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アニメキャラ・バトルロワイアルIF

1 : ◆/CiIP89ybY :2015/04/22(水) 00:47:41 tyNfYBMs0
アニメキャラでバトルロワイアルをする企画、アニメキャラバトルロワイアルIFのSS投下スレです
企画の特性上、キャラの死亡、流血等の内容を含みますので閲覧の際はご注意ください。

【したらば】ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17138/
【前スレ】ttp://yomogi.2ch.net/test/read.cgi/asaloon/1427714952/
【地図】ttp://i.imgur.com/WFw7lpi.jpg

【参加者】
7/7【ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
○空条承太郎/○ジョセフ・ジョースター/○モハメド・アヴドゥル/○花京院典明/○イギー/○DIO/○ペット・ショップ
6/6【クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
○アンジュ/○サリア/○ヒルダ/○モモカ・荻野目/○タスク/○エンブリヲ
6/6【ラブライブ!】
○高坂穂乃果/○園田海未/○南ことり/○西木野真姫/○星空凛/○小泉花陽
6/6【アカメが斬る】
○アカメ/○タツミ/○ウェイブ/○クロメ/○セリュー・ユビキタス/○エスデス
6/6【とある科学の超電磁砲】
○御坂美琴/○白井黒子/○初春飾利/○佐天涙子/○婚后光子/○食蜂操祈
6/6【鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
○エドワード・エルリック/○ロイ・マスタング/○キング・ブラッドレイ/○セリム・ブラッドレイ/○エンヴィー/○ゾルフ・J・キンブリー
5/5【PERSONA4 the Animation】
○鳴上悠/○里中千枝/○天城雪子/○クマ/○足立透
5/5【魔法少女まどか☆マギカ】
○鹿目まどか/○暁美ほむら/○美樹さやか/○佐倉杏子/○巴マミ
5/5【アイドルマスター シンデレラガールズ】
○島村卯月/○前川みく/○渋谷凛/○本田未央/○プロデューサー
5/5【DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
○黒/○銀/○蘇芳・パブリチェンコ/○ノーベンバー11/○魏志軍
4/4【寄生獣 セイの確率】
○泉新一/○田村玲子/○後藤/○浦上
4/4【やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
◯比企谷八幡/○雪ノ下雪乃/○由比ヶ浜結衣/○戸塚彩加
3/3【Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/○美遊・エーデルフェルト/○クロエ・フォン・アインツベルン
2/2【PSYCHO PASS-サイコパス-】
○狡噛慎也/○槙島聖護
2/2【ソードアート オンライン】
○キリト(桐ケ谷和人)/○ヒースクリフ(茅場晶彦)

72/72

【基本ルール】
最後の一名以下になるまで殺しあう。
その一名になった者は優勝者として如何なる願いも叶えることができる。(「死者蘇生」「巨万の富」など)
参加者のやり取りに反則はない。

【スタート時の持ち物】
※各キャラ所持のアイテムは没収され代わりに支給品が配布される。
1.ディバック どんな大きさ・物量も収納できる。以下の道具類を収納した状態で渡される
2.参加者名簿、地図、ルールブック、コンパス、時計、ライトの機能を備えたデバイス。(バッテリー予備、及びデバイスそのものの説明書つき)
3.ランダム支給品 何らかのアイテム1〜3個。
 ランダム支給品は参加作品、現実、当企画オリジナルのものから支給可能。
 参加外、およびスピンオフの作品からは禁止。
(とある科学の超電磁砲のスピンオフ元である、とある魔術の禁書目録からアイテムを出すなどは禁止)
4.水と食料「一般的な成人男性」で2日分の量。

【侵入禁止エリアについて】
・放送で主催者が指定したエリアが侵入禁止エリアとなる。
・禁止エリアに入ったものは首輪を爆発させられる。
・禁止エリアは最後の一名以下になるまで解除されない。

【放送について】
6時間ごとに主催者から侵入禁止エリア・死者・残り人数の発表を行う。

【状態表】
キャラクターがそのSS内で最終的にどんな状態になったかあらわす表。

生存時
【現在地/時刻】
【参加者名@作品名】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:
1:
2:
※その他

死亡時
【参加者名@作品名】死亡
残り○○名


2 : ◆/CiIP89ybY :2015/04/22(水) 00:48:46 tyNfYBMs0
【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:00:00〜02:00
 黎明:02:00〜04:00
 早朝:04:00〜06:00
 朝 :06:00〜08:00
 午前:08:00〜10:00
 昼 :10:00〜12:00
 日中:12:00〜14:00
 午後:14:00〜16:00
 夕方:16:00〜18:00
 夜 :18:00〜20:00
 夜中:20:00〜22:00
 真夜中:22:00〜24:00

【予約について】
キャラ被りを避けたい、安定した執筆期間を取りたいという場合はまず予約スレにて書きたいキャラの予約を行ってください。
予約はトリップを付け、その作品に登場するキャラの名前を書きます。
キャラの名前はフルネームでも苗字だけでも構いません。
あくまでそのキャラだと分かるように書いてください。

【予約期間について】
予約をした場合、執筆期間は五日間、三作以上書いて頂いた方は最大で七日間です
ただし予約は任意ですので強制ではありません。

【作品投下のルール】
予約なしで作品を投下する場合、必ずしたらばにある投下宣言スレにて、投下宣言を行ってください。

※トリップとは
酉、鳥とも言います。
名前欄に#を打ち込んだあと適当な文字(トリップキーといいます)を打ち込んでください。
投稿後それがトリップとなり名前欄に表示されます。
忘れないように投稿前にトリップキーをメモしておくのがいいでしょう。
#がなければトリップにはならないので注意。

【能力・支給品の制限について】

◆クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
・パラメイルの様に強すぎる初期支給品は自重
(登場話で破壊など、納得できる理由もありうるので展開次第)
・エンブリヲの復活能力、死者蘇生の禁止

◆PERSONA4 the Animation
・ペルソナは可視で物理干渉を受ける

◆ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
・スタンドは可視で物理干渉を受ける
・スタンドDISCの支給は禁止
・アヌビス神は支給可能だが人格の乗っ取りは考慮すること

◆アカメが斬る
・帝具の相性(使用可否)は書き手の判断に任せる
・奥の手の再使用にインターバルを設けることを推奨
・八房の死体ストックをゼロにする

◆とある科学の超電磁砲
・パワードスーツは支給禁止

◆ソードアート オンライン
・アバター状態での参加が可能かつ推奨される
・ユイは支給禁止

◆魔法少女まどか☆マギカ
・ソウルジェムは本人支給。
・魔女状態での参加は原則禁止(展開次第で魔女化するのはあり)

◆その他、何かしら制約を受ける能力や支給品
・洗脳、時間停止、強い再生能力、テレポートなど

◆強い制約を受ける能力や支給品
・首輪やそれに準ずるものへの安易な干渉、死者蘇生、時間逆行など
(他ロワの例:参加者単独ではほぼ不可能、禁止に近い制約)

※これらの制限は書き手の任意で設定できるが、便利すぎると思った場合は仮投下を推奨する


3 : ◆QAGVoMQvLw :2015/04/22(水) 22:30:44 oWf2pXs20
OPを投下します。


4 : 幕開け ◆QAGVoMQvLw :2015/04/22(水) 22:32:22 oWf2pXs20
始めは全てが闇に覆われていた。
まるで霧散するがごとく、徐々に闇が晴れていく。
やがて全てが明らかになった時には、その男も完全に目を覚ます。
部屋に明かりが満ちると共にその男、ジョセフ・ジョースターも意識を取り戻した。

(…………ここはどこじゃ?)

その部屋はジョセフにとって全く見覚えのないものであった。
どれほど周囲の様子を伺い、目を覚ます前の記憶を検めても、
なんの心当たりも見出せない。
ただ周囲を観察すればするほど、その部屋の異様さに気付いていく。

部屋と言ってもそれは天井と、そこに等間隔で点在する円い光源から推測されただけで、
その照明とも言えないような光源以外は、扉や窓どころか四方の壁も見当たらない。
広さも定かではないその空間に見当たる物体は、”人”のみ。
何よりそこに居並ぶ人々の様子が尋常ではなかった。

人種も年齢も性別も衣装も様々な人々が、光源と同じく等間隔に並んでいる。
そして全員が直立不動のまま、両腕を水平方向に上げている。
まるで見えない十字架に掛けられているかのように。
誰一人として身動ぎもせず、呻き声も立てない。
ジョセフはそこで、同じ体勢になっている自分が、
指一本動かすことができず、声を出すこともできないことに気付いた。

そして居並ぶ者たちとジョセフにはもう一つの共通点が見つかる。
全員がその首に、金属製の輪を嵌めていた。

(拘束されている!? わしも気付かぬ内に、敵に捕まっておったのか!!?)

長年戦いの世界に身を置いていたジョセフは、すぐに敵の攻撃を受けた可能性を思いついた。
スタンド攻撃に対応するため、ジョセフは自身のスタンド『隠者の紫(ハーミット・パープル)』を出そうとする。
しかしハーミット・パープルのヴィジョンである茨が発生しない。
自分の精神力のヴィジョン、スタンドすら発現させられない。

(OH! MY! GOD! スタンドまで封じられている!)

自分の身体もスタンドも封じられたジョセフ、そしてこの場に居る全員が、
この状況を仕組んだ者に命運を握られた形になる。
そんな者が居ればの話だが。

「やあ諸君」

不意に声が聞こえてきた。
ジョセフの意識が声の主に引き寄せられる。
いつの間にか居並ぶ者たちの中央に、机と椅子が置かれていた。
その椅子に座る男が一人。


5 : 幕開け ◆QAGVoMQvLw :2015/04/22(水) 22:33:35 oWf2pXs20
スーツを着た中年の男だった。
革張りの椅子に深く座り、いかにも高級そうな木製の机の上で自然に手を組んでいる。
特徴に欠ける、しかし沈着な雰囲気と威厳のある男だった。

「わたしの名は広川。今から行うバトルロワイアルの司会進行を務める。
バトルロワイアルとは簡略して言えば殺し合いのことだ。きみたちにはそのために集まってもらった」

男は事も無げに言い放つ。
殺し合いと。

(あいつ、やはりDIOの手下のスタンド使いか!!? しかしそれならば、何故すぐにわしらを殺さん!?)

広川が、自分たちを狙うDIOの刺客であるとしか思えないジョセフ。
しかしそれにしても不自然な点が残る。
ただ命を奪いたいだけなら、とうにジョセフは死んでいるはずだ。
ジョセフたちを嬲り者や見世物にして楽しみたいにしても、やはり違和感がある。
歴戦の策士であるジョセフにとってすら、状況の脈絡がまるで読めない。
かつてない異様な事態に、ジョセフの緊張感は嫌でも高まる。

「バトルロワイアルはここではなく、専用の会場となる場所に移動して行う。
移動先ではきみたち全員に、デイパックを一人につき一つずつ支給する。
中には飲食物の他に地図や名簿などの共通支給品と、個別の物を最低一つから最大三つまで入っている。
ちなみに支給品にはルールブックも含まれていて、バトルロワイアルの詳細なルールが記してあるから、
良ければそれで確認してみるといい」

聞く者の緊張や警戒などお構い無しに、広川は淡々と説明を始めた。
抑揚の無い言葉の羅列を、ジョセフは必死に記憶していく。
広川の話から察するに、殺し合いはかなり大きな規模で行われるらしい。
ますますDIOの手先であるとしたら違和感のある事態だ。

「バトルロワイアルの会場は、地図の上で縦横の線によって区切られている。
それらの四辺形は、各々にアルファベットと数字が振られてエリア分けされており、
エリアはランダムで一つずつ禁止エリアとして指定されていく。
そして禁止エリアに侵入した参加者には、ペナルティが課せられる訳だが、
ここからは特に心して聞いて欲しい。きみたちに如何なるペナルティを課せられるかをだ。
それこそ、きみたちがバトルロワイアルを行わなければならない理由となる物だ」
「いいかげんにしろよこの野郎!!」

初めて広川以外の声が聞こえた。
広川と向かい合うように、少年が立っている。


6 : 幕開け ◆QAGVoMQvLw :2015/04/22(水) 22:35:00 oWf2pXs20
白いシャツに髪を逆立てた、東洋人の少年は、
怒りも露に広川を睨み付けている。

「きみは上条当麻くんだったね。まだバトルロワイアルの説明の途中なのだが……」
「バトルロワイアルだかなんだか知らねぇけどな……まず皆を解放しろ!!」

上条は広川にもまるで臆することなく怒鳴りつける。
しかし上条の射抜くような鋭い視線を受けても、広川の態度に変化は無い。
相変わらず抑揚の無い口調で話を続けた。

「かれらの動けない状態は、バトルロワイアルの会場に送られると同時に解くから安心するといい。
殺し合いは会場に送られると同時に開始するからね」
「……そうかよ、お前があくまで殺し合いをさせるって言うんなら…………
俺たちを脅して殺し合いをさせられるつもりなら……まずは、その幻想をぶち殺す!!!!」

上条は自分の怒りを込めるかのように、右手を握り締めた。
震えるその右拳には、何か尋常ならざる力が込められているようにすら思える。
上条は今にも殴り掛かりそうな雰囲気だが、それでも広川は変わらぬ調子で上条に話し掛ける。

「幻想ね……ところで”何故”だと思う?」
「何故かなんて、どうでもいいんだよ! どんな理由があったって、殺し合いなんてさせて良い訳がねえだろ!!!」
「わたしもそんなことは問うていない。”何故、きみだけが動けるようになった”と思う?
少しは周りを見た方が良い。他の者は先ほどまでのきみのように拘束されたまま、喋ることも動くことも叶わない。
わたしがきみだけを動けるようにしたんだよ」

上条の表情に初めて動揺の色が差す。
しかし次の瞬間には意を決したらしい上条は、広川に向かって襲い掛かった。

広川の前にある机に一足飛びに乗り上がり、
上条は広川の顔面に向けて右拳を振るう。
右拳が届く前に上条は胴体から机にぶつかる。
更に頭も机に叩きつける。
全身を机に叩きつける形となった上条。
上条自身が何が起こったのかわからないらしく、驚愕の表情を浮かべている。
伸ばした右腕は広川に届かない。
まるで見えない何かに押し潰されているかのように動けなくなったらしい。

「上条くんが再び喋れなくなったので、わたしの方から彼について説明しよう。
彼について、と言っても彼の能力についてだが……彼の右手にはある特異な能力が宿っている。
彼は超能力者育成施設である学園都市ではレベル0、無能力者だと判定されているが、
超能力や魔術等、あらゆる異能をその右手で打ち消すことができる。
最弱にして最強の異能、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の持ち主だ。
そのあらゆる異能を打ち消せるはずの上条くんの動きも、こうして封じられている訳だ」

広川が説明する上条の能力。
それはどうやら、波紋とスタンドという二種類の異能を持つジョセフにとっても未知の系統の物らしい。
他にも学園都市等と、未知の機関の名前も出ている。
広川や上条の様子から察するに、ただのでまかせやハッタリの言葉だとも考え難い。
情報を拾えば拾うほど、事態の闇が深まっていく。

「幻想殺しに限らない。超能力、魔法、スタンド、錬金術……きみたちのあらゆる異能を自由に制御することがわたしには可能だ。
それに関しては、現に異能を封じられているきみたち自身が最も実感しているのかもしれないな。
……話を戻そう。禁止エリアに侵入した際のペナルティだが、彼の首に巻かれている物を見て欲しい」

上条の首を指差す広川。
そこには他の者と同じく首輪が嵌まっている。
ジョセフは自分の首にかかる金属の冷たさを思い返し、嫌な予感が過ぎる。

「この首輪はきみたち全員に掛けられた物と、内部構造から全て同様の物だ。
仕込まれている爆弾も含めてな。そしてどの爆弾も、わたしの任意で爆破することができる。
首輪の爆破条件は禁止エリアへの侵入以外にも三つある。
一つはバトルロワイアルの会場の外に出ること。一つは首輪が破損すること。
もう一つはわれわれに反抗することだ」

爆発音。


7 : 幕開け ◆QAGVoMQvLw :2015/04/22(水) 22:36:08 oWf2pXs20
同時に上条の首から火と煙が上がる。
そして上条の頭が、胴体を離れてゆっくりと転がっていく。
大量に流れ出る血と、肉の焼ける臭いが、嫌でも上条の死を五感に伝えてきた。

「幻想殺し、か……上条くんは正にその身を以って幻想を殺してくれたと言えるな。
わたしに逆らい得る、わたしの手の中から抜け出し得ると言う短絡で愚昧な幻想を……」

誰も動くことも声をあげることもしない。
しかし明らかに場の空気が変わる。
静寂の中、重苦しい空気が波紋のごとく広がっていく。
その中でもやはり調子の変わらない広川は、淡々と説明を続けていった。

「さて……何度も脱線をしてすまなかったね。今度こそ最後まで説明を続けるとしよう。
禁止エリアは最終的に会場全体を埋め尽くすことになるから、そうなればきみたちは全員が死亡する。
禁止エリアの指定を停止する条件は一つ。バトルロワイアルの参加者が一名以下になることだ。
それがバトルロワイアルを終了する唯一の条件だ」

重苦しい空気は晴れないまま、緊張感だけが高まっていく。
そこには確かに殺し合いの理由が成立していた。
生存できるのが真に一名以下ならば、あるいはその座を巡って殺し合うしかないのかも知れない。

「最後の一名となった者は、首輪を外し元の世界に帰還させよう。
更に褒章としていかなる望みでも一つだけ叶えよう。”いかなる望みでも”だ。
財や権力は言うに及ばず、死んだ者を蘇らせることでも、失くしたはずの人としての身体を取り戻すことでも、
因果律も等価交換の法則も、この世のあらゆる条理を無視して”いかなる望みでも”叶えよう。
信じられない者も居るだろうが、きみたちの中にはそのような奇跡に心当たりのある者もいるだろう」

いかなる望みでも叶える。
その言葉に今までの重苦しさや緊張とは違う空気が混じる。
それが不信によるものか、希望によるものか、
確認する方法はジョセフには無い。
ジョセフ自身ですら、望みが叶うと言う言葉を聴いて、
死の危険が迫る自分の娘を思い浮かべずにいられなかった。

「それではこれ以上、長々と説明するのは止めてバトルロワイアルを始めるとしよう」

明かりが落ちて、部屋の中が闇に満たされていく。
景色が暗くなっていく中でジョセフは、闇に消えていく自分の孫の姿を見た。

「……最後にこれは説明ではなく忠告だが、生還者を出したいと望むのなら、迅速に殺し合いを進めることだ。
何名も生還しようとして徒労を重ねて、全てが手遅れになれば、誰の望みも叶わない結果になるからな」
(イ、イカン!! このままでは本当に殺し合いが始まる。もし――――――――)

全てが闇に覆われていった。
そして闇に落ちると共に、ジョセフの意識も落ちていく。
やがて全てが暗闇に覆われた時には、その男も完全に目を閉ざす。
部屋に暗闇が満ちると共にその男、ジョセフ・ジョースターも意識を失った。





――――――――再び目を覚ました時、バトルロワイアルの幕は上がっていた。



【上条当麻@とある科学の超電磁砲 死亡】


【主催】
【広川 剛志@寄生獣 セイの確率】


8 : ◆QAGVoMQvLw :2015/04/22(水) 22:37:16 oWf2pXs20
OPの投下を終了します。


9 : 名無しさん :2015/04/22(水) 22:53:44 L90xTTE60
立て乙です

有効予約まとめ(4月27日まで)

◆w9XRhrM3HU
戸塚、黒、後藤

◆rZaHwmWD7k
エドワード・エルリック、前川みく

◆jk/F2Ty2Ks
イリヤ、 食蜂操祈、DIO

◆QAGVoMQvLw
空条承太郎、佐倉杏子

◆Yut5wuaxLE
巴マミ、サリア

◆fuYuujilTw
西木野真姫、田村玲子

◆BEQBTq4Ltk
エスデス、アブドゥル


10 : ◆/CiIP89ybY :2015/05/02(土) 12:22:12 Amrr8K3g0
>>1に追加でまとめwikiです
ttp://www7.atwiki.jp/animelonif/


11 : 名無しさん :2015/05/02(土) 21:03:10 QpyQc0.A0
>>10
乙です

ところでこのスレって、いるの?
避難所したらばで作品が投下されててそれが収録されてるのなら、そちらが本スレなのでは…


12 : 正義の名は此処に ◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/05(火) 21:19:22 2I59TLOw0
どれだけ走ったのだろうか。
呼吸を乱している少女は木陰に隠れるとその場に腰を下ろした。
初めての土地では場所も何もかも不明なため普段よりも大きく疲れている。
島村卯月は自分が置かれている環境に不安を覚えながら休憩を取り始めた。

彼女の記憶が正しければシンデレラプロジェクトのメンバー達とライブをやり終えていたはず。
今まで頑張ってきた努力が形を成し最高の笑顔を飾れた瞬間でもあった。
それがどうやって殺し合いに巻き込まれるのか見当もつかない。

開催の宣言をされたかと思えば次はまた突然に森の中へ移動させられていた。
黙っていれば誰かに殺される、そんな恐怖心が島村卯月の心を占領し彼女は走りだした。
大きな音をたてればそれだけ誰かに気付かれる可能性が上昇する。
危険人物か優しい人物かは出会うまで分からない。
そんな可能性のリスクも考えずに彼女は独りで森に居る孤独と恐怖から脱出するため走りだした。
それが数分前の話である。


(はぁ、はぁ……ど、どうしよう)


これからのこととそれからのこと。
方針が全く定まっておらず足掻くにもどう足掻けばいいか分からない。
知り合いも居なければ土地勘もなく広さも分からない会場に独り残された島村卯月。
その未来に輝きは見出だせず明日も生きている保証が出来ない程の不安定な空間。
このまま逃げ回り助けを待つのが理想的だろう。
自分が行方不明になれば誰かしらが気付いてくれて警察に連絡するはずだ。
そうなれば警察が動き殺し合いを運営している人間を捕まえて自分たちは日常に開放されるだろう。

そうなると時間を待つために安全な場所へ移動しなければならない。
森の中では気付かれにくいと思うがずっと居る訳にもいかない話である。
夜を越すにはせめて屋根と壁が欲しい。室内を目指すべきだろう。
近くに建物があるかどうかも分からないが慎重に移動し安全を確保するのが最優先と島村卯月は判断した。


余談だが彼女は道具を一切確認しておらず現在地点も地図も名簿も何一つ不明なままである。


13 : 正義の名は此処に ◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/05(火) 21:20:06 2I59TLOw0
月明かりだけが唯一の光。
深夜の森では視界も日中に比べれば機能していない。
誰かが現れても近くに行かなければ顔が見えないのは辛い話しである。

島村卯月は木陰から動き出すために姿勢を低くしたまま歩き出した。
誰にも気付かれないように、生き残るために、安全な場所へ逃げるために。
ゆっくりと、ゆっくりっと……。

「……あう!?」

大きめの石を踏み揺らいでしまった島村卯月。
反射的に声を上げてしまい静かな森の中へ響き渡ってしまった。
身体の体勢を保とうと力を入れるが今更そんなことをしても手遅れだろう。
おまけに体勢を崩し尻もちをついてしまった。更に音をたてた。

「こ、こんな時に……っ」

バッグの中身が落下の衝撃で散乱してしまった。
ペットボトルが転がり電子機器などが落ちている。
拾おうと想い立ち上がろうとするが足に力が入らない。

「これを落としたのはあなたですか?」

(ひ、人……殺し合いに参加している人……!?)

気が付いた時には目の前に一人の女性が立っていた。
自分が目立ってしまったばかりに位置が分かってしまったのだろうか。
島村卯月の脳内には自分が殺される場面が映し出されている。
このまま殺されてしまう、死んでしまうと。

「ひっ……」

忘れていた記憶が蘇る。
始まりの儀式にて殺されてしまった男性。
彼は首輪の爆発により死んでしまった。
その首は宙を舞う。そしてこれから自分もその後を追うのだ。

現実逃避から下を向いた島村卯月の視界には一つの紙切れがあった。
それは参加者名簿であり見知った名前も発見出来た。
知り合いの名前があり孤独から開放されてことに喜ぶべきか。
それとも同じく殺し合いに巻き込まれた境遇を悲しむべきか。

そんなことをゆっくりと考える。これが走馬灯とやらだろう。



「あれ? そんなに怯えなくても悪はこの私が滅ぼしますよ!」



「……へ?」



「悪人は全て私達イェーガーズが滅ぼしますから安心してください!」


島村卯月の前に現れたのは悪の殺し屋ではなく正義の執行人であった。
見た目はそう変わらない橙色の髪をした女性は宣言の後に笑顔を向けた。

「私はセリュー・ユビキタスと言います。貴方は?」

「わ、私は卯月。島村卯月で……す」

初対面の人間に自己紹介をするのは危険である。
殺し合いの状況の渦中でわざわざ名乗りを上げるメリットはないだろう。
しかしセリューの笑顔は何処か心を安心させてくれる。それに伴い口が動いてしまった。

「私はあっちに転がったペットボトルを拾ってきますのでシマムラさんは近くの物を拾ってくださいね!」

言い残すと離れていくセリュー。
先ほどの笑顔はアイドルでも中々見れない輝きを放っていた。


14 : 正義の名は此処に ◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/05(火) 21:20:42 2I59TLOw0
言われたとおりに周りの物を拾っていると人影が一つ。
セリューではなく新しい人影。
警戒心が薄れていた島村卯月の心拍数は急激に跳ね上がる。

「私も手伝うよ」

「あ、あなたは……?」

「私は南ことり、よろしくね!」

出会う人物は全員笑顔が似合う女性と決っているのだろうか。
考えてしまう程セリュー・ユビキタスと南ことりの笑顔は輝いていた。
学生服から彼女もまた近い年頃の女性だろう。
殺し合いに巻き込まれたとは思えないほどの明るさは見習いたいものである。

「私は島村卯月です、ことり――」

「よろしくね、卯月ちゃん!」

「――はい! ことりちゃん!」

初対面の他人との距離感は測り辛いものがある。
しかし南ことりは島村卯月の心配を吹き飛ばすように話しかけた。
単純ではあるが距離感が縮まった二人は軽い会話を行いながら散乱してしまった物を拾っている。

「ことりちゃんの知り合いはその……えーと」

「ここからここまでが私の友達!」

名簿に指を滑らせながら南ことりは島村卯月の問に答えた。
高坂穂乃果、園田海未、南ことり、西木野真姫、星空凛、小泉花陽。
本人を除けば五人の知り合いがこの会場に居ると記されていた。

「私の大切な友達で、仲間で、メンバーなの」

「め、メンバーですか?」

「そう! μ'sっていうスクールアイドルの」

「アイドル……?」

奇遇な事に島村卯月もアイドルである。
シンデレラプロジェクト。そのメンバーの一員だ。

「私もアイドルなんです! シンデレラプロジェクトっていう、プロダクションは――?」



「そう……プロダクションってすごいね!」

一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ南ことりの表情が変わっていた。
妬むような。
まるで目の前に親の仇がいるような深い感情を背負った表情。
言葉を詰まらせた島村卯月だがセリューの合流により場は流れた。

「セリュー・ユビキタス、ただいま戻りましたよーって新しい人が」


15 : 正義の名は此処に ◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/05(火) 21:21:17 2I59TLOw0
ペットボトルを拾ってきたセリューは直ぐに南ことりの存在に気付く。
会釈を済ませた後互いに自己紹介を行っていた。

それを見ている島村卯月は考える。
名簿の中には自分の知り合いの名前も在る。
南ことりの知り合いも記載されており一部のグループが拉致されているのではないだろうか。
シンデレラプロジェクトとμ's、アイドルグループからの誘拐。
島村卯月はμ'sを知らないがスクールアイドルならばローカル、それでもアイドルだ。
シンデレラプロジェクトより知名度は劣るかもしれないがアイドルに変わりはない。

最も島村卯月はそんな事を考えず同じアイドルとして南ことりと接している。

気になることと言えば一瞬だけ垣間見えた表情だ。
「ねぇ卯月ちゃん」
「はい?」

「私の友達、特に穂乃果ちゃんと会ったらよろしくって伝えてね」

「こ、ことりちゃん……?」

小さく呟かれた言葉はとても弱くて。
それでも何処か強い決意が隠れているような。

その言葉を最後にことりちゃんは包丁を握り締めセリューさんに向かって走っていました。


「ことり――セリューさんッ!?」


知らせるために。
生命の危険が迫っていることを知らせるために。
島村卯月は叫ぶ。居場所が他人に気付かれても構わない、構っていられない。

南ことりは島村卯月の言葉に振り向くこと無くセリュー目掛けて走っている。
会話をしていた頃の柔らかい空気は消え去り、漂うのは緊迫感のみ。
その包丁に乗っている覚悟は一体。
スクールアイドルには似合わないその刃物でセリュー・ユビキタスの首を――。



「尻尾を出したなこの屑が」



包丁を握っていた右腕を掴むと大きく捻り南ことりの体勢ごと崩す。
苦痛の表情を浮かべた南ことりは包丁を落としてしまう。それを見逃させず蹴り飛ばすセリュー。
南ことりの顔がある程度まで下がると見計らったように肘打ちを加え大地に叩き落とす。
鮮血が舞い大地には欠けてしまった前歯が落ちていた。

「い……いた……いよ……」

「包丁で刺された方が痛いに決っているだろ」

「あぐッ!」

痛みを呟いていた南ことりの顔を踏み付けたセリューは言葉と共に唾を吐き捨てる。


16 : 正義の名は此処に ◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/05(火) 21:21:47 2I59TLOw0
彼女の笑顔は数分前の輝きが感じられない。
それは悪魔、悪魔の表現が一番似合う邪悪な笑顔だった。

島村卯月は状況を飲み込めず、南ことりが傷付いている中行動出来ないでいた。

「一応聞いときますけど殺し合いに乗った動機を答えなさい」

「うぅ……助けて穂乃果ちゃん……」

「答えろ!!」

問に答えない南ことりに対し脚の力を強めるセリュー。
その影響か血を吐き出しながら涙を流す。救ってくれる者は存在しない。
何故殺し合いに乗ったのか。
島村卯月との会話どおり彼女はスクールアイドルだ。
血や硝煙の匂いは似合わない表舞台の人間である。


「私が頑張らないと穂乃果ちゃん達が……死んじゃうかもしれない……ん、だから」


「友達のために他人を殺してもいい? そんな訳ないだろ、取り繕っても悪は悪だ」


「ちが……私はみんなで帰れるならそれでいい。汚れるのは私だけでいいかなって……。
 だから、ね。卯月ちゃん。みんなに会ったらよろしくって……穂乃果ちゃんにごめんね――」


穂乃果ちゃんにごめんね――その言葉の続きを島村卯月とセリューが聞くことはなかった。
言葉の最後はセリューによる脳天への突き刺しにより途切れてしまった。


血、血、血。


止まることを知らないのか、死体の頭から流れ出る鮮血。
それはやがて血溜まりとなり周囲を不快へと誘う黄泉の門となる。
南ことりと呼ばれた少女の生命は潰えた。
彼女はただ願っていただけ。もう一度みんなと帰りたい、笑いあいたい。
ただ巻き込まれただけ。何が殺し合いだ、血はアイドルに似合わない。
彼女はただ帰りたかっただけ。それだけなのに――。

「制裁完了」

使命をやり遂げたセリューは達成感に満ち溢れている。
死んだ南ことりを嘲笑いながら己の正義に酔っているのだ。
事実として彼女は殺し合いに乗った――殺人鬼を殺したことになる。
文字で見れば正当な行いだ。少なくとも正当防衛になるのだ。


17 : 正義の名は此処に ◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/05(火) 21:22:31 2I59TLOw0
特殊警察イェーガーズ。
帝都に巣食う悪を制裁する正義の名。
その行い、悪に対しては容赦を知らず徹底的に叩きのめす。
セリュー・ユビキタスはその中でも正義感に燃える女性だ。
止まることを知らず、世界に蔓延る悪を駆逐するためならば彼女は喜んでその手を汚す。

「殺し合いに乗る悪は残らず殺してやる! 正義の名のもとにィ!」

笑う悪魔に月明かりはよく似合う。
彼女の歪んだ正義は全ての悪を殺すまで収まることはない。
例え殺したとしても消えることはなくセリュー・ユビキタスの生命ある限り燃え続けるだろう。

その姿を唯一目撃した島村卯月は気を失っていた。
始まりの儀式にて殺された男性に続いて二人目の死亡を見てしまった。
裏の世界に耐性のない少女は厳しい世界、耐えられる筈もない。

セリューは彼女を背負うと安全な場所を目指して歩み始める。

「私が必ず守るので安心しててくださいね」



その笑顔は女神のように優しかった。



【南ことり@ラブライブ 死亡】
【残り71人】


【D-5/森(西)/1日目/深夜】


【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:日本刀@現実、包丁@現実
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、不明支給品0〜4
[思考]
基本:会場に巣食う悪を全て殺す。
1:悪を全て殺す。
2:島村卯月を安全な場所へ移動させるためイェーガーズ本部を目指す。
3:エスデスを始めとするイェーガーズとの合流。
4:ナイトレイドは確実に殺す。
[備考]
※参戦時期はマインとの決戦前です。
※十王の裁きは五道転輪炉(自爆用爆弾)以外没収されています。
 使用するにはコロ(ヘカトンケイル)@アカメが斬る!との連携が必要です。


【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:気絶中、悲しみ、死に対する恐怖、セリューに対する恐怖
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:元の場所に帰りたい
1:気絶中。
[備考]
※参戦時期は最終回(前期)終了後です。
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。


18 : 無謀な炎 ◇dKv6nbYMB(代理投下) :2015/05/05(火) 21:23:58 2I59TLOw0



私ね、とても怖い夢を見たの
「夢?」
まどか。あなたがもう二度と逢えないほど遠いところに行っちゃって、なのに、世界中の誰もかもがそのことを忘れちゃって。
私だけがまどかのことを憶えている、たった一人の人間として取り残されて...
寂しいのに、悲しいのに...その気持ちを誰にも解ってもらえない。
そのうちに、まどかの思い出は私が勝手に作りだした絵空事だったんじゃないかって
...自分自身さえ信じられなくなって


「...うん。それは、とっても嫌な夢だね。でも大丈夫だよ。
わたしだけが誰にも会えなくなるほど遠くに一人で行っちゃうなんて、そんなことありえないよ」
どうして?何故そうが言い切れるの?
「だってわたしだよ?ほむらちゃんでさえ泣いちゃうような辛いこと、わたしが我慢できるわけないじゃない」
...あなたにとっても、それは我慢できないほど辛いこと?
「そうだよ。ほむらちゃんたちだけじゃない。パパやママにタツヤ、学校のみんなに先生...わたしの大好きな人たちの誰ともお別れなんてしたくないよ」



そう...そうだったのね。それがあなたの本当の気持ちなのね


19 : 無謀な炎 ◇dKv6nbYMB(代理投下) :2015/05/05(火) 21:24:28 2I59TLOw0



私が自ら作り出した偽物の街で聞いた、本物の彼女の本心。
その時、私はようやく己の間違いに気付くことができた。
まどかをあんな願いで契約させることは、やはり認めてはいけなかった。どんな手を使ってでも止めるべきだった。
だから、私は彼女を裏切った。魔法少女たちの希望の象徴、円環の理から、彼女の人間としての記憶だけを引き裂こうとした。
彼女の優しい救いを払いのけ、彼女の祈りを穢そうとしたのだ。
そして、私が彼女の腕を掴んだとき、彼女は再び人間としての生を受ける、はずだった...のに...


20 : 無謀な炎 ◇dKv6nbYMB(代理投下) :2015/05/05(火) 21:24:55 2I59TLOw0

「わけがわからないわ」

気が付けば、妙な体勢で動けなくなっており、いきなり殺しあえと説明を受け、ウニ頭の少年が爆死した。おまけに、意識が無くなったと思ったら別のところに移動していた。
つまり、世界を改変しようとしたら、殺し合いに巻き込まれていたということだ。まったくもって意味がわからない。
いったいあの広川という男は何が目的なのだろうか。その答えはわからない。だが、これだけはいえる。
この殺し合いには、インキュベーターが一枚噛んでいる。

名簿を確認したところ、私の知る名前は、鹿目まどか、美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子の四人。
この中でいるはずのない存在は二つ。それは、鹿目まどかと美樹さやかだ。
まどかは、その身と引き換えに、円環の理という概念に姿を変え、どの時間軸からも消滅した。
概念ということは、人間には触れるどころか認識すらできないということでもある。
故に、彼女から干渉してこない限りは、こんな場所へ連れてくるのは不可能なのだ。
美樹さやかも同様だ。彼女は、魔獣との戦いで既に消滅している。即ち、円環の理の一部であり、魔法少女以外には干渉できない存在となっている。


そうなると、誰からも認識されることのない彼女たちに干渉できる者は限られてくる。
それは、彼女の本当の姿を知る者。私と、魔法少女を産む存在であるインキュベーターだ。
現にあいつらは、私から聞いた記憶だけで、円環の理に干渉する装置を独自に作り上げていた。
このことから、インキュベーターが一枚噛んでいることはほぼ確定だろう。
それならば、生き残った一人の報酬である、"なんでも望みを叶える"というのは、奴と契約するということで間違いない。
広川自身、その辺りは認めているような言動をしていた。
ならば、私の為すべきことは決まっている。


21 : 無謀な炎 ◇dKv6nbYMB(代理投下) :2015/05/05(火) 21:25:27 2I59TLOw0

「まどかを契約させはしない。絶対に、このふざけた茶番を壊してみせる」



もし、まどかを優勝させればどうなるか。まず間違いなく同じことの繰り返しだ。そうなれば、結局彼女の本心はないがしろにされてしまう。
それでは駄目だ。彼女をみすみす孤独においやるような真似はしてはならない。
なにより、彼女自身、親友である美樹さやかたちを見殺しにすることを望まないだろう。
そのうえ、私にはもう時を戻す盾はない。やり直しもできないのならば、このバトルロワイアルそのものを壊すしかない。
きっと、殺しあえと言われてハイそうですかと従わない人物はいるはずだ。
当面の目的は、そんな協力者の確保、そしてまどかに危険を及ぼす人物の排除だ。
首輪の解除はそれからでも遅くは無い。
...でも、それでもなおこの殺し合いに抗えなかったらその時は...

パシンと、頬を叩き気をとりなおす。
弱気になってどうする。
完全無欠のモノなどない。それは、概念となった彼女に触れたことで、私自身が証明したじゃないか。
そうだ。私は一度は神の理にさえ抗いかけた身だ。
あんな男一人とインキュベーターごときが敷いたレールくらい、壊してみせる。変えてみせる。
声に出して、もう一度決意をかためる。
「私は悪魔よ。なめるな!」



とにかく、いまは進むしかない。
今度こそ、必ずまどかを救う。そのためなら、こんな命いくらでも使ってみせる。
もう時を戻すことはできない。そのうえ、条件は過去最悪最低の劣悪な環境。
それでも、私はまどかを諦めることなんてできない。
それが、今まで私の生きてきた意味なのだから。
奇しくも、ここは病院。私の今までのスタート地点と同じだ。
覚悟は決めた。


―――私の叛逆は、まだ終わっていない。



【C-1/病院/一日目/深夜】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ(新編 叛逆の物語)】
[状態]:健康
[装備]:見滝原中学の制服、まどかのリボン
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]:
基本:まどかを生存させつつ、この殺し合いを破壊する
1:まどかを保護する。
2:協力者の確保。
3:危険人物の一掃
4:まどかの優勝は最終手段


[備考]
※参戦時期は、新編叛逆の物語で、円環の理に導かれる寸前にまどかの腕を掴んだ瞬間からです
※まどかのリボンは支給品ではありません。既に身に着けていたものです
※魔法は魔女世界改変後の弓です。そのため、現状では時間停止の盾は使えません。また、制限のため悪魔化もできません
※この殺し合いの主催にはインキュベーターが絡んでいると思っています。


22 : 世界の合い言葉は森 ◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/05(火) 21:27:08 2I59TLOw0
「なんなのよ一体……、意味わかんない……」
先ほどの惨劇にも関わらず、西木野真姫は妙に落ち着いていた。
それは日常とあまりにもかけ離れていたからかもしれない。

殺し合い。冗談でもなければ、いや、冗談でも一生口にすることはないであろうその言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
あの男、広川と名乗った男は言った。
最後の1人になった者を元の世界に帰し、いかなる望みでも一つだけ叶えると。
あの男の言葉に従うことを一瞬でも頭に浮かべてしまった、つい先ほどの自分をひどく嫌悪してしまう。
私は医師を志している。人の命を奪うなどと考えてよいはずがない。

支給されたデイバックの中を確認する。
小型の機械に説明書、食料、それとお菓子にジッポライター。
どうやら外れらしい。
気を取り直し、機械の説明書を確認する。一通りの機能は備わっているようだ。
名簿を確認したところ、同じμ'sのメンバーである同級生と2年生の名前が記載されている。
ひとまずは彼女たちと合流するべきであろう。
幸いなことに、3年生はこの狂った催しに参加させられてはいないようだ。


23 : 世界の合い言葉は森 ◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/05(火) 21:27:53 2I59TLOw0
ふと暗闇に気配を感じた。


「誰だ」


背筋が凍る。気付かれた? 殺される。逃げなくては。足が動かない。
今まで心の奥で張りつめていたものがぷつんと切れる。
感じたことのない恐怖が堰を切ったように襲いかかった。その場にへたれこむ。
目をぎゅっとつぶる。足音がゆっくりと近づいて来て、止まった。
ああ、殺されるんだ。


「安心しなさい。危害を加えるつもりはない」


次の瞬間襲い来ると思った痛みがやってこないのを確かめると、恐る恐る目を開けた。
若い女性。デイパックの他には何も持っていない。

「疑っている?」

そう言って女性はデイパックを投げ捨てた。
いや、まだ何か持っているのかもしれない。
依然恐怖の混じった目で女性を見上げる。
女性はかがみ込んで、真姫と目線を同じくした。

「…………」

「一ついいことを教えてあげる。
私はあの広川剛志という男のことを知っているわ」

必死に頭を働かす。
この人が殺し合いに乗っているのであれば、こんなことを言うだろうか?
いや、そもそも自分はこんなことを考えていることも出来ないはずだ。
なんとか声を絞り出す。

「わ、私は、乗ってません……」
「そうでしょうね。攻撃するのであれば、いくらでも出来たはず」

気のこもらない調子で女性は言った。

「私の名前は田村玲子」
「に、に、西木野……真姫……」
「西木野真姫さんね。よろしく」

田村玲子と名乗った女性は手を差し出した。真姫は手をじっと見つめる。
数秒ほどであったが、途方もなく長い時間のように思われた。
恐る恐る手をとり、ゆっくりと立ち上がる。

「私も安心したわ。初めて出会う人間があの男の言うことに素直な人間だったら面倒だから」

無機質な声。冷えた金属を当てられたような感覚が走る。

「……あの男のことを知っているんですか」
「ええ」
「じゃあ、なんでこんなひどいことを!」

田村玲子はゆっくりと口を開いた。

「私にも分からないわね。そもそも、広川は一都市の市長に過ぎない。こんなたいそれたことを実行に移すだけの力はないわ」

「知り合いの方とかは? もしその人が……」
「その”人”か。答えはYesでありNoね」

かすかに田村玲子が笑ったように思われた。
真姫にはよく分からなかった。

「泉新一と後藤。特に後藤は非常に危険よ」

そんな危険な人をなぜ知っているのか、と口から出かけた。
しかし、今頼れるのはこの人しかいないのも事実だった。
自分は弱い。運動も苦手だ。実際の殺し合いに巻き込まれたとしたら、真っ先に死ぬであろう。
死ぬ。日常生活では考えもしなかったその二文字が頭の中を駆ける。
一筋の涙が頬を伝った。

「…………お願い。助けて……」

「……分かった。あなたの知り合いは?」

「高坂穂野果、園田海未、南ことり、星空凛、小泉花陽。
みんな、殺し合いなんかに乗るような人じゃ……」

「覚えておくわ。会えるといいわね」

どこか冷たさも感じるその言葉が真姫を強めるのだった。
思わず田村にしがみつく。

「ごめんなさい……怖い……」

真姫をぎこちなく撫でてやる。

(やはり不思議だ……。人間にとっての我々、我々にとっての人間。
私の考えた通り、1つの家族のようなものなのだろうか)


田村には赤ん坊を銃撃から守った記憶が思い返された。


24 : 世界の合い言葉は森 ◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/05(火) 21:28:20 2I59TLOw0
「私の支給品はこれだけど、何かあったときのためにあなたが持っておいた方がいいわ」

真姫に金属バットを渡す。


丸腰でこの人は大丈夫なのだろうかと真姫は思った。
しかし扱い慣れていないものだとはいえ、武器があるのは心強い。
……使うことがなければ良いのだが。

「西木野さん。どんなつまらないことでもいいから、気付いたことを教えてくれるかしら」

真姫は少し考え、言葉を紡ぐ。

「えっと……広川はよく分からないことを言っていた……。超能力、魔法、スタンド、錬金術……それと……」

あの男性の首が飛ぶ瞬間のことが思い出され、思わず吐き気がこみ上げる。

「ええっと……あの死んだ男の人は、『イマジンブレイカー』と呼ばれていた……それと学園都市とか」

「私もそれらの言葉に覚えはないわ」

「まるで映画や小説みたい。ところでさっき、田村さんは広川が市長だと言いましたけど、いくら市長とはいえ警察が黙っているでしょうか?」

「警察ねぇ……」

確かに警察という組織は我々が考える以上に盤石で優秀だ。人間はパラサイトよりもずっと個々の性質が異なっているにも関わらず。
事実、あの刑事は私がパラサイトであることを見抜き、他の警察官と協力して私を射殺することに成功した。

広川。パラサイトを生物全体の害たる人間の天敵と考えた人間。
私には理解に苦しむものであるが、利害が一致したことからその考えを利用させてもらった。
仮に広川のような人間が力を持ったとしたら、この厄介な組織の手の届かない場所で「食堂」を運営するはずだ。
だが一都市の市長にすぎない広川が、警察の目をかいくぐってここまで多くの人間を集め、強制することができるとは考えにくい。
強大な権力をもった協力者がいると考えるのが自然だろう。広川は「われわれ」と言っていた。二人以上であるのは確かだ。
分からないのは、なぜ「殺し合い」なのかという点だ。私が知りうる中で、食事のためでもなく殺し合うのは確かに人間だけだ。
しかし人間とて意味もない殺し合いをするはずもない。そこには必ず何らかの目的がある。
考えられることの一つは協力者との利害の一致。さながらパラサイトと広川のように。
例えば協力者は娯楽のため。広川は人間の殲滅のため。二者の目的は異なるといえども、殺し合いならば手段を同じくできる。

他にも不可解な点はある。首輪が接触している部分の肉体を変形させることができないのだ。
また一番最初、あの部屋に連れてこられたときも、私は少しも動くことが出来なかった。
何らかの高度な技術を持っていると考えるのが妥当だろう。

それ以上に不可解なのは、確かに一度死んだはずの私がなぜこうして生きているのかということ。
まさか死者を蘇らせるなどということが出来るはずがない。
いや、広川はなんと言ったか。
最後の一名となった者は、いかなる望みでも、死んだ者を蘇らせることでも叶えると言った。
本当に広川は死者の蘇生などという、自然の条理に反したことを行えるのだろうか? 
それは私自身が一番よく分かっていることだ。
死んだことが夢でなければ、広川、もしくは協力者はそのようなことを行えると考えざるを得ない。

無論、彼女には自分の正体も含め、詳しく話すつもりはまだない。

「どうしたんです?考え込んで」
「いや、なんでも。しかしあの広川の態度を見ると、待っていれば警察が助けに来るとは考えにくいんじゃないかしら」
「…………」

西木野真姫もそのことは薄々と分かっていたのだろう。


25 : 世界の合い言葉は森 ◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/05(火) 21:28:58 2I59TLOw0
「μ'sは……知らないですか」

「初耳ね」

「私は東京の音乃木坂学院に通っているんですが、学校の仲間とμ'sというスクールアイドルのユニットを組んでいるんです。
私たち、全国大会の『ラブライブ!』で優勝したんですよ!」

真姫の顔が幾分かやわらいだ。都会の学校は随分と華やかなものだと田村は思った。
”田宮良子”であったころは、学校でそのような話題を聞くことはなかった。

「ところで西木野さん。私たちはこれからどうするのがいいと思う?」

西木野真姫は少し考え、口を開いた。

「まずは殺し合いに乗っていない人を探しましょう」
「そうね……」

そうはいったものの、田村玲子には不安もあった。
人間同士で殺し合いはしなくとも、パラサイト相手になら容赦をしない人間も多いのではないか。
西木野真姫も、自分の正体を知ったらどのような反応を示すかは未知数だ。
しかし、表立って反対するわけにもいかない。彼女に怪しまれるだけだ。
首輪を外せる人間でも見つかればいいのだが、おそらく望みは薄いだろう。


(広川、お前が何を考えているのか知らないが、私とてむざむざ殺されるつもりはない)

田村の表情が変わったのが真姫には分かった。
肉食獣のような目だと思った。
なぜだか分からないが僅かな震えがこみ上げてくるのを感じた。


【G-4/(東)/1日目/深夜】


【西木野真姫@ラブライブ!】
[状態]:健康
[装備]:金属バット@とある科学の超電磁砲
[道具]:デイパック、基本支給品、マカロン@アイドルマスター シンデレラガールズ、ジッポライター@現実
[思考]
基本:誰も殺したくない。ゲームからの脱出。
1:脱出の道を探る。
2:田村玲子と協力する。
3:μ'sのメンバーを探す。
4:ゲームに乗っていない人を探す。
[備考]
*アニメ第二期終了後から参戦。
*泉新一と後藤が田村玲子の知り合いであり、後藤が危険であると認識しました。

【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
1:脱出の道を探る。
2:西木野真姫を観察する。
3:人間とパラサイトとの関係をより深く探る。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
[備考]
*アニメ第18話終了以降から参戦。
*μ'sについての知識を得ました。
*首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
*広川に協力者がいると考えています。
*広川または協力者は死者を生き返らせる力を持っているのではないかと疑っています。


26 : バトロワ的ロードショー ダーティ アンジュ ◇fCxh.mI40k :2015/05/05(火) 21:31:29 2I59TLOw0
 舞台の時間は深夜0時過ぎ。良い子は既に眠っている時間だ。
 なら今回の出演者の少女は全員悪い子? 答えはノー!
 なぜなら今宵はバトルロワイアルの開幕日。
 そして今回紹介するのは二人の激突。ぶつかり合うはどちらもともに見目麗しい美少女。
 さてさて、勝負の行方は? そして結末や…………いかに!!


27 : バトロワ的ロードショー ダーティ アンジュ ◇fCxh.mI40k :2015/05/05(火) 21:32:01 2I59TLOw0
「殺さなくちゃ。生き残らないと。絶対に死ねない」

 黒髪の美少女渋谷凛。
 彼女は両手で拳銃のグリップを強く握り締めている。
 銃はトカレフ。ロシア製で日本でも裏社会ではお馴染みになっている銃の一つだ。
 しかし、渋谷凛は表の世界で生きる華やかなアイドルである。
 スカウトで入り、トントン拍子にデビューを果たした云わばエリートアイドルの道を歩く彼女は、裏世界には無縁だ。
 また女優業も特別やっているわけでもない彼女は、銃の握り方も知らない。
 テレビで何度か見た程度の知識でしかない以上、握り方はぎこちないものだ。
 映画で女スパイでも演じる機会があれば、何か違ったかもしれないが、今更それを言うのも意味が無い。
 現状の武器で戦うしかないのだから。
 そしてそれは全参加者同じ条件。フラットスタートなのだから不満を言う余地もない。
 だがそれでもまだ、渋谷凛は運という点では相当に恵まれているようだった。

「いた。……とにかく殺さないと……一人しか生き残れないんだ……」

 何故なら彼女は先に敵を見つけたのだから。
 その相手は綺麗な金髪が特徴的な女性だった。髪の輝き具合からして染髪でなく、地毛なのは明らかだ。
 最も髪が染髪か地毛かはあまりここでは関係は無い。
 凛にとって幸運なことは相手はまだ自分に気付いてはいないという点である。
 そして自分の手には銃がある。
 これで狙撃を行えば、相手の反撃に合うリスクはない。
 しかも遺体を見ることも無い。
 精神衛生上を考えても、ここでファーストキルでスタートを切れることは渋谷凛にとっては幸運なものだ。
 上手くすれば相手の武器も奪い、装備の追加も図れるだけにここでの一撃は非常に大きい。

―よく狙って……落ち着いて。……時間はある。確か狙うのは胴体……大丈夫! 絶対っ………―

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」

 自然と息遣いも荒い物となる。
 初めての殺しを前に精神状態はかなり不安定になりつつあった。
 胸の動悸も異常なレベルにまで跳ね上がっている。
 全身を冷や汗が流れ、足は震えが止まらない。腕や手も震えが伝染し、狙いは酷くぶれている。
 もはや狙撃を行うのは不可能だった。
 前言撤退即時撤収。の八文字の言葉を実行した方がベターかもしれない。
 コンディション不良な状態での強行狙撃はこの距離では失敗リスクの方が高すぎる。
 しかし渋谷凛はあくまでも荒事に関してはトコトンに素人だ。
 そして悪い事に、変な所で意地を張るところがあったのだ。
 
「んっ!」

 闇夜に銃声が轟いた。
 それは金髪女性とは程遠いあさっての方向へと跳んでいった。
 そして当然の如く金髪女性は狙撃手の存在に気付く。


28 : バトロワ的ロードショー ダーティ アンジュ ◇fCxh.mI40k :2015/05/05(火) 21:32:55 2I59TLOw0
「あっ、しまっ!」

 凛は狙撃失敗の後悔が頭を駆け巡るが、それよりも早く金髪女性は振り返る。

「驚いたわね。まさかいきなり撃ってくるなんて……あんたまさかあんなイカレ男の口車に乗っちゃったわけ?
 ……正気を疑うわ」

 金髪女性は口で言うより驚いていなかった。
 むしろ相手への呆れの割合の方が強い。
 何故なら彼女はアンジュ。いくつもの死線を潜り抜けた激戦の猛者だ。
 そして彼女はその鋭い眼光一つですら、凛を威圧するには十分すぎた。

「だっ、だって……そうしないと死ぬって……わたしあんな風に首が飛ぶなんて……」
「はあっ! あんたまさかそれでもう『殺すしかないぃぃぃ』って私を撃ったっての? バカねっ!ほんとにバカ!」

 アンジュは相手のあまりの短絡思考に更にガッカリしたという姿勢を見せる。
 しかしその態度には今度は凛も反論する。

「だって助かるの一人なんだよ! それでどうすんのさ! 黙って死ぬのを待つなんてできるわけ……」
「誰もそんなこといってないわよ。ただ」
「わたしは死にたくないのっ!」

 アンジュの言葉を遮り、凛は二発目を撃つ。
 いきなりの発砲。
 しかしそれもアンジュのはるか頭上を通過する。

「そっ、そんな……」
「話は聞きなさいって言ってるでしょ!」

 今度はアンジュがデイバックから銃を抜き、凛へとむけて撃つ。
 アンジュの銃はS&W M29。44.マグナムの通称を持つ世界一強力な銃の一つだ。
 その銃声は非常に強く、迫力だけでも相手を威圧するには十分すぎる。
 そしてその弾丸は凛を足元へと撃たれた。

「きゃっ!」

 凛は可愛い悲鳴を上げて倒れる。
 思わず銃を放し、デイバックも床に落とし、腰が抜けたような姿勢になる。
 しかしアンジュは構わず二発目三発目……と連続で銃弾を放つ。
 そして全ての銃弾は凛の顔や手や足スレスレを通過していった。

「落ち着いた?」
「いっ、いや……」

 凛は焦って、落とした銃を拾おうとする。
 けれどアンジュはそれより早く凛に詰め寄り、顔へと銃口を向けた。

「もし銃を拾おうとしたら私があなたを撃つわよ」
「いっいや……」
「……あっ、でも……ヤバイわね。実はさっき何度撃ったか覚えてないのよ」
「えっ……」
「確かこれ……6発入りだったわよね。だけどさっき調子乗っちゃったから6発撃ったかまだ5発か……」
「……ひっ……」
「もし弾切れならさすがにあたしの方がヤバイわね。でもまだ入ってたら、……説明書だと世界一強力な銃ってあったから、
 この距離なら顔無くなるんじゃないの? さっきの男の子より酷いことになりそう。……でっ、試す?」
「いっ、いやああぁぁぁぁっっっ!!!」

 凛は泣き出してしまう。
 顔を両手で覆い、赤ん坊のように泣き続ける。
 下半身からは別の液体があふれ出て、スカートや下着を濡らすがそれに構う様子も無かった。
 そしてその様子にはアンジュは再度溜息をつく。

「意気地ないわね。じゃ、これは貰ってくわね。それと、これも……」

 そしてアンジュは凛のトカレフを拾うと自分のバッグに入れる。
 更にバッグの予備マガジンも自身のバッグに移すと、自分の銃のシリンダーから空薬莢を『6個』取り出す。
 そして予備弾を新たに込める。
 その様子に少し落ち着きを取り戻し始めた凛は思わず声を掛けた。

「あの、私の銃……」
「あんたが持っても無駄でしょ。どうせまともに撃てないんだし」
「でも……」
「ところであんた、他に仲間居ないの? 知り合いとか一人も?」
「えっ?」
「私は居るわよ、何人かね。だからあんなのの言いなりにならないわ。絶対にね」
「っ!」


29 : バトロワ的ロードショー ダーティ アンジュ ◇fCxh.mI40k :2015/05/05(火) 21:33:25 2I59TLOw0
 アンジュの言葉に凛は名簿を確認する。
 するとそこには、

 島村卯月
 前川みく
 本田未央
 プロデューサー

 自分の見知った名前が四つもあったのだ。

「……わたし……ここに一人じゃなかったんだ。みんないる。みんな……」
「そっ、じゃあ私は行くわよ」

 凛が安堵の涙を流すが、それを無視してアンジュは歩きだす。
 そしてそれに凛が思わず声を挙げた。

「まっ、待ってよ。わたし武器無い。それにまだ……」
「何よ、一緒に行きたいの?」
「だって、一人じゃ…………そい」
「なんて?」
「心細いのっ!、それにちょっと……」
「……まだ歩けないの? ちょっと銃で脅しただけじゃない」
「そうじゃない! 歩けるけど……」

 凛は立てない理由があった。
 それは先ほどのトラブルでスカートを濡らしてしまったからだ。
 今立てば、非常に恥ずかしい事になる。
 いつまでもこの体勢ではいられない事は分かっていたが、それでも年頃のクールな少女がこの痴態を
 白日の下に晒すのは躊躇われた。
 しかし、アンジュはその繊細な心の機微を無視して一歩踏み込む。

「まさか濡らしたから立てないとか? くっだらないわね。さっさと行くわよ」
「でもっ」
「うっさいわね。ほらっ、温泉で色々流しなさい。私もゆっくりしたいし」
「……はい」
「早く来なさい。置いてくわよ!」

 アンジュは早足で歩き出し、それに着いていくように凛も後ろをついていく。
 美少女二人の珍道中はまだ始まったばかり!


【G-5 路上 /1日目/深夜】


【アンジュ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:健康
[装備]:S&W M29(6/6)@現実
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾54@現実 トカレフTT-33(6/8)@現実 
 トカレフTT-33の予備マガジン×4 不明支給品0〜1
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
1:とりあえず温泉に行く
2:モモカやタスク達を探す。

[備考]
登場時期は最終回エンブリヲを倒した直後辺り。

 

【渋谷凛@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:精神的疲労大
[装備]:スカートのショーツが激しく濡れている。
[道具]:なし
[思考]
基本:生きて帰りたい。
1:温泉で身体を洗いたい
2:卯月やプロデューサー達を探す。

[備考]
登場時期は最終回のコンサート終了後


30 : パラサイトの星は流れた ◇w9XRhrM3HU(代理投下) :2015/05/05(火) 21:34:29 2I59TLOw0
イェーガーズ本部。
そこで戸塚彩加は、飛ばされた場所が屋内だったのは幸いだったと思っていた。
時刻は丁度深夜、辺りは真っ暗で明かりを付けなければ、歩くのも難しい。
更にそんな視界の最悪な状況で殺し合えという注文付だ。
あまり無闇出歩くよりは、屋内で明るくなるまで篭っていた方がいいかもしれない。

「……でも八幡や雪ノ下さん、由比ヶ浜さんも探さないと」

なんとか戸塚は場所には恵まれた。
だが、この三人はどうだろうか。
少なくとも、全員が安全な場所からスタートとは到底思えない。
特に後者の二人は女性だ。か弱い女性が深夜の真っ只中、殺し合いのなか放置される。
考えたくはないが、あまり良い想像は出来ない。

「しっかりしなきゃ……僕は男なんだから!」

両手で頬を叩き気合を入れる。
ヒリヒリと叩いた手、頬に痛みが走る
そして、この男とは思えぬ天使のような美貌の白い頬に、赤い手形がうっすらと残る。
痛みに耐えながら、涙目になった目を閉じている様は、非常に可愛く微笑ましい。
だが、そんな愛らしい姿に反してその小柄な体は震えていた。
殺し合い。否応なく人の生き死にが起きてしまう惨劇の源。
そんなものは、テレビドラマぐらいでしか見たことがない。いわば他人事だった。
でもここでは違う。それは身近であり自分にも起こりうる事だ。
あの一番最初に殺された少年のように、次に死んでいるのは自分かもしれない。
その事実がとても恐ろしく、怖い。

「助けて……八幡」

そう言ってから戸塚は首を横に振るう。
さっき、八幡達を見つけなければいけないと言ったのは他でもない自分だというのに。
すぐに八幡に頼ろうとしてしまった。
これではいけない。戸塚は無理やり震える体を動かす。
早くここから出て三人を探しに行こう。
そう決意し、戸塚は辺りを警戒しながら廊下を進んでいく。
すると、一室明かりが付いているのを発見した。

(誰か、居る……?)

そこは厨房のようだ。
何やらガサゴソと音がしている。
ここは、相手が気づかない内に早く逃げるべきだと考えたが、思いとどまる。
考えてみれば、一人でこの広い会場内を人を探すというのは非常に大変だ。
そうなると人手が欲しくなる。
決してこの場にいる人達全員が、みんな殺し合いに乗るとは限らない。
なら、そういう殺し合いに反対する人達と協力し合う事は大事なのではないか。

(そうだよね……。もしかしたら、八幡かもしれないし)

意を決して厨房へと足を踏み入れる。
だが、足元にバケツがあったのに戸塚は気づけなかった。
厨房の床を綺麗にするために、水を貯めておくものだろう。
そのバケツを、知らないうちに蹴飛ばしてしまう。バケツがカタンと音を鳴らした。

「ん?」

男は音のなる方法へと振り返った。
キョトンとした顔で戸塚の方を向いたその顔には食いカスが口の周りについていた。






31 : パラサイトの星は流れた ◇w9XRhrM3HU(代理投下) :2015/05/05(火) 21:35:35 2I59TLOw0


「実はお腹空いちゃって、ここで食べ物を探してたんですよ。
 あとは武器になりそうな物を探してて……」
「そ、そうだったんですか」

罰が悪そうに頭を掻きながら男は苦笑いを浮かべながら話す。
厨房で漁っていた物は食べ物だったらしい。
余程、お腹が空いたのだろうか。確か食料がディバックの中に入っていた筈だったが。

「すみません。驚かせてしまって」
「そんな、僕が勝手に驚いちゃっただけですから」

戸塚は内心ほっと胸を撫で下ろしていた。
話を聞く限り、悪い人には見えない。
服装こそ、真っ黒なコートに真っ黒なズボンと怪しいが、その人柄はとても温かく感じた。

「そうだ。まだ自己紹介がまだでしたね。黒田と言います。
 名簿には、渾名の黒(ヘイ)って名前で書かれてるので黒って呼んでください」
「へい……?」
「中国語では、ヘイは黒って意味なんです」

確かに、言われてみればこんな黒一色のファッションでは、そんな渾名を付けられてもおかしくはない。
戸塚は胸の内で納得する。

「僕は戸塚彩加って言います」
「彩加……いい名前ですね」
「でも、よく名前のせいなのか女に間違えられちゃうんです」
「え? 違うんですか?」
「僕、男なんですけど……」

戸塚は上目遣いで黒を見つめながら、少し不服そうな顔をしている。
この場に八幡が居たのなら、その可愛さを懇切丁寧に力説していてくれた事だろう。気持ち悪いぐらいに。

「ごめんなさい。てっきり……」
「……僕、そんなに女の子っぽいのかな」
「気を落とさないで下さい。確かに中世的な顔立ちかもしれませんけど、容姿だけが全てじゃありませんよ」
「え?」
「お友達を探して、こんな怖いところを見て回ってたんですよね?
 それは、とても勇気が要ることです。そういうのは男らしいと思います」

黒は優しい顔でそう言ってくれた。
ただのお世辞かもしれないが、それでも嬉しい。
何処か力が沸いてくるような気にさせてくれる。

「ありがとうございます、黒さん。お世辞でも嬉しいです」
「とんでもない。それにお世辞なんかじゃありません」
「そういえば、友達で思い出したんですけど、黒って名前の横に銀って名前がありました。
 黒さんと似たような名前でした。もしかして」 
「はい、僕と同じ大学の同期で、銀髪の女の子です。早く探してあげないと」
「じゃあ、一緒に探しませんか? 二人なら心強いですし」
「そうですね。こんな状況ですし、一人よりは二人の方がいいかも知れません」

話が纏まった二人は早速互いの探し人の特徴を伝え合う。
そして情報交換が終わった後、黒は厨房を照らしていたランプへと手を伸ばした。
無闇に灯しておくより、消しておいた方が良い。
もしも後でやって来た、殺し合いに乗った参加者に、ここに誰かがいたと察せられるのは危険だからだ。

「ランプなんて珍しいですよね。今は色々電気で賄う時代なのに」
「ええ、僕も最初来た時は電気がなくて驚きました。
 他の部屋も全然電気が繋がらないんです」

改めて考えるとこの建物は何かおかしい。
一見豪勢そうに見えるが、その実設備はまるでタイムスリップしたのかと思わせるほど古臭いものばかりだ。
そういう趣向の施設と考えるべきなのか。


32 : パラサイトの星は流れた ◇w9XRhrM3HU(代理投下) :2015/05/05(火) 21:36:09 2I59TLOw0
「二人か」

黒がランプを消そうとした時、その炎はもう一つの人影を照らした。

「……後藤」
「何?」
「お前たちは、名前を知りたがる。だから先に教えた」

後藤と名乗る男はまるで能面のようだった。
無表情というより、顔そのものが作り物であるような。
目の前に居るのは、人の姿をしていながら、人ではない。そう印象付けられる。

「下がってろ」
「黒さん……?」

釣られるようにして黒の表情も変わる。
さっきまでの、温厚でお人よしのものではない。
一切の表情を隠すかのように、仮面を被ったかのような、後藤とはまた違う無表情。
その上に更に本物の仮面を被せる。
それを見て戸塚が下がる。
同じタイミングで、後藤の両腕が裂けた。

「ば、化け物……?」

恐怖のあまり、足がすくむ戸塚に目もくれず、後藤の体は変形を続けた。
裂けた腕が複数本の触手のように形作られていく。
うねうねと、柔軟にその触手は動いている。
そんな触手に反し、その先は鋭いナイフのような刃が形成されていた。

「―――ッ!」

風を切る音と同時に、触手が一斉に姿を消す。
いや、姿を消したと思わせるほどの速度で動いている。
加速した触手の先の刃が黒へと振るわれていく。
黒は上体を反らし触手の刃を避けた。

「契約者か……!?」

黒が腕を振るう。
手から離れた一本のワイヤーが近くの柱へと巻きつけられる。
黒の体が浮き、柱へと吸い寄せられた。
後藤は即座に黒の移動した柱へと触手を振るう。手応えはやはりない。
触手が辿りつくよりも早く、ワイヤーで別の位置で移動しているからだ。
更にワイヤーで飛びながら包丁を後藤へ投げる。
食料を漁っていた際、本来の得物であるナイフの代わりに幾つか拝借しておいたものだ。
だが触手により、包丁は砕けながら弾き落とされる。

(ワイヤーで人間には不可能な、立体的な移動を可能にしているということか)

その場で思いついたような小細工ではない。
恐らく、この戦い方で幾つもの戦場を生き延びてきたのだろう。
とても工夫されていた。


33 : パラサイトの星は流れた ◇w9XRhrM3HU(代理投下) :2015/05/05(火) 21:36:38 2I59TLOw0

「嬉しいな」

後藤は無表情無感情でそう言った。
直後、後藤の足が膨らんでいく。
血管が浮き、筋肉が増長する。既に両腕に続き、その両足までも人の姿であることを捨ててゆく。
後藤の両足の変形が終わった時、黒はもう一本のワイヤーで攻撃に転じた。
だが、そのワイヤーが男に巻き付くことはない。空を切り真っ直ぐと伸びただけだ。
後藤は既にその場から跳んでいた。
一瞬にして、ワイヤーで宙を飛び交う黒を見切り、先回りする。
黒は攻撃用に使ったワイヤーを、急遽反対側の柱へ巻き付け軌道を無理やり修正した。
同時に後藤の刃が振り下ろされる。
刃は仮面を割り、黒の頬に赤い一筋の線を増やすだけだった。
真っ二つに割れた仮面が床に落ち、乾いた音を立てる。
バランスを崩しながらも、転がり込む形で黒も着地する。

「死ね」

黒の体が青い光に包まれ、目が赤く輝く。
それを見て、後藤は自身の足元が濡れていたことに気づいた。
見れば、黒の背後の蛇口に繋がれたホースから水が流れている。
その水が床を流れ、後藤の足元へと続いていた。
黒の体に電流が走り、水を通して後藤へと流れていく。
後藤は真上へ跳躍し電流から逃れた。
黒は狙っていたかのように今度はワイヤーを後藤へと投擲。
空中では逃げ場のない後藤はその触手を壁へと振るう。
刃が壁にめり込むと、そのまま触手を手繰り寄せ後藤は壁へ向かっていく。

「?」

だがワイヤーは後藤を捉えなかったものの、その先にあるランプは捉えていた。
ガラスが割れ、中の火が消える。明かりは消え闇が充満していく。
明かりに慣れていたこともあり、視界が黒へと染まる。
もっとも視界がなくとも後藤にとっては些細なことだ。
後藤は人よりも五感が鋭い。仮に闇に乗じて奇襲を掛けたところで返り討ちだ。
そう例えば、この闇に紛れ投擲された何かを斬り落とした様に。

(小麦粉?)

投げられた何かは小麦粉だった。切り裂かれた瞬間白い粉をぶちまけていく。
視界がはっきりしていたのであれば、目の前の光景は真っ白になっていたことだろう。
それが後藤の鼻、喉を刺激する。
思わず咳が出そうになるのを抑えながら、これが投げられた方向を睨む。
バチッと電流が弾ける音が耳に付く。

(―――粉塵爆発か)

その瞬間闇は真紅の業火へと変貌した。




34 : パラサイトの星は流れた ◇w9XRhrM3HU(代理投下) :2015/05/05(火) 21:37:09 2I59TLOw0

イェガーズ本部を飛び出した黒と戸塚。
そんななか戸塚は、走る黒に抱きかかえられていた。
いわゆるお姫様抱っこというものだ。
戸塚の足では逃げ遅れるため、黒が無理やりそうしたのだがやはり気恥ずかしい。

「黒さん、もういいんじゃ……」
「まだだ。もう少し離れた方がいい。少し暴れすぎた。
 あの爆発音で、殺し合いに乗った奴が集まってきていてもおかしくない」

都合が良かったのかもしれないが、黒に軽く持ち上げられる華奢な体躯に複雑な気分になる。
これではまるで女だ。

(僕、男の子なんだけどな……)

とはいえ、黒の足の速さは並大抵のものではない。
戸塚がこうして抱かれているのも、仕方ない事なのかも知れない。
考えてみればあのワイヤーを使った戦いも普通では考えられない。
この身体能力とも合わせて考えると、戸塚の知らない世界に黒は生きているのだろう。

(黒さん。カッコよかったな)

人外の化け物を相手にワイヤーや電撃――どうやって出しているのかは分からないが――で渡り合う様は戸塚の目にはとても勇ましく見えた。
子供が見るような、特撮ヒーローを髣髴させる。
一種の憧れとでも言うのか。男として生まれたからには一度はあるヒーローへの憧れに近い。
後藤に抱いた恐怖が黒のお陰か和らいでいく。
ずっと、あの戦いでの黒の姿が脳裏から離れなかった。

(僕も黒さんみたいに戦えたら……)

八幡も雪ノ下も由比ヶ浜も傷付けずに守れるかもしれない。
だからこそ、こうやって守られるだけの自分が歯痒かった。

「俺は地獄門(ヘルズゲート)が気になる。
 優先は銀だが、あいつを探しながら、地獄門に行こうと思うが良いか?」
「地獄門? 何だか怖い名前だけど……」
「知らないのか? 地獄門を」
「え? 何なんですかそれ」
「……いや、気にするな」

地獄門。
東京都心部に突如現れた未知の領域。
それが現れた瞬間から、世界は偽りの空に覆われた。

その筈だった。

黒は空を見上げてみる。
そこにあったのは、偽りでも何でもない。ただの星空。
黒がもう一度見たいと願った本当の星空が広がっていた。

だが、地図にはあの地獄門がある。ここは決して東京でも何でもない。ただの同名の別地なのか。
そして何故、本当の星空の中、黒のメシエコードBK201の星を含む偽りの星が混じっているのか。

(何がどうなっている……。ここは一体なんだ?)

腕の中の戸塚を一瞥する。
この少年は地獄門の存在を知らなかった。
名前からして日本人なのは間違いない。なら、東京の地獄門の名前だけでも、知っていなければおかしい筈だ。
世間知らずで片付けるのも無理がある。嘘というならば、吐くメリットもない。
成り行き上、同行していただけだったが。もう少し共に行動し、情報を引き出すべきだろうと黒は判断する。

今、自分がどのような場に置かれているのか。
全ては理解できない。
けれど、もし全てが終わり一段落着いたのなら、また本当の星を見たい。
もう一度、黒は星空を見上げた。


35 : パラサイトの星は流れた ◇w9XRhrM3HU(代理投下) :2015/05/05(火) 21:37:44 2I59TLOw0


「追いついたぞ」


瞬間、空は異形に染まる。
それは後藤だった。
四肢は完全に人のそれではない。だが顔、胴体は間違いなく後藤だ。
有り得ない。あの爆発の中どうやって生き延びたのか。

黒は咄嗟に後ろへ飛び、真上からの刃をかわす。
そのまま戸塚を真横へ放り出しワイヤーを投げる。
だが後藤からすれば、既にそれは見慣れた光景。
身を屈みワイヤーをやり過ごし黒へと突撃した。

「お前は電撃を流せる。だが触れなければ流せない。その為のワイヤーだろう?」
「ッ!」

間合いに入り、振るった無数の刃は紙一重でかわされる。
やはり身体能力、というより反射神経とでもいうべきか。
その反射速度は後藤すらも凌ぐかもしれない。
後藤の動き、その動作の予兆、僅かな変化を見逃さず回避へと生かしている。

「だが、所詮は人間。捌き切れる数には限りがある」

黒の脇腹に強い衝撃が走る。
それは、後藤の放った蹴りだった。
見えてはいた。だが反応しきれない。
触手のように、無数に伸びる刃に加え、蹴り。
あまりにも後藤の手数が多すぎる。
後藤に近接戦闘を持ち込まれた時点で黒は距離を取るべきだった。

「電撃も発動までに時間が掛かる、か」

蹴り飛んでいく黒を眺めながら、後藤は足の様子を確かめる。
電撃を流されたような形跡はなかった。
つまり、僅かな間なら触れても電撃を貰う事はない。

「どうした? 工夫しろ」

刃の腕を振り下ろす。
黒が転がりながらかわしワイヤーを握るがその腕を触手で貫かれる。

「ぐっ!」

青く黒の体が発光する。
瞬時に見切った後藤は触手を抜き、黒から離れる。
電撃を纏わせながら、黒は体制を整え後藤へ向き直る。
後藤は体を変化させ武器として戦う。故に電撃を纏っていれば手出しはできない。
それを見て、後藤は自分のディバックを投擲した。
何の変哲もないただのディバックだが、後藤の腕力で投げられたそれは砲弾の如き勢いを付ける。
かわす黒。だがディバックは空中で勢いを止め、角度を修正した。
否、伸びた後藤の腕がディバックを掴み黒を殴り飛ばした。
ディバックごしであるのなら、感電せず殴ることが可能だ。
ディバックが焼き焦げ、使い物にならなくなるかもしれないが後藤には関係ない。


36 : パラサイトの星は流れた ◇w9XRhrM3HU(代理投下) :2015/05/05(火) 21:38:10 2I59TLOw0
「黒さん!」

戸塚の叫びも空しく堪らず吹き飛ばされていく黒。
地面を無様に転がる姿に、どうにかしなければならないと焦るが、どうすればいいのか分からない。

「逃げ、ろ……!」

万事休す。
ワイヤーも電撃も全て対策されている。
あの厨房での戦いで学び、後藤はそれだけの工夫をしてきていた。
ここがもし、ワイヤーを巻き付けられる場所の多いビル街や木々の生い茂る森や林などであれば、話は別だったかもしれない。
後藤に近接戦闘に持ち込まれることもなかったろう。
いや、後藤はそこまで計算して追ってきていたのかもしれない。

「終わりだな」

その呟きは氷のように冷たい。。
纏わせた電撃は、殴られ集中が途切れたことにより消え、後藤が触れられる状態だ。
後藤の手が伸び、振るわれる。
後藤の刃が黒の首を切断した。
鮮血が飛び散った。黒の苦悶の声すら聞こえない。


「…………何をした?」

その筈だった。しかし、鮮血は黒のものではなく後藤の流したもの。
後藤と黒の間を遮った一筋の光線。
光線の奔ってきた方へ後藤は振り向く。
そこには、銃口から煙が上がっている巨大なライフルを握った戸塚が居た。
後藤は確信した。
今しがた自分を狙い、だが僅かに外し掠らせた光線の射手はあの少年だと。

「す、凄い……。本当に光線が……」
「逃げろ! 奴が!」

黒の止めを後回しにし、後藤は戸塚へと駆ける。
戦力にならないと無視していたが、あんな隠し弾を持っていたのでは別だ。
迫ってくる後藤に戸塚はそのライフル、名を――浪漫砲台(ろまんほうだい) / パンプキン――を構える。
使用者がピンチに陥るほど、その威力が増す帝具。故に条件を満たしたパンプキンは強力な光線を放てる。
だが、照準がまるで定まらない。トリガーを引く暇すらない。
戸塚は本来の所有者ではない上に、戦いの経験などない。
そんな戸塚に動く的。増してや後藤に当てるなど不可能だ。
距離はグングンと縮まり、既に後藤は自身の射程距離へと距離を詰めていた。

「あっ……」

完全に詰みだ。
後藤の刃を振り切るように、パンプキンを翳そうとするが間に合わない。
だが突如、その射程軌道上から後藤を外していたパンプキンが一人でに動き出し、照準を後藤へと合わせた。

「銃が……!?」

見れば、パンプキンの銃身にワイヤーが巻きつき銃身を持ち上げている。
背後に居た黒が、ワイヤーを投擲しパンプキンを持ち上げて、その照準を調整していた。
考えるよりも早く戸塚がトリガーを引く。後藤は攻撃を中断し両手、両足を硬化させ即席の盾とした。
後藤は光線の為すがまま吹き飛ばされ、深夜の深い闇の中へと消えていった。


37 : パラサイトの星は流れた ◇w9XRhrM3HU(代理投下) :2015/05/05(火) 21:39:00 2I59TLOw0


「黒さん、僕……」

「おい、しっかりしろ!」

最後の一撃を放ってから、戸塚は糸が切れたように倒れた。
原因はこのパンプキンのせいだ。
精神エネルギーを衝撃波として打ち出すパンプキンは、少なくとも戸塚のような一般人が扱いきれる武器ではない。
2発の射撃で気絶するのは当然ともいえる。
傷を抑えながら、黒が駆け寄り戸塚を揺する。当然反応はない。

「助ける義理はないが……」

後藤があれで死んだとは断定できない。
厨房での爆発でも生き残ったのだから、あの光線を受けて生きていてもおかしくはない。
早めにここから離れるのが懸命だ。
戸塚を背負い、早足で早々にこの場から立ち去った。


【C-4/1日目/深夜】

【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷
[装備]:黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×3
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する。
1:銀を探しながら地獄門へ向かう。銀優先。
2:戸塚を連れ、この場から離れる。
3:戸塚から情報を引き出す。
4:自分のナイフかそのかわりになる物を探したい。
5:仮面も調達したい。
6:後藤を警戒。
※戸塚との話の食い違い、会場の地獄門や本当の星について疑問に思っています。
※参戦時期は黒の契約者終了後です。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。

【戸塚彩加@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、殺し合いへの恐怖、気絶
[装備]:浪漫砲台 / パンプキン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いはしたくない。
0:……
1:黒と一緒に八幡達を探す。
2:地獄門って何だろう?
※黒の知り合いの名前と容姿を聞きました。

※イェーガーズ本部の厨房が爆発で吹き飛びました。


【黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
黒に支給。
ベルトに仕込まれている。

【黒の仮面@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
黒に支給。
割れた。

【浪漫砲台(ろまんほうだい) / パンプキン@アカメが斬る!】
戸塚に支給。
巨大な銃の帝具。精神エネルギーを衝撃波として打ち出す。
使用者がピンチに陥るほどその威力が増し、戦況によって形状も変化する。


38 : パラサイトの星は流れた ◇w9XRhrM3HU(代理投下) :2015/05/05(火) 21:39:26 2I59TLOw0




闇を切り裂くように奔り続ける光線。その先には後藤が両腕を盾としながら圧され続けていた。

(不味いな)

このまま為すがまま、流されていては会場外に出てしまう。
会場外に出た参加者がどうなるのかは分からないが、少なくともペナルティなしということは無いだろう。
後藤は片足を伸ばし、それを近くの木に引っ掛ける。
そして体全体を反らし、盾となった両腕を滑らせながら、パンプキンの光線を受け流した。

「随分、飛ばされたようだ」

淡々とした声で後藤は呟く。
あの人間たちは何処にも見えない。

「腹が減ったな」

後藤は、いや後藤達パラサイトと呼ばれる生物は、基本人に寄生し成り代わって生きていく生物だ。
そのパラサイトの主食は人間。
人間を食い殺せという欲求に従い、狩を行い人間を食らう。
更に後藤は一般のパラサイトが頭部を乗ってるのに対し、頭部どころかその四肢もまたパラサイト。
その本能はパラサイト五体分。つまり食欲も五体分の大食いというわけだ。
加え、戦闘欲求も高まり、戦いこそが自分の存在意義だと自覚している。
だからこそ、この殺し合いにも積極的に参加することにした。
故に先ほどの戦闘で戦いへの欲求はそこそこ満たされたものの食欲はまるで満たされない。
むしろ、更に餓えたといってもいい。

後藤はパンプキンの光線を受けた両腕の調子を確認しながら、移動を始めた。
もちろん、餌となる人間、戦いを楽しめる強者を探す為だ。

後藤にとっては、死んだ筈の広川が生きていた事も、この場が如何なる場所であろうと関係ない。
いまさら、どうでもいいことだ。後藤のやることは1つ。

そう、後藤にとっては戦いこそが……。


【A-4/1日目/深夜】

【後藤@寄生獣】
[状態]:ほぼ健康、空腹、両腕にパンプキンの光線を受けた跡
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:本能に従う。
1:人間を探し捕食する。
2:戦いも楽しむ。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※首輪や制限などについては後の方にお任せします。


39 : 始まってしまった物語に、奪われたままの時に ◇dKv6nbYMB :2015/05/05(火) 21:44:31 2I59TLOw0
―――カチリ

時は進む。

―――カチリ

そのことを我々に知らせるために、時計の針はその秒針を刻んでいく。

―――カチリ

時に時計はズレが生じていることがある。だが、それに気付くのは容易なことではない。
そして、気付いた時にはもう手遅れになっていることも珍しくない。


『お...おれの時計が進んでいたっ!?すると、おれは正午前に弾丸を撃っていたことになる!今からが正午だ!なにが起こるってんだ!?』


『皇帝』のカードを示唆された男がそうだったように。


『まずい、ビルが...時間が止まらない!そんな...』


時を遡る魔法少女がそうだったように。


それでも、時計の針は進んでいく。


―――カチリ


例え、それが間違ったものだと解っていても。


―――カチリ


40 : 始まってしまった物語に、奪われたままの時に ◇dKv6nbYMB :2015/05/05(火) 21:45:08 2I59TLOw0
「どうして、こんなことになっちゃったんだろう」
時計塔の最上階で目を覚ました鹿目まどかは、そんなことをぽつりとつぶやいた。
当然と言えば当然だろう。なんせ、いきなり変な場所へ集められ、その上殺しあえと言われたのだから、こんな言葉の一つや二つが出ても仕方ない。
怖い。あの広川という男が。そして、人を殺さなければ生き残れないというこの状況が。
デイバックを探る両手が、自然に震えていた。
ただの一般人だった彼女が恐怖を抱かないはずがなく、今にも泣き出しそうになっていた。
だが、名簿を見た瞬間、その震えは治まった。
幸か不幸か、この場には彼女の親友や先輩たちが四人も集められている。
心強くもあるが、反面、大好きな人たちまでもがこんな目に遭っていることには悲しさも感じる。
まどかは思う。彼女たちを誰も死なせたくはないと。
元からこんなバカげたことに乗る気はない。だが、その名前を見たことにより、その決意は更に固まった。
(とにかく、みんなと合流しないと)
そう決めたまどかの行動は早かった。さっさと荷物を纏めてデイバックを担いだ。
こうしている間にも、みんなが酷い目に遭っているかもしれない。
まどかは焦りを憶えつつ、階段をかけおりる。


41 : 始まってしまった物語に、奪われたままの時に ◇dKv6nbYMB :2015/05/05(火) 21:45:31 2I59TLOw0
その焦りのせいだろうか。

―――スルスルスル

まどかは、時計塔の外壁を這う気配に気づかなかった。

―――ススススス


時計塔は入口に扉がなく、階段を下れば出入りが可能な仕様となっている。
まどかが時計塔から下りようと階段をおり、あと数段で出られる、そこまでたどり着いた時だった。



ズルリ


「きゃっ!」
なにかを踏みつけ、階段から足を踏み外す。と、同時に



グッパオン


まどかの左膝が裂け、血が噴き出す。
空中へと放り出され、180度回転するまどかの足を、側の木の枝が掠めていく。
ほとんど下りかけていたことが幸いし、まどかはそのまま入口に転がり落ちたが、膝以外は大した怪我はなく済んだ。
「な、なに...なんなの?」
左膝から流れる血を押さえる。
(なんで膝が...枝で切ったのかな。それに、なにかで滑ったような...)
なにがなんだかわからないといった感じで、まどかは辺りを見まわす。
視界の端に捉えたのは、ゆっくりと近づいてくるひとつの人影。


42 : 始まってしまった物語に、奪われたままの時に ◇dKv6nbYMB :2015/05/05(火) 21:45:56 2I59TLOw0
人影の正体は、長身の青年で、ルックスもイケメンだ。ただ、右目を隠すほどに垂れ下がった前髪と、両耳に付けたピアスはどこかしら奇妙な印象を受けた。
「そこのきみ」
いきなりの青年の登場に、つい身構えてしまう。
「そんなに警戒しないでくれ。わたしはこんな殺し合いで優勝するつもりなんてないよ。
不安なら、このデイバックは地面におこう。...さっき、すごい転び方をしていたが、大丈夫だったかい?」
青年の柔らかい物腰と、殺し合いをする気はなく、階段から転んだところを心配してきたとの言葉に、まどかはひとまずホッと胸をなでおろした。
同時に、あんな不様な転び方をした自分が恥ずかしくなり、思わず顔が赤くなってしまう。
「ん?その膝...出血しているじゃあないか。このハンカチで応急手当をするといい。傷口を押さえる前に、血を拭いた方がいいかもしれない」
「あ、ありがとうございます」
青年から差し出された四つ折りのハンカチを受け取り、厚意に甘えて血塗れの膝をふく。
(そうだよね。いきなり殺しあえなんて言われて、簡単にそうする人はいないよね)
いきなり優しい青年に会えた安心感からか、まどかの顔からは焦りや恐怖といった感情は薄れていた。
ふと、ハンカチの内側から文字が覗いているのが目にとまった。
純粋な好奇心から、まどかはハンカチを開いてしまった。


43 : 始まってしまった物語に、奪われたままの時に ◇dKv6nbYMB :2015/05/05(火) 21:46:38 2I59TLOw0
人間とは、とかく好奇心に弱い生き物だ。
禁止されていることほど興味が湧き、物事に続きがあると知れば、どうしても結末まで見届けたいと思ってしまう。


『このラクガキを見て うしろをふり向いた時』


もしもまどかがこのラクガキに気付かなければ、せめて続きを読む前に振り向いていれば彼女の運命は変わっていたかもしれない。
だが、彼女は己の好奇心に負けた。彼女は、その続きを開いてしまった。



『おまえは 死ぬ』



「えっ?」
文字を読んだまどかが思わず振り向くと、そこにいたのは緑色の異形。
「エメラルドスプラッシュ」
青年の発した言葉と同時に、緑色の結晶が放たれ、まどかの視界は黒く塗りつぶされた。


44 : 始まってしまった物語に、奪われたままの時に ◇dKv6nbYMB :2015/05/05(火) 21:47:04 2I59TLOw0
「......」
頭部を破壊され、ヒクヒクと痙攣を起こして横たわる少女を見下ろしながら、花京院典明は思う。
これは自分がやったのだ。自分のスタンド『法王の緑』で、幼気な少女を殺害したのだ。
スタンド使いである以外、一般の男子高校生である自分にとって、これは初めての殺人だ。だが...
「...想像してたより、なんてことはないんだな」
彼は、悔やむどころか、悼むことも、ましてや昂ることもなく。殺人という行為に一切の感情を感じることができなかった。
そうだ。いったい、世界でどれだけの人間が人を殺していると思う?数えるのも馬鹿らしくなってくる。
自分の初めての殺人はこの少女になった。今の彼にとっては、ただそれだけのことなのだ。
ただ、あの御方なら彼女をどう扱ったかが気になったが、足元に敷いた『法王の緑』に気付かず足を滑らせる程度なら、あの御方には必要ないだろうと判断した。
「よし。殺人がこの程度のことなら問題はない。一刻も早く、ジョースター一族とモハメド・アヴドゥルを殺さなければ」
やがて少女の痙攣が治まると、花京院は彼女のぶんのデイバックも担ぎ、少女に一瞥もせずその場を後にした。



花京院典明の言葉は本当だ。彼は、己が優勝する気など微塵もない。
ならば、なぜ鹿目まどかを撃ったのか?答えは簡単。他に優勝させたい者がいるからだ。
彼はここに連れてこられる前、ある男に忠誠を誓った。その名は、悪のカリスマDIO!
つまり、己の命の保身より、ここに連れてこられている彼を優勝させることが花京院の目的となっているのだ。
彼が何故DIOに対してこれほどまでに心酔しているのか。その答えは、彼の額に蠢く肉片にあった。
DIOが花京院の脳に埋め込んだ肉の芽は、彼から善悪の感覚を奪い、ただDIOの命令に従い、忠誠を尽くすよう仕向けていた。
この肉の芽がある限り、DIOへの忠誠は決して覆ることはないのだ。


45 : 始まってしまった物語に、奪われたままの時に ◇dKv6nbYMB :2015/05/05(火) 21:47:48 2I59TLOw0
―――カチリ

時計は時を刻んでいく。

―――カチリ

本来の時間軸ならば、彼は肉の芽の呪縛から解き放たれ、DIOという『黒』を打ち倒す『白』の道を歩むはずだった。



『占い師の私に予言で闘おうなどとは、10年は早いんじゃあないかな』


誰よりも熱き魂を持った、エジプトの頼れる占い師。



『ガウガウガウ!』


成り行きではあるが、共に巨悪へと立ち向かった、愚者を名乗る勇者。



『我が名はJ・P・ポルナレフ!我が妹の魂の名誉のために!我が友アヴドゥルの心のやすらぎのために...この俺が貴様を絶望の淵へブチ込んでやる!...こう言って決めるんだぜ』



どこかとぼけた三枚目の、誇り高きフランスの騎士。



『このジョセフ・ジョースター、このような状況は今までに何度も経験しておる!』



ひょうきんな性格で、敵を華麗に欺く老練なる策士。




『なぜお前はわたしを助けた?』
『さあな...そこんとこだが、おれにもようわからん』


そして、無愛想だが、確かに熱い思いを胸に秘めた不良高校生。



『後悔はない...今までの旅に...これから起こる事柄に...僕は後悔はない...』



たった数十日間だが、共に戦い、泣き、笑い合う、気持ちが通い合う初めての『仲間』を得るはずだった。


46 : 始まってしまった物語に、奪われたままの時に ◇dKv6nbYMB :2015/05/05(火) 21:48:27 2I59TLOw0
―――カチリ


だが、奪われた時間をそのままに、物語は始まってしまった。
仮に、肉の芽の呪縛から解き放たれたとしても、もう遅い。
彼らはこの殺し合いに巻き込まれてしまった。彼はなんの罪もない少女を手にかけてしまった。
いくら他人に許されることがあろうとも、彼自身が、この場にいる仲間になるはずの者たちと手を取ることが許せなくなるだろう。
もう、本来あるべき形に戻ることはできない。奇跡や魔法でもなければ、時間を撒き戻すことなんてできやしない。
そのことを知る由もない花京院の頭上を、夜空に輝く6つの星屑が落ちて消えていった。


―――カチリ

狂った時計の針は、もう止まらない。


【A-2/一日目/深夜】


【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:額に肉の芽
[道具]:デイバック×2、基本支給品×2、油性ペン(花京院の支給品)、花京院の不明支給品1〜2 まどかの不明支給品1〜3
[思考・行動]
基本方針:DIO様を優勝させる。
1:ジョースター一行を殺す。(承太郎、ジョセフ、アヴドゥル)
2:他の参加者の殺害
3:DIO様に会えれば会いたい。


※参戦時期は、DIOに肉の芽を埋められてから、承太郎と闘う前までの間です
※額に肉の芽が埋められています。これが無くならない限り、基本方針が覆ることはありません。
※肉の芽が埋められている限りは、一人称は『わたし』で統一をお願いします。
※この会場内のDIOが死んだ場合、この肉の芽がどうなるかは他の方に任せます。


47 : 始まってしまった物語に、奪われたままの時に ◇dKv6nbYMB :2015/05/05(火) 21:49:05 2I59TLOw0



花京院典明は一つの失態を冒した。
彼の一撃は、確かに普通の人間ならば致命傷だった。頭を吹き飛ばされて無事な人間などいないだろう。
そう、人間ならば。
彼が撃ったのは、契約により魂を抜かれ、事実上人間を止めた存在、魔法少女。その中でも、とびきりの魔力を持った最強の魔法少女。
そして、その本体であるソウルジェムが砕けぬ限り、彼女が死ぬことはない。
吹き飛ばされた肉片が、徐々に肉体へと戻っていく様を見ることなく、花京院典明はこの場を立ち去ってしまった。
彼女が目を覚ましたとき、どう行動するかはわからない。
だが、わかることはひとつ。
これからの彼女は、花京院典明を『敵』とみなすだろう。
そして、その力を持って、彼女が『敵』をどうするか。
それは誰にもわからない。




【A-2/時計塔付近/一日目/深夜】

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:頭部半壊 気絶中 魔力消費中
[装備]:見滝原中学の制服
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:ゲームに乗らない。みんなで脱出する。
1:気絶中
2:???


※参戦時期は、魔法少女の素質がかなり高い時間軸からの参戦です。既に契約済みです
※制限は加えられていますが、この会場にいる暁美ほむら、美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子の誰よりも魔力は高いです。
※時計塔の近くで倒れています。
※魔力を消費しながら、頭を修復しています。自動で行われていますが、早ければ1時間以内、遅くとも2〜3時間以内には完全に修復します。
※この修復による魔女化の心配はありませんが、仮にまどかの身体が必要以上に損壊された場合、魔女化する危険性は十分にあります。
※『このラクガキを見て うしろをふり向いた時 おまえは 死ぬ』と書かれたハンカチはまどかの近くに放置されています。


48 : 展望は無いが度胸でクリアするしかないや ◇rZaHwmWD7k(代理投下) :2015/05/05(火) 21:51:36 2I59TLOw0
草木も眠る様な深夜。
月は煌々と辺りを照らし、一匹の蟲の音すら響かぬ静寂が支配していた。
だが、ここが凄惨な殺し合いの会場である以上、そんな状況も長くは続かない。
会場の一角にある温泉に、静寂を破る者が現れる。

「アルは……いねーのか」

赤いコートを纏った金髪金眼の少年―――鋼の錬金術師エドワード・エルリックは呟きをもらした。
彼の手にあるのは目が覚めた時に背負っていたディパックにあったタブレット型の多機能デバイス。
彼の世界の技術では未知の代物だったので少々使いこなす事に苦労したが、天才と呼ばれた頭脳をフル活動させ、10分後には全ての機能を使いこなす事に成功していた。

その機能の一つを使ってまず注目したのが名簿。
弟のアルフォンスがこの腐ったゲームに連れてこられていないのは喜ぶべき事なのだろうが――他があまりにもまずい。

「大総統やプライドがいる中で信用できる相手が、あの大佐だけってのはなぁ……」

正直、あまりにも心の元無さすぎる。
やはり世界で最も信用でき、尚且つ自分が一度もケンカに勝った事のない弟か、
強欲の名を冠したホムンクルスと魂を同居するバカ皇子でもいれば心持ちもまた違っただろう。

さらに想定し得る中で最悪なのが―――ホムンクルス達の親玉である“お父様”が裏で手を引いていた場合だ。
こうなると、アルフォンスがいないのも自分に対する人質のためという可能性もありうる。

実際に首にはめられている首輪を錬金術によって解除しようとしても錬成エネルギーすら通らなかった。
この首輪が通常の物質で構成されているなら錬金術での干渉は容易と思われたのだが…。
恐らく自分の知らない未知の物質で作られているか、あのお父様と呼ばれたホムンクルス達の親玉が使った錬金術封じのような細工がなされているのだろう。

必ずしもお父様が絡んでいるとは言い難いが、錬金術封じの技術から見て可能性はある。


49 : 展望は無いが度胸でクリアするしかないや ◇rZaHwmWD7k(代理投下) :2015/05/05(火) 21:52:10 2I59TLOw0
もしそうならはっきり言って状況は暗い。現在いる温泉施設の明るさがふさわしくない程。
だが、

「諦めるってこたねーよな……」

これまで旅を続ける傍ら、ホムンクルス達の計画に迫ってきたが、そこで得た情報やホーエンハイムによって齎された“約束の日”の情報とは大きく食い違っている。
もしかすればこれはお父様が絡んでいるにしても独断によるものか、もしくは奴らにとっても完全にイレギュラーな事なのかもしれない。

もしそうならば足元を掬うチャンスもあるはずだ。

「うしっ、まずはここ回ってみて、明るくなったら大佐の奴を探すか!」

土地勘のない場所で深夜に徘徊するのは危険と判断し、現状の拠点の把握を優先。
本来ならば一刻も早く大佐と合流したいところだが―――普段はいけすかない無能でも過去にイシュヴァ―ルの英雄と呼ばれた凄腕の錬金術師だ、そう簡単にくたばったりはしないだろう。

そう行動方針を固め、デバイスから目を離すと、花瓶に入った赤い花が目に映った。
なんとなしに手にとる。花を愛でる趣味は自分にはないが、赤は好きだ、血がたぎる。

「花泥棒は罪にならないってな……」

そのまま左手で花をポケットに突っ込むと、鋼の右腕を握りしめ、行動を開始する。
こんなくだらないゲームで犠牲者を出さないために。
弟の元へ帰還するために。


「待ってろよド三流……」

彼がポケットに入れた花―――ゼラニウムの花言葉と同じ、揺るぎない意志を、胸に秘めて。




50 : 展望は無いが度胸でクリアするしかないや ◇rZaHwmWD7k(代理投下) :2015/05/05(火) 21:52:28 2I59TLOw0

細長い廊下を抜け、混浴と書かれた暖簾を潜ると先ほどの部屋とは違い広い部屋に出た。
広い、と言ってもたくさんの籠が詰められた巨大な棚が所狭しと並べられている、いわゆる脱衣所なので存外、人のいられるスペースは少ない。

「!?」

故に、その少ないスペースに横たわる少女を見つけることも容易だった。

「おいっ、大丈夫か、しっかりしろ!」

何故か猫耳を付け、未だ意識が覚醒していない少女の肩を揺する。
目立った外傷は無いため、単にこの場所に連れてこられてまだ目が覚めていないだけだと推測できた。

「う…、にゃ……?」
「目が覚めたかねーちゃん」

推測の通り、愛らしい声と共に少女が、前川みくが目を覚ます。
と、同時に声と同じく愛らしい顔に恐怖の色が浮かび上がる。
先程のホールでの凶行、殺し合いをしろとの命令。全てを思い出したからだ。
そして、現在目の前にいる見知らぬ少年の存在がそれを加速させる。

「にゃ゛あ゛あ゛ッ!」
「お、おいちょっ!」

軽度ではあるが恐慌状態に陥ったみくはエドワードを突き飛ばしディパックに飛びつくと中にあるものを彼に投げつけだした。

食糧。水。タブレット。

とにかく手あたりしだいの物がエドワードに向かって飛来してくる。
それを何とか躱しつつ宥めようとするが、飛んできたみくの支給品――ガラス製の靴が彼の鼻っ柱に突き刺さった。

「こ、こんのヤロ……」


51 : 展望は無いが度胸でクリアするしかないや ◇rZaHwmWD7k(代理投下) :2015/05/05(火) 21:52:47 2I59TLOw0

――――――刃物が入ってたらどうする!?
やんちゃ盛りの年齢の上、元々短気な性分であるエドワードの目に怒りの炎が燃え上がった。

が、強硬手段にでようとした所で、みくの様子が目に映り体が止まる。
彼の目に映った少女はただ怯えているだけだった。殺し合いに怯え、死に怯え、他者に怯える被害者だった。
軍人や、ホムンクルスなどとは縁の無い日向の世界を歩んできた事が伺える。
自分の幼馴染と同じ、守られるべき人間なのだ。
たとえ組み伏せて大人しくさせても余計状況を悪化させるだけだろう。

(ったく、こんなのはアルの方が得意だろうに)

元々弟に比べ短気なのは自覚しているし(断じてカルシウム不足ではない)、彼の周りの女性と言えば精神面、肉体面で強いか、恐ろしいか、あるいはその両方だったので扱いに困ると言うのが本音だ。

それでもやらなければならない
言い聞かせる様に心の中でそう呟くと、未だに投げつけられるペットボトルをその身に受けながらコートを脱ぎ、自身のディパックと共にみくの足元へと投げる。

少女の腕が一瞬止まる。

「頼むから落ち着け、俺にアンタをどうこうしようって気は無い
 もちろん殺し合いにも乗ってない」
「…………ホント?」

一言でも確かな会話。
これを好機としエドワードは両腕を挙げながら一歩、二歩と後退する。
彼なりの戦意の無い事の証明だった。

「ああ、俺はアンタと話がしたいだけだ」
「………」

目に猜疑と涙を浮かべ、最初は無言だったが、エドワードがまず自分の知っている事を
話すうちに、彼女もポツリポツリと言葉を漏らしていく。

数分後、2人とも広川と言う人物についての情報は無く、名簿に載っている知り合いの名を言うだけのぎこちなく、短い情報交換は終わった。


52 : 展望は無いが度胸でクリアするしかないや ◇rZaHwmWD7k(代理投下) :2015/05/05(火) 21:53:20 2I59TLOw0
「これからどうしたらいいの……みく全然分からない」

一抹の落ち着きを取り戻し、みくはエドワードに向け独り言の様に問いを投げる。
その口調はポップでキュートな猫耳アイドルではなく真面目で聡明な“前川さん”のソレだった。

「そんなもん自分で考えろ」

帰ってきた答えは実にドライなモノ。
しかし、未だに信用されていない以上、彼はこう答えるしかなかったのだ。

「もし俺が怖いなら今すぐここから出ていくさ…アンタはここにいろ」

できれば自分が何とかしてやりたいがヘタに連れまわす方が危険だろう。
この施設は広い。噂に聞くアームストロング家と同じくらい広いかもしれない。
隠れる場所も、脱出口も多いためジッとしていれば外よりも余程安全だ。

そう結論付け、あえて冷たく突き放しエドワードは踵を返そうとする。

しかし、彼の赤いコートの裾を震えた手が掴む。

「何だよ」
「まだ…謝れてないにゃ、エドワード君はみくの事気遣ってくれたのに…
 みくは酷い事しちゃったから、その、ごめんなさい……」

手と同じく震えた声から紡がれるは謝罪の言葉。

「もう別に気にしてね-から。……それより必ずアンタの知り合いをここに連れて帰って来てやるから、それまでは待っててくれ」

これがアルならばもう少し気の利いた言葉が吐けたかもしれないが―と心中で自嘲しながら
未だ尻餅をついているみくの手を取り、そう答える。

「…………うん。みくはここにいるにゃ。
でも、エドワード君が悪い人じゃ無さそうって言うのは分かったから、朝になるまでこにいるといいにゃ」

少年の精一杯の言葉に少女も精一杯の返事で返す。

奈落の底で、ぎこちなくとも、暖かなモノが生まれようとしていた。


53 : 展望は無いが度胸でクリアするしかないや ◇rZaHwmWD7k(代理投下) :2015/05/05(火) 21:53:52 2I59TLOw0
だがその時、

「ん」

みくが投げた床の荷物は既にエドワードが情報交換の傍ら回収したというのに何かが二人の眼の前に転がってきた。

ソレは鉄アレイサイズの円筒形の物体だった。

―――その瞬間エドワードの背筋に寒気が走る。
アレの正体は分からないが、ヤバい!何か猛烈に嫌な予感がする!

「ヤベェ―――!」
「エドワード君!な、何を……」

2人分のディパックを引っ掴み、暴れるみくを無理矢理担ぐと脱兎の勢いで駆けだす。

そのまま大きなガラス戸を蹴りあけ、露天風呂の方に飛び出した。
さらに走りながら何とか両手を合わせ巨大な石壁を錬成する。

肩でみくが何かを叫んでいるが気にしない。
とにかくアレから離れなければヤバい、彼はそう判断した。

その判断は間違っていない。
2人の間に転がってきた物は参加者の一人である暁美ほむらがかつてインターネットで情報を入手し、魔女との戦いのために自作した“武器”。

その物体の名は、パイプ爆弾。


54 : 展望は無いが度胸でクリアするしかないや ◇rZaHwmWD7k(代理投下) :2015/05/05(火) 21:54:20 2I59TLOw0
元々はみくの支給品であり、エドワードに投げつけた時は偶然棚に引っ掛かっていたため幸運にも爆発はしなかった。
だが、そのせいで床の散らばった荷物を回収したエドワードも気が付かず、
あくまでうまく引っ掛かっていただけなので時間の経過と共にあっさりと落下。
……さらに、その衝撃で今度こそ爆弾のスイッチが入った。

その結果。

「にゃっ!へ、部屋が光っ―――」

当然の如く、爆発。

棚が、窓ガラスが吹き飛ぶ。
地面を防護壁に錬成していなかったら二人は破片を全身に浴びていただろう。
たかが一個の爆弾と侮るなかれ、その威力は魔女を一撃で殲滅するほどである。

直接の爆風はガラスと錬成された岩壁によって防がれたが、爆風の余波は二人を地面から吹き飛ばし、そして――――

「どわあぁああああぁああぁあああぁあああっ!」
「何でこうなるにゃあああああああああああああああああ!」


鋼の名を冠した錬金術師と猫耳を付けた灰被りの少女は二人仲よく湯船に向かって華麗に突っ込んだ。


これからが、彼と彼女の始まり――


【H-5 温泉 /1日目/深夜】


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:健康、犬神家状態。
[装備]:無し
[道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
不明支給品×3〜1、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×4(ディパック内) @魔法少女まどか☆マギカ、みくの不明支給品1〜0
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
1: 水没中
2:大佐の奴をさがす。
3:前川みくの知り合いを探してやる。
4:ホムンクルスを警戒

[備考]
登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
*前川みくの知り合いについての知識を得ました。
*ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。
*爆発音が周囲に響きました。

【前川みく@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康、犬神家状態
[装備]:猫耳
[道具]:なし
[思考]
基本:生きて帰りたい。
1:水没中
2:卯月ちゃんやプロデューサー達と会いたい。

*エドワード・エルリックの知り合いについての知識を得ました。

[備考]
登場時期はストライキ直前。


55 : 無能力者 ◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/05(火) 21:58:02 2I59TLOw0
「水35L、炭素20kg、アンモニア4L、石灰1,5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、
硫黄80g、フッ素7,5g、鉄5g、ケイ素3g、その他15の元素を少量、か」

誰に言うでもなく、そう呟いた。

先ほど少女と出会った。サテンルイコと名乗ったこの快活な少女は、
殺し合いの場だというのに私に話しかけてきた。
何でも詳細名簿を持っていたらしい。
運の良いことだ。
そこには私が焔の錬金術師であることなどが書いてあるようだ。
彼女は記載された情報から、私が信頼に足る人間であると判断したという。
随分と買いかぶられたものだ。



私はあの日見た、あの体を失った少年の目を思い起こしていた。
人体の構成物を用意することは容易い。だがそれを組み立てることは別問題だ。
等価交換の原則。
そして命と等価なものなど存在しない。

存在しない……?

多くの罪なき者の命を奪ってきた私が何を言っているというのか。


1人の力など、たかが知れている。
だから私は自分で守れるだけ、わずかでも大切な者を守ろう。


ヒロカワという男の言う通り、最後の1人になれば。

あいつの顔が思い浮かぶ。

……だから他の参加者を焼くというのか?

かつて散々鼻を突いた肉が焦げるあの匂いを再び思い出した。

そうだ。私は国家のため、国民のため、部下のため、罪なき者を焼いてきたではないか。

――鋼のもこの下らんゲームに参加している。

奴をも焼けというのか?

いや、そんなことは今考えることではない。

手始めにこの少女を――。

この少女には何の罪もない。イシュヴァールの民の様に。

彼らはあまりにも向こう見ずであまりにも愚かだった。
しかし、今の私は彼らと同じ愚か者だ。

私の支給品は燻製と銃だ。

私は覚悟を決めた。


56 : 無能力者 ◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/05(火) 21:59:23 2I59TLOw0
「……すまないな、私は君の思っているような人間ではない。私には成さねばならないことがあるのだ」

「ヒューズさんのこと、ですか?」

ビクン、と体が震えた。
なぜ彼女があいつのことを知っているのか?
そうだ、詳細名簿。そこにあいつのことが載っていたに違いない。

「……ああ、そうだ」

私が何をやろうとしているのか、彼女は察したようだ。

「そんなこと……そんなことして、許されると思ってるんですか!」

「……許される、許されないの問題ではないのだ」 

「それに、エドワードさんだって……殺すつもりなんですか?」

「うるさい!」


鋼の、を頭から振り払い、銃口を向ける


「……君に何が分かる。君は大切な人を失ったことがあるのか?」

怯えの中に毅然たる感情を交え、彼女は答えた。

「……私には分かりません。でも、初春がそうやって喜ぶとは思えません……! きっと、悲しみます……!
今あなたのやろうとしていることは、ヒューズさんのためではなく、自分自身のためです!」

「……!!」

この少女と彼女とは似ても似つかないというのに、彼女の言葉が思い返された。

「過去って、確かに簡単に割り切れるものじゃないと思います……。 
過去の自分があって今の自分があるわけですし……。その過去が大事ならなおさら……。
……でも、だからって今の自分を傷つけたり、大切な人を悲しませたりすることが許されるはずはないです!」

ルイコの言葉はあまりに青臭く、そしてまっすぐだった。


57 : 無能力者 ◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/05(火) 21:59:55 2I59TLOw0
私は中尉に背中を任せたはずではなかったのか?


大切な者のためと道を踏み外すことは許されるのか?


かつての私なら考えることもなく、許されると答えただろう。

鋼のは、中尉は、私を仇と狙っていた男は、何と言ったか?



私は大総統を目指す人間ではなかったか?



全ての国民を守るという理想を掲げたはずの人間が、自らの為に動こうとしていた。

鋼の、の言葉が思い起こされる。

そして、かつてあいつに言った言葉が思い起こされる。

殺し合いを止める。

ああ、確かに青臭い理想だ。

しかし、理想を語ることを止めた瞬間、あいつは私のことを笑うに違いない。

私は銃を下ろした。

「……すまなかった」

「い、いえ、いいんですよ……!」

ほっとした表情で彼女は言った。今まさに私に殺されそうだったというのに。


「……私は非力な人間だ。それ故に全てを守るには君の協力が必要だ。
……私が君の命を守る。君はその手で守れるだけ……わずかでいいから他人を守れ」

「非力って……私の方がよっぽど非力ですよ! 大体レベル0だし……」

「攻撃をしたり、何かを生み出したりすることだけが力ではない。
私は全ての国民の上に立つことを望む人間だ。……本当は私にこそ強い力が必要なのだ」

「力……」

佐天涙子にはあの事件の後の親友の言葉が思い起こされた。


58 : 無能力者 ◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/05(火) 22:00:29 2I59TLOw0
「君はあのヒロカワという男を知っているか?」

「いえ、詳細名簿にも広川については載っていないし……私には分かりません」

「そうか……」

「ところで、ロイさんは焔の錬金術師だって書いてありました。広川も錬金術がどうとか言っていましたけど、
それって超能力のようなものなんですか? 私の知る限りでは、錬金術っていうのは昔の人の考えたものなんですけど」

「超能力? いや、そんな非科学的なものではない」

「いやいやいや! 超能力っていうのは科学的なものですよ!」

「それならば、見せてくれたまえ」

「いや、その、あたしは無能力者で……」

「"無能"力者か。まあいい。その本に記されていることは確かに事実だ。君の言うことも真実なのだろう。
……もののついでだ。見せてあげよう」

ロイ・マスタングは近くにあった鉄パイプから剣を錬成する。

「す、すごい……」

学園都市であったら、レベル4は確実であろうと佐天涙子は思った。

「この首輪についてはさっぱりなんだがね。これは君が持っていたまえ。それで、これからどうする?」

「エドワードさんと、御坂さんに白井さん、それと初春を探しましょう。初春はきっと脱出に役立つはずです。
それとこの名簿は役に立ちます。誰が危険なのか分かりますから!」

詳細名簿を先ほど見せてもらったが、「スタンド」のような、よく分からない言葉が散見された。
しかし、人物の来歴や性格を理解するに問題はない。

疑問なのは、死んだホムンクルスたちが参加しているということだ。
”お父様”は確かに消滅したはず。

「しかし、分からんな。君の言うことと私の言うことがことごとく食い違っている」

「もしかしたらですよ、パラレルワールドか別の惑星なんじゃないですか? ロイさんのいた世界と私のいた世界って」

「そんな馬鹿なことが……」

「いやだって、アメストリスなんて国、聞いたことないですし、私たちが使っているのは大陸歴じゃなくて西暦ですよ?」

「私もニホンなどという国は聞いたことがないな。文字からしてシン国に近いとは思うのだが」

「その国も聞いたことがないです」


59 : 無能力者 ◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/05(火) 22:01:03 2I59TLOw0
ロイ・マスタングは考える。
この詳細名簿の自分の項目に一切嘘はなかった。
私は真理の扉の前に立ったことがある。
我々が認知できない世界があるということは確かだ。
彼女の言っていることもあながち的外れとは言えないかもしれない。
となると、考えがたいことだがヒロカワは様々な世界から参加者を集めているということになる。
自分でもなんと馬鹿馬鹿しいことかと思う。
だが、現実に彼女の話と詳細名簿を総合すると可能性を排除することは出来ない。

(いずれにせよにせよ、必ず生きて帰る)

国家のため、国民のため、友人のため、部下のため、そう心に誓うのだった。

【B-8 発電所 /1日目/深夜】

【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブ@PERSON4 the Animation、魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:ディパック、基本支給品、
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
1:佐天を守ってやる。
2:エドワードと佐天の知り合いを探す。
3:ホムンクルスを警戒。
4:火種となるものを探す。
5:ゲームに乗っていない人間を探す。


[備考]
参戦時期はアニメ終了後。
*学園都市や超能力についての知識を得ました。
*佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。

【佐天涙子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:剣
[道具]:ディパック、基本支給品、詳細名簿。
[思考]
基本:ゲームから脱出する。
1: 初春、御坂、白井、エドワードを探す。
2:ロイと協力する。
3:ゲームに乗っていない人間を探す。

[備考]
参戦時期は幻想御手事件以後。

*ロイのいた世界が自分たちのいた世界と別ではないかと疑っています。
*上条との面識はありませんが、詳細名簿から御坂との関係は知っています。

詳細名簿について

全参加者の名前と参戦時点での顔写真とプロフィールが作品毎に載っています。(作品名は書かれていません)
プロフィールについては、その人物の性格、各参加者との関係、来歴、交友関係、能力を中心とした記述となっています。
ただし国家錬金術師やスタンドといった作品独自の用語についての解説はありません。
また、「寄生獣 セイの格率」からの参加者のプロフィールでは、広川についての記載は省かれています。


60 : 魔性の男DIO! ◇jk/F2Ty2Ks :2015/05/05(火) 22:03:33 2I59TLOw0
「ウリリリリィィィーーーーッ!!それなりにハイってやつだぁーーー!!!!!」

闇夜に、DIOの哄笑が響く。
エジプトの館で本を読んでいたら急にバトル・ロワイアルに巻き込まれて驚いたDIOであったが、
己の支給品の中に「ジョセフ・ジョースターの血液入りパック」が入っていたのにはさらに驚いた。
とても満腹できるような量ではなかったが、とりあえず体の不調は完全に解消された。
「世界」の時間停止能力は著しく制限され、血を飲む前は一瞬も止められない有様。
しかし宿敵の血族の滾りを数百ミリリットルほど呑み干したことで、なんとか1秒くらいは止められそうだ。
ジョセフや承太郎から直に血を吸えば、これまでにないほど長く、時間の止まった世界に入門できる確信がDIOにはあった。

「でももう一つの支給品は訳が分からないぞ」

取り出したるは魔法のステッキ。いや、説明書にこう書いてあるのだ。
愛と正義のマジカルステッキ・マジカルルビー。持つと魔法少女(成人可、人外可)になる。
飛んだり跳ねたりして、不思議な力で敵を倒す。DIOのイメージではエンヤ婆が最も近い。

「魔法なんて見たことがない……さては子供の玩具か何かだな」

『失敬な!最高位の魔術礼装に向かってなんて言い草でしょう!』

「!?」


61 : 魔性の男DIO! ◇jk/F2Ty2Ks :2015/05/05(火) 22:04:04 2I59TLOw0
ステッキが喋った、可愛い少女の声で。まさか本当に説明のままのアイテムなのかとDIOは思った。
となると、説明書どおりに血液を吸わせて認証を行い、装備してみる価値はある。

『ファッ!?や、やめてください!私には人間と同じ権限があり、マスターを選ぶことができます貴方は嫌です!』

「そうなのか?」

『はい!本当はオトメのラヴパワーがないと契約はできませんのでこんな心配はいらないのですが……なにやら改造されたようで』

「まあ、いいではないか。血をここに塗りたくるのだな」

『WRY!多元転身!鏡界回廊最大展開!真性カレイドルビー、プリズマディオ爆誕!』

DIOの全身に凄まじいパワーが漲る。かって、波紋を流し込まれたときのような感覚が彼を襲ったが、肉体に害は及ぼさない。
服装は女児向けのみっともなく恥ずかしいアニメ調の物へと変化し、鍛え上げられたジョナサンの肢体がはっきりと浮かび上がる。
近くに鏡がないのでDIOには全体像は見えないが、知り合いに見られてはいけない姿だと直感できた。

(ザ・ワールドに持たせて使わせればよかった)

『KUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

「む!?」


62 : 魔性の男DIO! ◇jk/F2Ty2Ks :2015/05/05(火) 22:05:29 2I59TLOw0
ステッキが喋った、可愛い少女の声で。まさか本当に説明のままのアイテムなのかとDIOは思った。
となると、説明書どおりに血液を吸わせて認証を行い、装備してみる価値はある。

『ファッ!?や、やめてください!私には人間と同じ権限があり、マスターを選ぶことができます貴方は嫌です!』

「そうなのか?」

『はい!本当はオトメのラヴパワーがないと契約はできませんのでこんな心配はいらないのですが……なにやら改造されたようで』

「まあ、いいではないか。血をここに塗りたくるのだな」

『WRY!多元転身!鏡界回廊最大展開!真性カレイドルビー、プリズマディオ爆誕!』

DIOの全身に凄まじいパワーが漲る。かって、波紋を流し込まれたときのような感覚が彼を襲ったが、肉体に害は及ぼさない。
服装は女児向けのみっともなく恥ずかしいアニメ調の物へと変化し、鍛え上げられたジョナサンの肢体がはっきりと浮かび上がる。
近くに鏡がないのでDIOには全体像は見えないが、知り合いに見られてはいけない姿だと直感できた。

(ザ・ワールドに持たせて使わせればよかった)

『KUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

「む!?」


63 : 魔性の男DIO! ◇jk/F2Ty2Ks :2015/05/05(火) 22:06:10 2I59TLOw0
ルビーの様子がおかしい。奇声を発しながら、危うい輝きを放ちつつDIOをぐいぐい引っ張ろうとしているのだ。
説明書によれば、本来可能な自立行動は出来ないはずだから離せば止まるはず……そうDIOが思うより早く、ルビーは宙へ舞った。

「これが飛行能力か。持ち手の想像力に比例するというが、このDIOにも空を飛べるというメルヘンなそれがあったのだな」

冷静なときならば、このような感想をもったであろう。飛んだというだけならば、僅かな感動だけで済んでいただろう。
しかし今やルビーはマッハに迫るかのごとき速度で、プリズマディオを天を衝く一矢と変えていた。
夜空に太陽はない。だが、このまま進めば間違いなく宇宙空間に到達し、DIOには太陽光が降り注ぐであろう。

「バッ、馬鹿な〜!!このDIOが……このDIOが〜〜〜ッ!!!」

狼狽したが、そこは魔性の男DIO。すぐさまルビーを放り投げ、落下地点を見落とさず自分もそこへ向かうべく空でクロール。
知り合いにはますます見せられない格好だったが、なんとか脱落の危機は退けた。
幸いそれほど離れていない場所に降りる事にも成功。
地面に激突した際足を捻ったが、吸血鬼であるDIOにとってはたいした痛手ではない。
それよりも、たまたま落下位置の近くに人間がいたことが問題だった。
可愛らしい少女。おそらくは、プリズマディオの姿を知り合いの次に見られてはいけない種別の者。
しかし少女は悲鳴も上げず、変質者から逃げる素振りも見せず。
ルビーを離したことにより転身が解けていくDIOを静かに見て、悟ったようにこう言った。

「ああ……また犠牲者が……」


64 : 魔性の男DIO! ◇jk/F2Ty2Ks :2015/05/05(火) 22:06:40 2I59TLOw0
・・・・・・・・・・・・

少女はイリヤと名乗り、DIOの前のルビーの持ち主だと語った。
自分にとってプラスにならないと判断したDIOはステッキの返還を申請。
始めは固辞したイリヤであったが、DIOのステッキがなくとも自分の身を守れるとの主張を聞き、ルビーを受け取った。
イリヤとルビーは再び契約を交わし、魔法少女の概念はあるべき存在へと戻った。
転身を確かめるイリヤの姿を見ながら、DIOは少女の処遇を考慮する。

『WRY……イリヤさんと出会えて嬉しいです……』

「うわーーーー!!ただでさえアレだった衣装の露出度がやたら上がってるーーー!!それになんか様子おかしいよルビー!?」

(素直で純粋、芯は強いが扱いやすくステッキでの戦闘経験もある。すぐに殺すのは惜しいな)

「君さえよければ、この馬鹿げた殺し合いに生き残るために協力してくれないだろうか?」

「これ全部見え……あっ!そ、それはこちらからお願いしたいといいますか、おじさん足大丈夫なんですか?」

「迅速な手当てのお陰でね。なんとか歩けそうだよ」


快諾を得たDIOは、とっくに完治している足を引きずりながら微笑んだ。
イリヤはこの殺し合いに臆さず、名簿に名を連ねる二人の仲間と共にこの事態を切り抜ける覚悟を持っていた。
この手の人間を利用するなら、傀儡とするのではなく誘導し不要になるまで好意的な関係を保った方がいい。いざという時の手段もある。

「親友と……家族か。私にも大事な部下と親戚、それに大事なペットがいてね、この殺し合いに参加させられているようだ」

「一緒に探しましょう!」


65 : 魔性の男DIO! ◇jk/F2Ty2Ks :2015/05/05(火) 22:07:05 2I59TLOw0
「ああ……それと実はもう一人、ここに来て知り合った者がいるんだ」

「DIOさーん!車の用意、できたわよぉ……って、アラ?」


DIOの言葉を証明するかのように現れた金髪の少女は、名前を食蜂操折といった。
広川という男に知人を殺され、錯乱状態に陥っていたところをDIOに発見されたのは幸運だったのか不運だったのか。
ひとまず落ち着かせるために彼女の額に肉の芽を植え込んだDIOは、食蜂の特異な能力を聞き出して上条少年の記憶を自ら消す様に勧めた。
多少の悶着はあったが、最終的に説得に応じて錯乱の元を断ち切った食蜂は正気に戻り、DIOへの協力を承諾した。

(私には通用しなかったが、彼女の心理操作は非常に有用だ。忠実とはいえない性格だが、メリットは寝首をかかれるリスクを上回る)

上々の手はずで協力者を増やし、ほくそ笑むDIO。
だが、全てが彼の思うように行くはずもない。

「……操折ちゃん、これは?」

「なかなかの高級力な車よねぇ。外車だし」


食蜂に支給された高級車には、サンルーフ機能が完備されていた。


66 : 「ああ……それと実はもう一人、ここに来て知り合った者がいるんだ」 :2015/05/05(火) 22:07:32 2I59TLOw0
【F-4 道路/1日目/深夜】


【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:疲労(小) まあまあハイ!
[装備]:イリヤのハンカチ
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。
1:ジョースター一行を殺す。(アヴドゥル、ジョセフ、承太郎)
2:部下との合流。(ペット・ショップ、花京院)

[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー(混沌・善)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 不明支給品1〜3
[思考]
基本:美遊、クロと合流しゲームを脱出する。
1:美遊、クロとの合流
2:DIO、操折と協力する。

[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。

【食蜂操折@とある科学の超電磁砲】
[状態]:額に肉の芽、『上条当麻』の記憶消失。
[装備]:家電のリモコン@現実
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 サンルーフ付きの高級車@現実 不明支給品0〜1
[思考]
基本:生き残り脱出する。
1:とりあえずDIOと協力する。

[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了後。
※『心理掌握』の制限は、洗脳力の低下。
※『肉の芽』を植えつけられた事によりDIOに信頼を置いているが、元々他者を信用する神経を持ち合わせていない事もあり、
  毎時毎分DIOへの信頼は薄まっていく。現時点で既に「バイト先の店長」に対する程度の敬意しかないようだ。
※高級車でDIO、イリヤと共に移動していますが、車を運転できる者がいない為『世界』が高級車を担いで運んでいます。


『上条当麻』と食蜂操折について
アニメ中では語られなかったが原作コミックで示唆され、小説「新訳 とある科学の禁書目録」シリーズにて、食蜂操折との関わりが明示された。


67 : 星と願い ◇QAGVoMQvLw(代理投下) :2015/05/05(火) 22:10:03 2I59TLOw0
月と星だけを明かりとする闇夜。
人の手の入らない深い森の中を少女が走る。
長く伸びた髪を後ろに括った、まだ中学生くらいの年齢の少女は、
舗装の無い地面を軽快に蹴り、木々の間を縫うように駆け抜けていく。
まるで獲物を狙う獣のごとく。
あるいはそれは比喩では無いのかもしれない。
血肉で争う殺し合いの場に居る少女は、獣と呼ぶに相応しいやも知れないし、
何より少女は獲物を狙っていた。

少女は既に戦闘体勢に入っている。
身を包む赤い衣装に、身の丈に合わぬ長槍は、
全て少女の魔法によって形成した物。
少女は契約によって、人ならざる身と魔法を手に入れた存在『魔法少女』。

そして少女は、魔法少女となった時から戦いの世界に生きていた。
契約によって終わり無き魔女との戦いに身を投じ、引き換えに願いを叶えてもらう。
しかし父の話を人々に聞いて貰うその願いは、結果的に家族を死に追いやった。
その時から少女は他者のために戦うことができなくなった。
自分のためだけに魔法を使い魔女を倒す。

それは殺し合いの場でも変わらない。
自分のために戦い、他は獲物としかなりえない。

魔法少女・佐倉杏子は獲物となる男の前に飛び出した。







「やれやれだぜ、こんな所に在りやがった」

バトルロワイアルの開始早々、森の中に送られた空条承太郎は、
頭上に見える、木の枝に引っかかったデイパックを見て嘆息を漏らした。
散々探していた自分の支給品が樹上にある。
主催者の不手際か嫌がらせのつもりか知らないが、ただでさえ悪い承太郎の機嫌をますます損ねる結果となった。

突然呼び出されて、悪趣味な殺人ショーを見せられて、殺し合いに参加させられた。
この時点で承太郎は、広川に多大なツケを負わしている。
それを払うまで承太郎の怒りは収まることは無いだろう。
当然のごとく、承太郎は広川の言いなりに殺し合いを乗るつもりは無い。
乗るつもりは無いが、それでも支給品の地図や名簿は重要な情報源である。
そのため承太郎は、近くに支給されているはずのデイパックを探していた。
デイパックは承太郎の出現地点から、ちょうど死角で木の葉に隠れる形であったため、
探し出すのに時間が掛かってしまったのだ。
見つけ出してしまった以上、樹上であろうが回収するのは容易い。
しかし承太郎はすぐには回収に取り掛からない。

(……あのガキ、こっちに向かって来るつもりらしいな)

デイパックを探していた承太郎だが、その間も周囲への警戒を怠ってはいない。
そして見つけていたのだ、自分と同じくバトルロワイアルの参加者を。
承太郎より年下の少女だが、殺し合いにも怖じることの無い様子からは、
修羅場を潜っている雰囲気がある。


68 : 星と願い ◇QAGVoMQvLw(代理投下) :2015/05/05(火) 22:10:39 2I59TLOw0
少女もまた承太郎を見つけていた。
その鋭い視線には殺意すら篭もっている。
森の中をまるで獣のごとく駆け抜けて、承太郎に迫って来る。

(やれやれ。始まって早々、面倒そうな女と出会うとはな)

危険の迫る中、承太郎もまた怖じる様子を見せない。
少女の足から逃げるのは困難だと判断すると、迎え撃つ体勢に入る。
自分から殺して回るつもりは無いが、仕掛けて来られれば容赦はしない。
殺し合いに関わり無く、それが承太郎の在り方だった。

魔法少女・佐倉杏子は承太郎の前に飛び出した。

「…………あんた、支給品はどうしたんだよ?」

初対面にも関わらず不躾に質問をする杏子。
すぐに仕掛けて来るつもりは無いようだ。
しかし身に纏う不穏な雰囲気は変わらない。

「……てめー、人の支給品を聞いてどうするつもりだ?」

不躾な質問には、不躾な質問で返す。
元来、不良と見なされていた承太郎は不穏を避ける性格ではない。
承太郎の返答を聞いて杏子は獰猛な笑みを浮かべる。

「どうやら立場がわかってねぇようだな。支給品を寄越したら、命は助けてやるって言ってるんだよ」

おそらく杏子は承太郎がデイパックを持っていないため、どこかに隠している可能性を考えたのだろう。
そしてこの手の恐喝を行う者には、従った所で約束を守るような誠実さは期待できない。
不良やチンピラの類と何度も争った承太郎は、そのことをよく知っていた。

「要するに人から支給品を巻き上げようって腹か……殺し合いに乗ってない奴の台詞じゃねーな」
「本当の馬鹿かてめえ。あたし達の素性も手の内も知ってる奴に爆弾を仕掛けられてんだ。生き残りたかったら、殺すしかねえんだよ!
まさかとは思うけど……やれ人助けだの正義だの、その手のおチャラケた冗談かますつもりじゃないだろうな?」

蔑むような語気と共に、槍を構える杏子。
杏子が殺し合いに乗っていることを確信できた承太郎は、今日二度目の嘆息を吐く。

「やれやれだぜ。てめえが広川の言いなりになってることを、ご丁寧に自慢されるとはな」
「うぜぇ……殺されるしか能の無い餌の餌の癖によ!」

苛立ちに顔を歪める杏子が吐き捨てる。
同時に

という音を立てて、承太郎に飛び掛った。

承太郎と杏子の間は、およそ3メートルは離れていた。
しかし杏子は助走も無しの、一足飛びに詰める。
少女の、否。人間の身体能力では不可能な動き。
しかし杏子は、人間を超えた存在である魔法少女。
強さにおいても人間の比ではない。
一瞬で、手中の槍を振るえば承太郎を殺せる位置まで到達していた。
その杏子と承太郎の前に人の姿が現れる。

驚愕する杏子。
承太郎と杏子の間に素早く割り込んできた、と言うことではない。
何も無いはずの空間に、正に突然出現したのだ。
それはさながら古代の戦士を髣髴とさせるような、筋骨隆々の男。
得体の知れない男が、脈絡も無く現れたのだから杏子が驚くのも無理は無い。
しかし同じ条件であるはずの承太郎は驚きを見せない。
この男の姿は承太郎が発現させたのだから、当然のことだが。

それは力を持つ精神の像(ヴィジョン)である、『スタンド』なのだ。
そしてその男は空条承太郎の闘争心の像(ヴィジョン)にして、
タロットカードでは星の暗示を表す名を受けた、
規格外のパワーとスピードと精密動作性を誇るスタンド。
『星の白金(スタープラチナ)』。

「オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!」

雄叫びと共に、スタープラチナは両手で拳を作り無数に繰り出してきた。


69 : 星と願い ◇QAGVoMQvLw(代理投下) :2015/05/05(火) 22:11:04 2I59TLOw0
その凄まじいまでのスピードは、一瞬にして拳による弾幕を作り上げた。
杏子は咄嗟に槍を眼前で旋回させて防御の体勢を取る。
しかし槍は拳を打ち込まれた所から破砕を通り越し、粉砕されていった。
尋常の物より強固な槍が、異常なパワーとスピードで瞬時に粉砕されたのだ。
それでもスタープラチナの勢いは止まることなく、拳が次々と杏子自身にも打ち込まれていく。
杏子の身体は木っ端のごとく吹き飛び、木に叩きつけられた。



(なんだよ、あの化け物!? あいつが出したのか?)

スタープラチナから受けた痛みが抜けない杏子は、未だ自分が叩きつけられた木の根元に倒れたままだが、
ようやく状況を飲み込めてくる。
承太郎を魔法少女でも魔女や使い魔の物でもない、ただの人間と見て襲ったが、
どうやら杏子も知らない異能を持っていたらしい。
しかもその異能は強力無比。
槍を盾にした効果は確かにあった。
槍が無ければ命が危うかったかも知れない。

(今、あの化け物とまともにやり合うのはヤバイな……)
「……さてと、てめーには色々聞かなきゃいけないことがある訳だが…………」

承太郎は話しかけながら、倒れている杏子に近づく。
もっとも、近づいてきたのは承太郎自身ではなくスタープラチナ。
承太郎自身は杏子と距離を取っている。
おそらく承太郎自身は、やはりただの人間と見て間違いない。

「てめーはさっき、人のことを餌の餌だとか言ってやがったな。そしてスタープラチナでしこたま殴っても生きてやがる……」

スタープラチナが杏子の襟首を掴んで、身体ごと軽々と持ち上げる。
力無く吊り下げられる杏子に、抵抗の様子は無い。
しかしその目は、未だ獲物の隙を狙っていた。

「てめーは人間じゃねえ。だったら何者なのか、教えてもらおうか。命は助かりたいってんならな」
「……あたしが何者かって?」
「……はっきりと聞こえるように答えな」

承太郎の問いにあえて小声で答える杏子。
狙い通り承太郎は杏子の言葉に意識を取られている。

「……あたしは、人間を喰う魔女を喰う…………魔法少女だよ!!」
「――――!!」

杏子の手に粉砕したはずの槍が、傷一つ無い様で再び形成される。
槍は魔法で精製される物なので、何度でも作り出せるのだ。
更に一本の槍だったそれは、多間接に分裂する。
その上、間接部分は鎖を展開して伸びていく。
槍から変形して、物理的制約を無視して長く伸びた多節昆は、
杏子の手元の操作に従って、蛇のようにスタープラチナに巻きついた。
スタープラチナを足元から両手足を何重にも拘束する。
見れば承太郎も同じような体勢になっている。
見えない何かに両腕と両脚を締め付けられたような体勢で杏子を睨み付ける承太郎と、
嘲るような笑みを承太郎に向ける杏子。
形勢の逆転がそのまま二人の表情に表れているようだった。

「……人間を餌の餌にする魔法少女か。吸血鬼の他に、そんなおぞましい化け物がいるとはよ。
ますます、てめーを放って置く訳にはいかなくなったな」

しかし相変わらず、ふてぶてしい態度を崩さない承太郎。
その様子が、杏子の癇に障る。

「あんたさぁ、何か大元から勘違いしてんじゃない? 食物連鎖って知ってる? 学ラン着てるくらいだから学校で習ったよねぇ」

スタープラチナの横を通り抜けて、おもむろに承太郎へ近づく杏子。
今度はスタープラチナの邪魔が入らないため、承太郎は杏子に対抗する手段が無い。

「弱い人間を魔女が喰う、その魔女をあたしたちが喰う。これが当たり前のルールでしょ、そういう強さの順番なんだから」

魔法少女という強者が、人間という弱者を狩る。
正に食物連鎖のごとき構図ができあがっていた。

「やれやれだぜ……要するに、弱い奴が負けるって言いてーんだな――――」

不意に杏子の背後で、カランと乾いた落下音がした。
振り返る杏子。


70 : 星と願い ◇QAGVoMQvLw(代理投下) :2015/05/05(火) 22:11:28 2I59TLOw0
そこには地面に落ちた多節昆があった。
巻き付けたはずのスタープラチナが消えているのだ。

「――――それじゃあー! やっぱりィ! ――――」

嫌な予感がして再び承太郎を見る杏子。
スタープラチナは承太郎のそばに立っていた。
杏子はその瞬間、スタンドはスタンド使いの任意で、
自由に出現させることができると悟った。

「――――てめーのことじゃあねーかァーッ!!!」

杏子はほとんど反射的に後ろへ飛び退く。
しかしスタープラチナのスピードの前では間に合わない。
スタープラチナの拳が杏子の胸に打ち込まれた。
皮と肉が裂け、骨が折れる。
そして衝撃は杏子の身体を10メートル以上、地面と平行に吹き飛ばした。

(くそっ……あばらがやられた!!)

地面を転がりながら、ダメージの確認をする。
呼吸が苦しいほど痛いが、大人しくしていられる状況ではない。
杏子は転がる勢いを利用して立ち上がると、
躊躇することなく承太郎に背を向けて逃げ出した。



「逃げやがった。なるほど、人間離れした耐久力ってとこか」

森の中に消えていく杏子を見送り、承太郎は一人ごちる。
承太郎としては、不意に杏子が後ろに飛び退いたため殴り飛ばす形になったのが失敗だった。
スタンドの分類では近距離パワー型に属するスタープラチナの、数少ない短所が射程距離だろう。
スタープラチナは本体である承太郎から、2メートル以上離れることはできない。
ゆえに追跡や遠距離戦を不得手とする。
その並外れたパワーを活かしての、高速移動も不可能ではないが、
殺し合いで深い森の中、それを行うのはリスクが大きい。
それにまだデイパックの回収も終えていなかった。

樹上のデイパックを取った時には、杏子の行方は分からなくなっていた。
仕方なく杏子の追跡は中止する。
無論、手負いとはいえ杏子への警戒を解く訳ではない。
そして杏子の口ぶりから察するに、魔法少女というのはおそらく他にも存在する。

「人間を餌の餌にする『魔法少女』ね……どうやらうちの家系は、つくづくそんな連中と因縁があるらしいな」

人間を餌にする吸血鬼の存在は知っていた。
しかし魔法少女などは聞いたことも無い。
広川が説明していた異能と言い、どうやら今の状況は一筋縄ではいかないらしい。

そう、広川はスタンドを含めて異能は制御できると言っていた。
事実、説明が行われた場所ではスタンドを封じられていた。
そしてスタンド使いではない杏子に、スタンドが見えていた。
杏子は魔法少女だから見えていたという可能性もある。
しかし他の可能性も考えられる。スタンド能力が制限されている可能性が。

とにかく情報を集める必要がある。
できれば、この場からの脱出に繋がるような情報を。

「やれやれだぜ。DIOを倒すまでに、ちょっぴり厄介ごとが増えたと言うところか」

承太郎にはDIOを倒し、母親を救うという目標がある。
どれほどの困難があろうと、手間取っている場合ではない。
そのため承太郎は手早く支給品の確認を始めた。

しかし承太郎は未だ知らない
バトルロワイアルには自分の祖父や仲間、
そして宿敵すら参加していることを。

【B-1/森/1日目/深夜】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・行動]
基本方針:主催者とDIOを倒す。
1:脱出方法を探す。
2:情報収集する。
3:魔法少女を警戒。
※参戦時期は後続の書き手に任せます。
※名簿を確認していません。
※魔法少女は人間を餌の餌にしていると思っています。


71 : 星と願い ◇QAGVoMQvLw(代理投下) :2015/05/05(火) 22:11:49 2I59TLOw0
 
 
しばらく森の中を走っていた杏子は、承太郎を振り切ったと確信すると、
木の幹に背を預けて休みを取り始めた。
折れた骨は魔力でいずれ回復するが、
受けたダメージより、承太郎の強さの方に思い煩っていた。

単純な戦闘能力だけに尽きない。
危機的な状況でも揺ぎ無い精神力。
自身も戦いの世界に生きてきた杏子だから、承太郎の強さを実感できる。
あれほど強い者ならば、あるいは広川にも抗い得るのではないかとさえ思えた。

(……くだらねぇ。愛と勇気が勝つストーリーを信じて死ぬのは、馬鹿のすることだ)

自嘲気味に笑みを漏らす。
杏子は御伽噺のように、愛と勇気が勝つストーリーを決して信じることはできない。
父の願いを呪いにしてしまったその日から、自分だけを信じて、自分だけのために戦うことしかできなくなった。

殺し合いの中で彼女がどんな結末を選び取るのか、それは誰にも分からなかった。

【B-1/森/1日目/深夜】
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:肋骨骨折(回復中)、ダメージ中、魔力消費小
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを勝ち残る。
1:怪我の回復を待つ。
※参戦時期は第7話終了直後からです。


72 : 炎の魔術師の不幸 ◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/05(火) 22:12:46 2I59TLOw0
モハメド・アヴドゥルが彼女に抱いた第一印象は氷のように美しい女。



広川の宣言により始まってしまったバトルロワイアル。
気づけば会場に飛ばされていたアヴドゥルは最初に名簿を確認していた。
名簿を最初に手に取ったのは偶然であり近くに落ちていたバッグの中身を確認する。

「承太郎……DIO、この名簿にはDIOの名前が記されているッ!」

彼らの旅の目的であり終着点である存在DIO。
アブドゥル達は襲い掛かってくるスタンド使いの刺客と戦いながら遂にDIOの館にまで来ていた。
それが彼の最後の記憶である。

「これから館と言ったところだったがこれは……。
 広川と名乗った男は私のスタンドまで封じていた、何せ『魔術師の赤』も出すことは出来なかった。
 名簿にDIO達の名前も記載されている、つまり広川とDIO達は敵同士……なら、この状況は全員にとってイレギュラー」

自分達を殺すために散々刺客を放ってきたDIO。
今回の件が彼の仕業ならばわざわざ己の名前を記すことはないだろう。
メリットが存在しないのだ。悪の親玉は最後にしか現れない、相場は決っている。

つまり、だ。

DIOの名前が名簿に在るということは彼もまた一人の参加者であること。
対等な立場であり彼も同じくバトルロワイアルに強制参加させられていると推測出来る。

あくまで推測の話しである。

「広川からは特に何も感じなかったがあーゆー奴が実はやばい、別に不思議じゃあないことだ」

スタンドを封じれる力は凶悪の一言に尽きる。
魔術師の赤もスタープラチナもDIOのスタンド(不明)も封じれるだろう。
幻想殺しと呼ばれていたスタンドも封じられていたためにあの少年は死んだのだろう。
嵌められている首輪から察するに参加者の生命は広川に握られているのだろう。

「だろうだろうだろう……推測しか出来ん。広川についての情報が一切ない」

どれだけ頭が切れようが零から百に到達するのは厳しい。

「まずはジョースターさん達との合流を目指す。
 そして襲い掛かってくる敵に対処する、理想的な流れ……誰か来るッ」

今後の方針を一つ決めたところで誰かが近づいて来る。
足音は大きくなりやがて影は形を帯びてきた。
蒼い髪、漂う色気、抜群のプロポーションを持った女。

「何もそんなに身構えることはないだろう。私はエスデス。
 お前は広川と名乗った男を知っているかどうか教えてくれないか?」

モハメド・アヴドゥルが彼女に抱いた第一印象は氷のように美しい女。




73 : 炎の魔術師の不幸 ◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/05(火) 22:13:33 2I59TLOw0
エスデスと名乗った女は広川の情報を求めていた。
初対面の人間に対する発言としては少々上から目線なのが引っかかる。
しかし名乗った相手に答えないのは礼儀として失礼に値する。

「私はモハメド・アヴドゥル。残念ながら質問にはノーで返させてもらう」

「そうか……では殺された上条当麻という人間を知っているか?」

「……その質問にもノー、期待外れかもしれないが私も情報が不足しているんだ」

瞳を伏せ首を振りながら答えるアブドゥル。
エスデスはそうか、小さく呟くと会話を再開した。

「この会場に来てから出会った人間は?」

「エスデス、貴方が初めてだ。私はまだ誰にも会ってはいない」

「私の知り合いに会っているか聞きたかったが……。
 ちなみにだが私もお前が初めてだぞアブドゥル」

遭遇した参加者はいない。
互いの知り合いに遭遇していれば有意義な情報交換となっただろう。
しかしそう上手くは行かず知り合いの情報は手に入れることが出来なかった。

二人は落胆することはないが進歩がない現実には変わりない。
結局のところ謎は解決せず自己紹介をしただけになる。

「なら覚えておいてくれ。
 ウェイブ、クロメ、セリュー……私の大切な部下だ」

「なるほど。では私も言わせてもらおう。
 空条承太郎、ジョセフ・ジョースター、花京院典明、イギー……彼らは私の仲間だ」

互いに探している人物を教え合う。
何処かで出逢えば健在であるのことの証明が出来る。
探している事実が分かれば探されている方も安堵するだろう。

「逆にアカメと名乗る女には気を付けた方がいい。
 その腕は私が保証しよう……強い暗殺者の名前だ」

(私が保証する? そいつは一体何を保証しているんだ……?
 たしかにエスデスからは只ならぬ何かを感じるが……まぁいい)

「アカメ。その名前確かに聞かせてもらった。
 私が言うヤバイ奴……DIOだ。DIOと名乗る男は邪悪の根源だ。
 もし出会ったら馬鹿な真似はせずに逃げ出して欲しい、いいかエスデス?」

頼れる仲間がいれば倒すべき悪も存在する。


74 : 炎の魔術師の不幸 ◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/05(火) 22:14:01 2I59TLOw0
エスデスが挙げた名前はアカメ。
殺し屋集団であるナイトレイドに所属する暗殺者の少女だ。
その腕は文句なし。数々の強者が彼女の刀に斬り殺されている。

アヴドゥルが挙げた名前はDIO。
世界の支配者を目指す倒すべき悪、その名はDIO。
スタンド能力は不明だがその力は刺客よりも強いだろう。

「ふふ……そうか、そうか……ふふ。
 面白いぞアヴドゥル、私に向かって気を付けろ……。
 いいだろう、DIOという男だな。分かった、気を付けておこうではないか」

特段面白いことは言われていないが笑うエスデス。
まるで自分はDIOに殺されない、そう言った自信が感じ取れる。
対するアヴドゥルは楽観的……とまではいかないが状況を甘く見ているエスデスに疑問を覚える。
その自信は何処から湧いてくるのか、まさか彼女もスタンド使いなのではないだろうか。

以前ジョセフと共に苦しめられたグンバツな女。
美しい女性が強い力を持っていても何も可怪しくはないが。

「笑い事ではないぞ、エスデス。DIOは――」

「アブドゥル、今から六時間後に戦力を集めてコンサートホールに集まろうじゃないか。
 お前が言ったDIOという男、興味が湧いてきたぞ。私一人でも構わないが一緒に館へ攻めこむとしよう」

「話を勝手に――分かったエスデス。
 君はそういう女性なのだろう、仕方が無い。ここは大人しく引き受けようじゃないか」

何を言っても駄目だ。
流石に初対面の女性に実力行使で事を解決するほどアブドゥルは喧嘩っ早くない。
出来るだけに紳士に、大人に対処するべきと判断した。

結局エスデスの存在は今一つ理解出来ないが強さに自信があるのだろう。
信じてはいないが口だけは無いことを祈っている。

「私は東に向かう。エスデスは西を頼む。では六時間後に――」

「まぁ、待てアヴドゥル」

協力者を集めるために動こうとしたアブドゥルを止めるエスデス。
提案は彼女がしたのが止めるとは一体何事か。



「私はまだお前の強さを確かめていないぞ。
 この私に忠告したんだ、口だけでは無いところを見せてみろ」



「――は?」



思考が停止する。
この女は今なんと言った。もしかしてこの女はヤバイ奴じゃあないだろうか。



「将軍である私に忠告したんだ――その力、見せてみろアブドゥルッ!!」



「く、コイツはヤバイ奴じゃあない! 相当ヤバイ奴だッ――『魔術師の赤』ッ!!」


75 : 炎の魔術師の不幸 ◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/05(火) 22:14:23 2I59TLOw0

多くを語らず興味心だけでエスデスは氷を弾丸のようにアヴドゥルへ飛ばした。
無から生まれる氷。
この力はエスデスの帝具であるデモンズエキスが生んだ氷。
水分が存在しない状態でも氷を精製し自由自在に操る力だ。
エスデス本人の強さも重なり彼女は元の世界で最強の称号を手にしていると言っても過言ではない。


(やはりスタンド使いか!? いきなり攻めるとはやってくれるじゃあないかッ)


黙ってやられる道理もなくアヴドゥルは魔術師の赤を発動し氷へ対処する。
マジシャンズレッド――頭部が鳥となっている人型のスタンド、それがアブドゥルの魔術師の赤。

氷に対抗するならば此方は反対の力で立ち向かおう。
見ろ、これが炎だ、力だ、魔術師の赤の、モハメド・アヴドゥルの力だ。


「クロスファイアー・ハリケーンッ!!」


具現化された十字架の炎は氷と衝突し互いに消滅した。
アブドゥルはエスデスを睨み可笑しな行動を起こさないか観察し始めた。
見る度に思うが美しい女だ、妖気も色気も知性も兼ね備えている。
だがしかし。突然攻撃し始めるヒステリックな女は対象外だ。

睨むアブドゥルとは対照にエスデスはまたも笑っている。
それは笑顔、美しい笑顔だ。
だがしかし。悪魔のように黒さを感じ取れる満面の笑みだ。

「お前は本当に面白い奴だなアブドゥル!
 三割程度の力とはいえ私の氷を溶かすとは……本当に面白い。
 DIOとやらと広川を殺した後、私の元へ来ないか? お前の力ならば帝都でも充分通用するぞ?」

「スカウトされるのは悪くないが喜んで辞退させてもらおう」
(こんな危険な女の仲間になれ? 生命が幾つあっても身が保たん)

戦闘狂の存在は理解し難いモノがある。
殺し合いにおいて彼女らのような存在は大変危険であり排除される対象に入るだろう。
エスデスは帝都の将軍らしいがとても一つの国家に所属する軍人には思えない。
帝都と呼ばれる国は彼女のような危険な人物が蔓延っているのだろうか。残念ながら正解である。

そしてアブドゥルは一つ考える。
エスデスの口振りから彼女はスタンドが見えていた。
つまり彼女はスタンド使い。デモンズエキスなる能力が彼女のスタンドなのだろう。


76 : 炎の魔術師の不幸 ◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/05(火) 22:14:49 2I59TLOw0
説明が本当であれば攻撃してきた氷は本気の三割らしい。
アブドゥルが感じ取った殺気は本物であり仮に三割が本当ならばこの女、相当にヤバイ。
危険な人物であるが仲間を集める提案。
DIOに対抗する意思と広川を殺す宣言から考えると殺し回るつもりはないらしいく、それが唯一の救いとなっている。

(この女……危険な相手には一切容赦しないタイプと見た。
 一番危険なのは自分自身だ、しかもそれを分かっているデキた人間だろう……質が悪い)

「突然攻撃したことは謝罪しよう。すまなかったなアブドゥル。
 だがこれでお前の力を少しは知れたんだ、気を悪くしないでくれ。
 ではお前の提案どおり私は西を回る。六時間後にコンサートホールで落ち合おう」


分かった。
一言だけ呟いたのを確認するとエスデスは背を向け歩き始めた。
アブドゥルは彼女に背を見せたくなかったため有難い行動である。
この女に背中を見せたら最後、背後から殺されても不思議でも何でもない。

コンサートホールで落ち合おう。
エスデスが残した言葉。協力者を集めDIOの館へ行きDIOを倒す。
悪くはない提案だ。殺し合いの会場に置いて仲間の確保と悪の打倒は生還に近づく一歩となるだろう。
問題が在るといえば一点。


「出来れば私はお前と二度と会いたくないが……どうも最近はツイてない」


あの氷のように冷たい女と六時間後に出会う、考えると少し鬱になりそうだ。



【C-2/1日目/深夜】


【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
1:協力者を集め六時間後にコンサートホールへ向かう。
2:その後DIOの館へ攻め込む。
3:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
4:タツミに逢いたい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。


【モハメド・アヴドゥル@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:冷や汗
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを止めDIOを倒し広川を倒し帰還する。
1:協力者を集め六時間後にコンサートホールへ向かう。
2:エスデスは相当ヤバイ奴
3:ジョースターさん達との合流。
4:DIOを倒す。
[備考]
※参戦時期はDIOの館突入前からです。
※イェーガーズのメンバーの名前を把握しました。
※アカメを危険人物として認識しました。
※エスデスを危険人物として認識しており、『デモンズエキスのスタンド使い』と思い込んでいます。


77 : Brave Shine ◇BLovELiVE.(代理投下) :2015/05/05(火) 23:36:31 VHHn7KF.0
何の前触れもなく、目が覚めたら拉致されていた。
いきなり目の前で人の首が飛んでいった。
挙句、殺し合えなどと言われた。

「……夢じゃ、ないのですよね」

まるで映画か何かのような現状、しかし紛れも無い現実。

園田海未は深夜の街並、街灯だけが周囲を照らす中で一人そう呟いていた。

そうでなくとも、深夜の静かな街というのは自然と不安感を煽り立ててくる。

―――怖い

もしかしたら、そこの角を曲がると恐ろしい男が包丁を持って襲い掛かってくるかもしれない。
もしかしたら、建物に入ると後ろに潜んでいた誰かに殴り殺されるかもしれない。

未だ冷静な判断力を取り返せない思考は、本来ならば笑い飛ばすような低確率の事象をまるで実際に起こり得ることのように思わせてくる。

「…そうだ、バッグに……」

何か武器になりそうなものが入っているかもしれない。
こう見えても武術の稽古は日々絶やさず行っているのだ。その辺の暴漢程度なら追い払うことができる――――かもしれない。

そう考えながらバッグを開いた瞬間だった。


『美遊様ーーーーーーーーーーーーー!!』
「きゃあああああああああああああああ!!!」

何かがバッグの中から飛び出してきたのは。




『なるほど、現状は掴むことができました』

青いリボンに六芒星のペンダントのようなものをつけた謎の物体。
バッグから飛び出したそれはカレイドステッキ・サファイアというらしい。

飛び出してきた瞬間はしばらく物陰に身を潜めてしまうほどに驚いたものの、今はこうしてある程度会話もできるくらいには落ち着いている。
サファイアが言うには、いつものように自分の持ち主と共に眠りの時間についたところで気がつけば真っ暗な闇の中に連れて来られていたらしい。
それ故に現状の殺し合いというもの自体も把握していなかった。

襲ってくる気配がないと、安全な存在だと認識するまで数分を要したもののどうにか情報交換ができるくらいには落ち着いていた。


78 : Brave Shine ◇BLovELiVE.(代理投下) :2015/05/05(火) 23:37:28 VHHn7KF.0
「………」
『美遊様に、…イリヤ様とクロ様まで……』

名簿を開いて名前を呟くサファイア。

電池式のロボットにしては自我がありすぎるように思える。

ギュムッ

『園田様?』

触って引っ張ってみるが、それが何製なのかもつかめない。

「…あなたは、何なのですか?」

疑問は当然だった。
いきなりバッグから飛び出してきたペンダントと会話していた、などと。
穂乃果に話したら笑われそうな話だ。

『私は……そうですね、園田様にも分かる言葉で説明するならば、アニメなどによくある、魔法少女に変身するための変身アイテム、とでも説明しておきましょうか』
「………」

むしろ噛み砕いて説明されたぶん混乱してしまった。

『とてもすごい力を持った魔法使いが、研究の片手間に作り出した不思議アイテムと言った方がわかりやすかったでしょうか?』
「…いえ、もう結構です」
『もしや私の言うことを疑っておられます?』
「疑う以前の問題です……」

いきなり目の前で人が死んだり、殺し合えなどと言われたり。
挙句、変な道具に遭遇して魔法少女だの不思議アイテムなどと言われてもさらっと受け入れられるはずがなかった。

『なるほど。確かに信じられないでしょう。本来ならそれでいいのですが、この場でずっとそう思っておられるというのは少しよろしくありませんね。
 一つお聞きしますが、園田様はここにきてから、まるで映画のようだ、みたいなことを思われましたか?』
「………はい」
『確かに今の現状自体がまるでフィクションの中のようなものかもしれません。しかしこの現状は間違いなく現実なのです。
 現実に有り得ないことだから、と言っても現実に起こってしまってことは全て現実、それは受け入れねばならないものです』
「………」

サファイアの言葉に沈黙する海未。
それは、今のこのまるで悪夢のような事態のみに恐れているからではない。


殺し合い。
既に名簿は確認した。
穂乃果、ことり、凛、花陽、真姫。
自分だけではなく同じスクールアイドルグループ、μ'sのメンバーも自分を含めて6人参加させられている。

みんなただの女の子だ。
もしその中の誰かが死ぬようなことがあったら――――

『園田様、その先を考えられてはいけません』
「…心が読めるのですかあなたは」

急に目の前に現れたサファイアがそう海未に告げる。
無意識のうちに目が名簿へと向いていたことから察されてしまったみたいだと結論付ける。

『これはあまりよろしくありませんね。
 ……そうだ、園田様、少しお付き合い頂いてもよろしいでしょうか?』
「何でしょう…?」

サファイアがそんな心中を読み取って少し思案した後、海未に相談を持ちかけた。

『本来の私達はマスターの存在がなくとも自由に行動することが認められているはずなのですが、どうも今の私達は何か調整を受けた形跡がありまして。
 私の支給者である園田様の傍を離れることができないのです』
「そう、なのですか」

もしその調整がなかったら、このペンダントは自分を置いて飛んでいってしまったのだろうか、と。
そんなことを考えると急に心細くなる自分がいて自己嫌悪に陥った。
彼女の話すことにまともに取り合っていないというのに、いざとなったら結局一人になるのが怖いのだ。

『それでですね。私達カレイドステッキはマスター認証した者にしか扱うことができない道具、その定員も特別認証を除けば二人までしか転身させることができないのですが。
 その設定も弄られた形跡があるのです』
「…?」
『そこでお願いしたいのですが』

と、サファイアはピョンと頭の横辺りを跳ねた後。

『私と契約してみていただけないでしょうか』

目も何もないその六芒星の体を、まるでじっと見つめるかのようにこちらに向けてそう言った。


79 : Brave Shine ◇BLovELiVE.(代理投下) :2015/05/05(火) 23:38:16 VHHn7KF.0


契約。
要するに先に言った魔法少女に変身するために必要な認証らしい。

認証を済ませれば、対象を魔法少女へと変身させることができるとか。

『では失礼を。痛みは一瞬です』
「―――っ」

チクリ、と小さな痛みを感じた後人差し指で膨れ上がった赤い液体を拭い取るサファイア。


別に魔法少女に興味があったわけではない。
もう高校生だ。さすがにそういうものに憧れたりするような年齢ではない。

ただ、何かをしていれば気が紛らわせるんじゃないか、この現状でも冷静さを取り戻せるんじゃないかと思っただけだ。


『それでは私の柄の部分をお持ち頂いて……、あ、少し光るので物陰に潜まれた方がよろしいかと。
 では、音声による名称登録を。園田様のお名前をお名乗りください』
「…園田海未、音ノ木坂学院2年生です」
『登録完了。では転身します』
「え、ちょっと待ってくだ、まだ心の準備が――――」
『コンパクトフルオープン!境界回路最大展開!』

と、なぁなぁで流されてしまったものの、いざとなると怖気づいてしまった海未の静止を完全に無視する形で転身の詠唱を唱えるサファイア。
慌てて海未は手を離そうとするが、ステッキ部分は手に食いついたかのように離れない。

体を光と温かさと、何かよく分からない感覚が包み込んでいく。

同時に着ていた音ノ木坂学院の制服が消失し、青を基調としたファンシーな衣装が代わりに包んでいく。


10秒ほどだろうか。自分の周りを光が発していたのは。
それが収まって、思わず閉じていた目を開く。

『ふむ、どうやら成功のようです』
「………」

何だか妙にスースーする感覚に下を向く海未。

「な、何ですかこの格好ーーーーーーーーーーー!!」
『園田様にふさわしいと思われる魔法少女の衣装に転身させていただきました』

体を覆う布は競泳水着のようにぴっちりとしており脇は露出し、しかも腹部は開いている。
腰には申し訳程度の長さのスカートが巻かれているだけ。
腕や足先は覆われているものの、太ももの辺りは野ざらしに近い。

「破廉恥です!こんな格好では人前に出られません!」
『大丈夫です。ここには園田様一人です』

だがずっと隠れているわけにもいかない。
恐る恐る外に出てガラスの前に立ってみる。

自分の姿の全容が見える。
長髪を結ぶように蝶のようなリボンが頭につけられて後ろ髪を結び。
背中にはまるで蝶をイメージするような羽らしき布がついている。

(このリボン…、意外と似合うのでは…)

何となくそのカラーリングが自分に合っているような気がした。
青を基調とした衣装。μ'sでのライブで着てきたのはだいたいこんな色の服だ。

(だからといって、このお腹とか足とかの露出は認められないですが!)

かつてアイドルの衣装としてことりに勧められたミニスカートの服がかなりマシなものにも感じられていた。


80 : Brave Shine ◇BLovELiVE.(代理投下) :2015/05/05(火) 23:38:42 VHHn7KF.0
(これで少しは気を取り直していただけるとよろしいのですが)

サファイアはガラスに映った自分の姿を見つめる海未を眺めつつ考えていた。

彼女とてマスターに対する拘りはある。今の自分のマスターは美遊・エーデルフェルトただ一人だ。
契約したあの日から、彼女をマスターとして仕えようと決めたあの時から。

しかし現状においてはこの制限とやらのおかげで自分一人では主を探すこともできない。
であれば、協力し得る者である園田海未の精神管理もまた大事だと考えていた。

魔力回路やそれに代わるような力は感じられないため戦う力はなさそうではある。
しかしMS(魔法少女)力―――戦闘力、容姿 及び性格などの魔法少女特性、社会への影響力などを総合した数値は戦闘力の低さを残していたとしても元主であるルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトより高いように感じられた。
あの傍若無人で肉体言語を遠坂凜と繰り広げる元マスターと比べれば、まだお淑やかで慎ましさのある彼女はサファイアの好みではあった。

(まあ、美遊様が一番ではあるのですが)

と、そろそろ戻してもいい頃だろうか、と海未に意識を戻すサファイア。

すると彼女はガラスの前に立った状態で、周囲を伺うようにキョロキョロし始めた。

『……?』
「サファイアさん、今から見るものは他言無用でお願いします」
『は、はぁ…』

そうしてガラスから自身の全身が映る位置に移動した海未は。

まるでポーズか何かを決めるように顔の横に手をやって、ニコリ、と笑った。

『………』
「ふふっ」

さらにそこから全身を見せるようにクルリ、と一回転して。

「バーン」
『………』

指を前に差し出してそう叫び。

『あ』
「みんなのハート、撃ちぬくぞー!」

さらに弓を構えるようなポーズを構えて、横に跳ねながら。

「――――ラブアローシュート!!」

まるで必殺技を名乗るかのように、そう声を上げた。

『園田様』
「いいですか?この事は他言無用でお願いします」
『それは構わないのですが…』

決まった、とでも考えるように笑みを浮かべる海未は、念を入れるようにサファイアに再度告げる。
そうしてふと横に視線を動かすと。

「ハッハッハ」
『その、生体反応を検知致しまして』
「―――――――」

青い軍服を纏った眼帯の男が立っていた。
海未の笑顔が一瞬で凍りつく。

「………」
「いやはや、若さとは羨ましいものだな」
「……あの、一体どこから……?」
「フム、ガラスの前で笑顔を向け始めたところだったかな?」
「……」
「いや失礼、続けたまえ。私のことなど気にする必要はないぞ」
「――――――――――っ!!!!!」

羞恥のあまり叫び声を上げる海未を見ながら。
サファイアは姉がイリヤスフィールをいじる時の楽しみの断片を理解したような気がした。





81 : Brave Shine ◇BLovELiVE.(代理投下) :2015/05/05(火) 23:39:09 VHHn7KF.0
男はキング・ブラッドレイと名乗った。
アメストリスという国で大総統、国の最高指導者についている者だ、と。

「アメストリス…ですか。聞いたことはないですが……」
「ふむ、それなりに栄えた大きな国であると自負していたのだが…」

ちなみに今、海未の服は音ノ木坂の制服に戻っている。
あの露出だらけの衣装でポーズをとっていたという事実は絶叫と共に心の奥に仕舞い込んだらしい。

「ちなみにその杖は一体何なのかね?」
「これは、…ええと、何と説明しましょうか……」

さすがに海未も、大の大人に対してこれが魔法少女の変身道具です、などと説明することは気が引けていた。

『私はカレイドステッキ・サファイア。特殊魔術礼装です』
「ほう、しかも喋るとは、なかなかに興味深い。中に人でも入っているのかね?」
『いえ、そんなことは』
「冗談だよ、ハッハッハ」

朗らかに笑うブラッドレイ。どうやらかなり気さくな人のようだ。

(よかった、どうやらいい人に会えたみたいです)

サファイアがいたとはいえ、一人でいた孤独がどうにか紛れそうなことにホッと胸を撫で下ろす海未。

「ところで君、何か武器は持っていないかね?
 私は軍人で体には自信はあるのだが、何しろ武器がこんなものしかなくてね」

と、ブラッドレイが取り出したのは一本の錆びた鉈。
確かに武器にならなくはないが、剣や銃に比べればかなり心細いだろう。

「もしくれるのなら、君のことも守ってあげられると思うのだが」
「あ、それなら待ってください。確かここに一本の剣が―――」

と、海未がバッグに手を突っ込み、中を覗きながら弄り始めた時だった。

『園田様、危ない!』

サファイアの叫び声が響き、海未の体を押し出した。

「―――きゃっ」

悲鳴を上げて尻もちを付く海未。
それと同時に、持っていたバッグの中身が地面に転がり出ていく。
持っていたバッグに目をやると、それは真っ二つになっている。まるで何かで切られたかのように。


「ふむ、せめて一瞬で痛みすら感じぬように死なせるつもりだったのだが、まさか外すとはな。少し油断があったようだ」
「え……ブラッドレイさん…?」

今バッグを斬った場所に本来あったものは、バッグを見ていた自分の首筋。
ブラッドレイはそこに向けて鉈を振り下ろしていた。

その表情はついさっきまで話していた、朗らかなそれと何ら変化がない。

「私とて無益な殺生は好むところではないのだが、しかしそれでも帰らねばならぬ場所があるのでな。悪く思わないでくれるかね」
「……!」

が、そう言った瞬間隻眼の瞳に殺気が宿る。
鋭く、冷たいそれはそれまで普通に生きてきた海未すらも怯ませるほどのもの。

カツッ

一歩踏み出したブラッドレイの足に何かが当たる。
それは海未が取り出そうとしていた一本の剣。

「ほう、銃剣を加工したようなデザインだ。シンプルな作りだがいい素材を使っているようだ」
『園田様!走って!!』

サファイアの叫びに、咄嗟に立ち上がってブラッドレイに背を向けて走りだす海未。
彼の意識は拾い上げたそれに向いている。逃げる隙があるなら今しかない。

息を切らせながら全力で駆ける。

「――サファイア、さん!一体、どうなって、いるのですか!」
『私自身、あのキング・ブラッドレイという男に妙な気配を感じてはいたのですが、確証が持てなかったため判断が遅れてしまいました』


82 : Brave Shine ◇BLovELiVE.(代理投下) :2015/05/05(火) 23:39:27 VHHn7KF.0
髪に掴まったサファイアは、あの男が現れた時のことを思い出す。
いくら自分があの時の海未に呆気に取られていたとしても、あそこまで接近に気付かれないことはありえないはず。

しかしそれが制限によるものなのか、本当に気配を消してあの男はあそこまで近寄ってきたのか、そのどちらなのかということに確信が持てなかった。
その結果、彼が牙を剥くあの瞬間まで判断が遅れてしまった。

「はぁ……!はぁ……!」


逃げる海未の精神は恐慌状態に陥りかけていた。
ついさっきまでは優しい気さくなおじさんだと思っていた相手が、刃物を持って追いかけてくる。

凛ほどではないが体力にはそこそこ自信があったはずだが、どんどん距離を詰めて追ってくる足音が聞こえる。

(嫌……助けて……)

『――!園田様!そこの十字路を右に!』
「えっ!?」

突然叫ぶサファイア。
その声に合わせて右に曲がる。
急なカーブに転びそうになるのをどうにか立て直して走り続ける。
広く一直線な大通り。
見晴らしがいいが逃走経路としては相応しいようには見えない道。

それでも一心不乱に走り続ける海未。
しかし本人の気付かぬうちに疲労の溜まっていた足はもつれ、地面に転び込む。

「あうっ…」

起き上がれぬまま、それでも追跡者への恐怖を思い出して振り向く。
だがさっきまで聞こえていた、自分を追う足音は既に聞こえない。
見晴らしのいい道路の後ろには既に誰もいない。

(もう、追ってこない……?)
「鬼ごっこは終わりかね?」

安心した瞬間、自分の背後、本来自分が逃げていた方向から声が届いた。
恐怖と絶望のあまり、振り向くことすらできない。

『はっ!!』

髪についていたサファイアが飛び出していく。
渾身の思いで放った体当たりは、しかしあっさりと鉈で道の脇に飛ばされていく。

そのまま、もう一方の手に携えていた刺剣を構えるブラッドレイ。
少しだけだが武術に携わっていたから分かる。あれは一直線に自分の心臓を貫くだろう。

(―――穂乃果……)

それが突き出される一瞬前、目を閉じた時に浮かんだのはずっと共にいた親友の顔――――



――――――バキィン


「む?」
「えっ…」

しかしそれが海未の体を貫くことはなかった。

「よかった、間に合った」

貫くはずだった剣を受け止めているのは、10歳ほどの少女。
その体を包んでいるのは露出度の高い衣装。まるでさっき自分が纏っていたような。
そしてその手に握られているのは、ステッキ形態のサファイア。


83 : Brave Shine ◇BLovELiVE.(代理投下) :2015/05/05(火) 23:39:52 VHHn7KF.0
剣を引き距離を取るブラッドレイを前に、少女はステッキに問いかける。

「サファイア、状況を」
『こちらの園田海未様は私の支給主、そしてそちらのキング・ブラッドレイ様は殺し合いに乗っておられます』
「そう」

そうして少女、美遊はキング・ブラッドレイの殺気に対し、敵意を持って受け止める。

「どうして殺すの?」
「必要があるからだ。私とて命は惜しいし、何より急いでせねばならないこともある。
 それが私にとってこの場にいる者達の数よりも重かっただけのことだ」
「……」

ブラッドレイの言葉に沈黙で答えた美遊は、まっすぐにステッキをブラッドレイへと向け。

「そう、ならあなたはきっとイリヤを傷つける。私がここであなたを倒す」
「できるかね?君のような子供に」

と、美遊は起き上がれぬ海未から離れるかのように横に駆け出し、そんな彼女を追うようにブラッドレイも走り始めた。

『園田様!ここからお離れください!』
「砲撃(シュート)!」

青い魔力の砲撃がステッキがブラッドレイに向けて放出。
しかしブラッドレイはそれを避けながら美遊の元へと突っ込む。

「―――!速―――」

最低限の回避態勢で砲撃を避けたブラッドレイは美遊の顔目掛けて剣を突き出していた。
その速さに驚愕する美遊。しかし刃は星形のバリアが美遊の前面に張られることで受け止められていた。

「ほう、それがその杖の本当の力かね?ますますもって興味深い」

その守りの外に向けて、もう一方の手に持った鉈が振りかぶられる。
全力で体を反らしたことで髪の毛を斬られただけに終わるが、無理な態勢を取ったことで地面に受け身も取れずに倒れこみかけ。

しかし逆に逆上がりの要領で地面を蹴り、その顔面へと蹴りかかる美遊。
咄嗟に鉈でそれを受け止めるブラッドレイ。

そのまま勢いに任せて飛び退こうとした美遊に、刺剣による追撃が襲いかかる。

腹部を貫かんと放たれたそれにサファイアも反応が遅れ障壁展開が遅れる。

「っ…!!」

後ろに飛び退く美遊。
痛みに抑えてはいるものの、刺突を受けた場所には大きな傷はついていない。

「ほう、咄嗟に体を硬質化させたか。グリードを思い出させるな」
『…美遊様、この男、おそらくあのバゼット・フラガ・マクレミッツにも匹敵する身体能力を持っています』

身体能力だけでかつて追い詰められた執行者にも劣らぬほどの力を発揮する男。
とてつもない脅威だった。

「初見では分からぬ力を持っている。肝も座っているし判断力も悪くはない。
 だか、いかんせん若すぎるな。詰めの一歩が甘すぎる」

しかし退くわけにはいかない。
もしここで退けば、きっとこの男はイリヤの敵となる。

踏み込んできたブラッドレイは刺剣による突きを放つ。
あまりの速さにかわしきれず、防壁と併用して防御する美遊。
しかし突きは正確に、その隙間を縫うかのように放たれ続ける。

脇に、腕に傷を作り続けるも、致命的な場所だけは隙を避ける。

このままでは消耗戦となり不利にしかならない現状。
美遊は意を決したように、敢えてほんの一瞬、わざとには見えないような隙を顔付近へと作る。

刺剣はその隙を見逃すことなく突く。
申し訳程度に張っていた障壁は割れ、その頭を貫かんと迫り。

それを、ギリギリ、紙一重のところで顔を逸らして回避。

「サファイア!」

掛け声と同時に、サファイアの障壁が展開される。

「ぬ!?」

展開先は、ブラッドレイの突き出した腕。
空中に固定された障壁に巻き込まれたブラッドレイの腕は引きぬくことができずブラッドレイの動きを阻害する。


84 : Brave Shine ◇BLovELiVE.(代理投下) :2015/05/05(火) 23:40:10 VHHn7KF.0
「―――砲撃(シュート)!!」

そのまま動けぬブラッドレイに向けて、美遊の砲撃が至近距離から放たれた。

爆発と同時に飛び退く美遊。
周囲を煙幕が覆い、戦果を確認しようとする視界を阻害する。

「サファイア、相手は?」
『今確認を――危ない!!』

サファイアの叫び声と、刺剣が煙を切って突き出されたのはほぼ同時だった。

かろうじて展開した小さな障壁はあっさり突き破られ。

グシュリ、と嫌な音を立てて剣は美遊の左目を貫いた。

「―――っあっ!」

咄嗟に撃ち込んだ砲撃がブラッドレイを牽制し、その距離を離す。

『美遊様!』
「ぐ…あっ…」

手で抑えるも、瞳の傷から溢れる血は止まらない。

一方でブラッドレイを見ると、服はところどころ焼け焦げているようだが決定打は加えられていない様子だ。
しかし刺剣を振るうもう一方の手に持っていたはずの鉈は刃が消滅し柄だけとなっている。

「今の一撃、もう少し威力の高いものが放たれていたなら防ぎきれなかっただろうな」

武器として使い物にならなくなったそれを放り投げながら呟くブラッドレイ。
さらにところどころに焦げ目のついた青い軍服も脱ぎ捨て、白いカッターシャツ姿に変わる。

「ぁ、…はぁ……はぁ…」

美遊の顔からの出血、そして体から吹き出す嫌な汗が滴り落ちて地面を濡らしていく。

『美遊様!撤退を!その傷で戦われてはお体に障ります!』
「くっ……」

サファイアの言葉に宙に飛び上がる美遊。
しかし受けたダメージの大きさ、そしてその身にかけられていた制限の中ではあまりに緩慢な動きしか叶わず。

チャキッ

剣の鳴る音が聞こえたその瞬間。

空中にいるはずの美遊の目の前に現れたブラッドレイが、目にも止まらぬ動きで剣を幾度も振りぬき。

彼が地面に着地するのと、美遊が全身から血を吹き出しながら地に堕ちたのは同時だった。

「…ふむ、やはりいつもより体の動きが悪いな」

そのまま、地に倒れ伏した美遊には目をくれることもなく、ここから離れたもう一人の獲物を探して走りだした。





85 : Brave Shine ◇BLovELiVE.(代理投下) :2015/05/05(火) 23:40:40 VHHn7KF.0
正直なところ、海未は逃げろ、と言われてすぐにその場から動き出せたわけではない。
殺されかけた恐怖はすぐさま拭うことなどできず、しばらくは美遊とブラッドレイの戦いを眺めていた。

サファイアの本来の持ち主であるという美遊はそれなりに戦い慣れしているように素早く鋭いものだった。
自分にはできないだろう、サファイアの言っていた魔法少女としての戦い方がそれなのだろう。

だが、そんな彼女の戦い方を目にしていてもなお、ブラッドレイは異常だった。
一見何も超能力や魔法みたいな力は何も使ってはいないように見える。
しかし、武術にそこそこ精通していた海未だからこそ、その動きが人間のそれとはかけ離れたレベルのものであることが分かってしまった。
中でも動きの一つ一つの速さと反応速度。その二つがあまりに有り得ない。

その戦う様子が、美遊以上に人間に思えず恐怖した海未は走り出していた。

もし追いつかれるようなことがあれば殺されるのは自分だ。
小さな少女を戦いの場に残して逃げる後ろめたさを、その恐怖心が上回ってしまった。

死にたくない。
その一心で走り続ける海未。

どれほど走ったかなどもう把握できない。
と、目の前に大きな橋が見えた。

確か地図では市街地の中心辺りにあったもので、その先には音ノ木坂学院があったと思う。
あそこまで逃げれば一息つけるのではないかと、そう思い駆け続ける海未。

「…っ、あっ!」

しかしその時、スカートを引っ張られるような感覚が走って地面に転げ込む。
慌てて起き上がろうとしても起き上がれない。

スカートに目をやると、端の部分を剣が貫いて地面に縫い付けられている。


「ふむ、外すか。やはりいつも通り、とは行かぬようだな」

そして、いつの間に移動してきたのか目の前に立っていたブラッドレイ。

「あの娘のことが気になるかね?私がここにいるということはその意味は分かるだろう?」
「あ……あ……」

引き抜いた剣からはまだ真新しい血が滴り落ちている。
あの血が一体誰のものなのか、考えるまでもないだろう。

「ではな。恨むならこんなことに巻き込まれた不運を恨め」

そう言って、ブラッドレイは逃げることもできぬ海未へと剣を振り下ろした――――――




『美遊様!しっかりしてください!今体の回復に全魔力を回します!』

地面に血まみれで伏した美遊の傍で必死で語りかけるサファイア。
サファイア自身の体も傷がつけられているようだが、それが動きに支障をきたしている様子は見えない。
どうやらまだ動くことをブラッドレイは見逃した、ということだろう。

しかし、その事実を差し引いても美遊の体の傷の深さとは釣り合わない。

「……サ、ファイア。バッグの、中に、クラスカードがある…、それを、取って」
『いけません!今動かれては傷が―――』
「魔力の循環が悪い…。たぶんこの傷を治すのは、サファイアでも無理。…だから、お願い、サファイア。あれなら、あの男にも……」
『美遊…様……』

全身傷だらけの状態、片目の視力は失われ、失血の影響で意識も朦朧としている。
そんな状態でも、美遊はまだ諦めてはいなかった。


「イリヤだったら、こんな時でも、絶対に諦めたりはしない…。だから―――」
『…分かり、ました』

サファイアは美遊のバッグからカードを取り出す。

よろけ、地面を体から流れる血で濡らしながらも起き上がった美遊は。

カードを掲げて叫ぶ。

「――――夢幻召喚(インストール)!」





86 : Brave Shine ◇BLovELiVE.(代理投下) :2015/05/05(火) 23:41:02 VHHn7KF.0


「む?」

剣を振り下ろそうとしたその瞬間、まるで後ろに引っ張られるかのような力が剣に発して腕の動きが止まる。

見上げたブラッドレイの目に入ったのは、鎖が絡みつき後ろに引っ張られている剣。

「ほう、まだ息があったか」

それを、思い切り力を入れて逆に引っ張るブラッドレイ。
引かれるように、小柄な体が宙を待ってブラッドレイと海未の間に降り立つ。

その存在、美遊の服装は先の魔法少女の姿とはまた別の形のものとなっていた。
黒いボディコンに身を包み、その目には眼帯が備え付けられている。

肩や足を露出させ両手には鎖のつけられた釘のような刃物を持っている。

次から次へと色々な格好を出してくるものだ、と。
ブラッドレイは動じることなく剣を振るい、その顔を切りつける。

手応えはあったものの想像以上に耐久力を持っていたのか、顔の眼帯と皮を切り裂くに終わり。


「――――ーむ!!」

次の瞬間、ブラッドレイの体の動きがまるで麻痺したかのように鈍り始める。

その見開かれた少女の、今や片目だけとなったその瞳を見た瞬間、まるで全身を強い力で縛られているかのような拘束力が覆った。



それは「宝石」のランクに位置する高位の魔眼、「石化の魔眼・キュベレイ」。
遥か昔、西の果ての形なき島にて語られたゴルゴン三姉妹の末妹、メデューサの持つ力。

クラスカード・ライダー。それが美遊に支給されていた唯一の支給品だった。

「ぬ…ぅ!」

しかし、その力も片目しか開かれぬ現状では最大の力を発揮することはできない。
大きく鈍りながらもこちらに剣を突きつけるブラッドレイ。

それを美遊は海未を決して視界に入れることがないように避けながら短剣を突き出す。
防ぐように翳されたブラッドレイの腕に刺さる。

地を蹴って後ろに下がるブラッドレイ。
しかしキュベレイの魔眼の力によって本来の速さを発揮することができない。

だが今なら攻め続けることができれば打ち倒すことはできるだろう。

しかし。

「掴まって」

美遊が海未の体を抱え上げたその瞬間。
二人の眼前に魔法陣のような光の模様が浮かび上がる。

その正面に立っていたブラッドレイは重圧のかかっていた体に鞭打って横に力いっぱい飛び退き。


「――――騎英の、手綱(ベルレ・フォーン)!!」

何かを唱えるかのような叫び声を美遊が上げたと同時。
魔法陣から飛び出した何かがブラッドレイの立っていたはずの場所を過ぎ去り。

橋を抉りコンクリートの地面を砕きながら、光の軌跡を残して空に舞っていった。





「ふ、ハハハハハハハハ!!全く、面白い!!」

体の重圧は既に解けている。
どうやらあの目に見られたことがこの体の異常の原因だったらしい。

錬金術でもない、全く未知の力。

「全く、人間というものは時として我々の予想外をいくものを見せてくれる」

腕に負った傷、そして全身に残る強い疲労があの少女の戦闘の成果、というところだろう。
しかしそれに対する怒りはない。むしろ賞賛する思いがあるほどだ。

「ああ、だからこそ、惜しいな。それが君の最後の成果となるということが」

そんな言葉の中に、僅かに名残惜しさを感じさせるようにブラッドレイはそう呟いた。




87 : Brave Shine ◇BLovELiVE.(代理投下) :2015/05/05(火) 23:41:30 VHHn7KF.0
「これは……」

目を開いた海未の目に入ったのは、自分が眩いばかりの光を放つ何かに乗っている様子。
まるで馬のようにも見えるその白馬、しかし背に生えた巨大な翼がそれがただの馬ではないことを表している。

「ペガサス…ですか…?」
「………」

前に乗っている美遊に問いかける。しかし返答はない。
きっと馬を繰ることで一生懸命なのだろう、と。
そう思った海未は気付かなかった。美遊の様子に。



やがて大きな建物の上に着地するペガサス。
そのまま、海未と美遊が足を下ろすと、まるで幻だったかのようにその姿が掻き消える。

ここはいつもμ'sの練習場所として使ってきた、音ノ木坂学院の屋上だ。

さすがにここまでくれば、あの男も追ってくることはないだろう。

「あの、美遊・エーデルフェルトさん、ですよね」
「………」
「その、助けていただいて、ありがとうござ――」
「あなた」

と、海未のお礼を言おうとする言葉を遮るように口を開いた美遊。

「サファイアを、お願い――――」

ブシャッ

そう言いかけた瞬間、まるで堤防が決壊したかのように全身から血を流して地面に倒れこんだ。

「え……」
『…美遊様……』

唖然とする海未。一方でサファイアはその結末を予期していたかのように、己の主の名を小さく呼ぶ。


美遊は自身の回復に回すべき魔力を、全て一時的な止血に費やしていた。
だが、それは逆に魔力を使い果たした時それまで耐えていたダメージが全て一度に発してくる危険な手段。
当然サファイアは反対した。
しかし美遊はそれでも、あの男、キング・ブラッドレイに立ち向かう道を選んだ。

その果ての死。
もう動くことのない美遊の表情には後悔はない。


そんな、目の前で失われた命。
それを海未は、声を出すこともできずに見つめることしかできなかった。



【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 死亡】





88 : Brave Shine ◇BLovELiVE.(代理投下) :2015/05/05(火) 23:41:48 VHHn7KF.0
「さすがに今から追いつくのは無理か。まあ他の全てをおいて優先すべきことというわけでもない、か」

ブラッドレイは腕を縛って止血を施しつつ、体の調子を確かめながら現状について思案する。

自分は北方司令部との合同演習から戻る途中、列車の爆破に巻き込まれたはずだった。
少なくともあの時に自分が死んだ、とは思えない。かといってこれが「お父様」に敵対する者が引き起こしたものかと言われれば怪しい。
逆に「お父様」が始めたものであるならば自分に何も説明がないはずもない。

であれば、今の自分がしなければならないことは何だろうか。

まず何があっても元の司令部へ帰還すること。
そのための手段は問わない。現状最も効率がいいやり方を考えるのならば、この場の者を皆殺しにすることだ。

だが、そのためにはいくつか困ったことがある。
エドワード・エルリック、ロイ・マスタング。
大切な人柱とその候補であり、死なれてしまうのは困る。
セリム・ブラッドレイ=プライド、エンヴィー。
同じホムンクルスの仲間であり、心配してはいないがやはり「お父様」の計画遂行を考えれば殺すわけにはいかないだろう。

だから、現状の行動方針はこう決めていた。
・エドワード・エルリック、ロイ・マスタングの二人の保護。
・プライド、エンヴィーの二人との合流。
・それ以外の全てをなぎ払う。しかしこの場からの帰還手段に心当たりを持つ者はその限りではない。

これが、ホムンクルス・「憤怒」のラースとしての自分の行動方針。

しかし。

「その”過程”をある程度楽しむ、くらいのことは構わないだろう?」

先の小さき少女の奮戦を思い起こしながら。
誰に言うでもなく「キング・ブラッドレイ」はそう呟いた。



【G-6/音ノ木坂学院屋上/深夜】
【園田海未@ラブライブ】
[状態]:疲労(大)、足に擦り傷
[装備]:
[道具]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、基本支給品(美遊)
[思考・行動]
基本方針:死にたくない
1:え……
2:μ'sの皆を探したい
※サファイアによってマスター認証を受けました。
※サファイアの参戦時期はツヴァイ終了後です。


【F-6/橋付近/深夜】
【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、腕に刺傷(処置済)
[装備]:デスガンの刺剣@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2(刀剣類は無し)
[思考]
基本:生き残り司令部へと帰還する。そのための手段は問わない
1:他参加者は基本的に殺害。
2:エドワード・エルリック、ロイ・マスタングは死なせないようにする。
3:有益な情報、技術、帰還手段の心得を持つ者は確保。
4:プライド、エンヴィーとの合流、ただし急ぎはしない。
※支給品の一つ、鉈@寄生獣 セイの格率は破壊されました。

※橋〜音ノ木坂学院の間に騎英の手綱解放による光が走りました


89 : ストロベリー・パニック ◇w9XRhrM3HU(代理投下) :2015/05/05(火) 23:42:37 VHHn7KF.0
「ったく、訳分からないことになったわね」

クロエ・フォン・アインツベルンは溜息を吐いた。
殺し合う事自体は初めてではない。多いとは言わないまでもある程度は経験した。
けれども、このような形で殺し合いというものに巻き込まれるというのは、初めてだ。
十年ちょっと、通算すれば一年にも満たない人生を経てきたが。この先、同じような目に合う事はないだろうとクロエは半ば確信できる。
それぐらい、今の状況が異常だ。

「とにかく、イリヤと美遊を探した方が良いわね」

支給されたデバイスを確認してみると、参加者名簿が登録されており、そこにはクロエの身内の名が二つ記載されていた。
最悪、優勝を目指すのもありかと冗談気味に考えたクロエだが、これでもう冗談でも優勝など目指すことが出来ないと悟った。

「といっても、この首輪の外し方も分からないし……外せる人を探す、のもそう簡単にはいかないか。
 まあ、何はともあれ……」

クロエの目に赤い髪をツインテールにした女性が写った。
相手はクロエに気づいている様子はない。
武器を持っていないところを見ると、必要ないのか支給品の確認をしていないのかのどちらかだろう。

(殺し合いに乗ってるか分からないけど……。まっ人との接触は私には避けられないし、会って話してみるしかないわね)

そうクロエにはちょっとした事情があり、一人だけで生き延びることは不可能だった。
だから、少しあの女性には協力をしてもらわなければならない。

「ねえ、お姉さん」
「あ? 何?」

出来る限り、穏便に話しかけたつもりだったが女性の声は荒い。
殺し合いに乗った参加者かと考慮したが、声のトーン的には殺意は含まれてはいない気がする。
苛々してる時にたまたま間が悪く話しかけてしまった。そんな感じだろうとクロエは結論付けた。

「落ち着いてよ。私は殺し合う気なんかないから」

だが、警戒は解かない。
万が一にも不意を突かれ襲われるという可能性もある。
もっとも、これから襲うのは自分なのだが、とクロエは心の中で自嘲する。
軽く足に力を入れて飛ぶ。
数センチほど飛び、その女性とクロエの顔が丁度正面に並んだ。


90 : ストロベリー・パニック ◇w9XRhrM3HU(代理投下) :2015/05/05(火) 23:42:53 VHHn7KF.0
「ただ、ちょっと……」

腕を伸ばし女性の顔を自分の顔へと引き寄せていく。
訳も分からず、女性は抵抗も出来ないまま。

「っん?」

クロエと口付けをした。
それも唇が触れ合うだけの軽いものではない。
女性の口内へ舌を這わせ、女性の舌と絡み合いながらその唾液を吸っている。
いわゆるベロチューというものだ。
クロエは普通の人間とは違い、魔力を常に消費しながら活動している。
その魔力が尽きたとき、それは普通の人間で言う死。消滅が待っていた。
今のクロエの魔力量は、多くもなければ少なくもないといった程度。
普段なら然程気にしないが、殺し合いとなる以上魔力を使った戦いを、それも連戦でこなさなければならない可能性が高い。
ならば、今の内に貰えるものは貰って蓄えておこうと考えた。
そして肝心の魔力の補充は色々あるが、一番手っ取り早く被害も少ないのがキスだ。
本当ならば、イリヤとキスしたほうが多くの魔力を貰えたのだが、この際それには目を瞑る。

「っはぁ、お前……」
「悪く思わないでね。私にも事情g―――ってちょっと!」

決して多くはないがそこそこ魔力が貰えたクロエは女性から唇を離し、誤解を解くかのらりくらりと逃げようかとした時だった。
女性は動揺するどころか、むしろ先ほどのクロエ以上の力でクロエを抱き寄せ、無理やり唇を奪った。


「んっ、ちょっ、んん……!」

クロエに何も言わせず何もさせず押さえつけるような激しいキス。
普段、魔力供給でしているキスとは比べ物にならない。
初めての経験、快感だった。
魔力の供給に加え、このキスはそう……何かが違った。
やっていることはこの女性からしてきたという以外はさっきと同じただのキスだ。
ただ、舌が触れ合う瞬間、甘い感触がクロエの体を駆け巡る。優しく触れる唇も心地いい。
あまりのことに悶えようとする体を抱き寄せられた腕で押さえつけられる。決して逃げるような事は許さない。そんな意思を感じる。
だが、それも悪くない。何処か、体が嬉しさまで感じていたかもしれない。
女性の手がクロエの背を撫でながら、下へと沿っていく。
手がクロエの褐色の肌を堪能するかのようになぞりながらある場所で止まった。

「殺し合いなんかに巻き込まれて、イライラしてる時に誘ったのはそっちなんだ。
 少しは楽しませてもらうよ」

やっと唇が離れたかと思えば、今度は下半身から甘い快楽が全身を駆け巡る。
堪らず悲鳴に似た声を上げそうになるがギリギリで耐えた。

「ちょっ、待……」
「ん? なんていった?」
「へ、部屋で……ベッドで……」





91 : ストロベリー・パニック ◇w9XRhrM3HU(代理投下) :2015/05/05(火) 23:43:07 VHHn7KF.0
その後、色々あった。
ただ言えるのは、彼女たちはたまたま近くにあった民宿にお邪魔し、ベッドの一つをお借りしたという事だけだ。
何処か満足気で、けれども疲れたような顔をして生まれたままの姿で、赤い髪の女性ヒルダはベッドに寝転がっていた。
同じくクロエもまた全裸で同じベッドで横たわる。

「マナじゃなくてマリョク、ねえ?」
「信じられないかもしれないけどね。
 まあ、ありがとう。キスよりは相当貰えるものは貰えたわ……色々。同時に失ったものもある気がするけど」
「私にマリョクなんてあるのか?」
「あるって言ってもほんの少し、誰でもある位よ。回路もないし、言っちゃ悪いけどそっちの本職には到底なれないと思うけど」

色々とあった後、クロエは自身の事情について話しヒルダに弁解した。
最初は信じないヒルダだったが、このままいきなり性的な意味で襲ってきた変態痴幼女と思われるのも癪なので、投影魔術を披露すると訝しげながらも一応は納得してくれた。

「で、次は私から質問。
 そのマナって何? 魔力の呼び名の一つではあるけど、何か違うみたいだし」
「本当にマナを知らないのか?」
「ええ、だから話してよ。私も魔力について話したんだから」

ヒルダが話すには、マナという特殊な力を持った者は人間として扱われ、それを持たない迫害される人間をノーマと呼ぶらしい。
そのマナは世界中で扱われ、日常生活には欠かせない重要な技術だとか。
もっとも、そのマナ自体はある男が作り出したもので、その男がマナ自体を消してしまったらしい上にヒルダ自身がノーマな為、クロエのように披露することはできないが。

「嘘でしょ? そんなの聞いた事ないけど」
「嘘じゃない。常識だろ? マナが消えたときなんか大騒ぎだったじゃないか。もしかして田舎者?」
「普通の地方都市で普通の一般の家庭で生活して普通の一般の学校に通ってるわ。
 だから世間一般の常識はあるつもりだけど」
「…………平行世界、か?」

アンジュが一時期行方不明になった時、平行世界に行っていたというのをヒルダは思い出す。
アンジュから伝え聞いただけだが、そこもまたマナやノーマの概念は存在せず、異なる歴史を辿っていた。
ということは、この少女もまたアンジュも行った事のない、別世界の住人ということになるのだろうか。

「あっ……なるほどね。それは全く思いつかなかった」

ヒルダからすれば、半信半疑で適当に思いついたのを口にしただけなのだが、クロエは思っていた以上に納得していた。
そしてデバイスを起動させ、何やら入力を始める。
それが終わるとヒルダへと画面を翳した。

「これを見て、分かるものがあったら教えて」

デバイスに記されていたのは年号だったり、国の名前、一般的な歴史、政治家の名前、世間を賑わせたニュースなど様々だ。
もっともヒルダからすれば、何のことかさっぱり分からず首を横に振った。

「やっぱりね、思ったとおりだわ。いい線行ってると思う」

うんうん頷きながら、一人で納得するクロエにヒルダは納得がいかない。
ベッドから起き上がり、クロエに迫りながら問い詰める。

「ちょっと、一人で納得しないで私にも教えな」
「あーめんどいわね。ようは魔術にはそういうのもあるってこと。
 相当難しいけど、平行世界が絡んでるって線は濃厚だと思うわ。
 さっきのデバイスに書いてあったの、一つも分からなかったでしょ? 異世界人でもなきゃ一つは知ってるはずよ。
 そうでなきゃ貴女こそ余程の田舎者、世捨て人ね」

ヒルダは怪訝そうにクロエを見る。
自分で言っておきながら、平行世界という存在に関してヒルダは半信半疑だ。
だが今はそれを納得させる材料も少ない。
それにクロエに聞くより、自分以上に平行世界の知識があるだろうアンジュに聞けば、色々分かるかもしれない。
一先ずはこの事は置いておくことにした。


92 : ストロベリー・パニック ◇w9XRhrM3HU(代理投下) :2015/05/05(火) 23:43:22 VHHn7KF.0
「それでちょっと提案なんだけど、しばらく私と組まない?」
「どうして?」
「魔力補充に協力して欲しいのよ。
 知り合いに会えればそっちに頼むけど、それまでは事情を知っててそういうのに抵抗の少ない貴女と一緒の方が、ねぇ?」
「私にメリットがないだろ」
「戦闘になったら、私はそこそこ役立てるわよ? それに魔術の知識もこの先必要になると思わない?
 どう? お互い悪くない提案だと思うけど?」

見た目は子供だが、その身のこなしは只者ではないという事はヒルダから見ても明らかだ。
普通の子供が初対面でヒルダの唇を奪うなど、そう出来るこではない。
なら、戦闘で役立つというのも嘘とは言い切れない。
そして魔術とやらも、ヒルダからすればマナとの違いが良く分からない。あまりにも未知の領域だ。
ここは提案に従うのも、悪くはないと思えてくる。

「分かった。良いよ、組もう。
 ただ、私も知り合いが何人も連れて来られてるから、そいつらと合流したい」
「良いわ。組んでる間、どちらかの知り合いの有力な情報が得られた場合、そちらを優先するって事でいい?」
「ああ。じゃあ、そうと決まれば、互いの知り合いの事を教えあったほうが良いか」

二人はデバイスを起動させ参加者の名簿を広げると情報交換を始めた。



【D-7 民宿 ベッドの上/1日目/深夜】

【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:全裸、健康、魔力量(中)、お肌ツヤツヤ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3、自分の服
[思考]
基本:脱出する。
1:イリヤ、美遊と合流。
2:ヒルダと組む。
3:脱出に繋がる情報を集める。
[備考]
※参戦時期は2wei!終了以降。
※ヒルダの知り合いの情報を得ました。
※クロスアンジュ世界の情報を得ました。
※平行世界の存在をほぼ確信しました。
※キスより効率のいい方法で魔力補給しました。

【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:全裸、ほぼ健康、クロエの魔力吸引による疲労(小)、お肌ツヤツヤ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3、自分の服
[思考]
基本:進んで殺し合いに乗る気はない。
1:アンジュ達を探す。
2:クロエと組む。
3:アンジュに出会えたら平行世界について聞いてみる。
[備考]
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。
※クロエの知り合いの情報を得ました。
※平行世界について半信半疑です。


93 : 戦闘潮流 ◇dKv6nbYMB(代理投下) :2015/05/05(火) 23:44:42 VHHn7KF.0
むにゃ...ん?どこじゃここは?なんでワシは椅子に縛られてるんだ?
「やあ、起きたかね。ジョセフ・ジョースター。私の名は広川だ」
「ヒロカワァ?ケッ、日本人か...キサマ何者だ?」
「私のことなどどうでもいい。きみにはある選択をしてもらいたい。これを見たまえ」
ヒロカワと名乗ったそいつが指を鳴らすと、ライトと共に照らし出されたのは、ワシと同じく身体を縛られた娘、ホリィ。
「続いてこちらだ」
もう一度指を鳴らすと、ホリィとは逆側にライトが当たる。今度は、身体の縛られていない老若男女様々な者たちだ。承太郎に花京院、アヴドゥルにイギーまでいる。その総数約70。
「これよりきみには、その地面に落ちた支給品を使い、そこの70人の人間と殺しあってもらいたい。見事勝ち残れば、ホリィの命は助けよう」
な...なんじゃと!?そんなこと誰が
「断れば、ホリィの命はない。このボタンを押しさえすれば彼女はドカン!聡明なきみなら、どちらを選べばいいか、わかるだろう?」
なにぃ!?ヒロカワァ!貴様の根性は畑に捨てられカビが生えてハエもたからんかぼちゃみてえに腐りきってやがる!



「とはいえ、私も鬼じゃない。考える時間くらいは与えよう。制限時間は1分。それまでによ〜く考えて決断するんだ。その支給品を口に咥え、きみの考えをきみ自身の口から聞いたときその選択を認めよう」
チィ、こうなったら『隠者の紫』で...
「おっと、スタンドを使うんじゃあないぞ。スタンドを使えば娘の首輪は自動的に...わかるね?」
SUN OF A BITCH!ホリィを救うためには、やつの言いなりになるしかないのか...ぬ!?
支給品はシャボン玉セットォ!?こんなもん、ニャンコの一匹も殺せんわい!
「ほ〜らほらァ。じかんが迫ってるぞぉ?ジョ・オ・ス・タ〜・くぅん」
舐めやがって、ハナからワシに勝たせるつもりもないというワケか!
あのボタンさえどうにかなりゃこっちのモンだというのに!クソッ、どうすれば...


94 : 戦闘潮流 ◇dKv6nbYMB(代理投下) :2015/05/05(火) 23:45:01 VHHn7KF.0
『情けないなァJOJOォ。柱の男との戦いを忘れたか?所詮イギリス人の根性などそんなものか』

ん?なんじゃ、この頭に響いてくる声は...

『ハン、年を喰ってぼ・け・た・かぁ?JOJOォ』

し、シュトロハイムか!?

『ドイツ軍人は全てにおいて世界一ィィィ!俺ならば、貴様のような状況に置かれたとて、目だろうが指だろうがヤツにとばして葬ってくれるわァァァ!』

無茶を言うんじゃあない!ワシはお前のようにサイボーグじゃあねえんじゃよ!




『ならここで諦めるか?』

こ、今度のこの声は...シーザー!?

『よく考えろJOJO。この限られた道具を使い、こいつには...いや、この場にいる奴らにできなくて、お前にできることはなんだ?』

ワシにしか...できないこと?

『俺たちのあの修行は、お前が経験してきた年月はこの程度で参っちまうものなのか?』

そうじゃ...ワシが多くのものを得、多くのものを失ったあの戦いは...

『そうだJOJO。例え状況が絶望的に思えても、必死にあがけ。戦え!』

こんなガキに言いようにされていいもんじゃあない!

『...それでこそ、俺が認めた男だぜ、JOJO』


95 : 戦闘潮流 ◇dKv6nbYMB(代理投下) :2015/05/05(火) 23:45:27 VHHn7KF.0
「おっ?どうやら決意は決まったようだね。それでは、返答を聞こうか」
「...その前に、ひとつだけ言わせてくれんかのう」
「時間稼ぎのつもりかね?だが、寛容なる私はそれを許そう」
「次にお前は『せいぜい愛する娘への遺言を残すんだな』...という」
「せいぜい愛する娘への遺言を残すんだな...ハッ!」
「ギッヒヒヒ」
「戯けた真似をしおって!この老いぼれが!いいだろう、貴様には選択肢すら与えん。地獄を見るが...ん?」
奴の余裕ブッこいていたツラは憤怒に染まり、そのまま硬直する。そりゃそうじゃ、いつのまにか浮かんでいるシャボン玉に意識がいっちまったんじゃからな。
「なんじゃ?お前さんがコイツを渡したから吹いておるだけじゃぞ?」
「...ふん、くだらん」
やつがシャボン玉を指で弾いた時じゃった。
パ ァ ン
「ぬわぁ!?」
ギャーハハハ!微量じゃが、波紋入りのシャボンだよん!目なんかに入りゃあ十分強烈よぉ!
「ああぁ...目がぁ、目がぁ!」
おおっと、スイッチを押すつもりか?そうはさせん!波紋法の修業で鍛えたこの肺活量で...
プッ グサリ!
「ギャアアア!し、しまった、スイッチを落としてしまった!」
ゲホッ、歯を一本折ってとばしてやったわい!水鉄砲は穴が小さい方が勢いよく遠くまで飛ぶんじゃよ!痛みは波紋で和らげたが、血の味が酷いのぉ〜。
さぁて、トドメじゃ!座ったままの姿勢でジャンプ!そのまま...
「ひ、ひいいいい」
足から伝わる波紋!『波紋疾走(オーバードライブ)』!
ボッキャアッ
ワシの蹴りを受けたヒロカワが、血を流しながら空を舞う。
どうじゃあ、ザマ〜ミロィ!


96 : 戦闘潮流 ◇dKv6nbYMB(代理投下) :2015/05/05(火) 23:45:43 VHHn7KF.0
「ふ、ふふ...そうだJOJO。それでいいんだ」

ヒロカワの顔が、声が、別の何かへと変化していく。

「お前の強さはスタンドなんかじゃあない。理不尽な選択を強いられれば、策を弄じて裏をかけ。受け継いだものを生かして活路を開け。かつて俺を倒した時の様にな」

その顔は、静謐たる戦士の顔。その声は、幾千もの戦いによって積み上げられてきた重みを背負う声。

「行ってこい。いって、とっとと終わらせて来い。まさかこの俺が、あんな若造以下だったなんて思わせないでくれよ、JOJO」

あ、あぁ...お、お前は...

「さあ、目覚めの時間だ」

ワム―――


97 : 戦闘潮流 ◇dKv6nbYMB(代理投下) :2015/05/05(火) 23:46:17 VHHn7KF.0
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「うおおおおお〜!...お?」
バタバタと虚空を描きながら、ワシは石造りの地面で目を覚ました。
「ここはどこじゃ?」
たしか、ヒロカワとかいう男に妙な場所へ集められ、殺しあえと言われて、掴みかかった少年が殺されて...
(うーむ、そこから先のことがよく思い出せんのぉ)
なんだか、妙に懐かしくも混沌とした、都合の良い夢を見ていたような気がするが、どんな夢だったかな。
っと、思い出せないことで悩んでいても仕方ない。状況を把握せねばな。まずは荷物を調べることにしよう。
「入ってるのは、水に食糧、地図、ルールブック、コンパス、時計、名簿...ポラロイドカメラにシャボン玉セットォ?」
なんじゃこれは。こんなもので殺しあえだとぉ?
「ヒロカワめ、バカにしおってからに!アイツ、ワシを生き残らせるつもりはないんじゃないのか!」
...と、普通の奴なら思うじゃろう。だが、このジョセフ・ジョースターにとってこいつは当たり!
このカメラとワシのスタンドは相性バッチシ。こいつさえあれば好きな時に念写ができる。


98 : 戦闘潮流 ◇dKv6nbYMB(代理投下) :2015/05/05(火) 23:46:36 VHHn7KF.0
「さあて、と。それじゃあ早速念写をしてみるか」
あの場には承太郎がいることは確認できた。しかし、承太郎とワシはジョースター一族特有の波長のようなもので、近づけば互いの位置が大体わかる。
もしかしたら、他にも知り合いがいるかもしれん。念写の前に名簿を確認しておこう。
「いるのは承太郎にワシ、アヴドゥルに花京院にイギー...でぃ、DIOじゃとぉ!?」
こいつは驚いた!ヒロカワがDIOの手下ではないことはうすうす感づいておったが、まさかDIOまでもがこの殺し合いに巻き込まれていたとは!
こうなればDIOを念写したいところじゃが、やつの身体はワシのお爺さん、ジョナサン・ジョースターを乗っ取ったもの。そのため、奴もまた波長のようなもので近づけばわかるのでやめておこう。
カイロとは違って、場所が限られているうえ、時間ごとにエリアが減っていくようじゃからな。嫌でも奴とは出逢うだろう。
と、なると念写すべきなのは、承太郎以外の三人。うちイギーは自由奔放な奴の為、念写しても合流できるかは怪しい。
残りはアヴドゥルか花京院になるが...花京院は両目を怪我していた。スピードワゴン財団から治ったとの報告はまだ届いておらんとなると...
「念写するのは花京院じゃな」
彼がまだ怪我をしているのなら、早めに合流するべきだろう。
「『隠者の紫!』」
念写の方法は簡単。右手から茨のスタンドを出し、念写したいやつの名前を想像しながらカメラをぶっ叩くだけ!
この通り、三万円もするであろうカメラをイチイチぶっ壊さなければイカンがね。
ぶっ壊れたカメラから写真が出てくる。
さぁて、花京院のやつはどこにおるかね...む?妙だぞ、この写真、『真っ白』だ。
写真には何も写っていない。花京院どころか、まだ封を開けて間もない新品の紙のように真っ白だ。


「どういうことじゃ!?」
ワシの念写は、例え相手が暗闇の場所にいても、その人間だけは写すことができる。
だが、こんな『真っ白』な写真が出るのは初めてじゃ。
なにかミスを冒したのか?いや、それとも大切なにかを見落として...あっ
(そ、そういえば最初の場所で、ワシはスタンドを出すことが出来なかった)
つまりそれは、ヒロカワが他人のスタンドの能力を調整が出来るということかもしれん。
となると、ワシの念写能力は奴に封印されて...?
「OH MY GOD!」
なんてこった、貴重な支給品を台無しにしてしまった!
こうしちゃおれん、荷物を纏めてすぐに出発じゃあ!
いまの場所は...ん?ここは...
「古代の闘技場...か?」


99 : 戦闘潮流 ◇dKv6nbYMB(代理投下) :2015/05/05(火) 23:46:51 VHHn7KF.0
思い出されるのは、ワシがまだ若いころ、波紋戦士として、柱の男・ワムウと戦った戦車戦デスマッチ。
まるっきり同じ形をしているわけではないが、どこかあの時の雰囲気に似ている。
「懐かしいのう...あれから50年も経つのか」
目を瞑ればいまでも鮮明に思い出せる。亡きシーザーと誓った約束、そして誇り高き戦士ワムウ...
もし、波紋戦士と柱の男という括りが無ければ、拳を交えた後よき友になれたとすら思う。
いや、その括りがあったからこその奇妙な友情なのかもしれん。
「...そういえば、波紋に関してはどうなんじゃろうか」
コオオォォ、と波紋法特有の呼吸をする。水のはいったペットボトルの蓋をとり、ボトルを逆さにする、と同時に
「波紋!」
ピッタァ
波紋の効果により、水はボトルから零れることなく、水面を水平に保っている。
(ふむ、波紋にかんしては別段制約を受けているようには思えん)
対吸血鬼用の技とはいえ、あるのとないのとじゃだいぶ違ってくる。
人間相手使えば、普通に殴るよりはだいぶ痛いし、水面を走ったり、自分の怪我を和らげたりといった用途もある。
と、なると、案外やつの能力統制は完全ではないのかもしれんな。
もしくは、波紋は制約するに値しない...と判断したのかもしれない。
だとしたら、だ。
(ヒロカワも人間であり、まぎれもなく生物だ。必ず付け入る隙はある)
ヒロカワ。いまごろ貴様は、まるで小学生がポップコーンをつまみながらキッズ映画を鑑賞するかのように、ワインを片手に呑気にワシらの行動を観ていることだろう。
だがな、貴様は重大なミスを冒した。それはな、あの場で既に『自分は安全だ』と『勝ち誇ってしまった』ことじゃ。
相手が勝ち誇ったとき、そいつは既に敗北している。それが、ジョセフ・ジョースターのやり方じゃ。
若造めが。いまに見ておれ。きさまなんかとは戦場での年季が違うことを思い知らせてやる!


100 : 戦闘潮流 ◇dKv6nbYMB(代理投下) :2015/05/05(火) 23:47:16 VHHn7KF.0
老人がまだ若き戦士だったころ...彼は多くの者に支えられ戦ってきた。
父親同然といっても過言ではない、祖父の生き様を継いだ石油王。
母であり師でもある、気高き女性。
やかましくはあるが、人種も立場も超えた絆で結ばれた誇り高き軍人。
ともに修行を積み、ともに先祖の代からの因縁に立ち向かったキザな親友。
そして、強大な敵であると同時に、初めての好敵手でもあった、古代からの最強の戦士。
彼らとの絆が、因縁が、ジョセフ・ジョースターという男の『今』を作り上げた。
年月を重ね、その事実が歴史に埋もれようとも、彼が受け継いだものが消えることはない。
そんな彼がこのバトル・ロワイアルで見せるのは、喜劇か悲劇か、それとも...



闘技場を去っていく老人の背を押すように、一陣の風が吹く。
老人の背を押すその風は、まるで激励をとばしているようだった。
『負けるな』...と。


【G-7/古代の闘技場/一日目/深夜】
【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[装備]:いつもの旅服
[道具]:支給品一式 三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース 市販のシャボン玉セット@現実
[思考・行動]
基本方針:仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡ふかせる
1:仲間たちと合流する(承太郎、アヴドゥル、花京院、イギー)
2:DIOを倒す
3:脱出の協力者を集める

※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。
※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。
※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。
※夢の内容はほとんど憶えていません


101 : Walk Like the Fool ◇V1o0pXphv2(代理投下) :2015/05/05(火) 23:48:52 VHHn7KF.0
草原の中に孤立している1本の木。
それに身を預けている少女がいた。
その表情は、とてつもなく暗い。
それも無理はないだろう。

いきなり未知の空間に飛ばされ、磔にされた挙句告げられたのは殺し合いの開幕宣言。
そして白いシャツを着た少年――年齢は恐らく穂乃果と同じか1つ下くらいだろうか――の惨殺。
広川という男の口から出た超能力、魔法、スタンド、錬金術、願いが叶うというような漫画でしか見ないような単語の数々。

戦いという非日常とはまったくの無縁であったスクールアイドルの高坂穂乃果からすれば、
この数分間はいろんなことがありすぎて頭の処理が追いつかなかった。

「……怖いよ」

意識が暗転し、再び覚醒してからはずっとこんな調子だ。
デイバックを傍らに置き、三角座りで俯く。
深夜で辺りは暗いせいか、穂乃果のオレンジ色の練習着の上着も黒ずんで見える。
普段は前向きで元気な穂乃果もこの状況には悲観的になってしまう。
まだ気持ちの整理はついておらず、誰にも会っていない。
"乗っている"者に出会えばそれこそ悪夢だが。

「あ…そういえば」

ふと、穂乃果は顔を上げた。
磔にされていた時に親友の海未の姿が見えていたことを思い出した。
嫌な汗が流れる。
ついに穂乃果はその身を動かし、デイパックをひっくり返す。
支給品数々と一緒に地面に散らばった名簿を拾い、目を通した。

「海未ちゃんにことりちゃん…真姫ちゃんに凛ちゃんに花陽ちゃんまで!」

スクールアイドル『μ's』の9人のメンバーの内の6人の名前がそこに記されていた。
その事実に穂乃果はただ震える。涙も出てしまいそうになったがなんとか堪えた。

「ここでじっとしちゃいられない!皆を探さないと!」

ここでようやく彼女の前向きな性分が穂乃果を動かすことになる。
広川の言う殺し合いが本当なのだとしたら、今もどこかで誰かが殺されているのであろうか。
とにかく、この5人と合流して、無事を確かめなければならない。
μ'sの9人は誰一人も欠けてはいけないのだから。
他のメンバーの無事を祈りながら、穂乃果は立ち上がり、先ほどぶちまけた支給品を確認する。

名簿、地図、食糧といった基本支給品に、数枚の説明書と共に複数のアイテムが散らばっていた。

まず、地面に地図を開いてみると、まず穂乃果の目に飛び込んで来たのは、音ノ木坂学院だ。
思えば、スクールアイドルを始めた切欠は学院の廃校を防ぐためだった。
どうしてこんなところに…とも思ったが、考えていても仕方がない。

(行こう…音ノ木坂学院へ)

もしかしたら皆も穂乃果と同じように「音ノ木坂学院へ行けばメンバーが集まるかも」と考えて同じ場所を目指すかもしれない。
とりあえずは、当面の行き先は決まった。

次に、広川の言っていた「個別の物」を手に取る。

1つ目は、鏡。鏡面が穂乃果と暗い空を映し出している。首を覆っていた首輪がなんとも不気味だ。
とはいっても手鏡のようなサイズの小さいものではなく、両手で持てるような部屋に飾る鏡だ。

「これは…何に使うんだろ?」

特に戦闘には役には立たなさそうだ。精々光を反射するくらいか。

2つ目は穂乃果も見覚えがある。音楽プレーヤーだ。
イヤホンもすぐ隣に散らばっていた。
とりあえず起動してみたが…

「レ、レベルアッパー?」

どうやら中に入っている音声ファイルは1つしかないらしく、画面には『LeveL UppeR』と書かれている。
どんな曲なのか少し気になったが、今は音楽を聞いている暇はない。

他に何か目につくような道具はないかと穂乃果が辺りを見回していると、茶色い箱が目についた。
その箱を拾ってラベルを見ると、コーヒー味のチューインガムだとわかった。
何となく箱を開けてみる。
当然、中からは大量のチューインガムとコーヒーの匂いが出てくる。


102 : Walk Like the Fool ◇V1o0pXphv2(代理投下) :2015/05/05(火) 23:49:33 VHHn7KF.0
「…コーヒー味って、おいしいのかな」

穂乃果がチューインガムを1枚取り出して見つめていると、静まった草原に微かな音が走る。
トトトと地面を叩くような小さな音。
遠方からこちらに向かって猛スピードで走ってくるような――

「………!」

瞬間、穂乃果の顔に怯えが出る。
誰かがこちらに気づいたのだろうか。
もし『それ』が"乗っていた"としたら確実に殺される…!
支給されたアイテムも武器に使えるようなものはない。穂乃果は丸腰だ。
『それ』は次第に近づいてくる。足音が大きくなる。
暗闇で姿がよく見えないため、余計に恐怖心を煽られる。

「あ……あ……!」

恐怖で体が固まってしまって動けない。
震えが止まらない。コーヒー味ののチューインガムを手放すことすらできない。

(動いて……動いてよ……私の身体…!)

『それ』はもう穂乃果のすぐ近くに来ていた。
バウバウと野性的な声を出している。きっと野蛮な人間に違いない…!



――そして、『それ』は穂乃果に飛びかかった。



「私のそばに近寄るなああ――――――――――――ッ!!」



その刹那、穂乃果を襲ったのは『チューインガムを取られた』という感覚だけだった。





穂乃果はあまりの出来事に尻もちをついた。
胸の動悸が止まらない。
彼女の背後では、『それ』が


―――クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ。


木の根元でチューインガムをおいしそうに貪っていた。

「…ワン、ちゃん?」

振り返って『それ』を見ると、その正体は犬であった。
血統書付きのボストンテリア。彼の名はイギー。『愚者』のスタンド使いである。

「って、箱の方を取られているッ!?」

今更気づいてももう遅かった。
穂乃果は手元に残った1枚のチューインガムを切なそうに見つめた後、
散らかしてしまったことを若干後悔しつつ、全てをデイパックに片付けた。

―――クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ。

今もイギーはチューインガムをデイパックを持つ穂乃果の目の前で頬張っている。
穂乃果は腰の高さまで屈み、しばらくその様子を見つめる。


「…………」


―――クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ。


「…………くぅ〜ん」

犬の鳴きマネをしてイギーの口元に手のひらを置いて、顎の下を撫でようと試みる。
チューインガムを箱ごと奪われた時は何とも言えない気分だったが、
ようやく自分以外の誰かと会えたおかげか、殺し合いのせいで陰鬱だった精神は少し癒される。
穂乃果は家で柴犬を飼っていて、犬好きな面があるところもそれを手伝った。

―――クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ。

が、手が直に触れる前にボトボトと口から垂れた涎が穂乃果の手にかかる。

「あ…あはは…」

またしても何とも言えない気分になる。
だが、クチャクチャと音を立てている姿は下品だが、じっと見ていると案外かわいいものだ。
今度は背中を撫でてみようとイギーの背に手を回した瞬間、穂乃果はあるものを見つけた。


103 : Walk Like the Fool ◇V1o0pXphv2(代理投下) :2015/05/05(火) 23:50:09 VHHn7KF.0
「く、首輪!?」

それもただの首輪ではない。
鏡を見た際に見えた穂乃果の首輪と同じデザインだ。
これがある限り、参加者の生殺与奪は全て広川にある。
その首輪があるということは。

「ワンちゃんも参加者なの!?名前は?」

イギーは答えない。
人語を話せない犬だから当然だ。
周囲を見回してみると、イギーが持ってきたらしいデイパックが遠くに放り出されていた。
穂乃果のチューインガムを奪うときに投げ捨てたのであろう。
穂乃果はイギーのデイパックを拾い、犬までもが殺し合いに参加させられていることに心を痛める。

「そんな…ワンちゃんまで殺し合わないといけないなんて…」

穂乃果は思った…
どうしてワンちゃん(イギー)のような非力(だと穂乃果が思い込んでいる)な存在までも殺し合わなければならないのだろう、と。
穂乃果はイギーをただの犬だと思っており、『愚者』も見ていないのでスタンドを行使する超スゴイ犬だとは夢にも思っていないのだ。

「私も皆を探しに行かないといけないんだけど、ワンちゃんが心配だよ。
置いていったら、誰かに殺されるかもしれないし…だから、一緒にいかない?」

精神に余裕ができていたので失念していたが、穂乃果もモタモタしていられない。
そろそろ音ノ木坂学院に向けて出発したいのだが、非力な犬(と穂乃果が思い込んでいる)を置いていくわけにもいかない。
だから、穂乃果は一緒に行こうとイギーに手を差し伸べた。

だが、同意の代わりに返ってきたのは女の子にしてはいけないものだった。





「バウッ」
「ひゃあっ!?」




イギーが穂乃果の顔に張り付き、




プ…




そんな間の抜けた効果音と共に穂乃果の顔へ「へ」をかました。




「臭ッ……!」

あまりの臭さに倒れそうになるのを必死に我慢する。

「ヒヒ」

イギーは穂乃果の顔から離れ、挑発するように声を出して逃げていく。

「………このッ――!待てェェェェェ――――ッ!!!」

流石の穂乃果もこれには怒り、イギーを全速力で追いかけるのであった。


【A-6/草原/深夜】
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:ワンちゃん(イギー)への怒り
[装備]:練習着
[道具]:基本支給品、鏡@現実、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、コーヒー味のチューインガム(1枚)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、イギーのデイパック(不明支給品1〜3)
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す。
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:このド畜生ッ!
3:イギーと一緒に行動する。
4:「ただの犬」のイギーが心配。
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※イギーを「ただの犬」だと思っています。
※イギーの名前を知らず、「ワンちゃん」と呼んでいます。
※『愚者』をまだ見ていません。
※幻想御手はまだ使っていません。

【幻想御手について】
幻想御手を使うことで、たとえ学園都市の人間でなくてもレベル2程度の異能を手に入れることができますが、使用してから24時間後に脳死します。
手に入る異能は他の書き手の方にお任せします。


104 : Walk Like the Fool ◇V1o0pXphv2(代理投下) :2015/05/05(火) 23:50:30 VHHn7KF.0
まったく、人間って奴はどいつもこいつも何考えてんだ?
殺し合いだァ?そんなもんはよそでやってくれ。
広川ってヤローといいジョースターといい、おれを巻き込むんじゃあねーっ。
おれはただ、気ままにちょっとゼイタクして、いい女と恋をして、なんのトラブルもねえ一生をおくりたいだけだ。
ジョースターの奴等にエジプトへ呼ばれて居心地の悪いヘリコプターに乗っていたら、いつの間にか拘束された上に殺しあえだとォ?
気分悪ィぜ。

それで…気づいたら何もねぇ草原に出た。
とりあえずちょっぴり見えるあの木へ向かってみるか。
それにしてもこのデイバックってやつは持ちにくいな。口で咥えねーと歩きにくくて仕方がねーぜ。
オマケにこの首輪…広川ってヤロー、これじゃあまるで飼い犬みてーじゃあねぇか。
あとでひでー目に遭わせてやる…ん?

あの木に近づくとおれの鼻になにかが引っかかった。
…この香ばしいコーヒーの香りは、まさかッ!
おれの好物のコーヒー味のチューインガムの匂いじゃあねーか!
暗がりで木の下あたりがよく見えねーがチューインガムは絶対木にあるッ!
それがわかるとおれはすぐに走り出した。
あの木に近づけば近づくほど香りが強くなってくる。
あ、あれは…女ァ!?
よく見れば木の下に人間の女がいる。
チューインガムの箱を持っているッ!
なら、いつも人間にやってるみてーにぶんどるしかねェー!
ああ、クソッ!このデイバック邪魔だ!うまく走れねぇ!
デイバックを放り投げたら速く走れるようになった。
そのまま一直線にコーヒーガムを勝ち取った。
そういやあ奪った時に女が

「私のそばに近寄るなああ――――――――――――ッ!!」

って言ってたが、こいつはそんなにチューインガムが好きだったのか?





クチャクチャとチューインガムを噛んでいたらこの女はおれのことを興味深そうに見ていた。
服に書かれた「ほ」の文字がやけにデカい。
しばらくすると「くぅ〜ん」といっておれの口の下に手を出してきた。
顎の下を撫でようとしているのか?
鬱陶しいから涎多めに垂らしておこう。

すると、今度はおれの背中を撫でようとしてきた。
こいつ、意外と犬好きなのか?
だが撫でる前に、何かに気づいたみてーだ。

「く、首輪!?」

ああ、首輪だよ。
おれをペット扱いしたら右側にある前髪の生え際毟り取ってやる。
丁度今ガムを飲み込んだところだしな。口は空いている。

「ワンちゃんも参加者なの!?名前は?」

犬のオレに聞くな!話ができるわけねーだろ、マヌケかてめーはよォーっ。
女はおれが投げ捨てたデイパックを取りに行って戻ってくると、何やらかわいそうな奴を見る目でおれを見ている。

この「ほ」のホ女、何を考えている…?

「そんな…ワンちゃんまで殺し合わないといけないなんて…」

…まさかこいつ、おれを――

「私も皆を探しに行かないといけないんだけど、ワンちゃんが心配だよ。
置いていったら、誰かに殺されるかもしれないし…だから、一緒に行かない?」

――おれをただの犬だと思ってやがる…!
戦えねーオマエなんかに心配されたかねーよ!
まぁこんなとこでわざわざ『愚者』を出すのも馬鹿馬鹿しいから使わねーけどよォ〜〜〜〜〜。
どんな形だろうと甘くみられるのはおれのプライドが許さねぇ。

……まぁ、コーヒーガムも食えたし、『ただの犬』を気遣える程度には犬好きみてーだから、屁1発で済ましておいてやるか。
それに、ここから動かねーってワケにもいかねーしな。このホ女の言う「皆を探す」のにも付き合ってやろう。
ついでに、もしおれをエジプトに呼んだジョースターたちに会ったら思いっきり髪を毟って屁をこいて鬱憤を晴らそう。

【A-6/草原/深夜】
【イギー@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:巻き込まれたくないが、とりあえず動く
1:ホ女に付き合ってやる。
2:広川をひでー目に遭わせてやる。
3:ジョースターたち(承太郎、ジョセフ、アヴドゥル、花京院)に会ったら髪を毟り、屁をかます。
[備考]
※参戦時期はエジプトの砂漠で承太郎たちと合流する前からです。
※『愚者』の制限については、後続の書き手の方にお任せします。
※穂乃果を犬好きだと見なしています。
※穂乃果の名前を知りません。


105 : 人為世界のエンブリヲ ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/05(火) 23:54:30 VHHn7KF.0
本田未央、十五歳。高校一年生。
大手芸能事務所である346プロダクションに所属する新人アイドル。
平和な世界、平和な時代に生きる、紛れも無い一般市民である。

「あぁー、でも良かったー。最初に会ったのが鳴上くんとエンブリヲさんで!」
「それは私の言う台詞だよ、未央」
「いえ、俺もです」

その本田未央の前には、二人の男がいた。
一人は、眼鏡をかけた男子高校生。名前は鳴上悠。
一人は、高級そうなスーツに身を包んだ外人の男性。名前はエンブリヲ。
未央を含めたこの三人は、ショッピングモール「ジュネス」にある喫茶店に腰を落ち着けていた。

「しかし、殺し合い……か」
「状況はまだ理解できないが、我々は未曾有の危機にあるのは間違いないようだ。
 悠、未央。さっきは何とかなったが、次もうまくいくとは限らない。今のうちに何か身を守れるものを用意しておこう」

悠とエンブリヲが各々の荷物を確認しながら話している。
未央も慌てて持っていた自分のバッグをひっくり返した。
さっき……未央は、つい十分ほど前のことを思い返す。


106 : 人為世界のエンブリヲ ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/05(火) 23:54:57 VHHn7KF.0
広川と名乗った男が語った、バトルロワイアルという言葉。
それは、未央もよく知るアイドル同士の競い合い……アイドルLIVEロワイヤルと、響きは同じ。
しかし何が違うのか、未央は既に知ってしまった。
暗闇の中から広川と上条という男子が言い合い、上条が殺された、らしい。
殺された、というのが未央にはいまいち確信が持てない。
アニメや漫画の中ならよくある出来事なのだが、高校生兼アイドルである未央は当然そんな血なまぐさい世界に縁がないからだ。
祖父や祖母が寿命で死ぬのとも、病気で死ぬのとも違う。
明確な殺意があり、それによって死に至らしめられる……誰かに殺される。
現実感がない。実は夢なのではないか。そうであってほしい、と思っている。
だが、未央は襲われた。
気がついたら見知らぬ夜の街に放り出され、とりあえず誰か……プロデューサーや、島村卯月、渋谷凛……同じアイドルの仲間を探そうと、歩き出した矢先の事だった。
未央とさほど歳の変わらない茶髪の男が現れ、声をかけた未央を無視して服に手をかけ引き裂こうとしてきたのだ。

「ペルソナ!」

現実感のない上条の死よりも、今まさに暴行されようとしている恐怖は圧倒的な勢いで未央を飲み込んだ。
ほとばしった悲鳴を聞きつけてそこに助けに入ってくれたのが、眼鏡を掛けたかっこいい系の男子……つまりは鳴上悠だった。
走り寄って来る悠の頭上に、大きな人影のようなものが浮かんでいた。
かと思うとその人影は、持っていた大きな剣を未央の服を脱がそうとしていた男へと振り下ろした。
寸前のところで男は未央から手を離し、後ろへ下がって攻撃を避ける。

「君、大丈夫?」
「う、うん」

悠は未央を自分の背後へと庇い、襲ってきた男もとい変質者と向かい合った。
頭上に浮かんでいた人影はいつの間にか消えていた。

「いいところで邪魔をしてくれたな」
「お前は、あの広川ってやつの言いなりになってみんなを殺すのか」
「ふん、何を当たり前のことを。殺さなければ殺されるんだ、それの何が悪い」
「だからってこんな女の子まで襲おうとするのか?」
「逆らったらこの首輪で殺されるんだ。だったら、誰を殺したって罪になんかなるものか!」

変質者は道に転がっていた拳ほどの石を拾う。あれで殴られたら人は簡単に死ぬだろう。
今までぶつけられたことのない本気の殺意に未央は萎縮したが、悠は違った。

「だったら、俺はお前を止める。このペルソナで」

そのとき、再度あの大きな人影が悠の前に現れた。

「な、なにこれ?」
「大丈夫。俺の力、ペルソナだ。
 ……抵抗するなら、今度は手加減しない。骨の一本や二本は覚悟してもらう」


107 : 人為世界のエンブリヲ ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/05(火) 23:55:15 VHHn7KF.0
驚く未央に悠が短く説明する。
悠は未央と違い、こういう状況に慣れているようだ。しかしその頬には一筋の汗が流れていた。

「マナではない。私の知らない力か……?」

変質者がぼそりとつぶやく。何と言ったか未央にはよく聞き取れなかった。

「面白い」
「来るのか……くそっ!」

手加減しないとは言っていたが、本当にやるかどうか悠も迷っていた。
しかし変質者は構わず突っ込んでくる。悠が覚悟を決めて、ペルソナというらしいお化けを変質者にけしかけようとして……

「そこまでだ!」

突如、新たな声が響き渡った。
変質者の向こう、ちょうど未央たちと挟み撃ちをするような位置に、流れるような長い金髪の男がいた。

「タスク! それ以上はさせんぞ!」
「貴様、エンブリヲか!」

金髪の男は変質者と顔見知りのようだった。
エンブリヲ、タスク。お互いそう呼びあった彼らは、未央と悠を無視して睨み合う。

「いつもいつも俺の邪魔ばかりしてくれるな、エンブリヲ」
「タスク、貴様はこんな愚かな殺し合いに乗るというのか?」
「当たり前だ! 欲しいものはなんだって力づくで手に入れるのが俺のやり方なんだよ!」
「アンジュもそうやって私から奪ったのか!」
「ハハハ、そうさ! アンジュはもう俺のものなんだよエンブリヲ! 彼女の身体はとても良かったよ!」
「貴様ァ……!」

エンブリヲが顔を歪める。二人と初対面の未央にも、彼らがどういう関係なのか何となくわかった。
悠もどう口を出したものか迷っていると、

「お前が来たなら分が悪い。ここは引くとするか」
「待て、タスク!」
「じゃあな、エンブリヲ! 次に会うときはアンジュの目の前でお前を殺してやるよ!」

悠だけでなくエンブリヲも相手にするのは分が悪いと見て、タスクは逃げていく。
悠が追おうとするが、エンブリヲが止めた。


108 : 人為世界のエンブリヲ ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/05(火) 23:55:38 VHHn7KF.0
「奴は危険だ。狡猾で残忍、特に女性に対して非道な行いをする卑劣漢だ。深追いはやめた方がいい」
「……わかりました。で、あなたは……?」
「申し遅れたな。私はエンブリヲ、当然殺し合いなどする気はないよ」

そして、未央と悠とエンブリヲは、とりあえず落ち着いて話をするためこのジュネスへとやってきたのだった。

「誰もいないね」
「殺し合いに余計な人間を関与させないためだろうな」
「でも電気や空調は通ってる。とりあえず中に入ろう。夜動き回るのは危ない」

ジュネスの中には店員や客が一人もおらず、不気味さを感じさせた。
とりあえず目に入った喫茶店へと入ると、エンブリヲが未央と悠にコーヒーを淹れてくれた。
未央は自分がやるといったが、年長の自分がやるとエンブリヲが譲らなかったのだ。
店の設備を勝手に使うのも気が引けたのでありがたかったが。

「あまり自信はないが、どうぞ飲んでみてくれ」
「ありがとうございます」

手渡されたコーヒーをゆっくりと啜る。時刻は深夜だというのに、眠気は欠片もない。
広川という男の言ったことと、上条の死、そして何よりタスクに襲われたことが未央の精神をやや麻痺させていた。
そうしている間にも、悠とエンブリヲが簡単に自己紹介しあっていた。未央も慌てて自己紹介する。

「本田未央、十五歳。346プロでアイドルやってます!」
「アイドル? りせと同じか」

驚くと思ったが、意外にも悠はあっさりとアイドルという言葉に納得した。
なんでも、同じ高校の後輩に元トップアイドルがいるらしい。
久慈川りせ、聞いたことがない。有名なアイドルなら未央はたいてい知っているはずなのだが。
素直にそう言うと、悠も驚いていた。彼の後輩は一時期はテレビにもよく出ていたというから、知らないほうが珍しいと。
エンブリヲがゆっくりと手を上げた。

「君たち、ドラゴンを見たことはあるか?」

一瞬、何を言っているのかわからなかった。
ドラゴン? ゲームの話だろうか。未央は悠と顔を見合わせる。

「ふむ……やはりな。そういうことか」
「あの、どういうことです?」
「私と君たちは、違う世界から連れて来られたということだよ」


109 : 人為世界のエンブリヲ ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/05(火) 23:55:56 VHHn7KF.0
先ほどにも増して疑問符を浮かべる未央たちに苦笑し、エンブリヲは説明を始めた。
エンブリヲが元いたところは、ドラゴンという怪物と戦争をしているのだと。
未央と悠は最初そんなことないと笑っていたが、エンブリヲは真剣な顔で続けた。

「では、君たちは今ここにいることをどう説明する?
 私は一時間前は確かに自室で就寝していた。だが気がつけばこうしてスーツを着せられ、見たこともない土地にいる」

途端に笑えなくなった。
未央だって、ついさっきまでしまむーやしぶりん……アイドルユニット・ニュージェネレーションズのメンバー二人とメールしていたはずなのだ。
それが、いつの間にか制服を着て夜の街にいる。

「さらに言うなら、悠。さっき君が使った……ペルソナ? あれを私は見たことがないが、私の言うドラゴンと荒唐無稽という点ではさほど変わらんと思うがね」
「それは……そうですね。すみません、笑ってしまって」
「いや、気にしないでくれ。正直、私だって半信半疑なんだ。だが起こったことを否定してはいけない。まず現実を受け入れなければ」

その後はじっくりと情報を交換する。
エンブリヲの世界はマナという魔法みたいな力を使う人と、ノーマと呼ばれるマナを使えない人がいる。ドラゴンが襲ってくる。
悠の世界は未央のとあまり変わりがない。が、彼も彼でテレビの中に入って冒険するというやはりどこかファンタジックな体験をしているらしい。
テレビの中にはシャドウというバケモノがいて、それと戦う力がペルソナなのだという。

「あれ、でもここってテレビの中じゃないよね?」
「そうなんだ。テレビの外でペルソナは使えないはずなんだが、ここじゃあ出せると思って、それで実際に出せた。違う世界っていうのは案外本当なのかもしれないな」
「ペルソナ……マナとは違う力、か……」

エンブリヲが悠をじっと見つめて何かを考えている。
なんとなく静かになったのが不安で、未央はわざと大声を出した。

「あぁー、でも良かったー。最初に会ったのが鳴上くんとエンブリヲさんで!」


110 : 人為世界のエンブリヲ ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/05(火) 23:56:26 VHHn7KF.0
話は冒頭へ戻る。
未央が持っていたバッグをテーブルの上にひっくり返す。
出てきたのはこれまた映画の中でしか見たことがないようなもの……武器だった。

「拳銃と……何だこれは、筒か? いや、これは……!」

本物であるらしい武器に手を出すことを躊躇した未央の代わりに、エンブリヲがその二品を調べる。
筒からは光が出た。未央はライブのときファンが振ってくれるサイリウムを連想したが、当然そんなものではない。

「驚いたな。光の剣か」
「ライトセーバーだな」

悠の言葉で未央も理解する。某星間戦争映画に出てくる有名なアレだ。
エンブリヲが軽く筒を振って空いていた椅子を光で撫でる。
すると椅子は真ん中から綺麗にぱっくりと割れた。

「大した切れ味だ。こんなものを受けたらひとたまりもないな」

光を消してエンブリヲが未央へと銃と筒を返却しようとしたが、未央はざっと後退りした。

「だが武器としては心強い。未央、君のものだ」
「あ、あの私そういうのは……ちょっと……」
「ふむ、未央は戦いなどない世界の出だったな。いや、これは私の思慮不足だ、済まない。だが、身を守るためにも武器は必要だぞ?」
「それはわかってますけど、でも、私……」
「では、私に譲ってくれるかい? その代わり、私がなんとしても君を守ってみせよう」
「えっ……?」
「か弱い女の子に戦わせるわけにはいかんからな」

エンブリヲは天使のように微笑みかけてくる。
守ってみせる。その言葉に未央は安心して、銃と筒を差し出した。
エンブリヲが銃と筒を受け取り、懐へ入れる。そのまま、未央と悠へと手を差し出してくる。

「未央、悠。どうか私に力を貸してくれ。私はこんな殺し合いを許せない。
 私自身死ぬのは怖いし、なによりアンジュ……我が最愛の人が巻き込まれている。絶対に助けねばならない」
「それは俺も同じです。仲間が三人この名簿に載ってる」
「わ、私も! しぶりんとしまむーとみくにゃん、それにプロデューサーがいる!」
「では……?」
「うん、絶対に止めよう! 殺し合いなんて!」

未央はエンブリヲの手を強く掴む。悠もそれに続く。
三人はがっちりと握手を交わした。


111 : 人為世界のエンブリヲ ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/05(火) 23:57:00 VHHn7KF.0
「では、君たちは私のものだ」
「……ふぇ? あっあひいいいいいいいいいぃぃぃっ!?」

その瞬間、未央の全身を言葉に出来ないほど強烈な快感が突き抜けた。
エンブリヲに握られている手が……とても……気持ちいい。
とても背筋を伸ばしていられない。テーブルに突っ伏す。
視界が震え、鼓動が早まる。隣では悠も似たような体勢になっていた。

「ふむ、感覚の操作は問題ないな。まったく……広川め、この私の力に干渉するとは、どういう手を使ったのやら」

エンブリヲは一人、物憂げにつぶやく。
未央が眼球だけを何とか彼に向ける……その顔は先程までの紳士然としたものと全く同じだ。
だが未央を見返す瞳は、昆虫を見るそれだった。

「悠、君のペルソナの力は実に興味深い。マナとは発生原理からして異なるようだ。久々に研究者としての血が疼くよ。
 未央、君は……さしたる力もないのだったな。だが安心したまえ、私はそんなことで君を処分したりはしない。後でじっくりと楽しもうじゃないか」
「え、えんぶ……くぁああ!」

悠がなんとか手をエンブリヲに伸ばすが、無造作に払われる。その動作だけで快感が暴走している。
エンブリヲの手が未央の首筋を撫でる。

「あっ、あっ、らめえええ!」
「怖がることはない。もっと気持ちよくしてあげるよ、未央。
 アイドル……か。もはや聞くことも見ることもないと思っていたが、わからんものだ。
 渋谷凛、島村卯月、前川みく……だったか。その娘たちも探してやらねばな」

さっきまでとは違う。エンブリヲのその言葉に、怖気だつほどの不快感しか感じない。
この男は自分だけでなく、しまむーやしぶりんまでも食い物にしようとしているのだ。

「ら……らめ……しょんな、ことぉ……!」
「おや、抵抗するか。よほど友達が大事なのだね。
 だが一度私の与える快楽に溺れてしまえば、それもすぐにどうでもよくなるよ」

エンブリヲの手が未央の服を脱がしに掛かる。
まるでさっきの、タスクという男のように……


112 : 人為世界のエンブリヲ ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/05(火) 23:57:22 VHHn7KF.0
「……ぐっ!?」
「エンブリヲォォォォォォッ!」

突然、エンブリヲがのけぞった。
その肩には木の枝……即席の手裏剣が突き立っている。
喫茶店の窓ガラスを突き破り、飛び込んできたのは若い男……というか、タスクだった。

「ええい、また貴様か!」
「死ね、エンブリヲ!」

タスクが手に持ったナイフをエンブリヲに突き刺そうとする。
だがそれよりエンブリヲが動けない悠を人質にするほうが早かった。

「おや、どうした? 私を殺さないのか?」
「卑怯な……その人を離せ!」
「ふん、このバトルロワイアルとやらの中なら私を殺せると思ったか。その思いあがり……許しがたいな!」

エンブリヲが銃を抜く。未央のバッグに入っていた拳銃だ。
エンブリヲの銃とタスクのナイフでは、どうやってもエンブリヲが勝つ。
形成は逆転した。一転して追い詰められたタスクが物陰に隠れようとするより早く、エンブリヲが引き金を引く。

「……ペ、ル……ソ……、ナ!」

弾丸は、タスクを貫く前に現れた巨大な人影、ペルソナによって叩き落とされる。

エンブリヲ、未央、タスク、三者の視線が悠へと集中する。

「その娘を、連れて……逃げ……!」
「チィッ!」

思わぬ反撃に舌打ちし、エンブリヲが銃床で悠の首筋を打つ。
昏倒した悠。エンブリヲは銃を構える。
しかしそのとき、タスクは未央と転がっていた悠のバッグを拾い上げて窓へと飛んでいた。

「ふぁああぁあ!?」
「済まない、絶対に助けに来る!」

エンブリヲではなく悠へと言葉を残し、タスクは走り去っていく。
未央はその間ずっと全身を貫く快楽に苛まれ、悠を置いて行くことに抗議することもできない。
ジュネスに残ったのは、エンブリヲと鳴上悠の二人だけ。


113 : 人為世界のエンブリヲ ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/05(火) 23:57:57 VHHn7KF.0
「……ふん、してやられたか。まあいい、私にはこれがある」

エンブリヲは銃をしまい、自分のバッグから小さな箱を取り出す。
これがエンブリヲに支給された特別な品……帝具・変身自在「ガイアファンデーション」。
どんな物にも変身できる、体積すら無視できる逸品だ。
エンブリヲはこれと自身の能力である分身を用いて一芝居打ち、未央と悠の信頼を騙し取ったのだった。
まさか本物のタスクがこんなに早く襲ってくるとは思っていなかったが。

「奴がいくら私の悪評を振りまこうと、私はいくらでも別人になることができる。何も問題はない」

エンブリヲは気絶した悠を抱き上げる。
男は趣味ではないが、ペルソナという力を理解するには鳴上悠という存在を丸裸にする必要がある。
悠一人でダメなら彼の仲間を探す。里中千枝、天城雪子という二人の少女なら趣味と実益の両方を満たせるだろう。

「アンジュ、君なら早々に死ぬということはないだろう。少しの間だけ待っていくれ。すぐに迎えに行くよ」

ペルソナ、帝具。幾多の世界を渡り歩いた超越者たるエンブリヲすらも知らない世界。
実に興味をそそられる。ぜひとも調査解析し、自分のものとしなくては。
このバトルロワイアルもそう悪いものではないと、エンブリヲは静かに笑う。




【F-7/ジュネス/深夜】
【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:健康
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン、カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2
[思考・行動]
基本方針:アンジュを手に入れる。
1:悠のペルソナを詳しく調べる。
2:アンジュを探す。
3:悠、未央の仲間に会ったら色々と楽しむ。
4:タスクを殺す。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
 分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。


【F-7/ジュネス/深夜】
【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:気絶、全身性感帯+感覚五十倍
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:仲間と合流して殺し合いをやめさせる
1:エンブリヲから逃げる
[備考]


114 : 人為世界のエンブリヲ ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/05(火) 23:58:21 VHHn7KF.0
タスクは夜の街をひた走る。
肩に担いだ少女はいつのまにやら気を失っている。暴れられるよりはマシだが。
スカートからチラチラ見える下着が気になるが、そこはグッと我慢した。

「くっ、すぐそこにエンブリヲがいるのに……!」

タスクにとって、殺し合いをやれと言われたことよりもすぐ近くにエンブリヲがいた事のほうが重要だった。
仲間がいたのでしばらく監視して様子を見るつもりだったが、エンブリヲは仲間を切り捨てようとしていた。
介入しないわけにはいかなかった。放っておけば男は殺され、女は体も心も蹂躙され壊されてしまっただろう。
あの眼鏡の青年は力を振り絞ってタスクたちを逃してくれた。
あそこで命を捨てるより、アンジュや仲間と合流してエンブリヲを倒し、青年を助ける可能性に賭けるしかない。
無論、殺し合いを認める気はない。
タスクはアンジュ……機動兵器ヴィルキスを駆る戦姫にして、彼が守ると誓ったただ一人の女性、アンジュに胸を張って会うために、絶対に人を殺さない、殺させないと決めていた。
例外はあのエンブリヲのみだ。
奴は必ず殺す。その後、広川という男を捕らえてこの殺し合いをやめさせる。
強い決意を胸に、タスクは走り去っていった。



【F-6/市街地/深夜】
【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:健康
[装備]:スペツナズナイフ×3@現実
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
1:アンジュを探す。
2:未央を安全なところに移す。
3:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
[備考]

【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:気絶、全身性感帯+感覚五十倍
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
1:こいつさっきの変態じゃ……?
[備考]


115 : Shocking Party  ◇XAN3W/4SAc(代理投下) :2015/05/05(火) 23:59:18 VHHn7KF.0
 わたしは子供の頃から『アイドル』が好きでした。
 憧れていた―――というよりも、ただ好きでした。
 テレビで歌って踊るアイドルを見て、なんだか幸せな気持ちになりました。

 高校生になってわたしはスクールアイドルになりました。
 引っ込み事案で、恥ずかしがり屋で人前に出るのが苦手なわたしだけど。
 凛ちゃんと真姫ちゃんに後押ししてもらって一歩踏み出せました。

 それから色々ありました。
 笑ったり、泣いたり、日常が輝いていました。
 どれも大切な思い出。
 
 そんなみんなと殺し合いなんて……出来るわけないよね?

 ◆


116 : Shocking Party  ◇XAN3W/4SAc(代理投下) :2015/05/05(火) 23:59:42 VHHn7KF.0
 なんだかキラキラしているまるでお城のようなところだった。
 地図に載っている芸能プロダクションだと直感しました。
 これはわたしのアイドル好きとしての勘です。
 
 そこがわたしが目覚めた時の場所でした。
 
「346プロクション……?」

 近くのそう看板に書いてありました。
 聞いたことが無い芸能プロダクションでした。
 ここまで大きなプロダクションなら見覚えがあるはずでした。

 一先ず、わたしは周囲を確認しました。
 わたしが見た限り、周りには誰もいません。

 外は夜で……真っ暗で……一人じゃ、不安です。
 誰か中にいるかもしれない……プロダクション内を探索してみよう。

 息を潜めて、抜き足差し足でゆっくり物音を極力立てないようにして。
 数時間……いや、実際には数分間くらいかな……?
 きっとそのくらいの時間、わたしは中を探索しました。
 わたしが見た限り346プロダクション内に人はいませんでした。

 そうだ。名簿……。 

「凛ちゃん、真姫ちゃん……穂乃果ちゃん、海未ちゃんにことりちゃん……」

 名簿には見知った『μ's』のメンバーの名前がありました。
 みんなを探しに行かないと……。
 そして、私がここを出ようとした時でした。



 
 ぐううううううぅぅぅぅ―――。




 低い音がわたしのおなか辺りが響きました。
 わたしのおなかの虫が鳴る音だ、これ―――。
 こんなときなのにこんな大きな音が出ました。
 
 おなかが……空いてきました。
 たしか、デイパックの中に食料があったはずです。
 出来れば、おにぎりがあったらいいな……。

「お肉だ……」

 わたしの期待とは裏腹に中身は丼でした。
 それもただの丼じゃない。
 丼の中に沢山のお肉が入ってました。
 たっぷり敷き詰められたお肉で白いご飯が見えなくて……。

 ……うーん、これじゃあ、白いごはんがちょっと可哀想だなって、思いました。

「……………」

 気付いたらわたしは右手にお箸を持ち、そのお肉の丼を左手に持っていました。
 お肉とごはんのバランスが悪いけど、お腹が空いているので食べれそうです。
 上手に調理された何か分からないお肉はわたしの食欲をそそるには十分でした。

「頂きます」

 きっとこの肉丼を完食するには。
 全てを受け入れる「寛容さ」。
 正しくペース配分する「知識」。
 お肉の群れに突っ込む「勇気」。
 食べ続ける「根気」を兼ね備えないと完食できないと思いました。

 なんだかわたしはあの広川という人に試されてる気がしました。
 デイパックの中には見たこともない容器に入った飲み物も入っていました。

「栄養剤かな?」

 一先ず、飲んでみました。
 一般的な栄養剤の味でした。
 でも、なんだか身体中に力が漲った……様な気がしました。
 
「うん、少し元気出た!」

 わたしはその肉丼を食べ続けました。
 まだ、白いごはんは見えません。


117 : Shocking Party  ◇XAN3W/4SAc(代理投下) :2015/05/05(火) 23:59:55 VHHn7KF.0
【B-7 346プロ /1日目/深夜】
【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:空腹、不安
[装備]:スペシャル肉丼@PERSONA4 the Animation
[道具]:デイパック、基本支給品、スタミナドリンク×10@アイドルマスター シンデレラガールズ
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す。
1:一先ず、肉丼を食べる。
2:喉が乾いたらスタミナドリンクを飲む。
3:食べ終わったら、音ノ木坂学院に向かう。


118 : ガールズ ドント クライ―殺しのリスト―◇fCxh.mI40k(代理投下) :2015/05/06(水) 00:02:09 2ujqvW0E0
「バトルロワイアル……あの広川っての中々おもしれー事やってくれるじゃねーか」

 闇夜を闊歩するは凄惨な笑みを浮かべる男、その名は浦上。
 人を殺す事をなんとも思わない、いやむしろ喜びすら感じる彼はこの殺し合いの場に降り立ってすぐ、自身の方針を確定させた。
 
―皆殺しだ! 一人でも多くの人間を殺して殺して殺しつくす! ついでに女は犯して殺す―

 それだけだった。
 最も確定させるも何も、彼の人生は『犯す』と『殺す』の二つだけで完結させられる物なのだから是非も無い。
 そしてその彼の生き様はこの殺し合いの場において、最高に適した物でもあった。

「最高だぜ。女は犯してからこのナイフで……、男はこの銃で……うおおおっっっ!!! 滾ってきたー」

 興奮を隠し切れない。
 腰には肉厚のナイフを差し、バッグには大口径ショットガンが収められている。
 この二つはともに高い殺傷能力を秘めている。
 恐らく広川は彼の殺害能力を評価し、凄惨な地獄絵図を期待していることも十分に分かる。

「言いなりは癪だが、こんなおもしれえ事やらないわけにはいかねえよな」

 浦上は周囲を散策する。
 するとすぐに標的は見つかった。
 それは制服を今時に着崩した一人の少女だ。
 顔立ちは可愛く、それでいてスタイルが良い、いわゆる女子力の高い女子高生である。
 そんな彼女がベンチに座り、照明の下で塞ぎこんでいたのだ。殺し合いの恐怖に絶望しているのだありありと分かる。
 そしてその無防備な姿は浦上からしたら、格好の獲物だった。
 あれだけの美少女が一人でいるのであれば、仮にここが日常の最中でも恐らくは犯していただろう。
 つまりここから浦上が行うことは、日常の延長に過ぎない。
 ただナイフで脅して、押し倒してその純潔を奪う。
 そして陵辱の限りを尽くしてから、その腹を割いて赤い華を咲かせる。
 たったそれだけだ。
 浦上に動揺は無い。
 散歩道を歩くように、気軽な歩調で少女へと近づいていく。

「えっ!? …………誰?」

 少女との距離は約5メートル。そこで少女は浦上に気付く。
 自然と浦上と少女の視線が重なる。

「あの……一体なんですか?」

 少女は怯えと震えが混ざったままの声で浦上へと声を掛けた。
 そしてその声に、浦上は絶頂に近い興奮を覚えた。

―うおおっ! 何こいつ。近づくと余計に可愛いじゃねーか。それにあの少し開いた胸元……サイコーだぜ!―

 浦上はそんな感情を覚えながら、ナイフを抜く。
 支給された肉厚のナイフ。骨すらも両断出来る強力な武器だ。

「これからお前、殺すからさ。まあ、せっかくだし、殺す前に女の悦びってやつ? は感じられると思うぜ。
まあ一緒に楽しもうや」
「うっ、嘘だよね」
「いや、残念だがマジだ!」

 それだけ言うと、更に歩を早めて少女へと近づいていった。
 少女は震えながら何か剣の柄のようなものを取り出したのが分かるが、浦上はそれを意にも止めない。
 過去、抵抗する女は何人か経験があった。
 しかし所詮は怯えた女が長物を振り回しても、その重さに身体がついていかないのだ。
 つまり、仮に目の前の少女が仕込み刀のようなものを支給されていたとして、それが浦上の障害になる事は無い。
 振り回して上体が泳いだ所で一気に詰め寄って押し倒す。
 それだけだ。ましてや相手が構えているものには肝心の刀身すら確認出来ない。
 これでは浦上にとってはただのネギを背負った鴨と同じだ。
 むしろ半端な抵抗があった方が、その後は余計に楽しめる。
 浦上にとって至高の時間は目の前にあった。

「へっへっへ、じゃ早速……」
「いやああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 互いの距離は約1メートル。
 そこで異変が起こった。

「がっ!?」
 突如として、浦上は首から大量の鮮血を流して地面へと倒れ伏した。
 刹那の後に、浦上は少女を押し倒すはずだった。
 それが何故か、自身が首から大量の血を流して倒れている。
 浦上にとって全く理解出来ない事だった。
 ただ、最後に理解したのは、少女の手に光の刃があった事。
 それだけだ。



***********


119 : ガールズ ドント クライ―殺しのリスト―◇fCxh.mI40k(代理投下) :2015/05/06(水) 00:02:27 2ujqvW0E0
 数十分前。
 由比ヶ浜結衣はベンチに座り、途方に暮れていた。

「ヒッキー……ゆきのん……私どうしたら……」

 先ほどの広川による、バトルロワイアルという言葉は結衣の頭では消化しきれる物ではなかった。
 ただ、恐怖の感情が心の中で渦を巻いている。
 けれど、それでも結衣はバッグの中を確認は行った。
 せめて何か使えるものは無いか? ヒッキーかゆきのんを探すのに役立つ物は……
 そんな気持ちでバッグを漁る。
 すると、中から出たのは剣の柄の様な物だ。

「何これ……『フォトンソード』? スイッチがあるけど……きゃっ!」

 突如として光の剣が出てきたのだ。
 すぐにスイッチを切ると、元の柄に戻る。

―何だか、SF映画にありそうだけど……―

 そんな感想を持ちながらもそばに柄を置き、更に何かあるか確認する。
 すると、一枚の興味深い資料があった。

『人間を殺害した経験を持つ者の顔写真及び、名前一覧』

 そんな紙が入っていたのだった。
 そしてその資料に記された名前の量は結衣を更に恐怖させた。

―嘘? こんなにいるの……人殺しがこんなに……?―

 そこにあった名前の数は結衣の想像をはるかに超えていた。

 男女問わずにDIO アンジュ アカメ タツミ ウェイブ クロメ セリュー・ユビキタス 
 エスデス ロイ・マスタング 足立透 後藤 浦上 キリト 槙島聖護…………
 
 ざっと数えるだけで20人を超える数の顔と名前がそこにはあった。

「こんなに人殺しがいるなんて……ヒッキーやゆきのんもこれじゃ殺されちゃうよ……」

 結衣は絶望に顔を俯かせる。

―どうしよう……どうしたら…………私……―

 そして一通り逡巡を続けるうちに、自身に近づく男の気配に気が付いた。

「えっ!? …………誰?」

 顔を見て、そして絶望する。
 相手は浦上。殺人者リストに名前があった男だった。

―どうしよう…………駄目、足が震えて走れない。逃げられない……―

 結衣の足はガクガクに震えていた。
 何とか立ち上がるが、それが精一杯。歩くことさえ困難だった。
 しかし浦上は自身の震えを無視するように近づいてくる。

「あの……一体なんですか?」

 震える声で結衣は問いかける。
 あの殺人者リストが虚偽であれば、浦上は悪人ということは無い。
 けれど現実は残酷で-

「これからお前、殺すからさ。まあ、せっかくだし、殺す前に女の悦びってやつ? は感じられると思うぜ。
まあ一緒に楽しもうや」
「うっ、嘘だよね」
「いや、残念だがマジだ!」

 -浦上は冷血な言葉を吐いたのだった。
 つまり名簿は真実であり、浦上は自身を殺すつもりなのである。

―死にたくないっ!― 

 必死になってバッグからフォトンソードを取り出すが、浦上はそれを無視し、むしろ歩調を速めて近づいてくる。

―どうして、どうしてどうして? 何でこんなことに? 嫌だよ。死にたくない。ヒッキー助けて、嫌だ死にたくない。
 そうだ、この武器で殺せば? 殺さなくちゃ、死にたくない、殺さなくちゃ、殺さなくちゃ殺さなくちゃ!!!!!―

 結衣の頭はパニックを起こしている。
 思考は恐怖が占拠しグチャグチャのまま、恐怖と殺意がループを続ける。
 そして―――――――――
 *
 *
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 ―――――――――現在に至る。


120 : ガールズ ドント クライ―殺しのリスト―◇fCxh.mI40k(代理投下) :2015/05/06(水) 00:02:47 2ujqvW0E0
「うっ、がはっおえええええっっっ!!!」

 結衣は嘔吐を繰り返した。
 目の前には先ほど殺した浦上の遺体が横たわっている。
 首からは大量の血を流しながら、その眼だけは結衣を睨みつけ、そのまま死んでいたのだ。

「私、私、私、うわあああぁぁぁぁ!!!!!」

 そして結衣は涙を流す。
 殺すつもりじゃなかった。
 ただ、支給された光の剣を振り回しただけだ。
 けどその剣は予想以上に軽く、そして想像以上の切れ味だった。
 だから、浦上の予測をはるかに上回る速度と軌道で浦上の頚動脈を両断するに至ったのだ。
 完全な事故だ。
 だがそう弁解しても意味は無い。
 自分の振った剣が男を殺した。
 その事実は揺るぐ事がない。
 そしてそれは結衣を苛む。

「殺す気なんて、……だけど……」

―私もあのリストの仲間入りなの? 人殺しの? こんな私じゃヒッキーとなんて……私……―

 絶望が結衣を支配する。
 そしてその結衣を休ませることなく、新たな男が目の前に現れた。

「悲鳴が聞こえたけど……」

 それは黒ずくめの男だった。



**************

 数十分前。
 キリトは、月夜の中で立ち尽くしていた。

「ログアウトボタンは……無いか。…………クソッ! どうなってんだよ!!!」

 苛立ちは隠せない。
 SAOの地獄のような世界から脱出を果たし、かつてのラフィン・コフィンとの因縁も清算し、
 ようやく普通の暮らしが出来るはずだった。 
 だがその矢先にこれである。
 ご丁寧に自身への説明書きには

『貴方の体はこちらで管理しています。HPがゼロになった場合、あなたの身体は破壊されます。
 ただしHPがゼロにならない限り貴方の体の安全は保証されます。全力でバトルロワイアルをお楽しみ下さい』

 という説明文が記されていた。

「だけどどうなってんだコレ。アバターはALOだけど……」

 キリトにはもう一つの疑問があった。
 自身のアバターはアルヴヘイム・オンラインで使用しているものだった。
 スプリガンのものであり、羽根もある。
 しかしスキルを確認すると明らかな異常があった。

「これ……SAOの………どうして?」

 スキルには『二刀流』が記されている。
 他のスキルも基本はALOでのスキルだが、SAOでのスキルもそのまま残されていた。
 アイテムや装備は無いが、ステータス値も全てがリセット前にまで戻されている。

「サービスは良いけど……これなら何とか……」

 キリトはこのステータスにはかなり安心出来た。
 即死が回避出来るのは心強い。
 そしてその後、更に武器を確認する。
 だがその武器にキリトは微妙な顔になった。

「剣は……一本だけなのね。それに刀か………もう少し重量がほしいな」

 武器で刀剣の類は一つのみだった。
 二刀流が実装されながら、武器が刀一本なのはキリトにとっては非常に残念なことだ。

「けど無いよりはマシかな。えっと……それで他には……」

 他にも何か無いか、確認を行おうとするがその前にキリトの耳にある声が響いた。
 それには涙が混じった少女の声だ。

「行こう!」

 少女の声に導かれ、キリトはすぐに歩き出した。



***********************


121 : ガールズ ドント クライ―殺しのリスト―◇fCxh.mI40k(代理投下) :2015/05/06(水) 00:04:13 2ujqvW0E0
再度現在。

 由比ヶ浜結衣は非常に怯えていた。

―何この人。名前あったよ確か。この人もさっきと同じ人殺し? いや、もう絶対嫌!!!―

「悲鳴聞こえたけど……これ君が……」
「いやあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 もはや何度目か分からない絶叫。
 そして結衣は自分のものと、たまたま近くに落ちていた浦上のデイバッグを持ってキリトから距離を取る。
 更にフォトンソードの柄をポケットに収め、浦上のデイバッグからはみ出ていたショットガンを取り出す。

「ちっ、近寄らないで!!!」

 恐慌状態のまま、ショットガンの銃口をキリトへと向けた。
 だがこのとき、結衣の頭の中は恐慌の中にあって酷く冷静でもあった。
 一度浦上を殺した事実が、ある種の常識のリミッターを外したのだ。
 故に、銃口を向けながらも狙いはしっかりとつけられた。

「なっ、ちょっと待てって……」
「だから近寄らないでっ!」

 キリトが一歩踏み込んだだけで結衣は引き金を弾いた。
 そしてそれはキリトの左腕に辺り、その腕を肘から一気に奪い去った。

「っ!」

 しかしキリトは痛みを感じることは無かった。
 アバターであるキリトにはペインアブソーバーの効果により、軽い衝撃が走った程度の認識しかない。
 欠損部位も『ステータス異常』扱いなので数分もすれば元通りだろう。
 HPは四割ほど削られたが、それも大したことではなかった。
 だがキリトにはそれ以上に予想外なことがあった。

―予測線が出ない!?―

 これがキリトが相手の着弾を許した最大の理由だった。
 GGOでの経験から、狙撃銃の初弾以外は予測線が来るのが当たり前だ。
 だからその予測線を頼れば相手の銃を回避することも、容易なはずだった。
 それ故に、この着弾とダメージは完全にキリトの想像の外の出来事だったのだ。

―大丈夫。身体は動くな―

 キリトは左腕を無くしたまま、相手とのコミュニケーションを試みる。
 だけどキリトが結衣から意識を外した一瞬の隙、その隙に結衣はキリトから更に大きく距離を取った。

―何あいつ! 腕が吹き飛んだのに、血が出てない。それに腕も結晶みたいになって消えたし……化け物!?―

 そして結衣の心には新たな恐怖が生まれだす。
 それは目の前の男が人間じゃないのかという疑問から出る恐怖。
 その恐怖に結衣は少しずつ距離を取るしかなかった。
 本当であれば背中を見せて逃げ出したい。
 だけど、そうすればその直後に背中を斬られる。
 そんな確信が結衣にはあった。
 だから、恐怖の崖に立ちながらつま先で必死にこらえている。

「俺はこんな殺し合いに乗る気は無い。だから……」
「ふざけないでっ! 人殺した事があるんでしょ。そんな人を信用出来ないっ!!!」

 キリトの言葉を結衣は跳ね返す。
 絶対に信じない。あらゆる恐怖から身を守るため、心に鉄の壁を張るかのようにして、キリトを拒む。
 だが、その言葉はキリトの心にも過大な動揺を与えた。

―知っている? 俺がSAOでやった事を……まさか彼女もSAOサバイバー……あの場に居たのか?―

 キリトは思わず立ち止まる。相手の言葉による動揺で掛ける言葉が見つからなかった。
 そしてそんなキリトを結衣は必死で見つめ続ける。


122 : ガールズ ドント クライ―殺しのリスト―◇fCxh.mI40k(代理投下) :2015/05/06(水) 00:05:16 2ujqvW0E0
「はぁ、はぁ、はぁ」

 息も乱れ、下半身により失禁という自体まで引き起こしていた。
 しかし結衣は自身の異常にも気付かず、ただキリトに向かって銃を構え続ける。
 そんなこう着状態のまま、言葉も無くただ数分が経過する。
 部位欠損のステータス異常も回復し、腕が元に戻るのだが、それによりこう着状態も破壊される。

「なっ? 腕が生える? ばっ、ばっ、化け物ぉぉぉぉっっっっ!!!」

 異常事態に結衣は再度ショットガンを撃つ。
 衝撃と恐怖で更に足元の水たまりは広がりを見せるが、それにすら結衣は気付いていなかった。
 しかし今後はキリトは地面に倒れこむようにして、その銃弾を避ける。

―クソッ! 近寄れない!―

 予測線が見えない以上、キリトは距離を詰める手段は無かった。
 彼女の言葉による動揺も少なからずあったのだろう。
 キリトは倒れたまま転がるようにして、結衣から距離を開くしかなかった。
 そしてキリトが距離を空けるのと同時に、結衣もまた背を向けて逃げ出した。
 途中で足がもつれ、転びながらも必死で足を動かしてただこの場から逃げるべく必死だった。
 顔は涙にぬれ、首元は嘔吐の跡で汚れていた。
 スカートはいつの間にか、失禁の後で惨めなほどに染みがついている。
 お洒落な美少女由比ヶ浜結衣の姿はここでは欠片も存在しない。
 一人の少女は、ボロボロになりながら夜の闇の駆けた。


【浦上@寄生獣 セイの確率 死亡】
 

【D-6 北部 /1日目/深夜】


【由比ヶ浜結衣@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:精神的疲労大 精神的にかなり不安定 上半身が嘔吐、下半身が失禁で酷く汚れている
[装備]:MPS AA-12(6/8)@寄生獣 セイの確率
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、MPS AA-12の予備弾装×5 フォトンソード@ソードアート オンライン
ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿
[思考]
基本:怖い 死にたくない
1:比企谷八幡と雪ノ下雪乃に会いたい
2:殺人者リストに名前が載っている人物は見つけたら撃つ

[備考]
ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿は、殺人歴がある人物全員の顔と名前が載っています。
それ以外の情報(殺人数や殺人経緯など)は一切載っていません。


  
D-6 南部 /1日目/深夜】


【キリト@ソードアート オンライン】
[状態]:HP残り8割程度
[装備]:一斬必殺村雨@アカメが斬る!
[道具]:デイパック 基本支給品、未確認支給品0〜2(刀剣類ではない)
[思考]
基本:このゲームからの生還
1:状況を整理する
2:仲間を探す
3:剣をもう一本ほしい。

[備考]
名簿を見ていません
登場時期はキャリバー編直前。アバターはALOのスプリガンの物。
ステータスはリセット前でスキルはSAOの物も使用可能(二刀流など)
生身の肉体は主催が管理しており、HPゼロになったら殺される状態です。
四肢欠損などのダメージは数分で回復しますが、HPは一定時間の睡眠か回復アイテム以外では回復しません。
GGOのスキル(銃弾に対する予測線など)はありません。


123 : 猫にはご用心 ◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/06(水) 00:06:03 2ujqvW0E0
「まいったにゃあ……」

突如連れてこられて、訳も分からないまま殺し合いをしろと言われて、男の子の首が吹き飛んだ。
映画かテレビ番組かと疑ったが、カメラはどこにもない。
首にはひんやりとした首輪が巻かれている。
名簿を確認したところ、真姫ちゃん、かよちん、先輩たちの名前が見つかった。
地図を見るとなぜか音ノ木坂学院が。
……考えてもしょうがない。まずは支給品を確認しよう。
まず出てきたのはどこかで見たようなお菓子。
次に出てきたのは拳銃。当たりの部類に入るのだろうが、自分に扱えるものではない。
そして最後に出てきたのは――

「にゃっ!?」

自分の声か、それとも出てきたものの声か。

「ね、ね、猫!?」

一体どうなっているのか、と考える間もなく。

「へくしっ!へくしっ!へくしっ!へくしっ!」

くしゃみと鼻水が止まらない。ああ、目もかゆくなってきた。
あわててデイパックの中に猫を戻す。

「うう……なんで、へくしっ、凛がこんな目に……」


124 : 猫にはご用心 ◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/06(水) 00:06:19 2ujqvW0E0
「お姉さん、大丈夫ですか?」

「ひっ!へくしっ!」

話しかけてきたのは可愛い男の子。……こんな小さな子も参加させられてるんだ。

「ひ、1人で、へくしっ、大丈夫かにゃ……?」

「いえ、僕は大丈夫です」

「あ、へくしっ、あぶない、へくしっ、にゃ……。凛と一緒に、へくしっ、いるのが、へくしっ、いいにゃ……へくしっ」

「いいんですか?」

「へくしっ、し、心配ないにゃ、へくしっ。凛は、へくしっ、結構運動神経は、へくしっ、いいんだにゃ……」

「足手まといにならなければいいんですが……」

「そんなこと、へくしっ、心配することじゃ、へくしっ、ないにゃ……へくしっ」

こんな小さな男の子が1人でいたら、いつ危ない目に遭うか分からない。
もちろん自分も頼りになるとはとても言えないが、1人でいるよりはずっとましだろう。
……それにしても小さいのに礼儀正しいなあ……。

「へくしっ、お名前は、へくしっ、なんて、へくしっ、いうにゃ?」

「セリム。セリム・ブラッドレイです」

「凛の名前は、へくしっ、星空凛って、へくしっ、いうにゃ、へくしっ」

「リンさん、よろしくおねがいします」

「よ、へくしっ、よろしく、へくしっ、にゃ。ところで、へくしっ、知り合いはだれか、へくしっ、いるのかにゃ?」

「ええ、エドワード・エルリックと、ロイ・マスタング、キング・ブラッドレイとエンヴィー、それとキンブリーです」

「へくしっ、が、外国人、へくしっ、みたいにゃ。どこの、へくしっ、国からきたにゃ、へくしっ」

「アメストリスです」

「へえ、へくしっ。そんな国、へくしっ、あったかにゃあ、へくしっ」

「それなりに大国だとは思うのですが……。きっと貴方は遠い国の出身なのですね」

「へくしっ、きっと、へくしっ、そうにゃ」

「これからどうします?」

「凛は、へくしっ、音乃木坂学院に、へくしっ、行くにゃ、へくしっ。
凛の知り合いも、へくしっ、きっとそこに、へくしっ、行くとおもうにゃ」

「分かりました。一緒にお供しますよ」

色々と気になることはあるものの、今は考えないことにした。
とにかく、この男の子を守ってあげなければ。
星空凛は鼻水と涙で顔をぐずぐずにしながらそう思うのだった。


125 : 猫にはご用心 ◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/06(水) 00:06:57 2ujqvW0E0
セリム・ブラッドレイはこの場所がどこなのか見当をつけていた。
自分は国土錬成陣から外に出ることが出来ない。ここはセントラルにあるのではないか。
あのヒロカワという男は父上の協力者だろう。
さもなければ、自分やラース、エンヴィーといったホムンクルスたちを集めることなど出来るはずがない。
それに、あの男は錬金術を自由に制御できると話していた。
そんなことが出来るのは父上だけだ。
自分に何の説明もないのが気になるが、父上のことだ。
血の紋のようなものを刻ませるため、自分たちを使ったのではないだろうか。
しかし気になるのは、エドワード・エルリック、ロイ・マスタングといった人柱候補が参加しているということだ。
人柱候補が死んでしまっては、父上の計画に差し障りがあるのではないか。
父上からの指示がない以上、詳しいことは分からない。
しかし、殺せと言われている以上、殺さざるをえないであろう。
それはラースやエンヴィーも例外ではない。
とりあえずはこの人間についていくことにしよう。
今すぐ殺してしまってもいいのだが、知り合いと合流するというのならば都合が良い。

セリムが「プライド」の表情に変わったことに星空凛が気付くことはなかった。


【B-5/一日目/深夜】

【星空凛@ラブライブ!】
[状態]:アレルギー症状(軽度)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、カマクラ@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
黒妻綿流の拳銃@とある科学の超電磁砲、うんまい棒@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:皆と一緒に帰りたいにゃ……。
1:セリムを守ってあげる。
2:μ'sのメンバーを探す。
3:音ノ木坂学院に向かう。
[備考]
*参戦時期はアニメ第二期終了後。
*アレルギー症状は時間が経過すれば治まります。


【セリム・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:参加者の排除。
1:無力なふりをする。
2:使えそうな人間は利用。
[備考]
*参戦時期はキンブリーを取り込む以前。
*会場がセントラルにあるのではないかと考えています。
*賢者の石の残量に関わらず、首輪の爆発によって死亡します。


126 : 悲しみを斬る◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/06(水) 00:07:49 2ujqvW0E0
【死んだ人間は生き返らない】


【最後の一人になれば願いが叶う】


【真実は――】







殺し合いの名目を撃たれようが人生に不条理は存在しない。
普段から生命を死線に浸らせている彼女にとって殺し合いの強要は苦にならないのだ。
片足程度ではなく、その身総てを闇に放り込み足掻いてきた少女、アカメ。

幼い頃から暗殺者としての極意を叩き込まれた彼女はこの会場でも違和感なく行動するだろう。
殺人が何だ、生きるためなら何だってする。
願いが何だ、死んだ人間は生き返らない。死者としての存命など所詮摩耶香しだ。

方針など改めて考える必要は存在せず。

悪を殺す。その一点のみで充分だった。

名簿を見るとタツミの名前がある。
同じナイトレイドの仲間であり戦線を共にする大切な存在。
彼との合流を目指すべきだ、まだ甘いところがある彼は運が悪ければ裏をかかれる可能性がある。
大切な仲間だ。もし名簿どおりの人選ならば自分が守るしかない。
無論、彼も強く心配は杞憂に終わる可能性もある。

エスデス、セリュー・ユビキタス、ウェイブ。
皇帝もとい大臣のお膝元――でもないのだが帝都が誇る特殊警察イェーガーズ。
正義の名を振り翳し悪の疑いがある者を確証を得ずに殺す闇の正義執行組織。
斬るべき対象であり衝突は何度も発生している因縁の相手である。
気になることと言えば死んだはずのセリュー・ユビキタスの名前があることぐらいか。

クロメ。
一言で表すならば妹。
共に暗殺組織に投げ込まれ――今はいい。
思い出にふける時間ではなく今は状況の整理と把握に務めるべきだ。

バッグはその見た目から考えられない程の物が混入している。
所謂ぶっ飛んだ技術力のような物だろうか。帝具にも技術力を跳躍させる代物があった。
世の中は未知で溢れている、そうでも想わなければ納得出来る話ではない。

出て来た武器は剣、明らかにバッグよりも長い。
持ち手を握り数回振るう。村雨よりは重いが問題はない。
刀よりもサーベルや剣等の表現が似合うそれをバッグに仕舞うと空気の違和感に気付く。
元々村雨が広川に没収され拉致され巻き込まれ強要され……違和感だらけのこの会場。
これ以上何を追加するのか、それとも混沌を極めていれば一つや二つの怪異など問題にもならないのか。

暗闇に瞳を流し。
普段通りに、獲物を殺すなら闇の中。
眠る真実も闇の中。悟られなければ真実は闇の中。
闇にこの瞳は慣れ過ぎている。この程度の暗さは光も影も生まない。
奥に映るは一人の少女、背丈は自分とそう変わらない、俯いていて表情が見えない。
取るべき選択肢は接触。情報を集めに徹するべきだ。

危険人物なら殺せば問題ない。唯それだけ。


127 : 悲しみを斬る◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/06(水) 00:08:11 2ujqvW0E0
「……何をしているの」

足音を無闇に立てずに近付き出来るだけ優しい口調で問いかける。
初手から威圧を放っては普通の少女ならば恐怖し口が回らなくなる。
出来るだけ、出来るだけ優しく――優しく。


「何してると思う? 教えてよ」


「質問しているのはこっち」


「じゃあ言うわ。何もしてない。強いて言うならそうね……何もしてない、かな」


制服の少女は吐き捨てるように言い放つと気取ったように道化ぶる。
何を見つめているか分からない焦点の定まらない瞳には若干の潤いがあった。
つまりこの少女は以前まで泣いていたと推測可能であり今は落ち着いたところだろうか。
現実を受け入れられなくて悪振っているならば可愛い話だがこの少女は違う。


(見えている……自分の状況と現状を混乱せずに見えている瞳をしてる)


焦点が定まっていないように見えたが違う。見えていないのは未来だ。
悲しみを背負った瞳は裏の世界で何度も見てきた、だから分かる。

あの瞳は未来が見えていない絶望の底に堕ちた人間が持つ諦めの瞳だ。

「黙ってないで反応しなさいよ」

「うるさい」

「――へぇ」

上から発言を繰り返す制服の少女に対しアカメは冷たくあしらった。
構っている暇などない。あるかもしれないが時間を溝に捨てるつもりはない。
救えるモノは総て救いたいが救われる気がないモノを救うつもりはないのだ。

「アンタさ、電気を操れる人間って信じる?」

「質問に答えない奴に返すと思う?」

「っそう!」

怒りに触れたのか制服の少女は声を短く荒げると足を振り上げ大地に落とす。
その瞬間に暗闇を照らすように一筋の雷光が空気を駆けた。
現象に驚くアカメだが水や氷を扱う人間を知っている、今更電気で退く理由などない。
バッグから剣を取り出し構えを取る。

「そうやって人を殺すつもり?」

「……馬鹿じゃないの」

「今何て――ッ!」

少女が呟いた一声は態度とは真逆の等身大其の物。しかし遮るは走る雷光。
迫る雷光を剣で受け流そうと斜めに構えるアカメ。
剣と雷光が接触する瞬間に手を放し再度握り込みその場を蹴り上げ石を飛ばす。
類まれなる動体視力で雷光を見てから反応する荒業を成功させたが実質連続で行うことは不可能である。
初見なら確実に失敗していた。次に成功する保証など無い。


128 : 悲しみを斬る◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/06(水) 00:08:37 2ujqvW0E0
制服の少女は迫る石に対し軽く右腕を振るった。
すると雷光ではなく大量の砂塵が宙を舞い右腕の後を辿るように壁が出来上がった。
砂塵壁は石を簡単に防ぐ。少女が能力を解除したのか砂塵壁は早く崩れ落ちていた。

「避けるって……ほんと何なの? 能力者って訳でもないし――身体弄ってる?」

「……」

「そっか……ごめん。私もこんなこと言うキャラじゃない。でも……アイツはもういない」

能力者なる単語に覚えはないが身体を弄ってる、と言われれば断る真実は存在しない。
最も答える前に少女は謝罪を行った。先程から情緒不安定な様子が伺える。
呟いた一言から知り合いが死んだのだろう。
しかし道中に死体は見えなかった。血の匂いもしていない。
ならば何処で死んだのか。遠くの可能性もあるが目が覚めてから時間はまだ経過していない。
ならば、ならばの話である。既に死んでいる人物に焦点を当てるとなると――。

「上条当麻――首輪の爆発で死んだ男」

一人しか存在しない。
広川曰く異能を殺す幻想殺しを右腕に宿した青年。
彼の叫ぶ声は正義のヒーローのように熱くタツミを連想させていた。
惹き込まれるような真っ直ぐさを持った青年だったのだろう。

タツミと同じように周囲に与える影響が大きかった存在かもしれない。
絶望の淵に立たされようが諦めることはなく小さな希望の光を必ず掴み取る精神を持った英雄。
仮にそうならば死んでしまった代償は大きい「あんた今何て言った」だろう。


「っ!」


心臓が止まる。心が冷える。空気が音を殺した。


アカメの発言を聞いた制服の少女――御坂美琴は一言言い放つ。
その瞳は大きく開かれ一点だけを虚しく見つめており視線が在った存在総てを呑み込んでしまう程に。
空気は彼女に合わせるように音を殺し、張り詰め、尖らせていた。

アカメは察する。地雷だ。少女の中に埋まっていた地雷を踏んでしまったと。
上条当麻という存在は彼女にとって言葉には表せない程の存在だったのだろう。

「上条当麻。聞こえないのならもう一度言う」

だからと言って気遣う必要も道理もない。
死者が受け入れられないのは弱者の発想である。
仲間や大切な人が死ぬのは悲しい。アカメも涙を流す。
だが受け入れられずに何時迄も引き摺っている人間はただの弱者だ。
前を見ろ、お前の瞳は背中に付いている訳じゃない。希望はお前に残っている。


129 : 悲しみを斬る◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/06(水) 00:09:02 2ujqvW0E0
この少女が争いとは無縁の世界にいたならば。
こんな言葉を浴びせず保護或いは同行していただろう。
だが電気を操る力――帝具を持った少女が争いと無縁なはずがない。
戦線に身を置く存在ならば死を受け入れろ。



「何言ってんのよ……」

「死んだ人間の名前を言っただけ。もう一度……上条――」





「何も知らないあんたが何言ってんのよ……何言ってんのよッ!!」





怒号と共に放たれる雷撃は放射するように数多の閃光となって拡散する雷光也。
順番を無視した黒ひげ危機一発のように――そんな軽口を叩ける状況ではない。
一足早く飛び退いていたアカメは雷光に当たること無く御坂から距離をとった。
数秒前に彼女が立っていた大地は雷光により黒く焦げていた。

「あんたがアイツの何を知っているのよッ!」

「知らない。私は上条当麻なんて――ッ!」

迫る雷光を避けては避けて。止まること無く大地を駆けるアカメ。
着地の度にジリジリと砂塵が宙を舞う中、この会場は浮遊しているらしく暗闇の底が見える。
落ちれば死ぬ、雷光が当たれば死ぬ。

「死んだ人間は生き返らない」

「――ッァ!!」

「それでもそうやって暴れて人間を殺すなら、斬る」

「願いが叶う……アイツが生き返る……私は、私は……っていない……?」

アカメが言った事実など御坂は当たり前のように理解している。
死んだ人間は生き返らない。超能力でも有り得ない、有ってはいけない禁忌の神秘。
クローンなら話は別だがそれは所詮紛い物の生命である。
複製を批難するつもりはないが上条当麻がクローンで生き返っても彼女は受け入れることが出来ないだろう。
気づけばアカメは御坂から逃げていた。雷撃と剣では分が悪く懸命な判断だろう。



死んだ人間は生き返らない。

「わかってる」

願いを一つだけ叶える。

「信じていいの」

最後の一人に対する褒美。

「誰かを殺す……一方通行と変わらない」

上条当麻は死んだ。

「……」

もうこの世にいない。

「……」

もう二度と出会えない。

「……っ」

誰も救ってくれない。

「……」

名前を呼んでもらえない。

「……あ」




他の参加者を全員殺せば願いが叶う――上条当麻が生き返る。




「どうすればいいって言うのよ……っ」




溢れ出る涙を拭う救世主は御坂美琴の隣にいない。


130 : 悲しみを斬る◇BEQBTq4Ltk(代理投下) :2015/05/06(水) 00:09:24 2ujqvW0E0
【G-2/一日目/深夜】


【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(極小)
[装備]:美樹さやかの剣@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:悪を斬る。
1:電気女から逃げる。
2:タツミとの合流を目指す。
3:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
4:村雨を取り戻したい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴を雷を扱う帝具使いと思っています。


【美樹さやかの剣@魔法少女まどか☆マギカ】
 その名のとおり魔法少女状態のさやかが使う剣。
 極僅かではあるが魔力が込められている。


【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:揺れる天秤のように情緒不安定、深い悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:どうすればいいか分からない。
1:……。
[備考]
※参戦時期は不明。
※名簿を確認しておりません。


131 : こうして彼らのまちがった殺し合いが始まる。 ◇w9XRhrM3HU :2015/05/06(水) 00:11:20 2ujqvW0E0
「そうか……比企谷の知り合いはそんなに多いのか」
「まあ、な」

俺、比企谷八幡はデバイスを弄りながら歩いていた。
時刻は深夜の真っ只中。学校の帰りというには、あまりのも遅すぎる。
ここが殺し合いという場でなければ、警官に補導されていたかもしれない。

「で、お前の知り合いは……」
「ああ、後藤はやばい。俺の知っている後藤なら殺し合いに乗ると思う。
 田村はどう出るか分からないが、警戒しておいた方が良い。
 浦上も多分、あの連続殺人鬼のあいつかもしれない」
「お前の知り合い、危険人物多すぎだろ……。ていうか、連続殺人鬼と知り合いの高校生とか怖すぎるだろ」

デバイスに表示された三つの名前を見ながら、俺は溜息混じりに呟いた。 
殺し合いが始まり、真っ先に出会えたのは泉新一という歳は俺とそう変わらない男子高生。
殺し合いには乗っていないということで、互いに行動しつつ知り合いについて話してみたが、
ここまで危険人物と知り合いと言われると、少し勘繰ってしまう。

「いや浦上なら、比企谷も知らないか? ニュースでも流れてたし」
「? ちょっと見たことがないな」
「……そうか」

正確には泉の知り合いは二人で、内一人はニュースでの有名人らしいが俺に心当たりはなかった。
まあ、あまりニュースをこまめにチェックしている訳でもないし俺が知らないだけだろう。

「動かないで」

凛とした女性の声が響いてきた。
殺し合いに恐れるでもなく、冷静で淡々と静止を命じられる。

「待ってくれ。俺は殺し合いに乗る気はない」
「私も同じよ。だけど、初対面の人間をそう簡単には信用できないわ」

両手を挙げながら、歩み寄ろうとする泉を女は牽制するかのように口を開く。
月明かりが少女を照らし、その容貌が露になる。
黒い制服のような服に身を包んだ、ツインテールが特徴的な少女だった。
だが、こちらへ向けている拳銃が、ただの少女ではない事を示している。

「比企谷、くん?」
「雪ノ下……?」

新一と少女の横で、俺は自分の知り合いの姿を見つけた。
黒いストレートの長髪、自分と同じ見知った高校の制服、見覚えしかない。

「待って、サリアさん。認めたくはないけど、あの目の死んだ男は私の知り合いよ」

そして、あのさり気なく毒を交えた話し方。もう間違いない。
あれは俺の知る、雪ノ下雪乃だと確信した。





132 : こうして彼らのまちがった殺し合いが始まる。 ◇w9XRhrM3HU :2015/05/06(水) 00:11:37 2ujqvW0E0
「エンブリヲ様なら、こんな殺し合いなんとかしてくれる筈よ!」

改めて俺、雪ノ下、泉、サリアは互いの知り合いの情報を交換し合った。
俺と雪ノ下は同じ学校に通う由比ヶ浜と戸塚を探していること。
泉は俺にも聞かせた、後藤をはじめとした危険人物を。
最後にサリアが、エンブリヲという自分の仕える主のことを、聞きたくもないのにペラペラ喋ってくれた。
要約すると、とても素晴らしいお方らしい。
そしてそのエンブリヲが、この殺し合いの脱出の鍵を握っているとも語った。

「えーと、首輪も外せるって事か?」
「ええ。エンブリヲ様なら、こんな首輪外せるわ」

泉が怪訝そうに尋ね、サリアは自信満々で答える。

「エンブリヲ様は、優れた技術者でもあるわ。こんな首輪もう外しているかもしれない」
「俺達にはこいつをどうこうする知識もないし、そのエンブリヲさんって言う人に頼る事になるかもな」

幸いなことに、この場にいる俺達四人は全員殺し合いには乗らず、否定的な考えの者ばかりだ。
けれども、否定的なだけではいずれ殺し合いをせざるを得ない状況になる。
殺し合いの参加者に嵌められた首輪。これがある限り、参加者の命は広川の手の内だ。
一番最初に殺された上条とかいう奴と同じく、殺し合いの否定を続ければいずれは首輪が爆破させられる。
だが、エンブリヲというのが本当に首輪を外せるのなら、探し出し合流するのは脱出への必須条件になるかもしれない。
……本当に外せればだが。

「話を纏めると後藤、田村、浦上は危険。
 由比ヶ浜さん、戸塚くん、エンブリヲという人を探すという事でいいかしら」
「正確には、エンブリヲ様は守るのよ。私達は」
「は?」

俺は間の抜けた声を上げた。
探すのならともかく、いきなり身も知らぬ他人を守れと言われて困惑しないものはいないだろう。
俺の他にも雪ノ下、泉も驚いた様子を見せていた。

「私はこの殺し合いに反対する人たちを集めて、エンブリヲ様を守護し、広川を打倒するチームを作ろうと思うわ。
 名は―――ダイヤモンドローズ騎士団よ。貴方達も脱出しなければ入りなさい」

(ええ……ダセぇ)

俺は喉まで出掛かった言葉を口には出さず、その思いは胸内の中にだけに押し留めた。

「サリアさん。その大根騎士団の広川打倒という目的はともかく、そのエンブリヲさんをいきなり守れと言われても困るわね。
 言ってしまっては悪いけど、私達の中では殆ど他人だもの」
「ダイヤモンドローズ騎士団!
 ……あの方と出会えれば、必ず私と同じ意見になるわ。エンブリヲ様はとても素晴らしいお方よ。
 この殺し合いを脱出するには、あの方の力が必要不可欠なの」
「……貴女、ちょっとおかしいわ。エンブリヲさんという人を盲信し過ぎではないの?」
「何ですって……?」
「さっきから、そのエンブリヲさんの話を延々と聞かされたけど、人物像がまるで掴めない。
 余程、浅い付き合いをしているのね。利用されているだけなんじゃないかしら」
「馬鹿なことを言うのは止めて、あのお方はそんな……。これ以上の侮辱は許さないわよ」
「ま、まあ……守るとか大それたことはともかくさ。
 今は協力し合う事が大事だろ。だからみんなで知り合いを探そう、な?」

泉が険悪になりそうな場を取り持とうする横で、雪ノ下が不服そうにサリアを睨む。

雪ノ下とサリア。
俺達に出会うまで、よく喧嘩をしなかったものだと俺は溜息を吐きながら思った。


133 : こうして彼らのまちがった殺し合いが始まる。 ◇w9XRhrM3HU :2015/05/06(水) 00:11:53 2ujqvW0E0
「サリアさん、貴女はエンブリヲさんの何を理解しているの?
 素晴らしい素晴らしい言ってるだけでは、それは理解とは言えないわ。
 良い? 憧れは理解から最も程遠い感情よ。ネーミングもダサいし」

なん……だと……。藍染かよお前は。

「いい加減にしなさい! それとネーミングは関係ないでしょ!」
「ちょっと二人とも落ち着いてくれ!」
「良いわ。シンイチって言ったわよね。
 貴方は私と来るわね」
「そういうことじゃなく。今は協力し合うのが大事だろ」
「止めておいた方が良いわ泉くん。彼女は性質の悪い、カルト教団の教祖に嵌ってしまっているようだから」
「エンブリヲ様をそんな風に言わないで!」
「今の貴女は、狂った狂信者そのものじゃない」
「ちょっと、言いすぎだろ雪ノ下。それにサリアも……」

「いけませんね。こんな場所で大声を出していては」

はいぃ?

見れば、中華風の衣装を着たエルフの様な耳をした男が俺達の前に居た。
顔には火傷の跡の様なものがある。
はっきり言って堅気とは思えない。

「全く、貴方達は無用心過ぎですよ」

男が腕を振った。
何のつもりなのか、俺は理解が追いつかなかった。
ただ分かるのは、手首から下は赤く染まった腕から、赤い飛沫が飛んできたということだけだ。

「ミギー!」

ミギーというのは名前なのか?
泉のそう呼ばれた右手がスライムみたいに動き出しまるで盾のように変身し血飛沫を受け止めた。
ターミネーターかよ。
だが男はそれを見て不適に笑い、指を鳴らす。
その瞬間、血飛沫の付いた箇所が消し飛んだ。

「なっ!? ミギー!!」
『駄目だシンイチ、これはいくら硬化しても防げん』

え? あの右手喋るの?
とか言ってる場合じゃない。
どういう理屈か分からないが、あの血は触れるとまずい。
血を飛ばしたのは、それが理由に違いない。
今は血が届かない場所へ逃げるのが先だ。

「ッ? うっ、あぁ……!?」

そう思った矢先、サリアの右肩から血が流れていた。
ミギーとやらの盾も全てを受けきれず、わずかな血がサリアの肩に付着してしまったのだろう。

「ほう、変わった右手だ。契約者……ではないようですね」
「お前……!」
「ええ、私は殺し合いに乗ることにしました」

サリアが痛みに戸惑う間に更に血飛沫が飛んでくる。
泉がサリアを突き飛ばし、屈みながら血を避けエルフ耳男の視線を俺達から反らそうと駆け出し誘導する。
エルフ耳男もそれに乗り、泉の後に続く。
何とか、一先ずの標的からは避けられたようだが、まだ安心はできない。

泉は血を避けながら、あの男へ突進していく。
人間の出せる速さとは思えない。オリンピック出ろよあいつ。
左手でストレートを放つが、エルフ耳男はかわし血を投げ返してくる。
泉は数メートル後ろへと一気に跳躍し避けていく。


134 : こうして彼らのまちがった殺し合いが始まる。 ◇w9XRhrM3HU :2015/05/06(水) 00:12:10 2ujqvW0E0
とても俺の手の出せる戦いじゃない。
ここは泉に任せて、俺達は足手まといにならないようにするしかない。
そうなると、一番の良策は泉が時間を稼いでいる間に逃げることだ。
だが、サリアの肩の怪我は治療なしじゃ、あまり激しく動かせそうにない。
一番は泉があのエルフ耳男を倒してくれることだが、苦戦しているのは目に見えて明らかだ。
どうする……? 何か手はないのか。最悪、俺と雪ノ下で逃げるというのも検討しなければならないかもしれない。

「貴方達は逃げなさい。私にはこれがあるわ……」

サリアが怪我をしていない肩の手で銃を構えている。
いけるのか? 痛みのせいか片腕で不安定なのか分からないが、若干銃身が震えているように見えるが。
だが、銃があるなら大丈夫―――

『危ない、シンイチ!』
「いっ!?」

サリアは自信満々で引き金を引き、銃弾が射出され泉の頬を横切った。
泉に当てかけやがった……。
駄目だこいつ早くなんとかしないと。
恐らく、顔の表情が歪んでいることから、怪我の痛みで狙いが反れてしまったのかもしれない。
何にしろ、今一番銃を持たせてはいけないのはこの女だ。

「くっ、次こそは……」
「貸しなさい! 私が撃つわ!」

だからと言って、お前が撃って良い訳じゃない雪ノ下。
サリアから銃を引っ手繰って、発砲するのは良いがまるで当たらない。
当然だ。ド素人がそう簡単に銃を扱えるはずがない。

「弾の無駄よ、私が撃つ!」
「泉くんに当てようとした貴女に銃は渡せない」

お前ら両方、そいつに触れるな。
不味い。こいつら二人とも軽くパニック状態だ。
元々、さっきまで言い争っていたんだ。こんな非常時に冷静に協力し合えるわけがない。
今の俺達はお荷物どころか、泉の邪魔すらしている状況だ。

そして、その泉も決して優勢とは言えない。
明らかに翻弄されていた。
あの血飛沫が曲者だ。
範囲も形も不定形の血飛沫をかわすのに、泉は大袈裟に動かさざるを得なくなってしまう。
その為か、攻撃がエルフ耳男に当てられる距離まで詰められない。


(どうする……何か手はないか?
 待てよ。あの血で吹き飛ぶのは、あくまで触れているものだけだ。
 何か盾があれば……あのエルフ耳男の攻撃を確実に防げれば……)

純粋な身体能力ならば、泉の方が上のように見える。
懐にさえ潜れれば、勝ててない戦いではないはずだ。
だがそれを拒むように散らされる血が厄介だ。
なら、それを防げる盾さえあれば、泉なら本格的な攻撃に移れるんじゃないか。
まず真っ先に浮かんだのはあのミギーだ。
どういう存在なのか、一切不明の未確認生命体もとい未確認右腕だが、体を広げて盾のようになっていた。
しかし、最初に血を受けた時、ミギーは防げないと言っていた。
証拠にミギーももねうね伸びながら、反撃に転じようとしているが血を警戒してか動きは鈍い。
盾なんてもってのほかだろう。

なら、支給品だ。
確か武器が支給されていると言っていたが……何で鍋?
あんな形も不定な血飛沫を、鍋一つで受け止めるとかデンジャラスにも程がある。却下だ。
いっそ俺がサリアの銃を奪って撃つか?
駄目だ。当たる自信がない。雪ノ下より酷いかもしれない。
いや、まだ雪ノ下の支給品がある。
これなら。

「おい、雪ノ下。支給品は何か何ないのか!?」
「支給品? そうね、それがあったわ」

雪ノ下がディバックを開け支給品を漁る。
だが出てきたのは、MAXコーヒーと謎のステッキとフリフリした衣装の美少女聖騎士プリティ・サリアンセットというものだった。

「何、これ……」
「それわたs……いや何でもない」

サリア、お前のなのかよ……。
駄目だ。ろくな支給品がない。
泉の援護にもならないものばかりだ。
残りは泉の支給品だが、確認をする余裕もある訳がないし、もしかしたらあいつも使えない物を支給された可能性もある。


135 : こうして彼らのまちがった殺し合いが始まる。 ◇w9XRhrM3HU :2015/05/06(水) 00:12:26 2ujqvW0E0
「逃げるしかねえ。サリア、傷が痛むかもしれないが我慢しろ」
「でもシンイチが……」
「俺達が居ても邪魔だ」

俺らが居たところで何も変わらない。
とっと消えた方が泉もまだ戦いやすいはずだ。

「後ろが騒がしいですね。少し静かにして頂きましょうか」
「!? やばい逃げろ!」

あのエルフ耳男がこっちを向いた。
だが血を飛ばそうにも、流石に距離があるはず……。
いや違う。今度は血じゃなくナイフを投げてきやがった。

「うあ、あぁ……!」

短い嘆声が俺の耳を撫でる。
サリアの足にナイフが刺さってやがる。
肩と違い、足を奪われてしまったら本当に逃げられない。

「安心なさい。彼を仕留めた後、皆さんも同じ場所へ送って差し上げますよ」

くそっ。
サリアはもうしばらく動けない。本当に雪ノ下と逃げるしかないか?
考えているうちに泉がどんどん追い込まれる。
血を避ける動作も切羽詰まってきていた。
あと数回、同じ事を繰り返せば血を浴びてもおかしくはない。
駄目だ、もう考えている暇はない。

(泉も生き残り、雪ノ下もサリアも助かるには……でも)

一つ案が浮かんだが、それは絶対に実行したくないものだ。
だが、仮にここで泉が死ねばどうなる? 俺と雪ノ下とサリアで、あんなエルフ耳を相手に出来るのか?
答えは簡単、全滅だ。ここに四つの死体が並び、あのエルフ耳は由比ヶ浜と戸塚を含む参加者を殺しに行くだろう。

甘い考えは捨てろ。最高にはならなくても最悪にはならなくても済む。
切り捨てるものを切り捨て、生かすものを生かせば……。

「比企谷―――」

雪ノ下が勘付いた。
確実に止められる。
そうなる前に俺は雪ノ下の声を無視し、鍋を片手に俺は走り出した。

(間に合うか……?)

動きに追いつかれた泉にエルフ耳の血が迫る。
泉は目だけを動かし、状況を素早く判断。
回避に移る前に、俺はその血と泉の間に鍋とティバックを盾にしながら飛び込んだ。

「何!?」

エルフ耳男が動揺してやがる。
そうだ。盾がないのなら盾になればいい。
僅かな可能性に賭けて鍋とティバックを掲げてみたが、そこまでうまくはいかなかった。
べっとりと、エルフ耳男の血が俺の胴を赤く染めている。
エルフ耳男が指を鳴らし、泉が何か叫んでいるが聞こえない。

『今だシンイチ!』

右手の癖して、凄まじい判断力だと他人事のように思えた。
血の付いた箇所がごっそりと消え、俺の体から大量の血が抜けていく。
悲鳴も上がらない、痛いを通り越して消失感しか感じないくらいだ。
ああ、俺は間違いなく死ぬんだなと感じだ。

「う、おおおおお!!」

俺という盾により、ここで初めて有効な攻撃に打って出れた泉。
その拳は強く握り締められている。
やはり、思ったとおりだ。動きの上手さ、相手の捌き方はエルフ耳男の方が上。
だが単純な正面切っての殴り合いなら、泉の方が遥かに上らしい。

「がっ、はぁっ……!」

その鳩尾に拳がめり込まれていく。
体の一部が吹っ飛んだ俺が言うのも何だが、あれはかなり痛いだろう。
けれど、流石戦い慣れているだけの事はあるのか、エルフ耳男は痛みに耐えながら筒状の物を投げる。


136 : こうして彼らのまちがった殺し合いが始まる。 ◇w9XRhrM3HU :2015/05/06(水) 00:12:50 2ujqvW0E0
「邪魔が、入りましたね。……決着は今度にしましょう!」

視界が光に包まれる。気づけばあのエルフ耳男は消えていた。

『合理的な奴だ。接近戦では不利を悟って離脱を選んだか。
 深追いはするな。シンイt「比企谷!!」

ミギーの言葉も聞かず、泉が俺の元へ駆け寄った。

「比企谷くん、貴方なんでこんな……!」
「……これ、……しか、なかった、ろ……」

遅れて寄ってきた雪ノ下に何とか答えてみようとする。
だが、ひゅーひゅー息を漏らしながら声を振り絞ってみるも、これ以上俺は声が出せそうに無かった。

「なんて馬鹿な事を……」

雪ノ下の目には大粒の涙が浮かんでいる。
でもこれしか方法は無かった。
サリアも雪ノ下も混乱して、泉も追い詰められれば全滅は避けられない。
なら誰かが犠牲になって、泉を手助けするしかなかっただろ。
本当はあのエルフ耳を倒せれば良かったが、撃退するだけでも十分だ。

―――君は自分の価値を正しく知るべきだ。

最後の間際だと言うのに、葉山の台詞を思い出しちまった。
死んでもさして影響も無く。殺し合いに脱出する為の技術も戦う力もない。
そんな俺が、この場で盾になるには適任だった筈だ。
なのに、なんで今になってこんな……。

「比企谷くん!」

脳裏から雪ノ下の涙を流した顔が離れない。
いつものクールな表情は何処にもなく、涙でぐしゃぐしゃだ。
こいつ、こんな風に泣くこともあるのか。

―――君が傷つくのを見て、痛ましく思う人間もいることにそろそろ気付くべきだ。

今度は平塚先生の台詞かよ。
あれはこういう意味なのだろうか。
だとしたら、俺は間違えたのか?
死ぬ前にそんな風に思うなんて最悪だろ、俺……。




【比企谷八幡@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 死亡】


137 : こうして彼らのまちがった殺し合いが始まる。 ◇w9XRhrM3HU :2015/05/06(水) 00:13:43 2ujqvW0E0
【F-3/深夜】

【泉新一@寄生獣 セイの確率】
[状態]:疲労(中)、ミギーにダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム品1〜3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:比企谷……。
2:後藤、田村、浦上、血を飛ばす男(魏志軍)を警戒。

【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:健康、八幡が死んだショック
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、MAXコーヒー@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
    美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、ランダム品0〜1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:比企谷くん……。
2:知り合いとの合流。

【サリア@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:右肩負傷、左足負傷
[装備]:シルヴィアが使ってた銃@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品、ランダム品0〜2
[思考・行動]
基本方針:エンブリヲ様と共に殺し合いを打破する。
1:エンブリヲ様を守る。
2:1の為のチームを作る(ダイヤモンドローズ騎士団)。
3:エンブリヲ様と至急合流。
4:アンジュ達と会った場合は……。
※参戦時期は第17話「黒の破壊天使」から第24話「明日なき戦い」Aパート以前の何処かです。




「あの少年、侮りすぎましたか」

魏志軍は痛む腹部を抑えながら、月明かりを頼りに夜道を進んでいた。
先程、戦闘を行った少年達の追跡の可能性も考慮しながら、後ろをまめに確認するが人影は見当たらない。
撒いたか、追跡を諦めたかのどちらかだろう。

あの時、邪魔が入らなければ一番戦闘力の高い奇妙な右手の少年を殺害し
残りの三人も葬れただろうが、あの目の死んだ少年が邪魔に入りそれは叶わなかった。

「まあ、いいでしょう。これはバトルロワイアル。最後に生き残ってさえいれば良いのですから、そう焦ることでもない。
 ダメージは最小限に抑え、参加者を殺し続ければ良い」

魏は血を流した右腕を包帯で巻き、止血する。
契約者である魏の能力は物質転送。自身の血が付着した物を何処かへ飛ばす能力。
その対価として、血を流す必要がある。
だが、血というものも決して無限に存在するわけではない。流しすぎれば自滅する。
これが72人による殺し合いである以上、目先の勝利に囚われ、後の戦闘でダメージや血の消費を引きずり、敗北でもすれば目も当てられない。
契約者として合理的に思考し、魏は体力を消耗し過ぎる戦闘は避けていく事に決めた。

「もっとも、BK201……貴方だけは私がこの手で……」

たった一つ。
唯一取り戻した屈辱という感情。
この場に呼ばれる前に敗北した、黒の死神に対する屈辱を晴らす。
契約者としての合理性の中に、人間であった頃の非合理性を秘めながら、魏は次の標的を探し始めた。



【E-2/深夜】

【魏志軍@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:顔に火傷の跡、黒への屈辱、ダメージ(小)、右腕を止血
[装備]:DIOのナイフ×9@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、スタングレネード@現実×2
[道具]:基本支給品、ランダム品0〜1
[思考・行動]
基本方針:優勝する。
1:BK201(黒)を殺す。
2:合理的に判断し消耗の激しい戦闘は避ける。
※黒の契約者、第10話「純白のドレスは、少女の夢と血に染まる 後編」で黒に敗北して以降の参戦です。



【MAXコーヒー@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
甘いコーヒー。八幡が愛飲していた。

【美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
サリアが美少女聖騎士にコスプレするために必要なセット。

【シルヴィアが使ってた銃@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
クロスアンジュ最終話で、マナが無くなり荒ぶった世界でアンジュの妹シルヴィアが使用していたもの。

【DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
後に辿る筈だった正史でDIOが使用するはずだった投げナイフ。
10本入り。

【スタングレネード@現実】
閃光を放つ撤退の定番アイテム。
3個入り。


138 : I see the fire ignite ◇8UeW/USp1g(代理投下) :2015/05/06(水) 00:14:23 2ujqvW0E0
(さてと、どうしたもんかな)

見上げるとどこまでも続く真っ黒な空が広がっている。
生命も、人としての尊厳も、全てを一色に塗り潰してしまう黒。
終りと始まりを内包した空の下、一人の青年が顔を顰めている。

(殺し合いたぁ、随分とクソッタレなもんに巻き込んでくれたじゃねぇか)

一見すると一般人が恐怖に怯えていると思われるが、内面は酷く冷静で全く揺らぎがない。
いきなり宣言されたバトルロワイアルというイカれた催し。
黒髪の青年、ウェイブからすると訳がわからないとしか言いようがなかった。
それどころか自分の愛用の帝具であるグランシャリオも没収されて心許ない。
帝国の軍人であるウェイブにとって常に身に付けている武具を気づかぬ内に奪われるなど一生の恥であり、拭えぬ失態だ。
こんなことがエスデスに知られでもしたらどうなるか、考えただけでも冷や汗が止まらない。
故に、気分が滅入ってテンションがいつもより落ちるのも仕方ないというものだ。

(逃亡防止の首輪までしてくれる大サービスだ。用意周到もここまで来ると呆れちまう)

だが、頭の思考はいつも通り平常を保っている。
このようなことで冷静さを失っていてはイェーガーズの名が泣いてしまうし、 帝都の軍人として失格である。
ウェイブの根幹にあるのは薄れることなく今も色濃く残っている恩人の言葉。
国の為に尽くしてくれといった期待の言葉。

(こんな悪趣味な催しを開いたヒロカワはしっかりとシメとかないと)

本来であるなら、このようなことに巻き込まれている場合ではないというのに。
帝都で暗躍する暗殺者集団――ナイトレイドが帝国の転覆を今も狙っているはずだ。
そんな最中、自分達イェーガーズが半分以上行方不明となればどうなるか。
考えるまでもないことだ。
間違いなく帝都は荒れ、民が戦乱に巻き込まれる。


139 : I see the fire ignite ◇8UeW/USp1g(代理投下) :2015/05/06(水) 00:14:41 2ujqvW0E0
それだけは防がなくてはならない。

(さっさと帰る為にも、バトル・ロワイアルで優勝する。それもまた選択肢の一つなんだろうけど)

民を護ると決めたのだ。どうしようもない帝国でも、平穏を望む民がいる。
そんな民を少しでも護りたかった、救いたかった。
喜んでくれるなら他には何もいらないと思ったのだ。
いわば、帝都の最前線で悪を狩る特殊警察。そこに入ったからには覚悟はしている。
その過程で人を殺すことも後悔をしないことも。

(そんな選択肢、こっちから願い下げだ。ここでヤル気を出した所でメリットがないことぐらい気づく。
 何がいかなる望みを叶えよう、だ。 無理矢理に人を拉致しておいて信じられっかよ。
 つーか、拉致った元凶の口約束をそのまま信じるアホがいるか。
 後になって約束を反故にすることなんて幾らでもできるだろうが)

だからこそ、ウェイブは殺し合いを開いた広川の思い通りになんて動かない。
理由ははっきりしていた。こんな殺し合いに巻き込んだ主催者など信じられないの一言にすぎる。
目先の餌にホイホイと食いつく馬鹿だったり、心細さで追い詰められ、殺し合いを許容してしまう弱者だったり。
この催しに同じく巻き込まれた中には危険人物と化す参加者はそれなりの数は存在するだろう。
もっとも、ウェイブ自身はそんな馬鹿な真似をした参加者に容赦をするつもりはない。
最初は媚を売っておいて後ろから刃を突き立てる者もいるだろう。
いつ如何なる時も油断してはならない。
怯え惑うならまだしも、純然たる敵意を武器に襲い掛かってくるなら、始末はつける。

(本当によくできてやがる催しだ、バトル・ロワイアルッ。ろくでもねぇな、全く!)

現実的に生き残る手段を考えると、ギリギリまで踏みとどまるのが最善だと理解しているにも関わらず乗ってしまう狡猾さ。
このバトル・ロワイアルは人を誑かすのにはもってこいの催しだ。

(……それよりも、ヒロカワに反抗するって決めたからには、しっかりとプランを立てておかなくちゃな。
 第一に脱出手段。歩いて脱出なんて当然不可能な訳だ。この時点で手段は狭まっている。
 そうなると、解りやすい手段として挙げられるのは船とかか? とはいっても、使えなきゃ意味が無いんだけどな)

そもそもの話、主催者である広川が脱出の手段となるものを混ぜているとは思えないし、
ウェイブが主催者であるならばそんな脱出の手がかりなど置かない。
この殺し合いに何の目的があるかどうかは不確かなので、断言はできないけれど。
その可能性を含めても、ウェイブには脱出の手がかりとなる蜘蛛の糸を垂らす必要性は感じられなかった。
あったとしても、そこには罠が仕掛けられている。
繰り返すようだが、広川を信じることだけは絶対に避けなければならない。
全てを疑えとは言い過ぎではあるが、そのぐらいの心意気でなければ自分など即座に死んでしまう。


140 : I see the fire ignite ◇8UeW/USp1g(代理投下) :2015/05/06(水) 00:15:11 2ujqvW0E0
(仮に脱出に通じる手段があったとしよう。それを使って困るのはヒロカワだ。なら、当然そうはさせまいと妨害はするはず。
 それとも、ここからは絶対に抜け出せないっていう慢心があるのか……?
 確かに俺達がいる場所がこの世界の何処にあるか知らねぇ分、安易に脱出なんてできねぇよな。
 まあ、地図に記されている場所を調べないことには始まらねぇか。
 この島の全容を知ってから有益な脱出手段を見定めるが一番、か)

結局、脱出手段に関しては保留せざるを得なかった。
広川の繰る手がどれだけの規模かわからない分、動くのは慎重になってしまうのは否めない。
この島の全容を知らないウェイブが持っている情報など微々たるものなのだから。
殺し合いが始まってから数十分しか経っていないのだ、すぐに結論が出るはずもなかった。

(というか、脱出以前に俺達の首に付けられた首輪をどうにかしなくちゃな。
 これを外さなきゃ、幾ら脱出ができても全員爆殺だ。一応触ってはみたけど、工学については門外漢だからなぁ。
 俺はお手上げだし、これは素直に他に詳しい奴を探し当てるしかないか。
 首輪のサンプルや工具も手に入れる機会があったら、持っておかなくちゃな)

そして、首輪について。ウェイブは自分の首に嵌められた首輪を自分の目で見ていない。
手で触るなりしただけで何の考察も出来ない状態だ。
それでも、あえて考察すると、この首輪に何が備わっていたら厄介か。

(この首輪はただの逃走防止の用途に使われるだけの枷ではないはずだ。遠隔爆破は言われていた通りだと仮定する。
 ただそれだけじゃあ、心許ないはずだ。ならば、それに付随してどんな機能がついていたら動きが阻害されるか)

断言できる。付けられた首輪は脅しだけではなく、バトル・ロワイアルを円滑に進める為の補助も兼ねているはずだ。
ここまで用意をしておいて、今更この程度の手間を惜しむ奴ではあるまい。

(現在位置は当然脱出の阻害ようそとして知られているはずだ。まあ、今は気にしててもしょうがねぇし無視でいいか。
 それと…………盗聴か。まあ、心の中で思ってることまで読まれてちゃお手上げだけどな。
 一応、首元を完全に隠すスカーフはあるけど……盗聴を防げるって訳にはいかないか。
 それに、俺が防げても、他の奴等が防げなかったら意味はねぇよ。
 ともかく、大事なことを話す時は……筆談、か? 
 まさか隠さなきゃいけねぇことを口頭で喋る馬鹿はいねぇだろうし、そこまで神経質にならなくてもいいか)

思考を重ねれば重ねる程、自分達が置かれている状況が雁字搦めだということが再認識されていく。
無論、脱出を諦めるつもりは毛頭ないし、広川に屈するのは死んでもゴメンだ。
彼に従うぐらいなら死んだ方がマシである。
そもそもの話、殺し合いなんてものに巻き込まれたのが全ての元凶なのだ。
何が目的なのか。最初の部屋にいた参加者の中には護るべき弱者もいたし、自分なんかでは敵わないようなエスデスも同じく拘束されていた。
強者だけを集める見世物ならわかるが、そこに弱者を入れてどうしたいのか。
少なくとも、エスデス辺りと出会ったりしたら――。
問答無用に殺してしまうといったことはないと信じたいけれど、我等が上司は大変にエキセントリックな人物だ。
おまけに、同じく巻き込まれているクロメとセリューも暴走しがちで自分の道をひたすらに往く傾向がある。


141 : I see the fire ignite ◇8UeW/USp1g(代理投下) :2015/05/06(水) 00:15:41 2ujqvW0E0
(ったく。ここにランがいてくれたら、こんなこと考えなくても済むのに。俺以外の奴等は絶対気の赴くままに動いてるに違いねぇから、俺がこういう役割をしなきゃな。
 あぁ憂鬱だ。クロメ達ならともかく、隊長に関しては絶対に会いたくねぇ。グランシャリオを没収されましたなんて恥晒しなことがバレたら――ひぃぃぃぃぃぃぃい!!!!)

正直、彼女達は放置していたらとんでもないことを仕出かすだろう。
我が強い彼女達のことだ、気に入らない奴がいたら殺しにかかってもおかしくはない。
そして、そんな彼女達を上手くフォローできるのが自分しかいないことが彼を慣れない考察係に追い詰めていた。
本来なら、頭脳担当は落ち着き柔和青年であるランの役割だ。
自分は前線で武器を振るっていればいいのに、今回に限ってはそれも通用しない。
加えて、ここにはナイトレイドの悪名高きアカメがいる。
出会って即殺し合いが決定づけられた彼女とも、万全でなかったら避けたい所だ。
グランシャリオを取り戻してからならまだしも、今の彼は慣れない武器を使って戦うしかないのだから。
腰に携えた剣は業物ではあるが、やはり使い慣れた武具が一番だ。

(剣があるだけでも、剣があるだけでもありがたいんだ……。だけど、隊長にバレない内にグランシャリオを取り戻そう。
 いざとなったら何故か入ってたタツミの写真セットでごまかそう)

改めて振り返ると、唯一の癒やしはタツミだけだ。彼以外、まともな知り合いが全く存在しないのはどういう嫌がらせなのか。
正直、かなりメゲそうだ。安心安全な知り合いが一人だということはウェイブの胃痛を加速させる。
深い溜息をつきながら、彼女達の暴走ぶりを考えて更に深くため息をつく。
探すものリストには胃薬も必要なのかもしれない。これから先の展望を思うと、頭が痛くなってきた。

「んじゃ、まあ。最後に、景気付けとして」

けれど、進むべき道は定まっている。
彼が振るう剣の切っ先は広川に加え、このバトル・ロワイアルで悪を成す参加者達だ。
弱者を甚振り、暴虐の限りを尽くすクソッタレな奴等を斬るのは――イェーガーズの役目である。

「よぉ、ヒロカワ。俺達みてぇな殺られる覚悟がある奴等だけを集めるならまだしも、血生臭い事を知らねぇ奴等まで巻き込んで……!
 こんな理不尽を強いる奴を、俺達イェーガーズが許す訳にはいかねぇよなぁ!」

溢れんばかりの正義の心はこの胸に込められている。
心は熱くとも、頭は冷静に。
ウェイブの剣は弱者を護る為に在るのだから。

「聞こえていようがいまいが構わねぇ。必ず、お前は……俺達がッ! イェーガーズが狩る!!」

彼が願うのは帝都の守護ではあるが、その目的を追求すると虐げられている弱者を護ることだ。
悪の手を、腐った世界を、少しでも自分が退ける手助けになれば。
そう思って、帝都の軍人になったのだ。

――――往こう。

自分が信じる正義を成す為に、ウェイブは歩を進める。



【C-7/1日目・深夜】

【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。
1:他参加者(工学に詳しい人物が望ましい)と接触。後ろから刺されぬよう、油断はしない。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:首輪のサンプル、工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:クロメ達はともかく、エスデスはグランシャリオを取り戻すまで会いたくない。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。


142 : 涙の先に ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/06(水) 00:16:20 2ujqvW0E0
佐天涙子の目の前で、紅蓮の炎が踊る。
焔の錬金術師ロイ・マスタングの操る炎の勢いは凄まじいものだった。

「……威力は十分。しかし……」

パン、とマスタングが両手の平を打ち合わせる。
それが、彼の超能力……否、錬金術始動のサイン。
間髪入れず、マスタングが指を弾く。
空気中を伝う火花が目標に到達した瞬間、爆発。
まるで火炎放射のように奔る烈火の渦は、鋼鉄の扉さえアメのように溶かしてしまう。

「すごいなぁ……」

佐天は口を半開きにしたままその光景に見入る。
焔の錬金術師言うところの「練習・調整」を、佐天はぼんやりと眺めていた。
マスタングは先ほど、鉄パイプから簡単な剣を錬成した。それでさえ、学園都市ならばレベル4は確実だと思った。
だが今、彼が披露する炎を見ているとまだ甘かったと思い知らされる。
物質を別の形に変換する力。空気中に可燃ガスを錬成し、自由自在に炎を放つ力。
特に炎の方は、本気で放てばちょっとした建物ぐらいならまるごと焼き払えるほどだという。
それでいて、マスタングの錬金術は地脈……地殻変動に伴う莫大なエネルギーを地中から取り出すため、本人の消耗はさほどでもないらしい。
もしかしたらレベル5に……佐天が唯一知っているレベル5、御坂美琴の力にも決しても見劣りしない……匹敵するかもしれない。

「……いかんな。やはり、戦闘には不向きだ」

と、驚愕しきりの佐天をよそに、マスタングは不満気だった。
佐天がマスタングと出会ってから後、深夜に屋外を出歩くのは危険だと、日が昇るまでこの発電所で過ごすことを決めた。
マスタングは佐天に休んでおくように行って、自分は見張りがてら錬金術の練習をすると、発電所のエントランスで試行錯誤を繰り返していた。
休めと言われてもそこは無能力者かつほぼ一般人の佐天涙子。
一人でいる不安には勝てず、こうしてマスタングの傍で見学をしていたのだが。

「あのー、何がダメなんですか? 私にはもう無敵の能力にしか見えないんですけど」
「うむ。よく見ていてくれ、ルイコ」

マスタングは両手を合わせ、指を弾くあの一連の動作を繰り返す。
当然の帰結として炎が生まれ、奔る。もう何度目か、さすがに佐天も見慣れてきた。

「それの何が悪いんですか?」
「威力、規模は問題ない。狙い通りの場所にも撃てる。だが……」


143 : 涙の先に ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/06(水) 00:16:43 2ujqvW0E0
手を合わせ、指を弾く。今度は炎は生まれなかった。

「この、ツーアクションだ。これは一秒を争う戦闘では致命的に遅い」

マスタングは本来、錬成陣を刻みつけた発火布を手袋にして用いている。
炎を生み出す錬成陣を「あらかじめ起動待機している」状態にしておき、指を弾いて火花を生み出すことで発動させる方式だ。
これならば、指を弾くワンアクションで炎は発動する。指を弾くイコール狙いをつけるであるので、必要なのは火花を生み出す過程だけだ。
しかしこれが手合わせ錬成となると話は異なる。

「鋼のが得意としていたやり方だが……私とは相性が悪いな。私は奴ほど体術が得意な訳でもないし」

手のひらを打ち合わせることで力を循環させ、錬成陣とする。
従来の錬金術士の常識を打ち破る革命的な手法だが、これは錬金術の真理を見た者にしか使用できない方法でもある。
エルリック兄弟、その父親ヴァン・ホーエンハイム、兄弟の師イズミ・カーティス、そしてロイ・マスタング。
かつてホムンクルスに「人柱」と称された、世界でも十指に入る練達の錬金術士のみが、その領域に触れた。
マスタングは「通行料」として両目の視力を置いてきてしまったが、それもティム・マルコーから提供された賢者の石によって回復。
結果、マスタングは万全の状態でさらに手合わせ錬成を可能となり、錬金術士としては更なる高みに至ったといえるのだが。

「力だけ手に入れても、それが必ずしも役に立つとは限らない……これもまた真理だな」

エドワード・エルリックは、手合わせ錬成に鍛え上げた体術を組み合わせることで錬金術発動後の隙をカバーしていた。
元々彼は錬金術なしでもホムンクルスと渡り合えるほどなのだ。だが、マスタングはそうではない。
軍人としてある程度は格闘の訓練を積んできているものの、「錬金術士殺し」スカーやキング・ブラッドレイといった本物の達人を前にしては赤子も同然。
つまり今のマスタングは、発火布なしでも焔の錬金術を扱えるが、そのポテンシャルを完全に引き出すことはできない……そんな状態だった。

「前衛がいるなら問題はないが、今は私と君の二人だけだ。まさか君に前に出て敵を食い止めてくれとは言えんしな」
「それは、あはは……ごめんなさい……」

冗談とわかっていても顔が引きつる。
佐天涙子の戦闘力は常人の粋を出ない。鍛えてもいないので、戦闘には何の期待もできないだろう。
しかしマスタングは、それを責めはしない。守ると決めたのだから、彼女にそれを求めることはそもそも筋違いだ。
申し訳なさそうにしている佐天に、マスタングは懐から銃を取り出し、差し出した。


144 : 涙の先に ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/06(水) 00:17:00 2ujqvW0E0
「マスタングさん、これは?」
「銃は君が持っておけ。私は少なくとも戦うことはできる。自衛の手段がない君が持っていた方がいい」
「でも私、銃なんて撃ったこと無いですよ!」
「実際に撃てとは言わん。銃は示威目的にも有効だ。構えているだけでも他人を威圧するには十分な力がある。
 その鉄パイプ剣だけではいくら何でも心もとないだろう」

佐天は納得しきれていないようだったが、マスタングは押し切った。
彼女を守ると言っても、いかにも無力な様子を曝け出していては好戦的な者には格好の獲物にしか見えないだろう。
だが銃を持っていれば、ある程度は警戒する。すぐには手を出さず、やり方を考えるだろう。
その一瞬の間があれば、マスタングは余裕を持って手合わせ錬成から指を弾くツーアクションを行える。
どのみちマスタングが銃を持っていたところで、手合わせ錬成の邪魔になる。
マスタングの副官であるリザ・ホークアイ中尉ならば、それこそ戦力の一つとして数えられるほど信頼できるのだが……苦笑し、頭を振って妄想を追いやった。

「私の方はもう用事は済んだ。欲を言えば何処かで手袋でも調達して発火布を作りたいところだが。
 ……さてルイコ、そろそろ休もう。眠らなければ出発に差し支える」
「あ、はい。わかりました」

銃をためつすがめつしていた佐天はマスタングに促され、おっかなびっくり銃を腰の後ろのベルトに挟もうとし、思い直してデイバッグに突っ込んだ。
安全装置なるものが働いているため暴発はしないらしいが、それでも不安ではある。少なくとも休んでいる間くらいは不安から解放されたい。
マスタングは何か言おうとしたが、寸前で止めた。いらないストレスを掛けることもない。
そして、佐天がエントランスから安全な個室に移動しようとしたとき。

「……誰か、いないか!?」

発電所の入り口から飛び込んできたのは、佐天とさほど身長の変わらない少年だった。
金髪を三つ編みにし、赤いコートを着て……その赤いコートがところどころ引き裂かれ、血に塗れた表情は痛みに引き攣っていた。
彼は発電所内に入ってきた途端、崩れ落ちた。赤いコードの下から血溜まりが広がっていく。
遠目に見ても、何か大怪我をしているのだろうとわかる。

「鋼の!?」

マスタングが駆け寄ろうとし……寸前、急停止。佐天も思い出していた。
詳細名簿で見た顔だ。たしか、エドワード・エルリック。「焔の錬金術師」ロイ・マスタングの盟友である、「鋼の錬金術師」だ。

「ひ、ひどい怪我……! すぐ手当てしないと!」
「待て、ルイコ!」

駆け出そうとした佐天の肩を、マスタングが掴んだ。指先が肩に食い込む。


145 : 涙の先に ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/06(水) 00:17:24 2ujqvW0E0
「痛っ……ロイさん!?」
「迂闊に近づくな。あれが本物の鋼のである証拠はどこにもない」

振り返った佐天が見たのは、鋭く眼を細めたマスタングの表情。

「私がかつて戦った敵の中には、エンヴィーというホムンクルスがいた。そいつは姿を自在に変えられるホムンクルスだ。
 仲間や家族に姿を変えて敵を騙す、そのやり口に私は何度も辛酸を嘗めさせられた」
「じゃあ、あの人がそのエンヴィーだって言うんですか!?」
「否定はできない。少なくともこの名簿には、奴の名前があるのだから」

マスタングが自身の名簿を指して言う。確かに名簿にはエンヴィーという名がある。佐天の詳細名簿にも載っている。
しかし、エドワード・エルリックという名もまた、名簿には書かれているのだ。

「本物のエドワード君だったらどうするんですか! あのままだったら死んじゃいますよ!?」
「わかっている。だがまずが奴がエンヴィーでないかどうか確認してからだ」
「どうやって確認するんです?」

金髪の少年は俯せになり、痙攣している。とても遠くからの呼びかけに応えられるようには見えない。
マスタングは佐天を待たせ、ゆっくりと近づいていく。

「……鋼の、それともエンヴィーか?」

マスタングの問い。少年が緩慢に頭を動かす。

「大佐……か。何だ、あんたもいたのか……。って、それどころじゃねえ……早く逃げろ、あいつが……」
「答えろ。貴様は鋼のか、それともエンヴィーか」
「はっ……何言ってんだよ、大佐。エンヴィーは死んだろ……俺達の目の前で」

息も絶え絶えのエドワードらしき少年。血は留まることを知らず流れ出し続けている。
ホムンクルスならば怪我の内に入らないが、人間であるならばそろそろ危険だ。一刻も早く止血をしなければ命に関わる。
それでいて、マスタングはまだ決断できない。

「貴様が、自分が鋼のであると証明できるなら助けてやる」
「何だよそれ……どうやって証明しろってんだ……」
「錬金術をしてみろ。それですぐにわかる」


146 : 涙の先に ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/06(水) 00:17:43 2ujqvW0E0
仮エドワードは出血のあまり眼が淀んでいる。マスタングの要求を実行するには厳しい状態だろう。
これで錬金術を成功させたのなら本物……ではない。錬金術を実行しようとした時点で、偽者だと確定する。
なぜならエドワード・エルリックはもう、錬金術を使えない。真理から弟を取り戻したとき、彼は自らの錬金術を放棄したのだから。
それを知ってか知らずか、仮エドワードは、のろのろと身体を持ち上げ、口を開こうとし……自らの血溜まりに沈んだ。意識が途切れたようだ。
その様子を、マスタングはじっと見つめている。

「ロイさん! 本当に死んじゃいますよ!?」
「…………」
「ロイさん!」

動かないマスタングにしびれを切らし、佐天が走る。
仮エドワードを仰向けにする。その腹部には、大きな刺し傷があった。
そういえば、こいつは最初呼びかけたとき「あいつが……」と言っていた。
仮エドワードをここまで傷つけた相手が存在し、その危険を伝えようとしていたのなら。

「本物の、鋼の……なのか?」
「ガハッ!」

仰向けにしたことで気管に血液が逆流したのか、仮エドワードの身体が大きく跳ねた。大きく痙攣し始める。
人間であるならば、これは間違いなく……
こいつが本物のエドワード・エルリックだとするなら……
放っておけば、遠からず死ぬ。それはもう、避けられない事態だった。
マスタングは一度固く目を閉じる。流れ出た汗が額を滑り落ちる前に、彼は決断した。

「……ルイコ、鋼のの肩を抑えてくれ! 錬金術で治療を試みる!」
「ロイさん……はい!」

わかっていることは二つある。
エドワード・エルリックは生きている。エンヴィーは死んだ。
この誰が書いたとも知れない名簿を信じるか、それとも目の前の死にかけているエドワードらしき人物を信じるか。
マスタングは後者を取った。
もう二度と、大切な者を目の前で取りこぼさないために。

「賢者の石もない、専門でもないが、止血くらいは……!」

暴れるエドワードの身体を佐天に抑えさせ、マスタングは両手を打ち合わせる。
治療の錬成陣をイメージ。そのまま両手をエドワードの腹部へと叩きつけ……


147 : 涙の先に ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/06(水) 00:18:01 2ujqvW0E0
「まーた騙された。ダメだねえ大佐ァ、学習しないとさァ!」

投げ出されていたエドワードの左足。
機械鎧であるはずのその足が、クレーンのような重さを伴ってマスタングの胴体へ打ち付けられた。

「ガッ……!」
「ロイさん!?」
「おーっと、動かないでよお嬢さん。あんたは大切な命綱なんだからさァ!」

吹き飛ばされたマスタングが何とか顔を上げると、そこには佐天を羽交い締めにしたエンヴィーが……「嫉妬のホムンクルス」エンヴィーが、いた。
やはりあのエドワード・エルリックは、偽者だったのだ。

「エンヴィー……!」
「おお、怖い怖い。でも大佐、ご自慢の炎は使えないよ〜?」

エンヴィーはピッタリと佐天に寄り添っている。
これでは炎を放てば確実に佐天も焼き殺してしまう。

「あの時はしてやられたからねえ。あんたと戦うなら、でかい図体よりこのボディのほうが都合がいい。
 こうやって、人間の盾に隠れられるからねェ! あっはっはっは!」

エンヴィーはあの最後の戦いを教訓とし、対抗策を用意していた。
マスタングが守ろうとする人間を盾にする。
いかに精密に狙いが付けられる焔の錬金術とは言え、原理は空気中のチリや埃を伝うものだ。障害を自由に迂回して着火させることはできない。
こうして目標と護衛対象がピッタリくっつかれてしまえば、どちらかだけを灼くことは絶対に不可能なのだ。

「……ぁ、……!」
「暴れないでよお嬢さん。少なくとも今はあんたを殺すつもりはないよ」

エンヴィーに首を絞め上げられ、佐天はバタバタともがく。が、エンヴィーはびくともしない。
見た目こそ佐天とさほど身長が違わないとはいえ、その本性は巨大なキメラだ。質量が違いすぎるため、腕力では到底敵うはずもない。
エンヴィーは佐天のデイバッグをゴソゴソと漁る。

「お、いいもの持ってるじゃん」

取り出されたのは拳銃だった。
エンヴィーは佐天と違って拳銃の心得がある……ヒューズが殺害された時のことを思い出す。


148 : 涙の先に ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/06(水) 00:18:25 2ujqvW0E0
「貴様ッ……!」
「ほんじゃまあ、あのとき散々灼いてくれちゃったお返しをさせてもらっちゃおうかなあ!」

バン、バン。続く二つの銃声。
放たれた弾丸は、マスタングの両足をそれぞれ通り抜けていった。
立っていられず、顔面から地面に叩きつけられる。

「ぐっ……」
「安心してよ、大佐。あんたは殺さない」
「私が、人柱……だからか?」
「いや、違う。なんつーのかなぁ……もうお父様の計画はどうでもいいんだ」
「な、に……?」

ごく軽く、自然な様子で放たれたエンヴィーの言葉にマスタングは耳を疑った。

「覚えてるよ、あんたに焼かれた時のこと。そんであのおチビさんに見透かされて、理解されて……このエンヴィーは死んだはずだった。
 でもこうして、まだ生きている。これってどういうことだと思う?」
「私が、知るものか」
「だよね。それはこのエンヴィーが自分で確かめなきゃいけないことだからさ。
 だから、このバトルロワイアルってイベントに乗る。そしてあんたたち人間と戦う。
 もうお父様のことを気にしたりはしない。好き勝手にやらせてもらうよ」
「だがここには、貴様の仲間である他のホムンクルスもいるのだぞ」
「あー、ラースとプライドね。あいつらはまあ……あんま興味はないかな。会ったら手伝ってやってもいいけどさ。
 そういやさっきのおチビさんの演技、あれこの剣を使ったんだ。ラースにやれば喜ぶかな」

自分の支給品らしい黒い剣を自慢気に見せびらかすエンヴィーは、どこか晴れ晴れとした様子だった。
一度経験した死が、エドワードによって理解されたことが、何をもたらしたというのか。

「最初はあんたらと手を組むってことも考えたんだけどさ、やっぱないわ。
 だってさ、あんたらと仲良しこよしでいるより、バチバチやりあうほうが絶対に楽しいからね!」
「エンヴィー、貴様!」
「だからさ、大佐。あんたは殺さない。
 追ってくるといいよ。その傷も錬金術なら治せるだろ? 特に今のあんたは真理を見たようだし。
 早くしないとあんたの居場所、なくなっちゃうよ? 何せロイ・マスタングと同じ顔をした男が、人を殺して回ってるんだからさぁ!」

その言うところは明白だった。
エンヴィーはロイ・マスタングに成りすまし、このバトルロワイアルで人を殺すというのだ。


149 : 涙の先に ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/06(水) 00:18:43 2ujqvW0E0
「ふざけるな、エンヴィー! 貴様は私が止める!」
「甘くなったねえ、大佐。止める、じゃなくて殺す、でしょ?
 覚悟持たないとまた失くしちゃうよ? ヒューズ中佐のときみたいに……こんなふうにさ!」

エンヴィーが佐天を拘束していた腕を解く。
解放された佐天が膝をつき、酸素を求めて荒い呼吸を繰り返す。
エンヴィーはその背中に、佐天が落とした剣……マスタングが錬成した鉄パイプの剣を、心臓めがけて突き刺した。

「ぁ……」
「ルイコォォォォォォォ!」
「あっひゃっひゃっひゃっひゃ! さっき殺さないって言ったけどさぁ、ごめんあれ嘘だった!
「貴様ァァァァァァァァ――――!」
「それそれ、その顔が見たかったんだよ大佐ぁ! あんたの甘さがこの娘を殺したのさぁ!」

這いつくばったまま、あらん限りの力を振り絞って両手を叩き合わせ、指を弾く。
夜に生まれた太陽、そうとしか形容できないほどの業火が、エンヴィーへ向かって奔る。
しかし、ろくに狙いも着けられない状態で放った炎は、エンヴィーには届かない。
バック転を繰り返し回避したエンヴィーが、発電所の出口へと後退していく。

「じゃあね、大佐。急ぎなよ? あんまりボケてると鋼のおチビさんも殺しちゃうよ?」
「エンヴィィィィィィィィィィィィ!」

嫉妬が去って、残されたのは炎の燃えカスと、涙のように儚く散った一人の少女の遺体だけだった。





【佐天涙子@とある科学の超電磁砲  死亡】


150 : 涙の先に ◇H3I.PBF5M(代理投下) :2015/05/06(水) 00:18:57 2ujqvW0E0
【B-8 発電所 /1日目/深夜】

【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:両足に銃槍、出血中
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:ディパック、基本支給品
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
1:エンヴィーを殺す。絶対に殺す。この手で殺す。
2:エドワードと佐天の知り合いを探す。
3:ホムンクルスを警戒。
4:火種となるものを探す。
5:ゲームに乗っていない人間を探す。
[備考]
*参戦時期はアニメ終了後。
*学園都市や超能力についての知識を得ました。
*佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。


【エンヴィー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:切り傷多数(回復中)
[装備]:ニューナンブ@PERSONA4 the Animation、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[道具]:ディパック、基本支給品×2、詳細名簿
[思考]
基本:好き勝手に楽しむ。
1:マスタングの姿になって、彼の悪評を広める。
2:エドワードには……?
3:ラース、プライドと戦うつもりはない、ラースに会ったらダークリパルサーを渡してやってもいい。
[備考]
*参戦時期は死亡後。


151 : 黒色の殺意 ◇w9XRhrM3HU[(代理投下) :2015/05/06(水) 00:19:35 2ujqvW0E0
タバコを一本取り出し、唇に咥え火を着ける。
煙は喉を通り肺を一通り満たした後、再び喉を通り外へと吹き出された。
普段は吸わない銘柄のタバコ。味は濃い目だ。
タバコは唇から離れ人差し指と中指の間で、その先を小さく燃やしながらと灰へと変えていく。

「殺し合いか」

狡噛慎也は恐怖するでもなく、絶望するでもなく、ただ淡々と事実を再認識し整理する為に呟いた。
またタバコを唇へ運び、咥えたまま両手をポケットの中へと入れる。
そして、煙に吸い寄せられるように夜空を見上げた。
夜空には星が以前変わりなく光り輝いている。

「二つ、輝きが強くなったか?」

そう口にし、狡噛は空に向かった首を今度は下に向け、ポケットに入れた両手の内の右の手を出した。
その手に握られたリボルバー式の拳銃を見つめる。

「アンタの形見になっちまったな。とっつぁん」

奇妙な偶然だ。
狡噛の元同僚から譲り受けたそれが、また支給品として巡り巡って狡噛の手に渡った。
勿論、同じ種類の別物という可能性もあるが、このようなアナログな銃が今時そうそうあるとは狡噛には思えない。
それに自分が使用する前に行った手入れの跡も確認できる。
広川の手に渡ったというのが不服だが、この状況では非常に心強い。

「まだ、もう少し借りておく事になりそうだよ」

狡噛は銃を懐にしまう。そして今度はデバイスを開いた。

(随分と旧式な機器だな)

狡噛が扱う機器に比べ、あまりにも古く旧式なデバイスは子供の玩具のようにすぐ扱うことが出来た。
指をタブレットに滑らせ、参加者名簿、地図、ルール、デバイスそのものに搭載された機能を狡噛は確認していく。

(俺の知る参加者は槙島だけか。監視官が来ていないか不安だったが、不幸中の幸いという奴だな)

この殺し合いに呼ばれる直前、別れた監視官の常守朱の名前は何処にもない。
狡噛が誘拐された場所と朱の居た場所が近かった為、彼女が巻き込まれた事も危惧したが杞憂に終わったようだ。
煙と共に狡噛は安堵の息を吐いた。

(俺と槙島の同時失踪……恐らく公安は俺が槙島を殺害あるいは、その逆と見て捜査を進めるはず。
 監視官が俺達が攫われた場面を見たのならまだしも、その見解で確実に捜査は出遅れるだろう。
 支給された食事の量から考えても、殺し合いは多くても三日。
 公安が本格的な捜査に乗り出した時には既に死体の山か)

狡噛自身既に刑事ではないが、意味のない殺人遊戯を黙って見過ごす程冷酷ではない。
むしろ、この催しを開いた広川に怒りすら感じる。
だからこそ、狡噛は殺し合いを止める方法を模索していく。

(通信機器も没収されちまってる。公安の介入は望めない。なら自力で何とかするしかない)

解決しなければならない問題は多々あるが、先ずは首輪だ。
何をしようにも、こいつがあったら話にならない。
最初に首から上を飛ばされた、上条という少年の二の舞だ。
猟犬だのと言われていた事もあったが、実際犬のように首輪を着けられるのは気分が悪い。

(さて、その肝心の首輪は)

首輪をそっと撫でながら形を指で感じ、頭でその形をイメージする。


152 : 黒色の殺意 ◇w9XRhrM3HU[(代理投下) :2015/05/06(水) 00:19:52 2ujqvW0E0
(目立った繋ぎ目は無し。盗聴機能はありそうだな。
 首輪にレンズのようなものはないから、盗撮は出来なさそうだが、
 首輪ではなく、会場内の何処かにカメラを仕込んでいる可能性はあるかもしれない)

どちらにしろ今の段階では首輪の解析は不可能。
易々と手に入るとは思えないが、首輪のサンプルと首輪を外す為の道具を入手しなければならない。

(だが、サンプルの首輪は死人から取らなければならない……)

それはこの殺し合いによる死人の許容でもあった。
目の前で殺し合いが起きれば狡噛は止めに入るし、人死には可能な限り避けたい。
それでも、何処かで誰かが死んでいれば……そう考えているのも事実だ。

「もう刑事(デカ)でもないってのにな。……監視官、あんたならどうしてた?」

この場には居ない。後輩であり上司に狡噛は問いを投げる。
当然答えはない。

「俺は刑事であることを止めた。だが俺は俺のやり方で、この殺し合いを止めてみせる」

目の前の人死には当然止める。だが全てをそうするわけじゃない。
殺し合いに乗る者。その中でも、どうしようもなく救いのない殺人者。法や秩序では裁けない者達。
彼らを殺しその首輪を手に入れる。
無論、人の命に優劣をつけるつもりはないし、狡噛自身殺人者になることに変わりはない。
自己満足といえばそれまでだ。

「少なくとも、俺がこの場で知っている殺人者は槙島聖護ただ一人……。
 つまり殺し合いを止める事と、俺の私情は一致している」

狡噛の黒いスーツには不似合いな白。
その白が彼の頭から離れない。
槙島聖護。狡噛が刑事を辞めるきっかけになった男であり、宿命の敵。
狡噛に法を捨ててまで殺すことを選ばせた男。
あの男も、この場に呼ばれている。
狡噛の追跡中に奴も呼ばれたのだと考えれば、おかしい話じゃない。

「だから、俺が今やるべき事はさっきまでと変わらない。
 槙島を見つけ殺す。それだけだ」

首輪があろうとなかろうと、狡噛のすべき事は変わらないのだろう。
その宿命と湧き上がる激情に従い、彼は槙島聖護を殺す。
舞台は変わったが、役者とストーリーは変わらない。

正義と黒くも熱い殺意を含ませながら、刑事であり執行官だった男は殺し合いの戦場へ歩みだした。


【D-5/深夜】

【狡噛慎也@PSYCHO PASS-サイコパス-】
[状態]:健康、槙島への殺意
[装備]:リボルバー式拳銃(5/5 予備弾50)@PSYCHO PASS-サイコパス-
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考・行動]
基本方針:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:槙島を見つけ出す。
2:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
※一期最終話で朱が意識を失った後、狡噛が槙島を殺す以前からの参戦です。


153 : 宴のはじまり◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/06(水) 00:20:57 2ujqvW0E0
さっきよりも少し落ち着いた。
名簿を見たところ、黒子や初春さんといった名前もあった。
彼女たちとも殺し合わなければいけないというのか。

「どうしたのかな?」

「……関係ないでしょ」

「その様子だと、おそらく親しい人間が目の前で死んだ、違うかな?」

声をかけてきたのは銀髪の青年。

「……あんたに……何が分かるっていうのよ……」

「君は上条当麻と親しかった。今は葛藤に揺れ動いている。……人を殺すかという葛藤にね」

「……馬鹿言わないでよ。そんなことして、あいつが喜ぶと思っているの?」

「上条当麻だったら、誰も死なない選択肢を選ぶのだろう。僕はその選択肢は非常に尊いものだと思う。そして、人を殺すという選択肢も同じほどに崇高なものだと思う」

「ふ、ふざけないで! 誰が……人殺しなんか……」

「殺人を否としているのは良心だと思うだろう? 違う。殺人を悪としているのはただの社会規範だ。良心のない人間は一定数存在する。彼らを縛るのは結局のところ罰だ。しかし、社会規範は当たり前だが変遷する。
そもそも何をもって犯罪と定義するんだ? 平時においては確かに人を殺すことは罰を伴った犯罪だった。しかし、この場において犯罪を定義することは滑稽じゃないか。
このゲームにあるのは私刑だけだ。民数記だったかな。『あなたたちは町を選ばなければならない。それがあなたたちのための逃れの町となる。
意図せずして魂を打ち、死に至らせた者はそこに逃げなければならない。町は復讐者からの避難所となる。これは、人を殺したものが裁きの集まりの前に立つまでに死ぬことのないためだ』」

「どういう意味よ……」

「別に分からなくてもいい。ともかく僕は君が自分の意志でどう動くかを見たいんだ。この社会規範などというものが存在しない場でね。
それがどのような選択であろうと、僕は歓迎するよ」

「それで……あいつを生き返らせるために殺せっていうの……?」

「勘違いしないでほしいな。それは君が決めることだ。自分のため、他人のため、社会のため、どんな理由をつけようと殺人というものは自らの意思に基づいて行われるものだ。
だからこそそこには、シビュラシステムの介在しない人の輝きが存在する」


154 : 宴のはじまり◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/06(水) 00:21:13 2ujqvW0E0
銀髪の青年は続ける。

「このゲームに逃れの町はない。参加者は追われるキツネとなるか、追う猟犬となるかのどちらかだ。もっとも、キツネと言えどイヌ科の獣だ。あるいはオオカミの眷属かもしれない。君はどちらを選ぶつもりなのかな?」

「……私は、ただ死にたくないし、友人を傷つけたくないだけ……」

「それで友人が皆死んだら、君は猟犬となるのかい?」

「ば、馬鹿なことを言わないでよ!」

「君は心のどこかで、友人たちが誰かに殺されることを望んでいる。自分の手を汚したくないから」

「うるさい!!」

槙島聖護は動かなかった。雷光は槙島をかすめ、地面を焼いた。

「安部公房を読んだことは? 『罰がなければ、逃げる楽しみもない』僕は今、とても楽しいんだ。意思の輝きが発露するのを見るのがね。
猟犬があってこそ、キツネも輝く。このゲームを安全なところで観戦している悪趣味な人間がいたら、きっとそう思うだろう」

「……」

「必要に迫られた際に大胆で果敢であるということは、思慮に富むことと同じといってよい。よく考えるがいい」

「……」

「僕をがっかりさせないでほしいな」

槙島は美琴に背を向けた。



「そうだ、それが見たかった」

先ほど槙島がいた地点には黒い焦げ跡が残っていた。

「でも生憎、僕はまだ楽しみたいからね。今ここで殺されるつもりはないよ」

次々と飛ぶ電撃。そのどれもが、槙島を捉えているかに見える。
先ほどよりも強力で、殺すために撃たれる雷光。
槙島の表情は変わらない。水遊びでもをしているかのように。
美琴の表情には焦りが見える。これだけ撃っているにも関わらず、
あの男は苦もなく避けてみせる。先ほどの少女のように。

「君の輝きを最後まで見届けられないのは残念だが、この辺で失礼するよ」

巨大な雷光を避け、槙島は夜の闇に消えていった。

御坂美琴の目が虚ろなものに戻った。

「……これでいいのよね……間違ってないのよね……」




答えてくれる救世主は御坂美琴の隣にいない。


155 : 宴のはじまり◇fuYuujilTw(代理投下) :2015/05/06(水) 00:21:32 2ujqvW0E0
【G-2/一日目/深夜】



【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:深い悲しみ 、自己嫌悪
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
1:黒子たちと出会わないようにする。
[備考]
※参戦時期は不明。

【槙島聖護@PSYCHO PASS-サイコパス-】
[状態]:軽度の疲労
[装備]:
[道具]:基本支給品一式 不明支給品1〜3
[思考]
基本:人の魂の輝きを観察する。
1:狡噛に興味。
[備考]
*参戦時期は狡噛を知った後。


156 : 名無しさん :2015/05/06(水) 07:18:42 aGUah8kEO
代理投下乙なんですが、いくつか修正前のSSを投下しているようです


157 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/08(金) 03:23:47 Q3DiXUzg0
代理投下ありがとうございました。

予約分を投下します。


158 : あたしは殺しだってやってやる ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/08(金) 03:25:10 Q3DiXUzg0

タツミは状況をいち早く理解した。

「俺は殺し合いをさせられている……!」

当然である。
自分の帝具であるインクルシオが手元にない。
完全に後手に回っている。あの広川と名乗った男はどうやらデキる人間らしい。
裏の世界に踏み込み経験を積んできたタツミでも拉致には気づかなかった。

名簿を見るとアカメも参加させられているようだ。
任務の可能性もあったが流石に聞かされているだろう。
他にもエスデスを始めとするイェーガーズの名前も乗っていた。
彼女達の名前が在ることに疑問を覚えるが気にしていても仕方が無い。

悪である広川を斬りこの場から脱出することが大切だ。
その過程イェーガーズ達と衝突する可能性もあるが遅かれ早かれなことに変わりない。
最も正義を振り翳す彼女達とは運が良ければ協力出来るかもしれない。

彼女達も巻き込まれているのか、それともナイトレイドを狩るための作戦なのか。
だどしたら何故自分とアカメだけなのか、イェーガーズは全戦力を注ぎ込まないのか。
帝具を押収している時点で自分達を殺せるのではないか。
読めない。全く以って広川の考えを読むことが出来ない。

自分が置かれている状況と現時点の情報を噛み合わせる。
アカメとの合流を考えるべきだが何処に居るかが解らない。
広川を殺すべきだが何処に居るかが解らない。

「……とりあえず歩くか」

方針は定まるが過程に対して明確な答えは出ない、出るはずがない。
今出来る事は足を動かすことだけだ。

危険人物に遭う可能性もあるがそれは仕方が無い。
ナイトレイドとイェーガーズが参加しているのだ、他の参加者も碌でもない人間なのだろう。
決して天国には招かれない闇の住人が蔓延っていると考えれば……殺す側の気持ちも少しは楽になる。


159 : あたしは殺しだってやってやる ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/08(金) 03:25:49 Q3DiXUzg0

殺す側の気持ち。
創られた顔で真実を隠すように、隠すように、隠すように。


「ねぇ、私はどうすればいいと思う……思いますか?」


前方に現れた少女は尋ねてきた。
蒼い髪と鎧に白いマントは正義の戦士を連想させる。
それに似合わない程の黒い表情が気になるが。
タツミは質問の中身に戸惑いながらも取り敢えず返した。

「どうすればって……どうしたい?」

「願いを叶えるにはどうすればいいの」

少女の顔は暗い。
見た目から察するに年はまだ十代。そんな少女が尋ねてきたのだ、願いを叶える方法を。
本来ならば努力だの何なの答えるべきだろうが一つの言葉が脳裏をよぎる。
最後の一人になれば願いが叶う――広川が言った言葉だ。
信じればそのとおりだろうが――まさか。
タツミの表情が変わる。この少女はもしかすると――乗っている。

「あたしはさ、ただ治って欲しかった。もう一度バイオリンを演奏出来るようになってもらえばよかったの」

少女は一人空を見上げ、円を描くように歩き独吐を始めた。

「願いは叶った、でもその代わりあたしは絶望にドーン……って堕ちたの。
 恭介は仁美とで、あたしは死なないように魔女を狩る、でもこの身体は死んでいるの……わかる?」

「いや、解らない……君が願いを叶えたことも絶望に堕ちたことも俺は知らない」

「はは……だよねー。それでさ、願いを叶えるチャンスがもう一度巡ってきたの」

足を止めて振り返る少女。
その瞳には若干の潤いを灯しており、先程まで泣いていたことが伺える。
彼女がどんな人生を送ってきたかは知らないがそれなりの惨劇があったのか。
だがそれを考慮しても彼女の思考は許せはしないだろう。
仮に違ったとしても彼女は願いのために人を殺そうとしている。

「願いを叶えるために人を殺すってのか?」

「待っていれば警察が来るかもしれない。そうしたら広川は逮捕される。
 でも人間に出来るのはそれまででしょ? あたしが何人か殺しても証明する証拠がないワケ。
 だから責任は全部広川に取って貰うの。願いが叶うのは嘘かもしれないけどあたしは一度奇跡を体験してるからね、信じる」

確定だ。
目の前の少女は殺し合いを肯定した。
それも責任を総て他人に押し付け自分を正当化した悪党が行う外道の道を歩むつもりだ。

ならばどうする。
普通なら止めるだろう。
青臭い言葉を投げて相手の感性に訴えかける。
道を踏み外す前に正当な光が当たる世界へ再び引き摺り込もうとするだろう。

「そうか……なら、俺はお前が誰かを殺す前に殺すッ!」

「――!?」

巨大な斧を取り出したタツミはそのまま少女の元へ駆ける。
優しい言葉ではなく強く決意の籠もった言葉は死刑宣告と変わらない。
彼は多くの人間を殺してきた。
それは世界のため、謂わば平和のために、弱者のために戦ってきた。

「お前みたいな奴は誰かを不幸にする! その前に俺が引導を渡してやる!」

「信じられないッ……ちょっとは慰めてもさッ!」

それは修羅の道。
美化される話ではなく人殺しが罪なのは変わりなくタツミも自覚している。
自分は死ねば天国へは行かず碌でもない地獄に堕ちることも受け入れているのだ。
今更一人の少女――悪人を殺したところで何も変わらない。

跳躍し切断せんと斧を振るうタツミ。
その行動と現実に毒を吐きながらも少女は応戦する。
美樹さやかは魔法で剣を精製すると上空から迫る斧の一撃を防ぐため横に構えた。


160 : あたしは殺しだってやってやる ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/08(金) 03:27:24 Q3DiXUzg0

振り下ろされた一撃を受け止めるさやかだが細い剣では限界が生じる。
数秒も経たずに斧は剣を斬り裂き大地に突き刺さった。
冷や汗をかくさやかだが黙っているわけにも行かず、後退し体勢を整える。

再度剣を精製しタツミを睨む。

「あたしを殺すつもりなんだ」

「お前を放置していたら誰かを殺す……タツミって男はそんな奴を見逃す程甘くねえ」

タツミに揺さぶりを掛けてみたが意味は無いようだ。
揺れる天秤のように曖昧な心情なら隙を作れると思ったが彼の精神は完成しているらしい。
自分のような脆い心とは違い……剣を握る手に力を込める。
タツミは腰を落とし斧を力強く握ると一歩踏み出し腕を振るった。

「オラァ!!」

全力で投擲された斧は大きく風を切る音を響かせた。
螺旋のように回転を重ね対象へ――美樹さやかを殺すために迫っている。

之に対し防ぐことを諦めたさやかは剣を一度下し斧を見つめる。
一度深く呼吸を行い、間を開けた後、目を見開き己の身体を動かす。
自ら斧に近づくとそれを掻い潜るように重心を下へずらし更に足を踏み出す。

彼女の耳元を斧が通り過ぎ美しい蒼い髪が宙を舞う。
しかし彼女自身に傷はなく、斧は明後日の方向へ飛んでいってしまった。

本来の彼女の動体視力では斧を躱すことは不可能である。
それを可能にするのが魔法であり彼女達魔法少女の特権だ。
動体視力を魔力によって強化した彼女の能力は人間を超える。

斧が無いタツミは無防備であり斬るには障害が無い。
この手で人を殺すには躊躇いが有るがそうは言っていられなのだ。
このままではソウルジェムが濁りやがては魔女になってしまう。
自分が死んでしまう。その前に願いを叶え元の少女へ戻る、それが美樹さやかの願いだ。

叶えるためには甘さを捨てる。その一歩がタツミを殺すこと。
走りだした思いは誰にも止められない/止めてくれない。

剣を構え首を刎ねるように振るおうとするさやかだがタツミは微動だにしない。
違和感を覚えるが死を前に動けなくなったのだろう。
ならば構っている必要もなく瞳を閉じる。

人を殺す瞬間は見たくない。
甘さを捨てるつもりだがどうも現実を受け入れる覚悟が追いついていないようだ。
その甘さが彼女であり、死を招く結果となる。

そのまま剣を振るっていればタツミは死んでいただろう。
少しの躊躇いが勝敗を決定付けたのだ、甘さを捨てれば勝っていたものを。
気付けば美樹さやかの背中には斧が刺さっている。
前にタツミが投擲した斧である。

「な、なんで……?」

斧は躱した、後ろへ飛んで行った、近くには誰もいない、斧を投げる人間は存在しない。
何故自分に斧が飛んできたのか、理解が出来ない。
大地に倒れこんださやかは痛みに顔を歪めながらタツミを見上げた。

「二挺大斧ベルヴァーク……投げた後は勢いが死なない限り相手を追尾する帝具だ。
 躱して油断したお前が悪い、それが敗因だ。願いを夢見てそのまま眠っていやがれ」


161 : あたしは殺しだってやってやる ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/08(金) 03:28:25 Q3DiXUzg0


二挺大斧ベルヴァーク。
美樹さやかは知らないだろうが斧の帝具である。
能力はタツミが言った通り投擲されれば勢いが死ぬまで相手を追尾する地獄の大斧。
二つに分離することも可能であり、単純な力技で絶大な力を発揮する帝具である。

タツミは嘗てこの帝具に苦しめられていた。
何の因果か彼に支給されたのは広川の嫌がらせなのだろうか。
初めは舌打ちをし、怒りに震えていたが結果として武器が手に入ったことは喜ぶべきだろう。
現に美樹さやかを倒すことに成功した。武器がなければ殺されていたのは自分だ。

「そ、んなの……しらな……っ…………」

最後の言葉は呆気無い。
創作のように誰もが劇的に、ドラマチックに死ねる訳ではない。
美樹さやかは己の人生の終幕に何の感想も得ずに息を引き取ったとタツミは認識した。

美樹さやかの背中に突き刺さるベルヴァークを回収する。
彼女の身体に触れると暖かく、少し前まで生を授かっていた事を実感する。
呼吸はしておらず絶命している。死因は斧であり犯人はタツミだ。

しかし今更一人殺した程度で彼の信念は揺らがない。

悪を殺す。

彼は斧をバッグに仕舞い込み、歩き出す。
この世総ての悪を殺すまで彼に平穏は訪れない。



【G-8/一日目/深夜】



【タツミ@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:悪を殺して帰還する。
1:アカメと合流する。
2:悪を斬る。
3:信頼出来る仲間を集める。
[備考]
※参戦時期は不明。
※美樹さやかを殺したと思っています。

【二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!」
 巨大な斧の帝具。一度投げられれば勢いが死ぬまで相手を追尾し続ける。
 二つに分離することも可能。タツミはさやか戦では分離した状態で扱っていた。


162 : あたしは殺しだってやってやる ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/08(金) 03:29:25 Q3DiXUzg0


魔法少女とは少女が憧れる夢のような存在だ。
キラキラでるんるんでフリフリでキュアキュアな魔法少女。
悪を倒し人々に平和を与え希望を振り撒く正義の味方。

魔法少女とは人々に不幸をばら撒く可哀想な存在だ。
願いを叶えたが故に絶望をその身に引き受ける残念な存在。

美樹さやかは愛する人の幸福を祈った。
けれど彼女が手に入れたのは絶望だった。

「あたしは……死ねない……」

魔法少女の身体は外付けのような物。
本体とも呼べる魂の拠り所はソウルジェムにある。
宝石が砕けない限り彼女達はゾンビのように死ねずに戦う。

「あたしは……死なない……」

死ねない、死なない、死ぬわけにはいかない。
美樹さやかはもう一度普通の少女に戻り日常を取り戻す。
その為にはこんなところで死ねる筈がないのだ。

血反吐を吐きながら大地を這い蹲る。
醜くてもいい、生きてやる、生きていれば先がある。
掴め、この手で幸せを勝ち取ってやる、主役はあたしだ。



もう一度願いを叶えるチャンスがあるってんなら、あたしは殺しだってやってやる。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:背中に裂傷(再生中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ソウルジェム(穢:中)、グリーフシード×3@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:どんな手を使ってでも願いを叶える。
0:願いを叶えて普通の少女へ戻る。
1:傷を回復する。
2:出会った弱い人間は殺す。強い人間には協力する素振りを見せる。
[備考]
※参戦時期は魔女化前。


163 : あたしは殺しだってやってやる ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/08(金) 03:30:18 Q3DiXUzg0
投下を終了します。


164 : 名無しさん :2015/05/08(金) 11:29:18 lHhQibxQ0
投下乙です
さやかちゃんも殺し合いに乗ってしまったか
魔法少女勢のマーダー率は高いなぁ
タツミも果たしてアカメと合流できるのか


165 : 名無しさん :2015/05/08(金) 23:38:44 J0AujV6k0
投下乙です

おお…さやかちゃんのサイコパスもといソウルジェムが濁っておられる
タツミは中々戦意高いな、どう転ぶか


166 : 名無しさん :2015/05/09(土) 10:21:30 uNJssRRw0
投下乙です


167 : ◆w9XRhrM3HU :2015/05/09(土) 11:01:03 H7vcpVs60
投下します


168 : 偽りの悪評 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/09(土) 11:03:12 H7vcpVs60
「ま、待って……待ってよぉ……」

やれやれだ。
俺はそう呟きたくなった。
俺とホ女は今、音ノ木坂学院とかいうのに向かっている。
どうやら知り合いが居るらしい。俺には関係ないが付き合ってやることにした。
無論、これで屁のことはチャラだぜ。
本当なら髪を毟ってやるところを、勘弁してやってこれだからな。聖人ならぬ聖犬だよ俺は。
羨ましいぜ全くよ。あの間抜け染みた頭が選考の基準から外れたんじゃあねえか。
間抜けなお陰で助かるなんて、世の中分からないもんだぜ。

「も、う……だ、め」

はあ〜。
なんでこう人間ってのは、バテやすいんだろうな。
俺が走ってるのを後ろから追いかけるのは良いが、すぐにスタミナが切れやがった。
二足で走るから人間は馬鹿なんだよ。
ぜえぜえ言いやがって、雌豚みてえな奴だぜ。いや豚はブヒブヒか。
まあ何だって良い。ちったあ待ってやるかね。

「大丈夫かな。お嬢さん」

ホ女がへばってるとこに男がきやがった。
黒髪で長身の男だ。まあジョースターの方がガタイはいいが、顔立ちは人間の中じゃあ悪くない方だな。
あれはきな臭いぜ。何かむかつくしな。

「あ、貴方は……」
「名乗り遅れたね。私はロイ・マスタング」
「えーと、私は……」
「いや名乗らなくていい」
「え?」

あれか? 名前を聞く前に名前を当てる手品をやろうってか?
遊び慣れてるな。ホ女はヤリ捨て確定か?

「死んで貰うからね」

俺は舌打ちしながら愚者(ザ・フール)を出した。
面倒なことに、マスタングは殺し合いに乗っていやがるらしいな。
俺には関係のない事だが、一応ホ女に付き合ってやる事にした訳だし、少し助けてやることにした。
マスタングが取り出した剣がホ女を斬り付ける前に、愚者を刀身に叩きつけ狙いを反らしてやる。
勿論、スタンドはスタンド使いにしか見えねえ。ホ女もマスタングも何が何だか分からないはずだ。
俺は無関係な面装って、普通の犬の振りをしてれば報復を食らうこともないわけだ。
ほらとっとと逃げろって……。

「な、なんでマスタング……さん」

あのビチクソ女がッ! 腰抜かしやがった!!
せっかく人が気まぐれで助けてやってんのに何やってんだてめえッ!

「ほう、変わった力だね。君のかな?」

あ? 今なんつった?
あいつ、変わった力と言ったのか!?
まさか愚者が見えている? スタンド使いかこいつ!

「え? え? 今の何……私じゃ……」

い、いや、ホ女にも見えていた……。
俺の愚者がスタンド使いでもない人間にも見えているッ!
どういうことだ? スタンドはスタンド使いにしか見えないのがルールだろうが!
まさかホ女もマスタングもスタンド使い? んなアホな。
マスタングは今、「変わった力」と言ったんだぞッ!? つまり奴はスタンドを知らない、スタンド使いじゃあない。
そしてホ女だって、スタンド使いとは到底思えん。

「ふむ、ではあの犬かな?」

何にせよ不味いぜこいつは。あのホ女、あっけに取られ馬鹿正直に答えちまった。
てめえの能力じゃないと分かれば、消去法的に俺の能力ってばれちまうだろうが。
となればこいつは俺を敵として襲ってくるかも知れねえッ!
いや、既に敵として認識してやがる! こいつマスタングの野郎、俺を見ていやがる!
ああ、クソッ!! 最悪だ。気紛れに人助けなんかするんじゃあなかった! ホ女がとっとと逃げてりゃあ俺も普通の犬面して、さっさとズラかれたってのに!
今から馬鹿犬のフリすれば見逃さねえかこいつ!? 

「特殊な能力を持った犬か。興味深いな、錬金術師としてね!」

だ、駄目だ! 俺がスタンド使いだとこの野郎は確実に認識しているッ!
こうなったらやるしかねえ! 『愚者』!!
マスタングの剣に合わせ、俺の愚者を盾に変形させる。
俺の愚者は砂のスタンド。変幻自在だ。盾だろうが何にだってなる。
マスタングの剣と愚者の盾激突する。が、大した事はねえ所詮人間の力だ、そう簡単に愚者が……。


169 : 偽りの悪評 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/09(土) 11:03:38 H7vcpVs60

「!?」

剣と盾がせめぎ合う。マスタングは全体重を剣に乗せてきやがった。
普通なら、人間の体重如き跳ね除けられる。
なのに……ば、馬鹿な……こいつ重過ぎるッ!
有り得ん。どう見たってジョースターよりも小柄なマスタングがこんな異様な重さを持ってるだなんて!
腹の中に何詰め込んでやがる! 人間の重さじゃあないぞこれは……! 

「どうした? 苦しそうじゃないか」

うるせえんだよこの隠れデブ!
か、考えられるのは一つ。……スタンドだ。こいつは自分の重さを操れるスタンド使いなんだッ!
さっきマスタングはスタンド使いではないと思っていたが、もしかしたら自分がスタンド使いだと認識していないだけなのかもしれない!
スタンドのビジョンが見えないのが気になるが、そんなこと言ってる場合じゃあねえ。
重すぎるぞ……。俺のスタンドパワーを全開にしないと受け切れん!
その上、滅茶苦茶な集中力が居るもんだから、俺自身が動けねえ!
不味い! 非常に不味い! 愚者もこの重さに長くはもたねえ!
集中しすぎて俺のハンサムでキュートなドッグフェイスが人面犬みてえに歪んじまった!
しかも力みすぎて屁まで漏れてきやがったッ!

「さて、あともう一押しかな」
「駄目っ! ワンちゃん!!」

ああ、もう駄目だぁ!! 御終いだよくそぉ!!
ホ女なんとかならねえのかぁ!! 
一か八か愚者を消して、剣をかわすか? だがタイミングがシビア過ぎる!

「何やってんだてめえ!」

ホ女やマスタングでもなく、当然俺でもない別の声が響いてくる。
マスタングは咄嗟に剣を引き、俺もスタンドを下がらせ一気に距離を取った。
た、助かった……?
声の主はダセェ服装した田舎野郎だった。

「見て分からないかね?」
「言い訳もなしってか? いっそ清清しいなオイ」
「それで君はこの私、ロイ・マスタングをどうする気かな?」
「斬る!」

正義感に燃える田舎野郎が剣を持って突っ走りマスタングに斬りかかる。
マスタングは剣を受けながら反撃に移るが、それよりも田舎野郎の剣の方が速い。
為す術もなく防戦一方に追い込まれやがった。
やるじゃあねえか、田舎野郎。まあ俺も本気出せば負けない自信はあったがね。さっきのはホ女が悪い。

「なるほど、威勢が良いだけではないらしい」
「そういうアンタも大したことないな」
「確かにそうだな。……だから、ここは逃げて他の参加者を殺すとしよう」
「何!?」

田舎野郎の剣を振り切ったマスタングは背を向け全力疾走で駆け抜ける。
速い。人間業じゃあない。あれもスタンドの能力に違いねえ。
田舎野郎ですら、追跡は諦めて剣を収めてやがる。

「くそっ逃げ足の速い奴だ。……あんた大丈夫か!」
「は、はい。ありがとうございます」

やれやれだぜ。
何はともあれ助かったのは事実だ。だが俺の心配をしねえのはどういう了見だこいつ。

「俺はウェイブ。殺し合いには乗ってない」
「私は穂乃果です。私もそんなもの乗ってません」

そもそも死に掛けたのは、そこのホ女のせいだってのによぉ。
腹が立つぜ。この田舎野郎には屁をかましたいとこだが、生憎さっき漏れて品切れだし代わりに良いモンくれてやるぜ。

「あっワンちゃんどうし……」
「こ、こいつッ! 俺の靴の上でクソしやがった!!」


170 : 偽りの悪評 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/09(土) 11:04:32 H7vcpVs60
【B-7/1日目/黎明】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:ワンちゃん(イギー)への怒り、疲労(中)
[装備]:練習着
[道具]:基本支給品、鏡@現実、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、コーヒー味のチューインガム(1枚)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、イギーのデイパック(不明支給品1〜3)
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す。
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:今度はクソかッ!
3:イギーと一緒に行動する。
4:さっきの砂の人形みたいなのはワンちゃんの?
5:ウェイブさんと話す。
6:ロイ・マスタングを警戒。
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※イギーを「ただの犬」だと思っていましたが認識が変わってきています。
※イギーの名前を知らず、「ワンちゃん」と呼んでいます。
※『愚者』を見ました。
※幻想御手はまだ使っていません。


【幻想御手について】
幻想御手を使うことで、たとえ学園都市の人間でなくてもレベル2程度の異能を手に入れることができますが、使用してから24時間後に脳死します。
手に入る異能は他の書き手の方にお任せします。


【イギー@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:巻き込まれたくないが、とりあえず動く
1:ホ女に付き合ってやる。
2:広川をひでー目に遭わせてやる。
3:ジョースターたち(承太郎、ジョセフ、アヴドゥル、花京院)に会ったら髪を毟り、屁をかます。
4:田舎野郎(ウェイブ)は様子見。
5:ひでェ目にあったぜ。もう二度と人助け染みた事はしない。
6:ロイ・マスタングを警戒。
[備考]
※参戦時期はエジプトの砂漠で承太郎たちと合流する前からです。
※『愚者』の制限については、後続の書き手の方にお任せします。
※穂乃果を犬好きだと見なしています。
※穂乃果の名前を聞きました。
※スタンドが普通の人間にも見えることに勘付きました。
※マスタングはスタンド使いだと思っています。

【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:健康、イギーに怒り
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン、イギーのうん○@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:基本支給品、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。
1:他参加者(工学に詳しい人物が望ましい)と接触。後ろから刺されぬよう、油断はしない。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:首輪のサンプル、工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:クロメ達はともかく、エスデスはグランシャリオを取り戻すまで会いたくない。
6:穂乃果と話す。この犬は後でシメる。
7:ロイ・マスタングを警戒。次会ったら斬る。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。


171 : 偽りの悪評 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/09(土) 11:05:23 H7vcpVs60





「ハハハッ! 良い感じだよ!」

ロイ・マスタングの姿をしたエンヴイーは愉快そうに笑う。
殺しの邪魔をされたというのに、そこに忌々しさや怒りはまるで感じられない。
むしろラッキーだったと言いたげな程、笑顔を浮かべていた。

「運がいいな。ウェイブ? だったけ。良い奴に良い感じで大佐の悪印象を植え付けられたよ」

詳細名簿に記載されたウェイブの項目。
幾つか意味の分からない用語があったが、イェーガーズと呼ばれる軍人らしい。
正義感は高い。戦力も十分。次、大佐と会えばほぼ間違いなく殺し合うだろう。

「楽しいねえ。さて、次はどうしようかな」

マスタングの姿から穂乃果の姿へ更にイギーへと変わりウェイブのへと変身する。
最後に髪を伸ばした青年の姿。エンヴィーが普段から使用する容姿へと戻る。
手にある詳細名簿。そして変身能力。この二つでどう遊ぶかエンヴィーは思案を巡らせ始めた


【B-7/1日目/黎明】

【エンヴィー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブ@PERSONA4 the Animation、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[道具]:ディパック、基本支給品×2、詳細名簿
[思考]
基本:好き勝手に楽しむ。
1:マスタングの姿になって、彼の悪評を広める。
2:エドワードには……?
3:ラース、プライドと戦うつもりはない、ラースに会ったらダークリパルサーを渡してやってもいい。
[備考]
*参戦時期は死亡後。


172 : ◆w9XRhrM3HU :2015/05/09(土) 11:06:02 H7vcpVs60
投下終了です


173 : ◆w9XRhrM3HU :2015/05/09(土) 11:19:53 H7vcpVs60
すいません>>168はこちらに差し替えで 推敲不足だった……


「ま、待って……待ってよぉ……」

やれやれだ。
俺はそう呟きたくなった。
俺とホ女は今、音ノ木坂学院とかいうのに向かっている。
どうやら知り合いが居るらしい。俺には関係ないが付き合ってやることにした。
無論、これで屁のことはチャラだぜ。
本当なら髪を毟ってやるところを、勘弁してやってこれだからな。聖人ならぬ聖犬だよ俺は。

「も、う……だ、め」

はあ〜。
なんでこう人間ってのは、バテやすいんだろうな。
俺が走ってるのを後ろから追いかけるのは良いが、すぐにスタミナが切れやがった。
二足で走るから人間は馬鹿なんだよ。
ぜえぜえ言いやがって、雌豚みてえな奴だぜ。いや豚はブヒブヒか。
まあ何だって良い。ちったあ待ってやるかね。

「大丈夫かな。お嬢さん」

ホ女がへばってるとこに男がきやがった。
黒髪で長身の男だ。まあジョースターの方がガタイはいいが、顔立ちは人間の中じゃあ悪くない方だな。
あれはきな臭いぜ。何かむかつくしな。

「あ、貴方は……」
「名乗り遅れたね。私はロイ・マスタング」
「えーと、私は……」
「いや名乗らなくていい」
「え?」

あれか? 名前を聞く前に名前を当てる手品をやろうってか?
遊び慣れてるな。ホ女はヤリ捨て確定か?

「死んで貰うからね」

俺は舌打ちしながら愚者(ザ・フール)を出した。
面倒なことに、マスタングは殺し合いに乗っていやがるらしいな。
俺には関係のない事だが、一応ホ女に付き合ってやる事にした訳だし、少し助けてやることにした。
マスタングが取り出した剣がホ女を斬り付ける前に、愚者を刀身に叩きつけ狙いを反らしてやる。
勿論、スタンドはスタンド使いにしか見えねえ。ホ女もマスタングも何が何だか分からないはずだ。
俺は無関係な面装って、普通の犬の振りをしてれば報復を食らうこともないわけだ。
ほらとっとと逃げろって……。

「な、なんでマスタング……さん」

あのビチクソ女がッ! 腰抜かしやがった!!
せっかく人が気まぐれで助けてやってんのに何やってんだてめえッ!

「ほう、変わった力だね。君のかな?」

あ? 今なんつった?
あいつ、変わった力と言ったのか!?
まさか愚者が見えている? スタンド使いかこいつ!

「え? え? 今の何……私じゃ……」

い、いや、ホ女にも見えていた……。
俺の愚者がスタンド使いでもない人間にも見えているッ!
どういうことだ? スタンドはスタンド使いにしか見えないのがルールだろうが!
まさかホ女もマスタングもスタンド使い? んなアホな。
マスタングは今、「変わった力」と言ったんだぞッ!? つまり奴はスタンドを知らない、スタンド使いじゃあない。
そしてホ女だって、スタンド使いとは到底思えん。

「ふむ、ではあの犬かな?」

何にせよ不味いぜこいつは。あのホ女、あっけに取られ馬鹿正直に答えちまった。
てめえの能力じゃないと分かれば、消去法的に俺の能力ってばれちまうだろうが。
となればこいつは俺を敵として襲ってくるかも知れねえッ!
いや、既に敵として認識してやがる! こいつマスタングの野郎、俺を見ていやがる!
ああ、クソッ!! 最悪だ。気紛れに人助けなんかするんじゃあなかった! ホ女がとっとと逃げてりゃあ俺も普通の犬面して、さっさとズラかれたってのに!
今から馬鹿犬のフリすれば見逃さねえかこいつ!? 

「特殊な能力を持った犬か。興味深いな、錬金術師としてね!」

だ、駄目だ! 俺がスタンド使いだとこの野郎は確実に認識しているッ!
こうなったらやるしかねえ! 『愚者』!!
マスタングの剣に合わせ、俺の愚者を盾に変形させる。
俺の愚者は砂のスタンド。変幻自在だ。盾だろうが何にだってなる。
マスタングの剣と愚者の盾激突する。が、大した事はねえ所詮人間の力だ、そう簡単に愚者が……。


174 : ◆5cyPCmuV8s :2015/05/09(土) 12:13:45 Q1N7ggQk0
投下します。


175 : ◆5cyPCmuV8s :2015/05/09(土) 12:14:49 Q1N7ggQk0

1羽の妙に着飾ったハヤブサ――ホルス神のスタンド使いでDIOの側近であるペット・ショップは
池の黒い水面を覗きこみながらぼんやりと考えていた。
ここはどこだ?と。

ヒロカワとかいう人間に拘束され、独特な生存競争に強制参加させられている身なのは理解できている。
さっき鳥の身でも比較的扱い易い支給品――参加者名簿を取り出し目視し、元々の敵であるジョースター一行六名のうち五名の
承太郎、ジョセフ、花京院、アブドゥル、イギーも参加させられているのも確認している。
主であるDIOも参加させられている許しがたい一点を除けば、己にとって特に気にするほどの事態ではない。
主と出会う前から、多分卵の頃から殺し合いは日常の一部だ。なんてことはない。
己と主の不利益にならなければ、無数の生物を始末し回っても気分は良くなりこそはあっても、悪くならないだろう。
現にここに連れてこられる前には、主から不用意に館を探る者の殺しを――門番を任せられていたくらいだ。


「……」


問題は、何故死んだはずの己が生きているのかだ。
主の宿敵であり標的のジョースター一行のメンバーである、チビ犬――イギーとの戦いで己は殺されたはずだった。
クチバシを噛み砕かれ、体内に作った爆弾を暴発させられて。
そして更におかしい事に、さっき何気なしに見たルールブックの内容を解読できないはずなのに読めたのもおかしかった。
名前くらいならまだしも、長文を読めるだけの知識は己にはないはずなのに。


根本からおかしい、ここはこの世でなくあの世とやらか?
それとも己がおかしくなっているのか?
分らん、何もかもが解らない……。
ペット・ショップは困惑した。
スタンドの調子も良くない、これでは殺し合いで不利だ。
半ば呆然としたまま、ペット・ショップ顔を上げると水面の向こうに見覚えのある建物のシルエットを発見する。
主の住処――DIOの館ににそっくりだった。
もっとも周囲の地形故に本物とは思えなかったが。


「…………」


決めた。
まずはあの建物に行くとしよう。
主やジョースター一行も含めた他の参加者もいずれ立ち寄るに違いない。
いい気になった殺し甲斐のあるムカつく獲物や強敵といえる参加者と遭遇できればいいんだが……。
そう己を奮い立たせペット・ショップは翼を広げ館の方へ向かった。


176 : 出会いはある時突然に… :2015/05/09(土) 12:20:06 Q1N7ggQk0
【蘇芳1/2】

蘇芳・パブリチェンコは混乱していた。
これまで何度か命の危機に遭遇した事はあれど、ここまで大規模かつ訳の解らない事態
――72人もの人間が参加する殺人ゲームに巻き込まれる事は想像さえできなかったからだ。
やたらと強い一応蘇芳の保護者の黒も、ゲーム説明の際に見かけた事からして殺人ゲームに巻き込まれてしまっている。
黒以上のやり手の知人がいない以上、外部からの救助もあまり期待できそうにない。
とりあえず行動に移さなきゃと蘇芳は思った。
蘇周囲をきょときょとと見回す。

「うわぁ……」

不気味な洋館を見つけた。凝視するまでもなくいかにも怪物が住んでますって感じだ。
現在位置は館の塀の外側。蘇芳は更に混乱し、思わず呻いた。


「ん?」


近くには茂みがあった
蘇芳はすぐにそっちに隠れると小さく安堵の溜息をついた。
首輪によって殺し合いを強要されている以上、乗る参加者がいてもおかしくない。
そういった参加者に遭遇する前に、まずは生存の為にディバックの中身の確認をしなければいけないと考えた。
食料、飲料水、地図、デバイス、ルールブック、コンパス、時計といった基本支給品は全部ある。
次にデバイスを起動させ………明かりが茂みから漏れないように注意し、地図を見て現在位置を確認する。
現在位置は不気味な館…‥‥DIOの館だろう……の付近で恐らくB-5。
次は参加者名簿の確認。知った名は自分と黒、そして黒の探し人の銀。
ゲーム前の同行者だったジュライと、ペットのモモンガ ペーチャ……に憑依している猫(マオ)の名前はなかった。
その事に蘇芳はとりあえず安堵した。
次、ルール内容、時間を確認。ルールは広川が言った事の詳細で現時刻はAM0:15。

次はランダム支給品の確認。身を守れるものがあればいいけど。


「……携帯か。これって」


ランダム支給品の一つは携帯電話だった。
助けを呼べるわけないんだし、と落胆しながらも蘇芳は電話を作動させる。
支給品である以上何かの役には立つと信じて。
とりあえず知った電話番号をかけてみる。やはり繋がらない。
一旦通話は諦めて登録データを調べてみる。


177 : 出会いはある時突然に… :2015/05/09(土) 12:21:43 Q1N7ggQk0
いくつもの情報があった。
だがそれは殺人ゲームに関係する情報ではなく、一個人のある参加者に限られたものだった。
つまり

「これって、参加者の私物じゃないか」



と蘇芳は言い捨て、電話をジャンバーのポケットに仕舞った。
全く収穫はないではなかったが、期待はずれの範疇だった。
もし持ち主に会えたら返そうと、次の支給品を取り出しながら蘇芳は思った。

「……」

平べったいものを掴んだ。
嫌な予感がした。
取り出したそれは説明文が書かれた一枚の紙切れだった。



特別にペンダントは没収しないでおくよ。
無くしたり、壊したりしないようにね。

                     
                  運営より


「……言われなくても。大事なものだし」

蘇芳は愚痴りながら自身の胸元にまさぐった。
以前、父から貰った大事なペンダントは確かにあった。
更にディバックを探る。支給品はもうなかった。


「それだけ?」


蘇芳は引きつった顔で紙をひらひらと上下させた。
紙を破きたい気持ちになった。
だが蘇芳はその衝動を抑え、ディバックを逆さにして何度も振った。
何も出ない。蘇芳は情けなさに不貞寝さえしたくなった。
でも死にたくないので気持ちを奮い立たせ、今度はある確認をすると決めた。
ペンダントを没収されなかったのは不幸中の幸いだった。


178 : 出会いはある時突然に… :2015/05/09(土) 12:22:53 Q1N7ggQk0


――蘇芳・パブリチェンコは契約者と呼ばれる異能者である。
彼女の能力は対戦車ライフルPTRD-1941(デグチャレフ)の具現と使用。
能力の発動には日頃身につけているペンダントと、契約者としての代価を使用後に払う必要がある。
蘇芳はルールブックのページを何枚か千切った。
彼女独特の代価、折り紙を折る準備の為だ。
蘇芳は能力の行使が可能かどうか確認したかった。


それはゲーム開始前の、主催の広川が言った『きみたちのあらゆる異能を自由に制御する』という発言が
どうしても気にかかったからだ。
蘇芳は異能を別にしても非力ではない。
最近とはいえ、黒からスパルタとも言える戦闘訓練を受けているからだ。
その甲斐もあってか、今では無手でも一対一ならそこらの一般人相手なら負けない程度には強い。
とはいえ、蘇芳にしてみたらこの場を生き抜くには心許なさすぎた。
広川の言を信じるなら、魔法、スタンド、錬金術といった契約者とは別の超能力使用者も参加者の中にはいるはずだから。


蘇芳は目を閉じ、深呼吸をした。
そして程なくして蘇芳の異能が発動し、琥珀色の円形のペンダントが発光する。
蘇芳は上体をそらし、ペンダントから光る棒状のものが形成されていく。
そして光が剥がれるように飛び散り、大型のライフルが現れる。
蘇芳は目を開け、ライフルを構えた。


「…………!??」


伸し掛かるような急激な疲労が突如蘇芳を襲った。
何だ何が起こった?
疲労と恐怖から蘇芳は顔をしかめ、構えていたライフルが発光し粒子となって消え。
未知の現象による混乱から思わず能力を解除してしまったからだ。

しまったと蘇芳は思った。
黒がこれを見たら間違いなく殴られるくらいのミス。
ここは殺人ゲームの会場、もしこのタイミングで好戦的な参加者と遭遇したらまずい……!。

顔を上げ、早く能力の代価を払おうとした矢先、空気を裂く小さな音と鳥の羽ばたきが蘇芳の耳に聞こえた。


179 : 出会いはある時突然に… :2015/05/09(土) 12:25:53 Q1N7ggQk0
【クマ1/2】

古いながらも少々の荘厳さと得も知れぬ不気味さを漂わせている館の中を、
デフォルメした熊と人間の子供を足したような可愛らしい顔の二頭身のぬいぐるみのような生き物が歩いている。
暗闇の中を歩いている。
その生き物はぬいぐるみではない。
ぬいぐるみ――名はクマ。仲間でもあり、殺人ゲームに参加させられたセンセイと慕う鳴上悠らのいた世界において、
人間の情念が実体化した魔物シャドウが蔓延る更なる異界の住民である。
クマは高い、少年のような声色で呟く。


「雰囲気がいかにもって感じなのに……誰もいないクマ……」


ゲーム開始前の惨劇の直後、気がつけばクマは館らしき建物の中にいた。
クマは知る由もないが、雰囲気はDIOが本拠にしていた館に良く似ていた。
つまり不気味で奇妙なのである。
更に付け加えるなら、霧こそ出てい無いがクマが長年住んでいたテレビの世界にも似た空気をも漂わせていた。
クマ自身のセンスが合わない事もあり、とても居心地は悪かった。
殺人ゲームの危険さは彼なりに理解している。
仲間と一緒にいるか、あるいは雰囲気が悪くなければ、道具集めも兼ねて探索していただろう。
だが今のクマは一刻も早く館から出たい気持ちで一杯だった。照明スイッチ見つけられないし。


「みんな、どこいったクマ〜」


クマはゲーム開始前に惨劇の場にはいなかった。
他の大多数の参加者同様に不可視の力で動きを封じられてたのは同様だったが、
一人暗闇の中、モニター越しで上条当麻の最期を視聴させられたという点で他参加者と違っていた。
クマはそのことを支給品確認の後、疑問に思ったがその理由はすぐ解った。
クマの人間形態ともいえる金髪の人間の少年の姿 熊田になれないからだった。
支給品確認後、最近身につけたペルソナ召喚と熊田への脱皮(?)を試みてみたが

ペルソナ召喚は問題なく使えるのに対し、熊田化はできなかったのである。
つまり上条が殺された時、今のクマがいれば見せしめの効果が薄くなっていたのである。
変身できないのはあまりクマは気にしていなかったが、隔離されたのは点では釈然としなかった。
できないものはとりあえず置いとくとして、クマは足早に外出を目指す。
わずかに月明かりが漏れてるのが見えた。クマは更に歩行ペースを上げた。
窓が見えた。


「!」


その窓を小さな影が高速度で横切るのをクマは見た。
何クマ?思わずクマは足を止めた。


180 : 出会いはある時突然に… :2015/05/09(土) 12:29:23 Q1N7ggQk0
【プロデューサー】

館の塀の側の蘇芳が隠れていた茂みとはまた別の茂みに、背広を着た整っているが厳しい顔の大男が隠れていた。
彼――殺人ゲームに参加者名簿でプロデューサーと記載されている男は、
ランダム支給品の一つをスーツのポケットにしまうと館を見上げた。
館の規模からして探索は止めておこうと彼は判断した。時間が掛かりそうだったからだ。


彼は行き先をどこにしようか迷っていた。
自分の職場と同じ名称の346プロ事務所か、会場の中心に近い図書館か。
彼は芸能プロダクション346プロの……それも何人もの人気アイドルを育てた実績のあるプロデューサーである。
殺人ゲームに巻き込まれても、教え子であるアイドルを我が身より先に気遣う彼の姿勢は変わらなかった。
そんな彼の当面の目的は島村卯月、前川みく、渋谷凛、本田未央といったアイドル4人の捜索と保護だ。



自身の支給品の内容やゲーム開始前の広川の発言を考慮すれば、急いで346プロ事務所に行った所で探し人に会える
可能性は低いと彼は推測した。
アウトローならまだしも、人間関係等に余程の問題がなければ友人仲間同士で集まればその分殺し合いは停滞する。
ゲーム内容からして企画者は結果だけでなく過程も楽しむ傾向が感じられる以上、
容易に仲の良い穏健な参加者同士再会できるように配置しないだろう。
今後の活動拠点の最有力候補としては、情報収集で筆記具や大量のメモを必要としている事情もあり
舞台の中心に近い図書館がいいのだが、現在位置が事務所からも近いこともあって完全には割り切れなかった。
万一、彼女が事務所の近くに配置され、そこで自身達を待っていたら……という懸念が頭から離れられないからだ。


そう悩んでいた矢先、羽ばたきと少女らしき小さな悲鳴が突如少し離れた所で聞こえた。


彼は思考を切り替え、しばし黙考し足早に悲鳴のの発生源へと向かった。
そしてジャンバーを着た三つ編みの中学生くらいの少女と、何やら着飾った1羽の鳥――ハヤブサの姿のが見えた
互いに距離をとって対峙しているようだった。
少女に声をかけようとしたが、止めた。
少女とハヤブサの間にただならぬ空気が漂っていたからだ。
ハヤブサが彼の方を向いた、睨みつけるような眼差しだった。
自分と同じような首輪を付けていると彼は気づく。
視線の先を追って気づいたのか少女も彼の方に一瞬だけ顔を向けた。
冷や汗を流し、助けを求めているとも取れる眼差しで彼を見ていた。


彼は少女へ再度声をかけようとするが、威圧感を感じ、思わずまた止めてしまう。
ハヤブサはそこらの人間より、明らかに迫力があった。
ハヤブサにとって自分が邪魔なんだろうと思った。
彼は一瞬ここから立ち去りたいと思った。


181 : 出会いはある時突然に… :2015/05/09(土) 12:42:15 Q1N7ggQk0
だがすぐ思い直した。
あのハヤブサがどういう行動原理で動いているか見当は付かないが、
少なくとも目の前の女の子に危害を加えようとしている可能性が非常に高いのは推測できた。
そのまま放置してしまえば、最悪女の子を殺しても不思議でない凄みがハヤブサには感じられる。
故に『彼女たち』ではないとはいえ、三つ編みの女の子を人として見殺しにはできなかったのだ。


彼は意をを決した。
彼はハヤブサを極力刺激しないようゆっくりとした歩調で……
ディバックに手を突っ込みながら、少女の前面へ移動しようとする。

「っ!」

ハヤブサからの威圧が増した。
敵意のようなものさえ感じられ始める。
それでも彼は平常を保ち、敵意のない眼差し(?)で中の物をハヤブサの前面へと放った。


「……」


放り投げられたそれを見て、ハヤブサの威圧感が若干和らいだ。
それは透明のビニーたルに包まれた大きなメロンパンだった。
彼のランダム支給品の一種『パン詰め合わせ』の中から取り出したのだ。
ハヤブサは彼の顔を見つめた。
しばしの沈黙。
いつのまにか少女は彼の背後に回ってた。
何やら紙片のようなものを取り出して何やらしていた。
ハヤブサは少女の方に視線を向け、そのままじっと動かなくなった。
少女も何らかの作業を終えた後、彼の背後に隠れながらハヤブサの方を見て身構えていた。
彼も右手をポケットに突っ込みながら静止する。


互いに静止5分位経っただろうか、ハヤブサは彼の方に顔を向けると羽ばたき始め、館の方へ飛び去っていった。


「……」


彼には飛び去る直前のハヤブサの目がどこか面倒くさげに見えた。


182 : 出会いはある時突然に… :2015/05/09(土) 13:02:24 Q1N7ggQk0
【蘇芳2/2】

助かった……のかな?
蘇芳は安堵からの息を吐くと、星の形に折った紙片をポケットに入れた。
能力のを代価を払い終わったからだ。

致命的なミスになるところだった。
能力を使う際、ペンダントが発光してそれからライフルが具現化する。
その発光現象を参加者である変なハヤブサに見られたのがまずかった。
一旦能力を解除してしまえば代価を払うまで能力の再行使はできなくなる。
それが蘇芳がハヤブサに対応できなかった理由だ。
いきなり高速度で飛行してこちらの周りを何周も旋回した後、鋭い目つきで睨んでくる
得体の知れないハヤブサ相手に折り紙を折る隙なんて出せるはずもない。

怖かった。

契約者となった影響で殺人マシーンのようになった、かつての級友ターニャに初めて殺意を向けられた時よりも。
これまで見たどの敵よりも迫力があって、契約者やドールとも全く異なった異様さをあのハヤブサは持っていた。
少なくともライフルを使えたとしても、自分一人でどうにかできる相手じゃないと蘇芳は思った。

「あの」


蘇芳はさっき自分を助けた(?)のだろう、心配そうに声をかけてきた
――黒をごつく厳しくさせたような容貌の黒スーツの大男に対し慌てたように顔を向けた。
もっと肝心な事をするのを忘れていた。


「え、と……ありがとう、ございます。あなたは?」


蘇芳の礼に対し、男は無表情ながらも丁寧な、そして意外に渋い声で応えた。


183 : 出会いはある時突然に… :2015/05/09(土) 13:16:01 Q1N7ggQk0
【ペット・ショップ2/2】

人間二人とのにらみ合いの後。
ペット・ショップは館最上段の窓の外にいた。
スタンド能力を行使し、窓の下に氷の足場を作りそれに乗っかっているのだ。
近くの壁には己のディバックを貼り付けてあった。


「……」


飛んだ見込み違いだったようだ。
ペット・ショップは落胆していた。
先ほど人間の女――蘇芳にちょっかいをかけた理由は、他参加者どういうのがいるかか確かめるためだった。
後、自らのやる気――闘争心を出させる為の獲物になり得ると思ったからでもあった。
己と同じ、銃を操るスタンド使いならば、と。

だが、あれだけ挑発しても仕掛けようとはしなかったし、途中で割り込んできた人間の男からも戦闘意欲が感じられず、
身のこなしからしてスタンド使いではないと解れば、こちらの戦闘意欲も向上するはずがない。
その上、餌付けしようとパンを放ったと思えば、直後に身構えてそのまま静止という行動もわけがわからない。


二人ともそこらの人間のザコよりは強そうだったが、すっかり興ざめした。
せめて館に侵入しようとするか写真でも取ってでもいれば、自己暗示で殺る気は出せたかも知れないが。


「…………」


どうもスタンドだけではなく体の調子も良くないようだ。
風邪を引いた時のような気だるさがある。
いつからだ?何が原因か判断がつかない。

ペット・ショップは思考を打ち切り、窓の方へ顔を向けた。
主の気に召す建物であればいいが……。
そう思いペットショップはスタンドで生成した氷のナイフで窓をくり抜くと、ディバックを咥え館の内部に飛びこんだ。


184 : 出会いはある時突然に… :2015/05/09(土) 13:19:46 Q1N7ggQk0
【クマ 2/2】

ペット・ショップが館に入ったのと同じ頃。

「お、おかしいクマっ……起き上がれないクマ〜」


クマは前のめりに倒れて、起き上がれないでいた。
急いで館を出て、敷地内からも出ようとした矢先、大きな石につまずいたのである。
本来なら弱点は克服し、起き上がれるはずだが、これもゲームによる制限の副産物なのか
すぐに起き上がれそうになかった。



【C-7/DIOの館付近西部/1日目/深夜】

【プロデューサー@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:健康
[装備]:不明支給品(小型の武器です)
[道具]:デイパック、基本支給品、パンの詰め合わせ、不明支給品1つ(確認済みです)
[思考]
基本:情報収集を行いながら、島村卯月、前川みく、渋谷凛、本田未央の捜索と保護に務める。
   ゲームには乗らない
0:館から離れて、目の前の少女(蘇芳)と話をする。   
1:図書館か、346プロの事務所に移動して、筆記具と多量のメモ用紙を入手したい
2:不審なハヤブサ(ペット・ショップ)を警戒


【蘇芳・パブリチェンコ@DARKER THAN BLACK】
[状態]:疲労(小)、混乱(小)
[装備]:流星核のペンダント
[道具]:デイパック、基本支給品、参加者の何れかの携帯電話(改良型)
    折り紙 星に折られた警告文書、折り紙用に千切ったデバイスの説明書
[思考]
基本:ゲームには乗らない。
0:館から離れてから、目の前の男(プロデューサー)と会話する。
1:黒と合流したい。
2:変なハヤブサ(ペット・ショップ)を警戒。

[備考]
※ 蘇芳からペンダントが離れるか、破壊されるかすると記憶を失い衰弱死する可能性があります。
※ 流星核のペンダントと警告文書はセットで1つのランダム支給品です。
※ 能力制限で銃を投影すると、急激に体力を消耗します。弾丸の補充も消耗するが、銃の具現よりは負担は低め。
※ 携帯電話の元の持ち主はラブライブ!かアイドルマスター シンデレラガールズ出典の参加者の誰かです。
※ 携帯電話には主催陣による何らかの改造が施されています。蘇芳はその事にまだ気づいていません。
※ 参戦時期は6話以降です。


185 : 出会いはある時突然に… :2015/05/09(土) 13:24:43 Q1N7ggQk0
【B-6/DIOの館内/1日目/深夜】

【ペット・ショップ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、困惑(小)、元いた世界における敗戦による死のショック(無自覚、小〜中)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:夜が明けたらDIOと合流して指示を仰ぐ。邪魔と判断した奴は殺す。
1:夜明けまでDIOの館内部を調べつつ、休養を取る。トレーニングもしてみたい。 
2:ジョースター一行(承太郎、ジョセフ、アヴドゥル、花京院、イギー。
             参加者じゃないがポルナレフも)は見つけ次第始末、特にイギー。
3::手強そうな参加者とは可能な限り戦いを楽しみたい。

[備考]
※ 何らかの能力制限をかけられています。ペット・ショップはそれに薄々気づいています。
※ 参戦時期は死亡後です。



【B-6/DIOの館付近南部/1日目/深夜】

【クマ@PERSONA4 the Animation】
[状態]:健康、熊田(人)化不可、転倒中
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:仲間(鳴上悠、里中千枝、天城雪子と一応足立)と合流して殺し合いを何とかする。
   ゲームには乗らない。っていうか邪魔する。
0:起きあがれないクマ〜
1:仲間達を探す
[備考]
※ 人化と起き上がりのコツが制限されています。
  ですが何かのきっかけで取り戻せるかもしれません
※ 自力で起き上がれるかどうかは次の書き手さんにお任せします。
※ 参戦時期はペルソナ習得、人化取得以降です。


186 : ◆5cyPCmuV8s :2015/05/09(土) 13:26:59 Q1N7ggQk0
投下終了です。
本投下にも時間をかけてすみませんでした。
あと収録の際、>>175の冒頭に


【ペット・ショップ 1/2】


の追記をお願いします。


187 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/09(土) 13:32:41 HC2k0kMI0
大佐の風評被害が悲しい。
予約の段階で誰かが死ぬと思いましたがこれは嬉しい。
変身能力+顔つき名簿の恐怖がどこまで響くのか……。

氷をぶっ込んでくる鳥って冷静に考えなくても怖いですよね。
それを退ける武内Pとはいったい……w
最後のクマには癒やされました、殺し合いの中でもこうゆう空気を大切にしたいですね。

それでは自分も投下します。


188 : 人外の定義 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/09(土) 13:34:33 HC2k0kMI0


佐倉杏子と名乗った魔法少女を撃退した承太郎は適当な木陰に身を寄せた。
戦闘音は少なからず発生しており近くに別の参加者が居れば気付いている可能性がある。
DIOの刺客であるスタンド使いに襲われては分が悪く、ある程度歩いてから身を隠した。

バッグに手を突っ込み紙を取り出すと人名が書かれていた。
参加者名簿であり、自分の名前も確認出来たことから確実だろう。

「ジジィ、花京院、イギー、アヴドゥル。あいつらも居るんだな」

DIOを倒すための仲間が自分と同じように巻き込まれているようだ。
ポルナレフの名前が乗っていないのは気になるが彼のことだ、忘れられている可能性もある。

「おっと、そいつは言い過ぎかもな」

何にせよ名簿の記載内容が正しければ仲間は四人居るということ。
頼もしい、力になってくれる存在が居ることは有難いだろう。

承太郎は木陰から顔を出し辺りに誰もいないことを確認すると歩き出す。
数歩歩いたところで空を見上げる。美しい夜空だ。

「DIO……テメェもいるんだな」

夜風が涼しい。先ほどの魔法少女との戦闘が嘘のようだ。
此処にはDIOが居る、倒すべきあの男が居る。
スタンドのきっかけとなり、母の生命の危険のきっかけとなった男。
ジョースター家の血筋に因縁を持つあの男がこの会場に居る。

正直に言えばDIOとは承太郎にとって関係のない相手である。
母ホリィが関係していなければ別にエジプトに乗り込む必要もないだろう。
祖父であるジョセフ、更に血を遡りジョナサンの代から続く因縁の物語に巻き込まれたのだ。

螺旋のように何重にも引き合っていく血の宿命。
それはDIOが死んでも静寂の底から溢れ共鳴していく。
そして始まってしまった物語は止めることも出来ず自分が終わりを告げるしかないらしい。

面倒だ。やれやれだ。
だが誰かがやらねばならぬ。
ジョースターの血を受け継ぐ承太郎の運命と言えよう。
殺し合いの会場に置いてもそれは変わらず倒すべき相手はDIOだ。

「まったく……世界各地を回ったかと思えば次は拉致と来やがった。面倒だな」


189 : 人外の定義 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/09(土) 13:35:58 HC2k0kMI0


ふと考える。
DIOと広川は繋がっているのだろうか。
外道同士通じ合う可能性もあるだろう。悪の救世主とでも呼べばいいのか。
DIOに忠誠を誓う者もいれば単純に関わっているだけの部外者も存在する。
広川は前者か後者か。しかし疑問が生まれる。
名簿にはDIOの名前も記載されている。つまりアイツも首輪を付けているということ。

主催側の人間ならば名簿に名前を改めて記載する必要もない。
ならばDIOと広川は繋がっていなく敵同士と考えることが出来る。
承太郎とDIOは対等の関係、同じ参加者の可能性だって存在しているのだ。

「……考えても意味が無い、なんであんな奴らのために考え事なんてしなくちゃあならないんだ」

時間の無駄だ。
帽子をかぶり直した承太郎は取り敢えず歩き始める。
黙っていても仕方が無い。仲間が居ることが解ったならば合流のために動くべきだろう。
最もその過程で佐倉杏子のような危険人物に出会う可能性もあるが撃退すればいいだけの話である。









「こいつぁ……」

承太郎が発見したのは無残にも頭部が半壊している少女の死体だった。
グロテスク……と呼ぶには優しい程の死体が目の前に落ちていた。

桃色の髪をした少女は佐倉杏子と同じぐらいの容姿に見える。
彼女がどんな人生を歩んできたかは知らないが此処で死ぬ運命では無かったのは確実だ。
広川はランダムで、参加者を適当に集めたのだろうか。

本来、血と硝煙の匂いが関係しない世界から殺し合いに巻き込んだのならば相当な外道だろう。
DIOを倒した序に広川も倒すべきだ、承太郎は決意……当然のように思った。

「……な!?」

少女の遺体を放置せず何処かに埋めようと考えていたが事態は急変する。
承太郎は見たのだ、見てしまった。

「こいつ……頭部が再生している……ッ!?」

半壊している少女の頭部が徐々に血肉を再生している瞬間を。
剥き出しの脳は微かな光に包まれながら皮膚を再生し包み始めている。
肉付けするように頭部は元の形へと向かっているのだ。

「おいおい、俺は巻き戻しを見ているのか?」

目の前の現実を理解出来ない承太郎だが受け入れるしか無いだろう。
スタンドなのか魔法少女なのかは不明だが目の前の少女は死んでいない。
頭部を再生し再び活動しようとしている。

この状況を承太郎は観察することに決めた。
理由は一つ、今後を知るためだ。
彼の勘ではこの少女、佐倉杏子と名乗った魔法少女と同じ部類。
謎が多い魔法少女の事を聞くために彼は居座ることを決めた。

佐倉杏子のように殺し合いに積極的ならば彼女のように撃退すればいい。


190 : 人外の定義 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/09(土) 13:36:29 HC2k0kMI0


「それでテメェは誰だ?」

背後から近づいて来る人物に気が付かない承太郎ではない。
大方後ろから奇襲を仕掛けて殺すつもりだったのだろうが甘くはない。
振り返り、男を視界に捉えると動けるように体勢を整えた。

「お前ら人間は名をすぐに知りたがる」

「まるでテメェが人間じゃあないって言ってるみたいだが?」

「だとしたらどうする?」

お前ら人間は。まるで自分が人間ではないような言振りである。
スタンド使いのような一般人から逸脱した人物を指すのか。
将又、魔法少女のような人外の能力を手にしている事を指すのか。
不明だが、承太郎は短く言い返した。

「質問をしているのはこっちだぜ? テメェは誰だ」

「……俺は後藤。お前を殺す存在だ――ッ」








その言葉を最後に後藤の腕が人間の物から異形なる存在へ変貌する。
触手のように伸び始め先端は鋭利な刃物状と化していた。
その光景を目撃した承太郎は幽波紋を発動する。


「スタープラチナッ!!」


異形が相手ならば此方も異形なる力で応戦しよう。
現れたスタンドは問答無用で後藤と名乗った怪物に接近しその拳を放つ。
後藤は触手を己の身体に引き寄せこの一撃を防ぐ。
スタープラチナは後退し後藤は触手を再び自由自在に動かし始めた。

「お前も人間じゃあないようだが……何者だ」

「テメェに名乗る名前は……と言いたい所だが名乗られちゃあ仕方無い。
 空条承太郎――テメェを殺す男の名前だ」

星屑の戦士は再度接近するとその拳を振るう。
後藤は一部の触手を腕の状態に戻し同じ土俵である肉弾戦でスタンドに応じた。
衝突する拳と拳、両者互いに退かず力は均衡していた。

「オラオラオラオラオラオラオラオラ」

拳が塞がっているならば。
数は一つではない。片方の拳は自由に生きている。
使用していない拳を後藤の腹目掛けて放つがこれも防がれてしまう。

更にもう一発。
拳と拳で相殺される。
更にもう一発。
この一撃も相殺されてしまう。

「オラオラオラオラオラオラオラオラ」

拳のラッシュ。
その応酬を繰り返すスタープラチナと後藤。

承太郎は思う。
後藤とは一体何者だ。
怪物のような姿、スタープラチナに反応する能力は人間じゃあない。

後藤は思う。
この男は一体何者だ。
突然現れた謎の人形のような者、そしてパラサイトに匹敵する力は何者だ。

「オラァッ!!」

「ッッ!!」

そんなことはどうでもいい。
此処で怪物を倒せば正体何て必要のない情報だ。

スタープラチナは懇親の力を込めて拳を振り抜き後藤の身体を上空へ殴り飛ばした。


191 : 人外の定義 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/09(土) 13:37:08 HC2k0kMI0

上空へ吹き飛んだ後藤を確認すると一呼吸置く承太郎。
奴が着地した時に追い打ちを掛ける。
その瞬間を狙おうとスタープラチナを追撃体勢へ移行させた。

「……音が聞こえねえ」

暗闇のため視界が慣れていないこともあるが流石に見失うことはないだろう。
現に戦闘を行っていたのだ、少々殴り飛ばした程度で視界から消えることは考えられない。
警戒しながら後藤の落下地点へ近づく承太郎は異変を目撃することになる。


「これは……奈落か何かか?」


足場は続いていない。
草地が永遠に続いてるいる訳ではなく途中で足が止まってしまう。
足場が存在しないのだ。無とでも呼べばいいのだろうか。
黒いその空間を覗いてみると暗くて見えないが底を感じられない。

この会場が浮遊空間だと表しているが承太郎の脳裏にはイマイチ決定的な情報が入ってこない。
解ることと言えば後藤が奈落へ落下したことだろう。

「テメェの不幸を呪うんだな、後藤」

奈落がどの程度かは不明だ。
だが落下の音が聞こえないということは相当深いのだろう。
既に一分は経過している、落ちれば人外だろうと死は免れないだろう。

帽子を取り汗を拭う承太郎。
後藤と名乗った怪物は強敵と言えただろう。
交戦時間こそ短いものの触手のリーチと身体能力を考えれば不利になるのは自分だ。
短期決戦を仕掛けるつもりだったが嬉しい誤算な結果になった。

「さて」

帽子をかぶり直すと振り返る承太郎。
後藤の戦闘中に彼女が起き上がっている姿を目撃していたのだ。
それは死んでいたと思われたが頭部を再生していた桃色の少女。

「あ、あの……助けてくれて……? ありがとうございます」

一礼する桃色の少女は少なくとも佐倉杏子と違って好戦的ではないようだ。
承太郎は別にお前のためじゃない、呟くとスタープラチナを引き続き臨戦態勢のままに。
この女、実は凶悪な野郎だった、何てことも有り得るのだから。

「えっと……私のこと、警戒しますよね……信じられないかもしれませんが私は魔法少女なんです」

「――ッ」

己の拳を握る力が無条件で強まる。
魔法少女。
人間を餌にする外道なる存在が再び承太郎の前に現れた。


192 : 人外の定義 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/09(土) 13:38:58 HC2k0kMI0


顔を上げた少女は不安そうな表情を浮かべながら承太郎を伺っていた。
何か反応が欲しいのだろう。

「お前、魔法少女って言ったな?」

「はい。信じなくてもいい、でも私の頭が再生しているところを見ましたよね……?」

「ああ、この目で見た。お前のぶっ壊れた頭が治るところをな」

「……魔法のちょっとした応用になると思います……信じてくれますか?」

信じるも何も目の前で起きた現実は受け入れるしか無いだろう。
スタンドや後藤のような怪物が蔓延る殺し合いの会場で魔法使いが現れても仕方が無いかもしれない。
現に佐倉杏子と既に接している承太郎が鹿目まどかの言い分を否定するわけもなく。

「信じるも何も認めなくちゃあいけない……魔法少女ってのはなんだ?」

襲ってきた佐倉杏子とゾンビのように復活した桃色の少女。
戦闘能力は保有しているらしいが気になるのは別の部分だ。
人間を餌にしている事実と再生能力は人間の枠からはみ出している存在だ。
スタンド使いよりも人間離れしているその力は一体何なのか。
ベクトル的には後藤のような怪物に近いその力は何なんだ。


「魔法少女はその名のとおり魔法を使います」

「だろうな」

「キュゥべぇと契約して手に入れた力を――承太郎さん、後ろッ!!」


なんだと――言葉にする前に振り向いた承太郎の視界に飛び込んできたのは鋭利な触手。
見覚えが在る、数分前に戦ったあの男が襲ってきた瞬間と同じ触手だった。

「テメェ……後藤ッ!」

「俺を殺したと思ったか?」

「堕ちたはずじゃあ無かったのか?」

「堕ちる前に壁に触手を刺してよじ登ってきただけだ」

奈落の底に突き落としたはずの後藤が承太郎に襲い掛かっていた。
鋭利な触手は承太郎の左肩に深く突き刺さっているが黙っている承太郎ではない。
溢れ出る鮮血を無視しながら触手をスタープラチナで引き抜き後藤へ投げ返した。

「やってくれるじゃあねえか……いくぜオイ!」

怒りは言葉ではなく行動で示す。
ノーモーションからスタープラチナを急接近させた承太郎は拳を腹へ放つ。
奇襲とも呼べる一撃は後藤の身体へ直撃し彼の身体を捻じ曲げる。
追撃を行おうと左足を踏み込むスタープラチナだが触手が妨害する。

鞭のように連続で襲い掛かる触手を冷静に一つずつ弾き飛ばす。
一つ飛ばしてまた一つ飛ばし返す応酬を繰り広げる。

「気になってはいたがテメェ、スタンドが見えているのか?」

「スタンド……あぁ、その人形みたいな奴か」

触手と拳が火花を散らし大きく互いに後退した後。
承太郎は不可視であるスタンドを見えている後藤に問いを投げた。
本来スタンドはスタンド使いにしか目視出来ない存在である。
しかし佐倉杏子や後藤はスタンド使いではないのに見えている。
桃色の少女の視線から彼女も見えているのだろう。

これが広川が言っていた制限なのかもしれない。
だどすれば厄介だろう。
後藤のような怪物にスタンドが見えていなければ完封も出来ただろうに。

「どいつもこいつも見えてるってのか……テメェら本当に人間か?」

「俺は人間じゃあないが承太郎、お前も人外と変わらないだろうッ!」

怪物と一緒にするな、心の中で舌打ちを行う承太郎。
言葉を皮切りに再び行われる拳と触手のラッシュ合戦は承太郎にとってジリ貧である。
左肩の負傷が響いている。動きまわって撹乱するにも痛みが足を引っ張るのだ。
単純な手数では複数の触手を操る後藤が上回る。
力勝負では万全なら状態ならまだしも負傷している今の承太郎では分が悪い。


「――ッ!?」


「私も戦います! 承太郎さんは一度休んでください!」


193 : 人外の定義 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/09(土) 13:39:36 HC2k0kMI0

この場で戦闘を行っているのは承太郎と後藤だ。
しかし桃色の少女――鹿目まどかも此処に居る。

魔法で精製した弓矢を用いて承太郎の加勢に回ったのだ。
矢は後藤の顔目掛けて放つが首を捻られ回避されてしまった。


「俺の知らない力を使う……お前たちは本当に人間か?」


スタンドと呼ばれる人形を戦わせる空条承太郎。
何も無い状態から弓矢を作成した桃色の少女。
この力は彼が知ってきた人間誰一人として使ったことがない道の力。

少し前に交戦した電気を流す男の力も見たことがなかった。
光のような光線を放つ銃火器の存在も知らなかった。
殺し合いという時点で未知に溢れているがどうも人間の枠をはみ出しているらしい。
現に自分のような存在に正面から戦う承太郎の存在は異端だ。

彼の方が怪物に見える可能性だってある。

人間とは理解し難い生物だ。

「テメェに言われちゃあ心外だが俺は人間だ。ついでにこれは人間が作った力だ――オラァッ!!」

左腕をポケットに突っ込みながら承太郎は右手でバッグから一つの球体を取り出す。
それをスタープラチナの正面に落ちるように投げ込む。
スタープラチナは正面に来た球体を勢い良く殴り飛ばした。

「それは――ッ!?」

正体は手榴弾。ピンは抜かれていた。
触手の総てを己に引き寄せ防御態勢に入る後藤。
直撃すれば一溜まりもない。

「承太郎ォォオオオオオオ!!」

爆発が起きる前に後藤は叫ぶ。
お前は何なんだ、人間じゃないのか。
未知なる力は後藤にとって邪魔でしかなかった。
闘争においては楽しめたが自分に害を加えるのは別の話になる。

爆風に包まれる前に。
己に傷を与えた人外の名前を後藤は叫んでいた。







「俺達は一旦退くぞ」

「え、ええ……」

「お前と一緒に行動する義理はないが魔法少女の説明を最後までしてもらわなきゃ困るんでな」


194 : 人外の定義 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/09(土) 13:40:20 HC2k0kMI0

承太郎は左肩を抑えながら桃色の少女に移動を促した。
傷を負ったまま後藤と戦うのは分が悪すぎる。
最悪止血程度は行いたいところだ。
どうもこの会場に来てから疲労が激しすぎる、スタンドを使ったからだろうか。
本来では在り得ないが未知に溢れているこの会場なら不思議でもない。

「解りました、其処で一度承太郎さんの傷を私が治します」

「……お前、本当に魔法少女か? 佐倉杏子って奴とは違いすぎる」

襲い掛かってきた人殺しと傷を治す魔法少女。
同じ括りで考えるのが申し訳なくなる程かけ離れている。
槍と弓を精製した点から同じ能力を使っている推測が出来る。
スタープラチナの拳を叩き込んでも逃走した耐久力と再生能力も同じ部類なのだろうか。

佐倉杏子の名を聞いてから桃色の少女の表情は笑顔だった。

「杏子ちゃん!? 杏子ちゃんを知っているんですか!?」

その顔は輝かしい笑顔。
知り合いなのは確定、それも近しい仲だろう。
こんな笑顔を持つ少女と人間を餌にする外道が友達とは信じられない。

「やれやれだぜ……」

魔法少女の事何て聞かなければよかった。
話が確実に面倒になる予感を感じながら承太郎は帽子を深く被った。



【A-2/北/1日目/黎明】



【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中)、左肩に裂傷
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、手榴弾×4
[思考・行動]
基本方針:主催者とDIOを倒す。
0:後藤から離れる。
1:桃色の少女から魔法少女の事を聞く。
2:情報収集する。
3:魔法少女を警戒。
【備考】
※参戦時期はDIOの館突入前。
※魔法少女は人間を餌の餌にしていると思っています。
※後藤を怪物だと認識しています。
※会場が浮かんでいることを知りました。


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:魔力消費(中)、ソウルジェム(穢れ:中)
[装備]:見滝原中学の制服 中指に嵌められたソウルジェム(指輪形態)
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:ゲームに乗らない。みんなで脱出する。
1:後藤から離れる。
2:承太郎に魔法少女の事を説明し杏子の事を聞く。
【備考】
※参戦時期は過去編における平行世界からです。(具体的に示すとみんな死ぬしかないじゃない、の部分がアニメでは近いかなと思いますが未確定です)
※魔力の素質は因果により会場にいる魔法少女の中では一番です。素質が一番≠最強です。
※魔女化の危険は在りますが、適宜穢れを浄化すれば問題ありません。
※『このラクガキを見て うしろをふり向いた時 おまえは 死ぬ』と書かれたハンカチは何処かに落ちています。


195 : 人外の定義 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/09(土) 13:41:17 HC2k0kMI0


たかが手榴弾の一撃で怪物である後藤が死ぬなど有り得るだろうか。
答えは否、断じて否である。
大地に座り込んでいる後藤は考える。

電気を流す男。
巨大な光線を放つ銃。
スタンドと呼ばれた戦う人形。
何も無い空間から弓矢を取り出す少女。

どれも人間離れしている力を持った連中としか遭遇していない。
捕食される立場である人間の真の力、とでも言うべきだろうか。
面白い、ただ食い殺すだけはつまらない。
抵抗する力が強ければ強いほど興が唆る話だ。

「空条承太郎……覚えたぞ」

自分に傷を負わせた人間の名前。
一度奈落に落とされた時は真剣に生命の危険を感じた。
あれ程の猛者が他にいると考えると人間もまだ捨てたモンじゃないと思えてくる。

殺し合い。
強要されようが関係なく、後藤は狩りの対象を求めて歩き出した。


【A-2/南/1日目/黎明】


【後藤@寄生獣】
[状態]:疲労(小)、腹にスタープラチナの拳の跡(ダメージ0)空腹、両腕にパンプキンの光線を受けた跡、手榴弾で焼かれた跡
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:本能に従う。
1:人間を探し捕食する。
2:戦いも楽しむ。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※首輪や制限などについては後の方にお任せします。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。


196 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/09(土) 13:42:45 HC2k0kMI0
投下を終了します。

まどかの参戦時期を強引にしましたので意見があれば嬉しいです、お願いします。


197 : 名無しさん :2015/05/09(土) 13:46:00 Q1N7ggQk0
新作お疲れ様です。
後藤のダメージ0てw
杏子の行動をまどかが知ったらショックだろうなあ。
さやかの事を知ったらもっとショック受けそうだけど。
三者の強さと性格がよく表現できている作品だと思います。


198 : 名無しさん :2015/05/09(土) 13:58:19 SCSyinq60
投下乙です
承り対後藤は良いですねぇ
強者同士の対決という雰囲気が堪らない
そしてスタンドや魔法少女に触れた後藤さんのこれからも気になるところです


199 : 名無しさん :2015/05/09(土) 14:11:21 9YphDsrI0
投下乙です!

圧巻の承太郎と後藤のバトル、大好物ですこう言うの!
契約者と帝具、魔法少女にスタンド使いと人智を超越した存在に次々触れて
後藤もこれからさらに工夫して戦っていくと思うとワクワクしますね
まどかの参戦時期については問題無いと思いますよ


200 : メメント・モリ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/10(日) 19:28:47 kIrLARyI0


常盤台中学2年・婚合光子は世間知らずだが、荒事には慣れていた。
彼女が住む学園都市は治安が悪く、ひとたび表通りを外れれば学生生活をドロップアウトした暴漢が跋扈している。
そんな連中に自ら因縁をつけにいくようなタイプでは決してない彼女ではあったが。
その治安の悪さの根源……学園都市の闇に触れたことは一度や二度ではなく、戦闘も経験はしていた。
だが、目の前で人間が死体に変わる瞬間を見たことはなかった。

「……っ」

喉にせりあがる悪寒が、ツンツン頭の学生の首が胴体から跳ね上がる様を否応なしに思い出させる。
殺し合い。バトル・ロワイアル。殺さなければ死に、戦わなければ殺される。
目的はもちろん、そんな事を実行する精神性も彼女には全く理解が出来なかった。
支給されたデバイスに表示される名簿を見れば、常盤台の学友やその知り合いの名が載っている。
一瞬安堵しかけた自分を戒め、光子はさらに頭を悩ませた。

「能力者同士を戦わせてレベルの向上を図る……なんて浅はかな考えを実行に移すとは思えませんが」

大体もしそうだとすれば、無能力者がいて学園都市の頂点であるレベル5の七名が勢ぞろいしていないのは何故か。
能力の応用性に富む第三位と第五位だけを暴力で潰しあわせるメリットなど、学園都市にあるはずがないのだ。
やはりこの件に学園都市が積極的に関わっていることはなさそうだ、と光子は結論付ける。

「これだけ私の知己が名を連ねているという事は、この事件に巻き込まれたのは皆さん学園都市の住人……?」

ならば、学園都市から未知の手段で拉致された人間を、怨恨や営利目的で陵辱することが目的なのか。
能力者は非能力者から見れば異常な力を振るう超人だ。
卑賤な好奇心からその激突を見たがる者もいないとは言い切れない。
学園都市の住民のリストとした場合、名簿には日本人とは思えない名前が多いのが少し気になる。
学園都市にはそれほど国外の人間は多くないが、海を渡ってきた研究者や留学生も存在する。
ランダムでない選抜で230万人を70人程に圧縮すれば、実際の比率より偏ることもあるだろう。
レベル5を二人も失った学園都市は、きっと今頃血眼で自分たちを捜している。はずだ。


201 : メメント・モリ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/10(日) 19:30:17 kIrLARyI0



「……」

だがそもそも。
こんな考察には、何の意味もないのだ。
恐怖を頭の隅に追いやるための思考にも限度がきた。
『きっと助けが来る』『自分が死ぬなんて事は絶対にない』などという結論に至りたいだけの現実逃避。
光子は、身動きが取れるようになった瞬間から、一歩も動けていなかった。
優れた観察力は、広川という男が語る妄言の意味はともかく、込められた絶対の意志を読み取っていた。

「私は婚合光子……名門常盤台中学の学生にして、婚合航空グループの明日を背負う者」

しかし、彼女はいつまでも怯え竦む人間ではない。
向けられた理不尽に対し、己の意志で立ち向かう事ができる人間だ。
電気のついていない自動販売機の前で慄いていた自分と決別するように、己が大能力(レベル4)を全開にする。
底部に噴射点をつけられた自動販売機は舞い上がり、同時に光子の足による接触を受ける。

「ちぇ…ちぇいさーっ!!!」

噴射点が細足の触れる部分に切り替わり、自動販売機は異常な挙動で部品を撒き散らしながら塀にめり込んだ。
それだけに留まらず、勢いが全く落ちないまま転がり続ける自動販売機はやがて直径30cm程の鉄塊となって沈黙する。
傍目から見れば少女の蹴りが凄い、としか言えないその光景こそ、彼女の『空力使い』の発現。
覚醒した佐天涙子が用いて木の葉を浮かせる事しかできない能力でも、婚合光子が使えばこれほどの大破壊を生む。

「……」

はしたない真似をした後ろ暗さと周囲への警戒で無言の光子。
その瞳には未だ、学園都市で高笑いをしていた頃の輝きが取り戻されてはいなかった。


202 : メメント・モリ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/10(日) 19:30:59 kIrLARyI0


・・・・・・・・・・・・・・・・・



光子が行動を開始して初めに見つけた施設は、奇妙な館だった。
学園都市のそれとはかけ離れた建築物で、自動販売機のあった路地から一転、様変わりした風景が広がっている。

「地図にも載っていますし、あそこで休むのは危険かもしれませんわね……」

周辺の建物に一旦身を潜め、今後の動向を決めるべきか。光子は裏路地に入り、用心の為にライトをつけずに歩く。
自分があれほど混乱したのだ、他の参加者……特に自分と同じ境遇だった知り合いの狼狽は容易に推測できる。
無能力者の佐天涙子は言うに及ばず、白井黒子やその友人もこんな状況では冷静な行動は難しいはずだ。
例外はやはり御坂美琴と食蜂操折、二人のレベル5。
自分が尊敬し、その人柄を絶対的に信頼できる美琴はまず大丈夫だろう。
一方の食蜂は、個人的には苦手意識があるが常盤台の最大派閥を牛耳る妖艶なる女王。
どちらも、自分の心配などいらないのではないか――――そこまで考えたところで、歩く先に異物を見つけた。

「ディバック……?」

自分に支給されたものと同じ、飾り気のないタイプの道具入れが道端に転がっている。
開かれた状態で、周囲に内容物が散乱している……そこまで確認して、光子は一歩後ずさった。

(この場を、離れなくては――――)

ここで、何かが起きて参加者の一人がディバックを落とし、それを誰かが漁った。
その結果に到るまでの過程の推測が光子の脳裏に展開され、同時に『逃げるべき』と判断するまでの一瞬。
ディバック以外に、視界に入る異物は絶対になかった。暗がりとはいえ目が慣れていれば20m程度は先が見える。
夜目が利かないギリギリの位置から、光子がいる場所までの21m。
その距離を光子が一呼吸し、振り返りながら二歩目を踏み出す一瞬で詰める影があった。


203 : メメント・モリ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/10(日) 19:32:17 kIrLARyI0

「な――――っ……!?」

振り返りかけていた頭が掴まれ、地面に引き倒される。
痛みを感じるよりも早く、光子は自分を押し倒した者を見た。一番最初に、目を見てしまった。
今までの人生で敵意を込めた視線を浴びた事は幾度もある。
だが、襲撃者の血走った目から受ける……殺意しかない視線に、光子は息を呑む。
自分を対象としていると断言すらできない、周囲全てを呪うかのような殺気に血が凍りつく。

「ひ……ぃっ」

固めたはずの心が一瞬で融解する。こんな人間がいるはずがない、こんな人を殺すためだけに存在するような。
目の前の現実を否定する感情は、光子の体を再び硬直させ、致命的な隙を生じさせた。
だが、襲撃者――――セーラー服を着た少女は、その隙を突かない。
息を荒げ、抵抗しない光子に攻撃せず、ディバックに手を伸ばす。殺意の中に、僅かに焦燥が混ざった。

「薬……薬……クスリッィッ」

「……!?」

自分に馬乗りになっているのが歳がそう離れていない少女とわかった後でも、光子の戦慄は消えない。
少女の名はクロメ。帝都に潜伏する危険因子を狩り、排除する事に特化した組織・イェーガーズの一員。
それ以前には暗殺者として多くの命を奪った、筋金入りの職業軍人だ。
だが、今のクロメは警察組織でも暗殺者でもない顔で光子を襲っている。
その強大な戦闘力を得るために、彼女は劇薬を常時服用していなければならない枷をつけられていた。
1作戦行動の間ですら、薬物入りのお菓子を食べていなければ生存に支障をきたすクロメ。
彼女に支給されたディバックには、当然と言わんばかりにそのお菓子は入っていなかった。

「う……?」

光子のディバックに手を突っ込んだクロメの動きが、一瞬止まる。
今のクロメの行動は野獣のそれだ。真っ先に光子を殺さないのも、『薬を探す』という思考から離れられない為。
一時間は保たない。あと何十分かで、動く事すらできなくなるという確信が、クロメの余裕を奪っていた。
だが、光子は恐怖しながらもクロメの隙を見逃さない。震える手を理性で動かす。
セーラー服に一瞬で作れる最大の噴射点を設定し、クロメを上空に吹き飛ばそうとする。

「こ……のっ!」

「!」


204 : メメント・モリ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/10(日) 19:32:59 kIrLARyI0


風が起こる一瞬前、クロメは体に未知の負荷がかかるのを感じた。
同時にセーラー服に手をかけ、噴射点を設置された箇所もろとも下腹部の大半をビリビリと破き取る。
噴射自体は止まらないが、巻き起こった突風は光子の想定より大幅に低い軌道でクロメの体を襲った。
真後ろに吹き飛ばされた形になるクロメだったが、足が地から離れすらしない。
光子は、同じ態勢、同じ条件からの『空力使い』ならば乗用車すら宙に浮かせられる自信があった。
見ようによっては自分より体重が軽そうな少女が、表情を変えずに歩いてくるのはいかなる術理によるものか。
理解できず狼狽する光子だったが、クロメもまた心中を変化させ、獣から脱却しつつあった。
目立つ帝具や臣具を持たずにこれほどの現象を起こせる人間を、クロメは上官のエスデスしか知らない。
彼女のデモンズエキスという帝具は液体であり、体に取り込まれているため武器ですらないのだ。
絶対者の姿を思い浮かべ、殺人者の原理に立ち返ったのだ。激痛に歪む視界と思考を強引にまとめる。
生存の為のあがきを凍結、殺戮する為だけに活動。恐らくは無傷では済まないが、自分が死んだとしても相手は殺す。

(風……止む……同時、走る……口に手を挿入して……気道を潰す。窒息死させる。
 今度は、風が起きても相手から離れない……ように……眼窩から頭蓋を掴むつもりで眼球を抉りだす)

クロメの様子が変化したのを、光子は如実に感じ取っていた。
密着していない今、あの速度で動く相手を捉える術はない。新たな噴射点を創出するために演算する余地もない。
死。それをもたらすものに立ち向かう覚悟は出来ても、避けられぬそれ自体を受け入れる覚悟など誰にも出来ない。
死を受け入れるとは諦めであり、光子はその決定を下せるほど達観できていなかった。
心に去来するものが絶望であると知る前に、光子はクロメに殺される。時間にして20秒後。
――――だが、それは数分間引き伸ばされる。
新たな殺人者の乱入者によって。暴風の中に投げ入れられた、一本のタバコによって。

「今夜は風が強いですねぇ」

光子の背後から火のついていない煙草が放られる。
パリ……と奇妙な音を立てて風に乗るそれは、奇妙にヒビ割れていた。
咄嗟に振り返る光子、自分の目の前に飛んできたそれを払いのけるクロメ。
風が止み、クロメが走り出す一瞬前。
光子は声の主を見ていたのに次の言葉を聞き逃し。クロメは爆音の中、確かにその言葉を聞いた。

「火事でも起きたら、大変だ」


205 : メメント・モリ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/10(日) 19:34:57 kIrLARyI0


・・・・・・・・・・・・・・・・・

(――――構わない)

投げつけられたのは、爆弾か何かか。立ち込める煙の中でも、クロメの視覚は戦況を正確に把握する。
自分の間近で発生する炎と轟音は、クロメの疾走を止めるに及ばず。撤退など選ぶつもりはさらさらない。
なにせ標的が一人増えただけに過ぎない。未知の能力者二人が相手でも、クロメには勝算があった。
ひとつ、光子はもはや戦意を喪失していること。一瞬、助けが来たかと期待した光子の背後にいたのは悪人面。
凶悪な笑みの男……キンブリーはクロメと同じく、死体の山を積み上げてきた殺人者だ。クロメはそう理解する。
交戦する理由など考えない。乱入してきた理由もどうでもいい。目の前にいる脅威と障害は全て殺す。
もはやクロメにとって光子はただの無力なカカシに過ぎず、仕留めるのは最後でいい。敵は実質一人。

ひとつ、先ほど探ったディバック。都合よく地面に落ちているその中には、クロメが薬の次に求める刀剣があった。
クロメの直感では、キンブリーを殺すのは素手では難しいと思えた。
先ほどの爆発物は爆発するには機構が単純で質量が小さすぎた。
爆弾ではなく、物を爆発させる能力による攻撃ではないのか、と推察できる。
無尽蔵に爆発物を作り出せるのなら持久戦は分が悪いし、それ以前にクロメにはとにかく時間がない。
徒手空拳での接近戦も危険だ。素手で人間の肢体をバラバラにするエスデスほどの膂力はクロメにはなく、
無為に長引いて相手を追い詰め過ぎれば自爆される恐れがある。……一瞬で勝敗を決するのが望ましい。
時間が経てば経つほど禁断症状で動きや判断が鈍る、ならば危険を承知でディバックに飛び込み、
武器を抜きざまにキンブリーを斬る。確実に殺すために首を狙って斬り落とす。

(ディバックまで踏み込み、刀を抜いて斬るまでに4秒かからな―――)

「―――しかも合成獣じみた獲物までうろついている!全くもって、ぃぃぃいいいいい良い夜だ!」

(!?)

爆煙からクロメが飛び出す前に、キンブリーは次の行動に移っていた。
自分の足元に手を付き、空気を振動させる光を放つ。タバコから発せられていた音が、今度は地面から響く。
舗装された裏路地のアスファルトが盛り上がり、噴火した火山のように石くれを撒き散らす。
光子は悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、クロメもまた行動の変更を余儀なくされる。
刀が入ったディバックはどこだ。中空に浮き上がっていれば、そこに向かえばいい。
だが裏路地の塀を越えてしまえば回収は難しくなる。クロメの眼球がめまぐるしく動き、目標を捉えた。


206 : メメント・モリ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/10(日) 19:35:36 kIrLARyI0

「おや、この中に何か欲しいものでも?」

「……っ」

ディバックはキンブリーの手中にあった。
互いに歴戦の猛者、交錯する視線で相手の意図を読むことなど当たり前の技術。
これで使い慣れた武器なしで、自爆じみた事を平然とやる相手を殺さなければならなくなった。
だがクロメもまた、暗殺稼業の極致へとたどり着いた者。
常人なら気絶する程に高まりつつある頭痛の中でも、常に冷静に次善策を選び取れる安定した狂気を有している。
砕けて散り、体に突き刺さった地面の破片の一部を抜き取って投擲。
身を翻してそれを回避するキンブリーを見ながら、クロメは思考する。

(さっきの地面の爆発の時の動きから見て、両手で触れたものしか爆破できないのかな)

だとすれば、片手だけでも封じれば攻撃手段を大幅に減らすことが出来るか。
クロメの左腕が、紫電のように鞭打つ。袖口から鋼線が飛び出し、キンブリーに向けて放たれる。
彼女に支給された頑丈なワイヤーは、ディバックを絡め取れるようなものではない。端部に何もない、ただの資材。
鞭としては使えなくもない、とクロメが結論付けたそれは、正しくその役目を果たした。
ディバックを掴んでいる方のキンブリーの腕を打ち、荷物を取り落とさせる。
だが、クロメはもうディバックに頓着せず、落ちたディバックに一瞬意識をやったキンブリーの首にワイヤーを巻きつける。
両掌に触れなければいい、と当たりをつけた彼女は駆け出し、今度こそ距離を詰める。
背中合わせの形でキンブリーの背後に回り、ワイヤーの両端を掴んで首を締め上げる。
咄嗟に片腕を上げて首元を守ったキンブリーだが、クロメは構わず力を込め続けた。

(この馬鹿力ときたらどうだ……!瞬発力だけでなく、腕力まで合成獣以上か!?)

かっての部下、ハインケルとゴリさんの長所を増大・併合させたかのような敵に、キンブリーも流石に驚嘆する。
クロメはただ腕を封じただけでなく、腕ごとキンブリーの首をヘシ折ろうとしている。
常識で考えるならば在り得ないが、時間さえかければ実現しかねない、とキンブリーは冷や汗を流す。
ただの力自慢ならばワイヤーが先に切れるだろうが、クロメはそんなヘマはしない。
薬が完全に切れて死ぬか、キンブリーを破壊するまで攻撃を続けるだろう。
クロメの口元が歪む。殺人を前にして、彼女は心からの悦びを感じていた。
キンブリーの口元が歪む。命と命をぶつけ合う中で、彼は心からの悦びを感じていた。


207 : メメント・モリ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/10(日) 19:36:29 kIrLARyI0


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


この人たちはどうかしている―――。
光子は塀に体を寄りかけながら、カタカタと震えていた。
何故そんな顔ができるのだろうか。闘争心が発達している、などというレベルではない。
明らかに相手の命を奪う事に喜びを感じている戦いぶりは、人を超えた力を持つ光子にも理解不能だった。
セーラー服の少女と出会ったときに感じた、狂暴な殺意のほうがまだマシだった。
互いを殺そうとしていながら、満面の笑みを浮かべられるのは本当に人間と呼べるのだろうか。
さらに絶望するのが、拮抗状態にあっても光子から意識を離していない事だ。
逃げようとすれば、最悪一時休戦して同時に襲い掛かってくるかもしれない……。
実際そんなことはないのだが、光子にとっては物は試しでやれる事ではない。

(私の覚悟など……何の意味もなかった。殺される。逃げても、抵抗しても。絶対に殺される)

力の大小ではない。
自分も相手を殺すつもりで能力を行使すれば、あるいは殺されないことはできるだろう。
だが、目の前の連中のようになるのならば、婚合光子のパーソナリティは死んだも同然なのではないか。
そもそも本当に、相手を殺すと決意できるのか。あのツンツン頭の少年の死体を自分の手で作り出せるのか。

(できない……私には、絶対にそんなことはできない)
                                                     ...
自分の命を天秤にかけられても、どんな題目を掲げても、婚合光子には殺人者になる背景がない。
結果死亡させることはできても、そのあと殺人者として生きていく事が出来ない人間なのだ。待つのは確実な破滅。
高飛車に見えて誠実、己を卑下せず、真っ当に高め続けてきた彼女には、この環境はまさしく猛毒。
ならば、もう諦めるしかないのか。このバトル・ロワイヤルに呼ばれたことを呪いながら死んでいくのか。

(運が悪かった、そう。それだけの話……)


208 : メメント・モリ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/10(日) 19:36:59 kIrLARyI0


『まあでも、交友関係の構築ってんならさ―――』

『友達なんて、そんな縛り作んなくても自然と繋がっていくものじゃない?』

(……かっての私ならば、そうやって諦めていたでしょうね!)

光子の脳裏によぎった、尊敬する学友の言葉。
レベル5という学園都市の頂点に立っていながら、高みを目指して過ちを犯していた自分を救ってくれた人。
御坂美琴の存在が、光子の諦めに歯止めをかけた。
自分が死んだら、学友達はどう思うのかを考えろ、と光子は自問する。
自分が彼女達にとって無二の親友とは思わない。最も親しいわけでもない。
だがこんな状況で、知り合いが死んだと聞かされたときに彼女たちがどんな反応をするのかは、光子にもわかる。
自分の死が彼女達を傷付けるなど、断じて許容できる事ではないのだ。
現在の光子には、かって父親から聞かされた桃李成けいを本当に理解できているのかはわからない。
それでも、立ち上がる。恐怖に震え、誇りを示す高笑いが出来なくとも立ち上がる。

「噴射点……最大数設置」

逃げられないと思うのならば、全力で逃げてみせる。
一秒後の安定した生存を脅かしてでも、次の瞬間の生存を勝ち取ってみせる。
決意が決まれば、常盤台のトンデモ発射場ガールの行動は素早かった。
塀にかけていた手が離れると同時に、『空力使い』の最大規模の干渉が始動する。

「おや」

「!?」


209 : メメント・モリ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/10(日) 19:38:28 kIrLARyI0

逃げられないと思うのならば、全力で逃げてみせる。
一秒後の安定した生存を脅かしてでも、次の瞬間の生存を勝ち取ってみせる。
決意が決まれば、常盤台のトンデモ発射場ガールの行動は素早かった。
塀にかけていた手が離れると同時に、『空力使い』の最大規模の干渉が始動する。

「おや」

「!?」

クロメとキンブリーが目を見開いた。自分たちの横の塀が、数十m単位でベリベリと地面から剥がされていく光景。
先ほどとは比較にならない風が巻き起こるのを見て、クロメは驚愕した。もはや眼中になかった少女の仕業か。
振り返るが、派手に様変わりした裏路地のどこにも光子はいない。浮き上げられた塀をくぐり、
民家のどれかに逃げ込んだのか――――そう考える間もなく、周囲の塀から噴出していた風が止まる。
落下してくる石の豪雨を前に、クロメは逃げようとして……自分が、キンブリーに心臓を貫かれていることに気付いた。

「え……?」

クロメが驚愕していた一瞬、ワイヤーに緩みが出来ていた。キンブリーは即座に腕を引き抜き、
コートの下に忍ばせていたディバックから、己への支給武器を取り出していたのだ。
この対応の差は、光子の存在を懸念していなかったクロメと彼の意識の違いに起因する。
さらに言えば、クロメの頭痛は本人が思っている以上の隙を作る段階にまで来ていたのだ。

「人を見る目には自信がありましてね。彼女は、自分の足で立ち上がれる人ではないかと思っていましたよ」

キンブリーがここにきたのは、そもそも光子を尾行していたからだとクロメは知る由もない。
自動販売機を跡形もなく破壊したときの光子を見ていたキンブリーは、見る影もなく怯えた彼女も、
何かやるかもしれない、やってくれるかもしれないと期待していて、それは期待以上の結果をもたらした。
まさか、これほどとは。キンブリーの錬金術でも一度にこれだけの破壊は難しいといえる。
キンブリーにとって、新たな標的が出来たのは好ましい事だった。

「では、私は彼女を追います。動けるようになったら、どうぞついて来て下さい」

皮肉だろうか。落ちた帽子を拾って去るキンブリーを見ながら、クロメは死んだ。


【クロメ@アカメが斬る! 死亡】


210 : メメント・モリ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/10(日) 19:39:02 kIrLARyI0



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


殺してきた人間の顔など、いちいち覚えてはいない。
自分にとって殺人とは仕事であり当然の権利である、と私は理解していた。
歩んできた人生において、殺人を咎められたことは一度もない。
上手くやれば褒められ、しくじれば叱られる。殺人は日常であり、死体は玩具でしかない。
人殺しは悪で、いつかは報いを受けるとは知っているが、それでもまったく殺しをやめる気にはならない。
薬のせい、成り行きのせいで嫌々やっているのではない。人を殺す際に、もう心が全く揺れないのだ。
殺せば殺すほど生き延びられて、殺しそのものも刺激的でとても楽しい。
仕事という大義名分で非道を行っていけば、いつか意味ある死を迎える事さえできる。
処分と称する、人間として扱われずに殺される死に方だけはしたくない。
だから、この死に方は本当に満足だった。心残りはあるが、「まあ、こんなものかなぁ」という感覚が大きい。
楽になって、ナタラを初めとするかっての同僚、死んでいった今の同僚たちと一緒になれる喜びがある。
躯人形にしてまで一緒にいたナタラと離れる時は本当に寂しかったし、クロメの力不足で死んだ仲間もいた。

「私が死ねば、死んでる皆に遭える。謝れるし、ずっと一緒にいられるんだ」

きっと、そのはずだ。そうでなくてはならない。一人は寂しい。仲良くなれた人たちと、離れ離れになりたくない。

「あれ」

寒い。寒い。何故だろう。誰も来てくれない。

「あれぇ……?」

このまま、ずっと一人?死ぬって、殺されるって、そういうこと?

「お姉ちゃん」

助けて、とは言えない。それだけは言えない。
散々人を殺してきて、命乞いする人も笑いながら殺した。本当に楽しかった。
そんな自分が、誰かに助けを求める事はできない。だから、呼ぶだけ。

「お姉チャン」

お姉ちゃン。逢いたい。一緒にいたいよ。

「お」


211 : メメント・モリ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/10(日) 19:40:44 kIrLARyI0

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

殺してきた人間の顔は全て覚えている。
自分にとって殺人とは仕事であり美学である、と私は理解していた。
歩んできた人生において、意味のない殺しなど一度もしたことがない。
怯える死に顔、勇ましい死に顔、呪詛を垂れる死に顔、安堵する死に顔。一つ余さず、私の意志で作り上げた。
自分が異端であると知り、それでもまったく殺しをやめる気にはならない。私は、私にとって正しく生きている。
そうやって生きていれば、正しさに相応しい、良き最期を必ず迎えられると信じていた。
後悔も無念もない、良き最期を。
結果として、私はとても、最高に、満足な最期を迎える事ができた。
心地良い怨嗟の声が響く死後の世界で、その天国でホムンクルスと人間の激突をしっかりと見届けられた。
だから、このバトル・ロワイヤルには困惑している。
これは、人造人間プライドの中で消えていく自分が見ている刹那の夢なのか?
だとすれば、やる事は決まっている。現実と同じだ、美学を続けよう。
足音に振り向くと、先ほどの少女が歩いてきていた。

「流石に早いですね」

「ネエ…チャン…」

支給された武器は、私には似つかわしくない刀剣類。『帝具・死者行軍八房』。
斬り殺した人間を躯人形に変えて使役する、摩訶不思議な道具だ。
眉唾物だったが、こうして斬り殺した人間が立ち上がって付いてきたのだ、信じるほかない。
私にとっては爆発こそが職人の誇り。仕事と美学の調和が取れる最高の錬金術。
こんなものを使う気にはならないので、最初に出会って殺した死体に持たせようと思っていた。
セーラー服の少女に持たせると、なかなか様になっていた。服がボロボロなのが気の毒になり、コートを渡す。
生前の戦力を得たまま、命令どおりに動く死者。趣味ではないが、便利は便利だろう。

「私に危害を加えるものを排除しなさい。それ以外は自由です」

「……」

聞こえているのか、いないのか。
死後も強く残る念―――なんなのかは知らないが、それを求めているのは、キンブリーにもわかる。

「死人同士、せいぜい頑張りましょうか」

「……」

やはり、返事はなかった。


【B-6 市街地/1日目/深夜】


【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)
[装備]:承太郎が旅の道中に捨てたシケモク@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ
[道具]:ディパック×2 基本支給品×2 ランダム支給品0〜2(確認済み)
     躯人形・クロメ@アカメが斬る! 帝具・死者行軍八房@アカメが斬る!
[思考]
基本:美学に従い皆殺し。
1:少女(婚合光子)を探し出し殺す

[備考]
※参戦時期は死後。
※死者行軍八房の使い手になりました。
※躯人形・クロメが八房を装備しています。彼女が斬り殺した存在は、躯人形にはできません。
※躯人形・クロメの損壊程度は弱。セーラー服はボロボロで、キンブリーのコートを羽織っています。
※躯人形・クロメの死の直前に残った強い念は「姉(アカメ)と一緒にいたい」です。
※死者行軍八房の制限は以下。
 『操れる死者は2人まで』
 『呪いを解いて地下に戻し、損壊を全修復させることができない』
 『死者は帝具の主から200m離れると一時活動不能になる』
 『即席の躯人形が生み出せない』


212 : メメント・モリ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/10(日) 19:41:29 kIrLARyI0



キンブリーとクロメが去った後、『空力使い』により上空に飛ばされ、降り注いだ塀だったものの残骸の一角が崩れる。
中から現れたのは、婚合光子。彼女は塀の一部に掴まり、上空に身を隠してからあえてキンブリーたちの近くに
落下したのだ。賭けは成功し、キンブリーたちは自分が破壊した塀の向こうに逃げたと考えて去っていった。
胸を刺されたように見えたクロメが平然と立ち上がってキンブリーを追ったのには、光子も驚いた。
あの執念ならば、キンブリーの足止が期待できるかもしれない。瓦礫を落とす位置を操作して隠したディバックを回収。
中身は確かに光子の物だった。キンブリーがこれを探すのを優先しなかったのは幸いだ。
苦境を生き延びた光子には明確な意思、美琴たちと協力してこの事態を打開するという希望が芽生えていた。

「さて……お腹も決まったところで、いきましょうか」

キンブリーたちとは逆の方向、DIOの館に向けて走り出す光子。
その瞳には、今度こそ強い光が宿っていた。


【B-6 市街地/1日目/深夜】

【婚合光子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(小) 疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 不明支給品1〜3(確認済み、一つは実体刀剣類)
[思考]
基本:学友と合流し脱出する。
1:御坂美琴、白井黒子、食蜂操折、佐天涙子、初春飾利との合流。
2:DIOの館を目指す。

[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了以降。
※『空力使い』の制限は、噴射点の最大数の減少に伴なう持ち上げられる最大質量の低下。
※B-6のDIOの館周辺の市街地の一部に爆発音が響き、破壊が行われました。


213 : メメント・モリ ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/10(日) 19:42:13 kIrLARyI0
以上で投下終了です。


214 : 名無しさん :2015/05/10(日) 20:00:50 OEXLHB1s0
投下乙です
キャラの掘り下げ、バトル
全てが濃厚で非常に読みごたえのある話でした
キンブリーは自分の美学を、クロメはアカメへの執着と因縁
光子は強い信念の元歩みだしたのが良いですね


215 : 名無しさん :2015/05/11(月) 20:24:36 tJslbZ8.0
投下乙です

そのまま死ぬかと思ったら、トントン拍子に策を成功させるエンヴィー、これからも波乱をまき散らしそうだ

このロワは殺伐度が高いのでクマに癒される。そして、プロデューサーさんすげぇ

ついに奈落のギミックが使われたが、後藤の前にはそれも無意味か。二人の情報交換もいろいろ話が広がりそうだ

クロメの執念、そして、キンブリーの美学、殺人狂どもの狂気が怖いです


216 : ◆BLovELiVE. :2015/05/12(火) 00:52:01 n355nRCE0
特に問題なさそうなので本投下させていただきます


217 : 生と力と強さの証 ◆BLovELiVE. :2015/05/12(火) 00:53:08 n355nRCE0
乗った車を『世界』に担がせて移動する3人。
移動速度は普通に歩いたほうが早いほどゆっくりであるが、曲がりなりにも怪我をしたという建前をしている以上仕方のないことだ。

「あの人形は一体…」
「ああ、少し超能力みたいな力が使えてね。その中で生まれたものなんだ」
『DIO様の精神が形になった能力ですUYYYY!!』

イリヤの質問にそう答えるDIO。

本来はスタンド使いでない者には見えないスタンドがこの娘達には見えている様子だ。
先ほどのジョセフ・ジョースターの血を飲む前の体の不調といい、何かしらの調整がされていることが察せられていた。

目的地としては日が出るまでにどこか太陽から身を守れるような建物を拠点としたいと考えている。
その点で言えばうってつけの場所は勝手知ったる自分の屋敷、ということになるのだろうが、しかしDIOの屋敷、と書かれている以上ジョースター達が向かう可能性も高い場所だ。
さっきのような無様を晒したばかりの状態では万が一、ということもあり得る。
もし向かうならばもう少しでも体が馴染んでから、可能な限り万全な状態に近づいてからだろう。

そう考えていたDIOが、しかし特に目的地自体をそこまで深く考えることもなく『世界』を歩ませていたところで目に入れたのは切り立った崖から流れ落ちる大量の水、それなりに大きな滝の光景だった。

「ここ進むと何か街…なのかな?何か色んな研究施設とかがあるところに行くみたいですけど」
「ふむ、ではここは『世界』で引き続き――――む?」

そこまで考えたところで、DIOの体に走る違和感。
特に何かをしているわけでもないのに、まるで疲労しているかのような倦怠感を感じている。

確かに魔法少女に変身して動き回るなどということをしたが、あの時には疲れなど感じていなかったはず。
今していることといえば、せいぜいスタンドを使って車を運んでいるだけのはず。

(…いや、待て。そもそもスタンドがスタンド使いでない者に見える時点でおかしい。スタンドを使った時の疲労も肉体にフィードバックされる、とでも言うことか?)

車を持ち上げること自体は別にDIOにとってそう難しいことではない。
ただ、それをずっと抱えたままで移動する、となるとやはりある程度肉体的な疲労は感じてしまうことはあるだろう。
それをスタンドにさせた時の体力消耗もこうして感じてしまうように体かスタンドを弄られている可能性はある。

「あれ?DIOさんどうかしたんですか?」
「いや、何でもないよ。足の痛みがどうなっているかを少し確かめようと思ってね」

(ヒロカワとやら、やってくれるな…)

足の不調を理由にこうして車を運ぶなどという選択肢を取ったことは失敗だったか、と省みる一方でその事実を早期に知ることができたのは収穫かもしれない、とDIOは思案する。
もし知らずにスタンドによる戦闘を幾度と無く繰り返していれば、どこかで致命的な隙を作ってしまっていたかもしれない。それが例えばジョースター達のような同じスタンド使いであれば尚更だ。

だが、そうした場合この先はどうするべきか。

滝の流れるこの先はそれなりに急な坂道となっている。
平地でこうなら、坂道を車を抱えて歩いた時の疲労がどれほどになるか分からない。
かと言って引き返すのも二度手間だ。

「DIOさん?」

イリヤと操祈が考えるように止まっているDIOを怪訝そうな顔で見ている。

いっそここで車を仕舞って普通に歩いて移動するか、それとも疲労をおしてこのままの移動を続けるか。
そのどちらを選ぶにしてもこのまま進むか、それとも戻るか。


218 : 生と力と強さの証 ◆BLovELiVE. :2015/05/12(火) 00:55:02 n355nRCE0

そう思考していたDIOは、ふと地図を見て思いつく。
この川の向こう側にも施設はある。
特にアインクラッドという名前の施設はどのようなものなのか、その名前からは想像もつかない。若干興味が湧くものもある。
そこを通っても北の街に行くことはできるだろう。

今のスタンドでどこまでの力が出せるのかを確かめる意味でも、少し変則的な道を選んでみよう。


「二人とも、しっかり掴まっていた方がいい。あと舌を噛まないようにな」
「え、ちょっと待って、何か嫌な予感がするんだけど――――」

と、イリヤがその後の言葉を言うより速く。

車を抱えた『世界』は、そのまま思い切り、まるで槍投げのような態勢で構え。

全力で川の向こうへと車を投げつけた。

「いやああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「フハハハハハハハハハハハハ!!」

絶叫するイリヤ。
笑うDIO。
恐怖で声も出ないのか黙りこくったままの操祈。

そんな3人を乗せた車は川の向こうへと飛んで行く。

さながらSF映画の空飛ぶ車のように。




「それで西木野さん、あなたはここからどこに移動したい、って希望はあるのかしら?」
「私は、ここから南に行ったところにある音ノ木坂学院に行ってみたいって思ってますけど。何か他のみんなもここに向かってそうな気がするし…。
 田村さんはそういうところってないんですか?」
「後藤とは進んで合流したいとは思わないし、泉新一の向かいそうな場所も検討がつかないものね。
 西木野さんに合わせる形で構わないわ」

二人のいる場所は滝の見える川のすぐ傍。
今自分たちがいる場所を確かめるために聞こえた水の流れる音を便りに移動して、そこからどこへ向かうかを思案していたところだ。

「そういえばさっき言ってた、田村さんの知り合いってどんな人なんですか?後藤って人なんてとても危険だって言ってましたけど」
「一言でいうならば、そうだな、戦いや殺戮を好む戦闘狂、とでも言うところか」
「…意味分かんないです……。殺人鬼とか軍人か何かなんですか?」

それとなく聞いてみた質問だったが、返ってきた答えは真姫にとってはあまりに実感の沸かない話だった。
そもそもそんな危ない人がいても今までニュースにも聞いたことはないし、知られていない危険人物だとしてもそんな男を知っているという田村玲子という女もまたどういう人間なのか分からない。

いや、真姫にしてみれば彼女が本当に人間なのかというところにほんの僅かだが疑念があったりもした。
視覚的にはどこからどう見ても人間であることには間違いない。
だが、人間として見た時にほんの少しだけ違和感を感じてしまうこともあった。

人間としては大切な何かが少しだけ欠けているかのような、そんな違和感。
感覚的なものであり理屈で説明できるものではないが。

ただ、それを敢えて聞いてみたりはしない。
精神的な疾患にはそういった症状が出ることがあることは知っているし、そうであるなら深く追求すべきところではないだろう。



「…?」
「どうかしたのかしら?」
「何か今、空に流れ星みたいな光が見えた気が…」

何となく空を見ていた真姫の目に、真っ暗な夜の闇の空を流れていく光が見えたような気がした。
位置的には南。距離ではどれくらいあるかは分からないが、あの辺りは地図では街があったと思う。
ちょうど音ノ木坂学院学園もその周囲にある。

だが、それが何なのかをさらに深く思案しようとした真姫の耳がさらなる何かを捉えた。


――――――いやあああああああああああああああああ!!!

どこからともなく響く、女の子の叫び声のような音。
しかし周囲には誰がいる様子もない。

「え、何この声――――」

そう疑問を声に出そうとしつつ周囲を見渡そうとしたその時。
田村が真姫の体を後ろに引っ張った。

踏ん張ることもしていなかったためその力に引き寄せられるように後ろに下がる真姫の体。

そしてその時だった。

ドーーーーーーン

「う゛ぇえ!?」

方向的に川の向こう側辺りから、まるで川を渡るように飛来した車が目の前に着陸したのは。
土埃と轟音を立てながら、飛んできたそれは真姫を混乱状態に陥らせるには十分だった。


「い、意味分かんない…」

腰の抜けた状態で、驚きからようやく復帰しての第一声がそれだった。


219 : 生と力と強さの証 ◆BLovELiVE. :2015/05/12(火) 00:56:04 n355nRCE0



その後、車から駆け出てきた少女二人、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと食蜂操祈が口元を抑えて川に向けて頭を下げている。
ついていくように飛んで出てきた謎の星形の物体は一体何だろうと真姫が思った直後、”それ”は現れた。

田村玲子と西木野真姫の前に立つ金髪の男、DIO。



その瞳を見た時、真姫は言いようもない謎の感覚を覚えた。

(何…、この男…)

男はただ立っているだけだ。
なのに妙に存在感を感じる佇まいと、人を惹きつける何かを真姫に感じさせていた。

例えるとするなら、μ'sのリーダーである高坂穂乃果に近い、しかし性質はそれとはきっと正反対だろう何か――――



そこまで思案したところで、真姫の意識がシャットアウトした。


「おい、何をしている?」

田村が静かな瞳でDIOを、そしてその後ろにいる一人の少女を見ながら問いかける。
少女、グロッキー状態から復帰した食蜂操祈がこちらにリモコンのようなものを向けている。

「あらぁ…?」
「ほう」
「えっ、何?何なの?」

疑問の声を上げる操祈、反対に感嘆の声を呟くDIO。
イリヤだけはその二人の様子から取り残されていた。

そして、田村玲子の後ろでは真姫が瞳に謎の光を写してぼーっと突っ立っている。
まるで自我を奪われたかのように。

食蜂操祈の能力、心理掌握(メンタルアウト)。

既にその能力についてを把握していたDIOの、言葉には表さぬ指示によって操祈が発動した洗脳。
彼女自身元々他人を操ること自体にはそう抵抗を持っていなかったこともあり、それを二人に向けて行使しただけのことだ。

しかし。

「止めさせなさい。これ以上の”それ”はこちらへの敵対行動と見なすわよ」

西木野真姫には効いた様子のあるそれは、田村玲子には通じていない。

そう言葉を投げかけた田村玲子から凄まじい気が発せられたように感じられ。

「…ひっ」

そしてそれを直接ぶつけられた操祈は、その恐怖に慌てるように手元のリモコンを操作。

「…あれ?今、私何を…?」


目が覚めるように真姫は意識を取り戻す。その瞳にはさっきまであった謎の光もない。

「西木野さん、少し下がっていなさい」
「いや、失礼した。どうやら彼女は人間不信なようでね。初めて会った人間にはどうしてもこういう行動をしてしまうようなのだよ」
「なるほど、それが広川の言っていた超能力とやらということか」

後ろに下がる真姫の前に出る田村玲子。その見据えているのはDIO。
彼の後ろの少女、イリヤと操祈の二人はまだ子供、精神的にもそこまで成熟しているわけではないように見えていた。何かしらの能力を持っていても脅威ではないだろう。
問題は目の前の男だ。

「君は、人間ではないな?」

唐突にそう言い切るDIO。

彼がそう判断した根拠は今の心理掌握が彼女相手には不発だったこと。
それは先ほど自分が同じものを受けても何の影響もなかった、しかし西木野真姫には間違いなく通用していた。
その二つの事実から推測したことをカマをかけるように問いかけたのだ。

田村玲子の後ろの真姫が息を飲むような音が聞こえた。

「それはお互い様でしょう?あなたも…寄生生物というわけではないけど、ただの人間ってわけでもない」
「何故そう思う?」
「私達は人間相手にはとある思考、本能的な囁きとでもいうものが働きかけるものだけど、あなたからはその働きかけが妙に薄い」

田村玲子――寄生生物が人間相手に感じる感覚、それは『この種を食い殺せ』というもの。
例え自分の意志でそれを抑えられるようになった彼女であっても、全くその囁きがなくなったわけではない。

しかし目の前の男、DIOに対してはその感覚が妙に薄いと感じていた。
寄生生物ならば発する念波もない、故に同類ではない。しかし人間とも違う。

広川の言っていた超能力や魔法といったものが存在するのであれば、非人間的な者もあるいは存在するのではないかと。


220 : 生と力と強さの証 ◆BLovELiVE. :2015/05/12(火) 00:58:21 n355nRCE0

「なるほど。確かに私は人間ではない。正しくは人間を超越した者、とでも言おうかな」

そんな彼女の言葉に対し、DIOは自分の存在を誇示するかのようにそう告げる。

「…DIOさんって人間じゃなかったんだ……、ルビーは知ってたの?」
『WRY!魂から得られた情報は人間のそれではなかったDEATHネー!』
「…そっか」

それとなくイリヤはルビーに話しかけ、それで事情を何となく感じ取った。
だが元々スタンドという人間のものではない力を操っていたのだ、今更そこまで驚くことでもないだろう。

「人間を超越、か。言葉から推測すると、後天的に人間ではなくなった者、ということでしょうね。
 具体的には、どういう風に変わったというのかしら?」
「フ、見たいか?このDIOの力を」

そう言って、軽々と自身の乗ってきた車を持ち上げるDIO。
数トンはあるだろう車体を片手で軽々と持ち上げる姿に真姫は息を飲む。

「確かにすごい力ね」
「いくら達人の人間がかかってこようとも、この俺を超えることなどできようはずもない。
 他に見たいものはあるか?人間にとっては魔法、とでも言えるようなことも軽々とやってのけることができるぞ?」
「いえ、もう結構よ。その様子じゃ、私の聞きたいことは認識できてはいないようだし」

その言葉に、ほんの僅かにDIOの眉毛が動く。

「……何が聞きたいというのだ?」

バカにされているのか?と思ったDIOは彼女の質問の意図を知るために逆に質問した。
おそらくは自分が如何なる能力を持っているかを知りたいということではないのは察せられた。

「あなたは人間から別の生き物へと変化した。ではそんなあなたは人間にとってはどんな位置づけなのかしら?」
「それは――――」

無論食料、自分が支配すべきものだ、と口を開こうとしたがイリヤスフィールの存在、今の自身のスタンスを思い返したDIOは口を噤む。

「――この俺の力を崇めて讃える者がいる、多くの人間は俺に畏怖の念を感じていた。それが人間を越えた証ではないのか?」
「ただ力だけを誇示して上に立つだけなら猿にもできることよ」

(猿、だと…?!)

一瞬DIOの中で頭に血が上りそうになる。しかし今それを表に出すのはまずい。
必死に怒りを抑えてどうにか気持ちを落ち着かせる。


「そうね、例えばあなた。子供はいるかしら?」
「いないが、それがどうかしたか?」
「私達のような生き物は、体が人間と同じならば人間と同じように命を育むことができる。
 だけどそうして生まれるのはただの人間。何の変哲もない、後ろの少女のようなただの人間だ。
 例えばの話だけど、あなたがもし子供を作ったとして、その力は継承されるのかしら?」
「……知らんな」


221 : 生と力と強さの証 ◆BLovELiVE. :2015/05/12(火) 00:59:15 n355nRCE0
短く、少し考えて答える。
実際に知らないのだから仕方ない。

そもそもそれは彼にとっては考えたこともない話。
もし自分が子供を作った時にその力が受け継がれるのか。そんなことは考えたこともないし考えるつもりもなかった。
このような力を持った者が二人としていることは例え自分の子供であっても許せることではないのだから。

しかしそれでも一つだけ確信していることはある。
この自分のスタンド、『世界』。田村玲子には明かしていない、自分の真の力の象徴。
それが受け継がれることは有り得ないだろうということ。


「じゃああなたの強さは一体何のためにあるものなのかしら?
 いくら人間を超越したといってもあくまで一介の生物。不死ということはないでしょう?少なくとも寿命は確実に存在するはずじゃないかしら」

と、田村玲子はDIOの口に生えている、鋭い犬歯に目をやりながら答える。

「そういえば世界には吸血鬼という生き物の伝承があるらしいけど、私にとっては彼らはそう強い生き物には見えないの。
 体は強靭で不老不死に近い、しかし日光を浴びることができない。ほとんどの物語や伝承では最後は人間に殺されるだけの化け物」
「…………」

反応してしまいそうになる自分を抑えるDIO。
一歩間違えば殺気すら放ってしまいそうになるが、そうしてしまえば負けだ、と言い聞かせるように気持ちを落ち着かせる。


「理解者もおらずに人間社会から追放されるように郊外の城のような場所に潜み孤独に暮らす。
 どちらかと言えば私にとってはそれは強さではなく弱さに思えるわ」


そう、女が聞きたいのはこのDIOという存在が人間にとってどのような存在なのか。
DIO個人としてではなく人間を越えた”種”としての問いかけをしている。

「だから聞かせて欲しいのよ。あなたは、何を思って人間を越えたのかしら?」

田村玲子はあくまでも無表情に、そうDIOに問いかける。
あくまでも一生物として、貶める目的でもなくただ興味本位のみで。

それが、逆にDIOの心を逆撫でるように苛立たせていることにも気付かずに。



結局その後の会話はどうということもなく終了した。

ただDIOはあくまでも紳士的に、『すまないが君の求めている答えはできそうにない』という旨を伝えて。

そうして結局軽い情報交換を行った後、田村と真姫は南へ向けて足を進めていった。
真姫の現状の目的地とする施設、音ノ木坂学院へと。

「逃げないのかしら?私はあなたに人間ではないことを隠していたんだけど」
「………」

その言葉に、真姫は少し目を逸らす。
嘘をつく時のそれではない、ただ答えるのが少し恥ずかしいという表情に見えた。

「その、田村さんは私が最初に何か変なことされてた時に助けてくれましたよね?」

助けた、というのはあの意識がなくなった時のことを指して言っているのだろう。
あの時彼女がいなければあのままどうにかなっていたのではないか、と。そう真姫は思っている。

「だから、私を守ってくれた田村さんのことは信じてみてもいいんじゃないかって…」
「そう」

何となくだが、真姫は彼女が普通の人間ではないということは薄々感じ取っていた。
人ではない存在、とまでは想像が及ばないとしても少なくとも何かしら一般人とは異なる人間なのではないかということくらいは。

だけどそんな事実に怯えるよりも、自分を守ってくれた田村玲子という人を信じてみよう、と。
そう真姫は思ったのだ。


222 : 生と力と強さの証 ◆BLovELiVE. :2015/05/12(火) 01:00:01 n355nRCE0

口にはしなかったが、あのDIOという男は何となく危険な気がしていた。
あの意識を失った時もあの後ろの食蜂操祈という少女のせいだと言っていたが、本当にそれだけなのか、もしかしたらあの男も関わっているのではないか?
その疑念だけは抜けなかったのだ。

「だけど、少しだけ教えて。田村さんの言っていた寄生生物って一体何なんです?」

ただ、それでもまだ知らぬこと、情報交換をしている時に出てきた寄生生物なるものが一体何なのか真姫は詳しく聞いてはいない。
知らなくてもいいことかもしれない。だけどこれから行動していく相手だ。少しでも理解しておきたいと、そう思ったのだ。

「別に、答えたくないって言うんだったら無理には聞かないわ」
「いえ、むしろ今まで黙っていた私の落ち度ね。
 学校に行くまでは少し距離があるし、どこまで分かるように教えてあげられるかは分からないけど。
 さて、何が聞きたいのかしら?」





(スタンド使い、そして学園都市か。広川、一体どこでそのような情報を得たのだ…?)

田村が思考していたのは情報交換で出てきたもの。
自分の知らない人間たちの持つ力、そして人間の能力の限界を目指しているらしい組織。

しかしそのような情報を得たことはない。
特に学園都市とは日本の関東地方の一角に位置する巨大な施設らしく、聞いたことがなければおかしい。
後ろを歩く西木野真姫は東京に住む女子高生だ。彼女が知らないというのは尚の事だ。

彼女の語っていたスクールアイドルのこともあくまで自分の知らぬ場所で行われていたものではないかと考えていたが、もしかしたらそれも同じではないのかという疑念が浮かんできた。

だとするならば、広川の背後にいるだろう何者かは想像も及ばない力を持っている何かということになる。

(…なるほど、改めてお前という男に興味が湧いたぞ、広川よ)

寄生生物であれば浮かべるはずのない、小さな笑みを自然に顔に浮かべていることに気付かぬまま。
田村は真姫の質問に答えるために彼女の声に耳を傾け始めた。




「…ねえ、操祈さんってDIOさんと一緒にいるわけとかあるんですか?」
「私?別に大したことじゃないんだけど、こう、あの人の言うことには一応従っておいたほうがいいんじゃないか、みたいなものを感じただけねェ」
「そうなんですか。…どうしてなのかってのは分からないんですか?」
「分からないのよねェ自分でも。
 でも、何かしら。何か大切なものをなくした…ような気がするのよねェ。あの人に奪われたとかじゃなくて。
 それで死にそうなくらいに絶望してた…ような気がするのよ。だけどあの人が来てからその感覚がなくなったわけ」
「………」
「それが私にとって幸せなことなのかは分からないけどぉ…、ただその恩くらいは感じてなくもないかなぁって思うわけよねぇ」





「……行くぞ」

静かな声でそう告げるDIO。
何となくだが、イリヤはその声が怖いとも感じている気がした。

(…DIOさん、怒ってるのかな?)

本来向かおうとしていたアインクラッド経由の道ではなく、滝を登って直接北の施設に向かう道だ。
何故彼がその道を選んだのか、考えれば分かる。
きっとあの田村玲子という人から離れたいのだろう。
ここから向かおうとすれば、しばらくあの人と同じ道になるだろうから。

車は今、何故かは分からないが滝の中心に刺さっている。
滝の流れそのものに影響はないが、流れを滝のド真ん中で遮って二つに分けている。


223 : 生と力と強さの証 ◆BLovELiVE. :2015/05/12(火) 01:00:46 n355nRCE0

一体何故あれがそうなっているのかは分からない。気がついたら目の前から消えた車がああなっていた、分かるのはそれだけだ。
まあ、誰も運転できる者がいない以上普通に歩いた方が速いこともあって別に惜しいというものではないのだが。

(…まあ、色んな話は聞けたけど結局遠回りすることになっただけだったなぁ)

聞いた話だとμ'sなる学校のアイドル部のメンバーと寄生生物なる者がこの場にはいるらしいという。
だが美遊やクロの情報は得られなかった。

あとは操祈の語る学園都市、そしてDIOの話した仲間やペット達の情報といったところか。
話した中で危険人物だというのは田村の語った後藤という男のみだった。


ただ。

(DIOさんって、本当に私の印象通りの人なのかな…?)

何となくだが、あの時田村と話すDIOの様子に何か危険なものを感じた気がした。
ルビーを拾ってくれたおじさん、という認識だったがそれ以上のことは何も知らない。

考えてみれば殺し合いという場所だ。人を騙して取り入る、というのも普通に有り得るのではないか?
あの時の予感が正しいものであったならば彼と一緒にいるのは危険なのかもしれない。

だが。

(それを言ったら食蜂さんも…だよね)

少なくとも彼女は彼の傍を離れるつもりはないらしい。
まだDIOがどうかというのは仮定の話とはいえ、この人を放って一人で離れるのも違う気がする。

(ねえ、ルビーはどう思う?)
(YYYYYY、イリヤさんの判断にお任せしますィ)

ルビーに問いかけてみるが、やはり自分で決めるしかないようだ。

それにしてもルビーのおかしさがずっと変わらない。
サファイアがいればルビーのおかしさも治せるだろうか。
自分とルビーが離されていたこともあって美遊の元にはいないのかもしれない。こちらも探さなければならないだろう。


(私は―――――)

もし自然に離れられるタイミングだとしたら、さっきの二人に付いていく道を選べる今だろう。今ならまだ追いつけるはず。
だが、一方で食蜂操祈のことも気掛かりだし、嫌な予感自体が取り越し苦労である可能性だってある。

彼女の選択は―――――――――――――




車に苛立ちをぶつけるように時を止めて滝に向けて投げつけたDIO。
しかしそれでもその苛立ちは収まらなかった。

別にあの女、田村玲子が言っていた自分が何者かということに思うところがあったわけではない。
他の人間のことなど知らないし、帝王である自分より下等な存在であるという認識自体が動くはずもない。

ただ、許せないことがあった。

(この俺が弱い、だと…?俺の考えが猿と変わらない、だと…?!)

悪意無く言われた、自分を卑下する言葉の数々。
それは彼のプライドを逆撫でするには十分なものだった。
もしこの言葉に意図的な侮蔑が入っていたならば分からなかった。

だが、それでも手を出すことだけは耐え抜いた。
自分の怒りと、それなりには得られた情報や現状である程度得ている信頼関係。

それを天秤にかけてどうにか耐えたのだ。

肉の芽を使う、という手段は先程操祈が田村玲子に怯えたことから効力が弱まっていることが推測できた。
自分に畏怖の念を持っていたならばあの程度に恐怖を感じるはずもない。とすれば強引に手駒として情報を引き出すことはあの女相手ではギャンブルに近い。

こうして今はそれなりの情報を得られたのだ。この程度の怒りは飲み込んでやろう。
もしかしたらある程度怪しいところは見せてしまったかもしれないが、まだ誤魔化しの効くレベルのはずだ。


224 : 生と力と強さの証 ◆BLovELiVE. :2015/05/12(火) 01:01:27 n355nRCE0

(寄生生物、か…。覚えたぞ)

今は手を出すのは得策ではない。あの女も見逃そう。
しかしもし自分が仕掛けるに足ると判断した時、あの女も含む寄生生物とやらは全て殺してやる。
それでこの苛立ちは消えることだろう。

(もしその時がきたら、田村玲子、後悔するといい。この帝王に下らぬことを言って)

無表情で、しかしそれでも抑えきれていない苛立ちを沸き上がらせながら。
心の奥に隠した黒い感情をたぎらせてDIOは歩み始めた。



【G-4/(東)/1日目/深夜】

【西木野真姫@ラブライブ!】
[状態]:健康
[装備]:金属バット@とある科学の超電磁砲
[道具]:デイパック、基本支給品、マカロン@アイドルマスター シンデレラガールズ、ジッポライター@現実
[思考]
基本:誰も殺したくない。ゲームからの脱出。
1:脱出の道を探る。
2:田村玲子と協力する。
3:μ'sのメンバーを探す。まずは音ノ木坂学院へ向かってみる。
4:ゲームに乗っていない人を探す。
[備考]
アニメ第二期終了後から参戦。
泉新一と後藤が田村玲子の知り合いであり、後藤が危険であると認識しました。

【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
1:脱出の道を探る。
2:西木野真姫を観察する。
3:人間とパラサイトとの関係をより深く探る。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
[備考]
アニメ第18話終了以降から参戦。
μ'sについての知識を得ました。
首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
広川に協力者がいると考えています。
広川または協力者は死者を生き返らせる力を持っているのではないかと疑っています。




【G-4/(北)/1日目/深夜】


【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:疲労(中) まあまあハイ!、若干の苛立ち
[装備]:イリヤのハンカチ
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。
1:ジョースター一行を殺す。(アヴドゥル、ジョセフ、承太郎)
2:体の調子を取り戻せるまでは慎重に動く。
3:寄生生物(泉新一、後藤)は殺しておきたい。田村玲子もいずれ殺す。
4:部下との合流(ペット・ショップ、花京院)。ただしそこまで優先するものでもないと考えている。
5:北の施設に向かう。
[備考]
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。
※自身にかかったスタンドや各能力の制限について大まかに把握しました。


225 : 生と力と強さの証 ◆BLovELiVE. :2015/05/12(火) 01:02:07 n355nRCE0

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー(混沌・善)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 不明支給品1〜3
[思考]
基本:美遊、クロと合流しゲームを脱出する。
1:美遊、クロとの合流
2:DIO、操折と協力する。
3:DIOさんと別れて田村さんを追うか、このままDIOさんと共に行動するか―――――?
4:サファイアを探してルビーの不調を治したい。
[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。



【食蜂操折@とある科学の超電磁砲】
[状態]:額に肉の芽、『上条当麻』の記憶消失。
[装備]:家電のリモコン@現実
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1、不明支給品0〜1
[思考]
基本:生き残り脱出する。
1:とりあえずDIOと協力する。

[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了後。
※『心理掌握』の制限は、洗脳力の低下。
※『肉の芽』を植えつけられた事によりDIOに信頼を置いているが、元々他者を信用する神経を持ち合わせていない事もあり、
  毎時毎分DIOへの信頼は薄まっていく。現時点で既に「バイト先の店長」に対する程度の敬意しかないようだ。



※以下の情報を交換しました
 ・イリヤの知り合いについて
 ・学園都市のこと、食蜂操祈の知り合いについて
 ・DIOの部下のこと、スタンドについてのことをある程度(ただし交友関係は花京院、ペットショップが”仲間”であるということのみ。ジョースター一行のことは話していない)
 ・寄生生物のことについてある程度、泉新一と後藤のことについて(広川のことは話していない)
 ・μ'sのメンバーについて


※G-4の滝に車が突き刺さっています


226 : ◆BLovELiVE. :2015/05/12(火) 01:02:41 n355nRCE0
投下終了です


227 : 名無しさん :2015/05/12(火) 09:14:41 s97LmvMg0
投下乙です
田村さんとDIOの人外談義は田村さんに軍配が上がりましたか。やはり田村さんは心理戦が強い
一方のDIOは何も言うまい


228 : ◆H3I.PBF5M. :2015/05/12(火) 20:27:11 tAIxWkpc0
投下乙です
人間を超えたと自称するDIOと、人間に寄生しながら理解しようとする田村の関係は面白いですね
舌戦でDIOをやり込める展開は新鮮でした

こちらも仮投下分を本投下します


229 : 彼女たちがはじめる四色定理 ◆H3I.PBF5M. :2015/05/12(火) 20:28:07 tAIxWkpc0

「雪子ー! 鳴上くーん! クマー!」

緑色のジャージを着たショートカットの少女が、一人夜の道を歩く。
彼女の名前は里中千枝。八十神高校に通う高校二年生。
校内では溌剌とした言動で密かに人気を集める千枝も、さすがにこの状況に怯えを隠せずにいた。

「みんないないのー!? どこにいるのよー……」

ツンツン頭の少年が広川という男に殺される瞬間を目撃した千枝は、あれが芝居や作り物ではなく現実に起きたことなのだと理解している。
ただでさえこんな見知らぬ街に拉致され、鉄の首輪を嵌められているのだ。花村あたりが仕込んだ手の込んだイベント……ということは有り得ない。
持っていたデイバッグの中にあった名簿によれば、ここには千枝の知り合いが四人いた。
親友の天城雪子。転校生の鳴上悠。テレビの中にいたクマ。刑事の足立透。

「足立さん刑事でしょ、何やってんのよ……もっとしっかりしてよ警察……」

千枝が住む稲羽市ではいま、不審死が連続して起きていた。
警察は懸命な捜査を行っているが、犯人は未だ不明。被害者の関連性も薄く難事件として市内を騒がさせている。
そんな中、千枝と仲間たちはある事実を発見する。それは、深夜零時に起こる怪現象「マヨナカテレビ」が事件と関連している、ということだった。
殺人事件の被害者たちはみな、死亡する前にこのマヨナカテレビに映っていた。
千枝が転校生の鳴上悠と花村陽介というクラスメイト二人とこの現象を調査した結果、彼らはテレビの中にもう一つの世界があることを知った。
シャドウという化け物が跋扈する世界。今まで起きた殺人事件はすべて、このシャドウたちの手によるものなのだと。
千枝たちは紆余曲折ありこのテレビの中の世界を探索する力を得た。
それがペルソナ……もう一人の自分自身。精神エネルギーが作り出すパワーある像(ヴィジョン)、とでも表すもの。
守護霊のように己に寄り添うこの力で、千枝たちはシャドウを退けテレビの中を探索しているのだ。警察では決して辿りつけない真相を突き止めるために。

「花村や一年生はいない。あたしと雪子と鳴上くん、それにクマだけ。一体どうなってるのよう」

千枝、鳴上、花村、雪子、クマ、後輩の久慈川りせ、巽完二、白鐘直斗。これが人呼んで(自称だが)「特別捜査隊」のメンバーである。
幸か不幸かメンバー全員が巻き込まれたわけではない。危険な目に合わずに済んだとも思う反面、彼らがいないと不安でもある。
だが今はここにいない彼らのことよりも、ここにいる雪子と鳴上の方を優先すべきだ。
そして千枝は危険と知りつつ不安を抑えつつ、夜の街をこうして探し歩いているのだった。

「ううう……こんなもんで一体どうしろっていうのよぉ」

千枝の手にはフライパンがあった。何の変哲もない、ただのフライパンだ。
添え書きには「鋼鉄製であり銃弾くらいなら防げる」と書かれていた。
銃弾ってなんだ、銃を持ってる奴もいるのか、と不公平感を紙とまとめて放り投げた。
千枝は大のカンフー映画好きで、日頃から鍛錬も欠かしていない。花村くらいなら楽勝でボコボコにする自信はある。
が、殺し合いとなると話は別だ。シャドウとの戦いは実戦とはいえ、ペルソナを駆使したいわば悪魔狩りのようなもの。
自分と同じ人間が殺意を持って襲ってくるなど、当然だが経験したことなんて無い。
千枝にはフライパンが与えられたが、もし銃だの刃物だのを持った相手に襲われたら、自慢のカンフーがどこまで通用するかわかりはしない。
仲間を探すのは彼らを案じているからという理由だけではなく、少しでも不安を払拭したいという利己心も少なからずあった。
やがて、千枝の前に人影が現れた。


230 : 彼女たちがはじめる四色定理 ◆H3I.PBF5M. :2015/05/12(火) 20:28:49 tAIxWkpc0
「……だ、誰っ!?」
「わわっ、待ってください! 私、怪しいものじゃありません!」

街頭が照らし出したその人物は、一言で言えばメイドだった。
いまどき漫画かゲームの中でしか見ないようなあからさますぎるメイド服。頭にはヘッドドレスまで載せている。
現代日本に生きる千枝としては馴染みのなさすぎる格好に、思わずフライパンを握る手に力がこもる。

「そんなコスプレしてる人が怪しくないわけないでしょ!」
「違います、コスプレじゃありません! 私はれっきとしたアンジュリーゼ様の筆頭侍女です!」

驚きから一転、顔を真っ赤にしてメイドが怒る。
その剣幕に千枝は逆に冷静になり、とりあえずフライパンを下ろした。

「ご、ごめんなさい……あたしもちょっと動転してたわ」
「いえ、わかってくださればいいんです。私はモモカ・荻野目といいます」
「あたしは里中千枝。えーっと、モモカちゃん? あなたは、その」

千枝は言葉を濁すが、モモカはその先を理解してくれた。

「いえ、私はあなたに危害を加える気はありません。
 私はアンジュリーゼ様……名簿にアンジュという名前で載っている方にお仕えしています。
 姫様を探して、お守りしないといけないんです。だからこんな殺し合いなんて絶対に許せません」
「あ、ああ、そう……良かったぁ」

モモカの言葉に安心し、千枝はペタンと座り込んだ。
街を歩く間常に緊張していたが、ようやく安全そうな人物に出会えたため気が抜けたのだった。

「あたし里中千枝。あたしも友達を探してるの」
「千枝さんですね。ええと、あなたは姫様とは……会っていませんよね?」
「うん。最初に会えたのがモモカちゃんだよ」
「そうですか……。私の方は、あなたで三人目です」

モモカが千枝に手を貸してやり、立たせてやる。
その際千枝のフライパンは元々モモカの所持品だったというので、返しておいた。

「その内のお一人に、この辺りに人影があると聞いて探しに来たんです」
「へえー、じゃああたしを入れて四人もいるってことになるんだ」
「はい。銀さん、天城雪子さんという方ですが、ご存知ではありませんか?」

千枝がモモカの言葉に強く反応したのは、言うまでもないことだろう。


231 : 彼女たちがはじめる四色定理 ◆H3I.PBF5M. :2015/05/12(火) 20:29:34 tAIxWkpc0
「雪子ーっ!」

人気のない通りにひっそりと小さな駅があった。
その駅長室で声を殺してモモカの帰りを待っていた天城雪子は、聞き覚えのある声に思わず部屋を飛び出した。
通りの向こうから走ってくる緑のジャージは、親友である里中千枝のものに違いない。

「千枝! 良かった、無事で!」
「雪子だって! うう、安心したよぉ!」

千枝とは対照的に、雪子は赤い色のカーディガンを愛用している。
ひしと抱き合った二人は緑と赤のコントラストが中々際立っていたが、雪子に続いて店の奥から出てきた少女は無表情に眺めていた。
銀髪をリボンでまとめ、ゴシックドレスに身を包んだ少女。間違いなく美少女であるはずなのに、千枝の感想は見事なほどに無表情な娘だな、というものだった。

「ただいま、銀さん」
「おかえり」

後からやってきたモモカが合流し、千枝と雪子を室内へ入るように促す。
銀と呼ばれた少女は現れた時と同様、音もなく戻っていく。

「千枝、とりあえずこの状況を整理しよう。大丈夫、モモカさんと銀ちゃんは危ない人じゃないから」
「うん、わかった。あたしもわかんないことばっかで、ちょっと混乱してたし」

とりあえずは頭数が集まったため、無用に目立たないために窓のなく明かりが漏れない奥の部屋で話すことにした。
四人の中心にはモモカが淹れてくれた温かい紅茶がある。駅長室に備え付けてあったものだ。

「はあ、おいしー」
「体を温めれば心も落ち着きますからね」
「どう、銀ちゃん?」
「おいしい」

簡単な自己紹介は済ませた。
中でも驚きだったのが、千枝と雪子からすればモモカと銀はどうやら違う世界の人間らしい、ということだった。
たとえば銀のいた東京には地獄門(ヘルズ・ゲート)という進入禁止区域があり、日本に住んでいるものなら誰だって知っているらしい。
いくら稲羽市が都会から離れた田舎だとしても、ニュースにもなるような出来事を知らないはずはない。
仮に千枝が知らなくても雪子が知っているだろう。契約者やドールといった存在についても同様だ。
この時点ではまだ半信半疑だった千枝だが、モモカが語ってくれた彼女の世界の有り様を聞くに連れ、笑いはすぐに引っ込んだ。
ノーマ、マナ、ミスルギ皇国、ドラゴン。当たり前だがどれも知るわけがない。
困惑する千枝と雪子に、モモカがこういう可能性はどうだ、と教えたのがいわゆる平行世界の概念。
モモカと彼女の主であるアンジュが戦っていたエンブリヲという男こそ、その平行世界からの侵略者なのだという。そのエンブリヲまでが名簿に載っていることにモモカは驚いていたが。

「千枝さん、お代わりはいかがですか?」
「あ、ちょーだい」

千枝のカップが空いたのに気付いたモモカが、ティーポットへと指を向けた。
指先を躍らせる。するとポットは触れずして浮き上がり、ひとりでに千枝の元までやってきてその中身を注いだ。


232 : 彼女たちがはじめる四色定理 ◆H3I.PBF5M. :2015/05/12(火) 20:30:23 tAIxWkpc0
「こんなの見たらねえ、信じないわけにはいかないよね」
「千枝さんこそ、ペルソナという力を使えるんでしょう?」
「あはは、テレビの中だけでね。でもここじゃあ無理みたい」

と、千枝は部屋のテレビの画面に触れる。
指先は固い液晶に阻まれ、沈んでいかない。

「ほらね、入れない」
「千枝、気付いてなかったんだ。ここ、ペルソナが出せるよ」
「え?」
「いつもやってるみたいに強く念じて……ほら」

雪子が目を閉じ集中すると、その掌に一枚のカードが現れた。
ペルソナを封じ込めたタロットカード。あれを壊すことがペルソナ開放のスイッチになる。

「うそ。んん……あっ、出た!」

千枝の手の中にもペルソナカードが現れる。
テレビの中で見るのと寸分違わない、正真正銘千枝のペルソナがそこにある。

「あ、あはは……気が付かなかったよ」
「私も偶然気づいたようなものだからね。でもおかしいよねこれって。
 テレビの外なのにペルソナが出せるなんて」
「それはあの広川という男が言ってたことに関係あるのではないでしょうか」
「幻想殺しに限らない。超能力、魔法、スタンド、錬金術。あらゆる異能を自由に制御できる」

モモカに続いて銀がぼそりと補足した。
千枝からすればテンションが自分と真逆なこの銀という少女はやや絡みにくいのだが、雪子とモモカはそうでもないらしい。
二人とも納得とばかりに頷いている。

「制御できるのなら、逆に通常より強化あるいは変化させることもできるのかも。テレビの外でも使えるように」
「殺し合いをさせる上では、ペルソナよりもテレビの中に入れる力の方が厄介に思えます。
 広川はテレビの中に入れさせないために、現実空間でペルソナを使えるようにしたんじゃないでしょうか」
「ううーん。なんだかめんどくさいことするなあ」

雪子に比べて頭を使うことが苦手な千枝が、広川の真意を考えてもわかるはずもない。
ふと横を見れば銀は先程からずっと、蛇口から細く出しっぱなしにしている水を見つめていた。

「銀ちゃんは水を使って周囲を観察できるんだって。千枝を見つけたのも銀ちゃんが教えてくれたからなの」

銀はついと千枝に視線を向ける。すると千枝の目の前に、濃い青色をした揺らめく影のようなものが出現する。

「なにこれ?」
「これが銀ちゃんの……ええと、観測零だっけ。水を通じて遠くの場所を見ることができるんだって」
「やっぱり、見えるんだ」


233 : 彼女たちがはじめる四色定理 ◆H3I.PBF5M. :2015/05/12(火) 20:31:34 tAIxWkpc0
銀が言葉少なに言うのを雪子とモモカが何とかつなぎ合わせると、観測霊もまたペルソナと同じように何らかの干渉がされているらしかった。
本来は契約者しか視認できないはずなのに、契約者ではない千枝や雪子、モモカが見えているのはおかしい、と。

「それについては私たちがペルソナを使えたり、モモカさんがマナっていう力を使えるからかもしれないけど」
「広川が私たちに何か細工をしたとすると……やはりこの首輪でしょうか」

全員が首もとを意識する。そこには冷たい鉄の首輪があった。
千枝たちを縛る鎖にして、上条当麻なる少年を爆発した無慈悲な凶器だ。

「爆弾と、多分発信機のようなものも内蔵されているんではないでしょうか」
「じゃあまずはこれを何とかしないといけないのね」
「うん……でも、いまこれに手を出すのは止めておきましょう。
 少なくとも何かの道具とか、機械に詳しい人と会うまでは下手に触らないほうがいいと思う」
「それについては私に当てがあります。タスクさんという方が機械に明るい方ですから」

モモカはタスクという人物について、技術だけでなく人柄も太鼓判を押した。決して殺し合いに乗る人間ではないと。
他にもアンジュ、ヒルダは必ず広川に反抗するが、唯一サリアという人物だけはどう転ぶかわからないとも続けた。
エンブリヲは問題外。絶対にアンジュの、ひいては千枝や銀の敵になると強く念を押す。
千枝と雪子も、鳴上悠とクマは信用できると伝えた。足立は警察官だがイマイチ頼りないとも。
銀は、黒(ヘイ)という文字を指し示す。それ以外は何もしない。知り合いは一人だけということだろうか。

「……えっと」

大方の情報交換が終わり、誰ともなく口を閉ざす。
そういえばここには話を仕切ってみんなをまとめるような、いわゆるリーダータイプがいないのだ、と千枝は思う。
鳴上、あるいはアンジュや黒というそれぞれが頼りにする人物がいれば違うのだろうが。

「とりあえず……これからどうする?」
「夜間に出歩くのは危険だわ。朝が来るまでここで待ちましょう」
「いえ、私はすぐにでも姫様を探しに行きたいです」

千枝は雪子と同じでもう出歩きたくはなかったが、モモカは違ったようだ。
そもそもモモカは、千枝たちと違ってアンジュに仕える身だ。自分の命よりも優先するべき人がいる。
自分の安全のために朝までじっとしていることなど考えられないのだろう。

「駄目よ、モモカさん。一人じゃ危険だわ」
「そうだよ、朝まで待って四人で一緒に行こ?」
「そうは行きません。こうしている今も姫様がどうなっているかわからないんです。
 みなさんの事情は把握しました。もし私がこれから黒さんや鳴上さん、クマさんという方にお会いしたらこの場所を伝えます。
 私は電車で東の方に向かってみます。もしみなさんがアンジュリーゼ様に会われた時は、どうか姫様をよろしくお願いします」


234 : 彼女たちがはじめる四色定理 ◆H3I.PBF5M. :2015/05/12(火) 20:32:06 tAIxWkpc0
モモカは手早く出発の準備を整え、部屋を出て行く。千枝が慌てて飛び出していった。
雪子はまず火の始末をし、自発的に機敏には動けない銀と手をつないで二人の後を追う。
千枝がモモカに追いついたとき、彼女は駅に待機していた電車の車両室で計器をいじっていた。

「これなら動かせそうですね……」
「待ってよモモカちゃん! 一人じゃ危ないよ」

千枝がモモカに飛びつき、止めさせようとする。
モモカは千枝の手をそっと外そうとする……が、千枝は力を込めて抵抗した。

「このモモカ・荻野目、自分の身なら自分で守れます。
 それに私たちは元々出会うはずのなかった他人同士です。どうかご心配なさらないでください」
「そんなわけないでしょ! 私ら、もう友達じゃない!」
「えっ?」

千枝が思わず放った言葉に、モモカは虚を突かれた。
当然千枝は知らないことだが、アンジュリーゼの筆頭侍女たるモモカに個人的な友人というものはいない。
生活のすべてをアンジュに捧げていたのもあるし、またそれで何の不足もなかったからだ。
例外といえば、最近交流を持つことになったヒルダやタスクといった僚友だが、彼らとはアンジュを通した付き合いとも言える。
アンジュの介在しないモモカだけの友人、というのはやはりいないのだ。
しかし、千枝はアンジュを知らない。モモカしか知らない。その千枝が、モモカを友人と言っている。

「あたしら、会ったばかりだけどさ。モモカちゃんのおかげで雪子と会えたんだから感謝してるんだよ。
 それに一緒にお茶したでしょ? じゃあもうあたしら友達じゃない!」
「千枝さん……」
「ねえ、そのアンジュさんのことが大切なのはわかるよ。でもそのためにモモカちゃんが危ない目に会ったら、アンジュさんだってきっと喜ばないよ。
 あたしだって、あたしのために雪子が怪我したりしたら絶対に嫌だもん。つーか、怒る! なんでもっと自分を大事にしないんだ、って!」

必死に説得する千枝の言葉がモモカに刺さる。
何故自分を大事にしないのか。それは確かに、モモカに対してアンジュが言いそうなことではあった。

「…………」

改めて、冷静になって考える。まだここでやるべきことはあるはずだ。
たとえば、情報は交換したがそれぞれの持ち物は何も確認してはいない。
千枝がモモカのフライパンを持っていたことくらいで、紅茶は駅長室にあったものを使ったのだ。
もしかしたら、モモカや雪子、銀に与えられた道具の中にアンジュを探す上で有用なものがあるかも知れない。
急がば回れ。急いては事を仕損じる。急がなければならない時にこそ、自分の立ち位置をしっかりと見定めなければ足を滑らせる。
モモカはゆっくりと息を吐き、計器を操作する手を止めた。

「わかりました、千枝さん。すみません、わがままを言ってしまって」
「モモカちゃん……!」

雪子と銀がやってくる。
モモカは千枝とともに、二人にも謝るべく歩き出した。

緑色、里中千枝。
赤色、天城雪子。
桃色、モモカ・荻野目。
銀色、銀。

こうして、四つの色を象徴する少女たちが出会う。
それぞれの大切な人と再会するべく、彼女たちの戦いが始まった。


235 : 彼女たちがはじめる四色定理 ◆H3I.PBF5M. :2015/05/12(火) 20:33:06 tAIxWkpc0






「あっ」
「モモカちゃん?」

そのとき、モモカに異変が起こった。糸が切れたように膝が落ちる。
千枝が心配して駆け寄ってきた。

「モモカちゃん、どうかした? 気分でも悪い?」

純粋にモモカを気遣う千枝に対し、モモカは……同じく心配そうに覗きこんでくる雪子へと手を翳す。
その手からマナの光が放たれた。

「え……きゃあぁ!?」

マナの光は風となって、雪子と銀を吹き飛ばした。

「モモカちゃん! 何を……っ!?」

倒れた親友に驚き振り返った千枝の首筋に、モモカはフライパンを振り下ろす。
硬い鉄の一撃は、千枝の意識をあっさりとかき消した。
ぐったりと崩れ落ちた千枝の身体を抱え、モモカは電車に乗り込んで計器を操作。
誰でも簡単に操作できるように簡略化された電車は起動し、ゆっくりと扉を締めていく。
窓の外で、雪子が何か叫んでいた。

「待って、モモカさん! 千枝! 千枝ーっ!」

動転しているのか、ペルソナで止めるということすら思い浮かばない。
雪子の見ている前で、モモカと千枝を載せた電車は一路、東へと走り出していく。

……マナを扱うすべての人間を操る術を持つ、調律者エンブリヲの元へ。

そしてそこには、千枝の仲間である鳴上悠もまた、自由を奪われて捕まっているのだった。
エンブリヲによって操作されているモモカはそれを語ることはない。
ただ、意志のない瞳で千枝を見つめるのみである。


236 : 彼女たちがはじめる四色定理 ◆H3I.PBF5M. :2015/05/12(火) 20:34:55 tAIxWkpc0
【C-8/電車内/1日目/深夜】

【里中千枝@PERSONA4 the Animation】
[状態]:気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:殺し合いを止めて、みんなで稲羽市に帰る。
1:悠、クマを探す。
2:モモカ、銀の知り合いを探す。
3:足立さんは微妙に頼りにならないけど、どうしようか。
4:エンブリヲに警戒。
[備考]
※モモカ、銀と情報を交換しました。

【モモカ・荻野目@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:エンブリヲによる操作状態
[装備]:モモカの防弾フライパン@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:アンジュ、タスク、ヒルダと合流し、元の世界に帰る。
0:…………
1:アンジュ、タスク、ヒルダを探す。
2:エンブリヲを警戒。
3:千枝、雪子、銀の知り合いを探す。
[備考]
※千枝、雪子、銀と情報を交換しました。


【C-8/駅/1日目/深夜】

【天城雪子@PERSONA4 the Animation】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:殺し合いを止めて、みんなで稲羽市に帰る。
0:モモカさん、どうして?
1:悠、クマを探す。
2:モモカ、銀の知り合いを探す。
3:足立さんは微妙に頼りにならないけど、どうしようか。
4:エンブリヲに警戒。
[備考]
※モモカ、銀と情報を交換しました。

【銀@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:…………。
1:黒を探す。
2:千枝たちと朝まで待つ。
[備考]
※千枝、雪子、モモカと情報を交換しました。

※電車は一駅に一つしかないため、戻ってくるのを待つか別の駅から電車が来ない限り使用できません。


237 : ◆H3I.PBF5M. :2015/05/12(火) 20:37:16 tAIxWkpc0
投下終了です
また、モモカまわりをフォローしていただいた◆w9XRhrM3HU氏、ありがとうございました


238 : ◆w9XRhrM3HU :2015/05/12(火) 22:31:26 NdnuOKxU0
投下乙です

自分も本投下します


239 : 神の発情 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/12(火) 22:32:07 NdnuOKxU0
「パイプ爆弾、ねぇ」

手にある爆弾を見ながらエドワードは呟く。
先ほど誤作動で爆発させてしまったこの爆弾だが、エドワードにはまるで見覚えのないものだった。
みくからパイプ爆弾であると指摘され、名前もようやく知れたくらいだ。
そのみくですら、テレビでたまたま見て知っていたというぐらいである。

「明らかに俺の知ってる爆弾よりも精度も技術も高いよな……」

エドワードは国家錬金術師だ。
いずれ国のために戦争に駆り出されることもある身、重火器や爆弾など一通りの知識はあるがこんなものは初めて見た。
いやこれだけじゃない。
パイプ爆弾をテーブルの上に置き、横にある牛乳瓶を手に取り唇に付けながら、横の大きな箱に視線を向ける。
正面を透明のガラスで覆い、それ以外は金属で出来ている変わった箱だ。
中には牛乳が何本も入っている。
硬貨を入れ、ボタンを押すことで好きな牛乳を買えるという自動販売機という機械らしいが、これもエドワードからすれば見たことのない技術だ。

(錬金術も使わない、純粋な科学技術でこんなもんが作れんのかよ)

みくからすればさも当然と言わんばかりに自動販売機を弄っていたが、エドワードからすれば全く未知の領域。 
科学技術だけで、こんなものが作られたとあっては錬金術師も廃業を迫られるだろう。

「それに」

唇から離した牛乳瓶の中身を凝視する。

「この牛乳、めちゃくちゃ美味え」

自動販売機の中には白い牛乳以外にも黒い牛乳、オレンジ掛かった色をした牛乳と三種類あった。
試しにエドワードは黒い牛乳を買って飲んでみたところ、牛乳特有の生臭さはなく、コーヒーの心地よい香りと甘みが口の中を広がっていく。
牛乳嫌いのエドワードが、気付けば一気に瓶を一本開けてしまうほど、このコーヒー牛乳は美味かった。

「美味しいけど、そんなに感動するほどかにゃ?」
「いや、美味過ぎるだろ。牛乳がこんな美味いなんて、初めて知ったぞ俺!」

牛乳を口にながらみくは首を傾げる。
自動販売機の仕組みを真面目に考えたり、コーヒー牛乳の味に驚いたりと、まるで時代劇の人間を現代に連れてきているようだ。

「さてと、次はこのフルーツ牛乳とやらに挑戦してみるか」

自動販売機にぶら下げてある袋に通貨は入っている。
これで施設内の設備を使えという事なのだろう。
広川の用意したものというのが癪だが、この際美味い物をたらふく飲んでやるとエドワードは開き直っていた。

その時。
ここからそう遠くない所で銃声が鳴り響き、温泉にまで聞こえてくる。
エドワードは硬貨の入った袋から手を抜き、自動販売機に背を向けた。

「みく。ちょっと様子を見てくる、ここでじっとしてろ」
「で、でもエドワード君は……」
「様子を見てくるだけだって言っただろ? やばそうなら、すぐ引き返してお前と逃げるさ」

不安を隠せないみくを落ち着かせ、エドワードは温泉を飛び出した。








240 : 神の発情 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/12(火) 22:32:24 NdnuOKxU0
「アンジュ!」

エンブリヲは歓喜していた。
自らが捜し求め、手に入れたいと願った女性と再会できたのだから。
これを運命と言わず何と呼ぶ。ドラマティックだ。

「エンブリヲ!」

対するアンジュは侮蔑、軽蔑、憎しみを交えその名を叫んだ。
殺したはずのあの男が何故この場に居るのか? それは分からない。
ただ言えるのは、もう一度殺す羽目になったということだけだ。

「また塵に帰れ!」

銃を抜き、構え、トリガーを引く。
この三つのアクションを迷うことなく一秒足らずで行い、銃弾がエンブリヲの眉間へ吸い寄せられる。
笑みを絶やさず、エンブリヲが消えた。
銃弾は空を切り闇の中に溶け込んでいく。
刹那、アンジュは踵を返し背後へと銃を向けた。

「危ないじゃないか。アンジュ」

一瞬にしてエンブリヲはアンジュの背後へと移動する。
銃弾すらも超えるその速度はまさに瞬間移動。世界の調律者だからこそ得た。人を超越した神の如き能力。
目の前で起こった超常の力に凜は唖然とした。
出会って即発砲のアンジュもそうだが、それを軽くあしらうエンブリヲにも驚愕と恐怖が沸く。
彼らは一体どんな世界で生きてきたのか、凜にはまるで理解できない。


「へえ、貴方戦い方を変えたのね? 前はどんな攻撃も食らってたじゃない? マゾかと思ったぐらいよ」
「そうだったかな?」
「この場じゃ貴方も普通に死ぬ。だから、これもかわしたんでしょ?」

エンブリヲは笑う。その余裕は崩さない。
そして、腰が抜けて逃げ遅れた凜の首根っこを掴み引き寄せると腕で拘束し、アンジュの盾になる形で前へと突き出した。

「ご名答と言っておこう。流石アンジュだ。だが撃て「ごめんね凛」

気の抜けた銃声と共にエンブリヲの長髪が舞い、髪の数本が千切れ地に落ちた。
エンブリヲは咄嗟に凛を突き飛ばし、また瞬間移動で消える。
拘束の解けた凜は無我夢中で半泣きになりながらアンジュの元へと駆け出す。
気付けば、冷たく湿っていたスカートがまた生温くなっていた。

「な、何するのよ……!? し、死ぬかと……」
「大丈夫よ。当てない自信あったし」

他人事のように軽い口調で話すアンジュに凛は殺意を覚えたが、そんな事を言える立場でも状況でもないことを察し口を閉ざす。
再びエンブリヲは少し距離を置き、二人に背後に姿を現した。

「アンジュ、私と共に来るんだ。私はこの首輪を外せる知識と技術を持っている。
 広川という男を倒すのも夢じゃない。私こそが、今この殺し合いからの脱出に一番近いと言って良い」
「冗談でしょ? 貴方に着いて行くぐらいなら、死んだ方がマシだわ」
「アンジュ……! 私と「おい、お前ら!」

台詞を二回も遮られた事にエンブリヲは怒りを露にし、声の方へと視線を投げる。
声の主は赤いコートを纏った金髪の少年エドワード・エルリック。
温泉から銃声を聞きつけやってきた。
その姿を認めた時、エンブリヲは即座にエドワードの背後を取った。

「君は私達の舞台には必要ない」
「なっ!?」

一瞬で人が消え、再び現れたことに驚愕する暇もない。
エンブリヲに頭を触れられた瞬間、身体に異常な感覚が沸いてくることにエドワードは気付く。
それは甘い快感だ。普通では得られない、最早狂ってしまうのではないかと思えるほどの快楽だ。


241 : 神の発情 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/12(火) 22:32:42 NdnuOKxU0
「あ、ああああああああああ!!!」

男でありながら恥辱を捨て、叫びだしてしまうほどの喘ぎ声。
堪らずエドワードは倒れこみ、快感に悶えた、
その悲痛な叫びを聞きながら、アンジュは舌打ちをしエンブリヲに銃を向ける。
同じくエンブリヲはその両目でアンジュと凜を睨み返す。
アンジュがトリガーを引くより速く、二人の服が弾けた。

「また、こんな悪趣味な……!!」
「え? え?」

凜は唐突に服が破かれた状況に、恥ずかしさよりも理解が追いつかず唖然とする。
それに比べもう慣れたものなのか、アンジュはエンブリヲに悪態を吐きながら銃をぶっ放す。
当然のように、銃弾はエンブリヲには当たらない。エドワードの機械腕(オートメイル)に一発当たり、甲高い音を鳴らすが関係ない。
アンジュの眼前にエンブリヲは移動し、銃を払い落とすとアンジュの両腕を押さえながら押し倒す。
倒れたアンジュに向かって地面が盛り上がる。
それらはアンジュの両腕、両足に覆いかぶさるとまるで鉄のように硬くなりアンジュを拘束した。

「君は穢されてしまった。私の愛で浄化しなければ……!」
「離しなさい! エンブリヲ!!」

銃は押し倒された際に手放してしまった。体は身動きが取れない。
完全に無防備になった少女の裸体。
アンジュの股間が凝視される。エンブリヲの見開いた目で局部を写される事ですら、屈辱的であり強い怒りを覚える。
だがどうしようもない。全身に力を込めるが、拘束は緩むどころか更に強まるほどだ。
エンブリヲが自身のズボンを緩ませ、局部を晒そうとする。
見たくもない。その粗末な物を出した瞬間、捻じ切ってやりたい。
この時ほど、アンジュは憎しみで人が殺せたらと願う事はなかった。

「あ、アンジュから離れ―――」
「君は後だ」

凜がアンジュの落とした銃を拾いエンブリヲに向ける。
だが凜も盛り上がった土に足を取られ転ばされると、アンジュと同じように拘束された。
こうして二人の少女が全裸で磔にされることとなる。

「これは選別なのだよ。私に選ばれた強く賢い女性だけが、この殺し合いからの生還を許される」
「この、暴力ゲス男! その豆粒みたいな汚い粗末な物を仕舞いなさい! タスクのが百倍良いわ!」
「だ、誰が豆粒ドチビ……んあああああああ!!!」
「アンジュ……! 君は! あんな猿の……!」

怒りに染まったエンブリヲがアンジュの頬を平手で打つ。
アンジュの頬に、赤い手形が薄っすらと浮かんだ。
愛する女性から、最も聞きたくない言葉を聞いてしまった気がした。
もはや躊躇いはない。一刻も早く穢れを浄化しなくてはならない。
そう分からせるかのように、ねっとりとアンジュの身体を嘗め回すように眺める。
そして愛撫も前遊もなしに、エンブリヲはその閉ざされた秘境へと、自身の陰茎を触れさせようと腰を前へ進ませた。
少女は男を受け入れざるを得ない。如何に愛する男性が居ようとも、その思いは空しく浄化させられる。
エンブリヲの独善的な愛が、アンジュへの膣内へと到達しようとした。

パンッ

その時。
両手を強く合わせたような乾いた音と同時に、闇を振り払うほどの眩い閃光が奔る。
あと数ミリというところでエンブリヲの腰が止まった。

「この変態野朗ッ!!」

怒号の声と同時にエンブリヲの頬に鋼の拳がめり込む。
訳も分からぬまま、エンブリヲは吹っ飛ばされ地べたを転がっていった。

「ば、馬鹿な……。君は感度50倍の中……どうして……?」

エンブリヲを殴った拳の主、エドワードは赤いコートをはためかせながら、以前変わりなくそこに立っている。
そこには先ほどまでの喘いでいた恥辱に塗れた姿は微塵もない。
有り得ない。感度を50倍にされた人間があんな堂々と立てるなど。

「感度……。つまり体性感覚の入力は、頭頂葉の最も前側に位置する中心後回が受け取っている。
 あんたの力はそこに干渉し、過剰に中心後回を働かせるってとこだろ?
 そこまで分かれば話は簡単だ。同じように中心後回に干渉し、普段と同様の状態に戻してやればいい」

先ほどのあの光だ。あれは錬金術を発動させた際に起こる光。
あの光が感度50倍を破ったのだろうとエンブリヲは推測した。

エンブリヲは知る由もないが、エドワードは最年少で国家資格を得るほどの天才錬金術師。
錬金術の技術も、人体への理解も十分すぎるほどに揃っている。
感度の異常を錬金術で元に戻すことも不可能ではなかった。

エドワードは鋼の手をこちらに向けながら「来いよ」とエンブリヲに向け合図を送る。


242 : 神の発情 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/12(火) 22:33:04 NdnuOKxU0
「立てよド三流。格の違いって奴を見せてやる」

エンブリヲは舌打ちした。
このような形で自身の力が破られるなど初めてのことだ。
恐らくは、これも異世界の特異な力の一つなのだろう。
下手をすれば、タスク以上に厄介な少年だ。この場で始末するに越した事はない。

「私とアンジュの愛の儀式を邪魔するとは!」

忌々しく吐き捨て、エンブリヲは銃を抜き、トリガーを引く。
甲高い音を叩き出しながら銃弾は鋼の義手によって遮られる。
狼狽する間もなく、エドワードが疾風の如き速さで肉薄しエンブリヲに向け裏拳を振るう。
裏拳を手で押さえ、銃をエドワードの眉間へ突きつけるが、トリガーを引くより鳩尾にエドワードの膝蹴りが届くほうが速い。
エンブリヲの長身ゆえエドワードの低身長の死角には気付き辛い。その隙を狙った一撃はより深く刻まれた。
吐き出すように咳き込みながら、エンブリヲは追撃を避けようと後退する。
だがあまりにもその動作は遅く、おぼつかない。一瞬で間合いを詰めたエドワードが肘撃ちを放ってくる。
瞬きの暇すらない。瞬間移動で避け、エドワードの背後を取ったが読まれていかたのように蹴りが飛んできた。
両腕をクロスしてガードする。即席のガードでは踏ん張りも利かない為、堪らず尻餅を付く。

「くっ、おのれ……」

向かってきたエドワードの拳をまた瞬間移動で避ける。
認めたくはないが、体術ではエンブリヲはエドワードには遠く及ばない。
感度を弄る能力も通用しない。
エドワードはある意味、エンブリヲにとっての天敵なのだ。
無論、本来の力とラグナメイルがあれば、そんなこと関係なく虫けら同然だが、この場では呼び出すことが出来ない。
戦局を冷静に見極めた結果、ここは撤退が一番という結論に達する。

エンブリヲが指を鳴らす。
地面が触手のようにうねり盛り上がるとエドワードに向け撓る。
エドワードが両手を合わせ、数本の柱を練成し触手にぶつけ相殺。
だが、その一瞬の間にエドワードの視界が塞がれる。
その隙に、エンブリヲは瞬間移動でこの場から離脱した。

「アンジュ、また君を迎えに行くよ。待っていてくれ」
「何!? あいつ何処に?」

アンジュへの捨て台詞だけが木霊し、この場にはエドワードとアンジュだけが取り残された。

「くそっ! ……大丈夫かあんた?」

エドワードは錬金術でアンジュの拘束を解く。
自由の身になれたアンジュは塞がれていた四肢を軽く動かす。
思った以上に強く縛られていた為か、動かした四肢が嫌に痛んだ。

「ちょっとあんた、それ貸しなさい」
「え? あっ……」

あっけに取られた後、意味を理解したエドワードは気まずさを感じ目を反らしながら、自分のコートを放り投げた。
アンジュは全裸だ。年端もいかない少女を裸体のまま放置するわけにも行かない。
それに故意ではないとは言え、その一糸まとわぬ姿を直視してしまった気まずさも沸いてくる。

「まあ、礼は言っておくわ」

対するアンジュ自身は隠すところを隠し終えると、何もなかったかのように振舞う。
何処か、一皮向けた大人びた雰囲気を感じさせた。

「ところで、凜は?」
「リン……?」
「私と同じように磔にされてた娘よ」

アンジュが、辺りをキョロキョロ見渡し凜という名を叫ぶ。
思い返せば、確かに黒い長髪の少女がアンジュと共に居たのをエドワードは見ていた。
なのに、今はその姿は何処にもない。
考えられるのは一つしかなかった。あのエンブリヲが手土産として凜を攫って逃げた。
これしか考えられない。

「あの変態野郎……!」

エドワードの叫びが空しく木霊した。







243 : 神の発情 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/12(火) 22:33:20 NdnuOKxU0
「くっ、え、エンブリヲ……!」
「君も強情だな。悠」
「絶対、お前に負けたりなんか……しない……!! ぐっああああああ」
「ふっ」

服を脱がされ、全裸になった鳴上が50倍の感度に耐え続けている。
全身は汗で濡れ、煽てにも良いとは言えない濃厚な香りに包まれてしまった。
エンブリヲは不快そうに眺めながらも、その拷問を解くことはしない。
鳴上は手駒にし、洗脳するだけの価値がある。
あの未知の力を使うエドワードのような異能者共と一戦交えるには、エンブリヲの力だけでは心もとない事が先の戦いで良く分かった。
だからこそ、別の力が要る。鳴上はその手駒の一つだ。
ペルソナを調べる作業と平行して、鳴上の心を折り我が物とする。
趣味ではないが、必要である以上仕方がないと自分に言い聞かせ、鳴上の入ったティバッグを閉めた。
このディバックが質量に縛られず、何でも入る特殊な物で良かった。
いくらエンブリヲでも、裸の男を連れて歩く趣味はない。

「さて、凜と言ったかな?」

口直しと言わんばかりに、腕の中で全裸で眠る凜の頬を撫でた。
彼女は非力ではあるが、土壇場で動ける。強く賢い少女だ。
囚われたアンジュを、怯えながらも助けようとした姿をエンブリヲは忘れない。
彼女はエンブリヲに選ばれるだけの価値がある。

「アンジュ程ではないが、君も愛してあげよう。たっぷりとね」

そういえば、最初に出会った未央の知り合いも凜という名と聞いている。
つまり、彼女は偽名でもない限りは未央の仲間なのだろう。
奇妙な偶然だと、エンブリヲは笑みを浮かべた。

「安心したまえ、すぐに未央もタスクから助け出してみせる」

そう優しく耳打ちし、今度は髪を撫でた。

「ふむ、モモカは電車に乗ったか。早ければ駅に着いているかもしれないな。
 それに悠の知り合いも電車に乗り込んでいるらしい。楽しみだ」

今から数時間前、まだ黎明にも差し掛からなかった頃、エンブリヲはマナを使える人間に自分の元へ来るよう指示を出しておいた。
もっともマナを扱えるのは、この場にはモモカ一人しか居なかったがそれでも十分。
アンジュへの切り札になり得る、モモカの存在は貴重だ。
とはいえ、モモカの到着を待ち切れず辺りを散策し始めたのは失策だったと、エンブリヲは後悔する。
運良くアンジュと遭遇するも邪魔が入ってしまった。
アンジュを迎えに行くのには、もっと念入りな準備をしなければならない。

「しかし、瞬間移動にすら制限か。
 戦闘以外での瞬間移動は避けた方が良さそうだな」

本来ならエンブリヲは一分も掛けずこの島の何処へでも移動できる。
だというのに、長距離の移動は不可。連続で瞬間移動を利用し来た道を戻るのにも数時間掛かる。
しかも調子に乗って何度も使ったせいか、今になって異常な程の疲労が押し寄せてきた。

「アンジュ、今度こそ私は君を迎えに行くよ。
 その為の舞台を整えなければね」

未だ心は折れないが、ペルソナを持つ少年、鳴上悠
アンジュの筆頭侍女を自称し、アンジュへの切り札にもなるモモカ・荻野目。
そしてエンブリヲの趣味を満たせる眠れる美少女、渋谷凜。

アンジュこそ手放してしまったが、決して戦況は悪いわけではない。
エンブリヲは醜悪な笑みを浮かべ、モモカとの合流を急いだ。


244 : 神の発情 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/12(火) 22:33:36 NdnuOKxU0
【G-5/1日目/黎明】

【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)、コートなし
[装備]:無し
[道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
不明支給品×3〜1、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×4(ディパック内) @魔法少女まどか☆マギカ、みくの不明支給品1〜0
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
1:エンブリヲを追う? 温泉までみくを迎えにいく? 凜は……。
2:大佐の奴をさがす。
3:前川みくの知り合いを探してやる。
4:エンブリヲ、ホムンクルスを警戒
[備考]
登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
*前川みくの知り合いについての知識を得ました。
*ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。

【アンジュ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、全裸コート
[装備]:S&W M29(3/6)@現実
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾54@現実 トカレフTT-33(6/8)@現実 
 トカレフTT-33の予備マガジン×4 不明支給品0〜1
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
1:凜は……。エンブリヲを追う?
2:モモカやタスク達を探す。
3:エンブリヲを警戒。
[備考]
登場時期は最終回エンブリヲを倒した直後辺り。

【H-5 温泉 /1日目/黎明】

【前川みく@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康
[装備]:猫耳
[道具]:なし
[思考]
基本:生きて帰りたい。
1:エドワードを待つ。
2:卯月ちゃんやプロデューサー達と会いたい。
*エドワード・エルリックの知り合いについての知識を得ました。
[備考]
登場時期はストライキ直前。


【F-7/1日目/黎明】

【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(大)
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン、カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2
[思考・行動]
基本方針:アンジュを手に入れる。
1:悠のペルソナを詳しく調べ、手駒にする。
2:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
3:悠、未央の仲間に会ったら色々と楽しむ。
4:タスクを殺す。
5:モモカと合流する。
6:凜と楽しむ。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
 分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※能力で洗脳可能なのはモモカのみです。

【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:全裸、疲労(大)、全身性感帯+感覚五十倍、エンブリヲのディバックの中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:仲間と合流して殺し合いをやめさせる
1:エンブリヲから逃げる

【渋谷凛@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:精神的疲労大、全裸、気絶
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:生きて帰りたい。
1:……。
2:卯月やプロデューサー達を探す。
[備考]
登場時期は最終回のコンサート終了後


245 : ◆w9XRhrM3HU :2015/05/12(火) 22:33:56 NdnuOKxU0
投下終了です


246 : 名無しさん :2015/05/13(水) 14:34:08 ZYsWKreg0
投下乙です


247 : ◆dKv6nbYMB. :2015/05/13(水) 23:33:28 Cp3FFVU.0
投下します。


248 : 怒れる魔術師 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/13(水) 23:36:23 Cp3FFVU.0
ここはバトルロワイアルという、死が付きまとう殺し合いの場。
気を抜いた瞬間に不意打ちで首と胴を泣き別れにされてもおかしくない。
しかし、人間とは24時間常に集中できるわけではなく、誰もいないときなど余計に色んな考え事をしてしまう。
それはこの男、モハメド・アヴドゥルにも当てはまることだった。




危険な美女・エスデスと別れ、彼女は西に、私は東へ向かうこととなった。
早速行動しようとしたが、まだ名簿と地図にしか目を通していないことを思い出した私は、先に荷物を整理していた。
荷物の整理をしていて気が付いたことがある。


(しかしなんだ...思い返してみれば、このデイパックに地図に名簿、全く持って奇妙だな)


そう、なにからなににおいてまで奇妙なのだ。


249 : 怒れる魔術師 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/13(水) 23:37:05 Cp3FFVU.0
まずはデイパックだ。
一見、ただのなんともない鞄だが、実に奇妙なのだ。
こうやって、ひっくり返してみると、中に入っているものが落ちてくる。
ここまでは普通の鞄だ。しかし、奇妙なのはここからだ。
明らかに質量を越えた量の物体がごろごろ出てくるのだ。
特に目をひいたのは、鞄の中から出てきた袋に無造作に詰められたこの大量の魚介類。ほとんど新鮮同然にこのデイパックに入れられていたのだ。
ちなみに、どの道具にも説明書がついており、魚介類の説明書にはこう記されていた。

『毒は入ってません。デイパックの中に入れておけば半日は傷みません』

なんと、氷も無しにそこそこ保存が効くらしい。科学的法則を越えたこの収納力。まるで、某猫狸のポケットのようだ。
いったいどんな技術があればこんな鞄を開発できるのか...全くもってわからない。
なにはともあれ、この魚を保存する術を忘れなかったのは評価してやろう。
魚は傷みやすいからな。これは本当にありがたい。
私が寿司好きだと知ってこの支給品を渡したのなら、あの広川という男、中々気が利くやつじゃあないか。
もっとも、やつを倒すことには変わりはないがね。


250 : 怒れる魔術師 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/13(水) 23:38:43 Cp3FFVU.0
次に地図だ。正確には地形だが。
第一に、ここは私がいたカイロではない。だというのにここにはDIOの屋敷がある。
なぜだ?ここにDIO本人を連れてきたから屋敷のことは知っているだろう。だからといって、一から作り直したのか?まさかとは思うが、屋敷を丸ごと持って来たというのか?
そして、島々の間にある謎の空間...これはいったいなんなのだろうか。
ここは島の先端であるため、身を乗り出せば空間を覗くことができた。
空間の正体は、まったく底が見えない、奈落とでもいうべきドス黒い空間。
近くの石ころを拾い、マジシャンズレッドで火を点けて落としてみるが、やはり底は見えない。
この島々は浮遊島らしいが、この空間に落とされた時、いったいどうなるのかは想像もしたくない。
(いや待て。そもそも浮遊島とはなんなのだ?)
冷静に考えてみれば、海も何もないところに『島が浮いている』なんてことはありえない。
一本の支柱に支えられているならまだわかるが...万が一本当に浮いているとしたら、おそらくこの島はスタンド能力だろう。
以前、船自体がスタンドそのものの、オランウータンのスタンド使い『力(ストレングス)』と遭遇したが、それに近いものであれば、島が浮遊しているという事実もうなずける。
そして、この奈落もスタンドによる幻覚だとすれば...もう答えは出ている。
(スタンドは一人につき一能力...おそらく、広川には複数のスタンド使いが協力しているに違いない)
最初に私たちを縛り付け、スタンドを封印した能力。
島を造っているスタンド能力。
奈落を作り上げているスタンド能力...
最低でも3人はいるだろう。だとするなら...


(案外、この辺り一帯を焼き尽くせば解決するのではないか?)
そう思い、マジシャンズレッドの像を出すが
(...いや、やめておこう。あくまでもまだ仮説だ。慎重にいかなければ)
私の仮説が当たっていたとして、それが破られそうになるのを指を咥えてまっているほど甘い連中ではないだろう。
この島が本物でなくとも、この首輪の爆薬だけは本物に違いない。情報が不足しているいま、首輪が本物かどうか確認するのもリスクが高すぎる。
それに、私の仮説が間違っていた場合、下手に火を放てばいらぬ誤解を招くことになりかねない。それは避けねば。


251 : 怒れる魔術師 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/13(水) 23:39:49 Cp3FFVU.0
最後に名簿。
エスデスから聞いた名を整理しようとして気が付いたのだが、名簿としては順番がメチャクチャなのである。
私の名前が書いてあるのは、上から三番目。50音順で並べるのなら、もっと下にくるはずだ。
50音順でなければ国籍か?ならば、こうも都合よく私の知り合いが名簿に固まることなどあり得ない。
エスデスの方はどうだろうか。
アカメ、タツミ、ウェイブ、クロメ、セリュー・ユビキタス、エスデス...タツミという名前だけは知らないが、やはりほとんど集まっている。
これは本当に偶然なのか?
(...私の知る名前が5つ。エスデスの知る名前は4つ。これを纏めると)

空条承太郎/ジョセフ・ジョースター/モハメド・アヴドゥル/花京院典明/イギー/DIO

アカメ/ウェイブ/クロメ/セリュー・ユビキタス/エスデス

...もしかするとこれは、ある特定の人物に関連した人物が纏められているんじゃないか?
私とエスデスだけでなく、ある特定の人物を決め、そこから関連した者を連れてきた...ということではないだろうか。
その特定の人物とは、私のところでいえば承太郎。エスデスの関係者だと思われるところには...アカメの前に高坂穂乃果を筆頭とする日本人性が連なっている。
となると、アカメが特定の人物になりそうだ。タツミはアカメに関係する人物と考えれば問題ない。
このことから、全体的に多い日本人姓と、そうでない者中心で分けてみると...


空条承太郎/ジョセフ・ジョースター/モハメド・アヴドゥル/花京院典明/イギー/DIO

ペットショップ/アンジュ/サリア/ヒルダ/モモカ・荻野目/タスク/エンブリヲ

高坂穂乃果/園田海未/南ことり/西木野真姫/星空凛/小泉花陽

アカメ/タツミ/ウェイブ/クロメ/セリュー・ユビキタス/エスデス

御坂美琴/白井黒子/初春飾利/佐天涙子/婚后光子/食蜂操祈

エドワード・エルリック/ロイ・マスタング/キング・ブラッドレイ/セリム・ブラッドレイ/エンヴィー/ゾルフ・J・キンブリー

鳴上悠/里中千枝/天城雪子

クマ

足立透/鹿目まどか/暁美ほむら/美樹さやか/佐倉杏子/巴マミ/島村卯月/前川みく/渋谷凛/本田未央

プロデューサー/黒/銀/蘇芳・パブリチェンコ/ノーベンバー11/魏志軍

泉新一/田村玲子/後藤/浦上/比企谷八幡/雪ノ下雪乃/由比ヶ浜結衣/戸塚彩加

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/美遊・エーデルフェルト/クロエ・フォン・アインツベルン

狡噛慎也/槙島聖護

キリト/ヒースクリフ


252 : 怒れる魔術師 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/13(水) 23:41:25 Cp3FFVU.0
...うむ。人数比にバラつきが出てしまったがこんなところだろう。
本名かどうか怪しいのも幾つかあったが、この先頭に来た人物が『特定の人物』だろう。
そして、おそらく主催とは
空条承太郎、ペットショップ、高坂穂乃果、アカメ、エドワード・エルリック、鳴上悠、クマ、足立、プロデューサー、泉新一、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、狡噛慎也、キリト
この13人に恨みを持った者たち...その代表が広川といったところか。
だが、この主催陣...複数行動のためか、どうにも行動がおざなりらしい。
私たちの仲間で一人だけ連れてこられていない男がいる。そう、ポルナレフだ。
ちと不安だが、おそらくポルナレフはスピードワゴン財団に連絡を入れてくれているはずだ。
そして、ポルナレフを忘れてくるくらいだから、他の関係者にも取りこぼしがあるに違いない。
こんな穴だらけの連中なんだ。思ったよりこのゲームの破壊は簡単...
(待て。さっき私はなんと思った?)


"私たちの仲間で一人だけ連れてこられていない男がいる。そう、ポルナレフだ。"



「なぜ...ポルナレフだけが呼ばれていない?」


253 : 怒れる魔術師 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/13(水) 23:43:07 Cp3FFVU.0
そう...ポルナレフ"だけ"が呼ばれないことは『有り得ない』のだ。
我々は、全員揃ってDIOの館に辿りついた。故に、誰か一人を攫い忘れることは有り得ない。
それでも、もし呼ばれない可能性があるとしたら、それは花京院とイギーだ。
花京院は、我々と合流するまで目の治療していた。
だから、リタイア扱いされていたため、彼を攫う準備が出来ていなかった。わかる。
イギーは、ほとんど戦闘らしい戦闘を行っていない。
せいぜいあいつの方足を斬った敵くらいだ。
DIOたちですら、私たちの仲間と認識しているか怪しいため、主催陣も関係者扱いしなかった。わかる。
だが、ポルナレフはどうだ?
あいつは、仲間になってからジョースターさんたちと共に行動し続けた。
私や花京院のように一時離脱したことはないし、イギーほど好き勝手に行動しているわけではない。
むしろ、一人になったポルナレフを狙ってDIOの刺客が現れることも珍しくない。
つまり、それほどまでに承太郎たちの仲間だと認識されている男なのだ。
加えて、彼のスタンド『シルバーチャリオッツ』は剣で攻撃するスタンド。殺し合いにおいて、その能力を存分に発揮できる。
そんな彼を、承太郎に関係する人物としてみなさず、この殺し合いに呼び忘れるなんてことは有り得るのか?
否、断じて否だ。
そうなると、呼び出された私たちより、ポルナレフが心配だ。
おそらく、本来ならばあいつも一緒に連れてこられるはずだった。
だが、ポルナレフが予想外の抵抗をしたため、ポルナレフは...



(いや...仲間を信じられないでどうするモハメド・アヴドゥル!ポルナレフは強い男だ、そう易々とやられはしない!)


ポルナレフのことは信じている。
だが、自分を含め、DIOまでも連れてくる手際に、そしてポルナレフ"だけ"がいないという現実が私に事実を突き付けてくる。
そんなはずはない。きっとうまく逃げている。そんな否定の言葉が次々に浮かんでは消え、可能性を奪っていく。
結果、私の予想がどこへ行きついたかは言うまでもない。


―――ポルナレフは、既に広川たちに殺されている


「う...おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


気が付けば、私は空へ向かって、雄叫びをあげていた。


254 : 怒れる魔術師 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/13(水) 23:46:19 Cp3FFVU.0
拳を地面に叩き付ける。
(...こんなの、あんまりじゃないか)
我々の旅はいつだって命がけだった。幾度となく、生命を脅かされてきた。
DIOの館を見つけたときは、今生の別れになるかもしれないとさえ腹を括っていた。
だが、結果はどうだ。
敵の館を目前にして、全く関係のない奴らに横やりを入れられていつの間にか殺された。
ふざけるな。ふざけるなよ!
「それがどれほど誇りを踏みにじる行為か...貴様にわかるか、広川ァ!」
近くの木に、マジシャンズレッドの拳を叩きつける。
八つ当たりだとはわかっているが、どうしてもその衝動を抑えることができなかった。
木は、その身を燃やされ、火への糧と成り果てる。
メラメラと燃える木を背景に、荒れた呼吸を整え、どうにか頭を冷やす。

「広川...貴様はどんな願いでも叶えると言ったな。私の願いは決まったぞ」

パチン、と指を鳴らすとともに、木を燃やしていた火が一瞬で消える。

「だが、貴様らには頼らん!私の願いは私の力で叶えさせて貰おう!」

だが、炎は消えども燃えたぎる怒りはそのままに。

「私の願い。それは、我が友...J・P・ポルナレフの魂を、誇りを踏みにじった貴様らに後悔の叫びをあげさせることだ!」

私は私らしく、正々堂々と宣誓しよう。

「地獄を!貴様らに!HELL 2 U!」


255 : 怒れる魔術師 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/13(水) 23:48:12 Cp3FFVU.0



こうして、決意を新たに魔術師は歩き出す。
しかし、魔術師は知らなかった。
この場にはスタンド使い以外にも様々な異能や技術が関わっている。
つまり、この空間がスタンドによるものとは限らないのだ。
更にいえば、彼の知り合いがみな彼と同じ時代から来たわけではない。
そのため、主催がポルナレフを殺したかどうかなど、断言しようがないのだ。
彼の無知が不幸を招くのか、それとも彼の怒りが道を切り開くのか。
それは、アヴドゥル本人にもわからない。




【C-2/1日目/深夜】

【モハメド・アヴドゥル@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康 激しい怒りと悲しみ
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、ウェイブのお土産の海産品@アカメが斬る! 不明支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いを止めDIOを倒し広川ら主催陣を倒し帰還する。
1:仇は必ずとるぞ、ポルナレフ
2:協力者を集め六時間後にコンサートホールへ向かう。エスデスは西、私は東へ探索だ。
3:エスデスは相当ヤバイ奴
4:ジョースターさん達との合流。
5:DIOを倒す。
6:もしこの会場がスタンド使いによるものなら、案外簡単に殺し合いを止めれるんじゃないか?


※参戦時期はDIOの館突入前からです。
※イェーガーズのメンバーの名前を把握しました。
※アカメを危険人物として認識しました。タツミもまた、危険人物ではないかと疑っています。
※エスデスを危険人物として認識しており、『デモンズエキスのスタンド使い』と思い込んでいます。
※ポルナレフが殺されたと思い込んでいます。
※この会場の島と奈落はスタンド使いによる能力・幻覚によるものではないかと疑っています。
※C-2の木が一本燃えました。これによる被害はありませんが、放火場面を誰かに見られた可能性もあります。
※アヴドゥルの宣誓が周囲に響き渡りました。
※ウェイブのお土産の量、生きているかどうかは後の書き手さんに任せます。


256 : ◆dKv6nbYMB. :2015/05/13(水) 23:49:08 Cp3FFVU.0
投下終了です。


257 : 名無しさん :2015/05/14(木) 18:17:59 I.mD6FJI0
乙です
死んだことにされてるポルナレフに草


258 : ◆QAGVoMQvLw :2015/05/14(木) 21:28:02 ImYjblhE0
投下します。


259 : 隠者の考察 ◆QAGVoMQvLw :2015/05/14(木) 21:29:37 ImYjblhE0
「『隠者の紫(ハーミット・パープル)』は首輪の中を探れんか……まあ予想していたことじゃが」

ジョセフ・ジョースターが嵌める首輪の周りに、茨が取り付いている。
茨はジョセフの手元から伸びていた。
ジョセフが伸ばしていた、と言う方がより精確だろう。
茨はジョセフが自在に操作できるスタンド『隠者の紫(ハーミット・パープル)』。
ハーミット・パープルの主な能力は遠隔念写。
そして機械に侵入すれば、その機能や構造を解析する能力も持つ。
しかし首輪に対しては解析どころか侵入すら不可能だった。
最初は首輪だけが侵入できないのではないかとも考えたが、地面にハーミット・パープルを伸ばしても透過できないことから、
スタンド自体が物体を透過できないように制限されているのだろう。
このことから二つのことが推測される。
一つは、スタンドその物がスタンド使い以外にも可視化されているだろうこと。
スタンドに制限をつける大きな理由の一つが、参加者間の戦力的なハンデをつけることだろう。
ならばスタンドの可視化は、最も有効なハンデとなる。
もう一つはジョセフ以外のスタンド使い、空条承太郎もモハメド・アヴドゥルも花京院典明もイギーも、
そしておそらくDIOのスタンドも、全てのスタンドに同様の制限が掛けられているであろう。

「ますます仲間との合流を急いだ方がいいの……」

この場で調べるべきことは調べた。
思い出深き闘技場だが、ジョセフは急がなければならない。
ジョセフは荷物をまとめて闘技場を出発する。

「それにしても闘技場のすぐ近くにDIOの館があったとはの〜…………」

荷物は粗方デイパックに入れたが、地図だえkは手に持ったまま歩き始める。
この地図がまた奇妙、と言うより荒唐無稽な物なのだ。
まずピッツベルリナ山山麓にあるはずの闘技場がある。
しかし同じピッツベルリナ山にあるはずの神殿遺跡の記載は無い。
そもそもここが闘技場のある地域なら、ジョセフが現在居る場所とは気候も気圧も違うはずだし、
何より近くに市庁舎やら図書館やらカジノがあるはずが無い。

そして同じ地図上にDIOの館がある。
このDIOと言うのは、参加者にも居るあのDIOのことだろう。
ジョースター一族との一世紀にわたる因縁の相手・DIO。
その拠点はエジプトにあるはずだ。
何よりDIOの住処が大っぴらに地図に載っていることが有り得ない。
その他の不自然な点を考慮しても有り得ないことだらけなのだ、この地図は。
しかし地図に嘘は無いだろう。
主催者の支給した地図に嘘があれば、それはそのまま主催者の信用に関わる。
そして主催者の信用を無くすのは殺し合いの進行にも関わる。
主催者としても避けたいはずだ。
何より事実としてジョセフは自分の知る闘技場を確認した。
有り得ないはずの地図が実現している。しかもこれだけの規模でだ。
それに地図上には他にも潜在班隔離施設やら能力研究所やら346プロやら、
地理的に不自然な施設も見られる。
世界中を旅してきたジョセフならばわかるが、世界のどこにもこんな場所は存在し得ない。

もしここから考察を進めるならば、かなりの飛躍が必要になる。
それはこの地は主催者が作り上げた場所だと言うことだ。
しかもジョセフにとっての闘技場や、DIOにとっての館のように、
参加者にとって所縁のある場所を集めて作った場所なのだ。

無論、今までの考察は全て推測に過ぎない。
仮にこの地形を作り上げたとしても、それを作る場所が地球上のどこにも無いという問題は残る。
あるいは地球上ではないのかも知れない。

(……推測ばかり重ねても意味が無いな……)

これ以上は根拠も無く推測を重ねても無意味だと判断して、考察を打ち切る。


260 : 隠者の考察 ◆QAGVoMQvLw :2015/05/14(木) 21:31:17 ImYjblhE0
年を経て様々な経験を積み会社経営を勤めるほどの立場になって、思慮深さを身に着けたが、
元来のジョセフは、深刻に物事を考えてから行動する人間ではない。
むしろ元々は楽天的で行動しながら思考する性分なのだ。
仲間を捜す内に、自然と情報も集まる。考察を進めるのはそれからで遅くは無い。
それくらいの気楽さで、ジョセフは当ても無く歩き続けた。







「……こ、これだけ大規模な殺し合いなら全体を管制するコンピューターシステムが存在するはずです」

その重厚で荘厳さすら漂わせる闘技場の周囲は、不釣合いなほど簡素な草むらが広がっていた。
人の膝ほども無い草が無作為に、しかし地面が見えないほど敷き詰められた草むら。
その草むらにザッ、ザッと短く軽い音が鳴り響く。
少女の足が草を踏みながら前に進んでいるのだ。
セーラー服に丈の長いスカート、そして頭にあしらった花が特徴的な少女、
初春飾利は草むらを一人歩いていた。

「ネ、ネットワークがどれだけ広がっているかはわかりませんが、システムに侵入できる端末でもあれば、
ハッキングは可能なはずです」

初春は学園都市において風紀委員(ジャッジメント)を勤めている。
学園都市内の治安維持を任務としているのだから、多少は荒事にも接した経験はあった。
それでも人の死を目撃したのは、殺し合いの開始が初めてだった。
人が殺され、自分もその立場になるかもしれない殺し合いに巻き込まれた。
それは風紀委員としての活動中では経験したことの無い恐怖だった。
開始直後は身を隠した状態から動けなかった初春だが、
名簿に同じ風紀委員の白井黒子や友人の佐天涙子や御坂美琴が居たことを確認すると、
彼女らと同行するため、意を決して出発することにした。
初春の自覚では殺し合いを脱出するために、仲間と協力をとるため合流をしようと考えているが、
実際の心情としては初春自身の心細さから知己と出会いたがっていた。

「シ、システムをハッキングできれば首輪の制御を押さえることだって不可能ではありません」

初春も学園都市において能力開発を受けた能力者である。
もっとも分類は低能力者(レベル1)。
能力内容は接触した物体の温度を一定に保つ「定温保存(サーマルハンド)」。
風紀委員としての活動はしているが、初春自身の戦闘能力は低い。
初春の風紀委員における主な役割は、オペレーターとして情報処理や収集などのバックアップを担う。
コンピューターの操作やハッキングなどを特技としている。

「く、首輪さえ無効化できれば、それで殺し合いも無効になりますよね!」

主催者のコンピューターにハッキングすれば殺し合いの打破も可能だと、初春は考える。
しかし、そもそも主催が殺し合いをコンピューターで管理していると言う根拠など初春には存在しない。


261 : 隠者の考察 ◆QAGVoMQvLw :2015/05/14(木) 21:33:49 ImYjblhE0
根拠の無い推測を、まるで確定事項のように一人で語り続ける初春。
初春の精神が異常を来しているわけではない。
ただ、押し潰されそうなのだ。
恐怖に。周囲の闇に。
初春の周囲に広がる草むらには、夜を照らす照明に当たる物は一切存在しない。
ほんの数メートル先もほとんど見えない状況。
文明とインフラの発達した日本に生まれ育ち、学園都市に住む初春は、
照明の無い環境をほとんど初めて経験するのだ。
まして殺し合いの最中である。
闇の中から何ものかが襲い掛かってくるのではないかと、気が気ではない。
風紀委員として何度も犯罪者と戦ってきたが、それとは全く異質な恐怖があった。
だからこそ自分を奮い立たせるために、初春は自分の意気込みを言葉にしながら歩みを進めていた。

「や、やっぱり風紀委員(ジャッジメント)なら事件が起きたら積極的に解決に行かなければいけません!」

初春は自分の腕に掛かっている、風紀委員の腕章に手を伸ばす。
無論、この場において風紀委員の名目や役割など何の意味も無いことは明白だ。
それでも今の初春にとって風紀委員であることも、その象徴である腕章も大事なものだった。
自分が風紀委員であると言い聞かせることによって、殺し合いの場でも行動指針を持つことができる。
人間は遭難事故などに遭った際にも、医師や警官や政治家などは普段の職業意識や倫理などに則って行動しようとする場合がある。
マインドセットなどとも呼ばれる状態だが、
今の初春は正に風紀委員のマインドセットを行っている状態だった。

「それに何もしてなかったら白井さんに会った時、怒られるかもしれないですから……」
「なに一人でしゃべってんの?」
「だって何かしゃべってないと怖くて……うひゃあああ!!!」

自分を風紀委員だと言い聞かせていたはずの初春が、思わず悲鳴を上げて転がるようにその場に座り込む。
他に誰も居ないと思っていたところに、背後から声を掛けられたのだ。
振り返ると、そこには自分とそう年の違わない少女が立っている。

少女、美樹さやかが地面に座り込む初春を見下ろしていた。







美樹さやかが初春を見付けることができたのは、魔法少女であることが大きい。


262 : 隠者の考察 ◆QAGVoMQvLw :2015/05/14(木) 21:34:58 ImYjblhE0
さやかも明かりが無い環境に慣れてはいないが、魔法少女の発達した視力で補うことが可能だった。
背中の傷はまだ治っていなかったが、一人でも減らして支給品を得る好機を逃す手は無い。
魔力で剣を生成しながら初春に近づく。
容易に後ろに回ることができたことからも、かなり迂闊な相手のようだ。
殺すのも容易な相手だ。
そんな油断も手伝って、さやかは思わず初春に話し掛ける。

「なに一人でしゃべってんの?」

初春はさやかに話し掛けられただけで、驚いて尻餅をついたらしい。
頭に花を咲かせていることも手伝って、さやかには初春がひどく滑稽に見えた。
もっとも、格好に関しては魔法少女であるさやかも人のことは言えないが。

「あんた一人でぶつぶつしゃべってたり、いつまでも座り込んでたり、
何がしたいの?」

いつまでも座り込んでいる初春に業を煮やして、再びさやかの方から話し掛ける。
そのまま殺してもよかったが、ここまで来れば多少は情報も欲しい。

「あなたが脅かすからじゃないですか!」

立ち上がって反論してきた様子から、思ったほど怯えてはいなかったようだ。
それならばそれで構わない。
さやかは反論に構わず、質問を続けた。

「ねえ、あんた殺し合いに乗ってないんだよね?」
「も、もちろんです! 私も風紀委員(ジャッジメント)ですから、殺し合いなんてしません!」

どうやら初春は、背後からでも声を掛けて殺し合いに乗っていないか聞いたことから、
さやかも殺し合いに乗っていないと早合点したようだ。
話を聞くにはなおさら好都合だった。
そして初春が殺し合いに乗っていないなら、この場で殺すことに不都合は無い。
ただ一つ、気になる話がある。

「ジャッジメント、ってなに?」
「あ、私は学園都市で風紀委員をやっているんです」

さやかは学園都市という単語をどこかで聞いたような気がしたが、はっきりとは思い出せなかった。
風紀委員と言う役職は理解できたが、警察官じゃあるまいし、
今の状況で自慢するような役職では無いはずだ。
どうも初春の話の要領を得ないので、さやかは自分にとっての要点を確認する。

「その……ジャッジメントならさ、あんたもしかして強いの?」
「……それが、直接的な戦闘は専門外なので…………」

さやかの期待に外れるとでも思ったのか、初春は歯切れの悪い返答をする。
しかしさやかにとっては朗報だった。
殺し合いに乗っていない、しかも戦闘力の無い相手なら申し分無い。
ありがたく、その命と支給品を頂こう。

そしてさやかは剣を持つ手に力を込めて――――


263 : 隠者の考察 ◆QAGVoMQvLw :2015/05/14(木) 21:36:49 ImYjblhE0
「おぉーい!!! そこのお嬢ちゃんたち!!」

背後からの不意の声に、今度はさやかが驚く番だった。
びくりと身体を震わせて、声の方に振り向く。
そこには年老いた白人の男がいた。

(なに、あいつ!?)

その男はさやかが今までに見たことの無いタイプの人間だった。
老人と言っていい年齢に見えるが、長身で物凄く筋肉質の身体をしている。
にも拘らず、妙に人懐っこそうな笑顔で手を振ってきている。
まるで殺し合いがあることを知らないかのようだ。
男は笑顔のまま、さやかたちの下へ駆けてくる。
とても老人とは思えない機敏さで。
魔法少女であるさやかが、その辺の人間に遅れを取るはずが無い。
しかし、さやかはその男に対して奇妙な底知れなさを感じていた。

「いやあ、ようやく人と会えてよかったわい。わしはジョセフ・ジョースター、よろしくの。
そっちの君はなんと言う名前かな?」
「は、はい。私は初春飾利と言います……」
「その名前だとやはり日本人か! 日本語で話しかけて正解じゃったな、はっはっは!
で、そっちの君は?」
「…………美樹さやか」

駆け寄ってきたジョセフは、さやかの斜め後ろまで来ると、
あっという間に、場の主導権を握り、
全員が自己紹介する流れを作っていった。
さやかも抗うことができず名前を教える。

「自己紹介もすんだ所で、もう少し情報交換を進めたいところじゃが、
どうじゃ? こんな開けた所で立ち話するより、そこの建物に入って話した方が良いじゃろ? な?」
「え……そうですね」

近くに見える石造りの巨大な建造物を指すジョセフ。
笑いかけながら話して来るジョセフに気圧されるように肯定する初春。
さやかはちょうど初春とジョセフに挟まれる立場にあった。
二人まとめて殺そうとしても、手間取れば片方を取り逃がす。
しかも今のさやかは手負いだ。不覚を取る可能性すら考えられる。
さやかは迂闊には動けない状態になっていた。

「君もそれで構わんよな?」
「…………」

しばらく逡巡していたさやかだが、やがておもむろに首肯した。
この場を離れることもできたが、不審がられても後が厄介になるかもしれない。
それよりこの場に同行すれば、隙を衝く機会を伺うこともできる。
焦る必要は無い。要はこの二人を殺せればいいのだ。
さやかは自分にそう言い聞かせた。

ジョセフはさやかと初春を連れて歩き始める。
連れてと言っても、さやかを初春と挟む形のまま並んで歩いている。
緊張感の無い態度とは裏腹に、どうも油断も隙も伺えないジョセフを見ながら、
さやかは一人、殺意を滾らせていた。







(ふぅ〜、とりあえずこの場を治めて情報交換の流れに持っていくことができたわい)

ジョセフは闘技場を出てすぐに、さやかと初春を発見した。


264 : 隠者の考察 ◆QAGVoMQvLw :2015/05/14(木) 21:38:08 ImYjblhE0
そして初春と対峙するさやかに不穏な気配を感じ取っていた。
すぐにでも初春を殺しそうな不穏な気配。
情報と脱出の協力者を求めていたジョセフは、
可能ならば殺人を防ぎたい。

そこで問題だ! どうやってさやかを止めるか?
3択―ひとつだけ選びなさい
答え①ハンサムのジョセフは二人を言いくるめて止める
答え②ハーミット・パープルでさやかを拘束する
答え③止められない。現実は非情である。

ジョセフとしては答え②に○を付けたかった。
しかし、さやかが初春に襲い掛かった瞬間に都合よくあらわれて、
アメリカンコミック・ヒーローのようにジャジャーンと登場して、
『待ってました!』と間一髪助ければ、格好もついたのだろうが、
その時のさやかはハーミット・パープルの射程距離外。
駆け寄っていけば当然、ジョセフの存在に感づかれるだろうし、
下手をすればジョセフの方が不審者として怪しまれる。
何より、さやかは次の瞬間にも初春に襲い掛かりそうだった。

やはり答えは……………①しかねえようだ!
そう考えたジョセフは、できるだけ陽気に声を掛けてから、
二人に近づくことにした。
そして多少強引でも会話の主導権を握る。
その場でさやかに対処することはできなかったが、二人ともと情報交換をする流れに持っていくことに成功した。

無論、今の状況ではさやかに対する疑念はジョセフの憶測に過ぎないことになる。
会話をしながら、警戒をするしかない状況だ。
危険を抱えながら情報交換をする形になる。
それでも、例え危険を承知しながらでも、
今は少しでも広く、情報を集める必要がジョセフにはあった。
事実、二人とのほんの僅かな会話からも収穫があった。

ジョセフは二人に日本語で話しかけたと言った。
しかしジョセフは、ずっと”英語”で話しかけていたのだ。
二人の様子を見るに、日本語で聞こえているようである。

それは名簿や地図を見た時から、気になっていたことだった。
名簿も地図も日本語で記載されていた。
ジョセフは日本語も理解できるが、母語は英語である。
その時点では参加者各々の母語で書かれているのか、参加者のほとんどが日本語を理解できると考えていた。

しかし別の可能性が浮上してきた。
それは殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語として見える、あるいは聞こえると言う可能性。

そして、何故主催者がそんなことをする必要性があるかというと、
それだけ広い言語圏から、参加者が集められた可能性まで考えられる。

ジョセフはこの場所が、参加者の所縁のある場所を集めて作られたと推測していた。
しかし地図には潜在班隔離施設やら能力研究所やらの他にも、アインクラッドやら地獄門やら、
地図の記載から見てもかなりの大きさの上、かなり物々しい雰囲気の地形も在る。

もしそんな物が実在するとしたら、それは世界をまたに駆けて活動して、
スピードワゴン財団とも繋がりのあるジョセフすら知らない世界の存在。
参加者はそれだけ広い世界から集められた可能性すらある。

危険を抱えながら再び闘技場に向かうジョセフ。
未だその全貌を見せない殺し合いに立ち向かうため、ジョセフの歩みが始まった。


265 : 隠者の考察 ◆QAGVoMQvLw :2015/05/14(木) 21:39:43 ImYjblhE0
 
【G-7 草むら/1日目/深夜】

【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康
[装備]:いつもの旅服
[道具]:支給品一式 三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース 市販のシャボン玉セット@現実
[思考・行動]
基本方針:仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡ふかせる
1:仲間たちと合流する(承太郎、アヴドゥル、花京院、イギー)
2:DIOを倒す
3:脱出の協力者を集める
4:さやか、初春と情報交換。しかしさやかには警戒。

※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。
※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。
※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。
※夢の内容はほとんど憶えていません
※殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語で認識されると考えています。

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:背中に裂傷(再生中)
[装備]:剣
[道具]:基本支給品一式、ソウルジェム(穢:中)、グリーフシード×3@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:どんな手を使ってでも願いを叶える。
0:願いを叶えて普通の少女へ戻る。
1:傷を回復する。
2:出会った弱い人間は殺す。強い人間には協力する素振りを見せる。
3:隙を見てジョセフと初春を殺す
[備考]
※参戦時期は魔女化前。

【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:ディパック、基本支給品一式、不明支給品1〜3。
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
1:佐天や黒子や御坂と合流する。
2:脱出の方法を探す。
3:ジョセフとさやかと情報交換をする。
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺し合い全体を管制するコンピューターシステムが存在すると考えています。


266 : ◆QAGVoMQvLw :2015/05/14(木) 21:40:59 ImYjblhE0
投下を終了します。
誤字脱字や矛盾点などがあれば指摘をお願いします。


267 : 名無しさん :2015/05/14(木) 23:15:23 6uerhNJE0
投下乙です。ジョセフの機転で、さやかちゃんのバーサーカー展開は回避か
でも、彼女は不安定だからどこまで抑えられるのか。初春の考察もいい線言ってると思う


268 : 名無しさん :2015/05/14(木) 23:20:54 9tbYhZIo0
投下乙です

ジジイよく頑張った、爆弾の爆破を先延ばしにしただけかもしれないが
ロワを管理してるシステムかあ…それってもしかしてシ(ry


269 : ◆fCxh.mI40k :2015/05/15(金) 00:52:47 rQLgpdj60
投下します。


270 : 仁義無きネーミングウォーズ! ダイヤモンドローズVSナイトレイド :2015/05/15(金) 00:53:44 rQLgpdj60
 ダイヤモンドローズ
 意味は金剛石の薔薇
 金剛石の硬さと薔薇の気品を併せ持つ。
 命名者はサリア


 ナイトレイド
 意味は夜襲。
 その名のとおり夜に生き悪を闇夜に暗殺するという、名が体を現す実例。
 その団体に所属するはアカメ



*****************



『どうやら精神は安定しているようだな』
「ああ、そうみたいだ」

 泉新一の目の前では先ほどまで止まる事の無い涙を流していた雪乃の姿があった。
 今のところは精神は落ち着きをみせているが、以前として顔は伏せている。
 今はそっとしておくべきという判断で新一は会えて放置している。
 むしろサリアの方が新一は扱いに困っていた。

「大丈夫よ。エンブリヲ様ならあの男もきっと生き返らせてくれるわ。だから悲しむ必要なんて無いわ」

 ということを話していた。
 しかしこのような妄言を新一は信用していない。

『あの女は正気ではない。この状況下ではあの女とは距離を取る事を勧める』
「ああ、それは分かっている。だけど……放っておいたら彼女は確実に死ぬ」
『それはやむ終えないことだろう。君は自分の身を第一に考えるべきだ』

 新一とミギーは今後の方針について話し合っているが、結論は出ない。
 あの宗教に溺れているであろう女性の同行を許す事はリスクの方がデカイ。
 もしサリアの存在が無ければ雪乃の知人であり恐らく非常に親しい仲であったであろう比企谷も死ぬことは無かった。
 しかし見捨てれば、それは間接的に彼女を殺す事を同義である。
 感情の面でサリアを救いたいと思うが、理知的に考えれば見捨てるのが正解だ。

「どうすれば良い……」

 新一は考えが纏まらずに苦悩する。
 そしてそこに、見知らぬ第三者が現れた。

「誰だっ!」

 新一は見知らぬ第三者に思わず警戒姿勢を見せる。
 だがそこに現れたのは、落ち着いた表情と赤い目をした一人の美少女だった。


271 : 仁義無きネーミングウォーズ! ダイヤモンドローズVSナイトレイド :2015/05/15(金) 00:54:34 rQLgpdj60
「落ち着け、そっちが戦わないのなら私は戦う気はない」
「……ああそうか。それならこっちも戦う気は無いが……」
『シンイチ、安心しろ。あの女から殺意は感じられない』

 ミギーもシンイチにだけ聞こえる声のトーンで安全を伝える。
 だがそこにやはりというか、サリアが割ってはいる。

「貴方、殺し合いに乗る気は無いのね」
「そうだ。だけど乗った相手には容赦はしないぞ」
「それでいいわ。それならあなた……『ダイヤモンドローズ騎士団』に入りなさい!」
「なっ!」
「おいおい」

 新一とアカメは同時に声を挙げた。
 そしてアカメは同時にこう続ける。

「……ダイナマイトロース……肉か!?」

 アカメの中の肉好きのスイッチが入ってしまった。
 しかしその返答はサリアは切れる。

「ダイヤモンドローズよ。何よダイナマイトロースって! 馬鹿にしないで」
「ダイヤモンドローズ……ダサい気がするぞ」
「ダサい? 何よ皆して私のセンスをダサいダサいって! じゃああんたは何がカッコいいって言うのよ!」

 サリアのフリ、そしてそれにアカメは思わずこう答えた。

「ナイトレイド」

 クールでありながら、微妙に自信が混じった表情だ。
 自信が所属する組織名にアカメは誇りを持っていた。
 しかし、それに新一は戦慄を覚えた。

「なんだ。嫌な予感が……」
『シンイチ、この女も同じだ』

 感情が無いミギーでさえ、この状況はヤバイというのは感じ取れた。

「無いトレンド! 何よそれ! トレンドじゃないって自分で否定してるじゃない。 
 ダイヤモンドローズ騎士団の方がずっとカッコいいじゃない!」
「ナイトレイドだ! ダイヤなんとかの方が長い!」
「長さはいいじゃない! それにナイトレイドって何か地味よ地味!」
「地味じゃない。ダイヤモンドローズ騎士団って恥ずかしいぞ」
「なっ、恥ずかしくなんか無いわよ。それに必殺技だってあるのよ。シャイニングローズトライアングルとか色々と……」
「しゃ……長すぎて覚えられない」
「覚えなさい!」

 サリアとアカメの激戦は続いた。
 互いのプライドと尊厳を掛けた意地と矜持のぶつかり合い。
 だが勝負は意外なところで水入りとなる。

「いい加減にしてっ! 下らないことで比企谷君の死を茶化さないで!」

 雪乃の言葉だ。
 涙交じりの言葉。
 それには二人も言葉が止まる。

 アカメは何となく雪乃の気持ちが分かる。
 最愛の人が亡くなったのなら、そばで下らない口論をしてはいけないだろうと感情で分かる。
 しかし、サリアは違う。

「大丈夫よ。エンブリヲ様なら生き返らせ……」
「黙った方が良い」

 サリアの発言をアカメは強引に手でふさいだ。
 モガモガとサリアの声無き声が聞こえるが、アカメは無視した。

 そして暫らくの沈黙が流れ、落ち着いた頃、雪乃が立ち上がった。

「ごめんなさい。もう大丈夫。それにいつまでもじっとしていられないわよね。行きましょう」
「ああ。雪ノ下さんが大丈夫ならもう行こう。それで何処に行く?」
「そうね……ここからならイェーガーズ本部というところが近いのかしら? 名前からして、
 大根騎士団と関係がありそうだから、エンブリヲって人に会えるかも……」
「駄目だっ!」

 そこでアカメは叫んだ。
 今までと違う、本気の叫びだった。

「そこは危険だ。ダイナマイトロース騎士団とは関係が無い。行ったら駄目だ」
「そう。じゃあ……少し遠いけど図書館にしましょう。何か情報が集められるかもしれないわ」
「分かった」

 アカメも頷く。
 そして全員で出発するという、時だった。
 新一が大事な一言を発した。

「アカメさん。サリアさんが……」
「えっ!」

 アカメは気付いた。
 サリアの口を押さえっぱなしだったことに。
 しかも鼻も一緒に塞いでいたのだろう。
 酸欠で気絶していたのだ。

「しまった。どうしたら……」
「俺が担ぐよ」

 新一は仕方ないといった様子でサリアを担ぐ。
 そして一向が歩きだす、そこで再度、次は雪乃がアカメに呟いた。

「アカメさん。ナイトレイドだけど……大根騎士団よりはマシよ」

 アカメの表情が笑顔になった。


272 : 仁義無きネーミングウォーズ! ダイヤモンドローズVSナイトレイド :2015/05/15(金) 00:55:18 rQLgpdj60
【F-4/一日目/深夜】

【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:美樹さやかの剣@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:悪を斬る。
1:図書館に向かう
2:泉新一、雪ノ下雪乃、サリアと一緒に行動する
3:タツミとの合流を目指す。
4:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
5:村雨を取り戻したい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴を雷を扱う帝具使いと思っています。

【美樹さやかの剣@魔法少女まどか☆マギカ】
 その名のとおり魔法少女状態のさやかが使う剣。
 極僅かではあるが魔力が込められている。


【泉新一@寄生獣 セイの確率】
[状態]:疲労(小) ミギーにダメージ(中) サリアを担いでいる。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム品1〜3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:図書館に向かう
2:後藤、田村、浦上、血を飛ばす男(魏志軍)を警戒。
3:イェーガーズ本部には向かわない

【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:健康、八幡が死んだショック(若干落ち着いている)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、MAXコーヒー@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
    美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、ランダム品0〜1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:図書館に向かう
2:知り合いと合流
3:サリアよりはアカメの方が信用できる?(ネーミングセンスなど含め)


【サリア@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:右肩負傷、左足負傷(応急処置済み) 気絶
[装備]:シルヴィアが使ってた銃@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品、ランダム品0〜2
[思考・行動]
基本方針:エンブリヲ様と共に殺し合いを打破する。
1:エンブリヲ様を守る。
2:1の為のチームを作る(ダイヤモンドローズ騎士団)。
3:エンブリヲ様と至急合流。
4:アカメにナイトレイドよりダイヤモンドローズ騎士団の方がネーミングセンスが良いと納得させる。
5:アンジュ達と会った場合は……。
※参戦時期は第17話「黒の破壊天使」から第24話「明日なき戦い」Aパート以前の何処かです。


273 : ◆fCxh.mI40k :2015/05/15(金) 00:55:47 rQLgpdj60
投下完了です


274 : 名無しさん :2015/05/15(金) 08:53:18 J3YdiCUo0
投下乙ですがちょっと雑すぎませんかね…


275 : 名無しさん :2015/05/15(金) 16:13:28 VuMOPtD60
投下乙ですが死体の前でふざけるのはサリアとアカメ両方のキャラがおかしいような


276 : 名無しさん :2015/05/15(金) 16:14:52 TSTQRAno0
まるでアカメが道化のようだ


277 : 名無しさん :2015/05/15(金) 23:32:21 e8A6Aaz.0
投下乙です
この辺のネーミングセンスは日常世界と戦場との違いがあるわな

まあ、色々と荒れてはいますが、序盤はミスがあっても重要なフラグを折らなければ、
深刻なことにはならんのでそこまで気になさらぬよう


278 : 名無しさん :2015/05/15(金) 23:36:19 MlMHjFuw0
ただ名前の呼び方だけは修正した方が良いと思うんですけど
新一は前話で雪ノ下、サリアと呼び捨てで呼んでるのにさん付けは違和感があります


279 : やはり私の正義は間違っているなんてことは微塵もない。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/16(土) 13:25:34 xcMEK6eQ0
投下します。


280 : やはり私の正義は間違っているなんてことは微塵もない。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/16(土) 13:26:08 xcMEK6eQ0


島村卯月が目を覚ましたとき、まず目に入ったのは薄汚れたシーツだった。
咄嗟に体を反転させると枕……ではなくバッグ、そして見知らぬ天井が視界に入る。
決して寝心地がいいとは言えないが、どうやらベッドでうつ伏せに寝ていたらしい。
何故自分がこんなところで寝ているのか、すぐに思い出せなかった。
体を半分起こして周りの様子を窺う。
周囲は薄暗く、部屋の隅から唯一の光点と、聞いた事のない音が聞こえた。
ゴリ、ゴリ、ゴリ……重く鈍く響くその音源に目を向ければ、iPadのような機械から出た光に浮かぶシルエットが一つ。
その影は、卯月が起きたのに気付いたのかゆっくりと振り返った。

「ウヅキちゃん!起きたんですね」

「あ……」

晴れやかな笑顔を見て、思い出す。彼女はセリュー・ユビキタス。
その名を思い出すと同時に、気を失う前の光景が卯月の脳裏に鮮明に蘇った。
殺し合いに巻き込まれたこと。笑顔の輝く二人の女性に出会ったこと。

そして、この場には自分を含めた笑顔の似合う三人が揃っていた。


「丁度作業が終わったところです。"設置"が完了したらさっそくイェーガーズ本部に向かいましょう!」

森の中でたまたま見つけた小屋で、いつまでもじっとしているわけにはいきませんからね。
卯月の目はそう語るセリューの顔よりも、その手元に注視されていた。
右手には包丁。血に塗れて、逆手に持たれているそれは、μ'sのスクールアイドル、南ことりを思い出させる。
左手は何かを抑えている。セリューが身をよじらせてその全容が見えたとき、それは―――。

南ことりの死を、島村卯月に再認識させた。


281 : やはり私の正義は間違っているなんてことは微塵もない。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/16(土) 13:26:46 xcMEK6eQ0

それは、南ことりの頭部だった。力任せに胴体から斬り離され、造形を崩したその表情は歪んだ笑顔にも見える。
セリューの表情は爽やか。自分の望むことを、正しいと信じて行った者だけが出来る一点の曇りもない笑顔だった。
それら正反対の笑顔はしかし、卯月の心を占める"笑顔"の概念とは全く異なるという点で共通していた。
表情を凍りつかせた卯月を案じ、セリューがはっと手に口をやり、何かを察したように笑顔を曇らせた。

「あっ……私としたことが、民の方に見苦しい工程を見せてしまいましたね。ただ、非常時なので辛抱していただけると」

「いやあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

「ど、どうしたんです!?騒ぐと危険……」

恐怖の悲鳴を上げる卯月を制止しようとして、セリューの手からことりの首が落ちる。
ベッドの傍まで転がって卯月を見上げるそれは、彼女の意識を再び奪うのに十分なショックを与えた。
失神した卯月を見て、セリューもまたショックを受けていた。
この反応は心外だ。この状況を打開するには自分たちの行動を縛る首輪の入手と解析、そして解除は必須。
自分のように正義に燃え、この殺し合いを打倒する為に行動するものならば誰もがそう考えるはず。
悪の首を落とし、そこから必要な物を得る手並みは喝采されてもいいくらいだろう。
彼女は民の中でもかなり弱い部類に入る人のようだ。それを、最初に失神した時点で気付いて配慮すべきだった。
しゅんと肩を落としてそこを考慮できなかった自分の不明を恥じるセリューだったが、それも一時の物。

「ウヅキちゃんは必ず私が守る!悪を徹底的に絶滅させ、民に繁栄と安寧をもたらす事こそが正義!」

決意を新たに、セリューはことりの首を小屋にあった麻袋に詰めて持ち上げ、卯月を背負う。
用済みになった悪の首を晒し、他の悪に対する抑止と民の精神安定の為に利用するのだ。
正義は必ず成される、悪は必ず滅ぶという事を万人に示さなければならない。
やはり人通りの多い道に晒すべきだろうと、セリューは地図を見ながら歩き出した。


282 : やはり私の正義は間違っているなんてことは微塵もない。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/16(土) 13:27:41 xcMEK6eQ0

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


どれだけ走っただろう。
強姦魔と化け物の襲撃から必死で逃れた由比ヶ浜結衣は、とうとう膝をついた。
街灯もない、月明かりしかない道路をこれほど走るなど昨日までならばありえない行動といえた。
結衣は激しく息を切らせながら、今になってようやく自分が失禁していることに気付く。
尿意を感じた覚えもなく、粗相をしたという認識すらなく小便を垂れ流したという事実。
普通のJKである彼女にとっては、笑い事ではなく自身の正気すら疑うに足るものだった。
だがこれは夢や幻覚ではない。浦上という男を殺した感触は、疑いなく少女の手に残されていた。

「痛かったのかな……」

首を切り裂かれ、驚愕の表情で死んでいった浦上の顔を思い出す。
他人の痛みや辛さに人一倍敏感な彼女である、自分があの惨状を生み出したと考えただけで嗚咽を抑えられない。
自分をレイプして殺そうとした相手ではあっても、その末期のもがき苦しむ姿はあまりに痛々しかった。
その死への実感があったからこそ冷静に対応でき、キリトという怪物からなんとか逃げる事が出来たのだ。
しかし、一時的な心の変転は長時間は持続しない。
泥の中にいるような肉体の疲労と、パニックと現実逃避が混在する精神は、彼女を眠りに誘おうとしていた。
あのキリトという殺人鬼が追跡して来ているかもしれないという恐怖、他の殺人鬼に見つかるかもしれないという恐怖。
少女の心を苛む恐怖こそが、その眠気に対する最大の特効薬として作用していたのは皮肉といえよう。

「ヒッキー……ゆきのん……」

奉仕部の仲間たちを思い浮かべ、目尻に涙を浮かべる結衣。
このような状態であの二人と再会して、自分はいつものように振舞えるのだろうか。


283 : やはり私の正義は間違っているなんてことは微塵もない。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/16(土) 13:28:48 xcMEK6eQ0

「……?」

涙に歪む視界に、人影が映る。友人を想うがあまりの幻覚かと思えるほど、今の結衣には余裕がなかった。
おぼつかない手振りでショットガンを取り出す。人影もこちらに気付いたようで、荷物を置いてこちらに手を振る。
薄暗くてよくは見えないが、人間を背負って移動していたらしい。ディバックを枕にして寝かせている。
普段の結衣ならばケガをした者を庇っていたのだろうか、と心を許しかけていただろうが、油断なく銃を構える。
両手を上げながら近付いてくるのも、戦意がないサインではなく、攻撃への準備とすら結衣には思えた。
声をかけられる距離まで近付き、人影の全体像が見えた。
まったく緊張のない、屈託ない笑みを浮かべた女の顔には見覚えがある。

「ややっ!?大丈夫ですか?顔色が悪いで……」

「ひっ……人殺しぃぃぃぃぃぃ!!!!」

ショットガンの引鉄を引く。
キリトという悪魔の腕を吹き飛ばした時と同じく、しっかりと狙いをつけて撃った……と彼女は思っていたが、
時間を置き、さらに肉体の疲労もあった為か、震える指先は引鉄から滑り落ちる。
しかし射撃の失敗よりも、女……殺人者リストに乗っていたセリュー・ユビキタスの豹変に結衣は戦慄した。
セリューの笑顔は一瞬で掻き消え、悪魔のような形相で駆け出す。
結衣が引鉄に再び指をかけるより早く、ショットガンは蹴り上げられた。

「脅威を排除」

「あっ!」

一転して冷たい声で呟きながら、結衣の髪を掴んで地面に引き倒し、結衣を拘束するセリュー。
落下してきたショットガンを片手で掴み、保持する様子が結衣にも背中越しに感じられた。
ただ殺しにきた浦上とはまるで違う、洗練された動きだとはっきり分かる。
恐怖が頂点に達し、呼吸すら満足に出来ない結衣にセリューが冷徹な尋問を開始する。
答えなければ、取り上げられたショットガンの弾丸は結衣の頭を容赦なく貫くだろう。
それを本能的に察知した結衣ができることは、正直に返答することだけだった。


284 : やはり私の正義は間違っているなんてことは微塵もない。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/16(土) 13:29:27 xcMEK6eQ0

「何故こちらに武器を向けた?3秒以内に返答しろ」

「こっ怖かったからです!本当です、本当……」

「『人殺し』とはどういうつもりでの発言だ?私の顔を知っていたのか?」

「め……名簿で」

「名簿には顔写真は載っていない」

「別!別の……別の名簿があるんです!」

二つあるディバックの片方から、示された名簿を取り出して検分するセリュー。
ナイトレイド・アカメとその仲間と断定されたタツミ、イェーガーズの隊員たちの名は全て載っている。
島村卯月、そして卯月と同じ職業と名乗っていた南ことり及びその数名の仲間の名前は一様に載っていない。
ある程度の信憑性はある資料のようだとセリューには思えた。僅かに語気を緩めて、セリューの尋問は続く。


「ふぅーむふむ、なるほどなるほど……なるほどー……しかしあなた、こんな資料を根拠に人に銃を向けたと?」

「だって!それに載ってた人が私を殺そうとして……」

「銃に発砲した形跡がありますが、その相手を殺したんですか?」

「……」

「答えろ」

結衣はせきを切ったように、その思いを吐き出した。
殺すつもりはなかった、仕方なかった……弱音と弁解、不安定な精神をむき出しにしたその吐露は、
要点を掴みづらい稚拙なものであったが、セリューは自分が聞きたい部分だけを聴き取っていた。


285 : やはり私の正義は間違っているなんてことは微塵もない。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/16(土) 13:30:09 xcMEK6eQ0

「よく分かりました。しかしこの資料には貴女の名前は載っていませんね」

「!わっわたしは……人殺しなんか……じゃ……」

「え?殺せなかったのはそのキリトという人の事ではないんですか」

セリューは殺害歴名簿を自分に支給されたデバイスと見比べながら答える。
画面に触れただけでその表示が変化する不思議な道具があるのだから、紙媒体でも同じ事が起こるのではないか。
ならば、この状況で殺人を犯す悪を判別可能で、イェーガーズの行動を予測もできたのだが、と落胆するセリュー。
嘆息しながら、結衣の拘束を解いて正面に回る。
急に解放されて目を白黒させる結衣の脳天に、セリューの拳が振り下ろされた。ジャパニーズお仕置き作法。
拳骨であった。

「痛い!!」

「私の心はもっと痛かったんですよ……!貴女は私とその目つきが悪い殺人鬼を一緒くたにしたんですか!?」

「だ、だって」

「しかし、同時に私は嬉しくもあります」

「え?」

「自分が悪とみなした対象は一切の容赦をせず殺す。貴女は正義への第一歩を踏み出したのです!」

目を輝かせるセリュー。一方の結衣は賞賛されているにも関わらずその表情を硬直させた。
殺人を告白した自分に対して、告白する以前より親しげに接してくる相手。
今までの彼女の常識では図れない相手を前に、恐怖を困惑が上回る。
故に質問が口をついて出ることを止められなかった。


286 : やはり私の正義は間違っているなんてことは微塵もない。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/16(土) 13:30:48 xcMEK6eQ0

「じゃあ……えっとセリューさんは、人殺しじゃ……」

「人を殺した経験はあります。貴女と同じように」

「ひっ」

「私は悪を裁いた事に誇りを持っています!奴らは何の罪もない私の恩人や家族を殺した外道ォ!
 放置しておけば無辜の民衆にもその魔の手は及ぶ、だから先手必勝!きっと見敵必殺!」

ヒートアップしていくセリューの言葉は、放心気味の結衣に溶けるように染み込む。
そうだ、あのレイプ魔は自分が殺さなくては彩加や雪乃を陵辱の果てに殺し、八幡の命も奪っていたかもしれない。
自分のやったことは決して心を痛めることではなく、むしろ正しい……セリューの言う正義の行いだった。
そう定義する事は、結衣の精神を僅かに安定させる。
しかしその安定も、次のセリューの行動で大きく揺さぶられることになった。

「ですけど、すぐには他人を信じられない気持ちも分かります。これを」

「……?」

「私の言葉を聞き、私の目を見て私を信じられないならその銃で私を撃ってください。
 貴女の正義がそれを選んでも、私の正義は銃弾を私に届かせはしない!さあ!!」

真顔で言うセリューに、ショットガンを渡された結衣は相手の言葉が単なる綺麗事やお為ごかしでないと悟る。
少なくとも彼女は、心底から自分を信じている。内罰的で自己否定が強い八幡を誰よりも観察してきた結衣である。
全く真逆の精神性を持つセリューの本質を理解すると同時に、その危険性に身震いした。
敵対するものは排除する、という傾向を持つ人間を多く知っていたが、セリューのそれは常軌を逸している。
だが極限状況に置かれて心の拠り所を無意識に求めていた結衣には、危うくも頼もしく感じられたのは責められない。
ショットガンを渡されながらも、銃口を向けることさえしない結衣を見て、セリューは静かに微笑んだ。
そして銃に優しく触れて預かり、結衣の手を両手で包み込んで言った。

「貴女が私を信じてくれるなら……私と一緒に戦いましょう。悪を滅ぼす為に!」

「は……はい」

「ありがとうございます!では私はその浦上という悪の死体を検分してきます!」

数分前までは殺人鬼に見えたセリューは、今や結衣にとってナイトかエンジェル……にはならなかった。
心を許せる相手に出会えたことは嬉しいが、あまりに自分の常識と違いすぎて。
奉仕部の仲間達の死を漠然と思い浮かべるだけでは、まだ彼女の正義にはついていけそうもない。
ウヅキさんを見ていてくださいね、と言うだけ言って駆け出すセリューの背中に、手を伸ばすことしかできなかった。

「ヒッキー……助け……」

助けて欲しいのか。助けてあげたいのか。
いまだ、彼女は混迷の中に居た。


287 : やはり私の正義は間違っているなんてことは微塵もない。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/16(土) 13:31:54 xcMEK6eQ0

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「よかった……ガハマちゃんが正義で」

帰り道、危うく忘れるところだったショットガンの点検を行う。
銃口の奥に詰めていた小石を排除し、丁寧に掃除する。
このまま使用していれば、確実に暴発し持ち手に致死性の損傷を与えていただろう。

浦上の死体の検分結果。
衣類を剥いで体を調べたところ、連続婦女暴行犯に特有の多種多様の爪による傷痕が見受けられた。
さらに懐から肉厚のナイフを発見。結衣が悪意から浦上を殺して荷物を奪ったのならば武器は見逃さまい。
悪・南ことりから奪った包丁で浦上の首を落とした際、切れ味の鈍りを感じた為ナイフを取得し包丁は破棄。
首輪は予備として保管し、ベンチを加工して即席の晒首台を作成し強姦魔の首を近場の道路脇に設置。
『イェーガーズにより正義執行!』と走り書きした紙を貼り付け、これを見て安心する善良な人間の笑顔を想う。
それだけで、セリューの全身に力が漲った。悪を殺すことで他者に感謝される。これほど嬉しい事はない。

南ことりの首を浦上の首の横に並べるか思案したが、やめておいた。
あの殺人者名簿から察するに、セリューが抱いていた疑念は濡れ衣だったのかもしれない。
μ'sとやらが卯月の同業者ではなくナイトレイドと同じ犯罪者集団ではないか?という疑念。
躊躇なく自分を殺そうとした南ことりという巨悪。
卯月への印象と全く異なるあの悪党が同じアイドルという職業に就いているとは信じがたい、とセリューは思った。
ならば、その仲間も同じ悪だという推測は決して無理筋ではなかった。
次にμ'sと遭遇したらエスデスに倣って拷問の一つでも交えて確かめようと思っていたのだが、その必要もなさそうだ。

明確な証拠がない限り、南ことりだけが悪に染まる素質を持ち合わせており、あのような凶行に走ったと考える。
セリューは基本的には、そういう人間であった。決め付けることはせず、証拠を足で集めるマメさがある。
南ことりの首を晒す事は、疑念が間違っていればμ'sの人間に不要な動揺を与えてしまう恐れがある。保留だ。
それよりなにより、セリューは結衣の証言に嘘がなかったことを確信し、笑みを抑え切れなかった。

「人を見る目には自信があるので、全然心配はしてませんでしたが本当に喜ばしいです!これぞ性善説の証明です!」

このような最悪の状況下でも、正義の芽は変わらず生まれていく。
悪は滅び、正義は栄える。いや、悪を滅ぼし、正義が勝鬨を上げるのだ。
セリューの心の充実は彼女の脚力を底上げし、行き道よりも早く道程を終える結果を生む。
緊張しながら周囲を警戒する結衣に手を振りながら歩み寄り、セリューは全幅の信頼を込めて、ショットガンを返却した。

「さあ!いざ、イェーガーズ本部!夜明けまでには到着です!」


288 : やはり私の正義は間違っているなんてことは微塵もない。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/16(土) 13:33:17 xcMEK6eQ0

【D-4/道路/一日目/黎明】

【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:日本刀@現実、肉厚のナイフ@現実
[道具]:ディバック×2、基本支給品×2、不明支給品0〜4(確認済み)、首輪×2、南ことりの頭部
[思考]
基本:会場に巣食う悪を全て殺す。
1:悪を全て殺す。
2:由比ヶ浜結衣と共に島村卯月を安全な場所に移動させるためイェーガーズ本部を目指す。
3:エスデスを始めとするイェーガーズとの合流。
4:ナイトレイドは確実に殺す。
5:μ'sメンバーに警戒。

[備考]
※十王の裁きは五道転輪炉(自爆用爆弾)以外没収されています。
  使用するにはコロ(ヘカトンケイル)@アカメが斬る!との連携が必要です。
※殺人者リストの内容を全て把握しました。

【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:気絶中、悲しみ、死に対する恐怖、セリューに対する恐怖
[装備]:
[道具]:ディバック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:元の場所に帰りたい。
1:気絶中。
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。

【由比ヶ浜結衣@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(中)、上半身が嘔吐、下半身が失禁で酷く汚れている。
[装備]:MPS AA‐12(残弾6/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率
[道具]:ディバック×2、基本支給品×2、フォトンソード@ソードアート・オンライン
     ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿
[思考]
基本:死にたくない。
1:比企谷八幡と雪ノ下雪乃に会いたい。
2:セリューと行動を共にする。
3:悪い人なら殺してもいい……?


[備考]
※D-5道沿いに浦上@寄生獣 セイの格率 の首が晒されています(イェーガーズにより正義執行!の貼り紙付き)


289 : やはり私の正義は間違っているなんてことは微塵もない。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/16(土) 13:34:01 xcMEK6eQ0
以上で投下終了です。


290 : 名無しさん :2015/05/16(土) 14:17:51 bk652o3Q0
投下乙です

思ったより面白いなあ


291 : 名無しさん :2015/05/16(土) 14:23:25 E6.N./RY0
投下乙です

セリューさん本当に濃いキャラしておられる…が島村さんのサイコパスがマッハ。コーガミさん助けてー!
結衣ちゃんは島村さん共々生き残ったが何時まで正気を保てるか……


292 : 名無しさん :2015/05/16(土) 14:24:15 F2o26Ex20
投下乙です

ファッ!?
ちょっと正義キチ過ぎやしませんかねこの娘(誉め言葉)
更にガハマさんは道を踏み外し掛け
島村さんはもう絶叫枠ですわこれは


293 : 名無しさん :2015/05/16(土) 14:51:46 21NaPUwM0
投下乙乙!

セリューのぶっ飛びっぷりは異常、でもやってることはかなり効果的で手際も良いから頼もしくも見えるんだろうなあ
狂気に当てられつつあるガハマさんはもう駄目かもしれない
そして島村さんは上田先生並に気絶してるなw


294 : ◆5brGtYMpOk :2015/05/16(土) 14:58:36 bFGm6YRc0
投下します


295 : 黒猫は星の夢を見ない ◆5brGtYMpOk :2015/05/16(土) 14:59:11 bFGm6YRc0
夢を見るなと女は言った……

紅の瞳に映すのは……相反する二つの意思……

後ろを振り返ることはなく……ただ走り続ける……

残ったのは希望の欠片か……絶望の欠片か……

黒猫との邂逅……それは少女の運命を変えていく……


そして……


◇ ◆ ◇


チカチカと点滅している街灯。信号機が沈黙して役目を失いつつある道路。今にも崩れそうな、錆びて老朽化した廃墟。住人がいないのか真っ暗な家々。
街は一部を除いて機能を失ったかのように沈んでいた。排気ガスをばら撒く工場や車も、人々が集まる市街地も、生命に限らず物までもが停止している。学校で授業を受け、下らない雑談に花を咲かせている子供達も、毎日のように頭を下げて生きるために働く大人も、動物や虫の声も聞こえない。

無人の街はポツポツと明かりが灯っているだけだった。市街地にある家屋に電気は通っていない。コンビニエンスストアやマーケットといった、生活に必要なものが手に入る場所のみに光があった。
そんな時が止まった街に動く影があった。家から家へ飛び移ったかと思えば、恐ろしい速度で夜の街を駆けていく。風に乗った赤い長い髪は後ろで一つに束ね、鋭い目は前を見つめていた。口元からは八重歯が見え、醸し出す雰囲気はビリビリとしている。

まだ暗い空の下。右手に槍を持って、灰色のコンクリートの上を走っている少女は佐倉杏子といった。

こうして杏子が街を走り回っているのは、ここら一帯の地理の把握と偵察を兼ねてだった。
杏子の視線の先にはこの市街地で一番高いビルがあった。規則的に歩道の横に植えられている街路樹を横切り、ビルが間近に迫った時ジャンプした。

バネでも積んでいたように飛び上がった杏子は、向かいどうしのビルの壁を蹴って素早く登っていき、勢いを途切れさせないまま屋上に着地した。
杏子の眼下には怖いくらいに静かな街が広がっていた。自動ドアが開くと、大量の商品に店員のいない食料品店。駐車場や路上に放置されている、主人を失った自動車。ゴーストタウンのようでありながら、先ほどまで人がいたような有様は何処か矛盾を孕んでいた。

杏子が行動の指針を決めようと初めに考えたのは籠城だった。
歩き回り、参加者に遭遇するとも限らない場所を回るより、一つの施設に留まっていた方が体力を抑えられる。正面から勝てないのであれば、裏をかいて勝てばいい。狭い建物も内部を細かに把握していれば、近距離が主体の杏子にとって不利には働かない。

そう考えた杏子だが、一つ気掛かりなことがあった。
この会場は一体どこまで持つか、ということだ。
すべてのエリアが禁止エリアに変わる。杏子を悩ませているのは時間切れだ。
籠城は確かに危険度は低く安全度が高い。だが、ただそれだけだ。狩れるのは巣穴に飛び込んだ者のみ。ランダムに禁止エリアが増えていくのも厄介だ。

一つの場所に止まっていられない。その都度拠点を変えていけばいいかと思うが、人数が減らず最終局面になって乱戦にでもなったら目も当てられない。一人と戦っている間に後ろから刺されでもしたら笑えない話だ。
杏子にとって自分が生き残ることが第一だ。他の参加者が争い、人数が減る終盤に参戦する選択肢もある。だがそれも二つの理由によって保留となっている。


296 : 黒猫は星の夢を見ない ◆5brGtYMpOk :2015/05/16(土) 14:59:47 bFGm6YRc0

一つは、時間切れ間近による乱戦。もう一つは、広川がルール説明の時に言っていた『反抗』という言葉。あの言葉の正確な意味は分からないが、少なくとも戦いも逃げもせずただ隠れている者に勝利は与えられるのだろうか、と。
しかし、デイパックに入っていたタブレット型の機器に記載されているルール説明を見る限り、そんなルールはない。

「ああもう、面倒くせぇ」

杏子は、そう言葉を残してビルの屋上から飛び降りた。

◇ ◇ ◇

無様に敗北し逃走を選んだあの森での出来事から、時計の短針が三つほど進んだ時間が経っていた。学ラン姿に前しか隠せない帽子を被った男ーー承太郎からの反撃を受け、しばらく森で休んでいた杏子だが、半刻と経たずに回復したのを確認して行動を開始した。
現状、杏子にとって不可思議な力を持つ承太郎との接触を避けるため、近場の施設から遠ざかることにした。
この殺し合いに乗るにせよ乗らないにせよ、地図に載っているランドマークを目指す人間は多いだろう、ということを考えてのことだった。

市街地にある、どこにでもありそうな一軒家。
鍵の掛かっていない窓から土足でリビングに進入した杏子は肩に背負ったデイパックの中を見る。

そこには病院から取ってきた医療品が入っていた。

佐倉杏子は魔法少女である。心臓を抜かれたり、首と胴体が離れるといったことでもなければ、時間さえ掛ければ回復できる。承太郎との戦闘によって生じた怪我も、時間は掛かったが今は綺麗に治っていた。

当然、無償というわけではない。襟元に掲げている赤い宝石ーーソウルジェムと呼ばれる物によって回復を補っている。対価として捧げるのは、魔女への一歩。傷の治療をする毎に濁っていく。完全に汚染されたソウルジェムはグリーフシードへと変質し、その身は魔女へと落ちる。そういった最悪の事態を避けるため、極力魔力は節約して、怪我した場合は自らの手で直そうと病院へ医療品を取りにいった。

そこまでの出来事で、杏子は三つ新しい発見をした。一つは、この舞台は浮かんでいるということ。もう一つは、デイパックには物を詰める上限がないということ。最後の一つは、薬品や支給品が見えるデイパックの中で、もぞもぞと動いている黒い物体ーー

「おい、俺はいつまで入っていればいいんだ」
「悪い悪い、今出してやる」

デイパックの中に腕を入れ、すぐに上げた。
杏子の腕によって首根っこを掴まれているのは黒猫だった。睨むように挑む眼に、背中に引っ付いている尻尾。右耳には銀色のタグが付いている。手入れがされているのか、黒い毛並みには目立つ汚れは見当たらない。
首には参加者の証である銀色に鈍く光る首輪ではなく、赤い首輪が巻かれていた。

黒猫ーーマオとの出会いはゲームが始まってから、少し時が経ってからだった。

杏子の手を抜け出し、リビングのテーブルの上にジャンプして目線を合わせたマオは、不満そうな声を出した。

「物を詰めるのはいいが俺もいることを忘れないでくれ。お陰で無駄な汗をかいた」
「猫って汗かくのか」
「そりゃ、猫だって汗ぐらいかく。冷や汗っていう、な。いや、俺が言いたいのはそういう事ではなくてだな」

半目のまま喋り続けるマオを見つめる杏子。すると、首根っこを持つ手とは違うもう片方の手を伸ばし、マオの口に人差し指を入れた。

「ほがっ、何をするっ」
「いや、どうやって喋ってるかなーって思ってさ」
「人使い、いや、猫使いが荒いぞ。バックの中は居心地は悪いから、今後俺を入れるのはやめてくれ」
「そいつのおかげで助かったんじゃないか」
「それはそれ、これはこれだ」


297 : ◆5brGtYMpOk :2015/05/16(土) 15:00:31 bFGm6YRc0
怪我の回復中の時だった。あまり動かせない身体で支給品を確認しようとしたところ、デイパックに衝撃を受けた影響か、気絶して伸びているマオがいた。

それがマオとの始まり。承太郎のスタンド、スタープラチナによる攻撃を受け、勢いのまま背中から木にぶつかった杏子だが、その時に支給品であるマオがデイパックに入っていたままであった。
本来なら、潰されて命を失っていたであろうマオは、デイパックの四次元構造に助かったのだ。

「外に出しても邪魔にしかならないんだよなあんた」
「俺にできるのは、人間を笑顔にさせることぐらいだな」
「それと、動物から動物への憑依、だっけか」
「それも今は無理な話だ。現に、お前への干渉は遮断されている」

森で目覚めたマオから「そちら」の世界の話をされたことを杏子は思い出す。
この世には契約者という人から外れた能力を持つ存在がいるという。炎を自在に操るパイキロネシスト、手に触れないで物を動かすサイコキネシス、瞬間移動を可能とするテレポーテーション。

契約には対価が必要である。能力の使用後には契約者である本人は強迫観念に駆られて特定の行動を取る。例をいくつか挙げれば、ある契約者は「飲酒」。またある契約者は「歌を歌う」
契約者になった人間は感情が希薄化する。善や悪といったものに縛られなくなり、合理的に判断し、いつ如何なる状況でも冷静に物事を俯瞰して行動する。人を傷つけるといったことも平然と行い、自分の命が何よりも優先。その姿はまるで、冷酷な殺人マシーンと揶揄されている。

そんな人でなしの彼らは夢を見ない。それは他人のことなんて考えず、合理的だからだ。理想を描けないものは、人間の道を外れている。それが分からないのが、契約者なのだ。

「ふーん。つまり役立たずってことか」
「頭を撫でさせてやっても構わんが?」
「いらねーよ。それで、あん時の話の続きだ。契約者とやらは対価を払わなかったらどうなるんだ」
「溶けてなくなるだけさ、と言いたいが実際には見たことはない。所詮うわさ話のレベルだ。だが、人間も同じだろう。対価も支払わず契約を破棄したものの末路なんて知れてる」
「破滅しかない、か」

マオの話を聞いて、杏子はふと思った。

ーーーー結局、なにも変わらないってことか

魔法少女のシステム。ソウルジェムによる肉体の放棄。キュウべぇは確かに、少女たちにとって大事なことは言わなかった。喋れば、恐怖して首を横に振る者もいただろう。
でも、奇跡はそんな安いものなのか、とも杏子は思っていた。
不治の病を治したい。そんな願いでも、キュウべぇは叶えてくれる。魔法少女だって悪いものではない。魔女との戦いだけではなく、日常生活でも役に立つ。
魂が抜けたからなんだというのか。死ぬまで元気に動いていれば問題はない。
杏子自身、キュウべぇのことは信頼はできない。顔も見たくないほどだ。殺してやりたいとも思っている。
それでも、抗いようがないのだ。こうなった運命を受け入れるしかない。

「ちっ」

杏子は舌打ちをすると、テーブルの上にあるバスケットのパンに手を伸ばす。
感傷に浸るのは全て終わった後だ。そんな、揺れた心構えのままでは到底殺し合いなど生き残れない。森で戦った承太郎は、油断があったとはいえ常人よりも遥かに強い魔法少女である杏子を相手に勝利せしめた。


298 : ◆5brGtYMpOk :2015/05/16(土) 15:01:31 bFGm6YRc0
必要なのは殺し合いを生き残る力だ。抜け穴、または主催者を打倒して無事脱出でハッピーエンド、という都合のいい夢しか見ていない者は死んでいく。なぜなら、夢とは覚めるものだからだ。かつて杏子自身がそうだったように。

現実は残酷だ。杏子や承太郎といった人外を相手に、気づかせもせずに拉致したのだ。
そう、杏子はあの窓もドアもない部屋ともいえない部屋に、気がついたらいた。物理的な力で意識を奪ったのではない。テレビのスイッチを切り替えるような気安さで、杏子は部屋にいた
のだ。保険なのか逆らえば死へ誘う首輪に、脱出など無駄というように下界の明かりさえ見えない舞台。

これだけの悪条件が揃って脱出を目指すのは勇気でもなんでもない。
ただの死にたがりだ。糞にも劣る自殺志願者。行き着く先は行き止まりだと分かっているのに構わず進む。そんな夢見がちなバカには付き合ってられない、と杏子は自分の気持ちが変わらないことに安堵を覚える。

そしてもう一つ、杏子には気になることがあった

「巴マミ、ね」

デイパックに入っていた名簿に書かれていた名前。三滝原市を守る魔法少女。まだ杏子が魔法少女に成り立てだった頃、魔女を相手に生き抜く術を教えてくれた少女。
彼女は死んだ。魔女との戦いによって。肩から上を食べられて、再び歩き出すことはない。
同姓同名の別人か、はたまた死者の復活か。

だが、杏子にとってはどちらでもよかった。名簿に目を通していたら、この舞台にいるはずのない者がいたから、ほんの少しだけ気になっただけ。
別人であろうと、本人であろうと、するべきことは変わらない。

「生き残るだけさ」

決意も新たに、杏子はパンを齧った。


◇ ◇ ◇

「これからの方針だが、まずは北方司令部ってところに行ってみようと思う」

バスケットに入っていたパンを全て食べ終え、台所にある冷蔵庫を杏子は漁っていた。

「何故かってーと、単純に近いからと武器の調達のためだ」
「魔法少女とやらは、武器を作れるのではないのか」
「出来ることは出来るんだけどな。タダじゃねーんだな、これが。作成には魔力を使うんだ。と言っても、大して量を食うわけじゃない。塵も積もれば山となるって言うだろ。節約しときたいんだよ、いざという時の予備ってやつだ。おっ、りんご発見」

冷蔵庫を荒らす杏子に呆れた顔を見せるマオ。

「それならば、東にある武器庫に行ったほうがいい」
「おせーよ。あたしたちが着いた時にはスッカラカンだろ」

ゲームが始まってからもうすぐ四時間が経とうとしている。殺し合いに積極的な人間は、いの一番に集まる場所だろう。杏子は承太郎との一件があったためこうして呑気に構えているが、先に地図を見ていたなら武器庫に行って壊滅させるなりしていただろう。

「ついでに、お前の言う地獄の門ってのも見てみたいしな」

突如東京を襲った異変、通称「地獄の門」
杏子の「世界」の話ではなく、マオの「世界」の話。

「物好きなやつだな。時間が足りないのではなかったか」
「焦ったって良いことなんかねぇ。それよりも、お前のほうが不思議だ。どうしてあたしに付き合う」

杏子の言葉の意味は、何故ゲームに積極的な自分に対して付いているか、ということだ。

「知り合いがいるんだろ。あたしに付いて来るってことはいつかは、そいつらに合うかも知れないんだぞ」
「理由なんか決まっている。このまま一人未開の地を歩くわけにはいかんだろう。
黒や銀に関しては最初に言った通りだ。契約者は合理的に物事を判断する。自分の命より大切なものはない。
それに俺はお前の武器だ。お前が勝ち残れば、支給品である俺も勝利して元の世界に帰れる、というのは普通の考えだろう。
それでも納得がいかないなら、そうだな……お前の生き方に少し興味を持った」

マオの淡々とした言葉は嘘ではない証明だった。
冷蔵庫にあった大量のりんごを入れた紙袋を両手に持って、杏子はマオに振り返って笑った。

「お前、お前って、さ。あたしの名前は佐倉杏子だ。忘れんなよ、マオ」

出会ってから始めて見る杏子の笑顔に、マオは大きく頷いた。

「了解だ、杏子」


299 : ◆5brGtYMpOk :2015/05/16(土) 15:02:53 bFGm6YRc0
【Cー2 北部/市街地 民家/黎明 】

【佐倉杏子@まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:マオ@DARKER THAN BLACK -黒の契約者-
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実 大量のりんご@現実 不明支給品0~2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを勝ち残る
1:まずは北方司令部に行き、その後地獄の門に向かう
2:どこかの施設に籠城することも考える
3:承太郎に警戒。もう油断はしない
4:巴マミには……?

【マオ@DARKER THAN BLACK】
黒と同じチームに所属する契約者。中年男性。
人語を話し理解する。能力は「動物への憑依」
本来の体は失っており、黒猫に憑依しつづけているため、彼の契約の対価は既に支払われている。

※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました
※マオに、魔法少女についてある程度話しています
※マオの「動物への憑依」は使えないことが分かりました
※アヴドゥルの宣言は、森で回復中の時のだったため聞こえていません


300 : ◆5brGtYMpOk :2015/05/16(土) 15:03:40 bFGm6YRc0
投下終了です


301 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/16(土) 21:10:37 DbWszg/k0
投下&修正お疲れ様です。

セリューってすごいロワだと輝くと思っていました。
作品・キャラ投票には関わっていませんでしたが受かってくれて大変嬉しいです。
ショットガンに細工している辺りももう……w。

それで、議論スレに◆dKv6nbYMB.氏の作品である「無謀な炎」について、です。
書き込みました。
氏の反応がほしいところです(入れ違いなら申し訳ありません)

このままだた私が一旦破棄するか勝手な解釈で書き進めてしまうことになるので…。


302 : 名無しさん :2015/05/16(土) 21:16:28 w11vwHHw0
返答はあると思いますが
もし破棄するぐらいなら勝手な解釈で書いてしまっても良いんじゃありませんかね
リレーですしその辺は仕方ないでしょう


303 : ◆w9XRhrM3HU :2015/05/17(日) 14:23:44 yKe.qlII0
投下します


304 : アニマル対決 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/17(日) 14:24:06 yKe.qlII0
クマは焦っていた。
ここは殺し合いの場である。
言ってしまえば、見る者全てが敵と言っても過言ではない。
クマはそこまで極端な考えはしないものの、ある程度の警戒と臨戦態勢は取らなければならないとは理解している。
だからこそ不味い。転倒したままもがき続けているこの状況はかなり、いや滅茶苦茶不味い。

「ど、どうするクマー! 誰か助けてクマー!!」

ふっくらとした胴体をコロコロ揺らしながら、短い手足をブンブン振り回すが起き上がれる様子はない。
やはり、一人の力で起き上がるのは不可能らしい。
こうなれば、誰かの力を貸りる必要がある。
だがその声は悲しいかな、誰も聞いてくれない。
空しく夜空をクマの声が響き渡る。

「駄目クマ、誰も聞いてくれんクマ……」

いや一人。正確には一羽はその声を聞いていた。
DIOの館へと入り中を散策していたペット・ショップは、クマの悲痛な叫びを聞き駆け付けていた。
もちろんクマの救出の為にではない。得物を屠る為にだ。

「く、クマ!? 嫌な予感がするクマ……」
「……」

こうしてクマとペット・ショップは奇妙な出会いをする事となる。

先ずペットショップが真っ先に思ったのは、非常にこいつは間抜け野郎だということだ。
このデブな体型で転がってジタバタする様など、脳みそが空っぽか頭脳が間抜けとしか言い様がない。
さっさと殺し、次に行こう。
ペットショップはそう考え、スタンド「ホルス神」を出す。
この時気になったのが、クマのホルスを神が見えていたとしか思えない反応だ。
目をパチパチさせ、ホルス神を凝視している。

「ぺ、ペルソナ!」
「!?」

そして、間抜け野郎だと侮っていた相手が、スタンドのような能力の使い手だということにも驚愕した。
国ごとに物の呼び方が変わるように、単純に能力の呼び方が違うだけなのか否かは分からないが、確かにペルソナと呼ばれたそれは強い力を感じる。
間抜け野郎ではあっても、タダの間抜け野朗ではない断じてない。
ペットショップの警戒が強まる。


305 : アニマル対決 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/17(日) 14:24:21 yKe.qlII0
クマが召喚したペルソナ「キントキドウジ」とスタンド「ホルス神」が対面した。
次元と時空を超えた二つの異能が激突する。
先手を撃ったホルス神の氷の弾丸がキントキドウジを捉えた。
だが、キントキドウジのふっくらとした体には傷一つつかない。
その険しい顔を一層険しくさせ、ペットショップはキントキドウジを凍らせる。
如何に強固なボディであろうと、凍らせてしまえば意味はない。

「そんなもの効かんクマよ!」

ホルス神の操る冷気が弾かれる。
ペット・ショップはホルス神を退かせ、自身も空を舞い距離を取った。

考えられるのは二つ。
このペルソナとやらがスタンドを無力化する力である可能性が一つ。
二つ目が氷の力そのものに耐性があるという可能性。

恐らくは後者だとペット・ショップはにらむ。
最初にホルス神を見た時、奴は怯えていた。
つまり、この時はホルス神を無力化できる確信がなかったといえる。
そこから導き出せるのは後者。そして氷そのものに耐性があるのであれば非常に不味い。
こいつはホルス神にとって、相性最悪の天敵と言える。

「って本体を狙うのは反則クマー!」

もっとも、それもやりようによる。
スタンドが倒せなければ、本体を倒せば良い。このペルソナも同じこと。
強いのはペルソナであって本体ではない。ましてや、あんな転倒状態では良い的にしてくれと言っているものだ。
氷の槍がクマへ雨のように上空から降り注ぐ。
キントキドウジが盾になり槍を捌き、ホルス神へと一撃を叩き込む。
けれども意外なことに、ペット・ショップに返ってきたダメージは0に近い。
なるほど、相手に氷が効かないのであれば、また相手の同じ氷の攻撃もホルス神には効かない。

「あっ、同じ氷の相手には氷の攻撃は効かんクマ!」

互いに得意とする得物は氷。
いくら攻撃を当てようと堂々巡りに過ぎない。
痺れを切らせたクマは、ミサイルを持ったキントキドウをホルス神へと叩きつけようとする。
スタンドと違い、ペルソナは一つの能力だけでなく、複数の能力を同時に行使可能なのだろうとペット・ショップは推測する。
つまり、あれは氷ではなく、ホルス神にダメージの通る攻撃だと即座に察した。
ホルス神は一気に空を急上昇し回避。キントキドウジの攻撃が空ぶる。
更にクマ本体に向け氷の弾幕。キントキドウジに急いで捌かせるも、幾つかは間に合わずクマの体を傷つける。
痛みに耐えながら、またキントキドウジで反撃を試みるがそれも当たらない。
あまりにもホルス神が速過ぎる。


306 : アニマル対決 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/17(日) 14:24:34 yKe.qlII0
「ああ、どうしようクマ……」

豊富なスキルに関してはクマのキントキドウジが遥かに上回る。
だが純粋な戦闘力、スピードのおいてはホルス神が遥かに上回っていた。
更に加えるならば、本体の思考力も現状ではペット・ショップが合理的であり冷静でもある。
元々、クマはペルソナがサポート向きであることに加え、一人での戦いに不慣れだ。
敵と戦うとき、必ず誰かがそばに居た。
対してペット・ショップは違う。生まれたときから一羽、弱肉強食の自然界をたったの一羽で生き抜いてきた。
故に生まれながらにしての戦士であり、殺戮マシーン。戦いに躊躇いも迷いも断じてない。

「センセイ! 千枝ちゃん! 雪子ちゃん! 誰かぁ!!」

焦りが更に焦りを増し、堪らず仲間の名前を叫びだす。
せめてクマに仲間が居れば、その本来の力量を発揮し得たかもしれない。
本能的にそう分かっていたのか、涙目になりながら叫ぶがその声は届かない。
その時、空を飛んでいたペット・ショップのディバックから何かがクマに向かって落ちてきた。
クマの腹に落ち、故障を免れたそれは拡声器だ。
そうだ、仲間を呼ぶには大きい声がいる。
もっともっと大きい声が必要になる。
クマはこの状況を打破する為に頭をフル回転させる。
声、大きい、声、声、大きい声……。クマは閃いた。
短い腕を伸ばしクマはそれを掴む。

『誰か助けてクマー!!!!!』

先の何十、何百倍もの声が辺り一帯に響き渡る。
クマ自身、思ったより声が響きすぎて耳が痛くなった程だ。
だが、これなら誰か声を聞きつけてくれるはず。
仲間さえ居れば、こんな鳥一匹。

「え……?」

クマはその時、ペットショップが怒ったような気がした。
一気に急降下しキントキドウジを抜く。
そしてホルス神が氷の剣を精製し、クマの胴を貫いた。

「あっ……え……?」

血は出ないが、何かが抜けていく感覚がクマを襲った。
これが死というものなのかと他人事のように思える。

「クマは、まだ……」

あまりにも無慈悲で、唐突な死はクマに最後の言葉も残さず訪れた。

ペット・ショップはこの戦いをこう分析した。
参加者が徒党を組む前だからこそ勝てた相手だと。もし仲間を得ていれば、負けたのは自分であったかもしれない。
一対一だからこそスピードでかく乱出来たが、もしもそのスピードに優れた相手と同時に戦闘していたかと思うとぞっとする。
早めに潰せたのは幸運だったと、ペット・ショップは思った。


307 : アニマル対決 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/17(日) 14:24:53 yKe.qlII0
地面に降り立ち、クマが握っていた拡声器へ視線を投げる。
ペット・ショップは、この機械が声をより大きく遠くまで飛ばすものだと知っていた。
しかし、ハヤブサである自分には使い道がない。
だからこそ、ディバックに仕舞い込み封印していたが、戦闘の際に落としてしまった。
そして、追い詰められたクマは助けを呼ぶために咄嗟に使用してしまう。

厄介な事になったとペット・ショップは考える。
この声を聞き、集まるものは少なくないだろう。

別に参加者が集まるのは良い。それが強者であるなら戦ってみたくもある。
もしかしたら、主であるDIOも来るかもしれない。
しかしだ。集まり過ぎは良くない。いくらDIOやペットショップであろうと強者が組んでしまえば不利になる。
ここを離れるべきか、だがしかし万が一DIOが来るという可能性も捨てきれない。


思考に耽けったその瞬間、異形がペット・ショップの前に降り立った。
その異形は、何処か誇らしそうな仕草を見せる。
それは、その姿には見覚えがある。
否、先ほどまで戦っていたのだ間違いなく。

「やっと、追いついた、クマ……」

ミサイルを持ったキントキドウジがホルス神を完全に捉えた。
ペット・ショップが振り返る。
そこにはしてやったと言いたげなクマの笑みがあった。

「あとは、頼んだクマよ、皆……」

ペット・ショップは思った。
このビチクソがあああ!!! と。
ホルス神もろともキントキドウジが爆散する。
爆風が巻き起こり、轟音が響き渡る。
風が止む。そこには一つの着ぐるみが力なく横たわっていた。









「……」

本当に危ないところだった。
ペットショップは痛む体を労わりながら思い返す。
あの爆破の瞬間、即座に氷のバリアを貼り九死に一生を得たことを。

ペット・ショップの前に置かれた中身が無くなった萎れた着ぐるみ。
やはり、クマとは何か別の特殊な生き物だったのだろうか。今更どうでもいいことだが。

それにしても、これからどうするべきか。
夜が明けるまで館に留まるつもりだったが、あの声が響いた以上早急に離れるべきか。
あるいはDIOが来る可能性を信じ留まるか。

どの選択肢を選ぶか、まだ誰にも分からない。


【クマ@PERSONA4 the Animation】死亡


308 : アニマル対決 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/17(日) 14:25:11 yKe.qlII0
【B-6/DIOの館付近/1日目/黎明】

【ペット・ショップ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)、困惑(小)、元いた世界における敗北と死によるショック(無自覚、小〜中)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、拡声器、不明支給品0〜2
[思考]
基本:夜が明けたらDIOと合流して指示を仰ぐ。邪魔と判断した奴は殺す。
1:館に留まるか、離れるか。
2:ジョースター一行は見つけ次第始末、特にイギー
3:ムカつく奴は殺す。
4:手強そうな参加者とは可能な限り戦いを楽しみたい。

[備考]
※ 何らかの能力制限をかけられています。ペット・ショップはそれに薄々気づいています。
※ 参戦時期は死亡後です。
※ 拡声器が何処まで響いたか後の書き手さんにお任せします。


309 : ◆w9XRhrM3HU :2015/05/17(日) 14:25:27 yKe.qlII0
投下終了です


310 : 名無しさん :2015/05/17(日) 15:31:25 XLSM.ukU0
投下乙です


311 : ◆kXn47FN4zU :2015/05/17(日) 23:31:58 E9MZX1uc0
投下お疲れ様です。

アニメで見ると改めてペットショップの恐ろしさを感じました。
氷の対決での軍配は鳥に上がったようですね。
そして拡声器……どうなることやら。

暁美ほむら、エスデスで投下します。


312 : 時計仕掛の女 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/17(日) 23:33:49 E9MZX1uc0


総ては鹿目まどかのために。
一言で表せる暁美ほむらの方針だ。
彼女にとって鹿目まどかの存在は神をも超えている。
鹿目まどかが死ぬ時、それは彼女がこの世界を去る時と同義である。

世界を巡りに巡って信じたあの時を追い求める世界の放浪者。

その力は時を止める力。
暁美ほむらと心を赦した者にしか認識出来ない聖域。
鹿目まどかを救うために手にした永遠の魔法。
逢いたい、あぁ私はもう一度貴方と逢いたい。
繰り返す。何度でも、永遠に、焦がれる気持ちは止められない。


「これは……?」


広川が言うには参加者に支給される武器があるという。
戦力を補えるならば何でもいい。
力を手に入れるため暁美ほむらはバッグから支給された物を取り出した。

翼。
それは翼だった。
説明するならば翼としか言い様がない。
対の翼が質量を無視してバッグから出て来たのだ。


「……これを使う?」


自分の盾のような円状の物に翼が付加されている形状であった。
嘗ての武器のように腕に装着……する訳もなくバッグから紙を取り出した。
どうやら説明書のような物らしく目で辿る。

万里飛翔マスティマ。

それがこの翼の名前らしい。
何でも円状の物は背中に装着するらしく、それで空を飛べるようになるらしい。
但し、三十分の飛翔に対し二時間の休息が必要とのこと。


「まるで天使、ね」


天使とは太極に存在するソレを思い出す暁美ほむら。
広川は何を思って支給したかは解らない。
だが喧嘩を売られているのは事実だろう。
そして広川は本来知りうることのない事実を認識している可能性がある。

名簿を信じるならば魔法少女の参加者が五人。
その五人は鹿目まどかと暁美ほむらにとって断ち切れない存在達。
之を把握している外部の人間は一部の魔法少女と宇宙からの来訪者だけだ。
白と黒の魔法少女を始めとする繰り返される見滝原の歴史から他の魔法少女が関わっている可能性は低い。
ならば、インキュベーターが広川に関わっている可能性が高いだろう。
何にせよ鹿目まどかと共に生き残らなければ未来は無いのだが。


313 : 時計仕掛の女 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/17(日) 23:34:33 E9MZX1uc0

支給された帝具と呼ばれる翼は装着せずにバッグに戻す。
目立つ、翼を宿している女子中学生は注目を浴びてしまうだろう。
今更恥ずかしさなどないが、それはそれ、これはこれである。
単純な移動でも邪魔である。飛翔は魅力的だが制限を考えると使いどころを見極める必要があるようだ。

思えば自分も本気になれば黒い翼を生やすことも可能だろう。
しかし消費する魔力を考えると発動する時、それは運命を打開する時。
少なくとも絶対的なピンチ――所謂絶望の時にしか使えない。

時間停止と対なる白と黒の翼。
後は銃火器が揃えば文句はないのだが支給されているのはマスティマのみだった。
現地調達がこの会場で出来るかは不明だが単純な火力の確保を視野に入れるべきだ。
地図と現在地を照らし合わせると北方司令部が一番目的に近づける予感がする。
司令部がどんな場所かは知らないがコンサートホールや病院と比べると銃火器がありそうだ。


「その前に……」


近づいて来る。
病院を出た所で誰かが近づいて来る。
女だ、女が近づいて来る。
暁美ほむらにとって初の遭遇、殺し合いが始まってから初めての接触者。
さて、どう動くべきか。

(……病院から何か物を取っておくべきだったわね)

その前に医薬品なり包帯なり拝借しておけばよかったと後悔。
備えあれば憂いなしの通り在っても腐ることのない代物。
しかし気付いた所で遅く、今は来訪者との接触が第一関門である。


(危険人物ならば排除……だけどまずは情報を聞き出す――)



「私の名前はエスデス、お前の名前はなんだ?」



(名乗ってきた……?)


参加者には予め名簿が配布されている。
之により自分や知り合いが参加している情報を掴めている。
殺し合いの場において、自分の名前を簡単に宣言することは危険を伴う。
悪評をばら撒かれれば自分が辛い立場に立たされてしまう。
名簿を見るに知り合いよりも遥かに関わりのない人物が多数を占めている現状。
エスデスと名乗った女は何も恐れていないのだろうか。


「私は美樹……暁美ほむら。エスデスさんは一人で歩いていたのですか?」


偽名を名乗ろうとしたが自分の名前を教える暁美ほむら。
普段なら美樹さやかの名前を使っているだろうがどうも彼女は違う。
本来の時間軸とは違い、最後に見た美樹さやかは相当デキる魔法少女だった。
下手に騙れば自分の首を絞める事になるだろうと判断。


「私は一人だ。出会った人間はアヴドゥルという男一人だけだが……暁美ほむら、DIOの館に攻めこまないか?」


「……は?」


314 : 時計仕掛の女 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/17(日) 23:35:30 E9MZX1uc0

何を言っているんだこの女は。
暁美ほむらが思った偽りのない感想である。
まずアヴドゥルと言われても誰だか知らない。
DIO……恐らく人名だろうがその人間も知らない。
館に攻めこむ、現実離れ過ぎていて何一つ共感する事が出来ない。
そもそも何のために攻めこまなければいけないのか。
殺し合いという一種の極限状態で何故攻めこまなければならないのか。
常人なら発想るすることすら出来ないであろう事をエスデスはニヤけながら簡単に言い放つ。


(あまり良い印象を持てないわね)


「何も驚くことはない。悪を殺すのに理由はいらないだろう?」


「そのDIOって人は何をしたんですか?」


「……そう言えば聞いていないな。後で合流した時にアヴドゥルに聞こうじゃないか」


「し、知らないで殺すと言って……え」


「なに、邪悪の根源と呼ばれていた男だ。見る価値はあるだろう。
 六時間後――朝の六時にコンサートホールに集合しDIOの館に攻めこむのだが暁美ほむら、お前もどうだ?」


エスデスと言う女。
どうやら一般人の範疇から飛び抜けている思考の持ち主らしい。
初対面と思われる参加者に邪悪の根源たる存在を教えられた。
それが偽りである可能性でもあるのだが彼女は殺す対象に決め込んだ。
出会ってもいない参加者をたった数秒の会話で決めたのだ。


(有り得ない……この場を早く切り抜けるべきね)


この手の人間に主導権を握られては自分に火の粉が振りかかる。
適当に場を流し別行動を取るのが先決だろう。
つまりコンサートホールに集合することを承諾しこの場を去る。

行動は別にしてエスデスから離れればいい。
必ずコンサートホールに向かう必要はないのだ。
そもそも鹿目まどかを見つけられていない現状、DIOの館に行く時間が勿体無い。


「解りました。でも私は普通の女子中学生ですので戦う力は持っていません。
 明るくなるまで病院に隠れていますから後で合流しましょう」


「何を言っている? 私の目を騙せるとでも思っているのか……そうか。
 暁美ほむら、お前は私を見てから警戒しているだろう。偽名を使おうとしたしな。
 大体普通の女子中学生……とやらは知らんが普通の子供が初対面の人間とこうして話せるのか?
 恐怖に震えているだろう……だがお前の瞳は決意に溢れている、戦う瞳だ。
 そもそも先程から退路の確認をしている奴が何を言っている……お前の力を見抜けていないとでも思ったかッ!」


「――ッ! こ、氷!?」


適当な設定を騙りエスデスから離れようとしたが彼女の方が何枚も上手だった。
総てを見透かされていた暁美ほむら、偽名を名乗ろうとしたこともバレていた。
エスデスの言うとおり普通の女子中学生にしては流暢に話し過ぎたか。

次からは気を付けたいがそんなことを言っている場合じゃあない。

突然エスデスから発せられた殺気は相対してきた魔法少女達よりも格上のソレだ。
飲み込まれる、飲み込まれてしまえば、囚えられてしまえば最後、死を待つのみ。
振られた腕から辿るように放たれた氷が自分に迫ってくるのだ、黙っていれば死んでしまう。

「っ」

「避けるか! その動体視力は素晴らしいな」


315 : 時計仕掛の女 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/17(日) 23:36:04 E9MZX1uc0

左斜め下に身体を移動させ潜るように氷を回避する。
耳元を掠めた氷はそのまま直進し病院の玄関扉を一部破壊した。
大きさ其の物は別段大きいとは言えなかった、それでも建物を破壊している。
人体に当たればそれなりの損傷になるだろう、まるで魔法のようだ。

感心するエスデスだが暁美ほむらにとってその反応は望んでいない。
体勢を低くしたまま横に一歩踏み出すとその足を軸に半回転するように振り向く。
背を向けるのは危険だが走った方が逃げやすいのは事実。このまま逃げ切る。


「敵対するつもりはないが――その方向は私がこれから行こうとしていた。重なってしまったなぁ……!!」


「――この女っ!」


声が聞こえたので振り返ってみれば笑いながら追いかけてくる悪魔の姿が一つ。
戦闘狂、狂っている女は行き先が同じなどと抜かし暁美ほむらを追いかけ始めた。
力を試したいならもっとまともな方法で頼みたいものである。


(お宝を発見してくるだとかボスを倒してくるとか……こんなこと考えている場合じゃない)


夢や希望は捨てている、魔法少女の契約を交わした時から。
現実は非情であり殺し合いの会場にて戦闘狂から逃げる事態になってしまった。
迫る氷はギリギリの部分で掠めておりエスデスが遊んでいる証拠だ。
直接当ててこないのは彼女の性格なのだろうか、実に厭らしい。

(魔法少女……って感じではないけれど)

魔力を感じないと言うよりは魔法少女特有の感じが掴めないと言ったところ。
言葉で説明するモノではなく感覚に近い。
エスデスは魔法少女ではないだろう。ならば、氷の力は何なのか。解らない。

解らないが翼が支給されている現実を受け止めるに何が起きても不思議ではない。
そもそも自分の存在自体が不思議の塊だ、いちいち立ち止まってる暇はないようだ。



ならば――



「私はまどかのためにもこんなところで躓いている場合じゃないの――さようなら」



――時間を止めて。


316 : 時計仕掛の女 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/17(日) 23:36:59 E9MZX1uc0

暁美ほむらと彼女が心を赦した存在のみが認識出来る禁忌の聖域。
停止した世界では暁美ほむらが神でありそれに抗う雑兵に生きる権利は存在しない。
正真正銘彼女の切り札である。

切り札とは連発する代物ではない。
魔法少女の源であるソウルジェムに蓄積される穢れ。
それを取り払うグリーフシードの確保はこの会場では難しいだろう。
魔女の存在が確認出来るかどうかも怪しい。
他の魔法少女を魔女にさせ殺す手段があるが現実的に行わないだろう。
よって普段よりも魔法の使用を抑える必要がある。

そして制限である。
身体が重い、魔力の消費が思ったよりも早い。
普段の何倍もの消費量だ。
切り札に相応しい程に――広川の嫌がらせだろうか。

何にせよ十数秒が経過した後、暁美ほむらは時を動かした。
思ったよりも勝手が悪くなっている。
使い時を真剣に考えた方が良いだろう。


「……まだ追ってきてる」


少し後方へ視線を流すと相変わらずエスデスが追って来ていた。
方向が同じなのは解るが殺気は抑えてほしいところだ。
力試しのつもりだろうがいい迷惑である。
このまま逃げ切り森に入ればエスデスも自分を見失うだろう、そう思いたい。


暁美ほむらは鹿目まどかのために立ち止まっている時間はない。
故に氷の女王と遊んでいる時間はないのだ。


【C-1/西/一日目/黎明】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ(新編 叛逆の物語)】
[状態]:健康
[装備]:見滝原中学の制服、まどかのリボン
[道具]:デイパック、基本支給品、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!
[思考]:
基本:まどかを生存させつつ、この殺し合いを破壊する
0:エスデスから逃げる。
1:まどかを保護する。
2:協力者の確保。
3:危険人物の一掃
4:まどかの優勝は最終手段
5:コンサートホールに行く……?
[備考]
※参戦時期は、新編叛逆の物語で、まどかの本音を聞いてからのどこかからです。
※まどかのリボンは支給品ではありません。既に身に着けていたものです
※魔法は時間停止の盾です。時間を撒き戻すことはできません。
※この殺し合いにはインキュベーターが絡んでいると思っています。
※時止は普段よりも多く魔力を消費します。時間については不明ですが分は無理です。

【万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!】
 翼の帝具。装着することにより飛翔能力を得ることが可能。
 翼は柱を破壊する程度の近接戦闘は描写から可能であり、無数の羽を飛ばして攻撃することも出来る。
 飛翔能力は三十分の飛翔に対し二時間の休息が必要である。
 奥の手は出力を上昇させ光の翼を形成し攻撃を跳ね返す『神の羽根』。


317 : 時計仕掛の女 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/17(日) 23:37:45 E9MZX1uc0

時計の針が止まった時。
それは総ての生命が止まる時と同義である。

動かない時間を認識していない時。
その存在はこの世界から隔絶されたと同義である。

停止された世界を認識出来る存在は一般人とは呼べないだろう。
特別な力に魅入られた特別な存在だ。
暁美ほむらは神秘に触れた結果禁忌の魔法を手に入れてしまった。


「ククク……」


その力を認識出来るのは暁美ほむら本人と心を赦した存在のみ。
他の存在の時は総て停止する。


「アハハハ……ククッ……アハハハハハ!」


それらを総てぶち壊し介入する存在。
神と同立する同じ禁忌の力を手に入れた存在。


「暁美ほむら……暁美ほむら。 お前は今、止めたな? 止めたよな?」


それは『世界』
自分だけが神になれる世界を手に入れたと同義である。


「これは……そうか、お前もか。
 楽しいぞ、私はどうやらまだまだ楽しめるようだなァ!」


己の鍛錬だけで『世界』を手に入れた存在『エスデス』
彼女の興味は世界の針を止める暁美ほむらに囚われてしまった。



【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:健康、高揚感、興奮状態
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:協力者を集め六時間後にコンサートホールへ向かう。
1:暁美ほむらを追いかけ遊ぶ。
2:その後DIOの館へ攻め込む。
3:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
4:タツミに逢いたい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。


318 : 時計仕掛の女 ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/17(日) 23:38:19 E9MZX1uc0
投下を終了します。


319 : 名無しさん :2015/05/18(月) 07:32:20 1SlE3Sqs0
投下乙です

叛逆ほむほむの支給品が白い翼なのは皮肉を感じるw
そしてエスデス様が楽しそうでなにより
時止めを『世界』と表現したのは思わずニヤリとしました


320 : 名無しさん :2015/05/18(月) 16:55:50 5xk28a.g0
投下乙です

エスデス様の強キャラ臭よ、ロワ充やってるなw
ほむほむとの追いかけっこの結末や如何に


321 : ◆fuYuujilTw :2015/05/18(月) 20:37:49 OJ7Bu.VY0
投下します。


322 : 風紀委員の決意 ◆fuYuujilTw :2015/05/18(月) 20:38:35 OJ7Bu.VY0
私は肉丼を食べ終えて、栄養剤を飲み終えたところでした。

「あらあら、こんな状況だというのに暢気にお食事ですの?」

「!? ひいっ!」

突然声をかけられた私は思わず肉丼をもどしそうになってしまいました。
声をかけてきたのは、私よりも背丈も年齢も低い女の子。
でも、なぜだか分かりませんが、私よりもずっと大人びて見えました。

「安心してくださいな。わたくしは別に危害を加えるつもりはありませんの」

「あ、あなたは一体……?」

「わたくしは白井黒子。ジャッジメントですの!」

「ジャッジメント?」

「……ああー、あなた、見たところ学園都市の人間ではありませんわね。失礼しましたわ。風紀委員と言えば分かるのではないでしょうか?」

「風紀委員……」

私の学校に風紀委員なんていたでしょうか? 風紀委員というと、服装のチェックをしたり、通学時間を厳守させたりといったイメージがありました。確かにこの人はそんなイメージにぴったりでした。

「ところで貴方のお名前をまだ伺っていませんでしたわね」

「小泉……花陽です」

「花陽さんですか。中学生ですの?」

「いえ……高校1年生です。東京の音ノ木坂学院に通っています」

「聞いたことがないですわね……」

「そこまで進学校ってわけでもないですし、知らなくても仕方ないですよね……」

「わたくしは常盤台中学に通っているのですけど、名前くらいは聞いたことはおありでは?」

「いえ、初耳です……」

「そうですか、自分でいうのもなんですが、学園都市外部でもかなり有名だと自負していたのですがね……」

「あの、白井さん、ごめんなさい、その、学園都市って何なんですか?」

白井さんは驚いた表情で私の顔を凝視してきました。

「……失礼ですが、貴方本当に日本人ですの? 少なくとも東京に住んでいらっしゃるのであれば、知らないはずはないはずですわ」

「そういわれても……」

「ごめんなさい、ちょっと言い過ぎましたわね。平たく言うと、学園都市というのは学生の超能力を開発するために作られた
都市ですの」

「超能力?」

「ええ、なんならご覧に入れてみせましょうか?」

白井さんは私の目の前から突然姿を消しました。


323 : 風紀委員の決意 ◆fuYuujilTw :2015/05/18(月) 20:39:23 OJ7Bu.VY0
「……白井さん、どういうことなんですか……?」

「わたくしはここですの」

気がつくと、白井さんは後ろに立って、私の肩をポンと叩いてみせました。

「わたくしの能力は空間移動能力ですの。分かりましたわよね?」

「…………」

私は今まで現実世界に生きていたと思っていました。でも、一瞬この世界が夢なのではないかと疑ってしまいました。今までテレビで超能力者と称する人を大勢見てきましたが、私でもうさんくささを感じていました。でも、こうやって目の前で披露されてしまうと、もう何も言うことも出来ません。

「……すごいなあ」

「いえ、わたくしなんかまだまだですわ」

私はなんか自分がつまらない人間のように思えてきました。……私には何も出来ません。少し悲しくなってきました。

「悲しそうな目をしてますわね。大方、自分に能力がないから自己嫌悪に陥っている、そんなところですの?」

「……そうです」

「仕事柄、そういう人はたくさん見てますのでね」

私は穂乃果ちゃんみたいに皆を引っ張っていく力もないし、海未ちゃんみたいに何事にも真剣でないし、ことりちゃんみたいに積極的でないし、にこちゃんみたいにアイドルに対してすごく真摯でないし、希ちゃんみたいに皆を見守ることもできないし、絵里ちゃんみたいにダンスもうまくないし、凛ちゃんみたいに活動的でもないし、真姫ちゃんみたいに歌もうまくありません。

「気にすることはありませんわ。大体貴方は開発も受けていない身ですもの。能力が使えないのは当たり前のことですわ。わたくしの友人にも、能力が使えない人がいますけど、その人はとても素敵な人ですの。それに、学園都市の中にも能力は使えないけど、生徒を教育するという面で活躍なさっていらっしゃる方は大勢いますの。困るのは、やけになって人様に迷惑をかけることですわ。貴方にも何か必ず取り柄があるはずですの」

「取り柄……」

私に本当に取り柄なんてあるのでしょうか。でもこの人が私のことを少しでも勇気づけてくれようとしているのは分かりました。こんな恐ろしい場で弱気になっているわけにもいきません。少しでも前を向いていけばきっと何とかなる、そう思いました。

「白井さん、私の知り合いは音ノ木坂学院に行くと思うんです」

「分かりましたわ。同行いたしますの」

「いいんですか? 白井さんだって知り合いがいるんじゃ……」

「闇雲に探したところで見つかるはずがありませんの。殺し合いに乗っている人間にでもあったら元も子もありませんわ。ひとまずは他よりも安全であろう場所に行くのが賢明ですの。今この瞬間だって襲われるかもしれないのですから」

「ありがとうございます!」

白井さんと出会えて良かった。私はそう思いました。


324 : 風紀委員の決意 ◆fuYuujilTw :2015/05/18(月) 20:40:13 OJ7Bu.VY0



「困りましたわね……」

わたくしは花陽さんに聞こえないようにそう呟きました。
花陽さんはどう見てもこんな狂った場にいるべき方ではありません。
ジャッジメントとして、彼女を見逃しておくわけにはいきません。
とはいうものの、支給品はお酒。あまり贅沢を言ってはいけませんが、外れといったところでしょうか。
正直なところ、彼女を守れるかは不安があります。それと心配なのはお姉様です。
お姉様は優しすぎます。親しい人間が目の前であのように残虐に殺された事実に耐えられるのでしょうか?
最悪のシミュレーションを頭に思い浮かべます。
……そうなったら、わたくしの手で絶対に止めてみせますわ。



【B-7 346プロ /1日目/深夜】

【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、スタミナドリンク×9@アイドルマスター シンデレラガールズ 、スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す。
1:白井さんと同行する。
2:音ノ木坂学院に向かう。

[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後

【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、スピリタス@ PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春さんなどの友人を探す。
1:花陽さんを守ってあげる。
2:音ノ木坂学院に向かう。

[備考]
※参戦時期は不明。


325 : ◆fuYuujilTw :2015/05/18(月) 20:40:55 OJ7Bu.VY0
投下を終了します。


326 : ◆BLovELiVE. :2015/05/19(火) 00:50:33 oOZJbEvY0
投下乙です
かよちんはとりあえず安心できる相手に遭遇できたか。
御坂はヤバイことになっちゃってるからなぁ、黒子の懸念が問題だ

それでは投下後間もないタイミングになりますがこちらも投下させていただきますね


327 : 悲しみの息の根を止めて ◆BLovELiVE. :2015/05/19(火) 00:52:11 oOZJbEvY0
蹲るロイ・マスタングの目の前にいるのは一つの躯。
ついさっき出会ったばかりで、そして一分前はまだその生命があったはずの少女。

しかし、彼女は、いや、”それ”はもう動くことはない。

だって、それは―――自分が守ることができなかったのだから。


「うおおおおおおおお!!!」

怒り、嘆き、悲しみ。
様々の負の感情が入り混じった声を上げるマスタング。

その感情の矛先が向かうのは、彼女の下手人であるエンヴィー。

そうだ。こんなところで蹲っている場合ではない。
早くあれを追って殺さねばならない。
これ以上、彼女のような犠牲者を出してはならない。

パン

マスタングは手を合わせ、それを自身の足へと当てる。

光が発し、足の銃創が塞がっていく。
錬金術による治癒。それが今マスタングの発動させたもの。
しかし、元々マスタングは医術に精通した錬金術師ではない。人体や体内器官に関する知識は当然欠けている部分が多い。
それを無理やり、傷の治療に行使したのだ。

体をドッと疲労が包み込み、さらに血は止まったものの傷周囲にはまるでその傷が拡散したかのような痛みが走っている。
血は止まりこそしたが、代わりに足の筋肉に大きな負担をかけてしまったらしい。もしかしたら今後の行動にも響く可能性はある。

だが、傷自体はどうにかなった。歩くことはできる。
痛みなど、今自分の中で沸き上がっている怒りが抑えてくれる。

よろける足で立ち上がりながら、発電所を回り、薬品管理室へと辿り着く。
今いる場所が発電所という施設内部であったことが幸いだった。
そこには発電所における装置維持のための様々な工業薬品がおいてある。


328 : 悲しみの息の根を止めて ◆BLovELiVE. :2015/05/19(火) 00:53:32 oOZJbEvY0

扉を開き、中にあった薬品の棚のガラスを叩き破り。
いくつかの薬品を地面にばら撒いた後で自分の軍服を脱ぎ、その上に被せた。

そして手を合わせて錬成。

眩い光が室内を照らす。

その光が収まった時、その場にあったのは山積みになった手袋状の布の山。
総じて10枚ほどだろうか。

親指を噛み、そこから流れ出る血で錬成陣をその甲の辺りに描き上げる。
外に出たマスタングは、そのままそのうちの一つを手に装着して空中に向けて指を鳴らす。

バチリ、と火花が散り、それが大気中に生み出された可燃性の気体に引火、周囲に爆発を引き起こした。

しかしその一撃でマスタングの手に装着された手袋はボロボロになっていた。
本来の発火布と比べたら薬品や素材に問題があったのだろう。

だが、構わない。
即興とはいえあいつを殺すための武器は作ることができた。


さあ、待っていろエンヴィー。
あの時お前を殺さなかった自分の弱さが原因だ。
今度こそ、お前に引導を渡してやる。




「止まれ!!」
「ひぇっ!?」

それは白井黒子と小泉花陽が、音ノ木坂学院に向けて移動するために346プロを出た時のこと。

二人の目の前に、一人の男がこちらに指を向けて睨みつけていた。

花陽にしてみれば何をしているのかも分からず、ただこちらに向けてその鋭い眼光を飛ばしているだけにしか見えない。
しかし黒子にはその様子だけでも警戒するに値していた。

学園都市の能力者のような者ならば、その態勢だけでも何かしらの攻撃を放つことが可能だ。
例えばものをこちらに飛ばしてきたり、電撃を撃ち込んできたり。

その指で何かしらのモーションを取るようならば、警戒しなければならない。

「お前たちは、”本物”か!?」
「…何をおっしゃっておられるのか分かりかねるのですが」
「答えろ!!」

バチッ

男が指を鳴らした瞬間、黒子と花陽の横でいきなり炎が湧き上がった。

「きゃあっ!!」

驚き叫び声を上げる花陽を庇うように後ろに下げる黒子。

「発火能力者(パイロキネシスト)…ですの?」
「お前たちがどっちなのか、答えないのならば次は当てるぞ…!」

男の目にはとてつもない怒りが見える。花陽にしてみればそれだけで身の竦む思いだろう。

「何を怒られているのかは分かりませんが、少し落ち着かれてはどうですの?」
「黙れ!お前たちが本当にお前たちだというなら、その証拠を見せろ!」


329 : 悲しみの息の根を止めて ◆BLovELiVE. :2015/05/19(火) 00:55:06 oOZJbEvY0

再度その手に手袋を付け直してそう叫ぶ男。

(はぁ…。何をおっしゃられているのかは分かりませんが…)

会話が通じる状態でないことは確かな様子。
ここは少し荒っぽくなるが。


手を振り上げ、さっきと同じようにこちらに向けて指を鳴らそうとする男。
おそらくそれが能力顕現の動作なのだろう。

鳴らした指から光が走り、二人の居場所へと炎をまき散らす。

が。

「残念。アクションが必要なら見切るのは難しくはないのですわ」

発火寸前に二人の姿が消え。
同時に男の眼と鼻の先にその姿が現れる。

「え?え?」

混乱する花陽を尻目に、黒子はその手を男の胸に当て。
次の瞬間、男は逆さまになって地面へと激突した。

そのままうつ伏せになった男の腕の関節を極めて動きを封じる黒子。

「ぐっ…!」
「私が私である証拠、と仰られるのならば、この空間移動(テレポート)能力が何よりの証拠になりますわ。
 これ以上何かが必要、と言われるのであればいっそあなたの体をそこの池の中にまで飛ばして差し上げましょうか?」
「…………」

それまでは抵抗していた男の力が緩む。
同時にこちらを見る目から殺気と敵意が消えていく。

「…どうやら君は本物のようだな。
 では、そちらの少女は?証明する手段があるのか?」

しかしそれでも花陽に対しては警戒を続ける男。
ビクリ、と花陽が体を震わせる。

「少なくとも彼女はそこの建物内に連れて来られてから、たった今私と共に出てきたところですの。
 あなたが何を考えてそう問われているのかは分かりませんけど、ずっと私と一緒だったということは言えますわよ」
「…分かった。君たち二人はエンヴィーではないようだ。驚かせてしまってすまない」

男が謝罪すると同時に黒子はその拘束を解く。
立ち上がろうとした男は、しかし足で地面を踏みしめることができないかのようによろけこむ。

「あ、血が…」
「ちょっと、大丈夫ですのあなた?」
「心配ない、君たちが違うと分かった以上、早くやつを追わないと…」
「そんな体で動こうなんて、無理しすぎですわ!あなたには聞きたいこともありますし、少しこの建物内でお休みになられては」
「いや、そんな暇は……」
「それに、さっきの攻撃、もし私が能力者じゃなかったらまるこげの死体二つができあがっていたのかもしれないですのよ?もう少し落ち着かれたほうがよろしいのではなくて?」
「……」

男は目線を先ほどまで二人がいた場所にやる。
その地面は真っ黒に焦げており、もしここに人が立っていたならどうなったのか、それを言うまでもないだろう。

同じことをこの精神状態で繰り返せば、確実に死人が出る。

「…確かにそうだな。だがそんなやつを、君たちは信じて大丈夫なのか?」
「もし最初から殺す気だったなら最初の攻撃の時点で終わっていましたわ。理由があったのでしょう?何があったのか、お聞かせ願えます?」

フ、と自嘲するように笑った男は、黒子を真っ直ぐに見て口を開く。

「なるほど、君が白井黒子だな。ルイコの言っていた通りの人物だ」
「佐天さん…?知っているんですの?!」
「ああ」

と、男は少し視線を下げる。
まるで何かを悔いているかのようなその表情に黒子の中で嫌な予感が広がる。

「彼女の友人である君には、伝えておかないといけないな。少し中に入ろう」




330 : 悲しみの息の根を止めて ◆BLovELiVE. :2015/05/19(火) 00:56:20 oOZJbEvY0
「そんな…」
「…すまない。私の注意が足りなかったばかりに……」

346プロ建物内の一室に座る3人。
強引に動かしていた足の大まかな処置、そして花陽が持っていたスタミナドリンクによってある程度体力を取り戻したマスタングは、それまでにあった事実を黒子と花陽へと伝えていた。


そこで黒子に伝えられたのは、黒子の友人の一人・佐天涙子が死んだという事実だった。

「顔を変身させる人なんて…そんな人…」
「信じられないかもしれないが、事実なんだ。そしてそいつに、皆の顔写真がついた資料を奪われた」
「…なるほど。それが先ほどの強引なまでの尋問の理由でしたのね」

それらのことを話すマスタングの顔は怒りと後悔に溢れていた。
もしここで出会ったのが黒子達のように自分のことを証明できる者でなければ、さっきのような尋問を、対象が見つかるまで繰り返していたかもしれない。

「じゃあ…、もしμ'sのみんなに化けられてたら…。
 もしかしたら、みんなのことも、凛ちゃんや穂乃果ちゃん達のことも信じられなくなるの…?」
「小泉さん、落ち着きなさいな。
 マスタングさん、そのエンヴィーという変身能力者ですが、その変身に何か弱点のようなものはありますの?」
「そう…だな。姿形に関しては見分ける手段は少ない。だが似せられるのはあくまで外見だけだ。知識や能力についてもし齟齬が出るようならすぐにボロが出るだろう」
「なるほど。つまり私達の知り合いの皆に関しては証明する手立てがある、ということですわね」

黒子がテレポート能力を使用することで自身の存在を証明したように。
御坂美琴の電撃能力、婚后光子の空力使い、食蜂操祈の洗脳能力。この辺りの証明は難しくはない。

初春飾利については佐天涙子自身から聞かされている。彼女のことがとても大事だったようでかなり細かい内容まで教えてもらっていた。
その中にあった情報、適当な花言葉を自信満々に話すということがあるらしく、つまりそのことについてを聞けば判別は可能だということだ。



問題は。

「小泉さんのお友達の皆様、ということになりますわね」
「…はい」

花陽の友人であるμ'sのメンバー。
彼らはそういった能力による判別をすることができない。

もしメンバーの皆が見ればおそらく判別することは可能だろうが、そうでない者達の中にその顔で偽って紛れ込んでしまえば厄介極まりないことになる。


花陽にしてみれば、黒子の友人を殺した相手が皆の近くに出るなどと考えただけで恐ろしくなってしまう。
もしそれらのせいでみんなが傷付く、はたまた死ぬようなことがあれば。

「…何か君たちだけで分かるような暗号、のようなものはないのか?」
「そう言われても…。えっと……、μ'sの歌の歌詞とかみんなの名前とか……。
 あ、そうだ。…それじゃあ、μ'sの名前の由来とかみんなの家族についてとか、そういうことだったら、どうでしょう…?」
「ふむ…。家族関係ならこの場にいない者のが望ましいかもしれないな。あの名簿にはそういった情報も載っていた。全てを覚えているわけではないが万が一ということがある。念の為に色々教えておいて欲しい」
「分かりました」

そうしてマスタングはμ'sの名前の由来―――女神の名前から取ったものであるということ、その名付け主である東條希。
加えてメンバーの一人、絢瀬絵里の妹の名前、亜里沙という情報を頭に叩き込んだ。

あと念のために細かな情報についても逐一情報を集めておく。
高坂穂乃果は普段レッスンの時にほの字が書かれた服を着ていること、星空凛は猫アレルギーだということ、西木野真姫はμ'sの作曲担当であること、など。


だが。

「………」
「どうなされまして?」
「いや、これだけでは不十分だ、とね。あの場所でエンヴィーに騙された時は、死にかけの状態を装ってこちらに近づいてきた。
 もし今言った情報についてを問いかけられるような状態でなかった場合は……」

そうだ。同じ轍を踏むわけにはいかない。
あの時の失敗を繰り返すわけにはいかないのだから。

「何か、見分ける手段などはありますの?」
「…………」

記憶を巡らせるマスタング。

あの時死にかけていたエドワード。
その姿は紛れも無くエドワード・エルリックの姿。
全身に付着したものは血。見ただけで判断できるものではない。
かと言ってその確認のためだけに相手に攻撃をするわけにはいかない。

近寄ったあの時に体を襲った強烈な蹴りの痛みが今でも思い出せる――――

(…待て)


331 : 悲しみの息の根を止めて ◆BLovELiVE. :2015/05/19(火) 00:56:56 oOZJbEvY0

その事実を思い返した時、マスタングは一つの疑念を思い浮かべた。
あの時の蹴りの衝撃。あれはあの体が機械鎧であったとしてもあまりに強烈すぎるものではなかったか?

まるで極太の鉄柱にでも叩き付けられたかのようなダメージ。未だに打ち付けられた箇所が疼いている。

(そういえば、あいつは体を巨大化させていたあの姿を”本気の状態”と言っていた。あの体の質量が紛れも無く本物であるとしたら、普段のあいつの質量は――――)
「マスタングさん?」
「…可能性の話だが。あいつは巨大なトカゲのような体を本当の姿と言っていた。そしてその時のやつの体重は相当なものだった。
 あいつがもしその体重までを変化させることができないのだとしたら…」
「つまり、死体や重症人を騙って近づいてきたならその体を持ち上げれば確認できる、と?」
「あくまでも可能性の話だ。それにこの確認のためには至近距離まで接近する必要がある、危険度があまりに高い」
「それならご心配なく。私の能力は相手に触れていてこそ発揮できるものですわ。それに多少の荒事には慣れています」

もし触れた瞬間に何かしらの動作があれば、あるいは触れた本人が言われたように偽物だと確信が取れたならば、瞬時にテレポートで離れればいい。
この辺りは一瞬の判断に委ねられるが、自分ならまだ対処は可能なレベルだと黒子は言う。

「本当に大丈夫なのか?」
「くどいですわね。私を誰だと思っておいでですの?学園都市レベル4にして風紀委員(ジャッジメント)ですのよ?」

こうして一通りの情報交換が終わり。

マスタングはエンヴィーを探して出発しようとしたところでその覚束ない足取りを見て黒子が静止した。

「その足でそのエンヴィーという輩に出会って、満足に戦えますの?」
「…これは私の責任だ。私自身の手でケリを付けなければならないものだ」
「それを言ったら私だって友達を一人殺された立場の人間でしてよ。ましてやあなたは怪我人。もう少しここで休まれてから出発した方がよろしいのではなくて?
 話を聞く限りだとそいつはあなたの姿でよからぬことをしておられる可能性が高いのでしょう?あなた一人でその全てを対処できて?」
「………そう、だな。すまない、少しは落ち着いたと思ったが、まだあいつに対する怒りで自分をコントロールできていなかったようだ」

花陽がスタミナドリンクを数本取り出してマスタングに渡した後、少なくとも足の調子がある程度よくなるまではこの場で待機することとなった。
黒子達も行けるところまでは彼に同行するために一時的にこの346プロでの休息を取ることにした。
花陽の友人を探すために音ノ木坂学院に向かうことが少し遅れてしまうが、彼女自身も了承してくれた。



(…全く、以前鋼の達に言われたことだったというのに、私は成長していないな……)

佐天涙子を殺したエンヴィーへの、そして彼女を守れなかった自分への怒り。
その二つが入り混じって、また道を踏み外すところだった。

彼女にも言われたことだったのに。

しかしここで彼女の知り合いに会えたのは僥倖だった。涙子の死を通して自分を落ち着けることができたのだから。

(ああ、今度こそはちゃんとこの手で決着をつけてやろう。エンヴィー)

マスタングは静かに、一つの決意をする。
かつて殺さなかった者に対する明確な”殺す”という意志。
しかしそれは憎しみからくるものではない。あいつを止めることで、涙子のような犠牲者を出さないために。

目の前のテーブルに置かれた一本のスタミナドリンクを飲み干したマスタングは、再び手を合わせる。
先のように即興で行った治癒ではない、今後の行動に支障を出さないための治癒を行うために。






332 : 悲しみの息の根を止めて ◆BLovELiVE. :2015/05/19(火) 00:57:15 oOZJbEvY0

「ねえ、白井さん、いいの…?」
「何がですの?」
「その佐天さんって子、白井さんのお友達だったんだよね…?」

ほんの少し出てくる、と言ってマスタングの元を離れた黒子。
そんな彼女が気になった様子の花陽が黒子に同行して廊下を歩いていた。


その際、花陽が黒子に問いかけたのがその言葉だった。

「その、私がこういうこというのも分かってないんじゃないかって思われちゃうかもだけど。でも、お友達だったならその子のところに行ってあげたほうがいいんじゃないかなって…」
「いえ、そんな暇はありませんわね。そのエンヴィーという輩を止めなければ犠牲者が増えることは明白。…もし彼女の元に行くことがあるとするなら、全てが終わってから、ですわね」
「そう、なんだ。ごめんなさい、何か余計なこと言っちゃって…」
「いいんですのよ、小泉さん。本来ならそうするのが友達なのだと思いますから。私がただ自分の役目を優先しただけのことですわ」

と、黒子は花陽から顔を逸らして、まるで髪を掻き上げるような仕草を取った。

「白井さん…?」
「何でもありませんわ。少し気持ちの整理がしたかったもので。戻りますわよ」

そう言ってマスタングの待つ部屋へと戻ろうとする黒子。
花陽にはその瞳が、少しだが赤く腫れていたように見えた。



(エンヴィー…、非人間にして変身能力所有者…。覚えましたわ)

情報交換が終わった後、佐天涙子の死を明確に意識した時に不意に抑えきれぬ感情が黒子の中に沸き上がっていた。
これまではまだ抑えられていたものだが、何もしなくなった途端に自分の中でも処理しきれなくなってしまった。
だがそれをマスタングの前で出すわけにはいかなかった。それはきっと彼の心に負担をかけることになるだろう。

そんな能力を持った者が近くにいる今下手に離れるのは危険だと分かってはいたが、それでもほんの少しだけこの気持ちに整理を付ける時間が欲しかった。

もしそのエンヴィーと相対した場合、自分はこの感情を抑えられるだろうか?
この感情に任せて戦うこと、それはきっとこれまでの自分の生き方に大きく反するものだろう。

あくまでも殺し合いをする者を止めるためにジャッジメントとして戦うことが、果たしてできるだろうか。
今の自分には分からない。

だが。

(…佐天さん、あなたの死は無駄にはしませんわ。絶対に、そのエンヴィーにその罪を償わせてみせます)


気持ちだけでも、あくまでジャッジメントとして戦うことをその胸の中で決意した。
せめて彼女の死に報いるためにも。同じような犠牲者を、二度と出すことがないように。

【B-7 346プロ /1日目/黎明】

【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:両足に銃槍(止血済み、しかしかなり雑な処置で足全体に痛みが残留中)、疲労(小)
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、即席発火手袋×7
[道具]:ディパック、基本支給品
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
1:エンヴィーを殺す。
2:エドワードと佐天の知り合いを探す。
3:ホムンクルスを警戒。
4:まず足の処置を済ませてまともに歩けるようにする。
5:ゲームに乗っていない人間を探す。
[備考]
*参戦時期はアニメ終了後。
*学園都市や超能力についての知識を得ました。
*佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。
※即席発火手袋は本来のものに比べて材質や作りが劣るため使い捨てとなっています。


333 : 悲しみの息の根を止めて ◆BLovELiVE. :2015/05/19(火) 00:58:42 oOZJbEvY0
【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ 、スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す。
1:白井さんと同行する。
2:マスタングの回復を待った後音ノ木坂学院に向かう。
3:白井さんが心配

[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後

【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(小)
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、スピリタス@ PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春さんなどの友人を探す。
1:花陽さんを守ってあげる。
2:マスタングの回復を待った後音ノ木坂学院に向かう。
3:エンヴィーは絶対に止める。どう止めるかは…?

[備考]
※参戦時期は不明。


※クマの拡声器の声について、346プロの防音処置故に聞こえなかった可能性がありますが時間的にまだ放送がされていないことも考えられます。

※これまでにあったこと、それぞれの知り合いについての情報を交換しました。


334 : ◆BLovELiVE. :2015/05/19(火) 00:59:18 oOZJbEvY0
投下終了です


335 : ◆w9XRhrM3HU :2015/05/19(火) 01:07:03 e4eGB5FA0
投下乙です
大佐は信頼できる仲間が出来て何より
そして即席とはいえ指パッチン手袋復活は熱い

自分も投下します


336 : 純白のスーツは、少女の決意と黒猫に染まる… ◆w9XRhrM3HU :2015/05/19(火) 01:10:03 e4eGB5FA0
「やあ、猫(ねこ)ちゃん」
「げっ!」

殺し合いの場であるとは思えぬほど、軽々しい声でその男は話掛けてきた。
白いスーツを優雅に着こなし、飄々とした白人男性。
杏子は警戒よりも先に呆気に取られてしまう。
対しては猫(マオ)は思わず嫌そうな声をあげてしまった。

「始めましてキョウコ。私はジャック・サイモン、ジャックとお呼びください」

名簿にそのような名前はない。
清清しいまでの偽名。
少し頭が回れば、名前が記載された名簿がある以上、その名簿内から名前を使うという考えに至るはず。
そこまで考えられない馬鹿なのか、単に馬鹿にされているのか? 杏子は舌打ちをし、槍を精製し構えた。

「悪いけど、私はこの殺し合いを勝ち抜く。
 だから、あんたはここで殺す」
「おやおや、それは怖い。
 ですが貴方と事を起こす気は私にはない。ここは見逃してもらえませんか?
 君のような、悪ぶったお子様にそんな物騒な物は似合いませんよ」
「あ?」

あえて敬語を使い、余裕ぶる。
人を逆撫でさせるような話し方だ。
しかも、人をお子様扱いというオマケ付き。
こっちは、お前の倍以上は犯罪も犯してる。殺人染みたこともだ。
それを知らずに、のうのうとよく言えたものだと杏子は思う。
ジャックの挑発するような態度はナリを潜めない。
杏子の苛立ちが増す。あの男はこの槍が見えていないのかと。
一見、無防備なあの様子で何が出来るというのか。あるいは、武器など必要ない魔法少女や契約者の類か?

「おい、杏子。あいつは―――」
「らぁっ!」

猫の忠告も聞かず、槍を携え駆け出す。
一度の踏み込みで距離を詰め、一気に肉薄する。
ジャックは何も動じない。ただ笑みを浮かべたままだ。

「うぜえ……」

胴へ向かい槍の刃を薙ぎ払う。
あの高そうな純白のスーツは一気に真紅へと染まる。
ジャックの苦痛と後悔の入れ混じった悲鳴と共に。
だというのに、やはりジャックは余裕を崩さない。
死ぬ間際まで、こちらをおちょくるつもりか。

「なっ!?」

槍に手応えを感じた。
だが、それは獲物を切り裂いた鈍い感触ではない。
その逆。獲物を仕留め損ね、攻撃を防がれた硬い感触。
甲高い金属音が杏子の耳を刺激する。

「良いだろうこれ? インクルシオと言うらしい。
 流石、日本のコスプレ文化だ。世界の最先端を行ってる」

鎧だ。
杏子の槍が届くより速く、ジャックの全身が白い鎧に包まれていた。
まさか、これがジャックの能力なのか? だから、あんな余裕を保っていられたのか?
杏子は冷静に思考し追撃を避ける。
相手が未知の能力である以上、一旦距離を起き様子を見るべきだ。


337 : 純白のスーツは、少女の決意と黒猫に染まる… ◆w9XRhrM3HU :2015/05/19(火) 01:10:49 e4eGB5FA0

「? こいつは……!?」

距離を取るべく、足に力を入れ、動かない。
正確には膝までは動く、だが足首より先が冷たさと同時に地面に張り付いたかのように動けない。
杏子は咄嗟に足元を見た。

「凍ってやがる?」

鎧を解いたジャックが、空になったペットボトルを見せ付けるように弄ぶ。

「ちゃんと、猫ちゃんの忠告を聞いておくべきだったな」

杏子はジャックを睨み付ける。
足さえ動けば、今にもあのムカつく顔に顔面に一発叩き込んでやりたいぐらいだ。
槍を叩きつけ、氷を削る。
それを見たジャックが軽く口笛を吹いた。
初めて笑みが消えたが、杏子は全く嬉しくない。

「見た目より、ワイルドだな君は。
 頑張りたまえよ。ただ、先に言っておくと君の足は表面しか凍らせていないとはいえ、無理に割ったりすると足ごと粉々になりかねない。
 落ち着いて慎重にすることだ」

そう言うと、ジャックは手に黒い謎の物体を掴み上げた。
いや、あれは謎の物体なんかじゃない。
生きてジタバタして耳が二つ生えているあれは。

「ま、猫!」
「助けてくれー!」
「これは戦利品として貰って行こう」
「返せ! 私の支給品だ!」
「正確には君に支給された、だ。支給品を奪ってはいけないとは誰も言っていない」
「ふざけんな!」
「そうそう、それからもう一つ。いい子はもうおねんねの時間だ。
 悪戯も大概にしといた方がいい。手痛いお灸を添えられる前にね」
「て、っめえええ!!」

苦し紛れに槍を投擲するがあっさりかわされる。
ジャックは呆れた顔を浮かべながら口を開いた。

「経緯や本質は違えど、君も契約を結んだ者だろう? なら、もう少し合理的に考えたまえ」
「何!?」
「この殺し合いに乗ってしまったことだよ。あの男の言葉を鵜呑みなど良く出来たものだ」 
「はっ、合理的に考えれば、殺し合いに乗るしかないだろ!
 こんな爆弾まで首に嵌められてんだぞ!」
「やれやれ、お子様は短絡的だから困る。それは合理的とは言わない。諦めと言うものだキョウコ」

ジャックは「困った子だな」と言いたげなジェスチャーをすると、そのまま杏子の前から姿を消した。

「くっそ、あの伊達男、次は絶対殺す!
 ……猫も待ってろ」

苛立ちが募る。
良い様にあしらわれ、支給品まで奪われた。
情けないことこの上ない。
しかも、その支給品はこの場で出来た唯一の相棒とすらいえる存在だ。
やはり奪われる前に、奪うしかない。この殺し合いも同じだ。
猫どころか、今度は命まで奪われてもおかしくない。
ジャックは何故か止めを刺さなかった。こちらを舐め腐ってるのか、合理的に考えて脅威にならないと決め付けたのか。
何にしろ、止めを刺していかなかった事を必ず後悔させてやる。


「やってやるさ……。あいつ、ジャックとか言ったよな。
 何が合理的だ。殺し合いに乗る事が、私のほうが正しいって事を証明してやる……」

強く杏子は決意し、氷を削る作業に戻る。
後は、ガツガツと空しく槍と氷がぶつかり合う音だけが響いた。






338 : 純白のスーツは、少女の決意と黒猫に染まる… ◆w9XRhrM3HU :2015/05/19(火) 01:11:23 e4eGB5FA0
「さて、猫ちゃん。
 二人っきりになったね」
「その言い方は止めろ、気色悪い」

ジャックに摘まれたままの猫は溜息を吐く。
よりにもよって、何故この男と遭遇してしまったのか。
ジャック・サイモン。
この殺し合いの名簿において、ノーベンバー11として名が記された契約者。
MI6最高のエージェント、だった男だ。
彼は死んだ。
自らの上司の思惑。契約者を全て消すという計画に気付き命を狙われ、その上司を道連れに死亡した。
最後の対価を払わぬまま……。
それがノーベンバー11の最後の記憶だ。

「と、つまりそういうことでね。
 私は生き返ったのか、ここはあの世なのか。君に聞きたかったんだよ猫ちゃん」
「安心しろ。前者だ。
 そんなこと杏子に聞けばてっとり早いだろうに」
「いやいや、まだ聞きたいことがある。それも君にしか聞けないことだ。
 私の死後。何故、ジュライと行動を共にしていたのか教えて貰おうか」
「なんでそれを……」
「私が何故、キョウコの名前を知っていたと思う? 君達をつけ、話を盗み聞きしたからさ。
 何度か見失いかけたがね」

ノーベンバー11と遭遇するもっと前。
猫は杏子と共に参加者名簿を確認していた。
その際、猫は黒と銀の他に共に旅を続けた蘇芳・パブリチェンコ、ジュライの名を口にしている。
それを聞かれてしまったのだろう。
元々はジュライはノーベンバー11のチームに居た。
それを知れば、ノーベンバー11が興味を持つのは当然と言える。

「私が死んだ後、何があったか? 蘇芳・パブリチェンコとは何者か?
 何より……」

声が強張る。
杏子に対して見せた余裕と飄々さは消え、そこには強い怒気が込められていた。

「エイプリルはどうした?」

エイプリル。
ジュライと同じく、ノーベンバー11のチームだった女性だ。
ノーベンバー11の死後も彼女はジュライと行動を共にするだろうことは予測できる。
だが、猫はエイプリルに関してはノータッチだった。

「それは……」

猫はノーベンバー11の死後二年後の出来事を全て話し出した。
同じチームに居た銀がイザナミへと覚醒したこと。
その事件が絡んだ依頼で、ロシアにおいて黒がエイプリルを殺害したこと。
その後、黒、蘇芳、猫、ジュライが行動を共にし旅を始めたこと。
全ての出来事を猫は正直に話した。
余談として、モモンガの姿をしていたのに、この場でまた黒猫の姿に戻ったこともついでに。
もちろん、嘘を話すという選択肢も浮かんだ。
しかし、ノーベンバー11は死んだと言っていたが、生きて何処かで猫達の情報を知っていたという可能性もある。
というよりそう考えるのが自然だ。
ならば、嘘を吐いて見破られるより正直に話すべきだろうと、猫は合理的に判断した。

「そうか……。彼女は」

タバコを咥え、火を着ける。
煙がノーベンバー11の口から吐き出された。
ノーベンバー11の対価である喫煙だ。
嫌々ながらに吸うその姿は全く様にならない。

「これが俺の知る全てだ。といっても、お前も幾つか知ってるんだろう?」
「いや、私は本当に死んだんだよ。生きて身を隠していたと思うかい?
 信じられないかもしれないが、死んで生き返ったのが事実だ」
「そんな馬鹿な……」
「本当の事だ。
 この場に来て、私が最初にしたのは何だと思う?
 死ぬ間際に払い損ねた対価を払うことさ。
 最後まで、律儀に払うこともないと思っていたんだがね」

苦笑しながらノーベンバー11はタバコを落とすと踏みつけ火を消す。
そして、ディバックから一本の缶ビールを取り出す。
蓋を開ける勢い良く炭酸が抜ける音がノーベンバー11の耳を撫でる。
ノーベンバー11は缶ビールに口を付けるでもなく地面に置いた。

「これは、エイプリルの対価だ。何の因果か私の支給品だった」
「供え物って訳じゃないだろうな」
「さあ? ……彼女は私と違い、好きなものが対価になった契約者だった。
 羨ましいよ、全く」

そう言うと、ノーベンバー11は猫を掴んだままディバックへと放り込む。
話をすればお役ごめんだと思った猫は反応が遅れた。

「何の真似だ一体?」

ディバックの中でもがきながら何とかよじ登り、顔だけ外に出した猫はノーベンバー11に問いかける。


339 : 純白のスーツは、少女の決意と黒猫に染まる… ◆w9XRhrM3HU :2015/05/19(火) 01:12:10 e4eGB5FA0
「何、 トゥーゼロワンBK。いや君達のコードネームでは黒だったかな?
 彼と出会った時、君が居た方が話が早いと思ってね。
 それに、ジュライが懐いたという蘇芳という娘にも興味が沸いてしまった。
 付き合ってくれるかな猫ちゃん?」
「なんで黒と……。
 まさか、エイプリルとかいう奴の仇討ちのつもりか? 契約者の癖に」
「面白い冗談だ。私はただ合理的に行動しているだけだよ猫ちゃん。
 それに、キョウコが追いかけてきた時、君は良い人質ならぬ猫質になる。
 かなり仲が良さそうだったからね」

猫は溜息を吐いた。
しばらく、殺される心配はないとは言え、やはり落ち着くものではない。
黒か銀か蘇芳か杏子。誰でもいいから早く自分を取り戻しに来て欲しい。

(何より、杏子は良い足首だったんだがな……)

彼女の生き方も見ていて面白かったが足首も良かった。
足首だけで女性を判別できる猫からすれば、杏子は非常に良い足首をしていたのだ。
別れるのは惜しかったが、いずれこちらを追いかけてくることもあるだろう。
今はじっとして待っていよう。

(ドールの進化、イザナミか……。
 私の死んだ後も、かなり賑やかにやっていたようだ)

知るべき事はまだまだ多い。
猫からだけではなく、もっと多くの参加者と接触し情報も得るべきだろう。
特に黒、銀、蘇芳の三人は優先して接触したい。

(君とは、切っても切れない縁のようだな。トゥーゼロワンBK……)


【Cー2 北部/黎明】

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、ノーベンバー11に対する苛立ちと怒り、殺し合いに乗る強い決意、足が氷漬け
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実 大量のりんご@現実 不明支給品0~2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを勝ち残る
1:まずは北方司令部に行き、その後地獄の門に向かう
2:どこかの施設に籠城することも考える
3:承太郎に警戒。もう油断はしない
4:巴マミには……?
5:ジャック(ノーベンバー11)は絶対殺す。猫も取り返す。
6:ジャックに殺し合いに乗る自分が正しいと証明してみせる。
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました
※後数分、氷を槍で削れば動けるようになります。

【ノーベンバー11@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:インクルシオを装備した事による疲労(中)、黒にエイプリルを殺された怒り?
[装備]:悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!、猫@DARKER THAN BLACK 黒の契約者
[道具]:基本支給品一式(飲料水一本消費済み)、狡噛のタバコ&ライター@PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考・行動]
基本方針:契約者として合理的に判断し行動する。今の時点で殺し合いに乗る気はない。
1:参加者と接触し情報を集める。(特に黒、銀、蘇芳)
2:黒と出会った場合は……。
3:蘇芳に興味。
4:杏子が追いかけてきた場合は猫を猫質にする。
※死亡後からの参戦です。
※黒の契約者第23話から流星の双子までの知識を猫視点で把握しました。
※杏子と猫の情報交換をある程度盗み聞きしています。
※悪鬼纏身インクルシオはノーベンバー11が本来の所有者ではなく鍛錬も積んでいないのに加え
 相性もそんなに良くはないので、長時間の使用は不可です。
 ノインテーターと奥の手(透明化)も使用できません。
※猫は黒猫の姿ですが、流星の双子での知識もあります。
※Cー2に蓋の開いた缶ビールが放置されています。


【悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!】
主人公タツミが所有する鎧の帝具。
凶暴な超級危険種タイラントを素材として作られた帝具で、素材となった竜の強靭な生命力により装着者に合わせて進化する。
身体能力を向上させ、更に副武装として「ノインテーター」と呼ばれる槍、奥の手として「透明化」などがある。
だが、本来の所有者のタツミですら「ノインテーター」と「透明化」はおろか長時間の装備に耐えうるまで、相当な鍛錬を必要とした。
その為、使用者の相性にもよるが精々短時間装備するまでが限度。


340 : ◆w9XRhrM3HU :2015/05/19(火) 01:12:47 e4eGB5FA0
投下終了です


341 : ◆5cyPCmuV8s :2015/05/19(火) 12:25:43 9ds3h2Os0
投下します。


342 : わたしが、心を決める時 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/19(火) 12:26:35 9ds3h2Os0
【承太郎1/2】


「その前に名乗らせて貰うぜ、俺の名は空条承太郎」
「あ、はい。わたしは鹿目まどか、……まどかと呼んでください」


名乗りを終えた長身の青年――空条承太郎は僅かに躊躇するも身をかがめた。
桃色の髪の少女――鹿目まどかは承太郎の左肩に両手をかざし僅かな光を当てた。
先程、まどかの頭部を修復したのと同じ光だ。
承太郎はまどかが自分に敵意がないのを改めて認識すると言った。


「あの槍使いの女……あいつは名乗りはしなかったぜ……」
「え……」

淡々とした、それでいて憤りが入り混じった承太郎の返答だった。
その語気の強さにまどかはしばし呆気に取られた。
だがその言葉に込められたもう一つの意味を察したのか、まどかの表情が僅かに曇る。
まどかは自らの服の胸元をぎゅっと掴んだ。


「……そうですか。何か……良くないことがあったんですね」
「ああ」


共闘し治癒までされていなければ、承太郎は単刀直入にきつくまどかを問いただしていただろう。
殺し合いに乗り、あまつさえ人間を餌の餌と見下した魔法少女との関係を。
だが僅かにやり取りした程度ではあるものの、承太郎はまどかの人柄をある程度評価していた。
なので荒っぽく説明を求めるまでもないと判断した


「あの……承太郎さん。その女の子の事詳しく教えてくれませんか」

意を決したまどかの問いに、承太郎はゲーム開始直後の出来事を話し始めた。


343 : わたしが、心を決める時 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/19(火) 12:27:08 9ds3h2Os0
【まどか1/2】


「……」

予想出来ていなかった分、よりまどかのショックは大きかった
まどかは自分と同じ魔法少女が殺し合いに乗っている事を嘘だと否定したいができなかった。
承太郎がある程度まどかを信用してるように、まどかも承太郎を信用しているのもある。
異常な回復力を見せたまどかを気味悪がって立ち去るか、あるいは攻撃してきてもおかしくないのに
普通に接してくれたからだ。

そして何より、自身の魔力がだいぶ消耗しているのを意識した結果、
承太郎の言う、魔法少女にとって人間が餌の餌という意味にすぐに気づいてしまったからだ。


まどかたち魔法少女は生きてるだけで魔力を消費、魔法を使えばより多くの魔力を消費する。
彼女達の認識では魔力は自動回復させる事はできず、いずれ魔法が使えなくなる。
魔法少女の本体である契約の印である宝石 ソウルジェムに蓄積されてく穢れの為に。
その魔力を補充するには魔女もしくは、魔女が産み出す使い魔が魔女に変化したのを斃す時に
たまに落とすグリーフシードという卵のようなものが必要になる。
グリーフシードはその穢れを一定量移しかえ、ソウルジェムを浄化する事ができるのだ。

魔女は形の無い悪意として人知れず人間を殺し、力を蓄え増殖していく。
その所業と特徴はほぼ全ての魔法少女が知っている。
故に魔法少女はグリーフシードを得る為、自分達の居場所を守る為等の理由で
魔女と戦うのだ。



「もっとも他の似た奴かも知れねえけどな」
「……」



何気なしに言ったような承太郎の呟き。
それに対し、まどかは"いえ、杏子ちゃんで間違いないと思います"と、口を開こうとしたが止めた。
向こうがどう思ってるかは解らないが、まどかにしてみれば友達の一人だからだ。
自分ではっきりさせられるまでは口には出したくないとまどかは思った。
だが同時に冷めてこそいないが、冷静な分析がまどかの脳内で働いた。

意識して序列付けしている訳ではないが、佐倉杏子はまどかにとって一番縁の薄い魔法少女である。
まどか達の願いを叶え、代償として魔法少女にした謎の生物キュゥべえの依頼で、
援軍の名目で派遣されてきた先輩の巴マミの知己である別町に住む魔法少女。
素行、言動ともお世辞にも良くなく、まどかの親友である美樹さやかが嫌っていた素性不明の少女。
まどか自身、最初はいい印象はなかったが、ある時ソウルジェムの秘密に気づいたのを切っ掛けに
徐々に親しくなってはいたが……。


344 : わたしが、心を決める時 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/19(火) 12:27:31 9ds3h2Os0
「魔法少女は人間を餌の餌にする……できるというのは本当なんだな」
「はい」


承太郎の質問にまどかは少々顔を青ざめさせながらも強い眼差しで見つめ、答えた。
そしてグリーフシードの事を自分の知識と経験が及ぶ範囲で説明していく。
説明を聞き終えた承太郎は帽子の鍔を手にし溜息を付いて、だが強い意志を込めて呟いた。


「放っちゃ置けねえな」
「……」


敵意こそ和らいだが、強い非難の色が濃い承太郎の呟きに無言でまどかは頷いた。
まどかは参加者名簿に記された自分を含む5人以外の魔法少女を知らない。
ゆえに自分の保身と欲望の為だけに魔法を行使する魔法少女がいるなんて予想すらしていなかった。
まどかと出会う前の杏子がどういう悪事を働いていたのかも想像すらしなかった。


まどか自身知る由もないが、利己的な魔法少女は実はそう珍しくはない。
魔法少女同士、グリーフシードを巡って殺し合いをする事もままあるくらいだ。
どちらかと言えば巴マミのような、グリーフシード獲得よりも人命救助を優先させる
ヒーロー然した魔法少女の方が珍しいのかも知れない。
だが、まどかは多少の違いはあれど巴マミに近い信条を持つ魔法少女だ。


承太郎が呟いた、"放っちゃ置けねえな"はまどかも同意する事でもあった。
そのまま見て見ぬふりをする訳には行かなかった。


「ところで参加者名簿に記載されているおめーの知り合いは全員魔法少女か?」
「はい。わたし鹿目まどか。美樹さやかちゃん、先輩の巴マミさん、暁美ほむらちゃん、佐倉杏子ちゃんの
 五人です。他にもいるかも知れないけれど。承太郎さんは?」


まどかは名簿の方を指さし答えた。
それに対し承太郎も返す。



「……俺と祖父のジョセフ・ジョースター。
 仲間のモハメド・アヴドゥルと花京院典明と犬のイギー……そして俺達の敵であるDIOって野郎だ」
「えっと……そのDIOって何者なんですか?」



基本的に魔女達の名称を魔法少女が知る事はない。強力な個体に通称が付く事はあるが。
だからこそのまどかの疑問であった。


345 : わたしが、心を決める時 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/19(火) 12:27:57 9ds3h2Os0
「百年以上生きる吸血鬼で、俺達と敵対しているスタンド使いだ。
 金髪の得体の知れない大男に会ったらとにかく警戒する事だな」
「うーん、地図にも載ってる名前ですよね。あの広川って人の知り合いですか」


ネームバリューがなかったらDIOの館ていう建造物があっても注目しないのにと、まどかは思った。


「奴の交友関係はよく分らねえ。奴の部下とは何度も争ったが奴自身とは直に会った事は無いからな」
「その中に魔女……らしき人はいましたか?」
「それらしき老婆はいたが、おめーの言う魔女はいなかったと思うぜ。そっちには吸血鬼やスタンド使いはいなさそうだな」
「わたしも、多分マミさんも会った事はないと思います」


まどかは名簿をしげしげと見ながらそう言った。


「続けていいか?」
「はい」


淀みなく会話するまどかにちょっと承太郎は意表を突かれたようだった。
気を取り直し、眉間にしわを寄せ承太郎は言った。



「おめーを襲ったのは誰だ?」
「……」


後藤との戦いの前に起こった暴虐。
常人……いや超人や動物でさえもやられれば即死と取られるような頭部破壊。
いくら魔法少女とはいえ、ソウルジェムの性質を知らなければ、
死んだと思い込み死に至るダメージを与えた男を身震いしながらもまどかは思い出そうとする。



「……名前は解りません。暗くて細かいところも解りませんでしたが……
 確か承太郎さんと同じくらいの歳の男の人でした。
 あの時、時計塔の近くで……」



魔法少女に変身していれば夜目が効いていたのにと思いつつ、得体の知れない悪寒を抱えながらも
まどかは名も知らぬあの時の男の、花京院典明の凶行を語り始めた。


346 : わたしが、心を決める時 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/19(火) 12:28:17 9ds3h2Os0
【承太郎2/2】



まどかの身に起きた災難を聞き終えると、承太郎は帽子を深く被り憤りを抑えた。


「やれやれだぜ……」



まどかに対する憤りではない、花京院典明がここで凶行を働いているという現実に対してだ。


「知っている人なんですか?」
「……」


まどかが語る犯人の外見的特徴は勿論、行動と言動も承太郎が知る花京院の特徴と一致していた。
ただし肉の芽に支配されていた、承太郎が何で助けたのか解らないくらいの、
冷酷卑劣残虐なDIO狂信者だった時のと。

花京院は再びDIOの肉の芽に支配されたのかと承太郎はしばし考えたが、
DIOが近くにいればジョースター家特有の星の痣で位置がわかる筈だし、時間的にもあり得ない。
訳がわからない。
だが、これで承太郎の当面の方針は決まった。


「悪いな……そいつはおれの仲間の花京院のようだ」
「……!」
 

驚愕するまどかを他所に、承太郎は花京院を捜索せねばと思った。
時間は経っているが、これ以上花京院が悪事を重ねる前に何としても呪縛から解放せねばと思った
承太郎は北東を見た。
過去DIOの下僕としての花京院と交戦した場所は学校の保健室だった。
か弱い女医を操り人形兼人質として扱い、襲撃するという卑劣な方法で挑んできたのを思い出す。

今の時間帯だとゲーム開始から時間が経ってないことも有り病院の利用者は少ないだろう。
だが時間が経つに連れ、病院の設備に頼らざるをえない状況になる可能性は高い。
『あの時』の花京院なら負傷者を利用すべく病院を利用するのではと承太郎は考えた。
それに負傷させた赤い魔法少女が魔力とやらの節約のため利用する可能性も考えられる。


347 : わたしが、心を決める時 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/19(火) 12:29:54 9ds3h2Os0
「承太郎さんどうしたんですか?」
「花京院か、あの赤い魔法少女がいそうな所に向かう」

「わたしも連れて行ってください」

ぐいっと学ランの裾を引っ張りながらまどかは懇願した。
それに対し承太郎はデイパックを開き、中から3個の球状の物体を取り出し――
もう一つの可能性に気づきつつもまどかに渡した。


「これは?」
「やるぜ。花京院が奪ったおめーの支給品は俺が取り返す。もしもの時はこれを使って逃げな」

承太郎の支給品の一部、3個の手榴弾だった。
何やら反論しようとするまどかに対し、承太郎は彼女の手を掴み自らのソウルジェムを見せつけた。


「もう碌に魔法が使えねえんだろ」
「……」


まどかは沈黙した。
承太郎の言う通り、まどかのソウルジェムは大分濁っていた。
身体の重要器官である頭脳の修復、そして承太郎に対して使った治癒魔法。
さやかと違って得意分野でないまどかの治癒魔法の代償は少なくなかったのだ。


承太郎はまどかの手を離し、今度は真南の方を見た。武器庫のある方角。
病院以外で花京院と例の魔法少女の目的地と見当を付けている場所。
支給品に恵まれなかった力のない参加者が真っ先に行きそうな施設。
武器を入手する直前を狙って襲撃をかける可能性も考えられる。



「……」
「?」

まどかが半泣き顔で、承太郎を見つめていた。
承太郎は溜息をつきながら、やや語気を和らげて言った。



「置いて行きやしねえよ。おめーには順を追ってまだ聞きたい事が沢山あるからな」

まどかの表情が明るく安堵したものに変わった。
「やれやれだ」と、承太郎は言った。


348 : わたしが、心を決める時 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/19(火) 12:30:16 9ds3h2Os0
【まどか2/2】

承太郎の方針と花京院を主にしたスタンド使いの情報を聞いた後、まどかは他の魔法少女の事も話した。


「マズイな」
「……」


さやか、マミ、ほむらの魔法少女3人。
まどかがここに連れて来られる直前の彼女らは決して健全とはいえなかった。


さやかはほむらと杏子との関係が上手くいって無く、更にソウルジェムの性質を知った時から
情緒不安定になり、魔力も残りわずかであった。


ほむらは他の4人と比べ自前の攻撃手段に乏しく、足手まといにならないように自作の爆弾を作って
補っていたが、連携が上手くいかないこともあってさやかから特に嫌われていた。
キュゥべえに関して重要な秘密を知っているようだったが、認めるのが怖い類のものだったので
まどかを含め、誰も深く関わろうとせず実質孤立していた。
尚、ソウルジェムの本当の機能について知れたのは彼女のおかげであった。


マミは5人組の仲が上手く行ってないことに、ストレスを溜め込み悩んでいたようだった。


今置かれている状況だとわだかまりを捨てて一丸となれると、まどかは淡い望みを抱いていたのだが。
思えば甘すぎた。
まどかは魔法少女になった事で自信を付け、強気とも言える性格になったが、今の環境を変えたくないがために
本来ならできた筈の他者への配慮や現状把握を疎かにしてしまったのだと恥じた。


「花京院は俺一人に、赤い魔法少女の説得はおめーに任せるぜ、まどか」
「はい」


まどかは手榴弾の一つを承太郎に返しながら、ソウルジェムを見た。
半ば濁っているソウルジェムを見てまどかは暁美ほむらと花京院に襲撃された時の事を思い出していた。
もし、キュゥべえも教えてくれなかったソウルジェムの秘密を知らずにいたら、
まどかは間違いなくそのまま死んでいただろう。


349 : わたしが、心を決める時 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/19(火) 12:31:34 9ds3h2Os0

「……」


仲間との関係を壊したくないいがため、真実を知りたくないがため、
蔑ろにしてしまったほむらに対してまどかは謝りたかった。
そして命がある事をほむらに感謝したかった。
気がつけば半ば崩壊した魔法少女たちとの関係を修復しみんなで生還したかった。



「病院か、武器庫どちらにする?」


承太郎はどちらでもいいのだろう。後はまどかの決断次第だ。
病院に行けば赤い魔法少女(杏子)に会え、花京院の恐怖から解放されるかもしれない。
武器庫に行けば、ほむらに会えるかもしれない。
同行者である承太郎の当面の行き先で、彼の仲間だけでなく、今の花京院も目指す可能性が
充分あるDIOの館からも近い。後藤と遭遇しやすくなるリスクもあるが。
どちらも早期に訪れば有用な物品を入手できる可能性が高いと思える施設だ。



まどかは希望の行き先を承太郎に言った。



【A-2/北/1日目/黎明】

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中) 、精神的疲労(小)、
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、手榴弾×2
[思考・行動]
基本方針:主催者とDIOを倒す。
0:病院か武器庫を経由した後、DIOの館を目指す。後藤を警戒。
1:花京院を探し、洗脳されているようだったら救助する。
  魔法少女達はギリギリまでまどかに任せる。
2:情報収集をする。
3:魔法少女やそれに近い存在を警戒。
【備考】
※参戦時期はDIOの館突入前。
※後藤を怪物だと認識しています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※魔法少女の魔女化以外の性質と、魔女について知りました。
※まどかの仲間である魔法少女4人の名前と特徴を把握しました。
※まどかを襲撃した花京院は対決前の『彼』だとほぼ確信しています。


350 : わたしが、心を決める時 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/19(火) 12:33:44 9ds3h2Os0

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ソウルジェム(穢れ:中〜大) 、花京院に対する恐怖(小〜中)
[装備]:見滝原中学の制服 中指に嵌められたソウルジェム(指輪形態)
[道具]:手榴弾×2
[思考・行動]
基本方針:ゲームに乗らない。みんなで脱出する。
0:病院か、武器庫どちらかに向かう。
1:魔法少女達に協力を求める。悪事を働いているなら説得するなどして止めさせる。
2:承太郎の方針に従う。
3:ほむらと会えたら色々と話を聞いてみたい。
4:状況が許すなら魔力を節約したい。グリーフシード入手は期待していない。
【備考】
※参戦時期は過去編における平行世界からです。3周目でさやかが魔女化する前。
※魔力の素質は因果により会場にいる魔法少女の中では一番です。素質が一番≠最強です。
※魔女化の危険は在りますが、適宜穢れを浄化すれば問題ありません。
※『このラクガキを見て うしろをふり向いた時 おまえは 死ぬ』と書かれたハンカチは何処かに落ちています。
※花京院の法王の緑の特徴を把握しました。スタンド能力の基本的な知識を取得しました。
※承太郎の仲間(ジョースター一行)とDIOの名前とおおまかな特徴を把握しました。


351 : ◆5cyPCmuV8s :2015/05/19(火) 12:34:25 9ds3h2Os0
投下終了です。


352 : 名無しさん :2015/05/19(火) 18:17:27 WS7QIj5s0
投下乙です。ヒロインのごとく浚われる猫(おっさん)は2期からだったか
ノーベンバーにとっちゃ、仲間の死は複雑だろうな。少し安定した杏子の精神はまた崩れることに。

それから、まどか組の微修正お疲れ様です。はたして、二人はどちらへ行くか。


353 : 名無しさん :2015/05/20(水) 16:30:10 GPU8sUrA0
投下乙です

そう言えばマオは一期でもノーベンバーに浚われてた様な…w
そして杏子ちゃんもまた不安定に

承太郎とまどかはどちらに進むか、
進む方向次第では探し人両方に会えそうだが(ただしエスデス様がついて来る


354 : ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 12:59:20 /BPEuKdY0
昨日中には間に合うと言っておいて、遅れに遅れてしまい申し訳ありません。
投下を開始します


355 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:00:09 /BPEuKdY0

 ホテル夢有羅布楽雅。
 F-6エリア、川岸にあるホテルである。
 西洋の城をイメージしたデザインは、利用者に貴族気分を存分に疑似体験させてくれる働きがあった。
 その館内、最も広く豪奢な部屋で渋谷凛は目覚めた。

「う……ん」

 重い頭を叱咤して起き上がる。その動作だけで身体が柔らかなベッドへと沈み込んだ。
 数秒放心して、凛は現状に気付いた。
 自分の身体。一糸まとわぬ裸体である。薄いシーツがかけられているものの、下着も何もない。

「そうか、私……あのエンブリヲって男に……アンジュ!?」

 慌てて周りを見回すが、そこにはあのぶっきらぼうでがさつな美人はいない。
 レッスンルームよりやや広めの大きな部屋の真ん中にどんと置かれたキングサイズのベッドに、凛は一人で座っていた。

「……ここから逃げないと」

 幸いエンブリヲは室内にはいない。
 周りを見回すも、服の類は残念ながら転がっておらず、やむなくシーツを身体に巻きつけてベッドから降りた。

「ここ、どこ?」

 高校一年生、そこそこ有名になってきたとはいえまだまだ駆け出しのアイドル。
 男子と付き合ったこともなく、その方面の興味も知識も薄い凛は、自分のいる場所がどこなのかという見当はつけられなかった。
 部屋の中には無造作にバッグが放り出されている。
 自分のバッグはアンジュが持っていたはずなので、これは凛のでもアンジュのでもない誰かのもの、ということになるが。
 恐る恐る近づいて中を開けてみる。

「あぁっ……ふぁああああ! んのぉぉぉぉぐっ! ふぐっ!」

 一秒で閉めた。汗がだらだらと吹き出す。
 性的な興味の薄い凛でも、さすがに全裸の男を直視する趣味は持ち合わせていなかった。

「何。今の」

 見間違いであって欲しかった。あるいは幻覚か。
 よろよろともう一度デイバッグを持ち、少しだけ隙間を開ける。


356 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:00:28 /BPEuKdY0

「うおおおおおあああああああっっっ!!!!!」

 0.5秒で閉めた。汗がすっかり冷たくなった。
 獣の咆哮とともに、むせ返るような臭いが広がった。
 決して香りとは呼べない、たとえるなら一日ぶっ通しで散歩させて、たっぷり汗をかいた愛犬ハナコのお腹のような臭いとでもいうのか。
 だが、二度見て分かった。このバッグの中には人がいる。
 どうやってかはわからないが、生きている人間がまるでミニチュアのように収納されているのだ。

「なんなのこの人……!?」
「おやおや、もう眼が覚めてしまったのかい? 待ち切れなかったようだね」

 と、凛の背後から声。
 シーツを抑えつつ振り向くと、そこにはバスローブに身を包んだ長い金髪の男、エンブリヲがいた。
 風呂あがりらしく、髪は湿り湯気が昇っている。

「済まないね、凛。君の身体も清めてあげようと思っだんだが、私も疲れていたのでね。先にシャワーを浴びさせてもらったよ」
「あ、あんたは!」
「おっと、それは返してくれたまえ。悠にはまだまだお仕置きが必要なようだからね」

 眼を離した覚えはない。しかし、凛が瞬きするとエンブリヲの姿は消え、いつの間にか背後に立たれていた。
 凛の手からバッグがもぎ取られ、エンブリヲの後ろに投げられる。

「何なの、その人。あんたが何かしたの?」
「悠は私の友人だよ。ただ、まだ私を信用してくれなくてね。暴れられては困るからこうしているんだ」
「勝手な理屈……! あんた、アンジュが言った通りの変態なんだ!」

 バッグの中の彼が、自分の意志ではなくエンブリヲによって束縛されている。
 その事実は、エンブリヲが非道な人物であると凛に再認識させるには十分だった。
 この場には助けてくれるアンジュも、身を守る武器もない。
 それでも凛は、笑顔のままで他人を踏みつけにするこの男に媚びて安全を得ようとは思わなかった。

「それは誤解だよ。アンジュもすぐに気づく。私こそが彼女に相応しい無二の人物なのだとね」
「アンジュはそう思っていないみたいだよ。言ってたじゃない、タスクって人の方が百倍良いってね!」
「……困った娘だ。いかに温厚な私でも、あの汚らわしいサルと比較されては穏やかではいられないな」

 エンブリヲが凛に眼光を向ける。
 その瞬間、凛の身体をかろうじて隠していたシーツが弾け飛んだ。

「またっ……!」
「君はそうして何も隠さないほうが似合っているよ」


357 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:01:16 /BPEuKdY0

 両手で胸と局部を隠す。途方もない屈辱だった。
 アイドルとして、男性ファンに性的な目を向けられるのは仕方がないとしてまだ割り切れる。
 しかしこれは違う。男の身勝手な欲望に晒され、抵抗もできずに嬲られているだけだ。
 震え出しそうな恐怖を、沸き上がってきた怒りで何とか誤魔化そうとする。

「この変態!」
「フフ、芯が強いな。この状況でそのような言葉を吐けるとは。
 ますますもって、その花弁を散らせるのが楽しみになってきたよ」

 エンブリヲがバスローブの紐を解いた。ふわりと落ちる衣。
 凛と同じく裸体となったエンブリヲの、ある一部分が変貌を開始していく。

「ひっ……!」

 それを目にすると、怒りなど一瞬でどこかに消えてしまっていた。
 いま眼にしているのは何だ。
 自分の身体にはないもの。
 女性の身体にはないもの。
 男性の身体にはあるもの。
 父親や、プロデューサーの身体にはあるもの。
 保健体育の授業をこれほど恨めしく思ったことはなかった。

「いやぁぁぁっ! 来ないでっ!」
「おやおや、先ほどの気丈さはどこへ行ったのやら。しかし……ふむ。
 最近はアンジュに心を奪われていたからか、そういった反応も久しぶりで悪くないな」

 にこやかにエンブリヲが笑う。
 まるで天使のように整った顔立ち。しかしその実、この男は悪魔以外の何者でもない。
 歯の根が楽器のように打ち鳴らされるのを意識しながらも、震えが止まらない。
 凛はいま、襲われようとしているのだ。
 命の危機、ではない。貞操の危機に。

「やだっ! 来ないで! 来ないでよぉっ!」
「怖がることはない。すぐに君も私の素晴らしさを知る。生まれてきた幸福を実感できるだろう」

 じわじわと、焦らすようにエンブリヲがにじり寄ってくる。
 恐慌を来たした凛は背中を向けて窓へと駆け寄った。とにかくこの場から逃げ出したい。
 しかし無情にも窓は開かない。鍵がかかっているわけでも壊れているわけでもなく、エンブリヲがそうはさせじと空間を閉じているからだ。
 万全の時ほど力が出せないものの、無力な少女の干渉を跳ね除ける程度はわけもない。

「フフフ……その反応。何度味わってもいいものだ、新雪を踏み荒らす背徳感というものは」
「嫌ぁっ! 助けて……助けてよ、プロデューサー! プロデューサーぁ!」
「おや、想い人がいたかね。これは嬉しい誤算だ。君の心を奪った時、はたしてその男はどんな顔をするのだろうね?」


358 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:02:49 /BPEuKdY0

 ガタガタと震え出す少女を前に、エンブリヲは嗜虐的な笑みを浮かべる。
 超越者となったエンブリヲは自制心や良識といった感情を抑制するタガを持ち合わせていない。
 穢れなき少女を自らの色に染め上げる。その変わり果てた彼女を見て彼女の想い人はどんな顔をするのだろうかと考えると、愉快でたまらなくなる。

「やだぁ! 来ないでよぉ!」
「怖がることはない。未央も、そして卯月とみくと言ったか?
 君の友人たちもすぐに連れてきてあげよう。 みな、この私が差別なく愛してあげるよ」
「……っ!」

 ガタガタと震え泣き叫ぶだけだった凛の瞳が、その瞬間、ビクリと引きつった。
 アイドル活動を通じて知り合った、時間にすればまだまだ短い関係。
 それでも凛にとって、本田未央、島村卯月、前川みくは、同じ道をともに走るかけがえのない友達だ。
 その親友たちを、エンブリヲは汚そうとしている。
 彼女たちがこの男に組み敷かれ、蹂躙される光景を想像したとき。
 カッと、頭の真ん中が熱くなった。

「……こと」
「ん? 何だい、聞こえないよ凛」
「……そんなこと、させない!」

 身体を隠すなんて考えもどこかに吹き飛んでいた。
 全力でエンブリヲに向かって体当たりを仕掛ける。

「おやおや、積極的だな。待ち切れなくなったのかい?」

 エンブリヲが凛を迎え入れるかのように両手を広げた。
 何を勘違いしているのか、凛が自分から抱かれに来たと思ったらしい。
 抱きつく……と見せかけて、大きく横に切り返す。
 普段から走り込んでいる成果がここで生きた。
 スポーツ選手並とまではいかないまでも、エンブリヲの伸ばしたてをかい潜るには十分。
 頭から飛び込んだ先は、先ほどエンブリヲが放り捨てたデイバッグ。
 バッグの口を掴み、三度、今度は全力で開いた。

「お願い……っ! あいつを、やっつけて!」

 飛び出してきた全裸の男は、血走った眼を凛に向けて……だが力強く頷くとエンブリヲを睨みつけ、喉も枯れよとばかりに咆哮した。

「ペルソナァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!

 青年の目前にかぼちゃをかぶった小さなぬいぐるみ……のようなものが現れ、手に持ったランプを掲げる。
 瞬間、そのランプから、紅蓮の炎の渦が迸った。

「ああああああああああああああああああああああああっっっっっっっ!!!!!」

 怒号が鳴り響き、噴射された炎がエンブリヲを呑み込んでいく。
 火勢は衰えず、そのまま壁を焼き消して夜の空を赤く照らし出す。
 ガスの炎など比べ物にならない、まるで火山の噴火の如き圧倒的な狂熱が、凛の眼前を駆け抜けていった。


359 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:04:25 /BPEuKdY0

「……ぁぁあぁ……っあ、か、あ」

 炎が途切れるとともに、青年は糸が切れたかのように倒れる。
 叫びとともに体力をも絞り出したか、その顔色は青いを通り越して土気色だった。
 エンブリヲが「暴れられて困る」と言ったから、この場を切り抜ける唯一の道だと信じて凛は彼を解放した。
 しかし、まさかここまでとは。どうやってあんな炎を出したのかはわからない。
 それでも凛は、エンブリヲのような得体のしれない恐怖をこの青年には感じなかった。
 エンブリヲは炎に呑み込まれ、いない。死んだのだろうか。努めてそれを考えないようにして、凛は倒れた青年に近づいていった。

「ねえ、大丈夫!?」

 自分も彼も全裸であるが、躊躇いなくその傍に膝をついて揺さぶってみる。起きない。
 建物は内部から吹き飛ばされ、空が見えている。よほど高温だったのだろう、壁はドロドロに溶けてアメのように滴っていた。
 風が凛の髪を揺らす。だがしばらくは、この熱気は冷めそうにない。
 しかし……助かった。人のカタチをした悪魔はもういない。
 凛の命も貞操も、ひとまずは救われたのだ。
 とりあえず青年の介抱をしようと、何か彼の汗を拭けるものがないかと周りを見渡して。

「やれやれ、せっかくいい部屋を見つけたのにな。悠には困ったものだよ。
 油断も隙もないとはこのことか。快感に翻弄されながらも、私に一矢報いる好機をずっと待っていたんだろうね」

 ベッドに足を組んで腰掛けるエンブリヲがいた。
 温まりかけていた血が瞬時に冷えていく。
 エンブリヲには傷一つなく、その表情には何の焦りもない。

「だが、空が見えている部屋で……というのも悪くない。籠もった熱気も風が流してくれるからね」
「な……なん、で……?」

 にこやかに、だが二度目はないとエンブリヲは笑う。
 今度こそ万策尽き、凛は抵抗の意思すら奮い起こせなかった。
 ゆっくりと近づいてくるエンブリヲから逃げようともせず、呆然と青年の手を握る。

「ああ、悠はしばらく起きないよ。あれだけの力を放ったんだ……相当疲労しているだろう。私と同じように。
 これでもう、私と凛の邪魔をするものはいないというわけさ」

 近づいてくるエンブリヲ……得体のしれないナニカ。

「人間じゃ……ないの……?」
「そうだね。人間というくくりにカテゴライズされるのは甚だ遺憾だ。かといって、神とはもう言われ飽きている。
 創造主、と言いたいが君や悠は私の生み出したホムンクルスではないようだ。だからここでは調律者と名乗っておこう」

 量子の揺らぎを支配し、次元を渡る能力を得た不死の存在。
 凛にその正体を看破することなど、できるはずもなく。


360 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:05:18 /BPEuKdY0

「さあ。もう邪魔者はいない。始めよう、凛」
「あっ」

 腕を取られ、乱暴にベッドに放り投げられた。
 長く伸ばした艶のある黒髪が花のように広がる。
 力の入らない手で何とか身体を隠そうとするも、エンブリヲの手によって阻まれる。
 全身を舐め回すような、男の無遠慮な視線。群れた汗の匂いを嗅がれて、吐き気がする。
 いつもアイドルのことを第一に考えてくれるプロデューサーとは違う。
 獣欲を満たすことしか考えない、エゴに塗れた男の暴力。

「いやぁ……止めてよ……!」
「可愛いよ、凛。さあ、一つになろうか」

 そして、エンブリヲが腰を進める。
 凛の中心、未だ誰にも許したことのない最奥へ向けて。

「いや……いや……いやあああああああぁぁぁっっっ!」

 絹を裂くような凛の悲鳴に、エンブリヲはこれ以上ないほどに頬を歪ませ――

「ぐわああああっ!?」

 そして、絶叫した。
 次の瞬間、全裸の男が吹き飛ばして吹き抜けとなった外壁から、疾風のように蒼い影が滑り込んできた。
 エンブリヲが振り向くのと、その影が光を閃かせるのはまったく同時。
 一瞬の静寂の後、声を上げていたのはエンブリヲの方だった。
 呆然とする凛に構わず、影はエンブリヲにさらに接近。
 再び光が閃くも、エンブリヲはその瞬間幻のように消えて、数メートル離れた場所へと移動していた。

「ぐぐ、ぐ……お、おおおお……! き、き、貴様ァ……!?」
「そのような無様を晒しておきながら調律者などと、笑わせてくれるものだ。これからは道化と名乗ったらどうかね」

 凛を庇うようにエンブリヲと向かい合う、その影は。

「私はキング・ブラッドレイ。故あって、貴様を斬りに参った者よ」

 月光を弾く細剣を優美に構える、隻眼で壮年の男だった。


361 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:07:50 /BPEuKdY0

  ◆


「いやぁぁぁああああああーっ!」

 甲高い嬌声が耳をつんざく。
 一人夜の街を往くキング・ブラッドレイは、どうやら三番目の参加者と遭遇したようだ。
 そっと腰を下ろし、建物の影に隠れて気配を殺す。
 やがて声が大きく、そして騒がしく近づいてきた。

「離して、離してよっ!」
「待ってくれ、俺は怪しい者じゃない! 暴れないでくれ!」

 どさっ、と何か重いものが地面に落ちる音。
 ブラッドレイは刺剣に指を絡ませつつ慎重に近づいていく。

「寄るなぁーっ、この変態! あんたもさっきの変態の仲間なんでしょ!?」
「なっ、違う! あいつは俺の敵だ! 君に危害を加えるつもりなんてない!」
「信じられるわけないでしょ! さっきのあいつだって、最初はそう言って近づいてきたんだから!」
「それは……ああ、もう! とにかくそのナイフを下ろすんだ! 素人が触っていいものじゃない!」

 ブラッドレイが騒動の現場に辿り着いたとき、そこには青年と少女がいた。
 尻餅をついている少女が小型のナイフを青年に突きつけている。
 対峙する青年は、同型と思われるナイフをさらに二振りベルトの後ろに差し込んでいたが、それを抜く素振りもなく。

「とにかく、落ち着くんだ。俺は君の敵じゃない」
「ち、近づかないでよ! 鳴上くんはどこ!?」
「……彼は、あの場に残った。おそらくエンブリヲに捕まっている」
「見捨ててきたの!?」
「仕方なかったんだ! 向こうは銃を持ってたし、君も彼も自分で動くことはできなかっただろう!
 彼には悪いと思っているが、どちらか一人しか……助けられなかったんだ」

 凶器を突きつけられてもなお辛抱強く、青年は少女の説得を続ける。
 ひと目で動転していると分かる少女は、瞳を激しく泳がせながらもナイフを下ろす気配はない。

「あいつ、エンブリヲは、人を遙かに超越した力を持っている。
 君も実際に体験したと思うが、他人の感覚を操作したり、空間を自在に跳躍したりできる。
 もっとわかりやすいので言えば、不死だ。あいつは通常の方法ではどうやったって殺すことはできない」


362 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:08:30 /BPEuKdY0

 続く青年の言葉に、様子を窺っていたブラッドレイの眉がぴくんと跳ねる。

「ハイゼンベルクの悪魔、あるいは不確定世界の住人。
 あいつはおよそ万能と呼べる力を持っている。あの場で無理に君たちを救出しようとしていれば、間違いなく俺も殺されていただろう。
 それを俺は……いや、その鳴上という彼はわかっていたからこそ、俺に君を連れて逃げろと言ったんだ」
「でも……!」
「わかってる。彼はおそらく、エンブリヲの拷問を受けているだろう。だが、すぐには殺されないはずだ。
 彼はエンブリヲともマナとも違う能力を持っていた。あれはエンブリヲの気を引いただろう。少なくともあの力を分析し終えるまでは、彼は生かされる」
「ほ、本当に?」

 鳴上某というのが彼らの三人目の同行者、ということか。
 その鳴上はエンブリヲという敵対者に捕獲された。この二人が言い争っていたのはそれが原因とブラッドレイは推察する。

「ああ、賭けてもいい。それに、俺も彼をこのままにしておく気はない。アンジュやヒルダ、モモカ……仲間と合流して何か手を考える。
 エンブリヲを殺すことはできなくても、動きを封じる方法を。そして必ず、彼を助けに行く。だから、俺を信じてくれないか」

 ゆっくりと、それこそ第三者の視点で観察しているブラッドレイにしかわからないくらい僅かな体重移動で、青年は少女との距離を詰めていく。
 その歩法はブラッドレイをして感嘆せしめるほどに見事。何らかの武芸を高い領域で修めているのは間違いない。
 正面から向かい合っている少女には、青年がじりじりと距離を詰めていることに気付いてはいないだろう。

「そうだ、まだ名乗っていなかったね。俺の名はタスク。君の名前も教えてくれないか?」
「ほ、ほん……待って! まだ信用できない! 私、さっきあんたに襲われたじゃない!」
「え?」

 虚を突かれた青年、タスク。少女の弾劾は続く。

「鳴上くんとも、あの変態とも会う前! 私が最初に会ったのはあんただった!」
「何を言って……いや、そうか。あいつめ……!」

 タスクが苦々しい顔で舌打ちする。思い当たる節でもあるかのように。

「それもエンブリヲの力だ。あいつは近距離、極短時間でなら、複数体が同時に存在することができる。
 そのとき俺の容姿だったのもあいつの力かどうかはわからないが」
「他人を操作できるとか、死なないとか、次は分身!? わけわかんないよ!」
「待ってくれ。そのとき君は、俺の姿をしたそいつに襲われてどうやって切り抜けたんだ?」
「それは、鳴上くんが助けてくれたから」
「彼か。つまり、あの巨大な人形みたいなやつを出したんだな。じゃあ、俺の偽者は何か武器を使ったか?」
「え、ええと。たしか、落ちてた石を拾ってた、かな」

 記憶を辿りながら応えた少女に微笑みかけ、タスクは腰の後ろからナイフを二本引き抜いた。
 少女が警戒する前に、その足元へと放り出す。


363 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:09:22 /BPEuKdY0

「じゃあ、やっぱり俺じゃない。俺にはそのナイフが支給されていた。
 俺があの人形を相手にしようと思ったら、石なんかじゃ頼りなくてとてもじゃないがそんな真似はできないよ」
「え……じゃあ、ほんとに別人?」

 理のあるタスクの言葉にか、あるいは武器を自ら放り出したその潔さにか。
 乱れていた少女の息がようやくの落ち着きを見せ始めた。

「おそらくあいつは、俺の姿をした分身に君を襲わせ、そこを自分が助けることで君の信頼を得ようとしたんだろう。
 同時に俺の悪評も広められる。とは言え、その鳴上が来なければ君は本当に、その……襲われてたと思うけど」
「う……それは、たしかにそうかも。あいつ何回も私の服に手を伸ばしてきたし」
「あいつはあの通り、女に見境がない。なまじ凄まじい力を持っているものだから、倫理観や良識なんて持ち合わせていないんだ。
 おそらく君のことも鳴上のことも、自分の欲望を満足させる道具としか思っていなかっただろう」
「……はあ。私、ほんとに危なかったんだ……」

 少女が放心したように空を見上げる。星のない、真っ暗闇の空を。

「なんで私、こんな目に遭ってるの?」
「ごめん、その質問には俺も答えられない。俺も状況が理解できていないんだ。
 でも約束する。俺は君を絶対に傷つけないし、他の誰かに襲われたら全力で守る。今だけでいい、俺を信用してくれないか?」
「……うん、落ち着いた。ごめんなさい、あなたは私を助けてくれたんだよね。
 私、本田未央。よろしく、タスク……くん」

 ほうっと大きく息を吐き、少女が無理やり笑ってみせる。
 笑顔とはとても言いづらいが、それでもたしかにその顔から敵意と警戒は消えていた。

「わかってくれればいいんだ。よし、まずはそのナイフを返してくれ。
 見たところ刃物の扱いは不慣れのようだし、君が持っているべきじゃない」
「あ、うん。ごめんなさい。返すね……あれ? 何だろこの出っ張り」
「え? ちょ、それは」

 ビィィィィィン!
 離れたところにいるブラッドレイにも届く、空気を震わせる音。
 一秒後にはその空気が切り裂かれる。未央が握り締めていたナイフから刀身だけが発射された。
 瞬間、タスクが驚くべき反応速度で屈んだ。その頭上を目にも止まらぬ勢いのナイフが通り過ぎて行く。
 柄の部分に強力なスプリングを内蔵し、いざとなれば刃先を瞬時に射出できる戦闘用のナイフ。それがタスクに支給された武器。
 もちろんタスクはその機構を知っていたので、未央が何気なくギミックのスイッチを押し込んでしまった瞬間に伏せ、ぎりぎりのところで回避できた。
 未央に悪気はなかった。ただ単純に、偶然の結果としてスイッチを触ってしまったに過ぎない。
 ゆえにタスクに責める気はない。未央の行為が故意ではないとわかっていたからである。
 しかし、物陰で見ていたブラッドレイはそうもいかなかった。
 自分に向かってきたものではないとはいえ、紛れもなく殺傷力を秘めた武器が放たれたのを見て、僅か……ほんの僅か、隠形が緩んでしまった。


364 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:09:42 /BPEuKdY0

「っ、誰だ!?」

 そしてその緩みを、タスクは見逃さない。
 伏せていたタスクが四肢を巧みに瞬転させ、落ちていたナイフを両手に拾い上げた。
 同時にぽかんとしていた未央を引き倒し、自分がその上に膝立ちで覆い被さることで彼女の安全を確保。
 タスクは寸分の狂いなく、ブラッドレイが潜んでいた建物の影に視線を投げていた。完全に察知されている。

「……驚いたな。あの僅かな気当たりで、私を見つけ出したか」

 こうなればもはや隠れている意味は無い。
 ブラッドレイは両手を挙げ……と言っても、タスクと同じく瞬時に全方向に回避できるよう、足運びを整えた上で、二人の前に姿を晒す。
 タスクは両手に構えたナイフをブラッドレイに突きつける。少女に接していた時の柔らかい笑顔はそこにはない。
 生と死の間を潜り抜ける戦士の眼だ。つまりは、ブラッドレイにとっても油断ならない相手ということになる。

「今度は私が言う番なのかな。落ち着いてくれたまえ、タスクくん。こちらに戦闘の意思はない」

 だが、ブラッドレイは先に剣を抜かなかった。
 無論、戦えば勝つ自信はある。
 機知に富み、場馴れしているであろうタスクとやり合うのは一方ならぬ苦戦が予想されるが、それでも強敵というほどではない。
 タスクの武器はもう種が割れてしまっている。奥の手がある可能性もないではないが、エンブリヲという輩との戦いで持ち出さなかったのなら、真実、武器はあのナイフだけなのだろう。
 そして、近接戦ならブラッドレイの上を行く者はいない。人間、錬金術士、ホムンクルス、そして魔法少女という未知の存在が相手でも、それは変わらぬ強固な自負だ。
 そのブラッドレイが当初の方針を曲げてタスクとの接触を求めたのは、彼の発言に大いに興味を惹かれたからに他ならない。

「私は君たちと話がしたい。武器を置いてくれないか?」
「……あいにく、ひと目で一戦やらかしたとわかる人間をおいそれとは信用できない。
 それに、俺より強い相手を前にして、武器を置けというのも受け入れられないな」

 先の、美遊と呼ばれていた魔法少女との一戦はブラッドレイの身体のあちこちに傷跡を残している。
 脱ぎ捨てた軍服はあの後戻って回収し、裾を切って応急処置に用いたのだが、あちこちが焼け焦げている。
 何より刺剣だ。鞘がないこの剣はベルトに抜き身で差しているのだが、刀身には美遊の返り血と脂が僅かにこびりついていた。
 軽く拭いはしたものの、研ぐなり油を挿すなり本格的な処置をしなければ全ては落とせない。
 だがその不手際を責めるよりも、夜の不自由な視界でそれを見て取ったタスクの抜け目なさを褒めるべきだろう。
 ブラッドレイの鍛えられた筋肉、隙のない足運び、何よりその身に纏う触れれば裂けるような空気。それらは全て、闘争を日常とする戦士特有のもの。
 タスクは一瞬で彼我の戦力差を理解してしまったのだ。

「これか。まあ、言い訳はせぬよ。さきほど好戦的な輩に襲われてな。斬って捨ててきたところだ」
「っ、殺したのか?」
「そうせねばこちらが死んでいた。君ならばわかるだろう」

 この姿を見れば。
 腕の出血、炎で炙られたかのような軍服。尋常ならざる相手だったと、タスクなら確実に推測できると踏んで、詳しくは説明しない。

「その、好戦的なやつの特徴は? 名前は?」
「ふむ。君の仲間であれば申し訳ないと思うがね。美遊、と呼ばれていたよ」
「ミユ……呼ばれていた? 仲間がいたのか」
「武器と喋っていたのだよ。魔法少女というらしい」
「は? 魔法少女?」


365 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:10:10 /BPEuKdY0

 険しく歪んでいたタスクの眉に疑問符が浮かぶ。
 それはそうだろうとブラッドレイも思うが、こればかりは嘘をついても仕方がない。元よりブラッドレイの知識の範疇にもない存在だ。

「うむ。いや、誇張ではない。空を飛び、炎を放ち、光熱波を放つ。
 見えなかったかね? 先ほど中々派手に光ったのだが」
「……さっきのあれか」

 近辺のエリアにいたのならば、美遊が最後に放った騎英の手綱(ベルレ・フォーン)という光を目撃していてもおかしくはない。
 目ざといこの青年はやはり、それを目撃していた。

「どういった理由で襲ってきたのかは知らんが、私とてむざむざ命を落とすつもりはないのでね。
 君がそれを咎めるのであれば……残念だが、話はできないということになるな」

 その場合は実力を以って……と、匂わせたわけではないが。
 タスクもまた、他の参加者との接触を必要としていたのは嘘ではない。
 息を吐き、警戒を緩めた。

「……わかった。まずは、話をしよう」
「うむ、助かるよ。ところで」

 コホン、とブラッドレイの咳払い。

「その体勢は如何なものかな。健全な男女交際というにはその、いささか過激すぎるのではないかね?」
「へ?」

 と、ここでタスクは自分がどのような体勢でいたのかようやく認識したようだった。
 未央が先程からずっと黙りっぱなしなことも。
 タスクが視線を下げる。何もない。
 後ろを見てみる。未央の両足が伸ばされている。スカートがめくれ上がり、三角形の布地が僅かに晒されている。

「……きゅぅ」
「うわーっ! ごめん、そういうつもりじゃなかったんだーっ!」
「はっはっはっ。若さとはいいものだ」

 男性の局部をズボン越しの間近で押しつけられ、漂ってくる匂いやら想起されるイメージやらで未央は完全に失神していたのだった。


366 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:11:35 /BPEuKdY0

  ◆


「まったく度し難いな。若い婦女子を手篭めにしようだなどと」
「き、貴様、な、何……者だ!?」
「言ったはずだ。故あって貴様を斬りに来た、と。どの縁かは、それでわかるだろう?」

 ブラッドレイが剣先で一点を指し示すその先は、エンブリヲ自身。
 固く膨れ上がった怒張の中ほどが、鋭いナイフに真横からぶっすりと刺し貫かれていた。

「ぐ、く……ぐうおおおっ!」

 全裸のエンブリヲが、自分自身からナイフを引き抜き投げ捨てた。
 その形状には見覚えがある。数刻前にやり合った仇敵、タスクが構えていたナイフだ。
 ブラッドレイは未央が発射したナイフの刀身だけを借り受け、凛を陵辱しようとしていたエンブリヲに向かって投擲したのだった。

「また、あのサルの差し金かァ……!」
「何がしかの真理を得たか、多少は異能を扱うようだが。それを扱う貴様自身があまりに愚昧。
 欲望にかまけて私の接近に気づかぬようではな。タスクという若者は私に気付いてみせたぞ」

 ブラッドレイは来ていた軍服の上着を脱いで凛に掛けた。
 応急処置のため裂いたり焼け焦げたりしているが、全裸よりはマシだ。

「あ、あの?」
「じっとしていなさい」

 言い捨て、ブラッドレイはふわりと床を蹴る……疾走を始める。
 瞬きの間にエンブリヲの眼前に到達し、刺剣を突き出す。
 しかし刃が首を刎ねる寸前、エンブリヲが掻き消える。
 その瞬間、ブラッドレイは自分の後ろへ向かって足を蹴り出した。

「ぐぅっ!?」
「それが貴様のお家芸か。種が割れれば陳腐なものだな」

 背後に転移し、ブラッドレイの感覚を操作しようとしたエンブリヲ。
 しかしその目論見は、後方を確認することもなく放たれた蹴りによってあっさりと阻まれる。

「ごっ……!?」
「鈍いな。私がタスクと関係がある時点で、貴様の能力も理解しているにきまっているだろう」

 エンブリヲが空間を支配して転移することも、人に触れることでその感覚を暴走させられることも、ブラッドレイは既に知っている。
 こちらからの攻撃を転移で回避すれば、間違いなくエンブリヲは背後から仕掛けてくる。タスクはそう言っていた。
 ブラッドレイは、エンブリヲが目前からいなくなった瞬間に刺剣を横にして目の前にかざした。
 その細い細い刀身に、月明かりでほんの僅か映し出された後方のゆらぎ。
 銃弾すら止まって見えるブラッドレイの「最強の眼」を以ってすれば、転移終了の前兆を読み取ることは赤子の手を捻るがごとく。
 前方であれば最強の眼で、後方であっても刺剣と最強の眼の組み合わせで、全方位をカバーする。
 転移が終わりエンブリヲが実体化した瞬間を狙うのはわけもないことだった。


367 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:13:08 /BPEuKdY0

「では首をもらおうか」

 躍りかかるブラッドレイ。蹴りが急所に入ったか、エンブリヲが激しく咳き込みながら、いつの間にか拾い上げていた自身のデイバッグへと手を突っ込む。
 取り出したのは金属製の柄。エンブリヲの指が踊ると、その先端から光が飛び出した。
 ブラッドレイの斬撃は、その光によって受け止められる。
 実体のある刺剣と実体のない光剣だが、刺剣は溶断されるということもなく光剣とせめぎ合っていた。

「ほう、これはまた斬新な剣だな。それも貴様の能力か?」
「調子に乗るなよ、このサルが!」

 エンブリヲがもう片方の手でデイバッグから拳銃を取り出し、ブラッドレイに突きつける。
 その瞬間ブラッドレイは、剣を握る手元を僅かに引く。力任せに光剣を押し込んでいたエンブリヲはバランスを崩し、身体が流れる。
 一瞬の間にバックステップ。次いでエンブリヲから連続して銃弾が放たれる。
 軽く踏み出せば剣の届く至近距離。そんな状況で放たれる必殺の弾丸は、発射され射線に乗る前にすべて、叩き落とされた。
 縦横に踊り閃くブラッドレイの刺剣によって。

「バカな、この距離で……!?」
「能力を使えなければ、生身の戦闘はタスクくんには遠く及ばんな」

 エンブリヲが動かす銃口の先と寸分違わず……いやそれ以上の速さで刺剣が閃く。
 照準が完全に先読みされていた。

「こ、の……化け物が!」
「同じ言葉をそのまま返そう。この程度か? 人間ですらない化け物よ」

 瞬時に全弾を撃ち尽くし、カチカチと虚しい音を響かせるエンブリヲの拳銃。
 弾切れをエンブリヲが認識した時には既に、ブラッドレイがその懐へと飛び込んできている。

「ぬおおおあああっ!?」

 宙を待うエンブリヲの片腕。しかしエンブリヲもさるもの、ブラッドレイが剣を振り抜いた隙を逃さず、気息を整え転移を強行。
 続く袈裟切りの追い打ちを避けることに成功していた。
 再び現れたエンブリヲは荒い息を吐き、ブラッドレイを喰い殺さんばかりに睨みつけた。

「こ、の……下等種の分際で私の身体を……!」
「そうやって見下ろすから、見落とすのも当然というもの。私がどうやってここに辿り着いたと思っている」


368 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:14:16 /BPEuKdY0

 ブラッドレイは落ちてきたエンブリヲの腕を空中で細かく寸断した。
 声もなく事態の進行を見つめる凛には、その斬線の軌跡すら眼では追えない。
 示し合わせたように、光剣の柄がブラッドレイの手に収まる。

「ふむ?」

 エンブリヲへの警戒を一切緩めぬまま、装置を弄る。
 光が消え、また点き、消える。簡単なスイッチ操作で光の剣が出現すると知ったブラッドレイは満足気にそれを片手で握る。
 右の刺剣、左の光剣。鳥が翼を広げるように、大きく両腕を広げて構えた。

「先ほどの豪炎。この近くにいれば嫌でも目に入っただろう。
 察するにそこの若者の仕業であろうが、アレのお陰で私はここに来ることができた」
「ぬうう……」
「わかるか? 貴様は人間を見下しながら、その人間に足を掬われているのだ。調律者が聞いて呆れるな」

 エンブリヲに支配されながらも渾身の力で炎を放った鳴上悠。
 恐怖に打ち克ち逆転の一手を導いた渋谷凛。
 その積み重ねがあったからこそ、ブラッドレイはこうしてエンブリヲを追い詰めている。

「貴様の底は知れた。では……斬って捨てる」

 思わず底冷えするほどに、何の感情も込められていない殺害宣言が放られた。
 憎いからとか怒っているからとか、そんな感情的な理由ではない。
 これから歩く道の上にいるから排除する。これ以上ないほど事務的に死刑を宣告し、剣の双翼を構えたブラッドレイが飛び出していく。

「……!」

 エンブリヲの銃が火を噴く。ブラッドレイは大きく飛び退くことで弾丸を回避。
 その隙にエンブリヲは鳴上悠を引っ掴んで転移した。
 瞬時に光剣を消し、刺剣を鏡に周囲を探るブラッドレイ。
 十秒、二十秒……一分二分と過ぎてなお、エンブリヲは現れなかった。

「退いたか」

 安全を確認し、ブラッドレイは剣を収める。
 風が残る熱気を吹き払い、沸騰した戦場に残ったのはキング・ブラッドレイと渋谷凛、二人だけだった。


369 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:14:48 /BPEuKdY0

  ◆


「ねえタスクくん、ほんとにあのおじさん一人で大丈夫かな?
 私たちも……てか、タスクくんも一緒に行ったほうが良かったんじゃ」
「そうすると未央、君を守る人がいなくなる」

 ブラッドレイと別れた未央とタスクは、街を離れ島中央部の図書館へ向かう道を歩いていた。
 市街地にはエンブリヲやブラッドレイが遭遇したような強力な参加者がいる可能性が高い。
 そのため一度街から離れ、安全を確保できる施設で朝を待ちつつ仲間と合流するということになった。

「それに……あの人は強い。多分、やり合ったら俺は何もできずに殺されると思う」
「軍人って言ってたもんね」
「すごく鍛えてるみたいだけど、それだけじゃない。何ていうか、もっと得体のしれないものを秘めてるような、そんな感じがする」

 タスクの脳裏に、ブラッドレイの好々爺然とした顔が思い浮かぶ。
 しかし長く戦いに身を置いてきたタスクには、あの柔和な表情の裏に計り知れない魔性が潜んでいる気がしたのだ。
 ファーストコンタクトを切り抜け、ブラッドレイと情報を交換したタスクたち。
 話がエンブリヲに捕まった鳴上悠に及んだところで、ブラッドレイが彼の救出を名乗り出たのだった。

「では、私が行ってその鳴上青年を助けてこよう」
「いいんですか!?」
「なに、先ほど怖がらせたお詫びだよ。それを以って信頼してくれ、というわけではないが」

 鷹揚に笑いエンブリヲの情報を求めるブラッドレイに、タスクは知りうる限りの情報を開示した。
 その流れでタスクの恋人にして主たるアンジュにも話が及んだ。
 タスクは自分と彼女の関係を適当にぼかしつつ、ブラッドレイに捜索を頼んだ。

「俺なら、道具と内部の解析情報があればこの首輪を外せると思う。それにアンジュなら、この街というかこの世界から抜け出すこともできるかも」
「ほう? 具体的にはどうやって?」
「ヴィルキス……アンジュのパラメイルだけど。一言で言えば、巨大な人型の機械だ。あれにアンジュが乗れば次元跳躍が可能になる。
 もちろんそんなものを使わせたら殺し合いにならないから、広川になにか細工をされて呼べないようにされてると思うけど」
「ふむ。首輪を外すのは君が。この島から抜け出すのにはそのアンジュ女史が、それぞれ必要になるということか」


370 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:15:28 /BPEuKdY0

 無論、会ったばかりかつ剣呑な雰囲気を隠しもしないブラッドレイにアンジュのことを頼むのは、気がかりでないわけではない。
 しかしアンジュはあの気性だ。何も知らせずに遭遇すればブラッドレイに食って掛かり、あまつさえ先制攻撃を仕掛けるかもしれない。
 そうなったら終わりだ。上下か左右か、とにかく彼女だったものの残骸が二つできあがるだけだろう。そうさせないために、あえてアンジュの情報を知らせた。
 仮に敵対したのだとしても容易に命を奪えないよう、この殺し合いからの脱出には不可欠の人物であるという価値もつけて。
 もし彼女に危害を加えるなら、自分も首輪の件では絶対に協力しない。その意図は間違いなくブラッドレイに通じているだろう。
 後は祈るしかない。ブラッドレイが本当に善良あるいはさほど好戦的ではない人物で、殺し合いに意欲がなく、純粋に脱出を目指している御仁であると。
 未央には言えないが、タスクはブラッドレイを仲間だとは思っていない。
 本当に悠を救出してくれるならそれもよし、エンブリヲの前に散るのだとしても痛手を与えてくれるならそれもよし――そういう目論見もある。

「それにしても……なんであいつ、まだ生きているんだろう」
「あの変態のこと?」
「うん。俺たちはたしかにエンブリヲを倒したはずなんだ。でもあいつは生きていた。
 もしかしたら他にもあいつの同位体がいて、消滅を免れたのか。でもどうもあいつの様子じゃ、あの戦いのこと自体覚えていなさそうだった。
 あいつがこのバトルロワイアルというのを画策したんじゃないかって思っていたけど、違うようだしなあ」

 これについては情報が足りない。そもそもにして、マナやノーマやドラゴンを知らない未央や悠という存在がいる点も見逃せない。
 広川という男はあるいはエンブリヲ以上の力を持っているのか。
 薄ら寒いものを感じながらも表情には出さず、タスクはさりげなく未央を警護しながら図書館へ向かう道を往く。
 とにもかくにも、まずアンジュとの合流だ。モモカ、ヒルダといった仲間たちとも急ぎ再会したい。
 サリアについてはタスクはさほど面識がないのだが、最後は一緒に戦ってくれた。ここでも敵ではないだろう。
 タスクの二歩後ろを歩く未央は、落ち着いたとはいえ不安を隠せない。
 夜の道を歩くだけで落ち着かなくなるのは、荒事に慣れていない普通の人間なら当然だ。
 彼女らが巻き込まれたのには、広川の度が過ぎる悪辣ぶりを感じざるを得ない。
 改めてエンブリヲと広川打倒を誓いつつ、未央の友人も無事であってくれと願いながら、タスクはひたすら前へと進んでいく。


371 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:19:10 /BPEuKdY0

  ◆


「下等なサルどもが、この私を……っ!」

 誰もいないジュネスの屋上に転移したエンブリヲは、苛立ちの捌け口として未だ気を失っている鳴上悠を思い切り蹴りつけた。
 二度三度繰り返す。が、悠は何の反応もしない。完全に気絶していた。

「ちぃっ……これ以上は本当に危険か。よほど体力を消耗しているようだな」

 そう言うエンブリヲとて、ブラッドレイから逃げるために連続して転移してきたため疲労困憊だった。
 しばらくは休息に専念しなければ、ブラッドレイは愚かエドワード・エルリックなる小さな少年にも敗北は必至だろう。
 不満気に鼻を鳴らし、エンブリヲは屋上フードコートの椅子にどっかりと座り込んだ。
 まずは治療から始めねば。万全の状態であればブラッドレイごときに遅れを取りはしなかった。
 さきほどは局部の痛みを緩和するために自身の感覚を麻痺させていた。
 そのためうまく集中し切れず、転移や感覚操作といった慣れた能力しか使えなかったために敗北したのだ。
 もはや慢心はない。次こそ必ず、タスクもブラッドレイも、チリひとつ残さずに消滅させると固く誓う。
 貫かれたシンボルを大事そうに撫で、切り落とされた腕の断面を撫でる。
 両者ともゆっくりと再生が始まっている。一撃で命を落としさえしなければ、どんな傷でも回復できるのは変わらないようだ。

「まずは手駒を集めねばならんか」

 しばらくはここで回復しつつ、こちらに向かってくるはずのモモカを待つ。
 悠は感覚操作を解いてやった。彼の今の状態で刺激を与え続ければ、直に理性が吹っ飛んでしまうだろう。
 手近にあった紐で両手足を縛りその辺に転がしておく。

「そうだ、サリアもいたな。あれならいい鉄砲玉か、弾除けになるだろう」

 名簿にあるもう一人の下僕の名を思い出し、エンブリヲは思い描く。
 自分に従順になるよう調教した、アンジュには一枚も二枚も及ばないおもちゃのことを。
 アンジュがこの手に落ちるまでの僅かな期間だが、彼女を愛してやるのも悪くはない。
 というか、アンジュと凛と二度もお預けにされたので誰でもいいので思う存分欲望を発散したいと、そう願うエンブリヲでもあった。


372 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:20:03 /BPEuKdY0

  ◆


「さて、渋谷凛くん、でよろしいかね?」
「あ……はい。そうです」

 凛の前には、ブラッドレイがいる。
 軍人は自分に背中を向け、裸身を見ないようにしてくれている。その間に凛は手渡された上着に袖を通し、とりあえず人心地ついていた。

「私はブラッドレイ。君の友人、本田未央と言ったか。彼女から君の捜索を依頼されている」
「未央が……! 未央は無事なんですか!?」
「信頼できる人間と一緒だ。彼女のことは安心していい。今からそこに送っていく」

 突然現れたブラッドレイと名乗る老人。老人というにはいささかエネルギッシュすぎる気もするが、助けられたことは紛れもない事実だった。
 さらに彼は本田未央とも会っているという。バトルロワイアルに放り込まれてからずっと振り回されてきた凛だが、ようやく状況が好転しそうだとほっとする。

「さて、あまり長居している時間はない。さっきの、鳴上悠という青年が派手に炎を吹かしてくれたおかげで私もここに来れたが、他にもアレを見た者がいるかもしれん。
 面倒なことになる前に引き上げた方がいいだろう」
「あ、はい……あの」

 月を見上げ、ブラッドレイは眼帯を装着している。
 凛はその横に並び、問いかけた。

「さっきの……エンブリヲ、は?」
「逃げたようだ。さてどこに行ったのかまではわからん。追う術もないしな」
「そう、ですか」
「乱暴されそうになったのだから、やつを憎もうとする気持ちはわからんでもない。
 だが、やめておくのが懸命だ。何の力もないただの人間が立ち向かえる相手ではない」

 真実、それはブラッドレイの親切心からの忠告だった。
 エンブリヲの魔手からある程度逃げ延びていたのだから、心根が強い少女だというのはわかる。
 しかし蛮勇と勇気は違う。太刀打ちできない相手にそうと知っていて向かっていくのは自殺行為という他ない。
 ブラッドレイは己がホムンクルスという、人間を超越し人間に敵対する存在であることを悔やんだことはない。
 しかし、絶望に負けず確固たる己の意思を貫く人間のことを、好ましいとも思う。
 そういう意味ではこの少女もあの青年も、エンブリヲなどとは比べ物にならない魂の強さを秘めている。
 惜しむらくは、その強さでブラッドレイに立ち向かってくることはない、ということか。
 宿敵として認めるほど強いわけでも、救ってやりたいと考えるほど入れ込んでいるわけでもない。しかし彼女の存在はタスクとの交渉のカードになる。
 故に、ブラッドレイは足手まといになると知りつつも彼女をタスクらのところまで連れて行ってやるつもりだった。

 しかし――


373 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:21:32 /BPEuKdY0

「……あの、間違いだったらすみませんけど。わざと、逃がしませんでしたか?」

 少女はブラッドレイの想像を超えて聡明だった。
 よほどの恐怖に直面したというのに、冷静にブラッドレイとエンブリヲの戦闘を観戦し、そして自分なりに分析しているほどに。
 しん、と静寂。顔を傾け、眼帯をした方の瞳で、ブラッドレイは凛を見る。

「何故、そう思う?」
「あ、あの……何となくそう思っただけなんですけど。でも何ていうか、最後、撃たれたとき」

 凛は、確固たる根拠があって言ったわけではない。
 胸の片隅にあったほんの僅かな疑問。いつもなら黙って通り過ぎるだろうそれを。
 死地を切り抜け、友人と再会できるという昂揚が、つい口を滑らせた。

「あなたのその眼なら、後ろに避けなくても斬って落とせたんじゃないかなって」

 ぽつりと、引き金となる言葉を、言ってしまった。
 風が吹く。
 熱は過ぎ去り、ここにはもう灰しか残っていない。
 凛とて別に、真剣に疑問の答えを聞きたかったわけでもない。ただ言ってしまっただけだ。

「す、すみません変なこと言って。行きましょうか」

 失敗したか、と気まずげに声を大きくし凛が促す。
 その背中に、ブラッドレイは一つ尋ねてみることにした。

「凛くん。一つ、いいだろうか?」
「は、はい」
「君は何故、自分がここにいると思う?」
「えっ……?」

 哲学的な質問を投げられたのかと、顔中に疑問符。
 しかしブラッドレイはそうではないと苦笑する。

「単純に、この殺し合いに何故巻き込まれたのか、ということだ。
 君については未央くんから簡単に聞いている。私やあのエンブリヲのように、戦いに身を置く者ではないことも」
「そんなの、わかりません……」
「私はこう思っている。君は、君らは……人間だから、なのではないかと」

 元より解答を期待したわけではない。
 ブラッドレイ自身がこの殺し合いについて考える所見を、この少女に聞いて欲しかっただけだ。


374 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:22:05 /BPEuKdY0

「人間だから?」
「うむ。私やエンブリヲ、そして美遊という少女……どれも純粋な人間を遙かに超越した力を有している。
 おそらく他にもそういった戦闘に特化した人間は数多くいるだろう。単に殺し合いをさせるだけであれば、そういう者たちだけを集めれば良い。
 君や先ほど会った園田という少女は、無力だ。力ある人間に出会えば無残に狩り殺されるのは目に見えている」
「それは……」

 凛が一般人と違うところは何かと問われれば、アイドルだから、としか返せない。
 歌や踊りでファンを魅了するエンターテイナー。夢の様な時間をファンと共有する存在……
 しかしそんなものは、殺し合いに放り込まれる理由としては考えるにも値しない。

「おそらくこの殺し合いは、人間とそうでない化け物との生存競争なのだろう。
 無論、一方的な殺戮にならぬような配慮はされているのだろうが。 
 しかるべき手段さえあれば、君が私やエンブリヲを打倒することも決して不可能ではない」
「生存、競争……」
「戦う意志を持たぬ者から脱落していく。あるいは、意志があっても力のない者から。
 広川という男が何を求めているのかはわからんが……そこで生まれる我らと人間との意志と力のぶつかり合い。
 おそらくは、そういうものを見たいのではないかな」

 ブラッドレイはこのとき、静かに眼帯を解きその眼を凛に見せつけていた。
 ウロボロスの刻印。世界を食らう蛇。六芒星を呑み込む者。
 人間ではなく、ホムンクルスであることを示す証。
 ブラッドレイを超人たらしめる最強の眼。剣よりも銃よりも信頼する武器。
 その眼で、渋谷凛を射抜く。

「あなたも……人間じゃ、ない……?」
「然り。そして、今から君を殺そうと思う」

 ブラッドレイは剣を抜き、愕然とする凛の眼前に突きつけた。

「当初の予定では生かしておくつもりだったが、この眼のことを知られてはな。
 鋼と焔の錬金術士がいる以上、私がホムンクルスであるのは遅かれ早かれ露見することではあるが……。
 それでも私の能力までは、未だ知らんはずだ。綻びは今の内に解消しておかなくてはな」

 ブラッドレイの認識では、エドワード・エルリックともロイ・マスタングとも、直接の交戦経験はない。
 例外は強欲のグリードを捕獲した際、アルフォンス・エルリックに戦闘を目撃されたことだが、あれとてブラッドレイの能力を特定する確たる根拠には至らない。
 渋谷凛を生かしてタスクらの信頼を得るメリットと、最強の眼の全貌が露見するデメリット。秤にかければ後者が勝った。
 故にブラッドレイは、ここで渋谷凛を斬ると決めた。
 凛は殺害を予告されてなお、逃げようとはしなかった。否、到底逃げきれるものではないと悟っていたからだ。
 エンブリヲと渡り合ったことで心身ともに消耗したことに加え、ブラッドレイの放つ圧倒的なまでの殺気。
 ブラッドレイにはエンブリヲのような遊びはない。殺すと言ったら必ず殺す男なのだと、本能で理解させられていた。


375 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:23:13 /BPEuKdY0

「最期に何か、言い遺すことはあるか? 希望するなら未央くんに伝えよう」

 どのみち最後には彼女も殺すが、と付け加える。
 殺す。何気なく口走られた、あまりに非現実的な言葉。
 テレビのニュースやドラマ、映画の中でしか聞かないような言葉をごく自然に吐ける。
 凛は眼前の男が凛や未央、卯月といった人間とは絶対に相容れない化け物なのだと、改めて悟った。

「私、は……私たち、人間は……」

 逃げられない。
 殺される。
 怖い。
 震える。
 涙が抑えられない。
 それでもたった一つ、胸に生まれたこの気持ちは嘘ではない。
 エンブリヲが未央や卯月たちについて口にしたときと同じ。
 大切なものを脅かされたとき、人間が生み出す炎のような感情――憤怒(ラース)。
 凛は胸に宿る怒りそのままに、ブラッドレイの造られた眼を見据え、宣言した。

「あんたたちなんかに、絶対負けないから」

 それが、最期の言葉だった。
 ブラッドレイの剣が少女の心臓を貫く。
 凛は眠るように目を閉じ、断絶を受け入れた。
 346プロダクション・シンデレラプロジェクトに所属するアイドルの渋谷凛は、そうして死んだ。

「死するとも、矜持は捨てず、か。成る程……」

 友へ伝える言葉ではなく、人間の敵への宣戦布告。
 物言わぬ屍となった少女から剣を引き抜く。
 そのまま首を斬り落とそうとし――何も斬ることなく剣を収めた。

「少女よ、見事なり。その気高さに免じて、これ以上の辱めは行うまい」

 首輪を外すためには、実物が必要だ。だがそんなものはこれから先、いくらでも手に入れる機会がある。
 たとえ最期の一瞬とはいえ、渋谷凛はブラッドレイに抗うほどの強い意志を示した。
 戦士ではない、アイドル。その輝きは、確かにブラッドレイを魅了したのだ。
 人間からホムンクルスに進化――あるいは堕落したブラッドレイにとって、人間が垣間見せるそうした魂の強さは何故だか眩しく思える。
 その憧憬が、少女の死に様を汚すことを良しとしなかった。
 凛の亡骸を抱え、ホテルを出て水辺へと歩み寄る。そのまま冷たい川へと分け入り、真ん中辺りで手を離した。
 蒼の少女が、水底へと沈んでいく。
 ブラッドレイはじっと、その眼を以ってしても少女の影が追えなくなるまで、見届けた。


376 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:23:59 /BPEuKdY0

 川から上がる。
 当初の予定とは違うが、得たものの多い一時だった。
 まず、エンブリヲの異能をこの眼で存分に確かめることができた。

「あやつめをプライドに食わせれば、我らの計画はさらなる完成を見る。もう人柱に拘泥する必要もないかもしれん」

 この場にはホムンクルスの長兄たるプライドがいる。
 捕食した者の記憶や能力を我がものとするホムンクルス。
 彼がエンブリヲを喰らえば、それで手に入る知識や能力は国家錬成陣の発動成功と伍するかもしれない。
 討とうと思えば討てたエンブリヲを見逃したのはそのためだった。

「とはいえ、この場では我らも無敵ではない。ともすればあやつも私も不覚を取る可能性は十分にある」

 タスクに首輪を外させてアンジュとやらを保護するのはその保険だ。
 当初の予定通り人柱二人を確保して元の世界に帰還する。
 あるいはエンブリヲから全てを簒奪し、その力を「父」に献上する。
 ブラッドレイとしてはどちらでも良い。
 そしてどちらにせよ、人間や他の化け物との衝突は免れないだろう。
 どのような展開になっても対応できるよう、プライドやエンヴィーとの合流を急ぐ。
 同時にこの忌々しい首輪を外す。最強の眼を使っているとき、一秒ごとに身体に重くのしかかる疲労を感じていた。
 可能性があるとすればこの首輪だろう。タスクがこれを外せるというのなら、それまでの間生かしておく価値はある。

「これも思えば錬金術では到底創造し得ない器物だ。実に興味深い」

 新たに入手した光剣をズボンのベルトに挟む。
 光剣は刺剣と渡り合えるほどの切れ味を持ち、なおかつ軽量で携行性も高い。
 惜しむらくは剣先に重量がないため微妙に扱いづらいことだが、ブラッドレイの技量なら問題なくカバーできる。
 そして奇襲性もある。近接戦の最中、突如として現れる二本目の剣に対応できる者は少ないだろう。

「何より……渋谷凛、か。中々、歯応えのある敵であった」

 強き人間を打倒した。それこそがある意味、この戦いでの最高の戦果だといえるかもしれない。
 彼女の亡骸はもう浮かんでくることはないだろう。川に底があるのか、あるいは奈落に続いているのか。
 どちらにせよ、彼女はもう誰の目にも留まることはない。
 その輝きは蛇によって呑み込まれたのだから。
 ブラッドレイは踵を返し、図書館へ向かう道を急いだ。
 タスクと未央に向けたカバーストーリーを頭の中で書き上げつつ、一人夜の道を往く。



【渋谷凛@アイドルマスター シンデレラガールズ  死亡】


377 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:24:18 /BPEuKdY0

【F-6/川岸/黎明】

【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(極大)、腕に刺傷(処置済)
[装備]:デスガンの刺剣、カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2(刀剣類は無し)
[思考]
基本:生き残り司令部へと帰還する。そのための手段は問わない。
1:図書館に向かいタスクらと合流。稀有な能力を持つ者は生かし、そうでなければ斬り捨てる。
2:プライド、エンヴィーとの合流。特にプライドは急いで探す。
3:エドワード・エルリック、ロイ・マスタングは死なせないようにする。
4:有益な情報、技術、帰還手段の心得を持つ者は確保。現状の候補者はタスク、アンジュ。
5:エンブリヲは殺さず、プライドに食わせて能力を簒奪する。
[備考]
※未央、タスクと情報を交換しました。


【E-5/平原/黎明】

【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:健康
[装備]:スペツナズナイフ×2@現実
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
1:アンジュを探す。
2:D-5図書館でブラッドレイの合流を待つ。
3:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
 ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。

【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康、汗びっしょり
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
1:渋谷凛、島村卯月、前川みく、プロデューサーとの合流を目指す。
2:D-5図書館でブラッドレイの合流を待つ。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
 ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。


378 : 揺れる水面のアイオライト ◆H3I.PBF5M. :2015/05/21(木) 13:24:56 /BPEuKdY0

【F-7/ジュネス屋上/1日目/黎明】

【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(極大)、右腕・局部再生中
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2
[思考・行動]
基本方針:アンジュを手に入れる。
1:悠のペルソナを詳しく調べ、手駒にする。
2:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
3:タスク、ブラッドレイを殺す。
4:モモカ、サリアと合流し、戦力を整える。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
 分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※能力で洗脳可能なのはモモカのみです。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。

【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:失神、全裸、疲労(絶大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:仲間と合流して殺し合いをやめさせる。
0:…………
1:エンブリヲから逃げる。
[備考]
※登場時期は17話後。現在使用可能と判明しているペルソナはイザナギ、ジャックランタン。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。


※橋〜音ノ木坂学院の間に騎英の手綱解放による光が走りました。
※廃教会〜川の間にジャックランタン全力攻撃による炎が走りました。


379 : 名無しさん :2015/05/21(木) 13:25:44 /BPEuKdY0
投下終了です。
この度はご迷惑をお掛けしました。


380 : 名無しさん :2015/05/21(木) 14:07:53 GmX8w1WsO
お疲れ様です。
さよなら、しぶりん。
一人の人間として、女性としてあざやかに輝いていたよ。


381 : 名無しさん :2015/05/21(木) 14:22:02 omgMBfPE0
投下乙です!色々納得の高クオリティ…

大総統はさすが最強マーダーの一角の一言、ハガレン勢に連続でボコされるブリヲに笑う
そしてしぶりん…ホムンクルスも魅了するとは、儚くともまさにシンデレラガールだった


382 : 名無しさん :2015/05/21(木) 15:42:20 t84OJOZc0
投下乙です
まさかデレマス勢最初の脱落者がしぶりんとは予想外だった…
大総統は安定の強マーダーぶりが流石だった


383 : 名無しさん :2015/05/21(木) 17:04:03 hWeUtiCY0
最後の全裸番長に余韻を全て持って行かれたw


384 : 名無しさん :2015/05/21(木) 17:06:14 9nl17k6I0
投下乙です

しぶりんお疲れ様
美遊にしぶりんと、気高い女性に縁があるな大総統は


385 : 名無しさん :2015/05/21(木) 17:26:16 8/s2FThY0
投下乙です
流石大総統。エンブリヲを打ち負かす強さを見せ、凛の心に敬意を表す姿、
素晴らしいです。
やはり大総統を打ち倒すのは人間なのでしょうか。


386 : 名無しさん :2015/05/21(木) 21:01:49 t84OJOZc0
番長はまだ快楽責めから抜け出せないのかw


387 : ◆QO671ROflA :2015/05/21(木) 22:18:26 0SY4ZhS60
投下します


388 : オフライン ◆QO671ROflA :2015/05/21(木) 22:19:53 0SY4ZhS60
彼は無性に苛立ちを覚えていた。
その感情はもはや殺意と言っても過言ではないかもしれない。
彼───足立透は間違いなくつい数時間前まで、無謀にも自分に歯向かう少年少女と対峙していた。
手加減抜きの真剣勝負。数では明らかに劣っていたが、彼には圧倒的なスペックを誇るペルソナ“マガツイザナギ”があった。それを情け容赦無く行使することで、中盤までは少年たちを圧倒していた。
しかしそんな戦況も時間が経つに連れて、徐々に悪化の一途を辿り始める。
やがて足立は逆に追い詰められ、何も変わらず停滞した世界に行き場のない絶望を抱き、直前まで少年たちに向けていた拳銃の銃口を自身のこめかみに当てそっとその引き金を引いた。







何故か意識を取り戻した足立は、仄か暗い空間の中で磔にされていることを理解した。
周りを見渡すと、顔までは見えないものの同じように磔にされている人間が列を成している。
最初は「これが冥土なのか」とも思ったが、どうも根本的に何かが違うらしい。

そう時間を経たずして、その一種独特な空間に広川と名乗るスーツ姿の男が現れた。
彼は奇妙にも、その空間に相応しくもない殺し合いの開幕を高らかに告げる。
刹那、彼の前にツンツン頭の少年が現れる。しかし彼は、そう時間は掛からずに肉塊と化した。
その後も何もなかったかのように淡々と続く広川の説明。
「超能力」、「魔法」、「スタンド」、「錬金術」と厨二チックなワードが次々挙げられていく。足立は「ペルソナ」という「それら」に限りなく近いモノを視認した経験があり、更にはそれを使役した経験まで持っている。
仮にそれらが存在しても然程おかしい事ではないのだろう。
そして話が終りを迎えようとしたとき、広川は有象無象にこう言い放った。

“最後の1人になるまで生き残った暁には、いかなる望みでも叶えてみせる”と。

その一言で足立の活動指針は定まった。
最後まで生き残り、《優勝》する。そして最期に邪魔をされ、成し遂げる事の出来なかった《自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする》という夢の実現。
その狂気の願望を抱きつつ、足立はこのバトル・ロワイアルの参加する事を決意した。







どうやら足立はまたも意識を失っていたらしく、目を覚ますと椅子に座っていた。
前後左右のどの方向を向いても、自分が座っているのと同じ椅子が設置されており、それが何列にも連なっている。何かのホールと表すのが分かり易い光景だ。

(もしや、もう広川とかいう男が語っていたゲームは始まってるのか?)

確信は無かったが、それを確かめるよりも身の安全が先決だ。まず彼は、自身の最強の武器になるであろうペルソナの召喚を行うことにした。
彼が拳銃で自殺を図る直前に、彼は自身のペルソナ・マガツイザナギの召喚に成功している。

「マガツイザナギ!!」

前回拳銃で自殺を図る前に召喚した時と同様に、彼はペルソナの名前を叫ぶ。
しかしペルソナは彼の召喚には呼応せず、あたりにはホール特有の静寂が漂ったままであった。

「どうしたんだよ!!マガツイザナギ!!」

幾度と声を荒らげても自身の、あの真紅のペルソナは現れない。

「まさかペルソナが召喚出来ないのか!?」

広川の口からあれだけ異能に関するワードが挙げられている以上、ペルソナと同等の異能所持者がこのバトル・ロワイアルに一定数以上参加しているのは間違いないだろう。
そんな状況で足立がペルソナを召喚出来ないというのは、彼に死ねと言っているに等しかった。

「嘘だろオイ!!」

焦り───。それが足立の不安を掻き立てる。
そんな時、広川が“参加者には支給品が配られる”と言っていた記憶が足立の脳裏をよぎった。

「……そうだ!まだ支給品を確認していないじゃないか!」


389 : オフライン ◆QO671ROflA :2015/05/21(木) 22:22:39 0SY4ZhS60
足立は咄嗟に辺りを見渡した。
そして足元に置いてあるデイパックに気付き、すぐさま手をかける。
主催の広川の説明が正しいならば、この中には優勝する為に必要不可欠な武器があるはずだ。
デイバックを開くと、まず中から見つかったのはスマートフォンに酷似した形状のデバイスだった。次に食料品、地図、コンパス、時計と基本支給品がごっそりと出てきた。

彼が何か若干冷えた硬い棒状のものを手にしたのはそれから間もない事だった。
それを引き上げてみたが、その棒は明らかに何の変哲もないゴミのような悪臭を放つ鉄パイプだった。
こんなものでは優勝までには何の役にも立たない事は明白。爪楊枝も同然だ。
更に焦りを募らせながら、足立は支給品の確認を進めた。
次に出てきたのは小冊子。最初の見開きを開くと広川の語ったこの殺し合いのルールの大まかな概要が書かれていた。これは一種のルールブックと見るべきだろうか。
足立は更にページを読み進めていく。するとすぐに支給される武器に関する説明の項に辿り着いた。

“ランダムに支給されるアイテムは最低1個、最大で3個である”

その内の1つがあの鉄の棒。更に彼はペルソナまで召喚出来ない状況にあった。
まさに絶体絶命であり、自然と足立の焦りと不安は増していく。
ルールブックを、隣の椅子の背もたれの部分に挟み、彼は更にデイパックをあさる。
次に見つかったのは水鉄砲であった。それがまだ、本物の拳銃に似た色形をした物だったら初心者相手には脅しとして通用しただろう。だが、これはどう見てもそれは子供向けの良くある青と赤で彩られた、別にどこにでもあるような水鉄砲だった。

(もしやこの水鉄砲に入っている液体は硫酸なのではないか)

そんな淡い希望も一回引き金を引くだけで結果は一目瞭然。
液体の飛んでいった前方の椅子はただ濡れただけ。人体にしか作用しない液体じゃないかと指に一滴その液体を垂らすが、痛みは疎か痒みすら感じない。明らかにそれはただの水だった。
あっさりと希望は潰え、再び落胆を超えた絶望が足立に襲いかかる。
ルールブックには支給アイテムは1〜3個と書かれていた。もしかしたら、あの悪臭を放つ鉄の棒と水鉄砲だけなのではないか。
次に手触りを感じたのはビニールに近い小物だった。仮にこれが最後の支給アイテムだったとしても武器にはならないだろう。そう感じながらも足立はそれをデイバックから取り出す。
それの正体は、ビニール状の小袋に入った包装された錠剤であった。
1袋の包装に、2列に分かれて4錠ずつ入っている。計8錠の錠剤のそこにはあった。
包装に包まれた錠剤の数量確認に時の足立には嫌でもその表記が目に入った。
“ビタミン剤×8”
まさかこれは武器ではないだろうと思ったが、冷静になって考えてみればルールブックには「1〜3個のアイテム」としか書かれていない。必ずしも3個全てが武器だとは限らなかった。

【鉄の棒】・【水鉄砲】・【ビタミン剤】

この3つが俺の武器なら、このゲームの参加者で最弱なのは俺で決まりだろう。
そう踏んで更に落胆する足立。しかし、不意にビタミン剤の入った小袋に目をやると妙な黒い羅列が目に入った。

(さっきまで表しか見ずに裏にまるで注意を向けなかったけど、この羅列、明らかにQRコードだよな。
そう言えばあのデバイス……)

すかさず、足立はデバイスをそのQRコードにかざした。彼の予想通り効果はすぐに現れる。
デバイスの画面が暗転し、あるカタカナの漢字で構成されたワードが画面に浮かび上がる。

“シアン化カリウム”

足立は、一応ながら過去に警視庁に在籍したエリート警察官である。
シアン化カリウムが俗に“青酸カリ”と呼ばれる即効性と致死性を兼ね備えた猛毒である事は容易に理解出来る。
そして青酸カリの保存は極めて困難であり、空気中のCO2と化合した場合には青酸ガスを発生させて青酸カリ自体はただの無害な塩水に変わるという事も知っている。
非常に扱いにくい武器であり、更にこれが《ビタミン剤》なのか《シアン化カリウム》なのか確かめるのはほぼ不可能に等しかった。


390 : オフライン ◆QO671ROflA :2015/05/21(木) 22:23:05 0SY4ZhS60
「……また振り出しかよ」
自分に扱える武器はほぼ無いに等しく絶望しきった足立だったが、依然として優勝は諦めていなかった。
警察機構に所属していた自分視点からしても、明らかにこれは非合法なゲームだと感じる。現に主催者と思われる広川はああも簡単に殺人を犯してみせた。
広川に殺されたあのツンツン頭の少年、確か名前は上条当麻とか言っただろうか。
あの少年のようにこのゲームに反感を抱いて、言ってみれば対主催としてゲームに乗っていない参加者も相当いてもおかしくはない。
となれば、自分は対主催を騙る事で、他の対主催参加者と接触してそいつを駒として使える限り使って、用済みになるタイミングを見計らい奇襲を仕掛けて所持品を奪い取ればいいんじゃないだろうか。
もはやそうでもないと優勝は無理だろう。
足立は自身の本来の性格である独善的、そして排他的な性格を徹底的に隠し、あの忌々しいガキどもと接触した時のように飄々としたお調子者の性格を演じる事を決める。

「あー、また大変だねぇ」

だが足立は過去にそれを見事なまでにやってのけて、一時は生田目という男に自分の全ての悪行の罪を擦り付ける事に成功している。
足立は早速、対主催参加者を探す事を決めてそのホールを後にしようとした。

(それにしても散らかしてしまったものだ)

ホールから出ようと思ったまでは良かったものの、さっき焦り過ぎてそこら中に放り投げたと思われる所持品が散らばってしまっていた。
ため息をつきながら足立はそれらをデイパックに詰め込む。そんな時にデイパックの中にまだ目を通していない一枚の紙を見つけた。

“参加者名簿”

そう書かれたその紙には何列にも分かれてこのバトル・ロワイアルの参加者であろう人物の名前が書き示されていた。
その中に見覚えのある忌々しい名前が4つ―――。足立は悪魔的に不気味な微笑みを浮かべる。

ギィ
そんな足立の居る席の後部座席側の大扉から開閉音が、一見静けさしかないホールに鳴り響いた。


391 : オフライン ◆QO671ROflA :2015/05/21(木) 22:24:30 0SY4ZhS60
「……さて、どうしたものかな」

旧世代の白熱灯で照らされた薄暗い通路で、ヒースクリフこと茅場晶彦は頭を悩ませていた。
脳に刻まれた記憶が正しいのなら、彼は自身の開発したVRMMORPG《Sword Art Online》─通称SAO─にて、ユニークスキル《神聖剣》を誇るトッププレイヤーとして、大規模ギルド【血盟騎士団】の団長に君臨していた。
彼はアインクラッド75層で共闘した、同じくユニークスキル《二刀流》を保持するプレイヤー・キリトに正体と目論見を看破され、彼と死闘を繰り広げた末に相討たれたはずなのだ。
茅場はあらかじめ、SAOのラスボスたる自分が倒されゲームがクリアされたであろうその際に、現実世界の自分─茅場晶彦の脳に高出力マイクロ波スキャニングを行い、電脳化を果たす予定だった。

しかし結果はこの有様だ。
いつの間にか拘束されて、広川なる男の説明を聞かされ、挙句には殺し合いに参加を強制されている。
だが彼は、主催者らしい広川に逆らおうとは考えなかった。
『あのカミジョウトウマと呼ばれた少年があそこまであっさりと惨殺された辺り、自身の命も彼と同じく主催者に握られているのだろう』と仮定したからだ。
寧ろ主催者に対する感情は、憎悪よりも興味の方が勝っていた。
この段階で既に、彼の基本方針は「主催者への接触」へと結論付けられていたのである。







あの広川による説明を聞き終わった直後、ヒースクリフは再び意識が途切れ、目を覚ますと今いるこの通路に佇んでいた。

(主催は参加者の意識さえも自在に支配出来るのか。)

ヒースクリフの主催への興味はより一層増していく。
主催・広川への接触―――。改めて彼は自分の方針を見返す。

主催に反旗を翻し、他の殺し合い参加者と協力して追い詰めるか。
だがこの首輪がある以上、それは不可能に近いだろう。
やはりこの殺し合いに最後まで生き残り優勝する事が最も確実な手段だろう。
主催が直接手を下さずに願いを叶えてくれるというのなら話は別になるが。

こう今考えても意味はないだろう。
ヒースクリフは広川の語った説明を思い出す。
彼の言っていた言葉が正しいなら、「魔法」だけに限らず「超能力」や「スタンド」と言ったある種のオカルティックな異能を持つゲーム参加者が居て、各参加者に支給される「個別の支給品」がこのゲームを生き残る鍵となる。
そして最後まで生き残れば、この空間から開放され、その上で「如何なる願いでも1つ叶う」というオプションが付く。
まず支給されたデイパックの中身を確認するのが先決だ。







案の定、彼のものであろうデイパックはすぐに見つかった。
しかし問題はその中身だった。
広川の語った『共通支給品』よりも先に見つかったのは、おそらく個別支給品であろう身に覚えのない小さな固形物のようなモノだった。
形状は様々であったが色は全て黒一色であり、10個ほどデイパックから見つかる。
後に見つかった個別支給品の説明書によれば、これは『グリーフシード』と呼ばれる『魔法少女に対する回復アイテム』らしい。
説明書して曰く、どうやらグリーフシードには有効期限があるらしく、“第4回放送まで”と表記されている。有効期限付きの回復アイテムとはゲームクリエイターとして早々耳にしないが、どうやらこれはそれに該当するらしい。
少なくとも自分が魔法少女ではない事は確かであり、今後これがどのように役に立っていくかなど到底想像は出来る筈がない。
その後も食料や地図などの共通支給品が見つかり、個別支給品もそれ以外に2つほど見つかるもグリーフシードよりは有効活用に適しているようには思えたが、これいって他の参加者に対してアドバンテージとして働くような支給品でない事は確かであった。

生前のアバターとしてのヒースクリフの装備がそのまま使える事は茅場にとって非常に好都合な事であった。
自身のユニークスキル《神聖剣》の長剣こそ失われていたが、十字盾がそのまま手元に残っている。
それどころか真紅の甲冑やゲーム上の生前のスキルもそのまま使えるらしい。
尤もSAOの管理者スキルをもってして得ていた《不死スキル》は失われているようだったが。
HPバーに関してもSAO同様、視界左上に青々と固定表示されている。
そして今となってはSAOプレイヤーにとっては当然の事ではあるが、相変わらずログアウトボタンは表示されなかった。


392 : オフライン ◆QO671ROflA :2015/05/21(木) 22:25:05 0SY4ZhS60
次にヒースクリフが着目したのは地図である。
何にせよ、現在彼は防御に関しては優れているが、攻撃手段に関しては殆ど無いに等しく、更に彼の攻撃パターンは剣技に代表される全て近接戦闘に特化したようなものである。
遠距離戦には滅法不利であり、近距離戦でも盾のみでは必ず隙が生まれる。
誰よりも早く地形を理解し、いつでもその場の状況に応じた策を練る事の出来るという事がヒースクリフには求められていた。

地図を見てみたのはいいものの、ヒースクリフは更に驚愕する事になる。

“アインクラッド”

本来この場にあるはずのない“それ”の表記はそこにあった。
あの100層にも及ぶ浮遊城は正真正銘、茅場晶彦――すなわち自分が設計したものである。
そんなものが何故かこの地図に載っている。
ヒースクリフは戸惑うが、こんな状況下で混乱して冷静な思考を失う事こそ死に直結する。
まずはあの城――アインクラッドを目指す。

そう決めたのはいいが彼には当然の事ながら現在位置が分かっていない。
建物の屋内で目覚めた事はそんな彼にとっては不幸中の幸いだっただろう。
現在位置の特定はそう難しい事ではないらしい。
とりあえず廊下を有するこの施設が地図における何に相当するのか確かめよう。
早速ヒースクリフはその施設内を渉猟する。

案外それはすぐに見つかった。

“メインホール”

そう書かれたプレートの貼られる大きな扉を彼は見つける。
扉は半開きになっており、まるで既に室内に誰かが居るかのような雰囲気を醸し出している。
彼はそっと扉に手をかける。

ギィ
その耳障りな金属音と共にホールの大扉は開かれた。


393 : オフライン ◆QO671ROflA :2015/05/21(木) 22:25:46 0SY4ZhS60
あの大扉の開閉音が鳴り響いた直後、再びホールには今まで以上の静寂が訪れた。
理由など簡単である。
それは元からホールに居た足立透にとっても、後から入室したヒースクリフにとっても非常にネックな状況にあったからだ。
両者ともにゲームへの賛同、そして優勝まで視野に入れており、そして互いに確実に目の前の相手を圧倒する事が可能な攻撃手段を持ち合わせていなかった。

ただヒースクリフには個別支給品とはまた別個に支給された自身の真紅の甲冑一式と神聖剣の十字盾を装備していただけあって、防御手段さえ持ち合わせていない足立よりは遥かに優位だったのかもしれない。
しかし彼には前方の座席からこちらを凝視するその男の支給品は何なのかなど当然分かる筈はない。

しかし逆に足立からすれば自分の不利は一目瞭然の事実だった。
入口の大扉からこちらを見つめるあの体格のいい盾を構える銀灰髪の男に、水鉄砲、いや鉄パイプを持ってしても勝てそうではなかった。

ここで膠着状態になってもらっては逃げ出すにも逃げ出せない。
見事なまでに2人の考えは一致しているのだが、両者にはそんな事は分からない。







「も、もしかしてアナタって……、この殺し合いに賛同してる人ですか……?」

先に口を開いたのは足立だった。
ここは是が非でも相手と会話を続け、あの男の真意に迫る必要がある。
イチかバチか、足立は彼がゲーム非賛同者――対主催参加者である事に賭けて、あの飄々とした性格を演じる事にした。実際は自身の目論見とは異なり、彼は自分と同じくゲームへの参加を決意した者だったとは足立は知る由もない。

「いいえ」ヒースクリフは即答する。
仮にこのまま男の問いに「イエス」と答えて殺し合いにでも発展するようなら、相手の支給品次第では自分は負ける事になる。すなわちその先にあるのは死だ。
自身の反応速度をもってすれば、この近距離、相手の支給品が銃だとすれば楽に交わせるだろう。ただあれだけ広川の口からオカルティックなワードが出てきている以上、下手に動くのはリスクが高すぎた。
更にこの男の口ぶり、わざとらしさも感じなくはないが、ゲーム非賛同者のように思える。

「よかったぁ〜!!てっきり僕以外の参加者は全員殺し合いに乗り気でいるんじゃないかと思いましたよ〜!!」
(何を言ってるんだ。自分だって既に乗る気満々じゃないか)

そんな足立の心中に気付くことなくヒースクリフは語る。

「私も同じような考えが頭をめぐって、かなり焦ってましたよ。
でもアナタのような仲間と一番最初に出会えたのは幸運でした。
もし差支えがないようでしたら、今後一緒に行動していきませんか?」

この返答次第ではアインクラッドまでの道のりの駒ができる。
上手い具合に利用できるだけ利用して、時と場合――というよりはほぼ確実に仕留めてみ
せる。
そんな腹黒い考えを巡らすヒースクリフであったが、足立の返答は意外なものであった。

「勿論そうしましょ!!僕も同じ事を言おうと思ってたんですよ〜。
ただ……」
「ただ?」
「アナタの支給品、確認させてもらえません?」

てっきり二つ返事が返ってくると思っていたヒースクリフにとっては、それはまさに想定外の返答だった。
真摯にこの状況を見たなら、いくら相手への信用欲しさでもこんな返しは普通しない。
相手が現に自分のようにゲーム非賛同を騙っている可能性だってあるのだ。
明らかにこれは愚問。ただここでそれを拒んでもまた膠着状態に逆戻りするだけだ。

そう迷っている間にも足立は自分のデイバックを手に取り、彼の元へ足を運ぶ。
足立には一切躊躇いなどない。何せ自分の支給品は水鉄砲と鉄パイプ、そして何か良く分からない錠剤だけなのだ。別にそれを隠してこの男を殺せるわけではない。寧ろ男の武器が特定できるいいチャンスだった。

「僕なんてこんなんですよ〜」足立は相変わらず足を進めながら、デイバックの中に手を突っ込む。
そして間もなくして水鉄砲を取り出し、「これに」。
次に鉄パイプを取り出して「これに」。最後に錠剤入りの半透明の小袋を取り出し、「ビタミン剤ですよ〜」と声のトーンを若干高くしながら言って見せた。
「ほう」ヒースクリフは、ただただ意味ありげな相槌を打つ。


394 : オフライン ◆QO671ROflA :2015/05/21(木) 22:26:42 0SY4ZhS60
「私の支給品はもう見れば分かると思いますが、今着ているこの鎧とこの盾です」

まさにスキルとゲーム上での生前の装備がそのまま使用出来たのは不幸中の幸いといえよう。ヒースクリフはそれらを支給品と騙った。

(2つか。やはり3つ支給品を持っていた自分は特殊だったのか?まあ全部クソみたいな武器だったけど)

足立は些細な違和感を覚えたが、あえて言及する事はしなかった。
あの錠剤、さっきは「ビタミン剤」と語ったが、デバイスには「シアン化カリウム」と表示された。逆に相手の支給品を言及して自分の支給品、更には真意にまで飛び火するのは、たまったものではなかった。

「守りに強い支給品ですね〜。分かりました、一緒に行動してこのゲームからの脱出方法を探しましょう!!」

相手が錠剤に関して言及して来ない事を祈りながら、足立は高らかに声を上げる。
一方でヒースクリフは迷っていた。
この男の支給品、いや武装が本当にあれだけだったのなら、共に行動してもまるでメリットがない。もしやこの男は自分のように個別支給品とは別に何らかの武装を得ているので
はないのか。
考えれば考えるほど、ヒースクリフには彼が怪しく思えてならない。
最悪、弾除けに利用すればいいか。
ヒースクリフの思惑は一段落付き、「はい」と返事を返す。







その矢先の事だった。
「ドン」という轟音と共に振動が彼らのいるホールに響く。
互いに別段何かをした様子は見られない。寧ろ慌てているように見える。
ただこの轟音の出処はホールの外、そう遠くない場所からのように思えた。

「既に殺し合い、始まってるんですかね」足立は言う。

「多分そうなんでしょう。どのみち、外に出るのは危険でしょう。当面はこのコンサートホールで籠城するのが一番いいと思うんですが、よろしいですか?」

ここが地図におけるコンサートホール――座標D2だとしたなら、アインクラッドまでそう遠くはない。当面はこの男と行動を共にして、拠点を入れ替えながらあの城を目指すのがヒースクリフにとっても最も上策のように感じた。

「僕は全然大丈夫ですよ!!
こんな時に言うのもなんですけど、僕、足立透って言います。一応刑事です。よろしくお願いします」

足立は彼にそっと手を伸ばす。
傍から見ればただの自己紹介だが、彼らからすれば、相手の名前を知り、その見返りとして自分の名前を相手に伝えるというハイリスクハイリターンな行為だった。
ましてや両者ともに対主催の立場を騙り、参加者名簿を所持している以上、それはもってのほかのことである。

「ヒースクリフと言います。以後よろしく」
ヒースクリフはそう言いながら盾を持っていない方の手で彼の手を握った。

かくして奇妙な組み合わせによる共同戦線が成立したのであった。


395 : オフライン ◆QO671ROflA :2015/05/21(木) 22:27:38 0SY4ZhS60
【D-2/コンサートホール/一日目/深夜】


【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:健康
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限あり)×10@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品(確認済み)(2)
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
1:要所要所で拠点を入れ替えつつ、アインクラッドを目指す
2:外からの爆音(浪漫砲台パンプキンによる後藤への射撃音)に警戒しつつ、当面はコンサートホールで様子見を兼ねた籠城を行う
3:足立を信用しきらず一定の注意を置き、ひとまず行動を共にする
4:キリト(桐ヶ谷和人)に会う
5:神聖剣の長剣の確保
[備考]
*参戦時期はTVアニメ1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
*ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
*キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
*電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
*ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。


【足立透@PERSONA4】
[状態]:健康、鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル@現実
[思考]
基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
1:ゲームに参加している鳴上悠・里中千枝・天城雪子・クマの殺害
2:自分に扱える武器をほぼ所持していない為、当面はヒースクリフと行動を共にする
3:隙あらば、ヒースクリフを殺害して所持品を奪う
[備考]
*参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後
*ペルソナのマガツイザナギは自身が極限状態に追いやられる、もしくは激しい憎悪(鳴上らへの直接接触等)を抱かない限りは召喚できません
*支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です


396 : オフライン ◆QO671ROflA :2015/05/21(木) 22:28:09 0SY4ZhS60
投下終了です


397 : ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:26:29 fMVHppmE0
投下します


398 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:28:42 fMVHppmE0

走る少女が一人。その背を追う美女が一人。
その光景だけならば、ある種の趣向を持つ者にはたまらないものかもしれない。


「どうしたほむら!少しは反撃してきてもいいんだぞ!?」
「......」


生憎、いま行われているのは圧倒的な強者による蹂躙。
逃げ回る兎を狼がいたぶりながら遊んでいるようなものだ。
勿論、魔法少女である暁美ほむらはただ逃げ回るだけの兎ではない。
迫りくる氷柱を避けながら、どうにか牽制程度の攻撃は仕掛けようと隙を窺っているが...
(反撃していい?冗談じゃない。だったらもっと隙を作りなさいよ)
エスデスの実力は本物だ。己の実力に絶対の自信はあるが、慢心は見つからない。
図体のデカさにカマをかけて、一切の攻撃から身を守ろうとしないワルプルギスの夜とは違う。
時間を止めようにも、決定打も持たないいま、下手に魔力を消費したくはない。
悔しいが、いまは背を向けて逃走するしかない。
ほむらは悔しさと苛立ちに顔を歪めた。


399 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:30:33 fMVHppmE0
対するエスデスは、笑みを浮かべていた。その笑顔は美しくもあるが、同時にドス黒い邪悪さも兼ね備えていた。
「そらそら、このまま何もせずに死ぬつもりか!?」
エスデスは本気を出していない。
アヴドゥルへの攻撃が3割ならば、いまは2割といったところか。
そして、攻撃もあえてぎりぎり避けれるか掠めるかといった具合に調整している。
もちろん、殺さず楽しむためでもあるが、それ以上に
(さあ、もう一度見せてみろ!お前の本当の力を!)
先程体験したほむらの能力『時間停止』に非常に興味を持ったからだ。
(どうやってその力を手に入れた?どうやって私と同じ『世界』に踏み込んだ!?)
エスデスは知りたかった。愉しみながら知りたかった。
(私は鍛錬で手にしたぞ。お前はどうだ?お前もそうなのか!?それともそういう道具を持っているのか!?)
ほむらが観念して時間停止を使い、反撃してきたところを逆に返り討ちにして"私も時間を止めれるぞ"と言い放ってから聞き出したかった。
エスデスの笑みに更にドス黒さが増し、それを確認したほむらの背に怖気が走り、逃げの速度を速めた。



(ふむ、掠り傷程度では音を上げんか。なら...)
2割程度だった力を、4割程度に引き上げようかと考え、この一定距離を保った鬼ごっこを終わらせようとした時だった。
ほむらが逃げる先に見えたのは森林。流石に入り組んだ樹海に入られては探索は面倒になる。不可能ではないし、絶対に見つけれるが。
一瞬だけ、ほむらが森林へと逃げ込む前にこの鬼ごっこに片をつけようかと思ったがすぐに改める。
(いや、森林を使っても逃げられないということを思い知らしめた方が、やつの奥の手を引き出し易いか)
ほむらが森林へと逃げ込んだのを確認し、次いで自身も足を踏み入れようとしたその瞬間
「ん?」
ほむらよりも奥の闇から発光する球体が飛来し、エスデスの視界は塞がれた。


400 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:32:00 fMVHppmE0
なにやら頭上を妙な物体が通ったので振り返ると、エスデスの姿は見えなかった。
撒いたか、という安心感と共に、光を放った敵がいるのではないかという警戒がほむらの足を止めた。
「そこのきみ」
突如かけられる声。物体が発射されたと思われる方向だ。
「安心してくれ。きみに危害を加えるつもりはないよ」
姿を現したのは、学生服に身を包み、前髪が奇妙に垂れ下がった青年だ。
青年の柔らかい物腰と言動に対してもほむらは警戒を緩めない。
この殺し合いの場において、こうも容易く声をかけられるのは危険人物か相当な自信家か、エスデスのようなそれらを両立した者くらいだ。
故に、先程の光体を放ったのはこの男だと確信する。
「......」
「警戒するのも仕方ないか。なら、このデイパックは...おや?」
青年の疑問の声にも警戒は解かず、耳だけ澄ましてみる。

パキ...パキ...

(これは何の音?何かが折れる...違う、凍っている。凍る...ッ!)
凍る。その言葉を連想した瞬間、またもほむらの背に嫌な汗が噴き出す。
慌てて振り向くほむらだが、やはりその予感は的中していて。
後ろの木々が順番に、凍らされていたのだ。



突如飛来した物体。それはエスデスに当たったのか?答えは否。
いくら不意打ちとはいえ、その相手は帝国最強の女将軍にして、強者揃いの特殊警察『イェーガーズ』を束ねる将軍・エスデス。
幾多の戦場を駆け、様々な超人・帝具持ちと戦ってきた彼女にとってこの程度のものを躱すことなど造作もないことだ。
だがエスデスはそれを受け止める。身体ではなく氷でだが。
ガガガと派手な音を立てて氷に衝突し、そのまま包み込まれて静止する物体。
(ふむ。この衝撃からして、人体を破壊するには十分すぎるな。悪くない威力だ)
なぜわざわざ受け止めたか。簡単だ。観察するためだ。
飛来してきた物体は全部で5つ。どれもが同じような色と形で、例えるならエメラルドのようなものだった。
(これはほむらのものではないな。これほどの物を持っていたなら最初の時間停止の時に使っているはずだ。私を殺すためにな)
勿論、観察しつつもほむらたちへの注意は怠っていない。
ほむらを狙った流れ弾か、こちらを狙った攻撃もしくは牽制か。
おそらく後者だが、エスデスにとってはどちらでもよかった。
ただ、一瞬だけ視界を塞がれたためにほむらの正確な位置がわからなくなったのは痛かった。


401 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:32:57 fMVHppmE0
「よし。炙り出すか」
彼女の切り替えは早かった。
近くの木を人差し指でピンと弾く。
弾かれた木を中心に、南北へ向かって氷が広がり始める。
(地図は把握している。今からこの氷はB-2森の端に掛けて壁を作ることとなる。壁が出来た後はそのまま西へと浸食し、やがて森は全て凍りつくこととなる)
エスデス自身は平地を進み、たまらず出てくるほむらともう一人を確保する手筈だ。
(氷を壊そうとするかもしれんが、私の氷だ。生半可な攻撃では壊せんぞ?)
「さあいくぞ。お前達はどこまで逃げ切れるかな?」



「なんだあれは...氷が周囲の物を凍らせている...!?」
「なんて無茶苦茶な女...!」
木々を浸食している氷がほむら達の退路を塞ぐように壁を模りつつある。
更に見間違いでなければ、氷は徐々にだがほむらたちに近づいているように見える。
「逃げたほうがいいんじゃあないか?」
「いいえ。逃げるにしても、決して道路に出ては駄目。そして、走ればおそらくその気配で見つかってしまう...」
ほむらがゆっくりと歩くよう指示すると、青年も無言で頷き、それに合わせる。
「...しかし、いくらなんでもあの向かってくる氷、遅すぎやしないか?」
「そうやって楽しむ女なんですよ」
先程まで追われていたほむらだからわかる。ああやってジワジワとイタぶるのも好きなタイプであることも。
(...でも、たしかに遅すぎる。私たちの歩くスピードとほとんど変わらないとはどういうことなの?)


402 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:33:51 fMVHppmE0
エスデスは違和感を感じていた。
(妙だな...たしかに私は奴らが逃げやすい程度の早さで凍らせるつもりだったが、いくらなんでも遅すぎる)
ほむらの予想は概ね当たっていた。わざと逃げ切れる早さで凍らせ、楽しむつもりではあった。
だが、決して歩いてでも逃げれるようにした覚えはない。
(それだけではない)
己の脈と動悸を測ってみる。拷問について研究する過程で、人体についてはかなりの知識を持つ彼女は、脈と動悸を測れば健康状態がわかる。
(...やはり、少々疲労があるようだ)
普段ならば、いくら小技を使おうとも疲労はない。だが、いまは確かに疲労を感じている。
凍る早さと疲労の問題。
これらを繋げると、ひとつの答えに辿りついた。
(広川め、なにか細工をしたな)


殺し合いが始まる前、広川を脅かしてやろうとデモンズエキスを使おうとしたが、全く出すことが出来なかった。
広川が、自らが語った"異能"を封じる力を持つとすれば、相手の能力を制御できてもおかしくない。
もちろん、帝具のように普通じゃない道具も弱体化させることができるのだろう。
そんな制限をかけるのは、おそらく公平になるようにするためだろうが...
(勿体ないことを。死合は互角でないと見る側としては面白くないのは同意だが、そのために能力を制限するのは気に食わん。
制限するくらいなら、近い実力者ばかり集めればいいものを)
広川に対して落胆の感想を浮かべ、制限に関しては一旦保留する。


403 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:35:04 fMVHppmE0
(さて。ほむらたちを炙り出すのは不可能ではない。というか出来ない自信がない)
だが、制限のせいで時間はかかるし、疲労もかなりのものとなるだろう。なにより、制限のことで気持ちが少し萎えてしまった。
それに、エスデスには約束がある。『6時間後にコンサートホールへと集まる』という約束が。
デバイスを取り出し、時間を確かめる。
(もう半分にまで迫っているな。あんまり時間をかけていると間に合わん)
エスデスは軍人だ。
もし部下が集合時間を破れば、仮に怪我人だとしても『ソフト拷問コースC』を容赦なくかける。
そんな自分が定めた約束という規律を破りたくはないのだ。
(ほむらとはもう少し遊びたかったが...仕方ない)
エスデスがパチンと指を鳴らすと、パリンという音とともに、木々を覆っていた氷が消えてなくなった。
「聞こえるか?追い回したことは謝罪する。すまなかったほむら。だが、おまえの力が知りたかったんだ。悪く思わないでくれ。光弾を撃ったもう一人もだ」
エスデスの言葉に対する反応は無い。エスデスもそれでいいと思っている。
「時間が迫りつつあるので、私はもうお前たちを追わん。私はこれから西のエリアをまわるが、その前に聞きたい。広川を殺したあと私の元へ来ないか?
ああ、断っても殺しはせん。アヴドゥルにもキッパリと断られたよ。30秒待つから、その気がなければなにも返事をしなくていい」
答えはわかっているがな、と思いつつほむらたちの反応を待つことにする。

あっというまに30秒が経過する。
「わかった。それがお前たちの答えだな。私はこれで失礼する。では、放送後にコンサートホールでまた会おう」
まるで、来るのは当たり前だと言わんばかりに言い放ち、エスデスは悠然と歩き出す。
(あいつは、必ず私のもとへ来る。コンサートホールには来なくとも、必ずいつかは現れる。
強力な戦力を求めてか、排除すべき人間と判断してかはわからんがな)
後者ならもっと楽しめそうだな、と期待を胸に膨らませる。

(だが、敵として私の前に現れたときは覚悟しろよ?必ずその能力を手に入れた経緯を引き出してやる。
奥の手であろうものだ。そう易々と話したくはないだろう。だが、私は私の欲求を満たすならばなんでもするぞ。
お前の歯を砕いてでも
片目を潰してでも
頬に風穴を開けてでも
両手両足の爪を剥がしてでも
その平たい胸をさらに平たくしてでも
腕を切り刻んででも
両脚を切り刻んででもだ。
それほどお前の能力には興味を持ったのだ!)
傍から見れば冗談にしか聞こえないだろう。だが、彼女は本気だ。いつだって本気だ。
彼女のドス黒い笑みは、まだ絶えていない。




【B-1/一日目/黎明】

【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:高揚感 疲労(小)
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:協力者を集め六時間後にコンサートホールへ向かう。
1:その後DIOの館へ攻め込む。
2:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
3:タツミに逢いたい。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。


404 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:36:09 fMVHppmE0
「本当に去ったようだが...諦めたのか?」
「いいえ。言葉通り、時間が迫っているのでしょう」
どうにか一難去ったことに、ほむらは胸を撫で下ろす。
(まどかに危険をもたらす可能性は高いけれど...いまの私にはあいつを仕留める決定打と呼べるものがない)
ほむらのデイパックには帝具『万里飛翔マスティマ』があるが、飛翔以外の使い方がよくわからないものに運命を委ねる気にはならなかった。
「では、自己紹介といこう。わたしの名は花京院典明。きみの名は?」
「...暁美ほむらです」
物腰柔らかく対応する花京院に対してもほむらは警戒を解かない。目の前の男が危険かどうか判断するには情報が足りないのだ。
「おっと、怪我だらけじゃないか。どれも重傷ではないが、塞げるものは塞いでおいた方がいい。治療道具は?」
「持ってません」
「なら病院へ向かおう。情報交換は道すがらということで...」
「ま、待ってください」
先導して病院へと歩を進めようとする花京院を慌てて呼び止める。
病院に戻ること自体は賛成だ。だが、その前に知らなければならないことがある。


「花京院さんは、ここに来るまでに誰かに会いましたか?」
もしも花京院が誰かと出会い、分かれて行動しているなら。その人物が頼りになる人物なら。
会っておきたいと思うのが心情だ。
だが、ほむらの期待はあっさりと崩される。
「いや。わたしはA-4の武器庫の方から来たんだが、まだ誰にも会っていない」
「...そうですか」
誰とも会っていないということはそれだけ手に入れられる情報が少ないということだが、反面嬉しいことではあるのかもしれない。
(少なくとも、エスデスの行先にはまどかはいなさそうね)
「では、病院へ向かうということでいいかな?」
(回収し忘れていた医療器具のこともあるし、エスデスとは別の方向。それに、おそらく多くの参加者が向かうはず...)
「ええ。お願いします」


405 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:37:34 fMVHppmE0
花京院が先導して歩き、距離を開けてほむらがついていく。
その道すがらで簡単な情報交換を行う。
「美樹さやかに巴マミ、佐倉杏子。それがきみの友達の名前か」
「はい」

ほむらはまどかの名前をあえて出さなかった。まだ花京院を警戒しているからだ。

「花京院さんは知り合いはいるんですか?」
「わたしが知っているのは一人...DIO様だけだ」
「ディ、DIO?」
「知っているのかい?」
「い、いえ。地図に屋敷が載ってましたから」

思わぬところで思わぬ名前を聞かされたため、うっかり動揺してしまったほむら。
当然と言えば当然だろう。なんせ、エスデスとアヴドゥルという人間が言うには危険人物である者の名なのだから。

(...でも、DIOが危険人物というのはアヴドゥルという人だけの情報。DIOを知る人から聞いた方が確実といえば確実ね)
「そのDIOという人はどんな人なんですか?」
ほむらの問いに、花京院は考える素振りを見せる。
やがて、思いついたように振り向くと、右手の甲をほむらに向けて差し出した。
「いいかい、この手を見ていてくれ。驚かないでくれよ」
ほむらは、言われた通りに差し出された手を見つめる。


―――ブンッ


「ッ!?」
ほむらは己の目を疑った。確かにいま、花京院の腕から緑色の別の腕が浮き出ているのだ。
「...やはり見えるか。これは、生まれつきの体質でね。普通の人には見えないんだが...なぜかいまは見えるようになっているらしい」
「体質...?」
そんな体質は聞いたことが無い、とほむらは思う。だが、魔力は感じられないため、エスデスと同じく魔法少女に関係するものではないようだとも判断する。
驚いた反面、なぜいま見せたのかという疑問がほむらに湧いてくる。
「...わたしは、他の誰にも見えないこの力を自覚した時、誰とも打ち解けようとはしなかった」
花京院が静かに語りはじめる。
「町に住んでいるとたくさんの人と出会う。その誰しもがなにかしらの繋がりを持っていた。
小学校のクラスの○○くんのアドレス帳は友人の名前と電話番号でいっぱいだ。父には母がいる。母には父がいる。
わたしは違う。この『力』が見える人は誰一人としていなかった。
両親は好きだ。だが、気持ちを通い合わせることはできない。この『力』が見えない人と真に気持ちが通い合うはずは...ない。
自分には理解者など現れない...そう思っていた」

そこには怒りや悲しみ、『力』への恨みといった感情は一切なく、ただ事実を述べているようにほむらの目には映った。

「だが、DIO様は違った。彼はわたしの力を知りながら、優しく手を差し伸べてくれた。
『花京院くん。恐れることはないんだよ。友達になろう』。そう言ってくれた。
彼も同じ力を持っていたのだ。
嬉しかった。わたしは独りじゃなかったんだ。そう気づいたとき...心の底から安心したんだ」


花京院の独白を聞き終えたほむらは思った。
似ている。
魔法少女になったために、他者から疎遠に為らざるをえなかった巴マミに。
自分の身体が人間とは違うものとなったために、想い人に気持ちを伝えることすらできなかった美樹さやかに。
そして...一人の人間に救われた、他ならぬ自分自身に。


406 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:39:15 fMVHppmE0
花京院が嘘を吐いているようには見えなかった。
全てを鵜呑みにするわけではないが、彼が語ったDIOという男については嫌な印象は持たない。
アヴドゥルという人が危険だと言っているのは、単に勘違いかもしれないし、もしくはDIO自身に恨みがあるのかもしれない。
利益による対立。信頼関係の拗れ。疑念による闘争。
ほむら自身、そういったことは何度も経験してきた。
もっとも、DIOが本当によからぬことを企んでいて、花京院が騙されている可能性もないわけではないが。

「すまない。話し過ぎたな。きみの手当を急がなければならないというのに」
「...いえ。DIOって人のこと、好きなんですね」
「ああ。尊敬しているし、憧れてもいる。とても大切な人なんだ」
傍からみれば、ちょっと行きすぎじゃないかと思うところがあるかもしれない。
だが、ほむらはそう思えなかった。ほむら自身、花京院が語るDIOへの感情と似たようなものをまどかに感じているからだ。
(いずれにせよ、DIOにもアヴドゥルにも会ってみなければわからない、か)
そうしてほむらは花京院に警戒はしつつも、来た道を引き返すこととなる。
探し人であるまどかから離れていく道だということも知らずに。


407 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:40:16 fMVHppmE0
(上手くいったようだな...)
花京院典明は心の中でほくそ笑む。
彼がほむらを助けた理由。
肉の目による洗脳が解けた?肉の目が植え付けられつつも正義の心に目覚め、弱者を放っておけなかった?
どれも違う。
正解は、『利用するため』だ。
花京院の方針はなんら変わっていない。
DIOを生存させる。それだけはゆるぎないのだ。





時は遡る。

入手した戦利品を整理しながら花京院典明は考える。
先程は出会いがしらに少女を殺してしまったが、それは失策だったかもしれない。
この会場に集められた数は、DIOと自分を除けば総数70。
もしかしたら何人かはDIOの部下もいるかもしれないが、DIOに忠誠を誓った日がまだ浅い自分が考えるだけ無駄だとも思う。それは本人から聞くしかあるまい。
1対1ならまだしも、武装した一般人が10人も集まれば、それだけでも十分に脅威になる。
四方八方を囲まれてショットガンでも放たれれば、いくらスタンド使いでも切り抜けるのは難しい。
そんなこともありえる殺し合いだ。情報は何より大切になる。

念のためにハンカチで注意を逸らして殺したが、その前に少女から情報を聞き出しておけばよかったと切に思う。
いや、殺さずとも『ハイエロファントグリーン』を体内に忍び込ませて人質にするのもよし。
お人好しを装い、人数が増えたところで一網打尽にするのもよし。使い道はいくらでもあったのだ。
(...まあ、過ぎたことだ。仕方ないか)
次からは気をつけようと決め、デイパックの中の物を掴んだ時だった。


408 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:41:26 fMVHppmE0
―――うおわあああああ!

突如響いた悲鳴。
花京院は慌ててデイパックから手を放し、周囲を確認する。しかし、人の気配は全くしない。
念のためにスタンドで周囲を探るが、やはり誰もいない。
気をとりなおしてデイパックを探ると

―――あっ、おいあんた!そのまま俺をひっp

また声がした。
花京院は慌ててデイパックから手を放し、周囲を確認する。しかし、人の気配は全くしない。
念のためにスタンドで周囲を探るが、やはり誰もいない。
気をとりなおして再びデイパックを探ると

―――話は最後まで聞けぇ!いいか、とりあえず俺をここからひっぱり

またまた声がした
花京院は(以下略)

―――...お願いします。そのまま手を離さず、どうか私をここから取り出してください。

いまにも泣きだしそうなその声を聞いて、ようやくデイパックに原因があることに気が付いた。



(刀か。...美しい刃渡りだ)
デイパックから取り出したのは一振りの刀。
刃物に関しては大した知識を持っていない花京院だが、その刃渡りには素直に関心した。

―――あ〜、ゴホン。とりあえず出してくれたことには礼を言おう。あんたが用心深い性格なのはわかったが、いまは俺を持ったままにしててくれ。

今度は刀を握ったまま周囲を見回してみる。やはり誰もいない。

―――わかったか?今までの声は全部おれってことだよ

(信じられんな...)
意思を持たないはずの刀が喋る。にわかには信じ難いが、こうして喋られている以上認めるしかない。
とりあえずそう己に言い聞かせることで、一応の納得をした。


409 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:42:44 fMVHppmE0
―――では気をとりなおして...ジョースターを殺せ!ポルナレフをブッた切れ!承太郎をまっぷたつにしろ!
「......」
―――お前は達人だ...剣の達人だ。誰よりも強い、なんでも切れる!
「さっきからなにを言っている?」
―――あ、あれ?おかしいな、なんで操れねえんだ!?
「...なんだかよくわからんが、お前を持っていてもロクなことにはならなそうだ」
花京院がとりあえず剣を地面に置くと、やかましい声は一切聞こえなくなった。
しばらくデイパックを探っていると、今度は一枚の紙が出てきた。


『――アヌビス神の暗示のスタンド――
500年前この剣を作った刀鍛冶のスタンドが剣に憑りついたもの。
主な能力は以下の三つになる。
○物質を透過して、斬りたいと思った対象だけを斬ることができる
○一度受けた攻撃を憶え、その度に力と速さが強化されていく
○精神を乗っ取る
ただし!このスタンドは、一般人でも一騎当千のスタンド使いでも精神を乗っ取れるが以下の制約をかけられている。
○アヌビスが乗っ取れるのは、対象の合意があるか、気絶している時だけ。
○アヌビスの精神が表面化している時の記憶は対象者の精神が戻ったときも引き継がれる。
○精神を乗っ取れる時間は10分。また、連続して乗っ取ることはできない。

以上』


「......」
どうやら、この刀剣は殺し合いという場においては当たりの部類に入るらしい。
だが、花京院典明にとっては当たりといえる代物ではなかった。
戦えば戦うほど強くなる刀剣。確かに強力だ。
だが、花京院に剣道の心得はない。そんなド素人が強力な刀を振ったところでなんになる。それならば己のスタンドで攻撃した方が早い。
とはいえ、こんな刀に己の運命を任せられるかといえば答えはノゥ。不安しかない。
ならば、このまま放置すればいいかといえばそうもいかない。
もし、この刀を先程の少女のような一般人が拾えば、それはそれで厄介だ。
むしろ力が無いぶん、意識を委ねて襲ってくるかもしれない。
以上のことから下した答えは
(破壊するか)
己の背後に『ハイエロファントグリーン』を出現させる。
掌に破壊のエネルギーを溜め、狙いを定める。が
(待てよ...)
己のスタンド能力とアヌビスへの制限を顧みて、考え方を改める。
思考が固まると、アヌビス神を拾い、語りかけた。

―――ひ、ひええええ〜!破壊するのだけはご勘弁を〜!
「喜べ。わたしなら、お前の力を存分に発揮させてやれるぞ」
―――へっ?


410 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:46:09 fMVHppmE0


そして舞台は現在へと戻る。


花京院は、利用できそうな者を欲した。できれば弱者がよかった。
まどかから奪ったデイパックを荷物を移し替えた後、奈落へと捨て、身を隠しやすい森林を進んでいた。
しばらく歩いていると、前方から戦闘音のようなものが聞こえた。
『ハイエロファントグリーン』を先行させ、様子を窺うと、氷を放っている女とそれから逃げる少女が目に映った。
どちらが弱者か。言うまでもない。
『ハイエロファントグリーン』を自分のところまで戻し、少女が森林へ入ってくるのを待つ。
少女が入ってきた機を見て、エメラルドスプラッシュを発射。
あの厄介そうな女を仕留めれればよかったが、生憎一発も当たらなかった。
結局、あの女は去っていったのは幸いだった。
おまけに、少女が氷に振り向いた瞬間、花京院は『仕込み』を滞りなく行えていた。


―――しゅるしゅるしゅる

音はしていないが、そんな擬音が聞こえそうな動きで、注視しても気づきにくいほどの細い糸が少女のスカートへと入り込む。
『ハイエロファントグリーン』は、人体に潜り、操ることができる。
糸が少し入り込んだだけでは操れないが、スタンドが完全に入り込めば意識すらも奪うことができる。
そうなれば、もう花京院の人形と化す他ない。
そのまま人形として使うなり、アヌビス神に乗っ取らせるなり、様々な用途で利用されることとなる。
わざわざスタンドを出したのも、脚色を加えて長々と話をしたのも、糸が入り込んでいることに気付いていないか確認するためだった。
また、DIOの名をわざわざ出したのは、少女の反応を確認するためだった。
ジョースター一行の関係者なら敵意を剥きだしにしてくるはずであり、DIOに組するものなら交渉次第で手を組むこともできる。知らない場合はそのまま利用すればいい。
少女は『知らない者』だったようなので、花京院はトコトン利用し尽くすことにした


411 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:48:41 fMVHppmE0
花京院典明はとにかくツイていた。
まどかを撃ったあと、もし南下していれば後藤に食い殺されていただろうし、平地を進んで東へ向かっていれば承太郎に遭遇していた可能性が高い。
まどかから情報を得ていれば、ほむらの前でボロを出していた可能性もある。
もしエスデスを操ろうとすれば、たちまち見破られて返り討ちに遭っていただろう。
更に彼自身知らないことだが、彼は偶然にもほむらの最大の弱点を突いていたのだ。
ほむらの時間停止は、他者に触れながら行うと、触れた相手もまた止まった時の中を動くことができる。
ただし、これにはほむらが直接触れたものだけではなく、間接的に触れられていた場合も含まれる。
現に、巴マミは予め己の魔法で作ったリボンを気づかれないうちにほむらの脚に結び付けておいたことで、時間停止による拘束から逃れていた。
花京院もまた、既に『ハイエロファントグリーン』の糸でほむらに触れているため、彼女の時間停止の効果を受け付けないのだ。


花京院は心中で嗤う。己の幸運に気付かぬままに、一人嗤っていた。



【B-1/森林/一日目/黎明】


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ(新編 叛逆の物語)】
[状態]:疲労(中)、ソウルジェムの濁り(小) 全身にかすり傷
[装備]:見滝原中学の制服、まどかのリボン
[道具]:デイパック、基本支給品、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!
[思考]:
基本:まどかを生存させつつ、この殺し合いを破壊する
0:花京院に警戒しつつ、病院に戻って医療品を取りに帰る。
1:まどかを保護する。
2:協力者の確保。
3:危険人物の一掃
4:まどかの優勝は最終手段
5:DIOは危険人物ではない...?
6:コンサートホールに行く……?

[備考]
※参戦時期は、新編叛逆の物語で、まどかの本音を聞いてからのどこかからです。
※まどかのリボンは支給品ではありません。既に身に着けていたものです
※魔法は時間停止の盾です。時間を撒き戻すことはできません。
※この殺し合いにはインキュベーターが絡んでいると思っています。
※時止は普段よりも多く魔力を消費します。時間については不明ですが分は無理です。
※エスデスは危険人物だと認識しました。
※花京院が武器庫から来たと思っています(本当は時計塔)。そのため、西側に参加者はいない可能性が高いと考えています。
※花京院のスタンド『ハイエロファントグリーン』の糸が徐々に身体を浸食しています。ほむらはそのことに気付いていません。


【万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!】
 翼の帝具。装着することにより飛翔能力を得ることが可能。
 翼は柱を破壊する程度の近接戦闘は描写から可能であり、無数の羽を飛ばして攻撃することも出来る。
 飛翔能力は三十分の飛翔に対し二時間の休息が必要である。
 奥の手は出力を上昇させ光の翼を形成し攻撃を跳ね返す『神の羽根』。


412 : 笑う女王と嗤う法皇 ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:50:01 fMVHppmE0
【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康 
[装備]:額に肉の芽
[道具]:デイパック、基本支給品×2、油性ペン(花京院の支給品)、アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース(まどかの支給品) 花京院の不明支給品0〜2 まどかの不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:DIO様を優勝させる。
1:ジョースター一行を殺す。(承太郎、ジョセフ、アヴドゥル)
2:他の参加者の殺害。ただし、今度からは慎重に殺す。
3:DIO様に会いたい。また、DIOの部下が他にもいるかどうか確かめたい。
4:ほむらを利用するため、病院へと向かい信頼を得る。また、病院に来た参加者を一網打尽にする。

※参戦時期は、DIOに肉の芽を埋められてから、承太郎と闘う前までの間です
※額に肉の芽が埋められています。これが無くならない限り、基本方針が覆ることはありません。
※肉の芽が埋められている限りは、一人称は『わたし』で統一をお願いします。
※この会場内のDIOが死んだ場合、この肉の芽がどうなるかは他の方に任せます。
※『ハイエロファントグリーン』が他人に憑りついたとき、意識を奪えるかどうかは他の方に任せます


【アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース(まどかの支給品)】
500年前この剣を作った刀鍛冶のスタンドが剣に憑りついたもの。
主な能力は以下の三つになります。
・物質を透過して、斬りたいと思った対象だけを斬ることができる
・一度受けた攻撃を憶え、その度に力と速さが強化されていく
・精神を乗っ取る
※アヌビス神の制約は以下の通りです
・アヌビスが精神を乗っ取れるのは、対象の合意があるか、気絶している時だけ。
・アヌビスの精神が表面化している時の記憶は対象者の精神が戻ったときも引き継がれる。
・精神を乗っ取れる時間は10分。また、連続して乗っ取ることはできない。その10分間は身体の所有者はアヌビス神の精神を押しのけることはできない。
・通り抜ける力は使用可。

※参戦時期はチャカが手にする前です。


413 : ◆dKv6nbYMB. :2015/05/22(金) 00:50:51 fMVHppmE0
投下終了です。


414 : 名無しさん :2015/05/22(金) 12:33:57 f6jSa1vU0
投下乙です

エスデス様が割りと律儀だwさすが一国の将軍
そして予習してない事態にはトコトン弱いほむほむ、花京院は抜け目無い


415 : 名無しさん :2015/05/22(金) 19:41:27 yFlNYygk0
投下乙です。どちらもステルス経験者のコンビか
かなり面白い状況だが、世紀末環境の北部でどう振る舞うか

そして、なかなかツイてる花京院。ここはステルスだらけだなあ
エスデス様はいつも通り、ロワ充か


416 : ◆rZaHwmWD7k :2015/05/22(金) 21:56:42 Gwp2oikw0
投下します


417 : 進撃のパラサイト ◆rZaHwmWD7k :2015/05/22(金) 21:58:19 Gwp2oikw0
―――欲しい物。空腹を満たす餌。
―――渇望する物。純粋なる勝利。



あの始まりの惨劇から数時間後。
二度の闘いを経た後藤に訪れたのは静の時間。
大地に胡坐をかき、つかの間の休息を取る。
その手にあるのは彼の支給品である大ぶりの鍋。
仄かに湯気が漂うその中を埋め尽くすようにカレイの煮つけがぎゅうぎゅうに詰められていた。

「中々だな」

相変わらずの無表情で一口食べ、短い感想を漏らす。
主食を取りたい所だったが“つなぎ”としてはこれも悪くないだろう。
本来ならば鍋ごと一口で終わる食事だが、あえてゆっくりと食べこれまでの闘いに想いを馳せる

電撃使いの男。光線銃を撃ってきた女。
奇怪な人形を使う男。空条承太郎。
弓矢を突然取り出して見せたピンク髪の女。

両者共、泉新一の様に寄生生物を宿している訳でもない生身の人間だが
その身に宿した異能を持ってして自分を退けて見せた。

否、空条承太郎に至っては自分を奈落へと突き落とし殺しかけたと言っても過言では無い。

あの電撃を扱う男に関してもそうだ。

闘い自体は終始自分が優勢だったが仮に初撃でワイヤーを巻きつけられ、電流を受ければどうなっていただろうか。

いくら四肢に宿る寄生生物が体表をショットガンの弾丸でもビクともしない程プロテクトしていると言っても、人間の物を流用している内臓や消化器官に直接電撃を流されれば結果は火を見るより明らか、敗北していただろう。

実質的にはかなり綱渡りの闘いだった―――

と、そこまで思考が往きつくと電撃のなどの他にも自分を殺し得る能力があるのではないかと気付く。


418 : 進撃のパラサイト ◆rZaHwmWD7k :2015/05/22(金) 21:59:18 Gwp2oikw0

例えば、電流と同じく内臓や消化器官に直接致命傷を与える毒を伴った攻撃。

例えば、寄生生物の体の操縦及び統制を乱す炎を伴った攻撃。

電撃使いの男に空条承太郎、突如無手から弓矢で攻撃してきたピンク髪の女。
これらの存在を鑑みれば毒や炎を使う異能者がいてもなんら不思議ではない。

「手強いな。一筋縄ではいかなそうだ」

もはや、認めざるを得ない。
此処にいる人間たちはただ自分に“ちらかされる”餌などではなく、
この身を滅ぼし得る明確な“敵”なのだと。

ならば自分も工夫をもって殺し合いに臨もう。
場合によっては奇襲や擬態、肉の盾の使用も検討に入れるべきか。
寄生生物の強みはトリッキーな戦闘方法の多彩さにある

「……何事も工夫次第、だな」

後藤はそう結論付けた。
この瞬間をもって、『この種を食い殺せ』と言う命令に基づいた戦闘欲求ではなく、
後藤は本当の意味で自分の意志で殺し合いに乗ったと言えるのかもしれない。




最後の一口を咀嚼し、短い最初の晩餐は終わった。
空になった鍋を放り捨て、ディパックからデバイスを取り出し、此方に連れてこられて初めて現状を把握する作業に入る。

デバイスの操作の淀みなさは、後藤が単なる猛獣や狂戦士ではなく田村玲子やミギー程ではいないにせよ、高い知能を有している事の証さに他ならない。

「泉新一…田村玲子」

名簿機能で見つけた見知った名前は二つ。
一つは自分が殺すべき相手。もう一人は自分を生みの親であり、戦いたいと思っていたが終ぞ叶わず知らぬうちに冥府へと旅立った相手。

何故死んだはずの田村玲子がこうして名簿に載っているのかは分からない。
しかし後藤はそれを歓喜でもって受け入れた。

「そう言えば、これはやりかけの仕事でもある
 そして、この二人を取り込めば……」

この二人に勝利すれば心がもっとスッキリするだろう。
それだけでは無い。泉新一の右手と田村玲子を取り込み、合計七体のパラサイトを統率する身になれば、もう空条承太郎にすら手こずる事は無い。

その自負が後藤にはあった。

泉新一と田村玲子、この2人への勝利。
それを最優先目標として定め、ディパックからさらにある支給品を取り出す。
取り出したUSBメモリの形に似たその機器をデバイスに差し込む。

同時に切り替えられる画面。
映し出されたのは拡大された地図とそこに不気味に輝く光点。

「レーダーと言うのは本当らしいな。これなら“敵”が見つけやすい」


419 : 進撃のパラサイト ◆rZaHwmWD7k :2015/05/22(金) 22:02:07 Gwp2oikw0

自衛隊が市役所へと踏み込んできたあの日まで一緒にやって来たよしみか、
広川が入れたであろう支給品は戦いを求め続ける後藤にとってこれ以上ない“当たり”だった。
感知できる範囲が狭いのと、この状態だとバッテリーが存在するのがネックだが、それでも後藤の優れた五感と組み合わせればかなりの確率で先手を打てるだろう。

付属された説明書を見ると生存している参加者の首輪に反応して光点を移すらしい。
後藤の腕が首輪に触れる。

「しっかりと食事をとれれば、これも外す必要がある」

田村玲子の様な単体で寄生し、全身を操縦しなければならないパラサイトと違い、複数のパラサイトと同居する後藤にはそれが可能だ。
予め硬質化させておいた刃で首をハネ、後は『三木』に慎重に引きぬけさせた後、また首に戻ればいいのだから。

もっとも首をハネる以上大出血は免れないため、ただでさえ空腹の現状では現実的ではない。

「何はともあれまずは…食事だな」

改めて今後の方針を固めて立ち上がる後藤。休憩は終わった。
左手にレーダーを持ち、両足を硬質化させる。

「目指すは南か」

現在位置は会場でも北の端。
これ以上進んでも泉新一や田村玲子と遭遇する可能性は低い。
レーダーを使って空条承太郎とピンク髪の女を追うと言う選択肢もあるが空腹時にあの二人を相手にするのはきっと自衛隊を相手にするより骨だろう。

何より、もう会場の端で戦闘を行い、奈落へと落とされるのは懲りている。
故に後藤は地図上でも大きいフィールドがある南を目指す。

ピシュン、ピシュン、ピシュン。

そんな音を立てながら走り出した後藤のスピードはみるみる内に上がっていく。
自動車のスピードを超え、数刻もしないうちに南のエリアにたどり着くだろう。

その勢いはさながら死を呼ぶ黒き風の如く。


「そうだ、殺すべきなのだ…そして俺は先へと進む……!」


今や、相対する相手の外見がただの人間でも侮りは無い。
仮面をつけたような無表情の瞳にこれから迎えるであろう闘争への期待と、標的への氷点下の殺意を篭め。

例え首輪が外れようとも。
自分以外の全てを屍に変えるか、逆に全ての終わりが付きつけられるその時まで。

―――後藤は、戦闘マシンとして君臨する。


【後藤@寄生獣】
[状態]:空腹、両腕にパンプキンの光線を受けた跡、手榴弾で焼かれた跡
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、不明支給品1〜0
[思考]
基本:優勝する。
1:南下後、人間を探し捕食する。
2:泉新一、田村玲子に勝利。
3:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)

[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※首輪や制限などについては後の方にお任せします。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※A-2に空の鍋が放置されています。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。


420 : ◆rZaHwmWD7k :2015/05/22(金) 22:02:46 Gwp2oikw0
投下終了です


421 : 名無しさん :2015/05/22(金) 22:06:58 Gwp2oikw0
すみません後藤の現在地が抜けていました

【B-4/1日目/黎明】

【後藤@寄生獣】
[状態]:空腹、両腕にパンプキンの光線を受けた跡、手榴弾で焼かれた跡
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、不明支給品1〜0
[思考]
基本:優勝する。
1:南下後、人間を探し捕食する。
2:泉新一、田村玲子に勝利。
3:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)

[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※首輪や制限などについては後の方にお任せします。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※A-2に空の鍋が放置されています。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。


422 : ◆w9XRhrM3HU :2015/05/23(土) 01:11:02 0lYdT4hs0
投下乙です

自分も投下します


423 : 輝【くのう】 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/23(土) 01:13:49 0lYdT4hs0
「私に貴方の墓穴を掘らせるだなんて。どういう了見なのかしら比企谷君?」

八幡は答えない。土を掘る音だけが聞こえる。

「どうせ貴方の事だから、そこまで考えていなかったのでしょうね。
 いつもそうね。残された方の気持ちを貴方は何も考えていなかった。 
 自分だけ貶めて、自分だけ傷ついて、他さえ上手くいけばいい……。でも私達は貴方に……」

奉仕部に八幡が無理やり入部させられ、初めて由比ヶ浜の依頼を受けてから随分と経った。
決して良いだけの思い出ではないが、掛け替えのない記憶が雪乃の脳裏を巡る。

「傷ついてなんて欲しくなかったのに」

土に埋もれていく。八幡の姿が遮られ消えていく。
もう二度と彼の姿をその目で見ることは叶わない。声も聞けない。

「馬鹿ね……私は。もっと、早くに言っていれば良かった……」

もう二度と話しかけられない。
伝えたい事があった。共に分かち合いたいものもあった筈だ。
それらは全て消え失せ、無へと帰す。
雪乃の頬を涙が伝う。
もう終わりだ。これで本当に最期のお別れだ。
比企谷八幡は死んだ。もう居ない。

「今の内に泣くといい。時間が経つと泣けなくなる」
「……アカメさん」

アカメがそっと雪乃の肩を抱く。堪らず膝が崩れてしまう。
シェーレが死んだときもそうだった。マインが泣いていた。
目の前で仲間を死なせた悔しさに震え、己の弱さに打ちひしがれていた。
慣れない。いくつもの死を見てきたアカメでも、目の前で失われていく命には慣れない。

(今、私に出来るのは、雪乃を好きなだけ泣かしてやることだけだ)

再び雪乃の泣き声が新一と、その背中におぶられたサリアの耳に木霊した。

「シンイチ……」
「サリア? 目覚めたのか?」

新一の後ろで寝かせられていたサリアが目を覚ます。
痛む足を引きずりながらも、神妙な顔で八幡の埋葬を見守っていた。

「……墓」
「墓?」
「アルゼナルじゃ誰か死んだとき、生き残った人が墓を買って葬ってたのよ。
 ……だから、買ってあげないとね……。広川を倒した後」
「そうか……」

言っていてサリアは馬鹿らしくなる。
自分は既にアルゼナルのメイルライダーでも何でもない。今はダイヤモンドローズ騎士団のナイトリーダーだというのに。
今更、あんな基地の風習に従うなど。

(でも、借りは……返してあげるわ。貴方の墓を買ってね)

それでも身についたノーマ精神はそう離れるものでもないらしい。
とことん、ノーマなのだと自嘲してしまう。
だが、これしか死者の弔い方はサリアには分からなかった。





424 : 輝【くのう】 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/23(土) 01:14:07 0lYdT4hs0
御坂からすれば大した疲労もない。
相手に触れ、少し意識しすれば電撃が流れその相手は感電死する。
いや、直接触れなくてもいい。電撃を飛ばせば、それだけで生きた人間は黒い焼き焦げた肉塊になる。
電磁を操り砂鉄を剣のように扱えば、人間の体など容易く斬れる。
そうだ。御坂美琴という人間は人を殺すことに長けた人間だ。

「まるで一方通行よね。人の事言えないわ」

御坂の脳裏には人を殺す具体的なビジョンが浮かんでいた。
闇雲に能力を行使すだけでは人は殺せない。
アカメ、槙島聖護。御坂が出会った達人達が、皮肉にも戦闘を通じ御坂へ痛感させた。
故に考え、思考する。効率よく、確実に人を殺す術を、
まるで、現実を直視するのを避けるように。だがそんな時間は長くは続かない。
御坂の足が止まる。見つけた、見つけてしまった。

「四人……」

数の上では不利だが、殺せない相手じゃない。
特に一人は怪我までしている。
ただ一つ問題なのは、その内の一人があのアカメだということだ。
御坂の雷撃をいなし、生還して見せたあの戦闘力は考慮に入れないわけにはいかない。

それでも……。

「勝てない相手じゃない」

あの「最弱」のように超能力を無効化する訳でもなければ、あの「最強」のようにあらゆる攻撃を反射する訳でもない。
電撃を当てさえすれば、死ぬ。
アカメは決して倒せない絶対的な存在ではない。
御坂と同じ土俵に立つ、対等な存在だ。

「あんたが……強かったら……私なんかが太刀打ち出来ないくらい」

バチバチと音を鳴らし電撃が御坂の体を流れていく。

「ねえ、何でよ……?」

誰に対しての問いなのか、もう御坂にも分からない。





425 : 輝【くのう】 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/23(土) 01:14:39 0lYdT4hs0
八幡の埋葬を終え、改めて四人は当初の目的通りに図書館へと向かうことにした。
その時、最初に異変に感づいたのはアカメだった。
雷撃が四人に向かい飛来してきていた。

夜であったのは不幸中の幸いであったといえる。
雷光が闇の中で輝き、日中より目立てなければ、新一もアカメも気付くのが遅れ死んでいたかもしれない。
新一はサリアをアカメは雪乃を抱きかかえ左右に飛ぶ。
四人の居た場所を雷撃が抉り、地盤を巻き上げ雨のように降り注ぐ。
人体に当たれば、感電どころの話ではなかっただろう。

「お前……!」

その姿にアカメは見覚えがあった。
忘れもしない。一番最初に出会った斬るべき敵。
雷を操る少女。
またしても、あの少女はアカメの前に現れた。
それも明確な殺意を持って。
その証明に先の雷はあの時の迷いのある雷とは違う。これは確実に人を殺める為のものだ。
迷いは吹っ切れてしまった。最悪の方向に。

「お前は乗ってしまったのか」
「だったら何?」

アカメが剣を抜く。
最早、説得の余地もない。
ここで斬らねば、誰かがあの電撃の餌食となる。それだけは避けなければいけない。
剣が月明かりに照らされ、アカメと対峙する御坂の姿を映す。まるで境界線のように。

「斬る」
「そう、やっぱり」

ただ一言。
淡々と為すべきことを機械のようにアカメは述べる。
御坂は思わず笑いたくなった。予想の範囲の答えすぎて逆におかしいぐらいだ。
やはり、この女とは決着を付けるべきなのかもしれない。

雷閃と剣閃が交差し少女達の武宴は斬って落とされる。

『シンイチ、逃げるぞ』
「逃げるって? アカメは?」
『あの女は強い。殺しという分野に関してはプロだ。
 何より、あの電撃は不味い。恐ろしいほどの高圧電流、当たれば即死だ。
 あの中華服の男と同じく私達とは相性が悪すぎる。アカメが相手をしてる間に逃げるのが一番だ』
「そんなこと言ったって、アカメを一人にするのは」
『私達が居ても邪魔なだけだぞ。むしろ全員助かりたいのなら、雪ノ下とサリアを連れて逃げるべきだと思うが?』

心残りは残るがミギーの言うことにも納得は出来る。
ミギーの防御も当てにならない電撃を使う少女と戦って、新一は生き延びられる自信はない。

「そうだね。大したものだよ。
 僕に放った電撃はまるで本気じゃなかったらしい」

雷音が轟くなか不釣合いなほど落ち着いた、それでいて何処か高揚感を感じさせる声が新一の耳を鳴らす。
声の主は白の男だった。
夜の世界には似合わない白い男、槙島聖護は新一に微笑みかける。





426 : 輝【くのう】 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/23(土) 01:15:22 0lYdT4hs0


御坂を覆う電撃に躊躇い動けない新一と違い、アカメは剣を手に躊躇いなく駆ける。
縦横無尽に張られた電撃の網を掻い潜り、御坂へと一気に肉薄し袈裟懸けに剣を奔らせた。
砂鉄が電磁に寄せられ、黒の盾を形作る。アカメの剣が遮られ、高速で振動する砂鉄が剣を弾き返す。
更に砂鉄は御坂の腕へ集中し剣となり、剣を弾かれた慣性に腕を持っていかれたアカメへ斬りかかる。
アカメは敢えて慣性に逆らわず身を任せ、流れるように回転し砂鉄を避ける。
そして剣を振るいきった御坂へ剣を滑らせる。

「こ、の……!」

砂鉄の剣を引き戻すのも、電撃を編むのも間に合わない。
まさに神速を誇る剣裁き。
御坂は砂鉄の剣に込めた電磁波を操作し、爆散させた。
数ミリにも満たない砂の塊がまるで散弾のように飛び散る。
アカメの腕を足を胴を顔を砂の散弾に叩きつけられ、動きが鈍った。
御坂は屈み、紙一重で剣をかわした。茶髪の髪が数本切れ、地へと落ちていく。
砂鉄を握っていた右手に電撃を溜め、放つ。
時間は掛けられなかったが、それでも人を殺すには十分すぎる程の威力。
砂鉄の散弾に苦しまされたアカメが気付いた時には既に遅い。
けれども、アカメはその道理を覆す。暗殺の少女は人を超えた脚力で跳ぶ。
月を背後に黒髪を乱れさせ空を舞う姿は、まさに殺しを生業とする者の死の気配を御坂に嫌でも感じさせる。

「でも、空中なら――」

空中ならば身動きは取れない。
御坂が拳を握り、空へと突き出した。
拳に握られたのは一枚のコイン。
電流が腕へ集まり、コインへと込められていく。
『超電磁砲(レールガン)』。
御坂の二つ名でもあり、音速すら超える必殺の砲撃。
コインが、月すら打ち砕かんとする超電磁砲が、青掛かった銀色の軌跡を残しながら奔る。
アカメは剣を両手で握り、頭上へと掲げた。
息を大きく吸い、超電磁砲を睨む。
落とされていく重力のまま自らを弾丸とし、超電磁砲を両断する。

「葬る!」

剣と超電磁砲がせめぎ合い、電流と火花を巻き起こす。
アカメの膂力ですら斬り落とせぬ超電磁砲、御坂の超電磁砲と渡り合うアカメの膂力。
両者の顔が歪む。
互いに実力はほぼ互角に近い。ならば、勝敗を決するのは―――。

「剣が……!」

互いが扱う得物。
制限が課せられているとはいえ、能力を普段どおり行使し幸運なことにコインまで渡された御坂。
対するアカメは使い慣れた村雨を没収され、尚且つこの剣は村雨の及ばぬ代物。
元々、美樹さやかが扱うこの剣自体、使い捨てで使用していたものだ。
アカメの膂力が超電磁砲を押さえていたとしても、剣の限界はそれに着いて行けず罅割れたのは当然の道理。
剣を持つ手を横へと反らし、剣に超電磁砲を滑らせた。そのままアカメは軌道上から脱出する。
重力に従い、地に落ちたアカメの横腹が赤く滲んでいた。

「大したもんね。そんな避け方したのアンタ位よ。
 でも、やっぱアンタじゃ駄目ね」
「何が?」
「あいつなら怪我一つなかった。こんな幻想殺してた」
「――ッ!」

電撃が撓り鞭のようにアカメへと叩きつけられる。
アカメはバックステップの要領で電撃の鞭を避けていく。

「何であいつなのよ……。他にもっと死んでいい人間なんて居たじゃない」
「そんな人間居ない!」
「私も、妹達も、あの銀髪シスターだってあいつが居たから笑顔で居られた。
 救ってくれた。あの右手で……なのになんであいつなの? ねえ!」
「だから、全員殺すのか!」
「……そうよ。これまでも、多分これからもあいつは、救い続けるわ。
 死んでいて良い奴なんかじゃない!」

数度目の回避行動に移る瞬間、傷が痛み動きが遅れる。
既に電撃の鞭は眼前に迫っていた。
苦肉の策ながら、アカメは剣を投擲する。
避雷針のように電撃の鞭が鉄に吸い寄せられた。
剣は電撃に耐え切れず砕け散る。

「駄目だわ。アンタじゃ私の幻想は殺せない!」





427 : 輝【くのう】 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/23(土) 01:16:53 0lYdT4hs0



「魂の輝きがぶつかり合う瞬間、それが普通で当たり前に行われる。
 シビュラシステムが入り込む余地のない、人の意思による人の起こした人の為の戦い。
 そんな普通なものが、この場では数え切れないほど見ることが出来る」

「何言ってるんだあんた?」

槙島は楽しそうに語る。
怪訝そうに見る新一、雪乃、サリアに構わず。

「ここを君達は何だと思う? 殺し合いの場? 異常者が開いた狂気の宴?
 僕は当たり前で普通な場だと思う」
「あんた、どうかしてるんじゃないの?」

サリアが新一の後ろから声をあげ銃を構えた。
急いで雪乃と新一とミギーが止めに入る。

「人間は考える葦である。
 人間は自然の中では矮小な生き物にすぎないが、考えることによって宇宙を超えるんだそうだ。
 つまり考え、悩み、考え、自らの意思で選択することこそ人の本質なのだろう。けれどシュビラシステムが誕生してから人は与えられた価値に疑問を持たなくなってしまった。
 それは酷く不自然で歪だ。
 でもここは違う。皆が己の意思で考え、行動し時としてその信念を貫くために戦う。
 あの二人がそうであるように。だから普通だと思う」

「それで、普通が大好きな貴方は何がしたいのかしら? まさかパスカルの引用を、ドヤ顔で披露しにきた訳ではないのでしょう?」

「本当はね。あの戦いを影ながら見てるつもりだったんだ。
 でも、そこの君に興味が沸いてね」

槙島が指を向ける。
その方向には新一が居た。

「君は誰よりも普通なのに、誰よりも普通じゃない。
 何かの境界で揺れ動いている。
 色んな人間を魂の輝きを見てきた。でも、君はそのどれにも分類されない。見たことがないんだ君のような生き物を。
 興味深い。君が何なのか僕は知りたくなった」

「何だって……?」

「ああ、もう決着が付くみたいだ。時間はあまりないな。
 彼女に見つかれば僕もただじゃすまない」

丁度近くに居たサリアの鳩尾に拳を打ち込む。
銃を撃つ暇もなく、呆気なくサリアが意識を失った。
槙島は倒れ掛かったサリアを担ぎ上げる。

「サリア!?」

「安心しなよ。彼女を殺す気はない。
 ……そうだな。音ノ木坂学院でまた会おう。君一人で来てくれ」

新しい玩具を手に入れた子供のような顔を浮かべ槙島が走り去る。
追おうとする新一を阻むように、アカメが吹き飛ばされてくる。
電撃の鞭をディバックで防いだが、衝撃までは殺しきれず地面に叩きつけられた。


428 : 輝【くのう】 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/23(土) 01:17:23 0lYdT4hs0

「これで、止め……!」

今度こそ、身動きの取れないアカメを殺そうと電撃が御坂へと集中する。
その光景を見た新一は飛び出し、右手を伸ばした。

「くっ!」

御坂の視界に髪を逆上げた少年が少女のピンチに右手を伸ばし突っ込んできた。
まるであの少年のように。

「あっ、……」

電撃は打ち消されることなく、アカメが先ほどまで居た場所へ降り注いだ。

「馬鹿ね……私」

電撃が止み、そこには何もない。
黒焦げになった死体も、電撃を打ち消してくれるあの少年も何処にも居ない。
ただ、無情な現実だけがそこにはあった。

「次、探さなきゃ……」

もう迷いはない。
人を殺す覚悟は出来た。
だから、次は確実に今度こそ殺す。
誰でも良い。その一線を踏み越えさえすればもう……。

「……何で、来てくれないのよ……。私、本当に人を殺しちゃうじゃない」

誰に対しての懇願なのか、もう御坂にも分からない。







「……大丈夫か? アカメ、雪ノ下」
「ええ」
「なんとかな」

息を荒げながら、右腕で担いだアカメと左腕で担いだ雪乃に安否を問う。
二人とも致命傷と呼べる程の傷を貰っていなかったのは幸いだった。
恐る恐る御坂が追っていないか、確認してみるがそれらしい人影もない。 
ギリギリ、逃げ切れたのだろう。
新一はホッと息を吐く。
だが、まだそれだけに終わらない。
槙島に攫われたサリアを放っておく訳にはいかない。
ミギーは見捨てろというだろが、新一はその選択肢を選べない人間だ。
槙島もそれを何処かで見越して、サリアを攫ったのかもしれない。

「行け、新一……。音ノ木坂学院だろ?」
「アカメ……」

アカメが横腹を押さえながら、新一を促す。
命に別状はないが、今すぐ急な運動もさせられない。
槙島を追うには、彼女は置いていくしかない。

「私もアカメさんと残るわ。泉くん一人のほうが動きやすいでしょう?」
「分かった。アカメと雪乃は先に図書館に行っててくれ」

新一は頷き二人の提案を受け入れた。

「ただ、もし刀があったら私に譲ってくれないか?
 唯一の武器もなくなってしまって出来れば武器が欲しい」
「武器? そうか、まだ支給品を確認してなかった」

アカメの願いを聞き新一は支給品の存在を思い出す。
戦闘が続いた為、忘れていたが確か多くて三つまで武器が支給されているという話だ。
ディバックを開け、漁ってみると一本の刀が出てきた。

「こいつでいいか?」
「ありがとう。助かる」
「じゃあ、行って来る」

刀を投げ渡し、新一も音ノ木坂学院へと向かい駆け出した。





429 : 輝【くのう】 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/23(土) 01:17:53 0lYdT4hs0


『シンイチ』
「なんだ? サリアを見捨てろってか?」
『そう言いたいのは山々だが、どうせ君は止めても行くんだろう?
 それより、何故あの男は君が混じっている事に気付いたか、少し考えてみないか?』

言われてみれば、あの口調は新一の体内にミギーの細胞が混じったことを察していたものだと思える。
走りながら新一は思い返す。
心当たりといえば加奈のようにパラサイト同士が存在を確認できる「信号」を感知出来る存在だ。
それを新一はミギーに伝えるが、ミギーは納得しない様子を見せた。

『覚えているか? 浦上という殺人鬼を』
「それがどうした?」
『似ていると思わないか? あの男は。
 浦上も我々パラサイトと人間を判別する能力を持っていた。
 これは仮説だが、あの男が浦上と同類の人間だとしたら? もしかしたら奴も同じ殺人鬼なのかも』
「人を何人も殺してる可能性があるってことか?」
『危険性は浦上と同等かそれ以上、しかも身のこなしから浦上よりも強い』

新一は堪らず舌打ちをする。
最悪な男の手にサリアが渡り、あろうことか興味を持たれるとは。

『……無駄だとは思うが、一応言っておく。行くのは止めた方が良い』
「サリアを放っておけない」

それだけ言うとミギーはただの右手に戻り、口を閉ざした。

「……」

―――君は誰よりも普通なのに、誰よりも普通じゃない。

まるで図星を突かれたようだった。。
新一が内に秘め、苦悩していたものをあの槙島は言い当てていた。
人なのか、そうでないのか。
目に見えずとも変化していく新一の中の何か。
新一はその中で悩み、葛藤していた。けれども答えは見つからない。
否、ある筈がないのだ。そんなものは何処にも。

でも、あの男ならもしかしたら……。

『シンイチ』
「…………どうした?」
『勘違いするな。君はあの男とは違うぞ』

ミギーの言葉に新一は返す言葉が見つからない。
ただ、前へ前へは走り続ける。
サリアを救うため、いやそれとも本当は―――。


【美樹さやかの剣@魔法少女まどか☆マギカ 】粉砕


430 : 輝【くのう】 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/23(土) 01:18:18 0lYdT4hs0
【F-4/一日目/黎明】

【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(小)、腹部に負傷(応急手当済み)
[装備]:サラ子の刀@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:なし
[思考]
基本:悪を斬る。
1:図書館に向かう
2:雪ノ下雪乃と一緒に行動する
3:タツミとの合流を目指す。
4:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
5:村雨を取り戻したい。
6:御坂は次こそ必ず葬る。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴を雷を扱う帝具使いと思っています。
※ディバックが燃失しました

【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:健康、八幡が死んだショック(若干落ち着いている)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、MAXコーヒー@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
    美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、ランダム品0〜1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:図書館に向かう
2:知り合いと合流
3:比企谷君……


【泉新一@寄生獣 セイの確率】
[状態]:疲労(小) ミギーにダメージ(中 回復中) 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム品0〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:音ノ木坂学院に向かい槙島からサリアを助け出す。
2:後藤、田村、浦上、血を飛ばす男(魏志軍)を警戒。
3:1を終えた後で図書館でアカメたちと合流。


【槙島聖護@PSYCHO PASS-サイコパス-】
[状態]:軽度の疲労
[装備]:
[道具]:基本支給品一式 不明支給品1〜3
[思考]
基本:人の魂の輝きを観察する。
1:狡噛に興味。
2:サリアを餌に新一を音ノ木坂学院に呼び出す。何をするかは未定。
[備考]
*参戦時期は狡噛を知った後。
*新一が混ざっていることに気付いています。

【サリア@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:右肩負傷、左足負傷(応急処置済み) 気絶
[装備]:シルヴィアが使ってた銃@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品、ランダム品0〜2
[思考・行動]
基本方針:エンブリヲ様と共に殺し合いを打破する。
0:……。
1:エンブリヲ様を守る。
2:1の為のチームを作る(ダイヤモンドローズ騎士団)。
3:エンブリヲ様と至急合流。
4:アンジュ達と会った場合は……。
※参戦時期は第17話「黒の破壊天使」から第24話「明日なき戦い」Aパート以前の何処かです。

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟?
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×14
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
1:黒子たちと出会わないようにする。
2:次こそ絶対に殺す。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。


431 : 輝【くのう】 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/23(土) 01:18:46 0lYdT4hs0
投下終了です


432 : ◆cHCCzl86Lw :2015/05/23(土) 04:00:33 3Fm.J2HA0
投下します


433 : Desiderium ◆cHCCzl86Lw :2015/05/23(土) 04:03:23 3Fm.J2HA0



今も憧れを抱いている。


最初の願いを思い出す。
死にたくない、生きたい、そういう単純なものだったように思う。
助けて。と、そう、私はあの日、願ったのだ。

生か死かの取捨選択。考える余裕すら無く、必死に口にした気持ち。
それを後悔しているわけじゃないけれど。
結果として生きる事になった今が、辛いと感じる日もあって、寂しいと泣いた夜もあった。
救えなかった誰かに、目の前で取りこぼしたものを前に、無力に打ちのめされたことだってあった。

だから今も、私は信じている。
いつか小さなころ、膝を抱えながら観たテレビ画面のそのむこう、何も知らない私が信じて、憧れていたもの。
煌びやかに、鮮やかに、華やかに、そして綺麗に。
別世界で踊る、少女達の姿。

私の憧れ。
私の希望。
私のユメ。

胸に抱いて、瞳に移して、今の私に、するりと重ねて。


「私は巴マミ」


そして名乗ってみせるのだ。


「キュゥべえと契約した、魔法少女よ」








*****


434 : Desiderium ◆cHCCzl86Lw :2015/05/23(土) 04:05:23 3Fm.J2HA0




コンクリートの上、紅い水溜りが広がっていく。


「ぁ……あ、あ……」


目の前で倒れ伏した少女の身体を中心に、じわりじわりと流れる血。
命が終わる瞬間だけが、このとき園田海未の視界を独占していた。

通いなれた学校。
踏みなれた屋上の床に尻餅をついたまま海未は、震えながら目に焼き付ける事しか出来なかった。
美遊・エーデルフェルトという少女の死を

先程まで、まるで夢を見ているような心地だった。
叩き付けられた殺意への畏怖。
自分の命が終わるかもしれないと本気で恐慌し、必死に逃げた。
まるで悪夢。けれどそれらすべてを吹き飛ばすような、圧倒的非現実があった。

目の前で行われた、曰く魔術、魔法のステッキ、魔法少女。
変身し、使いこなし、守ってくれた。
怪物のように恐ろしい存在に退かず立ち向かい、助けてくれた小さな少女の奮戦。
鮮やかな淡い光、ペガサスの飛翔。
色鮮やかな非現実に僅か、のぼせるような感覚に陥っていたのは確かだった。
つい先ほど、一瞬にしてその存在が無残に息絶えるまでは。


今やここに残るのは、死、だけ。
命の終わりという、明確な事実。
助けられて、守られて、そしてもう助からない。
何も出来ないまま死なせて、取り返しはつかない。
そういった形の圧倒的な現実のみ。

場所が見慣れた音ノ木坂学院の屋上だったこともより拍車を掛けていた。
先程まで海未を包んでいた浮遊感の、介在する余地はもはや何処にも無い。

「返事を……してください……」

海未には分かっていた。
目の前の少女がもう息絶えていることくらい。
少女の肌をズタズタにした裂傷。流れ続ける大量の血液。ピクリとも動かない全身、開ききった瞳孔。


どう見ても死体、生きているわけがない。
けれど近寄れない、確認するのが怖くて、認めるのが嫌で動けない。

「お願い……ですから……」

少女は死んだ。園田海未を助けて死んだ。助けたから死んだ。
助けなければ、死ななかったかもしれない。私のせいで、死なせてしまった。
そう考えてしまうのが、とてもとても怖かったから。
動かない死体の返事をずっと待ち続けて。
だけど、ここに、彼女の死を受け止める存在は、もう一つ。

『美遊様……』

カレイドステッキ・サファイアは悼むように名を呟く。
それは海未の発したものとは違う、離別の痛みを受け止める呼びかけだった。


「……ごめん……なさい……」

だから海未も受け入れるしかなかった。
受け止めるしかなかった。
少女が死んだという紛れもない事実を。

「ごめんなさい……」

美遊・エーデルフェルトは園田海未を守って、死んだ。
その事実を受け取り、やはり耐えきれず涙がこぼれた。


435 : Desiderium ◆cHCCzl86Lw :2015/05/23(土) 04:09:03 3Fm.J2HA0


あの時、自分にも何かできたのではないか、そうすればこの結果は変わっていたのでないか。
そういった根拠のない後悔に押しつぶされそうになりながら、
海未は僅かに顔を上げて、残された物を見つめる。

「私にも……何か……出来ていれば……」

美遊・エーデルフェルトの死と、彼女手を離れ、足元に転がるカレイドステッキ・サファイア。
そして残された、最後の言葉。

「サファイアを、お願い――――」

「私は……」

手を伸ばさなければ。
震える足を動かして、近づかなくてはと強く思う。
あの杖を拾わなければならない。そうすることがせめてもの、と。

「私は……っ!」

それでも、体は動かない。
全身を、冷たく凍えるような感情が支配する。
もう取り返しのつかない哀しい事実を、一人ではどうしても受け止めきれずに。



「―――――」


その時、こつり、と。
頭上で靴音が鳴ったような気がした。
音を追うように、海未が見上げると―――

「あなたは……?」

視線の先、屋上の更に高所に位置する、
落下防止用フェンスの上に一人、金髪の少女が立っていた。

夜天の下。
ベレー帽にコルセット、スカート、そして目を引く胸元の黄色いリボン。
淡い輝きを放つ、クラシカルで華やかな立ち姿はまるで、昔見たテレビの中の―――



「私は巴マミ」


フェンスから床に降り立ち、海未の目を真っ直ぐに見つめて彼女は名乗る。



「キュゥべえと契約した、魔法少女よ」



いつか幾人もの少女が胸に抱いた、憧れの名を。




*****


436 : Desiderium ◆cHCCzl86Lw :2015/05/23(土) 04:10:46 3Fm.J2HA0







今も憧れを抱いている。


だからこの場所で、私のすることは決まっていた。
初めから選択する余地は、たぶん無かったんだと思う。
最初の願いを決めた時とあるいは同じくらいに。

「魔法少女……あなたも……なのですか?」

目を丸くして、私を見つめる人。
この瞬間、出会った誰かに、私は手を差し伸べたい。
素性も、年も、名前すら知らない赤の他人。

だけど私は、助けたい。
今にも悲しみに潰されそうなこの人を。


「……助けてください」


縋るように手を伸ばす、名前も知れない目の前の誰か。
その願いを。
私は微笑んで受け入れた。


だって、それがいつか、私の憧れた在り方で―――



「ええ、もう大丈夫です」



魔法少女は、夢と希望を叶えるものだから。











【G-6/音ノ木坂学院屋上/深夜】



【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:変身状態
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・行動]:
基本方針:夢と希望を叶える魔法少女として在る。人を守る。
1:目の前で泣いている人の保護。
2:身を守るすべのない人を助けたい。
3:名簿内の知人が気になる。
※参戦時期はテレビ版2話終了時あたり。




【園田海未@ラブライブ】
[状態]:疲労(大)、足に擦り傷
[装備]:
[道具]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、基本支給品(美遊)
[思考・行動]
基本方針:死にたくない
1:助けて……
2:μ'sの皆を探したい
※サファイアによってマスター認証を受けました。
※サファイアの参戦時期はツヴァイ終了後です。


437 : ◆cHCCzl86Lw :2015/05/23(土) 04:12:12 3Fm.J2HA0
投下終了です


438 : 名無しさん :2015/05/23(土) 05:10:47 yOWSb7kg0
投下乙です

御坂とアカメの圧巻のバトル、その裏で起きる槙島と新一達の問答
二度美味しいの話でした、そして、邪魔ですサリアさん

海未ちゃんとマミさんは魔法少女コンビ結成か
魔法少女は夢を与える存在であり、同時に割と絶望し易い存在だがどうなるか


439 : 名無しさん :2015/05/23(土) 08:53:45 8X0vIt1s0
キャラコンプ達成!!


440 : 名無しさん :2015/05/23(土) 13:11:33 n0/OYSaU0
投下乙です!これで全キャラ登場達成か、いやぁめでたい

しんみりとした八幡の埋葬シーンから御坂相手に渡り合うアカメさん、村雨無い方が活躍できるんじゃないかこの人
マキシマムと寄生獣の設定を絡めたのは上手い、追う新一はサリアさん助けられるのだろうか

海未ちゃんはマミさんと会えたか、魔法少女コンビとして頑張ってほしい
微妙に不安が残るけど…w


441 : 名無しさん :2015/05/24(日) 00:21:26 I4hXEVTc0
投下乙です。コンプおめでとう。

村雨は扱いめんどいから、ロワは普通の武器の方が活躍できるよね
マキシマムが生き生きしてるなあ。ビリビリはこのままじゃ手遅れになるぞ。

マミさんはこの時期からスタートか。両者の魔法少女システムの違いを
どうとらえるのか気になるな。


442 : ◆fuYuujilTw :2015/05/24(日) 12:32:49 YSXPq3W60
投下します。


443 : 濁【こたえ】 ◆fuYuujilTw :2015/05/24(日) 12:36:09 YSXPq3W60
「来たか」

「ああ」

10mほどの距離で対峙する白髪の青年と黒髪の青年。
白髪の青年は怯える女性の首に腕を回し、ナイフをあてている。
音ノ木坂学院職員室に彼らはいた。
槙島が口を開く。

「君は人間なのかい?」

「人間の定義が何かは知らない。……でも確かに俺は普通の人間ではないと思う」

「僕は普通じゃないと称する人間をたくさん見てきた。
そして、その誰もが平凡だった。
普通であることは幸福なことだ。だが人はそれを忘れてしまう。
自分が何か特別なものであることを望む。マルティアリスはこう言った
『下手な詩人ほど自信家はいないのである』と。
人は自分が普通でないと称することで、逆説的にその平凡さを見せつける」

「…………」

「君は確かに『普通の』人間ではないようだ。しかし、本質的な部分は変わらない」

「……そうか」

「……ここに来たのは何故かな?」

「サリアを助けるためだ」

「本当にそうなのかな?」

「何を言っているんだ?」

「君はある意味で僕と似ている。僕はごく普通で本質的にありきたりな人間だ。そして君も。君は自らの意志でここにやってきたと言った。素晴らしい。シビュラシステムが稼働してから、そんな人間はどれほど少なくなっただろう」

「だから俺は自分の意志でサリアを助けに来た―――」

「君は答えを探していた。『破戒』を読んだことはあるだろう。成熟していない社会は『異質なもの』を作り上げる。そう、君のような」

「……確かに俺はお前の言うように異質かもしれない。だからといって俺はお前とは違う。お前のように社会を敵視するような人間とは」

「それは誰かの受け売りかな? 社会が絶対に正しいなんてことは誰が決めたんだい? その無謬を信じてただ社会の言う通りに生きていく。そう。それがシビュラシステムが作り上げた偽りの平和だ」

「だからといって、その平和を壊したりする権利なんて誰にもない」

「君はもう少し賢いかと思っていたんだけどね。ねえ、君、知里幸惠を読んだことは? 読むと良い。平和を壊された者の苦悩が少しは分かるんじゃないだろうか」

「…………」

「僕はね、人の魂は自由であるべきだと思うんだ。人の魂の輝きの前では偽りの平和なんてものは簡単に崩れ去る。僕はそう信じている」

「……やはり俺とお前とは違う」

「いや、変わらない。少なくとも君は自らの手で自らの疑問に対する答えを探しに来た。そうだ。自らの意志を持つ時点で、僕も君も普通の人間なんだ」

「…………」


444 : 濁【こたえ】 ◆fuYuujilTw :2015/05/24(日) 12:39:14 YSXPq3W60

「少しは安心したかい? 僕が聞きたいのは君の相棒の方だ」

「ほう、やはりきみも浦上と同類か」

「ミギー……!」

「君のような生物は見たことがない。聞かせてほしいんだ。君がどのような意志を持っているのか」

「我々が最初持っていたのは意志ではない。『この種を食い殺せ』という本能だ」

「本能、か」

「確かに我々は人間とは異なる生命体だ。
きみは意志こそが人間を特徴付けるものであると言った。
しかしその意志とやらはどれほどのものなのか」

「自由意志の問題は古来から哲学、神学上の論争のテーマだった。
プラトン、アリストテレスからエラスムスやルターを経てリベットなどに到る。
本能と意志との関係については絶えず争われてきた。
セネカはこう言っている『最も力ある人とは、自己の主人となる人である』と」

「人間の行動も基本的には本能に基づくものではないだろうか?」

「いや、違う。人間の意志はそう簡単に割り切れるものではない。
確かに母性も、母性本能という味気ない言葉で片付けることだってできるだろう。
しかし、面白いものでね。人間の場合、母性本能と呼ばれるものは後天的なものなのだそうだ。
確かに捨て子や虐待といった行動は、本能に基づくものとはなかなか言い難いだろう。
人間が遺伝子にプログラムされた行動しかとらないのなら、人間はアイザック・アシモフが想像したロボットと変わらない。
僕はむしろカレル・チャペックの方が近いと思うんだがね」

「つまり、我々は基礎的な部分で人間と異なるというわけか」

「人間とチンパンジーとは明らかに異なる。しかしそのDNAは約99%が一致しているらしい。
君たちのDNAがどれほど人間に近いのかは分からない。おそらくは99%を下回るだろう。
でも、君はチンパンジーなんかとは比べ物にならないくらい、人間に近いように思えるよ」

「それはわたしがこうやって会話しているからそう思えるのでは?」

「人間とチンパンジーは真の意味で共存しない。人間による一方的な支配があるだけだ。
でも君たちは違う。見事に共存しているじゃないか。少なくともそれは本能によって行動する動物には出来ない芸当だ。
だからこそ、その意志を見せてほしい。僕は思うんだ。個体としての人間と共存できる君たちならば、種としての人間とも共存できるのではないかと。
オレック・カスプロとグライ・バーレのように」

「…………」

「泉くん、僕が予想するに、君の苦しみは人間的なものが失われていったことに起因するのではないだろうか?」

「…………」

「人間的なものとは、本能とやらから見た相対的なものにすぎない。なんのことはない。
君は自由意志を持っている。だからこそ君は人間から離れることは決して出来ない。
おそらく君は相棒の言葉に従わずここに来たんだろう。安心しなよ。君はすごく人間的だ。
少なくとも、シビュラシステムにあらゆることを委ねた彼らよりはずっと」

槙島の目が変わったのが分かった。

「さあ、最後に君たちの意志を見せてほしい」

ナイフに力が込められた。


445 : 濁【こたえ】 ◆fuYuujilTw :2015/05/24(日) 12:41:13 YSXPq3W60



新一とサリアが後に残った。
槙島は向かい来る新一に対して素早くサリアを押し飛ばし、その隙に窓から逃げたのだった。

「大丈夫か」

「え、ええ……」

呼吸は荒く、首からは血が一筋流れている。
しかし、致命傷ではない。止血をすれば大丈夫だろう。

新一は槙島の言葉を思い出していた。そして、あのパラサイトのことも。

「ミギー」

「なんだ、シンイチ」

「あいつのことをどう思う?」

「パラサイトを判別する能力を別にしても槙島は興味深い人間だった。
まるでこちらのことを見透かしているような」

「…………」

「だからといって、あの男の言うことが正しいという訳ではない」

「……サリアを守ったのは俺の意志なのか?」

「そうだろう。……もしくはわたしの意志でもあるかもしれない。
勘違いしないでほしい。わたしは君を利用したに過ぎない。きみに死なれると困るからな」

ミギーの言葉に少し混じり気を感じたのは気のせいだったのだろうか。



【G-6/音ノ木坂学院職員室/一日目/黎明】


【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(小) ミギーにダメージ(小 回復中) 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム品0〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:サリアの回復を待つ。
2:後藤、田村、浦上、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島を警戒。
(ただし田村に対しては他の人物よりも警戒の度合いは軽い)
3:1を終えた後で図書館でアカメたちと合流。
*参戦時期はアニメ第21話の直後。



【サリア@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:右肩負傷、左足負傷(応急処置済み) 首から少量の出血(応急処置済み)
[装備]:シルヴィアが使ってた銃@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品、ランダム品0〜2
[思考・行動]
基本方針:エンブリヲ様と共に殺し合いを打破する。
1:エンブリヲ様を守る。
2:1の為のチームを作る(ダイヤモンドローズ騎士団)。
3:エンブリヲ様と至急合流。
4:アンジュ達と会った場合は……。
※参戦時期は第17話「黒の破壊天使」から第24話「明日なき戦い」Aパート以前の何処かです。


【G-6/音ノ木坂学院一日目/黎明】

【槙島聖護@PSYCHO PASS-サイコパス-】
[状態]:軽度の疲労
[装備]: サリアのナイフ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品一式 不明支給品0〜2
[思考]
基本:人の魂の輝きを観察する。
1:狡噛に興味。
2:面白そうな観察対象を探す。
[備考]
*参戦時期は狡噛を知った後。
*新一が混ざっていることに気付いています。


446 : ◆fuYuujilTw :2015/05/24(日) 12:41:47 YSXPq3W60
投下を終了します。


447 : 名無しさん :2015/05/24(日) 13:16:16 lUe0X9wU0
投下乙です

活き活きとミギーと問答するマキシマム本当に楽しそうだ、形は違えどこれもロワ充か
近くに魔法少女コンビがいるけど果たしてどうなるか


448 : ◆fuYuujilTw :2015/05/24(日) 14:34:35 YSXPq3W60
すみません、新一の状態表を以下のように訂正します。
【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(小) ミギーにダメージ(小 回復中) 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム品0〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:サリアの回復を待つ。
2:後藤、田村、浦上、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂)を警戒。
(ただし田村に対しては他の人物よりも警戒の度合いは軽い)
3:1を終えた後で図書館でアカメたちと合流。
*参戦時期はアニメ第21話の直後。


449 : ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 22:15:48 3m2NqlpE0
投下します


450 : 儚くも美しい絶望の世界で ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 22:18:07 3m2NqlpE0
「なるほど。とりあえずアンジュ、タスク、モモカって人は大丈夫ってことね」
「ああ、エンブリヲのやつはヤバイからな。気をつけとけ。あとサリアのやつは…今更変なことしねえとは思うんだが、何かよく分かんねえんだよなぁ。
 で、そっちの知り合いはイリヤスフィールなんちゃらと美遊なんちゃらってやつか」
「名前くらいフルで言いなさいよ。
 イリヤは私の妹で、美遊は友達ね。どっちも大丈夫のはずよ。ただ、ステッキが手元にあるかどうかですごく不安があるのよね、二人は…」

クロとヒルダの二人は情報交換をしつつ、移動を開始していた。
地図を開いて位置を確かめた結果、場所がかなり孤立していることが判明。
まず駅に移動、電車に乗って陸地に移ることから始めなければ他の皆と合流することから始めなければならないと判断。
情報交換は移動をしながら行っていた。

本来ならばこちら側にある電車に乗って移動すればいいと思っていたのだが――――

『おい、乗れば動くんじゃねえのかよ!』
『えっとなになに?線路上に障害物を確認。こちらの路線の運転はしばらく見送らせていただきます、だって』
『何だよ!石でも線路上に置いたバカがいるってことかよ!何だそりゃ!』

電光掲示板に表示された運転見合わせの文字。どうやら北へと向かう路線はしばらく利用不可能ということらしい。
幸いなことに東西にかかっている線路では運行中で、もうしばらくで到着するということ。それに乗れば移動することは可能だろう。
進行方向は東。ジュネス、闘技場などという施設のある市街地だ。

「で、さっきの話の続きだけど、エンブリヲってやつはどうやばいのよ?」
「あー、何て言ったらいいんだろうな」

と、ヒルダは自身の経験したことをクロに説明し始めた。
色々聞いた今でも全てを理解しているわけではない。ただ自身が経験したことはそう説明が難しいものではない。


「何それ。冗談?」
「嘘じゃねえよ。実際何度殺しても生き返るわマナが使えるやつは自由に操ってくるわで本当大変だったんだぞ」

そうしてクロが聞いた情報だけでも、正直信じられるようなものではなかった。
だが、ヒルダが嘘を言っているようには見えない。本当のことなのだろう。

「なるほどね。だけど一つだけ分かってることはあるわ」
「何だよ?」
「この場所にいるエンブリヲってやつは、あんたの知ってるやつよりは殺すのは容易いだろうってこと。
 じゃないと不公平でしょ。一人だけそんな死なないようなやつなんて。
 逆に言えば、あの広川って男、あるいは協力者はそのエンブリヲ以上の力を持っているってことになる」
「マジかよ…」

カーン

と、無人の駅で鐘のような音が鳴る。
どうやら電車が近くまで来ているようだ。

「止まるのかよ?そのまま素通りってことは?」
「大丈夫みたいね。少なくとも今のこの電車に関しては」

視線を外に向ける二人。
真っ暗な線路の上を照らすライトが、駅へと近づいて来ていた。




「ん……」

ガタガタ、と。
まるで電車に乗せられているかのような音を耳にして意識を取り戻す千枝。

「ここは…、……っう」


ふとうなじ辺りに鈍い痛みを感じ取り、顔を顰め。
目の前にいるモモカが青白い顔をして千枝を見つめていた。

「モモカちゃん…?一体何が…」
「千枝さん…。早く私から離れてください」
「え、何を言ってるのモモカちゃん」
「早く!私が私でなくなる前に―――――あっ」

そこまでモモカが口を開いたところでまたさっきのように彼女の言葉が途切れた。
首をカクン、と下に落とすモモカ。

「だ、大丈夫?!モモカちゃ―――」

と、モモカに駆け寄る千枝。

ギュッ

しかしいきなり顔をあげこちらの腕を握りしめたモモカの瞳を見て言葉を止めてしまう。

意識ははっきりしているように見える。しかしその顔には恐ろしいほどに表情がなく。
こちらを見つめる瞳は闇のように虚ろだった。

やがてその口がニヤリ、と釣り上がって開かれる。


451 : 儚くも美しい絶望の世界で ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 22:18:45 3m2NqlpE0
「初めまして、かな。お嬢さん」
「モモカちゃん…じゃない……、あなた、誰!?」
「モモカから話を聞いていないのかな?私の名はエンブリヲ」
「エンブリヲ…、まさか…モモカちゃんの体を…!」
「察しがよくて助かるよ。こちらで説明する手間も省けるからね」

その声はさっきまでのモモカの声ではなかった。
エンブリヲ。モモカの言っていた危険人物。

確かマナを持つ者を操ることもできる、と言っていた。

「しかし、こちらで人格表出をさせてみたがどうにも不思議な感覚が残っているな。
 まるでモモカに表出させた人格が私から独立してしまっているかのような違和感だ。
 パスは繋がっているようだが、情報共有には少しタイムラグが発生してしまうようだね」
「モモカは…、モモカはどうしたのよ?!」
「安心するがいいさ。今彼女の意識には眠ってもらうだけ。体も健康そのものだよ。
 まあ、君が抵抗するというのならば私としても少し手荒なことをしてしまうかもしれないが、その時はモモカの安全は保証しないよ。ほら」
「…っ!」

ペルソナを発現させようとした千枝は、しかしモモカの手に握られた手榴弾を見て息を飲み込む。

「私とて勝手のいい駒は失いたくないのだが、どうしようもなければ仕方がないからね」

もし下手な抵抗をすればここでそのピンを外す、と言っているのだ。
ニヤリ、と笑うように口を釣り上げるエンブリヲに悔しさのあまり歯軋りをする。

「何、抵抗しないというのならこちらとしても手荒なことをするつもりはないよ。それに君の友達、鳴上悠君には世話になっているからね」
「鳴上君…?あんた、鳴上君に何をしたの?!」
「そう怒鳴らなくても別に彼を傷付けたり、というわけでもないさ。すぐに会える」

出てきた名前は自分の友人。
エンブリヲが世話になっている、という言葉に心中で不安が広がっていく。

「理解してくれたようでなによりだよ。
 では――――む。どうやら駅に停車するようだね。
 くれぐれも誰か乗ってきても迂闊なことは口にしないように、いいね?」
「………」

モモカを操り続けるエンブリヲに対し、怒りを隠すことなく睨みつける。
その視線を飄々とした顔で受け流すエンブリヲ。

そうして、電車は停まりその入口の扉を開いた――――



クロとヒルダの二人が到着した電車に搭乗した時、既にそこには先客が存在していた。
客席に座り込んだ二人の少女、片方は給仕服のような特徴的な衣装を纏っている。

「お、モモカじゃねえか。よかった、早めに合流できたな」
「あんたが言ってた知り合い?」
「ああ」

手を上げながら近寄るヒルダ。
しかしモモカは口を開かない。じっとこちらを見つめたまま静かに座っているのみだ。

何かおかしい、とヒルダは近寄る足を止める。
確かにアンジュ一筋な女だったが、決して無愛想ではなかったはず。
と、怪訝そうな顔を浮かべるヒルダに、隣にいた少女が口を開く。

「あ、あの。初めまして。私、は―――」
「あんたの自己紹介は後でいい。おい、お前、本当にモモカか?」
「ち、ヒルダか。まさかよりにもよって君とはね」

舌打ちするように開かれた口から出たのは少女の外見とはかけ離れた男のような声。
そしてこちらに向けられた視線は虚ろで、自我が宿っているのかすらも怪しいぼんやりとした表情が顔に宿っているのみだ。

「…てめえ、エンブリヲか!」

手にしていた銃口をエンブリヲへと向けるヒルダ。
しかしエンブリヲは焦る様子を見せることもなく、涼しそうな口調でヒルダへと話しかける。

「おや、撃つかね?だがそれをしたところで傷付くのはモモカだけだ。私には何の影響もない。
 まあ私としても君の存在は邪魔でしかない。もしやるというのなら、ね」

と、その手に握った手榴弾をちらつかせるエンブリヲ。

「…てめえ…、汚えぞ!」
「私とて好んで争おうというつもりはない。君がおとなしくしてくれているなら別に何をすることもないさ。
 それに、一緒にいる子もなかなか興味深いじゃないか」


452 : 儚くも美しい絶望の世界で ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 22:19:22 3m2NqlpE0

と、モモカ(エンブリヲ)は視線をクロへと移す。

「なるほどね、あんたがエンブリヲか。女の子を操っていいようにしてるなんて、随分といい趣味してるわね」
「年の割には随分と肝が座っているようだね。君のその佇まいは戦士のそれに近い」
「そりゃどうも」

無造作に手を上げたりしつつもクロはモモカから目を外すことはない。
それがほんの少しでも隙を伺っている様子であるのは明白だ。

「ふむ、そろそろ出発の時間だ。君たちは支給品を置いて電車から降りてもらおうか」
「ふざけんな!」
「おおっと、指が滑ってピンを外してしまいそうになったぞ」
「ち……」

モモカの体を人質に取られている現状、ヒルダは手を出すことができない。
悔しさでギリ、と歯軋りをするヒルダ。

ギュッ

そんな握りしめられたヒルダの手にクロは自分の手を重ねる。
収まらぬ苛立ちのままクロに目をやるヒルダ。

しかし。


「…………」

クロは静かにヒルダをまっすぐに見つめている。
あくまで冷静に、そしてじっと何も語らずに。

「お前…」

と、クロはポンとエンブリヲの元に自身のバッグを放り投げる。

「ほう、そこの君はなかなか聞き分けがいいじゃないか」
「ヒルダも。あの友達助けたいんでしょ?」
「………」

関心するエンブリヲの声に苛つきながらも、クロの言葉を受けてヒルダは自身の銃を仕舞いエンブリヲに向けてバッグを投げた。
勢いよく放られたそれは、モモカが手をかざしたことでゆっくりと静止してパサリ、と床に落ちる。

「さて、じゃあ君たちは電車を降りてもらおうか」

そうエンブリヲが命じると同時に電車内にブザー音が鳴り響く。
どうやら発車が近いらしい。

抵抗する時間もない。
キッとエンブリヲを睨みながら、ヒルダはクロについて電車を降りた。

直後、電車のドアが閉まり線路上で動き始めた。



「フ、これで邪魔はいなくなった」
「あんた…、覚えてなさいよ…!」
「威勢のいい娘だ。嫌いではないよ」

発車した電車の車内。
敵意を向ける千枝の言葉も受け流しながらチラリ、と後ろの降りた二人の姿を見る。

「ハハハハ………む?」

一瞬だけ後ろを確認したエンブリヲは、しかし疑問の声を上げながら再び振り向き直した。

駅のホームに立っている人影は一人分、ヒルダのものだけ。

「さっきの小娘はどこに行った?」

そう思った瞬間だった。


453 : 儚くも美しい絶望の世界で ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 22:19:53 3m2NqlpE0

ビーッビーッ

響くような警告音のようなブザーが鳴り、加速段階にあった電車が急停止。
まだそこまでの速度ではなかったとはいえ停止させられた電車の衝撃にガタン、とバランスを崩すモモカの体と千枝。

「あぅっ」

その衝撃で転び込み、意識を暗転させた千枝。

そして次の瞬間だった。
電車の側面に向けて何かが飛来し。

それが赤い炎を上げて爆発したのは。

「…っ!何だ!?」

爆風が電車の扉を吹き飛ばす。
熱と風がエンブリヲの顔を捉え思わず目を閉じ。


「エンブリヲ!!」

しかしその開いた場所から飛び込んできたヒルダ。
苛つきながらもその手の手榴弾のピンに手をやる。

「私を謀るとはな!いいだろう、これはその罰だと―――――」

ドン

だがそれが抜かれることはなかった。
誰もいないはずのエンブリヲの背後から、何者かがその体を締め上げ押し倒したのだから。

床を転がる手榴弾。
その手を抑えるのは赤い外套を纏った褐色肌の少女。

「貴様……」
「支給品を全部取り上げて安心してたのかしら。だとしたら随分な慢心ね」

モモカの体を抑えながら、クロはその手に一本の縄を投影。
抵抗を防ぐために腕と足を縛り上げた。

その最中で電車の線路上に目をやったエンブリヲの目に入ってきたもの。
電車の進行を防ぐように巨大な岩でできた剣のような物体が突き刺さっている。


「なるほど、やってくれたな」
「てかクロ、お前そんな芸当できるんならもっと早く言ってくれてもよかったんじゃねえか?」
「いくら何でも目の前でやったらダメでしょ。やるなら不意打ちのようにやらないとまずい状態だったし」

電車が発車したところでクロは転移魔術を以って電車の前の線路へと転移、まず進行を封じるために可能な限り巨大な岩剣を投影。
もし緊急停止しなければこれで電車を殴る必要があっただろうから、安全装置のようなものがあってくれたのは幸いだった。

あとは投影した矢を壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で爆弾へと変換、電車への侵入口を作りヒルダを向かわせ。
そちらに意識を取られたエンブリヲの背後に転移して取り押さえる。

「あんたが察しのいい人間で助かったわ」
「ふん。……おい、お前しっかりしろ」


ヒルダが気絶した千枝へと声をかける。
少し打ちどころが悪かったようではあるが外傷はない様子。呼吸は安定している。
すぐに目を覚ますだろう。

「フ、私を拘束してどうするのかね?」
「とりあえずその子の意識が取り戻せるまでは縛らせてもらうわ」
「そうだな、たぶんアンジュに会えば嫌でも目覚させることできるだろ」

少なくとも抵抗させずに、いずれ自我を取り戻すことができることを信じるしかない。

「なるほどな。しかし、果たしてそううまくいくかな?」
「どういう意味よ?」

クロとヒルダ。ドアが吹き飛んで吹き抜け状態になった場所に背を向ける二人は気付かない。
その向こう側に見える線路から、うっすらと人影が迫ってきていたことに。

唯一そこを視界に捉えていたエンブリヲだけがそれに気付いていた。

その人影に向かって。

「――――――た、助けてください!!殺される!!!」

エンブリヲはその体を操りながら、しかし声色だけはモモカのそれで思い切り叫び声を上げた。


454 : 儚くも美しい絶望の世界で ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 22:20:13 3m2NqlpE0


―――――ふざけないでっ! 人殺した事があるんでしょ。そんな人を信用出来ないっ!!!

線路の上で、キリトは一人心の迷いを精算することもできずに佇んでいた。

「…どうして、あの子はそのことを知って……」

もしかして彼女もSAOサバイバーだったのか。それともその人と何かしらの関わりを持った誰かだったのか。
分からない。しかしあの子を放っておくことはできない、そう頭は告げているのに足が動いてくれなかった。

人殺し。

もし彼女とまた会えば、きっと同じことを言って拒絶してくるだろう。
それが何よりも怖かった。

人を殺した過去と向き合わなければいけないということが。

竦む足はキリトの動きを止め続ける。

そんな時だった。

キリトの背後側の線路から、電車の動くような音が響いてきたのは。

電車。ここは線路の上だ。それくらいのものは走っているのだろう。
本来ならむしろこうしてこんなところで佇んでいるということが危険。

名も知らぬ少女を追うことが最優先であったはずのキリト。
しかしその足は反対側へと向かう。

迷いと焦燥、そして若干の恐れを抱いたままゆっくりと振り返り足を進めた。




エンブリヲが助けを求める叫び声を上げたと同時にクロとヒルダは後ろを振り返る。
そこからは真っ黒な衣装を纏い片手に刀を携えた少年が走り寄ってきていた。

「てめえ…」
「――――!!ヒルダ、危ない!」

咄嗟にクロがヒルダの体を押し倒す。
その瞬間、地面に倒れこんだ二人の頭上を日本刀による突きが通り過ぎていった。

「大丈夫か?!」
「はい…。そちらの二人が、いきなり…。そこの千枝さんも二人に襲われて…」

刀で腕を縛った縄を切りながらモモカは乱入してきた男に説明する。

「分かった、ここは俺が引き受ける。君は早く逃げるんだ」
「ありがとうございます!」

モモカはそう、屈託のない笑みを浮かべ。
そしてキリトがこちらに視線を向けた瞬間、嘲笑するような笑みをこちらに投げた。

「ちょっと待って!落ち着いて話を―――その刀……」
「あんたら…、何やってんだよこんな時に!」
「くっ…」

怒りをぶつけるようにこちらにその刀を振りかざす男に対し、クロはその手に白黒の双剣を投影。
振りかざされた剣を受け止める。

「っ…ぅ、何こいつの力……、それにずいぶんヤバイもの持ってるみたいじゃない……。
 ヒルダ!あんたはあいつを追って!あんたにこいつの相手はヤバイわ!」
「…分かった」

剣を受け続けるクロは逃げるモモカにも目をやりながらヒルダにそう指示する。

自分のバッグを拾って駆け出すヒルダ。

「行かせるか!」

しかしそうはさせないと言わんばかりに男はヒルダの方に意識を向けて飛び退こうとし。

キィン

その目の前に回転しながら迫った双剣を受け止めた。


455 : 儚くも美しい絶望の世界で ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 22:20:48 3m2NqlpE0

「ちょっと落ち着きなさい、話を――――」
「何でだよ…。あんたたち何でこんなことやってんだよ…!」

冷静に説明すれば分かってくれるはずだ、とクロはそう思っていた。

だが、男、キリトが向けてくる視線は怒りの混じった戦意のみ。

もしキリトが結衣との遭遇で人殺しという過去を抉られてさえいなければ。
それによる逃避の選択を取った罪悪感を完全に押し殺せていれば。
まだクロの言葉を聞く余裕もあったかもしれない。

だが、そうはならなかった。

振るわれる剣はその外見や武器の特性からは想像もつかないほどの威力を吐き出している。
干将莫邪で受け止めるクロの両腕がその衝撃だけで痺れるほどに。

「お前ら何が楽しくてこんなことやってんだよ!」

剣の技量は高く、受けるだけで精一杯。
いや、正確にはクロには受けることしかできないというべきだろう。その手にした刀の持つ力を読み取ったからこそ。

「待ちなさいって!てかその刀ヤバイっての!ちょっと聞きなさいよ!」
「うるさい!」

振りかざされた刀の衝撃を後ろに逃しつつ下がって後退。
同時に両手の双剣は砕け散った。その剣の力に耐え切れなかったようだ。

(…仕方ない、少し痛いかもしれないけど我慢してね)

あの技量と能力に対して剣技で抑えることはできないだろう。
ならば。

と、クロは宙に向けて6本の剣を投影。
キリトに向けて一斉に投射する。

「うおおおおおおおお!!」

それを難なく弾く、どころかそのうちの一本をキャッチし己の武器のように構えて攻め込んでくるキリト。
二刀流を構えてクロへと突撃をかけ。

しかしその途中でクロの投影した剣が爆発。
不意の出来事に後退を余儀なくされる。

「な…!」

驚きながらも爆風の向こう側からの攻撃を警戒して構えるキリト。
しかし。

ドゴッ

放たれた蹴りはキリトの背後からのもの。
目眩ましで視覚を奪った後、後ろに転移したクロがキリトの首を横から蹴り飛ばしたのだ。

そのままキリトの体は宙へと浮かび座席へと叩き付けられて倒れこむ。

「……さすがにあれだけの力あるんなら死にはしないでしょ。しばらくそこで寝てなさい」

確かに冷静さは足りていなかった様子。
だが、少なくとも助けを求める者を助けようとしたのだ。悪い者ではないだろう。

であれば殺す理由もない。別に殺さねばならないほど切羽詰まった戦いというわけでない。意識を奪う手段くらいならある。


「さて、ヒルダを追いかけないと……」

と、電車から出ようとしたその時だった。

ガタッ


456 : 儚くも美しい絶望の世界で ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 22:21:27 3m2NqlpE0
「―――――!」

背を向けた一瞬で、後ろに聞こえた足音。
咄嗟に振り返ったクロの視界に入ったのは、こちらに刀を振りかざして迫るキリトの姿。

(…間に合わな……っ)

投影も間に合わない。対応できる距離ではない。
その剣筋はまっすぐに腕に迫り―――――


「―――ペルソナ!!」

クロの体にその剣が触れるかどうかといった辺りで周囲に響き渡る声。
そして次の瞬間、二人の間に仮面で顔を纏った女のような影がキリトの刀を受け止めていた。

声の主をたどると、気絶していた里中千枝が意識を取り戻していた。
キリトの刀を受け止める影、それこそが彼女のペルソナだった。


「君、大丈夫か?!こいつらに変なことされたって…」
「…やっぱりそんなことに。違うの!その二人は私達を助けようとしてくれただけで!
 あの子を、モモカを操ってるエンブリヲってやつが元凶なのよ!」



「その程度かね、ヒルダ?」
「ちっ、ちょこまかしやがって……」
「この体は限界を越えての運用ができるからね。例え君がいくら鍛えていようと、それ以上の力を出すことは難しくないのだよ」

牽制のつもりで銃を向けると明らかに銃弾が急所を撃ちかねないような場所に移動してくる。
加えてその身体能力は自分以上にちょこまかと素早く動く。
おかげでろくに武器も持っていない素手の相手に対してこうも苦戦を強いられている。

「ほら、どうした?撃たないのかい、その銃を?」
「舐めるなぁ!」

頭を狙うように回し蹴りを放つがあっさりと避けられ、軸にした足を逆に払われて地面に転がり込むヒルダ。

「フ、サリアのように使い道のある娘でも、アンジュのような愛すべき者でもない、そして私の邪魔をするというなら別に死んでもらっても構わないのでな。
 いっそここで死んでみるか?」
「く…離せ!」

そのままエンブリヲはヒルダの首を絞めながら持ち上げ、線路の端、奈落へと続く闇へと掲げる。
腕を殴り抵抗するが、エンブリヲは離す様子を微塵も見せない。
いくら腕を殴ろうと、それでダメージを受けるのはモモカであり、エンブリヲには何の影響もない。

「では、さようならだ」

そのまま、抵抗する腕を振り解いたエンブリヲは、放るように腕を振るってヒルダの体を投げる。

闇の中に落ちていくヒルダの体。

どこに続くかも分からぬ奈落。しかし待つのは死だろう、と諦め。


ドサッ

しかしその体を何者かが受け止めるような衝撃がヒルダに届く。
目を開いたところにいたのは、謎の仮面を被った人間とは思えぬ何か。

「…よかった、間に合った……」

千枝が浮遊するペルソナ・トモエを動かしながら安堵する。


「お前…、よくも騙してくれたな!」
「ふん、もう少しは時間を稼げるかと思ったのだが」
「観念してその体をその子に返しなさい」

背後から剣を突き付けながら警告するクロ。

「ふん、忘れてはいないかね?この体を攻撃したところで傷付くのはモモカ本人だけだ、ということに」
「………」


457 : 儚くも美しい絶望の世界で ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 22:22:00 3m2NqlpE0

しかし、エンブリヲの言うように状況は好転こそしたが逆転したというわけではないのだ。
いかに追い詰めようとも、モモカの体そのものを人質に取られている現状。

追い詰め取り囲んだところで、状況が静止してしまっている。

「そうだ、私にはいくらでも手はあるんでね。例えば――――」

と、エンブリヲはモモカの体の下に隠していた手榴弾を放る。

モモカに支給されていた手榴弾は5個。うち一つは電車内に取り落としてしまった。
よって残りの数は4つ。しかし今ここにいる人数は自分を除けばちょうど4人。

状況を切り抜けるにはちょうどいい。

マナの念動力で一斉にピンを外して各々のメンバーの元に手榴弾を射出。

気付いた一堂が一斉に離れようとするが、そこは線路の上、外れた場所にあるのは奈落の闇。対処するには狭すぎた。

各々に向けて飛んでいった手榴弾がほぼ同時のタイミングで爆発。
周囲に爆風をまき散らす。

その爆風でモモカの皮膚が焦げるような熱を感じていたが、操っているだけのエンブリヲにとってはどうというものではない。
この周囲を覆う煙に紛れてこの場から離れよう、とふと空を見上げたその時だった。

空中に浮かぶ謎の光が見えたのは。

「何?」

目を凝らして見ると、そこにいたのは背から羽のような形の光を放つ何者か。
この場においていた唯一の男、キリトだった。

手榴弾による爆発があくまでも牽制でしかないことを把握することは容易い、しかし実際に対処できるかは別問題だった。
だが、キリトだけはこの場において自在に3次元的に動くことが可能な参加者だった。

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

そのまま、逃がすものかと言わんばかりに刀を振り下ろすキリト。
迎撃せんとマナの力で石を飛ばすが牽制にすらならぬまま弾き返される。

そしてモモカの体へと迫ったキリトは、刀を振り下ろして―――――――――




爆風が晴れた頃、キリトを除く3人、クロ、ヒルダ、千枝は。

「…危なかったわ」

咄嗟にクロが手榴弾の爆風から身を守るように自分、そして千枝とヒルダ、そしてキリトの付近に剣の束を盾のごとく地面に投射。
どうにか爆風によるダメージを軽減させることはできた。

それが逆に視界を封じて逃げ道を作ってしまうというエンブリヲの狙い通りになっていることが逆に癇に障っていたが。

しかし目の前で飛行するキリトの存在を確認して、キリトはエンブリヲの裏をかくことには成功していたらしいという事実に安堵し。

「―――――――!」

直後、その振りかざしている刀が刀身むき出しの状態であるのを見て顔色を変えた。




『ちょっと説明してる時間がないし確信が持てないからはっきりとは言えないけど、その刀の刃は絶対に鞘から出しちゃダメよ。
 相手を殺すつもりでもないんだったら、絶対に』
『どうしてだよ?』
『何か、私の勘が告げてるのよ、それ相当ヤバイやつだって』

それはここにくるまでの短時間の間にキリトにした警告。
もしそれを振り回すのならば決して鞘から抜くな、と。

その鞘はどうやら爆発の際衝撃で吹き飛んでしまっていたらしい。

そして、その刃を、今モモカへと振りかざしている。


458 : 儚くも美しい絶望の世界で ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 22:22:30 3m2NqlpE0


キリトの中にあったもの。
それは恐怖と焦りだった。

恐怖―――人を殺したことを他者に知られること、向き合わされることに対する強い恐怖。
焦り―――その恐怖が自分の判断を誤らせてしまい、事態を悪化させたことに対する焦り。

つまるところ、その時のキリトは冷静ではなかった。

だから意識すらしていなかった。
空を飛んでモモカに迫る自分の刀、村雨が鞘を失ったむき出しの状態であるということも。

そしてモモカの反応力がいくら優れているとしても、キリトの一撃を完全に回避できるほどのものではなかった。

一つ一つは小さなこと、しかしそれらが積み重なった上でのキリトの心境は決して戦いに赴いていい者のそれではなく。
だからこそ、事態の解決には最悪の結末をもたらすことでの終焉を迎えることとなる――――――。



キリトの一閃は、モモカの前腕部を一直線に切り裂いた。
もとより殺すつもりはない。だからこそ警告のつもりでの一撃。

そのはずだった。

「………え?」

傷口から血が流れるより早く、そこから謎の黒い模様が浮かび上がる。
それはまるで呪刻のように広がり、モモカの体目指して奔っていく。

「……!何だこれは……」

エンブリヲすらも驚愕し動きを止める。

「この、バカ――――――――」

一人事態が把握できたクロが駆け出す。
走りながら詠唱と共にその手にギザギザの刀身を持った短剣を作り出し。

モモカの首筋へと黒い呪刻が到達し。

キリトを押し退けてモモカの元へと駆け寄るクロは。

その傷口に向けて、短剣を突き刺し。

「――――――――破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)……!!」

ビクン、とモモカの体が痙攣すると同時、その真命を唱えた――――――


459 : 儚くも美しい絶望の世界で ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 22:22:50 3m2NqlpE0


地面に膝をつくクロ、少し遅れて仰向けに倒れこむモモカ。

そんな二人に3人が駆け寄る。

「おい、何が起きてんだよ」
「……今確信が持てたわ。キリト、あんたの刀、どこで拾ったものかは知らないけど、それは斬った相手に必殺の呪毒を流し込む特性を持った刀よ。
 例え斬られた相手は、どんなかすり傷だろうと傷を通して毒が心臓まで巡って死に至るわ」
「…え、何だよそれ。どういうことだよ……」
「ルールブレイカーでも相殺しきれるものじゃなかった。まだ息はあるけど、残った毒の効果でまもなくこの子は死ぬわ」

呪いであれば、間に合えばまだ助かったかもしれない。しかし呪毒であるこれはどうにもならなかった。

「おい、待てよモモカ!お前アンジュにずっと仕えるんだって言ってたじゃねえか!こんなところで死んでる場合じゃねえぞ!」
「ごめ…ん、なさい…。皆様に、迷惑をおかけしてしま、って……。だけど、これでよかったのかもしれ、ません。アンジュリーゼ様に、迷惑をかけてしまうところでしたから…」
「待ってよ…、モモカ!」
「千枝、さん……、もしアンジュリーゼ様に会ったら…よろしくお伝えくだ、さい」

徐々に弱っていくモモカの呼吸。
エンブリヲの意識は既に出てくることはない。
だが、こんな結末、モモカ自身の死を持っての終結を求めていたものなどこの場には一人もいなかった。
そのために皆あの手この手で抗っていたのだから。

「アンジュリーゼ、様……。先立つ不幸を……お許しくださ―――――――」
「おい」
「モモカさん…っ!モモカさん!!」

言葉を呟く途中で、そのまま何も口にすることも動くこともなくなったモモカ。
ヒルダの、千枝の呼びかけにも何も答えない。

既に彼女に脈はなく、その心臓も完全に止まっていた。


【モモカ・荻野目@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞  死亡】





「…嘘だ」

自分の手にある刀、そしてそこに僅かに付着した血。
それを見ながらキリトは後ずさる。

「おい、テメエ…!」
「ちが……俺じゃ……」
「…残念だけど、その刀がモモカを殺したってのは事実よ」

冷酷にそう告げるクロの言葉に、キリトの思考から様々なものが抜けていく。
そうして残ったのは。

――――人殺した事があるんでしょ。そんな人を信用出来ないっ!!

かつて一人の少女に言われた人殺しという言葉と。

目の前で息絶えた一人の少女、その下手人であるという事実。


人殺し。

そう、人を殺した。

自分が、殺した。



「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


460 : 儚くも美しい絶望の世界で ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 22:23:08 3m2NqlpE0


その事実に恐慌状態に陥ったキリトの精神は。
最もその状態から持ち直すことが容易いと考えられる選択肢を体に選ばせた。

それは、逃避。


「おい、逃げんなてめえ!」

呼び止めるヒルダの声も聞こえないかのように逃げるキリト。
こっちを振り返りもせずに線路の上を駆け抜けていく。その速さはかなりのものだ。まるで生身の人間ではないかのような。

無論、このまま放っておける状態でもない。
こちらの問題としてもあちらの問題としても。

「おい、追うぞクロ……ってどうした?」
「ごめん、しばらく追えるような状態じゃない」

と、追おうとしたヒルダ。しかし振り向いた先にいた、膝をつくクロの表情は芳しくない。

「もしかして、さっき言ってた魔力とかいうやつか?」
「ちょっと色々作りすぎたみたいで、ね。ただ今は補給してる暇はなさそうだし。
 先に向かってて。少し落ち着いたら追いかけるわ」
「…分かった。早めに追いついてこいよ」


そうしてヒルダは、キリトの去った方に向けて走り出した。
残ったのは、友達・モモカの死を悲しむ千枝と魔力消耗によって動くこともままならぬクロのみ。

(…さすがに今補給できるような空気じゃない、か……)

幾重にも続いた投影の影響で不足した魔力は体の不調に直結する。
その動けぬ状態。しかし場所は線路上、もし電車が来ることがあれば撥ねられて死ぬ危険性も高い。

まずは線路の上から退こう、と重い腰を上げた。




一撃必殺村雨。
それは斬った対象に確実な死を与える日本刀型の帝具。

そもそも帝具というものには相性がある。
それを負担なく使いこなすことができるかどうか、というもの。


キリトに支給されたそれは果たして本当にキリトにも扱えるものであったのだろうか?
確かに剣士である彼にとっては刀という武器は相性のいいものだということに間違いはない。

しかし、キリトは殺人に対する忌避の念が強い少年であり。
与えられたこれは相手に確実な死を与える武器だった。
その噛み合わぬ適合性は、この武器の使用に対して大きな制約をキリトに課していた。

精神不安定状態で走るキリトは気付かない。
自身の魔力が不自然なほど大きく減らされていることに。

確かにキリトが村雨を使えば他者に殺人の呪いを与えることはできるだろう。
しかしそれはキリトに対して大きな消耗をもたらしていた。

スキルの使用に際しての大きな魔力消費、それが不適合な帝具を使うキリトに与えられた代償。
現状魔力消費は40%。うち村雨が消費させた魔力は50%にも及ぶ。もしこのままもう一度使えばキリトの魔力だけで賄うことはできない。
そうなった場合に代わりに奪われる代償は?

それは、キリトにとっての生命線であるHP。

もし村雨を使い続けることがあれば、キリト自身の命を蝕んでいくことになるだろうという事実に。
キリトは気付いていない。


461 : 儚くも美しい絶望の世界で ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 22:23:41 3m2NqlpE0

【??? 線路上/1日目/黎明】 (D-7、C-8、E-8のいずれか)


【キリト@ソードアート・オンライン】
[状態]:HP残り5割程度、魔力残り4割、精神不安定
[装備]:一斬必殺村雨@アカメが斬る!
[道具]:デイパック 基本支給品、未確認支給品0〜2(刀剣類ではない)
[思考]
基本:このゲームからの生還
1:俺が…殺した…?
[備考]
名簿を見ていません
登場時期はキャリバー編直前。アバターはALOのスプリガンの物。
ステータスはリセット前でスキルはSAOの物も使用可能(二刀流など)
生身の肉体は主催が管理しており、HPゼロになったら殺される状態です。
四肢欠損などのダメージは数分で回復しますが、HPは一定時間の睡眠か回復アイテム以外では回復しません。
GGOのスキル(銃弾に対する予測線など)はありません。

※村雨の適合者ではないため、人を斬ってその効果を発揮していくたびに大きく消耗していきます。
魔力から優先して消耗し、もし魔力が尽きればHPを消耗していくでしょう。


【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(中)
[装備]:グロック17@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:進んで殺し合いに乗る気はない。
1:アンジュ達を探す。
2:キリトをとっ捕まえてクロと合流する。
3:アンジュに出会えたら平行世界について聞いてみる。
[備考]
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。
※クロエの知り合いの情報を得ました。
※平行世界について半信半疑です。


※二人がどの方向に向かっているかは次の書き手にお任せします。



【D-7 民宿 ベッドの上/1日目/深夜】

【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康、魔力消耗(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:脱出する。
1:イリヤ、美遊と合流。
2:ヒルダと組む。
3:脱出に繋がる情報を集める。
4:魔力をどうにかしないとキツい。
[備考]
※参戦時期は2wei!終了以降。
※ヒルダの知り合いの情報を得ました。
※クロスアンジュ世界の情報を得ました。
※平行世界の存在をほぼ確信しました。

【里中千枝@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(中)、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:殺し合いを止めて、みんなで稲羽市に帰る。
1:悠、クマを探す。
2:モモカ、銀の知り合いを探す。
3:足立さんは微妙に頼りにならないけど、どうしようか。
4:モモカちゃん……!
[備考]
※モモカ、銀と情報を交換しました。

※モモカの支給品(基本支給品、不明支給品1〜2、モモカの防弾フライパン@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞)がモモカの近くにあります。


※D-7ルートの電車は浦上の死体の影響で運休となっています。しかし運転に影響を与えるものではないため運転再開までそう時間はかからないと思われます。
※東西ルートの電車はD-8付近でバーサーカーの岩斧(クロの投影品)によって運休となっています。

※電車の運行について
 もし線路上に障害物の存在が確認された場合、一時的な運転休止処置がなされた後必要に応じて障害物の撤去が行われるなどの処置の後運転再開となります。
 どれほどの時間で再開となるかの詳細は不明です。
 なお障害物には生存中の参加者、意志持ち支給品などといった生きている者に対しては適応されません。


※エンブリヲにモモカからの情報が届くまでに一定のタイムラグが発生する様子です。


462 : ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 22:24:23 3m2NqlpE0
投下終了です。もし問題点などあれば指摘お願いします


463 : ◆BLovELiVE. :2015/05/24(日) 23:33:25 3m2NqlpE0
すみません、クロと千枝の時間、現在位置が間違っていました
【D-7 線路上/1日目/黎明】でお願いします


464 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/25(月) 00:04:23 Exmk7.lA0
投下乙です!
本体はともかく、他人の体を乗っ取って好き放題やれるエンブリヲ怖い!
キリとも道を踏み外してどうなってしまうのか

では、こちらも投下させていただきます


465 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/25(月) 00:06:35 Exmk7.lA0



(……うん、決めた! 田村さん達を追いかけて、仲間に入れてもらおう!)

イリヤはそう決断した。
それは彼女の直感であり、DIOへの疑いと女性だけで構成された集団にいる安心を天秤にかけた打算ではない。
このままDIOたちと行動を共にしても、美遊やクロには会えない気がしたのだ。
ルビーと出会って魔法少女として戦う事になってからもその前も、その直感に従って悪い状況に陥った事はそれほどない。
しかし、決断はしてもそれを実行に移せるかどうかは話が別だ。

(ルビーを譲って貰った恩があるのに、こんなおかしな状況で「向こうのチームに移ります」なんてどう切り出せば……)

イリヤにはイマイチ実感は出来ていないが、状況はいつ他人が襲ってきてもおかしくない殺し合い。
殺し合いをしろ、と言われてはいそうですかと受け入れる人間などイリヤには想像し難かった。
が、クラスカードの英霊のような怪物も中にはいるかもしれない。
出会った人間は今のところ皆好意的だが、何かをきっかけに豹変する者もいるかもしれない。
そんな緊迫した状況で、一度知り合った人たちに別れを切り出すとなればどんな言い訳をしても、
相手を疑っているという印象を与えずにはいられないだろう。イリヤはとても困ってしまった。

(ど、どうすれば……DIOさんに不快感を与えず、食蜂さんも出来れば誘って……ど、どうすればー!?)

ずんずん進んでいくDIOの後ろをトコトコ歩きながら頭を抱えるイリヤ。
ただ歩いているだけで軽く息を荒げながら、イリヤの後背をキープしている食蜂も気になる。
彼女はDIOを信頼しているようだが、だからといって放っておいていいものなのだろうか。
このまま迷っていれば、田村たちと合流するのがどんどん難しくなるばかり。
緊張と焦燥のあまり、ぐわんぐわんと頭痛すらしてきた女子小学生イリヤ。


466 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/25(月) 00:07:07 Exmk7.lA0

(『イリヤさーん。一応忠告しておきますけどここでは逃げに入らないほうがいいですよー。
  ここじゃ鏡面界にも飛べませんし。』)

(う、うう〜。流石にそこまで追い詰められてないよ?……でも実際どうすればいいのか……)

(『全くしょうがないですね〜。まあ、自分で決めたならお手伝いはしますよ、ステッキとして!マスコッツとして!』)


へ、とイリヤが応える前に、ルビーが奇声を上げた。

『WRYYYYYYYY!!!DIO様!少々お話が!!!』

「ちょっ」

「……何だ、ルビー?」

振り返ったDIOの表情は、苦虫を噛み潰したようなものだった。
イリヤもその背中から多少の苛立ちは感じていたが、どうやらルビーに対してはあまりいい感情はないようだ。
かしましく話しかけてくるルビーをうっとおしそうに見ていたDIOだったが、その言わんとするところを察したのだろうか。
歩みを止め、少し遅れていた操折が追いつくのを待ってイリヤに語りかけた。

「つまりイリヤちゃんは、さっきのお姉さん達と一緒に行動したいと言うわけだね?」

「は、はいっ。で、でもおじさんが信用できないとかそういうわけではなくて」

「成る程、このDIOよりもあの田村という女が信用できるだけだというわけだ……」

DIOの声色が変わる。瞬間、イリヤは目の前の存在が別の物に入れ替わったような感覚を覚えた。
剣の英霊を前にした時のような、へばりつくような恐怖。変身していないことを後悔する。
DIOとイリヤの間には半歩の間合いもない。ルビーがなにやら伝えてきているが、頭に入らない。
イリヤの頭の中で、見えない指がスイッチに手を伸ばしかけ――――。


467 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/25(月) 00:08:18 Exmk7.lA0

「……それならば、私としては君を引き止めることはできないな」

「―――っ、ハァッ……」

しかし意外にも。DIOは残念そうに肩をすくめ、イリヤの気持ちを汲んでくれた。
絶息していたイリヤの背中を冷たい汗が伝う。一瞬で膨れ上がった心臓の鼓動は未だ収まらない。
先ほどの"死"への直感が気のせいだったかのように、DIOは気さくに話しかけてくる。

「わたしは君の保護者ではないし、君は自分の力で自分の身を守れる。それならば自分の行動は自分で決めるのが
 当たり前の筋というものだろうとわたしは思うよ……。同じ女の子として、操折ちゃんはどう思うね?」

DIOの視線が食蜂に走る。数秒押し黙った彼女はイリヤを見て、DIOとは反対の意見を告げた。

「私は反対ねぇ。この子は私達の情報を少なからず持っているわけだしぃ? 他人に私達を売ることもありえるわ」

「わ、わたしそんなことしないよー!」

『そうですよ!イリヤさんはヘタレな一面もありますが他人を陥れるような人ではありません!』

「そうだぞ。無闇に人を疑うのは如何な物だろう? 君の性格は理解しているがそれでは敵を作るばかりじゃあないか」

ルビーとDIOの進言をむすっとした顔で受け取り、食蜂はそっぽを向いた。
思わぬ反応に狼狽するイリヤの肩をDIOが優しく叩き、言外に「任せろ」、と告げる。
DIOは不機嫌そうにする食蜂を少し離れた場所へ導き、真摯な表情で小声の会話を始めた。
それを見ているイリヤの心からは、少しずつDIOへの警戒が薄まっていく。

「DIOさんと食蜂さん、ケンカしなきゃいいけど……」

『イリヤさんも罪な人ですねぇ。でも殺し合いが始まれば多分隙を突いて逃げられますよ』

「滅多なこと言わないでよ……どうしたのルビー……」

やがて食蜂が呆れたように溜息をつき、二人の会話が終わったようにイリヤには見えた。
食蜂の表情は僅かに柔和なものに変化しており、胸を撫で下ろすイリヤ。
二人はイリヤの下へ歩み寄り、少し寂しそうな表情でイリヤと別れることを惜しむ言葉を述べる。


468 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/25(月) 00:09:21 Exmk7.lA0

「我々は、北の能力研究所へ向かおうと思う。操折ちゃんが似たような施設を知っているらしいからな」

「DIOの館ってところへはいかなくていいんですか?」

「エジプトの、わたしの住まいがそのままあるというわけではないだろうからね。恐らくは広川の撹乱だろう」

「ここに住んでるわけじゃなかったんだね……」

「貴女の知り合い……美遊ちゃんとお姉ちゃん、見つかるといいわねぇ」

妹だよ!と憤慨するイリヤに、DIOが洗えなくてすまないが、と前置きして借りていたハンカチを差し出す。
さらに、頭につけているハートの飾りがあしらわれたサークレットを外してイリヤの頭に装着した。

「ハンカチにはこのDIOの匂いが染み込んでいる。我が愛鳥ペットショップならばその匂いを嗅ぎ付けてくれるはずだ。
 花京院もこの飾りを見ればわたしとの関わりを察して協力してくれるだろう。せめてもの餞別と思ってくれ」

「さらに追加力だゾ♪ このカード、貴女絡みのものでしょ? 私が持ってても意味ないから進呈するわぁ」

食蜂もまた、Lancerと表記されたカードをイリヤに提供した。
クラスカード『ランサー』。マジカルルビーと併用する事で英霊の武器と魔技を一時的に使用できるアイテムである。
イリヤはもはや恐縮する他ない。親切な人達を疑ったことを恥じると同時に、自分に出来る事がないかと考える。
美遊とクロエにも、彼らに協力してもらうというのはどうだろうか。

「何から何まで……ありがとうございます、あの、私も何かミユとクロの目印になるものを……うーん」

『イリヤさんには魔法少女としてのシンボルがないからこういうとき困りますねー』

「うるさいよ! う、うーん……手紙でも書くとか……ちょっとお待ちいただけますか?」

「いや、既にかなりの時間が経っている。そんな事をしていたらあの女に追いつけなくなってしまうぞ。
 大丈夫、君と同じように彼女たちとも仲良くなれるさ。君も私の仲間に出会ったら、仲良くしてあげて欲しい」

朗らかに語るDIOに、イリヤは感服する。なんて立派な人なのだろうか、と。
せめてもの気持ちとして自分には扱いづらい支給品の大剣を譲渡して、イリヤは二人に手を振った。
DIOは笑顔で返す。食蜂はリモコンを持った手を振って返す。
少しの間立ち止まり、イリヤは転身してDIOたちとは逆の方向に走り出した。

「ルビーよ、イリヤちゃんを頼んだぞ!」

『……』

「返事しなよ、失礼だよルビー」

『はい。お任せください』

DIOの激励を受け、イリヤは友達と妹を探すべく路を急いだ。


469 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/25(月) 00:10:03 Exmk7.lA0

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「残念だな」

「ええ、残念ねぇ」

南へと走り去ったイリヤを見送って、DIOと食蜂は歩き始める。
二人の間には、イリヤの前で見せていた和やかな雰囲気は微塵もなくなっていた。
そこにあるのは親愛でも主従の絆でもない、純粋な利害関係の一致。
DIOには便利な食糧が必要で、食蜂には安心を与えてくれる存在が必要だった。

「言ったとおりに"設定"は出来たのか?」

「結構難儀したけど……上手くいったと思うゾ♪」

DIOから指示を受けて食蜂がイリヤに施した洗脳は三つ。

①。『アヴドゥル・ジョセフ・承太郎を名乗る者に遭遇した瞬間、DIOの記憶を喪失する』。

これはDIOの存在がイリヤに影響を与えた事を推察され、警戒されることを防ぐ為のもの。
DIOとしてはこの三人を見つけた瞬間に攻撃に移る、くらいのことはさせてもよかったのだが、
彼はアヴドゥルを除くジョースター二人の外見を知らない。故に、食蜂にもその設定は施せなかった。
100年の眠りから目覚め、4年ほど世界を見聞したDIOがまず興味を持ったのはスピードワゴン財団だった。
不快な名前だ、と嫌な予感はしていたが、手下の報告を聞いてその予感は的中していたと知る。
なんとジョースターの血族が存続しており、財団と密接な関係にあるというではないか。
しかしDIOはジョースターに勝利した自分を全く疑ってはいなかった。
ジョナサン以上の強敵が存在するはずがない。自分はそのジョナサンを完全に超越し屈服させたのだ。
その強すぎる自尊心が、彼に承太郎やジョセフを軽視させていたことは否定できない。
故にスタンドの練習をしていたら急に手から出てきた遠隔視の能力を使って精査するまでもない、と断じたDIO。
たまたま日本に住んでおり、もし失っても大して惜しくない花京院を行かせれば十分だと考えていた。

②。『イリヤ自身が「放置すれば死に至る」と認識する傷を負った者を見つけた場合、最善の殺傷手段で攻撃する』。

これはDIOたちの勝利に不可欠な、参加者を効率的に減らす為のもの。
イリヤの人となりならば、殺し合いを忌避する者たちの集団に入り込むことは想像に難くない。
身内が本人にも自覚なく突如攻撃してくるのは、まさしくそういった集団を瓦解させるきっかけにもなるかもしれない。
食蜂の『心理掌握』ならば事後にイリヤの認識を改変し、殺害行為の記憶を残さないことも可能だった。
だが他の洗脳の強制力を維持する為、またイリヤ自身を錯乱させて状況を混乱させる為にもあえてそれは避ける。
大怪我を負った者を助けようと駆け寄れば次の瞬間自分がその相手を殺しているのだ、驚きも天外だろう。

③。『ルビーの制止・忠告を当たり障りのない言葉に誤認し、それを他者に指摘された時相手に対し強い猜疑心を持つ』。

これはルビーによるイリヤへの影響を出来るだけ抑える為のもの。
こちらは先ほど効果の方を確かめている。転身時の消耗を心配するルビーの言葉をイリヤは全く理解していなかった。
洗脳自体はまだ気付かれていないようだが、これが繰り返されればやがてルビーが勘付く恐れもある。
とはいえルビー自身はイリヤの元から離れられないのだから、それほど心配する事もあるまい。


470 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/25(月) 00:11:00 Exmk7.lA0


「人間一人にこの程度の指示をしたくらいで、疲労力がこんなに溜まるはずないんだけどねぇ」

「恐らくこのゲームの参加者は体力を消耗しやすくされているな。ヒロカワの奴は泥試合を好むらしい」

フラつく足取りの食蜂を特に気遣う様子もなく、イリヤから渡された大剣を振るDIO。
帝具・修羅化身グランシャリオ。鎧化して装着者の身体能力を高めるらしいが、同時に消耗も激しくなる。
吸血鬼であるDIOが装備して全力で戦闘に臨めば、敵にとっては『世界』が二体同時に襲ってくるほどの脅威だろう。
だが、DIOの見立てでは『世界』のスタンドパワーを全開にしてグランシャリオと併用すれば1分も持たず動けなくなる。
装具として使わず、あくまで武器として使うのがよさそうだ。
グランシャリオをディバックにしまい、DIOは食蜂に問いを投げる。

「『心理掌握』の効果は永続的に続くのか?」

「ええ。普段なら、だけどぉー。さっきの女の子とイリヤちゃんへの手ごたえから見てこっちも制限力かかってそうねぇ」

「有効に活用するには経過観察が必要か。実験に使える参加者がいればいいが」


観察、というDIOの言葉が食蜂の脳裏を刺激した。
彼女は自分の能力で他人を操る事に何の抵抗もないが、相手の人生を破滅させるようなことはなるべく避けてきたし、
洗脳して所有物にした人間の面倒は最後まで見ることが絶大な力を持つ自分の義務だと考えていた。
しかし先ほどのイリヤへの指示は、そういった彼女なりの歪な倫理観にも悖るものではなかっただろうか。
何のためらいもなくそれを実行できた理由はすぐに思い当たる。DIOの存在だ。
彼を見ていると、自分という枠にヒビが入り、広がっていく感覚を覚える。
自分を善人だと思えない引け目、虐げられて歪んだ性根、優れた力への過信……。
そういった要素は、DIOの前では最悪の作用をもたらす。

(この人についていけば、私も……なんというか、安心できる気がするのよねぇ)

DIOの持つ力は、彼の信奉者の目には万物を超えるものに映る。暴力でも魅力でも、彼を超えるものはいない、と。
その偉大な力を持つ者に仕えれば、己の不安は消え、自信を持つことが出来る。
偉大な指導者に導かれているという錯覚。人間を超えた者に認められているという盲信。
それが、DIOの信奉者を人間のまま人間でなくするのだ。
吸血種が『世界』という最強のスタンドで人間を餌とすることよりも、DIOという人格そのものこそが世界を蝕むのだ。


471 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/25(月) 00:12:07 Exmk7.lA0

(御坂さんが居る以上、私が最後の一人になるまで生き残れる可能性はかなり低いわぁ。
 だったら、この人に従って……私の有用力をDIOに認めさせる。この男の、右腕になる)

広川の言葉など信用できない。だが、DIOは死んだ人間を生き返らせたことがあると食蜂に語った。
それを、何故か信じられる。頭の中を覗けない男の言葉を。その理由は、食蜂にはわからない。
DIOに自分を殺すには惜しい、己に必要な存在だと認めさせる。共に歩む資格を持つと知らしめる。
それが、食蜂が決めた行動の指針だった。
そのためならば、他人の命などゴミも同然。イリヤがどうなろうと、彼女には微塵の心痛もないだろう。

「イリヤちゃん、ちゃんとやれるのかしら。心が壊れたりしなければいいんだけど」

「そうなったら、残念だ。だが、我々が失うものは何もない。なにか心配する事でもあるのか?」

「……いいえ、ないわねぇ☆」

DIOのそれをなぞる様に醜悪な笑顔で、食蜂が笑う。だが、彼女は理解していない。
他者とのコミュニケーションを能力に頼ってきた彼女には、DIOの本質を知ることはできない。
彼は、超越者ではない。他人がいなければ、己の存在意義を見出せない一個の命だ。
DIOには他人が必要だ。しかしそれでも。DIOにとって他人とは、どこまでいっても踏み台でしかないのだ。
見下ろしながら生き足掻く者を笑うことはあっても、肩を並べる事は絶対に許しはしない。
彼が唯一対等と認めた男の肩は、いまや彼の首の下にあった。DIOの≪世界≫は既に完成されている。
どんな言葉をかけ、どんな力を見せれば取るに足らない人間どもを安心させ、自分の役に立たせることができるのか。
DIOの興味はそこにしかなく、だからこそ人間にとってのDIOとは何か、を問う田村玲子に狼狽したのだ。

「操折ちゃん、もう少しゆっくり歩くか?」

(まずはちゃん付けをやめさせたいゾ)

互いの思惑を知らず、二人は黎明の道を歩く。
未だ、陽の光は届かない。


472 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/25(月) 00:13:11 Exmk7.lA0



【F-4 道路/1日目/黎明】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康 転身状態 『心裡掌握』下
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
     DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ DIOのサークレット
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 
     不明支給品0〜1
[思考]
基本:美遊、クロと合流しゲームを脱出する。
1:美遊、クロとの合流。
2:田村、真姫を追いかけ同行させてもらう。
3:花京院、ペットショップを探して協力する。

【心裡掌握による洗脳】
※トリガー型 8/8時間経過
『アヴドゥル・ジョセフ・承太郎を名乗る者に遭遇した瞬間、DIOの記憶を喪失する』 
『イリヤ自身が「放置すれば死に至る」と認識する傷を負った者を見つけた場合、最善の殺傷手段で攻撃する』

※常時発動型 6/6時間経過
『ルビーの制止・忠告を当たり障りのない言葉に誤認し、それを他者に指摘された時相手に対し強い猜疑心を持つ』

[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。


473 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/25(月) 00:13:47 Exmk7.lA0

【F-3 道路/1日目/黎明】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:疲労(小) まあまあハイ!
[装備]:帝具・修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。
1:ジョースター一行を殺す。(アヴドゥル、ジョセフ、承太郎)
2:部下との合流。(ペット・ショップ、花京院)
3:操折の能力制限を確かめるために適当な人間を捕まえる
4:能力研究所へ向かう

[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。


【食蜂操折@とある科学の超電磁砲】
[状態]:額に肉の芽、『上条当麻』の記憶消失。 疲労(大)
     心理掌握行使:1/2名(あと2時間で1名回復)
[装備]:家電のリモコン@現実
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り脱出する。
1:DIOに自分を認めさせ、生還する。
2:能力の制限を把握する。

[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了後。
※『肉の芽』を植えつけられた事によりDIOに信頼を置いているが、元々他者を信用する神経を持ち合わせていない事もあり、
  毎時毎分DIOへの信頼は薄まっていく。現時点で既に「いとこの大学生(ルックスもイケメンだ)」に対する程度の敬意しかないようだ。
※『心理掌握』の制限は以下。
  ・脳に直接情報を書き込む性質上、距離を離す事による解除はされない。
  ・能力が通じない相手もいる(人外) ※定義は書き手氏の判断にお任せします。
  ・読心、念話には制限なし。
  ・何らかの条件を満たせば行動を強制するタイプ(トリガー型)の洗脳は8時間で解除される。
  ・感覚、記憶などに干渉して常時効果を発揮するタイプ(常時発動型)の洗脳は6時間で解除される。
  ・完全に相手を傀儡化して無力化するのは、2秒程度が限界。
  ・同時に能力を行使できる対象は二人まで。
   一人に能力を行使すると、その人物の安否に関わらず2時間、最大対象数は回復しない。


474 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/25(月) 00:14:32 Exmk7.lA0



【支給品解説】


サンルーフ付きの高級車@現実
外車、頑丈でガソリンも満タン。昼間に天井が開くとたくさんの光が入ってきてDIOは死んでしまう。
F-3 滝の中腹にぶち込まれているが、幸いにもガソリンは漏れていないようだ。

家電のリモコン@現実
家電のリモコン。食蜂は能力の円滑な利用のために、ボタンに能力を割り振っている。
なくても『心理掌握』は使えるが、疲労が増大するだろう。

帝具・修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
鎧の帝具で、インクルシオの改良型。透明化機能はないが、安定した性能を発揮する。
通常時は大剣の形を取り、斬撃武器としても一級品。

クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
かって存在した英雄・魔物などの力を封じた、規格外のマジックアイテム、その一つ。
ステッキを媒介にして封じられた存在の武器・奥義などを再現できる『限定展開(インクルード)』(一度使用すると、数時間使用不能になる)
持ち主自身の肉体を媒介にして封じられた存在の全てを再現する『夢幻召喚(インストール)』に使用される。
『夢幻召喚』については、カードの設計思想、理論、製造目的を知る美遊、
そして過程を省いて望んだ結果だけを引き出す特性を持ったイリヤからその力を奪って分離したクロエのみが使用可能。
2wei!の時点では、クロエ分離後のイリヤは夢幻召喚を使用することはできないとされていた。
『ランサー』の限定展開は因果逆転の呪いを帯びた魔槍の再現。ひとたびその真名を開放すれば、必中必殺の一閃を放つ。


475 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/05/25(月) 00:15:36 Exmk7.lA0
以上で投下終了です。


476 : 名無しさん :2015/05/25(月) 09:35:01 MUmn2ilg0
お二方とも投下乙です
エンブリヲが一番活躍出来るのがモモカ乗っ取り時なのがもうほんとねw
キリトさんも一線を踏み外してしまったし先行きが怪しい

DIOとみさきちの関係性はいいな
ただの主従の支配ではなくあくまで利用し合う関係が良い
肉の芽を使われたキャラには珍しい
そしてイリヤは嫌な洗脳を掛けられたな
美遊といいロリに厳しいロワだ


477 : 名無しさん :2015/05/25(月) 11:44:56 6Qw8pIMY0
投下乙です

ブリヲ様今回一番活躍したのではなかろうか、番長捕獲以来か
そしてクロから感じる安心感、やっぱりお姉ちゃん力高い
キリトさんはやってしまいましたなぁ

別行動を取ると言ったイリヤを暖かく見送るDIO様は同行者の鑑だ…知らぬが仏だけど
みさきちとのコンビは肉の芽使ったと思えぬビジネスライクな関係で面白い
とんでもない爆弾に変えられてしまったイリヤの運命や如何に


478 : 名無しさん :2015/05/25(月) 20:30:46 kIBuJhig0
投下乙です
マキシマムが楽しそうで何よりです
あの問答が新一の心理にどのような影響を与えるか楽しみだ

いつも問題しか起こさないブリヲは流石です
キリトは自分だけアバターというずれが悲劇を生んでいるな

洗脳されたか。プリヤのイリヤは本編に比べりゃ、ずっと人間だからなあ
初めはギャグだったDIOコンビも徐々に風格が出てきて恐ろしくなってきた


479 : ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 02:54:16 pWCjcEac0
投下します


480 : 殺戮者の晩餐 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 02:55:46 pWCjcEac0
「へえ、アイドル……」
「ええ、そのプロデューサーをしていたお陰か、名簿にもそう載っているほどです」

他愛のない会話をしながら、蘇芳とプロデューサーは夜道を進んでいた。
ペット・ショップが去った後、二人は殺し合いに乗る意思はないことを確認し、情報を交換し合う。
そして館から離れるという方針が定まり、二人は一先ずプロデューサー向かいたいという346プロの事務所に向かうことになった。

「そう言えば、パブリチェンコさんの支給品は何でした?」
「え? 僕の? ……これだけど、ふざけてるよ……」

愚痴交じりに携帯電話を取り出す。
これで殺し合えとは、無理も良いとこだ。
いわゆる外れに当たる部類なのだと嫌でも分かる。

「実は私も外れです。
 このパン詰め合わせと……」

嫌そうな顔をしたプロデューサーがディバックを逆さにし、それは落ちてきた。
ニョロニョロとうねり、人の背を超す長身。
それは頭にリボンを付けたお洒落な蛇だった。

「エカテリーナというらしいです」
「うわっ……。黒なら保存食にするかもしれないけど」
「え?」

蘇芳がどんな環境で育っているのか気になったが、まあ今はそうも言っている場合ではないだろうと気にしないことにした。

「私のエカテリーナちゃんを非常食ですって!? 許しませんわよ!!」

新たな第三者の声がけたたましく響き渡る。
殺し合いの場には不釣合いな制服、きっちりと堂々と出したおでこ、腰ほどの長さの黒い髪。
婚合光子は自らが溺愛するペットのピンチへと駆けつけた。

「これ、君の?」
「そうですわ。私のエカテリーナちゃんちゃんです! 傷一つお付けになって御覧なさい? 貴方方を……」
「貴女のものなら、これはお返しします」
「エカテリーナちゃん!!」

涙を流し、感涙の声を上げながら一人と一匹は抱き合った。
余程心労が堪っていたのか、溺愛するペットの体を執拗に撫で回しキスまでする。
蘇芳とプロデューサーからすればまるで理解できないが、恐らく犬とじゃれているようなものなのだろう。

「……エカテリーナちゃんまで殺し合いに呼ぶだなんて、広川という男は何処までも卑劣ですわね。
 ここは危ないからエカテリーナちゃん、ディバックの中で大人しくしてなさい」

エカテリーナがゴソゴソとディバックへと入っていく。
もう二度と出てきて欲しくないと二人は願った。

「そうそう、名乗り遅れるところでしたが私は婚合光子。
 見たところ、貴方方も殺し合いには乗っていないご様子。少しお話がてらご同行しても?」

蛇は二度と出さないという条件で二人はOKを出し、光子も一行に加わった。






481 : 殺戮者の晩餐 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 02:56:03 pWCjcEac0


「白いスーツの男がセーラー服の男を……。よく無事で切り抜けられましたね」
「ええ、間一髪でしたが」

光子はクロメとキンブリーとの遭遇とその戦闘を、蘇芳とプロデューサーはペット・ショップとの対峙を話す。
その後、互いに知り合いを確認しあう。この場に居る三人の内、一人も三人の探し人とは出会っていないらしい。

「それで、光子は何処まで着いて来るの?」
「その言い方は……そうですわね。そろそろ、この辺りでお暇しますわ。能力研究所が気になりますので」
「能力研究?」
「言い忘れてましたが、私これでも学園都市の常盤台に通ってますの。ですから超能力は身近で」
「能力? まさか契約者……!?」

今までの友好的な態度から一転し、蘇芳が警戒の色を高める。
光子は何か不味い事を言ったのか、理解に苦しみ自分の言動を思い返す。
もしかしたら、常盤台というエリートお嬢様学校に何かコンプレックスでもあるのか?
しかし、だとすれば制服を見た時点で気付くはずだ。
光子は頭を悩ませながら、落ち着くよう説得を始める。

「その私、何かと契約した覚えは……」
「……」
「パブリチェンコさん……!」
「ま、まあ信用して頂けないのであれば結構。私はここでお別れさせてもらいますから」

誤解は解きたいが、無理に関わる必要もない。
それにプロデューサーが居れば、変な悪評も撒かれないだろう
刺激しないうちに退散した方が良いかもしれないと光子は考えた。

『に、にゃああああああああ!?』

「あれは?」
「悲鳴? ですわよね。様子を見に行ったほうがいいかもしれませんわね」
「ええ、行きましょう」
「あっ、ちょっとプロデューサーさん」

その時、悲鳴が聞こえてくる。
プロデューサーと光子が駆け出す。
一人残った蘇芳は僅かに逡巡してから後を追った。








482 : 殺戮者の晩餐 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 02:56:45 pWCjcEac0
「一人か」
「ひっ……」

後藤は冷たく呟く。
凜はその言葉に本能的な恐怖を感じていた。
まるで、天敵に出会ったような圧迫感。体が動かない。
蛇に睨まれた蛙という言葉があるが、今の状況にぴったり一致すると他人事のように思えてきた。

「あの、僕達は殺し合いには乗っていないんです。貴方は……」
「後藤」

意を決し、話しかけるセリムに淡々と名を告げる後藤。
何処か機械染みているその問答に違和感を感じる。
そもそも、セリムが話しているこれは人なのかも分からない。
言葉の意味は通じていながらも会話というより、ただ後藤は反射的に返しているだけだ。

「……そうですか。実は何とかここから脱出する方法を考えているんですが、後藤さんも協力してくれませんか?」
「生き残れば良いだけの話だ」
「そ、それはそうですが……」

いけない。セリムが危ない。
そう思った瞬間、体に力が戻り凜は走り出せた。

「に、にゃああああああああ!?」

無我夢中でセリムの服を掴み、引き寄せる。
風を切る音が耳を撫で、セリムのネクタイが真横に一直線に切れた。

「……ホムンクルス?」

ぼそりと凜にも聞こえない声でセリムは呟く。
見れば後藤の腕がゴムのように伸び撓り、触れれば斬り裂ける刃へと変形していた。
あとワンテンポ、凜がセリムを引き寄せるのが遅ければ一度死んでいただろう。

(不味いですね)

あの存在が何なのかは分からないが、殺される程の脅威は感じない。
だが、光源がなく影が自由に扱えない今は別だ。
セリム、いやホムンクルス傲慢(プライド)の体内には核となる賢者の石がある。
これの力が続く限り、プライドは何度傷付け、殺されようとも永遠に生き長らえる。
しかし、そのプライドにも弱点があった。
条件の揃った環境で戦闘を行いさえすれば、最強を誇る力を持っていようとも、その最強の源である影を操る力は光がなければ使用できない。
今は黎明。月明かりと手にあるデバイスのライトの光だけではその力は十分に発揮できない。

(一度、殺された振りをしてやり過ごしますか? ですが、再生に気付かれずやり過ごすのは難しい。
 困りましたね。いくら不死身といえども、限度がある。殺され続けるのだけは避けたいが)

見ればもう片方の腕も既に人の形をしておらず、両足も走るためだけに特化した人とは思えない歪な異形へと変わっている。
このまま逃げ出すのも、子供の足では不可能に近い。
凜を囮に使ったところで、数秒殺されるのが先延ばしにされるだけ。


483 : 殺戮者の晩餐 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 02:57:25 pWCjcEac0

「―――ッ!?」

銃声が巻き起こり、銃弾が後藤へと届く。
後藤が両腕を盾に変え轟音を立てながらそれを弾いた。

(いや、まだ運はあるようですね)

セリムは凜に気付かれないよう静かに笑みを見せた。

「人間が三人増えて、四人か」

体の大きい成人男性、中学生程の少女が二人。その内、一人は大きなライフルを構えた少女。
中々食い応えがあり、戦いも出来る絶好の鴨だ。
後藤が駆ける。真っ先に狙うのはデグチャレフPTRD1941を構える蘇芳。
即座にリロードを終え、トリガーを引き後藤を撃ち抜く。
だが、その弾は後藤の両腕に遮られあらぬ方向へと逸れていった。

「これが効かないなんて……!」
「効かないんじゃない。
 硬質化させた腕を斜めに突き出し弾を滑らせ、直接受けない事で殆どノーダメージで弾を受け流しているだけだ」

蘇芳の叫びにあえて種を明かし、解説しながら後藤は刃を蘇芳へと振るう。
咄嗟にデグチャレフを盾代わりにし受けるが、衝撃に耐え切れず吹っ飛ばされた。
体を打ち付け、体制を整える前に後藤が肉薄し刃を蘇芳の胸元へ奔らせる。

「借りますわよこれ!」

光子が間に割り込む。
手を伸ばしデグチャレフを撫で演算、噴射点を設置。
デグチャレフが蘇芳の手を離れ、勢いよく飛び出す。
後藤の刃が届くより速く、デグチャレフが砲弾となり後藤の胴へと叩き込まれた。

「? ごっ……ふ、ぅ……」

短い悲鳴を漏らし、後藤は訳も分からず吹き飛ばされる。
服が土と擦れる音が木霊した後、仰向けに倒れたまま後藤は動かなくなった。

「ふぅ、皆さんご安心を。
 肉体を操作する能力者のようですが、この私常盤台の大能力(レベル4)『空力使い』が無力化いたしました。
 しばらくは起き上がっては来ないでしょう」
「なるほど『空力使い』という名の異能か。少し危なかったな」
「…………は?」

後藤に背を向け、扇子を広げ堂々と胸を張っていた光子の背後に悪寒が走る。
恐る恐る後ろを振り向くまでもなく、後藤の刃が頭上から落ちてきていた。
光子の頭の中身がトマトのように赤くぶち撒けられるより早く、蘇芳が光子の足を引っ掛け転ばせる。
黒い髪が数本ヒラヒラ舞い、少し涙目になりながら光子は地面とキスした。

「ほう」

続けざまに蘇芳へと刃を向ける。
枝分かれした腕から繰り出される縦横無尽の斬撃。蘇芳は顔を歪ませながらも、紙一重で避けていく。
目まぐるしく目を動かし、後藤の動きを先読みし回避に移る様は後藤の脳裏に一人の男を思い浮かばせた。

「あの男と同じか」
「え? 黒を知って―――」

後藤からすれば、感想をただ口にした何でもない一言が蘇芳の足を止めた。
あの男と同じ。蘇芳が戦い方を習ったのは、誰でもない探し人の黒しか居ない。
この後藤は黒と出会ったのか? だとすれば、彼は無事なのか? 黒は何処に? 黒と会いたい。
戦闘に全神経を傾けていた蘇芳の頭を、別の思考が遮り動きを鈍らせる。
その隙は後藤が見逃すには大きすぎる。
蘇芳が反応するより速く、後藤の刃が振り下ろされた。

「石?」

だが、蘇芳を斬り裂く前に後藤の刃に石が飛び軌道が反れる。
我に帰った蘇芳が飛びのき、距離を取った。
更に後藤の追撃を避けるように、石が向かい後藤を遮っていく。
見れば、蘇芳の背後に居る光子が石を空力使いでミサイルのように噴射していた。


484 : 殺戮者の晩餐 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 02:57:49 pWCjcEac0

「……ねえ、光子」
「なんですの? 礼なら後でもよろしくてよ」
「違うよ。ありがたかったけど。……君が飛ばしたデグチャレフを消して、もう一度出すから一分足止めしてて」
「そんなの一秒で演算なさいな」
「うるさいな。対価で折り紙を折らなきゃいけないんだから、しょうがないじゃん」
「はあ? 何ですの、その対価とやらは? そんな面倒な能力、聞いた事がありませんわ!」
「ああもう、君みたいに楽に能力使えるわけじゃないんだよこっちは!」

会話を終え蘇芳はデグチャレフを消し、即座に折り紙を折る。
可能な限り早く楽なものを選択し指を動かす。
その間に光子がその間に手元にあるものを手当たり次第、空力使いで吹き飛ばし牽制を始めた。

「君、こっちへ」
「わ、分かったにゃ。セリム君こっち」
「はい!」

三人の交戦の横でプロデューサーが凜とセリムを保護し、戦いに巻き込まれないであろう場所まで避難する。
光子の石の乱れ撃ちに足を取られる後藤だが長くは持ちそうにない。
プロデューサーは歯噛みする。何も出来ない自分に。
何かしなければと思いながらも、自分が手を出せばすぐにただのミンチになってしまいそうな戦い。
悲鳴を聞きつけ見れば、結局は他人任せになってしまった。
ならばせめて、自分に出来そうなことは無いのか、考えを巡らせるが見つからない。

「すみません……二人とも」

プロデューサーを嘲笑うかのように、涼しい顔で後藤は光子の飛ばした石を避けていく。
光子の焦りが募る。蘇芳の様子を見るが折り紙はまだ折れていない。
時間にして十秒も経たない。このままでは、この牽制などすぐに突破されるのではないだろうか。
そんな懸念が光子に纏わり付く。

「飽きたな。弾が一直線過ぎる。もっと工夫しろ」
「何を偉そう……え?」

後藤が消えたかと思うと光子の眼前に現れる。

「俺がお前なら、足などの視界の死角を狙っていた。今更遅いがな」
「っ、つぅ……!」

瞬間移動、いや違う。光子の石の軌道を見切り、あの両足で目にも止まらぬ速さで駆けてきたのだ。
半狂乱になりながらも何か触れるものはないか、手をまさぐるがその右腕を後藤に貫かれる。
悲鳴をあげながらも、無事な方の腕の手で自身の靴を撫で無理やり空力使いを発動させた。
後藤の刃が無理やり抜け、刺された右腕から血が吹き出る。抜き方が強引過ぎたために、余計な部分まで切り裂けたらしい。
光子は地べたを転がりながら、体制を整え後藤を睨んだ。

「ぐっ、あぁ……」

腕を押さえる暇すら惜しみ、また手頃な石を空力使いで飛ばし続ける。
攻撃は最大の防御であり、ここで手を緩めれば確実に死ぬ。
痛みが演算の邪魔をするが、無視。疲労の波も押しのけ空力使いの連打。
後藤の上半身はさることながら、アドバイスに従ったわけではないが足を含む下半身まで狙いを付ける。
もう何処かしら当たりさえすればいい。
例えダメージはなくとも良い。蘇芳の戦力が復帰するまでの時間稼ぎなのだから。
石が弾幕のように乱れ舞い、後藤の行き場を狭めていく。

「なっ? 嘘……」

何処か、確実に当たるであろうと放った弾幕を後藤は華麗に避け続けていく。
いや、何発かは命中している。だが後藤からすれば、まるで意に返す必要の無い箇所だけである。
その足は止まることなく光子へと接近し、間合いを縮められていた。
急いで距離を取らねばと光子が後ろへ駆け出すが、弾幕を避けているはずの後藤の方が速い。


485 : 殺戮者の晩餐 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 02:58:51 pWCjcEac0

「弾幕といえども、僅かにだが石の着弾には時間差がある。攻撃の先読みをすれば、その隙で避けるのは難しくない。
 ……人間の戦い方も真似してみるものだな」

後藤が一番最初に戦った黒い男。
あれはパラサイトと人間という圧倒的な身体能力の差を、攻撃を先読みする事で後藤の動きに追いついていた。
また蘇芳もそれに及ばない拙い動きながらも、同様の方法で後藤の攻撃を避けている。
人間にあのような芸当が可能ならば、後藤に出来ない訳はない。現に市役所での戦いで銃弾の先読みという似た工夫もこらしたこともある。
ようはあの要領でやればいい。

「五、いや六発。……異能の先読みは中々に難しい。練習が必要か」

自身に当てられた弾の数をカウントし、黒や蘇芳にも及ばぬ先読みの未熟さを反省する。
幾つもの戦場を渡り歩き、様々な契約者と対峙し先読みを会得した黒。
更にその黒の指導をマンツーマンで受けた蘇芳の二人と比べ、後藤の異能との戦闘経験は決して多いとはいえない。
経験も無しに単純な銃の射撃と比べ、銃口もなく軌道を読み辛い異能はかなり先を読むのが難しいと改めて痛感した。

「あっ、……」
「こういうのを、詰みというのか?」

蘇芳の折り紙が完成するのと、光子へ後藤が腕を振るのはほぼ同時であった。
蘇芳がデグチャレフを再度取り出し、弾を込め後藤へと向ける。
盾になりそうな手も片方を攻撃に回し、片手だけで受けねばならない状態。運がよければ胴へと撃ち込める。
それを理解できない後藤ではなく、銃口を向けられさえすれば、後藤は動けなくなるだろうと蘇芳は考えた。

(一秒以内にこいつを殺し、その後両腕を変形させ弾を防ぎ、足を刃化させあいつも殺す。間に合うな)

だが、後藤は構わず腕を振るう。
空力使いと同じ異能から生み出した銃とはいえ所詮は銃。
異能に比べれば先読みは容易く、容易に防御できると判断しての行動だ。
蘇芳は呆気に取られるのも束の間、トリガーを―――引かない。

「そこには、既に噴射点を設置していましてよ?」

逆に呆気に取られたのは後藤の方だ。
確実に撃ってくるだろうと予想した蘇芳が、ただ銃を構えたまま何もしてこない。
まさか、嵌められたのは自分のほうなのか? 感付いた瞬間、後藤の足元が強烈な勢いで凹み後藤の姿勢が崩れた。

「何だと?」

光子自身、石を飛ばしただけで後藤を止められるとは思っていなかった。
故に一つ保険を掛けておいた。それが地面に設置した噴射点。
後藤から逃れ、光子が地べたを転がった時にこっそり仕掛けておいたトラップ。

「終わりだよ」
「ぐ、おおおおおお!!」

バランスが崩れ、重力に従い両腕が在らぬ方へ振り回される。
蘇芳は今度こそ、後藤の胸へ狙いを定め。トリガーを引く。
耳を鳴らす銃声、薬莢が落ち、火薬の匂いが鼻に付く。
戦車を相手取るためのライフルから放たれる弾丸は後藤に吸い込まれ、血を撒き散らしながら後藤を叩き飛ばした。
光子が最初に放った空力使いとは違い、相手を殺すための弾丸。後藤は為す術もない。


486 : 殺戮者の晩餐 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 02:59:50 pWCjcEac0

「うっ……」

目の前でぶちまけられる赤に光子の気が重くなる。
自己防衛とは言え、人を殺してしまったことに抵抗感が出てきた。

「い、いえ。それよりも彼らの保護が先ですわ……」

喉を襲う吐き気。だがそれをぐっと押さえ込み、戦う術のないであろう無能力者達へと振り返る。

「良かった二人とも無事で」

プロデューサーが安堵の声をあげ、光子と蘇芳に駆け寄ってきた。
後藤に襲われていたセリムと凜も同じく安心しきった表情を見せていた。

「た、助かったにゃ……」
「凄いですね! お姉さん達、強くてカッコよかったです!!」
「え、ええ! そう、そうなのです。そう私強いのです! 何せ常盤台のレベル4はこんな事では動じませんのよ?
 もうこの調子で悪い方達なぞ全員、千切っては投げ〜♪ あぁ〜、千切っては投げ〜♪ あっ、そぉれぇ〜♪」

扇子を広げ表情を悟られないよう、無理やり強がって見せる。
セリムは目を輝かせ耳を傾けている。
光子は誤魔化せたらしいと心の中で息を吐く。

「お姉さんは他にも悪い奴をやっつけたんですか!?」
「ええ、それはもう沢山やっつけましてよ? そうですわね、この婚后光子伝説の何処から話して差し上げれば宜しいのかしら。
 多すぎて、迷ってしまいますわね」
「凄いにゃ、凜にも伝説を聞かせて欲しいにゃあ!」
「あら? 仕方ありませんわね。人気者はこれだから大変ですわ」

光子は声の調子を変えぬまま、セリムと凜に自分の武勇伝を聞かせ始めた。
声の震えを悟られぬよう、無理やり声を高らかに上げ、大声で語る。
それを誰もが、光子の目立ちたがりな性格だと勘違いし深く考えない。
そして光子もそれで良いと思う。常盤台の生徒として、自分が彼らを守っていくのがレベル4の大能力者としての役目だ。
だから、光子は弱みを見せず頼られる側でなければならない。

「申し訳ありません、パブリチェンコさん、婚后さん。あなた達に任せてしまって」
「何を言っておられますの? 荒事は私にお任せあれですわ。オッホホホ!」

守るべき対象に諭されるなど自分もまだまだだとプロデューサーは痛感する。
自分に出来ることは少ないが、せめて彼女達のフォローぐらいはしなくてはならない。
プロデューサーは胸に強くそう刻み込んだ。

とはいえ、何はともあれ結果は大円団で終われたのだ。
今はそれを喜び、この少女と少年と話をするのが先だろう。





487 : 殺戮者の晩餐 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 03:00:30 pWCjcEac0
「……ラブライブ、ですか。すみません、ちょっと聞いた事が」
「そ、そうかにゃ。アマチュアとは言え有名だと思ったんだけど、そうでもないのかにゃ」

それから互いに名乗り合い情報を交換し合う。
そこまでは良かったが、素性を明かしてからが大変である。
アメストリス、セントラル、学園都市、ゲートなど聞きなれぬ土地に錬金術という眉唾な技術から、能力者に契約者とまるで各々の話す常識が違う。
一番話が噛み合った、凜とプロデューサーでさえアイドル関係の話が食い違う。

「うーん、凜もシンデレラプロジェクトなんてあったら、知らない筈ないのにおかしいにゃ。にこちゃんが居れば分かるんだろうけど」
「私も仕事上、そのラブライブを知らないなんて事はないと思うのですが」

互いに勉強不足なのだろうかと二人は思う。
だが、セリム、光子、蘇芳は別だ。勉強不足とかそういう問題ではない。
同じ世界に住んでいるのかさえ疑問に思うほど、話す内容が奇怪すぎる。

「まさか、嘘を仰ってます?」
「違いますよ! 本当なんです、アメストリスは錬金術大国で僕は鋼の錬金術師に憧れてて……」
「光子は対価を払ってる様子がないし、本当に契約者じゃない? でも、学園都市なんて」

涙目になり信じてくれるよう悲願するセリムを凜は慰めながら頭を傾げる。これはどういうことなのかと。
同じくプロデューサーも事態が全く把握出来ないでいた。

「……全員が嘘を吐くなんてそれこそ有り得ませんし、ここは取り合えず全部信じてみるのはどうでしょう?
 もしかしたら、後に全ての整合性が取れる何かが分かるかもしれません」

プロデューサーの言葉に一同は納得し、疑問を口にするのはやめた。
考えても答えは返ってこないのだ。全てを知るのは広川唯一人。生き残りさえすれば自ずと答えは返ってくるだろう。

「私は近くの346プロに向かおうと思うのですが、皆さんはどうします?」
「僕は黒に会いたいだけだし、プロデューサーさんの行きたいところでいいけど」
「凜は音ノ木坂学院行こうと思うにゃ」
「あら丁度良い。私も能力研究所に向かいがてら、着いてあげて行ってもよろしくてよ」
「うわあ、凄い心強いです!」

話が纏まり、プロデューサーと蘇芳、凜とセリムと光子の二手に分かれる事になった。
戦力も程よく分散し、悪くない分かれ方だろう。
互いの無事を祈り、二つのチームが袂を別つ。


風を切る音が響いた。


「―――危ない、セリム君!」

血が飛び散り、セリムの顔が赤く染まった。
生暖かい感触が伝わってくる。
震える手で凜はセリムの頬を撫でた。

「だ、大丈夫かにゃあ……?」
「何で……?」
「……気付いてたら、動いてたにゃ……皆を頼む、にゃ……」

肉を裂き、骨を砕き散る音がセリムの耳を響かせる。
セリムを庇い、背中から急所を一気に抉られた凜は間もなく息絶えた。
血に濡れた腕を振るい、後藤が駆ける。


488 : 殺戮者の晩餐 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 03:01:23 pWCjcEac0

「なんで、生きて……」
「俺の体はパラサイトのプロテクトで守られている。
 弾丸が当たる前、四肢のパラサイトを胴へ集結させそのプロテクトを更に強固な物にした」

訳が分からない、能力の発動もままならない。
光子はただ呆然と立ち尽くし、プロデューサーですら何かしなくてはと思いながらも何も出来ずに佇む。
後藤は知った事かと自分に言い聞かせるように問いに答え、そして刃を奔らせた。

「? あっ、あぁっ……!」

光子ではなく、蘇芳の胸を後藤の刃が斬り裂く。
血が噴水のように吹き出て蘇芳は膝から崩れ落ちる。
後藤はその様を僅かに一瞥しながら、今度は光子へと狙いを定めた。

(やはりな、人間は目の前で同種が死ぬとギョッとする)

ヤクザの事務所を壊滅させた時も、市役所での戦闘時も人間は目の前で人が死んだ時、混乱しギョッとしていた。
それに気付いた後藤は手始めに近くに居たセリムを殺害しようとした。
これは予想外に凜が動き、未遂に終わり凜を殺害したが、まあ大した差異は無い。セリムに戦闘力も戦う意思もないのは後藤には分かっていた。
そして、ギョッした主戦力の二人の殺害に移る。
一番手前に居た蘇芳を先ずは殺害、次に光子の殺害だ。赤子の手を捻るより簡単に今なら殺せる。

(力押しでも勝てなくは無かっただろうが、少し骨が折れる。やはり工夫次第だな)

策の成功を確信し刃が光子へと振り翳された。

「い、いやあああああああああああ!!」
「ッ?」

ギョッとした状態にあった筈の光子が悲鳴を上げながら行動に移った。
出鱈目ながら、追い詰められたその手は自身の服を撫でる。
噴射点が設置され、空力使いの噴射で光子自身が後藤へと一直線に突っ込んでいく。
後藤の胸に飛び込んだ光子。衝撃は大きいが、プロテクトの覆われた後藤に懸念するほどのダメージは一切無い。
ただ僅かに軸がぶれたに過ぎない。

(なるほど、このギョッとした状態は時に行動としても現れるか)

ただ単純に感心し、だがこれで終わりと言わんばかりに後藤の腕が光子へ伸びる。
その時、後藤の体に違和感が走り、突如として負荷が掛かった。
気付けば光子から後藤は遠ざかっている。いや、遠ざけられているのだ。後藤の体から噴射する空気の圧力で。

「そうか、こいつの異能……!」

両足で大地を踏みしめ、空力使いの噴射に耐える。
間違いない。混乱しながらも、光子は冷静に異能を行使していた。
どうやら、人間は過度の精神的負担を掛けすぎると、一周回って冷静になれるようだ。
凜の死だけならまだしも、蘇芳まではやり過ぎだったということだろう。人間への負荷の掛け具合もまた難しい。
このギョッとさせる策にはそういう欠点があるということか。


489 : 殺戮者の晩餐 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 03:01:51 pWCjcEac0

「これが、人間の爆発力か……。侮れんな」

この空力使いが、後藤を何処へ押しやっているのか。
そんなもの当然、奈落である。プロテクトでダメージはなくともその衝撃だけは殺せない。
ならば、押し出してしまえばいい。下がどうなっているのか知らないが、少なくともこの場での戦闘での勝利は掴めるだろう。

(待て、こいつの異能は触れた物にしか発動していない。なら……)

後藤は纏っていた衣服を破り捨てる。空力使いからの圧迫が消え、体に自由が舞い戻る。
即座に足をバネにし光子へ飛び込む。だが、鳴る筈の無い銃声が再度木霊し後藤に撃ち込まれた。
後藤は腕を盾に変えクロスしながら弾丸を受け流す。

「まだ生きている。……浅かったか」

後藤は殺害の順番の失敗を痛感した。
あの時、先に光子を殺すべきだったのだ。あの場で一番動揺せず、冷静で居られたのは蘇芳ただ一人。
あの現状で、彼女は何をどうすべきか、合理的に思考していた。それが契約者であり、未熟な契約者である蘇芳にも当て嵌まる行動だ。
もっとも、それでも未熟ゆえに動揺があり、後藤の攻撃を避け切れなかったが、僅かに身を反らせ即死は避けていた。
もし光子ならば、あのギョッとした状態が続き、確実に殺せただろう。戦力を一つ減らせていたのは言うまでもない。
今残る最後の力を振り絞り、蘇芳はデグチャレフを握り締める。
弾丸のリロード。後藤はその隙に止めを、いや足が動かない。何かに貫かれた?

「? これは……」
「貴方、前に足を狙えと仰っていましたわね」

空力使いで飛ばされた石が、後藤の足を傷つけていた。
回復にそう時間は掛からない。だが、蘇芳のリロードには間に合わず再び弾丸を受ける。
鈍い、ミシッという音が後藤の腕から伝わってきた。
盾を斜めにすることによりダメージを逃す術だが、光子の石による足の妨害は思いも寄らぬ事態を招いていた。
どうやら、足の要になる筋か何かを抉ったのか、後藤の体制は僅かに反れ、銃弾を弾く盾の姿勢がぶれたのだ。
結果として、銃弾を滑らせることなく直接受けてしまう。腕にダメージが行き、衝撃も殺せぬまま奈落へと近づく。
あと一撃。一撃込めれば後藤は耐え切れず奈落へと落ちる。まだあと一度のリロードならば、後藤の足の回復よりも速い。

「がっ、ごっ、ふ……!」

血が喉からせり上がり、口から吐き出される。
デグチャレフを握った手が緩む。
弾を込める力も沸かない。この血の混じった咳で、蘇芳の命を繋ぐ致命的な何かが消えた。
あと一発で良い。あと一撃で良いのに……。
後藤が足の再生を終える。この機会を逃せばもうこいつは倒せない、それを分かっていながら体は言う事を聞かない。

「ご、めん、僕、も、う……」
「まだ、ですわ!」

後藤が奔り、光子が蘇芳の手元にあるデグチャレフを撫でる。
同じような光景を後藤は見た、あれは空力使いを発動する際の動作。
最初に後藤の前で、空力使いを使用したのと同じ光景だ。
回避に移るが間に合わない。
防御こそ間に合ったが、デグチャレフとの激突の衝撃に引きずられ後藤は奈落へと飛び降りる。

「お、おおおおおおおおおお!!!」

化け物の悲鳴が夜空を木霊し、悪夢は醒めた。


「……や、ったのね……」

糸が切れたように光子が倒れ込む。
ここまでの能力使用は初めてだ。それも戦闘においてなど。
どっと疲労が押し寄せる。意識が飛ばないだけマシだが、暫く立ち上がれそうにはなかった。


490 : 殺戮者の晩餐 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 03:02:20 pWCjcEac0




ああ、死ぬんだ……。

血が抜けて体が冷たくなるのを感じながら、蘇芳は死を受け入れていた。

「……え? 黒?」

死ぬ間際の走馬灯だろうか? 目の前にあれほど恋焦がれた初恋の男が居た。
蘇芳を優しく抱きしめ、優しく微笑みかける。

「もう、何処にも行かない?」
「ああ……」
「……嘘」
「嘘じゃない」

そして気付く。
これはとても優しい嘘だ。
だって、黒は自分を置いて銀と一緒に行ってしまったのだから……。

全部、思い出した。
蘇芳はここに来る前に死んだ。ジュライも死んだ。
また一人ぼっちになってしまった。

「でも、いっか……」

それでも最期はそこそこ幸せだった。
一度目の時も二度目の時も、死ぬ間際に彼は居てくれたから。

「ありがとう……」

誰に向けての言葉なのか。届かぬ恋をした男へ向けてかそれとも……。
星がまた一つ流れた。









プロデューサーの腕の中で蘇芳は息を引き取る。
最期はとても穏やかに、眠るようにして。

「……どうして」

強く握り締めた手が震える。
二人だ。二人もの未来ある少女が殺された。理不尽に理由もなく。
蘇芳も凜も、決して死んで良い筈がない。何で彼女達でなければならない。
強い怒りと空しさ、悔しさが行き場もなくプロデューサーの中を駆け巡る。
せめて、埋葬しよう。
プロデューサーは凜と蘇芳の二つの死体を抱え、穴を掘る。
何も出来なかった自分に出来るのはこれしかない。内から湧き出る感情を叩きつけるように土を振り続ける。


(人間は大切なものを守るためなら、自分の命すら厭わない事もある。凜、貴方は私を大切だと思っていたのですか?)

プロデューサーの穴を掘る横でセリムは返るはずのない問いを胸のうちで巡らせる。
出会ってから数時間も経たぬ短い時間の付き合いだ。何故、凜はセリムを庇ったのか。
いや、理由などとうに分かっていた。彼女が勇気ある人間だからだ。
下等な生物ではあるが、時に人は勇気による思いも寄らぬ行動を取る。だからこそ、乗せやすい。

(とはいえ、助けられたのも事実ですか。一度死んだぐらいではどうということはありませんが、死なないに超した事はない)

感傷に浸る気はないが礼は言っておこう。
お陰で使える手駒を二つも残せた。

(そろそろ夜明けか。彼らをここで殺害しても良いが、まだ使えるかもしれない。もう少し、ここに溶け込むのも良いでしょう)

ふと、母親の姿が脳裏を過ぎった。
もしかしたら、あの時の凜の姿が母親と重なったのかもしれない。
特別な情なぞ沸かないが、せめて彼女の仲間に出会えたら苦しまずに葬ってやろう。
それがセリムのせめてもの供養だ。


491 : 殺戮者の晩餐 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 03:02:53 pWCjcEac0



倒れてから、光子は思い返す。
自らの非力さと目の前での人死に、そして実際に自分が殺しの手を下したこと。
あまりにも重い。たかだが14年も生きた少女には重過ぎる。
確か、蘇芳から聞いた契約者とは合理的であり、感情がないらしい。少し羨ましくも感じるぐらいだ。

「婚后さん」
「……プロデューサーさん?」

埋葬を終え、土だらけになった手をズボンで拭きながら、プロデューサーが光子の元へ寄ってくる。
人殺しの念に押されかけた光子は、歪んだ顔を隠しながらプロデューサーの言葉に耳を傾けた。

「私が暫く貴方をおぶります。その、手が汚いですが……」
「構いませんわ、別に」
「それで、私は知り合いを探すのと一緒にパブリチェンコさんや星空さんの知り合いも探そうと思います」
「では、346プロへ?」
「いえ貴方の言う能力研究所へ向かいがてら図書館に寄り、音ノ木坂学院にも行こうかと。
 もしかしたら、パブリチェンコさんや星空さんの御知り合いと会えるかもしれません」
「でも、貴方のお知り合いは?」
「……ここは危険です。気にはなりますが、彼女達も危ない場所にそう踏み込まないでしょう」

先ほど、プロデューサーが凜と蘇芳の埋葬中に拡声器による声が響き渡ってきた。
少し前のプロデューサーと光子ならすぐに駆けつけていただろうが、この消耗具合ではそうもいかない。
最も、もしプロデューサー一人ならば346プロに行くなり、拡声器の元へ行くなりしただろう。
だがここには、無力な少年と力を使い果たした少女が居る。自分の私情だけでは動けない。

「セリム君も良いかな?」
「……ええ」

光子をおぶり、その後ろをセリムが着いて行く。

(……それにしても、あれは何故私達を四人と言ったのでしょう?)

プロデューサーの背中に揺られ、束の間の休息を得た光子はふと後藤の台詞を思い出す。
誰も気付いていない様だが、後藤は人数をカウントするとき五人の筈が敢えて一人除き四人と言っていた。
ただの言い間違いなのだろうか? 光子はそれだけが妙に引っかかった。

こうして疑惑と思いが交差しながら、惨劇の場から二人と一体は姿を消した。







492 : 殺戮者の晩餐 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 03:03:17 pWCjcEac0
一体の影が影からよじ登ってくる。そいつは崖を上り終えると、土が不自然に盛り上がっている場所を見つけた。
腕を変化させ、二つの穴を掘り返す。
クチャクチャと水っぽい咀嚼音に、ゴリゴリと硬いものを噛み砕く音が木霊していく。
返り血で赤く染まった後藤が二つの死体を捕食していた。

「そこそこ、空腹は凌げたが、まだだな」

普通のパラサイトなら満足するであろう捕食量も後藤からすればまだ足りない。

「……二度も奈落に落とされかけるとは。奈落と縁があるらしい」

しかも今回は本当に危なかった。
崖に腕を刺し、よじ登り生還できたのも運が良かったからだ。

「だが、悪くない戦いだった」

今回の戦闘は大いに勉強になった。
極限下での人間の行動、爆発力、異能という力についての対処。
学ぶべき点は多い。この戦闘を糧とし次の戦闘へと活かしていかねばならない。
当面の目標は異能への順応になるだろう。空力使い以外にも様々な異能の使い手が居るはず。
工夫だけでなく、観察し異能を見極めるのも重要になってくる。そして、その異能に適した行動を取る判断力も必須だ。

「崖を上る時に聞こえてきたが、拡声器か……」

クマが使用した拡声器の声は後藤にも届いていた。
声を聞いてから今に至るまで相当時間が掛かった。今更行った所で参加者が集まっているか分からない。
だが、行く価値はあるだろう。幸い時間のあったお陰で、ダメージもそこそこ回復できている。
それに、どっちにしろ南下する予定だったのだ。丁度いい。

「……あの時の影」

奈落に突き落とされる直前、月明かりに照らされ僅かに生まれたセリムの影が後藤の足を捕縛していた。
あれさえなければ、あの空力使いの駄目押しも避けていられた筈。
また崖をよじ登る必要もなく、あの場に居た全員を殺せていた。

「あれも、異能か」

姿を一目見た時から人間ではないと感じていたが、操る異能もまたただならぬものを感じた。

「影である以上、夜の使用は難しい。だから、戦闘にも参加しなかったというところか」

空を見上げる。
月は消え、もうじき太陽が会場を照らすだろう。
その時、あの力は本領を発揮する筈だ。

「生き残ってさえいれば、また戦うこともあるか」

食事を終え、後藤は声の元へ向かった。



【星空凛@ラブライブ!】 死亡
【蘇芳・パブリチェンコ@DARKER THAN BLACK】 死亡


493 : 殺戮者の晩餐 ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 03:04:21 pWCjcEac0


【D-5/一日目/黎明明けから早朝前】

【プロデューサー@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:健康
[装備]:不明支給品(小型の武器です)
[道具]:基本支給品×3、パンの詰め合わせ、流星核のペンダント@DARKER THAN BLACK、参加者の何れかの携帯電話(改良型)
    カマクラ@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。、黒妻綿流の拳銃@とある科学の超電磁砲、うんまい棒@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:情報収集を行いながら、島村卯月、前川みく、渋谷凛、本田未央の捜索と保護に務める。
   ゲームには乗らない    
1:光子、セリムと共に図書館に向かい筆記具と多量のメモ用紙を入手後、音ノ木坂学院へ行き、能力研究所へ向かう。
2:不審なハヤブサ(ペット・ショップ)を警戒
3:凜と蘇芳の知り合いを探す。
4:拡声器の聞こえた場所へは行かない。
[備考]
※凜と蘇芳の支給品を回収しました。
※後藤は死んだと思っています。
※クマの声を聞きました。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、とある科学の超電磁砲、鋼の錬金術師の世界観を知りました。

【婚合光子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(特大) 、腕に刺し傷、凜と蘇芳の死のショック(大)、後藤を殺したショック(大)
[装備]:扇子@とある科学の超電磁砲
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 不明支給品2〜1(確認済み、一つは実体刀剣類)
    エカテリーナちゃん@とある科学の超電磁砲
[思考]
基本:学友と合流し脱出する。
1:御坂美琴、白井黒子、食蜂操折、佐天涙子、初春飾利との合流。
2:プロデューサーと行動する。
3:何故後藤は四人と言ったのか疑問。
[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了以降。
※『空力使い』の制限は、噴射点の最大数の減少に伴なう持ち上げられる最大質量の低下。
※後藤を殺したと思っています。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、鋼の錬金術師の世界観を知りました。
※クマの声を聞きました。

【セリム・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:参加者の排除。
1:無力なふりをする。
2:使えそうな人間は利用。
3:今はプロデューサー達と行動しつつ様子を見る。
4:もうすぐ夜明けになるので本格的な参加者の排除も考慮に入れる。
5:凜の仲間に会ったら苦しまないように殺す。
[備考]
*参戦時期はキンブリーを取り込む以前。
*会場がセントラルにあるのではないかと考えています。
*賢者の石の残量に関わらず、首輪の爆発によって死亡します。
*後藤が死んだと思っています。
*DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、とある科学の超電磁砲の世界観を知りました
*クマの声を聞きました。


【C-5/一日目/黎明明けから早朝前】

【後藤@寄生獣】
[状態]:そこそこ満腹、両腕にパンプキンの光線を受けた跡、手榴弾で焼かれた跡、ダメージ(中 回復中)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、不明支給品1〜0
[思考]
基本:優勝する。
1:拡声器を使った人間の元へ向かう。
2:泉新一、田村玲子に勝利。
3:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)
4:異能に対して順応していけるようにしていく。
5:セリムを警戒しておく。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※首輪や制限などについては後の方にお任せします。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※A-2に空の鍋が放置されています。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※クマの声を聞きました。
※凜と蘇芳の首輪がC-5に放置されています。


494 : ◆w9XRhrM3HU :2015/05/26(火) 03:05:12 pWCjcEac0
投下終了です


495 : 名無しさん :2015/05/26(火) 13:39:14 LEbXnoZM0
投下乙です

遂に後藤さんが初キルか、蘇芳お疲れ様、よく頑張った
誰かを庇って犠牲になるとは、やっぱり凛ちゃんも強い”人間”だったんだなぁ、庇った相手が彼女より何倍も強いホムンクルスなのが皮肉だけど
婚后さんはやっぱりいいキャラしてる、後藤さんを殺したと思ってるから精神的にもしんどいと思うけど頑張って欲しい


496 : 名無しさん :2015/05/26(火) 22:38:24 lVTq0dL.0
投下乙です
後藤さん一気に2人殺したか…
蘇芳の最期が切ない…


497 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/27(水) 01:51:56 a6VZqsW.0
投下お疲れ様です。

後藤強し。
数の差はあれど人種を超えた存在は強いですね。
セリムにも感付き始めましたね。見た目は普通の子供なのがまた厄介で。
それとこのロワは女性に厳しい……w?

投下します。


498 : エンブリヲの後の静けさ ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/27(水) 01:54:25 a6VZqsW.0


「だーっ! 次から次へと何なんだよ!!」

波乱に次ぐ波乱、怒りが溜まるしかない。
エドワードは思う、いったい何が起きているんだ、と。
気付けば殺し合いに参加させられ感度を引き上げられた。
全く以て理解出来ない、したくない現実が連続で引き起こっている。


「ぐだぐだ言ってんじゃないわよ」

「あ!?」


火に油を注いでも火事が酷くなるだけである。
アンジュは近くで騒ぐエドワードに冷たい言葉を投げた。
反射的に反応する彼だがここで騒いでも良いことはない。
冷静になればアンジュと呼ばれていたこの女はあの変態と知り合いみたいだった。
怒りを抑え情報を集めることにする。


「アンジュって言ったか。俺はエドワード・エルリックだ。
 単刀直入に聞くけどあのエンブリヲって野郎はなんなんだよ」

「……自分で考えればいいじゃない」

「は?」

「そもそもあんな変態のことを話したいと思う?」


御尤もな発言ではある。
あの変態と知り合いだと他人には思われたくないだろう。
しかし。


「お前、状況を考えろ! そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ! リンって子も攫われたんたぞ!」

「まぁ、そうね」

「そうねって……おい!」

「何よ、私は凛と出会って一日も経過してないのよ。それがどうしたの?」


エドワードから見ればアンジュとリンは知り合いに見えた。
他人から見れば一緒に行動している連中が元の仲間か違うかなどの区別はつかない。
言えることは行動を共にしているならば志は同じ、ぐらいだろう。

その仲間が攫われているのにアンジュは冷静だった。
冷静を通り越して我関せず、と謂わんばかりの冷たさである。
エンブリヲとは因縁がありそうに感じたがまるで腫れ物に触るように。

関わりたくないのだろうか。
人が攫われても、傷付いても。
このアンジュという女は気にせずに振舞っているのか。


「……気に喰わねえ。けど、状況が状況ってのも解る。お前はリンを助けるのか助けないのかどっちか教えてくれ」


499 : エンブリヲの後の静けさ ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/27(水) 01:56:09 a6VZqsW.0


「だーっ! 次から次へと何なんだよ!!」

波乱に次ぐ波乱、怒りが溜まるしかない。
エドワードは思う、いったい何が起きているんだ、と。
気付けば殺し合いに参加させられ感度を引き上げられた。
全く以て理解出来ない、したくない現実が連続で引き起こっている。


「ぐだぐだ言ってんじゃないわよ」

「あ!?」


火に油を注いでも火事が酷くなるだけである。
アンジュは近くで騒ぐエドワードに冷たい言葉を投げた。
反射的に反応する彼だがここで騒いでも良いことはない。
冷静になればアンジュと呼ばれていたこの女はあの変態と知り合いみたいだった。
怒りを抑え情報を集めることにする。


「アンジュって言ったか。俺はエドワード・エルリックだ。
 単刀直入に聞くけどあのエンブリヲって野郎はなんなんだよ」

「……自分で考えればいいじゃない」

「は?」

「そもそもあんな変態のことを話したいと思う?」


御尤もな発言ではある。
あの変態と知り合いだと他人には思われたくないだろう。
しかし。


「お前、状況を考えろ! そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ! リンって子も攫われたんたぞ!」

「まぁ、そうね」

「そうねって……おい!」

「何よ、私は凛と出会って一日も経過してないのよ。それがどうしたの?」


エドワードから見ればアンジュとリンは知り合いに見えた。
他人から見れば一緒に行動している連中が元の仲間か違うかなどの区別はつかない。
言えることは行動を共にしているならば志は同じ、ぐらいだろう。

その仲間が攫われているのにアンジュは冷静だった。
冷静を通り越して我関せず、と謂わんばかりの冷たさである。
エンブリヲとは因縁がありそうに感じたがまるで腫れ物に触るように。

関わりたくないのだろうか。
人が攫われても、傷付いても。
このアンジュという女は気にせずに振舞っているのか。


「……気に喰わねえ。けど、状況が状況ってのも解る。お前はリンを助けるのか助けないのかどっちか教えてくれ」


500 : 名無しさん :2015/05/27(水) 01:58:55 a6VZqsW.0

怒号は飛ばない、飛ばさない。
人間誰しも他人の為に総てを投げ出せるほど勇敢でも無ければ馬鹿でも無い。
この裸の女が言っていることもエドワードは解ってしまう、人間ならば。

極端に言えば関われば己が危険に晒されるだけである。
黙って何処かに隠れ誰かが広川を倒すのを待てばいい。自分が汚れる必要は無い。
責任を背負う必要も無ければ正義の味方に為る義務も存在しない。

人間らしさを求めればこの状況は無視した方が安全である。
人を裸にさせ感度を引き上げ分身やワープが出来る変態と関わりたい物好きは中々存在しないだろう。
アンジュの反応は正しい、エドワードも理解している。


「助ける義理はないわね。捕まった凛が悪い」


決まりだ。
エドワードはその言葉を聞いて、返す。


「そうか。解ったよ。責はしねえ、けど――」


最低だぜアンタ。
その言葉を言い切る前にアンジュは歩き出していた。


「私はあの変態――エンブリヲをもう一度殺す。何度だって殺してやるわ。そこに凛が居れば解放されるんじゃない?」


顔は見せずに。
表情は伺えないがその台詞には自信が込められている。
舞台で言えば決め台詞のような。己の証となるような一言。

アンジュという存在は人間らしい。
人型らしく選択が出来る、判断が出来る、覚悟が出来る、人を殺せる。

人間は他人の目を気にしてしまい自分を取り繕うとしてしまう。
己を空に閉じ込め体裁を整え周りの評価を下げない偽りの道化師と成り果てる。
だが、アンジュという女。
クソ喰らえと謂わんばかりに自我を貫き通せる強気女也。


「コイツ……最初からそう――うぶっ!?」


「このコートまだ借りるから」


エドワードの顔面にペットボトルを投げるとアンジュはコートの件を伝える。
脱げば裸、借りたままにしておくしか社会のルールを守れない。
最もこの会場で倫理が通るとは思えないが。


501 : 名無しさん :2015/05/27(水) 02:01:48 a6VZqsW.0

顔を赤くしながらペットボトルを仕舞い込むエドワード。
何はともあれアンジュが思ったよりもマシな女で助かったと安堵。
どうも自分の周りに居る女は強烈な粒揃いだと苦笑いが溢れてしまう。
苦笑いが零れるという謎の表現がしたく為るほど顔が引き攣ってしまう。

アンジュに戦う理由があれば自分も黙っている訳にはいかない。
エンブリヲには何発もぶち込まなきゃ気が済まない。
やるなら最後まで徹底的に潰さなければ怒りは収まらないだろう。


「私はこのまま南下するからアンタはどっか別の場所に行って」

「上から過ぎんだろ……俺は一人待たせてる奴がいるからソイツを回収してから探してみる」


此処まで自己中心的な性格だといっそ清々しい。
勿論最悪なことに変わりはない。不快と言えば不快ではある。

だが仲間と認める……かどうかは別として。
エドワードとアンジュはエンブリヲを潰す仲間のような関係だ。
彼女の提案を断る理由もなく、何処に行ったか解らない変態を探すには別れた方が効率的だろう。
エドは前川みくを一人にしているため彼女を迎えに行く必要が在った。

戦闘能力を持たない一般的な少女である。
エンブリヲとの交戦に加わればお荷物になるのは確実だ。
だが置いていけない。一人に出来ない。

エドは一人残される悲しみを知っている。
此処で彼がアンジュと共にエンブリヲを追ってしまえば前川みくは独人になる。
その悲しみを彼女に背負わせることを彼は絶対にしない。

「それじゃ、死ぬんじゃねぇぞ。俺もすぐに追いつくから無理はすんな」

背中を向けて腕を振るエド。
アンジュならそのまま背中を撃ち抜く可能性もあるが流石に此処で発砲はしない。
数分の関係だろうが人が死ぬのは辛い、出来るなら体験したくないものである。
彼の口から零れる言葉は皮肉ではなく心の底から出てくる真理の言葉であった。

彼の言葉にアンジュは少し笑みを零しながら答えた。

「自分の心配もしなさいよ……小さいんだから」

殺し合いに似合わない怒号が飛ぶ。
これから始まるであろう悲劇に似合わない――悲劇は既に始まっているのかもしれない。

だがエドとアンジュはこの瞬間だけ表情が緩んでいた。
強さの証拠なのだろうか。強がりではないと思うが。

エンブリヲを潰すために両者、道は違えど歩き出す。

凛を――救いに。


【G-5/1日目/黎明】


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)、コートなし
[装備]:無し
[道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
    不明支給品×3〜1、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×4(ディパック内) @魔法少女まどか☆マギカ、みくの不明支給品1〜0
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
1:温泉でみくと合流したあとエンブリヲを探し潰す。
2:大佐の奴をさがす。
3:前川みくの知り合いを探してやる。
4:エンブリヲ、ホムンクルスを警戒。
5:アンジュは味方……?
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。



【アンジュ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、全裸コート
[装備]:S&W M29(3/6)@現実
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾54@現実 トカレフTT-33(6/8)@現実 
    トカレフTT-33の予備マガジン×4 不明支給品0〜1
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
1:エンブリヲを殺す。凛を救う、ついでに。
2:モモカやタスク達を探す。
3:エンブリヲを警戒。
4:エドワードは味方……?
[備考]
※登場時期は最終回エンブリヲを倒した直後辺り。


502 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/27(水) 02:02:31 a6VZqsW.0
短いのに回線不調により連投、遅くなりましたが投下終了です。


503 : 名無しさん :2015/05/27(水) 02:43:02 Vjl0t7ks0
投下乙です

この二人凄まじく口悪いけど目的は一緒なんだよな
でも、しぶりんは、もう…


504 : 名無しさん :2015/05/28(木) 17:39:24 sia2SZoQ0
投下乙乙

後藤さん大暴れ、知略を使った戦いは見ていて面白い
凛ちゃんと蘇芳は後藤さん相手にがんばった、ゆっくり休め
そしてこれから昼になって真価を発揮するであろうセリムにステルスされてる光子と武内Pの明日はどっちだ

アンジュとニーサンはいったん別行動か、姫様が平常運転で安心する
ニーサンとみくにゃんは南北とっちのルートに進むのか


505 : 名無しさん :2015/05/29(金) 00:16:39 3jEda0CY0
投下乙です

後藤さんがついにキルスコアを。しぶとい上に成長するのが厄介だ
セリムは少しデレたが、本質が奉仕マーダーだからその程度では揺るがんか

そして、二人は一時バラバラの道を歩む、のかな
しぶりんの死がどう作用するかだよなあ


506 : ◆w9XRhrM3HU :2015/05/30(土) 01:33:54 /4i2YDDE0
投下します


507 : すれ違い ◆w9XRhrM3HU :2015/05/30(土) 01:36:30 /4i2YDDE0
「さて、少し遊びすぎたか」

珍しくエスデスは焦っていた。
アヴドゥルとの約束。協力者を集め、コンサートホールへと再合流という話だったが、まるで協力者が集まらない。
期限は既に三時間を切った。これでアヴドゥルが協力者を引き連れる中、エスデスだけ手ぶらとは示しがつかないだろう。
ほむらや光弾を撃ってきた男を見るに、勧誘の仕方に問題があるのだろうか。
とにかく、人と会わねば勧誘も何もない。早足ながら、西側のエリアを散策していく。

「二人か」

数分後、念願の参加者を見つけた。大男と小柄な少女の二人組みだ。

「そこの二人」

可能な限り、殺意を消して近づく。声も抑え気味にして威圧感をなくす。
ほむらのようにまた逃げられては、面白くはあるが面倒でもある。
刺激しないように気を使う。
それでも二人組みはエスデスを見た瞬間、明らかに警戒している様子を見せてくる。

(やはり慣れんな。こういうのは)

エスデス自身気に入った兵士をスカウトすることもあるが、基本的に国がエスデスの申請を受け人材を集めていた。
その為あまり気にしていなかったが、今までの勧誘方法では余程の物好きか、調教でもされなければ着いてくる者などそうはいないだろう。

(国の支援がないというのも中々に面倒だ。
 その手の交渉が上手い協力者も手元に置くべきか? ランが居れば話は早かったが、居ないものは仕方ない。
 調教は……少なくとも今は時間がないしな)

調教は手っ取り早く、エスデス本人も楽しめる一石二鳥の方法だが、如何せん時間が掛かる。
弱ければ数秒で心を折る自身はあるが、そもそもそんな雑魚はこっちから願い下げだ。
今は選択肢に入れることは出来ない

「何のようだ?」
「そう、殺気立つな。私は協力者を探している」
「協力者?」

ほむらよりも若干警戒の意識は薄い。言葉を選んで話せばそう逃げられることもないだろう。
エスデスは柄にもなく、刺激の少ない言葉を使い会話を進めていく。

「……なるほどな。DIOを倒す為に人を集めていると」
「そうだ。それに承太郎、お前の仲間のアヴドゥルもコンサートホールに来る。
 私に着く価値はあるんじゃないか?」

二人組の名。
エスデスは、承太郎とまどかの名前を引き出すところまで話を穏便に済ませられた。
あとはエスデスに着いてくるよう話を纏めるのみだが、承太郎は怪訝そうにエスデスを見つめ指を二本立てた。

「……二つだ。二つ、気になることがあるぜ。エスデス?」
「何だ?」
「お前の口ぶりじゃ、アヴドゥルとは友好だと話してやがったが、その服の端の焼き焦げた跡は、とても仲が良いとは思えねえ。
 まるで戦闘の後じゃあねえか?」
「? ……ほう」

エスデスはアヴドゥルとほむらとの交戦に関しては省いて説明していた。
理由は、面倒ないざこざを避ける為だ。約束の期限がなければ、わざと挑発して遊ぶのも悪くはなかったが。


508 : すれ違い ◆w9XRhrM3HU :2015/05/30(土) 01:37:22 /4i2YDDE0

「二つ目だ。炎の焼き跡だけじゃあねえ、その掠ったような服の破れた跡。そいつも戦闘跡だな?
 しかも、アヴドゥルのスタンドじゃあそうはならねえ。誰か別の奴とやり合った事になる。
 説明してもらおうか? 子供の頃『刑事コロンボ』好きだったせいか、細かい事があると夜も眠れねえ」
「フッ、面白い。良い洞察力だ」

指摘されたとおり、見れば僅かに服が破けていた。
花京院のエメラルドスプラッシュを防いだエスデスだが、僅かに服に掠ってしまったのだろう。
笑いながらエスデスはアヴドゥル、ほむら、光弾を撃った奴こと花京院との戦闘を事細かく話した。
まどかはほむらの心配をし、承太郎は困惑した様子を見せる。

「じゃあ、ほむらちゃんはその方向に」
「ああ、今から行けば間に合うかも知れんな」

まどかの顔つきが変わる。
ほむらが近くに居る安堵感と、同時に危ない花京院が居ると言う不安感。
両者がせめぎ合い。まどかに焦りを感じさせる。

(どういうことだ……? エスデスから聞いた花京院は、まるでほむらって奴を守ったようにしか見えん)

承太郎は最初、まどかを襲ったのは花京院だとばかり思っていた。
あの対決前の花京院だと。
しかしエスデスが言ったほむらを助けた光弾を撃った奴というのは、明らかに花京院。花京院のエメラルドスプラッシュだ。
それでは、話が合わない。花京院は殺し合いに乗っているのではないのか? 何故、ほむらを助ける。まどかが嘘をついた?
だが、考えればDIOが近くに居ないのは確実で、肉の眼を埋められるはずがない。これは星型の痣が反応しないことから事実だ
あるいはDIO以外に洗脳されたとも考えられるが、それにしても殺し合いが始まってから即花京院を洗脳し、まどかを襲わせたというのも急すぎる。
花京院は決して弱くない。負けることがあっても、手間と時間は掛かるはず。

「…………偽者か?」

かつて、ラバーソールというスタンド使いの敵が居た。
奴はそのスタンド『黄の節制(イエローテンパランス)』 を使い花京院に化けていた。
花京院のスタンド、ハイエロファントグリーンまで模倣するほどだ。
この場においても、似たような能力の使い手が居てもおかしくない。むしろ偽者であったほうが全ての辻褄が合う。

「偽者なら私にも心当たりがあるな。帝具……まあ特別な力を持ったアイテムだが、その中にあらゆる容姿に化けられる物が存在する」

この一言が承太郎の思考を完全に固めてしまった。
まどかを殺害を目論んだのは偽花京院であり、ほむらを助けたのは本物の花京院だと。

「私、ほむらちゃんに会いたい。承太郎さん……」
「ならまどか、私と一緒にほむらを迎えに行かないか?」

承太郎が答えるより早く、エスデスが口を開く。

「私も、ほむらを怯えさせた事は悪いと思っている。だから謝罪したいんだ。
 まどかが来てくれると私も助かる」
「エスデスさん……」
「勝手なお願いかもしれないが……」
「おい待ちな。そんな言葉、信用できると思ってるのか?」

承太郎はエスデスを完全には信用しきってはいない。
殺し合いに乗っている訳ではないが、それに近いスタンス。そう考えている。
だからこそ、唐突に謝罪がどうこうなど言われても信じられるはずがない。
だが、まどかは違う。謝りたいというのなら、その意思を尊重すべきとそう考える。
既にエスデスへの警戒はなく、最初に警戒していた反動か信じきってしまっていた。

「何なら承太郎、お前も来れば良いだろう?」


509 : すれ違い ◆w9XRhrM3HU :2015/05/30(土) 01:38:03 /4i2YDDE0

エスデスの提案を受け、承太郎はすぐに言葉を返せない。
確かにエスデスが信用できず、まどかと行動させたくないのなら承太郎が同行すれば良い。
本物の可能性が高い花京院とも合流できる。
そうは分かっているが、承太郎は偽花京院が気になっていた。
もし偽花京院が誰かを殺害し、その因縁が本物に降りかかってしまえばどうなる?
無意味な殺し合いへと発展し傷つけ合うだけだ。
その前に承太郎は、偽花京院を倒しておきたいという思いが強い。

「承太郎さん、偽者の花京院さんを止めたいんですよね? なら、承太郎さんは自分の向かいたい方へ行って下さい!」
「まどか……」

承太郎の心を読んでいるかのように、的確にまどかは図星を突いてくる。

「その、承太郎さんはエスデスさんを疑っているのかもしれませんけど。私はエスデスさんは悪い人じゃないと思います。
 だから、無理にとは言いませんけど、私を信じてくれませんか?」

まどかが笑顔を浮かべる。その笑みには人を安心させる不思議な魅力があるように承太郎には感じられた。

「……分かった。そっちはお前に任せるぜ。だが、万が一のこともある。一応そっちの花京院も警戒しろ」
「はい! 分かりました」

まどかも守られるだけの存在じゃない。自分の意思で行動し動く立派な一人だ。
ならば、自分が付きっきりで守るのは過保護というもの。
互いの目的があり、その方向が反れてしまうのであれば別かれるのが道理だ。
不安もない訳でもないが、向こうの花京院は本物の可能性は高い。もし合流できれば、承太郎の不安も消えるだろう。
エスデスも再度合流すると約束したのだ。まどかにそう妙な真似はしないはず
そこまで考え、まどかを一人の対等な人間として接し、そして承太郎は答えを出した。

「そうか、お前は来ないのか承太郎」
「武器庫の方を回り、偽花京院を探す。その後で一応コンサートホールには顔を出す」

本物の花京院が北の方角に行ったのなら偽者は鉢合わせを避け、逆の方角へ行くはず。
承太郎はそう検討を付ける。

「承太郎さん、必ず花京院さんを連れてコンサートホールに行きます」
「ああ」

こうして彼らは袂を別ち、別の道を行く。

(まどか、か。中々面白い拾い物をしたな)

エスデスはほくそ笑む。ほむらの友人らしいまどか。
ほむらを炙り出すのにこれ以上適した存在は居ないだろう。
謝罪がしたいだのと嘘を言っただけの甲斐はある。
百の氷より一人の声のほうがあの少女には効くかも知れない。

(約束の期限までにも、まだ少し時間はある。また、あの森に寄る時間くらいあるだろう)

上手くやればほむらを引きずり出し、協力者としてコンサートホールに連れて行けるかもしれない。
いや、そうでなくてもそれはそれで面白い。
アヴドゥルとの約束もあるが、まどかが居れば逃げる真似もせず手間もなく済むはずだ。それでも時間が掛かるようなら仕方ない。
大人しく、まどかを連れてコンサートホールに戻ればいい。


(待ってて、ほむらちゃん)

まどかは決意を新たにほむらの元へ向かう。
自分の大事な親友と会うために。



承太郎は気付かない。花京院の偽者など存在しない事に。
時間を遡り、参加者が呼ばれていることなど考えもしていない。
もしも、時を止め時間を操るという概念に触れていれば、あるいはそれも考え付いたのかもしれない。
しかしこの承太郎は正史から外れ、本来目覚めるはずの力はまだ覚める様子はない。
その事実に気付くのは何時になるのか、あるいは気付かないまま彼の物語が終わってしまうのか。

月は消え、日が昇り始める。
彼らの行く末を照らすのは光かそれとも。


510 : すれ違い ◆w9XRhrM3HU :2015/05/30(土) 01:38:26 /4i2YDDE0
【B-2/1日目/早朝】


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中) 、精神的疲労(小)、
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、手榴弾×2
[思考・行動]
基本方針:主催者とDIOを倒す。
1:武器庫の方を回り、偽者の花京院が居れば探し倒す。DIOの館に関しては今は保留。
2:情報収集をする。
3:魔法少女やそれに近い存在を警戒。
4:二時間後にコンサートホールに行く。
5:後藤を警戒。  
【備考】
※参戦時期はDIOの館突入前。
※後藤を怪物だと認識しています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※魔法少女の魔女化以外の性質と、魔女について知りました。
※まどかの仲間である魔法少女4人の名前と特徴を把握しました。
※まどかを襲撃した花京院は対決前の『彼』だとほぼ確信していましたが、今は偽者の存在を考えています。



【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ソウルジェム(穢れ:中〜大) 、花京院に対する恐怖(小〜中)
[装備]:見滝原中学の制服 中指に嵌められたソウルジェム(指輪形態)
[道具]:手榴弾×2
[思考・行動]
基本方針:ゲームに乗らない。みんなで脱出する。
0:エスデスと共にほむらの元へ向かう。念のため本物の花京院(と思ってる)も軽く警戒。
1:魔法少女達に協力を求める。悪事を働いているなら説得するなどして止めさせる。
2:ほむらと会えたら色々と話を聞いてみたい。
3:状況が許すなら魔力を節約したい。グリーフシード入手は期待していない。
4:ほむらの謝りたいと思ってるエスデスの手助けをしてあげたい。
【備考】
※参戦時期は過去編における平行世界からです。3周目でさやかが魔女化する前。
※魔力の素質は因果により会場にいる魔法少女の中では一番です。素質が一番≠最強です。
※魔女化の危険は在りますが、適宜穢れを浄化すれば問題ありません。
※『このラクガキを見て うしろをふり向いた時 おまえは 死ぬ』と書かれたハンカチは何処かに落ちています。
※花京院の法王の緑の特徴を把握しました。スタンド能力の基本的な知識を取得しました。
※承太郎の仲間(ジョースター一行)とDIOの名前とおおまかな特徴を把握しました。
※偽者の花京院が居ると認識しました。


【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:高揚感 疲労(小)
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
0:協力者を集め六時間後にコンサートホールへ向かう。
1:その後DIOの館へ攻め込む。
2:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
3:タツミに逢いたい。
4:時間もまだ少しあるのでまどかを連れもう一度ほむらの元へ行ってみる。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。


511 : ◆w9XRhrM3HU :2015/05/30(土) 01:38:48 /4i2YDDE0
投下終了です


512 : 名無しさん :2015/05/30(土) 10:00:57 kSqQ5owQ0
投下乙です

成る程…こう来るのか、誤解フラグを


513 : 名無しさん :2015/05/30(土) 10:05:41 kSqQ5owQ0
途中送信失礼しました

誤解フラグを原作と絡めるのが上手い
花京院はこれでしばらく暗躍できそうだ


514 : 名無しさん :2015/05/30(土) 11:04:42 PIPMolkU0
投下乙です
なるほど、こういう風に思考を誘導してきたか
こりゃ、コンサートホールで波乱が起きそうだな


515 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:02:34 96wRqBTg0
コツコツコツ……。
ジョセフと初春とさやかの三者の足音が廊下に響く。
前方にジョセフと横に並んだ初春。後方にさやか。
ジョセフの緊張、さやかの不穏な気配、初春の困惑。
それは闘技場の中に入った今も尚続いていた。


(美樹さやか……君は気づいているんだろうなァ……)


自分がジョセフに警戒されている事に。
美樹さやかの殺気のようなものを首筋でひりひり感じ取りながら、暗澹たる気分でジョセフは知られないようにため息を漏らした。
あれからジョセフと初春は美樹さやかに何気ない話題を振ってみたが、どれも気のない返事を続けるばかり。
しかも世代や環境からくる話題のズレのようなものもあり、進めようがなかった。


「ジョースターさん、どこに向かっているんですか?」
「ん、控室じゃよ。あそこなら話もし易いと思ってな」


初春の質問にジョセフは微笑を浮かべる。
それに刺激されたのか、受動的な受け答えしかしなかったさやかが口を開いた。

「……ねえ、さっきから気になってたんだけどさ初春さん」
「え、はい。何ですか?」

どこかぎこちない風に答える初春。
さやかは初春の頭部に眼を向けて言った。



「あんたの頭に付けてるその造花って支給品?」
「ええ?このお花ですか?違いますよう」



問われる自体が心外だと言わんばかりに初春は否定した。


516 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:03:16 96wRqBTg0

「いやだってこんな時にそんな目立つもん身に付けるなんて、よほど強力なアイテムじゃなきゃ」
「違いますッ!!」


強く否定する初春に、さやかは黙ったが、興味は消えなかったようで
首を傾げつつ片手を腰に当て、しばし考えて、言った。


「ファッション?」
「それも違うと言うか……まあその」
「……歯切れが悪いなあ。ま、面倒臭そうだし、それくらいにしとくわ」
「め、面倒。そ、それくらいって?どういう」


さやかの投げやりな言葉に初春は口を尖らせた。
こういう娘いるよなあとジョセフは心の中で笑った。
奇妙な面はあるが初対面前後の言動もあり、単純な善悪で言えば間違いなくいい娘だと思えた。
問題はからかっているさやかの方だ。


(演技なのか?それとも素か?)


ジョセフは少女達のやり取りから、さやかの本性を探ろうとしていた。
さやかは声色からして名乗りの際よりは自然に感情が出ている気がした。
今の初春との会話は歳相応の少女同士の他愛無いものと何ら変わらない。
さやかでさえ、初春を刺激しないように言葉を選んで会話していると思えるくらいだ。
とても初めて2人を発見した際の剣呑さからは想像できない。
かと言って気の所為にはできない。
そう訝しるジョセフに対し、さやかは声をかけた。


「ねえ、おじさん」
「……」
「へ?」


きょときょとと周囲を見る初春を尻目に、沈黙が発生する。


517 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:03:43 96wRqBTg0
「…………」
「ねえ?」


(ん?……ひょっとしてわしの事か?)



齢68にしてよく若々しく見られるジョセフだが、白髪と髭面な事もあって中年と間違われる事はなかった。
自分と違って波紋の鍛錬を続けていた母と違って。
それだけにそう呼ばれるのは新鮮だった。


「わしの事かね?」
「うん。別にあたしの目が悪いとかそんなんじゃなくて、爺さんとかジョースターさんとか、
 マッチョだからか何か呼びにくいからそう呼んだんですけど、もし嫌だったら……」
「そのまま呼んでくれて構わんぞっ」


そして嬉しかった。これで油断ならない相手でなければじっくり感動を味わえるんだが……。
さやかがさりげない調子で近づいてくるのが見えた。
すぐ気づいたジョセフはさやかに声をかけた。


「で、何の様かね」


涼しくなった気がした。
足を止めたさやかは手に持った抜身の剣を指さした。


「……あたしのこの剣、支給品なんですけど鞘の代わりになるものって無いですかね?
 あとコートみたいなのも」
「美樹さんのその服も支給品なんですか?」


初春はさやかの魔法少女としての衣装 アラビア風の騎士の姿を見つめた。


「……まあね、ここ闘技場って言うんだから、武器とか、この剣に合う鞘があってもおかしくないと思ってさ
 あとこの衣装露出大きくて、その」
「ふむ、わしも君達と会う前にざっと確認してみたが、そういうもんはなかったぞ」
「……そっか」
「美樹さん、デイバックに入れてみてはどうですか?」
「……いざって時、使えないようじゃね」


518 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:04:15 96wRqBTg0

(いざ……か)

鞘を必要としているのは嘘だとジョセフは思った。
時と場合によっては戦の優劣よりも礼儀や誇りを優先させる、剣士の姿勢がまるで感じられないからだ。
その辺はエジプトへの旅の仲間であり、騎士であり剣士の『銀の戦車』のスタンド使い
ジャン・ピエール・ポルナレフを良く見ていたからよく分かる。
ジョセフから見た美樹さやかは剣士よりも、むしろ夜道で包丁を振り回している通り魔のそれに近かった。


ゆえに大方、こちらが闘技場で調べ物をしている隙に攻撃を仕掛けるつもりかとジョセフは睨んだ。
だが問い詰める事、こちらから仕掛ける事は容易にできそうになかった。
証拠がないからとかではない。



(強さはマジっぽいんだよなあ)



美樹さやかの身のこなしはたまに素人ぽい動きをする程度で、それ以外は只者のそれではない。
そして何より今は自分のみに向けられている威圧感が、歴戦の戦士ジョセフにしてやばいと認識させる程のものだ。
少なくとも50年前に自分達にまとめて斃された、柱の男の吸血鬼共の内一体よりは強いのではと。
そして
初春の方は認識できていなさそうだが。
先程の初春とのやり取りもそうだが、どこかちぐはぐさが感じられた。
だが、さやかの威圧感……殺意が消えていない以上、いつまでもなあなあで済ませるのは悪手だと思った。
他参加者と遭遇する前に、初春に危害を加えられる前に一区切り付けねばならない。
隙を見せれば生命が幾らあっても足りそうにない。
仕掛けて来ない事から大体の手の内は見えた。




「ああ、その代わりにトイレはあるぞ。今から入る控室から左に真っ直ぐ行った所な」
「それは良かったです」
「で……いや何でもない」


さやかは何か突っ込みかけるが止めた。声色低い。



「…………。安心するんじゃ紙ならあるぞ」


とジョセフは得意げに親指を立てて言った。



「そりゃ、どーも」

とさやかは半眼でいつもの声色で言った。


519 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:04:41 96wRqBTg0
【】

「まいったな……」

栗色の髪をした少年は腕時計を見ながら、呟いた。時はもうすぐ黎明。
水色の髪をした少女を倒した後、彼はF-7の市街地を歩きまわった。
だがどの参加者とも遭遇する事は叶わなかった。
その代わり無人の店で食べ物をいくつか入手したが。

「訳わかんねーよな、何処だよここ」


見慣れぬ街並みに軽いショックを覚えながらも、それを現実と認め前に進まねばならないと思っているが
彼一人の脳では把握推理ができる自信はなかった。
こういう時ほど仲間の有り難みよく分かる、気心の知れた2人以上なら色んなアイデアが浮かぶ。
自分の仲間達ほどとの贅沢は言わない。せめて見過ごせぬ悪じゃない参加者と協力できればと。
あの時、参加者達の中には見知らぬ国の人間らしき者が何人もいた。
できるなら彼らからも色々と学んでおきたい、かつて無知に等しかった自分に様々な事を、
殺し以外の事も教えてくれたナイトレイドの皆のように。
見逃してはいけないものがもっと見える様に。
ズズッと紙パック入りのコーヒー牛乳を飲みながら少年は地図を広げ、次はどこに行こうかと思案する。


(近くにあるのは古代の闘技場。スポーツジム?なんだそりゃ)


少年の頭に浮かぶは、敵対勢力イェーガーズの長であるエスデスとの出会い。
相入れたくない相手にしては出会いは真っ当な部類だったかなと少年は思った。
何か催しでもあるのかねと少年は思った。
殺し合いの中でまた別の(エスデスと会う切っ掛けになったあの試合はマシな方ではあったが)
ルールを設けた殺し合いなんか意味あるのか?と少年は心中で吐き捨てた。
基本支給品の食料と残りのコーヒー牛乳を腹に収めると少年は古代の闘技場へと足を運んだ。


520 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:05:07 96wRqBTg0
【】

「わしはエジプトを旅している途中のカイロにおったんじゃが、知らん間にここに放り込まれたんじゃ」
「私はいつものようにしま……事務仕事をしていたら急に……」
「……あたしも初春さんと似たようなもんね」


三者はゲームに放り込まれた時の事をそのまま説明した。
互いに攫われる理由も広川についての情報もなかった。


「フム……それじゃあ次は参加者についてだが」
「あのー」

「何かね美樹君」
「何で椅子に座らないの?」


3人が今いる部屋は厨房。
若き日のジョセフが入った闘技場にはなかった部屋の一つ。
そこにはいくつかの椅子が用意されており、休憩するにはもってこいと言える場所だった。
3人は立ったまま情報交換をしていた。無論ジョセフ・初春とさやかとは数メートル離れている。



「ふむ、実は過去わしが戦った敵の中には建物と同化して侵入者に襲いかかる超能力者がいてだな……」
「ふぇ?それ誰ですか?!もしかしてジョースターさんも超能力者……」


上ずった初春の問いにジョセフは自らの人差し指を口に当てて黙らせる。
そしてちょい顔を上に向けて格好付けながら続ける。


「いつでも走れるようにしておかんと捕まったら能力が使えなくなるからの」
「やっぱり……ってその相手、能力まで封じ込められるなんてどれ程の……」
「……そいつと同じ能力持ちが参加してるとは限らないでしょ……
 それとすべて真に受けてどうすんのよ」




高揚と共に考えこむ初春と、力ない声で反論するさやか。
明らかにトーンが下がっていた。
尚、ジョセフが言った建造物と同化する超能力者の話は一部嘘である。
ただのボートを巨大タンカーへ変化させる『ストレングス』というスタンド使いは実在していた。
ちなみに能力の封じ込めとは単にスタンドを拘束して身動き取れなくさせるだけで、
初春が思っているような大層な能力では決して無い。


521 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:05:41 96wRqBTg0
「という訳じゃ。件の能力者じゃなくても、いざという時ある程度、距離取っとかんと逃げ難いじゃろ」
「じゃあ何で初春さんとは距離取ってないのよ」
「そりゃわしがフォローした方が早く逃げられるからじゃ。そうだろ初春君」
「………………はいっ」
「ほら」
「何よその沈黙。それにどうやってフォロー……」
「担いで」


ジョセフは力こぶを作った。
初春は同意の沈黙をする。
さやかは苛々しながらジョセフに詰め寄った。
剣は壁に立てかけてある。


「……あたしを疑ってるんならさっさと言いなさいよ」
「疑うも何もこの状況じゃと誰もそうせざるを得ないと言うか……ん?」
「まあ美樹さん落ち着いて……どうしましたジョースターさん?」
「!?」


ジョセフはさやかのマントを掴み、払った。
マントの下、さやかの背には傷があった。
素人目に見ても後遺症が残ってもおかしくない程の傷。
なぜこれほど傷で普通に振る舞えるのか。


「美樹さん、その傷」
「……」

さやかは青ざめた顔で数歩後退る。
剣が置かれている方へ。


「……ここに連れて来られる前のか?」
「…………そうよ」
「え?」

空気が冷えたようだった、さやかと初春はどう言えばいいのか分からない。
だがジョセフはそんなのお構い無しだった。
さやかの右手が剣に触れたその時。


「トイレに行って頭を冷やしてきたらどうじゃ?」
「! …………そうする」
「ジョースターさん」


さやかは剣を持ちつつ、力ない足取りでドアへ向かった。
途中で立ち止まり、ジョセフ達の方を向こうとするが止め、そのまま部屋を出て行った。


522 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:06:23 96wRqBTg0

「初春君」

ジョセフは五感を研ぎ澄まさせながら、美樹さやかが遠ざかったのを確認すると初春に言った。


「分かっていると思うが美樹君は」


初春は顔を上げてはっきりと返答する。その瞳には悲しみの色が若干混ざっていた。


「乗ってるんですね」


待合室に入った瞬間に分かっていた。美樹さやかの殺気が初春にも感じ取れたから。
いつでも剣を振るえるような態勢をとっていたから。


「逃すんですか?」
「逃がさんよ。そもそもああいう手合は逃げん……逃げられんじゃろ」



それはジョセフの経験則からくる推測。
それも柱の男と戦っていた頃とは違う、アメリカ不動産王ジョセフ・ジョースターとしての。
様々なタイプの人間と交渉し、自らが望まずとも多くの破産者を見ざるを得ない職業。
美樹さやかのような自分で自分を潰してしまうようなタイプはそう珍しくはない。


ジョセフの腕からハーミットパープルの茨が現出し伸びる。
初春はそれを興味深そうに見ていたが、憂いを帯びた眼でジョセフを見て言った。


「美樹さんは……」
「分らん」

真剣な面持ちでジョセフは床に耳を当てて、音を探った。遠くには行ってはいないようだ。
どの道全力を出さねばならんが。


「初春君は隠れていなさい。捕まらんようにな」
「……?」



初春右手を頬にあて何かを考え、ジョセフに言った。困ったような笑顔で。



「慣れてますから」
「……OH」



今度はジョセフが初春に驚かせられる番だった。
隠れ場所を探す初春を見て、ジョセフは今は亡き義父的存在
スピードワゴンの事を思い出していた。


523 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:07:05 96wRqBTg0
【】

さやかの体全体に魔法の光が包み、背中の傷をほぼ完全に癒やす。
同時に所持していた剣も分解させ、変身を解き元の学生服の姿に戻る。
これで魔力の無駄使いは終わりだ。
さやかは慌てて出した魔女の卵グリーフシードに、ほとんど黒くなったソウルジェムの
穢れを移しかえた。
今さやかがいるのはトイレではなく、トイレ近くの別の部屋。
身体を小刻みに震えさせながら、膝を抱えジョセフと初春とのやり取りを思い出す。



――何も仕掛けられなかった。
初対面時、さやかがジョセフに手を出さなかったのはジョセフが人間にしては手練で
背中の傷が癒えてない時では手こずると思っていたからだ。
無理すれば初春もろとも殺害できる自信があった。

ところがいざ蓋を開けてみれば、ジョセフは想像以上に手強く見えて、その上異能力者だと自称し始めて
ますます手が出しづらくなった。
時間稼ぎの為にと初春と話をしてみれば、今度は過去の学校での楽しかった頃の記憶が蘇り、
思わずあの時のように接してしまい、殺意の維持が難しくなった。
それにマントを修復までして隠していた背中の傷もばれた。
このままでは逃げられて情報をばらまかれるか、あるいは危険人物として集団を以って殺害されかねない。




そもそも美樹さやかは本来嘘をつくには向いていない性分だ。
同年代の少女の中でも正義感が強く潔癖な面があり、自分がそれに反する行動を取ってしまうと
他人がした以上に自分を責める性格だ。
だからこそ、まどかを始め何人もの親しい人の忠告を受けても、頑なになっていった。
その結果の一つが今の美樹さやかだ。



(思い出せ、あの時あたしが味わい続けた苦難を!絶望を……!)





想い人で幼なじみの上条恭介の不慮の事故から始まり、深夜の電車の中での二人の男への暴力で終わる
美樹さやかの不幸。
やることなす事全て裏目に出て、身体の異変を受け入れる前に来た親友 志筑仁美の恭介への告白宣言など
覚悟や時間もないままに最悪のタイミングで明らかになっていく過酷で惨めな一週間。

人間を魔女や使い魔の魔の手から守るという理想と好意も、2人の心ないホスト同士の会話で潰え
世界への愛情も最後の一週間の所為で忘れてしまった。


524 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:07:41 96wRqBTg0

「……」


何を弱気になっている、相手は人間だ、年寄りだ。貧弱な女の子だ。
人間を簡単に殺せる魔女や使い魔を倒してきたじゃないか。
ここで2人を殺して支給品を手に入れないと、あの少年にまた殺されるぞ。
それにあの男に馬鹿にされたされたままでいいのか?



「……」


内なる昏い声に答えるが如く、
さやかのソウルジェムが青く輝き、再び魔法少女の姿へと変えた。
そして剣を現出させ厨房へと走る。
魔女化する直前に抱えていた世界への憎悪を秘めて。



【】


「来たか」


厨房のドアが勢い良く開かれる。
すぐそこにはジョセフの姿があった。
既に紫の隠者を展開させ構えを取っている。
ジョセフの眼に映るは飢えた動物のような眼をしている美樹さやか。
初春の姿は見えない。


「あいつは?」
「四の五の言わずに来たらどうかね?」
「逃げたの?」
「お前さんがこんなクソったれゲームに乗らなければ逃げる必要はなかったんじゃがな」
「クソッタレなんかじゃない」
「何で乗ったんじゃ?」
「……」



さやかはこれ以上返答する気はなかった。
口車に乗せられては敵わない。

厨房は散らかっていた。
無闇に走れば足を取られるだろう。


「?」

厨房の中には幾つものシャボン玉が浮かんでいた。


「何これ?」

ジョセフは質問には答えない。
まあいいとさやかは思った。
さやかは構え、走った。
そして足を止め、剣を力の限り空振った。


525 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:08:14 96wRqBTg0
「!?」


それにより魔力の風が発生し、シャボン玉を吹き散らそうとする。
いくらなんでもわざわざ罠に突っ込むほど馬鹿ではない。
だが……


「なんでっ?」




シャボン玉は揺れ動いたが割れなかった、そして尚さやかの進路上に漂い続ける。
さやかは知らないが、これはジョセフが波紋でコーティングしたシャボン玉。
少々の風で割られることなど無い。
これは今は亡き戦友のシーザーが得意としたシャボンランチャー。



「この」

さやかは斬撃を以って邪魔なシャボン玉を消し去ろうとする。
一太刀で1個目が割れる。


「っ……!」


手がひとりでにびくんと蠢き、思わず取り落としそうになる。
外付けのような魔法少女の身体でもジョセフほどの波紋エネルギーの干渉を受ければ。
何事もなかったとまではできない。


「だったら……!」


さやかは剣にさらなる魔力を込めて、シャボン玉を斬る。


(行ける)


少々の痺れのようなものはあったが、大きく身体が反応するほどのものではない。
魔力の消費量は多くなるが、先に進む為だ仕方ない。
ジョセフは汽車の汽笛を小さくしたような変な呼吸をして、さやかを見据えている。
さやかはシャボン玉を掻い潜り、一気にジョセフへ接近する。
ジョセフは右手刀をさやかへ振り落とす。


526 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:08:41 96wRqBTg0


(遅い)


さやかはそれをバックステップで回避すると、、足腰に力を入れジョセフを穿かんと剣に魔力を込める。
威力が上がるわけではないが念の為だ。
さやかは刺突を以って胴体を貫こうとする、だがジョセフは振り下ろした右手を地面に着き一回転し、
ピンと伸ばした左脚をさやかの胴体に命中させた。
さやかの射程距離を超えたカウンターだ。
奥の方へ突き飛ばされ、食器が鍋が甲高い音を立てて転がる、さやかはすぐさま立ち上がる。
後方へ弾き飛ばされたがこの程度では諦めない。今の蹴りもさやかから見ればスローだった。
人間より格段に強化された魔法少女の肉体が相手だと大したダメージは与えられない。
スピードに任せて戦えば充分勝機はあるとさやかは踏む。



「隠者の紫(ハーミット・パープル)!!」

ジョセフの気合とともに紫色の茨が伸び向かいさやかの肉体を拘束する。

ギリギリと茨がさやかの身体を締めあげる。
だが有効打には遠い。
ジョセフの右手がさやかに迫る。さやかは危機を察知し即座に感覚を遮断する。

波紋を帯びた右掌がさやかの頭に命中する。
本来なら確実に昏倒している程のダメージ。しかしさやかの方が早かった。
ジョセフが期待していたような結果にはならなかった。

ニヤリとさやかは笑うと全力を持って体当たりを実行する。
倒れはしなかったが、苦悶の声をあげてジョセフは仰け反る。
さやかの全身が淡く輝く、治癒魔法だ。
これもやると魔力消費が高くなるが、痺れを取る為だ仕方ない。

さやかはジョセフに接近し剣を振るった、狙うは胴体。
ジョセフは妙な呼吸をしつつ後方に飛んで、威力を減らそうとする。
だが遅い。さやかの剣はジョセフを袈裟懸けに切り裂くと思った。

「?!」


だが切り裂けなかった。
服の中に仕込んだ紫の茨に阻まれて。
ジョセフは汗だくになりながらさやかととっさに距離を取る。
さやかが知る由もないが、ジョセフは紫の隠者を身体に巻き付けた上で
電線のように波紋を流して強度を上昇させかろうじて斬撃を防いだのだ。


527 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:09:26 96wRqBTg0

「隠者の紫!」

紫の茨がさやかを再び拘束する。
だがさやかは涼しい顔で「で?」と嘲った。
それに構わずジョセフは締め上げを止めない。
さやかはため息をつくと、今度は体全体を使ってこちらへ引き倒した。

ジョセフは前方に倒れる。さやかは容赦なくジョセフの首を斬り落とさんとする。
ジョセフは間一髪回避し、三度紫の茨を放つ。
しかし、さやかはそれを剣で引き裂いた。
地面に落ちる前に茨は消えた。

「ハァー、ハー……」


疲労困憊のジョセフを見、さやかは冷たく笑う。
呼ばれる前、魔女化が進行していた時と同じ笑みで。
さやかは剣の切っ先を向けた。


「さよならおじさん」
「――今じゃ!初春くん!!」


合図とともに大きな音が厨房を響き渡らせた。
金属鍋がぶつかり合う音、食器が壊れる音。

「いたのね……」

半ば呆気に取られつつもさやかは彼女にしては珍しく冷静に状況を分析していた。
ジョセフに注意を向けていたから気付かなかった。初春が厨房の何処かで隠れていることに。
てっきり安全と思われる場所に避難したものかと。
まあいい、ただの時間稼ぎだろう2人とも殺せる。


「うおおおおぉぉぉ!」


ジョセフはさやかへ走った。勝負は捨てていない。
今度は紫の隠者を使わない。左の拳で顔を攻撃するつもりだ。
さやかは腕を落とそうと剣を振るおうとした。
だがパンチの軌道が変わった。

「!」


狙いは剣の腹。

「ズームパンチ!」


あえて腕の関節を外し射程を伸ばす荒業は、波紋使いが体の痛みを和らげる術を持っているからこそ。
射程が伸び、威力を増したパンチをさやかは避けられず。剣を落としてしまう。
手にジョセフの義手が当たりさやかは手に血を流す。
次のアクションに写る前にさやかに更なる攻撃が襲う。
やかんが飛んできた。どこかで見た光景。
だがさやかは思わず受け止めてしまう、心に余裕が無いゆえに受け止めてしまう。
やかんの中身は水。投げたのは初春。


528 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:10:27 96wRqBTg0

「隠者の紫!」

紫の茨は三度、さやかを拘束する。
ジョセフはそのままさやかに攻撃を加えんとする。奇妙な呼吸をしながら。
さやかは先ほどのように引き倒さんと身体をひねろうとする。だが


「――&波紋!!」


スタンドの茨を通じた波紋がさやかを捉えた。
本来は対吸血鬼用でなく、生物用の秘術であった波紋が魔法少女の身体を攻撃する。
さやかの身体が小刻みに痙攣する。だが感覚を閉ざした彼女はまだ倒れない。
だがそれはジョセフも既に予想していた事、茨を解き独特の呼吸をし最後の一撃を加えんと拳を振り上げる。
ところがさやかにはまだ余裕があった、感覚を閉ざしたがゆえに今の肉体は半不死。
忌々しい体質だが勝ち抜くには大きなアドバンテージ。

「え……」

ジョセフのパンチはさやかのへその位置を狙っていた。
それは魔法少女の魂が秘められているソウルジェムのある位置。
ジョセフは闇雲に『紫の隠者』で拘束していたわけではない。
波紋を受けても動き続ける原因を探るべく、探知型スタンドでスキャンし続けていた。
何度かの試行錯誤の上、ようやく魂エネルギーの宝珠ソウルジェムの存在と位置を特定できたのだ。


「あ、嫌……」


さやかは痺れる身体を動かしソウルジェムをガードしようとするが間に合わない。
何で、解ったのとさやかはパニックに陥る。
これまでで一番悲痛な声をさやかはあげた。

「や、死……」

ジョセフの波紋を纏った右掌底がさやかのソウルジェムを打った。


529 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:11:22 96wRqBTg0

【】



「ぜーぜー……初春君、あのまま避難してても良かったんじゃぞ」
「あのまま逃げるなんてできませんよ風紀委員として」
 
上着を脱いでグロッキー状態のジョセフに言う初春。
初春はさやかとの戦いが始まる前、ジョセフから闘技場の外に避難するようにと言われたが
聞き入れず、彼女なりに頭を使いうまく隠れた上で戦いの終盤ジョセフに手助けをしたのだ。


「もうやるんじゃないぞ」
「しませんよ、怖くて、もう」


水を飲みながら両者は言い合う。そして。

「ありがとよ初春くん」
「どういたしましてジョースターさん」

と互いに笑顔を見せる。
そして2人はありったけの道具で拘束した美樹さやかを見て真剣な面持ちになった。


「……どうしたものか」
「……」

打算もあってか、ジョセフはさやかのソウルジェムは破壊しなかった。
もしあの時、動き続けていたらやむなくとどめを刺しただろうが。
今は波紋の効果(?)もあってさやかは活動を停止しているが。
もし今度攻撃してきたら防ぐ余裕は今のジョセフにはない。
意識の回復を待つにしても、初春と2人だけでは情報を得る前に殺されかねない。
生か死かの決断が迫るのを2人は肌に感じ、暗澹たる気持ちになった。






【】

少年――タツミは闘技場の前に来ていた。
もうすぐ早朝だ。
中から大きな音が聞こえたような気がする。
乱戦か?なら誤って攻撃しないようにしなきゃなと彼は闘技場の門をくぐった。


530 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:12:04 96wRqBTg0
【G-7 古代の闘技場内 厨房/1日目/黎明】

【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:胸にダメージ(小)、疲労(極大)
[装備]:いつもの旅服
[道具]:支給品一式 三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース 市販のシャボン玉セット(残り50%)@現実
     さやかのソウルジェム
[思考・行動]
基本方針:仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡ふかせる
0:さやかを何とかする。せめて最悪情報だけでも引き出したいが……。
1:
2:仲間たちと合流する(承太郎、アヴドゥル、花京院、イギー)
3:DIOを倒す
4:脱出の協力者を集める
5:さやか、初春と来訪者(タツミ)と情報交換。さやかには警戒。

※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。
※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。
※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。
※夢の内容はほとんど憶えていません
※殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語で認識されると考えています。


【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(小〜中)
[装備]:なし
[道具]:ディパック、基本支給品一式、不明支給品1〜3。
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
0:さやかを何とかする。できれば死なせたくない。
1:佐天や黒子や御坂と合流する。
2:脱出の方法を探す。
3:ジョセフとさやかと来訪者(タツミ)と情報交換をする。 さやかは警戒
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺し合い全体を管制するコンピューターシステムが存在すると考えています。


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ
[状態]:気絶。ソウルジェムに波紋によるダメージ(大?) 肉体のダメージ(小)、ソウルジェムの物理ダメージ(小)
    厨房内のありったけの道具を使って拘束中。現在ソウルジェムはジョセフが所有。
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ソウルジェム(穢:小〜中)、グリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ
    穢れきったグリーフシード×1
[思考]
基本:どんな手を使ってでも願いを叶える。
0:…………。

[備考]
※参戦時期は魔女化前。
※波紋がソウルジェムにどういう影響を与えるかは詳細は不明です。
 少なくとも現状意識不明状態ではあります。


531 : 無題 ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:12:22 96wRqBTg0
【タツミ@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式 、F-7の街で回収した飲料や菓子3人前
[思考]
基本:悪を殺して帰還する。
0:闘技場内を注意深く探索する
1:アカメと合流する。
2:悪を斬る。
3:信頼出来る仲間を集める。
[備考]
※参戦時期は不明。
※美樹さやかを殺したと思っています。

【二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!」
 巨大な斧の帝具。一度投げられれば勢いが死ぬまで相手を追尾し続ける。
 二つに分離することも可能。タツミはさやか戦では分離した状態で扱っていた。


532 : ◆5cyPCmuV8s :2015/05/30(土) 17:16:04 96wRqBTg0
投下終了です。


533 : 名無しさん :2015/05/30(土) 17:37:43 kSqQ5owQ0
投下乙です

さすがジョセフ、歴戦を感じさせる戦いぶりは殺意マシマシのさやかちゃんが相手でも頼もしい
だけどさやかちゃんの執念深いからなあ、このままじゃ終わら無さそう


534 : 名無しさん :2015/05/31(日) 15:10:35 FfjI/r0Y0
投下乙です

ジジイも初春もがんばったな、しかしさやかちゃんが怖い…


535 : 名無しさん :2015/05/31(日) 23:17:19 htpoBnFs0
投下乙です
さやかちゃんマジバーサーカー。
ジョセフが何とか勝ちを拾ったが、ここからどう扱うかが大変だ
あと、タツミ修正の件は了解しました


536 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/31(日) 23:27:58 TH/mueL60
投下お疲れ様です。

投下します。


537 : 人形は真実を語らない ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/31(日) 23:29:14 TH/mueL60

靴を脱ぎ持ち上げたウェイブは迷うこと無くペットボトルの水を流し始めた。
犬に汚された靴を洗うための作業であり、貴重な飲料物を無駄にしている訳ではない。

こべり付いた不純物を洗い流したウェイブは犯人である犬を見る。

人の靴に不純物を落としたクソ野郎はムカつくことに欠伸してやがる。

黒い犬は我関せずと言った態度を取っている。
排泄行為を咎める訳でもなく、悪気はなかったかもしれない。
行為を行った場所がウェイブの靴だっただけの話。
たまたまその場所に彼の靴があっただけの話だって有り得る。

瞳を細め恨みを込めるように犬を睨む。
その視線に気付いたのか、犬も彼を見始めた。
全身を舐め回すように目玉を回転させると退屈な表情を浮かべた。
見下すように軽く鼻で笑うと足で自分の顔を掻き始めた。


「このクソ犬……!」


地面を靴で数回叩いた後、履きながら毒を吐く。
靴を履いていたらそのまま蹴ってしまう勢いだ。踵を整える。
馬鹿にされている、犬は言葉を喋らないが表情が訴えていた。
好きになれなさそうな犬だが、彼が居なければ穂乃果は死んでいただろう。

マスタングに襲われていた穂乃果を守っていたのはこの犬であった。
謎の生物を操っていたのもこの犬だ。
コロと呼ばれる帝具が存在している以上特別な力を持っている動物を疑うことはない。
言葉を理解出来れば正体を探ることも出来るが出来ないものはどうしようもないのだ。


「まぁまぁ……ワンちゃんが居なければ私は死んでいたんだし」


だからどうしたと言いたいが言葉を表に出さないウェイブ。
事実であり彼女が助かったのはこの犬のおかげである。
憎みたいが憎めない存在、憎んでいることは確かであるのだが。


「ったく。それで穂乃果の知り合いを探しに音ノ木坂学院に向かうか」

「はい! ってウェイブさんはイェーガーズ本部に行かなくていいんですか?」


538 : 人形は真実を語らない ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/31(日) 23:30:21 TH/mueL60

マスタングの脅威が去った後、靴を洗いながらウェイブと穂乃果は軽い交流を行っていた。
互いの名前と交友関係、他に出会った参加者の話を。
ウェイブからは危険人物であるアカメの情報提供があったが穂乃果からはない。
異なる世界から拉致されたのだから当然であるが彼らはそれを知らない。

ウェイブは穂乃果を異民族と認識し、穂乃果はウェイブを外国の人と認識していた。

問題はない。彼らが真理に辿り着けば明らかになる現実。
辿り着けなければそれで問題はない。


「俺の仲間は簡単に死なない恐ろしい奴らだから……」

「仲間なのに恐ろしい……?」

「それは想像を絶するぐらいに、な。
 だからイェーガーズ本部は後回しでいい。学園に穂乃果の友達が避難しているかもしれないしな」


頼れる仲間は戦闘に関して絶大な力を保有している。
焼かれようが斬り裂かれようが簡単には死なない絶対的強者なる集団。
合流したいのは事実だが急ぐ必要はない。

彼女達が死ぬなど到底思えないから。

よってここは穂乃果達が在籍していたと言う音ノ木坂学院に向かうことにした。
人間、突然追い込まれれば知っている場所に逃げやすい。
殺し合いに巻き込まれ、近くに自分たちの学園が在るとなれば逃げてしまうだろう。

何故殺し合いの会場に参加者が在籍している学園が在るのか。
罠に見える。その確認も含めてウェイブは方針を定めた。

少し横に視線を流すと面倒臭そうに欠伸をしている犬が見える。
この犬も首輪が付いている辺り参加者の一人改め一匹なのだろう。
首輪の裏側に名前が書いてそうな気もするが、どうせ碌なことにならない。

先ほどの力も含めこの犬も何か特別な力を持っているのだろう。
そんなことを考えていると遠くから聞こえた音声に彼らの意識は奪われた。


539 : 人形は真実を語らない ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/31(日) 23:32:43 TH/mueL60




「今の声って『助けてーッ!』って言ってた……大変!」


響いてきた声に反応を示す穂乃果。
声量や言葉から感じられる思いは相当焦っていた。
この声を信じるならば持ち主は大変危険な状況なのだろう。


(罠の可能性もある……けどこんなデカいリスクを背負う必要もない)


ひ弱な参加者を装って他の参加者をおびき寄せ一気に殺害する。
古くから使い回しされる他人騙しの可能性。
だがリスクを考えると絶対的な自信がない限り使用しないだろう。

何も声を聞くのは善良な参加者だけではない。
他人を殺すような、先ほど逃げていったマスタングだって聞いている可能性もある。
つまり――この声の持ち主は本当に危険な状態である。という推測も出来るのは当然だ。当たり前である。

声の持ち主が危険人物だろうが襲われている参加者だろうが関係ない。
危険人物なら倒し、襲われているならば救うだけ。
ウェイブと言う男、現実を見切れぬ程愚かではない。そして意思と力を持っている。


「行くぞ穂乃果。あんまり俺から離れるなよ?」


そして彼らは歩き始める。
その後ろで犬が『マジかよ……』と言った表情で遅れながら着いて来た。

もしイギーが地図を見ていたら彼らに着いて行かなかっただろう。
その先にある館は――。





540 : 人形は真実を語らない ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/31(日) 23:33:50 TH/mueL60

警戒しながら歩いてきたウェイブ達。
道中は敵襲もなく声の方向へ無事に歩くことが出来た。
そして目に映るは一つの館。声もきっとここから聞こえてきたのだろう。

地図上ではDIOの館と表記されている。
ウェイブは名簿に載っていたDIOの名前を思い出す。
穂乃果達が在籍している学園があると同じようにこの館も会場に再現されたのか。
持ち主と思われるDIOが居るかは不明であるがその人物と出会える可能性が一番高い建物だろう。
最もウェイブにとってDIOは他人でありどんな人物か想像もつかないが。

「色少しだけ崩れていますね……あっ! 女の人」

戦闘の余波だろうか、館の一部がほんの少し崩れていた。
どうやら救援の声は本物らしい。だが声の持ち主と思われる人物はいない。
代わりに。
穂乃果が発見した女性は白いコートを羽織っていた。
そしてその人物を見た途端ウェイブは走りだしていた。


「クロメ! 無事だったんだな!」


イェーガーズの一員であり彼の大切な仲間であるクロメ。
初めて出会った時はクッキーを食べている無愛想な女だった。
だが行動を共にするに従いその評価は徐々に変わっていく。
気付けばイェーガーズはウェイブにとって大切な仲間であり家族のような存在になっていた。

この会場にイェーガーズの仲間は彼を含めて四人居る。
隊長であるエスデス。メンバーであるウェイブ、セリュー、そしてクロメ。
その強さは世界が証明している帝都が誇る最凶の執行機関。

大切な仲間に出会えたことでウェイブの心の霧が少し晴れる。
彼らが揃えば敵などいない、ナイトレイドだって追い付けないだろう。


「なぁクロメ。隊長達に会ったか? 俺は会えてねぇ……げ」


近寄るとクロメは帝具である八房を持っていた。
対するウェイブはグランシャリオを広川に抑えられている状態だ。
まずい。
この状況でエスデスにも会えば再び拷問という名のお仕置き待ったなしだ。
やばい。


「会ってないよな……って顔を上げてくれよ――ッ!?」


クロメが何も反応を示さないためウェイブは顔を上げてくれるよう頼んだ。
見慣れない白いコートを羽織ったまま俯く彼女。
普段のことを考えれば不思議ではないが反応が無いのは何かが違う。
よく見ればコートの内側はボロボロであり戦闘の面影が見える。

聞こえてきた拡声器の音声の持ち主と戦ったのか。
問題は其処ではない。

顔を上げたクロメ。
その表情を見たウェイブの時が凍り付いた。


「お、おい……冗談だよな?」


541 : 人形は真実を語らない ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/31(日) 23:35:14 TH/mueL60

時が止められたような感覚だった。
心臓が跳ね上がり、総てが止まったのだ。
思考も理解も追い付かず、現実を受け入れることが出来ない。

彼を現実世界に引き戻すように八房が迫る。
首を狙われた一撃、ウェイブは剣で防ぎ距離を取った。

「信じられねぇよ……信じられねえ!!」

「……」

何も答えないクロメ。

まるで人形のように口を動かさない。

ウェイブを殺すために彼女は駆ける。
一直線に駆け上がり八房を横に一閃、ウェイブに防がれる。
彼の獲物は縦、体勢を低くして足を払う。

彼の足を掬うと体勢を崩した所に追い打ちを掛けるように肘を腹に叩き込む。
身体を折り曲げ尻もちを着く彼の脳天に八房を振るうがこれも避けられてしまう。
 
大地を転がりながら八房の一撃を回避したウェイブ。
状況を理解出来ないが甘いことは言ってられない。
立ち上がりながらクロメを視界に捉える。

目の前に居るのはクロメだった存在でありクロメである。
音を発しない骸の彼女、人間の形を保っている彼女。


「よく動けますね、彼女」


後ろから聞こえてくる声に振り向く。
この声は聞いたことがない、初めて聞く声である。

白い服装で紳士のような男が薄ら笑いを浮かべながらウェイブに話し掛けていた。
よく動いている。
その通りである。
クロメは嘗て暗殺組織に身を置いており身体も弄っている。
その戦闘能力は見た目から想像出来ない程高い。
だが、どうしてこの男は今それを聞くのか。
まるでクロメのことを知っているようで。そして――。


「死体なのによく動きますね。これは感心」





「テメェ……テメェかああああああああああああああああああ」





怒号と共に頭を狙った剣の一撃。
白い男には体勢を低くされ、一撃は頭が在った所を通過する。
そのまま蹴りを叩き込むも既に男は後ろへと移動していた。


542 : 名無しさん :2015/05/31(日) 23:35:50 TH/mueL60

黒だ。
この男は黒だ。
信じられない、信じたくない。
だが発言とタイミング。これらが示す答えは一つしか無い。

「おやおや、知り合いでしたか。これは残念でしたね」

八房の能力は殺した相手を人形と化し己の奴隷にすること。
今のクロメの状態は――骸。

「テメェが殺したんだな」

八房の持ち主はクロメである。
彼女が骸になっている事実は彼女が殺されたことを意味する。

「ええ。私が殺しました――ッ」

その言葉を聞く前にウェイブは男に迫っていた。
殺す。
この男を赦す訳にはいかない。
殺す。
クロメを殺したこの男を生かす訳にはいかない。
殺す。
殺す。
殺す。

「ッあ!?」

白い男が掌を合し大地に掌を置いた。
その行動に意味を見出せないウェイブだが現実は非情である。
大地に電流のようなものが走ったかと思えば彼の地面が盛り上がる。

体勢を立て直そうと後ろへ逃げようとするが遅い。
大地は膨れ上がるとそのまま爆発を起こした。

剣で防ぐにも高範囲攻撃に対応出来る部分は底が知れている。
致命傷こそは受けていないが確実に身体に響いている。
着地と共に男に迫るも彼の敵は一人ではない。

割り込むように現れたクロメの一撃を防ぐウェイブ。
この殺気、この威力、この剣捌き。
本物だ、認めたくはないが本物だ。

思いに老けることも出来ないし涙を流している暇もない。

此処でクロメを殺さなければ自分が――殺される。


「感動の対面は殺し合い……美しいですねぇ!」


彼は時を選ばない。
決意の瞳を持ったウェイブに襲い掛かったのは無慈悲な爆発。
隆起した大地から吹き荒れる石や砂はその勢い、脅威となる。
身体に襲い掛かる無数の弾丸は彼らの身体に確実な損傷を与えていた。


「俺をクロメごと攻撃しやがったな」

「動ける死体とは便利なモノです。なにせ巻き込んでも心配する必要が無い」

「ッ……殺す!」

「ですが彼女はそれを許さない!」

「しまっ」


仲間を殺した男。
殺した仲間を死体にしてまで操る男。
殺したい。今すぐにでもこの世から葬りたい。
だが、けれど、しかし。


543 : 名無しさん :2015/05/31(日) 23:37:09 TH/mueL60

クロメは男を守る。
八房は既に背後からウェイブに――愚者が現れた。

「わ、ワンちゃん!?」

遠くて見ていた穂乃果が叫ぶ。
白いコートを羽織った女性に近付いたウェイブ。
彼の反応から話にあったクロメだと逸早く理解出来た。
感動の再開となるはずが交戦が始まり爆発を起こす男も現れた。

防戦を強いられるウェイブを助けたのは犬だった。
穂乃果を助けるように謎のビジョン――スタンドを発動させたイギーだった。

突然目の前に現れた生物に一瞬戸惑うクロメ。
斬る対象に変わりはないため斬り掛かろうとするが遅かった。
イギーのスタンドである愚者は速度に優れていないが充分である。
動きが一瞬止まったクロメの隙を逃さず体当たりが直撃した。

大地を転がりながら吹き飛ばされるクロメは起き上がると八房を再度構える。

「もうやめてくれ……」

仲間だった存在と戦いたくない。
甘さは昔に捨てていた彼だが対面すると現実から逃げたくなるものだ。
剣を構える、現実は受け入れている。それでも――。

「助けられたな犬ころ」

「……」

イギーはそうだな、と肯定するように首を縦に動かした。
事実に愚者が割り込まなければ彼は背後から斬り殺されていただろう。
イギーは割り込むつもりなどなかった。
だが、死体を操り知り合いと戦わせる男が気に喰わなかった。
吐き気がする。これを止めるにはあの男を殺すしか無い。

「お前は俺の靴にクソをしたいけ好かない野郎だが――力を貸してくれ」

仕方ねえ、今回だけだ、貸してやる――けどよ。

「お、おい!?」

――今は退くぞ、不利過ぎるからな。

愚者は全身を振るい砂塵を巻き起こす。
彼らとクロメ、そして爆弾魔を引き離すように。

イギーはウェイブの裾に噛み付き後退を促しているが彼は動かない。
目の前にクロメを殺した男が居る、逃げるなど有り得ない。

だが帝具を持ったクロメ。
爆発を引き起こす――グレンの錬金術士相手にグランシャリオ無しでは分が悪い。
それは彼自身が一番理解している。
だけど――。


「逃げましょうウェイブさん!」


気付けば穂乃果が自分の腕を引いていた。
戦う力が無いのに近づいて来るとは勇気ある行動だ。
流石に穂乃果を近距離で守りながら戦うのは不可能である。
彼女を安全な場所に退避させる必要が生まれてしまった。
つまり、強制的にこの場を後にしないといけなくなってしまった。

「次に会ったら絶対に殺してやる」

陳腐な捨て台詞ではなく殺意の籠もった一言。
吐き捨てると彼は剣を男に差し向ける。
次に会ったらお前を殺す、この剣で狩り殺す。

「そうですか、それは楽しみですね……でも此処でお別れです」

男が大地に手を降ろすと再び電光のようなモノが大地に走る。
膨れ上がる大地はやがて爆発を引き起こすが愚者がその一撃を引き受ける。

盾になった愚者は砂のように消え去る。
男の一撃は無に消えて終い、砂が晴れると其処にウェイブ達の姿は無かった。

「逃げられてしましたか。
 砂になる異形な存在……全く此処は不思議に満ち溢れている、ねぇ?」

クロメは答えない。
今の彼女に感情は存在せず戦うだけの骸。

「答えは無い……死体ですものね。さて」

館を捉える。
この場所からは声が聞こえてきた。助けて、と。
ウェイブ達との戦闘により遅れてしまったが入るとしようか。

新たなる刺激を求めてキンブリーはDIOの館に踏み入った。


544 : 人形は真実を語らない ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/31(日) 23:39:07 TH/mueL60


【B-6/DIOの館前/1日目/早朝】


【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)
[装備]:承太郎が旅の道中に捨てたシケモク@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ
[道具]:ディパック×2 基本支給品×2 ランダム支給品0〜2(確認済み)
     躯人形・クロメ@アカメが斬る! 帝具・死者行軍八房@アカメが斬る!
[思考]
基本:美学に従い皆殺し。
1:DIOの館に入る。
2:ウェイブと異形を扱う犬(イギー)は次に会ったら殺す。
3:少女(婚合光子)を探し出し殺す
[備考]
※参戦時期は死後。
※死者行軍八房の使い手になりました。
※躯人形・クロメが八房を装備しています。彼女が斬り殺した存在は、躯人形にはできません。
※躯人形・クロメの損壊程度は弱。セーラー服はボロボロで、キンブリーのコートを羽織っています。
※躯人形・クロメの死の直前に残った強い念は「姉(アカメ)と一緒にいたい」です。
※死者行軍八房の制限は以下。
 『操れる死者は2人まで』
 『呪いを解いて地下に戻し、損壊を全修復させることができない』
 『死者は帝具の主から200m離れると一時活動不能になる』
 『即席の躯人形が生み出せない』
※イギーに興味を抱きました。



【B-7/南/1日目/早朝】


【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:焦り、、疲労(中)
[装備]:練習着
[道具]:基本支給品、鏡@現実、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、コーヒー味のチューインガム(1枚)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、イギーのデイパック(不明支給品1〜3)
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す。
0:この場から逃げる。
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:今度はクソかッ!
3:イギーと一緒に行動する。
4:さっきの砂の人形みたいなのはワンちゃんの?
5:ウェイブさんと話す。
6:ロイ・マスタングを警戒。
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※イギーを「ただの犬」だと思っていましたが認識が変わってきています。
※イギーの名前を知らず、「ワンちゃん」と呼んでいます。
※『愚者』を見ました。
※幻想御手はまだ使っていません。
※ウェイブの知り合いを把握しました。


【イギー@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)、怒り
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:巻き込まれたくないが、とりあえず動く
0:いけ好かないあの男から逃げるしかない。
1:あの爆弾男は次に会ったら……。
2:広川をひでー目に遭わせてやる。
3:ジョースターたち(承太郎、ジョセフ、アヴドゥル、花京院)に会ったら髪を毟り、屁をかます。
4:田舎野郎(ウェイブ)に貸しを作るのも悪くはない。
5:ひでェ目にあったぜ。もう二度と人助け染みた事はしない。
6:ロイ・マスタングを警戒。
[備考]
※参戦時期はエジプトの砂漠で承太郎たちと合流する前からです。
※『愚者』の制限については、後続の書き手の方にお任せします。
※穂乃果を犬好きだと見なしています。
※穂乃果の名前を聞きました。
※スタンドが普通の人間にも見えることに勘付きました。
※マスタングをスタンド使いだと思っています。
※白い男(キンブリー)をスタンド使いだと思っています。


【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:出血(小)、ダメージ(中)、疲労(中)、怒り
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。
0:男(キンブリー)を殺す。
1:他参加者(工学に詳しい人物が望ましい)と接触。後ろから刺されぬよう、油断はしない。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:首輪のサンプル、工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:仲間たちとの合流。
6:穂乃果と話す。この犬は後でシメる。
7:ロイ・マスタングを警戒。次会ったら斬る。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。


545 : 人形は真実を語らない ◆BEQBTq4Ltk :2015/05/31(日) 23:40:23 TH/mueL60
投下を終了します


546 : ◆BLovELiVE. :2015/05/31(日) 23:58:35 sqycrGx.0
投下乙です
ウェイブはクロメの死を知ったか。やっぱり八房はえげつないなぁ
そしてもうひと波乱起きる予感のDIOの館、後藤も向かっている場所だけどどうなるか…

それでは自分も投下します


547 : だってだって噫無情 ◆BLovELiVE. :2015/05/31(日) 23:59:46 sqycrGx.0
「ねえ、海未ちゃん」
「ん?」

神田明神の神社の傍。
どうして自分がここにいるのか、海未は覚えていない。
いつもならば穂乃果も含めた3人でいるはずだというのに、何故自分とことりの二人だけなのかもよく分からない。

そんな状況で、ことりがふと話しかけてきた。

「私達って、いつまで一緒にいられるんだと思うかな?」
「留学のこと、まだ気にしているのですか?」
「そう、なのかな…。あれからあの秋葉原でのライブ後に言ったこと。何かあの一件の後でどうしても意識しちゃって」
「無理もありません。でも、少なくとも今、μ'sとしてみんなといるこの時間は、ことりも穂乃果も、そしてみんな離れることはないでしょう。
 ことりもそう決めたのでしょう?」

他愛のない話。
しかし穂乃果の前ではあまり表に出さないような話題だ。
”今”をひたすら突っ切る穂乃果の前で、あまりそんな先のことを相談する、というのも野暮だと分かっているのだろう。
それがあの時は逆効果になってしまったことは否定できないが。

それでも今ことりが離れることはない、と海未自身確信していた。
だからこそこうして明るい口調で話すことができる。

「さあ、帰りますよことり。明日も早いのですから」
「………」

と、早歩きで入り口の門をくぐって階段に足を伸ばした海未。
そこで振り返って気付く。

ことりが門の向こう側で立ち止まったまま、追い付いていない。
その傍で、立ち止まったまま顔を伏せている。

「…何をしてるのですか。早く帰りますよ?」
「…………ごめん、海未ちゃん。私、一緒に帰れないみたい」
「ことり?」

その時の海未には、ことりが何を言っているのか理解できていなかったのだと思う。

「忘れ物ですか?それとも何か落としてしまったとか――――」
「違うの、私が悪い子だったから…。自分だけ汚れてもみんなを帰せるなら、なんて、そんなこと考えちゃったから。
 μ'sは…9人いないとダメなのに、そんなことも私分かってなかったから……」
「ことり、何を言っているのですか…?」

ことりが何を言っているのか、海未には理解できない。
ただ、ここでことりと別れたらもう二度と会えないんじゃないかという不安が心の中に沸き上がってきた。


548 : だってだって噫無情 ◆BLovELiVE. :2015/06/01(月) 00:00:27 WFJqQZG20
だから門の向こう側からこっちに引っ張ろうと駆け寄って手を伸ばし。

しかしそれはまるで蜃気楼を掴むかのようにことりの体をすり抜けていった。

「えっ…」
「目が覚めたら覚えてるか分かんないけど、穂乃果ちゃんやみんなにごめんねって…。
 あと、海未ちゃんは死なないでね。ことりからの、最期のお願い……」
「待ってください、ことり……!」

気がつけばこちらに背を向けたことりの姿は遠く、手の届かない場所にあった。
それはダメだ、と。頭の中の何かが警告を発する。

どれだけ追いかけても、ことりの姿が離れていくのが速い。

最期に振り向いたことりが。

ニコリと悲しそうな笑顔を浮かべて見えなくなっていき。


(ことり――――――――――――――)




「…ん」

視界に入ってきたのは薄暗い室内を照らす明かり。
蛍光灯があるにも関わらず、ついているのは小さなライト一つだけ。

そんな空間だが、しかしそこがどこであるのかはよく理解していた。
音ノ木坂学院の保健室、そのベッドの上だ。

「…あれ?私はどうしてここに……」
「目が覚めましたか?」

カーテンが音を立てて開き一人の人間が姿を現す。
自分と同じくらいの身長の、制服らしき服を着た金髪の少女。

その顔を見て、意識が途切れる前の出来事を思い出す。

「あ、…そうでした。私、屋上で気を失って……」

屋上で助けを求める自分の前に現れた巴マミという少女。
彼女の伸ばした手を受け取った瞬間、それまで張り詰めていた緊張が解れ、そして同時に精神的な疲労が一気に押し寄せてきた。
その結果意識を失い、彼女の手でここまで運ばれてきたということなのだろう。

「無理もありません。あれだけのことがあったんですから。
 話はこの、サファイアという子から聞かせていただきました」
『どうやら今のところは心身共に健康の様子。安心しました』


マミの横で浮遊しながら胸を撫で下ろすような動きを見せるサファイア。
しかしそんなサファイアの様子を見る海未の心中は穏やかではなかった。


549 : だってだって噫無情 ◆BLovELiVE. :2015/06/01(月) 00:01:41 WFJqQZG20

「私は巴マミ。見滝原中学というところの3年生で、さっきも言った通り魔法少女です。
 園田海未、さんであってますよね?」
「はい…。あの、彼女は…、美遊ちゃんは……」
「あの子なら少し離れた空き教室に安置しておきました。さすがにあのまま放置はできませんでしたから」
「そう、ですか……」
『園田様、お気になさらず――というのは無理かもしれませんが、あまり気負いすぎないでください。
 全ては美遊様自身が決断なされたこと。美遊様に対して最も責を負うべきは一番近くにいた私なのですから』
「だけど…、私がもう少し何かしていれば、彼女は……」
『おそらく屍が一つ増えていただけです。そうならばむしろその方が私は園田様を責めたでしょう』

分かっている。
キング・ブラッドレイ。
あの男の出鱈目すぎる身体能力を間近で見たのだ。
支給品を失い無手に近い状態の自分があそこで何かできたとは到底思えない。

それでも、彼女の死に対する責任感が薄れるわけではないのだ。

そんな彼女の気持ちを切り替えようと、マミは別の話を切り出す。

「キング・ブラッドレイ…。確か名簿には同じ姓の人もいたみたいだけど……。
 園田さん、その男は何か言ってましたか?」
「確か…アメストリスという国の大総統についている、と言われていましたが。ただそのような国は聞いたこともなくて…」
「アメストリス…。確かに、私も聞き覚えがないわね……」
『もしかすると、平行世界なのではないでしょうか?』

サファイアが口にした言葉。
マンガやゲームでよく聞く程度の単語だ。

首をかしげる二人に、なるべく分かりやすく、しかし深入りした内容に触れない程度に説明するサファイア。

『ですから園田様と巴様の二人がいる世界と、あのブラッドレイという男のいた世界は別の世界であるのでは、ということです』
「…すみません、何を言っているのか頭がついていかないのですが……」
『まあ、そういうものだという程度に考えておけばよろしいと思います。
 …あと一応。あるいは園田様と巴様の二人もよく似た別の世界の住人、ということも考えられます。
 何かお二方にとっての特徴的なものとして思いつかれるものはありますか?』
「そう言われても…ねぇ……」

サファイアの問いかけに困ったような表情を浮かべるマミ。
もし特徴、などと問われたら自分達のような魔法少女のことを思い浮かべる。
しかし魔法少女はどちらかと言えば裏の世界の住人。
明らかに一般人にしか見えない海未が認識できるようなことではないだろう。

彼女の側からはスクールアイドルという、学校で行われているアイドルの部活が学生の間で広まっている、と聞いた。
しかし魔法少女としての戦いに明け暮れるマミはそういったことには疎く、判断基準にはし難かった。

特に急いで解明しなければならない案件というわけではないということでこの話は一旦ここで保留となった。


「それにしても、巴さんも魔法少女、なのですよね?」
「ええ。
 ……敬語なんていいですよ、あなたの方が年上なのですから」
「いえ、これはいつもの癖というか、誰に対してもこうなので。むしろ巴さんこそ年齢のことは気になさらないで口調を崩してもらっても大丈夫ですよ」
「それはさすがに…」
「大丈夫ですよ。こういうのは慣れてますから」
「そう…?」
「それで、話を戻させてもらいますが…」
「ええ、その通りよ。私も魔法少女なの。……でいいのかしら…」


550 : だってだって噫無情 ◆BLovELiVE. :2015/06/01(月) 00:02:06 WFJqQZG20

最後の言葉だけ少し小声になりつつもそう言うマミ。

『魔法少女、と言われてもどうも私達カレイドステッキによるものとは違う様子ですが』
「そうね、私達は魔女っていう人を食らう化け物から人々を守るために戦っているの」
「戦ってるって……、危なくはないんですか?」
「確かに危ないことよ。実際私自身何度も危ない目にあったし、戦い慣れしないうちに命を落としていく子達もたくさんいるって聞くわ」
「そうですか。…………私も、何かした方がいいのでしょうか…」

美遊のことを思い出して顔を伏せながらそう呟く海未。
皆がそうして戦っているのに自分ばかり守られ。その結果命を落とした少女だっているのだ。

「そういえばサファイアさん、さっきのアレで私も魔法少女に変身しましたけど、それで戦うことは可能なのですか?」
『…正直あれは少し不安定だった園田様を落ち着けるためのものだったのですが。
 しかし私自身少し気になっていることがあります。一度変身をお願いできますか?』
「はい…。分かりました」

と、ベッドの上から立ち上がってステッキを持ち。
そのまま動きを止めた海未。

『園田様?』
「あの、つまり変身するということはあの格好にもう一度なるということですよね?」
『そうなりますね』
「嫌ですよあんな破廉恥な格好!今は巴さんもいるんですよ?!」

あの水着にしか思えない露出度の衣装を思い出して顔を真っ赤にして声を上げてしまう海未。
一人であったこととそもそも変身自体が不意打ちだったためにあのような格好を許してしまったものの今はさすがに変身はできない。

『ふむ、どうしても、と仰られるなら衣装変化無しでの転身もできますが』
「最初からそっちをすればよかったじゃないですか!」
『魔法少女は形から入るものですので』

と、パッと小さく海未の体が光ったと思うと長い髪を後ろに縛るリボンが現れる。
衣装は音ノ木坂学院の制服のまま。ただそれでも海未にはなんとなく変身したのだという実感があった。

「変身はしましたが…。この後はどうすれば?
『そうですね、ではそこの机の上においてあるペン立てを攻撃するイメージを作ってください。
 ただしあくまでも小さなものでお願いします』
「攻撃……、こうですか?」

海未は自分の中での攻撃、弓を引く動作をイメージする。
矢を構え弦を引き放つ。その一連の行程を。

ピシュン

構えた指先から細い光が一本射出され、ペン立てを貫通、衝撃で机の上から落とした。
海未自身がイメージしていたのがもっと小さかったものなだけにその威力に驚き目を剥く。

「すごい…、こんなに―――――ッ…!」

しかし次の瞬間、腕を抑えて蹲る海未。
その腕にはまるで血管に沿うかのように青い痣が浮かび上がっている。

「園田さん?!」
『…やはりですか…。園田様、少し倦怠感が来るかもしれませんが了承ください』

サファイアがそう言うとまた海未の体から光が奔り、それは腕へと収束していった。
腕の痣が完全に消えたわけではないが、痛みはかなり楽になり起き上がろうとし。
しかし体を襲う怠けに立ち上がる足が縺れる。

「どういうこと?」
『私は本来魔力を運用する器官を体に備えた者にしか使えないはず。よって契約者の数も制限がありました。
 しかしこの場ではどうやら契約可能な者には制限がありません。無論私達自身の意志は関与しますが、いかなる相手とも契約が可能であるということにされていました。
 では、もしその魔力運用のための器官を備えていない者が私達を用いた場合どうなるのか。ここははっきりとしていなかったのでたった今確かめさせて頂きました』
「その結果が今の園田さんの怪我?あまり関心できたやり方ではないわね」
『こればっかりははっきりさせておかねばなりませんでしたので。申し訳ありません園田様』

謝罪の言葉を述べるサファイア。
しかし海未自身は意識がふわふわしているかのように目をトロンとさせて座り込んでいる。

『どうやらその器官を備えていない者に対しては別の器官を以って魔力を運用するようです。
 もしそれがそれに値し得るものであれば問題なかったのですが、園田様は本当に何も備えておりませんでした。
 結果、最も懸念していたものを運用に用いてしまいました』
「それって…」
『神経・骨格・筋肉・血管および血液・リンパ節、つまりは身体の物理的構造素体そのものをその器官と誤認させて魔力使用を行ったのです。
 しかしそれは言うなれば耐熱処理のなされていない水道管に直接熱湯を流し込むようなもの。魔力が肉体に少なくないダメージを与えてしまうことになります』


551 : だってだって噫無情 ◆BLovELiVE. :2015/06/01(月) 00:02:36 WFJqQZG20

ビクッ、と海未は体を震わせる。
たった今のそれだけでこれだけの痛みが奔ったのだ。もしあの時の美遊のように戦っていればどうなったか。

『再生そのものは体の治癒力を促進させることで、少なくない疲労と引き換えに可能でしょう。しかしそれでも体が受けたダメージは確実に蓄積されるでしょう。
 もしそのまま戦いを続けることがあれば、例え治癒したとしても摩耗した神経や血管は確実に脆くなり後遺症を残します。
 そしてもし一度に多大な魔力運用を行うことがあれば、全身の神経が焼き切れる可能性もあります』
「……」
『安心してください。先ほどのもの程度ならばまだ体には影響はないでしょう。
 ………園田様、偶然とはいえあなたとは契約を交わした間柄。どのように私を使用するかはあなたにお任せします。もし不要であるというならこの場で捨てていただいても構いません。
 ですが、もし先ほど言われたように戦うために私を使われるというのであれば、今言ったことを踏まえて、覚悟の上でお願いします』

もし責任感だけで戦いに加わり、戦いを続けようとするのであれば。
最悪死を、もし運がよくても腕や足に何かしらの後遺症を残してしまう可能性がある。

それは、スクールアイドルをしている海未にとっては小さからぬ代償だ。
決意が固まるはずもない。しかし―――

「だけど…、それでいいのですか?皆が、美遊ちゃんや巴さんが戦っているという時に、私一人だけそんな都合のいい……」
「園田さん」

自責の念から、どうしてものしかかってくるものがあった。
そんな海未に対して、優しくマミは肩に手を置いて語りかける。

「いいのよ、あなたのことは私が守るから」
「でも…」
「これは私自身好きでやってることだから。あなたのような戦う力のない人達を守るのが魔法少女だって。
 だから自分でそんな追い詰めるようなことはしなくていいの。あなたがしなければいけないことは、生きること。
 戦うことが必ずしも必要なわけじゃない。それだけは分かって欲しい」
「……はい」

ニコリ、と海未にティーカップを渡しながら、マミは微笑みかける。
自分よりも年下だというのに、こんなにも頼もしく強いようにも見える。

「巴さんは怖くないのですか…?そんな、命を落とすかもしれない戦いをすることが…」
「…もちろん、怖いわよ。だけど私は、それ以上に目の前で助けられるかもしれない命を亡くしてしまうことの方が怖い。
 だから戦い続けられるの」
『………』

まだ海未自身はマミの戦う様子を、力を見たというわけではない。
だが、そう語る彼女の背中には小さくない悲しみが漏れているようにも感じられた気がした。

「きっと、美遊ちゃんも何か背負った上で戦っていたはず。
 少しキツい言い方になってしまうけど、あなたにその覚悟はあるの?」
「………」
「いいのよ、私のことは。だから、あなたは生き延びることだけを考えて欲しい。
 戦うことじゃなくて、生き延びることを。ね?」
「……はい」

完全にもやもやが晴れたわけではない。しかしそれでも海未は小さく頷いた。

そこからは一通りの知り合いのことについての情報交換をしながら、海未の疲労回復と精神を落ち着けるための休息をとっていた。
これからどうするのか、ということに関しては、もしかしたら自分の友達が集まってくるかもしれないこの場所に待機したいと海未は言った。


552 : だってだって噫無情 ◆BLovELiVE. :2015/06/01(月) 00:03:56 WFJqQZG20

「そういえば、さっき言っていたけどあなたの言っていた魔法少女認証、それって私のような存在にも使えるのかしら?」
『試してみなければ何ともいえません。実際巴様のその魔力運用機能がこちらのものと代用が可能かも検証してみなければ』
「そうね。なら、善は急げということで――――」

ガタン

その時だった。
音ノ木坂学院の中、保健室からそう距離のある場所ではないところから何か大きな音が響いてきたのは。

「…!何の音?!」

一瞬で姿を魔法少女へと変化させその手にマスケット銃を作り出し臨戦態勢を整えたマミ。

音は一度だけ。それ以降響いてくることはなかった。
何者かが争っていた、というには音が一瞬すぎる。
あるいは気のせいと判断することも可能なはず。

だが、もし何者か危険人物がここにいたのだとしたら。

「…園田さん、付いてきてもらっていい?」

危険な場所に連れて行くのは気の進む行為ではない。
しかし逆に手元から離れてしまうと別の危険が及んだ時に守り切ることができない。

ならば、自分の傍にいてもらった方が守りやすい。

「私が付いていって大丈夫なのですか…?」
「そうね、大丈夫じゃないかもしれない。だけどそれはここで待っててってお願いしても同じ。なら一緒に来てくれた方が私もあなたのことを守れるから」
『では、私は園田様の髪の中で待機を』
「ちょっ、何か気持ち悪いです…!」
「園田さん、あの音のした場所、どこか分かるかしら?」
「この近くだとすると……、職員室辺りかもしれません」
「そう。分かったわ。じゃあ気を付けて」

銃を構えつつ廊下を覗きながら、マミは何者かがいるかもしれない職員室へと向けて駆けていった。
その後ろに自分が守るべき、無力な人を背負って。



死ぬこと、間近に触れた殺意に対する恐怖は払拭できたわけではない。

ただ、目の前で人が死ぬことに対するそれも大きなものだった。
もし自分に何かできるのであればその恐怖も克服できるのではないかと思っていた。

だけど、力の代償に失うだろうものはとても大きなもので。
死と隣合わせにされた今でも、それを失うことも恐れている自分が情けなかった。

そして。

(……どうしてでしょう…、胸騒ぎが止まりません…)

嫌な予感ばかりが脳裏をよぎってしまう。
もしここに連れて来られているらしい皆が、もしキング・ブラッドレイや、それに並ぶような危ない相手と出会っていないか。

そればかりが不安だった。

(みんな…どうか生きていてください……)

未だ拭い切れぬ不安を抱いたまま。
海未は目の前を走る魔法少女の後ろについて、見慣れたはずの、しかし全く知らぬ場所にある校舎内へと足を踏み出した。


【G-6/音ノ木坂学院内/黎明】

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:変身状態、マスケット銃
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・行動]
基本方針:夢と希望を叶える魔法少女として在る。人を守る。
1:校舎内の物音のした方(職員室)へと向かう。
2:園田海未を守る。
3:身を守るすべのない人を助けたい。
4:名簿内の知人が気になる。
[備考]
*参戦時期はテレビ版2話終了時あたり。


【園田海未@ラブライブ】
[状態]:疲労(大)、足に擦り傷
[装備]:
[道具]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、基本支給品(美遊)
[思考・行動]
基本方針:死にたくない
1:巴マミと共に行動する。
2:μ'sの皆を探したい。
[備考]
*サファイアによってマスター認証を受けました。
*サファイアの参戦時期はツヴァイ終了後です。

*美遊の死体は音ノ木坂学院の空いた教室に運ばれました。


*カレイドステッキによる転身、魔術行使について
マスター認証、転身までは登録すれば誰でも可能です。
しかし魔術行使の際に魔術回路、あるいはそれに替わる機能を体が備えていない場合血管や神経などの人体における物理的構造素体を魔術回路へと疑似承認させて魔力行使を行います。
もし一般人が幾度も魔術を使用することがあれば命に関わるでしょう。


553 : ◆BLovELiVE. :2015/06/01(月) 00:04:34 WFJqQZG20
投下終了です


554 : 名無しさん :2015/06/01(月) 00:21:55 y5PWbtOk0
投下乙です!

非日常の中で揺れ動く一般人の心情が繊細に書かれていました。
ことりの死など、この先、海未には色々と苦難がありそうですが頑張ってほしいところ。

そして海未マミ。
年下のベテラン魔法少女と年上の新米魔法少女という少し奇妙なこのコンビ。
この先いったいどうなっていくのか楽しみです。


555 : 名無しさん :2015/06/01(月) 00:36:15 y5PWbtOk0
途中で送信してしまった!

>人形は真実を語らない

こちらも投下乙です!

ウェイブはやっぱり主人公キャラだなあ。
でも、いきなりこの状態のクロメとであってしまったか……。

対してキンブリーは正しくヒール。
帝具の恐ろしさと合わさり悪役としての風格がありました。

因縁が生まれてしまったが、この先は果たして。


556 : 名無しさん :2015/06/01(月) 02:06:50 KRn/v.F20
投下おつです
今回のウェイブが審判戦のポルナレフと重なって切ない
イギーもスターダストクルセイダーズの一員なんだよなと実感
穂乃果もサポートできてて安定感のあるパーティーに見えました
キンブリー悪いやっちゃ

さすがにリスク無しで魔法行使はできなかったか、一般人に厳しいロワだ
マミも戦闘では強いけど精神が強くないだけに、海未とサファイアが支えてほしいって思える内容でした


557 : 名無しさん :2015/06/01(月) 17:00:23 bk01cuo20
投下乙乙!

まぁクロメのやってた事は因果応報ではあるんだけど、仲間としてそこは憤るべきだよなあウェイブ
キンブリーが清清しいまでの外道で見てて爽やかだ、ホントに楽しそう
イギーと穂乃果のアシストもナイス、だが近くに後藤さんと因縁の相手ペットショップがいるが果たしてこの危険地帯から脱出できるか

ことりちゃんとの夢での再会が物悲しい、もう九人揃うことは決して無いんだなぁ
海未ちゃんは魔法少女にリスクが伴う事を知って、その時が来たときどう選択するのか楽しみだ
マミさんには形態の違う年上の魔法少女の後輩を引っ張っていって欲しい、本人も超特大の地雷持ちだけど


558 : 名無しさん :2015/06/01(月) 22:07:41 BxciSSdI0
投下乙ですー

さすがキンブリー、強い&見事なヒールっぷりだ。ウェイブもグランシャリオ取り戻せば勝てるんだろうが持ってるのがDIO様だからなあ
近くにはイギー捕捉したら間違いなく襲いかかってくるであろうペットショップがいて、さらに最強のパラサイト後藤も向かってきている
苦境は続くが三人には頑張って欲しい所

ことりちゃん…もう現実の世界では会えないんだな…
もうすぐ放送でそれを知ることになる海未ちゃんだがなんとか踏ん張って欲しい。
そして地味に近くにいるであろうマキシマムが怖い


559 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/06/01(月) 23:29:03 p5ivwEDg0
もう彼女達が揃うことは無いんですね……
戦う力を手に入れたけどその力は焼き付け刃で振るうにもリスクが必要で
先輩であるマミさんは頼れるけど頼りすぎると空回ってしまう……先が不安だ

短いですが投下します


560 : その一歩が遠くて ◆BEQBTq4Ltk :2015/06/01(月) 23:30:59 p5ivwEDg0

七十一人。
会場に集められた自分以外の参加者は七十一人である。
その数は一学級の数を超えており、会場に満遍なく行き渡っている。
全員を殺すには多大な時間が掛かるが殺し合いの名目を打たれている以上自分以外にも乗り気な参加者が居る筈。
赤い瞳の少女もまた優れた戦闘能力を保有しており、会場に居るのは一般人だけではない。

超能力者が複数人居るのだ、他の参加者もまた優れている人材なのだろう。
彼らが衝突し合えば脱落者は必ず誕生する。
つまり御坂が七十一人全員を殺さなくても願いは叶う。
最も最後の一人になる以外願いを叶える方法は無く、その場所には友も仲間も存在しない。

最後の一人だけが願いを叶えられる。故に殺すのは自分以外。
大切な仲間も殺さなければならない現実を彼女は知っている。
直視したくないその現実から彼女は瞳を逸し時間が解決してくれることを祈っていた。


「誰も死んでほしくないってのは当たり前。でも退けない」


私はまだ手を汚していない、でも退いたら自己嫌悪で死んでしまう。
御坂には叶えたい願いが生まれてしまった。誰も祝福していない黒い夢。
その夢を見るためには屍を築かなければならない修羅の道。
踏み外すことの出来ない最初で最後の夢物語を実現するには総てを殺さなければならない。

この手は汚したくない。知り合いならば尚更であるが願いは叶えたい。
甘い、けれど覚悟は出来ている、それでも殺しを進む自分が嫌いだ。
助けて、されどその声、腕を握ってくれる救世主は近くに居ない。

代わりに現れたのは男性であり年は決して若くない。


「やぁお嬢さん」


優しい声で語りかけるもその腕には傷が残っていた。
出血こそしていないが戦闘の名残を簡単に連想させる。
それも本人が比較的元気でいる辺り、撃退したか勝利したか殺したか。
この会場に勝利の美学を求める人間、スポーツマンシップな人間がいるとは思えない。
つまりこの男性は生死は問わないにしろ誰かと交戦を行い勝利/殺した人間と推測する。


「やぁ、ってこの状況でよく言えるわね……ッ」

「――錬金術か?」


この男性は自分を偽って私に接触してきた。御坂は思う。
大方油断した所を殺そうとしたのだろう。質が悪く反吐が出る。

精神が不安定である御坂の思考は常識を逸脱している。
少しでも怪しい素振りを見せればその疑惑は真実味の無い核心に変わってしまうのだ。
しかし。


561 : その一歩が遠くて ◆BEQBTq4Ltk :2015/06/01(月) 23:31:49 p5ivwEDg0


「錬金術ってそんな古いモンじゃないわよおじさん、これは超能力」


暗闇を走る雷光の煌きはとても美しく儚い。
見惚れてる程の輝きではあるがその性質は他者を殺す裁きの雷。
直線上に迫る電撃を男は最小限の横の動きで回避すると己を駈け出した。


(ノーモーションで錬金術を使うとはな……超能力と言ったが)


剣を取り出したブラッドレイは目の前の少女の力に驚いた。
全く予備動作を見せずに電気を発現したその力は絶大なモノである。
彼女曰く錬金術ではないらしいがそれでもその力には惹かれるものがあった。
鋼の錬金術師と言い最近の若者は実に人間離れしているようである。


「アンタも躱すんだ」

「では私以外にも電撃を躱す人間がいたのか」

「さぁどうかしらねッ!」


懐に迫るブラッドレイに対し御坂は己の筋肉を電撃で刺激し一時的な加速を帯びた蹴りを叩き込む。
初速は完全に少女の限界を超えており謂わば奇襲の一撃である。
しかしブラッドレイはこの一撃さえも首を捻り躱してしまう。
そのまま剣の柄で御坂の腹に一撃を叩き込み、更に足を払い彼女の体勢を崩す。

攻撃により液体を少し大地に吐き出した御坂は電撃を放出させる。
自分を中心に放つ広範囲の一撃を躱す術は早々無い。


「本当に強い力を持った少女だ」


ブラッドレイは後方へ飛ぶと剣を大地に突き刺した。
次に力をある程度込め土と一緒に剣を抜き上げる。
空中に舞う土達は迫る電撃を防ぐ即席の盾となりブラッドレイを守った。
しかし総てを防げるわけではないが少しでも防げれば充分である。


「その年でよくそんなに動けるわね……」

「これでも全盛期よりは劣っているのだよ」


それこそ信じられないと思う御坂だが目の前の男は電撃を躱し続けている。
攻撃された影響で腹を抑えているが倒れてはいられない。
願いのためにもこんな所で倒れる訳にはいかないのだ。

少しだけ。
ほんの少しだけ目を離していた隙に男は大分此方に近づいていた。

「しまっ――」


562 : その一歩が遠くて ◆BEQBTq4Ltk :2015/06/01(月) 23:32:59 p5ivwEDg0

剣先は御坂の頬を掠り血が遅れて流れる。
右腕は男の左腕に掴まれ無防備な状態に晒され武器になるコインも取り出せない。
この会場には彼女の知らない人間が多すぎる。
最初に出会った赤い瞳の女も生身で電撃を躱す巫山戯た存在だった。
そしてこの男も。


「少し大人しくして貰おうか雷光の錬金術士」

「私は錬金術なんて使ってないって言ったわよね? これは超能力」

「この状況でも強がるか……まぁいい。
 ならば超能力とはなんだ、その力は一体なんだと言うのだ」

「アンタもしかして学園都市を知らないの? 私はその頂点に近い超能力者/レベル5の――」


学園都市、超能力、レベル5。
どれも聞いたことがない単語である。
だが不思議なことではない。この世に有り得ないなど存在しない。
未央やタスクから聞いた話とこの目で確かめたエンブリヲ。
どれもブラッドレイの体感した世界では感じ得なかった不可思議の現実。
今更電撃を操る少女が現れようが問題はない。
あるとすればこの状況だけか。


「御坂美琴だっての――ッ!」


掴まれているブラッドレイの腕に直接電撃を流し込む御坂。
ブラッドレイ、彼は見誤っていた。
腕を抑えれば電撃は使えないと判断していたが彼女の方が上手だったらしい。
素早く腕を離すが電撃は到達しており痺れが彼の左腕を襲う。

焦げてはいないが少しの間使用は不可能だろう。
距離を取り再度口を動かす。


「なにも私は君を殺そうとしていないのだよ」

「は? 信じられると思ってるの? アンタにその気は無いとしても私には叶えたい願いがある」

「それは私も同じだ。此処で潰し合っても意味が無い……違うかな?」

「……別れてスコアを稼ぐってことね」

「話が早くて助かる。分かっているとは思うが一人で全員を殺すには時間が掛かるのだ。
 私も無駄な殺生は好まんのでね。現に表は善良な参加者として振舞っているのだよ。
 こんな所でくたばる訳も行かなく帰る場所が私にはあるのでな」


563 : その一歩が遠くて ◆BEQBTq4Ltk :2015/06/01(月) 23:33:49 p5ivwEDg0

殺し合いを加速させる人間が潰し合うメリットは存在しない。
生存率は確実に上昇するが願いを叶えたい人物にとっては必要のない希望。

殺し合いと止める、なんて幻想は壊してしまえ。
邪魔だ、甘い夢を見るな、覚悟を持たない理想など捨ててしまえ。

「手を結ぶ……私はアンタをそれ程までに信用していない。
 でも此処で潰し合っても意味が無いのは理解しているの、私は誰もこ、殺せていない」

「決まりだな御坂君。私はこれから図書館に向かい協力出来そうな参加者と接触する。
 だから君は別の道を行ってくれると大変助かるのだがどうする?」

「分かったわよ……なら私はそうね、温泉にでも向かってるから文句は言わないでよ」

「私が文句を言う理由があるのかね? それでは頼むよ――」「ちょっと待ちなさい」


疑問が生まれること無くスムーズに進む会話。
両者互いに状況を把握しているからこそ、願いを求めているからこそ。

腕を振るい去ろうとするブラッドレイを御坂は止めた。
自分だけに喋らせといて自分のことを話さないこの男が気に喰わない。

「まず名前を教えなさいよ」

「名簿ではキング・ブラッドレイと記載されているが互いに無関係を装うのがいい」

「そうね。私はアンタみたいな奴と仲間だなんて思われたくない」

他者を襲う存在と知り合い。その情報が漏れると御坂に対する評価は最低になるだろう。
何れは総てを殺す道だが毒を拡散させる瞬間は今ではない。

「今は退くけど私達は何れもう一度殺しあう」

「そこまで君が生きていることを願わせてもらおう」

それが彼らの最後の会話。




564 : その一歩が遠くて ◆BEQBTq4Ltk :2015/06/01(月) 23:35:43 p5ivwEDg0

御坂と別れたブラッドレイは当初の予定通り図書館へと向かう。
左腕の痺れは大分解消されたが本調子には程遠い。

(御坂美琴……あの電撃は完成された一つの兵器)

彼女が操る電撃は速度、威力、範囲とどれも一級品であった。
この眼が無ければブラッドレイは確実にあの場で死んでいただろう。

錬金術とは異なる異形の力。
彼女も活かしておけばエンブリヲと同じような扱いが出来るかもしれない。

未知なる遭遇の次は更なる未知との出会い。
この会場に総ての常識は通用しないようである。

「凛と言い御坂と言い最近の若者は実に強い……君はどう思うかね、鋼の錬金術師」



【F-5/川岸/1日目/早朝】


【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、腕に刺傷(処置済)、左腕に痺れ(感覚無し、回復中)
[装備]:デスガンの刺剣、カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2(刀剣類は無し)
[思考]
基本:生き残り司令部へと帰還する。そのための手段は問わない。
1:図書館に向かいタスクらと合流。稀有な能力を持つ者は生かし、そうでなければ斬り捨てる。
2:プライド、エンヴィーとの合流。特にプライドは急いで探す。
3:エドワード・エルリック、ロイ・マスタングは死なせないようにする。
4:有益な情報、技術、帰還手段の心得を持つ者は確保。現状の候補者はタスク、アンジュ。
5:エンブリヲは殺さず、プライドに食わせて能力を簒奪する。
6:御坂は泳がしておく。
[備考]
※未央、タスクと情報を交換しました。
※御坂と休戦を結びました。
※超能力に興味をいだきました。



ブラッドレイは強い。
単純な近接戦闘ならば今まで戦ってきたどの相手よりも強い。
赤い目の少女よりも完成された肉体術であった。

自分の電撃は通用している。
だが生命には届かない。

覚悟はしているつもりだ。
だけど誰一人として殺せていない。

焦りが彼女の精神を黒く穢していた。



【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(中)深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟? 、吐き気、頬に掠り傷
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×14
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:温泉の方角に向かってみる。
1:黒子たちと出会わないようにする。
2:次こそ絶対に殺す。
3:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。


565 : その一歩が遠くて ◆BEQBTq4Ltk :2015/06/01(月) 23:36:38 p5ivwEDg0
投下を終了します


566 : 名無しさん :2015/06/01(月) 23:41:42 BxciSSdI0
投下乙です

殺意はあれどお互い目的に向けて冷静ではあるから一種の同盟関係を結んだか
両者共トップクラスの戦力でこれは厄介

温泉にでも向かってる>あっ…(察し)
ニーサン&みくにゃん逃げて超逃げて!


567 : 名無しさん :2015/06/01(月) 23:44:10 KRn/v.F20
乙でした
御坂誰も殺せていないのに確実に荒んでいってますねえ、大総統は流石に手慣れたもんだ。
さてはて大総統の左腕の痺れが今後どう響いてくるやら


568 : ◆QO671ROflA :2015/06/02(火) 00:14:51 HDg5ujxE0
投下します


569 : ヘミソフィア ◆QO671ROflA :2015/06/02(火) 00:15:57 HDg5ujxE0
その男───魏志軍は途方に暮れていた。
彼の周りでは、気が遠くなるくらい広大な闇が広がっている。

いつ終わるかわからない無限の暗闇の中で、魏は後悔していた。

つい30分ほど前、魏は偶然自分以外のゲーム参加者の一団と遭遇した。
魏は、何の躊躇いもなく彼らに手を掛けた。
この殺し合いゲームを真摯に受け入いれていた魏であったため、制圧は容易だった。

魏自身もある程度の消耗はしたが、リーダー格と思われる青年の殺害に成功した。
他の参加者らには逃げられてしまったが、これ以上の消耗を避けたかった魏にとっては好都合な事だった。

不都合はその後に生じた。

時を経たずして雲が次第に月を隠して行き、辺りが真っ暗になってしまったのだ。
現在位置を把握していなかった魏は、いとも簡単に道に迷ってしまう。

(あの戦闘の後……“あの男”を探し出すよりも、現在地を特定する事を優先すべきでしたね……)

契約者らしくもない後悔を浮かべながら、魏はとぼとぼと歩を進めた。







このゲームの参加者の一人である“黒”という男の存在が、魏を徹底的に焦らせていた。
 
遡る事、ゲームに参加する数ヶ月前。
魏は自身が所属していたマフィア《青龍堂》を完全掌握すべく、ボスの一人娘を利用してクーデターを起こした。
彼女自身、青龍堂を嫌悪していたため扱うのはいとも容易かった。

しかし、結果は魏の思惑とは裏腹に散々なものであった。

突如介入してきた《組織》のエージェント“黒の死神”らの乱入によって計画は破綻。
魏は、黒の死神の攻撃によって電撃を浴びてしまう。
今でも、その時に負った傷痕が痛々しく、彼の左半分を覆っている。

クーデター失敗後。
魏は命からがら逃げ延び、裏社会で“伝説の情報屋”とまで形容された凄腕の情報屋マダム・オレイユを尋ねた。
 
彼女より、「黒の死神が、《黒(ヘイ)》というコードネームを与えられていること」や「組織に密かに敵対し、行動を起こそうとしているイブニングプリムローズという別組織の存在」を知らされる。

黒に味合わされた屈辱を晴らすべしと、魏はイブニングプリムローズに接触を試みようとするも、突然意識を失ってしまう。
気付けば拘束されていて、『殺し合いゲーム』の説明を受けていた。
その長い説明も終わった後、魏は再び意識を失う。

目を覚ますと、今度は辺り一面不気味な草に覆われた草原に横たわっていた。

傍にはデイパックが転がっており、中からはそれなりに役に立ちそうな武器が何個か見つかった。

その中でもナイフが何本も見つかったのは、彼にとっては好都合な出来事だったと言えよう。

魏はすぐさまそのナイフで指先を切ってみた。
痛い。
痛覚が正常に機能している。
この馬鹿げた殺し合いは幻覚の類ではなく、本物の殺し合いに違いないと魏は確信した。

さらに、デイパックの底にあった参加者名簿から『黒』の名を見つけたことにより、彼の殺戮衝動は一層と奮い上がった。

かくして魏志軍は、この殺し合いに身を投じる事を決意したのであった。







そう思いたったまでは良かったが、問題はその後である。
彼は明らかに夜道に迷っていた。
引き返す事も考えたが、まずここがどこなのか分からない以上、それすらも叶わない。
かといってここで夜が明けるのを待つのは危険過ぎた。

今夜襲を受けてしまったら、ただでさえ先の戦闘で消耗している魏にはほぼ勝ち目は無いと言えよう。
今の魏には、デバイスのライトを頼りに暗闇を突き進む以外道はなかった。


570 : ヘミソフィア ◆QO671ROflA :2015/06/02(火) 00:16:19 HDg5ujxE0
かれこれ何時間歩き続けただろう。

月を隠していた雲も晴れてきて、徐々に視界は良くなっていた。

そんな折り、魏の視界を光を発する何かが遮った。
目を凝らして見る。
月光に照らされ発行するそれは、どうやら鍋のようだった。

(そう言えば、あの青年が構えていたのも鍋でしたね)

魏はその鍋に手を伸ばした。
鍋は欠けており、この痕から見てあのリーダーが手にしていたものと見ていいだろう。

(ようやく戻って来れましたか……)

魏は安堵した。
そのうえに、さらなる幸運が重なる。

鍋の下から、青年のものであろうデイパックを発見することができたのだ。
もっとも、デイパックの損傷は鍋以上に激しかった。
中でペットボトルが破裂したらしく、地図や参加者名簿・支給品の取扱説明書などは字が滲んで読めなくなっていた。
食料も到底食せるような状態ではない。

 
しかし、最後に見つかった見つかった双眼鏡と、眼鏡を掛けた女性の写真が写るIDカードが、彼の興味を一層惹き立てた。

「先進状況救助隊(MAR)隊長兼付属研究所所長 テレスティーナ=木原=ライフライン」という長々とした肩書。
その横の写真の右下に「3」という赤文字がでかでかと記載されている。

(このIDカードは……一体何なんでしょう?)

暫し黙考するも、彼の記憶に思い当たる節はない。

(とりあえず、IDカードは保留にしておいて……双眼鏡も、こんな暗闇では役に立ちそうもありませんが……)

念のためと、魏はデイパックの中からIDカードと双眼鏡を抜き取り、自身のデイパックの中に放り込んだ。

その時だった。
 
魏のいる場所からそう遠くない所に、月明かりとは違う光が見えたのは。

(あそこに、施設でもあるのか?)

魏は、すぐさまその光源へと駆け出した。


571 : ヘミソフィア ◆QO671ROflA :2015/06/02(火) 00:16:55 HDg5ujxE0
「能力研究所」
その建造物が地図におけるその施設である事を魏が知ったのは、屋内に入ってから数分後の事であった。
屋内に入るなり、まず目に入るのは妙に近代的な化学機器の数々であった。
その中には、時より裏社会で耳にする事のあるかなり大型のパワードスーツやドローンなど、今所持している武器よりも役に立ちそうな武器が相当数見受けられた。
そして、それら全てに共通する事は、どれも動かせないという事だった。
魏は何度もそれらに手を掛けたが、まるで機能する気配はなく、機器からは「認証エラー」という耳障りな機械音だけがひたすら連呼されるばかりである。

(あのIDカードはもしや、これらの機器のキーロックのような効果を果たしているのでは?)

魏はそうとも思ったが、現実は違った。
IDカードをまずどう使用するのか。IDカードを読み取るような挿入口などの設備はどこにも見当たらない。
魏は思惑が外れ舌打ちする。
そんな矢先、パワードスーツが成す列の後方部分に能力研究所のフロア見取り図の張り紙があるのを発見する。
そこには確かにその表記はあった。

《先進状況救助隊付属研究ラボ》

手元にあったIDカードを再度確認するが、やはり先進状況救助隊というワードが両者共に共通している。
しかもこの見取り図を見る限り、ラボまではそう遠くはないらしい。
元より夜をこの研究施設内で明かすつもりだった魏は、そのラボの方へ足を進めた。


572 : ヘミソフィア ◆QO671ROflA :2015/06/02(火) 00:17:54 HDg5ujxE0
研究所内に別のゲーム参加者が居ないか警戒しつつ、それでも可能な限り小径を駆け抜けた魏は、案外すぐにラボに足を踏み入れた。
どうやらあの青年ら一団はこの研究施設内には居ないようだった。
尤も青年の死体がなくなっていた以上、自分同様彼らは一度この付近まで戻って来て死体を何処かへ運んだのはほぼ明白な事実だったが。
となればそう遠くへは行っていないはず。
そんな疑念を内心浮かべつつ、魏はラボ内を渉猟する。
いざ入ってみたラボ内は、今までのフロアとは明らかに一線を画しており、ラボにはさっき見てきた物とは比べ物にならない程大型のパワードスーツが列を成していた。
パワードスーツは数機ずつに分割されて半透明な格納庫に収納されており、その格納庫だけでもラボの大部分の面積を占めているように思えた。
魏は、まずその格納庫へと足を運ぶ。
やはりそこにもIDカードが使えそうな設備は見当たらない。
相変わらずパワードスーツを無理やり動かそうとすると、「認証エラー」という機械音が耳に響く。

(まあ現在地も特定出来たわけですし、いいとしますか)

魏はその場を後にしようとする。
しかし帰り際、魏はラボにもう一つ部屋がある事を発見した。
そしてその部屋には銀色のプレートが貼ってあり、そこには「テレスティーナ=木原=ライフライン」の表記があった。

(この部屋かもしれませんね)

魏は再び片手にIDカードを持ち、その部屋のドアノブに手を掛けた。
「認証エラー」。もはや聞き飽きていたその機械音がまた響く。
だが今回は今までとは少し異なっていた。
ドアノブのすぐ上の部分が発光し、赤いポイントと「IDカードをかざしてください」という文字が表示されたのだ。
魏はIDカードをそこにかざす。
「テレスティーナ=木原=ライフライン、認証」
その機械音と共にギィというまた異なる耳障りな音を立てながら、その部屋の扉は開かれた。







その部屋はどうやら倉庫のようで、さっきのドア前のネームプレートを見た限り、あのメガネの女の個室と見て間違いないようだった。
部屋の中は相当な数の紙で散らかっており、その紙に大まかに目を通すと「能力体結晶」というワードが何度も書かれた、それは謂わばレポートのように思えた。
辺り一面、紙で覆い尽くされた部屋を更に奥へ進むと妙にスペースを取っているその機器はあった。
その機器の形状は電話ボックスに良く似ていた。
そして遠目でも分かったが、その機器にもあのドアで見たような赤いポイントと「IDカードをかざしてください」という文字が表示されている。
魏はその機器にすぐさま足を運ぶ。
ただその機器に関しては、さっきまで見てきたパワードスーツやドローンとは違い、使用用途がまるで理解出来なかった。

(IDカードでロックが解除出来そうな機器はこれのみのようですね。
もしやこれはあのパワードスーツ以上の効力を示すんじゃないのか?
そもそもこれしかIDカードが使えそうもない以上、使うに越したことはないですかね)

魏はIDカードをポイントの上にかざす。
「テレスティーナ=木原=ライフライン、認証」
ガチャッという音と共にキーロックは解除される。
その時、IDカードの数字が1に切り替わったのだが、魏はその事実に気付かない。
どうやらこの機器はドアの開け方まで電話ボックスと変わらないらしい。
魏はそのボックス内に入るやいなや、内側からはまるで見えなかったこの機器の使用用途をまとめた張り紙を目にする。
その張り紙を要約すると、
【この機器は物質転送装置であり、この機器を使用すればラボから武器庫まで瞬間的に移動することが可能】らしい。
随分と突飛な用途説明が書かれていたが、魏自身の契約能力の本質も【物質転送】であるだけあって、懐疑心は全く持たなかった。
寧ろ、魏の契約能力では自分自身の転送は出来ないのに対し、この物質転送装置はそれを可能にしているのだ。

(これを使えば、想像以上に黒と早く接触出来るかもしれませんね)

到底合理的とは考えられない契約者らしからぬ考えが魏の脳裏を過る。
それだけ魏志軍は黒に固執していたのだ。
魏は「能力研究所の付近にある筈のない地獄門(ヘルズゲート)が存在しており、黒は地獄門を目指しているので、このまま待ってさえ居れば遭遇する可能性が高い」という現状を無視し、感情論に走った。
再び内側に赤いポイントと青いポイントが表示される。

【転送を実行しますか?実行なら赤を。キャンセルなら青をタップしてください】

魏は何の迷いなく、赤をタップした。
刹那、魏の身体は青白いポリゴン片と化し、次第に転送が始まった。


573 : ヘミソフィア ◆QO671ROflA :2015/06/02(火) 00:18:38 HDg5ujxE0
【F-2(→A-4)/能力研究所(→武器庫)/1日目/黎明】


【魏志軍@DARKER THAN BLACK黒の契約者】
[状態]:健康(顔に火傷の傷)、黒への屈辱、右腕に傷(止血済み)
[装備]:DIOのナイフ×9@ジョジョの奇妙な冒険SC、スタングレネード×2@現実
[道具]:基本支給品×2(一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲、暗視双眼鏡@PSYCO-PASS、ランダム支給品(確認済み)(1)
[思考]
基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する
1:BK201(黒)の捜索。見つかり次第殺害する。
2:合理的な判断を怠らず、消耗の激しい戦闘は極力避ける。
[備考]
*テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。
*上記のIDカードが効力を発揮するのは、本パートの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。
*暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能のないごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。


【物質転送装置@オリジナル(世界観:とある科学の超電磁砲)】

テレスティーナ=木原=ライフライン率いるMAR(先進状況救助隊)が独自開発した機器。
学園都市における空間転移系能力者の能力を解析し、それを応用している。
2つの機器でワンセットとなっており、片方から片方へ指定した物質を転送する事が可能。
転送の過程で時間にロスが生じ、送る側から送られる側へのロスタイムは大凡30分である。
1つは能力研究所内のテレスティーナのラボにあり、もう1つは武器庫内に設置してある。


574 : ◆QO671ROflA :2015/06/02(火) 00:19:08 HDg5ujxE0
投下終了です


575 : 名無しさん :2015/06/02(火) 00:23:03 fAGeSiZc0
乙でした
各施設のカラクリが動き始めた感じですね
魏志軍がどこに向かうか楽しみです、承太郎に遭わないことを祈ろう


576 : ◆w9XRhrM3HU :2015/06/02(火) 00:59:19 gdxovQVg0
投下乙です
エルフの人は黒の近くまで来ましたか
因縁の再戦なるか、出会えぬまますれ違うか
南下するか否かで彼の出会う参加者もがらりと変わる美味しい位置に飛びましたね

自分も投下します


577 : マッド・スプリクト ◆w9XRhrM3HU :2015/06/02(火) 01:01:11 gdxovQVg0
「撒いた、のか……?」

あの赤い髪の少女の姿はもう見えない。
キリトはその事に安堵し、そして自己嫌悪に陥る。
メイドの少女を斬った感触が手にこびり付く。あの時の少女の苦しそうな顔は忘れられない。
死は何度か見てきた。だが、今回の死は何かが違う。
死の重みに押しつぶされそうになる。自分の足で立つことすらままならないほどに。

「俺、は……」
「君! どうしたんだ!?」

今のキリトの顔は、余程酷いものだったのだろう。
心配そうな表情をしながら、一人の男性がこちらに駆けてきていた。
高級そうなスーツを纏い、長髪の髪が印象的な男性だ。
彼はキリトの元に寄ると、少し戸惑いながらも口を開いた。

「何があったんだい? ただごとではなさそうだが」
「それは……」

言い出せるわけがない。人を殺した事など。
自然と村雨を握る手が強まる。刀を振るって怯んだ隙に逃げれば……。
だが、それでどうする。いずれ、この罪と向き合わなければならないのに。
けれども、キリトの頭は今まともに思考できず、ただ逃げることだけを考えてしまう。

「言いたくないのかい?」

男性はそんなキリトの思いを察してか、無理に話を聞こうとはしない。

「でもね。君はその苦しみを、誰かに聞いて欲しいと思っているんじゃないかな?」
「そんな、ことは……」
「君が、何をしていようとも構わない。私は受け入れよう。だから、無理にとは言わないが話してみてはどうかな?」

気付けばキリトの瞳から、涙が溢れ出していた。
この場に来て、初めて出会えた頼れる大人。それがキリトの知らぬ内に、安堵感を増していたのかもしれない。
全てを話す。最初に出会った少女との誤解、殺めてしまった少女のことを。
男性は黙って話を聞き続けた。

「そう、か……」
「俺、最低だ……」
「……辛かったね」
「え?」

男性はそっとキリトの肩に手を置いた。

「君は今まで良く頑張った」
「俺、俺……」
「泣いていい。君は今泣いていて良いんだ」

その手はとても暖かく感じられた。
男性は優しく微笑む。

「大丈夫だ。私が付いてる」
「う、……うわああああ……!!」

その優しさ温かさにキリトは涙を止められない。
ただ、ひたすら泣き続ける。
男性はキリトの背を擦りながら、何時までも見守り続けた。





578 : マッド・スプリクト ◆w9XRhrM3HU :2015/06/02(火) 01:01:41 gdxovQVg0
「すいません、見苦しいところを見せてしまって」
「気にする必要はないよ。誰しも苦しいときは泣いた方が良い」

数分経ち、赤くなった目を擦りキリトが謝る。
情状不安定になっていたキリトだが、思い切り泣いたお陰か落ち着きを取り戻せた。
最初の頃に比べれば随分と冷静にもなれた。

「俺、キリトと言います。貴方は……」
「私か……そうだな、だが名乗る前に君にいくつか話しておきたいことが……」

「死ね! エンブリヲ!!」

銃声が響く。
とっさに男性がキリトを突き飛ばし銃弾を回避する。

「エンブリヲ!?」

確かクロと名乗る少女と一緒に居た赤い髪の少女から聞いた名前だ。
メイドの少女を操った元凶。まさかこの男性が?
いや、それだけじゃない。
キリトは思わず目を疑ってしまう。何故なら、男性はキリトの目の前に二人居たからだ。

「どうなってるんだ一体……」
「キリト君、恐らく君が殺めた少女を操っていたのはこのエンブリヲだ!」
「どういうことなんですか!?」
「こいつはシャドウ! タスクという男が私の姿を模倣させた怪物だ!!」
「そう、私はエンブリヲ! タスク様からこの姿を頂いたのだ!」

シャドウの方のエンブリヲが銃を発砲する。
エンブリヲが銃弾を避けて行く。
しかし、その動きはぎこちない。放って置けば人間のエンブリヲが殺されるだろう。
キリトは意を決し刀を握り、シャドウのエンブリヲへと躍り出る。

「やめろぉ!」

刀がシャドウのエンブリヲの髪と服を掠る。
舌打ちしながらシャドウのエンブリヲはキリトから飛び退く。

「おのれ、私の邪魔を……タスク様の為に奴は殺さねばならないというのに!」
「お前が、あのメイド服の娘を?」
「ああ……モモカのことか? お笑いだったね、君が出しゃばらなければ彼女は死ななかっただろうに」
「シャドウよ! それ以上の戯言は許さんぞ!」

声を返すより速くキリトが肉薄し刀を振り上げる。
シャドウのエンブリヲはニヤリと笑い、姿を変えた。

「俺を殺すのか? キリト」
「なっ!? 俺……?」

その姿はエンブリヲのものから黒い剣士、キリトのものへと変わっていく。
ただ一つ、酷く歪んだ狂気染みた笑顔を除けば。


579 : マッド・スプリクト ◆w9XRhrM3HU :2015/06/02(火) 01:02:10 gdxovQVg0

「そうだよなぁ? お前は人殺しだもんなキリト……」
「ち、違う……俺は……」
「俺はお前なんだよ。だからお前の事は良く分かる。お前は……」
「止めろ!!」
「いかん! キリト君、否定するな! それは―――」

「お前は、俺なんかじゃない!!」

シャドウのキリトはその言葉を聞き、笑う。
闇がシャドウの周りに充満していく、その姿はキリトの整った容姿を歪め、そして異形の怪物へと変化する。

「我は影、真なる我」

闇が消し飛び姿を露にしたそのシャドウの姿は見るのも耐え難い醜悪すぎる巨大な化け物。

「何だ……こいつ」
「遅かったか! おのれタスク! こんな場所でもシャドウを……!」

化け物はキリトへと向かい、その手を振るう。
如何にアバターの体と言えど、そのまま潰されれば一瞬でHPが0になるであろうそれを、エンブリヲが割り込みシールドを張った。
手が触れた瞬間、シールドが罅割れ、シールドを支える両手から血が吹き出る。

「え、エンブリヲさん……」
「キリト君、こいつは君の影だ!」
「影……」
「こいつを倒すには、君自身がその影を認め、先に進む意志を見せなければならない!」

エンブリヲの顔が苦痛に歪む。シールドはそう長くも持たないだろう。

「行け! キリト君! 君なら絶対に出来る!!」
「なんで、そこまで……」
「決まってるだろ。子供を守り、その背を押してやるのは大人の仕事だ」

キリトの体に強い力が漲ってくる。
そうだ。ここで腐っていて何になる? また誰かを、自分を許し、こうまで信頼してくれている恩人を死なすのか?
否、そんなことさせない。もう誰も死なせたくない。
あれが自分の影だというならば認めよう。だけど―――

「だからこそ、もう誰も殺させない!!」

キリトが駆けシャドウの頭上へと飛び上がる。
一気に刀を振り上げ、一斬必殺村雨が妖しい剣閃を奔らせた。

「ば、馬鹿なぁ……」

一筋の剣閃は見事にシャドウを一刀両断し、その醜悪な姿が消滅していく。
無念そうに怨念を込めた悲鳴を上げ、僅かに残った腕をキリトへと伸ばすが届く前に無へと還す。

「俺の、影……」

消えて行く自身の影、これは映し鏡のようなものだったのかもしれない。
もし、キリト一人でこれと対峙していれば今頃は死んでいた。

「世話になりっぱなしだ、俺」

自嘲してしまう。だがもうそれも終わりだ。
急いで、エンブリヲの元へ駆け寄る。
手からの出血は酷いが、幸い怪我はそう深くない。

「良くやった。キリト君」
「エンブリヲさんのお陰です……エンブリヲさんが居なかったら」
「それは違うな。君の道を切り開いたのは、君自身の意志だろう? 私はただ考える時間を稼いだだけさ」

それから傷の治療をし、エンブリヲから話を聞いた。
シャドウと呼ばれる化け物、それらを操り暗躍していたタスクなる非道な男。
更にエンブリヲの妻アンジュを狙い、延々とストーカー行為を繰り返したどころか陵辱までしでかした。
それだけじゃなく、エンブリヲの悪評を広める為に、シャドウをエンブリヲに化けさせ悪事を行わせるなど、聞けば聞くだけ最低な男だ。
キリトは嫌悪感で背筋に嫌なものが走った。

「奴は倒さねばならないが、その力は強大でもある」
「なら、俺も手伝います!」
「キリト君?」
「俺も一緒にタスクを倒します!」
「そうか、すまない。だが、ありがとう」

そう言い笑うとエンブリヲはキリトへ手を差し伸べる。

「これで、君と私は仲間だ」
「はい!」

強く手を握り合う。
こうして孤高の黒の剣士は唯一無二の仲間を得た。






580 : マッド・スプリクト ◆w9XRhrM3HU :2015/06/02(火) 01:03:25 gdxovQVg0



(最高の脚本、最高の演出、最高の役者。全て完璧だ)

キリトに悟られぬよう、エンブリヲは笑い出すのを堪えるので必死だった。
シャドウなど全て嘘だ。鳴上から引き出した情報から、分身をガイアファンデーションで化け物に変え、全てでっち上げた出鱈目。
この場にシャドウなど居ない。

(モモカを失ったのは痛かったが、こうして手駒は増やせばいい。
 フッ、彼の戦闘力は高いからね。味方にするだけの価値はある。しかも変わった体をしているお陰か死に辛いらしい。これ以上ない手駒だよ)

その万能の力だけでなく、人心掌握もまたエンブリヲの得意とするもの。
少なくとも、今のキリトにエンブリヲの嘘を見越せる余裕はなかったとエンブリヲは思う。

(いや一つだけ本当の事があったな。アンジュの陵辱、これだけは事実だ。あの猿め! 何故アンジュを抱いたのだ……!!
 ……アンジュ待っていてくれ。手駒を揃え、邪魔者を排除したらすぐに君を迎えに行くよ)

ティバックの中がモゾモゾ動く、まだ鳴上は抵抗を続けているようだ。
感度を更に高める。聞こえないが、鳴上は更なる喘ぎ声を上げていることだろう。
いや、あまりの快感にまた失神したのかもしれない。

(エンブリヲ……!)

ペルソナすら出せないほどの感度の中、エンブリヲへの憎悪だけを募らせ鳴上の意識は闇に落ちた。





(そうか、やっと分かった。今のも全部イベントなんだな)

キリトは確信する。
先ほどのシャドウもこのエンブリヲも、ゲームのイベントなのではないかということを。
考えれてみれば、出来過ぎていた。殺し合いの惨劇を目の辺りにしたと思えば、このような助っ人が登場しプレイヤーの覚醒を促すなど都合が良すぎる。
まるでゲームのシナリオそのものだ。
つまりキリトは今プレイヤーとして、ゲームのストーリーを進めているのだろう。
広川は王道的なゲームが好きらしい。
そうなるとタスクというのは、当面の倒すべきボスになるはずだ。

(多分、PC(プレイヤー)とそうでないNPC(ノンプレイヤーキャラ)が混じっているに違いない。
 エンブリヲさんはPCに有益な情報をくれるNPCだな。タスクって奴はボスキャラで倒せば、何かアイテムが貰えるのかも)

ここはあまりにもアバターの性能に差がありすぎる。
キリトと互角の戦いをしたクロはまだしも、ヒルダ、千枝はキリトと殺しあうには弱すぎる。
あの最初に出会った少女も、キリトがこのゲームに不慣れでさえなければ銃弾を食らうこともなかった。
これはプレイヤーの技術以前に、アバターの性能差自体がプレイヤー間の殺し合いとして、ゲームバランスを壊しすぎているのだ。
だから弱い、あるいは強すぎるアバターがNPC、逆にキリトと同じ強さのアバターはPCと考えられる。

(このゲーム、殺し合いと見せかけているだけで、本当は何か別の方法でのクリア方法があるんじゃないか?)

これがゲームならばキリトのすべき事は一つしかない。
ゲームをクリアし、生還することだ。
キリトはNPCと接触し情報を集め、エンブリヲの言うタスク等のボスキャラを倒していけば
このゲームは殺し合いに優勝しなくとも、クリア出来るのではないかと考える。
いわば、これは広川によるキリトやその他のゲームプレイヤーへのゲームでの挑戦なのだ。

(多分あのメイドの娘もNPCだ。騙されるところだった、俺は誰も殺してなんかいないんだ。
 へこたれてる暇なんかない。早くこんなゲーム終わらせないと)

ソードアート・オンラインと同じだ。
殺し合いの優勝などというのはフェイク。誰かがクリアすることでこのゲームは停止するはず。
そうでなければ、このようなNPCやイベントを混ぜるはずがない。
キリトはそう結論付け、歩を進めた。


エンブリヲのミスは一つ。キリトの心を虜にする為に、下手に非現実な演出を入れたことだ。
これがかえって、キリトにこの世界が電脳でありゲームであると再認識させてしまった。
まさに最悪の脚本(マッド・スプリクト)と言うべきだろう
少なくとも、モモカを殺害しエンブリヲに全てを話した時までは、キリトはこの世界が本当にゲームなのかと疑っていたのだから。
だがエンブリヲの手によって、その当人すら知らぬ間にキリトの懸念を消し飛ばしてしまった。

彼が真実に気付くのは何時になるのか、誰も知らない。


581 : マッド・スプリクト ◆w9XRhrM3HU :2015/06/02(火) 01:03:54 gdxovQVg0


【F-7/1日目/早朝】

【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(極大)、服を着た、右腕(再生済み)、局部(服の下で再生中)
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2
[思考・行動]
基本方針:アンジュを手に入れる。
1:悠のペルソナを詳しく調べ、手駒にする。
2:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
3:タスク、ブラッドレイを殺す。
4:サリアと合流し、戦力を整える。
5:キリトを利用する。タスクの悪評もたっぷり流す。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
 分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※能力で洗脳可能なのはモモカのみです。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。
※キリトが自分を慕っていると思っています。


【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:失神、全裸、疲労(絶大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:仲間と合流して殺し合いをやめさせる。
0:…………
1:エンブリヲから逃げる。
[備考]
※登場時期は17話後。現在使用可能と判明しているペルソナはイザナギ、ジャックランタン。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。



【キリト@ソードアート・オンライン】
[状態]:HP残り5割程度、魔力残り4割
[装備]:一斬必殺村雨@アカメが斬る!
[道具]:デイパック 基本支給品、未確認支給品0〜2(刀剣類ではない)
[思考]
基本:このゲームをクリアし殺し合いを止める。
1:NPC(ノンプレイヤーキャラ)と接触しイベントや情報を集めていく。
2:PC(プレイヤーキャラ)は保護。
3:エンブリヲと同行しボスキャラ(タスク)を倒してからアイテムか情報を得る。
[備考]
名簿を見ていません
登場時期はキャリバー編直前。アバターはALOのスプリガンの物。
ステータスはリセット前でスキルはSAOの物も使用可能(二刀流など)
生身の肉体は主催が管理しており、HPゼロになったら殺される状態です。
四肢欠損などのダメージは数分で回復しますが、HPは一定時間の睡眠か回復アイテム以外では回復しません。
GGOのスキル(銃弾に対する予測線など)はありません。
※村雨の適合者ではないため、人を斬ってその効果を発揮していくたびに大きく消耗していきます。
魔力から優先して消耗し、もし魔力が尽きればHPを消耗していくでしょう。
※殺し合いがゲームだと認識しました。
※優勝以外の方法でクリア可能だと思っています。
※エンブリヲをPCに友好的なNPC、タスクをシャドウを操り暗躍しているという設定のボスキャラだと思っています。
※エンブリヲの演技は全てゲームのイベントだと考えています。


582 : ◆w9XRhrM3HU :2015/06/02(火) 01:05:45 gdxovQVg0
投下終了です


583 : 名無しさん :2015/06/02(火) 01:08:34 fAGeSiZc0
乙でした
無差別マーダー寄りのスタンスにさせない辺り、エンブリヲの慎重さと狡猾さが表れてますね


584 : 名無しさん :2015/06/02(火) 07:10:13 y52aydkQ0
投下乙です

キンブリーとウェイブがいい感じに因縁作られていますね
イギーも覚醒しつつあり、なかなかの対主催集団に

なんとか死から立ち直ろうとする海未、
でも、あの音はマキシマムだよなあ。嫌な予感しかしない

亀の甲より年の劫。ここのマーダーはとにかく狡猾だなあ。
ビリビリが向かう場所は、ニーサンピンチ

魏志軍も幸運に恵まれて、転送装置を見つけたか
直観に頼ったのは配置的には正しいな

エンブリヲは番長を物理的に、キリトを心理的に掌握したか
道化として振る舞いつつも、ロワに与えている影響はかなり大きいなあ


585 : 名無しさん :2015/06/02(火) 07:31:43 FvwpjIoY0
投下乙です

こう言う特殊ギミックは大好物です
魏は中々面白い位置に飛んだな、北に行っても南に行っても波乱が待っていそう

キリトさんマジゲーム脳。エンブリヲが狡猾だったから仕方ないけど、しかし事情を知っているとホント2人の会話が面白すぎる。
道化コンビの行く末や如何に。
そして番長は何時になったら快楽攻めから脱出できるのかw


586 : サイコパス見し、酔いもせず… ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/04(木) 16:41:00 Ok7YCbIc0
投下します。


587 : サイコパス見し、酔いもせず… ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/04(木) 16:41:38 Ok7YCbIc0

地図上に載っている最も近い建物まで、特に問題なく到着した。
数年来刑事として、そして僅かな期間とはいえ犯罪者として積んだ経験は、この殺し合いの場では大きな武器となる。
他人は無駄だと笑う鍛錬を積み、息を殺して周囲を探索するのに慣れた甲斐はあったといえるだろう。
目の前の建物の名は図書館。昨今では廃れた類いの公共施設だが、何より驚いたのはその外壁だ。

(外装環境ホロが施されていない?)

日本国内ならほぼ例外なく、エリアストレスの増加を防ぐ為に最も適切な外観を模す環境ホロは実装されているはずだ。
自然が多いエリアとはいえ、これだけの建築物にまで精神衛生上必須のそれがないのは明らかにおかしい。
建物に入る前にこの区画を調べたが、ドローンの中継器や設置式のサイコパススキャナーすらここにはなかった。
俺は呼吸を整え、支給されたデバイスをもう一度取り出した。こちらもやはり、数世代などというレベルではなく古い。
まさかここは国外なのか? これだけの規模の会場ならばそう考えたほうが自然ではあるが……。

(拉致されてから一日以上経っているとは考えられない)

槙島との交戦時に強打した体の痛みは、朱と別れた後と今とで全く変わらない。
それほどの短時間で俺と槙島を無力化して国外まで移送することが可能なのか?
だがそれを考えても仕方がない。俺はガラスの押し戸を開き、図書館に足を踏み入れた。
内装も、やはり前時代的なものだ。人間の気配がないことを確かめて足早に受付に進み、見取り図を眺める。
分けられている区画の一角に目が行き、自然と言葉が漏れる。

「……『電子書籍コーナー』?」

わざわざ分けている以上、他の区画にあるのは全て紙の本なのだろうか。
印刷物の出版が激減した現在の人間社会では考えられないことだ。
情報を印刷して雑多個別に分割し、実体のある紙束を突っ込む棚空間というデッドスペースを大量に生成して
保管しているのならば、この建物の広さも頷ける。槙島がここに来たならば、時間も状況も忘れて徘徊するだろう。


588 : サイコパス見し、酔いもせず… ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/04(木) 16:42:31 Ok7YCbIc0

(モノがあれば、罠を仕掛けるんだがな)

歩いて回ると、紙の本を収めるために背丈の高い棚がずらりと並んでいる。
死角も多く、燃える物が沢山あるので爆弾などを効果的に配置すれば槙島を追い込んで殺すのに使える場所だろう。
本の背表紙を見ながら進む。ミステリー、詩集、戯曲、怪奇系から歴史書、百科事典、聖典に到るまで蔵書は幅広い。

「……?」

そういった一度は読んだことのある情報の断片の中に、ふと目に止まるものが一冊。
『シビュラシステム30年の歩み』という題名の、なんということはない装丁の文庫本。
その隣、『大覇星祭の7日間で学園都市を歩きつくす!』という新書に手を伸ばす。
学園都市。このバトルロワイアルが始まる時に、広川の口から出た単語だ。
パラパラとページをめくって内容を頭に叩き込む。

「ジョーク本の類にしか見えないが……」

この書籍では、学園都市という巨大な都市が日本の中心部に存在する前提で、その観光案内を行っている。
だが、当然こんな都市は実在しない。職業訓練課程に入りたてでも、日本の地理は知っているだろう。
そんな子供騙しにもならない前提であるのに、内容には一切の緩みがない。
ノンフィクションであるという確信の元に綴られた文章が最後まで連なっている。

「……」

ディバッグの中に本をしまい、足を進める。
この建物は入念に調べる必要があると、直感じみて嗅覚が告げていた。
施設を歩き回り、『大7歩き』に類似する特徴を持つ本を探す。
数時間ほど経っただろうか。2階の北側の区画で5冊目を見つけて中身を精査している最中、闖入者に気付く。
俺が扉に仕掛けた、音を鳴らす仕掛けが作動したようだ。
ただの一般人なら、この状況下にあることを鑑みれば仕掛けを設置した俺の存在を察知して逃げ出すだろう。
だが窓枠に体を寄せて階下の入り口を覗き見ても、走り去る人間の姿は確認できない。

「行くか」

本を銃へと持ち替える。願わくば、弾倉を空にするべき相手であって欲しいものだ。


589 : サイコパス見し、酔いもせず… ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/04(木) 16:43:20 Ok7YCbIc0


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


侵入者の行動は素早かった。
入り口の脇に倒れて転がっている消火器は噴出していたが、床に広がったピンクの粉塵には足跡が残されていない。
つまり仕掛けが作動して粉が撒き散らされるより早く、入り口周辺から奥まで走り抜けたということだ。
二階のエントランスまで駆け上がるほどの時間はなかったはずだ。
つまり今、階段を俺が抑えている以上、まだ相手が一階にいることは間違いない。

(ここから見えるところにはいないようだな)

吹き抜けの階段を下りている最中に攻撃されないことを確認して、階段に足を踏み出す。
足早に降り切って、一刻も早く正体を確かめる……そんな俺の思惑は、次の瞬間に打ち破られた。
4段目を駆け下りた時、僅かな違和感を感じて立ち止まる。木製の段差部分に、ワイヤーが巻きつけられていた。
ギュン、と伸縮するワイヤーは、吹き抜けの階段の真下に隠れていた侵入者を宙に浮かばせる。
俺が振り返ると同時に頭上を越え、階段の最上部に降り立ったのは、少女を脇に抱えた全身黒一色の男。
その病的な服装よりも、俺の目はその男の目に引き付けられていた。

(潜在犯……!)

その男の両眼は、シビュラによって最大幸福を保証され、合理性のみに生きるまともな人間とは似ても似つかない。
非合理性を孕む、犯罪者に到る因子を持つ男であると、ドミネーターがなくとも即座に判別できた。
少女の方からは、それらしい脅威は感じない。サイコハザードを受けている様子はないが、人質にされる危険はある。
うかつに銃を向けて刺激するのは悪手……ただしそれは俺が刑事の頃ならば、の話だ。
迷いなく銃を突きつけ、発砲する。初手で殺せればそれで終わる。
だが、男は銃弾の軌道を予測したかのような動きで初弾をしのぐ。回避したのではない。
黒いコートを翻し、銃弾をまるで体で受け止めるかのように受けて弾き飛ばしたのだ、

「防弾か!?」

「離れていろ」


590 : サイコパス見し、酔いもせず… ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/04(木) 16:44:33 Ok7YCbIc0

少女を突き飛ばし、階段から飛び降りるかのように突進してくる男。
その僅かな挙動に、違和感を覚える。この男にとって少女は戦闘に巻き込みたくない存在なのか?
一瞬の迷いが、男の突き出した手を払うチャンスを逃す。
吹き抜けの階段から足を踏み外し、宙に浮く感覚。銃を取り落とす。
男の右手は俺の首下を掴み、左手には階段に巻きついたワイヤーが保持されている。
このままでは俺だけが地面に叩きつけられるだろう。咄嗟に両手で男の右手を掴み、小手返しをかける。
空中で一回転して態勢を入れ替え、左手に手刀を撃つ。しかし、ワイヤーを放させる目論みは不発に終わった。
なんと男は自分からワイヤーを放し、左手で俺の左手を掴む。地面に激突する瞬間に閃光。左手に痛みが走る。

「ぐっ!?」

パラライザーを彷彿とさせるそれは、高圧の電流だった。
直後に地面に激突して離れたので大事には到らなかったが、左腕の感覚が吹き飛んでいる。
男の手からはどういうからくりか、まだ紫電が走り続けている。接触し続けていれば、感電死は免れなかっただろう。
防弾コートを身に纏う男が俺の下にいたからだろうか、落下の衝撃はそれほどでもない。
6歩分ほどの距離で向かい合う。男はまるで痛みに耐える素振りを見せず、悠然と立っている。
落とした銃は、すぐには拾えない位置にある。だが、仮にすぐ傍にあっても拾っていただろうか。
仕掛けたのはこちらだが、相手は今まで対処してきた潜在犯の様に、殺気に塗れた本性を出してこない。
すぐさま襲い掛かってこないことから見て、相手もこちらの戸惑いを察しているのかもしれない。

「……」

「……」

耐え難い沈黙が続く。
すでに交戦が始まってしまった以上、互いに薄々戦う意味がないと分かっていても、そう簡単には引けない。
自分の予感が全くの勘違いで、戦意を緩めた途端に相手が襲ってくるかもしれないからだ。
体の重心が、俺の意思とは関係なく、積み上げた戦闘経験から攻め込む為のものに移っていく。
男が音もなく、懐から包丁を取り出す。もはや、数瞬後の激突は避けられないだろう。
互いの呼吸がゆっくりと重なり、気が吐かれる。同時に、俺と男は踏み出し――――。


591 : サイコパス見し、酔いもせず… ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/04(木) 16:45:07 Ok7YCbIc0

「「……!」」

一条の光が、二人の間を通り抜ける。床が削れ、石の焼ける臭いが広がった。
光の出所は頭上、吹き抜け階段の中腹。男の連れの少女が、涙目で巨大な銃を構えていた。
殺傷が目的でない事は明白の、明らかに牽制の一撃とはいえ、あまりに異質な攻撃に背筋が凍る。
対する男は、包丁を下げて少女を制止にかかっていた。

「下がっていろと言っただろう」

「で、でも……二人とも、嫌々戦ってるように、見えました。こんなの、納得できません!」

少女は、俺と男のすれ違いを看過していた。それほど表情に出ていたのだろうか。
納得、という言葉に、かっての上司の顔を思い出す。
彼女もシビュラシステムの統治する世界で、ただその裁定に従うだけだという諦めをよしとしなかった。
たとえどのように立場が変化しようとも、その心底に変わりはないだろう。
今俺を止めた少女と彼女の姿が一瞬重なり、俺の戦意は急速にしぼんでいく。

「……悪かった。こちらの早とちりだ。落ち度を弁済させてくれ」

「……」

我ながら、もう少しマシな言い草は出来ないのかと思う。
男は警戒は解かないまでも、包丁を懐にしまい、受付の椅子を指差した。
思わぬ助け舟に感謝しながら、俺は交渉の席についた。


592 : サイコパス見し、酔いもせず… ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/04(木) 16:47:08 Ok7YCbIc0


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



少女は、男だった。
ここに槙島がいれば、『風に紅葉』辺りを引用して、戸塚彩加の個性を揶揄しながら賞賛しただろう。
だが彼女は傾国の悪女の類では決してない。ただ面相が可愛らしいだけの、男気のある人間だと俺は思った。
黒ずくめの男は黒(ヘイ)と名乗り、日本人である俺に『地獄門』の存在を知っていますか、と問いかけてきた。
俺はその領域を知っている。東京都心に突如出現した正体不明の空間異常現象。
ディバックから一冊の本を取り出して、これで得た情報だ、と説明した。
シビュラシステムを知っているか、と問うと、予想通り戸塚と黒は目を点にした。

「どうやら、俺達の基礎知識には大幅な差があるようだな」

「というより、まるで違う世界で違う価値観の元に過ごしてきたように思えますね」

「パラレルワールドってやつかなぁ?」

戸塚がSFじみた事を言う。だがそうでもないと説明がつかない、不可解な状況であることは確かだ。
戦闘が一段落してから少し人当たりがよくなった黒も、その説が正解に近いと感じているらしい。
『地獄門』がある世界と『シビュラシステム』がある世界。そしてその何れもない世界。
存在が確認できた三つの世界の他にも、『学園都市』がある世界は高確率で実在するのだろう。
推測交じりで俺が集めた本の中にも『マナ』『アメストリス国』『危険種』が存在する世界で書かれたと思しき物がある。

「名簿に載っている名前の中にも、これらの本で言及されるほどの有名人がいるようだ」

情報として使ってくれ、と本を手渡す。俺はもう内容を覚えたし、所有権を持っているわけでもないので未練もない。
それより重要で有用なのは、ここへ来る前の知り合いと、ここに来てから出会った者の情報だ。
黒たちは"後藤"という、怪物のような参加者に襲われたらしい。
黒も戸塚も仲間を探しているらしいが、俺が語れるのは槙島のことだけだった。
槙島聖護。シビュラシステム下で自然発生した逸脱者であると同時に、極めて危険な殺人者。
奴のことを語っていると、自分でも少し熱くなっているのが分かる。

「槙島は思想犯で、生きているだけで周りの人間に殺人衝動を誘発するような奴だ。なるべく関わらない方がいい」

だが、奴への殺意は表面に出さない。
黒はともかく、戸塚の前でそれを臭わせれば必ず咎められるだろうし、槙島はただ死ねばいいというわけではない。
俺の手で殺すことに意味があるのだから、悪評をばらまいて動きにくくするのが重要なのだ。


593 : サイコパス見し、酔いもせず… ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/04(木) 16:48:38 Ok7YCbIc0

この場所がシビュラシステムの監視下にないことは恐らく間違いない。
そして、参加者が俺の知る日本から集められた人間だけではない事にも確信がある。
ドミネーターが用を成さないのだから、支給される武器も間違いなく狙う相手を選ばないタイプの物ばかりの筈。
槙島の脅威は、社会システムの穴を突く体質と、それを背景とした妥協と躊躇のないある種純粋な性質にある。
肉体的には、黒たちの話に出ていた後藤とやらのように人間を超越しているわけではない。

(俺が手にかけるまでもなく、のたれ死ぬ可能性もあるというわけだ……)

強迫観念が胸を焦がす。だが、冷静さを欠いては俺は猟犬ではなく狂犬に成り下がるだろう。
平静を装って黒たちと会話を続ける。二人は知り合いを探しながら、イェーガーズ本部を避けて地獄門に向かうらしい。
同行しようかとも思ったが、まだこの施設の探索は途中だ。

「お前達の知り合いに会ったら、地獄門に向かったと伝えるよ。槙島の事はなるべく多くの人間に話してくれると助かる」

「善処しますよ。あなたも気をつけて」

別れ際の黒の声には、その暗く濁った目からはイメージが繋がらない優しさが感じられた。
……やはりシビュラシステムのない、人間がパッケージ・プログラム化されていない世界の住民ということか。
黒や戸塚のような人間ばかりが集められているのならば、俺の知る社会とは別の秩序がここにはあるのだろう。
シビュラシステムがない社会について思いを馳せれば、必然的に槙島が頭に浮かぶ。
あの男がこの場でどれだけはしゃぐかは想像に難くない。そしてはしゃぐだけはしゃいで、急にクールダウンするだろう。
シビュラシステムという敵がいない事に気付いたあの男は、満たされた環境に困惑し、己の孤独の欠如に気付く。
そうなれば、俺が殺すべき槙島という存在はどうなるのか。揺らぐのか、保つのか。
どちらにせよ、できればあの男が何らかの変容を見せる前に殺したいものだ。この焼きついた殺意のままに。

「……」

タバコに火をつけながら、図書館の中に戻る。
かって正義と信じて葬ってきた潜在犯たちの姿が、煙に一瞬浮かんで消えた。


594 : サイコパス見し、酔いもせず… ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/04(木) 16:49:50 Ok7YCbIc0

【D-5/図書館/一日目/黎明】

【狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】
[状態]:健康、左腕に痺れ、槙島への殺意
[装備]:リボルバー式拳銃(4/5 予備弾50)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考]
基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:槙島を見つけ出す。
2:槙島の悪評を流し追い詰める。
3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
4:銀、八幡、雪乃、結衣に会ったら黒と彩加の事を伝える。
5:後藤を警戒。
6:図書館を探索する。

[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒、戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。


【D-5/図書館前/一日目/黎明】

【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷
[装備]:黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×3
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
1:銀や戸塚の知り合いを探しながら地獄門へ向かう。銀優先。
2:後藤、槙島を警戒。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。

【戸塚彩加@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(中)、黒への信頼
[装備]:浪漫砲台 / パンプキン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、各世界の書籍×5、不明支給品0〜1
[思考]
基本:殺し合いはしたくない。
1:八幡達を探しながら地獄門へ向かう。
2:黒さん!

[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒の知り合いの名前と容姿を聞きました。


595 : サイコパス見し、酔いもせず… ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/04(木) 16:51:23 Ok7YCbIc0

【D-5/図書館/一日目/黎明】

【狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】
[状態]:健康、左腕に痺れ、槙島への殺意
[装備]:リボルバー式拳銃(4/5 予備弾50)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考]
基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:槙島を見つけ出す。
2:槙島の悪評を流し追い詰める。
3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
4:銀、八幡、雪乃、結衣に会ったら黒と彩加の事を伝える。
5:後藤を警戒。
6:図書館を探索する。

[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒、戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。


【D-5/図書館前/一日目/黎明】

【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷
[装備]:黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×3
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
1:銀や戸塚の知り合いを探しながら地獄門へ向かう。銀優先。
2:後藤、槙島を警戒。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。

【戸塚彩加@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(中)、黒への信頼
[装備]:浪漫砲台 / パンプキン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、各世界の書籍×5、不明支給品0〜1
[思考]
基本:殺し合いはしたくない。
1:八幡達を探しながら地獄門へ向かう。
2:黒さん!

[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒の知り合いの名前と容姿を聞きました。


596 : サイコパス見し、酔いもせず… ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/04(木) 16:51:56 Ok7YCbIc0
以上で投下終了です。


597 : 名無しさん :2015/06/04(木) 20:47:15 UI52ZCaA0
投下乙です!

黒さんと渡り合うとはコーガミさん日ごろの鍛錬の賜物ですね
双方の矛を収めさせたさせた戸塚くん有能&かわいい。さすが原作の癒し
果たしてコーガミさんの牙はマキシマムを捉えることができるのか


598 : 名無しさん :2015/06/05(金) 01:38:03 08Pmzumc0
投下乙です
狡噛さんはこのロワじゃ数少ない安定した大人だな


599 : 名無しさん :2015/06/05(金) 17:26:46 JRrYRkfo0
投下乙です

絞噛さんも黒さんも強え
戸塚君の性別を一目で見破る参加者はいるんだろうか


600 : 名無しさん :2015/06/06(土) 20:22:55 twwQdxbE0
投下乙です
三人とも有能な対主催だなあ。
コーガミさんのマキシマムの予想についてはなるほどと唸った


601 : ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:03:55 SVi88CXI0
投下します


602 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:06:47 SVi88CXI0



暗い、暗いなにも見えない闇の底。
ここは...どこ?
あたしの意識が戻ると共に、コンサートの開演のように、パッとライトが当てられる。


「うぅ...えぐっ...」
「なんだこいつ、メソメソ泣きやがって」
「やーいやーい、弱虫泣き虫意気地なし〜!」


舞台にいるのは、あたしと一人の桃色の髪の女の子...まどかと数人の男の子。
どうやらまどかは男の子たちにイジメられているようだ。
どうすればいいか。決まっている。
あたしは、まどかに駆けより、思いっきり啖呵をきる。

「まどかをいじめるな!」

イジメっ子たちが、蜘蛛の子を散らすように去っていく。

「さ...さやかちゃん...」
「ほらほら。もう大丈夫だから、泣かないの」
「...さやかちゃんはさ、どうしてわたしなんかを助けてくれるの?」
「えっ?」
「わたしなんか、ドジでのろまで、泣き虫で...なんにもできない役立たずなのに...」
またもや泣きそうになるまどかの頭に手を乗せる。
「なに言ってんの。役に立つとか立たないとか、そんなことどうでもいいでしょ」
「じゃあ、なんで助けてくれるの?」
「決まってるじゃん。友達だからだよ」


...ああ、思い出した。たしかこれは小学校の時のことだ。





603 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:08:45 SVi88CXI0
暗闇に戻ったと思ったら、またライトが舞台に当てられた。

気が付けば鏡が目の前にあった。背丈も伸びて、衣装もファンタスティックなものに変わっていた。
...そうだ。あたしはみんなを守る魔法少女になったんだ。命がけの戦いに出かけるんだ。
気合を入れ直すためにパチンと頬を叩いて、家を出る。
入口に、制服姿のまどかが立っていた。
「あ...あのね。足手まといだっていうのはわかってるんだけど...邪魔にならない所まででいいの。一緒に連れて行ってもらえたらって思って...」
魔法少女じゃないまどかが、あたしの魔女退治に付き添いたいと言ってくれている。それがどれほど危険なことかはわかっているのに。
「ご、ごめんね。駄目だよね。わたしなんかがいても、なんにも...」
「ううん。凄く嬉しいよ」
本当は怖かった。でも、やらなきゃいけないんだと無理矢理自分を奮い立たせていた。
そんなあたしを、危険を承知で心配してくれるまどかの優しさが、堪らなく嬉しかった。





今度は、玄関から始まった。
心も足取りも、なにもかもが重かった。
そうだ。あたしは、魔法少女がなんなのかを知って、最悪のタイミングで仁美に恭介への想いをうちあけられて...
それを聞いたとき、どこかで思っちゃったんだ。『仁美を助けなければよかった』って。
...そんな自分が嫌になった。誰にも知られず消えてしまえばいいと思った。
「今日の魔女退治もついていっていいかな。さやかちゃんに独りぼっちになってほしくないから...」
あたしに優しくされる価値なんてないのに、それを知ってか知らずか、まどかは変わらず優しかった。
その優しさに甘えてしまった。すがらずにはいられなかった。
弱音を吐いてしまった。自分の醜さを認めてしまった。
それでも、まどかは何も言わずに優しく抱きしめてくれた。





604 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:10:17 SVi88CXI0
雨が降っている。
魔女退治を終えたあたしとまどかは、バス停で雨宿りをしていた。
「さやかちゃん、あんな戦い方ないよ。痛くないから傷ついていいなんてそんなの駄目だよ。いつか本当に壊れちゃうよ...」
まどかは、あたしの戦い方に否定的だった。
でも、そうでもしなければ勝てなかった。
マミさんや佐倉杏子のように戦い慣れているわけでもなければ、まどかのように高い素質を持っていたわけでもないのだから。
「それで勝ったとしても、さやかちゃんのためにならないよ」
まどかはそれでもあたしの身を気遣った。心の底から心配していた。
...だからこそ、いままで隠れていた不満がにじみ出てきた。

「あたしのためってなによ。魔女を殺すしか意味のない石ころのあたしになにがためになるっていうのよ」
「わ、わたしはどうすればさやかちゃんが幸せになれるか考えて...」
「だったらあんたが戦ってよ」

一言口火をきってしまえばもう止められない。あたしの中のドス黒いものが溢れだしてくる。

「あんた誰よりも才能あるんでしょ?あたしの為になにかしようっていうならまずあたしと同じ立場になってみなさいよ!
無理でしょ?当然だよね!ただの同情で人間止められるわけないもんね!」
まどかがいまにも泣き出しそうなほど震えている。それでも、あたしの醜い言葉は止まらない。
「なんでもできるくせになんにもしないあんたの代わりにあたしがこんな目に遭ってるの!知ったようなこと言わないで!」
雨の中にも構わず、あたしはこの場を離れようとする。
あたしがあたしで無くなっていくようで、この場に留まることはもう嫌だった。
でも、まどかに腕を掴まれて離れることは敵わなかった。
「離してよ!」
まどかは顔が見えないほど俯いたまま何も答えない。
しばらくすると、まどかはゆっくりと顔をあげた。



「ならば選びたまえ」



まどかの顔が、声が、男のものと重なって―――





605 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:11:33 SVi88CXI0
今度は、最初と同じ何も見えない真っ暗闇の中。
ライトが当てられると、明かりに照らされたのは一人の中年男性。あたしはこいつを知っている。たしか...広川だ。
「きみにチャンスをあげよう。もしきみが元の身体を取り戻したいのなら、その手の剣で目の前の者を殺しなさい」
広川がパチンと指を鳴らすと、今度は広川とは反対側にライトが当てられる。
明かりに照らされたのは、椅子にしばられたまどか。
「ま、まどか!?あんたどういうつもりよ!」
「言ったはずだ。私はきみにチャンスを与えているのだ。嫌ならそのまま剣を置くがいい。きみの身体は抜け殻のままだがね」
抜け殻―――その単語に、あたしの身体が強張る。
この男は、あたしの身体を戻してくれると言っている。でも、そのためにはまどかを殺さなければならない。
嫌だ。そんなこと...できるわけがない。

―――本当に?

「...なにを躊躇う必要がある。今まで彼女はきみのために何かしてきたか?きみは彼女を守ってきた。彼女の代わりに戦ってきた。
彼女は違う。きみに甘えていただけだ。戦おうとしなかった。きみの人生において、何の役にも立っていないんだ。そんな彼女を助ける価値はあるか?」

広川の言葉が、あたしの心を抉ってくる。

―――そうだ。あたしは今までまどかの代わりに戦ってきた。だから、まどかをあたしのために殺したっていいじゃない。

そんな考えがよぎる頭を必死にふる。どうにかそんな考えを追い出したかった。認めたくなかった。
でも、あたしの気持ちとは裏腹に、剣を握る手は震えながらも力を増していく。

「さあ、やるんだ。そうすればきみは人間へと戻れる。楽しかったあのころへと帰れるんだ」

人間に戻れる。あの頃へと帰れる。
あたしの足がふらふらとまどかのもとへと進んでいく。
(あたしは...人間にもどれる...ゾンビじゃなくなる...)
もう、思考が停止しかけていた。目の前の誘惑に流されていた。
まどかのもとへ辿りつくと、あたしは自然に剣を振り上げていた。
そして、力を込めてまどかへと剣を振り下ろす。
瞬間、あたしは見た。見てしまった。その溢れんばかりの笑顔を。


「幸せになってね、さやかちゃん」


振り下ろされた剣はもう止まらない。止められない。
―――いやだ!やめて!
いくら懇願してももう遅い。
まどかは死ぬ。あたしが殺してしまうんだ。
まどかの肩に剣が食い込む。
剣は、まどかの皮膚を、肉を裂き、そして―――



『本当の気持ちと向き合えますか?』


聞こえてきたのは、あの時の言葉





606 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:14:11 SVi88CXI0



さやかを撃退した後タツミは、近くにあったスポーツジムを探索していた。
(なんだこりゃ...)
タツミが見つけたのは、正方形の鉄の箱。
ボタンらしきものを押してみても、モザイクのようなものが映るだけでなにも起こらない。
持ち運ぼうにも固定されているようなので、仕方なく箱は置いておいて、部屋を後にする。
次の部屋で見つけたのは、何故か大量に置いてある、底が網目に空いているフライパンのようなもの。
なんとなく手にとって素振りをしてみる。
(武器ってわけじゃないよな)
ふちの部分はかなり硬いし、振りやすいものではあるが、これで剣や斧と戦えるかと問われると厳しいものがある。
(まあ、あって困るものでもないだろ)
自分には帝具ベルヴァークがあるが、万が一の時もある。
タツミは何本かをデイパックに入れてその場をあとにする。


ちなみに大量に置いてあったこれの正体はテニスラケット。
本来ならばこのスポーツジムではボーリングや野球もできるはずなのだが、どうも鉄製の球や金属バットといった殺傷能力の高いものは設置されていないらしい。
なるべく配られたもので戦えということであろう。
その代わりにテニスラケットが大量に設置してあったのは広川の趣味か、気遣いか。
まあ、そんなことを考える参加者はほとんどいないだろうが。


結局、タツミの探索成果はラケット数本のみ。
参加者との接触はおろか、ロクなものも得られなかった。
次いで、近くにある闘技場へと足を踏み入れる。
そういえばエスデスの催しもこんな場所だったなとふと思い
(感傷に浸ってる場合じゃねえや)
と気を引き締め直したその時だ。
―――ガシャン
闘技場のどこかから、なにかが割れる音がした。
誰かがいる。それだけではない。
少し遅れて雄叫びのようなものも聞こえた。


607 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:14:59 SVi88CXI0
―――誰かが戦っている。
そう判断したタツミは、急ぎつつも可能な限り気配を殺しながら音がする方へと駆けていく。
もしも力なき者が必死に抵抗しているのなら。
もしも相手がエスデスのような強者で、且つ救いようのない悪党であるならば。
下手に突っ込んだところで、自身諸共殺されて終わりだ。
そういった奴相手には隙を突いて攻撃するしかない。
物音は、まだ止まっていない。
(頼む、もう少しで着くんだ。それまで耐えてくれ!)
あともう少し。タツミが開けられた扉にあと数歩の距離まで辿りついた時だった。
物音が、止んだ。

足を止め、扉の影に隠れる。
(クソッ、間に合わなかったのか!?)
焦りを憶えつつも、耳を澄ませて『聞く』ことに意識を集中させる。
聞こえてくるのは、荒い呼吸と少し乱れた呼吸音。
会話もなんとなく聞こえてくる。
部屋をこっそりと覗くと、疲れ果てた様子のやたらとガタイのいい老人と、頭に花をつけている少女がいた。
どうやら、部屋にいる彼らは敵を撃退することに成功したらしい。
自分が危惧していた結果にはならなかったようだ。
到着が遅れたことを申し訳なく思いつつ、彼らと接触しようと扉の影から姿を現す。
だが、タツミは己の目を疑った。
二人が撃退したと思われる敵は、自分が殺したはずの少女だったからだ。


608 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:15:40 SVi88CXI0
「...どういう状況か、説明してくれないか」
突如、姿を現した少年。
乱戦の音を聞きつけてやってきたのだろうか。
「あー、変な勘違いをせんでくれよ。ワシらは別に女の子を縛る趣味があるわけじゃない」
「そういう意味じゃないと思いますけど...」
冗談めいたやりとりをするジョセフだが、内心驚いていた。
いくら年老いて、尚且つ疲れ果てているとはいえ、戦いの年季を重ねてきた自分だ。
用心深さならかなりのものだと自負している(敵のスタンド使いのコンセントにはうっかり触れてしまったが)。
だが、そのジョセフですらこうして厨房へと入られるまではタツミの存在に気が付けなかった。
それほど気配を殺すのに長けた達人なのだろうと、ジョセフは警戒する。
だが、まずは状況を把握しようとする様子から、少なくともすぐに戦闘にはいるわけではないこともわかっていた。
故に、ジョセフと初春は今までの顛末を話すことにした。



「すまなかった!」
話を聞き終えた後、彼が行ったのは謝罪だった。
「なにを謝ることがあるんじゃ?」
「俺が甘かったんだ。俺がちゃんと息の根を止めておかなかったからあんたたちを危険な目に遭わせてしまった」
「い、息の根を止めるって...」
「俺は最初にこいつと出会った。おそらくこいつも最初に会ったのは俺だろう。その時、こいつは殺し合いに乗ることを肯定したんだ。だから、俺は誰かに被害を及ぼす前にこいつを殺したつもりだった。それがこんなことに...」
ジョセフと初春は顔を見合わせる。
あれだけ自分達が苦戦したさやかを、タツミは一人で撃退していた。
それほどまでに強いとなると、心強さは計り知れない。
反面、息の音を止める。殺す。その言葉をためらいなく言い放つタツミに、不安も抱いていた。
そして、その不安は的中していて。
「あんたたちは下がっていてくれ。後始末は俺がつける」
「おいおい。そんな物騒なものを取り出してなにをするつもりじゃ?」
「あいつの首を刎ねる。流石に首を刎ねれば間違いは無い筈だ」
(OH、MY GOD...)
どうやらタツミは、ヤルと決めたら迷わずヤルタイプの人間らしい。
タツミ自身は悪人ではないようだが、それを差し引いても首を刎ねることに抵抗を持たない精神は常人の域を外れている。漆黒の意思とでもいうべきだろうか。
ジョセフ自身、最悪さやかを殺すことも視野にはいれている。
だが、情報は欲しいし、なにより子供が子供に斬殺されるところなどは見たくない。
どうにかしてタツミを止めようと言葉を選ぶが...


609 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:16:55 SVi88CXI0
「どいてくれ」
「どきません」

眠るさやかを背にして、両腕を広げてタツミとの間に割って入るのは初春。
震えながらもタツミに対してしっかりと向き合っている。

「み、美樹さんにも乗ってしまった理由があるはずです。それすら聞かずに殺すのは、ジ、ジャッジメントの一人として見逃せません」
「...そいつは、目を覚ましたら必ず人を殺す。あんたが逃げなけりゃ犠牲者はあんたになる」
「それは...その...」
「怖くないのか?」
「...怖いです。でも...助けられる人を助けたいと思うのは当然じゃないですか」


初春は聞いていた。
ジョセフの拳が腹部の宝石に当たる瞬間の『死にたくない』という声を。
血と殺戮を好む戦闘狂とも、他者を脅かすことに喜びを憶える外道のそれとも違う、ただの一人の少女の悲鳴を。
だから初春は信じる。
話し合えば解りあえると。
罪を犯す前に説得すれば一緒に歩めると。

「...どうじゃ。か弱い女の子がここまで身体をはっているんじゃ。耳を傾けてくれてもいいんじゃないかのう」
初春とジョセフに挟まれたタツミは思う。
(なんて甘い奴らなんだ)
彼らが庇っているのは、自身を殺そうとした危険人物。
放っておけば、高確率で人を殺すし、彼らどころか更に力の無い人にその牙を向けられるかもしれない。
殺し合いということを除いても、殺しておくべきだと思う。
そんな少女を殺さないというのだ。
(...本当はそれでいいのかもしれない)
タツミやアカメは殺し屋であり、"悪"を斬ることには何のためらいもない。
だが、それは虐げられる力なき人々を守るためだ。決して、誰もかれもが躊躇いなく人を斬れる国にするためではない。
"人を殺したくない"
そんな当たり前の意思は、本来ならば尊重されるべきものだ。


「...わかった。いまは、そいつを殺さない」
タツミが斧を置くとともに、緊張の糸は一瞬ほぐれる。
初春はよほど安心したのか、思い切り息を吐く。
「けど、もしそいつが少しでもおかしな行動をとったら、俺は迷わずそいつを殺す。責任は全部俺がとる。あんたらやそいつの知り合いからの恨みも憎しみも、全部俺が引き受ける」
その言葉と共に、再び厨房が緊張の糸に包まれる。
タツミは本気だ。誰の目に見てもわかる。
だがジョセフは
「そんなに気張るものではないぞ少年」
まるで子供をあやす親のように、タツミの頭にポンと手を置いた。
「なっ...」
「ハッハッハッ」
気恥ずかしさからか、ほんのり頬が赤くなるタツミ。
豪快に笑いとばすジョセフ。
厨房を包んでいた緊張は、一気にどこかへとんでいってしまった


610 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:17:56 SVi88CXI0
(とはいえ、どうしたものかのう...)
「えーっと、アカメさんはタツミさんの仲間で、ウェイブさんはいい人だけどアカメさんの名前は出しちゃいけなくて、クロメさんとセリューさんとエスデスさんは危害を加えないかもしれないけどアカメさんの名前は出しちゃいけなくて...」
「なんというか、複雑な関係じゃのう」
「なんで俺もこんな面子で集められたかわからねえよ。それよりジョースターさんのいうDIOっていうのは...」
「うむ。能力はわからんが、かなりの実力であることだけは確かじゃ。無闇に戦いを挑むのは避けたい」
未だに眠るさやかに注意しつつ、知り合いなどの基本的な情報を交換しながらジョセフは考える。
(どうにもあのタイプは執念深そうなんじゃよなぁ)
拘束はしてあるものの、何の解決も無しに解けば、どうなるかわかったものではない。
一応、力を供給している謎の装飾物はジョセフが預かっているし、さやかに勝ったタツミの存在は大きな牽制に成り得る。
かといって、上辺だけ大人しくされて後で暴走されればたまったものではない。
それはタツミは勿論、初春もわかっている。
なにか決定的なものがほしい。さやかの殺意を折る、決定的ななにかが...
「ん...?」
二人から聞いた名前と名簿を照らし合わせているうちに、あることに気が付いた。
(これはまさか...)
もう一度、名簿と名前を確認してみる。間違いない。この名簿は...


思いついた。おそらくこれならイケる。
「どうしたジョースターさん」
「なあ、タツミくん。お前さんは、隣のスポーツジムはくまなく探索したかね?」
「ああ。変な器具が色々とおいてあったぜ」
「どこかに、テレビが置いてある部屋はなかったかのう?」
「テレビ...?」


611 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:19:01 SVi88CXI0


「うっ...」

目を覚ましたさやかが初めに認識したのは、冷たい床の感触だった。
どうしてこうなったかを思い出す。
たしか、ジョセフと初春に襲いかかったものの、ギリギリのところで返り討ちにされて...
「お目覚めかね、お嬢さん」
さやかを気絶させた張本人、ジョセフ・ジョースターが椅子に座り脚を組んでふんぞり返っている。
「あんた...!」
「動くな」
立ち上がろうとしたさやかの腕が捻られ、地面にうつ伏せに伏せられる。更に首にあてがわれるのは冷たい鉄の感触。
「俺を憶えているか?最初にお前が殺そうとした男だ」
「...!」
タツミの鋭い殺気に、さやかは動くことすら許されなかった。


「状況を見ればわかるじゃろう。お前さんに勝ち目のないことが。そして...これからお前さんがどうなるのか」
ソウルジェムもなく地べたを這いつくばるさやか。出入り口を塞ぐように座るジョセフ。ジョセフの横で心配そうに展開を見つめる初春。そして、処刑人のように斧を構えるタツミ。
もはや逃げ場などない。
さやかの心臓が激しく動悸する。
もう逃げられない。自分は殺される。なにを掴むこともなく惨めに死に果てるだけだ。
「本当はお前さんが気絶している間にトドメを刺してもよかったんじゃが、それはあえてしなかった。何故だかわかるか?」
自分を殺さない理由。そんなもの決まっている。情報を得るためだ。
ならば、ずっと黙っていれば助かるのではないかと考えがよぎるが
「言っておくが、黙りこくっても無駄じゃぞ。ワシの『ハーミットパープル』は人間の考えを念写することができる。こんなふうにな」
ジョセフがパチンと指を鳴らすと、初春が背後にある布を取り払った。
布が掛けてあったのは、正方形のブラウン管テレビ。
「『ハーミットパープル』!」
ジョセフの茨が初春とテレビに触れると、古いテレビ特有の砂嵐が流れ始める。
「初春くん、ワシらが会った時はどんな感じじゃった?」
初春がえっとと考える間もなく映像が映り込む。


『いやあ、ようやく人と会えてよかったわい。わしはジョセフ・ジョースター、よろしくの。 そっちの君はなんと言う名前かな?』
『は、はい。私は初春飾利と言います……』
『その名前だとやはり日本人か! 日本語で話しかけて正解じゃったな、はっはっは!』


映し出されたのは、ジョセフと初春とさやかが初めてあったときの映像。
「ご覧の通りじゃ。さ、観念してもらおうか」
ジョセフの目付きが鋭くなる。
最早、隠し事すらできないさやかには為す術がなかった。


612 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:19:36 SVi88CXI0
沈黙が部屋を支配する。ジョセフもタツミも初春も、誰も言葉を発しない。
「な、なんか言いなさいよ」
返答はない。
肉体的な痛みなら、痛覚を遮断すればどうにかごまかせる。だが、なにをされるかわからないこの沈黙が恐怖と緊張を生みさやかの精神をすり減らしていく。
どれほどの時間が経ったのだろうか。
やがて、ジョセフがおもむろに口を開く。
「...鹿目まどか。暁美ほむら。佐倉杏子。巴マミ」
唐突に呟かれた知己の名前。
それに心を乱されることなく冷静でいられるほど、さやかの精神は達観していなかった。
「え...?」
「やはり知り合いだったか。...その様子だと、名簿にも目を通していなかったようじゃな」
ジョセフの言う通りだった。
どうせ優勝するつもりなら、誰がいようが関係ない。むしろ、それを見たことで優勝することを躊躇うなにかが生まれるかもしれない。
さやかのその予感は当たっていた。
親友だった少女と先輩だった少女の存在こそが、躊躇いを生む要因であった。
「では、そいつらの容姿は...」
さやかに茨が触れると、テレビにノイズが走り、桃色の髪の少女、黒髪の少女、赤髪の少女、金髪の少女がそれぞれ映し出される。
「ふむ。みんなお前さんと似たような年頃のようじゃな。初春くん、それぞれの特徴を記録しておいてくれ」
「は、はい」
「...ねえ。あたしの知り合いのことを知ってどうするつもりよ」
「次の質問じゃ」
さやかの問いをピシャリと撥ねつける。さやかにはもはや知る権利すら与えられていないらしい。



「なぜこんなゲームに乗った?」
交戦する前にも行われた問い。
違うのは、さやかには黙秘権がないことだけ。
再びさやかの身体に茨が触れようとする。
が、しかし
「...のよ」
茨が触れる前に、さやかがぼそぼそと言葉を紡ぐ。
「あたしは、人間に戻りたかったのよ」


613 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:20:38 SVi88CXI0
初春は、さやかの言っていることの意味がわからなかった。
さやかはどこからどう見ても人間だ。
確かに変わった能力を持っていたが、超能力者だとしても、いまさらそれが人間としてさえ認められないことなどありえない。
「な...なにを言ってるんですか。あなたは人間です。超能力者でも、それは少しみんなと違うだけで...」
「あんたたちはイイよねぇ!超能力なんて便利なもの持っててさ!きっとあんたたちの中には、大したリスクも無しに奇跡をおこせる奴らもいるんでしょ!?普通じゃ絶対に治らない怪我のひとつやふたつ、簡単に治せるんじゃないの!?」
豹変したかのように激しい剣幕で怒鳴り散らすさやかに、初春はビクリと身体を震わせる。
「...あたしは違う。あたしは何にも持ってなかった。だから、奇跡を起こすために契約したんだ。でもその結果は散々さ。
あたしは魂抜かれたゾンビになって、恭介は何にもしらずに仁美とくっついて...そんな中でせめて人間に戻りたいと思ってなにが悪いのさ?」
自嘲じみた渇いた笑いを浮かべ、目を伏せるさやか。誰とも目を合わせようとしない。
もう何もかもがどうでもよくなっていた。茨が触れる前に白状したのも、なにか考えがあったわけではない。
ただ、最期くらいは胸の中のものを全部吐き出したい。
さやかの心はもうほとんど折れていた。


「...それは、友達を殺してまで叶えたい願いかね?」
"友達"。その言葉に、まどかの影が頭の中をよぎる。
「......」
さやかはその問いに答えなかった。いや、答えることはできなかった。
彼女はその答えから目を背けていたからだ。
「タツミくん」
ジョセフが、タツミに目配せをする。
「...ああ。決まりだな」
タツミがさやかの背に腰をおろし、首元に再び斧を当てる。
さやかは"ああ、自分は死ぬんだな"と納得しかけていた。
もはや、先刻までの生気は目に宿っていない。
溜まっていた悪意も全部吐き出した。自分を心配する人間ももういない。
目を瞑り、全てを投げ出しかけた。


「さっきの四人は見つけしだい抹殺じゃ」


ジョセフの、悪魔のようなその宣告を聞くまでは。


614 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:21:32 SVi88CXI0
「え...?」
「聞こえなかったかのう。お前さんをふくむ5人は皆殺し確定だと言っておるんじゃ」
「な...なんでさ!あいつらは、まどかは関係ないじゃん!」
「お前さんが優勝するつもりなら、どちらにしろ彼女たちは殺されていたんじゃ。ワシらが殺すことになにか問題があるのかね?」
「―――ッざけるな!」
飄々と言ってのけるジョセフの言葉に、さやかの虚ろな目に生気が蘇る。
自然と、ギリギリと音を立てるほどの歯ぎしりをしていた。
この胸にぐつぐつと煮えたぎる感情はなんだ―――そうだ、怒りだ。
「私も納得できません!そんな...そんなこと!」
さやかの代弁をするように、初春がジョセフに詰め寄る。
そんな初春を手で制し、ジョセフは淡々と説明を始める。


「ワシらが彼女たちを殺さなければならない理由はある。ワシらは殺し合いを止め、このクソッタレゲームから脱出することが目的じゃ。
危険人物を排除すれば、殺し合いはほぼ止めたも同然じゃ。だが、ゲームが成立しないと判断した広川はどうすると思う?
もし、脱出派にさやかの仲間がいた場合、奴は証拠を揃えた上でこう告げるだろう。『お前の仲間の美樹さやかはジョセフたちに殺されたぞ』とな。
そうなればワシらの信頼は一気に無くなる。こいつらは見た目か弱い女の子じゃからな。最悪、脱出派の者たちに殺されることもありえる」
「そ、そんなのただの予想です。そんなことになるわけが...」
「理由その二。こいつの仲間ということは、同じような能力を持っている可能性が高いということじゃ。ワシらは二体一という有利な状況だからどうにかなったものの、もし四人全員にかかってこられたら、生き残るのは難しい」
「そ、それは...」
「まあ、本気で脱出を願う人物なら、さっき言った件を踏まえた上でも協力したいと思う。かなりの戦力となるからのう」
もっとも、と言葉を区切り、視線だけさやかに移して見下すように言い放つ。
「こんなやつの知り合いなんじゃ。特に親しそうなまどかという子はきっと」
ジョセフの一言一言が、さやかを刺激し
「こいつと同じで」
かろうじて保っていた冷静さを悉く奪い
「自分勝手で、他人に迷惑ばかりかける」
その言葉を聞き終わると同時に


「ロクでもない屑なんじゃろうなぁ」

―――プツン
さやかの中の、何かが切れた。


615 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:22:27 SVi88CXI0
背に乗るタツミを振り払い、ジョセフのもとへと駆けだす。
ソウルジェムを手にしていないいまのさやかは、剣も出せないただの女子中学生だ。本来ならそんなことはできない。
タツミの抵抗がほとんど無かった気もしたが、そんなことを考えれるほどさやかは冷静ではなかった。
初春には眼もくれず、ジョセフの胸倉をつかみ、扉に叩き付ける。椅子が倒れ、帽子が落ち、ジョセフが立ち上がる構図ができる。身長差のせいで子供が大人にじゃれているようにしか見えないが。
「まどかをバカにするな!」
部屋中に響き渡る怒声。ビクリと身体を震わせる初春。顛末を見守るタツミ。
さやかは許せなかった。
まどかはいい子だ。こんな自分をいつだって心配してくれるようなとても優しい子だ。
そんなまどかを、言うに事欠いて屑だとこの男は罵った。
なにも知らないお前がまどかを侮辱するな。
その想いが、元来我慢強いタイプでないさやかの激情を駆り立てる。
「もしまどかに手を出して見ろ!その時はあんたを殺してやる!絶対にだ!」
息を荒げながらジョセフを睨みつけるさやか。
掴まれているジョセフは、怯むことなくさやかをまっすぐ見据えている。

「ならば護ってやればいい」
「え...?」
「それほど怒るんじゃ。大切な者なんじゃろう?」
先程までとはうって変わって、ジョセフの声音がどこか優しさを感じられるものに変わる。

―――『さやかちゃん』

まどかの笑顔が頭に浮かぶと、さやかを支配していた怒りと殺気が徐々に消えていき、胸倉を掴む力が緩んでいく。
「まどかは...一番大切な友達だよ」
「そうか。なら、一緒に帰らなければな」
「でも...あの子にはもう会えないよ」
「なんでじゃ?」
「あたし、心配してくれたあの子を傷付けたもん。今さらどのツラさげて会えるっていうのよ」
この会場に来てから殺気だっていた彼女の表情が、悲しみでくしゃりと歪む。
その様子を見て、ジョセフの表情も穏やかなものに変わる。
さやかは、シリアルキラーでも生まれついての悪でもなかった。
(なんてことはない。この子はまだ子供なだけじゃ)
子供は純粋だ。つい、目の前の大きな問題に囚われて周りが見えなくなってしまうこともある。
そのせいで間違いを起こしそうになるのなら、それに気づかせるのが大人の役目だ。


616 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:24:22 SVi88CXI0
「...かつて、ワシの戦友にシーザーという男がいた」
静かにジョセフが語り始める。
「最初に会ったときは、キザでいけすかないヤロウだと思っていた。あいつもワシのことを嫌っておった。それからしばらく行動を共にし、友といえるほど仲良くなった。
だが、結局最後は言い争いになり、奴と別行動になって...それがあいつとの最後の別れとなった」
さやかも初春も静かに耳を傾けている。
「ワシもあいつも、戦いの果てに死に別れることは覚悟しておった。
だが...いなくなった時に初めてわかった。あいつの存在が、どれだけ大きなものとなっていたのか...その時やっとわかったんじゃ」
落ちた帽子を拾い、目元を隠すように深く被りなおす。
さやかには、ジョセフがかつての悲しみを我慢しているようにも見えた。
「幸い、きみはまだやり直せる。傷付けてしまったのなら謝ればいい。それで喧嘩になるのならやりきってから仲直りすればいい。友達ならば、そうしてあげなさい」
「...おじさんは、友達のこと後悔してるの?」
「あいつは勝算があった上で戦い、全てを出し切り納得して散った。だから、その死にも納得しておる。だが...後悔があるのは事実じゃ」
シーザーと別れたとき、彼を止めるためとはいえ、ジョセフはつい思ってもいないことを口にしてしまった。
『会ったこともねえ先祖の因縁なんざクソ喰らえだ』
勿論、ジョセフは祖父ジョナサン・ジョースターやシーザーの祖父ウィル・A・ツェペリを侮辱するつもりはなかった。
シーザーもそのことは分かっていたかもしれない。
だが、その結果は殴り合いのケンカ別れ。ジョセフは、シーザーに謝ることすらできなかった。

「......」
タツミは思い出す。同郷の仲間であったサヨとイエヤス、そして『ナイトレイド』の一員であるシェーレとブラートのことを。
サヨとイエヤスは、出世して村を養おうと誓った仲間だった。だが、悪党に弄ばれて殺されてしまった。
兵士になろうというのだ。戦いの最中に死に別れるかもしれないことは心の片隅で覚悟はしていたはずだった。
しかし、現実を突きつけられれば、『死者の蘇生』などというありもしない奇跡にすがりたくなるほど別れを認めるのが嫌だった。
優しかったシェーレが殺された時は、自分でも信じられないくらい怒りと憎しみが湧き上がってきた。
兄貴と慕い、師でもあったブラートが死んだときも、覚悟はしていたのに涙が止まらなかった。
殺し屋に死はつきものだ。それは仲間も敵も平等だ。
きっと、自分はこの先、仲間の誰が死んでも同じことを繰り返す。仲間の死を悲しみ、後悔するのを止めることはできないだろう。
大切な者は、いなくなって初めてその大きさを知ることができることを、タツミもまた学んできたのだ。


617 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:24:59 SVi88CXI0
「くだらないことで笑いあって、些細なことで喧嘩しあって...そんな当たり前の日常をその手で壊して、後悔もせず笑っていられるのがきみのいう『人間』なのかね?」
さやかの脳裏をある光景がよぎる。まどかを殺めて得た世界が。
いつもの登校風景。おはようと声をかけてくれる彼女はいない。
試験で赤点をとった時。ドンマイと笑いかけてくれる彼女はいない。
仁美と恭介のことで塞ぎこんでいる時。仁美のことも一緒に心配して慰めてくれる彼女はいない。
仁美と仲直りをしたとき。心から喜んでくれる彼女はいない。
なんでもない休日。一緒に遊んできた彼女はいない。
なんでもない帰り道。一緒にくだらないおしゃべりを交わした彼女はいない。
毎日のように交わされる挨拶。またあしたと手を振る彼女はいない。
自分が楽しい時も苦しい時も、いつでも隣にいてくれた親友は...いない。

「まどか...」
友の名前がポロリと零れる。
さやかは怖くなった。まどかを殺して身体を戻せば、彼女はいなくなる。当たり前の日常が当たり前でなくなる。
醜くてもなんでもいい、とにかく生きると最初に決めた。そうすればいつかは幸せになれると思い込もうとした。
だが、今までの日常が無くなって、それで幸せだと言えるのか?あの優しすぎる親友を殺して、前を向いて生きていけるのか?
美樹さやかは、それを断言できるほど強くなかった。
「もどりたい...」
ジョセフから手を離し、さやかが膝から床に崩れ落ちる。床に雫がおちてはねた。
「まどかと...もどりたいよ」
そのまま泣き崩れるさやか。
「きっと戻れますよ。いいえ、ジャッジメントの一人として、必ず戻してみせます。だから、お願いです」
その手を優しく握るのは初春。
「私たちと、一緒に戦ってください」
泣き腫らした顔を隠すことをせず、さやかは頷いた。


(これで一安心かのう)
泣き崩れるさやかと慰める初春を温かい目で見つめながらジョセフは思う。
これは賭けであった。
初春とタツミの知り合いを整理する最中、あることに気が付いた。
名簿は、50音ではなく、知り合いは知り合い同士で固めていられた。
そうなると、さやかも誰か知り合いが共に集められているかもしれない。
それが誰かはわからなかったが、名前の雰囲気が似ているということで、さやかの名前の前後2名ずつを選んだところ見事に的中した。
さやかが名簿を確認したうえで優勝を決めていたなら殺意を折るのは不可能に近かったが、さやかが名簿を確認していなかったこと、友達のために怒れる感情があったことが幸いした。
ジョセフは賭けに勝ったのだ。
最早この場に戦意を持つものは誰もいなかった。

「ジョースターさん」
ただ一人、この少年を除いては。
「話がある」


618 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:29:48 SVi88CXI0



「これからの方針じゃが、二手に別れようと思う」
さやかとも情報交換を終え、タツミが回収したテニスラケットも配り終えたあと、ジョセフはそう提案した。
「これはタツミくんと相談して決めたことじゃが、互いに探し人がいる以上、4人で行動するのは効率が悪い。そこで、一度別れようということになった」
「もちろん、戦力が減るぶんリスクも高まるが...初春さん、あんたはどうしたい?」
「えっ?」
「言っちゃ悪いが、この中で一番戦闘経験が少ないのはあんただ。あんたが不安に思うなら、4人で行動しようと思う」
初春は考える。たしかにこのまま纏まって行動していれば自分は安全だ。しかし、御坂や黒子は力無き人々を守りながら行動しているに違いない。
ならば、いち早く合流して力にならなければと思う。
「私は、賛成です」
「わかった。では、ワシと初春くんで北を、タツミくんとさやかくんで西側を探すことにする。異論はないかね?」
「はい」
「ああ」
「いいよ」
「では、2度目の放送後にこの闘技場で、もしここが禁止エリアになった場合はカジノ、それでもダメなら音ノ木坂学院で合流するとしよう」


タツミとさやかにそれぞれ別れの挨拶を交わし、ジョセフたちも歩きはじめる。
「さて、ワシらもボチボチいくとしよう」
「あ、あの...」
「なんじゃ?」
「今度からああいうことをするときは、私にも教えてください。本当に怖かったんですから...」
『ああいうこと』。それは、タツミとだけ打ち合わせをし、初春には内緒で言い放った『さやか他4人を殺す』という言葉である。
それらしい理由をつけたが、勿論ジョセフはそんなことをする気はさらさらなかった。
しかし、なにも知らない者からすればかなり不安を抱く台詞である。信頼を損ねる可能性は十分に高い。
最低一人は何も知らないリアクションをとってくれなければ、あの言葉の説得力が薄くなると思い初春には黙っていたが、当然ながら彼女は不安に思ったらしい。
「すまなかったな、初春くん。次からは気を付けよう」
謝罪しつつ、柄にもなく目の前に転がってきた策に溺れて周囲への配慮を怠った自分を恥じた。
(よほど焦っていたのか...ワシも歳かのう)
そして、この手はなるべく使わないようにしようと心の中で決めた。


放送まであと一時間程度。
ジョセフたちが放送を待たず、戦力を分散してまで仲間との合流を早めようとしたのは、DIOの能力のためだ。
DIOは、他人の脳に『肉の芽』という細胞をうち込むことで己の部下として洗脳できる。
そのため、時間が経てば経つほど、DIOは部下を増やしていくことになる。
それを防ぐためにも、仲間との合流を早めたいと思ったのだ。
タツミたちを、DIO本人が向かう可能性の高いDIOの屋敷のある西側へと向かわせたのも意味はある。
タツミが偵察を強く提案したのもそうだが、想像以上に準備が整ったDIOと遭遇した場合、ジョースター家の痣を持つ自分では逃げ切ることができない。
それに対して、タツミとさやかはジョースター家ではなく、身体能力だけでいえばジョセフよりも高いため遙かに逃げやすいという判断のもとだ。
だが、ジョセフは知らない。タツミが別行動を提案した本当の理由を。


619 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:31:50 SVi88CXI0


タツミが別行動を提案した理由。それは、あの中でただ一人だけさやかを警戒し続けていたからだ。
タツミは知っている。開始早々に殺し合いを肯定した、さやかの『人間』へと戻るための執念を。
タツミは幾度も暗殺を経験してきた殺し屋だ。殺気や執念といった負の感情に触れた経験値はジョセフよりも多い。
そのため、それらが決して簡単に消えることのないものだということも知っている。
もし、4人で行動している最中、隙をつかれて人質をとられてしまえばどうしようもない。
一応、ソウルジェムは『無駄な魔力を消費させない』という名目で預かってはいるが、それで警戒心が緩むことは無い。
故に、最初に殺せなかった責任感と、己の信念のもと、一人でさやかを監視することにしたのだ。

「ねえ、タツミくん」
「なんだ?」
「その、最初はごめん。あんなことしちゃって」
「...まあ、気にするなよ。お前の事情もわかったからさ。だから、これで手打ちにしようぜ」
「...ありがとう」

握手を交わそうとも、タツミの信念は変わらない。
先程はジョセフと初春の顔を立てたが、もしさやかが再び『悪』の道を歩むのならその時は...

(―――俺が斬る)


タツミの感は概ね当たっていた。
たしかに、まどかの存在はさやかの殺意を折った。
だが、まどかと共に連ねられた名の中に、さやかの心を揺さぶるものがあった。
―――巴マミ。
彼女は、まどかとさやかの前でたしかに魔女に食い殺されたはずだった。
ソウルジェムが本体だということを考慮しても、それごと食べられては助かる望みはない。
だが、確かに彼女の名は名簿に記載されている。
赤の他人の可能性も考えられるが、他に三人も知り合いがいる中で、彼女だけが別人というのも腑に落ちない。
つまりはこういうことだ。

―――巴マミは、広川に蘇生させられた。

死者の蘇生。それは、誰もが一度は夢みる実現不可能な奇跡だ。
そんな奇跡が起こせるのは、魔法少女の素質がある者くらいだ。
しかし、それを願ったのが誰かは見当がつかない。
それに、既にキュゥべえと契約している自分達が優勝したとき、どのように願いを叶えるのだろうか。
もしかして、広川は魔法少女の契約以上に簡単で、素質に関係なくどんな願いでも叶える術を持っているのではないか。
その術を手に入れれば、自分の願いを叶えることができるのではないだろうか。
身体を元に戻す。いや...


―――人生をやり直すことを。


620 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:34:34 SVi88CXI0

『希望と絶望は差し引きゼロだ』。
かつて、佐倉杏子はそんなことを言っていた。ならば、さやかが魔法少女を止めたその瞬間、恭介の腕は再び動かなくなるのではないか?
それは駄目だ。恭介の腕は治ってほしい。それだけは、嘘偽りない本心だ。
ならば、人生をやり直すことができればいいのではないだろうか。
そうすれば、恭介の事故を事前に防げるかもしれないし、まどかや巴マミを失わなくてもすむかもしれない。
それだけではない。
『参加者全員の人生をやり直させる』と願えば、ジョセフの言った後悔も無くなるのではないだろうか。
そんな都合よくはいかないだろうとも思う。
だが、もしもその願いが叶うとしたら。
もしも、やり直したうえでもやるべきことが変わらなかったとしても。
...受け入れる覚悟があれば、少しはマシになるのではないだろうか。
そんな考えが、尋問が終わったあとにふつふつと沸いてきた。
同時に、そんなことをしてはいけない、こんな自分を許してくれた彼らを裏切りたくないという倫理観が今さら蘇ってきたのも確かだ。
人殺し、特にまどかとマミを手にかけることはしたくない。
しかし、ゾンビのようなものであるこの身体を全て受け入れることもできない。
さやかの殺意はひとまず治まったが、執念だけはまだ消えていなかった。



ジョセフ・ジョースターは歴戦の猛者ではあるが、今回はその重ねてきた年季が仇となった。
爆弾で木端微塵になり、身体を真っ二つにされようが腹に風穴を空けられようが、その度に身体を機械と化しつつも『人間』として生きた軍人シュトロハイム。
誇りを捨ててまでなにがなんでも仲間のために生きようとした柱の男エシディシ。
己の信念と戦いの矜持のために生きてきた柱の男ワムウ。
ジョセフは彼らの生き様に敬意を払ってきた。
対してさやかはほんの数日前までは普通の女子中学生だった。
そんな一般人が身体を抜けがらにされたと聞かされてすんなり受け入れるのは難しい。
人間かどうか以上に『生き様』を重視する『戦士』のジョセフは、魂を肉体から抜かれたという事実をさやかほど深刻に考えられなかった。だからそのことにはあまり触れなかった。
より人間らしくいられるように『魂の在り方』を重視する『一般人』のさやかは、普通の人間への未練を捨て去ることはできなかった。だから彼女はどっちつかずで思い悩んでいた。
両者の意識の差から生じる価値観の違いが生んだのは、問題の先延ばし。


―――『本当の気持ちと向き合えますか?』

さやかに向けられたその問いの答えは未だに出ていない。


621 : ジレンマ ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:36:16 SVi88CXI0
【G-7/一日目/早朝】
【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]: 疲労(中〜大)
[装備]: いつもの旅服。
[道具]: 支給品一式 三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース 
     市販のシャボン玉セット(残り50%)@現実、テニスラケット×2
[思考・行動]
基本方針: 仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡吹かせる。
1: 初春と北へ向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でタツミたちと合流する。
2: 仲間たちと合流する
3: DIOを倒す。
4: 脱出の協力者を探す

※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。
※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。
※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。
※殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語で認識されると考えています。
※初春とタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。


【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]: 基本支給品一式、不明支給品1〜3。テニスラケット×2
[思考・行動]
基本方針: 殺し合いから脱出する。
1: ジョセフと北へ向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でタツミたちと合流する。
2: 佐天や黒子や御坂と合流する。

※参戦時期は不明です。
※殺し合い全体を管制するコンピューターシステムが存在すると考えています。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※ジョセフとタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物だと認識しました。




【タツミ@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式 テニスラケット×2 ソウルジェム(穢:小)
[思考]
基本:悪を殺して帰還する。
1: さやかと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でジョセフたちと合流する。
2: さやかを監視する。さやかに不穏な気配を感じたら即座に殺す。
3: アカメと合流。
4: もしもDIOに遭遇しても無闇に戦いを仕掛けない。

[備考]
※参戦時期は少なくともイェーガーズの面々と顔を合わせたあと。
※ジョセフと初春とさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※DIOは危険人物だと認識しました。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ソウルジェムに波紋によるダメージ(中〜大) 波紋が与えた肉体への影響(中〜小)
ソウルジェムの物理ダメージ(小) 精神不安定
[装備]: 基本支給品一式  テニスラケット×2 グリーフシード×1 ほぼ濁りかけのグリーフシード×2
[道具]:
[思考・行動]
基本方針: やっぱりどうにかして身体を元に戻したい。そのために人生をやり直したい。
1: タツミと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でタツミたちと合流する。
2: いまはゲームに乗らない。でも、優勝しか願いを叶える方法がなければ...
3: まどかとマミは殺したくない。たぶん脱出を考えているから、できれば協力したいけど...
4: 杏子とほむらは会った時に対応を考える。


※参戦時期は魔女化前。
※初春とタツミとジョセフの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物と認識しました。
※ゲームに乗るかどうか迷っている状態です。


【さやかが話した魔法少女についての共通認識】
※ソウルジェムが本体である。破壊されるか、100メートル以上離れると身体が操れなくなり死ぬ。
※魔力を消費し、濁りが溜まると死ぬ。(さやかがそう説明しました。魔女化についてはさやか以外知りません)


【ブラウン管テレビ】
※スポーツジムの一室に固定された状態で置かれています。持ち運びはできません。


622 : ◆dKv6nbYMB. :2015/06/06(土) 23:37:07 SVi88CXI0
投下終了です。


623 : 名無しさん :2015/06/06(土) 23:44:39 aplItyEc0
投下乙です

子どもの頃のエピソード絡めるのっていいなあ、初春さんぐう聖。
あくまで修羅の道を歩もうとするタツミとの対比でさらに映える。
さやかちゃんはひとまず安定したけど、これからまっとうな道進むのかそれとも……


624 : ◆w9XRhrM3HU :2015/06/07(日) 18:58:16 HJh/MsoA0
投下します


625 : 図書館にて ◆w9XRhrM3HU :2015/06/07(日) 18:59:11 HJh/MsoA0
「アイドルかぁ。俺はあまり見たことないけど、何か華やかなイメージがあるな」
「ステージに上がれば衣装や、飾り付けで豪華だけど練習は大変だよ?」
「確かに歌って踊るなんて、体力が要りそうだしね」
「そうそう。特に大変なのは―――」

図書館に向かうまでの道すがら、タスクと未央は知り合いの情報交換から始まり、取り留めのない世間話をしていた。
特に盛り上がったのが、未央の言うアイドルの話だ。
やはり、そういう芸能界の裏側というのは一般人からすれば好奇心を擽られるのだろう。
タスクは物珍しそうに質問し、それに答えるのは結構気分がいい。
自慢するわけではないが、自分がアイドルだというちょっとした優越感に浸れた。

(良かった。不安感は拭えたみたいだな)

未央の笑顔が増えたのを見て、タスクは心の中で安堵の息を吐いた。
少し前まで笑顔の似合う、その顔は暗く俯いたままだった。見かねたタスクが話を切り出し、気付けばアイドルの話に結びつく。
すると、それが思いも寄らぬ効果を見せ、未央の不安を解消してくれた。
余程入れ込み、夢中になっているのだろう。

(それにしてもアイドル、か。シンデレラプロジェクトとか聞いた事がないけど、俺が詳しくないだけかな?)

世間知らずという訳ではないが、無人島暮らしが長く世間に精通してる訳でもないタスクは深く考えない。
確か、アンジュがまだ皇女アンジュリーゼだった頃はファッションだのスポーツだので、テレビに引っ張りだこだったと聞く。
その時の名残で、アイドルにも詳しいかもしれない。会った時に聞いてみるのも良いだろう。

(まあ、女の子のアイドルの話をして、ヤキモチ焼かれても困るけど)

アンジュがきのこを目の前で。力一杯食い千切る光景が浮かんだ。
思わず股間に寒気が走り、手で押さえたくなる衝動を我慢する。
アイドルの事を聞くのは、やっぱりやめた方がいいのかもとタスクは思った。

「それで……プロデューs「見るな!」

いきなりタスクが未央の視界を遮るように手を翳し目の上に置く。
一瞬、暴力を振るわれるのかと勘繰ったが、そうではないらしい。
むしろ逆だ。置かれた手は、下の眼球に配慮してかとても優しい。だが、その視界を開放させないが為に、力強く固定されている。

「このまま、図書館に入ろう」
「え? あっうん……」

タスクの視線は図書館ではなく正反対、逆の位置に注がれる。
そこには一つの生首が晒され、ご丁寧にイェーガーズにより正義執行!の貼り紙が付いていた。

(誰があんな事を……晒し首なんて、時代誤差にも程があるだろ!)

堪らず胸の内で毒を吐いた。
恐らくは殺し合いに乗っている者達の牽制及び、そうでない者達を安心させる為に、あんな真似をしたのだろう。
生首の主には申し訳ないが、あの面構えはどう見ても悪人。何かここでやらかし、返り討ちにあったとしか思えない。
問題は牽制にはなるだろうが、乗ってない者があんなものを見たところで、安心できるはずもなく、ただ無闇な混乱が起こるだけだ。
タスクでさえ、見ていて気分が悪いのだ。せっかく安定してきた未央に、あれを見せるわけにはいかない。
幸い距離があったお陰で、未央の目に入る前に手で遮れた。
一先ず図書館の中に入り、あの生首から未央から遠ざけた方が良い。

「ね、ねえ? どうしてあんな事を……?」
「……知らないほうが良い」

笑顔の戻った未央の顔が曇る。
薄々何があるのか、察し事態はついているのだろう。生首とは思いつかずも、それに近いものがあったとは分かっているはず。
タスクも誤魔化しは聞かないと分かりながらも、言葉を濁し話を反らした。
出来れば、自分達が図書館に居る間に誰かあの首を除けておいて欲しいと願い、図書館に足を踏み入れた。






626 : 図書館にて ◆w9XRhrM3HU :2015/06/07(日) 19:00:35 HJh/MsoA0
黒と戸塚が去った後も、狡噛は図書館内の探索を続けていく。
様々な本が目に付いては流れていく。
小説や観光地などのガイドブック、歴史の伝記を始め、漫画やアイドルの情報誌まである。
情報誌を適当に手に取りページを開いてみる。

「渋谷凜、島村卯月……名簿にあった名前だ。アイドルまで巻き込まれているのか」

駆け出しのようではあるが、注目度は高いらしい。
それが同時に失踪となれば、世間が騒ぐのは想像に難くない。
アイドルとしては、それはかなり致命的なスキャンダルだろう。
出来れば、そう事が大きくなる前に彼女達を元の生活に帰してやりたい。
刑事としての職業柄がまだ抜けないのか、あるいは狡噛自身の気性からそう思ったのか。本人にも定かではなかった。

情報誌と名簿で共通する名前を頭に叩き込み、情報誌を元の場所へ返す。
感傷に浸るのもそこそこにし、頭に冷静さを取り戻させる。
先の情報誌も今まで読んだ本と同じく、狡噛の知る基礎知識と大きく外れていた。
やはり戸塚の言っていたように、パラレルワールドという説も考慮すべきなのかもしれない。
仮に槙島を殺し、首輪を外せ、広川をどうにか出来ても、異世界からどうやって帰えればいいのか分からないでは話にならない。

「と言っても、まだ情報不足だな」

図書館内も粗方探索が終わった。
そろそろ、動いた方が良いのかも知れない。
だが、槙島が図書館に向かう可能性も十分に考えられる。もう少し待って、様子を見るべきかとも思える。

(槙島がこの辺に居れば間違いなく図書館には寄る筈だ。
 でも、奴の姿は見えない。……遠い位置に飛ばされたか? だとすれば、奴が図書館以外に向かう場所は?)

今、槙島は図書館、本以上に何か熱中するもの。十中八九、この場に呼ばれた参加者に興味を惹かれているに違いない。
まず黒たちが来た北の方向。あそこは人がそう多くはない。
黒たちも後藤以外に会っていないらしい上に、後藤のような化け物がたむろしているとなれば尚更だ。
槙島がそう足を止めるとは思えないし、後藤に出会えばさっさと黒たちのように図書館へ駆け込んでいるだろう。

(人……待てよ? そういえば)

先ほど置いた情報誌を再び手に取り、アイドルのページを開く。

(全員、学生だ……。考えれば、ここの参加者は学生が非常に多かった)

最初に磔にされたあの場所。記憶を辿れば、多くの学生服が視界に写っていた。
あの殺された上条という少年も学生だった筈だ。黒と共に居た戸塚も同じく。

(学生……それも高校生辺りの数が多い。となれば)

体は成長したとしても精神はまだ子供だ。
そんな学生達が殺し合いという異常下において、真っ先に目指し集まりそうな場所。

「……学校。音ノ木坂学院」

学生が全員学校を好きになるとは言い難いが、殺し合いへの逃避として学生生活の象徴とも言える学校を目指す。
あるいは、同じく殺し合いに巻き込まれた学友との合流を考え、学校へと急ぐ。
ある程度の参加者が興味を持つのは間違いない。
槙島がそう予想してか、偶然音ノ木坂学院にてそういった参加者と遭遇してかは定かではないが、槙島が居る可能性は高いのではないか?
こんな事なら、黒達と同行すべきだったかもしれないと少し後悔も沸く。
今から向かってもいいが、図書館の事も捨てきれない。下手に動いて行き違いになるのも避けたい。
確か、デバイスに死者の名を流す定時放送があると書かれていたのを思い出す。
キリ良くその一回放送まで待ってから、音ノ木坂学院に向かってもいいだろう。

そこまで考え付いた時、黒達が足を踏み入れた時のように狡噛の仕掛けが音を鳴らした。

「誰だ?」
「待ってくれ! 俺達は殺し合いには乗っていない!」

黒の時とは違い来訪者の姿はそのまま、両腕を上げながら狡噛の前に立っていた。







627 : 図書館にて ◆w9XRhrM3HU :2015/06/07(日) 19:01:19 HJh/MsoA0
「そうか、待ち合わせか」
「はい、ブラッドレイって人で」

互いに殺し合いに乗る意思がないことが分かり、素性を明かし情報を交換し合う。
狡噛が情報誌で未央がアイドルだと知っていたことも、警戒を溶かす一因となり穏便に話は進められた。
狡噛は図書館内を探索しており、黒と戸塚は殺し合いに乗っていないこと。そして槙島と後藤が危険であるということを伝える。
タスクと未央は両者の探し人の名を話し、エンブリヲが危険であり、ブラッドレイが討伐に向かい今はその帰りをここで待っていることを伝えた、

「それより、狡噛さん。ずっと図書館に居たらしいですけど、外のアレを見ましたか?」

情報交換を終え、タスクが言葉を反らしながら狡噛へと問いかける。
狡噛自身はそのアレに該当するような物を知らない。
タスクへ何のことか疑問を返すが、視線だけを図書館の外に投げるだけで口を開かない。
話せないというより、未央の前で話したくないのだろうと狡噛は察し、頷いてから図書館の外へ出る。

(生首?)

前時代的な、俗に言う晒し首のように首だけになった男の生首が置かれていた。
こんなものは狡噛が来た時にはなかった。無論、黒と分かれた時も出口まで見送りに行ったが、生首があった様子はない。

(黒と別れて、俺が図書館に篭った間に誰かがこれを置いたって事か?)

血の滴りが奥へと続いている。それを追いかけると首のない男の死体が見つかった。
間違いなく、あの男のものだろう。
服が乱れ、ボタンなどが適当に閉められてるとことから、検分の跡が見られる。
いくら図書館に篭っていようとも、こんな殺害の現場の近くに居れば悲鳴の一つや二つ聞こえてもいいはずだ。
だが、狡噛の耳には届かなかった。殺害時刻は殺し合いが始まって即、深夜辺りだろう。少なくとも狡噛がまだ図書館に来る前だ。
男の体に性犯罪者に多い爪痕があるのを見るに、女性を襲ったところを殺害されたのかもしれない。
その後、狡噛が図書館に入り黒達が図書館を過ぎた後、何者かが死体を発見し首を切り取り晒し、ご丁寧に首輪まで持ち去った。
「イェーガーズにより正義執行!」とある辺り正義感が強く、この男が性犯罪者と確信していた人物が行ったと見るべきだ。

「こいつを殺した女から話しを聞き、わざわざここまで来たか……。
 死体に動じず支給品を持ち去るどころか、どころか服を剥いで性犯罪者か確認する辺り警察関係者かもな……」

人相も悪く、爪跡からもほぼ黒に近いグレーの男だがそれだけでは犯罪者と呼ぶには証拠が少ない。
もっと、何か犯罪者であると強い確証があったに違いない。
もし襲われた女ががむしゃらに逃げ、その正義感の強い者に助けを求め、真偽を確かめる為に検分に向かい、犯罪者と確証を得て、燃える正義感に従い首を斬り、合理的に首輪と男の支給品を回収した。
そう考えれば、矛盾は殆どない。
この首を放置するもの気が引けたが、一先ず図書館へと引き返しタスクにだけ死体の検分結果と自分の推理を聞かせる。

「イェーガーズ……確か、近くにその本部がありましたね」
「間違いない。貼紙の通り、首を晒したのはそこの関係者がやったんだろう」

狡噛とタスクが話し合う。
道徳的には生首を片付けたいところだったが、下手に片付けて犯人を刺激するのは避けた方が良いかもしれないと狡噛は伝える。
わざわざ貼紙を残すほどなのだから、様子を見に来る可能性は高い。もし生首を片付けられているのを見たら、怒り狂いこちらに襲い掛かってくるかもしれない。
様々な犯罪者を見た狡噛だから分かるが、この手のタイプは自分の価値観にずれた行為を行った者を見た場合、何をするか分からない。

「まあ、気味が悪いのも確かだ。それに他の参加者が変な勘違いを起こす可能性も高い。
 片付けるかどうかはお前に任せる。今なら俺も手伝えるが」
「……いえ、未央を連れてる以上、変なトラブルは避けたいし、ここに長居する気もないですから。
 ブラッドレイと会った後、未央と一緒に裏口から出ることにします」
「そうか。俺は一回放送まで、図書館で待ってその後、音ノ木坂学院の方に行こうと思う。
 短い間になるが、よろしく頼む」
「いえ、俺のほうこそ」

短い付き合いになるが、互いに腕の立つ味方が出来たのは心強い。
タスクは安堵の溜息を吐いた。


628 : 図書館にて ◆w9XRhrM3HU :2015/06/07(日) 19:04:27 HJh/MsoA0



【D-5/図書館/一日目/早朝】

【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:健康
[装備]:スペツナズナイフ×2@現実
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
1:アンジュを探す。
2:ブラッドレイを待つ。
3:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
4:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
5:未央には生首は見せないでおきたい。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
 ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。

【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康、
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
1:渋谷凛、島村卯月、前川みく、プロデューサーとの合流を目指す。
2:ブラッドレイを待つ。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
 ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。

【狡噛慎也@PSYCHO PASS‐サイコパス‐】
[状態]:健康、左腕に痺れ、槙島への殺意
[装備]:リボルバー式拳銃(4/5 予備弾50)@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:基本支給品、ノーベンバー11のタバコ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ライター@現実
[思考]
基本:槙島を殺す。そして殺し合いも止める。
1:槙島を見つけ出す。
2:槙島の悪評を流し追い詰める。
3:首輪解析の為の道具とサンプルを探す。
4:銀、八幡、雪乃、結衣に会ったら黒と彩加の事を伝える。
5:後藤を警戒。
6:一回放送まで待った後、音ノ木坂学院に向かう。

[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒、戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※タスク、未央と情報交換しました。
※デレマス勢の四人(プロデューサー以外)の顔を覚えました。


629 : ◆w9XRhrM3HU :2015/06/07(日) 19:05:07 HJh/MsoA0
投下終了です


630 : 名無しさん :2015/06/07(日) 19:26:47 afFZnpLM0
投下乙です

浦上の生首の考察が…うん、何も間違ってはいないけど実際文で読むと物凄い違和感だw
絞噛さんのマキシマムに対する読みドンピシャだな、やはりお互いを誰よりも理解してるのかもしれない


631 : 名無しさん :2015/06/07(日) 22:43:37 kcn/mAR.0
投下乙です
狡噛さんは考察面で映えるなぁ


632 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:22:04 ndVyEXE20
投下します


633 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:22:30 ndVyEXE20

「ちょっといいかしら」

声をかけられたのは、街に入って少ししてからのことだった。
西木野真姫、田村玲子の前に、赤いコートを着た金髪の女が立っている。
女はその手に銃を持っている。さすがに銃口をこちらに向けてはいないものの、いつでもそうする、そうできるのだと言外にプレッシャーをかけてきていた。
真姫の視線は女の持つ銃に注がれていた。スクールアイドルとはいえあくまで一般人の真姫は拳銃など映画や漫画の中でしか見たことがない。
ある意味では先ほど出会ったDIOという、車を片手で持ち上げた男と同じくらい、現実感を感じさせないものだ。
真姫を背中に庇うように田村が女と向かい合う。

「何の御用かしら。そんな物騒なものを持って」
「悪いわね、こんな状況じゃ初対面の相手にだって油断はできないの。特にここには、人間じゃない奴まで紛れ込んでいるのだし」

女が憎々しげに言い放った言葉に、真姫はドキリとする。DIO一行と別れてからここに来るまで、真姫は田村から色々な話を聞いた。
田村が寄生生物という、人間を殺して食べる危険な生物だということ。
ある日突然目覚め、人間に寄生し、人間に興味を持ち、寄生生物同士で子を成したこと。
田村の方はただ一つ、人間に追い詰められ、射殺されたことは黙っていた。というのも田村自身、どうやって自分が今ここにいるのかいまいちよく理解できていないからだ。
少なくともあのときは、寄生した人体の損傷は著しく、寄生生物の力を以ってしてももはや蘇生は不可能だった。
しかしこの身体にはその傷が一つもない。撃たれた記憶はしっかりとあるのに、だ。
真姫には不確定な事象を不確定なまま伝えることもないと、何らかの形で整理できるまで黙っているつもりだった。

「いくつか聞きたいことがあるの。少し時間をもらえる?」
「構わない。こちらも質問がある」

話を進めていく女と田村に口を挟まず、真姫はじっと二人のやりとりを眺めていた。
田村からある程度話を聞き終えて、それでも不思議と、真姫は田村から離れる気は起きなかった。
田村の冷静な語り口や敵意のない所作から、少なくとも真姫を害する気がないことを理解したからだ。
これは、擬態とはいえ田村が人の形を保っているのも一因だろう。
仮に人を捕食する形態を真姫が見ていたら、理性では安全と判断しても本能、心の部分が拒否するのは想像に難くない。
真姫が田村をあえて喩えるなら、とても危険な凶器を持った優しい人、とでもなるのだろうか。
その凶器がこちらに向けられることはまずないと理解していながら、凶器を持つがゆえに線を引いてしまう。
距離感を掴みかねて、さりとて離れることもできず、黙々と音ノ木坂学院を目指す真姫と田村の前に現れたのが赤いコートの女だった。

「まずは自己紹介ね。私はアンジュ。名簿にもその名で載っているわ」
「私は田村玲子。彼女は西木野真姫」
「玲子に、真姫ね。ああ……これを最初に言うべきだったわね」

女――アンジュは、拳銃をいつでも撃てるように強く握り締める。

「私は殺し合いをする気はない。と言っても、襲ってきた相手に容赦するつもりもないけれど。あなたたちはどう?」
「私たちも同じよ。反撃を躊躇しない、というところも含めて……ああ、これは私の意見であって、西木野さんは違うでしょうけど」
「わっ、私も同じよ! その、反撃とかそういうのはちょっと、無理だけど……」

真希は突然田村に水を向けられる。アンジュの鋭い視線に射抜かれ、やや焦りながら答えた。
無抵抗を標榜するわけではないが、さりとて他人を害することができるとも思えない。
紛れもない弱者、民間人であるところの真姫としてはそこは決して誇張できない部分だった。


634 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:23:23 ndVyEXE20

「ふうん。まあ、見るからに戦闘訓練なんて受けていなさそうね。運動神経は悪くなさそうだけど」
「あ、私スクールアイドルやってて、毎日レッスンしてるから」
「アイドル? へえ、凛と同じなのね」
「りん? ……凛と会ったの!?」

アンジュの口から出てきた言葉は、真姫にとっても無視できないものだった。
支給された名簿に載っているμ'sのメンバーの名は、真姫以外で高坂穂乃果、園田海未、南ことり、星空凛、小泉花陽の五人。
アイドルをやっていて名前が凛、といえば真姫と同じ星空凛に間違いない。

「ちょっとトラブルに巻き込まれてね。エンブリヲって変態にさらわれたの」
「そんな……! り、凛はいまどこにいるの!?」
「だからそれを私も聞きたかったのよ……」

蒼白になる真姫。知り合いが拉致されたと告げたアンジュもバツが悪そうな顔だ。

「落ち着きなさい、西木野さん。アンジュさん、少し聞きたいのだけど、あなたの言う凛という娘は、星空凛で間違いない?」

そんな中、一人冷静だった田村が名簿を眺めながら問いかけた。
田村の視線は星空凛という文字からややズレて、渋谷凛という名に注がれていた。

「星空? いえ、渋谷凛って名前だったはずよ」
「そう……。西木野さん、朗報と言えるかはわからないけど、彼女が言っている凛とあなたの知っている凛は別人よ」
「ふぇ? ……え、あ」

名簿には二人、凛という名前を持つ人物がいる。
今回はたまたまそれがかぶっただけだと、田村は名簿の渋谷凛という名を真姫に指し示す。
狼狽から一点、安心で気の抜けた真姫がへたり込んだ。

「そっちにも凛って知り合いがいたのね。悪いわね、勘違いさせて」
「いえ……凛が無事なら、私はそれで」
「そうもいかないわ。そっちの凛が無事でも、こっちの凛が攫われたことは事実なんだから」

あ、と真姫は赤面した。友人が無事だったことに安堵するあまり、渋谷凛という娘のことを気にかけていなかったからだ。
田村が真姫の肩に手を置く。気にするな、ということらしい。
アンジュも気を悪くした素振りはなく、気を取り直して田村と情報を交換していく。

「DIO、食蜂操祈、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。どれも知らない名ね」
「エドワード・エルリック、前川みくはこちらも知らない。エンブリヲという男も残念ながら。力になれなくて悪いわね」
「まあ、いいわ。あなたたちがあの変態に遭遇していないのは幸運だと思うし」
「これからどうするの? 探す宛てはあるのかしら」
「北は仲間が……小さい仲間が探してるわ。私は南側を当たるつもり」
「じゃ、じゃあ! 音ノ木坂学院まで一緒に行かない!?」

アンジュの目的地が地図南東側の市街地らしい。そこには真姫たちも向かう音ノ木坂学院がある。
アンジュに対する若干の申し訳無さから黙っていた真姫が、ここぞとばかりに声を上げた。


635 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:23:42 ndVyEXE20

「あなたたちと同行するってこと?」
「エンブリヲって男はどこにいるかわからないんでしょう? まず音ノ木坂学院から調べてみるのがいいんじゃないかしら」
「……いいえ、止めておくわ。いくらなんでも距離が近すぎる。エドワードが近くにいる場所であいつが満足するとは思えない」

先ほどエンブリヲと交戦した場所から音ノ木坂学院はさほど離れていない。
能力的に相性の悪いエドワードが追ってくることを考えれば、エンブリヲがそこに逃げ込んだ確率は高くないだろう。

「で、でも。もしそのエンブリヲって変態がいたら……!」
「アンジュの話を聞く限り、私だけでは対処は難しいでしょうね」

しかしあくまで確率論だ。いないかもしれないし、いるかもしれない。
そしてもし低い確率を引き当ててしまえば、渋谷凛という少女に続くエンブリヲの犠牲者が二人、出来あがるだけ。

「悪いけどそれはそっちの事情よ。エンブリヲがいそうにない場所に私が行く意味がない」

しかし、アンジュにそれを考慮する余裕はなかった。
時間が経てば経つほど渋谷凛の安否は危うくなっていく。無駄な寄り道をする時間はない。
真姫はなおも説得を続けようとするが、田村がそっと抑える。アンジュの決定を変えるだけの理由がないからだ。
話は終わったと踵を返したアンジュだったが、次の瞬間には銃を構えていた。
ただし銃口は、真姫でも田村でもない、まったく別の方向に。

「君がアンジュか。良かった、こんなに早く会えるとはね」

銃口の先には男がいた。
銀髪に白いシャツ。線は細いが、しっかりと筋肉のついた身体をしている。
口元には小さな笑み。銃を向けられていてもまったく動揺していない。

「あんた誰よ。いつの間に近づいたの」
「立ち聞きする気はなかったんだけどね。この街は音が響くから。
 ああ、僕の名前は槙島聖護。君たちに手出しする気はないから安心してくれていい」

槙島と名乗った男は両手を挙げ戦意がないことをアピールする。
アンジュは油断なく拳銃を突きつけたまま、槙島の発言を思い返す。

「私を知ってる口ぶりだったけど、どういう意味?」
「君を知っている人に会ったからさ。彼または彼女が、今いる場所も知っている」

槙島の言葉にアンジュは目を見張る。

「誰に会ったの? エンブリヲ? どこで!?」
「さあ、名前まではただでは教えられないな。そうだね、君の持っている銃を一つくれるかい? さすがにこれだけでは心もとないからね」

槙島はナイフを取り出しヒラヒラと振る。アンジュはそのナイフにどこか見覚えがあった気がしたが、思い出せない。

「ふざけないで。誰がいるっていうの!」
「その銃で撃って無理やり口を割らせるかい? 構わないよ、それでも」


636 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:24:10 ndVyEXE20

余裕の態度を崩さない槙島に苛立つ。本当に撃ってやろうかと思わないでもなかったが、横で見ている真姫と田村の手前、それもできない。
幸い、銃は二つある。一つ渡してもさほどアンジュの戦力は低下しない。
引き換えに得るものはなにか。エンブリヲであればこの上ない情報。それ以外でも、名簿に記された名はアンジュにとっては仲間ばかりだ。
タスク、モモカ、ヒルダ、サリア。誰だったとしても無条件で信頼できる。
ギリ、と奥歯が鳴る。槙島は微笑んでいる。癪に触るが、あの分では撃っても喋るかどうか。
そしてこの状況で撃ってしまえば、田村と真姫からの心象はかなり悪くなるだろう。
メリット・デメリット双方をざっと推し量り、アンジュは息を吐いた。

「銃を渡したとして、アンタが私たちを襲わない保証は?」
「口約束しかできないね」
「そんなもの、信頼できるわけないでしょう!」

冷静に対処するつもりだったが、どうにもこの槙島という男と話していると不快感が先に立つ。
激昂しかけたアンジュを、成り行きを見守っていた田村がそっと鎮める。

「渡してやればいい。拳銃程度なら私が対処できる」
「は? あなたが?」
「今は情報が欲しいんでしょう。それも、一刻を争う」
「それは、そうだけど」

この件に関しては部外者である田村に仲裁され、アンジュの頭も休息に冷える。
その様子を槙島は楽しそうに眺めている。

「へえ……泉くんとはずいぶん違うな。君たちにも個体差があるのかな?」
「泉新一を知っているのか」

槙島の口から出た名前に、今度は田村が反応した。
同時に彼の言葉は、田村の正体を看破していることも示している。

「彼と語り合えたのは有意義な時間だったよ。出来れば君ともそうしたいが……今回は我慢するとしよう」
「泉新一はどこにいる」
「教えられないな。それとも君も、その力で僕の口を割らせるかい?」
「……無抵抗の人間を相手にする気はない」
「泉くんといっしょにいた彼は相当の変わり種と思ったが、君もそうらしい。ますます君たちのことを知りたくなったよ」

会話の主導権は槙島に握られてしまった。
撃つのが駄目なら殴り倒して、と思ったアンジュだが、何気なく立っているだけの槙島にはどこにも打ち込める隙が見当たらない。
格闘戦では負ける。幾度も死線を潜った戦士の嗅覚が、閃きにも似た直感がアンジュにもたらす。

「さて、どうするアンジュ。君次第だよ」
「……その情報は確かなんでしょうね?」
「保証するよ。何なら、そうだね。まず弾丸と予備弾倉だけをこっちに渡してくれ。その後、僕が情報を渡そう。
 君がそれを偽りだと判断するなら、そのまま去ればいい。本当だと思ったなら、銃本体をくれればいい。そうすれば危険はないだろう?」

槙島の言うとおりにすれば、確かに危険はなく取引は成立となる。
仮に嘘だったら今度こそ容赦なく弾丸を叩き込めばいい。おそらく田村も邪魔はしないだろう。
本当であれば……別に素直に弾を渡してやる必要もないのだが、渡したところでアンジュに損失は少ない。
そもそも、ここでこうしている時間すら惜しいのだ。アンジュは決断した。


637 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:24:25 ndVyEXE20

「いいわ。ただし、銃はここでは渡さない。ある程度あんたと距離を取ったと判断したところに置いておく。
 私たちが立ち去ったら拾いに来なさい。これを呑めるなら、あんたの話を聞くわ」
「わかった、それでいいよ」

してやられたのはわかっているが、替えの効く方法で情報が得られるなら安いものだと思うしかない。
アンジュはバッグからトカレフの弾倉を取り出し、槙島の足元へと蹴った。
トカレフ本体から装填されていた弾丸を抜き、それも投げつける。

「確かに。じゃあ、僕の知っていることを話そう。
 ここから南に向かったところに音ノ木坂学院という施設があるのは知っているね? そこに、サリアという少女がいる。ああ、泉くんも一緒だよ」
「サリアが……って、すぐ近くじゃないの!」

槙島は当然、アンジュたちが音ノ木坂学院に行くかどうかで揉めていたことも聞いているだろう。
それを知っていて、あえて交渉のカードに使った。本当に食えない男だと腹立たしく思う。

「お怒りかな? しかし僕が伝えなければ君は違う場所に行ったかもしれない。
 マーク・トウェインも言っただろう。行動しなかったことに失望するよりもまず行動せよ、さ」
「余計なお世話よ!」

槙島の語るサリアの人物像からして、どうやら間違いなく本物のようだった。
サリアとは色々あったが、最後には協力してエンブリヲと戦った仲間だ。
さらにエンブリヲが生きていた以上、またサリアに手出しするかもしれない。放っておくわけにはいかなかった。

「玲子、真姫。悪いけど私も一緒に行かせてもらうわ」
「構わない。私の方も、音ノ木坂学院に行かなくてはならない理由が増えた」
「どうやら嘘は言っていないとわかってくれたようだね。じゃあ約束を守ってくれるかな」

槙島が催促する。何やら釈然としない物を感じながらもアンジュはトカレフを取り出したが、田村にすっとすり取られる。

「玲子?」
「追ってこられても迷惑だ。こうすればいい」

田村は大きく振りかぶって、拳銃を放り投げた。
まだ太陽は昇っておらず、辺りは薄暗い。その夜空めがけて、鋼鉄の筒が回転しながら飛んで行く。
寄生生物は人体の持つ身体能力を限界まで引き出せる。その田村が全力で放り投げたのだ、プロ野球選手も各屋という飛距離が出ただろう。

「あれが欲しければ探すといい。ここでは渡さないという約束だったのだから、文句はないだろう」
「……そうだね。確かに約束は破っていないな」
「行きましょう。もう彼に用はないわ」

呆気に取られた槙島を放置し、アンジュたち三人は音ノ木坂学院目指して出発した。
あの分では槙島が拳銃を見つけるには相当の時間がかかる。アンジュたちを襲うのは現実的な選択肢ではなくなっただろう。
女たちが立ち去り、一人取り残された槙島は肩をすくめた。

「やれやれ。面倒なことになった……が、まあいいさ。僕がするべきことはもうないからね」

手に入れた弾丸をバッグに押し込んで、槙島はアンジュたちと反対の方向に歩き始めた。
まずは拳銃を回収しなければならない。

「人間の価値をはかるには、ただ努力させるだけでは駄目だ。力を与えてみればいい。
 法や倫理を越えて自由を手に入れたとき、その人間の魂が見えることがある」

独りごちる。

「さて、彼女はどうするかな」


638 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:24:48 ndVyEXE20

  ◆


音ノ木坂学院の職員室には、四人の男女がいた。
正確にはもう一体、意思を持ち喋ることができる存在がいたのだが。

「……大変な目に遭ったんだな」

この場で唯一の男性である泉新一は、新たに遭遇した二人の少女にそういう印象を持った。
巴マミ、園田海未という少女たち。彼女たちも新一やサリアと同じく、この凄惨な殺し合いの洗礼を既に受けていたらしい。
新一は物言わぬ屍となった少女に手を合わせる。マミと海未が持ち込んだ美遊・エーデルフェルトの遺体だ。
カーテンをかけただけのごく簡素な弔いだったが、ミギーはそれを無駄だとは言わなかった。

「それはそちらも同じでしょう。血で物体を消し飛ばす男に、雷を操る少女。魔法少女とはまた違うのかもしれませんね」
「その魔法少女っていうのも俺には理解できないんだけどね……」

本当にここは何でもありなんだな、と新一はもはや諦観気味だ。
右手にミギーという存在を同居させている新一をして、それ以上のビックリ人間を立て続けに見てしまっては霞んでしまうというもの。
比企谷八幡を殺した耳の尖った男と、電撃を放つ少女。どちらも新一だけでは手に余る相手だった。
しかしここで会った巴マミは、そういった超常能力者たちにも引けをとらない歴戦の強者である。
自分よりかなり幼い少女がそんな力を持っていると俄には信じられない新一だが、雷の少女という前例があってはそうもいかない。
それに実際、サリアの怪我を応急処置したのもマミの魔法だ。虚空から現れたリボンがあっという間にサリアに巻きついて出血を止めたのだから、認めざるをえなかった。

「じゃあ、そろそろ出発しようか」
「アカメ、雪ノ下雪乃というお仲間の方が図書館で待っているんでしたっけ」
「あんなやつ、別に仲間なんかじゃないわよ。エンブリヲ様を守るために使ってやるだけだわ」

マミと海未から飛んできた視線に新一は眼を反らす。サリアはこういう娘なんだと理解してもらう他ない。
幸い、マミも海未もその辺の機微はわかってくれたようで雪乃のように噛み付いたりせず、サリアも機嫌を損ねることはなかった。
それどころか、コスプレではないリアル魔法少女を眼にしたサリアはマミに興味津々のようだった。

「その魔法少女っていうのは誰でもなれるものなの? たとえば私とか」
「ど、どうでしょうか。ここにキュゥべえはいないみたいだし」
「そう……でも、もしかしたら誰かに支給されてるかもしれないわよね? そしたら私にも可能性はあるわけよね!
 魔法少女か……いや、あまり興味あるわけじゃないのよ? でもほら、やっぱり力はないよりあった方がいいじゃない?
 エンブリヲ様のお役にも立てるし、ここから脱出する手助けにもなるんだから」

あまりにも熱のこもったその食いつきぶりにマミも少し引いていた。
まさにその魔法少女変身アイテムたるサファイアも黙ったままだ。サリアには使われたくないから喋らないのだろうな、と海未は推察していた。
サファイアが喋らない以上海未が「変身道具ならここにありますよ」と言うわけにもいかず、結果なんだか居心地の悪い思いをするはめになった。

「泉さん、サリアさんってその」
「何ていうか、ごめん」
「いえ、別に責めているわけじゃないんです。ただ……変わった人ですね」
「俺も驚いてるよ。まあ、長い付き合いじゃないから俺が知らなかっただけなんだろうけど」

マミと海未との遭遇は、新一とサリアにとっては間違いなくプラスに働く出来事だった。
殺し合いに乗る気がなく、それどころか積極的に他者を守る意思を持つマミは稀有な人材と言っていいだろう。
槙島聖護からサリアを無事に取り戻し、いくらかの問答はあったものの特に損害はない。
八幡と美遊という取り戻せない犠牲は既に出てしまったものの、仲間も着実に増えている。
図書館でアカメ、雪乃と合流すれば総勢六人の大所帯だ。集団が出来上がれば他の人物との交流にも幅ができる。
志を同じくする者と合流し、そうでない者は力を合わせて撃退する。先の見えない事態にもやや希望が見えてきた。


639 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:26:52 ndVyEXE20

「シンイチ」
「きゃっ! ……あの、これが?」
「これとは失礼だな。私にはミギーという名がある」
「あ、ごめんなさい!」
「どうしたんだ、ミギー」
「仲間が近づいてくる」
「え? アカメたちもこっちに来たのか」
「違う、シンイチ。そうじゃない。『私の仲間』だ」

ミギーの言葉に、新一は頭を殴られたような衝撃を受ける。
弛緩した空気が一瞬で緊張した。

「どっちだ!? 田村か、後藤か!?」
「おそらく田村玲子だろう。後藤だとしたら気配が弱すぎる」

ミギーの言う『仲間』。それは同種の寄生生物にほかならない。
名簿を信じるなら、この場にいるのは死んだはずの田村玲子と自衛隊を殺戮した後藤のみ。
どちらも警戒するべき相手だが、特に後藤であったなら死を覚悟しなければならない強敵である。
田村だったことに安堵するが、一瞬後に思い直す。

「あいつは死んだはずだ……」
「そうと決めつけるのは危険だ。そもそも我々がここにいることからしておかしいんだ。
 増してこの殺し合いにはあの広川という男が絡んでいる。何があってもおかしくはない」
「お前がそんな曖昧なこと言うなんてな」
「合理的に判断した結果だ。ここでは何が起こっても不思議ではない」
「あの、泉さん? いったい何が」

ミギーとの会話に集中するあまり、海未たちのことを忘れていた。
新一からただならぬ気配を察したマミとサリアも新一を見ている。

「みんな、よく聞いてくれ。ここに近づいてきてる奴がいる……俺と同じ寄生生物だ」
「敵なの?」

先ほどまでの抜けた空気を切り替えたサリアが戦士の顔で問う。
鉄火場に慣れているマミも動揺していない。不安気なのは海未だけだ。

「よくわからない。戦ったことはあるんだけど、最後は敵じゃなくなったような……。
 でも何より、あいつは死んだはずなんだ。でも名簿には載ってる」
「偽者という可能性は?」
「なくはないけど、かなり低いと思う。そうだろ、ミギー?」
「広川が我々以外のパラサイトを名無しでこの島に放っているのでなければ、ほぼ間違いないだろう」

寄生生物との接触経験がある新一とそのものであるミギーがそう言うのであれば、マミたちに否定することはできない。

「逃げられますか?」
「いや、ミギーが気付いたってことはあっちも俺に気付いてる。ミギー、近づいてくる速さに変化は?」
「ない。我々を察知して、それでも身を隠す気すらないようだ」
「俺たちとの接触が目的ってことか……」


640 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:27:40 ndVyEXE20

血を飛ばす男、雷の少女、槙島聖護の次はかつて殺し合った同種の敵。
つくづくツイていないと嘆く新一だが、かといってすべてを放り出せるはずもない。
もう八幡のように目の前で誰かが死ぬのは絶対に嫌だと思う。そう思える。だからこそ、新一は田村からも逃げないと覚悟する。

「みんなは隠れていてくれ。俺が行ってくる」
「いえ、私が行きます。私ならその寄生生物というのが相手でも対処できますから」
「それはいいなシンイチ。彼女に任せよう。」

マミの提案にミギーが賛同した。田村玲子のパラサイトとしての戦闘能力は群を抜いている。
単純な肉体のスペックだけならミギーと混ざり合った新一が凌駕しているだろうが、田村にはその差を補って余りある高い知能がある。
新一とミギーが強靭な肉体と二つの頭脳を併せ持つスタイルというなら、田村は一つの意思がパラサイトの能力と人間の肉体を限界まで活かしきる、パラサイト本来のスタイルの究極系だ。
絶対勝てるとは口が裂けても言えない。しかしマミなら、超常能力者たる魔法少女なら、あるいは田村を相手にしても危険ではないのかもしれない。

「いや、駄目だ。もともと俺とミギーの問題なんだ、君に押し付けることはできない」

心惹かれる提案であったが、新一は断った。マミを無用な危険に晒すことにも抵抗があるのは事実だが、それだけではない。
もしかしたら田村玲子とは、戦うことなく話し合えるかもしれない。そういった疑問、あるいは希望があるからだ。

「危険だぞシンイチ。本当に田村玲子だったとして、死んだはずの奴が生き返ったことで何か変化があるかも知れない」
「だとしても、俺とお前が行かなきゃ何も始まらないだろ。後藤だったらそりゃ逃げるけどさ」

相手は田村玲子。話の通じない戦闘狂ではない。ならば話して見る価値はある。新一はそう判断した。

「でも危険です! 私なら」
「だったら二人で行けば? 相手がどういうつもりでも、二人がかりならどうとでもなるでしょう」
「……そうだな。それが現状、一番リスクのない方法だ」

食い下がろうとしたマミだったが、サリアの一言に誰よりも先にミギーが納得した。

「私とこの娘は隠れているわ。もし戦闘が始まったらどこかに逃げる、安全そうなら呼んでくれればいい」
「あの、私も」
「園田さんも隠れていて。私たちなら大丈夫だから」

手を挙げかけた海未をマミがやんわりと制する。海未の魔法少女としての力はまだ新一とサリアに話していないため、ここでそれを見せる必要はない。
特に、海未が魔法少女の力を使えば反動で彼女は傷ついていく。
マミは自身が健在な間は、海未にサファイアの力を使わせるつもりはなかった。

「巴さん……わかりました」
「サリア、園田を頼む。もし戦いになったら、俺達のことはいいから図書館に向かってくれ」
「わかったわ。気をつけて」

サリアと海未を残し、新一とマミは職員室を出て校庭に出た。走り回るには十分な広さがある。
新一は校内の廊下にあった掃除用具入れから木のモップを取り出し、先端を折って即席の槍にしていた。


641 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:27:55 ndVyEXE20

「こんなもんがあいつに通じるとは思えないけどな」
「ないよりはマシだ」
「泉さん、戦いになったら私が前に出ますから無理はしないでください」
「お言葉に甘えるかもしれない。ありがとう、巴」
「マミでいいですよ。そちらのミギーさんも」
「わかった、マミ。よろしく頼む」

出会ってまだ間もないが、不思議と息がある。マミは普段からこうやって誰かをフォローしているタイプなのかもしれないと新一は思う。
やがて新一の視界に一人の人影が映る。間違いなく、あの田村玲子だった。

「泉新一。久しぶり……でもないな」
「ああ、そうだな。そっちは田村玲子、なのか?」
「その様子では、私が死んだことも知っているな。ああ、間違いなく、私はその田村玲子だ」

ゆっくりと田村が近づいてくる。マミの視線が鋭く引き絞られ、警戒の度合いが増す。
握り締めた棒がみしみしと軋む。ミギーが何も言わず戦闘態勢へと移行していき……

「待て。私に戦う気はない」

田村のその一言で、気を抜かれた。

「泉新一、私もお前と同じくこの状況に戸惑っている。可能ならば情報を交換したい」
「お前は広川と結託しているわけではないのか?」
「同類か。お前ともまた会うことになるとはな……答えはノーだ。私の認識でも、私は死んでいたはずだ。
 だがこうして生きてお前たちの前にいる。その理由を私も知りたい」

ミギーの攻撃が届く距離に来てもなお、田村は戦闘態勢を取らない。
もちろんミギーに先手を打たれても対処できる自信があるのだろうが、いまは隣にマミがいる。
魔法で生み出した銃を構えているマミは明らかに無力ではない。新一の隣にそういう人物がいると知っていてなおこの態度ならば、敵意がないというのは本当なのだろう。

「もう一度聞く。広川と組んでいるわけじゃないんだな? 後藤とも」
「そうだ。むしろ彼らとは敵対することになるだろう。後藤は言うまでもないし、広川にもこうなった事情を聞く必要がある」
「そう、か……」

緊張のあまり溜め込んで息を盛大に吐いた。
田村は敵であればこの上なく恐ろしい相手だが、そうでないのならばある意味浦上などより安全だ。
マミにも田村は敵ではないと伝える。マミは微笑んで銃を消し、こちらも戦意がないことをアピールした。

「ほう。そちらの少女も何らかの力を持っているのか。ここはそんな人間、あるいは人間以外の何かばかりなのだな」
「そっちも前に誰かに会ったのか?」
「車を片手で持ち上げる男、人の心に干渉する少女。あと、私は実際に見てはいないが、不老不死で女と見れば見境がない始末の悪い変態がいるらしい」
「最後のは何なんだよ……」
「私も知らない。詳しくは彼女に聞いてくれ」
「彼女?」
「私にも同行者がいる。西木野さん、アンジュ。彼らは敵ではない。出てきても大丈夫だ」


642 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:28:07 ndVyEXE20

と、田村は校庭の入り口に振り返り、大声を出した。
すると陰から二人の女が歩き出てくる。
一人は金髪の赤いコートの女、もう一人は見覚えのある服を着た少女だった。

「あら、あの制服。園田さんと一緒ですね」
「ああ、それだ。ってことは」
「真姫!」

校舎から田村に劣らない大声が響く。園田海未が窓から身を乗り出して叫んでいた。

「海未……? 海未!」

真姫と呼ばれた少女が、海未に向かって走り出す。
新一とマミの傍を、脇目も振らずに走り抜けた。

「どうやら知り合いみたいだな」
「ですね。良かったですね、園田さん」

新一とマミが顔を見合わせ、笑う。田村が敵でなかったこと以上に大きな収穫があったようだ。
その二人のそばにアンジュと呼ばれた金髪の女が近づいてきた。

「あっちは感動の再会のようね。で、あなたたち。サリアって娘がここにいるって聞いたんだけど、知らないかしら?」
「ああ、サリアならここにいる。あんたはサリアの……?」
「仲間よ。まあ、色々あったけどね」
「じゃあ、あんたもエンブリヲってやつの部下なのか」
「……はぁ!?」

そのときふとこぼした新一の一言で、アンジュが鬼の形相になった。
今にも腰の拳銃に手をかけそうな剣幕で、新一の胸ぐらを捻り上げるアンジュ。

「泉さん!? ちょっとあなた、何を」
「もう一度言ってみなさい。誰が、誰の部下ですって?」
「ちょ……何? サリアの仲間ってことはそうなんだろ!?」
「アンジュ、落ち着け。敵意がないと話したばかりだ。お前もそう警戒するな」

田村の最後の言葉は新一ではなくミギーに向けたものだった。
実際、田村の静止がなければ、ミギーはアンジュを敵と判断して攻撃を加えていただろう。
マミと田村の咎める視線を受けて、アンジュはしぶしぶ新一から手を離す。眼は吊り上がったままだが。

「ごほっ、ごほっ。急に何なんだよあんた」
「あんたが変なこと言うからでしょう。私があのド変態のクズ野郎の最低ナルシストの部下とか何とか!」
「は……? さっきの変態ってエンブリヲってやつのことなのか?」
「そうよ! ……待ちなさい、サリアの仲間ならってどういうこと? あの娘がそう言ったの?」
「ああ、エンブリヲ様ならこの首輪を外して殺し合いを何とかしてくれるって」

お互いに疑問符を浮かべる新一とアンジュ。
同じサリアという人物について語っているはずなのに噛み合わない。
一体どういうことなのかと、さらにアンジュが問い詰めようとしたとき。


643 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:28:21 ndVyEXE20

「銃を捨ててその場に伏せなさい、アンジュ。従わないのなら撃つわ」

一発の弾丸が、彼らの間を駆け抜けた。
どこから、誰が撃ったのか。考えるまでもなくそれは、校舎に隠れていたはずのサリアの声だった。

「サリア、どういうつもり? あんたまたエンブリヲに寝返ったの?」
「また? 私はあなたと違ってエンブリヲ様を裏切ったことなんてないわ。これまでも、これからも」

校庭で、二人の女が対峙していた。
アンジュとサリア。睨み合う二人は、とても仲間という関係には見えない。

「サリア、どうしたんだ。このアンジュって人はお前の仲間なんだろ?」
「冗談言わないで。こいつは、この下半身デブはエンブリヲ様の敵よ」

サリアがアンジュを見る眼は嫉妬と憎悪で溢れていた。
雪ノ下に向けた感情とは違う。根の深い、とても他人が立ち入れるものではない鬱屈した感情が見て取れる。

「泉新一、無闇に彼女を刺激するな。ここは私たちが介入するべきではない」

異常を察した田村は身振りで抱き合っていた海未と真姫を呼ぶ。
サリアのことを知らない田村にも、今の彼女の様子が常軌を逸していることは理解できる。
当のサリアはアンジュ以外眼に入らないようで、真姫たちがゆっくりとサリアを迂回して新一たちに近づいてきても警戒する素振りがない。

「一体どうしたってのよサリア。あんた、ジルから何を託されたか忘れたの?」
「ジル? はっ、アレクトラが私に何を託してくれたっていうのよ。
 何もない。何もないわ! ヴィルキスもリベルタスも、全部あなたが奪っていったじゃない!」
「サリア……? 何を言ってるの?」
「銃を捨てて伏せなさい。あなたをエンブリヲ様のところに連れて行くわ。
 こんな島に連れて来られてちょっと状況が変わったけど、私はエンブリヲ様の命令を遂行するだけよ」

決意に満ちたサリアの眼差しに嘘や冗談の気配は一片もない。
そのあまりにも頑なな、言うなればアルゼナルの元司令官だったジルが命と引き換えに取り戻す前のサリアそのものという態度に、アンジュは戸惑いよりも怒りが沸いた。

「あんたね……ふざけたこと言ってるんじゃないわよ! ジルはあんたの眼を覚まさせるために死んだのよ!
 なのにまだエンブリヲ様ですって!? 寝惚けるのも大概にしなさい!」
「寝惚けてるのはどっちよ。ジルが死んだ? 笑わせるわ。戦艦に引きこもって私の前に出る勇気もないくせに。
 ああ、死んだってもしかして風邪でも引いて病死でもしたのかしら? だったらとんだお笑い草ね。何が総司令官よ。ただの間抜けな大口叩きだわ」
「……ッ」

その嘲るような物言いに、どうにか冷静でいようとしたアンジュのタガも飛んだ。
一瞬で銃を引き抜き、怒りに満ちた双眸をサリアに向ける。


644 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:28:57 ndVyEXE20

「改心したと思ったけど、とんが勘違いだったみたいね。あんなクズ野郎にまた寝取られるなんて、ちょっと頭も股も緩すぎじゃないの?」
「エンブリヲ様を侮辱するなと、何度も言ったはずよね。あなたには人の言葉を理解する知能もないのかしら?」

サリアも依然変わらず、アンジュに銃を向け続ける。
傍で見ている新一たちは気が気でない。サリアだけでなくアンジュまでその気になってしまい、いよいよ他人が口を挟める空気ではなくなった。

「健気なものね。そんなにエンブリヲに抱かれたことが気持ちよかった?
 そこまでしてもあの男があんたに振り向いてくれることはないって、身に沁みてわかってるでしょうに」
「その原因のあんたが……調子に乗るなッ! あんたさえ素直にエンブリヲ様のものになれば、私がこんな思いをすることだってなかったのよ!」
「冗談言わないで。あんな最低のクズ野郎に従うくらいなら舌噛み切って死ぬわよ。
 どうやって生き返ったか知らないけど、見つけ次第脳天に鉛玉ぶち込んでやるわ。今度は念入りに死体を焼いて灰にして、海にばらまいてやる」
「アンジュ、あんたどこまで不敬なの! エンブリヲ様にそんなことして許されると思ってるの!?」
「許す? なんであんたに許される必要があるのよ。私は私のやりたいようにやるだけよ。
 さしあたってはあの変態をブチ殺して、あんたの少女趣味な幻想もついでにブチ殺して差し上げましょうか」

売り言葉に買い言葉というやつで、アンジュも言われたら言い返さずにはいられないタチだ。
もうこうなっては原因がどうという話ではなく、実力行使を以ってしか二人は止まれない。
二人は同時にその見解に達したようで、朱に染まった顔で引き金に指をかける。

「やばい、止めるぞ!」
「泉さん、ここは私が!」

新一が腕を伸ばすより早く、機を窺っていたマミが二条のリボンを伸ばす。
お互いしか眼に入っていなかったサリアとアンジュは容易くリボンに絡め取られ、縛り上げられて転がった。

「おお……すごいな、魔法」
「うむ、見事なものだ。私には真似できないな」
「ちょっと、何よこれ!?」
「少し大人しくしていろ。お前は頭に血が昇っている」

田村に確保され、アンジュが引きずられていく。
新一はサリアへと歩み寄り、傍らにしゃがみ込んで顔を覗き込む。

「サリア、よくわからんが落ち着けよ。あのアンジュってやつ、仲間なんだろ?」
「違うわよ! シンイチ、あんたなんで私の邪魔をするの!? あいつはエンブリヲ様の敵よ!」
「だからって、いきなり銃で撃ち合うことはないだろう。それにアンジュはお前を仲間だって言ってたぞ」
「くっ……!」

縛られ、無力化されたサリアが屈辱に唇を噛む。
どう足掻いてもこのリボンは解けない。芋虫のように転がされる今の自分がひどく惨めであるとわかったのだ。

「巴さん……?」
「二人とも、もう大丈夫よ。ごめんね、せっかく再会できたのにこんなことになって」
「いえ、それはいいんですけど……海未、私、アンジュの様子を見てくるから」


645 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:29:16 ndVyEXE20

海未と真姫が近づいてくる。
緊迫した状況だが、マミが二人を鎮圧したことで安心したのだろう。
しっかりと手を繋いでいた二人だったが、それぞれの同行者の元へと向かうために離れていく。

アンジュの元へは真姫が、サリアの元へは海未が。
しかし近くに来たまではいいものの、海未はサリアに掛ける言葉が見つからなかった。
真姫はここに来るまでに多少アンジュと打ち解けていたようで、あの歳上にも物怖じしない態度で話しかけているのが見える。
親友の高坂穂乃果のようなあけすけさが自分にあれば、と海未が言葉に悩んでいると。

「あの、サリアさん……?」
「……でよ」

サリアの視線はアンジュに注がれている。
田村と真姫に助け起こされ、何やかんやと悪態は付きながらも彼女らに受け入れられているアンジュを見て、サリアは目を見開いていた。
受け入れられている。アンジュが、ここでも他人に受け入れられている。
この島で最初期から同行していた泉新一でさえ、サリアを呆れた眼で見下ろしているというのに。

「なんで、あんたばっかり……」
「サリアさ……」
「どうしてあなたなの!? ヴィルキスも、アレクトラも、エンブリヲ様も……みんなあなたを選んだ!
 どうして私じゃ駄目なの? 私とあなた、何が違うの? どこが違うの?
 同じノーマじゃない! マナを使えない、生きることを許されない、奴隷のように戦って死ぬしかない……同じノーマでしょう! なのに……」

一息に喋り尽くす。肺が酸素を求めて激しく喘ぐ。
海未と新一が眼を丸くしている。その様子すら眼に入らない。
サリアが見ているのはアンジュだけ。そのアンジュに狂おしいまでの嫉妬を叫び、答えを求める。
自分とアンジュはどこが違うのか、と。
その答えを、他でもないアンジュだけは知っているだろう、と。

「私の知ったことじゃないわよ、そんなこと。いつまでも子供みたいなワガママを言わないで」

しかし、切望はアンジュには届かなかった。
アンジュは冷めた、あるいは呆れたような瞳で、サリアを見下ろしている。
それが最後のひと押しになった。


646 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:29:39 ndVyEXE20

  ◆


このとき、サリアをぎりぎりで繋ぎ止めていた最後の線が切れた。
サリアの脳裏に去来したのは、敬愛するエンブリヲでもかつて信頼したアレクトラでもない。
たった数十分前に会ったばかりの、しかもサリアに暴行を加えてきた、どちらかといえば敵としか言えないはずの、銀髪の男の言葉だった。


――『全ての人間が「凡人」と「非凡人」に分けられる。凡人は、つまり平凡な人間だから、服従を旨として生きなければならないし、法を踏み越える権利も持たない。
   ところが非凡人は、非凡人なるがゆえにあらゆる犯罪を行い、かってに法を踏み越える権利を持っている』。
   さて、悪いが君は僕が見たところは凡人だ。そしておそらく、君が心の奥底で求める人物は間違いなく非凡人であると思う。


槙島聖護がサリアをさらって音ノ木坂学院に到着し、新一が追いつくまで僅かな時間があった。
その僅かな時間に交わした言葉。歌うように書物の一節を口ずさむ青年の、あの見透かすような眼を思い出す。
思えば彼はあのとき、サリアという人物の底を測っていたのだろう。
サリアが求める人物は二人、エンブリヲとアンジュに違いない。向ける感情は違えど、どちらもサリアの行動に大きな影響を与える人物だ。
そして腹立たしいことに、エンブリヲは当然としても、アンジュは凡人と呼ぶには相応しくない器量の持ち主である。
誰にも乗りこなせなかったヴィルキスを借り、不倶戴天の敵であったドラゴンと手を組み、現世界の有り様を打ち砕こうとする破壊者。それがアンジュという人物。


――ドストエフスキーはこう記した。
   『マホメットやナポレオンといった人類の法の制定者は、例外なく犯罪者であった。
   これらの法を踏み越える人たちは、さまざまな声明を発して、よりよき未来のために現在を破壊することを要求する。
   その思想のために、流血を犯す必要がある場合には、良心に照らして流血を踏み越える許可を自分に与えることができる』。
   彼らと対峙するためには、その者もまた踏み越える覚悟が……凡人から非凡人へと生まれ変わる覚悟が、必要なのかもしれない。


対してサリアは――これも認めるしかない――紛れもなく凡人だろう。
パラメイルを駆る腕はアンジュに劣り、人望の面でもいつの間にか仲間を失い、エンブリヲという絶対者に縋って何とか自分を保てている有り様。
エンブリヲはアンジュを求め、アンジュはエンブリヲを打倒せんとしている。
二人の非凡人がそれぞれ違うベクトルではあるが、お互いを求めている。
ならばそこに、凡人のサリアが割り込める余地はあるのだろうか?
考えるまでもない。否、だ。
サリアは、舞台に上がることすら許されない観客、ただの傍観者に過ぎなかった。


――君が本当に求めることを成すために、何が必要か。どうすれば、流血を踏み越えた彼らと同等の存在になれるのか。
   実のところ、君はもう答えを知っているはずだ。ただ、その手段を肯定したくないだけで。
   状況という洪水に流されるだけの凡人でいるのか、それとも自ら道を開く非凡人たろうとするのか。
   君はどちらでも選べる。それは幸せなことだよ。悩み迷う普通の人間であることは、ある意味では非凡人にはもう叶わない望みだからね。


647 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:30:22 ndVyEXE20

時間にすると数分もない一方的な会話。だが不思議と、彼の言葉はサリアの記憶深くに明瞭に刻み込まれていた。
その言葉が、サリアが今ここでどうすればいいのか、どの道を往くべきなのかを、後押しする。
アンジュは、世界の破壊者だ。
アレクトラによって統治されていたアルゼナルは、アンジュの加入によって崩壊した。
サリアの主となったエンブリヲは、アンジュを自らの花嫁として求めている。
どちらの場合も、サリアの居場所はアンジュによって奪い取られ、壊された。
共にドラゴンを狩る仲間? 今はもう違う。
エンブリヲをかどわかす淫売? その通りだが、まだ足りない。
アンジュはサリアの世界を壊す敵だ。
放置してはいけない、可及的速やかに排除、滅ぼさなければならない病原菌そのものだ
その結論に落ち着いたとき、ふと、揺れて震えていた地面がぴたりと安定した気がした。
立つべきところに立ったと、そう感じた。

「……そう。そうなのね。私……そうするしか。ないのね」
「サリア?」
「アンジュ。あなたを殺すわ」

それは激情に任せた叫びでも、対抗心が生む脅しでもない。
サリアという存在が今日、明日とこの先もサリアとして生きていくためには。
アンジュという存在を、全身全霊を賭して抹殺しなければならない。
共に生きることなど出来はしない。どちらかがどちらかを淘汰しなければ成り立たない関係。
受け入れてはいけない。許してはいけない。今まで積み上げてきた自分を、他でもないサリア自身が、否定してはならない。
だから、殺す。
アレクトラもヴィルキスもエンブリヲも関係ない。サリア自身の意志で、アンジュを殺す。
そうしなければ、サリアはサリアでいられない。そう、なってしまったのだから。
立ち上がったサリアは唯一自由に動く足で、転がっていたデイバックを蹴りつけた。

「っ、何を……?」

サリアを拘束するマミが、何が起きても対応できるようリボンを握り直す。
しかし、それこそが失策だった。
デイバッグから転がり出てきた金属の筒。サリアはその片方を踏みつけ、叫んだ。

「吠えなさい、アドラメレクッッ!!」

サリアの、仮の所有者の命令に呼応して筒――籠手に内蔵された鉄芯が唸りを上げた。
次の瞬間、電光が瞬いた。バジィッ、と強い音が弾ける。誰もが閃光に視界を奪われる中、園田海未は見ていた。
マミの背後にいて、彼女の背中を見つめていたからこそ、海未だけには見えた。
サリアの足元から発された雷撃が、背中に隠していたもう一つの籠手に引かれて飛び移る。
雷撃がサリアを拘束していたリボンに拡散することなく伝導し、リボンを介して繋がっていたマミを一瞬にして灼き尽くした瞬間を。
肉が焦げる音。高温の電撃が肉を焦がす悪臭。イエローカラーを凛々しくまとう巴マミの姿が、一瞬にして黒く炭化した灰へと変わった。
キュゥべえと契約することで生まれる魔法少女は、基本的に物理攻撃で死ぬことは「あまり」ない。
魔法少女を殺害するには、彼女たちが身体の何処かに隠しているソウルジェムを破壊する以外にないからだ。
逆に言えば、ソウルジェムさえ破壊すれば魔法少女はあっさりと死ぬ。
そしてアドラメレクの雷撃は、マミの全身を遠慮なく蹂躙し尽くした。当然、ソウルジェムもその破壊に巻き込まれている。
サリアを拘束していたリボンは全て焼き払われ、彼女は自由を得る。
ゆっくりと立ち上がるサリアとは逆に、マミ「だったもの」は人形のように崩れ落ちた。


648 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:31:00 ndVyEXE20

「マミ……さん?」

海未がおぼつかない足取りでマミだったものに近づき、名前を呼ぶ。しかし、返事は返ってこない。
呆然とするアンジュや新一を尻目に、サリアは転がっていた籠手と背中から取り出した籠手を、自らに着装した。
サリアのデイバックと新一が思っていたそれは、実際のところ間違っていた。
それは、槙島聖護のデイバッグ。
サリアとの短い会話の後、彼は自分のデイバッグをサリアに差し出してこう言った。

――これには強力な武器が入っている。君にあげるよ。その代わり、彼が来ても僕たちの邪魔をしないでほしいんだ。

槙島は実際にその武器を出して見せて、ご丁寧に使い方まで教えてくれた。その威力はサリアにとって魅力的だった。
だから、殴られた恨みもナイフを突き付けられる屈辱も押し殺して、じっと黙って二人のやりとりを見守っていた。アンジュやエンブリヲのことも話した。
そして槙島が本来サリアのものだったデイバッグを回収して去り、彼の言葉通りその武器はサリアの所有物となった。
籠手の銘は、“雷神憤怒”アドラメレク。
帝国の大将軍が操る帝具であり、飛び抜けた殺傷力を誇る必殺の武器である。
その効果は雷撃を操ること。槙島が少し前に遭遇した少女、御坂美琴のように。
槙島が御坂に接触したときに苦もなく彼女をあしらえたのは、この帝具があったればこそだった。雷を操るこの帝具は、他人が放った雷撃にさえ干渉できる。

――とはいえ、彼女が本気で集中していたら、とても凌げなかっただろうけどね。

とは、槙島の弁だ。
彼の推測通り、槙島やサリアが本来の使い手ではない以上、アドラメレクの雷撃は御坂やこの島にもう一人いる電撃能力者には劣る。
それを補ったのが、サリアに支給された赤い宝石だった。宝石の名は、賢者の石という。
人の魂を素材として生成されるこの石は、錬金術や他の異能を強力にブーストする効果を持つ。
所有者の生命力をトリガーとして発動する帝具もまた、例外ではなく。
異能を持たず、またそれに対する知識もないサリアはただの装飾品としてしか認識せず、ポケットに押し込んでいた。
しかし今、その力を十全に発揮できる方法を得て、サリアは躊躇わず賢者の石を握り締めていた。
賢者の石に内包された幾多の魂が、サリアの憤怒に反応して轟々と燃え盛るガソリンと化し、アドラメレクに注ぎ込まれる。
結果、生み出される力は本来の所有者と何ら遜色ない威力にまで高められ、雷神の鉄槌として顕現した。
歴戦の古強者たる魔法少女を、ただの一撃で葬るほどに。

「……ッ、サリアッ!」

眩んだ眼から回復したアンジュは、即座に状況を理解し、発砲した。術者が倒れたため、彼女を縛るリボンももはや解かれている。
狙いはサリアの左肩。万が一にも即死はない部位。サリアを殺さずに制圧するためにそこを選んだ。
殺そうとするサリアと、殺すまいとするアンジュ。それがこの二人の差であり、そのまま勝敗に繋がった。
自らを害そうとする者には非情になれるアンジュでも、一度仲間と認めた者には甘くなる。事ここに至ってもまだ、アンジュは心底からサリアを敵と割りきれてはいなかった。
左肩を撃ち抜かれ、サリアは回転しつつ倒れた。しかしその眼光は一層鋭さを増している。
この場にサリアの味方は「いない」。ゆえにサリアは、あらんかぎりの殺意をアドラメレクに乗せて、大地に叩きつけた。

「みんなっ、消し飛べぇぇぇぇぇッ!!」

賢者の石によって超過駆動するアドラメレクは、所有者であるサリア以外のすべてに牙を剥いた。
アドラメレクから発生した閃く雷撃の鞭は全方位に解き放たれ、雨のように大地に降り注ぐ。
離れた場所にいた田村が、真姫の身体を抱え上げて後退。二人分の重量では逃げ切れないと判断した田村は、とっさに真姫を突き飛ばした。
真姫の身体が安全圏に落ちる。逆に田村は雷撃をまともに受けてしまう。


649 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:31:28 ndVyEXE20

「が……ッ!!」

マミの時とは違い、雷撃は拡散している。
そのため一撃で灼き尽くされることはなかったものの、超高圧の電流は田村玲子の身体を構成するパラサイトの細胞に深刻なエラーを引き起こす。
端正な顔が崩れ、化け物としての本性があらわになる。それは新一とミギーも同様だった。
バックステップしつつ銃を乱射するアンジュを抱えようとしたため、新一も雷撃の洗礼を避けられない。

「ぐああああっ!」
「し、シンイチ……!」

ミギーがとっさに刃へと姿を変えて地面に突き刺さる。
アースのように雷撃が地面に流れ込んでいくものの、回路として伝導された新一の肉体は無事では済まない。
硬質化するパラサイトでも細胞そのものを灼く雷撃は防げない。御坂美琴との戦いで既に語られた事実。
新一の腕の中にいるアンジュもまた、歯を食い縛って苦痛に耐えている。
とっさに拳銃と予備弾倉を投げ捨てて誘爆を防げたのは幸いか。

「海未!」
「海未さん!」

田村に突き飛ばされた真姫が、しかし自らを庇ってくれた恩人ではなく、荒れ狂う雷の中に取り残された友達の名を叫ぶ。
マミの亡骸にすがりついていた海未は、逃げられない。サファイアが海未に変身を促すのも間に合わない。
美遊に続き、人の死を眼前で見せつけられた海未の判断力は瞬間的に麻痺していた。
少女の影が雷光に呑み込まれる。

「う……海未っ!」

海未の元へ走ろうと暴れる真姫の視線が、海未の傍らに立ち尽くす一人の少女を捉える。
田村が真姫を、新一がアンジュを助けた。では海未は誰が助けるのか?
その答えは、正義の魔法少女を於いて他にあるはずもない。

「マミ……さん」
「そんな顔を……しないで。大丈夫……私が、あなたを守るって、約束した、でしょう」

致死量の雷撃を叩き込まれ、一度は完全に死んだであろう巴マミが、マスケット銃を支えに立ち上がる。
砕かれたソウルジェムが完全に消滅する間際、マミは最期の力を振り絞って魔法を行使する。
マスケット銃が閃光を発し、大型バイクほどの大きさに巨大化――大砲となって、雷撃を迸らせるサリアを照準。
同時にサリアの血走った目がマミを捉える。拡散していた雷撃を、マミに向けて集中させていく。
新一も田村もアンジュも、雷撃のダメージをひきずるためそれを見守るしかできない。

「ティロ――」
「邪魔を……っ!」

半壊したソウルジェムで魔法を使ったためか、大砲にびしりと亀裂が走る。
しかしマミは僅かに目を細めると、黄色いリボンを幾重にも砲身に絡みつかせ、自壊を防ぐ。
残った魔力をすべてこの一射に注ぐ。もはや身体に感覚はなく、おそらく色んな部位が欠損しているのだろうと察する。
それでもマミは、背後にいるたった一人を守るために、躊躇わず引き金を引いた。


650 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:32:25 ndVyEXE20

「するなぁぁぁぁあああああああああああっっ!」
「――フィナーレッッ!」

九つの頭を持つ雷の龍が、マミへと殺到する。
そのことごとくを、巴マミの生涯最後となるだろう弾丸が、蹴散らし、引き裂いて、突き進む。
人体など粉々に引き裂くであろう巨大な弾丸を目の前にして、サリアは――しかし、後退を選ばない。
自らの意志で戦うと決めた戦場を、不利だからといって退けるはずがない。
退けば、この戦いは二度と拭えない敗北の記憶となって、サリアを永劫に苛むだろう。
だからこそ、退かない。手にした力で、生まれた殺意で、この苦境を突破する他に生き残る道はないのだ。
両手の籠手を打ち合わせる。鉄芯がスパークを起こし、今までの比ではない目も眩むような輝きが放たれる。
これが、帝具アドラメレクの奥の手。
サリアでは到底発動し得ないこの切り札は、賢者の石の補助を得ることで初めて可能となる。
迫り来る大岩の如き弾丸を睨み据え、サリアはアドラメレクを突き出し、絶叫した。

「ソリッド――シュゥゥゥゥゥタァァァァアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

雲さえ吹き散らす巨大な稲妻が、地上から迸る。
稲妻は圧縮し、凝縮し、巨大な電球として顕現。サリアの怒号を推進剤として、ティロ・フィナーレと真っ向から激突した。

「消えろぉぉぉぉぉおおおおおおおっっ!!」

大電球と弾丸が、お互いにその身を食い合う。
超光熱の雷撃が弾丸を構成する魔力を灼き削り、弾丸の衝撃は雷撃を粉々に弾き飛ばす。
互角の戦況。だからこそ、破壊力の発生源となるサリアとマミはお互いに力の放出を止められなかった。
体力・精神力を消耗する帝具を全開で使う。このままでは危険とわかっていて、それでもサリアは雷撃の放出を止めることはない。
それは対峙するマミも同様だった。もしここで撃ち負ければ、犠牲者は背後にいる海未だけでは済まない。
周囲にいる新一やアンジュなど、もろとも根こそぎ消滅させられることは確実。それほどの威容を、この雷神の憤怒はまざまざと見せつけている。
今この場で、彼らを助けられるのは巴マミを於いて誰もいないのだ。

「……駄目、なのっ……!?」

だが、均衡は長くは持たなかった。左の眼球が弾け飛び、半分となった視界でマミが呻く。
一撃に懸ける想いは同等。明暗を分けたのは、お互いのコンディションという単純な事実。
片や半壊したソウルジェムを強引に駆動させ、消えかけのロウソクの如き力を絞り出す魔法少女。
片や本来魔力を持たない身といえど、純粋魔力結晶たる賢者の石をガソリンにするノーマ。
軍配はノーマに上がった。まさにその名の如く、所有者の我が身を省みない憤怒を注がれたアドラメレクは無尽蔵の雷撃を生み出し続ける。
崩壊寸前の身体を酷使するマミでは、その勢いを抑えきれなかった。
歪む視界、太陽さえここまでではないと思わせるほど強烈な光を放つ大電球。
その熱が今度こそ自分を灼き尽くすのだと、諦めにも似た確信を抱いた刹那――マミの背中を、誰かが支えた。

「……園田さんっ!?」

それは、マミの後ろにいたはずの、園田海未。
マミを後ろから抱き締めるようにして、彼女がそこに立っている。

「サファイアさん……!」
『コンパクトフルオープン! 境界回路最大展開!』


651 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:33:28 ndVyEXE20

海未の求めに応じて、魔法の杖たるカレイドステッキ・サファイアが海未を転身させていく。
容姿は殆ど変わらない、音ノ木坂学院の制服のまま。ただ一点、海未の髪を蒼く彩るリボンだけが鮮やかになびいている。
数時間にも満たない過去、サファイア自身が危険だと警告した魔法少女の姿になって、海未は自らの足で戦場に立った。

「止めて園田さん! その力を使ったらあなたは……!」
「私は……私はもう、守られているだけなのは嫌なんです!」

海未はマミを強く抱き竦め、治療の魔術を展開。崩壊が始まっていたマミの身体を柔らかい光が包み込む。
タンクから減り続けていた水が栓をされた。身体の維持に回していた最低限の魔力が浮いて、ティロ・フィナーレに割り振れる力が増したことがわかる。
しかしマミは同時に、まるで機械の回路のように光が海未の両手を流れていることに気付いていた。
魔力を運用する器官を持たない者がそれでも魔術を使おうとしたとき、代わりとなって魔力を通す通路。
神経・骨格・筋肉・血管・血液・リンパ節。身体の物理的構造素体そのものを魔力器官と誤認させる。
肉体の消耗と引き換えに魔術という奇跡を成す。本来有り得ざるべき、しかし無力な少女を容易く魔法少女へと変える、唯一の方法。
その選択を、園田海未は選んでいた。

「ここには真姫だっている……やらせませんっ!」

マミの最大魔法すら呑み込む雷が解き放たれれば、この場にいる全員が骨も残さず消滅するのは必至だ。
自身の選択の結果を後悔しない。その確信を持って、海未は魔法少女になった。
とはいえ、新米どころか初めて魔法少女になった海未にはこの状況を打開する魔法など思いつかない。
だから海未は、サファイアにただひとつの要求をした。抱きついた腕の中にいるマミを、どうか助けてほしいと。
サファイアはその願いに応えた。海未の身体を破壊しつつ生み出される魔力を、巴マミの再生……あるいは維持に回す。
そうすることでマミは攻撃に全魔力を傾けられると判断して。
海未の全身が裂け、血が吹き出す。あっという間に朱に染まった彼女を見て、真姫がひっと嗚咽を漏らす。
その声はもう、海未には聞こえない。全神経を魔力電動回路へと変えた海未には、マミとサリアしか認識できるものがない。

「園田さん!」
「巴さん、お願い! 真姫を、みんなを、守って……!」
「……っ、わかったわ……園田さん、力を貸して!」

崩壊していく身体が、ほんの僅か、押し留められる。
マミは己の命が数秒後に尽きると確信し、それならば……今、己の意思で燃やし尽くすと決めた。
震えながらもこの背にしがみつく、本来であれば戦う必要などない少女の想いを無駄にしないために。
謝る代わりに、自分のすべてを海未に預ける。
海未から流れ込んでくる魔力に身を任せ、自身はひたすらに前へ……生涯最後の一撃を、完遂することだけを考える。
マミと海未、二人の命そのものといえる弾丸は、アドラメレクの地獄の雷と激突し、相克し、拮抗する。

「邪魔を……しないでっ! 私はアンジュを……殺すのよぉっ!」
「そんなこと、させないから!」
「ええ、そうです! 美遊さんが私にしてくれたこと、今度は私がみんなに……!」

真姫以外は会って間もない、どころかほぼ他人しかいないこの場所で、なぜこうやって命を懸けているのか。
海未は自問し、きっとその答えはあの美遊・エーデルフェルトと同じなのだろうと、小さく笑みを刻んだ。


652 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:33:50 ndVyEXE20

「どうして……なんであなたたちはアンジュを選ぶの!? なんで私じゃなく、アンジュなのよ!」
「真姫は私の、私たちμ'sの大切な仲間……絶対に守る……っ!」

もはやお互い何を言っているのかすら認識できない、ただ全力を振り絞るだけの意地の張り合いだった。
海未はふと、マミにしがみついたまま後ろを振り返る。
そこにはただ一人、雷の蹂躙を逃れた真姫が、震えながらもこちらに向かって走り出そうとしているところだった。

「う、海未……」

声は聞こえなくとも、唇の形から真姫が海未を呼んでいるのだとわかった。
海未は一度目を伏せ、聞こえないと知りつつ、想いを言葉へと変える。

「真姫、花陽と凛を守ってあげてください。穂乃果とことりに、すみませんと伝えて。それと……」
「あぁぁぁぁああああっっ!!!!」
「貫け――ッ!」

サリアの絶叫。
ティロ・フィナーレの弾丸がついにソリッドシューターを食い破り、サリアの眼前へと到達した瞬間だった。
サリアはとっさにアドラメレクを打ち鳴らし、雷の障壁を展開。賢者の石の魂が飛ぶように消費される。
巨大な弾丸は障壁に着弾、じりじりと障壁ごとサリアを圧し始め……

「アンジュ! あんたは、あんただけは私が――――――――!」

空の彼方へと、吹き飛ばしていった。
弾丸の軌跡が虹のように立ち昇る。それは巴マミがこの世に残した存在の証だった。
海未の腕から感触が消える。巴マミはもう、どこにもいない。魔力でリンクしていた海未にはそれがわかっていた。
そして、自分ももう、ここにはいられないのだとも。

「……生きて、真姫。私たちのμ'sを、どうか――」

言葉は最後まで結べなかった。人の身で人ならざる力を行使した対価。
ゆっくりと傾いでいく、園田海未の身体。園田海未の命の灯火は、この瞬間に燃え尽きた。
そして、静寂。
泉新一、田村玲子、アンジュは未だ動けない。
ただ一人無事といえる西木野真姫は、目の前で倒れた友人がどうなったのか、理解するのを脳が拒んでいる。

「……海未?」

しかし現実は容赦なくその事実を真姫に突きつけてくる。
指先に起こった震えが肩、胸、お腹、足へと伝播していき。


絶叫が夜を裂いた。
もうすぐ朝が来る。
μ'sの仲間が、欠けた朝が。


653 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:34:46 ndVyEXE20

  ◆


「……ふう。まさかここまで時間を食われるとはね」

アンジュらと別れてしばらくしてのち。
槙島聖護はようやく放り投げられた拳銃を発見し、一息ついていた。
何気なく南を見やれば、今まさに……天からではなく大地から、稲妻が迸った瞬間だった。

「向こうでも何かあったようだ。見られなかったのは残念だな」

言葉とは裏腹にそう気にした風もなく、槙島は淡々と銃に弾丸を装填して装備する。
実のところ、槙島はサリアがどう行動しようとどうでもよかった。アドラメレクは自分に必要がなかったから処分しただけだ。
彼女が力を手にしてどう行動するか、そこに興味があったのであって、こうなってほしいという明確な願望は元々ない。
結果、彼女は自分の意志を抑圧することをやめたようだった。
槙島は当然、サリアとアンジュが認識する時間軸にに齟齬があったことなど知らない。
そのすれ違いが崩壊の火種となり、槙島がとどめのひと押しをしたことも。
槙島はただ、自分の興味を満たそうとしただけだ。ただ種を蒔いただけ。

「次に会ったら僕も殺されそうだ。用心しておかないとな」

他人事のように呟き、地図を広げる。
次はどこに向かおうか。新一たちがどうなったかわからないが、あの雷撃を受けて生き残っているのであれば当然槙島の情報は拡散していくだろう。
そうするとこの南東部では動き辛くなる。早めに離れるべきかもしれない。

「興味を惹かれるのはやはり、図書館だな」

音ノ木坂学院ではそんな暇がなかったために断念したのだが、この島には図書館や図書室といった紙媒体の書物を大量に保存する場所がある。
読書家の槙島としてはぜひ訪れてみたいところだ。が、一つ問題がある。

「僕がそうすると、当然狡噛も読むだろうからね……」

名簿でただ一人、槙島聖護が知る名前であるところの狡噛慎也。
槙島を追うことに病的な執念を燃やすあの猟犬なら、槙島が取りそうな行動も当然予想しているだろう。
槙島とて狡噛慎也に会うことは吝かではない。が、それだけが目的ということにもならない。

「泉くんといい、田村という女性といい、ここには面白そうな人間が多くいる。彼らのような存在を探すのも悪くはないな……」

どうするか迷う。迷っているという自分自身にひどくおかしいものを感じる。
苦笑し、槙島は歩き出した。こうしていても始まらない。まず動かなければと、自分がアンジュを焚き付けたのだから。
法にも倫理にも縛られない、孤独な魂の行き先は――



【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ  死亡】
【園田海未@ラブライブ  死亡】


654 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:35:31 ndVyEXE20

【G-6/音ノ木坂学院内/早朝】

【西木野真姫@ラブライブ!】
[状態]:健康
[装備]:金属バット@とある科学の超電磁砲
[道具]:デイパック、基本支給品、マカロン@アイドルマスター シンデレラガールズ、ジッポライター@現実
[思考]
基本:誰も殺したくない。ゲームからの脱出。
0:…………。
1:脱出の道を探る。
2:田村玲子と協力する。
3:μ'sのメンバーを探す。
4:ゲームに乗っていない人を探す。
[備考]
アニメ第二期終了後から参戦。
泉新一と後藤が田村玲子の知り合いであり、後藤が危険であると認識しました。

【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:全身に痺れ
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
1:脱出の道を探る。
2:西木野真姫を観察する。
3:人間とパラサイトとの関係をより深く探る。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ'sについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。広川または協力者は死者を生き返らせる力を持っているのではないかと疑っています。

【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(中)、全身に痺れ、ミギーにダメージ(中) 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム品0〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:サリア……!
2:後藤、田村、浦上、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂)を警戒。
(ただし田村に対しては他の人物よりも警戒の度合いは軽い)
3:1を終えた後で図書館でアカメたちと合流。
[備考]
※参戦時期はアニメ第21話の直後。

【アンジュ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(大)、全身に痺れ、全裸コート
[装備]:S&W M29(3/6)@現実
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾54@現実、不明支給品0〜1
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
0:サリアを……。
1:エンブリヲを殺す。凛を救う、ついでに。
2:モモカやタスク達を探す。
3:エンブリヲを警戒。
4:エドワードは味方……?
[備考]
※登場時期は最終回エンブリヲを倒した直後辺り。


※美遊の死体は音ノ木坂学院の空いた教室に運ばれました。
※カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
 基本支給品×2(マミ、美遊)、巴マミの不明支給品1〜3 は校庭に落ちています。


655 : ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:36:04 ndVyEXE20

【G-5/市街地/早朝】

【槙島聖護@PSYCHO PASS-サイコパス-】
[状態]:軽度の疲労
[装備]:サリアのナイフ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品一式、トカレフTT-33(6/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×4
[思考]
基本:人の魂の輝きを観察する。
1:狡噛に興味。
2:面白そうな観察対象を探す。
[備考]
※参戦時期は狡噛を知った後。
※新一が混ざっていることに気付いています。
※田村がパラサイトであることに気付いています。


【???/空/早朝】

【サリア@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:右肩負傷、左肩に銃槍、左足負傷(応急処置済み)、首から少量の出血(応急処置済み)
[装備]:“雷神憤怒”アドラメレク@アカメが斬る!、シルヴィアが使ってた銃@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:基本支給品、賢者の石@鋼の錬金術師
[思考・行動]
基本方針:エンブリヲ様と共に殺し合いを打破する。
1:アンジュを殺す。
2:エンブリヲ様を守る。
3:1の為のチームを作る(ダイヤモンドローズ騎士団)。
4:エンブリヲ様と至急合流。
[備考]
※参戦時期は第17話「黒の破壊天使」から第24話「明日なき戦い」Aパート以前の何処かです。



“雷神憤怒”アドラメレク@アカメが斬る!
 槙島聖護に支給される。
 籠手型の帝具。籠手に仕込まれた鉄芯(電磁誘導などで使われる)を利用して雷撃を操ることができる。
 威力が高く、雷撃を円状にして攻撃を防ぐなど攻防に優れている。
 奥の手は、巨大な雷球を生成し、放出する「ソリッドシューター」。

賢者の石@鋼の錬金術師
 サリアに支給される。
 生きた人間の魂を抽出・凝縮した赤い石。本来は液体状、鉱石状など決まった形はないがこの個体は宝石状に加工されている。
 その製造工程上、一つを創り出すのに膨大な数の人命を必要とする。魂を抽出された人間は抜け殻のようになり活動不能となる。
 効能は「術法増幅」。錬金術を行う際に用いることで、術を強化したりデメリットを無視することができる。また、「お父様」によって生み出されたホムンクルスのエネルギー源でもある。
 内包する魂の数は有限であるため、錬金術や身体の再生に使えば使うほど魂はすり減っていく。残量がゼロになると壊れる。
 当企画で発揮される効果は錬金術に限定されず、「魔法」「魔術」「超能力」「契約能力」「スタンド」「ペルソナ」「帝具」など、純正機械や体術以外の道具・能力にも適用される。


656 : 敵意の大地に種を蒔く ◆H3I.PBF5M. :2015/06/10(水) 21:36:32 ndVyEXE20
以上、投下終了です


657 : 名無しさん :2015/06/10(水) 22:05:25 R.oDKvEg0
大作投下乙です!
マキシマムが蒔いたほんの僅かな悪意の芽が最悪の形で芽吹いた…しかも本人は無傷、怖すぎる
だがここのマミさんはホントかっこよかった、曇らないマミさんは珍しい。
奇跡の代償に海未ちゃんもここで脱落か、魔法少女とはやっぱりシビアなものなんだなぁ。真姫ちゃんと放送後の穂乃果が心配だ…
そして敵に回った途端超厄介になったサリアさんはどこに飛ばされたのか


658 : 名無しさん :2015/06/11(木) 01:43:00 rphTdBgI0
投下乙です
マキシマムはロワを楽しんでるなぁ…まさかのサリアがキルスコア1位に並ぶとは予想外
マミさんと海未ちゃんはお疲れ様、2人とも熱い最期だった


659 : ◆w9XRhrM3HU :2015/06/11(木) 02:11:37 6f.3pvVY0
投下乙です
サリアちゃんはやれば出来る娘だと思ってました
マミさんと海未ちゃんがこんな壮絶な死を遂げてるとは本当に燃え尽きた熱い死でした
そうして仲間を失った真姫ちゃんがどうなるのか

自分も投下します


660 : 三人寄れば ◆w9XRhrM3HU :2015/06/11(木) 02:12:36 6f.3pvVY0
「ヒースクリフ……日本人にしては、随分変わった名前だな」
「名簿には、そのようにあるので。勿論本名は別にあります」

今から数分前、コンサートホールへやってきたアヴドゥルは足立とヒースクリフの二人と合流した。
三人とも、殺し合いに乗る意思はない―――少なくとも今は―――ことを確認し彼らは名乗りあう。

「いやあ、良かった。今のところ殺し合いに乗っている人と、誰とも出会わなくて」
「すまない足立。殺し合いに乗っている訳ではないが、少しヤバい女がこの場に来る」

足立の安堵に満ちた顔が即座に曇り、アヴドゥルはエスデスについて話し始めた。
危険思考の女だが結果としては、広川の敵対者として協力できるかもしれないこと。
その手始めとして、エスデスはアヴドゥルが告げた危険人物、DIOの打倒を目論んでおり、仲間を集めコンサートホールに集合する約束をしたこと。
そして、仲間と共にDIOの館への突入を考えていること。
全てを話し終え、ヒースクリフは疑問を投げかけてきた。

「そのDIOという男が、果たしてその館に来るものでしょうか?
 聞いた限りでは、貴方を始めとした数人に警戒されているのだから、自分の名の付いた施設にはそう近寄らないと思いますが」

ヒースクリフの指摘通り、DIOも馬鹿正直に館に向かうとは考えづらい。
近くに飛ばされ興味本位で入るか、夜明けまでに太陽を凌ぐ為にやむを得ず入るか。どちらかだろう。
最も警戒深いと同時にプライドの高い男でもある。もしかすれば、自分が倒されるはずがないと考え、敢えて館の向かう可能性もあるが。

「君の言う通りだが、エスデスは聞き入れんだろうな」

DIOの打倒は名目だけだ。あの女は闘争を戦場を望んでいる。
DIOが居れば儲けもの。居なくても、それに代わる戦場さえあればいい。

「あの女は本当に危ないんだ。出来れば君たちは、ここからすぐに離れて隠れていた方が良い」
「で、でもアヴドゥルさんは、そんな危ない女と関わってて大丈夫なんですか!?」
「出来ればすぐに縁を切りたいが、あの女とは一応約束もしてしまったし、……万が一の時は私には“こいつ”がある」

アヴドゥルが両腕で魔術的なポーズを決めた瞬間、彼の背後から炎の魔人が現れた。
魔人は纏っていた炎で、コンサートホールの座席の一つを燃やし尽くし、一瞬で黒の炭へと変えた。

「君達には見えないかもしれないが、これはスタンドという超能力で私は自在に炎を」
「見えない? どういうことでしょう?」

アヴドゥルのスタンド『魔術師の赤』の後を追うようにヒースクリフと足立の視線が泳ぐ。
流石のアヴドゥルもこの異変に気付き、首を傾げた。

「まさか、見えている? 君達もスタンド使いなのか?」
「いや、まっさかぁ。僕はスプーンすら曲げられませんよぉ」
「私も心当たりはありませんね」

足立は一瞬、スタンドをペルソナと呼んでしまい掛けたのを必死で抑えた。
今は無害な一般人を装ってる以上、この手の事柄には無関係でいた方が都合が良い。
自分がペルソナに関係するとバレて、色々問いただされるのは避けておきたい。


661 : 三人寄れば ◆w9XRhrM3HU :2015/06/11(木) 02:13:11 6f.3pvVY0

(スタンドか……ペルソナより使いやすいじゃないか)

あのペルソナに似た異形はスタンドと呼ぶらしい。
アヴドゥルの話を聞く限り、何処でも自在に出せ、同じスタンド使い以外は視認不可。ここでは何故か見えるらしいが。
テレビの中でしか使えず、この場でも呼び出せないペルソナに比べると非常に使い勝手も良く、強力な力だ。
足立はあまりの不平等さに、やはり世の中糞だと叫びたくなった。

「……話を戻そう。私はエスデスと、再度合流するつもりだが君たちは?」
「私もそのエスデスという女性に会ってみようと思います」
「本気か? ヒースクリフ!?」
「えぇ!? 逃げましょうよぉ。そんな危ない奴、触らぬ神に祟りなしって言いますよ?」
「確かに危険な女性のようですが、逆を言えばそれだけの実力者ということ。
 殺し合いの打破には必要な人材でしょう。会う理由こそあれど、避ける理由はない」
「嘘でしょ!?」

足立の目論見ではヒースクリフを連れ、とっととここから出る事を望んでいた。
エスデス等という戦闘狂染みた女と関わっては命が幾つあっても足りない。
ペルソナが使えれば、あるいはそんな女を屈服させるのも一興かとも思えたのだが、今は保身に徹するべきだ。
ヒースクリフも賛同してくれると思ったのだが、思いのほか行動的だったのは意外だった。

(不味いぞ。流石に一人で行動するのだけは避けないと)

武器もない、ペルソナもないで一人での単独行動は自殺行為だ。

「わ、分かりましたよ……俺もここに残ります。一応、刑事だし」
「足立、あまり無理をして残らなくても……」
「でも、い、いざって時はお願いしますね、アヴドゥルさん?」
「う、うむ」

不幸中の幸いだったのは強力なスタンドを持ち、善人の側であるアヴドゥルが居ることだ。
万が一の時は進んで前線に立って守ってくれるだろう。
不平等な能力の差に腹が立つが、ここは抑えてアヴドゥルに頼るしかない。

(運が良いのか悪いのか、何にせよ思わぬ形で協力者が出来たか)

エスデスとの約束では協力者を連れ、コンサートホールに集合とあった。
だが、アヴドゥルは運悪く参加者には出会えなかった。
あのエスデスの事だ。約束が果たせないとなれば、何をしでかすかわからない。
いっそ、すっぽかして逃げようとも考えていたが、その必要もなくなりそうだ。

「それにしてもヒースクリフ。その鎧や盾は随分良くできているな? 
 日本のコスプレ文化という奴かな?」

日本にはコスプレイヤーという人種がおり、アニメのコスプレを好むいうのをアヴドゥルは知っていた。
この手の人種は本名ではなく、変わったニックネームを使い活動している。
ヒースクリフも名前からして、そのコスプレイヤーなのだろうと推測し、アヴドゥルは身に着けたコスプレを褒めたつもりだった。
しかしヒースクリフは眉間に皴を寄せ、怪訝そうな顔でアヴドゥルを睨む。

(まさか、こいつは……地雷を踏んだのか?)

アヴドゥルはしまったと思う。
こういう人種はオタクという変わった考えの持ち主であり、変な一言で怒るものだ。
知らぬ内に逆鱗に触れたのだろう。弁解しなくてはとアヴドゥルに焦りが募った。


662 : 三人寄れば ◆w9XRhrM3HU :2015/06/11(木) 02:13:49 6f.3pvVY0

「いや、決して馬鹿にした訳ではない。ただ、良く出来ているから感心して……。
 格好の話をすれば、私だって決して日本では普通じゃあない」
「……本当にコスプレに見えたんですか?」
「あ、ああ……」

派手な鎧に派手な盾はまるでアニメやゲームに出てきそうだ。
だからこそアヴドゥルはコスプレなのだと思ったが、よくよく近くで見るとこれは本物だった。
仮にコスプレだったとしても、あまりにもクオリティが高い。十分武器として使えるレベルだ。
「すまない」と謝罪し、アヴドゥルは申し訳なさそうに口を閉じた。

(……どうやら、ここはゲームの中ではないらしい)

違和感はあった。この世界はゲームにして出来すぎている。
質感も視界も全て、現実としか思えない。天才的ゲームデザイナーたる茅場晶彦を以てして、このゲームは非常に高い技術により作られていた。
と、思っていた。
だが種を明かせば簡単な話だ。ここはゲームでなく現実である。比喩でなく、これは間違いはない。
仮にゲームであるなら、アヴドゥルがコスプレだのと言い出す訳がない。
世の中に自身がプレイ中のゲームのアバターの格好を指さして、コスプレという者などそうは居ないものだ。
考え辛いが、ヒースクリフというアバターが現実に再現されているほうが辻褄が合う。

(電脳化を果たした私を現実に再現したのか、その前の肉体をこの場に連れてきたのか、それは分からないが……。
 今、ヒースクリフという存在はこうして実在する。電脳ではなく現実に)

茅場晶彦の肉体をヒースクリフの姿に似せ整形したか、あるいは肉体を管理されたままこのアバターを操作しているのか。
あるいは電脳化した意識を、現実に再現させたアバターに入れたのか。
いずれのどれかは分からない。だが、ますます主催への興味は湧くばかりだ。
いや主催だけではない。参加者の持つ異能にも興味がある。
アヴドゥルの持つスタンド『魔術師の赤』。エスデス持つスタンド(仮)『デモンズエキス』。
足立も惚けてはいるが、スタンドを見た時の見せた表情は既知感に溢れているように見えた。
それに近い何かの異能を持ち得ているのかもしれない。

(見てみたいな。この場にある全ての異能を)

科学者としての好奇心とゲームデザイナーとしての創作意欲が増していくの分かる。
そう、いい歳をしながらはしゃいでいるのだ。
子供の時、以来かもしれない。ここまで純粋に心躍るのは。
そうだ。あの頃から夢見た異世界が今この場には広がっている。それも現実で。
楽しみだった。これから見るであろう未知の存在との遭遇に。
現実に存在するとは到底思えない異能力の数々。それに茅場は心惹かれた。



「ともかく、もうすぐエスデスは来るだろう。それまで待とう」

三人は朝日の差し込むコンサートホールの中でエスデスの到着を待った。


663 : 三人寄れば ◆w9XRhrM3HU :2015/06/11(木) 02:14:16 6f.3pvVY0
【D-2/コンサートホール/一日目/早朝】

【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:健康、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限あり)×6@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品(確認済み)(2)
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:一先ずエスデスを待ち接触してみる。
1:要所要所で拠点を入れ替えつつ、アインクラッドを目指す
2:外からの爆音(浪漫砲台パンプキンによる後藤への射撃音)に警戒しつつ、当面はコンサートホールで様子見を兼ねた籠城を行う
3:同行者を信用しきらず一定の注意を置き、ひとまず行動を共にする
4:キリト(桐ヶ谷和人)に会う
5:神聖剣の長剣の確保
6:異能に興味。他の異能も見てみたい。
[備考]
*参戦時期はTVアニメ1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
*ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
*キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
*電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
*ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
*この世界を現実だと認識しました。

【足立透@PERSONA4】
[状態]:健康、鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×8@現実
[思考]
基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:エスデスを警戒。会いたくない。
1:ゲームに参加している鳴上悠・里中千枝・天城雪子・クマの殺害
2:自分に扱える武器をほぼ所持していない為、当面はヒースクリフと行動を共にする
3:隙あらば、同行者を殺害して所持品を奪う
4:いざという時はアヴドゥルに守ってもらう。
[備考]
*参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後
*ペルソナのマガツイザナギは自身が極限状態に追いやられる、もしくは激しい憎悪(鳴上らへの直接接触等)を抱かない限りは召喚できません
*支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です

【モハメド・アヴドゥル@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康 激しい怒りと悲しみ
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、ウェイブのお土産の海産品@アカメが斬る! 不明支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いを止めDIOを倒し広川ら主催陣を倒し帰還する。
1:仇は必ずとるぞ、ポルナレフ
2:エスデスを待つ
3:エスデスは相当ヤバイ奴
4:ジョースターさん達との合流。
5:DIOを倒す。
6:もしこの会場がスタンド使いによるものなら、案外簡単に殺し合いを止めれるんじゃないか?
※参戦時期はDIOの館突入前からです。
※イェーガーズのメンバーの名前を把握しました。
※アカメを危険人物として認識しました。タツミもまた、危険人物ではないかと疑っています。
※エスデスを危険人物として認識しており、『デモンズエキスのスタンド使い』と思い込んでいます。
※ポルナレフが殺されたと思い込んでいます。
※この会場の島と奈落はスタンド使いによる能力・幻覚によるものではないかと疑っています。
※C-2の木が一本燃えました。これによる被害はありませんが、放火場面を誰かに見られた可能性もあります。
※アヴドゥルの宣誓が周囲に響き渡りました。
※ウェイブのお土産の量、生きているかどうかは後の書き手さんに任せます。
※スタンドがスタンド使い以外にも見える事に気付きました。


664 : ◆w9XRhrM3HU :2015/06/11(木) 02:14:34 6f.3pvVY0
投下終了です


665 : 名無しさん :2015/06/11(木) 05:56:40 lrsH6ik60
投下乙です
エズデスと合流するのか〜
波乱の予感
足立は上手く立ち回ってるな


666 : 名無しさん :2015/06/11(木) 16:13:02 JSKTHS8c0
投下乙乙

マキシマム全力でロワをエンジョイしてるなあ、死人が出るとは思わなかった、いい意味で予想外
海未ちゃんもマミさんもお疲れ様、命を最後の一滴まで絞り出す様な熱くて壮絶な最期だった
真姫と穂乃果の放送後を想像するともう……

コンサートホールは対照的な静の時だな
エスデスを待つ方向で纏まったか、番長とかが普通にペルソナ使えてる中、足立さん…やっぱり世の中クソですね
そしてアヴさん大丈夫なのかなコレ、地味に包囲網な様な気が…


667 : 名無しさん :2015/06/11(木) 20:09:15 Ip1/4iBs0
不安定とは言え、さやかが一時的に改心か。やっぱ原作は事情を知る大人不在がデカいよね
そして、初春も佐天さんの事件もあったからか物わかりが良いな

そして、さっそく存在感を示した浦上の生首。
推理はほぼ的中しているが、果たしてあのセリュー相手にどう振る舞うか

無能から危険人物にクラスチェンジしたサリアさん。時期の違いがここまで火種を生むとは。
二人の犠牲者が出てしまい、残された真姫のメンタルもちょっと心配だなあ

ヒースクリフもロワ充だったか。エスデスとの出会いがどういう化学反応を起こすか楽しみだ
足立は今のところ非力ステルスだが、何かやらかしそうで怖い


668 : ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:02:13 bna12o8E0
投下します。


669 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:04:07 bna12o8E0
万物の霊長。
人間は自らをそう呼ぶ。
本来、人間は自然界でも特別に強大な種族ではない。
長い生物種としての歴史の中で、より強大な外敵に怯え、少ない獲物を続けていた。
しかし人間は地球上のいかなる生物種よりも優れた知能を発達させていく。
その手に持つ道具を、より高度で強力な機械に進歩させていき、
その群体としての性質を、より高度で強大な社会に進歩させていった。
やがて人間は長い歴史の中で、地球上に比肩する生物の居ないほどの力を得る。
この世に自分たちを脅かす生物など存在しない。
この世で自分たちが最も優れた生物である。
その認識ゆえ、人間は自らを万物の霊長と呼んだ。

その生物が、何を由来に発生したのかはわからない。
自然な進化の結果とは思えない。
人類の科学でも創り出すのは不可能だろう。
あるいは地球外から飛来した物かもしれない。

その生物は人間の体内に侵入すると、頭部と同化して、
更に神経系を通じて身体の制御を乗っ取り、全身を自らの意思の支配下に置く。
頭部は完全に寄生生物の細胞へと変質。
寄生生物の最大の特徴は、正にその細胞の特異性にあった。
その細胞は人間の脳のごとくに高度に思考する。
その細胞は極めて強力であり硬質化も可能である。
その細胞はどれだけ集合しても自由自在に変形や分裂や融合を行える。
生体として極めて強力であり、ゆえに宿主の人間の細胞を圧倒して支配する。
頭部全体が脳の役割を果たせるために、人間を超える知能を発揮できることで、
容易に人間の言語・文化・文明などを理解学習して、極短期間の内に人間社会に潜伏。
頭部全体が極めて強力且つ、自由自在に変形するため、
人間はおろか、ライオンであろうと圧倒する戦力を誇る。
寄生生物は人間のごとき感情を持たない。
喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも、
昆虫のごとく一片の感慨も無く獲物を殺して食らう。
そして捕食対象は人間である。
彼らの本能が訴えるからだ、人間を食い殺せと。

それは人間単体では敵わない天敵。
それは食物連鎖における万物の霊長の更に上位種。

その肉体には複数体の寄生生物が宿っている。
頭部のみならず両腕脚あら体表全域、内臓器官以外のほとんど全てが寄生生物と化している。
複数の寄生生物は一つの意思の元に統合されていた。
その意思は後藤と呼ばれている。

寄生生物の中でも特に秀でた知能を持つ田村玲子が創り出し、
その田村玲子をして無敵と称した最強の寄生生物。

しかし殺し合いにおいての後藤は、明らかに尋常ではなかった。
何故、戸塚彩加と戦った際は、パンプキンの砲撃を受けて飛ばされるに任せたのか?
何故、空条承太郎と戦った際は、その身を刃にも変えられるはずの後藤がスタープラチナの拳を人間の手のように受け止めたのか?
何故、セリム・ブラッドレイや婚后光子と戦った際は、人間の手足の動きで容易に攻撃を回避されたのか?

後藤は未だその全様を見せてはいない。
何しろ後藤は、この殺し合いにおいて未だに一度も、
命の危険に晒されてはいないのだ。







ペット・ショップは殺し合いの世界の中に生きてきた。
それはおそらく卵の頃の生存競争から遡ることができる。
弱者は殺され、強者の糧となる。
果ての無い命の奪い合いの世界。
弱肉強食こそペット・ショップの生きる世界だった。
それは現在も変わらない。

しかしその中でも、異例とも言える存在、
ペット・ショップが自ら服従する主が居た。


670 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:05:09 bna12o8E0
一世紀以上の時を生きる吸血鬼・DIO。
ペット・ショップはDIOに仕える番犬ならぬ番鳥なのだ。

ペット・ショップにとってDIOは親ではない。
鳥には刷り込み(インプリティング)などによって、異種でも親と認識する場合があるが、
ペット・ショップの場合はそれに当てはまらない。
飼育され調教されたという場合も考えられる。
猛禽類は人間に飼育調教されて、狩猟などに使役される場合があるからだ。
しかしそれも実はペット・ショップには当てはまらない。
飼い慣らされた鳥とは、あくまで後天的に与えられた命令をこなしているに過ぎない存在である。
ペット・ショップは自分の意思でもってDIOに従い、
ペット・ショップは自分の本能に違わず殺し、
ペット・ショップは自分の本分に従って生きている。

ペット・ショップがDIOに飼われた由来は今となってはわからない。
それでもペット・ショップがDIOを主に定めているのは、自らの意思によるもの。
ペット・ショップがDIOに忠誠を誓うのは、DIOの持つ魔性とも言えるカリスマゆえでもあるが、
何よりDIOの強さに惹かれているからだ。
弱肉強食の世界の住者ゆえ、強者に惹かれているからだ。

何かに忠誠を持つ。そのような観念は、しかし野生動物の世界には存在しない。
野生の弱肉強食の世界でも羊が狼に、兎が獅子に仕えるなどと言う話はありえないのだ。
ただ野生であるのでも、飼い慣らされているだけに尽きるのでもない。
その意味で、実のところペット・ショップは、
極めて特異な存在と言えるだろう。

そのペット・ショップは現在、主であるDIOの館を守っている。
先刻、得体の知れないクマを仕留めたが、
クマの声が拡声器によって周囲のかなり広範囲に響き渡った。
DIOの館に留まるべきか逃げるべきか、決断を迫られていた。
しかし答えはすぐに出た。

殺気。
それ自体はペット・ショップに慣れ親しんだ物。
しかしその強大さと昆虫のような無機質さを併せ持つ殺意・殺気は、ペット・ショップにとってすら初めて経験する物だった。
自然に発生できうる殺意・殺気の量を超える異常な存在。
殺気のみならず、明らかに異常な戦力の持ち主が、
DIOの館に向かってくるのを感じ取った。

それを感じ取ったペット・ショップは、迷うことなく殺気の主へ向かうことを決断した。
おそらくこの殺気の主との戦いになれば、館そのものが無事では済まないだろう。
館を守るためにも、相手が到達する前に迎え撃つしかない。
逃げると言う選択肢も選ばない。
何よりペット・ショップの戦闘者としての本能が、殺気の主に惹かれていた。

ペット・ショップがしばらく飛んでいると、それは見付かった。
一見したところ、変わったところの無い人間の男。
しかしその昆虫のように無機質で強大な殺気は、およそペット・ショップの知るいかなる生物にも持ち得ない物だ。

「鳥か。餌としては期待外れだが……」

男はまるで感情の篭もらない声で話し掛けてくる。
余計な感情を一切持たぬ、揺ぎ無き殺意の主。
この上なく危険な生物――後藤が牙を剥く。

「……戦う相手としては期待できそうだ」

後藤の殺気にペット・ショップも殺気で答える。
殺し合いの世界に生きるペット・ショップは、どれほどの危険にも怖じることは無い。
後藤の前に降り立つペット・ショップ。
後藤とペット・ショップ。
生命を宿した二頭の殺戮機械が睨み合う。


671 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:06:18 bna12o8E0
この二頭にとって、今が殺し合いのルールの中であることすら関係ない。
互いの闘争本能が、互いを共存の許さぬ危険な、しかし得難い獲物だと認めているのだから。

ペット・ショップは自らの傍らに精神力の像(ヴィジョン)・スタンドを顕現する。
ペット・ショップ自身の数倍の巨躯。それもまるで翼竜の骨格の氷像がごとき威容。
古代エジプトにおいても最古の神『ホルス神』の名を冠するスタンド。
ホルス神の眼前に空気中の水分が相転移。
沸点はおろか融点も瞬時に下回り、氷柱を形成する。
氷柱は不自然な鋭利さで円錐を形作っており、なおかつその突端は地面と平行に後藤へ向けられていた。
それはホルス神の、氷と冷気を自在に作り出して操作する能力ゆえ。
ホルス神は空気中の水分を氷柱にすることも、そして弾丸のごとくに撃ち出すことも思いのまま。
氷柱は棒立ちになっている後藤へ撃ち出――――

「やはり”異能”持ちか。実験の最終段階としてはちょうどいい手合いだな」

――――せなかった。
棒立ちの状態だった後藤の右腕が、一瞬で触手のごとく変形。
そしてその先端の刃を、弾丸のごとき速度でペット・ショップに撃ち出していた。
ペット・ショップは咄嗟に精製した氷柱を盾にして刃を塞ぐ。
ホルス神が作る氷は、人間が飲食物などに使うそれとは硬度が違う。
その氷を後藤の刃は事も無げに貫き通す。
幸い刃はペット・ショップまで届かなかったが、それで安穏としてはいられない。
後藤の両腕は無数の触手へと変形しながら、ペット・ショップへ向かって来ていた。
ホルス神もまた氷柱を作っていたが発射に間に合わない。

後藤は変形と攻撃を同時に行えるため、そこにタイムラグが存在しないが、
ホルス神は氷柱の精製をしてから攻撃しなければならないため、そこにタイムラグが存在する。
どうしても後手に回らざるを得ない。
その上後藤の変形は生物の運動とは思えないほど速さの上、筋肉の予備緊張や予備動作などが無い。
尋常の生物を相手にするように攻撃の気配を読むことができないのだ。
頼れるのは純粋な反応速度のみ。
人間を超える隼の動体視力、その隼の中でも更に破格のペット・ショップの動体視力でようやく防御が間に合った。
ペット・ショップは再度、作り出した氷を盾に回す。
氷柱に次々と刃が刺さっていく。
ペット・ショップにとって都合が良かったのは、向かって来る刃に対して細長い氷柱の形状である。
刃は氷柱を容易く貫くが、貫通し切ってペット・ショップへ届くに至らない。
結果、後藤の触手先端の刃は氷に覆われる形になった。

刃を覆う氷柱は形状と、そして大きさを変えて行く。
触手を伝っていくようにして氷が伸びて行った。
ホルス神は何よりそのスタンドパワーにおいて、ずば抜けている。
触手を伸ばした後藤ですら、数秒と掛からずに全身を氷付けにできるだろう。

しかし次の瞬間には、伸ばしていた触手が急角度で湾曲した。

ペット・ショップにとっては全く予想外の動き。
伸び切ったはずの触手が曲がるのは、生物の常識から完全に外れた運動だからだ。
そしてペット・ショップの高い知能は理解する。
後藤の肉体は触手状に伸びても、それは根元の操作で動くような不随意体ではなく、
自由自在に動かせる随意筋としての性質を保っていることを。

後藤の伸ばした触手は六つ。
それら全てが先端の氷塊でホルス神を殴りつける。
ホルス神の全身を襲う打撃はペット・ショップも襲う。
そしてその反作用で触手の刃を覆う氷も砕け散った。
剥き出しになった刃が、痛みに呻くペット・ショップへ向かう。


672 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:07:48 bna12o8E0
刃が届く、その寸前。
痛みに呻いているはずのペット・ショップが急発進。
刃を置き去りにして後藤へ向けて飛行する。
鳥のセオリーを無視したかのような急発進はペット・ショップの得意技でもある。
背後から迫る車に向けて急発進して、その車の下を潜り抜けるような真似もペット・ショップには可能なのだ。
ペット・ショップはそのまま伸ばした触手の横を逆に辿るように後藤へ向けて飛行。
触手に沿って飛べば、先端の刃が届かないと言う計算ゆえ。
しかしその触手が突然、途中から山のように盛り上がる。
触手が湾曲ではなく、更に変形してペット・ショップを殴ったのだ。
触手の変形部分はペット・ショップを殴り飛ばしてからも変形を続けて、鋭い刃を形成する。
一瞬でも遅ければあの刃に貫かれていた。どうやら全身を自在に刃へ変えられるらしい。
ペット・ショップは後藤の脅威に改めて戦慄した。



「大した速さだ。刃が間に合わなかった」

後藤はペット・ショップに対して感心したように呟く。
ペット・ショップは知らなかったことだが、後藤の変形とは予め決まった形状のみしか選択できないようなものではない。
後藤の五体を構成する寄生体は、細胞単位から自在に形状や硬度から性質まで変化させることができるのだ。

ペット・ショップの傍らに再びホルス神が現れる。
以前のスタープラチナを操る空条承太郎との戦いと併せて、寄生生物の高い学習能力を持つ後藤は、
スタンドの性質をかなり掴んでいた。
氷柱はホルス神が作り出している。おそらく弾丸の要領で撃ち出すために。
だから後藤の目的にとっては、氷柱が発射されてからでは遅いのだ。

ホルス神が氷柱を作り出す。
そのホルス神を操作しているのはペット・ショップの意識。
ペット・ショップの意識が働くと同時に、後藤の意識も動く。
後藤の意識は人間の脳神経系を凌ぐ速さで、五体を動かし触手を差し向ける。
ホルス神の氷柱が発射される前に触手の刃で貫いた。
氷柱を刺した刃は瞬時に二股に分かれる。そして変形の圧力に耐えられず、氷柱は砕け散った。

(まだ遅いな)

後藤は人間の眼球や手元の動きから、銃撃を回避することができる。
人間が銃撃に要する眼球や手元の動きは僅か。銃撃の訓練を重ねた人間なら尚更だろう。
それを後藤は軍事訓練を積んだ自衛官を相手にこなすことができる。
瞬時に人間の顔形の細部から声までを記憶して再現できる寄生生物の認識能力と、
その寄生生物の中でも更に破格の戦闘センスを有する後藤だからこそ可能な芸当。
しかし銃器とはまるで使用条件が違う”異能”が相手では、勝手は変わってくる。
事実『空力使い』の婚后光子を相手にした際には、その能力への対応を訓練しながら戦ったためにかなり手間取った。
余談になるが本来人間には認識も追いつかないはずの寄生生物の攻撃があれだけ回避されたのもそのためである。

無敵の寄生生物・後藤。
戦闘を嗜好し、それに特化した知能を持ったこの寄生生物は更なる戦闘能力の向上を求める。
現在の急務は異能への対応能力。
それも異能全般に対応する能力を身に着けるためには、個々の異能の発動条件に対応するのではなく、
『異能を発動する際に生物が行わざるを得ない極僅かな予備動作を確実に認識する』程度のことはしなくてはならない。
ここでの要点は”生物が行わざるを得ない”程の確度の水準が求められることだ。
例えば銃撃なら使用者が意思してから照準して引き金を引き、そして発射される。
その途中工程があるからこそ、予測も回避も容易だった。
しかし婚后光子の能力を推測するに本人が意思すれば、それと同時に能力が発動するのだろう。
意識と発動の間が存在しないのだから、意識の段階で予測するしかない。
ほとんど不可能に思えた難事。

しかし後藤の才覚は光子と、そしてペット・ショップとの戦いの内に、
その骨子を掴みつつあった。

未だホルス神を現出させているペット・ショップは戦意を失ってはいないようだ。


673 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:09:21 bna12o8E0
ペット・ショップの戦意に応えるようにホルス神は氷を作り出す。
しかしその氷が作り出される直前に、鉤状になった後藤の刃が割り込む。
そして氷は形成と同時に、その鉤の無秩序な変形によって破砕。
破砕されたのは一つだけではない。
ペット・ショップは他に五つの氷を作っていたが、全て形成する空間に予め割り込ませていた刃に破壊されたのだ。
これにはさすがのペット・ショップも驚いた様子だった。

「速さも精度も上々と言ったところか」

後藤の実験は成功した。
ホルス神が氷を作る場所とタイミングの両方を予測したのだ。
それは人間の銃撃を予測した技術を応用したもの。
後藤は眼球や手元などの微細な予備動作から銃撃の弾道やタイミングを予測できる。
そして微細な予備動作を伴うことは”異能”においても例外ではない。
どれほど途中工程を伴わない異能でも、使用者は攻撃箇所を視認する必要があるなら、
それには眼球運動が伴うはずだ。
更に動物ならば攻撃意思を実行に移す際、筋肉などの予備緊張を起こす。
それは実のところ人間でも認識を行っていることなのだ。
ボクシングなどの打撃格闘技で、敵の拳を避ける際には、人間の反射神経では拳が放たれてからでは間に合わない。
その直前の肩などの微細な動きから拳を予測して避ける。
無論、異能発動の眼球運動や予備緊張は人間には明確に認識できない。
しかしそもそも寄生生物は人間に明確に認識できない水準で、人間の顔や声などを精確に記憶して再現できる。
寄生生物の認識能力ならば極僅かな予備動作も知覚できる。
そして後藤の戦闘能力ならばその機先を制することができた。
最も異能とは物理法則を超えた現象となるから、使用者の意識を伴わない能力発動も想定されるため、
どれだけ正確な予測でも過信はできない上に課題は残っているが。

ペット・ショップが再び飛び立つ。
しかし今度は後藤に背を向けてだった。
疲労とダメージがあるらしく、ペット・ショップの飛行速度は先ほどより落ちているが、
それでも見る間に後藤を引き離していく。

(逃げる? いや、誘いか)

最初はペット・ショップが逃亡を選んだと思ったが、
ホルス神が氷柱を撃ってきたことから、まだ戦意を失っていないようだ。
おそらくペット・ショップのようなタイプは命のある限り戦意を失わないと、後藤は踏んでいた。
そして命のある限り油断できない相手だとも。

氷柱を腕で弾き飛ばして、後藤は足を変形させる。
猫科の獣のごとく踵を伸ばしたそれは、最も高速走行に適した下肢の形態。
後藤の身体は、ほとんど本能的と言っていいレベルで目的に最適化された形態を選択する。
ピシュン、ピシュンと機械のごとく硬質な足音を立てて走り出す。
野獣はおろか車両をすら凌ぐ後藤の走行速度。
それでも隼であるペット・ショップが全力を出せば、容易には追いつかなかっただろうが、
疲労とダメージの抜けない今のペット・ショップとの距離は徐々に縮まっていった。
しかしペット・ショップを捉える前に、後藤は巨大な水源――池のへりまで来ていた。

「ほう、ここなら大量の水分を確保できるな」

地図上のエリア分けでC‐6からC‐7にかけて存在する巨大な水源。
河川にも繋がっていないことから地理上は池に分類される。
その辺縁まで誘導されていた。

身体を傾けて旋回するペット・ショップ。
ちょうど池と自分で後藤を挟む位置まで来たペット・ショップは、ホルス神を顕現させる。


674 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:10:43 bna12o8E0
ホルス神は再び氷柱を発射。
後藤は発射された氷柱を迎撃するため腕を振るうが、
氷柱は腕の前で急旋回して、後藤の存在を無視してあらぬ方向へ飛んでいった。

後藤は知らぬことだが、ホルス神はスタンドとしては精密動作性は高くない。
しかし本体であるペット・ショップの技能がそれを補って余りあった。
ホルス神の氷柱はペット・ショップの技術で以って、まさにミサイルの精度で目標へ投射される。
今回の氷柱も決して目標を外した訳ではないことを、すぐに後藤は知る。

変則的な軌道を描く氷柱の群は、揃って後藤の背後の池に着弾。
その威力で盛大な水柱を上げる。
更に水柱は音を立てて氷結していく。
後藤の背後を覆うように、半円状の氷壁を形成した。
着弾時の水柱を制御した上、それを瞬時に凍結させる能力の強さと応用性は、
後藤をして内心感嘆させるものだった。
しかしペット・ショップの戦術はこれからが本番である。
氷壁と同時にホルス神は更なる氷柱をも形成する。
作り出したのは、ただ一個の氷柱。
しかし先ほどまでの物とは、大きさがまるで違った。
ペット・ショップ自身はおろか、ホルス神を超え、
後藤の体躯をすら凌駕する巨大な氷柱が顕現していた。
宙空に浮くその様は兵器のごとき禍々しさを放っている。
そしてまさにミサイルのごとき急加速で発射された。
横も後ろも凍りに覆われた後藤は、その場で迎撃のために触手を伸ばす。
幾つもの刃が貫くが、大質量の氷柱は止まらない。
氷柱の質量はミサイルの速度で後藤の胴体に激突した。
まるで交通事故のような重苦しい金属音が周囲に響き渡る。
その異様な音に、ペット・ショップは訝しがるように目を細める。

「……逃げ場を奪ったまでは良いが、氷が荒削りの上に大きすぎる。これでは貫通力を保てないな」

後藤の機械染みた感情の篭もらない声が鳴り響く。
後藤は僅かに後ずさっていたが、それ以外は何事も無かったかのように平然としている。
大質量の氷柱は確かに後藤に直撃した。
しかしその先端は後藤の胴体の、表面で止まったまま阻まれていた。
後藤はその体表全体を寄生生物の細胞で覆っている上、それを硬質化したプロテクターを形成している。
その堅牢さは生物どころの話ではなく、軍用兵器の装甲すら上回る。
寄生生物の細胞が硬質化すれば、大型の軍用散弾銃『AA-12』の直撃を至近距離から受けて、衝撃まで完全に防ぎきり、
対戦車ライフル『デグチャレフPTRD1941』の直撃を至近距離から受けて、完全に受け流せるほどだ。

後藤は氷柱を両腕で抱えると全身の筋力を使って氷柱を押し返す。
触手の小手先ならばともかく、全身の寄生生物の力を使えば大質量の氷柱でも容易に押し勝てた。
しかしもう一つの巨大な氷柱が、再び後藤に襲い掛かる。
おそらく池の近くのために空気中の水分量も多いのだろう。
ホルス神は即座に大質量の氷柱を再び形成していた。
巨大な氷柱は、後藤の押し返した氷柱に後ろから追突。
氷柱は玉突き事故の要領で運動エネルギーを移され、再び後藤の方向へ押し出された。
今度は甲高い破壊音を立てて、後藤の背後にあった氷壁を破壊する。

しかしその時にはすでに肝心の後藤はその場に居合わせていなかった。
後藤は氷柱の上空、約二十メートルの高さに居た。
その両脚には、膝間接がそれぞれ三つも付いている。
後藤は直立した状態から脚を多関節に変え、直上に急跳躍を果たしていたのだ。
その後藤の様を見て、ペット・ショップは口角を吊り上げた。

ホルス神は三度、巨大な氷柱を作る。
後藤は今、空中に跳躍している。ペット・ショップのように飛行している訳ではない。
空中を自在に飛行していない以上は、ホルス神の追撃を回避することは不可能。
空中と言う刑場に囚われた後藤に、氷柱が発射された。

ペット・ショップはここである思い違いをしていた。


675 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:11:44 bna12o8E0
それは後藤、と言うより寄生生物を過小評価していると言った方が相応しいかも知れない。
この世で最も強力にして、応用力に富んだ生命体の。
何しろ後藤は、この殺し合いにおいて未だに一度も、
命の危険に晒されてはいないのだ。

氷柱が後藤を撃つべく、精確な照準に沿って飛ぶ。
パン
と、破裂音が鳴る。
氷柱が遥か遠方まで飛んでいくのを見守る後藤。
両腕があるべき場所からは、蝙蝠のごとき翼が生えていた。
後藤は翼で空を飛行し、氷柱を回避していた。
それはかつて犬に寄生した寄生生物が、泉新一との戦いで行った変身。
あらゆる体組織を兼ねた寄生生物の脳細胞は、目的に沿って瞬時に最も合理的な形態を判断して自ら選択する。
複数の寄生生物をその身に宿す後藤にできないはずが無い。

後藤は殺し合いにおいて未だに一度も、奈落に落ちた時すら命の危険に晒されてはいない。
後藤はかつてヤクザの事務所を襲撃した際、人間の形状を保ったまま戦った。
それは後藤の能力を確認するための戦闘実験だったのである。
この殺し合いにおいても、広川の語っていた異能などの存在や効果を確認するため、
実験を行っていた。
故に、砲撃を受けても飛ばされるに任せた。
故に、拳を人間の手のように受け止める様な真似をした。
故に、手で引いたり足で払ったりしただけで容易に回避される速度で攻撃した。
故に、奈落に落下した時も、翼で飛ばずに暢気に腕を伸ばした。
しかしその実験も、そろそろ切り上げ時だと後藤は考えている。
『空力使い』や自分の動きを封じた(おそらくセリム)の能力を鑑みれば、
能力による攻撃を一度でも受けることは、極めて危険性が高い。
何より目の前のペット・ショップが油断のならない相手なのだ。

ペット・ショップの瞠目は一瞬。
一流の戦士たるペット・ショップはすぐに状況を受け入れて対応する。
ホルス神の氷柱が後藤に襲い掛かる。
後藤の翼が羽ばたき、再び破裂音を立てる
変形は他の寄生生物と同じ原理であり、飛行の原理も大筋は鳥と変わらない。
しかし後藤の強力で羽ばたくならば、翼で空気を叩いて急旋回できる。
飛行よりもむしろ空気中を泳ぐと形容した方が適切だった。
その機動力は、ミサイルの氷柱を容易く潜った。
氷柱は後藤の頭上を通過する。

しかしそれはペット・ショップの狙い通りだった。
ホルス神は氷をただ発射するだけでなく、ある程度制御できる。
後藤が翼を生やす前に放った、三つ目の巨大な氷柱。
回避されたはずのそれは、後藤の背後で旋回してその直下に付けていた。
そして頭上を通り抜ける氷柱に意識が向いている後藤へ向けて、直上方向に急加速。

ペット・ショップに予想外だったのは、後藤にとって直下すら死角ではなかったことだ。

寄生生物の細胞の応用力は、生物学の常識の範囲内ではない。


676 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:12:40 bna12o8E0
筋肉として構成されていた物が、一瞬で脳細胞になり、感覚器官になり得る。
後藤の足先の一部が、光の受容感覚器官である眼球を形成して、
背後の氷柱の行方を追っていた。
眼球で得た視覚情報は、人間の神経系より効率的に全身を伝わり、
合理的に最適化された状態を細胞単位の組成していく。
両脚が八本の触手に分化。更にそれらの間を細い網を無数に渡らせる。
氷柱は網に囚われ両脚の力で止められる。
巨大な翼を広げ両脚のあるべき箇所から触手を伸ばすその姿は、
もはや人間とは程遠い、創作の怪物そのもの。
しかし人間への擬態の用を失くし、状況に適応したその姿こそ、ある意味寄生生物の自然な様とも言える。
そして翼と化した腕に代わり、脚を触手としたのは攻撃のためでもある。

触手の一つがペット・ショップに伸びる。
その刃はホルス神の急造した氷の盾を、今度こそ完全に貫き通した。
しかしその時に生じた一瞬の遅れを衝いて、ペット・ショップ自身は刃を回避する。
ペット・ショップはそのまま、自分の飛行能力の全霊をもって後藤から逃げる。
その後ろで鳴る破裂音。
後藤の翼は一度の羽ばたきで、ペット・ショップとの距離を詰めて射程に捉える。
単純な瞬発力なら後藤が上。
それを悟ったペット・ショップは小回りを利かせる。
曲線を描きながらも、傍目からはほとんど百八十度の軌道で急旋回。
追いかけて来る後藤の下を通り抜ける。
後藤の脚が触手として伸びる。
刃が胴を掠めるが、ペット・ショップは速度を落とすことなく後藤の下を通り抜けた。
後藤と逆方向に飛ぶペット・ショップは再び距離を離していく。

後藤の左の翼が、天を衝くように高く掲げられる。
そして振り下ろす。今まで最も大きい破裂音。
発生した絶大な衝撃波は、反作用で飛行する後藤の身体を、
こちらは真に百八十度の方向転換させた。
慣性も力学も捻じ伏せるがごとき、文字通りの力技。
ペット・ショップの本領を発揮させるはずの空中でも、後藤は機動力で上回ってきた。
空中でも後藤を引き離せないと悟ったペット・ショップはそこから更に方向転換する。
直下の水中に向かって。

「隼が泳げるとは知らなかった。しかし、まさか水中なら俺をまけるとは思っていまい。
池の水を使う戦略か……」

ペット・ショップが潜って行った池に、後藤も躊躇なく飛び込む。


677 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:13:45 bna12o8E0
着水と同時に全身の細胞が組成を変更。
翼は腕に、両足の先から鰭を生やし、そして肩から管を上へ伸ばす。
管の内部は気管を形成して、水上から突き出された。
それは水上の空気を取り込み呼吸するための物。
偶然にもそれは胸と肩の違いはあったが、宇田守に寄生したジョーが水中で行った変形とほぼ同じだった。

人間ならば水中では極端に視界を失くし、そもそも長時間目を開けてはいられない。
しかし寄生生物たる後藤の目にはほとんど支障は無い。
見付ける必要すらなく、ペット・ショップが水中に入ってからの動向を追えていた。
不可解なのはその動きだ。
後藤から一定の距離を取りながら、左右に動いている。
両足の鰭で泳いでペット・ショップを追うが、その前に氷が見えた。

(なるほど、こいつをばら撒いていたのか)

後藤が改めて見付けたのは氷柱。
それだけならば先刻までに見飽きた物だが、異なる点は二つある。
一つは大きさ。
先刻までの物より、はるかに小さく細い。
形状と言い大きさと言い、まるで氷のライフル弾である。
どうやらホルス神は、自在に氷柱の大きさを変えられるらしい。
もう一つは数。
氷柱は一つや二つではない。
十、いや百をも超えるであろう氷柱が水中に浮かんでいる。
それが後藤を囲むように、先端を向けて並んでいた。
氷柱の方位は、いつの間にか後藤の背後から上下方まで及んでいる。
おそらくペット・ショップがホルス神を伴って、左右に泳いでいたのはこの布陣を敷くためだろう。
幾らホルス神と言えども、これだけの氷柱を瞬時に用意できるとは思えない。
氷柱が小さい理由を推測するに、一つは後藤に見つけ難くするため、一つは広く布陣を敷くため、
そして何より――

(狙いは硬質化の隙間か……工夫をしてくれる)

後藤の胴体を覆う硬質化のプロテクターには僅かな隙間がある。
この氷柱の小ささならその隙間に入り込める
当然、ペット・ショップが知識としてそれを知っている訳ではないだろう。
しかし後藤の機敏さから、胴体のプロテクターに隙間があると、
云わば動物的な直感と、戦士としての読みから推測したと思われる。
そこで正解に行き着く辺り、ペット・ショップの戦闘の才覚も天才的といって言い。
無論、隙間の位置をペット・ショップは知らない。
しかしこれだけの量の氷柱を一斉発射すれば、後藤の体表全面を一度に攻撃することができる。

氷柱が水を切り裂き撃ち出される。
百を超える間を作らぬよう、絶妙な時間差をつけて後藤に殺到する。
上から。下から。前から。後ろから。右から。左から。
氷の刃が一寸の逃げ場も無い全方位から後藤に、着弾した。

地鳴りのような轟音が水中に響く。
大量の氷が渋滞事故を起こし砕け散り散乱。
微細な水泡と合わさって視界を完全に奪う。
水泡が晴れて視界が戻ると、そこにはペット・ショップの険しい視線が見えた。

「来ると分かっている攻撃に対してなら、幾らでも隙間の無い盾を作れる」

後藤の居た場所には、表面に目の浮かんだ球体があった。


678 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:18:08 bna12o8E0
球体の正体は、後藤を包み込む硬質化した寄生生物の細胞。
後藤が両腕を変形させて作った盾だった。
それは胴体のプロテクターと違い隙間を作る必要は無い。
百を超える氷柱は全て盾と衝突して砕け散る。

それでペット・ショップの戦術が砕け散った訳ではないが。

氷柱は全て、後藤を囲む無数の微細な破片と化した。
しかし砕け散った氷柱の破片は更なる変化をしていく。
微細な破片が周囲の水を巻き込んで氷結していったのだ。
無数の氷片は見る間に巨大な一個のネットワークを形成。
それだけに留まらず、ネットワークは周辺の水を凍らせていき埋めていく。
程なく後藤を囲む巨大な氷解となった。
氷結によって増えた体積は後藤を圧する。

(なるほど、二段構えの作戦だったか)

氷柱による包囲からの一斉射。
それが防がれても、今度は氷の質量で圧殺する。
ペット・ショップの作戦は二段構えとなって、
池の大量の水分は、どこまでも後藤を追い詰める。

池の水分を使った圧力は凄まじく、後藤の盾は各所から軋む音を悲鳴のように上げる。
後藤は胴体から軋む場所へ触手を伸ばして支えるが、
氷は周囲の水を取り込み更に体積と、そして圧力を増して行く。
このまま押し合いを続ければ後藤と言えど、力尽きることは免れないだろう。
もっとも力尽きるまで押し合いを続けることもできないのだが。

水上に伸ばしていた気管が、ついに周囲の氷に押し潰されて閉じる。
これで後藤は呼吸をする手段を失った。
無敵の寄生生物といえど、呼吸無しでは長時間は生きられない。

(……肺の中の空気でしばらくは持つ)

水中で呼吸の手段を奪われた後藤だが、いかなる状況にも恐怖も動揺も覚えない。
これは後藤、と言うより寄生生物の特質だった。
もっとも押し潰され続けている状況は何も変わらない。
そして押し合いの結末は訪れる。
後藤を守り、周囲の氷と押し合っていた盾が――潰れた。


679 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:20:02 bna12o8E0
盾は解けるように収縮していき、後藤の腕に収まった。
周囲の氷は拡大を止めている。
むしろ周囲の水に溶けて縮小していっていた。

後藤は水上に突き出た管の先端に眼球を作る。
そしてすぐに見付けることができた。ペット・ショップを。
水面近くを飛ぶペット・ショップは息を荒げている。
余程、息苦しかったのだろう。

後藤はペット・ショップの後に水中へ入り、しばらくは水上に出した気管で呼吸していた。
ペット・ショップは後藤より先に水中へ入り、その間は呼吸をすることはできなかった。
鳥類は気嚢を持っているためにある程度は水中でも呼吸無しで活動できるが、
それでも現在の状況で後藤と我慢比べをすれば、結果は明白だった。
そしてスタンドの射程処理とは別に、ホルス神の能力行使にも射程距離が存在する。
水から出ては、水中への大規模な能力行使はできなかった。

呼吸を整えながらペット・ショップは考える。
また水中に入って同じ手を使っても後藤には通用しないだろう。
後藤の凄まじいまでの戦闘力、適応力、生命力。
あれがいかなる生物であるかは問題ではない。
問題はいかにしてあれを殺すかだ。
野性の世界を生き抜いてきた戦士の本能で、
殺戮機械の明晰な頭脳で、
呼吸を整えたペット・ショップは答えを見出す。
一縷の勝機を見出したペット・ショップは、それを掴むため池の畔にある森に飛んだ。

後藤は水面から魚のように飛び上がると、再び獣のごとく踵を伸ばした足を大地に落とす。
延ばしていた気管は既に収めているが、ペット・ショップの動向からは目を離していない。
後藤はペット・ショップを追って森に向かって走り出した。

ペット・ショップは飛行。後藤は走行。
しかしペット・ショップには相当疲労がある様子で、しかも森の中を木々を縫うように飛んでいるため、
後藤は急激にペット・ショップとの距離を詰めて行く。
射程距離に入ると同時に触手を伸ばす。
ペット・ショップに届く前にホルス神の氷の盾が阻む。
刃で氷の盾を貫通するが、その間に遠ざかっているペット・ショップには届かない。
ペット・ショップは更に木々が濃く生い茂っている森の奥に飛び込んで行く。
密集した木々の間をすり抜けるように飛行するペット・ショップ。
後藤も遅れて密集地帯に走り込む。
そこは足の踏み場も無いほど不規則な地形を為していた。
しかし後藤にとっては支障は無い。
足裏に細かい刃作りスパイクと化すと、木の幹を蹴る後藤。
反動で次の木の幹に到達。そして蹴る。
木々の間を飛び跳ねながら、全く速度を落とさずに後藤は追跡する。
そして遂に、氷の盾を貫通しても刃が届く距離にペット・ショップを捉えた。

「――?」

後藤の足裏を襲う異変。


680 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:21:36 bna12o8E0
足場として踏み抜いた幹の中に氷が有った。
そして踏み砕いた瞬間、氷は纏わり付くように増大する。
それだけに留まらない。
不意の異変に後藤の動きが止まった刹那、
別の幹から脚に、枝葉の陰から腕に氷が伸びる。
後藤の両腕両脚に氷が纏わり付き、拘束具を形成した。
そしてこの状況を予測していたかのように、ペット・ショップがホルス神を伴って、
旋回して後藤の前に戻って来る。
ホルス神の仕掛けた罠だ。
後藤がそう確信した時には両腕両脚を凍結され、木々の間に囚われた。

ペット・ショップにとって、これは賭けだった。
後藤の素早さと隙の無さは戦士として見ても破格。
氷の攻撃を当てることも至難。
だからこそ森の中に誘い込み、抵当な地形で罠を仕掛けることにした。
後藤に森の木を足場として使わせて、そこに地雷のごとく氷を設置したのだ。
しかし森の中に適当な地形があることも、
後藤が木々の間を跳ぶ移動手段を選ぶことも
後藤の足場を予想することも、
ペット・ショップの勘にとっても分の悪い賭けであることには違いない。
賭けに勝てたのは奇跡に近かった。
もっともその拘束も後藤の力を以ってすれば、すぐに破壊される物だろう。

「……こういう場合「手も足も出ない」と言うのか?」

そう呟いた後藤の両腕両脚の氷に皹が入る。
後藤の変容自在な肉体ならば、両腕両脚の筋肉で氷を内部から破壊できるだろう。
しかし今からなら、それより早く攻撃することができる。
ペット・ショップは大きく口を開ける。
その中には予め精製しておいた氷柱が在った。
照準は後藤。
その首に嵌った首輪。
殺し合いの参加者である以上、それを破壊して爆破すれば無事では済むまい。
そして両腕両脚を氷で拘束した今なら回避も防御も不可能。
氷の皹が大きくなるが、破砕に至る前に氷柱は発射された。
氷柱は後藤の首輪に着弾――

「頭は出るがな」

――する寸前に刃に貫かれた。
氷柱を貫いた刃は頭から伸びた触手の先に付いた物。
触手は氷柱を貫いた後も伸びて行き、ペット・ショップを先端の氷で殴りつける。
ペット・ショップは地面に叩きつけられた。
後藤は頭部を人間の形状に戻すと、両腕両脚の氷を内側から破壊した。

後藤の頭部は寄生生物なので当然、自由に変形が可能だが、
戦闘の際は攻撃に加わることは無い。
それは頭部以外の寄生生物部分を統率することに、そのキャパシティを使い切っているからである。
しかし五体の他の部分の操作を一旦放棄すれば、その分余剰となるキャパシティで、
他の寄生生物と同様に変形させることが可能なのだ。
しかしそもそも寄生生物を後藤以外に知らないペット・ショップには、知る由も無いことだった。

ペット・ショップの足元に後藤が降り立った。


681 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:23:00 bna12o8E0
殺戮機械が殺戮機械を見下ろす。
叩きつけられた衝撃で、まだ身体は動かない。
ホルス神のスタンドパワーはもう残っていない。
仮に余力があっても、今の状態から逆転の方策は残されていない。
ペット・ショップは自身の敗北を悟った。

ペット・ショップに失策は無かった。
ペット・ショップは確かに戦闘の天才である。
戦略・戦術的な錯誤は無かったし、持てる戦力を的確に運用できていた。
しかし後藤の持つ戦力、と言うより生物としてのポテンシャルがペット・ショップの予想を超え続けただけだ。
後藤の持つ根本的、生物的な能力が戦闘の天才の知見をすら上回っていただけの話である。

猛禽類にしてスタンド使いでもあるペット・ショップは、
野性の世界においてであろうと屈指の戦闘能力を持つだろう。
それでも自然な生物の延長上にあるペット・ショップは、その機能の全てを戦闘に特化されているわけではない。
しかしこの人類種を食い殺すことを自らの目的とした生物の集合体は、
田村玲子が作り出した”無敵”の実験体は、
繁殖能力も持たぬ、五体の全てが戦闘に特化した、
例えるならば完全なる戦闘生物。
戦闘の天才であるペット・ショップだからこそ、それを思い知らされた。

ペット・ショップは僅かに回復した体力で身体を起こす。
反撃をするつもりは無い。
それはもはや無意味なこととなったのだから。
野生の、弱肉強食の世界において、後藤はペット・ショップの上位に位置している。
それは何よりペット・ショップが最も痛感している。
だからこそ行わなければならないことがあった。

「なかなか面白い戦いだったが……やはりこの大きさの鳥では食いでに足りんな」

右腕を刃に変え、後藤はペット・ショップへ冷徹に言い渡す。
お前を今から食い殺すと。
それは野生生物たる後藤にとっては、あまりに当然のこと。
野生生物にとって戦いとは死と捕食をもってしか決着を付くことは無い。
そこには一片の慈悲も酌量の余地も無い。
戦いの最中と同じく、揺ぎ無き殺意を以って、
こちらに伸ばすペット・ショップの首へと刃を向ける。
そして右腕を伸ばして刃を降ろした。

ペット・ショップは後藤へ向けた頭を垂れる。
後藤の殺気にも、微塵も反応することは無く。
それを当然と受け止めて。
そこにはある意思が示されていた。

「……面白い鳥だなお前は。野生なのか飼い慣らされているのか分からん」

後藤の刃はペット・ショップの首を掠める。
ペット・ショップは身動ぎもせず頭を垂れたままだ。


682 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:24:55 bna12o8E0
ペット・ショップの体勢は野生の世界では極めて珍しいものだろう。
両脚で地に立っているが広げた翼と頭は地に伏している。
それは自ら負けを認める、云わば降伏ではない。
それは平伏の証。
自ら相手の軍門に下ることを意味する。
自らを命ごと相手に捧げる意思表示。

ペット・ショップは後藤が野生の、弱肉強食の世界において絶対的な強者であることを知った。
そして野生生物として、あるいは戦士としての純粋さは、
主であったDIOであることも。
それゆえにペット・ショップは後藤を尊敬し、自分の主に相応しい存在だと認めたのである。
だからこそ迷うことなく命も捧げたのだ。
命を捧げたのだから、即座に殺されようと本望。

「変わり者というのは人間にも鳥にも居るらしい」

野生生物たる後藤も、直感的にそれを理解した。
ペット・ショップは後藤の刃にも寸毫の反応も見せず受け入れた。
もしペット・ショップの意思表示に偽りがあれば、微かにでも反応があったはずである。
そもそも嘘があれば、あるいは食い殺すべき種である人間であれば、
後藤は一片の関心も持たず殺しただろう。
偽りも無く人間でも無いことが、ペット・ショップの命を助けたのだ。

「デイパックを寄越せ」

新たな主の命令に、ペット・ショップは自分のデイパックを差し出す。
後藤はそれを片手で受け取ると、その片手でデイパックを開け、
片手の目で中身を検分する。

「名前はなんだ?」

片手からの触手でデイパックの中から名簿を取り出し、質問する後藤。
ペット・ショップは自分の名前が書かれた箇所をくちばしで指す。

「面白い道具があるな。あの時聞こえてきた声は、この機械で拡大された物か。
これ以外は返しやる」

拡声器を取り出した後藤は、デイパックをペット・ショップに投げ返す。
寄生生物にとって拡声器は有用性の高い道具である。
何故なら寄生生物は声を自由に変えられる上、一度覚えた声は幾らでも真似できるからだ。
誰か人望の高い人物の声を複数でも真似をすれば、多数の参加者を集めることも可能だろう。


683 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:26:28 bna12o8E0
拡声器の使い方を考えながら後藤は自分のデイパックにしまう。

「ペット・ショップ。お前は俺について来い。お前の仕事は、俺が参加者と戦うことをサポートすることだ。
参加者を見つけたら逃げ場を潰したり誘導したりして、俺と戦うように仕向けろ」

ペット・ショップに、それが当然のごとく命令する後藤。
後藤はペット・ショップが自分に忠誠を誓ったのは理解した。
しかし忠誠心そのものを理解している訳ではない。
寄生生物に他者に対する敬意など存在しないからだ。
それでも”使えるもの”ならば、なんでも利用するのが寄生生物の合理性である。
食い殺すべき種である広川でさえも、利用価値があるなら利用する。それが寄生生物の性質。
寄生生物とはどこまでも合理的で功利的な思考をする生物なのだ。

「ただし誰も殺すな、殺すのは俺の役目だ。怪我もなるべく避けろ」

どこまでも身勝手な後藤の命令を粛々と記憶するペット・ショップ。
主にただ利用されることこそがペット・ショップの本望。
新たな主の命令を聞くペット・ショップは、前の主の命令を完全に忘れていた。

ペット・ショップが敗北するのはこれで二度目。
一度目の敗北と死には少なからぬショックがあった。
しかし二度目の今は、それが無い。
それは戦闘の世界に生きる生物としての当然の帰結であり、
ペット・ショップはそれによって新たなる生き方を見つけたのだから。
ペット・ショップはまるで生まれ変わった気分だった。

新たな主である後藤に仕えるペット・ショップは、前の主であるDIOへの忠誠を完全に忘れていた。
ペット・ショップにとってそれはもはや思い出す価値も無い過去である。
元いた世界における敗北と死によるショックも今は無い。

ただ、イギーに対する怒りの全てを忘れた訳ではない。
意識の底に沈むかのようなそれは後藤はおろか、ペット・ショップにも自覚できないものだった。
しかしイギーを見た時にそれはどのような事態を引き起こすのか、
ただ主を見て、自らの深遠を覗かぬペット・ショップ自身ですら知る由も無かった。


684 : 弱肉強食の主従 ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:27:38 bna12o8E0
【C-7/森/1日目/早朝】

【ペット・ショップ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、ダメージ(中)、後藤への忠誠
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品0〜2
[思考]
基本:後藤の指示に従う。
1:後藤について行く。
2:参加者に会えば殺さないように、後藤との戦いへ誘導する。怪我もなるべくさせない。
3:イギーを見付けた時は……
[備考]
※ 何らかの能力制限をかけられています。ペット・ショップはそれに薄々気づいています。
※ 参戦時期は死亡後です。
※ 拡声器が何処まで響いたか後の書き手さんにお任せします。

【後藤@寄生獣】
[状態]:両腕にパンプキンの光線を受けた跡、手榴弾で焼かれた跡、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、不明支給品1〜0
[思考]
基本:優勝する。
1:泉新一、田村玲子に勝利。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)
3:セリムを警戒しておく。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※首輪や制限などについては後の方にお任せします。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※凜と蘇芳の首輪がC-5に放置されています。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。


685 : ◆QAGVoMQvLw :2015/06/13(土) 15:29:11 bna12o8E0
投下を終了します。


686 : 名無しさん :2015/06/13(土) 17:42:40 RgqBX4Ro0
投下乙です

DIO様忠鳥を寝取られるの巻。まぁ後藤の方がより野生動物として純粋だからこそシンパシーを感じたのか
2人の戦闘が実に冷血な実力者同士のバトルの雰囲気が出ていて良い。特に寄生獣の設定がふんだんに盛り込まれていて愛を感じました
しかし恐ろしいペアだ


687 : 名無しさん :2015/06/13(土) 19:20:58 BkQzYr0w0
投下乙です
鳥を寝取られるDIO様ェ……
DIO様のエキス付きハンカチを持ったイリヤと会った時の鳥の反応が気になる
後藤vs鳥戦は淡々としながらも丁寧な描写が素晴らしく後藤の強さが伝わってきました


688 : 名無しさん :2015/06/14(日) 13:38:15 oV1Roxto0
投下乙

ペットショップお前それでいいのか…w
殺人マシン同士の戦闘は見ごたえが凄い、両者の強さが伝わってきました


689 : 名無しさん :2015/06/14(日) 14:11:55 hZRKyDSw0
投下乙


690 : 名無しさん :2015/06/15(月) 04:55:39 vklVOQ3Y0
予約ラッシュが凄いな


691 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/06/17(水) 01:32:24 wwRRbDnw0
投下します


692 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:34:01 wwRRbDnw0





時は既に動いている。





走り過ぎていった電車を見つめていても状況は何一つ変わらない。
発想の転換に繋がることもなく、次の行動への第一歩に繋がることもない。
よって雪子は何時迄も呆気にとられて立ち止まることを止め、行動を開始する。

突然なモモカの行動に思い当たる節はない。
出会って数分。それだけで彼女の本質を見抜くなど特別な異能が無ければ不可能である。
多重人格的な衝動だったり、最初から他の参加者を殺すことを決めていた。なんてケースも想定出来る。
つまり考えるだけ無駄、黙っているよりも行動を選択する場面であり千枝を追わなければならない。

電車の後を追えばいいのだから簡単に言えば線路を歩けばいい。
しかし背後から電車が迫り轢かれては笑えない冗談になってしまう。
遠巻きから線路の方向へ歩くのが一番だろう。

「じゃあ私は行ってきますね。銀さん」

「うん」

モモカ襲撃の後、雪子と銀は状況を把握しようとしていたが結果は乏しい。
雪子が語りかけても「うん」や「そう」、「わからない」と言った単純な回答しか得られなかった。
元々雪子も自分から多くを語らない人種ではないので詰まる。
ペルソナを所有している自分は危険に晒されてもある程度対応出来る。

判断を下し自分は単独行動を行い、銀はこのまま駅に待機してもらう形になった。

「もしお昼を過ぎても私が戻ってこれなくなったら銀さんも逃げてくださいね」

「何処に?」

「えーっと……このボートパークで」

地図を取り出しながら比較的近い建物を指定する。
首を縦に振る銀を確認しそのままバッグに仕舞い込むと雪子は歩き出した。
少し陽の光を取り戻してきた今ならば視界は先ほどよりも良好だろう。
千枝を探すべく彼女は駅を後にする。

「気を付けて」

「はい。銀さんも」

手を振る銀の姿に微笑みながら再び前を向く。
この会場に知り合いは少なく、味方と呼べる存在全員が参加している訳ではない。
歩けば歩くほど危険に出会す可能性が上昇していくが仕方が無いと割り切る。
エンカウントが発生しないダンジョンなど存在する方が稀である。それと一緒。


去る雪子の姿を見て銀は考える。
観測霊を使えば状況は好転するだろうが彼女は一体何なのか。
ペルソナと呼ばれた能力は見たことがなく、雪子と千枝は姿こそ違えど同じ能力を使っていた。
タロットを壊せば発動するらしいがそれが対価なのか。

これも答えが見つかる話ではなく、彼女は黙ってベンチに座り込んだ。




【C-8/駅/1日目/早朝】



【銀@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:…………。
0:雪子を待つ。
1:黒を探す。
2:千枝たちと朝まで待つ。
[備考]
※千枝、雪子、モモカと情報を交換しました。


693 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:35:30 wwRRbDnw0

ソファーに座るマスタングは考える。
エンヴィーが何故生きているのか。復活しているからだろうが何故復活しているのか。
お父様なる存在が消えた今、ホムンクルスの脅威は世界から消えた筈である。

例外なくホムンクルスが消滅したとは言い切れないがエンヴィーが死ぬ瞬間を彼は見ている。
人類を苦しめた、ヒューズを殺した外道は完全に死んだ。
己の手で止めを刺していない。それでも彼が生命を潰す瞬間をこの眼で見ていた。

(人体錬成……いや人造生命体ならば再び造られたと言うべきか?)

フラスコの中の小人。
人為らざる存在を錬成或いは創り上げられたとしたら。
彼らの国は再び戦火に包まれることになるだろう。

(国……私と鋼のが参加していることを考えると攻められているのか?
 戦力を削いだつもりだろうが中尉やアームストロング少佐と少将も居るのだ。そう簡単に落ちることはないと思うが)

自分たちに対する反逆と考えれば少しは納得が行くかもしれない。
ホムンクルスにとってロイ・マスタングとエドワード・エルリックの二名は殺すべき存在だろう。
その二名を殺し合いの会場に放り込むことに違和感を覚えないと確信出来る。

(他の知り合いはキング・ブラッドレイ、セリム、エンヴィー、そしてキンブリー……どれも既に死人と化している。
 人体錬成かどうかは知らんが完全に私達を殺しに掛かって来ている……だがエンヴィーの言葉が気になってしまう)

彼らの創造主であり親でもあるお父様。
その計画をエンヴィーはどうでもいいとマスタングの前で吐き捨てたのだ。
親に歯向かうことをしないホムンクルスがそんなことを言うのだろうか。
グリードのような例外もいるため言い切ることは不可能だが謎は確かに存在する。

(お父様の計画がどうでもいいのならこれはエンヴィー達にとってもイレギュラーなのか?
 ならば奴らが生きていることにも納得出来るが……おっと)

「あの、お茶……です」

「あぁすまないね。花陽」

「わたくしにも一つ下さいまして?」

「もちろんです!」

長考に老けるのも悪くないがこの空間に居るのは自分だけではない。
何時迄も調達した軍手に錬成陣を記入している訳にもいかないのだ。
346プロの一室内にはまだ幼い少女達が自分にお茶の差し入れをしてくれる。
これを無碍にする程ロイ・マスタングと言う男はつまらなくない。

「こんなシュチュエーションでも無ければもっと良い場所に君たちを誘うんだがね」

「へ? あっ、えっと……」

「マスタングさん。困らせる言い方は違うんじゃないですの」

寧ろ女性とは関係を密にしたい人種である。
仏頂面で対応するわけではなく、出来る限り明るく振る舞うのが大人の努めである。


694 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:36:11 wwRRbDnw0

花陽はお茶を飲んでくれるマスタングを見ていた。
足に傷を負っていた彼の身体が心配であるが、軽口を叩けるだけ大丈夫。
といった判断を出来る筈もなくただただ心配しているだけ。
戦闘や戦場とは無関係だった世界だったため仕方がないことである。

「うむ、美味しい。ありがとう」

「えへへ……」

寧ろ彼は女性とコミュニケーションを密にする人間だ。
軍の回線で会話を行うほどにそれはそれは……。

(中尉が居たら小言の一つや二つ言われそうだがな)

「全く……貴方という人間は調子が良いようですわね」

「……どうも私の周りから小言は消えないらしいな」

「な・に・か・い・い・ま・し・て?」

「いーやなんでもない。それはそうと空気の入れ換えでもしないか? 花陽、窓を開けてくれないか」

女性とは怖い生物である。
弱々しく思いがちだが芯は固く、強く。
同じ人間であり性別だけで差別するなど愚の骨頂と言っても差し支えない。
小さな小言でも積もればメンタルに支障をきたすような大言になってしまう。

マスタングに言われた花陽はソファーから離れ窓に手を掛ける。
少しだけ明るくなっている外を見ると心が落ち着いてきたのを感じる。
夜。
深い闇や暗さは存在だけで人々の心を不安で支配する無意識のスパイスである。
少しでも明かりが灯ればそれだけで心の負担は軽減される。
凛ちゃんや真姫ちゃん、それに穂乃果ちゃん達は無事なのだろうか。
自分と同じように頼れる人間と一緒に行動していれば安心なのだが状況を掴める手段は存在しない。

願うだけ。
今の自分には何も出来ない。
出来るとすれば無事なことを小さく祈るだけ。
神様が居てくれれば叶えてくれるだろうが殺し合いに巻き込まれている時点で見放されているかもしれない。

「――え?」






『誰か助けてクマー!!!!!』





気分転換を兼ねた空気の入れ替えは違った意味合いで場を変様させる。
大切な仲間を思い浮かべていたのもつかの間、聞こえてきたのは助けを求める声。
高さ的に幼さを感じる声だが知り合いの声では無いようで少し安心する。しかし。

(安心しちゃダメだよね……)

それが知らない声だろうと誰かが危険に瀕していることに変わりはない。
安心しては『知らない人なら死んでもいい』極解ではあるが行く着く先はそれになる。
殺し合いに巻き込まれて感覚が一部麻痺してきている。
仕方が無いことであり、生きている間に殺し合いに巻き込まれる可能性は塵の世界である。


695 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:37:27 wwRRbDnw0

自分の気持ちに喝を入れた花陽は後ろへ振り返る。
自分に戦う力は無く、何処にでも居そうな高校生である。
指揮を取るのはマスタングと黒子、戦闘能力を保有している人物に委ねるのが正しい。

「声の聞こえ方からすると……このDIOの館とやらがある方角みたいですわね」

地図を広げながら黒子は指をその地点へ移動させる。
右上、つまり北東の方から救援が聞こえてきた。
建物を目印にするならばDIOの館が一番近い建物になるだろう。

「あの声は君たちの知り合いか?」

「私は違います」

「私も違いますわね……その質問に何か意味があるのでしょうか?」

マスタングの問に黒子は一歩踏み込んだ返しをする。
彼が放った言葉は普通だ。知り合いの安否を確認するのは当然のこと。
けれどマスタングと合流した時、彼の口から語られた人物がどうしても引っかかる。
そして彼の発言から察するに――黒子は返しを待たずに言葉を発する。

「知り合いだったとしてもエンヴィーとやらの可能性が在る……と言おうとしてましたわね」

「……君は幼いながらも頭が切れる人物のようだな、黒子」

「まさかとは思いますけどエンヴィーの可能性が在るから助けには向かわない、何てことは言わないでしょうね?」

「当然だ。救える生命を最初から見捨てるなど私は絶対にせんよ……っと」

足の傷は大分治ったようだ。元から動ける程度には回復していたがある程度走ることも可能だろう。
無論全力疾走を何度も繰り返せば傷口が再度開く可能性が在ることを忘れてはならない。

「では行ってくる」

「誰が待機すると言ったのか……わたくしは解りません」

「な――本気か?」

女性二名を置いて動こうとしたマスタングを止める黒子。
彼女もまた声の方角へ移動しようとしていた。
この行動にマスタングは驚きながら彼女に確認を求めていた。

「ええ、このような状況だろうと自分の役目を全うしなくてはなりませんので」

それだけ短く言い切ると黒子は花陽の方へ視線を向ける。
戦力を持たない彼女まで連れて行けば、言い方は悪いが荷物が増えるだけだ。

しかし一人で残すと言うことは彼女を守る存在が誰一人して消える意味合いを持つ。
花陽の瞳は不安がりながらも黒子に訴えていた、一人にしないで、と。
その意思に気付くと黒子は少し微笑み言い慣れた台詞を放った。


「風紀委員『ジャッジメント』ですの――さぁ行きますわよお二方」





キンブリーはDIOの館から出て来た。
あの館には戦闘痕こそ在るが『其れ以外は何も無い』状況だった。
長居は不要、骸であるクロメと共にその場を後にした。

簡単に言えば時間を無駄にしただけ。
特段急いでいる訳でも無いが大きいイベントに乗りそびれては興が冷めてしまう。
この会場にはホムンクルスも居る、退屈することは余りないようだが。

風を扱う少女、死体を操る刀を持った少女、人形のような存在を使役する犬。
未知に溢れているこの会場はキンブリーの本能を刺激していた。


「ん――」


風の流れが変わる。
その方角には燃え上がる紅蓮の焔が暗い世界を照らしていた。


「クク……もしかすると貴方が其処に居るかもしれませんねぇ」





696 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:38:22 wwRRbDnw0

爆発を操る男と刀を持った無口な女。
二つの危険を目の前にした穂乃果が抱いた感想はまるで映画みたい。
ハリウッド並の身体能力を持った彼らの戦闘は芸術に見える程。

それに剣一つで対向するウェイブやCGのような人形を出すワンちゃんも規格外だ。
ウェイブに至っては至近距離で刀を回避したり爆発を体験してもそれ程辛そうには見えない。
殺し合い何て嘘でこれは映画か何かの撮影なんだろうか、そんな疑問も生まれてくる。

スタントマンと言えば外国人のような風貌をしているし理解出来そうである。
ワンちゃんも英才的な教育を受けた犬と思えばまぁ、理解出来なくもない。

けれど。

(なんで私が此処に居るんだろう)

自分が巻き込まれている理由には繋がらない。
映画の撮影だとして何故自分がこの場所に居るのか。
アイドルだとかドッキリだとか。流石に其れは夢を見過ぎている。

スクールアイドルがこんなビックリドッキリに巻き込まれるなど有り得ない。
ならば広川が告げたとおり殺し合いが起きているのか。
それこそ夢物語のお伽話だ。
何がバトルロワイアルだ馬鹿馬鹿しい。という話になってしまう。

(あぁ! もう! わかるわけないよっ!!)

頭を抱えながら穂乃果は心の中で叫ぶ。
本当は声を大きく叫びたいが状況が状況であり其処は自重する。

大声を出すと他の参加者に居場所が知られてしまう。

そのとおりであるがお世辞にも穂乃果はそんな考えを出来る程の思考を持ち併せていない。
ならば、何故。


「クロメ……ッ!!」


逃げて来てからウェイブは悲しみと怒りに包まれていた。
ある程度走り、安全な場所に辿り着いた今でも彼は近寄り難い雰囲気を出している。
クロメと呟くごとに何回も木を殴りつけ己の無力を噛み締めるように。


697 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:38:59 wwRRbDnw0

穂乃果は思う。
戦闘を遠くで見ていた時から感じていたが知り合いなのだろう。
クロメ。彼から聞いたイェーガーズの仲間の名前である。
話を聞く限りでは白い男に殺されて今はゾンビのように生きていると言う。
それこそハリウッドな話だが茶化せる空気ではない。

「許さねえ、俺はテメェを許さねえ……!」

憎悪の対象は白い男なのだろう。
手を合わせると白い光のようなモノを発し爆発を起こす力を持った男。
アメリカンヒーローのような能力を持ったあの男のことだろう。
大切な存在を殺されたなら、人は変わってしまうかもしれない。


「――で、怪我はないか穂乃果」

「……わ、私?」


振り返るとウェイブは笑顔を浮かべながら穂乃果の心配をしていた。
対する彼女は先程まで殺気を身に纏っていた彼の豹変振りに驚き間の抜けた声を出す。

「私はウェイブさんと違って戦ってもいないし」

「いや穂乃果と犬ころは俺を逃してくれただろ。その時は爆発に巻き込まれていないか?」

「それはそうだけど……って私は怪我なんてしてないしそれを言うなら」

「俺か? 全然動けるし心配すんな!」

腕を大きく回し健在振りを示す彼は笑って言いのけた。
その光景をイギーは鼻で笑いながら見ていた。
まるで「少しでも心配した俺が馬鹿だ」と謂わんばかりの表情で。


「まぁ、あれだ。クロメが死んだって事実は変わらねえ。悲しんだってあいつは戻ってこない。
 切り替えろ、って言われてもそう簡単に切り替えられねえさ。
 けどよ。俺がモタモタしてる間にもっと死人が出たら本末転倒なんだよ。何のために俺は帝都に来たんだよってな」


その瞳は決意を悲しさを併せ持った美しい潤いで。
けれど言葉には絶対なる意思が込められている。

強い。
この人はとても強い。
そう思う穂乃果であった。


☆  


そして時は絡み合う。





698 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:39:48 wwRRbDnw0


「そう言えばお前、強かったなよな犬ころ」


木の麓に座り込んだウェイブが近くで頭を掻いているイギーに声を掛けた。
イギーは特に反応することもなく欠伸をしている。

「あの砂の人形みたいなのってお前の力だよな。まるでコロみてぇな奴だな。
 気に喰わない犬ころだけどお前が居なかったら俺も無事じゃなかったし、ありがとうな」

スタンド。
それはウェイブが知らない異能な力。
ヴィジョンなど彼が存在する世界線では現れない未知なる未来。
愚者と呼ばれているソレを今のウェイブが知る可能性は低い。
イギーの仲間達と合流すれば説明してもらえるだろうが。

ウェイブから礼を言われたイギーは驚きの表情を浮かべた。
まさかこの男から礼を言われるなどと思っていただろうか。
純粋に気持ち悪い。
態度で表すように唾を吐き捨てた。


「な!? 可愛くねえ犬だなァおい!」


よりにもよって唾を吐き捨てやがった。
ウェイブは身を乗り出しながらイギーに声を飛ばす。
その光景を見たイギーは鼻で笑い彼を見下していた。

その態度に怒りを積み重ねたウェイブは何度も大地に靴を叩き付ける。
思えばこの靴には犬の糞が……彼の怒りは更に積もって行く。


「フフ……アハハハハ!」


我慢が出来なくなった穂乃果は笑い出す。
ウェイブとイギーの絡みは外から見ているだけで面白い物である。
本人たちからすれば言われたくもない褒め言葉の類であろうことに間違いない。

「仲が良いね、二人共!」

『「ねえ!!」』

叫ぶウェイブと吠えるイギー。
まるで同じ言葉を発しているように息がピッタリである。
二人は目を合わせると直ぐに視線を逸らす。

こんな奴と一緒にするな。そう物語っていた。


699 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:40:23 wwRRbDnw0

しかし比較的和やかな空気は長く続かない。
何もこの会場の時を感じているのは彼らだけではない。

近寄る存在が在る。

ウェイブは剣を取り、イギーはやれやれと謂わんばかりの表情で立ち上がった。

これまで出会った人間はロイ・マスタングとクロメ、そして白い男。
どれも危険人物だ。
近付いて来る人間が温和な人物であることを願いながら――。


「下がれ穂乃果ァ!」


『休ませてくれもいいと思うけどなぁ……ッチィ! 『愚者』!!』


吠えろ、叫べ、己を奮い立てろ。
連戦になるが仕方が無いだろう。
目の前に現れた人物を彼らは知っているのだから。


「随分と手荒い歓迎ですこと……マスタングさん、貴方の知り合いでして?」


「私の顔は広いからな……少なくとも相互関係はないが」


ロイ・マスタング。
彼らを襲撃した悪魔が再びその姿を現した。
違う点を挙げるならば二人の女性を連れて歩いていることか。

女性だからと言って油断することは絶対にしない。
ウェイブは強い女性を何人も体験してきているのだ、油断は許されない。
剣を握り締めその瞳は敵三人誰一人として一挙動作何一つ見逃すつもりなど無い。

「――穂乃果ちゃ、ん?」

「殺気立たせているところ申し訳ないが私達に戦闘の意思はない。武器を収めてくれないか?」

両腕を挙げ戦闘の意思を放棄した軍服の男。
ロイ・マスタングは温和な声でウェイブ達に交渉を持ち掛ける。
佐天涙子を失った時とは大違いであり普段の冷静さを取り戻している。
だがそんなことは彼らに関係ない。


「何巫山戯たこと抜かしてんだよ……ッ!」


700 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:42:31 wwRRbDnw0
武器を収めるどころかウェイブはマスタングに向かって走っているではないか。
これは一体何の冗談だ、マスタングは次から次へと来る問題に溜息を憑く。

「本当に貴方の知り合いではないのですか?」

「違うと言っているだろ。だが――思い当たる節があるのは我ながら嫌になるがなッ!」

呆れた顔で再度促してくる黒子の問に返すとマスタングは掌を合わせる。
そして指を弾くと乾いた音が響くと迫り来るウェイブの目の前に炎が広がり始めた。

「――ッ!?」

「その表情から察するに私を知らないようだが……エンヴィーめ、余計なことをしてくれたものだ」

ウェイブとマスタング。
二つの視線が交差するこの状況には決定的な要因がある。

ウェイブが恨んでいるマスタングはエンヴィーだ。
そして彼の前に存在するマスタングはエンヴィーではなく本物のマスタングである。

別の存在に变化することが出来るホムンクルス、エンヴィー。
彼の存在がこの状況を生み出し、そして混沌に貶ししめている。

「……上!」

黒子の声が突然発せられる。
言葉どおり上を見上げると仮面を付けた異形なる存在がマスタング目掛け急降下している。
その存在に対処すべく行動を取ろうとするが既に遅い。

黒子が彼を掴み座標移動――テレポートを使用していた。

「信じられない力だな、黒子くん」

「貴方の発火能力も中々の物ですけれど……さて」

手を払いながら黒子は頭を悩ませる。
これがマスタングの言っていたエンヴィーとやらの被害だと。
彼の言葉を信じるならばエンヴィーはマスタングに変身し悪事を行ったに違いない、と。

だがどう説明すればいいのか。
花陽は学園都市を知らない。つまり他の参加者も学園都市を知らない可能性がある。
本来可能性は低いはずだがどうも能力者の存在を知らない人間も多くいる気がしてならない。

チラッと花陽の方へ視線を向ける。
テレポートで避難させていたためある程度離れているが怪我は無いようだ。
マスタングの能力は端的に言って強いが味方を巻き込む可能性が在る。
戦う力を持たない彼女は戦線を下がるべきだ。

それは敵側も弁えているのか、一人の少女が後方で此方を伺っているようだ。
少女を保護している彼らが悪い人間だとは思えないが……状況が状況だ。

「信じられないかも知れませんが貴方たちの知っているマスタングさんとこのマスタングさんは別人……かもしれませんわ」
(我ながら何を言っているか自信がありませんわね)

信じてもらえる可能性は低いだろう。自分だって言われたら信じはしないだろう。
答えを表しているのかどうかは不明だが犬が大きな声で吠えている。
喧嘩を売るように、怒りを表すように。

「お黙り!」

「……黙るのはお前らの方だ……ロイ・マスタングゥッァ!」

「聞く耳を持て青年よ!」

ウェイブは剣を大地に引き摺りながら駆けるとソレを振るい上げる。
大地の砂と塵は目眩ましと化しマスタングの視界を奪う。
黒子は彼の手助けに入ろうとするが手を払われてしまう。それは離れろの合図。

「お前の言葉が信じられると思うか?」

「さぁな――ッ!」

接近したウェイブはその剣を縦に振り下ろす。
マスタングの炎は先程の動作から察するに掌を合し指を弾く二つの動作が必要である。
一瞬で見抜いた彼は確信したのだ、この男は接近戦に弱い、と。
問答無用で振り下ろされた剣は――

「目を潰し距離を詰めれば炎は届かない……悪くないが生憎私は目が潰されてもある程度感覚は掴める。それに攻撃も出来る」


パチン。

乾いた音が響くと剣を防ぐように小さい紅蓮の焔が浮かび上がった。
「掌を合わせていねえ!?」
「あの一瞬だけで見抜くとは中々やるではないか。だが錬成陣があれば短縮出来るんだ。最も無駄な消費はしたくないがな」


701 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:44:00 wwRRbDnw0

熱さに耐えれず距離を取るウェイブ。
グランシャリオがあれば話は別だが今の状況でマスタングに勝てる未来が見えない。
流れる動作で繰り出される焔は脅威であり接近戦しか出来ない現状、彼は天敵である。
仮に距離を詰めれたとしても近くにはテレポートを扱う少女も居る。

幸い彼女は見ているだけであるが、戦線に加われば此方が確実に負ける。
イギーのスタンドも強いが圧倒的に速さが足りない。
これでは此方が焼き殺されてしまう。

「少しは話を聞いてくれる状況になったな……黒子くんが言ったとおり君達が出会った私は別人だ」

「……俺達を襲ってきたアンタは炎を使わなかった。こんな力を隠す理由何て無いとは思う」

「話が解るではないか。その男の名前はエンヴィー。人間ではなくホムンクルスと呼ばれる人造生命体だ」

「本気で言って……いるんだよな」

ガイアファンデーション。
嘗てナイトレイドに所有していた一人の悪が使っていた帝具の名である。
能力はマスタングが言うような変身能力。
つまり彼の言い分を信じれる情報をウェイブは持っている。

ホムンクルス。
人造生命体ならば心当たりがある。
つまり、つまり、つまり、だ。

マスタングの言葉を信じる材料は揃っている。
だからウェイブは彼の言葉を――。


「じゃあそのエンヴィーってのは」

「花陽ちゃん!?」

「ほ、穂乃果ちゃん……穂乃果ちゃん!!」


ウェイブが言葉を発する前に穂乃果と花陽と呼ばれた少女が声を挙げていた。
彼女の言葉を借りるなら同じスクールアイドルの仲間であり親友であろう。
こんな状況であろうと知り合いに出会える安心感は偉大だ。

特に戦闘からかけ離れた生活を送っている彼女達なら尚更である。
ウェイブ、黒子、イギー。
彼らはその光景を優しく見守っていた。


「止まれ」


冷たい言葉が駆け寄ろうとする二人を止めた。
その瞳は冷たく、悪を裁くような、暖かさを感じられない悪魔の瞳。

その瞳に黒子は呆れ、ウェイブは難を示し、イギーは警戒する。

「穂乃果と言ったな。お前がエンヴィーじゃない証拠を見せろ」

「え……えぇ!?」


702 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:44:56 wwRRbDnw0

穂乃果は驚く。
エンヴィーとはマスタングが言っていたホムンクルスであろう。
まさか自分が疑われてるとは思ってもいなかった。
もし信じてもらえなければ自分も炎で焼かれるのだろうか。
そう思うと急に青ざめ身の危険を感じ始める。

それは花陽も同様であり折角の再開に水を差されては喜び切れないだろう。
そして頭に過ってしまう。
目の前に居る穂乃果が偽物であり、自分を殺そうとしているならば。
自然に後退してしまう。もう少しで触れる距離だと言うのに。

「マスタングさん。警戒する気持ちは解りますがそれは有り得ない言動ですわ」

「それは俺が保証する。穂乃果はエンヴィーって奴じゃねえ。
 襲われてるところを俺は知っている。それに、今のあんたの方が怪しいってことに変わりはねえ」

エンヴィーの脅威を知っている。ならば警戒するのは自然である。
しかし幼い少女達、その感動なる再開に水を差す程であろうか。
黒子もウェイブもイギーも。
彼らの思考はマスタング寄りである。
自分が同じ立場なら同じように確認するだろう。
だが、それは決して言葉に出してはならない。この場合に置いては。
花陽はマスタングと黒子が。
穂乃果はウェイブとイギー……が証明出来るかは不明だが身の潔白を説明出来る。
この状況で勘ぐるのは寧ろマイナスな判断でありウェイブの彼に対する評価は曇ってしまう。

それは黒子も同様である。
彼女もまた心の奥底では彼を信じ切れていない。
彼自身がエンヴィーの可能性も在る。だとすれば。
目の前に居る男は佐天涙子の仇ではないだろうか。

渦巻く思考は誰にも止められない。
少なくとも来訪者に頼るべきだろう。




「すいませーん! 少し話を聞かせて……ってもしかして私、空気が読めていない?」





イギーと似たような人形を携えた女性が空から現れた。
それは天使なのか悪魔なのか。

その光景を見た穂乃果と花陽は何が現実で、何が夢なのか解らなくなっていた。





時は加速する。





「悪いが私は鳴上くんを見ていないし、その千枝と言う子もモモカも知らない」

「わたくしも同じですわ」

「俺も知らねえ、すまない」

「花陽ちゃんも知らないよね?」

「う、うん」

「ワンちゃんも……知らないよねえ」


703 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:46:35 wwRRbDnw0

空から現れた女性の名前は雪子で翼を持った人形はペルソナだと言う。
その説明を受けた彼らの思考は偶然にも重なっていた。


『もう何でも来い』と。


疑っても仕方が無い。
此処には未知しか無い、正解を捕まえるなど不可能に近い。
ある程度の諦めと全てを受け入れる度胸が必要らしい。殺し合いに置いては危険であるが。

「千枝達は電車に乗っていたので……でも電車は此方に来ていないですよね」

「そうですわね。空から見れば解るのではなくて?」

「暗くて何も見えませんでした。光ってもいないので止まってるかもしれません。
 私は炎が見えたので誰か居ると思って降りてきたのですが……」

電車の光が見えないと言うことは止まっている、というよりも不祥事が起きている可能性が高い。
黒子がそう言うと穂乃果と花陽は首を縦に振り肯定する。
マスタングとウェイブは電車なる物が解らないため黙っていた。

「わかるか?」

「私は知らん」

アイコンタクトで会話する二人を眺めているイギーは鼻で彼らを笑う。
これだから田舎モンは困るぜ、あぁ恥ずかしい、と。

「結局の手掛かりは何もなしか……今更だが私達はとある声を聞いて行動している」

「助けてー! って声が聞こえたんです」

マスタングが紡ぎ花陽が更に説明する。
プロダクションで休んでいた彼らが行動していた理由は救援を聞いたから。
方角的にはDIOの館がある場所だが、こんな所で立ち止まっている訳にはいかない。

「それってもしかして……」

穂乃果が不安そうな声を上げる。
その声を知っている、その方角を知っている、その場所を知っている。
その声を聞いて行動していたのは彼女たちも同じである。

そして悲劇が起きたのも知っている。

「その声の持ち主は多分……死んだ」

真剣に呟くウェイブにマスタングは反応する。

「つまりウェイブ。君たちはその声を聞いて確かめたのだな」

「あぁ。そこに居たのは死んだ俺の仲間と白い男だけだった」


704 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:47:25 wwRRbDnw0

白い男。
触れた物を爆発物に変える危険な男。
その思考と言葉から彼は殺し合いに乗った悪なる人物と断言出来よう。

死んだ仲間。
彼が心を許した同じ仲間。
志は違うかも知れないが帝都に蔓延る悪を駆逐する頼れる仲間。

その姿は今でも忘れられない。


まるで目の前に居るように。



「もしかして……ウェイブ?」




「クロメ……? お前、クロメなのか……なぁ!」




走る。
其処には見慣れた仲間の姿が在った。

殺された事実を彼は受け入れられないでいた。
心の何処かでは生きているんじゃないか。あれは偽物なんだ。
目の前に居る彼女は懐かしくて、その声も聞き慣れている。


走るウェイブを見て穂乃果は思った。
何で彼女が生きているんだ、と。
穂乃果はクロメが死ぬ瞬間を見ていないため断言出来ないが不安は残る。
それでも生きていて再開出来るなら。
自分と花陽のように喜びを分かち合えるだろう。


イギーは思った。
お前は何を学んだんだ。
今までのことを思い出せ、この田舎野郎、と。
表情を険しくし彼はスタンドである愚者を具現化させた。


黒子は思った。
感動の再開だろうか。
それは喜ばしいことである。
しかし犬は人形を具現化させた。つまりあの女は危険人物なのだろうか。


雪子は思った。
状況が飲み込めないが知り合いと出会えたのは良いことだろう。
千枝も何処かで無事なら……未だ出会えぬ仲間を想った。


花陽は思った。
自分と穂乃果のように出会えたのは喜ばしいことだ。
知り合いと出会えるのは精神的にも楽になる。
気になることと言えばマスタングが再三言っていたことだ。


マスタングは思った。
彼はエンヴィーの能力を知っているはずだが何一つ警戒していない。
顔写真が含まれている名簿の話をしておくべきだったか、と後悔する。
念には念を置いて発火手袋を履くが出番は思ったよりも早く来そうである。



「ウェイブが無事で何よりだよ」



その聞き慣れた声は精神を安定させてくれる。
出会えた。
それだけで充分だ。

死んだと思っていたお前が現れて俺は嬉しい。

この手でお前を殺せるんだからな。



「クロメは死んだ――巫山戯た真似してっと斬り殺すぞテメェッ!!」


705 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:48:04 wwRRbDnw0

駆ける足を緩めることなくウェイブは勢いを殺さぬまま剣を横に払う。
狙いは首、一撃で殺すべく必殺の一撃を払う。

その攻撃は届かず相手の剣で防がれてしまうが咄嗟の防御では甘すぎる。
腕を飛ばされ無防備となった胴体に蹴りをかまし彼は吠えた。


「もう一度言う……テメェは俺が殺してやるよ、来いや……楽に殺してやる」


彼の怒りは止まらない。
死んだ仲間の姿を騙った悪を殺すまで晴れることはない。
その先の保証はなく、今この場で彼を止める方法など存在しないだろう。
それ程までに大切な存在を穢された今の彼は、強い。


「くっそ……まさか既に死人だとは思ってもいなかったよ。
 このクロメって女はさぞかし無能だったんだろうねぇ? ウェイブくん、大佐ぁ?」


立ち上がったクロメと呼ばれた少女は声色を変えながら豹変する。
電流のような禍々しい光が走ると彼女は骨格ごと変化していき、やがては髪や服装までもが変わっていた。
少年のような姿、これがマスタングの言っていたエンヴィーと全員が理解するのに時間は必要ないだろう。


「お前がエンヴィーってのは解ったけどよ、それだけだ。死ね」

「その必要はない、下がれウェイブッ!!」


立ち上がったエンヴィーを見つめながら剣を構えるウェイブ。
蹴りの一つでは収まらないこの怒りは確実に次なる一撃を加えんと。
その終着は死であり、悪を断罪するべくイェーガーズは動き出す。

しかしそれを止めたのはマスタングである。
彼はウェイブを止めると指を弾きエンヴィーを――焼却し始めた。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


「学習のしない奴だなエンヴィー! そのまま黙って焼き殺されろ!!」


「ぃぃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


苦痛なる叫び声。
ホムンクルスであろうとその見た目は少年と変わらない。
エンヴィーの存在を説明でしか聞かない彼らは現状に困惑していた。


ウェイブは思った。
エンヴィーはクロメを騙った愚かな奴だ。
変装して襲ったつもりだがその作戦は今の彼にとって逆鱗に触れる行為だ。
だがこの光景を見ても心の霧が晴れないのはまだ自分が甘い証拠だろうか。


穂乃果は思った。
このエンヴィーは自分を襲ったマスタングと同一人物なのだと。
ウェイブとイギーが居なければ自分は剣で斬り裂かれ、銃で撃たれていたのだ。
なのに。この光景を見て涙を流しているのは何故なのか。


花陽は思った。
マスタングの話を聞く限りエンヴィーとは極悪人でありホムンクルスである。
悪いことをした人は然るべき罰を受ける、当然である。
なのに。この光景を見て哀しさを抱いてしまう。何故涙は頬を伝うのか。


黒子は思った。
この光景を民間人に見せてはダメだ。
今のマスタングは悪魔のように我を忘れている。
彼女は黙って穂乃果と花陽を避難させるべくその腕を取り後方へ消えた。


イギーは思った。
この無能め。田舎モンよりもお前は判断出来ていねえ、と。
その行いは何一つ間違いではないが限度を知れ。
周囲に炎の影響が出ないように愚者を発動し鎮火作業を始めた。


雪子は思った。
この炎は自分のペルソナを超えているかもしれない。
モモカの力もそうだがこの会場には未知が溢れているようだ。
マスタングを止めるべくペルソナを発動し彼の近くへ移動し始めた。


マスタングは思った。
ヒューズの仇、涙子の仇が目の前に居る。
以前は自分の手で殺せなかったが今は違う。
今度こそ焼き殺してやる、手袋を履き替え何度も何度も指を弾く。
スカー、鋼の、中尉――君たちがこの場に居たら今度は私に何と言うのかね。



そしてエンヴィーの周囲は大きな爆発を起こす。

それに一番驚いたのは他でもない――マスタングであった。





それでも時は止まらない。





706 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:49:06 wwRRbDnw0


「やり過ぎだマスタング……お前、それは殺人鬼と変わらない」


何度も焼き尽くされるエンヴィーを見てウェイブはマスタングに毒を吐く。
焼かれその度に悲鳴を上げるホムンクルスは人間と何が違うと言うのか。
その光景は無垢なる少年が焼き殺されているのと何が違うのか。


「反省はするが後悔するつもりはないぞ……それよりも今の爆発は私ではない!」

「なら誰がやったんだって言うんだ――ッ!?」


マスタングの言い訳に反論する彼の言葉は途中で途切れる。
己に迫る光は見たことが在る危険な光、其れが到達する前に横に飛び回避する。
光はそのまま木々に当たると大きな爆発を引き起こしウェイブは先の戦闘を思い出す。

受け身を取り立ち上がると爆風の奥には見慣れた男が笑っていた。


「これはエンヴィー……もう少しで死ぬ所でしたねぇ」


「キンブリーか……礼を言うよ。これで僕は人間どもを殺せる」


「お前はキンブリー!? エンヴィーと言い貴様と言い一体何がどうなっているんだ」


「これはこれは……焔の錬金術士ことロイ・マスタング大佐ではありませんか。
 イシュヴァールの英雄がこんなところで魔女狩りの如く少年を焼いているとは何事ですかねェェ!!」


普通に話すように。そして煽るように言葉を吐くキンブリー。
彼はそのまま掌を合わせ大地に落としこむとマスタング目掛けて光が走る。
爆発の錬金術、それこそが紅蓮の錬金術士である彼の技であり業。

目の前に迫る爆発を炎で防ごうとするがその必要はない。

「済まないな雪子くん」

「私は大丈夫です。あの人達は誰ですか?」

「敵であり悪だ。それでいいか?」

「それだけ聞ければ充分です……でもやり過ぎには気を付けてください」

翼の生えたペルソナでマスタングを回収し空へ避難した雪子。
彼に敵を聞くと、エンヴィーの件を注意し彼らの後方へマスタングを運んだ。

「余所見してんじゃねえええええええええええ」


707 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:49:53 wwRRbDnw0


その光景を見ていたキンブリーにウェイブは雄叫びと共に斬り掛かる。
この男はクロメを殺した男だ、敵だ、悪だ、殺すべき存在だ。
怒りと悲しみ、言葉では表しきれない感情を乘せた剣を振るう。


「っガァ!?」


そこで一つ疑問が生まれる。
彼が殺したクロメは何処に居るのか。
殺したならば死体、つまり元の場所へ還っているのか。
違う。
八房の能力は斬り殺した死人を骸のように操ること。
つまりこの場に居ないクロメは何処かに潜んでいることになる。


「蹴りのお返しだよウェイブくーんッ!」


伏兵であるクロメに左肩を斬り裂かれたウェイブ。
追撃するように交差して現れたエンヴィーが彼の身体を蹴り飛ばした。
受け身を取れず何度も転がるウェイブと笑うエンヴィー。

彼が立ち上がった時、エンヴィーは更なる追撃をしようと右腕を異形に変化させていた。
それは緑色で、大きく、悍ましく、怪物のような。
ウェイブを潰さんと叩き落とされるが彼は既に其処から移動していた。

「た、助けられちまったな」

『何度目になると思ってんだ! もう少し周りを見やがれ!』

愚者が彼を移動させていたのだ。
スタンド、その光景を以前にも目撃していたエンヴィーは笑いながら標的をイギーへ移す。

「大佐の相手はキンブリーならさぁ! もう一回僕と遊んでくれないかな?」





「お前と戦う日が来るとは思わなかったよキンブリー」

「私もあの英雄と戦うとは感激物ですねぇ」

「どうやら牢獄にまた入れられたいらしいな、私の牢獄は熱いぞ?」


パチン。
指が弾かれるとキンブリーの身体が炎に包まれた。
比較的少ない動作で発動される炎は戦闘において絶大的な力を発揮する。
しかしキンブリーは既に移動を開始しているのだ。


(あいつ……石を爆発物に錬成し私の炎を事前に防いだのか)


己に炎が到達する前に。
目の前で爆発を起こし相殺させたキンブリーは孤を描くように移動している。
石を適当に蹴り上げると錬成を行いそれらを蹴り飛ばす。

即席で錬成された爆弾はマスタングに飛んで行くが手合わせ錬成で防がれてしまう。
炎によって防がれたということは目の前が炎に包まれたということ。
視界を塞がれたマスタングに追撃を掛けるべくキンブリーは更なる錬成を行おうとするが闘っているのは彼らだけではない。


「この炎は……チィ!」


「やるではないか、雪子くん」


ペルソナから放たれた炎はキンブリーの左腕を焼いた。
しかし咄嗟の判断で回避されてしまったため、服を焼いた程度に終わってしまった。


「私を忘れないでください!」

「ならばマスタング大佐。貴方も一人、役者を忘れている」


何だと。
声を上げるよりも早く彼の左肩は貫かれてしまった。
苦痛に顔を歪める時間も惜しい、既に履き替えていた手袋を使い捨てるように指を弾く。

火力の調整などしてる暇もなく。
クロメと自分の間に炎を巻き起こし幾分巻き込まれながらも状況を脱した。


708 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:50:35 wwRRbDnw0


「ウェイブの言葉どおりなら死んでいるらしいが……キンブリー、お前は人体錬成をしたのか?」

「まさか。彼女が持っている刀は殺した相手を人形にするらしいですよ。信じるかは――自由ですけどねェ!!」


クロメに追撃を掛けようと手袋を履き替えるも彼女は既にキンブリーの近くへ退避していた。
履き替える動作では随分と戦闘に支障が出てしまう。
手合わせ錬成も時間を一動作消費するためか、やはり近接戦闘に自然と持ち込まれてしまう。


「ぐ……」


最も左肩を貫かれた今、彼の動作は全て遅れてはいるが。
マスタングが錬成を行うよりも先にキンブリーの魔の手が彼に迫る。
気付けても逃げることは出来ない、錬成することも間に合わない。


「マスタングさん、捕まって!」


ペルソナごと空を翔ける雪子が手を伸ばす。
彼の手を握り締め空へ逃げるが爆発は止らず彼らに迫る。

蛇行するように様々な軌道を描くが無駄な足掻きである。
ペルソナを包むように爆発は発生しマスタングは宙へ投げ出された。

「しま――ウェイブッ!!」

間一髪と思われたがマスタングは叫ぶ。
其処にはイギーと協力しエンヴィーと交戦するウェイブの姿。
その声に気付いた彼はイギーに任せた、と告げると急いでマスタングの落下地点へ走る。

「テメェ何やってんだよ!!」

滑り込みながら両腕でマスタングを抱えるウェイブ。
彼の走りでマスタングは無事に着地を成功させた。

「礼を言うぞ」

「るせぇ」

安心していられなく、目の前にはエンヴィーとキンブリー、そしてクロメが揃っている。
この三人を相手するには負傷しているマスタングとウェイブ。
イギーの三人では少々分が悪すぎる戦いである。


だが。


「まとまっていれば都合がいい――手加減なしの火力で焼き尽くされろ!!」


全力で弾かれた指は一帯に音を響かせると紅蓮の業火を発動させた。
その業火は全てを包み、焼き、生を司る前の塵へ誘うように全てを焼き尽くしている。

しかし。

その瞬間を彼らは見逃さなかった。


「きゃああああああああああ!?」


エンヴィーが右腕を変形させ雪子を業火へ引き摺り込んだ瞬間を。





時はそれでも止まらない。





709 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:51:24 wwRRbDnw0


「マスタングさん……なんで……」


黒子のテレポートによって戦場から離れた穂乃果達は木々に身を寄せていた。
口から漏れる言葉はエンヴィーを何度も焼き尽くすマスタングの行いに対してである。

「あれじゃ酷すぎるよ……」

何度も何度も何度も。
指を弾き炎が舞い少年が焼かれる姿を見続けるのは年頃の少女達にとっては辛い。
辛いなんて話ではなく、特別な世界ではなく日常から巻き込まれた彼女達にとってそれは毒だ。
こんな光景、人生の中で一度見るか見ないかの話ではなく、絶対に体験しない光景であった。
其程までに彼女達は日常から巻き込まれたのだ、錬金術もスタンドも帝具もペルソナも存在しない。
学園の仲間と共にアイドルの理想像を目指す彼女達には全く以って無縁の世界である。

「花陽ちゃん、大丈夫……じゃないよね。私も辛い……心が泣いている」

胸が、魂が、心が泣いている。
助けてあげたい、少年を。でも、その少年は、人間を殺すホムンクルス。
それは救う対象ではなくて、裁く対象であり炎で焼かれるのは理に適っている。

「……大丈夫じゃない、で……す。でも、マスタングさんは親友や会場で出会った人を殺されたって言ってました……」

涙を流しながら花陽は話す。
マーズ・ヒューズと呼ばれるマスタングの親友はエンヴィーに殺された、と。
佐天涙子と呼ばれる白井黒子の親友はエンヴィーに殺された、と。
ならば彼の行いも肯定出来るものなのか。
痛みを感じ、叫び声を無視しながら、何度も何度も何度も焼き尽くすことが許されると言うのか。


「じゃあ、マスタングさんは正しいの!? あんなに何度も焼く必要ないじゃない!」


立ち上がり腕を払いながら穂乃果は叫ぶ。
感情のままに。見た光景を脳裏に焼き付けながら叫んだ。

確かにエンヴィーは殺される存在かもしれない。
だが、彼処まで徹底的に行う必要は感じられない。


「そもそもエンヴィーって人がホムンクルスって何よ!
 クロメって人から変身したのは人間じゃないと私も思うし、それに私も襲われた。
 でも……でも! あんまりだと思わないの!? あんなに何度も何度も焼かれて、平気なの!?」


そもそもマスタングの話を鵜呑みにする必要があるのか。
彼女からしてみれば彼は襲ってきた張本人である。
その正体はエンヴィーであると判明したが『マスタングの姿から襲われた事実』に変わりはない。

つまり、穂乃果に残った結果は『マスタングの姿から襲われた』であり、彼には自然と疑念を向けてしまう。
彼が正論を述べようが、頭では理解しているが、心の何処かで襲われた光景が邪魔をしてしまう。

もしかしたらマスタングはエンヴィーかもしれない。
また自分に襲い掛かり殺されてしまうかもしれない。
その炎でエンヴィーのように何度も何度も何度も焼き尽くされるかもしれない。

一度考えてしまえばそれは迷宮の中と同義であり、疑った者は最後まで疑ってしまうだろう。


「何か言ってよ花陽ちゃん!」


これでは自分一人でマスタングの悪口を言っているみたいだ。
泣いて俯いている花陽に彼女は激のような言葉を飛ばす。
それでも花陽は黙り、少ししてから頭を上げた。


その視線は何とも言い難いもので穂乃果を見つめていた。


「――ッ、マスタングさんがやっていることは人殺しとかわらな――」


「そこまでですの。高坂さん」


710 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:52:13 wwRRbDnw0

感情が高ぶった穂乃果を止めたのは今まで黙っていた白井黒子。
このまま彼女を喋らせていると感情と勢いに任せ思ってもいないことまで叫んでしまう。
見た光景と因果はどうであれマスタングのことを人殺し呼ばわりすることは誰一人として本望ではないだろう。



「す……すいません」

「謝るならわたくしではなくて小泉さんに――危ないッ!!」



酷い言葉を浴びさせてしまった花陽に謝るべきだ。
黒子は穂乃果にそう告げ、彼女も花陽に謝ろうと自分を見つめ直していた。
彼女達の絆はそう簡単に崩れぬ物ではないが小さな綻びを放置しておけば後に取り返しのつかないことになる。

だが言葉を発する前に白井黒子は彼女達の腕を掴みテレポートを試みた。
突然の行動に驚く二人だが、頭が勝手に理解してしまう。

異常なる現象は会場に来てから何度も体験しているがレパートリーが豊富過ぎる。

「こ、氷……?」

テレポートが完了し自分が居た地点を見つめる穂乃果。
座標移動に慣れている自分に違和感を覚えつつも、その感覚は目の前の光景に塗り潰される。
自分達が数秒前まで留まっていた場所は何らかの力によって凍らされていたのだ。


「瞬間移動か……理解出来ない力を持っているな」


そして声の方を見る。方角は更に奥。
其処には一人の男が此方を見ながら黒子の能力に興味を示していた。
初老に見える男は一歩、更に一歩と踏み込み確実に距離を詰めていた。


「止まりなさい、貴方はわたくし達に何か用でもおありで?」

「用? 俺が人間を殺すのに理由が必要だと思うか……その力、見せてみろ」

「警告はしました……ですのッ!!」


その場にしゃがみ込んだ黒子は石を数個握りテレポートを発動させる。
石は男の目の前に現れ、空間を無視した投石を自在に描く。
その弾丸は男の顔や身体に命中し、普通の男性ならば気を失うか、戦意を喪失するか。
少なくても病院の世話になる程度の攻撃をお見舞いしたのだ。

「そうか……手に取った物を移動させる力か」

「効いてないみたいですわね……身体の下は頑丈なのか我慢強いのか解りませんわね」

男は冷静に黒子の能力を分析していた。
石の攻撃を無視するように、平然と、声を発している。
その光景に若干の驚きを見せるも黒子は次の一手を考える。
何も学園都市には有り得ない人間なんて無数に溢れている、今更一人や二人。


711 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:52:38 wwRRbDnw0

次の一手だが、考えるならば穂乃果と花陽を避難させることが先決だ。
彼女達を守れるかどうかは男の力を見ないと判断出来ないが、安全を保証することは出来ない。

先程から何度も焔の光と音が聞こえている今、マスタング達の加勢を期待するのは無駄だろう。

(鳥――?)

此処で考えが一度途切れる。
男の近くに飛んでいる鳥が視界に入ったのだ。
何も外に鳥が居ることは特段珍しいことではない。

ウェイブ達と一緒に行動していた犬も居るのだ。
鳥が居ても何も可怪しいことはない。

(この違和感は一体――?)

だが気になることがある。
犬と鳥以外に他の動物を見ただろうか。

鳥は口を開いている。

思えば犬は首輪を付けていた。
その首輪は自分達と同じ物であり、参加者の証でもある。
つまり、犬は自分達と同じ立場であり、殺し合いに参加している犬だ。

そして鳥も首輪を付けている。
ならばこの鳥も参加者であり、殺し合いに参加していることになる。
襲って来た男は殺し合いに乗っている悪である。確実だ。
その男と一緒に行動している鳥は――気付いてしまった。


「もう一度移動しますわよッ」


光り輝くクチバシから放たれた氷を避けるために黒子は再び能力を発動した。





時の流れは止められない。





豪炎包まれる目の前の光景を彼らは凝視していた。
どんな小さい動作も見逃せない、いや、最悪の結果にならないことを祈っているだけだ。
敵である標的の三人が固まった時、マスタングは渾身の火力で炎を錬成した。

全てを焼き尽くすように、二度と悲劇を繰り返さないようにありったけ。
だが最後の最後にエンヴィーは足掻いたのだ、空を飛んでいた雪子を引き摺り込んだ。


712 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:54:51 wwRRbDnw0

つまり豪炎の中にはエンヴィー達の他にも雪子が存在しており彼女は焼き殺される対象ではない。
その事実を否定したいマスタング達は黙って豪炎を見つめていた。

「……誰か来る」

ウェイブが小さく、それでも全員に聞こえるように呟いた。
豪炎の中から一つ人影が飛び出して来たのだ。

接近戦に優れているのはクロメだろう。
見の軽やかさと類まれなる体術は多くの参加者の中でも上位に分類される。
本来の得物である八房を所有している今、彼女は最大限のポテンシャルを発揮出来る。

「――雪子くん?」

此方に向かって走って来たのは雪子だった。
その見た目は若干焦げているが、生命に別状はないようだ。
どうやって豪炎から逃れたかは不明だが、ペルソナでも使用したのだろう。

何はともあれ生きていた彼女に安心したマスタングは再び指を弾き彼女を炎で包み込んだ。





「バッグから私が錬成した剣が見えているぞ――エンヴィーッ!」




その雪子は本物ではなく偽りの存在。
言うなればエンヴィーが変装した裁くべき悪其の物である。

バッグから飛び出している剣はマスタングが錬成した物。
佐天涙子の目の前で錬成したあの剣だ、見間違える筈もない。

その剣はウェイブとイギーも目撃している。
彼らと穂乃果が襲われた時、マスタングに変装していたエンヴィーが使用していた物だ。


「ああああああああああああああああああ助け――」


「もう遅い――貴様は此処で焼き殺すッ!」


戸惑いも後悔も容赦も情けも必要ない。


パチン。
掌を合わせ指を弾く。


「いやああああああああああああああああああああああ」


パチン。
掌を合わせ指を弾く。


「あ、ああああああああああああああああああああああああああ」


713 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:55:47 wwRRbDnw0

パチン。
掌を合わせ指を弾く。


「や、めて……マスタングさ……ああああああああああああああああああああああああ」


パチン。
掌を合わせ指を弾く。


「変装が解けないとは随分と賢者の石を貯めこんでいるような――ッ!」


パチン。
掌を合わせ指を弾く。


「私はあああああ……あぁ……ああああああ……」


パチン。
掌を合わせ指を弾く。


「そこまでにしてあげなよ大佐。彼女はホムンクルスじゃないんだ、死んじゃうよ?」


パチン。





「え……エンヴィーだ、と……なら――ッ!?」




認めたくない。
何故お前が別の場所から現れるのだ。
お前は私に焼き殺されている筈だ、そうだ、そうなんだ。

雪子に変身し意表を突いたつもりだが私を欺くには爪が甘過ぎるのだ。
だから、何度も何度も叫びを無視して、何度も何度も炎で焼き尽くしていたのだ。

それなのに。


「バッグからはみ出してた剣は僕がぶっ刺しただけだよ?
 その後、ちょいと背中を蹴り飛ばしてあげたんだ。だから走って向かってるように見えたんだよ」


「しゃ、喋るな」


「声が震えているよ大佐? 認めればいいじゃないか! お前は! 僕と雪子って子を間違えて焼いたんだって!」


「喋るなああああああああああああああああああああああああああああああああ」



目の前に存在する悪魔をこの場から焼き尽くし消滅させる。
己の中に生まれてしまった罪から逃げるようにマスタングは錬成を試みる。

しかし。

彼が雪子を焼き尽くしている間にクロメは距離を詰めていた。
マスタングが錬成するよりも早く八房で斬り掛かるが失敗に終わる。
彼女がノーマークで動けるならば、ウェイブも同様に動けているから。


「しっかりしろ、戦いはまだ終わってねぇぞぉ!!」


割り込むようにクロメの一撃を剣で受け止めると力任せに押し飛ばす。
そのままマスタングから離れるように追撃を行い、クロメを彼から引き離すことに成功する。

しかし休む間もなくエンヴィーは右腕を大きな質量を持った異形に変形させ彼を潰そうとする。
それを防ぐのがイギーの役目であり、愚者はその身でエンヴィーの一撃から彼を守り抜いた。
力比べだ。ホムンクルスとスタンドの力比べが始まった。

それはどちらも互いに退かず、エンヴィーは犬の力に驚くが軍配はキンブリーに上がる。



そう、イギーでもエンヴィーでもなくキンブリーに上がった。



豪炎の中マスタング以外の参加者が自由に動けるならば。
キンブリーが動けない理由が存在する訳もなく。

彼はイギーが立っている大地に爆発の属性を付加させ――。


「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


イギーは大地諸共轟音と共に弾け飛んだ。





やがて時は止まる。





714 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:56:38 wwRRbDnw0


マスタングはウェイブ達が戦闘をしている間、雪子の傍へ移動していた。
エンヴィーの攻撃をイギーが防いでいる時間を利用して彼は自らの罪へ近寄ったのだ。


「ぁ……ぁぁ……」


呼吸も禄に出来ず、発声もままならない。
肺を始めとするあらゆる器官が焼き尽くされている証拠である。
焦げた匂い、嗅ぎたくない物だが何度も嗅いだことのある匂い。
それは死する前の人間が発する物であり雪子もそれの例に漏れないだろう。


「たすぇ……ち、ぇ……なるか……ぁ……ぁぁ……」



「私は…………」




「余所見してんじゃねえ! お前は雪子の分まで生きる義務があんだよォ!!」




雪子が最後に力を振り絞って発した言葉はマスタングに届かない。
既にありとあらゆる器官が潰されている今、声は声とならず呻きとして音になる。

その音を聞かないように。
マスタングは己の中に生まれた罪から逃げようとはしていた。

だが。

今更逃げるのは虫が良すぎる話だ。
雪子が死んだのは判断を誤ったからであり、手を下したのは己である。
悲劇のヒロインを気取るなど誰が赦すのか、軍人には必要ない。

「当たり前だ、私は死ぬ訳にはいかん……だから今は」

戦う。
償うのはその後で。
全てを清算するのは悪を排除し未来を感じれる日が来るまで。

マスタングは近寄って来たウェイブに視線を移し変化を感じる。

一つに彼の左肩が斬り裂かれているのだ。
自分も左肩を貫かれているが犯人は一緒だろう。
彼がクロメと呼んでいた死体の少女、間違いはない。

更に一つ。
彼が抱えているのは黒い犬のイギー。
自分を助けてくれた犬はキンブリーの攻撃が直撃し瀕死状態に陥っていた。
異様なる匂いが霞始め、身体は鮮血で彩られ、呼吸も荒くなっている。
治療を今すぐでも施してやりたいが状況が状況であり不可能だ。




「気を付けてくださいまし、更に敵が――ッ!」




瞬間移動によって移動して来た黒子達を待ち受けていたのは焼き殺された雪子の死体。
理由はどうであれ犯人は独りしか居ないだろう。

花陽は手で口を覆い込み上げてくる何かを必死で食い止めた。
穂乃果は気を失いそうになるも、踏み止まりマスタングへ視線を移した。

そして答えるのはエンヴィー。


「君達ぃ気を付けないと危ないよー? 大佐は僕と仲間を見間違えて殺しちゃう悪魔だからねー!!」


全身全霊全力を込めて煽るように。
憎たらしい笑顔を浮かべながらエンヴィーは現実を彼女達へ突き付ける。


「これは怖いですね……あぁ怖い」


715 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:57:18 wwRRbDnw0


追い打ちを掛けるようにキンブリーが呟く。
その単純なる言葉は恐怖心を煽る最大のスパイスとなる。

現に穂乃果と花陽の顔色は会場に来て一番悪い状態になっている。
仲間だと思っていた人物が仲間を殺していた。
そもそも錬金術だのホムンクルスだの専門知識を並べ信用に欠けていた男が。
穂乃果に至っては一度、偽物であるとはいえ襲って来た人物だ。

信用する方が難しいだろう。


「今は納得してくれとは言わん。だがこの場を切り抜けるまでは大人しく――新手か!」


まずはこの場を切り抜けなくては泣くことも話す機会も設けられない。
覚悟を決め戦況から抜け出すため構えるマスタングとウェイブ、黒子だったが邪魔が入る。
それはエンヴィー達にも予想外であり、黒子は歯を食いしばる。


「あの男は何らかの能力者ですわ……そして鳥は氷を自由に扱いますの」

「鳥が氷……本当かね」

「は、はい……こんな風に……」

「こ、小泉さん……貴方、いつの間に!?」


異様な空気を放っている男の能力は不明だが鳥は氷を扱う。
穂乃果の説明に難を示すマスタングであるが花陽の説明で信じざるを得なくなる。

其処には凍った右腕を差し出す花陽の姿が在ったから。


「最初に襲われた時に……突然過ぎて右腕の感覚が……ぁ……ないんです」


弱々しい声を聞き、黒子は己の無力さを実感した。
何と無力か。彼女を助けるどころか負傷に気付かず無理をさせていたとは。
襲撃から逃れる術を考えているだけで精一杯であった。そんなものは言い訳だ。

「……マスタングさんとウェイブさん。早く此処から脱出して逃げますわよ」

「――当然だ」

黒子の提案に男二人は声を重ねて答える。
花陽の治療、イギーの治療。
大切な仲間を救うためには五人の襲撃者から逃れなければならない。

此処が正念場――しかし事態は急速に終焉を迎える。


716 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:58:03 wwRRbDnw0





どうして、だ。

どうしてお前が其処に居る。

いや、そんなことはどうでもいい。

よく見れば死にかけているじゃないか、いい気味だ。

死んだ、俺は死んだ。

だがこうして生を再び受け、DIO様ではなくこの男に従っている。

命令は絶対だ、敵は殺さず、戦闘の場を作り出す。

だが。

お前は別だ。

お前には借りが在る。

何倍にもして返してやる。例えお前が死にかけていても。


いや。


お前を殺さないと俺が俺を許さない。





後藤の言い付けを守らずペットショップは急激な速度で彼らへ突っ込んだ。
自分の静止を効かずに行動するペットショップに後藤は何を思うのか。

結果としては何も思わない。

自分の支配から抜け出せた、何てことは思いもしないだろう。
ただ、本能に従って鳥は動いているそれだけだ。



迫るペットショップに対向するべく身構える三人だが氷の対処が出来るのは独りしか居ない。
手合せ錬成からの発火で氷を蒸発させるがペットショップ自体は止まる素振りを見せない。
彼が何を仕掛けるかは不明だが挟まれてはどうしようもない。


「ウェイブ! 私がキンブリーの錬成を防ぐ、お前はあの鳥を頼む!」

「解ったなんて言えねえけどやるしか……ねえ、な」


殺したい程に嫌な笑みを浮かべているキンブリーは爆発の錬成を施していた。
その邪悪なる導火線のような光は対主催陣営目掛けて走り始めている。

マスタングは炎で対抗し、到達する前に燃やし尽くすしかないと考えた。
ならば対処出来るのは自分だけだ。しかし鳥に対応する手段が失くなってしまう。

黒子の瞬間移動基いテレポートは強力だがこの場では役者を活かし切れていない。
ならば頼む相手はウェイブだが自分でも思う。これは無理難題を押し付けている、と。
彼の戦闘技術は完成に近いが異能なる力は持ち併せていない。
本来ならばイギーに頼みたい所だが瀕死で倒れこんでいる彼に頼める訳もなく、今はウェイブを信じるしか無い。


(どうすれば――考えろ)


717 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:59:01 wwRRbDnw0

鳥はクチバシの中に氷柱を構え急速に突撃しようとしている。
つまり接近戦だ、あの鳥は遠距離ではなく近距離で仕掛けようとしている。

ならば剣しかない自分でも対処する術はある。
一撃を一撃で相殺し、追撃を掛け斬り殺すしか手段は無いようだが。
しかし遠距離攻撃のように途中で氷を飛ばされては敵わない。
この場は黒子に頼み穂乃果と花陽、そしてイギーを逃して貰うべきか。

考えても良い案は浮かばず、原始的に斬り裂こうと一歩下がるウェイブ。


「ん……!」


すると雪子のバッグを踏み付け体勢を崩してしまう。
立て直すために剣を大地に突き刺し重心を保つがペットショップに反撃を行う時間は潰された。
黒子は瞬間移動の準備を始めるが、ウェイブはこんな状況でも笑っていた。

雪子のバッグから出て来た其れを彼は知っている。
クロメと同じように彼と志を同じく持った仲間の帝具。
救世主のような登場を果たした仲間にウェイブは声を振り絞り叫んだ。


「あの鳥を喰え!! コロォ!!」


バッグから飛び出したのは小さい犬。
丸い身体をした犬は当たり前のように二足出歩き、四足で歩き。
黒子達の前に飛び出すとその可愛らしい外見とは別の異形へ変化した。

魔獣变化ヘカトンケイル、別名コロ。
巨大化した生物帝具は問答無用でペットショップを口に捉えた。
するとそのまま口を閉じ何回も歯を動かし、鳥を喰わんと動き始める。

ペットショップは突然過ぎて全てを理解していなかった。

イギーに止めを刺そうとしたら自分が別の犬に喰われていた。
全く以て理解不能だが、それでも一つだけ理解出来る事が在る。


それは自分が助からないと言うこと。


翼。
足。
クチバシ。


身体のありとあらゆる部分を噛み殺された自分に残った未来など――ない。




「走るぞ、黒子くんは彼女達を頼んだぞッ」




ペットショップが絶命すると同時に。
マスタングは迫るキンブリーの魔の手を炎で相殺し逃走を促した。
その合図に従い黒子は瞬間移動を行い負傷した花陽と穂乃果を逸早く避難させる。

その後を追うべく走る大佐とウェイブだがクロメはそれを許さない。

「俺の前に現れないでくれ――」

振られた剣に対向するべく斬り返すウェイブ。
その一撃はクロメの重心を崩すことに成功し彼は蹴りの追撃を行い距離を離す。

だが。

その方向はイギーが倒れている場所であり、クロメは何も言わず八房でイギーを貫いた。


「――」


声にならない叫びを上げるウェイブ。
その腕を引張り戦線から離脱するマスタング。

大敗だ。

鳥を独り殺せたが失った物は此方側が圧倒的である。
己の無力を感じた男達はコロを回収し無言で業火の中を走り抜けていた。





718 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 01:59:33 wwRRbDnw0


後藤が感じたことは一つ。


人間が勝手に盛り上がり、勝手に戦い、勝手に終わっただけである。

自分は何一つ関わっていない。
己の中に眠る謎の欲求を満たす現象は何一つ発生せず。

ペットショップが死んでも何一つ感情を抱かず。

無言で誰も居なくなったその場を去った。



【B-7/北/1日目/早朝】



【後藤@寄生獣】
[状態]:両腕にパンプキンの光線を受けた跡、手榴弾で焼かれた跡、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、不明支給品1〜0
[思考]
基本:優勝する。
1:泉新一、田村玲子に勝利。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)
3:セリムを警戒しておく。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※首輪や制限などについては後の方にお任せします。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※凜と蘇芳の首輪がC-5に放置されています。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。


719 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 02:00:20 wwRRbDnw0

エンヴィーは嗤う。

楽しくなってきた。あの大佐に仕返しを行える機会を早々に得たのだから。
まさか自分と仲間を見間違え殺すとは嗤い者である。


何が人間だ。
何がホムンクルスだ。


これではどちらが怪物かわかりゃしないじゃないか、と。


キンブリーは嗤う。
あの奇妙な人形を扱う犬を手駒に出来たのは大変興味深い。
研究所でもあれば今すぐにでも解剖したいがお楽しみはとっておくべきだ。


まだ出会っていない未知なる刺激に想いを馳せながら彼らは歩き出す。



【B-7/南/1日目/早朝】


【エンヴィー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、火傷(小)、腹に痛み
[装備]:ニューナンブ@PERSONA4 the Animation、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[道具]:ディパック、基本支給品×2、詳細名簿
[思考]
基本:好き勝手に楽しむ。
1:マスタングの姿になって、彼の悪評を広める。
2:エドワードには……?
3:ラース、プライドと戦うつもりはない、ラースに会ったらダークリパルサーを渡してやってもいい。
4:キンブリーと一緒に行動し他の参加者を殺す。
[備考]
※参戦時期は死亡後。


【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(小)、高揚感
[装備]:承太郎が旅の道中に捨てたシケモク@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ
[道具]:ディパック×2 基本支給品×2 ランダム支給品0〜2(確認済み)
    躯人形・クロメ@アカメが斬る! 帝具・死者行軍八房@アカメが斬る!
    躯人形・イギー@現地調達
[思考]
基本:美学に従い皆殺し。
1:エンヴィーと共に行動する。
2:ウェイブと大佐と黒子は次に出会ったら殺す。
3:少女(婚合光子)を探し出し殺す
[備考]
※参戦時期は死後。
※死者行軍八房の使い手になりました。
※躯人形・クロメが八房を装備しています。彼女が斬り殺した存在は、躯人形にはできません。
※躯人形・クロメの損壊程度は弱。セーラー服はボロボロで、キンブリーのコートを羽織っています。
※躯人形・クロメの死の直前に残った強い念は「姉(アカメ)と一緒にいたい」です。
※死者行軍八房の制限は以下。
 『操れる死者は2人まで』
 『呪いを解いて地下に戻し、損壊を全修復させることができない』
 『死者は帝具の主から200m離れると一時活動不能になる』
 『即席の躯人形が生み出せない』

※躯人形・イギーは自由にスタンドを使えます。


720 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 02:01:11 wwRRbDnw0



マスタングの背中は小さく見えた。


仲間を誤って殺してしまった罪は未来永劫消える事はないだろう。
だがウェイブと黒子は言葉に出して彼を責めない。


危険なあの状況での彼の判断は間違ってはいないのだ。
もしエンヴィーが雪子に变化していたとしたら。彼は全滅していたかもしれない。
絶対に口には出さず、思いもしたくはないがイギーの犠牲だけで助かったのは奇跡と言えよう。


彼が居なければウェイブと穂乃果は最初のクロメとキンブリーの交戦で死んでいたかもしれない。
彼が居なければマスタングはエンヴィーに潰され死んでいたかもしれない。
彼が居なければ黒子達はキンブリーに四肢を爆破されていたかもしれない。


愚者を司る小さい勇者に救われたこの生命を無駄にする訳にはいかない。
そしてウェイブはいつか穂乃果にイギーが死んだ事実を伝えないといけない。


今の彼女はマスタングに疑惑の視線を向けている。
信じられない、信じられないのだ。
人殺しの彼と一緒に行動していいのか、そう思ってしまうのだ。


花陽は悩む。
本当にマスタングは悪い人間なのか。
初めて出会った時、彼のエンヴィーに対する復讐心と佐天涙子に対する気持ちは本物だった。
それを信じたい。雪子を殺したことは事実だが彼女はマスタングを信じたい。


マスタングは黙って指を弾き花陽の右腕を侵食していた氷を溶かした。
そして振り向くことなく大地に腰を落とし拳を叩き付ける。


何度も、何度も、何度も。
血が浮かび上がる程何度も叩き付ける。
自分の無力を、無能を、力の無さを恥じるように何度も何度も何度も。


その光景を見て誰一人として言葉を発しない。


マスタングの背中は小さく見えた。



【天城雪子@PERSONA4 the Animation 死亡】
【ペット・ショップ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース 死亡】
【イギー@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース 死亡】


721 : 消せない罪 :2015/06/17(水) 02:02:17 wwRRbDnw0



【B-7/東/1日目/早朝】



【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:焦り、疲労(中)、精神的疲労(大)、不安、マスタングに対する恐怖
[装備]:練習着
道具]:基本支給品、鏡@現実、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、コーヒー味のチューインガム(1枚)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、イギーのデイパック(不明支給品1〜3)
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す。
0:どうすれば……。
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:ウェイブと一緒に行動する。
3:そう言えばワンちゃんは……?
4:ロイ・マスタングを警戒。
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※イギーを「ただの犬」だと思っていましたが認識が変わってきています。
※イギーの名前を知らず、「ワンちゃん」と呼んでいます。
※『愚者』を見ました。
※幻想御手はまだ使っていません。
※ウェイブの知り合いを把握しました。



【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:出血(小)、ダメージ(中)、疲労(中)、左肩に裂傷、怒り、悲しみ、無力感
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!、魔獣变化ヘカトンケイル@アカメが斬る!
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。
0:キンブリーは必ず殺す。
1:他参加者(工学に詳しい人物が望ましい)と接触。後ろから刺されぬよう、油断はしない。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:首輪のサンプル、工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:仲間たちとの合流。
6:今後の方針を固める。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。



【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)不安、恐怖心、吐き気、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません)
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ 、スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す。
1:どうすればいいか解らない。
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後



【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(中)、無力感
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、スピリタス@ PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春さんなどの友人を探す。
1:出来るならばみんなのフォローに回りたい。
2:エンヴィーは倒すべき存在。
3:御坂を始めとする仲間との合流。
4:マスタングに対して――
[備考]
※参戦時期は不明。



【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、左肩に穴(止血済み)、両足に銃槍(止血済み)、無力感、けれど覚悟は揺らいでいない
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、即席発火手袋×10
[道具]:ディパック、基本支給品
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:悲しむ場面は今ではない。みんなにどう説明するべきか――。
1:エンヴィーを殺す。
2:エドワードと佐天の知り合いを探す。
3:ホムンクルスを警戒。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。
※即席発火手袋は本来のものに比べて材質や作りが劣るため使い捨てとなっています。


722 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/06/17(水) 02:02:47 wwRRbDnw0
投下を終了します


723 : 名無しさん :2015/06/17(水) 03:01:02 uKQYdRYE0
投下乙です
この乱戦は2-1交換で対主催不利になったかぁ
大佐またやらかしてしまったなぁ…
そして実質4体のマーダーチーム結成か
怖いなこいつら


724 : 名無しさん :2015/06/17(水) 03:58:10 SRzjld4Q0
投下乙です
大佐ェ……サリアさんは無能脱却したのにアカンでこれは
マーダー連合が質悪すぎる対主催が追い込まれてるなぁ
ほのかちゃんやかよちんが心配だ


725 : 名無しさん :2015/06/17(水) 06:36:33 eQ5KIJNI0
投下乙です

>マスタングの背中は小さく見えた
本当だよこのやろう

エンヴィーとキンブリーの仲良しタッグに期待、プライドよりは死後エンヴィーは潔さそうだから上手くいくかな?
気になった点があるのですが、

> ※躯人形・クロメが八房を装備しています。彼女が斬り殺した存在は、躯人形にはできません。

上記制限からこのSSの展開ではイギーを躯人形には出来ないのではないでしょうか?


726 : 名無しさん :2015/06/17(水) 07:57:38 Jh9NLXz.0
投下乙です
マスタングやっちまったかあ。ハガレンコンビは実に楽しそうで何よりです
そして今回の話で一番哀れなのは鳥さんかもしれない


727 : 名無しさん :2015/06/17(水) 12:59:49 59HwGaro0
投下乙です
面白かったけれども細かいですが間違いが

錬金術師が錬金術士になってる他、大佐はイシュヴァール殲滅戦の経験で
生活に支障があるかないかどうかを自分でわかるくらい自分で焼けるので
雪子を一撃で殺せないのは違和感がありました

あと、エンヴィーの一人称が「僕」になってる箇所もあったのでそれも気になりました
エンヴィーの一人称は「このエンヴィー」です
一期ハガレンでは「僕」も使っていましたが、FAのアニメでは一度だけ「俺」といっただけ
それ以外は全部「このエンヴィー」だったので……

ですがいずれも細かいので修正できるレベルだと思います、大作お疲れさまでした


728 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/06/17(水) 21:26:18 wwRRbDnw0
感想ありがとうございます

>>725
>このSSの展開ではイギーを躯人形には出来ないのではないでしょうか?

ご指摘のとおりです。
したらば内修正SS投下スレに>>719の修正版を投下いたしました。
簡単に言うと、絶命寸前だったイギーをキンブリーが八房で止めをさしました。


>>727

> 雪子を一撃で殺せないのは違和感がありました

原作におけるマスタングとエンヴィー最後の戦闘のように苦しみを与えるために何度も焼き尽くしている、
といったように書いているつもりでした。
>>712の修正版を投下済みです。

ヒューズと佐天さんを殺したエンヴィーに憎悪から生まれる炎で何度も焼き尽くしています。
原作終了後の大佐ならこんなことはやらないかもしれませんが、
原作と違い、この場に彼を止めれる人間がいないので……。

また、指摘等があるなら今後は議論スレの方にお願いします


729 : 名無しさん :2015/06/18(木) 00:21:51 uiCsYUas0
お二方、投下乙です
ペットショップは後藤さんに屈服したか、野生のマーダーコンビは厄介だな
で、次の話で裏目にではあるけど、どっちにしろイギーとの因縁で戦うことになったかな

大佐は無能大佐の称号がしっくりしてきたな。これからラブライブ組のメンタルが心配だ
立て直しはウェイブと黒子の頑張りにかかっているか


730 : 名無しさん :2015/06/18(木) 08:36:08 yJZuMZAQ0
刺されてるから死ぬのはともかく、そもそも雪子は炎耐性〜無効だから>一撃で殺せない


731 : 名無しさん :2015/06/18(木) 16:28:27 5ELWVf36O
>>730
議論オンリースレでどうぞ


732 : 名無しさん :2015/06/18(木) 17:30:08 dmiJCFmo0
大作投下乙です!

エンヴィー&キンブリー大暴れ、また新たな被害者が出てしまった、しっかりしろ大佐ァ!
ほのかよちんは生き残ったか良かった、でもまだ近くに後藤さんが居るんだよなあ
そして鳥公が餌公になってしまった……


733 : 名無しさん :2015/06/19(金) 21:15:07 cJBqafc.0
>>731
ああ、いや、炎効きにくいんだから別に何度も燃やしたことはおかしくないんじゃね? って返しただけ


734 : ◆5cyPCmuV8s :2015/06/19(金) 23:45:03 76gNrcbA0
投下します。


735 : 北方司令部にて ◆5cyPCmuV8s :2015/06/19(金) 23:45:40 76gNrcbA0

雪のような色をした砂を踏みしめ赤い服を着た中学生くらいの少女――佐倉杏子は北東へ向かっていた。
金髪の青年――ノーメンバー11との小競り合いの後、足を拘束した氷を除去した杏子は
彼と連れ去られた支給品マオを怒りに駆られつつ捜索したが結局見つからず
止む無く当初の目的地である北方司令部を目指していた。
目の前に些か古く厳しさを感じさせる建物が見えた。
あれか?と杏子は思い、歩みを早めて建物の中に入った。



入ってすぐ、明かりを付けようと照明のスイッチを探そうと杏子は思ったが
状況を思い出し断念し、デバイスを取り出しいつでもライトとして使える様に準備した。
人の、生物の気配は感じられなかった。
進むと、内部は司令部という名称通りに、あちこちに机や書類が配置されていた。
武器もあるものかと探したが、それは見つからなかった。
あったとしても壁と一体化しているオブジェくらいしかなかった。
折角だからと槍状のオブジェを彼女なりに慎重に一本剥ぎとって回収する。


そして何気に書類を一枚取り、内容を確認してみる。
内容は何処かの聞いた事もないような国の戦争の作戦内容の一部が書かれているに過ぎなかった。
それは杏子に深く考えさせるほどの興味を抱かせるほどの内容ではなかった。
せめてメモ用紙代わりにと書類を十枚と運良く見つけたペン一本を回収し、建物の探索を継続した。


古そうな建物だが、埃とかは積もっていなかった。昨日掃除したと言われても納得いくぐらいの清潔さだ。
だが居心地は良くないな、と杏子は少なからず落胆した。
電気やガスといったライフラインが通っていない上に、耐火に適した構造ではなかったからだ。
待ちぶせをするには多少便利ではあるが、地図に記されている他の建造物の方がまだ利用価値があると
杏子は思った。
そのまま外に出て東の地獄門に向かおうかという考えが頭を過ったが、
まだ日は出ておらず、少なからず疲労が溜まっている事もあり杏子はさらに司令部の探索を続けた。
杏子は既に魔法少女の変身は解き、緑かかった上着と半ズボンという普段着の格好になっていた。



一時間以上の探索が徒労に終わり、気疲れを癒やそうと一階の中央の長椅子で休憩を取ろうとした時
杏子は長椅子の向こうの床に不自然な切れ目を発見した。
昔読んだ漫画で見た隠し部屋の入口に似ているなと思った。
好奇心に駆られた杏子は槍状のオブジェの切っ先を切れ目に差し込み、テコの原理で床の一部分を
持ち上げた。
期待通りに床は持ち上がり、奥には階段が見えた。
杏子は階段に足をかけた。


736 : 北方司令部にて ◆5cyPCmuV8s :2015/06/19(金) 23:46:33 76gNrcbA0

偽槍を器用に用い、入り口に蓋をした杏子はデバイスの明かりを頼りに階段を降り、通路を歩く。
だが程なくして壁に動きを遮られた。そして周囲を見渡した。
廊下ではなく部屋だった。部屋の中は袋や箱のようなものが乱雑に散らばっていた。
他には机、椅子。そしてテレビ、何かしらの黒い機材、映写機、スクリーンがあった。
コンセントや配線の様なものも確認できた。ここは電気が通っている。
視聴覚室か、と杏子は思った。照明のスイッチを探す。
だが、見つからなかった。


ふて腐りながら、床に落ちている箱のようなものを一つ拾った。
それはラベルが貼られたビデオテープだった。杏子の眉間に皺がよった。
なんで今時……と疑問に思ったが、DVDディスクが見当たらない以上、我慢するしか無い。
ラベルに書かれている文字を見る。
ジュネスと書かれていた。
地図のランドマークの一つで、どういう施設か判断がつきにくい所だ。
他のビデオテープを探すと、時計塔やコンサートホールと書かれたテープも見つかった。
もしやと思い、他の施設の名称が書かれたテープも探した。
案の定、他の施設の名が記されているテープが何本も見つかった。
だがいくつかは見つからなかった。市庁舎と武器庫、そして杏子の目的地である地獄門だ。




杏子は嘆息しながら、やれやれといった様子で黒い機械――ビデオデッキの方へ向かった。
操作に多少手間取ったが、テープは再生されジュネス――スーパーの映像が映し出された。
尚、音声はかろうじて聞き取れるくらいにまで落とした。
杏子は椅子に座り、デイパックからリンゴを取り出しそのまま齧りつく。
咀嚼しながら、杏子はある映像を見て食い入るように目を見開いた。
今映しだされているのは菓子売り場だった。
それもそこらのスーパーを超えるくらいの規模だ。好物のうんまい棒が見当たらないのは少々不満だったが。
それを見て、ここからだと遠いがジュネスに行き先を変更しようかと杏子は半ば本気で思った。


杏子はある時期より菓子を食べ歩きながら生活している。
それは過度の食欲を持っているからでなく、そうしないと落ち着かないからである。
現にこのゲームに参加してからは菓子も全て没収された為に、大分困った状況であった。
北西の市街地の民家でりんごを入手できたのは幸いだったが、可能なら他の菓子も入手したかった。
その矢先にジュネスの案内テープである、遠いという一点を除けば杏子にとって有意義な情報だった。
目当ての菓子や武器を入手はできなかったが、これはこれで悪くない。
そう前向きに捉え、杏子は参加者名簿等支給品を取り出しながら、今後どう勝ち抜くか改めて考えた。


巴マミ、暁美ほむら、美樹さやか。
参加者であり、自分と同じ魔法少女でそれなりの縁を持つ三人。
もし遭遇した場合、どうするかを考える。
死者であるはずの巴マミについてはさっき一旦気持ちの整理はつけた。
万一、その時が来たらその場で判断するしか無い。


737 : 北方司令部にて ◆5cyPCmuV8s :2015/06/19(金) 23:47:34 76gNrcbA0

暁美ほむらはゲーム開始以前に、ナワバリと伝説の魔女ワルプルギスの夜の対処について取り引きをした相手だ。
能力や性格など不可解な部分はあれど、損得勘定を理解している分ここでも交渉は可能だろう。
まともに戦うにゃリスクが大きい。
例えこちらがゲームに乗っていると知っていても、ある程度は協力関係を結べるはず。


そして美樹さやか。
最近出会った、こちらを苛立たせる新米の魔法少女。
最後に会った時は発狂したかのように魔女に対し執拗な攻撃をし続けていた奴。
……ここでも変わらず正義の味方ごっこをしているんだろうか。
自分があの時言った言を聞き入れていたら、どういう行動を取るんだろうか?
……どの道、遭ったら殺すしかないが、誰かとつるんでいたらどうだろう?


杏子はまたもりんごに齧りついた。
知己で手を組めそうなのはほむらくらいと結論つけようとするが、もう一人いた事を思い出す。


鹿目まどか。
美樹さやかの友人で魔法少女候補生の人間。すぐにでもゲームに脱落しそうな少女。
そのままだと手を組むにも敵にも値しない相手だが、もしゲーム開始前知らない内に魔法少女になっていたら……。
戦闘回避の交渉はできるかもしれないけど、こちらのスタンスに難色を示して妨害して来るかもしれない。
さやか以上に魔法少女にふさわしくない性格で、ただの甘ちゃんではない分、余計に話辛い相手だ。
不意を打って即座に殺るのが一番か。なるべく関わり合いになりたくない。


杏子は食べ終わったりんごをゴミ箱にしてようと思ったが、止めて書類でりんごの芯をくるんで
デイパックにしまった。
椅子を後方へ倒しつつ、戦況を分析する。
ジャック(ノーメンバー11)の前では強がっていたが、杏子一人で勝ち抜くのは非常に難しいと認めざるをえない。
人形使いの大男(承太郎)のみならず、ジャック相手でさえ撃退させられたのだ。
ジャックの様子からしてあの大男と組む可能性だって考えられる。そうなれば力押しではどうしょうもないだろう。


他にも同等の強者がいるなら、戦力不足を補うべく他者と組むか、あるいは潰し合わせるように
仕向ける等、搦め手を使うのが賢い方法だ。
だが、あいにく自分はそういう手が苦手だ、かつて得意だった魔法に反して。
となると誰かと手を組んで戦力を増強する必要が出てくる訳だが。


そう思った矢先、ジュネスの案内ビデオの再生が終了した。
出てきたテープを取り出し、次に時計塔のテープを入れる。
取り出したテープの裏を見た、『持ち出し・破壊禁止』の注意書きが書かれたシールが貼ってあった。
前方をよく見たら、ビデオデッキや壁にも同じような注意書きの紙は貼られてあった。
持ちだしたらどういうペナルティが下される等は書かれていなかったが。


738 : 北方司令部にて ◆5cyPCmuV8s :2015/06/19(金) 23:48:53 76gNrcbA0

まあいいやと杏子は思い、手にとったテープを元の位置に戻した。
テープはまだしも、デッキは配線や接続コネクタが壁の中に収納されていて、持ち出すのに難儀しそうな感じだ。
ここを出てからも、また利用する必要が出てくるかも知れないのだ。そのままにしておこうと結論を出した。
新しいりんごを取り出し、腕を組んで再度座る。
時計塔の詳細ビデオを視聴しながら、杏子は情報はどこまで有効に扱えるのかと考えを巡らせたのだった。



【Dー1 北方司令部 地下の視聴覚室/早朝】

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、ノーベンバー11に対する苛立ちと怒り、殺し合いに乗る決意、ストレス(小)
     ビデオ視聴中
[装備]:普段着
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実 大量のりんご@現実 不明支給品0〜2(確認済み)
     槍状のオブジェ、書類10枚、古びたペン1本
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを勝ち残る 。その為に他の参加者と組むのも視野に入れる。
0:ビデオを視聴後、地獄の門に向かう?ジュネスに向かう?
1:お菓子と情報が欲しい
2:巴マミら他の魔法少女には……?
3:承太郎に警戒。もう油断はしない
4:どこかの施設に籠城することも考える
5:ジャック(ノーベンバー11)は殺す。猫も取り返す。
6:ジャックに殺し合いに乗る自分が正しいと証明してみせる。

※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました
※視聴覚室への隠し階段には蓋がしてあります。
※ジュネスと時計塔の情報をビデオで取得しました。
※北方司令部には隠し階段があり、その先には視聴覚室があります。
 電気が通っています。いくつかビデオテープがありそれぞれ地図上の施設の情報が
 収録されています。ただし地獄門や市庁舎など収録されていない施設もあります。 
 情報の精度は後の書き手様にお任せします。
 ビデオデッキが数台使用可能です。破壊・持ち出し禁止のラベルが幾つか部屋に貼られています。
 実際にペナルティがあるかどうかは不明です。


739 : ◆5cyPCmuV8s :2015/06/19(金) 23:49:43 76gNrcbA0
投下終了です。


740 : 名無しさん :2015/06/19(金) 23:55:39 aaYqAV5I0
投下乙です

杏子ちゃんボッチになっちゃったけど少し頭は冷えたか
絶賛過疎中の地獄門よりビデオの通りお菓子が合ってエンブリヲ様がいるであろうジュネスがお奨めだゾ


741 : 名無しさん :2015/06/20(土) 00:30:24 4CJScCug0
大佐については直前にやりすぎるなと
みんなに注意されてたのにやっちまったな
これからも誤殺するのかね


742 : 名無しさん :2015/06/20(土) 00:53:14 fswZLeus0
投下乙です

北方司令部にそんな仕掛けがあったとは…


743 : いずれ、しづ心なく。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/21(日) 04:13:21 kjZcUrqo0
投下します。


744 : いずれ、しづ心なく。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/21(日) 04:14:45 kjZcUrqo0


DIO達と別れてからほどなく、イリヤは体の不調に気付いた。
体力の消耗が思いのほか激しい。転身状態でこれほどの疲労を覚えたのは戦闘時くらいだったはずだ。
ルビーによる広域探知も出来ず、田村達が向かった方向に適当に進むしかない事にも焦りが募る。
容易に追いつけると思っていたが、思ったよりも時間のロスは大きかったらしい。
DIOの気遣いはまったく正しいものだったと考えながら、イリヤは足を止めて地図を眺めた。

「こんな時に温泉に寄ってるってことはないよね」

『わかりませんよぉ。そういう回が挟まれるのは温泉がある以上当然の帰結ですからねー!!!』

「何を期待してるのかなーこのステッキは……ん?」

魔法少女として強化されたイリヤの感覚器官に、僅かな震えが走る。
転身していなければ絶対に気付かなかったそれは、連続する音響。
毎日聞く……とは言わないが、それなりに耳慣れた種別のものだった。

「雷……?」

『ですね、空から落ちてきてるわけじゃなさそうですが』

「看板とかが壊れて漏電してる……なんてレベルじゃなさそうだけど、なんだろう?」

距離的にはさほど遠くもない。ひょっとしたらこの音の先に田村達がいるかもしれない……。
空を飛べる今なら、地形的な問題はある程度クリアできる。
イリヤはしばし迷ったが、意を決して音のする方に向かうことにした。

「……音が止んだ。急ごう、ルビー」

『イリヤさん、さっきも言いましたけど現状であまり魔力を消費するのは……』

「うん、あまり高く飛ぶと危ないよね。人目を引きたい状況じゃないし」

地面を蹴ってふわり、と浮き上がるイリヤ。
南下していた道筋を変え、川を渡る。鳥のように自在なその飛空は、
空を飛ぶイメージがうまく出来ない美遊や魔法少女になりたてのDIOのそれとは一線を画す見事なものだった。
しかしこの場にイリヤのマスター、遠坂凛がいれば僅かなフォームの乱れに気付いただろう。
疲労の蓄積は、イリヤが思う以上に深刻なものだった。


745 : いずれ、しづ心なく。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/21(日) 04:15:54 kjZcUrqo0



電撃を操る少女の二度目の襲撃と、それに合わせるようにしてサリアをさらっていった暴漢。
その際の交戦で手傷を負ったアカメを雪乃に任せて、新一は音ノ木坂学院に向かった。
さらわれたサリアを助けるために、である。
正直なところ、アカメと雪乃にとってはサリアはさほど印象のいい人間ではなかった。
新一がいなければ見捨てていたとは言わないが、積極的に助けに行くかは断言できない。
その評価はサリアがエンブリヲという男への感情だけを語り、彼女個人の人格を見せなかったことに起因する。
アカメは単純にサリアという人間にどう対応していいのか掴みかねている、といったところだったが、
雪乃はサリアのその態度の奥に、劣等感や嫉妬といった負の感情を嗅ぎ取っていた。
偉大な他人の影に縋ることで自分の弱みを隠そうとするその性根は、雪ノ下雪乃にとって最も唾棄すべきものだ。
嫌というほど見てきた負の感情に支配された人間が相手である、八幡の死がなければ徹底的に糾弾していただろう。

「雪乃」

アカメが動けるようになるまで、周囲を警戒しながら考え込んでいた雪乃の耳に、アカメの声が届く。
見れば、何事もなかったかのようにアカメは立ち上がっていた。
深手ではないとはいえ、怪我を庇う様子すら見せない精神力には驚かされる。
雪乃とは住む世界が違うことは先ほどの戦闘の様子からも明らかだったが、
それを差し引いてもアカメの忍耐力は雪乃には欠けているものといえた。
振り返った雪乃の目を見て、数秒黙り込むアカメ。
人間の限界を明らかに超えた戦闘力を持つ少女の瞳には、彼女なりの強い正義が燃えているように見える。
その視線から、雪乃は自分がアカメの回復を待っていたのではなく、アカメが自分を見守っていたのではないかと思った。


「雪乃、ありがとう。大分楽になった。……行けるか?」

「……ええ、もう大丈夫」

アカメの声を聞き、雪乃は自分が襲撃の前に居た場所……八幡を埋葬した所を見ていたことに気付いた。
未練がある。こんな終わり方でいいはずがない、こんな別れ方は間違っているという後悔がある。
だがその後悔を、八幡という男ならば切り捨てるだろうという冷めた感傷も雪乃の中にはあって、それがたまらなく嫌だった。
自己嫌悪に似た気持ちを引きずっても、何もいいことはないと分かっていても。
表情が曇るのは、止められなかった。


746 : いずれ、しづ心なく。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/21(日) 04:17:21 kjZcUrqo0



「行きましょう、アカメさん」

「ああ…… ! 雪乃、私の後ろに来い!」

だが、ここは殺し合いの場。各々の状況など関係なく、次から次へと不測の事態が押し寄せる。
刀を抜き臨戦態勢に入るアカメの表情には、かってない緊張が見て取れた。
アカメの研ぎ澄まされた知覚が捉えたのは空を切る接近音。銃弾ほどの速さではないが、質量は人間大。
来ると分かっていても全体像を把握しきれないスピードで、それはアカメたちの目前に着地した。
完全な制動。ただ吹き飛んできたのではなく、自在に空を翔ることが出来るという脅威。
敵の持つ帝具の一つを思い浮かべるアカメ。電撃娘と同じかそれ以上の危険度を想定し、相手を見据える。
雪乃もまた、土煙の中から姿を現した闖入者……歳若い少女に瞠目する。
陶器のような肌は新雪を想起させるほど白く、赤い瞳はアカメと同じながら、どこか儚げな光を放つ。
少女の眼が、アカメと雪乃を射抜く。その視線はアカメの腹部の傷の辺りで一度止まったが、すぐに二人の顔へと移った。

「あ、あのー。はじめまして……わたし、イリヤっていいます」

「……」

イリヤの態度から敵意は窺えない。しかし、アカメと雪乃は声を発することが出来なかった。警戒ではなく、驚愕によって。
だが?と疑問符を出して硬直するイリヤを放置するわけにもいかず、二人はかろうじて声を絞り出す。
明晰で怜悧な言葉に定評のある雪乃は、あまりに予想外の光景を目の当たりにしていつになく歯切れが悪い。
シンプルな思考のアカメの方が、たやすく核心を突くことが出来たのも無理はないだろう。

「え……っ、薄…いえ、そうじゃなくて、その」

「何だその格好は」

「!!!!!」

イリヤにとって、魔法少女プリズマイリヤのコスチュームは決して満足のいく物ではなかった。
少なくとも家族に嬉々として見せたいようなものではない……。
彼女は憧れていた魔法少女に実際なってみることで、戦いの中に身を置くこと、戦える力を持つ事への恐怖、
そしてフッリフリの露出を強調した服装で動き回ることへの羞恥を知ったのだ。
だがそれらもいつしか乗り越え、友達のために戦うという決意と、思ったより周りのツッコミが薄い事への安堵で気にならなくなっていた。
しかし、アカメの冷淡(イリヤにはそう思えた)な反応と、嫌なものを思い出して苦虫を噛み潰したような顔をしている雪乃の顔を見て原初の記憶を思い出す。
さらに加えて言うならば、今のプリズマイリヤはマジカルルビーが吸血鬼DIOの血を吸ったことによりコスチェンを果たしている。
露出が高いというよりは、秘所を隠している事こそを評価するべきといえる冒涜的な魔の似姿。
体の部分で一番隠されているのは(衣装と直接関係のない)ハートの飾りで覆われた額の部分といっても過言ではない。
言われてみれば確かに、とんでもない格好だと気付き赤面するイリヤに、雪乃の説教スイッチが入る。

「あなたはまだ子供のようだから分からないかもしれないけど、女の子が人前でそんな格好をするものじゃないわ」

「はい……仰るとおりです……」

『ちょっとイリヤさん!魔法少女が弱気になったら終わりですよ! 私はこのフォームも好きです!!』

「杖が喋るのか」

アカメの興味がルビーに移る。
これを好機と見たイリヤは自分の格好がやむを得ないものであること、その原因がルビーにあることを弁明する。
それが証拠とばかり、アカメの傷を治癒魔術で消しても見せた。
アカメはともかく、雪乃はまたも目の前に現れた常識外の出来事に納得がいかない様子であったが、
それはそれとして所持していることに特に意味を見出せなかった美少女聖騎士(笑)プリティ・サリアンセット(元凶)を譲渡し、
イリヤに上から羽織らせる事でひとまず丸く収まった。アカメと雪乃の名を聞き、イリヤは情報交換を持ちかけた。


747 : いずれ、しづ心なく。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/21(日) 04:18:27 kjZcUrqo0
 





「えっ……友達が、死んだって……」

「……友達、と言えるのかしらね。もう、あちらがどう思っているのか、分からないけど」

「……っ」

どこか非現実的だった気分が一瞬で霧散する。
危険な人物と一度も会わなかったイリヤには、雪乃たちが語る来歴はあまりに刺激が強かった。
エルフ耳の男、電撃を放つ少女、浮世離れした怪しい青年……そのいずれもが、害意を持って接してきたという。

「その、電気を出す女の子……わたし、心当たりがあると思います」

「何? 向こうは名乗っていないんだが……今話した外見だけで断定できるほど確かな心当たりなのか?」

「食蜂さん、って人が、言ってたんです。『自分と同じ制服を着ててビリビリしてる女は考えが浅いから信用しちゃ駄目だゾ☆』って」

「同じ学校の人というわけかしら。その食蜂って人……他に知り合いの事は言っていた?」

「えーと、その、御坂美琴さんの友達の名前は知ってたんですけど、詳しく知ってるのは御坂さんだけだとか」

「……御坂は、最初に殺された上条当麻の知り合いだったように思うんだ。その辺りに、あの女を葬るヒントがありそうなんだが」

葬る、と物騒な単語を出したアカメを見て、イリヤの背筋に冷や汗が走る。
敵を排除することに一切の躊躇をしない存在がいるのは知っていたが、アカメもまたそうらしい。
イリヤはまだ子供、人死にを出したくないという義侠心よりも、アカメの冷酷な一面への恐怖が上回る。
故に、まだ会ったこともない御坂の弁護をする気にもなれず、アカメの殺意に言及することもしなかった。
場をつなぐように、自分が出会った人物の事を話す。共有の情報としては、泉新一と田村玲子について、の物が最も重要と言えた。

「その優しいおじ様のDIOさんと、食蜂さんは問題ないとしても……田村という女の人は、自分から人間とは別の生き物だと話したのね?」

「うん……そのシンイチさん、が言うような危ない人には見えなかったかな。シンイチさんについても、特に悪いようには言ってなかったし」

「新一は後藤や浦上についてはともかく、田村については少し思うところがあるような態度だった。何か事情がありそうだな」


748 : いずれ、しづ心なく。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/21(日) 04:19:50 kjZcUrqo0
 

人間社会に潜み、人類を喰い尽くさんとするパラサイト。
彼らが猛威を振るった世界にいなかった三人には、その存在への恐怖が欠けていた。
だからこそ、田村玲子と泉新一の右腕という個体を始点にして、偏見なく判断が下せたのかもしれない。
イリヤはかって母と交わした会話……『力』そのものには良いも悪いもない、重要なのは使う者の意思だという事を思い出しながら話す。

「あんなに親切なDIOさんもすごい超能力者で、その代わりに太陽の光にアレルギーの体質になって人間じゃなくなっちゃたって言ってました……。
 それでも、あの人はわたしを信じて送り出してくれたんだから、凄い力があるから分かり合えないなんて事、ないと思うんです。
 田村さんも私たちからすれば別の……危ない生き物なのかもしれないけど、きっと仲良くしたいって思ってくれてるんじゃないかなぁ」

「それは少し楽観的な見方だと思うけど。相手の本心がそうなら、襲ってくる同じ人間よりは危険は少ないかもしれないわね」

「誰であろうと、敵は斬る。しかし、人間じゃなければ仲間になれないなんて事はないのは確かだ」

人間同士が殺しあうこの場所で、それに逆らう怪物がいる。
気休めにはならないが、一縷の希望と言える仮定であることは確かだ。

「イリヤ、それでお前はどうするんだ。田村を追いかけるのか? 私たちは新一と合流するために図書館に向かうが」

「むむむ……」

地図をぢっと見るイリヤの直感では、図書館に行っても目当ての者に会える気はしない。
このまま南下する、と伝えようとした刹那、雪乃が割り込んだ。
彼女にとっては今のアカメの言葉こそ、最大の予想外だった。

「待って、アカメさん。この子にそれを聞く必要があるの? こんな状況で、子供を一人で行かせるなんて論外だわ」

「雪乃。イリヤはお前の常識に当てはまらない」

「そんな事は……」

「雪乃さん。わたし、一人でだいじょうぶ……ううん、一人じゃ駄目だから、行きたいんです」

気色ばむ雪乃を、イリヤが押し留める。
イリヤを心配げに見遣る雪乃が少し過剰な毒舌を吐こうとして、喉を詰まらせる。
雪乃の半分と少ししか生きていないであろうイリヤの目には、彼女がこれまで見た誰よりも強い意志があった。

「……わたしにも、友達がいるんです」

「……」


749 : いずれ、しづ心なく。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/21(日) 04:20:28 kjZcUrqo0
 


「最初は、その子こそ一人で何でも出来る、一人でもだいじょうぶなんだと思ってました。
 でも、そんなことはなくて……泣かないあの子も、わたしの為に無理をしてくれる子で……何か、大きな物を抱えてる」

イリヤの言葉は、本心を絞り出すような痛みを伴う物だった。
雪乃が思う。"こう"できるなら、自分たちはどれほど楽だったかと。
それが出来ない自分だからこそ、この少女の言葉を最後まで聞かなくてはならないと。

「だから、わたしは逃げちゃいけない。自分の、この思いを否定しちゃいけない。私は……ミユの友達でいたい!」

「イリヤちゃん……」

「比企谷さんのお話を聞いたから、じゃないけど……後悔だけはしたくない。ミユを、ひとりにしたくないんです」

イリヤの話は、それで終わり。行動原理を明確にした以上、力づく以外では彼女は方針を曲げない。
それを察した雪乃は、力なく自嘲笑った。自分と向き合えていない人間に、どうしてこの少女を止めることが出来ようか。
アカメも無言で頷いて、新一が向かった場所は音ノ木坂学園だという情報を伝える。
せめて少しでも、イリヤが危険から逃れられる可能性を上げたいという思いやりだった。
イリヤもその気持ちを素直に受け取り、もし自分の直感が外れて美遊やクロに出会えなければ、図書館の方へ向かってアカメたちと合流すると約束した。



そうして、二人と一人は元々の目的の方へと別れる事となった。

『イリヤさーん! 本当にヤバイですよー!これ以上転身を続けたら倒れちゃいますよ!』

「ご、ごめんルビー。そうしたいのは山々だけど、流石に疲れちゃった……なんでかな、転身してるだけなのに。
 ちょっと転身解いて普通に歩いていくよ……6時くらいまでには学校に着けるかなぁ」

「……?」

別れ際、雪乃は魔法の杖とイリヤの会話に僅かな違和感を覚える。
だが、先々進んでいくアカメの背中を追う為に、そんな些細な疑惑に頓着することは出来なかった。

(あんなに小さいのに、あんなにしっかりした子がいるのね……我が身の不明に恥じ入るばかりだわ)

……雪乃も、少しだけ勇気を出してみようと思った。
イリヤの姿が見えなくなるくらいに歩いてから、アカメとイリヤとの会話の中で生じた疑問をぶつけて見る。

「アカメさん。御坂美琴っていうらしい、あの女の子の顔、覚えてるかしら?」

「あいつにどんな事情があろうと関係ない。あいつはこんな状況で、安直に他人に牙を剥いたんだ。
 誰かがあいつの手にかかってからじゃ、本当にあいつは手遅れになってしまうと思う。
 だから、最初に出会った私には、あいつを葬らなきゃいけないワケがある」

普通の学生服を着ていて、級友もいる少女の表情に浮かんでいたのは、怒りや憎しみだけではない。
悲しみこそが最も強く浮かんでいた。だから何か、歩み寄れる方法だってあるんじゃないか―――。
そんな雪乃の逡巡は、第一声からそれを見抜いたアカメに斬られた。
アカメもまた、既に己の在り方を決定している。
その頑迷なまでの強さに……雪乃は、本人も認めないうちに、嫉妬に近い感情を覚えていた。

彼女が最も嫌った、負の感情に類する情動。
それこそが、このバトル・ロワイアルの場に最も容易く、最も深く染み入る……蝉の声だった。


750 : いずれ、しづ心なく。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/21(日) 04:21:26 kjZcUrqo0


【F-5 西/一日目/早朝】

【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:サラ子の刀@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:なし
[思考]
基本:悪を斬る。
1:図書館に向かう
2:雪ノ下雪乃と一緒に行動する
3:タツミとの合流を目指す。
4:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
5:村雨を取り戻したい。
6:御坂は次こそ必ず葬る。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が学園都市に属する能力者と知りました。
※ディバックが燃失しました
※イリヤと参加者の情報を交換しました。

【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:健康、八幡が死んだショック(若干落ち着いている)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、MAXコーヒー@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている、ランダム品0〜1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:図書館に向かう
2:知り合いと合流
3:比企谷君……
4:イリヤが心配
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。


【F-5 南/一日目/早朝】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大)  『心裡掌握』下
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
     DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ DIOのサークレット
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 
     不明支給品0〜1 美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:美遊、クロと合流しゲームを脱出する。
1:美遊、クロとの合流。
2:音ノ木坂学園に向かう。
3:田村、真姫を探し同行させてもらう。
4:花京院、ペットショップ、新一、サリアを探して協力する。
5:南下して美遊とクロに会えなければ図書館に向かう。

【心裡掌握による洗脳】
※トリガー型 6/8時間経過
『アヴドゥル・ジョセフ・承太郎を名乗る者に遭遇した瞬間、DIOの記憶を喪失する』 
『イリヤ自身が「放置すれば死に至る」と認識する傷を負った者を見つけた場合、最善の殺傷手段で攻撃する』

※常時発動型 4/6時間経過
『ルビーの制止・忠告を当たり障りのない言葉に誤認し、それを他者に指摘された時相手に対し強い猜疑心を持つ』

[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
※アカメ達と参加者の情報を交換しました。


751 : いずれ、しづ心なく。 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/21(日) 04:21:42 kjZcUrqo0
以上で投下終了です。


752 : 名無しさん :2015/06/21(日) 10:35:23 sCf1du820
投下乙です
三人が三人とも、すれ違ってるけど前向きな感じで行く先が気になりますね
サリアのコスプレを押し付けられたイリヤには暗黒の未来しか見えない
じわじわ善人情報が広がるDIO様、しかしあいつは自分で台無しにしそうw

指摘がひとつ、このSSの1つ前の「楔」にて、状態表の位置がそのさらに1つ前の「性と強さと力の証」の修正を反映していないようです
状態表のみの問題で今現在SS内には矛盾は出ていないようですが、DIOと操折に予約が入っているため、遡って指摘させていただきました(DIOたちの予約の他の面子の位置を見る限りでは、そちらも矛盾は出なさそうですが一応)


753 : 名無しさん :2015/06/21(日) 10:44:08 A9E4HdcU0
投下乙です!
三人の掘り下げ回か、ゆきのんの八幡への想い、イリヤの美遊への想いが切ないなあ
しかし、イリヤの精神に仕掛けられた爆弾は今も確実に動いているのがルビーとの会話で伺えて怖い
そして着々と参加者の間で人格者のイメージを獲得しつつあるDIO様に笑う


754 : ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:45:31 RgkcwoFI0
投下乙です
アカメさんはやると決めたらやる性格が何処かで災いしそうで怖いな
イリヤも前途多難だ、本人が自覚していない分尚更性質が悪い

自分も投下します


755 : 鋼vs電撃vs世界 ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:48:37 RgkcwoFI0
「こっちはみくを迎えに行かなきゃならねえってのに……」

エドワードは舌打ちをする。
温泉へ戻りみくを回収しようとした矢先、茶髪の少女、御坂の襲撃を受けた。
電撃を操る能力。その火力は、マスタングにも相当するかもしれない。

「悪いわね。死んで貰うわ」
「ふざけんな!」

腕を振るった先から続いたのは青白く光り輝く電撃の鞭。
エドワードの右腕、左足は鋼の機械鎧(オートメイル)。必要以上に電気を吸い寄せてしまう。
大幅に距離を空け電撃を回避しつつ、手を合わせ地面から数本の柱を練成し少女へと叩きつける。
近距離戦闘は無謀である以上、遠距離から感電の心配のない攻撃を仕掛けるしかない。
だが、少女の周りに黒い砂。砂鉄が集まり、高速で振動し触れたものを切り刻む壁となり柱を遮る。
柱は大根削りのように削れていき、御坂にはまるで触れられない。
エドワードが練成を止め、柱の動きが止まる。それを見計らい、御坂は砂鉄を今度は剣状へと形を変え横薙ぎに振るう。
剣を扱う上で必要な間合いを砂鉄を細め、長くすることで御坂は一切の移動もなく、腕の動きだけでエドワードを切り裂く事が出来た。
エドワードは上段に向かってきた砂鉄を身を反らし避ける。御坂は砂鉄をエドワードの頭上で止め、そのまま面へと振り下ろす。
髪を僅かに擦らせながら、バク転で後方へ退避。
砂鉄の剣は地面を切り刻み、エドワードの居た地面の土がが粉々になる。
人体があれを受ければ一溜まりもないだろう。
土製のミンチを見ながら、エドワードは嫌な考えを浮かべてしまった。

「的が小さいと当てずらい……」
「誰が豆粒ドチビだ!」

挑発なのか、単に感想を述べただけなのか分からないが、御坂がエドワードのコンプレックスを見事に踏み抜く。
我を忘れそうになるのをエドワードは辛うじて叫ぶだけに止めた。

(どうする? 下手には近づけねえし)

やはり厄介なのは電撃だ。エドワードは鋼の義手義足である為、回避に専念しないと僅かな接触で感電してしまう。
かといって、遠距離からの攻撃は砂鉄を操った防御で防がれる。しかも攻防一体と来た。
エドワードの得意の体術も、そして遠距離からの攻撃も見事に届かない。
せめて、マスタングのような焔の練成さえ出来れば話は別だが、エドワードにその技術はない。
見よう見真似で再現したところで、使い物にはならないだろう。

「お前、なんでノーモーションで錬金術を発動できるんだ?」

故に選んだのは時間稼ぎ。
逃げるにしろ戦うにしろ思考の時間が欲しい。

「二度も同じことを言われたわね。これは超能力よ」
「超能力……?」
「お喋りはもうお終り!」

エドワードの予想に反し、御坂は会話には乗ってこなかった。
言葉のかわりに電撃の槍が降り注ぐ。
エドワードを青く照らし、その身を焼き焦がそうと空気中を奔り迫る。
電撃の奔る速度に、人の動体視力は付いていけない。
僅かな御坂の腕の動作で予測を付け、エドワードは横方へと跳ぶ。
チリチリと服の裾が焼けた音が耳に付いた。
あとコンマ一秒でも回避が遅れていれば、焼き焦げた死体が一つこの場に出来ていただろう。

「どうして、こんな殺し合いに……!」
「煩い!」

説得も通じそうにない。というより、御坂は話をしたがらない。
戦闘で追い詰められているのはエドワードだが、精神的には御坂のが追い詰められている。
人を殺せない焦りが御坂の体を突き動かし、他人の言葉が耳に入らない。
エドワードの苦戦を嘲笑うように電撃の鞭が撓り、エドワードを絡め取らんと奔る。

「クソ! 人の話を聞きやがれ!!」

両手を合わせる。それは錬金術発動のためのモーション。
今までのエドワードの動作から、御坂にもそれは理解できていた。
もっとも、恐れる必要はそうない。このレベル5の『電撃使い』に有用な能力ではないからだ。
良くても、辛うじて柱を電撃から守る盾にする事しか出来ないだろう。
その場合は砂鉄の剣で壁を切り刻み、エドワードごとミンチに変えてしまえば良い。


756 : 鋼vs電撃vs世界 ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:51:06 RgkcwoFI0

「クソ! 人の話を聞きやがれ!!」

両手を合わせる。それは錬金術発動のためのモーション。
今までのエドワードの動作から、御坂にもそれは理解できていた。
もっとも、恐れる必要はそうない。このレベル5の『電撃使い』に有用な能力ではないからだ。
良くても、辛うじて柱を電撃から守る盾にする事しか出来ないだろう。
その場合は砂鉄の剣で壁を切り刻み、エドワードごとミンチに変えてしまえば良い。

(あんだけ砂鉄を操ってたんだ。ここいらから取れる砂鉄の鉄分なら……)

既に数手先を読み、勝利までの光景を確信した御坂の予想が覆される。
エドワードはその予想に反して地面から避雷針を練成した。
御坂が磁力で砂鉄を操るように、またエドワードも砂鉄を避雷針へと再構築。
電撃は避雷針に吸い寄せられ、御坂の意志に反し電撃がエドワードに届くことはない。

「避雷針!? ……あいつの能力、錬金術って言ってたわね」

思い返せば、ブラッドレイも最初は御坂を錬金術師と言っていた。
今更、そんなものを信じろと言われても、普段の御坂なら理屈を付けて適当に流していただろうが、今は不思議と受け入れられる。
そんな些細なことに関しては、もうどうでもよくなってきたのもあるかもしれないが。
間違いない。あれが錬金術師であり、錬金術は実在するのだろう。
土を操る能力かと思っていたが、それは大きな間違いだったらしい。
余談だが、学園都市内にも以前は錬金術師が潜伏しており、上条当麻と交戦していたのだが御坂は知る由もない。

「何でもやれるって、考えといた方が良いのかしら」

予測の付かない能力だ。今まで様々な能力者と交戦してきたが、ここまで先が読めない能力も珍しい。
エドワードの動きに注意しながら、砂鉄の剣で避雷針を破壊する。これで電撃が反れることは無い。
再び避雷針を練成する為に、エドワードが地表に手を置いた。そのタイミングに合わせ、同時に地面から砂鉄の槍が上る。

「ッ? あぶねえ……!」

エドワードが身を捩じらせ、砂鉄の槍はその額を掠る。
右の額の皮膚が裂け、血が垂れてくる。右の眼球が赤に染まり、血を拭う。

「―――貰った」
「しまっ―――」

右の視界は血で、左の視界は砂鉄により遮られる。
だからこそ、エドワードは向かい来る電撃に気付くのが一歩遅れた。
それでも、生身の部分の直撃は辛うじて避けた辺り、エドワードの体術は流石というべきだろ。う
だが生身の部位こそ電撃には触れないが、鋼の右腕は違う。
鋼が電撃を吸い寄せ、感電する。

「がっああああああああああああああああああ!!」

電撃が機械鎧を流れ、エドワードへと巡っていった。
肉を焦がし、神経を狂わせ、電撃は身体に自由を許さない。
激痛と痺れを味わうエドワードの苦悶の表情に、御坂は目を反らしかける。

(いや、目を背けちゃ駄目なのよね……)

拒みかけた光景を御坂は食い入るように眺めた。
吐き気が喉を刺激し、胃液が這い上がってくる。
口内が胃袋の内容物の匂いに包まれ、今にも口から全てを吐き出してしまいたくなる。
けれども、御坂はそれを良しとせず。口を両手で押さえ強引に飲み込んだ。

(殺した……やっと一人、殺したのね)

これで、一歩近づけた。
これで、アイツを救う可能性が高まった。
間違っているのかもしれない事は分かっている。それでも御坂はこの方法を取るしかない。
目の前で出来た黒い妬き焦げた肉塊。自分が犯し、これからも犯し続ける罪の証。

「悪いわね。でも、謝る気はないわ。アイツをあの世から引っ張り出すまで私は……」

涙腺が緩んだ。視界が歪む。人であった肉塊を上手く視認出来ない。
吐き気は抑えられたが、涙までは堪えきれなかったらしい。
これでもし異臭も漂ってくれば、涙どころかゲロまで吐き出し、到底見られない姿になっていた事だろう。
いや、それも自分にはお似合いかもしれないと、何処か自嘲してしまう。

(異臭? ……あれ? 電撃で焼いたのに、何で匂わないの!?)

御坂は人体を焼いた経験が皆無であった為、最初は気にしていなかったが、考えれば妙だ。
人体は鉄でもないし、無味無臭でもない生物。そう、肉を焼いたのだ。匂いがないのはどう考えてもおかしい。
ふとした疑念と共に、風を切る音が聞こえた。
涙でまだ視界は良く見えない。だが、液体で捻じ曲げられた光は奇妙な光景を映し出す。
御坂の目には、肉塊が動いてるように見えたのだ。


757 : 鋼vs電撃vs世界 ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:51:43 RgkcwoFI0
(違―――こいつ生きて……)

いや、見えたのではなく、まぎれもなく生きて動いていた。
エドワードは五体満足でまさに疾風のように駆け、御坂の懐に入り込み拳を握り締めている。
これが幾度となく殺人を経験した軍人でもあれば、エドワードの死んだフリにも直ぐに気づけただろう。
御坂は人を殺害した経験がない。それが、この土壇場に来て、エドワードの生死を見誤ってしまった。

(不味い、かわす? いや―――)

エドワードの右腕から放たれるストレート。
回避は間に合わない。元よりする気もない。
エドワードに気付かれぬよう電撃を纏い、御坂は左腕を立てガードに回す。
こうすることで止むを得ず、御坂はエドワードの攻撃を受けざるを得ないという構図が出来上がる。
それこそが罠であり、付け入る隙になる。
エドワードが御坂の腕に触れた瞬間、今度こそ直接電撃を流し焼き殺す。
どのような方法で生き延びたかはしらないが、これで確実に仕留め切ってみせる。

「? ガッ……!?」

エドワードの右拳は高圧電流の流れる御坂に触れ、そのガードごと御坂の左頬を殴り飛ばした。
飛び掛けた意識で御坂は頭を回転させる。
先ず思ったのは、殴られた感触が奇妙だった。義手である事は分かっていたし、それが鋼製という変わった物であることも。
問題なのは、これは明らかに鋼ではないという事だ。
電撃がまるで通らない。そして異常に硬い。何より鋼とは比べ物にならない、美しすぎる輝きを纏っていた。

「北国仕様の機械鎧で助かったぜ……」

御坂を殴った右腕の姿が露になり、全ての合点がいく。
その右腕は鋼ではなく、人を魅了し引きつけて止まない宝石、ダイヤモンドだった。
道理で鋼の重苦しい輝きなどではなかった筈だ。
ダイヤモンドは電気を通さない絶縁体。故に御坂に触れる事も出来るし、殴ることも当然出来る。

「どういう、事よ……」

それでも分からない。どうして、鋼の腕がダイヤモンドの腕に変化したのか。
錬金術によるものであるのは確かだが、果たしてどんな理屈でその結果を引き起こしたのか。

「北国仕様の機械鎧は、炭素繊維たっぷりなんだよ。こんだけ炭素がありゃ、ダイヤモンドの一つや二つ作れる」

それはグリードの行っていた炭素硬化の応用だ。
北国仕様の機械鎧ならば、エドワードもグリードの炭素硬化が行えることはプライド戦で証明した。
そして、ダイヤモンドは炭素で出来ている。つまり材料は十分に揃っていたということだ。

「……そうか、やっと分かってきたわ。錬金術ってのがどんな能力なのか」

殴り飛ばされ、地べたを転がりながら御坂は理解した。
物質を再構築する。
錬金術とは極端な話、物質操作の類なのだろう。
元となる材料さえ揃えば、何でも作れる。確かに下手な能力者より厄介で応用の幅も大きい。
もっとも、それもその場しのぎに過ぎない。御坂も能力の応用力には自信がある。
鋼の腕が電気に耐性を持ったところで、所詮生身に当てれば死は免れない。
優位性が変わったわけでもない。

(アイツ、まだ意識が飛ばねえのかよ)

エドワードもまた心の中で舌打ちをする。
殺さないよう、機械鎧の手の甲から生成する刃ではなく、拳での打撃を喰らわせたが、思った以上の御坂の耐久に面を食らう。
顔に付いた血を拭いながら立ち上がる御坂はまだ戦闘が可能である事を示している。

(流石に、もう一度死んだフリなんて通用しねえしな)

感電したと思わせて奇襲を掛ける。この手が通じるのは一度だけだ。
不意を付いた練成だからこそ、成功した奇跡的な防御であり、尚且つ御坂に殺人の経験が皆無だからこそ油断を誘えたのも一度だけの奇襲。
既に種を知られた御坂には通用しない。
ダイヤモンドの機械鎧も、御坂が意図的に生身に当たるように電気の流れを変えれば意味を成さない。
決して形成が好転したとはいえなかった。


758 : 鋼vs電撃vs世界 ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:53:13 RgkcwoFI0
(使ってみるか、パイプ爆弾。なんとか、閃光弾に作り変えられれば、一撃叩き込める)

目を晦ませて、その隙に一撃を叩き込む。エドワードが立てた次の一手は単純明快な策。
今のエドワードの右腕は電気を通さない。上手く電撃を掻い潜り接近できれば、如何に体に電気を纏っていようと、有効なダメージが与えられる。
幸いなことに丁度、パイプ爆弾はいい練成源になる。
エドワードの知らない類の爆弾とはいえ、エドワードの知る爆弾と内部構造に大した差は無い。
パイプを密閉する事で内部の圧力を上げ、爆発の威力を向上。更に、破片効果を目的に釘や細かな金属片を内部に詰め込こんである。
一度爆破したのを見、内部を調べたエドワードはパイプ爆弾の仕組みをある程度理解していた。
内部を弄って閃光弾に作り変えれば、人を殺傷せずこの場を丸く治められる事が出来る。

(閃光弾の成分なら、パイプ爆弾の内容物で賄えるしな)

ディバックに手を差し込み、パイプ爆弾を手にする。
パイプ爆弾の材料をイメージし、それらを作り変える過程を想像し両手を合わせる。
地殻変動のエネルギーがパイプ爆弾を巡っていき、その構造を作り変えていく。その寸前。

「エドワードくん!」

この場で、一番聞きたく無い声だった。
前川みくのエドワードを見つけ歓喜に満ちた声。
余程、心細かったのかエドワードの言いつけを守らず、彼女はここまで走ってきていた。
その一瞬、エドワードがみくに気を取られた隙が命運を分けた。
手を合わせてから、初めて錬金術を発動出来るエドワードと、意識しただけで能力を発動出来る御坂。
先手を取り損ねたエドワードが、圧倒的後手に回るのは言うまでもない。
エドワードの練成が遅れ、電撃がエドワードの眼前に迫る。
練成が間に合わない。練成を中止し、エドワードは回避に移ろうとして血の気が引いた。
御坂の矛先が変わったのだ。突如、電撃が向きを変え、乱入してきた少女へと電撃を放っていた。
かわされると分かっているエドワードより、無力な弱者であろうみくの殺害を御坂は選んだ。

「逃げろ! みく!!」

みくの身体能力では、電撃の回避には間に合わない。盾の練成も距離があり届かない。
保身も考えず、がむしゃらにみくの元へエドワードは駆けるが、電撃が遮るようにみくを包んでいく。

「エドワー……」

手を伸ばす。それはもう永劫届くことは無い。
目の前で命が散らされていく。罪の無い無力な少女すら守れない。
言いようの知れぬ、脱力感と空虚さがエドワードの心を染めていく。

「『世界(ザ・ワールド)』」

だが、エドワードの内心に対し現実は奇妙な光景を映し出した。

「え?」
「何が?」

エドワードと御坂が今現実に起こったことが理解できなかった。
自分達の戦いに割り込んできた金髪の男が一言何か呟いた瞬間、みくが男のそばに立っており、電撃はそのまま、みくのいた場所を過ぎ去ったのだ。
みくと男の距離は数メートルは空いており、瞬きすらする間もない内に移動するなど不可能。
かといって、瞬間移動のような特異な移動かといえばそうでもない。
まるでみくが、最初からそこに居たかのような自然さが却って不自然なのだ。
御坂はこれも錬金術の一種なのかと考えたが、しかしエドワードの様子を見るとエドワード自身何が起こったのか理解していない様子だ。

「間に合ったか。戦闘音を聞き付け、寄り道をした甲斐があったな」

戦いに割り込んだ男は腕を組み、さも見下したような視線をエドワードに向けていた。
態度が気に入らず、文句でも言ってやろうかとエドワードは考えたが、恐らくみくを助けてくれたのはこの男なのも事実。
ともかく礼ぐらいは言っておくべきだろう。

「あ、ありがとう、ございます……」

エドワードが口を開く前にみくが恐縮しながら頭を下げる。
男は暖かい笑顔をみくに向け、優しく囁いた。

「自分を大事にしたまえ、君はこのDIOの貴重な実験動物(モルモット)となるのだから」

エドワードの中で男の印象が最底辺にまで落ちた瞬間だった。
みくはキョトンした表情だったが、錬金術師でもあり科学者でもあるエドワードには、実験動物という意味がすぐに理解できた。
稀に非人道的な実験を用いる錬金術師が居る。彼らは人を人と扱わず、ただの道具実験体にしか見ない。
この男は決して味方などではない。
ただ丁度いい道具があったから、壊される前に確保した。その程度の認識でみくを結果として助けただけだ。


759 : 鋼vs電撃vs世界 ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:53:49 RgkcwoFI0

「アンタ、何言って……」
「無駄ァ!」

DIOにエドワードが掴みかかろうとした瞬間、DIOの拳がエドワードに叩き込まれていた。
何をされたのか、さっぱり分からない。
怒りで我を忘れかけたからか、胴ががら空きだったかもしれないが、それでも殴られたその瞬間まで、拳が見えないのは実に奇妙だ。
速すぎる攻撃は何度か見たことはあるが、これはまるで殴られたという結果だけが、発生したかのような感覚。

(何、なんだ……? 今の……)

過程がなかった。エドワードが掴み掛かったのが①で殴られたのが③なら、そこに至るまでのエドワードの手を払いのけ、拳を振りぬくという②が存在していない。
コーラの蓋を開けて飲んでからゲップをするのに、コーラの蓋を開けて、いつの間にか飲んでいた状態になり、にゲップをするようなもの。
超スピードだとかで片付けられる問題とは思えなかった。

「え、エドワードくん!」
「加減はしておいてあげた。朝食か、非常食にはなるだろうからね」

吹っ飛んだエドワードを眺めながら、DIOはみくの後頭部に当身を放ち気絶させる。

「この、野郎……」

意識が沈んでいく。加減したと言っていただけあり、命に別状はない。
それでも意識が朦朧としてくる。
更に言えば、あまりにも咄嗟の事で受身が取れなかったのも辛い。
逃がしきれなかった衝撃が頭を揺らし、エドワードから思考を奪っていく。

「ま、て……みく……」

エドワードの意識は暗闇に落ちていった。

「はぁ……やっと追いついたわぁ。
 それにしても、DIOさんの能力って改めて見ると不可解力が高いわねぇ……ってあれ?」

息を荒げながら、豊満な乳房をタユンタユンと揺らしながら現れた少女。
御坂と同じ、見慣れた常盤台の制服。レース入りのハイソックスにレース入りの手袋。
DIOと合わせたような金色の長髪。御坂とは正反対の運動音痴。

「食蜂操祈?」
「御坂さん……?」

御坂にとって、ある意味一番今の姿を見られるたくない女に出会ってしまった。
殺し合いに乗った御坂という哀れな道化の姿は、食蜂にとって最高の玩具であるはずだ。
あの普段の調子でからかわれたくない。神経を逆撫でされたくない。今の御坂はそれを受け流せる余裕がなかった。
殺人の優先順位が切り替わり、食蜂へとその矛先を向ける。
運が良いことに、食蜂は殺しても心が痛まない部類の人間だ。丁度良い殺人経験にもなるだろう。

「い、一番、会いたくないのに会っちゃったわねぇ……」

同じく食蜂も御坂にだけは会いたくなかった。
苦笑いを浮かべながら、冷や汗を流す。
御坂に『心理掌握』は通用しない。制限とか不調とかではなく、元より効かないのだ。
ジャンケンデでチョキはグーに勝てないように、『心理掌握』は『超電磁砲』には勝てない。
目線をちょっと動かし、DIOへと向ける。この場で頼りになるのはDIOとそのスタンド『世界』だけだ。

「なるほど、君が御坂美琴ちゃんか」

DIOが食蜂と御坂の間に割り込み、壁のように立ち尽くす。
見たところ外人であるため身長は180後半、いや190以上はいってるかもしれない。
ただ、DIOがその場に立ち尽くすだけで、威圧感が御坂を圧迫し締め付けてくる。
その風貌を例えるならば、帝王という言葉が相応しい。

「邪魔するなら、先に殺るわよ?」

「いや、我々が争う必要などないだろう。美琴ちゃん?
 君は見たところ、あのチビを襲っていた。私が見るに、あのチビは善側の人間。殺し合いに乗るような事は先ずない。
 つまり、君は殺し合いを肯定した賢い参加者だ。当然私も、そして操祈ちゃんも。
 殺し合いに乗る者同士、争う必要があるのかな?」

「あるわね。一人しか、生き残れないんだから!!」

気味が悪かった。
さっきまでは威圧感を漂わせていた男が、今度は魔性さ、妖艶さを漂わせ御坂へと語りかける。
何か心を鷲づかみにされ、引き込まれそうな感覚。
それを振り払うように電撃の槍をDIOへと投擲する。
DIOの不可解な移動の謎は不明だが、この雷の槍は到底避けえよう筈がない。
仮に避けたとしても、今度こそその種を暴いてみせる。


760 : 鋼vs電撃vs世界 ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:54:19 RgkcwoFI0

「電撃か。確かに、凄まじいが」

DIOは着雷のその瞬間まで、腕を組んだまま一切の動きを見せない。
動く素振りもまるで無い。ただ立っているだけだ。
自殺志願者でもないだろうに、その余裕に満ちた姿は滑稽そのもの。

「―――消えた?」

電撃の槍はDIOの居た場所を素通りし、過ぎ去っていった。
対象を灰に残らない程、燃やし尽くしたのか。
答えは直ぐに訪れる。
御坂の背後から手を叩いた音が響き渡った。何度も何度も子気味良く、リズミカルに鳴る乾いた手の平の音。
拍手だ。御坂の電撃を褒め称えるように、拍手の音が耳を撫でていく。

「素晴らしい。正直なとこ、君達学園都市の学生は能力が強いだけの、素人だとばかり思っていた。大半はこんな殺し合いでは、到底生き延びれないと。
 学園都市の生徒は異能を持ちながらも、その実大半がただの子供だ。
 器に見合わぬ力は、その身を滅ぼしてゆくものだからね。
 君は違うな。君は先ほどまで、私に圧倒されていた。だが、いざ能力を発動させると冷静そのものだ。
 乱れた呼吸も整っている。戦いに対して、冷静で居られる強い精神のコントロールを心得ている」

「こ、の……!!」

振り向きざまに電撃を振りかざす。
今度はどうあっても逃れられぬよう、四方八方に電撃を巡らせ完全に包囲する。
超スピードでは物理的に回避不可能。瞬間移動も能力の及ぶであろう範囲を仮定し計算。そこまで電撃が及ぶようにしてある。

「流石だ。今この瞬間、内心酷く焦っているのにも関わらず戦術を立て、見事な策を練ったな。
 その『超電磁砲』とやらの強さは、その応用力と君自身の判断力によるところが大きい」

やはり、当たらない。電撃の及ばぬ明後日の方向にDIOは居た。
腕を組んだ姿勢は相変わらず、御坂の能力を感心しながら褒め続ける。
―――御坂の予想通りに。
既に次の布石は打ってある。
その足元に埋まっているだろう砂鉄。磁力を操作し地中に眠る砂鉄を呼び起こす。

「ほう、こんな真似まで……」

高速で振動する砂鉄が、獲物を噛み砕く牙となりDIOを飲み込む。
例え鋼鉄だろうと微塵も残さず切り砕く。
一秒も経たず、その中でバラバラに解体され、血をぶちまけたミンチが出来上がっていることだろう。
如何な超スピードでも逃げる隙間が無い。瞬間移動すら間に合わない絶妙なタイミング。

「!?」

「いや、中々悪くない策だった。私でなければ死んでいただろうね」

また、御坂の背後から、拍手の音が聞こえてきた。
背筋に嫌な汗がじわじわと流れ出す。けれども決して熱くは無い。
むしろ寒気がする。悪寒が走る。
後ろを振り向けば、笑顔を浮かべた表情のDIOが立っていた。


761 : 鋼vs電撃vs世界 ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:54:49 RgkcwoFI0

「ふむ、気が済んだろう? そろそろ良いかな、美琴ちゃん。実力の差が分かったと思うが?」

「私は、私は……あいつの為にも、負けられないのよォォオオ―――!!!」

コインを手に取り、残った全ての力を込め弾く。
御坂の能力名の由来ともなる必殺技。
音速の三倍の速さを誇る『超電磁砲』。それを一撃だけでなく、八発の連射。
腕を組んでいたDIOが右腕だけを上げ、人差し指を立てる。
そして、向かってきた『超電磁砲』を一発、デコピンを当てるかのような軽い動作で触れた。
『超電磁砲』は決して、おはじきじゃない。触れた時点で指が消し飛び、血は吹き出し、肉片が散らばっていることだろう。
それに敢えてDIOは触れ、おはじきのように弾いた。
コインが弾かれた。たった一発のデコピンで。
ふざけていた。車の一台や二台軽くスクラップに出来る『超電磁砲』が、たったのデコピン一発で弾かれるなど有得てはいけない。
御坂の攻撃を避ける人間は居た。斬り込んでくる人間も居た。防ぐ人間も居た。打ち消す人間も居た。反射する人間も居た。だがDIOはそのどれでもない。
DIOは弾いた先も計算し、弾かれたコインが更に他の七発のコインにぶつかる。
甲高い金属音と共に、八発の『超電磁砲』はまるでビリヤードの弾のように弾け、あらぬ方向へと全て飛んでいってしまった。
御坂の全身全霊を込めた攻撃は、DIOには届くことすらなく。無意味にコインを消費しただけに終わる。

「ちょびっと、痛いといったところか」

そして右手を見ながらDIOが呟く。
少し擦り傷を負ってしまってかのような軽い声で。
それでも僅かに勝機が見え掛けた。痛みを感じ、手から血を流しているということは、ダメージが無かった訳ではないらしい。
もっとも、その勝機も先ほどまで血に濡れていた右手が、再生を始めたことにより潰えていく。

「嘘、でしょ……。私、ここまでなの……」

敗北、死の恐怖より先に浮かんだのは、後悔。
アイツを助けられなかった。御坂はまだあの少年への恩を、何一つまだ何も返していないのに。
こんな場所で死ぬのが何よりも悔しく、心残りだった。

「美琴ちゃん、君が殺し合いに乗る意思があるのなら協力しないかな?」
「何、ですって?」

だがDIOはエドワードに対する態度とは真逆。
非常に優しく、暖かく話しかけ、まるで御坂の心を読んでいるのかのように、希望的な台詞を吐いた。
その声は非常に心地よく、心を直接愛撫されるかのようだった。

「私はね。少し事情があって、太陽の出てる昼間は動けないんだ。だから、代わりに動ける協力者を探していた。
 君は自衛手段もあり、殺し合いにも乗っている。非常に利害が一致するのだよ」
「……あんたが得をしても、私には得がないじゃない。誰がそんなこと……」
「私が見る限り、君は今弱体化している。能力の不調だとか、そういうのが理由ではない。
 謂わば精神的なものだ。自分の行いが間違っているのではないかとか、殺人への逃避とか余分な思考が君の力を鈍らせている。
 私ならそれを取り除き、君の不調を回復させてあげる事が出来る」

DIOは御坂の抱える内面の不調を一目で看破し言い当てた。
事実、御坂は自分がこの場に来てから、全力で戦えたかと言われれば否かと答えるだろう。
やはり、迷いや躊躇が存在し御坂を何かが引き止めている。
それを、もし消せるのが本当であるなら。それはとても魅力的な話に聞こえた。


762 : 鋼vs電撃vs世界 ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:56:14 RgkcwoFI0

「……どう、するってのよ?」
「君は私に額を近づける。それだけでいい」

肉の芽。
食蜂に上条当麻の記憶を忘れさせたように、また御坂にも肉の芽を植え殺人への戸惑い迷いを消してしまう。
そうして殺人を躊躇無く行う殺人マシーンが一台出来上がる。
誘惑に惑わされ、御坂は前髪を上げDIOへと一歩歩み寄る。
DIOもまた手を伸ばし、その指の先を御坂の額へと向けた。

「……要らない」
「何?」

DIOの指が御坂に触れる寸前、御坂の動きが止まる。

「私と協力することで、君は安心を手に入れられる。
 殺人への恐怖などない安心を胸に抱き、君は人を殺せるんだよ?」
「そんなものは要らない。私は私の意志で、殺す。
 私の意志であいつを救う!」

勘に近かった。
DIOの言うとおりならば御坂は未来永劫安心し続け、何も恐れぬことはないのだろう。
だが、多分それは永遠に上条当麻に届くことのない偽の安心。
ここでDIOに逃げるのであれば、自分は一生この偽の安心に囚われ、上条を救い出せない。
そう確信した御坂は、額へと伸ばしていたDIOの手を叩く。
そして一秒にも満たぬ手と手が触れた瞬間、御坂はありったけの電撃を流し込む。

「チィ……! 調子に乗るんじゃあ―――」

怒りに任せDIOが右腕を振り上げた瞬間、腕が痺れ動かせない。
たった触れた程度の電撃でDIOの、吸血鬼の体が痺れるなど、これも広川の行った制限のうちの一つなのか。
いや違う。それじゃない。あの時、『超電磁砲』を受けたあの時だ。
DIOがちょびっと、痛いと言っていたあの『超電磁砲』が纏う電撃のダメージが今遅れてやってきたのだ。
御坂は雷光を光り輝かせ、即席の閃光弾を作り出す。

「目晦ましだとッ!?」

『世界』を発動させようとするDIOの腹部に違和感を感じた。
見れば、砂鉄の槍が腹部を貫通していた。
痛くはないしダメージとしてはそれほどでもない。だが間違いなく『世界』の発動のタイミングは遅れた。

「……逃げた、か」

視界が晴れた時、既に御坂の姿は無かった。

「チビも消えた……。奴もドサクサに紛れて逃げたのか? まあ良い。
 操祈ちゃん、この女で良いかな能力の実験は」
「いいわぁ。DIOさん」

食蜂の了承を得て、DIOは戦闘行為を終えた。
夜ならば後を追い、肉の芽を植えるなり食事にするなりしていたところだが、もう時刻的には早朝で日も直ぐに上がるだろう。
さっさと研究所に行き、太陽をしのがなくては。寄り道も大概にしなくてはならない。

とはいえ、せめてあのチビぐらいはせっかくの餌だったのだ。取り押さえておくべきだったか。
意識を奪うだけでなく、動けない程度に痛めつけておくべきだったかもしれない。
もっともそこまで腹も減っていたわけではないので、殆どどうでもよかったが。
襲ったことにより、悪評を広げられる可能性もあるが、それはそれで好都合。
DIOはここまで、自分が凄く良い人を演じていたと自信がある。
あの豆粒が何を抜かそうが、イリヤは反発するだろうし田村や真姫も信じないだろう。
そういった、信用しない派とする派の二つの派閥が潰しあえば、DIOが自ら手を下す必要もない。

(全く、たかだが豆粒如き、この帝王が気にするまでもないな)

意識を失ったみくを担ぎ、DIOは再び能力研究所へと向かう。
その後を、食蜂がおぼつかない足取りで付いていく。


763 : 鋼vs電撃vs世界 ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:56:38 RgkcwoFI0

(なんでかしらぁ? 御坂さんが殺し合いに乗ってるなんて、絶好のからかい時なのにぃ。
 誰かを裏切ってるというか、なんか誰かの意志を貶してる感じがするのよねぇ……。
 ……なんで、こんなに御坂さんにムカついてるのかしらぁ?)

何か得体のしれない、空しさが食蜂の中をうずまいている。
そして、何故か御坂へ対しての怒りだけが、異様に沸いてくる。
どうして、そんな選択を取ってしまったのか、そんな事は彼の意志じゃない。そんな風に思ってしまう。

(彼って、誰? ……嫌ねぇ、痴呆力が高まってきたのかしらぁ?
 天下の心理掌握が痴呆なんて洒落にならないわぁ)

彼の意志に反するであろう、御坂の選択を食蜂は許せない。
御坂は食蜂とは違い、彼の記憶に残れる。彼のそばを歩ける。共に戦える。
ならば、その意志を継ぐべきなのに。継げるはずなのに。
記憶がなくても、食蜂には僅かながら上条への影響が残っているのかもしれない。
それが妙な感情を引き起こすのだろう。

(変な感じねぇ、何か不愉快だわぁ)

DIOの勧誘を拒んだ事も食蜂の心を乱していた。
安寧を求めて、DIOと共に行くことを決意した食蜂と、その逆を行こうとする御坂。
まさに彼女の選択は、自分を否定されているようで、不快だった。
あるいは、自分にない選択をした嫉妬だろう。

(まあ、気のせいよねぇ。それより能力の制限力を把握しないと)

今は自分の能力の制限を完全に把握するのが第一だ。
能力研究所に辿りつき、内部へと入っていく。
DIOは特殊な体質で、太陽を浴びることが出来ないらしい。しばらくはここで篭城するのだろう。
気持ちを切り替える。DIOに自分を認めさせるのに悩んでいる暇など無い。
御坂の事を考えてても時間の無駄だ。けれども、彼女の知らない深い心の底には御坂への怒りや嫉妬は確実に存在していた。






764 : 鋼vs電撃vs世界 ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:57:11 RgkcwoFI0
「たくっ、チビの癖に重いわね」

御坂はエドワードを背負いながら歩いていた。
生身の体重だけなら、その辺の女子よりは軽いほど小柄な癖して、右手と左手の厳つい義手が体重をさらに重くしている。
これでも北国仕様の機械鎧はかなり軽いのだが、御坂は知る由もない。

「……み、みく?」
「残念だけど、私よ」

エドワードが目を覚ましたのを見計らって、御坂はエドワードをそのまま降ろした。
尻から地面に落ち衝撃が伝わってくる。思わず尻をさすりながらエドワードは困惑していた。
殺し合いに乗っている筈の女が、何故自分を助けたのか。

「何だお前、人質か何かのつもりかよ?」
「人質なら拘束するわ……アンタさ、私と組まない?」
「どういう、意味だ?」

組むという発言がエドワードには理解できなかった。
エドワードの殺し合いに乗らないという意思と、御坂の殺し合いに乗るという意思は反発している。
故に敵対こそすれ、組むなど有り得ない。

「別に、最期まで組もうなんて言う訳じゃない。……でも、あの男、あいつを倒すまで一時休戦しないって事よ?」
「ふざけんな。誰がお前なんかと……」
「じゃあ、アンタ一人で勝てるんだ? あの男の能力は半端じゃないわ。一人で挑んでも、チビの死体が出来るだけよ。
 私もそう。あの男は私にとっても邪魔なのよ」
「誰がチビ……くそっ」

御坂も、そして途中から気絶していたとはいえエドワードもあの男、DIOの能力は一切分からなかった。
辛うじて分かったのは、あまりにも不可解で奇妙な移動をすること事ぐらいだ。
それ以外は全ての詳細が不明。御坂もエドワードも今まで様々な能力を見てきたが、あれほど理解できない能力は見たことが無い。
あの一方通行ですら、能力の理屈自体は理解出来た。なのにあの男の能力はそれすら許さぬ。
まさしく、怪物に相応しい未知の能力だ。
下手に挑めば死ぬ。それだけは間違いのない事実。

「みくは……猫耳付けた女はどうした?」
「助ける義理もないし、そこまで余裕はなかった。信用できないのなら、それでも良いけど」

御坂の言っている事は恐らく本当だ。
DIOが捕獲する人間は一人で良いと言っていたのを、エドワードは聞いていた。
みくは攫われてしまった。殺し合いに肯定的な二人組みに。
助けに向かわねばならない。だが一人でどうする?
今回は運が良かったが、次挑んでみくを助けろどころか、逃げることすら出来るかもわからない。

「……分かった。あいつを、倒すまでだな?」

結果として、エドワードは御坂の提案を受け入れざるを得なかった、
一人では何も出来ない。協力者が、それも強い力を持つ者が必要だ。
苦虫を噛み潰したような顔で、エドワードは首を縦に振った。


765 : 鋼vs電撃vs世界 ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:57:47 RgkcwoFI0
「話が分かるじゃない」
「うるせぇよ」

鋼の右拳を地面へと叩きつける。
ここまで自分の無力さを痛感したのは始めてだ。
一時期、スカーにウィンリィを預けた事があったが、あの頃から自分はまるで成長していない。
自分の力だけでは何一つ守れず、借りたくもない力を借りねばならない。
何一つ強くなれていない。あまりにも今の自分が惨め過ぎた。
言いようのない憤怒を何処かへぶちまけたい。
だが今は押さえるしかない。
御坂の言うとおり、エドワードも御坂もDIOには勝てない。手を組み奴を倒すのは、合理的であり悪くない提案である。
等価交換だ。直接交戦したから分かる。危険ではあるがこの女の能力は役立つ。今だけ、手を組んでいれば……。

(……悪党とは等価交換の必要なし、か。……笑えねぇ)

以前アルを攫われたエドワードがグリードに対して叫んだ言葉だ。

―――悪党はボコる!どつく! 吐かせる! もぎ取る!
   すなわちオレの総取り! 悪党とは等価交換の必要なし!

今まさにその悪党と等価交換をし、力を借りるのは誰だ。
あの台詞を聞かせたグリードが今のエドワードを見れば、大いに笑う事だろう。

「一旦、あいつらとは別方向に行くわよ。戦力を集めたいし」

エドワードと御坂が手を組んだとはいえ、二人で打ち勝つというのは現実的じゃない。
一時的な協力者を増やす必要がある。
先ほどまで、一人でも多くの参加者を減ることを望んでいた御坂が、今度は生きた参加者を求めることになる皮肉に御坂は堪らず笑いそうになる。

(戦力を増やす、か。でもそんな暇あるのか……?)

御坂の考えは悪くない。
戦力を増やすのは決して悪手ではないし、御坂がこのまま二人でDIOと挑もうと言うのであれば、協力関係を即解消するところだ。
だが、みくが気になる。あの二人の手に落ちたみくがどうなるか考えたくもない。
実験と言っていた以上、即座に殺されることは無いだろうが。

「あの娘の事なら、そう簡単には殺さないでしょ。何か理由があって生かしてるんだから」
「……黙ってろ」
「今すぐ助けに行っても無謀なだけよ」
「んな事は分かってんだよ!!」

焦ったところで、事態が好転するわけでもない。
今は戦力を補充し戦いに備える。それが最善であり、最速だ。
それにエンブリヲの件もある。みくのことにだけ、気を取られるわけには行かない。
あの凜という少女もまた別の意味で時間がない。それに、凜は恐らくはみくの仲間の一人のはずだ。必ず生きて再会させてやりたい。
戦力補充ついでに、エンブリヲから凜を救い出すのが理想になるだろう。
可能なら、アンジュと再度合流もしておきたい。もっとも、御坂を連れた状態で会っても良いものか考えものだが。
ともかくやる事が多く、時間も無い。焦りに身を任せて、時間を更に削るわけにはいかない。

「…………一つだけ言っておく。俺と組んでいる間、お前に絶対に殺しはさせねえからな」
「……好きにしなさい」

それでも、時間がない中、一言だけエドワードは御坂に告げる。
エドワードの目の前で堂々と殺人を行う真似はないだろうが、万が一にもそうなった場合。
絶対にそれだけは阻止するという御坂にも、エドワード自身にも言い聞かせる為の楔のように。
そして、これは言葉には出さないが御坂自身もまた死なせないとエドワードは決意している。
殺し合いに乗っている以上、あちらこちらで吹っかけて因縁を付けているのは間違いない。逆襲に来る参加者も少なからず居るだろう。
それでも、人を死なせることだけは絶対にしない。エドワードは“殺さない覚悟”を今一度強く固めた。

(気付かれないように殺すことだって、出来ないわけじゃないのよ。
 戦力にならない奴は隠れて始末すれば良い。……とにかく早く殺しに慣れないと……)

御坂にエドワードの言葉が突き刺さる。
御坂もまた焦っていた。早く誰かを殺さねばならないのに、殺せない歯痒さに。
やはり自分は甘いのか。DIOの言うように、殺人への躊躇を消して貰うべきだったのか。
エドワードと組むと言うのも、本当は人を殺すのを先延ばしにしたいだけ、自分への言い訳、逃げなのではないか。そう、自分自身すら疑ってしまう。
とにかく今は殺人に慣れないといけない。それもエドワードの監視の目を掻い潜って。
御坂は内心を悟られぬよう目を反らした。

異なる意志を持った二人が歩みだす。
相反する二人の先に、何が待ち受けているのかはまだ誰も知らない。


766 : 鋼vs電撃vs世界 ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:58:35 RgkcwoFI0
【G-5/1日目/早朝】


【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(大)深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟? 、吐き気、頬に掠り傷、焦り
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×6
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
0:DIOを倒すまでエドワードと組む。 DIOを倒したあとはエドワードを殺す。
1:黒子たちと出会わないようにする。
2:戦力にならない奴は、エドワードに気付かれないように慎重に始末する。
3:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
4:一先ず対DIOの戦力を集める。(キング・ブラッドレイ優先)
5:殺しに慣れたい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、コートなし、焦り、右の額のいつもの傷
[装備]:無し
[道具]:ディパック×2、基本支給品×2 、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、
不明支給品×3〜1、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、
パイプ爆弾×4(ディパック内) @魔法少女まどか☆マギカ、みくの不明支給品1〜0
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
0:DIOを倒しみくを助ける。
1:DIOを倒すまで御坂と組む。DIOを倒したあとは御坂をぶちのめす。
2:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したいが、御坂を連れて会うのは不味いか?
3:エンブリヲ、DIO、ホムンクルスを警戒。
4:対DIOに備えて戦力を集めつつ、エンブリヲを倒し凜も助けたい。
5:御坂に人は殺させないし、死なせもしない。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。


767 : 鋼vs電撃vs世界 ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:58:52 RgkcwoFI0


【F-2 能力研究所/1日目/早朝】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小 回復中) まあまあハイ!
[装備]:帝具・修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。
1:ジョースター一行を殺す。(アヴドゥル、ジョセフ、承太郎)
2:部下との合流。(ペット・ショップ、花京院)
3:みくで操折の能力の実験をする
4:昼間動ける協力者も欲しい。

[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。


【食蜂操折@とある科学の超電磁砲】
[状態]:額に肉の芽、『上条当麻』の記憶消失。 疲労(大)、御坂に対する嫉妬と怒り
     心理掌握行使:1/2名(あと2時間で1名回復)
[装備]:家電のリモコン@現実
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り脱出する。
1:DIOに自分を認めさせ、生還する。
2:みくで能力の制限を把握する。
3:次に御坂と会ったときは……。

[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了後。
※『肉の芽』を植えつけられた事によりDIOに信頼を置いているが、元々他者を信用する神経を持ち合わせていない事もあり、
  毎時毎分DIOへの信頼は薄まっていく。現時点で既に「いとこの大学生(ルックスもイケメンだ)」に対する程度の敬意しかないようだ。
※『心理掌握』の制限は以下。
  ・脳に直接情報を書き込む性質上、距離を離す事による解除はされない。
  ・能力が通じない相手もいる(人外) ※定義は書き手氏の判断にお任せします。
  ・読心、念話には制限なし。
  ・何らかの条件を満たせば行動を強制するタイプ(トリガー型)の洗脳は8時間で解除される。
  ・感覚、記憶などに干渉して常時効果を発揮するタイプ(常時発動型)の洗脳は6時間で解除される。
  ・完全に相手を傀儡化して無力化するのは、2秒程度が限界。
  ・同時に能力を行使できる対象は二人まで。
   一人に能力を行使すると、その人物の安否に関わらず2時間、最大対象数は回復しない。



【前川みく@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康、気絶
[装備]:猫耳
[道具]:なし
[思考]
基本:生きて帰りたい。
0:……。
1:卯月ちゃんやプロデューサー達と会いたい。
*エドワード・エルリックの知り合いについての知識を得ました。
[備考]
登場時期はストライキ直前。


768 : ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 10:59:34 RgkcwoFI0
投下終了です


769 : ◆w9XRhrM3HU :2015/06/21(日) 11:00:39 RgkcwoFI0
>>767

すいませんみさきちだけこっちに差し替えで

【食蜂操折@とある科学の超電磁砲】
[状態]:額に肉の芽、『上条当麻』の記憶消失。 疲労(大)、御坂に対する嫉妬と怒り
     心理掌握行使:1/2名(あと1時間で1名回復)
[装備]:家電のリモコン@現実
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り脱出する。
1:DIOに自分を認めさせ、生還する。
2:みくで能力の制限を把握する。
3:次に御坂と会ったときは……。

[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了後。
※『肉の芽』を植えつけられた事によりDIOに信頼を置いているが、元々他者を信用する神経を持ち合わせていない事もあり、
  毎時毎分DIOへの信頼は薄まっていく。現時点で既に「いとこの大学生(ルックスもイケメンだ)」に対する程度の敬意しかないようだ。
※『心理掌握』の制限は以下。
  ・脳に直接情報を書き込む性質上、距離を離す事による解除はされない。
  ・能力が通じない相手もいる(人外) ※定義は書き手氏の判断にお任せします。
  ・読心、念話には制限なし。
  ・何らかの条件を満たせば行動を強制するタイプ(トリガー型)の洗脳は8時間で解除される。
  ・感覚、記憶などに干渉して常時効果を発揮するタイプ(常時発動型)の洗脳は6時間で解除される。
  ・完全に相手を傀儡化して無力化するのは、2秒程度が限界。
  ・同時に能力を行使できる対象は二人まで。
   一人に能力を行使すると、その人物の安否に関わらず2時間、最大対象数は回復しない。


770 : 名無しさん :2015/06/21(日) 11:29:36 A9E4HdcU0
投下乙です

良かった、感電死するニーサンはいなかったんですね!
DIO様がサラッとニーサンを豆粒扱いしてるのに笑う、みくにゃんの運命や如何に
戦力集めは御坂の存在とぐう聖DIOの情報のお陰で難しそうだがどうなるか


771 : 名無しさん :2015/06/21(日) 11:37:39 sCf1du820
投下乙です
このDIO様つよい(しかし油断)
御坂はまだまだ非情にはなりきれないか、豆ワード豆リックはこれから苦労しそう
みさきちのディオへの信頼がじわじわ落ちてるのは草生えますよ……
あと今後の予習のためにみくにゃんの薄い本を探しに行きます


772 : 名無しさん :2015/06/21(日) 13:43:26 P9wMc4A20
投下乙乙
地味に敷かれるDIO様包囲網、このDIO様ならなんとかしそうだがそれとは裏腹にいとこの大学生まで評価が落ちてるのには草
ニーサンはこれからビリビリと組むのか、苦労しそうだなぁ、みくにゃん助けてあげて欲しいけど


773 : 名無しさん :2015/06/21(日) 22:39:31 GCWScoo.0
お二人とも投下乙です

アカメさんの揺るがぬ覚悟は頼もしいけど、同時に一抹の不安も覚えるなぁ
三人とも何か水面下で怪しい雰囲気を出しているのが実にいい
それにしてもボロクソ言われるプリティ・サリアンセットに草生える

ニーサンは死亡フラグをへし折ったか、炭素硬化による感電死回避はお見事の一言
ビリビリと組んで前途多難だがなんとか頑張って欲しい
そしてみくにゃんが洗脳されて前川さんになるって本当ですか、ファン続けます


774 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/06/22(月) 17:14:43 pK6LmBmk0
>鋼vs電撃vs世界

投下乙です!
エドワードの広範な知識は頼もしいですな
DIOの「失敗したけど俺なら多分なんとかなるぞ」感、100年前から変わらない
上条さんに引きずられてか、金剛拳で顔面をぶん殴られたのに割と元気な美琴も強い

>>752
修正いたしました。


775 : 名無しさん :2015/06/22(月) 19:09:44 x2EIHeA20
投下乙です
杏子はひとまず落ち着いたか。施設情報はアドバンテージになるものの
孤立した状況でどこまで振る舞えるかだなあ

イリヤは合流せずと。ルビーのアドバイスガン無視洗脳はきつそうだなあ
そして、ゆきのんは自覚がある分、サリアよりは覚醒の可能性がありそうだ

ニーサンとみくにゃんまさかの生存。いや、大変なことになってるけど
ビリビリはこのままサラマンダー化するか、それとも……


776 : ◆BLovELiVE. :2015/06/22(月) 21:45:21 .p7DQ2tQ0
遅れてすみません、これより投下します


777 : ダイヤモンドプリンセスの憂鬱 ◆BLovELiVE. :2015/06/22(月) 21:46:51 .p7DQ2tQ0
私とμ'sの出会いのきっかけ。
それは音楽室で一人で引く私のピアノを穂乃果が聞いたことからが始まりだった。

あの時はアイドルなんて、と軽蔑していたし、それに初対面にも関わらずズカズカと話しかける姿に引いていた。
それに、人と付き合う時間を増やすくらいなら一人でピアノの練習をしている方が楽しいと思っていた。

だけど、穂乃果は何度も私の元にやってきては作曲をしてほしいと頼み込んできて。
正直うんざりもしていた。
けど、でもあの時神田明神の前の階段を必死で駆け上がり続けていたあの時の姿から感じた熱意は本物だった。

だから曲を作ってみるくらいならいいんじゃないかと、そう思って渡された歌詞を開いて曲をつけたのだ。

正直、それのお披露目がガラガラの観客だったのには不満だったけど。
でもあの時の三人はとても輝いていた。

自分が作曲し、海未が作詞した歌で歌う三人の姿は。

そう、自分にとってのμ'sの始まりが穂乃果との出会いだとしたら。
μ'sの一員としての始まりは、海未のあの作った歌詞があってのものだったのだと思う。

海未の考えた歌詞に、私が曲をつけて、それを元にして衣装や振り付けを決めていく。
そうやって、私達はμ'sとして進めてこれたのだ。


μ'sの私の曲に歌詞をつけてくれる存在は、海未しかいないのだ。



ジョセフと初春がさやかと別れ、北上していた時だった。

その視線の先の空に、謎の閃光が雷のような轟音を立てて響いたのは。

「む?!何じゃ一体!」
「雷…、まさか、御坂さん…?」

驚くジョセフに対し、初春は自身の持つ知識の中からあれを発しうる可能性が最も高い人物の名を呟く。

空を2つに割るかのような雷撃。あんなものを発することができる人間など、学園都市でもそういるものではないはずだ。
それこそ、レベル5の超能力者でもない限りは。

「待て、もしかするとスタンド使いのしわざという可能性もある」
「だけど、あれだけの攻撃、きっと誰かが戦ってるんです。もしかしたら黒子さん達も、あの先にいるのかも―――」
「まあ、どちらにしても放ってはおけんな。スタンド使いならばDIOと繋がりのある誰かの可能性もある」

地図を開いて場所を確かめる。
この先にあるのは音ノ木坂学院という施設。名前からして学校だろう。

決して警戒を怠ることもなく、ジョセフと初春は真っ直ぐにその雷の落ちたであろう場所、音ノ木坂学院へと向かって行った。





778 : ダイヤモンドプリンセスの憂鬱 ◆BLovELiVE. :2015/06/22(月) 21:47:38 .p7DQ2tQ0

「海未、起きなさいよ」

真姫は、目の前に倒れた一人の少女の躯に駆け寄り揺さぶりながら声をかけ続ける。

「起きなさいよ……」

だが、倒れた少女は、海未はピクリと動くこともない。
その眼から、口から、耳から血を流し、肌の見える範囲だけでも避けた皮膚から血がにじみ出ていてその身を包む学生服も真っ赤に染まっている。
正常な人間の体の様子でないことはひと目で分かる。

そして近寄った真姫はすぐに、その体に脈がないことも把握していた。

「起きなさいって言ってるでしょ!!」

それでも、真姫は海未を呼びかけ続ける。
もしかしたら、何か奇跡が起きて海未の心臓が動き始めるのではないかということを、有り得ないと理解していながらも期待して。

だって、そうでもしないと。

「何でよ……」

目の前の死を受け入れなければならなくなってしまうから。

「何でなのよ……海未……」

しかしそんな誤魔化しで己の気持ちを騙せるものではなかった。
受け止めるしかなかった。
だけど、受け入れることはできなかった。

苦しさと悲しさが真姫の中で溢れ出し、その瞳からは涙がこぼれ出す。


そんな真姫に、田村玲子も泉新一も声をかけられずにいた。
と、そこで海未の亡骸の傍で小さく動く物体が一つ。

ムクリと起き上がるようにその身を起こした物体は、やがてフワリとその体を浮かせて真姫の傍に立ち寄り。

『………申し訳、ありません』

一言、そう謝罪の言葉を口にした。

その声の主へと目をやる真姫。
そこには羽のついた六芒星の形の物体が、まるで弱っているかのような様子で佇んでいた。

「…何で、海未は………」
『………私を使用した代償です。園田様は、皆様をさっきの攻撃から守るために全身の神経を焼き切って命を落とされました』
「……っ!!」


779 : ダイヤモンドプリンセスの憂鬱 ◆BLovELiVE. :2015/06/22(月) 21:48:06 .p7DQ2tQ0

そう謎の物体、サファイアが海未が命を落とした原因を語った時、真姫は思わずその手でサファイアを掴みあげていた。

「何で……、何で止めなかったのよ!!あんた、それ分かってたんじゃないの?!何でそんな無茶させたのよ!!」
『…園田様の選択です。もしあそこでそうしなければ、ここの全員が犠牲になっていました』
「だからって…、何でそれを海未が背負わないといけなかったのよ!何で……」

確かにサファイアの言う通り、あそこで海未が変身しなければ命を落としたのは巴マミと園田海未の二人のみならず、ここにいる他の皆も消滅していたことだろう。
頭では分かっていても、それでも納得することまでは真姫にはできなかった。






「お〜い、誰かおるか」

そして、そんな空間に響き渡る声が一つ。

「ジョセフさん、いくら何でも無警戒すぎます…!」
「もしさっきの雷みたいなやつで耳までやられておったら少しは声を出さないと聞こえんじゃろ―――っと」

と、やってきた老人と少女の二人組。
しかしその視線の先で見えた光景。

蹲った人間が数人に地面に倒れ伏した人影が幾つか、そしてその傍で佇む少女という様子を見て、その現状を把握。

「……少し遅かった、というところか……」

頭をかきながら、どうこの空気の中に入っていくかを思考した。



泉新一、田村玲子、そしてアンジュの体から動くことが可能になる程度には痺れが抜けたのはそれから数分ほど経った頃の話。

その後は、まずはそこで何があったのかということについて落ち着いて話すために一旦校舎内へと入ることとなった。

園田海未、そしてほぼ炭化した巴マミの体も放置していくのは忍びないと、その体は一人の少女の遺体が安置されている空き教室へと連れて行かれた。


そして生徒会室にてそれぞれ席についているのはジョセフ・ジョースター、初春飾利、泉新一、田村玲子、アンジュの5人、そして机の上におかれたサファイア。
真姫だけはこの場にいなかった。
今は一人になりたい、と言って別の部屋へと移っている。

危険だと思わないわけではないが無理もないことだ、と新一、そして事情を聞いたジョセフと初春はその事実を黙認することにした。

ちなみにアンジュは今の服装は全裸に赤いコートという状態からこの校舎内で見つけた学生服に変わっている。
下着などは見つけられなかったため色々と危ない格好ではあるが、少なくとも全裸にコートよりはマシ、といった形にはなっている。


780 : ダイヤモンドプリンセスの憂鬱 ◆BLovELiVE. :2015/06/22(月) 21:49:01 .p7DQ2tQ0

「さて、それじゃあ少し話させてもらってもいいかな?」
「その前に、一つ聞かせておじさん。二人は南から来た、って言ってたけど、その道中にエンブリヲって男はいた?」

仕切ろうとするジョセフの言葉を遮り問いかけたのはアンジュ。
元々ここにくる前もエンブリヲという男に連れ去られた渋谷凛という少女を助け出すために駆け回っていたという。

「いや、わしらが来たのは南の闘技場という施設からじゃが、そんな男には特に出会っておらんぞ」
「そう、なら私は先に行かせてもらうわ。きっとサリアもエンブリヲのところに向かってる可能性はあるし」

と、逸る気持ちはそのままに出ていこうとするアンジュ。
そんな彼女に、田村玲子が言葉を投げかける。

「待て、アンジュ。お前も情報交換くらいは付き合っていけ」
「そんな暇はないわ。サリアのことだってあるし、早くしないと凛も危ないじゃない」
「そもそも事の発端はさっきお前があの女と言い争いを始めたことがきっかけだ。さっきの言い争いの件も事態をまとめる情報を公開する必要性と義務くらいはあるんじゃないのか?」
「……、分かったわよ」

しぶしぶ席につくアンジュ。
まずはそのアンジュの話から進めていかねばならない。

「今一度確認させて欲しいのだが、サリアはエンブリヲのことを信頼できる人だ、と言っていた。
 しかし君の認識だと、サリアはエンブリヲからは手を切ったはずだった、そうだな?」

そうアンジュに問いかけるのはミギー。
短い間とはいえサリアと共にいた間に散々聞かされてきたことと彼女を仲間というアンジュの言うことが食い違っていた。
その事実が妙に引っかかっていた。

「ええ、そうよ。ジルが命を張ってサリアを説得して、それでちゃんとこっちに戻ってきたはずだった。エンブリヲをぶっ殺す時も一緒に戦ったわ。
 それが、いつの間にまた元の鞘に戻ってるのよ、あのバカは」
「そんな話、俺は一言も聞いていないんだけど……」

新一が聞いていたのは、エンブリヲという男に心酔しているかのように語り続けることのみ。
どれほど優しくて素晴らしい人かということを嫌というほど語る姿。
そこからはエンブリヲから離反したなどというような要素は一片も感じ取ることはできなかった。

「可能性として考えられるのは、その娘がそういう風に記憶を弄られたかもしれないということか」
『あるいは、そもそも知り合い同士でも異なる時間から連れて来られた者がいる、という可能性も』
「時間が違う?どういうことだ」

その可能性を提示したのはサファイア。

元よりこの場に連れて来られた人間には別の世界、いわゆる平行世界の人間がいることをサファイアは既に確認している。
もしそれが自分たちの知り合いにも及んでいたのだとしたら。

例えばアンジュの例で言うと、アンジュが連れて来られたのはエンブリヲを倒し全てを終わらせた後。
サリアが連れて来られたのは、彼女がまだエンブリヲの部下であった頃から。

「…なるほど、じゃああいつの中じゃまだエンブリヲは自分を助けてくれた王子様、だって認識ってこと」
「どうするつもりだ?説得するつもりか?」
「ここにはあいつを説得したジルはいない。正直私がぶん殴ったからって目を覚まさせられるようなやつじゃないってことは分かってる。
 だけど死人を出したことにもけじめはつけさせないといけない。あの様子ならきっとまだまだたくさんの人を死なせるでしょうしね。
 もしどうしようもないようだったら、私があいつを殺すわ」

迷いが吹っ切れたわけではない。
だが、もしあのままのあいつがここで暴れた場合モモカやヒルダ達にも危険が及ぶ。


781 : ダイヤモンドプリンセスの憂鬱 ◆BLovELiVE. :2015/06/22(月) 21:50:13 .p7DQ2tQ0

「新一」
「なんだよミギー」
「心拍音から今の君が何を考えているのかは想像がつく。だがもしもの時はサリアのことは諦めろ」
「分かってる。だけど……」

確かに彼女にいい印象を持っていたわけではない。
しかしあの血を飛ばす男との襲撃では共に戦って。
八幡が命を落とした時は共に弔い。

その間に見せたあのサリアの顔と、さっきのあの殺意に溢れた彼女の様子はどうしても同じ人間とは思えなかった。
アンジュのみならず自分たちすらも巻き込んで攻撃をしようとしたあの時の叫び声が。

「それだけ彼女自身が抱えていたものが大きかった、ということだろうよ」
「………」

ミギーの言葉に目を目を細めるアンジュ。

「最も、それだけが原因、というわけではあるまい。そこを突いて彼女の心の闇、とでもいうものを煽った者がいるはずだ。
 それにさっきの武器、あれは先ほどまでのサリアが持っていた武器ではなかった。持っていたならあの血を飛ばす男の時に使っていたはずだ。じゃあアレを渡したのは誰だ?」
「槙島聖護、か」
「ああ、あの男は危険だ。おそらくサリアがああなることを予見した上で、あの武器を渡したのだろうな。
 危険度でいうならば普通に殺し合いに乗っている人間よりもタチが悪い」
「あの電気を使う女の子も、もしかしたらあいつのせいで?」
「え、電気を使う女の子、ですか……?」

と、その新一の言葉に反応を示したのは初春。

「もしかして御坂さん……御坂美琴って名前の人ですか?!」
「えっと、名前は聞きそびれたけど、髪の短い中学生くらいの女の子だったような」
「私達はその女に襲撃を受けた。別の仲間が受け持ってくれたが。
 確かに言えるのは、その女は確実に殺し合いに乗っていた、ということだ」
「そんな……嘘ですよね…?御坂さんに限って、そんな……」

予想だにしていなかった事実。
友人であり憧れの対象でもあり、合流できれば最も心強いと思っていた者が既に人を殺す側に回っていたという事実に言葉を失う。

「…一つ聞きたいんじゃが、あの最初の時に首輪を爆破された少年、確か上条当麻と言ったか。そいつも学園都市とやらの人間じゃったよな?」
「ああ、確かに広川はそう言ったと記憶している」
「その御坂という嬢ちゃんとあの時の少年に何かしらの関わりがあった、としたらどうじゃ?」

ジョセフが思ったのは同じ学園都市という共通点から見出した一つの可能性。
あの時に死んだ上条当麻が御坂美琴の知人―――友人、あるいはそれ以上の仲である者であったのではないかという推測。

しかし初春は御坂のプライベートの付き合いをそこまで深く把握しているわけではない。
その質問に答えることはできなかった。

「フム、なるほどな。その嬢ちゃんのことはは警戒しておかねばならない、ということか」

それでも、信頼できると思っていた自分の知り合いが殺し合いに乗っていた、という事実には初春はショックを隠しきれてはいなかった。





その後は、新一のそれまでの出来事についての一通りの情報開示があった。
血を飛ばして付着した対象を削る謎の力を持ったエルフ耳の男、そして図書館で合流を考えているアカメ、雪ノ下雪乃という二人の人間。
特にアカメという人物は先にジョセフと初春が遭遇したタツミの知り合いであったことから、その居場所を知ることができたのは収穫だった。


「では、次は私の番、だな」

と、泉新一の情報公開が一段落したところで田村玲子が口を開いた。


782 : ダイヤモンドプリンセスの憂鬱 ◆BLovELiVE. :2015/06/22(月) 21:50:45 .p7DQ2tQ0



音楽室。
いつもここでピアノを一人で引いているのが好きだった。

μ'sに入って以降も作曲の時はここでピアノを奏でてどのような曲にしていくのかを考えていた。
そのたびに浮かんだ曲でオープンキャンパスを、文化祭を、ラブライブ予選を、秋葉原ライブを、そしてラブライブでの決勝も盛り上げてきたのだ。
もう一曲だけ、自分の中でやり残した曲もある。


知らぬ場所に置かれた音ノ木坂学院、しかしここにあるピアノはあの音ノ木坂学院のそれと全く変わりない。
もしここでこれを引くことができれば、少しは今のこの言いようのない感情をどうにかできるのではないかと思って。
ピアノの前に座って鍵盤蓋を開け、鍵盤に指を置く。

試しに幾つかのキーを叩いてみる。特に音程におかしなところはない。
指を前にかざして、最後に自分の中で思い描いていた”あの曲”を奏でようとして。


――――――曲を作ってどうするの?もうその曲に歌詞をつけてくれる人はいないのよ?


頭の中で何かがそう囁いた。

鍵盤にかざした指が止まる。
それでも歯を食いしばって無理やりにでも指を動かそうと再度構え直し。


「――――――――――っ!」

〜〜〜〜〜〜

その指を一気に鍵盤に叩き付けた。
複数のキーを一度に叩かれてピアノから鳴り響く不協和音。

「何で…、何で引けないのよ……!」

これまで楽しかったピアノの演奏。
自分の中で大部分を占めていた大切なもの。

なのに、この指は全く動いてはくれなかった。
もう二度と9人揃うことがない、消えてしまった未来像を思い描いていた真姫の指は。




「DIOと会った、じゃと…!」
『イリヤ様と会われた?!本当ですか!?』

田村玲子のそれまでにあったことを語った時、その中で出てきたDIO、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの名前に大きく反応を見せたジョセフとサファイア。

「ああ、食蜂操祈という女子生徒と共に北の方に向かって行った。
 確かお前によく似た変な物体もそのイリヤという娘と共にいたぞ」
『…なるほど、だから西木野様は私を見ても驚くことがなかったのですね』
「あんた達、DIOに何かされたりはしなかったか?」
「いや、少し話をしただけだ」
「スタンド……何か不思議な力を使ったりなどということはしていなかったか?」
「車を持ち上げたりはしていたな。それ以上に魔法のような力を見せようとはしていたが、別に見る必要がなかったのでな」
「……そうか」

もしそこで彼女がDIOのスタンド能力の一端でも垣間見ていたならばもしやつと対峙した際何か有利となるのではないかと思ったがそう簡単にはいかないようだった。
車を持ち上げる、といってもそれはおそらく吸血鬼としての怪力。スタンドの力ではないだろう。
まあ流石に他人に対し自分のスタンドの能力を軽々しく見せるほど軽率ではない、ということだ。

『イリヤ様は無事なのですか!?』
「私の見た感じだと特におかしなところは見受けられはしなかったな。
 思惑がどうなのかは知らんが、少なくとも他者全てを殺していこうなどと考えている風ではなかったぞ」
「そうじゃろうな、もしやつがそう考えておったのならば、おそらくはあんたはここにはおらんかったじゃろう」
「まあおそらくはあの時その場に私がおらず西木野真姫だけがいたならばまずお前の懸念通りになっていただろうな」


783 : ダイヤモンドプリンセスの憂鬱 ◆BLovELiVE. :2015/06/22(月) 21:51:31 .p7DQ2tQ0

玲子にとってはあの男は強い種ではない。
だが、生き物単体の強さとして見た時は総合的にならば後藤に匹敵か、あるいはそれ以上のものを持っているようにも見えた。

「だが、食蜂操祈という娘は少し警戒した方がいいかもしれないな。あの男と組んでいるのか、あるいは操られているのかそれともあれで素なのかははっきりしていないが」
「食蜂操祈…、確か学園都市のレベル5の一人で……心理掌握(メンタルアウト)の称号を持っている人です。能力は、詳しいところまでは分かりませんが――」
「心を操る、それがあの少女の能力のように見えたな。リモコンのような道具を使って相手の精神を操る、とでも言ったところか。
 幸い私のような寄生生物には効果のないものであったが」
「ふむ、心を操る、か……」

顎に手をやって考えるジョセフ。
少なくともDIOがその娘に操られているという可能性は限りなく低いだろう。逆にその娘がDIOに操られている、あるいは手を組んで部下になっているという可能性ならば高い。
だとすれば、その二人と共にいるというイリヤは。

「そのイリヤ、という娘に関しても警戒はしておいた方がよさそうじゃな。何かしらの手段に利用されていることは大いに考えられる」
『…!』
「まあ落ち着け。やつが手元においておるということは少なくとも今すぐ命を奪われることはないじゃろう。じゃが、何かしらの精神操作や洗脳を受けている可能性はある。
 それで、DIOのやつは他に何か言っておったか?」

逸る気持ちのサファイアをなだめ、ジョセフは他に何か有用な情報がないかを玲子に問う。
スタンドの秘密こそ分からなかったが、やつの挙動や情報から何かそこに繋げられるものがないか、ということが気になっていた。

だが、そこで得られた答えは別の意味で想定外のものだった。

「確か、やつの仲間についてを聞いたな。花京院典明とペットショップ、その2つの名が仲間、だと」
「なんじゃと?!」

椅子から立ち上がってそう声を荒げたジョセフ。

花京院典明。
それは自分たちが共にDIO打倒のために旅をしている仲間の名だ。

確かに初めて会った時はDIOに肉の芽を植えられて操り人形となっていたが、それも過去の話。
DIOの仲間であるということなど、決して―――――

「…いや、まさか……」
「どうかしたのか?」
「なぁサファイア。さっきお前さんはワシらの時間が違うのではないか、ということを言っておったよな?」
『はい』
「…花京院、か。なるほどな。考えたくない可能性ではあるが、一応言っておかねばなるまい」

ジョセフは、花京院典明についてのことを話した。
かつてDIOの手下として操られていたことがあったこと、しかし今は自分たちの信頼できる仲間であるはずだ、ということ。

しかしDIOがもしまだ花京院が敗北したことを知らない、あるいはまだ敗北していない頃から連れてこられたのだとしたら。
花京院がまだ肉の芽を植え付けられている頃の彼だという可能性も十分に有り得る。
故に警戒する必要はある、ということ。

「なるほど、つまり私とサリアの時みたいに変に噛み合わないことからいざこざになることが考えられるってことね」
「そういうことじゃ。もしかしたら君たちの仲間もそうなっておる可能性はある。念の為に聞いておきたいが、そんな不安のある者は皆の知り合いにはおるか?」

そう問いかけると、新一、田村玲子は首を振る。
二人の知り合いと言える者は後藤、浦上のみ。例えいつからきたのだとしても彼らの危険度は変わらない。

アンジュの方は、エンブリヲ、サリア以外で考えた場合、少なくとも積極的に殺し合いに乗る者は一人もいないはず、と言った。
タスク、モモカの二人が乗ることは考えにくく、またヒルダも一時期荒れていた頃があったとはいえそれで人を殺すことまではしないはず。

サファイアの知る者も同じ。
クロエ・フォン・アインツベルンが少し複雑な時期があったとはいえ、それだけで無関係な相手に対して殺しをする者ではないはず、と。

初春の知り合いにもそのような者はいない。既に殺し合いに乗ってしまったという美琴を除いて、ということになるが。

話を戻し、念の為にそのペットショップという存在がどういう者なのかということについても聞いておいた。
スタンド能力こそ聞くことはできなかったが、DIO曰くペットの鳥であるということだ。
DIOの配下に鳥がいる、ということ、そしてそれがこの殺し合いに連れて来られているということも驚きではあったが、よくよく考えればイギーもこの場にいる。
動物のスタンド使いが他にいてもおかしくはないのだろう。


784 : ダイヤモンドプリンセスの憂鬱 ◆BLovELiVE. :2015/06/22(月) 21:53:58 .p7DQ2tQ0
こうして一通りの情報交換が終わり、今後の動きについての話となった。

「ワシは北に向かい、DIOのことを追おうと思う」
「北っていうと、御坂さんもいた場所ですよね?それなら私も―――」
「ダメじゃ。これから向かう先にいるDIOは危険なやつだ。君はワシとは別行動を取って欲しい」
「でも……!」
「御坂美琴という娘のことが心配なら、ワシに任せなさい。可能な限り善処はする。
 君はタツミ、美樹さやかの二人と合流する時のことを頼みたい。相手が相手じゃ。約束の時間までに戻れるとは限らんからな」

ジョセフはDIOを追い、初春とは別行動を取るということになった。

「シンイチ、お前はどうする?」
「……俺は………」

新一は迷っていた。
サリアを探してこの周囲を回るか、それとも一旦これまでのことをアカメ達に報告するために図書館へ向かうか。

「私は行かせてもらうわ。色々有用な情報はあったとはいっても少し時間をかけすぎたみたいだし」
「そうか。なら止めはせんよ」
「あ、そうそう。北に向かうっていうなら確かエドワード・エルリックっていうやつがいたわ。そいつなら話をつければ協力してくれるんじゃないかしら」
「なるほど、そいつの特徴は?」
「金髪のチビよ。もし会ったならこのコート返しておいて」

アンジュはそれだけを告げて丸めた赤いコートをジョセフへと投げ渡し、足早に一人立ち去っていった。

「私は、西木野さんにしばらく付いていくわ。おそらく彼女が立ち直るにはしばらく時間がかかりそうだということもある」

田村玲子は真姫に付き添うという。
だからしばらくは行動方針は彼女次第、ということになるだろう。
元々彼女は友達が集まると踏んでここを目指していたこともある。だがこうなってしまった以上、真姫もまた何かしらの別の行動を起こすことも考えられる。
あるいはしばらく立ち止まる時間が必要か。

「…………」
「どうした泉新一、そんな珍しいものを見るような目をして。…そうだな、お前だって覚えはあることだろう?大切なものを失うことは」
「いや、確かにそうだけど……」
「変わったな、田村玲子」
「なら、ワシから一ついいか?もう少しで始まる放送が終わり次第ワシは出ようと思うが、それ以降の初春のことを任せられるか?」
「守りきれるとは限らんぞ?」
「わ、私だってある程度は自分の身くらい守れますよ!」

こうして他のメンバーの方針が決まっていく中、一人、いや一つだけそれを決めあぐねているものがあった。

『………』
「君はどうするんじゃ?そういえばDIOと一緒にいる子は君の仲間なんじゃったな。何なら一緒にくるか?」
『………イリヤ様のことは気掛かりです。……しかし………』
「?」
『美遊様、園田様、そして巴様。…私と関わった者は皆命を落としました。特に園田様の時は私が原因のようなものです。
 もしかしたら、私が共にいくことでまた良からぬことを起こしてしまうのではないかと……』
「何をくだらんことを気にしておるんじゃ。自分が死神とでも思っておるのか?」
『…………』
「なら尚更ワシと一緒に来たらどうじゃ。何、こう見えても色々危ない目にあうのは慣れておる。
 無論死にそうな目にあったことも何度もあったがそのたびに死神だって追っ払ってきたものじゃよ、ハハハハ」
『私に、何かできるかは分かりません。もしかしたら何もできないかもしれませんが、それでも大丈夫なのですか…?』
「別に移動する間の話し相手くらいになってくれればよい」

サファイアは少し考えるように浮遊し、顔を上げてジョセフを見て答えた。

『分かりました。よろしくお願いしますジョセフ様。ですが、その前に少しだけ時間をください』
「あの娘のことか?」
『…はい』
「まあワシとしても出るのは放送が終わってからというつもりじゃ。まだしばらく時間はある。行ってくるといい」
『ありがとうございます』




785 : ダイヤモンドプリンセスの憂鬱 ◆BLovELiVE. :2015/06/22(月) 21:54:26 .p7DQ2tQ0

それは、魔術礼装に宿された人工精霊が見た一人の少女の想い。

きっとそれが見えたのは偶然だったのだろう。
帝具・雷神憤怒アドラメレクによって放たれた奥の手による一撃。

それを防ぐための一撃を放とうとする巴マミに力を貸した園田海未。
だが、その威力は凄まじく生半可な魔力量でどうにかなる相手ではなかった。

それでも彼女はそれを行使した。
大切な友達を守るために。もう目の前で人を死なせないために。

その身の全てを、魔術回路に誤認させて巴マミの一撃を放たせるための支援をした。
神経を、血管を、骨格を、内蔵を、そして脳細胞さえも。

死ぬだろうということは分かっていた。しかしそれでも後悔はたくさんあった。
目の前にいた、同じ仲間のこと。
自分を守って死んでいった、一人の少女に対する悔恨。
そして、残していった、自分が支えてあげなければならない一人の幼馴染の少女に対する想い。


そしてサファイアは、その中で少女が伝えきることのできなかった様々な想いを、走馬灯のように流れていった、彼女の言葉を偶然にも読み取り、その身に残していた。
魔術回路として結合され、流れる魔力が彼女の脳細胞を焼き切るまでの時間、彼女が残した様々な人物に対する言葉を。




結局私は海未の安置された部屋に移っていた。
少しは気を紛らわせたいと思った音楽室では逆に乱されただけだった。

何かが足りない、とざわめいた心は落ち着くことはなかった。

「…どうするのよ……、まだ、海未に歌詞をつけて欲しい曲、あったのに……」

部屋に置かれた3つの死体には全てに布が被せられている。
それぞれが全身を刃物で突き刺された少女、体のほとんどを炭化させた少女、そして全身を引き裂かれたように傷付けられた海未、と全て直視に耐えるものではない。

聞いた話では最も最初からいた少女は海未を守って死んだらしい。
そして炭化した少女、巴マミもまた海未を守ろうとして死んだ。
二人とも海未を守ろうとして死んでいったのだ。

なのに。

「何で、あんたまで死んでるのよ、バカじゃないの…」

穂乃果やことりに何て言えばいいのか。
あの二人はμ'sとしての付き合いがほとんどの自分以上に海未とは長い付き合いだ。
きっと海未が死んだと聞けば今の自分以上のショックを受けることだろう。

考えれば考えるほど思考が纏まらない。

どうしてこんなことになってしまったのか。


『西木野様』

膝を抱えて蹲っている私の元にやってきたサファイア。
だが正直今の精神状態で見たい存在ではなかった。

「…あっち行って」
『………』

そっけなく拒絶する言葉を投げる私。
だけどそれを言った後で、何やってるんだろうと自己嫌悪に陥る。
確かに海未が死んだのはこれのせいかもしれない、だけど今やっていることはただの八つ当たりではないのかと、そう思ったから。

だから、逆にそれでどこかに行くこともなくこちらの傍に佇んでいた時は安心している私がいた。

『園田様にあのような戦う力を与えてしまったのは私の落ち度です』

このような場所に連れて来られて不安がっていた海未の気持ちを少しでも紛らわそうと、思慮の足りぬままに契約をしてしまい。
それがこうして海未に必要以上の責任感を背負わせてしまっていたのだということに気付かなかったのだ、と。


『園田様は、この場に来てすぐに命を狙われ、そして美遊様の命と引き換えに助けられました。
 そのことをあそこまで気に病まれていたことに気付けなかった』
「………もういいわよ。その代わり少し一人にさせて」

と、膝に再度顔を埋める真姫。
責める気持ちにはなれなかったが、誰かと話したい気分でもなかった。


786 : ダイヤモンドプリンセスの憂鬱 ◆BLovELiVE. :2015/06/22(月) 21:55:29 .p7DQ2tQ0


『西木野様、……実は園田様が魔力行使をした際、脳細胞を魔力回路へと代用したことで園田様の最後に思った思考の一部が私の中に流れこんできました。
 言葉だけでは伝えきれなかった園田様の想いが』
「……!」

膝に顔を埋めていた真姫が、顔を起こしてサファイアを見る。


『お聞きに、なられますか?』





μ'sのみんな、そして真姫。ごめんなさい。
どうやら私はここまでのようですね。

μ'sは一人欠けてもμ'sではないと言われていたのに私は生き残ることはできませんでした。
後悔がないかと言われれば、きっと後悔しかないでしょう。
特に残される穂乃果のことを考えると、心配で胸が締め付けられる想いです。

だけど、こうすることでしか真姫やみんなを守る術が見つけられませんでした。
また美遊ちゃんの時のように、目の前で死んでいく人がいることに、私自身が耐えられなかったから。

みんな。こんな不器用な私を、どうか許してください。


穂乃果、あなたは必ず生きてください。例え私達がいなくなったらきっと悲しむのは分かっています。
もしかしたら受け入れられないことかもしれない。もしかしたら、この先もっと辛いことがあなたの身に振りかかるかもしれない。
それでも、決して自分を見失うことだけはしないでください。

そして真姫、凛や花陽、そして穂乃果と共に、あなたも絶対に生き延びてください。

生きて、私達のμ'sを――――――――バチッ






「………何それ、意味分かんない…」
『………』

サファイアのその記録にあった音声、その言葉が海未の最後の言葉と被ったところでまるで何かが焼き切れたかのように小さなノイズ音を立てて終了した。

「何が私達のμ'sを頼む、よ…、何が穂乃果には生きて、よ。
 ならあんたも生きなさいよ!あんたに守ってなんて、私一言も言ってないわよ!あんたがいなくなって、誰がμ'sの曲を作詞するってのよ!!」

地面に握り締めた手を打ち付けながら声を上げる真姫。

言葉を発したと同時に、悔しさや悲しさと同時にやりきれない情けなさが心を締め付ける。
自分が田村玲子に守られてぬくぬくと生きている間、海未はずっと死を間近で見せられ苦しんでいたのだ。

こんな言葉を投げかける自分の境遇を省みた時、どうしてもやるせなさを感じずにはいられなかった。




「―――――…待ちなさいよ海未。”私達”がいなくなってもって、そう言った?」

しかし、そんな最中真姫は先のメッセージの中で引っかかりを感じた部分を思い出す。
引っかかりは一瞬だったが、しかし意識し始めるとどうしようもないほどに気になり始めた部分。

(…そういえば、さっきの言葉の中には、ことりの名前が全然出てなかった?どうして?)

海未にとっては穂乃果と並ぶほどに仲がよく、決して忘れる者ではないはずの存在。
何故彼女に対する言葉が全くなかったというのか。あの時は確かにことりのことを頼む、とそう言っていたはずだ。
しかし死の間際、彼女の本心に近い言葉を見た時にはその名前は影も形もなかった。

どういうこと?

しかし真姫がその真意に気付くまでにそう時間はかからないだろう。
彼女がそう思考している間にも、刻一刻と時計の針は定時放送が始まる6時を示そうと動いていたのだから。

園田海未と、そしてもう数人の自分の仲間の名が呼ばれるその放送が始まる時間を。


【G-6/音ノ木坂学院内/早朝(放送直前)】


787 : ダイヤモンドプリンセスの憂鬱 ◆BLovELiVE. :2015/06/22(月) 21:56:10 .p7DQ2tQ0

【西木野真姫@ラブライブ!】
[状態]:健康、深い悲しみ
[装備]:金属バット@とある科学の超電磁砲
[道具]:デイパック、基本支給品、マカロン@アイドルマスター シンデレラガールズ、ジッポライター@現実
[思考]
基本:誰も殺したくない。ゲームからの脱出。
0:…………。
1:海未……、バカ……!
2:田村玲子と協力する。
3:μ'sのメンバーを探す。
4:ゲームに乗っていない人を探す。
[備考]
アニメ第二期終了後から参戦。
泉新一と後藤が田村玲子の知り合いであり、後藤が危険であると認識しました。


【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
1:脱出の道を探る。
2:西木野真姫を観察する。
3:人間とパラサイトとの関係をより深く探る。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ'sについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。広川または協力者は死者を生き返らせる力を持っているのではないかと疑っています。


【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(中)、ミギーにダメージ(中) 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム品0〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:図書館に向かうか、それともサリアを探すか……?
2:後藤、浦上、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂美琴らしい?)を警戒。
[備考]
※参戦時期はアニメ第21話の直後。


【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中〜大)
[装備]:いつもの旅服。
[道具]:支給品一式、三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、市販のシャボン玉セット(残り50%)@現実、テニスラケット×2、
     カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、エドワード・エルリックのコート
[思考・行動]
基本方針:仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡吹かせる。
1:北に向かい、初春の友人の御坂美琴の説得とサファイアの仲間であるイリヤの探索、DIOの打倒に専念する。
2:仲間たちと合流する
3:DIOを倒す。
4:DIO打倒、脱出の協力者や武器が欲しい。
5:エドワード・エルリックという人物とは協力できるらしい。
[備考]
※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。
※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。
※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。
※殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語で認識されると考えています。
※初春とタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※時間軸のズレについてを認識、花京院が肉の芽を植え付けられている時の状態である可能性を考えています。

[サファイアの思考・行動]
1:放送後ジョセフに同行し北に向かい、イリヤとの合流を目指す。
2:魔法少女の新規契約は封印する。


788 : ダイヤモンドプリンセスの憂鬱 ◆BLovELiVE. :2015/06/22(月) 21:56:54 .p7DQ2tQ0



【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3、テニスラケット×2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する。
1:田村玲子としばらく共に行動する。第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でタツミたちと合流する。
2:佐天や黒子と合流する。
3:御坂さんが……
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺し合い全体を管制するコンピューターシステムが存在すると考えています。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※ジョセフとタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているらしいということを知りました。



【G-6/早朝(放送直前)】


【アンジュ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(大)、音ノ木坂学院の制服(下着無し)
[装備]:S&W M29(3/6)@現実
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾54@現実、不明支給品0〜1
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす
1:エンブリヲを殺す。凛を救う、ついでに。もしいる場所を推測するならジュネスや廃教会の方向?
2:モモカやタスク達を探す。
3:サリアは一応説得はするがもし無理ならば殺す。
4:エドワードは味方……?
[備考]
※登場時期は最終回エンブリヲを倒した直後辺り。




※真姫を除く一同の行った情報交換はこれまでのロワ内での出来事、そして知る限りでの要警戒人物や協力可能な人物についてです。
   警戒対象:DIO、食蜂操祈、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン(ただし保護対象でもある)、サリア、御坂美琴、エンブリヲ、キング・ブラッドレイ、エルフ耳の男
  また、自分たちの仲間であっても時間軸の違いによって敵対させられていることがある可能性を認識しました。



※マミ、海未の死体は音ノ木坂学院の空いた教室に運ばれました。美遊が安置されている部屋と同じ場所です。
※基本支給品×2(マミ、美遊)、巴マミの不明支給品1〜3は回収済みです。誰が持っているのかは後続の人にお任せします


789 : ◆BLovELiVE. :2015/06/22(月) 21:57:20 .p7DQ2tQ0
投下終了です


790 : 名無しさん :2015/06/22(月) 22:11:29 a9/V3cMs0
投下乙です

サファイヤを励ますジョセフはやっぱり戦力とはまた別の所で頼りになるなあ、ニーサンの力になってあげて欲しい
知能派対主催が集まったお陰か、時間軸の違いのカラクリに気づいたか
そして弾けないピアノ、海未遺していたメッセージ、出せなかったことりの名前、全てが儚く切ない


791 : 名無しさん :2015/06/23(火) 01:19:56 TZNBuapg0
投下乙です

海未のメッセージとそれを聞いた真姫の反応が悲しい…
ジョセフや田村さんには安定した大人として皆の支えになって貰いたい


792 : 名無しさん :2015/06/23(火) 16:04:10 r11oYRFM0
投下乙です

真姫ちゃん辛いよなぁ…μ'sがもう元には戻らない事を一番突きつけられたんだから
丁寧な心理描写でμ'sに対する愛が伝わってきました


793 : いろとりどりのセカイ ◆5brGtYMpOk :2015/06/23(火) 22:17:36 NPJGpPgY0
投下します


794 : いろとりどりのセカイ ◆4LTI6maOjY :2015/06/23(火) 22:19:00 NPJGpPgY0
わたしーー里中千枝がこんな性格になったのはいつからだっただろうか。
悪を許せず困っている人を放っては置けない、そんな正義の味方みたいな自分。
悩んで、悩んで……答えは見つかった。
子供の頃からずっとそうだった。幼稚園ではチビッコギャング、小学校では正義の味方、中学校では……給食革命の戦士。
高校では世界を救うっていう物語の主人公みたいな話。

わたしの町では奇妙な殺人事件が発生していた。次々と広がっていく原因不明の変遺体。
犯人も動機も何もかも一切謎。でもある出来事をきっかけに、事件は解決へと急激に回り始めた。影(シャドウ)……それは人間の精神が具現化した存在。
人間をテレビの中に連れ込み、その人の心境を表したものがダンジョンとなって現れる。
そいつらがこの町を騒がしている元凶だった。影(シャドウ)は心の奥底で抑圧されていた感情。
テレビに迷い込んだ人は、語りかけてくる本当の自分と向き合わなければいけない。

その物語の中でわたしは本当の自分と出会った。醜く歪んだ心を持った影(シャドウ)
そいつはわたしの心の核心を突いてくる。雪子に対する、嫉妬や優越感といった感情を。
雪子の自分を見る卑屈な目が堪らなく嬉しい、最高だ、気持ちがいい。
そんな感情をわたしがいくら否定しようとも、シャドウは真実しか言わない。
全部、全部それは本音でしかない。だって、影(シャドウ)はわたしだから。
心が折れかけたわたしを救ってくれたのは、友達の言葉だった。

ーー本音? 結構じゃねぇか!
ーーそれでも、友達なんだろ?

そんな心から言ってくれた思いに目が覚めて、ずっと、ずっと見て見ぬ振りをしてきた自分に腹が立って、わたしはわたしでしかないことに、今更気がついて。
ぼんやりながらも警察官を目指したいと思って、頼られるわたしじゃなくて、みんなを守りたいわたしを目指して……

それで……

ーーそれで?

目の前には白いベッドに寝転んでいる女の子がいた。
メイド服に包まれた女の子の目は閉じている。
この子は……そう、わたしの友達のモモカちゃん。友達になったばかりの子だ。
会ったのは一度きりで喋ったのもほんの少しの時間だけど。一緒にお茶した時間が私たちにはある。
それだけで友達と言えるのかって聞かれれば、友達だって断言出来る。大切なのは過ごした時間だけじゃない。

趣味や好きな食べ物とか、どんな人がタイプなのだとか。
そんな何気ない日常の話もできなかった。休日に一緒にショッピングモールに行って、洋服を見たり学校帰りに会って話に花を咲かす。
そんな未来だって私たちにはあったのかもしれない。
モモカちゃんが可能性として示した平行世界の概念。元々出会うことのなかったわたしたち。
モモカちゃんは他人同士って言ったけど、逆に考えてみればとても運命的に見える。
だって平行世界なんだよ。普通の人が聞いたら笑っちゃう言葉。
そんな世界で出会った……都合のいい解釈かもしれないけど、これって奇跡って言えないかな。

ペルソナ。ほんとうのわたしを表した影。
この場ではみんなを守るべき力でもある。
それなのになにをやっていたんだろう。みんなが命を懸けて戦っていた中、気絶していた。
こんなのでみんなを守っていけるのかって不安になる。
今この時、最後の一人になるため人を殺した人間がいて、殺された人がいるのかもしれない。

モモカちゃんの顔は死んでるなんて思えないほど綺麗だった。


795 : ◆5brGtYMpOk :2015/06/23(火) 22:20:39 NPJGpPgY0
目立つ傷は腕だけで、他の箇所はかすり傷程度。
何事もなかった様に今にも起き上がって来そうと思うのを、わたしは止める。
死んだ人間は生き返らない。それは無駄な考えなんだと分かっている。
理解は出来るが納得はいかない。その言葉がふと頭の中に浮かんできた。
そうだ。わたしは納得がいってない。この下らない催しも、人をあざ笑う様なエンブリヲってヤツも。
殺し合いに乗る様な人も、モモカちゃんが死んだことだってなにもかも。
最後の一人になったらなんでも願いを叶える? ふざけんな、勝手に連れてきて殺し合いをしろって、あんたは神様にでもなったつもりか。
ドロドロと胸にある感情が広がっていくのが分かる。このゲームの主催者に対する怒りでもあるし、モモカちゃんを失った悲しみでもーー

涙がこぼれてきた。

あれ……なんで泣いてるの……

泣く場面じゃないよね……

怖いとか、ムカつくとかそういう感情を出すところだよね……

ゴシゴシとジャージの袖で、吹いても吹いても涙は止まらない。

どうしちゃったのわたし……胸が痛いよ。

さっきのようなドロドロとしたのは違う。
ぎゅっと締め付けられるような、そんな感覚。

……ああ。
……なんとなく、なんとなくだけど分かってきた気がする。
……涙が流れている理由も。
……胸が苦しい理由も。

悲しくて、悲しくて、泣かないように我慢してたから。

ちょっとしたきっかけで、こんなにも止まらなくなる。

だけどもうこの涙は止めない。

モモカちゃんが眠る真っ白な部屋で、わたしはずっと泣いていた。







「だれかいませんかー?」
「返事があったらあったで、軽いホラーね」
「ちょっと……クロエちゃん、そういうこと言うの止めてよ」

若い少女の甲高い声が無人の店内に高く響いていた。
その声は空気を震わせ、寒さのせいか白い煙と共に散っていく。
声の発生源は店内の入り口からだった。自動ドアが開かれたことにより、早朝の外の冷気が店内に入り込んでくる。
来店を知らせるベルの音が鳴り少女たちは中に入っていく。
店内は広く、テーブルとソファが無数に並べられていた。
新作のデザートが描かれたポスターが壁に貼られている。
掃除が行き届いているのかピカピカとしたリノリウムの床はホコリ一つもない。
俗に言う、ファミレスと呼ばれる場所に二人の少女が来店していた。

「意外ね、そうは見えないわ」
「それだけじゃなくて、虫とか、虫とか、虫とかも苦手。想像するだけでもう……」
「よっぽど嫌なのね……」

二人は話をしながら壁際のテーブルの席に座る。
青い顔をしてテーブルに突っ伏したのは里中千枝といい、
そんな千枝を見て苦笑いしているのがクロエ・フォン・アインツベルンといった。


796 : ◆5brGtYMpOk :2015/06/23(火) 22:21:22 NPJGpPgY0
誰もが少なからず傷を抱えた騒動から一夜明けて。
二人はヒルダを追いかけるために、線路の上を通って東へと足を伸ばしていた。
戦闘による魔力の枯渇にあったクロエは、千枝から取れた魔力が思いの外多かったのが幸いした。
ペルソナを操るという彼女からの魔力提供はイリヤには遠く及ばないものの、通常魔力回路を持たない一般人より量は格段に違っていた。
恐らく”異能”という枠に入っているのなら、吸い取れる魔力の量も上がるのだろうと、クロエは推測している。
そうして四つある内の東に位置する駅に着いた二人は、闇雲にヒルダを探し出しても徒労に終わるだけだと、近くにあったファミレスを見つけて入ったのだった。

テーブルの横に置いてあるメニュー表に千枝は目を通していく。
そこには豊富なメニューが所狭しと載せられていた。
新鮮なイタリアントマトにモッツァレラチーズを使用したピザに、新メニューと大きく書かれているのは鮭や鮪といった魚介類をふんだんに使ったクリームパスタ。
デザートにはこれまた苺を溢れる程に入れたパフェに、まろやかなコクが自慢のチーズケーキ。
知らず千枝の喉がごくりと鳴ったのを、クロエは目ざとく聞き取り呆れた声を出した。

「そんなお腹空いてるの?」
「お昼食べてないんだよねー。今は朝だけどさ」

二人は軽口を叩きながらも視線は時折外へ向けている。
駅前を見渡せる位置にあるファミレスは、駅に近づこうとする者を確実に捉える。
ヒルダがクロエたちと合流をするならこちらの駅を目指すのは必然。
駅でそのまま待つのは無用心なので、こうして近づく参加者の確認をしながらヒルダが来るのを待っていた。

「わたし見てるからクロエちゃんはご飯作って来ていいよ」
「それはわたしのセリフなんだけれど……まぁせっかくだし、お言葉に甘えようかしら」
「料理できるの?」
「作るって言っても冷凍物を温め直すだけ。最近の技術はすごいらしいわ」

別にわたしはお腹は空いてないんだけどね、とクロエは言葉に出さないで。
立ち上がって店の奥に足を運ぼうとした時、メニューを眺めていた千枝が静止の声をかけた。

「やっぱりヒルダさん待とうかな」
「えっ、いいの?」
「みんなで食べたほうが美味しいしね……あっ」

ぐぅぅぅ、と。

説得力のないお腹の音が鳴って、千枝は顔を隠した。









ーー結論から言うと、逃げられた。

線路上から逃走するキリトを追いかけていたヒルダだが、その鍛え上げられた足は止まっていた。
理由は単純に目標であるキリトを見失ったからだ。夜の追跡が困難ということもあったが、全力疾走にも関わらずいつまでも背中が捉えられないのが原因であった。
駅を過ぎた先が市街地だったのも追跡を困難にさせた。路地裏を疾走して、障害物がなんだと言うように、キリトは道のない道も飛び越えていった。

二人の差を分けたのはなんだったのか。

ヒルダにはキリトだけではなく他の参加者の警戒もしなければいけない。
そのため、進行は若干遅くならざる終えなかったからであり、それらを全くと言っていい程せず、がむしゃらに逃走していたキリトが彼女をまく事は必然だった。
もう一つ。これはヒルダには知る由もない話だが、現実の肉体を持たないキリトは疲れを知らない体だったため、キリトが自分の意思で止まらない限りヒルダは絶対に追いつけなかった。

ヒルダにはとにかくいろいろな悪条件が重なっていた。

ヒルダの決断は早かった。このまま追いかけてもキリトを見つけられる可能性は少ない。
そう判断した彼女はすぐにクロエ達のところに戻ることにした。
場所の指定を二人はしていなかったが、入れ違いを避けるため恐らく駅にいるだろうと思っていた。
キリトをあのまま放置するわけにはいかなかったが、自身の身の危険という問題もあった。
武器は手元にある拳銃一丁。予備の弾薬はなく、他の武器などはない。
これだけの武器では、一人で行動しているヒルダには多少の不安があった。

そして現在。


797 : ◆5brGtYMpOk :2015/06/23(火) 22:21:54 NPJGpPgY0
キリトを追跡してきたルートそのままに、入り乱れた路地裏をヒルダは歩いていた。
足に結構な疲労が蓄積している中、灰色のコンクリートの街を背景に彼女は進む。
時刻は夜明けを超えたところ。日の光を求めて土木や草が活動し始める時間。
朝の冷たい風が彼女の赤い髪に吹き抜け、街中を覆っていた暗闇はすでに取り払われている。
クロエと合流する頃には、放送も間近といったところだろうと推測して足を早める。
時折小石が散らばって落ちていて歩行の邪魔をするが、胸のムカつきと共に彼女は石を蹴り飛ばす。

名簿を確認したときエンブリヲの名前があったことをそこまでヒルダは気にしていなかった。
なぜならエンブリヲは死んだからだ。死んだ人間は二度と蘇らない。あの時が停止した世界で彼は確実な死を迎えたはずだった。
クロエに忠告したときも万が一という時のためだった。
エンブリヲの能力。不死身でありながら、同じ時、異なる場所に同時に複数出現でき、テレポートも可能で自分が触れたものを任意に飛ばすことも出来る……自称創造主。
ここにジルでも入れば確実に無能の烙印を押されていたことだろう。
あの場でヒルダがした事と言えば、銃を突きつけておきながらエンブリヲの脅しに引き金も弾けず、なすがままにやられていただけ。
もっとも、彼女は既に亡くなっており、存命時はエンブリヲに熱心だったわけだが。

ようするにヒルダは甘く見ていたのだ。この理不尽な世界を。
無意識に……そう、心の奥ではなんとかなるだろう……そんな気持ちで。
自分の身近な存在がいつドラゴンに落とされて墓の下に眠るのか分からない……戦場という日常にいた彼女には分かっていたことなのに。
だからきっとモモカが死んでしまった責任は自分にもあるのだろうとヒルダは思っていた。
忌み嫌われ社会システムを破壊しかねない退化した危険な人類ーーそうエンブリヲに思想を仕向けられているにも関わらず、アンジュの為だけにアナゼナルにやって来たモモカ。
マナの力を持たないノーマを嫌悪していたものの、自らコミニュケーションを取ってだんだんと打ち解けていって。

彼女はこの世界でも最後までアンジュを想って死んでいった。
それは誰も望んでなかった事故なのかもしれない。
この事実をアンジュはどう思いどのような行動を起こすのだろうか。
怒りのまま、殺害した本人を探し出して報いを受けさせるのか。
モモカが死んでしまった事実に嘆き悲しみ立ち上がることさえ出来なくなるのか。
怒り嘆き悲しみ、全ての感情を混ぜて殺し合いに乗ってしまうのか。

モモカは守れず、エンブリヲを取り逃がした自分が酷く憎い。

ただ、それだけを思い駅に続く大通りをヒルダは歩き出した。









「探し物?」

空もすっかりと明るくなり始めた時間。里中千枝は対面に座るクロエに対して声をかけた。
なぜそんなことを聞いたのかというと、クロエの挙動がおかしかったからだった。
参加者に支給されたデイパックをクロエはいじくり回していた。じっと見つめてたかと思うと手を入れたり、振り回したかと思うと触りだしたり。
クロエはそんな不審な行動を何度か繰り返していた。

初めはクロエの行動について聞くつもりは千枝にはなかった。
しかし、人間、外れているモノには興味が抱くものである。
身長が高い人。胸が豊かな人。タバコを吸って白い煙をばら撒いてる人。
クロエの挙動不審ぶりは千枝の興味に惹かれた……興味を持って当然の話だった。


798 : ◆5brGtYMpOk :2015/06/23(火) 22:22:32 NPJGpPgY0
千枝の声が聞こえているのかいないのか。
クロエは考え事をしているのか動く気配を見せない。
そうなると自然に二人は会話がなくなるので、店内には時計の音だけが響く。
カチリ、カチリ、と時間だけが過ぎていく。千枝は無言の空気を嫌うように、ドリンクバーから持ってきた炭酸飲料の入ったグラスにストローを立てて飲んでいた。
空きっ腹に飲み物はキツかったが、ヒルダが戻ってくるまでの我慢だった。

「ーーねぇ、車の運転はできるかしら」

唐突に言葉を切ったクロエは千枝が持ってきたグラスに手をかけて煽る。
千枝と同じく中身は炭酸飲料だったのが予想外だったのか、彼女は軽く咳き込んでいた。
テーブルにこぼれ落ちた水分をナプキンで拭き取り、何事もなかったように振舞う。
クスリと笑ってしまった千枝に人睨みを利かせて。

「原付の免許はあるけど、車はないかなー」
「わたしは、運転できるかできないか聞いているわ」
「えっ、そりゃできないよ」

千枝は否定の意味を込めて手を振った。車の免許が取れる年齢にまで彼女はなっていない。
そう……と答えに悲観するわけでもなく、クロエはグラスに入った氷を鳴らす。
最初から期待はしていなかったというように彼女の表情は変わらない。

「出来れば、移動手段が欲しいところなの。足の代わりとなる自動車といったものね。鍵さえ手に入れれば、そこら辺から頂けるのだけど」

顔を上げた千枝にクロエが懐から取り出したのは一つの鍵。
銀色に鈍く輝く首輪と同じ色の鍵がクロエの手に握られていた。
それが意味することがなにか、すぐに千枝には分からなかった。

「それって、もしかして車の鍵なの?」
「いえ、バイクの鍵よ。わたしの支給品のね」

クロエの言葉より後の出来事に千枝は目を疑った。
狭いファミレスの床一面に現れたのはバイクだった。二輪車の側車にサイドカーを取り付けたそれは白く艶めいている。
千枝の目の前で起きた光景。
それは、クロエが所持しているデイパックの中から突然バイクが出ててきたのだ。
目の錯覚かとよく目を凝らしても、どこからか取って来たのではと辺りを見回してみても、種になるようなものはない。

「な、な……」

言葉も出ない千枝にクロエはバックを片手に持ったまま笑みを浮かべている。

「これって、どういうことっ!?」

千枝の説明の要求にクロエは口を開く。

デイパックと呼ばれる参加者全員に配られた物は、この世界と同じで不思議に満ちている。
大きさや重量を無視して持ち運べ、入った物はまるでミニチュアのように収納されていく。
内部は空間と呼ぶべき広さがある。腕を入れて大きく振っても、触れるのはデイパックの入口に当たる部分だけ。そこより先は無限が広がっている。
例外として地面に根を生やしたものは仕舞うことができない。これは木や家といったのが該当する。運べる量に限界はない。
仮に、駐車場にある車を全部入れても問題はない、というのはクロエの談。

「あ、あのー、質問いい?」
「どうぞ」
「これって、人とかも入れるのかなーって」
「それが問題なの。体の一部が入るのなら、全身入ることも不可能ではないはずよね。いろいろ試してたんだけど……結論は可能。でも、長時間……いえ、短時間でも入ることはおすすめしないわ。だってこれではちょっとした隠れ家じゃない。
想像してみて。街中の住宅地の一つにポツンとあるデイパック。または森の誰にも見られないような場所。そんなの見つけようがないわ。
便利すぎるのよね。みんな隠れられたらゲームなんて滞りなく進行できない。だから、なにかあると思うのよ。参加者にとって悪いなにかが。
わたしにはとても入る勇気はないわ。あなたが良かったらだけど……どう?」


799 : ◆5brGtYMpOk :2015/06/23(火) 22:24:22 NPJGpPgY0
「いいです」

クロエが言い終える前に千枝は首を振っていた。
誰だって実験体みたいな扱いを進んでしたいとは思わない。
デイパックの謎は気になるが、その為に自分の体を犠牲にするやり方は彼女にはできない。

「これはお蔵入りかしら。三人乗せられないものね」

強引に引き止めるわけでもなく、クロエはバイクをデイパックにしまっていく。
そこでも千枝は二度目になる衝撃を受ける。
デイパックを広げるように近づけたクロエは瞬く間にバイクを収納していた。
デイパックの方が大きくなるわけでもなく、バイクの方が小さくなるわけでもなく。
この世の法則を無視した奇妙な光景がそこにはあった。

「この程度の大きさなら数秒あれば仕舞えるわ。大きさや重量によって時間にバラツキがあるのよ。車ぐらいになると結構力仕事になるから大変ね」

クロエはこの程度と言ったが、バイクの大きさはサイドカーのこともあって相当なものだ。
デイパックにバイクを入れたクロエはソファに腰を下ろす。

「さて、デイバッグの話はこのぐらいにしといて、指針について決めないとね。わたしとしては始めに会場の『端』をじっくり見ておきたいのだけど……そこに何かしらヒントがあるかもしれない。
ここからちょっと南下するだけで着くわ。それとジュネス……ショッピングモールね、ここは色々と物資を調達出来そう。
それで、千枝はどこに向かいたいとかの希望はある?」
「あ、それじゃあ」

西の駅で仲間と別れた事を千枝は言った。一人は黒髪のお嬢様にもう一人は銀髪の女の子。
正確には別れたのではなく、フライパンで頭を殴られて気絶させられ連れてこさせられた。
現在は早朝のため、雪子たちと離れてからずいぶんと時間が経っているが、もしかしたら既にどこかに行っているか、千枝たちを追って民宿の方に来ているかもしれない。
なので、出来ればと控えめながら譲る気のない提案をした。

「その銀って子は、ただの大人しい娘じゃないみたいね」
「うん……まるで感情がないみたいだった。受動的っていうのかな。あのまま放って置いたら、食べることも飲むこともしないで餓死しちゃいそうな感じがあった」
「本物の霊媒者か……興味が湧くけど、今はそれどころじゃないわね。ヒルダが戻ってきた後は、西の駅で二人と合流が一先ずの目標になるわ」

話は終わりだというように、クロエは視線を切って窓の外を見つめた。
銀色の髪は輝いていて、灰色の瞳はどこまでも揺れていない。
千枝にはその顔がどこか物鬱げに見えてちょっとした違和感を覚えた。


800 : ◆5brGtYMpOk :2015/06/23(火) 22:24:56 NPJGpPgY0
「……はぁ」

ソファに背を預け真っ白な天井を見つめて考える。
なんでこんな事になったんだろう。
わたし達がなにか悪い事でもしたのか。
本当に腹立つし、ムカつくし、やっぱり怖い……
早く、一秒でも早くこの事件を解決して、わたしの日常に戻りたい。
わたしがいつまでも帰ってこない事を、雪子はきっと心配している。
別れ方があんなだったから、心配しないほうがおかしいか。
雪子の悲しむ顔は見たくないから、大丈夫って顔を見せて安心させてあげたい。
モモカちゃんが亡くなった……その事も伝えなくちゃいけない。
雪子は……きっと泣いちゃうだろうな。
そんな雪子を見てわたしはまた泣いちゃって。
でも、いつかは涙は止まって。
わたしたちは……

「あら?」

千枝のぼんやりとした思考がクロエの声によってかき消される。
クロエの視線の先。アスファルトの道路を渡り、今まさに駅に向かっている赤い髪を持った少女ーーヒルダがいた。

ーーそして少女たちは再会する









ファミレスを飛び出していった千枝をクロエは静かな目で見つめていた。
夜の事件の後、モモカの遺体を持って民宿の一室にまで運んだのは千枝だった。
あの時、クロエはドアの前で千枝を待っていた。しばらくすると部屋の中から声を抑えた嗚咽が聞こえてきて、それも時間が経てば大きくなっていった。

ここは命の価値が等しく平等で、誰もが思い通りに行動するのを容認する。
世界の終わりは自分以外の全てが屍になった時だけ。
それがルール、この世界においての絶対であり覆す事のできない決まり。

しかし、

果たして本当にそうなのだろうか。他に道は絶対にないとは言い切れるのだろうか。
だがモモカが死んでしまった事で歯車は回ってしまった。
坂道でボールが止まらないように、もう元に戻すことなど出来ない。

では、どうする。

クロエは、一つの考えが浮かんだがすぐに首を振って消し去る。

『彼』の背中を眺めてきた自分がなにを考えているのだと。

失ったものはあるけれど、希望は無くなったわけではない。

ならばそれに向かって進むだけ。

わたしの『日常』はまだ壊されていない。

二人がこちらに歩いてくるのを、クロエは手を振って迎えた。


801 : ◆5brGtYMpOk :2015/06/23(火) 22:28:27 NPJGpPgY0
【Fー8/ファミレス/一日目/早朝 (放送直前)】
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック×2 基本支給品x2 不明支給品1〜3サイドカー@クロスアンジェ
[思考]
基本:脱出する。
0:ご飯にしますか。
1:放送を聞いた後、西の駅に行って、天城雪子、銀、と合流する。
2:イリヤ、美遊と合流。
3:脱出に繋がる情報を集める。
[備考]
※参戦時期は2wei!終了以降。
※ヒルダの知り合いの情報を得ました。
※クロスアンジュ世界の情報を得ました。
※平行世界の存在をほぼ確信しました。
※モモカ萩野目のデイパックを回収しました。
※クロエのキスによる魔力の補充は、異能者であるなら一般人よりも多く採取出来ます。


【里中千枝@PERSONA4 the Animation】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:殺し合いを止めて、みんなで稲羽市に帰る。
0:お腹減った。
1:みんなを守りたい
2:天城雪子、銀、と合流する。
3:悠、クマを探す。
4:モモカ、銀の知り合いを探す。
5:足立さんは微妙に頼りにならないけど、どうしようか。
[備考]
※モモカ、銀と情報を交換しました。

【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(中)
[装備]:グロック17@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:進んで殺し合いに乗る気はない。
1:エンブリヲを殺す。
2:アンジュ達を探す。
3:アンジュに出会えたら平行世界について聞いてみる。
[備考]
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。
※クロエの知り合いの情報を得ました。
※平行世界について半信半疑です。


802 : ◆5brGtYMpOk :2015/06/23(火) 22:29:14 NPJGpPgY0
投下終了します


803 : 名無しさん :2015/06/23(火) 22:38:38 /yA5Im860
投下乙です

しっとりとした心情掘り下げ回が続くな、雪子とクマの死を知るであろう千枝をクロは支えてあげて欲しい
後ディパックに開幕から放り込まれてる人がいるんですが大丈夫なんですかね…


804 : 名無しさん :2015/06/24(水) 00:26:52 FdK4BtiE0
投下乙です
雪子達の死を知っても千枝は立ち直れるのだろうか
P4勢が辛い目に遭ってる中アヘ顔晒してる全裸番長には草


805 : ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 01:50:43 OhVYpYas0
投下乙です。
少女三人、安定はしているけど、放送後はどうなるか。
落ち込む千枝ちゃんを二人が上手く支えてくれるといいね。
それはそうと全裸で押し込まれている奴がいることにはいつか知ってしまうんですかねぇ。

投下します。


806 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 01:52:40 OhVYpYas0
「おい、マスタング。敵が来るぞ」

始まりはウェイブの呟いた言葉からだった。

「コロが威嚇している。それも歯をギシギシ鳴らしてな。早めに気づけてよかったぜ」
「……撒ききれなかったか」
「そうだ。このままだと、数分で追いつかれるな」

ふらりと立ち上がるマスタングの表情は優れていない。
幽鬼のような振る舞いで茫洋とした状態の彼を見て、ウェイブは考える。
このままでは自分達は全滅してしまう。先程は戦闘時の高揚感が上手く作用していたが、今は全く作用していない。
マスタングは落ち着き、自己の成した業を再確認したのかその表情には翳りが見られる。
有り体に言ってしまえば、マスタングは腑抜けていた。
そして、恐れているのだ。自らの操る焔が再び仲間を燃やしてしまうことを。
無理に蓋を閉じようとも、罪の怨嗟はマスタングの心を縛り付け、身体を鈍くさせる。
立て続けに過ちを起こしたならば、尚更のことだ。すぐさま切り替えろと言う方が無理難題である。
せめて後少し。彼が胸中で消化するだけの時間があれば、話は別であるというのに。

(クソッ、どうする!? 迎え撃つって言っても、こんな状態じゃ戦いにならねぇ……っ!
 ただ、蹂躙されて奪われるだけだ! どうしろって言うんだよ!)

だが、その後悔はウェイブにとっては好感が持てるものだった。
何の罪もない女の子を焼いて、すぐさま切り替えられるとするならば、それこそ信用出来ない。
マスタングは自分の犯した間違いをしっかりと受け止めている。
ただ、そこから立ち直るまでの時間が足りなさ過ぎた。
こうも立て続けに襲われるとは想定していなかったのか、この場にいる誰も彼もが浮き足立っている。
現に穂乃果と花陽は恐怖に顔を青ざめて今にも泣きそうな表情を浮かべていた。

(冷静になれ。ここで俺まで慌ててたらそれこそ全滅だ。間違いはもう犯せない。
 俺達は絶体絶命で、追い詰められている。戦意も薄くて為す術もなく殺されることだけは……避けるんだ)

唯一、顔を引き締めて戦闘の態勢を整えているのは黒子だけだ。
彼女と一緒に戦って食い止めるか。
却下だ、今のマスタング達を放置することの方がよっぽどだ。
敵は一人じゃない。ウェイブ達が食い止めている間、また別の敵が現れたら今度は誰が彼らを護るというのか。
常に多方面からの攻撃を気にかけろ。決して安心に身を委ねてはならない。


807 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 01:53:59 OhVYpYas0

「――――仕方ねぇか」

考えてみれば、最初から選択肢は一つしかなかった。
この中で足止め役は誰が一番適任か。
『誰が切り捨てられて一番心が痛まないか』、それはきっと――自分だ。
少女達を切り捨てるのは論外だし、マスタングには罪を見つめ直した上で生き切ってもらわなければならない。
必然、残るのはウェイブだけだ。
簡単すぎる問題だ、冷静な人間なら誰でもすんなりと答えられる。

「黒子、こいつらを遠くへ逃してくれ。何かあったら、今度はマスタングとお前で押し退けろ」
「……私は仲間外れですのね。信頼されていませんの?」
「そうでもないさ。信頼してるからこそ、頼んでいるんだ」

ウェイブが一人此処に残って敵を足止めする。
その間に黒子達は出来る限り遠くへと逃げ延びる。
それ以外、最適な解答は思い浮かばなかった。

「けれど、貴方はどうするのです? 死んでも護る、そんなエゴイズムは赦しませんわよ」
「大丈夫だ。逃げるアテはある。黒子の方こそ信じてくれよな、俺を」
「出会ってすぐの人を信じれる程、私はお人好しじゃないのですが」
「でも、理には適っている。つーか、お前が言ったんだろうが、信じろって。
 少なくとも、こういう何でもありな殺し合いはお前よりは慣れてるつもりだぜ?」

必ず追いつく。そんな可能性の低い約束はできない。
幾らウェイブが強くても限界というものはあるし、時間を稼がなくてはならない以上、例え不利でも戦い続けなければならなかった。
絶対は絶対にありえない。戦う以上は死ぬことも覚悟している。

「ウェイブ……私も戦う。お前一人に任せる訳には」
「無茶はするもんじゃねぇよ。大人しく、黒子と一緒に穂乃果達を護っていろって。
 つーかさ、今のアンタはコンディションも最悪なんだ。俺の方がここは適任だろ」
「……ッ」

現状、この中で一番信頼が薄いのはマスタングだ。
そんな自分に対して、大事な役割である足止めを任せるなど、誰もが認めないだろう。
加えて、本来のコンディションではないマスタングが戦うよりも気力体力共に余裕があるウェイブが戦う方がまだ全員が生き延びる可能性を否定できなった。


808 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 01:55:22 OhVYpYas0
     
「ここは大人しく俺を頼ってくれよ。仲間だろ、俺達はさ。
 立ち直ってくれさえすれば、アンタは俺よりずっと強いんだ。それまで、俺が前線に立っているからさ。
 そんで、この借りはいつか俺が困った時に倍にして返してくれたらそれでチャラだ。
 どうだ、いい考えだろ? それに、敵はまだ潜んでいるかもしれねぇんだ。そん時こそ、アンタの強さを見せてくれよな」

本来は自分が一番前に立たなければならないのに。
それをできない自分が、腹立たしくも納得していることに強く歯を食いしばる。
今の自分が何を言っても、それはうまく受け流されると目に見えていた。
ならば、これ以上言うべき言葉はない。
彼の信頼に応えるべく、今の自分にできることをマスタングも行う他ない。

「ということで、決まりだな」
「やだ!!!! やだよ、やだっ!!!!」

最後にもう一人。説得しなければならない人物がいた。
ウェイブの視線の先では穂乃果が今にも泣きそうな顔をして首を横に振り続けている。

「やだ、やだよ! ウェイブさんやめてよ、皆で、皆で戦えば……っ!」
「この状態で戦っても、足を引っ張り合うだけだ。それに、今度はさっきみたいな失敗はもうしたくねぇ。
 もしも穂乃果が戦うとしてさ。敵を迷うこと無く、殺せるか?」
「そんなのできる訳……!」
「そうですわ! 話せばきっと言葉は通じます!」
「通じる訳ねぇだろうが。お前らはキンブリーを見て仲良くできるとでも思ったか? エンヴィーのことを心の底から許せると断言できるか?
 少なくとも、俺は絶対に許さないし認めない。殺すだけじゃ飽き足らず、あいつらは俺の仲間を侮辱した。殺す理由はそれだけで十分だ」

ウェイブにとって、彼らは駆逐するべき害虫であり到底仲良くできるものとは思っていない。
人を殺してはいけない。そんな倫理観など生きていく上で棄てなければならなかったし、そうでもしないと生きてはいけない世界だ。
セリューやクロメ程割り切れてはいないが、彼もまた正義を成す為に人を殺すことを許容しているイェーガーズだ。
平穏な日常を過ごしてきた穂乃果や花陽、黒子とは埋まらない溝がある。
彼女達の世界では殺人はタブーとされているが、ウェイブやマスタングの生きる世界は違うのだ。


809 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 01:56:45 OhVYpYas0
     
「マスタングはやり過ぎではあったけど、あいつらを狩るって意見には同意だ。野放しにしておくには危険過ぎる。
 殺せる内に殺しておいた方がいい。こっちに向かってくる敵が誰であっても、俺達に害意を向けるなら――狩るぜ」

今更の話だった。
この両手は誰かを護る為に血で濡れている。
止まることは許されないし、そのつもりもない。
その報いがいつか自分へと向けられるのなら、受け入れる覚悟もある。

「でも、私……ウェイブさんがいなくなったら誰を信じたら……っ」
「アホか。お前の周りには仲間がいるだろうが。俺なんかよかよっぽど頭もいいし思いやりもある奴等がよ」

そんな自分と比べて、彼女はまだ戻れる。
人を殺めず、誰かを悪意で陥れることなく元の日常へと帰れる可能性が残っているのだから。

「だからさ。穂乃果。お前にはそういう血生臭いのは似合わねぇよ。道中、話してくれただろ? アイドルのこと。
 人に笑顔を届けるスクールアイドル……すげぇじゃんか。
 穂乃果には俺達なんかが入り込めねぇ場所が……戦うべき場所があるんだ。無理してこっち側に入ってくることはねぇ」

高坂穂乃果とウェイブは近いようでいて、その実――誰よりも遠い。
武器を手に取り戦う青年とマイクを手に取り歌う少女。
手を取ることがあっても、横に並ぶことはない。
これ以上の言葉は不要だった。

「コロ、穂乃果を頼む。ちゃんと言うことを聞くんだぞ?」

きゅいきゅいと鳴くコロを穂乃果に押し付け、ウェイブはその場に一人佇んだ。
もうこれ以上言葉を交わす必要はない。
後は、自分に与えられた役割をこなすだけ。
この戦線を維持し、できれば自分も生き延びる。

「……大丈夫だ、死ぬつもりはない」

その言葉は本心からくるものだった。
ウェイブとて死にたくて戦っている訳ではない。
生きる算段はしっかりとつけ、準備も万全だ。
いざという時に使う切り札も残しているし、周りを気にせずに戦えるのは好都合だ。
徹頭徹尾、相手を殺すことだけを念頭に置くことができる。
背後に聞こえる足音がなくなったことを確認し、ウェイブはようやく安心して一息つく。
これで、心置きなく――修羅の顔になれる。
先程まで被っていた気さくな青年の表情は既に剥がれ落ちている。
今此処にいるのは悪を駆逐する特殊警察、イェーガーズのウェイブだ。


810 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 01:57:54 OhVYpYas0
     
「よう、馬鹿正直に来てくれるなんて大した自信だな」
「一人で立ち向かうか。無謀だな」

数分後。ウェイブの前に現れたのは一人の男だった。
筋骨隆々な体つきは視るものを圧倒させる。
男――後藤は表情を変えず、一歩ずつウェイブへと詰め寄っていく。

「無謀で結構。ともかく、ここから先には行かせねーよ。お前はここで足止めだ」
「邪魔をするか。その行動が成す意味をわかっていながら其処に立っているのなら、俺は好ましいと感じる」
「うっせぇ。お前に好かれても全然嬉しくなんかねぇよ」

大勢いた仲間も今はいない。
ウェイブは一人、腰に提げた剣を前方に掲げ、後藤と相対している。
彼の揺らぎのない双眸は何を映しているのか。
これだけでも威圧されるというのに、翳された右腕は刃物となって臨戦態勢は万全だ。

「それにしても一人、か。仲間を引き連れて来ないのか?」
「獲物が大量にいなくて不満かよ? 欲張りは良くないぜ」

イェーガーズとしての意地もある、護ると誓った少女もいる。討ち倒すと決めた悪もいる。
それらを成すには、一人で戦うことが一番適している。
つまる所、ウェイブにはそれだけの自負があったし、成してきた技量も万全だ。

(あいつらが離れたと確信できる時間を稼ぐまでは踏ん張ってなきゃいけねぇ)

分が悪いとは思っていないが、優勢だとも過信していない。
戦う上では欠かせない戦闘論理を胸に、ウェイブは此処に立っている。
負けられない。此処で自分が負けたら次は背後にいる彼女達が標的となるのだ。
今の彼らが相手に取るには、後藤は危険過ぎる。

(グランシャリオもなしに無茶するなんてよ、できればしたくなかったんだがな)

だから、彼らの中では一番十全な状態である自分が後藤を食い止める。
無様に負けて屍を晒すつもりもないし、手心を加えるなんて余裕もない。
全力で戦い、勝って彼らに追いつくのだ。


811 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 01:58:22 OhVYpYas0
     
「それとも、俺みたいな雑魚相手に戦うことなんざ嫌だって言いたいのか」
「いいや」

戦闘前の準備運動だと言わんばかりに、後藤が軽く右腕を振るい、伸びた右腕がウェイブへと迫る。
風を捻切りながら放たれた首元狙いの一撃に対して、腰に括りつけたエリュシデータを抜き撃つ。
黒の刀身が横に薙ぎ払われ、金属音が辺りへと鳴動する。

「お前はできる人間らしい」
「そうかよ。褒め言葉だっていうのに全く嬉しくねぇ」

そのまま返す形で斬り抉ろうとする触手の刃を再びエリュシデータで斬り払う。
戯れだ。ウェイブから見て、後藤は全く本気を出していない。
まるで小動物と遊ぶ幼子のように、彼は見極めようとしている。
自分が戦うに値する獲物かどうかを。

「あぁ、全く……貧乏くじ引いちまったな。こういう役割ばっかだ、俺」

――そんなの、知ったことかよ。

刹那、右腕による剣風が吹き荒れた。
縦横無尽に動く刃をウェイブは丁寧に捌いていく。
そして、捌き切った後は脚部に蓄えた加速を破裂させ、後藤へと肉薄する。
道中、振り払われた後藤の右腕はエリュシデータで無理矢理外側へとずらす。
次いで、腹部目掛けて蹴撃を打ち込んだのに、後藤は全く堪えた様子がない。
それどころが蹴りあげたこちらの足が痛いぐらいだ。

「化物かよ」

薙ぐ、払う、突く。たったそれだけの動作がこの後藤を相手に取ると至難の業にさえ思えてしまう。
ウェイブが相手にしているのは本当に人間なのか。
改めて、規格外な存在であると気を引き締め、距離を取る。


812 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:00:08 OhVYpYas0
      
「ああ、畜生。規格外過ぎるだろうが」
「もう終わりか?」
「……お前を狩ることで、終わらせてやるよ」
「そうか。ならば、命を尽くして来い。そうすることで、俺に届くかも知れないぞ」
「そこまで言うなら遠慮無く!」

この敵をこれ以上進ませてなるものか。
そう意気込み、ウェイブは再び化物へと足を踏み出した。
踏み込んだ足が土を削り、加速が全身を伝うのが感じ取れる。
金属音を表す高く澄んだ空気振動はまずは一つ。
後藤の右腕を袈裟に振るい、弾き返す。
疾走。刃が返ってくる前に、一足一刀の間合いを詰める。

「誰が右腕だけだと言った?」

当然、様々な危険種と海で戦ってきた経験からこの展開も予想はしていた。
後藤に残った左腕も右腕と同じように伸縮し、刃へと変わっていく。
完全に変質した刃はウェイブへと一直線に進むが、ウェイブは繰り出された刺突を身体を捻りながらも辛うじて躱す。
軽く掠った気もするが、大した傷ではない。今は、ただ後藤へと近づくことだけを念頭に置いておく。
左腕の攻撃範囲の更に内側に辿り着いたウェイブは体を滑り込ませる。
肘を回転させながら相手の顎へと叩き込み、流れるように蹴撃へと繋げていく。

「いい攻撃だが、痛くないな」

地を叩き、空を裂き、敵の腕を払い、足を打つ。
自分を鼓舞するべく、声を張り上げながら放つウェイブの連撃は後藤へと吸い込まれる。
だが、その効果は著しくない。
言葉でこそ賞賛しているが、その表情に翳りは見られなかった。

「……ッ! 脚も変化できるのかよッ! 本当に化物だな、お前!」
「それは褒めているのか?」
「貶してるんだよ、クソ野郎!!!」

脚部による斬撃を何とか避けながらも、ウェイブの頭の中では絶望が充満しきっていた。
勝てない。まるで超級危険種を相手にしているようだ。
どれだけダメージを与えても、それを気にも留めない敵をどうやって追い詰めればいいのか。


813 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:01:12 OhVYpYas0
     
「こちとら、早くお前をぶっ倒して、あいつらに追いつかなきゃならねぇんだ」

もっとも、諦める選択肢など最初から存在しない。
彼の所属するイェーガーズに窮地で諦める半端者など誰一人としていなかった。
信じる正義が、死した仲間達が、そして――託された言葉が。
ウェイブの想いを昇華させ、身体を動かす力となる。

「譲れねぇもん、背負ってるんだよ!」

全力で振り上げたエリュシデータが後藤の顎を打ち上げる。
続く振り下ろしで右腕を斬り飛ばし、攻撃の手を緩めない。
緩めてなるものか、倒れてなるものか。
脚部目掛けて横薙ぎに振るい、乱れ突く。後藤の身体が抉られ、飛び散っていく。

「イギーとクロメの分まで、俺が――悪を狩るっ! このまま、倒れろぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」

左腕は斬り上げと斬り下ろしで貫き、最後には腹部目掛けて全力の刺突を撃ち込んだ。
エリュシデータとウェイブの力が合わさった最高の一撃だった。
さすがの後藤もこれを受けて後方へと吹き飛び、地面を転がっていく。
土煙が舞う程の乱舞は後藤に対して、決して無視できないダメージを与えただろう。

「……倒れてくれよ、頼むからさ」

正直、これで全くダメージが通らないとなるとそれこそ、ジリ貧だ。
言葉とは裏腹にウェイブはこれで終わったとは全く思っていない。
あの化物はまた立ち上がる。更なる闘争を自分に求めるべく追い縋るはず。
今にも安堵しそうな身体を必死に抑えつけ、油断なく砂煙が収まった大地を見据える。

「今のは効いた」
「……マジ、かよ」

やはり、後藤は死んでいなかった。
何処か愉悦を感じているかのその表情は見ているだけで恐ろしい。
口元についた血は吐き出されたものだろうか、自分の一撃が通っていたことが伺える。
故に、彼はウェイブの一撃を受けて尚立ち上がれる耐久力の持ち主だと言えた。
迷っている余裕なんてなかった。ウェイブは後藤の触手が迸る前に脚を動かそうとするが――。


814 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:02:01 OhVYpYas0
        
「こういう時は……ここからが本当の戦いとでも言えばいいのか?」

斬り飛ばした四肢は後藤へと収束し、元通りになっていた。
それだけではない。両腕の刃がいつのまにかに四本へと増えている。
腕の半ばで分断された触手の数は四つ。
今までよりも更に増えた攻撃の手数にウェイブも薄ら笑いを浮かべる他なかった。
躱せない、とは言わない。だが、それは確信を持って言える言葉ではなく自分の命を犠牲にする確率を大幅に引き上げてのことだ。

「首でも掻っ切らなきゃ死なねぇのかよ。生命力が強いっていうのも考えもんだな」

それでも、ウェイブは生き残ることを諦めていなかった。
クロメの分までイェーガーズを貫き通さなければならないし、恩人に恩を返すこともまだできていない。
そもそも、此処に呼ばれていないランに自分達の辿った結末を言わずして、死ねるものか。
眼前の化物を打倒するには、途方も無い道のりを歩まなければならないことに危うく膝を屈しかけたが、もう平気だ。
今も身体は五体満足で、握り締めたエリュシデータは変わらぬ輝きを見せている。
ならば、戦える。

「一つ、聞きたい」
「何だよ。強者の余裕ってやつか? 勘弁してくれよな……」

どんな手を使ってでも時間を稼ぐ。そして、あわよくば倒す。
四の五の言ってる時間はとっくに過ぎ去っているのだ。
この化物と言葉を交わすのも嫌ではあるが、致し方ない。
まだ、時間的に考えても、マスタング達は逃げきれてないはずだ。
もっとこの化物を惹きつけなければ。
捨てるプライドなんてはなっから持っていないし、無駄死なんてまっぴらごめんだ。

「此処に来て、俺は多数の人間に出会った。男女問わず、な」

どうやら犠牲者は自分達以外にも多数いたらしい。
その過程で喪った人達もいるのだろう。
護れなかったことに腹を立てても仕方はないが、やはりやるせない。
全てを護るなんて傲慢で、限られた人しか救えないのが人間なのだから。


815 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:04:46 OhVYpYas0
      
「表情一つ変えずに俺を殺そうとする者。か弱き者と思っていたら、その実は俺に果敢に立ち向かう者」

正義を掲げていても、全てを護れる訳ではない。
いつだって理想と現実は剥離し、想定していた結末通りに事は進まない。
ウェイブだってそれぐらいは理解しているし、それを踏まえて尚軍人として戦っている。

「互いを護ろうと協力する者達」

きっと、この地獄の中でもそれは変わらない。
けれど。けれど。
少しでも誰かを救えるチャンスが転がってくるならば。
後藤のような化物に対峙する限りは、ウェイブは“イェーガーズ”で在り続けられる。

「不可解だ。力無き者が群れた所で価値はないのに」
「……力がねぇからこそ群れているんだろうが」

投げかけられた言葉はウェイブにも突き刺さるものだ。
思い返せば、この地に招かれてから数時間。
ウェイブは何も成してはいない。
自分にもっと力があれば。せめて、グランシャリオを持っていれば。
クロメもイギーも雪子も護ることができたかもしれない。

「お前と比べちゃあ、大抵の人間は弱いからな。お前みたいに強けりゃ群れる必要性は感じられねぇか?」
「俺の存在意義は闘争だ。それ以外は不純物であり、廃棄すべきものとして認識している。
 お前とて、足手まといさえいなければ、俺から逃げ切る事はできたはずだ」

恋焦がれる正義は遠い。
クロメが死んでしまった今、生きて帰った所でイェーガーズ元通りにはならない。
後藤のように、冷徹なまでの心を持っていたら、自分はこうも悲しみに浸らなくて済んだというのか。
鈍く軋んだ心は、悲鳴を上げて囁いてくる。


816 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:06:26 OhVYpYas0
       
「そうだな。理性的に考えると見捨てちまえばよかったんだ。
 ああ、わかってるっての。俺一人なら確かに逃げ延びる事もできるし、このふざけた殺し合いもそれなりに戦い抜くことも不可能じゃない。
 こうしている間にもセリューだって危ない目に合ってるかもしれねぇんだ。隊長だって…………たぶん大丈夫だとは思うけど、やっぱ心配だ」

諦めてしまえ、と。その声に対して、ウェイブはすぐに答えることが出来なかった。
戦況は不利。大人しく逃げ出せば、命は助かるが、その代わりに今も逃走を続けている仲間達に危険が迫る。

「確かに。人はお前に何もできねぇかもしれない。お前からすると群れる必要性なんてないだろうな。
 だけど、俺は人間だ、誰かと寄り添ってなけりゃあ生きれねぇ弱い奴だ。
 仲間を見捨てるなんて選択は絶対に選ばねぇ。理性的じゃねぇって我ながら思うけどな。
 けれど、それでいいんだ。弱けりゃあ助け合うのが人間なんだからよ」

けれど、同時に。
諦めるな、と。
囁いてもくるのだ。

「一人でダメなら二人、二人でダメなら三人。そうやって生きていりゃあ、明るい未来がやってくるかもしれねぇだろ?
 だから、俺は仲間を護るんだよ。今は使いもんにならなくても、いつかは立ち直って前を向く時が来るって信じてるんだ。
 俺が困った時、今度は俺が助けてもらうっていう打算もあるんだけどな」

ニカリと快活に笑い、ウェイブは剣を突きつける。
それは宣戦布告であり再確認だ。
ウェイブは青い理想で胸を一杯にしつつ、踏み出す前途の不確かさに怯える若造だけど。
自分が成したいことを選び取れる――人間だ。

「来いよ、化物。その足りねえ頭に、俺が人間の強さを証明してやる」
「化物ではない、俺の名前は後藤だ」

振り向かないと、誓った。
死んでいった彼女達の分まで、クソッタレな悪を倒して生き抜くことを。

「そこまで言うならば、死力を尽くせ。俺に食らいついてみろ。その言葉を本物にできるなら、だがな」
「ハッ、上等だ。お前の方こそ俺に食らいついてみな――ッ!」

だから、ここは奮起する所だ。
憤怒の情を燃料に、ウェイブの身体は最高潮に達している。
違えることのない想いを化物にぶつけ、踏み越えるという証明を、今此処で刻む。
絶対に、後藤には負けられない。









817 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:07:42 OhVYpYas0

「私、ウェイブさんの所に助けに行きます」

その言葉は穂乃果の口から自然と溢れ出た。
隣を走っていた花陽が目尻を悲しそうに細め、黒子は苦悶の顔つきで足を止めた。

「その言葉が成す意味をわかってますの?」
「わかっているよ、黒子ちゃん。私はわかっていて言ってるの」

黒子は逃げろと言ったウェイブの言葉を反故にする穂乃果の行動を見過ごせない。
元来の正義感もあるが、黒子の冷静な頭は彼女が行った所で何もできないことを導き出している。
戦えない少女が戦場に踏み込んで、何ができるのか。
そんな簡単なこともわからない程、彼女は愚鈍ではないはずだ。

「やっぱり……私、マスタングさんのこと信用出来ない。
 焔を操って人を甚振って、雪子ちゃんを殺して。ワンちゃんもいつの間にかにいなくなってるし……!
 もしかして、ワンちゃんのことも、マスタングさんが!」
「違うよ! マスタングさんはそんなことをする人じゃあ!」
「もうそうやって庇うのもうんざりなのっ! マスタングさんを庇う黒子ちゃんも花陽ちゃんも、私は信じられないっ!!!」

穂乃果とマスタング達の間には同しようもない確執がある。
元々、エンヴィーによって植え付けられた疑心は完全に解消された訳でもなく、依然として彼女の中の『ロイ・マスタング』は危険人物のままだ。
数分行動を共にしただけで彼女の中にあった靄は消えるはずもなく、ただ燻っていただけだった。

「変わらないよ。ここにいたって、私は全く安心できない。……どこにいたって同じなら、私は一番信用できる人の所に行く。
 ここにいるよりも、ずっと、ずっとマシな所に!」

止めなければ。黒子は能力で穂乃果を制圧しようと演算を開始するが、どうも定まらない。
ここで止めてどうする。
穂乃果の言葉を聞き、湧き上がった疑問は能力の行使を阻害する。
現状、黒子達は彼女から何の信頼も得れていない。
殺し合いに巻き込まれる前からの知り合いだった花陽でさえ、穂乃果からすると拒絶の対象だというのに。
やはり、彼女にとってロイ・マスタングはそこまで猜疑が強まった存在だというのか。


818 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:09:02 OhVYpYas0
     
(ここで彼女を止めて、どうするんですの? 疑惑はますます深まって、もう修復できないくらいになってしまうのでは?)

彼女を止めることが正解だとはわかっている。けれど、正解が最良を運ぶとは限らない。
取り返しの付かない結末になる可能性だってある。
白井黒子は聡い少女だ。聡いが故に、起こってしまうかもしれない最悪を考えてしまう。
その躊躇が行動を遅らせる。

「コロッ! お願い、私をウェイブさんの所に!」
「しまっ……!」

能力の行使よりも先に、コロの巨大化が完了してしまった。
そして、穂乃果の横にいた小動物が一瞬にて大きくなり、彼女を乗せ疾走しようと咆哮を上げる。

「ホノカッ!」
「来ないで……人殺し!!」

切迫し、手を差し伸べるマスタングの顔も穂乃果にとっては何の意味もなさない。
人を燃やす悪魔の手。阻むもの全てを灰燼に帰すその右手は、穂乃果の手を取るには至らなかった。
安心を促すマスタングの声も彼女には全く届かない。
そのままの勢いでコロは反転し、瞬く間にマスタング達から離れていく。

「不味いですわ、追いかけなければ!」
「……追いかけて、どうするっ! 今の私達が追いかけたとて彼女は聞く耳を持たんぞ!」
「見捨てるんですの!? それこそ、彼女の言葉通り人殺しに……っ!」
「ハナヨを置いて行ける訳が無いだろう! あの速度を今から追いかけても追いつかん!!!
 闇雲に逃げてきた私達は、ウェイブとホノカが何処にいるのか正確にわからないんだぞ!?」

正しいことはわかっていたはずなのに。
どうして、こうもうまくいかないのだろう。
三者三様ではあるが、訪れた崩壊に誰もが心を乱している。

「…………今のハナヨを放置できん。それに、別の敵が今襲ってきたら、私達は一網打尽に殺される」
「私、わた、し……」

冷静に考えた結果が、高坂穂乃果を見捨てることに繋がるのはマスタングだってわかる。
ここで彼女を助けに行って好転するとは全く思えない。
軍人としての自分は見捨てろと判断を下している。

「私だって、助けられるものなら助けたい」

ロイ・マスタングとしての自分は何を置き去りにしても助けに行かなければと囁いているのに。
護ると誓った少女の死、仲間を誤って焼殺させた事実。
幾つにも重なった重りが、彼の動きを阻害している。
こんな様では誰も救えないとわかっていながらも、マスタングは動けなかった。









819 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:11:03 OhVYpYas0
    
「は、はは……キッツイな……」

戦闘が始まってどれだけの時間が経ったのだろうか。
もはや最初に見せていた余裕はなく、頬には汗と血が滴り落ちている。
肩で息をしながらも、ウェイブは後藤の触手による連撃を躱し続けていた。
それは確かな技量とスタミナがなければ出来ない行為であり、これだけでも賞賛に値するだろう。

「そんだけ動いて、汗もかかねぇとか、ありえねぇっての」

しかし、戦況の天秤は圧倒的に後藤へと傾いていた。
傍から見れば互角の戦いではあったが、スタミナによる差が開くにつれて徐々にウェイブの防戦一方となってしまった。
近づいて斬ろうが突こうか、後藤の身体は何度でも再生をする。
ダメージを与えてもか、動きが全く鈍くならないのだ。
ウェイブには後藤を殺す決め手がない。
彼を一撃で葬れる武器がないことが、ここに来て仇となっている。

「お前もよく粘る。剣一つでここまで食らいつくとは思ってもいなかった」
「そりゃあ、鍛えているからな。お前みたいな化物をぶっ殺す為に、な」

火力不足とスタミナの差。
たった二つの要素がここまで戦いを歴然とさせるのか。
マスタングのような超火力があればともかく、現状のウェイブでは後藤を殺すことは不可能だ。
やはり、マスタングに任せるべきだったのか。
だが、今のマスタングに戦ってくれと懇願するのはあまりにも無謀に過ぎた。
不安定な精神状態で焔を操れるのか。
仲間を誤殺した重みを理解しながらも躊躇なく相手を焼き殺せるのか。
そもそも、出会って少しといった共闘の短さもあって、ウェイブはマスタングのことを何も知らないのだ。

「仲間の為に捨て石になる覚悟か。やはり、俺には理解できんな」
「言ったろ、理解なんて求めちゃいねぇって。それとも、理解したいとでも思ったか? そいつは傑作だな」
「そこまで信頼できる仲間なのか?」

ただ一つわかるのは、誤って殺したことから逃げなかった。
もっとも、ウェイブが仲間達を任せる理由など、それだけで十分である。
人を殺す重みを理解した彼ならば、重要な戦力となってくれるはずだ。


820 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:13:13 OhVYpYas0
      
「当たり前だ! 出会ってから全然時間も経ってねぇけど、俺にとっては大切な仲間なんだよ!!!!」

絶対に護る。マスタングの苦悩が、黒子の正義感が、花陽の憂いが、穂乃果の直向きさがこんな化物の食い物にされていいはずがない。
彼らの行く末を少しでも明るくする為にも、ウェイブには退けない理由がある。

「だから、俺は――此処にいる。という訳だ、もう少し付き合ってもらうぜ」
「どうやら、目は死んでいないらしい。これなら、まだ楽しめそうだ」

しかし、冷静な考えから顧みると、既に勝敗は決している。
自分が後藤を打倒する確率は限りなく零に近い。
そんな状況で戦うのは犬死であるし、何より命を粗末に扱うことはウェイブ自身嫌悪感を覚える。

(潮時、か。これ以上戦っていても勝ち目はない。時間もきっちり稼いだし、後は逃げるだけなんだが)

ウェイブとしては倒すべきである悪を放置するのは遺憾ではあるが、自分が死んでしまっては元も子もない。
無闇に命を散らすのは彼自身望むことではないし、勝機がないなら撤退すべきだ。

「……なのに、なんで俺はまだ戦っているんだろうな」

一秒でも長く、後藤を此処に食い止めておきたい。
けれど、もう逃走にかからなければ自分の命が危うい。
意地を張り続けるにはそろそろ限界が近づいている。
脚は鉛のように重く、がくがくと震えているし、剣を握る腕は今にも垂れ下がりそうだ。
チャンスはあまり残されていない。
動くなら、今だ。

(あいつらも無事だといいんだが……!?)

ウェイブは逃走するべく切り札に備えていた奥の手を取り出そうとした瞬間。
予想にしていなかった光景が目に飛び込んできた。


821 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:14:04 OhVYpYas0
      
「コロっ! あの人をやっつけて!!」

何故、彼女が此処にいる。
コロに乗って、高坂穂乃果が目尻に涙を浮かべながら、真っ直ぐとした視線を後藤へとぶつけている。
この時、ウェイブは自分が何を叫んだのか覚えていない。
来るな、だったのか。それとも、逃げろ、だったか。
コロから下りてこちらへと駆け寄ってくる穂乃果の姿に、ウェイブはどんな情を思い浮かべたのだろうか。

「……新手か」

巨大化したコロが後藤を殴りつける。
後藤は突然の奇襲に全く予想していなかったのか、きょとんとした表情をしながら吹き飛ばされていく。

「ウェイブさん、大丈夫ですか!」

後藤を退けたことで安心したのか、穂乃果は顔を綻ばせてへたり込む。
慣れないことに心の堤防が壊れたのだろう、表情には安堵の感情が浮かんでいる。
そして、吹き飛ばされながらも振り切られた後藤の右腕に気づかずに、彼女は緩みきっていた。

(……待て、よ)

これ以上、仲間を失えというのか。
目の前で死んでいく仲間をただ見ていることしか出来ないというのか。
ふざけるな。喉元までせり上がった血反吐を吐き出し、ウェイブは走り出す。
体力はとっくに底をつきている。自分一人で逃げればこの窮地は確実に乗り切れる。
先程と同じく、諦めてしまえと囁き声が聞こえてくる。
その囁き声に対して、今度は即座に応えることが出来た。

「諦める、訳、ねぇだろうが!!!!!!!!」

諦めない、絶対に。
疾走する、直走る。
絶望を吐き捨てて、希望を掴み取る。
心に灯った焔を燃やし、穂乃果の元へと舞い戻る。
疲弊した身体とは思えないスピードでウェイブの身体は風の如く大地を駆け抜けた。


822 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:15:40 OhVYpYas0
    
「汚い手でっ、俺の仲間に触るんじゃねぇよ!!!!!」

そして、穂乃果へと伸びた後藤の右腕をギリギリの所でエリュシデータで叩き落としながら、ウェイブは吠えた。
後藤も追いつくとは思っていなかったのか、目を見開いて呆然としている。
これが人間だ。想いを貫く為ならば、限界以上の力だって出せるのだ。

「……今は退く。けれど、次は必ずお前を狩る」

コロを即座に呼び寄せ、ウェイブはポケットから取り出した円の形をした物体を取り出し、大声で叫ぶ。

「俺達を飛ばせ、シャンバラ!!!!」

瞬間、ウェイブ達の足元に太極図が照らし出され、彼らの姿を隠していく。
後藤が態勢を立て直し、駆けつけた時には既に遅く、彼らのいた痕跡は何も残されていなかった。
獲物を取り逃したことに、苛立ちはある。
だが、次だ。次こそは、ウェイブ達をこの手で殺す。
表情は変わらなかったが、その内心に宿る意志には焔が灯っていた。












消えたウェイブ達は民宿へと姿を移していた。
純和風の建物はウェイブからしてみると未知の領域であり、入ることに些か戸惑いを覚えたが、外にいるよりはマシだ。
恐る恐る入り、その中にあてがわれた一つの和室へと穂乃果を連れて行く。

「何とか、乗り切れたか」

戦闘の疲れがどっと出たのか、部屋に入るなりウェイブはどっかりと腰を下ろす。
暫くは体力の回復を兼ねて、この民宿で足止めだろう。


823 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:16:45 OhVYpYas0
    
「穂乃果、無事か? 痛いとことかねぇよな?」
「は、はい……その、さっきのは……」
「ああ。シャンバラっていう帝具の力だ。俺も使うのは初めてだから戸惑ってるんだが、まあ上手くいってよかった」

次元方陣シャンバラ。一定範囲の人間を別の場所へ飛ばす帝具であり、ウェイブが逃走のアテにしていた奥の手だ。
映し出された太極図は民宿へと彼らを跳ばしたのである。
イギーのデイバッグに入っていた所を、万が一の為にくすねておいて本当に助かった。
これがなければ穂乃果共々、後藤に殺されていただろう。
逃走の手段のアテがあったからこそ、ウェイブはギリギリまで戦い抜くことができたのだから。

「さてと、どういうことか説明してくれるか? なんで、俺を助けに来たのか」
「……っ」

逃したはずの仲間が自分を助けに来た。
だが、助けに来たのは穂乃果一人。
マスタング達はどうしたのか。
何故、自分の元へと駆け寄って来たのか。

「あの、私……」
「落ち着いてゆっくり話せ。別に急がなくても、俺は逃げねぇから」

その言葉を皮切りに、穂乃果は意を決したのかつらつらと話し始めた。
マスタング達のことが信頼できず、逃げ出したこと。
信じれるのがウェイブだけで、もしも死んだらと考えてしまい、居ても立ってもいられなくなったこと。
その後も彼女の中に内包していた不信、不満が一気に溢れ出した。
自分でも何を喋っているのかわからないぐらい、穂乃果は溜まっていた言葉を涙混じりでウェイブにぶつけてしまった。

「……それで、最後か?」

きっと、怒られる。
お前のせいで皆に迷惑がかかった。
ウェイブだってここまで自分がどうしようもないと見捨てるかもしれない。
穂乃果の心中は、もう諦観で乾き切っていた。
誰も信じられず、かといって害意を以って殺すこともできない中途半端な自分。
彼にも呆れられてしまう。そう、思っていた。


824 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:17:54 OhVYpYas0
     
「まあ、言いたいことは色々とあるけど。とりあえず、さ。助けてくれて――ありがとな」
「……えっ」
「穂乃果がいないと、俺も変な意地を張って、死ぬまで戦うなんてバカなことしてたかもしれない。
 だから、お前が来てくれて……俺は冷静になれた。自分の状況を客観的に見ることができた。
 言っておくと、本心だぜ? お前が来てくれてよかったって本当に思っているんだからな?」

しかし、ウェイブの口から出た言葉は穂乃果に対しての感謝だった。
思わぬ言葉に面食らったのか、穂乃果の表情もきょとんとしている。

「あんまり、気にすんな。俺なら大丈夫だからさ」

最初に言わなきゃいけない言葉は、別にある。
あの時、穂乃果は一歩間違えていたら確実に死んでいた。
彼女のような一般人が死地に立ち入るなど、ウェイブからすると考えただけでも顔の表情が渋くなる。
そして、ここに来たといことはマスタング達と一悶着したのだろう。
もし、その影響で彼らに迷惑がかかったとなれば、穂乃果に対して、もっときつく言うべきなのかもしれない。

「俺がもっと、穂乃果のことを気にかけるべきだったな。
 マスタング達のことがお前をそこまで追い詰めるなんて、思っていなかったんだ。
 俺が大丈夫なんだから穂乃果も大丈夫だって勝手に思い込んでいた。
 気づけなくて……ごめんな。お前が気に病むことじゃないんだ、これは俺が背負うべき問題だからよ」

けれど、涙を流しながら自分に縋る穂乃果の姿を見て、ウェイブは言えなかった。
勇気を出して立ち向かいはしたが、内面は酷く脆い彼女に現実を突きつけられる程、強くなかった。
穂乃果がどれだけ思い詰めていたか、彼はきちんと把握していない。
これは、仲間を注意深くケアできなかった自分の怠慢だ。
もっと穂乃果のことを気にかけていれば、このような事態は起こらなかったのかもしれない。
自分と違い、彼女は争いを知らない一般人でちょっとのことで怯える少女なのだから。

「それに、時間も十分に稼げたし、あいつらも逃げ切っているはずだ。
 今度あいつらと会った時は、お前が何を想ってこんなことをしたのかきちんと言ってやるからよ。
 な? だから、深く思い詰めるなって。そんな泣き腫らさなくても、俺が庇ってやる。だから、安心しろ」

これだから自分はいつまで経っても軍人の癖に甘いと言われるのだろう。
甘やかすことが彼女の為にはならないとわかっていながらも、手を差し伸べてしまう。
彼女の選択が一歩間違えていたら大惨事になっていたかもしれない可能性を、ひた隠す。

「俺がもっとしっかりしていれば、こんな怖い目に合わずに済んだのによ。
 あぁ、畜生。隊長みたいには、上手くいかねぇや。情けねぇったらありゃしねぇ」
「ちがう、ちがうよぉ!」

なおも泣き縋り、小さく震える穂乃果を見て、やはり自分の失態だと再確認した。
何故こんな状態になるまで放っておいたのだ。
マスタング以外にも怯え悩んでいる仲間はいたというのに。
地面に崩れ落ち、額をべっとりとつけ、悔やむように呻き声を上げる。
藻掻き苦しみ、逃げようとするかのように。涙混じりの声がウェイブの耳へと直走る。


825 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:18:32 OhVYpYas0
      
「私が、ウェイブさんの言うことをちゃんと聞いていたらよかったの! 悪いのは、私で……っ!
 ごめん、なさい、ごめんなさい、ごめんなさい…………っ!」
「もう泣くな。穂乃果が後悔してるのはよくわかったから。そういう重っ苦しいのは、俺に押し付けとけって。……仲間、だろ?」

何を信じたらいいのか。何を成せば救われるのか。
穂乃果の中に内包されていた負の感情は、もうどうにもならないぐらいに広がっていた。
憎しみなのか、哀しみなのか、恐怖なのか。
涙で濡れた頬は、少女の迷いを痛いぐらいに表していた。

「それに、謝るのは……やっぱ俺の方だ」

そんな少女に、ウェイブは表情を陰らせて答えを返す。
肩をすくめ、憔悴した面持ちで罪悪感を多分に含んだ言葉を紡いでいく。

「きっと、俺は穂乃果やマスタング達のことを……クロメの代わりだと思っていたんだ。
 護れなかったから、救えなかったから、代わりに救うことで自分を納得させようって。
 そんなことをしても――クロメは戻ってこないのに。俺があいつを救えなかったことは変えられないのに……っ!」

高坂穂乃果に対して、自分は誇れる人間ではないと断ずることができるだろう。
ウェイブが心の底から助けたくて、護りたかった少女はもう何処にもいないのだから。
ボルスが死んだ後、弱々しい身体を精一杯奮い立たせて見せてくれた笑顔を忘れない。
嘘にしないと誓ったのに。彼女が何時の日か笑えるようにと剣を取ったのに。

「だから、俺は穂乃果に誇れる奴じゃねぇんだ。穂乃果が思っている程、尊敬されていい存在じゃ……」
「そんなこと!!! そんな……こと、ないもん!!!」

けれど。こんな自分でも救えたものがあったのなら。
今も泣き止まない少女に突きつけられた肯定の言葉は、ウェイブにとっては紛れも無く救いだった。

「ウェイブさんがクロメさんと私を重ねていても、私にとってはウェイブさんはたった一人助けてくれた人でっ!
 代わりでもいいっ! 私を許してくれて、ありがとなって言ってくれたウェイブさんが少しでも救われるなら、それで!」

自分の右手を迷い無く握る穂乃果に、ウェイブは何ができたのか。
その役目は自分でなくても成せたのではないか。
自分のやったことなんて誰にでもできる。
幾ら考えても、正しいと確信できる選択肢は思いつかなかった。
ただ、ほんの少し。握られた手を握り返す。


826 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:19:39 OhVYpYas0
    
「けど、それだけで……」
「たった『それだけ』が……私にとって、すごくっ――嬉しかったんです」

その言葉が胸に詰まっていた重りを幾らか軽くしてくれたことは、確かだった。
握られた手に少しだけ力が込められた。
触れ合っている手からは穂乃果の体温が伝わり、戦いでべっとりとついた汗が二つの掌で絡まっていく。
近くて遠い。そう、証した二人は今は横に並んでいる。
この瞬間だけは――二人は互いをしっかりと認識していた。

「そっか……俺、護れたんだな」

朝焼けが溶けていく空が窓から見えている。
ウェイブの疲弊した身体は穂乃果を押し退けること無くなされるがままとなっていた。
胸に頭を寄せる彼女を払うこともなく、ただ――窓から見える空に視界を移す。

「俺、救えたもの、あったんだな」

未だ屍人形として殺戮を続けているクロメも、同じ空の下で流離っているのだろう。
そのことを考えると、心に怒りと痛みが押し寄せてくる。
未だ吹っ切れた訳でもなく、悲嘆に狂うでもなく。
どちらにも寄り切れない自分はどうしたらよかったのか。
ふと見た右手は血と泥で汚れていて、こんな手じゃあクロメも握ってくれないと微かに思ってしまったことに、嫌悪した。


827 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:20:26 OhVYpYas0



【D-7/民宿/1日目/早朝】



【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)
[装備]:練習着
[道具]:基本支給品、鏡@現実、幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、魔獣?化ヘカトンケイル@アカメが斬る!
     コーヒー味のチューインガム(1枚)@ジョジョの奇妙な冒険スターダストクルセイダース、イギーのデイパック(不明支給品0〜1)
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す。
0:ウェイブの後悔を無くしたい。
1:音ノ木坂学院へ向かう。
2:ウェイブと一緒に行動する。
3:ワンちゃんはマスタングが殺した?
4: マスタング、黒子、花陽に対して不信
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※イギーを「ただの犬」だと思っていましたが認識が変わってきています。
※イギーの名前を知らず、「ワンちゃん」と呼んでいます。
※『愚者』を見ました。
※幻想御手はまだ使っていません。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※イギーをマスタングが殺したと疑っています。



【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、左肩に裂傷、怒り、悲しみ、無力感
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!(六時間使用不能)
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。
0:悪は狩る。仲間を殺した奴等には落とし前をつける。
1:他参加者(工学に詳しい人物が望ましい)と接触。後ろから刺されぬよう、油断はしない。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:首輪のサンプル、工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:仲間たちとの合流。
6:今後の方針を固める。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。

【次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!】
一定範囲の人間を予めマークした地点へと転送する帝具。一度に転送できるのは2〜3人程度で大量のエネルギーを消耗するため連発はできない。
予めマークされている地点は地図上の名前あり施設。
今回は六時間に一回しか使えない、飛べる場所はランダムであり、指定できないといった制限が課せられている。
奥の手は相手をランダムで何処かへと飛ばしてしまうもの。



【B-7/東/1日目/早朝】



【後藤@寄生獣】
[状態]:両腕にパンプキンの光線を受けた跡、手榴弾で焼かれた跡、疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、不明支給品1〜0
[思考]
基本:優勝する。
1:泉新一、田村玲子に勝利。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)
3:セリムを警戒しておく。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※首輪や制限などについては後の方にお任せします。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※凜と蘇芳の首輪がC-5に放置されています。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。


828 : どうかこの手を握りしめて ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:20:44 OhVYpYas0



【C-7/1日目/早朝】



【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)不安、恐怖心、吐き気、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません)
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ 、スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す。
1:思考停止。
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後



【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(中)、無力感
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、スピリタス@ PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春さんなどの友人を探す。
0:どうしたらよかったのか、もう訳がわからない。
1:出来るならばみんなのフォローに回りたい。
2:エンヴィーは倒すべき存在。
3:御坂を始めとする仲間との合流。
4:マスタングに対して――
[備考]
※参戦時期は不明。



【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、左肩に穴(止血済み)、両足に銃槍(止血済み)、無力感、けれど覚悟は揺らいでいない
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、即席発火手袋×10
[道具]:ディパック、基本支給品
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:――ッ!
1:エンヴィーを殺す。
2:エドワードと佐天の知り合いを探す。
3:ホムンクルスを警戒。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。
※即席発火手袋は本来のものに比べて材質や作りが劣るため使い捨てとなっています。


829 : ◆uymGKVHlXU :2015/06/24(水) 02:21:06 OhVYpYas0
投下終了です。


830 : 名無しさん :2015/06/24(水) 08:14:42 G8NW42oQ0
投下乙です
ウェイブさんから迸る圧倒的な主人公力……!帝具なしで後藤と渡り合うだけでもヤバいのにまさか逃げ切るとは
異能や特別な出自のない、鍛えているとはいえただの人間だからこその言葉も重い
人間だからこそ、誇りを持って人間ではない後藤と対峙する。もうカッコ良すぎでしょこの人
さりとて完璧超人というわけでもなく、クロメを失った喪失感を穂乃果たちで代替していたという弱さも見せる
ウェイブというキャラクターを見事に描き切っていて、とても面白かったです


831 : 名無しさん :2015/06/25(木) 00:09:37 /kF0J5oQ0
すみません、◆uymGKVHlXU氏
議論スレの方に指摘がありましたので確認お願いしてよろしいでしょうか?


832 : 名無しさん :2015/06/27(土) 00:00:03 ChQGUmA60
議論スレの方では既に話は挙がっていましたが、本日より第一回放送候補話の募集を開始しようと思います。
選考方法はコンペ方式で、
募集期間に関しては、今日から7月4日AM0:00までの計7日間です。
候補話については仮投下スレに投下してください。
7月4日AM0:00時点で執筆中の未完成の候補作がある場合は、事前に本スレもしくは予約スレの方で申請さえして貰えれば、最長で7月7日AM0:00まで延長可能です。
禁止エリアに関しては、候補話作中で自由に描写してもらって構いません(3ヶ所)。
自信のない場合は、募集期間中なら候補話投下後に決めて貰っても問題ありません。
この予約期間中でも非放送候補話以外の作品投下及びキャラクター予約は可能です(前述の予約を行った場合は場合は、7月4日か延長の7月7日までに投下を行わない場合は自動的に予約破棄扱いになりますのでご注意を)。


833 : ◆QO671ROflA :2015/06/30(火) 20:40:09 Xh.oapYY0
投下します


834 : アンバーリファイン ◆QO671ROflA :2015/06/30(火) 20:41:26 Xh.oapYY0
ノーベンバー11が、この突飛な殺し合いへの参加を強制されて以来、ここまで疲労感を覚えたのは初めてのことだった。

「ここらで一度休んだ方がいいんじゃないか?」

先に対峙した佐倉杏子の支給品・猫(マオ)は、ひたすら足を進める彼に語りかける。
確かに、ここ数時間の彼の辿った苦労を考えてるだけでも、相当に感慨深く感じる。
しかし、彼はその足を止める事はなかった。
当然、彼にも思惑はあった。ましてや彼は何より合理性を重んじる“契約者”である。





ノーベンバーは佐倉杏子を氷漬けにして足止めした後、彼女の支給品であり生前、度々目にする事のあった猫(マオ)から自身の死後に“何”が起きたのかを聞かされていた。
それにも驚愕はしたが、更に彼を驚愕させたのはノーベンバー宛てに支給された地図の右端に記載された“あの表記”の存在だった。

“地獄門(ヘルズ・ゲート)”

間違いなく“それ”は日本の東京都心部に存在していた筈だ。
しかし明らかに“ここ”は東京ではない。
空には若干雲は出ているものの、星空が広がっており、明らかに生前に何千回と見た偽りの星の覆われたあの空とは異なっていた。

ノーベンバー11はふと考える。
当然、この異常事態に察し、行動を起こす契約者は相当数居るだろう。
必然的に、それらの契約者は地獄門を目指す筈だ。現に自分もそうしようとしていた。
自分が認知出来る限りで、この殺し合いへの参加を強制されている契約者は猫の語った「黒(BK201)」・「銀」・「蘇芳」。「魏志軍」という名前もMI6の事件資料にて見聞きした事がある。
おそらくこの4人は、よっぽどの事でもない限りは地獄門を目指すものと、そうノーベンバーは目星をつけていた。
つまりは彼ら4人よりも早く地獄門に先回り出来さえすれば、間違いなく状況は有利に進むだろう。
そうともなれば、ノーベンバー11はすぐさま地獄門へと足を進めた。
ただでさえ現在位置が掴めない状況だったが、逆に先回りされる方が厄介だ。





そのノーベンバー11の行動は功を奏する結果となる。
彼がデイパック片手に走り続けて、まず発見した施設は「コンサートホール」。
支給された地図の座標に例えるならD2に当たるポイントである。
対する地獄門は地図の右上端であるH1。距離としてはそう遠くはない。

彼はコンサートホールを尻目に地獄門へと足を進める。
その間、猫(マオ)は何度か話しかけてきたが、ノーベンバーは殊更に無視し、ひたすら小径を駆け抜けた。
既に佐倉杏子との戦闘で体力を一気に消費している彼にとっては、危険な状況下だからこそ隙を見計らって休息を取り、いざという時に万全の態勢で臨めるコンディションを維持する事が重要事項の筈ではあったが、事態は刻一刻を争う。
この殺し合いが始まってから相当な時間が経過している。
もしかしたら既に、自分と同じ事を考えた契約者が地獄門で陣取っている可能性も否定は出来ない。
そんな本能的な猜疑心が、無意識にノーベンバーの歩調を更に速めていた。
尤も、結果としてそれはただの杞憂であり、最も地獄門に近い地点にいた魏志軍が武器庫へと移った時点で地獄門から最短距離にいる契約者は正真正銘ノーベンバー11であったのだが。


835 : アンバーリファイン ◆QO671ROflA :2015/06/30(火) 20:42:06 Xh.oapYY0
「…」

立ち眩みにも似た感覚を覚えて、彼はようやく歩調を緩めるに至った。
やはり先の戦闘の疲労は早いタイミングで消化すべきだ。
まずノーベンバー11にとって最大の武器になるであろう飲料水は残り僅かとなっていた。
地図上における地獄門の最寄りの施設《潜在犯隔離施設》・《能力研究所》・《ロケット》のどこかしらで水を調達しなければ、ベストコンディションで陣取る事はほぼ不可能と言える。

「大丈夫か?」

そんな現状も顧みず、デイパックからひょっこりと顔を出す猫(マオ)は彼を気遣う。

「とりあえず地獄門までは真っ先に向かいたかったが、どこかで休息を取るべきかな」
「そうした方がいいんじゃないか?」

猫(マオ)の面持ちを見るに、真意にノーベンバーを気遣っているように思えた。
ノーベンバー11は、「ふぅ」と一筋の溜息を付き、施設の散策に取り掛かった。





施設の発見は比較的容易なことだった。
鬱蒼とした平坦な地形を抜け、そこより直線距離にして数百メートル先に見えた一筋のおぼろげな光は、どうやらその施設が出処らしい。
墨汁の如くねっとりと行く手に広がる暗闇の中、その光は異様に目立って見えた。
ノーベンバーは早速、その施設へと向かう。
その施設の正体はどうやら例の三つの休養地候補の一つである《潜在犯隔離施設》に間違いはないようだ。
あの光の光源であろう滔々とした潜在犯隔離施設の入口から漏れる妖艶な灯りは、まるで彼を中へと引き込まんとしているかのように思えた。
極度の疲労は、確実にノーベンバーの思考を鈍らせていた。

もしかしたら、この施設の中では誰かが他の参加者を殺そうと待ち構えてるのではないだろうか。
もしかしたら、自分よりも早くあの佐倉杏子がここに到着して、自分を殺す隙を伺っているんじゃないだろうか。
あの年齢であれだけの多節棍の槍を悠々と操っていた程の少女だ。
いくら足場を氷で固めようとも、その気になれば脱出は容易だろう。
そう言えば、佐倉杏子の支給品である猫(マオ)もあれ以降、異様なまでに大人しくなり、今となってはまるで話そうともしなくなった。
もしかしたら、猫(マオ)は予め佐倉杏子との何らかしらの連絡手段を持っており、自分が地獄門への道を急ぐ間に連絡を取っていたのではないか。

答えの出ない思惑のループに、形のない苛立ちを懷き始めたノーベンバーはようやく決心を決め、入口の自動扉の前に立った。
しかし自動扉は開かない。どうやらセンサー機能が点で機能していないらしい。
ノーベンバーはそっと爪を立て、アクリル製の自動扉をこじ開けた。

ガシャン。
自動扉は予想以上に頑丈であり、ノーベンバーの力加減のミスによって、その轟音が辺り一面に響き渡った。当然周りは夜特有の静けさが広がっており、そのドアの衝突音は想像以上に響き渡る。

「お前、本当に大丈夫か?」

人の苦労も知らずに、どこまでも勝手気ままな猫(マオ)の言いように、彼は呆れて溜息を付いた。

「至って健全さ」

口元を歪めながらも、彼は彼なりに優雅に振舞ってみせた。


836 : アンバーリファイン ◆QO671ROflA :2015/06/30(火) 20:42:57 Xh.oapYY0
その後も施設内を散策するノーベンバーと猫(マオ)だったが、彼らにも徐々に分かって来た事実があった。
この潜在犯隔離施設。「潜在犯を隔離している施設」という事は名前のニュアンスから理解出来るが、何処を見ても潜在犯は誰一人いない。
ただ所々にロックの掛かっていない意味を持たない障壁が聳え、それによって通路が仕切られている。少し大きめのフロアに出ると、防弾ガラスと鉄格子に覆われている牢屋が何個か見受けられたが、中を覗いても『潜在犯』らしき人影は見受ける事が出来なかった。

内心、寧ろ人影なんてない方が良いと思っていたノーベンバーではあったが、不意に彼のすぐ背後にそれは現れた。
周囲の物陰からウィーンという何かが移動する音が耳に入ったのだ。
ノーベンバーは反射的にデイパックに手を伸ばす。

「オイ!!」

どうやら間違えて飲料水入りのペットボトルではなく、猫(マオ)の尻尾を掴んでしまったらしく、さっきまで黙り込んでいた猫(マオ)も思わず声を上げていた。

「これは失敬」

ノーベンバーは平謝りしながらも、今度こそ飲料水を手に取った。
奴が自分を狙っているなら、まずは下手な追跡はせず、次に様子見に来るだろう奴を確実に仕留めるのが最善策とノーベンバーは考えた。
相手が自分の視界から消えた方角の死角に陣取った彼はすぐに飲料水入りのペットボトルの蓋を緩める。
万が一、これで仕留められなかった時は自身の最大の攻防武具に成りゆるインクルシオを再装備するのが必然化するだろう。ただ、そうなれば彼の体力はもう持たない。
ここは何としてでも一撃で仕掛けなければならない。
そんな不安がうやむやにノーベンバーの脳裏を過る。
時間の経過と共に彼の額からは夥しい量の汗が流れ始めていた。
そんな緊迫した現状であったが、一匹の能天気な猫に憂いなどは更々なかった。
全く動けずに佇むノーベンバーを尻目にバックから悠々と飛び出したその猫はその影を追って走り去っていった。

(まさか本当に佐倉杏子と内通していたのか!?)

流石のノーベンバーにとってもこの猫(マオ)の行動は不意打ちに等しく、彼も猫(マオ)よろしく謎の影を追うしか術はなかった。


837 : アンバーリファイン ◆QO671ROflA :2015/06/30(火) 20:43:47 Xh.oapYY0
何度も曲がり角が交差する廊下を抜け、到頭ノーベンバーと猫(マオ)はその影を追い詰めるに至った。
追い詰めたというよりは誘導された形に近かったが、結果的に追い付いたという事実に変わりはない。
その影を追い詰めたその一室は、部屋一面が黒一色の晦冥に覆われ、所々に青々とした仄かな光が目に入った。
ただでさえ見通しが効かぬ闇の中、ノーベンバーはその影に歩み寄る。
ちょうど“それ”のうっすらと全貌が見え始めたその刹那、部屋の灯り以上に散目される赤々とした閃光がノーベンバーの目を照らした。
一瞬で目を覆ったが、どうやらその光はパトカーなどで良く見かける回転灯のように思えた。
やがて時間の経過と共に徐々に目が慣れて行き、その赤光がその光源の全貌を表していく。
そして、その正体は彼の予想に反する“モノ”であった。
どうやらそれは人間ですらなく、如何にもマスコットのような風貌をしたロボットのようだった。

「これ、何だ?」

そのマスコットのようなロボットを尻目に、周囲の物陰から猫(マオ)は声を上げた。
遠目で見るに、それはこの部屋に入った時にうっすらと見えたあの青白い光源あたりの話であるらしい。
ノーベンバーは、マスコットが回転灯を回すのみで、その場から動かない事を確認し、猫(マオ)の元へ向かう。

その猫(マオ)の語った「これ」の正体は随分と機械的な銃床のようだった。
見た限りでは銃床は3つあり、どれも挿入口のような部分に銃口が収められている状態にあった。
ノーベンバーは不意にその銃床に手を掛ける。

「携帯型心理診断・鎮圧執行システム、ドミネーター起動しました。
ユーザー認証、ノーベンバー11。本実験参加ユーザー。使用許諾確認。適正ユーザーです。
現在の執行モードはノン・リーサル・パラライザー。
落ち着いて照準を定め、対象を無力化してください」

突如として機械音を発したその機械的な銃に、ノーベンバーは困惑を隠せない。
しかし、ノーベンバー11は、そのまま隣の銃床にも手を掛ける。

「携帯型心理診断・鎮圧執行システム、ドミネーター起動しました。
ユーザー認証、ノーベンバー11。本実験参加ユーザー。
エラー。
ドミネーターは1ユーザーに付き1挺までと使用許諾によって定められています。
トリガーをロックします」

その銃は最初に手に取った銃とは異なり、手にする以前から点灯していた青々とした光まで消えてしまった。
さっきの銃から流れた女声の機械音が正しいのなら、この銃を所持出来るのは1人につき1挺までらしい。
ノーベンバーはその銃を再び挿入口に仕舞おうとする。
しかし、どうやら挿入口は閉じてしまっているようだ。
ノーベンバーはその銃をそこに置いたままにする訳にも行かず、その機能しない1挺の機械銃を自身のデイパックへと仕舞い、依然として機能を続ける最初の機械銃を手に取った。

「オイ、あれはどうしたんだ?」

その猫(マオ)の言葉でノーベンバーはようやくあのマスコットのような小型ロボットがその部屋から出て行ってしまった事に気付いた。

「はぁ、一体どうしたものやら…」

ノーベンバーは溜息を付きながらも、再びあの小型ロボット──ドローンを追うべく、廊下を駆け出すのであった。


838 : アンバーリファイン ◆QO671ROflA :2015/06/30(火) 20:45:48 Xh.oapYY0
【F-1/潜在犯隔離施設/1日目/早朝】


【ノーベンバー11@DARKER THAN BLACK黒の契約者】

[状態]:インクルシオを装備した事による疲労(大)、黒にエイプリルを殺された怒り?
[装備]:猫@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、ドミネーター@PSYCHO PASS-サイコパス-
[道具]:基本支給品一式(飲料水一本消費済み)、狡噛のタバコ&ライター@PSYCHO PASS-サイコパス-、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!、ロックの掛かったドミネーター×1@PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考]
基本方針:契約者として合理的に判断し行動する。今の時点で殺し合いに乗る気はない。
0:ドローンを捕まえる。
1:地獄門を目指す。その過程で拠点を確保する。
2:水が手に入る施設を見つける(見つからない場合は川の流れるエリアを目指す)。
3:参加者と接触し情報を集める(特に黒、銀、蘇芳)。
4:極力戦闘行為は避け、体力を温存する。
5:黒と出会った場合は……。
6:蘇芳に興味。
7:万に一つ、佐倉杏子が自分を追跡して対峙した場合は猫(マオ)を猫質に使う。
[備考]
※死亡後からの参戦です。
※黒の契約者第23話から流星の双子までの知識を猫視点で把握しました。
※杏子と猫の情報交換をある程度盗み聞きしています。
※悪鬼纏身インクルシオはノーベンバー11が本来の所有者ではなく鍛錬も積んでいないのに加えて相性もそんなに良くはないので、長時間の使用は不可です。
※ノインテーターと奥の手(透明化)も使用できません。
※猫は黒猫の姿ですが、流星の双子での知識もあります。
※Cー2に蓋の開いた缶ビールが放置されています。


【ドミネーター@PSYCHO PASS-サイコパス-】
有事の際に監視官と執行官だけが携帯・使用可能な大型拳銃状の装置。
正式名称は「携帯型心理診断・鎮圧執行システム・ドミネーター」。
銃口を向けた対象の色相(犯罪係数)を即座に割り出し、その数値によって「パラライザー(麻痺銃/ノンリーサル)」・「エリミネーター(殺人銃/リーサル)」・「デコンポーザー(分子分解銃/デストロイ)」の3パターンに形状が変化する。
潜在犯隔離施設に3挺完備されており、ロワ参加者のみが1人につき1挺持つ事が可能(2挺目を手に取った時点でロックが掛かる。別の参加者にこれが譲渡された場合は、ロックは解除される)。
うち2挺をノーベンバー11が所持しており、残る1挺はそのまま潜在犯隔離施設に設置されている。
3挺共にロックが解除されるまではフル充電状態であり、最長で12時間の使用が可能。
ただし、それぞれのモードの使用毎に電池の消費量は激しく、それぞれパラライザーは3発、エリミネーターは2発、デコンポーザーについては1発の発射が限度である。
一度ロックを解除したドミネーターを他者に譲渡する事は出来ません(仮に譲渡してもロックが掛かり、使用は不可能)。
シビュラシステムが破壊されない限りはドミネーターは使用出来ます。シビュラシステムの設置場所については後続の書き手にお任せします。
ドミネーターが執行対象と識別するのは人間のみです(頭部が寄生生物で構成されている寄生獣出典参加者や本体がソウルジェム化している魔法少女等の効力を有する人間の定義についても後続の書き手にお任せします)。


839 : ◆QO671ROflA :2015/06/30(火) 20:46:14 Xh.oapYY0
投下終了です


840 : 名無しさん :2015/06/30(火) 21:03:29 5jNUO22E0
投下乙です

遂にドミネーターが出たな
果たして誰が裁かれる事になるのだろうか


841 : 名無しさん :2015/07/01(水) 18:32:22 hxwMc3Xo0
投下乙です
微妙に対主催の手掛かりになりそうなキャラが出てきたが、11はどこまで食いつくか


842 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:39:16 lktEQ.D.0
投下します


843 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:40:36 lktEQ.D.0

白み始めた荒野を駆ける影が五つ。
男が二人、少女が三人。どの表情も一様に暗い。
誰も、何も話さない。彼らはつい先ほどまで苛烈な戦闘の渦中にいたため、のしかかる疲労は無視できない。
しかしそれ以上に、その内の一人が放つ陰鬱とした空気が、誰かの発言を言外に封じていたためだった。

「……追ってきてねえ、な。もう走らなくてもいいだろ」

殿を務めていた青年、帝都の治安を護る特殊警察イェーガーズの一員であるウェイブが後方を確認し、言う。
修羅場慣れしているウェイブ、そして白井黒子にロイ・マスタングと違い、ここには高坂穂乃果、小泉花陽の二人の民間人がいる。
自分の足で走ってきたウェイブらと違い、二人は形態変化させた“魔獣?化”ヘカトンケイル――通称コロに乗っていた。
そのため息が上がっているはずもないのだが、陰惨極まる戦闘を潜り抜けたからか顔色は蒼白い。
ウェイブは彼女たちを安心させるため、あえて沈黙を破る決断をした。
エンヴィー、そしてキンブリーといった敵対者たちも、決して軽くはない疲労を負っているはずだ。
そこへ黒子たちを襲撃してきた男。こちらも味方だったはずの鳥を失い、単純に見れば戦力は半減しているはず。
両者ともこの状況で即座に追撃してくることはないだろうと、願望の入り混じった状況判断。
潰し合ってくれているのが最良の展開だが、それはまさに神のみぞ知るというところか。

「穂乃果、それに花陽。怪我はないか?」
「あ……はい。私はもう大丈夫……です」

ペット・ショップによって凍らされた花陽の腕は、既にマスタングによって処置されている。
感覚も戻ってきており、特に後遺症もない。
しかし花陽はそれを喜ぶ気にはなれなかった。隣にいる穂乃果が、先ほどからじっと唇を噛んでいることに気付いているからだ。

「穂乃果、お前は」
「ワンちゃんは? ねえウェイブさん、ワンちゃんはどこ?」

彼らは五人。本来であればここにいるべき一人と一匹が、足りない。
一人、天城雪子はあの場で黒焦げの死体となっているのを全員が目撃している。それが誰の仕業かも。
一匹、イギーはウェイブだけがその最期の瞬間を見た。クロメと同じく“死者行軍”八房の餌食となった光景を。
コロに乗って走っている間、穂乃果はじっと目を凝らして周囲を観察した。
あの小さな犬はどこにもいない。ウェイブが歯を食い縛って走っている。
それだけで、理解してしまった。

「ワンちゃんだけじゃない。雪子ちゃんだって、さっきまでいたのにもういない。なんで? ねえ、なんで!?」
「穂、乃果……」

穂乃果は決してウェイブを責めているわけではない。しかしその言葉は刃となってウェイブの胸に刺さる。
決して慣れたくはないが、ウェイブは軍人だった過去に戦友を失う痛みを経験している。
ついさっきまでにこやかだった顔が、もう二度と笑わなくなる。その辛さを知っている。だからこそ、何とか耐えられる。
しかし穂乃果と花陽は違う。もしかしたら、青ざめた顔をしている黒子もそうかもしれない。
穂乃果を宥めようと口を開きかけた黒子をウェイブが制する。
誰に向けたものでもないとしても、それを受け止められるのはこの場でウェイブしかいない。
年齢的には一番幼い黒子、ましてやマスタングにその役目を押し付けることはできなかった。
深く息を吸い込み、腹に力を入れる。涙を浮かべた穂乃果の眼を真っ直ぐに見返す。


844 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:41:12 lktEQ.D.0

「すまねえ、俺のせいだ。俺がもっと強かったらあいつは……ああ、くそっ。
 何度も助けられたのに、俺はあいつの名前も知らねえってのか……!」

犬ころ、と言いかけて止める。あの犬にだって名前があったはずだ。飼い主か、あるいは犬同士の間で呼ばれる、あの犬だけの名前が。
それすらも知らないまま、逝かせてしまった。穂乃果の悲しみを受け止めると決意したはずなのに、揺らぐ。
ウェイブにとっても、イギーの死は決して小さなものではないのだ。
固く握り閉めた拳から血が滴る。

「っ……。そ、それに、雪子ちゃんをこ、ころ……殺したのって、マスタングさんなんでしょ!?」

ウェイブが何も言えなくなって、穂乃果は後悔するように唇を震わせた。
しかし次に吐き出された言葉はマスタングへの糾弾。イギーの死に匹敵するほどの、決して無視できない事実だ。

「……そうだ。私の過失だ。私が、天城雪子を殺した。この手で」

沈んでいたマスタングが穂乃果の言葉に反応して顔を上げた。
生気の感じられないその眼は、マスタングが相応に精神的なダメージを背負っていると容易に推察できるものだ。
しかしマスタングに対して猜疑心を持っている穂乃果からすれば、感情のない冷徹な殺人者としか思えなかった。

「なんでっ……なんであそこまでする必要があったの!? エンヴィーって人のときと同じだった!
 あんなに何度も焼かれなかったら、もしあなたがもっと手加減してたら、雪子ちゃんは助かったかもしれないのに!」
「……ああする必要があった。エンヴィーに対しては。
 私にやりすぎと言ったな、ウェイブ。違うんだ……あれでもまだ足りない」
「足りないだと? あれでか」

穂乃果から目を逸らし、マスタングが細々と反論する――穂乃果ではなく、ウェイブに向けて。

「ホムンクルスは、常人なら死ぬダメージを受けても瞬時に再生する。
 それは奴らが生きているのではなく、賢者の石という物質から力を汲み上げて肉体を再構成するためだ。
 首を刎ねようが五体を粉々にしようが、賢者の石さえ無事なら奴らは何度でも元通りに復活する」
「なんですの、それ……それだけのエネルギーが存在するはずは」
「何かを得るには相応の代価が必要になる。それが錬金術の基本原則たる、等価交換。
 それを無視できるのが賢者の石であり、その力で存在するのがホムンクルスだ」
「だからお前は、あんだけ執拗にエンヴィーを焼いたってことか……」
「広川という男の言葉を信用するなら、この首輪を爆破すれば奴も死ぬはずだが……あれだけの焔を叩き込んでも首輪は無事だった。
 禁止エリアに踏み込ませる以外の外的作用では、首輪を起爆させることは不可能なのだろう。あるいは姿形を自在に変化させられるエンヴィー専用の特別な首輪かもしれんが」

故に、エンヴィーあるいはエンヴィーと目される者に対して、一切の手加減は許されない。
常に最大火力で徹底的に灼き尽くすしか、その脅威を根絶する手段はない。
言葉を切ったマスタングに対し、誰も、何も言えなかった。
理がないわけではない。結果的に雪子を誤って殺してしまったとはいえ、あの状況でのマスタングの行動は、決して間違ってはいなかった。

「でも……死んだのは、エンヴィーじゃなくて雪子ちゃんなんだよ」


845 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:42:52 lktEQ.D.0

しかし同時に。
マスタングがもっと冷静に事態を見極め、焔の威力を調節していれば、雪子は死ななかったかもしれない。それもまた事実。
であるならば、後はその判断を理解できるかどうか。
ウェイブと黒子は、戦う力を持たない一般人を守るという役職から理解できる。
花陽は短い間ながらマスタングとともに行動しその人柄を知っているため、理解とまではいかずとも納得することができた。
しかし穂乃果はどちらでもない。さらにイギーを失い、精神的に不安定でもある。
いくら論理的に正しかろうと、実際に殺人を犯したという事実の前には到底、理解も納得も不可能だ。

「雪子ちゃんが死ぬ必要なんてなかった。きっともっと、やりたいこととか叶えたい夢とかいっぱいあったはずなのに!
 それを全部、全部奪ったのは、マスタングさんなんだよ!」
「……返す言葉もない。すべて、私の責任だ」
「穂乃果、落ち着けよ。いまマスタングを責めたってどうにもならないだろ」

穂乃果はマスタングを受け入れられない。
それは仕方ない。常識的に考えれば、ある程度理解を示しているウェイブの方がおかしいのだから。
しかし、この状態が長く続くのも良くない。離脱できたとはいえここはまだ戦場に近い。
今のところ追ってくる気配はないが、あまり長居すればやがてまた鉢合わせるだろう。

「ひとまずどこか、安全な場所に行こう。そうだな、イェーガーズ本部なんてどうだ?
 あそこならきっと隊長とセリューも目指してるはずだから合流できる」
「そうですわね、まずは身体を休めませんと。DIOの館……は近づきます。私もイェーガーズ本部を目指すのに賛成ですわ」

空気を切り替えるべくウェイブが次なる目的地を提案、黒子が同意した。
マスタングと花陽も頷く。誰もが疲れきっており、それ以上の言い合いを内心避けたかったからでもある。
ウェイブは穂乃果に目をやる。その視線から逃げるように目を逸らされるが、反対はされなかった。

「よし、じゃあ穂乃果、またコロをでかくして」
『誰かいないかにゃあ。返事をしてほしいにゃあ』

くれ、とウェイブの言葉の末尾がかき消された。
響き渡ったのは、どこか棒読みな口調の少女の声。
周囲を見回しても人影はない。どこか遠くから、声だけが届いているのだ。

『皆、聞こえてたら返事をしてほしいにゃ。私はここだにゃ』
「この、声……!」
「これはさっきと同じ……拡声器、ですの?」

声の割れ具合から、ついさっき聞いた助けを呼ぶ声と同様の方法で呼びかけているのだと黒子は判断する。
誰かがまた襲われているのかと緊張を張り詰めた一行の中、穂乃果と花陽だけは違う反応を見せていた。

「花陽ちゃん、この声って……!」
「うん、間違いない! これ、凛ちゃんの声だよ!」

先ほどとは一点、花が咲いたような笑顔を見せる二人の少女。
この声の主は二人の知り合いなのかと、ウェイブが気を抜いたように頬をほころばせる。

「どこから呼んでるんだろう? 早く迎えに行ってあげないと!」
「……いや、待て。この声が本当に君らの友人だとは限らない」


846 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:43:21 lktEQ.D.0

降って湧いた朗報に湧く少女たちを、しかしマスタングが止めた。
花陽と手を取り合って喜んでいた穂乃果が、目を見開いてマスタングを見る。

「どういう、ことですか?」
「わかっているだろう。この声の主がエンヴィーかもしれないということだ」

言われ、ウェイブもその可能性に気づいた。姿を自由に変えられるなら、声もまた同様なのではないかと。
思い返してみると、さきほど会ったクロメの声はまさにクロメそのものだった。
クロメが生きている内に出会っていたのか、あるいは姿を真似ると声も勝手に同じになるのか、それはわからないが。

「奴は我々の情報が記載されている名簿を所有している。当然、君らの友人の声を出せば君らが釣れるということも理解しているだろう」
「だから……何です? 凛ちゃんが呼んでるのに無視しろってことですか?」
「いいや、本人の可能性も否定出来ない。だから全員ではなく、私が行く。そう言っている」

声だけでは本物かエンヴィーの化けた偽者か、確率は半々。
そして本物であればいいが、エンヴィーだった場合。再び戦いになるのは確実だ。穂乃果と花陽がいれば、また彼女らを守るために気を回さざるをえない。
それを防ぐため、マスタングは自分とウェイブがまず確認に向かう。離脱に向いた能力のある黒子は二人の護衛に残す。
ウェイブを連れて行くのは前衛を任せるためと、自分自身の暴走を防ぐストッパーのため。
冷静に現在の状況を考えればそれがベストであったし、そう続けようとした。

「何ですか、それ……それでまた、雪子ちゃんのときみたいに、凛ちゃんまで殺すつもりなんですか!?」

だがマスタングの説明の前に、穂乃果が暴発した。
言い方が悪かったのもあるだろう。しかしそれ以上に今の穂乃果は、マスタングへの信頼がゼロに近い。
一度落ち着いた穂乃果の精神は、ここに来てまた噴き出してしまった。

「あんなに何度も何度も、雪子ちゃんは苦しんだっていうのに、あなたはまた!」
「待て、私は同じ過ちをする気はない。今度こそ必ず」
「そんなの、信用できるわけない! あなたの言うことなんて、信じられるわけないよ!」
「ほ、穂乃果ちゃん、落ち着いて!」
「花陽ちゃん、行こう! 私たちで凛ちゃんを助けに行くんだ!」

ウェイブはコロを穂乃果に預けていた。
先ほどの戦いではウェイブが使って鳥を食わせたものの、帝具とは本来、使い手が定具に対して抱く第一印象がその適性に直結する。
セリューという本来の使い手を知るウェイブでは、どうしてもコロに新しいイメージを抱けない。
故にセリューを知らず、また戦闘能力のない穂乃果の自衛手段、また足になることもあって、コロは穂乃果のものになった。
それが災いした。穂乃果は花陽の手を取ってコロを巨大化させ、見上げるマスタングを置き去りにして走り出す。
声の響いてくる方角。すなわち、先ほど逃げてきた戦場の方向へ。

「ッ、待て!」
「馬鹿野郎、穂乃果たちを殺す気か!」

とっさに両掌を叩き合わせたマスタングに仰天し、ウェイブが後ろから跳びかかって止める。
その動作が焔を生む準備段階と知っていたからだ。

「離せウェイブ! 焔ではない!」

マスタングがウェイブを叱責する。
事実として、マスタングはそのとき、焔ではなく土を錬成してコロの足を絡め取ろうとしていた。
しかしウェイブは、マスタングに何ができて何ができないのか、全てを知っているわけではない。
焔で穂乃果たちを止めようとしたと勘違いしても無理はなかった。
経緯はどうあれ、結果としてマスタングの錬金術は中断させられ、機を逸した。
男たちの見ている前で、穂乃果と花陽を乗せたコロが走り出す――寸前。


847 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:44:08 lktEQ.D.0

「はい、ストップ。ちょっと落ち着きなさいな」

忽然と姿を消した黒子がコロの頭上、穂乃果と花陽の背後に現れた。
二人を掴み、再度のテレポート。三人の少女が地面に降り立つ。命令者を失ったコロが待機状態に戻る。

「ご友人の元へ急ぎたい気持ちは理解しますの。でも、ここでバラバラになるのは決して得策ではありませんわ」

黒子が小さくなったコロをバッグに押し込む。
移動手段を奪われた穂乃果が食って掛かろうとするが、黒子はその眼前にすっと手を掲げて制する。

「何も見捨てる、あるいは行くなと言っているわけではありませんわ。単独行動は危険だと申し上げているのです。
 マスタングさんも、少し言葉が足りないのではありませんか?」
「ああ……その通りだ。参ったな、君が一番年少なのに一番冷静なようだ」

ウェイブともみ合ったままのマスタングが苦笑する。黒子は冷静さを欠いたマスタングよりよほど客観的に周囲を見ていたのだ。
もちろん彼女もウェイブと同じく、マスタングが焔を放つのかと一瞬驚きはした。
しかしウェイブがマスタングを止めるだろうと信じ、自分は穂乃果の方を担当した。

「……私としても、この呼びかけが罠であるかどうか判断はできかねます。
 しかし、真に助けを求める声であるかもしれないという可能性がある以上、見過ごすこともできません」
「じゃあ、行ってみるしかねーな。今度は全員で、よ」
「おい待てウェイブ、それでは……!」
「危険なのもわかるけどよ、お前だけじゃこの声の娘が穂乃果たちの知り合いかどうか、ちゃんと判断できねーだろ?」

ウェイブが黒子に続く。
マスタングとしては、ウェイブと二人だけで行くのが最善だった。無用な危険に少女たちを巻き込むこともない。
しかし、マスタングたちだけでは本物か偽物かの区別をすることは困難ではある。

「だが、彼女たちを危険に晒すことになる」
「……それはどうしようもねえ。だが、この島ではどこにいたって危険なことに変わりはねえんだ。
 だったら近くにいて守る方が、まだ俺は安心できる。お前はどうだ?」
「む、しかしな」
「あっ……あの!」

そのとき、花陽が手を挙げた。またもマスタングに噛み付こうとした穂乃果の口を塞ぎつつ。

「私も、凛ちゃんを迎えに行きたい……です。もし本当に凛ちゃんだったら、私と穂乃果ちゃんが見たら絶対にわかります。
 だから、あの、その……連れて行ってください!」
「うううむううががもが!」

よほど強く押さえているのか言葉になっていないが、穂乃果の言いたいことも花陽と同じなのは間違いない、とウェイブは思う。
少女たちは自分よりも友人の身を案じている。それは、マスタングが彼女たちを心配するのとどう違うというのか。
二人を守らなければいけないのは確かだ。しかしそれは、彼女たちがウェイブやマスタングよりも下の立場だから、ということにはならない。
彼女たちが望み、またそうするに足るだけの理由があるのなら、その意志は尊重されるべきだ。

「マスタングよ。俺たちが守ればいいんだよ。今度こそ、絶対にな」
「……ウェイブ。しかし」

マスタングは未だ納得していない。
どうすればこの堅物を説得できるか……ガシガシと頭を掻き、息を吐いて踵を返したウェイブの視界に。
遠方から砂を蹴立てて走ってくる、巨大な影が飛び込んできた。


848 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:44:22 lktEQ.D.0

「……敵だッ!」

弛緩した空気を吹き飛ばすように一喝して、腰に佩いていた剣を抜く。
あれは誰だとか、穂乃果の仲間がどうとか、そういった余計な考えは吹き飛んでいた。
見た瞬間にわかった。あれは敵だ。対話の余地のない、純粋なまでの敵意の塊。
戦士としての本能が告げている。あれとは殺すか殺されるか、それ以外の関係にはなりようがない、と。

「あの男は……追ってきたんですの!?」
「じゃああいつが、鳥と一緒に襲ってきたっていう奴か!」
「ええ、気をつけてくださいまし。かなり強めに攻撃したのですが、びくともしませんでした。痛みを感じる様子すら」
「見た目は人間でも中身は違うってことか……!」
「下がっていろ、みんな!」

瞬く前に近づいてくる男に向かい、マスタングが両手を叩き合わせる。
これだけの距離があるなら錬成の隙など無視できる。無警告、かつ全力の一撃。
穂乃果が何度も責め立てた、容赦無い焔の洗礼。しかしそれを咎める者は誰もいなかった。
一度襲われた経緯もあるが、それだけではない。誰もがその姿を一目見た瞬間に本能的に理解していたのだ。
あれは、禍々しいモノだ、と。
大地を舐めるように奔る焔の波が男の影を呑み込んだ。

「やったか!?」
「いや……跳んでやがるッ! 黒子、二人を頼む!」

ウェイブがマスタングの首根っこを掴み、強引に引っ張って後退させる。
直後、空から一直線に降ってきた刃が、一瞬前までマスタングの頭があった位置に突き刺さった。

「何だ、こいつは……!」

着地した男のシルエットが、変わっていた。
数秒前までは確かに人の形をしていたはずだが、今の男は両足がひどく肥大していて、本来足首から踵にあたる部分が異常に長くなっている。
まるで関節を一つ増やしたような、跳躍に適した構造に。あの両足でマスタングの焔を飛び越したのだと、眼にしてようやく理解する。

「大火力をただぶちまける。雑な攻撃だ。回避は難しくない」
「何だ……何なんだ、てめえは!?」
「後藤だ」

ウェイブの誰何に、意外なことに男――後藤は律儀に答えた。ただし、刃に変化させた右腕とともに。
黒の剣エリュシデータで受ける。鳴り響いたのは金属音。
身体の一部を変化させたものであるくせに、相当な業物である黒剣と打ち合っても押し負けはしない。
気合を込めて後藤の刃を弾く。追撃しようとした後藤だが、瞬時に手を合わせたマスタングの焔が迫ったことで後方へジャンプ、仕切り直した。
ウェイブは一合の切り結びで直感した。こいつは強敵だと。
少なく見積もっても特級の危険種に匹敵――あるいは超級にまで届くかもしれない。
人外という意味では先程のエンヴィーもそうだ。しかしこの後藤には、エンヴィーには見られた驕りや遊びが一切ない。
精確に、確実に、敵を倒す。目標に向かって一直線に進む強固な意思を感じる。
それこそ万全の状態のウェイブでも、勝てるかどうかは未知数だ。そう思わせる凄みが、この後藤にはあった。


849 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:44:49 lktEQ.D.0

「グランシャリオさえあれば……なんて、言ってられねーな。今ある全部でやるしかねえ……!」

そして脅威を強く認識したウェイブの背後で、穂乃果と花陽の表情は驚愕に染まっていた。
今しがた後藤という男が発した声が、さっき聞いたばかりの星空凛の声そのものだったからだ。

「あ、あなた、その声は……?」
「……? ああ、そうだったな。戻すのを忘れていた」

穂乃果の呟きが聞こえたか、後藤が喉に手をやる。
筋肉が不気味に蠕動し、僅かな呼気が漏れる。

「……これで元通りだ」
「声真似かよ、くそっ!」
「お前たちと同じ衣服を着た人間を見た。あの人間の声を聞けば、足を止めるだろうと考えた。結果は、予測通りだったな」

後藤がバッグから拡声器を覗かせ、ウェイブは思わず舌打ちした。
先ほどの声は後藤の罠であり、自分たちはそれにまんまと引っかかって追いつかれてしまったのだ。

「どうして、どうしてあなたが凛ちゃんの声を出せるの!?」
「寄生生物は声帯を操作できる。一度聞いた人間の声を真似ることなど造作も無い」
「凛ちゃんと会ったの!? どこで!?」
「質問が多いな」
「答えてよ!」
「ここから北、C-5エリアだ。今はもうそこにはいないがな」

またも律儀に、後藤は穂乃果の質問に答えた。別に隠す理由もないとでも言うように。
しかしウェイブは気が気ではなかった。いつ後藤が穂乃果にあの刃を放つか、それを自分が防げるのか、そればかり考えていたからだ。

「C-5……行こう、花陽ちゃん!」
「行かせると思うか? お前たちは中々歯応えがある。ここで俺と戦え」

当然、後藤は親切心から教えてくれたわけではない。
余計なことはどうでもいい、ただ戦いたい。それだけを思考し、また他者にも強要する。
相対した経験のない、しかしそれでも本能が叫ぶ。こいつはこれ以上なく危険な、即刻倒すべき悪なのだと。
汗で湿った掌が滑らないように気をつけながら、ウェイブは後藤の一挙手一投足を見逃さないよう凝視する。

「黒子。穂乃果と花陽を連れて逃げろ。こいつは俺とマスタングで狩る」
「何を言ってるんですの、私も!」
「わからねえのか!? こいつはヤバい……今度ばかりは、穂乃果たちを守りながら戦ってる余裕はねえ!
 それに、お前の攻撃は効かなかったんだろ。多分、俺の剣でも同じだ。だったらこの場であいつを何とかできるのは、マスタングしかいない」

しかしマスタング一人では、接近戦に対応できない。だからこそ、ウェイブが残ってマスタングの前衛を務める。
これが唯一にして最善の方法だ。黒子がいたところで大した援護はできない。しかし黒子は離脱、撤退に向いた能力がある。
穂乃果や花陽が殺されればその時点でこちらの敗北だ。戦力的にではなく、精神的に。
ならば黒子を二人の護衛に当て、男たちが残って戦う。それ以外にない。


850 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:45:05 lktEQ.D.0

「行け、穂乃果。友達が本当にC-5にいるかはわからねえが、少なくとも今ここでお前ができることは何もねえ」
「ウェイブさん、私もコロちゃんを使えば」
「駄目だ! お前はセリューじゃない。コロを使えたって、それで『戦える』わけじゃねえんだ!」
「で、でもそれじゃウェイブさんがまた危ない目に……!」
「いいんだよ、それで。人々を守るのが軍人の、特殊警察イェーガーズの任務だ。それが俺の仕事なんだよ。
 心配すんなって。俺とマスタングだけなら、あんな奴すぐに片付けて合流できっからよ」

ウェイブが穂乃果に笑いかける。この戦いの勝算がかなり低いということは、とても口にできなかった。
エリュシデータにも匹敵する硬度の刃。黒子の攻撃を防いだという事実から、おそらく全身の肌もそれくらい硬くなると推察できる。
それでもマスタングの焔ならば通じるだろう。しかし問題は、あの強烈な反応速度の速さだ。
先ほどマスタングの焔を回避したとき、後藤は明らかに焔が生まれる前から回避動作に入っていた。
手を合わせるというモーションが必要な分、マスタングの攻撃は読みやすい。
だからといって、遠距離からそれを織り込んだ回避、そして攻撃に繋げるというのは尋常ではない。
先ほどのエンヴィーたちとの戦いに一枚噛んでいたのなら、マスタングの能力を大方把握していてもおかしくはない。
つまり後藤は、マスタングだけが自分に致命傷を負わせられるのだと知っている。
マスタングを守ろうとするならば、ウェイブはかなりの無茶を強いられる。そして、ウェイブは後藤と違って耐久力がない。
帝具のない生身の状態では、急所に一撃貰えばそれだけで死ぬだろう。
ウェイブが倒れればマスタングも程なく後を追うことになる。それまでに後藤に警戒されている焔を叩き込めるのかどうか。
後藤を睨みつつ、頭の中で幾通りもの予想を組み立て、破棄し、また新たなパターンを探る。どうすれば勝てるのか、どうすれば切り抜けられるのか。

「悪いなマスタング、嫌とは言わせねえぜ。ここは俺と命を張ってもらう」
「君と二人で奴とデートか。色気のない話だ」
「ははっ、違えねえ」

ザッ、とマスタングがウェイブの後ろに陣取る。いつでも焔を放って援護できる位置。
とにもかくにもまずは穂乃果たちを逃がす隙を作らなければ。
あの跳躍を見せられては、ただ逃げるだけでは足りない。何としても一撃与えて、追撃のできない状態に持ち込まなければ。
マスタングが両手を合わせる。生まれる業火、戦端を開く兆し。

「またそれか。芸がないな」

跳躍でそれをかわそうとした後藤だが、その視線がマスタングのそれと激突。
後藤は上空に逃れようとした体勢から急遽後方へと進路を変更。全力で跳躍した。
果たしてその判断は正しかった。一度目の業火が襲い来た後、間髪入れず二発目の爆炎が追ってきたからだ。
身動きの取れない上空で受ければ一瞬で蒸発していただろう。
人間たちからかなりの距離を取った、いや取らされてしまう。

「よし……ウェイブ、道を作る! 私が合図したら斬り込め!」
「応よ!」

ひとまず後藤を追い払うことに成功したマスタングは、続けて両手を打ち合わせた。そして、硬く握りこむ。
手合わせの音を次の攻撃の準備と信じているウェイブは振り向きもしない。
その後頭部を、マスタングは固めた拳で思い切り殴りつけた。


851 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:45:26 lktEQ.D.0

「……っ」
「マスタングさん!? 何をしたのですか!」

後藤に向けて気を張っていたウェイブには、まったく予期しない方向からの痛打。それは容易くウェイブの意識を刈り取った。
マスタングは音もなく崩折れたウェイブを担ぎ上げ、剣も回収してバッグに突っ込んだ。

「黒子、ウェイブも連れて行け。ここは私だけで十分だ」
「何を言っているのです! 一人であいつに勝てるわけないでしょう!」
「そうだな。それは、一人でも二人でも、いや全員でも同じだ。我々は消耗しているが、あいつはおそらく万全だろう。
 これはな黒子、誰があいつを倒すという戦いではない。誰があいつを足止めするかと、そういう戦いなのだ」
「だからあなたが残るとおっしゃるのですか?」
「君に同じことは無理だろう。君では奴の防御を突破できんし、穂乃果と花陽を連れて逃げるという役目もある。
 そしてウェイブは、こいつはこんなところで死なせていい人間ではない。こいつはきっと、我々のように殺し合いに抵抗する者たちの大きな希望になる。
 ならば消去法で、残るのは私というわけだよ」

敗れた即席発火布を付け替えて、マスタングは一人戦場へと歩み出す。
その背中はひどく朧気だ。焔の熱気だけではない。あれでは、まるで。

「お待ちなさいマスタングさん! あなた……死ぬつもりですの?」
「私とて自殺願望などないさ。なに、やるだけやったら私も逃げる。それは一人の方が都合がいいのだよ」

マスタングは振り向かず、あえて軽い口調で突き放すように言った。
しかし言葉に込められた覚悟は揺るぎない。死地を見定めた男の言葉だった。

「行くんだ花陽。怖がらせてしまって済まなかった。君が友人と再開できることを願っている」
「ま……マスタングさん!」
「そして穂乃果」

びくり、と声をかけられた穂乃果が震える。
マスタングがこんなことを言い出したのは、死ぬとわかっていてそうしようとしているのは。
穂乃果に糾弾されたことが、原因の一つではないかと。そう考えていたからだった。

「あ……あの、私、そんなつもりじゃ……」
「別に君のせいではないから、気に病むことはない。これが最善なのだ。君にとっても、私にとっても」
「で、でも!」
「君の言うとおりだ。私は人殺しだ。ああ……だからこそ、ああいう化け物の相手は私がするのが相応しい。
 生きろ、穂乃果。最期にせめて、君らを守れたという救いを、私にくれ」

それは断固たる、決別の言葉だった。
揺らめく焔の向こうで、体勢を整えた後藤が動く。
もう、時間はない。


852 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:45:41 lktEQ.D.0

「行け、黒子! 君は戦えない者を守るのだろう! だったらここで、守るべきものを見誤るな!」
「……っ、皆さんを安全な場所まで送り届けたらすぐに戻ります! それまで、どうか……!」

マスタングの背後から、人の気配が消える。白井黒子のテレポート能力。
仮に後藤が遠距離にいる人間を追跡する手段を持っていたとして、それが離れていくのであればいずれ捕捉はできなくなるはずだ。
あとは、彼らが安全な場所に離脱するまで、後藤を押し留めなければならない。

「……残ったのはお前だけか」
「すまんね、むさ苦しい男が歓迎役で」
「構わん。俺の狙いもお前だ。さあ、全力で俺を打ち砕いてみせろ」
やがて現れた後藤に向かい合い、ロイ・マスタングは意識を細く針のように集中させていく。
おそらくは人生最強の敵。
かつて渡り合ったホムンクルス、“最強の矛”ラストや“最強の眼”ブラッドレイに勝るとも劣らない、人のカタチをした絶望。

「だが……焼けば死ぬ。“お父様”ほどではない」

ならば勝ってみせよう。
後に続く仲間たちのために、己と引き替えにしてでもこの脅威を灼き尽くしてみせよう。
それが“焔の錬金術師”ロイ・マスタングが己に課した、贖罪の証。

「鋼の、後は頼んだぞ……!」

何処とも知れぬ場所にいるだろう戦友に託す。どうせ奴も、誰かの為に戦っているのだろう。
ならば、ここで退いて笑われる無様を晒すわけにはいかない。
不退転の決意と共に、マスタングの両掌が高らかに打ち鳴らされた。


853 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:45:57 lktEQ.D.0

  ◆


「ウェイブ、まだ寝てる? そろそろ起きないと任務に遅れるよ」

……なんだ、クロメか。もうそんな時間か?

「遅れたら、きっと隊長がすごく嬉しそうにお仕置きするかも」

うおおおお! それは嫌だ! 起きる、今すぐ起きる!
……あれ? なんかおかしくないか?

「何が?」

いや、何がって。
任務? 任務って何だっけ。

「またナイトレイドが出たんだって。昨日も二人被害者が出た。今日の任務は、標的の一人と推測される人物の護衛」

ああそっか、ナイトレイドか。あいつらは、俺たちの敵だもんな。
……敵? ナイトレイド……?
んん、そうだったか? ナイトレイドが、俺の敵だったか?

「何言ってるのウェイブ。まさかナイトレイドに共感してるの? それはいくらなんでも、イェーガーズだからって許されることじゃないよ」

いや違うんだ、そういう意味じゃない!
ついさっきまで、ナイトレイドじゃない別の奴らと戦ってたような……そんな気がして……。

「なにそれ。夢でも見た?」

夢……そうかもしれない。
そうだな、夢に決まってるよな。お前が、死んだ……なんて。

「変なウェイブ。あっ、もうみんな集まってる。隊長、セリュー、ボルスさん、ラン。みんないるよ」

みんな……そうだ、俺の、仲間……。
俺はイェーガーズで、帝都の治安を乱す輩を狩る……それが俺の……。

「さあ、ウェイブ。行こう? あなたの、私たちのいるべきところへ」

俺の、いるべきところ……。
…………。
そっか。
夢を、見たんだな。

「いつまで寝ぼけてるの。ほら早く。隊長の顔がどんどん笑顔になってくよ」

悪いな、クロメ。
俺は、お前と一緒には行けない。


854 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:46:18 lktEQ.D.0

「何言ってるの? 任務放棄は重罪だよ?」

だから、だよ。
俺は、俺のやるべきことを放り出して、そっちに行くわけにはいかないんだ。

「やるべきことって何? ナイトレイドを狩ること以上に大事な用事があるの?」

ああ……仲間が、戦ってるんだ。
なのに俺一人だけ、ここでこうして……楽になることは、できない。

「私と一緒にいてくれないの?」

……ああ。
俺はまだ、生きてる。
そしてクロメ……お前はもう、死んだ。
俺はまだ、お前のところに行くことは、できない。

「……どうして? その仲間って、私より大事な人なの?」

そうじゃねえ、どっちが大事とかじゃねえんだ。
俺は生きてる。なら俺は、この命がある限り、戦い続けなくちゃならねえ。
生きて、戦って、治安を乱す悪を狩る。それが軍人として、イェーガーズとして、今ここにいる俺が進む唯一の道なんだ。

「私のこと……忘れるの?」

忘れねえ! 忘れられるわけがねえ!
何で、なんで死んじまったんだよクロメ! 俺が近くにいたんだぞ!
何で俺は間に合わなかったんだ! 何でお前が八房の死体人形になんかなっちまったんだよ!
それじゃあべこべじゃねえか……。

「なんだ。私、八房で死んだんだ。じゃあずっと、ウェイブと一緒にいられるんだね」

違う! お前は死んだんだ! 死んだら、もう一緒にいることなんてできねえ!
八房の力で動けたって、それはお前じゃねえんだ!

「ウェイブは、私と一緒にいられるから、私と一緒に行かないんじゃないの?」

違う……。
俺は……戦いに行くんだ。
お前を殺した奴を、お前を弄ぶ奴を狩りに。
そして、仲間を殺そうとする奴を狩りに。
そこにはもう、お前はいないんだ。

「私がいなくてもウェイブは大丈夫なの? 嫌じゃないの?」

大丈夫じゃない、嫌に決まってるだろ……。
でも、でもよ。
だからってここで逃げるような俺をお前に見られるのは、もっと嫌なんだよ。


855 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:46:36 lktEQ.D.0

「どうして?」

俺は、お前の見てる前では、強い俺でいたいんだ……。
逃げたくないんだ。お前に、弱いって思われたくないんだ。
……俺、行くよ。
俺が誇れる俺でいるために。
お前の隣にいて恥ずかしくない、俺になるために。

「ウェイブ……」

だから……さよならだ、クロメ。

「そっか。うん、そうだね……ウェイブは、そうでないとね」

許して、くれるか?

「いいよ。そっちには隊長もセリューもいるからね。ウェイブは一人じゃないよ」

ああ、そうだな。
それに、他にもいるんだ。会ったばかりだけど、何ならイェーガーズにスカウトしたいような奴らがさ。
あいつらと一緒なら、俺は……戦える。

「うん……わかった。じゃあ私は、ここで待ってる」

待ってる?

「今は無理でも、いつか。いつかまた、会えるよね?」

ああ。約束する。
いつになるかわからねえけど、また必ず……会える。
そのとき胸を張れるように、俺、頑張ってみるからさ。

「ふふっ。ウェイブ、最後に一つだけ……」

クロメ?

「ウェイブは強いよ。私が保証する」

……ありがとよ。
その言葉だけで俺は、何とだって戦える……!

「行ってらっしゃい、ウェイブ」

ああ!
行ってくる、クロメ!


856 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:46:52 lktEQ.D.0

  ◆


「どうしよう花陽ちゃん、私のせいだ、私の……」
「違うよ穂乃果ちゃん、穂乃果ちゃんのせいじゃない!」
「でも、私がマスタングさんを追い詰めたから……!」

ウェイブの意識を覚醒させたのは、言い争う少女の声だった。
ずきりと後頭部が痛む。痛むのは生きている証だ。
ならば何故、俺は生きている? ウェイブは自問する。後藤の攻撃を食らったのなら、こうして生きているはずがない――

「っ、なんだ、何がどうなった!?」
「ウェイブさん……っ」
「穂乃果……!?」

ウェイブの眼に飛び込んできたのは、泣きじゃくる穂乃果だ。花陽も眼に涙を湛えている。
首を巡らす。穂乃果がいる。花陽がいる。黒子もいる。コロもいる。マスタングだけがいない。

「……そういうことかよ。くそっ、あの野郎」

コロを止めさせ、地面に降りる。
三人もの人間を抱え連続してテレポートを行ったため、黒子の顔色は悪い。

「黒子、俺はどれくらい気絶してたんだ?」
「ほんの二、三分というところですの。ウェイブさん、状況はあなたの考えているとおりですわ。マスタングさんは一人であの場に残られました」
「だろうな。ちっ、カッコつけやがる。素直に俺も残せばいいのによ」
「ですが、あの状況では」
「わかってる。俺がいても状況は大して変わらなかっただろうさ。でも……変わるかもしれない。いいや、変えてみせるさ」
「今から戻るつもりですの?」
「黒子、お前は穂乃果たちを頼む。俺はマスタングを助けに」
「ダメッ!」

突然、穂乃果に遮られる。ウェイブは目を瞬かせた。
ややあって、穂乃果はウェイブが危険を冒してマスタングを助けに行くことが不満なのかと理解する。

「穂乃果、よく聞いてくれ。確かにマスタングは雪子を殺しちまった、だけど……」
「そうじゃない! そうじゃないよ! マスタングさんが残ったのは私のせいなの! 私がひどいこと言ったから!
 なのにウェイブさんまで危ない目に遭わせるなんて、そんなの!」
「穂乃果……」

ウェイブは己の思い違いを恥じた。穂乃果はウェイブだけでなく、マスタングの身も案じてくれている。
さっきまで疑っていても、やはり根は優しい少女なのだ。捨て石となったマスタングの命を、他人事と割り切れないほどに。

「……そうだな。そうだよな。仲間って、そういうもんだよな」
「ウェイブさん?」
「でも穂乃果、やっぱり俺は行くよ。一人で戦ってるあいつを放ってはおけない。
 後藤が追ってきてないってことは、まだ持ち堪えてるってことだ。だったら」
「私も行く!」


857 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:47:17 lktEQ.D.0

またもウェイブの言葉にかぶせるように、穂乃果が叫ぶ。
しかしそれは誰の予想にもない言葉だ。

「ほ、穂乃果ちゃん!?」
「おい穂乃果、厳しいこと言うがお前が行っても役には立たねえ。戦うのは俺がやるから、お前たちは」
「守られてばっかり、逃されてばっかりで、 誰かが私を守ろうとしてくれるのに、私は何もできない……そんなの、私、もう嫌なの!」
「だからって、お前に何が」

できるんだ、と言おうとしたウェイブの前に、穂乃果は背負っていたバッグをずいと差し出した。

「これ、ワンちゃんのバッグ。私が代わりに持ってたの」

開けろ、ということらしい。
バッグを受け取ったウェイブが中を覗き込む。

「おい、これ……!」
「それがあれば、私だって戦える。そうでしょ?」

絶望的だと思っていた戦いに、一筋の光明が指した。
これならば――

「だから、私も!」
「わかった、穂乃果。みんなで行こう」
「ウェイブさん!?」
「聞いてくれ、黒子。もしかしたら、勝てるかもしれない。
 いいや……勝つ。勝って、勝手なことしたマスタングの野郎をぶん殴ってやろうぜ」

穂乃果から渡されたイギーのバッグを背負い、マスタングは拳を掌に打ち付け気合を入れた。
あの憎たらしい顔に、今は感謝の感情しか表せそうにない。

「なあ、犬ころ。
 お前の名前も俺は知らねえが、それでもこれはお前がくれた希望だと思うことにする。
 だから、見てろよ。俺たちは必ず勝って、そんでお前の仇も取る! 見てろよ……!」

ヒヒッ。
あの笑い声が聞こえたような気がした。


858 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:47:36 lktEQ.D.0

  ◆


「……終わりだな」

後藤の前には、血溜まりの中に倒れ込んだマスタングの姿があった。
マスタングが仲間を逃して五分も経っていない。
否、単身で後藤を数分も押し留めたことこそを賞賛するべきか。

「勝手に、終わらせてくれるな。私はまだ生きているぞ」

地面に手をつき、震えながらもマスタングが身を起こす。
後藤はそれを阻むでもなく見下ろしていた。

「あのウェイブという男がいれば、まだ勝算はあったはずだ。何故お前だけが残った?」
「さあな……私もよくわからん。こういうのは私のキャラではないはずなのだが」
「やはり人間は理解し難いな」
「当たり前だ、人間だって人間を完全に理解しているわけではないのだぞ……お前のような化け物にわかられてたまるか」

言いながら、最後の発火布で火を点ける。
狙いは後藤……ではない。

「ぐぅっ」

噛み殺してもなお抑えられない声。焔は、マスタングの右腕を焼いた。
肘から下を切断された、右腕の傷口を。
分かたれた腕は、後藤が伸ばした刃の先に突き刺されている。

「俺に痛覚はないが、それでもそれは相当な痛みを伴うと推察する。ショック死しても不思議ではないが」
「あいにく……経験が……ある。二度目なら……耐え、られる」

意識も絶え絶えながら、眼だけは屈さず後藤を睨みつけて。
失血死することだけは防いだマスタングだが、戦闘続行が不可能なことは明白だった。

「まさか、私が、鋼のと同じ……隻腕になるとは、な。ロックベル嬢に、機械鎧を、用意してもらわねば……」
「掌を打ち合わせることももうできまい。ここからまだ何か打つ手を残しているか?」
「ふふ……残念ながら、ない。発火布も、使いきって、しまったしな」
「それでもお前の眼は死んではいない……工夫か。まだ何か仕掛けてくるか」

後藤が軽くバックステップし、マスタングから距離を取る。
仮にマスタングが何かしでかそうとしても、余裕を持って対応できる距離を。

「お前は中々手強かった。だが万全の状態ではなかったな。動作の一つ一つにぎこちなさが目立った」
「よく、観察しているな……そして油断もしない、か」
「寄生生物とて無敵ではない。お前という障害を排除できたのは大きな前身だ」

後藤は切り落としたマスタングの前腕部をためつすがめつし、検分している。
何かやるならどうぞやってみろ、そういうように。


859 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:48:05 lktEQ.D.0

「……やはり、ただの人間の腕だな。変わった様子もない。なのにあの焔か……」

一口かじって確かめてみても変哲のない人体そのもの。
勝利者である後藤はマスタングに勝ちはしたものの、異能の正体を理解するまでには至らない。

「まあいい。打つ手が無いのならこれで終わりだ」
「ああ……くそ。こんなことなら、私も煙草を吸っておくんだった。そうすれば、ライターを持ち込めただろうにな」

ぶつぶつと呟くマスタングに興味を失くし、後藤は刃と化した腕を振り下ろす。
しかしマスタングの首を落とす寸前、かすかな風切り音が後藤の耳を掠めた。

「――させるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

空、と気付いたときには既に硬質化した両腕を頭上へと掲げている。
直後、後藤の足が地面にわずかに沈み込むほどの衝撃が来た。

「ウェイブ……!?」
「生きてるな、マスタング!」

振り下ろした黒剣と後藤の刃を支点にして、ウェイブは空中で体勢を制御。鋭い後藤の頭へ叩き込む。蹴りを
ダメージはほとんどない。が、ウェイブは反動で飛び退り、マスタングの元へと着地した。

「バカな、何故来た! 私が何のために残ったと」
「くそっ、その怪我じゃさすがに殴れねえな。まあいい、後でしこたまぶん殴ってやっから覚悟しとけよマスタング」
「ふざけるな! 早く逃げろウェイブ、ここは私が」
「るせえッ! てめえこそふざけた真似してんじゃねえぞ!」

吐き出す怒声は後藤ではなくマスタングへ。
つい数分前にもこうやって背中にマスタングを庇っていたはずなのに、あまりにも状況が変わってしまった。
しかしそれでも、ウェイブの眼に絶望はない。

「俺も人のこと言えた義理はねえんだけどな。命を捨てて誰かを救う……そんなカッコいいことが、お前に許されると思ってんじゃねえぞ」
「何……?」
「俺たちは出会ったばかりで、俺はお前のことなんてほとんど知らねえ。お前も俺のことは知らねえだろう。
 それでもたった一つ、俺とお前が共有するものがある……それだけは確信してる。マスタング、そいつが何かわかるか?」

後藤から視線を切らず、ウェイブは背後のマスタングへと言葉を投げる。
向かい合っているのは後藤でも、ウェイブがいま戦っている相手はマスタングだ。

「共有するもの、だと?」
「そうさ。勘違いでお前とやりあって、話して、そんでさっきの雪子って娘を殺しちまったときのお前を見て……。
 俺の中にあるものが、お前の中にもある。それがはっきりとわかったんだ」
「何だというのだ。こんな、どうしようもなく愚かな私がお前と同じものを持っている? そんなはずは」
「ある! それは、お前が今も身につけてるその軍服が、証明してるはずだぜ」

マスタングは血と汗と泥に塗れた己の軍服を見下ろした。
ロイ・マスタングという個人を端的に表すには十分な、それは明確なシンボルだ。


860 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:48:46 lktEQ.D.0

「マスタング、お前軍人なんだろ。俺と同じな。まあ俺の場合、途中でイェーガーズに移籍したわけだけど……そこはどうでもいい。
 お前、何のために軍人になったんだ?」
「何のために……それは……」
「お前はどうだかしらねえが、俺はこうだ。俺は、誰かを守りたかった。帝国には悪人以外にも人を喰うような危険種がうようよしてる。
 家族とかダチとか故郷とか、おれはそういうのひっくるめて守りたいから軍人になった。お前は違うのか?」

ウェイブの問いに対し、マスタングの脳裏に浮かんだのは盟友であるマース・ヒューズの顔だった。
あのイシュヴァールの戦いで、奴に語った密かな夢。
功績を挙げ、出世し、いずれ軍のトップになって、この国を変える――その根幹は。
ウェイブと同じ、力なき人を守りたい。そういう想いが、あったからではないのか。

「軍人ってのはよ、逃げちゃいけねえんだ。命令に従うってのも大事だがよ、俺たちは守るべき誰かのために力を持つことを許されたんだ。
 お前の錬金術、俺の剣術や体術、それに帝具……そういう全部、自分じゃない誰かのために使う。そのために鍛えてきたものじゃないのかよ」
「それは……」
「だからよ、マスタング。俺たちに、簡単に死を選ぶ権利なんてねえぞ。
 俺たちは戦って戦って……死にかけたって何度でも立ち上がって、戦い続けなきゃいけねえんだ!
 くたばってる暇なんかねえッ! 立て、マスタングッ!」

自分より十は若い若造の青臭い言葉が、今はなんと――胸に響くことか。
一度は消えた瞳の中の火が、再度燃え上がっていくのを感じる。
マスタングは歯を食い縛り、ゆっくりと立ち上がった。

「言ってくれるな、青二才め……そうまで言われたら、くすぶっているわけにもいかん、な……!」
「へっ。世話焼かせんなよ」

後藤はマスタングが復活する様子を、邪魔するでもなく見届けた。
まだやる気というなら後藤に拒む理由はない。

「しかし、どうする? その男はもう立っているのがやっとだ。お前一人で俺の相手をするのか?」
「そうさ。さっきは情けないことにビビっちまったが……今度は違う。俺はもう逃げないぜ。
 俺の本気を……この魔剣・エリュシデータの奥の手ってやつを見せてやる」
「奥の手か、楽しみだ」

相変わらず戦いを楽しむようなことを言うが、後藤の佇まいに隙はない。

「おい、どうするのだウェイブ。私はもう焔は出せんぞ……」
「任せとけよ……ほら、来たぞ!」

と、ウェイブが指し示す方向から迫ってくる巨大な影。
巨大化させたコロだ。そしてその上には、穂乃果と花陽が乗っている。

「コロちゃん、行けー!」
「い、行けー!」

顔を真っ赤にして叫ぶ穂乃果と花陽を見て、マスタングは卒倒しかけた。あの二人まで連れてきて、一体どうしようというのか。
しかしそれを問おうとした相手のウェイブは、既に剣を抜いて後藤に突進している。
ええいやむを得ん――と、マスタングは隠し持っていた最後の発火布を取り出し、片手で苦労しながらも装着した。


861 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:49:28 lktEQ.D.0

「自爆用に取っておいたものを、こんな形で使うことになるとは……!」
「おおおぉぉぉぉらあああああっ!」

ウェイブが気合一閃、重い斬撃を後藤に放つ。後藤が片腕を硬質化させ防御。
動きの止まった一瞬を狙って、その背後を取るように回り込んできたコロが、躍りかかる。
後藤はウェイブの剣に硬度を落とした刃を鞭のように絡め、力任せに引っ張る。

「おおおっ!?」
「ウェイブさん!」

コロが攻撃を中断し、ウェイブを受け止める。
そのすぐ前に後藤が迫る。マスタングが焔を放てば、確実に巻き込む位置に。

「工夫が足りなかったな」

言い捨て、ウェイブもろとも二人の少女を貫こうとした後藤。
その眼前から、コロの巨大な影が忽然と消え失せた。

「マスタング!」
「承知している……!」

声は、背後から。一瞬にして位置を変えた人間たち。ウェイブが叫ぶ。
マスタングは間髪入れず、全力で焔を放った。

ウェイブの攻撃。コロの突進、そして消失。これに対応するために二手、行動を消費している。
後藤は一旦仕切りなおすため、脚部を変化させ高く跳躍した。マスタングの片腕はもはやなく、素早い追撃は望めない。
そう判断した後藤を、人間たちは上回る。

「チェックメイト、ですの」

後藤と全く同じ位置に現れた最後の人間。
白井黒子という女が、手に持った石を後藤へと向けている。
足場のない空中ではこれ以上の方向転換はできない。
しかしこの人間の攻撃力ではさしたるダメージは負わないと、後藤は既に知っている。
ゆえに防御より攻撃を優先し、刃を伸ばしたところで。

「転移! アインクラッドですの!」

高らかに叫んだ黒子の手元の石が光り、それが消えて、瞬時に後藤の胸元へと現れて……それで、終わった。
後藤の姿は、影も形もなくなっていた。
イギーに支給されたもの、それは転移結晶(テレポートクリスタル)。
手に持って場所を指定することで、一人だけ任意の場所に移動することができるアイテム。
本来であれば使用者一人しか移動できないアイテムを、転移能力者である黒子が用いることによって。
一発限りの強制テレポート弾としたのだった。


862 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:49:47 lktEQ.D.0

「……終わった、な」
「……終わったのか?」

後に残ったのは、満足気なウェイブたちと呆然とするマスタングのみ。
そのマスタングに穂乃果が駆け寄っていく。

「マスタングさん、その腕……!」
「ああ、これか……いや、安いものだ。我々みなが生き残った代償としたらな」

息を呑んだ穂乃果の肩を、ウェイブが叩いた。
マスタングの腕は強引ながら止血がされている。いますぐどうこうなるものではない。
とりあえず、危機は脱したのだ。

「マスタング、歩けるか? とにかくどこか、休める場所へ行くぞ」
「ああ、肩を貸してくれ。さすがに動きづらい」
「お安いご用だ……穂乃果」
「は、はいっ」
「時間はたっぷりある。マスタングを許すにしても許さないにしても、まずこいつと向かい合ってみてくれないか。
 こいつが悪人じゃないってのは、お前だってわかってんだろ」

ウェイブに言われ、穂乃果はじっと、マスタングを見つめる。マスタングは何も言わない。選ぶ権利は向こうにあると思っているから。
やがて、穂乃果は頷いた。

「……わかった。うん、まずは話してみてから、だよね」
「穂乃果ちゃん!」

わだかまりは未だ消えていないが、それでも希望を繋ぐことができた。
それがこの戦いの報酬なのだと、ウェイブは黒子と顔を見合わせ笑う。
痛みはあれど、生まれたものも確かにある。

「クロメ。こいつらが俺の仲間だ。悪くないだろ?」

マスタングにも聞こえないほどの小さな声で、ウェイブは呟いた。
こいつらとなら、前を向いて歩いていける。そう思える。
だから、このときのウェイブはまだ、思いもしなかった。


絶望を告げる鐘の音が、もうすぐ響き渡ることに。


863 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:50:15 lktEQ.D.0

  ◆


後藤の視界は先ほどと違う光景を捉えていた。
どうやら最後に受けたあの攻撃で違う場所に飛ばされたのだと、朧気ながら理解する。

「やってくれる。あれも人間の工夫か」

身体の各所に大したダメージがないことを確認し、後藤は黙々と歩き出した。
戦うに値する敵を求めて。


【H-3/北/1日目/早朝】


【後藤@寄生獣】
[状態]:両腕にパンプキンの光線を受けた跡、手榴弾で焼かれた跡、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、不明支給品1〜0
[思考]
基本:優勝する。
1:泉新一、田村玲子に勝利。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)
3:セリムを警戒しておく。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※首輪や制限などについては後の方にお任せします。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※凜と蘇芳の首輪がC-5に放置されています。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。


・転移結晶(テレポートクリスタル)
イギーに支給。手に持って任意の場所を指定することでその場所に移動できる。
対象は一人だけ、一度使えば消滅する。


864 : ◆H3I.PBF5M. :2015/07/05(日) 21:50:38 lktEQ.D.0

投下終了です。
すみません、後藤以外の状態表は手違いで消してしまったのでまた明日改めて投下し直します


865 : 名無しさん :2015/07/05(日) 21:58:27 u0aGIeOk0
投下乙です!
一人ではなく全員で力を合わせて窮地を乗り切ったか、お見事
大佐を一対一で圧倒するとはさすがだぜ後藤さん
そしてシンイチと田村さん逃げて超逃げて


866 : 名無しさん :2015/07/05(日) 22:50:28 C.PrOZMQ0
投下乙です
軍人としての役目を果たそうとするウェイブも大佐もかっけぇ!
穂乃果も花陽も一般人なりにがんばったし、黒子も冷静さを発揮してくれた。
クロスオーバーの「アインクラッド」には震えた
クロメの喪失は背負って進まれ、イギーの託されたものが生きていたりと、まさに「全員」でもぎ取った勝利だった

ただ、黒子のテレポートには「一度に運べるのは(黒子自身の体重も含めて)130.2キロ前後まで」という限界があるので
「(自分の他にも)3人を抱えて移動した」云々のシーンは
「先に3人をテレポートで飛ばし、後から自分もテレポートで追いつく形で移動した」等の方法に変更した方がいいかと思われます
(アニメでは大の男数人を移動させるシーンがありますが、一度に飛ばすのではなくべつべつに触って飛ばしてますし)


867 : 名無しさん :2015/07/06(月) 11:33:04 DsnYENFc0
投下乙です
後藤さすが某ロワ二大マーダー。まだまだ暴れてくれそうだ
イギーが遺した転移結晶を黒子のテレポートと合わせるとは…
しかしどん底からの団結が素晴らしい…放送後に崩壊待ったなしだけど


868 : ◆/CiIP89ybY :2015/07/07(火) 00:15:18 YxerAaXs0
告知です
現在したらばの投票スレで放送案投票を行っております
今日一杯が投票期間ですので投票はお早目に


869 : 名無しさん :2015/07/08(水) 00:37:57 6aQEwz5E0
告知です
明日の0時より予約解禁になります


870 : ◆dKv6nbYMB. :2015/07/08(水) 10:45:14 QY2ahLNM0
放送話投下します


871 : 第一回放送 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/08(水) 10:47:08 QY2ahLNM0
ザザッとノイズ音が鳴り、会場中に広川の声が響き渡る。
ある者は動揺しつつも耳を傾ける。
ある者は情報を逃すまいと記録する準備をとる。
ある者は依然変わりない態度で放送に向き合う。
ある者は拒むように耳を塞ぐ。
反応は多種多様だが、いずれにせよ、それから逃れる術はない。
まるで脳内に直接流れ込んでくるように、広川の声は参加者たちの身体に染み込んでいった。






おはようしょくん。既にルールは把握しているだろうが、念のためにもう一度確認しておく。
この放送は6時間ごとに行い、その都度『禁止エリア』及び『脱落者』を読み上げる。
一度しか流さないので、記憶力に自信のない者はメモをとるのをお勧めする。
30秒待とう。それまでに各自準備をしてくれ。


872 : 第一回放送 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/08(水) 10:49:01 QY2ahLNM0
準備はできたかな?...では、今回の禁止エリアを発表しよう。
禁止エリアは3つ。

B-2。
E-6。
A-5。

以上の三つだ。
最初にも説明した通り、禁止エリアに踏み込むこめば首輪が爆発し死に至るため気をつけたまえ。


続いて、今回の脱落者だ。

南ことり
美遊・エーデルフェルト
浦上
比企谷八幡
佐天涙子
クロメ
クマ
渋谷凛
モモカ・萩野目
星空凛
蘇芳・パブリチェンコ
巴マミ
園田海末
天城雪子
ペットショップ
イギー


以上16名だ。
素晴らしいペースだ。この調子でいけば時間切れで全員が死亡なんて結末にはならずに済みそうだな。
だが、もし早く終わらせたいと願うなら速やかに殺し合いを進行させることだ。
下手に長引かせれば、隣にいる者にグサリ!...などといった結末をきみ自身が辿ることになる。


873 : 第一回放送 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/08(水) 10:50:29 QY2ahLNM0
さて、これで放送は終わりにするが...ひとつ忠告を忘れていた。
身体の構造上、首輪を外せる術を持っていると思い込んでいる者がいるようだが、当然ながらそれにも対策は講じてある。
試すのは勝手だが、そのことを頭の片隅においておいてほしいとだけ言っておこう。
それではしょくん、更なる健闘を期待しているよ。





ブツンという音とともに、参加者を支配していた広川の声は途切れた。
ある者には驚愕を与え。
ある者には悲しみを与え。
ある者には怒りを与え。
ある者には喜びを与え。
多くの者に爪痕を残して放送は終わった。
しかし、これはまだ序章だ。
血と肉が
信頼と裏切りが
生と死が
愛憎とびかうこの狂演は、まだ始まったばかり。



【死亡者16名 残り56名】


874 : ◆dKv6nbYMB. :2015/07/08(水) 10:51:23 QY2ahLNM0
投下終了です。


875 : 名無しさん :2015/07/08(水) 22:24:42 eOJSza9c0
遅くなりましたが投下乙です

後藤の襲撃を耐え抜いただと。黒子の機転やクロメの思いが感じられてよかったです
そして放送は広川さんの底知れ無さが光る


876 : 名無しさん :2015/07/09(木) 00:45:47 NYGrc1Zw0
放送乙です
とうとう最初の放送が来たか
これが色々と引き金になるんだろうなあ


877 : 名無しさん :2015/07/09(木) 08:28:36 NYGrc1Zw0
放送で一つ気になった点が
「園田海末」ではなくて「園田海未」です


878 : ◆dKv6nbYMB. :2015/07/09(木) 23:40:30 Lu158WqU0
>>877
誤字のご指摘ありがとうございます。
>>872の「園田海末」を「園田海未」に修正します。


879 : 名無しさん :2015/07/10(金) 09:18:48 mhcSRphk0
ここのスレどう思う?
tp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/8882/1434114271/


880 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/10(金) 22:38:21 5mqfloXY0
投下します


881 : 赤から黄へは戻れない ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/10(金) 22:39:47 5mqfloXY0


椅子にふんぞり返り、今後の方針を考える佐倉杏子。
願いを叶えるには最後の一人になるまで生き残るしか無い。
独りになるまで他の人間全員を殺さなくてならなく、その時間と労力は多大だろう。

自分一人で殺さなくてもいいのだが、冷静に考えなくても殺し合いに乗る人間の方が少ない。
殺人は罪であり人道の道から踏み外れ道徳の対岸に存在する闇の極みだ。
最初に出会った学ランの男も殺し合いに反対する人間だった。
唯の一般人なら楽に殺せるが、妙な力を使われてしまい結果として返り討ちだ。
先が思いやられる、と思っていた矢先の氷男による襲撃。
神が自分を見限ったとしか思えない展開に杏子は溜息を吐きながら天井を見上げた。

「殺す……この手であたしが……か」

人間を殺す感触とはどんなものなのか。
肉は柔らかいのか骨は硬いのか。
内蔵は潰れやすいのか血液は重たくないのか。

魔法少女として生き抜く過程で間接的に他者を殺したことはある。
認めたくはないし現実から目を背けていたが、間接的に他者を殺したことはある。

しかし実際にこの手で肉を抉り心の臓を潰したことなど一度もない。
魔法少女の成れの果てが魔女。
広意義に捉えれば人間を殺したことはあるが、今は言葉遊びをしている訳ではない。

「父さんや母さん、モモが知ったら怒るのかな……ははっ」

この世に存在しない愛する家族を思い浮かべながらの乾いた笑いが虚しく残る。
聖職者の娘が摩耶香しで人々を騙し、バトル・ロワイアルに巻き込まれ人殺しの道を歩もうとしている。

「へ……殴ってでも止められそうだ」

魔法で得た偽りの信者の件で逆鱗に触れたのだ。あの父親なら殴るか完全に自分を見限るだろう。
それは間違いではなくて、人として正しい判断と行動である。
間違いなのは魔法少女であり彼女達の存在は誤りなのかもしれない。

「父さんなら「殺し合いなんてふざけている!」とか言ってさ……言ってさ……」

自らの希望を叶え、その後は他者の希望を絶望で塗り潰さなくては生きていけない。
魔法少女の存在が悪とまでは思えないが、存在しなければ世界は今よりも優しくなるかもしれない。
しかし魔法少女の力とシステムが無ければ彼女は家族揃って死んでいたかもしれないのだ。
一概に悪とは言えず、この世で何が正義で何が正しいのか解らなくなってしまう。

「言ってさ……あー、やめだやめ。こんなん考えても一文の徳? ってにもなんないよ」

自信のない日本語に疑問を覚えながら杏子は己の脳にシャッターを降ろした。
自分の存在が悪と、屑と、ゾンビと言われようが自分は自分である。
他人に死ねと言われそのまま死ぬ訳が無いように所詮他人の言葉はその程度だ。


882 : 赤から黄へは戻れない ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/10(金) 22:41:04 5mqfloXY0

自分が人殺しだろうがもう一度朝日を浴びれればそれでいい。
もう一度希望を手に入れる機会があるならば人を殺してもいい。

「人を殺す……あたしが、か。だよな、うん」

自分の人生のために殺し合いを生き残る覚悟を決めた。
死にたくない、もう一度やり直したい思いと気持ちは本物だ。
しかし人を殺す現実を考えると、人間である自分に迷いが生まれる。

「殺せる……ワケないと思うけど生き残らないと死ぬし」

合理的に考える。
誰の言葉か思い出したくも無いが、独りの時間は頭を冷静にさせる。
全員を敵に回すのは合理的か、違う。
願いを叶えるために誰かを不幸にするのは合理的か、そもそも合理的とは一体……彼女は頭を抑えた。

「いや……ついさっきまであたしは殺す気満々だった。
 思いだせ、忘れるな……覚悟が鈍って殺せなくなる……正しいのは――っし」

殺し合いに乗る覚悟を決めた魔法少女。しかし彼女は人間である。
弱い意思と脆い心を持ち、闇にずっと触れていれば己を壊してしまうのだ。
この環境は人間に悪影響を及ぼす。本来の生活に殺し合いなど必要ないから。

勢い良く言葉を切り、そのまま椅子から立ち上がる杏子。
考えるのは辞めた、殺すって言ってるから殺すんだ。今はそれでいい。
実際に人を殺すことになったら躊躇うのも理解している、解っている。
男たちと戦った時、戦闘は始まったが追い詰めていない。
つまり命を奪う場面にまで進んでいない段階であり、彼女は殺しにまだ携わっていない。

覚悟を決めてもまだ一人も殺せていないとある少女がいるように。
人の命を奪えていない状況が余計に彼女を惑わせる。
だから考えるのを辞める、答えのない迷路に迷っているなど無駄だから。

「えびーでーやーんらーじゅーねーすー」

再生していたビデオが流れた耳に残るフレーズを口遊む。
頭から離れなく、自然と口に出してしまう。
フレーズとしては優秀であり、成功の部類と言えるだろうか。
幼い子供なら壊れたラジオのように何度も繰り返すような馴染みやすさを感じていた。

ビデオを元の場所に戻し彼女は北方司令部を後にする。

次の行き先はジュネス。

フレーズに惹かれたワケではないが物資の補給のために向かう。
大型の店ならば食糧だけではなく着替えなどの雑貨もあると判断。
それに他の参加者も集まりそうな気がしてくる。

映像にあったフードコード。
家族から友人まで多くの人間が集まっていた。
その光景に懐かしみを覚えたが、今は甘さを捨てるべきだ。

気合を入れ直したところで放送が割り込む。

数時間ぶりに聞いた広川の声に怒りと何かを覚えるも耳を傾ける。
彼の言葉通りにするのは癪だがメモを取るために筆記用具を取り出した。


883 : 赤から黄へは戻れない ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/10(金) 22:41:14 5mqfloXY0

自分が人殺しだろうがもう一度朝日を浴びれればそれでいい。
もう一度希望を手に入れる機会があるならば人を殺してもいい。

「人を殺す……あたしが、か。だよな、うん」

自分の人生のために殺し合いを生き残る覚悟を決めた。
死にたくない、もう一度やり直したい思いと気持ちは本物だ。
しかし人を殺す現実を考えると、人間である自分に迷いが生まれる。

「殺せる……ワケないと思うけど生き残らないと死ぬし」

合理的に考える。
誰の言葉か思い出したくも無いが、独りの時間は頭を冷静にさせる。
全員を敵に回すのは合理的か、違う。
願いを叶えるために誰かを不幸にするのは合理的か、そもそも合理的とは一体……彼女は頭を抑えた。

「いや……ついさっきまであたしは殺す気満々だった。
 思いだせ、忘れるな……覚悟が鈍って殺せなくなる……正しいのは――っし」

殺し合いに乗る覚悟を決めた魔法少女。しかし彼女は人間である。
弱い意思と脆い心を持ち、闇にずっと触れていれば己を壊してしまうのだ。
この環境は人間に悪影響を及ぼす。本来の生活に殺し合いなど必要ないから。

勢い良く言葉を切り、そのまま椅子から立ち上がる杏子。
考えるのは辞めた、殺すって言ってるから殺すんだ。今はそれでいい。
実際に人を殺すことになったら躊躇うのも理解している、解っている。
男たちと戦った時、戦闘は始まったが追い詰めていない。
つまり命を奪う場面にまで進んでいない段階であり、彼女は殺しにまだ携わっていない。

覚悟を決めてもまだ一人も殺せていないとある少女がいるように。
人の命を奪えていない状況が余計に彼女を惑わせる。
だから考えるのを辞める、答えのない迷路に迷っているなど無駄だから。

「えびーでーやーんらーじゅーねーすー」

再生していたビデオが流れた耳に残るフレーズを口遊む。
頭から離れなく、自然と口に出してしまう。
フレーズとしては優秀であり、成功の部類と言えるだろうか。
幼い子供なら壊れたラジオのように何度も繰り返すような馴染みやすさを感じていた。

ビデオを元の場所に戻し彼女は北方司令部を後にする。

次の行き先はジュネス。

フレーズに惹かれたワケではないが物資の補給のために向かう。
大型の店ならば食糧だけではなく着替えなどの雑貨もあると判断。
それに他の参加者も集まりそうな気がしてくる。

映像にあったフードコード。
家族から友人まで多くの人間が集まっていた。
その光景に懐かしみを覚えたが、今は甘さを捨てるべきだ。

気合を入れ直したところで放送が割り込む。

数時間ぶりに聞いた広川の声に怒りと何かを覚えるも耳を傾ける。
彼の言葉通りにするのは癪だがメモを取るために筆記用具を取り出した。


884 : 赤から黄へは戻れない ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/10(金) 22:42:11 5mqfloXY0

『準備はできたかな?...では、今回の禁止エリアを発表しよう。
 禁止エリアは3つ。

B-2。
E-6。
A-5。

以上の三つだ。
最初にも説明した通り、禁止エリアに踏み込むこめば首輪が爆発し死に至るため気をつけたまえ。』

言われた通りに地図の該当エリアを×で潰す。
施設等は記載されていなく、会場を歩く時に気を付ければ問題はない。

首輪が爆発する。
ペンでコンコンと軽く叩いてみるが何も反応はない。
この首輪が嵌められている限り自分に幸せは訪れないだろう。

(魔法でも外せないし真剣に考えてみるのもいいかも。
 それか誰かと協力ね、協力。何も一人で全員ころ……はぁ)

首輪を外せれば心の負担はかなり減る。
確信はあるがなにせ外せない、外れない。
こればっかりは考えても行動しても答えは出ずに誰かを頼るしか無い。

『続いて、今回の脱落者だ。

 南ことり
 美遊・エーデルフェルト
 浦上
 比企谷八幡
 佐天涙子
 クロメ』

読み上げる死者。
死んだ人間を発表するのか、お前は本当に人間なのか。
広川の優しさの欠片も持ち併せない心に呆れる杏子だが彼女も同じだ。
他人を殺そうとしている自分も同じ存在だ、また乾いた笑いが響く。

『クマ
 渋谷凛
 モモカ・萩野目
 星空凛
 蘇芳・パブリチェンコ』

「がおー……って多くないか?」

クマが呼ばれ子供のように物真似をする彼女。
自分には関係ない名前が呼ばれているため緊張感が生まれない。
顔も知らない人間が死んでも実感が沸かず……。

(そもそも本当にこいつらは死んでるのか?)

そんな疑問も生まれてくる。
これは広川が参加者を惑わすために流している戯れ言ではないだろうか。

言葉には出さない。
一度考えれば首輪に何か仕組まれていても不思議はない。
爆発するということは遠隔操作が可能であること。
遠隔操作が可能であるということは何処かで監視していること。
映像か音声かは不明だが用心することに越したことはないだろう。


885 : 赤から黄へは戻れない ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/10(金) 22:43:37 5mqfloXY0

立ち止まって聞いてても問題はないが動き始める杏子。
黙って止まっていればいい的だろう。
遠くから銃で狙撃でもされたら溜まったもんじゃない。

銃と言えば、だ。

「そう言えばあいつも……」

『巴マミ
 園田海未
 天城雪子
 ペットショップ
 イギー


 以上16名だ。
 素晴らしいペースだ。この調子でいけば時間切れで全員が死亡なんて結末にはならずに済みそうだな。
 だが、もし早く終わらせたいと願うなら速やかに殺し合いを進行させることだ。
 下手に長引かせれば、隣にいる者にグサリ!...などといった結末をきみ自身が辿ることになる。』





彼女は無言で外に出て朝日を浴びた。
身体を伸ばしながら等身大精一杯に太陽の輝きを感じる。
生活がどんなに苦しくても朝日を浴びない日は無かった。
天気が悪いは別たが、本来の生活で。という話しではあるが。

「十六人か。思ったよりも死んでる」
その足をジュネスへ向け歩み始める杏子。
広川が読み上げた名前は実に十六人分であり、第一印象が死に過ぎ、である。
たった六時間の間にこれだけの数が死んでいると考えると殺し合いに乗っている人間は多いのだろう。

   現実を受け入れたくない。
   呼ばれた名前の中に何故か知っている名前があった。
   信じたくはないが何故かあった。


886 : 赤から黄へは戻れない ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/10(金) 22:44:35 5mqfloXY0

「覚悟はしてる……あたしだって殺ってやる」
殺人はパフォーマンスではない。
つまり多く殺せばいいという話しではなく、生き残ることが重要だ。
自分で殺すことに越したことはないが、やはり人間は甘く脆く狡い生物である。
その手は汚したくない。

   父の言葉が民衆に受けいられなくなり生活は苦しんでいた。
   その行いは神に背いていなく正しい行いだった。
   だけど人間は古い習わしを大切し新風を拒んだ。
   荒濁の中で杏子の人生に終幕が訪れた。
   それは異形の襲来であり、彼女が死を覚悟した時、一人の魔法少女が現れた。

「ジュネスに行けば誰かしらいるだろ。其処で誰かを利用するか」
首輪を外せる存在。
自分の代わりに他者を殺せる存在。
利用出来そうな存在。
殺し合いを優位に進めるために利用出来る物は全て利用する。

   憧れた。
   その強い力とかっこよさに憧れた。 
   自分も一緒に戦いたいと思った。それで覚悟を決めた。
   それが間違いだった。
   
   願いは不幸を呼び込み、あたしを残して家族はみんな死んだ。
   父さんに魔女って呼ばれた。思い出しただけで死にたくなってくる。
   そんな時に心配してくれたあの人は眩しかった。
   だから……避けちまった。

「えびーでーやーんらーじゅーねーすー……雨?」
足を止めて下を見ると水滴が堕ちた痕があった。
しかし太陽は輝いており、蒼天に曇りなど似合うはずもなく存在していない。

   自分から独りぼっちになって。
   寂しかった。天涯孤独って吐きそうになるぐらい不安だった。
   あの人が居なくなってあたしの傍には誰も……いない。

「何で水滴が……」
更に水滴が増える。
雨のように連続では堕ちてこない。
ゆっくりと間隔を開けて堕ちてくる水滴の正体は何なのか。

   それから死んだって聞いた時は泣いた。
   何度も泣いたさ。礼も言えずに喧嘩別れだ。
   取り返せないあの時間を悔いて何度も泣いた。
   見滝原に戻ったのもあの人を忘れたくないから。
   其処で見つけた新人に懐かしみを覚えて強く当たったりもしてさ。

「……あ」
その水滴は自分の頬を伝っていた。
感情を制御し切れない。溢れる想いを止められない。
彼女がその存在の大きさと正体に気付いた時、崩れるように涙が溢れた。


「勝手に生き返ってさ……なんで勝手にまたあたしから離れるんだよ……マミさん」


失った存在は二度と光を浴びることはない。
そして残された存在は闇を背負って光の中を生き抜かなければならない。

けれど彼女の心は脆く、崩れ、それでも前を向く意思だけは残っていた。

それが光を目指す意思か闇を歩み意思かは彼女にしか解らない。


【E-1/朝】


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:精神疲労(大)、悲しみ、ノーベンバー11に対する苛立ちと怒り、殺し合いに対する迷い
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実 大量のりんご@現実 不明支給品0~2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いについて考える。
1:巴マミを殺した参加者を許さない。
2:ジュネスに向かう。
3:殺し合いを壊す。それが優勝することかは解らない。
4:承太郎に警戒。もう油断はしない
5:ジャック(ノーベンバー11)は絶対殺す。猫も取り返す。
6:ジャックに殺し合いに乗る自分が正しいと証明してみせる。
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※巴マミの死により精神が不安定状態です。


887 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/10(金) 22:46:42 5mqfloXY0
投下を終了します
途中の連投はすいません。
最後の一文で
>それが光を目指す意思か闇を歩「み」意思かは彼女にしか解らない。
「み」ではなくて「む」です。
色々とすいません。


888 : 名無しさん :2015/07/10(金) 22:52:19 vPQvL0WY0
投下乙です
杏子ちゃんの丁寧な掘り下げ、魔法少女内じゃマミさんを失って一番影響が大きいのは彼女かもしれない
彼女の槍が貫く事になるのは果して…


889 : 名無しさん :2015/07/10(金) 23:50:49 zooC.YHA0
投下乙です
杏子とマミさんの関係思うと切ないなあ
そりゃあ影響でかいだろうな


890 : ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/11(土) 10:52:34 ogOCThM20
感想ありがとうございます。
投下します


891 : 黄は止まり青は進む ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/11(土) 10:54:48 ogOCThM20

彼らの耳に広川の声が届いたのは歩き始めてから割と直ぐだった。
適当に会話を流しながら歩いていたら突然声が響き始め足を止めた。

所謂放送であり、タツミとさやかは筆記用具を取り出し彼の声に耳を傾ける。
上条当麻と呼ばれた男が殺された時のことを思い出す。
禁止エリアなり脱落者の発表なり色々と言っていたような気もする。
非常事態だったために記憶にはあまり残っていないのだが。

「朝からアイツの声を聞くなんてな」
「ちょっとテンション下がる」

不満も言いたくなる状況だ。
そもそも何故殺し合いに巻き込まれなくてはならないのか。
タツミは自分とアカメを含むナイトレイド抹殺のためと考えるがイェーガーズの存在が引っ掛かる。
表では正義の執行機関が殺し合いに関わるなど体裁としては有り得ない。
彼らも巻き込まれているとするならば誰が裏で糸を引いているのか。
大臣とは考えにくいが、どうも絶大な権力を持った人間は理解出来ない。

それこそ竜だったり人造生物を始めとする危険種のようなものである。
主催者は人間ではなく人外の生物で神になろうとしています。なんて言われた方が解りやすい。
最も受け入れることなど不可能であり、何であろうと悪は斬り捨てるだけである。

対するさやかは主催者のことなどどうでもいいと考えている。
他人だ、それも自分とは一切関わる必要のない本当に知らない他人。
興味があるのは力だけであり、願いを叶えられる奇跡だけ。
本当に巴マミが蘇生させられているなら自分も人生をやり直せる。

そのためには生き残らなければならない。
他の参加者を殺さなければならない。
成し遂げなければ、戻れない。

『おはようしょくん。既にルールは把握しているだろうが、念のためにもう一度確認しておく。
 この放送は6時間ごとに行い、その都度『禁止エリア』及び『脱落者』を読み上げる。
 一度しか流さないので、記憶力に自信のない者はメモをとるのをお勧めする。
 30秒待とう。それまでに各自準備をしてくれ。


 準備はできたかな?...では、今回の禁止エリアを発表しよう。
 禁止エリアは3つ。

 B-2。
 E-6。
 A-5。

 以上の三つだ。
 最初にも説明した通り、禁止エリアに踏み込むこめば首輪が爆発し死に至るため気をつけたまえ。』

読み上げられたエリアに印を付けていく。
誰にも殺されること無く自分の不注意で死ぬなど情けないにも程がある。
印を付けていく過程で一つ疑問が生まれた。


892 : 黄は止まり青は進む ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/11(土) 10:55:53 ogOCThM20

首輪が爆発するということは何かしらの反応があるということだ。

「なぁ、魔法って奴で首輪を外せないのか?」

「あたしの魔法ってそんな器用じゃないからね」

首輪には謎な部分が多い。
まず何時嵌められたか解らないのだ。
ジョセフや初春もきっと嵌められた記憶は持っていなかっただろう。
会場に誘拐したように広川は未知なる力を所有しているかもしれない。

未知なる力に対向するには未知なる力。
タツミはさやかに魔法での首輪解除を尋ねるが駄目なようであった。

「戦闘向きなの。それと回復ね、解りやすいでしょ?」

「剣と背中の傷の回復能力……まぁそうだな」

「それに知識がないから多分ムリ」

人生は必ずしも上手くいくとは限らず、壁ばかりである。
簡単に首輪が外れれば誰も殺し合わないだろう。
自分達の命が握られている状況が精神を煽り不要な争いを誕生させてしまう。

首輪の解除が不可能なおとであると解ったタツミは広川が読み上げる死者の名前に耳を傾ける。
名簿を取り出し呼ばれた名前を線で消していく。

『クロメ』

「――っ」

呼ばれた名前の中に一つ知り合いの名前が在った。
それは仲間であるアカメの妹であるクロメ。
幼い頃、暗殺組織に投げ込まれ、其処で最終的に別れてしまった最愛の妹。

ナイトレイドとイェーガーズ。

決して交わることのない組織同士に身を寄せた姉妹。
その瞳には生き残る道と自分を必要と足らしめる証しか見えていない。
姉妹が暖かく一緒に暮らすには時間が空き過ぎたのだ。

妹よりも早く組織から抜けた姉。
残された妹にしてみれば自分を置いて逃げたのと同義である。
そんなことはないのだが、それでも人間は追い込まれると自分のことしか考えない。
姉妹の亀裂は誰にも修復出来ない。

(私が救済する『殺す』……なぁアカメ)

最愛の妹をこの穢らわしい世界から救済したい。
姉の言葉を思い出す、それは悲しいが愛情故の思考であった。
彼女自身で手を下せたのか、ならば笑って逝けたのだろうか。
最後は苦しむこと無く楽に逝けたのか。それは誰にも解らない。

(アカメ……俺が傍にいてやんないとな)

だからこそ。
どんな状況かは不明だがアカメもこの放送を聞いている。
遅かれ早かれ妹の死に気付くだろう。その死を受け入れることは出来るのか。

出来る。
彼女は強い。
けれど彼女とて人間であり、心を持っている。

支える人間が必要だ。
ならこの会場で誰よりも彼女のことを知っている自分が傍に居てやらないと。


893 : 黄は止まり青は進む ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/11(土) 10:56:34 ogOCThM20

美樹さやかは考える。
巴マミの名前が広川によって呼ばれた。

つまり彼女は生きていた。
殺されたと言うことは生きていたことになり、彼女はもう死んでいる。
当然だが本来死んでいた巴マミをどうやって生き返らせたのか。
魔法だろうか。金で買えるほど安くない奇跡を広川は持っていたのか。
誰かしらが契約を結び対価として彼女を蘇生させたのならば話は解る。
けれど白い契約者がこの会場に居るかどうかは不明で、関わっているかどうかも不明だ。

広川には謎が多い。
解明して行かなければ彼を出し抜くことは不可能である。
しかし美樹さやかは自分の人生をやり直す願いのみ見据えているのだ。

彼などどうでもよく。
出来れば知り合いに出会わないで願いを叶えたい。
それだけである。

(マミさん……また死んだなら辛いよね)

二度の死とはどんな感覚なのだろう。
そもそも死を体験していない彼女には解らない話である。

「ねぇ……この放送は全部真実だと思う?」

口から漏れた言葉は広川に対する疑問であった。

「嘘をつく理由がない。俺達にも広川にもメリットがない」

嘘をついた所で誰が得するのか。
生きていてよかった、と思う参加者は居るかもしれない。
だが死んだ者のために殺し合いに乗る参加者が生まれるかもしれないのだ。
広川が好んで行っている可能性も在るが、事実として受け入れる方が割りに合う。

「じゃあ願いが叶うのも本当だよね」

「……お前、やっぱそうなんだな」

「斧を構えなくてもいいよ。あたしは大丈夫だからそれより――死んだ人間って生き返ると思う?」

さやかの言葉からタツミは危険を感じ帝具を取り出していた。
言葉の節々から出ている気は常人の類ではない。
最後の一人になれば願い事を叶えることが出来る。
そんな戯言を信じている人間に背中を任せることなど出来ない。

「決まってるだろ」

死んだ人間を生き返らせることが出来るのか。
呼ばれた名前の中にあった巴マミ。
美樹さやかの知り合いである。きっと彼女に対してだろう。
仮に優勝して死んだ人間を生き返らせると考えているのならば。

「死んだ人間が生き返る何て有り得ない。そんなことはあっちゃいけない」


894 : 黄は止まり青は進む ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/11(土) 10:57:54 ogOCThM20

此処で殺す。
元々自分を襲って来た危険人物だ、何時牙を剥かれても可笑しくない。
彼女が再び暴れるものならばこの斧で首を斬り落とすだけ。

「そう……だよね、うん。やっぱ有り得ないよね!」

彼女の言葉は明るかった。
本心まで明るいかどうかは不明だが表向きは明るく振る舞おうとしている。

彼女がそれでいいのならば、それ以上干渉する必要はない。
死者の蘇生はタツミも一度考えたことが在る。
けれどそれは夢物語であり、仲間からは有り得ないと一蹴された。

甘い気持ちを捨てなければ闇の世界を生き抜くなど不可能である。

表面は明るく振る舞う彼女を信じて斧を降ろす。
心は許さないが、この瞬間は大丈夫であろう。
そして広川の声が再度響く。

『下手に長引かせれば、隣にいる者にグサリ!...などといった結末をきみ自身が辿ることになる。』





「あはは……可怪しいね」

「なに言ってるだよコイツは! って感じだな」

その言葉はまるで自分達を指しているようで。
二人は完全に心を許さないまま互いに行動をする。

其処に仁義は存在しなく、敵になれば見限ることなど容易く。
きっかけさえあれば殺せる程度には脆い結束であった。

「……じゃあ歩くか」

「……うん」

切り替えるように短い言葉を交わす。
沈黙は不信感を煽り、無駄な闘争を産んでしまう。
思惑はどうであれ、今は殺し合いの中を共に行動する相棒だ。

少なくても表向きは信じなくてはいけない。

心に仮面を付けて彼らは出会いを求めて歩き出す。


【F-7/一日目/朝】


【タツミ@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、テニスラケット×2、ソウルジェム(穢:小)
[思考・行動]
基本:悪を殺して帰還する。
1:さやかと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でジョセフたちと合流する。
2:さやかを監視する。さやかに不穏な気配を感じたら即座に殺す。
3:アカメと合流。
4:もしもDIOに遭遇しても無闇に戦いを仕掛けない。
[備考]
※参戦時期は少なくともイェーガーズの面々と顔を合わせたあと。
※ジョセフと初春とさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※首輪を解除できる人間を探しています。
※魔法@魔法少女まどか☆マギカでは首輪を外せないと知りました。
※さやかに対する不信感。


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:波紋が与えた肉体への影響(小)、ソウルジェムの物理ダメージ(小)、精神不安定 、見滝原制服
[装備]:基本支給品一式、テニスラケット×2、グリーフシード×1、ほぼ濁りかけのグリーフシード×2
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:やっぱりどうにかして身体を元に戻したい。そのために人生をやり直したい。
0:タツミからソウルジェムを取り返す。
1:タツミと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でタツミたちと合流する。
2:いまはゲームに乗らない。でも、優勝しか願いを叶える方法がなければ...
3:まどかは殺したくない。たぶん脱出を考えているから、できれば協力したいけど...
4:杏子とほむらは会った時に対応を考える。
[備考]
※参戦時期は魔女化前。
※初春とタツミとジョセフの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物と認識しました。
※ゲームに乗るかどうか迷っている状態です。
※広川が奇跡の力を使えると思い始めました。
※魔法で首輪は外せませんでした。



【さやかが話した魔法少女についての共通認識】
※ソウルジェムが本体である。破壊されるか、100メートル以上離れると身体が操れなくなり死ぬ。
※魔力を消費し、濁りが溜まると死ぬ。(さやかがそう説明しました。魔女化についてはさやか以外知りません)


895 : 黄は止まり青は進む ◆BEQBTq4Ltk :2015/07/11(土) 10:58:24 ogOCThM20
投下を終了します


896 : 名無しさん :2015/07/11(土) 14:22:07 okKJAGl20
投下乙です
この二人の不穏な雰囲気が良いですね
広川さんの言葉が見事に状況とマッチしている


897 : 名無しさん :2015/07/11(土) 18:45:24 GFxblbyk0
投下乙です
タツミの死者は生き返らない云々は最初の考えると・・・
にしても杏子といいさやかといいマミさんの存在でかいな


898 : 名無しさん :2015/07/11(土) 20:37:30 bPZAWSlk0
投下乙です
上辺は取り繕いつつも2人の縮まらない心の距離感、分かりあえる時は来るのだろうか
タイトルは思わず成程と唸りました


899 : 名無しさん :2015/07/14(火) 20:21:52 tYxrQiVY0
投下乙です
放送後のこういう心情の機微って、ロワの醍醐味だよなあ
二人ともマミさんの影響は大きかった


900 : 少女不十分 ◆5brGtYMpOk :2015/07/15(水) 23:37:12 2Mvt85ZE0
投下します


901 : 少女不十分 ◆5brGtYMpOk :2015/07/15(水) 23:38:07 2Mvt85ZE0
肌寒い早朝の時間は過ぎ、陽が街全体を包み込む朝の時間がやってくる。
郊外にある小さな駅。そこから歩いて五分と経たない場所にあるファミリーレストラン。
会合した少女たちが始めるのは、放送が始まるまでの休息の時間。
クロエ・フォン・アインツベルン、里中千枝、ヒルダ。
出身も人種も違う三人の朝食は、何者も邪魔することなく進もうとしていた。

「……驚いたわ」
「あぁ? そりゃどういう意味だ」

店内には空腹を刺激する香りが漂っている。発生源は窓際にあるテーブルの上からだった。
ふわふわとした卵を閉じて沢山のお肉が入ったオムライス。キャベツやもやしといった素材に、ニンニク風味を加えた野菜炒め。
イタリアントマトとモッツァレラチーズを使用したピザに、色とりどりの海鮮が入ったクリームパスタ。カリカリに焼いたベーコンに、トマトと粉チーズを混ぜたシーザーサラダ。
青海苔が入った卵焼きに、小皿に盛り付けられたエビチリ。
熱々の鉄板の上にガーリックを乗せたチキンが音を鳴らしている。隅に置かれた味噌汁は湯気を出していた。
テーブルにはレンジで温めるだけの物だけではなく、手間を加えた物もある。
それらを全て作ったのはヒルダだった。お腹が減ったと二人にせがまれた彼女は、多少の調理の経験を活かして料理を振舞っていた。

「んー、いい匂い。ファミレスでもバカにできないなぁ」
「材料だけはあるからな。簡単なものならあんたたちでも作れるよ」
「料理は腕だけじゃない、だから大丈夫だよクロエちゃん」
「料理は愛情……そうよね、お兄ちゃんもそう言ってたし」
「……あんたらはなにを言ってるんだ」

自分がいない間になんの会話に華を咲かせていたのかと悪態を付きつつ、自ら作った料理に取り付く。
腹が減っては戦は出来ない、というように目の前の料理をお腹に掻き込む三人。
朝食の提案をしたのはクロエ。きっかけを作ったのは千枝。二人のお願いに首を縦に振ったのはヒルダ。
時間が限られている世界とはいえ、食べれるうちに食べておいた方がいいと判断した為だ。
意外な特技にクロエが口を挟み、美味しいと言いながら手を休めない千枝に、相槌を打ちながらもご飯を口に運んでいるヒルダ。
その姿は殺し合いの場にいるとは思えないくらいに和気藹あいあいとしていた。

「ーー私たちに必要なことは明確な目的を持つこと」

テーブルの上に並ぶ料理が少なくなってきた頃を見計らってクロエが声を鳴らした。
綺麗にお皿を空にしたヒルダは、一瞬だけクロエと視線を合わせ次の料理に取り掛かる。
話は聞くが箸を止める気はないということだ。余程お腹が空いていたのか、千枝は口いっぱいに放り込んだ食べ物をジュースで流し込もうとしている。
そんな二人を見て、気が抜けるわ……と、クロエは張り詰めていた肩の力を抜く。


902 : 少女不十分 ◆5brGtYMpOk :2015/07/15(水) 23:39:40 2Mvt85ZE0
テーブルの上に並ぶ料理が少なくなってきた頃を見計らってクロエが声を鳴らした。
綺麗にお皿を空にしたヒルダは、一瞬だけクロエと視線を合わせ次の料理に取り掛かる。
話は聞くが箸を止める気はないということだ。余程お腹が空いていたのか、千枝は口いっぱいに放り込んだ食べ物をジュースで流し込もうとしている。
そんな二人を見て、気が抜けるわ……と、クロエは張り詰めていた肩の力を抜く。

「言い換えれば、このゲームにおけるスタンスを確かなものにする。迷いは自分が思う最高の結果はついてこない。あの夜の出来事みたいにね。
あの時ああしていれば……なんて馬鹿なことは考えないけれど、わたしなりにやれることはやったわ。
では何故あんな結果になったか。世の中どうしようもないことはあるけれど、あれはどうにか出来ないものではなかった。
そう……わたしたちに足りなかったのはーー」

「覚悟……そういう事だろ、クロ」

クロエの言葉を遮ったのはヒルダ。紙ナプキンを手に取り口を拭いていく。

「エンブリヲに操られているとはいえ、所詮モモカは素人。訓練を受けているあたしと、異能を持った二人。
助けることが出来ないなんて言えねぇよな。やりようはいくらでもあった。考えれば頭の中に次々と浮かんで来る。
ああ、これも馬鹿なことに入んのか。そうだな、ほんとうにクロの言う通りだ。あたしたちには覚悟が足らなかった」

情報の整理をしていく中で、二人が結論を付けたのは図らずも同じものだった。
悩んでいたのが馬鹿らしくなるとても簡単なこと。気が付いたのは沸騰した頭が冷えていった一人になっていた時。
そしてそれは二人だけの話ではない。もう一人。箸を止めじっとクロエを見つめている千枝は、自らの考えを持って口を開く。

「きっと、クロエちゃんの言う通りなんだと思う。誰かを守りたい。それがわたしの夢なのに、目の前の危機になにも出来なった。
わたしのペルソナなら……何か出来ることはあったんじゃないかって、後悔しても遅いんだって分かっていても、どうしてもやりきれなくて。
だからもう迷いたくない。一人でも多くの人を助けたい。
だけど、それでも助けられない人たちはいる。この手は一つだから、どうしても溢れちゃう。
だから二人に手伝って欲しい。これがわたしの覚悟。独りよがりに巻き込みたくない……ちょっとでもそんなことを思っていたから」

語るのは力のない自分を責め、一人の力ではなにも守ることは出来ないということ。
頭を下げて彼女は言う。このふざけたゲームを止めるのに協力してほしい、と。
音が止み沈黙の時間が流れる。千枝は心臓がどくどくと鳴り止まないのを手で押さえる。
鼓動は早まるばかりか勢いを増していく。額にはいつの間にか大量の汗が出ていた。
断られるかもしれない。そんな思いが胸に渦巻いていく。
沈黙を切ったのは話のきっかけを作ったクロエ。軽く息を吐いて、答えを出した。

「元からそのつもりよ、なに言ってるの」
「乗りかかった船ってやつだ。手伝ってやるくらいのことはしてもいいぜ」

花が咲いたような千枝の笑顔に二人は笑った。
この三人なら何があって乗り越えられる……そんなことを思いながら。
そうして少女たちの決意は固まっていく。
揺らぐことのない覚悟を持って、三人は殺し合いに挑む。


903 : 少女不十分 ◆5brGtYMpOk :2015/07/15(水) 23:41:04 2Mvt85ZE0
そして、放送の鐘が鳴った。





店内にいるというのに、どこからかはっきりと耳に残る男の声。
死者の数は十六人。参加者七十人から捉えれば、六時間でこの数字は多いと感じた。
あたしが思ったことはそれだけ。モモカの名前が呼ばれたことについて、動揺はもうなかった。
白状なのかもしれない。かつての仲間に対して抱くのはちっぽけな喪失感一つ。
そういう環境であたしは生きてきたから。あそこで死んだ人間は海の藻屑となって消える。飾りだけの墓の下には一本の骨すら埋まっていない。
ああはなりたくないから。何がなんでも、元の幸せな日常に帰りたいって必死で生きてきた。

何度も心の中で吐き出していた言葉。
変わらないってことか。ここも、アルゼナルにいたあの頃のあたしと。
殺し合い、生き残れるのは一人。ああ……やっぱり対して変わりはしないか。
どちらであろうと命の危険に違いはない。相手がドラゴンから人間に変わっただけ。

十七人。この死者の人数について深く考えてみる。やはり多い。このままのペースなら一日と経たずゲームは終わる。
禁止エリアを考慮して三日持つかどうか。十七人という数字は殺し合いに乗る人間が多いということ。
ゲームの危険度が跳ね上がっていくのを感じる。その中には、エンブリヲやクロみたいな特殊な力を持った奴がいる。
殺された参加者に、モモカとアンジュみたいな人間もいたのだろうか。自分の命にも見劣りしない関係を持った人間が。

「……なにやってんのよ、美遊」

そんな珍しい連中の一人。
小さくクロが呟いた名前は、放送で呼ばれた十七人の内の一人。
美遊・エーデルフェルト。そいつはクロの友人だという魔法少女。





状況は想定していた範囲内に収まっている。予想外だったのは死人の数。ゲームに乗っている参加者が多いかも知れないということ。
あれを見せられたんだから仕方のない話だが。少しでも潰し合いになっていることを祈る。願うだけなら金も苦労も掛からない。
問題が出たのは放送後。脱落者の読み上げの部分から固まったままの二人。
これは予想していたことで、ここには友人も呼ばれているのだと二人は言っていた。殺す奴がいる以上、死ぬ奴もいるというだけの話。
でもな、これはちょっと酷いんじゃねぇか。休みなくあたしたちに重石を重ねてくるかよ。

「おい」

いつまでも動きがない二人に声を掛ける。反応……これといって無し。
テーブルの上に置いてある飲みかけのグラスを手に取り腕を振る。クロに向けて放ったジュースは、そのまま頭から被っていた。

「ねぇ、ヒルダ」

なんだよ。言いたいことがあるのなら言ってみろ。文句以外なら聞いてやる。

「相談したいことがあるのだけど、いいかしら」
「辛気臭い話じゃなければな」

釘を刺しておく。悩んでいることを聞かされたところで、あたしにはなにも出来ないから。
髪の先から雫が垂れて、顔を下げたまま視線を合わせない姿にイラつきを感じる。
そんな弱かったのかよ、おまえは。そんな脆かったのかよ、てめぇは。


904 : 少女不十分 ◆5brGtYMpOk :2015/07/15(水) 23:42:01 2Mvt85ZE0
「例えば、これは例えばの話よ。妄言だと思ってくれてもいいわ。だけど、可能性としてはゼロではないと思うの。
十六人だったかな。これは結構な数字よね。それこそ三日持たないくらいに。
ゲームに乗る参加者の増加。これは首輪による影響が大きい。誰も死にたくないもの。生き残るために行動を起こすのは必然と言える。
それで、ここからが本題だけど。果たしてこの死者の放送は本当なのか、っていうね」
「は?」

なにを言っているんだこいつは。
それは放送で呼ばれた十六人は死んでいないかもしれない……そういうことかよ。
どこか頭でも打ってイカれちまったのか。知っている名前でも呼ばれて狂っちまったのか。
余りにもアホくさくて言葉が出ない。

「分かってる、貴方の言いたいこと全部分かってるわ。言っていることは、理想を上げているだけだって。
でも、絶対とは言い切れない。わたしは確かな確信に近い考えを持ってる。一説として、ここに集められた参加者は全て人格をコピーされた人たち。
これはわたしの世界だけの知識でも不可能なことではないわ。なによりここには、様々な可能性が重なった世界がある」

ああ、もういい。これ以上喋るな。

「どこかに連れ去られた、姿を隠している。決して死んでいるとは限らないのよ。こんな大規模な舞台。わざわざ苦労して集めたわたしたちを殺すなんて惜しいわ。
だからみんなは生きている可能性はある。きっと何処かにーー」
「ーーそれは」

我慢が出来なくなった。

「それはモモカにも言えることなのか」

目の前で死んだあいつは生きているって、そう解釈していいんだよな。あれは悪い夢だったと、そう言いたいんだな。
なに惚けた顔してるんだ。自分でもあり得ないと思うことは言うんじゃねぇよ。おまえはそこまでアホだったのか。
あまりの腑抜けぶりに腹が立った。だから立ち上がって、思いっきりぶん殴った。
言葉でこいつの頭を冷やすには足りないと思ったから。理由はそれだけで十分だった。

「ふざけんじゃねぇぞっ!! クソがっ!!」

勢いのまま胸倉を掴んで床に叩きつける。体は軽く、まだ子供だということを思わせる重さだった。
殴る前の躊躇も、殴った後の罪悪感もなかった。あるのは自分でも言い表せない怒り。
クロの顔は赤く腫れ上がっている。あいつにとって幸い、鼻血らしきものは出ていない。
受け身を取る暇がなかったのか、息が詰まって噎せていた。知ったこっちゃねぇ。
拳が赤くなっている。痛ぇ。殴った方もこうなるのはどこか納得がいかない。
あたし、こんなことする奴だったけかな。こういうのはあいつの役割だってのに。
柄じゃねぇよ、ほんと。

「頭は冷えたか? ぐだぐだと戯言抜かしやがって」
「落ち着いてヒルダ……わたしは冷静に話がしたい」
「下手な仮面被ってんじゃねぇよ」

見え見えなんだよ。隠したいならもっと上手くしやがれ。
そんな、なにかを押し殺すような顔されたこっちの身にもなってみろ。余計な感情だ? それはどっちの台詞なんだ。
クロは胸倉を掴まれたまま抵抗しようともしない。ジュースで濡れて乱れた服も気にしないで口を開いた。


905 : 少女不十分 ◆5brGtYMpOk :2015/07/15(水) 23:42:45 2Mvt85ZE0
「呼ばれた」
「……なにがだ」
「わたしが探していた友達が、さっきの放送で呼ばれた」

美遊・エーデルフェルト、か。

「ううん、友達……って言えるのか分からない。あの子はイリヤに夢中だったから。
でも、最近は周りも見るようになってきたの。イリヤだけじゃない。クラスメイトとも少しづつだけど距離は縮まってきてた。
自分のことのように嬉しかったわ。基本仏頂面な顔が、コロコロ表情が変わるんだもの。
わたしさ美遊のこと何にも知らないんだ。どこかよそよそしくて一線を引いてる感じがして。
踏み込むんじゃなくて、自分から理由を言ってくれるまで待ってあげる……そんな考えだった」

口から出てくるのは、美遊って奴の思い出ばかり。
……いや、違う。これは後悔か。みじかな存在で交流はあったみたいだが、そいつの深いところにまで入れなかった。
友人と断言出来るほどそこまで仲は良くなかったのか。それにしては随分と近く親しげだな。
語っているクロは誰に向けても話していない。

「けど、それももう終わり。本人がいなくなっちゃったんだもの」

掴んでいた胸倉を強く挙げ、じっとクロの目を見る。瞳は揺れていない。
そうかよ。我をなくしてあんな馬鹿みたいこと言ってた訳じゃないんだな。
真面目な顔して現実逃避していたと。本気で考えて出した結論がああだと。
自分がおかしいことを自覚しながらも止められなかったのか。
冷静さは失ってはいなかった。けど、それは馬鹿になっていた方がよっぽどいい方向性だ。
本来なら今のあたしみたいに諭す側の人間なんだろう。それが、これだ。見ちゃいられない。

……だから、目を覚ましてやる必要がある。

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

長ったらしい名前を、声を大きくして言う。
クロがこっちを向いて、あたしと視線を合わせる。

「こいつはお前にとってどんな存在なんだ」
「どんなって……」

節々にクロの口から出ていたイリヤという名前。
まだ、お前にはいるじゃねぇか。

「……美遊と同じくらい大切な友達で、家族で」
「じゃあ、どうしてーー」

どうして、こんなところにいやがる。

「ーーじゃあ、どうしてこんなところにいるのっ!?」

開きかけた口は、怒声によってかき消された。





割って入るつもりなんてなかった。ヒルダさんに任せておけば綺麗に終わっていた話に。
第一、それどころじゃなかったのに。でも、我慢出来なかった。放ってはおけなかった。
二人は驚いた顔をしている。そうだよね。暗く沈んでいたやつが急に大きな声出してるんだから。

「クロエちゃんのいるべきところは、ここじゃないでしょ」

こんな場所でゆっくりしてていいの。その間にもゲームは進んでるんだよ。
時間は無限じゃないんだから。やりたいことは、やれる内にやっておかないと。
目的、あったんじゃなかったっけ。それを見失ったらダメじゃん。

「だいたい、さっきの話はなんなの。放送で呼ばれた人は実は生きている? 頭が悪いわたしでもそんな事は考えないよ」


906 : 少女不十分 ◆5brGtYMpOk :2015/07/15(水) 23:44:02 2Mvt85ZE0
夢見るのは小学生まで……って、クロエちゃんは小学生だったか。
じゃ、許す。だってまだ子供だもん。正しい方向に導くのが大人の役目だから、怒らないし笑わない。

「もしかして、わたしのことでも気にしてるの。そうなら、余計なお世話だよ」

安心させるように笑って、突き放す。
ちゃんと笑顔、作れてるかな。まさか崩れてないよね。
お願い。あと少しだけでいいから、もって。

「大切な人、いるんでしょう」

ずっと灰色だった瞳に光が灯った。
揺れていた。今、クロエちゃんの目は確かに揺らいでいる。
ほら、頑張れ、わたし。もう相手は膝を折る寸前だぞ。あと、一押しだ。

「後悔してからじゃ、遅いんだよ」
「……っ!」

ヒルダさんの腕から抜けて、立ち上がったクロエちゃんは落ちたデイパックを掴む。
赤く腫れ上がった横顔に迷いはなかった。

「ここでさよならよ」
「……そっか」

さよなら、か。もう会う意思はないという言葉。
うん、それでいいんだよ。そうでもしないと、きっと後悔する。
それが、クロエちゃんの覚悟なんだね。

「うん、さようなら」

四人が二人になって、二人が一人になって、一人が三人になって、三人が二人になって。
ここに来てから、出会ってはまたすぐに人が離れていく。

窓ガラスに映った顔は少し固くなっていたけど、いつもの里中千枝だった。

あぁ、よかった。最後までわたしのままでいられた。





鈍く光る銀色のコインを弾く。
クルクルとテーブルの上で円の軌道を描きながらコインは回り始める。
どこまでも自由に動いている様は、首輪を付けられて縛られているあたしたちと正反対で。

つい、余計なことを考えてしまう。

目的を明確に。そう、クロは言った。このゲームにおけるあたしの目的とは一体なんなのか。
言うまでもない。あたしはまだ死にたくない。あの場所から生き延びて、ようやく命が脅かされることのない今を掴めたのに、こんなところでくたばる訳にはいかない。
だから、あたしのこの殺し合いにおけるスタンスは……絶対に生き残る。
エンブリヲを倒してハッピーエンド……とは言えないが、そう悪くない未来を手に入れた。
その矢先にこれはないだろう。地獄から這い上がって安心した途端、また叩き落とされるなんて夢にも思わない。だから何としてでもあたしは生きて帰りたい。

協力をしたのはちょっとした気紛れ。少し寄り道をするだけで、芯はなにも変わっていない。

同僚であり、使い捨てのノーマの中に混じった数少ない人間。
いつものようにアンジュの心配をしてこの世を去ったモモカの最後の姿を思い出す。
あたしは何もしなかった……なにも出来なかったのか。王女の側近だっていうあいつの顔は、これで良かったと言いつつも死にたくないという意思は確かにあった。
それは限りなく死に近い日常を生きてきたあたしだから分かったこと。


907 : 少女不十分 ◆5brGtYMpOk :2015/07/15(水) 23:45:14 2Mvt85ZE0
つまりさ。あの死の瞬間のモモカは、生きたいと思ってたんだ。
死んでよかったなんて、アルゼナルにいた連中が聞けばぶん殴って来そうな言葉。
どんなクソみたいな場所でも足掻き続ければ先は見えてくる。
母さんの件で、命なんかどうでもよかったと思っていたあたしが言う台詞ではないけど。
それだけは、鮮明に記憶に映っている。

死にたくないなら泣き叫んで、生きたいならなりふり構わなければいい。
後悔をしたくないなら他を切り捨ててでも、自分が思った通りに行動しろ。
あたしが背中を蹴飛ばしたのは、前だけを見ていなかったクロに腹がたったから。
あいつが背中を押したのは、自分自身と重ねていたからなのか。

休憩は十分に取ったはずなのに疲労を感じる。ソファに横になって目を瞑ると、軽く目眩がした。
どいつもこいつも、ほんとうにバカなやつらしかいない。
苦労ばかり掛けさせられる。けど、今の気分は不思議と悪くない。

「……寝るか」

店の奥に行った千枝が帰ってくるまでの、ほんの少しの仮眠の時間。
時間は有限だから。何もすることのない今は、疲れを取る為に睡眠に当てる。

起きて、そこからは変わらないあたしの戦場。




【F-8/ファミレス/一日目/朝】
【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)
[装備]:グロック17@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:進んで殺し合いに乗る気はない。
0:睡眠中。
1:千枝が戻ってくるまで休む。
2:千枝に協力してやる。
3:エンブリヲを殺す。
4:アンジュに平行世界のことを聞いてみる。
[備考]
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。
※クロエの知り合いの情報を得ました。
※平行世界について半信半疑です。







「これでよかったんだよね」

返事は何処からも帰ってこない。当たり前だ、ここにはわたし以外いないんだから。
ファミレスの休憩室。イスとテーブルが置かれた質素な場所。
あそこにいたままだと迷惑がかかっちゃうから。それに、一人にもなりたかった。
考えることが多すぎて、何処から手をつければいいか分からない。
イスに座って何かするわけでもなく、顔を上げたまま時間を無駄に消費する。

あ、そうだ。気分転換に天井のシミでも数えてみようか。
フロアの方では、天井どころか窓ガラスに曇り一つなかったから。
姑になった時に備えてチェックしていこうかな。

「……って、違う、違う」

真剣に考えてるつもりなのに、いつの間にか違う方向に行っちゃう。
集中力が足りないのかな。でも一人なんだから。何しようと誰にも迷惑かけてないんだから好きにしていいよね。

「はぁー、疲れたなぁ」

クロエちゃんに発破をかけたのは自己満足であって。
胸に浮かんだ正義感が放っておけなかった、ってのも理由の一つ。
クマや雪子の名前が呼ばれて呆然としていたわたしが見たのは、目の前で泣いてる小さな子。
涙を流していた訳じゃない。瞳だって、少しも揺れてはいなかった。
だけど、わたしにはそうとしか見えなかったから。なにか出来ることはないのか……そう考えていたら、ヒルダさんが激怒していた。
クロエちゃんの口から出てきたのは、友達と家族の名前。友達がなくなって悲しんでいる子を放っておけるなら、わたしはこんな性格はしていない。


908 : 少女不十分 ◆5brGtYMpOk :2015/07/15(水) 23:46:24 2Mvt85ZE0
「頑張れっ」

顔を合わせることはもうないのかもしれない。
だからって訳ではないけど、家族に少しでも早く会えるように応援をする。
夢を掴んで欲しいから。二度も大事な人を失うなんて辛すぎるから。

目に映ったのは金色の小さな箱。

壁際に設置してある小物などを置く台。立ち上がってそこに向かうと、薔薇が表面に書かれたオルゴールがあった。
なんでファミレスなんかにこんな物があるのか。誰かの忘れ物だろうかと、手にとって椅子に戻る。
開けてみると、小さな楽器が詰められている。久しぶりに触ったなぁ、これ。
どうやって鳴らすのかやり方が分からず苦戦したけど、中にあるネジを回すことで音が流れ始めた。

オルゴールには人を癒す効果があるって聞いたことがあるけど、そうなのかもしれない。
心地よく耳に残る音は心を洗ってくれる。

もしかして、わたしストレスでも感じてる?
色々あったからなぁ。当然といえば、当然なのかもしれない。
モモカちゃんが亡くなって、追い討ちかけるようにあの放送だったから。

……死んじゃったんだよね、クマも雪子も。つい数時間前に顔合わせてたのにさ。
現実味が湧かない。モモカちゃんのことがなかったら、たぶんそう言って逃げてた。
でも、分かる。分かってしまう。二人はもうどこにもいない。

「……雪子」

もう学校の教室でお喋りをすることもない。
ジュネスで色々と見て回ることもない。
バカなわたしのために勉強を教えてくれることもない。
一緒に笑うことも泣くことも出来ない。

「そんなの嫌だよ」

なにやってんだ、わたし。それでも、警察官を目指してんのか。
みんなを守る、って言いながら誰も守れてない。
モモカちゃんも、クマも、雪子も、放送で呼ばれた人たちも何も救えてない。

覚悟、したはずなのになぁ。こんな簡単に揺らいでる。
クロエちゃんは進んで、わたしは立ち止まって。
どうすればいいのか分からない。

いつの間にかオルゴールの音色は止まっていた。

涙は流れなかった。
もう枯れ尽きたのかもしれない。




【Fー8/ファミレス/一日目/朝】
【里中千枝@PERSONA4 the Animation】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:殺し合いを止めて、みんなで稲羽市に帰る。
0:????????
[備考]
※モモカ、銀と情報を交換しました。







わたしの命は魔力ありきで空になったら消えてしまう。
他人から魔力は吸い取れるが、お腹の足しにもならない微量な量だけ。
魔力が多い人間ほど取れる量が多くなる、という単純な話でもない。
相性の問題が一番で、 対象がイリヤになると普通の一般人に比べて十倍以上違う。
つまり、何が言いたいのかっていうと、わたしの選んだ選択は自殺行為でしかない。
魔力が途切れたらゲームオーバーの状況で、一人になるなんて馬鹿を通り越してアホ。
補給も出来ない状況。戦闘が起こったら使わざるおえなくなる。
生きているだけで、こうして走っているだけで魔力は減っていく人間として不完全な存在。


909 : 少女不十分 ◆5brGtYMpOk :2015/07/15(水) 23:47:17 2Mvt85ZE0
だけどね。その程度のことで、この足が止まる理由にはなり得ない。
無謀だって理解してる。正しいことじゃないって分かってる。もしイリヤがわたしのために同じことしようとしたら、ぶん殴ってでも止める。
家があって、家族がいて、学校があって、友達がいて、夢がある。
ずっと憧れ続けてきた。そこに混ざったらどんなに楽しいだろうって。
ようやく手に入れた日常。奇跡は本当にあっても、わたしに体と心をくれた。
その一片が壊された。これで大人しく出来るわけないじゃない。

わたしはなにをやっていたのか。与えられた情報だけを甘受してなすがままだった。
この舞台が殺し合いだなんて分かっていたことなのに。
イリヤは強いからきっと大丈夫、美遊はこんな場所でも冷静に行動するだろうから安心出来る。
そんなわけあるか! 大丈夫って、なにに対して言ってるのよ。ノロノロと行動を起こさなかった結果がこれだ。
間抜けにも程がある。守りたいものを失ってから気付いてどうするのよっ。

もう後悔はしたくない。だからわたしはあそこを飛び出した。
イリヤを守る。それだけの為に、さよならの一言だけを残して道を別れる。
二人が背中を押してくれたから、今のわたしがある。それだけは感謝をしなくてはいけない。

わたしの両手は、千枝のように誰彼構わず救うようなものではない。
欲張り者は泣きを見る。責任も持てないのに助けるなんて、おこがましいにも程があった。
たった一つでいい、掴むべき者だけを掴む。そうしなくては、すべて消えてなくなる。
そんなバットエンドは嫌だから。わたしは出来る限りのことをする。

「待ってなさい、イリヤっ!」

美遊が死んじゃって、イリヤまでいなくなる。
そんなことは絶対に認めない。

わたしの日常は、もう誰にも壊させない。




【Fー7/市街地/一日目/朝】
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック×2 基本支給品×2 不明支給品1〜3 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:イリヤを守る。
1:イリヤと合流する。
2:魔力の補給についてどうにかしたい。
[備考]
※参戦時期は2wei!終了以降。
※ヒルダの知り合いの情報を得ました。
※クロスアンジュ世界の情報を得ました。
※平行世界の存在をほぼ確信しました。


910 : ◆5brGtYMpOk :2015/07/15(水) 23:48:28 2Mvt85ZE0
投下終了します


911 : 名無しさん :2015/07/16(木) 00:01:51 1CYyYxa.0
投下乙です

大事な人を失った彼女達の様子が丁寧に、痛烈に伝わってきて切ない
クロは単身で激戦地の右エリアに向かうのか、苦しい状況だがイリヤと何とか再会して欲しい…


912 : 名無しさん :2015/07/16(木) 00:14:30 MkkjpwPk0
投下乙です
やっぱり大切な知り合いが死んだとなるときついよなあ
クロが若干焦っている上にイリヤと再会できるか不安だけど、それ以上に千枝がどうなるか心配だ


913 : ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:32:51 W4.urbXk0
投下乙です。
三人の心理描写が切ない
しかもイリヤはみさきちに洗脳されてて、番長は感度50倍ということを考えると...
再会できても、それが吉と転ぶか凶と転ぶかわからなくて怖い

自分も投下します。


914 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:34:12 W4.urbXk0
「アヴドゥルさん。あなたのスタンドという能力を持つ者は他にもいるのですか?」
「うむ。私の知っているだけでも私を含めて7人(一人はエスデス)。ほとんどが私の仲間だが、一人とてもヤバイやつがいる。DIO...この名に覚えはないか?」
「私は知りませんが...」
「俺も知りませんね」
「そうか。もしその男と出会ったらすぐに逃げるべきだ。能力は不明だが、奴に捕まれば殺されるか洗脳されるか。そのどちらかしかないからな」

この会場が電脳空間でないと判断したヒースクリフは、とにかくアヴドゥルから情報を聞き出していた。
幸いとでもいうべきか、お人好しなアヴドゥルは自分をそこまで警戒していないようだし、聞けば大抵のことは答えを返してくれる。

「洗脳は能力ではないのですか?」
「洗脳は奴の体質の産物とでもいうべきものだ。己の細胞を相手の脳内に打ちこみ支配する。スタンドとはまた別なものとなる」
「体質?」
「信じられんかもしれんが奴は吸血鬼でな。私も詳しいことはわからないが、人間の何倍もの筋力や生命力を有しているらしく、小さな怪我程度なら瞬時に回復してしまうらしい。おまけに寿命もないそうだ」
「スタンドを兼ね備えた吸血鬼、か。たしかに手強そうですね。ニンニクや十字架が効いたりは...」
「しないだろうな。おそらく河も普通に渡れるし、心臓に杭を刺してもピンピンしているだろう。だが、ひとつだけ伝承通りの弱点がある。日光だ。それを浴びせれば奴は塵となる」
「日光...これはまたベタな」


アヴドゥルから得た、新たな異能の情報、吸血鬼。
そんな伝承でしかきいたことのない空想上の怪物が実在するとは。
ますます興味深くなってきた。危険が無い範囲なら、是非とも会って話をしてみたいとヒースクリフは心躍らせた。
勿論、その心情を表情には出していないが、もしもこの場にいるのが己一人であれば嬉々として曝け出していただろう。


915 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:35:09 W4.urbXk0
「えっと、そのDIOって人と戦うときは俺はどうすればいいですかね?」
「...できれば、きみ達を危険な目に合わせないようエスデスに進言はしてみるが、聞き入れてくれる可能性は低い。おそらく、戦う我々を近くから見守る形になると思う」
「そ、そうですか...」


昂るヒースクリフとは対象的に、足立は憂鬱だった。
どうもこの殺し合いに参加させられているのはおかしな奴らばかりなようだ。
スタンドとかいうペルソナより便利な異能力、それを操るアヴドゥルでさえ警戒するエスデスとDIO。しかもDIOは吸血鬼というトンデモスペック持ちらしい。
それに対して自分はペルソナは封印状態同然、支給品に青酸カリはあるが、異能力と比べれば心もとない。
これを使って場をかき乱すことも考えたが、成功率は低いとも考える。
それを裏付ける理由として、こうも超人染みた奴らが毒なんて使うかどうか。使う必要性は薄い。
青酸カリに頼るくらいないなら、己の能力を工夫して殺した方が早いだろう。
仮にコンサートホールに集まった奴らに使えば、無力な一般人を演じている自分が真っ先に疑われることとなる。それは勘弁したい。
使うにしても、せめて自分より弱いやつの一人か二人は欲しいと思う。


「...さて。そろそろ時間だ」
アヴドゥルの言う時間。それは、エスデスとの約束の期限だ。
アヴドゥルは思う。あの厄介な女は本当に味方を連れてくるのか?仮に味方だとしても、彼女のような危険人物じゃないだろうな。
ヒースクリフは思う。さて、アヴドゥルがあれほど警戒している女の異能はなにか。ああ、早く会ってみたい。
足立は思う。俺は危険な目には遭いたくないぞ。だから、いざって時は頼むぜアヴドゥルさんよぉ。
三者それぞれ異なる思惑を抱き、空気が張り詰めること数分。
バァン、と派手な音を立てて、コンサートホールの扉は開かれる。


(ほう...随分と強そうなのがきたな)
(まーた変なのが来たよ...)
来訪者の姿に、ヒースクリフは息を呑んだ。足立は怪訝な表情を浮かべた。

そして、予想外の来訪者にアヴドゥルの表情は驚愕の色に染まり

「...どうやら俺の方が先に着いちまったらしいな」

アヴドゥルの表情は、歓喜に満ち溢れた。


916 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:36:57 W4.urbXk0


「ほむらちゃん!お願い、いるなら返事をして!」
森へと大声で呼びかけて。
草木をかき分けて。
しらみつぶしに探し回って。
それでも、まどかの声に反応する者はいなかった。

「...どうやら、このエリアにはいなさそうだな」
エスデスの言葉に、まどかは落胆の色を浮かべる。
「そう落ち込むな。ほむらにもコンサートホールの件は伝えてある。もしかしたらあいつは既に向かっているかもしれん」
「もし向かってなかったら...」
「心配いらん。あいつは強い女だ。連れの花京院とかいうのも、かなりの実力者なのだろう?」
「で、でも...」
「...すまないが、もうすぐ時間だ。ほむらの捜索は一旦打ち切ろう」
「...はい」
まどかは、本音を言えばもう少し捜索を続けたかった。
まどかの胸中によぎるのは、先に承太郎とともに戦った後藤の姿。
後藤は南下したため、ほむらと会う確率はかなり低いが、彼と似たような参加者が他にいたとしてもなんら不思議ではない。
それに、まどかからはまだ花京院への恐怖が消えていない。
自分を撃った花京院が偽物の可能性は高い。しかし、ほむらと共にいる花京院がその偽物である可能性もあるのだ。
もしも、ほむらがその毒牙にかけられたら...そう思えば思うほど、不安は広がっていく。
それに、承太郎が遭遇した、杏子と思しき槍使いの魔法少女のこともある。取り返しのつかないことになる前に、どうにかして説得したい。
自分一人で行動していたら、集合時間に遅れてでも探し出そうとしただろう。
だが、単身南下した承太郎の安否も気になる。彼は後藤と再び遭遇する可能性の高い南へあえて向かったのだ。
ほむらと承太郎。どちらが大事かなどと測りたくないが、確実に合流できるかどうかを考えればコンサートホールへ向かうしかない。


捜索を続けたかったのはエスデスも同様だ。
せっかく、まどかというほむらをおびき寄せる餌を手に入れたのだ。
この機を逃すのは少々勿体ないが、アヴドゥルたちからの信頼を損なうのは避けたい。
無論、独りでも生き残れる絶対な自信はあるが、自分からした約束を反故にして信頼を失うなどという不様な醜態をさらすのは己のプライドが許さなかった。
それに、先に自分が言った通り、ほむらもコンサートホールに向かった可能性はある。
考えを改めて自分と組む気になったか、自分を排除するためかはわからないが。
どちらでも構わないが、もうコンサートホールへ向かった方がいいだろう。
そう判断したエスデスは、何の収穫もなかった捜索を打ち切り、コンサートホールへと歩みを進めた。

(わたしたち...また会えるよね?)

背後の森を見つめながら、今度こそ5人とも笑顔で過ごしたいと想いを巡らせエスデスの後を追う。
彼女が望んだそれはとうに叶わぬ夢だということを、まどかはまだ知らない。


917 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:39:06 W4.urbXk0


承太郎が武器庫に辿りついた時には遅かった。
中にあるはずの武器は既に無く、中の物はそれなりに乱れていた。
武器庫に訪れたのが偽の花京院か後藤か、はたまた槍使いの魔法少女かはわからなかったが、どの道ロクなことにはならないだろう。
(こいつはチトやべぇかもな...)
承太郎が真っ先に危惧したのは、コンサートホールでエスデスと待ち合わせているというアヴドゥルのことだ。
もし本物の花京院と合流する前に偽の花京院がコンサートホールへ辿りついていれば、アヴドゥルの身が危ない。
それに、後藤や槍使いの魔法少女がコンサートホールへと向かった可能性もある。特に前者は、いくらアヴドゥルでも容易く勝てる相手ではない。
ならば、もはやこんなところで油をうっている暇はない。収穫はまどかが襲撃された時のハンカチのみだが仕方ない。
承太郎は、予定を早く切り上げてコンサートホールへと走りだした。
幸か不幸か、承太郎は道中何事もなくコンサートホールへ辿りついてしまった。

そして、コンサートホール―――




「承太郎!」
嬉しさを隠すことなく駆け寄るアヴドゥル。
「動くな!」
しかし、それを制すのは仲間である承太郎。
「ど、どうした承太郎」
「まずは額を見せな。後ろの二人もだ」
「額...」
アヴドゥルは言われて気が付いた。
そうだ、この場にはDIOがいるといったのは自分ではないか。
奴の能力を知っているのなら、第一に警戒すべきは肉の芽だ。ならばそれを確認するのは当たり前のことだ。
それを理解したアヴドゥルは、後ろの二人に心配ないとジェスチャーを送り、承太郎に額を見せるように促し、4人が互いに肉の芽が無いことを確認する。


918 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:41:14 W4.urbXk0
「これで問題ないか?」
「いいや、まだだ。てめえ...本当にアヴドゥルだろうな?」

突如投げかけられた意味不明な質問。
この殺し合いの場で会えた大切な仲間。その仲間からそんな質問を投げかけられてはさしものアヴドゥルも困惑せざるを得ない。

「...私は正真正銘モハメド・アヴドゥルだ。いきなりなんだ承太郎」
「証拠を見せな。お前が本当のアヴドゥルだって決定的な証拠をな」
「証拠...?」
「お前がポルナレフを倒したときに使った技を見せな」

まったくもって意味が分からない。そう思いつつも、『マジシャンズレッド』を出し、火の十字架を作ってみる。

「...これでいいか?」
「...ああ。すまねえなアヴドゥル。ついでといっちゃなんだが、俺が空条承太郎という証拠を出させてもらうぜ」

承太郎が背後に『スタープラチナ』を出現させる。

「そこのコスプレ男。俺に文字が見えないように支給品の説明書を出しな」
「承太郎!初対面の人に失礼だぞ!」
「いえ、お構いなく」

突然の指名にも動揺することなく、承太郎の指示通りにヒースクリフは一枚の説明書を取り出す。
「そいつを俺に見えないように持ってホールの奥まで行き、それから説明書の文字を見せな」

ヒースクリフは指示通りにホールの一番奥まで歩き、説明書の文字を見せる。
承太郎の位置からは『ヒースクリフが紙を見せている』ということしかわからないほどの距離だ。

「中身を読み上げるぜ。『水と食料。「一般的な成人男性」で2日分の量』だ。合ってるか?」
承太郎の問いに、ヒースクリフは頭上で○を作る。

「承太郎、どういうことなんだ?」
承太郎の行動は意味がわからなかった。たしかにあんな遠くの紙の内容を見極めるなんてことは承太郎のスタープラチナにしかできないことだ。
しかしそれをしてなんになる?
まるでこの会場に偽物がいるようではないか。

「聞きたいことは山ほどあるだろうが、順を追って説明させてもらうぜ」


919 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:43:03 W4.urbXk0

承太郎は今までの顛末を説明した。
槍使いの少女と交戦したこと。
花京院がまどかという少女を殺す気で撃ったこと。しかし、その花京院は偽物の可能性が高く、本物と思われる花京院は少女の仲間と一緒にいるということ。
後藤という怪物と遭遇したこと。
エスデスにまどかを預けて北西エリアの探索をしていたこと。
「以前お前が遭遇した敵スタンド使いのような奴ということか...」
「ああ。だが、どんなスタンド使いでも全く同じ能力を模倣することは難しい」
「だから私に炎を出させ、お前は優れた視力を披露したわけか。エメラルドスプラッシュであれば、破壊だけならば模倣はさほど難しくないからな」
「もっとも...そこの二人がその偽物じゃねえという証拠はないが」
承太郎は、足立とヒースクリフを睨みつける。

「まさか二人を疑っているのか?」
「俺は時計台の方から南下してきたが、誰にも会わなかった。可能性があるとしたらこいつらが一番高いんでな」
「失礼ですが、それはありえませんね」

承太郎の視線に怯むことなく、ヒースクリフは淡々と反論する。

「私と足立は、始まってそう時間が経たないうちに合流しました。それから一度もこのコンサートホールから出ていません」
「そいつを証明する証拠はあるのか?」
「それは私と足立を信頼してほしいとしか...しかし、それは承太郎、あなたにも当てはまることですよ」
「なに?」
「あなたはまどかという少女と合流し、エスデスという女に預けてきたと言いましたが、それはなぜです?アヴドゥルさんは彼女をとても危険な女だと認識しています。あなたが用心深いことはわかりましたが、そんなあなたがエスデスの本性に気付かなかったと?」
「......」
「少なくとも、私は殺されかけた少女を危険人物に預ける男の方が信用できませんね」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

承太郎とヒースクリフの間に流れる妙な威圧感。
自然と空気も緊張感をもったものとなる。
「やめろ二人とも!こんなところで争ってどうする!」
「そうですよ。こんなの無駄すぎますよ」
アヴドゥルが、どうにかこの場を治めようと声を荒げる。
足立が、火の粉がこちらに降りかかっては敵わないと、アヴドゥルの背に隠れながら小声で諌める。
それでも二人は睨み合いを止めない。
(このままでは埒があかん。なにか空気を変えるキッカケがほしい)
ジョセフやいまは亡き(?)ポルナレフならば、一発芸でもして無理矢理にでもこの硬直状態を変えられるかもしれない。
しかし、アヴドゥルにはそれができない。
生真面目な彼はそういうキャラに向いていないのだ。
だが、力づくで抑えこめば更にこの場は収集がつかなくなるかもしれない。
どうすればいい?どうすれば―――


ギィ、と音を立てゆっくりと扉が開かれる。
姿を見せたのは、少女と美女の二人組。
「し、失礼します...」
「堂々と入ればいい。おおアヴドゥル、お前も何人か見つけれたようだな」
二人の登場に、一同の視線は集まり、承太郎とヒースクリフを包んでいた緊張の糸も幾分かは解れた。
できれば会いたくないとまで思っていた女の登場が、アヴドゥルにとってはこれ以上なく頼もしく思えた。


920 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:44:26 W4.urbXk0
(私を含めて全部で6人...タツミとほむらはいないようだな)
探し人がいないことに落胆するが、それはそれで仕方ないと気持ちを切り替える。
まあ、どちらも簡単に死ぬことはないだろうとエスデスは楽観的にみていた。


「承太郎さん!」
「...わりいな。こっちはロクな情報を得られなかった」
「わたしもです。ほむらちゃんと花京院さん、きょ...槍使いの子も見つからなくて...」

両者は無事に再会できたことに素直に喜び、同時になにも得られなかった事実に落胆する。


「きみが花京院に襲われた少女か?」
「は、はい...」
アヴドゥルがそう話しかけた時、まどかは微かに震えた。
「アヴドゥル」
承太郎が、アヴドゥルの肩に手を置き、『いまはやめろ』といったふうに顔をふる。
いくら偽物の可能性が高いとはいえ、まどかは花京院に致死寸前にまで追い込まれた。
できればその時のことなど思い出したくないはずだ。
加えて、偶然にも魔法少女を知っていた承太郎だからこそ、冷静に受け止めることができたが、彼らは違う。
『砕かれた頭部を再生して復活した』などと伝えれば、まどかは色眼鏡で見られることになる。
ゾンビ、怪物、化け物...真っ先に思いつくのはそんなところだ。事実、自分も忌避こそはしなかったものの最初の感想はそれに近かった。
アヴドゥルが事情を聞きたいのはわかるが、できれば本人の気持ちを整理できるまで隠しておきたい。
まどかの精神がそれなりに強いことはわかっているが、彼女の話では感情の揺れもソウルジェムを濁らせるとのことだ。
できれば負担はかけない方がいい。
それに、魔法少女であることを話すということは、彼女の弱点を知られるということだ。
現状、アヴドゥル以外に確実に信用できる者がいないこの場では話すべきではない。
そんな承太郎なりの気遣いだった。

(む、むう...そういえば、私は承太郎にブ男と称されたことがあったな。日本人には初対面でこの顔は受け付けないのか。なら、まずは親しみをもってもらわなければな)
尤も、魔法少女の存在を知らないアヴドゥルにはその真意までは伝わりきらなかったが。


「すまない。私の配慮が足りなかったな...では、改めて自己紹介といこう」
「待て」
アヴドゥルが話題を変えようとするのをエスデスが止める。
アヴドゥルは特に怒ることもせず、どうした?と首をかしげる。
「確かに自己紹介も大切だが...時間だ」

『おはようしょくん』
ザザッというノイズとともに、広川の放送が始まった。


921 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:45:31 W4.urbXk0




放送が終わる。



(16人...かなりのペースだな)
ヒースクリフは考える。
自分の最終目標は主催者との接触だ。
早く殺し合いを終わらせることが主催者へ近づく正しい道なのだが、こうも進行が早いと別の問題が浮かんでくる。
それは、自分が他者に殺されること。
それほど殺し合いに乗っている参加者が多いのか積極的に殺しまわっている者がいるのかはわからないが、どちらにしても厄介なことこのうえない。
剣があれば別だが、生憎いまは盾しかない。殺人者同士で手を組まれれば数の利で攻められかねないし、後者であれば勝ち目があるかどうかもわからない。
いずれにしても不利であることは否めないのだ。
ゆっくりでもいい。ゲームとは違いリセットが効かないこの道は確実に進まなければならない。
ヒースクリフはそう決心すると、改めて気を引き締めた。



(クマと雪子が死んだ...ねぇ)
足立は悦んだ。
邪魔者が二人も消えた。籠城していて正解だった。これでだいぶ動きやすくなるだろう。
尤も厄介なあいつはまだ生きているようだが、今頃やつはどんな顔をしているだろうか。
(ま...なんにせよ、俺はしばらくこの安全圏で高みの見物とさせてもらうとするよ)
邪魔者の残り二人はどういう状況かは知らないが、いまの自分にはお人好しのアヴドゥルという強力な盾がいる。
大人しくしていればそうそう危険な目には遭わないだろう。
誰にも気づかれぬように、足立は密かに微笑んだ



「バカな...イギーが死んだだと!?」
アヴドゥルは驚きを隠せなかった。
犬とはいえ、イギーは強力なスタンド使いだ。
ジョセフと協力してやっと捕まえることができたほどのやつだ。その実力は身をもって知っている。
その強力な仲間がわずか6時間の内に死んだのだ。
驚くなというほうが無理な話だ。
(これ以上...私から仲間を奪うつもりなのか!?)
ポルナレフ、イギー。
理不尽に二人の仲間を奪われた現実に、アヴドゥルの怒りは限界寸前だった。


922 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:46:25 W4.urbXk0
「......」
承太郎は、無言で帽子を深く被りなおす。
(イギー...)
言葉にこそ出さないが、承太郎の心は抉られていた。
可愛げのないクソ犬だった。どこまでも自由奔放で自分勝手な奴だった。
だが、確かに仲間だった。
仲間がやられて嬉しいやつなどいない。
帽子で隠れた承太郎の目元は誰からも見えなかった。




(クロメ...死んだか)
エスデスは思う。
所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。
言い換えれば、弱者は何をされようとも強者に逆らうことは許されないのだ。
それは殺し合いの場でなくとも同じこと。生まれた地での教訓。いや、エスデスがこの世に生を抱いたときから既に理解していた『生』の本質。
つまり、死んだクロメは弱者であったから殺されたのだ。
(弱いものは淘汰されて当然だ。仕方のない奴め)
エスデスの心は動じない。
部下の死にも、涙など流さない。悲しみすら憶えない。
(仕方ないから、私が仇を取ってやろう)
故に、何一つ揺らぐことなく、心中でそう誓った。



「マミさん...うそだよね...?」
まどかは信じられなかった。
強くて素敵な魔法少女だった。
戦い方を教えてくれた師だった。
とても優しい先輩だった。
大切な友達だった。
そのマミさんが...死んだ?


「ぃ...や...」
まどかが苦悶の声をあげる。
「あ...あぁ...」
「ッ!」
異変に気が付いたのは承太郎。
まどかの左手をとり、ソウルジェムを確認する。
(こいつぁ...!)
ソウルジェムの濁りがかなり溜まっており、いまに濁りきってもおかしくはない。
ソウルジェムの穢れは感情にも起因する。
先程よばれた名前の中に、まどかの知り合いも含まれていた。おそらくそのせいだろう。
濁りきったときどうなるかはわからない。だが、承太郎はこのままではヤバイと直感していた。

「おい!誰かグリーフシードってやつを持ってねえか!?」
らしくなく承太郎が声を荒げる。
何かを欲するということは、己の弱みを見せることと同意義であり、情報戦において自らを不利にする。
だが、承太郎はそれを承知で言い放った。手段を選んでいては間に合わないのだ。
もしも話をはぐらかそうとする奴がいればブチのめしてでも手に入れるつもりでいた。
同時に、そんな都合よくもいかないだろうとも思っていた。
だから意外だった。


「...グリーフシードとはこれのことですね?どう使えばいいのですか?」


こうもあっさりとヒースクリフがグリーフシードを差し出したことが。


923 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:47:58 W4.urbXk0
「おまえ...」
「その子に必要なものなのでしょう?さあ、早くこれを」
承太郎は、グリーフシードが他の参加者に配られている可能性は低くは無いと考えていた。
仮にグリーフシードが無ければ、魔法少女は力を取り戻す方法がなくなる。
一応、自分のスタンド能力も、疲れやすくなるように制限を受けているようだが、疲労とソウルジェムの濁りはまた違う。
疲労は身体を休めればある程度回復するが、ソウルジェムの濁りは決して減ることはない。
殺し合いであるこの場では、なるべく万人が平等に優勝できるよう調整がされているはずだ。
そのために異能の制限が存在し、支給品が配られている。
それらをふまえると魔法少女だけが回復手段がないというのは考えにくい。
だが、都合よくこの場にあるとは思っていなかった。
ましてや、先程のやり取りから警戒心の強い男だと思っていたヒースクリフが、駆け引きも無しに渡したのは予想外だった。

「...ありがとよ」
ヒースクリフから渡されたグリーフシード3つをまどかのソウルジェムに当てる。
するとどうだろうか。たしかにソウルジェムの穢れが薄まったのだ。
「ぁ...」
「...少しは落ち着けたか?」
「...ごめんなさい、わたし...」
「礼なら後ろの男に言いな。グリーフシードを持ってたのはこいつだ」
「...ありがとうございます」

まどかの礼に、ヒースクリフは笑顔で応える。



「えーっと...いまのはどういうことなんですかね?」
「わからん...まどかが危なかったというのはなんとなくわかった気もするが」
突然の状況に戸惑う足立とアヴドゥルはつい顔を見合わせた。
わかったのは、まどかもまたただの人間ではなさそうだということだけだ。



(...これ以上隠し通すのは無理だな)
こうも事を荒立ててしまったのだ。もはや隠し通すことの方がリスクは高いだろう。
承太郎は、まどかを横目で見るが、どう見ても落ち着いているとは言い難い。
やはり自分が説明すべきだろうと考えるが、それを察してか、まどかは承太郎を見つめていた。
「...わたし、魔法少女なんです」
承太郎が何かを言う前に、まどかは口を開いた
明らかに先程までより弱弱しい声だったが、承太郎は引き留めなかった。
この場で、彼女自身が説明することが必要だと思うからそうしているのだろう。
それを邪魔する理由などない。
そして、まどかは語りはじめる。
魔法少女という存在について。そして、なぜ自分が花京院に襲われて助かったのか、その理由を。


924 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:48:55 W4.urbXk0


(もう勘弁してくれよ)
魔法少女の説明を聞き終えたとき、足立が抱いた感想はこれだ。
(なにが魔法少女だよ。頭をぶち壊されても復活できるって、もはやただのゾンビじゃねえか)
スタンド使い、吸血鬼、後藤という怪物、魔法少女。
少なくとも、いまの自分では到底勝てそうにない存在がこれだけいる。探せばもっといるかもしれない。いや、もしかしたら自分以外の奴らはみんなそんなのばかりかもしれない。
(あいつ、絶対に俺を優勝させるつもりなんてないだろ)
百歩譲ってペルソナを封じるのはよしとしても、せめてもっと使いやすい支給品を用意しろ。
世の中クソだと思う以上に、自分のペルソナを禁止にした広川に怒りをおぼえた。



「そういうことだったのか...よく話してくれた」
「......」
アヴドゥルは、それ以上かける声が見つからなかった。
いきなりこの場に放り込まれ、頭部を破壊され、続けざまに襲われて...
その心境は決して穏やかではないことは察せる。
それに、たまたま見つけたのが承太郎だからよかったが、普通の者ならまどかを恐れ、彼女は怪物とみなされていたことは想像に難くない。
こういってはなんだが、まどかは運がよかったと思う。
魔法少女でなければ死んでいた。発見者が承太郎でなければもっと悲惨な目に遭っていた可能性は高い。
だが、魂を抜かれている彼女にそう言葉をかけるほどアヴドゥルは愚かではない。
かといって下手な同情は魔法少女への侮辱となる。
どうしたものかとアヴドゥルが思い悩んでいるときだった。



「...一度、外の空気に触れてこい。こんなところでは気持ちの整理ひとつつけれやしない」
まどかにそう言葉をかけたのはエスデス。
まどかは、素直にエスデスの言葉に従い、とぼとぼとコンサートホールをあとにする。
待て、と言いかけるアヴドゥルの額に、コツンと一欠片の氷が当たってはねた。
「少しは頭を冷やせ」
「...私は至って冷静だ。だからこそ、単独行動は危険だというのもわかっている」
アヴドゥルの危惧は、今までの経験からのもの。
花京院が一人になった隙をついて、敵が花京院に変装し承太郎に襲いかかった敵がいた。
過去の因縁を利用して、単独行動を誘い込んできた二人組の敵がいた。
ポルナレフが自分を庇ったアヴドゥルのことについて一人浜辺で黄昏れていたとき、心の隙間につけこんだ敵がいた。
一人での行動は、僅かな時間でも危険を孕んでいるのだ。
この殺し合いという場では尚更だ。
だからこそ、まどかを引き留めようとした。


925 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:51:34 W4.urbXk0
「...まどかは『兵』でもなければ『戦士』でもない。そのことがわからんお前でもないだろう」
溜め息と共に吐かれたエスデスの言葉に、アヴドゥルは気づく。
自分達はいつだって死ぬかもしれないという覚悟を持っていた。
そのため、仲間の死に怒りや悲しみは憶えど、その場で立ち直ることはできる。
だが、まどかは違う。
彼女の証言では、魔法少女になってからは日が浅く、戦いの経験もそこまで多くはない。
自分達のような覚悟を持っていないことは容易に察せる。
そんなとき、一人になりたいと思うのは当然の心理だ。
だが、それでもアヴドゥルはこの状況で一人になることを認めたくなかった。


「...なあアヴドゥル。お前にとってまどかはなんなんだ?お前の娘かなにかか?」
「なに?」
「アヴドゥル、お前はたしかに強い男だ。だが他人に気をかけ過ぎだ。その甘さはいつか命取りになるぞ」
「...だが、もし襲われれば...!」
「それで死ねばその程度のやつだったということだ」
「貴様...!」

アヴドゥルの拳が強く握られる。
いまにも、機嫌が悪くなったチンピラのように椅子を殴りつけそうな気配を醸し出していた。


926 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:52:23 W4.urbXk0
「......」
そんなアヴドゥルを余所に、ヒースクリフは魔法少女という存在と花京院典明について考える。
ゲームクリエイターである自分からしてみれば、魔法少女というのは都合がよすぎる。
魔法少女は、生まれついてのものではなくキュゥべえという獣と契約をしてなるものらしい。
それはいい。問題は、魔法少女は魔女のグリーフシードで『しか』穢れを取り除けないという点だ。
それに使い方も気になった。
とあるRPGでは、『やくそう』というアイテムを使えば一定の数だけHPを回復できる。
だが、現実では薬草をどのように使おうが一瞬で傷や体力が治ることは決してない。
それでも一瞬で怪我を治せるのは『ゲームの世界』でそのように設定されているからだ。
ならば魔法少女はどうだ?実際にグリーフシードを渡して使用法を見たが、単純に押し当てるだけ。
グリーフシードはしっかりと『やくそう』の役割を果たしているではないか。
しかも、ソウルジェムが濁りきる...即ち、魂が濁りきった時には死に至るそうではないか。
つまり魔法少女とは『キュゥべえにグリーフシードが無ければ生きていけない』ように設定された存在だとヒースクリフは考える。
そんなシステムを設定するには、魔女について詳しく知らなければできるはずがない。となれば、魔女もまたキュゥべえに作られた存在である可能性は高い。
なぜそんなことをするのか。明確な答えはわからないが、それは主催者から聞くとでもしようと思った。


次に花京院典明についてだが、本当に偽者など存在するのだろうか?
花京院典明は、出逢って間もない鹿目まどかの頭部を吹き飛ばした。普通なら即死ものだ。
だが、彼が偽物であるならこの行為は矛盾している。
他者・偽名を語るメリットは、自分への殺意を他者に押し付けることである。
しかし、それには『花京院典明は危険人物である』ということを言い広める他者が必要となる。
故に、鹿目まどかを殺さずに、適当に傷つけて放置した方が効率がいい。
だが、彼は明らかに殺意を持ってまどかを排除しようとした。
なにより、花京院は自らの名を語らなかった。
それを忘れるようでは、彼を騙る意味はない。

ここから考えられる可能性はふたつ。
ひとつは、とりあえず他者の支給品が欲しかったから。そのためにまどかを殺害しようとしたのなら理解はできる。
ただ、花京院典明に化ける必要性があるかと問われれば、微妙な答えになるが。
二つ目は、『まどかを撃った花京院典明は本物である』という可能性だ。
承太郎たちは花京院典明のことを信頼しているようだが、人間とは時に予想外の行動をとるものだ。
花京院典明が保身のためにまどかを殺そうとしてもおかしくはない。
それならば、暁美ほむらを庇うような行動をしたのも頷ける。
花京院典明が攻撃したのは、エスデスからほむらを守るためではなく、ほむらを利用するため。ついでにエスデスを仕留められれば儲けもの。
そう考えれば、全ての辻褄が合う。
もっとも、これはあくまでも予想である。
下手に口に出して承太郎とアヴドゥルの反感を買うのは避けたい。
いずれにせよ、花京院典明には最大限の注意を払おう。
ヒースクリフは誰に知られることなく決心した。



「......」
承太郎は帽子に手をやりながら思う。

傷心から立ち直れるかわからないまどか。
明らかに委縮しているが、その真意までは読み取れない足立。
いまにも一悶着起こしそうなアヴドゥルとエスデス。
そんな他者を余所に、なにやら一人で思考を深めているヒースクリフ。

戦力的には申し分ないのだが、いかんせん向いている方向がバラバラだ。
これでDIOや広川に勝てるのだろうか?

「...やれやれだぜ」

承太郎は、溜め息と共に帽子を深く被りなおした。


927 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:53:46 W4.urbXk0


コンサートホールから出て、まどかは空を見上げる。
まどかが自ら魔法少女のことを話したのは、その存在を否定されたくなかったからだ。
最初は驚かれても、承太郎のように存在自体を否定することはないと思いたかった。
しかし、足立からは明らかに嫌悪の感情が読み取れたし、アヴドゥルも快くは思っていないように見えた。
そしてそれはマミすらも否定されているように思えて仕方なかった。
だから、エスデスが一人にしてくれたことには感謝したかった。



(マミさん...)
出会いのきっかけは魔法少女だった。
最初は、ただその強さに、華麗な戦いに憧れていた。
関わっていくうちに、本当に優しい人だということがわかりはじめた。
魔法少女が増えて、互いの関係に亀裂が走りだしたときは、誰よりも思い悩んでくれた。
でも、そんな彼女はもういない。認めるしかない。
(どうして...なのかな)
彼女はどうやって死んだのだろう。
正義の魔法少女として、力なき人を守って死んだのか。
承太郎が遭遇した魔法少女のように、人を狩ろうとして返り討ちにされたのか。
いまのまどかにそれを知る術はない。
まどかにできること、それは事実を認めることのみ。
巴マミは死んだ。もう会うことはできない。



「ッ...!」
涙が頬を濡らす。
嫌だ。認めたくない。
そんな想いがまどかの中を駆け巡る。
なぜ優しい彼女が、人知れず街の人々の平和を護ってきた彼女が死ななければならないのか。
マミからは、魔法少女は死の危険と隣り合わせだということは教わっていた。
だがしかし、それでもまどかは5人の内のだれが欠けることも認めたくなかった。


もしも一人になったのが、同じく仲間を失った承太郎やアヴドゥルなら結果は違っただろう。
彼らはいつだって命が危うくなるような戦いを繰り広げてきた猛者だ。
悲しみの感情を抱いていても、周囲への警戒を解くことはしなかっただろう。
だが、鹿目まどかは違う。彼女は魔法少女になって日が浅い。加えて、肝心の魔女退治も、命がけと問われれば首を捻るしかない。
まどかは、複数人でしか魔女と戦ったことはない。それに加え、まどかは知る由もないが、暁美ほむらが何度かまどかの契約前に時間を撒き戻したせいで、因果の糸が絡まりまどかの魔力もかなり高くなっている。
手を抜いたことはないにしろ、死線を潜ってきたとはとても言えないのだ。
味方のスタンド使いたちや歴戦の将軍と比べれば、その精神は凡人となんら遜色ない。
だからまどかは気が付けなかった。

「やあ、こんにちわお嬢さん」
エルフのように尖った耳をした男が目前にまで来ていたことに。


928 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:54:30 W4.urbXk0


(ま...おおかた予想通りでしたがね)
魏志軍が武器庫を漁り、抱いた感想はこれだった。
武器はたしかにあった。だが、あったのはアーミーナイフ一本とライフルが一丁のみ。
武器庫というにはお粗末すぎるが、彼にとっては予想の範囲内だ。
そう簡単に殺傷能力が高い物を調達できるのなら、支給品の意味はない。
最悪、なにもないことすら覚悟していたが、一人分の武器があったのは幸いともいえる。

(さて、これからどうするか...)
魏志軍は最初は武器庫に籠城しようかと思った。
しかし、転送してから気付いたのだが、ここは地獄門からはだいぶ離れている。
黒(ヘイ)はおそらく、連れのドールである銀(イン)と合流するために地獄門へと向かうはずだ。
となれば、ここに黒が寄る可能性は極めて低い。
他の参加者を待ち伏せで襲撃できる可能性は高いが、それは黒を殺した後で考えればいい。
とはいえ、回数が限られている転送装置をいま使うのも勿体ない。
そう決めた魏志軍は、武器庫をあとにした。


魏志軍が次に訪れたのは市庁舎。
無視しようかとも考えたが、黒がここにいる可能性は0ではない。
いなくとも、なにか痕跡が見つかるかもしれない。ここでそれを見逃せば後悔どころの話ではない。
大した期待は抱かず、魏志軍は市庁舎へと足を踏み入れた。

屋上まで辿りついたとき、魏志軍は溜め息をついた。
収穫はゼロだった。
黒どころか人っ子一人いやしなかった。むしろ、自分が一番最初に訪れたのではないかと思うほど清潔だった。
完全な無駄足だった。そう思いつつ、フェンス越しに地上を見下ろした。
「ん...」
視界の端に映ったのは、学ランを羽織った男。
身長と体格からみて黒ではないことはわかったが、それを見逃すわけにはいかない。
参加者を減らすため、手に入れたライフルで襲撃しようかとも思ったが、男の様子を見て考えを改める。
(あの男...走っているな)


929 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:55:27 W4.urbXk0
ここは殺し合いの場だ。可能な限り体力は温存するのが定石である。
しかし、男は襲われている様子もなく、心なしか急いでいるように見えた。
(迷わずに進んでいる...どこかを目指しているのか?)
男は、市庁舎に目もくれず走っていく。
(...どこかで待ち合わせでもしているのだろうか)
待ち合わせ。すなわちそれは、相手がいるということだ。
(...まあ、情報は持っておいて損はないだろう)
優勝するのが目的とはいえ、なにも情報がないのは厳しい。
先に戦った奇妙な右手の少年のような存在がいるのなら尚更だ。
魏志軍は、走り去る男の後を追うことを決めた。


男がコンサートホールへ入るのを確認したとき、魏志軍はそれに続くかどうかを考えた。
あの男は、おそらく待ち合わせをしていた。その相手によってはこちらの対応も変わってくる。
もしも、あの右手の少年のチームがあそこにいれば、自分は一人を殺害した危険人物としてみなされる。
またあの眼が死んだような少年のようなことをされれば、今度は殺されるのは自分かもしれない。
自分の能力は、奇襲・暗殺や一対一においては有利だが、複数の実力者相手には脆いものなのだ。
ここは様子を見るべきだろうと、合理的に判断する。
数分後、少女と女がコンサートホールへ入るのを確認。
ますますあの右手の少年が関わっている可能性が高くなった。
一度体勢を立て直すべきかもしれない。
そんな考えがよぎったときだ。


『おはようしょくん』
放送が、始まった。


930 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:56:17 W4.urbXk0


『それではしょくん、更なる健闘を期待しているよ』

魏志軍が放送を聞いて抱いたのは安堵。
もう16人もの死者が出ている。自分はまだ一人しか殺していないにも関わらず15名もの死者が出ているのだから、自分以外の参加者も殺し合いに乗っていることがわかる。
そのぶん自分に戦力が集中する危険性は低くなる。
自分の能力のリスクを考えれば、殺しを円滑に進めるには好都合だ。
そして、なにより彼を安堵させたのはあの男の存在。
(BK201...やはり、生きていたか)
放送でその名が呼ばれなかったということは彼もまた生存しているということだ。
奴を殺すのは自分でなければならない。奴の命を他のやつにくれてやるものか。



(さて...そろそろ地獄門を目指すか)
これ以上、危険性が高いコンサートホールを見張る意味はないだろう。
コンサートホールは無視して、地獄門を目指そうと思ったときだ。
コンサートホールから少女が一人姿を現した。
少しの間待ってみるが、他の者が出てくる気配はない。
少女の様子から、どうやら傷心しているようだと判断する。
(...少し、探ってみますか)
そう決めると、魏志軍はなるべく敵意を抱かせないような笑顔で少女に接触を図った。
「こんにちわ、お嬢さん」
少女は、驚いたような様子は見せたが、明確な敵意までは見せなかった。

「...ああ、すみません。こんな怪我をしている男、怪しく思うのも無理はありませんよね」
黒に刻まれた顔の火傷を撫でながら、困ったように苦笑する。
「い、いえ...そんなことありません」
戸惑いながらもそう答える少女の様子をみて、魏志軍は確信する。
(どうやら、コンサートホールにはあの少年たちは関わっていないようだな)
もしも、右腕の少年がいたなら、こんなわかりやすい特徴を持っている自分だ。すぐに敵だとわかるはず。
好都合だ。情報を引き出せるだけ引きだしてやろう。
「私の名は魏志軍です。あなたは?」
「...鹿目まどかです」
戸惑いながらも、魏志軍につられて、少女も名乗った。


931 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:57:08 W4.urbXk0
「そうですか...辛かったですね」


魏志軍は、まどかを慰めるように適当に相槌をうっていた。
香港系マフィア青龍堂のボスの一人娘、アリス・王の付き人をやっていた経験もあるため、傷ついた女性を慰めることはそれなりに心得ている。
それが効果的だったのか、まどかも涙を流しながらも己の心中を語っていた。
友人が巻き込まれたこと、その友人のうちの一人が先の放送で呼ばれたこと。
おおまかな内容はこれだった。

(使える情報は特になし...と)
どうやら、まどかは黒と会ってはいないらしく、コンサートホールにもいないようだ。
ならば、この少女にもコンサートホールの連中にも用はない。
「私もあなたと友人が早く会えるように最善を尽くしますよ」
にこやかな笑顔をつくり、まどかの肩に手を置く。
「ほ、本当ですか?」
「ええ」
そのまま、流れるように右手を動かし、まどかの首筋に触れ

―――パチン

指を鳴らすとともに、まどかの頸動脈が消え去った。



「......」
まどかは呆然としたまま、首筋から流れ出る血を止めることすらなく地に倒れ伏した。
魏志軍は、あらかじめ人差し指の先を爪で僅かに切っておき、それをまどかの首筋に付着させることによって、能力の仕込みをおこなった。
もちろん、能力を使わずとも勝てる自信はあったが、下手に抵抗されて厄介なことにはなりたくない。
一般人に一杯食わされたばかりなので尚更だ。
そのままコンサートホールから離れてもよかったが、一人でも減らしておけば後の憂いも無くなる。
そう判断したため、最小限の力でまどかを手にかけたのだ。
用済みとなったまどかとコンサートホールを尻目に、魏志軍は地獄門目指して踵をかえす。


932 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 00:58:47 W4.urbXk0
その瞬間


「ッ!?」
背筋にゾクリと悪寒が走る。
思わず振り返ると、その目に映るのは目前にまで迫っている掌。
不意打ちではあったが、魏志軍にとっては躱せる程度のもの。
顔を逸らして掌を躱し、背後に跳び退る。
襲撃者は、先程倒れたはずのまどか。見れば、首筋からの出血はほとんど治まっていた。
なんだそれは。魏志軍が問いただす前に、まどかは魏志軍との距離を詰め、肉弾戦へと持ち込んだ。

「チィッ」
思わぬ反撃に舌打ちをしつつも、まどかの動きを冷静に分析する。
まどかの拳は想像以上に速かった。少なくとも、右腕の少年に近いものといってもいい。
だが、彼と比べると弱い。ましてや、黒と比べれば尚更だ。
戦い慣れしていないのか、動きは大雑把で力任せなうえ、無駄も多い。明らかに素人のそれだ。
ならばその動きを捉えるのは容易い。
振るわれる拳をしゃがんで避け、蹴撃による足払いをかける。
前のめりに宙に浮くまどかの後頭部に、左の肘鉄をかまし、地面に叩き付ける。
しかし、まどかは怯まない。すぐに上体を起こし、再び魏志軍へと拳を振るう。
迫るまどかの腕を手刀で弾き、隙だらけの腹部に掌底を当て、バク転の要領で顎をカチ上げる。
そのままバク転を繰り返してまどかから距離をとる。
まどかのタフさには少々驚いたが、体術においては明らかにこちらの有利。ならば、能力を使うまでもない。
そう判断するやいなや、まどか目掛けてナイフを投擲する。
まだ体勢が整っていないまどかに、額へと迫るナイフを躱す術はない。
まどかにナイフが刺さる



『オラァ!』



はずだった。
気合一徹、まどかの背後から現れた何者かがナイフを叩き落とした。
驚きの言葉を漏らす間もなく、魏志軍のもとへ炎の鞭が向かってくる。
魏志軍は飛び退いてそれを躱し、炎の鞭は地面を焼いた。


「この状況...てめえはノッたってことでいいんだな?」


学ランの青年は、低い声で呟いた。


933 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 01:01:38 W4.urbXk0




「やはり危惧した通りだったか...!」
乱入者はモハメド・アヴドゥルと空条承太郎。
アヴドゥルは、結局エスデスの制止を振り切り、承太郎もまた、一人になるリスクを考慮してアヴドゥルに同意した。
エスデスも本気で止めるわけでもなく、好きにしろといったような視線を二人に投げかけて見送った。
そうしてコンサートホールから出た二人が目撃したのは、肉弾戦を繰り広げるまどかと尖った耳の男。
どう見ても友好的ではないし、戦況は男にあがっている。
「アヴドゥル」
「ああ」
それを確認した二人は、戦いに乱入し、男へと敵意を向けた。



(チッ、こいつはタイミングが悪い...)
またも魏志軍が舌打ちをする。
ナイフを叩き落した筋骨隆々の青い戦士。
炎の鞭を放った、鳥の顔を持つ半裸の男。
学帽と学ランという典型的不良のような恰好の大男。
厳つい顔をした男。
流石に5対1では分が悪い。
ましてや、先の戦いでは足手まといが2人いたが今回は違う。
乱入者からはどれもただものではない雰囲気が感じられる。
(特に、あの炎の鞭を使ったやつ...)


「『マジシャンズレッド』!」
アヴドゥルの叫びと共に、マジシャンズレッドが火を放つ。
(やはり!あれは本物の炎だ!)
魏志軍は迫る炎を躱しながららと戦う合理性を考える。
(相手がなにか獲物を持っているならそれを破壊すればいいのだが、炎相手ではそれはできない。それに、奴の能力は相性が悪い)
魏志軍の能力は、血を媒介にしなければ発動することはできない。だが、まともに血を飛ばしたところで、炎相手では蒸発して終わりだ。
そもそも、血を飛ばせるくらいに出血するには、ナイフを使わなければできないし、飛距離もたかがしれている。
そのうえ、相手は炎使いだけではない。
『オラァ!』
青い戦士は、接近戦で攻めたててくる。ナイフを使う暇もない。
その拳をぎりぎりのところで躱し、反撃も試みるが、それより早く戦士の拳が腹部に叩き込まれ、吹きとばされる。
「カハッ!」
あまりの衝撃に、吹きとばされながらわずかに吐血してしまう。


(このまま戦うのは厳しいな...ここは逃げるしかないか)
合理的に判断した魏志軍は、背後の逃走経路を確認する。
「そう易々と逃がすと思うか?」
アヴドゥルがいつでも炎を放てるように構える。
「そうは思いませんよ」
魏志軍は、懐から筒状の物を取り出し、投げつけた。
承太郎がしゃがみ込む。なにかが弾けるような音がする。
「ですが、サヨナラです」
その瞬間、アヴドゥルたちの視界は光に包まれた。


934 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 01:03:12 W4.urbXk0
(流石に奴らでもあの光には反応できまい)
スタングレネードを放った瞬間、魏志軍は背後の橋へと駆けだした。
乱入者は強敵だ。
自分とは相性の悪い炎使い。
今まで戦ってきた敵の誰よりも疾く強い拳を放つ戦士。
状況が不利であるのは、火を見るより明らかだ。あのままでは、彼らに殺されるのも時間の問題だった。
(幸い、私の能力について種を明かしてはいない。チャンスはまだある)
魏志軍は、脇目も振らずに逃走していた。
心のどこかでその事実に屈辱を憶えつつも、いまはそれを合理的判断として受け入れる。

「ぐっ!?」
突如、背中に激痛が走る。何かが背中に当たったのだ。
あまりに唐突な衝撃であったため、さしもの魏志軍も前のめりに倒れてしまった。
しかし黒の電撃にすら耐えきった魏志軍である。
なんとか意識だけは保ち、すぐに振り返る。
当たったのは、拳ほどの大きさの石であることを確認した瞬間だった。


―――ゴウッ


先程まで魏志軍の頭があった場所を、桃色の閃光が何本も走った。
「なっ...!」
あれが当たれば、間違いなく死んでいた。
あれはどう考えても拳銃や大砲などの銃火器ではない。
だが、契約者とて、対価と引き換えに得る能力はひとつ。
なら、あれを放ったのは誰だ?
また仲間が新たに現れたのか?
その答えを知る間もなく、魏志軍の右肩に一筋の閃光が刺さる。
「ぐあっ!」
痛みをこらえ、立ち上がり次なる攻撃に備えて身構える。
「...?」
だが、閃光はあらぬ方向へと飛んでは消え、飛んでは消えていく。
(なるほど。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる...というやつですか)
これではそうそう当たることはないだろう。
当たったとしても、急所を避ければ、数発程度は大したことはない。
流れる閃光へと背を向け、魏志軍は橋を駆けて行った。


935 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 01:04:57 W4.urbXk0
視界が晴れると、エルフ耳の男は消え去っていた。
「くっ、閃光弾とは予想外だった...!」
アヴドゥルが悔しそうに顔を歪めるのに対して、承太郎の意識は別のものにあった。
(てっきり攻撃を仕掛けてくると思ったが...冷静なヤロウだ)
承太郎は、エルフ耳の男を迎え撃つために石を放った。
当たりはしたものの、敵の狙いは逃亡だったようで、それを阻止するまでには至らなかったようだ。
だが、承太郎にはそれ以上に気にかかったことがある。

「まどか、おまえ...」
「......」
まどかはいつの間にか魔法少女の姿に変身していた。
おそらく、承太郎が石を拾ったときだろう。
そして、彼女が変身してすることは決まっている。
承太郎の気のせいでなければ、何本か閃光が走っていた。
その閃光は、まどかの放った矢だ。
問題はそこではない。
「奴を殺すつもりだったな?」


まどかは承太郎の問いに答えない。
承太郎の視線が、厳しいものになる。
思い返せば、後藤と戦ったときもそうだった。
まどかは咄嗟のこととはいえ、後藤の頭部を迷いなく狙っていた。
手足ではなく、頭。躱されはしたが、もし当たっていれば確実に致命傷になる部位だ。
今回のことでは更に事情が違う。
エルフ耳の男と肉弾戦をしている最中、まどかは変身していなかった。
弓を使う暇がなかったともとれるが、変身すらしていないということは、まだ撃つ気すらなかったということだ。
そう、エルフ耳の男に『まどかの戦闘スタイルは徒手空拳である』と思わせるために。
そして、待っていたのだ。あの男を確実に殺すチャンスが巡ってくるのを。
結果的には、承太郎が放った石により失敗はしたが、それが無ければ確実に殺していただろう。
(...どうやら、こいつの認識を改める必要があるかもしれねえな)
それは『実力を認める』だの『背中を預けられる』だのの良い意味で決してない。
まどかの人となりはわかっているし、自分達も自衛のためとはいえ敵のスタンド使いを何人か殺めてきた。
そのため、自衛のために殺してしまうこと自体を非難するつもりはない。
だが、こうまで躊躇いもなくあんな方法をとられれば、警戒するなというのも無理な話だろう。
黙って彼方を見つめるまどかの様子に、承太郎は溜め息をついた。


936 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 01:09:00 W4.urbXk0
「......」
まどかは、魏志軍が接してきたときから疑っていた。花京院の手口と似ていたのだ。
笑顔の奥底でなにを考えているかがわからなかった。恐ろしかった。
だから、魔法少女のことは話さなかった。自分の悲しかったことしか話さなかった。
そして、首に走った熱い感覚。それを理解した時、「ああ、やっぱり」となんとなく思った。
(あなたみたいな人がいるせいで、マミさんは...)
その時まどかの胸中に抱いた感情は、怒り。そして殺意。
同時に、どうすれば眼前の男を殺せるかと冷静に思考を重ねる自分がいた。
まどかは、男を殺そうとしたことに何の後悔も抱いていなかった。
少なくとも、いまは。


どこか虚ろな目で彼方を見つめているまどかを見て、アヴドゥルは思う。
(...こいつはマズイかもしれん)
アヴドゥルは今まで多くのスタンド使いを見てきた。
能力を持ったために悪事に手を染め倫理観を失った者。能力を制御しきれず暴走してしまった者。
そんな者たちも多くいた。
まどかはそのどちらにも当てはまるような気がしてならない。
まどか自身は優しい人間だとは思う。
だが、いちど道を選んでしまえばそのまま突き抜けてしまう、一番厄介なタイプのように思えて仕方ない。
そういった人間は、えてして手段を択ばないものだ。
もしも、彼女の仲間が全員いなくなれば、全員を殺して友を生き返らせる手段をとるかもしれない。
(わたしの杞憂で終わってくれればいいのだが...)
だが、アヴドゥルは知っている。占い師という職業柄か、己の勘は当たりやすい。特に、悪い方向に対しては尚更だ。
まどかの視線の先は空。よく晴れた青空だというのに、アヴドゥルにはなぜか曇って見えた。



(なんだ。まどかのやつ、やればできるじゃないか)
三人の後ろ、コンサートホールの入口で戦闘の一部始終を見ていたエスデスはニィと口角を釣り上げた。
エスデスがまどかを一人にしたのは、別に彼女を気遣ったわけではない。
まどかを試したかったのだ。
(コンサートホールに入る前、なんとなく誰かから見られている気はしていたが...よくもまあ思い通りにことが運んだものだ)
まどかと行動したのは2時間にも満たない。
その行程でまどかの人となりを観察していたが、どうにもほむらと同じとは思えなかった。早い話、甘ちゃんだと思っていた。
エスデスは、他人の性格にとやかくいう事はしない。
自身が率いる『イェーガーズ』でも、ボルスという好戦的でない者がいるが、その性格を貶めるようなことは決してしない。
戦うべきときには戦い、殺すべき時には殺す。
それさえできれば言うことはなしだ。
しかし、まどかにはそれすら出来ないと思っていた。
だから試した。
自分やその身内の危機にすら刃を抜けない者は不要。
殺すつもりはないが守る理由など尚更ない。
ほむらをおびき寄せるのに必要なのは『まどかと会った』という事実だけ。まどか自体はどうでもよかった。
もしここで死ぬのならその程度だと切り捨てるつもりだった。
だが、まどかは迷う事なくエルフ耳の男を殺すために動いていた。
(ほむらが完全に私の敵にまわれば、まどかはほむらに着くだろう。それはそれで面白いかもしれん。その時は...そうだな、あいつの友達の美樹さやかあたりをシメれば更に面白くなるかもな)
この殺し合い、予想以上に面白くなりそうだ。高まる期待とともに、エスデスの笑みはより深まった。


937 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 01:10:32 W4.urbXk0
【D-2/コンサートホール/一日目/朝】


【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:健康、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限あり)×3@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品(確認済み)(2)
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:もっと異能を知りたい。見てみたい。
1:要所要所で拠点を入れ替えつつ、アインクラッドを目指す
2:同行者を信用しきらず一定の注意を置き、ひとまず行動を共にする
3:神聖剣の長剣の確保
4:DIOに興味。安全な範囲内でなら会って話してみたい。
5:キリト(桐ヶ谷和人)に会う
6:花京院典明には要警戒。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。


【足立透@PERSONA4】
[状態]:健康、鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×8@現実
[思考]
基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:勘弁してくれよもう。
1:ゲームに参加している鳴上悠・里中千枝の殺害
2:自分に扱える武器をほぼ所持していない為、当面はヒースクリフと行動を共にする
3:隙あらば、同行者を殺害して所持品を奪う
4:いざという時はアヴドゥルに守ってもらう。
5:DIOには会いたくない。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後
※ペルソナのマガツイザナギは自身が極限状態に追いやられる、もしくは激しい憎悪(鳴上らへの直接接触等)を抱かない限りは召喚できません
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です




【モハメド・アヴドゥル@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康 激しい怒り 精神的疲労(小)
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、ウェイブのお土産の海産品@アカメが斬る! 不明支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いを止めDIOを倒し広川ら主催陣を倒し帰還する。
1:仇は必ずとるぞ、ポルナレフ、イギー
2:エスデスは相当ヤバイ奴。まどかも危険な匂いがする。
3:ジョースターさん達との合流。
4:DIOを倒す。
5:もしこの会場がスタンド使いによるものなら、案外簡単に殺し合いを止めれるんじゃないか?
※参戦時期はDIOの館突入前からです。
※イェーガーズのメンバーの名前を把握しました。
※アカメを危険人物として認識しました。タツミもまた、危険人物ではないかと疑っています。
※エスデスを危険人物として認識しており、『デモンズエキスのスタンド使い』と思い込んでいます。
※ポルナレフが殺されたと思い込んでいます。
※この会場の島と奈落はスタンド使いによる能力・幻覚によるものではないかと疑っています。
※スタンドがスタンド使い以外にも見える事に気付きました。


938 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 01:12:28 W4.urbXk0
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中) 、精神的疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、手榴弾×2、穢れがほとんど溜まったグリーフシード×3、『このラクガキを見て うしろをふり向いた時 おまえは 死ぬ』と書かれたハンカチ
[思考・行動]
基本方針:主催者とDIOを倒す。
1:偽者の花京院が居れば探し倒す。DIOの館に関しては今は保留。
2:情報収集をする。
3:後藤とエルフ耳の男、魔法少女やそれに近い存在を警戒。 まどかにも一応警戒しておく。
【備考】
※参戦時期はDIOの館突入前。
※後藤を怪物だと認識しています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※魔法少女の魔女化以外の性質と、魔女について知りました。
※まどかの仲間である魔法少女4人の名前と特徴を把握しました。
※まどかを襲撃した花京院は対決前の『彼』だとほぼ確信していましたが、今は偽者の存在を考えています。
※DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダースが一本近くに落ちています。



【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ソウルジェム(穢れ:中〜大) 、花京院に対する恐怖(小〜中) 精神的疲労(小〜中) 全身打撲(中)
[装備]:魔法少女の服
[道具]:手榴弾×2
[思考・行動]
基本方針:ゲームに乗らない。みんなで脱出する。
0:危険人物を...?
1:魔法少女達に協力を求める。悪事を働いているなら説得するなどして止めさせる。
2:早く仲間と合流したい。ほむらと会えたら色々と話を聞いてみたい。
3:これ以上大切な人を失いたくない。

【備考】
※参戦時期は過去編における平行世界からです。3周目でさやかが魔女化する前。
※魔力の素質は因果により会場にいる魔法少女の中では一番です。素質が一番≠最強です。
※魔女化の危険は在りますが、適宜穢れを浄化すれば問題ありません。
※花京院の法王の緑の特徴を把握しました。スタンド能力の基本的な知識を取得しました。
※承太郎の仲間(ジョースター一行)とDIOの名前とおおまかな特徴を把握しました。
※偽者の花京院が居ると認識しました。



【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:健康 
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:殺し合いを愉しんだ後に広川を殺す。
1:DIOの館へ攻め込む。
2:クロメの仇は討ってやる
3:殺し合いを愉しむために積極的に交戦を行う。殺してしまったら仕方無い。
4:タツミに逢いたい。


[備考]
※参戦時期はセリュー死亡以前のどこかから。
※奥の手『摩訶鉢特摩』は本人曰く「一日に一度が限界」です。
※アブドゥルの知り合い(ジョースター一行)の名前を把握しました。
※DIOに興味を抱いています。
※暁美ほむらに興味を抱いています。
※暁美ほむらが時を止めれる事を知りました。
※自分にかけられている制限に気付きました。




【共通思考】
・情報交換をする。
・これからの方針を決める


[共通情報]
※危険人物
DIO、花京院典明(ただし偽者の可能性が高い)、後藤、槍使いの魔法少女(杏子)、アカメ、エスデス

※魔法少女について
1.ソウルジェムが本体であるため、破壊されたら死ぬ
2.穢れはグリーフシードを使わなければとれない。


939 : 曇天 ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 01:14:23 W4.urbXk0
追撃も追手も来ないことを確認すると、魏志軍は建物の陰に腰を下ろした。
(してやられた、か...)
魏志軍は、ここにきてまだ一度も勝ち星をあげていないことに苛立ちをおぼえる。
奇妙な右手の少年率いる集団との戦いは、確実に4人纏めて殺せるはずだった。しかし、一人の捨身の行動で、逆に逃走せざるをえない状況に追い込まれた。
まどかはどんなトリックを使ったかはわからないが、仕留めれなかったことには変わりない。
そして、炎を操る男と強力な打撃を放つ戦士。彼らに至っては、ほとんどなにをすることもできずに不様に敗走した。
ギリッと歯ぎしりをするほどに屈辱に思う。同時に、自分の能力だけでは生き残れないこともまた自覚する。
(力がいる)
それがなにかは問わない。
兵器、新たな能力、使える手ごま...なんだって構わない。
(新しい力が...!)
魏志軍の胸に滾るのは、復讐心とプライドへの執着心。
魏志軍はまだ知らない。それが、合理的とは程遠い感情であることを。


【C-3/一日目/朝】

【魏志軍@DARKER THAN BLACK黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、背中・腹部に一箇所の打撲(ダメージ:中) 右肩に裂傷(中)、顔に火傷の傷、黒への屈辱、右腕に傷(止血済み)
[装備]:DIOのナイフ×8@ジョジョの奇妙な冒険SC、スタングレネード×1@現実
[道具]:基本支給品×2(一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲、暗視双眼鏡@PSYCO-PASS、ランダム支給品(確認済み)(1)  アーミーナイフ×1@現実 ライフル@現実 ライフルの弾×6@現実
[思考]
基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する
0:なにか強力な武器・力が欲しい。最悪、他者と組むことも考える。
1:BK201(黒)の捜索。見つかり次第殺害する。
2:奇妙な右手の少年(新一)、先の集団(まどか、承太郎、アヴドゥル)は必ず殺す。
3:合理的な判断を怠らず、消耗の激しい戦闘は極力避ける。

[備考]
※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。
※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、本パートの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。
※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能のないごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。
※スタンドのことを参加者だと思っています
※閃光を放ったのは誰かは知りません。


※A-4武器庫にはもう武器は置いてありません。


940 : ◆dKv6nbYMB. :2015/07/16(木) 01:15:00 W4.urbXk0
投下終了です。


941 : ◆fuYuujilTw :2015/07/16(木) 20:36:00 RWQdWFIQ0
投下します。


942 : ◆fuYuujilTw :2015/07/16(木) 20:37:02 RWQdWFIQ0
目が覚めるとそこは見慣れた部室だった。
やはりあれはただの悪夢に過ぎなかったのだとほっと胸を撫で下ろした。
みんなそろっている。穂乃果に花陽にニコちゃんに絵里に希に……。

「ね、ねえ。海未と凛とことりはどこ?」
「? 誰のこと?」

きょとんとした顔で穂乃果が私に尋ねる。

「ふ、ふざけないで! 大体海未とことりはあんたの幼なじみで……」
「本当にどうしたの?」
「疲れてるんちゃう?」

いつもの調子で、いつもの通りに私に話す希。

「花陽、あんた凛といつも一緒にいたじゃない!」
「真姫ちゃん、本当に誰のことをいってるの?」
「真姫、あなたやっぱりちょっと疲れてるんじゃない?」
「あんた、少し休んだ方がいいわよ……」

心配そうな顔で彼女たちは私を見る。
…………何も変わっていないのだ。

「……ご、ごめんなさい。良くない夢を見て……」

変わってしまったのは私だ。そう思いたかった。そう思いたかったのだ。
何も変わっていなのだ。

しばらくの間、私たちは他愛もないいつものお喋りに興じた。
楽しかった。
ああ、やはり私のいる場所はここなのだ。
無理矢理にでも納得しようとした。


「ねえ、μ'sって9人の女神のことをいうんだよね」

穂乃果が口を開く。

「そうやけど、どないしたん」
「だったら3人足らないかなと思って」
「そうやねえ」

「……!!」

「だれか勧誘しましょうか?」
「3年生はちょっと難しいんじゃないかしら」
「1年生と2年生の方が良いわよ」


「っ……!!」


「ま、真姫ちゃん、どこに行くの?」

耐えることができなかった。
手で顔を隠しながら、私は駆け足で部室から出た。
振り返ることはなかった。


気がつくと私は音楽室にいた。自然と足がピアノの方に向いた。
立ち止まる。
強い罪悪感が胸を突いた。
つい先ほどまでの自分を振り返り、乾いた笑いが出る。
そうだ、私にここに座る資格はないのだ。
涙がこぼれ落ちた。


943 : ◆fuYuujilTw :2015/07/16(木) 20:38:18 RWQdWFIQ0



「真姫、自分を責めないでください」

顔をあげる。

「そうだにゃ。凛たちはもういないけど、μ's のことは頼んだにゃ」
「お願いだから真姫ちゃんと穂乃果ちゃん、花陽ちゃんは生き延びて」
「……馬鹿。なんであんたたちは……」
「みんな、何かを守ろうとしたの。自分1人だけが帰れればいいなんて考えたのは誰もいない」
「だから、真姫ちゃんたちには無事に帰ってほしいにゃ」
「穂乃果と花陽を頼みます」
「待って……!」

手を伸ばすも掻き消える3人には届かなかった。

1人立ち尽くしていた。しばらく動くことができなかった。
自分は無力だった。そのことを噛み締めるたびに大きな絶望に襲われる。
……私にこれからできることはなんだろうか? 

「…………」

おもむろに歩みを進めピアノの前に座り、鍵盤に指を置いた。



「大丈夫? 西木野さん」

気がつくとベッドの上にいた。保健室らしい。

「えっと……私は……?」
「放送の後、気を失っていたの。……まあ無理もないわ」

田村さんと中学生ぐらいの女の子が私を心配そうに見つめていた。
記憶が流れ込む。それは思い出したくないもの。思い出さなければならないもの。

「…………凛もことりも海未も……」

夢は、2度も醒めることはない。

ベッドから起き上がる。

「田村さん……その……さっきも私を守ってくれて、ありがとうございます……」

「いえ、いいのよ」

「えっと、そちらの方は?」

「あの……私は初春飾利っていいます……」

沈んだ表情でそう名乗った。……彼女もおそらくは近しい友人の名前が呼ばれたのだろう。

「その……初春さん……」

それ以上言葉が出なかった。何を言っていいのか分からなかった。それはきっと彼女とて同じなのだ。
どんな言葉をかけても嘘になってしまいそうな気がした。お互いに黙ったままだった。
他者の悲しみを共有することはできない。人にできるのは推し量ることだけだ。

「……泣いてもいいと思う」

虚勢だったのかもしれない。格好付けだったのかもしれない。しかしそれ以上かける言葉は見つからなかった。

「……いえ、大丈夫……大丈夫です……大丈夫ですから……」

涙をこぼしながら、それでも泣くまいと顔を引きつらせそう漏らした。
私は初春さんの背中に手を回し、田村さんが私にしてくれたように頭を撫でてあげるのだった。
こんなことをするのは初めてだった。ぎこちない手つきで、でもゆっくりと撫でてあげる。

「………………佐天さんは……私の大事な……だから……だから……」

私の胸元を涙で濡らした。
……悲しいのは私だけではない。
穂乃果や花陽もこの放送を聞いたのだ。
初春さんのような人はたくさんいるのだろう。
強い憤りが湧き起こる。この理不尽な狂った催しに。


944 : ◆fuYuujilTw :2015/07/16(木) 20:39:13 RWQdWFIQ0



音楽室に戻る。
ピアノの前に座り鍵盤に指を置いた。
さっきは弾けなかった”あの曲”を奏でる。

海未はことりともう会うことはないと知っていたのだろう。
凛のことだ。田村さんのように命をかけて行きずりの誰かを助けたのだろう。
ことりはきっと仲間のことを必死で考えたのだろう。
佐天さんのことを私は知らない。だが、きっととても素敵な人だったのだろう。

「本当に馬鹿……」

最後まで弾くことはしなかった。この続きは穂乃果と花陽と一緒に生還してからだ。
部屋に戻り、田村さん、初春さんとこれからの方針を考えよう。
そう決意するのだった。

【G-6/音ノ木坂学院内/朝】

【西木野真姫@ラブライブ!】
[状態]:健康
[装備]:金属バット@とある科学の超電磁砲
[道具]:デイパック、基本支給品、マカロン@アイドルマスター シンデレラガールズ、ジッポライター@現実
[思考]
基本:誰も殺したくない。ゲームからの脱出。
1:田村玲子と協力する。
2:穂乃果、花陽を探す。
3:ゲームに乗っていない人を探す。
[備考]
※アニメ第二期終了後から参戦。
※泉新一と後藤が田村玲子の知り合いであり、後藤が危険であると認識しました。


【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品 、巴マミの不明支給品1〜3
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
1:脱出の道を探る。
2:西木野真姫を観察する。
3:人間とパラサイトとの関係をより深く探る。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ'sについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。広川または協力者は死者を生き返らせる力を持っているのではないかと疑っています。



【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1〜3、テニスラケット×2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する。
1:田村玲子としばらく共に行動する。第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でタツミたちと合流する。
2:佐天や黒子と合流する。
3:御坂さんが……
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺し合い全体を管制するコンピューターシステムが存在すると考えています。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※ジョセフとタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※御坂美琴が殺し合いに乗っているらしいということを知りました。


945 : ◆fuYuujilTw :2015/07/16(木) 20:39:42 RWQdWFIQ0


「シンイチ」

「どうした、ミギー」

「図書館に戻るのはいいが、もうすぐ眠りにつく時間だ。わたしが眠っている間に襲撃されたら厄介だぞ」

「そうだな……」

「まずは早くアカメたちと合流することだ。アカメもいればそう簡単にやられることはないだろう」

「……本当にこれでよかったのか?」

「サリアの持っている武器は危険だ。君1人で何とかしようとするのは得策ではない」

確かにサリアのことは気になる。しかし自分では説得することは非常に難しいのではないだろうか。
サリアは人を殺した。もう後戻りはできないのだ。

「もう一度言う。サリアのことは諦めた方がいい」

「…………」

返す言葉は見つからなかった。



【G-5/一日目/朝】

【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(小)、ミギーにダメージ(小) 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム品0〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:図書館に向かい、アカメたちと合流。
2:後藤、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂美琴らしい?)を警戒。
[備考]
※参戦時期はアニメ第21話の直後。


946 : ◆fuYuujilTw :2015/07/16(木) 20:41:08 RWQdWFIQ0
投下を終了します。タイトルは「あこがれ 愛」でお願いします。


947 : 名無しさん :2015/07/16(木) 21:09:34 1CYyYxa.0
投下乙です

真姫ちゃんの夢が見てて辛い…同じ気持ちを共有できる初春がいるのがほんの僅かな救いか
シンイチは、もしサリアと対峙したらどんな選択をするんだろうか…


948 : 名無しさん :2015/07/16(木) 23:52:10 MkkjpwPk0
投下乙です

>曇天 ◆dKv6nbYMB
まどかずいぶんとアグレッシブだな、そのぶん危うさが際立っているけど
三獣士の時もそうだけどエスデスの部下への心情良いなあ

>あこがれ 愛
この夢は地味にきついものがある
真姫と玲子のささやかな優しさにほっこりする


949 : 幸せ砂時計 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/07/17(金) 20:38:14 dW6YuYPw0
投下します。


950 : 幸せ砂時計 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/07/17(金) 20:39:05 dW6YuYPw0

経年劣化で脆くなった扉が、鈍い音を立てて開く。
姿を現したのは金髪の男女と、男に担がれて意識を失った状態の、猫耳を付けた少女。名はDIO、食蜂操折、前川みく。
気絶したみくを除く二人は空気の籠もった部屋の中を見渡して、満足げに頷いた。
ここ、能力研究所の地下2階には実験動物用の檻となる、鉄格子で3つに区切られた部屋があった。
『心理掌握』の実験を行うには好都合な場所だと判断したDIOは最奥の牢の扉を開け、みくの体を放り込む。
頭を軽く打ってうう、と声を漏らすみくを心配することもなく、DIOと操折はその脇に座り込む。

「放送を聞いたが、御坂美琴の友人が一人死んでいたな。特別仲がよかった人間かな?」

「さあ、そこまでは。白井さんほど親しくはないんじゃないかしら? 例の、イリヤちゃんの友達も呼ばれてたけど……」

「イリヤスフィールの例を見るに、魔法少女はステッキがなければただの子供のようだからな。スタンド使いや超能力者相手では勝負にもならんだろう」

第一回放送を聴いて、DIOたちが心を動かされるほどの人間の名は呼ばれていなかった。
そもそも、この二人にとって死んだと聞いて心を乱されるような人物は名簿には名を連ねていないのだが。

「ところでペットショップ、って確かDIOさんの」

「ああ、希少価値の高いスタンド使いだった。人間のスタンド使いなら選べる程度には数がいるが、畜生がスタンドを備える例はそう多くない。補充の難しい優秀な門番でもあったのだがな」

(気を落とさないで……って言おうにも傷心力低そうだゾ)

DIOは残念そうに失った部下を顧みるが、そこに悲しみは介在しない。
死を超越し、あまりに多くの死をばら撒いてきた吸血鬼にはそういった感情はないのだろうか、と操折は思った。
それはそれとして、とDIOがみくを見下ろしながら操折に語りかけた。

「操折ちゃん、まずは君の読心能力を試してもらおうかな。この女が持つ情報を知りたい」

「それならここへ来る途中に既に済ましてあるわぁ。前川みく、アイドルをやっててお仲間とプロデューサー……元締めみたいな人ね、その四人とこの殺し合いに参加中。
 ここに来てから出会ったのはさっきのおチビさん、エドワードだけで、ずーっと温泉に隠れてたみたいねぇ。他の三人のアイドルは同じグループだけど自分だけ別だから心細かったみたい」

「イリヤスフィールの時も思ったがたいしたものだ。わたしが普通の人間ならその情報を直接頭に伝えられるんだろう? 学園都市でも冠絶する能力者というだけはある、本当に心強いよ」

DIOは本心から操折を褒め称える。相手の記憶を覗き見れるスタンド使いは知っているし、彼には彼で食蜂操折にはない強みを多く持つが、
こと情報・心理操作に関して操折の能力を上回るスタンド使いなど想像もつかない。一点特化の一言で終わらせられない、点を越えて面を制圧しかねない能力だ。
操折としても、この能力を羨んだり恐れたりしながらも媚びへつらう人間はごまんと見てきたが、下心をすぐ看破できるそういった連中と違い、妖しげな魅力を持つDIOの言葉は新鮮な喜びを与えた。
頭の中を一から十まで調べつくしてからこの人間は快なり、と見做した者しか身近に置かない操折にとってDIOは危険な爆薬であり、同時に心を刺激する麻薬のような存在だった。
本来ならばこれから行われる実験は、彼女にとって出来る限り避けたい、他者の人格の完全破壊に繋がる凶行となるにも関わらず、操折の精神には揺らぎがない。
しかしその影響をおくびにも出さず、軽口をDIOに返す操折。人格破綻者の伏魔殿、学園都市の闇に浸かりきった彼女は、内面を隠す所作を細胞レベルで習得している。


951 : 幸せ砂時計 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/07/17(金) 20:40:19 dW6YuYPw0

「お世辞が似合わない人ねぇ。……お次は何をすればいいかしらぁ?」

「そうだな、五感の操作や調節の精密さが損なわれていないかチェックしておこうか。女を起こそう」

言って、みくの細い首に手をかけて締め上げる。DIOはこのまま血を吸い尽くしたい衝動を抑えながら、呼吸を阻害する程度の力を込めた。

「……に゛ゃあ゛ぁっ!?」

「乱暴力MAXねえ、すごい声出したわよこの子」

「だがすぐに起きた。前川みく、今の状況はわかるか?」

「おえっ、っぉえぇえ……にゃっ! こ、ここはどこ! エドワード君は……」

咳き込みながら両手をついて半身を起こすみく。ぼやける視界が金髪の人間を捉えるも、高低差の問題ですぐにその相手が自分の望む者でないと気付く。
混乱する彼女を冷淡に眺めながら、DIOは声色に気を遣うこともなく、みくの疑問に答える。

「エドワード・エルリックは君を見捨てて逃げ出したよ。君にはこれから我々の実験を手伝ってもらう」

「そんなの信じない! エドワード君がそんな……」

「操折ちゃん、彼女の"痛み"に関わる全ての感覚の上限を"気絶しない程度"に抑えてみてくれ」

「はぁーい。……えいっ♪」

操折がリモコンを取り出し、みくに向けてスイッチを押す。
みくは目に星を浮かばせて一瞬硬直し、即座に正気に戻った。
DIOはふむ、と呟いて右腕を振りかぶる。
みくが自分の昏倒に疑問を感じると同時に、その拳は彼女の左足の大腿部に打ち込まれた。
皮を裂き、肉を破り、骨を断ち切る一撃だった。一切の遠慮なく放たれたそれは、アイドルを支える四肢の一つを完全に肉体から喪わせた。

「え……」

「あーあー、これじゃもうダンスも踊れないわねぇ」


952 : 幸せ砂時計 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/07/17(金) 20:44:13 dW6YuYPw0

他人事のように嘆息する操折の言葉も、みくの耳には入らない。
飴細工がごとく砕けて千切れた自分の足を、体との僅かな繋がりとして残る皮を一息に引き剥がすDIOの無表情もみくの目には映らない。
「もうアイドルとして人前に出られない」という単純な結論に至った自身の思考だけが、みくの頭蓋を占めていた。
直後、生涯で一度も感じたことのない、しかし"耐えられる"激痛がみくを襲う。血が滝のように流れて視界を染め、意識が遠のいていく。
気付いた瞬間には、絶叫と共に地面を転げまわっていた。

「は、ぁあ゛があ゛あっっあ゛ああ!、!ああ゛、ひい゛、ああ゛ああ゛あ。いだ、痛゛ぃぃい゛いいっ! あ゛、し、あ゛ああ!! いや、嫌あ゛ああ゛あああああ゛ああ!!!!!」

「止血をするから暴れないでくれ。このままでは死んでしまうぞ」

人ならぬ膂力でみくを押さえつけるDIOの目には、加虐の悦びも何らかの達成感もない。作業の工程を一つこなし、次の工程に移ろうと手を伸ばすだけだ。
研究所内で調達したケーブルで止血を行いながら、操折に声をかけるDIO。

「ふむ、精密性も健在のようだな。逃げられないようにする為でもあったが、ショック死してしまったら検体が台無しになるところだったな、クックク」

「逃げられないようにするんなら、適当な命令を書きこんだのに。意地力悪いゾっ」

「ハハ、暗示が永続するかどうかというところも試さないといけないからな。もしもの時のために暗示がなくとも動けないようにしたのさ。気を悪くしないでくれ、操折ちゃん」

ぷくぅ、と頬を膨らませる操折にフォローをかけながら、DIOは止血を終えてなお絶叫を上げているみくの髪を掴んで両目を見開かせる。

「後は……眼も潰しておくか。最後に見るものがこのDIOである事を光栄に思うがいい」

「や…めで……えっ、もう、痛いの、いやっぁ…ぁ……ああ゛あ!!」

「あ、待って待ってDIOさん、五感の一つを潰しちゃうと実験の正確力がなくなっちゃうから」

「ふむ? そうか、超能力については学園都市出身の君に一日の長があるからな」

引きつった表情で震えるみくの心境には全く考慮せず、DIOと操折は藹々と語る。
二人にとってみくは既に道具であり、敵意を向ける理由もない存在だった。
DIOはとりあえずの下ごしらえを終え、みくに乱雑に声をかける。

「もうわかっているとは思うが、わたしは君を生かしておくつもりなど微塵もない。一縷の望みや儚い希望に縋るのは勝手だが、いらぬ行動を起こせばそれだけ死を早めることになるぞ。
 死んだ後でもその体には使い道があるから別に構わないが、わたし達を助けると思ってもう少し生きてくれると嬉しいんだがね」


953 : 幸せ砂時計 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/07/17(金) 20:44:42 dW6YuYPw0

「……」

「まあ貴女の決定なんて関係なく強制力を行使するんだけどね」

リモコンから走る信号が、みくの自由意志を奪う。
みくの目からは一瞬で恐怖や悲しみと絶望が消え去り、とろんとした夢見がちな光を帯びていく。
床に力なく横たわり、ぶつぶつと独り言を始めたみくを眺めながら、DIOは操折に尋ねた。

「どんな暗示をかけたのだ?」

「五感で感じる全ての物が好ましく、自分に都合がよいものと思うように改変したわぁ。これなら自分から逃げようとも、自殺しようともしないはず」

「そうか、随分優しいやり口だな。わたしならそんな手間はかけないが、そこが君の美点かな」

揶揄するようなDIOの言葉を薄い笑みでかわしながら、操折はみくを見下ろして心理を分析する。
別に情けをかけたわけではなく、ただ意識を奪うだけでは自分の能力の微妙な変調を見逃すかもしれないと思っての命令の書き込みだった。
操折自身が能力に振り回されないよう完全に己の心理を掌握する事が出来るからこその超能力(レベル5)なのだ。
『心理掌握』の真髄はその精密動作性にあり、洗脳下にある人間とはいえ、ある程度の意識の揺らぎ、波を持たせなければ操作は単調になりすぎるのだ。
ただラジコン人間を作りたいだけなら能力に頼らずとも金や権力で代用できる。操折が誇る『心理掌握』はその格に相応しい万象虚実を操らねばならないと操折は考える。

「……もう少し波が要るみたいだゾ。でもずっとこれと語り合うなんて面倒だしぃ。なにか気を散らすものでもあればいいんだけど、こんな殺風景力高い部屋じゃあねぇ……」

「ああ、それならわたしが外で花でも探してこよう。操折ちゃんはわたしの寝台……棺桶のようなものを探してくれないか?」

「え?」

操折が目を丸くする。DIOが花を摘む姿を想像したのもあるが、外には既に日が射しているのだ。
DIOが太陽の光にアレルギーという事は聞いていた操折の困惑はもっともな物だったが、DIOは事も無げに一言だけ告げると、部屋を出て行った。

「なに、わたしも少し実験をね」

みくの足を片手に去るDIOを心配げに見送りながら、操折は研究所の探索を開始した。

「……それにしても棺桶で寝るって、吸血鬼力ハンパないわねぇ」


954 : 幸せ砂時計 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/07/17(金) 20:45:39 dW6YuYPw0



結論から言うと、DIOの行った"実験"は成功した。
慎重に突き出した腕は日光を浴びても灰化することなく、徐々に乗り出した体は心地よい疲労を感じている。
帝具・修羅化身グランシャリオを身に纏ったDIOは実に100年ぶりに、朝日が射す町並みを闊歩していた。

「とはいえ特別感慨深くもないな……花も集めた事だしさっさと戻るとするか」

かって英国紳士として磨いたセンスで集めた野に咲く花は、黒き修羅の手に持たれていても映える美しさだった。
成果に満足しながら、DIOは帰路を急ぐ。血を吸い尽くしたみくの左足は既に捨てている。
全身を覆う鎧は日光を完全に遮断していたが、同時にDIOの体力を少しずつ奪う呪具でもあった。
ただ移動するだけなら問題はないが、長時間の戦闘は困難でありこの状態で『世界』をフル活用するのは自殺行為だろう。

「……む?」

DIOの視界に、見慣れない物が入ってくる。
車道を移動する、とても人間が乗り込めそうにないサイズの機械と、並走する黒猫。
黒猫は驚くべきことに時折人語を発しながら、マスコットのような風貌の機械に猫パンチを繰り出していた。

「ええい、何度逃げれば気が済むんだ! 止まれ!」

『巡回中です、巡回中です。市民の皆さんは色相のチェックを怠らず、健康な生活を送りましょう』

「このDIOが目覚めた時代にもあんなものは走っていなかった」

身を隠しながら機械と猫を監視するDIO。学園都市の発展ぶりは操折から聞いていたが、それでも実際に目にすると驚きはある。
だがその後ろから、参加者と思しき人影が姿を見せた瞬間、DIOは冷静に行動した。
建築物の隙間を縫って彼らに接近し、普通に声をかける。
その当たり前の行動を、警戒している相手に気付かれずに行うことで、有利に事を運ぶのを狙ってのことだ。


955 : 幸せ砂時計 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/07/17(金) 20:46:11 dW6YuYPw0

「やあ」

「っ……!? その姿は……」

スーツを着こなす金髪の男は、突如現れた修羅を見てディバックに手を伸ばし、ペットボトルを取り出す。
が、すぐに思い直してペットボトルを一本の銃に持ち替えた。
男の名はノーベンバー11。契約者であり、常に合理的な行動を取る彼は、目の前のDIOが纏う鎧が自身の所持する悪鬼纏身インクルシオと同種のものであると即座に見抜いていた。
そしてそれに対抗する為にはインクルシオを用いた上で銃……ドミネーターを効果的に使うことが最低条件である、と理解しての行動。
DIOを照準して掲げられたドミネーターは犯罪係数の測定を行うことなく瞬時にデストロイ:デコンポーザー形態に変形する。
ノーベンバー11にしか聞こえない機械音声は、DIOを人間ではなく脅威判定として認識する旨を告げた。
舌打ちするジャック。これでは一発撃っただけでこの武器は使い物にならなくなる。かわされれば終わりだ。
黒猫は押し黙り、機械は何処かへ去っていく。沈黙を破るように、DIOが語りかける。

「わたしの名はDIO。君の名前を教えてはくれないだろうか?」

「……私はジャック・サイモン。MI6のエージェントを勤めています」

確かにジェームズ・ボンドのイメージがあるな、とDIOは笑い、偽名であると気付きながらそれに言及せず情報交換を持ちかける。
すぐに襲い掛からないのは、日の射している中での戦闘は不慮の事態を招く可能性もあると考えての安全策である。
肉の芽を打ち込むのは、能力に制限がかかっている以上乱用は避け、それが必要と明白かつ有用な相手のみに行うとも決めていた。
既に実験材料が確保できている今、特段荒事に走る必要もないとのDIOの考えに便乗し、ノーベンバー11は自ら指定した建物の中での対話を条件に承諾した。
彼としても、インクルシオの使用は現状最悪の一手だったのだ。二人の利害は偶然に一致していた。だがノーベンバー11の方は、DIOにはない危機感を覚えている。

(さて……この悪寒とよからぬ予感を現実のものにしないようにしなければ、な)

黒猫を掴み上げて手近な建物に歩くノーベンバー11の背には、じっとりと冷や汗が浮かんでいた。


956 : 幸せ砂時計 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/07/17(金) 20:48:14 dW6YuYPw0



「……スタンド使いに超能力者。あのお嬢さんは猫ちゃんの話通りで魔法少女! 貴方はそれに類する人間も知ってる、という事でいいのかな?」

「君のいう契約者、なる概念は初耳だ。お互い未知の物を知ることはいいことだと思わないかね」

「とても信じられない、というのが本音ではあるが……目の当たりにした諸々を統合すると、まあ同感ではあるかな」

ノーベンバー11が選んだのは無人のファーストフード店。
グランシャリオを解除したDIOは陽の入らない位置で背を壁に預けながら、ノーベンバー11と情報を交換し終えた。
DIOの紳士的な態度はノーベンバー11から見ても完璧なものであり、人間関係はつつがなく構築される。
しかしノーベンバー11は自分の目的を優先し、DIOから受けた同行の誘いを断った。
DIOとしても、自分と同じタイプの帝具を持ち、未知の能力を持つ男を手元に置いておきたい欲求はあった。
だが、彼とは表向きの友好関係を築いておいて、イリヤのように自分を信用する勢力の一つとして放置したほうが良いともDIOは考えていた。

「先ほどのロボットからは全く情報を得られなかったが、あれが貴方の仲間……ミサキの住んでいた街のものならば、彼女が見れば何か分かるのかもな」

「この殺し合い、ただ参加者の数を減らしながら生き残るだけでは最後に大きな壁にぶち当たる。武器となる情報は集めるにこしたことはないからな」

怜悧に語るDIOの物腰を見て、ノーベンバー11は内心で胸を撫で下ろす。
グランシャリオを着込んでいたというのにまるで疲労の色を見せていないのは、DIOが自称する吸血鬼という肩書きが真実だからだろうか。
『スタンド』という能力の圧倒的な威圧感から見ても、もし戦闘に及んでいれば劣勢は免れなかっただろう。

「ところでジャック、君の知り合い……黒といったかな。本当に地獄門に来るのだろうか?」

「彼は私と同じ契約者だから、思考も私と似通った物になると思うのだが」

「常に合理的な行動を取る、か。自分の知るそれと全く違う地理の地図を見て、とりあえず知っている名前の場所に向かう行動が合理的かどうかは置いておいて……。
 君を見る限り、契約者というのがそれほどパターン化された、機械のような人間とはわたしには見えないのだがね。分かったよーな事を言っていると思うだろうが」

「……」

黒は言うまでもなく、ノーベンバー11もまた、その最期には非合理的な行動を取ったと自覚している。
ならば真っ直ぐ地獄門に向かうよりも今のように積極的に他の参加者に接触して黒……BK201の情報を集めた方が合理的かもしれない。
考え込むノーベンバー11に、DIOは一つの提案を行う。


957 : 幸せ砂時計 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/07/17(金) 20:49:38 dW6YuYPw0

「わたしの方でも黒という男を探してみるが……君が先ほど話していたステッキを使わない魔法少女、佐倉杏子といったか。興味があるので彼女に会ったら能力研究所に誘導してはもらえないか?」

「それは構わないし、あのお嬢さんを引き受けてくれるのは助かるが……あの子が私の誘導にかかるかどうか」

「この黒猫をわたしに奪われたとでもいえばいい。傷心の女の子が仲間にいてね、その慰み役をやってもらおう」

「人を物のように扱ってくれるな、どいつもこいつも。だが私としてもこの男と一緒にいるよりは楽しそうだ」

猫(マオ)の前足を持ち上げながら提案したDIOに、ノーベンバー11は僅かに逡巡する。
大事な猫質としての用途はDIOに杏子を丸投げしてお役ごめんとできるにしても、BK201との繋ぎ役がいなくなるのは惜しい。
こちらにももう一つ、メリットが欲しい。DIOが許容しうる程度のメリットが……。

「……貴方の持つグランシャリオというコスプレを私のインクルシオと交換してもらえるならば、猫ちゃんは譲渡してもいい」

「説明書を見る限り、インクルシオはグランシャリオの原型機で、使いこなせれば後継機より性能は上だと書かれているが、いいのかね?」

「爆発力より安定性だよ。……なにより、デザインがいい。白ばかりでは味気ない、たまには黒いスーツを着るのもいいさ」

「了承だ、ジャック。わたしは仲間を待たせているのでこれで失礼するが、しばらくは能力研究所に逗留しているからいつでも訪ねてきてくれ」

インクルシオを事も無げに装着し、DIOは店を立ち去った。
ノーベンバー11もまた、店内で水を発見しペットボトルに補充してから外に出る。

「さて……DIOという男との誼、吉と出るか、凶と出るかな……」

警戒心を抱く要素など微塵もない会合だったにも関わらず、ノーベンバー11はDIOを完全に信頼する事が出来ない。
それはどれだけ完璧に振舞ってもDIOがその悪性を隠すことは出来ず、またノーベンバー11に熟成した善性が備わっている証左でもあった。


【F-2/1日目/朝】

【ノーベンバー11@DARKER THAN BLACK黒の契約者】

[状態]:インクルシオを装備した事による疲労(中)、黒にエイプリルを殺された怒り?
[装備]:ドミネーター@PSYCHO PASS-サイコパス-
[道具]:基本支給品一式、狡噛のタバコ&ライター@PSYCHO PASS-サイコパス-、
      帝具・修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!、ロックの掛かったドミネーター×1@PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考]
基本方針:契約者として合理的に判断し行動する。今の時点で殺し合いに乗る気はない。
0:地獄門を目指す?その過程で拠点を確保する。
1:参加者と接触し情報を集める(特に黒、銀)。
2:極力戦闘行為は避け、体力を温存する。
3:黒と出会った場合は……。
4:万に一つ、佐倉杏子が自分を追跡して対峙した場合はDIOの事を伝えて逃げる。

[備考]
※死亡後からの参戦です。
※黒の契約者第23話から流星の双子までの知識を猫視点で把握しました。
※杏子と猫の情報交換をある程度盗み聞きしています。
※修羅化身グランシャリオはインクルシオよりは相性が良く、戦闘にも無理をしなければ耐えられます。


958 : 幸せ砂時計 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/07/17(金) 20:51:17 dW6YuYPw0



「にゃああああ!!! 猫ちゃんだにゃあ……にゃかまぁぁぁ!!!!」

「花も飾っておくぞ」

「きれい!!!」

猫(マオ)を抱きしめながら陶酔の表情を浮かべ、だらしなく開いた口から涎を垂らすみく。
研究所に戻ったDIOは入り口で待ち構えていた操折と合流し、地下室に戻った。
やはりみくは逃げ出すことなどせず、喜怒哀楽のうち"楽"以外の全てを失ったかのようにリラックスしていた。

「あの黒猫は人語を喋るようだったからか、動物には効かない心理掌握も効果を発揮しているようだな」

「考えは読めないけどねぇ。こんな生き物相手は初めてだから演技をしてたらわからないゾ」

「扉に外から鍵をかけておけばあの猫では破ることもこじ開けることもできまい。問題はない。変な物を頭につけているからまさかと思ったが、
 アレはやはり猫が好きらしいな。死体を使ってわたしの能力の実験をするときに、あの猫と繋げでもしてみようか」

(……まさか、このような悪党だったとはな。この少女は虜囚というわけか)

大人しくみくの相手をしている猫(マオ)には、操折の危惧通り『心理掌握』は効果を発揮していない。
だが逆らっても即座に殺されるだけだと悟り、あえて相手の思惑に乗って動いていた。

(蘇芳……)

放送で名を呼ばれた、自分の飼い主だった者のことを思い出す。
彼女ならば、みくを助け出そうとしていただろう。それならば、自分とてそう倣うべきだ。
チャンスを待つ。猫(マオ)はその時のために、少しでもみくを元気付けようと他愛もない言葉を交わしていた。

「……ところでDIO、棺桶は流石になかったんだけど、代わりになりそうな物は3階の貴賓室にあったわぁ」

「ほう、案内してくれ」

「にゃああ……エドワード君、逃げたのは怒らないからまた会いたいにゃ〜早く会いたいにゃあ〜……プロでゅ〜さ〜……」




檻に閉じ込められ、幻覚を見るかのように視線を泳がせるみくを放置して、二人は地下を後にした。
貴賓室にある棺桶の代用品とは、高級品のロッカー。蓋を閉めればなるほど日の光も防げるだろう。
上部に横線型の穴があるのが気になるが、室内ならば窓やカーテンを閉めれば問題にはならない筈だ。

「……まあ出先だ、選り好みもできないな」

「この辺りが研究施設の集まりなら、捜索力発揮すれば火葬場くらいはあるんだろうけどねぇ。出かけてきましょうか?」

「いや、そこまですることはないさ。君は好きな部屋を選んで休んでいてくれ。たまに前川みくの経過観察と他の心理操作の実験だけはしてほしいがね」

「ええ、もう休むところは決まってるわぁ」


959 : 幸せ砂時計 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/07/17(金) 20:52:24 dW6YuYPw0

DIOはロッカーを軽々と持ち上げる。最上階の研究所長室で休むよ、と言い残して貴賓室を出て行くが、操折は後ろから付いてくる。
気にせず階段を上るDIOだったが、結局所長室まで、操折はどの部屋にも入らず同道した。
ロッカーを横に置き、DIOは「どうした」と問う。操折が「好きな部屋でいいって言うから」と返す。
溜息をついてロッカーに入るDIO。僅かに部屋に入る陽の光を遮るように、上気した操折の身体がロッカー上部の覗き穴に近づく。

「DIO、貴方の寝顔を間近で見てみたいゾ。えっちな意味ではなく、私の上に立つ人の素の顔を、ね」

「その為にこれを選んだのではないだろうな……まあ、好きにするがいい」

「ふふ、おやすみなさい」

寝ている間であろうが、何をしても操折にはDIOを殺すことは出来ない。
そう確信しているからか、DIOは少女の悪戯心を許した。
年端も行かない小娘に潤んだ目で見られて欲情するほど、DIOの精神は若くもない。
不快な思いのまま眠りにつくなど、慣れ親しみすぎて不快ですらなくなったくらいだ。
操折の有用さを考えれば、これくらいでクビを切るほどのこともあるまい。

ふと、放送で広川が語った言葉を思い出した。

―――身体の構造上、首輪を外せる術を持っていると思い込んでいる者がいるようだが、当然ながらそれにも対策は講じてある。

無意識に、手を首筋に伸ばす。
かって、自らの首を切断した瞬間の屈辱を思い出す。
かって、新しいボディを手に入れた瞬間の虚しさを思い出す。
どちらも、取るに足りないことではあったが。

―――試すのは勝手だが、そのことを頭の片隅においておいてほしいとだけ言っておこう。

「余計な心配だ」

漏れた言葉に? と首を傾げる操折を気にもかけず、DIOは眠りについた。


960 : 幸せ砂時計 ◆jk/F2Ty2Ks :2015/07/17(金) 20:53:43 dW6YuYPw0

【F-2 能力研究所/屋上所長室/1日目/朝】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ】
[状態]:睡眠
[装備]:悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り勝利する。
0:邪魔が入らなければ夕方まで寝る。
1:ジョースター一行を殺す。(アヴドゥル、ジョセフ、承太郎)
2:花京院との合流。
3:昼間動ける協力者が欲しい。(杏子に興味)

[備考]
※禁書世界の超能力、プリヤ世界の魔術、DTB世界の契約者についての知識を得ました。
※参戦時期は花京院が敗北する以前。
※『世界』の制限は、開始時は時止め不可、僅かにジョースターの血を吸った現状で1秒程度の時間停止が可能。
※『肉の芽』の制限はDIOに対する憧れの感情の揺れ幅が大きくなり、植えつけられた者の性格や意志の強さによって忠実性が大幅に損なわれる。
※『隠者の紫』は使用不可。
※悪鬼纏身インクルシオは進化に至らなければノインテーターと奥の手(透明化)が使用できません。

【食蜂操折@とある科学の超電磁砲】
[状態]:額に肉の芽、『上条当麻』の記憶消失。 疲労(中)、御坂に対する嫉妬と怒り
     心理掌握行使可能人数:2/2名(イリヤへの能力行使が解除され次第、1名分回復)
[装備]:家電のリモコン@現実
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1
[思考]
基本:生き残り脱出する。
1:DIOに自分を認めさせ、生還する。
2:みくで能力の制限を把握する。
3:次に御坂と会ったときは……。
[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了後。
※『肉の芽』を植えつけられた事によりDIOに信頼を置いているが、元々他者を信用する神経を持ち合わせていない事もあり、
  毎時毎分DIOへの信頼は薄まっていく。現時点で既に「行きつけの店のカリスマ美容師」に対する程度の敬意しかないようだ。
※『心理掌握』の制限は以下。
  ・脳に直接情報を書き込む性質上、距離を離す事による解除はされない。
  ・能力が通じない相手もいる(人外) ※定義は書き手氏の判断にお任せします。
  ・読心、念話には制限なし。
  ・何らかの条件を満たせば行動を強制するタイプ(トリガー型)の洗脳は8時間で解除される。
  ・感覚、記憶などに干渉して常時効果を発揮するタイプ(常時発動型)の洗脳は6時間で解除される。
  ・完全に相手を傀儡化して無力化するのは、2秒程度が限界。
  ・同時に能力を行使できる対象は二人まで。
   一人に能力を行使すると、その人物の安否に関わらず2時間、最大対象数は回復しない。



【F-2 能力研究所/地下室/1日目/朝】

【前川みく@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:左足の太ももから下を喪失(処置済)、疲労(大)、『心理掌握』下。
[装備]:猫耳
[道具]:猫@DARKER THAN BLACK 黒の契約者
[思考]
基本:生きて帰りたい。
0:にゃあああ〜〜
1:エドワード君〜〜

[備考]
※エドワード・エルリックの知り合いについての知識を得ました。
※登場時期はストライキ直前。

【心理掌握による洗脳】
※常時発動型 6/6時間経過

『五感で感じる全てを好ましく、自分に都合がよいものと認識する(喜怒哀楽のうち、"楽"以外の感情が全く発達しなくなる)』


961 : ◆jk/F2Ty2Ks :2015/07/17(金) 20:54:05 dW6YuYPw0
以上で投下終了です。


962 : 名無しさん :2015/07/17(金) 21:37:09 uWyvdgqE0
投下乙です

みくにゃんのファンやめま……ってぎゃああああ!みくにゃんがああああ!!
右足もがれた上に精神的に壊されて……ニーサンのトラウマ直撃不可避
そしてDIO絶対許さねえ!(褒め言葉)


963 : 名無しさん :2015/07/17(金) 22:57:24 DXNBPrF60
投下乙です
クロエトリオは分かれてしまったか、友の死の影響はでかいよなあ
南西は比較的安全とはいえ、危険人物もいるし予断は許さないな

そして、田村組はある程度死のダメージを受け止めているか
新一はサリアに未練があるか、果たしてこれから彼女にどういう行動をとるか

修羅まどか組はとりあえず強力な対主催組の結成だが、思惑がバラバラでちと危ういな
魏志軍はこのままだとジリ貧なので、何かしら手を打ってきそうだなあ

みくにゃんは予想以上に悲惨な目に、ここは猫の機転にかかっているか
DIOとみさきちもなかなか良いコンビになってきた


964 : ◆w9XRhrM3HU :2015/07/18(土) 05:40:46 2waXyK120
投下します


965 : ◆w9XRhrM3HU :2015/07/18(土) 05:41:23 2waXyK120

「良かったですね。そのDIOさんという優しいおじさんに出会えて」
「はい、DIOさんが居なかったらどうなっていたか」

イリヤは内心安堵しながら、黒と戸塚と名乗る二人組みの男女と話していた。
音ノ木坂学院に向かう際にイリヤはこの二人と出会う。
最初は警戒していたイリヤだが、戸塚の容姿が雪乃から聞いたものと一致。
そこで雪乃の名前を出すと、案の定この少女は戸塚で、雪乃の知り合いであることが分かった。
幸いイリヤと同じく殺し合いには乗っいないことも確認出来、すぐに警戒は解け、情報交換をするに至る。

「それで、雪ノ下さんは何処に居るの?」
「図書館に行くって言ってました」
「ありがとう、イリヤちゃん。他の人には会わなかったかな、八幡や由比ヶ浜さんには」
「八幡、由比ヶ浜……? あっ」
「心当たりがあるの!?」
「雪乃さんと会った時に、その……」

雪乃が見つめていた不自然な土の山。
あれは簡素な墓だった。雪乃本人が、友達を一人埋葬したと言っていた。
つまり、戸塚の知り合いは一人は既に死んでいるということだろう。

「嘘……」
「その、誰かまでは聞いてないんですけど、自分から盾になって死んだって」

雪乃から聞いた知り合いの名は、戸塚と結衣だけだ。
話すのに、抵抗はあったが黙っているわけにはいかない。
イリヤは雪乃から聞いた限りの情報を戸塚に伝える。
エルフ耳の男の襲撃、それから身を挺して守った雪乃の友達の死。更に、その後に起きた御坂と白の青年の襲撃。
聞けば聞くだけ、その人物像が戸塚の中で鮮明になる。

「間違いない、八幡だ……」
「戸塚さん……」

どう声を掛ければいいのか、イリヤには分からなかった。
まだ八幡と決まった訳じゃないというべきか、だがそれは逆に結衣が死んだことになる。
あるいは、戸塚の知らない雪乃の知り合いという可能性もあるが、人が死んだ事実に変わりはない。

「イリヤさん、エルフ耳の男って言いましたね?」
「は、はい……それがどうか?」
「……エルフ耳の男の名前は魏志軍という筈です。奴に出会ったらすぐに逃げてください」

黒が一瞬見せた眼光に、イリヤは御坂を葬ると言ったアカメから似たようなものを感じた。
言っている台詞も敬語であるが、先ほどの黒からは考えられない。

「ちょ、ちょっと待ってください。それって、知り合いなんですか?」
「敵だった。俺の前で死んだと思っていたが」

魏と黒の関係。戸塚と黒の会話を聞く限りでは、これも血塗られた殺し殺され合う関係なのだろう。
黒に信頼を寄せていた戸塚でさえも、動揺していた。
話を淡々とこなし、短く済ませる黒。アカメとは違いすぐに元の温厚な雰囲気に戻ったが、イリヤにはあの殺気が忘れられない。
まるで、仮面を被り別けているような人だとイリヤには感じられた。

「それと御坂って人は分かりませんけど、その白い青年って言うのは槙島という人だと思いますよ」
「槙島?」
「僕も狡噛さんという人に聞いただけですけど、非常に危険らしいです。
 何でも、生きているだけで周りの人間に殺人衝動を誘発するとか」
『物騒ですね……カリスマBは硬いですよ』
「人事じゃないよ、ルビー」

自分の周りでこれほどまでに人が争い、血を流していることにイリヤは改めて悪寒を感じる。
本当に運と巡り合わせが良かっただけなのだろう。
自分の仲間達もそうであって欲しいと願うばかりだ。


966 : ◆w9XRhrM3HU :2015/07/18(土) 05:41:56 2waXyK120

『おはようしょくん』

何処からか、広川の声が響き渡る。
辺りに放送機器は見当たらなかったが、果たして何処から声を流しているのか。
そんな些細な疑問を解消する間もなく、広川は淡々と放送を読み上げる。
黒が筆記用具を取り出すのを見て、イリヤも慌てて筆記用具を用意する。

「これって……」
「どうやら、死者の名をこうして報せるようですね」

黒が禁止エリアの位置をメモし終わった頃、続いて死亡者の名を報されてゆく。

『美遊・エーデルフェルト―――』

「え?」

共に何度も死線を潜り抜き、信頼しあえる親友となった美遊。
その名が何の感情もない。機械染みた声に呼ばれた。
イリヤのメモを取る手が止まり、放送のその先を何を言っていたか何も耳に入らない。

『比企谷八幡―――』

「八、幡……」

そして戸塚の予想通りにその名を呼ばれた。

「……」

ただ一人、黒の見知った名前は一つもない。
強いて言えば、蘇芳・パブリチェンコという名が妙に印象に残り、デジャブを感じたぐらいだ。

「美遊……そんなことないよね?」

『イリヤさん……』

「だって美遊は私より……」

強い。そう言いかけたところで思い出す。
イリヤはルビーを支給されなかった。幸いDIOが譲ってくれたお陰で自衛の手段は得れたが、もし会えなければどうなっていたか?
考えるだけでもゾッとしてくる。殺し合いの場で、ステッキも無くうろつくなど自殺に等しい。
それは美遊にも言えることだ。もしも美遊もステッキを支給されず、殺し合いに乗った参加者に出会えば―――。
嘘だと思いたかった放送に真実味がでてくる。考えれば考えるだけ、美遊の死は有り得る事だと実感してしまう。

「嫌だよ……美遊……。せっかく仲良くなれたんだよ? これから一緒に沢山、楽しいことが……。
 海に行く約束もしたのに、どうして……」

イリヤの頬を伝い、涙がポロポロと落ちていく。

「八幡……。もっと僕、八幡と……」

いつも一人で居た八幡が戸塚は好きだった。
もっと話して、仲良くなりたかった。
八幡と一緒に奉仕部の雪乃と結衣、たまに現れる材木座、平塚先生。
皆と行事を行ったり、活動したりするのは楽しかった。
良い事ばかりじゃない。辛いことや、嫌な事もあったが、それでもあの時間は掛け替えのないものだった。
でも、もうその時間は永遠に帰ってこない。
八幡の代わりになる存在は何処にもない。あの思い出を一緒に笑って語る事も出来ない。

(魏志軍……)

八幡を殺害したのは容姿、能力から考えても魏しか考えられない。
既に死んだ筈の契約者が存在するはずがなく、同姓同名かと考えていたが認識を改める必要があるらしい。
生き返ったのか、あるいは自らの能力で自決する際、偽装し生き延びたか。
恐らくはイギリスの伊達男、ノーベンバー11も同名のコードネームなどではなく、黒の知る死んだあの男であるかもしれない。
何にせよ次に魏を殺す時はは自害などさせず、確実に仕留める。
正義漢ぶるつもりもなく、言いがかりにも近いが、八幡の死は魏に止めを刺し損ねた黒にも責任はあると感じさせていた。


967 : ◆w9XRhrM3HU :2015/07/18(土) 05:46:42 2waXyK120

「黒さん……」
「何だ」
「多分、八幡は最期まで雪ノ下さんと由比ヶ浜さんの事を守りたかったんだと思うんです
「……」
「だから、せめてその思いだけは……、ぅっ八幡の、変わり、に……」

その言葉は最後、しゃっくりと泣き声が混じっていた。
守るという強い決意に比べれば、あまりにも弱弱しい。
その姿を見ているだけで、イリヤにも焦りが増してきた。
今こうしている間にも、クロエが何処かで殺されかけている。命の危機に晒されている。
そう考えるだけで、身が張り裂けそうだ。

「私も、学校に行ってきます。田村さんと合流して、早くクロに会わないと」
「そうですか」
「二人とも、気をつけて下さい。もし銀さんや由比ヶ浜さんに会ったら、二人のことを伝えておきますから、ルビー転身して、急ごう」

黒と戸塚に別れを告げ、イリヤは涙を拭うとルビーに転身を促す。

『イリヤさん、ついさっき倒れるかもしれないって言ったばかりですよ!』

だが、ルビーは首を縦には振らず(そもそも首はなく、うねうねしてるだけだが)断固として拒否した。
それに対し、イリヤは笑顔を浮かべながら気丈に振舞う。

「うん、疲れてるけど大丈夫だよルビー」
『いくらなんでも、流石に今回ばかりは譲れません。ここで倒れて誰が介抱すると思ってるんですか!』
「クロも私を探してるもん。私も急がなくちゃね」
『???』
「イリヤさん、ルビーさんの話をちゃんと聞いていますか?」

先程までの会話に対する違和感が膨れ上がり、堪らず黒はイリヤへと問いかけた。

「え?」
「話が噛みあって……」
「何で、そんなこと言うんですか?」

友好的な態度だったイリヤの眼差しに明らかな敵対の色が現れる。
気付けば、ルビーの制止も無視して転身し、臨戦態勢に入っていた。

「おかしい……。だって、そんなのおかしい」
「……?」
『イリヤさん!? どうしたんですか!』
「何か、黒さんが変な事を言ったの? でも僕には、そんな風には見えなかったけど」

黒はおろか戸塚もルビーも、黒が一体イリヤの何に触れてしまったのか分からない。
明らかに尋常でない猜疑心を剥き出しにしている。
乙女心を理解できない男が、女に嫌われるというのは良くあるが、これはそんなレベルに収まらない。
そもそも、イリヤ自身が何故猜疑心がここまで強くなったか理解していないのだから。

「行こう。ルビー、早く!」
「待て、イリヤ。お前――」
「来ないで!」

敬語を忘れ、咄嗟に手を出す黒に向かってイリヤは攻撃した。
軽い魔力の弾丸だが、当たり所によっては怪我ぐらいではすまない。
幸い黒は、軽い身のこなしで避けたことにより大事には至らなかったが。

『イリヤさん、今のは流石に不味いですよ……! あれは当たったら』
「飛ばすよ、ルビー。追いかけられたら嫌だから」

イリヤは気付かない。
その猜疑心こそが、DIOと食蜂の仕掛けた導火線の一つだということに。
『心理掌握』による洗脳は未だ解けそうにない。


968 : ◆w9XRhrM3HU :2015/07/18(土) 05:47:31 2waXyK120
【F-5/1日目/朝】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大 倒れる寸前)  『心裡掌握』下 、美遊が死んだ悲しみ、黒に猜疑心
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
     DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ DIOのサークレット
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 
     不明支給品0〜1 美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:クロと合流しゲームを脱出する。
1:クロとの合流。
2:音ノ木坂学園に向かう。
3:田村、真姫を探し同行させてもらう。
4:花京院、、新一、サリアを探して協力する。
5:南下して美遊とクロに会えなければ図書館に向かう。
6:黒に猜疑心。もう会いたくない。
7:美遊……。

【心裡掌握による洗脳】
※トリガー型 5/8時間経過
『アヴドゥル・ジョセフ・承太郎を名乗る者に遭遇した瞬間、DIOの記憶を喪失する』 
『イリヤ自身が「放置すれば死に至る」と認識する傷を負った者を見つけた場合、最善の殺傷手段で攻撃する』


※常時発動型 3/6時間経過
『ルビーの制止・忠告を当たり障りのない言葉に誤認し、それを他者に指摘された時相手に対し強い猜疑心を持つ』


[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
※アカメ達と参加者の情報を交換しました。
※黒達と情報交換しました。


【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷
[装備]:黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×3
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
1:銀や戸塚の知り合いを探しながら地獄門へ向かう。銀優先。
2:後藤、槙島を警戒。
3:魏志軍を殺す。
4:イリヤの変化に疑問。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。

【戸塚彩加@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(中)、黒への信頼 、八幡を失った悲しみ
[装備]:浪漫砲台 / パンプキン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、各世界の書籍×5、不明支給品0〜1
[思考]
基本:殺し合いはしたくない。
1:八幡達を探しながら地獄門へ向かう。
2:雪乃達と会いたい。
3:八幡の変わりに雪乃と結衣を死なせない。
4:イリヤちゃん一体どうして……


[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『DTB黒の契約者』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※黒の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。


969 : ◆w9XRhrM3HU :2015/07/18(土) 05:48:35 2waXyK120
タイトルは白色の爆弾で
期限破ったり、キャラの破棄と申し訳ありませんでした


970 : 名無しさん :2015/07/18(土) 09:38:18 lelZGnpg0
投下乙です

みくにゃんに続いてかなりの影響力を齎してるDIOとみさきちの呪縛、前話とセットで心が辛い
黒さんに疑いを持つと言う事は、マキシマムの情報も誤って伝わりそうでコワイ


971 : 名無しさん :2015/07/18(土) 12:32:21 kSrArXY.0
投下乙です!

幸せの砂時計>みくにゃんが廃人になったって本当ですか、失望しましたみくにゃんのファンやめます
……嘘です、ファン続けます、続けますから助けて……

白色の爆弾>これまた洗脳がいやな方向に効果を発揮している
イリヤは近くにマキシマムがいる中で限界迎えて倒れそうで心配だ


972 : ◆BLovELiVE. :2015/07/18(土) 23:43:09 S1YhBQoo0
投下します


973 : ツキアカリのミチシルベ ◆BLovELiVE. :2015/07/18(土) 23:44:55 S1YhBQoo0

「あのさ、私達っていつまで一緒にいられるのかな?」
「どうしたの?急に」



「大丈夫だよ!ずーっと一緒。だって私、この先ずっとずっとことりちゃんと海未ちゃんと一緒にいたいって思ってるよ!
 大好きだもん!」
「穂乃果ちゃん…、うん!私も大好き!」




―――――ずっと一緒にいようね!





イェーガーズ本部に到着したセリュー・ユビキタス。
しかし彼女がそこに居座る時間はそう長いわけではなかった。

イェーガーズ本部の南側辺りにおいて響いてきた戦闘音。
特に巨大なライフル―――自分の装備で言うなれば十王の裁きの正義・泰山砲のそれにも匹敵するだろうほどの発砲音が聞こえてきたのが大きかった。
それが無ければ音そのものに対して注意を払うこともなかっただろう。

おそらくは南で悪と戦っている何者かが存在する。
そう考えたセリューは、イェーガーズ本部に結衣と卯月を残し一人その場所へと向けて走って行っていた。

無論二人を残していくことに対して不安がなかったわけではない。
しかし卯月は目を覚まさず、結衣も自分のような戦う術を持った人間ではない。連れて行って危険に晒すよりは、安全な場所であるイェーガーズ本部で待機してもらっていた方が安心だ。

そうしておそらくは戦いがあったであろう場所まで辿り着いたセリュー。
しかし、そこは既に戦いが終わった後だったようであり、悪も、それに狙われているか弱き人達もいなかった。

あったのはまるで猛獣か何かにでも食い散らかされたかのような大きな血だまりと人間の体だっただろうものが二人分だけ。
セリューは間に合わなかったことを心の内で謝りながらもこれを成した悪に対する怒りを燃やした。

悪がいないと分かった以上、この場に留まっている理由はない。卯月達のいるイェーガーズ本部に戻るべきか?
しかしまだ近くに悪がいる可能性はないわけではない。もう少し周囲を探索していくべきだろうか?

思案するセリューの視界の隅にふと花火のような明かりが点滅した。
太陽が登りかけた薄暗がりの景色を、不自然に発生する爆炎が照らしていた。

間違いない。あの場では誰かが戦っている。
それはこれを成した悪か、それとも別の何者か。

どちらにしても、悪ならば裁かねばならない。
セリューは急ぎそちらへと向けて走り始めた。


放送がなり始めたのは、そのしばらく後だった。


974 : ツキアカリのミチシルベ ◆BLovELiVE. :2015/07/18(土) 23:45:43 S1YhBQoo0


セリューが爆発から生まれた光を見た時間から数分といった辺りを経過した頃だろうか。
ウェイブはマスタングを抱え、黒子がその後ろで穂乃果と花陽の二人を守るように周囲を見回しながら歩いている。

ウェイブがマスタングを休ませる場所として選んだ場所、イェーガーズ本部。

あそこにならば、少なくともマスタングの怪我に対して応急処置くらいならばできるだろう。
欠損した腕そのものをどうにかしようとしたならばそれこそDr.スタイリッシュほどの人にでも頼まねばどうにかなるものではないが。

「イェーガーズとは、確かウェイブさんの所属している組織、と言われていましたが、一体どのようなものなのですか?」
「…そういや詳しい話はしてなかったな。まあ、帝都の治安維持をする組織ってところかな」
「いわゆる警察のようなもの、ということですのね」
「ああ。ただ俺のいた国には賊も結構たくさんいてな、荒事になっちまうことも少なくない。当然怪我をすることだって少なくはないしな。
 だから本部に向かえばそれなりには医療設備もある。マスタングの応急処置ができるくらいには」

最も、そこに辿り着くまでに後藤のような危険な存在に合わなければ、という前提があってだが。
いくらウェイブと黒子が戦いに心得があるとは言っても、戦えない穂乃果と花陽、そして重症のマスタングを連れた現状でまたあのような無茶ができるとは思えない。

「あの、ウェイブさん…」

と、そんな時穂乃果は唐突にウェイブへと話しかけた。
若干不安そうな声色で、恐る恐る問いかけるように。

「……ウェイブさんって、マスタングさんと同じように軍人だって言ってましたよね?」
「ああ。それがどうかしたか?」
「それって…、やっぱり人を殺したりとかってするんですよね……?」
「ああ、否定はしない。危険種だけ狩っていられりゃそれはそれで気持ちは楽だったんだけどな、やっぱり世の中を乱す賊ってのはどうしても居なくならねえ。
 そういう奴から穂乃果達みたいな、何の力もないような人を守ろうとしたらどうしたって避けては通れねえんだ」
「そう、なんですか……」
「…やっぱり怖いか?」
「その…そういうわけじゃないんですけど、さっきの件でマスタングさんとどう向き合っていけばいいのかっていうのに、もしかしたら参考になるんじゃないかなぁ、なんて。アハハ…」
「穂乃果ちゃん……」

心配そうに声をかける花陽。
花陽はマスタングと共に行動した時間は穂乃果よりも長く、またマスタング自身が吐露した、自分が守れなかったものに対する想いからまだ彼に対する理解があった。
しかし穂乃果はそれほどの時間がなく、またエンヴィーの策の影響で無意識下での恐怖がほんの僅かとはいえ残留している。それがマスタングに対する距離を縮め辛くしていたのだ。

「……こんな時、海未ちゃんだったらきっと『もっとガツンとぶつかってみればいいじゃないですか。その方が穂乃果らしいですよ』みたいなこと言うんだろうなぁ…」
「ハハハ、よくお前のこと分かってるいい友達じゃねえか」
「はい!ことりちゃんも海未ちゃんも、私にとっては大切な、とっても大切な友達です!
 それだけじゃない、花陽ちゃんも凛ちゃんも真姫ちゃんも、みんな大事なμ'sの仲間なんです!」
「なら、こんなところからみんなでとっとと抜けだして帰らねえとな!
 だけど……そのためにはまずマスタングとちゃんと話さねえと、な」
「…そう、ですね!私、あんまり難しいこと考えるの苦手だからガツンとぶつかっていくべきですよね!
 よし、高坂穂乃果、ファイトだよ!」

ウェイブの言葉を受けて、自分を鼓舞するように声を上げる穂乃果。
そんな彼女を、安心したように見つめる花陽と黒子。


そんな時だった。


―――ザザッ


どこからともなく、声が周囲に響き渡ってきたのは。




975 : ツキアカリのミチシルベ ◆BLovELiVE. :2015/07/18(土) 23:46:27 S1YhBQoo0

「クロメさん……」

放送を聞き終え、一通りの情報を記したセリューは一人の人物の名前をポツリと呟いた。

呼ばれた名前は16人。

南ことり、浦上の二人の悪を除けば、自分の知らぬところで14人の人間が命を落としたことになる。
その全てが悪であってくれたならば嬉しいことであるが、そんなことは事実として無いのだろう。
死者の中には、同じイェーガーズの仲間であるクロメの名前も入っていたのだから。

またしても、大切な仲間が命を落としていった。

ナイトレイドに殺されたオーガ隊長、そして捜索任務中に行方をくらましそのまま帰ってくることはなかった恩人のDr.スタイリッシュ。
そして今度は、仲間であるクロメ。

「…クロメさん、あなたを死に追いやった悪は私が必ず裁きます…!」

悲しみの中で、名も知らぬクロメの仇への憎悪を増幅させながらも、セリューはあの戦闘があった場所へと向けて歩を進め続けていく。

そんな時だった。


何か騒ぐような声がセリューの耳に届いた。
その中には聞き覚えのある声も一つ混じっている。

もしかしたら、さっきの爆発の件で戦っていた人達が近くにいるのだろうか。
悪ならば裁く、そうでなければ保護する。それがイェーガーズである自分の使命。

セリューは駈け出した。
そこにいる者が誰であるかということを意識することもなく、ただその基準、そして意志のみを己の胸に秘めて。




覚悟はしていた。

佐天涙子。
クロメ。

共にここにいる黒子、マスタング、そしてウェイブにとっては関わりのあった人物。
友人であったり、出会ったばかりとはいえ一時行動を共にした者だったり、仲間であったり。

そして、天城雪子。
マスタングの罪の象徴。


それでも、彼らの名が呼ばれる事自体は既に覚悟をしていた。その死を何かしらの形で目にしていたのだから。
あの名前の中には、あの名も知らぬ犬も含まれていたのだろう。


だが。

「……え……?」
「凛…ちゃん……、ことりちゃん、海未ちゃん……?」

絞り出すような小さな声を上げたのはその3人の誰でもなく。
そして呼ばれた名前を反響させるように呟いたのもまた別の少女。


顔から血の気を引かせた穂乃果と花陽。


その呼ばれた名の中には。

南ことり。
星空凛。
園田海未。

他でもない、二人にとって大切な仲間が含まれていたのだから。


「嘘……」
「そんな………、、どうして………」

嘘だ、と言い張ることができればどれほどよかっただろうか。
しかし、穂乃果と花陽は目の前で命を落とした雪子の姿を見ていた。


「ま、待ってよ、さっきの後藤って人言ってたよね。凛ちゃんとこの先で会ったって!
 だったらまだ凛ちゃんは生きてるんだよ!だから海未ちゃんもことりちゃんも――――」
「…穂乃果!」

それでもほんの一縷の希望、いや、まるで藁にでもすがるかのようにそう言う穂乃果。
そんな彼女に対し、ウェイブは苦々しい表情を浮かべながら呼びつける。


976 : ツキアカリのミチシルベ ◆BLovELiVE. :2015/07/18(土) 23:47:20 S1YhBQoo0
「お前も目の前で見てただろ…!呼ばれたクロメや雪子はもう死んだ…。
 だったら、お前の友達は、さっきの男に――――」
「違う!そんなことない!!だって、あの人凛ちゃんが死んだなんて一言も言ってなかった!」
「言わなかっただけだ、生きてるって保証もねえ…!」
「分からないよ!まだ生きてるかもしれない、あの放送が間違ってるだけかもしれないじゃん!!」

現実を突きつけるように告げるウェイブに対し、穂乃果はそれでも、と言い続ける。
しかしそれは傍からでは自分にそう言い聞かせるための自己暗示にしか見えなかった。

あの放送が間違いだ、と自分に言い聞かせることで現実から逃げようとしているだけなのではないかと。
だが、ここで逃げていても穂乃果のためにはならないだろう。

「花陽ちゃん、行こう!早く凛ちゃんを探そう!そしたらきっと海未ちゃんとことりちゃんが死んだってのも―――」

と、穂乃果が地面に座り込んだ花陽の手を引いて凛がいると言われた場所へと向かおうとしたその時だった。


―――キュウゥ!

周囲を見回していたコロが急に一吠えして、ウェイブ達の元を離れて駈け出したのは。

いきなりの行動に、思わず穂乃果も足を止めて視線をそちらに向けてしまう。
その隙に、駆け出そうとした穂乃果の手を黒子が引き、離れることを止めた。

「おい、コロ!どうし―――」
「アンッ」
「コロ!」

離れるコロの元に、ウェイブにとって聞き覚えのある声が近付く。
そうしてウェイブ達の目に入ってきたのは、軍服のような衣装を纏ったポニーテールの女。
ウェイブは知っている。それが帝都警備隊のものであると。だとするならば、そのコロが駆け寄って言った主は。

「セリューか!」
「ウェイブさん!」

同じイェーガーズの仲間、セリュー・ユビキタス。

「よかった。クロメさんのこともあって心配で……って怪我してるじゃないですか!」
「別にこれくらい大したことじゃねえよ。それよりも仲間の方がやべえ」

と、ウェイブはマスタングへと視線を向ける。
腕を失ったその傷は自分の肩の切り傷とは比べ物にならない。

「……ウェイブ、その女は」
「エンヴィーじゃねえか、ってんだろ?心配ねえよ、コロが懐いてる。本物のセリューだ」

その時、まだ警戒するような目を向けていたマスタングに、証明するように告げるウェイブ。
エンヴィーの変身能力がどれほどのものなのかを把握しているとは言いがたいが、少なくともその精神性までを似せることはできないはずだろうと推測する。帝具でもそこまでできるものは聞いたことがない。
もし変身したエンヴィーであったならば使い手との精神的な相性が重視される帝具がセリューにいつもどおりの反応など示すはずもない。


そうしてセリューの方を見たウェイブは、セリューの方にまるで警戒するような視線を感じ取った。

目線の先にいるのは、マスタング。

「あなたは、ロイ・マスタングさんですね?」
「ああ、どうして私の名前を?」
「いえ、私が出会った人があなたの知人と会った、とのことで。確か、エドワード・エルリック、って言ってたような」
「鋼のと会ったやつがいるのか。どこに向かったかなどは聞いていないか?」
「その前に一つ聞かせて頂いてよろしいでしょうか。ロイ・マスタングさん、あなたは人を殺したことがありますか?」

唐突にそうマスタングに問いかけるセリュー。

「おい、どうしたんだよこんな時に―――」
「大切なことです。答えてください」
「…質問の意図は分からないが、人を殺したことは、あるな。
 何しろ私は軍人だ。時として人の命を奪わねばならぬこともある」
「なるほど、軍人ということは同業の方でしたか。これは失礼しました」

そのマスタングの答えだけでセリューの中から警戒心が薄れていっていた。
質問の意図、そして理由が分からぬウェイブは首を傾げ、マスタングは質問をする過程で出てきた名前についてをセリューに問う。

「それで、鋼のはどこに向かった、と?」
「ああ、その件はすみません。嘘をつかせて頂きました」

悪びれることもなくそう告げるセリュー。


977 : ツキアカリのミチシルベ ◆BLovELiVE. :2015/07/18(土) 23:48:01 S1YhBQoo0


彼女が言うにはこういうことらしい。
セリューの保護した人間が殺人者名簿なるものを支給されており、この場に連れてこられる前に人を殺した経験がある者の顔写真と名前が載せられていた。
そしてその中にマスタングという名前があった、という。

無論、それだけで悪人と決めつけるのは早計であり、ウェイブと行動を共にしていた仲間であるということから一度試した、という。
エドワード・エルリックの名前を出したのは名簿でマスタングのすぐ近くに名前があったこと、そして殺人者名簿に名前がなかったことから悪人ではないと判断した上でのことらしい。


(ずいぶんと、したたかな方ですのね)

その嘘を混ぜてマスタングを試すやり方を見て、黒子はセリューという存在に対して自分の中で微かに警戒心のようなものが生まれるのを感じた。
ウェイブの仲間、と言っていた点から悪人ではないのだろうが、その試すようなやり方自体はあまり好意的に見られるものではなかった。



「…あの、セリューさん。セリューさんは北の方から来たんですよね?
 凛ちゃん……、星空凛っていう子と会いませんでしたか?」

そんな彼女に、穂乃果は恐る恐る問いかける。
心配そうな顔で聞く穂乃果の後ろで、花陽も微かな願いに縋るような瞳でセリューを見ている。

「いえ、ここに来るまでの道中は誰にも会いませんでしたが。
 星空凛…?もしかしてμ'sの星空凛ですか?」
「え、セリューさん、μ'sを知ってるんですか?」
「その前に、あなた達のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「…高坂穂乃果です」
「小泉、……花陽です…」
「風紀委員『ジャッジメント』、白井黒子ですわ」
「高坂穂乃果、小泉花陽……。それに白井黒子さんですね」
「こいつらは仲間だ。皆信頼できるやつらだよ、セリュー」

ふと妙に嫌な気配を感じたウェイブは、セリューの警戒を解こうとそう告げる。
警戒の理由は分からないが、その様子にはかつて強盗を行った者をコロに食わせて処刑していた時のような嫌な予感を感じ取った。

「本当ですね?何か怪しい気配があったとか、そんなことは」
「ああ、俺が保証するさ」
「…ふむ」

と、穂乃果の傍に歩み寄ったセリューは。

シュッ

穂乃果の目の前にいきなり手を伸ばし、次の瞬間にはその背後に移動。
その腕を掴み取り地面へと押し倒して倒しこんだ。

「ぃっ……!?」

わけも分からず地面へと倒れさせられ、混乱しつつ小さく呻く穂乃果。
すぐ傍でその様子を見せられていた花陽も目を白黒させている。

(……フェイントにも気付かず、私の行動に対するアクションを見せる気配も反撃の気配もない。横の小泉花陽も同様。
 ウェイブさんの言っていた通り、ただの杞憂?)
「どういうつもりですの?」

と、黒子が警戒心を露わに構えを取る。
ウェイブもまた不穏な気配に思わずセリューに問いかける。

「おい!どういうつもりだセリュー!?」
「失礼しました。少し心配事があったので確かめさせてもらったのですが、どうやら杞憂だったようです」
「それが無力な一般人にそうやって押し倒す理由になりますの?」
「それを確かめる必要がありましたから」

と、警戒を止めたセリューはそれまでの気配をどこへやらにっこりと笑顔を向けて起き上がろうとする穂乃果へと手を伸ばした。

「アイドルでμ'sなる集団に属しているお二方ですね。南ことりから話を聞いています」
「ことりちゃん…?ことりちゃんと会ったの?!」
「どこでですか?!」

予期せぬ仲間の名前に思わず詰め寄る穂乃果と花陽。
ことりの名前を聞いて、それまで意気消沈していた二人の目に僅かに期待するかのように光が戻る。
もしかしたら、という希望を込めて。


978 : ツキアカリのミチシルベ ◆BLovELiVE. :2015/07/18(土) 23:49:30 S1YhBQoo0
しかし、セリューは悲しそうな目を穂乃果達に向けていた。

「悲しいことですが、南ことりは悪の道に落ちました」


「えっ………」

言った言葉が理解できなかった穂乃果は思わず聞き返す。
そんな穂乃果の様子を意識しているのか傍からでは判別できぬままに、セリューは語り続ける。

「その様子だとどうやら気が付かれていなかったようですが、彼女は潜在的な悪の素質を持っていたのです。
 私の目の前で殺人という悪の凶行に走りました」
「嘘……だよね……」
「おいセリュー!それ以上は――――――」

セリュー・ユビキタスという人間についての人となりをある程度とはいえ把握していたウェイブがそれ以上穂乃果の目の前で言わせるのはまずいと静止をかけようとする。
だが、遅かった。

悲しそうな表情を、とても輝いているように見える笑顔に切り替えたセリューは告げた。

「ですがご安心を!そんな彼女はこの私、セリュー・ユビキタスがしっかりと息の根を止めておきました!」



その後何があったのかは私、高坂穂乃果自身にも断片的にしか思い出せません。

ウェイブさんや黒子さんが私を止める声が聞こえたような。
笑顔を向けるセリューさんに掴みかかって問いただしたような。

そんな気がします。

「おい!落ち着け穂乃果!」


「やはり気付かれていなかったのですね。南ことりの悪の素質には。
 殺しておいて正解だったようです」


「高坂さん!」

だけどセリューさんの言うことはことりちゃんが悪人で、だからこそ死ななければならなかったという一点張りで。

理解できなかった。

セリュー・ユビキタスという人間が。
ことりちゃんを、大切な友達を殺したということを、こんなとても綺麗な笑顔でいう女の人が。

その事実を、まるで競技会で一位を取ったかのような笑顔で語るこの人は。

本当に、ウェイブさんの仲間なのだろうか?



本当に、自分と同じ人間なのだろうか?


そんな疑問が頭の中で首をもたげかけた時。

バサッ、ゴトッ

組み合った拍子に、セリューさんのバッグから何かが転げ落ちました。

私の視線も思わずそっちに向いてしまい。
それなりの重さを持ったそれが、見覚えのあるベージュ色の毛を持ったもので、そしてとても見覚えのある形の結び方をされていることに気付いた時。
そして、それの真ん中辺りを、まるで何かで割ったかのように大きな赤い模様が、傷がついていることに気付き。


「おっと、すみません。見苦しいものを見せてしまいましたか?」

悪びれる様子もなくヒョイとそれを拾い上げたセリューさんは。


「首輪回収のために斬らせてもらったんですが、この首自体を悪のものとして晒しておくべきかどうか迷っているうちに持ってきてしまいました。
 驚かせてしまったようですし、やっぱりずっと持ち歩くのも好ましいものではないですね。コロ!」
「キュウゥ!」


979 : ツキアカリのミチシルベ ◆BLovELiVE. :2015/07/18(土) 23:50:35 S1YhBQoo0
と、コロに向けてその生首を投げつけ。
口を巨大化させたコロがそれをパクリ、と噛み砕きました。

ゴリ、ゴリ、ゴリ


(―――――なん、で…?)

だってあれはことりちゃんの頭で。
どうしてコロちゃんがそれを食べているんだろう?
あんなに美味しそうな顔で。

それを見た瞬間、頭の中が真っ白になって。
私がもう何を見ているのかも分かりません。
もしかしたら、理解すること自体を止めたのかもしれません。

だから、気がついたら私はみんなのところから離れて走りだしていました。
理解することを恐れた私の中の何かが、その場から離れさせていた。
無我夢中で、その現実から、そして目の前にいた、人の形をした何かから逃げるように。






皆から離れていく穂乃果。
しかしとっさに彼女を呼び止められる者も、追いかけられる者もその場にはいなかった。
かろうじてセリューが穂乃果を呼び止めるかのように声を上げたくらいだろう。

負傷中のマスタングはもとより。
花陽は見せられたことりの生首、そしてその捕食というショッキングな光景に意識を失っている。
黒子ですらも、顔を青ざめさせて唖然とした表情を浮かべてセリューを見ていた。

「セリュー…、お前……!」
「はい、何でしょう?」

問い詰めようとするウェイブ。
しかしセリューの表情が人を殺したとは思えないほどに澄んでいるのを見て、言ってどうにかなるものではないということを悟る。
きっと、以前の強盗を殺したことを悪びれもしなかった時のように自分のしたことを誇らしげに語るだけだろう。

「…………セリュー。お前、イェーガーズ本部から来たって言ってたよな?」
「はい!私の保護したガハマちゃんとウヅキちゃん達もそこで待っています!」
「…じゃあ、マスタングや花陽達と一緒に先に行っていてくれ。特にマスタングは怪我の治療を急ぐ。
 俺は、穂乃果を探してからそっちに向かう」
「分かりました。では私が先行して道の安全を確かめて来ますね!!」
「……ああ、頼んだ」

そうしてウェイブ達一行の元を離れて先行していくセリュー。
残った黒子、マスタング、そして意識を失った花陽に対してウェイブは目を向ける。

「…お前たちは先にイェーガーズ本部に向かってくれ。穂乃果は俺が連れてくる」
「ウェイブさん、あの方と一緒に行け、というのですか?南さんのご友人の小泉さんにも?」
「…ああ!分かってるよ!こんなこと言う俺がおかしいんだってことぐらい!
 だけどあそこに行けば少なくともマスタングの怪我の処置もできるし、あいつがいるってことは危険なやつがいるってこともないはずなんだよ!」
「…、私ならこのくらいの傷。…それより花陽を気にしてやれ…」
「無理はすんな。腕を斬られてるんだろ。傷の具合ならお前の方が重症なんだ。
 大丈夫だ、あいつの、セリューの腕なら俺が保証する」

やせ我慢をしようとするマスタングを制するウェイブ。
そしてそのまま穂乃果を追って走り去ろうとして。

その眼前に黒子が姿を表した。

「そこまで分かっておいでなのでしたら、ウェイブさんがあの方についていくべきではなくて?」
「黒子…、お前は先に――――」
「高坂さんのことは私が保護しに参りますわ。
 小泉さんとマスタングさんのことはあなたが守ってくださいな」
「な、バカ!お前が行くことなんかねえよ!俺が穂乃果を――――」
「…私、ウェイブさんの人格面においては信頼して大丈夫なお方だと思っておりますし、それは今でも変わってはおりませんわ」

目を伏せながらそう語りかける黒子。
よく見るとその顔色はあまり優れているとは言いづらく、若干青ざめているようにも見える。

「だけどウェイブさん、あなたは言いましたわよね?人々を守るのが自分の任務、だと。守るべき者を守るためにこうして軍人になったのだ、と。
 そしてあの方はご同僚なのですよね?
 ……あの方は、あなたの言うように本当に人を守る方なのですか?」

黒子は例えいかなる悪人であっても手にかけたことはない。
学生たちの起こす騒ぎ、罪などたかが知れているとはいえ、自分の能力自体を人を傷つけることに使ったことはない。ましてやそれで人の命を奪うなどもっての他だった。


980 : ツキアカリのミチシルベ ◆BLovELiVE. :2015/07/18(土) 23:50:57 S1YhBQoo0

だが、あのセリュー・ユビキタスという女はどうだったか。
穂乃果、花陽の二人の友人である南ことりが本当に人を襲ったのかどうかは実際に見たわけではないから分からない。
しかし仮に本当だとしても、人を殺したという事実をあそこまで嬉々とした顔で語る姿は黒子には異常な光景にしか見えなかった。

ならその姿は、その殺された対象の友人でもある高坂穂乃果には一体どう映っただろうか。

そしてあの生首。それをああも人の死を冒涜するかのように扱う彼女の姿。
あの生々しいものを流れるように不意打ちで見せられたことは黒子にすらもショッキングなものだったのだ。
ましてやその友人、高坂穂乃果、小泉花陽にはどれほどの衝撃を与えただろうか。


「今の現状であなたが向かうのはあまりいい考えとは思えませんの。ですから、高坂さんのことは私にお任せになってください」
「だけど――――」
「どうしても!どうしても追われたい、と、そうおっしゃられるのなら!」

それでも尚も自分で向かおうとするウェイブに向けて、思わず声を張り上げて。

「あなたは高坂さんのご友人を殺した方の仲間なのだということを、しっかりと受け止めた上で決断してくださいまし!」

非難するわけではない、しかし厳しい瞳をウェイブに向けて、黒子はそう問いかけた。




覚悟していないわけではなかったはずだった。

こんな場所だ、確かにセリューのヤバさは実際目にしていたこともあってあいつはそういう道を選ぶんだろうなという察しくらいはついていた。
だけど、それを向けられた対象が今の自分達の仲間だったら、などということは想定していなかった。
穂乃果や花陽は守るべき者で、その友人もきっと皆そうなのだろうと思っていたから。

セリューが嘘を言っているとは思えない。どのような考えがあったのかはともかく、南ことりが人を殺そうとしたことは事実なのだろう。
もしかしたら誤解があったのかもしれない。あるいは何かの間違いだったのかもしれない。

だが、もし本当だったら、自分ならどうしただろうか?
もしその南ことりに出会ったのがセリューではなくて自分だったら。

それはこの場に来て最初に決意していたことだった。
殺し合いに乗った相手には容赦しない、と。
行為に対する思いはともかく、結果はきっとセリューと同じだっただろう。

その事実が、ウェイブの足を迷わせていた。

黒子の言っていた言葉。
今の俺に、穂乃果の悲しみを受け止めることができるのか、その資格があるのか。

穂乃果は黒子に任せてセリュー達とイェーガーズ本部に向かうべきか。
それともやはり自分で穂乃果を追うべきなのか。


(くそ……!俺は――――――)





981 : ツキアカリのミチシルベ ◆BLovELiVE. :2015/07/18(土) 23:51:29 S1YhBQoo0


(―――違う)


一体何から逃げているのか、それを穂乃果自身意識しているわけではなかった。

ただ、今足を止めたら考えたくない、認めたくない事実が心の中で確定してしまいそうな、そんな気がしていた。
だから、ひたすらに走り続けた。
どこに向かっているのかは分からない。いや、どこでもよかったのかもしれない。

(違う、違う違う違う違う違う―――――)

――どうして、ことりちゃんが死なないといけなかったの?

いつも優しくて、ずっと一緒にいてくれた友達で。
昨日も一緒に練習して別れたはずの、大切なみんなが。

あの9人が揃うことは、もう無いなんて。
もう、ことりちゃんと海未ちゃんと一緒にいられる時はこないなんて。
その事実が、ひたすらに穂乃果の心に闇を落とし続けていた。



(そんなの、違う……違う―――――)




それから逃げるようにひたすらに走り続ける穂乃果。
しかしその闇は、逃げれば逃げるほどに穂乃果の心自身を深く覆っていっていることに、彼女は気付かない。



【C-6/1日目/朝】


【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、スピリタス@ PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考・行動]
基本方針:お姉様や初春などの友人を探す。
1:ウェイブの選択に合わせて高坂を追うかマスタング達と動向するか決める
2:エンヴィーは倒すべき存在。
3:御坂を始めとする仲間との合流。
4:マスタングに対して――。
5:セリュー・ユビキタスに対して強い警戒心と嫌悪感。
[備考]
※参戦時期は不明。

【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、左肩に裂傷、怒り、悲しみ、迷い
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!、
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。
0:キンブリーは必ず殺す。
1:穂乃果を追う?穂乃果は黒子に任せてイェーガーズ本部に向かう?
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:首輪のサンプル、工具、グランシャリオは移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:仲間たちとの合流。
6:今後の方針を固める。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。

【ロイ・マスタング@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(極大)、精神的疲労(極大)、左肩に穴(止血済み)、両足に銃槍(止血済み)、右前腕部切断(焼いて止血済み)
[装備]:魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:ディパック、基本支給品、冷凍されたロイ・マスタングの右腕
[思考]
基本:この下らんゲームを破壊し、生還する。
0:穂乃果と、そして仲間たちと話してみる。
1:傷の治療のためにイェーガーズ本部に向かうべきだが―――?
2:エドワードと佐天の知り合いを探す。
3:ホムンクルスを警戒。 エンヴィーは殺す。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後。
※学園都市や超能力についての知識を得ました。
※佐天のいた世界が自分のいた世界と別ではないかと疑っています。


982 : ツキアカリのミチシルベ ◆BLovELiVE. :2015/07/18(土) 23:51:45 S1YhBQoo0

【小泉花陽@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、右腕に凍傷(処置済み、後遺症はありません)、精神的ショックにより気絶中
[装備]:音ノ木坂学院の制服
[道具]:デイパック、基本支給品、スタミナドリンク×5@アイドルマスター シンデレラガールズ
    スペシャル肉丼の丼@PERSONA4 the Animation
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す?
1:??????????????
[備考]
※参戦時期はアニメ第一期終了後。



【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:日本刀@現実、肉厚のナイフ@現実、魔獣変化ヘカトンケイル@アカメが斬る!
[道具]:ディバック×2、基本支給品×2、不明支給品0〜4(確認済み)、首輪×2
[思考]
基本:会場に巣食う悪を全て殺す。
1:悪を全て殺す。
2:由比ヶ浜結衣、島村卯月と合流するためウェイブの仲間と共にイェーガーズ本部を目指す。
3:エスデスを始めとするイェーガーズとの合流。
4:ナイトレイドは確実に殺す。
5:取り立ててμ'sメンバーを警戒する必要はない?
[備考]
※十王の裁きは五道転輪炉(自爆用爆弾)以外没収されています。
※他の武装を使用するにはコロ(ヘカトンケイル)@アカメが斬る!との連携が必要です。
※殺人者リストの内容を全て把握しました。
※ことりの頭部はコロによって食べられました。







【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(中)、精神的ショック(大)、錯乱中
[装備]:練習着
[道具]:基本支給品、鏡@現実、イギーのデイパック(不明支給品0〜2)
     幻想御手入りの音楽プレーヤー@とある科学の超電磁砲、コーヒー味のチューインガム(1枚)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[思考・行動]
基本方針:μ'sのメンバーを探す?
0:嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
1:とにかく逃げたい
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※幻想御手はまだ使っていません。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています

※ウェイブ、黒子のどちらが穂乃果を追う選択をしたか、穂乃果がどの方向に向かったかは次の書き手にお任せします。


983 : ◆BLovELiVE. :2015/07/18(土) 23:52:42 S1YhBQoo0
投下終了です
仮投下の時とは少し加筆、変更した部分があるので一応確認はお願いします


984 : 名無しさん :2015/07/19(日) 02:23:24 2AeTvvuI0
投下乙です
ちょっとセリューさんトラブルメーカーすぎんよ〜(恐れ)
ウェイブが完全に針の筵だな


985 : 名無しさん :2015/07/19(日) 14:00:01 kDG4GiyY0
投下乙です

セリューさんちょっとヤバすぎじゃないですかね(ほめ言葉)
穂乃果は幼馴染二人とも失って心配だな、黒子頑張れマジ頑張れ
ウェイブはここで選択間違ったらドツボに嵌りそうだ


986 : 名無しさん :2015/07/19(日) 17:19:43 5AGqHSYs0
投下乙乙!
ウェイブ君原作のツケが一気に回ってきましたなぁ
元々セリューさんと合わせて全体的に倫理感が狂ってる世界の住人だからいつか破綻しそうだとは思ってたけど
そして狂人に刃物セリューさんにコロは非常に怖い


987 : 名無しさん :2015/07/22(水) 22:15:20 vQt3w/GY0
遅れましたが投下乙です

イリヤの洗脳が思ったよりも悪影響及ぼしてるな、下手すると自滅しそうでハラハラする

そして、セリューの無垢さとその結果がエグイ、予想していた展開が剛速球ストレートで直撃してしまった


988 : ◆w9XRhrM3HU :2015/07/23(木) 01:44:50 dfc1DrjA0
投下します


989 : 亀裂 ◆w9XRhrM3HU :2015/07/23(木) 01:45:15 dfc1DrjA0
「電車がすぐに復旧したのは不幸中の幸いだったな」
「うん、本当に良かった」

電車内の座席に座り、走行中の振動に揺られながらヒルダが呟く。
千枝はヒルダに強く頷き、目的地の到着まで辛抱強く待つ。

数時間前、千枝は雪子とクマの死に整理を付け、これから為すべきことを考えた。
やはり気になるのは鳴上だ。エンブリヲに関わっている以上、早急に合流したいが居場所が分からない。
一旦、鳴上の事を置いて、現在所在がはっきりする銀の元へ行くことを千枝は優先した。

「でもよ。銀ってのは本当に西側の駅に居るのか? 流石に移動してんじゃねえか」
「ううん。銀ちゃんはあまり活動的じゃないっていうか、何だろう? 言い方は悪いけど、人形みたいな娘だから。
 クロエちゃんが言うには、霊媒師じゃないかって言ってたけど」
「胡散臭えな」

怪訝そうな顔をしながら、千枝と会話を続けるヒルダ。
電車は既にクロエが初めてを失った民宿の辺りを過ぎ、もうじき西側の駅に着く。
ヒルダは寝転がっていた身体を起こし、顔を引き締めてから改めて千枝を見つめた。

「先に言っておく。雪子ってのが死んで、銀が生きてる。
 あまり、ろくな事にはなってないかもしれねえ」
「それって……」
「銀は女だろ? それも無力な。
 雪子って奴が逃がした可能性もあるし、なんかの理由で分かれただけかもしれねえが、雪子を殺した奴に、生かされているって可能性もある」

一見すれば矛盾している発言だ。
殺し合いに乗るような参加者がわざわざ雪子だけ殺して、銀を生かすメリットがあるように思えない。
疑問を口にしようとした千枝より早く、ヒルダが言葉を続けた。

「女ってのは、男(女もだけど)からすりゃ生きてるだけでメリットはあるだろ?」
「え、あっ……」
「とにかく、何を目にしても良いように覚悟だけはしてけってことさ。分かったな?」

つまりヒルダが言いたいのは、銀が慰み者になっているのではないかということだ。
そうでない可能性もあるが、銀が戦えないのであれば尚更だ。

「そろそろだ。気を引き締めろ千枝」
「う、うん」

停車を報告するアナウンスが流れ、次第にその走行が穏やかなものとなっていく。
電車が丁度駅で止まり、ヒルダと千枝の身体を揺らした後、ドアが開き外の空気が電車内に充満する。
ヒルダは銃を構え、千枝はペルソナを何時でも出せるように身構える。

「おお、銀さん、もしかして彼女らが貴女の知り合いなのでは?」
「千枝……」
「い、銀ちゃん!?」

臨戦態勢を取った二人の予想を裏切り、現れたのは白いスーツの男性と千枝の探していた銀その人だった。






990 : 亀裂 ◆w9XRhrM3HU :2015/07/23(木) 01:45:33 dfc1DrjA0


「なるほど、それでお二人は銀さんを迎えに」
「はい、でも良かったです。銀ちゃんがキンブリーさんと出会えて」

千枝がモモカと共に去った後、銀は雪子と別れ駅で待っていた。
そこへキンブリーが合流し、彼女と行動を共にしていたとのことだった。

「お話は全て分かりました。モモカさんの事は辛かったでしょう」
「こっちには居ないと思うけど、エンブリヲとキリトって奴には気をつけろよ。
 キリトは乗ってるわけじゃないみたいだけど、追い詰められて何をするか分からねえ」

キンブリーに二人の詳細をヒルダは伝えた。
エンブリヲは言わずもがな、キリトもあの精神状態で放っておくのは不味いだろう。
それに何としても、捕まえてアンジュの前に引っ張り出したいという思いもある。
アンジュにはモモカの仇を討つ権利があるのだから。

「気をつけておきます。そのキリト君も出来る限り、穏便に事を済ませたいですね」
「出来ればな。実力はあるのが厄介なんだよ」
「ご心配なく。こう見えても私国家錬金術師ですから、そこそこ荒事には慣れています」

国家錬金術師であり、戦争の経験もあるとキンブリーは語る。
キンブリーの言うとおり、ヒルダの目からもキンブリーの所作は軍人臭い。
戦争の経験者というのも嘘ではない。恐らく、シャドウやドラゴンを相手にしてきた千枝、ヒルダよりも遥かに対人戦には手慣れている。

「アンタの実力、信頼してるよ」
「キリトさん、悪い人ではないと思います。だから、殺すのは……」
「分かっています。人を殺さない加減はこれでも心得ているつもりです。
 ……あまり、知りたくはありませんでしたがね」

キンブリーの表情が曇るのを千枝は見逃さなかった。
彼の言った加減とは、戦争で人を殺害した経験から培ったものだ。
この場に置いては頼もしい経験なのかもしれないが、忘れ去りたい忌まわしい記憶である筈。

「……千枝さん、貴女に言っておかねばならないことがあります」
「何ですか? 改まって」
「雪子さんの事についてです。既に放送で、知っているかもしれませんが」

千枝は固唾を呑む。
雪子の事については千枝も聞きたかった。
自分が居ない間に何があり、何故死ななければならなかったのか。
友として、聞いておきたい。

「実は銀さんに会う前、私は雪子さんと会ったんです。だから、銀さんとも知り合流できたんですよ。
 雪子さんも私も拡声器で助けを呼ぶ声に引かれて、その場所に向かいました」

クマが拡声器で助けを求め、その声を聞きつけたキンブリーと雪子はクマの救出に向かう。
だが、そこで思いも寄らぬ事態が起きた。

「焔の錬金術師、ロイ・マスタング……! 奴は、奴は……悪魔だ……!!」

ロイ・マスタングとその仲間による虐殺。
クマは既に事切れており、雪子もその身体を何度も何度も焼き尽くされ―――

「うっ、ぐっおえっ……!」
「すみません。大丈夫ですか!?」

話から想像してしまう、変わり果てた雪子の姿。
千枝は耐え切れずに嘔吐した。
口に合わせた両手から、先程食べた朝食の残骸が胃液と共に漏れてくる。


991 : 亀裂 ◆w9XRhrM3HU :2015/07/23(木) 01:45:57 dfc1DrjA0

「やはり、こんな話をすべきではなかったかもしれません……」
「千枝は休んでな。続きは私が聞く」
「大丈夫、私まだ話聞けるから……」
「……ロイ・マスタング。焔の二つ名を持つ国家錬金術師、性格は残虐そのもの。
 かつてのイシュヴァール殲滅戦も、彼は一人終始笑顔で人を焼き殺していたと言います」
「殺人狂か、救えねえ」
「そしてウェイブとクロメ。彼らも非常に危険です。
 何とかクロメは倒せたのですが、ウェイブは……。どうやら彼らの会話を聞く限りでは、イェーガーズと呼ばれる部隊の仲間同士らしい。
 まだ、ウェイブの仲間は残っているでしょう。それも、マスタングに負けず劣らずの外道共が」

聞けば聞くだけ気分が悪くなり、先行きの悪い話だった。
キンブリーが話すだけで三人も殺し合いに乗っている。
放送で16人も呼ばれた以上覚悟はしていたが、ここまで派手にやる連中が居るとは思いも寄らない。

「私は、これからマスタングを追います。貴方たちはどうします?」
「……追います。私もその人だけは、許せない……」
「おい、千枝……」

キンブリーから引き離すように、ヒルダは千枝の肩を強く掴む。
内心、ヒルダは舌打ちをしていた。
今の千枝は明らかにキンブリーの話で動揺している。
もう目に見えて顔に出している表情が憎悪、殺意、悲しみ、数え切れないほどの負の感情を含ませていた。
友の仇の姿を見た瞬間、何をしでかすか予想できない。ましてやマスタング程の手練が相手になれば尚更、不安要素は増すばかりだ。

「少し、頭冷やせ」
「私、冷静だよ……」
「仇討ちも結構だが、お前の仲間もまだ残ってんだろ? 仇打ちの前にまずそいつと合流だろ。
 それに、お前誰かを守りたいんじゃないのか? 今のその顔は誰かを守るって面じゃねえ」

雪子とクマの死には一通りの整理が付いたと思っていた。
けれども、実際に雪子の殺され方と殺害者の話を聞いた時、黒い何かが心の中を染めていく。
その時、千枝は間違いなくマスタングを殺してやりたいと思った。
本当なら、仇討ちよりも鳴上と早急に合流すべき筈なのに。仲間なら、そうしないとおかしいのに。

「だから、そのマスタングって人をやっつければ、もうこれ以上犠牲になる人は……」

誰かを守りたかったのに殺すことばかり考えてしまう。
雪子はそれを望むわけが無いだろうし、千枝の将来の警官になるという夢も全て不意にしてしまう。
分かっていて、なお殺意は増してくるばかりだ。
手伝ってくれるといったヒルダに対して、罪悪感を感じながらも、ヒルダに悟られぬよう表向きの理由を口にした。
我ながら咄嗟に頭が働いたものだと、千枝は思った。
それでも、ヒルダはすぐにそれを看破し千枝の胸倉を掴んだ。

「違う。今のお前は、ただ体の良い理由付けてるだけで、本当は」 

そこまで言いかけて、ヒルダは言葉に詰まる。
クロエの時も思ったが、本当に柄じゃない。仇討ちがしたいなら、勝手にすれば良いだけの話だ。
なんでここまで必死こいて引き止めるのか。もう自分でも良く分からずに苛立つ。


992 : 亀裂 ◆w9XRhrM3HU :2015/07/23(木) 01:46:27 dfc1DrjA0

「ヒルダさん、それの何がいけないのですか?」
「あぁ?」

口を挟んできたキンブリーにヒルダは銃をぶっ放しそうになる衝動を押さえ、視線を向けた。
キンブリーの紳士的な振る舞いは変わらないが、その雰囲気には先程とは違う何か歪んだものが見える。

「仇討ち、復讐。それらは立派な信念ではありませんか。
その信念を部外者である私達が否定する事は出来ない」
「てめえ、少し黙ってろ……」

「ヒルダさん、貴女に信念は? 貴女はただ何となく、千枝さんを止めているだけでは?
 千枝さんを止めるのであれば、彼女の信念を否定するのであれば、貴女も相応の信念を持ちなさい」
「信念だと……? お前、さっきからごちゃごちゃ……」

「見つけた。……マスタングは東の方向に逃げた。電車なら先回りできる」

キンブリーとヒルダが言い争う中、銀が口を挟んだ。
それは観測霊を飛ばし、周囲を探っていた銀からの報告である。

「キンブリーの言ってた、ウェイブと特徴が合っている男も見つけた。
 でも別れた。ウェイブは北の方向」
「……それは本当ですか?」

訝しげにキンブリーは銀へと視線を向ける。
銀はいつもと変わらぬ無表情のまま、観測霊によって得た情報を述べた。

「本当。千枝とヒルダと私でマスタングを追う。キンブリーはウェイブを追って」
「銀ちゃん……?」
「早く、電車が出る」

顔を若干俯かせ、表情も何を考えているか分からないが、銀は千枝の服を引っ張るとそのまま電車の中へと歩いていく。
先程の人形染みた銀からは想像も付かない行動に、千枝もヒルダも驚嘆した。
まるで人間のような仕草は千枝が最初に受けた印象とも、ヒルダが伝え聞いたイメージとも合わない。

「お、おい……ちょっと待てよ」
「ヒルダも早く」

唐突な銀の行動にヒルダは訳が分からなかったが、直感でキンブリーと共に居るよりはマシだと感じ電車へと乗り込む。
後ろのキンブリーの様子を伺うが、止める様子もなければ攻撃を仕掛けてくる素振りもない。

「千枝さん、お忘れなく。貴女の信念は悪ではないし、決して間違ってもいない」
「キンブリーさん……」
「……お気をつけて」

電車が発つ前、キンブリーはそう言い残す。
ドアが閉まり、電車が駅を発つ。
残ったのは結局、キンブリーただ一人のみ。


993 : 亀裂 ◆w9XRhrM3HU :2015/07/23(木) 01:46:44 dfc1DrjA0

「なーにやってんのさ、キンブリー」
「……エンヴィーですか」
「あいつらを、大佐にぶつける作戦だったじゃない。丁度、大佐が焼いちゃった娘の友達を利用してさ」
「そうですねぇ」
「逃がすくらいなら、殺せば良かったんじゃないの」

キンブリーの両手が触れようとする寸前で止まっていた。
錬金術を使う隙はあった。
殺そうと思えば、いつでも殺れたのにあえてキンブリーは三人を行かせた事になる。
エンヴィーからすれば不信がってもおかしくない。

「こんな事なら、このエンヴィーも出てけば良かったよ。
 キンブリーが誘導は自分一人の方がやりやすいっていうから任せたのに」

キンブリーが銀を見つけ、何もせず保護したのは銀が千枝と関わった参加者だったからだ。
最初は殺す前に単独で接触し、情報を引き出そうとしたが、利用価値があると気付いたキンブリーは銀を保護。
雪子がキンブリーの仲間であるというシナリオを演出する為、キンブリー一人がギリギリ生還したほうが信憑性が増すだろうと、躯人形達とエンヴィーを待機させた。
そして、銀の回収に戻ってきた千枝からの信頼を上げておき、マスタングの悪評を流しぶつけ合わせる。
そこまでがキンブリーの思い描いたシナリオだったが、最後にマスタングの元へ誘導する前に邪魔が入った。

「銀というドール、妙だと思いませんか? 詳細名簿では、彼女が観測霊を飛ばせるのは良くても1エリア内。そう制限を設定したと書いてありました。既に数エリア先の焔の錬金術師を見つけられる筈がない」
「あいつ、もしかしたら制限解けたんじゃないの?」
「いえ、それはない筈。もし制限が解けていたのなら、私が彼女に接触する前に既に観測霊で気付いて、逃げていなければおかしい」
「……悪い人とは思わなかったとか?」
「焔の錬金術師との戦いも見られていた筈ですよ。丁度水場がありましたし、媒介には困らない。逃げる為の判断材料は十分過ぎます」

銀と遭遇する前の戦闘時も水があり、更に戦闘後もキンブリーは水を取り出し喉を潤していた。
銀の居たエリア外だった為、キンブリーは気にはしていなかったが、制限が解けていれば銀は先にキンブリーに気付いている。
だが銀はそんな素振りも見せず、逃げようともしなかった。
これらの結果と照らし合わせると、銀は水を媒介とするドールであり、制限は一エリア内しか観測霊を飛ばせないとある詳細名簿は正しい。
制限が解けたとは考え辛い。


994 : 亀裂 ◆w9XRhrM3HU :2015/07/23(木) 01:47:12 dfc1DrjA0

「あるいは、仲間を気遣い彼女が嘘を吐いたか」
「嘘って、なんで?」

「仲間が焔の錬金術師とぶつかるのを懸念し、あえて嘘を吐いたのなら辻褄が合うんですよ。
 そもそも、焔の錬金術師とウェイブについては見つけたと言っていたが、黒子、穂乃果といった私が伝えなかった者達に対しては一切触れていない。
 誤殺によって、焔の錬金術師が孤立したのならまだしも、ウェイブも彼女らから離れるのはおかしい。護衛役が消えますからね。
 つまり、彼女は私の話を元に嘘をでっち上げて、仲間を焔の錬金術師と私から遠ざけたのではないでしょうか」

「ちょっと、待ちなよ。ドールってのは感情がないんだろ? そんな嘘、命令でもしない限り吐くわけないじゃん。
 あのヒルダって女か? あいつが命令して……」
「さあ、私の主観ですが、彼女にそんな暇は無かったと思いますね。
 感情がないとされるドールにも、意志や信念が宿ったのではありませんかね?
 ……そう、進化とでも言うべきでしょうか」
「関心してる場合? たくっ、キンブリーの美学は良く分からないね」
「それに悪いことだけじゃありませんよ。彼女らが焔の錬金術師とぶつからず、悪評だけが出回るのは私達にとっては好都合だ」

キンブリーは楽しげに笑い、構えた両手を解き帽子を深く被りなおした。
エンヴィーはその余裕に少し苛立ちながらも会話を続ける。

「エンヴィー、人が結束した時の力は計り知れない。一度敗北し、死まで味わった貴方ならそれからもう目を背けはしませんね?」
「…………分かってるさ。気に入らないけどね」

生前であれば、決して認めなかったであろう人間の結束力。
エンヴィーは一度、その力に殺されかける寸前まで追い詰められた。
それも人柱どころか、殺しても構わないスカー、戦闘力は大してないマルコ、訳の分からない錬金術を使う余所者、キメラといった虫ケラどもに。
人は個々であれば軟弱だが、その力を集結させた時、それはホムンクルスすらも凌駕する。

「だが、その結束は強くもあり脆くもある。ちょっとした亀裂が入っただけでその強さは弱さ、崩壊へと繋がるでしょう。
 さっきの彼女達には、その亀裂になって頂きたいんですよ。
 東に向かった彼女らは殺し合いに反発する者達と出会い、こう言うでしょう。
 『ロイ・マスタングとウェイブ含む、イェーガーズは殺し合いに乗る危険人物』だと。
 お互いが、殺し合いに反発しあう者同士の筈が異なる認識を持ってしまう。楽しみですね、この亀裂が如何に罅割れてくれるのか」

キンブリーの情報は嘘ではない。
彼が嘘を交えたのは、雪子と行動していたという一点のみ。それ以外は全てほぼ事実。
キンブリーがクロメを葬り去ったのも、マスタングが雪子を殺したのも、ウェイブの仲間が危険であるのも全てが事実だ。
ただ意図的に一部分、話が抜けているだけである。
悪意はあるが、嘘ではない。これらの情報は参加者達に疑心と混乱を招くことだろう。


995 : 亀裂 ◆w9XRhrM3HU :2015/07/23(木) 01:47:45 dfc1DrjA0

「大佐だけじゃなく、大佐を信じた連中や逆に警戒した連中も互いに潰しあうって事?」
「そう上手くいくかは、分かりませんが」
「いいねぇ。泳がせたのは正解だったかもね」

気付けばエンヴィー笑みを浮かべ、先程までの機嫌の悪さは消えていた。
そのまま、二人は長年連れ添った夫婦のように楽しげで穏やかに談笑を終えた。

それから、キンブリーはディバックから首輪を一つ取り出し手の中で弄ぶ。
雪子の死体から剥ぎ取ったものだ。死体の損傷は激しく、生身の部分で焦げていない箇所がなかったにも関わらず、首輪だけは以前変わりなく存在していた。

(やはり、錬金術のエネルギーを無力化しているのでしょうか?
 中身を何とか解体したいものだが)

解析に解体用の道具と他にもサンプルが欲しいところだ。
そう考え、ふとキンブリーは八房により躯人形にした一人と一匹を思い出した。
キンブリーの後ろを、虚ろな目で付いてきている一人と一匹の首に付いている首輪。
生者と同じように銀色に輝くそれは、果たして効力までも同じなのだろうか。

(いずれ、実験してみるのもありかもしれませんね。
 広川も含め“皆”殺しですからね。そろそろ、首輪の解析にも本腰を入れますか)

実に、やり甲斐のある仕事だ。
そう思いながらキンブリーは歩を進めた。



【C-8/1日目/朝】

【エンヴィー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、火傷(小)、腹に痛み
[装備]:ニューナンブ@PERSONA4 the Animation、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[道具]:ディパック、基本支給品×2、詳細名簿
[思考]
基本:好き勝手に楽しむ。
1:マスタングの姿になって、彼の悪評を広める。
2:エドワードには……?
3:ラース、プライドと戦うつもりはない、ラースに会ったらダークリパルサーを渡してやってもいい。
4:キンブリーと一緒に行動し他の参加者を殺す。
[備考]
※参戦時期は死亡後。



【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(小)、高揚感
[装備]:承太郎が旅の道中に捨てたシケモク@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ
[道具]:ディパック×2 基本支給品×2 ランダム支給品0〜2(確認済み)雪子の首輪
躯人形・クロメ@アカメが斬る! 帝具・死者行軍八房@アカメが斬る!、躯人形・イギー@現地調達
[思考]
基本:美学に従い皆殺し。
1:エンヴィーと共に行動する。
2:ウェイブと大佐と黒子は次に出会ったら殺す。
3:少女(婚合光子)を探し出し殺す
4:首輪の解析も進めておきたい。
5:首輪の予備サンプルも探す。
[備考]
※参戦時期は死後。
※死者行軍八房の使い手になりました。
※躯人形・クロメが八房を装備しています。彼女が斬り殺した存在は、躯人形にはできません。
※躯人形・クロメの損壊程度は弱。セーラー服はボロボロで、キンブリーのコートを羽織っています。
※躯人形・クロメの死の直前に残った強い念は「姉(アカメ)と一緒にいたい」です。
※死者行軍八房の制限は以下。
『操れる死者は2人まで』
『呪いを解いて地下に戻し、損壊を全修復させることができない』
『死者は帝具の主から200m離れると一時活動不能になる』
『即席の躯人形が生み出せない』
※躯人形・イギーは自由にスタンドを使えます。
※千枝、ヒルダと情報交換しました。


996 : 亀裂 ◆w9XRhrM3HU :2015/07/23(木) 01:48:04 dfc1DrjA0



【東側に向かう電車内/1日目/朝】

【里中千枝@PERSONA4 the Animation】
[状態]:健康、マスタングに対する憎悪
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:殺し合いを止めて、みんなで稲羽市に帰る。
0:雪子の仇を討つ?
1:マスタングとイェーガーズを警戒。
[備考]
※モモカ、銀と情報を交換しました。
※キンブリーと情報交換しました

【ヒルダ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)
[装備]:グロック17@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:進んで殺し合いに乗る気はない。
1:千枝が戻ってくるまで休む。
2:千枝に協力してやる。
3:エンブリヲを殺す。
4:アンジュに平行世界のことを聞いてみる。
5:マスタングとイェーガーズを警戒。マスタングは千枝とは会わせないほうが良いかもしれない。
[備考]
※参戦時期はエンブリヲ撃破直後。
※クロエの知り合いの情報を得ました。
※平行世界について半信半疑です。
※キンブリーと情報交換しました


【銀@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考]
基本:…………。
1:黒を探す。
[備考]
※千枝、雪子、モモカと情報を交換しました。
※制限により、観測霊を飛ばせるのは最大1エリア程です。


997 : ◆w9XRhrM3HU :2015/07/23(木) 01:48:30 dfc1DrjA0
投下終了します


998 : ◆w9XRhrM3HU :2015/07/23(木) 04:03:08 dfc1DrjA0
良く見たらスレ終わりそうだったんだ次スレ立てときました
2て付けるの忘れちゃいましたけど

ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1437591682/


999 : 名無しさん :2015/07/23(木) 06:21:32 VtjwZ6pE0
投下乙です!

紅蓮の錬金術師カッコいいヤッター
……ただ戦うんじゃなくてこう言う事もできるから厄介なんだよなキンブリーw
そしてどんどん悪評が広まっていくイェーガーズ。半分以上はは的を得ているから仕方ないね


1000 : 名無しさん :2015/07/23(木) 12:16:18 FzhSs5hI0
投下乙です 銀ちゃんやるなぁ
キンブリーとエンヴィーは何だかんだで仲良さそうですね
そしてこのスレが埋まるのもロイ・マスタングとイェーガーズって奴らの仕業なんだ


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