薬を取り出す穂乃果。
一介の学校の保健室にあるもので重傷を処置することなどできない。
だが、後藤の斬られたはずの傷はほぼ完治している、と黒は言っていた。
きっとあの時のクロエという子の治療が功を奏したということだろう。
あの時何かをされたような気がするが、記憶が朧げになっていて思い出すことができなかったが。


「…そういえば、黒さん。さっきの放送ですけど……」
「…………」

穂乃果の言わんとしていることが分かったのか、黒は目を細めた。

放送で名前を呼ばれた12人。
戸塚彩加やキリト、婚后光子、クロエ・フォン・アインツベルン。
目の前で死んでいった者達の名前は確かに呼ばれていた。
黒は銀の、穂乃果は真姫や花陽の名が呼ばれなかったことに安堵し。
しかし、その中には呼ばれるはずの後藤の名前は入っていなかった。

確かに後藤は倒したはずだった。
あるいは見逃しただけで、放送時点ではかろうじて生き延びていた、という可能性もないわけではない。
だが、この場合は最悪のケース――何かしらの能力か、あるいは支給品の力で生き延び、未だそれまでと変わることなく人を襲い続けている、という前提で動いた方がいいだろう、と黒は言った。

キリトの顛末はここに来るまでの間に穂乃果から黒へと話していた。
殺してしまったモモカという少女の知り合いであるアンジュと向き合い、そして自分達をサリアという女から守って死んでいった、と。
すると黒は「そうか」と呟いたっきりそのことに触れることはなくなっていた。
そして今も、彼は特にそのことには触れなかった。

「とにかく、お前はここで白井黒子を見ていろ。俺は建物内に他の誰かがいないか見てくる」

もしこの音ノ木坂学院に誰かがいるとすればそれはアンジュの言っていた田村玲子、西木野真姫、初春飾利と考えるのが自然。
しかしそれ以外の何者かが先にここに来ている可能性もないわけではない。
黒が口にすることはなかったが、この静けさには穂乃果にとっては嫌な可能性を考えざるを得ないものだ。
特にイリヤは当初音ノ木坂学院に向おうとしていたという。もしこの場で彼女と遭遇することがあれば、そしてあの出来事の後で正気を失っていれば。

そんな気配を微かに感じ取ったのか、穂乃果は黒の言葉に静かに頷いて保健室に座り続け。
黒はそのまま保健室から静かに出て行く。
足音を立てぬよう静かに、しかし迅速に。


937 : いつも心に太陽を ◆BLovELiVE. :2015/11/22(日) 10:34:11 oZ3tsk7U0


(銀は……ここにはいないか)

部屋を一つ一つ見て回る黒。しかしそこには人の気配のある場所はなかった。
もし銀がいるのであれば、誰かしらと共にいるはずだ。盲目の彼女が一人で行動できるような場所ではない。
この中で銀の死体を見つけてしまう、という可能性はこの際考えていない。あの放送からのこの短時間で、目的とした場所で殺される可能性はゼロではないがかなり低い。

「………?」

と、校内を駆ける黒の嗅覚がふと何かを嗅ぎ取った。
空気中に漂う錆びた鉄を連想させる微かな臭い。
それが何なのか、多くの死に関わってきた黒は知っている。

その元となる部屋の一室だろう場所まで進む。
人の気配は感じられない。中には”生きている”者は誰もいないのか、あるいは気配を感じさせないほどの者が潜んでいるか。
この部屋一つに意識を裂く必要もないだろうが、しかし他と比べて中を確かめる前から異常な部屋はここだけだ。
後者であればこの場から離れるほどなのだろうが、しかしならばなおさら放置しておくのも危険だ。確かめる必要はある。

友切包丁を構えたまま、気配を殺して扉に近づき。
一気にその扉を開く。

中を確かめるが、誰もいない。
少なくとも何かが潜んでいるということはなかったようだ。
あるのは、地面に置かれた3つの布、そしてその下で盛り上がった何か。

気を緩め、その布の端を掴んだ黒は。
静かにその下に置かれているものを確かめた。

全身を剣のようなもので貫かれ、切り裂かれた小学生ほどの少女の死体。
真っ黒に焦げて生前の面影を確かめることもできなくなった死体。
そして、全身が裂けて真っ赤に染まり、そして首が体から離れた長髪の少女の死体。

首が離されている死体はおそらく死後に首輪を外すために切断したものだろう。
そして残りの2つの死体には首輪が残っている。

「…ここには今誰もいない、ということか」

もし放送を聞いた後にもこの建物内に何者かがいたのだとしたら、首輪をそのままにしておくことは考えられない。
放送で明かされた首輪交換。もしそのつもりがないとしても、放っておけば殺し合いに乗った者の手に渡りその者の強化に繋がる。そのままにしておくメリットはない。
放送前にこの一人分の首輪だけを回収し、そしてどこかに立ち去ったと考えるのが自然だろう。

そして放送後にここを訪れた危険人物がいないことも確かだ。
通りかかるだけでも感じるこの臭い、それを確かめぬまま出て行く者なら警戒する必要もない。
だがもし中を確かめ寄った者がいるならば首輪がそのままになっていることもまた考え辛い。

一旦布を戻した黒は、緩めた気を張り直して部屋を退出、来た道を戻り始めた。



「……………」

剥がれた布の下にあったものを静かに見つめる穂乃果。

保健室で眠り続ける黒子は未だに目を覚ましていないが故にその傍にはいない。
黒は部屋の外にある窓の影から門付近の様子を伺うように警戒している。
そして穂乃果がいる場所は、黒が3つの死体を見つけた一室。

彼女が見つめているのは、首が離れた死体。
制服は血に濡れ、生きている頃は端正な顔立ちだったであろう、しかしその面影をうっすらとしか感じられない程に傷だらけの少女の躯。

「………」

ことりと並んで幼い頃からずっと共にいた少女。
園田海未。その変わり果てた姿。


938 : いつも心に太陽を ◆BLovELiVE. :2015/11/22(日) 10:35:22 oZ3tsk7U0

本来ならば、その無残な光景には気分を悪くして吐き気を催していただろう。
だが、不思議とそんな感覚が襲ってくることはなかった。
天城雪子、キリト、婚后光子、クロエ・フォン・アインツベルン、そして変わり果てた南ことり。
多くの人の死を目の当たりにしてきた穂乃果の中で、大切な親友の死もまた、少なくとも結果を見るだけならばその中の一つとして認識される程には慣れてしまったのだろうか。

ただ、それでも。
改めてその死を目の当たりにした時、せり上がってきた感覚だけは慣れることはなかった。
放送で名を聞いて、そして海未を死に追いやったサリアとも向き合って、だけど感覚は全く違った。

最初は喪失感、そして次は怒り、ならば今感じているこの感情は。


ゆっくりとそのモノ言わぬ塊となった親友の、体から切り離された首に触れる。
顔に流れたであろう真っ赤な血は水分を失い固まり、その温度はマネキンに触れているかのように冷たかった。

そのまま首を胸の内に抱きかかえ、その冷たさと重さに失った彼女の命をはっきりと認識した瞬間。
視界に靄がかかったかのようにかすみ始め。
声を上げることもなく静かに、肩を振るわせ続けた。



「ん……。ここは……」

意識を取り戻した時、視界に広がったのは見知らぬ天井。
周囲を見回すとカーテンとベッドがいくつか視界に入る。そして鼻についたのは軽いアルコールの臭い。
どこかの学校の保健室だろうか。

「………後藤は…、高坂さんは…イリヤさんは……」

記憶は空間転移の演算を後藤の一撃で中断されたところで途切れている。
ふと斬られたはずの腹に手をやる。
服は斬られておりその周辺には血が乾いている。ガーゼが貼られた奥には痛みも僅かに感じられる。しかし傷そのものが残っている様子はなかった。

ベッドから起き上がった黒子はズキンと鈍い痛みを放つ頭を抑えた。
どうやらあの時演算を途切れさせられた影響が僅かに残っているようだ。

時計を見ると、既に定時放送の時間を過ぎている。

少なくとも自分がここにいるということは後藤は撒いたのだと思う。だが共にいたはずの二人の同行者がいないことは不安を駆り立てていた。
もしかしたら、ということがあったら。

慌てるように保健室を出た黒子。
外の壁に貼られていたポスターからここが音ノ木坂学院だということを悟る。
ならば高坂さんはどこかにいるはず。

静かな廊下を走る。本来であれば廊下を走るという行為は咎められるものなのだろうが、それを叱る者はこの場にはいない。
人の気配がある場所はない。テレポートを駆使して周囲を駆けまわった黒子の耳に、やがて一つの物音が響いてきた。

地面に向けて何かを突き刺して土を巻き上げるような音。
それが穴を掘っているものだということに気付いた時、黒子は一気に走り出した。
もしもの時のために保健室より拝借した一本のポールペンを握りしめながら。



「その、…ありがとうございます。こんなこと手伝ってもらって」
「気にするな」

地面を掘り進めている穂乃果と黒。
短時間でもある程度の広さと深さをの穴を作ることができるような土の柔らかい場所を探し、校舎の裏の木々が立ち並ぶ一角を選ぶことになった。
その穴が何のためのものかと問われれば、穂乃果達の後ろに横たえられている4つの死体が答えを示すだろう。

美遊・エーデルフェルト。
巴マミ。
サリアとの情報交換で聞いた、穂乃果の親友を守ろうとした少女。
その親友を殺した相手からのものではあるが、アンジュはその情報自体は誤りがないと言っていた。
婚后光子。
後藤と戦って、そしてイリヤの暴走を受けて命を落とした白井黒子の友人。
そして、園田海未。

この4人を埋葬するためのものだ。

うち、巴マミ、美遊・エーデルフェルトの二人の死体からは首が切り離され、首輪が外されていた。
婚后光子のみ首輪は未だ残っているが、それはあくまでも埋葬するまでの間だけ白井黒子が目を覚ますのを待つためのものだ。


939 : いつも心に太陽を ◆BLovELiVE. :2015/11/22(日) 10:35:58 oZ3tsk7U0

ザクッ、ザクッと。

スコップと土の鳴る音と共に少しずつ後ろの土が盛り上がり、そして穴は広がり深まっていく。

(……重いな………)

黒の横で、彼と比べれば少しずつのペースだが確実に手を進めていく穂乃果。
掘り返していく土の重さはこれまで生きてきた人生に感じたものの中で、最も重く感じられた。

「…高坂さん?」

そんな時、後ろから足音と共に声が届く。
校舎の角、建物の影から、壁に手を付き頭を抑えながらこちらを見ている黒子の姿があった。

「白井さん……」

彼女が無事に目を覚ましたことは本来喜ぶべきことのはず。しかし穂乃果は曇った表情のまま、黒子の呼びかけに応える。
何故なら、今ここで掘っている穴は。

「そちらの方はどなたですの?」
「この人は黒さんっていって…後藤と戦ってる時に助けてくれた人で…」
「そうですの…、ありがとうございます。それで、イリヤさんはどちらに……、……?」

と、こちらに向かって歩を進める黒子は。
視界の端に映ったそれを横切ろうとして、思わず顔をその何かに向けて動かした。

そこに横たえられているものは、4つの死体。首が体から離されたものが3つ、もう一人は黒子と同じ服を纏った、長髪の少女。

「…婚后、光子……?」

表情を固まらせたままその名を呟いて歩み寄る。
体には大きな袈裟懸けの傷がつくられ、常盤台中学の制服を真っ赤に染めている。
死体を見慣れているわけではない黒子の素人目にも、それが生きている人間のものではないことは分かる。

「お待ちなさい…、あなたは、…何故……」

それでも、近寄ればあの小憎らしく頭に響く高笑いを聞かせてくれるのではないかと。
目を覚まして『引っかかりましたわね白井さん!』などと言って起き上がってくれるのではないかと。
そんなことをする人間ではないことはよく分かっているはずだったのに、そんなことがあり得る状態ではないと分かっていたはずだったのに。
ありもしないそのような期待をせざるを得なかった。

しかし手をその体に触れさせた時の冷たさが、認識を黒子の中にはっきりと定着させてしまっていた。
もう婚后光子は死んでいるのだと。


「その……白井さん…あのね…」

説明しようと呼びかけた穂乃果。
しかし、その声に刺激されたかのように黒子は立ち上がっていた。

「……私も、手伝いますわ」

壁に立てかけられていたスコップを手に取り、黒と穂乃果が掘り進めてる穴の中に入り、地面に勢い良く突き刺した。

見ている穂乃果も驚くような勢いで穴を掘っていく。
しかし黒子とそれなりの間共にいた穂乃果はおろか黒ですらも気付いていた。
その顔に写っている淀んだ表情が、ずっと張り付いていることに。

穂乃果はその顔に、かつてキング・ブラッドレイに黒子の仲間である御坂美琴が殺し合いに乗った、という事実を知った時と同じようなものを感じていた。





940 : いつも心に太陽を ◆BLovELiVE. :2015/11/22(日) 10:36:36 oZ3tsk7U0

女手2つとはいえ、3人の人手で掘り進めた埋葬のための穴はそう時間がかかりはしなかった。

4人の体を完全に覆うことができるほどの深さになった辺りで、黒は一つずつ、その死体を穴の中に置いていく。

美遊・エーデルフェルト。巴マミ。園田海未。

「白井黒子。少しいいか?」

そして最後の婚后光子の死体の番になった時に、黒は黒子に呼びかけた。
その意味を、そして彼の言わんとすることを穂乃果は察していた。

「首輪は今後のための貴重なサンプルになる。加えて、詳しくは後で説明するがさっきの放送の追加ルールで首輪が非常に重要な価値を持つことになった。
 ここまで言えば、分かるな?」
「……私もそこまで分からず屋ではありませんわ。
 でも一つだけ。…私にも見届けさせていただきませんか?同じ学び舎にいた同志として」
「分かった」

黒が思っていた以上に手も無く黒子はそれを了承した。

穂乃果もその現場に立ち会うべきかと思い近寄ったが、足音を聞いた黒子がこちらに背を向けたまま手を向けた。その場で静止しろと言いたい手振りだろう。

サクリ、と。
そうして静止した穂乃果の耳に届いた音。
既に二度耳にしたものだが、何度聞いても慣れることはない。

そのまましゃがみ込んだ黒は、しばらく手を動かした後黒子の元に寄って手を差し出し。
それを無言のまま受け取った後光子の体と首を担ぎ、穴に向けて運び横たえた。

「……………」

黒に差し出されたもの、婚后光子の首輪をその手に抱いたままじっと動かぬ黒子。
彼女の復帰を待つことなく、4人の死体には土が被せられていく。

視界から土の色の染まって見えなくなっていくその姿を見据えながら、穂乃果は呟いた。

「……美遊・エーデルフェルトさん…、海未ちゃんを守ってくれて、ありがとう…」

一つの感謝は最も小さな矮躯の、体中を貫かれた少女に向けて。

「……巴マミさん…、海未ちゃんと真姫ちゃんを守るために戦ってくれて、ありがとう…」

もう一つの感謝は原型を留めぬほどに焼け焦げた少女に向けて。

「……婚后光子さん…、あそこで私と白井さんを守ってくれて、ありがとう…」

更にもう一つの感謝は自分のすぐ傍で命を奪われた、ほんの短い間の邂逅だった白井黒子の友人である少女に向けて。

いずれの人となりも穂乃果は詳しくは知らない。
だけど、きっと出会いさえ違えば仲良くすることもできた人達なのだと思う。
こんな場所でさえ、なければ。

「…海未ちゃん……」

そして最後。
土はほぼ被せ終えられ、下にあるものの様子を探ることも難しくなっている中で。

「…さようなら」

穂乃果は静かに、己の親友に向けて、別れを告げた。





941 : いつも心に太陽を ◆BLovELiVE. :2015/11/22(日) 10:37:37 oZ3tsk7U0


「…あった」

4人の埋葬が終わった後、一旦校舎内に戻った3人。
いるはずの初春や真姫もどこにいったのかを探る必要があり、さらに目が覚めた黒子に対して放送や気絶して以降何があったのかも説明しておく必要がある。

そんな時、ふと穂乃果は自分の格好を見下ろす。
練習着は穴掘りを手伝った時の汗でかなり湿っており、ここに来るまでにあった様々な出来事もあって汚れもかなりついている。
動きやすい服ではあったが、ここまで汚れるとあまり着ていて気分のいいものではない。

(そういえば、花陽ちゃんも海未ちゃんも制服だったよね…。どうして穂乃果だけ練習着だったんだろ…?)


穂乃果が思い出したのは道中で会ったアンジュの服装。彼女が纏っていたのは自分の通う学校の指定する制服だった。
聞いたところではそれは音ノ木坂学院で拝借したという。なら自分が着替える分くらいはあるだろう。

そうして探してみた結果、売店の中においてある制服を見つけることができた。
その一着分を拝借、誰もいない教室の一室で着替えを済ませた。

白い半袖のブラウスに赤と青のスカートを着用し、その上にベージュのベストとリボンを重ねる。
この場所できっちりと見繕う必要はないのだが、それでも中途半端にしておくのも落ち着かなかった。

いつも着ていた服であったし、最後に着替えて丸一日も経っていないはず。
だというのに、これを着るのに随分と間が空いたような、そんな感覚に陥っていた。

畳んだ練習着をデイパックに仕舞い、二人のいる場所へと戻ろうと歩き始めて。
その道中、ふと目に入った一室。
『アイドル研究部』と標識が貼り付けられた扉はとても慣れ親しんだ場所だ。

「………」

静かに取っ手を回し、ゆっくりとドアを押す。


――――遅いですよ、穂乃果
――――待ちくたびれたにゃ

「……!」

その時、聞こえるはずのない声が耳に届いた気がした。
思わず勢いをつけて扉を開いて部屋へと飛び込む。

だが、そこには誰もいない。

「…空耳、だよね」

そう、いるはずがないのだ。ことりちゃんも、海未ちゃんも、凛ちゃんも。
二度とこの部屋の中で会うことはない。
それに改めて気付いた時、部屋の中が随分と広くなったように感じられた。

μ's。
希ちゃんがつけてくれた、9人の女神を意味するグループ名。
だけど、もう6人しかいない。
考えたくなどないけど、もしかしたら自分や花陽ちゃん、真姫ちゃんもいつかどこかで。


(真姫ちゃんは…どこに行っちゃったの…)

失うことの恐怖と共に、会いたいという想いが心の中に膨れ上がってくる。
いない理由を考えれば嫌な方向にばかり思考が向いていく。

「…あれ?」

ふと、部屋の奥に目をやる。
その机の上には一枚の紙が置いてあった。

「何だろう、これ」


942 : いつも心に太陽を ◆BLovELiVE. :2015/11/22(日) 10:38:17 oZ3tsk7U0

拾い上げると、そこには文字が書かれている。どうやら書き置きのようだ。
しばらくここから離れた施設へと移る、もし戻らなかったら闘技場で待ち合わせをしている者がいるから先に行っていて欲しい、とのことだった。

「そっか…。真姫ちゃん、ここにはいないんだ…」

槙島からその所在を聞いてから会えると思っていた相手は今別の場所にいるという。
いなくなった理由が分かり無事だということも確認できたことでホッとしたような、それでもいなかった事実に少し気の抜けてしまったような、複雑な気分だった。

ともあれ、いつまでもここにいるわけにはいかない。

このことを二人に告げて今後どうするかを話し合わねばならない。
離れていったというイリヤのことも気にはなっている。

誰もいない部室に背を向けて扉の前に立ち。
ドアノブを回そうとして、一瞬手が止まる。

チラリと一度だけ、その教室の中を振り返って。
そのまま部屋の外へと出て行った。




アルコール臭のする部屋。黒子が目を覚ました場所。
机の上に置かれた3つの首輪の一つをニシキヘビのエカテリーナがチロチロと舌を出して舐めている。
黒子としてはあまり好きな生き物ではなかったが、今は亡き婚后光子の飼い蛇とあれば邪険に扱えるはずもなく。
彼女がいつも持ち歩いていた扇子と共に預かることとなっていた。


穂乃果が着替えに出ている間、一旦怪我の詳細な確認も兼ねて保健室に戻った黒子は黒から気絶している間にあった出来事を聞いていた。
まず放送の内容。禁止エリアと死亡者、そして首輪交換のルール。

名前を呼ばれた数は12人。
一回目放送と比べると人数比でいえば同じほどの死者が出ている。
その中に初春や御坂美琴、そして朝に別れたウェイブや小泉花陽、ロイ・マスタングの名がないことに胸を撫で下ろす。
しかしその一方で食蜂操祈が死亡したということには少し思うところがあった。
付き合いのあった相手ではないが同じ常盤台の学生。そして、もしかするとキリトの話していたイリヤの変貌の原因かもしれない者。
特に後者の問題は彼女が死んだとなっては確かめる術も減ってしまったと言える。

そして首輪交換ルール。
埋葬した遺体が婚后光子のものも含めて全ての首が切り離されていたのはそれが理由なのだろう。
実際に黒が切り落としたのは美遊、マミの二人だけであり園田海未の首輪は到着した時点では既になかったらしい。
これはおそらくこの場にいた初春達によるものだろうと黒子は推測する。放送前に首輪を一つ分回収してどこかに移動したのだろう。


また、このルールを追加したという広川の思惑も気になるところだ。
死人が増えて首輪を得る機会も増したということから可能な限りそのサンプルとなるものを手元に戻しておきたいということなのか、それとも本当にただのテコ入れなのか。
あるいは、どうしてもその首輪の中に回収しておきたいものが混じっているのか。

「…そういえばキリトさんが亡くなられる直前言われていました。自分の首輪をヒースクリフという人物に渡せば何か分かるかもしれない、と」
「ヒースクリフ…、そいつは信用できるのか?」
「それは分かりませんわ。むしろ警戒する必要があるとも言われていましたし、ただの善人ではない様子みたいでした」
「ちなみにその首輪は?」
「今はアンジュさんという方がお持ちになられています。エンブリヲを探すと言われていましたし、私達がサリアと戦った辺りにいるのかもしれません」
「入れ違いか…」

黒としては、そうなってくると一旦あの場所に戻るべきだと思い始めていた。
元々この場所に付いてきた理由の一つには探す予定であったイリヤの目的地ということもあった。
だが、この場所にもいないとなれば、きっと別方向、後藤と戦った場所近くをもう一度探索する必要がある。
そこにはきっと、死に損なった後藤もいるかもしれない。

エンブリヲ、後藤、イリヤスフィール。
いずれも放置することはできない者達だ。

「それで、婚后光子のことですが」
「………」
「やはり彼女を殺したのは後藤、ということですのよね?」

友の死に対する怒りのようなものを滲ませながら、そう黒に問いかける黒子。
その口調にはその推測をほぼ断定に近いものとして考えているようだ。
実際、彼女の死因は体を斬られたことによる傷が原因。後藤の攻撃と一致する。

無論、後藤のせいにすることも可能ではあった。
そうしておけば彼女の受ける心理的なダメージは幾分か減らすことができるだろう。
だが。

「いや、違う」

それでも黒は真実を話す。

「あいつを殺したのは、イリヤスフィール、お前達が保護した少女だ」




943 : いつも心に太陽を ◆BLovELiVE. :2015/11/22(日) 10:40:21 oZ3tsk7U0


「認められませんわ」
「………」

穂乃果が保健室まで戻ってきた時、そこには黒子が厳しい表情で黒に対して睨みつけていた光景があった。

「だったらどうする?お前ならあの子を助けられる、とでも言うのか?」
「助けられるか、ではありません。助けるのですわ。
 説明したはずです。彼女は、ただ洗脳によって自分の意志に反した行動を取らされているだけなのだと」
「ど、どうしたの二人とも…?」

部屋に入った穂乃果は恐る恐る声をかける。
一瞬黒はこちらを見たが、黒子は聞こえていないのか黒の方を向いたままだ。

「別に俺も彼女を出会い頭に殺そうと思っているわけじゃない。
 もし、あの子が自分の罪に耐え切れずに道を踏み外したなら、それも視野に入れておかないといけないと言っているだけだ」
「あの子…って、イリヤちゃんのこと?」
「確かにあの子は自分の意志で殺したわけじゃないのかもしれない。
 人殺しとは無縁の世界を生きてきた、精神的にはただの女の子なんだろう。
 だが、だからこそ危険だ」

確かにイリヤの精神は人殺しのものではない、ただの歳相応の女の子のものだ。
偶然そんな子が戦うこともできる力を得てしまっただけの話。
だが、一般人だからこそ、人を殺したという罪に耐えられるかどうかが分からない。
そう黒は言う。

「俺は戸塚に頼まれた。だから仇を打とうとか、そういう思いはない。
 お前もその様子だと婚后光子のことを責めるつもりはないんだろう。
 だが、それをあいつ本人が許せるかどうかは別だ」

特に、彼女が死なせた者の中にはクロエ・フォン・アインツベルン、イリヤの姉もいた。
その罪を許すことができるものは、今この場ではイリヤ自身だけだ。



黒が思い出す一人の少女。
かつて人を契約者として多くの人を殺し、その対価として更に多くの人を死に至らしめた少女を。
彼女は喪失者として契約者の能力を失い人の心を取り戻し。
そしてそれまでの罪を自覚し、そして能力を取り戻すことでまた人を殺すのではないかと強く恐れるようになっていた。

そういった世界で生きてきた人間でも、ひとたび人の心を取り戻すだけでそれほどまでに怯えるものなのだ。
人殺しの罪がどれほど重く人の心にのしかかるのか。
それに、彼女が耐えられない可能性もあるし、そうなれば相応の対処が必要になるのは明白。




「だからこそ、彼女を救わねばならないのですか。その罪にあの子が押し潰されてしまう前に」
「そうしている間も、もしイリヤスフィールが道を踏み外していれば更に犠牲は増える」
「殺すことが解決になるのですか?!」
「少なくともこれ以上の犠牲が出ることは防げる」
「…分かりましたわ。では私も付いて参ります」
「駄目だ。お前達はここに残れ。あの場所に戻るのは危険だ」

言っても噛み合わないと感じた黒子は自分も黒に同行することでイリヤを自分の手で止めるという選択肢を選ぼうとするが、黒は承諾しない。
もし”その時”に直面した際に今のようなぶつかり合いが再度勃発すれば機会を逃してしまう。
それに黒が向おうとしている場所にはエンブリヲや後藤を始めとする者達がいたはずの場所。もしかするとキリトを殺したサリアもあの付近にいる可能性がある。



「お前達は仲間と合流してその首輪の解析をしろ。
 俺はあいつらを探す」
「そのことですけど…、真姫ちゃん達は別の施設に移動したから戻ってくるまではしばらく会えないって」
「ならなおさらだ。その時にはその首輪の解析が可能な者がいるんだろう。今はそっち側を優先しろ」

穂乃果が戻ってきたのを確認すると、黒は立ち上がる。
情報交換も終わった以上もうこの場ですることはない。


944 : いつも心に太陽を ◆BLovELiVE. :2015/11/22(日) 10:41:07 oZ3tsk7U0

「お待ち下さい、まだ話は―――」
「言っただろう。受け入れるだけでは、救えないこともあると。
 婚后光子が命を落としたのは、ある意味ではお前の責任でもある」
「……っ」

その言葉自体は黒の本心ではない。
彼女が命を落としたのも、あくまで偶然が重なった末に最悪の結果を導いてしまったというだけのこと。
後藤との戦いがあったあの場ではあれが最善のやり方、とはいえないがベターではあったし、イリヤを処分する、ないし見捨てる選択肢を彼女に選ばせるのも酷なことだ。
黒子の選ぶ選択肢が間違っているとは思わない。
だが、それでもどうしようもないことは確かに存在する。

「それにあの付近にはエンブリヲも後藤もいる。もしかすると他の誰かが寄ってくるかもしれない。
 そんな場所に、高坂穂乃果を連れていくのか?それともここに一人放置していくのか?」
「それ…は……」

引き合いに出された穂乃果はビクリと肩を震わせる。
少なくとも現状のこの場所は安全であり、もしかすると初春達との合流も叶うかもしれない。
だが、ここから黒子が離れるのであればどちらの選択にしても高坂穂乃果もまた危険に晒される可能性が上がる。
つまりは、イリヤを追うために黒に同行するのであれば、穂乃果をなお危険に晒すことになる。

「安心しろ。言ったとおり俺もそれを前提に動くつもりはない。
 ただ、最後の手段として視野に入れておくという、それだけだ」

それだけを言った後、黒は首輪の一つを持っていく。
美遊・エーデルフェルトの首輪。元々はこれのために婚后光子の他の3人の死体の埋葬を手伝ったといってもいい。
一箇所に多数固めておくよりはある程度数を分けておいた方が解析をする効率は上がる。
それにこれはイリヤスフィールの友人の首輪。もしかすると彼女との対話、ないしは戦闘の際に使うことができるかもしれない。





そのまま退室した黒は入り口から出ることなく窓を開いて外に飛び出して去っていった。


「白井さん、私のことは…」
「…………」

心配そうに呼びかける穂乃果の横で、ふと黒子は地面に落ちていたボールペンを握り、転移させた。
数メートル移動した場所に移動して地面を転がる。
しかしその転移座標は自分が認識した座標から幾分かのズレが生じていた。
更にもう一度使おうとすると、今度はタイムラグが発生していた。
現状で能力を使っても万全ではない。

確かに今追っていってもまともに戦うことはできないだろう。
そう、穂乃果の前では情けない自分を見せられないと思って光子の死の悲しみを必死に押し殺して強がってみせて。
だけど所詮は強がりでしかなかった。これが、今の自分の限界だった。

「…別に驕っていたつもりはなかったのですが…、それでも私はこの場所ではただの一参加者でしかないことを思い知らされますわね…」

美琴やイリヤスフィールが凶行に走るのを止められず。
佐天や婚后光子が自分の近く、まだ手の届く場所にいた仲間が死に逝くことを止められず。
目の前、手を伸ばせる場所にいながら目の前で死んでいった者達、天城雪子やキリトといった者もいる。

自分の力が全てを救うことができるものだなどとは思っていない。
だけど、今は目の前にいる者、手が届く場所にいる者達にも届いてはいなかった。

それでも普段の黒子であれば、まだ黒の言うことにももっと反論することができたかもしれない。
だが、今は婚后光子の死を目の当たりにしたばかりであった。
それも見知らぬところでそれが起こったわけではない。すぐ傍の、自分の手が届く場所で彼女は死んだ。自分が問題があると判断し保護した少女の手で。
積み重なったそれらの要素は彼女の心に重く伸し掛かっていた。

それでも白井黒子の心は折れることはないだろう。
今もまだ黒のやり方だけが解決策とは決して受け入れてはいない。
ただそれでも、今の彼女には。
心を落ち着けるための時間が必要だった。

婚后光子、仲間とも呼べる者を自分の手の届く場所で失ってしまったことに対する心の穴を癒やすための時間が。


945 : いつも心に太陽を ◆BLovELiVE. :2015/11/22(日) 10:43:23 oZ3tsk7U0


(イリヤちゃん…)

穂乃果はほんの短い間共に行動しただけではある、あの白い少女に思いを馳せる。
あの子が光子やクロエの二人を殺したと言われてもその光景が浮かぶことはない。
それほどまでに、あの子と婚后光子の死体の絵は乖離したものだった。

(私も、もしあそこでサリアを殺してたらそうなってたのかな…)

結局放送で名前を呼ばれなかったサリア。今の彼女の所在は分からない。
親友を殺したことは今も決して許せてはいない。
だけど、どうしてあの時白井さんやアンジュがあそこまでして自分のことを止めたのか、ほんの少しだが理解できたような気がした。

(もし、私がことりちゃんと会ってたら…、人を殺したことりちゃんを受け入れられたのかな…?)

セリューは言った。ことりは殺人に手を染めたと。
槇島は言った。友達のために人を殺そうとした決意、それ自体は間違ったものではない、と。
狡噛ですらも、ことりが凶行に走った事実そのものを否定することはなかった。

だけど。

(私は、ことりちゃんに人殺しになって欲しくなんかなかった…)

その時の彼女がどんな心境だったのかはもはや知る術がない。
だけど、もしその手や服を真っ赤な血で染めた親友と再会するようなことがあったら。
自分だったらどうしただろうか。

セリューのことは許せない。
ことりを殺し、その亡骸を弄び、あまつさえ南ことりという存在そのものを侮辱した彼女を。

それでも。
ことりに殺人者になって欲しくはなかった。

この思いだけははっきりと、自分の中で受け止めなければならないものではないのだろうか。



音ノ木坂学院を振り返る黒。
確かにこちらの方が安全、とは言ったがあくまでも比較した際の話であり、この場所がこの先ずっと安全である保証はない。

だが、黒は正義の味方ではない。なることはできない。
できるのは自分の守るべきものや手の届くものを守ることだけ。
そしてその中心にいるのが銀であるのだから。

それでも、契約者の力を持ちつつも契約者ではない黒の判断は契約者のような合理的判断などには程遠いものだ。
戸塚の言い残した言葉を元に、まだイリヤを殺すことを一旦保留としている辺りがその象徴だろう。

(正義、か)

契約者にも似た能力を持ちながら、子供が信じるような正義の味方像にも思える志を貫こうとする少女。
とても非合理で、理想論じみたものを。
黒にしてみればそれはとうに失ったはずのもの、だが嫌いではなかった。

だからこそ、この音ノ木坂学院に彼女を残していった。
きっと彼女はまだ立ち上がる術を、己の道標を持っているはずなのだから。

(ならば守ってみせろ。お前なりのやり方で)

汚れ仕事は自分が背負えばいい。
小さく、心の中で黒子に激励の言葉を投げながら、黒は静かに走り始めた。


946 : いつも心に太陽を ◆BLovELiVE. :2015/11/22(日) 10:44:11 oZ3tsk7U0

【G-6/音ノ木坂学院/一日目/日中】

【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷、腹部打撲(共に処置済み)
[装備]:友切包丁(メイトチョッパー)@ソードアート・オンライン、黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×2、首輪(美遊・エーデルフェルト)
[道具]:基本支給品、ディパック×1、不明支給品1(婚后光子に支給)、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
1:銀や戸塚の知り合いを探しながら地獄門へ向かう。銀優先。
2:後藤、槙島、エンブリヲを警戒。
3:魏志軍を殺す。
4:地獄門へと向かう道中で後藤と戦った場所付近を通りイリヤを捜索。もしどうしようもない状態ならば殺すことも視野に入れる。
5:二年後の銀に対する不安。
6:雪ノ下雪乃とも合流しておく。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリト、黒子、穂乃果とは情報交換済みです。
※二年後の知識を得ました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。


【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大)
[装備]:音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(3/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3
[道具]:練習着
[思考・行動]
基本方針:強くなる
0:白井さん…
1:音ノ木坂学院で真姫ちゃん達が戻るのを待ってみる。
2:花陽ちゃん、マスタングさん、ウェイブさんが気がかり
3:セリュー・ユビキタス、サリア、イリヤに対して―――――
4:もししばらく経って戻らないようなら書き置き通りに闘技場に向かう
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません


【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、悲しみと無力感
[道具]:デイパック、基本支給品(穂乃果の分も含む)、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、首輪×2(婚后光子、巴マミ)
     扇子@とある科学の超電磁砲、エカテリーナちゃん@とある科学の超電磁砲
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春などの友人を探す。
0:お姉さまやイリヤを…
1:穂乃果と共に音ノ木坂学院で初春達を待つ?
2:初春と合流したらレベルアッパーの解析を頼みたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているということを確信しました。
※槙島が出会った人物を全て把握しました。
※アンジュ、キリト、黒と情報交換しました

※美遊・エーデルフェルト、巴マミ、園田海未、婚后光子の死体は音ノ木坂学院にて埋葬されました


947 : ◆BLovELiVE. :2015/11/22(日) 10:44:37 oZ3tsk7U0
投下終了です


948 : 名無しさん :2015/11/22(日) 11:15:24 RXuYDq060
投下乙です

やっぱり黒子は精神面でダメージ食らったか
黒さんはイリヤへの対処をどう決断するのだろうか


949 : ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:44:17 GdBlUVyM0
投下乙です

穂乃果ちゃんが少しづつ成長してるなぁ…海未ちゃんとの別れのシーンが切ない
黒さんは安定してかっこいいなぁ、DTB節が迸ってますね。
黒子は折れないで頑張って欲しいものです。

自分も投下します


950 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:45:42 GdBlUVyM0



上条当麻はヒーローだった。


たとえ幾億の死を越えても、その上でただの一度の勝利も掴めなくとも、
最後にはいつだって皆が望む結末を手繰り寄せてみせた。
そんな彼だからこそ、御坂美琴は恋をした。


だが、運命は歪み、捻じ凶げられ、上条当麻は死ぬはずの無い時に、骸を晒した。



この物語に、ヒーローは居ない。





951 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:46:55 GdBlUVyM0

「どうして…」

どうして、こんなことになったのだろうか。
幾度目になるか分からぬ呟きを漏らしながら、セリム・ブラッドレイ/プライドは歩く。
しかし、歩みは遅々として進まない。

元々、あまりに希薄なアテの旅路だ。
しかも、絶望を突きつけられるかも知れないと分かっていては
歩幅の間隔も広くなることは決してない。
何も知らぬ者が彼を見れば、帰る場所を喪った孤児と形容するだろう。
傍らに、誰も寄り添うことは無く、
名前を無くし、帰るべき場所を無くした一人の怪物はただ進む。
まるで、レミングの如く。

「………?」

歩く傍ら、自分を見下ろす視線がある事に気が付いた。
茫洋と上方を見上げ、視線の主を探す。


グラトニーから奪った嗅覚のお陰で、視線の発生元であるその少女は直に見つかった。
街灯の上に立ち此方を見下ろしてくる、星空凛や小泉花陽よりも少し幼い印象の少女。
陽光で影がかかっていた為、表情は伺えなかったが、瞳は何故か嫌でも目についた。

そこからたっぷり数秒間お互いの瞳を見つめた後、どちらともなくああ、と微かな呟きを漏らした。
朧げだが、理解したのだ。
彼女/彼もまた、帰る場所を喪った者なのだと。


952 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:49:13 GdBlUVyM0

ふわりと、少女の体が浮き上がり、セリムがいる地平へと降りてくる。
一瞬どうするべきか躊躇したが、それを見てセリムは意を決して口を開く。

「あの、」

今一度、少年としての仮面(ペルソナ)を被り、少女と相対する。
何世紀も繰り返してきた事だった。
目の前の少女は星空凛や小泉花陽と違い、無力な弱者では無く、婚后光子の様に何らかの力を有しているとセリムは踏んだ。
でなければ、街灯の上に立っていた事も、この時に至って独りでいる事も不自然だ。
新たな隠れ蓑にできれば御の字だろう、そう判断した。

「…………」

しかし、目の前の少女は答えない。
無表情でありながら、何かを図りかねているか様な雰囲気だった。
静寂が緊張を高めていく。

「……僕はセリム・ブラッドレイと言います。お姉さんは」

埒が明かないと判断し、不本意ながらもセリムの方から名乗った。
これでも無反応ならばお手上げだ。

しかし、幸運なことに――セリムの不安とは裏腹にブラッドレイと言う単語を聞いた途端、少女の顔が変わる。
最も、セリムが期待していた様な表情ではなく、どこまでも冷淡な、何かを確信した顔にだが。
少女が口を開く。

「………そう、アンタも人じゃないのね」


953 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:50:32 GdBlUVyM0


空気が弛緩し、固まる。
欺くために作った表情が酷く場違いに感じる程。
しかし、この程度で揺らいでいては、果てない時間を政府要人の子息として生きることなどできはしなかっただろう。

「何の事、ですか?」

戸惑った様な表情は忘れない。
この場で作る表情を間違えれば疑念の眼は避けられない。
無力な怯える少年、セリム・ブラッドレイを演じながら思考を巡らせる。

この少女は北側からやって来た。
位置や時間的に焔の錬金術師達から情報を得たとは考えがたい。
ならば、

「韜晦するのはやめなさい。アンタの事はエドから聞いてるわ。
 それに、あのオッサン…キング・ブラッドレイの息子なんでしょ?」

やはりか。
鋼の錬金術師の名前が出た事を確認し、心中で舌打ちしながらどうするべきか考える。
この少女は最早アカメ達の様に隠れ蓑には成りえないだろう、始末するしかない。
ラースの名前が出た事が気がかりだが、今わの際に吐かせれば事足りるだろう。


この少女を殺せば、また一つ首輪が手に入る。
それは、真実に近づく事と同義だ。
“希望”に縋るために、少年は力を行使することに最早迷いはない。


影が、展開される。

「――仕方ありませんね。貴方もここで散ってもらいましょう」

同時に仮面が剥がれ落ちたように放出される禍々しい殺気と死の予感。
しかし、目の前の少女はそれを苦々しい笑みと共に受け入れた。
まるで、最初からこうなる事が分かっていたかのように。
こうなる事を望んでいたかのように。
少女が、口を開く。


954 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:50:57 GdBlUVyM0


「それじゃ、ウォーミングアップがてら始めましょうか―――」



少女の額から青白い火花が散り、
それが開幕の号砲となる。

直後、轟!!と言う爆音とともに
学園都市のナンバー3『超電磁砲』と始まりの人造人間『プライド』が激突した。


955 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:51:24 GdBlUVyM0



鋼すら容易に切断する最強の矛と最強の盾の性質を併せ持った影が世界を蹂躙する。
それは大地を、アスファルトを、民家を掘削し、瓦礫を撒き散らしながら少女に迫った。

しかし、少女には一抹の動揺も無い。
影と同じくして振るわれる腕(かいな)。

それだけで、少女に迫っていた死神の鎌たる影はあらぬ方向へと進路を変えた。
少年の目が見開かれる。

「……私と、同じ?」

少女は、黒々とした少年の影と似たモノを周囲に纏わせていた。
彼女の最も得意とする攻撃のレパートリーの一つ、砂鉄の剣。
鞭状だった砂鉄は、変幻自在に形を変えていく。
その数、八本。
少年の感覚としてはそれは、長大な蜘蛛の足の様に思えた。

「ええ、参考にさせてもらうわ」

ぎょろぎょろとした夥しい程目玉が張り付けられたおぞましい影と相対しても、
少女は渇いた目でそう一言残すだけだった。
心は既に、深い深い絶望によって麻痺状態にある。

砂鉄の剣と影がぶつかり合い、鎬を削る。
金属音とも違う、鋭い轟音が世界を包んでいく。
一手、二手、三手。
縦横無尽に繰り出される攻撃。


(成程、彼女が婚后光子が言っていた超電磁砲、ですか)

錬金術とも違う異能を使う、超能力者と呼ばれる者達の中でも屈指の実力者だと光子は語っていた。
確かにその能力は国家錬金術師すら凌駕するかもしれない。

だが、



「タネが割れれば、どうと言う事はありません」



日中の少年の能力はそれすらも超える。


956 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:51:57 GdBlUVyM0

八本の砂鉄の剣の内の一本を影が一瞬の内に食い破った。
少女の黒き剣は確かに大したものであるが、自分の影程堅牢でも、鋭くも無い。
事実、少女の黒き剣はよくよく観察してみれば自分の影を受け流す事がやっとの様だ。

このまま撃ち合いを続ければ、軍配は必ず自分に上がる。
しかし、それは少女にも承知していた。
砂鉄の剣はあくまで彼女にとっての見せ札の一つに過ぎない。


「どうと言う事はないかどうか―――試してみろってんのよ!」

再度、少年に牙を突き立てんと殺到する七本の砂鉄の剣。


「芸が無いですね」

影で黒き剣を事もなげに打ち払いながら、同時に妙だとも感じていた。
婚后光子の話によれば、この少女は電撃を操るという話のハズだ。
にもかかわらず、少女は一度も電撃を放ってこない。

放てないのか、それとも何か意図する所があるのか。

だが、防戦とは言え、黒き剣で自分の影を凌ぎ続けているのもまた、まぎれもない事実だ。
油断は決してしない。
電撃を撃たぬと言うのならそれならそれで好都合だ。
勝負を決めるための攻勢へと移る。

「これで、終わりにしましょう!」

影が怒涛へと変わる。
点の攻撃から面の攻撃へ。
一撃一撃の密度は落ちるもののそれでも殺傷力は少女の剣に勝る。

一本また一本と蜘蛛の足がもがれ、少女の姿が露わになっていく。
少年には明確な死が迫っていると言うのに、少女の眼はどこまでも渇いているように見える。
しかし―――その唇は歪み、笑みを形作っていた。


957 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:52:34 GdBlUVyM0

砂鉄の剣が様相を変える。
蜘蛛の足から、まるで鎌鼬。否、竜巻のごとし。
その刃は一度の交錯で百を超える裂傷を生み出すだろう。

常人なら瞬く間に心胆を凍らせる光景だが、少年の心中に沸いたのは疑問符だった。


(……何故、防御を捨てる真似をする?)

先程の激突で恐らく最高密度の点の攻撃でも自分の影は突破できなかったはずだ。
それなのに、自分の様に面の攻撃に移るとは。
自分が一度や二度の死では滅びない事を知らないが故の行動なのかも知れないが―――
これではあまりにお粗末に過ぎる。

盾と鎧を捨てた破れかぶれの特攻(バンザイ・アタック)も良い所だ。
しかし、少年には少女がそんな無謀な事をするとは思えなかった。
狙いは何か別の所にあるのだろう。
要するに、自分は誘われていると判断した。

(いいでしょう)

そこまで分かりきった上で少年は、セリム・ブラッドレイ/傲慢は誘いに乗る。
人の上位種である人造人間の矜持を賭け、
目の前の少女を下すために、自分の名を取り戻すために。

影は拡がり、津波に変わる。

例え少女の生み出した黒い竜巻が剣を超える鋭さだとしても。
例え電撃を放ってきたとしても。
一片の容赦なく飲み込み、食い破るために。



影と砂鉄の旋風が衝突する。
凄まじい程の圧がその場全てを制圧し、薙ぎ払う。


958 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:53:11 GdBlUVyM0

されど、拮抗は一瞬。
爆散。
少年の想定通り影は黒の竜巻を蹂躙しそのまま少女へ―――――



漆黒の壁の先に少女の姿は無かった。

(……何処へ?)

嗅覚をフルに稼働し消えた少女の行方を追う。
だがいくら臭いを頼りにしても少女の残り香を捕えるのみ。

ならば嗅覚の利かぬ風下かと今度は視線で少女を追う。
しかし、撒き散らされた砂鉄の塵で視界は悪く、見つからない。
ミサイルに対するチャフの役割を果たしていた。

(成る程、あの不自然な特攻は陽動ですか)

それに気づいた少年はすぐさま自分の両眼二つだけではなく、影についている目玉も総動員し、索敵に回して全方位をカバーする。


だが、それでも少女は見つからない。


まさか、と思い宙に顔を向ける。
陽光が目を指し顔を歪めながらそれでもしっかりと双眸を見開き、少女の姿を捕えた。


(―――上!?それも高い…ッ!)



翼無きはずの少女は飛んでいた。
一メートルや二メートルでは無い。
優に10メートル以上の飛翔。
例え鳥でも一度の羽ばたきしか許さぬ一瞬の内にだ


959 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:53:50 GdBlUVyM0

その異常な飛翔の正体は、莫大な高圧電流。
10億ボルトもの出力を誇る電撃により大気を爆発させ、その勢いをもってして少女は翔び、
その際、発生した爆発音も影と砂鉄の衝突によってかき消されたのだ。

(…不味い!!)

走る戦慄。
周囲に広げていた影を自身の周りに再び集めようとする。
だが、少女の攻撃に比べれば余りにも遅い。遅すぎる。

少女は落下しながら、掌を少年の頭上へと翳した。

音すら置き去りにして銃弾の数百倍の速度で迫る雷撃の前では、刹那すら致命となる。



『超電磁砲』
学園都市の第三位。
その序列が意味する通り第一位や第二位にはたとえ彼女が200人いた所で届かない。
『一方通行』/神にも等しい力の片鱗を振るう者。
『未元物質』/神が住む天界の片鱗を振るう者。

所詮人界の者にしか通じぬ力しか持たぬ超電磁砲では彼等とは隔絶した実力差が存在する。
しかし裏を返せば、彼女の能力は。
人界の業(わざ)が通用する相手にならば、圧倒的な威力を発揮する。

加えて、彼女の世界において、何か決定的な間違いを犯そうとする者を止めてきたのは、
いつだって、愚直なまでに真っ直ぐな魂と
揺るぎない信念と、
神の奇跡さえ否定する力を秘めた右手だった。
故に、如何に強力な力を有していようと―――惑い揺らぐ心では彼女は止められない!



眩い程の光が、プライドを飲み込んだ。


960 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:54:50 GdBlUVyM0



「――でしょうね。何か、そんな気はしてたわ」

閃光が収まった世界で、美琴は相対する人外に毒づく。

「……やってくれますね。あの雷撃だけではなく、
落下の際に周りの瓦礫を操って僕を叩き潰すとは…僅かな間に二度、滅ぼされたのは初めてです」

美琴が放った『電流』の電圧は彼女の全電力の1%にして1000万Vオーバー。
処刑方法として広く世間に知られている電気椅子の電圧の有に500倍だ。
だが、目の前の少年はケロリとした表情で瓦礫の中から這い出てくる。

それと共に、獰猛な影は再び少年の周りに展開し、臨戦態勢を整えた。

全ては仕切り直し。
一陣の風が凪ぎ、二人の肌を撫でる。

しかし、

「やーめた」

相手の一挙一側に集中し、身構えていたセリムとは裏腹に、美琴は肩を竦めた。
あまりにも拍子抜けな展開に目を丸くしながら、セリムは美琴に問う。

「何のつもりですか?」
「私の戦場はここじゃないって事よ。それに、アンタも私を見逃した方が得だと思うけど」

訝しみながらも、セリムは美琴の真意を探る。
先程までの動の時間とは違う、ひりつく様な静の時間が通りすぎていく。


961 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:55:27 GdBlUVyM0

「アンタが下手打って、一人になって、それで首輪欲しさに私を襲ったなら、なおさらね」

全てを見透かすような口調で美琴は続ける。

「安心していいと思うわ。私、ゲームに乗ってるの。
……私の話に耳を貸すのは、この場じゃもう三人しかいないと思うから」

ひらひらと首輪を見せながら自嘲するような呟きを囁くその顔は、どこか儚ささえ覚えた。
暗に御坂美琴の口からセリム・ブラッドレイの正体が広まる事は無いと伝えている。

「信用できるとでも」
「じゃあ続きをやる?今度はできる限り派手にやるわよ」

その言葉にセリムの思考がわずかに揺らいだ。
この少女は自分の手札を全て出し切っていない。
それが自分を倒せるものとは思えないが、これから日が暮れていくこの状況で、
堂々と戦って人を集めては本末転倒である。


「それに…アンタの父親、キング・ブラッドレイとの約束があるし」
「ラースが?」

さらに、決して看過できない名前が出てきた事でセリムの戦意が削がれ、

「ええ、アタシと同じで殺し合いに乗ってるから協力しようってハナシ」
「……浅はかな」

表情では平静を装いつつセリムは少なからず動揺した。
ここには二人の人柱がいるのだ。
父上の指示も仰がず、ラースが本当に殺戮に臨むと言うのなら早計としか思えない。

「そうかしら?少なくとも………
 今のアンタよりはマシな選択したと思うけど」

そんなセリムの思考を読んだかのように美琴は言葉を投げる。


962 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:56:19 GdBlUVyM0
美琴にはキング・ブラッドレイがどんな真意で自分に協力を申し出たのかは分からない。
そもそも本気で殺し合いに乗っているのかすら。
でも、今はそんな事はどうでもよかった

「……何が言いたいんです」
「キング・ブラッドレイは、自分の意志でこの殺し合いに乗ってたわ
 確かに、自分の往くべき場所を決めてた。
 この期に及んでまだどうするべきか分からないって顔してるアンタ何かよりよっぽどね」

語りかけながら、美琴はディパックを開く。
すると、影によって食い散らかされた鉄分を含んだ大量の瓦礫が彼女の磁力によってディパックに収まっていく。
収納された瓦礫はこれからの彼女の盾となり、鎧となり、敵を破壊する鎚となり超電磁砲の弾丸となる。
念じたモノが出てくるディパックの性質上取り間違える心配も無い。

この瓦礫を手に入れる事が彼女がセリムと闘った目的の一つでもあった。
それが果たされた事を確認すると美琴はディパックから目の前のセリム・ブラッドレイに視線を移す。

「アンタも決める事ね。自分の立つべき場所を」

そう言い残すと、セリムからゆっくりと背を向け、図書館の方に向けて歩き出す。
今なら無防備な少女の背中を貫く事は容易そうだが―――セリムは何もできなかった。


損得で考えれば、彼女を行かせた方がメリットは大きいのだから。
あの少女は手強い、双方本気で殺しあえば自分もただではすまないだろう。
彼女があの図書館にいた者たちを減らしてくれれば、セリムも動きやすくなる。


影を収め、離れていく少女の背に問いかける。


自分は、少女の言うとおりどこにも立ててなどいないのかもしれない。
ならば、それならば。
目の前の彼女は何のためにその場所に立ったのだろう。

「貴方は、何のために殺し合いに乗ったのですか?」

ぴたりと、少女が足を止め、まるで、自分に言い聞かせる様な声で答えた。



「私はきっと、この場にいる人達皆を敵に回しても」



「アイツに、生きていて欲しいんだと思う」


963 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:57:33 GdBlUVyM0



御坂美琴の背中を見えなくなるまで見送った後、そのままセリムは立ち尽くしていた。

「自分の立つべき場所、ですか」

セントラルで父の手足として動いていた数世紀では考えもしない事だった。
その事に疑問など持たなかった。

「ラース、貴方は何を考えて…」


末弟の選択が長男である彼には分からなかった。
元は人間とはいえ大総統として選ばれた程の男だ、安直な考えで殺し合いに乗ったとは考えづらい。
だが、彼が永く人間と接しすぎたのもまた事実である。

(まさか、ラースには父上が何か指示を?)

そこで、都合のいい考えをしている自分に気づいた。
長男である自分に何も伝えないのだ、ラースに父が何か伝えているわけはないだろう。
しかし、もしかすれば、いや、と言う言葉が頭の中で何度も浮かび、思考の袋小路に陥ろうとする。


憤怒の名前を冠する弟は父に見捨てられたかも知れない状況で、絶望することはなく、自分の意思で殺し合いに乗った。

小泉花陽は、信じたものが根底から否定されても、自分から目を逸らす事は無かった。

あの電撃を操る少女…御坂美琴は、大切なモノのために殺し合いに乗った。


自分は?
このバトル・ロワイアルで、どこに立ち、どこへ行くのか?
誰も教えてはくれないし、その手を引く者などいない。
だから、自分で決めるしかない。


「ハッキリさせましょう。全てを」


964 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:58:34 GdBlUVyM0


希望が無になる事は恐ろしい。
しかし、此の儘では自分は何処にも立つことなどできはしない。
あるかも分からぬ希望に縋って哀れな孤児になるよりは絶望の真実を知ることのほうが余程いいと思えた。

瞳に深い絶望を宿し、方向性は違えど、闇の底で必死に足掻こうとする少女達を見たからかもしれない。

「ラースの事を言えませんね」

人造人間としての矜持を持っているにも関わらず、人に影響される自分を自嘲しながら、武器庫の方へと視線を向けた。

「―――行きますか」

そして、再び名前を無くした怪物は歩き始める。
その足取りは、先ほどよりも軽くなっていた。
ふと、肩を見る。
そこには、自分の物ではない、髪が一本あることに気づき、

それを払おうとして手を伸ばす。

だが、

『――凛ちゃんはそんな人のために死んでなんかいない!』

「もし全てが分かった時、私は…」

結局、その髪が払われる事は無かった。

【C-4/一日目/日中】

【セリム・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)、精神不安定(ごく軽度)、迷い
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2 、星空凛と蘇芳・パブリチェンコの首輪
[思考]
基本:今は乗らない。
1:武器庫へ向かう。
2:無力なふりをする。
3:使えそうな人間は利用。
4:正体を知っている人間の排除。
5:ラースが…?


[備考]
※参戦時期はキンブリーを取り込む以前。
※会場がセントラルにあるのではないかと考えています。
※賢者の石の残量に関わらず、首輪の爆発によって死亡します。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、とある科学の超電磁砲の世界観を知りました
※殺し合いにお父様が関係していないと考えています
※新一、タスク、アカメ達と情報交換しました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。


965 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 15:59:30 GdBlUVyM0


「どうして…」

どうして、こんなことになっちゃったのかな。
名前を無くした怪物との邂逅を経た少しあと、図書館へ向かいながら幾度目になるか分からぬ呟きを第三位の少女は漏らした。
答える者のいない、答えが出るはずのない問い。

自分がレベル5など大それた能力を持っていなかったら、昔の、レベル1の能力者の時に呼ばれていたら、
誰の命も奪わずに済んだのだろうか。
あり得ない、あり得てはいけない『IF』を夢想しながら、少女は瞼を閉じる。


―――お前の味方で良かったと思ってるからさ。

「やめて」

―――何一つ失うことなく皆で笑って帰るって言うのは、俺の夢だ。

「やめてよ」

―――必ず御坂妹は連れて帰ってくる。約束するよ。

「できないよ。私には誰も失わない何て、難しすぎるよ…」

その声はセリム・ブラッドレイと相対していた時と比べればあまりにも弱弱しい。
今にも消えて無くなってしまいそうな印象を持つ物だった。


966 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 16:00:21 GdBlUVyM0

「遠い、なぁ……
 アイツが、遠い……」

瞼を開き、自分の掌を見ながら、美琴は呟く。
その手には、先ほどの闘いで生じた汗で濡れていた。
絶望で精神が麻痺状態にあるなど嘘だ、実際は、しっかりと怖れていた。
あの『最強』の様に、人を人形の様にしか見れなかったらどれだけ良かっただろう。
どんな攻撃も怯えなくていい反射と言う最強の盾があればどれだけ楽だっただろう。
仮面一枚剥がれてしまえば、御坂美琴は、哀しいくらいに人間だった。

血塗られた手で顔を覆う。

「婚后さん」

思い起こされるのは一人の友の顔。
先程放送で呼ばれた名前を、反芻する。

『―――その方を私、婚后光子の友人と知っての狼藉ですの!!』

食蜂操祈とは違い、派閥と言う物がどうしても肌に合わなかった私にとって彼女は数少ない、掛け替えのない友人だった。
こんな所で終わって良い人では決してないと断言できる人だった。
きっとあの人は佐天さんと同じで、私なんかとは違って、誰かを守って逝ったんだと思う。
最期まで気高く生きたんだと思う。

けれど、もういない。

たとえ、広川を倒して帰ったとしても、
アイツは居ない。佐天さんは居ない。婚后さんは居ない。

もう、どれだけ恋焦がれてもあの日々は帰って来ない。

たとえ誰もが笑っていられる世界があったとしても、
私には今度こそ、その場所にいる資格は無い。

もっと言ってしまえば。
本来ならばゲームに乗った自分に佐天涙子や婚后光子の死を偲ぶ資格などありはしないのだ。


967 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 16:01:35 GdBlUVyM0

ならば、自分には何ができる。
代わりに何をすべきだ?

「決まってる、戦う事だけよ」

それだけで人は死ぬのだから。
アイツが帰って来るかもしれないのだから。

覆っていた手を離し、ポケットに手を突っ込む。
シャーペンの芯程のケースに収められた白い粉末。
彼女の最後の支給品。『体晶』
木原幻生、木原=テレスティーナ=ライフラインが開発し、学園都市暗部においても禁忌とされる薬物。
投与した能力者の能力を凄まじい程に暴走させる悪魔の代物。

美琴は説明書を読まずともこの薬品がチャイルドエラーに投与された結果どうなったかを、どれだけ危険なものかを知っている。
だが、これを使えば約束された破滅と引き換えに短い間ではあるが、自分はこの場に居る者全てを凌駕する力を得られるであろうことも。

レベル5である自分の能力が暴走すればどうなるか、考えただけでも肝が冷える。
ただし、使えば自分には適性が無いであろうため拒否反応が現れ倒れてしまうだろう。
これを使うのは本当に最後の最後の手段でなければならない。

近い未来、彼女の一つ下の序列に位置する学園都市の第四位がたった一人の無能力者を撃破するために使用する事になるのだが―――彼女は知る由もない。

バチリ

体晶をポケットに戻した直後。
図書館の方角で雷が走るのを感じた。
最強の電撃使い(エレクトロマスター)である御坂美琴がその方角に意識を集中させていたからこそ偶然感じ取れた事だった。

そう、偶然。
しかし、いつの世も百、千の必定より、偶然が勝るものである。

「―――行かなきゃ。自分を曲げないために」


968 : PSI-missing ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 16:02:23 GdBlUVyM0

瞬間。磁力により鉄製の街灯に体が引き寄せられ急加速。
迷いはあれど、揺らがぬ意志だけを抱いて修羅は進む。
“その時”が来れば、最早体晶を使う事すら、躊躇いは無いだろう。

空気を裂き、駆ける脳裏に金髪の少年とツインテールの少女の姿がよぎる。

(もし、あんた達が私を止めたいのなら……)

今の彼女に『正義』は無かった。

(私を、殺しなさい)

『価値』も消え失せた。

(それ以外に―――)

だが、怖がることは無い。

(私の往ける場所何て―――無い!!)

いつの世も勝者こそが正義なのだから。
彼女だって、勝利すれば正義に為りうる、価値を持てる。

敗者が真に正義と謳われた事など、どんな世界のいつの時代の文献を紐解いても、一度足りとて有りはしないのだから。


【D-4(南)/一日目/日中】

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×3 、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、回復結晶@ソードアート・オンライン、アヴドゥルの首輪、[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:図書館に行ってブラッドレイと合流した後DIOを殺す。代わりに誰かいれば殺す。
1:DIOを追撃し倒す。 DIOを倒したあとはエドワード達を殺す。
2:もう、戻れない。戻るわけにはいかない。
3:戦力にならない奴は始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
4:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
5:殺しに慣れたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました。


969 : ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 16:03:04 GdBlUVyM0
投下終了です


970 : ◆rZaHwmWD7k :2015/11/22(日) 16:51:56 GdBlUVyM0
美琴の状態票に抜けがあったので修正します。すいません

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×3 、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、回復結晶@ソードアート・オンライン、アヴドゥルの首輪、大量の鉄塊
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:図書館に行ってブラッドレイと合流した後DIOを殺す。代わりに誰かいれば殺す。
1:DIOを追撃し倒す。 DIOを倒したあとはエドワード達を殺す。
2:もう、戻れない。戻るわけにはいかない。
3:戦力にならない奴は始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
4:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
5:殺しに慣れたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました。


971 : 名無しさん :2015/11/23(月) 00:36:31 2/HI7n3Y0
投下乙です

穂乃果と黒子は何とか支え合って欲しいな
黒も実に黒らしくてかっこいい

戦闘力はトップクラスの2人だけど精神的に参ってるなぁ
セリムは今後どんな答えを出すんだろうか


972 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:19:51 xhsxEQsA0
皆様投下お疲れ様です。
放送も終わって死者を知り色々と心境の変化が訪れますよね。
決意を固める者、揺れる者……出来れば最期まで頑張ってもらいたいものです。

投下します。スレは余りますので、投下終わったら次スレ立てます


973 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:21:57 xhsxEQsA0


 満身創痍の空条承太郎、しかしその瞳は死んでいない。
 見るからに瀕死体ではあるが、倒れる気配が全く感じられず、南へ向かおうとしている。

「すごい血が……」

 その後姿を見る本田未央の口からありのままの状態が零れ落ちる。
 彼が歩いた道は全て黒い赤に染まっており、見ているだけでも痛みを連想してしまう。
 進むスタンド使いを止めたい気持ちもあるが、自分が声を掛けたところで何が変わると言うのか。

「待ちなさい、その傷で何処へ向かうつもりですか」
「急に目覚めたと思えばいきなり行動して……身体が保たんぞ」

 セリュー・ユビキタスに続いてロイ・マスタングが承太郎に静止を掛ける。
 一般人とは言い難いが彼らから見れば承太郎はまだ子供に当る年齢であり、できれば死地へ向かわせたくない。
 常人ならば天に昇っても不思議ではない傷を負っているならば尚更である。

「気にするな……それに、お前は誰だ?」

 声を掛けられようが承太郎は気にも掛けずに、己の意思を曲げようとしない。
 少々言葉が荒くなるが、自分に静止を掛ける男に名を問うた。

「ロイ・マスタング……名簿ではそう記載されている」

「ロイ・マスタング……そうか、あんたが」

「何か聞いているのかね、私のことを」

「………………いいや、何でもねえ」

 帽子を深く被り直しただけで、その先に紡がれる言葉は無かった。
 承太郎が聞いていたマスタングの情報は主にセリューから流れていた。
 その肝心な彼女に信用が置けなかったため、半信半疑ではあったが、気絶していた自分の近くに居たのだ。
 きっとそれが彼の本質なのだろう。同行者である女性三人からも嫌にされている素振りは見えない。
 人間火炎放射器、事実であろうが彼が聞いた件はいやな事件――そうだったのかもしれない。

「あの、承太郎さんは何処に向かうんですか?」

「俺は足立を追い掛ける……それだけだ」

 未央は信じられない。その傷で何故動けるのか。
 ステージに立つ彼女に血の鉄混じりの匂いや硝煙は関わりのない存在である。
 けれどその存在達が人体にとって良い影響を与えないことなど解り切っているのだ。
 承太郎が抱えている痛みを想像すると自分の身が崩れそうになる。何が彼をそこまで動かせるのか。

「その傷で追いかけても……どうして、死にそうなのに……っ。
 病院に行かないと死んじゃうよ!? どうして、どうして皆そこまで――っ」

 出会った人間も別れた人間も、誰も彼もが強かった。
 単純な力の覇者から決して折れない心を持った芯の人間と様々に。
 どうして彼らはそこまで強いのか。

 殺し合いに巻き込まれて恐怖に怯えている自分が異端のように感じる。
 承太郎とは面識が無い。けれど、未央の瞳は涙混じりになっている。
 重症を背負いながら動く彼は、自ら死にに行くようにしか映らないから、見ていると心が錆び付いてしまう。

「関係ない、俺はもう行く」

 言葉が響こうと承太郎は何一つ揺れ動くこともなく、足立の後を追う。
 未央の言葉が届かなかった訳ではない。
 イギー、花京院、アヴドゥルが死んでしまったこと。会場に招かれてからの足立との接触。
 全てが絡み合ってしまい、退くに退けない状況である。元よりこの状況で黙る男ではないが。


974 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:22:49 xhsxEQsA0


 去る承太郎を見ているだけの四人。
 何故彼らは必死に止めないのか疑問に思う未央だが、答えは直ぐに返って来た。

「私達も追い掛けましょう。
 足立は悪です、生かせる理由なんて無いし――ほむらちゃんの仇」

「承太郎……彼に何を言っても止まらないだろう。
 あの傷で動くほどの意思を持っている男だ、私達は彼をフォローしなくては、な」

 セリューは仲間であり、同志であった戦友暁美ほむらを殺害した足立を殺すために。
 その意思を秘め、承太郎本人の意向を尊重した。彼の背中を見ても、言葉一つで止まる気配など存在しない。
 マスタングもまた、彼の足を止める選択を選ばなかった。
 あの類の男に何を言っても無駄なことは心得ているつもりだ。本人のやる気を削ぐことにしかならない。
 かと言って黙って送る訳でもなく、自らも着いて行く。此処で追わなければ確実に後悔するだろう。
 自分の目の前でこれ以上死人を出させてなるものか――焔の錬金術師にだって意地がある。

「しかしセリュー君。
 私が承太郎君を追い掛けるから君は卯月君と未央君を……聞いてくれそうにないか」

「勿論です! 悪を滅ばすのが私の使命でありますからね。それにほむらちゃんの件だってある、引き下がるつもりはありません」

 女性陣を連れて戦場に赴くのは少々どころか大きな危険を含んでしまう。
 前にも小泉花陽や高坂穂乃果、白井黒子に……佐天涙子や天城雪子には辛い経験をさせてしまった。
 今回は女性といえ、セリューに任せれる。ウェイブ達と一緒に行動していた時のような『何処に行っても敵が居る』状況では無いかもしれない故に。

 だが、セリューの返答はマスタングの思い通りにはならなかった。
 寧ろ、なってしまえば本当に彼女はセリューかと疑いを持ってしまう。
 正義に囚われた彼女が悪を見逃すつもりが無く、その手で葬るのは簡単に予想出来る。
 軽く息を吐いたマスタングは残りの女性陣に、行いたくはないが確認を取ることにする。

「今更だが私達はこれから――」

「私はセリューさんに付いて行きます! 其処がどんなにぐちゃぐちゃでも私は」

「しまむー……マスタングさん、私も一緒に行きます。何が出来る訳でもないけど……ううん、何でもないです」

 そして一般人である彼女達も止まらなかった。
 卯月はセリューに依存しており、彼女と別れる選択肢など最初から存在していないような即答。
 未央もまた逃げることを選ばなかった。
 言葉を詰まらせた時、視線の先には友である卯月の姿。
 殺し合いによって変わってしまった彼女を放置するなど、友達の思いの未央が選ぶ訳もない。それに、

(何処に行ったて安全な場所何てもう……)

 覚悟を彼女なりに決めている。
 図書館の一時でさえ簡単に崩れ去ってしまった。
 一緒に行動していたセリム・ブラッドレイは人に害なすホムンクルスだった。
 頼れる大人だったキング・ブラッドレイも――安全な場所などもう存在しないようで、あったとしても信じられない。

「まったく……セリュー君、私達はこれから承太郎君を追い掛け彼を助ける――誰も死なずに」

「当然です、悪である足立透に正義の鉄槌を下し死んだ物達への手向けとします。卯月ちゃん達を守って」

「ありがとうございます! 島村卯月、頑張ります!」

「………………うん、私達も頑張ろうね! しまむー……」

 響く和音はどこか不協を奏で、目に見えない部分で崩壊の予兆を感じさせる。
 普段は星のように輝く未央の笑顔が満ちていない、欠けている、足りていない。
 振る舞う輝きは無理やりに作成された擬似の星、真なる輝きとは程遠い煌めき。
 知らず知らずのうちに侵食されていく心、それを止める防波堤は存在する筈もなく、腐敗の香りに毒される。

 けれど止まることも出来ずに、これ以上犠牲を出さないために彼女達は承太郎を追った。






「少しだけ先に行っていてください、三分もしない内に追いつきますから!」






 セリューを除いて。








975 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:23:28 xhsxEQsA0


 外は外だ。
 緑があり、青があり、黒がある。
 比率としては青が薄いが奈落があるため仕方がない。

 所々に燃え上がる赤は地図上でいう図書館か。
 更に北の北方司令部では謎の氷が天へ連なっている。

 東では電車が爆発し、西でも何かが起きるかもしれない。

 そしてこの南でも動乱だって引き起こるだろう。

 向かってくるのは瀕死の男。

 続くように四人の集団が迫っている。

 これでは偽りの情報を流しても意味が無い。本人が来てしまえば。


 少しだけ嗤いが漏れた後、骸の少女が刀を握り動き出した。








「遅れてすいません……特に何も?」

「大丈夫ですよセリューさん、何もないです」

 慌てて追い付いたセリューに卯月が声を掛ける。
 そのやり取りを見つめるマスタングの視線はセリューに集まる。
 特段、止めもしなかったが彼女は一体何をしていたのか。時間はそれほどかかっていない。

 衣服にも作業を行った痕跡は無く、何をしたか見当も付かない。
 危険人物の香りを漂わせる彼女はなるべく眼を離したくないが、これからも注意が必要であろう。

「マスタングさん、セリューさんは何をしてたのかな」

「分からん。私達に見られたく無いことは確かだが……まぁいいだろう」

 未央も気になっている。
 彼女にとってセリューの存在は異質である。
 正義に盲信しているのもそうだが、島村卯月の存在が大きい。
 セリューと出会ってから彼女の何かが壊れている、壊されているかもしれない。
 何があったかは言葉でしか解らないが、心情までが解り切れる訳ではない。
 
 前を歩くセリューと卯月、ついでにコロ。
 殺し合いの最中ではあるが、何故か笑顔である。
 煌めきに黒を交えた禍々しさを秘め、天使達の視界は何色に映っているのだろうか。

「未央ちゃん!」

 突然振り向く卯月に対して、咄嗟の反応が出来ない。

「こんな状況でも私達、頑張りましょうね!」

 言葉も出て来ない。

 ましてや暁美ほむらが死んだ直後で、傷だらけの承太郎が前にいる時に。

「う、うん……そうだねしまむー」

 どうしてそんな――綺麗な笑顔でいられるのか。





976 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:24:05 xhsxEQsA0



 血を吐き出す。
 線路の上に赤黒い鮮血がこべりつく。

 東の方角へ走る電車が見える。
 足立が乗っている可能性もあるが、足を止める理由にはならない。

 アイツは――俺がぶっ飛ばす






 


 線路を歩き終えた承太郎の目の前に立ち塞がる白いコートを羽織った存在。
 場所はひらけており、右手には民宿が見える。

「テメェ、邪魔するなら――」

 握られている刀から敵対の意思を隠すつもりは無いらしい。
 幽波紋を具現化させ、両者の力が一斉に大地を蹴る。

 距離を詰め振られる刀を逸らすようにスタープラチナの右拳が当る。
 白いコートはその場を大きく後退すると、弧を描くように足を動かし直接承太郎へ走る。
 
 追い掛けるスタープラチナを間に割り込ませ、声と共に顔面を狙い拳を放つ。

「オラァ!」

 吸い込まれていく拳を白いコートは身を低くすることで回避し、尚も承太郎に迫る。
 対応しようと足を踏み込む承太郎だが、連戦による疲労と損傷からか身体が上手く動かない。
 足取りが重く、踏み込むだけでも身体の内部から悲鳴が轟音を響かせてしまう。

「――ッ」

 吐血。
 溢れでた鮮血を気に留めることも無く、白いコートが距離を詰め刀を振ろうと――しかし。

 承太郎との間に燃え上がる焔がそれを止める。
 彼らの背後にはマスタングが錬成しており、白いコートは再度距離を取る。

「また会うとはな……ウェイブには悪いが私の手で葬ってやる」

 忘れる筈もない。
 忌々しい記憶が今でも残り続けている。あれはウェイブ達と合流した後の悲劇。
 エンヴィーとキンブリーに踊らされたあの時に対峙している相手である。

 マスタングの隣にいるセリューの表情が曇る。
 話には聞いていた。でも信じたくなかった。
 白いコートの存在を彼女は知っている。それもたくさん、一緒に過ごした時を忘れるなど有り得ない。

 だから。思い出は消えない、消せない、消させない。
 死んで暴れるなら――私が此処で生命を潰して終わらせてやるのが嘗ての仲間の役目。


「クロメ……今、私が開放してあげますからね」


 帝具を冠する狗が彼女の腕を喰らい尽くす。
 獰猛な牙を覗かせぐちゃぐちゃと肉を喰らう音を響かせ。
 骨を噛み砕く音を響かせながら現れるは刀、宋帝刀。
 

 左側から距離を詰め定石を無視して力が思うがままに刀を振るう。
 風を斬り裂く音だけが響き、白いコートは左斜めに身体を移行させ回避していた。

「――っ」

 その時、動きから白いコートが羽ばたいて落下する。
 其処にはやはり、セリューが知っているクロメの姿が骸となって生の世界を彷徨っていた。
 歯を食いしばる。
 骸の力は帝具八房の能力であり、それはクロメの愛刀である。
 それを盗んで彼女を殺害した男をセリューは許さない。キンブリーを許さない。

「コロッ!!」

 黙っていれば自分が殺される。
 刀の勝負でクロメに勝てる可能性など零だ。
 迫る攻撃から逃れるように転がり込み、自分とクロメの間には力を発揮したコロが割り込む。

 響きを上げた遠吠えと共に右拳を大地に叩き付ける。
 周辺に地震を発生させるも、クロメは跳ぶことによってこれを回避。


977 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:24:51 xhsxEQsA0


 着地した後、これを追撃しようと走りだすも急停止し、右から迫る拳を回避する。
 スタンドの拳は嵐のように迫り、全てを回避するのは不可能と判断し腕を交差させる。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――オラァ!!」

 何発も浴びる度に後方へ追いやられ大地が削られていく。
 一発一発が必殺級の拳を受け止める毎に骨が軋みを響かせ人体の崩壊を匂わせる。
 骸で無ければ苦痛の表情を浮かべていただろうが、死者に痛みなど皆無。

 最期の一撃は全力を振り切った拳。
 大きく飛ばされるクロメであるが、受け身を行い、直ぐに走りだす。

 対する承太郎だが、最期の一発と共に大きく血を吐いてしまい、大地に片膝を付けている。
 守るように焔が燃え上がるも、クロメは大地を縦横無尽に走り込み、己の軌道を撹乱している。

 殲滅力に関しては参加者の中でも上位に君臨する焔の錬金術師ではあるが、守るべき存在が近くにいる時、その真価を発揮することは出来ない。
 強力な力故に、仲間を巻き込む恐れがあるから。

 跳んだクロメの刀は無情にも承太郎の上半身を斜めに斬り裂く。
 溢れ出る血は刀身に付着し、禍々しい妖気を放ちながら返すように切り上げ――これを刀で防ぐセリュー。

「下がってください!」

 強引に弾き飛ばし、クロメの腹に蹴りを叩き込み彼女を大きく吹き飛ばす。
 左腕で静止するように承太郎の前に出ると、再び刀を握りしめクロメに向かう。
 勝てる気がしないが、逃げ出す必要も理由もない。

 鍔迫り合いが発生するが簡単に終わり、左肩が八房に貫かれる。
 苦痛の表情を浮かべるが、やっと好機を掴んだ――歪んだ笑顔が降臨する。

「捕まえた――逃がさないッ!」

 抜こうとする八房を強引に掴み、行動を抑制すると空いた片手で刀を握り締める。
 ゆっくりと上に、すると次は素早くお返しと謂わんばかりに心臓を一突き。

「まだまだァ! 死ねええええええええええええええええええええ」

 刺しても安堵することは無く、肉を抉るように刀を振り回す。
 人体の臓器を潰し、血管を斬り裂き、生命を削る。
 骸相手に生半可な戦い方では自分が負けてしまう。嘗ての仲間だろうと遠慮することなど――無い。


978 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:25:43 xhsxEQsA0

 その戦闘を眺める未央は口を抑え、奈落の下へ溢れ出る異物を落とし込んでいた。
 鮮血には慣れてしまった自分が居る。それだけでも不快感が身体を走り回るというのに。
 続いて実際に人間が斬り裂かれる瞬間を、人体が喰われる瞬間を、人体の臓器が潰される音を聞いてしまえば。
 壊れてしまう。人間としての大切な何かが壊れてしまう。

 目尻に涙を這わせ、それでも絶望に屈しないために、気を手放すことは絶対にしない。
 セリューが、承太郎が、マスタングが戦っている。
 自分が動けなくなり、足を引っ張ることなんて絶対にしない。
 タスクも、狡噛も、新一も、アカメも、ウェイブも――他の参加者達だって今も戦っている。

 自分だけ。
 自分だけが逃げる訳にはいかない。
 だけど。

(しまむーは平気なんだね)

 それでも、認めたくない現実だってある。









「退け! セリュー!!」


 






 掌を合わせたマスタングが叫ぶ。
 動きを止めたならば好都合だ。最大火力で焼き尽くすまで。
 一般人である未央と卯月には見させたくない光景だが、躊躇すれば死者が出るかもしれない。
 
 酷ではあるが、我慢してもらうしかあるまい。
 殺し合いに巻き込まれた時点で平穏な時を一生過ごそうなど理想の果てくれに漂う蜃気楼だ。
 安地など、約束の大地であるカナンなど存在しない。

「――ッ、任せましたよマスタング!」

 刀を引き抜く前に全体重を付加させ、クロメの左足まで強引に斬り裂く。
 行動を可能な上まで制限させた上で、刀を引き抜き大きく後退するセリューはそのままコロの背後に回る。
 圧倒的な焔の近くに居れば、己も焼けてしまう。


「お前の仇は私達が取る――此処で眠ってくれクロメッ!」


 弾かれた指と共に錬成される焔は骸を包み込む。
 火葬――冗談にもならない不謹慎な言葉ではあるが、死体を葬ることに変わりはない。

 ウェイブが見れば何と言うか。
 彼ならば全てを受け止めてくれるだろうが、心の傷は癒やされないだろう。



 この時、誰もが気付かなかった。




 クロメが刀を投げ捨てていたことを。





 民宿の二階からキンブリーが嗤っていたことを。







 そして焔と共に、クロメに仕込まれた悪魔の火薬が一帯を焦土へと叩き堕とす。










「ハハ――ハハハハハハハハハッ! 何とも美しい爆発ではありませんか!」


979 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:26:12 xhsxEQsA0


 荒れ果てた大地の上で一人の悪魔が嗤い、その声が嫌でも響いてしまう。地に刺さった死神の刀を引き抜きながら。
 転がる首輪が彼の足に当たり、止まる。機会的な金属音が小さい静寂を奏でる。


「あの爆発にも耐えるとは……中々どうして面白い」


 首輪の耐久力に興味を示すも、更に興味を惹く存在が在る。


「貴方も」


 口内に溜まった血を吐き出した学生は側に幽波紋を立たせ、悪魔を睨む。


「貴方も」


 爆発に対して咄嗟に大地の壁を錬成し、己を含み後方に居る一般人をも守った男が、因縁の錬金術師を睨む。


「貴方も」



 一番爆発に近かった彼女は帝具に守りを取らせ、その帝具も傷こそ負えど人造生命体のように傷を回復させ、仲間の仇を睨む。



「素晴らしい! よくも此処まで立ち上がれる……その意地、敵ながら尊敬させてもらいますよ」



 腕を広げながら立ち上がる参加者に賛辞を送る紅蓮の錬金術師。
 しかしその言葉を誰も受け取らずに、最初に動いたのはセリューだった。

 コロに腕を喰わせ鉄球を強引に振り回し首からを上を吹き飛ばそうとするが骸の愚者に止められてしまう。





「――――――――――――――――テメェッ!!」





 全てを悟った承太郎は死に体に鞭を振るい、気力がある限り身体を動かす。
 飛ぶスタンドの拳は銀の弾丸よりも早く、強く、信念が篭っている。
 この男は殺す。
 イギーを殺したこの男を――殺す。

「やはりこの能力は貴方と一緒でしたか」

 イギーの持つビジョンに興味を示していたキンブリーは気になっていた。
 民宿から戦闘を眺めていた時、承太郎の能力と似ていることに。
 天城雪子のペルソナとも似ていたが、どうやら本質は此方らしい。

「亡き友のために拳を振るいますか」

「そんな飾った言葉で気取るつもりはねぇ……テメェが俺に売った喧嘩を買うだけだ」

 悪魔の囁きを掻き消すように振るわれた拳は愚者を崩壊させる。
 砂塵が吹き荒れ蜃気楼のように消える――最初から狙いはスタンドの本体であるイギーのみ。


「――――――――――――――じゃあな、イギー」


 叩き落とされた拳はなるべく身体を破壊しないように、心の臓だけを止めるように放たれた。
 骸となって世界を彷徨う仲間に出来ることは、終わらせること。
 長い旅を共にした仲間との別れが――世界との別れが訪れる。


980 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:26:57 xhsxEQsA0


 光り輝くイギーの身体。
 発せられる悪魔の煌めきは世界を赤く包み込み爆の波動。
 クロメと同じように身体に細工を施された骸の罠が発せられる。

 セリューは爆発から逃げるように、承太郎を救えない現実を噛み締めながら後退する。

 その瞬間、承太郎の表情は憎しみによって歪められていた。
 それと同時に、自分の死を悟ったのか――何処か後悔を浮かべているようで。






「残念――ただの発光でした」




「テメェ……」





 気付けば承太郎の心臓は悪魔が握る八房に貫かれていた。
 もう吐く血も残っていない。

 コロが卯月と未央を乘せ西へ移動している。

「そんな、私だけ逃げるなんて……セリューさん!」

「大丈夫ですよ卯月ちゃん、だって私は正義の  なんですからね!」

「承太郎さん……承太郎さんっ!!」



 未央の叫び声が聞こえるが、承太郎は思うように声を発せない。
 少々適当にあしらってしまった彼女だが、心配してくれたことに変わりはない。



(生きろ)



 それだけ。
 口を動かし伝わるかも解らない合図を送る。

 それを感じ取ったかは不明だが、彼女は泣いていた。


981 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:28:16 xhsxEQsA0


 続いてマスタングは焔を錬成し、キンブリーを焼こうとするも愚者に防がれている。
 殺したかと思えば心臓もフェイクであり、悪魔に完全に嵌められてしまった。

 セリューは鉄球を振るうも悪魔が錬成した大地の壁に阻まれてしまう。
 故に承太郎を救える人間は存在しない。最も助かる傷ではない。


「貴方の強さは本物だ……是非とも私の役に立ってくれるでしょう」


 八房の能力は殺した人間を骸と化し己の駒とすること。
 刀を引き抜けば承太郎は絶命し、キンブリーの下僕と成り果てる。
 
 だが、


「抜けない……ッ!?」


 黙って死ぬ程、空条承太郎という人間は大人しくない。
 今でもキンブリーを殺さんと絶望的な状況ではあるが、その瞳は死んでいない。
 スタープラチナが刀身を握り締め、動かさないように固定している。血を流しながら。


(生きてるのはジジィだけか)


 イギーも、花京院も、アヴドゥルも死んでしまった。
 会場に生きている旅の仲間はジョセフ・ジョースターのみ。
 ポルナレフも生きているだろうが、会場に居る仲間はジジィだけである。


(DIOの野郎……)


 志半ばに倒れてしまう自分が情けない。
 だが、黙って死ねる訳もない。


 今、出来ることを――。





「テメェを殴らねぇと死んでも死にきれねぇ」




 放たれた最期の一撃は星の煌めきのように儚い。
 星屑を纏う拳はキンブリーの右頬を捉え、彼を大きく吹き飛ばした。


 それと同時に。


 空条承太郎の身体から八房が抜かれ――今此処に一人の男が死んだ。


982 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:28:42 xhsxEQsA0


 承太郎の死を目撃したマスタングはなりふり構わず焔を錬成し、一つの終わりを告げる鐘を鳴らすべく修羅となる。

「君には助けられたこともある」

 迫る愚者の猛撃を無様に身体を大地に這いつくばるように回避し、焼き払う。

「君が居なければ私もウェイブも、白井君達も死んでいた」

 更に掌を合わせ、顔を歪めるイギー目掛け最大火力を錬成し、指を鳴らす。


「礼を言う。君のおかげで私達は今も生きている――さらばだ、本当にすまない」


 焔の発現を背後に、マスタングは振り返らずキンブリーの元へ走る。
 躊躇いも、戸惑いも、情けも無い。
 嘗ての仲間だろうと、命の恩人であろうと心を修羅にしたマスタングはイギーを完全に消し去った。
 呆気無い。何とも呆気無いがこの火力こそが焔の錬金術師の代名詞であり、彼の罪であり、業であり、力であり、生き様である。

 掌を合わせ、飛ばされた悪魔を焼こうとするも視界が暗くなる。
 太陽は昇っている。視界を遮るはスタンドの拳。気づいた時には彼もまた吹き飛ばされていた。

「遅かったか――承太郎ッ!」

 迫るスタープラチナに対応しようと焔を錬成するも、簡単に回避されてしまい距離を詰められる。
 スタンドの背後に燃え上がる焔が悪夢を演出させ、拳がマスタングに迫る。
 これを腕で受け止めるも、近接戦闘が得意ではないマスタングにとってこの状況は圧倒的に不利だ。

 焔を錬成しようにも拳の応酬によって錬成する時間も、呼吸をする時間さえも惜しい。
 腕を交差させラッシュに耐えるも――限界が訪れる。

 腕を上にかちあげられてしまい、無防備となった身体に無数の拳が吹き荒れる。

 人体から骨が悲鳴を上げ、内部では臓器が危機の信号を体中に響かせる。


 空条承太郎、骸と化した今でもその能力は衰えない。





983 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:29:17 xhsxEQsA0


 コロから降りた未央と卯月は線路の上から爆発が絶えない戦場を見つめ、戦っているであろう彼らの無事を祈る。
 承太郎の死を以って訪れた別れの時。
 あの場所に戦えない自分達が居れば、足手まといになるのは目に見えている。
 今も、セリューにとって大事な相棒であるコロを奪っているのだ。居場所なんて無い。
 コロは主であるセリューの元へ向かうため、此処を離れる。

「承太郎さん……最期に『生きろ』って……自分があんな状況で私に『生きろ』って」

 死者に明日を夢見る資格は無い。だが生きている人間は明日を体感する権利を持っている。
 生者には死者に出来ない夢を追う資格がある。承太郎の真意は不明だが、生きろと言われたらからには生きるしか無い。

 タスク達も生きている。 
 彼らが頑張っているならば自分も頑張らなければ、腐っている訳にはいかない。

「しまむー、私達は絶対に生き残ろうね。生きてみんなのところに――」

「へ? あっ、そうですね……生きて帰ってもう一度みんなで……ニュージェネレーションで……にゅー……?」

 それはもう取り戻せない日常。
 卯月が紡ぐ言葉に未央の瞳には涙が浮かぶ。
 
 心が壊れていようが、目の前に居るのは未央が知っている島村卯月だ。

「未央ちゃん何で泣いて……あれ、私も泣いてる……これって何なんでしょうね凛ちゃん……凛ちゃん?」

 ニュージェネレーション。
 あの輝きを卯月の口から聞けたことに未央は心の底から嬉しがった。
 もう聞けないと、もう私の知っている島村卯月は存在しないかもしれない。
 そんな不安が、再開してからずっと心の青空を雲が覆っていたのだ。
 
「どうしてなんでしょうね……助けてください、セリューさん……」

 それでも、やはりあの頃の島村卯月は――。


【C-8/一日目/午後】


【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:悲しみ、セリューへの依存、自我の崩壊(中)、精神疲労(極大)、『首』に対する執着、首に傷
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!
[道具]:ディバック、基本支給品
[思考]
基本:元の場所に帰りたい。
0:セリューに着いて行く。自分の価値を失くしたくない。
1:セリューを待つ。
2:セリューに助けてもらう。
3:凛ちゃんを殺した人をセリューに……?
4:死にたくない。
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※渋谷凛の死を受け入れたくありませんが、現実であると認識しています。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※自分の考えが自分ではない。一種の自我崩壊が始まるかもしれません。
※『首』に対する異常な執着心が芽生えました。
※無意識の内にセリューを求めています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。


【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康 深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
0:マスタング達を待つ。
1:しまむー…
2:セリューに警戒。
3:生きる。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。



「随分と血だらけですが大丈夫ですか?」

「此方の台詞だ、君こそ私に任せてそろそろ倒れたらどうだ?」


984 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:29:54 xhsxEQsA0


 背中合わせの英雄の身体は満身創痍、限界を迎える直前である。
 キンブリーの錬金術によって被害を被ったセリュー・ユビキタス。
 承太郎のスタンドによる攻撃によって人体に深刻な損傷を負ったロイ・マスタング。

 対する悪魔達は英雄よりかはずっとマシな状態である。
 キンブリーの傷と云えば承太郎の拳による攻撃ぐらいであり、今も嘲笑っている。

 承太郎は何度かマスタングの焔を喰らったものの、直撃は受けておらず、骸ながらに生命を維持している。
 このどうしようもない状況で、英雄は眼前の敵だけは此処で殺さんと覚悟を決めている。

「さぁどうしますかね。
 私は残念ながら貴方達を逃がす程のお人好しではない」

「そんなことが出来る悪など存在しない、貴様は私が此処で葬る」

「口だけは達者な女性だ……似合わない鉄球では私を捉えることも出来ない」

「ならば私の焔はどうだ? 悪魔の皮を剥がしてやる」

 不意打ちのように迫る焔に対し、キンブリーは舌打ち共に大地を隆起させる。
 盛り上がった土で焔を受け止め、お返しと謂わんばかりに彼らの足元へ爆発の錬成の閃光を走らせる。

「飛べ!」

「無茶を言わないでください!」

 散開し爆発を回避した彼らは相手を取り替えて敵に向かう。
 承太郎に対して鉄球を振るうセリューだがスタープラチナに鎖を掴まれてしまう。
 行動を塞がれてしまうが、この未来は読めていた。


「斬り裂かれろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 腕を強引に振り回し、スタープラチナを中心に鎖を回転させる。
 すると鎖はスタンドを巻きつけ、その場に封じ込めてしまう。それでも尚動きを止めない。
 更に回転させ鎖で引き千切ろうとするも、星屑のスタンドパワーは想像を絶する。


「まさか――鎖を自力で破壊した!?」


 己の身体を開放させ鎖を解いたスタンドはセリューに向かう。
 お返しと謂わんばかりに無慈悲にも最強の拳が彼女の顔面を捉え、大地に転がせる。


985 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:30:32 xhsxEQsA0


「セリュー!」

「余所見をする余裕があるとは流石ですねぇ!!」

「しまっ――」




 吹き飛ばされるセリューに気を取られたマスタングの隙を狙い、紅蓮の錬金術が彼に迫る。
 大地ごと爆発物に錬成され、防御も間に合うはずもなく、無慈悲に爆発が轟いてしまう。
 一応、錬成は間に合ったものの、直撃を避けるの意味合いでありマスタングの左腕は大きな火傷を覆ってしまった。

 奇しくもセリューと同じ場所に飛ばされたマスタングは彼女が生きていることを確認して、立ち上がる。
 其れにつられて――か、どうかは不明だがセリューも立ち上がり、眼前に一人の悪魔と骸になってしまった仲間を睨む。

「またこんな状況だが――私に任せて逃げる選択肢を選ぶつもりはないか」

 マスタングの提案は自分一人を犠牲にしセリューを逃がす、自滅の誘い。
 しかし彼女はこれを受けずに、口元を緩ませてあろうことが耳を疑う返しを行った。


「その言葉そっくりそのままお返しします」


 呆気に取られるマスタング。
 どうも天城雪子や白井黒子、アカメといい強気な女性ばかりが戦っているようだ。
 だが、嫌いではない。思えばアメストリスで周りにいた女性も強い女性ばかりである。
 
 男である自分がこんなところで情けない言葉を吐けば中尉に撃ち殺されてしまう。


「仕方がない。ならば打開するしかあるまい――この状況を」


 キンブリーと承太郎の厄介な所は組み合わせではない。
 錬金術によって広範囲攻撃を行うキンブリーとスタンドによる圧倒的な近接戦闘力を保有する承太郎。
 言葉や表現は違えどマスタングとセリューも似たような組み合わせである。
 前者と後者の大きな違いと云えば『傷』である。
 連戦によって大きく浪費しているマスタング達と、然程浪費していなく骸も持っているキンブリーでは体力に大きな差が発生する。

 状況を打開するには焼き殺すのが手っ取り早いが、そう上手く行く筈もない。


「貴方達は大分追い詰められていますが――ああそうだ。
 先程逃げた彼女達も今頃私達の仲間によって……クク、死んでいるかもしれませんねぇ?」


『貴様ァッ!!』


 セリューとマスタング、二人の声が重なり一斉に走りだす。
 マスタングは焔を錬成しキンブリーを焼き殺そうとするも正面からの錬成では簡単に防がれてしまう。

「甘いッ!」

 ならばそれを上回る火力で圧倒的に焼き尽くせばいい。
 大地の錬成の守りを崩しキンブリーの上半身を焼くも、致命傷にはならない。
 寧ろ、此処まで酷使しているマスタングの身体が悲鳴を上げ、その場に膝を落としてしまう。


986 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:30:58 xhsxEQsA0


 追撃を行おうと飛び出したセリューが鎖を振るいキンブリーに打撃を与えようとする。
 しかし骸である承太郎のスタンドが割り込み、拳で弾かれてしまう、ならば。

「何も帝具だけが私の武器ではないッ! 斬り裂かれろよおォ!!」

 懐から日本刀を取り出しスタープラチナを斬り裂くセリューだが、右腕しか捉えられない。
 しかしそれで充分であり、その場で固まるスタンドを通り抜けキンブリー目掛け走る。
 
「学習しない人達です――ッ!?」

 いい加減飽きたと謂わんばかりにセリューを殺そうとするも、キンブリーはその場から緊急回避。
 上空から此方へ降下してくるコロの奇襲を回避すると、転がり込み承太郎の近くへ移動した。


「この狗が来たということは誰も彼女達を守ることは出来ない」



           彼女達は    セリューが
     「心配するな                 守る」
           卯月ちゃん達はマスタングが


 虚しく響くだけの音を誰も拾わない。キンブリーでさえも嗤わずに彼らを見つめている。
 沈黙を破ったのはセリュー、強引にマスタングのバッグに何かを捩じ込むと彼の背中を叩いた。


「私にはコロが来てくれた、でも卯月ちゃん達を守ってくれる人は誰もいません。
 だから、此処は私に任せてマスタングさんは先に行っていてください。私も直ぐに追いつきますから!」


「その言葉を私に飲み込めと――君に此処を託して一人で逃げろと言うのかッ!」


「キンブリーが言っていることだって嘘の可能性もあります。
 コロが敵に気付かずに此方に来る何てあり得ません。だから念の為にです。
 それに――マスタング、卯月ちゃんを救えるのは貴方しか今は頼れない――コロォォォォオオオオ!!」


 マスタングの返答を無視して好きなだけ言葉を紡いだセリューはコロにその身体を喰らわせる。
 全く曇りのない瞳は絶望的な状況であろうと、悪を滅するために、その身を危険に陥れようと勇猛果敢に振る舞う。


987 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:31:23 xhsxEQsA0


 その覚悟を見てマスタングはまた届かない言葉を並べるのか。違う。
 一度決めた覚悟は簡単に崩れない。故に覚悟。
 鋼の錬金術師も、アームストロング姉弟も、中尉も、あのブラッドレイだって、キンブリーでさえも覚悟を持ち合わせている。
 ウェイブも、白井黒子も、高坂穂乃果や小泉花陽だって、それに空条承太郎――セリュー・ユビキタスもだ。

 己の人生を、覚悟を決めた人間に水を差す行為は茶番だ。その人間に対する愚かな行為である。
 一度決めたその決意を、咎める権利など他人は持っていない。

 けれど。

「私も直ぐに追い付く――生きろ、セリュー・ユビキタス」


「勿論だ、何せ私は正義の  ! 悪を滅ぼすまで死ぬことなんてあり得ない!」


 コロに全身を喰わせたその身体は十王の裁きを組み合わせた殲滅力を限界にまで高めた悪を滅ばす覚悟の現れ。
 ミサイル、ライフル、キャノン砲、ショルダーランチャー……様々な銃火器を人体に宿わせる。
 硝煙の香り、それに似合わない少女は敵を殺すべく己の身体を機会的に改造し、明日に手を伸ばす。


「空条承太郎、セリュー・ユビキタス……君達が居なければ私達は全員死んでいたかも知れん」


 走り去るマスタングは振り返ることもせずに、未央達の元へ急ぐ。
 キンブリーの言葉が正しければ彼女達の生命が危ない、もうこれ以上誰も死なせるわけには行かない。

 例え全てが悪魔達の掌の上で踊らされていようと――生者は歩みを止めるわけにはいかない。

  
【C-7・西/一日目/午後】


【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、迷わない決意、過去の自分に対する反省、全身にダメージ(大)、火傷、骨折数本
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:ディパック、基本支給品、錬成した剣 即席発火手袋×10 タスクの書いた錬成陣のマーク付きの手袋×5。暁美ほむらの首輪、鹿目まどかの首輪、万里飛翔マスティマ
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:殺し合いを破壊するために仲間を集う。もう復讐心で戦わない。
1:未央達の安全を確認した後、セリューの加勢に入る。
2:ホムンクルスを警戒。ブラッドレイとは一度話をする。
3:エンヴィーと遭遇したら全ての決着をつけるために殺す。
4:鋼のを含む仲間の捜索。
5:死者の上に立っているならばその死者のためにも生きる。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。
※並行世界の可能性を知りました。
※バッグの中が擬似・真理の扉に繋がっていることを知りました。


988 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:31:55 xhsxEQsA0


 風が吹く。

 覚悟を決めた女に積まれるは男の浪漫を詰め込んだ圧倒的殲滅壊滅力保有銃火器。
 
 目の前には悪魔と骸と化した存在。

 葬るには絶好の獲物であり、己が正義であらんことを証明するための礎となってもらう。

 狙いは定める必要も無い。この広範囲武装の前に人体など気にする必要もない。

 
「さぁ! 遂にお前を殺す時が来たぞキンブリー!
 我がイェーガーズの仲間であるクロメを! それにこの場で殺した空条承太郎を殺した罪――死んで償うがいい!!」


 己を奮い立たせる短歌は亡き友へ向けた開戦の祝砲。
 死んだ人間はもう戻らない。嘗ての師であるオーガやDr.スタイリッシュ、悪に殺された両親と同じように。
 クロメも戻らぬ存在となってしまった。

 その仇が目の前に居る。
 マスタング、承太郎と三人掛かりで臨んだ戦いも今じゃ一人しか残っていない。
 居るのは相棒のコロだけ。けれど。


(私には待ってくれている人が――居る)


 この会場に来て最初に出会った参加者の島村卯月。殺しには無縁の無垢な少女だった。
 最初は守るべき存在だったが、知らない間にセリューもまた、卯月に心を許していた。
 この生命は最早一人の物ではない。帰りを待ってくれる者のためにも死ぬ訳にはいかないのだ。





「だって私は正義の味方だから」




 
 憧れであり、目標であり、己を指す言葉を引き金に。


 悪を滅ぼさんとするセリュー・ユビキタス全力全開の攻撃が始まった。そして――――――――――。


989 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:32:38 xhsxEQsA0


 民宿だけが奇跡的に残された大地で立ち上がる人間は一人しかいない。
 圧倒的焦土と成り果てた大地で生命を噛み締める男は一人しかいない。

 焦土の彼方此方には嘗て人間を構成していたと思われる肉片が落ちており、辺りには腐臭が漂う。

 奇妙な程までに頑丈な首輪が転がっており、刻まれている名前はイギーと空条承太郎。
 骸と化したスタンド使いは文字通りこの会場から消え、正真正銘に死んだこととなった。

 吹き荒れる爆炎、轟く銃声、全てを赤に包む爆風、崩壊する世界。

 この世の終わりとも思える音を世界に響かせた一瞬の輝きも終われば、立ち上がるのは悪魔だけ。

 迫る銃火器を己の錬成で防ぎ、その間にセリュー・ユビキタスにも爆発の錬成を迫らせる。
 己の錬成だけで防ぐのは不可能であり、ならば新たな盾が必要となる。

 そこで新たに調達した骸である承太郎を肉壁にすることにより、キンブリーはその生命を散ずに済んだ訳である。
 嘗て承太郎と呼ばれた存在を表す記号は最早、首輪しか残っていない。

 しかし全てを防げた訳ではない。
 キンブリーも全身に重症一歩手前の傷を追うこととなり、夥しい数の火傷が上半身に浮かんでいる。

 それがセリュー・ユビキタス最期の証であり、悪魔キンブリーに一矢報いたことを表す。だけど之で終わる彼女では無い。

「まだ生きていますか……しぶとい人だ」



「此方の台詞だ……クソ、悪は絶対にころ……す……」



 下半身を爆発によって吹き飛ばされてしまったセリューは当然のように上半身しか存在しない。
 身体の断面から想像出来ない程の血液が漏れだしており、彼女周辺の一帯だけは赤い池が形成されている。


990 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:33:13 xhsxEQsA0


 その瞳はまだ死んでいない。
 しかし残念ながらそれ以外が死んでおり、事実上キンブリーを殺す術を持ち合わせていない。
 彼女に近づいたキンブリーが見下すように、


「正義の味方――響きは良いですが死ねばそれで終わりですよ」


 彼女が攻撃をする前に呟いた記号を彼は聞き逃していなかった。
 何故、あの瞬間にこの言葉を響かせたかは不明だが、きっとセリュー・ユビキタスの存在を表す記号なのだろう。

 色や形は違えど、鋼の錬金術師と同じような、芯を持った人間であり、その身を酷使していたに違いない。
 敵であろうと、相容れない存在であろうとその姿にはある種の敬意すら抱ける。


「私が死んでも、正義が悪に屈したことにはならない……悪は必ず滅び……っ」


 言葉に耐え切れなくなり身体から血液が溢れ出る。声を発する動作すらまともに行えない程、彼女は死に体である。
 悪を滅ぼす、殺す、断罪する。
 その目標だけを捧げてきた一人の英雄の詩が紡がれなくなる瞬間が近付いている。


「悪ですか……社会不適合者は確かに悪ですが貴方にとって悪とは……いえ、なんでもありません」


 悪の美学、或いは定義を聞こうとするキンブリーだが、最期まで言葉を紡がない。
 これから死んでゆく彼女に語らせても、得るものも、失うものも何もない。


991 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:33:55 xhsxEQsA0


 世界を去る正義の味方の最期ぐらい彼女の言葉を紡がせてあげようではないか。


「正義は必ず勝つ……じゃなければ市民が、皆が安心して暮らせない……だから、私は――ッ!!」


 カチリ。


 遂にその時がやってくる。


 終わりを告げる針が世界を動かす。


 例えこの身が朽ち果てようと。


 私は――――――悪を断罪する。




「悪は必ず滅びる! 私が断罪する!
 キンブリーィィィイイ!! 貴様に訪れる明日など存在しない!!」



 息を吹き返したように叫ぶセリュー。口から血が吐き出ようが関係ない。
 此処で悪を一人でも殺せるなら本望――かもしれない。断言は出来ないだろう。
 けれど彼女の使命は一つ果たされる事になる。それにクロメの仇も取れるだろう。


「この音……まさか貴方は自分ごと――ッ!」


「五道転輪炉……私の脳内に施された爆弾はDr.スタイリッシュがくれた最期の――正義」


 セリューの言葉を聞いたキンブリーの表情が一転して曇り、その場から離れようとする。
 針の音が聞こえた時、全てを理解した。
 絶大な生命力もそうだが、彼女は自分を引き止めるために言葉を紡いでいたのだろう。
 それに圧倒的な火力は此方の体力を可能な限りまで削り、大地を破壊し確実に追い込むためだったのかもしれない。


(一杯食わされたという訳ですか……チィ!)


「今更逃げたって無駄だぁ! 貴様は此処で死ぬんだよキンブリーィィィィィイイイイイ!!」


 錬成で防ごうにもあの圧倒的火力を人体に背負った存在の爆発から守り切れる自信が無い。
 可能な限り離れようとするが――一か八かの賭けに出るしか無いだろう。























「誰もいなくなっちゃった……」


992 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:34:27 xhsxEQsA0


 残されたセリューの周りには誰もいない。
 常に側に居てくれた島村卯月は別の場所へ避難している。もしかしたら彼女は既に――いいや、それはない。
 マスタングが向かっているからきっと大丈夫だろう。
 今一つ信用が置けない彼ではあるが、ウェイブが信頼している男でもある。信用と信頼は違うが上に、きっと卯月達は大丈夫だろう。


「ごめんね卯月ちゃん、一人にしちゃって」


 心残りは彼女を残してこの世を去ることである。心配であり、ただ単純に彼女のことが心配である。
 南ことりの殺害現場を見せたこと、不可抗力とは云え一般市民には辛い現実を体感させてしまった。
 錯乱状態に陥った人間の果ては由比ヶ浜結衣の一件で卯月も感じ取れただろう。
 悪は例え善人の心であろうと、蝕んでしまい、負けた者は心ごと悪へ変化してしまう。


「負けないでね卯月ちゃん……自分を見失わないで」


 だから彼女には最期まで自分の意思を貫き通して欲しい。
 他人の言葉を借りる訳でもなく、依存することでもなく、自分の意見を通せる意思を。


「ふふ……ブラッドレイの時に死を覚悟してたから涙が出ないや」


 これから死を迎えるのに何故か涙が出て来ない。
 嘗てキング・ブラッドレイに敗戦を喫した時は死を実感しこれまでの出来事が脳内に響いた。
 待ち受ける死の恐怖に怯えていたあの時に己の覚悟は既に完了していたらしい。


「仇、取ってからそっちに行きますね」


 友であるクロメを殺したキンブリーを道連れに天へと昇る。
 マスタングに聞いた所、ブラッドレイとキンブリーは同じ世界の人間らしい。
 あの世界の人間に掻き回された事、一生癒やすことの出来ない敗北の思い出になってしまう。


「まだ会場には沢山の悪が居る……皆、頼みましたよ」


 高坂勢力を始めとする悪が会場にはまだ蔓延っている。
 ウェイブやエスデス、サリア達にはその身を削ってでも正義の意思を継いでもらいたい。


「そう言えばほむらちゃんには悪いことしちゃった」


 マスタング達に遅れて承太郎を追い掛けた時。
 セリューは残ってほむらの支給品を漁り、彼女と鹿目まどかの首を切り落として首輪を回収していた。
 物は全部マスタングのバッグに収納したが……正義のためとは云え、悪いことをしてしまった自覚はあるようだ。


993 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:34:54 xhsxEQsA0


「もうそろそろ、かな」


 己の世界が終わりを告げる時がまもなく訪れる。


「私がこの手で断罪したのは南ことりと由比ヶ浜結衣……ちゃんだけか」


 蓋を開ければ全く悪を断罪出来ていない自分が情けない。せめてもの救いがキンブリーだろうか。
 それに由比ヶ浜結衣は出会いが違えば、南ことりだって手を共に繋げる答えがあったかもしれない。


「でも、そんなことを一つでも認めれば……揺らいでしまう」


 正義の味方にとって悪は断罪する対象である。
 その定義が揺らいでしまえば、己の感覚が鈍り、甘くなり、己を滅ぼすこととなる。


 その断罪全てに関わっているのが島村卯月である。
 やはり、知らない間ではあるがセリュー・ユビキタスにとって島村卯月の存在は無くてはならない。


「本当にごめんね卯月ちゃん……私は此処でお別れ。でも、絶対に追い掛けちゃダメ、だからね」


 此処に来て涙が浮かんでしまう。
 正義の味方故に最期までかっこ良く散りたかったが自分も人間であるようだ。

 残された者の悲しみをセリューは知っている。
 両親のように、オーガのように、Dr.スタイリッシュのように。


 そして、終わりの時が訪れる。



「――――――――――コロ?」



 誰も傍に居ないかと思えば、瀕死の身体を引き摺ってコロが近くに寄り添った。
 キンブリーの爆発を、空条承太郎のラッシュから自分を守ってくれたためにその身体は回復が追いついていない。
 

「ごめんねコロ……ずっと一緒に居てくれてありがとう」


 出会ったから一緒に居てくれた存在がコロである。
 生物帝具ではあるが家族同然の存在であり、殺し合いでも早くに合流出来て安堵していた。
 皆が離れてもコロだけは離れることが無かった。正真正銘の家族であり相棒。


 最期にコロが来てくれたお陰で安堵したのか、更に涙が溢れてしまう。
 死にたくない、誰もがそう思う。けれど、誰もが、抗えない。


 コロを抱き寄せる。
 その表情は悪を断罪する時の険しい表情では無く、優しくて女性らしい笑顔で。


「――――――――――――ねぇ、コロ」


 そして本当に終わりを告げる針が響く。

 最期には似合わない、星の輝きを冠する笑顔で。








「私はちゃんと正義の味方だったかな」








【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース 死亡】
【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る! 死亡】


994 : 正義の味方 ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:35:58 xhsxEQsA0

 彷徨いの果てに辿り着いたベッドに己の身体を全て託すように眠る。
 セリュー・ユビキタス最期の爆発に対し紅蓮の錬金術師は賭けに出た。

 手持ちにあった流星の欠片を賢者の石と同じように扱い、己の錬成への糧として使用した。

 それでも爆発を防げるか怪しい段階ではあったが、生きている自分が答えである。

 しかし全身は更に火傷を覆い、立っているだけでも限界な身体は簡単に気を失ってしまった。

 全ての骸を失ったキンブリー。



 その生命を潰すことは出来ずとも、正義の味方の一撃は確かに届いていた。





【D-7・民宿/1日目/午後】


※D-7は民宿以外崩壞しました。


【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(小)、全身に火傷(大)、右頬骨折、全身に痛み(絶大)、上半身裸
[装備]:承太郎が旅の道中に捨てたシケモク@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ
[道具]:ディパック×2 基本支給品×2 、死者行軍八房@アカメが斬る!、イギーの首輪、クロメの首輪、空条承太郎の首輪
[思考]
基本:美学に従い皆殺し。
1:傷を癒やす。
2:ウェイブと大佐と黒子は次に出会ったら殺す。
3:少女(婚合光子)を探し出し殺す
4:首輪の解析も進めておきたい。
5:首輪の予備サンプルも探す。
6:余裕があれば研究所と地獄門を目指す。
7:武器庫で首輪交換制度を試す。
[備考]
※参戦時期は死後。
※千枝、ヒルダと情報交換しました


995 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/11/23(月) 03:47:34 xhsxEQsA0
投下終了です。

次スレは次のとおりです。

ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1448217848/


996 : 名無しさん :2015/11/23(月) 11:53:56 6GlSFNeI0
投下乙です!

承太郎が脱落して大佐が生き残るとは…予想外
キンブリーとセリュー、ベクトルは違えど二人の狂人の戦いは圧巻でした。ていうかキンブリーのキルスコアが凄い
新漫画の頃からファンだったのでこれは嬉しかったり、死にかけではありますが
セリューさんも自爆して流星の欠片と死体人形を一掃するとは、最後に正義の味方だったのかも
ラストのコロと寄り添い散る姿は原作が再現されていて切ない


997 : 名無しさん :2015/11/23(月) 12:56:59 vbBNIIPc0
投下乙です
キンブリーの戦闘はやはり爆発使いだけあり圧巻ですね
多人数相手にここまで被害を与えたのは流石

ただクロメは残して良いんじゃないでしょうか
ちょっとこの話でフラグ消しすぎなんじゃないかと思います


998 : 名無しさん :2015/11/23(月) 16:48:55 heuDwbcg0
投下乙です
承り…南無
ボロボロの状態で無茶はできなかったか、でも最後まで戦い抜いたその姿は輝いていた
キンブリーの戦いは派手で見ててホント面白いですね、しばらく休んで欲しいものです
そしてセリューの最期は因果応報なのにどこか切ない


999 : 名無しさん :2015/11/24(火) 02:26:34 aiUULFp20
>>997
難癖乙


1000 : 名無しさん :2015/11/24(火) 10:00:04 zMz.sTQo0
埋め


■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■