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パラレルワールド・バトルロワイアル part3

1 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:08:08 2Sa.PFa.0
『バトル・ロワイアル』パロディリレーSS企画『パラレルワールド・バトルロワイアル』のスレッドです。
企画上、グロテスクな表現、版権キャラクターの死亡などの要素が含まれております。
これらの要素が苦手な方は、くれぐれもご注意ください。

前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1351176974/

【外部サイト】
パラレルワールド・バトルロワイアルまとめwiki
ttp://www45.atwiki.jp/pararowa/
パラレルワールド・バトルロワイアル専用したらば掲示板
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14757/


2 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:10:30 2Sa.PFa.0
4/5【仮面ライダー555】
 ○乾巧/○草加雅人/○長田結花/○村上峡児/● 北崎
2/4【仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
 ○木場勇治/○園田真理/● 海堂直也 /● 菊池啓太郎
1/5【コードギアス 反逆のルルーシュ】
 ● ルルーシュ・ランペルージ /● C.C. /○枢木スザク/●ロロ・ランペルージ/● 篠崎咲世子
2/6【コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
 ● ナナリー・ランペルージ /○アリス/○ゼロ/● ロロ・ヴィ・ブリタニア /● マオ /● ユーフェミア・リ・ブリタニア
2/4【DEATH NOTE(漫画)】
 ○夜神月/● ニア /○メロ/● 松田桃太
2/4【デスノート(映画)】
 ○L/● 弥海砂 /○夜神総一郎/● 南空ナオミ
3/5【Fate/stay night】
 ● 衛宮士郎 /○間桐桜/○セイバーオルタ/○バーサーカー/● 藤村大河
2/6【Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
 ○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/○美遊・エーデルフェルト/● クロエ・フォン・アインツベルン
 ● 遠坂凛 /● ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト /● バゼット・フラガ・マクレミッツ
3/5【ポケットモンスター(ゲーム)】
 ○シロナ/○N/○ゲーチス/● オーキド博士 /●サカキ
2/5【ポケットモンスター(アニメ)】
 ● サトシ /● ヒカリ /● タケシ /○ニャース/○ミュウツー
3/4【魔法少女まどか☆マギカ】
 ○鹿目まどか/○暁美ほむら/○美樹さやか/● 佐倉杏子
2/4【魔法少女おりこ☆マギカ】
 ○美国織莉子/● 呉キリカ /● 千歳ゆま /○巴マミ
【残り28/57名】(○=生存 ●=死亡)


3 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:10:59 2Sa.PFa.0
【基本ルール】
 『儀式』(バトル・ロワイアル)の参加者(以下『プレイヤー』と表記)は57名。
 『プレイヤー』全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が『勝者』となる。
 『勝者』には、『どのような願いでもひとつだけ叶えることが出来る権利』が与えられる。
 制限時間は無制限。『プレイヤー』が最後の一人になるか、全員死亡するまで『儀式』は続行される。
 『プレイヤー』が全員死亡した場合は、『勝者なし』(ゲームオーバー)となる。
 『儀式』開始時、『プレイヤー』はテレポートによってMAP上にバラバラに配置される。
 『儀式』中は『プレイヤー』の行動に関する制限は特になく、後述する『術式』が発動する条件に触れなければ、どのような行動をとることも許される。

【プレイヤーの持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品などは没収されている。
 ただし、義手など身体と一体化していたり、生命維持に関わる武器や装置(魔法少女のソウルジェムなど)はその限りではない。
 また、財布、時計、携帯電話など『ポケットに入る程度のサイズの日用品や雑貨』は没収されていない。
 上記の品々の中に仕込まれた武器類(夜神月の腕時計に仕組まれたデスノートの切れ端など)は没収されている。
 携帯電話やポケギアは常に圏外。ただし、後述する『ランダム支給品』として支給されたものなどは通話可能な可能性がある。

【デイパックと支給品について】
 『プレイヤー』は全員、以下の品がデイパックに入った状態で支給されている。
  ・デイパック … 普通の何の仕掛けもないデイパック。肩掛け式。結構大きい。
  ・水 … 1リットル入りペットボトルに入ったミネラルウォーター。2本。計2リットル。
  ・食料 … ただのパン。6個。大体1日(3食)分。大きさやパンの種類は後続の書き手次第。
  ・懐中電灯 … ただの懐中電灯。単一電池2本使用。
  ・名簿 … 『プレイヤー』の名前が50音順で載っている名簿。載っているのは名前のみ。
  ・地図 … 『儀式』の舞台の地図。
  ・デバイス … 自身がいるエリアを表示してくれる小型デジタルツール。外見はポケウォーカーに似ている。
  ・筆記用具 … 普通の鉛筆・ペンが数本と消しゴム1個。大学ノート1冊。
  ・ランダム支給品 … 『プレイヤー』のデイパックの中にランダムに支給される品。最小で1つ、最大3つ。
 『ランダム支給品』は銃火器、剣などの武器から各作品世界の品、日用品まで様々な物がランダムで入っている。
 ただし、デイパックの余剰部分に少々強引に詰め込まれているため、サイズの大きいものは中身がはみ出ていて丸見えであったり、最初からデイパックの外に出た状態で支給される。


4 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:11:30 2Sa.PFa.0
【舞台】
 ttp://download2.getuploader.com/g/ParallelWorld_BattleRoyal/20/pararowaMAP.jpg

【禁止領域】
 定時放送終了の2時間後、3時間後、4時間後に1エリアずつ進入禁止エリアである『禁止領域』が生まれる。
 『禁止領域』は『儀式』が終了するまで解除されない。
 『禁止領域』に30秒以上留まり続けてしまうと、後述する『術式』が発動する。ただし、29秒以内ならエリア内への侵入、エリア内の通行といった行動も可能。
 『プレイヤー』が『禁止領域』に踏み込むと、身体の先端部(指先など)から青白い炎が生じ、時間が経過する毎に炎の勢いは強くなる。
 29秒以内に『禁止領域』から脱出することができれば、脱出と同時に炎は消える。
 長時間及び連続して『禁止領域』へ侵入した場合、炎が生じた場所が灰化するなどの外傷を負う可能性がある。

【定時放送】
 一日6時間毎、計4回、主催者側から定時放送が行われる。
 放送が行われる時間は0:00、6:00、12:00、18:00。
 内容は、前回放送終了後から放送開始までの約6時間中に発生した『脱落者』(死亡者)の発表と、放送終了2時間後、3時間後、4時間後に『禁止領域』となるエリアの発表。

【呪術式について】
 『プレイヤー』は全員、『魔女の口づけ』を参考に生み出された呪術式(以下『術式』と表記)を身体に刻み込まれている。
 『術式』が発動した『プレイヤー』は、身体中から青白い炎を発し、やがて灰となり『完全なる消滅』を迎える。要するに死亡する。
 青白い炎は、術式が発動した『プレイヤー』の身体以外のものや他者には燃え移らない。
 『術式』が発動する条件は以下の3つ
  ・『儀式』の舞台の外へ出る
  ・24時間『プレイヤー』から『脱落者』(死亡者)が一人も出ない。この場合、『プレイヤー』全員の『術式』が発動し、『プレイヤー』は全員死亡する
  ・『禁止領域』に30秒以上留まる
 『術式』は『プレイヤー』の首元にタトゥー状に常に浮かび上がっている。
 『術式』は常に『プレイヤー』の生死を判断しており、死亡した『プレイヤー』の肉体からは『術式』は消滅する。
 主催側はこれによって、『プレイヤー』の生死と詳細な現在位置を把握している。


5 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:11:51 2Sa.PFa.0
【能力制限】
 一部『プレイヤー』や一部『ランダム支給品』には、何らかの要因によって能力を制限されている。
 一部『プレイヤー』や一部『ランダム支給品』が持つ能力には、使用そのものが禁止されている(要するに使用できない)ものが存在する。
 一部『ランダム支給品』は、能力面以外にも制限が科せられている。

 大まかな目安は以下のとおり

  ◆禁止
   オルフェノクの「使徒再生」による他参加者のオルフェノク化
   サーヴァントの霊体化
   ソウルジェムのグリーフシード化(穢れが浄化しきれなくなると砕け散る)
   C.C.の他者にギアスを発現させる能力
   暁美ほむらの時間遡行能力

  ◆ある程度のレベルまで制限
   オルフェノクの怪人態時の各種身体能力
   ゼロの各種身体能力
   サーヴァントの各種身体能力
   一部ポケモンの各種身体能力
   各種ギアス
   ポケモンの使用する技(主に威力面)
   各種回復能力(全快までに時間がかかるようにする)
   ナナリー、アリス(コードギアス取得後)、ゼロ、ロロ(悪夢版)のナイトメアフレーム召喚

 ※あくまでも目安のため、最終的な制限レベルなどについては各書き手の裁量に委ねられる。
  また、ロワ本編中において能力制限が解除される展開となった場合は、これら制限は消滅する。
  詳細な制限の内容などについては以下の項目を参照。
  ttp://www45.atwiki.jp/pararowa/pages/86.html


6 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:12:15 2Sa.PFa.0
【書き手ルール】
 書き手は事前に、予約専用スレにおいてトリップ付きで予約または投下宣言を行うこと。トリップのない予約、投下宣言は無効。
 予約、投下宣言についての詳細は予約専用スレ参照。
 作品の最後には生存しているキャラクターの状態表を以下のテンプレートを元に記してください。

【(エリア名)/(具体的な場所名)/(日数)-(時間帯名)】
【(キャラクター名)@(登場元となる作品名)】
[状態]:(肉体的、精神的なキャラクターの状態)
[装備]:(キャラクターが携帯している物の名前)
[道具]:(キャラクターがデイパックの中に仕舞っている物の名前)
[思考・状況]
基本:(基本的な方針、または最終的な目的)
1:(現在、優先したいと思っている方針/目的)
2:(1よりも優先順位の低い方針/目的)
3:(2よりも優先順位の低い方針/目的)
[備考]
※(上記のテンプレには当てはまらない事柄)

【作中での時間帯表記】(0:00スタート)
 [00:00-01:59 >深夜] [02:00-03:59 >黎明] [04:00-05:59 >早朝]
 [06:00-07:59 >朝]  [08:00-09:59 >午前] [10:00-11:59 >昼]
 [12:00-13:59 >日中] [14:00-15:59 >午後] [16:00-17:59 >夕方]
 [18:00-19:59 >夜]  [20:00-21:59 >夜中] [22:00-23:59 >真夜中]

【修正・破棄に関してのルール】
 本スレに投下した作品が、矛盾点や注意を受けた場合、書き手はそれを受けて修正作業に入ることができます。
 修正要望を出す場合、内容は具体的に。「気に入らない」「つまらない」などの暴言は受け付けられません。
 問題点への「指摘」は名無しでも可能ですが、話し合いが必要な「要求」は書き手のみが可能です。
 既に進行している(続きが予約または投下されている)パートを扱った作品に対して修正要望を出すことはできません。
 (ただし、対象となる作品の続きが、同一書き手による自己リレーであった場合はその限りではありません)
 議論となったパートは、協議が終わるまで「凍結」となります。「凍結」中は、そのパートを進行させることはできません。
 議論開始から二日(48時間)以上経過しても作品を投下した書き手から結論が出されなかった場合、作品はNGとなります。
 修正を二回繰り返しても問題が解決されなかった場合、「修正不可」と判断され、作品はNGとなります。


7 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:31:36 2Sa.PFa.0
前スレの続きを投下します


8 : 少女よ背けるな―moving soul ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:33:09 2Sa.PFa.0
間桐邸地下。
本来であれば大量の蟲がいたであろう場所。

間桐の魔術師にとっての工房であり、まともな感性をもっていれば嫌悪感を表さずにはいられなかったであろう空間。
しかし今はただの地下室でしかない。

薄暗い室内に懐中電灯を付け、防空壕のように身を潜ませるL、シロナ、鹿目まどかの3人。

「ちょっと動いたけど大丈夫?」
「…はい。まだ痛いですけど、さっきよりはだいぶ楽になった気がします」
「そう、よかったわ」

まどかに気を使いながら話しかけるシロナ。
顔色はいいものではないが、ここまで移動して傷に影響がないのならば遊園地までの移動はそう手こずるものではないだろう。

そうこの先のことを考えていると、ふとその後ろからLが話しかけてきた。

「シロナさん、あのミュウツーさんはどれほどの戦闘能力を持っているのですか?」
「ミュウツーの戦闘能力?
 そうね、少なくとも相性さえ気にしないのなら現在生息、確認されているポケモンの中じゃ右に出る子はいない、と言えるかもしれないわ」
「しかし、それでもあのバーサーカーには勝てなかった。そうですよね?」
「ええ。あの時はゼロっていう別の存在があったせいもあるでしょうけど、あのバーサーカーに押されていたことは事実ね」
「先に勝てなかった。それが事実であるなら、イリヤさんの二人でもっても止めるのは難しいと言わざるを得ません。
 私達が遭遇した時は彼を一度は打ち倒したのですが蘇生されてしまいまして」

それは北崎と草加雅人が不本意ながら手を組みバーサーカーと戦った時のこと。
北崎の能力をもって灰化させたバーサーカーの体は再生し、それ以降北崎の灰化の能力を受け付けなくなった。
つまりは一度殺した攻撃に対し耐性を持つようになる。

手数にもよるが、倒せば倒すほどその体に攻撃を与えることが難しくなるだろう。

「もしシロナさんの言うことが事実であるならば彼とて一度も倒せなかった、などということはないでしょう。
 逆に言えば、それで倒し損ねた以上それ以上命を奪うことは難しくなります」
「何が言いたいの?」
「………いえ、これ以上は言わないほうがいいかもしれませんね。嫌な予感、で済んでくれればいいのですが」

Lにしては要領の得ない、彼らしくない曖昧な言葉。
しかしシロナはその言葉が何を意味するかをその身で感じていた。

だがそんな心配とは裏腹に、外で鳴り続けていたはずの音が止む。
バーサーカーが歩く度に響く地鳴りもない。

「終わったの…?」
「まだ分からないわ。イリヤちゃん達がくるまで待ったほうがいいんじゃないかしら」

シロナはそう告げる。しかし心中には一つの可能性が不安として巣食う。
例えばミュウツーやイリヤ達が刺し違えてバーサーカーを倒した可能性。
Lの言う不安がもし的中していたならばそれも充分に有り得る事態だ。

待機していた時間はせいぜい一分ほどだろうか。
それだけの時間がまるで数倍にも伸びたのではないかと思えるほどにゆっくりと時が流れる気がしていた。

「…私が様子を見てきます。
 シロナさん達はその場で待機していてください」

そう言ってLは静かにゆっくりと階段を登り始めた。


9 : 少女よ背けるな―moving soul ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:33:39 2Sa.PFa.0


一方で下で待機するシロナは、まどかの体が小刻みに震えていることに気付く。

「大丈夫よ、きっとここから出られるわよ」
「…シロナさん………」
「怖いんだったら手を握っていてあげるから、ね」
「…ありがとうございます」

そう言ってシロナの手を握り返し。
Lはもう少しで部屋の入り口に辿り着こうとしていた、その時だった。

バーサーカーの足音が屋敷に響くほどに高く鳴り。

シロナが、Lが、まどかがその異変に気付いたその瞬間。

地震のようなとてつもない衝撃と共に、屋敷が崩壊していき。


「――――危ない!」

それがシロナの声だったのかLの声だったのか、はたまたまどかの声だったのか。
その判別すらもつかぬまま、3人の姿は崩落していく天井の中に呑み込まれていった―――




バーサーカーによって放たれた、本来であれば封じられたはずの宝具・射殺す百頭(ナインライブズ)。

ただの斬撃でありながらも宝具の域まで昇華されたその一撃は、衝撃だけで屋敷を吹き飛ばし。
かろうじて衝撃の届かなかった敷地内の端の辺りを残して、屋敷を一気に瓦礫の山の廃墟へと変貌させた。

しかしイレギュラーによって放たれたそれはバーサーカー自身にも多大な負荷をかける。
十二の試練による再生直後という魔力を消費した直後の、しかも不意の事態による理性を取り戻しての一撃。

肉体機能としては現状では万全な状態におきながらも、バーサーカーは静かに、瓦礫すらも残らなかった屋敷の中心部において沈黙する。

おそらくは、それはここにいる者達がこの場から逃げるには充分な時間を与えただろう。
もし逃げられたら、の話であるが。




「うぅ……」
『大丈夫ですかイリヤさん!!』

かつて庭があったはずの場所で体を起こすイリヤ。
その体には細かな傷や少なくないダメージはあるようだが、イリヤ自身はあの一撃の風圧で吹き飛ばされただけだ。
転身していたこともあり、少なくとも致命的なダメージを受けている様子はなかった。

だが。

「…そうだ、ミュウツーさんは……」
『彼でしたら……』

と、イリヤはルビーの指し示した方を見る。
白い物体がもぞもぞ、と蠢いている。
ところどころを真っ赤に染めた何か。

近くに寄ったイリヤは、思わず息を飲み込む。


10 : 少女よ背けるな―moving soul ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:34:25 2Sa.PFa.0

倒れていたのはミュウツーだった。
先のバーサーカーと肉弾戦を繰り広げていたはずの体は元のスマートな形態へと戻り。
しかし元通りというには体の至るところが欠損していた。

右腕は胸に差し掛かる辺りまで抉られ。
左耳があったであろう部分は原型も留めず瞳ごと形を崩している。
腹は裂け、その傷からは真っ赤な袋のようなものがはみ出ている。それが何なのかは考えたくもない。

体の体積の実に1/3までを失い、なおかつ骨は砕かれている状況。内臓もかなりのものが機能停止しているだろう。

しかし、それでもまだミュウツーであったものが残っているだけ運がいい方だ。

もしバーサーカーが五感を失っていない状態でアレを放っていたなら。
もしバーサーカーの武器、斧剣の刃が折れていなければ。
もしもそれらの要素が、バーサーカーの攻撃の精度を大きく下げていなければ。

きっとミュウツーは跡形もなく消し飛んでいたに違いない。

最も、下げた精度で放たれ、暴発した勢いが間桐邸を崩落まで追い込んでしまった以上被害としては最悪だろうが。

「み、ミュウツーさん!」
「…ぐ、ぁ……」

イリヤの呼び声に応えるように、ミュウツーがうめき声をあげ。
その瞬間、ミュウツーの体から光が奔る。

光は一瞬、そして収まると同時にミュウツーの体にあった傷が僅かに治癒されているような気がした。
しかし腹の傷、腕と胸部の欠損などの致命傷には止血程度の役割しか与えてはいなかった。

「い、今傷を!」
『イリヤさん…、この傷では…もう……』

ルビーの治癒能力は契約者に恩恵を与えるもの。他者への譲渡は不可能。
他者に対する治癒魔術はそもそもイリヤの専門分野ではないため、無尽蔵の魔力をもってもどうすることもできない。

「…わ、私のことはいい……、この傷ではもう助からん……!」
「そんな……」

目の前でまたしても命が失われようとしている。
その事実に、イリヤの瞳から思わず涙が零れ落ちる。

そんなイリヤの顔をじっと見つめながら、ミュウツーは一人の少女の姿をそこに思い出す。
ほんの微かな間共に行動した、イリヤと同じ顔をした少女。
自分の存在を封じられ居場所を奪われ、しかしそれでも共生する道を選んだという、彼女と同じにして異なる存在。

その顔を見ていたミュウツーは、一つの事実に気付く。
銀髪で赤い瞳。そしてその真っ白な肌。それらはあのバーサーカーの意識の中にいた一人の少女と酷似していたことに。

「…お前、名前は何という?」
「私の、名前…?どうしてこんな時に―――」
「理由など、今はいい…!」
「……、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン…」
「…イリヤスフィール、か」

名前は既に知っていた。しかし改めて確認したかったのだ。
この少女本人の口から、バーサーカーの意識にあったあの少女と同じ名であることを。


11 : 少女よ背けるな―moving soul ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:35:02 2Sa.PFa.0

「イリヤスフィール…。
 私の中にはバーサーカーから読み取った記憶がある……。
 それはやつの戦う理由にも、そしておそらくお前自身にも大きく関わるかもしれないものだ……。
 見ればお前はあるいは戻れなくなるかもしれん。怖ろしければ拒否しても構わん…。
 お前は、……それを見る覚悟が、あるか?」
「…バーサーカーの、記憶……?」

かつて士郎から聞いたこと。
平行世界の自分が、バーサーカーを使役するマスターとして聖杯戦争に関わっていた、という事実。
しかしこの場にいたバーサーカーに対して、その事実を結びつけることはこれまでしてこなかった。
何しろファーストコンタクトにおいて真っ先に強襲され吹き飛ばされたのだから。
平行世界の自分とあのバーサーカー、そして自分とは大きな関わりなどないはず、そう思ってきた。

しかし、バーサーカーの記憶の中に何かしらの大きなものが封じられているとするなら?

「…教えてください、バーサーカーの記憶を、私に」

知らなければならない。
平行世界のバーサーカーのマスターとして、彼が戦う理由を。

衛宮士郎に守られただけだったあの時から、一歩進むために。


「いい、だろう。これから、お前には膨大な情報を送り込む…。
 気をしっかりと持っておけ…」
『イリヤさん、このルビーちゃんもしっかりサポートします!情報の記録ならお任せください!』

そうして決意のまま、イリヤの頭にはミュウツーの手が翳され。
その手のルビーが、補助するかのようにアンテナのようなものを取り出し。

ミュウツーが力を入れたと同時、イリヤの脳に膨大な情報が流れこんできた。




真っ白な雪模様。
日本ではまずお目にかかれないだろう綺麗な銀世界。
少女は父親と走っていた。
クルミの冬芽探しをしているらしい。
結果は少女の敗北だった。
父親のズルにムスッとする少女は、仕事から帰ってきたらまた勝負しようとその父親と約束した。
父親は、帰ってこなかった。

少女は血塗れだった。
銀世界にポツポツと赤い血を垂らしながら進んでいる。
しかしその後ろから、たくさんの獣が迫っていた。
逃げ切れない。
飛びかかるオオカミ達。
しかしその牙が少女に突き立てられることはなかった。
その少女を襲う獣を、巨大な影が弾き飛ばしたのだから。
互いに血塗れの体になった少女と巨人。
そんな姿を見ながら、少女は巨人の手を掴んで言った。
――――バーサーカーは強いね

目の前には3人の人がいた。甲冑の少女とツインテールの女子、そして赤茶色の髪の少年。
バーサーカーは少女の指示に従い、視線の先にいる者達に襲いかかる。
見覚えのある人達。しかし少女は初対面だったらしい。そしてその中の赤茶色の髪の少年には何か特別な思い入れがあったことを感じ取れる。
戦いはバーサーカーが圧倒していた。そのまま進めば、きっと3人の体は砕かれて終わるだろう。
しかし、甲冑の少女を庇うようにバーサーカーの攻撃を受けた光景を見て、少女は大きな衝撃を受けたように戦意を無くし、撤退した。


12 : 少女よ背けるな―moving soul ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:35:58 2Sa.PFa.0
その記憶の中には見覚えのある人達がたくさんいた。
少女の父親は他の誰でもない、衛宮切嗣で。
甲冑の少女はセイバーで。
遠坂凛の姿も見えた。自分と知っている彼女と比べるとずいぶんしっかりしている印象だ。
赤茶色の髪の少年は――衛宮士郎だった。

そしてその記憶の中心にいる白い少女は。
私だった。


バーサーカーの戦う理由。
戦うべき本来の敵。
守らねばならない存在。

全てがイリヤの中に、記録として流れ込んでくる。

それは、一つの可能性であり。
クロが本来望んだ戦いに身を投じた自身の姿であり。

そして親の愛に触れる時すら与えられず孤独に過ごしたイリヤの姿であり。

己のサーヴァントとの確かな絆を結んでいた魔術師の少女の姿であり。

衛宮士郎が守ろうとした、本当のイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの姿だった。




「――――っ……!」
『イリヤさん?!』
「…大丈夫、大丈夫だから…」

脳の処理速度が限界を越えようとしていたが、ルビーの記憶補助もあってどうにかちょっとした頭痛で済ませることができた。
だが。

「あれ?どうして私…」

その瞳から零れ落ちる涙。
ミュウツーが死に向かいつつある事実を知った先とは比べ物にならないほどの涙が、両の瞳から流れ出ていた。
頭痛によるものではない。

『イリヤさん……』

今の記憶を共有して受け取ったルビーの声が聞こえる。
彼女も見たのだ。自分と同じものを。

自分とは全く正反対な人生を送ってきた少女。
大きなお城に住み。
しかし孤独で、愛を知らず。
人間ではなく魔術師として生きることしかできず。
兄に対して愛情と憎悪という、相反する2つの感情を併せ持った。


そんな、自分とは全く違う生き方をした少女。
それがバーサーカーの、そして自分を守り死んでいった衛宮士郎が守りたかった存在だったのだ。


「っ………」

それでも、イリヤは目をゴシゴシと、擦り傷になりそうな勢いで擦り、流れる涙を強引に止めた。
そしてミュウツーへと視線を向ける。

しかし。
こちらへと手が翳された時の態勢のまま、上げられた手は地面へと落ちており。
半開きになった瞳には光はない。
もう、動くことはない。


13 : 少女よ背けるな―moving soul ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:36:50 2Sa.PFa.0

「…ルビー、バーサーカーは?」
『まだ、動く気配はありません』
「じゃあ、屋敷の中にいた皆は?」
『それが、瓦礫の山に埋もれていまして。位置特定は大丈夫でしょうが生体反応の数ははっきりしません』
「分かった。じゃあまずは、皆を」
『…分かりました』

そして屋敷へと体を向ける直前、動かなくなったミュウツーにもう一度視線を下ろし。
その時、ミュウツーの持っていたバッグからはみ出た一枚のカードを見つける。

弓を構えた猟師のような男の絵柄の、大きめのカード。
クラスカード・アーチャー。
クロの核を成していたカード。

「……………」

静かにそれを見つめるイリヤに、ルビーすらも声をかけることを躊躇う。
数秒の沈黙の後、イリヤはそれを自身の腿のカードホルダーへと仕舞い。
屋敷の中へと駆け込んでいった。



体からは破壊の遺伝子の、もう一つの私の存在は感じられない。
あの一撃を受けて尚もこの体を維持することができた理由の一端があれのおかげだろう。

だが、それももう消滅した。

すまなかったな。このようなことでお前の命を終わらせてしまって。
自己再生でも、ほんの数分命を永らえさせることが精一杯だった。

それでも、あの狂戦士の、いや、戦士のことを誰かに知っていて欲しかった。
どうしてそう思ったのかは自分でも分からない。

もうすぐ、私の命も終えるだろう。
そうなれば、この作られた命もただ無に還っていくだけ、それだけのこと。

―――――生きてるって、ね。きっと、楽しい事なんだから

そのはずなのに、いつか誰かにそう言われたような、そんな気がした。
とても懐かしく、しかしどこかへと消え去ったはずの記憶。


(ねえ、ミュウツー。生きていて楽しかった?)

楽しくは、なかった。
いつも迷い、自分を探して彷徨い続け。
結局は何も見つけることはできなかった。

(そっか…。じゃあ、聞き方を変えようか。
 ミュウツー、自分が生きてきたことって、無意味だったと思う?無価値だったと思う?)

意味。価値。
クローンとして作られた自分の価値。
それを見つけられなかった自分の歩んできた意味。

ない、と答えそうになったところで走馬灯のように思い返される出来事。

ミュウとの死闘。サトシとの出会い。作り出したクローン達。
この殺し合いの中でも出会ってきた多くの者達。
そして、もう一つの私。

ここでその答えを否定することは、彼らのことも否定することだ、と思った。

(なら、いいじゃない。あなたは頑張ったんだから)

もはや光も映さぬはずの瞳の中で、私は見えるはずのない少女の姿を見た気がした。
とても懐かしい、心温まる存在。

ああ、そうか。
何故私がああもあの狂戦士に対して感情移入していたのか、今分かった気がする。

自分にとって唯一の、心温まる存在を忘れてしまうことが如何に悲しいことか。
それを身をもって分かっていたからだろう。

(じゃあ、いこっか。ミュウツー。これからはずっと一緒にいてあげられるからね)

真っ白な光の中で浮かび上がる少女の姿を見て、私が本当に探し求めていたものを思い出したような気がした。
短いながらもかけがえのなかった、彼女と共に過ごした時間。

封じられた記憶の奥にあった大切なものは、ずっとこんなにも傍にあったのだ、と。


(ずっとそこにいたのだな、アイ―――)


【ミュウツー@ポケットモンスター(アニメ) 死亡】




14 : 少女よ背けるな―moving soul ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:38:27 2Sa.PFa.0

「…何が…起きたんですか…」

思わずそう呟くL。
目の前には崩れ落ちた瓦礫が積み重なっている。

地下ならば地上よりは安全、と踏んでいたのだが、やはり嫌な予感は的中してしまったようだ。
バーサーカーはこの屋敷を一瞬にして瓦礫の山に変えるほどの力を兼ね備えていた。
その事実に気付けなかった自分の失態だ。

なのに、今自分はこうして生きている。
いた場所が壁に密接していたおかげで崩れ落ちる瓦礫が降り注がなかったようだ。
自身の運に安心したかったところだが。

しかし目の前、地下室のある石畳の空間。
シロナと鹿目まどかのいたはずの場所は。

「シロナさん!まどかさん!」

声を張り上げ、瓦礫の中へと駆け寄るL。

その時だった。
板や瓦礫の山の中から、物を動かすような音が聞こえてきたのは。

その場所に急いで駆け寄り。

「…どうして……?」

そこには真っ青な顔をして座り込むまどかと。
そんなまどかに覆いかぶさるように倒れこんでいたシロナの姿があった。

その周囲には大量の瓦礫。一部には赤い液体が付着している。
そしてシロナの胸には、細長い瓦礫の破片が背中から胸へと突き抜けている

その傷口からポタリ、ポタリと滴り落ちる鮮血。



「…まどかちゃん、大丈夫だった?―――ゴホッ…」
「シロナさん!」

倒れこんだシロナの体を抱きかかえるまどか。
その様子を見てLは察する。
シロナは動けぬまどかを庇い、降り注ぐ瓦礫を全て受け止めたのだろう。

そう大きな瓦礫がなかったことがまどかにとっては幸運だったが、その量が多数に及んだことはシロナにとっての不幸だった。
心臓こそ逸れているようだが、肺は貫通しているだろう。
降り注いだ瓦礫は、シロナの体に致命的な傷を与えていた。

「よかった…」

安堵の声を上げるシロナ。しかしシロナ自身の体のダメージは致命傷に違いなかった。

「私が…私のせいでシロナさんが……」
「…いい、のよ。全部、私が好きでしたことなんだから…」

口の端から血を流すその姿に、まどかは自責を感じ。
それでもそんなまどかを、シロナはなだめるように優しく声をかける。


15 : 少女よ背けるな―moving soul ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:39:21 2Sa.PFa.0

「さやかちゃんもきっと、まどかちゃんがいてくれたから、まどかちゃんがいることが嬉しいから…。だから頑張っていけるのよ」
「シロナ…さん…」
「君と一緒にいるみんなも、君の親しい人たちもさらに繋がる人も、皆世界に望まれて生まれてきたと、私は思うの。
 例えあなたがどんな存在になる人だとしても…」

まどかの握りしめたシロナの手から力が抜けつつある。
徐々に、その瞳の生気も消えていくのをまどかは感じずにはいられなかった。

「待って!私まだあなたに何もできてない!ずっと助けられてばっかりで、支えられてばっかりなのに―――」
「それでも、あなたが私に責任を感じてくれるのなら……」

と、シロナはまどかの瞳の涙を拭い。

「……私の分も、精一杯、生きなさい」

そう告げたのを最後に、シロナの手から力が抜け。

「シロナ…さん……?」


閉じられた瞳はもう開くことはなかった。



【シロナ@ポケットモンスター(ゲーム) 死亡】




「ルビー、一気にお願い!」
『了解です!』

イリヤの砲撃が瓦礫の山の中を穿ち。
地下室を塞ぐ障害を吹き飛ばす。

「みんな!大丈夫!?」

薄暗いはずの、しかし天井が崩れ落ちたことで日の光が照らすようになった石造りの部屋の中で。


「う…ぁ……、あああああああああああ!!!」

立ち竦むLと、泣き崩れるまどか。
そして、その傍で静かに瞳を閉じたシロナの姿を見た。

「シロナ…さん…」
「………」

その胸から突き立った瓦礫片、そしてまどかの様子を見ればシロナがどうなったのか、考えることは難くなかった。

「ルビーさん、バーサーカーは今どうなっていますか?」
『…現状は活動を停止しているようです。しかしいつまでそれが持つか』
「そうですか、では急ぎましょう。
 まどかさん、立てますか?」
「ぅぐっ…ぇっ……、シロナ、さんは……」
「置いていきます。今の私達には、彼女の死を悼んでいる時間もありません」
「そん、な……」

合理的で、しかしそれゆえに冷酷にも見えるLの決断に言葉を失うまどか。
イリヤにもそれは少し非情にも思える判断に感じられた。
しかし、それでも何も言うことはなかった。

「まどかさん、立てますか?」

イリヤの手を借り、泣きながら立ち上がるまどか。

「Lさん…、酷いよ…!」
「…まどかさん、Lさんも悲しんでるの。
 でも、やらなきゃいけないことが私達にはあるから、だから立ち止まっていられないんだと思うの」


16 : 少女よ背けるな―moving soul ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:39:59 2Sa.PFa.0

イリヤはそう言って階段を上がるLへと目を向ける。
それにつられるようにまどかもその背を見て。

前を歩くLの、だらんと下がった手が小さく震えていることに気付いて。
イリヤの言葉に反論することもなくその後ろに続いて上がり始めた。



そして3人が地下室を抜け出たその時だった。

『イリヤさん』
「…もう、起きたの?」

ルビーの静かな呼びかけだけで悟る。
それまで静止していたバーサーカーが、動き始めたことを。

肩を貸していた少女が絶望の表情を浮かべる。
そして、ズシン、と巨大な足音が一つ。
周囲の地面を揺るがすように鳴り響いた。

「急ぎましょう。今の私達で逃げ切れるかは分かりませんが」
「Lさん」

急かすLの顔を、イリヤはまっすぐに見つめて。

「私が、残ります。二人は先に行ってください」

決意を込めた瞳で、そう言った。

「確かに私達二人の生存率は上がりますが、イリヤさんが危険に晒されることになります。
 その判断を承諾するのは気が進みません」
「お願いします。わがままだってのは分かってます。
 だけど、バーサーカーは私が止めなきゃいけないんです」

理屈ではない。それは一つのイリヤの決意。
Lの目をまっすぐ見据えるイリヤの瞳をLは見て。
そこにあるものが説得でどうにかなるものではないことを悟る。

「勝算はあるのですか?」
「…分かりません。だけど、絶対に生きて戻ります」

勝てるかどうかも分からぬ戦い。
しかし少女の答えに迷いはなかった。


「分かりました。まどかさん、行きましょう」
「…ま、待ってよ!」

足音の方に向けて歩き出そうとするイリヤに、思わずまどかは声をかける。

「一緒に行こうよ!あなた一人じゃ、あんな化け物…。
 どうしてあなたが残らなきゃいけないの?」
「…、ごめんなさい。だけど、これはたぶん私がやらなきゃいけないことだから。
 私にしかできない、ことだから」
「分かんないよそんなの!どうしてあなただけが―――」
「まどかさん」

声を上げるまどかに、イリヤは一度振り返り。

「心配してくれてありがとう」

静かに、しかし温かい笑みを浮かべてそう返し。
その顔を見ただけで、まどかは何も言うことができなくなっていた。



そうして去って行った二人を背にして。
イリヤは瓦礫の山を見渡す。

かつて大きな屋敷であったはずのその空間には、一人の少年の遺体があったはずだった。
しかしそれももうこの瓦礫の山の中。

ただ彼が知っていた報われぬ少女が幸福に過ごせる世界があったという、たったその事実だけで命を張って戦った。
なのに結局、墓を作ることもできなかった。

だからせめて。

「――――お兄ちゃん、これまで私を守ってくれて、ありがとう。
 …そして、――さようなら」

その死を決して忘れぬように。

イリヤは短く、お礼と別れの言葉をもって、衛宮士郎の死を受け入れた。


17 : 少女よ背けるな―moving soul ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:41:01 2Sa.PFa.0



バーサーカーがその姿を現す。

その姿は、かつては恐ろしい怪物のように思えたはずだった。
かつて戦った黒化英霊のような。

しかし今イリヤの瞳には、その姿がとても悲しいものにしか見えなかった。

たった一人、孤独に生きる少女。
生まれた時から刻まれるはずだった役割を果たした本来の、あるべき姿の少女をただ一人で守り続けた戦士。


「…あなたはずっと、”私”の傍にいてくれたんだね。
 自分の意志で、守ってくれていたんだね」

私ではない”私”を。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンを。

主従の繋がり以上の想いをもって。

「―――だから」

だから。
その想いをこんな、殺し合いの道具のようにされていいはずはない。
その戦う意志が、悲しみに利用されてはいけない。

例えその少女と自分が全く違う存在だとしても。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとして、その想いは受け止めねばならない。
受け止めて、戦わなければいけない。

もう、逃げない。
衛宮士郎から守られた事実からも。
そして、彼が守ったその想いからも。


「あなたは私がここで止める!
 あなたの想いを、別の悲しみに変えさせないために!」

シロナの死に泣く鹿目まどかのような悲しみを生み出さないために。

「私が、今ここであなたを倒す!」
「■■■■■■■■■■■!!!」

イリヤの叫びに応えるかのようにバーサーカーは咆哮し、イリヤ目掛けて駈け出し。

その巨体から真っ直ぐ瞳を反らすことなく見据えて。

「夢幻召喚(インストール)!!」

一枚のカードを取り出し、ステッキへとかざした。


18 : 少女よ背けるな―moving soul ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:41:32 2Sa.PFa.0

閃光に包まれるイリヤの体、しかしそれに構うことなく岩剣を振り下ろすバーサーカー。
しかしそこにイリヤの姿はない。

「ルビー、魔術補助、お願い!」
『ガッテンです!』

バーサーカーが振り返る暇すらなく、その体に大量の魔力弾が降り注ぐ。
弱体化したイリヤの魔術回路ではバーサーカーにとって目眩ましにもならないはずのその砲撃。
しかしそれはバーサーカーの体に着弾する度にその身に焦げ跡を残し、その足を後ろに後退させる。

「竜牙兵、お願い!」

イリヤの叫びと共に、後退したバーサーカーの周囲に煙と共に骨で構成された兵士が権限する。
それは元来キャスター・神代を生きた魔女、メディアの用いた使い魔達。

キャスターのクラスカードを夢幻召喚した今のイリヤであれば、呼び出すことが可能な兵士達だ。

身に纏ったローブを翻して杖をかざすイリヤの指示で一斉に襲いかかるそれら多数の骸骨兵
それをバーサーカーは苦もなく振り払い、打ち砕く。
兵士達の剣はその身に届かず、突き刺した瞬間にはバーサーカーの身動ぎに発生した衝撃で吹き飛び。
巨大な獣の形を模した魔獣の骨兵の牙すらも腕の一振りで破壊される。

それでも残り、攻め込み続ける兵士達。
やがてバーサーカーは地面に剣を叩きつけた。
大英雄の怪力の衝撃で地は隆起し、周囲の兵士を巻き込んで吹き飛ぶ。

跡形もなく全滅する竜牙兵。

「白柩(ペルセフォネ)!!」

そこへすかさず、宙から魔力で編まれたエネルギー弾が飛来。
バーサーカーは瞬時に駆け、その砲撃の嵐を避け続ける。
その駆けた道のりを追うかのように地面に着弾し続ける多数の砲撃。
しかしそのうちの一発がバーサーカーの体を捉え。
その瞬間、地面に魔法陣が出現、バーサーカーの巨体を束縛する。

『イリヤさん急いで!数秒も持ちません!』
「――――――」

イリヤの口が呪文のごとき言葉を高速で紡ぐ。
意味は分からない。ただ、メディアの持っている知識が、技術がその呪文を紡がせる。

「神言魔術式・灰の花嫁(ヘカティック・グライアー)!!!!」

バーサーカーが拘束を打ち破ると同時、広げたローブの内部、そしてイリヤの周囲に展開した大量の魔法陣が一斉に魔力弾を射出する。

一撃一撃が高い魔力を持つ、攻撃に特化した魔力弾が無数にバーサーカーに振りかかる。
それはバーサーカーの宝具をも突き抜けるほどの威力。
しかし、その屈強な体を打ち崩すにはまだ足りなかった。

「――――■■■■■■■■!!」

故に、砲撃の雨の中を、一直線にイリヤへと向かい跳び上がる。
体が焼かれようとも引かず。
その集中放火にも決して臆さず。
手に持った剣を、力任せに一刀に振り下ろす。

「っ!盾(マルゴス)!」

咄嗟に鏡のような盾を正面に展開。
受け止めた一撃は一瞬拮抗し。
押し出されたと思った瞬間、盾は砕け衝撃がイリヤの体を地に叩きつける。


19 : 少女よ背けるな―moving soul ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:43:23 2Sa.PFa.0
「ぐっ…!」
『イリヤさん!』

叩きつけられ痛みに呻くイリヤ。
バーサーカーはそんなイリヤに向けてすかさず駈け出し、容赦なく剣を振り下ろし。
しかしその姿はイリヤが杖をかざしたその瞬間掻き消える。

バーサーカーの後ろに10メートルの距離をおいて空間転移したイリヤ。
そしてその瞬間、イリヤのいたはずの場所に魔法陣が輝き、魔力の鎖が顕現。

狂戦士の巨体を幾重にも重ねて縛り上げる。

だが、それも持って数秒。

『キャスターのカードでは、バーサーカー相手は無理です!』

ルビーの声が木霊する。

キャスターのカードでは届かない。
アサシンのカードはまだ再使用まで時間がかかる。
ましてや現状の魔法少女形態で一騎打ちなど無謀といえる。

だから、イリヤは残りのカードをその手に取る。

「力を貸して、クロ―――」

今のイリヤにとっての最後の切り札。
その身に宿すは弓の英霊。

「上書き、夢幻召喚(オーバーライト・インストール)!」

地に現れる魔法陣の中心、溢れる魔力の輝きの中で、イリヤはそのカードを身に宿す。
かつてとは違う、金色ではなく赤い瞳のまま、自分の意志でその英霊の力を。

吹きすさぶ魔力嵐の中、赤い外套がはためく。

「――――■■■■■■■■■■■!!」
「―――――!」

そしてバーサーカーが鎖を引きちぎりこちらへと振り向いた瞬間、イリヤは一つの武器をその手に投影する。

「投影、開始(トレース・オン)」

その手に宿った一本の剣。
それは竜殺しの逸話を持つ魔剣でも。
神々の手で作られた聖剣でもない。

ただ一本の、巨大なだけの岩の剣。

バーサーカーが持つ武器と同じ、特殊な力など持たぬ一本の大剣。

だが、それがただの岩の剣だとしても。
そこに1つの技術を注ぎ込めば、神秘の域に達した最強の一撃を放つことができる。

それは先にミュウツーの命を奪った、バーサーカーのそれと同じ最強の斬撃。

『私が最大限サポートします、やっちゃってくださいイリヤさん!』


20 : 少女よ背けるな―moving soul ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:44:04 2Sa.PFa.0

本来ならイリヤでは構えることすらできないだろう、自身の慎重にも匹敵する巨大なそれを。
目の前にいる狂戦士の怪力ごと投影(トレース)し、両手で構え上げる。

「―――――――投影、装填(トリガー・オフ)」

そして投影するのは怪力だけではない。
持ち主の持つ技術を、経験をその腕が読み込む。

そう、これはかつて目の前でお兄ちゃんが、衛宮士郎が行ったそれと同じ―――


「■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

異変に気付いたバーサーカーが振り返る。
構えるイリヤの先。
10メートル。バーサーカーなら詰めるのに1秒とかからないだろう。

「全工程投影完了(セット)」

しかし、その攻撃が届くより前にイリヤの攻撃態勢が整う。


故に地を蹴り、バーサーカー向けて駆け出し。

(届か、ない―――――)

だが、間合いに届くより先にその剣が振り下ろされるのが早い。
もし衛宮士郎であれば届いたはずの一撃も、イリヤの矮躯ではあと一歩届かない。

イリヤの剣が届く頃には、この体は剣に押し潰される――――

はずだった。
もし、バーサーカーの剣が万全の状態であったならば。

バーサーカーの手にある巨大な岩剣。
元あったはずのそれは、今は刃渡りを半分までに落としていた。

かつてクロエ・フォン・アインツベルンとガブリアスの放った一撃を受け止めた時に折れた大剣は。
イリヤに届くには僅かに足りず、10センチほど前を通り過ぎていった。

だがバーサーカーの筋力はそれでも膨大な衝撃を生み出す。
イリヤの体を掠めた風が、電柱で殴られたかのような衝撃をその体に与える。

「――――――!」

体に襲いかかる痛み。
しかしそれに歯を食い縛って耐え、一歩踏み込み。

「はああああああああ!!!!」

大きく振りかぶり隙だらけとなったバーサーカーの体に、その一撃を放つ―――


「―――――射殺す百頭(ナインライブズ)!!!」


目にも留まらぬ速度で放たれた9つの斬撃。
それは彼の持つ宝具の加護をも突き抜け、正確にその体を切り刻み。

そして最後の一撃を胸に叩き込んだ。


21 : 少女は想い出の中で―追想のローレライ ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:46:24 2Sa.PFa.0
沈黙したバーサーカーは動くことはない。
全身をズタズタに切り裂かれ、その胸には確かな致命傷があった。

バーサーカーの残りの命は既に尽きていた。
もし彼にあと1つ2つの命があったとしても、その一撃に耐えることはできなかっただろう。

それは他でもない、自身の宝具なのだから。

「…はぁ……はぁ……」

息をつくイリヤの体からアーチャーのカードが飛び出し、体は魔法少女の姿へと戻る。
ルビーの補助があったとはいえ夢幻召喚、投影、宝具の真名の擬似的な開放を連続して行ったことはイリヤの体に負荷をかけていた。

(…今の技は、お兄ちゃんが使ったものと同じ……)

イリヤの脳裏に浮かぶ、黄金の剣を構えて詠唱する兄の姿。
そして先に自分が使ったあの一撃。

しかしまだそれに意識を割く時間ではなかった。

「…バーサーカーは……」
『体が再生する様子はありません。これで最後でしょう』
「そっか…」

犠牲は少なくはなかった.
しかしおそらくはこの殺し合いでも上位に属するだろう強敵を打ち倒した。
だというのに、達成感はない。
ただただ悲しかった。

「バーサーカーも、ただ守りたかっただけだったんだよね。
 どうして、こんな風に戦わなきゃいけなかったんだろう……?」
『イリヤさん…』
「……っ、うっ…!」
『イリヤさん?!』

その時イリヤの胸から腹にかけて、鈍い痛みが走った。

バーサーカーの外した一撃によって発生した衝撃。
それを受け止めたイリヤの体は、決して少なくないダメージを負っていた。

『すぐに魔力を治癒に回します!』
「だ、大丈夫だから、これくらい、さっきのに比べれば――――」


22 : 少女は想い出の中で―追想のローレライ ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:48:59 2Sa.PFa.0

と、よろける体を起こしたその瞬間。

ガラッ

「…!」

イリヤの近くにあった、ほぼ瓦礫と化しながらもまだ家屋としての面影を見せる程度には残っていた柱と壁。
それに亀裂が走り、崩れ落ちた。
振り向いたイリヤへと向けて。

転身しているとはいえ、治癒に魔力を回しているため物理防御は間に合わない。
反応が遅れたせいで、避けることも間に合わない。

「きゃああっ!」

崩れ落ちる瓦礫が、イリヤへと向けて降り注ぐ。
思わず瞳を閉じるイリヤ。

しかし、

「……?」

いつまで経っても瓦礫が体に当たることはなかった。
ゆっくりと開いたイリヤの目に入ってきたのは、巨大な影が瓦礫の降ってくるはずの方を覆っている光景。

「バーサーカー…?」

生きていることが不思議に思えるほどに体を切り刻まれ、胸には致命傷を負った状態で。
バーサーカーの腕が、崩れた壁の前に立ち、イリヤに瓦礫が降り注ぐのを防いでいた。

「あなた…どうして……」

理性のないはずのその瞳なのに、そこには戦うことではない確かな意志が見えるような気がして。
思わずそう問いかけようとしたイリヤ。

その続きを口にしようとしたイリヤの体を、バーサーカーはその手で持ち上げた。

「え、うわっ!?」

既にイリヤを握りつぶすような握力も持たぬその腕。
まるで花でも扱うかのように、巨大な手でその体を抱え。

静かに、敷地の外、Lとまどかの向かった方角に通じる場所へと押し出した。

「わっ…」

バランスを崩さないように歩いて勢いを殺しながらも立ち止まって振り返る。

跪いたバーサーカーはその場から微動だにしない。

「待って!私、まだあなたに―――」
『イリヤさん』

駆け戻ろうとするイリヤを、ルビーが嗜める。
魔力に分解され、消滅しつつあるバーサーカー。
その、こちらを見つめる瞳は。

静かに行けと告げていた。

「………っ」

それに気付いた時、駆け出しそうになった自分の足を止め。
体の向きを半回転させる。

バーサーカーに背を向け、しかししっかりと前を見据えて。

その背後から、バーサーカー・ヘラクレスの存在が消え去っても、決して振り返ることなく、イリヤは走り続けた。





23 : 少女は想い出の中で―追想のローレライ ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:49:37 2Sa.PFa.0

未練はあった。
私が守ると誓ったはずの少女を、最後まで守り切ることができなかったのだから。

しかしその未練も仕方のないものだろう。
泥に呑まれ、自身を見失い。
ただ戦うだけの存在に成り下がった私には、志を貫くことができなかっただけ。
それだけのことなのだから。

もしも望むことが叶うならば、主であるあの少女を託したかった。
あるいは、最後に一目でいいからその姿を焼き付けたかった。

だが、もういい。

例え彼女でなくとも。
ただ存在が同じであるだけの少女だとしても。

この狂気に囚われた身を止めたのが、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンであることには変わりないのだから。

あの吹雪の中で、弱々しく私を呼ぶあの少女が。
自身の力をもって、この身を打ち破ったのだ。
私という、大きな試練を乗り越えたのだ。

例えそれが自分の知る彼女でないとしても、だ。

ああ。本当に――――――



「強くなられた」

聞こえたかどうかも分からない、独り言のような勝算の言葉を言語として口にしたのを最後に。
大英雄の存在は掻き消えた。

その場に突き立った折れた斧剣を、まるで墓標のように残して。

【バーサーカー@Fate/stay night 死亡】



「間桐邸にて襲撃を受けました。
 これより私達は拠点を遊園地へと移動します」

ほぼ一方通行に近いトランシーバーにそう呼びかけるL。
怪我人である鹿目まどかを支えた状態で、歩みは決して速くはない。

しかし、先に響いた一度の轟音を最後に間桐邸から戦闘音が聞こえることはなくなっていた。
もしバーサーカーが勝っていたら聞こえるはずの足音すらも届きはしない。

「イリヤちゃん、大丈夫なの…?」
「今は信じるしかありません」

今だ不安そうな表情が解けぬまどか。
だか今自分達にできるのはそれしかない。

位置的に言って病院と遊園地は近い場所にある。
もしそちらに向かったセイバーや美遊、結花と合流することができれば一安心できる。

無論、病院で何の戦闘も起こっていなければ、の話だが。


と、その時コンクリートの地面を蹴る足音が耳に届く。
バーサーカーのものではない。もっと小さな子供の足音だ。


24 : 少女は想い出の中で―追想のローレライ ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:50:18 2Sa.PFa.0

「Lさん!まどかさん!」

追い付いてきたのは、確かにイリヤスフィール・フォン・アインツベルンだった。
激しい戦闘をしたことを示す傷や汚れは至るところについており、血痕もちらほらと見える。
しかし、彼女は生きて戻ってきた。

その事実に胸を撫で下ろすL。

「バーサーカーはどうなりました?」
「……、倒しました」
「そうですか」

問いかけに対して帰って来たのは想定通りに返答。
若干の沈黙があったことが気になったが、きっとこちらが気にしていいことではないだろう。

「…ねえ、イリヤちゃん?」
「何ですか?」
「………ううん、何でもない」

何となくだが、まどかにはその時のイリヤの雰囲気が別れる前とはどことなく変わっているような気がした。
ちょっと落ち着いた、しかしどことなく悲しみを背負ったかのような、そんな印象を。

『おや?』
「どうかしましたか?」
『ちょっとどこかから妙な電波が届いてるみたいですね。
 有害なものというわけではないみたいですし、受信してみましょうか?』
「気になりますね。お願いします」


空を見上げながらイリヤは思う。
絶対に、生きて帰ろう、と。

お兄ちゃんやバーサーカーのことを。
死んでいった皆のことを、その想いを全て背負って。

美遊も、巧さんも、Lさんも、まどかさんも、さやかさんも、セイバーも。
そしてまだ見ぬ兄の恋人、間桐桜さんとも、皆で。

(私、もう逃げないから。何があっても進み続けるから)

夕方に差し掛かる時間、日も傾きつつある空の下で。
イリヤはそう確かに決意した。


【D-4/市街地北部/一日目 夕方】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大)、腹部、胸部にダメージ(中・回復中)
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター)@プリズマ☆イリヤ(使用制限中)、クラスカード(アサシン)@プリズマ☆イリヤ(使用制限中)、クラスカード(アーチャー)@プリズマ☆イリヤ(使用制限中)、破戒すべき全ての符(投影)
[思考・状況]
基本:美遊や皆と共に絶対に帰る
1:もう逃げない。皆で帰れるように全力を尽くす
2:美遊が心配
3:Lさんやまどかさん達と共にみんなを待つ
4:間桐桜…、お兄ちゃんの恋人…
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
※ルビーは、衛宮士郎とアーチャーの英霊は同一存在である可能性があると推測しています。
※ミュウツーのテレパシーを通して、バーサーカーの記憶からFate/stay night本編の自分のことを知識として知りました
※ルビーがさくらTVビルからの電波を受信しました


25 : 少女は想い出の中で―追想のローレライ ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:50:31 2Sa.PFa.0

【L@デスノート(映画)】
[状態]:右の掌の表面が灰化、疲労(中)
[装備]:ワルサーP38(5/8)@現実、
[道具]:基本支給品、クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ、ブローニングハイパワー(13/13)、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、
シャルロッテ印のお菓子詰め合わせ袋、お菓子数点(きのこの山他)、トランシーバー(残り電力一回分)@現実
[思考・状況]
基本:この事件を止めるべく、アカギを逮捕する
1:拠点移動のために遊園地に向かう
2:月がどんな状態であろうが組む。一時休戦
3:魔女の口付けについて、知っている人物を探す。候補は暁美ほむら、美国織莉子。
4:3or4回目の放送時、病院または遊園地で草加たちと合流する
[備考]
※参戦時期は、後編の月死亡直後からです。
※北崎のフルネームを知りました。
※北崎から村上、木場、巧の名前を聞きました。
※メロからこれまでの経緯、そしてDEATH NOTE(漫画)世界の情報を得ました。しかしニア、メロがLの後継者であることは聞かされていません
※Fate/stay night世界における魔術、様々な概念について、大まかに把握しました。しかし詳細までは理解しきれていないかもしれません。


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み、安定、しかし激しい動きは開く危険有り)、精神的な疲弊
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
0:シロナさん…
1:私は……
[備考]
※最終ループ時間軸における、杏子自爆〜ワルプルギスの夜出現の間からの参戦
※自分の知り合いが違う人物である可能性を聞きました
※美遊と情報交換をし、バトルロワイヤル開始からこれまでの出来事と遭遇者、「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」の世界の情報を得ました。(後者は難しい話はおそらく理解できていません)
しかし長田結花がオルフェノクであることは知らされていないため、美遊の探す人物が草加の戦ってる(であろう)オルフェノクであることには気付いていません。





狂戦士は散り、1つの戦いが終わりを告げた。
しかしこの殺し合いは終わらない。
そこに潜む悪意もまたしかり。

ヘラクレスはその生を終え、この世から姿を消した。
しかし、本来サーヴァントは聖杯の奇跡によって召喚され、消滅する際にはその魔力を聖杯に返すことで世界から消え去る。

その法則は、この場においても変わらなかった。

それが意図的なのか、それとも仕組まれたものなのかは分からない。

ただ1つ言えることは。

その変わらなかった法則故に。
バーサーカーの死を以って、聖杯に魔力が注ぎ込まれた、という事実。

そう、この場において唯一聖杯戦争を担う願望機としての機能を持つ者に。
悪意に染まりし聖杯を宿した、生ける聖杯の中に。

魔力を失い小康状態にあるはずの少女、間桐桜の中に。



※現在の時間はさくらTVビルにて夜神総一郎達が放送を始めた辺りです。


26 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/15(木) 22:51:31 2Sa.PFa.0
投下終了です


27 : 名無しさん :2015/01/15(木) 23:06:54 BWgw1iaw0
移転および投下乙です
シロナにミューツー、そしてバーサーカーはここまでですか
しかしながら、残りたった一つの命でここまでの暴威を振るうのはさすが大英雄の一言ですね
それをイリヤが兄と同じ一撃で倒すのも、何か運命的なものがあります
そしてバーサーカーの思いはミューツーを通じてイリヤに受け継がれましたが、果たしてシロナの思いはまどかにどのような影響を及ぼすのでしょうか


とりあえず今気になったのは二点
イリヤのナインライブズが士郎と同じものなら、『是・射殺す百頭(ナインライブズ・ブレイドワークス)』となるのでは?
というのと、
バゼットが考察していた、サーヴァントはクラスカードを核にしているのでは?
という点です
後者に関しましては、カードは核されていなかった、という事でよろしいのでしょうか


28 : 名無しさん :2015/01/16(金) 02:14:34 S0oiPXhM0
投下乙です
バーサーカーは遂に脱落か、ミュウツーもイリヤも良く頑張ったな
まどかはシロナの死とイリヤの姿にどう影響を受けるのだろう…
桜の暴走も近付いてるがこれからどうなるんだ……


29 : 名無しさん :2015/01/16(金) 14:06:15 9iAKwADU0
投下乙です
ミュウツーもイリヤも、バーサーカーも、みんな輝いていたな
自分の運命に決着をつけたイリヤが格好良すぎる…!


30 : 名無しさん :2015/01/16(金) 15:56:21 DtLZk7hw0
投下乙です


31 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/01/18(日) 01:16:09 2JQ5cJww0
>>27
前の指摘に関しては、イリヤは一度射殺す百頭の発動を見ているのでそれに合わせた、というつもりだったのですがちょっとその辺が説明不足だったようでした
後の指摘に関しては、バーサーカーはSN出典なのでクラスカードを核にしている必要はないか、と思いこのように書きました
前者はwiki収録の際少々加筆したものに修正しておきます


32 : 名無しさん :2015/01/18(日) 08:28:29 hDthY9Mo0
了解しました
となると、支給禁止とされているセイバーとバーサーカーのクラスカードはどこにあるんだろう……


33 : 名無しさん :2015/01/30(金) 23:37:32 4OBFI/kU0
乙です。


34 : 名無しさん :2015/02/28(土) 22:00:42 wJkjTUUg0
投下乙
まさにヘラクレスの死亡話
たった一人の大切な少女のために戦う彼と自らを重ね、自らも取り戻したミュウツーの死から始まる怒涛のFate。
冬の森からアチャ腕士郎、そしてセイバールートから全てのヘラクレスの最後を束ね、更に自身のサーヴァントとの戦いということでオルタ戦までかぶせるとは。
お見事でした。最高にかっこいいヘラクレスが見れて嬉しかった。


35 : 名無しさん :2015/03/02(月) 01:03:42 CSfC.qHc0
一ヶ月ぶりの予約か


36 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:07:35 9ZCz/Ibo0
投下します
前半は本投下ですが後半は仮投下の方に投下させてもらいます


37 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:10:02 9ZCz/Ibo0
炎が草原を真っ赤に染め上げる中、銃声と粉砕音が響き渡る。

その中心にいるのは巨大な二脚の戦車のような乗り物、そこに乗っているのは長い黒髪の少女。暁美ほむら。
そしてその周辺を走るのは白いドレスのような衣装を纏った少女・美国織莉子、そして紫色の怪獣・ニドキング。

二脚の戦車・サイドバッシャーの右腕がバルカン砲を放つもそれは対象にはなかなか当たることはない。
織莉子は銃の射線から逸れるかのように動き、牽制するように宙に浮く水晶をほむらに向けて放つ。
操縦席に座るほむらへと放ったそれは一直線に彼女の元に向かい飛翔。
しかしいくら速くとも直線故に軌道を読むのは容易い。
サイドバッシャーを動かし回避、水晶はほむらのいる場所の遥か横を通り過ぎる。

そのまま左腕部のミサイルを構え射出態勢に入り。
が、その時避けられた水晶はほむらの背後で軌道を変えてその後ろから強襲するかのようにと飛びかかる。

勢いよく飛びかかるそれの存在に気付くことができるはずもない。
それが織莉子の思惑。

しかしその瞬間、サイドバッシャーに騎乗したほむらが機関銃を構えて背後へと振り返った。
サイドバッシャーがミサイルを噴くと同時、立ち上がった状態のほむらが背後の水晶を撃ち落とす。

地から吹き上がる炎と水晶の爆発が轟くのはほぼ同時。

避けられたことに動揺することもなく再度水晶を向ける織莉子。
しかしサイドバッシャーは既に宙へと飛び上がり、その頭上から両腕部を振り下ろすかのように地面に叩きつけた。
水晶射出を断念した織莉子はその場を飛び退り回避。空振った一撃は地面を抉りクレーターを作る。

反撃に転じようと再度水晶の動きを念じ。
その時織莉子の脳裏に一つの未来が見えた。

サイドバッシャーから目を外し、視界の外、自分の2メートルほど横に逸れた場所を水晶で狙い撃つ。
その攻撃自体は空振りに終わり、代わりに目の前に拳銃を構えたほむらが現れる。

織莉子は頭に突き付けられた拳銃に対抗するかのようにほむらの頭上数十センチの辺りに水晶を構える。
互いに武器を構えたまま睨み合うほむらと織莉子。

3秒ほど動きのない時間が続いた後、その静寂は横から飛びかかった紫の影によって破られた。
ニドキングの影を纏った爪がほむらへと襲いかかる。
咄嗟に腕を構えてその一撃を受け止めるほむら。
殺しきれなかった衝撃で後ろに下がりつつも、拳銃を放って牽制、追撃を防ぐ。


38 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:11:25 9ZCz/Ibo0

地に手を付きつつも態勢を立て直したほむらは、忌々しそうにニドキングへと目を向ける。

「…なるほど、私と既に戦っているというのは嘘ではないようね」

一方で織莉子も自身のソウルジェムを見ながら呟く。
そうでなければ未来視や水晶の動きを意識しているかのように動くことはできないだろう。

「ええ、さっきからそう言ってるわ」
「不思議ね。あなたには一度会ってみたいとは思っていたけど。
 私はあなたのことをほとんど知らないのに、あなたは私のことと知っている」
「………」
「ググググググ…」

殺意をむき出しにするニドキングを制しながら、織莉子はほむらに問いかける。

「鹿目まどかの守護者、暁美ほむら。
 あなたはそうやってたくさんの世界を巡って、多くの鹿目まどかの屍を見てきたのでしょうね」

その織莉子の目には、ほむらを憐れむかのような色が混じっている。

「あなたは何度繰り返したの?
 あと何度繰り返すの?
 あなたが歩いた昏い道に、望んだものに似た景色はあった?」

問いかけられたほむらの脳裏に過ぎる光景。
多くのまどかを救えなかった風景。

先にマオに見せられたあの幻覚。
それこそがきっと最も望んでいたものなのかもしれない。

ギリ、と歯を食いしばるほむら。
その様子に気付いた織莉子は隙をつくかのようにほむらの背後に落ちていた水晶を動かし。

「違う道に逃げ続けるあなたに、自ら陽を灯す私が負けるわけにはいかない――――」

それをその背に打ち付けんと放つ。

が、それがほむらに命中することはなかった。
ほむらの姿が掻き消えたと思った途端、横から大口径のバルカン砲が織莉子に向けて放たれていた。
ニドキングを押し出しながら避けようと走るが、避けきれなかった数発が織莉子の体を掠める。

「―――――っう!!」
「そうね。私の望む景色はどこにもなかった。いいえ、きっとあの景色にはもう永遠にたどり着くことはできないのでしょうね。
 だとしても私は、ただまどかのためだけに戦っている。そこに私の望む景色がなかったとしても。
 それに何より――――――」

と、サイドバッシャーの両腕のミサイルを、そしてバルカン砲を、さらに操縦席で機関銃をも構えるほむら。

「あなたが陽を灯す?私を憐れむ?
 まどかの命を奪ったあなたに、そんな資格なんてない!!!」

言うと同時、時間を停止させ一斉に砲門を解放。
ミサイルが、バルカン砲が、そして機関銃が爆音と共に弾薬をぶち撒ける。
しかし時間停止空間において放たれた弾丸は目標に着弾する前に静止。


39 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:13:14 9ZCz/Ibo0
着弾一秒前とでもいう辺りで時間停止が解除される。
突如目の前に現れたミサイルに反応することも叶わぬまま。
しかしほむらは既に爆風の届かない辺りまで離脱。
そしてそれは爆発し、さらに追うようにミサイルや大口径の弾丸が、エネルギー弾が着弾し。
トドメを刺すかのように、多数のミサイルが一斉に爆発した。


吹きすさぶ爆風。
熱や土埃が宙を舞う。

「………」

その光景をサイドバッシャーの上でじっと見つめていたほむら。
しかしミサイルの爆発する様子を見て。

「……ちっ」

思わず舌打ちする。

爆風の晴れた先には地面に散らばる大量の砕けた石。
それは今、同時に着弾するはずだったミサイルを空中にて迎撃した何かであることはすぐに分かった。

「グルルルルルル」

ドレスは黒焦げになり、避けきれなかった銃弾が当たったのだろう、血の流れる肩や頭を抑える織莉子。
その横に直立したニドキングが周囲に少数の岩を浮遊させながら唸っている。

今の一撃、最初のミサイルはおそらく魔力を防御に回すことで対処したのだろう。
そこから追撃をかけるように降り注いだ5発は直撃を避ける程度には回避したのだろう。
機関銃やバルカン砲は魔力や水晶で逸らしたのだろう。

そして、トドメのはずのミサイル群は、ニドキングのステルスロックにより迎撃された。

「…はぁ……はぁ……」

しかし織莉子のダメージもまた少なくはない。
防ぎきれなかった爆風、そして避けきれなかった銃弾は確実に彼女の体を焼き、貫き、その身の魔力も削り取っていた。

「運がよかったわね、便利なペットを連れていて」
「…はぁ、…彼は、あなたが殺した人の相棒よ」
「そう」

責めるような口調で告げる織莉子に、ほむらは静かにそう返答する。
そこに特に感情を込めるようなこともなく。

「ええ、確かに私が光を照らすことはできないのかもしれない。世界のために少数とはいえ人の命を奪い、奪うつもりの私には。
 だけど、あなたはどうなの?鹿目まどかを守ることでただ悪戯に多くの世界を滅ぼしてきただけじゃないの?そうやって切り捨ててきただけじゃないの?
 このニドキングの主、サカキさんのように」
「私はあなたとは違うわ。世界を救うために戦うつもりも、そのための犠牲の責任を他のものに擦り付けるつもりもない。
 全ての罪は私が背負ってる。その上で、まどか一人救うことができない世界なんて滅んでしまえばいい」


40 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:14:08 9ZCz/Ibo0
そして鋭く織莉子を睨みつけてそう断言するほむら。
その言葉を聞き、織莉子は一つの意志をはっきりと決める。


「そう。なら―――――」
「だから―――――」
「私は」
「あなたの存在を」
「認めない」
「許さない」

その瞬間、美国織莉子の暁美ほむらに対する敵意が、はっきりと明確に殺意へと変異した。
こいつとは分かり合えないと。何があったも殺さねばならない相手であると。

サイドバッシャーが前進しニドキングの体へとぶつかりあう。
振り下ろされた両腕をガシッと受け止めるニドキング。
しかしそのサイドバッシャーの上にはほむらはいない。

サイドバッシャーの操作を魔法に任せてニドキングを取り押さえたのだ。
織莉子にトドメを刺す際に邪魔とならないように。

咄嗟にほむらの姿が掻き消え、目の前で爆発音と共に何かが弾ける。
そんな未来が見えた瞬間、織莉子は全面に水晶を防壁のように並べる。

そして予知通りに彼女の姿は消え、眼前に何かが現れ。

――――――パァン

爆発。
熱を、鉛の破片を警戒していた織莉子。
しかし自身に降りかかったのは水しぶきのみ。

「―――!」

織莉子の目の前に現れたのはドライアイスが入っただけのただのペットボトル。
ブラフだった、と気付いた時には横から殴りかかるような衝撃が襲いかかってきた。

よろける織莉子の体に、追撃の銃口が向けられる様子が映る。
霞む視界の中で水晶を再度繰り直してほむらの手にぶつけ銃口をそらす。

「…っ」

距離をとるように地を蹴りながら、ほむらの頭上から高速で水晶を振り下ろし。
しかしほむらはそれを前に進むことで回避。

そんなほむらに向けて残った数発の水晶を放ち。
しかし機関銃の掃射で全てが爆散する。

爆風で生じた魔力の煙を切るように、織莉子の眼前に突き付けられる拳銃。
反射的に顔を逸らしたものの、頬をかすめた衝撃で血が垂れ流れる。

「ぐ、ぁっ…」

だがそこまでが限界だった。
蓄積された疲労とダメージ、そして元々の織莉子の身体的能力の対処可能域を既に超えていた。

地面に倒れこんだ織莉子に向けられた、黒い銃身。

「終わりよ」

意識を水晶に向けるが銃弾の方が早いだろう。


41 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:15:32 9ZCz/Ibo0

が、ほむらの銃口が火を噴くことはなかった。
引いた引き金はカチリ、という音をたてるのみ。

(…弾切れ……。間が悪いわ)

弾切れになったグロッグを捨て、ニューナンブを取り出し織莉子に再度向けるほむら。

しかし次の瞬間、ほむらの意識外から殴り飛ばされるような衝撃が走る。
体に打ち付けられる、紫の影を纏った腕。
ニドキングのシャドークローだ。

引き金の引かれた銃はあらぬ方向に飛んでいく。
さらにそこで織莉子が僅かにできた隙の間に繰っていた水晶が迫る。

思わぬ反撃に咄嗟に手をかざしてその一撃を防ぐほむら。
倒れそうになる体をどうにか支え、ニドキングにけしかけていたサイドバッシャーに目をやる。

そこにあったのは関節のあちこちに岩の破片を挟ませ、ギチギチと音を立てながら動きあぐねている2脚の戦車の姿。
さらに手元の拳銃に目をやると、今宝石を防いだ衝撃で銃身が歪んでしまっている。

「くっ」

織莉子に向けて機関銃を発射するもその行動は予測済みかのように回避。
3秒ほど続いた発砲音の後で、カチ、カチという音を立てて弾の撃ち出しが止まる。

「こっちも…!こんな時に…!」

忌々しそうに織莉子と、その傍にいるニドキングに目をやる。

そもそも今のニドキングの攻撃がなければ武器の一つを損失することも織莉子を仕留め損ねることもなかった。
ここにきてほむらはニドキングを織莉子を抹殺する上での障害として認めた。

「なら」

と、ほむらはサイドバッシャーへと飛び乗った。
一瞬魔力が機体の全身を包んだと同時、全身の関節に挟まったステルスロックが砕け散る。

元の万全の状態を取り戻したバッシャー。
その上でほむらは一つのボールを取り出す。

「こいつを使わせてもらおうかしら」

開かれたボールから出てきた、ニドキングよりも一回り大きい灰色の巨体。
ほむらが持っていたポケモン、サイドンだった。

「目には目を、と言ったところかしらね」

ポケモンの相手はポケモンに任せればいい。
織莉子を殺すまでの時間稼ぎはしてくれるだろう。

そう考えていたほむらの目に入ってきたのは、小さく嘲笑を浮かべた織莉子の姿。

「……?何がおかしい――――」

その笑みの意味を問いかけようとしたその時だった。

彼女の頭上を謎の黒い影が覆ったのは。


42 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:16:28 9ZCz/Ibo0






ほむらの戦い方、戦略そのものには理屈の上では何の問題もなかった。
ニドキングを放置すればまたステルスロックで攻撃を妨害される可能性は大きいのだから、それを別の存在で足止めする考えは悪くない。

問題があったとすれば。

彼女の連れていたポケモン、サイドンの本来のトレーナーがサカキであったこと。
そして、サイドンの目の前で殺したこと。
その事実を知らずに、ポケモンに指示を出さずに織莉子に気を取られ指示を送ることを遅らせてしまったこと。

サイドンははっきりと見ていた。
その目の前で己のトレーナーの姿が消し飛んでいく光景を。
そして、それを成したほむらに対する怒りも決して忘れてはいなかった。

それらの事実は知らなかったことではある。
しかし織莉子は未来視ではっきり見ていた。サイドンに反逆されるほむらの姿を。
それ故の笑み。

そんな織莉子の目の前で、無防備なほむらの頭上から突如顕現した岩雪崩が降り注いだ。



「なっ――――――!」

機動性と火力を備えたサイドバッシャーの弱点。
それは搭乗者本人の姿は無防備になるということ。

2メートルを超える巨体を上から攻める相手、すなわち機動性を備え飛行可能な者には自力での対処を求められてしまう。
そんなサイドバッシャー、そしてほむらの頭上から降り注ぐ岩雪崩。

咄嗟に時間を止めてサイドバッシャーから飛び降りる。

動揺から時間停止期間はそう取ることができぬまま着地し。

そんな彼女に織莉子の放った水晶が飛来するのと、降り注ぐ岩がサイドバッシャーの左腕部から操縦席にかけてを押しつぶすのはほぼ同時であった。

「かはっ……!」

胸部を、腹部を打ち据える衝撃でせり上がる血を吐きつつも、しかし遠隔操作でサイドバッシャーを動かしバルカン砲を構えさせる。
かろうじて残った右腕部のフォトンバルカンを放とうとした、その瞬間。

織莉子の傍に立っていたニドキングが、咆哮と同時に飛び上がった。
その腕を濃厚な闇色に染めた状態で。

「グルァァァァァァァァ!!!!!!!!」


43 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:17:21 9ZCz/Ibo0


主を殺された武器に対する怒りをぶつけるかのように、それを力いっぱい、バルカン砲を発射せんと構えた右腕部へと叩きつけ。

「…ニドキング!!」

織莉子がニドキングの名を呼ぶと同時、発射直前段階であった腕部は爆発。
漏れだした爆風は、熱はサイドバッシャーを包み込み、そして一撃を加えたニドキングをも巻き込んだ。

「……っ!」

織莉子は爆風の中で消え去るニドキングに息を呑みつつも。
サイドバッシャーをも破壊され大きく動揺するほむらへと向く。

「…これがあなたの戦い方の結果よ。
 呪いを、悪を背負ったあなたは、その罪自身に敗れ去るのよ」
「っ!美国織莉子…っ!!あなたは―――!!」

背後から角を突き出し突撃をかけてきたサイドンの一撃を時間を止めて避けたほむらは。
そのまま織莉子の真横に姿を現し、もはや弾を放たぬ鉄塊と化した機関銃を振り上げ。

「そして、その闇すらも私の光で照らしてあげるわ。暁美ほむら」


もしサイドンのことを除いてほむらに戦略上の落ち度があったとするならば。
かつてのループにおいて一度戦ったことで、美国織莉子の戦い方はほぼ把握していたつもりになっていたことだろう。
彼女の戦法は未来予知と水晶を飛ばしての攻撃。もし他に攻撃があったとしてもその応用。
だがそう考えるのも無理からぬこと。かつてほむらと戦った時の織莉子は、友を犠牲にした上での後がない状態、背水の陣での死闘だったのだ。
その状況で隠し球を持っていることなどまず考えない。

それでも現状においてもその思考に凝り固まった状態であったことは慢心といえるのかもしれない。
装備がある程度充実していた現状において、織莉子側に何か自分の知らないイレギュラーが起こっている可能性を考慮しきれていなかった。

そう、それは魔法少女としての能力とは別に、この殺し合いの中で偶然織莉子が得た力。


「――――?!」

機関銃の銃身を振り下ろそうとしたほむらの目の前で、織莉子の体が閃光する。
魔力と共に放たれるその光は、周囲に輝きをもたらしほむらの体を焼きつくさんと照射された。

それは妖精のごとき神秘性を感じさせる明るく、しかし鋭く激しい光。
魔法の輝き。

「――――――マジカルシャイン!!」

魔力の閃光は、周囲に暖かさをも感じさせる輝きを、そしてなおかつ敵対者に身を焼くほどの衝撃を与える。

その光は一瞬。
しかし至近距離でそれを受けたほむらは対処する術もなく。

全身を焼かれたように、その衣装を焦げさせ地に伏せていた。


44 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:17:49 9ZCz/Ibo0

「ぐ…、はぁ…はぁ……」

どうにか命を繋ぐことはできているが、そのソウルジェムの濁りはもはや限界に近いようにも見える。

最も、織莉子も人のことを言える状態ではなかったが。
その消耗を忘れるほどに戦いに費やした魔力は、既に限界に近付いていた。

後で考えてしまえば後悔してしまいそうだが、それほどに暁美ほむらには負けたくなかったのだ。

と、ほむらが倒れたまま手探りで自分のバッグを探すように手を動かす。
しかしそれが落ちている場所は織莉子の足元。

静かにそれを拾い上げた織莉子は、その中身を弄る。

「ニャア」

黒猫がピョコリと飛び出すも気にせずに漁り。
見つかった。

グリーフシード。
既に使用してあるせいかかなりの濁りを吸収しているが、それでも無いよりは遥かにマシだ。

さらにもう少し探ってみるも、今グリーフシード以上に有用そうなものは入ってはいない。

ポン、と。
おそらくそれを命綱にするために探しているだろうほむらに、グリーフシードだけを抜き取ったバッグを投げ渡す。

「……お前は…!」
「返すわ、欲しいんでしょ?」

睨みつけるほむらの目の前で、グリーフシードを使用。
自身のソウルジェムの濁りはかなり残っているものの、命の繋ぎにはなった。

さらに倒れたほむらに詰め寄り、腕を掴みあげその盾に手を差し込む。
そこから出てきたのは空になったモンスターボール。サイドンの入っていたものだ。

「…ありがとう。そしてサカキさんのことはごめんなさい。後は私が終わらせるから、あなたは休んでいなさい」

織莉子の後ろに控えていたサイドンはその言葉にコクリと頷いてボールに戻っていく。

あと残っているのは、この生命を繋ぐこともままならぬ状態の暁美ほむらだけ。
せめてもの慈悲だ。すぐに楽にしてやろう。

「何か言い残すことがあれば聞いてあげるわ」
「……………」
「無いのね。それじゃあ、さようなら」

と、織莉子は小さな、しかしソウルジェムを砕くには足る威力を出せるだろう水晶をその手の甲のソウルジェムへと放ち。

―――――――――バシン

しかしその意識を止め、咄嗟に背後へ振り向き庇うように手をかざす。
その瞬間、周囲に気配のなかったはずの場所から何者かの足が織莉子へと迫っていた。


45 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:19:11 9ZCz/Ibo0

不意の一撃はどうにか防いだものの、そこからさらに回し蹴りが織莉子へと降りかかり、ほむらからの距離を離される。

「ほむら、大丈夫?!」

目の前に現れた存在を見やる織莉子。
金髪をツインテールにまとめた、どこかの学校の制服を纏った少女。年齢は自分たちとそう変わらないだろう。

「…ア、リス……」
「あんたが美国織莉子ね」

ほむらを庇いながらも織莉子から視線を離さない少女、アリス。
邪魔が入ったことに内心舌打ちしつつも、未来視を僅かに発動させる。
が。

「え?」

数秒後のアリスは走りだすでもなくほむらに注意をやるでもなく。
自分の背後で銃を構えていた。

そして、その過程が見えない。

まさかほむらのような時間操作を行える者か、という可能性に至った時には既に遅く。

「無駄よ」

たった今見た未来通りに背後で銃を構えていた。
掻き消えるように見えなくなったアリスに反応するどころか目で追うことすらできぬままに。

「あなたが未来視を使えることは聞いているわ。だけど今の私ならその未来も越えられるわ」
「…なるほど、加速能力か何かということね」

キリカという、他者の速度減衰能力を持っていた存在と共に行動をしていた織莉子はすぐに察することができた。
しかもほむらと違って肉弾戦もある程度立つ様子。
今の魔力で対処できる相手ではないだろう。

一方で彼女はこちらの命を一瞬で奪える力を持っているにも関わらず生かしているところから、殺し合いに乗っているわけではないと判断する。
大方暁美ほむらに騙されでもしていたのだろう、と。

「言っておくけど私はあなたと戦う意志はないわ。あなたが殺し合いに乗っていない、というなら殺し合いに乗っていない者同士戦う理由はないでしょ?」
「なら何故ほむらを殺そうとしたのよ」
「先に仕掛けてきたのは彼女よ。おかげで私の同行者が命を落としたわ」
「……本当なのほむら?」

織莉子の返答に問いかけるアリス、しかしほむらは答えない。

確かに物事をあまり語りたがらない子だが、そういうところに口を噤むことはないはずだと、そうアリスは評していた。
織莉子の言ったことが事実でもない限りは。

「………」
「警戒しなくても背中から攻撃したりはしないわよ。引き取るっていうのならば暁美ほむらを連れて行ってくれればこちらも手を出さないわ。
 ただあなたがこっちに手を出すなら、私も相応の抵抗をさせてもらうことになるけど」

織莉子の言うことを一先ず信じることにしたアリスは、彼女に向けた銃口を下ろす。
そのまま、動けぬほむらの体に肩を貸して抱え上げ、織莉子に背を向ける。

殺気はない。
もし攻撃があったとしても殺気さえ気を配れば対応は可能、とはいえ安心できるわけではない。
何より、ほむらの状態があまりにも危険そうに見える以上、織莉子に時間を取られるわけにはいかない。


「そういえば言い忘れていたわ」


46 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:19:43 9ZCz/Ibo0

と、そんな時思い出したかのように織莉子がそんなアリスの背中に声をかける。

「暁美ほむら、助けたいというのなら早いうちにそのソウルジェムを砕いてあげることね」
「何を言ってるの?」
「私たち魔法少女はそのソウルジェムに魂を、命を収められている。だからそれを砕かれれば死に至る。
 だけどもう一つ。ソウルジェムの輝きは魔力を使えば使うほど濁っていく。私たちの命を繋ぎ止めておくだけでも魔力は消費されていくの。
 もしそれが完全に濁りきった時、そこからは極大の絶望の化身、魔女が生まれる」
「……!」
「今暁美ほむらのソウルジェムを浄化する手段はない。そして今彼女はそこにいるだけで魔力を消耗し続けている。その傷を修復するためにね。
 もし彼女を化け物ではなくヒトとして死なせてあげたいなら、ソウルジェムが濁り切る前にそれを砕いてあげなさい」

それだけを伝え、織莉子は静かに立ち去って行った。

「ほむら、今あいつが言ったことは本当?」
「………」

未だところどころに煙の燻る空間から、織莉子とは反対の方向に離れながら問いかけるアリス。

できることならば否定して欲しかった。
今言われたことは嘘だと。まだ助かる手段はある、と。

しかし。

「ええ、本当よ」

その願いは敵わなかった。



織莉子は知っている。
この場ではソウルジェムが濁りきった場合も魔女が生まれることはなく、ただソウルジェムが砕けるだけだということを。
そうして死んでいったキリカを目の前で見ていたのだ。暁美ほむらが、あるいはキリカだけが特別だった、ということはないだろう。

ならば何故あんなことを言ったのか。

深い理由があったわけではない。
ただのちょっとした意趣返しのようなものだ。

暁美ほむら。
決して相容れない、考え方において対局に位置する天敵のような存在。
その因縁を終わらせようとした時に横槍を入れてきたことにはほんの僅かではあるが苛立つものがあったから。

だが、どちらにしても暁美ほむらの死は揺るがないだろう。

あのアリスという少女がグリーフシードを持っている可能性は低い。
見たところ彼女は魔法少女とは別の存在の様子。グリーフシードを必要とはしないはずだ。ならば彼女がグリーフシードを持っていることはまずないだろう。
使えぬ石を持っているくらいならば、むしろ有意義に使えるほむらに渡しているはずだ。

無論、暁美ほむらに勝ったとは言っても、今の自分の状態も芳しいものではない。
しばらくは戦いを避け、グリーフシードの探索に専念せねばならないだろう。

放送で鹿目まどかの生存が確認されてしまえば、また話は変わってしまうが。

「………」

もし鹿目まどかの名が呼ばれたならばそれでいい。
だがもしも呼ばれなかった場合は。


47 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:20:08 9ZCz/Ibo0

その時はまた彼女を探し出し、今度こそトドメを刺す。
グリーフシードの探索と鹿目まどかの抹殺、どちらを優先すべきかも考えねばならない。
グリーフシードの探索を優先した場合は彼女がキュゥべえとの接触をする可能性が高まってしまうし。
鹿目まどかの抹殺を優先した場合はおそらくいるであろう、美遊のような彼女の守護者を魔力を温存した上で突破する術を編み出さねばならない。

「体は一つしかないのに、忙しいものね本当……」

そう思った瞬間、今の自分が一人ぼっちであることに気付いてしまった。
キリカはもういない。
連れて来られて以来ずっと共に行動していたサカキもついさっき命を落とした。

それを意識した瞬間、急に寂しさを感じ始めている自分がいた。

「少し前の私に戻っただけだというのに、ね……」

取り出した、かつて友だったものの破片を握りしめながら。

「キリカ……」

その名を呟いていた。

【D-6/草原部/一日目 夕方】

【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:ソウルジェムの穢れ(6割)、魔法少女姿、疲労(大)、ダメージ(中)、前進に火傷、肩や脇腹に傷
[装備]:グリーフシード×2(濁り:満タン)、砕けたソウルジェム(キリカ、まどかの血に染まっている)、モンスターボール(サカキのサイドンwith進化の輝石・ダメージ(大))@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、ひでんマシン3(なみのり)
[思考・状況]
基本:何としても生き残り、自分の使命を果たす。
1:グリーフシードを探す。それまでは可能な限り戦闘は避ける。
2:鹿目まどかの抹殺を優先するのはその生存が確定されるまで保留。最遅でも次の放送。
3:優先するのは自分の使命。そのために必要な手は選ばない。しかし使命を果たした後のことも考えておく
4:キリカを殺した者(セイバー)を必ず討つ。そのために必要となる力を集める。
5:ポケモン、オルフェノクに詳しい人物から詳しく情報を聞き出す。
6:積極的に殺し合いに乗るつもりはない。ただし、邪魔をする者は排除する
7:美遊・エーデルフェルトの在り方に憤り。もし次にあったら―――――?
[備考]
※参加時期は第4話終了直後。キリカの傷を治す前
※ポケモン、オルフェノクについて少し知りました。
※ポケモン城の一階と地下の入り口付近を調査しました。
※キュゥべえが協力していることはないと考えていましたが、少し懐疑的になっています。
※鹿目まどかに小さくない傷を負わせたことは確信していますがその生死までは確信できていません。
未来視を以ってしても確認できない様子です。
※マジカルシャインを習得しました。技の使用には魔力を消費します。





48 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:21:16 9ZCz/Ibo0

「………」
「もう、無理なのね?」
「ええ」

燃え盛る草原部から少し離れ森へと入ったところで、アリスはほむらの体を地面に横たえてそう問うた。

「ポッチャマ…」

アリスの脇に立つポッチャマは、そんなほむらを悲しそうな瞳で見ている。

腹部の打傷は甚大、そして全身の火傷や目では判断できない場所にもダメージがある様子。
それらは人間であれば放置すると死に至るほどのものであり。
しかし今のほむらにはそれを回復させる術がないという。
命を繋ぎ止めておくだけでも多くの魔力を消費してしまうらしい。

そして、ソウルジェムが濁りきれば、ただの化け物――魔女へと成り果てるという。

「だから、その前にこれを砕いて」

それがほむらの願いだった。

そんなほむらを静かに見つめながら、しかし諦めきれないような顔でアリスはほむらに話しかける。

「その前にいくつか聞かせて。
 まず最初に一つ。あの美国織莉子が言っていた、あんたが先に仕掛けて人を死なせたってのは本当?」
「…ええ」
「何でそんな真似したのよ…?!」

例え相手がほむらにとって許せない相手であったとしても、倒さねばならない相手だったとしても。
そこに関係のない人間を巻き込んでしまってはただの人殺しだ。
自分が気にかけた相手がそんなものになってしまうことはアリスにも許容できなかった。

「……、言い訳はしないわ。あいつを見てたら、どうしても我慢できなかったのよ」
「…分かったわよ。じゃあ次に一つ。
 あんた、まどかって子はどうするつもりなのよ。大事な友達なんでしょ?」
「まどか……」

その名を出した途端、ほむらの目に諦めとは別の色が見えたような気がした。
それが生への渇望なのか、それとも悔いなのか、あるいは別の何かなのかの判断はつかなかったが。

「そうね、私にとってのただ一人の、私の大切な友達……だったわ」
「…だった?」
「私の魔法はね、時間を越えられるの。
 私がかつて守れなかったまどかの力になれる私になりたい、そう願って魔法少女になって。
 あの時は魔法少女がどんなものかなんて知らなかった」
「………」

人でなくなり、いずれ魔女になる運命を背負い。
それでも鹿目まどかを救うために戦い、繰り返し続け、その度に鹿目まどかの死を見せられ。
己がかけた願いそのものは呪いのような希望へと形を変えて、それだけがほむらにとって生きる道標になっていたのだという。

「だからもしこの殺し合いの中で手段が得られるなら、それまで救えなかったまどか達も助けたい、なんて。そんなもの過ぎた願いだったのかもしれないわね…」
「あんた、そんなことまで……」

幾度も大切な友達の死を見ることを繰り返し続ける心境など、アリスには想像もつかなかった。
もし自分が同じことになったらどうなっただろうか。
そう仮定しても、きっとどこかで心が壊れる自分の姿しか思い浮かばなかった。

そしてその言葉で思い至る。
巴マミ、美樹さやかといったほむらと同じらしい魔法少女。
殺し合いに乗ることはないだろうと言いながらも、しかしあるいはと煮え切らないような答えを返していたあの時。

きっと、繰り返す中で仲間であるはずの彼女達のそんな一面を見せられ。
信用できる相手もいない状況で一人全てを背負って戦ってきたのだろう、と。


49 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:22:52 9ZCz/Ibo0

「だけど、それももう終わりね。私は自分の願いもまどかとの約束も果たせずに死んでいくだけの存在でしかなかった」
「なら、何でそれを私に話したのよ?」
「……さあね。聞くことはそれで最後かしら?」
「そのつもりだったけど、じゃあ最後に聞かせて」

と、ほむらと向き合い、地面におかれたソウルジェムに真っ直ぐに銃口を向ける。
真っ黒に染まったその宝石からはもう光は見えない。飽和するのも時間の問題だろう。

だから、その前に最後に聞いておきたかった。
きっと誰にも話したことのないようなことを最期に話したこの自分は。

「私は、あんたにとっての何だった?」

出会ってから一日も経っていない相手。
しかし殺し合いが始まって以来ずっと共に行動して、時には助け、時には助けられてきた相手。

気に食わないと思いつつも、自分とどことなく似た者なんじゃないかと思うこともあった。
そんな私は、ほむらから見れば何だったのだろうか、と。

「……そうね、いい、友達だったんじゃないかって思ってるわ」
「まどかって子と比べた場合は?」
「比べられると思う?」
「でしょうね」

まだ軽口を軽口で返せるくらいはできたようだった。

別に特別な付き合い方をしたわけでもない。
ただ殺し合いから抜け出すという共通の目的のためだけに手を組んだだけの関係。

だけど色んな死線を見て、その度に手を貸したり貸されたりして。
友情、というよりは信頼関係のようなものは芽生えていたのかもしれない。

だから、最期とはいえこんなことを口走ってしまったのだろうとほむらは思った。

アリスは、そんなほむらの命――ソウルジェムに向けた銃の引き金に指をかける。

「そういえば、顔を合わせたばっかりの時、あなたに向けて発砲したりもしたわね。
 あの時は、悪かったわ」
「ポチャ……」
「――――」

覚悟は決めたはずだったのに、いざこの手で命を奪うとなると躊躇いは拭い切れない。
震える手を抑えて、しっかりと狙いを定めて。

「もし違う場所で、違う形で会えてたなら、案外―――――」

指に引き金を引く。

パキン

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】




50 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:23:36 9ZCz/Ibo0

その瞬間だった。

「えっ……」

目の前に置かれたほむらのソウルジェムが砕け散ったのは。

引き金はまだ引いていない。だから弾がその宝石を打ち抜いたわけではない。
まるで、そうなることが自然であったかのようにほむらの命の宝石は音を立てて割れたのだ。

一瞬何が起こったのかという疑問がアリスの中に渦巻き。

「ほむら…?」

しかしそんな疑問はすぐに口を開くことがなくなったほむらに対する意識に塗り潰された。
ほむらが最期に口にした言葉は途中で途切れたきり紡がれることはなく。

その生命活動は、完全に停止していた。

アリスはそんなほむらの元にしゃがみ込み、半開きになった瞳を静かに閉じさせる。

「…全く」

ナナリーの時もこうだった。
手遅れになってしまったまま、最期は看取るだけで何もできず。
ただこうして無力な自分に打ちひしがれていただけ。

そして今。
仲間とは言えるくらいの仲だった者をまたこうして目の前で失った。

「どうして、みんな私より先に逝っちゃうのかしらね……」

ボソリ、と呟いた声は。
ほむらの亡骸を悲しそうな瞳で見つめるポッチャマには届くことなく。
ただ宙に静かに消えていった。

【D-6/一日目 夕方】

【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、ネモと一体化、喪失感
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(9+1発)@現実、ポッチャマ@ポケットモンスター 、黒猫@???
[道具]:共通支給品一式、
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。
1:ナナリーの騎士としてあり続ける
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:脱出のための協力者が得られるなら一人でも多く得たい
4:ほむら……
最終目的:『儀式』からの脱出、その後可能であるならアカギから願いを叶えるという力を奪ってナナリーを生き返らせる
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※アリスのギアスにかかった制限はネモと同化したことである程度緩和されています。
魔導器『コードギアス』が呼び出せるかどうかは現状不明です。



※サイドバッシャーは完全に破壊されました
※ニドキングは死亡しました


※ほむらの支給品一式(双眼鏡、あなぬけのヒモ×2@ポケットモンスター(ゲーム)、まどかのリボン@魔法少女まどか☆マギカ)がほむらの傍にあります






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本当にここで終わるのかい?


51 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/08(日) 13:24:41 9ZCz/Ibo0
前半部の投下終わります
この続きはまず仮投下の方に落とさせてもらいます


52 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/10(火) 02:01:51 vPig/Jj.0
一応こっちにも報告を
おそらく前半部にも>>50以降のパートに修正が入るかと思います
仮投下を通した後で後半部と合わせて修正部分を投下させていただきます


53 : 名無しさん :2015/03/15(日) 00:57:42 ytSFsOBE0
月報用データです
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
127話(+1) 25/57(-3) 43.8(-5.3)


54 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/18(水) 20:42:38 NrxioKAs0
仮投下スレに修正版を投下しましたのでこちらでも報告しておきます


55 : 名無しさん :2015/03/18(水) 22:20:34 N.o6J7vk0
仮投下乙です〜


56 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:10:05 NA1yXFjY0
仮投下したパートで問題なくなったようですので本投下いきます
ただ、修正箇所がこっちで投下したパートにも被ってしまったのでもう一度最初から投下させていただきます


57 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:11:32 NA1yXFjY0
炎が草原を真っ赤に染め上げる中、銃声と粉砕音が響き渡る。

その中心にいるのは巨大な二脚の戦車のような乗り物、そこに乗っているのは長い黒髪の少女。暁美ほむら。
そしてその周辺を走るのは白いドレスのような衣装を纏った少女・美国織莉子、そして紫色の怪獣・ニドキング。

二脚の戦車・サイドバッシャーの右腕がバルカン砲を放つもそれは対象にはなかなか当たることはない。
織莉子は銃の射線から逸れるかのように動き、牽制するように宙に浮く水晶をほむらに向けて放つ。
操縦席に座るほむらへと放ったそれは一直線に彼女の元に向かい飛翔。
しかしいくら速くとも直線故に軌道を読むのは容易い。
サイドバッシャーを動かし回避、水晶はほむらのいる場所の遥か横を通り過ぎる。

そのまま左腕部のミサイルを構え射出態勢に入り。
が、その時避けられた水晶はほむらの背後で軌道を変えてその後ろから強襲するかのようにと飛びかかる。

勢いよく飛びかかるそれの存在に気付くことができるはずもない。
それが織莉子の思惑。

しかしその瞬間、サイドバッシャーに騎乗したほむらが機関銃を構えて背後へと振り返った。
サイドバッシャーがミサイルを噴くと同時、立ち上がった状態のほむらが背後の水晶を撃ち落とす。

地から吹き上がる炎と水晶の爆発が轟くのはほぼ同時。

避けられたことに動揺することもなく再度水晶を向ける織莉子。
しかしサイドバッシャーは既に宙へと飛び上がり、その頭上から両腕部を振り下ろすかのように地面に叩きつけた。
水晶射出を断念した織莉子はその場を飛び退り回避。空振った一撃は地面を抉りクレーターを作る。

反撃に転じようと再度水晶の動きを念じ。
その時織莉子の脳裏に一つの未来が見えた。

サイドバッシャーから目を外し、視界の外、自分の2メートルほど横に逸れた場所を水晶で狙い撃つ。
その攻撃自体は空振りに終わり、代わりに目の前に拳銃を構えたほむらが現れる。

織莉子は頭に突き付けられた拳銃に対抗するかのようにほむらの頭上数十センチの辺りに水晶を構える。
互いに武器を構えたまま睨み合うほむらと織莉子。

3秒ほど動きのない時間が続いた後、その静寂は横から飛びかかった紫の影によって破られた。
ニドキングの影を纏った爪がほむらへと襲いかかる。
咄嗟に腕を構えてその一撃を受け止めるほむら。
殺しきれなかった衝撃で後ろに下がりつつも、拳銃を放って牽制、追撃を防ぐ。

地に手を付きつつも態勢を立て直したほむらは、忌々しそうにニドキングへと目を向ける。

「…なるほど、私と既に戦っているというのは嘘ではないようね」

一方で織莉子も自身のソウルジェムを見ながら呟く。
そうでなければ未来視や水晶の動きを意識しているかのように動くことはできないだろう。


58 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:12:08 NA1yXFjY0

「ええ、さっきからそう言ってるわ」
「不思議ね。あなたには一度会ってみたいとは思っていたけど。
 私はあなたのことをほとんど知らないのに、あなたは私のことと知っている」
「………」
「ググググググ…」

殺意をむき出しにするニドキングを制しながら、織莉子はほむらに問いかける。

「鹿目まどかの守護者、暁美ほむら。
 あなたはそうやってたくさんの世界を巡って、多くの鹿目まどかの屍を見てきたのでしょうね」

その織莉子の目には、ほむらを憐れむかのような色が混じっている。

「あなたは何度繰り返したの?
 あと何度繰り返すの?
 あなたが歩いた昏い道に、望んだものに似た景色はあった?」

問いかけられたほむらの脳裏に過ぎる光景。
多くのまどかを救えなかった風景。

先にマオに見せられたあの幻覚。
それこそがきっと最も望んでいたものなのかもしれない。

ギリ、と歯を食いしばるほむら。
その様子に気付いた織莉子は隙をつくかのようにほむらの背後に落ちていた水晶を動かし。

「違う道に逃げ続けるあなたに、自ら陽を灯す私が負けるわけにはいかない――――」

それをその背に打ち付けんと放つ。

が、それがほむらに命中することはなかった。
ほむらの姿が掻き消えたと思った途端、横から大口径のバルカン砲が織莉子に向けて放たれていた。
ニドキングを押し出しながら避けようと走るが、避けきれなかった数発が織莉子の体を掠める。

「―――――っう!!」
「そうね。私の望む景色はどこにもなかった。いいえ、きっとあの景色にはもう永遠にたどり着くことはできないのでしょうね。
 だとしても私は、ただまどかのためだけに戦っている。そこに私の望む景色がなかったとしても。
 それに何より――――――」

と、サイドバッシャーの両腕のミサイルを、そしてバルカン砲を、さらに操縦席で機関銃をも構えるほむら。

「あなたが陽を灯す?私をそんな言葉で憐れむ?
 まどかの命を奪ったあなたに、そんな資格なんてない!!!」

言うと同時、時間を停止させ一斉に砲門を解放。
ミサイルが、バルカン砲が、そして機関銃が爆音と共に弾薬をぶち撒ける。
しかし時間停止空間において放たれた弾丸は目標に着弾する前に静止。

だがほむらはすかさず立ち上がり、放ったミサイルに向けて飛び跳ねて移動。
ミサイルに触れたのは一瞬。しかしその一瞬ずつでほんの僅かにだがミサイルは前進。
5発のミサイルに触れた後、さらに別の一つのミサイルを掴み上げる。
ほむらに握りしめられたミサイルはそのまま織莉子の眼前まで前進し。


59 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:12:45 NA1yXFjY0

着弾一秒前とでもいう辺りで時間停止が解除される。
突如目の前に現れたミサイルに反応することも叶わぬまま。
しかしほむらは既に爆風の届かない辺りまで離脱。
そしてそれは爆発し、さらに追うようにミサイルや大口径の弾丸が、エネルギー弾が着弾し。
トドメを刺すかのように、多数のミサイルが一斉に爆発した。


吹きすさぶ爆風。
熱や土埃が宙を舞う。

「………」

その光景をサイドバッシャーの上でじっと見つめていたほむら。
しかしミサイルの爆発する様子を見て。

「……ちっ」

思わず舌打ちする。

爆風の晴れた先には地面に散らばる大量の砕けた石。
それは今、同時に着弾するはずだったミサイルを空中にて迎撃した何かであることはすぐに分かった。

「グルルルルルル」

ドレスは黒焦げになり、避けきれなかった銃弾が当たったのだろう、血の流れる肩や頭を抑える織莉子。
その横に直立したニドキングが周囲に少数の岩を浮遊させながら唸っている。

今の一撃、最初のミサイルはおそらく魔力を防御に回すことで対処したのだろう。
そこから追撃をかけるように降り注いだ5発は直撃を避ける程度には回避したのだろう。
機関銃やバルカン砲は魔力や水晶で威力を逸らしたのだろう。

そして、トドメのはずのミサイル群は、ニドキングのステルスロックにより迎撃された。

「…はぁ……はぁ……」

しかし織莉子のダメージもまた少なくはない。
防ぎきれなかった爆風、そして避けきれなかった銃弾は確実に彼女の体を焼き、貫き、その身の魔力も削り取っていた。

「運がよかったわね、便利なペットを連れていて」
「…はぁ、…彼は、あなたが殺した人の相棒よ」
「そう」

責めるような口調で告げる織莉子に、ほむらは静かにそう返答する。
そこに特に感情を込めるようなこともなく。

「ええ、確かに私が光を照らすことはできないのかもしれない。世界のために少数とはいえ人の命を奪い、奪うつもりの私には。
 だけど、あなたはどうなの?鹿目まどかを守ることでただ悪戯に多くの世界を滅ぼしてきただけじゃないの?そうやって切り捨ててきただけじゃないの?
 このニドキングの主、サカキさんのように」
「私はあなたとは違うわ。世界を救うために戦うつもりも、そのための犠牲の責任を他のものに擦り付けるつもりもない。
 全ての罪は私が背負ってる。その上で、まどか一人救うことができない世界なんて滅んでしまえばいい」

そして鋭く織莉子を睨みつけてそう断言するほむら。
その言葉を聞き、織莉子は一つの意志をはっきりと決める。


「そう。なら―――――」
「だから―――――」
「私は」
「あなたの存在を」
「認めない」
「許さない」


60 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:13:28 NA1yXFjY0

その瞬間、美国織莉子の暁美ほむらに対する敵意が、はっきりと明確に殺意へと変異した。
その存在に対するものに。彼女の在り方を否定するために。
こいつとは分かり合えないと。何があったも殺さねばならない相手であると。

サイドバッシャーが前進しニドキングの体へとぶつかりあう。
振り下ろされた両腕をガシッと受け止めるニドキング。
しかしそのサイドバッシャーの上にはほむらはいない。

サイドバッシャーの操作を魔法に任せてニドキングを取り押さえたのだ。
織莉子にトドメを刺す際に邪魔とならないよう、足止めのために。

咄嗟にほむらの姿が掻き消え、目の前で爆発音と共に何かが弾ける。
そんな未来が見えた瞬間、織莉子は全面に水晶を防壁のように並べる。

そして予知通りに彼女の姿は消え、眼前に何かが現れ。

――――――パァン

爆発。
熱、あるいは鉛の破片といった殺傷力を持つ何かを警戒していた織莉子。
しかし自身に降りかかったのは水しぶきのみ。

「―――!」

ほむらが織莉子の目の前に投げたのはドライアイスが入っただけのただのペットボトル。

それがブラフだった、と気付いた時には横から殴りかかるような衝撃が襲いかかってきた。

よろける織莉子の体に、追撃の銃口が向けられる様子が映る。
霞む視界の中で水晶を再度繰り直してほむらの手にぶつけ銃口をそらす。

「…っ」

距離をとるように地を蹴りながら、ほむらの頭上から高速で水晶を振り下ろし。
しかしほむらはそれを前に進むことで回避。

そんなほむらに向けて残った数発の水晶を放ち。
しかしもう一方の手に持たれた機関銃の掃射で全てが爆散する。

爆風で生じた魔力の煙を切るように、織莉子の眼前に突き付けられる拳銃。
反射的に顔を逸らしたものの、頬をかすめた衝撃で血が垂れ流れる。

「ぐ、ぁっ…」

だがそこまでが限界だった。
蓄積された疲労とダメージ、そして元々の織莉子の身体的能力の対処可能域を既に超えていた。

地面に倒れこんだ織莉子に向けられた、黒い銃身。

「終わりよ」

意識を水晶に向けるが銃弾の方が早いだろう。

が、ほむらの銃口が火を噴くことはなかった。
引いた引き金はカチリ、という音をたてるのみ。

(…弾切れ……。間が悪いわ)

弾切れになったグロッグを捨て、ニューナンブを取り出し織莉子に再度向けるほむら。


61 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:13:57 NA1yXFjY0

しかし次の瞬間、ほむらの意識外から殴り飛ばされるような衝撃が走る。
体に打ち付けられる、紫の影を纏った腕。
ニドキングのシャドークローだ。

引き金の引かれた銃はあらぬ方向に飛んでいく。
さらにそこで織莉子が僅かにできた隙の間に繰っていた水晶が迫る。

思わぬ反撃に咄嗟に手をかざしてその一撃を防ぐほむら。
倒れそうになる体をどうにか支え、ニドキングにけしかけていたサイドバッシャーに目をやる。
そこにあったのは関節のあちこちに岩の破片を挟ませ、ギチギチと音を立てながら動きあぐねている2脚の戦車の姿。

さらに手元の拳銃に目をやると、今宝石を防いだ衝撃で銃身が歪んでしまっている。

「くっ」

織莉子に向けて機関銃を発射するもその行動は予測済みかのように回避。
3秒ほど続いた発砲音の後で、カチ、カチという音を立てて弾の撃ち出しが止まる。

「こっちも…!こんな時に…!」

忌々しそうに織莉子と、その傍にいるニドキングに目をやる。

そもそも今のニドキングの攻撃がなければ武器の一つを損失することも織莉子を仕留め損ねることもなかった。
ここにきてほむらはニドキングを織莉子を抹殺する上での排除すべき障害として認めた。

「なら」

と、ほむらはサイドバッシャーへと飛び乗った。
一瞬魔力が機体の全身を包んだと同時、全身の関節に挟まったステルスロックが砕け散る。

元の万全の状態を取り戻したバッシャー。
その上でほむらは一つのボールを取り出す。

「こいつを使わせてもらおうかしら」

開かれたボールから出てきた、ニドキングよりも一回り大きい灰色の巨体。
ほむらが持っていたポケモン、サイドンだった。

「目には目を、と言ったところかしらね」

ポケモンの相手はポケモンに任せればいい。
織莉子を殺すまでの時間稼ぎはしてくれるだろう。

そう考えていたほむらの目に入ってきたのは、小さく嘲笑を浮かべた織莉子の姿。

「……?何がおかしい――――」

その笑みの意味を問いかけようとしたその時だった。

彼女の頭上を謎の黒い影が覆ったのは。









ほむらの戦い方、戦略そのものには理屈の上では何の問題もなかっただろう。
ニドキングを放置すればまたステルスロックで攻撃を妨害される可能性は大きいのだから、それを別の存在で足止めする考えは悪くない。
別に彼女自身に慢心があったというわけでもない。

問題があったとすれば、いや、不運があったとすれば。

彼女の連れていたポケモン、サイドンの本来のトレーナーがサカキであったこと。
そう、ほむらがサイドンの目の前で殺したあのトレーナーであったということ。
その事実を知らずに、ポケモンに指示を出さずに織莉子に気を取られ指示を送ることを一瞬でも遅らせてしまったこと。


62 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:15:27 NA1yXFjY0

サイドンははっきりと見ていた。
その目の前で己のトレーナーの姿が消し飛んでいく光景を。
そして、それを成したほむらに対する怒りも決して忘れてはいなかった。

それらの事実は知らなかったことではある。
しかし織莉子は未来視ではっきり見ていた。サイドンに反逆されるほむらの姿を。
それ故の笑み。

そんな織莉子の目の前で、無防備なほむらの頭上から突如顕現した岩雪崩が降り注いだ。



「なっ――――――!」

機動性と火力を備えたサイドバッシャーの弱点。
それは搭乗者本人の姿は無防備になるということ。

2メートルを超える巨体を上から攻める相手、すなわち機動性を備え飛行可能な者にはサイドバッシャーによる対処は難しいのだ。
そんなサイドバッシャー、そしてほむらの頭上から降り注ぐ岩雪崩。

咄嗟に時間を止めてサイドバッシャーから飛び降りる。

動揺から時間停止期間はそう取ることができぬまま着地し。

そんな彼女に織莉子の放った水晶が飛来するのと、サイドバッシャーに向けて雪崩のように岩が降り注ぐのはほぼ同時であった。。
左腕部から操縦席にかけてを押しつぶし、衝撃で爆発を発生させるサイドバッシャーの車体。

「かはっ……!」

そしてほむらもまた胸部を、腹部を打ち据える衝撃で喉の奥からせり上がる血を吐く。
しかしそれでも意識ははっきりと保たせ遠隔操作でサイドバッシャーを動かしバルカン砲を構えさせる。
かろうじて残った右腕部のフォトンバルカンを放とうとした、その瞬間。

織莉子の傍に立っていたニドキングが、咆哮と同時に飛び上がった。
その腕を濃厚な闇色に染めた状態で。

「グルァァァァァァァァ!!!!!!!!」


主を殺された武器に対する怒りをぶつけるかのように、それを力いっぱい、バルカン砲を発射せんと構えた右腕部へと叩きつけ。

「…ニドキング!!」

織莉子がニドキングの名を呼ぶと同時、発射直前段階であった腕部は爆発。
漏れだした爆風は、熱はサイドバッシャーを包み込み、そして一撃を加えたニドキングをも巻き込んだ。

「……っ!」

織莉子は爆風の中で消え去るニドキングに息を呑みつつも。
サイドバッシャーをも破壊され大きく動揺するほむらへと向く。

「…これがあなたの戦い方の結果よ。
 呪いを、悪を背負ったあなたは、その罪自身に敗れ去るのよ」
「っ!美国織莉子…っ!!あなたは―――ッ!!」

ギリッ、と歯ぎしりをしながら、背後から角を突き出し突撃をかけてきたサイドンの一撃を時間を止めて避けたほむらは。
そのまま織莉子の真横に姿を現し、怒りと憎しみに包まれたままもはや弾を放たぬ鉄塊と化した機関銃を振り上げ。

「そして、その闇すらも私の光で照らしてあげるわ。暁美ほむら」




もう一つ。
もしサイドンのことを除いてほむらに戦略上の落ち度があったとするならば。
かつてのループにおいて一度戦ったことで、美国織莉子の戦い方はほぼ把握していたつもりになっていたことだろう。
彼女の戦法は未来予知と水晶を飛ばしての攻撃。もし他に攻撃があったとしてもその応用。
だがそう考えるのも無理からぬこと。かつてほむらと戦った時の織莉子は、友を犠牲にした上での後がない状態、背水の陣での死闘だったのだ。
その状況で隠し球を持っていることなどまず考えない。

それでも現状においてもその思考に凝り固まった状態であったことはある意味では慢心といえるのかもしれない。
装備がある程度充実していた現状において、織莉子側に何か自分の知らないイレギュラーが起こっている可能性を考慮しきれていなかった。
怒りに支配され冷静さを失っていた彼女にそこまでのことを考える余裕はなかっただろうが。

そう、それは魔法少女としての能力とは別に、この殺し合いの中で偶然織莉子が得た力。


63 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:15:48 NA1yXFjY0


「――――?!」

機関銃の銃身を振り下ろそうとしたほむらの目の前で、織莉子の体が閃光する。
魔力と共に放たれるその光は、周囲に輝きをもたらしほむらの体を焼きつくさんと照射された。

それは妖精のごとき神秘性を感じさせる明るく、しかし鋭く激しい光。
魔法の輝き。

「――――――マジカルシャイン!!」

魔力の閃光は、周囲に暖かさをも感じさせる輝きを、そしてなおかつ敵対者に身を焼くほどの衝撃を与える。

その光は一瞬。
しかし至近距離でそれを受けたほむらは対処する術もなく。

全身を焼かれたように、その衣装を焦げさせ地に伏せていた。

「ぐ…、はぁ…はぁ……」

どうにか命を繋ぐことはできているが、そのソウルジェムの濁りはもはや限界に近いようにも見える。

最も、織莉子も人のことを言える状態ではなかったが。
その消耗を忘れるほどに戦いに費やした魔力は、既に限界に近付いていた。

後で考えてしまえば後悔してしまいそうだが、それほどに暁美ほむらには負けたくなかったのだ。

と、ほむらが倒れたまま手探りで自分のバッグを探すように手を動かす。
しかしそれが落ちている場所は織莉子の足元。

静かにそれを拾い上げた織莉子は、その中身を弄る。

「ニャア」

黒猫がピョコリと飛び出すも気にせずに漁り。
見つかった。

グリーフシード。
既に使用してあるせいかかなりの濁りを吸収しているが、それでも無いよりは遥かにマシだ。

さらにもう少し探ってみるも、今グリーフシード以上に有用そうなものは入ってはいない。

ポン、と。
おそらくそれを命綱にするために探しているだろうほむらに、グリーフシードだけを抜き取ったバッグを投げ渡す。

「……お前は…!」
「返すわ、欲しいんでしょ?」

睨みつけるほむらの目の前で、グリーフシードを使用。
自身のソウルジェムの濁りはかなり残っているものの、命の繋ぎにはなった。

さらに倒れたほむらに詰め寄り、腕を掴みあげその盾に手を差し込む。
そこから出てきたのは空になったモンスターボール。サイドンの入っていたものだ。

「…ありがとう。そしてサカキさんのことはごめんなさい。後は私が終わらせるから、あなたは休んでいなさい」

織莉子の後ろに控えていたサイドンはその言葉にコクリと頷いてボールに戻っていく。

あと残っているのは、この生命を繋ぐこともままならぬ状態の暁美ほむらだけ。
せめてもの慈悲だ。すぐに楽にしてやろう。

「何か言い残すことがあれば聞いてあげるわ」
「……………」
「無いのね。それじゃあ、さようなら」

と、織莉子は小さな、しかしソウルジェムを砕くには足る威力を出せるだろう水晶をその手の甲のソウルジェムへと放ち。

―――――――――バシン


64 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:16:16 NA1yXFjY0

しかしその意識を止め、咄嗟に背後へ振り向き庇うように手をかざす。
その瞬間、周囲に気配のなかったはずの場所から何者かの足が織莉子へと迫っていた。

不意の一撃はどうにか防いだものの、そこからさらに回し蹴りが織莉子へと降りかかり、ほむらからの距離を離される。

「ほむら、大丈夫?!」

目の前に現れた存在を見やる織莉子。
金髪をツインテールにまとめた、どこかの学校の制服を纏った少女。年齢は自分たちとそう変わらないだろう。

「…ア、リス……」
「あんたが美国織莉子ね」

ほむらを庇いながらも織莉子から視線を離さない少女、アリス。
邪魔が入ったことに内心舌打ちしつつも、未来視を僅かに発動させる。
が。

「え?」

数秒後のアリスは走りだすでもなくほむらに注意をやるでもなく。
自分の背後で銃を構えていた。

そして、その過程が見えない。

まさかほむらのような時間操作を行える者か、という可能性に至った時には既に遅く。

「無駄よ」

たった今見た未来通りに背後で銃を構えていた。
掻き消えるように見えなくなったアリスに反応するどころか目で追うことすらできぬままに。

「あなたが未来視を使えることは聞いているわ。だけど今の私ならその未来も越えてあなたを捉えられるわ」
「…なるほど、加速能力か何かということね」

キリカという、他者の速度減衰能力を持っていた存在と共に行動をしていた織莉子はすぐに察することができた。
しかもほむらと違って肉弾戦もある程度立つ様子。
今の魔力で対処できる相手ではないだろう。

一方で彼女はこちらの命を一瞬で奪える力を持っているにも関わらず生かしているところから、殺し合いに乗っているわけではないと判断する。
大方暁美ほむらに騙されでもしていたのだろう、と。

ならば、今はそれを利用させてもらおう。

「言っておくけど私はあなたと戦う意志はないわ。あなたが殺し合いに乗っていない、というなら殺し合いに乗っていない者同士戦う理由はないでしょ?」
「なら何故ほむらを殺そうとしたのよ」
「先に仕掛けてきたのは彼女よ。おかげで私の同行者が命を落としたわ」
「……本当なのほむら?」

織莉子の返答に問いかけるアリス、しかしほむらは答えない。

確かに物事をあまり語りたがらない子だが、そういうところに口を噤むことはないはずだと、そうアリスは評していた。
織莉子の言ったことが事実でもない限りは。

「………」
「警戒しなくても背中から攻撃したりはしないわよ。引き取るっていうのならば暁美ほむらを連れて行ってくれればこちらも手を出さないわ。
 ただあなたがこっちに手を出すなら、私も相応の抵抗をさせてもらうことになるけど」

織莉子の言うことを一先ず信じることにしたアリスは、彼女に向けた銃口を下ろす。
そのまま、動けぬほむらの体に肩を貸して抱え上げ、織莉子に背を向ける。

殺気はない。
もし攻撃があったとしても殺気さえ気を配れば対応は可能、とはいえ安心できるわけではない。
しかしほむらの状態があまりにも危険そうに見える以上、織莉子に時間を取られるわけにはいかない。


「そういえば言い忘れていたわ」

と、そんな時思い出したかのように織莉子がそんなアリスの背中に声をかける。

「暁美ほむら、助けたいというのなら早いうちにそのソウルジェムを砕いてあげることね」
「何を言ってるの?」
「私たち魔法少女はそのソウルジェムに魂を、命を収められている。だからそれを砕かれれば死に至る。
 だけどもう一つ。ソウルジェムの輝きは魔力を使えば使うほど濁っていく。私たちの命を繋ぎ止めておくだけでも魔力は消費されていくの。
 もしそれが完全に濁りきった時、そこからは極大の絶望の化身、魔女が生まれる」
「……!」
「今暁美ほむらのソウルジェムを浄化する手段はない。そして今彼女はそこにいるだけで魔力を消耗し続けている。その傷を修復するためにね。
 もし彼女を化け物ではなくヒトとして死なせてあげたいなら、ソウルジェムが濁り切る前にそれを砕いてあげなさい」

それだけを伝え、織莉子は静かに立ち去って行った。

「ほむら、今あいつが言ったことは本当?」
「………」

未だところどころに煙の燻る空間から、織莉子とは反対の方向に離れながら問いかけるアリス。

できることならば否定して欲しかった。
今言われたことは嘘だと。まだ助かる手段はある、と。

しかし。

「ええ、本当よ」

その願いは敵わなかった。


65 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:16:56 NA1yXFjY0


織莉子は知っている。
この場ではソウルジェムが濁りきった場合も魔女が生まれることはなく、ただソウルジェムが砕けるだけだということを。
そうして死んでいったキリカを目の前で見ていたのだ。暁美ほむらが、あるいはキリカだけが特別だった、ということはないだろう。

ならば何故あんなことを言ったのか。

深い理由があったわけではない。
ただのちょっとした意趣返しのようなものだ。

暁美ほむら。
決して相容れない、考え方において対局に位置する天敵のような存在。
その因縁を終わらせようとした時に横槍を入れてきたことにはほんの僅かではあるが苛立つものがあったから。

だが、どちらにしても暁美ほむらの死は揺るがないだろう。

あのアリスという少女がグリーフシードを持っている可能性は低い。
見たところ彼女は魔法少女とは別の存在の様子。グリーフシードを必要とはしないはずだ。ならば彼女がグリーフシードを持っていることはまずないだろう。
使えぬ石を持っているくらいならば、むしろ有意義に使えるほむらに渡しているはずだ。

無論、暁美ほむらに勝ったとは言っても、今の自分の状態も芳しいものではない。
しばらくは戦いを避け、グリーフシードの探索に専念せねばならないだろう。

放送で鹿目まどかの生存が確認されてしまえば、また話は変わってしまうが。

「………」

もし鹿目まどかの名が呼ばれたならばそれでいい。
だがもしも呼ばれなかった場合は。

その時はまた彼女を探し出し、今度こそトドメを刺す。
グリーフシードの探索と鹿目まどかの抹殺、どちらを優先すべきかも考えねばならない。
グリーフシードの探索を優先した場合は彼女がキュゥべえとの接触をする可能性が高まってしまうし。
鹿目まどかの抹殺を優先した場合はおそらくいるであろう、美遊のような彼女の守護者を魔力を温存した上で突破する術を編み出さねばならない。

「体は一つしかないのに、忙しいものね本当……」

そう思った瞬間、今の自分が一人ぼっちであることに気付いてしまった。
キリカはもういない。
連れて来られて以来ずっと共に行動していたサカキもついさっき命を落とした。

それを意識した瞬間、急に寂しさを感じ始めている自分がいた。

「少し前の、一人孤独の時の私に戻っただけだというのに、ね……」

取り出した、かつて友だったものの破片を握りしめながら。

「キリカ……」

その名を呟いていた。
あの時は持っていなかった、しかし今は得られてしまった温もりの喪失、そして孤独感に身を任せたまま。


66 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:18:01 NA1yXFjY0
【D-6/草原部/一日目 夕方】

【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:ソウルジェムの穢れ(6割)、魔法少女姿、疲労(大)、ダメージ(中)、前進に火傷、肩や脇腹に傷
[装備]:グリーフシード×2(濁り:満タン)、砕けたソウルジェム(キリカ、まどかの血に染まっている)、モンスターボール(サカキのサイドンwith進化の輝石・ダメージ(大))@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、ひでんマシン3(なみのり)
[思考・状況]
基本:何としても生き残り、自分の使命を果たす。
1:グリーフシードを探す。それまでは可能な限り戦闘は避ける。
2:鹿目まどかの抹殺を優先するのはその生存が確定されるまで保留。最遅でも次の放送。
3:優先するのは自分の使命。そのために必要な手は選ばない。しかし使命を果たした後のことも考えておく
4:キリカを殺した者(セイバー)を必ず討つ。そのために必要となる力を集める。
5:ポケモン、オルフェノクに詳しい人物から詳しく情報を聞き出す。
6:積極的に殺し合いに乗るつもりはない。ただし、邪魔をする者は排除する
7:美遊・エーデルフェルトの在り方に憤り。もし次にあったら―――――?
[備考]
※参加時期は第4話終了直後。キリカの傷を治す前
※ポケモン、オルフェノクについて少し知りました。
※ポケモン城の一階と地下の入り口付近を調査しました。
※キュゥべえが協力していることはないと考えていましたが、少し懐疑的になっています。
※鹿目まどかに小さくない傷を負わせたことは確信していますがその生死までは確信できていません。
未来視を以ってしても確認できない様子です。
※マジカルシャインを習得しました。技の使用には魔力を消費します。




「………」
「もう、無理なのね?」
「ええ」

燃え盛る草原部から少し離れ森へと入ったところで、アリスはほむらの体を地面に横たえてそう問うた。

「ポッチャマ…」

アリスの脇に立つポッチャマは、そんなほむらを悲しそうな瞳で見ている。

腹部の打傷は甚大、そして全身の火傷や目では判断できない場所にもダメージがある様子。
それらは人間であれば放置すると死に至るほどのものであり。
しかし今のほむらにはそれを回復させる術がないという。
命を繋ぎ止めておくだけでも多くの魔力を消費してしまうらしい。

そして、ソウルジェムが濁りきれば、ただの化け物――魔女へと成り果てるという。

「だから、その前にこれを砕いて」

それがほむらの願いだった。

そんなほむらを静かに見つめながら、しかし諦めきれないような顔でアリスはほむらに話しかける。

「その前にいくつか聞かせて。
 まず最初に一つ。あの美国織莉子が言っていた、あんたが先に仕掛けて人を死なせたってのは本当?」
「…ええ」
「何でそんな真似したのよ…?!」

例え相手がほむらにとって許せない相手であったとしても、倒さねばならない相手だったとしても。
そこに関係のない人間を巻き込んでしまってはただの人殺しだ。
自分が気にかけた相手がそんなものになってしまうことはアリスにも許容できなかった。

「……、言い訳はしないわ。あいつを見てたら、どうしても我慢できなかったのよ」
「…分かったわよ。じゃあ次に一つ。
 あんた、まどかって子はどうするつもりなのよ。大事な友達なんでしょ?」
「まどか……」

その名を出した途端、ほむらの目に諦めとは別の色が見えたような気がした。
それが生への渇望なのか、それとも悔いなのか、あるいは別の何かなのかの判断はつかなかったが。

「そうね、私にとってのただ一人の、私の大切な友達……だったわ」
「…だった?」
「私の魔法はね、時間を越えられるの。
 私がかつて守れなかったまどかの力になれる私になりたい、そう願って魔法少女になって。
 あの時は魔法少女がどんなものかなんて知らなかった」
「………」

人でなくなり、いずれ魔女になる運命を背負い。
それでも鹿目まどかを救うために戦い、繰り返し続け、その度に鹿目まどかの死を見せられ。
己がかけた願いそのものは呪いのような希望へと形を変えて、それだけがほむらにとって生きる道標になっていたのだという。

「だからもしこの殺し合いの中で手段が得られるなら、それまで救えなかったまどか達も助けたい、なんて。そんなもの過ぎた願いだったのかもしれないわね…」
「あんた、そんなことまで……」


67 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:18:25 NA1yXFjY0

幾度も大切な友達の死を見ることを繰り返し続ける心境など、アリスには想像もつかなかった。
もし自分が同じことになったらどうなっただろうか。
そう仮定しても、きっとどこかで心が壊れる自分の姿しか思い浮かばなかった。

そしてその言葉で思い至る。
巴マミ、美樹さやかといったほむらと同じらしい魔法少女。
殺し合いに乗ることはないだろうと言いながらも、しかしあるいはと煮え切らないような答えを返していたあの時。

きっと、繰り返す中で仲間であるはずの彼女達のそんな一面を見せられ。
信用できる相手もいない状況で一人全てを背負って戦ってきたのだろう、と。


「だけど、それももう終わりね。私は自分の願いもまどかとの約束も果たせずに死んでいくだけの存在でしかなかった」
「なら、何でそれを私に話したのよ?」
「……さあね。聞くことはそれで最後かしら?」
「そのつもりだったけど、じゃあ最後に聞かせて」

と、ほむらと向き合い、地面におかれたソウルジェムに真っ直ぐに銃口を向ける。
真っ黒に染まったその宝石からはもう光は見えない。飽和するのも時間の問題だろう。

だから、その前に最後に聞いておきたかった。
きっと誰にも話したことのないようなことを最期に話したこの自分は。

「私は、あんたにとっての何だった?」

出会ってから一日も経っていない相手。
しかし殺し合いが始まって以来ずっと共に行動して、時には助け、時には助けられてきた相手。

気に食わないと思いつつも、自分とどことなく似た者なんじゃないかと思うこともあった。
そんな私は、ほむらから見れば何だったのだろうか、と。

「……そうね、いい、友達だったんじゃないかって思ってるわ」
「まどかって子と比べた場合は?」
「比べられると思う?」
「でしょうね」

まだ軽口を軽口で返せるくらいはできたようだった。

別に特別な付き合い方をしたわけでもない。
ただ殺し合いから抜け出すという共通の目的のためだけに手を組んだだけの関係。

だけど色んな死線を見て、その度に手を貸したり貸されたりして。
友情、というよりは信頼関係のようなものは芽生えていたのかもしれない。

だから、最期とはいえこんなことを口走ってしまったのだろうとほむらは思った。

アリスは、そんなほむらの命――ソウルジェムに向けた銃の引き金に指をかける。

「そういえば、顔を合わせたばっかりの時、あなたに向けて発砲したりもしたわね。
 あの時は、悪かったわ」
「ポチャ……」
「――――」

覚悟は決めたはずだったのに、いざこの手で命を奪うとなると躊躇いは拭い切れない。
震える手を抑えて、しっかりと狙いを定めて。

「もし違う場所で、違う形で会えてたなら、案外―――――」

指に引き金を引く。

パキン

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】




68 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:18:58 NA1yXFjY0

民家の中に眠るように横たえられた少女の姿。
ベッドの上で手を組んで横たえられたその死体の頭にはまるで死化粧のように赤いリボンが結ばれている。

ボロボロの体で放置することに強い抵抗を覚えたアリスがほむらのバッグから取り出したせめてもの気遣いだった。


「墓は作ってあげられないわ、ごめん」

穴を一人で掘ることができるほどの力はない。
時間をかければ可能ではあるだろうが、しかしこの殺し合いの場でそれだけのために体力と時間を取られるのは自殺行為だろう。

ナナリーの時には手伝ってもらったというのに、ほむら自身には何もできない、そんな選択を選ばざるを得ない自分が嫌だった。

「…何でみんな私の目の前でなんだろうなぁ」
「ポチャ…」

物言わぬ躯となったほむらの死体の前で静かに鳴き声を漏らすポッチャマ。
出会いこそ最悪だったものの、そこからの色んな出来事をほむらと共に過ごしたポッチャマにも思うところは多いのだろう。

アリスはバッグから一本のあなぬけのヒモを取り出し、ほむらの傍に備える。
花代わり、とするにはあまりに粗末ではあるが、それは出会ったばかりの頃にほむらに渡しそのまま使う機会に恵まれなかったものの一つだ。
2本あるうちの片方をほむらに残していく。

そしてアリスは握りしめた手の内にあるものに目をやる。
割れた宝石の破片。
ほむらの命の形を示していた宝石の成れの果てだ。



あの瞬間、結局自分はほむらのソウルジェムを撃てなかった。
なのにソウルジェムは自然に自壊し砕け散ったのだ。

ほむらが死にかけのあの瞬間にまで嘘を言うとは思えない。第一嘘とするにはあまりにも不自然な類のものだ。
少なくともほむらが言っていたことは事実ではあるのだろう。
だが、それは少なくともこの殺し合いの場で適応されるものではなかった。ただそれだけのことなのだろう。
かつて自分がギアス使用に強い制限を感じた時のようなことがほむらにも適応されていた。そう考えるのが自然だ。

問題は美国織莉子だ。
彼女はこの事実を果たして知っていたのだろうか。
知らなかったのならばいい。しかし知っていたのならば、ほむらの命をこの手で終わらせるように仕向けたということになる。

確かめるために追う必要はあるだろう。

そしてもう一つ。

ほむらがその身を賭して守ろうとした少女、鹿目まどかのこと。
放送で名前は呼ばれていない。まだ生きていると信じたい。

「いいわ、守ってやるわよ、あんたの守りたかったものも」

ほむらの想いがどれほどのものだったのか想像もつかない。
しかしそれほどまでの強い想いを持った友達の守りたかったもの。
それくらいは自分にも守れるはずだ。

「だから、あんたは安心して休みなさい」

それだけを言い残して、部屋の出口へと体を向け。

「ニャア」

その時、それまでどこにいたのかほむらの連れていた黒猫が姿を現した。
猫はほむらの傍に擦り寄り、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
ほむらが死んでいることに気付いていないかのような仕草を見せて。

「…ほむらはもう動かないのよ、だから行くわよ」

胸を締め付けられるような感覚に囚われながらもそう黒猫に言い放つアリス。
しかし猫は動こうとはしない。
ただただいつか動くことを待っているかのように身動ぎし続けるだけだ。


69 : あなたの存在は認めない/許さない ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:19:48 NA1yXFjY0

「………先に行くわ。後で追い付いて来なさい」

時間が経てばやがて気付くだろう。それから迎えにくるなりすればいい。
無理にほむらから引き離すことにも抵抗がある。

「行くわよポッチャマ」
「ポ、ポチャ」

当面の目的は織莉子を探すこと。
新たに生まれたもう一つの目的は鹿目まどかを守ること。

この場において二度目の友の喪失。
しかしアリスは決して折れない。
大切な友との約束―――彼女の騎士であり続けるために。
もう一人の友の想い―――彼女の守りたかった友。
その二つを背負っているのだから。

そうしてアリスは瞳に流れた一筋の雫に気づかぬふりをして、ほむらの元を立ち去った。


【D-6/一日目 夕方】

【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、ネモと一体化、喪失感
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(9+1発)@現実、ポッチャマ@ポケットモンスター 、双眼鏡、 あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。
1:ナナリーの騎士としてあり続ける
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:鹿目まどかは守る。
4:ほむら……
5:美国織莉子を追う。
最終目的:『儀式』からの脱出、その後可能であるならアカギから願いを叶えるという力を奪ってナナリーを生き返らせる
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※アリスのギアスにかかった制限はネモと同化したことである程度緩和されています。
魔導器『コードギアス』が呼び出せるかどうかは現状不明です。



※サイドバッシャーは完全に破壊されました
※ニドキングは死亡しました


※ほむらの死体の傍にはあなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)、まどかのリボン@魔法少女まどか☆マギカが供えられています。


70 : Not Yet ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:21:00 NA1yXFjY0

「行ったようだね、アリスは」





既に視界には何も映らず、聴覚も何も捉えないはずの無の中。
これが死というものなのだろうかということを考えた。

―――これでいいの?

終わりたくなどない。
だが今更何ができるというのだろう?

まどかを守ることも救うこともできず、美国織莉子に敗北したまま命を終えた。
だが、死は絶対に覆ることはない。

魔女となった魔法少女達が決して元に戻ることがなかったように。

――――諦めていいの?

………
いいはずが、ない。
たとえそれが、如何に世界の理に反した想いであったとしても。
それでも、決して諦めることはできない。


だから、ふわふわとした意識の中強く願う。

奇跡。
そんなものにでも縋ってやる。

どれだけ醜悪な想いであっても、どれほど重い罪であったとしても。
まどかのためなら全て背負える。


だから。

(もう少しだけ―――もう少しだけでいい)

この身に、生が欲しい―――――――――!!



己の内に、強く熱い何かが生まれ出て。


その瞬間だった。
右も左も、自分の形すらも分からぬ闇の中で、二つの輝く瞳が映った。

人ではない生物。
巨大な翼と6本の足を持った、まるで魔女のような姿の何か。

醜悪にも思える外見だったのに、その時の私にはとても神々しいものに見えた。


その巨体に、静かに手を伸ばす―――ように感じられる動きをして。

昏い闇の中で、自分すらも保つことができなかったほむらを、さらに深い闇色の何かが包み込んだ。





71 : Not Yet ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:22:32 NA1yXFjY0




アリスは去り、生者は一人としていなくなった室内。
黒猫は静かにその体毛を白く変化させる。

瞳は赤く輝き、耳からは別の耳と思しき物体が現れる。

そして背中の円状の模様がパカリと開き、中から取り出されたのはしろがね色に輝く球。

「ふぅ、さすがに窮屈だったよ」

ほむらの死体の傍で球をかざす黒猫、もといキュウべえ。

「少し時間を取られすぎたかな。今からはっきんだまを向こうに転送するのは間に合いそうにないね。
 仕方ない、ここでやるしかないか」

と、キュウべえは球をかざし。

「あとは頼んだよ、アクロマ」

ここではないどこかにいる一人の人間に向けて、そう呟いた。



はっきんだま。
それはディアルガ、パルキアに続くもう一匹の伝説の竜、ギラティナの力の一端が収められたもの。


元々ギラティナの力は世界に歪みが生じた時にそれを世界の裏側から修正する役割を担っている。
その力の断片を会場に配置しておくことで、会場の結界の安定化を促せるというアクロマの仮説の元で参加者の支給品に混ぜられたものだ。

この仮説が問われた段階では、ギラティナ自身を捕獲する術がなかったため、あくまでもその力ははっきんだまを利用することで代用してきたのだ。

しかし。

アクロマの手によって再現された、神々の力をも御する拘束具、あかいくさりが完成し。
そして数時間前に判明した一つの要素によって、ギラティナを捕獲する術が整った。

あとはタイミング。
それを引き起こすために必要な、膨大なエントロピーが発生する瞬間。
ほむらの死によって、それが成り立った。








「アクロマ、来るよ!」
「準備はできています」

バトルロワイヤルの会場ではないどこか。
あるいはあの結界の外、とでも言うべき場所。

その一角に、インキュベーターとアクロマはいた。

見つめる先にあるのは、不安定になり歪みを生じさせる空間に少しずつ開いていく巨大な穴。

そしてその奥から見える、ギラリとこちらを覗く瞳。
戦意を露わに、それは開いた穴へと向かって一直線に入り込み。

――――ピシェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

轟く咆哮と共に、キュウべえとアクロマの目の前の空間に潜り込んできたその巨体。
灰色の体に長い体、6本の足、そして巨大な漆黒の翼を持った異形の生命体。

それはディアルガ、パルキアの伝説が伝えられしシンオウ地方においてもほぼ伝承が残っていないとされたいわば記録から封印されたポケモン。
はんこつポケモン、ギラティナ。

「ゴガァ!!」

ギラティナは敵意はそのままに、その口に透き通った、しかしひとたび吐き出されれば多くのものを焼き払うだろう波動を放出せんと構え。


72 : Not Yet ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:22:53 NA1yXFjY0

「今だよ!」
「赤い鎖、発射」

しかしそんなギラティナを前にして尚も焦ることなくアクロマは冷静に自分の成すべきことをする。

手に持った機器を操作したその途端、ギラティナの立っていた地面から赤い色の鎖が顕現。
その体をがんじがらめに縛り上げる。

その口腔から吐き出そうとしていた竜の波動はあらぬ方向に吐き出され壁を打ち崩す。
しかしその身に絡みついた鎖は解けることはない。

暴れまわる度に地響きが鳴り、それだけ鎖はギラティナの体を無力化するかのように締め上げる。

「―――――――ギィァアアアアアアアア」

それでも最後の抵抗とでも言うかのように、その体に闇を纏わせて姿を消そうとする。
シャドーダイブをもって鎖を抜け出す、ないし破壊しようとしているのだろう。

だが。

―――――ォォォォォォ

その体が消え去る寸前、遠くから轟くような鳴き声と共にギラティナに向けて膨大なエネルギーが衝突した。

時間が歪んで感じられるようなものと、空間を引き裂かんとするようなものの二つの力。
シャドーダイブを使うために無防備に近い状態を晒していたギラティナにそれを受け止めるだけの態勢を取ることはできず。

そのまま抵抗するように一度吠えた後、地に蹲り沈黙した。

「うまくいって助かったよ。アカギ、感謝するよ」

この場にはいないはずの相手に向けて感謝を述べるキュウべえ。
そしてアクロマは動かぬギラティナへと駆け寄り、あらかじめ設置してあったらしい多くの機材のケーブルを繋いでいく。

「では、後のことは私がやっておきましょう」
「そうだね、それじゃあはっきんだまを回収するとしよう。転移装置、起動頼むよ」
「了解しました」



ギラティナを捕獲する術がなかった理由。
それはインキュベーターが貼った干渉遮断フィールドによるものだった。

このフィールドに守られている間は如何なる干渉も遮断する。
それは例え神のごとき力を備えたギラティナであっても例外ではない。
もしこれを力技で破ろうとするならば、それを遥かに超える力が必要となる。
故にディアルガ、パルキア、そしてはっきんだまの存在を感知したギラティナであっても手出しできない状況にあったのだ。


しかし、これはこちらがわからの干渉も遮断してしまうという不都合があった。
それは回収したエントロピーを分散させないための術であったのだが、もしこれを解除してしまった場合、会場の結界そのものを消すことになってしまう。
結果、ギラティナの干渉を弾く一方でこちらがわからも手出しできないという拮抗した状態が続いていた。

だが、あのガブリアス達の発生させたエントロピーでワームホールを発生させるという現象が発覚したおかげで、会場の結界を消すことなくギラティナをこちら側に呼びこむ術を見出すことができた。

すなわち、ギラティナを通すことができるだけのワームホール。
それを作りうる程の因果を備えた参加者の死と同時に、こちら側にギラティナを呼び寄せる。

それを起こせる者の一人はキュウべえ自身が目をつけていた参加者、暁美ほむら。
あとは彼女が死ぬまで気長に待つつもりだったが、ここで美国織莉子に敗れてくれたのは幸いだった。

全てが順調に進んでいた。


73 : Not Yet ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:23:26 NA1yXFjY0




「…私たちを差し置いて何をやってるのかしら?」

そんなキュウべえとアクロマのいる室内に現れたのは一人の少女。
桃色の髪を左右に縛った、中学生くらいの年の女の子。しかし纏っている衣装はまるでどこかの騎士のような姿。


「おや、アーニャかい。どうしたんだい?」

アーニャ・アールストレイム。
シャルルの直接の部下にしてこの殺し合いの儀式の協力者の一人。

「シャルルや私達には何の連絡もなく大きなことをしてるみたいだから、少し様子を見に来ただけよ」
「すまないね。ことは急だったものだから、連絡する暇がなかったんだ」
「少しは互いの連携も意識してくれないと困るわよ。
 あなた達の世界の最終兵器にエントロピーの回収機能を結びつけたのは誰だと思ってるの?」
「そのことには感謝してるよ。だから今回のような時も今後は気を付けるさ。本当だよ」

無表情なまま、悪びれているのか分からぬ表情でそう告げるキュウべえ。

「正直なところ、シャルルは全面的にあなた達の話を信用してるみたいだけど、私としてはまだ懐疑的なのよね。
 あなたの言うエントロピーなんてものが本当に存在してるのかってところとか」
「そこは視覚的に観測できるものじゃないからね、仕方ないよ。
 それでもこの殺し合いで参加者達の行動、そして死を通して回収されていくエントロピーは最終兵器を通して認識できるはずだよ」

最終兵器。
それはかつてカロス地方という場所で王が作り上げたもの。
本来は命を落とした一匹のポケモンを蘇らせるために作られたはずのそれは他の誰でもない王自身の手で全てを滅ぼす最悪の兵器へと形を変えていた。
王の悲しみを怒りへと変貌させる。
まるで希望を絶望に変異させるかのように、その想いを移り変わらせて。

ここにあるのはそれと同じ機能を持ったものだ。

動力を多くのポケモンの生体エネルギーとして起動するそれは、曲がりなりにも死者を蘇らせるという奇跡を成し遂げている。
では、ここにさらに純度の高いエネルギーを注ぎ込めば、一体どのような奇跡が起こせるだろうか。

例えばエントロピー。インキュベーター自身が回収することを目的としている、宇宙の熱力学的死を回避するために不可欠なもの。
本来ならばそのようなものを回収する機能など最終兵器にはもたらされてはいない。

だが、ポケモンのいない世界には他にも様々な奇跡を起こしうるものは存在している。
その一つに聖杯、というものがあった。
万能の願望機。如何なる望みも叶えうると言われる奇跡の釜。
セイバーやバーサーカーのようなサーヴァント、そしてイリヤスフィール達のいたような世界にあるものだ。

無論それも本物ではない。あくまでも限りなく本物に近い機能を持った贋作の一つだ。
それを解析し、その魔術的な作りをエデンバイタルの力をもって再現、最終兵器に転用することで今のエントロピー回収装置とすることができたのだ。

「こればっかりは信じられない、というならシャルルのことを疑うのと同義になってしまうけど、それでも君は信用できないかい?」
「…確かにそれもそうね。私が悪かったわ」
「大丈夫さ。最終兵器がエントロピーの回収さえ終えれば、僕達の目的は完遂される。
 今僕達にできるのは、それを確実にするためにこの殺し合いの儀式を達成させることさ」

ピョコ、とアーニャの肩に乗り上がるキュウべえ。
それを特に何の反応をすることもなく、アーニャはただじっと無表情で見つめるだけ。

「回収準備、整いました」

そんな時、アクロマがキュウべえに呼びかける。
はっきんだまを回収する準備が整ったということだ。

肩に乗っていたキュウべえは、反対側から飛び降りてアクロマの足元まで駆け寄る。


「よし、それじゃあ座標を合わせて――――ちょっと待って」

と、アクロマが装置を起動させようとしたその時、何かに気付いたキュウべえが待ったをかけた。




74 : Not Yet ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:23:59 NA1yXFjY0

「…まさか、こんなことが起こり得るなんてね」

それは会場内、黒猫に擬態していたキュウべえの目の前。

暁美ほむらの物言わぬはずの躯の胸が、静かに上下している光景があった。

「ソウルジェムを砕かれたはずの彼女がどうして」

そう、暁美ほむらは息を吹き返している。
未だ意識こそないものの、その生命はまだ終わりを告げてはいなかった。

死んだことは紛れもない事実。しかし生き返るような要素が暁美ほむらにあっただろうか――――

「まさか、はっきんだまと暁美ほむらのエントロピーを通したことで、何かしらの現象が起きた、ということなのか?」

原理も何も分からない。ただ分かるのは、これが自分たちにとってイレギュラーな事態であるということ。

「一応彼女も回収して何が起こったのか調べる必要がありそうだ。
 もしはっきんだまが原因で起こった現象だとするなら、何か重要な存在にもなるかもしれない」

もしかすれば彼女自身もっと有用な使い方があるかもしれない。
彼女自身、あるいは彼女に起こった現象自体に。

「アクロマ、はっきんだまと一緒に暁美ほむらの回収もお願いしたい。頼んだよ」

キュウべえの、何もない虚空に対する呟きに反応するかのように空間に小さな歪が生まれ。
やがて暁美ほむらとはっきんだまの姿はその中に掻き消えていった。

「さて、それじゃあこっちはこっちで適当に動くとしようか」



その数分後、一軒の民家から黒猫が一匹飛び出していく。
飛び出した部屋には何もない。
ただ、ほんの僅かに汚れたベッドが残っているだけ。



「はっきんだまからキュウべえ君の作る魔法少女達の持つソウルジェムと同じ反応が検出されています。
 どうやらはっきんだまにこの少女の命とでも呼ぶべきものが収められているようですね」

「さすがにこれは僕にも想定できなかったよ」

「それで、どうされるのですか?」

「とりあえず念のため拘束しておいた上で、目が覚めるまで待って話を聞いてみようと思う。
 もしかしたら彼女自身に何か使い道があるかもしれない」

「了解しました。では念のためあかいくさりを一部預けておきましょう」

「頼むよ。
 そういえば、ギラティナを呼び寄せた時に何か変わったことはなかったかい?」

「…それがですね。やはりあれほどのポケモンを降臨させたことで会場に張り巡らせた調整機器に強い負荷がかかってしまいまして。
 特に制限装置が一部故障してしまったようなのはまずいですね」

「ふむ…。直せそうかい?」

「次の放送までには予備の装置に切り替えられるはずです」

「じゃあ頼んだよ。儀式の進行に支障をきたす事態が起こらないようにはこっちでも調整しておくから」

「分かりました。お願いしますね」




75 : Not Yet ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:24:15 NA1yXFjY0

暁美ほむらに起こった現象。

キュウべえ達はほむらの持つ膨大なエントロピーを媒介として、ギラティナを招き入れ捕獲した。
その存在を文字通り縛り上げることで。

それがほむらとギラティナの間に小さからぬ繋がりを作り出してしまったのだ。
そしてその繋がりを元にあかいくさりがほむらの霧散しかけていた魂そのものも繋ぎ止めた。
今、ほむらの魂ははっきんだまに収められている。ギラティナの力の一端が収まった球はほむらのソウルジェムの代用品となったのだ。

インキュベーターであってもその発生を読むことができなかったのは仕方のないことだろう。
彼自身もエントロピーによって発生しうる奇跡の可能性を全て認識しきれているわけではないのだから。

しかしここで一つ、誰も気付いていないことがある。



ギラティナと深層的な部分において繋がりを持ったほむら。
魂をも留めたそれは、また別の部分においても繋がりをもたらしていた。

それは、ギラティナとの感覚。
視覚、聴覚といった感覚の一部がはっきんだまとの繋がりを通して共有されたこと。
意識を失った彼女の感覚が、ギラティナとも共有されてしまっていたことに誰も気付いていない。

無論意識のないほむらにそれらを認識することがあったかどうかは怪しい。
あるいは目が覚めた時にはほとんどのことを忘れている可能性すらあるだろう。

ただ一つ言えること。

それはじっと地面に横たわるギラティナは、アクロマとキュウべえ、そしてアーニャの会話の一部始終を聞いていたということ。
最終兵器のこと、制限装置の不調のこと、それ以外にも、ギラティナがあかいくさりに拘束されて以降の会話の全てを。

薄く目を開くギラティナの瞳の奥に、一瞬闇色の何かがドクリ、と通り過ぎていったことに、誰も気付いていない。


【暁美ほむら 蘇生(主催者側にて回収)】

【?????/一日目 夕方】
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康?、あかいくさりによる拘束
[服装]:見滝原中学校の制服、まどかのリボン
[装備]:はっきんだま(ほむらのソウルジェムの代用品)@ポケットモンスター(ゲーム)、あなぬけのヒモ
[思考・状況]
基本:???????
最終目的:“奇跡”を手に入れた上で『自身の世界(これまで辿った全ての時間軸)』に帰還(手段は問わない)し、まどかを救う。
[備考]
※はっきんだまにほむらの魂が収められており、現状彼女のソウルジェムの代用品とされています。
  ギラティナを制御しているあかいくさりによってその生命が間接的に繋ぎ止められている状態です。
※バトルロワイヤル上においては死亡扱いとなっているため次の放送では名前を呼ばれます。
※ギラティナと感覚が共有されており、キュウべえ達の会話を聞いていた可能性があります。


※バトルロワイヤルの装置には最終兵器@ポケットモンスター(ゲーム)をインキュベーターが改良したものが使われています。
※アクロマがギラティナを捕獲しその力を解析しています。
※現在ロワ会場での一部制限が機能しなくなっている可能性があります。
※会場のどこかを黒猫(キュウべえ)が徘徊しています。


76 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/03/20(金) 00:24:56 NA1yXFjY0
投下終了です


77 : 名無しさん :2015/03/20(金) 02:37:44 PPaJxx/Q0
投下乙です
ほむらと織莉子の因縁対決は一先ず織莉子が勝ったか。けれどアリス含めた全員が傷心状態なんだなぁ…
主催者陣も雲行きが怪しくなってきたがこの先どう影響するんだろうか


78 : 名無しさん :2015/03/20(金) 18:42:11 izIM7Mpc0
投下乙です

ほむらと織莉子はどちらが勝っても・・・と思ってたが織莉子が勝利したか
相容れられない二人だったから仕方ないにしても影響が大きいぜ
そして主催者らも忙しそうだなあと思ったら…ほむらはそうなるのかあ…
これはほむら次第で・・・


79 : 名無しさん :2015/04/16(木) 11:24:02 nBOVSiTo0
予約きたぞー!


80 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/04/26(日) 15:00:44 29xrkRJ.0
遅れてすみません
実質ゲリラ投下になりますが完成したので投下します


81 : 帝王のココロ ◆Z9iNYeY9a2 :2015/04/26(日) 15:03:50 29xrkRJ.0
確かに覚悟はあった。
今の自分が元の仲間、海堂や結花と会えばどのような反応をされることになるか。
無論、敵対することになる可能性も想定していた。

だから、村上に言ったようにいざという時にはこの手で二人を殺す、と。

しかしいざ目の前にしてしまうと、躊躇してしまった。

海堂にトドメを刺すことは結局できなかった。
結花を見て戦うことを躊躇してしまった。






「ゼロ、君は親しい人はいるのか?」

それは数時間前。
まだスマートブレイン社が禁止エリアとして選ばれていなかった時にゼロとした会話。

「愚問だな、我々はこれから全ての参加者を殺すことを目的としている者同士だ。
 お前のようにオルフェノクを殺すのは間を置いてという協定はあるにせよ、そうでない者と相対した時にお前は躊躇いをもって戦うつもりか?」
「それはつまり、君には知り合いや親しい人…、死なせたくないような相手はいないということか?」
「知り合いはいる。だがそれだけだ。
 もし私の前に立ちふさがるのならば、例えかつての知人だろうと殺す。もし私のあずかり知らぬところで死ぬならそれで終わり。
 それだけの者しかいない」
「そうか」

そんなゼロの言葉。
自分のかつての仲間であっても迷いなく殺す、というそんなゼロの覚悟に。

「羨ましいよ。俺には君が」




あの時どうしてそう感じたのかは自分でもよく分からなかった。
だが、今なら何となくだが分かる気がする。

彼のように仲間も、自分の心さえも切り捨てることができれば。
もう自分が傷付くことはないのだから。





82 : 帝王のココロ ◆Z9iNYeY9a2 :2015/04/26(日) 15:04:25 29xrkRJ.0

セイバーとN、リザードン。

目の前の存在に対して警戒を絶やさぬ二人は、しかし困惑している様子が僅かに見えていた。

美遊、結花の二人を風に乗せて送り出す行為。
それを見逃す理由はないはずだ。
だからもしそちらに意識が向くのであればその隙を一気に攻め込めるように態勢を整えていた。

だというのに、目の前の魔人達はそちらに意識を向けることなく二人を無視するかのように見送っていた。

「見え透いた誘いだな。
 あの二人を狙えば、その隙を突くつもりだったのだろう?」

そんな二人の考えなどお見通しだとでも言わんばかりに、ゼロは二人に向けてそう言い放つ。

「あの二人と比較した場合、この場で最も脅威となるのは騎士王、お前だ。
 ならば無闇に隙を作るよりも万全の状態でお前を迎え撃つべきだと判断したまでだ」
「――――…マリ、ここから離れてください」
「で、でも―――」
「乾巧ならば今は政庁に向かっているはずです。
 彼は今迷っている。あなたの存在は彼に必要だ」

そうセイバーは、真理に対しここからの撤退を促すように言葉をかけ。
同時にその手の刀に風を纏わせ、ゼロに向けて斬りかかった。

それと同時に、オーガも剣を構え、リザードンはそんな彼に向けて飛翔した。


「はぁっ!!」

騎士王の振るう剣がゼロの体を捉える。
風王結界による暴風を纏った武器が魔力放出により強化された筋力を持って振るわれる。
それはただの無銘の剣であっても岩をも打ち砕くほどの威力を叩き出す。

しかしゼロは、その一撃を掌で受け止める。

煌く紅き閃光の中で、セイバーの手中の剣の風が霧散。不可視の刀身が露わになる。
しかし風王結界が解除されたとて対峙する相手は素手、先ほどまでの竹刀での攻撃と違いそのまま押し込めればその体を傷つけられるはず。

だという状況で、セイバーはそのまま押しこむことなく刀身を引き距離を取った。

「…なるほど、竹刀を持っていた時の一撃が妙に軽いものしか打ち込めないことが気にかかっていましたが…」
「気付いたか。なかなかの勘だな」
「その光、風王結界のみならず私の魔力放出すらも無効にしていた、ということか」

セイバーの身体能力の源である魔力放出。
それを無効にされては基本的な身体機能はサーヴァントのそれというには大きく劣るものになってしまう。
もしあのまま体を下げなければカウンターを受けていただろう。

「ではどうする?勝てぬと判断し、このまま尻尾を巻いて逃げるか?」
「戯言を。その光が魔術や魔力を無効化させるものならば、それを受けねばいいだけのこと」

言うやいなやセイバーは再度その刀に風王結界を纏わせる。
あの手の光がその無効化能力の元凶であるならばそれにさえ気をつければ対処のしようはある。

再度足の魔力を一気に放出し距離を詰めたセイバー。
そんな彼女に向けて突き出された腕を身を低くして回避。
漆黒の体に向けて思い切り刃を振りかざし。

しかしその一撃はゼロの背にあったマントが受け止める。

まるで生きているかのようにその不可視の刀身をグルリと絡めとった黒き布。
そのまま咄嗟に剣を引こうとするセイバーの体を宙に打ち上げる。

バランスを崩したまま宙を舞うセイバーの体に向けて、ゼロの拳が襲いかかる。

それでもセイバーは動揺することもなく剣の風を放出して態勢を取り戻し。
突き出された拳に対して重力を味方に思い切り剣を振り下ろした。

飛び上がったゼロの拳と重力と体重をかけて振り下ろされたセイバーの剣がぶつかり合い。
そのまま発生した衝撃に任せてゼロが着地し。
一瞬遅れてセイバーがそこから離れた場所で地に足を着けた。


83 : 帝王のココロ ◆Z9iNYeY9a2 :2015/04/26(日) 15:04:50 29xrkRJ.0

飛び上がったゼロの拳と重力と体重をかけて振り下ろされたセイバーの剣がぶつかり合い。
そのまま発生した衝撃に任せてゼロが着地し。
一瞬遅れてセイバーがそこから離れた場所で地に足を着けた。

「いい腕だ。それにその身に秘めた力、まるで人の身でありながら体の内に竜を飼っているかにも見えるな」
「…、お前こそ、その力は先天的に持っていたものではあるまい。一体己の何を差し出してそれほどの力を得た?」

セイバーは腕を振るい衝撃の残滓が残した痺れを振り払い。
ゼロは刀による切り傷の血が滲む拳を振り滴る血を払う。

再度向かい合う二人は、地を蹴って再度ぶつかり合った。







翼を広げて空を舞うリザードンの吐く火炎が黒き鎧を焼き焦がす。
しかしオーガはそれに動じることなく、銃剣形態のオーガストランザーを構え光弾を射出。
天を舞う竜を地に叩き落とさんと、地の帝王は銃を撃ち続ける。

「マリ、君の持ってたあの銃を貸してくれないか?」
「…どうするのよ」
「リザードンばかりに戦わせるわけにはいかない。僕も戦わなければ」
「それなら、私も――――」
「彼らは僕が引きつける。だから君はイヌイタクミのところに向かうんだ」

光線銃を受け取ったNは、そう言いかけたままオーガの元へ向けて走りだした。

「ゲコッ」

真理を静かに見つめるグレッグル。
タケシに託されたそのポケモンが何を伝えようとしているのか、真理には分からなかった。



オーガの体を火炎の渦が包み込む。
しかし次の瞬間には膨張したフォトンブラッドが大気にエネルギーを振りまきながら炎を吹き飛ばす。
続いてリザードンの口から放たれた竜の覇気がオーガの体へと襲いかかる。
それをオーガは長剣形態へと変形させたオーガストランザーで斬りつける。
真っ二つになったりゅうのいかりはオーガの背後に着弾。二つの爆発を引き起こす。

爆風で周囲の視界が阻まれる中、オーガは振り向きオーガストランザーを振るった。

一本の閃光を弾き飛ばした後視界の晴れた先を見ると光線銃を構えたNの姿。
再度オーガストランザーを構え直そうとした時違和感を感じ目をやると、手元にあったのは石のように固まった己の武器の姿。
次の瞬間襲いかかったりゅうのいかりを避けながら剣を変形させようとするも石化したそれは動かない。

「ちぃ!」

空を舞うリザードンに対する攻撃手段を一つ失ったことに舌打ちをする木場。

そのまま再度光線銃を向けるNに対し、オーガフォンを向けてその手の光線銃を撃ちぬく。
手から弾かれるように飛んでいった光線銃は宙で爆発、鉄屑となってパラパラと降り注ぐ。

が、追撃をかけようとしたところで風を切る音を耳にしたオーガは後ろに下がる。
背の巨大な翼を輝かせながらこちらに突撃をかけるリザードンの一撃を回避。

そのまま空に飛び上がり旋回しようとするリザードンに向けて、その手に生成した灰色の魔剣を投げつける。
回転しながらリザードンの身を切り裂かんと飛ぶそれにリザードンは気付き身を捩って避けたが、翼を掠めてしまい衝撃でバランスを崩す。

「グゥ!」

地面に墜落するリザードンに向けて、オーガは走りながら振りかぶった拳を思い切り叩きつけた。

「ガァ!!!」

悲鳴のような鳴き声を上げて吹き飛ばされるリザードン。

「リザードン!」

駆け寄ろうとするNの前に、オーガが立ちはだかる。
その手には石化した剣。変形機構などといった機械的な攻撃は行えないだろうが、人間を斬りつけて殺すだけなら十分に武器としての役目を果たすだろう。

「……」
「人間、だな?」

まるで何かを確かめるかのようにそう問いかけるオーガ。

「僕は、……どうなんだろうね。人間だと思うけど、自分でもよく分からない。
 君は、どうなんだい?」

人間であることに間違いはないのだろう。
だが、今この場で聞かれている人間とはそういうことではないはずだ。


84 : 帝王のココロ ◆Z9iNYeY9a2 :2015/04/26(日) 15:05:18 29xrkRJ.0

しかし、Nにはそんな自分のことよりもそんな問いかけをしてくる目の前の彼のことの方が気になっていた。

木場勇治。
海堂直也の仲間で、人間とオルフェノクの共存を理想としていたはずの男。

「カイドウから聞いてる。人間とそうでない者が共に生きられる世界を夢見ていた男だ、と。
 そんな君が、本当にタケシを、海堂を殺したというのかい?」
「少なくともあの時向かってきたベルト所有者の男は殺した。
 それだけじゃない。啓太郎――こんな風になってもオレのことを受け入れてくれた男も殺した。名を知らぬ少女も斬った」

後ろから、まだその場に留まっていた真理が息を飲む声が聞こえた。

啓太郎。真理の言っていた仲間だったと思う。
少なくとも木場勇治にとっても浅い間柄の人物ではないだろう。それを殺したという。

一見すれば非情な事実。しかし、

―――こんな風になってもオレのことを受け入れてくれた男も殺した

Nにはその言葉にはまるで自分を戒めるかのような印象を受けるものが混じっていたように思われた。
まるで非情であることを自分自身に強いているかのような。

「なら、どうして僕のことをすぐに殺さない?人間かどうかなど確かめる前に殺してしまえばそれで済んだ話だ。
 君は、まだ迷っているんじゃないか?」
「――――」

その手から振り下ろされる剣。
しかしNにはそれは十分に避けられるもの。

回りこむようにオーガの後ろに移動し、リザードンの元へと駆け寄る。
苦しそうに呻くリザードンに、素早くバッグから取り出した傷薬を吹きかけると少し楽になったように俯いた。

そうして起き上がったこちらへと走りよるオーガに対して火炎放射を放ち牽制する。

「グルルルルル…」

唸るリザードン。まだ目の前の存在に対する怒りが収まっていない様子だ。
致し方ないことだが、しかしNはそんなリザードンを宥める。

「どうして君は理想を捨てたんだ?君の持っていたものは、そんな簡単に捨てられるようなものだったのか?」

畳み掛けるようにそう問うN。
海堂の言葉が正しいならば、彼は灰色の混沌とした世界に一つの形をもたらすような理想を持っていたはずだ。

だからこそそれをそうも簡単に捨てた理由が聞きたかった。

「…それを、裏切ったのはお前ら人間だ!!!」

しかしその問いかけに激昂するかのように声を荒らげて、オーガは勢いよくNへとむけて剣を突き出す。
それを後ろにいたリザードンがその翼を鋼のように硬質化させて受け止める。

ほんの一瞬、Nの脳裏にフラッシュバックした言葉を思い出す。
人とは違う力を持っていたことで化け物と蔑まれた、封印したはずの過去。
木場勇治という男はその時のような思いをいつも感じながらも理想を追っていたはずだ。


「人間がどうか、なんて関係ない!君はよりよい世界のために、自分の意志でその理想を追っていたんじゃないのか?!
 少なくともカイドウはそう信じていた!!だからこそ君に憧れていたはずだ!」
「黙れぇ!!」

―――Exceed Charge

電子音が響くと同時に、石化していたはずの剣の表面が崩れ、中から黄金色のエネルギーを纏った大剣が権限する。
全長にしてイワークやホエルオーのような大型ポケモンにも並ぶだろうその刃を、オーガは横殴りに振り払う。

周囲の木々を、草木をなぎ払い襲いかかるオーガストラッシュを、リザードンはNを抱えて飛び上がることで回避。
しかしそこからさらに伸びた光の刀身がその後を追うかのように振り上げられる。

急旋回して避けるが、先ほどと同じく翼を掠めたエネルギーがバランスを崩させ、リザードンを地面に叩き落とす。

抱えていたNにダメージがいかないように全ての衝撃をその身に受ける形で墜落したリザードン。
その体に受けたダメージは大きく、起き上がることができない。

「リザードン…!」

気にするな、とでも言うかのような目を向けるリザードン。
しかしそこから復帰しようとしても墜落のダメージが大きすぎた。
こちらに向かい来るオーガが剣でこの体を貫くのはきっと傷薬をリザードンに使うより速いだろう。
かといって、大きなダメージを負ったピカチュウを呼び出せるはずもない。


85 : 帝王のココロ ◆Z9iNYeY9a2 :2015/04/26(日) 15:06:46 29xrkRJ.0







Nに向けて剣が突き出された、まさにその時だった。
その剣に向けて紫色の小さな光が連続して着弾する。

思わぬ不意の衝撃でオーガはバランスを崩して攻撃を逸らさせた。
Nのすぐ横を通り過ぎて行くオーガストラッシュ、そしてオーガ自身の体。

そこからどうにか踏ん張り態勢を持たせたオーガは、それでもNへの攻撃を止めず一歩横に動いた後突き出した剣を横へと振りかざした。
Nの胴体を切断するかのように迫るオーガストラッシュ。

そこに、何かを構えた影が割り込む。

構えた何かを剣の前へと翳し。
さらに構えられた何かに対して、その肩に乗った影が光る拳を叩きつけた。

バチッ、と構えられた何かは弾けて消し飛び。
影はNを巻き込んでオーガから離れるように吹き飛ばされた。

「―――!」

その結果、オーガの剣の間合いから一気に離れることには成功していた。

「っつつ……、やっぱり鉄製のポスターなんかじゃ無理があったか…」
「マリ、逃げろと言っただろう!」
「ごめん、だけどその前にどうしてもやっておかなきゃ…」

と、起き上がった真理の目の前に突き付けられる剣。
触れるか触れないかの数ミリというところで静止している。

「――!マリ?!」
「余所見している暇はないぞ」

セイバーは依然としてゼロと抑えることに精一杯。

リザードンに傷薬を使って撃退を、と考えたNだが、真理とオーガの距離があまりにも近すぎた。
真理の救出と真理を一刀の元に叩き伏せること、どちらが早いかなど論じるまでもない。

「………」
「………」

吹き飛んだ衝撃で肩から落ちたグレッグルも動くことができない。

じっと真理を見つめるオーガ。その視線を、真理は逸らすことなく受け止める。

「…私を殺したいんだよね?」
「………」

真理の問いかけに対しての返答は沈黙。
それを真理は肯定と受け取る。

「いいよ。その代わりお願いがあるの。
 ファイズギア、あれだけは巧のところに届けて欲しいの。
 それともう一つ、巧に伝えて。どんな姿になっても巧は巧だから、私はどんなになっても巧を受け入れるから、って」
「マリ!何を言ってるんだ!」
「もう嫌なの!タケシもナナリーちゃんも、みんな私を守って死んでいって!桜ちゃんがおかしくなってく時も、私だけ何もできなかった!」

守られてばかりの、そして自分の中にある巧への想いも振り切れていない最低の人間にはなりたくはなかった。
もしそれで巧が迷いを振り切ることができるなら、そしてN達を逃がせる時間が作れるなら、ここで死ぬことは無意味なことではないはずだと。

「な、桜!?マリは桜を知って―――っ」

ゼロと戦っていたセイバーが真理の叫んだ桜の名前に反応して動きを止める。
戦いの最中においては大きな隙。

しかしそこに追撃がくることはなかった。

もしその一瞬セイバーが視線を真理に向けていなければ、ゼロもセイバーと同じように一瞬の隙を作っていたことに気付けただろう。
セイバーが見たのは、隙を見逃すように間合いを開けたままこちらを睨みつける魔王の姿のみ。


86 : 帝王のココロ ◆Z9iNYeY9a2 :2015/04/26(日) 15:07:31 29xrkRJ.0

「…それを何故俺に言う?」
「だって木場さんだから。木場さんはどんな時だって約束を破ったりはしなかったから」
「それは人間の時の俺だ。今の俺には関係がない」
「変わらないよ。木場さんだって、木場さんだから」
「――――」

真理には、木場のその仮面の下に隠された表情を伺うことはできない。
しかし、そう答えて数秒の沈黙の時間が周囲を覆い。

やがて木場は剣を下げた。

その様子に、木場の思惑が分からぬままも安心するN。

―――――――バキッ

そんな時だった。
辺りにまるで太いプラスチックの柱を叩き折ったかのような音が響き渡ったのは。

「………っ、ぁ………」

そして視線の先には足を抑えて蹲る真理の姿。
その右足は膝の辺りから関節が逆方向に曲がっている。

「マリ!!」
「貴様!」
「安心しろ、今は殺しはしない。あくまでも逃さないための保険だ」

セイバーが怒りを露わに木場へと向かおうとするがゼロに阻まれ。
Nが駆け寄ろうとすると真理の体を持ち上げて剣を突き付けた。それ以上近寄るならば殺す、ということだろう。

「女、乾巧が政庁にいるというのは本当だな?」
「…っ………!」

刀の柄でゼロの拳を受け止めながらも、問いかけられたセイバーは苦々しげに表情を歪めて首を小さく縦に振る。

「ゼロ」
「好きにしろ。
 だが、一つだけ言っておいてやろう。そうするのならばその女を無意味には死なせるなよ?」

一方でゼロは振り向くこともせず、セイバーとの鍔迫り合いを続けたまま、忠告でもするように木場にそう告げた。

「園田真理。君は乾巧の元に着くまでは生きていてもらおう。
 君を彼の目の前で殺せば、彼も覚悟を決めるだろう」
「…っ、い、いいよ、それでも……」

足の痛みに顔から血の気を引かせながらも喉から絞り出すように声を出す真理。
木場はそんな彼女を見下ろしながらオーガフォンをベルトから抜き取り、人間の木場勇治の姿へと戻り。
しかし間髪入れることもなくオルフェノクの、それも巨大な四肢を持った疾走態へと変化させた。

足が変な方向に曲がった真理をそのまま抱え上げる。

「ゲゲッ!!」

その出発を阻もうとホースオルフェノクへと跳びかかったグレッグルを、顔の向きを動かすことすらせずにその手に顕現させた盾で弾き飛ばした。
小さな体はあっさりと打ち返され宙を舞う。
地面に墜落しそうになったその体を、Nが走り受け止めた。


87 : 帝王のココロ ◆Z9iNYeY9a2 :2015/04/26(日) 15:08:21 29xrkRJ.0

「ハッ!」

そのまま前足を持ち上げて地面に叩きつけ、その反動で後ろ足が浮き上がる瞬間に地面を蹴って駆け出した。


「リザードン!!」

いい傷薬をリザードンに吹きかけながら呼びかけるN。
言いたいことは悟ったように、起き上がったリザードンは両翼を広げその背を下げる。

「…、彼女をお願いします!この男は私が―――」

襲いかかるマントを一つ一つ切り払いながらそう叫ぶセイバー。
Nは振り返り、静かに頷いた後リザードンを飛翔させた。

「ゲゲゲー!」

焦るように汗を流しながら鳴くグレッグルをその肩に乗せて。



(ナナリーが命を賭して守った女、か)

後ろで去っていく木場を背中で見送りながら、ゼロは園田真理の言葉を思い出す。
あの心優しいナナリーのことだ。きっと自分によくしてくれた園田真理を守るためにマークネモを駆って戦ったということなのだろう。

それで死んだ、ということはネモを持ってしても止められなかった相手か、あるいは別の第三者の介入があったのか。そこまでは分からない。
ただ一つ事実としてあるのは、この会場で園田真理がナナリーと心を通わせた一人であるということ。


「フ」

自嘲するように笑ってその想いを打ち切り、セイバーへと向き合う。

「これでお前は後ろを気にする必要はなくなったわけだな」
「…くっ!」

挑発するようにそうセイバーへと告げる。
無論そんなことはない。セイバーの心境としては一刻も早く真理を助けるために木場を追いたいという一心が大きいだろう。

「これまでの斬り合いで私の力量は分かっただろう?これでもまだ後ろに気を取られるようなら、死ぬぞ?」
「………」

セイバーは構えを取り直し息を吐き出し。
ほんの2秒、静かに瞳を閉じる。

一見隙だらけだが攻めれば予測し難い反撃を受ける可能性がある時間。
故に静かにその様子を構えて見据えるゼロ。

そしてセイバーが瞳を開いた時、焦りや迷いを打ち払ったかのように周囲の気は研ぎ澄まされていた。

「――――!」

地面がひび割れるほどの衝撃を互いに発しながら共に地を蹴った二人の拳と刃がぶつかり合った。




園田真理は、自分にとっては村上峡児に並ぶ、殺さなければならない存在だった。
彼女の密告があって結花は、海堂は命を落とすことになった事実は忘れていないのだから。

だが、それを彼女自身に向けて追求するつもりはなかった。
人間の汚さはさんざん思い知らされた。例え園田真理であってもそれが変わらない以上、深く追求したところで何も解決しないのだから。


しかし。
そんな彼女が、オルフェノクである乾巧を信じる、と言った。
そして、自分に残っている木場勇治としての俺を信じる、とも言った。


88 : 帝王のココロ ◆Z9iNYeY9a2 :2015/04/26(日) 15:08:58 29xrkRJ.0

本来ならば俺たちを裏切った口がそんな言葉を言うのか、と激怒して然るべきだったのだろう。
なのに、人間を見限っていた、既に何も期待していないと思っていたはずの俺の中に浮かび上がったのは別の思いだった。


菊池啓太郎の時には決して生まれなかった、チラリと思ったかもしれないがそれでも振り切ることができた思い。
自分を裏切った園田真理がそんなことを言うことを想定していなかったこともあるのかもしれない。

―――あの時の園田真理は、本当に彼女だったのか?


―――もしかしたら、人間とオルフェノクも――――――――

しかしその先を考えてはいけなかった。
自分で決めたはずなのだから。オルフェノクとして生きる、と。
既に啓太郎を手に掛けた今、もう戻ることなどできない。

それでも一瞬生まれた迷いは心をじわじわと蝕む。
このままではオルフェノクとして生きる意志が壊されかねない、そう思った。

だからこそ、それら全てを彼に問うことに決めた。
ファイズに。闇を切り裂き光をもたらす救世主に。
乾巧に。

闇を切り裂くように、俺の迷いもあの男との戦いが消してくれるのではないか、と。

幸いにしてファイズギアは手元にある。
もしこれを渡して尚も戦えないようであるならば、もう彼に何かを期待することは止めるだろう。
そうならないための最後の保険が真理の存在だ。

別に今の彼女の足を折らずとも、彼女が逃げることはないというのは分かっている。
それでも迷いを表に出すわけにはいかない自分のせめてもの抵抗のようなものだった。


(ああ、やはり俺には君の存在が必要なようだな。乾巧)

彼を倒した時こそ、俺は完全にオルフェノクとなれる。

だから。

(―――それまでに死んでくれるな、俺を失望させてくれるな、乾)

迷える心の帝王は、しかし歩みはただひたすら一直線に。

救世主を求めて走り続ける。

求める相手が向かっているという政庁へと向けて。


【E-5/草原地帯/一日目 午後】

【ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(中)、コード継承
[装備]:なし
[道具]:共通支給品一式、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]
基本:参加者を全て殺害する(世界を混沌で活性化させる、魔王の役割を担う)
1:セイバーを倒し木場を追う。
2:木場と手を組むが、いずれ殺しあう
3:可能であるなら、今だけは木場のように同盟を組むに値する存在を探す
4:ロロ・ランペルージは己の駒として利用する、が………?
[備考]
※参加時期はLAST CODE「ゼロの魔王」終了時
※第一回放送を聞き逃しましたが、木場勇治から情報を得ました
※C.C.よりコードを継承したため回復力が上がっています。また、(現時点では)ザ・ゼロの使用には影響が出ていない様子です

【セイバー@Fate/stay night】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、魔力消費(中)
[装備]:枢木スザクの日本刀@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー、スペツナズナイフ@現実
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:シロウの願いを継ぎ、桜とイリヤスフィールを守る
1:ゼロを倒し木場を追って真理を助ける
2:間桐桜を探す
3:余裕があれば約束された勝利の剣を探したい
[備考]
※破戒すべき全ての符によりアンリマユの呪縛から開放されセイバーへと戻りました


89 : 帝王のココロ ◆Z9iNYeY9a2 :2015/04/26(日) 15:09:14 29xrkRJ.0


【D-4/市街地/一日目 午後】

【木場勇治@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、心を蝕むような迷い、ホースオルフェノク激情疾走態変身中
[装備]:オーガドライバー一式
[道具]:基本支給品、グリーフシード、アヴェロンのカードキー、クラスカード(ランサー)、ファイズギア、コンビニ調達の食料(板チョコあり)
[思考・状況]
基本:オルフェノクの保護、人間の抹殺、ゲームからの脱出
1:真理を連れて乾巧の元に向かい、彼と決着をつける
2:すべての人間を殺したあと、村上を殺す。
3:もし巧が迷い続けているならば真理を殺してでもその気にさせる。
[備考]
※コロシアムでの乾巧との決戦の途中からの参戦です


【園田真理@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
[状態]:疲労(大)、身体の数カ所に掠り傷 、右膝骨折(真っ当な歩行は不可能)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、支給品0〜1(確認済み)、グレッグルのモンスターボール@ポケットモンスター(アニメ)、ファイズアクセル@仮面ライダー555、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:巧とファイズギアを探す
1:…………
[備考]
※参戦時期は巧がファイズブラスターフォームに変身する直前
※タケシと美遊、サファイアに『乾巧』、『長田結花』、『海堂直也』、『菊池啓太郎』、『木場勇治』の名前を教えましたが、誰がオルフェノクかまでは教えていません    
※美遊とサファイア、ネモ経由のナナリーから並行世界の情報を手に入れました。どこまで理解したかはお任せします
※不明支給品の一つは鉄製ポスター@Fate/stay nightでした

【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(小)
[装備]:サトシのピカチュウ(体力:疲労(大)ダメージ(中)、精神不安定?、ボール収納)、サトシのリザードン(疲労(小))、タケシのグレッグル
[道具]:基本支給品×2、割れたピンプクの石、プロテクター@ポケットモンスター(ゲーム) 、傷薬×2
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:木場を追い、真理を助ける
2:世界の秘密を解くための仲間を集める
3:ポケモンセンターに向かいたいが…?
4:化け物…………
[備考]
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※並行世界の認識をしたが、他の世界の話は知らない。


90 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/04/26(日) 15:09:45 29xrkRJ.0
投下首領です


91 : 名無しさん :2015/04/26(日) 18:51:30 6bHiE7ec0
投下乙です

木場はそう動くかあ
確かに彼なら・・・迷ってるからこそあくまでも決着を付けに行くか
そして残った二人のタイマンの行方は?


92 : 名無しさん :2015/04/26(日) 23:46:25 B4g16zyc0
投下乙です

木場さんはたっくんとの決着を優先したけど今の精神状態で大丈夫か?
そして鯖とも互角に渡り合うゼロさんは相変わらずつええw


93 : 名無しさん :2015/04/27(月) 10:03:52 wx2zK9Yk0
投下乙
木場は迷いを降り切れるのかねぇ…
ってかマーダーって今ゼロ、木場、ゲーチスの三人だけか?


94 : 名無しさん :2015/04/27(月) 10:48:14 kLafvwCg0
今まさに黒くなりかけてる草加、オルフェノク至上主義の村上、限りなく黒いグレーの桜も怪しい>マーダー
残りも25人だし、割合拮抗しているぽい?


95 : 名無しさん :2015/04/27(月) 11:56:29 wx2zK9Yk0
月もどう転ぶか分かんない、織莉子はまどか関連で他の対主催者と衝突する可能性大
マーダーは少数だけど木場とゼロは単体でもかなり強い、そこまで対主催側が有利って訳じゃないんだな


96 : 名無しさん :2015/04/28(火) 21:02:25 pzpVyyLU0
投下乙
桜に襲われたこと、ナナリーに守られたこと、ここで微妙につながったか
いよいよたっくんの元にファイズフォンとみんなが…一体どうなるか


97 : 名無しさん :2015/04/29(水) 01:10:55 mjy1kkn20
たっくんの予約来てるじゃないか。楽しみだ


98 : 名無しさん :2015/04/29(水) 12:39:03 qJjL2gx20
ゼロすごいな
セイバーでもこれなんだからサーヴァントや魔術師の天敵って感じなんだな
たっくんと真理の再会も楽しみ


99 : 名無しさん :2015/04/29(水) 23:11:02 mjy1kkn20
もし草加さんが死んだら昭和vs平成のように悪霊と化してたっくんに精神攻撃を仕掛けるのだろうか


100 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/03(日) 00:06:00 TQ2F2JDg0
一旦仮投下スレに一部パートまでの部分を仮投下させてもらいます


101 : 名無しさん :2015/05/04(月) 02:24:03 vMmI5W760
木場さん達も追加予約だと……
これは遂にたっくんの変身来るか?


102 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:03:52 2RZZJUBI0
投下します


103 : 魔法少女は絶望と戦いの果てに ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:05:00 2RZZJUBI0
―――――――――Interlude


「そういや」

まだ目的の場所にまで辿り着かないといった辺りだろうか。
ふと巧は思い出したかのようにさやかに問いかけた。

「暁美ほむらのやつが言ってたことなんだけどよ、『魔法少女は人間じゃない』みたいなこと言ってたんだが、あれってどういう意味なんだ?」
「………」

聞いた瞬間、さやかの表情が強張ったように感じられた。
少しいきなりすぎたか、と後悔する巧。

しかしさやかは、静かに口を開いて話し始めた。

「…私達魔法少女はさ、どんな願い事も叶えてもらう代わりに魔法少女として戦うことを背負わされるんだけどさ。
 その時私達の命は、人間の体からこのソウルジェムに移し替えられるんだ」

と、さやかはソウルジェムを取り出す。
濁りを残した、掌に乗るほどの大きさの青い宝石。

「命を移し替える?どういうことだよ?」
「これが壊されない限り、私達は死なない。例え心臓を潰されても頭を壊されても、魔力さえあれば回復させることができる。
 でも、逆にこれが壊されれば私達魔法少女は命を落とすの」
「……それで、その魔女とかいうのとずっと戦い続けなきゃいけないってことか?」
「うん、それって人間っていうより、戦うためだけに存在するゾンビみたいでしょ?」

さやかのまるで自嘲するかのような言葉に、巧は頷くことも否定することもできなかった。
ただ、一つだけ気になっていたことだけを聞く。

「…マミのやつはそのこと知ってんのか?」

あの言葉から推測するに、ほむらは知っていたのだろう。
だがマミはそんな様子をおくびにも出さなかった。

こちらに心配をかけないように隠していたのか、それとも何も知らなかったというのか。

「キュウべえは最後まで気付くことなかったって言ってたから、私の知ってるマミさんは知らないはず。もしかしたら、こっちのマミさんも……」
「………そう、か」


104 : 魔法少女は絶望と戦いの果てに ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:05:50 2RZZJUBI0

知らず知らずのうちにマミが背負わされていたものに思いを馳せる巧。

「…お前は、大丈夫なのかよ?」

今隣にいる、それを知った少女は一体何を思っているのか。それを知ればマミの気持ちに近づけるのだろうかと思い、巧はそう問いかける。

「私は…、もう大丈夫。色々…あったけど振り返るよりもやらなきゃいけないことが、今はあるから」
「そうか」

少女の決意を、そうして受け止め話を終わらせた巧。


――――もしこの時、もう少し踏み込んだところまで考えていれば。

あるいは、この先に待ち受ける運命を受け入れる覚悟ができたかもしれない。

そう後悔することになるのは、もう少し先の話。



―――――――――Interlude out





タイミングで言うならば、放送が始まって間もない辺りだろうか。
それは突然訪れた。

ドクン


「――――――」

「さて、どこに繋がっているのか分からないが、L、もしくはこの殺し合いに抗おうと考えている者達がいるのならば聞いてほしい」

「え、あれ?…何これ…、痛い…?」
「桜さん?」

「あ、あああああああああああああああああぁぁぁぁ!!」

桜が突如身動ぎしながら叫び声を上げるのとマミが付近に魔力の気配を感じ取ったのはほぼ同時だった。
それもただの魔力ではない。魔法少女のものではない、むしろ魔女のそれに近いドス黒い気配。
吐血しながらもだえ苦しむ桜の姿を見ても、その気配故に身を案じる余裕すらマミにはなかった。


105 : 魔法少女は絶望と戦いの果てに ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:06:46 2RZZJUBI0

「…まさか……!」
「おい、どうした!」
「何があったニャ!」
「みんな!離れて!」

理解するよりも自身の経験が発した警告を頼りに、皆に向けて声を上げるマミ。
地面を真っ黒な影が覆い尽くす寸前、マミは咄嗟の判断でニャースと総一郎に向けてリボンを飛ばし宙へと持ち上げた。

「うおっ!」
「ニャッ!?」

桜の周囲数メートルの範囲をどす黒い質量を持った影が覆う。
マミはバックステップで距離を取りながら、マスケット銃を展開。影に向けて銃口を向ける。

「…桜、さんよね?」

恐る恐る問いかけるマミ。
対応はしたとはいっても何が起きたのか把握などできてはいない。
ただ、彼女から湧き出るその黒い気配はどう見ても人間のものではない。

もしかしたら何かが彼女に取り付いていて、そのせいで桜がおかしくなってしまった。マミはそう思いたかった。
だから、この問いかけも否定、あるいは返答無しであってほしかった。

「―――ええ、そうですよ巴さん」

なのに、ゆったりと顔を上げた桜は、さっきまでの不安定でたどたどしい口調と同じと思えないほどにはっきりとそう返答した。
紫と白の交じり合っていた長髪は完全に真っ白に染まり、その瞳には底の見えない闇がうごめいているようにも見えた。

「それは、何?」
「それってどれのことですか?」
「とぼけないで!あなたから出てくるその黒い影よ!」

動揺がマミの声を荒げさせる。
ついさっきまで一緒にいた少女の突然の豹変。
そしてそこから生み出されている闇色の何か。

もしマミの常識で考えた場合、魔女のような何かに取り憑かれていて、ついさっきまでは平常であったのが何かの弾みで魔女の口づけに該当する呪いが発動してしまったか。
だからマミは確かめる必要があった。
彼女がまだ正気であるのか。もう手遅れなのか。

助けられるのであれば、見捨てるわけにはいかないのだから。

「……ねえ、巴さん。あなたには感謝してるんです。
 あんなにボロボロで一人ぼっちだった私に優しくしてくれて」
「………」
「だけど、今の私はやらなきゃいけないことができる力を取り戻したの。さっきまでの何もできない私じゃない。
 先輩に殺してもらうために悪い子になる、そんな私に。
 だから、どこにいるのか分からないけど、聞いているならお礼を言わせて。バーサーカーを倒した誰かさん?」

まだカメラが回っていることを意識してかそんなことを語り出す桜。

「だからもしみんなじっとしててくれるなら、優しく殺してあげる。
 ねえ、巴さん。あなたも一緒に逝きましょう?」
「っ…!」

マスケット銃を撃ち出すマミ。

しかしその銃弾は桜の前面に現れた影が弾き飛ばす。

別に難しいことなどしていない。撃ち出されることが決まっている弾丸など、手の動きを注視していれば対応できる。
だからマミは自身の後方に5丁のマスケットを展開。引き金を自身の指にかざすことなく魔力による自動発射で迎撃。
鬱陶しそうに顔を歪めつつも、桜はその弾丸をリボンのような漆黒の魔力帯で弾く。

うち一発の対応が間に合わず、桜の肩を銃弾が掠めていった。
赤茶色のパーカーに一本の線が走り露出した腕からは血が流れ出る。

しかし。

「ニャニャッ!!」


106 : 魔法少女は絶望と戦いの果てに ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:08:04 2RZZJUBI0

ニャースの叫ぶ声がマミの耳に届き思わず上を見上げる。
見ると、ニャースを釣り上げていたリボンを弾いた銃弾が掠めていったようで、支えていた布が切れかかっていた。

狙ってやったのかそれとも偶然なのかは測れない。ただ、銃弾を放ち続けていればいずれあのリボンやあるいは宙の二人に命中する可能性だってある。

反撃のように放たれた黒い影をかわし、マミは桜に向けて大量のリボンを放つ。

両手から放たれた黄色のリボンの束は幾重にも結び上がり、頑丈な縄のごとき太さへと形を変える。
魔力帯が迫るリボンの束を切り払おうとするも、それらの攻撃に対抗するために編み上げられたそのリボンの束を切り刻むことができない。

「――ん…、くぅっ…!」

そのまま桜の体を縛り上げ地面へと繋げて拘束するマミ。
さらには泥から少し浮かせた地面には網目にリボンが張られており、地面から浮き上がる影に対する防波堤となっていた。

素早くマスケット銃を向けるマミ。

照準は、彼女の心臓。
何故彼女がそうなってしまったのかは分からない。だが、人の形がベースの魔女ならば、弱点は人の急所に近い場所のはず――――

(――人…)

そう、そこに立っているのは間桐桜その人の姿をしたものだ。
もし彼女がまだ間桐桜でいるのだとしたら、これは果たして正しいやり方なのだろうか。

奇しくもこれまで戦った魔女がほとんど人型とはかけ離れた異形の存在ばかりであり。
魔法少女と戦うことはあっても命を奪うまではたどり着くことがなかったこと。加えて――


(……桜、さん)

彼女自身が、短い時間とはいえ心を通わせ、守ると決めた存在であったこと。
それらの事実が銃口を向けたマミの覚悟を鈍らせた。


「フフフ」

その一瞬。
それだけで桜は自身の魔力で体を覆ったリボンを黒く塗り潰し魔力を侵食。
マミの魔力で編まれた強靭なリボンは魔力を食い尽くされてボロボロになって消滅した。

「優しいんですね、巴さん」
「…っ」

そのまま自身を覆う魔力帯をマミへと伸ばし両腕を、足を拘束する桜。
振り解こうと抗うも、縛られた箇所から魔力を吸い上げられているかのような脱力感が襲い、力を込めることすらも困難。


107 : 魔法少女は絶望と戦いの果てに ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:08:55 2RZZJUBI0
「何…、この力は……」

それでも必死で抗おうとするも、魔力消耗が異常なほどに激しく。

「ニャア!」
「ぐおっ!」

やがてニャース、総一郎の二人を釣り上げていたリボンすらも維持できなくなり、切れたリボンは二人の体を地面に叩き落とした。

「巴さんの魔力、とてもおいしい…」
「桜…さん、ダメ…!目を覚まして……」

迫りより、マミの頬をスッとなぞりながら体に手をやる桜。

その間にも徐々に吸い取られていく魔力。
マミのソウルジェムの濁りがそれに合わせるように表出化していく。

このまま魔力を吸い尽くされては、彼女を止めることすらもできなくなる。

「さぁ、一緒に堕ちて、一緒に悪い子になりましょう……」
「…あああっ!!」
「止めろ!!」

そんな二人の元に、走って駆け寄る者が一人。

影の中に足を踏み入れて思わず脱力感に体をよろけさせつつも二人の元に走り寄った夜神総一郎は。

グイ、とマミと桜を引き離す。
拘束帯こそ引きちぎれなかったものの特に力を入れて踏ん張ることもしていなかったためあっさり桜はマミから体を離し。

「夜神さん!」

―――パシン

桜の頬を、思い切り平手で叩いた。
乾いた音と共に横を向く桜の顔。
その顔には何が起こったのか理解できていないかのように唖然とした表情が浮かんでいた。

「君は、自分が何を言っているのか分かっているのか!!」

驚きで力が弱まったのか、拘束帯はマミの体をあっさり離す。
地面に跪いて息を整えるマミ。
ニャースが駆け寄ってその身を心配する。

「何があったかは知らないが、自分から人を殺して裁いてもらいたいなどと…」
「―――――――」


108 : 魔法少女は絶望と戦いの果てに ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:09:39 2RZZJUBI0

それが桜にとってあまりに予想外のものだったのか、叩かれたままの態勢で止まっている。

「どうしてそんなに自分を捨てたがる!君はまだ若い、まだ未来があるだろう!!」

彼女が何を背負っているのかは彼には分からない。
しかし総一郎、親であり警察官である彼にしてみれば、先の言葉、殺してもらうためにもっと悪い子になりたい、などという言葉は到底受け入れられるものではなかった。
高校生くらいの少女が、何故そうまでして死にたがっているのか。

「そんなになって人を殺して、君の親御さんは何て思うんだ!」

しかし、その言葉を受けた桜は、まるで何かを突かれたかのように歯軋りして総一郎を睨みつけた。

「―――あなたに、何が分かるんですか」



総一郎は知らなかった。それらの言葉の一つ一つが桜にとっては地雷に等しいものだったことに。

未来があるだろう?
そんなものはない。自分の体のことは自分がよく分かっている。
聖杯の器として多くの命を取り込んだ自分の体に、どれほどの未来があるというのか。

親が何と思うか?
家族は自分のことなど少しも案じてはいない。案じているとするならばせいぜい聖杯としての機能だけだろう。

その瞬間、桜の怒りの矛先が総一郎へと向いてしまった。
それだけが、彼にとっての不幸だろう。

「ダメ!逃げて夜神さん!!」

マミが必死でリボンを伸ばして助けようとする、その目の前で。


「…!間桐さく――――――」

桜の足元から膨れ上がった影が、一瞬で夜神総一郎の体を飲み込んだ。

マミのリボンはその体には届かず。
ただ、黒い影の中に飲み込まれて消えていった。


【夜神総一郎@デスノート(実写) 死亡】


「………」

地面に落ちるリボンを前に、マミは膝を着き。
そんな彼女に駆け寄るニャース。

「に、逃げるニャ…」
「これで邪魔者はいなくなりましたね。もっと遊びましょう、巴さん?」
「……ニャース、ここから、逃げて」
「おみゃーも逃げるんニャ!」
「私が、ここで彼女を足止めするから、だからあなただけでも逃げて」
「何でおみゃーが…ニャニャッ!?」


109 : 魔法少女は絶望と戦いの果てに ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:11:35 2RZZJUBI0
喋る途中と言ったところでニャースの体を覆っていく黄色いリボン。
まるで球のように黄色いリボンをぐるぐる巻きに包むニャースの体。

飛来してきた黒い泥を回避するマミ。外した泥は壁に着弾し、まるで溶かすかのようにジュッと大きな穴を開けた。
大きな穴は地上10数メートルといった場所にいる街並みを映し出している。

マミはそのままグルグル巻きにしたリボンの端を持って、思い切りニャースの体をそこから放り投げる。

「ニャ、ニャあああああああああああああああああああああああ!!!!」

絶叫するニャースの前。
マミは桜の姿を見据える。

「まだ、足りないなぁ…。ねえ巴さん、あなたも食べさせてくれないかしら?」
「…どうして、こんなことをするの…?さっきまでのあなたは嘘だったの…?」
「嘘なんかじゃありませんよ。たださっきまでは調子が出なかったから静かにさせてもらっていただけです」

桜の隣に、2メートルほどはあろうかという黒い影が顕現する。
ドス黒い魔力で編まれたのっぺりとした巨人はこちらへとその両腕に当たるだろう魔力帯を伸ばしてくる。

ゆっくりとした動きのそれをマミがかわすことは難しいことではない。
しかしその力はかなりのものであったようで、叩き付けられた瞬間地面を抉り大きな穴を穿った。

マミは宙を舞った状態で顕現させた銃を着地と同時に発砲。
それは巨人の体を貫通して穴を空ける。しかしすぐさまその穴は修復。
再度振り上げた腕がマミへと襲いかかる。

パパパパパパパパ

再度生成したマスケット銃を、一斉に射出してその腕を牽制。
のみならず、多方向に渡って放たれた銃弾は一部が命中し、一部が弾かれ壁へと跳ね返り。
機関銃のごとき数の銃弾が壁を穿ち続ける中、天井の照明を吊るす電線を切断。

轟音を立てて、巨大な照明機器が放送場へと墜落。

衝撃でマミと桜の間で視界を失わせるほどの煙幕が打ち上がった。


バシン

その照明機器を、巨人は一叩きで広場の隅に追いやり。

「無駄ですよ、そんなものではこの子は―――――」

照明を失って薄暗くなった空間、桜はマミを捕らえんと周囲の気配へと気を配り。

「…いない?一体どこに――――」

広場に巴マミの気配がないことに気付く、その時。
まるで巨大な砲撃が放たれるような音が響くと共に。
彼女のいる場所へと放たれた何かが壁を突き破り大爆発を引き起こした。





(…ここで、止めなきゃ……)

自分に戦う力がなかったばかりに守れなかった。
佐倉杏子。千歳ゆま。C.C.。そして今、夜神総一郎も目の前で命を落とした。

今のマミはそれら守れなかったことに対する後悔から表出した贖罪の気持ちで桜と相対していた。

「私が止めなきゃ…、みんなが……」

みんな。
杏子も、ゆまも、C.C.も。夜神総一郎も、親しかった、この場で親しくなった者はほとんど死んでいった。

だからこそ、止められなかった。
例え目の前にいる少女が、自分が守ろうと決めた者であっても、他者の命を奪う者であるならば倒さねばならない。

その思考の矛盾にすら気付かないほどに、マミの心は憔悴していた。

例えこの先、自分が魔法を使えず戦いに支障をきたすことがあっても、まず目の前の彼女を止めなければ未来などないのだ。

そんな思いの中で、彼女はニャースを放った壁の穴から飛び出し。

自分の魔力のほとんどを使い尽くすだろう勢いで、その一撃を放とうと構えていた。
それはもはや銃と呼べるサイズではない。さながら列車砲とでも呼ぶべき巨体の砲身。

さくらTVビルのそばで佇むその物体の上で、マミはそこを見据えていた。

(もう、誰も死なせたくない…!)

目を見開いたマミは、覚悟を決めたように振り上げた手を下ろし。


「――――ティロ……、フィナーレ!!!!!!!!!!」


110 : 魔法少女は絶望と戦いの果てに ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:13:40 2RZZJUBI0

巨大な砲身から放たれた弾丸は、さくらTVの間桐桜がいるであろう場所目掛けて射出され。
命中と同時に大爆発を起こしてさくらTVビルを崩落させた。




政庁に辿り着いたさやかと巧。
しかしそこにあったのは瓦礫の山になったその施設の成れの果てだけ。
以前さやかが来た時にあった建物の面影はどこにもなかった。
見つかったのは、巨大な剣に貫かれて息絶えたユーフェミアの躯だけだった。

彼女の死自体は先の放送で名前を呼ばれたこともあって全く想定していなかったことではない。
今は他の皆の消息を確かめることが優先、と政庁を立ち去り周囲の市街地を二人は駆け回っていた。

幸い、巨大な車のようなものが何かを引きずるように移動したようなタイヤの跡が地面に残っていたこともあってそれを追えば皆の現在地に辿り着けるのではないかという推測は立てられていた。

そして。


「……何で死んでんのよ、あんた」

見つけたものは、緑髪の少女が胸に穴を開けて息絶えている姿。
自分のことを不死身だと言っていた魔女は、しかし心臓を引きぬかれたかのような傷を再生させることもなく目を閉じていた。

その顔があまりにも安らかなように見えることが、さやかの感情を逆撫でさせた。

「あんだけ人に偉そうなこと言っておいて、何でそんな顔で死ねるのよあんた…!!」

やりきれなさに近い感情がさやかの中で燻り始める。


ピッ

そんなさやかの横で、トランシーバーを手にした巧はそれを通じて語られた情報を彼女へと伝える。

「あの屋敷のやつらから連絡があった。集合場所は遊園地に変更、だってよ」
「…それってあそこのみんなが襲われたってこと!?まどかは、みんなは大丈夫なの!?」
「そこまでは分かんねえよ」

冷静さを装いつつも、巧の心境が穏やかではないのはその口元が引きつっているのを見れば分かる。
さやかとて戻りまどか達皆の無事を確かめたい思いは強い。
しかしここまで来たのだ、マミ達の姿を見つけなければ戻ることはできない。

だが。


「…他のやつらは、マミ達はどこにいるんだ?」

そう、他の皆の姿はここにはない。
マミも、夜神総一郎も、もう一人のゼロという男も、ニャースというポケモンも。

その緑髪の少女以外の存在がないことの意味を考える巧。
嫌な予感が脳裏をよぎるが、この場にある死体はこの少女のものだけ。
マミ達はまたどこかに移動したということなのだろうか。


―――――――――――にゃあああああああああああああああ!!!

そう考えた時だった。
叫ぶような声がすごい勢いで近づいてきていることに気付いたのは。


111 : 魔法少女は絶望と戦いの果てに ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:14:09 2RZZJUBI0

「え、ニャース?どこから―――」
「おい、上だ!」

と、空を見上げる巧とさやか。

そこには黄色いリボンでグルグル巻きになったニャースが空から放物線を描いて落ちてくる様子だった。
このまま落ちれば無事では済まないだろう。
受け止めなければ、と走りだす二人。しかし墜落場所が遠く、走っても間に合わない。


「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」

叫び声と共にニャースの体が地面に近づき。
その先にあるだろう無残な光景を想像して思わずさやかが顔を背けた時だった。

ビョーン

体をグルグル巻きにしていたリボンがニャースの周囲を覆うように展開、球状のトランポリンのように広がって地面から跳ね上がった。

そのまま地面に再度墜落してきたそれを受け止めるさやか。

「このリボン…、マミさんの…。ニャース、一体何が――」
「ブクブクブクブク」

さやかはニャースに問いかけるが、ニャースは墜落の時の恐怖のあまりか泡を吹いて気絶していた。

「向こうの方から飛んできたぞ」
「向こう……山にあるあの大きなビルから?」

そこにあったのはさくらTVという名前のビルのはず。

記憶を掘り返してそう思った次の瞬間だった。

ビルへと閃光が奔り、轟音と共に巨大な爆発を引き起こしたのは。

思わず光に目を背ける二人。
次に目を開いた時には、ビルの上半分ほどがえぐられたかのように消滅していた。

「もしかして、マミさん?!」
「…おい、急ぐが大丈夫か?」

爆発の元の場所を見ながら、巧はさやかに問う。
あそこまで、人の足で急いでも数十分はかかるだろう。
だが、人の足でないのならばあるいは数分というところまで短縮できるかもしれない。

さやかは自身のソウルジェムを見る。

あれから特に魔法を使う局面には遭遇していないこともあり、ソウルジェムの濁り自体はそこまで致命的なほどではない様子だ。
今ここで移動のために魔法を使ったとしても、あそこでおそらく起こっているだろう戦闘に加わり彼女を助けることはできるはずだ。

「大丈夫!急ごう!」

コクリと頷いてさやかは身にまとう衣装を魔法少女のそれへと変化させる。
同時に巧もまた、自分の姿を灰色の異形の姿へと変える。

一瞬その姿、巧のオルフェノク形態に驚くさやか。

「―――行くぞ」

しかしその影が巧の顔を映し出してさやかへと語りかけてきたのを見て、目の前のそれが乾巧であることを受け入れる。


そうして、一組のオルフェノクと魔法少女はさくらTVのあった場所へと向けて駆け抜け始めた。

魔法少女は自身の罪を受け止め、傷付けてしまった人の力になるために。
オルフェノクは前に進み己の弱さを受け入れる一歩として、あの強くか弱い少女を守るため。







112 : 魔法少女は絶望と戦いの果てに ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:14:28 2RZZJUBI0

「驚きました。まさかあんな攻撃までできるなんて……」

巴マミが死力を尽くす勢いで放った一撃。
それを受けた間桐桜は、しかし未だ原型をとどめていた。

あの砲撃はさすがに直撃を受けていれば桜とてひとたまりもないほどの威力だった。
間一髪のところで巨人を盾にして威力を軽減させ、短距離転移を駆使してどうにか爆風の少ない場所まで回避した。

しかしそれでもまだ間に合わず、魔力を全力で防御に用いて壁を作った上で敢えて後ろに吹き飛ばされることで衝撃を軽減させることに成功した。

結果マミのいた場所からは離れた位置に飛ばされてしまったが、その辺りは止むを得ない。
あれだけの爆風から生き延びたのだ。墜落の衝撃で全身の骨を折ってしまったことくらい我慢しなければならないだろう。

コキリ、コキリ

立ち上がろうとすると、体の骨が何かおかしな音を立てる。

どうにか立ち上がるものの、体のバランスが取れずうまく動けない。
もしもう少し”間桐桜”の成分が強ければ、全身の痛みに呻いただろうが、今の彼女には痛みを感じる感覚がかなり消えていた。

「仕方ないなぁ。もう少し休んで体が動かせるようになってから出発しようかなぁ」

地面に仰向けに寝転がって、全身の骨の修復を待つ桜。
傷が治るのと放送が始まるの、どっちが早いだろうなぁ、と思いながら、少女は休み始めた。

その放送で彼女が探す人物、衛宮士郎の名が呼ばれるということなど全く視野に入れることなく。


【???/一日目 夕方】

【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:黒化、ダメージ(右腕欠損・止血)(全身骨折・回復中)、魔力消耗(中)
[装備]:マグマ団幹部・カガリの服
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:先輩に殺されるためにもっと悪い子になる
1:全身骨折が治るまでは休息
2:その後は先輩を探して回る
[備考]
※アンリマユと同調し、黒化が進行しました。魔力が補充されていくごとにさらに黒化も進行していくでしょう。

※さくらTVにて放送が流れました。最大でティロ・フィナーレが放たれるまでのどこかまで放送されていたと思われます。





113 : 魔法少女は絶望と戦いの果てに ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:17:29 2RZZJUBI0



その時の巴マミは冷静ではなかった。
自分の命に替えても桜を止めなければならない、という強い使命感の元で行動していた。

命に替えても。
すなわち、魔力消耗が激しく以降の行動に支障をきたすことがあったとしても、というくらいには。

彼女は知らなかった。
魔法少女がソウルジェムを濁らせきった時の真実を。
もし知っていたら、彼女は果たしてその攻撃を行っただろうか。

しかしこの殺し合いの場においてはその限りではない。

千歳ゆま、佐倉杏子は魔力を使い果たすより前に、ソウルジェムを砕かれて命を落とした。
しかし呉キリカ、暁美ほむらは魔力を使い果たしソウルジェムを自壊させた。

そこには主催者・アカギやアクロマ、インキュベーター達による何かしらの力が働いていたことが原因。
理由は分からないが、その力は魔女の誕生を抑制しているものであった。

だが。
彼らが暁美ほむらを利用してギラティナを降臨させた時、彼らにとっても想定外の事態が発生していた。

制限装置の不調。
例えば、この場においてはサーヴァントは受肉し肉体を得る。カレイドステッキは平行世界のアクセスに制限を受ける。
オルフェノクは使徒再生による同族を増やす行為を成功させることができない。

その中には、魔女の誕生を抑制するものも存在していた。

巴マミのソウルジェム、本来ならば自壊するはずだったもの。
しかし、制限装置の不調によって効果が発揮されなくなってしまっていた。

その結果――――――




泣くことができればよかった。

失ったものを悼むことができたならば、ここまで絶望はしなかったかもしれない。

しかし、彼女は自責の念があまりにも強すぎた。

彼女にとっての始まりは、両親の死。その時に自身の生を願ったことにあった。
だから救われた命を、せめて一人でも多くの人を救うために使いたいと思って戦い続けていた。

なのに。

(――守れなかった……誰も……)

もしもあの時自分が千歳ゆまの元から逃げなければ。
もしもあの時もう少し冷静でいて佐倉杏子達の元から離れなければ。
もしもあの時ユーフェミアを置いて離れることさえなければ。
もしもあの時C.C.を一人にせず常に一緒にいれば。
もしもあの時間桐桜を撃ちぬいていれば。

全ては仮定にすぎない。
彼女が行動したとしても結局同じ結末は迎えてしまったかもしれない。
だが、巴マミにとってそんな事実は関係ない。
救えなかった、助けられなかった事実だけが残り続ける。

間桐桜を撃退した今、その想いをぶつける相手も存在しない。
敢えていうならば、自分自身にその絶望をぶつけることしかできない。

曲がりなりにもニャースを逃がすことには成功している。しかしその事実よりも助けられなかったものへの意識が強すぎた。


巴マミの思考が負のいたちごっこを始めて回り始めてしまっていた。


114 : 魔法少女は絶望と戦いの果てに ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:18:12 2RZZJUBI0

「私、どうしてこうなのかな…?
 どうして誰も助けられずに、一人だけで助かっちゃうのかな…?」

―――どうしてあの時、もっとみんなを助けられなかったのかな?

自分だけ。
いつだって自分だけが死にたくないと助かってきた。

こんな私が、正義の魔法少女なんて――――



「マミ!!」
「マミさん!!」


ああ、こんなにも自分が恨めしい、自分を消してしまいたい。
そんな気持ちの時に。

どうして、彼と会っちゃうのかな?


「たっくん…」

駆け寄ってくる灰色の体はほんの短い間共に行動した人。
その隣にいるのは魔法少女だろうか、どこかで会ったような気がするが思い出せない。

「おい、何があったんだマミ!」

その体は人間の姿になってこちらに走ってくる。
あの時と変わらぬ、優しい顔だ。

こんな私とは、全然違う。

「…ねえ、たっくん。私、ただ寂しかった。
 いつも一人ぼっちだった…。だから戦いに逃げて忘れようとしてたの」
「マミ…?」

目の前で足を止めるたっくん。

「誰かのために戦うなんて嘘…、私はいつも自分のことばっかり…」
「な、何言ってるのマミさん……」
「私どうしてこうなのかな?いつも誰も守れなくて、自分ばっかり。」
「おい!しっかりしろ!」
「―――どうして、あの時もっとみんなを助けられなかったのかな?」




ゾワリ

マミは気付かない。
ただでさえ限界状態であったソウルジェムの濁りが、絶望を吐き出す度にその色を濃くしていっていることに。

「自分だけ。そう、自分だけが死にたくないって、そんな我侭で自分勝手な想いだけで戦って。
 あの時、ゆまちゃんを見捨てずにいたら、こんな寂しい想いなんて…。
 そんなことを考えてたんだもん。私、魔法少女失格ね…」
「違う!マミ、それは違う!!それを言ったら、俺だって――――」
「マミさんは立派な魔法少女です!私の憧れの……」

肩を掴み話しかける巧。
その傍で励ますように声をかけるさやか。
しかし、二人の言葉はマミに届くことはなく。


「そっか…そういうことになっちゃうのね……」

絶望した瞳は何かを悟ったように虚空を向いて話し始め。

「―――――――たっくん、ごめんね」

パキリ

やがてソウルジェムの濁りが飽和したその時。
巧とさやか、二人の目の前で、巴マミの命の結晶は絶望の種へとその形を変化させた。



【巴マミ@魔法少女おりこ☆マギカ 魔女化】


115 : Welcome to mad tea party ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:23:40 2RZZJUBI0
おめかしの魔女。
その性質はご招待。理想を夢見る心優しき魔女。寂しがり屋のこの魔女は結界へ来たお客さまを決して逃がさない。

(魔女図鑑より)



その瞬間、二人の周囲の風景がガラッと変わる。

崩壊したビルの傍にいたはずだったさやかと巧、しかしその周囲にあるのは巨大なテーブルや椅子のような物体。
さっきまでいたあそこと同じ場所とは思えない。

「おい、どこだここは」
「まさか…」

困惑する巧。一方でさやかは心当たりがある様子だ。

「知ってんのかお前」
「魔女の、結界……」
「魔女って、お前ら魔法少女が戦ってるとかいうやつだろ?何でこんなところに―――おい、マミ、しっかりしろ、おい!!」

考えていた最中、マミが目を覚まさなくなっていることに気がついた巧が呼びかける。
しかしマミは目を覚まさない。

それどころか、心臓の鼓動すら止まっていた。

「ねえ、マミさんのソウルジェムはどうしたの?!あれがないとマミさんは…」
「いや、分からねえ、さっきまで確かにマミが持っていたはずだったぞ」

周囲に目を配らせてもどこにもマミのソウルジェムは見つからない。
あれがなければここから逃げ出すこともできない。そう思って周囲を見渡していた、その時だった。

「…!危ない!」

空をかける黄色い光がこちらへと迫ってくる様子を偶然目にした巧がさやかを押し倒す。

さやかの頭があっただろう場所を、黄色い輪っかが通り過ぎて巨大なテーブルの前で静止した。

手の平に乗りそうなほど小さな、黄色い髪のようなものをつけた小柄な何かが黄色い粒子を発しながらふわふわと浮遊している。
明らかに既存の生き物ではない。オルフェノクやポケモンといった生物とも違う。

「魔女…!あんたがマミさんを…?」

それが魔女であるとするならば、マミのソウルジェムをどこかにやったのはあいつではないのか。
そうさやかが考えるのは自然なことだった。

気絶したニャースの体を地面に下ろし、さやかは。

「マミさんを、返せえええええええええええええ!!」

その手に一本の剣を作り出し、魔女に向けて突っ込んでいく。

「おい待て!何かおかしい!!」

その魔女の様子に警戒心を覚えた巧はさやかを静止するが、彼女は止まらない。
そのまま剣を振りかざして一気に斬りつけようと迫り。


116 : Welcome to mad tea party ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:25:32 2RZZJUBI0

ガキィン

その刃は金属音をもって受け止められた。

一歩引いてそれを受け止めた何かの姿を見据えるさやか。

「―――!!!…嘘……」

そこに立っていたのは、給仕服のような衣装を纏った人型の使い魔。
まるでお茶会の案内をしようと言わんばかりの格好をしたそれ、しかし。
それは赤い髪をしてその手には見覚えのある形の槍を携えている。

その髪、そして槍をさやかは知っている。

「…杏、子」

忘れることはできない、自分が死なせた魔法少女。
彼女のものとあまりにもそっくりだった。

―――ヒュン

「危ねえ!!」

咄嗟に巧が唖然としていたさやかの横に、オルフェノク形態へと変身して割り込む。
腕を構えて迫るその一撃を受け止めた。
巨大な質量の一撃に受け止めた腕が痺れる。

そこに立っていたのは、ネコミミのようなものを頭に装着した緑髪の使い魔。
その手にはまるで猫の肉球をイメージさせる巨大なメイスを軽々と構えている。

もしここに佐倉杏子か巴マミ、あるいはメロがいたならばその使い魔に対してこう感じただろう。
まるで千歳ゆまのようだ、と。


あかいろさんとネコミミさん、その2体を警戒する二人。


バチッ

そこに割り込むかのように地を這う電流が発された。
巧がいち早く気付き飛び抜きつつさやかを押し出したことで命中することはなかったそれはあらぬ方向に走ってやがて消滅した。

その電流の発生源へと目を向ける。


真っ白な拘束衣のような衣装で体を縛られ直立している、緑髪の使い魔。
ネコミミさんが髪を両側に結んでいると見るならば、こっちは腰まで届きそうな長髪をストレートに伸ばしている。

その姿を見るさやかの、その剣を握った手が震えている。

「C.C.…?」

巧にも分かる。
あの外見はさっき死体となっていた少女に酷似していた。

「おい、何なんだよこいつら…」

杏子、C.C.、もう一体もあるいは。

全て巴マミにとって思い入れのある者達のはずだと思う。
杏子はマミの昔の知り合いであるし。
C.C.も政庁にいたのならそれなりの付き合いがあったはず、仲良くなっていてもおかしくはない。

それと似た使い魔達。
これは果たして偶然なのか。


117 : Welcome to mad tea party ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:26:23 2RZZJUBI0


シャラン


鈴の鳴るような音が響き、おめかしの魔女の姿が掻き消える。
同時に、周囲にいた使い魔達の数が増える。

槍を構えた使い魔。
メイスをこちらに向ける使い魔。
遠くから牽制するようにこちらを見つめる使い魔。

それぞれが3体ずつほど。

「…さっきの魔女、こいつらの中のどれかに取り付いてるみたい」
「どれなのかは分からねえ、ってことか」
「…うん」

魔力反応から推測した事実。
しかしそれを9体全て虱潰しに倒さなければならないとなるとかなりの難度だ。

「…お前、大丈夫か?」
「大丈夫、戦える。早くこいつら倒して、マミさんを助けないと…!」

ふと心配になって声をかける巧の言葉、それに対して大丈夫だと返すさやか。
しかし、その手元の剣は小さく震えていた。

もしかしたらこの時にはさやか自身、無意識下で気付いていたのかもしれない。

彼女は、巴マミは、もう――――――




木場勇治が、そして園田真理が政庁にたどり着いた時、そこは既に廃墟であった。

それもついさっき壊された、という空気ではない。既に崩壊して数時間以上は経過している様子だ。

(だとすると、彼らはどこへ…?)

政庁を過ぎ去った後、木場は周りの建造物の中でもひときわ高いビルの上に上がり周囲の様子を探る。

その時遠くに見えたのは、山の上にある巨大な建物。
それも上半分ほどがまるで爆撃でも受けたかのように消し飛んでいる。

こちらはまだ煙が収まっておらずあの攻撃があったのはついさっきとでも言ったところになるのだろう。

「おそらく乾はあそこだ」
「………」

脇に抱えた真理に呼びかける木場。
しかし彼女の返答はない。
足を折られたまま、ずっと応急処置すら取らずに放置しているのだ、その痛みに口を開くことすらままならない様子。

だが大丈夫だろう。
乾巧の前まで連れて行きさえすれば、言葉を喋る気力くらいは取り戻すはずだ。

「――――――――はっ!!」

木場勇治、、ホールオルフェノク激情疾走態はそうしてビルを蹴って跳び上がり、目的地、さくらTVビルへと向けて駆け出した。





118 : Welcome to mad tea party ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:28:13 2RZZJUBI0


おめかしの魔女の使い魔。
その役割はご案内。放っておくと逃げてしまうため、魔女によって手足を縛られている。魔女の大切なお友達。

おめかしの魔女の使い魔。
その役割はご案内。赤い使い魔と仲がいい食いしん坊。魔女の大切なお友達。

おめかしの魔女の使い魔。
その役割はご案内。触れられることをおそれているため近寄るとビリっとする。魔女の大切なお友達。







おめかしの魔女の使い魔。
その役割は守護。誰も近寄らないように、全身を刃が包んでいる。魔女の大切なお友達。




ウルフオルフェノクの拳があかいろさんの頭を打ち砕き。
さやかの振るった剣はネコミミさんの体を切り刻む。

横から放たれた槍の突きとメイスの振りぬきを飛び退いて回避する二人。

しかし飛び退いた先にはみどりいろさんの放った電撃が襲いかかってきた。
命中し周囲に火花を散らす二人。

どうにか持ち直した二人はさやかが剣を投擲、三体の使い魔の体をほぼ同時に串刺しにし。
そこから急接近したウルフオルフェノクが一気に剣を腕で、足で押しこみ貫通させて完全に消滅させた。

――――――――――――――!!!!


その時、結界内にまるで壊れた音響装置のような音が鳴り響いた。
魔女が絶叫している。
自身の使い魔を傷付けられ、殺されることに対して。

―――――――――ザッ


「おい、後ろだ!!」
「えっ――――ぁっ!!」

その時、さやかの背後からこれまでの使い魔とは一線を画す速さの何かが飛び出してきた。
さやかはそれを視認することも間に合わず攻撃を許してしまい。

結果、片腕が血で放物線を描きながら打ち上げられていった。

「……!?」
「えっ………」

その影が、まるで他の使い魔への攻撃を防ぐように巧とさやかの前に立ち塞がる。

灰色の体。
狼をイメージさせる頭と全身の毛。
全身は触れられることを拒むかのように鋭い刃が覆っている。

他の使い魔と比べても最も人から離れた姿をして、形もどこかしらが歪んでいる。

その姿が何なのか、さやかと巧が認識するのはそう時間はかかっていない。

何故ならばさやかにとってはそれは目の前にあるもので、そして巧にとっては忌み嫌っていた最も近しい姿形。

その使い魔の姿形はウルフオルフェノクのようだった。


119 : Welcome to mad tea party ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:30:21 2RZZJUBI0

「…何なんだよ」

その存在に心を揺さぶられつつも、巧は拳を握りしめる。

「―――何なんだよ!お前らは!!」

そのまま顔を狙うように握った拳を振りぬく。
しかし灰色の使い魔、オオカミさんは敢えて守ることなくそれを胸で受け止め。
攻撃直後の硬直を狙って反撃の拳を打ち込んできた。

吹き飛び地面に倒れる巧。
それをオオカミさんは引っ張り上げるようにして持ち上げ、腹部目掛けて幾度となく拳を叩き込み続ける。

顔面を狙った一撃をどうにか体を下げて回避した巧は、足払いを放ち態勢を崩させようとし。
しかしそれをまるで予期していたかのように飛び上がったオオカミさんは、今度は3体の使い魔を相手に手こずっているさやかへと狙いを定めて襲いかかる。


「…っ!」

片腕を失い魔力を回復に回しつつもどうにか使い魔達を捌いていたさやか、しかしそこにさらに乱入してこられては対応が間に合わない。
メイスをかわし、槍を受け止め。
しかしオオカミさんの追撃は避けられず、体当たりをその身に受けてしまう。

どうにか腹のソウルジェムへの直撃だけは避けるように防ぐも、吹き飛んだ体は全身の刃に傷付けられて鮮血を流す。

起き上がろうとするさやかを引きずり上げて追撃をかけようとするオオカミさん。

「―――おらぁ!!!」

しかし横から巧の中段蹴りが放たれその体を吹き飛ばす。

「しっかりしろ……、お前その腕―――」
「大丈夫、これくらいなら魔法ですぐに治せるから…。それより、この使い魔達…」
「……」

倒したはずの使い魔はいつの間にかまたしてもその数を増やしている。
あの魔女の姿は未だどこにも見つかっていないというのに。

なのにこうもあの使い魔達の存在は二人の心を揺さぶってくる。

あの、自分たちの知る者とよく似た使い魔。
巴マミが何かしら想いを持っていただろう者達に。

紅茶のカップの並べられたお茶会のような空間。
黄色いリボンの魔女。

嫌な予感が二人の中で木霊する。
しかしそれは認めてはいけない、認められない。

認めてしまえば。
乾巧は折れてしまう。
美樹さやかは戦えなくなってしまう。


あの魔女が、巴マミの成れの果てなのだという事実など。

だが、それでも心のどこかでは意識していたのかもしれない。

際限なく生み出される使い魔。それが倒されるたびに響く叫び声。
それは。

――――私、ただ寂しかった。いつも一人ぼっちだった
――――私どうしてこうなのかな?いつも誰も守れなくて、自分ばっかり


120 : Welcome to mad tea party ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:31:06 2RZZJUBI0


あの彼女の最後の独白を連想させる。


(そんなこと、あるはずない…。魔女さえ倒せば、きっとマミさんは元に戻る…!)

根拠のない推測を唯一の希望のようにしてしがみつきながら剣を振るい続けるさやか。
しかし。

ここに来て幾度と無く問われたこと。
濁りきったソウルジェムはどうなるのか、と。

実際、あの時の巴マミのソウルジェムは完全に濁りきっていた。
そこから生まれ出たのが、魔女だとしたなら――――?


―――――私達魔法少女は、いずれ魔女になる存在だった?



(違う!そんなはずはない!私は、そんなものになるために魔法少女になったんじゃない…!!)

さやかは心の中でそう叫ぶ。しかしその疑念は如実に太刀筋に現れる。

それまでどうにか対応できていたあかいろさんの槍が体を掠める。
血が吹き出てくるが魔力を込めて止血。
腕の修復も完了した。これで万全の状態で戦えるはずだ。

そう自分に念じることで、さやかは戦意を失わないようにし続ける。



一方で巧はオオカミさんを抑えることに必死だった。
オルフェノクのような耐久力とパワーを備えた存在。
戦い慣れているかのような動き。しかし正道というよりは相手を倒すことに重点をおいたいわゆる我流の動き。

まるで自分のような。

その動きを認識した時、何の偶然か一人と一体の戦いはほぼ互角に回っていた。
自分ならこうするだろう、という動きを相手は正確に再現してくれる。しかしこちらの攻撃は読まれている。

拉致が開かない、しかしだからこそこれをさやかに任せるわけにはいかない。
彼女が相手にするには荷が重すぎる。
そしてもしこちらにあの使い魔が回ってきたならば、この均衡は崩れてしまう。


さやかと巧、二人の戦いは互いに手を貸せず各個でのものに入り込むという泥沼に陥っている。

もしそれが二人だけだったならば、もう少し戦いは長引いたかもしれない。
しかし。

「――っ、しまっ……、巧さん!使い魔が…!」

さやかの脇を通りすぎていく赤色の使い魔。
その向かう先にいるのは巧、ではなく。

「ニャース!!!」

未だ意識を取り戻せぬままのニャース。
あかいろさんの構えた槍の切っ先がその体へと向く。

追いすがろうとするさやかは、しかし地面を這ってきた電流に足止めを余儀なくされる。

「くそっ…!」

巧はオオカミさんを蹴り飛ばしてニャースの元へと向かう。
気が付かぬうちに疾走態となっていたその脚で地を蹴ってあかいろさんに向けて跳びかかり。
そのまま地面に頭を叩き付けて沈黙させた。

それまで数に押されていた二人に、ニャースという守らねばならない存在を認識してしまったことで一層の不利な状態に追いやられる。

が、その時さやかが一体の使い魔を打ち倒した時。

フワリ、と小さな何かが飛び上がっていく。


121 : Welcome to mad tea party ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:32:28 2RZZJUBI0

「見つけた…。魔女!!」

魔女を守るように隊列を組む使い魔達を突破して、さやかは魔女に向けて剣を振るう。
自分の考え、あの魔女が巴マミの成れの果てではないかという考えを打ち倒すために。

しかし。

シュッ

その彼女の体を、何かが絡めとった。

「…っ、これは」

腕を縛り上げているもの、それは魔女から放たれた、黄色いリボン。

――――――巴マミのものと同じ色をした。

「っはあっ!!」

その考えを否定してもう一方の手で作り出した剣でリボンを切断。体の自由を取り戻す。
しかしその一瞬で、魔女は一体の使い魔の元へ向かって飛び上がっていく。

取り付いたのはネコミミさん。
大きなメイスを構えた使い魔。しかし攻撃が大振りなこともあってさやかには最も対応がしやすい相手だ。

一直線にその使い魔に向けて走るさやか。
目の前であれに取り付いたのだ。間違えるはずもない。

そうして迫るさやかの目の前で。
巨大な砲口が展開された。

「――――――っ!!」

思わず脚にブレーキをかけて迫る体を静止させるさやか。

その砲口が火を吹き、さやかの体は吹き飛ばされた。

(…今の、は)

自分を吹き飛ばした砲口、それは。
忘れもしない、巴マミの象徴であった必殺技。

ティロ・フィナーレのものと全く同じ形の大砲だった。



体が浮遊する中でその事実に気付き。
受け身を取ることもできぬまま地面を転がっていくさやかの体。


「くそ…、どけ!!」

ニャースに迫りよる使い魔達を捌きながら、巧はさやかの元へと駆けようとする。
今の攻撃は巧自身にも見覚えのあったもの。それをあの魔女が使った。

(…違う!そんなはずはねえ!まだマミは…)

しかし巧の中ではほぼ確信に近づいている思考だった。





かつて一人の人間がいた。
だがそいつはオルフェノクになり、人の心を失って怪物へと成り果てた。
一片の迷いもなく人を襲う怪物へと。


あのマミも、それと同じような化け物へと変わってしまったのではないか。


「クソッ…」

舌打ちするように悪態をつく巧。
それは何に対しての悪態だったのだろうか。

こうして化け物へと変化してしまった彼女の運命に対するものか、未だその事実を受け入れられない自分に対してか。


122 : Welcome to mad tea party ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:33:37 2RZZJUBI0






―――――――――巧っ!!

そんな時に。
巧は最も聞きたかった、しかし同時に最も会いたくなかった者の声をその耳に届かせていた。





リザードンに乗って二人を追跡していたN。
ホースオルフェノクの速度は速く、リザードンは食いついていくだけでも必死だった。

それでもどうにか見失わずにいられたのは、政庁でほんの僅かに彼が速度を落としたおかげだろう。

政庁の惨状は空からでもはっきりと認識できた。
そこにおそらく乾巧はいなかったのだろうということも。

そして彼らが向かい始めた場所の先を向くと、そこには巨大なビルの跡のような建物があった。

あそこに乾巧達がいるのかは分からない。
分かるのは、今彼らが向かっている場所こそがそのこわれかけたビルのある場所だということ。

見失うことがないように、Nは必死に二人を追い続けていた。

そしてその山の上に建っているビルの付近まで辿り着いた時に、それは起こった。

「……消えた?」

ビルのすぐ傍まで辿り着いた時、二人の姿が掻き消えたのだ。
まるで何かに導かれたかのように。そこにあった別の場所に繋がる扉を開いてしまったかのように。

「リザードン、下りてくれ」

消えた周囲を、まるでその様子を探るように見回すN。

その時、肩の上で小刻みにブルブルと震えているグレッグルに気が付く。

「グレッグル、何か感じるのか?」
「ゲッ」
「…マリ達は、どこに向かったか分かるかい?」
「ゲゲゲッ」

じっとグレッグルが見つめているのは、二人がいなくなった空間。
何もないはずの場所で、グレッグルは危険予知の特性で何かを感じ取っている。

意を決したようにその場所に飛び込んだグレッグル。
その瞬間、木場と真理の二人がそうであったようにグレッグルの姿が視界から消え去った。

「…ここに何かがあるってことか」

Nはリザードンをボールに一旦戻し、その謎の空間へと飛び込んだ。




ビルへと向けて駆けていた木場と真理の二人。
その視界が急に変化したのはNが二人の姿を見失った辺りだった。

まるでいきなりここではない別の場所へと誘い込まれたように移動した二人。
ファンシーでありながら、どこか閉鎖的なものを感じる景色。

木場にも真理にも何も分からないことばかりだらけ。
ただ、一つだけ確かな確信があった。
このどこかに、乾巧がいるということ。

ふと木場の持つオルフェノクの聴覚が、この空間内で響く音を捉えた。
まるで何者かが戦っているかのような。

その時、目の前にまるでそれを遮るかのように赤い人形のような存在が立ち塞がる。

それを木場は、疾走態を解くことなく振り抜き轢き倒して進んでいく。
その中には見覚えのある、かつて戦った魔法少女のような人形も存在した。

しかしそれらに意識を奪われることなく進み続ける木場。

やがて、一つの空間にたどり着いたところで、疾走態を解除。

そこはまるでお茶会のような巨大なテーブルの置かれた空間で。
青い髪の少女と、灰色の体を持つ男が人形を相手に立ち回っている。


「――た、くみ…」

それまで口を開くことすらなかった真理が、その戦う彼の姿を見た瞬間、口を開き。

「―――――巧っ……」

そのまま真理は、こちらの持っていたバッグに仕舞ったファイズギアを取り出し、木場の手を解いて。
折れて歩行すらままならぬはずの体を、脚を引きずるようにして彼の元へと走りだした。

それを追おうとした木場の目の前に、またしても立ち塞がった人形達。
敵意を向けるそれらに対し、木場は静かに剣を向けた。




123 : Welcome to mad tea party ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:34:20 2RZZJUBI0

(―――巧…)

会いたかった。
謝りたかった。

(―――巧っ…!)

傷つけるようなことを言ったこと。
オルフェノクである巧に対して信頼を揺らがせてしまったこと。


「―――――――巧っ!!」

そう、巧はオルフェノクであっても人間を、みんなを守ろうとしている。
こんな場所でも、自分を見失わずに戦っている。

オルフェノクかどうかなど関係ない。
それが、巧が巧であることの証明なのだから。

「な…、真理…?!」


だから。
巧に必要な力を。
守るための力を。

彼が持つべき、救世主の力を、届けたい。





痛みを感じることも忘れて、脚を引きずりながら駆ける真理。
その存在を、変な人形達が認識する。

「バカ、ここから離れろ、真理!!」
「…っ、巧、受け取って!!」

そのまま、抱えたトランクケースを放り投げる。

ファイズギアとその道具一式が収められたケース。
それを巧がキャッチしたことを確認して、真理は地面に倒れこんだ。

既に歩ける状態ではなかった脚を強引に動かしたツケがここで回ってきた。
もう、立ち上がることもできない。

「真理!待ってろ、今行くから――――」

そんな彼女の元に行こうとする巧だが、使い魔達を振り切ることができない。
逆に、2体の使い魔は武器を構えてこちらに迫ってきている。

もう脚は動かない。巧の手も届かない。

だから。

「―――――巧!」

最後に残った体力を振り絞り、真理は声を上げる。

「ファイズは―――救世主は――――!!」

使い魔が槍を振り上げ、メイスを持ち上げ。

「闇を切り裂き、光をもたらす――――――――――――」

グシャリ



その言葉が、本当に巧に届いたものなのかどうかは分からない。
ただ言えることは。
その言葉を最後に、園田真理という人間の命は終わりを迎えたということだけ。


【園田真理@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト 死亡】


124 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:41:05 2RZZJUBI0
「真理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

どこにそんな力が残っていたのか。
自分に食いつく使い魔の腕を引きちぎり、頭を叩き潰し。

そのまま疾走態の脚で真理の元へと跳んで、使い魔の頭を両手に掴み叩き付けた。

真理と巧の二人の周辺で動く者はいなくなった。
いや、正確にはこの場で動くのは巧だけだった。

真理は背中から心臓を狙うように槍を突き刺され、腹部にはメイスを叩き付けられて。
既にその息はなかった。

「真理、真理!!!」

そんな事実など知った事か、と巧は真理を呼び続ける。
しかし息絶えた彼女が返事をすることなどない。

「―――――――」

園田真理は死んだ。
それはもう、まぎれもない事実。

「…何でだよ」

それを受け入れた時、巧の中に大きな喪失感が生まれていた。
この感情は一度味わったものだった。
澤田に真理を殺された時に味わった感覚。


あの時と同じだ。
また、守れなかった。

「……何でだよ…」

そう、また守れなかった。

啓太郎の、士郎の時と同じ。
そしてきっと、マミも同じ。

「何で、こうなっちまうんだよ…!」

守ろうとしたものは全て手の中からすり抜けるように消えていく。

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

やりきれぬ思いに絶叫する巧。
巧の心を覆い尽くすように闇が生まれてきて―――――


125 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:42:11 2RZZJUBI0


「ゲコッ」

その耳におかしな音が届いた。
思わずその方に目をやると、紫色の変な生物が、巧と動かなくなった真理を見つめていた。

「…何なんだよお前」

思わずそう問いかける巧。

「…間に、合わなかったか」

そんな巧に目の前に、一人の男が現れた。
帽子を被った長身で薄緑色の髪をした男。

「………何だよ、お前は」
「君が乾巧、だね。初めまして、僕はN。
 ほんの少しの間だけどマリとは一緒に行動させてもらっていた」

無念そうに瞳を下げながらもそう名乗ったN。
しかし巧はまともに取り合う気など生まれなかった。

「……で、何しにきたんだよ。こんなところまでいちいち」
「…一つはマリを助けにきた。だけどそれは達成できなかったね。
 そしてもう一つ。乾巧、君に会ってみたかったんだ。マリが言っていた、『闇を切り裂き光をもたらす救世主』という男がどういうものなのか、ね」
「残念だがそんなものここにはいねえよ。いるのはこんな化け物だけだ」

自嘲するようにそう自分を呼ぶ巧。
今は誰の相手をする気も起きない。ただ、一人になりたかった。

「確かに君は僕の思っていた人間とは印象が違う。
 だけど、それはまだ君自身に覚悟が足りないからじゃないかな?」
「…今更どうしろって言うんだよ。俺は何も守れなかった!!
 啓太郎も、士郎も、マミも、真理も!!」

怒りでそう叫ぶ巧。
もう失望されたかった。誰にも期待などされたくなかった。
救世主だの、ファイズだの、そんなふうに思われたくなどなかった。

いっそ、このまま見捨てていってくれればよかった。


「……一つ聞かせてくれ。なら君は、あそこでまだ戦っている一人の戦士を見捨てて、そこでずっとそうしているつもりなのかい?」
「…………」

そう言われて顔を上げる巧。
そこには、際限なく生み出され続ける使い魔達を前に粘り続けるさやかの姿があった。

全身を切り刻まれ、傷を追いながらもただ我武者羅に迫る使い魔達を斬り、抗い続けている。

そんな彼女を見捨てて、そうして腐っているつもりなのか、とNは問うている。


126 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:43:06 2RZZJUBI0

「………」
「もしそうでないのなら、まだ君は立ち直れる」
「…何で、そう言い切れるんだよ」
「君は色んなものを失ってきたと言っていた。でも戦う意志だけは絶対に失わなかった。戦いから逃げることはしなかった。
 それは、君の中には何かしらの強い理想があるからじゃないかな?」
「俺の、理想…?」
「ああ。それを失わないのなら、君はまだ戦えるはずだ」

「…あんたは、まだ俺に戦えって言うのかよ。俺がファイズだから、その救世主とやらだからって」

だが、それでも巧の瞳に焔は宿らない。

何も守れなかった人間にこれ以上戦いを強要し、そしてまた守れずこうして同じことを繰り返せというのかと。
ああ、確かにそれは残酷なことかもしれない。


「これ以上、俺に何が守れるってんだよ!」
「真理は言っていた。どんな姿になっても君は君だから、どんなになっても君のことを受け入れるから、と。
 君が救世主たりえるのは君がファイズだからじゃない。君が君でいるからなんだ、と」
「俺が、俺……?」
「確かに君は彼らの命は守れなかった。だけど、君は真理の願いを守ることはできるんじゃないかな?」

だが、それでも自分で選んだ道であるのなら。
それがどんな結果を導いたとしても、決して後悔はしないはずだ。
省みることはあっても、その選択そのものを否定することはないだろう、と。

「グレッグル!」

Nの叫ぶ声と共に、グレッグルはニャースに迫っていた使い魔へと拳を突き出す。
後ろに数歩吹き飛んだ使い魔はゆらゆらとグレッグルへと意識を向けて、やがてバタリ、と倒れて動かなくなった。

「だから、見せて欲しいんだ。君の選択を。君の理想を、守るものを」
「俺の、守るもの……」

ふと視線を動かす巧。

その先にあったのは、マミの動かぬ体。
それがもう二度と動くことはないのだろうという確信があった。

――――私が誰かを見捨てたとき、アナタはその人を守ってください。

ふと巧の頭をよぎった一つのマミの言葉。
それは、少女とかわした約束。
自分が守りたいものを守れなかった時、代わりにその相手を守ってくれと。


ガチャッ


127 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:46:26 2RZZJUBI0


ケースを開いて、ベルトを、ファイズギアを、その他一式を取り出す。
ファイズポインター、ファイズショット、ファイズアクセル。
それらを全てあるべき箇所へと装着。

「…行く前に一つだけ聞かせて欲しい。今の、覚悟を決めた君に。
 君には、夢はあるかい?」

Nの問いは、いつだったか、一人のポケモントレーナーに聞いたもの。
それと同じものを乾巧へと投げかけていた。

「……ねえよ、俺には、夢はない」
「なら、君はどうして戦うんだい?」

巧の返答は本来ならばNを落胆させてしかるもの。
しかしNには、その答えには続きがあるという確信があった。

「大したことじゃねえよ」

答えながら、一瞬だけNの顔を振り向いてその目を見ながら、巧は答えた。

「俺には夢はねえ、だけど、夢を守ることはできるんじゃないかって、な」

その答えに満足したようにNは小さく笑みを浮かべて。

戦地へと向かう巧の背中を見送った。




もう、何を考えて戦っていたのかも分からない。
むしろ、何かを思考してしまえばもう戦えないんじゃないかという恐怖を抑えて、ひたすらに使い魔達を倒し続けた。

いくら思考を誤魔化そうとしても、考えていた嫌な予感は迫ってくる。

魔女の攻撃。
リボンでの拘束。ティロ・フィナーレを連想させる砲撃。

魔女の使い魔。
きっと巴マミという少女が何かしらの思いを抱いていただろう者達。

いくら思考を隅に追いやろうとしても、そのたびに思いは確信へ変化していく。

―――マミさんは、もういない。
―――マミさんは、魔女になった。
―――あの魔女は、マミさんだったものの成れの果てなのだ。

無理やりに体を動かして戦い続ける。
しかしそのたびに太刀筋は鈍り、使い魔達の反撃を受けてしまう。

全身は既に傷だらけ。
修復してまた挑むたびに受ける傷は、そして魔女が生み出す使い魔達は増え続ける。

(―――マミさんが、魔女に…。なら、私達魔法少女って……、今まで倒してきた魔女って……)

思考がもしマミが魔女となった、で止まっていたならばここまで追い詰められるほどの精神状態にはならなかった。

だが、さやかはマミと同じ魔法少女だった。


128 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:51:46 2RZZJUBI0

バチッ

「――――あああああああ!!!」

電流がさやかに至近距離で命中。
そのまま爆発を引き起こしてさやかの体を吹き飛ばす。


(―――やっぱり、マミさんを殺すなんて……)

できない。

そう思ってしまった時、さやかの心に生まれたのは諦めだった。
いっそこの場でソウルジェムを砕かれさえすれば、魔女となる運命からは逃げられるんだろうか。

そんな考えが生まれた時、さやかは立ち上がることができなくなっていた。

(ハハハ、やっぱさ、私には無理だったんだね。正義の味方、なんて……)

そう考えた時、さやかは自分のソウルジェムに濁りが溜まっていくのを感じた。
しかしそんな彼女の目の前ではあかいろさんが槍をこちらに突きつけている。
まるであの時自分が佐倉杏子を斬り殺した罪を責めるようにも見え。

いっそその裁きを受けてしまうのもいいかもしれない。


そう思った時だった。


―――ドゴッ

あかいろさんの体が後ろに吹き飛ぶ。

さやかの視界にあったはずの死の気配は、一人の男の前に蹴り出した足へと姿を変えた。


「乾、さん…」
「下がってろ。後は俺がやる」

体を引き起こして後ろにさやかを下がらせる巧。

「…殺すの?」
「――――ああ」

恐る恐るそう問いかけるさやか。
しかし巧の返事は短く、そして強い決意に満ちていた。

「あれは、マミさん、なんだよ?」

それを認めてしまったからこそ戦えなくなった事実。
あの魔女は、巴マミそのものだということを敢えて前提にして再度問いかける。

「ああ、あれはマミだったものだ。
 だから、俺がやる。俺が、あいつを止める。
 あいつを殺す罪は、俺が背負う」

それを知ってなおも、巧の返答に迷いはなかった。

そのまま、静かに巧はさやかを振り向くこともなく、増え続けて数えることも億劫になるほどの使い魔の群れへと足を進めていった。


129 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:54:35 2RZZJUBI0



「そうだよな、迷ってる暇なんてなかったんだよな」

かつて決意したはずだった。
夢を守るために戦う、と。
もしそれが罪ならば、それを背負ってでも戦う、と。

なのに、たった一つ。
生きようという意志がなかった。それだけでこんなにも迷ってしまった。

自分の背負った罪に押しつぶされそうになって、自分が許すことができず。
ならいっそ、何か大切なものを守って死んでいければいいなんてことを考えていたのだ。

そんな思いで戦って、何かを守れるはずもないというのに。

「生きてやるよ」

こんな俺でも受け入れてくれる者はいた。
戦う理由をくれた者はいた。
だから、そいつらの死を無駄にすることは決してしてはいけないことだ。


「生き続けられる限り、俺が守ってやる」


―――――世界中の洗濯物が真っ白になるように、みんなが幸せになればいいなって


「啓太郎の夢も」


―――――ファイズは、闇を切り裂き、光をもたらす――

「真理の願いも」


―――――俺の夢を、守ると言ってくれた、桜の笑顔を含む、皆の笑顔を守ってくれるって

「士郎の希望も」


―――――私はいざというとき、アナタを殺します。だから。
―――――私が誰かを見捨てたとき、アナタはその人を守ってください

「マミとの約束も――――」


肩の荷がおりたように、気持ちがすっとしている。
ファイズギアを握る手には迷いなどない。


「全部背負って守ってやるよ!俺の命が続く限り――――」


ファイズフォンを開く。
あとはもう手慣れたもの。ファイズフォンに目をやらずとも体が覚えている。

「ファイズとして、戦える限り!!!」


130 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:55:55 2RZZJUBI0




―――――――――5・5・5   ENTER

Standing by――――――


「―――――変身!!」


掛け声と同時にファイズフォンを差し込み。

―――――Complete


131 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:57:13 2RZZJUBI0

ファイズフォンをベルトに押し込むと同時、電子音と共に光が結界内に広がる。

紅の閃光、フォトンブラッドは巧の体を包み込みその体をスーツが覆っていく。
胸部に白い装甲をまとい、顔には黄色の複眼の仮面が包み込み。

光が収まった時に立っていたその場所に立っていた戦士。
それこそが。


「闇を切り裂き光をもたらすという戦士―――」


―――――ファイズ



カタカタカタカタ

突如現れた新たな存在に使い魔達の注意が一斉にそちらへと向く。

槍の突きを、メイスの叩き付けを放ってくる使い魔に対し。

ファイズは槍を胸の装甲で受け止め、メイスを振るう使い魔の腕を掴み取る。


「――――らぁ!!」

そのまま、掴んだ腕をあかいろさんへと向けてぶつける。
メイスに打ち砕かれて砕け散るあかいろさん。

残ったネコミミさんは握った腕を上へと放って離し。
そのまま落下してくるそれを思い切り上へ向けて蹴り上げた。

体の中心に大きな穴を開けて崩れ落ちていくネコミミさん。

その様子を見て、使い魔達の動きが変わる。

それまで個々に動いていた使い魔が隊列を組むかのように一斉に動き始める。

多数の赤色さんが一斉にファイズの周りへと展開。
少し遅れた場所からネコミミさんがメイスを構えて迫り。
さらにその後ろでは多数のみどりいろさんが一斉に地を這う電流を放つ態勢をとる。

総勢30近くの使い魔達。
それらが巧一人を倒すために統率されているかのような動きをとって攻めかかる。

巧はその攻撃が開始される寸前、右腕のファイズアクセルへと手をやり。
そこに刺されているアクセルメモリーをファイズフォンのミッションメモリーと差し替える。

―――――Complete

電子音と共に胸部の装甲が肩へとせり上がり、全身の赤き流動線が銀色へと、顔面の黄色い複眼は赤色に変化する。

ファイズ・アクセルフォーム。

短時間しか変化できないファイズの一つの形態。


132 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:57:52 2RZZJUBI0


そんなファイズにあかいろさんの槍が、ネコミミさんのメイスが、みどりいろさんの電撃が一斉に迫り。
それが命中するかどうかという寸前。

ファイズはファイズアクセルのスイッチを押す。


―――Start up

そんな電子音が周囲に響いて、巧の姿が掻き消えた。
困惑する使い魔達。

その頭上に、赤い円錐状の光が展開される。

ファイズに迫っていたあかいろさん、ネコミミさんにも。
離れた場所にいたみどりいろさんにも。

――――3

それらの光、アクセルクリムゾンスマッシュの閃光が一斉に動き始め。


――――2


使い魔達に次々と着弾、爆発を引き起こしていく。

――――1

元いた場所から使い魔全てを通り過ぎるような移動をしたファイズが地面に降り立ち。

――――0

アクセルフォームが解除。
同時に周囲に展開されていた使い魔は一斉に消滅していった。

ただ一体を除いて。

振り返ったファイズの頬に横から拳が叩き付けられる。

カチ、カチ、カチ、カチ

まるで怒りを表すかのように全身の刃を打ち鳴らすオオカミさん。
アクセルクリムゾンスマッシュが当たらなかったわけではない様子であり、その左腕は二の腕から先が消滅している。
しかしそれを補うかのように、その背中に取り付いた魔女がリボンを伸ばして手の代わりとするかのように蠢かせている。

周囲に新しい使い魔が生まれる気配はない。
そして目の前の最後の一体は殲滅されたことに怒り狂っているように見えた。

(―――そうだよな、俺がお前の立場なら、きっとそう思うんだろうな)

走り寄ってきたオオカミさんは勢いをつけてファイズの顔面に拳を振りぬく。

腕でかばいダメージを抑えるが、衝撃で後ろに下がってしまうのは止められない。
よろけたファイズの肩を押さえつけ、腹に向けて追撃の拳を打ち付ける。

「……っ」

幾度も執拗に打ち付けられるその攻撃、しかしファイズが僅かに体をよじらせたことで大きく腕が空振り脇を通り過ぎる。
その腕を抑えて反撃と逃走を防いだ状態で巧はお返しとばかりに膝蹴りを叩き込む。


133 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:59:01 2RZZJUBI0

呻くような音を鳴らすオオカミさん、その声にあの悲鳴のような音も混じり始めた。
腕を離した巧はよろける相手の体を思い切り蹴り飛ばす。

吹き飛び地面に倒れこむオオカミさん。

ファイズは左腰に備え付けられたファイズショットを手に装着し、ミッションメモリーを差し込み。
ファイズフォンを開いてENTERキーを押す。

――――Exceed Charge

電子音が響き腕にエネルギーが流れこむと同時に駆け出すファイズ。
起き上がったオオカミさんは、迎え撃つように左腕のリボンを大砲へと変化させて発砲。

咄嗟の判断で横に飛び退くファイズ、そのまま攻撃後の硬直が一瞬の隙を生んでしまい。
それでもどうにか対応しようとしたオオカミさんの体へ、ファイズの拳が叩き付けられた。

赤いΦの文字が宙に浮かび上がる同時に吹き飛ばされるオオカミさんの体。
そこからフワリ、とおめかしの魔女の体が飛び上がる。


着地と同時におめかしの魔女は両腕のリボンを放ってファイズの動きを止めようとする。
腕を、足を縛り上げ動きを止めさせるおめかしの魔女。

巧はそれでも冷静にファイズフォンを腰から取り外し、キーを入力。

―――Single Mode

その音におめかしの魔女の拘束が一瞬弱まったような気がした。
巧は構うことなく、ファイズフォンから放たれた光線でリボンを焼き切り。
その後もしばらくは放たれ続ける光線をおめかしの魔女へと向けた。

体に光線を受けて火花を散らしながら後ろにはじけ飛ぶおめかしの魔女。

「………」

そんな魔女に、巧は静かに右腰のツールを取り外す。
ファイズショットにそうしたように、ミッションメモリーを差し込んで、右足に装着。


134 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 05:59:58 2RZZJUBI0

――――Exceed Charge

足に力を入れるように中腰の姿勢で構える。

魔女が起き上がりこちらへと視線を戻したその時、意を決したように飛び上がるファイズ。

空中に飛び上がった巧の足のポインターから放たれた赤い円錐の光が魔女の体を捉える。

(……マミ…!)

これがあいつを救う唯一の道だ、と自分に言い聞かせながら、巧は足を前に出して飛び蹴りの態勢をとり。


クリムゾンスマッシュ。
フォトンブラッドと共に強化された飛び蹴りを放つファイズの必殺技。

その一撃を叩き込もうとした巧は。


「何…!?」

その間に割り込んできた存在に驚きの声を上げる。

おめかしの魔女の前で、それをこちらの一撃から守るようにあの灰色の使い魔が右腕を構えてクリムゾンスマッシュを受け止めていた。
腹に大きな穴を開け、少しずつ体を崩壊させながらも自分を生み出した主を守ろうとしている。


(…そうだよな。俺がもしそいつだったら……)


競り合いを続けながらも巧はそう思考する。
きっとあの魔女がマミで、あの灰色のオオカミが俺ならば、きっと同じことをしたかもしれないと。

同時に、この一体しか現れず、それ故に使い魔の中でも一線を画す強さを持っていた灰色の使い魔に、どれだけ彼女が自分に対して強い想いを持っていたのかを思い知らせた。


(―――悪かった、マミ。約束したのに、お前の傍にいてやらなくて)

あの時、彼女を離すことなくずっと近くにいてやればここまで絶望することはなかったのではないかと。
巧は小さくマミに心の中で謝罪の念を込める。

(―――だから、マミ。そんなになってまで人を傷付けんな…、お前は、もう休め…!)
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


135 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 06:00:54 2RZZJUBI0

心の軋みに耐えながら、巧は構えた足に力を込める。

その身をもってクリムゾンスマッシュを受け止めていた灰色のオオカミの腕が砕け散り。
赤い円錐はその崩れかけた肉体を貫通。

のみならず、その後ろにいたおめかしの魔女の小さな体へもその蹴りを撃ち込んだ。


地に足を下ろした巧の背後で、二つのΦの文字が浮かび上がり消滅していく二つの影。

自分の後ろで消えていく気配を感じながらも体を起こした巧は。


――――――ありがとう
「…!?」

聞こえるはずのないマミの声が耳に届いたような気がした。
思わず振り向く巧。

しかしそこに残っていたのは、小さな一つの黒い石だけ。
まるでそれがあの少女の生きた証なのだ、と言わんばかりに。

その石、グリーフシードを拾った瞬間、周囲の景色が歪み始め。
魔女の生み出した結界が消滅し、元いたあの殺し合いの場の景色へと戻っていった。


【おめかしの魔女 消滅】



膝をついて黙り込むさやか。

彼が戦っている間、ずっと見ていることしかできなかった。

『あいつを殺す罪は、俺が背負ってやる』

ずっと、あの時巧が言った言葉が脳内でリフレインする。

罪を背負う。

自分にはあの魔女を、憧れの魔法少女の成れの果てを殺すことができなかった。
魔女が魔法少女の迎えた結末だと知って、戦いに強い迷いを持ってしまった。


『己の信じる『正義』の為ならば同胞の『魔法少女殺し』も厭わないのでしょう?』

かつてとある男に言われたその言葉に、何故ああも言葉を詰まらせてしまったのか、今ようやく理解した気がした。

戦う覚悟はあった。
自分が傷付く覚悟もあった。

だけど。
罪を背負う覚悟はなかった。

「…ははは、そんなんで、戦えるわけなんか、ないじゃん……」

自虐のように笑って呟くさやか。

「君は、どうするんだい?戦うのかい?それとも、もう戦うことを止めるのかい?」
「………」


136 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 06:01:37 2RZZJUBI0

傍で問いかけるNの言葉を、沈黙をもって受け止めることしかできなかった。

「なら、君はこの先の戦いを見届けて答えを出すといい」

それだけをさやかに対して告げて、Nは意識を戻さぬニャースを連れて立ち去っていく。


この先の戦いとは何なのだろうか、とそう疑問に思ったさやかの肩に、巧の手が乗せられた。
振り向いたさやかに向けて、ひょいと何かが投げられた。

グリーフシード。
おめかしの魔女の、マミの遺した小さな石。

「使えよ。お前らにはそれ、必要なんだろ?」
「………私は…」
「話は後だ。ちょっと用事ができたんでな、そこで休んでろ」

と、巧はさやかに背を向けて歩き出す。

「用事……?」
「いるんだろ?出てこいよ」

巧は変身を解くことなく、虚空に向けて呼びかける。

その時、物陰から黒い影が姿を現した。

ファイズの同種にも見える装甲を身にまとい、しかしその色は見る人間に畏怖の念を与えかねない漆黒の鎧を装着して。

「決意はついたか?」

木場勇治。
巧が決着をつけねばならない最大の敵は、既にその身を帝王の姿へと変化させている。


「ああ、俺はお前とは一緒にはいけない。
 俺はあいつらの願いを守って生きてやるよ。
 …当然、お前の理想も」
「俺の理想?」
「人間とオルフェノクの共存、お前の掲げた理想も、俺が守ってやる」

木場と相対しても、もう気圧されることも迷うこともなくそう言い切り巧。

「フ、ハハハハハハハハハハハ!!」

そんな巧に、木場はまるでおかしいものでも見るかのように笑い始める。


137 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 06:02:33 2RZZJUBI0

「そんな理想など、守る価値なんてない!
 俺はもう理想を捨てた!オルフェノクとして生きると決めた!」
「………」
「だけど」

と、笑うことを止めて静かに巧を見やる木場は。

「そんな君だからこそ、俺が倒すべき相手に相応しい!
 君を殺した時、俺は完全にオルフェノクになることができる!」
「させねえよ。お前の心、ぶん殴ってでも俺が取り戻してやる」


そのまま、静かに向かい合った乾巧(ファイズ)・夢の護り人と木場勇治(オーガ)・帝王。

やがて同時に走り始め。

「木場あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「乾いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

互いに名を叫びながら、拳を振りかざして。

二つの拳がぶつかり合った。



本当の姿を、意志を取り戻した男。
理想を捨てて帝王の力を手にした男。

二人の相反する存在の戦いは、失楽園へと続く物語を刻み始める―――――



【D-2/さくらTVビル付近/一日目 午後】


【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、肩から背中に掛けて切り傷(ほぼ治癒)、ファイズ変身中
[装備]:ファイズギア+各ツール一式(変身中)
[道具]:共通支給品、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:ファイズとして、生きて戦い続ける
1:木場と決着をつけ、人間の心を取り戻させる
[備考]
※参戦時期は36話〜38話の時期です

【木場勇治@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、心を蝕むような迷い、オーガ変身中
[装備]:オーガドライバー一式
[道具]:基本支給品、グリーフシード、アヴェロンのカードキー、クラスカード(ランサー)、ファイズギア、コンビニ調達の食料(板チョコあり)
[思考・状況]
基本:オルフェノクの保護、人間の抹殺、ゲームからの脱出
1:乾巧と決着をつけて人間としての心を消し去る。
2:すべての人間を殺したあと、村上を殺す。
[備考]
※コロシアムでの乾巧との決戦の途中からの参戦です



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、左目に傷(治癒不可?) 、強い迷い
[装備]:ソウルジェム(濁り90%) 、トランシーバー(残り電力一回分)@現実、グリーフシード
[道具]:基本支給品(食料ゼロ)
[思考・状況]
基本:私は…どうしたらいいんだろう…
1:マミさん……
2:ゲーチスさんとはもう一度ちゃんと話したい
[備考]
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※魔法少女と魔女の関連性を、巴マミの魔女化の際の状況から察しました


138 : その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 06:03:40 2RZZJUBI0

【D-2/一日目 午後】

【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(小)
[装備]:サトシのピカチュウ(体力:疲労(大)ダメージ(中)、精神不安定?、ボール収納)、サトシのリザードン(疲労(小))、タケシのグレッグル&モンスターボール@ポケットモンスター(アニメ)、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[道具]:基本支給品×2、割れたピンプクの石、プロテクター@ポケットモンスター(ゲーム) 、傷薬×2
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:ニャースの手当をする
2:世界の秘密を解くための仲間を集める
3:ポケモンセンターに向かいたいが…?
[備考]
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※並行世界の認識をしたが、他の世界の話は知らない。


【ニャース@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:ダメージ(中)、全身に火傷(処置済み)、気絶中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、
[思考・状況]
基本:サカキ様と共にこの会場を脱出
1:気絶中
[備考]
※参戦時期はギンガ団との決着以降のどこかです
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線
※桜が学園にいたデルタであることには気付いていません


139 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/05(火) 06:04:59 2RZZJUBI0
投下終了します
あと状態表の更新を忘れていました
時間帯は全て午後→夕方に変更でお願いします


140 : 名無しさん :2015/05/05(火) 06:18:44 BicmvVuw0
投下乙です

ついにたっくんのファイズがキター!覚悟を決めての変身は最高に熱かった!


141 : 名無しさん :2015/05/05(火) 11:45:44 Y6xCT4lM0
投下乙です
とうとうこの時が来たか
最高に盛り上がった変身でした


142 : 名無しさん :2015/05/05(火) 19:47:36 fNYpdakk0
遂に訪れた罪を背負う覚悟の変身の時……そのレスの時刻が5月5日5時55分55秒なのもお見事
マミさんの使い魔や最期の台詞の悲しみを越えて、遂に宿命の戦い……熱すぎる!
投下お疲れ様でした!


143 : 名無しさん :2015/05/05(火) 20:31:07 YtbVaruE0
投下乙です!
5月5日!555φの日に相応しいたっくん覚醒話!
真理は無念…だけど、たっくんが想いを背負ってくれるから!
人間とオルフェノクだけでなく、マミさん、さやかと言った魔法少女の葛藤すらも全て背負って頑張れ巧!


144 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/05/06(水) 01:25:40 rn.sfICM0
すみません、ファイズギアが分裂していました
木場の所持品のファイズギアはカットでお願いします


145 : 名無しさん :2015/05/06(水) 23:52:34 uT62yYLw0
現在位置を更新しました
ttp://www45.atwiki.jp/pararowa/pages/303.html
抜け、間違いの発見がありましたら指摘お願いします。


146 : 名無しさん :2015/05/07(木) 00:28:51 46fEuteI0
おお、更新乙です
草加さんはマーダー扱いなのかw


147 : 名無しさん :2015/05/07(木) 03:42:44 ThyDm2oI0
よくわからんかったんだが桜はなんで急に黒化したの?


148 : 名無しさん :2015/05/07(木) 14:59:41 46fEuteI0
>>147
バーサーカー死亡話を読み直して、どうぞ


149 : 名無しさん :2015/05/10(日) 17:20:39 fo55pIDA0
たっくん変身は期待通りの熱さでした
魔女となりながらもたっくんへの想いの強さが出てたマミさんが哀しい…
そして、ついに木場との決戦ですがオーガ相手にブラスターなしでどこまでやれるか


150 : 名無しさん :2015/05/10(日) 19:03:24 3xkEIexo0
たっくんの初期支給品…


151 : 名無しさん :2015/05/10(日) 20:47:11 fo55pIDA0
ブラスターあったんだな…
完全に忘れてたよ


152 : 名無しさん :2015/05/11(月) 02:16:18 nBhWBpuY0
wiki収録されてる「帝王のココロ」がやたら文章でっかくなってるんだけど何で?


153 : 名無しさん :2015/05/11(月) 21:46:11 Uaud0FUg0
>>152
こちらのミスですね
直しました


154 : 名無しさん :2015/05/11(月) 23:02:44 nBhWBpuY0
対応ありがとうございます


155 : 名無しさん :2015/05/15(金) 01:21:43 A6ZARmH.0
月報データです
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
130話(+3) 21/57(-4) 36.8(-7)


156 : 名無しさん :2015/06/02(火) 18:26:54 0dqlsIY60
このロワってまだ回収されてない伏線とかってあったっけ


157 : 名無しさん :2015/06/04(木) 01:22:34 FyXJAlto0
メロはようやくボッチから抜け出せるのか


158 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/14(日) 22:13:22 BJsH7nRI0
投下します


159 : それでも運命は進む ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/14(日) 22:14:55 BJsH7nRI0

それは、”彼女”の記憶の半数にこびりついていた闇。

――――お前の母親は破壊された。誰より愛した男の手で、殺された

――――裏切られた。お前は、私達は、あの男に裏切られた。道具のように捨てられた

まるで母親のような包容力で、闇に満ちた言葉を投げかけてくる何か。
優しくささやくような声でこちらに話しかけるその言葉はしかし、一人の男に対する憎しみを少女に植えつけるためのもの。

その姿はアイリスフィールにも似て、しかしその精神は似ても似つかぬほどに悪意に満ちている。
自身も愛した男の憎しみを娘に植えつける言葉を、その傍でささやき続けること数年。


――――あの男が死んだそうよ、裏切り者が死んだそうよ

少女は関係ない、という。一人で生きていく自分には、関係ないという。


――――子供がいるもの。あの男は家族を持ったのよ。私以外の家族を

ピクリ、と少女の心が反応する。
幼い精神の中にそれが望むドス黒い感情が首をもたげた。
それは、奪われたことに対する嫉妬、あるいは憎悪か。


――――きっと殺し合える。あと少しで殺し合える

――――楽しみね、楽しみねイリヤスフィール。人間のあの人らしい、生きる理由ができるわね

少女は、ミュウツーの見たバーサーカーの記憶から送り込まれた少女の半生の記憶を通して。
もう一人の自分が、一人の少年に憎しみを抱くようになった過程を知った。

その中に、常にあの悪意に満ちた何かが存在しているのを、確かに見ていた。




それはルビーが謎の電波によって送られてきた映像の投写を始めて間もない時。

ドクン

(…え―――――)

ふと、イリヤの中で何か肌のざわつくとでもいうべき感覚が波立った。

ほんの一瞬の出来事であり、イリヤ自身何があったのかを認識する時間があったわけではない。
しかし、決して気のせいではない。確かに今、”何か”があった。
かつてバゼットがカードを奪うためにルヴィアの家に襲撃をかけたときに感じたような謎の違和感。

(何、今の)

何かがあったことは認識した。しかしそれがどういうものなのか、どこから起きたものなのかまでは認識できなかった。
そもそも、もしかつてバゼットの時の感覚が自分の記憶になければ間違いなく見逃していただろう。

今はルビーが何か映像を上映している。
だけど伝えなきゃ。おそらくは今この場でも自分しか気付いていないであろうその事実を。

そう思い口を開こうとしたイリヤ。
しかし映像の中から聞こえてきた音声がその思いを鈍らせた。


160 : それでも運命は進む ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/14(日) 22:15:38 BJsH7nRI0

『桜さん!?』『どうした、何があった!』
「……っ」

桜。
間桐桜。
えみやしろうの、恋人。

その名前が出てきたことに、思わず言い出すタイミングを見失ってしまった。

映像に移っているのは白い長髪の高校生ほどの少女。
しかし彼女は謎の異変で体を悶えさせた後、映像からでも分かるほど禍々しい気配を纏ってそこに立っていた。




「マミさん!!」
「…夜神さん……!」

映像の中で彼女の生み出した影に飲み込まれて消えていく中年の男。
その様子に悲痛な声を上げる巴マミ。

そんな光景に、まどかはマミの名前を叫び、Lは夜神総一郎の名を搾り出すような声で呟く。

やがて、一匹のネコのような生き物が画面上からいなくなり、桜一人だけを写してしばらく動いた後、閃光と共に画面にノイズが走り何も見えなくなっていった。


「そんな…、マミさん、マミさんは!?」
「落ち着いてくださいまどかさん。あの最後の光はおそらく巴マミ自身の攻撃によるものでしょう。であれば彼女は無事のはずです」
「で、でも…、マミさんのソウルジェムは……」

まどか自身にソウルジェムの様子が見えたわけではない。
ただ、まどか自身は巴マミの弱さを知っている。
そんな彼女が、目の前で人を、夜神総一郎を守ることができなかったのだ。
もしその事実に絶望し、さらに彼女のティロ・フィナーレクラスの攻撃を放つようなことがあれば。

「マミさんが、魔女になっちゃうんじゃ……」
「……それは、分かりません。あの場所近くに向かった美樹さやかさんと乾巧さんを信じるしか…」

あのテレビに映った背景をLは知っている。かつて高田清美を逮捕するために自らも足を運んださくらTV内のものだ。
おそらくは何かしらの事態が起きた後そこまで移動した彼らが他の者との一方的ではあるが連絡手段として放送を行ったのだろう。
それもどこかしらに繋がるという確信を持った上で。

二人が向かった政庁とさくらTVは位置的にはそう離れた場所ではない。
あれほどの爆発があったならば二人は彼らがそこにいるということに気付いてそちらに向かってくれることだろう。
だが、そこに何が待っているのかは神ならぬLには今知る術はない。

「間桐桜さん、ですか…。イリヤさん」
「………」

イリヤの脳裏に、衛宮士郎の守ろうとした者の、想像とはかけ離れた姿が何度も反響する。

――――さっきまでの何もできない私じゃない。
 先輩に殺してもらうために悪い子になる、そんな私に。
 だから、どこにいるのか分からないけど、聞いているならお礼を言わせて。バーサーカーを倒した誰かさん?

見えているはずのないのに、こちらを見られたかのような感覚を覚えたあの瞬間の言葉。

(バーサーカーを倒した、って……)

確かにあの放送が始まったのはバーサーカー消滅からそう間を経ていない。
だが、それが原因というと―――――

『イリヤさん、バーサーカーから得た情報の中には聖杯に関するものの記録もあったようです。
 その情報と整合性を取ると……』
「まさか、彼女も”聖杯”なの…?」


161 : それでも運命は進む ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/14(日) 22:16:01 BJsH7nRI0

―――きっと殺し会える。あと少しで殺しあえる。楽しみね、イリヤスフィール。

イリヤの脳裏に浮かび上がる、母・アイリスフィールに似たあの謎の女の姿。
バーサーカーの記憶の中にあった、イリヤスフィールの記憶。

あの間桐桜の操った闇色の泥と酷似したあの地を這う闇。

「セイバーさんは、このことを知っておられないのでしょうが、少し厄介なことになったみたいですね。
 きっと彼女は、この先我々の前に立ち塞がる者になるでしょう」
「……さやかちゃん…、大丈夫……?」
「………」



(月君、あなたもこの映像をどこかで見ているのですか…?)

Lが心に浮かべたのはあの闇に喰われて消滅した夜神総一郎の息子のこと。

自分が知っている彼は自分の勝利を確信した時、それを確実なものとするために己の父親の名前をもデスノートに書こうとした。
では、もし彼がもし目の前で死にゆく親の姿を見たら。
それも自分の手ではなく、全く関係のない者に命を奪われたのであれば。

死んでいった彼に対して自分ができることはない。
だが、願わくばそれが夜神月という存在に対して何かしらの想いを抱かせるものであってほしい。
せめて、その死に何も思わぬ存在にまで成り果てていて欲しくはないと。
それだけがLの願いだった。




(マミさん…、さやかちゃん……)

まどかが想うのは二人の少女のこと。
先輩の魔法少女である巴マミ、そして親友の美樹さやか。

もしあの場所でマミがまた死んでいたとすると。
いや、(こう言っては語弊もあるが)それならばまだいい。
もし万が一、マミが魔女化するようなことがあれば。

魔法少女の成り果てるもの、それはさやかが最後まで知ることがなかったものだ。
それをもし知ってしまった時、彼女は魔法少女である自分を許せるのか。その事実に絶望してしまうようなことはないか。

(さやかちゃん…、お願い、絶望しないで、帰ってきて……!)

だが、いくら思おうとも、今のまどかにできるのは美樹さやかの無事、そして再会できることを祈ることのみだった。





(間桐、桜……、聖杯……)

イリヤの前に立ち塞がったのはまさに自分の影ともいうべき存在。
バーサーカーの知識から得られたものでは完全な把握ができたわけではない。
それでも、あれが本来自分が背負うはずだった運命を背負った者だということはうっすらと分かった。

『イリヤさん』
「分かってる。だけど、私はお兄ちゃんに助けられたんだから、だから私も……」

責任があった。
”衛宮士郎” に守られた責任が。
”平行世界の自分のこと”を知らなかった責任が。

知らなければどうと思うことはなかっただろう。
だが、知ってしまったからには責任が生じたのだとイリヤは考えていた。
全てを受け止め、生きて戦っていかねばならないのだ、と。


だが、少女は気付いていない。
その自分が思っている、責任全てを背負おうとしていることが。
まさに自分自身にとっては重荷となって伸し掛からせているということに。


162 : それでも運命は進む ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/14(日) 22:16:16 BJsH7nRI0


一行にとってはほんのひと時な、様々な想いを整理する時間。
しかし、そんな静の時においても状況は、運命は止まることなく歩みを続ける。

そのことを示す、第三回定時放送の時間もまた、すぐそこまで。




【D-4/市街地北部/一日目 夕方】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大)、腹部、胸部にダメージ(小・回復中)
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター)@プリズマ☆イリヤ(使用制限中)、クラスカード(アサシン)@プリズマ☆イリヤ(使用制限中)、
     クラスカード(アーチャー)@プリズマ☆イリヤ(使用制限中)、破戒すべき全ての符(投影)
[思考・状況]
基本:美遊や皆と共に絶対に帰る
1:もう逃げない。皆で帰れるように全力を尽くす
2:間桐桜…、お兄ちゃんの恋人…
3:美遊が心配
4:Lさんやまどかさん達と共にみんなを待つ
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
※ルビーは、衛宮士郎とアーチャーの英霊は同一存在である可能性があると推測しています。
※ミュウツーのテレパシーを通して、バーサーカーの記憶からFate/stay night本編の自分のことを知識として知りました
※ルビーがさくらTVビルからの電波を受信しました

【L@デスノート(映画)】
[状態]:右の掌の表面が灰化、疲労(中)
[装備]:ワルサーP38(5/8)@現実、
[道具]:基本支給品、クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ、ブローニングハイパワー(13/13)、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、
シャルロッテ印のお菓子詰め合わせ袋、お菓子数点(きのこの山他)、トランシーバー(残り電力一回分)@現実
[思考・状況]
基本:この事件を止めるべく、アカギを逮捕する
1:拠点移動のために遊園地に向かう
2:月がどんな状態であろうが組む。一時休戦
3:魔女の口付けについて、知っている人物を探す。候補は暁美ほむら、美国織莉子。
4:3or4回目の放送時、病院または遊園地で草加たちと合流する
5:夜神さん………
[備考]
※参戦時期は、後編の月死亡直後からです。
※北崎のフルネームを知りました。
※北崎から村上、木場、巧の名前を聞きました。
※メロからこれまでの経緯、そしてDEATH NOTE(漫画)世界の情報を得ました。しかしニア、メロがLの後継者であることは聞かされていません
※Fate/stay night世界における魔術、様々な概念について、大まかに把握しました。しかし詳細までは理解しきれていないかもしれません。


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み、安定、しかし激しい動きは開く危険有り)、精神的な疲弊
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
1:さやかちゃんが心配
[備考]
※最終ループ時間軸における、杏子自爆〜ワルプルギスの夜出現の間からの参戦
※自分の知り合いが違う人物である可能性を聞きました
※美遊と情報交換をし、バトルロワイヤル開始からこれまでの出来事と遭遇者、「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」の世界の情報を得ました。(後者は難しい話はおそらく理解できていません)
しかし長田結花がオルフェノクであることは知らされていないため、美遊の探す人物が草加の戦ってる(であろう)オルフェノクであることには気付いていません。



※ルビーの電波受信によりさくらTVビルでの放送開始〜ビルにティロ・フィナーレが放たれるまでの出来事を把握しました


163 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/14(日) 22:16:41 BJsH7nRI0
投下終了です


164 : 名無しさん :2015/06/14(日) 23:11:46 prMukHVA0
投下乙です


165 : 名無しさん :2015/06/14(日) 23:12:50 aYcXzykU0
投下乙です
Lの言う通り総一郎の死が今の月に届いてほしいなぁ
イリヤは桜とマトモに対峙できるのだろうか…


166 : 名無しさん :2015/06/14(日) 23:39:21 8XwsaPLM0
投下乙です!


167 : 名無しさん :2015/06/15(月) 04:59:57 .hxe.asg0
投下乙です

イリヤに嫌なフラグが…
放送だとほむらの名前も呼ばれるからまどかにも結構なダメージいくのか


168 : 名無しさん :2015/06/15(月) 18:57:10 vVGzDQrU0



169 : 名無しさん :2015/06/18(木) 23:48:50 RwUJiwXY0
悪乗りで投下乙だけを書き込むのは見ていて不愉快だからやめろ


170 : 名無しさん :2015/06/19(金) 03:27:43 utKPzxy.0
投下に気付いたら乙して、読んでから感想を言うのが普通じゃないのか
確かに特に感想が出てこなかったらレスはしないけどさ


171 : 名無しさん :2015/06/19(金) 14:59:36 u7N07PcY0
え、ここって感想文必須なの……?
投下乙だけがダメとか初めて聞くローカルルールなんだが


172 : 名無しさん :2015/06/19(金) 15:46:56 40YnE5jI0
>>171
触るなって
変な俺ルール言って荒らしたいだけだから


173 : 名無しさん :2015/06/19(金) 22:19:06 5DHKRW3Q0
投下きたと思ったら変なので揉めてるだけだった


174 : 名無しさん :2015/06/26(金) 02:01:04 /d6/3d3g0
メロの再予約来たな


175 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/30(火) 22:39:54 XnHdCafs0
投下します


176 : 虚の中の道標 ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/30(火) 22:45:21 XnHdCafs0
「………」

特にアテがあって歩いていたわけではない。
元々の目的地である美国邸はすでに崩壊しており。
キリカやサカキといった仲間、そして倒さねばならない相手である暁美ほむら、その全てがいなくなり、鹿目まどかの生死も未だ不明。

無論、最終的な目標である今現在の状況の打破という部分は変わらない。
しかしそこに向かうまでに自分がすべきことが見つからなかった。

早急に他の参加者と遭遇できればまだ目的を定めることができただろう。
だが結局誰も見つけることはできぬままに一人物思いに沈んだまま時間は進んでいく。

気がつけばその足は、かつてキリカが命を落とした場所へと向かっていた。
意識してかそれとも無意識下でなのかは分からない。
もしかすればそこに向かえば今自分がすべきことを見つけられるかもしれない。

(…きっとそれだけじゃいけないのね)

もし優先しなければならないことがあるとすれば、鹿目まどかの生死に確証を持たせ、もし生きているなら早急に追撃をかけてトドメを指すことだろう。
だが、それだけではダメなのだろう。

その先にある戦い、今この場で自分がやらなければならないこと。
それを見つけなければ、この虚無感、喪失感から抜け出すことはできないだろう。

この場に来て以降、鹿目まどかの存在を強く意識しすぎていた。
結果それ以外の部分、この殺し合いにおいて自分がどう動き何をなすべきなのかをロクに定められてはいなかった。

ポケモン城での戦いも予知による援護こそしたものの戦いそのものはサカキに任せっきりで。
あの黒い剣士との戦いも実際には降りかかった火の粉を払っていただけだったように思える。

美遊・エーデルフェルトと名乗った魔法少女との戦い。
彼女のあり方に何故あそこまで苛立ったのか。
ただ自分の使命に対してああも真っ向から対峙されたことに対する苛立ち…だけではないような気がする。
しかし自分でもそれが何なのか分からない。

そうして鹿目まどかに致命傷を与え、彼女自身の運命は全て時間に任せるように保留し。
その間にでも自分で考えねばならぬことを結局サカキに丸投げしていたようにも思えていた。

今の現状がそのせいだとするなら全く笑えない。


177 : 虚の中の道標 ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/30(火) 22:46:05 XnHdCafs0


だからこそ。
もしかすると考える時間、そしてその間自分を支えてくれるものを織莉子は求めていたのかもしれない。

それがキリカであり、あるいはまだ見ぬ誰かとの接触であったのだろう。

ジャリッ、と地面を踏みしめるたびに足元で砂が音を立てる。
草原部であったが故に生い茂っていた草はすでになくなり、土と砂が入り混じった地面が足下に広がっている。
もう少し行けば浅瀬が視界に入り、地面は完全にベージュ色の砂だけとなるだろう。

そして、そこにキリカを埋葬した場所がある。


「…………」

そしてその浅瀬に向けて歩き続ける織莉子の耳に届いた音。
バイクのエンジンがかかる時のような、耳に響くもの。

その方向に、織莉子は視線を向けた。



パキッ

バークローバー。
ニア探しよりも他の参加者の探索を優先したメロはそれまでの進行から正反対の北側に向けて進行し。
その道中で立ち寄った施設がその建物だった。

だが何のことはない。
ただの地下にある小さなバーだった。

別に取り立てて寄らなければならない場所でもないと判断したメロは立ち寄ることもせずに静かに立ち去ろうと背を向ける。
周囲にあるのはまるで怪物でも暴れたかのような廃墟のみ。
このような居心地の悪い場所、誰かが好き好んで留まるようなところでもないだろう。
それでもいるとすれば、それを逆手にとって潜もうとするものか、あるいはもう動かぬ死体くらいか。

チラリ、と周囲を見回すと、そこには一人の男が倒れていた。
まるでライフルか何かで撃ちぬかれたかのように片腕はちぎれ胸に大きな穴を開けている。

死体に触れて体の様子を確かめる。
その死体の感触や硬直具合からすると死んでからある程度の時間が経過している様子だ。

パキッ

少なくともそれがニアではないことは見て分かる。ならばそれ以上気にすることもない。
そう思って死体から離れようとしたメロ。

「………?」

その時、ふと思い立ったようにその死体に再度駆け寄ってその体を持ち上げる。
具体的にいうならば首元が確認できるように頭を掴み上げる。

「刻印がない…?」

自分の顔を周囲に散らばっている中でそれなりの大きさを残したガラスに映して確認する。
そこには首元に真っ黒なタトゥーのような形の刻印が映っている。

記憶を掘り起こすが千歳ゆまや夜神総一郎、佐倉杏子やLもあるべき呪刻の場所は変わらなかったはずだ。
では、何故この男にはそれがないのか。

疑問に思ってはみたが、よくよく考えれば別におかしなことはないのかもしれない。
一般的に呪いとは生きているものにかけるようなものだろう。あのデスノートであっても対象は生きている者のはず。
死を以ってその呪いが消滅したのだと考えれば何ら不自然なことはない。

ただ、曲りなりにも得られた一つの事実。
何かあった時に考察の役に立つ可能性もあると頭の片隅には留め、メロは再度原付に跨る。

パキッ

そして発車させようとしたところで気付く。
それまで無意識のうちにずっとチョコレートを齧っていたことに。


178 : 虚の中の道標 ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/30(火) 22:46:38 XnHdCafs0

ここに来るまでの間、まだそれなりに原型を残していたコンビニに立ち寄った際いくつか拝借したものだったのだが、それが空になっていた。

「………」

水を飲んで気持ちを切り替え、原付を走らせる。

廃墟といっても周囲一帯を建物を崩すほどの地震があったようなものではなく、あくまでもある程度の範囲が崩れ落ちているという程度のもの。
少し見渡せば、原付を走らせることが可能な道も見つからないわけではない。

そして崩落の進んでいない建物が多い道を選べば、その道中にはまた原型を留めたコンビニの一軒くらいは見つけることができる。

「……ちっ」

原付を動かしている間、何か落ち着かない感覚が体に残っていた。
妙にイライラして気持ちが落ち着かなくなってくる。
もし今の自分の姿を傍から見たら禁煙中の喫煙者のように見えたのだろうかという、そんな意味のないことを考えていた。

その解決法に心当たりを感じたメロは舌打ちをして原付きから降り、メロはコンビニに入り。
そこに置かれていた板チョコをまとめてバッグに突っ込む。

そして手に残した一つを噛みちぎった。

パキッ

口の中にチョコレート特有の甘味が広がると共にイライラは収まった。
しかしその苛立ちそのものを自覚してしまった今、逆にそのイライラしているという事実に苛立ちを覚えていた。

だから、己に向けた思考を一旦閉じることで感情をシャットアウトする。

そのまま、しかしそれ以外の事柄に対する思考は止めないようにして原付を走らせた。



その後は北上する予定だったメロだが、しかしそこから断続的に響いてくる音を聞いて進路変更を余儀なくされていた。

少なくとも今の自分が戦いの中に入って何かできる装備ではないことは強く自覚している。
あの宝石にしてもあれはそこまで極端な実力差がない相手に対する交渉材料だろう。もし使う暇もなく攻めてくるような相手にはどうしようもない。

他者との遭遇が遅れることになるのは惜しいが、今は遠回りして他の参加者を探すしかない。


そうして見晴らしがそれなりにいい砂地を走らせていたところで、一つの影がゆっくりと動いているのを発見した。

原付を停止させて目を凝らすメロ。

遠目ではどんな相手なのかよく見えない。
危険なのか安全なのか、武器は持っているのか。
あるいは人間なのかどうか。


(接触するか…?)

少し思案した後、相手の様子を見てからどうするかを決断することにしたメロ。

相手はこちらに気付かないように歩み続けている。
この見晴らしだ。こちらが見えているならば、向こうも気づいていて何らおかしくはない。
しかしその歩むペースは全く変わらない。というよりも周囲に気を配っている様子もないように思える。

(少し無防備すぎるが、…それは逆に安全ということか?)

もし殺し合いに乗った人間ならば周囲にはもっと気を配るはずだ。
殺す側であるということは逆に自分を殺しうる者が迫ってくるかもしれないという事実を常に意識しているはずだ。
それをしないのであれば、できないほどに何かを考えながら行動しているか、あるいはしなくてもどうとでもなるという慢心を持っているのか。

前者ならば接触しても大丈夫だろうが、後者ならば離れねばまずいだろう。慢心ができるほどの強者というならば一刻も早く離れねばまずい。

パキッ

(どうするか……)

少し思案した後ハンドルに手をやる。
どちらにしてもこのまま止まっているままではいけない。


179 : 虚の中の道標 ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/30(火) 22:46:58 XnHdCafs0

離れるにしろ接触するにしろ、止まったままでは無為に時間がすぎるだけだ。
もし決定的な判断材料が見えた時、行動が遅れて死亡、ではさすがに笑えない。

エンジン音が鳴り、車体が揺れ始める。
このまま前に進むか、それとも引き返すか、それを判断するために目の前の相手を注視していた時だった。

エンジンの起動音に連動するかのように、目の前の影はこちらへと顔を向けた。

(…気付かれた?!)

そこまで大きな音をたてたつもりはない。この距離で気付かれるようなものではないだろう、一般的な人間相手ならば。

もし気付かれたとするならば、よほど相手の感覚が鋭いか、そもそも人ではないために人間離れした感覚を持っているか。
どちらにしても相手の動きを伺って、即座に対応可能なように構えねばならない。


と、向こう側にいる影はこちらへと方向転換して歩いてくる。
もし殺し合いに乗っているというならば走って迫ってくるはず。わざわざ急いで離れれば逃げられるような速度で迫ってくるのならば少なくとも好戦的な相手ではないと判断した。
だが油断はできない。そう見せかけた上で騙し討ちを仕掛けてくることも十分に考えられる。

しかしだとすれば少し近寄るくらいならば問題ないだろう。
原付を動かし距離を詰めるメロ。

やがてその姿が肉眼で確認できるようになってきた。
長い銀髪の女。
年は中学生かあるいは高校生辺りだろうか。
その服はどこかの学校の制服のように見える。

(…この女……)

外見的な特徴が自分の持っている情報の中で合致するものがいた。
この場に来てすぐに出会った一人の少女が言っていた魔法少女。

もしかするとこいつは。


一気に距離を詰めて声が届く場所でバイクを停止させ。
メロは、その女に問いかけた。

「……千歳ゆまって名前に心当たりはあるか?」




メロの睨んだとおり、女は美国織莉子と名乗った。
幸いにして彼女自身はこの状況を打開するために動いているとのことで接触自体は穏便に収まった。

「千歳ゆまとあったのですね」
「少しの間だけどな」

ゆまの最期についても知っている限りのことで話してみたメロ。
それに対する織莉子は一言、『そうですか』と言ったきり触れることはなかった。
一見それで終わったようにも見えたが、その瞳に小さく動きがあったのをメロは見逃してはいない。

おそらくは何か少しだけ思うところがあるのだろうがそれを押し殺して隠そうとしているような。
敢えて触れたりはしないが、人並の感情を持っている者が非情に徹しようとしているのだろうとメロは見た。

「それで、あいつから聞いて少し気になっていたんだがな。その魔法少女について」
「なるほど。それで気になった部分というのはどこですか?
 魔法少女の契約についてですか?私達の存在意義ですか?それとも、私達の行き着く果てですか?」
「…全部だな」

割とすんなり話してくれたことにメロは驚いていた。
ゆまから受けていた印象ではキュウべえとやらの存在から隠れるように行動している=あまり大っぴらに言えることではない秘密を持っているというものだった。

そんな相手がおいそれとそれを話すか、ということにはそれなりに警戒していたがこうもあっさり話してくれるとは思わなかった。

「その魔法少女の成れの果てが魔女、ねえ」
「驚かないのですね」
「まあ大体そんなものだろうなってくらいには思ってたからな。だが何故そんなにあっさりと話したのかってことの方が気になるな。
 その様子から想像すると、お前はそれを知っていることも隠していたんじゃないのか?」
「そうですね。私自身、ある程度の踏ん切りがついた、というところなのでしょうか。自分でもよく分かりません」


180 : 虚の中の道標 ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/30(火) 22:47:31 XnHdCafs0

そうメロに言った織莉子だったが、彼女自身はその理由について心当たりがついていた。
鹿目まどかを始末しようと美遊・エーデルフェルトに真実を明かし。そしてあの暁美ほむらとの戦い。

もし近くにインキュベーターがいたならば真っ先に始末されていただろうことばかりを口にし、行動に移していた気がした。
あれだけのことを起こして尚もインキュベーターからのアクションが見られないことから、ある程度の思い切りができるようになっていたのかもしれない。

「ただ一つ。この場所で魔女が生まれることはないでしょう」
「何故だ?」
「理由は分かりません。ただ、実際に私の目の前で死んだ魔法少女は魔女となる直前にソウルジェムが自壊して命を終えました。
 何かしらの力が働いているのだとは思いますが、詳しいことまでは分かりません」

もう少し追求してみたいと考えたメロだったが、織莉子自身ソウルジェムの詳細な原理までは知らないということでこの話自体はそれで終わりとなった。


その後は、この場に来て以降遭遇した出来事についての情報交換となった。

「…一つ聞かせていただいてよろしいですか?
 その、あなたの知る人物が知っているそれとは違うというところなのですが」

その最中で織莉子が気にしたこと。
それは彼自身が知る人間と名前や主だった特徴を同じくした別人が存在する、という部分。

実際、佐倉杏子は千歳ゆまの存在を知らないと言っていたという。
自分の知っている彼女がそれを知らない、というのは有り得ないことだ。

「…どうかしたか?」
「……いいえ。少し突拍子もない話だったので驚いただけです」

思い返せば、あの暁美ほむらは自分と戦った経験があるといっていた。
つまりは自分とは違う世界線、とでもいうべき場所から来た存在だ。

だとしたら。

(―――あの鹿目まどかは、一体どこから来た鹿目まどかだったの?)

あの対峙した彼女は、本当に自分が狙っていた鹿目まどかだったのだろうか。
千歳ゆまを知らぬ佐倉杏子のように、また別の世界を生きていた彼女であった可能性は――――

(…今考えるのは止めましょう)

どちらにしても、それを考えるのは次の放送の後だ。
それも彼女の名が呼ばれなかった場合の話。もし呼ばれたならばこの件に関しては今考える必要はない。これ以上は徒労となるだけだ。



メロが一通りの情報を話した後、織莉子が話す番となる。

だが思ったほど自分が話せることはないな、と思いながらまずここに連れて来られた時のことから話し始めた。

ポケモン城でサカキと出会ったこと、そしてそこの中に大量のポケモン達がまるで門番をするように立ちふさがってきたこと――――

「…つまりはそのポケモン城にはあいつらが仕掛けたポケモンとやらが存在しているってことか。
 何か触れられたら困るものを守るために」
「そうなりますね。だけど今はあそこも禁止エリアとなっています。何かある可能性は高いですが、進入すれば間違いなくあの最初の場所でのあの男の二の舞となるだけでしょうね」

禁止エリアとなったのは一回目放送の時だ。
あるいは自分たちがあそこに進入したことがその促進のトリガーとなってしまったのだろうか。

故意なのか、それとも偶発的なものなのか。
もし前者ならばその狙いが分からないだけ余計に警戒しなければならない。


181 : 虚の中の道標 ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/30(火) 22:47:51 XnHdCafs0

「一つ聞かせろ。
 そのポケモンという生き物だが、そいつらには俺たちについているような呪刻はつけられているのか?」
「……?いえ、特につけられてはいませんが……」
「俺たち刻印のついた参加者が禁止エリアに入った場合どうなるのかってのはまあ、おそらく周知の通りになるんだろうな。
 じゃあそのポケモンとやらが入ったらどうなるのかってのは分かるか?」
「…いいえ、そもそも禁止エリア自体に近寄ったりはしなかったので……。もしかして――――」
「ああ、可能性はあるだろう」

そこでメロが提示した可能性。
それは、禁止エリアであっても刻印のつけられていないポケモンであれば侵入できるのではないかというもの。

もしあの見せしめになったオルフェノクを襲ったあの現象がこの刻印によるものだとすれば、ポケモンであれば大丈夫であるという可能性も考えられる。

だが、問題があるとすれば。

「問題は、ポケモン達が私達所有者からどれほど離れて行動できるか、によってきますが…」
「そこは情報を集めるしかないだろうな。あんたの持っているポケモンは一匹しかいないんだろう?」
「そうですね」

その点に関しては他から情報を集めるしかない。
複数持っているのならまだしも、一匹しかいない現状ギャンブル性の高いそんなことに費やすのは得策ではない。

「分かった、ならあんたは北の間桐邸って建物に向かってほしい。あそこにいるLっていう男は信用できる相手だ。
 ただ、ちょっとヤバイオルフェノクが近くにいるかもしれねえが」
「L、ですか。
 分かりました。メロさんはどうするのですか?」
「そうだな、とりあえずポケモン城の近くの施設、見滝原中学校か衛宮邸ってところ辺りに向かおうと思う。
 何もなければ見滝原中学校、何かあった時は衛宮邸ってことで」
「分かりました。ではもう少しこちらで協力者やポケモンに関する情報が集まったら向かわせてもらいます」


こうして情報交換は終わり、メロは原付に跨る。
そしてバイクを発車させる直前、ふと織莉子は疑問に思っていたことを一つメロに問いかけた。

「そういえば、あの名簿にはN、という名前もありましたが……。Lという方とは何か関わりがあるのですか?」
「…さぁな。心当たりがないわけじゃないが、そいつはもう死んでいる。だったら俺の知ってるやつじゃねえのは確かだろうな」




メロも織莉子も敢えて言わなかったことが一つだけあった。
気付いてはいた。しかしその可能性を追求してしまえば、小さいながらもようやく見つけた道標を失ってしまうのではないかということを考えていたから。


アカギがポケモンのいた世界にいた人間であるというのならば、その彼がポケモンそのもののことについて知らないはずがない。
どれほどの自律行動が可能な生き物なのか、どれほどの知性を持っているのか。

そんな生き物を果たして禁止エリアに侵入可能などという大きなリスクを残した状態でこの場に放置するだろうか、というもの。

もし対策済みであるのならば、それはそれで諦めるだけだ。
しかし未対策のまま、もしポケモン達が禁止エリアに侵入することが可能であるとするならば。
何か狙いがある、と考えるのが普通だろう。

禁止エリアにポケモンのみを招き入れることに意味があるのではないか、と。


しかし二人はそのことを敢えて口にすることはなく、短い情報交換の後互いに背を向けて去っていった。



放送の時間まであと少しという時間の、空虚な二人のそんな短いやりとり。


182 : 虚の中の道標 ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/30(火) 22:48:15 XnHdCafs0

【E-5南部/一日目 夕方】

【メロ@DEATH NOTE】
[状態]右手首の表面が灰化(動かすのに支障なし)、ニアの死に対するストレス
[装備]原付自転車
[道具]基本支給品一式、呪術入りの宝石(死痛の隷属)、大量の板チョコ
[思考]基本・元世界に戻り、ニアとの決着をつけたかったが…?
0:イライラする。チョコをかじって気持ちを落ち着かせたい
1:見滝原中学校、あるいは衛宮邸へと向かう(本命は見滝原中学校、何かあった時は衛宮邸)
2:夜神月は後回し。だがもし遭遇した場合、Lと協力できるかどうか見極める
3:必要に応じて他の参加者と手を組むが、慣れ合うつもりはない。(特に夜神月を始めとした日本捜査本部の面々とは協力したくない)
4:ポケモン城の秘密を探る。
5:放送も近いし、大丈夫そうなら病院に寄ってみる?
[備考]
※参戦時期は12巻、高田清美を誘拐してから、ノートの切れ端に名前を書かれるまでの間です。
※ゆまから『魔法少女』、『魔女』、『キュゥベぇ』についての情報を得ました。(魔法少女の存在に一定の懐疑を抱いています)
※平行世界についてある程度把握、夜神月が自分の世界の夜神月で間違いないだろうと考えています。
※Fate/stay night世界における魔術というものについて、大まかに把握しました。しかし詳細までは理解しきれていないでしょう。
※放送はニアの名前が呼ばれて以降の内容について一部聞き逃している部分があるようです。
※美国織莉子と情報交換をしました


【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:ソウルジェムの穢れ(6割)、魔法少女姿、疲労(大)、ダメージ(小)、前進に火傷、肩や脇腹に傷
[装備]:グリーフシード×2(濁り:満タン)、砕けたソウルジェム(キリカ、まどかの血に染まっている)、モンスターボール(サカキのサイドンwith進化の輝石・ダメージ(大))@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、ひでんマシン3(なみのり)
[思考・状況]
基本:何としても生き残り、自分の使命を果たす。
1:グリーフシードを探す。それまでは可能な限り戦闘は避ける。
2:間桐邸に向かい、Lなる人物を探す。
3:鹿目まどかの抹殺を優先するのはその生存が確定されるまで保留。
4:優先するのは自分の使命。そのために必要な手は選ばない。しかし使命を果たした後のことも考えておく
5:キリカを殺した者(セイバー)を必ず討つ。そのために必要となる力を集める。
6:ポケモン、オルフェノクに詳しい人物から詳しく情報を聞き出す。
7:美遊・エーデルフェルトの在り方に憤り。もし次にあったら―――――?
[備考]
※参加時期は第4話終了直後。キリカの傷を治す前
※ポケモン、オルフェノクについて少し知りました。
※ポケモン城の一階と地下の入り口付近を調査しました。
※キュゥべえが協力していることはないと考えていましたが、少し懐疑的になっています。
※鹿目まどかに小さくない傷を負わせたことは確信していますがその生死までは確信できていません。
未来視を以ってしても確認できない様子です。
※マジカルシャインを習得しました。技の使用には魔力を消費します。
※メロと情報交換をしました


183 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/06/30(火) 22:48:55 XnHdCafs0
投下終了です


184 : 名無しさん :2015/07/01(水) 00:51:01 99H5Rrv20
投下乙です。
2人の喪失感が切ないなぁ…


185 : 名無しさん :2015/07/02(木) 01:07:13 X0bJuJvo0
投下乙です

少しずつだが呪刻解除の為の情報が集まってきてるな
織莉子はまどかとの再会が近いみたいだがどうなるか


186 : 名無しさん :2015/07/08(水) 23:31:03 zuDBh01Q0
スザク達の予約来てるね


187 : 名無しさん :2015/07/15(水) 00:48:16 fj3LNvtY0
月報データです
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
132話(+2) 21/57(-0) 36.8(-0)


188 : 名無しさん :2015/09/09(水) 00:10:17 vyDZE9jI0
久々の予約きたぞー!


189 : 名無しさん :2015/09/16(水) 01:10:47 nnJz4WJs0
今日が投下の日だな


190 : 名無しさん :2015/10/06(火) 02:16:35 A8o8dpqI0
予約スレに活動報告が来てたか
楽しみだ


191 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/22(木) 23:00:24 qDqX9xAI0
以前予約破棄したパート、枢木スザク、夜神月、村上峡児をゲリラになりますが投下します


192 : 神のいない世界の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/22(木) 23:03:07 qDqX9xAI0
「時に夜神月君、君は人の魂、というものについてどう考えていますか?」

「魂…ですか?」

「ええ。
 人、いえ、生きている者、命ある生物全てに対して宿っていると言われる概念。
 キリスト教においては人間の不滅の本質であるとも言われ、そして日本においては時として死後神としても崇められうると言われるもの。
 科学技術では如何なる手段を持ってしても解明することができない。かといって宗教的観点からでは曖昧な定義として留まるしかない。
 多くの者がその存在を探求しようと試みながらも公には誰にも証明できていないとされる、まさに今を生きる者にとっては未知なる概念です」

「それが、どうしたと言うんですか?」

「先程、暁美ほむらという魔法少女に対して行ったあの行動。
 一定の可能性の元で人間をオルフェノクへと進化させうる、我々にとっては儀式と言って差し支えない行動ですが。
 成功した暁には、人間は人を超えるオルフェノクへとその身を転生させることができます。
 そして、暁美ほむらが言うには魔法少女はその生命を一つの宝石へと移し替えることでその身を人ならざるものへと変化させている、と言っていました」

「…………」

「私達オルフェノクは一度死を通して新たな新人類へと覚醒した種族。では、そんな我々にとって魂とは何か。
 正しく言うならば、我々オルフェノクという種は魂を通してその身を一段階上の存在へと引き上げたものなのか、それとも変化させたのはあくまでも人間としての肉体だけであるか、というのか」

「なるほど」

「無論私としては前者であることが好ましいことだと思っていました。しかし如何せん魂というのは哲学的、概念的な存在にすぎない。
 それを確かめる機会などくることはないだろう、と諦めているところがありました」

「つまりはこう言いたい、と。あなた達オルフェノクは”人間”であるからこそそうして進化をすることができた、と」

「そうですね。彼女の言う魔法少女とは肉体が魂とは分離させられた、いわば人と異なる者へとなっていました。
 そんな彼女に対して、いわば人間の進化した存在であるオルフェノクの力は適合しうるのかどうか。
 ひいてはそれは、我らオルフェノクという存在の意義を示すものに繋がりうる可能性を持っています」

「結果はどうだったんですか?」

「彼女は使徒再生を受けたにも関わらずああして肉体を維持させ命を永らえさせていました。
 魔法少女なる存在が生きる原理については聞いています。つまりは魔力を消費し崩れる体を維持したのでしょう。
 つまり、失敗したとしても生き続けることはできる、肉体さえあれば」

「あなたのいう魂、というものを変えるものではない、と言いたいのですか?」


「結論には届きませんが、その可能性は十分に存在するものと考えてよろしいでしょうね。
 さて、少し語ってしまいましたが夜神月君。君の意見を聞かせていただいても構わないでしょうか。
 オルフェノクに関わらずとも何でも構いません。君なりに人間とは何か、生とは何かを聞いてみたいのです」

「……あまり深く考えたことはありませんが。
 ただ、人が生きるということについて、僕としてはこれだけははっきりといえます」

「それは?」

「…人が死んだら還る場所、そこは何もない無であるということです。
 だから、魂なんていう存在も、僕には信じる意味なんてありません」


193 : 神のいない世界の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/22(木) 23:03:31 qDqX9xAI0



Nの城。
岩壁に沿うようにグルっと周囲を覆うかのような形にそそり立った巨大な建造物。
外から見れば城というには不気味な印象を受ける建物だ、と到着した月は思った。

「大きな建物ですね…」
「ええ。ですが既に内部の大まかな様子は探索を済ませています。
 もちろん抜けがない、とは言えないでしょうが今回目的の場所自体ははっきりしています」

その巨大さに圧倒される月を尻目に村上は城の入り口へと足を進めていく。

「そういえばこの城の主、Nという人物はポケモンが存在する世界にいた人間だとお聞きしています。
 そして先ほど月君の世界にはLなる人物がいるとも聞かせていただきました。
 果たしてこれは偶然なのでしょうかね?」
「知りませんよ」

月の中でNと言われて浮かぶのはLの後継者であるニア。
かつて自分の前に現れたニアが最初にそう名乗ったことがあった。
だが奴は名簿にて別の名で記載され、かつ既に放送で名を呼ばれた。
その名に関してはおそらく偶然だろう。

「さて、この先にある情報機器なのですが、先ほど説明したようにどうやら特殊な仕様となっているようでして。
 オーキド博士の手をお借りすることでポケモンの住む世界についての情報を確認することはできたのですが、それ以外のものについては私の見られるものを除けば閲覧が不可能でした。
 一応お二方には確認をしていただきたいと思うのですが、構いませんか?無論こちらの持っている情報も明かすつもりではあります」
「僕なら構いませんが…」
「………」

特に問題ないと見る月に対し、スザクは仮面の下で少し思案する。
聞いた限りのことを考えるに、そのデータベースに入っているのはおそらくギアスに関わることも含まれているだろう。
しかしスザクにはその辺りのことについて明るいわけではない。
C.C.辺りであればそこにも詳しいのだろうが、今はこの場にいない。

(いや、待てよ。その情報があるということは)

と、スザクの中で一つの可能性が浮かび上がる。

ギアスや皇帝達の求めていたもの、あれは自分の把握している範囲であれば、だが知っている人間はそう多くはない。
皇帝シャルル・ジ・ブリタニアとルルーシュの母マリアンヌ、そして自分とルルーシュ、C.C.だけ。
シュナイゼルほどの者すらもその詳細まで把握してはいなかった。
もしそういった情報が含まれているならば。

(さっきC.C.が可能性として提示していたように、協力者にそれを知ることができるものもいるということになる…?)

「分かった、私も付き合おう」




194 : 神のいない世界の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/22(木) 23:05:26 qDqX9xAI0


幾つもの階段と廊下を登った先。
城とは思えないほどに奇抜で巨大な外見と裏腹に内部は石造りの古風なイメージを与える雰囲気。

そんな空間に、大量に並んだ電子機器の置いてある部屋というのはかなり目を引くものだ。
目的の情報端末が配置されていたという場所。

「…やはりハッキングは無理のようですね」
「私も可能な限り手をつけてみましたが、しかし成果は見ての通りでして」
「では、今ここに置かれている情報から見るしかないということか」


まずはということでスザクがその調査を行うことになった。
元々先に考えていた事実の裏付けを取ることを優先しようと考えていたこともあって特に反対することもなく二人に先んじて端末を操作。

(…やはりか)

スザクにしてみれば内容の意味は理解できるものではない。
しかしどういったことが書いてあるのかは理解できる。
ブリタニアの歴史や世界情勢といった基本的な知識、そして。

アーカーシャの剣。
Cの世界。
ラグナレクの接続。

決して聞き覚えのないものではない。

(…やはり相手はこれらの情報を知っている。
 だが、どうやって知った?何故これをこんなところに載せている?)

月と村上はその内容を読んで思考を巡らせているようだったが、スザクとしてはそれどころではなかった。

内容についてはやはりC.C.に聞いて確認をしておきたいものではある。
今の自分として考えられるのは、何故これがここに保存されているのか、そして何故アカギはこのような情報を残しているのか。

(…駄目だ、僕じゃルルーシュほど物事を多角的に見ることはできていない)

スザクは一旦その情報があったという事実を頭の片隅に残し、今度は月が端末の前に移った。


「デスノート。確か人の顔を知っていてかつその名前を書くだけでその人間を死に至らしめることができるという恐ろしい道具ですか」
「あなたは、それを恐ろしいと見るのですか」
「ええ。元来人を殺すという行為だけを取り上げるならばそう難しいことではない。
 例えばナイフや拳銃のようなもの……など無くともその辺りに落ちている石や木の棒でも人を殺すことはできます。
 かといってそれらが殺人の道具として扱われることはない。それはそれらが本来殺人という結果をもたらすための道具ではないからです。
 そしてナイフや拳銃、これらは確かに殺人という行為に特化したものではありますが、それによって手にかけられる人間は少数。目の前にいる相手程度のものです。
 しかしそのデスノートという道具はそういった当たり前のことを覆して人に力を与えてしまうものです。無論、存在するのであれば、ですが」
「正しい人が持てばそれが世界のためになる、とは思わないのですか?」
「いくら正しくとも、人は所詮人。
 我々のようなオルフェノクならいざしらず、人間がその力の誘惑や業に惑わされないとは思えません。
 例えば、自分にとって都合の悪い人間を殺していくことで己に都合のいい世界を作る、などという低俗なことを考えたり、ね」
「………」


デスノートのルールや存在、そしてそれを用いて世界に多大な影響をもたらしたキラという存在、そしてその顛末。
記された中には一部名前を特定の名称で載せられており、全容は把握できたものの各名称が誰を指したものか、という点が一部不明だった。
特にキラの正体、という箇所については。
だがそれが誰を指すのかはこの場の皆は知っている。故に深い詮索は今更する意味がない。

「さて、それでは一応ですが私の出せる情報も見せたほうがよろしいですね」

村上は端末の前で再度操作し、表示画面を切り替える。

「中には我々オルフェノクにとって知られるとまずい情報自体もあるのですが、幸いあなた達は私達とは住む世界を別にする人間だ。
 今この場所で知られることに致命的となるものはないでしょう。
 私とは別の新鮮な視点から見たものとして何か気づくこと、思いつくことがあるかをお聞かせ願いたいと思います」

村上にしてみれば、例えばオルフェノクの寿命に関することなどは人間に知られることは致命的なもの。しかしそれはこの場にいる別世界の人間に知られたところで大した問題をもたらすものではない。
もし草加雅人を始めとする同じ世界の”人間”であれば、何としてもこれを知られることを阻止するだろう。
しかし別世界の人間に知られたところでその世界にオルフェノクが存在しないのであれば情報自体に意味は無い。
無論、それらの情報を無闇に口にするような人間であれば口封じのために切り捨てるが目の前の二人はそこまで愚かな人間には見えなかった。


195 : 神のいない世界の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/22(木) 23:06:12 qDqX9xAI0


「……一つお聞きしたいのですが。
 このオルフェノクの王という物について」
「それは我々オルフェノクを束ねるべき種族の王、とでもいう存在です。
 王を探し、オルフェノクを繁栄させる、それが我々にとって最重要使命であると言っても過言ではないでしょう」
「それは分かります。お聞きしたいのはここの、その王を呼び出す儀式、とでも言うのでしょうか。
 『九死に一生を得た子供の中に宿る』と記されていますが、それには理由はあるのですか?」
「いえ、理由は不明です。私の前任者がそうであるということを突き止め、それに間違いはないと言われているのですが、何故という点においては分かっていないと言わざるを得ません。
 しかしそれがどうかしましたか?」
「九死に一生……」

月は顎に手を当てて少し思案し。
そして顔を上げて村上へと向かい直す。

「これって今の状況と似ていませんか?
 九死に一生を得た、つまりは殺し合いを生き残った人間を選別する、という意味では」
「ほう」

関心したような声を上げる村上。

「あくまでも仮説にすぎませんが、ただもしそうであったとしたら」
「我々にとってオルフェノクの王降臨の儀式に近い何か、あるいは別の目的があるのではないかと。そう言いたいのですね?」
「はい」


月がそう答え。
それに対して村上が興味深そうに頷いた、その時だった。

視界の端にあったモニターが、誰も触れていないにも関わらず点灯したのは。



僕にとって、父親・夜神総一郎とはどんな存在だったのだろう?

尊敬する父親だった。
全ての人間が父のように勤勉で真面目であったらどれほど世界がよくなっただろうと思ったこともあった。

だからこそ、いくら犯罪者を逮捕しても減ることのない犯罪には胸を痛め、いつかそんな父の助けになりたいとも思っていた。
あのノートを拾うまでは。

でも、だからこそ父のような人間には幸せになってほしいとも願っていた。
キラとしてではなく月として。

今思えば、父が死んだあの時から何かが自分の中から欠けていったのだろう。

あの時から色んなものが変化し。
今となってはもうどうだったのか思い出せないことばかり。

だけどそれでも、あそこでメロに殺された父に対して、何も思わなかったのかと聞かれて。
それを肯定することは、間違いなく嘘だろうと自分でも断定できる。


そんな僕が。
画面の奥で得体の知れない影に飲み込まれていく父の姿を見た時、一体何を感じたのだろう。




196 : 神のいない世界の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/22(木) 23:06:51 qDqX9xAI0

(C.C.が、いない…?)

不意に映ったモニターの中。

夜神総一郎、巴マミ、ニャース、そして影を引き連れた桜なる少女。
一人を除けば別れる前の政庁に残っていたはずのメンバーだ。

あの崩壊した場所にいつまでもいるはずはない。だからこそ彼らが施設を移している事自体はそう問題ではない。
問題は、その中にC.C.がいないという事実だった。

揉めている最中も彼女の名前が呼ばれる様子もどこかにいる気配もなく。
最後の瞬間に閃光と共に映像が落ちるまで、全く彼女の存在を感じさせるものがなかった。


(まさかC.C.、君は……)

不死の少女とはいえこの場においてはその限りではないのだろう。死ぬ時は不死身の魔女とて命を落とす。
それが、自分が離れた数時間の間に起きてしまったのだとしたら。




「父、さん…?」

そしてその目の前で起こっていた映像に反応を示す者がこの場にもう一人。

何が起きたのかは理解できていない。
謎の影を操る少女に向かっていく姿は自分のよく知っている父の姿で。
その直後にその影に飲まれて消滅していった、命を落としたのも紛れもない夜神総一郎だった。

「…夜神月、気をしっかり持て」
「何で……」

ロボットを操る男だったり、変な超能力を使う女だったり、魔法少女とかいうわけの分からない存在だったり。
そんなものがたくさん存在するこの場所で、ただの警察官でしかない夜神総一郎がここまで生きてこられたのはそれこそ幸運だったのかもしれない。
いずれ命を落とす可能性自体は常に頭に入れていたつもりだった。実際に先は父親を手に掛けることすらも考えたりしていた。
だが、その父親が死ぬ時の姿を自分では何もできない状態でまたこうして見せられるとは思ってもいなかった。
かつてのあの時の無力な自分を直視させられた気分を二度も味わうことになるとは、全く考えていなかった。

あの時、メロに撃たれて死にゆく父を看取った時のように。


そんなえも言われぬ感情に打ちひしがれる月を静かに見下ろす存在があった。

「なるほど、君の父親は人間にしては確かに正しく誠実だったのかもしれません。ですが、だからこそ命を落とした。
 そうではありませんか?」
「…どういうことだ……?」

冷たい言葉を投げかける村上峡児。それを受けた月は思わず疑問で返す。

「言葉通りの意味ですよ。あの黒い影のようなものを浴びれば、確かに人間であればひとたまりもないもののようです。
 それをおそらく理解していながら、敢えてあの少女に向かっていき、しかし言葉は届くことなく命を落とした」
「あんた、父さんが無駄死にだったとでもいいたいのか…?」
「ええ、傍から見れば無駄死以外の何者でもないでしょう」

思わず起き上がって胸ぐらを掴み上げる月。
しかしそんな月の視線を受けながらも表情一つ動かすこともなく見下ろし続ける。

「先程言いましたよね。いくら正しくとも人は所詮人だ、と。
 そういうことですよ。人間は弱い。如何なる主張を掲げ、正義を、思想を掲げようとも一人で生きていくことすらできない。
 この場においてはなおのことです。
 ですが、我々オルフェノクは違う」

ゆっくりと服の襟を掴み上げる月の手を離させた後、村上の顔に模様が浮かび上がり。
次の瞬間には白寄りの灰の体色の異形へとその姿を変異させていた。

「そう、何を成すにしても力というものは必要なのです。
 反逆も、革命も、世直しも。人どころか世界すらも変えたいと思うのであれば。
 月君、君はその力を望んでいるのではないですか?」
「…俺が……」
「ええ。君自身も欲しているはずだ。
 人を、そして世界を変えられる力を。無論君一人ではどうすることもできないかもしれない。しかしその一つになることはできる。
 神、とはいえなくとも愚かな人間の上に立つ存在の一人として」


197 : 神のいない世界の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/22(木) 23:08:11 qDqX9xAI0
月の心に揺らぎが生じる。
キラには届かなくとも、自分の力がより良き人間が住まう理想の世界を作ることに貢献できるかもしれない。
それは甘美な誘いにも感じられていた。

「この手を取るならば、私は君に力を授けることができる。
 どうですか?」
「……でも、それは高確率で僕を殺すものじゃ」
「そうなりますね。しかし成功すれば晴れて君は我々の仲間入りを果たすことができる。
 人という殻を被ってそれに囚われたまま生き続けることと、その小さな確率にかけて人を越えること。
 どちらを選びますか?」

と、村上はその手を月に向けて差し出す。
提案を受けるならばそれを手に取れと言うように。

その問い掛けは、かつて死神・リュークが自分に向けて投げかけた取引にも近いものだった。
寿命の半分を対価に邪魔者・Lの抹殺も容易いものとしてくれる死神の目を得るかどうかの。
あの時はキラとして世界に君臨することに意味があるとしてその取引自体を却下してきた。
しかし今の月はその結果命を一度落とした身。

そう、もしあの世界に戻っても、再度キラとして返り咲くことなどできない。ノートもなければリュークもいない。
だが、村上の言う力があれば、あるいは。

「……………」

無言のまま、まるで引き寄せられるように手を取ろうとする月。
その姿を見て、村上の影がまるで笑みを浮かべるように口元を上げて頷いた。

(…そうだ、どうせこのままただの人間として生きていくくらいなら)

人を越える力を得て、村上の言うような世界を創る一員となるのだ。
犯罪を犯すような愚かな人間がいない世界に。
正しい人間が正しく生きられるような世界に。

父さんのような人間が安心して暮らせるような、そんな――――



その時脳裏に浮かび上がったのは、あの時夢のような形で見せられた光景。
ノートを拾う前の、キラでも何でもないただの夜神月であった時の自分の姿。

それが見えた時、揺らぐ月の心に波紋のように広がっていく思いがあった。

(それは……本当に―――)

僕が望んでいるものなのか?



「どうしましたか月君」

手に触れるかどうかの直前といったところで止まった月の手。
その様子に怪訝そうに声をかける村上。
しかし月はその声に答えることもなく、迷うように手を止めている。

「まあいい。受けたと見て大丈夫でしょう。では」

しかしその止まった様子を気にすることもなく村上はその月へと向けて体から細い管のような触手を生み出す。
暁美ほむらに対しても使用した、人とオルフェノクの選別を行うオルフェノク特有の器官。

それが月の胸を貫かんと迫り。


198 : 神のいない世界の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/22(木) 23:09:30 qDqX9xAI0

「む?」

しかしそれが月の心臓に達することはなかった。


「私の見立てではこの月君との話の中に割り込んでくるような者ではないと見ていたのですが、見誤りましたかね」
「そうだな、私としてもこのまま見ているだけでも構わなかったのだが、少しばかり見捨てられない理由ができたのものでな」

座り込んでいた月の体を抱え上げて村上から距離を取るスザク。

「さて、どうして邪魔をしたのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「深い意味はないな。だが敢えて言うなら、この男のことはある人物から頼まれている身なのでな。
 あなたの行動はそれに反するものだと判断したまで」
「そうですか。こちらとしてもあなたをここまで連れてきた目的自体は果たせました。
 それでもおとなしくしているのであれば放っておこうと思っていたのですが、邪魔をするならば致し方ありませんね」

村上、ローズオルフェノクのスザクへと向ける気配に敵意と殺気が混じる。

「消えろ」

それを抑えることもないまま手を前にかざした瞬間、スザクに向けて真紅の薔薇の花弁が飛来する。
周囲を覆い尽くさんとするその花びらに対し、スザクはバッグから取り出したバスタードソードを振るう。
空を斬るかのような風圧に花弁の群れに隙間が一瞬開く。

ほんの一瞬、しかしその隙間はスザクが走り抜け脱出するには十分なもの。
バスタードソードを持つ力すら惜しんだスザクはその場に剣を投げ捨てて駆け抜ける。

「逃しませんよ」

しかしその逃げ出した先、本来いるはずのない箇所に立っていた村上はその灰色の手をスザクに向けて振るう。
腕をかざして防ぐが、激しい衝撃と共にスザクの体は後ろへと弾き飛ばされる。
倒れ込んだスザクの腕には痛みを超えた強い痺れが残り続けている。

スザクが打ち捨てたバスタードソードを軽々と拾い上げた村上は、それをまるで処刑人のようにスザクの前に構える。

そのまま、情け容赦なく振り下ろそうとした瞬間、スザクはマントを大きく翻した。
まるで己の体をその漆黒の布で覆い隠すかのように。

それと同時に、その視界に小さな物体が宙を待っているのを村上は見た。
目の前へとそれが到達した時、その何かは視界を真っ白に覆い尽くすほどの閃光と轟音を発して弾けた。


「…!スタングレネードか…!」

視覚が真っ白に染まり、聴覚にも障害が生じて無色無音の世界に取り残されるかのような感覚に襲われた村上。

時間の感覚すら分からなくなる間、その空間に取り残された村上。
そしてようやく障害が抜け、自分を取り戻した時、そこには誰もいなかった。

時計を確かめると、数分の時間が経過している。
してやられたようだが、しかしまだそう遠くへは行っていないはず。
人を一人連れていること、そしてあのスタングレネードの影響が同じく至近距離で受けた向こうにも少なからずあるだろうということを考えれば追いつくことは可能だろう。

「少し相手が人間であることに油断していたのかもしれません。
 ですが決して逃しはしませんよ。私をコケにした罪はその命で償ってもらいます」



耳に残留し続ける鋭い耳鳴りに耐えながらもスザクは走る。
その脇に抱えているのは同じく耳鳴りと、そして視覚障害によって身動きが取れない夜神月。

Nの城の内部の構造は少なくとも自分より先んじてこの場に足を踏み入れていた村上に理がある。
もし数分程度の時間稼ぎが叶ったとしても追いつかれるまでにそう時間はかからないだろう。
普通の人間であれば。

スザクは親友のルルーシュに体力バカとまで評されたほどの身体能力を持った男。
もし逃げるということに専念さえできるのであれば、村上と対面したとしても振り切る自信はある。

問題があるとすれば。

「…っ、ここは……」
「そろそろ感覚も戻ってきたか」

その脇に抱えた一人の青年だろう。
もし彼を抱えて逃げると言うのであれば、その負担で足が遅くなり逃げられる可能性は大きく削られてしまう。
見捨てる、とは言わない。せめて己の足で動いてくれさえすれば、まだ可能性はある。

だからこそ、スザクは月に話しかける。
彼をここで見捨てていくべきか、それとも共に逃げるべきか。
それを見極めるために。

「…どうして僕を助けた?」
「助けられた、という意識はあるのだな」
「茶化すな」
「何故私がお前を守っているか、それは夜神総一郎に頼まれたから、というのでは理由としては不満か?」
「ああ。別に父さんがそう言ったとしても、お前がそこまで僕を守る理由も、気にかける意味もないだろう?」
「確かに、そうだな」


199 : 神のいない世界の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/22(木) 23:09:54 qDqX9xAI0

実のところ、スザクとしてはもしあの場で月が村上の手を取っていれば、依頼に違わず切り捨てることも視野に入れようと考えていた。
頼んだ人間は既にこの世にいない。そしてあの最期を見た上でその選択をするのであれば、きっとこの場からの脱出を望む皆にとっても障害にしかならない。
逆に言うと、守る価値がある、と思うことができるのであれば例え夜神総一郎がもう死んだのだとしても、その願いは守ろうと、そう思っていた。

「何故あそこで村上の手を取ることを迷った?」
「…分からない。僕自身が一番分からないんだ。
 父さんの死をどう思っているのか、僕が本当はどうしたいのか」

父親の死を見るのはこれが初めてではなかった。
だというのに、何故こんなにも自分の心を揺さぶっているものがあるのだろうか。
それが、月にとって最も分からないことだった。

「親の死は普通であれば誰だろうと悲しいものだ。そこに何を疑問に思うことがある?」
「父さんが死ぬのを見たのは、これが二回目なんだ。
 なのに、今の僕はあの時以上に………」

そう、一度は看取った父親。
あの時は悲しむ息子を演じるために涙を流していた。

だが、今は涙が流れないにも関わらず、何故こうも打ちひしがれているのだろう。
親の死が何度見ても慣れるものではないとしても、そのダメージはあの時以上のような気がした。

「多くを知っているわけではないが、君の父親は立派な人間だったように思う」
「そうだな、立派な人だった。いつだって正しくて、正義感に満ちていて、理想の警察官で、父親だった。
 だけど、そんな人でも」

その正しさを貫こうとした結果命を落とした。
あの時も、そして今も。

「殺人が罪?そんなこと僕が、誰よりも分かってた。だけどそれでも僕がやるしかなかったんだ…!
 だけど、父さんはそんなやり方を認めはしなかった。その結果がこれだ…!!」

この言葉が演技なのか、それとも本当に思っていたことなのか。
それすらも今の月には分からなかった。

「人が人であるかぎりは変われないなら…、村上の話を聞いてそんなことを思ってた。
 あの力があれば、キラにはなれなくても人を、世界を変えられるんじゃないかって」
「何故そうも世界を変えることに拘る?」
「それは――――」

何度も同じことを言っていたはずだったのに、改めてそう問い掛けられると答えに詰まっていた。
世界を変えたかった理由。
それは、より良き社会を創るために。

いや、それは建前にすぎない。
本心はもっと欲に満ちたものだった。
新世界の神になる。
そんな自分に酔っていたのだ。

「…昔話になるが。私が知るとある男の話だ」

ふとスザクは、答えに詰まる月に向けて静かに語りかけた。


200 : 神のいない世界の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/22(木) 23:10:30 qDqX9xAI0

「その男、少年の父親はある国において政治的に高い地位にいる者だった。
 一つの大国に狙われていた、小さな国の。
 彼は国を守るために降伏には従わず徹底抗戦の構えをとっていた。
 少年は思った。そのやり方は多くの人間の血を流すことになる選択だ、と。
 だからこそ、少年は父親を殺した。そうすれば戦うこともなく戦争は終わると、そう思って」
「…国のトップが死んだだけで戦争が終わるわけがない。むしろ混乱に付け込まれるいいきっかけになるだけだ」
「そうだ。そして実際にその通りになった。
 だからこそ少年はその国を内側から変えることで、贖罪をしようとした」
「………」
「少年の行動にはその罪がいつも付き纏っていた。
 結局、その男には自分なんてものはなかった。理想も覚悟も、全て自分の罪の自分の罪とそれを打ち消したいという想いから来る偽善でしかなかった」

表情も見えぬまま話すその姿には、他人というよりは深い関わりを持つ者のことを話しているようで。
そして月自身にも、他人事のようには思えなかった。

その話にある少年の罪が。
かつてノートを初めて拾い、そして使って人の命を目の前で奪ったあの時の自分のそれのようにも感じられたから。

「夜神総一郎からだいたいの話は聞かせてもらっている。
 君の正体も、そして君とどんな話をしたのか、そして君の罪も」
「…………」
「だが、先にも言ったとおり私はそれを追求するつもりはない。どうするかは今の君の選択次第だ」
「今更僕に選ぶ資格なんてあるのか…?」
「当然だろう。だが深く悩む必要もないと私は思う。
 例え”神”がいなくとも、”夜神月”はここにいるのだろう?」

神”キラ”はいなくとも、夜神月はここにいる。

その言葉で気付いた。
何故、父親の二度目の死にこんなにも衝撃を受けていたのか。

一度目は存分に悲しみを演技として表すことで”夜神月”を演じようとした。自身の本当の悲しみを押し隠して。
だけど、キラという皮を被った自分には、その悲しみを受け止めることができなかった。
”キラ”という概念によって、父親の死の悲しみすらも押し隠されてしまった。

だが、今この場にいるのはキラではなかった。キラになろうとする夜神月でしかなかった。
キラとしての夜神月は、ニアに負けた時から、いや、夜神総一郎と邂逅し自分の内に秘めたものを意識させられた時からいなかったのだ。

だからこそ、誤魔化すことができなかった。
親を失った悲しみを。正しさを打ち砕かれた悔しさを。

「全く、自分の顔すら見せないような男にそんなことを言われる日がくるなんてな」
「立てるか?」
「ああ、大丈夫だ」

差し出された手を取り立ち上がる月。

「ここからは自分で歩ける」

キラという神にもう縋る必要はないのだ。
自分で立ち、道を選ぶ。
夜神月という、人間として。





「見つけましたよ」

そうして歩みだそうとした二人の後ろから村上の声が届く。
静かに、冷静そうに佇んでいるローズオルフェノク、しかしその裏から発される殺気は抑えきれていない。

「…月君、さっきは邪魔が入りましたが君の答えを聞かせてもらいましょうか」
「村上さん。僕はあなたの仲間になる道は選べません」
「二言はありませんね?」
「はい」
「仕方ありません。ではそこの男ともども死ぬといい」


201 : 神のいない世界の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/22(木) 23:11:16 qDqX9xAI0
そう告げたのを最後に、村上はその手に作り上げた青い炎の塊をスザクに向けて放り投げた。
月の手を引きながら避けた炎は壁を青い爆風で包み、外へと繋がる穴を作り出す。
無論そこから飛び出すという選択肢はない。それをするには地上までの距離がありすぎる。

間髪入れず村上の透明な頭の奥にある脳を連想させる器官が光をあげ、視界を覆い尽くすほどの真紅の薔薇の花弁を飛び散らす。
スザクは漆黒の両刃剣を構え、その花弁を弾き飛ばす。
腕や足に痛みが走るが致命傷、戦いに大きな影響を及ぼしうる傷だけは避けるように受け止める。


やがて花弁が薄くなった場所を飛び退き、再度閃光弾を投げようと前を向き。
しかしそこに村上の姿はなかった。

ふと背筋が冷えるような気配を感じたと同時、ギアスの発動を直感。
その感覚に任せて地を蹴るのと、その自分がいた場所に巨大な刃が振り下ろされたのは同時だった。

「あの時のゼロほどではありませんが、”人間”にしてはやるようですね。
 やはりただ殺すだけというのは惜しいと考えた方がいいでしょうか」
「………」

やはり目の前の男は強い。そうスザクは自分に警告し続けるギアスを感じながら思う。
だが、今背を向ければ村上はその隙をついてくることは疑う余地もない。
あの触手か、あるいは瞬間移動か、薔薇の花弁か。
全て背を向けていては対処することができないものだ。だからこそギアスによる逃走も抑えられている現状。

「ゼロ!」

と、部屋の物陰に潜ませておいた月がゼロへと呼びかけながら何かを投げつけた。
思わずそちらに目をやる村上、しかしその投げられた何かに向けて駈け出したゼロの姿を確認してすぐに攻撃に移っていた。

空中、避けることもできない飛び上がった態勢のゼロに向けて放たれた大量の花弁。
それはスザクの体を包むように迫る。
剣を振るうが花弁全てを対処しきることはできず。

その一つがスザクの体に触れて、弾けたその時だった。

手にとった何か、赤いカードのようなものが眩い光を放ち始めた。
それは先のスタングレネードに比べれば何ということもない、音を出すこともないただの光。

だが、それがローズオルフェノクの体を包み込んだ、と思ったところでその光は消滅。
閃光の中にいたはずの村上もろとも消え去り、同時に村上がコントロールしていた花弁も地面へと落ちた。


202 : 神のいない世界の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/22(木) 23:13:06 qDqX9xAI0
「…今のは?」
「所有者が相手の攻撃を受けた際、どこか攻撃の届かない場所まで移動させる、っていう道具らしい。
 正直眉唾だったし、賭けみたいなものだったけどね」

あの投げたカード、レッドカードは既に消滅している。
一度限りの使い切りアイテム、というところなのだろう。

「よかったのか?そんなものを私のために使って」
「どうせ君が死んだら僕だって後を追うことは変わらない」
「村上の言葉を受け入れておけばよかったんじゃないのか?」
「それをしたところで確実に生きられるわけじゃない。
 それに、君のおかげで少し気が晴れたような気がする」

ここにくるまでは無気力状態に近く、そして夜神総一郎の死以降は闇を湛えていた瞳に、少しは光が灯っている気がした。

「もうキラになれないのなら、なる必要がないのなら、僕は夜神月として生きてみたいと思うんだ」

新世界の神を名乗る殺人鬼、キラではない。
ただの、そう、少し他の人よりも頭がいいただの人間、夜神月として。
最後まで、力がないなりに自分のやるべきことを成そうとした、夜神総一郎の息子として。

「だから、まずLに会おうと思う。
 信じてもらえるかは分からない、だけど僕なりにできることをするために」

元々キラとしてLのことを殺した自分だ。加えて少なくない人間に対してLの悪評を流した。
果たしてそんな自分のことを信じてくれるか。

「君の頭脳を、皆のために、この状況の打開のために使ってくれるとそう言ってくれるのだな?」
「ああ」
「なら約束しよう。私は君の剣として、必要ある限り守ろうと」
「…よろしくお願いさせてもらうよ、”枢木スザク”」

ふと口にした名前。
それだけで見えないはずの仮面の奥の表情がこわばった気配を感じた月。

「元々ロロ・ヴィ・ブリタニアから彼の知る参加者の名前自体は聞いていた。だが確証が持てるものじゃなかった。君が彼らと同じか類似した世界の人間とは限らなかったからな。
 だけど、君が端末から見せたあの情報は彼から聞いていた世界についてのものだった。そうなれば君の正体は絞られる。
 そしてもう一つ、君はKと呼ぶようにと言った。これは君の苗字、枢木から取ったものじゃないのかな?」
「……………」
「Lならもう少し気の利いた呼び方を考えたと思うよ」

ため息をつくように肩を動かして、スザクは

「これは戒めのようなものだよ。自分の過去の罪に対して、の」
「過去の罪、ね。君がこうして殺し合いに非積極的なのもその罪滅ぼしのためなのかな?」
「それは性分のようなものだ。ともあれ、仮面についてはあまり詮索してくれない方がありがたい」
「全く、キラを名乗らなくてもいいって言っていたやつがそうして顔も名前も隠し続けてるんじゃカッコつかないな」

軽口を叩きながらも、月は目の前に差し出された手を受け取る。

かつては様々な思惑を胸に、偽りの友情を築くために世界最高の探偵に対して同じ行動をした月。
今は何を思うこともなく、純粋に友好関係を築くためだけにその手を握り返していた。

目の前にいる男は自分の顔すらも見せない怪しい存在との握手だというのに、あの時と比べて受け取ったその手は温かいものに感じられた。


203 : 神のいない世界の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/22(木) 23:13:25 qDqX9xAI0


「なるほど、してやらてれたようですね」

Nの城から離れてしまった山中、一人佇む村上は呟く。
視界の先にはNの城が見える場所ではある。
しかしそこの間にあるのは既に禁止エリアとなった空間。
いくら村上が人智を超越したオルフェノクであるとはいっても一分そこらで直線距離にして1kmを走り抜けることができるなどとは思っていない。
かといってあの場所に戻ろうとするならば、遠回りになり時間がかかってしまう。戻ったところであの二人は既に移動していることだろう。

「腹立たしいですが今回はあなた方の戦略的勝利を認めましょう。ですが、次に会った時には覚悟しておいてください」

怒りばかりを発していても仕方ない。
灰色の手を木々にぶつけて粉砕したところでどうにか冷静さを取り戻す。

ある程度の情報は得られた。あの場所に固執する意味もない。

「放送も近いですね。
 こちらからはそろそろ北崎さんや木場勇治、そして乾巧を探しに出るべきですか。
 特に乾巧は、そろそろ覚悟を決めてくれていると嬉しいのですがね」

まずはオルフェノクたる者達の捜索を優先すべきだろう。彼らは上の上たる者。そう簡単に命を落とすこともないだろう。
結局行方も知れなくなってしまっていたデルタギア、そしてカイザギアやファイズギアの収集もある。

そしてもう一つ、あの映像に見えた、あの漆黒の少女。
まるで人の心の闇が溢れだしたかのような真っ黒な泥を操る者。
彼女の未知なる力もまた如何なるものか確かめてみたい。

ポケモン、ギアス、そしてあの少女の持つ力。

全てはオルフェノクという種の繁栄の糧とするために。



【B-4/Nの城/一日目 日中】

【夜神月@DEATH NOTE(漫画)】
[状態]:疲労(大)
[装備]:スーツ、
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:キラではない、夜神月として生きてみたい
1:とりあえずゼロ(枢木スザク)と行動する。
2:Lを探し、信じてもらえるのであれば協力したい
※死亡後からの参戦


【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:細マッチョのゼロ、「生きろ」ギアス継続中、疲労(大)、両足に軽い凍傷、腕や足に火傷
[装備]:エクスカリバー(黒)@Fate/stay night、ゼロの仮面と衣装@コードギアス 反逆のルルーシュ(仮面は支給品の中にあった予備のもの)
[道具]:基本支給品一式(水はペットボトル3本)、スタングレネード(残り2)
[思考・状況]
基本:アカギを捜し出し、『儀式』を止めさせる
1:月を守りつつ仲間を探す
2:Lを探し、 政庁で纏めた情報を知らせる
3:放送を聞く
4:生きろギアスのことがあるのでなるべく集団での行動は避けたい
5:許されるなら、ユフィの世界のスザクに彼女の最期を伝えたい
[備考]
※TURN25『Re;』でルルーシュを殺害したよりも後からの参戦
※学園にいたメンバーの事は顔しかわかっていません。


【B-2/山岳地帯/一日目 夕方】

【村上峡児@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(小)、人間態
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×3、拡声器、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、バスタードソード、C.C.細胞抑制剤中和剤(2回分)@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー
[思考・状況]
基本:オルフェノクという種の繁栄。その為にオルフェノクにする人間を選別する
 1:放送を待った後南下する。
 2:ミュウツー、黒い少女(間桐桜)に興味。
 3:選別を終えたら、使徒再生を行いオルフェノクになる機会を与える
 4:出来れば元の世界にポケモンをいくらか持ち込み、研究させたい
 5:魔王ゼロ、夜神月、ゼロを名乗る男はいずれ殺す。
[備考]
※参戦時期は巧がラッキークローバーに入った直後
※マオのギアス、魔女因子、ポケモンに興味を持っています
※スザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまでマオ目線)


204 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/22(木) 23:13:45 qDqX9xAI0
投下終了です


205 : 名無しさん :2015/10/23(金) 02:43:57 EWdnYvTc0
投下乙です

月が綺麗な対主催者になるとは…。スザクとのコンビでどう活躍するか楽しみだ
徐々に敵が増えている社長は状況によってはマーダー化しそう


206 : 名無しさん :2015/10/23(金) 03:12:46 EWdnYvTc0
月たちと村上の時間帯が違っていますが夕方でいいのでしょうか?


207 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/10/23(金) 07:55:05 sZC.qe0M0
>>206
修正し忘れていました
スザクと月も夕方ですね


208 : 名無しさん :2015/10/24(土) 01:15:34 Na2Dwkws0
投下乙です
月がまさかの対主催者化とは驚いたな
総一郎の死が無駄にはならなくて良かった


209 : 名無しさん :2015/10/24(土) 17:11:47 HqXYLAf.0
投下乙でした。
村上は総一郎の死を無駄だと罵ったが、
結果として月を立ち直らせた事は大きな成果となったな。
死んだ親父さんも満足だろう。

感慨深い話でした。


210 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/04(水) 23:03:20 XsOnLFKc0
投下します


211 : 理想郷は遥か遠く ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/04(水) 23:05:23 XsOnLFKc0
今の私に騎士王、アルトリア・ペンドラゴンを名乗る資格はない。
戦いの中に、自分の理想を、願いを挟む余地はない。

私は多くの罪を犯した。
それがあの泥の影響によるものであったとしても、あの所業は全て自身の行いから出たものだったという事実は変わらないのだから。

その中でも最大の罪。衛宮士郎の命をこの手で奪ったということ。

もしあの場で士郎がこの命を終わらせてくれていれば、このような罪を背負うこともなかったのだろう。
いや、今生きているという事実は逆なのだ。罪に対する罰を、己の死を持って償うことができればそれでいいなどと、そんな甘い考えを持っていた自分に対する戒めなのだろう。
士郎が託したもの、桜やイリヤスフィール。彼女達を守りぬくこと。それが今の自分にできる士郎への罪滅ぼしであり。
そして殺し合いに抗う者達に力を貸し、皆の脱出の礎となること。それがこれまでい行ってきた数々のことに対する贖罪。
その中に、アルトリア・ペンドラゴンという少女の意志は入ることはない。

ただ、この身は一本の剣であればいいのだから。



白銀の刀身が煌めく度に幾度となく高速の太刀筋が黒き仮面の男に向けて襲いかかる。
対する男は手に獲物を持たぬ、無手の状態。
しかしその内を見ると明らかに刀を持つ少女が不利だった。

仮面の男は息を切らせることもなく拳を振るい続け。
少女は致命的な一撃を受けることだけは避けるように体を動かして躱し続ける。

「…くっ」
「どうした、その程度か」

疲労の様子も見せぬ仮面の男、ゼロに対して。
向かい合う少女、セイバーの頬には汗が伝う。

セイバーの心中にあるのは強い焦り。
美遊と結花は自分の成すべきことを成すために立ち去り。
真理は木場勇治と共にここから離れ、Nもそんな二人を追っていった。

そう、皆が自分の手の届かぬ場所に。

今自分がしていること、ゼロという男を打ち倒すために剣を振るう。
それが不要なことである、とは決して思わない。むしろこうして自分がこの男を止めているからこそ、他の誰かがゼロの手にかかることを止められているのだ。

だが、それでも。
こうしている間に、去っていった皆の元に別の何者かが襲いかかりその命を奪っているのではないか。

そう考えてしまうと、どうしてもこの戦いを急ぎ終わらせなければならないという気持ちが先行してしまい、戦いのみに集中することができなかった。

「先に比べれば随分と剣筋が鈍っているようにも思えるが」
「…………」


212 : 理想郷は遥か遠く ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/04(水) 23:07:03 XsOnLFKc0

ゼロに指摘され口を噤むセイバー。

しかし戦いに遅れを取る理由はそれだけではない。

ゼロの持つ能力、こちらの力を無力化する力。
それがセイバーにあまりにも相性が悪かった。

本来セイバーがサーヴァントとしての力を発揮することができるのは自身の持つ魔力放出のスキルによるおかげ。
細身の彼女の腕力は本来は魔術師とはいえ人間でしかなかった士郎にも遅れを取るもの。それを魔力を全身に纏わせることでバーサーカーのような怪力を持った相手とも打ち合うことができる。

だが、ゼロのあの光による無力化はそれによって纏った魔力すらも霧散させる。
そうなればこの魔人と打ち合う力はセイバーには残っていない。
あれを受けてしまった後再度魔力を纏わせる暇もなく吹き飛ばされてしまった際に殴られた腹部は未だに痛む。

だが幸いにしてその無力化の光が発される前兆を読むことができるようにはなってきている。
手に光が出る際の一撃だけは避けられるようにすれば魔力霧散による隙を晒すことは防ぐことができる。

しかし。


ゼロが一気に距離を詰めてその右手に光を生み出す。
胸めがけて突き出されたそれを身を捻り避ける。
返す勢いで刀を振り抜き体を斬り付けようと振り抜き。

「…!!」

しかし咄嗟に地を蹴って離脱。
次の瞬間、己が今いたはずの場所を左ストレートの拳が振り抜かれていた。

風圧は数メートル距離をつけた場所にまで僅かに届くほどのもの。もし直撃していれば頭部に大きなダメージを負うことは避けられなかっただろう。


そう、その事実に気付いて以降、ゼロはその光を逆にフェイントへと利用し始めた。
高ランクの直感スキルがなければ間違いなく受けていただろう。

フェイントを避けること自体は難しいことではない。
しかし本命かフェイントか、それを意識したまま戦闘を続けることはセイバーにとって少なくない精神的負担をかける。

努めて冷静さを失わずにいようとするセイバーだが、この均衡もいつまで持たせることができるか分からない。


「どうした、勘も鈍ったか?」
「黙れ…っ!」

開いた距離を再度詰めて刃を振りぬくセイバーの刀を、ゼロは拳で受け止める。
風王結界による強化を受けたその刃、しかしゼロは刀身の側面から受けることで刃の進行を押し留めている。

素手と刃の押し合いにも関わらず、鍔迫り合いをしているかのような錯覚に陥るセイバー。
その拳、そして身体機能はそう感じさせるほどに常軌を逸したものだった。

放出される魔力は突風となって吹き荒び、振動する大気は周囲の地面の形状を少しずつ変化させる。
しかし、それでも尚ゼロの体は揺るがない。

「私の知るその刀の使い手はもっと愚直で、だが力強い太刀筋を持っていたが。
 やつと比べれば確かに強いが、剣に関しては今のお前ではアイツには届かんな」
「…何を。今の私に迷いなどない」
「確かに迷いはないな。だが、その太刀にはお前自身の意志も宿ってない。言うなれば空っぽの刃だ。
 騎士王、アーサー・ペンドラゴンの同位的存在として少しは興味を持ってみたものの、少し買い被っていたようだな」
「貴様…!」


213 : 理想郷は遥か遠く ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/04(水) 23:07:35 XsOnLFKc0

見透かしたようなことを言うゼロに憤りを感じるセイバーは、その刃に込めた力を更に増し、ゼロの拳すらも押し退けて叩きつける。
しかし振り下ろした刃の先にはゼロはいない。

周囲を見回すセイバーの視界の端に、こちらへと飛び掛かる黒い影が映り込む。
そちらへと向き直すと同時、セイバーはその影を一つ、一つと切り払っていく。
襲い来る影は黒く変幻自在に動く布。ゼロのマントであることに気付くのは一撃目を切り払って以降。
その中から本体たるゼロの位置を探り出そうとするセイバー。しかし視界を覆い尽くすほどに膨張したマントはセイバーの目での探索を許さない。
己の神経を研ぎ澄まし、迫るそれを避けながら前進し続けるセイバーは、その中から襲いかかってきた一つに向けて反射的に大きく刀を振り下ろす。

布を斬るような音と共にすれ違うセイバー。そのマントが裂け、その中からゼロの黒い肉体が姿を見せる。
裂けたマントの奥から除く腕から一筋の血の雫が流れ落ち、地面に滴り落ちた。

「なるほど、まだ勘は鈍り切ってはいないようだな」

ゼロは関心しつつ腕を振るい血を払い落とす。
血を流したとはいえ大した傷ではなかったのか、出血自体は既に止まっている。

(…やはり、この刀では……)

セイバーの剣技は両刃の西洋剣によって繰り出されるもの。
小さな力で引くことで切断力を発揮させる刀とは本質が異なっている。
竹刀と比べれば幾分かマシではあるが、ゼロとの戦いに対して対抗し得る武器ではなかった。



「己を捨て、理想のために剣を取ったものがいたという話があるが。しかし今のお前には何が残っているのかな?」
「…!貴様、何を知っている……」
「さあな。私の知ることしか知らんよ」

まるで自分のことを知っているかのように話すゼロの口調に、思わず問いかけるセイバー。
だがゼロはおどけてみせるのみでセイバーの質問には答えない。

一体この男は自分の何を知っているのか。
それまでただの障害としか見ていなかったセイバーの視線に変化が生じる。
不気味な、未知のものを見る時の恐怖にも似たような感情が僅かに心を揺さぶる。

目の前の男は、一体何を知っているのか。どうやって知ったのか。
分からないものに対する恐怖の感情、それはセイバーの心を焦らせるには充分であり。

だからこそ、それを払拭するように勝負に出た。

これまでのように一気に距離を詰めるように地を蹴る。
突風のごとき俊足でゼロの目前へと迫り、ゼロもまた迎え撃つ態勢を取るようにその手に光と共に羽ばたく鳥を連想させる紋様を生み出す。

セイバーが刀を振り上げ、ゼロはそれに対しクロスカウンターのように掌を突き出す。
既にセイバーの速さは幾度となく見てきている。動きを読むのは難しくない。

が、ゼロの目前、セイバーの体が光ったと同時、身に纏っていた鎧が消滅する。
そして己の防具と引き換えに、セイバーを覆っていた魔力が増大。
瞬時にセイバーの体が加速、不意の一撃にゼロの対応が遅れ。

ゼロがその手の光を突き出すより早く、セイバーの振り下ろした刀がその体を捉え。
すれ違いざまにゼロの肩から胸にかけて鮮血が吹き出す。
しかし同時にセイバーの刀もセイバー自身の力に耐え切れずへし折れ、音を立ててはじけ飛んでいく。

(浅い…!)


214 : 理想郷は遥か遠く ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/04(水) 23:08:05 XsOnLFKc0

それでもまだ決定打には至っていないと見たセイバーは振り向きざまに残った刀身を突き出し。
だがその一撃はゼロに当たることはなかった。

鋭い金属音と共に、残った刃の部分が砕け散る。
だが、セイバーの意識にあるのはゼロの手にあるもの。

今ゼロが持つ、自分の刃を阻むまるで鞘のような黄金の物体は。
かつて自分が喪失したはずの宝具。

「……全て遠き理想郷(アヴァロン)…!」
「貴様の鞘だったな、これは」
「何故貴様がそれを……っ!」

答えることなく、ゼロはもう一方の腕を握りしめて突き出し、セイバーの体を吹き飛ばす。
鎧を解除したままの胸を強打された痛みに呻き後退し。



「ガウェイン!!」


咄嗟のゼロの叫び声に思わず動きを止めるセイバー。
その時の彼女の心中を他所に、ゼロの目の前に巨大な影が顕現する。
黒を基調とした6メートルはあるだろう巨体の節々を装飾のように黄色く塗装された何か。
見るものを威圧するほどの巨体、その肩が開き赤い閃光が集中し。

地面を焼くほどの膨大なエネルギーが放出された。



砂地を円を描くかのように黒く焼き焦がされた地面。
そこから少し離れた場所で、セイバーは膝をついたまま空を見上げていた。

浮遊するのはたった今ゼロが生み出した巨人、ガウェイン。
その肩に乗ったゼロは手を組んだ状態でセイバーを見下ろしながら呼びかけた。

「この勝負は一旦預けよう。最も、次に会う時まで貴様が生きていられれば、だが。
 それまではこの鞘も預かっておくとしようか」

先のあの一撃を警戒するセイバー、しかし追撃はないままゼロはその機体を翻して飛び去って行く。

屈辱感に唇を噛み締める。
だが今のセイバーにはゼロを追撃する力はない。

戦闘による魔力消耗、そして武器も損壊している。
竹刀は当然として、あの刀で持ってしても相手にするには役不足だった。

(やはりやつを倒すには、宝具が必要か…)

幾度も打たれた箇所を抑えながら、セイバーの脳裏に自分の持つ一本の黄金の剣が浮かび上がる。
自身が本来持っている宝具、約束された勝利の剣。未だ見つかってはいないがこの会場のどこかに支給されている可能性が高い。
あれさえあれば、あるいはゼロを打ち倒すことも可能かもしれない。

だが。

『お前自身の意志も宿ってない。言うなれば空っぽの刃だ』

ゼロに言われた言葉を思い出す。

セイバー自身、そんなことは分かっているつもりだった。
イリヤスフィールの目の前で士郎を殺したあの時から、アルトリア・ペンドラゴンとして生きる資格はないと、ただこの身を粉にしても贖罪のために尽くそうと思っていた。
そこに明確な自分としての意志は多くなかったことはわかっていた、はずだった。
今の自分に、理想を抱くことはできない、と。

しかしいざこうして面と向かって言われたら、セイバーの胸に突き刺さるものがあったのも事実。
それもただ少し刃を交えただけの敵に言われれば、どうしても意識せざるを得なかった。



「しかし……ゼロ……。やつは一体…」

だが一方でどうしても気になることもあった。
戦いの最中、小さいものだがゼロが口にしたこと。
奴が自分の世界の人間ではないことは間桐邸での情報交換の中で知っている。ならば自分の望みを知っているはずはない。

一体あの男は、いや、あの存在は。

「何者だ…?」




215 : 理想郷は遥か遠く ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/04(水) 23:09:20 XsOnLFKc0
とある時代、とある場所に一つの島国が存在した。
大陸にあった帝国の崩壊と同時に、その庇護下にあったその国の力は衰え、異民族を始めとした様々な外敵に脅かされるようになった国。

そんな衰え続ける地を救う王を人々は求めてやまない、そんな時代。。


ある時一本の聖剣の前に立つ少女がいた。


『それを手にする前に、きちんと考えておいた方がいい。
 それを手にしたが最後、君は人間ではなくなるよ。それだけじゃない。手にすればあらゆる人間に恨まれ、惨たらしい死を迎えるだろう』

魔術師は少女にそう問い掛けて、彼女の行動を思い留まらせようとした。
だが、彼女はそんな魔術師に向かって迷うことなく。

『多くの人が笑っていました。それはきっと、間違いではないと思います』

そう告げて剣を引き抜いた。

その日、島国・ブリテンという国に新しい王が生まれた。



「なるほどな。あれが平行世界、ギアスの及ばぬ世界に済むアーサー・ペンドラゴンの一人、か」

ガウェインで浮遊して移動するゼロは呟く。
ゼロが異世界と呼ぶべきアルトリア・ペンドラゴンのことを認知している理由。
それはゼロ自身の持つ力、エデンバイタルとの接続が影響していた。

この場では接続が制限を受けていたことでエデンバイタルからの情報を引き出すことができなかった。
しかし放送の後で一つずつ開示されていくことを感じ取っていた。
現在二回まで放送が終わり、2つの世界が確認できるようになっている。その一つが彼女のいた世界だ。

特に利用するつもりもなかったが、自分に支給されていた鞘、全て遠き理想郷。そしてあのセイバーという少女の存在。
それがゼロにエデンバイタルの接続を意識させた。

アヴァロンは本来ゼロには不要なものではある。
本来の魔女の力に加えてコードを継承したことで肉体の耐久性、回復力は未だ健在。
しかしアヴァロンを用いれば更なる回復を望むことができる。
だが鞘はゼロを拒絶するかのように回復力を発揮させることはなかった。
取り込めばまだ可能性もあるのだろうが、発動しない点からも考えてこの肉体に埋め込むことに対して不確定要素があまりにも多い。
それでも木場に渡すこともなく手元に残しておいた理由は2つ。
いずれは戦うことになる相手にここまで強力な道具を渡す意味もないこと。
そしてブリテン由来の伝説の道具、という点に興味を惹かれるものがあり手元においておきたかったということ。

「理想に準じた王、か。それがアーサー王物語に伝わる王の一つの形だというのなら、面白い。…が」

彼女がこの場に連れてこられるより以前の顛末はおおよそ把握できている。
サーヴァントという名目で過去から魂を呼び寄せられたこと。
そして戦いの中で、彼女は自分を失うほどの呪いを浴びて自身の理想に反する戦いを続けたこと。
だが、あそこにいるのはその黒化したアーサー・ペンドラゴンではない。それ以前の、正しく理想を追い求めていた時の彼女だ。
この場で何があったのかまでは知る由もないし、詳しく知りたいとも思わない。

体の傷をなぞるゼロ。
あの最後の一撃は確かにこの体に大きく傷を残していた。
時間をかければ治癒するとはいえ、もしあのまま戦いを続けていれば傷がすぐに治癒できない以上こちらが不利だっただろう。
故に今は一時撤退を選ぶことにした。

だが。

(もし貴様が本調子だったならば、あるいはこの命を奪えたかもしれないだろうに。鈍ったものだな)

その思考を占めるのは失望、しかしその中には一縷の期待も篭っていた。


「しかし、何故急にガウェインにかけられていた枷が解かれた?」

思考を切り替えた後、ゼロの意識に浮上したのは今自身の足下にあるナイトメアフレーム、ガウェインのことだった。
一度目の放送前に二度、その姿を出した際には飛行機能とハドロン砲を使用できず、巴マミや暁美ほむらといった相手に破壊される憂き目にあった。
故に今ガウェインを呼び出しても目眩まし以上の役割はなかったはず。だが呼び出した際に直感することができた。今のガウェインは先程かけられていた枷が緩んでいると。

ハドロン砲は威力こそ落ちていたが放つことができ、飛行機能もこうして使用できている。

一度目の放送から今に至るまでの間に何かがあったというのだろうか。
もしかすればその何かしらが放送によって告げられるかもしれない。


思考を巡らせても答えは出ない問題だ。
ゼロはそれっきり思考を打ち切って空に目を向ける。


216 : 理想郷は遥か遠く ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/04(水) 23:09:56 XsOnLFKc0

「さて、放送の時間か」

その放送もそろそろだ。
この事実に関する情報があればよし、なければ考えられる範囲で考えるのみ。

その後は病院方面に向かったロロを迎えに行った後、木場の元へと向かうとしようか。


太陽が沈みつつある暗がりの空、エナジーウィングの光が小さく輝く中で。
18時を示す放送の音が鳴り始めた。




【E-5/草原地帯/一日目 夕方】

【ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(大)、右腕に切り傷(中:回復中)、肩から胸にかけて切り傷(大:回復中)、コード継承
[装備]:ガウェイン召喚中
[道具]:共通支給品一式、全て遠き理想郷@Fate/stay night、ランダム支給品0〜2(本人確認済み、木場勇治も把握)
[思考・状況]
基本:参加者を全て殺害する(世界を混沌で活性化させる、魔王の役割を担う)
1:放送を聞いた後木場を追う。
2:木場と手を組むが、いずれ殺しあう
3:可能であるなら、今だけは木場のように同盟を組むに値する存在を探す
4:ロロ・ランペルージは己の駒として利用する、が………?
5:セイバーに若干の期待。いずれ決着をつける
[備考]
※参加時期はLAST CODE「ゼロの魔王」終了時
※第一回放送を聞き逃しましたが、木場勇治から情報を得ました
※C.C.よりコードを継承したため回復力が上がっています。また、(現時点では)ザ・ゼロの使用には影響が出ていない様子です
※制限緩和の影響によりガウェインのハドロン砲、飛行機能がある程度使用可能となっています
※放送を越えた影響による他作品の情報の一つはFate/stay nightの世界のものです。しかし必要以上にそれを見る気はないようです。


【セイバー@Fate/stay night】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、魔力消費(大)、胸に打撲(大)
[装備]:スペツナズナイフ@現実
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:シロウの願いを継ぎ、桜とイリヤスフィールを守る
1:木場を追って真理を助ける。美遊や結花とも合流?
2:間桐桜を探す
3:約束された勝利の剣を探したい
4:ゼロとはいずれ決着をつけ、全て遠き理想郷も取り返す
[備考]
※破戒すべき全ての符によりアンリマユの呪縛から開放されセイバーへと戻りました
※枢木スザクの日本刀@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリーは破壊されました


217 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/04(水) 23:10:26 XsOnLFKc0
投下終了です


218 : 名無しさん :2015/11/04(水) 23:28:38 awhjDz2.0
投下乙です

ガウェインの制限解除されたか。これまた厄介な…
罪悪感に縛られるセイバーがそれを克服できる時は来るのだろうか


219 : 名無しさん :2015/11/05(木) 23:49:11 eAobvLyI0
投下乙です
決着は一先ずおあずけかー
放送後はたっくん達の所へが騒がしくなりそうだ


220 : 名無しさん :2015/11/08(日) 01:24:05 WpBBX71w0
最近の予約ラッシュは嬉しい


221 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/14(土) 02:45:55 3aF7wETs0
投下します


222 : Guilty Girl ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/14(土) 02:47:05 3aF7wETs0
時計が刻一刻と18時に向けて針を進めている。
この殺し合いが始まって18時間。深夜より始まったこの殺し合いがまたあの陽の光の当たらない時間へと映りゆこうとしている。

「さて、そろそろ放送の時間も近いけど」
「…………」
「どうしたんだいアクロマ?」

インキュベーターは顔を僅かに曇らせて口をつぐんだアクロマに話しかける。
画面を見つめる彼の手は止まり、キーボードが打たれることなく静止したまま、バックグラウンドで実行されている作業のみが液晶の中で行われている。

「死者の中に気になる者でもいたかい?」
「そうですね。ミュウツー、彼には期待していたのですが」

ミュウツー。この殺し合いが始まって当初よりアクロマが気にかけていたポケモンだ。
彼は先の放送から今までの間にあの破壊の遺伝子を取り込んで、メガストーンに頼らぬ形でのメガシンカを果たした。
いや、正確にはメガシンカとは違うものであったのだろうが、しかし新たな姿を獲得したことには変わりない。
その光景を見ていたアクロマはその時とても表情を輝かせていたものだった。

しかし、その彼も次の放送で名を呼ばれる存在となってしまっていた。
ギラティナの捕獲から間もなくのことだった。

「仕方ないよ。そもそもバーサーカーが射殺す百頭を解放するなんて、僕だって驚いたさ。
 あんなものをまともに受ければ死ぬのは当然だ。何しろ万全の状態だったならゼロだって粉砕しただろうほどのものだ」
「憎悪を絆へと変換しての進化。それは私の求めていた答えに近づいたものだったのですが、残念です」

ミュウツーがバーサーカーを通して何を見たのか。
彼がイリヤに対して何を与えたのか。
それらは推測することでしか考えつくことはできない。
だが。

(もしそれが平行世界のイリヤスフィールの情報なのだとしたら、もう一人の自分についての記憶を得た彼女には因果が集まることにも繋がる)

それは自分たちにとっては望むべくことだ。

「それにしても、意外といえば意外だけどね。
 まさか彼女がここまで残るなんて」

キュゥべえの示す先に見える、マントを翻して剣を携え戦う青髪の少女。
千歳ゆま、佐倉杏子、呉キリカ、巴マミ、そして暁美ほむらと脱落していった魔法少女達。
その中で今美国織莉子と共に生き残っている、自分の契約によって戦う術を得た存在の一人、美樹さやか。

本来の歴史では知るはずのなかった魔法少女の真実を知り、それでもまだ絶望に振り切れることなくあの場にいる。
そこには単体でエントロピーを凌駕しうる黄金の光を放った一人の少女、そして今彼女の目の前で己の因縁と向き合っている夢を守りし戦士の影響があるのだろうか。

(このまま折れることなく生き延びることができたなら、彼女もまた可能性を持ち得る存在になるかもしれない、か)

残り参加者は半分を下回り、その数は今や3分の1にも迫りつつある。
そしてその域に達しつつある者はポツポツと見受けられるようになってきた。
そのうちの誰かが最終的に一人残ってくれれば、全てが滞りなく終わることができる。

「だけど、その前に……」

脱落者の中から発生した一人のイレギュラー。
殺し合いからは脱落しつつも不可解な現象によって命を永らえさせた魔法少女。
彼女の状態、そしてその意志を確認する必要があるだろう。

「アクロマ、アーニャに連絡をとっておいて欲しいんだ。もしもの事があった時、さすがに君と僕じゃ荷が重すぎるからね」
「分かりました。トリスタンも準備しておくように伝えたほうがいいですか?」
「まあ念には念だ。頼んだよ。それとギラティナも、彼女には知覚できないようにね」

部屋の一室で蹲ったままの巨体に目をやりつつ、キュゥべえはそうアクロマに告げて、静かに部屋を立ち去っていった。
扉を出るのではなく、壁をすり抜けるようにして。


223 : Guilty Girl ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/14(土) 02:47:32 3aF7wETs0




何もない、真っ暗な闇の中に包まれた感覚。
まるで夢を見ることもないほどにぐっすりと眠っていた時から目が覚める直前のそれに似ている。

「…ん……っ…」

自分自身が無意識下で息を吐き出す音が耳に届き、それが意識を浮上させる。
目を開くと、ぼやけた視界に映ったのは薄暗い空間。
そこに壁にもたれかかるような形で座り込んでいた。
地面は鉄製なのか石造りなのか、石であったとしてそれが自然石なのか人工石なのか、それもよく分からない冷たさを感じている。
そして壁もそれと同じような物体でできている様子だ。

「……ここは…」

目を開いた暁美ほむらは自身の記憶を呼び起こす。
確か自分は美国織莉子と戦い、敗北し。
命を奪われる直前にアリスに助けられ。
しかし消耗したソウルジェムを回復させる手段がなかった自分はアリスに自分のそれを破壊するようにお願いして。

それが最後の記憶。
の、はずだというのに、その後何かがあったような気がしている。
まるで夢でも見ていたかのような、現実なのかどうかすらあやふやだが何かがあったような、そんな感覚が。

(死後の世界…なんてものじゃなさそうね)

見下ろすと、そこに見えたのは見滝原中学校の制服。これは間違いなく自分の体が着ていた服だ。
深呼吸をしてみる。確かに空気を吸っているし、自身の心臓の鼓動も感じられている。

(…だとすると……そうだ、ソウルジェムは…)

あの時アリスに破壊をお願いした自分の生命の結晶でもある宝石。
それが今あるのかどうかで、今の自身の現状を確認することができるかもしれない。
平時であれば指輪型にして手に備え付けられているはずのもの。確認のために手元を見ようと、後ろに置かれた手を前に出そうとして。
しかし後手に回された手は何かに繋がれたように拘束されており、前に出すことはできなかった。

「どうやら、あまり愉快なことになってるってわけじゃなさそうね」

よく見ると、自分の足首にも拘束するかのような鎖がつけられている。
足にはめられた枷は赤黒い色をしている。少し動かしてその材質を確認してみる。少なくとも金属の類ではないようだ。

ともあれ拘束も解けない以上、見えないものは仕方がない。手探りで指を確認していく。
しかし、

「ないわね…」

本来そこにあるはずの指輪型のソウルジェムはどの指にもつけられてはいなかった。
ここが死後の世界ということでないならば付近のどこかにあるはずだ。

(そもそも、どうして私はこんなところに?)

まず現状把握する上で考えねばならぬこと。
もし誰かによってここに連れてこられた、という可能性についてを考えねばならない。
それは誰なのか、何の目的があってのことなのか。
もしそうならばソウルジェムもその何者かによって抑えられているのかもしれない。

「………考えるまでもないわね。こんなことをしそうなやつって言ったら」
「気がついたようだね、暁美ほむら」

寝覚めで頭の回転が鈍っていたようだが、少し考えれば思いつくことだ。
あの時もきっと、姿を変えてどこか自分の近くに潜んでいたのだろう生物。
自分に呼びかける声の主は白い尾を振りながら小さな歩幅で歩み寄ってくる。
何も知らぬ人が見れば愛嬌を感じるだろうその姿も、自分にしてみれば白々しいものにしか感じられなかった。

「インキュベーター…。私に、一体何があったの?」

そんな相手に頼るというのも癪ではあったが、自分に何があったのかすらも分からない以上やむを得ない。
こいつならば何があったのかも知っているはずだ。

「ふむ、一つ聞きたいんだけど、君はどこまで覚えているかい?
 君の記憶がある限りのところで構わないよ」
「私は、美国織莉子と戦って…、負けて命を落としたはず。
 ソウルジェムを濁り切らせた私は、魔女になる前にアリスに壊すようにお願いした。それが最後の記憶よ」
「なるほどね。じゃあ君が考えているのは、ここが死後の世界か、それとも壊すのが間に合わずに魔女となってしまった後の世界、と考えているということかな?」
「後者は思いつかなかったけど、ただ前者にしてもかなり滑稽な仮説よね」
「残念だけどそのどっちでもない。今君は生きているよ」
「みたいね」
「ただその原理は僕の理解の範疇をも越えたものだけどね」

そう言ってインキュベーターはどこからともなく白金色の球を取り出す。
確かそれはマオを殺し道具を回収した際に紛れていたものだ。
用途も分からずだたの石と判断していたが。


224 : Guilty Girl ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/14(土) 02:50:46 3aF7wETs0

「…なるほど、それが本命だったわけね」
「そういうことだ。誤魔化したことについては誤るけどね。
 詳細は省かせてもらう、というよりは僕達にも何が起きたのか理解できていないんだけど。
 これは白金球という名前があるんだけど」

淡々と語っている口調には申し訳なさそうな様子は微塵もない。
そのままキュゥべえは白金球を転がしながら、その前足を乗せる。
一瞬その足が光ったと思うと、球も釣られて光り出し。

「…痛っ……」

体に軽い痛みが走った。
それは体のどこが、というものではない。痛覚そのものを直接刺激してくるかのようなもの。
断続的に感じる痛みは目の前のキュゥべえの発する光のタイミングとリンクしている。

「大まかに説明させてもらうと、この白金球、君の砕けたソウルジェムの代わりを果たしているみたいなんだ」



「というわけなんだ」

道具、白金球を利用することによる神の眷属のポケモンの召喚。
それが自分の死によって生まれた因果のエネルギーが果たされたという。
そしてそれを成した瞬間、白金球に私の魂が宿ったのだという。

「何を言ってるのかよく分からないわね」
「ああ、流石にこんなことは前例がない。
 だからこそサンプルとして君のことを保護させてもらった」
「研究対象のモルモットってわけね」
「否定はしないよ」
「じゃあこの鎖は私が余計なことをしないための拘束ってところかしら」

手足を拘束している鎖の材質は分からない。が、こんな特殊な状態になっている自分を縛っている以上ただの物質ではない可能性も高い。

「まあそうだね。君がおとなしくしてくれている保証がなかったし。
 もしも君が下手に抵抗するようなら、その鎖の力を使って君の命を消させてもらうことになる。
 石自体は壊せないけど、その中にある君の魂は別物だからね」
「そう。生憎私にあなた達に抵抗しようとは思わないわ」

今自分を生かしているということは自分に利用価値があるということだ。それが何なのかは分からないが。
そうでないのならばキュゥべえの言うようにすぐさま殺してしまえばいい。
逆に言えば、これは取引材料にすることもできると推測できた。


「それで、私にどうしろというのかしら?」
「僕達の会場の管理についての手伝いをしてくれればいい。
 もしそうしてくれるなら、成功した暁には君の願いの一旦を叶えてあげることを約束しよう。
 開始の時にアカギが説明していた願いを叶える奇跡、その一旦でね」
「具体的には?」
「それは今の君がどんな力を持っているのかを調べる必要があるから、それまでは保留だ」
「断るという選択肢はないんでしょう?」
「君は断るなんて思っていないよ。そうでなければあの時僕と取引なんてせずに撃ち殺してたはずだよね」

そう、あの時こいつの存在を受け入れた時点でもう選択肢はなくなっているのだ。
あの場でキュゥべえやアカギの企みに抗おうとしている者達を、あるいはまどかをも裏切る可能性を秘めたまま、ここまでやってきた。
猫のことを誰に話すこともなく、全ての情報を自分の中に隠し込んで。
今更、この白い悪魔に手を貸すことに迷う資格などない。

「少し着いてきてくれないかな。アカギのことは知っているだろうし、紹介しておきたい者達もいる。
 君の体の検査も兼ねて、ね」

そう言うと同時、壁から鎖が外れて体が自由を取り戻す。
手の拘束も合わせて解けたこともあり前に出して手首を確かめると、鎖と同じ色をした枷が残っており、そこから何かの小さな機器が点滅するかのように光っている。
ともあれ、他に体を縛るものはないだろうかと思って体を動かしてみると、胸や腹にかけた辺りに違和感を感じた。
未だ外されていない手錠の残りをよく見ると、服の下へと鎖を伸ばして体に巻き付いていることに気付いた。

「動くのに支障はないと思うからね。その程度は我慢しておいてほしい」

部屋から出て行くその後姿について歩くほむら。
周囲の様子を見てみようと周りを見回すが、空間が歪んでいるかのように視界が定まらなかった。
それはまるで、何かの力が周囲に働いているかのようにも感じられていた。




225 : Guilty Girl ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/14(土) 02:51:17 3aF7wETs0


「ふむ、お待ちしていましたよ。暁美ほむらさん」

アクロマ。アーニャ・ストレイム。
眼鏡をかけた白衣の男と、騎士装束のような服を身にまとった桃色の髪の少女。
それがキュゥべえに案内されて入った部屋でほむらを出迎えた人物だった。

キュゥべえ曰く、アーニャはもう一人いるシャルル・ジ・ブリタニアなる協力者の部下だという。
現在彼女はこの場において不在のシャルルに代わり雑務をこなす傍ら連絡係を勤めているという。
一見騎士というにも若すぎる、ただの非力な少女にも見えるが油断はできないだろう。
ブリタニア。その名前はアリスから聞いているナナリーの本当の名と同じ姓だ。
彼女が言っていた、車椅子の少女があの巨人を動かすほどの能力を持っていたのであれば、彼女と同じ名を持った者の部下が只の人間とも考えにくい。



アクロマはポケモンの管理を主として担当しているらしい。
ほむら自身ポッチャマやサイドンといった存在を所持していた時期があったため、その存在程度は把握している。
惜しむらくは、ポケモンを知る参加者とは遭遇できなかったことだろうか。故に生態についての知識が足りず、織莉子と戦った時には判断を誤ってしまった。

「興味があるなら時間がある時に聞くといいよ。ちょうど君の体がそうなった原因もまたポケモンの一匹だからね」

キュゥべえはそう言ったが、今はその時間がある時というわけではないようだった。
こちらに迫り寄ってきたアクロマは、手首につけられた錠に装着されていた小さな機器を取り外す。
それを小さなPCに取り付けると心電図のような線が画面を走った後で記号のようなものが映りだしたがそれが何なのかを読み取ることはできなかった。

その後も特に何か変わったことをしたわけではない。
血を採取したり脈を図ったり。まるで病院での検査のよう。かつて私が入院していた時代を思い起こさせる。

キュゥべえは定期的に話しかけてくるが、アクロマは事務的に仕事をこなすのみ。アーニャも離れた場所でじっと見つめているだけ。
私もあることに意識を割いていたため、あまり話しかけることもなかったのだが。

「何も異常はないですね」

そうして様々な検査が行われた後、アクロマから告げられたのがそれだけだった。
首をかしげながらキュゥべえは問いかける。

「本当に何も異常はないのかい?」
「ええ。心拍数から血液検査など、様々な角度から確認してみましたが彼女は生きている健康体の人間の状態そのものです。それもかなり理想的な」
「ふぅん」
「では少し外に出ていただいても構わないでしょうか。キュゥべえ君達も、一旦」

それっきり部屋から追い出されることになった。
自分だけではなく、アーニャとキュゥべえも一緒に、だ。

露骨なまでの人払いだが、そこで渋ったところで何にもならない。
キュゥべえに先導されるまでもなく、部屋の外の廊下に出る。

「少し待っていてほしい。すぐ終わるらしいからね」

そう言ったキュゥべえの言葉にまたも病院での検査後の待合室のようなものを感じつつも、静かに壁に背をもたれかからせたまま床に座り込んだ。


226 : Guilty Girl ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/14(土) 02:52:56 3aF7wETs0


(体は健康そのもの、ね)

そのまま、閉じられた自動扉の向こうに目をやりながらあの中で感じた感覚を思い出す。
入った瞬間、胸がざわつき、心臓の鼓動が強くなったのを覚えている。
最初はあの部屋に私という存在を警戒し何か対策を打っていたのかとも思った。
しかしそうではない。あの部屋には何かがあった。
その感覚を受けた時、どこからともなく経験した覚えのない記憶が蘇った。
デジャヴというのだろうか。しかし経験した記憶はなくとも、それを感じ取った記憶は残っている。

キュゥべえ達はそれに気付いているのかいないのか。

(もしその答えがあそこにあるなら)

横目に見る。
壁に背を預けこちらを監視するように見つめるアーニャ、そして私の横で丸くなったキュゥべえ。

話しかけてくる様子はない。
つまりは複数の者がいる場所で、一人で時間を潰すしかないのだ。
それにおかしな経験をして目が覚めたばかり。

眠くなったところで、不自然さなどない。

ほむらは自然に、ゆっくりと瞳を閉じて意識を落とし。
同時に、自分の感覚を体の奥から感じている共鳴に同化させた―――――



「それで、結局どうだったんだいほむらは?」
「さっき言った通りです。人間としてあまりにも健康でした。あなたの前では魔法少女、とでも言ったほうがよろしいのでしょうかね。
 私の取り付けた機材が記録した、彼女から発されている信号は確かに彼女をポケモンのそれだ、と認識したにも関わらずです」
「…つまりどういう状態なんだい?」
「今の彼女は人間でありポケモンでもある、という不可解にして興味深い存在となっているということですよ。
 今の彼女であれば、ギラティナの力を自分のものとしてある程度使役することもできるかもしれません」

アクロマと話しているのはほむらと共に部屋を出たキュゥべえ。
だがその白い体はほむらの傍に確かに存在するはずのものだ。

ネタなど簡単なことだ。この場にいるキュゥべえとは別の個体が会場に潜り込んで猫に擬態しているように、アクロマと話している個体もまた、今のほむらの傍にいるものとは別のもの。
ほむらはそのことについて知らぬはずもない。故にほむらの傍に見張り役として一匹の個体が張り付いているのだ。彼女が例えば魔法を使って盗聴をするなどということがないように。
もし強引にそれを振りほどこうとしたならば、もう一人の見張り、アーニャが取り押さえるだろう。

「なるほど、確かギラティナの持つ固有能力は確か世界に歪みが生じた際に安定させるというものだったかな」
「ええ、ですがこの殺し合いの場に張られた結界を越えての干渉ができないことは、先程までの様子から察していただけると思います。
 逆に言えば、この会場の安定化をある程度図ることは可能というわけですね」
「今、あの場は多数の因果の絡み合いによって徐々にエントロピーを凌駕しつつあるからね。その存在は非常に有用だ。
 放送後はまず壊れたと言っていた制限装置の様子を彼女と一緒に見に行こうと思う。
 ただでさえ巴マミの魔女化やゼロのガウェインの制限の緩和で異変が起こっている。もし”まだ”その時でないのなら対策も急ぐ必要があるしね」

魔法少女のソウルジェムがあの場では魔女を生むことなく破壊されるという事実を知る者は少ない。しかしそれを知ったのが行動力のあるアリスであれば、広まるにも時間はかからないだろう。
巴マミの魔女化は美樹さやか、乾巧、木場勇治、Nしか知らないことではあるが、そのNは一人他の参加者を探して戦場から離れつつある。
この2つの情報が合わされば、原因はともあれ異変に気付く者も確実に出てくる。

「では当面の目的は以上の通り、ということで」
「そうだね。あ、それともう一つ。僕自身も失念していたことがあった。
 禁止エリアに入った人間はアカギがそうしたように刻印が発動して死に至らしめるものだけど。
 もしポケモンやその他参加者ではない生き物が侵入した場合ってどうなるんだい?」
「…?いえ、特に何も起こりませんよ?」
「………………。
 つまりはポケモン達は禁止エリアに入り放題だと?」
「ええ。ですからもしものことがあった時のためにポケモン城にポケモン達を配置したのですし。
 さらに言えば、あの場所にいるあなたのスペアもそういった時の監視の役を果たすためのものではないのですか?」
「分かった。まだ言いたいことは残ってるけど、そろそろ時間が近い。アカギのところにも定時連絡にいかないといけないしね。
 今はその確認だけで終わらせておくものとして、後でもう少しじっくり話させてもらうよ」


227 : Guilty Girl ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/14(土) 02:53:21 3aF7wETs0

キュゥべえの質問、それはメロと美国織莉子が接触したことでポケモンによる禁止エリア侵入の可能性が認識され実行に移される可能性が見えてきたことによる懸念だった。
今後の行動にもある程度影響が出てくるほどには重要な事柄だ。

もしものことが起こり得るというのであれば、こちらで先手を打っておく必要もある。


「最後に一つ。白金球ですが、もし彼女にその役割を果たしてもらいたいと思うのであれば、可能なかぎり彼女の近くにそれを置いておくことをおすすめします」
「忠告感謝するよ」

それだけを最後に、キュゥべえは今度こそ退室し。
部屋の中にはアクロマ一人が残って作業を再開し始めた。




(なるほど、私も踊らされていたものね)

目を閉じたままのほむらは、明晰夢のような意識の中で先の会話について思考する。

まず、あいつらは私の今の状態に気付いていない。
ギラティナとやらに意識を共感させることができるということに。

そのギラティナはあの部屋の中に何かしらの手段で姿を消して隠されていた様子だ。
だがそれを解放することはできないだろうし、もし可能だったとしても制御のやり方も分からない。現状のまま何も気付いていないふりをして様子を見るのが懸命だろう。



そうこう考えているうちに、何者かに体を揺さぶられる感覚が走る。
気がそれに気を取られた途端、”暁美ほむら”としての意識が覚醒する。

「起きなさい」

ゆっくりと目を開くと、目の前にはアーニャの顔。
その足元にはキュゥべえが素知らぬ顔でひょこひょこと尻尾を振っている。

「時間よ。ついてきて」
「…………」

ゆっくりと立ち上がると、その先導に従って部屋から離れるように廊下を進み始めた。
あの共感以降、それまで感じていた空間の視覚的な歪みが減っているように感じられた。
あれもあのギラティナなるポケモンの力に近い何かで制御しているものなのだろうか。
などと考えつつ。

「…そういえば一ついいかしら?」
「何?」
「私って、アリスに撃たれて、死んだのよね?」

その道中、ふと私はアーニャに問いかけた。
あくまでも自然な流れで。
ただ私は自分の最期がどのような形であったのかが気になって問うていると思わせられるように。

「自分の死に様がそんなに気になるのかい?」
「…そうね。まさか死んだ後で蘇るなんて目に会うなんて思ってもみなかったもの。自分がどんな風に死んだのか、気になるのは当然でしょう?」
「じゃあ僕が答えよう。君のソウルジェムはあの時完全に濁りきっていた。平時であれば魔女をいつ産んでもおかしくないほどにね」
「そう…。じゃあ私はアリスに撃たれて死んだ、ということね」

砕かれたソウルジェム、しかしあの時何かが発生して私はこうして命を繋いだ。
そう考えるのが自然だろう。
可能であればその先の情報も得ることであの時聞いた情報に間違いがないことの確証を得よう。
そう考えながら呟いた。

「いいえ、あの子は撃たなかったわ」

しかしその言葉を否定したのはアーニャだった。
こちらに目を向けることなく、私の前を歩きながら答えていた。

「…どういうこと?」
「言葉通りの意味よ。あの子は命が尽きかけたあなたを撃たなかった」
「じゃあ、私は魔女になったっていうの?」
「それは僕から説明させてもらうよ。あの場では基本的に魔女が生まれることはない。濁りきったソウルジェムはグリーフシードと化す前に自壊するようになっていたんだ。
 少なくとも君が死んだ段階では、ね」
「…………」
「要するにそういうことよ。あの子はあなたがもしかしたら魔女となるかもしれない、その可能性を突き付けられて尚、あなたを撃てなかった」
「…そう……」
「聞きたいことは聞けたかい?」
「ええ」


228 : Guilty Girl ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/14(土) 02:54:40 3aF7wETs0
それで会話は終わった。

情報を得られるかどうかは賭けに近かった。
そもそも自分の状態も分からぬまま、話がそれで打ち切られてしまう可能性だってあったのだから。
だが棚から牡丹餅とでもいうべきか。キュゥべえ自身がそれを隠す事自体に重要性を感じなかったのだろうか。
欲しかった情報はあっさりと話してくれた。

少なくともあの時に聞いた会話の一部に確証が取れていることが確認できた。
あの共感覚は事実として私の中にあるのだろう。
これは可能な限り隠さねばならない。現状の私にとって、ほぼ唯一に近い手札なのだから。

「……………アリスは、どうしてるの?」
「間もなく放送を聞くはずだよ。君の名前が呼ばれる放送を」

アリスは私を撃たなかった。

私が魔女を産むかもしれないという可能性を残していると認識した上で。
魔女の危険性を実物として知らないのであれば仕方ないといえるのかもしれない。

だが。

(…甘いわね、あなたは)

脳裏に浮かぶのは、忘れもしない、この手でまどかのソウルジェムを砕いたあの瞬間の光景。
私はあの時、魔女になりかけた大切な人の命を撃ち抜いた。
涙を流しながら、そうすることでしかまどかを救うことができない自分に絶望しながら。

大切な友達だった、あの子を死なせた。

もしアリスがあの時の自分と同じ状況であったとしたら、あの子は撃っただろうか。
そんな仮定が浮かんで、しかし意味のないことだと思考を撃ち切った。
まどかと私の関係は、あの子と私とのそれとは違うものだ。同じ状況には成り得ない。

アリスと私との関係。
ただ偶然出会って、ずっと共に行動して、時に助け合って、あの子の決意を見届けて。
そして最期を看取られた。
その中にあったものは何だったのだろうか。

ただ、それはこれまで繰り返してきた時間の中にはなかった、新鮮な関係ではあったような気がする。
ほんの一日にも満たない時間、共に過ごしてきただけの相手。


何故だろうか。
今も生きて戦っているだろうあの少女が。
これから流れる放送で私の名前を呼ばれた時のことを考えると、胸に小さく針を刺すかのような痛みが走るような気がするのは。


【?????/一日目 夕方】
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康?、あかいくさりによる拘束
[服装]:見滝原中学校の制服、まどかのリボン
[装備]:はっきんだま(ほむらのソウルジェムの代用品)@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:キュゥべえ達に従うふりをして、”目的”のための隙を伺う。
最終目的:“奇跡”を手に入れた上で『自身の世界(これまで辿った全ての時間軸)』に帰還(手段は問わない)し、まどかを救う。
[備考]
※はっきんだまにほむらの魂が収められており、現状彼女のソウルジェムの代用品とされています。
ギラティナを制御しているあかいくさりによってその生命が間接的に繋ぎ止められている状態です。
魔法少女としての力が使用できるかどうかは現状不明です。
※バトルロワイヤル上においては死亡扱いとなっているため次の放送では名前を呼ばれます。
※ギラティナと感覚が共有されており、キュウべえとアクロマ達の会話を聞いていました。


229 : ◆Z9iNYeY9a2 :2015/11/14(土) 02:55:14 3aF7wETs0
投下終了です


230 : 名無しさん :2015/11/14(土) 07:30:01 gNieswII0
投下乙です

ほむらはこう動くかぁ…主催者側でも一波乱起きそうだな
制限の一部解除といい勘の良い参加者は、この異常をどう考察するのか気になる


231 : 名無しさん :2015/11/15(日) 09:45:00 hSmRKoPg0
投下乙です
このロワも佳境に入って来たな


232 : 名無しさん :2016/01/05(火) 22:48:50 An8tR0r20
予約来てるな
楽しみだ


233 : 名無しさん :2016/03/24(木) 00:10:27 AG/MqHA.0
お、予約きてんじゃん


234 : ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:18:51 NBZgIomQ0
遅くなってすみません
これより美遊・エーデルフェルト、長田結花、草加雅人、ゲーチス投下します


235 : 堕落天使 ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:21:27 NBZgIomQ0
いつだって、私はどこにもいなかった。

本当のお父さん、お母さんはいない。
育ててくれた親は、そして義理の妹の道子といった家族はいつだって私のことを虐げる。
学校でも道子と一緒になって私のことを虐める人ばかり。道子の勧めで入ったバスケ部でも、学校のクラスでもそんな扱い。
助けを求める相手もいない。

唯一の自分にとっての救いがあったとしたら、メル友のけいたろうさんの存在だったけど、どこにいるかも分からないメールだけで繋がった存在。
こんな、いつも苛められているような人だと知ったら、幻滅されるだろうか。

そんな日々を過ごしてきた私は、いつしかこんなことを考えるようになっていた。
私は本当に人間だったのだろうか。もしかしたら他の人にいいように扱われ、憂さ晴らしに使われるためだけに作られたロボットなんじゃないだろうか。
だから、私をいじめて虐めて苛め尽くして、最後には棄てられて、また新しい別の私が憂さ晴らしとして家に置かれる、みんなにとってはただその程度の存在なんじゃないかって。


だから、だったのかもしれない。
私がオルフェノクになった時に、こんな翼で飛ぶことができる姿を得たのは。

私はいつだって憧れていた。
大空を舞う、鳥達の姿に。
たくさんの仲間達と一緒に小さな翼を震わせて飛ぶ小鳥たち。
大きな翼を悠然と広げて青い空を駆ける大きな鳥たち。


苦しみも悲しみもない自由な空に、私も大きな白い翼で飛んで行けたなら、けいたろうさん達のいるような、自分がいることが許される場所に飛べたなら。

それはどれだけ素敵なことだろうか、と。



「…海堂、さん……?」

地震が起きてもこうはならないだろうというような、まるで巨大な刃物で切断でもされたかのような崩れ方をした病院内。
しかし形をどうにか保っていた中から、駆け回って部屋を覗いていき。
そんな中で辿り着いた、一つの部屋。

天井、おそらく上の階にしてみれば床に位置しただろう場所に大きな穴があいて、崩れた瓦礫が積み重なっている下。
そこに一塊の灰の山が散らばっていた。

ただそれだけの光景だったのに、何かが直感的に告げていた。
その灰の元であった者が何なのかを。

「なん…で……?」

誰が海堂を殺したのか。あの時木場の言っていたこと、海堂がいるという言葉は嘘だったのか。
そんな事実以上に、海堂が死んでいるということ、ただそれだけが結花の心をただひたすらに締め上げた。


236 : 堕落天使 ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:22:09 NBZgIomQ0

灰を掬い上げる結花。
両手で持ち上げた灰色の”彼”の残骸はパラパラとその手から漏れ、地面へと零れていく。
まるで間に合わなかった彼の命を示しているかのように。

「あ…あ……」

声を出すことも涙を流すこともできない。
涙を流すとその瞬間に海堂の死を心の底から認めてしまいそうだから。

「何で…海堂さんなの…?」

それでもかろうじて絞り出した言葉は疑問だった。
何故、彼が死ななければならなかったのか。
彼は何も悪いことはしていない。しているとすれば自分だ。
木場や海堂の傍にいながら多くの人を隠れて襲い、この場所でも二人の人間の命を奪った自分が裁かれるべきなのだ。
海堂のような人が死んでいいもののではない。


なのにどうして、こんなことになってしまったのか。


―――それは、お前達が化物だからだよ

「…!?」

不意に耳に届いた声。
結花が振り返ったその時だった。

壁であるはずの場所の向こう側から銃声、コンクリートを砕く音と共に何かが穿ち粉砕していく。

咄嗟に体を伏せつつ体をオルフェノク態へと変化させる結花。
その瞬間、穴だらけになった壁の向こうから銀色に光る巨大な何かが壁を砕きながら侵入してきた。
脆くなったコンクリートは安々と壊れ、その襲撃者の全容を露わにさせる。

2メートルはあろうかという巨体、鈍く銀色に光る体、そしてその片手には盾のようなものが備え付けられている。
頭部の目に当たる場所に備え付けられているバイザーから流れる光、そこから聞こえる電子音は命あるものが奏でる声とは思えない。
それが何なのか、結花は知っている。

オートバシン。乾巧の持つバイクが戦闘形態へと変えたもの。かつて巧によって助けられた時にその姿を目にしている。
だが、何故これがここにあるというのか。


―――Standing by

その時、部屋の外、廊下の奥から聞こえた電子音。
響く声はファイズのものと比べて低く濁ったようなものだった。


Complete

振り返った結花の目の前に見えたのは、黄色い光に包まれた人影が、紫の複眼でこちらを見据えながら。
その手にした黄色い刃を振りかざす姿だった。




病院から僅かに逸れた場所。
陽が落ち始め赤く染まり始めた空に、いくつもの閃光が走った。

「…っ!砲撃!」
『美遊様!右に40cmです!』

突き出したステッキを、サファイアの声に従って反らす。
だがそれによって攻撃のタイミングを外してしまい。

「グオォォォォオオオオオオオ!!」

その遅れは迎撃態勢を取ることもできぬままにこちらに向かい来る火炎を受け止めざるを得なくしてしまう。
攻撃を諦め宙を蹴り大の字に広がった炎を避ける美遊。
背に羽織った白いマントを掠めその端を黒く焦がす。

『上です!』

しかし次の瞬間、何もいないはずの頭上から闇色の爪がその身を裂かんと迫り来る。
上にステッキをかざし受け止めるが、その衝撃で地面へと叩き付けられる。

「はぁ……はぁ…」
「判断力、機敏は充分。加えて年齢の割に度胸もある。
 なるほど。君は実に優秀な子供のようだ」

姿を見せない声の主はそう美遊を称える。
その主は今美遊が戦う相手、三つ首の黒竜-サザンドラと幻影を操る黒い狐-ゾロアークの持ち主。
そして美遊の目の前でロロ・ランペルージの命を奪った張本人、ゲーチスだ。

その姿はゾロアークの幻影によって姿を巧妙に隠されている。
それこそが美遊がこの二匹を相手に手こずっている理由だった。

ゾロアーク、ゲーチスは姿を隠し、見えるのはサザンドラのみ。
しかしそのサザンドラでさえも視認している場所と実際にいる場所を少しずつずらされて正確な位置は図れずにいる。

無論それはただの幻影でしかない。サファイアの探知によりそのズレを修正することは容易い。
だがその行動により、美遊は常に行動において一歩先手を常時取られてしまうという状態に陥っていた。
いくらサファイアが優秀な魔術礼装であったとしても、サファイアの探知、伝達から美遊が反応するにはどうしてもラグが生まれてしまう。
ほんの数瞬だが、それも戦いの中ではとても大きな遅れだ。


237 : 堕落天使 ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:23:31 NBZgIomQ0
その優位性を既に認識しているゲーチスは高みの見物でもしているかのような声色で美遊へと声をかける。

「さて、どうでしょうか。もしここで負けを認め私に力を貸す、といってくれるのであればこの場は穏便に収めることも吝かではありませんが」
「誰が…、お前のようなやつに…!」
「でしょうね。ですがその聡明さは時として人を追い詰めるものですよ。そのままお別れとしましょうか」

空を見上げたところにいるサザンドラ、そして気配と共ににじり寄ってくる姿なきゾロアーク。
視覚のみならず聴覚にまで働きかけてくる幻影は、その二匹の正しい位置を認識させない。

『おそらくこの幻影の元となっているのはあの狐のポケモンです。
 ですが…』

相手はその外見にちなんでいるようにかなりすばしっこく動き続ける。
これをサファイアの探知を美遊に届かせた上で捉えるのは至難の業だ。

いや、手はある。
今手元にあるクラスカード・ライダー。
石化の魔眼を持ったこの英霊は常に目を隠しており、その関係から視力に頼らぬ知覚が可能だ。

しかしひっきりなしに飛び交う攻撃と幻影は避けるのが精一杯。
今こうしている間も火炎や波動を避けている現状だ。
カードを夢幻召喚する暇を見逃してくれることが期待できる相手ではない。


『美遊様、私に考えがあります』
「…サファイア?」
『美遊様の五感全てを、しばらくでよろしいので私に託していただけないでしょうか?
 隙は見せないうちに一瞬で工程は完了させます』
「………」

飛来した気の球を防壁で防いだことで生じた爆風に視界を塞がれつつも一気に後ろに飛ぶ。
行けるか、と思ったが迫る足音を耳が捉えた。
これ以上長期戦となってもジリ貧だ。
ならば。

「分かった。サファイア、お願い――――!」

信じることができない己の感覚を、信頼している相棒に任せることに何を迷うことがあるだろう。

周囲に一斉に小型の魔力弾を射出し弾幕を張る。
多用してしまえばこちらの疲弊に繋がるほどのもの、ここぞという時にしか使えぬ攻撃。

放った瞬間、相手の追撃が一瞬止まる。だが、それでもクラスカードを取り出すには間に合わない。
だが、今はそれで充分。
その一瞬で、美遊はサファイアに感覚を明け渡し。

次の瞬間、周囲の景色がクリアになる。

数メートル先を動いていたサザンドラは実はその更に3メートルほど横に逸れた位置を飛翔し。
そして地面を駆けるゾロアークの姿もはっきりと見ることができる。

『長時間の使用は美遊様に負担をかけます!可能な限り早急の対処を!』
「分かってる!」

サザンドラの放つ竜の波動を正確に避ける美遊。
その後ろから気合球を放とうと構えたゾロアークへと肉薄し、その球が放たれる直前に集まっていた気を魔力の刃で切り裂く。

「グギッ!」

幻影が通用していない様子の美遊に驚くような鳴き声を上げる美遊。
そうだ、最初からこうすればよかったのだ。元を経てば戦況は大いに変わる。
この一撃で斬り伏せれば、もう幻影に惑わされることはない―――――

――――例えポケモンがどれほどの力を持っていても、彼らに世界をどうしようとか自分の思い通りにしようなんて思いはないのよ。
――――それをしようとするのはいつだって人間よ。その力を野望に利用しようとしたり、自分の思い通りにしようとしたりするのも。

不意に美遊の脳裏に思い出されたのは間桐邸にて話したシロナの言葉。
同時に、まだ幻影が美遊を捉えていなかった時にゾロアークが見せていた、ゲーチスに対する怒り混じりな表情が浮かび上がる。

ポケモンはいつだって人間のエゴに巻き込まれているだけ。このゾロアークもそうなのではないか。
その思いが、美遊の振り下ろそうとした刃を鈍らせた。

(くっ…!!)

それが自分の甘さだと認識しつつも、美遊は魔力刃の付いたサファイアを横に回し、その側面を思い切りゾロアークへと叩きつけた。
狙いすましたその相手は鳴き声を上げて吹き飛ばされ、同時に周囲の幻影も消えていくのを感じ取った。


238 : 堕落天使 ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:23:59 NBZgIomQ0

吹き飛ばした方向をサザンドラのいる方へとなるようにしておいたことで2匹のポケモンはぶつかりもつれ合って転がり込む。
同時にサファイアとの同調を解除。反動で視覚、聴覚が鈍る。
戦いには支障をきたすが、それでも。

(夢幻召喚はできる――――)

足のホルダーからカードを引き抜き。

「夢幻召喚!!」

焦るように銃を取り出し引き金を引くゲーチス。
しかし放たれた弾丸は周囲に吹きすさぶ魔力風によって防がれる。

閃光と風が止み、その手に鎖釘を備えた美遊が地面へと舞い降りる。
その身を黒いボディコンに包み、紫の眼帯で視界を覆った姿となって。

(ここからが本番、ここは一気に抑えて早く結花さんのところに…)


目の前のゲーチス、そして背後で起き上がる二匹のポケモンの気配を感じつつ。
美遊はその手の釘を構えた。





壁に背を預けて息を荒げる白い影。
その肩を抑えた腕からは地面を濡らすように真っ赤な血が垂れている。
よろめき壁に手を付きながらも立ち上がり必死に立ち上がる。
その背を預けた壁はその手から漏れ出す色と同じものに染まっていた。

足音は近づいている。

(…どうして、私は逃げてるんだろう?)

一歩ずつ歩みながら結花は考えていた。

ファイズ、巧になら裁かれてもいいと考えるほどに自分の背負った罪に押しつぶされそうになっていたはずだった。
確かに今ここにいるのは彼ではない。だが、死ぬという意味では誰の手にかかろうと同じではないのだろうか。
木場は完全にオルフェノクへと変貌し、海堂ももういない。
でも、自分は木場のようにオルフェノクになることはできない。

怖いのだ。
死ぬことも、オルフェノクとして人の命を奪う存在になることも。
今まであれだけたくさんの人を殺しておいてこんなことを考える私は身勝手だろうか?
人間が怖くて、失うことが怖くて、敵意を向けられることが怖くて。
だけど、人を殺すことを楽しんでいる自分がいることもまた怖かった。
海堂や木場は既に自分の手の届かない場所に行ってしまった。失ってしまっていた。
そして、唯一残っているもの、自分の命だけとなった今、それを失うことを恐れている。


「何で……っ!!」

その時、耳に届いた機械音。
身構えるもどこにもその存在はない。少なくとも目に映る風景には。
次の瞬間、地面を突き破って結花の体にその銀色の拳が叩き付けられた。

息をつまらせながら吹き飛ばされる白い体。
パラパラと空中を舞う羽毛の向こうから、オートバシンともう一つの影が迫っている。

Exceed charge

カシャン、とカイザブレイガンの銃口をこちらへと向けて構えるカイザ。
体の痛みでそのことに気付かない結花はそのまま起き上がり。
その瞬間、引き金を引いたブレイガンから一発のエネルギーが放出され。
そこから展開された黄色い網目のエネルギーが結花、クレインオルフェノクの真っ白な体を包み込んだ。

「あ…っ…」

そのままカイザが逆手に構えたカイザブレイガンの刃が光を増し、さらにその全身を金色のフォトンブラッドが包み込む。

(死ぬの…?私は、死ぬの?)

死が近づいた故か、時間が経つのがゆっくりになったかのように思考が回る。
そう、あれを受ければ自分は死ぬだろう。これまでたくさんのオルフェノクの命を刈り取っていったように、自分も。

でも、それでもいいかもしれない。
これ以上生きることが苦しいのならば、生きていても何もないのなら、このまま死んでいければそれは自分にとっては幸福なことだろう。
そう思って。

……本当にそうなのだろうか?

諦められなかった。
人を殺す罪を犯して逃げている最中ファイズと会ったあの時、裁かれることを良しとしながらも逃げた。
その後現れたセイバーの足を舐めてでも生きようとした。
そうまでして生きたかったからではないのだろうか。

分からない。
ただ、目の前に迫った死の気配にはとても恐怖していた。
まだ、死にたくなかった。
今の結花にとって、それだけは事実。

(嫌……、私は……)
「シャアッ!」
(死にたく、ないっ!)
「ああああああああああああああああ!!!」


239 : 堕落天使 ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:26:11 NBZgIomQ0
カイザが光の中に飛び込みその姿が消えた瞬間だった。
拘束されたその光の中から。
結花の、生へと縋る強い思いから生み出された光の翼が、宙をなぎ払ったのは。


次の瞬間、ぶつかり合ったカイザスラッシュと光の翼のエネルギーによって二者の体は強い衝撃で吹き飛ばされた。
何かを切り裂くような音の残滓を残しながら。




夢幻召喚によって幻影の影響を減らした美遊。
しかしその代償として、カレイドライナーであった時の攻撃の万能性は失われてしまっている。
攻撃は接近戦のための鎖釘のみ。飛行能力もこの状態だけでは発揮することはできない。

だが、それを差し引いても余りあるほどの力を秘めている英霊。

アクロバティックな動きで、サザンドラとゾロアークの攻撃を捌き続ける美遊。
周囲の幻影は相も変わらず惑わし続けてはいるが、しかし少なくとも目に頼らぬようになったことで視覚で惑わされることはなくなっている。

だが、それでもサザンドラの攻撃は苛烈だった。
美遊がゲーチスへと迫ろうとする度に追いすがり、その斜線上に割り込んで攻撃し、動きを止めている間にゾロアークの追撃が迫る。
その繰り返しだ。

飛行能力は喪失中の美遊にとってはその距離は届きそうで届かない、もどかしいものだった。
さっきまでの戦いと比べれば幻影に惑わされなくなった分安定はしているが、しかしその分喪失した一部の能力により相手の元に届きにくくなっている。
先にゾロアークに肉薄した際の迷いが形となって現れているようにも感じられる。

バゼット戦で見せたようなイリヤの状況対応能力が欠けていることをまざまざと実感させられた。


(姿を変えた時はどうしたものかと思いましたが、やはり所詮は子供のようですね)

そんな美遊の前でニヤリと笑うゲーチス。
ここまで戦えていることはさすがはここまで生き残ってきた者、とでもいうべきか。
だがそれもここまで。ゾロアークの幻影が効かないならばその分も戦闘に回して戦わせればいい。数の有利は変わってはいない。

『美遊様、夢幻召喚を解除しては――』
「ダメ、それじゃあの幻が…」

ゾロアークの辻切りを払いつつサザンドラの大文字を避ける美遊。
身軽になった体で飛び上がりサザンドラの後ろを取ろうとする。が、そこでゲーチスより放たれた銃弾が美遊の態勢を崩す。

そのまま防御の姿勢を取ることも叶わぬ彼女へと向けて、竜の波動が放たれ。
直撃した渦巻く衝撃波が美遊を地面へと吹き飛ばし叩きつけた。

「がはっ……」

体を襲った衝撃に息を吐き出す美遊。
それでも意識だけは保ち、夢幻召喚は維持するように務める。

『美遊様っ!』
「…っ、大丈夫、まだ……」

肩を抑えながら起き上がる。

その時だった。

離れた場所、といっても肉眼でも見えるほどの場所に位置する病院の窓から、ガラスをぶち破って何かが飛び出してきたのは。
白い体をばたつかせるように暴れさせながら、大きな翼をまるで藻掻くかのように羽ばたかせている。
しかしその翼の片方がまるで折れているかのように中辺りで曲がり、うまく飛ぶこともできないままにゆっくりと地面へと落ちてくる。

「…っ!長田さん!」

地面に墜落する直前、美遊の手が届く場所まで移動してきた彼女の元に駆け寄り、その白い体、クレインオルフェノクを受け止める美遊。
ゲーチス達に背を向ける形になってしまったが、今はそれに構っている暇はなかった。

「美遊……ちゃん…」

弱々しく声を出して人間の姿へと戻る結花。
その体を受け止めた美遊の手には真っ白な羽がまるで脱毛したかのようについている。
腕には浅くない傷があり、それが彼女の着る服を真っ赤に染めている。

「フフ……」

そんな二人の様子に対して追撃をかけることもなく怪しげに笑うゲーチス。


240 : 堕落天使 ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:27:04 NBZgIomQ0

「なるほど、あなたはオルフェノクの一人ですか。
 であれば、あそこにいたオルフェノクの仲間、ということになるのでしょうか?」
「あそこに、いた…?」
「ええ。もう過去形ですが。その様子ならご対面なされたのではないですか?」

苦しげな結花の表情が見開かれ、歪む。

「どういうこと!?」
「確か名前は、いえ、聞きそびれてしまいましたが、確か木場、という名前を呟いていました。
 あなたと同じオルフェノクですよ」
「まさか、海堂さん…」
「そうですね…」

そう言ってゲーチスは拳銃を取り出す。

「仲間に裏切られて傷ついて、そのまま石に埋もれたままのあの姿といったら本当に」
「…黙れ……」

ニヤニヤと思い出し笑いをするかのようなゲーチスの表情、そして彼がその先で告げようとしている事実。
それを察した美遊は、顔を伏せて静かに呟く。
自身から生まれる激情を抑えるかのように。

「そして助けを求める手を取られることなく、眼前に銃口を突きつけられた時の表情はなかなかに滑稽なものでした」
「―――――っ」
「黙れェェェェ!!!」

楽しげに笑いながらそう告げられた言葉に結花の表情が絶望に覆われたのを見た美遊が、激昂してその手の鎖釘を振りかざしながらゲーチスへと迫る。

『美遊様!落ち着いてください!』

静止するサファイアの声も届かぬまま、怒りをぶつけるかのように釘を翳した美遊。
そんな彼女の横でサザンドラが波動を吐き出す。
一直線に迫るだけのそれを回避するのは容易い。
そう判断し足を止めることなく、回避と進行が両立できるよう意識を割いて。

(私の進行を阻むつもり…?!)

その描く射線は駆ける自分の数歩先。

飛び上がって避けようとした美遊の目前に何かが投げられた。
手のひらサイズのカプセルのような容器に入った何か。
それはサザンドラの吐き出した竜の波動の先にある。

(しまっ――――)

気付いた時には遅い。
着弾した波動は容器を砕き中の液体を撒き散らし。
そこにぶつけられた高エネルギーが接触。
美遊の眼前で液体、流体サクラダイトが爆発を引き起こした。


241 : 堕落天使 ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:27:53 NBZgIomQ0


(思い切りもある。判断力もいい。
 ですがまだ子供、己の感情の制御には長けてはいなかったようですね)

熱と共に煙を放つ目の前の光景を見つめながらほくそ笑むゲーチス。
あの時の長田結花の絶望に満ちた表情はなかなかに見応えのあるものであり。
それに激情した美遊・エーデルフェルトが自滅するかのように攻め入り、結果このざまとなったのは実に面白い話だ。

「美遊ちゃん!」

煙の中から姿を見せぬ美遊へと向けて大声で叫ぶ結花。
あの爆発を至近距離で受けたのだ。助かるものではないだろう。
残るは長田結花のみ。彼女を殺せば、ひとまずの平穏は保てる。

「サザンドラ、ゾロアーク。まだ行けますよね?」

ジロリ、と眼光を二匹に向けたゲーチス。
サザンドラはゆっくりと、ゾロアークは喉を唸らせながらもしぶしぶといった風に起き上がる。

手にとった銃はそのままに歩み始めたその時だった。

煙の中から鎖の擦れる音と共に釘がその足元に突き刺さったのは。

「…まだ息がありましたか」

煙が晴れた先には、まだ地に足を置いた状態で立ち続ける美遊の姿があった。

纏ったボディコンや足を包んでいたストッキングは黒焦げ穴だらけになり。
その体にも火傷の痕が残り立っているのが精一杯といった状態。
そんな中で鎖を持っていないもう一方の手で、赤と黄色の入り混じったハチマキのようにも見える布が握りしめられていた。

『…万が一と思って隠し持たせていただいた道具が役にたちました』
(きあいのハチマキ…、運のいい子供だ)

ポケモンに持たせることで低確率で相手の攻撃をギリギリの状態で耐えることができるアイテム。
人間でも効果を発揮するものであることも驚きだが、それを引き当てた状態で更にその効果を発動させた運も驚くべきものだろう。

「ですが、今のあなたは虫の息にも等しい状態。次の一撃にも耐えることはできないでしょうね」
『美遊様、直ちに夢幻召喚を解除した後、長田様を連れて撤退を』
「ぁ……、はぁ……、はぁ……」
『美遊様…!』

息を切らせる美遊に逃走を促すサファイア、しかし美遊の眼帯の奥、隠された瞳の闘志は途切れてはいない。
叱責するように呼びかけるが、声が届いているのかも不明だ。

「ゾロアーク、あなたが決めなさい。その爪でその小娘の命を終わらせるのです」

指示されたゾロアークは爪を翳して迫ってくる。
その爪で確実にこの命を終わらせることを見届けるためだろう。


(…この、男は……違う…、今まで出会った、どんな人間よりも、邪悪だ…)


美遊の周りには多くの人間がいた。
それは友人であったり、家族であったり、兄弟であったり。
自分を利用する者や考えを違えた者、敵も少なからずいた。

しかし、これまでの人生においても、そしてこの殺し合いという場においても。
己のことしか考えず、自分の益のためのみに他者を傷付ける邪悪に会うことはなかった。
自分を利用する者も救おうとする世界があったことは事実であったし、考えを違えた者もその想いそのものを否定できるものではなかったから。
海堂直也の命を虫けらのように嘲笑い、結花の悲しみや絶望をほくそ笑むような存在を目の当たりにしたのは初めてで。
故にゲーチスという邪悪な男に対しての己の抑え方というものを知らなかった。


242 : 堕落天使 ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:29:04 NBZgIomQ0

(こいつは…、敵だ。生かせば、きっとイリヤを傷つける―――)

ふらつく体、薄れる意識で、それでも意識を保つ。
脳裏によぎるのは、彼、兄ではない兄、衛宮士郎の死に悲しむ親友の姿。
それが、海堂を失った結花の姿と被って見えてしまったから。
だからこそ、ここで倒れるわけにはいかなかった。


「辻斬りです、ゾロアーク!」
「フシャルルルルルルル!!」

駆け出し迫るゾロアークの前で美遊は微動だにせず。

『――!?いけません美遊様、今の美遊様にそれは――』
「自己封印(ブレーカー)――――― 」

紡ぐ言葉は己の魔眼を律する結界の名。
周囲に放出され始めた魔力はゾロアークを、サザンドラを、ゲーチスを、そして長田結花をも捉えていく。

あと一メートル、という距離までゾロアークが迫ったその時、美遊の眼前に鮮血で描かれた魔法陣が投影され。

(この男は、この場で私が―――)
『―――暗黒神殿(ゴルゴーン)!!!!』


その名は世界を閉じ込め相手の能力発露を封じる結界。
英霊メデューサの持つ宝具の一つ、その真名が解放された。




その瞬間、周囲にいた二匹と二人の動きが静止する。
ゾロアークが覆っていた爪の闇は剥がれ、サザンドラも飛行能力を失い地面に堕ちる。

そして、美遊の後ろにいた結花の姿もオルフェノクのものから人間のそれへと戻る。

(…っ、コントロールが…!)

きあいのハチマキでかろうじて持ちこたえた体力、気力というギリギリの肉体状態。
そしてゲーチスに対する怒りという、冷静さを欠いた精神状態。

その二つが合わさった状態で放たれた暗黒神殿は彼女の制御に収まるものではなかった。
放出された魔力は対象のみを捉えることはできず、他の皆の元にも降りかかってしまう。
いや、そもそも誰を対象にして発動したのか、美遊自身把握できてはいない。
迫るゾロアークの足止めか、それとも倒すべきゲーチスを狙っていたのか、それともその両方だったのか。

少なくとも、最も接近していたゾロアークは最もその影響を受けた。
そして少し離れた場所にいるゲーチス、サザンドラにも魔力は届き。
加えて美遊の後ろにいた結花までも、結界に捉えてしまっていた。

『美遊様!今すぐに結界の解除を!』

唯一真名解放がされた空間で影響を受けずにいることができたサファイアの言葉に意識を取り戻した美遊は、咄嗟に宝具を解除する。
周囲を漂っていた濃密な魔力は霧散し、空気が元に戻る。

ポケモン二匹の動きが懸念だったが、暗黒神殿の影響が残っているのかまだ立ち戻る気配はなかった。

ザッ

と、土を踏む音が美遊の耳に届く。
ゲーチスではない。彼はポケモン達と同じく悪夢の影響から立ち直れていない。

「ぁ……はぁ……」

激しい息遣いと共に地を踏みしめた白い影。
それは再度オルフェノクの姿を形取った結花だった。

「あああああああああああああ!!!」
「結花さん!?」

そのまま結花は、叫び声を上げながらゲーチスに向けてかけ出した。
その声の中に、強い怒りと憎悪を滾らせながら。




243 : 堕落天使 ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:29:58 NBZgIomQ0


いつだって私の居場所はどこにもなかった。
だからあの時の、人間だった時のことを思い出そうなんて思わない。
そこに喜びや楽しみなんてなかったから。

もしそんな私が幸福を得たことがあるのだとしたら、それは。

『あなたは…?』
『君の仲間だ』

あの時彼に手を差し伸べてもらったことなのかもしれない。
人間として生きることが許されなくても、こんなオルフェノクとなってしまった自分でも。
オルフェノクとしての居場所を見つけて生きようとする彼と共にいれば。
もしかするとこんな私でも、木場さんや、海堂さん達の近くでなら私らしく生きられるかもしれない。

一度死んでから、そんなふうに思えたのは皮肉なのだろうか。

なのに。

『結花、君なら分かるはずだ。人間に守る価値なんてないということが』

どうして、木場さんは。

『仲間に裏切られて傷ついて、そのまま石に埋もれたままのあの姿といったら』

どうして、海堂さんは。


あんなに一緒だった仲間も、かけがえのない居場所も、全部手の中から消えていっていた。
人間の時のように何も持たなければ傷つくこともなかったのに、得たものを失うというだけでこんなにも苦しい。
それこそがまるで悪夢のように。

『いたぞ!油断するな!相手はオルフェノクだ!』

そして最後にフラッシュバックするのはたくさんの人間の警察に追いかけられるあの光景。
残ったのはこの身一つ。オルフェノクであるこの醜い体、ただそれだけ。

私達が化け物だから、人間じゃないから?
だから海堂さんも死んだの?

(だったら、殺してしまえばいいじゃない。私達を化け物だって傷つけるやつらなんて)

ふと、声が聞こえた。
まだ乾さんと会う前、人に対する恐怖から木場さん達に隠れて人を殺していた時に聞こえていたそれと同じもの。
自分の中に眠っている破壊衝動。
だけど乾さんにこんな自分を受け入れてもらってからはあまり聞こえなくなったそれが再び呼びかけてきていた。

(木場さんも言ってたでしょ?あんな人間を守る価値なんてないんだって)

そう、化け物だから殺されるというのなら、大切なものを奪われるというのなら。
奪われる前に殺すしかない。

あの時、私を追い詰める同級生を皆殺しにした時のように。
どうせ、この翼はとうに血で汚れているのだから。

とうにこれは飛ぶためのものではなく、人を狩るための凶器となっているのだから。



結花のその殺気は美遊が冷や汗を流すほどに鋭く冷たいものだった。
そしてそれはゲーチスに向いている。

理由の推測は簡単だ。
あの時のゲーチスの言葉、海堂を殺したという事実。
そこにあの暗黒神殿の悪夢の影響が重なったことが彼女の憎悪を引き出してしまったのかもしれない。

激しい感情に包まれた結花の姿は、先ほどまでのオルフェノク形態から大きく変化している。
顔つきは元の鳥を模した仮面の面影を残しつつより人の顔に近付き。
その身を覆っていた羽は細く鋭くなり、まるで軽装の女戦士とも言えそうな姿。


244 : 堕落天使 ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:31:58 NBZgIomQ0
クレインオルフェノク激情態。
元来戦いを好まず自身の姿を否定するようにしていた彼女が、怒りや憎悪によってより高みに達した姿。

その腰から、それまでのものとは比べ物にならないほどに巨大な光の翼が顕現。
周囲をなぎ払い、一直線にゲーチスの元へとそれが向かう。

「…!いけない…!」

咄嗟に美遊は結花の元へと駆ける。

ゲーチスを殺すことそのものを否定しているわけではない。
だが、もし彼女がここで憎悪に任せてその翼で人を殺すことを容認すれば。

脳裏をよぎるのはここに来て間もない頃、彼女が人をその手で殺してしまった時に見せた表情。
実際は事故に近いものであったにも関わらずあれほど背負い込む様子を見せたのだ。
もしここでまた人を殺せば、その憎悪を以ってその手を汚したならば。
彼女はもう戻れないかもしれない。

翼の威力を知っている美遊は、受け止めるよりも軌道そのものを逸らそうと彼女の元に飛び付いた。
うずくまっているゲーチスに振り下ろされた羽は結花が押し倒された影響で大きく空振る。

「ダメです結花さん!落ち着いてください!」
「離せ!あいつは、あの人間は、海堂さんを…!」

美遊によって押し倒された結花、しかし冷静さを失っている様子で体を捩って暴れる。
その力は先までの彼女のそれと比しても増しているようで、満身創痍に近い美遊では抑えきることが難しい。
弱った肉体を補強するように美遊は怪力スキルを発動、増した筋力でかろうじてその体を抑えることに成功した。

「ダメです結花さん!今殺してしまえば、あなたは人の心を失ってしまう…!」
「だったら、何だって言うんですか!大切な人も、私の居場所ももうないのに…!」

しがみついた美遊をそのままに翼を生やして飛ぼうとする結花。
しかし美遊は自身の体に鎖を巻きつけ、先端の釘を地面に突き刺して固定、彼女の移動を封じる。

「…っ、だったら尚更です!人の心まで捨てたら、あなたは自分自身すらなくしてしまう…」
「ならそれで構わない!それでもうもう傷付かずに済むなら、私は――」

言葉では届かない。
ならば、心を届かせるしかない。
長田結花という少女の心を救いたいという願いを。
あの時助けられなかったロロと同じ表情を浮かべていた仲間を助けたいという想いを。


肩を抑え、真っ直ぐに結花の顔を見据えて叫ぶ。

「どうしても、そんなに人の心を捨てたいって言うなら―――」

ロロの時にはできなかったことを、美遊なりのやり方で。

「私を、殺してから行ってください!」

多くのものを失った結花に対して美遊自身が。
彼女の最後の”希望”になりたいという気持ちを。


245 : Angelic Angel ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:35:40 NBZgIomQ0


美遊の叫びに反応するかのように、結花の翼が美遊の方に向かう。

だから、美遊の言葉を受けた結花は、倒れた姿勢のままその片翼を思い切り美遊に振り下ろそうとして。

思わず瞳を閉じた美遊、しかし翼は美遊に触れることはなかった。
それは彼女の直前で静止している。
まるで自分の行動に迷いを感じているかのように。

その結花の様子を見て美遊は確信する。
自分には、彼女の希望となりうる資格があると。

(力を貸して、イリヤ……――――…)

まだ間に合う。今なら、彼女のことを救うことができる。
そう確信した美遊は、静かに口を開く。

「居場所がないなら、一人ぼっちだというなら、私があなたの傍にいます。
 あなたがどんなになっても、私が受け入れます。
 あなたの罪も、その姿も、あなたの憎しみや想いも。だから」

かつて自分に手を差し伸ばしてくれた友人がしてくれたように。
かつて何も持たなかった自分に生きる意味を、大切なものを教えてくれたあの人のように。

私も、目の前にいるこの”人”を助けたい。

「自分には何もないなんて言わないで…!自分を捨てようなんて、しないで…!」




美遊との出会いは結花にとってはそう印象の深いものではなかった。
事故とはいえ人を殺してしまった自分が最初に出会った人物であったというだけ。

しかし、彼女はオルフェノクである自分を見ても強い反応を示すことはしなかった。
ただ、それがありのままの事実であるように受け入れていたような気がした。

誰に言われたわけでもない、彼女自身の意志で。

もしかしたらその後の戦いで一人の人間を殺してしまった時、私はそんな彼女の傍にいる資格がないと、そう思ったのかもしれない。
こんな人を殺す化け物になった自分が。


246 : Angelic Angel ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:37:03 NBZgIomQ0

「私は、人間が怖いです…。私を虐げる人が、私を虐める人が」
「だったら、私があなたを守ります」
「もしかしたら、私は人の心を失ってオルフェノクになってしまう時がくるかもしれません」
「そうなったら、私があなたを止めます」
「私は、あなたの……」


「仲間に……、友達になってもいいんですか…?」

震えるような声で問いかけるその質問に。

「…いいに決まってます」

小さく優しく微笑んで、美遊は答えた。
自分を受け入れると。友達に、仲間になる、と。


「こんな、醜い私でも…?」
「醜くなんてありません、その真っ白な鳥みたいな姿も大きな羽も、とても綺麗です」
それに、私だけじゃない、イリヤも、セイバーさんも、乾さんだってあなたのことを受け入れてくれます。きっと」

狭い世界しか知らない自分にだって分かる。
どんなに世界に酷い人間が多いとしても、救われない残酷なことが多くても。
それでも彼女を受け入れてくれる居場所くらいは、確かにあるのだから。

結花の、クレインオルフェノクの姿が元の人間のものへと戻っていく。
先ほどまでならきっと激情に塗れた表情を浮かべていただろうその顔には、潤んだ瞳と小さな微笑みを湛えていた。

「結花さん……」

鎖から手を離し体を引いて。
起き上がろうとする結花に美遊はゆっくりと手を差し出した。




その時だった。
二人の耳に誰かが立ち上がり地を踏む音が聞こえたのは。

振り向いた二人の目に入ったのは、憤怒の表情に顔を歪ませたゲーチスの姿。

「おのれ…よくも私にあのような夢を…!あのような光景を…!
 化け物の分際で、よくもここまで…!」

ここにきてようやく立ち直ったその男の表情は、暗黒神殿による悪夢により思い出したくないものを思い出さされた影響か先までの余裕などないほどの怒りと殺意に満ちたものだった。

「起きなさいサザンドラ、ゾロアーク!早くこの二人を殺しなさい!」

地に蹲って呻いていた二匹に命令を出すと、辛そうな鳴き声を上げながら起き上がる。
命令を出すゲーチスの様子には、自分のポケモンに対する気遣いをしようとする様子は感じられない。


247 : Angelic Angel ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:37:47 NBZgIomQ0

三つ首の黒竜はそれでも主の命令に答えようとするかのように、こちらへ向けて突撃をかける。
その全身には先に放った波動に近いものを纏った状態での突進。

咄嗟に美遊は結花の手を引きながら回避する。
地面に追突したその一撃は、土埃を上げながら巨大なクレーターを作る。


「…!速い…」
『美遊様、ここは撤退を!セイバーさん達と合流して戦うべきです』
「ダメ…、今の私じゃ逃げきれない…」

もし転身を解除したとしても現状の体力と魔力では追い付かれるのに時間はかからないだろう。
手っ取り早い手段としてはペガサスを呼び出し、手綱を解放して逃げることだろうが、しかしそれを同時にこなし制御することもできそうにないほどに魔力残量が心もとない。

ゾロアークの辻斬が迫るのを、結花がクレインオルフェノクへと変身し翼で牽制することで攻撃が届くのを防ぐ。
激情態から通常形態へと戻った結花には先程までの巨大な翼を顕現させることはできず、更に飛行するにも片翼の負傷が響いている。

「ははははは!!そうだ逃げなさい!もっとその体を細切れにされて死ねばいい!」

サザンドラの牙を避けたところで離れた場所からのゲーチスの銃弾が放たれる。
身を屈めた美遊の顔を掠め、一本の赤い線をその頬に作る。
負傷のうちにも入らぬかすり傷、しかしたったそれだけの衝撃で意識が飛びそうになる。

ふらつく美遊を結花が支え、気がつけば支えられる立場が入れ替わっていた二人。
美遊を抱えた結花は、その翼を広げて地を蹴る。

クレインオルフェノクの飛行速度は最大で時速480km。もし全力で逃げられたならサザンドラでは追いつくことができないだろう。
だが。

「っ、痛っ……」

片翼が折れた状態ではそんな速度を発揮することは叶わない。
一瞬浮いた体は、一度翼を羽ばたかせると同時にバランスを崩して地面へときりもみ回転しながら墜落。
ゾロアークの火炎放射がその体を炙る。

「きゃあああああああああ!!」

身を焼かれる熱に絶叫する結花。
起き上がった美遊は、熱に呻く結花をかばいつつ眼帯を外してゾロアークを見据える。
石化の魔眼にて視認されたゾロアークはその体を強張らせ、まるで全身を固められたかのように動きを止める。

だが、魔眼の使用もそれが限度。
頭に走った痛みが美遊の意識を刈り取りかける。
眼帯を戻しつつ、飛来したサザンドラが至近距離で放出しかけた炎をその首に鎖を巻きつけることで軌道を逸らす。

「結花さん、大丈夫ですか!?」
「はぁ…、はぁ…、私は、大丈夫です…。それより美遊ちゃんが…」

巻きつけた鎖をもってのサザンドラとの綱引き状態。
もしこれに負ければ、あの波動の砲撃かあるいは突撃かが放たれる。
それでも避ける自信がないわけではないが、後ろには結花がいる。

起き上がった結花の元に銃声が響く。
傷ついた少女二人も満足に仕留められない二匹に対して業を煮やしたゲーチスがその手の拳銃で直接狙いにかかったのだろう。
銃弾は結花の肩を捉える。
オルフェノクの体に対して一発の銃弾程度では決して致命傷には成り得ないが、しかし衝撃は結花の体を揺さぶる。

「チ、小娘と化け物風情が…、目障りですね本当に!!」

怒りに満ちたゲーチスは、その手の拳銃をベレッタから、ロロの死体から奪ったデザートイーグルと取り替える。
かすっただけでも体の皮膚を大きく抉り取る威力の銃弾。それを身をもって知っている美遊の心に焦りが生まれる。

結花の体を思い切り引き倒すと共に自身もその斜線上から身を逸らす。
先ほどの音量を超える銃声が響き、誰もいなくなった空間を銃弾が通り過ぎると共に、発砲したゲーチスの腕が大きく後ろへと飛ぶ。
想像以上の衝撃に銃を地面へと取り落とし、肩を抑えながらも銃を拾い上げようと後ろに下がる。

目の前には鎖を離せないと見るや、その身を引きながらもその3つ首の頭の2つで噛み砕きにかかっているサザンドラ。

(…どうしたらいい?ここは……)


248 : Angelic Angel ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:38:26 NBZgIomQ0


現状で最も考慮すべきはゲーチスの存在。
だが、彼をどうにかするためにはサザンドラの存在が厄介。
こちらに対する攻め手、そしてゲーチス自身の指示以外においてはやる気の欠けたようにも思えるゾロアークとは異なり、そちらだけはゲーチスを守ろうとする強い意志が感じられる。

ゲーチスが冷静さを欠いている今、それだけが大きな障害。

「結花さん、ここから逃げてください。私が彼を引き付けますから、その間に」
「………」


「…美遊ちゃん、私、怖かったんです。
 私みたいな化け物がいたら、みんなが不幸になるかもしれない。みんなを傷付けてしまうだけかもしれない」
「結花さん…?」
「それでも、私は居場所が欲しかったんです。私が私らしくいられる場所が、私として生きていける場所が」

白い影は、静かに美遊に向けて語り続ける。

「だから、美遊ちゃん、こんな私を受け入れてくれたあなたのことを、私も守りたい。もう、逃げたくないんです…!
 だから、こんな翼しかない私でも守れるなら、あなたのこと、守らせてください…!」

オルフェノクでありながら人間を守るために、多くの同胞、オルフェノクを手にかける罪を背負いながら戦い続けた彼のように。
裏切り者として幾度と無く命を狙われることになっても、自分を曲げることなく理想のために戦い続けたあの時の彼のように。

彼らのように理想は守れなくても、今自分の傍にいるこの少女を助けることくらいはできる。

この血に濡れて折れた翼でも。


ゲーチスは魔眼の影響で動けぬゾロアークをボールに戻してこちらへと向き直り、抑えていたサザンドラ側も牙を受け続けた鎖が限界を迎えつつある。

『結花様』

そんなサザンドラを抑える鎖となったサファイアが、美遊の手元から結花へと呼びかける。


『一つ問わせてください。
 決して無茶を聞いているわけではありません。ですから正直にお答えください。
 今の結花様は、――翔べますか?』
「………」

今この翼で飛ぶことができるのか。
武器として、光の翼として振り回すことには全く問題ないのに、空を飛ぼうとすれば負傷した場所から激痛が走りバランスを崩す。
こんな状態で、おそらくは美遊を抱えて空を飛べるか。

「………飛べます、きっと」

痛みなら耐えればいい。
今までずっと虐げられてきた心の痛みに比べれば、友達一人を守るための痛みなど。
美遊を守れぬ痛みに比べれば、決して耐えられぬものではない。

『分かりました。では美遊様、鎖が壊されると同時にお願いします』


249 : Angelic Angel ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:39:47 NBZgIomQ0


やがてサザンドラの左右の頭の噛み付きによって砕けた鎖が勢い良く美遊の元へと弾け飛ぶ。
その勢いに任せて美遊の元へと、その牙で体に食らいつかんと突進をかけるサザンドラ。
同時に、背後のゲーチスも二人へと向けて持ち替えたベレッタの銃弾を放ち。

その瞬間だった。

バサリ、と結花の腰部から生えた巨大な羽が美遊を抱えて地を叩き。
一陣の光となって宙へと舞い上がった。

サザンドラの特攻もゲーチスの銃弾も空振りし、陽の傾いた空を見上げた一人と一匹。

宙を舞う小さな純白の羽毛の向こうに見えた、真っ白で巨大な翼。



(『美遊様の現状の魔力ではおそらく騎英の手綱一度の解放が限度でしょう。ペガサスを呼び出す魔力までは保証できない状態です』)
(『その先の判断はお二方へと委ねます。ですから私の言える案は一つだけ』)

(『美遊様、結花様に手綱をお使い下さい』)



空に見えた結花の姿は、先に怒りの中で見せた激情態のそれ。
しかしその下半身は鳥類の持つ足に近付き、獰猛な猛禽類のごとき爪を備えた脚部へと変化。
さらにはその腰に生えた翼も、クレインオルフェノクの身長を超えるほどに巨大化していた。

その両手には、美遊の手に握られた光の手綱が握られている。

ライダーのサーヴァント、メデューサの、幻獣をも乗りこなす騎乗スキル、そして手綱によって結花へと送り込まれた魔力。
それは結花自身のオルフェノクの姿を、更なる高みに達した姿へと進化させていた。

クレインオルフェノク・激情飛翔態。


(まだ、行ける)

その体に満ちていく力を感じながら、しかしそれを決して忌むことなく。

(私は、飛べる。今の私なら―――)

その姿に強い自信と誇りを持って。

(この子と一緒なら、きっとどこまでも―――!!)

その翼を、羽ばたかせた。


250 : Angelic Angel ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:40:23 NBZgIomQ0


「―――――――騎英の手綱(ベルレフォーン)!!!!」

真名解放と共に、クレインオルフェノクの体を光が包み、純白の流星となって下降する。

速度だけならば天馬をも凌駕するほどのもの、しかし一介の人間の進化体、新人類の身では神代を生きた神獣には遠く及ぶものではない。
だけど、これでいい。

(大丈夫、あなたは人を殺さない)

それが人の命を奪うための翼ではない、と美遊は信じているから。
その、美遊の想いが結花へと伝わったからこそ、彼女は全力で翔ぶことができる。


咄嗟に斜線上に割り込んだサザンドラが主を守らんと龍の波動を放射し迎撃する。
しかし高速での突撃をかける二人を止めるには至らず、龍の顎を形取った波動を突き破ってサザンドラへと衝突、その体を吹き飛ばす。

「ひっ…!」

最後の砦を破られたゲーチスは迫り来る閃光の中に己の死を直感。
怯えるような声を発して背を向け走り出す。
しかし人の足で逃げ切れるものではない。
そして天馬のそれとは威力が下がっているとはいっても、高速で迫る巨体に追突されれば、人体なら無事では済まないだろう。

迫る死に怯えながらも地面に転がり込むゲーチス。

だがその閃光はゲーチスに命中することなく、直前で軌道を変えて大きく上昇。
大きく視界の外へと過ぎ去っていく。

何が起きたのか確かめんと前を庇うように出した手を退けたゲーチスに向けて、逸れた軌道上から光の刃が振り下ろされた。
肩から腹部にかけて赤い線が奔る。

「ぎゃああああああああ!!」

痛みに呻くゲーチス。その目の前には夢幻召喚を解き魔法少女の姿を取った美遊がサファイアの先端で煌めく刃を翳していた。

(浅い…、次で…)

確実にこの生命を終わらせる。
再度、その刃を冷酷に、痛みにうめき続けるゲーチスを貫かんと振り上げ。


「ガアアアアアアアアアア!!!」

その背後から、鳴き声を上げながら美遊へと突撃をかけた者がいた。
クレインオルフェノクの突撃に吹き飛ばされ既に戦闘可能な状態ではないほどのダメージを追いつつも、自身の主を守らんと最後の気力を振り絞って美遊にぶつかりかかったサザンドラ。
ただの体当たりでしかないとはいえ、想定外の衝撃に美遊の体は吹き飛ばされ。

そのままその両側の頭で抱えるようにゲーチスの体を持ち上げてサザンドラは飛び上がる。


251 : Angelic Angel ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:41:05 NBZgIomQ0

『美遊様!このままでは!』

サファイアの叫びに起き上がろうと地面に手を付いて。
しかし体を起こすことはできずそのまま地面へとへたり込んだ。

「………、…ごめんサファイア、もう、無理……」

サザンドラ自体もダメージを受けて傷ついた体での飛行。決して追いつけない速さではない。
普段であったならば。
だが、美遊もまた先の突撃が止めとなったのか、それまでどうにか耐え抜いてきた疲労、ダメージから肉体が、脳が限界を告げるかのように動かなくなっていた。

「美遊ちゃん!」

空から舞い降りながら起き上がることもできない美遊の元へと駆け寄る結花。

「しっかりして、美遊ちゃん!」
『落ち着いてください結花様。美遊様の命には別状はありません。
 これまでの戦いのダメージから体が休息を求めているだけです。しばらくすれば回復するでしょう』
「そう…、よかった…」
『…美遊様、どうしてあそこで騎英の手綱の軌道を逸らしたのですか?
 あの一撃であれば、ゲーチスを仕留めることも可能だったはずです』
「……結花、さんに、人を殺させたくないって、そう思ったから……。
 私が、背負えば、いいって……思ったから…」

薄れる意識の中で、美遊は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

その言葉にサファイアは、かつて戦いを拒んだイリヤのために一人最強の黒化英霊に挑んだ時の美遊のことを思い出す。

『全く…、美遊様はあの時と何も変わりませんね』
「……ダメ、だったかな?」
『いえ、こうして今美遊様も結花様も生きておられます。…ロロ様のことは残念でしたが。
 しかし今はそれだけで十分でしょう』

閉じかけた瞳の向こうで、小さく笑みを浮かべる美遊。
そんな美遊を、結花は抱き上げてその頭を膝の上に乗せる。

「美遊ちゃん、私、あなたと一緒にいても、生きていてもいいんですよね?」
「…もちろん、です。だって私達――――」

友達だから、と。
消え入りそうなほど小さな、しかし結花の耳にははっきりと届く声で告げて、美遊は意識を落とした。

瞳から流れた一滴の雫は悲しみではなく嬉しさ故の涙だろう。
美遊の頬にこぼれ落ちたそれを優しく拭い。

『それでは、西で戦っているセイバー様や真理様達と合流した後L様達の元へと戻りましょう。
 もし戦いが終わっていればそろそろ追いついてこられる頃かも――――結花様?!』

その、拭った顔にハラリ、と灰色の粉が降りかかった。
それは、結花の顔から落ちている。

結花がその頬に触れると、顔のみならず触れた手からも灰がこぼれ始めていた。

それが何を意味するものなのかはこの殺し合いの参加者皆が知っていることだ。
同じ光景を、ここに連れてこられてから最初に死んだ者で見ているのだから。

「………いいんです、これで」

だというのに結花は、笑いかけながら言った。
すぐそこに迫った死に対し、恐怖や諦めを感じさせる様子もない、そんな微笑みを浮かべて。

その脇付近、一見分かりにくい上に腕から流れた血にも濡れた場所からそれとは別の血を流しながら。




252 : Angelic Angel ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:43:21 NBZgIomQ0

草加雅人は目を開き、状況を把握するように周囲を見回す。

体を壁にもたれかからせるような形で倒れこんだ状態。
胸には切り傷。大きくはあるが深くはない。致命傷といえるほどではないだろう。
そして少し離れた場所にはカイザギアが転がっている。
おそらくはこの傷をつけられたあの一撃、長田結花の放った光の翼に斬られた際に変身が解除されたのだろう。
その傍にはミッションメモリーが刺したままの状態のカイザブレイガン。
変身解除と共にブレード生成も停止したのだろう、ガンモードのまま。しかしブレードが形成されていただろう場所付近の地面には真っ赤な液体が付着していた。

(…長田結花は……、死んだか?
 …まあいい、もし生きてたとしても、もう長くはないだろう)

あの時、意識を失う直前、カイザスラッシュと光の翼が互いの体へとぶつかり合う寸前。
確かにあの刃を彼女の体に突き立てたという感触をこの手に感じた。
幾度もオルフェノクを狩ってきた際に感じたものと同じ感覚。即死には至らなかったとしても致命傷ではあったはずだ。

(はは……、いい気味だ。オルフェノク)

胸の傷の痛みに顔を歪めつつも、因縁の敵の一人をその手で仕留めた事実に笑いながら立ち上がる。
そうだ、オルフェノクは皆死ねばいい。
北崎も、村上も、木場も、乾も、あの男も。
俺から大切なものを、命を、仲間を、真理さえも奪った化け物は、皆。

(真理……)

その真理がオルフェノクになってしまったと認識している草加。
オルフェノクが全て死ねばいいのであれば、真理もまた死ぬべきなのか?
その矛盾に気付いていないわけではない。

だが、どちらにしても今はまずこの怪我の治療が先だ。ここが病院で助かった。

ゆっくりと起き上がった草加は、カイザギアを拾い上げて病院の中に歩みを進め始めた。

自分の中の、戦う理由と守るべきものの矛盾に対する答えに目を背けるようにして。




自分の体に限界が近いことは既に分かっていた。

だけど生きようと思う意志がなかった体に無理を言わせることは、そんなに難しいことでもなかった。
海堂を殺された憎悪をぶつける時も、美遊を必死で守ろうとした時も。

一方で、美遊を背に乗せて自分の限界に近い飛翔をした時は、もっと生きていたいと、もっと彼女と一緒にいたいという想いがあったのも事実。

膝の上で静かに寝息をたてる美遊の頭を撫でる結花。
その手からは、撫でる度にポロポロと崩壊していく体が灰となって地面に積もっていく。

「セイバーさんや、乾さん、皆さんに、よろしく伝えてください」
『結花様…っ』
「最後に友達ができた。それだけで、私にはもったいないくらいに幸せなことだったんだって思いますから」


253 : Angelic Angel ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:43:53 NBZgIomQ0


もっと美遊と、彼女達が生きる世界を、自分を受け入れてくれるような場所を生きてみたかった。
だけど、いい。これは罰なのだ。
木場に知られぬままに人を殺した化け物でありながら人として生きようとした自分に対する刑。

だけど、最後の最後で自分にとって大切なものを、居場所をもらうことができた。
だから、ほんの少しだけ無理をきかせてくれた。それでよかった。

目の前で眠る小さく強い少女。
全く似ていないのに、何故かあの時まだ黒かったセイバーさんに一人立ち向かって命を落とした少年を幻姿した強い背をもった子。

あなたは、私の分も生きてください。


海堂さん。
こんな情けない私ですけど、もしかしたら地獄に落ちるかもしれないですけど。
もし天国にいけたなら、今までと同じように私と一緒にいてくれますか?


そして、木場さん。
もし私の見た絶望とあなたの知った絶望が同じものだったのなら。
どうか、絶望に負けないでください。

だって、人間がどんなに怖くて恐ろしい存在だったとしても。
世界がどれだけ私達のことを拒むものだとしても。

必ず、希望は、光はあるんだから。
乾さんや、美遊ちゃんのような、強い希望があれば。

(いつか、そんな真っ黒な世界も、きっと白く――――)



『………』

眠り続ける美遊の傍で、静かに佇み続けるサファイア。
そこで響くのは、美遊の小さな寝息のみ。

傍に座っていた長田結花の姿はどこにもなく。
ただ、美遊の近くで空へと舞っていく純白の羽と、一盛りの灰の山だけが残っていた。

無風の中でも周囲にふわり、と撒かれていく羽は、やがて美遊の元から去っていくように飛んで行く。
ふと、そんな美遊の手が動き、小さく握りしめられたその手のひらの上に、空を舞っていったものより一回りだけ大きな羽だけを残して。

【長田結花@仮面ライダー555 死亡】


【D-5/一日目 夕方】

【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、魔力消耗(大)、全身に火傷(回復中)、意識無し
[装備]:カレイドステッキサファイア@プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、クラスカード(ライダー)@プリズマ☆イリヤ(使用制限中)
[思考・状況]
基本:イリヤや皆と共に絶対に帰る
1:………
2:セイバーや真理達と合流する。
3:白い魔法少女(織莉子)のあり方は認められない
4:『オルフェノク』には気をつける(現状の対象は木場勇治、村上峡児)
5:まどかの世界の魔法少女を調べる
[備考]
※参戦時期はツヴァイ!の特別編以降
※カレイドステッキサファイアはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません



【D-5/病院/一日目 夕方】

【草加雅人@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(大)、負傷(中)、胸に切り傷、真理の死及びオルフェノク転生の事実に対する精神不安定
[装備]:カイザギア@仮面ライダー555、オートバシン@仮面ライダー555
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本:儀式からの脱出とオルフェノクの抹殺
1:長田結花を抹殺し精神を落ち着けた後、真理を殺したオルフェノクを確実に殺す。
2:オルフェノクは優先的に殲滅する。
3:真理を、俺は―――――
4:ポケモン、オルフェノク、魔女に詳しい人物から詳しく情報を聞き出す。
5:Lとの約束のため病院か遊園地へ
6:長田結花は殺しておく。……が、今は手出し出来ない。
7:地図の『○○家』と関係あるだろう参加者とは、できれば会っておきたい
[備考]
※参戦時期は北崎が敵と知った直後〜木場の社長就任前です
※自分の知り合いが違う人物である可能性を聞きました
※灰色の怪人(オルフェノクのような何か)となったNが真理を殺す、という幻を見せられました。
 それにより真理はオルフェノクとなったと誤解しています。


254 : Angelic Angel ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:44:14 NBZgIomQ0



病院の影、美遊達のいた場所からは反対側に位置する場所。

ゲーチスを抱えて飛び去ったサザンドラは緑の芝生の上に着地した。
しかしその身に受けたダメージゆえか、バランスを崩してゲーチスを取り落として落下、そのまま起き上がれぬまま地面へと転がり込む。

「…っ、痛……、サザンドラ!」

そんなサザンドラに対して、怒りをぶつけるかのように容赦ない蹴りを叩き込むゲーチス。

「何故、もっと早くこなかった!お前がちゃんとしていれば、私はこんな傷など!!」

その身の限界を越えてまでのゲーチスを連れての撤退はあくまでも自分の主を助けようとしてのもの。
しかしそんな想いも、サザンドラ自身の負傷も気に留めることなく罵声を浴びせ続ける。

「痛い…、痛い…痛い!よくも…、よくも小童の分際で……、何故私の邪魔をするのはいつもあのような子供ばかり…」

傷の痛みに叫びながらも、同時にゲーチスの脳裏に浮かんでいく光景。
長年に渡って練り続けてきた自分の野望が、ただ一つのイレギュラー、無名の子供でありながら伝説のドラゴンポケモンにNに並ぶ英雄として認められたあの子供に止められた時の無念。

それは気が狂いそうなほどの悔しさをゲーチスの中に残していた。
もしこの場に連れて来られなければ、気をどうにかしかねないほどのものだ。

その感情を、ゲーチスはあのアカギがおそらく連れているであろう、更に強大な力をもったポケモンを狙うことで、より大きな欲望、野望を持つことで押さえつけていた。
それでも心から溢れ出てしまう感情も、美樹さやかやオルフェノク達といった化け物を陥れることで発散することができていたため心の均衡も保つことができていたのだ。

だが、あの時美遊から放たれた暗黒神殿はゲーチスが感情の上に覆い隠していたそんな鍍金を引き剥がしてしまった。
そして、目の前に迫った死、実質的な敗北。

屈辱の上に恐怖を上塗りされたゲーチスの心を覆い隠すほどの野望や欲望は残ってはいなかった。

「はぁ…はぁ…、ちぃ」

舌打ちしつつもサザンドラをモンスターボールに戻す。
精神の均衡は戻らなくとも、冷静さはじょじょに取り戻されていく。
サザンドラは重要な戦力、八つ当たりで失うわけにはいかない。

問題は逃がしてしまったあのあの二人だ。
少なくともロロと海堂を殺したことはあの二人を通して広がっていくだろう。
こうなれば隠れて人を殺していくことは難しい。

(多少の無理をしてでも、一人ずつ積極的に始末していくべきですか…)

斬られた肩の痛みをこらえるように立ち上がったゲーチス。
幸いここは病院、この傷の処置くらいはできるだろう。

その後は戦力であるポケモンの回復が優先だろう。
主の身を守ることもできない役立たずだが、それでも今の自分にとっては貴重な戦力だ。

(…そういえばもう少しで放送ですね……、行動はそれからでも……―――ん?)

と、その時だった。
時間を確認するように取り出したデバイスが小さく点滅していた。

ふと目を凝らしてそこに写った文字を読んだ。

From アクロマ、と。
黒いデジタル文字はそう記していた。


【D-5/病院付近/一日目 夕方】
【ゲーチス@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(大)、肩に切り傷、精神不安定、強い怒りと憎悪
[装備]:普段着、ベレッタM92F@魔法少女まどか☆マギカ、ゾロアーク(ダメージ(大)、片腕欠損、ゲーチスに怒り) 、サザンドラ(ダメージ(大)、戦闘不能)
[道具]:基本支給品一式、病院で集めた道具(薬系少な目) 、不明支給品0〜1(未確認)
羊羹(1/4)印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入 印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入×4 、きんのたま@ポケットモンスター(ゲーム)
デザートイーグル@現実、流体サクラダイト@コードギアス 反逆のルルーシュ(残り1個)、デザートイーグルの弾、やけどなおし2個
[思考・状況]
基本:組織の再建の為、優勝を狙う
1:アクロマ…?
2:潜んで行動するのが無理ならば積極的に参加者の口減らしを行っていく。
3:ポケモンを回復する手段を探しておきたい。
4:ゾロアークの力をもってできるだけ他者への誤解を振りまき動きやすい状況を作り出す
※本編終了後からの参戦
※「DEATH NOTE」からの参加者に関する偏向された情報を月から聞きました
※「まどか☆マギカ」の世界の情報を、美樹さやかの知っている範囲でさらに詳しく聞きだしました。
(ただし、魔法少女の魂がソウルジェムにされていることなど、さやかが話したくないと思ったことは聞かされていません)
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)


255 : ◆Z9iNYeY9a2 :2016/04/07(木) 00:45:51 NBZgIomQ0
投下終了です
本SSをもって第三回放送までのSSとさせていただき、次の投下は放送となると思います


256 : 名無しさん :2016/04/07(木) 01:42:24 fauXoaJk0
投下乙です

長田さんは最期に救われたか…、美遊も最後まで諦めずかっこよかった
そしてメッキが剥がれたゲーチスにアクロマはどう接触するのだろうか


257 : 名無しさん :2016/04/07(木) 20:49:52 qY2A78wgO
投下乙です

手綱はオルフェノクに有効
ポケモンや魔法少女にも効くかな?


258 : 名無しさん :2016/04/08(金) 17:02:06 FGDroTek0
投下乙です
プリヤの女の子達は皆良い子だな
草加さんは自分の知らぬところで殺された真理にどう反応するんだ?


259 : 名無しさん :2016/04/09(土) 01:29:51 JCYMNhsU0
投下乙です
目を覚まして結花が死んでしまった事を知った時、美遊がどう思うかが心配です

>>257
手綱が人間にも有効なことはPC版ホロウですでに証明されてますよ


260 : ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/05(火) 23:36:23 zEdOpcNo0
放送投下します


261 : 第三回定時放送 ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/05(火) 23:37:05 zEdOpcNo0
儀式を開始してから間もなく18時間が経過しようとしている。
深夜の闇の中から始まったあの会場は一度登った陽が沈み再度夜を迎えようとしていた。
だが、アカギの佇む空間はそんな時間を感じさせることなく、ずっとそれまで佇んでいる風景を維持し続けている。


そんな静寂な空間で瞑想を続けるアカギ。
ディアルガ・パルキアという人間が手にするにはあまりにも強大な力二つを持った彼は、その制御に精神のほぼ全てを振り分ける必要がある。
特にこの空間は特殊だ。殺し合いによる因果収集のため多くの特性を持たせた都合上、もしこのポケモン達が暴走するようなことがあれば容易く会場は崩壊する。
無論万が一に備えた対策こそ施してはあるが、参加者達がそれに乗じて動きを起こすことがあれば儀式そのものの続行が難しくなる。

それ故一人、何者の邪魔も入らない場所でこうして二竜の力を抑え続ける必要があった。
この殺し合いの儀式自体が己の目的成就のためのものであり、加えてアカギ自身元より静寂を愛するものであることからそれほど苦痛とは思わなかった。
しかしアカギの精神はともかく、肉体的な限界はどうしても発生してしまうもの。その一時的な休息を放送と同時に取ることで長時間の瞑想を続けられるようにしている。

(どうして、そこまでして世界を変えようとするの?)

しかし、先に一時的にその瞑想を2竜の力の制御以外のことに使ったことがあった。
ギラティナ捕獲のために少しだけディアルガ・パルキアの力を解放したあの時だ。
それ自体は別に大きな影響を与えるものではない。現にこうして今も力の制御は叶っている。

ただ、それが関係しているのかどうかは分からないがそれ以降、ほんの少しだけ瞑想するアカギの思考に割り込んで語りかけてくる声があった。
無論それで集中力を乱されるようなこともなかったが。

(世界が憎いなら、自分一人だれもいないところにいけばいいだけでしょう?)

それはかつて自分に語りかけてきた言葉と同じもの。
そしてその詰問にはこう答えた。

何故私が世界から逃げるように息を潜めねばならないのだ、と。

世界から心という不完全なものを消し去り、完全な世界を作り出す。それは世界の、そして人間のためにもなる偉業だ。

(あなたは、本気でそう思っているの?)

無論だ。
それを信じて、あのやぶれた世界での敗北後もこうしてあらゆる手段を模索してきたのだから。



あの日。私にとっては大きな起点となった戦い。
やぶれたせかいで名も知らぬ子供に敗北を喫した後。
シロナとその子供がその世界から帰還した後も私は一人、その空間に留まり続けた。

そしてその果てに、偶然とも奇跡とも言うべきあの出来事に巡りあうことができた私はやぶれたせかいから抜け出すこととなった。


262 : 第三回定時放送 ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/05(火) 23:38:07 zEdOpcNo0
やぶれたせかい――時空も空間も歪んだ、不安定な世界。しかしだからこそ偶発的な現象によってその世界を脱した私はそこにたどり着くことができたのかもしれない。

Cの世界、ある世界においてはエデンバイタルとも呼ばれる場所。
万物の根源であり、意識と記憶の集合体。

時空間のどこにでも存在し、干渉するエネルギー・法則。
人が神や精霊と呼び崇めてきたものの本当の姿とでもいうべきもの。

私のいた世界、ポケモンが存在する世界においてその力の一端を与えられた存在が伝承に伝えられし数々の幻のポケモンだったのかもしれない。
そしてその中でも時間・空間というより強大な力を持つものに直に触れた私だからこそ、この場所へと至ることができたのだろう。


そして同時に思った。
この存在はあまりにも忌々しいものだ、と。
人が争い、いがみ合う醜い世界の根源がそこにあったのだから。
世界を維持するために人の世に争いをもたらす根源。この存在を消滅させることができれば、心のない静寂な世界を作ることも可能なのではないか。
だがそこにある記憶を、過去を読み取った私はこれまで私の考えと同じようにこの"神"を殺そうとした者の存在を知り、同時にそれがなされなかった事実を見た。
あの時の子供を連想させるような若者が多く見られたのは何の皮肉だろうか。
先人達に成せなかったことの焼きまわしをしようという考えには至らなかった。

だからこそその存在の強大さを見極めた私は、この力を利用する形で別の手段を模索することにした。
そしてそのために門を通して多くの平行世界を見た。

ポケモンがいる世界、いない世界。
魔術が存在する世界、神が明確に存在する世界。
様々な法則が存在している別々の世界。
だがそんな中でも人間の醜さだけは変わらなかった。
この集合意識の望みを叶えるかのごとく争いを続ける人間達の姿。

そんな中に、そういった人間の感情を利用して世界を存続させるエネルギーとし活用することで宇宙を存続させようとする者がいることを知る。
インキュベーター。
宇宙の熱力学的死を防ぐため、人間の感情をエネルギーとする手段を生み出した者。
その力を使うことで、新たな世界を作ることができるのではないか。

そう考えた私はインキュベーターへと接触を図った。

インキュベーターの求めるエネルギーを得ることができる手段の可能性。
そのやり取り自体はインキュベーターにとっては損をするものではないということで話を聞かせることには成功した。

さらにそこから、Cの世界を彷徨っていたシャルル・ジ・ブリタニアとの接触にも成功し、各々の目的を果たすことが可能な手段を模索。

インキュベーターは感情エネルギーにも変わる、宇宙の熱力学的死を避けるためのエネルギーを。
シャルルは嘘のない世界を作るための力を。
そして私は、静寂な世界を生み出すことを。

シャルルと私の求めるものは似通ったところがあり、それが彼が接触を図ってきたところに通じていたのかもしれない。

そうしてそのための手段として選んだもの、それがこの殺し合いの儀式だった。
やり方そのものは大して珍しいものでもない。ある世界においては古くから伝わっている蠱毒なる呪術のようなものだ。
ただ、それと異なるのは今回の殺し合いの儀においては最後に残った一人に積み重なった因果のみならず、その過程において生まれ生じた因果からもエネルギーを収集することができるということ。

そして一点に因果を集中させその過程においてもエネルギーを生み出すことができる存在。
その世界における大きな役割を持った者、そしてその関係者を。インキュベーターに言わせれば、一国の王や救世主にも匹敵するといった者達の選別が必要だった。
当初鹿目まどかをその一つに組み込むと伝えた際には反対こそしなかったものの、インキュベーター自身の反応は芳しくはなかったものだ。


263 : 第三回定時放送 ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/05(火) 23:38:29 zEdOpcNo0

その舞台装置として必要な設備もまた、参加した者達と関わる世界のシステムや法則を組み込んだものだ。
それを管理する技術者として、インキュベーターが発見してきたのがアクマロだった。
極限状況におけるポケモンの可能性をあらゆる世界と交じり合わせて調査できる環境をちらつかせれば協力させるのは難しいことでもなかったとか。


当然のことながら、各々が腹に何かを抱えていることは全員が承知の上だ。
だが干渉することはなかった。最終的には自分たちの目的が果たされればそれでいいのだから。

こうして全ての準備を整えた私達は、こうして殺し合いの儀を開始した。
全ては、自身の望む心のない静寂な世界のために。





(そんなに、心が邪魔だというの?)

ああ、その通りだ。

怒り、憎しみ、悲しみ。
多くの醜い感情はこの殺し合いの場にも、いや、彼らの生きた世界にも溢れている。

例えば、ヒトから進化を果たした新人類ともいうべき存在は自身の力に溺れまるで野生の動物かとでも言わんばかりの生存競争などを繰り広げ、多くの血を流している。

例えば、人間の善性を証明しようとするための手段として一人の人間に全ての悪という概念を押し付けた者がいた世界があった。

例えば、ヒトから変質、ある意味では進化したとも言えるかもしれない存在は絶望という感情から魔女などという醜い怪物を生み出している。

もし心がなければ、力に溺れる者も罪を犯す者も、そして絶望の果てに生み出る怪物も存在しない。
そしてそんな世界から連れてきた者達を集めたあの殺し合いの場にも、多くの悲しみや絶望、怒りが渦巻いている。


世界が変われども人が変わらないのであれば、自分が一から作るしかない。
心などという不完全なものの存在しない、静寂で完全な世界を。

そのための儀式。そのための贄だ。


(そう、あなたは結局変われなかったのね。
 止まったままの世界で、ただ一人誰とも心を通わせることもなく、その果てに見つけた答えだというのね)

後ろの女は、何故か哀れみを感じるような口調で語りかける。
だが私は意に介すこともしない。
そもそも死者が今を生きる者を憐れむなど、これほど滑稽なこともない。

(そうね。確かに私にはもう、あなたの心に言葉を届かせることはできない。
だけど、希望は残っているって信じてるから。
クロちゃんやガブリアス、みんなが守ったあの子達が、あなたのその絶望を、きっと打ち破ってくれるって)

(あなたがなくしてしまった、人を、みんなを信じる心を、私は信じている)


くだらない。

そう心の中で一蹴して振り返ったところで、そこには声の主はいなかった。
あれは一体何だったのか。
自分の心に残っていた思念が生み出した幻聴か、あるいは会場で死んだあの女の霊魂とでもいうものがこの空間を通してこの場所へと迷いこんだのか。
どちらにしろ、もう現れることはないだろうし深く考える必要もあるまい。

「…時間か」

そして同時に、この空間を出るための時間がきたことに気付いた。


264 : 第三回定時放送 ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/05(火) 23:38:58 zEdOpcNo0




「やあ、アカギ。そろそろ放送の時間だね」

足を固く冷たい金属製の床へとつけた時、足元から声が聞こえる。
まるでずっとそこにいたかのように現れた白い獣の姿を冷たい三白眼で見据える。


「キュウべぇか。あのギラティナ捕獲の際連れてきた娘は今はどうしている?」
「今のところは特に何かする様子はないみたいだけど、それがどうかしたのかい?」
「その娘のところに案内しろ」

少しつり上がった目で、しかし感情のこもらぬ表情でキュウべぇにそう命じるアカギ。
無表情だったはずの顔には、その対象に対する興味故だろうか、僅かな動きがあった。


「別に構わないけど、放送はどうするんだい?」
「お前達に任せる。どうせ死者と禁止エリアの発表をするだけのものだ。必ずしも私がやる必要はあるまい」

その言葉に迷いはない。
キュウべぇとしては問題はないのだが、ここで問題があるとするならばアカギ側だろう。
決定した本人が言っている以上構わないはずだが、念のため確認の問いかけをキュウべぇは投げた。

「それはつまり、君の協力者の存在をあの場の皆に知らせることになってしまうわけだけど、もうそれでも構わないということだよね?」
「くどいぞ。誰が行うかはお前たちに一任する」

その言葉を最後に、アカギは早歩きでほむらがいる部屋へと向かっていった。
着いていこうとしたキュウべぇだったが、その歩みからキュウべぇの同行を拒否するかのようなものを感じ足を止めた。

「やれやれ。元々彼自身が執着していたものの一端が近くに来たからって、あまり役割を投げられるのも困るんだけどね。
 まあ現状だとまだ大したことじゃないから構わないけど。
 さてそれじゃあ………、うん、放送は彼女にお願いするとしようかな」




第三回放送の時間となりました。
私は今回の放送においてアカギの代理として放送をさせてもらうことになった者です。
自己紹介は省略させていただきます。

では、まず禁止エリアの発表です。

19時よりB-7。
21時よりF-3。
23時よりC-2。

以上の三箇所です。

次に死亡者の発表となります。

長田結花
北崎
園田真理
海堂直也
C.C.
ロロ・ランペルージ
マオ
夜神総一郎
衛宮士郎
バーサーカー
シロナ
サカキ
タケシ
ミュウツー
暁美ほむら
巴マミ

以上です。

参加者も半数を大きく下回り1/3も目前に迫ってきました。より一層の進行を期待します。

また、追加事項のお知らせです。
今放送終了後より地図に示された浮遊航空艦、アヴァロン・斑鳩の両艦が起動を開始します。
この二つは会場内を自動で移動し一部施設で一定時間停泊した後移動、という動きを繰り返すこととなるでしょう。
停泊施設は地図に記されたものの中で無事なもの、禁止エリアに入っていないものの中からランダムで選ばれます。
この戦艦に搭乗している場合に限り禁止エリアの侵入・通過も可能ですのでご留意ください。

それでは次の放送は6時間後となります。更なる殺し合いの進行を期待しています。


※放送はアーニャ・アールストレイム(マリアンヌ)によって行われました
※放送後、アヴァロン、斑鳩が自動操縦によって移動を開始します。
 移動ルートは現状で形を残しているかつ禁止エリアに抵触していない施設を回っていく形となるでしょう。
 また、それに乗っての移動中に禁止エリアに侵入した場合、艦の中にいる場合に限り刻印は起動しません。


265 : ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/05(火) 23:39:14 zEdOpcNo0
投下終了です


266 : 名無しさん :2016/07/11(月) 22:20:27 wQ1n/xIw0
投下乙です

ようやくアカギにもスポットが当たったか
参加者も少なくなってきてこれからの激戦に期待


267 : 名無しさん :2016/07/13(水) 23:51:41 /7/d08Lk0
再予約いいゾ〜これ(恍惚)


268 : ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/21(木) 00:44:40 5EVASYQA0
投下します


269 : Saver or Revenger ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/21(木) 00:46:57 5EVASYQA0
日は沈みかけ、黄昏の空から差し込む光はそこに立つものに長い影を作って映し出す。
もうしばらくの時間が経てば、この光は失われ周囲は夜の闇に包まれるだろう。
それが建物の並ぶ市街地などであれば街灯が闇を照らす光を生み出す。だが、そうでない草原や砂地、森林や山であればその明かりは格段に少なくなる。
せいぜいが申し訳程度に備えられた小さな明かりのみ。それ以外は支給されたライトを使って光を作り出すしかない。

だからこそセイバーは傷や疲労も癒えぬ体のまま、草地を駆け抜けていた。
先行して別れていった美遊と結花の二人との合流をするために。
自分はいい。例え暗闇の中であっても戦うことができる力がある。
そして探している二人もまた、多少の相手でどうにかできるわけではないとも思ってはいる。だが二人は自分と違い、戦士ではない。
もしもの時には守らねばならない存在には変わりないのだ。


そうして駆け抜けた先に、魔力を感じさせる何かの存在を感知した。
同時に、こちらに向けて呼びかける声を聞いた。

『セイバー様!!』
「ステッキですか、よかった。美遊と結花は!?」

声のした方に駆け寄ると、そこにいたのはカレイドステッキ・サファイアとその傍に倒れた美遊。
一瞬肝の冷える感覚を覚えたが、胸が上下している様子に気付きただ眠っているだけだろということに安堵する。

「美遊は…無事のようですね。結花は?」
『結花様は……』

問いかけに対し言葉を濁すサファイア。
その様子にふと目を美遊の周囲にやると、美遊の近くに積み上げられた灰の山があり、そして周囲の地面には白い羽毛が散らばっている。
純白のその羽根は、あの少女が羽ばたきを起こした際巻き上がっていたものと同じものに見えた。

「…まさか、結花は」
『…はい』

その反応で全てを悟るセイバー。

『それでセイバー様、他の皆様は』
「ゼロはどうにか退けることはできましたが、マリはもう一方の馬状の魔人により拉致され、Nという青年がそれを追っていきました。
 おそらくはタクミの下に向かったのではないかと。
 二人と合流後直ちに追跡を開始する予定でしたが…ここは一時態勢を立て直すべきですね」

美遊は未だ目を覚ましてはおらず、その負傷も決して軽くはない。
加えてサファイアの様子では結花の死もまだ知らないのだろう。知った時の彼女の精神状態も気がかりだ。
自分一人で追うことも考えたが、そうなれば意識のないままの美遊を一人で置いていくことになる。
一旦間桐邸の皆との合流を優先し美遊を預けた後追跡に入るべきだろう。

そう考えた時だった。
三度目の放送が始まる音が耳に届いたのは。




270 : Saver or Revenger ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/21(木) 00:47:47 5EVASYQA0


『セイバー様』
「ええ。少し合流を急いだ方がいいかもしれませんね」

放送が終わり、その内容に険しい顔を浮かべるセイバー。
色々と考えたいことはあったが、まずは放送によって呼ばれた死者。
セイバーにしてみれば色々と思うところのある名前が多い放送だったが、それは今は思考の隅に押しやる。


シロナ。
間桐邸でイリヤや鹿目まどか、Lと共に待機していたはずだった彼女の名が呼ばれた。
それはすなわち、4人のいたはずのあの屋敷で何かがあったということになる。
他の3人の名が呼ばれていないのは運よく生きているということであると願いたい。

園田真理。
先の戦いで木場勇治に連れ去られた者の名だ。
少なくとも悠長にしていたつもりはないが、間に合わなかったということになる。

放送の中で一つだけセイバーとサファイアが安堵したことがあるとするならばバーサーカーの名も呼ばれたことだろうか。
クロエ・フォン・アインツベルンとシロナのポケモン、ガブリアスの奮戦でも倒しきることのできなかった強大な力を持つサーヴァント。
聖剣を持たぬ今のセイバーではもし戦ったとして自身の勝利が見える相手ではない。
それだけに、その相手が落ち、これ以上あの脅威に晒される者はいないのだという事実には少しだけ気が楽になったようにも感じた。

「では美遊は私が」
『お願いしま――、あっ、少し待ってください。ちょっと通信が。
 これは、姉さんからのようです』

セイバーが美遊の身を抱え上げようとしたその時、サファイアがまるでバイブレータのように震わせ始めた。

聞くところによると、2本のカレイドステッキには様々な機能が備わっており、相互での通信機能もその一つだという。
元々はそのパスも切られていたため通信することはできない状態だったが、間桐邸にて合流した際に再度接続し直すことで連絡可能となったとか。


【あ、もしもし。サファイアちゃんですかー?】

聞こえてきた声は、サファイアの姉であるルビーの声そのものだ。
いつもであれば高いテンションで何か軽口を少しは口走ることもあるのだが、そんな様子は見せなかった。
つまり、先の放送はそういうことなのだろうとサファイアは推測する。



『姉さん、イリヤさん達はご無事ですか?』
【はい。イリヤさんもまどかさんもLさんも、みんなピンピンしてます。
 ただ、シロナさんが…】
『放送は聞いたわ。こっちは美遊様とセイバー様が一緒です。結花様は…放送の通りです』
【そう、でしたか。
 積もる話はありますけど、とりあえず差し当たっての連絡です。
 私達ちょっと前までは間桐邸にいたんですけど、バーサーカーの襲撃で全壊しちゃいまして】
「バーサーカーの…?!皆は無事なのですか?!」

思わずその襲撃者の名に声を上げてしまうセイバー。
間桐邸の4人で戦える者はイリヤだけ。それも襲撃者がバーサーカーとなればあまりにも荷が重い相手だ。

【ええ。どうにか撃破に成功しまして。
 それで今は何かあった時の取り決め通り、遊園地に移動ということで。
 巧さん達の方には一応連絡はしておいて、後はそっち側の皆さんにもということで連絡させてもらいましたー】
『分かったわ姉さん。遊園地ですね。一旦合流したいからすぐに向かいます』

プツリ、と回線が切れる。

気がかりなことは多いが、まずは合流が先決だ。
横たわった美遊の体を抱き上げるセイバー。

「ん…」
「ミユ?」
『美遊様!』

抱え上げられた際に体を揺らされた影響で身動ぎをし、同時に意識を取り戻す美遊。
サファイアが全魔力を回復に費やしたおかげで体のダメージ回復が意識を取り戻せるほどになったのだろう。


271 : Saver or Revenger ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/21(木) 00:48:49 5EVASYQA0

「サファイア…、セイバー…?」
「今は喋らなくていい。これから遊園地に向かいます。イリヤスフィール達もそこにいるということです」
「そう…、……結花さんは?」

サファイアとセイバーは顔を見合わせて鎮痛な表情を浮かべる。
その事実を告げた時の美遊の気持ちを察すれば答えには躊躇ってしまう。

『美遊様、…結花様は……』

言葉に迷いつつも答えようとしたその時だった。


三人の耳に小さな爆発音が届いた。

「!今の音は」
「サ、ファイア!」
『美遊様、まだ戦闘は無理です。ここはセイバー様に』

そのタイミングに心中で若干の感謝をしつつも、セイバーは美遊の体を背負い地を蹴って爆発音の方に向かって走り出した。




少し時間を戻す。

放送が行われて間もない頃の時間。

「………生きていましたか。鹿目まどか」

ポツリと一人呟く織莉子。

殺したはずの相手の名前が呼ばれなかった。
本来であれば焦るべきところなのだろうが、しかし何故かその事実に若干の安堵を感じている自分がいた。

「何を考えているのですか、私は」

叱責するように自分に喝を入れる織莉子。
ともあれ生きているのであれば一刻も早く探しに行かなくてはならない。

放送の内容には他に気を引く内容はなかった。

サカキ。
暁美ほむら。

目の前で自分に巻き込まれて死んでいった同行者と、その下手人の名に若干心を乱されるような気持ちを覚えながら。

「この先に誰かいるようね」

暗くなりかけた草原の先に何者かの存在を確認する。
魔力を持つものがいる様子であり、しかもその反応も見覚えがある。

あの黒い騎士か、美遊・エーデルフェルトか。
アリスという少女は方向的にないだろう。
しばらく進み、目を凝らすと二つの人影が見えた。

潜む場所も少ない以上、あまり接近すればこちらの存在に気付かれる恐れがある。
魔力を聴覚強化に使用し、会話の内容を聞き取る。


―――あ、もしもし。サファイアちゃんですかー?
―――姉さん、イリヤさん達はご無事ですか?

声は聞き覚えのないもの。美遊のものでも剣士のものでもない。
気配を殺し、ひたすら会話の内容を聞き取る。


272 : Saver or Revenger ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/21(木) 00:49:32 5EVASYQA0


―――はい。イリヤさんもまどかさんもLさんも、みんなピンピンしてます。

(…!鹿目まどか、やはり…)

どうやら会話をしている者は今、鹿目まどかを保護しており、彼女と共に行動をしているらしい。
おそらく声の片方は通信機器か何かによる連絡を取っているのだろう。

存在は確認した。だがまだどこにいるのかが掴めていない。
再度傍聴を続ける。

―――私達ちょっと前までは間桐邸にいたんですけど、バーサーカーの襲撃で全壊しちゃいまして
―――バーサーカーの…?!皆は無事なのですか?!

(この、声は…!)

あの時自分たちを襲った、そしておそらくはキリカの命を奪った張本人であろうあの黒騎士の声だ。
遠目であり服装も変わっていたが故に外見からそうと気付くことができなかったが、この声は間違いない。

(……落ち着きなさい織莉子、まだよ。それが私の目的ではないはず)

確かに目の前にはキリカの仇がいる。だが、今は私情よりも優先しなければならない使命がある。
逸る気持ちを、己の内に湧き上がる激情を抑えこむ。

――それで今は何かあった時の取り決め通り、遊園地に移動ということで。巧さん達の方には一応連絡はしておいて、後はそっち側の皆さんにもということで連絡させてもらいましたー。
―――分かったわ姉さん。遊園地ですね

(遊園地…!そこに鹿目まどかが…)

立ち上がり暗がりながらも目を凝らして地図を確認する。
ここを一エリア分北上した場所にある施設。

そこに鹿目まどかがいる。

居場所が分かった以上、ここに留まっている理由はない。
立ち上がり、自分の側面に水晶の球体を作り出す。

「そろそろね」

次の瞬間、その水晶が大きく吹き飛ぶ。

「っ、つぅ…!」

自分一人しかいなかったはずのこの場所で、顔を顰めて脛を抑える少女が一人。
アリス。ほむらの最期を見届けただろうこの少女がいずれ自分に追いついてくることは未来視で既に確認していた。
彼女が次にどの行動を取るかといった要素を視るのは間に合わないが、いつ追いついてくるかという時間を予知しておけば対策は可能だ。

「追いついてくる頃だろうとは思ってたから、先に対処させてもらっておいたわ」
「あんた、魔女化のこと知ってたでしょ…!知ってて私のこと焚き付けたでしょ!」
「その様子だと、殺し損ねたってことかしらね」
「やっぱり…!」

仲間を殺しかけたという事実に、それを煽った者への怒りが増しているという辺りだろうか。
だが相手をしている暇はない。

「悪いけど、今はあなたの相手をしてあげられる状況ではないのよ」

蹴りで脛を痛めた影響で、得意のあの超加速能力を発揮することが難しくなっている様子。
もたもたして復帰すればこの少女相手に逃げ切ることはできない。

「待ちなさい!」

それでも追いすがろうとしてくるアリスに向けて、静かに魔力を込める。
マジカルシャイン。魔力を閃光として放ち周囲を明るく照らす。
ノーモーションで放たれた攻撃に反応が遅れたアリスは体を焼かれるような感覚と共にそのまばゆい光に目を背け。

その感覚に、ほむらの最後の様子を思い出す。
全身に火傷のような傷を負ったあの体。その原因がこの一撃なのだとしたら。

(これは、本気の一撃じゃない――!)

その気になればこの体を光の生み出す熱で焼くことも可能だろう。
しかしそれをしないのはおそらくこれがあくまでも足止めでしかないから。
逆に言えば、これは足止め程度。


273 : Saver or Revenger ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/21(木) 00:50:32 5EVASYQA0
一歩踏み込めば、まだ手は届く。

眩しさに閉じた瞳で織莉子を捉えんと踏み出そうとして。

目を閉じていたが故に気付かなかった、織莉子の作り出した水晶が足元で爆発した。

「ぐっ…!」

マジカルシャインの時と同じく、そう魔力を込めていなかったせいかダメージ自体はほとんどない。
だが、爆発音と衝撃で動きを止めてしまい、さらに周囲を舞う煙幕がおぼつかない視界を更に遮り織莉子を見失ってしまった。

「どっちに行った…!?」

周囲を見回すが、暗くなりかけている風景もあり位置を捉えることができない。
もし懐中電灯などを灯していれば分かるのだろうが、そんな親切な相手でもないだろう。
ギアスを使って追うにしても、位置が分からなければ虱潰しにしかならない。


「大丈夫ですか?!今の音は一体…」

そんな時、今の水晶が爆発した音に引かれたのか声をかけてくる者の存在に気付いた。
小学生くらいの少女を背負った金髪の少女。年は自分とそう変わらないくらいに見える。

『今の爆発には魔力反応がありましたが、あなたが引き起こしたものですか?』

六芒星型のような模様の入った浮遊物が問いかけてくる。
驚かないでもないが、今はそのような場合でもなかった。

「美国織莉子っていう魔法少女よ。ちょっと意地の悪いことしたものだから問い詰めてやろうと思ったんだけど」
『彼女がここにいたのですか!?』
「そうよ。だけど全然相手にせずにどこかに行ってしまったみたいだけど」

静かに答えるアリスと対照的に、浮遊物と金髪の少女は慌てている様子だった。


「あなた達の通信、聞かれていた可能性は?」
『分かりません』
「急ぎましょう。もしかすると鹿目まどかの命が危ない」
「セイバー…、行って。私は、大丈夫だから…」
「ちょっと待って、どういうこと?ていうかあなた達鹿目まどかの居場所、知ってるの?」

立ち上がる少女達の話についていくことができていないアリスは問い詰める。
鹿目まどか。
その名はあの子の口から何度も聞いた名前だ。


「あなたは、鹿目まどかの知り合いですか?」
「知り合い…ってわけじゃないわ。
 私はアリス。鹿目まどかを守ろうとした子の、仲間だった者よ」



『ふぅ、とりあえずサファイアちゃん達の無事は確認できましたが…』

通信が終わった後の遊園地の入り口前。

あの後どうにかこの場所まで移動してきた3人は、放送を聞き。
そして名を呼ばれたもの、呼ばれなかったもののそれぞれの無事を確かめるべくサファイアへと連絡を取った。

「マミさん…、ほむらちゃん…!」

放送により一番打ちひしがれているのはまどかだった。

巴マミ、暁美ほむら。
共に彼女の友人、仲間の名前だ。
特に巴マミは先に割り込んできたあの謎の放送では姿を確認することができた。なのに名を呼ばれたということは。
彼女はあの間桐桜のような闇の存在に殺されたということになる。

まだシロナの死を乗り越えられていないまどかの心には、二人の死が重く突き刺さる。

イリヤは美遊やセイバー、巧の無事に安堵するが結花の死を聞き小さくない不安を感じていた。
だがルビーの通信によって美遊達の安否の確認はできたことに安堵し、悲しむまどかを慰めていた。

(今回の放送、何故アカギが行わなかった?あの声は誰だ?)

そんな二人とは対照的に、Lは放送の内容を冷静に分析していた。
これまではアカギによって行われていた放送が急に別の者によって行われた。
それが意味するものは何か。

あの声の主が誰なのかを知る者と会うことができれば、この殺し合いの目的、仕組みに近づくことができる。
そしてもう一つ。アカギには今回はこれまで放送を行ってきたということを捨てる必要がある何かがあったということだ。
シロナの話から考えれば、アカギは気まぐれでそのようなことを起こす者ではないはず。

(しかし病院に向かった方の安否は確認できましたが、しかし乾さん達政庁に向かった方たちの連絡は不明ですね)

現時点で死んではいないことは確証できるものの、こちらには無事を確認する手段がない。
もしかすれば、あの放送を見てさくらTVビルに向かった可能性もあるが、だからといってどうすることもできない。


274 : Saver or Revenger ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/21(木) 00:52:16 5EVASYQA0
(長田さん、シロナさん、そして、夜神さん…)

少しの間だが交流のあった少女達、そして共にキラを追い詰めた、ある意味では尊敬すらもしていた人。
呼ばれることを知っていた者が二人、そしてここで呼ばれて知った者を一人。
静かに瞳を閉じて黙想するL。


その時だった。

『おや?サファイアちゃんから連絡?』

振動するルビーの体。
反応すると、備え付けられたスピーカーから声が響く。

【姉さん!】
『サファイアちゃん、どうしたんですか?』
【そちらに美国織莉子が向かった可能性があります!まどか様を、早く!】

まどかの体がビクリ、と震える。

美国織莉子。まどかを殺そうとした魔法少女の名前だ。
こちらに向かっているということはまどかの位置を知って向かってきていると見ていいのだろう。

【私達もすぐにそちらに向かいます!それまでどうにか持ちこたえて下さい!】
『分かりました!サファイアちゃん達も無茶はせずに!』

移動に専念するためか、通話はその事実だけを告げて切られる。

「あの人が…?」

まどかの震える体は止まらない。
自分の存在を否定され、命を狙われた。その事実はまどかの体につけたそれ以上に大きな傷を心に残している。

「まどかさん。大丈夫だよ。私達がそんなことさせないから」
「でも…、私は。
 イリヤちゃん、Lさん、私を置いていってください。私なんかのために、二人が巻き込まれるのは…」
「まどかさん」

Lが猫背の体を起こしてまどかの下へと歩き、その肩に手を置く。

「あなたがどうして彼女から命を狙われているのか、それは美遊さんから聞いています」
「だったら――」
「あなたが死にたいと思うように、私も美遊さんもそんなあなたのことを守りたいと思っているからこそやっていることです。
 守らなければいけないという使命感とか責任とか、そういうものではなく守りたいからあなたのことを守っているんです」

まどかの脳裏によぎったのは、自分を守って命を落としたシロナの言葉。

『君と一緒にいるみんなも、君の親しい人たちもさらに繋がる人も、皆世界に望まれて生まれてきたと、私は思うの。
 例えあなたがどんな存在になる人だとしても…』

「私自身確かに人の命を軽く見て扱ってきたという自覚もあります。
 ですが、いえ、だからこそ思うのです。人を裁くのは人であってはならないものだと。
 例えあなたが世界に害を及ぼす存在であっても、その運命を一人の人間の一存で決められていいものではないと」

立ち上がったLは、イリヤの方に向き直る。

「イリヤさん、美国織莉子は私が説得してみましょう。ですがもし彼女が強引な実力行使に出た場合はよろしくお願いします」
「分かりました」

ルビーを構えて転身するイリヤ。
未来予知を持つ相手だ。油断することはできない。

「まどかさん、私の後ろから絶対に出てこないでください。
 お願い、…でもし無理でしたらそうですね。言い方はよくはないですが、命令、という形にさせてもらいます。
 少なくとも私の目の届く場所ではあなたを死なせることは何があっても許容しません。例えまどかさん自身の選択であっても」





275 : Saver or Revenger ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/21(木) 00:52:33 5EVASYQA0

それから数分経過した辺りだろうか。

『魔力反応です。さやかさんのものでも美遊さんのものでもありません。
 きっと美国織莉子のものかと』

足のホルダーに差されたカードに手をやろうとし、しかしそれらは先のバーサーカーとの戦いで全て使ったものばかりだったことに気付く。
今織莉子と戦いになった場合、この身とルビーの力のみで戦わねばならない。


「………」

やがて姿を表したのは、白を基調としたドレスを身に纏った少女。
なんとなくではあるが、イリヤが思い描いている魔法少女の姿としてはかなりそれらしい衣装に見えた。

「少し意外でした。まさか正面から来られるとは」
「成功率の低い不意打ちなどリスクしかないですもの。
 それならば、あなた方の行動の愚かしさを身を持って理解してもらった方がいいでしょう」

Lは真っ直ぐ、こちらを見据える織莉子の目を見る。
迷っている様子はない。確たる意志でまどかを殺そうとしており、それを間違いとは思っていないのだろう。

「彼女を守ることが、愚かなことだと?」
「ええ。その少女はいずれ世界に災厄をもたらす者となる。変化してしまえば止める術はありません。
 その前に、私は彼女を殺すつもりです。
 あなた達がそれを知っているのかは知りませんが」
「いえ、話は美遊さんから聞いています」

何のこともないようにさらっと言ってのけるLに織莉子は目を細める。


「罪を理解して尚、抗うというのですか?」
「まどかさんの命を守ることを罪だとは思っていませんから」

水晶を作り出しLに向けて射出する織莉子。
警告の意味であり致命傷を与えるものではない様子だが、それでもLを傷つける一撃には違いない。
咄嗟にイリヤはLの前に出て障壁を展開した。

弾き飛ばされた水晶は織莉子の下へと戻り消滅する。

「――ちっ」

一瞬僅かに視線を落とし舌打ちする織莉子。
一方でイリヤもふとその様子に違和感を感じていた。

(今の一撃って、織莉子さんの本気?)

イリヤも反射的な行動であったため障壁を強く作り出せたような気はしなかった。
だが、それでも美遊が戦ったと言っていた相手、その程度の一撃で弾けるような攻撃をしてくるだろうか。
そもそも彼女には未来視があるはず。防がれる一撃を放ってくるとは考えづらい。


(できれば戦闘に入らぬまま目的を達することができればよかったのですが)

その一方、織莉子は自分の芳しくない状態に苛立ちを覚えていた。
未来視、水晶による攻撃、魔力による身体強化、そしてあの時習得したマジカルシャイン。
手数は少なくはない。だが問題はそれを使う魔力だ。

美遊・エーデルフェルト、そして暁美ほむらとの戦い。
幾度も続いた激戦の成果、それによって消耗させられた魔力に対し、得られたグリーフシードも僅かであった。
未来予知も可能な限り封じている。あまり無駄な魔力を使うことはできない。
せめて鹿目まどかをこの手で殺すまでは。


「最後の警告よ。鹿目まどかをこちらに引き渡しなさい」
「断った場合はどうなるのでしょうか?」
「力づくで行かせてもらうわ。もちろん、あなた達の命も保証はしません」


276 : Saver or Revenger ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/21(木) 00:53:49 5EVASYQA0
次の瞬間、織莉子から強大な威圧感が発せられた。
織莉子にしてみれば精一杯の虚勢、しかしそれでも相手に自分の消耗を知らせないための小さな希望。

(すごい…プレッシャー…)

その重圧にあてられたイリヤの背中に冷や汗が流れる。

(…だけど…)

だとしても、イリヤは知っている。目前に迫った本物の死の恐怖を。
全てを打ち崩し破壊するほどの力を備えた、自分達にしてみれば恐怖の権化そのもののようでもあった英雄達の放っていたそれを。

(バーサーカーやセイバーさん達のに比べたら、このくらい…!)

増してや、今は守らなければならない人たちもいる。
命を狙われた人がいるこの場所で、唯一戦う力を持った自分が臆するわけにはいかない。

小さく、しかし深く息をつく。
心を落ち着かせるように、そして相手に気づかれないように深呼吸をし。
やがてその重圧からくる緊張は収まっていた。

その様子を見ていた織莉子は、これ以上の話し合いは無駄だと判断したのか、バッグに手を突っ込み。

身構えたイリヤ達の前で、赤と白のボールを投げた。
中から現れたのは、紫色の肌と鋭い角を持った、毒々しいイメージを感じさせる怪獣。

おそらくポケモンの一種だろう。

「ニドキング、ステルスロックを」

指示と同時に怪獣、ニドキングは宙に向けて大量の岩の破片を放つ。

身構えた皆だったがそれはこちらに襲い来ることはなく、ただ浮遊し続けるのみ。
一瞬考えたイリヤとLだったが、すぐにその狙いを察する。逃げ場を封じたのだ。
遊園地の街灯を反射して光る岩片はこちらの周囲を覆っている。後ろも横も、もし通ろうとすればその岩が体に容赦なく突き刺さるだろう。
ここから抜け出ようとすれば、織莉子のいる前を突破するしかない。

「やはり交渉は決裂ですか。すみませんイリヤさん」
「いえ、大丈夫です。二人とも、私から離れないでください」

ステッキを構える。
二人、特にまどかから離れることなく二人の身を守る。
だけど目の前の人も殺したくはない。

その全てが果たしてできるだろうか?
いや、やるのだ。自分がやらなければならないこと。


再度作り出された複数の水晶に光の刃が生えこちらに向く。
対するイリヤも、ステッキの先端に魔力の刃を作り。

水晶が一斉にこちらへと飛来した。


277 : Saver or Revenger ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/21(木) 00:54:30 5EVASYQA0



「!!!」



その時だった。
織莉子の顔が見開かれたと同時に、横から暴風が吹き荒び。
水晶と宙に撒かれたステルスロックを吹き飛ばしていく。

不意のそれに一瞬思わず目を閉じてしまうイリヤ達。
一方で織莉子は、この現象を予期していたかのように冷静に、しかし表情を若干歪めながら呟く。

「…時間をかけすぎましたか……。失敗ですね」
「全く、やってくれるじゃないの。美国織莉子。
 そこのポケモンを下げなさい」

いつの間にか織莉子の背後には銃口を構えた一人の少女が立っている。
ニドキングに指示を出そうとした織莉子だったが、

「ポチャ!」

その前には水色のペンギンのような生き物が立ってニドキングを牽制している。
だがそのニドキングは別方向に向けて警戒するかのように気をささくれ立たせていた。

何を警戒していたのか、答えはすぐに追いついてきた。

「無事ですか、まどか、イリヤスフィール!」

風の向こうから、その背に美遊を背負ったセイバーが姿を表す。
自分たちを襲った時と比べればその禍々しい魔力は感じられない。しかしその顔は決して忘れられるものではない。

「美遊!セイバー!」

その顔に安堵の笑みを浮かべる皆の様子を見て、彼女がこの場にいる面々の仲間であることを察する。
そしてその時心の内には強い激情が生まれた。

さっきはまだ耐えられたこと。しかし今は。
使命を果たそうとしている自分を邪魔する者達の中にあの女が、キリカの仇がいる。
それも自分の行ってきたことを棚に上げて仲間を作っているかのようなその様子には溢れ出る感情を抑えきれなかった。

「久しぶりね黒い剣士さん。いいえ、今は随分とおとなしくなったようだけど。
 私を遅い、キリカを殺したあの時の気迫はどこに行ったのかしらね?」
「…美国織莉子か」

イリヤの傍に駆け寄り、美遊の体を下ろすセイバー。

「美遊!」
「命に別状はありません。彼女のことはお願いします。私は彼女と話をしてきますから」

身に纏っていた鎧を解除して織莉子に向き直る。
武装解除は戦う意志はないということを伝えたいのだろう。

織莉子の後ろの少女、アリスは警戒を続けるように銃口を下ろすことはしない。

「私が襲いかかったら後ろの子が撃つだろうとでも思っているのかしら?
 随分と弱気になったのですね」
「呉キリカのことを、恨んでいるのですか?」
「恨んでいないと思っているの?」

セイバーを見る織莉子の瞳が鋭く釣り上がる。

キリカのことにはセイバーにも言い分がないわけではない。
元々先に仕掛けてきたのは向こうだった。
だが、もし彼女が仕掛けて来なければ自分は見逃しただろうかと考えれば言い訳にもならないだろう。

「私達にはあれだけの敵意を向けておきながら自分の都合がよくなればそうやって仲間を作って正義の味方気取りかしら?」

冷静であるよう装おうとして、その激情の捌け口にセイバーを煽るような言葉を投げかけているのはその彼女の様子から分かる。そしてその怒りもある意味では正当なものだ。
だが、少なくとも今それで怒りに任せて戦いを仕掛けることを避ける程度には分別があるのは幸運だろう。

「…あなたが鹿目まどかの命を何故狙っているのかは分かりません。
 ですが彼女が命を奪われるべき存在とは思っていません」

Lとイリヤの後ろで縮こまっている少女。
彼女が何をしたのか、あるいはすることになるのかは分からない。
自分が入り込むべきことではないのかもしれない。だが、彼女を進んで見捨てることもまた違うと感じている。

「もし呉キリカの件の贖罪として私があなたに命を差し出すのであれば、鹿目まどかの命を狙うことを止めてはくれませんか?」


278 : Saver or Revenger ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/21(木) 00:55:43 5EVASYQA0
身勝手なことを言っている自覚はある。あるいは相手の激情を余計に煽ってしまうかもしれない。
だが、例え泥に飲まれ心を支配されていた時の罪であっても、それから逃げることをセイバー自身良しとはしなかった。

衛宮士郎のことのように。


織莉子の返答は早く、刃の備えられた水晶は一直線にセイバーに向けて飛ばされた。
敢えてそれを受けるのも贖罪かと考えたセイバーだったが、それは反射的に前に飛び出してきたイリヤが張った障壁によって防がれた。

「お前に…!そんな選択を私に投げる資格があると思っているの!?」

その攻撃を防いだイリヤも、その水晶の威力に驚いていた。
障壁の強さは同じほどのものだが、先の一撃は弾き返すことができた。
しかし今度のそれは軌道こそ逸らしたとはいえ障壁を打ち砕き、それでも勢いは止まらず50cmほど横のコンクリートの地面に突き刺さっていた。

「…イリヤスフィール」
「お兄ちゃんのこと、まだ許したってわけじゃないのは私だって同じなんだから。
 だから勝手なこと言って死のうとしないで」

セイバーの前に出てそう告げるイリヤ。
そんな二人に向けて次弾を放とうとした時、背後のアリスが織莉子の体を取り抑えた。

一息ついて、Lはセイバーの前に立ち、織莉子に語りかける。

「織莉子さん、少なくとも私はあなたのことをどうこうするつもりはありません。
 まどかさんを殺させる気がないのは変わりませんが、そのことも含めて私は情報が欲しいと思っています。
 ですから、少し話し合う機会を設けてはいただけないですか?」
「………」

アリスの拘束を解こうとするのを止め、織莉子は周囲を見る。
Lの言葉を受け入れるかどうかを別としても、周囲には戦える者が3人。対してこちらは魔力が心もとない状態。
ニドキングとて、ほむらとの戦いのダメージが残っている。無理をさせても勝てる可能性は低い。

油断を誘い隙を伺うか、グリーフシードやそれに準ずるものがあるかどうかを詮索するか。
だが、その前に確認だけはしなければならないことがあった。

「一つだけ聞かせなさい。あなた達の下に、インキュベーター――赤い瞳の白い獣は現れたかしら?」
「いえ、私の知る範囲では会ったという人は知りません。まどかさんも同じでしょう」

インキュベーターは現れてはいない。
つまりは鹿目まどかは魔法少女の存在を知って尚も、まだ接触を図ろうとはしていないということだ。
ならば、まだ猶予はあると考えてもいいだろう。

「分かりました。話だけは聞いてあげましょう。
 最も、私は自分を曲げるつもりはありませんのでそれだけは認識しておいてください」

ニドキングをボールに戻し、魔法少女姿を解除する。
同時にアリスの拘束も解けて体に自由が戻った。

アリスは、織莉子から目を外して後ろにいる桃色の髪の少女に声をかける。

「あなたが鹿目まどか、ね」
「あなたは…?」
「私は、アリス。
 暁美ほむらの、そうね、友人だった者よ」

自分の目の前で死んでいった黒髪の少女に想いを馳せつつ。
アリスはそう、短く自己紹介をした。


279 : Saver or Revenger ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/21(木) 00:56:00 5EVASYQA0


そんな皆の下から少し離れた、遊園地の建物の上。

薄暗い風景を遊園地の灯りが照らす中、7人の姿を見つめる小さな影があった。


にゃーお

黒い影は、ただ一言、そう喉を鳴らすように声を発した後。
建物を飛び降りて、集まった者達の下へと駆けていった。


【D-5/遊園地/一日目 夜】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(中)、腹部、胸部にダメージ(小・回復中)
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター)@プリズマ☆イリヤ(使用制限中)、クラスカード(アサシン)@プリズマ☆イリヤ(使用制限中)、
    クラスカード(アーチャー)@プリズマ☆イリヤ(使用制限中)、破戒すべき全ての符(投影)
[思考・状況]
基本:美遊や皆と共に絶対に帰る
1:もう逃げない。皆で帰れるように全力を尽くす
2:間桐桜…、お兄ちゃんの恋人…
3:美遊、よかった…
4:情報交換の後どうするかを考える
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
※ルビーは、衛宮士郎とアーチャーの英霊は同一存在である可能性があると推測しています。
※ミュウツーのテレパシーを通して、バーサーカーの記憶からFate/stay night本編の自分のことを知識として知りました


【L@デスノート(映画)】
[状態]:右の掌の表面が灰化、疲労(中)
[装備]:ワルサーP38(5/8)@現実、
[道具]:基本支給品、クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ、ブローニングハイパワー(13/13)、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、
シャルロッテ印のお菓子詰め合わせ袋、お菓子数点(きのこの山他)、トランシーバー(電池切れ)@現実 、ピーピーリカバー×1、薬品、クロの矢(血塗れ)
[思考・状況]
基本:この事件を止めるべく、アカギを逮捕する
1:美国織莉子との情報交換、加えて可能な限りの説得。
2:月がどんな状態であろうが組む。一時休戦。
[備考]
※参戦時期は、後編の月死亡直後からです。
※北崎のフルネームを知りました。
※北崎から村上、木場、巧の名前を聞きました。
※メロからこれまでの経緯、そしてDEATH NOTE(漫画)世界の情報を得ました。しかしニア、メロがLの後継者であることは聞かされていません
※Fate/stay night世界における魔術、様々な概念について、大まかに把握しました。しかし詳細までは理解しきれていないかもしれません。


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み、安定、しかし激しい動きは開く危険有り)、精神的な疲弊
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
1:さやかちゃんが心配
[備考]
※最終ループ時間軸における、杏子自爆〜ワルプルギスの夜出現の間からの参戦
※自分の知り合いが違う人物である可能性を聞きました
※美遊と情報交換をし、バトルロワイヤル開始からこれまでの出来事と遭遇者、「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」の世界の情報を得ました。(後者は難しい話はおそらく理解できていません)
しかし長田結花がオルフェノクであることは知らされていないため、美遊の探す人物が草加の戦ってる(であろう)オルフェノクであることには気付いていません。


【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、ネモと一体化、喪失感
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(9+1発)@現実、ポッチャマ@ポケットモンスター 、双眼鏡、 あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。
1:ナナリーの騎士としてあり続ける
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:鹿目まどかは守る。
4:ほむら……
5:美国織莉子を警戒。
最終目的:『儀式』からの脱出、その後可能であるならアカギから願いを叶えるという力を奪ってナナリーを生き返らせる
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※アリスのギアスにかかった制限はネモと同化したことである程度緩和されています。
魔導器『コードギアス』が呼び出せるかどうかは現状不明です。


280 : Saver or Revenger ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/21(木) 00:56:13 5EVASYQA0

【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:ソウルジェムの穢れ(7割)、魔法少女姿、疲労(大)、ダメージ(小)、前進に火傷、肩や脇腹に傷
[装備]:グリーフシード×2(濁り:満タン)、砕けたソウルジェム(キリカ、まどかの血に染まっている)、モンスターボール(サカキのサイドンwith進化の輝石・ダメージ(大))@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、ひでんマシン3(なみのり)
[思考・状況]
基本:何としても生き残り、自分の使命を果たす。
1:グリーフシードを探す。それまでは可能な限り戦闘は避ける。
2:鹿目まどかを抹殺する隙を伺う。
3:そのためにまずはL達と情報交換。魔力回復手段も探したい。
4:優先するのは自分の使命。そのために必要な手は選ばない。しかし使命を果たした後のことも考えておく
5:キリカを殺した者(セイバー)を必ず討つ。そのために必要となる力を集める。
6:ポケモン、オルフェノクに詳しい人物から詳しく情報を聞き出す。
7:美遊・エーデルフェルトの在り方に憤り。もし次にあったら―――――?
[備考]
※参加時期は第4話終了直後。キリカの傷を治す前
※ポケモン、オルフェノクについて少し知りました。
※ポケモン城の一階と地下の入り口付近を調査しました。
※キュゥべえが協力していることはないと考えていましたが、少し懐疑的になっています。
※マジカルシャインを習得しました。技の使用には魔力を消費します。
※メロと情報交換をしました


【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、魔力消耗(大)、全身に火傷(回復中)
[装備]:カレイドステッキサファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、クラスカード(ライダー)@Fate/ kaleid liner プリズマ☆イリヤ(使用制限中)、白い羽根
[思考・状況]
基本:イリヤや皆と共に絶対に帰る
1:イリヤ…、よかった…
2:セイバーや真理達と合流する。
3:白い魔法少女(織莉子)のあり方は認められない
4:『オルフェノク』には気をつける(現状の対象は木場勇治、村上峡児)
5:まどかの世界の魔法少女を調べる
6:結花さんは…?
[備考]
※参戦時期はツヴァイ!の特別編以降
※カレイドステッキサファイアはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません

【セイバー@Fate/stay night】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、魔力消費(大)、胸に打撲(大)
[装備]:スペツナズナイフ@現実
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:シロウの願いを継ぎ、桜とイリヤスフィールを守る
1:美国織莉子に対処。
2:間桐桜を探す
3:約束された勝利の剣を探したい
4:ゼロとはいずれ決着をつけ、全て遠き理想郷も取り返す


281 : ◆Z9iNYeY9a2 :2016/07/21(木) 00:56:27 5EVASYQA0
投下終了です


282 : 名無しさん :2016/07/21(木) 01:13:42 iNHDmUe60
投下乙です

死人が出るかとヒヤヒヤしてたが、何とか交渉に持ち込めたか
こっからはLの腕の見せ所だな
ゼロかスザクならマリアンヌが主催に居るって気付けるかも


283 : 名無しさん :2016/07/22(金) 21:52:34 qs01wto20
投下乙です!
そりゃ親友殺した相手が平然と対主催者やってりゃ織莉子でもキレる


284 : 名無しさん :2016/07/22(金) 22:00:58 HoGQq2FY0
投下乙です

セイバー対主催化で頼もしく思ってたけど、オルタ状態での行いが響いてきたなぁ
織莉子が話し合いに応じてくれる人物なのが助かった
Lさん頑張れ


285 : ◆Z9iNYeY9a2 :2016/08/04(木) 00:14:53 SYmGvfIk0
事後報告となりますが一応
「Saver or Revenger」において織莉子がニドキングを呼び出していましたが、ニドキングは前回の話において死亡しており現在手持ちにいたのはサイドンであることを忘れていました
よってニドキングの登場箇所をwikiにおいて削除、それに合わせて文章を少し修正しておきました


286 : 名無しさん :2016/08/04(木) 00:53:20 Q5QWe7xg0
修正乙です


287 : ◆Z9iNYeY9a2 :2016/08/11(木) 23:47:55 p/6xWP4o0
投下します


288 : INVASION OF VENOM ◆Z9iNYeY9a2 :2016/08/11(木) 23:49:33 p/6xWP4o0
「つ…っ!!」

体の傷に当てたアルコール臭のする脱脂綿が染み、思わず息を呑む草加。
大した傷というわけではないが、処置を怠ればこれからの戦いに支障をきたすものだ。あまり放置しておきたいものではない。
戦った場所が病院であったのも幸いだったかもしれない。

ガーゼを当ててテーピングをし、包帯で軽く縛って処置を終わりとする。
本来であれば縫合をした方が安全なのかもしれないが、そんな技術は流石に持ってはいない。


時間を見ると、そろそろ放送が始まる時間だということが分かる。

「長田結花、殺し損ねてなければいいんだが」

致命傷は与えたとは思うが見たわけではない。
もし呼ばれなければ討ち漏らしたということになる。

「せっかくなら、乾や木場、村上達も呼ばれてくれていれば助かるんだが」

皆オルフェノクである者達。自分の知らないところで勝手にくたばってくれていれば、今後の手間が省ける。
唯一北崎のことは可能であれば自分でケリをつけたいという願望もあったためその三人と比べれば生きていてくれたほうがありがたいという想いがあった。
海堂直也に関しては、個人としては特に興味も沸いていないがオルフェノクであるという一点から言えば扱いは変わらない。

この時、草加は真理のことは頭の内から除外して考えていた。
無意識か、意識的にかは分からない。あるいは戦いで気絶した影響から一時的に記憶から抜け落ちていたのかもしれない。
あの光景は夢だったのかもしれない、と。

しかし、放送が告げた名は草加に対しどこまでも非情な現実を突き付けるものだった。




長田結花の名前が呼ばれた時、その死に一息ついて殺し損ねたていないことに安堵し。
北崎の名前が呼ばれた時は流星塾の、自分自身の仇として殺せなかったことに若干の悔しさを感じ。

そして、園田真理の名が呼ばれた時、草加の思考が停止した。

そこから先、放送で呼ばれた名は覚えていない。
禁止エリアは先に呼ばれたため聞き逃さなかったことは幸いだろう。


289 : INVASION OF VENOM ◆Z9iNYeY9a2 :2016/08/11(木) 23:50:23 p/6xWP4o0

(真理)

何としても守りたかった存在。彼女を守ることが生きる目的だった。

だが、彼女はオルフェノクへと変貌してしまった。滅ぼさなければならない化け物に。
その時自分が何をするべきなのかが分からなくなってしまった。
相手は守るべきもの、だがそれが倒さねばならないものに変わった時、真理を殺さねばならないのか。

これまで考えたことなどなかった。
それでも実際に相対した時、復讐心と使命感、そして何より真理という存在をあの化け物として穢したままにしておくことを許容できず。
心を割る思いで、真理に刃を向けた。

結局それはなされなかったものの、別のオルフェノクを見つけたことで、それを倒すことで一時的な逃避に走っていた。
その結果がこれだ。

真理を守れず。
この手で倒すこともできず。

「あああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

やりきれない思いを吐き出すように絶叫し、カイザギアを地面へと叩きつける。

「俺は、何のために…、真理…、真理…!!」

後悔と怒り、オルフェノクに対する恨み。
一方で真理を失ったことに対する悲しみと、己の手で真理を殺さずに済んだ事実へのほんの僅かな安堵とそれを感じている己への強い嫌悪。
それらが入り混じる感情の中で草加は膝をついて崩れ落ちる。

壁を殴り、地面へと拳を叩きつける。
手の皮が破れ血が滲み出すも、その痛みが却って草加の心を落ち着けているようにも感じられていた。

そんな時だった。

「草加雅人さん、ですか?」

草加の後ろの扉から、処置室の内側へと声をかける者がいた。
呼吸を飲み込み、心を落ち着かせて振り返る。

「…あんたは、ゲーチスか」
「ええ。ご無事…とはあまり言えないようですが。
 こちらもあの時オルフェノクに襲われて以降、少し怪我を負ってしまいまして、つい今まで意識を失っていまして。いやはやお恥ずかしい限り」

と、ゲーチスは体につけられた傷を草加へと見せる。
肩からの切り傷。出血は止まっているものの、あまり見られたようなものではなかった。

「気にするな。相手は化け物だからな。
 …それより、こっちこそ見苦しいところを見せた」

人目についたという事実に一旦取り繕うことができる程度の冷静さを取り戻すことができた草加は、内心の激情を抑え込んで対応する。


「いえいえ、人の死が悲しいのは当然のこと、それに悲しむことに恥ずかしさなどありません。よろしければ私の傷も処置をしておきたいのですが。
 それと、私が眠ってしまっていた間にあった出来事、あとよろしければ、あなたがそれほどまでに荒れておられた理由についてもお聞かせいただけませんか?
 幸い放送には間に合ったのですが、それ以前のことがめっきりでして」
「…、分かった。こっちも放送の一部を聞き逃してしまった。それを一応教えてくれないか?」

そう言ってゲーチスを招き入れた草加は、薬剤の置かれた棚を漁りながら背を向けた。
そのゲーチスの表情に浮かぶ、不気味な笑みに気づかぬままに。




290 : INVASION OF VENOM ◆Z9iNYeY9a2 :2016/08/11(木) 23:51:07 p/6xWP4o0


「…そうですか。それは大変でしたね…」

椅子に座り傷に包帯を巻きながら、草加の告げた話に同情するような声を上げるゲーチス。
愛する者の死、そしてそれにオルフェノクが関わっているということ、一人のオルフェノクを死に追いやったこと。
特に隠す理由も感じられなかった部分はありのまま全て話していた。

真理のことについても、本来ならば言うべきではなかったのかもしれないが誰かに話すことで気を楽にしたいという思いがあったのだろう。

「…ああ、俺が弱いせいで、不甲斐ないせいで真理は……。もっとオルフェノクを殺すための力があったら、こんなことには…」
「………」

頭を抱えるように肘を机の上につく草加。
そんな草加に、ゲーチスは優しく言葉をかけながら手を肩におく。

「もう遅いかもしれませんが、それでもまだ間に合うかもしれないですよ?」
「…どういう、意味だ?」
「アカギの言葉を思い出してみてください。生き残った者にはどのような願いをも叶える、と。
 つまり、生き残ることさえできるならば真理さんを生き返らせることもできるのではありませんか?」
「それ、は…」

それを聞いて草加の脳裏によぎるのは、かつて真理が死んだ時のこと。
澤田の手にかかった真理は、しかし乾巧の行動によってスマートブレインの力添えを受けることに成功、真理を生き返らせることができた。

「その一縷の望みにかけてみるというのも、いいかもしれないですよ?」
「そのために、他の奴らを皆殺しにしろと?」
「強制はしませんよ。選択するのはあなたです」
「…あんたは、殺す側の人間なのか?」
「実を言うと私自身身の振り方を考えていたところでして。そんな時にあなたに出会えました。
 まだ決めかねているというところですが、もし協力していただけるならば、私も万全のサポートを致しますし、あなたにより強力な力をお貸しすることも可能ですよ」

そういって手を差し伸べてくるゲーチス。
それを取らず、ゲーチスの表情を草加はじっと見つめていた。

「分からないんだ、俺は、それでいいのか…」
「迷っておられる、というところでしょうか。
 では一つ確認を取らせていただきたい。あなたはこの殺し合いに連れてこられて以降、園田真理に代わるほどの者に会えましたか?あるいは彼女に並ぶほどの仲間がいると?」
「……」

鹿目まどか、仮面の男ゼロ、Lという探偵や美国織莉子達。
草加自身が乾巧の時のように心中の闇を見破られることがないようにあまり深く付き合ってきたわけではない者達ばかりだった。

そんな者達が真理と釣り合うかと言われればNoだ。


291 : INVASION OF VENOM ◆Z9iNYeY9a2 :2016/08/11(木) 23:52:18 p/6xWP4o0
元の世界の知り合いといえばもはや乾巧、木場勇治、村上峡児。
皆殺さねばならない相手でしかない。

どちらにしても、生かしておく者達ではない。

「確かに…俺にとっては真理が全てだ。それに代わるやつなどいない」
「では、簡単ではありませんか」

と、ゲーチスは声を潜ませて草加の耳元に口を寄せて囁く。

「何、あなたは思い切りのある人間だ。彼女を生き返らせるために切り捨てることに罪悪感を持つような弱い人間ではないでしょう?」
「………」

その言葉を聞いて、草加の心の揺れが収まった。
不安定にも見えた表情に一つの覚悟が確認できたゲーチスは、ほくそ笑みながら一歩下がり。


「そう、だな。答えは――――」

そう言って草加は、ゲーチスを振りほどくように後ろに下がり。
警戒心も露わにその手のカイザフォンを構えた。

「…どうなさったのですか?」
「気にはなっていたんだよ。さっき会った時は情報交換くらいしか話してこなかったくせに、今度は妙に俺のこと知りたがるくらいに色々聞いてくるのが」




草加雅人。
彼は様々な嘘や策略をもって人を陥れようとすることがある。
乾巧や木場勇治に対して行ってきたそれらのように。

だが、そこには一つ、草加雅人を成す要素として起因するものがあった。

草加雅人は、子供時代は体が弱く、真理に守られるほどに弱々しい存在だった。
しかしその思い出も苦々しいものとすることはなくあくまでも青春の一ページとして収めている。
決していい思い出ではなかったはずのそれを受け入れられたのは何故か。それは彼自身の成長、変化へと繋がり、克服されたものであるからだろう。
弱いことで苛められる草加雅人は、どうすれば人から嫌われなくなるのか、それを気にするようになり。
そのために人をよく見るようにもなっていった。
大学に通う頃には多くの部活を掛け持ちする好青年であろうとすることで、人当たりを良くしていき。
真理や啓太郎の前でも、感情的にならない限りは好印象を与えられるように務めてきた。
どうすれば嫌われるのか、どうすれば好まれるのか、それをよく見ることで過ごしてきたのだ。

そうしていくうちに人を観察する力を養われていった。
乾巧や木場勇治のような者達を陥れることも一時は容易だったほどには。

そして、ゲーチスの本性を確かめるために精神的に参っている振りをし、相手の本性をよく観察していた。
その中で草加は確信した。こいつは人を裏切り、利用することをなんとも思ってはいない者だと。自分の協力者とし、生かしておくにはあまりにも危険な人間だと。

ゲーチスの失敗としては、草加が心を痛めている今は心に揺さぶりをかけられると思い、自身の本性に近いものを表出させてしまったことだろう。

「俺は、真理を生き返らせる。そのためなら何だってやる。
 オルフェノクは皆、殺す。俺の邪魔をするやつも、気に入らないやつもな…!
 だが、それは俺の戦いだ。お前のようなやつの思い通りに動く気は、ない…!」

そう言ってカイザギアを構える草加。
少なくとも自分のことを良いように利用しようとしたこの男は、草加にとって決して好くことがないだろう者、敵となった。


「そうですか。私も敵を作りすぎましたので、あなたとはもう少し友好的にお付き合いしたかったのですが。残念ですよ」

と、ゲーチスは懐から取り出した赤と白のボールを掲げた。

その道具を草加は知っている。ポケモンなる生き物を呼び出すためのボールだ。

同時に草加もカイザフォンを構えた。

「変し――――ガッ!」

ベルトにカイザフォンを差し込もうとしたその時だった。
背後から何者かの殴打が草加の頭部を襲ったのは。

脳に加えられた衝撃が視界をぼやけさせ、バランス感覚を失わせていく。

(…真、理……俺は……)

その一撃による死を覚悟した草加は、ほくそ笑むゲーチスの姿を見ながら。
愛しい人を救うことも守ることもできぬままに死ぬことに強い後悔を感じながら、その意識を闇へと落とした。





292 : INVASION OF VENOM ◆Z9iNYeY9a2 :2016/08/11(木) 23:53:36 p/6xWP4o0


草加とゲーチスが出会う前まで時間を戻る。
正確な時間にして、放送が行われる前といった辺り。

痛む傷を庇い、壁に手を付いて体を支えながら歩くゲーチス。
その先には、一つの扉があった。

「はぁ…、はぁ…、ここですか…」

疲れと傷の痛みの相乗で歩くだけでも普段以上の体力を使う現状に息をつきながらその扉に触れる。

扉の上に記されている標識、数字の列のようなものが並んだそこは先ほど支給されていたデバイスに映っていた文字に記されていたものだ。

「しかしこんな部屋、前にここに来た時はあったでしょうか…?」

病院に立ち寄るのはこれが初めてではなく、その間に病院内の散策もしている。
だが、このような部屋があった覚えはない。

「アクロマからの通信、というのも引っかかりますが…。どちらにしても入ってみないことには始まりませんね」

横にあるロックに、デバイスに記されたIDを入力する。
すると閉じられていた扉は電子音を鳴らした後、静かに開いた。

中は病院の一室と思わしき部屋。それには違いない。
ただ、部屋の隅に明らかに浮いた通信用の電子機器、そして一着のスーツが備えられているという一点以外は、だが。

「これは…、ポケモンの回復装置ですね。このスーツは……」

警戒しつつもそのスーツに触れるゲーチス。
その時だった。

『お久しぶりです、ゲーチス』

背後の通信機器から声が響く。
そこには青白く点滅する光から、一人の人影のホログラムを映し出していた。

「アクロマ…、まさかあなたがアカギに協力しているとは思いませんでしたよ」
『おや、そこまでお察しになられましたか。ならば説明は省けます。
 まあ、協力といっても私は私で自身の興味、欲求を満たすために手を貸しているだけにすぎないのですが』

責めるような口調で話しかけるゲーチスの言葉も飄々と流すアクロマ。
アクロマがこういう男だというのはよくゲーチスも理解している。
だからこそ自分の代わりとしてプラズマ団を任せる者として考えていたのだが。
まさかこのようなところにいるとはゲーチス自身も思っていなかった。

「まあいいでしょう。私をここに呼び出したということはそれが本題ではないのでしょう?」
『そうですね、では話を進めます。
 そこにあるのはポケモンセンターにある回復用の機器です。あなたの持っているサザンドラとゾロアークを回復させるのにお使いください。
 そっちのスーツにつきましては、私からのプレゼントです。どうお使いになられるかはお任せします』

スーツの傍に備え付けられていた端末に目を通すゲーチス。
文字が記していたのは、そのスーツの性能、使い方の記された仕様書。
それは製作者をプラズマ団の科学者として雇うことを欲するほどの高性能なものだった。


293 : INVASION OF VENOM ◆Z9iNYeY9a2 :2016/08/11(木) 23:54:16 p/6xWP4o0

「なるほど。これはとてもありがたいものです。
 ……それで、君は私に何を望んでいるのですか?」
『特に何も。これまで通りにあなたの思うようにやってくれていれば結構ですよ』
「理由もなくこのように私を特別扱いすると?」
『私とあなたの仲ではありませんか』
「…アクロマ」

質問をはぐらかし続けるアクロマに、ゲーチスはため息をついてジロリと睨みつけながら話しかける。

「人間とはすべからく生き汚いものだ。程度の差こそあれ、己の欲のために様々な手を尽くす。
 故にあらゆる物事において対価を払い、その欲を抑制しているものです。
 確かに無償の奉仕を行うことができる人間も存在はするのでしょうが、そんな人は聖人か破綻者です。
 アクロマ、私の知る君は己の欲に忠実に生きる人間、そのどちらでもないと思っています」
『やれやれ、参りましたね。そこまで聞かれるのであればある程度は答える必要がありそうだ』

肩をすくめながらお手上げ、というポーズを取り、アクロマは語る。

『言った通りですよ。あなたはあなたのしたいようにしていただければいい。
 ですが一つ。この病院から南東の位置に向けて移動してもらいたい』
「南東、ですか」
『はい。ここにはもうしばらくの時間が経てば、ある程度の人数の生存者が移動してくる位置です。
 我々としてはあまり触れられると困るものが存在している場所に、それを目指して移動してくると思われるのですよ』
「なるほど、情報の少ない私を体のいい口減らしの使い走りにし都合の悪い人たちを排除しようと、そのために戦力を与えようというのですか」
『なので、あまり言いたくはなかったのですがね』

ポケモンを回復させて駒を揃え、万全な状態の装備でその参加者を迎え撃てということらしい。
ゲーチスとしては最終目的は変わらない以上それを行うことそのものに反対する気もない。

だが。

「口調からするとあまり乗り気というわけでもないみたいですね。アカギから脅しでもかけられましたか?」
『まあそんなところです。インキュ……他の協力者にして儀式の進行を任されているものに注意を受けまして。
 こちらとしてもある程度の手を打たねば管理不手際で処分されかねませんので』

ゲーチスにしてみれば分からないことは不確定要素として自分を脅かしかねないものだ。
目的の分からないアクロマの行動もはっきりと理解、納得しておかねば指針にしていいものかの判断もつかない。

だからこそそれを聞けただけで充分だ、とゲーチスは話を終わらせる。


「いいでしょう。理由さえ分かれば構いません。
 あとはこちらのやりたいように進めていきますよ」
『では、これにて通信を終わらせていただきます。次に会うことがあるとすれば、それはあなたが最後の一人として生き残った時でしょうか。
 あ、それと最後に一つ。ポケモン達は大事にしてくださいね。貴重な資料達なのですから』
「やはりそれですか。変わりませんね、あなたは」

そんなやり取りを最後に、ホログラムは消失、通信機器の電源が落ちた。

ボールを回復装置にセットしつつスーツの説明書に目を通す。

「確かに性能は素晴らしいですが、しかし私が着るものでもありませんね。
 他の誰かに協力をお願いできればいいのですが……」

ゲーチスは思案する。
今の自分に協力してくれるような都合のいい人間がいるだろうか。
自分の本性さえ隠せていれば、あとはこれを着せるだけで条件はクリアできる。


「そういえば草加雅人という人間がいましたね。
 彼がまだこの病院近くにいてくれればいいのですが」


294 : INVASION OF VENOM ◆Z9iNYeY9a2 :2016/08/11(木) 23:55:09 p/6xWP4o0
彼はまだ出会って少しの情報交換を行った程度の仲。
しかし逆にいえば、数時間前の段階でまだ自分の悪評を受けてはいなかった。何かしらの話を合わせる程度は可能だろう。

とりあえず彼を探してみるとしよう。それで見つからなければ自分でこれを着るしかない。

「ゾロアーク、出なさい」

回復の終わったゾロアークを呼び出し、スーツをその体に背負わせた。

(そういえばスーツの機能にポケモンにいうことを聞かせるようにするものがありましたね。
 それを使えば、このゾロアークももっと良い駒となってくれるのでしょうか)

サザンドラと違い、命令を受ける際にも常にこちらに対する敵意を発し続けるポケモン。
万が一寝首でもかかれたら堪ったものではない。この辺りで見切りが付けられればいいのだが。

部屋から出ると、あったはずの入り口が見えなくなった。
成る程、とこれまでの探索で見つからなかった理由に納得し。
ズル、ズル、とスーツを引きずって歩くゾロアークを後ろに、ゲーチスはまず傷の手当てのために病院の上の階層へと上がっていった。

放送が響き、そしてその後物音に気付いて草加雅人を発見するのはそれからしばらくのことだ。



「さて、それでは今から言ったように行動しなさい」

ゲーチスはスーツとヘルメットを被ったその人物に指示を出す。
壁に拳をぶつけて罅を入れ、駆け抜けた足は病院にできた数メートルの亀裂を飛び越えた。

さらにゾロアークを呼び出させて指示を出させると、ゾロアークは人形のようにその言うことを聞いた。
さっきまでの敵意はどこへやらだ。

「はははははは!!素晴らしい!!
 あの小娘にしてやられた時はどうしたものかと思ったが、これならばまだ戦えそうだ!」

スーツの装着者、草加雅人は意識を失っている。
イリュージョンで隠れたゾロアークの不意の一撃により気絶したままあのスーツを来て現状は昏睡状態、リモート操作により思いのままだ。
無論、あのベルトの力も使わせられる。

「シロナは死にましたか。しかしあの美遊とかいう小娘を初めとして邪魔な者は多い。
 今度こそ、私の野望を邪魔するものは皆残らず殺していくとしましょうか」

高笑いするゲーチスの前に佇む草加雅人。
しかしその瞳は閉じられたまま、操り人形として動かされる。
真理への無念の思い、オルフェノクに対する憎しみ。それら全てを踏みにじられて。




ゲーチスがアクロマによって与えられたスーツ。
それは恐ろしい力を秘めていながら、それが作られた本来の世界においては正しき心を持ったものに使用され、ある街を守る正義の力となった。

だが、それは使用者によっては死を恐れぬ強靭な軍隊を作り出し、死をも恐れぬ兵士を生み出すことができるほどのもの。

製作者。カロス地方を行動範囲とする組織、フレア団の科学者・クセロシキ。

装着者強化機能――着た者の身体能力を高める機能。
リモートコントロール機能――状況に応じてAIによる操作を可能とする機能。
スニーキング機能――様々な人間の姿に擬態できる光学迷彩。
ボールジャック機能――モンスターボールの制御システム操作により、他者のポケモンであろうと思いのままに操れる機能。

これらの機能を備えたこの強化戦闘服。名をイクスパンションスーツと言った。


295 : INVASION OF VENOM ◆Z9iNYeY9a2 :2016/08/11(木) 23:55:20 p/6xWP4o0

【D-5/病院/一日目 夜】

【ゲーチス@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(中)、肩に切り傷(処置済み)、精神不安定、強い怒りと憎悪と歓喜
[装備]:普段着、ベレッタM92F@魔法少女まどか☆マギカ、ゾロアーク(ダメージ(大)、片腕欠損、ゲーチスに怒り)@ポケットモンスター(ゲーム) 、サザンドラ(健康)@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品一式、病院で集めた道具(薬系少な目)
羊羹(1/4)印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入 印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入×4 、きんのたま@ポケットモンスター(ゲーム)
デザートイーグル@現実、流体サクラダイト@コードギアス 反逆のルルーシュ(残り1個)、デザートイーグルの弾、やけどなおし2個@ポケットモンスター
[思考・状況]
基本:組織の再建の為、優勝を狙う
1:南東付近へと移動し他の参加者の口減らしを行っていく。
2:草加雅人を利用する。
3:ゾロアーク、草加雅人の力をもってできるだけ他者への誤解を振りまき動きやすい状況を作り出す
※本編終了後からの参戦
※「DEATH NOTE」からの参加者に関する偏向された情報を月から聞きました
※「まどか☆マギカ」の世界の情報を、美樹さやかの知っている範囲でさらに詳しく聞きだしました。
(ただし、魔法少女の魂がソウルジェムにされていることなど、さやかが話したくないと思ったことは聞かされていません)
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)



【草加雅人@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(大)、負傷(中)、胸に切り傷(処置済み)、頭に打撲、真理の死及びオルフェノク転生の事実に対する精神不安定、昏睡状態
[装備]:イクスパンションスーツ@ポケットモンスター(ゲーム)、カイザギア@仮面ライダー555、オートバシン@仮面ライダー555、ゾロアーク(健康、片腕欠損、ボールジャックにより人形状態)@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:儀式からの脱出とオルフェノクの抹殺
1:???????
2:真理、俺は―――――
[備考]
※参戦時期は北崎が敵と知った直後〜木場の社長就任前です
※自分の知り合いが違う人物である可能性を聞きました
※灰色の怪人(オルフェノクのような何か)となったNが真理を殺す、という幻を見せられました。
 それにより真理はオルフェノクとなったと誤解しています。
※イクスパンションスーツの機能により昏睡状態です。そのままの状態では目を覚ますことは難しいですが、他者の呼びかけなど外部の刺激次第では意識を取り戻す可能性はあります。
※草加雅人はリモート操作によって操られています。オートバシンがそれに対しどう対応するかは不明です。



【イクスパンションスーツ@ポケットモンスター(ゲーム)】
ポケットモンスターXYにて登場した強化戦闘服。
装着者強化機能、リモートコントロール機能、スニーキング機能、ボールジャック機能を備えた高性能スーツ。
肉体強化においては、生身でビルを飛び越えることが可能なほどの身体能力を得る事が可能。


296 : ◆Z9iNYeY9a2 :2016/08/11(木) 23:55:35 p/6xWP4o0
投下終了です


297 : 名無しさん :2016/08/12(金) 00:13:58 6s1tMMQc0
投下乙です

草加も狡猾だったがやっぱゲーチスのが一枚上手だったか…


298 : 名無しさん :2016/08/12(金) 01:13:14 it0dcETY0
投下乙です

ゲーチスの操り人形と化した草加さん哀れ…
持ち直せる時は来るのだろうか


299 : 名無しさん :2016/08/13(土) 16:01:15 wLAa.bs20
投下乙です

草加さんなら簡単に操られることはないと思ってたけど、物理的に操られちゃったかぁ
またややこしい事態になって面白くなってきた


300 : 名無しさん :2016/09/06(火) 00:58:20 mqNj.GWA0
予約が破棄で悲しいなぁ…


301 : 名無しさん :2016/10/04(火) 21:13:44 PkquYk420
いそがしそうだもんな、いつまでも待っている


302 : ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:05:43 9IoRWxMU0
投下します


303 : パラダイス・ロスト ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:11:05 9IoRWxMU0



それはゼロと手を組むと決め、同時に直前の魔法少女や彼ら自身の戦いで負った傷を癒やす休息をしていた時の話。

「お前は何故人間を憎む?」

身を黒きマントと装甲に包んだ魔人はそう木場に問うた。
外見上は人間の姿である木場に対し、ゼロはその姿のまま変わることはない。
オルフェノクとは違いそれが元々の姿であるということなのか、それとも警戒されているだけなのか。
どちらにしても藪蛇だろうと、木場は敢えて聞くこともしなかったが。

「何故そんなことを聞く?」
「別に馴れ合おうというつもりはない。
 だが最低限互いに干渉しないためには知っておくべきこともあるだろうと思ってな。
 例えば、オルフェノクには無闇に手を出すなという部分や、乾巧のことだったりな」

乾巧の名を出されたことに一瞬顔を顰める木場。

「分かりやすいやつだ」
「別に殺すことをどうとは言わない。もし彼が君に殺されるようなら、その程度だったというだけだ」

表情を険しいものに戻しながらそう取り繕うように言う木場。


「それで構わないならば私としても気を使う必要もないだろうしな。
 さて、もう一つの方の答えだが。私としてはむしろこちらの方が本題に近いが」
「……」
「人間に期待でもしていたか?」

パキリ、と。
その手の下にあった瓦礫の欠片が、握り締められた拳の下で亀裂を作った。

瓦礫を握り潰すほどの握力を発揮させた要因、それは木場の内に秘められた強い憎悪だろう。

「馴れ合おうというつもりはないが、退屈しのぎだ。話してみるがいい」
「君に話してどうなる?」
「今の私は人を超越した位置にいる存在だ。その立場からなら、案外お前達の立ち位置からでは見えないものも見えるかもと思ってな」
「聞いて面白い話でもないぞ」

断りをいれた上で、木場はポツポツと話し始めた。


――――――――――――――――




304 : パラダイス・ロスト ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:11:44 9IoRWxMU0


放送が鳴り、禁止エリアと共に死者の名が呼ばれていく。

しかし、それでも二人は手を止めることはしなかった。

―――長田結花
―――海堂直也

「はぁっ!」

例え仲間であったはずのオルフェノクの名が呼ばれようと、帝王はその白い装甲に打ち込む拳を緩めることはなく。


―――園田真理
―――衛宮士郎
―――巴マミ

守れなかった、大切な者達の名が呼ばれようと、救世主は反撃の拳を止めはしなかった。

決して気にかけない名ではない。
しかし、目の前に立つ敵を前にして心を揺らされている場合ではない。
だからこそ、放送に対して心を凍りつかせたまま戦いを続けていた。


幾度となく続く拳のぶつけ合い。
オーガはその腰に収まったオーガストラッシュを抜くことなく、ファイズに合わせるかのように拳をぶつけ、蹴りを容赦なく叩き込み続ける。
対するファイズもまた、打ちのめされながらも幾度も反撃の拳を振り続ける。

しかしあまりに大きく開いた二つのベルトの力量の差は、木場の巧に対する一方的な暴力にしかならなかった。
巧の拳は木場にダメージを与えることはできず、逆に木場の攻撃はファイズの装甲を通して巧の体に衝撃を与え続けていた。


「ぐっ…」

ぶつけた拳の反動に身を思わず引く巧。一方で木場は追撃の拳を振りぬいてきた。
身を屈めて拳を避ける。
先の反動からファイズとオーガの地力の違いを感じ取った巧は、その体にしがみつき抑えるように押しこむ。
だが木場はそんな巧の体に対し、膝蹴りを叩き込んで宙に身を舞い上げる。
思わず腕を離してしまった巧の、宙に浮き上がり態勢を立て直す暇すらない状態の体を容赦なく殴りつけた。

衝撃に三半規管を揺らされ、吹き飛んだ先で立ち上がれずに倒れこむ巧。

「乾さん!」

そんな巧の後ろから、その身を案じるようにさやかの声が響く。

「っ……。大したことねえよ、こんなの…!お前はそこでじっとしてろ!絶対にこっちに来るなよ!」

体を抑えて起き上がりながらも、さやかの声に答えるようにそう告げる巧。
ここでもし倒れでもしたら、後ろの少女は自分を守ろうと飛び出してくるだろう。
だが、目の前にいる帝王のベルトを纏った木場に対し彼女が戦いを挑んだとしても勝てる姿が巧には見えない。
もし倒れた時は、この少女の命も危険に晒されることになる。
木場がさやかを眼中に入れていないのも、自分の存在があってこそだろう。

ならば、ここで負けるわけにはいかない。


305 : パラダイス・ロスト ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:12:51 9IoRWxMU0

「どうした乾!その程度か!」
「バカ…、言ってんな…!こんぐらい、屁でもねえよ!」

まだ拳を打ち合った時の衝撃で痺れを感じる右手を振るい、立ち上がって左腰のデジタルカメラ型のツール、ファイズショットをその手に装着する。

Exceed Charge

ファイズフォンのエンターキーを押し、走り迫るオーガの拳にカウンターを打ち込むように必殺の拳、グランインパクトを叩き込んだ。
衝撃に揺らされる体を支えつつ踏ん張った巧に対し、カウンターを決められた木場の体は大きくよろめいた。

本来、並のオルフェノクであればその一撃を受ければひとたまりもない拳。しかし帝王の身を包んだ鎧はその叩きこまれた衝撃もフォトンブラッドも決定打とは成り得なかった。
即座に立て直して反撃の拳を振るう木場。
その一撃は衝撃だけならばファイズのグランインパクトにも迫るほどのもの。
こちらの必殺技と同等の衝撃の、しかしただの拳がこちらに打ち込まれる度に、巧の体に強い痛みと衝撃が襲い、その身を吹き飛ばす。


地面に仰向けに倒れこんだ巧は、それでも起き上がりながら木場を真っ直ぐに見据えて問いかける。

「木場ぁ、お前、言ってたよな?人間と、オルフェノクが一緒に生きていけるような、そんな世界を作りたいって」

目の前の木場が自分の知る木場勇治でないとしても、それでもその理想を語った木場勇治には違いない。
木場の理想も守る、と決意を先ほど語った時にそんなものを守る価値などないと一蹴したのがその根拠だ。

「ああ。俺の知る乾巧とはそんなことを語ったこともあった」
「だったら、何でそれを捨てた。お前の理想は、その程度のものだったのかよ!?」

戦うことには迷いはない。例えそれがかつての友であった男であったとしても。
しかし、その友が何故理想を捨てたのか、何が彼を変えたのか。一体自分は何を知らなかったのか。

真理はファイズを、巧を救世主と言った。しかしまだ、巧は守るための戦いのために立ち上がったにすぎない。
ある世界の救世主のように、理想のために振り返ることなく戦うまでの覚悟はまだ持ち合わせていなかった。
だからこそ、守りたい理想を持っていたはずの男が何故こうも変貌したのか、その理由を放置して決着をつけることはできなかった。

「なら逆に聞こう。君は何故人間を守ろうとする?」

攻撃を止め、しかし隙は見せぬままに表情を仮面の下に隠した木場は問い返した。

「俺は、オルフェノクに支配された世界で、人間の汚い部分もたくさん見せられてきた。
 それでも人間を守ろうとオルフェノクを敵に回しても戦ってきた。
 なのに人間は何も変わらない。いつだって自分のことばかりしか考えていない。そんなやつらのために、結花も海堂も命を落とした!
 そこでようやく気付いた。こんな者達を守る価値なんかないと!」

吠えるように叫んだ木場は、八つ当たりのように巧に拳を振るう。
重い一撃は巧の面を捉え、大きく体を吹き飛ばして壁に叩きつけた。

倒れそうになる体を支えながら、それでも木場の叫びから思いを逸らさぬように立ちながら呟く。

「…人間に守る価値なんかない、か。
 確かにそうかもしれねえよ。たまに俺も何でこんなことやってんだって思うこともあるけどよ」

誰も感謝などしてくれない。見返りなどない。
常に命の危機に晒される戦いを、返ってくるものなどないまま真っ赤な他人のために続けることがどれほどのことか。

だけど。

「でもよ、それでも俺は、守りたいって思ったんだよ」


306 : パラダイス・ロスト ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:13:22 9IoRWxMU0


洗濯物のように真っ白になるように、世界中の人を幸せにしたいという夢をもった人がいた。
一見すれば子供じみた、バカみたいなことを言っているようにも感じられた。
だけどその男は、人の不幸を自分のことのように感じられるほどのお人好しで、だから人にいいように使われることも何とも思っていないやつで。
きっと騙されていたのだとしても人が幸せならそれでいいって言うようなやつだった。
その危なっかしさは放っておけなくて、気がつけばそんなバカみたいな夢に惹かれていた。

ただ美容師になりたいという夢を持った人がいた。
どこにでもある、誰でも持つような当たり前の夢。
出会いは下らない偶然から始まって、そこからなぁなぁで最後まで付き合うことになっていた、その程度の仲。
もしかしたら、自分が持たない者を持っていたことに嫉妬していたのかもしれない。
夢のためなら死んでもいいという思い。そして、そんな夢に心を熱くして打ち込むその姿。
なら、せめてその姿を守ることは、俺にもできるんじゃないかと。


出会った少女はとても脆くて壊れそうな少女だった。
まだ中学生くらいの年齢でありながら戦いを続けてきたその少女は、仲間を失った悲しみに沈み、己が人を見捨てることを、その結果人が死ぬことを恐れていた。
そのあり方が自分と被っているようにも感じられて、しかしそんな彼女を守り切る自身がなくて。
結局自分の手の届かないところにいた方がいいと勝手に考えて手放してしまった。
それさえなければ、その少女はあんな怪物に成り果てることはなかったかもしれない。
守りたかったものが己の行動の結果守れなかった。それは未だに心に大きな悔いを残している。


そして、出会った少年はとても純粋だった。
その夢はまるで啓太郎を連想させるほど大きなもので、だけどその夢の奥には隠し切れない歪みがあった。
啓太郎と違い放っておくと自分の命すら投げ出してしまいそうに見えた彼は、しかしその事実を強く自覚しており。
もしかすると愛する人のことを語り、妹を自分に任せるように言ったあの時には長く生きられないかもしれないと悟っていたのかもしれない。
その今にも壊れてしまいそうだった少年の儚さを見て、その願いを、命を守りたいと思った。


「ああ、守りたいと思ったんだよ。結局何も守れなかったけどよ…。
 でもあいつらの一生懸命なところとか、何かの拍子に壊れそうな小ささとか。そんなあいつらの命が、思いが」

救世主だとか、人間との共存の理想だとか、そんな大きなものを守る思いなどない。
結局自分の守りたいという思いは他人ありきのものだ。

だけど、そこから生じた、大切なものを守りたいという願いは。
他ならぬ巧自身から出てきたものだ。

夢を守るためなら、戦い命を奪う罪も背負う。


307 : パラダイス・ロスト ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:14:11 9IoRWxMU0

走り、木場の目前まで迫った巧は、その顔面に思い切り拳を叩きつけながら叫ぶ。

「お前は、違うのかよ!そんなに、お前を信じたあいつらの思いを捨ててまでオルフェノクになりたいのかよ…っ!」

ぶつけた拳で僅かに体が揺さぶるも、次の瞬間引きぬかれたオーガストラッシュの剣戟が巧の体を吹き飛ばして言葉を止めた。

「…っ、木場…!」

もはや語る言葉はないと言わんばかりに剣を振るい続ける木場。
紙一重でかわし続けるが間合いの差を埋められず攻撃を届かせられない。

もしオートバシンが近くにいたならば、ファイズエッジにより受け止めることくらいは可能だっただろうが、今はこの場におらず飛んで来る気配もない。


「乾さん!!」

後ろから呼び声がすると同時、風を切る音が耳に届く。
振り返ると同時に目に入った煌き。それだけで何が飛んできたのかを察した巧は即座に手を振り抜いて飛来物を受け止める。

背後で剣を振るう木場の一撃を、飛来物―さやかの投擲した剣で受け止める。
帝王の大剣に対し、細身の片刃剣では衝撃を受け切れない。しかし僅かな可能性には届く。


2度の受け流しにより剣先を逸らした巧は、木場の懐に潜り込み装甲の薄い脇腹に剣を叩きつける。
薄いとはいえそれでもオルフェノクの攻撃を余裕で耐える防御力を持った部分。事実、それでさやかの剣は粉々に砕け散る。
しかし一瞬怯ませることはできた。

隙は一瞬であり、ファイズショットを備え付ける暇などない。
故に剣の柄を握りしめたまま、その拳を思い切り木場へと叩きこむ。
ただの拳に剣の柄を握りしめた分の威力を加算した一撃。

しかし。

「ぐっ…が…!」

そんな攻撃も通じることなく、カウンターの一撃で巧の体を吹き飛ばした。

幾度とない木場の攻撃は巧へとダメージを募らせる。
一方でこちらから木場への攻撃は、隙こそ作ることが可能なものの決定打に至ったものはない。


308 : パラダイス・ロスト ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:15:27 9IoRWxMU0
力が足りなかった。
ファイズの力では、帝王のベルトに届かない。

力が届かなければ、木場と語り合うこともできない。

力。
今より強い、ファイズの―――

そこで、巧の脳裏に思い出されたもの。
この場にきて間もない頃、まだ啓太郎が隣にいたあの時。

何の因果か自分に支給された、ファイズの強化ツール。

まるでこの時を予期していたかのように手元にあったあの道具。

「さやかぁ!!俺のバッグの中のやつ、それをこっちに寄越せ!」

戦闘前にさやかの傍に置いたバッグの中。そこに入っているものを使えばあるいは、と巧は声を張り上げた。
さやかは急ぎそのバッグを開き、中を確かめた。


「…これ…?!」

中に入っていたものの中で目を引いたトランク型の機械。
用途こそ分からないものの、その作りにどことなく巧のファイズギアに似たものを感じたさやかはそれが彼の求めているものだと確信。
取り出したそれを、思い切り巧の元に投げた。

木場の攻撃範囲から離れるように大きく後ろに後退した巧は一瞬振り返ってそれを、ファイズブラスターを受け取り。
腰のファイズフォンを抜き取りながら、記憶にあるまま、そしてファイズに変身する時と同じようにケースに備え付けられた数字を入力。

5・5・5

そして、抜き取ったファイズフォンをその上部に差し込んだ。


Awakening


電子音が鳴り響くと共に、ファイズの体が赤熱。
放出されたそのエネルギーには、攻撃を続けていた木場も思わず動きを止めた。

全身のスーツを染める赤はファイズ自身の身を成すエネルギーであるフォトンブラッド。
装甲は厚く再構築され、赤きフォトンブラッドの巡っていた場所はスーツの黒と入れ替わるように変色する。

光と放熱が止んだ時、その場に立っていたファイズの姿。
それは強化ツール・ファイズブラスターによって変化した更なる強化形態。

ファイズ・ブラスターフォーム。


309 : パラダイス・ロスト ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:16:24 9IoRWxMU0

纏ったエネルギーによる熱を放ちながら歩み寄るその姿に、先手を取らんと走り拳を振る木場。
しかしこれまでは巧の体を吹き飛ばすほどの衝撃を与えたはずの一撃を、その装甲は真正面から受け止めた。
僅かにその身を揺らがせただけに留まったところで、巧は反撃の拳を振る。
顔面を捉えたそれは、今までならむしろこちらの反撃の暇を与える程度の威力だったはずのもの。しかし今のそれははっきりと装甲を通じて内側の木場へと衝撃を与えた。

思わず後ろに後退する木場。
どうにか踏みとどまるが、巧は更なる追撃を加えんと歩みを進めて来る。
巧の拳が胸を打つも、木場も負けじとその肩を思い切り殴りつけた。

共に後退するファイズとオーガ。
スーツのスペックならばほぼ互角。
ここにきて巧は、帝王のベルトに並ぶ力を手にすることができたことを実感する。

そうだ。それでこそだ。
例えこちらが手にしているのが帝王のベルトとはいえ、その力に任せて一方的に倒すのでは彼を超えたなどとは到底言えない。
心に加えて力も、巧が自分の全力を振るに足る存在となったことに木場は歓喜を覚えた。

「ウォォォォォ!!」

後退する木場に対し、足を止めずに拳を更に大きく振りかぶり迫ってきた巧。
しかし木場は巧の目に入らぬ懐でオーガストラッシュを起動。
瞬時に生成され一直線に伸びた金色の刃は、巧の胸を突いてその身を弾き飛ばした。

不意の衝撃にたじろぐ巧。
だが、先ほどまでと比べればダメージは大きくなかったのかすぐさま態勢を整え、剣を構え迫る木場に相対するように拾い上げたファイズブラスターを起動。
1・4・3
キーを押すと同時にファイズブラスターは形を変える。
エネルギーの刃となったフォトンブレイカーでオーガの振るう刃を受け止めた。

幾度も打ち合い。攻め込み。そして受け流し。

やがて衝突した互いの刃が鍔迫り合いとなり、目前まで迫った双方の武器が火花を散らした。

「木場…、答えろ!!お前は、お前の理想は何だったんだよ!
 お前の理想は、そんな絶望でなくなっちまうようなものだったのかよ!?」
「黙れ、黙れえええええええ!!」

激情するように叫んだ木場の腕力は、ブラスターファイズの力を押し返し、それに留まらず追撃の刃を振るった。
斬撃は腕を掠めるに留まったが、巧は衝撃でファイズブラスターを取り落としてしまう。

だが、巧はすかさず木場の懐に飛び込んでその脇にしがみついて体を押さえつけた。

『お前の理想は俺の命より軽かったのかよ!?』


310 : パラダイス・ロスト ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:18:01 9IoRWxMU0

その巧の姿に、脳裏によぎったのは自分を止めようと立ちはだかったかつての仲間。

そんな雑念を振り払うように、木場は巧の背に向けて肘打ちを叩き込む。
体重を掛けた一撃に思わず手を放して地に伏せる。そんな巧の顔面を蹴り上げようと足を振るい。
次の瞬間、巧の腕が振るわれ、薙ぐように大きく足を払った。
攻撃の態勢にあった木場はバランスを崩され、受け身を取ることもできずに地面に転がり込む。
巧はすかさず倒れた木場に馬乗りになって、その身を抑えて問い詰める。

「答えろ、木場!」

しかしその質問に答えることはできなかった。

問いかけの中で、巧の守りたいものの独白の中で、彼と自分、一体何が違うのか。それは既に見えていた。
だが、それを言ってしまえば、言葉にしてしまえば。

自分の中にある矮小さと、醜さと向き合うことになる。

仰向けのまま、拳を叩きつけようとする。
だが、巧はそれを読んでいたかのように受け止める。

ギリギリ、と拮抗する力の中で木場は苛立ちを、そしてほんの僅かな虚しさを募らせた。

もう傷つかずに済むために帝王の力を手にしたと思ったのに、人間を守ろうとする乾はそれに迫る力を手にしている。
いや、これはファイズの力だけではないのかもしれない。

例え自分が傷つくことになっても、守りたいものを守るという意志を持っている乾だからこその意志が持つ力。
もしかしたらその姿は、自分が理想とした姿で。
もしかしたらそんな風に生きられる彼に、嫉妬していたのかもしれない。

「…醜いものだな、僕も」
「木場…?」

自分でも思わず呟いた言葉に巧の拳を握る力がほんの僅かに緩んだ。
その隙を見逃すこともなく、木場はその背を蹴り上げて巧の体を弾きあげた。

転がりそうになる体を支え受け身を取って追撃に備える巧。
しかし、木場からの追撃はなかった。

「俺は、人間と共存を心のそこから願ってたわけじゃない」

仮面の下はまるでどこか遠くを見ているかのように、攻撃の構えも解いて口を開いた木場。

「ただ、俺は欲しかっただけなんだ。
 俺が生きられる、許されるような世界が、いや、そんな場所だけが」

◇◇


311 : パラダイス・ロスト ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:18:40 9IoRWxMU0

「さっきはお前は人間に何かを期待していたのか、と聞いたが。
 どうやらそうではなかったようだな」

壁に背を預けて腕を組んだ状態で立つゼロは、仮面で隠れた顔を確かに木場の方に向けてポツリ、と呟いた。
木場の語った、人間を憎むようになった理由。それを聞いたゼロの発した第一声がそれだった。

「どういうことだ」
「人間に裏切られ続けたお前が、それでもと人間を信じようとした理由を私なりに考えてみたが。
 お前にとっては人間も理想も、ただ利用するだけのものだったのではないのか?他ならぬ自分自身のために」


かつて親という近しい人間に裏切られ続けたある男は、自分の本当の顔を出す相手を選別するほどに人間を信用しなくなった。
例えそれが偽りの顔とはいえ自分の友と呼べるほどの存在となった者に対しても。
全ての顔を知っていたのは友ではなく、互いに罪を背負った共犯者のみ。

それでも、あの男は世界に復讐をしようとはしても人そのものを憎むことはしなかった。
彼は自分の罪を理解し、それでいて尚もただ一つの自分にとって大切なものを守るということを全ての行動原理にしていた。
男には願いはあってもその中に自分自身はいなかった。

「お前は何より傷つくことを、傷つけられることを恐れていた。
 人間に対して、あまりいい思い出がなかったといったところか。
 ならばその闇を知っていながら、何故人間に憎しみの感情を持てる?」

だが、目の前の男はそうではない。
他者のために生きたいと願う一方で、裏切られ傷つけられることを極端に恐れる。
それは願いの中心に自分自身という存在を置いている証拠だ。
理想は、そのために見せているものではないのか。

別にそれ自体は問題ではない。
問題はその事実に木場自身気付いていないのではないかということ。

「お前は、理想を利用することでただ自分の周囲に光を集めようとしていただけ、
 理想を信じていなかったのだ、その理想に裏切られるのも必然だ」

そう告げた瞬間、木場の瞳に一瞬殺意を感じ。
しかし、それはすぐに収まった。

「…あいにくだが俺はそんなことを考えてなんていなかった。
 もしそうだったとしても、今の俺には関係ない」

「そうか。なら私としても踏み入るつもりはないが、まあここで会った縁だ、一つ忠告しておいてやろう。
 お前の被っていた仮面は確かに偽りだが、同時にお前の人間としての本質だ。それすら捨て去るのならば、お前はもう化物になるしかない。
 だが、人としての全てを捨て去り怪物となった者には、決して幸福が訪れることはない」

「…余計な世話だ」

立ち上がった木場は、どこか遠くを見つめながら答える。

「もしそれで僕が全てを捨てられるなら、それはそれで構わない」

何故かその時だけ、自然にその一人称が僕となっていたことに気付いたのはゼロだけだった。






312 : パラダイス・ロスト ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:19:23 9IoRWxMU0


あの時から、もう人間として生きていくことができないことは分かっていた。

オルフェノクに覚醒して目覚め、しかし全てを奪われていたことに気付き。
激情のままに、一彰と千恵を殺し、手を憎しみの血で塗らしたあの時から。

だけど、もしかすると心のどこかで安心していたのかもしれない。

あの事故に会う時までは幸福に過ごしてきた自分にとって、あの時見せつけられた人間の本性はあまりにも醜く感じられた。
だからこそ、人間でなくなった自分に安堵していたのかもしれない。
人間でなくなって、綺麗でいられると思った自分に。

無意識とはいえ、そんな風に考える自分はとても矮小な存在だった。
だからこそ、それを覆い隠すための理想が必要だった。
それが、人間との共存。

大きく途方もなく、聞こえもいい理想。
しかしその綺麗さと大きさが、自分の醜さを覆い隠してくれるようにも感じられた。

心の奥の部分に抱えた人間に対する数々の負の感情の存在を。

その一方で、オルフェノク――人を襲う化物になりきることもできない。
人の倫理観を捨てきれない自分には、彼らのような人を殺すことを何とも思わない存在にはなりたくなかった。
そう。人間でいたかったんじゃない。自分として、木場勇治という人間でいたかった。


『お前の理想は俺の命より軽かったのかよ!?』

軽いものではない。それは俺自身を成す大切なものであったことは事実だった。
だが、その理想よりも上にあったものを、あの時俺は怒りによって塗りつぶされ、そして俺はその怒りを受け入れた。
そうして残ったのがこの今の自分。オルフェノクの頂点に立ち人を憎む帝王。

そう、化物になっても構わないのではない。
もう、そうなるしか道は残っていない。
全てを捨てた今、破滅の見える道であろうとも、突き進むしかないのだ。




もう今の自分には気にすることもないと思っていたのに、乾巧と向き合っているだけであの時ゼロに言われたことをまざまざと意識させられていた。


「理想とか、みんなのためとか、結局そんなものどうだって良かったんだよ。
 ただ俺は、俺が俺でいられる場所が欲しかった。そのために綺麗な俺でいたかっただけなんだよ」

それこそ自分の心の奥底を絞り、掘り出すような声で話す木場。

「だけど、そんな俺もあの時、裏切られて仲間を殺された怒りに塗りつぶされた時に死んだ。
 もう、俺にはこうするしか道は残っていない――――!!」

あの時の園田真理が本当に園田真理だったのか。そんなことはもう関係なかった。
そして巧の言葉に答えて戻るには罪を犯しすぎた。
自分を心配してくれた仲間だった者を殺し、人を守ろうと戦った者達を殺し、仲間からの言葉にも耳を貸さず手を払った。

全ては人間の弱さを受け入れられなかった――違う、自分の弱さを直視できなかったが故。
戻れないのならば、せめて。

「君を倒し、俺は俺自身の全てを消し去る!例えその先に何もなくても!!」

受け入れることができなかった弱さも、理想も。そして俺自身の思い出も。
全てを捨てて、ただひとつの帝王になれればいい。

それが、木場に残った戦い。

「だから、俺は君に勝たなければならない!その礎になれ!乾ィィ!!」

振り上げた拳は、ファイズの胸を打ちその体を吹き飛ばした。
ブラスターフォームとなってオーガの攻撃にも耐えうることができる状態にあるにも関わらず、巧にはその一撃はこれまでのものよりも力のこもったものにも感じられた。


313 : パラダイス・ロスト ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:20:53 9IoRWxMU0





戦う二人を見ていたさやか。
さやかにとってみれば、目の前の木場という男の第一印象がいいはずがなかった。何しろここに来たばかりの頃にまどかを襲った相手だったから。
故に、それまである程度の時間を共に行動したということもあって二人の戦いを見ている時は常に心は巧側にあり。
木場はそれに倒されるべき相手、自分たちで言うところの魔女のような存在だと思っていた。思うようにしていた。

なのに、巧に向けて自分の弱さを吐露する姿は、どうしようもなく人間のそれのように見えた。
何となくだけど、この片目の傷を負った時の、何も信じられなくなって周りに当たり散らしていた自分の姿のようにも感じられ。
それに気付いた瞬間、乾巧と相対する木場勇治という男が、今まで見ていた敵という目で見られなくなっていた。

自分が信じていた魔法少女の真実を、マミとの戦いで触れて。
それでも本来であれば戦うべき相手が、こうも明確に心を持っているんだと実感させていた。

私が戦うべき相手は一体何なのか。何のために戦うのか。
答えは見えなかった。







(…木場、お前……)

巧にとって、木場の生き方は理想のようなものだった。

子供の頃にオルフェノクとなって以降人との関わりを長く拒絶していくうちに、夢も未来に向けた希望も失くしていた。
そんな自分にとって、オルフェノクになって尚も人間のために戦っている”強さ”を持っていた木場は、とても逞しいものに見えていた。
それこそ、一時はこんなオルフェノクである自分を隠そうとする弱さで戦う自分よりは、遥かにファイズの資格があるのではないかと思うほどに。

だから、木場の理想の裏に隠れていた彼自身を知らなかった。
いや、見ようともしていなかったのかもしれない。

背から体が地面に打ち付けられる衝撃を感じた。だが立ち上がることができなかった。
自分を占めていた理想の大部分を支えていた軸が変質していくかのような感覚に、心が打ちひしがれていた。

「…どうした!立て、乾!」
「っ!!」

だが、それでもそんな心を支えて立ち上がる。

拳を受け止め、掴み取る。
力比べに揺れる腕を、それでも離すことなく。
その手が、木場自身を繋ぐ力だと信じて、巧は叫ぶ。

「…ああ。気付いたよ、俺も。
 木場、お前は俺が思ってるほど強いやつなんかじゃなかったってことだ」
「………」
「だけどな、俺が一番許せねえのはそんなお前じゃねえ。
 お前のことを見てないままに俺が思ってる強さを押し付けた、俺自身だよ!」

巧は叫ぶと同時に掴んだ腕を大きく振りほどいて、がら空きになった木場の体に渾身の拳を叩きつける。
その瞬間の拳は、通常時のファイズがグランインパクトを放った時のごとく閃光を放ちながら打ち付けられたもの。
先に自分が吹き飛ばされたように、その重厚な鎧に包まれた体が宙に浮かぶ。

「はぁ…はぁ…。そうだよ、俺も真理が言うような救世主がどうとかなんてやつじゃねえ。
 でもな、今決めた。なってやるよ、真理が言ってたような、…何だっけな」



闇を切り裂き、光を――――


「ああ、そうだよ。闇を切り裂き、光をもたらす、なんて。
 だけどな、最初に切り裂く闇は、お前の中にあるそれだ」

巧にとって見ていた木場が確かに本当の木場の姿ではなかったとしても、巧にとって木場勇治という存在はかけがえのない仲間。

それは、例え木場の姿が、本心が、心の闇がどのようなものであったとしても変わらないものだ。

「お前がどんな本心をもっていて、どんな汚いやつだったとしても受け入れてやるよ。
 自分がやったって罪が許せねえってんなら、それも含めて俺が受け止めてやる」

膝をつき起き上がった木場がこちらを向く。
その仮面の下の表情がどんな顔をしているのかは分からない。
しかし、その体には強い戸惑いと動揺が感じられていた。

「だから、お前のその罪も弱さも、その全部をここで吐き出せ、木場ぁ!!」
「うあぁあああああああああああああああああああ!!!」

その迷いを振り切らんと叫んだ木場は、腰の剣を抜き取り大きく掲げた。

Exceed Charge

くぐもった電子音が、オーガのベルトから響き渡る。
それはあの時、まだ巧が迷いを抱えていた頃に、マミ達の助けがあったとはいえゼロを撤退にまで追い込んだあの一撃を放つ合図。
おそらくは今の木場が放つ最大の一撃だろう。

巧もまた、ファイズブラスターを拾い上げて数字キーを入力。

Exceed Charge


314 : パラダイス・ロスト ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:21:32 9IoRWxMU0

オーガストランザーを光が包み、巨大な大剣を模っていく。
背部ユニットから噴出したエネルギーがファイズの体を宙に持ち上げていく。

ファイズがオーガに向けて、全身に満ちたエネルギーをぶつけるがごとく飛び蹴りの態勢を取ったと同時に。
オーガはその巨大な光の刃を、ファイズに向けて突き出した。

高濃度の金色と、高出力の赤色。
ぶつかり合う二つのエネルギーは、赤と金の混じった暴風となって周囲にあった全てを消し飛ばす。
木々は消し飛び、僅かに残っていたビルの跡地も風圧に負けて吹き飛んでいく。

地上で二人の戦いを見守っていたさやかも、魔法少女の姿へと変化して吹き飛ばされないように耐えるのが精一杯。

金色の剣は巧を押し返さんとその膨大なエネルギーを放出して伸長し続け。
赤熱したエネルギーを纏ったファイズはそれを押し返さんと、力を込めてその刃に拮抗し続ける。

互いのベルトの力、戦いにかける想い、守りたいもの、そして理想と呪い。
その全てを込めたぶつかり合い。

木場は敗れるわけにはいかなかった。
これまで失ってきたものを、自分の戦いを無為にしないためにも。

巧は敗れるわけにはいかなかった。
背負ってきた罪や願いのためにも、そして目の前で苦悩し続ける男を救うためにも。

エネルギー量ならばファイズの方が上、しかし自身の肉体を直接ぶつけている分体にかかる負荷もオーガ以上。
しかし、だからこそオーガも一度拮抗を崩されれば立ち直すのは難しい。

「ぉおおおおおお、木場ぁぁぁぁぁ!!」
「乾ぃぃぃぃぃ!!!」

互いの叫びが木霊する中、木場の支えていたオーガストラッシュにほんの僅かな亀裂が入る。

「ぅう、はあぁぁあああああああ!!!」

巧はそれを見逃さず、放出され続けるエネルギーにその亀裂が修復されぬ間に、さらに全身に力を込める。
亀裂は広がり、オーガストラッシュの刃を打ち砕いていく。


「…!!」

その前進を押し留めようとする木場。しかし一度壊れ始めたその刃は修復されることはない。
巧によって次々と押しやられて消滅していくのみ。

まるで、一つの小さな闇から広がるように砕かれていった自分の心のように。


「ああああああああああああ!!!」

認められない。
だからこそ負けられない。これは乾との戦いであり、同時に自分自身との決着。

両腕で支えていたオーガストランザー、その片腕を、支える力が落ちることを承知で放し。


Exceed Charge


315 : パラダイス・ロスト ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:22:03 9IoRWxMU0

押し返す力が強まる一瞬の内にオーガフォンのエンターキーを追加入力。
オーガストラッシュ発動のために供給していたフォトンブラッドを更に送り込んだ。

砕けていく刃の下から、更に新たな刃が形成され巧の体を押し留める。
だがその強引で過剰な必殺技の発動は、オーガのベルト自体に過剰な負荷を与えていく。
根幹であるオーガストランザー自体が発熱し、少しずつひび割れていくのが見えた。

それでも、今の木場にはどうでもよかった。

帝王の力も、自分が信じた理想も、この殺し合いのことも、人間に対する憎しみも。
ただ、目の前にいる男に勝ちたい。その一念のみで、巧の背負う全ての想いに対抗していた。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「はぁあああああああああああああ!!!」

永遠にも感じられるほどの拮抗の後。

思わずさやかが目をそらした瞬間、一瞬の風景の揺らめきと共に二つのエネルギーの衝突地点で爆炎が上がった。

光の刃も、赤い暴風もそれ以降生じることはなく。
二人の姿は、煙に隠れて見えなかった。

「乾…さん…?」

何も見えないその光景に、剣で刺し貫かれた巧の姿がさやかの脳裏に浮かび上がる。

顔から血の気が引くような思いにかられながら、さやかは巧の名を叫んだ。

「乾さんーーーー!!」

同時に、薄れていく煙の向こうから、こちらに向けて歩いてくる人影が見えた。

そしてその人影は。

「―――呼んだか?」

その赤く染まった全身のスーツを解除し、人の姿に戻りながらそう答えた。

晴れた煙の先で立っていたのは乾巧。
そして、その後ろで倒れていたのは木場勇治。

肩で息をしながらその手のベルトを肩にかける巧に対し、木場は倒れたまま動かない。胸が僅かに上下している以上、死んではいないのだろう。
そして、その傍で青い炎をあげているのは木場の纏っていた帝王のベルト。


「木場、お前の全部、受け切ったぞ」

前を向いてこちらへと歩き続ける巧は、倒れた木場に向かって。


「俺の、勝ちだ」

ただ一言、そう告げた。

かくして、帝王と救世主――夢の守り手の戦いはここに決着した。


316 : この川の向こうで ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:24:13 9IoRWxMU0
「乾さん…!よかった…」

胸を撫で下ろして安堵するように、自身の変身も解除しながら巧に走り寄るさやか。

息をつく巧は、体に傷はない様子だがあの技のぶつけ合いの影響だろう、体のダメージに息をついている。
ソウルジェムを取り出して癒やしの魔法をかけようとするさやかを、巧は止める。

「俺は大丈夫だから、そんなことに力使おうとすんな。少しは自分の体、大事にしろ」
「何言ってんの!こっちは守ってもらった身なんだから、こうでもしないと気がすまないのよ!」
「……、はぁ、勝手にしろ」

言っても聞かないだろうと思った巧は、そのままさやかの看護を受ける。
何かが体に流れ込んでくる感覚と共に、僅かにだか体が軽くなったような気がした。

「てかお前、魔力とかいうのは大丈夫なのかよ?」
「さっきもらった…グリーフシードのおかげで少しは楽になったから」

そのグリーフシードが、かつて巴マミだったものが残したものだということを思い出して一瞬言葉を詰まらせる。

「そんなことより、あの人は…大丈夫なの?」
「…さあな」

仰向けに倒れた木場は、まだ起き上がる気配はない。
だが、少なくとも巧は死んではいないと確信しているようだ。

彼は、立ち上がることができるのだろうか。

巧が歩み寄ると、木場はゆっくりと目を開いた。
そして、自分の横で燃え尽きて灰になっていくベルトを見ながら呟く。

「――僕は、負けたのか」
「……立てるか?」

問いかけにも虚ろな瞳を上に向けたまま答えない木場。
巧はそんな彼に向けて手を伸ばし、立ち上がる手助けをする。

その手を見ながら、しかし動かぬままの状態を続ける。

自分で立ち上がるのを待つのが正解なのだろうが、ダメージはあの一撃をまともに受けた木場の方が大きいだろう。
それに何より、あのようなことを言った手前放置していくというのもあまり気が進むものではない。
ため息を付きながら、手を引っ込めて肩を貸すために傍に歩み寄る。





「敗れたか、帝王」


317 : この川の向こうで ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:24:44 9IoRWxMU0

その時だった。
声が響き、強烈な存在感を放ちながらこちらに向けて歩む黒い影の存在があることに気付いたのは。

漆黒のマントをたなびかせながら、一歩ずつこちらに歩んでくる者。

それは巧がこの場に来てから幾度も顔を合わせた存在。

「ゼロ…!」

初対面のさやかはともかく、巧は自分の中で失念していた要素に思い至る。
間桐邸での情報交換の中で、木場とゼロが手を組んでいたということは聞いていたはずだ。
今に至るまで、木場が今現在ゼロと共に行動していなかったことを疑問視することが抜けていた。
舌打ちをしつつファイズフォンを取り出そうとして、しかし体に響いた痛みに顔を顰めた。

さやかはすぐさま変身して剣を構え、迎撃態勢を取る。
しかし彼女一人でどうにかなる相手ではない。何しろ相手は自分と巴マミ、佐倉杏子の三人でも押されたほどの者だ。

さやかと木場の二人を逃がすためにどこまでできるか。
いや、どう言えばさやかはこの場から離れるか。

焦る思考を、それでも慣れないなりに回して二人を生かす方法を考える巧。

そんな二人を尻目に、ゼロは巧の後ろの木場に向けて呼びかける。

「負けたというのならばそれはそれで構わん。まだ命は残っているのだろう?
 後は私が引き受けよう。まだ自分でどうにかできるほどの余力がある、というのなら好きにするといいが」

ゆっくりと歩み寄りながらそう告げると同時に、背後から小さな物音が聞こえた。

「…、君の手を借りなくても起きられた、みたいだな」

木場が自分の後ろで立ち上がった気配を感じ取った巧。
その木場の表情を確かめることを、一瞬心をよぎった恐怖が妨げた。

あの一撃で木場を助けることができなかったのではないか。そんな思いが。

「それと、君には謝っておかないといけないことがある」

しかし続いた言葉で、巧はゼロに背を向けることになるのにも構わず、振り返り。

「ごめん。僕は、君と共に行くことはできない」
「木場………っ?!」

振り返った巧の目に映ったのは、小さく微笑みを浮かべた木場の表情。
その表情と言葉の真意を確かめようとした巧は、しかし腹部に走った強い衝撃で意識を失った。





318 : この川の向こうで ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:26:07 9IoRWxMU0


「乾さん!!あんた…っ…、え?」

巧が木場の拳を受けて倒れるのを目の当たりにしたさやかは、巧を守らんとその傍に駆け寄って剣を振るおうとし。
しかしその木場が倒れた巧をこちらへと放ったことに足を止める。

意識を失った巧の体重がさやかの全身によりかかる。
魔法少女として肉体を強化している今であればそれは支えられないほどではないものの、しかしそれ以上に何故という疑問がさやかの中に駆け巡る。

そして、その答えはすぐに得られた。
他ならぬ木場自身の口から出た言葉で。

「乾巧を連れて逃げろ。彼は僕が引き止める」
「えっ…」

さやかがその言葉の意味を理解するのに一瞬の時間を要した。
木場が向かい合うゼロもまた、歩みを止めて問いかける。

「どういうことかな、木場勇治よ」
「聞いての通りだ。君との共闘はここまでにさせてもらう」
「いいだろう。であれば、覚悟はできているな?」


確かにいずれは殺し合うという関係にいた以上、もし互いに生きていれば遠からぬうちに訪れただろう結末。
それを、木場は一方的に終わらせると告げた。

そしてそれをゼロも了承したのだ。
すなわち、ここでゼロと木場勇治の、文字通りの死合が始まるということ。


「あんた…!死ぬ気なの!?」
「いい機会だったのかもしれない。僕は彼と行くには罪を背負いすぎた。
 彼がそれを許しても、俺自身がきっと許せないだろうから」


今の巧は戦いのダメージが残っていてゼロの相手などできる状態ではない。
そしてきっと、自分が残っても同じ。

だけど、それでも時間を稼ぐことくらいはできる。

「こんな、醜い僕を受け入れてくれた彼なら、きっと俺にできなかったこともできるだろうから」

そう言って、その体が灰色の魔人に変化する。
片手に両刃の大剣を携えて、ゼロへと向かい合い。

「――――行け!!」

そう、木場の影が叫んだのを聞いて、さやかは気絶した巧を抱えて走り出し。
同時に、その脚部をケンタウロスのごとき巨大な四肢へと変えたホースオルフェノクが、ゼロへと向けて駆け出した。


―――――――――――――――――――



自分の全ての思いを吐き出して、ぶつけ合って。
それでも乾巧に勝つことはできなかった。

何が足りなかったのか。簡単な話だ。
ただ自分が弱かっただけ。

自分の弱さを直視することもできなかったのだ。そんな自分が、その弱さも受け止めると言った相手に勝てるはずなどない。
負けた瞬間、自分を覆っていた色んなメッキが剥がれ落ちたようにも感じた。

だけど、彼とはもう共にいくことはできない。
その光の道を進むには、この手を汚しすぎた。その中には、彼の仲間だった者もいた。そんな人達を殺した自分を、一体誰が裁くのだろう。

だからゼロがここで現れたのは運命だったのかもしれない。

逃げ場などない。あるのは、ただ一本の道。
冥府へと向かう川。ずっと拒絶し、渡ることを恐れてきたもの。


だけど、今ならその川の向こうへと渡れるような気がした。




319 : この川の向こうで ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:27:03 9IoRWxMU0

結果などとうの昔に分かりきっていた。

両足は砕かれ、片腕は引きちぎられ。
体の至るところが青い炎をあげ始めていた。

それでも剣を杖のように、膝だけで体を支えてゼロの行く手を阻んでいる。

「随分と見違えたものだな」

そうだろう。
巧に敗れてオルフェノクとしても生きていくことができなくなった自分など、この程度のものでしかない。

「それが、お前の見つけた答えか」

その言葉に、ゼロと交わした数少ない会話がのことが思い出された。

そして見違えた、という言葉の意味に気付き、

「……さあ、ね」

ただ、その言葉に正直に答えるのも完全に負けたようにも感じた木場は、自嘲気味に濁すようにそう答えた。

「そうか。ではな」

ゼロの拳が光り、羽ばたく鳥を直線で示したような模様が写り。
そうして迫るゼロに向けて、木場は残る全ての力を振り絞って思い切りその剣を振るった。

一瞬の交錯の後、カラン、と音を立てて剣は地面に落ちる。
そして、ホースオルフェノクの胸にはゼロの拳にあった光の刻印が打ち込まれていた。

木場の残り僅かであった生命力を零へと還し、その体を青い炎が包んでいく。

「…なるほどな」

関心するかのように呟いたゼロは、膝をついた。
体に傷があるわけではない。致命傷になりうるものなどない。

だが、その右膝。
足を折った先は流れ出る血が地を真っ赤に染めている。
木場と最後に交錯した一撃を放った時のすれ違いざまに、彼はこちらの脛へと狙いを定めて剣を振るった。
そこしか狙えなかった、などということではないだろうに、最後の一撃を、その部分への攻撃に全てを振り絞ったのだ。

骨まで断ち切れており、かろうじて僅かな筋肉と皮で繋がっている状態。
無論、治癒できないものではないがある程度の時間を強いられる状態であるのは変わりないだろう。
ましてやこの状態で戦闘など行えるはずもない。

「この状態では歩くこともままならんか。
 それを狙ってのものだったとしたならば、この勝負はお前の勝ちか」


もう聞こえていないだろう、青い炎を上げるものに向けて賞賛の言葉を告げるゼロ。

これが、守るという意志を明確に持った木場勇治の力か、それとも死の間際の火事場の馬鹿力とでもいうべきか。
もしかすればそれをこちらの命に向けていれば、ほんの僅かな勝算もあったかもしれない。だが、この男は倒すことではなく足止めをすることに命をかけた。
自分の命を、他人のためにかける道に全力を尽くした。
本当に、見違えたものだと思った。


ふと気がつけば最後に残っていた同盟の相手すらもこの場にて死んだということを意識する。

ロロ・ランペルージ、ルルーシュの顔を騙って利用した、平行世界の弟ともいえる存在は放送で名を呼ばれた。
C.C.、平行世界の自分とは違う、しかしある意味では同一とも言えた者はこの手に魔女の力を、コードのみを残してこの手で殺した。

そして今。
あくまでもただ一時的な共闘のためとはいえ不戦協定を結んで行動していた帝王もまたこうして消滅した。

「………」

振り返って背後で崩れ落ち始めた体を見ながら。
この魔王を足止めした勇者への賞賛の意味も込めて、見送るようにゼロは言葉を紡いだ。




320 : この川の向こうで ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:28:28 9IoRWxMU0


急ぎ歩み続けるさやか。
その背に背負った巧の体は、何故か魔法少女の体を持ってしても重いと感じるものだった。

いや、もしかしたらそれは彼自身が背負ってきた多くのことに対する重さなのかもしれない。

「…マミさん、杏子…、まどか…」

仲間達に向けて思いを馳せるさやか。
そうすれば、今の自分が抱えている疑問の答えに何かが近づけるかもしれないと思った。
だけど答えは出なかった。

それでも、彼女自身気付いていないだろうが。
その疑問を問いかけることはしていなかった。
彼女自身の中では、答えに確かに近づいている。ただ、そのことを意識していない、気付いていないだけ。

そのことに彼女が気付くには、もう少しだけ、何かが足りなかった。





命が止まり、燃え上がる体の中。
もう動くことは叶わぬ状態で、しかし木場の意識は僅かにその中に残っていた。

痛みもない。苦しみもない。
ただ、体が燃えていくのと同時に、色んなものが風に乗っていくかのように消えていくことに心地よさも感じていた。


――――森羅万象、全てのものに訪れる終着点、それが無。
――――そして生あるものに訪れる無、それが死だ。

ふと、もう何も聞こえるはずのない体に、響くように声が聞こえた。

――――そして死が包む時、ゼロへと還すものは全てに対し平等だ。
――――喜びも、夢も、理想も、そして憎しみも絶望も悲しみも。

そう言われて気付く。
自分の体が軽くなっていると感じた理由を。

自分の上にのしかかっていた色んなものが少しずつ消えていき。
その重りがなくなって自由になろうとしているのかもしれないと。

――――眠るがいい、帝王、いや、木場勇治。全てを包む、冷たくも優しい無の中で。

ああ、そうだ。
こんな自分でも、最後に自分の意志で守りたいと思うものに命を賭けられたのだ。
だから、これでいい。

(これで…いいんだ、これで……)

燃え尽きた体は、その思念を最後に想うと同時に霧散。
ただ一山の灰のみをその場に残して、風に吹かれて消えていった。

【木場勇治@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト 死亡】



【D-2/一日目 夜】

【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、気絶
[装備]:ファイズギア+各ツール一式@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:ファイズとして、生きて戦い続ける
1:木場…
[備考]
※参戦時期は36話〜38話の時期です


321 : この川の向こうで ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:28:56 9IoRWxMU0


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、左目に傷(治癒不可?)
[装備]:ソウルジェム(濁り30%) 、トランシーバー(残り電力一回分)@現実、グリーフシード(濁り100%)
[道具]:基本支給品、グリーフシード、アヴァロンのカードキー、、
    クラスカード(ランサー)、コンビニ調達の食料(板チョコあり)、コンビニの売上金
[思考・状況]
基本:私は…どうしたらいいんだろう…
1:巧を連れて安全なところまで離れる
2:ゲーチスさんとはもう一度ちゃんと話したい
[備考]
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※魔法少女と魔女の関連性を、巴マミの魔女化の際の状況から察しました




【ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(中)、右脛切断(回復中)、肩から胸にかけて切り傷(中:回復中)、コード継承、ガウェイン召喚制限中
[装備]:
[道具]:共通支給品一式、全て遠き理想郷@Fate/stay night、ランダム支給品0〜2(本人確認済み、木場勇治も把握)
[思考・状況]
基本:参加者を全て殺害する(世界を混沌で活性化させる、魔王の役割を担う)
1:足の傷が治るまで休息する。
2:可能であるなら、今だけは木場のように同盟を組むに値する存在を探す?
3:セイバーに若干の期待。いずれ決着をつける
[備考]
※参加時期はLAST CODE「ゼロの魔王」終了時
※第一回放送を聞き逃しましたが、木場勇治から情報を得ました
※C.C.よりコードを継承したため回復力が上がっています。また、(現時点では)ザ・ゼロの使用には影響が出ていない様子です
※制限緩和の影響によりガウェインのハドロン砲、飛行機能がある程度使用可能となっています
※放送を越えた影響による他作品の情報の一つはFate/stay nightの世界のものです。しかし必要以上にそれを見る気はないようです。

※ブラスタークリムゾンスマッシュとオーガストラッシュのぶつかり合いによって広範囲に視認可能な光が発生しました。


322 : この川の向こうで ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:29:09 9IoRWxMU0


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、左目に傷(治癒不可?)
[装備]:ソウルジェム(濁り30%) 、トランシーバー(残り電力一回分)@現実、グリーフシード(濁り100%)
[道具]:基本支給品、グリーフシード、アヴァロンのカードキー、、
    クラスカード(ランサー)、コンビニ調達の食料(板チョコあり)、コンビニの売上金
[思考・状況]
基本:私は…どうしたらいいんだろう…
1:巧を連れて安全なところまで離れる
2:ゲーチスさんとはもう一度ちゃんと話したい
[備考]
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※魔法少女と魔女の関連性を、巴マミの魔女化の際の状況から察しました




【ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(中)、右脛切断(回復中)、肩から胸にかけて切り傷(中:回復中)、コード継承、ガウェイン召喚制限中
[装備]:
[道具]:共通支給品一式、全て遠き理想郷@Fate/stay night、ランダム支給品0〜2(本人確認済み、木場勇治も把握)
[思考・状況]
基本:参加者を全て殺害する(世界を混沌で活性化させる、魔王の役割を担う)
1:足の傷が治るまで休息する。
2:可能であるなら、今だけは木場のように同盟を組むに値する存在を探す?
3:セイバーに若干の期待。いずれ決着をつける
[備考]
※参加時期はLAST CODE「ゼロの魔王」終了時
※第一回放送を聞き逃しましたが、木場勇治から情報を得ました
※C.C.よりコードを継承したため回復力が上がっています。また、(現時点では)ザ・ゼロの使用には影響が出ていない様子です
※制限緩和の影響によりガウェインのハドロン砲、飛行機能がある程度使用可能となっています
※放送を越えた影響による他作品の情報の一つはFate/stay nightの世界のものです。しかし必要以上にそれを見る気はないようです。

※ブラスタークリムゾンスマッシュとオーガストラッシュのぶつかり合いによって広範囲に視認可能な光が発生しました。


323 : ◆Z9iNYeY9a2 :2016/10/18(火) 08:30:03 9IoRWxMU0
投下終了します
>>322はミスです


324 : 名無しさん :2016/10/18(火) 13:25:56 I082yu6QO
投下乙です

木場は救われた
たっくんはまた一つ背負った


325 : 名無しさん :2016/10/18(火) 20:42:47 edxUeXbo0
投下乙です

木場ぁ!自分の弱さと向き合い最後の最期に救われたのか…
守れなかった事実を背負いファイズとして戦う巧、自分が何の為に戦うべきか悩み続けるさやか、再び孤独に戻り魔王を貫くゼロ
それぞれ丁寧に描写されていてナイスでした


326 : 名無しさん :2016/10/20(木) 03:41:29 aLdAK.F60
投下乙です
通常形態でオーガに食らいつき、ブラスターフォームへの変身。
必殺技で意地のぶつけ合いとやはりたっくんファイズはかっこいい。パラロワ未登場のアクセルフォームもいつか書いてくれよな〜頼むよ〜(他人任せの屑)
三度目の遭遇に加え木場さん殺されたりと、たっくんとゼロは因縁ある関係になってるっぽい?


327 : 名無しさん :2016/10/29(土) 23:08:38 j40BeVkQ0
アクセルフォームは既に出てるんだよなぁ…(呆れ)


328 : ◆Z9iNYeY9a2 :2016/11/08(火) 22:20:33 0PZUiBBs0
予約期限から遅れてすみません。これより投下します


329 : 喪失ー黒き虚の中で少女は ◆Z9iNYeY9a2 :2016/11/08(火) 22:22:51 0PZUiBBs0

私は間桐桜。穂村原学園に通う高校一年生です。
普通、というには特殊な家庭で暮らしてますが、今は説明を省略します。

私がこの殺し合いに呼ばれてからのことを話そうと思います。

殺し合いに呼ばれ、夜中に一人、教会らしき場所に放置されていました。
電灯もまともに点かない廃屋のような建物の中、不安に押しつぶされそうになる心を必死に支えながらランプを照らして名簿を見た私は、その中にあった先輩の名を見た時、心が悲鳴をあげそうになりました。
姉さんの名前やイリヤさん、セイバーさんの名前があったことも忘れそうになるくらいには、です。

姉さんだったらきっと大丈夫です。こんな状況でも、天才の姉さんらしく打開策を探しつつうまくやって、きっとここから出られる手段を見つけることができるでしょう。
だけど、先輩は。

あの人の危なさは私がよく知っています。
もしかしたら私の知らない場所で、自分の命を顧みずに人を守ろうとするんじゃないかと。そうして命を落としてしまうんじゃないかと。
そう思ったら居ても立ってもいられなくなりました。
胸の内から、先輩を失う恐怖が溢れ出しそうでした。

だけど今の私は何の力もない。
間桐の後継者として育てられてきたこの体にあるのは、多くの蟲に侵されたボロボロの肉体のみ。
魔術の一つを扱うこともできないこの身で、先輩のために何ができるんでしょう。

そんな時でした。
あのベルトを見つけたのは。

デルタギアという名前のそれをつければすごい力を手にすることができる。
きっとこの力があれば先輩を守れる。
そう思って説明書通りに使って。

その瞬間、私は私じゃなくなりました。
心の奥に抑えていた衝動が溢れ、何かを壊してしまいたいという感情を抑えきれなくなり。

気がつけば二人の人間を殺し。
姉さんが死んでいることに気付き。
またもう一人を殺し。

だけど藤村先生に会った時、ほんの僅かに"私"に戻った気がしました。
もしかするとナナリーちゃん達に会った時にまだ私でいられたのはそのおかげだったのかもしれません。

そして、きっとこの時まではまだ私は逃げていたんだと思います。
もう既に3人の人を殺したという事実から。

だけどあの時、藤村先生を殺した瞬間に、もう逃げることはできなくなりました。
血に塗れてしまったこの手はもう取り返しのつかないところにまできていることを自覚して、私は悪い人間だと認識して。

だから先輩に殺されることを望みました。

姉さんによく似た人もナナリーちゃんも、巴マミさんも皆殺して、殺して、殺して。
悪の限りを尽くした化物は正義の味方に殺されるんです。

自分で死を選ぶこともできない私は、それだけを心の支えにして生きてきました。

なのに。

何で。

『衛宮士郎』

先輩の名前が、呼ばれたんですか?


330 : 喪失ー黒き虚の中で少女は ◆Z9iNYeY9a2 :2016/11/08(火) 22:23:46 0PZUiBBs0



放送が終わった数瞬の後、ある市街地一角を深い影が覆い尽くした。
それは魔力の残滓を僅かに残して収まったが、もしここに生あるものがいれば、たちまち影に飲み込まれて消滅したかもしれない。

もし幸運があったとすれば、この場に誰もいなかったことで誰もその餌食にならなかったことだろう。





岩と土砂に覆われた山岳地帯。
そんな場所に人工的な照明など接地されているはずもなく。僅かに顔を残した陽の光が僅かな明かりを残しているのみ。それもじきに消え、辺りを闇が包んでいくだろう。

しかし、多少の闇などオルフェノクにとっては恐れるものではない。
人間より遥かに優れた感覚は、薄暗い中でも動くものを明確に捉えられ、微かな物音でも聞き取ることは可能だ。
だからこそ、そんな薄暗い空間でも冷静に放送に耳を傾け、明かりをつけずとも名簿に印をつけていくことができた。

「…あまりよろしくない状況ですね」

そして改めて名簿に目を落とした村上は、思わず顔を顰めた。

「北崎さん、まさかあなたまでもが命を落とされるとは」

ラッキークローバーの一人にして、オルフェノクとしての能力であればラッキークローバー内でも随一。間違いなく上の上と言える者の一人だった。

無論、この場には自分の力を以ってしても抑えるのがやっとであったゼロのような存在がいる。
もし彼や、彼に匹敵する者に会えば如何に北崎とはいえ敗北を喫することもあるだろう。
理屈としては分かっていても、北崎の名が呼ばれたという事実はやはり村上にとっても衝撃ではあった。

そしてもう一人。
長田結花。木場勇治の仲間のオルフェノクではあるが、以前からラッキークローバーの候補としては目にかけていた少女だ。
能力はオリジナルのオルフェノクとして申し分ない。闇を抱え人間を人知れず襲う彼女の心は、きっかけさえあればオルフェノクとして完成できるだろうと期待もかけていたものだ。
木場勇治がこちら側についた今では彼女も説得次第で味方につけられるのではないかとも考えていた。乾巧のように。
そんな彼女の死はあまり好ましいものではなかった。


「ラッキークローバーの半数が命を落とし、候補の方までもがこうだとは。乾巧を引き入れられたとしても、もう一人足りませんね…」

少なくとも現状この場にいるオルフェノクには、ラッキークローバー候補となり得る能力を持ったものを村上は認知していない。
こうなれば元の世界に帰った後改めて候補を見直す必要があるだろう。

最も、この場で新たにラッキークローバー足り得るオルフェノクが誕生していれば楽ではあるが。

「まずは乾巧、彼を改めて探す必要がありそうですね」

欠けた四葉の一枚の候補である乾巧。もし未だに迷っているのであれば、こちらから導く必要がある。
Nの城に置いてきた二人は一旦保留。ラッキークローバーのメンバー、そして候補が欠けた以上今はこちらの方が優先だ。

園田真理も命を落とした今、まだ迷い続けるのであればあと一歩で引き込めるだろう。
問題はどこに向かうかだが。

「市街地に向かいましょうか。ここより北、ということはないでしょうし」

少なくともこの山にいることはないだろう。彼と最後にあった場所からすればあまりにも北上しすぎた位置だ。

北崎までが命を落とした今、未だ生き残っている者はそれだけの実力者か、それとも立ち回りのうまかった切れ者か、運に恵まれた幸運者か。
少なくともNの城の二人は実力者と幸運者に該当するだろう。

いずれにしても他者に会わねば話にならない。協力か利用か、あるいは選別か。
僅かに期待しつつ、村上は市街地へと足を進めた。





331 : 喪失ー黒き虚の中で少女は ◆Z9iNYeY9a2 :2016/11/08(火) 22:24:20 0PZUiBBs0


放送が終わった数瞬の後、ある市街地一角を深い影が覆い尽くした。
それは魔力の残滓を僅かに残して収まったが、もしここに生あるものがいれば、たちまち影に飲み込まれて消滅したかもしれない。

もし幸運があったとすれば、この場に誰もいなかったことで誰もその餌食にならなかったことだろう。





岩と土砂に覆われた山岳地帯。
そんな場所に人工的な照明など接地されているはずもなく。僅かに顔を残した陽の光が僅かな明かりを残しているのみ。それもじきに消え、辺りを闇が包んでいくだろう。

しかし、多少の闇などオルフェノクにとっては恐れるものではない。
人間より遥かに優れた感覚は、薄暗い中でも動くものを明確に捉えられ、微かな物音でも聞き取ることは可能だ。
だからこそ、そんな薄暗い空間でも冷静に放送に耳を傾け、明かりをつけずとも名簿に印をつけていくことができた。

「…あまりよろしくない状況ですね」

そして改めて名簿に目を落とした村上は、思わず顔を顰めた。

「北崎さん、まさかあなたまでもが命を落とされるとは」

ラッキークローバーの一人にして、オルフェノクとしての能力であればラッキークローバー内でも随一。間違いなく上の上と言える者の一人だった。

無論、この場には自分の力を以ってしても抑えるのがやっとであったゼロのような存在がいる。
もし彼や、彼に匹敵する者に会えば如何に北崎とはいえ敗北を喫することもあるだろう。
理屈としては分かっていても、北崎の名が呼ばれたという事実はやはり村上にとっても衝撃ではあった。

そしてもう一人。
長田結花。木場勇治の仲間のオルフェノクではあるが、以前からラッキークローバーの候補としては目にかけていた少女だ。
能力はオリジナルのオルフェノクとして申し分ない。闇を抱え人間を人知れず襲う彼女の心は、きっかけさえあればオルフェノクとして完成できるだろうと期待もかけていたものだ。
木場勇治がこちら側についた今では彼女も説得次第で味方につけられるのではないかとも考えていた。乾巧のように。
そんな彼女の死はあまり好ましいものではなかった。


「ラッキークローバーの半数が命を落とし、候補の方までもがこうだとは。乾巧を引き入れられたとしても、もう一人足りませんね…」

少なくとも現状この場にいるオルフェノクには、ラッキークローバー候補となり得る能力を持ったものを村上は認知していない。
こうなれば元の世界に帰った後改めて候補を見直す必要があるだろう。

最も、この場で新たにラッキークローバー足り得るオルフェノクが誕生していれば楽ではあるが。

「まずは乾巧、彼を改めて探す必要がありそうですね」

欠けた四葉の一枚の候補である乾巧。もし未だに迷っているのであれば、こちらから導く必要がある。
Nの城に置いてきた二人は一旦保留。ラッキークローバーのメンバー、そして候補が欠けた以上今はこちらの方が優先だ。

園田真理も命を落とした今、まだ迷い続けるのであればあと一歩で引き込めるだろう。
問題はどこに向かうかだが。

「市街地に向かいましょうか。ここより北、ということはないでしょうし」

少なくともこの山にいることはないだろう。彼と最後にあった場所からすればあまりにも北上しすぎた位置だ。

北崎までが命を落とした今、未だ生き残っている者はそれだけの実力者か、それとも立ち回りのうまかった切れ者か、運に恵まれた幸運者か。
少なくともNの城の二人は実力者と幸運者に該当するだろう。

いずれにしても他者に会わねば話にならない。協力か利用か、あるいは選別か。
僅かに期待しつつ、村上は市街地へと足を進めた。





332 : 喪失ー黒き虚の中で少女は ◆Z9iNYeY9a2 :2016/11/08(火) 22:24:43 0PZUiBBs0

市街地に入った村上は、得体のしれない感覚に包まれるのを感じていた。

街灯に照らされた街並み。風景はしばらく前に見た、あの崩壊したスマートブレイン社周辺の様子に比べれば綺麗なものだ。

薄暗がりの道路は、感受性豊かな学生辺りが見ればその暗い闇に恐怖を覚える者もいるだろう。
そこにいるはずのない何かがいるのではないかという想像が、いないはずの何かに対する恐れを抱かせる。

だが、村上が感じているのはそういうものとは異なるもの。
肌にねっとりとどす黒い何かが貼り付いてくるような感覚。

何かを恐れているわけではない。しかし生理的な恐怖にも近い感覚が体を包む気配を振り払うことができない。

「…何かがいるのですか?」

少なくともこの様子は尋常ではない。
精神的に影響を与えてくる何かがこの近くにいる、もしくはあると考えるのが自然。

警戒しつつ一歩足を踏み出した時、背後に何者かの気配を感じ。
振り返ると同時にオルフェノクへと姿を変えた。

目に映ったのは、地面を這うようにこちらに迫る、漆黒の刃。
手に纏わせた薔薇の花弁で払い、その軌道を逸らす。

ふと地を見ると、そこにはコンクリートの地面を覆うように、絵の具を垂らしたかのように真っ黒な闇が包んでおり。
その先、村上から見て10メートルほど先の辺りに、真っ白な髪をした少女が立っていた。
顔は髪に隠れて見えないが、ボロボロの衣服の下に地面を覆う影と同色の長い服にも見える何かを纏っているのが特徴的だった。

動きは非常にゆったりとしており、もし自分のような異端の者に対する認識がない者が見れば幽鬼か何かだと思っただろう。
目の前の存在は無論幽霊などではない。オルフェノクの五感は確かに目の前の少女の呼吸音を、足音を、心臓の鼓動を確かめている、

この心に直接揺さぶりかけてくるような感覚の大元は、おそらくこの影だと推測する。

(体はともかく心が万全の状態では戦えない…、ここは、少なくとも今は可能な限り戦闘は避けなければなりませんね)

恐怖から逃げるという道を選ばなけれなならないことに若干の屈辱を感じつつ、背を向けることなく足を後ろに引こうとした、その時だった。

「あなたは……怪物ですか…?」

それは言葉を発した。

「あなたは、悪い人ですか…?」


333 : 喪失ー黒き虚の中で少女は ◆Z9iNYeY9a2 :2016/11/08(火) 22:26:13 0PZUiBBs0

掠れて消えてしまいそうな声で、こちらに呼びかけてくる。
その声は震えている。まるでついさっきまで泣きじゃくっていた子供のようだった。

それを聞いた瞬間、村上の中でその得体のしれない何かだったものは、異形の力を持った少女へと認識が移った。

「怪物…、悪い人…、なるほど、確かに人間からはそう見えるものかもしれませんね。
 ですが幾つか訂正させていただきましょう。
 私はオルフェノク。人間の進化系にしてより高みへと至った存在。
 そして私は常により良き人類のため、と願って行動している。悪、と断じられるのも些か心外です」
「……衛宮、士郎という人を、知らないですか?」

問いかけに対してあくまで冷静に、嘘を交えることもなく答えた村上に対し、脈絡もなく別のことを問いかけてくる少女。
その名を呟く時の声が震えているのを村上は聴き逃してはいない。おそらく彼女が情緒不安定なことにも関係しているのだろう。

村上は問われた者の名は知らない。せいぜい先の放送で呼ばれたということを認識しているくらいだ。
だがそれでも地を這う影は脅威だ。
ここは慎重に、彼女を刺激しない方向で、しかし御すことができるような答えをすべきだろう。

「衛宮士郎…、確か私が情報交換した者がその人についてを語っていたように思いますね」

嘘ではあるがある程度誤魔化しの効く範囲の情報にすることで相手の気を引く。
もしそこから話し合いまで持ち込むことができれば、こちらのペースに引き込める。

少女は顔を上げた。
虚ろな瞳は、じっとこちらを見ている。

「少し話しませんか?こちらは危害を加えるつもりはありません」
「………」

品定めをするように見つめる瞳。
それを見ながら、同時に足元の影の動きを可能な限り注視する村上。

すると、やがて影は潮を引くように少女の元へと引いていき、後には街灯に照らされた建物や自分たちの影だけを残した。

「私は村上峡児と言います。あなたは?」
「間桐…桜…です」
「間桐さんですね」

村上は記憶を掘り起こす。
確か、暁美ほむらとアリスが言っていた黒い影を操る少女、その名が桜という名だと聞いていた。

なるほど、あの年齢の割に場慣れしているように見えた二人が強く警戒していただけのことはある。

「…時に、あなたは私のようなオルフェノクと会ったことはありますか?」

ともあれ、話を進められる前に先んじて情報を求める村上。
もし後からこちらの情報を出した際に情報の食い違いから嘘だとバレることがあってはことだ。
自然な流れで、最低限の情報を引き出しておくことでこちらの嘘をなるべく隠せる状況を作る必要がある。

「…鳥のような人と、大きな牙みたいなのを顔に付けた人に会っただけです」
「なるほど」

鳥、そして大きな牙。
村上の知る中では、この場で該当するのは長田結花、そして海堂直也の二人だろう。

「教えてください、先輩…衛宮士郎のこと、なんでもいいんです。ちょっとのことでも、お願いします」
「いいでしょう」

そうして情報交換のために通りの一軒家の中に村上は虚構と脚色によって



村上が答えた、衛宮士郎のことを知っていると言った人物。
その名は、乾巧と答えておいた。

理由は消去法によるもの。
少女が出会った人物全てを先に聞くことなどできない。流れで出会ったオルフェノクのことを聞き出すことが限界だった。
その中で彼女が出会っていないオルフェノク。

乾巧、木場勇治、北崎。
しかしここで死亡した北崎の名を出しては話が終わってしまう。最悪その瞬間先のように間桐桜が暴走しないとも限らない。
かと言って、木場勇治の名を出すのも憚られる。彼は貴重な人材だ。

無論乾巧とて貴重な人材であることは同じ。しかしまだ彼は迷いを持っている可能性がある。
言わば保険だ。もし覚悟を決めているのであれば、その時にこの少女の対処を決めればいい。

幸運にも、乾巧の動向自体は彼女も把握はしていないとのことだった。

(しかし、デルタギアを使っていたとは…。精神状態がよろしくないのはその影響でしょうか)

この少女の精神の不安定さは、おそらくデルタギアのデモンスレートも影響しているのだろう。
だが今は彼女は持っていないとのこと。どうも園田真理が持ち出していったらしいが、その彼女も既に名前を呼ばれている。
現状どこにあるのかは検討もつかない状態だ。可能な限り手元に押さえておきたい村上としてはあまり喜ばしくない。


334 : 喪失ー黒き虚の中で少女は ◆Z9iNYeY9a2 :2016/11/08(火) 22:26:46 0PZUiBBs0
彼女の能力についてもう少し聞き出してみようかとも思ったが、刺激を避けて慎重に質問をした結果、あまり聞き出すことはできなかった。

更に、間桐桜は今後どうしたいかという部分についても曖昧ではっきりとしない。
この状態の少女が実力で生き残ったとも、上手な立ち回りで生き残ったとも思えない。
運がよかったというところだろうか。
それとも―――

(あの力で、出会った相手を殺して生き残ってきたのか。だとしたら警戒が必要ですが…)

あれは危険だと何かが直感している。
あの力を使われるわけにはいかない。


そう思ったところでふと村上は自分の中にある感情を意識した。

(…私は恐れているのですか?先程のこの娘の力を?)

あの時、間桐桜が言葉を発した際に恐怖は振り払ったと、そう思っていた。

ならば何故、自分はこうもこの娘が力を使うことを避けようとしているのか。
厄介なだけならば振り払えるほどの力を持っていると自負している。
だというのに、一体何を恐れているのか。

「あなたの話は分かりました。ではどうでしょう、私と行動しませんか?
 どうしたらいいか分からないというのであれば、この私があなたのことを導くこともできると思いますが」

あの影の正体を暴くことでオルフェノクへの力とすることが理由の一つ。
だが、村上の無自覚な想いはもう一つの理由に重きを置いていた。
すなわち、この少女を離すことが自分の安全に繋がるのではないか。つまりこの少女のことを恐れているということ。それを認められないという感情。

そのために間桐桜を利用し、味方に引き入れることを何より優先していた。

コクリ、と頷く桜。

話は終わり、立ち上がった村上。

その時だった。

空が夕焼けのごとく赤く染まったのは。

「あれは…」

染まった場所は空の一角のみ。
空を赤い粒子のようなものが、渦を巻くかのように覆っている。

ここより南の辺りに位置する市街地がその中心のようだ。

そして村上はその赤い光が何なのかを知っている。
フォトンブラッド、その中でもあの赤はファイズの体を構成しているエネルギーの色だ。
加えて村上の知るファイズのものはあれほど大出力のエネルギーを発したりはしない。

つまりあの場にはファイズがいる。
それも、通常のファイズを遥かに凌駕するほどのエネルギーを操ることができる者――乾巧か、あるいはまだ知らぬオルフェノクの何者かがあそこで戦っているということ。

(乾巧であれば、探す手間が省けますね。やはりい運がいい)
「間桐桜さん、もしかするとあの場所にあなたの探している人がいるかもしれません。
 よろしければ、向かいませんか?」

桜はコクリ、と再び頷く。
それを見た村上は、桜に合わせる歩幅で、ゆっくりと歩みを進め始めた。

村上の後ろを歩く桜の瞳は、虚ろなままだった。


335 : 喪失ー黒き虚の中で少女は ◆Z9iNYeY9a2 :2016/11/08(火) 22:27:30 0PZUiBBs0



桜は村上の言っていることが出まかせであることは薄々と感じ取っていた。
いや、桜自身がそう思おうとしただけとも言えるかもしれないが。

確証のない情報。こちらを見る村上が、明らかに"間桐桜"としてではなく何か異質なものを慎重に扱おうとしている様子。
そこから、桜は村上の与えた情報が嘘であろうと自身に思い込ませていた。

だって、桜の最後の希望は失われたのだから。
姉・遠坂凛はとうに命を落とし、それでも心の支えにしていた衛宮士郎もいなくなった。
悪に成り切ったところで、もう裁きにくるものはいない。ならば何故自分は生きているのだろう。
いっそ、自分も周りの全ても殺して壊して無くしてしまえれば楽だっただろう。
あるいは、彼らの後を追って命を断つことができれば楽だっただろう。

だが、悲しむ心を持った桜はそうなることを最後の一歩のところで耐えた。
心に蓋をして感情を殺して。
完全な化物になる一歩前のところで踏み止まった。

故に桜の力の暴走を抑えている最後の支え、衛宮士郎を知っている者の事実にも嘘と自分に言い聞かせることで感情の暴走、それによって引き起こされる能力の発露を抑えていた。

一方で、士郎のことを知りたいという欲もまた本心だった。
知りたいという思いと知らないままでいなければならないという矛盾、そのバランスの上に桜の心は均衡を保っていた。

桜は知らない。
赤い閃光の渦の中心にいる乾巧が、村上自身が出まかせで口にした衛宮士郎を知っているという情報。
それを知っている人物であるということに。

そしてその事実に加えて、村上は気づいていない。
桜の心がどれほど危ういバランスの上で留まっているのか、それが決壊した時に何が降りかかるのか。
その大きなリスクに。


【C-2北部/一日目 夜】

【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:黒化、右腕欠損、全身の骨に罅・回復中、行動に支障無し、魔力消耗(中)
[装備]:マグマ団幹部・カガリの服(ボロボロ)
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:???????
[備考]
※アンリマユと同調し、黒化が進行しました。魔力が補充されていくごとにさらに黒化も進行していくでしょう。
※心、感情に蓋をすることで平常を保っています。しかし僅かなきっかけがあれば決壊するほどに危うい状態です。


【B-2/山岳地帯/一日目 夕方】

【村上峡児@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(小)、人間態
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×3、拡声器、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、バスタードソード@現実、C.C.細胞抑制剤中和剤(2回分)@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー
[思考・状況]
基本:オルフェノクという種の繁栄。その為にオルフェノクにする人間を選別する
1:赤い閃光が見えた辺りに向かい、乾巧を探す。
2:黒い少女(間桐桜)を利用する。
3:選別を終えたら、使徒再生を行いオルフェノクになる機会を与える
4:出来れば元の世界にポケモンをいくらか持ち込み、研究させたい
5:魔王ゼロ、夜神月、ゼロを名乗る男はいずれ殺す。
6:間桐桜の力を心のどこかで恐れている?


336 : ◆Z9iNYeY9a2 :2016/11/08(火) 22:27:50 0PZUiBBs0
投下終了です


337 : 名無しさん :2016/11/09(水) 13:22:45 RImnfczU0
投下乙です

嘘から出た真


338 : 名無しさん :2016/11/09(水) 22:17:02 .MENJza.0
投下乙です

予想はしてたけど桜がヤバい…この状況で士郎の死の真実を知ったら…
というか社長。木場さん死んでたっくんも迷いを振り切った今、もう優勝するしか道無いですよ


339 : 名無しさん :2016/11/15(火) 22:57:07 lDlABhfo0
投下乙でした。

桜が非常にヤバイ。真実を知ってしまったら、完全に暴走してしまいそうだ。
社長は社長で爆弾を背負ってしまったのが不運。


340 : 名無しさん :2016/11/15(火) 23:01:35 6RnE9leU0
投下おつです

この状態の桜と一緒とか、悪役なのに社長が心配になってくる


341 : 名無しさん :2017/04/11(火) 00:54:57 YL/ALKUg0
久々に予約来てて嬉しい


342 : ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:00:44 3m5SiQTg0
投下します


343 : 一歩先へ(前編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:02:56 3m5SiQTg0
夜の闇に染まりかけた市街地。
薄暗さを残しつつある建物の群れの中。

しかしそこには巨大な何かの蹂躙を受けたかのように崩れ落ちた建物の見える場所もあった。

ポツポツ、と街灯に電気が灯る光景を見つめながら、Nは放送に耳をやった。


「シロナ、サカキ…。
 ……海堂、ミュウツー、君達も…」

シロナとサカキ。
直接の面識はないものの、ジムリーダー、チャンピオンとしてポケモントレーナーとしては共に優れた存在であった二人。
だが、方やチャンピオンというポケモントレーナーとして規範とも言える存在であり、実際にそう言えるだけの人物と知っていた者。
そして方やジムリーダーという、これまたトレーナーの規範となるべき役職に付きながらロケット団という組織を率いて社会的悪ともなっていた者。
その互いに異なるあり方の二人。それぞれ話してみたいことも多々あった。

海堂直也。
正直なところ、別れた時点でこうなることは分かっていたのかもしれない。
木場勇治の追撃が続いた時には彼は止められなかったということ。むしろその可能性に至らなかった自分が甘かったのだろう。

ミュウツー。
人に作られたと聞いたことがあるポケモン。知識の中ではもっと凶暴な存在と知っていたが、実際に出会った彼は迷い、何かを求めているようにも感じられた。
人との意思疎通を可能とする力がある故か、そのミュウツー自身の言葉には若干聞こえなかった部分がある。
彼とも、再度会った時には確かめたいこともあった。

真理、タケシ。
彼らの名が呼ばれることはとうに知っていた。
海堂やルヴィア達と入れ替わるように出会った彼らも、もういないということを改めて思い知らされた。

「ゲゴッ」

いつの間にかモンスターボールから出ていたグレッグルが喉を鳴らす。
主の、タケシの死に最も悲しんでいるはずの存在。その様子は一見平常通りに見えて。
しかしその瞳には深い悲しみを湛えているのが分かった。

「…ニャ」
「目が覚めたかい?」

抱きかかえたニャースがふとうめき声を上げて、その声に意識が反応するように目を覚ます。
体に傷などがあったわけではないことが意識回復を早めるという意味では幸いだったのだろう。

「おみゃーは…。…ここはどこニャ?!マミ達はどこに行ったニャ!?」
「少し落ち着いてくれ。君が意識を失うまでにあったことを教えてくれないか?」

どこから話すべきか。
ニャースが探しているであろうマミ。彼女はもうこの世にはいない。
魔女となり果てた少女は、戦う意志と力を取り戻した仮面の戦士によって討たれた。
その事実をどう告げるべきか。

そう考えていた時だった。

「…!ちょっと待ってくれ」

Nの未来視が何かを捉えた。
この先、遠くない未来、何かを見ることになる。

場所は分からない。だが巨大な屋敷が崩れた廃墟のようなところに、何かがある。

地図を確認したNは、進行方向を方角はそのまま、しかし向きを僅かに傾けて歩み始めた。


344 : 一歩先へ(前編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:03:26 3m5SiQTg0



「君は……」

市街地の荒れの中でも、特に建造物の崩壊が酷い部分を沿って歩いた先。もし先までのペースで歩んでいればもう少し後の時間にたどり着いただろう場所。
もしその建物が健在であったならば、それなりに大きいといえる屋敷があっただろうと思われる、瓦礫の山が積み上がった敷地。
地図には間桐邸と記されていたその場所に。

物言わぬ躯となった白い体が倒れていた。
全身は元の形を知っているからこそ判別できるものの各部位が赤く塗りつぶされて喪失している。
切れているというよりも裂け、千切れ、砕かれているという、目を背けたくなるような状態で倒れているそれは。

「ミュウツー…」

この会場にいる多くのポケモンの中でも参加者の一つとしてカウントされていた存在。

「おみゃーも…死んでしまったにゃ…?」

潤んだ瞳としわがれた声で、その躯に問いかけるニャース。

「君は、彼のことを知っているのか?」

そんなニャースに問いかけたN。
アッシュフォード学院での遭遇の時から、ミュウツーのことを知っている様子であったことから気にはなっていた。
今を逃せば聞く機はもう来ないだろうと思い、敢えて問うてみたのだ。

「ちょっと会ったことがあるってだけにゃが…」

とある地方の秘境とも言える場所に住んでいたポケモン。
自分のことを作られたポケモンと自称し、コピーポケモンなる者達を連れて暮らしていた者だという。
ニャースにとってはそれが初対面であったのだが、何故かミュウツーは自分やピカチュウ、そしてサトシ達のことを知っている様子で。
何故かそんな彼を、ニャース自身も初めて出会った相手と思えなかった。

「どうしてかニャ…。そんな深い仲じゃなかったはずニャのに…。
 何だか以前こいつと大切なことを話したような感じがするニャ…。何で、何でこんなに胸が苦しいニャ…」

ニャースの涙。
言葉からその悲しみの理由を見出すことはできなかったが、しかしNはそれを感じ取っていた。
人間の言葉では語ることができない、ニャースのポケモンとしての心が本能的な悲しんでいたのだ。

と、ふとポケットのモンスターボールから光が放たれ、中にいたポケモンが姿を表す。

「ピカピ…」
「グゥゥ…」

ピカチュウとリザードン。

自然にボールから出てきた二匹はニャースと同じく悼むように悲しみの声を上げる。

ピカチュウはニャースと同じような悲しみを感じているようだったが、リザードンは理由が分からないにも関わらず湧き上がる悲しみに困惑も混じり、しかし確かに悲しんでいる。
ボールから出ていたグレッグルはミュウツーのことを知らない様子だが、それでも同じポケモンであったものの死に何か思うところがある、以上の何かを感じているように静かにミュウツーを見つめていた。


作られたポケモン。
もしかするとその業はポケモンだからこそ、感じ入るものがあったのかもしれない。
ポケモンの言葉を理解するNでも感じ取ることができない何かを、ポケモンだからこそ感じ取っている。のかもしれない。

悲しむニャースの頭を撫で近寄り、その顔に触れた時、ミュウツーの表情が目に入った。

これだけの重症を負い、全身を傷だらけにされていながら、その顔は何故か僅かな微笑みを湛えていた。
痛みや苦しみなど感じさせず、その全身の状態すらも一瞬忘れてしまいそうなほど、穏やかな笑みを。

「君は、最期に何かを見つけられたのかい…?」


345 : 一歩先へ(前編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:03:49 3m5SiQTg0

彼が死に際に何を見て、何を感じたのか。それはミュウツー自身にしか分からないのだろう。
だからせめて、その死が穏やかなものであったことを願いながら、Nは短く黙祷した。

そして、疲労も残り続けるポケモン達を一旦ボールに戻し、

「ニャース、君に一つ言っておかないといけないことがあるんだ」

ニャースが聞き逃した放送の内容。
きっと彼にも悲しみを生むことになるという予感を感じながらも、それを告げるためにNは口を開いた。




時間が少し進んだ頃。
Nのいた間桐邸に、数時間前までは滞在していた者達の移動先。

遊園地の建物内。
いくつかのスタッフルームが置かれた一帯のうちの一部屋に、彼らはいた。

パイプ椅子の上に体育座りで佇むL。
その後ろに直立するセイバー。
そして小さな事務机を挟んだ向こうには、織莉子が姿勢を正した状態で椅子に座っていた。

机の上には星型のペンダント、ルビーと紅茶の入ったティーカップが置かれている。
Lのものの中には底に僅かに残った溶け残りの砂糖が見える以外は空っぽの状態だったが、織莉子の方に置かれたカップは紅茶が冷めて尚も手の付けられた様子はなかった。

「飲まないのですか?」
「私はここにお茶会をしにきたわけではありません。事に時間的余裕がない可能性がある以上話を早く進めるべきだと考えています」
「まあ、正論ですが。しかしあなたも疲れているのではないでしょうか。
 少し休息の時間も持たないと思考力が劣る可能性もありますよ」
「その点であればご心配なく。この程度の疲労なら慣れています」
「なるほど、分かりました話を進めましょう」

そんな会話を続けている間にも、まるで心の中を探られているかのような感覚が織莉子の中からは抜けることがなかった。
しかしその不快感を振り払うかのように、織莉子は口を開いた。



そんな彼らとは少し離れた別室において待機している少女達。

イリヤ、美遊、まどか、アリス。

まどかと織莉子を離すことは警戒のため当然であるが、それを提案したのは織莉子自身だった。
何か狙いがあるのかと疑ったLは念のために互いの元に現状織莉子が敵対行動をとっても対抗できるような状態を作っておいた。
まどかはイリヤとアリスが、Lはセイバーが守るように。
そして互いの間の情報共有のためにルビーとサファイアを双方に置き、両方の情報が分かるようにしておいた。

美遊は戦う力こそあるものの、ダメージが大きく怪我に対する処置が必要とのことでまどか側に置き、なおかつサファイアを手元に残して傷の治癒にも専念させている。


「…ねえ、美遊。大丈夫?痛くない?」
「………大丈夫。このくらい」

服をはだけさせた美遊の体に消毒液を塗るイリヤ。
数時間前に再会した時には少なくとも外から見た限りはまだ傷の少なかった体は、至るところに傷がつき、火傷の跡も痛々しく残っている。

サファイアの力さえあれば時間経過による治癒は可能だが、傷の応急処置の有無は傷の治る早さにも関わってくる。
薬品の臭いとあちこちに貼り付けられたガーゼやテープもその回復にはある程度重要となるものだ。

「あの…、ほむらちゃんと一緒にいたって…」
「ええ、一応あいつとはここで最初に出会って、それからまあ、ほとんどずっと一緒に行動していたわ」

拙いながらも怪我の処置をするイリヤと美遊の横で、まどかはおずおずとアリスに問いかけた。
友達であり、何だかんだで自分のことを色々と気にかけていたという少女のことだ。
聞けば、彼女は死ぬ間際までほむらの傍にいたという。


346 : 一歩先へ(前編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:04:49 3m5SiQTg0


「あの子は何だかんだであなたのこと気にかけてたし守ろうとしてたと思うわ。
 それで、私を置いてあの美国織莉子に戦いを挑んで」
「………」
「正直、私もそれでほむらが負けて死ぬことになったってことにはうだうだ言うつもりはないわ。
 それにあいつだって織莉子と戦う前に近くにいた無関係な人間を巻き込んで殺してるわけだし」

遠い目をしながら、傍に佇んでいたポッチャマをまどかの元に寄せる。

「ポチャ?」
「最初の放送の後辺りからかしら。ほむらが拾ったポケモンっていう生き物よ。
 この子自身がいいっていうならだけど、あなたが持っていてあげてくれないかしら」

じっ、とポッチャマはまどかの顔を見つめ、そしてアリスの申し出に頷いてまどかの傍に駆け寄った。
そんなポッチャマを抱き上げたまどかは、ふと複雑な気持ちになった。

「どうかしたの?」

表情を僅かに変えたまどかに、ふとアリスは疑問の声を投げた。

「いえ…、ちょっと複雑な気持ちになって。
 私達を騙していたキュウべぇっていう生き物がいたんですけど、そいつもこんな感じの大きさだったから、ちょっと身構えちゃって」
「キュウべぇ…、あ、そっか。あの時のほむらの対応はそういうことだったのね」

初めてポッチャマと会った時に銃口を向けて威嚇まで行ったほむらを思い出すアリス。
あの後もバーサーカーとの戦いで気を許すまでは警戒心が解けることはなかった。
何をそこまで気負っているのかと思っていたが、もしかするとこの生き物もそのキュウべぇと同じものに見えていたのかもしれない。

「もう少し、聞かせてもらってもいいですか?
 ほむらちゃんのこと」
「そうね、別に構わないわ。
 どこから話したものかしら――――」



「だけど…よかった。美遊が無事で。もし美遊もいなくなったら…、私、一人になっちゃうんじゃないかって不安だったから」
「…………」
「美遊?」

会話を続けるまどかとアリスの隣で、美遊の傷の手当を続けるイリヤ。
だがふと思った安堵の言葉を呟いた時、美遊の纏っていた空気が若干変わるのを感じた。

「どうかしたの?」
「…なんでもない。大丈夫だから」

案じたイリヤの言葉も短く返した美遊。しかしその背は数時間前と比べて小さく見えた。
傷だらけの体を差し引いても、何かに耐えているかのようにも思えて。

イリヤは静かに、その体を後ろから抱きしめた。

「イリヤ…?」
「大丈夫だよ美遊。美遊も、生きてるんだから。
 辛いことがあったとしても、今は泣いていいんだから」

衛宮士郎の死に傷ついた時の自分を支えてくれた友。
その力になりたいという思いから紡がれた言葉。

そのイリヤの手にゆっくりと触れた美遊は、溜め込んでいた感情を爆発させたかのように勢い良く振り返り。

「…!美遊…!?」
「ロロさんが…、結花さんが……、私、助けられなかった…!」
『美遊様……』


美遊が結花が周囲にいないことに気付いたのはイリヤと合流し気持ちが落ち着いてからだった。
そのことについてサファイアに問い詰めた時、若干の躊躇いの後で答えが返ってきた。

――結花様は、あの後で。…美遊様を見守りながら、お亡くなりになられました。



ロロ・ランペルージ。
兄を失ったという彼の救いを求めるような姿にはあの時のイリヤを、そしてもしかしたら自分自身を重ねて見ていたのかもしれない。
あるいは、兄ではないものに兄を重ねていたあの姿に。
兄が生きる理由だった彼に、現実を直視させた代償に生きる理由を失わせてしまった。
だからこそ力になりたい、助けたいと思った。
だけど、助けられなかった。
その怒りは今までは殺した張本人であったゲーチスに向いていたが、それが止み、落ち着くと同時に強い後悔となって心に押し寄せてきていた。

だからこそ、長田結花のことは助けたいと思った。
人間を超えた力を持ちながらその力に飲まれることを、大切な人や自分の心を失うことを恐れていた彼女。
壊れかけた心が、人としての形までも失っていく様子を見たくはなかった。
憎悪に飲まれた彼女が、自身の心を捨ててまで復讐に走ろうとするのを止めた。
闇に飲まれそうになったその心に声を届かせ打ち勝ち、仲間として、友として歩んでいこうと約束して。
それが最後に交わした言葉になっていた。


347 : 一歩先へ(前編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:05:59 3m5SiQTg0

「ポケモン城にいる謎のポケモン達、ですか。
 そこに何かがあるかもしれないと。今語られた見張りのポケモンを配置しなければならないような、何かが」


織莉子とLを挟んだ机の上に敷かれた会場の地図、そのポケモン城と書かれたエリアに、Lはチェスの黒のクイーンの駒を置いた。

会場に最初に連れてこられた織莉子は、サカキという人物と共にその内部を探索し。
しかし見張りのようにおかれた、サカキ曰くクローンのポケモン達により深く入ることは叶わなかった。

「それにしてもクローン、ですか。そう思われた根拠は?」
「その場にいたニドキングが、彼の持っていたものとほぼ同一個体であったこと、そしてかつて連れていた、実際には会場にいた別のポケモンの存在を確認したから。
 それが根拠だと」
「ポケモントレーナーにしか分からない直感のようなものですか。今は信じましょう」

黄色いネズミのようなポケモン。
黒いキツネのようなポケモン。
巨大な翼を持った赤い竜のポケモン。
全身に刃物を備えた人型のポケモン。
三つ首の黒い龍のポケモン。
そしてサメのような皮膚を持った竜のポケモン。これはおそらくシロナが持っていたというガブリアスだろう。

サファイアは三つ首のドラゴンと黒いキツネに見覚えがあると言っていた。
病院にて戦った、ゲーチスというポケモントレーナーが駆っていたポケモン、サザンドラとゾロアークだという。

(おそらくそこにいたポケモンはこの会場に集められたポケモン達と同じ数がいるということでしょう。
 しかし…、果たしてその程度の数で本当にその施設を守りきることができるものか…?)

少なくとも数にして20はいないだろう。それに強さにもばらつきがある様子。
もしもLが会ったバーサーカーのような参加者と渡り合えるものがいたとしたら、それがその場所を目指したとしたら。
間違いなく手に余る。

おそらくはそれを見越しての、最初の放送での禁止エリア化だろう。

だからこそ、ポケモンを送り込むという行動には懐疑的だ。

(もし侵入されて困るのであれば、間違いなく対策されているはず。
 もし何も起こらないのであれば、考えられる可能性は二つ)

それ自体が何かしらの罠か、あるいは試されているか。

どちらであるかを考えるにも、アカギという人物を評することができるほどの面識がない。
シロナからの情報から得た印象では考察の材料には不足している。


「……それで、そろそろよろしいでしょうか。こちらの本題に入らせていただいても」

空気を貫くような鋭い声を聞いて思考を止めるL。
互いの情報交換は終わったが、まだ一つ終わっていない重大な話がまだ残っている。

鹿目まどかのことについて。

「考え直してはもらえないのでしょうか?」
「その選択肢があるのなら、私はこうしてあなたと会話などしません」

織莉子にしてみれば不利な状況の中で、それでもまどかの危険性を訴えることであるいは彼らの心変わりを狙ってのこと。
無論、確率が低いのは分かっている。
もしここで交渉が決裂したとしても、彼らがこちらに害を及ぼすことはないだろう。
監視するにしろ、ここで別れるにしろ、対象の存在を確認したならまた機を伺えばいい。

だが、少なくともLの言うように思い直すことはない。

「一人の命を犠牲にすれば、多くの命が助かる。もし彼女が生きている限り、世界の危機は終わりません。
 あなたは、多くの人を見捨てるというのですか?」
「命の重さの違い、ですか。耳に痛い話ですね」

じっとLは織莉子の瞳を観察している。
その目には迷いはない。
まだ中学生ほどの少女が、人の命を世界と天秤にかける選択を迷いなく行っている。
それを自分の使命のように感じているのだろう。

その様子には、Lの脳裏に一人の男の姿をよぎらせた。


348 : 一歩先へ(前編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:06:44 3m5SiQTg0

「私の答えも変わりません」
「…、言い分を聞きましょう」
「まだ起こってない事象を罪として問う手段などありませんよ。
 それにあなたの行おうとしていることは私刑でしかない」
「その何が悪いのですか」
「法的に許されることではありません」
「魔法少女に法律を適用するつもりですか?」
「そうです。もしも超常的能力による殺人が起きたのであれば、私はそれを立証し、殺意を証明し、人の手による殺人ということを示した上で人を裁きの場に送るでしょう。
 ですから、いかなる理由があれ、あなたがどのような存在であったとしても。そのやり方を認めるわけにはいかないのです」

苛立つかのように、織莉子は組んだ手の上で、指を小刻みに揺らしている。
Lの言っていることに業を煮やしているのだろう。

警戒心を強めるセイバーだったが、Lはセイバーを制するように手を上げる。

「それにもう一つ。私が心配しているのはあなたのことです織莉子さん」
「どういうことですか?」
「あなたはまだ若い。魔法少女が如何なる存在かは聞き及んでいますが、それでもまだ先の未来を生きることはできるはずです。
 そんなあなたが殺人者となっていく姿を見るのは忍びない」

小さく息が吹き出すような声が織莉子から響く。
Lの発言に対し、織莉子は笑っていた。

「だとしたら、もう手遅れなのではないですか?私はもう一人の、……人間を手にかけています」
「事情はある程度聞いています。暁美ほむらさんのことであれば、法的にもまだ情状酌量の余地はあるでしょう。あなたは己の身を守っただけですから」
「正当防衛に当たるからといいたいのかしら。私の戦いは認めないと言っておきながら随分と勝手なものね」
「ええ、勝手です。世の法とはそういうものです。
 それに、そのことに縛られて話を逸らされるわけにもいきませんので。本題はまどかさんのことで、これからのことです」

賢いやり方ではないという自覚はあったが、非常に徹しようとしている様子から情に訴えるやり方を試してはみたが。
しかしどうやら現状の彼女とは噛み合わせが悪く話が拗れてしまうようだ。
一方でそのやり方自体には全く効果がないわけではない様子。少女はところどころで鹿目まどか本人の話へと向かうことを避けようとしている節が見られた。
もし鹿目まどかの抹殺に対し行動の重きを置いていて、しかし情を完全に捨てられてはいないのであれば。

時間が必要だとLは感じ取った。

「では別方向へと話を向けましょう。
 織莉子さん、あなたの言うことが真実であり、まどかさんは世界に危機を及ぼす危険がある存在であるということは事実なのでしょう。
 なら、我々にも協力させてもらえませんか?」

それまで無表情であった織莉子の顔に、驚きの混じったような色が浮かんだ。

「もちろん、まどかさんの命を奪わないという方向で、という前提となりますが」
「………そんな手があるとは思えません」
「何故そう言い切れるのですか?ここには世界一と言われた名探偵がいて、他にも様々な私の知らない力を持った人たちがいます。
 確かにあなたの世界であれば、誰にも相談できなかったのかもしれない。あなただけで最善を尽くさなければならなかったのかもしれない。
 ですが、ここには事情を知った上で協力してくれる人たちも――――いますよね?」
『もちろんですよ!』
『ほむらが守りたいと言った人の命だもの、できることなら私も助けたい』
『ポチャ、ポチャ!』

傍のステッキに呼びかけると、通信機を通して向こうにいる者達の声が響いた。
その様子に、何故か困惑している様子の織莉子。


「皆気持ちは同じのようです。あとは織莉子さん、あなたさえ頷いてくれるのであれば」
「私は……」

織莉子の表情に若干の揺らぎを感じた。
彼女の心中までは分からないが、何かに動揺している様子が見受けられた。

「…少し考えさせてください」
「分かりました。こちらとしても一旦情報を整理したいですし、その後答えを教えてください」

織莉子は部屋を退出、まどか達のいる側とは反対側へ向けて歩いていった。

「念のために聞きますが、今の彼女の動きが演技である可能性は?」
「いえ、何らかの魔術…魔力の気配は感じられませんでした」
『同じくですね』
「そうですか。少なくとも私の人を見る目が誤っているということはなさそうで安心しました」
『あとですね、それとは別件なんですけど、遊園地の入り口に誰か来てるみたいですね。
 人間の反応は一つで後はいくつかそれ以外の生き物がいるみたいですね。
 こっちに向かってきてるみたいですけど、どうしますか?』
「会いに行ってみましょう」

敵ではなく、加えて友好的な相手であることを願いつつ、L達はその来場者を迎えるために立ち上がった。


349 : 一歩先へ(前編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:09:42 3m5SiQTg0
(((すみません、いくつかのパートが飛んでました。>>346の続きを以降として改めて投下させてください))))



「私、何も守れなかった…!助けられた人たちだったのに…私が…力が足りなかったせいで…」

美遊は責めた。
出会った人達のことを助けることができなかった自分自身を。

「美遊……」

顔を押し付けた肩が湿り気を帯び始めているのをイリヤは感じていた。


イリヤが美遊の弱音を聞くのは初めてだった。
これまではどんなことがあっても、全部を自分で背負おうとして、決して弱音を吐くことなく、イリヤから見れば強く有り続けた。
だけど、それほどの強さを持ってしても、人の命を背負うには美遊はまだ子供だった。

自分と何ら変わらない。

「私は…、みんなを助けたいって思ってた…。だけど誰も助けられない…。どれだけ戦っても…、誰も…。
 それが――――」
「悔しいの…?」

コクリ、と頷く美遊。
イリヤには美遊の気持ちが分かる、と言って慰めることはできなかった。

「もう誰も死なせたくないって思っても、どうしても守れない…、私には守るだけの力がない…!」

ずっと自分の力で戦い続けてきた美遊に対し、自分はずっと肝心なところで守られてきただけ。
戦えなかったことへの後悔はあったが、戦った結果への後悔はイリヤには分かるということはできなかった。

「そ、それは違うよ美遊ちゃん…!」

そんな美遊に言葉を投げかけたのはイリヤではなく、同じ部屋にいた、そして一時は美遊と共に行動した少女だった。

「私は美遊ちゃんに助けられた。もしあそこで美遊ちゃんがいなかったら、きっと私は死んでた…。
 美遊ちゃんがどんな風に戦ってたのかは分からないけど、でも少なくとも私は美遊ちゃんに助けられてここにいるの。
 だから…、そんなに自分を責めないで…」

助けられた少女、鹿目まどかは自分のことを守ろうとする美遊の背中を、あの戦いの中でずっと見ていた。
彼女が何を背負っているのか、何故ここまで自分を守ろうとするのかはまどかには分からない。自分が助けられたことが正しいことなのかの答えも、はっきりとは定まっていない。
だが、守るために戦ったその成果として自分はここにいる。美遊にとってのその事実は、彼女の名誉として否定したくはなかった。


『まどか様の仰られる通りです、美遊様』
「サファイ…ア……」

『ロロ様も結花様も、確かに助けることは叶いませんでした。
 ですが…』

サファイアの脳裏に浮かぶ、灰となって散りゆく少女が最期に告げた言葉をサファイアは告げる。

『結花様は最後まで笑顔でいらっしゃいました。
 美遊様と友達になれて、良かった、と。それだけで十分に幸せだったと』
「………」
『あの傷は戦いの中で受けたものではありませんでした。もし美遊様がいなければ、きっと結花様はただ孤独の中で朽ちるだけだったでしょう。
 命は救えなかったかもしれませんが、それでも美遊様は、結花様の心は救ったのです』
「…っ」

サファイアの言葉に堪えるように息を詰まらせた美遊。
イリヤはそんな美遊の背を撫でながら優しく抱きしめる。

「…いいんだよ、泣いても。辛い時は、泣いてもいいんだよ」
「イリヤ……」
「私はここにいるから、美遊は一人なんかじゃないから。
 だから、そんなに全部一人で背負い込まなくてもいいんだよ」
「ぅ…あ、あああああああああああああああ!!!」

イリヤの言葉に、堰を切ったように声を上げる美遊。
そんな友達を、イリヤは優しく静かに抱きしめ続けた。


350 : 一歩先へ(前編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:09:59 3m5SiQTg0



(そっか…私は、助けられたんだよね…)

そんな美遊の様子を見て、まどかはふと今までの自分を思い出す。
美遊に守られ、死にかけた時も助けられ、そして。

『私の分も、精一杯生きなさい』

シロナに助けられて、今の自分はここにいる。

今美遊に言った言葉は彼女のことを思って思わず口にしたもの。
だけど、まどか自身に常にその意識があったかと言えば、答えはノーだ。
今の言葉を、織莉子の問いかけで生きる意思を揺らがせた自分に語る資格が果たしてあったのか。

「…ほむらは言ってたわ。これまでずっと戦ってきたのはあなたのためだって」
「私の…?」
「最期に死にそうになっていた時も、あなたのことを想ってた」
「………」

アリスは大体の事情は聞いている。
織莉子がまどかを狙う理由、そしてその事実に心を痛め、死を選択しかねない危うい状態にもあった時があること。

「もう、あなた一人の命じゃない。だから一人で自分の命の決断をしようとしないで。背負い込んじゃダメなのよ」
「………」

アリスの言葉に、しかしまだ心の中に燻る迷いを残したまどかには黙り込むことしかできなかった。







「ポケモン城にいる謎のポケモン達、ですか。
 そこに何かがあるかもしれないと。今語られた見張りのポケモンを配置しなければならないような、何かが」


織莉子とLを挟んだ机の上に敷かれた会場の地図、そのポケモン城と書かれたエリアに、Lはチェスの黒のクイーンの駒を置いた。

会場に最初に連れてこられた織莉子は、サカキという人物と共にその内部を探索し。
しかし見張りのようにおかれた、サカキ曰くクローンのポケモン達により深く入ることは叶わなかった。

「それにしてもクローン、ですか。そう思われた根拠は?」
「その場にいたニドキングが、彼の持っていたものとほぼ同一個体であったこと、そしてかつて連れていた、実際には会場にいた別のポケモンの存在を確認したから。
 それが根拠だと」
「ポケモントレーナーにしか分からない直感のようなものですか。今は信じましょう」

黄色いネズミのようなポケモン。
黒いキツネのようなポケモン。
巨大な翼を持った赤い竜のポケモン。
全身に刃物を備えた人型のポケモン。
三つ首の黒い龍のポケモン。
そしてサメのような皮膚を持った竜のポケモン。これはおそらくシロナが持っていたというガブリアスだろう。

サファイアは三つ首のドラゴンと黒いキツネに見覚えがあると言っていた。
病院にて戦った、ゲーチスというポケモントレーナーが駆っていたポケモン、サザンドラとゾロアークだという。

(おそらくそこにいたポケモンはこの会場に集められたポケモン達と同じ数がいるということでしょう。
 しかし…、果たしてその程度の数で本当にその施設を守りきることができるものか…?)

少なくとも数にして20はいないだろう。それに強さにもばらつきがある様子。
もしもLが会ったバーサーカーのような参加者と渡り合えるものがいたとしたら、それがその場所を目指したとしたら。
間違いなく手に余る。

おそらくはそれを見越しての、最初の放送での禁止エリア化だろう。

だからこそ、ポケモンを送り込むという行動には懐疑的だ。

(もし侵入されて困るのであれば、間違いなく対策されているはず。
 もし何も起こらないのであれば、考えられる可能性は二つ)

それ自体が何かしらの罠か、あるいは試されているか。

どちらであるかを考えるにも、アカギという人物を評することができるほどの面識がない。
シロナからの情報から得た印象では考察の材料には不足している。


351 : 一歩先へ(前編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:10:26 3m5SiQTg0

「……それで、そろそろよろしいでしょうか。こちらの本題に入らせていただいても」

空気を貫くような鋭い声を聞いて思考を止めるL。
互いの情報交換は終わったが、まだ一つ終わっていない重大な話がまだ残っている。

鹿目まどかのことについて。

「考え直してはもらえないのでしょうか?」
「その選択肢があるのなら、私はこうしてあなたと会話などしません」

織莉子にしてみれば不利な状況の中で、それでもまどかの危険性を訴えることであるいは彼らの心変わりを狙ってのこと。
無論、確率が低いのは分かっている。
もしここで交渉が決裂したとしても、彼らがこちらに害を及ぼすことはないだろう。
監視するにしろ、ここで別れるにしろ、対象の存在を確認したならまた機を伺えばいい。

だが、少なくともLの言うように思い直すことはない。

「一人の命を犠牲にすれば、多くの命が助かる。もし彼女が生きている限り、世界の危機は終わりません。
 あなたは、多くの人を見捨てるというのですか?」
「命の重さの違い、ですか。耳に痛い話ですね」

じっとLは織莉子の瞳を観察している。
その目には迷いはない。
まだ中学生ほどの少女が、人の命を世界と天秤にかける選択を迷いなく行っている。
それを自分の使命のように感じているのだろう。

その様子には、Lの脳裏に一人の男の姿をよぎらせた。

「私の答えも変わりません」
「…、言い分を聞きましょう」
「まだ起こってない事象を罪として問う手段などありませんよ。
 それにあなたの行おうとしていることは私刑でしかない」
「その何が悪いのですか」
「法的に許されることではありません」
「魔法少女に法律を適用するつもりですか?」
「そうです。もしも超常的能力による殺人が起きたのであれば、私はそれを立証し、殺意を証明し、人の手による殺人ということを示した上で人を裁きの場に送るでしょう。
 ですから、いかなる理由があれ、あなたがどのような存在であったとしても。そのやり方を認めるわけにはいかないのです」

苛立つかのように、織莉子は組んだ手の上で、指を小刻みに揺らしている。
Lの言っていることに業を煮やしているのだろう。

警戒心を強めるセイバーだったが、Lはセイバーを制するように手を上げる。

「それにもう一つ。私が心配しているのはあなたのことです織莉子さん」
「どういうことですか?」
「あなたはまだ若い。魔法少女が如何なる存在かは聞き及んでいますが、それでもまだ先の未来を生きることはできるはずです。
 そんなあなたが殺人者となっていく姿を見るのは忍びない」

小さく息が吹き出すような声が織莉子から響く。
Lの発言に対し、織莉子は笑っていた。

「だとしたら、もう手遅れなのではないですか?私はもう一人の、……人間を手にかけています」
「事情はある程度聞いています。暁美ほむらさんのことであれば、法的にもまだ情状酌量の余地はあるでしょう。あなたは己の身を守っただけですから」
「正当防衛に当たるからといいたいのかしら。私の戦いは認めないと言っておきながら随分と勝手なものね」
「ええ、勝手です。世の法とはそういうものです。
 それに、そのことに縛られて話を逸らされるわけにもいきませんので。本題はまどかさんのことで、これからのことです」

賢いやり方ではないという自覚はあったが、非常に徹しようとしている様子から情に訴えるやり方を試してはみたが。
しかしどうやら現状の彼女とは噛み合わせが悪く話が拗れてしまうようだ。
一方でそのやり方自体には全く効果がないわけではない様子。少女はところどころで鹿目まどか本人の話へと向かうことを避けようとしている節が見られた。
もし鹿目まどかの抹殺に対し行動の重きを置いていて、しかし情を完全に捨てられてはいないのであれば。

時間が必要だとLは感じ取った。

「では別方向へと話を向けましょう。
 織莉子さん、あなたの言うことが真実であり、まどかさんは世界に危機を及ぼす危険がある存在であるということは事実なのでしょう。
 なら、我々にも協力させてもらえませんか?」


352 : 一歩先へ(前編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:10:44 3m5SiQTg0

それまで無表情であった織莉子の顔に、驚きの混じったような色が浮かんだ。

「もちろん、まどかさんの命を奪わないという方向で、という前提となりますが」
「………そんな手があるとは思えません」
「何故そう言い切れるのですか?ここには世界一と言われた名探偵がいて、他にも様々な私の知らない力を持った人たちがいます。
 確かにあなたの世界であれば、誰にも相談できなかったのかもしれない。あなただけで最善を尽くさなければならなかったのかもしれない。
 ですが、ここには事情を知った上で協力してくれる人たちも――――いますよね?」
『もちろんですよ!』
『ほむらが守りたいと言った人の命だもの、できることなら私も助けたい』
『ポチャ、ポチャ!』

傍のステッキに呼びかけると、通信機を通して向こうにいる者達の声が響いた。
その様子に、何故か困惑している様子の織莉子。


「皆気持ちは同じのようです。あとは織莉子さん、あなたさえ頷いてくれるのであれば」
「私は……」

織莉子の表情に若干の揺らぎを感じた。
彼女の心中までは分からないが、何かに動揺している様子が見受けられた。

「…少し考えさせてください」
「分かりました。こちらとしても一旦情報を整理したいですし、その後答えを教えてください」

織莉子は部屋を退出、まどか達のいる側とは反対側へ向けて歩いていった。

「念のために聞きますが、今の彼女の動きが演技である可能性は?」
「いえ、何らかの魔術…魔力の気配は感じられませんでした」
『同じくですね』
「そうですか。少なくとも私の人を見る目が誤っているということはなさそうで安心しました」
『あとですね、それとは別件なんですけど、遊園地の入り口に誰か来てるみたいですね。
 人間の反応は一つで後はいくつかそれ以外の生き物がいるみたいですね。
 こっちに向かってきてるみたいですけど、どうしますか?』
「会いに行ってみましょう」

敵ではなく、加えて友好的な相手であることを願いつつ、L達はその来場者を迎えるために立ち上がった。


353 : 一歩先へ(後編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:12:43 3m5SiQTg0
「はじめまして。ボクはN」

帽子をかぶった長身の男は、そう名乗った。

「はじめまして。私はLです」
『何かすごい自己紹介ですねこれ』

浮世離れした、しかしどこか似通った気配すら感じさせるような二者がたった一つの文字を名前として名乗りあう光景を前にポツリとルビーはそう呟いた。

「L、か。本名というわけじゃないみたいだけど」
「それはあなたも同じなのではありませんか?」
「確かにそうだね。だけど平時はこうして通している。差し支えがないならこのままにさせてもらいたい」
「了承しました」
「…ピカチュウ、行っておいで」

モンスターボールを取り出して開いたN。
その中から黄色いネズミのような生き物が飛び出し、ポッチャマの方へと向かっていった。
おそらく仲間なのだろう。

「あなたはどっちの方向から来られたのですか?」
「僕は前々回の放送の時は病院にいた。その後はここから少し南に当たる場所を西に横断して、さっきはD-2のさくらTVビルってところの近くにいた」
「さくらTV、ですか…」

その施設の名に、表情を曇らせたL。
同行していたセイバーは、自己紹介も忘れて思わず問いかけていた。

「いきなりですが一つよろしいでしょうか?その付近で、間桐桜という人を見かけなかったでしょうか?」
「…間桐桜。いや、見なかったが、あの付近にいたのか?」
「はい。彼女はさくらTVビルにいたようです。
 事実だけを申し上げるのであれば、何か黒い影のようなおぞましい何かを操っていました。死人も知る限りで一名確認されています」

桜の現状を改めて聞かされたセイバーは、顔を顰めさせる。
そしてNは、驚くことはなく、しかし若干の焦りを顔に浮かべていた。

「…やはりか、彼女は、まだ…」
「何か知っているのですか!?」
「あったことは伝える。だけどその前に。
 彼女の中に巣食っているものを教えてほしい。それが分からないと、彼女に起こったことに」
「彼女に巣食っているものは…、悪性の魔力とでもいいますか。人を殺すことに特化した悪意と殺意のようなものです。
 しかし、彼女はそれでもこれまで耐えていたはず。何かきっかけでもなければ、そんな形で暴走することなど」
「…彼女は、この場に来てすぐに支給されていたある道具を使っていた。
 デルタギアというものだ。海堂が言うにはオルフェノク用だから、ただの人間が使えばおかしなことが
「乾さんから聞いています。その考察はおそらく正解です。
 オルフェノクでない人間が使えば、破壊衝動に蝕まれ、凶暴になると」
「…!」

息を飲むセイバー。
彼女に取り込まれたことのあるセイバー自身、彼女の内に燻っている悪意が如何なるものか知っている。
桜は正気の時は必死にそれに耐えていたのだ。もしそれが起爆剤になれば。

「…だけど、それだけじゃない。彼女の心が壊れてしまった理由は」

Nは何かを思い出すように一息入れて、その事実を告げた。


354 : 一歩先へ(後編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:13:13 3m5SiQTg0
「彼女は、藤村大河を殺した」
「なっ…、バカな!サクラが彼女を殺すことなど…」

セイバーの口から驚愕の声が漏れる。
桜と大河の関係を深く知っているわけではないが、それでもセイバーには二人は家族、いうなれば姉妹のような深い繋がりがあるようにも感じられていた。
桜が殺す理由がない。

いや、それでも万が一にでもあり得るなら、彼女の中に潜むものが望まぬ形で暴走したか。

「ああ、きっと本来なら有り得なかったことなんだろう。だから、あれは事故だったんだと思う。
 だけど、結果として彼女が殺してしまった、それだけは紛れもない事実なんだ」
「…っく!!」
「セイバーさん、落ち着いてください」

駆け出そうとするセイバーを制止するL。

「Nさんがビルに向かった時には既に間桐桜さんはいなかったのでしょう?あの付近にいるかもしれないですが、今向かったところで焼け石に水でしょう。
 加えて、セイバーさん自身の状況を考えれば事態の悪化も考えられます。
 心境はお察ししますがせめて状況が整理できるまでは待っていただけませんか?」
「…分かりました」
「Nさん、もう少し情報を整理しておきたいので、ここまでであったことを教えてください」




Nが全ての情報を伝えた後、15分の猶予が欲しいということでLは一旦部屋を出ていった。
その間は各々行動を控えて待機してくれと言い残して。

織莉子を除いた一同は一つの部屋に集まっていた。

「…ステッキ、ミユ、少しいいですか?イリヤスフィールがバーサーカーを倒した時に用いたというカードですが、少し見せていただけないでしょうか」

逸る気持ちに整理がついたのか、あるいはその気持ちを抑えるための何かが必要だったのか。
ふと、セイバーは美遊と2本のカレイドステッキの元へと歩み寄った。

ちなみにイリヤは今はこの場所にはいない。少し用があるといって部屋を出ていった。


『これですかね?それとも今手元にあるものを全部ですか?』

ルビーはアーチャーとアサシン、キャスターのカードを。
美遊はライダーのカードを。
それぞれ取り出してセイバーに手渡した。

「これが、英霊の力を身に宿すという礼装ですか。
 …ちなみに、それぞれがどの英霊であったかというのは分かりますか?」
『アサシンのカードは分身を生み出す能力、キャスターは神代の魔女の能力を身に宿すことができました。
 アーチャーは、英霊の名は分かりませんが剣を模倣し生み出す能力を持っていました。バーサーカーを倒したのもこのカードですね』
「ライダーは、魔眼を持ってペガサスに騎乗する力を持った、英霊メデューサの力だった」
『それと今は手元にないですが、魔槍ゲイ・ボルグの使い手のランサー、エクスカリバーの使い手のセイバー、蘇生能力を備えたバーサーカー。
 これが全部ですね。私達の認知している限りでは』
「…全部で7騎、ですか」

セイバーは顎に手を当て、何かを考えるように思考する。

「私の世界にて行われていた聖杯戦争は、7騎の英霊を召喚し、マスターが互いに戦わせて使役するというものでした。
 セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカー」
「…それって……」

クラスカードのそれと同じもの。

「運命めいたものを感じますね、その英霊達が私の知る者達と同じであったということには。
 もしかしたら、そのクラスカードというものもどこかの世界において聖杯戦争に近い魔術的な儀式において使われていた魔術礼装なのかもしれません」
「………」

セイバーの言葉に、じっと静かに耳を傾ける美遊。
その表情の奥の想いは、やはりサファイアには読み取ることはできなかった。


355 : 一歩先へ(後編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:13:41 3m5SiQTg0


「君がミユか。少しいいかな?」

と、黙り込んだ美遊に向けて呼びかける声があった。
N。先程この場所にやってきた新たな来訪者。

「ゲーチスが、海堂を殺したと言ったのは本当なのか?」
「はい」
『助けを求める手を裏切り、無慈悲に殺したと、そう語っていました』
「そう、か」

Nは流石に驚いてはいる様子ではあるが、その中にはある程度は予測していたのではないかと感じさせる空気があった。
彼とゲーチスの関係性は聞いている。親子であり、そして親の目的のために利用され、傀儡とされていた子供であるということ。

彼がそれを知らぬ時間から来ているのだとしたら、その未来も知らせるべきなのかもしれない。

「……彼は、僕の父だ。小さな頃に僕を救って、世界のあり方を、僕の生き方を教えてくれた。
 だけど、僕が実際に見た世界は、彼の教えてくれたものとは大きく異なるものだって思い知らされた」

長年培ってきた自分の中にあった世界。
しかし藤村大河は、タケシは、園田真理は、そしてあの乾巧は。
Nの知らない、美しい存在だった。
あのもう一匹のドラゴンポケモンを従えた者のように。

ゲーチスがそんな彼らのような人間を知らなかったとは、今となっては思えない。
もしかしたら、彼に教えられてきたことは非常に偏ったものだったのではないか。

彼が何故、世界の本当の姿を隠したのか。
何故、海堂を殺したのか、少女を殺そうとしたのか。
彼は、本当は何をしようとしていたのか。

「…確かめないといけないのかもしれない。彼の真意を」
「…その、Nさん、ゲーチスの真意ですが」
「いや、言わなくてもいい。できれば僕自身が、僕自身の目で、耳で知りたい」

それを、自分の目で。




「Nさん…」

そんなNに対して呼びかけてきたのは鹿目まどか。その傍にはアリスも付き添っている。

「その、マミさんのことですけど……、本当なんですか?マミさんは魔女になったって…」
「マミ、という少女のことは分からない。ただ、乾巧と美樹さやかの二人がいたあの場所には、得体のしれない形の何かがいた。
 たくさんの人形を従えて、まるで空間を切り取ったかのような場所を生み出した存在。園田真理を殺したのも、そいつだった」

Nの口にした情報。使い魔、そして魔女の結界。
あの映像の後マミに何があったのか、まどかには分からない。だが、そこに魔女がいたのだとすれば、それを生み出したのは。

「間違いはないのよね?それは、本当に魔女だった」
「ああ」
「……魔法少女は、ソウルジェムの濁りを浄化することができなくなった時に魔女化するとほむらから聞いた。
 だけど、ほむらのソウルジェムは魔女を生み出すことなく砕けた。織莉子も同じことを経験したはず」
「つまり、その二人と巴マミという魔法少女の間には何かしらの違う要因があったと?」
「そうよ。一応Lにも詳しいことは話しておいたけど、自分の耳でもちゃんと確認しておきたくてね。友達だったやつのことだから」
「トモダチ、か」

Nは脳裏にこの場に来て自分に影響を与えた者達の姿を思い起こしながら、アリスの手に抱えられていたポッチャマの顔を撫でた。

「連れていく?あなたの方がこの子と一緒にいるのにちょうどいいのかもしれないって思うけど」
「いや、その必要はない。ポッチャマは君たちに確かな信頼の情を持っているみたいだ。
 …ところで、この子のモンスターボールはどこにあるんだい?」
「…?いえ、この子は一人で歩いてるところを見つけたからそのボールっていうのを持ってなかったのよ」
「………ふむ」

じっとLはピカチュウとポッチャマを交互に見ながら何かを考えるように小さく呟き始めた。





356 : 一歩先へ(後編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:14:38 3m5SiQTg0

これまで鹿目まどかの抹殺は自分の中で、天に与えられた使命のようなものと考えてきていた。
全てを失った自分が、キュゥべえとの契約でようやく手にした能力で見えた未来が示したもの、世界の崩壊。
それを食い止めることが、自分のすべきことだと。

だが、手にした力の特異性故に社会の公的機関のようなものに相談できるようなものでもなかった。
仲間の魔法少女を頼る、などという選択肢もなかった。多くの魔法少女では、自身がいずれ魔女と化すという事実に耐えきれない。
手にできるのは、自分の言うことを迷うことなく聞いてくれる―――言ってしまえば都合のいい手駒のような人間だけ。

そうなれば、自分だけの力でできる解決法など限られてくる。すなわち殺すしかない。

その思考で凝り固まっていた。


だからだろう。
まさか、こんなに積極的に、疑いもなくこの事実を受け止め、その上で協力を申し出てくる者がいるという可能性を思いつくことができなかった。


(もしも、私がサカキさんに対してこれを口にしていれば…、あるいは何かは変わったかしら…)

キュゥべえの存在を気にかけていたからということもあったとはいえ。
もしもまどかのことを協力することを頼めていたら。
いや、別にサカキに頼むこと自体には意味はないだろう。

頼むこともできなかったからこそ、Lが差し伸べた手に対し、答えに詰まってしまった。




「美国織莉子さん、ですよね?」

そんな織莉子の傍にやってきた小さな足音。

「確かイリヤスフィール…でしたね。警戒はしていないのですか?」

見たところ彼女が力を振るう元となったステッキの気配を感じない。
おそらくは彼女は手ぶらで来たのだろう。

「…私には織莉子さんのこと、悪い人には見えなかったから。
 それに、下手にルビーを持ってきてて警戒してるって思われたら話せないかもしれないって不安もありましたし」

本来であれば語り合うようなことなどない。
しかし、その手に抱きかかえられた猫――のようなポケモンがどうしても確認したいことがあると。

「確か名は、ニャースでしたか」
「……サカキ様のこと、教えてほしいのニャ」

聞けば、ニャースはサカキの率いるロケット団の一員であったという。
所有するポケモンというわけではなく、組織の一員、人間と同じポジション。

だが、織莉子が共にいたサカキはおそらく別人。
ニャースのいたロケット団は未だ健在だが、サカキのロケット団は一人のトレーナーの手で一度解散に追い込まれている。
きっとニャースとサカキは互いに平行世界の人間ということなのだろう。

だから彼の慕うサカキとは別人。
それでもニャースは構わないと言った。

出会ってからのこと、移動してきた道筋。
ずっと互いに干渉しないよう深入りした話は避ける、同行者以上の仲になることはなく。
しかし鹿目まどかの件が一段落したことで落ち着いたと錯覚し、少し気が緩んで僅かに込み入った話をして。
少しだけただの同行者という関係から歩み寄ったように感じたところで、不意の事故、自分に巻き込まれる形で命を落としてしまったこと。

「私がもう少し気をつけていれば、サカキさんも、彼のニドキングも命を落とさなくて済んだのかもしれない。
 謝って済むことではないのは分かっていますが、それでも謝罪させてください。彼を私事のいざこざに巻き込んでしまったことを…」
「…いいのニャ。おみゃあが悪いわけじゃないにゃ…」

結局会うことができなかったサカキが別人と言われてもニャースには実感がわかない。
ニャースがそれまで遭遇してきた相手にその齟齬が感じられる相手がいなかったことも影響しているのだろう。
敢えて言うならシロナだが、ニャースと彼女に深い付き合いがなかったこともあってその実感は得られなかった。
だからこそ、ニャースにとってその死を別人のものと割り切れず、気持ちの整理がつかなかった。

「…だけど、おみゃーは仇を取ってくれたのにゃ。サカキ様の無念を…」
「そんな崇高なものでは…。ただ彼女が私にとって倒さなければならない相手だったというだけのことです」
「それでもにゃ」

感謝の言葉を投げかけるニャースに、織莉子は複雑な表情を浮かべる。


357 : 一歩先へ(後編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:14:59 3m5SiQTg0


鹿目まどかの抹殺。それは誰に感謝されることもない、人道的には悪に属すること。Lに言われるまでもない。
その目的のための障害であり、そして受け入れられないあり方を生き、自分の勝利による苦汁を味わったというあの少女。
ぶつかることはある種の必然でもあり、いずれ引き合い戦うこともおそらくは定められていたのだと今にしてみれば思う。

そんな者を討ち取ったという事実を、まさか感謝されることがあるとは思ってもみなかった。

「………話は終わったのでしょう?ならもう下がった方がいいのではないかしら」
「織莉子さん、一つだけ聞かせてください。あなたはどうして魔法少女になったんですか?」



「あなたの世界の魔法少女がどういうものか、美遊に教えてもらいました。
 だとしたらあなたもきっと、何か願いを持っていたんじゃないですか?」
「答える義理はありません、と言ったら引き下がるのかしら?」
「教えたくないなら無理に聞こうとは思わないです。ただ、気になっただけですから」

じっとイリヤの目を見て、織莉子は一息ついて口を開いた。

「イリヤさん、お父さんやお母さんは愛していますか?」
「…愛しています、けどそれが何か…?」
「……なるほど、あなたは光に溢れた人生を歩んできたようですね」

その返事に対し疑問も持つことがなかった様子を見て、織莉子はイリヤの人生が幸福にあふれた明るいものであったのだろうと判断した。

「ならばあなたはその人生に対して―――いえ、あなたはこの質問を問うには幼いかもしれませんね。
 私もかつてはあなたのように光に満ちた人生を送っていたのだろうと思います。しかしある時を境に、それが私にとっては偽りのものであったと悟りました。
 多くを語るつもりはありませんが、私はその中で生まれた孤独の果てに、魔法少女となる道を選び、そして使命を得たのです。
 それが私にしかできない、唯一のものであると」
「…だから、誰にも言わずに一人で全部解決しようとしたんですか?」
「あのLという人に言われて少し自覚しました。だからでしょうね、別の道があるということを教えられて決意が僅かに揺らいでいます」

あの絶望の闇を晴らし、光をもたらす。
ヒーローになりたいと思っているわけではない。ただ、自分しかできないことだと信じたからこそ歩んできた道だった。

だからだろう。別の道の存在に気付くことができなかったのは。


「その、私には織莉子さんのこと分からないですから、ちょっと厚かましいこと言っちゃうかもしれないですけど…。
 もう少し希望を信じてもいいんじゃないかって思います。みんなが幸せになれるような道があるって。
 それこそ、織莉子さんやまどかさん達も含めて」
「できると思うのですか?」
「だって、魔法少女ってそういうものだって思うから。
 私の知る魔法少女は、困ってる人も見捨てずにどんな困難にも負けずに、希望を信じて立ち向かう、そんな存在だから」

かつてはあまり仲の良くなかった美遊とも友達になった。
別世界の、ある時共闘した白い魔法少女も敵となっていた少女と友達になりたいと願っていた。結末は分からないが、きっとそれは叶ったものだと信じている。
だから、きっと織莉子にも別の選択肢があるはずだと、イリヤは信じている。

そんなまっすぐな瞳を見てふふっ、と織莉子は小さく笑った。

「魔法少女、ですか。深く考えたことはなかったですが、そんな風に考えられたなら私ももっと美しい道が歩めたのかもしれませんね」

呟いた言葉は、イリヤにはどこか自嘲的にも感じられた。

織莉子を呼ぶ声が届いたのは、その時だった。




358 : 一歩先へ(後編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:16:27 3m5SiQTg0

「皆さん、お待たせしました」

Lが織莉子、イリヤ、ニャースを連れて広間に現れた。

「第一に私なりに色々考えてみたことを皆さんに伝えさせてもらいます。
 まずこの殺し合いの目的の大枠はシロナさんから聞いたものからは変わらないでしょう。この点は間桐邸で話したことと変わりません。
 問題は、その周り、目的の下の手段という部分にあるものです」

アカギの目的。それは感情のない静寂な世界を作り出すということ。
しかし、そのために何故この殺し合いという手段が必要なのか。
それを、あくまでその前提があった上での考察をLが語っていく。

「ニャースさんの世界のアカギもやろうとしたことに変わりはなかったらしいですから、その前提はあれがどちらのアカギであっても崩れないものとします。
 ニャースさんが会ったというC.C.さんは、そのアカギに近いことをしようとした者の存在を話していたといいます。
 人の意識を統一することで、嘘のない世界を作ろうとした者、シャルル・ジ・ブリタニアという者を」
「…ちょっと待って。つまり皇帝陛下がアカギに協力してるかもしれないっていうの?」

反応したのはアリスだ。
はぐれ者に近い扱いとはいえ曲りなりにも自身が仕えている皇帝が関わっているという事実は、急に受け入れられるものではないのだろう。

「ええ、ですから一つだけ確認をしておきたいことがあります。
 アリスさん、先の放送を行った者の声、どこかで聞いたことはありませんか?」
「声って言われても……、……いや、どこかで聞いたことはあるような気は……。
 確か皇帝陛下直属の騎士の中に、似た声をした少女がいたような、いなかったような…」
「ありがとうございます。それで十分ですアリスさん。
 とすれば、これを確信へと持っていくにはもう少し情報が必要になるでしょう。
 ここで重要になってくる人物はおそらく、枢木スザクではないかと思います」

枢木スザク。
Lの情報ではルルーシュの友でありブリタニアに仕える騎士。
しかしニャース経由のC.C.の情報でのスザクは、ルルーシュとはとある目的のために行動する同士でありブリタニアとは袂を分かったと言っていた。

「あの放送の主にしても、もし知っている人がこの場に残っているのであれば彼しかいないのではないかと思います」

ルルーシュ・ランペルージ、ロロ・ランペルージ、ナナリー・ランペルージ、ロロ・ヴィ・ブリタニア、そしてC.C.。
可能性のある人物の多くは既にいない。

「それと追加で聞きたいのですが。ニャースさん、アリスさん、あなた方はゼロと名乗る仮面の者と会った、と言いましたね。
 おそらくはイリヤさん達の会ったゼロとはまた別の人だと思われますが」
「ええ、私はその両方と会ったからはっきり分かるわ」
「その方ですが、枢木スザクである可能性が高いです」

ゼロという存在がブリタニアの存在する世界では重要な意味を持つということは聞いている。
それを知っている者がいるとするならば、おそらくその世界の人間しかいない。
あとは消去法だ。

アリス自身も何か心当たりがあるのか、口元に手を当てて考え始めた。

「ですから、可能なら彼とコンタクトを取りたいと思います。あの放送の主の正体についての情報が欲しいですし。
 それと織莉子さん」

と、今度は織莉子の方に向き直って、Lは語る。

「協力者にキュゥべえなる者が関わっているのではないかという可能性について考えてみたのですが」
「はい」
「その結果、いるにしろいないにしろ、あなたがこの場で早急にまどかさんを殺す必要性はないという結論に達しました」

キュゥべえ、インキュベーター。魔法少女を生み出す生物。
その目的はまどかから聞いている。
同時に、それは殺し合いの開催に関わるものである可能性があるとLは睨んでいる。

「もし関わっていないのであれば、それはおそらくあなたとまどかさんの間にある縁を別世界から繋げた、という程度のものでしょう。
 無論、関係がないのであればこの場でまどかさんを魔法少女にすることはまずできないはずです。
 そして、もし関わっているのであれば、あなたとまどかさんの間にある縁を知らないことはまずありえないでしょう」

鹿目まどか。途方もない因果を持ってとてつもない魔法少女となり得る存在。
美国織莉子。そんな彼女が魔法少女、そして魔女となって世界を滅ぼすことを食い止めようとする者。


359 : 一歩先へ(後編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:16:54 3m5SiQTg0

「ですから、もしアカギ達に協力しているのであれば、まず間違いなく確信犯です。
 鹿目まどかをそれほど重要な存在と認識した上であなたと共に参加者の中に加えている」
「つまり、彼女を魔法少女にすること以上に重要なことがある、と?」
「ええ、下手に手を打ってしまえば思う壺となってしまうかもしれません。
 加えてマミさんだけが魔女となったという件もあります。
 ですから織莉子さん、まどかさんの件はあなたの中で結論を少し待ってもらえないでしょうか?」

Lの言葉に、一瞬まどかの方へと目をやる織莉子。
その視線にまどかはビクリ、と身を震わせた。
セイバーとアリスは警戒心を強めるが、織莉子ははぁ、と一息ついて諦めたかのように言葉を発した。

「…いいでしょう。今はその話に乗ってあげます」
「ありがとうございます織莉子さん。ですが…、少し意外でしたね。もう少し粘るのではないかと思ってました」
「…私にも色々思うところはあるのですよ」

この場で最も重要であった問題に対して解決の糸口が見えてきたことに、セイバーやアリス、イリヤ達は安堵の息を漏らした。


「それで、今後のことについてですが。
 まず織莉子さんの言っていた、ポケモン城。そこに向かう者達が必要です。
 できる限り、多くのポケモンも必要でしょう」

ポケモン城。
クローンポケモン達が何かを守るかのようにいる場所。無論罠、囮の可能性も高いが向かう意味はあるはず。

これにはNが申し出た。
アカギのいいなりとなっているクローンポケモン達のことが気がかりの様子だ。
そしてクローンポケモンという存在に反応を示したニャースもまた、向かいたいと言った。

「そして、同時に魔女化の件の調査として、念のために暁美ほむらさんの死体についてもう一度確認をお願いしたいのですが」

こちらは何もない、何も分からないという徒労に終わる可能性も高いが、調べる材料は少しでも多い方がいい。

そちらはアリス、そして美国織莉子が向かうと申し出た。
織莉子はポケモンの一匹、サイドンを連れていることもあってこの班はそちらの調査が終わり次第、ポケモン城の調査組と合流するということになった。

「あの、Nさん」
「何でしょうイリヤさん」
「私、乾さん達と、あと桜さんのこと、探しに行きたいって思います」

そして、未だ戻らぬ巧達を探しに行く組。
木場勇治との戦いを続けていると言った彼らの無事も気がかりであるし、あの付近には巴マミをおそらく魔女へと追いやった間桐桜がいる可能性が高い。

「イリヤが行くなら、私も…」
「美遊は、ここでみんなを――」
「私は、イリヤと一緒に行きたい」

残るべきというイリヤの声を遮って、共に行きたいという美遊。結花の件が堪えたのだろう。

「あの、そっちにはさやかちゃんがいるんですよね…?」
「たぶんそのはずだ。最後に見た時も彼女は乾巧の傍にいた」
「……その、美遊ちゃん、イリヤちゃん。さやかちゃんのこと、お願いします」

まどかはLと共にしばらく遊園地にて待機することになった。
ほむらの亡骸の確認に行かせるのも酷、しかしポケモン城に先行する組と共にいる意味もない。
かといって、木場勇治が確認され間桐桜がいる可能性もある西部に行くのも危険。

「それと、我々はイリヤさん達が戻るのを待つためにアヴァロンがここを通るまで待機しようと思います」

しばらくすれば遊園地の上空を放送で言っていたアヴァロンなる戦艦が通ることだろう。
放送で言っていた無事な施設という条件に当てはまる施設は情報から考えるに人間居住区、流星塾、ポケモンセンター、Nの城。
少なくともそれらの施設を通過した後、おそらくこの場所にも停まるはずだ。
それに乗って南部の施設に向かった組と合流する拠点とする。

「…では私は二人の護衛に残りましょう」

現状セイバーを桜のところに連れていくべきではないと判断したのはLとルビーの判断だ。
話に聞く限りだと今の桜の精神状態はかなり危うい。そこに衛宮士郎を殺したという彼女を会わせてしまうと、事態を悪化させかねない。

イリヤが先に向かいたいと口にした時点でそう感じさせる空気があったからこそ、セイバーも自重したのだろう、


360 : 一歩先へ(後編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:17:16 3m5SiQTg0
「ですが…、イリヤスフィール」
「大丈夫だよ。無理はしない。ただ乾さん達を迎えに行くのが目的だから」
「分かりました。ですが年のため。決して無茶はしないでください。今の桜はかなり危険です」

呑まれたことがあるからこそ、今の桜がどれほど危険な状態かセイバーには分かる。
そしてあの泥はサーヴァントであっても、いや、サーヴァントだからこそ抗えない悪意。人間でも触れただけで気が触れかねないものだ。

「では最後に一つ。私達はアヴァロンの到着を待って南部に移動することになると想定しますが。
 なのでここからは離れることになりますが、この遊園地はこの会場から中心に近い位置にあります。
 状況が許す限りは、ここを集合地点に定めておきたいと思います」

「皆様とまたこの場所で会えることを願っています。
 では、出発のタイミングはお任せします。皆様、お気をつけて」







【D-5/遊園地/一日目 夜】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(アサシン)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(アーチャー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、破戒すべき全ての符(投影)
[思考・状況]
基本:美遊や皆と共に絶対に帰る
1:もう逃げない。皆で帰れるように全力を尽くす
2:乾さん達を探しに行く
3:間桐桜に対して―――
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
※ルビーは、衛宮士郎とアーチャーの英霊は同一存在である可能性があると推測しています。
※ミュウツーのテレパシーを通して、バーサーカーの記憶からFate/stay night本編の自分のことを知識として知りました

【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、魔力消耗(小)、全身に火傷(回復中)
[装備]:カレイドステッキサファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、クラスカード(ライダー)@Fate/ kaleid liner プリズマ☆イリヤ(使用制限中)、結花の羽根
[思考・状況]
基本:イリヤや皆と共に絶対に帰る
1:もう何も失いたくない
2:イリヤと共にいたい
[備考]
※参戦時期はツヴァイ!の特別編以降
※カレイドステッキサファイアはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません

【L@デスノート(映画)】
[状態]:右の掌の表面が灰化、疲労(小)
[装備]:ワルサーP38(5/8)@現実、
[道具]:基本支給品、クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ、ブローニングハイパワー(13/13)@現実、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、
シャルロッテ印のお菓子詰め合わせ袋、お菓子数点(きのこの山他)、トランシーバー(電池切れ)@現実 、ピーピーリカバー×1@ポケットモンスター(ゲーム)、薬品、クロの矢(血塗れ)
[思考・状況]
基本:この事件を止めるべく、アカギを逮捕する
1:アヴァロンの到着を待ち、それに搭乗して移動する
2:月がどんな状態であろうが組む。一時休戦。
[備考]
※参戦時期は、後編の月死亡直後からです。
※北崎のフルネームを知りました。
※北崎から村上、木場、巧の名前を聞きました。
※メロからこれまでの経緯、そしてDEATH NOTE(漫画)世界の情報を得ました。しかしニア、メロがLの後継者であることは聞かされていません
※Fate/stay night世界における魔術、様々な概念について、大まかに把握しました。しかし詳細までは理解しきれていないかもしれません。


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(小)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み)、精神的な疲弊
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
1:Lさんと一緒に行動する
2:私は生きていていいのかな…?
[備考]
※最終ループ時間軸における、杏子自爆〜ワルプルギスの夜出現の間からの参戦
※自分の知り合いが違う人物である可能性を聞きました
※美遊と情報交換をし、バトルロワイヤル開始からこれまでの出来事と遭遇者、「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」の世界の情報を得ました。(後者は難しい話はおそらく理解できていません)
しかし長田結花がオルフェノクであることは知らされていないため、美遊の探す人物が草加の戦ってる(であろう)オルフェノクであることには気付いていません。


361 : 一歩先へ(後編) ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:17:33 3m5SiQTg0

【セイバー@Fate/stay night】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、魔力消費(大)、胸に打撲(大)
[装備]:スペツナズナイフ@現実
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:シロウの願いを継ぎ、桜とイリヤスフィールを生還させる
1:今はこの場に待機してLとまどかを守る
2:間桐桜が気がかり
3:約束された勝利の剣を探したい
4:ゼロとはいずれ決着をつけ、全て遠き理想郷も取り返す
[備考]
※破戒すべき全ての符によりアンリマユの呪縛から開放されセイバーへと戻りました



【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:ダメージ(小)、ネモと一体化、喪失感
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(9+1発)@現実、ポッチャマ@ポケットモンスター(アニメ)、双眼鏡、 あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。
1:ナナリーの騎士としてあり続ける
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:今は美国織莉子と共にほむらの亡骸を調べに行く。その後ポケモン城へと向かう。
4:ほむら……
5:美国織莉子を警戒。
最終目的:『儀式』からの脱出、その後可能であるならアカギから願いを叶えるという力を奪ってナナリーを生き返らせる
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※アリスのギアスにかかった制限はネモと同化したことである程度緩和されています。
魔導器『コードギアス』が呼び出せるかどうかは現状不明です。


【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:ソウルジェムの穢れ(7割)、魔法少女姿、疲労(大)、ダメージ(小)、前進に火傷、肩や脇腹に傷
[装備]:グリーフシード×2(濁り:満タン)、砕けたソウルジェム(キリカ、まどかの血に染まっている)、モンスターボール(サカキのサイドンwith進化の輝石・ダメージ(大))@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、ひでんマシン3(なみのり)
[思考・状況]
基本:何としても生き残り、自分の使命を果たす。
1:グリーフシードを探す。それまでは可能な限り戦闘は避ける。
2:鹿目まどかを殺すことに対し迷い。
3:魔力回復手段が欲しい。
4:優先するのは自分の使命だが、他の手段があるというなら―――?
5:もっと他の人を頼ってもいい?
[備考]
※参加時期は第4話終了直後。キリカの傷を治す前
※ポケモン、オルフェノクについて少し知りました。
※ポケモン城の一階と地下の入り口付近を調査しました。
※キュゥべえが協力していることはないと考えていましたが、少し懐疑的になっています。
※マジカルシャインを習得しました。技の使用には魔力を消費します。


【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(小)
[装備]:サトシのピカチュウ(体力:疲労(大)ダメージ(中)、ボール収納)、サトシのリザードン(疲労(小))@ポケットモンスター(アニメ)、タケシのグレッグル&モンスターボール@ポケットモンスター(アニメ)、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[道具]:基本支給品×2、割れたピンプクの石、プロテクター@ポケットモンスター(ゲーム) 、傷薬×2
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:ポケモン城に向かい、クローンポケモン達を救う
2:世界の秘密を解くための仲間を集める
3:ポケモンの回復手段を探したい
4:ゲーチスを探し、真意を確かめたい
[備考]
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※並行世界の認識をしたが、他の世界の話は知らない。


【ニャース@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:ダメージ(中)、全身に火傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、
[思考・状況]
基本:ニャーはどうしたらいいニャ…?
1:Nと行動する
[備考]
※参戦時期はギンガ団との決着以降のどこかです
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線
※桜が学園にいたデルタであることには気付いていません




※作中描写したこと以上の情報交換、支給品移動があったかもしれません。


362 : ◆Z9iNYeY9a2 :2017/04/18(火) 00:17:52 3m5SiQTg0
投下終了です


363 : 名無しさん :2017/04/18(火) 14:59:12 /6xeEm7gO
投下乙です

美遊がいたから結花は救われた
イリヤがいるから美遊は泣けた
そして、まどかと織莉子を橋渡ししようとする者もいる


364 : 名無しさん :2017/05/20(土) 10:46:13 rPqIp7D20
投下乙でした。

Lが探そうとしているスザクと一緒に月が居るというのは、
面白い偶然だな。
何とか再会してほしいものだ


365 : 名無しさん :2017/06/12(月) 03:00:17 2CqeX3Eg0
予約来てるね


366 : ◆Z9iNYeY9a2 :2017/06/18(日) 23:12:16 D28M7Lqk0
投下します


367 : 再起動 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/06/18(日) 23:14:09 D28M7Lqk0
『それでは次の放送は6時間後となります。更なる殺し合いの進行を期待しています』

石造りの城内に響き渡る声が途絶えていく。
夜にも突入しようとする時間に流れた放送が終わったところだった。

名を呼ばれた者の中には、呼ばれると予期していたものも当然いた。

夜神総一郎。C.C.。

前者は先に不意に流れた映像の中で謎の影に食われた。
後者は共にいるべき相手の傍にその姿がなかった。
故に、その死を知っていた、想定していたものが多くそう意外な名は呼ばれてはいなかった。

仮面の下でスザクが動揺しているのは、それらとは別の理由だ。

「枢木?」
「……その名前では呼ばないでくれと頼んだはずだが…。何だ?」
「放送が終わってから、明らかに様子が変だったからな。何かあったのか?」

そして、その動揺は表情を隠したままでも、同行者に気付かれるようなものだった。

「……さっきの放送の声に、聞き覚えがある」

アーニャ・アールストレイム。
かつてのブリタニア皇帝直轄の騎士、ナイト・オブ・ラウンズの6位。

だがブリタニアが無き今は、騎士の名も捨てて過ごしていたはずの少女だ。

それが、何故放送を行っているのか。

いや、協力すると考えられる可能性はある。

「アーニャ・アールストレイム。先々代ブリタニア皇帝直轄の騎士の一人。
 だが、彼女にはもう一つの顔があった。
 ギアス能力でその心に潜むもう一人の人格の存在が」

マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。
ルルーシュとナナリーの母であり、皇帝の后の一人にして、彼の計画の同士。

だが、それもあの門の中で、ルルーシュにより皇帝と共に消されたはずだ。
消された。存在が消滅した。
逆にいえば、死をはっきりと確認したわけではない。

もし何らかの手段であの場所から帰ってきたというのであれば。
そして彼女がいるということは。

「結論から言おう。もしかすると、アカギの協力者に俺の知り合いだった者がいるかもしれない。
 シャルル・ジ・ブリタニア。かつてブリタニアの皇帝であった男であり、俺の友人が世界から追放したはずの存在だ」

彼であれば、これほどの催しを行う動機はあるし、Cの世界という未知の世界を通すことでそれが行えるだけの能力を持っている可能性は高い。

スザクは、ここにきてC.C.ともう少し情報交換に時間を費やしておくべきだったと後悔した。
おそらく彼らのことを最も知っている者は、自分の知る限り彼女だけだ。だが、本来不死であるはずの彼女も命を落としたというのは放送で呼ばれた名が示している。

「だが、俺は詳しいことは知らない。それを知っていた者は一人知っているが、今の放送で名前を呼ばれた。
 いや、だからこそか?彼女がこうして表に出てきたのは…」
「偽物の可能性は?例えば、アカギが何らかの手段でその人の情報を掴んで、混乱のためにフェイクとして利用しているか……。
 いや、だったら別にもっと赤の他人の声で放送すればいいか。敢えて放送することに意味があると考えるべきか」
「偽物だとしても、どの方向性にしろ考えれば考えるほど混乱するだけだな。ここは本物だと仮定して話を進めたほうがいい」


368 : 再起動 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/06/18(日) 23:15:59 D28M7Lqk0

政庁にいた時、C.C.とした会話を思い出す。

『ニャースから聞いたんだが、アカギという男は神に近いと言われた伝説のポケモンの力を使って世界を作り変えようとしたらしい』
『このような殺し合いを催せたのも、その力が要因というわけか。
 しかし、神に、世界を作り変える、か』
『思い出すか?シャルル達のことを』
『連想くらいはするさ』
『だが、あの二人は追放したはずだ。他ならぬルルーシュが』
『では、ユフィ……ゴホン、ユーフェミアの世界の皇帝である可能性は?』
『それは分からんよ。何しろ情報がない上にゼロがナイトメアを下す化物の世界だ。シャルルも同じとは限らないからな』
『そうか』

その後は巴マミの来訪やロロ・ヴィ・ブリタニアの襲撃が重なったこともあり、詳しい情報を聞き出すことはできなかった。
元々重要度の高い会話ではなかった以上、時間があったとしても雑談レベルの会話にしかならなかったとは思うが。


「なら放送の主が君の知っている存在と同一人物だとしよう。彼にはアカギに匹敵するような力があるのか?」
「アカギの力ははっきりと分かっているわけではないが、俺の知る限りなら有り得る話なんだ。
 彼らは神を殺すことで世界を作り変えようとした者だからな」
「神を、殺す…?」
「詳しい話は、そこの情報端末で見た方が早いか。俺も全容を理解していたわけではないからな」

言って、端末にパスを打ち込んで画面を開くスザク。
求めている情報が載っていることは、先に大まかではあるが確認している。

再度それを理解しようと、月は映った光を覗き込んだ。



「集合無意識、人の意思を一つに繋げる…、なるほど、納得はしかねるものだけど、何となく理解はできたよ」
「シャルル・ジ・ブリタニアはこれを嘘のない世界と言っていた。人が嘘という仮面を被ることなく、全ての想いや感情を共有することができる世界になると」

ラグナレクの接続。
人の意識を共有し一つにすることで、個人の思考を剥き出しにし、嘘というものを世界から無くすというもの。
その中には死者との接続も可能となる。

だが、死に意味がなくなることで命の価値が喪失するだろうし、人の進歩は確実に止まるだろう。
その世界を否定したルルーシュも、自分を捨てた親が肯定されることを決して許しはしなかった。


「お前ならどう思う、夜神月?」

その世界に対し、人の命を握ることで人の生と罪を掌握した世界を作ろうとした男は何を思うのだろうか。
これはスザクの好奇心による問いかけだった。

「…まず一つ。
 僕は人が嘘をつくことは否定していない。嘘にも大きなもの、小さなもの、悪いものに必要なものも様々だ。
 嘘そのものを人間から取り除くことはできない。だから善悪という概念を作り法というものを生み出したんだ」

法、そこには罪を犯した人間に対する裁きも含まれる。
嘘を、そこから生まれる罪を裁くために人が生み出した秩序だ。
その全てを何から何まで否定することはそもそもかつてキラとして生きていた自分の理念にも反する。


「それに何より、他の人間と思考を共有するなんて気持ち悪いじゃないか」
「確かに、それが正常な反応なんだろうな」
「加えて、世界を変えるために周りの人間全てを巻き込もうという、上から目線も気に入らない」

その言葉の中には自虐も含まれているように感じられた。
彼自身、キラという神となり世界を死という恐怖で押さえつけようとした者だ。


369 : 再起動 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/06/18(日) 23:22:30 D28M7Lqk0

「…正直僕はこれまで、神に近い力を得て人々を上から見下ろすようにして過ごしてきたのかもしれない」

たった今放った自虐の言葉に対しての答えを言うかのように呟く月。

「だから、こんなところに呼ばれてもどうにかなると、他の皆を見下して見ていたのかもしれない」

美樹さやかとゲーチスと情報交換していた時。
アリスや暁美ほむらと、またロロ・ヴィ・ブリタニアと共に行動していた時。

いい顔をして善人ぶったり友好的な顔をしている裏で自分は何を考えていたか。
ゲーチスやロロにしてみればいつでも殺せる都合のいい雑魚としか見られていなかったのだろう。
実際、ロロが巨大なロボットを操ってオルフェノクと戦うあの戦場を見て恐怖したはずだった。
この場で生き残れていたことも、ただ運がよかっただけだ。もし出会いが悪ければ、もしゲーチスやロロが気まぐれを起こしたら。
自分はこうして生きていなかった。

「案外、神―キラ―のままでいられるという思いはその時点で諦めが入っていたのかもしれないな」

だけどその事実に気付かないふりをして。ただこれまで上手くいっていたからと自分を誤魔化していたせいで、本心と願望の食い違いに歪みが生じてしまっていたのかもしれない。
父親に会って、彼との会話を通して、神でいる必要がないということに気付きかけ、しかしそれが受け入れられずに逃げた時からキラはもういなかったのだと思う。

「余計な話かもしれないが、もし僕に神になろうという思いがそこまで強くなくて、なおかつ手段を選ばないようになっていたなら、もしかしたらその考えに傾倒していた可能性はあったな」

だけど今は、そんな想像もできるくらいには、自分を見つめ直すほどの余裕があった。
キラである自分から開放されたおかげだろう。

「ならば、どうするか」
「過去は過去だ。今は僕ができることをするだけだ」

スザクの問いかけに短くそう答えて、端末の情報に意識を戻し始めた。


「この情報から僕なりに色々考えてみたいが、やはり情報が足りない。
 情報をまとめたら出発するべきだな」
「それなら一つ提案がある。先の放送でアーニャが言っていたアヴァロン、あれに乗って移動するのはどうだろう?」
「君は知っているようだけど、そのアヴァロンというのは何なんだ?」
「アーニャが言っていたように浮遊航空艦、有り体にいえば空を飛ぶ空母だ。
 あの艦には防御兵装としてブレイズルミナス…、早い話がバリアも搭載されている。目立ちはするがそう多少の攻撃で沈むこともないだろう」
「KMFというロボットといい、君の世界の技術はすごいな…」

アヴァロン。ブリタニア軍の浮遊航空艦であり、ナイトオブラウンズとして、ナイトオブゼロとして行動していたスザクには勝手知ったるもの。
政庁にKMFがあったように、もしかするとここに今の自分たちにとって有用な何かが存在するかもしれない。

「だけど、いいのか?もしかしたら僕達に先んじてその戦艦に乗っている人がいたら、逆に待ち伏せに合うかもしれない」
「確かにその恐れはあるが、だが今現在あのアヴァロンを知っている者は私の把握している限りでは、私を含めて3人だ。
 うち一人はそのようなことはしない。もう一人は…確かにその不安はあるが一人なら確率的には乗っている可能性はそう高くはないだろう。
 そしてアヴァロンを知らない者であれば、地の利はこちらにある」
「なるほど、君なりには考えているんだね。だけど一つ。最後の君が見逃した可能性、それは放置することは危険な可能性だ。可能性が低いからといって無視するのはあまりいいことじゃない」
「…考えておく」
「地の利に関しては何とも言えないからな。そこは君を信頼するしかないな。
 最後の可能性については、情報がない以上は確率はトントンということになる。なら乗っている可能性も乗っていない可能性も半々だ。
 君の地の利による利点を差し引けば無視できるものではある」

スザクの考えの穴にフォローを入れながら、今後の動きを確定させる月。


370 : 再起動 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/06/18(日) 23:28:44 D28M7Lqk0
「であれば、アヴァロンが到着するまでは情報収集も兼ねて休息とするか。
 今のうちに食事もすませておいたほうがいいかもな」
「じゃあ僕は大丈夫だ。休息なら情報整理しながらでもできる」
「分かった、なら俺は席を外そう」

バッグから支給されていた食料と水を取り出すスザク。
その行動を怪訝に思った月が問う。

「席を外すって、食事だろう?ここですればいいじゃないか」
「………」
「…人前じゃ外せないのか?」

スザクの被っていた黒い仮面を指す月。
しかしスザクは静かに首を振るった。

「察してくれればありがたい」
「分かった」

短くそう告げて静かに部屋を出ていった。




ふと気まぐれから、ゼロという存在についての情報を開く月。

「悪逆皇帝を倒した英雄、か」

ブリタニアを占領された日本に現れレジスタンスに力を貸し、最終的に悪逆の限りを尽くす皇帝を倒した仮面の英雄。
しかし月はその時期周りの情報を一通り整理したところでゼロの正体がルルーシュという皇族の一人ではないかと推察を立てていた。
そして、その傍に騎士として付き従った枢木スザクは自らの死を演出することで世間的には死者となり、ゼロの仮面を引き継いだ。

もしゼロがずっと枢木スザクであったのならば、先にスザクが話したおそらくは身の上話だろう言葉に対しどうしても辻褄が合わないと違和感を感じてしまう。しかしそう考えると納得がいく。

社会的に死んだのであれば、元の世界で仮面を外すことができないのは道理だろう。ゼロという名が世界を安定させる称号であり、枢木スザクが裏切りの騎士であるのならばなおさらだ。
だが、この場でもそれに縛られる理由はないはず。

(……いや、これはそういう理屈の問題じゃない、あいつ自身の心の問題というところか?)

そうあるようにと己を戒めていることに、例えば贖罪のようなものがあるのであれば場所がどこであれ仮面を取ることは難しいのかもしれない。
そのあり方に引っかかるものはあったが、それでも月には自分が何かをしてやれるとは思えなかった。

心理学的な観察、分析は得意だったが、相手の内面、心の部分に触れての会話はそうでもなかった。
キラでいた時間が長すぎた弊害だろう。犯罪者を裁くために己の心を捨ててきたが故の。

端末に出ている情報は言ってみれば歴史の教科書のようなもの。世界の仕組みや作り、歴史上の出来事のようなものは把握できる。
しかしそこに関わった個人、ここの参加者がそれに対しどんな思いでいたのかまでは載っていない。

「それは自分達で調べろということか」




別室へと入り一人になったところでスザクは仮面を外した。
冷たい外気を感じて顔に僅かな開放感を感じられた。
口元の布を外してペットボトルに口をつける。

「……はぁ」

飲み干して息をついた辺りで、月に言われた言葉を思い出す。

(そういえば、ゼロとしている時は誰かと食事なんてすることも誘われることもなかったな)

ゼロという記号には英雄的な概念が必要になる。
食事、睡眠、人間として当たり前の行動でも、その概念の中には存在してはいけないものだ。
ゼロとしての行動の合間に、誰に見られることもなく行う作業程度のものとなっていた。

これを苦痛とは思わない辺り、自分には何かが欠けているのだろうがゼロとして生きる上では都合がよかった。

ただ、ふと思い出してしまった。

かつてアッシュフォード学園でまだ枢木スザクだった時。
まだユーフェミアも生きていて、ルルーシュがゼロと知らず、わだかまりもそれほど持たなかったおそらく最も穏やかであった頃。

そしてナイトオブラウンズとして過ごした日々。
イレブンという風当たりの強い風潮の中で、それでも分け隔てなく接してくれたジノやアーニャといった友と過ごした時間。


皆と、人として当たり前のように過ごした時のことを。

「何をバカな」

その思考を感傷と振り切る。
一方で現実問題として、現状ゼロとして振る舞うことにも意味がなくなっているとはずっと思っていた。
正体を知るものまで現れた以上尚のことだ。

だが、心に残った枷はこの仮面を取ることを許さなかった。
月に変わることを促しておいて身勝手なものだとは思っていても。

この場だけでも、もしゼロの仮面を外すことができるとするならば。
その枷から解き放ってくれる何者かの存在が必要だった。




371 : 再起動 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/06/18(日) 23:29:28 D28M7Lqk0


アヴァロンがどういう形で施設に降りてくるのか。
再度Nの城を見て回っていたところ、建物の上位階層の一画に祭壇にも見える開けた場所が見つかった。
そこならばアヴァロンへの乗降にも耐えうる場所なのではないかと判断、スザクの持つアヴァロンの艦情報から計算したおおよその到着時間にそこで待機することとなった。

そしてやがて到着したアヴァロンに乗り込むスザクと月。
その中の空気にスザクはナイトオブセブン、そしてナイトオブゼロとして行動していた時のような懐かしいものを感じながら。
やがて地を離れ飛翔していくアヴァロンの中で、離れていくNの城を、そしてここから向かうだろう先にある闇の中に小さく光る街灯に照らされた施設群を見下ろし続けた。


【B-4/Nの城付近(アヴァロン内)/一日目 夜中】

【夜神月@DEATH NOTE(漫画)】
[状態]:疲労(大)
[装備]:スーツ、
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:キラではない、夜神月として生きてみたい
1:とりあえずゼロ(枢木スザク)と行動する。
2:Lを探し、信じてもらえるのであれば協力したい
※死亡後からの参戦


【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:ゼロ衣装、「生きろ」ギアス継続中、疲労(小)、両足に軽い凍傷、腕や足に火傷
[装備]:エクスカリバー(黒)@Fate/stay night、ゼロの仮面と衣装@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:基本支給品一式(水はペットボトル3本)、スタングレネード(残り2)@現実
[思考・状況]
基本:アカギを捜し出し、『儀式』を止めさせる
1:アヴァロンを拠点として仲間を探す
2:Lを探し、 政庁で纏めた情報を知らせる
3:アカギの協力者にシャルル・ジ・ブリタニアがいる前提で考える
4:生きろギアスのことがあるのでなるべく集団での行動は避けたい
5:ゼロの仮面は――――
[備考]
※TURN25『Re;』でルルーシュを殺害したよりも後からの参戦


372 : ◆Z9iNYeY9a2 :2017/06/18(日) 23:29:47 D28M7Lqk0
投下終了です


373 : 名無しさん :2017/06/19(月) 01:27:39 pDVnX1Lc0
投下乙です
スザクに少しずつ変化が表れてるな。もう一度仮面を脱ぐ時は来るのだろうか
対主催者として再起動した月も頑張って欲しい


374 : 名無しさん :2017/07/01(土) 16:57:34 Ux/cBazA0
投下乙でした。
やはりこの二人はいいですね。一番注目している面々です。
お互いに似た境遇と罪悪感をいだきつつ、生きている。
何とか頑張って欲しいものです。


375 : 名無しさん :2017/09/01(金) 14:15:53 I7p3i4BY0
次の予約まだかな〜


376 : ◆Z9iNYeY9a2 :2017/10/09(月) 21:32:18 xXOraiZ.0
投下します


377 : ◆Z9iNYeY9a2 :2017/10/09(月) 21:33:23 xXOraiZ.0
それは時間を遡った、斑鳩船内での出来事。
ニアとバゼットが別れてから、キリカの襲撃で彼が命を落とすところまでにあったこと。

ニアは斑鳩の艦橋で機器を弄っていた。

得意分野ではないため専門的なこと、例えばどのキーやスイッチを押せばこの艦がどう動くかなどということは分からない。
しかし、コンピュータの操作程度なら何の事はない。

バゼットとの情報交換時の彼女の様子からは、彼女の認識にはこのような巨大な艦が一般的なものではないということは受け取れた。
であれば少なくとも自分の周囲の人間にバゼット、そして彼女の知人にとっても一般的なものではないのだろう。
ならば低く見積もっても半数以上、あるいはこの艦を認知している者であってもごく一部の技術者のような人物にしか操縦できない可能性もある。
そうでなくとも少なくとも常日頃機械に触れていてこういった巨大な乗り物にも応用を効かせられるような者とか、動かせられそうな条件はかなり狭まる。
だが、そんな条件に当てはまる参加者が一体何人いるだろうか。

ニアの仮説として考えついたことは、その操縦法をどこかに示したもの、あるいは自動制御か何かを司るものがあるはずだということ。
その中で候補として考えついたものが、コンピュータ内のどこかなのではないかというものだった。

そしてその甲斐あってこの艦の状態、飛行が可能という事実やしかし今それが制限されているということ、さらに武装の状態についても把握することができた。

バゼットに対して言った言葉、自らがこの艦を動かすという言葉は現状ではハッタリであったが、艦の操作方法が把握できたならば嘘ではなくなる。
彼女が去った後で再度見直していたのが、その動かし方だった。

結果、海上航行については大まかに把握することはできた。

だが一方で不可思議だったもの、それは。

「空中飛行の方法、そして各種武装の使用法ですね」

海上航行についてはすぐにどのような操作をすればいいのかは確認できたが、空中飛行と艦に搭載された武装の使用については説明にロックがかかっていた。

その存在に気付いた時にニアの思考に上がったものは、何故このようなものがデータの中に存在し、ロックまでかかっているのかということだった。
不要ならば入れて置かなければいい。ロックさえかかっていなければデータの中に使えない物がある、程度の認識で終わった可能性もあるものだ。
しかしロックがかかっているという事実は存在をあまりにも強調させていた。

思うに、これはいずれ空中飛行と武装が何らかの形で解禁されるかもしれない事実を示唆しているのかもしれない。

であれば、この知識を得ておくことは今後危険人物と遭遇した時の取引材料にもなりうるものかもしれない。
ロックの内容を確認するニア。

そこにあったものは、何らかの問題らしき文章。
全部で6つ。
目を通すが、そもそも意味の分からない単語も多い。

「…このポケモンという単語、ボールの説明にあったものですが、だとすれば載っているこれはそのポケモンという生き物の名前ですか。
 しかし固有名詞は分からないですね…」

例えば。
ガブリアス、ポッチャマ、ニドキング、グレッグル、リザードン。この中で最も基礎能力が高いポケモンは○○○○○である。
おそらく分かる人には分かるのだろうが、そもそもポケモンというものが分からない者にはただの文字列。自分には答えを知る術がない。

だがその一方。
えるしっているか死神は○○○しかたべない

この○の中に入る答えを示せというのであれば、答えはりんごになる。
これはかつてキラがLに対する挑戦として犯罪者を操って書かせた遺書の頭文字を繋げた言葉。

Lはまず知っている。キラ、夜神月も言わずもがな。メロもこの情報は知っている。
松田桃太、夜神総一郎といった日本警察の面々だとどうだろうか。ノート、死神のことを知っておりLとも密接に関わっていた。答えは分かるだろうと思う。
弥海砂もまた直接の答えは分からずとも知識から推察はできるはず。南空ナオミが不明といったくらいか。

これは自分や顔を知る者のほとんどが把握している一方で何かよほどのきっかけがなければ口にはしないだろうという情報だ。
もしここに並ぶ多くの設問が、そういった法則の問題ばかりなのだとしたら、今の自分には分からない。

もし外してしまえばどうなるのか。
記されていないが、最悪を想定すると首輪爆破、などということも考えられるものだ。

そもそも、この問自体が罠である可能性も否定できない。


378 : ◆Z9iNYeY9a2 :2017/10/09(月) 21:33:47 xXOraiZ.0

もしLであればどうしただろうか。
きっと万全の状態を整え、自身の手で集められる限りの参加者を揃えこの問題を解くだろう。
もしメロであればどうしただろうか。
罠だとしても臆することなく、虎穴に入るがごとくこの問を解くのだろう。分からない問題を解くまでの無茶はしないだろうが、あの一問を解くことに躊躇うことはない。

だが自分にはどうにもできなかった。
罠である可能性を考えてしまえば、どうしても安全を確保した後での行動となる。
ここで言うなら、外した時のリスクが分かるか、少なくとも4、5問ほどは答えが分かるようになってからという道を選んでしまう。

だが、現状でも幸いなことに動かすだけならば支障はない。
実際に動かした時にこの中の情報を求められた場合は分からないが。

「保留、にするしかありませんね。あとはバゼットの手腕に期待するとしましょうか」

そうして基盤から離れ、思考整理のためジグソーパズルを弄り精神を落ち着かせ始めた。


結局、ニアがその問を答えることはなかった。
間もなく斑鳩へとやってきた黒き魔法少女にその身を引き裂かれ、ニアは命を終えたのだから。





「夜神総一郎が死んだ、か」

浅瀬の水平が見える砂地に僅かに整った道、その薄暗い空間を照らす灯り。
その灯りの元である静止した原付に跨ったメロは、終わった放送の内容を頭の中で整理しながら呟いた。

L、夜神月の命が無事であることに安心する、それだけでいいはずの放送だ。
それでも、呼ばれた既知の名にはどうしても反応してしまう。

今更その死自体に思うところはない。

ただ。
弥海砂や南空ナオミ、松田桃太、―――そしてニア。
自分の知る者は早期に脱落したか、未だに生き残っている、あるいはいたかといった者に分かれる。
そしてその者達には何の力もないことは知っている。オルフェノクや魔法少女、Lが見た狂戦士には無力な者達。

そんな中で生き残っている自分を含む残り半数は支給品に助けられたか、同行者に恵まれたかだろう。
夜神総一郎が後者だったのは知っている。しかしそんな者ですらもここまでが限界だったのだ。

北崎の名が呼ばれたことがLの知略による勝利ゆえのものかどうかは分からない。
だが、あの化け物が死んで尚もLはまだ生きている。夜神月も。

自分が生きているのは、言ってしまえば運だろう。
最初に同行していたゆまが死んで以降は、情報交換程度はすることがあっても単独行動を続けてきた。
同行者もいない状態で、しかし危険人物に直面する機会も少なかった。

自分の通ってきた道を地図で追う。
スマートブレインビル付近、間桐邸、穂群原学園、バークローバー。
主に南北に分けた場合の中心から南部にかけてを移動してきた。
しかし、スマートブレインで多数の人物に会い、間桐邸でLに会って以降は、ほぼ南部を東西に抜けても会ったのは美国織莉子だけだった。

スマートブレイン本社でのあのビルが倒壊するほどの大規模な戦闘。確かバークローバー付近も周囲はなかなかに荒れていた。
初期の戦闘から、多くの参加者は北部へと移動した、ということなのだろうか。

正直行く道についての判断を誤ったかとも思ったが、目の前を浮遊しているあの巨大な要塞を見れば案外そうでもないのではないかもしれないとメロは考える。
南部に置かれた斑鳩なる文字。確か日本の地名だったはずだが、それが何を意味するのかは分からなかった。
どうやら固有名詞であり、その正体は飛行する巨大な戦艦だったのだ。

何故これが今の段階で動いたのか。何か狙いがあるのか。一考の必要はあるだろうが今はあれを先んじて占領することが優先だろう。
何しろこちらには現状切れるカードがない。

あの戦艦自体が参加者そのものをおびき寄せるための主催者の罠、というのはここに至っては考えづらいだろう。

もしかすると既に何者かが入っている可能性もあるが、その時はその時だ。
味方になり得る者ならば協力できる。敵対する者ならば他の参加者、例えばLのような者達の邪魔になるならば排除する。
行く道は少し逸れてしまうが、あの戦艦の移動速度であればそう戻るのにも時間はかからないだろう。
方向を見るに、おそらく行き先はキラ対策本部。知らない建物というわけではない。

原付の方向を転換し、浅瀬の中に細く続いた砂地を走らせ始めた。


379 : 届かない星だとしても ◆Z9iNYeY9a2 :2017/10/09(月) 21:34:30 xXOraiZ.0



戦艦の停船時間はだいたい5分ほど。
前もって停まる施設に陣取っていなければ乗船するのは厳しいだろう。実際、かなりギリギリの時間だった。

メロは息を少し切らしながら、離れていく地面を、建物を見下ろす。
下には原付が乗り捨てられるように転がっているのが見える。何だかんだで移動手段として重宝していたがもう乗ることはないだろう。

内部の構造はやはり戦艦というだけあって、自分の知る戦艦と構造は近い。いや、むしろ広いとも感じる。
だが、やはり本来であればいるのであろう人が全くいないこの静かさというのはやはり気になるものだ。

これだけの規模の戦艦だ。本当ならば多くの操縦員や作業員がいるのだろう。
では、これを今動かしているのは何だ?
おそらくは自動操縦か、あるいは主催者の手のかかった何者かがいるか。

自動操縦であれば、その操縦系統をハッキングでもすればこちらでの制御も可能となるかもしれない。
別段得意というわけではないが、ゲーム好きなマットとある程度の付き合いがあったこともあり、電子機器の細工も不可能というわけではない。
それだけで簡単にできるとも思えないが、やってみる価値はある。

もしそうでなかったとして、主催者の手のかかった者がいたとしてもこちらから手を出さない限りは積極的な戦闘状態になることはないはずだ。ならば退く暇くらいはある。

ところどころに貼り付けられた電子地図を頼りに歩みを進めていたメロ。
操縦室、戦艦であるなら艦橋だろうと思える一室の前にたどり着いた時、その嗅覚がある悪臭を捉えた。

(…これは、血の臭い。それもそれなりに時間の経ったものだな)

裏社会ではありふれた、珍しくもない臭い。
中にはこれほどの悪臭を漂わせるほどの血と、その発生源の死骸が転がっているのだろう。

死体であれば恐れることはない。
もし生きた人間がいるなら警戒すべきなのだろうが、この悪臭の中で平然といられるとすれば嗅覚異常者か血の臭いを好む精神異常者くらいだ。

メロ自身どちら、というわけでもないが入る理由がある以上臆するものではない。
如何なるものであれ、乗り物である以上操縦系統があるであろう部屋は重要なものだ。ここを抑えずして他に手段などない。

メロは自動ドアのスイッチを入れて、扉を開いた。



マーフィーの法則というものがある。
「落としたトーストがバターを塗った面を下にして着地する確率は、カーペットの値段に比例する」
転じて「失敗する余地があるなら、失敗する」というようなもの。

類似する言葉は世界中にあるが、要するに失敗は記憶に残りやすいとでもいうことだろう。
もし99%の成功率がある何かを行ったとして、しかし運悪く残りの1%に引っかかってしまった時などは尚更だ。
特に成功率が高ければ高いほど、人は失敗した時のことを考えないのだから。


この殺し合いにおいて死んだ人間の数はメロが認知している限りで既に36人。
その中で実際に死体を見た、あるいは死んだ場所をある程度把握しているといった者の数を除けばせいぜい25人ほどといったところだろうか。

あるいは、だが。その事実を意識下に置かないようにすることで心の平静を保っていたのかもしれない。


入ってすぐの場所には艦長辺りの人間が座るだろう席があり、そこから床が下がった所に複数の席と操縦機器らしき機械が並んでいる。
広い室内だが、そんな中にも腐敗した血の臭いは充満していた。

そしてその血の主、目の前にいた死体。
全身を細かく切り刻まれ、そこから飛び散った血に染まった室内はまるでスプラッタホラームービーのような有様だ。
その中で、ただ一つ形を明確に保った体の部位。
生気などもう感じられない真っ白な髪をしたその顔。

「ニア、お前」

ある意味最も会いたくなかった――いや、こうなっては見つけたくなかったものが、そこにあった。


380 : 届かない星だとしても ◆Z9iNYeY9a2 :2017/10/09(月) 21:34:50 xXOraiZ.0

ニア。
自分よりも優秀な頭脳を持ちながら、しかし自身の体で何かを行う行動力は壊滅的だった。
もしどこかにいるとすれば、きっとどこかの施設に陣取っていただろうと想定していた。
施設でない屋外であれば、そもそも他者との遭遇が起こりにくい。ニアは行動的ではないが、能動的な動きを行わないというだけ。他者との交流そのものを避けることはないのだから。

一方で、もし他者との協力がうまく取り付けられないうちに北崎のような危険人物に会えばどうなるかなど火を見るより明らかだ。
だが、それでもメロはニアの頭脳は買っていた。何だかんだでうまくやっていくはずだと思っていた。

あの放送で名前を聞いた時の衝撃が改めてのしかかってきた。

どれだけそうしていたか分からない。
数分はじっとしていたと思うが、もしかしたら数十分だったかもしれない。

意識が戻ったのは、室内の一角にある機器にうっすら灯りがついたのを見た時だった。

ふと気づくと、戦艦の移動速度が落ちている。
どこか別の施設にたどり着いたということなのだろうか。

端末に目をやると、到達したのは衛宮邸という施設。
どうやら数十分に近い時間を呆けてしまっていたらしい。

意識を奮い立たせて操縦機器に向かおうとして。
踏み出した足が何かを踏んだ。

下を見ると、そこにあったのはパズルのピース。
ニアにとっての好物であり、暇さえあればまるで習慣のように弄っていたもの。おそらく支給品に入っていたのだろう。
ニアの好みにあったものが入っていたことを幸運と思うか、このような場所で支給されたものがただのパズルだったことを不幸と思うか。

周囲を見回すと、いくつかのピースは確認できるが、それは全てのピースには程遠い数。かき集めたとして十数ピース程度だろう。
何気なく拾い上げたそれをひっくり返してみる。

「…ん?」

裏面の灰色の紙地にうっすらと文字が見える。
筆跡はニアのものであることはすぐに分かった。おそらくニアがメモ代わりに何か書いたのだろう。

パズルのピースをすぐさまかき集める。
血に染まったもの、汚れていないもの、状態は様々。
そのうちの幾つかには今しがた確認したような文字が書かれたものがあった。

おそらくこの場所でニアが一人で考察したものだろう。パズルのピース、つまりかき集めて情報になるものであるという概念に当てはめている辺り実にニアらしいが。

ポケモン城の隠匿。
操縦機器内のロック。
パスワード、6種類。

ポケモン城の隠匿、それを言葉にされたらどうしても引っかかるものがあった。
放送ではこの艦はランダムで施設を巡ると言っていた。だが、本当にランダムなのか?
もし真にランダムならばいずれポケモン城に向かうこともあるのだろう。しかしもし向かわないような制御がされていれば?

もう一つ気になるのは、この戦艦は禁止エリアには引っかからないとも言っていた。
つまりは現状であればポケモン城にも向かうことはできる。あくまで理論上は、だが。

向かったところで参加者にはどうにかすることはできないだろう。外に出た時点でおそらくは刻印が発動する。
だが、もし刻印を持たないもの、織莉子に聞いたポケモンのようなものを送り込んだ上で外から無線か何かで支持を出す、というようなこともできなくはないはず。
そして、それに気付かぬほど愚かな主催者ではないだろう。

そして気になるのは操作にかかっているロック。
ニアには情報量もあり入力できなかったが、今は2つ3つくらいは開示できるのではないか。


381 : 届かない星だとしても ◆Z9iNYeY9a2 :2017/10/09(月) 21:35:13 xXOraiZ.0

チラリ、と一瞬後ろを見たメロ。

「さて、俺の持ってる情報でどれだけのことができるようになるのか」

基盤の前に座り、キーボードに手をやる。


えるしっているか死神は○○○しかたべない
死神の好物。シドの言葉を思い出すにそれ自体が本当ではないだろうが、穴埋めとしての正解はりんごだ。

ピーという電子音が鳴り、文字列が表示される。

”迎撃装置を解禁しました”

すぐさま別の基盤に目を移し、斑鳩の武装状態を確認する。
先程までは残数が0であった単装砲、ミサイル、そして戦艦下部に備え付けられたリニアカノンの弾数が増加しているのを確認した。

「なるほどな。答えを入力する度に武装や操縦手段が解禁されていくってわけか」


表示枠の中に明らかにもう一つ何かがあると言わんばかりの空欄が残っていることが気がかりだったが。
ともあれ、本来なら戦闘機を撃ち落とすための戦艦の単装砲やミサイルなど、人間相手で考えれば普通に考えればそれだけでも十分すぎるほどだろう。
だがLはいわゆる重武装バイクによる砲撃を難なく捌いたオルフェノクと会っている。これでもまだ足りない参加者がいるのかもしれない。

緊張で頬に伝う汗を拭い、別の設問に目をやる。
魔法少女は魔力を回復するために○○の落とした○○○○○○○を用いる。

織莉子との情報交換が助かった、と思った。
魔法少女が魔力回復にグリーフシードなるものを使うことは知っていた。おそらくそれ自体は魔法少女が求めていることから推測はできるだろう。
だが、それが魔法少女のソウルジェムが変貌したものという情報はきっかけでもなければつかめないものだろう。

魔女、そしてグリーフシード。
入力したところで表示された文字。
”武装の操縦権を解禁しました”
明かされた画面には取扱説明書のようなファイル、そしてAuto ONという切り換えを行うかのような表記。
武装使用といえばかなり複雑そうな印象を受けたが、かなり簡略化されている。一人でも操作は可能のようだ。

「武装解除か…。チッ」

舌打ちしながらも別の画面を開く。

オルフェノクの中でも上の上に位置する存在、ラッキークローバー。そのメンバーは○人存在する。

これは知らない情報、と言いたいが実は推測する条件が揃っていた。
Lが言っていた。北崎はオルフェノクの中でも高い実力を持ち、ラッキークローバーなる集まりに数えられている存在だと。
そして自分が立ち寄ったクローバーという名のバー。
あそこに飾られたグラスの置き場に北崎の名があった。そして同列に並べられた場所に他に3つの名前。
うち一つは書き換えられたかのような形跡もあったものの、並んでいた数自体は4。

ついでに考えるなら、ラッキー(幸運の)クローバーと言われて思い浮かぶのは葉の枚数が多いクローバー。
中でもメジャーなものは4つ葉のクローバーだ。
もしかすると、その数に擬えたものなのかもしれない。

だが、確証がない。
ニアも懸念していたらしい、これを外した場合どうなるのかということ。
刻印発動か、あるいは二度とこの問題を入れることができなくなるか。

一か八かだが先に確認する必要はある。

ニアが止まったという選択問題を開く。
ガブリアス、ポッチャマ、ニドキング、グレッグル、リザードン。この中で最も基礎能力が高いポケモンは○○○○○である。
無論分からないものだ。
メロはこの中でポッチャマという選択肢を選ぶ。
理由は単純だ、名前の響きから強そうな気がしなかったというだけ。コガネムシとギラファノコギリクワガタのどちらが強そうかと言われて前者を選ぶ人は少ないだろう。


382 : 届かない星だとしても ◆Z9iNYeY9a2 :2017/10/09(月) 21:37:53 xXOraiZ.0

ビーッとエラーを示すような電子音が響く。
身構えたメロ。しかし何も起きない。
画面を再度開き問題を出そうとする。
「この問題は4時間後に入力可能です」

どうやら間違えた場合はタイムスパンが必要になるということらしい。
短いようでいて、この移動速度なら4時間もあれば会場のほとんどを回れる。その間多くの参加者とも出会うだろう。解禁された時に無事でいられる可能性も高くはない。

だが、これなら問題ない。

先程の問題。ラッキークローバーの構成員の人数。
数は、4。

正解だったらしく、画面に表示された情報。
”戦艦”アヴァロン”との連絡回線が解禁されました”

どうやら、正反対の位置にあるもう一つの戦艦との通信が解除されたらしい。

内心で手を打つメロ。
キーボードをうち、連絡回線にメールとしてニアと自分の考察をまとめたものを打ち込む。
内容はポケモン城についてのもの。

メールにした理由は単純だ。今向こうに誰かが載っているかどうかが分からない。
通話であれば出る相手がいなければ終わりだが、メールならどのタイミングであれ送った情報が残る。

送信を選択。メールが送られたことを確認する。
これでいい。最低限の仕事は果たせた。
アヴァロン側でも同じような機能はあるようだが、いずれ向こうに乗った何者かの目には届くだろう。

一息ついて、静かに背後の気配を伺うメロ。

「…俺の分かる情報は、ここまでだな」

静かに画面の光を落とし。


暗くなった画面に反射した室内の光景。
自分の背後に立つ、謎の全身スーツを身にまとった男の姿を確認。

その手が振り上げられたのを見た瞬間、メロは体を低く下げ伸ばした足を地面を薙ぐかのように振り回した。

スーツを来た何者かは、足払いの直撃を受けて転倒。
そのままメロは後ろを振り返らず艦橋の手すりを乗り越えて出口に駆け寄る。
入り口に人影を確認したところで艦長席付近に置かれた小物入れを手に掴み投げつけた。
相手が怯んだ隙に、部屋を脱出し廊下を駆け抜けた。

走る途中で一発の銃声が響き、脇腹の表面が熱と痛みを発し始めても構うことなく駆け抜け続けた。



後ろから迫った何者かがいることには、メロは最初から気付いていた。
足音は隠そうとしているようだが、気配まで隠せているわけではない。その辺りは素人といったところだろうか。
だが、気配を隠そうとしたままこちらに迫り、あまつさえ解析を進める途中の自分の背後を取ろうとする相手、信用などできるはずもない。
気付いていないかのように振る舞いながらも、敢えてやっていること、解析を口に出すことで今自分を殺せば不利益となるということをアピールして手を出させることを抑制していた。
そこまでの考えができない、必要ない相手だったら死んでいただろうから賭けではあったがそもそもこの閉所でそんな相手と遭遇すればその時点で詰んでいる。

だがずっとそのままで待機できるはずもない。もし利用価値がないと思われれば、気付いていることに気付かれればまた終わりだ。
行動を起こすまでに何かできることがないかを考え、運良くではあるが通信機能は回復させることができた。
できることだけは成した。ならこの場にリスクを抱えたまま残る意味はない。
どうせ危険人物の手に渡すくらいならせめてこの戦艦を利用できなくする、くらいまでできればよかったがそこまでする時間はないのだから。


383 : 届かない星だとしても ◆Z9iNYeY9a2 :2017/10/09(月) 21:41:03 xXOraiZ.0


そうして残された背後からの接近者、ゲーチスは地面にころんだ状態から起き上がったスーツ着用者、草加雅人を冷たい目で見下ろす。

「全く、もう少ししっかり働いてもらわないと困りますよ」

病院から離れたゲーチスは、しかし警戒と更なる戦力の安定も兼ねて戦艦の収集へと動いていた。
移動に用いたのは草加雅人の持っていたバイク。変形・飛行機能を持っていたのは尚役立つものだった。

戦艦が視認できる場所まで移動したゲーチスは、一定速度で動くそれに対しサザンドラとバイク、オートバシンでの飛行で空中から取り付いた。
移動速度は決して遅くはなかったが、瞬間的な速度で追いつくことは不可能ではない。
最も、中に入ったのはそこから停船し内部への侵入口が開いてからだったが。

さっそく艦橋にたどり着いた時、扉は開いており人の気配があった。
相手は単独。特徴は以前夜神月に聞いたメロなる者に一致した。
すぐに殺そうと思ったが、何やら解析作業に取り掛かっている様子であったこともありしばらくの様子見に徹していた。
まさか気付かれていたとは思わなかったが。これはこちらの失敗だ。

「戦艦にかかったロックですか。なるほど、武装とその使用権が解除されている。私の力とするには十分ですね」

建造中のプラズマフリゲートにも劣らぬ戦艦。あとは操縦権だけどうにかできれば完璧だが。

逃げたメロのことは追うべきか。
戦艦が手に入った今あんな人間一人のことなど些事だが、もし放置して戦艦への破壊活動をされてはことだ。あとこの顔に僅かに残る痛みの礼もある。

ふと部屋の中央に転がる死体に目をやる。
こちらも夜神月から聞いた情報だが、彼と敵対していたニアという人物のそれと一致する。

ゲーチスの顔が、何かを思いついたようにニヤリ、とつり上がった。



「…流石に幸運もここまで、か」

脇腹から流れ出る血を抑えながら曲がり角の端で座り込むメロ。
武器はない。現状同行者もいない。
一方で相手は一体どんな力を持っているのかも未知数。何の力もなかったとして、二人の人間を手負いかつ素手でどうにかできるなどと楽観できるはずもない。

だが、これまでも何もない状況であろうとこの身一つでも切り抜けてきた。
ワイミーズハウスを出た時も、手を組んだマフィアが壊滅した時も。

せめて爆弾か何かでもあれば戦艦を破壊し、あるいはLに変な手間をかけさせることもなくせただろうが無いものは仕方ない。
次の施設まで潜むという選択肢もあったが、出口はほぼ一つ。抑えられたら終わりだ。

血を拭い、最後に残った道具、例の宝石を取り出す。
せめてこれを相手にぶつけさえできれば、この場を乗り切る取引はできる。

宝石に血を塗りつけようとしたところで、ふと気配に気付く。
ゆったりとした足音。少なくとも今は一人の様子。

同じ手が通じるかは分からないが、まず今は張り倒して距離をあけるとしよう。
廊下の隅に備え付けられた消化器に手をやる。

曲がり角へと顔を見せてきたところを思い切り殴り飛ばしてやろうと。

そう思っていたはずだったのに。

「――――――――!」

曲がり角から出てきた顔を見た瞬間、思考が停止していた。


白い髪。白い服。
気だるそうな顔と、姿勢の悪い立ち方。
その顔は。

「―――ニア…?」


もう放送で名前を呼ばれたことは知っていた。
もう生きていないことも知っていた。
だけども、ほんの少し。
心のどこかで願っていたのかもしれない。

ニアならば、主催者やこの自分すらも何らかの手段で欺いて生き延びているのではないかと。
そう願いたい想いがどこかにあったのかもしれない。


それ故に見せてしまった、一瞬の、しかし大きすぎる隙。


384 : 届かない星だとしても ◆Z9iNYeY9a2 :2017/10/09(月) 21:41:30 xXOraiZ.0

Burst Mode

電子音と共にニアが手にした何かから光線が発され、メロの腹部を貫いた。

「がっ……!!」

足に力が入らなくなり、膝から崩れ落ちる。
先程銃で撃たれたそれとは比べ物にならない量の血が流れ出て足元を濡らしている。

視線を前に向けると、目の前にいたニアの姿が歪んでいき、先に突破した強化服を纏った誰かの姿があった。

「今度はよくやりました」

廊下の奥から姿を見せたのは、顔の半分を隠すような仮面を被った壮年の男。
一瞬見ただけだがおそらくさっき部屋の入り口に陣取っていた男だろう。

「あなたのことはさる人物から聞いていたので少し遊ばせてもらいましたが、まさかここまでとは」

こちらの傷、そして絶望の表情を見るその顔からは愉悦から来る笑いが抑えられてはいない。

「おま、え…」

メロはその表情からこの男の狙いに気付く。
こいつはただ楽しむためだけにニアの姿を敢えて使って遊んだのだ。
ただ殺すのではなく、弄んで苦しめて殺すように。

「その傷では長くは生きられないでしょうね。
 最期の言葉くらいは聞いてあげましょうか?何か言い残すことはありますか?」

と、こちらの顔をじっくり見るように髪を掴んで持ち上げた。

ここまでの激情に駆られたことはこれまでにあっただろうか。
ただの殺人鬼ならば、あの北崎のような化物であるだけだったらこんな感情を抱きはしなかっただろう。
目の前の男は、ただこちらの絶望を楽しむためにニアの姿を利用した。
あり得ないことだとしても、あまりに非合理的なものだったとしても。
空虚の中に一片だけ残そうとしていた希望を、見事に突いてきたのだ。

それだけは許せなかった。

最後に力を振り絞って、男の首を掴み握り締める。
最期に見ることになる男の顔を、自分の力で見ていることを示すために。

「……地獄に、落ちろ」

精一杯の、たっぷりの呪詛を込めるようにそう呟く。


「ふ、ハハハハハハハハハハ!!いい顔です!!その表情が見たかった!!
 さて、もう用済みです。ここから私の城となるこの戦艦、ゴミを残しておくのも不本意だ。草加雅人、操縦室にあったあの死体の残骸もろとも捨ててきなさい」

と、ひとしきり笑った後強化服の男、草加雅人に命じる。
すると草加雅人はこちらの腕を掴み、引きずりながら移動を始めた。
その一方の手には、何か真っ赤な何かが詰め込まれたかのような大きな袋。

だが、血が少しずつ失われていくメロにはそれに対して何かを感じるだけの力は残されていなかった。



戦艦内のダストシュートまでメロを引きずり、そのまま一片の迷いもなく放り込まれる。
本来ならばゴミは一旦どこかに溜め込まれて港かどこかで処理されるのだろうが、ここでは捨てられたものは直通で戦艦から放り出されるらしい。

体の支えの一切を失い宙へと放られたメロ。
横にはかつてニアだったものもまた、ゴミのように詰められて投げ出されている。

(二人、なら、Lを越えられる…か…)

せめて生きている時に会うことができていれば、二人が揃っていれば、こんな無様なことにはならなかっただろう。
そうならなかったが故に、その死をずっと引きずったが故に、こんな情けない死を晒そうとしている。

二人揃えばLを越えられる。
もし自分が死んでもニアが生きていたならまだ可能性はあったかもしれない。
だけどその逆。ニアが死んで自分だけが生き残っていた時点で、既にLの後継者としては欠陥だったのかもしれない。

(…ああ、やっぱ)

脳裏に浮かぶ、本物のLの姿。
彼には一人で全てを担う力量があり、俺のような欠損することで欠陥となる何かを持っていなかった。

どうしても、一人では限界がある自分では。

(届かねえな……)

それが体が地に叩き付けられるまでに、メロが最後に思ったことだった。

【メロ@DEATH NOTE(漫画) 死亡】




385 : 届かない星だとしても ◆Z9iNYeY9a2 :2017/10/09(月) 21:42:08 xXOraiZ.0

戦艦から放られて落ちていくメロを内部のカメラから見ながら、ゲーチスは艦長席に座る。

「それにしてもゾロアークの幻影だけでも十分かと思いましたが、スーツの変身機能だけでもなかなかのものですね。
 合わせることができれば戦闘なら更なる撹乱に使えるでしょう」


ゲーチスは戦略家ではあるが、戦術家ではない。
策を練って行動することは得意だが、場の状況に合わせて最適な形で動くことはできないわけではないが彼自身の性格もあり若干劣ったものだ。
人を見下し、他者が苦しむ姿を楽しむ。そのような性根は隙を生み出す。

かつてはゲーチスの側にはダークトリニティという優秀な側近がおり、実際の戦術面でもフォローすることはできたが、ここに彼らはいない。

「しかし、あの青年が首に触れた時何かが当たった気がしましたが、……ふむ、何ともないですね。気の所為ですか」

ゲーチスは気付かない。
メロが最後に叩きつけた呪詛の意味に。
その首の、主催者により与えられた刻印付近につけられた、また別の紋様の存在に。

メロの呪い、痛覚共有の刻印の存在に。

【E-7南部/斑鳩内/一日目 夜中】

【ゲーチス@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(中)、肩に切り傷(処置済み)、精神不安定、強い怒りと憎悪と歓喜、痛覚共有の呪い発動(共有対象:なし)
[装備]:普段着、ベレッタM92F@魔法少女まどか☆マギカ、サザンドラ(健康)@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品一式、病院で集めた道具(薬系少な目)
羊羹(1/4)印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入 印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入×4 、きんのたま@ポケットモンスター(ゲーム)
デザートイーグル@現実、流体サクラダイト@コードギアス 反逆のルルーシュ(残り1個)、デザートイーグルの弾、やけどなおし2個@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:組織の再建の為、優勝を狙う
1:この戦艦を完全に手中に収め、他の参加者の口減らしを行っていく。
2:草加雅人を利用する。
3:ゾロアーク、草加雅人の力をもってできるだけ他者への誤解を振りまき動きやすい状況を作り出す
※痛覚共有の呪いを首の刻印の近くに受けていますがまだ共有者はいません。次にこの刻印に触れた者と痛覚を共有することになります。また、その存在にゲーチスは気付いていません。


【草加雅人@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(大)、負傷(中)、胸に切り傷(処置済み)、頭に打撲、真理の死及びオルフェノク転生の事実に対する精神不安定、昏睡状態
[装備]:イクスパンションスーツ@ポケットモンスター(ゲーム)、カイザギア@仮面ライダー555、オートバシン@仮面ライダー555、ゾロアーク(健康、片腕欠損、ボールジャックにより人形状態)@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:儀式からの脱出とオルフェノクの抹殺
1:???????
2:真理、俺は―――――
[備考]
※イクスパンションスーツの機能により昏睡状態です。そのままの状態では目を覚ますことは難しいですが、他者の呼びかけなど外部の刺激次第では意識を取り戻す可能性はあります。
※草加雅人はリモート操作によって操られています。
※オートバシンは斑鳩艦内にあります。あくまで所有者の意思(現在は草加雅人)の意図に沿って機動します。


※斑鳩について
陸地のホバー移動は操縦可能ですが、現状は飛行による制御になっているため実質飛行による移動のみ可能となっています。
操縦基盤には6つのロックが存在しており、それぞれ解除することで
・ハドロン砲以外の武装
・ハドロン砲
・武器系統の制御
・操縦系統の制御(飛行時)
・格納庫のナイトメアフレーム
・戦艦”アヴァロン”との連絡
が開放されます。現在はそのうちハドロン砲以外の武装、武器系統の制御、戦艦”アヴァロン”との連絡が解除されている状態です。
また、いずれか一つはロック解除のキー入力まで4時間待つ必要があります。
アヴァロンにこれと同じロックがあるかどうかは不明です。


386 : ◆Z9iNYeY9a2 :2017/10/09(月) 21:42:34 xXOraiZ.0
投下終了です


387 : 名無しさん :2017/10/09(月) 22:30:24 vN.Ryz0k0
投下乙です

メロはやっぱりニアを意識し過ぎたのが自分の首を絞める原因になったのかなぁ
戦力を増強させたゲーチス。火力だけなら参加者中トップになったか


388 : 名無しさん :2017/10/13(金) 15:25:05 rJnwBuGY0
投下乙
ニアと合流できてれば、或いは道中で同行者を見つけてれば何か変わったのかもしれない


389 : 名無しのフレンダ信者さん :2017/10/14(土) 18:53:28 z6IASp.w0
投下乙でした。

メロはやはりニアの死を克服できていなかったのが原因かな……
最後に送ったメールが、アヴァロンにいるライトに届いたのが何とも皮肉。
ライトからLに届けばいいんだけど。


390 : ◆Z9iNYeY9a2 :2017/11/03(金) 23:12:58 nrgFkZg60
投下します


391 : 待ち人ダイアリー ◆Z9iNYeY9a2 :2017/11/03(金) 23:14:30 nrgFkZg60
日も暮れ、空の青が暗色へと変わっていく。
しかし周囲には多数の電光が煌めき、夜の闇を照らしている。

遊園地には夜にもイベントを行うものもあるらしく、別に不自然というわけではない。
しかし閉店時間は存在するだろう。そして閉店すればいずれ光も落ちる。
ではこの場においては果たして電気が消える時は存在するのか。

おそらくはないだろうというのがLの見解であり、だからこそここを一旦の拠点としても問題ないということで留まっている。

そしてセイバーは、その遊園地内の建造物の中でも、観覧車を除く最も高いものの上で周囲を見回していた。
大まかとはいえ居場所が判明した桜を探しに行くという、自身の最優先事項を他の人に任せてまでここに残るという分担を受け入れたのだ。
自分の役割、つまりここで待ち続けるLとまどかの警護。それが今の自分のしなければならないことだ。

しかし、頭でそう思ってはいても、どうしても気は逸る。本来であれば、桜のことは自分が解決すべき案件なのだ。
ならば、何故イリヤスフィールのここに残ってほしいという指示を受け入れたのか。

理由は2つ。

まずこれは彼女やステッキに言われたことだが、現在の桜の状態は不明瞭、敢えていうならむしろ悪い方に寄っている可能性が大きい。
そんな状態で桜に会い、自身が手にかけた士郎のことで刺激してしまえばどうなるか。決して良くはならないだろう。
逃げるわけではない。しかし現状が想定以上に悪い方向に向かっている。できれば

もう1つの理由、これはこちら側でのこと。
セイバーの中でイリヤスフィールに対する認識が代わりつつあったこと。

そもそもセイバーにとってのイリヤスフィールとはマスターの一人にして聖杯戦争のために調整を受けたホムンクルス。
しかしその宿命から解き放たれた彼女は、言ってしまえばただの普通の少女のはず。
魔法少女として戦ってこそいるが、魔術師としての宿命もなくアインツベルンの宿願をその小さな背に負わされることもない、善良な一般人だ。
そう思ったからこそ士郎は彼女を戦いに巻き込むべきではない守るべきものと思ったのだろうし、自分もそう思っていた。

だが、彼女はバーサーカー・ヘラクレスをその手で打ち倒した。
皆からその時の状況を聞いたが、カードの補助があったとはいえあの大英雄にたった一人で立ち向かい、打ち勝った。
例え同じサーヴァントであっても決して容易くはないだろうことを、あの少女が成し遂げたのだ。
再会したイリヤスフィールの雰囲気は、別れる前とは変わっているようにも感じられた。

イリヤスフィールは一般人には違いない。世界の裏など知らず平穏を享受するべき者。
しかしその心には強大な相手にも立ち向かうことができるほどの意思、強さがある。
あの時、あの場にいた皆が傷つき自身もボロボロの状態で、イリヤスフィール達を人質のごとく取られた状態の中で、自分に向かって立ち向かってきたあの士郎のような。

「やはり、血は繋がらずとも兄妹、ということなのでしょうか、イリヤスフィールも」

もしかすると自分は彼女の見方を誤っていたのかもしれない。
守られるだけの存在ではない、あるいは自身の手で自らの運命を選び掴み取れるだけの心を備えていたのかもしれない。

そんな彼女の心に、少しだけ賭けてみたいと思ったのだ。
自分の想像以上に心を侵食された間桐桜に、もしかすると手を差し伸べることもできるのではないかと。

ただ、少し引っかかるものがあるとすれば。
彼女のどこか変わった雰囲気の中に、暗い影を微かに感じたことだろうか。


392 : 待ち人ダイアリー ◆Z9iNYeY9a2 :2017/11/03(金) 23:15:27 nrgFkZg60



意識を視界に戻す。
暗い空にうっすらと光る、それなりに大きな光がある。
ここから見れば小さく見える浮遊する何か。しかしアーチャーほどではないが、形を目に止めることくらいはできる。
巨大な城が浮いているとでも表現したくなるその巨体。おそらくあれがアヴァロンなる戦艦なのだろう。

アヴァロン。ゼロがあの時自身が呼び出した巨人をガウェインと呼んだことといい、どうにも縁を感じてしまう名前だ。

ともあれ、あれほどの巨体、実際に制御できるならばこの上ない力になるだろう。例えアーチャークラスのサーヴァントの狙撃であっても安々とあの装甲を穿けはしないだろう。
しかし未だそれがこちらへと向かってくる気配はない。
やはり今しばらくは待機の時ということか。

周辺を再度見回し近寄る人の気配がないことを確認した後、電光の灯りと夜の闇の混じった空間に背を向けた。
見張ることも大事ではあるが、やはり守る対象は近くにいた方が守りやすいのも確か。
まどかとLのいるはずの部屋へと向かった。


「あ、セイバーさん…」
「……Lはどうしたのです?」
「その、ちょっと気になることがあるって外に…」

部屋に戻ったセイバーは、先程の自身の気遣いが無用に終わったことにため息をついた。

「それで、Lさんはセイバーさんにはここでしばらく待っていてほしいって…」
「待っていてほしかったのはこちらなのですが……、まあ言ってても仕方ありません」

室内に入ったセイバーは、机の近くにあった椅子に座る。
物置と作業部屋が入り混じったかのような室内は、不自然に広い空間――おそらく本来置かれるモノがあったのだろう――と広めの机が置かれている。
その広めの机の上には質素なティーカップが3つ、そして菓子が並べられており、カップ2つは既に空になっている。片方には大量の砂糖の包みが周囲に転がっている辺りLが飲んだものだろう。

「これ、入れたあとでセイバーさんがいないって気付いちゃったから…セイバーさんの分です」

と、紅茶が注がれたティーカップを差し出すまどか。
時間が経ってしまったことで中の温度はぬるま湯程度のものになっている。

「ちょっとうっかりしてたからぬるくなっちゃって、もし嫌なら入れ直しますから―」
「いえ、いただきます」

下げようとするまどかを引き止めカップを受け取るセイバー。

椅子に座り静かに口に紅茶を含むと、ぬるいものだと思ったそれは思ったよりも程よい温度であるように感じられた。

「お口に合わなかったらごめんなさい…」
「いえ、よく入れられています。むしろ美味にも感じられます。
 マドカは紅茶の入れ方を習ったことがあるのですか?」
「その、マミさん――ちょっと知り合いの先輩の人の入れてるのを見たことがあったから…」
「その名前は……、失礼。辛いことを思い出させてしまったみたいですね」
「いえ、セイバーさんが悪いわけじゃないですから」

自信のなさげなまどかを励まそうと話していたがどうもあまり良くない方向に向かってしまったらしく、微かに重苦しい空気を感じた。
このままでは埒が明かないと、セイバーは思い切って直球に話を切り出した。

「マドカ。先程からどうにも行動の一つ一つに迷い、というか自信をなくしているように感じられます。
 良ければ話してみてもらってもよろしいですか?もしかすると何か助言できるかもしれません」
「………」

その言葉に導かれるかのように、まどかは静かにセイバーの左に位置する椅子に座る。
体は縮こまって、表情も何かを憂いているかのように暗い。

「…セイバーさんは、もし一人の人間を殺すことで世界を救える、だけどその人を残すと世界を滅ぼすかもしれない、という人がいたら、どうしますか?」
「それは、あなたのことですか、マドカ?」

だいたいの事情はもう把握済。そして今はまだ様子見を選んでくれたとはいえ、織莉子の強い覚悟にもセイバーは触れている。
そのことに対し、セイバー自身どう思っているのかは話したことはなかった。

「分かっています。私も美遊ちゃんやLさん、シロナさん…、色んな人たちに助けられてもう私一人の命じゃないんだってことは。
 だけど、どうしても引っ掛かっちゃうんです。私の命と世界って、そんな簡単に釣り合っていいのかなって」
「……今の私には残酷な質問だ」

セイバーの脳裏によぎるのは、二人の男の姿。
一人は一人でも多くの人類を救うために、少数を切り捨ててまで戦い続けた男。
一人はただ一人の少女の幸せを願い、世界に害を成しうる存在と知りながらも守ろうとした男。


393 : 待ち人ダイアリー ◆Z9iNYeY9a2 :2017/11/03(金) 23:15:47 nrgFkZg60

かつての、黒に染まった自分であったらどうしただろうか。
仮にこの殺し合いの場でなく、影に縛られることもなく、ある程度の自由が認められていたならば。
すぐには殺しはしないだろう。だがもし彼女の決意が変わらないと判断したなら、切り捨てたかもしれない。

「もしあなたのことを受け入れられないと言ってしまうならば、私はかつて友とも言えた人の想い人を斬らねばならなくなる」

だが、今の自分にはそれはできないだろう。
手にかけてしまった士郎の、最後の願いだ。叶えるためならあらゆる手を尽くすだろう。

今になってかつてのマスターの気持ちが少しだけ理解できたような気がした。
多くの人間を救うという決意の裏にあった、おそらく彼を縛っていただろう呪縛。

「オリコのような選択を生き方としていた人を、私は知っています。
 もし彼であれば、多数の人の安全のために躊躇いなくあなたを殺したかもしれません」
「……」
「そして、その罪を背負い続け決して忘れることなく苦しめられ続けたでしょう」

セイバーの知る彼はきっとそういう男だった。
幾度も選択肢、切り捨て、その度に彼は何を思っていったのか。
もはや想像することしかできないが、その果てにいたのが自分の知る衛宮切嗣だったのだとしたらそれは哀しいことではないかと。

幸福な世界で、切嗣すらも欠けていない家族の中で生きるイリヤスフィールを見ると改めてそう思ってしまう。

「もしかしたらLも似た人を見たことがあったのかもしれません。だからマドカ、あなただけではなく織莉子にも手を差し伸べようとしたのです。
 人の命は、そしてマドカ、あなたの命もあなた自身が思っている以上に重いものなのですよ」

それはまどか自身だけの問題ではない。彼女を殺そうとする織莉子にとっても同じこと。
例えまどかがどのような存在であろうと、まどかが鹿目まどかである限りは決して動かないもの。

「私もその罪を背負ったからその心を理解することはできますし…、そういえばあなたは聞いていなかったかもしれませんが。
 あなたの友、美樹さやかも同じ罪を背負ったと聞きました。仲間殺しの罪を」
「さやかちゃんが……?え、もしかして……」

まどかの脳裏に嫌な想像がよぎる。
さやかが背負った仲間―魔法少女殺しの罪。該当する者は消去法から一人しか浮かばない。

「不幸な誤解から、彼女は佐倉杏子という人物を手にかけてしまったと言っていました。
 だが、それでも彼女はその罪の償い方を求めて戦っている」

立ち上がったセイバーは、まどかの近くに歩み寄り、その手を取った。

「もしそんな彼女の心の支えになるものがあるとすれば、それはきっと友であるあなただろう。
 だからあなたは生きなくてはならない。友の帰る場所であるために。
 その役割を放棄して逃げることは、きっと彼女のためにもならないのだから」
「さやかちゃんの帰る場所…。私に、そんな資格……」
「自信がありませんか?大丈夫です、互いを思い合うあなた達の絆は深い。私が保証します」
「………」

沈黙が数秒続き、自信はなさげだがそれでも光を感じさせる瞳を上げて、まどかは応えた。

「はい、まだ私には分からないけど、もう少し頑張ってみようと思います」
「ええ、それでいいのです。答えはそこから、じっくり探していけばいい」


鹿目まどかは決して弱くはない。他者のために自分の身を投げ打つ強さを持っている。
ただ、その心の強さに対し一般人である彼女自身の体、そして能力が釣り合わず、故にそのギャップに振り回されてしまっている。
限界が見えずとも過ごすことができる日常であれば表出することはそうなかっただろうが、非日常に関わり自分の限界を必要以上に自覚してしまったことが彼女の不幸なのだろう。

だから見守らなければならない。導いていかねばならない。
そう思う一方で、自分にその役目が行えない、行う資格がないということも、セイバーは自覚していた。





394 : 待ち人ダイアリー ◆Z9iNYeY9a2 :2017/11/03(金) 23:16:03 nrgFkZg60

しばらく時間が経過した頃、Lが戻ってきた。
気になること、遊園地内のある一角について気になったことがあったから調べていたという。

単独行動を責めるセイバーの声も受け流し、二人を連れてやってきた場所。
しかしそこは何の変哲もない、遊園地の一角。
舗装された地面、草木の並ぶ植え込み。10メートルほど先に建物がある。おかしな場所はない。


「そうですね、順を追って説明しましょう。これが遊園地の地図です。まあよくあるパンフレット的なもの程度ですが」

どこにどういった施設があり、どういうルートで向かえば良いかなどが記された地図。
地図としてみれば正確なものではないだろうが、そもそも客に向けた遊園地の施設配置図になどそこまで正確さは求められない。

「で、位置的に私達が立っているこの辺りの位置ですね。下に通路があるみたいなんです。この地図には記されていませんが」
「Lはそれが怪しいと?」
「いえ。中はアトラクション用の電力の発電機など、客には解放されない設備が置いてあっただけです。ですから怪しいといっても不自然なものではないのですが」

と、Lは言葉を区切って歩き始めた。

「お二人のいる場所からここまで。だいたい15メートルくらいの間ですか。
 ちょっと地下を調べた時に歩数を地上とでそれぞれ数えてみたのですが、地下側の通路の歩数が地上側と比べて明らかに少ないのです。
 まるで数メートルは切り取られているかのような」

歩数をメートルに直すと4,5メートルほどだろう。
明らかに不自然だが、L自身気を抜いていたら見落としてしまいそうだったという。

「私の知る魔術にも一般人の人払いのために認識阻害を行うものもあります。
 しかしそうであれば、私達のようなサーヴァントには効果は現れないはずですが」
「もしかするとそういったものとは別の、もっと強い力で認識を防いでいるのかもしれません。
 ですが、だとすると直接対処するやり方は私としてはお手上げですね。何しろ知識がない」

そう言って地面に座り込み、軽く触れるL。
おそらくその辺りがその言っている認識できない空間があるのだろう。

「ですからそれ自体の対処は置いておき、別の方向から攻めてみようと思います。
 例えば、その場所自体は認識できなくとも、認識できない場所がどの辺りにあるかを把握することはできる」

と、そう言って用具室から持ってきたらしいチョークで地面に線を引く。
その認識阻害が地上にはかけられていないのは視点があまりに多角的であるが故だろうと考えられる。
地下の密閉空間と開けた場所ではカバーすべき範囲が大きく違う。

「例えばここに穴を掘ることができれば、あるいは中を確かめることができるかもしれない」

その場所を認識阻害の外から確認できるなら、中に何があるかを見ることができるのではないか。
無論魔術などがどういうものかについては後でルビーやサファイアに聞いて答え合わせをする必要はあるだろうが。

あとの問題は、中をどうやって確認するかだが。

「ダイナマイトのようなもので爆破してしまう、ということも考えたのですが、少なくとも間桐邸で集まった皆さんは持っていなかった以上厳しいかもしれません」
「それについては一つ。この会場にはバーサーカーがいました。もし彼が暴れれば爆弾どころか爆撃に匹敵する被害が周囲に撒き散らされるでしょう。
 さらに彼を倒すにもそれ以上の力を用いることもある。
 もし彼がここで暴れた場合、バーサーカーを含んだ者達の戦闘の巻き添えで露見してしまうような強度にはしないはずです」

もしあの怪物が暴れてなおも耐えきれる強度を持たされているとするなら、多少の爆弾はおろか、ドリルなどで穴を掘るなども不可能に近いだろう。


395 : 待ち人ダイアリー ◆Z9iNYeY9a2 :2017/11/03(金) 23:16:18 nrgFkZg60

「そういえばL。あなたの支給品の中に確か矢がありましたね」
「ええ。しかし弓がないので正直持っているだけ無駄なものですね」
「あれは聞いたところによるとイリヤスフィールの姉が投影したものということらしい。つまりは魔力の塊だ。
 そして我々サーヴァントは、戦いにおいて本当に最後の手段として、自身の武器をたった一度きりの使い捨ての爆弾として使う手段を備えている」
「言いたいことは分かりました。つまりセイバーさんがあの矢をその爆弾として使用することでこの地面を切り開くことができるかを確かめようということですね」

Lが取り出した矢を受け取るセイバー。
しばらく手で触れて構造を確認してみた後、セイバーはLとまどかに離れて物陰に隠れるように促す。

二人が身を隠した後、セイバーは小さな小屋の屋根に飛び乗り。
その腕に風をまとわせた後、大きく振りかぶってその矢を地面の印に向けて投げつけた。
自身の風王結界をまとわせた矢による、簡易的な壊れた幻想。


風を切る音が身を潜めた二人の耳にも届き、一瞬後には地面と矢がぶつかり合う音が鳴り響く。

次の瞬間、激しい熱と爆音が周囲に撒き散らされた。
強い威力はないが、目の前で爆発を受ければ人体は吹き飛ばされるだろうというほどには火力があった。
幸いにして周囲に可燃物がなかったため火はすぐに収まり、黒い煙と地面に残った僅かな炎がチロチロと揺れている程度になるまでに時間はかからなかった。

しかし、地面には小さな穴が空いているだけで、下の様子が見えるようにはならなかった。

「…おおよその硬さは掴めました。おそらくこの地面は、バーサーカーの戦闘にも耐えうる硬度を持っています。
 長期間ここで地面を破壊することを目的とした攻撃を続けた場合は分かりませんが、並大抵の攻撃では破壊は困難でしょう」

少なくとも偶然によって壊れることはかなりの低確率でなければ起こらないだろう。
例えばだが、空中を飛ぶあの戦艦アヴァロン。あくまでも見た認識からの判断となるがあの装甲を打ち砕くほどの力は最低でも必要だ。


「なるほど。少なくとも対地兵器のようなものでも持ち出さねば貫けない可能性もあるということですか。
 心に留めておきましょう」

話はまとまり、これ以上この地面への思考には時間を要しはしないだろう。
その時のLの意識は、見据えた虚空の先にあるものに向いていたから。
ここに迫る、今自分たちが目的としているもの。浮遊戦艦アヴァロン。
あれならば、何かここを破ることができる武装が見つけられるかもしれない。
無論制御が可能化という問題はあるが。

ふと見上げた時、アヴァロンの光は先程よりは確かにこちらに近づいてきているようだ。
それでも、まだここに到着するまでの時間はかかりそうに思えた。


【D-5/遊園地/一日目 夜中】

【L@デスノート(映画)】
[状態]:右の掌の表面が灰化、疲労(小)
[装備]:ワルサーP38(5/8)@現実、
[道具]:基本支給品、クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ、ブローニングハイパワー(13/13)@現実、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、
    トランシーバー(電池切れ)@現実 、薬品
[思考・状況]
基本:この事件を止めるべく、アカギを逮捕する
1:アヴァロンの到着を待ち、それに搭乗して移動する
2:月がどんな状態であろうが組む。一時休戦
3:遊園地の地下にあるものを確かめる
[備考]



【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(小)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み)、精神的な疲弊
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
1:Lさんと一緒に行動する
2:さやかちゃんを待つ
[備考]


【セイバー@Fate/stay night】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、魔力消費(大)、胸に打撲(中)
[装備]:スペツナズナイフ@現実
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:シロウの願いを継ぎ、桜とイリヤスフィールを生還させる
1:今はこの場に待機してLとまどかを守る
2:間桐桜が気がかり
3:約束された勝利の剣を探したい
4:ゼロとはいずれ決着をつけ、全て遠き理想郷も取り返す
[備考]
※セイバーの中でイリヤに対する認識が変わりつつあります(守らねばならない存在→士郎のようにあるいは背中を合わせて戦うことができるかもしれない存在)


※遊園地の地下に何かがあるとLは見ています。しかし認識を阻害する何かがあり地下から直接見ることはできません。
 地上から直接確認することは可能かもしれませんが、地面を破壊するには特別な破壊力を持った何かが必要です。


396 : ◆Z9iNYeY9a2 :2017/11/03(金) 23:16:43 nrgFkZg60
投下終了です


397 : 名無しさん :2017/11/04(土) 08:48:47 YauJC8Ag0
投下乙です

少しだけどまどかが持ち直せて良かった
徐々に近付くアヴァロン。月とLが会うのはもう少し先かな?


398 : ◆Z9iNYeY9a2 :2017/11/06(月) 22:39:21 KGkwYNmc0
予約スレで告知させてもらいましたがこちらでも一応
本日から予約期間を基本1週間+延長1週間という形に伸ばさせてもらいますのでよろしくお願いします


399 : 名無しさん :2017/11/07(火) 20:31:18 uACB/uGM0
投下乙でした。
近づいてくるアヴァロン、
武装も大事だけどLにとっては今一番必要としている月が乗船している。
二人の再会が楽しみです。


400 : ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:36:40 6rSZgSRY0
投下します


401 : 杯-世界の色彩 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:37:37 6rSZgSRY0
『あなたは光に溢れた人生を歩んできたようですね』

織莉子との会話でそう言われた時、一瞬心の中に緊張が走っていた。

両親のことは愛している。
セラもリズも、お兄ちゃんのことももちろん。

学校の友達も、美遊も、……クロのことも、みんな大切な、かけがえのないものだ。

だけど、そんな中にどうしても混じってくるものがある。

バーサーカーを連れた私。
エミヤキリツグを憎む私。
お兄ちゃんが大好きで、同時にどうしようもなく憎い私。

違う。
それは自分ではない。

そして、その中に見える間桐桜という少女。
お兄ちゃん、いや、士郎さんの恋人。

状況が整理できない。情報が纏まらない。
どこまでが自分で、どこまでが自分じゃないのか。

バーサーカーのことは自分で背負うことができるものだった。
だけど、士郎さんが、アインツベルンの1000年の悲願が関わってくることは。
あまりにも重すぎた。

ifの自分。もしもの自分。
並行世界の自分。

知らない方が幸せなこともあるというのを思い知らされた。
知ってしまえば無視することができない。

お母さんに聞いた時も実感すら沸かなくて、だからこそ流せた。
逆に言えば、実感してしまえば心を縛るように締め付けてくる。

だけど、これを言える相手はいない。
ルビーは同時に見た記憶であるから知ってはいるだろう。しかし相談できる相手ではないと思った。
だからこそルビーもあれ以降それに触れてはこない。

整理しようとしてもできない。問題の核が複雑なようにも見えた。

やるべきことは分かっているし、そこを迷ってもいない。
ただ、自分の中にあるそういったもやもやだけは、どうしても整理することができなかった。その術が思いつかなかった。




「イリヤ」
「え、何美遊?」
「何だかさっきから表情が優れないから。何か悩んでるなら力になる」
「別に何でもないよ。ちょっとこれからのこと考えてただけだから」

ふと考えていたことが表情に出てしまっていたのか、隣を飛んでいた美遊が声をかけた。




「それにしても、何だかさっきと比べて空を飛ぶことに対する消耗が少なくなってきてる気がする」
『確かに制約が減っているようにも感じます。L様が考察していた魔女化のことと関わりがあるのでしょうか?』

確かに滞空時間は伸びている。魔力効率が改善されているということだ。
それでもあまりにも高くまで飛ぼうとすれば魔力消耗の増加は避けられないだろうが、さっきまでに比べれば遥かにマシだ。

「う〜ん。だけどちょっと降りよう。
 少し休憩が入れたいの」
「分かった」

イリヤと美遊は着地。加えてイリヤは転身も解除して美遊の元を離れていく。
ルビーすらも残して。


402 : 杯-世界の色彩 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:38:03 6rSZgSRY0

「イリヤ?」
「ちょっと一人にさせて。大丈夫、そんな遠くには行かないから」

そう言って、イリヤは小さな家屋の中に入っていく。


「…ルビー」
『はい何でしょ〜』
「イリヤに何があったの?今イリヤは何を考えてるの?
 ずっとイリヤといたルビーなら知っているはず」
『………こればっかりは、かなり難しい問題なんですよね』
『姉さん、もし話すのが難しいなら私が直接情報を受け取ってやり取りすることもできる』
『いえ、…そうですね。美遊さんとサファイアちゃんならいいでしょう。
 ちょっとイリヤさん、バーサーカーを倒す時にミュウツーってポケモンからバーサーカーの記憶の断片を受け取ったんです。
 とりあえず再生してみますね。何か紙とか持ってないですか?』




少し一人になりたかった。
支給品に入っていた水を飲み込み、気を紛らわそうとするイリヤ。
体に冷たいものが通る感覚は体を落ち着けるが、心の重りまでは取れなかった。

(間桐桜さん)

衛宮士郎が守るといったらしい少女。
もしその存在を知っていれば、彼との触れ合い方も変えていただろうか。
そんなifは現実にはない。
それでも、たぶん向き合わなければいけないもの。

だけど、あの映像の中にいた人は想像と大きく違った存在だった。

(私は、向き合えるの?)

考えすぎた頭を冷やすように、洗面台に向き合ったイリヤは顔に水をかけて冷やす。
顔を振るい目の前の鏡に向き合ったイリヤ。
一瞬そこに映った顔が、自分のものではない別のもののようにも見えた。





「これは…」
『聖杯戦争に携わったイリヤさんの、本来の姿というところなのでしょうか。
 ミュウツーさんがバーサーカーの記憶から、イリヤさんに明け渡したものです』

今のイリヤとは似ても似つかない。
いや、むしろ反転してるとでも言える少女の人生の一部がそこにはあった。

『たぶんこれ、アイリさんとお父さんがそういう生き方を選択した結果なんじゃないかってルビーちゃんは思うわけですけど』
「でも、そんなもの、今のイリヤには何も関係ないはず」
『本来ならそうなんでしょうけどねー。うちのイリヤさん、この記憶の中に映ってる士郎さんに守られてるんですよねー』

本来ならこの生もイリヤにとって無関係、で通せるはずのものだっただろう。
しかし衛宮士郎と関わりを持ったことで

『士郎さん、うちのイリヤさんにどんな想いを抱いて守っていたのか。たぶん想像したらイリヤさんにはかなりキちゃうくらい重いんじゃないですかねこれ』
「でも、それはイリヤには関係ない、イリヤが背負うべきものじゃない」
『そうなんですけど、イリヤさんあれでまだ人生経験ないですから、そう割り切るのも容易じゃないんですよ。
 かといって誰かに相談できることでもないし。まあサファイアちゃんと美遊さんには私が喋っちゃったんですけどね』
「私が、イリヤの力になれれば…」



『美遊様』

思い悩む美遊に、サファイアが呼びかける。

『イリヤさんに結花さんやロロさんのことを重ねていませんか?』
「そ、そんなことは、ない」
『イリヤさんのことは大事です。美遊様が力になる必要があることだとは私も思います。
 しかしそのために美遊様自身が身を削って、などということは考えないでください。それではイリヤ様が尚更追い詰められます』
「分かってる」

と、再度ルビーがモニターにして出した映像に映っている少女に目をやった。
己のサーヴァントを御するための調整を幾度も行われ続ける姿、そのために必要とあらば非情とも思えるような苦痛を受ける姿。

「このイリヤは、私に似てる…」
『美遊様?』
「なんでもない」
『ところで話の途中ですが、ここに二人ほど近づいている人がいます。
 魔力の色からすればおそらく美樹さやかさん、だとすればもう一人は巧さんだと思います』
「分かった。イリヤを呼んだら合流に行く」


403 : 杯-世界の色彩 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:40:09 6rSZgSRY0



「…希望と絶望の差し引きはゼロ、か。今になってあんたが言ってたこと、すごく実感してるわ、佐倉杏子…」

目を覚まさぬ巧を地面に下ろし、地面に座り込んで暗闇の虚空を眺めるさやか。
一刻も早く安全といえるだろう場所、他の皆と合流できる場所に移動すべきなのは分かっていた。
しかしただ闇雲に近い歩みを続けていたこともあって気づいた時には自分の居場所を見失いかけており、慌てて地図を開いて進行方向を正し。
だけど一旦休みを入れてしまえばその間にどうしてもそれまで思っていたこと、溜め込んでいたものが噴出して体の動きを止めてしまっていた。

マミさんが魔女に成り果てたこと。
それがきっと魔法少女の真実だったのだろう。
今まで倒してきた魔女は、かつて魔法少女だったものの成れの果てだった。

もし、かつてそれを知っていれば自分は戦えただろうか。
今の自分が魔法少女であることに胸を張れただろうか。

自分がもうかつてのような正義の味方ではいられないということはあの時、自ら狂気の道に踏み外すことを選んだ時から分かっていた。
だけどこの数時間の出来事で道そのものが崩れ去っていくのを感じていた。

魔女の正体は魔法少女、つまりはいわば倒されるべき敵ではなく、それ自体は哀れな犠牲者にすぎなかった。
マミさんを倒した巧の敵、木場勇治もまた、人との共存を望みながら強く生きられなかっただけだった。

倒すべき敵を見失って、それがもしかしたら自分がなり得た未来なのではないかと気付いた時、自分の道がわからなくなってしまった。


「あんたはさ、分かってたのかな。私がいつかこういうことにぶつかるって」

空っぽになってしまいそうな頭を振るい、立ち上がるさやか。
今は自分のやることが分からなくなってもやらなければならないことはある。
早く他の皆と合流し、巧さんの安全を確保する。

今はそのやらなければならないことがあったのはありがたかった。



そこからしばらく移動した辺り。

さやかがイリヤ、美遊の二人と合流するのに時間はかからなかった。

『さやかさんちょっと不用心ですよ。ただでさえ怪我人背負ってるんだから、もう少し周囲に気を配らないと』
「あはは…、ごめんなさい」

イリヤが空から呼びかけたところで驚いてよろけて倒れ込んださやかの姿を見たルビーが注意を促す。
幸いというべきか、前に倒れたため背負っていた巧を地に叩きつけることはなかったが、さやか自身は服が土に汚れている。

現在はイリヤと美遊が共同で巧に魔力による回復を行っている。
おめかしの魔女、そして木場勇治との連戦は少なからぬダメージを巧に蓄積していた。

「でも、大丈夫なの?ここでじっとしてたらゼロが追っかけてくるんじゃない?」
『まあ心配なのは分かりますが、流石に大人一人を背負って移動というのはきついですし、少しだけ待ってみましょう。それで起きなければ私達が背負って動けばいいですし』


404 : 杯-世界の色彩 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:42:59 6rSZgSRY0

そんな会話をしつつも現状についての情報整理が終わった辺りで、ふとルビーがさやかの方を向く。

『さやかさん、何か悩んでますね』
「え?いや、そんなこと別に…」
『顔見てたら分かりますよ。ってかあなたの世界の魔法少女の真実を見たんでしょ?なら悩んでないのは嘘でしょう。
 どーんと話してみなさい。こう見えてかなり広い人生経験をルビーちゃんは持っているのですよ』

ルビーの言葉に、さやかは顔をあげて悩みを吐露してみた。



『なるほど。まあ大方予想通りな感じではありましたが』
「予想通りって、どこまでのこと言ってるのよ」
『いやまあ、さやかさんが悩むならその魔法少女の真実を知ったこととかかなぁというのは薄々想像してはいましたし』
「……あんた達、知ってたの?魔女のことを」

ルビーの口調にその辺りの事情を把握していたかのような雰囲気を感じたさやかは若干剣呑な気配を出しながら問いかけた。

「いや、その、知っていたというか…」
「鹿目まどかから話は聞いて把握していた」
「…!まどかから?!一体何で―――」
『落ち着いてください、さやか様』

こじれる気配を感じ取ったサファイアは弁明を行う。

『確かにまどか様はそれを知っておられました。ですが、それは―――さやかさん、あなたが魔女となった時に知られたのです』
「…!?それって、どういう…」
『まどか様とさやか様、お二人の来られた時間には差異があるのではと。おそらく、まどか様はあなたよりも未来の時間から来られているのです』

さやかの脳裏に浮かぶのは、目を覚ましたまどかのこちらを見る目。
ただ少し会わなかっただけだったというのに、その顔に浮かんだ表情はかつて先輩の魔法少女が命を落とした翌日に再び会った時のようだった。
こんな場所だ、無理もないと自分を納得させていたが、そうではない別の意味があったのだとしたら。

「じゃあ…まどかは…」
『さやか様に気を遣われたのでしょう。いえ、むしろそのことも全部背負い込もうとしていたのかもしれません。
 他ならぬあなたに余計な心配をかけないように』
「……あー……。そっか。そっかー……」

額を抑えてしゃがみ込むさやか。
どうにか明るく振る舞おうと努めているようではあるが、ショックは大きいようだ。

魔法少女が成り果てたものが魔女であり。
それがいつか自分もそうなるものであったという事実。

そして、その結果まどかにあんな顔をさせたのだという。

「ははは…、バッカみたい…。勝手に希望を抱いて、勝手に裏切られて、友達にはあんな顔をさせて…。
 何のために魔法少女になったのよ、私は……」

知りたくなどなかった真実、運命。
その事実に打ちひしがれるさやかに。

『どうしますか?さやかさん』

ルビーの問いかけが投げられた。

「ど、どうするって何がよ」
『今のさやかさんは今後どうするかの分水嶺に立たれているとも言えるでしょう。
 もし選択肢が分からないなら示してあげましょうか。例えば今のさやかさんには戦うことを止める、逃げるという選択肢を選ぶ権利もあります』
「に、逃げるって…」
『まあ言葉面だと日本人というのはやたらマイナスに捉えがちな言葉ですがね。
 逃げてもいいんですよ、人間誰も自分の命が一番で、それに変えられるものなんてそうあるものじゃないんですから。
 ぶっちゃけると、イリヤさんとか都合が悪くなったらしょっちゅう逃げますし』
「うっ…」


405 : 杯-世界の色彩 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:43:15 6rSZgSRY0

思わぬ流れ矢に思わず呻くイリヤ。

『その辺りはまあ、今は状況が状況ですから時間があるとは言えませんが、多少は悩む猶予はあるでしょう。
 ただ1つ。その決断を出す前に、さやかさんは自身のことを知らなければならないと思うんですよルビーちゃんは』
「私の事って、何をよ」
『例えばさやかさんが何のために戦うのか、戦おうと決断したのか。
 今尚も戦おうとするのが何のためなのかみたいなことですよ。
 たぶんこの辺の答えはさやかさんの中にしかありません』
「私が、戦う理由……」

ふと考え込むさやか。
自分はどうするべきなのか、どうしたいのか。
自分が何のために戦っているのか。

『まー敢えてもう少しアドバイスするとですねぇ。
 もっとバカになってください。イリヤさんみたいに』
「ちょっと?!」
『このイリヤさんの魔法少女力の秘訣ですけどね。なーんにも考えてないところなんですよ。
 考えるより感じろ、をその身で実践してると言いますか。
 行動の結果どうなるのかなんて深く考えずに、思ったままの行動をしている。まあこういうのは人としての正しさがなければ悪性へとも転じてしまうものですが。
 ですがさやかさんは少なくとも一般的道徳心や善性は持っています。まあ極端に心配することはないでしょうと思いますし。
 だからこそ、自分の中の声に従って突き進むということも、そう願うならできるんじゃないでしょうか』

自分の中の声。
そういえば、自分は魔法少女になった時に何を思っていただろう。どうしたいと思ったのだろう。

遠くない過去の話なのに、ずっと昔の出来事のように思えている。

「…すぐには分からないと思う。
 だけどありがとう、ちょっと気は紛れたかもしれない」
『よーく考えてくださいよー。ルビーちゃんの見立てではさやかさん、素質はなかなかなんですから』

素質って何よと問いかけながら僅かに笑みを浮かべるさやか。
迷いは晴れてないが、さやかの表情はさっきまでと比べればだいぶいい色になったように見えた。

そんな時だった。あまり会話に入ってこなかった美遊とサファイアの呼びかけが聞こえた。

『姉さん、話をしている途中で悪いけど』
「誰か来たみたい」




先輩は私を守ると言ってくれた。
私だけの味方になると言ってくれた。

私だけのものに、なってくれた。


でも、だからこそ憎かった。嫌いだった。
私を守ろうとする先輩に、何もできない私が。

だからこそ、羨ましかった。

私にないものを持っていた、あの人達が。
先輩を守る力を持っていたセイバーさんが。
先輩に背中を預けられるほどの信頼を任されていた姉さんが。

そして、先輩に屈託のない無邪気な笑顔を、何のわだかまりもなく向けることができるイリヤさんが。

だけど、セイバーさんや姉さんと比べたらイリヤさんを妬ましいと思ったことはあまりなかった。
だってあの子は、私以上に”人”ではないんだから。
体の機能も私以上に聖杯のために特化させられたあの子は、寿命自体も限られたものだ。
だから憐憫だろうか。あの子に先輩の傍にいさせてあげることに抵抗が少なかったのは。

自分と同類の可哀想な子。
仲良くはなれそうにはないが、そういう親近感から悪感情は湧いてこなかった。

もしもあの子が姉さんやセイバーさんのような、強く逞しい子で、望むものは何でも持っているような子だったら。

なんて、そんなあり得ないことを考えても仕方ない。
そう、そんなことはあり得ないのだから。
決して。


406 : 杯-世界の色彩 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:43:53 6rSZgSRY0


移動がてら間桐桜からたどたどしいながらも情報を聞き出した村上。
聞かれたことには答えるが、桜から何かを聞いてくることはない、まるで人形みたいだと感じていた。

情報の中で収穫であったものは、彼女がかつてデルタギアによる変身を行ったことがある者だということ。
そのまま持っていてくれれば探す手間も省けたのだが、戦いの中で紛失してしまったという。
それには落胆したものだが、一方で村上の中には別の興味が湧いてきた。

デルタギアのデモンスレート、オルフェノクでないものが変身すれば精神を侵される機能。それが今の彼女からは働いているようには思えない。
オルフェノクでないこの娘に対しあれが機能しないとすれば考えられることは何か。
彼女自身が人間ではないか。
憔悴しきっていることが今の彼女の凶暴性を抑えているのか。
あるいは、低確率ではあるが人間の中でデルタギアに適応する素質を備えた者であるか。

一番目か三番目であれば村上の興味の対象たりうるものだ。

故に少し話をしてみようと思った。

「桜さんは、人間のことをどう思いますか?」

声をかけられ虚ろな瞳をこちらに向ける桜。
眼こそ動いたが、表情、そして眼の映すものは変わらない。
だが、それでいい。感情が混じらないなら彼女自身の本心が聞けるだろう。

「どう…ってどういうことですか?」
「言葉通りの意味ですよ。といっても少し定義が広すぎましたね。
 私の見立てでは、あなたは並々ならぬ人生を送ってこられたのではないかと推測します。
 当たっていますか?」
「…はい」
「それは人間によってもたらされたものですか?」
「……いいえ」

その返答は少し意外、ではあったが、しかし興味深い事実にも確信が届く。
要するに彼女の世界には人ならざるものがいるということ。

ともあれ話の腰を折らないように会話を続ける。

「なるほど、ではあなたにとって人間とはどのような存在ですか?
 特定の誰か、という意味ではなく人間という概念としての問いかけですが」
「別に、どうでもいいです」
「本当に?」
「いいんです。私が痛くて酷い目にあっても、ただ普通に幸せに過ごしていて助けてもくれないような人なんて…」

死んでしまおうが構わない。

立ち消えるように放った言葉の呟きを、村上は聴き逃しはしなかった。
そしてその言葉を聞いた時、期待通りの存在であることを感じたが、一方で一つの疑念も感じ取った。
言葉の裏にある妬み。そして裏返せば殺意ともなり得るその感情が、間桐桜とは別の何かが口にした言葉のような、そんな違和感を感じられたから。

それがこの娘の本心なのか、それとも違和感の正体が口にさせているものなのか。
どちらか次第では対応が変わる。探りをしばらく入れる必要はあるだろう。

だが、どちらにしても今は友好的である、ということを示しておかねばならない。

決して、あの得体の知れない闇を恐れたのではないのだから。


「ではもし、人を殺すことが赦される、そんな世界になるとしたら、あなたはどうしますか?」
「…分からない、です。だって、人を殺すことは、いけないことです…」

村上の中に少し呆れる思いが立ち上がる。
既に彼女は何人もの人を殺めている。にも関わらずそのようなことが言えるのは。
人を殺したという自分を切り捨てているのか、あるいは自分が見えていないのか。
もし見所があるとするなら、その悪に進んでなろうとしている時だろうか。

「確かにそうですね。しかし法も倫理も、全てを決めるのは強者です。
 もし人の定めた倫理が受け入れられないというのであれば、人を越えてしまえばいい」
「人を、越える…ですか…」
「ええ。あなたよりも弱い人間の言葉など聞き流せばいい。それだけの力があるのなら、どのような振る舞いをしようともあなたが避難されることはない」

桜の瞳が少しだけ上がる。どこかに興味を引くところがあったのだろう。
だが、彼女が何を考えているのかは読めない。

もう少し探りを入れてみようかと思ったところで、桜の体がビクリと震えた。

「どうしました?」
「…え、誰、なの…?」

何かを捉え、何かに気付いて困惑するかのように反応する桜。
聴覚に意識を集中させたところ、ここからそう遠くない場所で何者かが話すような声が聞こえた。
内容は聞き取れないが、大まかな位置は掴めた。

「ふむ、もしかして向こう側にいる者のことですか?」
「………」

無言の桜の返答を、肯定と受け取った。
乾巧かもしれない。向かってみるとしよう。


407 : 杯-世界の色彩 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:44:15 6rSZgSRY0



イリヤ、美遊、さやかは既に姿を変えて魔法少女のそれとなっている。

目の前にいる男、村上峡児。
かつて一度だけゼロと戦う際に共闘したと言っていたが、しかし決して油断できる者ではないと巧は言っていた男。

「そこで眠っている乾巧を、こちらに渡してもらえますか?
 彼はこちらで保護します」

彼はこちらがその姿を知っていると悟ったのか、自己紹介もそこそこにそう乾巧の引き渡しを要求してきた。

「巧さんをどうするつもりなのよ」

その声に剣を構えた状態でさやかが返す。

「彼は我らオルフェノクの一員。その中でも選ばれた存在になり得る者です。
 であれば私が保護するのは道理でしょう?」
「…違う。巧さんは違う!」

村上は知らない。
自身の罪を精算するために罪の証、魔女となったマミと戦った巧の姿も。
互いの想いを吐露しながら戦いを続ける巧と木場勇治の姿も。

「彼はあんたたちみたいなやつとは一緒に行かない!」
「何故赤の他人であるあなたがそう言い切れるのです?」
「見届けたからよ。巧さんと木場勇治の戦いを。
 木場勇治も、巧さんの手で救われたのよ。もうこの人があんた達みたいなやつの仲間になんてならない!」

最後にゼロから自分たちを庇った彼の心境は分からない。
だが決して憎悪に満ち、弱さ故の罪を背負い続けた己から解放されたものと信じたかった。

「…何?」

顔を顰める村上。
木場勇治と乾巧の戦い。救われた木場勇治。
言葉の意味を推測すると、二人が戦い、乾巧が勝利した。

そして、救われたということは生死に関わらず木場勇治はもう決して自分たちの力とはならないということを意味しているのだろう。

二人の候補を、失ったということ。

裏切り者であったはずだが、四つ葉の一角と認め帝王のベルトを託した者。
高い素質を持っていて、あとは精神面さえ補えれば強力な味方とできた、オルフェノクの処刑人とも言えた者。

その二者を、共に。

「なるほどなるほど。状況は思った以上に悪いようだ。
 そして現状最も罰されるべきは、そこにいるその男のようだ」

苛立ちはその根源である乾巧に向けられる。
そしてその彼を守るように、立つ三人の少女もまたこの怒りをぶつけるに足る存在だろう。

「子供といえど乾巧を護るというのであれば容赦はしない。死ぬがいい」

顔に紋様が浮かび上がり、その肉体が白い異形へと変異する。

「美遊!巧さんを連れて下がって!ここはさやかさんと私で対処するから!」
「……分かった!」

イリヤの言葉に少しの迷いの後応えた美遊は、巧の体を持ち上げて空へと跳び。
そんな美遊に向けて放たれた薔薇の花弁を、星型の障壁が受け止めた。





408 : 杯-世界の色彩 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:47:07 6rSZgSRY0


戦いが始まった頃、桜はそこから少し離れた場所で待機していた。

桜は知る由もないが、村上は乾巧の存在を遠目から確認したことで、先程の嘘を思い出して彼女を連れて行くことを止めたのだ。

だがその村上の手回しも意味のあるものではなかった。
そもそも桜は村上が感覚を研ぎ澄ませなければ気付かない気配にいち早く気付いたのだ。
村上が視認できる場所を確認できないはずがない。

ある一定の存在が桜の持つ”機能”に存在を知らせる感覚があった。それがその二人に気付いた理由。

二つ。
一つは自身と近似した願望機のようなもの。
そしてもう一つはイリヤスフィール。これは言うまでもない。桜が憐れむことで受け入れた自分と同類の少女。
だと思っていた。

そのはずなのに、今村上と戦っている少女が誰なのか分からない。
姿は他人の空似というには似すぎている。
しかし聖杯としての共感していたものを感じない。むしろ隣に立つ見ず知らずの少女の方がそれらしさをうっすらとだが感じるほどだ。

ただ、その様子は見ていると心の中から何故かふつふつと湧き上がる黒い感情がある。
その正体は自分にも分からない。

まず目の前の少女の正体を確かめなければならない。

村上の言いつけも忘れ、静かに桜は戦いの場に足を進め始めた。




「斬撃(シュナイデン)!!」

イリヤの放った斬撃波は薔薇を纏った腕の振り払いでかき消された。

「はあああああっ!!」

さやかが接近して連続斬りを繰り出すも、ローズオルフェノクの手にしたバスタードソードがさやかの太刀筋を的確に受け止めていく。
両手で振るうさやかの剣を的確に片手に持った剣で受け止め、残ったもう一方の手でその体に掌底を打ち込む。
胸を叩かれ大きく仰け反るさやか、しかしすぐさま態勢を持ち直し、今度は両手に持ち込んだ剣で斬りかかる。

受け止めが間に合わず体にいくつか命中するも、決定打になっている様子はない。
いや、むしろ決定打にならないと分かっているからこそ受け止めているのだろうか。

村上は最初から気付いていたことを数度の斬り合いを通して気付いたさやかは背後に飛び退く。

開けた視界の中で、空に光を見た村上。
次の瞬間、村上のいた場所に桃色の閃光が撃ち込まれた。

「当たった?!」
『いえ、直前にどこかに消え――イリヤさん右です!』

ルビーの声に反応して右を向いたイリヤの目の前に、青い炎が広がる。
ローズオルフェノクの打ち出した炎がイリヤに直撃し、その体を地に叩き落とした。

急いで駆け寄るさやか。

「イリヤ!あんた大丈夫?!」
「っうぅ…」
『大丈夫です。威力自体は耐えきれないものではないですが、おそらく早さを求めて威力を絞ったものかと。
 二人とも、追撃が来ます!』

と、離れた位置にいる二人に向けてその透明な頭部から放たれた赤い花弁が二人を覆い尽くす。
爆発する花弁を防ぎきれず、地に伏せる二人。

「…、っ、強い…!」
『やばいです、これ北崎さんだったかとかいうオルフェノクに匹敵するくらいの強さがあります!』
「だったら、…今の私だったら」

足のバンドからカードを取り出すイリヤ。
手にしたのは、魔術師の絵が描かれたもの、キャスターのクラスカード。

何をするのか分からないが警戒を絶やすことがない村上は、その手に薔薇の蔦を連想させる鞭を作り出す。
撓る蔦がイリヤの元に放たれるも、さやかが剣で受け止め防ぐ。

「何をするかは分からないけど、急いで!そんなに時間取れない!」
「ありがとうさやかさん!
 夢幻召喚(インストール)!!!」

一瞬振り向いたさやかの前で、イリヤはカードをかざして詠唱。
イリヤの体が光に包まれその体を黒きローブが覆っていく。


409 : 杯-世界の色彩 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:47:26 6rSZgSRY0
キャスターの英霊・メディアの力を宿したイリヤは空へと飛び上がる。

キャスターのカード。神代の魔術師の力をその身に宿した、魔術師としては右に出るものがいない使い手。
しかし宝石翁の作成したカレイドステッキは多くの機能を備えた魔術礼装。基本・応用各分野の多数の魔術機能は兼ね備えている。下位互換だとしてもある程度のことはカレイドステッキでも可能。
であればこのカードを使う意義は何か。

一つは彼女の宝具、魔術殺しの短剣。
そしてもう一つは、かつてのクラスカード英霊との戦いからイリヤスフィールが失った、純粋な威力や効率としての魔力運用。

例えば、高い対魔力を持った英霊は魔術による攻撃を低減、無効化する。しかしカレイドステッキの魔力弾は純粋な魔力攻撃。故に英霊に対してはメディアのそれより効果を持つ。
だが、相手が魔力攻撃による威力比較が意味をなさない相手であれば話は変わる。

イリヤの指先から紫の魔力弾が射出される。
それまでイリヤが放ってきた魔力弾よりも高い威力、しかし高い魔力を持つ英霊達には効果が薄い一撃。

威力変換すればジェットスライガーのエネルギー弾にも匹敵するかもしれないと見た村上はとっさに回避。

「龍牙(コルキス)!」

詠唱と共に、牙で構成された兵士が顕現する。
短時間の詠唱ではせいぜい3体、村上に対しては時間稼ぎにできるかどうかくらいの役割だろうが、数が増えれば本命の敵ができる。

「はあっ!!」

ローズオルフェノクが竜牙兵をその拳で叩き潰す隙をついてさやかが斬りかかる。
小さな一撃でも、幾度も叩けばいずれダメージが積み重なる。
問題はこの相手に対しどれほどの攻撃を届けられるか。

そして、それでも届かないのであれば更なる巨大な一撃を叩き込めばいい。

竜牙兵を砕きさやかを叩き飛ばしたところで空を見上げると、闇夜を照らす巨大な紋様が目に入る。
巨大な魔法陣が魔力の光を収束していた。

避けようとする村上にさやかが足止めとばかりに斬りかかる。
しかし、それは悪手だった。

「ヘカテッィク――――…!!」

砲撃を放とうとするイリヤの手が止まる。
村上の手元に捕えられたさやかの姿が目に入ったからだ。

村上にしてみればさやかの技量が如何程のものかを計るのにそこまでの時間は必要なかった。
致命傷になるだろう攻撃を持っておらず、剣の技量も高いわけではない。砲撃を防ぐための人質として捕まえる程度造作もなかった。

「撃って!!私は大丈夫だから!!」

さやかの発破を受けても砲撃を躊躇うイリヤ。
多少のダメージならば、ソウルジェムさえ守りきれれば回復できるだろう。だがそれでもイリヤにはさやかを傷つける選択は取れなかった。

さやかの体を抑えたまま奪い取った剣を投げつけ、同時にさやかの体を殴りつけて叩き飛ばす。
砲撃展開中のイリヤは障壁を張れず、構えた杖を吹き飛ばされて地面に落ちる。

不気味な笑い声を上げながら、少女二人に歩み寄ろうとする村上。
しかしその動きが突如として静止する。

その視線は自分の後ろに向けられている。そうイリヤが気付いた瞬間、その体にゾワリと怖気が走った。

数メートル先のさやかもこちらに視線を向けたまま動かない。
一体彼らは何を見ているのか。
得体の知れない寒気に鳥肌が立つ。

『イリヤさん!!!』

ルビーの呼びかけにはっと意識を取り戻したイリヤは、蛮勇を振るうかのように振り返った。


410 : 杯-世界の色彩 ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:47:42 6rSZgSRY0

黒い、のっぺりとした影がそこにいた。

『飛んでください!早く!!!!』

再度呼びかけられた声に、考えるより先に体を反射で動かして飛翔するイリヤ。
次の瞬間、イリヤのいたはずの場所の地面をそれが伸ばした黒い影が侵略していた。

『あれに触れないでください!イリヤさんの魔力、ごっそり持って行かれます!』

ルビーの緊迫した呼びかけが響く。

魔力だけならばルビーの力を持ってすれば時間をかけて取り戻すこともできるだろう。しかし実際に魔力を奪われればそれに追随して体力の消費も膨大となる。
もしそこで更なる追撃を受ければ、ステッキの力を持ってしても回復が間に合わずイリヤの体も飲み込まれてしまうだろう。

空を飛んでは影に対処は難しいのか、イリヤに向けた触手を収める影。
地面を見ると、影が脅威と判断するのが早かったのか村上は既に距離を更に取っていた。今影の近くにいるのは。

「さやかさん逃げて!!!」



三本の触手がさやかの元に放たれる。
イリヤの呼びかけが功を奏したのか、あるいは触れてはまずいということを本能的に察したのか、影の軌道を見切るように走り出すさやか
一度目の影はさやかを掠ることもなく過ぎ去る。しかし戻って二度目に放たれたそれは学習したかのようにフェイントを交えて放たれた。
僅かにタイミングをずらされた一本がさやかの逃走先を遮るかのように追撃をかける。しかしさやかはそれを跳躍して回避。
だが、跳び上がったさやかは着地に際しての対応ができなかった。
地に足を付ける場所は落下を始めた時点で読める。その着地先に影を伸ばしてきたのだ。
気付いたイリヤが飛んで駆け寄るも間に合わない。

「くっ……!!」

狙いに気付いたさやかが避けられないと舌打ちをしたところで。

「―――前に構えて!!」


声が響くと同時にさやかに向けて一筋の光が走った。
反射的に前に手を構えたさやかを、光の正体―魔力を纏った小石の衝撃が吹き飛ばした。

「うぐっ…!」

威力自体はさやかの魔力をもってすれば許容できないものではないが、足を浮かせていたため受け身を取れず必要以上に宙を舞う。
空中で体制を立て直し着地する。しかし離れた距離にして数メートルほど。まだ影の射程範囲から離れたとは言い切れなかった。
しかし追撃が放たれる前に、さやかを吹き飛ばした光の放たれた方から青い魔力が飛来。さやかの体を宙に持ち上げ飛び上がった。

「美遊!!」
「巧さんは離れたところに。もっと離す予定だったけど、強すぎる魔力を感知したから戻ってきた」

宙に立つ美遊。
ローブを纏って浮遊するイリヤ、魔力の足場の上に立つ美遊。さやかは美遊に抱えられたままだった。

「…ちょっと離して」
「今地面に降りると危ない」
「大丈夫、ちょっとやってみたいことがあるから」

さやかの言葉に抱えていた腕の力を緩める美遊。
宙に浮いたさやかの足元に魔力が集まり、青い音符の形をした足場が形成された。

「これで、大丈夫」
『おや、美遊さんの飛び方からヒントを得ましたか。なかなかにいい素質持ってるじゃないですかー』
「うっさい。それよりあれ、何なの?」
「あれは…」
『早い話が、魔力や生命力の吸収に長けた影です』

イリヤが口を開くより先に、ルビーがさやかの求めているであろう答えを開示する。


『あれに触れたらさやかさんのような魔力と生命力が直結した存在には致命的となります。
 さやかさんとの戦闘スタイルも合わせたら相性が悪い。少し離れていてください』
「……分かった。
 あれ?そういえば村上は…?」
『影が現れてから姿が見えませんが…』
「…!まさか…!?」

足場を蹴って美遊が現れた方へと跳ぶさやか。
おそらく彼はは乾巧を追っていったのだろう。彼の目的は乾巧を殺すこと、イリヤ達は二の次であり殺してくれる第三者がいるのであれば構わないということか。


「森の中の建物の近くに、乾さんは!」
「分かった!!」
「イリヤ、私達も…、イリヤ?」

先行していったさやかの後を追おうとしてイリヤの方を振り返った美遊。
しかしイリヤの視線はある一点に固定されていた。
そこには、ボロボロになった服の下に地面で蠢く影と同じ色をしたものを身に纏った白髪の少女がいた。

「間桐、桜…さん…?」

イリヤの呼びかけにゆっくりと顔を上げ。
次の瞬間、二人の背後にあった影が肥大化、影の巨人となって二人に向けて触手を振り下ろした。


411 : 逆月-我ら思う、故に我ら有り ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:49:38 6rSZgSRY0
どこかの球技場のような場所でバットを振るう。
何があってここでそれを行っているのかは分からない。
そういえば普段は迷いを感じた時によくここでこうしてバットを振るうことで気を紛らわしていた。
ということは今も何かに迷っているのかもしれない。
射出されたボールを打ち返すとカキンと音を立てて打ち返されたそれが遠くにある的に当たる。

そんな自分の隣で同じようにバットを振るう男がもう一人いた。

こうしてバットを振るっていると不思議と出会うことが多かった男。
並んで球をうち続けたのはつい最近のことなのに、どうしてかとても懐かしいようにも感じてしまった。

雑念が混じったからか、球を撃ち漏らしてしまう。
舌打ちをしながら再度構える。

カキン、といい音がなり、ボールが遠くに備え付けられた的に当たった。
ボールを打った男は、こちらを向き微笑みかけた。

悪意のない笑顔だが、タイミングが癪に障った。
飛んできたボールを、今度は力いっぱい打ち返す。

飛んでいったボールは、的に当たった後地面をゆっくりと転がっていった。





「地図で言っていたフレンドリーショップ。この辺りですね」

村上は小さなコンビニのような施設の前に立っていた。
さやかと美遊の会話はオルフェノクの聴覚を持って聞き取ることができていた。先行していた分が有利に出たことになる。

間桐桜は揉め事を避けるために置いてきていたのだが、状況の転換があまりに発生しすぎた。
あの影が彼女の生み出したものであることは予想がついていた。そして自分にとっても脅威となりうるものであることも。
だが今となっては無理をして抑える必要性を感じない。乾巧は敵となり排除対象となった以上は。
同時にあの少女達を相手にしてくれるのであればこちらの手間も省ける。

肌に僅かに吹き上がる汗を拭う村上。
それは決して冷や汗などではない。戦いの疲労が出ただけだ。
そう、決して、あの間桐桜の生み出した影に感じた本能的な恐怖に臆したわけではないのだから。

ふとショップの傍に人が談話できそうな一角を見つけた。
椅子や机も備わり食事もできそうで、喫煙所も見受けられる。
そこに、乾巧は横たえて寝かされていた。

村上にしてみればあまりに苛立ちが大きい。
ラッキークローバー候補という期待を裏切るどころか、木場勇治すらも倒しこの手から離したのだ。
一撃で殺したとて気が晴れるかは分からないが、しかし遊んでいれば追手が迫ってくる。ことは早めに済ませてしまうのがいい。

オルフェノクの姿に再度変化し、その腕を振り上げ。

「止めろぉぉぉぉーーーーーーー!!!!」

振り下ろそうとしたその瞬間に、宙を蹴ってきた美樹さやかがこちらに向けて剣の刀身を射出した。
当たったとて大したダメージにはならないがそれが巧に向けた手を止めはするだろうというところまで見切った村上は振り下ろしかけた手で刀身を受け止めた。

「一人ですか?先程は二人がかりであれほど苦戦したというのに」
「うるさい!そんなこと分かってるわよ!でも、乾さんはやらせるわけにはいかないから!」
「敵わないと知りながら挑むと?全く、下の下ですね」

村上にとって最優先は乾巧の抹殺だが、今目の前に立つこの少女を無視してというのも逆に手間だろう。
まだ子供だが、こちらに向かってくるというのならば相手をしてやるのも大人としての勤めか。

さやかに向けて歩み寄る村上、対するさやかは両手に構えた剣を村上に向けて一気に振り下ろした。





412 : 逆月-我ら思う、故に我ら有り ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:50:10 6rSZgSRY0
「君はやっぱり強いね。僕なんかより全然」

不意にかけられた言葉に、バットが大きく空振った。

「僕は結局、一人でいることに耐えられなかったのかもしれな
「よせよ。俺だってそんな立派なやつなんかじゃねえよ」

もしこいつが思うくらいに強ければ、誰も死ぬことなんてなかっただろう。
啓太郎も、士郎も、マミも、真理も。

「いや、君は十分強いよ。君はそうやって失っていくものを背負っていく強さがあった。
 僕には、背負うことはできなかった。だから失った時に前に進むことができなかった」

背負う強さ。
言われればそうなのかもしれない。それが強いことなのかどうかは別として。

ただ、一つだけ訂正しておきたかった。

「俺だって折れそうになったことばっかだよ。
 だから、強さってのはたぶんそれだけじゃねえ」
「へえ。じゃあ、何なんだい?」
「それは―」

ちょっとクサいことを言ってしまうかもしれないが。

自分の言葉を口にした。

「ただ、運が良かっただけだよ。
 一人じゃなかった。折れかけた時にも色んなやつが近くにいた、それだけだ」




宙に舞う薔薇がさやかの体を削り取る。
村上が振り下ろした剣がさやかの肩を切り裂く。
追撃に振りかざされた、腹部への拳打。これは受けるわけにはいかないと体を捩って避ける。

対してさやかの振り下ろした剣は村上に届かない。
的確に捌かれ、受け止められ、弾き返される。

さやかは魔法少女の素質は決して低くはない。
だが、目の前にいる存在はオルフェノクの中でも上級に位置する存在。加えてさやかと比べれば戦いに身を投じた期間も圧倒的だった。
技量が、力が足りないならば策を弄してフェイントや搦め手をさやかなりに交えて戦うも、そんな小細工が通じる相手ではない。

投擲した剣が投げ返され、思わず顔を反らすさやか。
顔を上げると視線の先には村上はいない。
その事実に気付いた瞬間、視界の死角、見えない左目の方角から衝撃が走って吹き飛ばされた。

「その目は治さないのですか?」
「ぐっ……、大きな、お世話よ……」

遊ばれているのは分かっていた。
もしやろうとすれば自分のソウルジェムを狙って攻撃するなど容易いはず。これだけの攻防で腹部の一撃だけは避けてきたのだ、流石に気付いていると思う。


「全く、哀れですね」

ふと村上が呟く。
憐憫に満ちた口調で出た言葉に思わずさやかの頭に血が昇る。

「何がよ、あんたみたいな勝ち目のないやつに向かって必死に戦うのがバカみたいって言いたいの?」
「そうではありませんよ。それほどの不思議な力を持ちながら守る価値もないものを守る戦いを続けるあなたが、ですよ」

さやかから視線を外し、横を向いてゆっくりと歩き出す。
一見隙だらけに見えるが、攻撃しようものなら返り討ちにあう自分の姿しか見えず、待機せざるを得なかった。

「木場勇治は乾巧よりは自分のなすべきことに早く気付いただけ利口でしたが。いえ、失うまで気付かなかったのはむしろ愚かだったのでしょうか」

静かに声に耳を傾けるさやか。しかし、村上の言葉に思わず拳を握りしめていた。

「人間とは身勝手な生き物です。自分勝手で、愚かしい。幾度も同じ歴史を繰り返しながら学ぶことをしない。
 我々オルフェノクはそんな人類とは違う。高みに至った新しい存在です。
 そして美樹さやかと言いましたか。あなたのような魔法少女もまた、そんな人間の中に埋もれていく存在ではないはずだ」
「…黙れ、あんたに何が分かるのよ……」
「分かりますとも。あなたはそのまま生きれば、ただの愚か者として消費されて終わるでしょう。
 しかしもしもあなたの欲望の方向性を正すことができれば、もっと有用で幸福な生き方ができるはずだ」

言葉の中には哀れみと同情が多分に含まれているように思うが、それでも言葉そのものは彼の本心なのだということを、さやかは読み取った。


413 : 逆月-我ら思う、故に我ら有り ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:52:35 6rSZgSRY0

「…ははっ」

そして思わず愚かしさに笑いがこぼれていた。
村上のことではない。

「何がおかしいのです?」
「あんたもたぶん、魔女と一緒なんだって。私達魔法少女が戦いの果てに全てを失ってなり果てる化物」

村上のいう言葉は木場勇治のそれとあまりに似通ったものだった。
そして、その木場勇治はその弱さを自覚しながらも必死にもがいていた。

だが、弱さを自覚した木場勇治に対し目の前の男はそれを弱さと認めず心を捨てて人を襲う化物としての理想を語り続ける。
心どころか人としての全てを失った魔女、弱さ故に人を襲うことを自覚した悲しき魔物。
彼らと比べれば哀れで滑稽に見えた。


「私を愚弄するつもりですか?」
「だったら教えてあげるわよ、私の戦う理由。
 私はただ、守りたいものがあった。それだけなのよ」


かつて目の前で失った先輩のような悲劇を繰り返さないために。
大切な友達を、愛する人が幸福に暮らせる世界を守るために。

ただ小さな願いだった。
感謝なんてされなくてもいい、ただそんな小さな幸せを守りたい。


そしてそんな風に戦う男がいた。
ただ、自分と違ったのは彼は何があっても世界を、周りを憎まなかった。全てを自分の手で背負う覚悟があった。

たぶん自分では手が届かないんだろうと思う。

「だから、そんなふうに戦う巧さんがすごく眩しいって思った。だけど同時にすごく悲しそうって」

もしかしたらマミさんもそうだったのかもしれない。
気づかずに憧れた存在は、遥か遠い手の届かぬほどの人たちだった。

だけど。

「だから、そんな人達の力になりたいって、私の正義なんて届かなくても、その人達の背中くらいは、この手で守れるようになりたい。
 それが、今私があんたと戦う理由よ!!」
「全く、これだから子供というものは!」

手を振るい、薔薇の花弁をこちらへ放る村上。
両腕で体を庇うが、衝撃は強く体を吹き飛ばされる。だが今度は体制を保つことができた。

「夜神月といい、あなたといい。何故こうも私が差し伸べる手を払うのですか」
「敢えていうんだったら…あんたのやり方に”愛”とかが足りないんじゃないの?」
「愛ならありますよ。人間という種を更なる高みへと導こうという思いが」
「それがおかしいって言ってるのよ!」

話された距離を一気に詰めて、両手にした剣で目にも留まらぬ連撃を突き出すさやか。
しかし技術の不足がある多は、研ぎ澄まされた一の剣の突きに打ち返される。

弾かれた剣は胴に大きな隙を作る。そして村上の手にした剣は明らかに腹部のソウルジェムを狙っている。

「ああああああっ!!」

叫びながら腕を思い切り振り下ろし、剣の軌道を反らす。
致命傷と引き換えに、両刃の剣は左足を大きく斬り、腕を振り下ろした際に左腕を肘から切断した。
回復が間に合わず踏ん張ることもできぬまま、そのまま掌底で突き崩されるさやか。

吹き飛ぶ最中、不意に自分が手にかけた一人の少女のことが思い浮かんできた。
どうしてあんなにも自分のことを気にかけたのか分からなかった魔法少女。
あの時もう少し冷静であったならば、何も殺さずには済んだのではないかという思いは消えない。

(やっぱ巧さんみたいに、上手くはできないのかな…)


414 : 逆月-我ら思う、故に我ら有り ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:53:05 6rSZgSRY0

意識が飛んだのかいつの間にか転がっていた地面を掴むさやか。
その手がふと何かに触れた。

槍を持った戦士が描かれたカード。確か木場勇治に渡されたバッグに入っていたものだ。
なんとなくだがその槍を持った姿に、一瞬思いを馳せた少女を連想した。

そして思い出したのは、さっきこんなカードを使って戦っていた一人の魔法少女の姿。
今の自分では村上には届かない。だけど、もしあんな風に力を自分も使いこなせれば?

やり方は見よう見まねでしかないし、そもそも使えるものなのか、使っていいものなのかも分からない。
もし使うことで何か副作用のようなものが出たりするものだったら?
最悪死んでしまうようなことも想像できる。

だけど。
今ここで自分が負けて死ねば、次に殺されるのは間違いなく今眠り続けている彼だろう。もしかしたら、その後はまどかにも危険が及ぶ可能性だってある。

自分の死よりも、その方がずっと怖いと思った。

本当にできるのか?

ルビーが言っていた言葉がふと思い出された。

『迷った時は、自分の中にある声に従って進めばいいんですよ』


そう、私は魔法少女。奇跡を願い希望とした存在。
できると信じている。

「私は、あんたみたいな、自分の弱さと向き合えないようなやつには、絶対に負けない!
 絶対に勝つ、この生命を燃やしてでも!!」

少女の心にはもう、迷いも恐れもなかった。


「――――夢幻召喚!!」




「別に俺一人じゃそんな大層なこと何もできねえんだよ。
 でもあいつらがいたから俺はずっと戦ってこれた。ただそれだけだ」
「それが、君の強さの秘密なのかもしれないな」

いつしかバットを振るうことを止めていた。
風景もバッティングセンターではない、どこかも分からない真っ白な場所にいるように感じられた。

「僕は一人で全部背負い込もうとしちゃったんだろうと思う。それは君も同じなのかもしれない。
 だけど君は守って守られて。その、何ていうのかな、人としての当たり前のことが自然にできていたんじゃないかな」
「言ってることがクセえよ」
「ははは」

ふと、どこからともなく声が聞こえた。
自分に呼びかけているものではない。時折響く体のぶつかるような鈍い音や金属の響く音は誰かと誰かが戦っているようにも聞こえる。

「さて、君はそろそろ起きないといけないんじゃないかな。君の帰りを待ってる人がいるみたいだ」
「かもな」

そう答え、音の聞こえる方に向かう。
何となくだが、この男と会うのはこれが最期なのだと直感していた。ここから出れば、もう会うことはないのだと。

「じゃあな、木場」
「さよなら、乾くん」

それでもそんな様子をおくびにも出さぬまま、ただ自然な別れの言葉と、突き合わせた拳をぶつけ合うというほんの些細なやり取りで。
乾巧は木場勇治に今生の別れを告げた。





415 : 逆月-我ら思う、故に我ら有り ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:53:23 6rSZgSRY0
暗き森の中に突如発生した光に思わず村上の動きが止まる。
光自体は先程にも見たそれと相違ないものだったが、電灯などの灯りがあった市街地と違い闇の色が強い森の中であったことが影響していたのだろう。

「…この光は」

先にあの言葉を唱えた少女は、それまでのものとは異なる、強力な力を持った姿へと変えた。あれはオルフェノクの中でも上位に迫る可能性があったように思う。
であれば、次にその姿を表すのは。

光の中から紅い刃が突き出される。
見えていたはずのそれは、しかし自身の反応速度ギリギリの速さで突き出され、顔を掠めていく。

光が収まると共に、槍はその中にいるものの手元に戻り、グルリと回って紅き閃光を走らせた。

中から現れた少女の姿、衣装もまた想像に違わず大きく変わっていた。
羽織っていたマントは灰色の獣の皮を連想させる材質になり。
その身に纏っていた少女らしさと騎士らしさを合わせた服装は上半身は青を強調した色合いに、下半身はハーフパンツへと変化。
右腕には手首ほどまでの鋼の手甲が備え付けられている。

顔つきには変化はないが、眼帯が外れ元の傷一つない瞳が見えている。

(なるほど、先程の少女が遠距離からの攻撃に長けた姿だとすれば、彼女はより接近戦に長けたものとなったということですか)



(できた…)

その自身の変化に最も驚いていたのはさやか自身だったのかもしれない。

自分のものではない何者かの記憶が頭の中に流れ込んでくる。
いや、記憶だけではない、体もまた自分のものではないかのような錯覚を感じるほどに別の何かへと変化したように感じられる。

しかし呆けている暇はなかった。

村上が剣を携えてこちらへと斬りかかる。
だが、今のさやかにはその軌道を見切ることができた。
槍で受け流して弾き返し。それだけに留まらず、返す手で瞬時に槍を振るう。

先程までのさやかの剣戟とは比較にならない速度の一撃を防ぎきれずまともに受ける村上。
だがそれだけでは終わらない。
体制を立て直すまでの僅かな隙をつくかのように、力を込めた一撃を突きつける。
一瞬だった故に狙いまでは正確につけられなかったのか、肩と胸の間辺りを貫き青い火の粉を散らす。


(…まずった……)

決めるつもりで放った一撃だったのだが、得られた力をぶっつけ本番では使いこなせてはいなかった。
さやかのこれまでの戦って見た相手の手数と、クーフーリンの経験、その二つを合わせた結果ある警告をしていた。この力を以ってしても今の自分には村上に届くほどではないと。

もしサーヴァント・クーフーリンであればクラスに関わらず村上とも互角以上に戦うことができるほどの技量を持っていただろう。
しかしその力を借り受けたさやかは現状お世辞にも練度があるとは言えず、その影響で引き出せている力が限られている状態。
この状態で戦うならば、村上がこちらを舐めているうちに決めねばならなかった。

その一撃をしくじってしまったのだ。

「…なるほど、少し過小評価が過ぎたようだ。今のあなたには私とて本気を出さねばならないようですね」

嫌な予感は完全に的中してしまった。

剣、拳の間合いを避けるように槍を構えるさやか、しかし村上が腕を振るった瞬間手に衝撃が走って槍が弾き飛ばされた。
村上の手首から伸びた茨状の鞭が手を打ち付けたのだと気付いた時には、村上は既に目の前にいた。
勢い良く振りかざされた腕を、その手に剣を作って防御するも、剣をも打ち砕いてさやかの体を吹き飛ばす。

しかし敢えて大きく吹き飛ぶことで距離を図りつつ、更にその手に作り出した剣を空中で蹴り飛ばした。
完全な不意打ちであり村上も虚を突かれていたはずだったが、人のそれを遥かに越えた反射速度で払い除けられてしまった。
逆に呆気に取られたさやかに向けて、今度は村上が手に作り出した青い炎を放出。思わず手で払いのけようとして着地に失敗、地面に転がり込む。

「なるほど、技量も上がっていますね。私の機嫌さえここまで損ねなければ、まだ観察対象にはなったでしょうにもったいないものですよ」
「くっ……」


416 : 逆月-我ら思う、故に我ら有り ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:55:22 6rSZgSRY0
槍の場所は遠い。
剣よりはあれで突く方がより村上に対し傷を負わせられるが、場所があまりにも遠い。

村上はイリヤのように今のさやかも上級オルフェノクに並ぶ存在と称したが、それはあながち間違いではない。
問題は、上級オルフェノク一人では村上を相手にするには手に余るということ。
ラッキークローバーとも戦えるほどの力量になったファイズやカイザであっても二人がかりでギリギリの戦いとなるのだ。
まだ力を使いこなし切れないさやかでは正面からの戦いに勝ち目はない。

槍を弾き飛ばした鞭を再度作り出して迫る村上。

――burst mode

そこに幾つもの光線が飛来した。
白い体に火花を散らし、思わず動きを止める。

視線を光線が飛んできた方に向けると、薄暗い闇の中を赤き光と輝く複眼で照らす、携帯型の銃口を向けた戦士が立っていた。

「…ったく、おちおち休めもしねえのかよ」
「巧さん…!」
「何だよその格好。まあいい、そいつはお前の手に余るからよ。後は俺に任せろ」
「何言ってんのよ、そっちは連戦でしょ。私のほうが戦えるんだから、そっちのが休んでてよ」
「じゃあ仕方ねえか。一緒に戦ってもらうぞ。あいつ相手は流石に俺もきついからな」

手に作り出した剣を構えるさやかの隣に並び立つファイズ。

「ファイズの力、あなたの手元に戻ってしまいましたか。全く…」
「あんたとの縁もこれっきりにさせてもらうぜ」
「一応、あなたの口から聞かせてもらいましょう。その力を我々のために振るうつもりはないですか?」
「ざけんな、お前らの仲間になるくらいだったらな、死んだほうがマシだよ」
「そうですか。では、二人仲良く死ぬといい」

もはや巧に対して思うところはないとばかりに走り寄り掌底を叩き込む村上。
衝撃に下がりながらも、巧は反撃の拳を突き出す。しかし腕一本で防がれ、逆にカウンターの一撃を受けてしまう。
その横からさやかが剣を突き出す。先程より精度の上がった剣撃は容易く防げるものではない、しかしそれを村上は手に持ち出したバスターソードで捌き切る。

ファイズポインターを装着したファイズの拳を避け、そのまま蹴り飛ばし。
さやかの剣もまた、受けつつ致命打は避けて受けることでその体を放る。

地面を転がる二人の体。
そのまま、透明な頭から放たれた赤い花弁が二人を襲った。
視界を覆うほどの花弁の攻撃に倒れ伏す巧とさやか。

「…っぅ、啖呵切ったはいいけど、やっぱ強えな…」
「ねえ、巧さん。少しだけ、あいつの動き止められる?」

思わず弱音が出てくる巧。しかし先に立ち上がったさやかは相手を見てそう巧に問うた。

「手があんのかよ」
「無理ならあの赤いやつになって戦ってほしいって思うくらい」
「あれ向こうに置いてんだよ。あいつ取りに行かせてくれねえぞ」
「なら、これやるしかないと思う」

さやかの瞳を抑えていた眼帯は外れ、傷によって塞がった片目を外気に晒していた。
しかし光の見えるもう一方の眼は自身の敗北ではない、未来に繋がる勝機を見ているように思えた。
なら、応えるしかない。
起き上がりながら巧も頼みを入れる。

「じゃあこっちからも頼みだ。ちょっとでいいからあいつに隙、作ってくれ。ほんのちょっとでいい」
「了解!!」
「何をするつもりかは知りませんが…」

村上の姿が掻き消える。
次の瞬間、二人の間に白い体が現れ、割り込んだ拳が顔面を打ち付けて二人を吹き飛ばす。
別方向に転がる体、そのうち村上が追撃をかけたのはファイズ。
倒れ込んだ体を強引に引き上げて殴りつける。衝撃で巧の体がふらつく。


417 : 逆月-我ら思う、故に我ら有り ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:55:44 6rSZgSRY0
その背後でさやかが立ち上がる気配を感じた村上。

「やああああああああ!!!!」

ヤケを起こしたかのように叫びながらこちらに駆け寄ってくるさやか。
まだ手があるかのように言っておきながらこれか、と失望感を感じながら、巧の首を掴んだままさやかの方に頭だけを向けて花弁を飛ばす村上。
周囲の視界を覆い、空中に火花が散る。

だが、何故だ。

「…何?!」

何故この少女は未だこちらへ駆ける速度を変えていないのか。
いや、変わるはずもない。そもそも花弁が命中していない。彼女の直前で不自然に逸れていた。

幾つもの姿を持つクーフーリン、その全てが備えている特性の一つ、矢避けの加護。
視界に捉えているならいかなる飛び道具もその体には当たらないという固有のスキル。
一度目の炎を受けた時は、その能力を信じきれず自分から当たりに行ってしまったため発動させられなかった。しかしこれが逆に存在を村上の認識から反らすことにも繋がっていた。

「返ってきて!!」

更に村上の目前まで迫ったさやかは叫び声を上げる。
瞬間、10メートルほど向こうに転がっていた槍がさやかの元に飛来、その手に収まる。

村上の中に焦りが生まれる。
技量こそ上がっていたが剣の威力はそこまでではなかったため受けても問題ない。
しかしあの槍は別だ。未だに突かれた胸には強い痛みが残り続けている。

物理法則やさやかの戦いから見た経験を越えた現象に反応が遅れ、振りかざされた穂先をまともに受けてしまう。

「がっ……!」

体を大きく斬りつけられたことで、怯み大きく後退する村上。

【Exceed Charge】

そこに電子音が響き渡り、村上の体目掛けて赤いポインタが射出される。
村上の動きがその場に縫い付けられるかのように静止する。

そのポインタの射出元から、巧が飛び上がる。

「はあああああああああっ!!」
「ぬ、ぐぅおおおおおお!!」

縫い付けられた場所で、声を上げながらファイズのクリムゾンスマッシュに抗するローズオルフェノク。
巧の足元から薔薇の花弁が湧き上がり、巧の身を押し戻そうとする。

数秒の拮抗の後、巧の体が村上を貫く。しかしその瞬間白い体は掻き消える。
身を貫くほんの一瞬前に、村上は薔薇を囮に瞬間移動で避けたのだ。

巧の数メートル先横にその身が現れる。
今の直撃を避けるのに力を使ったのか、息を切らせる村上。

しかし、村上に息をつく暇はなかった。

着地して振り返った巧の向こう側に映る、槍を構えた少女の姿。
真紅の長槍はさらに赤い気を周囲に放出しながら構えている。

「―――突き穿つ……」

曲げた脚をバネの如く伸ばし、先の巧の飛び蹴りを越える高さまで一気に飛び上がる。
その手の槍の発する魔力――村上の言葉で言うなら気とでも呼ぶか――は遠くからでも感じられるほどに膨れ上がる。

避けようともした。守ろうともした。
しかしほんの一瞬に全てを感じ取った村上は、未来がその先の見えていた。
回避も防御も全てが無意味。あれは、少女の手を離れた瞬間に自分を貫く必殺の槍となるだろうと。

「突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)!!!」

村上を中心に鋭角に投げつけられた槍は、一直線に村上へと向けて飛翔。
赤い閃光をほとばしらせ、その白い肉体を突き穿ち、それだけに留まらず地面を大きく抉り取った。
その瞬間、激しい土煙を上げて爆発。

着地したさやかは、巧と共に振り返る。


418 : 逆月-我ら思う、故に我ら有り ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:56:33 6rSZgSRY0
「ガ…ぁ……」

土煙が晴れると、中には地面に突き立った長槍。そして、中でうめき声を上げる村上。
足掻きで守ろうとしたのだろうか、その手で地面に杖として支えるバスターソードは中心から真っ二つに砕けている。
そして、その体は心臓があったと思われる場所には大きな穴が穿たれ、千切れかけた体は大きく歪んで脇の皮膚でかろうじて繋がっているような状態だ。

千切れた場所からは青い炎をチロチロと発しているが、全身にその炎が回ってはいない。いや、それどころかどうして未だ生きているのか不思議な姿だ。

「が、ああああ……」

叫ぶ声には、死に抗おうという意志を感じさせる。本人の強い気力が命の終着を食い止めているのだろう。

さやかにはその姿は、一見醜いようでその奥に彼なりの強い誇りを感じさせていた。
どうしてその力を巧達のようにもっと良い方向に向けることができなかったのだろうと思ってしまった。

「何…故…、あなた達は……」

だからこそ、納得できないのだろう。強い意志で成そうとしたことが潰えることが。
答えを求めているのだ。もう終わりかけている命だからこそ。

「何故、あなた達は…、抗えるのか…、戦えるのか…」

何故負けたのか、ではない。


巧は口を開かない。
彼の問いに答える気はないということなのだろう。

だけど、こうなってまで生きようとする姿に魔女へと変異した巴マミのことを思い出してしまったさやかは、とても哀れなようにも思えてしまった。

だからこそ問いかけに答えた。
さやか自身の言葉で。

「人間、だからよ。魔法少女とかオルフェノクとかそういうのじゃない。
 ただ夢や願いを持って、そのために戦って生きる、人間だから」

見かけではない。

自分も乾巧も、巴マミも木場勇治も、そして目の前にいる村上峡児も。
まどかやL、シロナ達のような人たちと何も変わらない。
もしかしたらあの時自分たちを逃がすために巨人に立ち向かったガブリアスもそういう意味では変わらなかったのだと思う。

「ふ、は、ははははははははははは!!」

どこにそんな力が残っていたのか分からないほどに大きな声を上げて笑う村上。
同時に、その体から一気に青い炎が吹き上がる。

「私のことも人間だと、そういうのですか……。なるほど、実に愚かしい、実にバカバカしい評価だ。
 しかし―――」

村上の脳裏によぎるのは、オーキド博士の最後の言葉。

『人間というものは、いきなりは変われんよ』

あれを聞いた時自分はいきなり変化した自分たちオルフェノクは生命として間違っているとでも言いたいのかと受け取っていた。
だが、きっとそういう意味ではなかったのだろう。

彼が言いたかったのは、例えどれだけ姿形が変化しようとも本質的には人間であるということ。
その殻は破るには多大な年月を要する。少なくとも今の自分にそれが変えられるほどの時は生きていなかったのだろう。

もしかしたらオーキド博士は少女の答えにずっと前から気付いていた、いや、そういう世界で生きてきたのだろう。
人間とポケモン―そうでないものが共に生きる世界で探求を続ける者。
だからこそ人間かどうかなど些細なもの、命を持ち生きるものとして差などなく等価であるとして見ていたのかもしれない。

無論そうだと気付いていれば彼とは分かり合えないと手にかけることになっただろうことは想像に易い。
しかしそれに気づかずに、ただ侮辱されたのだと怒りに任せて殺した。
そうしてたかだか10年と少ししか生きていない少女の言葉を聞くまでは彼の言いたかったことすらも意味を取り違えていた。
結果は同じでも、過程が全く異なっている。

愚かなのは自分の方だろう。

「気付かなかった私も、尚愚かだったということか。あなた達にも、負けるわけだ――」

そうして、敗北の理由を悟ったローズオルフェノクの体は灰になって崩れ落ちていった。


419 : 逆月-我ら思う、故に我ら有り ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:56:48 6rSZgSRY0

「………」

村上の体は消滅し、残ったのは武器である紅い槍のみ。
この手で敵を倒したのだということを実感する。
だけど爽快感などなかった。ただあるのは、明確に一つの命を奪ったのだという認識だけ。
例え相手がどんなものだったとしても、やはり奪った命は重かった。

かつて誤って手にかけてしまった佐倉杏子のそれと、何ら変わりない。

「おい、大丈夫か?」

物思いに耽っていた時間は僅かだったと思うが、それでも心配はさせてしまったらしい。
巧が呼びかけた声で我に返る。

「大丈夫よ。うん、大丈夫。
 それよりイリヤ達の方に戻らないと。あっちでもたぶん戦いが始まってるから」
「あいつ、来てるのか」
「うん、さっきイリヤと美遊の二人と合流したんだけど、こいつとあと変な影が出てきて。
 二人はたぶん影と戦ってると思う。あっちの助けにもいかないと」

そこまで言ったところで、一息ついた影響か気が抜け、体からカードが排出される。
魔法少女の姿を飛び越えて見滝原の制服まで一気に戻る。

手元にないソウルジェムを探すと、紅い槍が刺さっているところに転がっていた。
無自覚だったが自分の命を武器に変換して戦っていたらしい。ゾッとしないでもないことだ。

ソウルジェムの色はかなりの濁りが生じている。
さらに。

「………」

その石の表面に、僅かに亀裂が見える。

さやかは知る由もないことだが、クラスカードによる夢幻召喚は自身の存在を英霊のそれに上書きするもの。
そしてさやかの場合は使用法も分かっていない見よう見真似での再現であったことも影響してか、ソウルジェムそのものを触媒として用いてしまっていた。
だが英霊の力は膨大であり、例えば衛宮士郎は自分自身とも呼べる存在から腕を移植し力を借り受けただけでも自身の肉体や精神に大きな負荷をかけた。
無論クラスカードがそこまでのものでないことはイリヤや美遊達自身が証明しているが、ソウルジェムを触媒とした点がいいやり方ではなかった。
精神化している魂であれば多少のことは問題とはならなかっただろうが、物質化した魂に負荷をかけたことで物理現象としてソウルジェムに影響を与えてしまった。

「どうした?」
「う、ううん。大丈夫、何でもない。ちょっと急ごう、私も走るから」
「ああ、頼んだ。そういやお前、その目治ったのか?」
「え?あれ?本当だ、治ってる」

亀裂の入ったソウルジェムを隠しながら、グリーフシードでソウルジェムを浄化、魔力を回復させながら、瞳の前に手をやるさやか。
確かに目の傷が治っている。
クロに切られて以降ずっと治らないと思っていたものだったのだが。


「まあいい。それよりあいつらのところだ。
 案内頼めるか」
「分かった。ちゃんとついてきなさいよ」

そう言って再度魔法少女へと変身したさやかは、ファイズに変身したままの巧と共に走り出した。


元より戦うことに命をすり減らすのは覚悟の上だ。それ自体はこの戦いのずっと前から意識していたのだから。
ただ、今死ぬわけにはいかない。まだやるべきことが自分の中に残ってる気がしたから。


【村上峡児@仮面ライダー555 死亡】




420 : 朔月-Lost Butterfly ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:58:01 6rSZgSRY0


「砲撃(シュート)!!」

美遊が空中を跳びながら巨人に向けて魔力の砲撃を撃ち出す。
しかし影は怯む気配すら見せずにこちらを捉えようと触手を動かし続ける。

動きは速くなく、カレイドの力を持ってすれば避けられるものだが、少し触れただけでも魔力の減衰が早まる。
もし万が一にでも捕まってしまったら。そのプレッシャーは大きい。

「イリヤ!!」
「大丈夫!だけどこのカードとは相性が悪い…」

イリヤもまた同じ状況。

こちらの放つ魔力弾を越えた砲撃を幾度も放っているが、それでもびくともしない。

『あの巨人は純粋な魔力の塊です。高い神秘を兼ね備えた宝具クラスの攻撃であればまだしも、通常の魔力の攻撃では…』
「やっぱり、操っている本人を…」
「お願い、それは待って!もう少し頑張るから!」

操っている本人。それは今離れたところで戦う二人、正確に言えばイリヤの姿を見ている少女。
瞳に強い憎悪の感情を宿らせた影の統制者、間桐桜。




時を少し巻き戻す。

「あなたは、誰なんですか?」

影を避けたイリヤに向けて投げかけられた問いかけ。
今にして思えば、この時の影にはまだ殺意はなかったように思える。
問いかけ通り、巨人に捕まえさせて自分が誰なのかを確かめたかったのだろう。
無論実際に捕まったならばそれだけではすまず魔力を軒並み吸収されていただろうが。

「あなたは、間桐桜さん、ですよね?」

こちらを知らない相手に対し、こちらは相手のことを知っていた。
セイバーからその存在を聞いていて、更にこの人が夜神総一郎という人を消滅させるところも見ている。

「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン!たぶんあなたの知ってるその人じゃないけど…!」

名乗り上げると同時に、巨人の動きが止まる。

「何なんですかあなたは…。私の知るイリヤさんはもっと…」
「うん、分かってます。あなたが知ってるその人とは違うんだって。
 だけど、そんなことより今は聞いてほしいんです、士郎さんのこと」

そう言って桜の近くに寄るイリヤ。
距離はあるが声は張り上げなくても届くような位置だ。

『イリヤさん、これ以上近寄ると…』
「分かってる。だからたぶんここが限界。これ以上は、今は。
 だけど大丈夫、話すだけだから…!」

彼女を見た時最初に目についたのはその瞳。
さっきの映像の中にいた彼女の目もまた強い虚無を感じたが、そこに狂気が同居していた。
対して今は強い虚無は感じられるがそれだけだ。意志と思えるものがあまりに希薄だった。


421 : 朔月-Lost Butterfly ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:58:19 6rSZgSRY0

さっきと今、その間に何があったのか。

イリヤには想像は容易かった。
きっと放送を聞いて、衛宮士郎の死を知ったからだろう。

言葉を間違えないように、ゆっくりと口を開く。

話さねばならないことだ。向き合わなければならないことだ。
彼のことを最も知りたがっているのはきっと彼女なのだろうから。

「先輩のこと、知ってるんですか?」

桜の瞳に僅かだが光が宿る。
その様子に、もしかすると彼女を救えるかもしれないと希望を抱く。

下手な言葉の装飾など無意味だろうと、単刀直入に切り出したイリヤ。

「士郎さんは、私を守って…死にました」


今のイリヤは冷静に努めようとはしていたが、やはりそうではなく相手の感情の機微を察することまではできていなかった。
衛宮士郎の件に意識を囚われすぎ、間桐桜の現状を把握することを怠っていた。
いや、意識が向かなかったというべきか。

もし正確に言うのならば、背負った重すぎるものをどうにか軽くしたいということに頭が行き過ぎていたのかもしれない。
決して戦士ではない10歳の少女に対しそれを責めるのは酷だろう。
だが、結果だけ言うならばそれは悪手だった。

「そう…」
「だけど、士郎さんは――」
「あなたが、私から先輩を奪ったんですね…」



イリヤの短い言葉。イリヤであって桜の知るイリヤではない。

魔術の基礎的教養も受けていない間桐桜には魔術、魔法的な平行世界についての概念を持たない。
しかしこの殺し合いの場で出会った数々の人やモノと出会った。オルフェノクや魔法少女、ポケモン、そして姉の臭いを感じさせてくる少女。
見たことも聞いたこともない、しかし確かに目の前にあった彼らとの経験は、目の前のイリヤもそういった世界を越えた何処かにあるものなのだという考えに至るには十分だった。

そして、舞い降りてきた少女はホムンクルスではない、年相応の女の子に見えた。
もしかしたらあの可哀想と思った少女がただの少女として生きた、そんな場所もあったのかもしれない。

それが目の前にいることがどれほどおかしいかなど、魔術教養がない桜には思い至れない。

別にそれが事実ならばそれでいい。気になっていただけで個人としての興味はそれで終わる。
そのはずだった。

衛宮士郎は、この少女を守って死んでいった。

その言葉を聞いた時、桜の心中に湧き上がってきたのは強い怒り、憎悪、そして妬みだった。
もしかすると遠坂凛、姉に対するそれにかなり近かったのかもしれない。

見た目通りに相応に、幸福に生きた少女が、自分を選んでくれた人を奪った。
虚無の心が激しい感情に埋め尽くされていくのもそう時間がかからなかった。




422 : 朔月-Lost Butterfly ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:58:36 6rSZgSRY0

『イリヤさん危ない!』

咄嗟のことでルビーすらもそう叫ぶことしかできなかった。

その声でただ反射的に宙に飛び上がるイリヤ。
桜の足元の影が帯のように形作り、イリヤのいたところを貫くように通り過ぎていったのはその一瞬後だった。

「あれは…」
『虚数空間、先程の影と同質のものです。あれを出したということは、影を操っていたのは彼女で確定です』

サファイアは解説するも、その可能性は間桐桜を目にした時から美遊は考えていた。いや、普通は考えるだろうし、実際に映像を見ていたというイリヤなら尚更だろう。



イリヤの元へと跳び、影の伸ばす触手を魔力弾で弾き飛ばす。
魔力はすぐに吸収されて消滅するも、勢いまでは殺しきれずに後ろにはためき、その隙にイリヤは美遊の傍まで飛び退く。

そんな二人を追うかのように、先程現れた巨人は触手を伸ばしてこちらを捕えんとしている。
飛ぶ先を縫うように覆ってくる触手を一つ、また一つと避け、射程外まで飛び退く。

「イリヤ、やっぱりあの人と話すのは危険…!」
「ごめん美遊、でもやっぱり諦めきれない……」

悔しげに表情を歪めるイリヤ。
だが、戦う意思がないわけではない様子で、更に迫ってくる巨人に対してはその手の杖を構える。

「まずはこの巨人を倒してから!だからお願い、桜さんを狙うのは待って!」

おそらく桜を直接狙った方が楽にこの場を乗り越えられるだろう。彼女の付近にも影はあるが、巨人と比べればまだ対処し易い。
それでもイリヤは、困難な道を選んでいる。

背負いすぎている、とも思ったが、しかしイリヤの本質は変わっていないことを感じ取り、安堵する美遊。
ならば、その背中を守るのは自分の役目だ。

「…分かった。だけどもしイリヤに本当に危険が及んだら、その時はたぶん約束は守れない」
「大丈夫、私だって、まだ戦える!!」

杖を掲げ、宙に多数の魔法陣を生み出すイリヤ。
美遊はそんなイリヤを守るように、迫る巨人の触手を牽制。




そうして今へと至る。
いくら攻撃をしてもそもそもが膨大な魔力の塊であるあの巨人にはまるで巨大な湖に小さな石を投じたほどの影響しか与えられない。

目の前の相手を完全に打ち倒すには、それこそ宝具クラスの火力が必要になる。
今手元にあるのはライダーのカード。
イリヤの持っているアサシンは火力不足。アーチャーは可能かもしれないが―――

「イリヤ、アーチャーのカードだといけそう?」
「分からない、たぶん使ってみれば何か浮かぶかもしれないけど…」


423 : 朔月-Lost Butterfly ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:58:54 6rSZgSRY0

アーチャーのカードは飛行能力を失う。
今地面に足をつければ地からの影の襲撃が激化し、巨人との攻撃も合わせての対処となると危険度が高い。
それに気付いた時美遊はイリヤがアーチャーを使うことを制止していた。

有効打とならないと分かっていながらも今イリヤがキャスターを夢幻召喚し続けている理由の1つはそこだろう。
現状このカードであれば、イリヤの攻撃より火力を出せ、尚且つ飛行能力を備えている。

あるいはセイバーのカードのように超火力が備わったものであれば、飛行能力の喪失を埋めるほどの一撃が放てたかもしれないが。

そういう意味では、美遊の持つライダーのカードにはそれがないわけではなかった。

だが、あれは英霊の力の天敵、触れれば正規の英霊は正気を失い闇に侵されるというステッキたちの警告が使用を思いとどまらせていた。
あのセイバーを黒き騎士王へと変化させていたという力だ。もし宝具による突撃をしくじればこちらの精神ごと泥に侵される危険性がある。

だが、現状で思いつく最良の手段はそれしかない。


隙を見せれば嫌な予感が脳裏をひたすらによぎる。血を流して倒れたまま二度と動かなくなったロロの姿、瞳を閉じたら二度と戻らなくなった結花の最後の姿。
ここでこの大切な友だけは失うわけにはいかない。

(…やるしか、ないか…!)

触手を避けて小型の魔力弾を3発放つ美遊。
狙ったのは巨人ではない。それを操っているのだろう間桐桜。

狙い澄ましたわけではなくただ周辺にでも命中すればいいと妥協した程度のもの。
しかし意識をそれに向けることに成功はしたらしい。影は魔力弾を払い落とさんを腕を振るう。
2発は消滅するも、残った1つは桜のすぐ足元に着弾し土煙をあげた。
手で前を防ぎつつも、追撃を警戒してか美遊からは視線を逸らさなかった桜。

その視線の先の少女は夜闇にはっきりと聞き取れる声で一説の言葉を詠唱。
次の瞬間光に包まれ、蒼色の魔法少女の姿は別のものへと変化していた。

「……!何で、あなたが、それを…」

彼女の呟いた言葉には、その姿をとった少女に対する強い感情が感じられた。

ライダー・メドゥーサの力をその身に宿した美遊は、天馬の背に乗り空に一陣の光を奔らせる。

「イリヤ!」
「分かった、出来る限り支援するから!」

狙いを悟ったイリヤは咄嗟に後方に下がりつつ魔法陣を宙に描く。
美遊は眼帯を外し、まっすぐに敵、影の巨人を見据える。
巨体の動きがほんの僅かに鈍くなる。

石化の魔眼の重圧。
しかし膨大な魔力を持った巨人相手では石化はできず、せいぜいがほんの僅かに動きを劣らせる程度にしかならない。

故に、イリヤは魔法陣から赤き魔力の竜巻をその上から放出。
石化の魔眼に大魔術による拘束、二重の縛りにより巨人の動きが完全に止まる。

蠢く巨人。しかし触手を僅かに動かすだけがせいぜい。

「急いで美遊!あとちょっとしか持たない!」

だが、その拘束も長くは続かない。巨人はイリヤの魔法陣の魔力を吸収し束縛を緩めている。

「分かった!サファイアお願い!」
『了解しました!』

一気に天馬は高く飛翔。
そのまま空から閃光を纏ったまま勢いをつけて巨人に向けて突撃をかける。

「騎英の手綱(ベルレフォーン)!!」

その突撃は巨人の中心を穿ち、体に巨大な穴を空ける。
体のバランスを崩した巨人は、魔力を霧散させながら体を崩壊させていく。

だが、美遊も全くの無事というわけではなかった。
宝具を使用しているとはいえ接触は一瞬のつもりだったが、黒き魔力に触れたペガサスはその頭から少しずつ色を黒化させ消滅していく。

ペガサスでの追撃はできないと判断した美遊は、眼帯を掛け直してペガサスから飛び降りる。
そのまま身軽な身のこなしで小さな影が震わせる触手を回避。

間桐桜とのすれ違いざまに鎖をその体に巻きつけて縛り上げた。

「お願い、大人しくして。話を聞いて。
 イリヤがあなたと話したがってる」
「………」
「…?」


424 : 朔月-Lost Butterfly ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 00:59:36 6rSZgSRY0

縛った体が、呼びかけても全く反応しない。
不審に思い振り返る美遊。

「私から先輩どころか、ライダーまで奪うのね…」
「何を言ってるの?」

言葉の意味を問う美遊。ふと桜の手に目をやった時に、その手に握られたものに視線を奪われた。

異形の頭部を持った、細身の怪物が描かれたカード。

「クラスカード…!?」
「夢幻召喚」



「時に桜さん、このようなカードに見覚えはありますか?」
「……、これは…?」
「支給品の1つに入っていたのですが、私には使い方が分からなかったもので」
「バーサーカー……?」
「心当たりがあるのですか?」
「聞いたことは、あります」
「そうですか。もしかするとこれは、あなたに縁のあるものなのかもしれない。お譲りしましょう」



正直、村上にそれを譲られた時には使い方も分からなかった。
別に捨てる理由もなかったが、手元にあってもどうしようもない。

そういえばほんの一時、似たようなカードを拾って持っていたことがあった気もした。

だが、全ては瑣末なこと。
ずっと意識の底に捨てて、忘れかけてもいた。

蝶を連想する少女が、その姿に変わるまでは。

その瞬間に使い方を理解してしまった。
そして、同時に目の前にいる少女に対して、強い敵愾心も湧き上がってきた。

例えばその力が衛宮士郎のために振るわれるならいい。
例えば間桐慎二の力になったとしても、平時であれば戦うことを放棄していた自分は気にも留めないだろう。

だが、強い孤独を、虚無を感じ、かろうじて憎悪によって自身の意識を支えている今の桜には、見ず知らずの他人にその力を使われることにはあまりに嫉妬が大きかった。

それだけではない。
瑣末と切り捨てていたことだが、忘れてはいなかった。あのカードを自分の手元から奪ったのは、あの姉によく似た金髪の女だ。

偶然のはずなのに、イリヤの件を知った後ではまるで運命のいたずらのように感じてしまう。

許せない。
そうやって私から何もかもを奪っていくんだ、と。

噴出した思いはとどまることを知らず。
気がつけば体は自然に動いていた。
ほんの僅かに見えたカードを使う姿、それだけで十分だった。

できるのかどうか、などに迷いはなかった。むしろできないなどという思いがなかった。


そうして、間桐桜はかつて自分を染め上げたデルタギアを越える狂気に身を窶していく―――



何が起こったのかを美遊が認識したのは、体が地面に倒れた時にようやくだった。

胸に奔った痛みを感じた時にようやく、縛ったはずの鎖が千切れ、叩き込まれた拳で体が吹き飛んだのだということを思い出した。

「美遊?!」

イリヤの叫び声と、自分に近寄る足音が美遊の耳に届く。
間桐桜のものであるということは分かっているはずなのに、その歩みに同期して鎧がぶつかるような音がなることが美遊を混乱させた。

顔を上げると、そこにいた少女の姿はさっきまでの影を纏った姿とは大きく変わっていた。

体は腕や足、胸部を覆う黒い鎧に包まれ、顔は上半分を兜に隠されている。黒く鼻の下辺りまでを覆い、目は赤く光るバイザーの奥にありこちらからその表情を伺うことはできない。
兜の後ろから白い長髪をたなびかせながら美遊の元へと迫っている。

(何…?このカードは…)

このような英霊は知らない。カードの存在も、英霊と戦った記憶もない。

(まさか…、凛さんが言っていた8枚目のカード…?!)


425 : 朔月-Lost Butterfly ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 01:00:04 6rSZgSRY0
だとすればまずい。
正体の分からない英霊の力、どんな能力を、宝具を持っているのかも把握できない。

起き上がり撤退のための牽制として釘を構えて飛びかかる。
肩と脇腹を狙った一撃。致命傷となるのは避けるが動きを止めさせる程度のダメージを与えるためのもの。
しかし桜はそれを的確に捌き、逆にこちらの手を絡め取る。
ならば、と身をかがめて足払いを放とうと足を突き出すが、飛んで回避されてしまう。だが想定通り、それはこちらの手を放させるための囮。
離れた隙に飛び退こうと地を蹴り跳び上がる。

その時美遊の体が宙で急に停止する。

思わず振り返ると、手に持っていた釘に備えついた鎖が相手の腕に絡まっている。
あのような絡み方をする攻撃はしていない。おそらくはこちらの攻撃を受け止めた際、素早く鎖を絡め取ったのだろう。

それが瞬時にできるとするのであれば、あのカードの英霊はとてつもない技量を持っていることになる。

鎖が引き寄せられた気配を感じた美遊は咄嗟に手を放すが、判断が一瞬遅かった。引き寄せられた慣性は止まらず地面へと叩き付けられた。

「がっ…」

急な視界の反転による平衡感覚のブレと体を襲った衝撃で動きが止まる。

『――美遊様!』

美遊の手から離れた鎖は桜の手元でサファイアの姿に戻る。
桜の手から逃れて逃げようとするが、その手から噴出した黒い霧がサファイアを包み込み逃すことを許さない。

『こ、これは…この英霊の宝具…?』
『サファイアちゃん!?』
「二人から離れて!!」

二人の距離が近すぎることもあって攻撃を躊躇っていたイリヤ。しかしここに来てそれでもやらねばならない局面と判断し、杖から魔力弾を射出。

『えっ?!』

サファイアの驚愕の声と共に、桜の手元のサファイアが魔力の刃を形成する。
撃ち込んだ魔力弾は、その刃によって全てが切り払われる。

『ちょっとサファイアちゃん何やってるんですか!?』
『私じゃない!魔術礼装としての機能の制御が、奪われてる…』

「ひらひらひらひら、羽虫みたいで鬱陶しいですね…」

バイザーの光が強まったと思うと、その敵意を明確にイリヤへと集中させる。
地を蹴って一気にイリヤの元へと飛びかかる。それなりの高さにいたはずのイリヤへと届き、バイザー越しの奥の目が見えるほどに目前まで迫った。
そのまま腕を捕まれ、一気に地面へと振り落とされる。

「きゃあっ!!」

地面に思い切り叩き付けられた衝撃で夢幻召喚が解除され元の魔法少女の衣装へと姿が戻る。

「やっぱりイリヤさんにそっくり。そっくりだからこそ、すごく憎らしい」

着地した桜は、間髪入れずに最接近、黒き篭手に覆われた腕をイリヤへと振り上げる。
防壁を張る間もなくその小柄な体が吹き飛ぶ。

「本当にイリヤさんじゃないんですね。イリヤさんだったら今ので死んでたんじゃないかってくらいに貧弱だったのに」
「っ…、痛い…」


426 : 朔月-Lost Butterfly ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 01:00:20 6rSZgSRY0
痛みに呻くイリヤ。しかし足を止める暇はない。
周囲にまた影の触手が蠢き、イリヤを捕えんと飛びかかる。

安全地帯へと飛び上がろうとしたところで、今度は桜が肉薄してくる。空へと逃げる暇がない。

「あなた、確か話がしたいんでしたよね。だったら、しましょうか。お話を」
『イリヤ様、逃げてください!』
『サファイアちゃん放置して逃げるとかできないですよ!』
『私なら大丈夫です!機能は奪われてますが、精霊の人格までは乗っ取れないみたいです。
 私は隙を見て逃げますから、ですから今は美遊様を連れて逃げて!』

ならば美遊の元へと急ごうとしたイリヤだが、その先に立ちふさがるかのように桜が迫る。

ゾッとする気配を間近で当てられ、足を止めてしまうイリヤ。
その足元を、影の触手が掴んだ。

「捕まえた」
「いっ……、離して…!」

捕まった場所から徐々に力が抜けていく。
魔力、生命力を吸収されている。このまま吸収され続ければ動く体力もなくなりやがて吸収能力は肉体へと及んでいくだろう。

「健康そうな体で、お友達もいて、ずいぶんと幸せそうに生きてきたんですね。私の知るイリヤさんとはホント、大違い」
「何を…」
「そんなあなたが、私から先輩を奪ったんですよ。
 本当、許せない、許せない、許せない―――」

狂気に満ちた呟きがイリヤの耳に届く。
そして、その言葉はイリヤの思考を止めるには十分だった。

(そうだ…、士郎さんには桜さんって守らないといけない人がいたのに…私と関わったせいで…)

衛宮士郎の死は乗り越えても、そこに連なる数々の事象への後悔はまだ乗り越えきれていなかった。
桜の存在を知ったのは彼が死んだ後だった。もしもっと早く知っていれば、彼を自分の兄のように見て関わろうとはしなかったはずだ。

だから―――

「イリヤ!!」

美遊の叫び声と共に、イリヤの体が押し倒された。
突き出されたサファイアの魔力の刃は正体不明の嫌な音を立てて目前を通り過ぎる。

「……えっ?」

体に寄りかかった美遊の背に手が触れる。
そして、その手に生暖かい液体が付着するのを感じた。
手のひらを見ると、それは真っ赤に染まっている。

「美遊…?」
『美遊様!』

触れた小さな背中はすぐに分かるほどの大きな凹みができており、大きく抉られていた。
同時に、咳き込んだ美遊は口から血を吐き出した。


427 : 朔月-Lost Butterfly ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 01:00:36 6rSZgSRY0


「イリヤ、美遊!」
「お前ら、大丈夫……っ?!」

その時だった。
巧とさやかが戦場に現れたのは。

痛みを堪えるように歯を食いしばって、イリヤの体を二人に向けて投げる。

ただならぬ気配に動きが止まる二人の元に転がるイリヤ。

「イリヤを連れて、逃げて!!」

立ち上がった美遊、その背からは血が流れ落ちている。
何が起きているのか、理解が追いついた二人は叫ぶ。

「あんた、その傷…」
「今のイリヤじゃこの人は助けられない…!イリヤがいたら、さやかさんと巧さんがいても守りきれないかもしれない…」
「お前はどうすんだよ!」
「私なら大丈夫……じゃないけど、この傷だと長くは持たない…。だから私が時間を稼ぐから…」

そう言って、眼帯を再度外してイリヤ達から視線を外す美遊。
魔眼による重圧で桜の動きが大きく鈍る。
そのまま決して振り向かないのは少女の決意の現れだろう。

しかしそれを受け入れられるはずもない。

駆け寄ろうとするさやかと巧。しかしその動きが止まる。

「逃しません…!」

二人の直ぐ側に、巨大な影が再度出没。

逃走を防がんと徐々にその体を肥大化させていく。

「何だこいつは!?」
「こんな時に……」

美遊のいる場所への道を、肥大化する体は塞いでいく。
さやかは剣の投擲を、巧はファイズフォンによる射撃を行うが、効き目があるようには見られない。

『……お二人とも、この場は逃げてください』
「お前何言ってんだよ!」
「美遊を見捨てろっていうの?!」
『確率の話です。美遊さんはもう命は永くない、そう察して時間稼ぎを買っているのです。
 もしここで逃げられれば、態勢を立て直すこともできます。しかしもし動き出せば、お二人の力を合わせてもあの人と巨人を両方相手にすれば、命の危険があります』
「待って、ルビー。だって、あそこにはサファイアも――」
『そのサファイアちゃんが!美遊さんの意思を尊重して逃げろって言ってるんです!!』

ルビーの口調は普段のおどけたようなものではない。
自分と同時に作られた双子のステッキ、その片割れが如何なる想いでその願いを口にしたのかなど察せぬはずもない。

だからこそ、この場でどうするべきかの非情とも思える決断を下した。



「待って、美遊、美遊!!」
「イリヤ…」

鎧がぶつかり地を走る音が響く中で、掠れそうな声を確かにイリヤは聞き届けた。

「これまでずっと、ありがとう。
 あなたは、生きて―――」
「美遊!」

「ち、何なんだよこの黒いのは!!そこどけよ!!!」

迂闊に近寄ることができない巨人。さやかは元より、巧すらもその気配には本能的に近寄ってはいけないと思わせるほどのものがあった。
しかしさやかとファイズの離れた場所からの攻撃ではびくともしない。

かといって、巨人が完成するまでもう時間もない。

もし戦略を練ることが得意な何者かがこの場にいれば、あるいは何か思いついたかもしれない。
しかし巧もさやかも、そういったことには疎かった。敢えて言えばルビーだったのだろうが、そのルビーももう合理的判断でイリヤ達の安全を優先しているため頼りにできない。

最終的に二人が出した結論は、イリヤを連れて逃げる。それしかなかった。


428 : 朔月-Lost Butterfly ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 01:00:56 6rSZgSRY0

「おい!合図したら3秒くらいでイリヤ連れて走り出せ!」
「逃げるの?!」
「………ああ!」

僅かな沈黙の後巧は手の時計型ツールからメモリーを取り外し、ファイズフォンのそれと入れ替える。
ファイズの胸部の装甲が開き、全身のラインが赤から銀色に変化、顔の複眼は赤く染まる。

同時にさやかはイリヤの体を抱き上げる。
言うことを聞かない可能性も考慮して、腕の力は強めだ。

「今だ、行くぞ!」

掛け声と共にファイズの姿が掻き消える。
逃げるべき逃走先に蠢く触手に、一気に赤い円錐型のエネルギーがいくつも叩き込まれる。

それが完全に消失するまでが3秒。
数え終わったさやかは駆け出す。


「美遊ーーーっ!!!!!!」

手を伸ばして叫ぶイリヤ。

しかしイリヤの想いとは裏腹に、その気配はどんどん遠くに離れていった。




10秒。
アクセルフォームに与えられた時間。

うち、3秒を逃走先の確保に、2秒を反転に使用。
残り5秒で、巧は可能な限りのクリムゾンスマッシュのエネルギーを巨人へと叩き込んだ。

しかし巨人は完全には崩れない。
幾つもの穴をその身に作って体を揺らがせながらも、まだその体を維持し続けている。

もしここでブラスターフォームに変身していれば、まだこの巨人を打ち倒すことができたかもしれない。
だが今となってはもう間に合わない。

胸部の装甲が元に戻る。だが巨人は未だ健在。

さやかにはイリヤを逃がす手前ああは言ったが、それでも可能ならば助けたかった。

ファイズブラスターを取り出そうとする巧。

「巧さん……」

そんな巧の気配が伝わったのか掻き消えそうな声が巨人の向こうから聞こえた。

「待ってろ、今―――」
「イリヤを、お願い……」

諦めずに助けようとする巧、しかしその美遊の懇願で巧の動きが止まってしまう。

偶然だろう。しかしかつて守れなかった一人の少年と交わした約束と、少女の言葉が被ってしまった。
無論目の前の少女を助けることと約束は矛盾はしないだろう。
しかし真に命をかけるべき時は今ではないと、そう言われているように感じ、実際に自分でもそうなのではないかと思ってしまった。

「クソ、クソォッ!!!!」

湧き上がる悔恨に悪態をつきながら、巧はファイズの変身を解除。
ただ一刻も早くこの場を離れるために、救えなかった少女の願いを守るためにウルフオルフェノクへと変身して地を蹴り駆け出した。





429 : 朔月-Lost Butterfly ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 01:01:15 6rSZgSRY0

イリヤ達が逃げたことを確認したことで美遊の気が抜ける。

「サファイア、みんなはもう、行った?」
『はい、3人とも遠ざかっています』
「そう…、良かった…」
『桜様お願いです!私を美遊様に返してください!』

もしサファイアが美遊の手元に戻れば、カレイドサファイアに転身できれば、魔力による治癒で傷を癒やし生き延びることもできるかもしれない。
さっきから何度も懇願しているのだが、桜は全く意に介さずにサファイアを振るい続ける。

美遊自身は重傷を負っているが、桜もまた魔眼の重圧で動きが大きく制約されている。
非常に緩慢な戦いとなっていた。

しかし、それもここまで。美遊の気が抜けたことで、体からライダーのカードが排出されてしまう。

英霊の姿から一気に生身に戻り、どっと血が流れるのを感じた。
同時に血と共に体の力も抜け、地面に倒れ込む。

「ふふふ、よくも邪魔をしてくれましたね…」

重圧の解けた桜は仰向けに倒れた美遊を見下ろしながら刃に変化させたサファイアを向ける。

「ですけど、これを回収できたから今は良しとしましょう。まあ結局追いかけるんですけどね」
「サファ、イア…」
『美遊様!』
「もし、その時が来たら…、イリヤの力に…」
『分かりました!ですからもう喋らないで!』
「何を勝手に話してるんですか?」

刃を向けながらもそれを振り下ろしてトドメを刺そうとはしない。
死にゆく自分を見て嗜虐心を満たしているのだろう。だとすれば好都合だ、皆が逃げるまでの時間が稼げる。

そう思っていたがそろそろ体が限界のようだ。

「ですけど、残念ですね。誰も助けに来てくれなくて」

おかしなことを言っていると思った。
逃げるようにしたのは自分だ。なのに皆に見捨てられたと思っている。

もしかしたらカードの影響で周囲が見えなくなっているのかもしれない。

「一人ぼっちで友達にも見捨てられて死んでいく気分はどうですか?」

問いかけてくる桜の言葉も、もう耳には入ってはこなかった。

だけど、そうか、と先程の言葉から連想した結果1つの事実に気付く。
ずっと気が付かなかったこと。自分の周りにはこんなに色んな人がいたんだと。

イリヤだけがいればいいと思ったことがあった。
だけど今の自分の中には色んな人がいた。
助けられなかった人、助けられた人。イリヤを託すことができた人。

悲しいことも嬉しいことも。
篭っていただけでは分からなかった、世界はこんなに広かったんだということを。

ふと手が何かに触れた。純白の白い羽。
それはこんな場所でできた、友達となれた人の欠片。

もし、こんな私が最期に1つだけ願うことが許されるなら。

「…イリヤが、みんなと一緒に笑顔で、いられますように」

そう願ったのを最期に、美遊の意識は静かに闇の中に落ちていった。




430 : 朔月-Lost Butterfly ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 01:01:46 6rSZgSRY0
気がつけば少女は動かなくなっていた。
突いてみても何も反応しない。


『美遊様…』
「もう動かなくなっちゃったんですか?なぁんだ呆気ない」
『あなたは…!』

ただの死体となった美遊にはもう興味がなくなったとばかりに、桜は視線を逸らす。
歩む先にあるのは、排出されたクラスカード。

今の自分には赤の他人にこれを使われるのは怒りが抑えきれなくなる。
”彼女”は私のものなのだ。自分だけの力だ。

そう認識した瞬間、桜の中で1つの考え方が浮かんできた。

カードの英霊。その使い方。

カードを泥の中に落とす。
それは自分を中心に渦巻く魔力の泥だ。周囲に転がった残滓ではない。

すると魔力の泥は少しずつカードの周りに収束していき。
やがて1つの人型の黒い魔力の塊となった。

泥の中から少しずつその体が現れ、同時に黒でしかなかったそれが色づき始める。
紫の長髪。黒い衣装を纏った、長身の女。

「よく似合ってるわ、”ライダー”」

かつての自身の傍にいた一人のサーヴァントと同じ姿を象ったそれを、桜はそう呼んだ。



ライダーの体を作る間、桜は無意識に泥を周囲に広げていた。
それは美遊の亡骸へも達しており、その体を静かに泥の中に沈めていった。

その手に抱かれた羽は美遊の体が半分ほど呑まれた辺りでふわりとその手から浮き上がり。
しかしそのまま浮力を失い、静かに黒い泥の中に誰に気付かれることもなく静かに溶けていった。


【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 死亡】



【C-4/市街地/一日目 夜中】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大)、胸に打撲(回復中)、精神的ショック(大)
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター)(使用時間制限)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(アサシン)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(アーチャー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、破戒すべき全ての符(投影)
[思考・状況]
基本:美遊や皆と共に絶対に帰る
0:美遊…っ…!
1:皆で帰れるように全力を尽くす
2:間桐桜に対して―――
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
※ルビーは、衛宮士郎とアーチャーの英霊は同一存在である可能性があると推測しています。
※ミュウツーのテレパシーを通して、バーサーカーの記憶からFate/stay night本編の自分のことを知識として知りました


【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、決意、美遊を救えなかったことへの後悔
[装備]:ファイズギア+各ツール一式@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:ファイズとして、生きて戦い続ける
1:イリヤ、さやかを連れて撤退する
2:状況が把握したい
[備考]
※参戦時期は36話〜38話の時期です


431 : 朔月-Lost Butterfly ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 01:01:56 6rSZgSRY0
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)
[装備]:ソウルジェム(濁り30%)(小さな亀裂有り) 、トランシーバー(残り電力一回分)@現実、グリーフシード(濁り100%)
[道具]:基本支給品、グリーフシード(濁り70%)、アヴァロンのカードキー@コードギアス 反逆のルルーシュ、クラスカード(ランサー)(使用制限中)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、コンビニ調達の食料(板チョコあり)、コンビニの売上金
[思考・状況]
基本:自分を信じて生き、戦う
1:巧、イリヤと共に鎧の女や影の巨人から撤退する
2:ゲーチスさんとはもう一度ちゃんと話したい
[備考]
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※魔法少女と魔女の関連性を、巴マミの魔女化の際の状況から察しました



【D-3/市街地/一日目 夜中】

【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:黒化、右腕欠損、魔力消耗(中)、クラスカード(???)夢幻召喚中
[装備]:マグマ団幹部・カガリの服(ボロボロ)@ポケットモンスター(ゲーム)、カレイドステッキ(サファイア)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
    クラスカード(ライダー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(???)(夢幻召喚中)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:狂気に任せて行動する
1:逃げた人たちを追いかける。特にイリヤは逃さない
2:先輩のいない世界などもうどうにでもなればいいと思う

[備考]
※黒化は現状では高い段階まで進行しています。
※クラスカードを夢幻召喚した影響で状況判断力、思考力が落ちています。時間経過で更に狂化が進行する可能性があります。
※ライダーのクラスカードは泥の影響で英霊の形を象った使い魔となっています。その姿はプリズマ☆イリヤ本編の黒化英霊のそれに近いです。
※欠損した右腕は現状夢幻召喚の影響で一時的に治っています。解除すると元に戻るでしょう。

【クラスカード(???)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
バーサーカーではないかと思われるクラスカード。
しかしヘラクレスのものではなく、夢幻召喚した英霊は高い技術を備えた黒き鎧の騎士の姿となっている。
一説にはこれはランスロット(バーサーカー)ではないかとも言われているが詳細は不明。


432 : ◆Z9iNYeY9a2 :2017/12/23(土) 01:02:16 6rSZgSRY0
投下終了です


433 : 名無しさん :2017/12/23(土) 02:04:59 /pNvvzfY0
投下乙です

まさかのランサーさやかちゃん誕生!たっくんとのナイスコンビネーションで社長を撃破
でもソウルジェムにヒビが…。
やっぱり桜は暴走しちまったか。というか社長、なにとんでもないもの渡してんだ…
とうとう美遊まで失ったイリヤは果たして再起できるのだろうか


434 : 名無しさん :2017/12/25(月) 16:49:55 usKFIupc0
投下乙です

社長はまぁ、たっくん吹っ切れ木場さん死亡、月も対主催者となればこうなっちゃうよなぁ
最後にオーキド博士の言葉の意味を理解するシーンが個人的に好き
クラスカード×2にサファイア装備の桜はやばい…。ゲーチスは斑鳩に乗ってゼロはガウェインのハドロン砲解除とマーダー勢の戦力がアップしてるな


435 : 名無しさん :2017/12/31(日) 03:02:49 7wum9LKU0
サクランスロットさんじゃないか


436 : 名無しさん :2018/03/08(木) 00:28:49 b8cWETgM0
予約来てるやん


437 : ◆Z9iNYeY9a2 :2018/03/15(木) 22:10:48 ANJViV7o0
投下します


438 : 永劫の神々 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/03/15(木) 22:12:21 ANJViV7o0
魔王たるゼロに睡眠の時間は本来必要ない。
魔女の力が完全に肉体に適応した身は代謝も止まり、如何なる傷を受けても間もなく再生する。
しかしこの殺し合いを強要された場所においては、別世界のC.C.から引き受けたコードの存在を持ってしても回復には時間を要する。
幸いなことに、支給品に入っていた黄金の鞘、全て遠き理想郷の存在があったおかげで再生に時間がかかりすぎることもなかったが。

他の肉体の機能を休止させることで木場勇治に切断された傷の回復により一層専念することができる。要するに睡眠だが。
思えば一度目の放送付近でも一時的な睡眠状態に陥ったのも木場勇治や魔法少女達と続いた戦いのダメージが影響していたのだろう。

しかし肉体は休止状態に入っていたとしても、ゼロの精神は休んではいない。あるものを探して活動を続けていた。
瞑想に入ったゼロの精神は、これまでは接続が叶わなかった空間、エデンバイタルの門への道を探していた。
ゼロの知識の中に、本来は知るはずのない別世界のものが紛れ込んだその理由を探すために。

無論、本来ならば叶うはずがない。これまでにも幾度も試してみたものの、門の直前で精神が弾かれたどり着くことができなかった。
だが、ガウェインにかかっていた制限が一定ほど解除されているのを確認した時、確かにエデンバイタルとの繋がりが強くなったのを感じ取った。

休息も合わせて、何が起こっているのかを知るためにその接続を再度試みたのだった。


そして結果、ゼロはこの会場における世界のあり方をすんなりと見ることができた。


(並行世界。異なる選択によって起きた事象から枝分かれした世界のあり方を示す言葉)

これは自分だけでなくナナリーもギアスを持ち戦場に立った世界と、そうではないルルーシュがナナリーの傍で戦いを続けた世界。
だが単純な選択による分岐というわけではない。近しい法則を持ちながら、この二つの世界はギアスのあり方が大きく異なっている。
エデンバイタル、あるいはCの世界。それが世界に如何なる力を及ぼしているのかの違いといったところか。


視点を変えると、自分達のいる世界とは全く異なる世界の形が見えてくる。

(我々の世界から見たら完全に別世界というべき場所。世界線、とでも呼ぶべきものかな)

並行世界が分岐した木の枝や川の分流だとするならば、世界線は木や川の源流から異なる。
それでも人がいて、様々な形を以って営みを行っている。

世界の内側ははっきりとは見えない。しかしその世界を世界たらしめている法則のような存在は確認できる。

中でもこの会場に最も近い世界の中は各世界と比べても異質なものだった。
そこには二匹の巨竜と純白の創造神を始めとした多くの異形の生き物達と共に歩む人間の姿があった。
他の世界には存在しない、長い歴史の中で人と共に歩む道を選んだ生物が人間と共存するただ一つの世界。

(木場勇治が見たら、何と思っただろうな)

別の世界には、多くの絡み合った枝の中にエデンバイタルに近い根源を求めて歩み続ける人間の姿があった。
無為に過去へと進むように後ろ向きに進み続ける者たちの中に、その中でも異端な者たちが前に進もうとする世界。かつての、在りしはずだったルルーシュを連想させる姿だ。
剪定された多くの世界が存在し、今なおも様々な並行世界が分岐を続ける世界。この黄金の鞘、そしてあの少女のアーサー王のあった場所でもある。


439 : 永劫の神々 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/03/15(木) 22:12:35 ANJViV7o0
それ以外にも三つ。

エントロピーの増大する世界を、少女達の感情で抑えることで安定させる者がいる世界。
ここには他の世界では存在する管理者に相当する概念の席がぽっかりと空いていた。その空白はまるでいずれ来たる何者かの存在を待っているかのようにも思えた。

木場勇治の世界。ここは特筆すべきは世界そのもののあり方というよりは世界の繋がりだろうか。
この並行世界においては、ゼロをして興味深いと思わせる強固な概念が存在している。

そして最後の世界は管理者に相当する者が怠惰に堕ちた世界。
だが堕落したとてその存在は変わらない。人の死を司るその神々は、時として人間の世界に大きな影響を及ぼすものでもあった。


それぞれ独立した世界は、例えエデンバイタルの神々であったとしても容易に干渉できるものではない。観測するのがせいぜいだ。
もし干渉しようとするならば、その世界においてエデンバイタルと同列に当たる"神"を殺すしかない。
だがそれはエデンバイタルの神であっても容易ではない。仮にザ・ゼロやアーカーシャの剣を用いたとしても、異なる世界の神を殺すことはできないだろう。

しかし殺し合いの空間は例外となっている。
あらゆる世界からの干渉を受け、あらゆる法則が入り混じった世界が形成されている。

もしそこに理由があるとすれば。

(異なる神々、エデンバイタルに並ぶ存在に触れた者が協力しているということか)

一つの世界の力でできないとしても、複数の世界の神々が力を合わせれば、互い、どころかどちらとも異なる世界とも干渉することができるかもしれない。
無論、実際に神自身が手を取り合うことなどまずあり得ない。しかしその力の一端に触れた者であれば、このような小さな世界を作る程度はできる可能性はある。

全ては仮定。何しろエデンバイタルの力を以っても前例のないことだ。

放送にいたアーニャ・アールストレイム。あれは間違いなくマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアだろう。
彼女がいるのであれば、間違いなくあの男も噛んでいる。


しかしここで疑問となってくるのは、何故今なのかということ。
エデンバイタルの接続も、彼女が表立って出てきたのも。

本当にただの偶然か、あるいは何かしらの必然か。
探るためにはもう少しエデンバイタルの深淵に触れる必要がある。

さらに意識を閉じ込め、それに触れようとした。

その瞬間、ゼロの意識が浮上した。





440 : 永劫の神々 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/03/15(木) 22:12:48 ANJViV7o0

「弾かれた、か」

これ以上を知るにはまだ力が足りないということ。それはまだこの空間においての制約が完全には解けていないということだろう。
だが、いくつかの判断材料は見えた。

「この世界を構築しているのがいくつも存在する複数の世界の要素であるとするならば、もしその世界の"要素"が会場からなくなった場合はどうなる?」

例えば参加者。例えば支給された道具。例えば会場に置かれた幾つもの施設。
これらの多くはいずれかの世界に存在したもの。

ならもしそのどれか一要素でも全てが会場から消え去った場合はどうなるだろう。

「いや、それだけでは足りないだろうな」

ゼロは背後にあるビルの残骸に目をやる。

殺し合いを行っていれば、やがていずれかの世界の参加者が死に絶える時も来る。
自分のような者たちが戦いを繰り広げていれば、施設の一つや二つ、このように容易に消失する。
その度に会場が崩壊しかけるのであれば、最後までの殺し合いは成立しない。

何か崩壊を押し留めているものが存在するはずだ。
それが何か。そこまでは今自分が持つ情報だけでは分からない。

あるいは、徒党を組み殺し合いに抗う者達ならば何かに気付けるかもしれない。
かつてのルルーシュとしての癖だろうか。通して見た情報を、支給品に混じっていたタイプライターに纏めていた。
自分が記したとて何か意味のある情報でもないはずだというのに。

「あるいは期待、か」

C.C.のコードを継承した影響だろうか。それとも自分を残して散っていった共犯者やかつて守りたかった者達に対する感傷だろうか。
心の中にほんの僅かに燻る自身の滅びへの願望があるのは。

あるいは木場勇治の最期を見た影響かもしれない。
心のどこかで、この魔王を打ち倒す勇者の存在を待ち望むような自分の存在を感じるのは。

「…ふん」

握り潰すのは容易かった。しかし敢えて、ゼロはそのタイプライターで纏めた情報をバッグに仕舞った。

「もう少し傷は癒やしておいたほうがいいか。ならばその前に、もう一度だけ試してみるとするか」

座り込んだゼロは、先程と同じように、静かに意識を深淵の底へと沈めていった。





そこからしばらく後。
マントを翻し闇の中で微かに光る大きな灯りに向けて、ゼロは歩き始めた。

孤高の魔王、ゼロ。
全てを乱し、全てを繋ぐために。

ただ一人。全てを滅ぼすため。




【D-2/一日目 夜中】

【ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(中)、右脛に裂傷(回復中、動くには問題ないが激しい動きを続けると開く可能性有り)、コード継承
[装備]:
[道具]:共通支給品一式、全て遠き理想郷@Fate/stay night、タイプライター
[思考・状況]
基本:参加者を全て殺害する(世界を混沌で活性化させる、魔王の役割を担う)
1:他の参加者を探して移動する。差し当たってはアヴァロンを目指してみる
2:セイバーに若干の期待。いずれ決着をつける
3:もし自分が認め得る参加者がいたならば、考察した情報を明け渡してもいいかもしれない
[備考]
※参加時期はLAST CODE「ゼロの魔王」終了時
※C.C.よりコードを継承したため回復力が上がっています。また、(現時点では)ザ・ゼロの使用には影響が出ていない様子です
※制限緩和の影響によりガウェインのハドロン砲、飛行機能がある程度使用可能となっています
※エデンバイタルに接続し各参戦作品の世界の有り方についてを観測しました。あくまで世界の形を観ただけであり、参加者の詳細情報などは観ていません。
 また、そこで見た情報はタイプライターにて纏められています


441 : ◆Z9iNYeY9a2 :2018/03/15(木) 22:13:10 ANJViV7o0
投下終了です


442 : 名無しさん :2018/03/16(金) 00:16:33 yaIDPKIA0
投下乙です

ゼロによる考察。もし彼が対主催者だったらこの上なく心強かったんだがなぁ…
向かう先がアヴァロンとはセイバーとの再戦、スザクとの出会いも近いか?


443 : 名無しさん :2018/03/17(土) 11:13:23 VEhgFjJg0
連載時のディケイドパロの煽りを使ってる、+555913点


444 : 名無しさん :2018/03/30(金) 22:43:54 Li2W1MrA0
投下乙です。
アヴァロンへ向かうとなると、スザクとライト組に衝突するのか――
もしくは道中で他の組と会うのか、気になる


445 : ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 22:57:16 x.8Mv6YI0
投下します


446 : 変わりたい少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:00:36 x.8Mv6YI0
Lの依頼で暁美ほむらの遺体の状態確認に出立することとなったアリスと美国織莉子。
2人が出る少し前、まだ遊園地内で情報整理を行っていた辺りの出来事。

「不思議なものね、ポケモンという生き物は」

目の前に顕現した焦げ茶色の岩の肉体を持ったそれを見ながら、織莉子は呟いた。

ポケモンという生き物は進化という、一定条件下での様々な事象でその姿を変異させる特性があるという。
そして、サカキの遺したサイドンというポケモンもまたその特性を兼ね備えていた。

Lが所有していたプロテクターというアイテム、それはサイドンを進化させる際に必要となる道具だという。
本来であればそこから一定の道具を介しての他人の手への譲渡という行為も必要なのだが、あるいはと思い持たせてみたところ、その姿が光と共に変化した。

元々サカキのポケモンであったサイドンに勝手に手を加えることに抵抗がないでもなかったが、Nやニャースが言うにはこれはサイドン自身の意思でもあったらしい。
主を失った時にあるいは自分にもっと力があればそうはならなかったのではないか、という思い。それが彼自身に力を求めさせる原動力ともなっていたようだ。

かくしてサイドンはより大きく、より岩のような肉体を持ったポケモン、ドサイドンへと進化を遂げた。

ダメージも薬を利用してほぼ回復。自身の状態と合わせてかなり万全の状態だ。

Lがアテがあると言っていた魔力回復の手段。無論それはソウルジェムなどではない。
渡されたものは、ピーピーリカバーという道具。ポケモンが技を使用する際に、そのエネルギーを回復させるために使う道具だという。
正直織莉子としてもこれを渡されたことには抗議しないでもなかったのだが、Lの考えはこうだという。
織莉子は技マシンを偶然使ってみてその技を習得した。それを自身の魔力を用いて使った。
すなわち、ポケモンが技を使う際に使用するエネルギーは魔法少女の魔力に近いものなのではないかという仮説だ。であればこれで回復することも不可能ではないはず。

結果として回復は叶い、ソウルジェムはかなりの輝きを取り戻したのだが。
織莉子としては空腹時にドッグフードを食べた人間の気持ちを理解した気がしてしまった。



ともあれ、あとは同行者のアリスの都合を見て出発するだけ。

アリス。
暁美ほむらの同行者であり、その彼女を実質手に掛けた自分は彼女にとっては仇ということになるはずだろう。
なのにこうして同行することにも特に顔色一つ変えることなく了承した。

不思議な子だと思った。
もし立場が逆であったなら、少なくとも自分にはそこまで割り切って考えることなどできないだろう。
実際に自分はキリカを殺したセイバーには未だわだかまりを残しているのを、彼女とは関わらないことで誤魔化している。

ほむらの件もあり接触はあまり望ましくないと考えていたが、こうしてみると興味が湧いてくる。
せっかくの機会でもあるし、少し彼女の人となりを知っておくのもいいだろう。

そんなことを考えていた時、ようやくアリスが出発のための待機場所としておいた遊園地の入り口に現れた。

その手に真っ黒な毛並みの猫を連れて。

「その猫は?」
「ここに来てからずっと一緒にいたんだけど、ほむらが死んだ時にあの子の傍に居たがってたみたいだから置いてきてたのよ。
 それがちょっとここの中で見かけたから追いついてきたんだって思って捕まえてきたの」
「…そう」

ふと、その猫を凝視する織莉子。
その瞳は、細く鋭い視線を猫に向けていた。




447 : 変わりたい少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:00:55 x.8Mv6YI0
遊園地から暁美ほむらの遺体を安置した場所まではそれなりに距離がある。
無論アリスの能力を使えばすぐなのだろうが、それでは織莉子やポッチャマは連れて行くことができない。
まだゼロの生存が確認されている以上下手に単独行動は危険だろう。
そうして、アリスはポッチャマを伴い、猫を抱きかかえた状態で織莉子の隣を歩いていた。
ポッチャマは歩かせて猫を抱きかかえているのは聞き分けがあるかどうかの問題だとか。

道中歩む二人だが、その歩みは静かなものだった。
元々人付き合いの少ない二人、あまり会話に華を咲かせるような柄でもなく。
まあ敢えて言うなら、織莉子は他人に拒絶され、アリスはその気性から人を遠ざけがちという点で違いはあった。
そして、その違い故か、先に音を上げたのはアリスだった。

「…なーんかこの空気嫌なんだけど」
「あら、もっと賑やかに過ごす方が好みだったかしら?」
「そこまでは言わないけど、あんたが出してるお高く止まって他の人たちのことを気にしてません、みたいなそういう空気よ。
 流石に面と向かってその雰囲気出されたらちょっとクるわ」
「…そんな空気、出してた?」

アリスの言葉に、織莉子の脳裏をふと過ぎる人物がいた。
もはや織莉子にとっては意味を無くしていた学校生活。父の一件以降多くの人が自分のことを遠巻きに避ける者ばかりの中で、たった一人面と向かって話しかけてきた少女がいたことを。

「一ついいかしら。あなた、いわゆるお嬢様系の同級生に対して邪険に扱われてるってことない?」
「え、何で分かったの?」
「いえ、何となくよ。
 いいわ、お話をしてあげる。聞きたいこと、なんでもどうぞ」

アリス側からするとほむらの一件でわだかまりを感じている様子ではあるが、実際のところ織莉子としてはアリス本人にはそこまで悪印象はない。
たった今思い出した、そのかつて同級生でもあった一人の少女と同じような印象だ。

それでも突き放そうという印象を出していたのであればそれは自身の問題だろう。

「あんた、世界を救うために鹿目まどかを殺す、って言ってたわよね。
 どうしてそんなことをしようとしてるのよ」

いきなり核心近くに迫ろうとするアリス。
本来であれば答える義理はないし答えるわけにもいかないことだが。

チラリ、と視線を下げ、少し思案した後応える。

「それが私の成すべきことだと、そう思ったからよ」

おそらくアリスが聞きたいのはそういうことなのだろうと。

「あなたは私がお高く止まっていると言ったけど、実際私はそうだったんでしょうね。
 政治家の父を持ち、それに私も恥じないように努力を続けて自分を磨いてきた。だからたくさんの人に尊敬された、そう思っていた。
 だけど、その父が汚職の疑惑を受けて自殺して、それ以降皆が私を見る目が変わった。まるで厄介者を扱うかのように見られるようになっていった。
 私は絶望したわ」
「手のひらを返した周囲の人間に?」
「いいえ、その周囲の人間に父を通してしか見られていなかった、美国織莉子個人じゃなくて優秀な父の娘としてしか見られていなかったことによ」
「………」
「私は何故生きているのか、私の価値はどこにあるのか、知りたかった。
 それで契約した私は、この未来視の能力で見たのよ。世界が滅びる未来を」
「…なるほどね。だいたい分かったわよ」

あくまでも受けた印象の話だが、確かに彼女とほむらは相容れないものだろうとそう感じた。
そして、その根幹に近しいものがあるようにも。


448 : 変わりたい少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:01:24 x.8Mv6YI0
「ねえ、私なんかが聞くのもちょっとおこがましいかもしれないんだけどさ。
 あんたたち魔法少女ってそういう、何ていうかこうもっと真っ当な生き方をしてる人っていないの?」
「どうかしらね。私の知る限りだと、千歳ゆまは親に虐待されてたし、キリカもどこか壊れているっていう感じだったし。
 まあ探せばいるかもしれないけど、奇跡を求める子なんてそんなものだし、そういう子を狙うのがキュゥべえのやり方なのよ」
「ふぅん…」

相槌を打ちつつも、アリスの中には一つの気持ちが芽生えていた。
この魔法少女をもっと気にかけなければならないという思い。
もしかするとそれは、この魔法少女と話す中で感じた、どこかしらほむらに似通った雰囲気のせいだったのかもしれないし。
あるいは彼女の絶望の中に、かつて守ろうとした少女に重ねていた想いに最期の時まで気付けなかった引け目からくるものだったのかもしれない。

「さて、じゃああなたの話を聞かせてくれないかしら?私ばかり話しているのも不公平よ」
「…別に面白いものでもないけどね。元々私って、戦争孤児だったのよ」
「………、いきなりハードな話ね」

戦争に巻き込まれ家族を失ったこと、その後ブリタニアの特殊部隊の一員となって実験の末にギアス能力を得たこと。
アリス自身には自覚がなかったが曲がりなりにも戦争のない平和な国で多くの時を過ごしてきた織莉子には刺激が強い話だったようで、織莉子の顔色が若干曇っていった。

「…あなたはそんな世界をどうにかしようとは思わなかったの?」
「力を持ったって、逆に世界の広さを思い知らされるだけだったもの。
 それに、妹一人守りきれなかった私が世界なんてどうにかできるわけがない。
 ただできたのは、私が大切だと思った人の世界を守りたいってことだけ」
「それで、守れたのかしら?」

正直、これは織莉子自身意地の悪い問いだと思った。
アリスが守りたかった少女は既に放送で名を呼ばれている者だった。
この問いかけではまるでその気持ちに鞭を打とうとしているかのようにも見えたかもしれない。

「…私ね、ナナリーの最期を見届けた時に言われたの。
 自分を殺した相手、間桐桜って子に、もっと綺麗で素晴らしい世界を見せてあげて欲しいって。
 ナナリーがあの子と何を話して何を知ったのかは分からない。
 だけどナナリーの想いだけは叶えたいし守り抜きたいって思ってるから。あの子のために」
「全く、何で戦争で戦ってたような兵士の子が、そんなものを信じられるのかしらね」

織莉子には、優しい世界など信じることができなかった。
世界を救おうとしているといっても、それは自身の願いのため。救う価値があるか、といった類のそれは別に当たるものだ。

アリスのそんな点は羨ましいと思うところがあった。

「だったらさ、探してみればいいんじゃない?
 あんたのことを知らない人ばかりのところに行って、色んなものを見たりして」
「そうね。その時に私の世界が滅びていなかったら、ね」

一瞬絆されそうになった織莉子だったが、そこは譲ることができないものだった。
例えここにいる鹿目まどかをどうするかに猶予を与えたとしても、滅びが見えた世界にいる住人としてそれだけは譲ってはいけない部分だった。


ともあれ織莉子としては彼女の人となりを把握できた。
強い意志を持ち、大切なものを失って尚も正しくあろうとしている。

ならば、彼女は今から自分がしようとしていることに対しどう反応するだろうか。


449 : 変わりたい少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:01:42 x.8Mv6YI0


遊園地から離れてそれなりに時間が経つ。
草地を抜けて、地面は砂で舗装された道がポツポツとある程度。
見晴らしはあまり良くはない。高低差が数百メートル感覚であるのか、地平線までは見えない。
しかし周囲に障害物はない。小さな生き物が隠れられるような場所も、無論ない。


「ねえ、アリス。あなたのバッグに入っている水を貰ってもいいかしら?私の分、ちょっと切らしてしまってて」
「え、水?もっと早く言ってよ。遊園地出る前とか……よいしょ、っと」

織莉子の頼みに、猫を地面へと置いてバッグに手を突っ込むアリス。

アリスの視線が反れた一瞬、織莉子の瞳の色が変わる。
その瞳は魔力を費やし、ほんの少し先の未来を見る際のもの。

「ん?織莉子?!」
「ギニャッ!!!」
「ポチャ?!?」

織莉子は作り出した水晶を猫に向けて射出。
しかし猫はギリギリのところで回避。同時にアリスは魔力の気配を感じ取って織莉子の方へと向く。

「ニャアッ!!」

慌てて猫はアリスの腕の中へと潜り込む。

「織莉子!あんた何してんの!?」
「…どきなさいアリス。その猫、ただの猫じゃないわ」
「どういうことよ」
「そもそもあなた、おかしいとは思わないの?そのポッチャマや私の連れたサイドンのようなポケモンでもないただの猫が、支給品に混じってこんなところにいるのよ?
 それも今現在誰もその出処を知らない、誰かのものでもない猫が」
「それは、ただのハズレの品ってだけじゃないの?」
「ええ。だとすれば私としては邪魔になるだけ。あなたには悪いけど、ここで処分させてもらおうと思ったのよ」

アリスがその行動に抗議しようと口を開くより早く、畳み掛けるように織莉子は言葉を続ける。

「今、私は確かに見たわ。その猫の体を砕く未来を。
 だけど、その猫は私の攻撃を確かに回避した。
 私はこれまで色んな未来を見たわ。ポケモンの攻撃や、サカキさんのニドキングの死も。全部例外なく当たった未来よ。
 何故その猫だけ例外なの?」

アリスの猫を見る目に、僅かに疑惑が混じり始めた。

織莉子の言葉にはハッタリが含まれている。そもそも未来に誤差が生じたことはこれまでに全く無いわけではなかった。
もしかすると先の一発は偶然その誤差を引き当ててしまっただけの可能性もある。

しかしそれでも疑惑を強め、アリスにもそれを伝達していけば、猫に対する対応も変わるだろう。
例えば、もし猫に意志があったとしたらどうだろう。

「猫、もし答えられるのなら私の呼びかけに答えなさい。
 答えないというのなら、このままこの猫は殺させてもらうことになるわ」

猫がゆっくりとアリスの手から降りる。
抱きかかえていたアリスの腕も、今の織莉子の疑いの言葉からあっさりと解ける。

逃げ場はない。離れるよりも織莉子の水晶が体を撃ち抜くのが早いだろう。そのためのこの遮蔽物のない場所だ。
しかし、猫は数メートルの距離をとったところでこちらに振り返る。


450 : 変わりたい少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:02:01 x.8Mv6YI0

その瞳は、織莉子に見覚えのある赤い色をしていた。

「全く、やはり君という人間を少し見くびっていたみたいだよ、織莉子」
「…?!」
「やっぱり、というほど想定はできていなかったけど意外というほどでもないわ。
 ――――やはりあなたが関わっていたのね、キュゥべえ」

驚くアリスを尻目に、脳内に直接話しかけるかのような声に応える織莉子。

キュゥべえ。
その名はアリスもほむらから聞いている。年頃の少女に契約を迫り魔法少女を生み出す存在。
しかし、何故それがここにいるのか。

「ちなみに意外ってほどじゃないとは言うけど、君は最初からそう思っていたわけじゃないよね。いつからそう思っていたんだい?」
「Lに主催者はまどかと私の関係を知っていると言われた時よ。正直そこに意識が向かなかった私を罵倒したいくらい。それだけならまだ確証ってわけじゃなかったけど。
 ついでに言うならあなたに呼びかけたのもカマかけのようなものだし」
「やれやれ、僕はまんまと誘き寄せられた、ってところか」
「…あなたは」
「はじめましてだね、アリス。僕の名前はキュゥべえ。ほむらが随分と世話になったみたいだ」

悪びれることもなくアリスに自己紹介をするキュゥべえ。
織莉子は早足で猫に歩み寄り、その首を掴んで逃走を封じる。

「逃げはしないよ。じゃなきゃこうして出てきたりはしない」
「ほむらは知ってたの?あんたが、黒猫がキュゥべえだって、最初にあんたを見た時から」
「たぶん気付いてはいなかったんじゃないかな。ほむらはどうも鹿目まどかとの思い出の中に一匹の黒猫がいたみたいだから、それとこの体を重ね合わせたんだろう」

つまりキュゥべえは意図せぬこととはいえほむらの思い出を利用していたということか。
それを悪びれることもなく淡々と言う姿には怒りを覚えずにいられないアリスだったが、ほむらが知らなかったのであれば織莉子にはそれ自体はどうでもいいことだった。

話を進めていく。

「それで、こうして出てきたということは話してもらえるんでしょうね。あなた達が何をしようとしているのか」
「まあ生存者もだいぶ減ってきたし、知っても問題ない頃合いだろう。話せる範囲のことなら教えてあげるよ」

「まず殺し合いの理由についてだけど、大筋はシロナが言っていた、アカギの目的のためで正解だよ。
 彼の望む世界を作るために僕やもう一人の協力者の力で皆に戦ってもらって、因果を結び合わせ、集まったエネルギーをもって世界を作り出す。
 それが殺し合いの目的だよ」
「そのために鹿目まどかを犠牲にしてもいいの?」
「彼女の力は確かに前代未聞だ。だから僕としてもまどかが生きていてくれればそれに越したことはないんだけど、儀式の過程で命を落としてしまうならそれはそれで仕方のないことさ」
「私をその中に混ぜたのは意図的なもの?」
「因果を結ぶ、それは同じ軸に存在しながら異なる世界にいる者たちのものを絡ませ合うことでより大きな力となる。
 その点ではまどかと深い縁を持つ君の存在はいいものだったよ。
 少し手の力を緩めてくれないかな。子機が壊れたら僕の言葉も届かなくなる」


猫を放り投げる織莉子。これ以上掴んでいれば握りつぶしてしまいかねなかった。
同時にアリスがポッチャマに指示を出し、水の渦に包み込むことで猫の移動を封じた。
壁が音を遮りかねないものだが、テレパシーで話しかけてくるこの生き物には不要な心配だった。


451 : 変わりたい少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:03:14 x.8Mv6YI0
「やれやれ、ここまでしなくても話が終わるまでは逃げはしないのに」
「話を続けるわ。ならキリカやほむらが魔女にならなかったのはあなた達の仕業ね?」
「そうだよ。魔女となってしまうとその魔法少女の因果自体を全て消費しきってしまう。
 意志も持たないただの化物には、そこから因果を生み出し結ぶことなんて起こりえない。そんな存在にせっかく集めた参加者を浪費されてはもったいないからね」
「なら、何故巴マミは魔女になったの?」
「それは正直想定外だったんだけどね。言ってしまうと暁美ほむらのせいなんだよ」
「…どういうこと?」
「彼女は元々多くの並行世界を渡り歩いていた。君の世界もその一つだったんだろう。
 この会場には並行世界を自身の経験・能力で集められる前から明確に認知している者はそうはいない。そうした者達は参加者の中でも特異点と呼ぶにふさわしいほどの因果を備えている。
 その彼女が死んだ時に、どうやらその因果が解放されて会場に少なからぬ影響を与えてしまったみたいなんだ」
「そんな言葉を信じると思っているの?」
「信じる信じないは君たちの勝手さ。ともあれ僕に言えるのは、これからはある程度君たちにかけた枷が外れた状態での殺し合いになるってことだ。
 もしかすると君がソウルジェムを濁りきらせた際には魔女を生み出す可能性もある」
「あなたの言葉が真実と仮定して、一つ聞くわ。何故それを私達に説明したの?」
「ほむらの体を僕たちがその現象を起こした事実に対する研究材料として回収したからだよ。
 もし君たちがほむらの死体が無いことに気付いたら彼女の生存、ないしは放送内容の真偽自体を疑い始めるだろう?
 それは流石に進行に差し支える。例外中の例外な事態だ、ある程度の説明はしておくべきだと思ってね」
「そう。分かったわ、それじゃあ、死になさい」

一通りの情報を引き出し終えた織莉子は、水晶を猫へと向ける。
放たれれば、猫の体を粉々に打ち砕くことだろう。

「待って。私からも一つだけ聞かせて」

しかしその織莉子の殺気を止めたのはアリスの声だった。

「あなたは言ったわね。世界を創造するエネルギーを集めるために殺し合いをしてるって」
「まあ、それはアカギ達のものであって僕の目的はそうじゃないんだけどね」
「なら、最後の一人になったらどんな願いも叶えるって言葉、あれは嘘だってこと?」
「嘘じゃないさ。最後の一人にさえできたならば世界を創造する因果も携えられたってことだ。
 ならその副産物として、その一人が持つ願いを叶える程度のことはしてあげられるよ。
 もし信じられないというならこう考えてもらったら良い。
 僕たちは魔法少女が契約時に生み出すエネルギーを奇跡に変換している。それの応用がより大規模にできるものだってね」
「そう、それを聞いて安心したわ」
「そうかい。じゃあ、そろそろ話も終わったことになるし、僕を――――」

キュゥべえの言葉は最後まで口に出されることはなかった。
織莉子の目に届かぬ速度で自分の後ろからキュゥべえの背後までいつの間にか移動していたアリス。
そして猫のいた場所は黒いエネルギーの渦のようなものがあり、猫の姿は掻き消えていた。
エネルギーの出処を魔力探知で探ってみると、それはアリスの手の内から放たれていた。

「…あなたが無差別に人を殺めるような人じゃなくて本当に良かったと思ったわ。私の未来予知も追いつかないんだもの」

アリスが魔女の力を受け継いだ際に得た力の副産物、対消滅攻撃によりキュゥべえの変化していた動物は完全に消滅していた。

「でもよかったのかしら。正体はどうあれ一緒に行動していた動物だったんでしょう?」
「これは私自身のけじめみたいなものよ。ずっと一緒にいて気付けなかった愚かな自分の、ね。
 ああ、でもやっぱり癪に障るわね。ほむらもずっとあいつに騙されてたってことだし」

目を細めながら言うその言葉の端々には怒りが感じられる。
ただ、織莉子はふとその点においては僅かに疑問を持っていた。


452 : 変わりたい少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:03:31 x.8Mv6YI0

元々鹿目まどかを殺すための最大の障害として警戒対象であったほむら。
実際に顔を合わせたのはこの殺し合いの場が初めてであったが、いくら思い出を利用されたと言っても果たしてあの子が本当に最期までこの猫のことに気付かなかったのだろうか。
この疑問自体、織莉子のほむらに対する評価が間違っていなかったということを言いたいだけのものであり根拠があってのものではないのだが。

故に口に出すことはしなかった。

「それで、あんたはどうするのよ。こんな話を聞かされた後だけど」
「別に、行動としてはどうもしないわよ。ただ方針は少し変えさせてもらうことになるけど」

この場所で鹿目まどかを殺すことには意味はないのだろう。逆にLが言ったように主催者の思惑通りということになる。
遊園地を離れて尚も迷いがあった方針だが、ここに来てようやくそのやり方を飲み込むことができた。

ならば自分がするべきことは一つ。
ここから抜け出すために皆の力を借り、協力していくこと。

抜け出した後で鹿目まどかをどうするかは今は考えない。自分がここに連れてこられたことで今より良くなっているのか悪くなっているのかも今は意識しない。
ただ、キュゥべえの思惑だけは乗らないようにしたかった。

「さて、とりあえずポケモン城への道へと向かうのでしょう」
「そうね、だけど」

と、織莉子はふと空を見上げる。
そこには宙を飛ぶ巨大な戦艦の姿があった。
L達が乗ってくるという予定のアヴァロンであればここにいるのはルートがおかしい。きっともう一隻の斑鳩という方だろう。

「その前に、一仕事あるようね」

そして、織莉子の見る未来は、その戦艦から放たれる敵意をはっきりと捉えていた。



【E-6(斑鳩が視界に収まる位置)/一日目 夜中】

【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:ソウルジェムの穢れ(2割)、魔法少女姿、疲労(大)、ダメージ(小)、前進に火傷、肩や脇腹に傷
[装備]:グリーフシード×2(濁り:満タン)@魔法少女まどか☆マギカ、砕けたソウルジェム(キリカ、まどかの血に染まっている)、モンスターボール(サカキのサイドンwith進化の輝石・ダメージ(大))@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、ひでんマシン3(なみのり)@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:何としても生き残り、自分の使命を果たす。
1:この殺し合いをどうにかすることを優先。
2:鹿目まどかに対することは後回し。
3:魔力回復手段が欲しい。
4:優先するのは自分の使命だが、他の手段があるというなら―――?
5:もっと他の人を頼ってもいい?
6:斑鳩に対し警戒。
[備考]
※参加時期は第4話終了直後。キリカの傷を治す前
※ポケモン、オルフェノクについて少し知りました。
※ポケモン城の一階と地下の入り口付近を調査しました。
※キュゥべえが協力していることはないと考えていましたが、少し懐疑的になっています。
※マジカルシャインを習得しました。技の使用には魔力を消費します。

【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:ダメージ(小)、ネモと一体化、喪失感
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(9+1発)@現実、ポッチャマ@ポケットモンスター(アニメ)、双眼鏡、 あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。
1:ナナリーの騎士としてあり続ける
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:今は美国織莉子と共にほむらの亡骸を調べに行く。その後ポケモン城へと向かう。
4:ほむら……
5:美国織莉子を警戒。しかし警戒心自体は少々軟化している
最終目的:『儀式』からの脱出、その後可能であるならアカギから願いを叶えるという力を奪ってナナリーを生き返らせる
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※アリスのギアスにかかった制限はネモと同化したことである程度緩和されています。
魔導器『コードギアス』が呼び出せるかどうかは現状不明です。


453 : 主人公になれない少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:04:12 x.8Mv6YI0
自分には友達といえるものはいない。
もし言えるものがいたとしても、通り過ぎた時間の中に全て置き去りにしてきたものだ。

そのはずなのに、何故だろう。
今目の前にいる少女とはとても親しい仲だったように思えた。

この日は、何かの記念日だろうか。まどか達への贈り物をするはずだったのに、それよりも優先して自分はこの少女に会いに来ていたようだ。

しかし目の前の様子は、ただ遊びに来た、などという状態ではなかった。

真っ赤に染まった衣服、濁りが止まらぬソウルジェム。

やがて、少女は語り始める。もう自分の運命が分かっていたのだろう。

その女の子は、自分が変わりたいと望んでいた。
しかし、魔法少女となっても、世界も自分も何も変わらなかった。

多くの人の中では特別な何かになれても。
魔法少女の中ではただのいち魔法少女にすぎない。

少女は血まみれの体で、1つの絶望に身を焦がしながらそれを実感していた。

いや、と少女は思い直す。
きっと変われなかったのは自分の方なのだ。
もしキュゥべえに「主人公になりたい」と、そう願っていれば、何か変われたのだろうか、と。

答えなど分からない。今その身にあるのは、絶望を抱えたまま、その生命を弱めていく愚かな魔法少女。

諦めないで、と私は叫ぶ。

だけど、結果は見ての通り。

目の前の少女は、絶望を撒き散らすだけの存在に変わり果てていく。

知らないはずの相手なのに何故だろう。その光景に、とても悲しみを覚えていた。



「………」

目を覚ます。
いや、そもそも今自分は眠っていたのか。

「…私、どれくらい寝ていた?」
「眠っていたのはだいたい10分くらいね」

小さなテーブルを挟んだ向かい側に座っているのは桃色の髪を左右に結んだ少女。

「アカギの気にでもあてられて疲れていたのかしら。
 眠るのが嫌ならコーヒーでも飲んでおくといいわ」

監視役の少女、アーニャは自分の前に置かれているカップをこちらに出した。

「……」
「別に心配しなくても変なものは入っていないわ」

遠慮したいところだが、また意識が飛んでしまうのも避けたい。
かといって自分が入れ直すのも印象が悪い。別にそれ自体は構わないが、悪印象を残したままでは情報を引き出す際の空気に差し支えるかもしれない。
こういうところの不器用さはなかなか変われないのが自分でも鬱陶しい。

カップを口元に近づける。
ふわりと香ばしい苦味を含んだ香りが広がるのを感じる。その中には怪しい異物の臭いはない。
こっそりと魔法を使って強化した知覚で感じ取れない。臭いからは何もないものだと判断していいだろう。

カップを口につける。


「どうかしら?」
「…美味しいわ」

異物が体に入った感覚はない。ただのコーヒーだという判断は正しいだろう。

ゆっくりとすすりながら、意識が飛ぶ前までの記憶を整理する。


454 : 主人公になれない少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:04:51 x.8Mv6YI0


放送が始まる少し前辺りの時間。

軟禁状態の部屋に座り込むほむらの元に、アカギが来るということをアーニャの口から告げられた。
ほむらは、これはチャンスではないかという思いがあった。

アカギがどんな人物なのかは知らない。何が望みなのか、何をしようとしているのかもはっきりと知っているわけではない。
だが、人間である以上インキュベーターよりは信じることができるはずだ。
この場にインキュベーターはいない。もしも彼とのコンタクトを通して今の自分の力を売り込み、彼らと対等な立場として受け入れてもらえれば。
この寝言とも言われかねないほどに大きな、果てしない望みに対して希望が持てる。

果てしない望み。過去救えなかったまどか、未来にも救えないはずのまどか、その全ての救済。

この接触が、望みの成就への第一歩となる。
今思えば、この時の自分の中には若干の驕り、そして焦りがあったのかもしれない。

意図せずとはいえ強大な力を身に宿したことへの驕り、得体の知れない力で本当にまどかの救済が叶うのかという焦り。
相反する二つの感情を秘めたまま、アカギと相対した。

アカギを視界に収めたところで、それらを心の奥に仕舞い込んで如何にも余裕があるような口調で振る舞った。

「…そろそろ放送でしょう。こんなところに来ていいのかしら?」

時計を見てそうほむらが言った時、放送が始まっていた。
どうやら今回はアーニャが代理として行っているらしい。

放送を告げている間、アカギはこちらをじっと見るだけで何かをする様子も話しかける気配も無かった。
今流している放送を聞かせようという配慮か、あるいは本当にただこちらを見ているだけなのか。

放送が終わった辺りで、アカギの目が静かに動いたのを見たほむらはずっと考えていたことを口にした。

「ねえ、私と取引をしない?
 あなたは私…の体にあるギラティナ、だっけ、の力が必要なんでしょう?
 もし私をキュゥべえ達と同じ位置においてくれるなら、力を貸したいと思うのだけど」
「……」

こちらをじっと見ているアカギに対し、ほむらは彼が興味を持っていると踏んだ。
興味を持っているのならば、交渉へと踏み込むことも可能だろう、と。

アカギの目がさらに動く。しかしそれはこちらの声に反応したというよりはこれまでの動きの流れによるもののように見えた。
ただ声に偶然重なって動いただけの、機械的な冷たい動き。

やがて、静かに口が開かれ、感情の篭っていない言葉が短く告げられた。

「まだ足りない、か」

それだけ呟いて、アカギはこちらに背を向けて歩き出した。
期待も失望も、何も分からぬその口調にほむらの中にあった焦りが急に大きくなり溢れ出してしまった。


「…!ま、待って!!
 足りないって、何が足りないっていうの!
 今の私に―――」

ここの機会を逃せば次にアカギに対面できるのはいつになるか分からない。
焦る気持ちのまま引き留めようとするようにアカギの肩を掴み。

その瞬間こちらを向いた、苛立ちと嫌悪を潜ませたような鋭い視線に気圧されていた。

ほむらは手を引き、そのまま動くこともできずに出ていくアカギを見送るしかなかった。



何が足りなかったのか。
何がアカギの気に障ったのだろうか。

何か重大なミスを犯してしまったのか。

思考が堂々巡りに入るうちに、気がつけば意識が飛んでしまっていた。

しかし目の前のアーニャにそのことを聞くわけにもいかない。
別の話で場を保たせよう。


455 : 主人公になれない少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:05:24 x.8Mv6YI0
「放送の内容だけど、もう一度教えてくれないかしら。聞いてはいたんだけど整理がしきれていなかったから」
「いいわよ。何なら放送から今までの起こったことも聞く?」
「ならついでにお願いするわ」

そうして前回の死亡者、禁止エリア、そして今現在までの起こったことをアーニャから聞くほむら。

(…皮肉なものね。まさか私達魔法少女の中で最後に生き残ったのが、美樹さやかだなんて)

巴マミは魔女化し、最期は乾巧に討たれたという。
聞けば殺し合いが始まってからの彼女はあまりに波乱万丈な道を歩いていたらしい。そして最期は失ったものに絶望し心が壊れたのだろう。

対してさやかはそんな彼女や木場勇治と戦う乾巧の姿を見て自分が歩むべき道を確立させ、村上峡児を倒したという。
多くの時間軸で最も運命に翻弄された魔法少女がよくここまで強くなったものだと関心した。

一方で自分が敗北した織莉子は、まどかの命を狙おうとしたがその近くにいた者達に懐柔され、今はアリスと共に行動しているらしい。
だが今更敗北した織莉子に対し思うところなどない。

「それにしても、ずいぶんと調子悪そうね。何か変な夢でも見た?」
「夢…なのかしらね。あれは」
「よかったら聞かせてくれない?私、夢占いとか得意なのよ」
「…私のことは…知ってるのよね。どうせ。
 私の繰り返した時間の記憶じゃない、でも私が体験したかのようなものを見たのよ。
 一人の魔法少女が、変われなかった自分に絶望する姿を私が見ていたって、ただそれだけ」
「なるほどねぇ」

少し考える素振りをして、アーニャは語り始める。

「夢っていうのはだいたいが深層意識にある願望を見せる、とかそういうことが言われているけど。
 たまに予知夢のような、知らないはずのものを見せることがあるわよね。あなたはその子のことを知らないなら、そういう可能性もあるけど―――」

と、アーニャは気持ち悪くも感じるような満面の笑みを浮かべて告げる。

「別の方向性から語るとね、例えば殺し合いの参加者には主従関係を持っていて、互いの記憶を夢を通して見ることがあるらしいのよ。
 まあそういう意味で言うなら、あなたの場合は平行世界の因果、とかかしらね」
「………」
「因みにその因果だけど、この場所はエデンバイタル――有りていに言えば平行世界に繋げられる門にかなり近いからそういうこともあるのかなとは思うんだけど。
 でもそう簡単に繋がるものでもないのよね。
 あるとしたら、ギアスユーザー同士の接触か、あるいはエデンバイタルと同等の神の力に直接触れたものか…」
「神の力…、もしかして…」
「それも、ただ触っただけじゃない、例えばあなたの場合、力を使いこなせるようになってるくらいにならないと、その領域は見えないのよね」
「……」

誘導されている、と思った時にはどうやら手遅れだったようだ。

「そっかー。どこまで共感していたのかは分からなかったけど、そこまでの段階にいっていたのね」

答える術に悩んで沈黙してしまったことが、確信付かせてしまったようだった。

ほむらの背に冷や汗が流れる。
あのポケモンと既に意識の共有ができるくらいには繋がっているということは隠し通しておきたかった事実だ。
これがバレてしまえば、情報アドバンテージを得ることができなくなるどころか、今の緩めの軟禁状態から更に厳しい監視が付きかねない。
そうすれば今後の行動に大きく関わる。


456 : 主人公になれない少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:07:22 x.8Mv6YI0

「………」
「ふふ、油断してたわね。自分にも把握できてないようなことはあんまり口にしないほうがいいわよ。特に信用していない相手には」

笑顔で笑いかけるアーニャ。その笑みが逆に不気味に感じられた。
歳相応にも見える屈託のない笑顔なのに、その裏の得体のしれなさがほむらにもはっきりと分かるほどだった。

少なくともアーニャにはバレたことになる。
もしこれがキュゥべえの耳にでも入れば。
自分の力がアカギに見限られたのではないかと思ったあの時と同じくらいの焦りがほむらの中に湧き上がる。

「ずいぶんと焦ってるわね。でも隠せてると思ったの?たぶんアカギなら気付いてるわよ。
 だってあなたのそれと同質に近い力を持ってるんですもの」
「……」
「まあ安心しなさい。別にキュゥべえに言おうという気はないわ。あの子はたぶんまだ気付いていないし」

ほむらの警戒心を空振りさせるかのようなことを言ってのけるアーニャ。
その答えはほむらには良い知らせだったはずなのだか、ほむらの中に生まれたのは安堵より疑念だった。

「言う気はないって…どういうこと?あなた達は協力関係にあるんじゃないの?」
「ん〜、協力関係っていうのも少し違うのよね。どっちかというと共犯関係というか。
 一つの目的のために各種の持ち得ている技術を出し合ってる関係なのよね」

アカギは伝説のポケモンの力を。
アーニャ達はエデンバイタルの力で並行世界のアクセスと会場の時間・空間の安定化を。
キュゥべえは感情エネルギーや因果の収集を行う機能を。

各々の得意分野で補っている。

「だけどね、正直私達やアカギに比べたら、キュゥべえは少し頑張りすぎてるのよ。あなた達のところに干渉したり、自分で会場に分身を置いたりね。
 どうしてか分かるかしら?」
「……力がないから?」
「正解。あの子だけ並行世界に繋げる力がないの。
 だから私達は万が一この儀式が失敗すればまた次を狙えばいい。
 だけどキュゥべえだけは違う。もしかしたら自分はその時には捨てられる、処分されるんじゃないかって考えてるんじゃないかしらね。
 まあ、実際にシャルル達がどう考えてるのかは分からないけど、だから今回の儀式を何としても成功させないといけないって他の皆よりも頑張っちゃってるのよ」
「実際はどうなのよ。利用するだけ利用して捨てるなんてことを考えていたりするの?」
「それはアカギに聞かないと分からないわ。だけど彼の考えてることは、正直私にも読めないから。
 だけど、アカギを見たあなたなら分かるでしょう?あの人すごく分かりにくいから」

思い出すのは、アカギに向けられたあの冷たい視線。
キュゥべえは感情がないと言っていたが、もし彼もあの眼に当てられて焦りを生じさせたとするなら滑稽なものにも思えた。


アカギは伝説のポケモンの力を手中に収め、アーニャ達はエデンバイタルなる神々と繋がっている。
一方でキュゥべえ、インキュベーターは一つの世界の中では大きな存在ではあったが、並行世界へのアクセスが可能な存在ではない。

それ故に会場の空間遮断の機能やエネルギー収集装置など多くのものを作り出し、この儀式自体は自分の存在なくしては進行が滞るよう不可欠なものとしている。
だからこそ、この儀式が失敗してしまった時のことを他の誰よりも強く警戒しているのだという。

「一つ……いえ、幾つか聞かせて欲しいのだけど。
 まず一つは、あなた達は同じ目的のために手を組んでいるのではないの?」
「目的というと語弊があるのよね。殺し合い自体はあくまでも手段。
 キュゥべえはエネルギー収集のために、アカギは感情のない静寂な世界の創造のために動いているのよ」
「あなた達はどうなのよ」
「シャルルは……どうしてなのかしらね。もう既に私達の願いは終わったのに、あの子達まで巻き込んでこんなことを」

一瞬物憂げな表情を浮かべたアーニャ。
その様子を見てこれ以上入り込もうとするとややこしい部分に足を踏み入れると直感したほむらは咄嗟に話を切り替えた。


457 : 主人公になれない少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:07:43 x.8Mv6YI0
「…ともあれ、その定義でいくならキュゥべえはあなた達の中では一番下の扱いってことになるのかしら」
「そういう定義付けはないわね。彼自身がどう思っていようとあくまでも私達の立場そのものは同志という扱いよ。
 敢えていうならアクロマが一番下扱いになるのかもしれないけど、彼は自分が興味のあることしか興味を持たないから」
「そう。ならもう一つの質問よ。
 何故あなたはそれを私に話したの?キュゥべえに対する裏切りにはならないの?」

本来であれば情報が得られたことは喜ばしいものだが、その理由が読めなかった。
もしかするとさっき自分から情報を引き出したような、何かしらの意図があるのではないかとほむらが疑ってしまうのも無理はない。

「裏切り、そうね。確かにキュゥべえに対してはそうかもしれない。だけどもしそれが儀式全体の利になるならシャルル達への裏切りにはならないわ。
 それと、シャルルは理由があってこの儀式に協力している。だけど私には理由がないのよ。シャルルがいるから私も力を貸しているだけ」
「……」
「私ね、あなたに期待してるのよ。というか気に入ったと言ったほうがいいかしら。
 それに実を言うとキュゥべえのことは個人的感情としてはあまり好きじゃなかったりするのよね」
「個人的感情で動いてるっていうの?」
「あら、あなたの願いだって個人的感情、どころかあなた自身のエゴに近いものじゃないのかしら」
「…だからよ」

要するにただの自己嫌悪だ。


「ふふ、ずいぶん可愛い子ね。そういうところ、私嫌いじゃないわよ」
「……」
「キュゥべえには黙ってあなたに協力してあげてもいいわ。
 もしあなたの願いが、世界の可能性を、キュゥべえ的にいうならエントロピーを凌駕するものだったなら、あなたの力はきっと私達にとっても益になるものだから」
「……」

とても信じられる話ではない。
しかし接触を図ってきたこの事実には意味がある。
例え罠だとしても、乗る価値はあるかもしれない。

だが。

「私があなたを裏切るとは思わなかったの?
 聞きたいことだけ聞いて、あとはあなたを殺すかもしれない、なんて」

この時のほむらはアカギの件もあり気が立っていたこと、そして自分に植え付いた力が確かに己に根付いていることにある程度の確信が持てたことから少し冷静ではなかったのかもしれない。
目の前の少女一人、あるいは制圧することも、しようと思えば可能と、そう思うところがあったのだろう。

「そう。ところでほむら、さっきあなたの手の甲の白金玉、少し変に光っていたのだけど」
「え?」

思わず一瞬そちらに意識を向けた。
その時ふと、顔の横で少し髪が舞った気がした。

「気のせいだったわ。ところで、あなたピアスとかつけるかしら?」
「つけないわよ。何よいきなり」
「せっかく耳たぶに穴を空けたんだから、つけてみたらどう?」

そういって小さなイヤリングをテーブルの上に置く。
言葉につられて耳たぶにふれると、指先が赤く染まっている。それが血だと認識した瞬間、遅れて痛みがやってきた。

アーニャはほむらの前で、裁縫針のような小さな針をつまみながら語る。

「確かに私にはあなたみたいな特別な能力はないのだけど。でも私、これでもブリタニアでは"閃光のマリアンヌ"なんて呼ばれて恐れられてたのよ。
 もう一つの世界の私は、未来視のギアスを持つ帝国最強の騎士とも渡り合ってたし、私にも同じことができるのよ。
 もし今のがあなたの命を狙ったものだったら、避けられたかしら?」
「………」
「いくら自分が強い力を手に入れたからって、あまりそれを過信しないことね。大人からの忠告よ」
「…そうね。少しあなたのことを舐めていたわ。
 そのイヤリングは戒めに貰いましょう」

耳の出血を魔力を使って止め、小さな宝石がつけられたイヤリングをつける。
一見ただのイヤリングだ。つけることに実利的な意味があるのかと言われればおそらくないのだろう。


458 : 主人公になれない少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:07:58 x.8Mv6YI0

「それで、最初の質問の答えは?」
「そうね、乗ってあげる。だけど一つ質問させて。
 あなたの正体は何なの?」

ほむらにしてみれば目の前の少女はあまりに得体が知れなかった。気持ち悪いと言ってもいいかもしれない。

年は同じくらいのはずなのに、まるで巴マミに、いや、もっと年期を感じる相手にいいようにあしらわれている感覚は決して気分のいいものではない。
外見と印象のギャップがあまりにもほむらの認識を狂わせる。

これだけは解決しておかないと、このズレを残したまま行動すればきっとどこかで大きな足枷になると直感していた。

「そういえばあなたは魔法少女だったわね、なら私のギアス能力も感知できるはずよね。
 目じゃなくてあなた達が持ってる魔力を通して私を見てみたら分かるわよ」

ほむらは目を閉じて、アーニャを心の目で見るかのように意識を集中させた。
閉じられた視界には何も見えないはずなのに、そこに映り込んだのは長い黒髪を持つ妙齢の女性。
目を開くと、その女性が写った場所には目で見たままの少女、アーニャの姿があった。

「私もアリスちゃんと同じ、ギアス能力者なのよ。この体は私の魂が入り込んだただの器。
 納得してもらえたかしら?」
「…ええ。納得したわ」
「本名はマリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。シャルル・ジ・ブリタニアは私の夫。
 そして殺し合いの参加者、ナナリーとルルーシュの母親よ」
「そう、あなたがアリスが守りたかったって子の…」

「それでどうするのかしら。まだキュゥべえが戻ってくるまでの時間はあるわよ」
「なら今のうちに聞いておきたいことがあるわ。
 さっきあなたは私の能力であなたの正体が見えるって言ったわね。
 私の魔法少女の力に対してあなた達の使う力、一体どんな繋がりがあるのかを教えて」



「戻ったよ」

しばらく後、キュゥべえが戻ってきた。

どうやらアリス達と直に接触をし、結果あの黒猫は消滅させられキュゥべえ自身が単体で会場内に干渉をかけるのは難しくなったという。

「でもよかったのかしら、キュゥべえ。
 あなたの存在を殺し合いの参加者に知らせることになってしまったわけだけど」
「君の生存について混乱を与えてしまう方が困るからね。この段階で今更こんな希望を持つ者もいないだろうけど、放送の信用を失わせるのは好ましくない。
 そもそもキミが脱落したということは事実には違いないし」

戻ってきたキュゥべえに対して問いかけるほむら。
キュゥべえにすればこの事実を告げることはあの黒猫の端末を失うことよりも重要であったらしい。
いや、自分が一度死んで今ここにいる以上あの端末自体がもう役割を失っていた、と言うべきだったのかもしれないが。

「アーニャ、何か変わったことはあったかい?」
「特になかったわ。ね、ほむら」
「その馴れ馴れしい呼び方は止めて」
「あら、私達同年代なんでしょ?ならアリスにしたみたいに仲良くできないのかしら」

「んん?」

そんな会話を見て、ふとキュゥべえが首を傾げる。

「そういえばほむら、アカギと何かあったかい?」
「何か、っていう意図は分からないけど、何も無かったわ。
 それとキュゥべえ、話を変えるけど、少しアクロマのところに行こうと思うの。
 この体に何が起きているのか、私自身把握できてないからもう少し専門家の話を聞いてみたいと思って」
「そうか。アーニャが特に何も言わないなら、問題はないんだろうね。
 ただ、ちょっとほむら、外で待っていてくれないか。アーニャと話があるから」

「分かったわ」


459 : 主人公になれない少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:10:17 x.8Mv6YI0
「アーニャ、ほむらと何かあったかい?」
「何もないわ。少し仲良くできないかなーなんてことを思っただけ。
 ほら、体の子とも年が近いし」
「それとその口調や調子、さっき会った時と比べてどうもおかしいように思うんだけど。
 もっと無口だったと思うし、そこまで砕けた喋り方をしていたかい?」
「これは平行世界の私のものね。あっちの私はずいぶんと破天荒でいたずら好きな感じだったから。
 こっちの方があの子の警戒心を解くにはいいんじゃないかしらって思ってね」
「そういうものなのかな。よく分からないな、君たち人間は」
「そうよ、よく分からないものよ。だからこそどうにかしようって思ってるのよ。シャルルも、アカギも」

それだけ言って、アーニャは外で待っているほむらの元に向かう。

アーニャ、マリアンヌがキュゥべえを快い存在と思っていないことは事実だ。
アレが契約のために目をつける人間は年頃の女の子、やり方も人間の感覚からすれば詐欺に近いものだ。
もしその手がナナリーに届いたら、と空想してしまうと、あまり受け入れやすい存在ではない。

そして同時に、もう一つの世界の自分に対しても抱いている嫌悪感は同じだった。
いくらあれが自分と同じ存在と言われても、あれほど自身の欲深さと周囲の省みなさは同じマリアンヌとしてもあまりに醜悪で目に余るものではあった。

まあこのどちらを言ったとしても、きっと自分もやっていることは変わらないのだろうが。

だが、一方でもう一つの世界の自分のあの奔放さは見習いたいと思うところがないでもなかった。
これまでの人格としてのあの無愛想にも思えるアーニャの顔では、他者との付き合いに際しては限界があるのではと思ったこともないわけではない。

他者との付き合い。
かつて娘・ナナリーに否定されたことがあった。そして、同じことを別の世界の息子も言っていた。
自分たちがやろうとしているのは自分たちに優しい世界を作ろうとしているだけではないか、と。
他者を通じて世界を知り、未来を見ることを諦めた自分たちにより良い世界など作れるはずがない、と。

きっとアカギが作ろうとしている世界は彼にのみ優しい世界という意味では自分たちがかつてやろうとしていることと同じなのだろう。

思い出すのは、エデンバイタルの一部として分散していた自分たちの意識が収束し、あのアカギとシャルルが最初に対面した時のアカギの表情。
未来に絶望しただ自分の求める世界を作ろうと覇道を歩むあの姿勢、そして現世の何も見ていないあの虚空な眼。
それは、かつて彼と出会ったばかりの頃に見たシャルルのそれに重なって見えるところがあった。きっとシャルルもそれに気付いていただろう。

シャルルがアカギに協力する理由。
きっとシャルルは見極めようとしているのだろう。アカギが作ろうとしている世界、その歩む道の果てを。

元のマリアンヌとしての自分の死以降、現世においてはほぼ誰とも心を開いた関わりを持とうとしなかったシャルルが、その力を積極的に貸している。
かつての彼には考えにくいことだ。
もし彼自身が変わろうとしているのならば、きっと自分も変わる必要があるのかもしれない。

そのきっかけに選んだのが、あの少女だった。
ルルーシュのようにただ一人の人間が幸せに生きることを願い、しかしその歩む道はそれ以上に独善と困難に満ちている。
そしてきっと、今の自分に導くことはできないだろう。シャルルに対してのアカギのように。
なら、自分もあの子の行く道の果てを見届けてみよう。

「待ったかしら?」
「別に。別にあなたが付き合うことはないのだけど」
「いいじゃない、別に」

かつて敗北した自分は、きっと物語を動かすような存在にはなれないのだから。




460 : 主人公になれない少女達の話 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:10:33 x.8Mv6YI0

アーニャとキュゥべえが何を話しているのか。
正直自分の力を使えば会話の内容も聞き取れただろう。しかし敢えて何も聞かずにいた。

アーニャ、マリアンヌのことを信じたわけではない。
彼女に乗ることを選んだ自分の判断を信じようと思っただけのこと。

ふと思い出すのは、アーニャに言われた平行世界の自分が見た光景。
そういえば、自分がなりたかったものは鹿目まどかを守れるような存在だった。
あの最初の時に彼女に救われたように、自分も誰かを、何よりもまどかを守れるような魔法少女になりたかったんだった。

どうして忘れていたのか、などとは問わない。もうまどかを手に掛けたあの時から、目的のための手段が変わっているのだ。
自分は、アリスのような生き方はできない。
自分が自分である限り、あの時の出来事にいつまでも縛られ続ける。もしそれ以上のことを望めば、きっとあの自分のようにもっと色々なものを失うことになる。

「待ったかしら?」
「別に。別にあなたが付き合うことはないのだけど」
「いいじゃない、別に」

きっと自分には、あの時のまどかのように、誰かを救えるような、言ってみれば物語のヒーローにはなれないのだろう。

だけど構わない。
もし彼女を救うためなら。

そんなヒーローのような者に仇なす存在にも。
悪魔にもなれる。




【?????/一日目 夜中】
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康?、あかいくさりによる拘束
[服装]:見滝原中学校の制服、まどかのリボン@魔法少女まどか☆マギカ 、右耳にピアス
[装備]:はっきんだま(ほむらのソウルジェムの代用品)@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:キュゥべえ達に従うふりをして、”目的”のための隙を伺う。
1:アーニャの手を借りて行動する。とりあえずの信用はするが完全には信じない。
2:アクロマに接触する。
最終目的:“奇跡”を手に入れた上で『自身の世界(これまで辿った全ての時間軸)』に帰還(手段は問わない)し、まどかを救う。
[備考]
※はっきんだまにほむらの魂が収められており、現状彼女のソウルジェムの代用品とされています。
ギラティナを制御しているあかいくさりによってその生命が間接的に繋ぎ止められている状態です。
魔法少女としての力が使用できるかどうかは現状不明です。
※バトルロワイヤル上においては死亡扱いとなっています。
※ギラティナと感覚が共有されており、キュウべえとアクロマ達の会話を聞いていました。


※アーニャ・アールストレイム(マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア)は表面的振る舞いについては反逆のルルーシュ版の路線で行くようです。


461 : ◆Z9iNYeY9a2 :2018/04/26(木) 23:10:52 x.8Mv6YI0
投下終了です


462 : 名無しさん :2018/04/27(金) 02:49:19 d15p4aJU0
投下乙です

アリスと織莉子、お互い少しずつ歩み寄れたけどゲーチス&洗脳草加さんが近付いてきたか…
次回は激戦になりそうだ
一方主催陣営もゴタゴタし始めてきた。そういやナナナの皇帝夫婦は反逆と比べてマトモな性格だったな


463 : ◆Z9iNYeY9a2 :2018/05/13(日) 23:08:27 yOolfZOg0
投下します


464 : キボウノカケラ ◆Z9iNYeY9a2 :2018/05/13(日) 23:09:47 yOolfZOg0
これはまだ美遊、長田結花が健在であった時。
セイバーとその二人が共に行動していた時のこと。

「そういえば美遊、あなたに一つ聞いておきたいことが」
「何」

まだ少しは会話の取っ掛かりを掴んだセイバーは、この際疑問を可能な限り解消しておこうと一つのことについて問いかけた。

「私は、イリヤスフィールのことを知っています。しかし、それがここにいるあの少女とは異なる者であることも理解しています。
 ですから聞いておきたい。
 あなたにとって、彼女はどのような人なのですか?」

自分が知っているイリヤと、美遊が知っているイリヤは別人だ。しかしそれでも、どうしても自分の知る彼女と重ねて見てしまうのも事実。
だからこそ、そのイリヤに染まっていない、あくまでもあのイリヤスフィール自身を見ている者の言葉が聞きたかった。

「イリヤは、大切な友達」

そんな意図を察したのかどうかは分からないが、美遊は言葉を探るように口を開いていく。

「私がイリヤに会った頃、私は一人でやるべきことをやろうとしていた。だけど、私一人じゃできなくて、そんな時に力を合わせて戦うことになったのがイリヤだった。
 私ができない、色んなことができて、そのうちイリヤは友達って呼んでくれた。
 だけどイリヤは…色々あって戦うことが怖くなって、そんなイリヤがもう戦わなくてもいいようにって私が戦って、でも最後の敵は強くて、一人じゃどうしようもなかった。
 そんな時に、イリヤは助けに来てくれた。友達だから、って。自分が戦わないせいで、私が傷つくのが嫌だから、って」 
「……」
「イリヤは、魔術の世界とは離れた世界で過ごしてきた。だけど、だから私が持っていない強いところがあるって、そう思う」
「平和な世界を享受してきた者ならでは、の強さということですか」
「たぶん違う。イリヤだからこその、強さ」
「…何となくだけど、分かるかもしれません」

思案するセイバーの横で、ふと話を聞いていた結花が話に入る。

「私の仲間なんですけど、木場さんも海堂さんも、私よりずっと強いって思ったことがあって。
 強さとかそういうんじゃなくて、自分の意志みたいなものっていうか、やりたいことがはっきりしてるというか。
 それはきっと、色んな人と関わって好きな人とか好きなものとか、そういうものに触れてきたからなんじゃないかって思うんです。
 私には、そういうの何もなかったから…」
「そう、ですか…」

セイバーにはその強さの理由ははっきりと認識までには至らなかった。
きっとセイバー自身がそういった繋がりがもたらす強さというものに疎かったこともあるのだろう。

その後も目的地、戦闘の音が聞こえる場所までは程々に会話を交えつつ3人は歩んでいった。

セイバーがそのイリヤの強さをはっきりと認識することになるのは、彼女がバーサーカー・ヘラクレスを倒したという事実を聞いた時になる。





465 : キボウノカケラ ◆Z9iNYeY9a2 :2018/05/13(日) 23:10:13 yOolfZOg0
遊園地に迫る気配を感じたセイバーは、それがイリヤ達のものだと感知して出迎えのために遊園地前に出た。

「さやかちゃん!!」

横には、親友の安否を気にしたまどかを伴って。

青髪の少女は魔法少女の衣装に身を包み、脇には銀髪の小柄な体を抱えている。
やや遅れて、後ろから灰色の何かが高速で駆け抜けてきた。
静止した灰色の何か、オルフェノクはその体を人の形へと変化させる。そこにいたのは乾巧であった。

イリヤは顔を伏せ続けていて見えないが、さやかと巧の表情は暗かった。
さやかに駆け寄ろうとしたまどかも思わず体を止めるほどに。

ふと、3人を見ていたセイバーとまどかは足りない者の存在に気付く。

「…美遊は、どうしたのですか?」
「美遊…は…」

重苦しそうに答えようとするさやか、その後ろで巧は顔をしかめながら悔しさをぶつけるかのように振りかぶった拳を壁に叩きつけた。
ガン!と薄い金属板の空洞を跳ねる音が響く。

「…嘘、美遊ちゃんも…?」

セイバーとまどかは、その反応で何があったのかを察してしまう。

「…あそこで俺が、無理やりにでも連れてきてりゃ…!!」
『…いえ、たとえ美遊さんだけ連れてきてもサファイアちゃんがいなければ結果は同じだったでしょう。
 それが分かっていたからこそ、美遊さんは』
「お前っ…!」

後悔に苛まれる巧に対し、慰めの言葉のつもりでルビーが声をかけるも巧は別の意図で受け取ってしまい思わずルビーの小さな体を掴んでしまう。

「止めて!」

思わず声を上げたのはさやかだった。

「今そんなことで争ってもどうにもならないでしょ!
 巧さんも、悔しいのは分かるけど、今一番辛いのは、この子なんだよ…?」

さやかはその手に抱えられた少女を示す。
表情は髪に覆われて見ることができないが、その身に纏った重苦しい雰囲気は友を失った悲しみを感じさせるには十分だった。

その姿に拳を改めて握りしめる巧。

「……」
「…とにかく、私はLさんを呼んでくるから。
 まどか、あとで色々話すから今はイリヤのこと、ちょっと任せていい?」
「う、うん、分かった。
 イリヤちゃん、行こう…?」

物言わぬイリヤに肩を貸しながら、空いた控室へと向かうまどか。
一方でルビーは、イリヤの手元を離れてフヨフヨと巧達の近くを浮いている。

「お前はついてなくていいのかよ?」
『状況の整理をするならあの場所での戦いの全貌を知ってる者が必要じゃないですか。
 それに今は私がイリヤさんの側にいて万が一一人で飛び出してしまったらコトですし』
「いなくても飛び出すことはないの?」
『それはないです。そこまで状況を読む力を失ってるとは思いません』

巧には何となくだが、淡々と話すルビーの姿が少し冷淡にも感じられていた。
そんな気配を呼んだのか、ルビーはふと呟いた。

『―私まで冷静さを失ったら、たぶんイリヤさんと共に本当の意味で心中することになりかねませんから。
 私のマスターは、イリヤさんただ一人なのですよ』

その言葉の中に、それをまるで自分に言い聞かせているかのような雰囲気を感じ取った巧は、それ以上口を出すことはできなかった。




466 : キボウノカケラ ◆Z9iNYeY9a2 :2018/05/13(日) 23:10:52 yOolfZOg0
やがてLがやってきたことで、巧とさやか、そしてルビーに起こった出来事についての報告が始まった。
巴マミの一件までは事前に合流したNとの情報交換で把握している。主な話はそれ以降のものだった。

「村上峡児は倒れましたか。驚異となり得た者が一人減ったというのは良き知らせですね。
 一方で、一つの驚異に膨大な力が集まったことは警戒せねばなりませんが」

話を要約するLの前で、巧はある事実に顔を顰めていた。

「あいつが間桐桜って、アレが士郎の言ってた、守りたかったってやつなの、本当なのかよ…」
「間違いありません」
『ルビーちゃんも確認しています。実際イリヤさんの呼びかけにも応じましたし』
「何があったってんだよ…」

失い続けた果てに守ると決意したものが、最大の障害として立ちはだかっている。
その事実に苦悩する巧。

「…桜は、おそらく死にたいのかもしれません。誰かの手で裁かれることで」
「………」
「デルタギアなるベルトで暴走し、自身にとって特別な存在であった者を手にかけてしまった。
 おそらく桜にとってそれを裁いてくれる唯一の存在が、士郎だったのでしょう。しかし、士郎はもういない」

顔を顰めて視線を下げるセイバー。

「もし桜がここまでの状態に陥っていなければ、あるいは私がこの命を差し出すことで士郎のことの責任を取ることも考えていましたが…。
 もはや私一人では彼女を止めることはできないでしょう。下手をすれば余計に事態を悪化させてしまう」
『あと私としては気になっているのは、あのクラスカードです。あの黒騎士のような英霊のカードは私達の認知しているものではありません』
「……。その英霊には、心当たりがあります。
 黒い鎧を纏い、他者の武器をも自分のもののように扱う騎士、私の知る者にそれが可能だろう者がいます」
『もしかしてアレ、”円卓”の誰かですか?
 それともう一つ、どうして桜さんがカードを使えたのか』
「いや、私もいけたんだけど。何だかいけるような気がしたからイリヤ達と同じようにやってみたら変身できて」
『なるほど、一枚剥けたみたいですねさやかさん。
 だとすると、イリヤさん達が使うのを見て、同じようにできると思って使ったことで不運にもできてしまったということですね』

話を進めていく中で、巧は一人今の桜の状態について考え込んでいた。

デルタギア、暴走する力。
自分の意志でない殺人。

それによって失った大切なもの。

そして、裁かれたいという思い。
自分自身の手で死は選べない。だからこそ他者の手にかけられたいという思い。

それはまるで。

(あの時の、俺だ…)


467 : キボウノカケラ ◆Z9iNYeY9a2 :2018/05/13(日) 23:11:11 yOolfZOg0

真理を殺したと思い込んだ自分。
ファイズであることを捨てて木場の、草加の手にかかることを望んだ自分。

だとしたら。
彼女を止めにいくべきなのは。
士郎に託され、今の彼女の心に通じる経験を見た、自分なのかもしれない。


巧は椅子を引いて立ち上がった。

「巧さん?」
「間桐桜は、あいつは俺が止めに行く。お前らはここに残ってろ」

おもむろにそう言う巧。
最も焦ったのはさやかだった。

「ちょっ、巧さん、どういうつもり?!」
「どっちにしろここで待ってたらあいつそのうち追っかけて来る。だったら誰かが止めに行くしかないだろ」
「なら、私も」
『さやかさんはダメです。あなたとセイバーさんは戦闘、どころか生存だけでも魔力の有無が重要になる存在ですから、一度触れたら魔力を根こそぎ持っていく桜さんの能力との相性は最悪です。
 それに、さやかさん。気付いてないと思いました?あなたのソウルジェムのそれ』

と、ルビーはさやかのソウルジェムを示した。
小さな亀裂の入った、魂の結晶を。

『おそらくクラスカードを使う時に、ソウルジェムを触媒に夢幻召喚してしまったんでしょうね。ですが英霊の力を物質化した魂に上書きなんてしたせいでとんでもない負荷がかかったんでしょう。
 もしさやかさんが戦うことができるとすれば一度、無理が聞いても二度が限度でしょうか』
「……でも、私は巧さんの力に――」
「いいんだよ。お前はここにいろ。
 お前にだって、大事なものあるんじゃねえのか」

巧の言葉が誰を指しているか。
今この場にはいない、戦う術を持たぬ親友のことを示していることに気付かぬほどさやかは鈍くはなかった。

「これは俺がやり残したことの戦いだ。
 それにさやかには十分助けられた。あの時も、俺一人じゃたぶん勝てなかっただろうし。
 ありがとな」
「……、なんでそんな、まるでこれが最後みたいな言い方すんのよ…」

巧の言葉にさやかが感じたもの、それは自分がいつ死んでもいいようにという覚悟だった。
それはずっと戦い続け、死というものをはっきりと認識した人が抱くものなのだろう、とさやかは思った。

だが、今の自分はそこには至れなかった。
巧にも見透かされたように大切なものがあるから。

それに気付いてしまった彼女には、巧に付いていくという選択肢に足踏みしてしまった。
だからこそ、それが選べなかった。


「いいよな、L」
「そうですね。戦力の分散はできれば避けたいのですが、残りの敵は彼女一人というわけではありません。
 各個で対処できるならそれに越したことはないでしょう。乾さん一人で、というのが少し心配ではありますが…。
 そうですね、ではもし生き残ることができたら、この遊園地に集まってください。いずれ私達も戻ってきます」
「ああ」
「…それともう一つ。好奇心から聞きたいことが。
 乾さんは木場勇治と決着をつけられたということですが、彼は救われたのでしょうか?」
「…さあな。それは俺にも分からねえよ」
「よろしければ、どのような言葉を投げかけられたのか、どのように彼と向かい合ったのか。
 それだけ教えてもらってもいいですか?」
「大したことは言ってねえよ。
 あいつのいいところばっかり見て、あいつが苦しんでるってことまでは理解してやれてなかったからな。
 だからお前一人で全部背負おうとすんなって、そんぐらいだよ」
「そうですか。……分かりました。ありがとうございます」

そう礼を言うLの視線は、どこか別のものを見ているかのように見えた。

「…?」

巧はその意図が分からず怪訝そうな顔をするが深く追求することもなく、出発に向けての荷物を纏め始めた。




468 : キボウノカケラ ◆Z9iNYeY9a2 :2018/05/13(日) 23:11:56 yOolfZOg0


「イリヤスフィールの様子はどうです?」

情報交換が終わった後イリヤの元に向かったセイバーとルビー。
セイバーは部屋の外で待機し、ルビーが中に入りその様子を確かめていた。

『まどかさん曰く、あの後だいぶ泣いたらしいですけど今は少しは落ち着いているみたいです。
 ですが美遊さんの件は、まどかさんにもショックが大きかったらしいですね』
「…無理もないでしょう。彼女はミユに命を救われたとも言っていましたから。
 イリヤスフィールも、これで彼女自身の元の仲間は皆いなくなってしまいましたし…」

イリヤの心境を想像し暗い空気を漂わせるセイバー。
だが、この時のセイバーは心中に一つの可能性を意識していた。

「彼女は、サクラの元に行くと思いますか?」

それは、彼女がまだ戦いを続ける道を選ぶのかどうかという点。

『なんですかセイバーさん、そこでイリヤさんを戦わせるつもりですか?』
「いいえ、私が言うのではありません。彼女自身がそれを選択するか、という意味です」
『あー、なるほどそういう。
 ………もしイリヤさんが、バーサーカーさんに立ち向かった時の覇気を取り戻せたなら、追うんじゃないかと思います』

ルビーの答えはあくまでも可能性としての話。だが、イリヤがここで逃げる道を選ぶかどうかの明言はしなかった。
ずっと共にいたステッキですらも計れない主の心境。
だが逃げる、とも言わなかったそれは、きっとルビーの中でのイリヤはそこで折れるだけの存在でもないということを示しているはずだ。

その答えを聞いたセイバーは、踵を返して巧の元に向かっていった。

『え、ちょっと!どこに行かれるんですかセイバーさん?!』

後ろから慌てて、ルビーはその背を追った。



追いついたところで、巧は準備を終えたようで既に遊園地の出口に向かっていた。
腰にはベルトのようなものを巻き、脇にはトランクケース型の機械を抱えている。
おそらくはいつ遭遇してもすばやく対応できるように、ということなのだろう。

「タクミ」

そんな巧を呼び止めるように、セイバーは呼びかけた。

「何だよ、連れてけってのは聞けねえぞ」
「それは言いません。今の私にはサクラのための力になることはできない。
 身勝手かもしれないが、彼女のことはあなたに任せたいと思います」
「そうか。じゃあ何の用だよ」
「一つだけ。イリヤスフィールのことです」

セイバーは目を閉じる。
これを士郎を手にかけた自分が言うのは勝手かもしれない。本来ならば自分が背負うべき罪なのだ。
それでも、できることならば間桐桜を、士郎を手にかけてしまった者として助けたい。

心中に残っていた僅かな迷いを振り切って瞳を開いたセイバーは口を開いた。


469 : キボウノカケラ ◆Z9iNYeY9a2 :2018/05/13(日) 23:12:15 yOolfZOg0


「おそらく士郎もあなたも、そして私も彼女に対し一つの思い違いをしていたのかもしれません。
 士郎と私は、我々の知る彼女の印象に引きずられすぎていた。そしてあなたも、そんな士郎の感じた印象に引っ張られている。
 ですが、そうではない。彼女は、我々の知るイリヤスフィールとは別の存在なのだと、もっと早く認識するべきだったのかもしれない」
「どういう意味だよ」
「あのイリヤスフィールは、我々が思うほどか弱い存在ではないということです。
 彼女は自分の意志で道を選び、それに対し真っ直ぐに進み続ける強さを持っている子だ、と私は見ました」
『……』
「だったら何だよ。あいつをこれ以上戦わせようってのか?」

奇しくもルビーと同じ懸念をぶつける巧。
その言葉の裏には、あるいは自分だけで決着をつけようという思いも感じられた。
もし彼女を手にかけることがくれば、それも一人で背負おうとするのだろう。

だが、できることならばそれは選ばせたくはなかった。
桜のためにも、士郎のためにも、そして巧自身のためにも。

「いえ、それは私が決めることではありません。彼女自身が決断することです。
 彼女はきっと、親友の死にも決して挫けはしないでしょう。
 そしてもし決断したならば、あなたが多くの困難を乗り越えこうして自分の意志で戦う覚悟を決めたように、イリヤスフィールも戦いに向かうことが来るかもしれない。
 もしその覚悟がサクラに対して向けられたなら、私は賭けてみたいのです。
 戦いとは無縁の世界で過ごした彼女の、ただ純粋な願いから生まれるだろうその小さな希望が、サクラの抱える闇に届くかもしれないと」

伝聞ではあるが、美遊・エーデルフェルトに手を差し伸べたという時のように。
そして自らの意志でたった一人でバーサーカーに立ち向かった時のように。

彼女の持つ意志が、そして光が、桜に差し伸べられたなら。
士郎のようにはできなくても、その心に光を差すことはできるかもしれない。


「ですから一つのお願いがあります。
 もし彼女が自らの意志で自身の運命に立ち向かい戦う意志を持ってあなたと共に立った時、彼女を共に戦う戦士として見てあげて欲しい。
 守るべき存在ではなく、背を預けて戦う仲間として」

もしも士郎がこの認識をすることができていれば、元の世界の自分の知るイリヤとの切り分けができていたならば。
あるいは二人は互いに守り守られる関係ではなく、戦友として並ぶことができたかもしれない。そうすればまた違った未来もあっただろう。

過ぎたことは言っても仕方ないのかもしれない。
しかしこれからの未来に同じことが、そしてそこから生まれる悲劇を繰り返してはならないだろう。
そういった意図も込めて、セイバーは巧へと願った。

チラリ、と巧はルビーに視線を移す。

『私はあくまで補助礼装、イリヤさんの道具に過ぎませんので。心中する気はありませんがイリヤさんが色々考えた上で行くと言われたのなら私に止める気はないですよ』
「…もし本当に自分で追っかけてきたってんなら何も言わねえけど、たぶん守ってはやれねえからな。
 それだけは伝えとけ」
「分かりました」

了承の意味も込めた伝言を聞き留めたセイバー。

そのまま遊園地を出ていく巧の背を、ルビーと共に静かに見届けた。





470 : キボウノカケラ ◆Z9iNYeY9a2 :2018/05/13(日) 23:12:55 yOolfZOg0
巧が手に抱えているトランクケース、ファイズブラスター。
木場との戦いで初めて使ったこともあって使い慣れたものではない。故に美遊が命を落としたあの場で使うという発想がなかった。
もっと言えば、村上と戦う時に使っていれば、もっと早くあの場に辿り着くことができて、美遊へ手を伸ばすことができただろう。

言っても仕方のないことではあるが、しかし次は同じことを繰り返したくはない。

「士郎、もしもの時は…、お前の守りたかったもの、守れねえかもしれねえ」

他の皆を守るためにはそれが最善かもしれないし、あるいは彼女を殺すことが、最も彼女を楽にする方法であるかもしれない。
だが、それは決して気持ちのいいものにはならない。ただ一つ背負う罪が増えるだけだ。

そんな場所にさやかやイリヤのような子供を連れて行きたくはなかった。

しかし。

「イリヤの持つ、希望、か…」

果たしてそれに賛同するべきなのか、全て自分で終わらせるべきなのか。
答えは出ない。しかし本当に彼女が追ってくるのかどうかも分からない。

ともかく今の自分は、自分の為せる最善を成そう。

小さく、しかし確かな決意を胸に、巧は歩み始めた。

闇を切り裂く希望の光となれるのか、それともただ敵を殺すだけの力となるのか。
それは今は巧自身にも分からない。

【D-5/一日目 夜中】

【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)、決意、美遊を救えなかったことへの後悔
[装備]:ファイズギア+各ツール一式@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:ファイズとして、生きて戦い続ける
1:間桐桜の元に向かう。場合によっては殺すことも視野に入れる
2:できることならば桜を”救いたい”
[備考]
※参戦時期は36話〜38話の時期です
※遊園地メンバー、イリヤ、さやかと一通りの情報交換を行いました。
※黒騎士の能力をセイバー経由で把握しました

【D-5/遊園地/一日目 夜中】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大)、胸に打撲(回復中)、精神的ショック(大)、悲しみ
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター)(使用時間制限)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(アサシン)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(アーチャー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、破戒すべき全ての符(投影)
[思考・状況]
基本:美遊や皆と共に絶対に帰る
0:美遊…っ…!
1:??????????
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
※ルビーは、衛宮士郎とアーチャーの英霊は同一存在である可能性があると推測しています。
※ミュウツーのテレパシーを通して、バーサーカーの記憶からFate/stay night本編の自分のことを知識として知りました


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)
[装備]:ソウルジェム(濁り30%)(小さな亀裂有り) 、トランシーバー(残り電力一回分)@現実、グリーフシード(濁り100%)
[道具]:基本支給品、グリーフシード(濁り70%)、アヴァロンのカードキー@コードギアス 反逆のルルーシュ、クラスカード(ランサー)(使用制限中)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、コンビニ調達の食料(板チョコあり)、コンビニの売上金
[思考・状況]
基本:自分を信じて生き、戦う
1:遊園地にてアヴァロンを待つ
2:ゲーチスさんとはもう一度ちゃんと話したい
[備考]
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※魔法少女と魔女の関連性を、巴マミの魔女化の際の状況から察しました
※ソウルジェムの亀裂の影響ですが、ルビー評だと戦闘は2度以上は危険とのことです。


471 : キボウノカケラ ◆Z9iNYeY9a2 :2018/05/13(日) 23:13:05 yOolfZOg0

【L@デスノート(映画)】
[状態]:右の掌の表面が灰化、疲労(小)
[装備]:ワルサーP38(5/8)@現実、
[道具]:基本支給品、クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ、ブローニングハイパワー(13/13)@現実、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、トランシーバー(電池切れ)@現実 、薬品
[思考・状況]
基本:この事件を止めるべく、アカギを逮捕する
1:アヴァロンの到着を待ち、それに搭乗して移動する
2:月がどんな状態であろうが組む。一時休戦
3:遊園地の地下にあるものをいずれ確かめたい
[備考]



【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(小)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み)、精神的な疲弊
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
1:Lさん達と一緒に行動する
2:さやかちゃんと話をしたい
3:美遊ちゃん…
[備考]


【セイバー@Fate/stay night】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、魔力消費(大)、胸に打撲(小)
[装備]:スペツナズナイフ@現実
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:シロウの願いを継ぎ、桜とイリヤスフィールを生還させる?
1:桜…
2:イリヤの動向に注視する
3:遊園地にて待機
4:約束された勝利の剣を探したい
5:ゼロとはいずれ決着をつけ、全て遠き理想郷も取り返す
[備考]
※セイバーの中でイリヤに対する認識が変わりつつあります(守らねばならない存在→士郎のようにあるいは背中を合わせて戦うことができるかもしれない存在)


472 : ◆Z9iNYeY9a2 :2018/05/13(日) 23:13:19 yOolfZOg0
投下終了です


473 : 名無しさん :2018/05/14(月) 13:32:50 Jks4pjSU0
投下乙です!
たっくんが桜を止める思いを固めたか……
最悪の場合殺害を見越しているとは言え、救えなかったものがあまりに多いたっくんには今度こそ桜を救って自分をちゃんと認めてあげて欲しいですね!
ブラスター使用の反動フラグなんかもちょこちょこ立ってる気はしますがどうにか持ち堪えてくれ〜

ついでさやかちゃんももう何度も戦えない身……って本当に辛い
セイバーやまどかも含め決して心身ともに万全とは言い切れない状態が続いてますし、その分現メンバー全員が桜と共に歩む明るい大団円を夢見させる、そんなSSでした


474 : 名無しさん :2018/05/14(月) 13:35:25 Evs1U9RE0
投下乙です

桜との決着はたっくんが相手する事になったか。イリヤはどう動くのか…


475 : ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:39:00 FJDbI0nc0
投下します


476 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:40:31 FJDbI0nc0
アヴァロン艦内。
月とスザクは艦橋にいた。

「まず、艦内の各設備の制御装置はどうだった?」
「機械にはそこまで詳しいわけじゃないからね、あくまで素人目線からだけど。
 電源は全て稼働していた。設備の諸々に関しては、ほとんど問題はなかったよ。
 あとはそれをどこで制御してるかってことだから、それはここなんだろう?」

艦内の探索は一通り終わり、中の状況についてを互いに報告している状況だった。

スザクは勝手知ったるかつての旗艦であるだけに内部の構造については詳しい。
中でも気にすべき箇所は月も説明を受けておいた。

「ふむ」
「あと、端末内にちょっと謎掛けみたいなものがあって、それを解くことで制御が解除される仕組みだったらしい。
 差し当たってはシールド装置と接近された際の迎撃システムを解除した様子だ。
 そっちは何か見つけたかい?」
「格納庫を見てきた。政庁の件もあるし、もしかするとKMFのような強力な武装があるかもしれないと思ってな。
 だが、扉は閉まっていた。どうやら開くには何かキーが必要になるらしい」
「壊すことはできないのか?」
「不可能ではないだろうが、しかしもし爆破でもしようものなら、この艦の一角に巨大な穴があくほどのものでなければならない。
 だが、できれば破壊は避けたいからな」

格納庫の扉を爆破するほどの衝撃を艦に与えれば、間違いなく他の場所にも支障をきたす。


「それと、私が知っている艦内部と比べたら、幾つか削られた場所が存在しているようだ。
 具体的には、確認できた限りだと居住区が幾つかと娯楽施設だな。まあこれは艦の走行には影響はないだろうが」
「影響ないなら気にする場所でもないんだろう。
 ちなみに格納庫には何があるんだ?」
「お前はロロに会っていたんだったな。彼が乗っていたヴィンセントのような機体…乗り物があるはずだ。
 特に、ここがアヴァロンなら私がかつて乗ったものがあるかもしれない」
「それがあれば戦力アップになるんだがな。こればっかりはキーを探すしかないか」

現状見つからないものに執着しても仕方ない。
思考を切り替えた月は、ふとコンピュータに現れたアイコンを視界に捉えた。



「ん?スザク、これを見てくれ」

映ったものを確かめるためにそのアイコンに触れる月。
それは連絡用に使われている通信用のメールボックス。
中には一通のメールが届いていた。

差出人は。

「斑鳩…。反対側のあの艦からか」

名は書いていない。送ってきた施設の名前があるだけだ。


「内容は何だ?」
「どうやら、送信者が何かしらの考察を纏めたものらしい。
 短く荒いながら、色々なことが考えられている」
「L、とやらのものか?」
「いや、あいつにしては考察が少し荒削りだ。
 これは、…僕の知っている限りならメロが送ってきたものである可能性が高いと思っている」
「では、斑鳩の方も我々にとっては味方足り得るものが乗っていると」


477 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:41:05 FJDbI0nc0

我々、という言葉に月も含まれているのかどうかというところで一瞬苦笑した月。
改めて文章に目を通してみる。
内容に関してはある程度整理する必要のありそうなものだ。先に文章の方から送り主を考える。

「この文章、内容が荒削りなのもそうだが、少し誤字が多い。もしかすると急いで書き上げて推敲もせずに送ったのかもしれない。
 例えば、艦の中に敵が乗り込んできた、とか。
 メロかどうかは僕自身の推測でしかないが、向こうの艦に関しては警戒した方がいい」
「そうか…」
「僕はこの内容をもう少し整理しようと思う。
 スザクは、モニタの監視をしてもらってもいいか?しばらくそっちを見ることはできないだろうから」
「分かった」

そうして月は端末に集中し。
スザクはその後ろで、目の前のモニターを視界を広く持つように見続けた。

次の目的地、遊園地の明かりは徐々に近づいていた。




「………」
「………」

まどかとさやか。
正確に言えば同じ空間にLもいるのだが、Lは自分のことは気にせずリラックスすればいいと言っていた。
だが、そう言われていても。例え二人が長年の間共に過ごした親友であったとしても。

互いに色々なことがありすぎた。
何から話したらいいのか、そこから分からぬ状態で二人の沈黙は続いてしまっていた。

逆に気にしないでいいと言ったLの方が気にしてしまうほどに。


「時にまどかさん。イリヤさんの様子はどうでしたか?」

せめてこの空気をどうにかするきっかけくらいにはなればと、先程まで彼女に任せていた少女のことを問う。

「…けっこう泣いてましたけど、今は落ち着いたみたいです。
 だけど、今度はぼーっとするようになっちゃったみたいで…」
「そうですか…。立ち直ってくれればいいのですが」
「イリヤちゃん、今すごく辛いんじゃないかと思うんです。私も、経験があるから…」

と、苦い記憶を掘り起こすように言うまどか。

まどかが経験した、美遊を失ったイリヤのような経験。
もう少し前のさやかなら、それが巴マミの時の件だと思っただろう。

だけど魔女の件をイリヤ達皆に伝えたのは誰か。そのきっかけは何があったのか。

それを考えれば、まどかと同じ気持ちだ、とは言うことができなかった。
そして同時に、ここが切り出し時だともさやかは思った。

「ねえ、まどか。イリヤと美遊から聞いたんだけどさ。
 まどかは私より少し先の未来から来てて、私が魔女になる時のことを見てたって」
「………」
「聞かせてほしいの。私に、まどかに何があったのか」

あの時以降ずっと心に溜まっていた疑問をまどかにぶつけるさやか。
しかしまどかは顔を曇らせたまま、口を開くことを躊躇っている。

「大丈夫だって。私もあれからいろいろあったんだから、ちょっとやそっとのことで動じるようなやわな心じゃなくなってるんだし」


478 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:41:22 FJDbI0nc0

そんなまどかに、強がりの言葉を口にするさやか。
本当は真実を知ることへの恐怖は未だ残っている。
ソウルジェムの件を知った自分が魔女に至るまでの軌跡。そこに絶望があったのなら流すべきではないのだろうから。

「まどかさん。人は真実を必ずしも知る必要はないのかもしれませんが、しかし知るべき時はあると思います。どのようなものであっても。
 それを知ることで傷つく可能性があるのなら、なおさら友であるあなたが伝えるべきことです」

部外者という自覚がありながらも、しかし止めるべき話ではないと感じたLがまどかへと助言をする。
その言葉に踏み出す覚悟を決めたように、まどかは口を開いた。


「分かった…。話すよ、さやかちゃん」


そうしてまどかは、自身の経験したことをさやかに話した。

仁美が恭介に告白すると言ったこと、その事実に耐えられなかったこと。
自暴自棄になったさやかが魔女を相手に自分の身すら顧みない戦いを続け、自分の元からも離れていったこと。
再会した時には、さやかは魔女となっていたこと。

そして、その魔女を元に戻せると信じて杏子と共に立ち向かい、叶わず杏子はその魔女を道連れに死んでいったこと。

ここまでが、さやかの知らなくてまどかの知っていること。

「………そっか…、仁美が…」

そのきっかけとなった出来事。
仁美が恭介に告白すると知った時の自分の心境を想像して顔を抑えるさやか。

ソウルジェムの真実を知ったばかりの時にもしそれを聞いたら、自分は何を思うだろうか。
きっと、こんな体で告白などできない自分と比較して仁美に大きな嫉妬心を抱いただろう。
そしてその末に、もしあの時仁美を助けるべきではなかった、などとでも思ってしまえば。

きっと自分は、魔法少女ではいられなくなる。

「…杏子、あいつはあんたと同じ時から来てたの?」
「杏子ちゃんなら、死に損なったって言ってたから、たぶん私が知ってる杏子ちゃんと一緒だと思う」
「…そっか……」

そして同時に、あの時杏子が自分の思っていた以上に弱いと感じた理由も納得した。
助けようと思った相手が生きたまま、不意に現れたのだ。本気で戦えるはずがない。

「ねえ、さやかちゃんが杏子ちゃんを殺したって話は…、何かの勘違いだよね…?」
「私さ、あの時色んなこと考えてて、何が正しいのかどうしたらいいのかとか、そういのがグチャグチャだったんだ。
 そんな時に、あいつマミさんを殴って気絶させててさ、それ見たらあいつがマミさん襲ってるって、勘違いしちゃったんだよね…」

実際は錯乱したマミをいったん落ち着かせるためにやむを得ず実力行使に出ただけだったのだろうが。

「はは…、バカだよね、私……」

全てを知った今になって、あの時の罪が強い罪悪感になって襲ってきた。
強い後悔の念から涙がこぼれそうになるのを、さやかは必死で抑える。
杏子を手にかけた自分に、悲しむ資格などないとそう念じるように。

「さやかさん」

じっとさやかとまどかの会話を見ていたLが、ふと口を開いた。

「私はあくまで探偵です。他人の罪を暴くことはできますが、罪を償うことを促すことはあまり得意ではありません。
 罪を隠すのならば明るみに出す必要がありますが、しかし罪を償おうとするのであれば、それはその人自身の問題なのですから。
 あなたのその罪も、あなた自身に背負い、償う意志があるのなら決して償えないものではないと私は考えています」
「私の罪…、償えるんですか…?」
「一人で無理ならば、皆がいます。あなたも巧さんを支えたいと、そう思ったように」
「……」
「さやかちゃん」

まどかは、さやかの体を包み込むように、優しく抱き寄せる。

「私、さやかちゃんのしたことについて、どうしたらいいのかは上手く言えないし、さやかちゃんの気持ちが分かるなんてことも言えないけど…。
 でも、私は何があっても、さやかちゃんの友達だから」

セイバーに言われたこと。
自分の存在が、さやかにとって支えになるだろうと、その言葉の意味が、まどかはようやく心から理解できたような気がした。

「…、ありがとう…、まどか…。
 …ねえ、一つだけ、わがまま、いいかな?」
「何?」
「少しだけ、泣かせて…」
「うん、いいよ」

まどかのその返答から間もなく、さやかは声を上げて泣いた。

まだ知らない未来、恭介と仁美が付き合うことになるという事実。
何も知らない自分が、犯してしまった友殺しの罪。
色んなものが入り混じった、後悔と悲しみから溢れ出す涙。

それら全てを、友の前で吐き出すかのように。





479 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:42:30 FJDbI0nc0


友を失った事実にひとしきり悲しみ、泣いて。
感情が落ち着いた頃に、イリヤの中に湧き上がったのは心にポッカリと穴が空いたかのような虚無だった。

実はずっと前からそこにあったもの。
もしかすると、最初の放送で凛の名を聞いた時にはあったはずだ。ただ自覚していなかっただけで。

二度目の放送でクロやルヴィアの名が呼ばれ、そして目の前で自分を守って衛宮士郎が命を落とした時。
もし側に美遊がいなければこの穴をもっと強く実感していただろう。

だが、もうその穴をごまかしてくれる友はいない。

それを自覚してしまえば、部屋の片隅で呆けるように座り込むしかできなかった。

「イリヤスフィール」

部屋の外から、そんなイリヤを呼びかけるセイバー。

「タクミはサクラの元に向かいました。彼が、彼女を引き受けると」
「…そう……」

セイバーの言葉にも、そう短く相槌を打つのみ。

「イリヤスフィール、私は、いえ、私もシロウも、きっとあなたのことを我々の知るイリヤスフィールを通してしか見ていなかったのかもしれません」

窓に手をかけ、夜景の中で電灯を輝かせる遊園地の風景を見ながら、セイバーは語る。

「そんなの、私だって同じだよ…。士郎さんがどんな気持ちで私のこと見てたのか、私のお兄ちゃんと同じようにしか考えてなかった…」
「…それが分かったのですか?」
「ミュウツーさんが、死ぬ直前にバーサーカーから見た記憶を私にくれて…そこにセイバー達の世界の私の記憶があったの…」
「…そうだったのですね」

この少女には少し酷な記憶、知識だったかもしれない。
だが、それを見て尚も彼女はバーサーカーに立ち向かったのだ。
やはり、とセイバーはイリヤの持つ強さを確信する。

だからこそ、敢えて問うた。

「イリヤスフィール。あなたは、どうしたいですか?」
「どうしたいって…」
「サクラの元に、向かいたいのではないですか?」
「……!」

イリヤの顔が強張る。

桜を助けたいと思っているのか。
それとも美遊やルヴィア、多くの人を殺したことを問い詰めたいと思っているのか。
あるいは―――可能性は低いが、復讐を考えていることもあるかもしれない。

だが、少なくともここで止まっていること自体は、間違いなくイリヤ自身望んでいることではない。

「…でも、やっぱり怖い……。美遊も、クロも、士郎さんも、凛さんやルヴィアさん、バゼットさんもみんないなくなって…。
 次に誰がいなくなるのか、それが分からないのが…すごく怖い…」
「誰しも死は恐ろしいと感じるものです。タクミも、そういう失っていく人を少しでも手の内に留めるために戦っているのですから」

それでも、とセイバーは続ける。

「あなたと関わり死んでいったもの達は、皆そうすることで何かを成し遂げるために戦っていったはずです」

バーサーカーを足止めするためにガブリアスと共に殿を務めたクロ。
自分と北崎という強大な存在を前に、他の皆を守るためにたった一人命を張った士郎。
そして、友を守り死んでいった美遊。

「それらは、あなたが背負う必要はない。しかし向き合わなければならないものだと私は思います」
「向き合うって、何が違うの?」
「……どうにも上手い言葉が見つかりませんね。これはあなた自身が意味を見つけるべきものかもしれませんが…。
 それでも私は―――……!」

と、話す途中、セイバーが激しく後ろを振り返った。

向いている場所はイリヤのいる場所、ではない。その向こう側だ。


480 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:43:19 FJDbI0nc0

「申し訳無い、イリヤスフィール。これ以上話している時間はないようだ」
『あ、これやばいです。急いで皆さんに伝えにいかないと』
「え、何、何なの?」
「強大な気配が迫ってきているのを感じました。
 これほどの気を発することができる者を、私は一人知っています。
 ゼロです。あの男がここに迫ってきている」

イリヤの顔に焦りの表情が浮かぶ。
おそらくは今この場で戦えるのが自分たち二人しかいない状況での襲来に対するものだろう。
一方で、あれだけの強敵の接近を前にしても、イリヤの顔に怯えは感じられない。

自身の死を恐れているわけではない。他者の死を恐れている。
ならば、まだ間に合うはず。

「時は待ってはくれないようだ。
 もし決断するのであれば、今しかないでしょう。
 どうしますか、イリヤスフィール」
「私は―――」
「私はゼロを引きつけます。少なくとも皆があのアヴァロンという戦艦に乗るまでは。
 イリヤスフィールは皆に警戒を伝えてください。
 そして、その後のことは、あなたが選んでください。
 私は無理強いはしません。ですが、あなた自身が後悔しない道を」


そう言ってセイバーが扉を開いた時だった。
室内の明かりが消え、周囲が暗闇に包まれた。

慌ててルビーがマジカルライトで周囲を照らし状況を把握する。
窓の外、遊具の明かりに照らされていたはずの遊園地の風景もまた、この薄暗い室内と同じように月明かりのみに照らされた暗闇へと落ちている。

「……!まずい…、イリヤスフィール、皆の元へ急いでください!
 ゼロは、もうこの敷地内にいる!!」





全自動で動く遊園地。おそらくは動作全てもコンピュータ管理されて動いているものなのだろう。
そこには一つの弱点が存在する。

動作のみならず、その制御も全て電気に任せて動いているということ。

停電が起きた場合、もし人による制御がなされているのであれば例えば復旧するまでの間の予備電源への接続などで一時的に凌ぐことはできるだろう。
ではもしそういった処理すらも機械任せにしている上で、完全な停電が起きた場合はどうなるだろうか。

「数箇所ほどは回る必要があるかとも思ったが、電気系統を全て一つに纏めていたとはな。こちらとしても手間は省けたが」

遊園地に備えられた遊具の一つから手を離しながらゼロは呟く。

ゼロのしたことは、遊具に流れている電気――それを動かすエネルギーを、根本部分からゼロに還すというもの。
遊園地の明かりの中から人を見つけ出すことは決して楽なものではない。ならば電気を止めれば向こうから出てくるだろう。
殺し合いという異常環境の、更に夜の闇の中で安心できるものはそうはいない。そうでなくても、暗くなれば明かりを求めることは自然なものだ。
闇から抜け出すために出てくるか、あるいは明かりをつけるなどをするものがほとんどだろう。一方でゼロは暗闇など気にはしない。

もし電源が複数に分かれていたならば数箇所に回る手間はあったし、全部がバラバラなら流石に諦めて自分の足で探し回ったことだろうが。
結果的に一回のギアスで目的を果たすことができた。

そして、一つの建物の一室に明かりがつく。
小さなものだが、この暗闇の中ではとても目立つ。

「そこか」

体の向きを変え、その明かりのある建物に向かおうとしたその時、建物の中から何かが飛び出した。
その気配は素早く、一直線にこちらへと向かってくる。


481 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:43:52 FJDbI0nc0
「はあっ!!!」

掛け声と共に振り下ろされた棒を受け止めるゼロ。

「ここから先へは、行かせません」
「ふん、また会ったな。騎士王」

互いの力の衝撃で後ろに下がる二者。
モップの柄に風を纏わせ、セイバーはゼロの進行を阻まんと立ちはだかった。

(…この道具で、どこまでできるか…)

かつての戦いでは竹刀はへし折れ、それなりの強度を持った刀剣であってもゼロには通用しなかったことを思い出し、セイバーは身構える。
それでも先とは違い、引く場所はないしゼロも何もないまま引いてはくれないだろう。

せめて今迫ってきているアヴァロンに皆が乗るまで。
その時間を稼ぐため、セイバーはゼロへと向けて駆け出した。



イリヤ、正確にはルビーの出した明かりを元に周囲を照らしながら、L、まどか、さやかはある一区画へと足を進めていた。
遊園地の中でもしアヴァロンが停泊するならどこか。

Lは幾つか候補は考えていたが、実際に戦艦の巨大さを目にした段階で既に場所は一つに絞れていた。
遊園地にはそもそも場所がそこまで開けたところはない。だが航空機、それも特大の輸送船のようなものが着陸できそうな場所はないわけではない。
しかしあれほど巨大なものとなると、そもそも地面に降りることが困難だろう。
地上であれば建物に遮られてしまう。

地上ならば。

「例えば建造物の屋上等であれば、浮遊したまま足場を出すことで乗員の乗り降りができるはずです」

そうなれば候補は一つしかない。

ジェットコースター施設、不自然に大きな建造物。Nから聞いた話ではここは元々ジムリーダーなるものがポケモンジムとしても経営していた建物だという。
ここの屋上ならば他の建物や設備にも接触することなく、ギリギリの位置に降りることができる。

「それって当たってるんですか?」
「95%くらいは」
『残りの5%は何なんです』
「私の知らない未知の技術による運搬があった場合は流石に外れます。例えば回収用のワープ装置とかあったら場所の制約なんて関係なくなります」

さやかとルビーの問いに答えるL。

「私とて待っている間ずっとじっとしていたわけではありません。実際に中を歩き回ったことで遊園地内の状態は大体把握できていますから」

と、会話をしている間にその建物の前まで辿り着いた。
扉付近に備え付けられた電気のスイッチを押すが、電気は付かない。

再度ルビーが明かりで周囲を灯したところで、辺りに轟音が響いた。
建物に何かが突っ込み崩壊したかのような衝撃音。
おそらくはセイバーがゼロを足止めしているのだろう。

「ねえ、ルビー」
『イリヤさんは向かってはいけません。セイバーさんにも言われたでしょう』
「………」
『むしろイリヤさんはもう一つの方を気にするべきなのでは』

ルビーが言っているのはもう一つ、イリヤがずっと気にかけている方のことだろう。

『その迷いを抱えたままゼロさんのところに行くことには反対ですが。
 迷いを解決するために向かうのであれば、私とてやぶさかではありません』

答えられず沈黙を続けるイリヤの横が、ふと明るくなった。

隣でさやかが取り出したのはバッグに入っていた懐中電灯。
ルビー自身が自発的に照らしていたせいでイリヤは存在を忘れていたが、別に皆の誘導はイリヤでなくても問題はないのだ。

「イリヤさん、おそらくあの戦艦に乗りさえすれば、後は我々だけでも動くことはできるでしょう。
 もし別行動を取りたいのであれば、私達には止める理由はないです」
「その、いいんですか?」
「少なくとも私は、バーサーカーに一人で立ち向かった決意と勇気は買っています。そのあなたがやりたいことだと言うのなら、きっと必要なことだとも」
「私は…」


482 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:44:46 FJDbI0nc0
Lの言葉にまだ迷うイリヤ。
そうこうしているうちに、屋上まで到着して、既にアヴァロンは目の前だ。

ルビーや他の人に判断を仰ぐか。
そんな考えが一瞬頭をよぎったが、しかしこれは自分自身の問題、自分で決めるべきことであると改めて意識する。

(そうだよね…、逃げてちゃ、ダメだよね。私自身が、前に進まなきゃ…)

アヴァロンはもう近い。あとは皆がアレに乗るだけだろう。
戦闘音から見て、セイバーがゼロを引きつけている位置は遠い。間に合わないことはないはずだ。

「みんな、ごめんなさい!やっぱり、私行きます!」

そう言って転身したイリヤは、体を翻して地を蹴り飛び立った。

その背を引き止める者は、誰もいなかった。



幾度も打ち合い、ゼロには弾き弾かれつつも移動を続けるセイバー。
皆がいた場所からは視線を離させるように、そして場所も離れるように注意を払いながらゼロの進行を阻み続けた。

一方で、現状の棒きれ程度でゼロを倒す手段もまた、打ち合いながら探り続けていた。

渾身の力で振りかぶった一撃も、こんな棒程度では全く動じない。
だが何度も打ち合っているうちに、ゼロの動きの違和感に気付いた。

(右の踏み込みが浅い…?)

外見上では何かあるようには見えないが、地を蹴り力の入った第一歩を踏み出す際はいつも左足から入っている。
右の足は力を入れることを避けるようにも見える。まるでそこに軽くない傷でもあり、それを庇っているかのように。

試しに右側から踏み込まざるを得ない軌道で、ゼロの元へと迫る。
視界はマントにより塞がれ、その向こうから拳が突き出される。
身を捩って回避、そのまま地面を滑るように足を力強く払おうとしたところで、ゼロの体が浮き、そのまま縦方向に回し蹴りを放ってきた。
ほんの僅かに掠め、体が地に押し付けられそうになるのを堪えながらセイバーは起き上がる。

(やはり右足に何らかの傷を追っていて、そこを軸に動くことができない様子だ、ならば―――)

そこを狙えば勝機はある。
倒せはしなくても、ある程度この場に釘付けにすることはできる。

確信したセイバーは、その右を狙うための軌道を走り始める。
時計まわりにゼロの周囲を移動、ゼロの体の向きが追いつかなくなるまで走り続ける。
そしてやがてその背が見えたところで、一気に急接近。

マントの牽制を風でなぎ払い、振りかぶった棒を一気に振り抜く。
胴を狙ったそれはゼロの体を叩きつけ一瞬動きを止める。

さらに返す手、こちらが本命。
右足を狙った一撃を振り込む。

気付いたゼロが右腕を突き出そうとした時、その手の平を、セイバーが手の内に隠し持っていたスペツナズナイフが飛び出し貫いた。

(取っ――――!?)

命中を確信しかけたセイバー。
しかしそれはゼロの左手に掴まれていた。

「本命が分かり易すぎたな」

渾身の牽制を敢えて受けることで、真の本命を受け止める態勢を整えていたゼロ。
そもそも自身の弱点を把握している以上、優先的に守るべき場所は一目瞭然だった。

念を入れて左腕もすぐさま動かせるようにしておいたのが功を奏した形となっているためゼロをしても間一髪といったところだったが。


483 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:45:06 FJDbI0nc0

棒を握りつぶし、態勢を戻せないセイバーの腕を掴み、棒の破片を握ったままの状態の拳でその胴を殴りつけた。

「ガアッ……」

胸の鎧が砕けるほどの衝撃に吹き飛ばされたセイバーの体は、遊具の壁に叩きつけられた。
衝撃で壁が砕け散り、舞い上がる地煙がセイバーの姿を覆い隠す。

「そしてお前の狙いも分かっている。大方同行者を逃がすための殿といったところだろうが。
 ふむ、もうアヴァロンは飛ぶようだな」

ふと離れたところの比較的大きな建物の屋上に停まっていた戦艦を見上げるゼロ。
もう地面を離れている。ここから走ったとて、あれはこちらからは跳び上がることが難しい高度まで上がっているだろう。

だが、ゼロには一つの移動手段があった。

「こい、ガウェイン」

ゼロの呼び声で顕現する、黒き巨人。

「…っ、待て!」

起き上がろうとするセイバーだが、今の一撃のダメージがあまりにも大きかったのか、体の自由が効かない。
焦る気持ちを前に、思わずゼロを引き止めるように声を上げる。
しかしゼロはそんなセイバーに構うことなくガウェインの肩に騎乗し飛び上がった。


戦艦側は迫るゼロに気付いたのか、対空射撃を放つもゼロに着弾するはずのものは全てその目前で静止し地面へと転がり落ちる。
返すようにゼロがガウェインの肩のハドロン砲を放つと、アヴァロンの下面にエネルギー障壁が展開されその熱戦を防ぎきった。

するとゼロはガウェインの肩から飛び上がりその障壁に向けて光る自身の拳を叩きつけた。
アヴァロンの障壁が消滅、さらに追撃をかけるようにハドロン砲が射出され、アヴァロン下部に爆発が起きる。

だが、この巨大な艦はKMFを吹き飛ばすほどの砲撃でも一撃で沈めることはできない。
ならばどうにか逃げられるか、と思いかけたセイバー。


「…!!止めろぉっ!!!」

しかし次のゼロの狙いに気付き思わず声を張り上げる。
ガウェインはアヴァロンの飛翔速度より早く、その上を取るかのように上昇している。
そこにあるものは、何となくだが一見すれば分かる。


艦の上部にある、操舵全てを司る場所、艦橋。
側面にハドロン砲を撃った程度では止まらないならば、操舵機能そのものを潰してしまえばいいと。

如何に巨大で、如何に硬い防壁を持っていようと、制御を奪われれば艦は落ちるしかない。




「…!!ルビー、あれ!!」

遠くまで響くほどの砲撃音に思わず振り返ったイリヤの目に映ったのは、ゼロが巨人に乗って浮遊し、その上部へと上がっている光景。

『艦が狙われていますね…、あの距離だと、艦橋を狙われる可能性が――』
「戻らなきゃ、じゃないとあれに乗ったみんなが…!!」
『ここからじゃ間に合いません!』
「でも――ー」

急いでも間に合わない。だけどそんな現実では諦められない。
ただ、自分が前に進もうとして皆を置いていって、その結果皆が死ぬことになる。
そんな現実にイリヤは耐えられなかったから。

(私は、また――)

イリヤが目を見開く中で、ゼロはアヴァロン上部中央にたどり着き―――





484 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:45:44 FJDbI0nc0
(中にいるのは、一人。ここで乗ったものではない様子だが)

艦橋から見える、目を見開く見知らぬ男の顔。
おそらく遊園地で乗った者はまだここに辿り着いてはいないのだろう。

どちらにしても関係ないが。
これを潰して艦を落としてしまえば、他に乗った者も逃げられぬまま命を落とすだけなのだから。

怯えているのか、それとも自身の死を受け入れたのか、そのまま動かぬ男に向けてガウェインの指を向ける。
そして何かを思うこともないまま、ゼロはその指、スラッシュハーケンを射出した――――



「月、遊園地についたが、様子がおかしい」

ようやくアヴァロンが停泊地点らしき場所に到着した辺りだった。
遊園地の明かりが一斉に消えたのは。
イルミネーション、電灯、建物の明かり、その全てがまるで停電のように一気に消えた。

これはただごとではなかった。

周囲を探ってモニターを見ると、そこに映ったのは2つの影。
金髪の少女が、黒き仮面を纏ったマントの男と戦っている。
あの風貌。自分の知っているものとは大きく異なるが、あれが何なのかはスザクとてすぐに分かった。

「あれは、ゼロ。あれが…」

自分の被った仮面と同じ形のそれを被った者。
見間違えはしない。

その一方で月が視線を動かすと、停泊点と思われる場所に見えたのは3人の人間。
一人は美樹さやか。顔を見たのは3度目になるが、ずいぶんと落ち着いている様子に見える。
そしてその横にいる男は。

「…L、君か」

似ているようで若干の違和感も感じさせる風貌だが、あの雰囲気だけは見間違えはしない。
だがその再会には複雑な心境も月の中にはある。



「月、俺はここで降りる」
「何だって?」
「あれは、おそらく俺が戦う必要のある相手だ」

月も映像を確認し、今スザクが被っている仮面と映ったものの類似性から何かしらの因縁を感じ取った。

「そうか、君は、因縁に向き合うってことなんだな」
「因縁というには少し違うな。もしかしたらアレと俺には何の関わりもないかもしれない。
 だけど、アレを被りゼロを名乗る者が、名乗れる者があの男以外にいるとは思えない。例え平行世界であったとしても」
「そうか。…なら、僕も逃げるわけにはいかない、かな」

止めるべきなのだろうが、月自身も今すぐ近くに因縁の相手がいる。
会いたいのか会いたくないのか、と言えばとても複雑なものだが、会わないわけにはいかないのだろう。

「分かった。気を付けて行ってくれ」

月の短い送り出す言葉に、スザクは踵を返して駆け出した。




「あなたは…」
「こうして顔を合わせるのは二度目、だな。鹿目まどか、美樹さやか」

昇降口で乗り込もうとする3人を迎え入れるスザク。
まどか、さやかは一度顔を合わせた存在であるし、Lは既にこの男がスザクではないかと推測を立てている。故にその仮面姿は警戒には値しなかった。

「艦橋には夜神月がいる。私はここで降りるから、彼を補佐してやってほしい」
「月君が…」
「行くって…、あのゼロってやつと戦うってこと?」


485 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:45:58 FJDbI0nc0

夜神月の名に反応を示すL。
一方でさやかは出ていこうとするスザクに対して問いかけた。

「ああ、あれはきっと、俺が戦うべき相手だ」

と、バッグから漆黒の剣を取り出すスザク。
その雰囲気に、先程飛び出していったイリヤと似た雰囲気を感じたさやかとまどかは引き止める言葉を口の中に留める。

だが、ゼロの力は又聞き程度とはいえその話だけでも、彼が行っても戦えるかという部分に大きな疑問が残ってしまう。

「武器は、それだけなの?」
「実質はな」
「…そういえばもらったバッグの中に、これがあったんだけど、これって何かに使えない?」

さやかの取り出したのは、木場から託されたバッグに入っていた、カードキー。
アヴァロンと示されていたことから、これがこの艦で何かしら使われるものだということはすぐに分かった。

あくまでもほんの希望だった。
例えば、ゲームや漫画のように、こういった道具が何か強力な武器を収められている場所に繋がる、とか、そんなことがあればいいかもしれないと。

「これは…。そうか…」

それを受け取った時、スザクの中に希望が見えた。

「ありがとう、これが使えそうな場所に心当たりがある。
 君達はこの艦で移動を続けて、ゼロから離れてくれ。あとは俺が対処する」

そう言ってスザクは元来た道を戻って走り始めた。

格納庫までの道を駆け抜け、カードキーをかざす。
ロックが解除され、扉が開く。

望むものは、そこに直立していた。
白き騎士は、主を待ち望むように静かに、しかし力強く。






一方でアヴァロンに搭乗し艦橋に向かうL、まどか、さやか。
配置された簡易地図に従って艦橋に向かい、あと少しというところで艦に衝撃が走った。

思わず地面に転がるまどかとL。
踏みとどまったさやかが窓の外を覗くと、浮遊する巨人が艦の上を目指しているのが見えた。

「上…?」
「艦橋か――いけない、みんな、伏せて!」

さやかの呟きにLは叫んで壁を掴み、さやかはまどかを庇うように抱きしめた。
艦橋を潰されたら艦が墜落することは皆すぐに察しがついたからだ。
こちらからできることはない。せめて衝撃に備えるかのように、皆は構えた。



(ここまで、か)

艦橋の月は、目の前に現れた巨人の向ける殺意を真正面から受け止めていた。

不慣れな操作でどうにか機銃や障壁は動かしたが、目の前の相手はそれをやすやすと突破してここまできた。
自分にどうにかする術はない。

Lがすぐ近くまで来たここで死ぬのもまた、皮肉なものに感じた。
だが、不思議と死が怖いとは思わなかった。
あの時の孤独と絶望の中の死と比べれば、まだ幾分かマシなようにも感じてしまったから。


だからこそだろう。
その向けられた指が、こちらに放たれる瞬間も、真っ直ぐに目を反らさずに見ていられたのは。





486 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:46:51 FJDbI0nc0

セイバーは見ていた。
イリヤは見ていた。
アヴァロンの中から飛び出した一陣の光を。


さやか達は見た。
窓の外を一瞬過ぎ去った白き巨体を。


「…?!」

ゼロがスラッシュハーケンを放ったその時だった。
横から放たれた光がガウェインの体を捉えた。
エネルギーが弾け爆発、ガウェインの巨体を揺らしスラッシュハーケンの軌道をずらした。
艦橋の下を掠めていくガウェインの指。

そして、視線を反らさなかったからこそ月は見ることができた。
目の前に白き巨人が現れ、ゼロの乗った黒き巨体を蹴り飛ばすその瞬間を。

「―――!」

ガウェインごと後ろに下がったゼロの目前に、それがいた。


夜天の暗闇の中。その機械仕掛けの瞳に光が映る。
アヴァロンが照らす光の中で、翡翠色の翼を広げて守護者のごとく立ちふさがる白き騎士。




ランスロット・アルビオン。
かつてナイト・オブ・ゼロの名を承った男が駆った、最優のKMF。


そして、それを駆れる存在を、この場でこれを知る唯一の者、ゼロは一人しか知らない。



「無事か、月!」
「その声、スザクか?!」

後ろで自動ドアが開く音が聞こえたが、振り返ることなく月は通信機の呼び声に答えた。


「ああ。俺はこれでゼロの相手をする。君達は先に進め」
「分かった。……、スザク、死ぬなよ」
「お互いにな」

それだけの短いやり取りを最後に、スザクは通信を切った。
目の前の敵に視線を戻す。

ガウェイン。
かつてルルーシュが乗り、海の底に沈んだKMF。

そしてゼロ。

(やはり、君は―――)
「ルルーシュなのか?!」


487 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:47:38 FJDbI0nc0



「ふ、フハハハハハハハハハ!!」


ゼロは笑う。
それは歓喜の混じった笑い声。
何故こんな笑い声が出てくるのか、自分でも不思議だった。
目の前にいる者が誰なのかを意識した時、自然と溢れ出たものだ。

「やはり、お前は俺の前に立ちふさがるか!!」

その笑い声を発している時のゼロは、かつて人間だった頃の自分を思い出されるものだった。

「枢木スザクゥ!!!」

ガウェインが飛翔する。しかしランスロット・アルビオンの動く方が早い。
宙に向けて放たれたハドロン砲を接近しながら回避。
更に2射目が放たれそうになった瞬間、その手に持ったスーパーヴァリスを撃ち込む。
計3射放たれたうちの1発は外れ、もう2射はガウェインの両肩へと向かう。
1発は右肩の砲台へと命中、発射されようと赤熱したエネルギーを爆発させ発射を止めた。
しかしもう片方はすぐ上に乗っていたゼロの眼前でかき消え、そのまま阻止できぬまま発射。
バランスを崩した砲撃は宙を薙ぐように放たれるもランスロットは難なく回避。

そのまま、両腕のスラッシュハーケンを射出。
対するガウェインもまた、両指のスラッシュハーケンを撃ち出す。

衝突し絡み合った2つのハーケン、しかし一瞬の硬直の後、ランスロットが更に上に飛び上がったことでガウェインの巨体が引き寄せられる。

そのまま迫るガウェインの巨体を蹴り飛ばす。
巨体は観覧車に衝突し、巨大な円形の機具が地面へと倒れる。

だが、顔を上げた目の前で、ランスロットの手の上にゼロの存在を確認したスザクは、咄嗟にMVSを引き抜く。
赤い刀身がゼロに迫るも、ゼロはこれを掌の光る拳で受け止める。
その瞬間、MVSのエネルギーが停止する。

「…?!」

驚愕するも的確に対処するスザクは、それだけでも充分な質量の剣でもあるMVSをゼロへと斬りつける。
今度は対処が遅れ、斬りつけられたゼロの体が宙に舞う。


しかしゼロは落ちることなくマントをMVSに絡みつけ復帰、剣を踏み台にしてランスロットの顔面に迫る。
その拳の光を見た瞬間、直感的に腕のブレイズルミナスを起動させ防御。
強い衝撃で後ろに弾き飛ばされ、展開されていたエネルギーシールドもまた消滅。

食い下がるようにランスロットに巻き付けたマントを引き寄せて接近、再度拳を突き出したゼロ。
対するスザクは機能の停止したMVSでマントを、刃の切れ味をもって切断。更に、勢いを落とさず迫ったゼロへと流れるように思い切り回し蹴りを叩き込んだ。

支えも命綱も失い、吹き飛んだゼロは遊園地の地面へと叩きつけられた。




『イリヤさん、行きましょう』

目の前に現れた、緑翼の白い巨人がゼロと戦うのを見たイリヤとルビー。
戦闘の間にアヴァロンは離れていく。あの騎士を無視して距離を詰めることも無理だろう。

そして、あの戦いの場に自分の居場所はない。

そう感じ取り、同時に後顧の憂いがなくなったイリヤは、ルビーの言葉に静かに頷き、その場を飛び去った。
あの場に戦いの場がないなら、きっとこの進む先に自分のやらなければならないことがあると、そんな直感に従って。





488 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:47:59 FJDbI0nc0
どうにか体の自由を取り戻したセイバーは、立ち上がりながら白い巨人と魔王の戦いを見ていた。
魔王の巨人、ガウェインを吹き飛ばす力もさることながら、あの機体の挙動もまたセイバーから見ても優れたものと感じるほどだった。

巨人のことについては素人目だが、それは機体の性能に引きずられたものではないと見えた。動かす人間の確かな技量に基づいたものだ。

しかし、それだけの力を持ってなおもゼロの力は引けを取ってはいなかった。
それどころか、自分との戦いの際以上の力を発揮させていたようにも思えるほどに。

一機では分が悪いかもしれない。

(共闘の必要があるかもしれない。が…)

武器のない今の自分でどこまでできるか。
あるいはアヴァロンとの合流をすべきだろうか。
思案するセイバーの前に、白銀の機体が静かに舞い降りた。






「これが…魔王ゼロの力…」

ユーフェミアから聞いてはいたが、ここまでの力の持ち主とは思わなかった。
MVSやブレイズルミナスを停止させる力に、KMFをも圧倒する身体能力。
ガウェインの存在が驚異とは思っていたが、ゼロに比べればあれすらも霞むほどだった。
同時に、何故かこれだけのことをする存在となってなおも、目の前の魔王がルルーシュではないとも思えなかった。


そして、これだけの衝撃を持ってしてもゼロはまだ倒れたように感じない。



ゼロの復帰がまだであることを確認したスザクは、浮遊した機体を下ろした。
地を足につけた瞬間、ガクリと右側に機体が寄り下がる。
見ると、ゼロを蹴り飛ばした右足のランドスピナーが吹き飛んでいる。足そのものは外見上問題なさそうだが、内部はかなりボロボロの状態だろう。
こちらの攻撃を迎え撃った一撃だけでこれほどの力だ。

ふと、周囲を見回すと、すぐそばで金髪の少女がこちらを見上げている。
あの少女がただの少女ではないことは、あのゼロと単騎で戦っていたことからも明らかだ。

「無事か」
「ああ。貴公は…」
「あの艦に乗ったものの味方、と考えてもらっていい。
 もし戦えそうなら、共闘をお願いしたいが」
「……」

少し考えるように沈黙した後、少女はおずおずと口を開く。

「恥ずかしながら武器が無くてな…。何か剣等を持ってはいないか?」

剣。
ふとスザクは、自身の持っていた武器を思い出す。
特に役立ったものでもない、自分にとってはただの剣でしかなかったもの。


背部のコックピットを開き、引き出した剣を少女の元へと投げ渡した。



特に期待はしていなかった。
もし剣がないのであれば、自分はあの戦いには入れない。
共闘は願い下げ、アヴァロンの皆の合流へと急ごうと考えてもいた。

だが、投げ渡された剣を視界に収め、それを受け取った時そんな考えは一瞬で吹き飛んだ。
まるで、失われた自身の体の一部を取り返したかのように、とても自身の手に馴染んだその剣。

「あいにく今俺の持つ剣はそれしかない。そんなもので構わないか?」

これがただの剣であったこの騎士には、これを持ったとてこの趨勢に大きく影響するほどのものとは思えなかったのだろう。
だが、それは今の自分が最も求めた力。

掴み取った瞬間、体のダメージが軽くなったようにも感じられた。

「――――充分だ」

理想も、誇りも、守るべき主も捨て去り。
贖罪のため、自身の願いも諦めた。

だが、まだこの手に、この剣さえあるのなら。

「これさえあれば、私はまだ戦える。ただ一つの、剣(皆の力)として―――」


巨人ガウェインが崩落した遊園地の破片の中から起き上がる。
ダメージを受け破損したはずのその体には、傷一つ残っていない。

そしてそこから少し反れた場所、自分たちの視線の先で、ゼロは立ち上がる。
あれだけの衝撃を受けてなお、その身の覇気は衰えてはいない。むしろ増しているようにさえ思う。

両手に剣を構える騎士・ランスロット。

その隣に立つ騎士王・アルトリア・ペンドラゴンもまた、自身の持つ剣、約束された勝利の剣を、風を斬るかのように振るう。
黒き刀身を覆っていた泥は吹き飛び、黄金の光が剣を包んだ。



ここに、一つの決戦が始まる―――


489 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:48:11 FJDbI0nc0


【C-5/遊園地/一日目 夜中】
【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:ゼロの衣装、「生きろ」ギアス継続中、疲労(小)、両足に軽い凍傷、腕や足に火傷
[装備]:ゼロの仮面と衣装@コードギアス 反逆のルルーシュ、ランスロット・アルビオン(右足・ランドスピナー破損)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:基本支給品一式(水はペットボトル3本)、スタングレネード(残り2)@現実
[思考・状況]
基本:アカギを捜し出し、『儀式』を止めさせる
1:ゼロを倒す
2:Lを探し、 政庁で纏めた情報を知らせる
3:アカギの協力者にシャルル・ジ・ブリタニアがいる前提で考える
[備考]



【セイバー@Fate/stay night】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、魔力消費(大)
[装備]:約束された勝利の剣@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:シロウの願いを継ぎ、桜とイリヤスフィールを生還させる
1:皆のための剣として、ゼロを倒す
2:イリヤスフィール、サクラのことは頼みました
[備考]




【ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、右脛に裂傷(回復中、動くには問題ないが激しい動きを続けると開く可能性有り)、コード継承
[装備]:ガウェイン@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー 全て遠き理想郷@Fate/stay night
[道具]:共通支給品一式、タイプライター@現実
[思考・状況]
基本:参加者を全て殺害する(世界を混沌で活性化させる、魔王の役割を担う)
1:枢木スザク、セイバーを倒す。
2:もし自分が認め得る参加者がいたならば、考察した情報を明け渡してもいいかもしれない
[備考]
※参加時期はLAST CODE「ゼロの魔王」終了時
※C.C.よりコードを継承したため回復力が上がっています。また、(現時点では)ザ・ゼロの使用には影響が出ていない様子です
※制限緩和の影響によりガウェインのハドロン砲、飛行機能がある程度使用可能となっています
※エデンバイタルに接続し各参戦作品の世界の有り方についてを観測しました。あくまで世界の形を観ただけであり、参加者の詳細情報などは観ていません。
また、そこで見た情報はタイプライターにて纏められています

※全て遠き理想郷はガウェインの中に埋め込まれています。



【C-5/アヴァロン艦内/一日目 夜中】
【夜神月@DEATH NOTE(漫画)】
[状態]:疲労(小)
[装備]:スーツ、
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:キラではない、夜神月として生きてみたい
0:L…か…
1:アヴァロンに乗って行動する
2:Lを探し、信じてもらえるのであれば協力したい
3:斑鳩を警戒
4:メロから送られてきた(と思われる)文章の考察をする
[備考]
※死亡後からの参戦


490 : 舞い降りる剣 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:48:22 FJDbI0nc0
【L@デスノート(映画)】
[状態]:右の掌の表面が灰化、疲労(小)
[装備]:ワルサーP38(5/8)@現実、
[道具]:基本支給品、クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ、ブローニングハイパワー(13/13)@現実、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、トランシーバー(電池切れ)@現実 、薬品
[思考・状況]
基本:この事件を止めるべく、アカギを逮捕する
0:月君…
1:アヴァロンに乗って行動する。
2:月がどんな状態であろうが組む。一時休戦
3:遊園地の地下にあるものをいずれ確かめたい
4:向かえるならばポケモン城に向かいたい
[備考]


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(小)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み)、精神的な疲弊
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
1:Lさん達と一緒に行動する
2:私は何ができるだろう?
3:美遊ちゃん…
[備考]



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)
[装備]:ソウルジェム(濁り30%)(小さな亀裂有り) 、トランシーバー(残り電力一回分)@現実、グリーフシード(濁り100%)
[道具]:基本支給品、グリーフシード(濁り70%)、コンビニ調達の食料(板チョコあり)、コンビニの売上金
[思考・状況]
基本:自分を信じて生き、戦う
1:アヴァロンに乗って皆と行動する
2:ゲーチスさんとはもう一度ちゃんと話したい
[備考]
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※魔法少女と魔女の関連性を、巴マミの魔女化の際の状況から察しました
※まどかから自分の参戦時期〜まどかの参戦時期までの出来事を聞きました
※ソウルジェムの亀裂の影響ですが、ルビー評だと戦闘は2度以上は危険とのことです。





【C-5/一日目 夜中】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(中)、胸に打撲(回復中)、精神的ショック(小)、悲しみ、決意?
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター(使用時間制限))(ランサー(使用制限中))(アサシン)(アーチャー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、
    クラスカード@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、破戒すべき全ての符(投影)
[思考・状況]
基本:皆と共に絶対に帰る
0:美遊……
1:桜の元に向かう
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※ルビーは、衛宮士郎とアーチャーの英霊は同一存在である可能性があると推測しています。
※ミュウツーのテレパシーを通して、バーサーカーの記憶からFate/stay night本編の自分のことを知識として知りました


491 : ◆Z9iNYeY9a2 :2018/06/21(木) 23:48:39 FJDbI0nc0
投下終了です


492 : 名無しさん :2018/06/22(金) 00:07:42 6moSIA8I0
投下乙です!
うおおぉぉぉ!熱い!
ガウェインを纏うゼロに対し、スザクがランスロットを装着し挑む!
そしてそれでもなお優位には立ちきれないというところで、セイバー、アーサー王との共闘とは!
円卓の騎士の名を持つ三人の戦いを前に、一人沈むイリヤはどうするのか……今後も目が離せませんね!


493 : 名無しさん :2018/06/22(金) 00:46:58 cqTsnAxM0
投下乙です。
遂に円卓つながりの戦い……という引きも勿論の事、
まどかから自分のその後を聞き届けたさやかの心情もまた……。
ここでも向こうでも様々ありましたが、それを短い文章でそっと語るのがなんともダンディ。
ここから月とLの間にもこれからきっと生じてくる人間ドラマにも期待大です。


494 : 名無しさん :2018/06/22(金) 00:48:54 e6OEnhMc0
投下乙です

遂に始まった魔王と二人の騎士の決戦
それに月とLの再会が迫り、覚悟を決めたイリヤは桜の元へと今後の展開が楽しみです


495 : ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:10:46 aE9bk1Lg0
投下します


496 : Another Heaven/霞んでく星を探しながら ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:12:16 aE9bk1Lg0
フレンドリィショップのすぐ近く。
森の中に、まるで目印になるように明るく照らしている空間の近くに、間桐桜は佇んでいた。

視線の先にあるのは、盛り上がった灰の山。
これは確か、オルフェノクが死んだ時にこうなるものだったと思う。
この主が誰なのかは、一応探してみた同行者がどこにもいなかったことからすぐに推察することができた。

「やっぱり、死んじゃったんですね。村上さん」

ポツリと呟かれた言葉。しかしその中には感慨はない。

正直なところ、桜にとっては村上はそこまで意識するような存在ではなかった。
オルフェノク――人間ではない存在になりきった男が語る価値観は、桜にとっては相容れないものだった。

化物になんかなりたくなかった、普通の人間で、せめて魔術師でいたかったと願う桜の心には、彼の言葉は響かなかった。

それでも唯一つ、彼が言った言葉に同調するものがあったとしたら。

「強くなればいい。そうして誰からも非難されないようになればいい。あなたはそう言いましたね」

それだけは、今の自分でもある意味真実であるものだと、そう思った。

村上は負けた。それはきっと彼が弱かったから。

自分が正しいと思うのならば力を示せばいい。
もし自分が負けるとするならば、それは”正義の味方”であった彼の手のみなのだから。

そうして村上の遺灰を過ぎ去っていく桜は、その力の先にある、ポッカリと空いた穴の存在に目をそむけた。
どれだけ強くなっても、もうその力を見てくれる者は誰もいないのだという事実から。



フレンドリィショップ。つい先程通った場所。
そして、村上峡児と決着を付け、オルフェノクとしての自分と完全に決別した場所。

(―――木場)

思い浮かぶのは戦ったかつての友。
あの後木場がどうなったのか、果たしてあいつは救われたのか。

さやかにでも最後に何か言っていたか聞けばよかったのかもしれないが、一方で聞かずとも彼が言おうとしたことを心のどこかで確信している自分がいた。
眠っている間に見えた木場の姿、彼が送ってきたエール。
あれが自分の見たただの夢だとは思えなかったから。

そして、だからこそ木場の死に立ち止まることはできない。
そこに思いを馳せるのはまだ先のことになるだろう。

間桐桜。
それは衛宮士郎が語っていた、守りたいものの名。
しかしそんな少女が、今自分たちの前に最悪の敵の一人として立ち塞がっている。

セイバーから聞いた桜の罪。自身の大切な人を手にかけた事実から、死を願って殺戮の限りを尽くしているのではないかと。
その感情は巧には理解できるものだ。
真理を殺したと思い、草加や木場の手にかかることを望んでいた時があった。

長田結花の言葉が正しいのかどうかは分からない。
しかしきっかけにはなったのだと思う。
あの言葉がなければ、きっと自分はマミと向き合おうとは思わなかっただろう。

そして、今となっては真実はどっちでもいい。
自分が向かい合わなかったことでマミのように傷付く人が増えるなら、全て背負えばいい。
それが今の自分の覚悟、生きる理由なのだから。

そこには、間桐桜の存在も含まれている。

彼女と自分の違い。
それは一歩踏み出してしまうことができたか否かの違いだろう。
そしてその箍はデルタギアを使った時には外れていたのかもしれない。

だとしても、いや、だからこそだろう。

「見捨てられねえよな」

目の前で、幽鬼のようにユラリと佇む黒き鎧を。
殺気と禍々しい気配に覆われた少女を。


497 : Another Heaven/霞んでく星を探しながら ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:12:47 aE9bk1Lg0

その悲しみを受け止め、止めてやるべきだと。

「―――あなたは、誰ですか?」

黒い兜の奥、瞳は赤き光に覆われて見えない、しかし確かに視点は一直線にこちらを見ている。

「お前、間桐桜で、いいんだよな」
「ええ、そうです」
「衛宮士郎って、知ってるか?」

その名前を出すと、桜の不安定に揺れる体がピタリと停止した。

「そうですか、あなたが乾巧さんですね」
「…何で知ってんだよ」
「村上さんが言ってたんです。あなたなら、先輩のこと何か知ってるって」
(……あの野郎)

村上が自分と士郎の関係を知っていたとは思いづらい。何しろLがアリスから聞いた話ではいた場所が正反対だ。
おそらくだが、桜を引き込むために口から出まかせを言ったのだろう。
実際のところは真実で、それが話を逆に円滑に進めてくれそうな状況になったのが皮肉でしかないが。


「ああ、俺はあいつと一緒にいた」
「そうですか、なら、あなたが」
「士郎のこと、聞きたいんだろ?少し付き合え」

殺気が向けられるのを遮って、こちらのペースに持ち込む。
桜はきっと士郎のことを聞きたいはずだ。
話せることは多くはないが、ここから離れる時間を稼ぐ程度の会話にはなるはずだ。
準備したファイズギアを使うことなく話が進むとは思えないが、ことが起こった際ここでは少し遊園地に近すぎる。

「先輩の、ことを―――」

言おうとした言葉、発していた敵意が止まり、葛藤するかのように頭を抑える桜。

この時の桜はクラスカードの狂化の影響で判断力が弱まっていた。
巧の言うことが自分の気を引こうとしているだけだと気付いていながらも、自身から湧き上がる「先輩のことを聞きたい」という欲に抗うことができなかった。

「…いい、でしょう。その代わり、私が聞いたことには全部正直に答えてください」
「………」

巧はその問いにYes、とは言えなかった。
おそらく聞かれるだろう質問に覚えがあり、それに答えることができるか、それが分からなかったから。

その返答を待つことなく桜は巧に歩みをあわせるように踵を返した。


「私、先輩の隣で一緒に歩く時間が大好きだったんです」
「………」
「あの人は、私にとって数少ない光でしたから」

歩みながらも目を見せないように話す桜に、責められているように感じた。

「あいつ、言ってたんだよ。お前が笑顔でいてくれることが、自分の願いだってよ」
「あははっ、そうですよね。先輩は私を選んでくれたんですから」
「だけど、もしものことがあったら自分は側にいてやれなくなるってもな」
「…やっぱり、そこだけは気付いてくれなかったんですね。
 いつもそうでした。自分のことより人のことばっかり考えてて、人助けから危ないことまで色んなことに首を突っ込んで。
 先輩がいなくなったら、私が笑顔でいられるはずなんてないのに」

だから、と続けた桜から不穏な空気が流れ出た。
意識したものではない。きっと無意識なものだろう。

「だから、先輩を守るために、”悪い人”はみんな殺そうって。
 だけど私自身が悪い子になっちゃったから、せめて先輩の手で殺されたいって、それが私の願いになってたんですよ」

軽々しく放たれた、あまりに物騒な発想に一瞬顔をしかめる。
しかし怯むわけにはいかない。

「…士郎を守れなかったのは俺の責任だ。すまなかった」
「……全く…、先輩はそういう人なんですから。そういう人を、私は好きになったんですから。
 ――――それで、先輩を殺したのは誰なんですか?」

来た、と思った。
それは巧が全ての質問に答えると言えなかった理由。きっと問われるだろうと思っていた質問。

「聞いてどうするんだよ」
「殺しに行くに決まっているじゃないですか。
 どうして先輩を殺した人がのうのうと生きているんですか。いいえ、もし死んでても許さないです。
 殺して殺して殺して殺して、何度殺しても殺し足りないくらいにバラバラにしてぐちゃぐちゃにしてやるんですよ」

そして答えは巧の思っていた通りのもの。
これに答えてはならないと思った。
その復讐は、きっと誰も救われない。セイバーも、桜自身も、彼女の幸福を願った士郎も。

「だったら言えねえな。少なくとも今のあんたには」
「さっき言いましたよね。質問には全部答えてもらうって」
「答えてやるとも言ってねえよ」


498 : Another Heaven/霞んでく星を探しながら ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:13:16 aE9bk1Lg0
ギロリ、と桜の顔がこちらを向く。向けられた赤い光の奥には強い殺気を感じる。

「なら、あなたが代わりに”償って”くれるって言うんですか?
 先輩を殺した人の罪を」
「俺の償いは、あんたを助けることだよ」

殺気を受け流して歩みを続ける。
まだその感情が爆発するまでは猶予がある。せめてもう少しは歩みを進めておきたい。
一方で、不意の暴発にも耐えられるようにファイズフォンはいつでも装着できるように備えている。

「士郎も、啓太郎に真理にマミも、誰も助けられなかった。せめてあいつらが守りたかったものくらいは背負いたいんだよ」
「真理さん、マミさん…、お知り合いだったんですね。二人とも優しい人でした」
「知ってんのか」
「ええ、すごくいい人で、だからこそ殺せば悪い人になれるって思ってました」

ふと思い返すのは、マミの最後の絶望の表情。
もしかして、あの絶望の顔の一因に桜は関わっていたのだろうか。

「私のこと、憎いと思いますか?殺したいと思いますか?」
「思わねえよ。ただ、自分のやるせなさが許せなくなるだけだ」
「―――何で、あなたはそんなに強いんですか。
 憎いなら怒りをぶつければいいし、殺してしまえばいいのに。
 何でそんな、先輩や姉さんみたいに強くいられるんですか」

嫉妬だろうか。
それだけの強さを持っていながらもうどこにもいない、憧れの人や憎い人。
自分が持たなかった強さを持っていた人たちに近い強い心を持っている。

桜にとっては羨ましくもあり、しかしどうしようもなく癇に障るものだった。

「強くなんかねえよ。言ったとおり、こんなもので誰も守れなかった。
 だから、お前にも死んでほしくないって、これ以上手を汚してほしくもないって思ってんだよ」
「勝手にそんなものに私を含めないでください。
 こんな、人殺しの化物になった私の、何があなたに分かるんですか!?」
「分かるんだよ!俺だって、お前みたいに大事なやつを殺したと思って死にたいって思ってた頃があるから!
 お前はデルタギアのせいでおかしくなっただけだ!やり直そうと思えばまだ戻れるんだよ!」
「あなたのことなんて知らないです!!
 それに、あのベルトだって私が元々思ってたことを表に出させただけです!!私のことを助けてくれない、でも幸せに生きてる人が許せないって、そんな想いを!」
「なら、俺が助けてやるよ!俺だけじゃねえ、お前がそんなふうになるのを望んでないやつは他にもいっぱいいるんだよ!!」
「でも、その中に先輩はもういないんでしょう?!だったら意味なんてないです!!
 もう話は終わりです!!早く、死んで私の前から消えてください!!!」

激情のままに叫んだ桜は、話を打ち切り戦闘態勢に移行。

元々構えていた巧は、すかさず後ろに大きく飛び退いて構える。
彼女の手には美遊が持っていたステッキが、桜の体から漏れ出す瘴気と同じ闇色に染まった状態で備わっている。

その後ろからは山のような巨大な影がぬらりと姿を表し、その脇には紫髪を持つ長身の女が桜を守るかのように鎖のついた短剣を構えている。

(やっぱ、こうなるのかよ…!)

覚悟はしていたが、それでも少しは桜に言葉を届かせたいと思っていた。
しかし結果はご覧の通り、戦うしかない状態だ。

既にスタンバイ状態で待機させていたファイズフォンをファイズブラスターへ差し込む。
通常のファイズでは手に余る相手というのは既に実感している。故に今度は最初から全力で行かせてもらう。

黒い影が長い帯のような腕をこちらに叩きつけると同時に変身が完了した巧は後ろに大きく飛んで空中でファイズブラスターを構える。
桜の姿が巨人の陰に隠れてこちらが見えないことを確認。

巧はセイバーに言われた言葉を思い出す。



『その黒騎士の力が、もし私の知っているもののそれであるならば。
 彼の能力はいかなる武器をも自身の扱う武具として使いこなす力でしょう』

例えば動かすことに技術やエネルギー(魔力や燃料)が必要なものであっても、その力で扱うことができるものだという。

『かつて彼が素手でありながら敵の持つあらゆる武器を奪い使いこなした逸話が力として昇華されたものでしょう。
 おそらくカレイドステッキを奪った力もそれです。
 タクミ、あなたの武器は一見すれば武器とは見えないもので、例えサクラがそれを奪ったとしてそれを武器と認識できなければ使うことはできないはずだ。
 ですから、戦う際には決して、サクラにはそれが武器だと認識させてはいけません』
『そしてもう一つ。もし他者の武器を操る力を封じて、自身の剣、黒き両刃剣を携えてきた時は注意を。それはかの騎士の持つ切り札だ』





499 : Another Heaven/霞んでく星を探しながら ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:13:44 aE9bk1Lg0

Burst Mode

ファイズブラスターのトリガーをスライドさせてエネルギー弾を放つ。
巨体が揺らぎ、影の中心部に大きな穴を開ける。

「…っ、なんて力…!!」

一撃で巨人の体に崩壊寸前のダメージを与えたエネルギーに、桜は歯噛みする。

巨人の機能を大きく奪った巧は、地に降りて桜の元へと迫る。
しかし桜の数メートル先まで迫ったところで、その目前に飛来した鎖が進行を阻んだ。

長髪の女、クラスカードを聖杯の泥によって無理やり形作った英霊ライダー・メドゥーサが鎖の奥から飛来した。
まるで暗殺者のように最小限の動作で振り抜かれる短剣を払い、拳を叩きつけようとしたところで腕に絡みついた鎖に一瞬動きが止められる。

その隙を逃さず、刃を携えたステッキを構え向かってくる桜。
ライダーの一撃と合わせて両側から斬りつけられるファイズの体。

「…っ」

一瞬の交差の後離れた桜は、警戒するかのように距離を取る。
次いでライダーも桜の隣に寄り添う。その腕の肌には焼けただれたかのように変色した箇所が見られる。

ブラスターファイズの全身が放つエネルギーは、ただ立っているでもファイズエッジが放つものと同等以上の熱量を備えている。
一瞬の交錯であった桜はまだ全身を焼かれることもなかったが、密着して打ち込み続けたライダーはそれだけでかなりのダメージを受けていた。

更に、ブラスターファイズの装甲を、サファイアの刃とライダーの短剣では傷つける程度のダメージしか与えられなかった。
接近戦がダメであれば離れた距離から、とも考える桜だったが、そこまでの装甲を持っているなら遠距離からの砲撃で与えられるダメージなど微々たるものだろう。

ならば、と修復が終わった巨人を立ち上げる。
更に地面には幾重もの影が這い、巧の周囲を取り囲んでいく。

その影の接触を避けるように走る巧。その進行先を巨人の腕が振り下ろされ足を止められる。
一瞬の隙に巧に迫る影の黒帯を避け切ることができず、全身に巻き付かれてしまう。

全身から放出される熱が吸収されていくのを感じた巧。
帯のせいで手元が見えなくなった状態になっているのを見て、瞬時にブラスターにコマンドを入力。

Faiz Braster Discharge

背面のバックパックが帯の下で前面に展開、覆っていた影を一気に吹き飛ばした。

熱、全身のフォトンブラッドが吸収された影響か一瞬全身のスーツが通常のファイズと同じ黒いものとして現れるも、瞬時にまた赤き体へと変わる。

「生意気っ…!!」

再度巨人が腕を振り上げたところで、巧は空へと飛翔。

「ライダ-!!」

空中から巨人を潰す狙いを悟った桜は、ライダーに呼びかけ。
次の瞬間、ライダーは白き天馬にまたがり、巧を追って空を駆けていた。

「!!」


500 : Another Heaven/霞んでく星を探しながら ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:14:02 aE9bk1Lg0

突撃を間一髪で避ける巧。しかしライダーは間髪入れず旋回して再突撃を放つ。
それを巧は、更に上空へと飛び上がることで回避。
追ってくるライダーを見つつ、桜が見えないだろう距離にまでたどり着いたことを確認した巧は、ブラスターを展開。

Blade Mode

フォトンブレイカーを起動させた巧は、それを前に構えた状態でライダーの突撃を敢えて受け止めた。
地に叩きつけんと天馬の全身を押し付けるライダー。対して巧はそれに抗わずに、逆に背部ユニットの噴射を進行方向に合わせる。

地面が迫ったところで、巧はブラスターの刃を戻し、咄嗟にコマンドを入力。

激突寸前でライダーは地面から逸れるように飛び、叩きつけられた巧の体は地をえぐり地煙を上げた。

その場所は、巨人よりは少し距離があり、桜には近い場所。
夜の闇と砂埃で視界がよく見えない中でゆっくりと立ち上がる影を見た桜は、瞬時に手のサファイアの刃を展開して突撃。

今度は近距離用の短剣ではない、人の身長ほどはあろうかという大剣ほどのサイズ。ブラスターファイズのエネルギーを警戒し距離を取って斬りかかるつもりなのだろう。
地面に叩きつけられた巧が無事ではないと判断しての、トドメの一撃を放つために迫り。

砂埃ごと、巧の体を斬りつけ。

「――ー!?」

しかしその刃は、直立したファイズの体にがっちりと捉えられていた。
肩を斬りつけた刃はそこで止まり、更に後ろに引こうにも手で押さえつけられて動かせない。

力を入れて引き抜こうとした瞬間、肩に備えられた小さな砲門がこちらを向いていることに気付き。

サファイアから手を放して後ろに下がった瞬間、桜の体を肩から放たれたブラッディキャノンが撃ち抜いた。
爆発で後ろに吹き飛ばされる桜。

起き上がるよりも前に、ファイズブラスターを入力。

Exceed Charge

桜の背後の巨人に向けて走り、勢いをつけて跳び上がり。
そのまま足から放たれたエネルギーと共に、巨人の体を貫いた。

命中した箇所で赤い竜巻のごとくフォトンブラッドが巻き上がり、巨人の全身を切り刻んで消滅させていった。

「…はぁ…どうだ!!」

息をつきながら起き上がる桜とその側に駆け寄るライダーを目に収める巧。

地に叩きつけられたように見えていたが、実際はその直前で背部ユニットからの噴射を地面との緩衝材にしてダメージを抑えていた。
ダメージを受けたように見えれば桜が迫って攻撃してくるだろうと考えて、敢えて肉を切らせて骨を断つやり方を選んだ。
それでもサファイアの刃のダメージは覚悟していたのだが。

「助かった。お前、手を抜いてくれただろ?」
『いえ、私の方こそ助かりました。あの手に掴まれていては、この程度の抵抗しかできませんでした』

サファイアが刃の強度を制御し、巧のダメージを抑えてくれていた。
おかげで刃を掴むことも叶い、こうしてサファイアを奪還することができた。


「すまねえ、さっき俺がもっとキチッとしてりゃ…」
『…美遊様のことは、乾様のせいではありません。
 ――それと、まだ終わっていません』

桜が起き上がり、ユラリ、と脱力するかのように体を揺らす。
隙だらけなように見えて、すぐ側ではライダーがいつでも攻撃可能なように短剣を構えている。

『それにしても…、不思議です。あの黒化英霊…、即興で作られた存在にしてはかなり息が揃っている…』

ふと、疑問の声を漏らすサファイア。

一方で桜は歯ぎしりをしながら、大きく崩れた巨人に目を向ける。

「全く、使えない子…。作っても作っても壊されてばかり…」

これまで幾度も召喚してきた使い魔、しかしその都度打ち砕かれ粉砕されてきた。
その不甲斐なさに桜の苛立ちは募るばかりだった。

体を前に起こしてこちらを向いた時、桜の体を覆っていた鎧が少し広がり、肌色の範囲が狭まっているように見えた。

『乾様、警戒を!何かが来ます!』

サファイアの警告と共に、桜の背後にあった巨人の残骸が溶け、泥と化して地面を黒に染めていく。

「だったら、もう大きさなんていらないですよね。ライダーみたいに、こうすればよかったんだ」


501 : Another Heaven/霞んでく星を探しながら ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:15:06 aE9bk1Lg0
溶け出した泥は6つに分かれ、やがてそれぞれが形を作り出していく。

一つは黒きバイザーを備えた鎧の女騎士。
一つは巨大な岩の斧を手にした大男。
一つは長槍を手にした細身の男。
一つはローブを纏い宙を浮遊する魔女。
一つは長刀を持った和服の侍。
そして最後の一つは、4メートルはあろうかという体を持った異形の巨人。

漆黒の影に染まった、6つの存在が10メートルはあった巨人の魔力を分割させることで生み出された。

全ては間桐桜がかつて取り込んだことがある者たち。

本来泥をこんな形で使うことができる技量は桜にはない。
しかし、今の桜は夢幻召喚によってあらゆる武器を操る術を備えている。そして桜にとってこの泥は武器の一つだ。
ライダーのカードを受肉させた経験の応用、泥を人の形の使い魔として操ることを、桜は学んだ。

そうして生まれたのは影の英霊・シャドウサーヴァントとでも呼ぶべき者たちだった。
黒化英霊と比較して尚もその力は衰えており、きっと宝具を使うことも叶わぬ者たちだろう。

だが、少なくともこれらは巨人と違い相手の攻撃を受け、避けてくれる。
形を明確に定めた影響か吸収能力は失っているが、どちらにしろブラスターファイズの攻撃を受け止められないならば構わない。

「もう、壊しちゃっていいですよ。皆さん」

桜の指示を受け、一斉に巧へと迫るシャドウサーヴァント達。

巨体に見合わぬほどの素早さで迫り斧を振り抜くバーサーカー。
地面を叩き砕く一撃を避けた巧を、バーサーカーの脇を抜けてきたランサーが迫り、長槍を突き出す。
辛うじて胸部の装甲で受け衝撃を減らした巧は後ろに跳び上がり宙へと逃走。

しかしその先で空中から光弾を撃ち込むキャスターの連撃を避けることができず全身を衝撃が打ち据える。

「くそっ!!」

宙で落ちながらも背部のブラッディキャノンを撃ち返し迎撃。
しかし地まで数メートルといった位置まで落ちたところで巨人・マークネモが長刀を構えて振りかぶってきた。

キャスターの迎撃に意識を割かれていた巧は攻撃を受けることができず、宙をもんどり打って吹き飛び。
飛ばされた先には剣と刀を構えたセイバー、アサシンの姿。

姿を視認した瞬間、巧は手を咄嗟に前面に構え。

すれ違い様に、巧の体を2騎の剣士はX状に切り裂いた。
装甲が火花を上げる。今度の一撃は減衰しきれず内の巧へも強い衝撃を与える。

「がぁっ!!」

地を転がる巧。
その隙を逃さず、桜の体が迫る。

手に持っているのは先ほどセイバーがこちらへと向けて斬りつけた剣。
セイバーがから奪った、贋作ですらない影の剣をまるで己が武器のように振りかざす。

もはやなりふり構ってはいられないと判断した巧は、フォトンブレイカーを起動させ剣を受け止める。
少女の外見からは想像もできないほどの素早く鋭い連撃。幾度も受け流し払いのけるも、やがてその速さに押し負け始める。

このままでは埒が明かない。
ブラスターを放り投げ、剣を受ける覚悟で桜の元へと突撃をかける。

武器を捨てるという挙動に虚をつかれた桜は対応が遅れるも、剣の冴えは変わらぬまま巧を斬りつけかけ。
脳裏に一瞬、先ほどサファイアを奪われた際の光景がよぎった。

至近距離を取られファイズの内蔵火器を受けることを警戒した桜は巧から距離を取ろうと後ろに下がり。
それを見た巧は、後ろに下がった桜の前で地を蹴り宙に跳んだ。
その足には赤熱したエネルギーが見える。


502 : Another Heaven/霞んでく星を探しながら ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:15:29 aE9bk1Lg0

「っ!」

影の巨人をも吹き飛ばした一撃が来る。
桜の判断もまた早かった。

離れた距離にいたランサーがその槍を投げ、更に離れた場所にいたキャスターが魔力弾を発射。
飛び上がった巧の体を槍と光弾が打ち付け、巧の体はバランスを崩して吹き飛んだ。

「は、あははは…!バカな人…、自分から武器を捨ててそんな…」

焦りを消そうと呟きながら、巧の捨てたブラスターを拾いに歩く桜。
トランク型に戻ったそれを手に取って武器として振るおうとするも。

「何これ」

拾った物体の、あまりにも武器からかけ離れた形状を見た桜の第一声がそれだった。

例えばの話。
桜が使用したベルトがデルタギアではなくカイザギア、あるいはファイズギアであったとすれば(使えるか否か、使うことへのリスクはこの際考えないとして)今の巧でも危なかったかもしれない。
ファイズギア、そしてファイズブラスターはキー入力によってそれぞれ求める攻撃を行う武器として使えるもの。
しかしキーが分からなければただの携帯電話、使い方の分からないオブジェでしかない。

巧が実際に剣として使っていた場面を視認したのは今の一度だけ。
その一度でこれを如何にして使うのかを確認することはできていない。
武器として認識できないものは、黒騎士の力をもってしても扱いきれるものではなかった。

加えて、今しがた桜はこれを使いこなせそうにないとも認識してしまった。

仕切り直すように桜はブラスターを再度放り、巧の方を向く。
使えない道具に気を取られたせいで、巧は態勢を立て直している。

使い方を知ったところで使えそうな気がしない道具。
奪っても使えないなら奪う価値はないだろう。こっちはこっちの武器を使えばいい。


「まあいいですよ。今度はちゃんと殺してあげますから」

周囲を取り囲むシャドウサーヴァント達に警戒しつつ、巧は地面のブラスターを拾い上げて構えた。




桜を探して飛びながら、手元のカードを弄るイリヤ。

今手元にあるのはキャスター、アサシン、ランサー、そしてアーチャー。
ランサーのカードはさやかから受け取ったものだ。現状戦いを避けるべきとのルビーの言葉を受けた彼女から、使いこなせるイリヤが持っているべきだと渡されたものだ。
ライダーのカードは美遊が持っていたもので、今はおそらく桜の手元だろう。
セイバーとバーサーカーのカードは参加者にいることを考えればそもそもこの会場にあるのかどうかも怪しい。

現状で使えるものはアサシン、アーチャーの2つ。
キャスター、ランサーは先の戦いで使ったばかりでまだ時間が空いていない。

『ですが、あの泥はそもそも英霊の力とは相性が悪いです。かといって、今のイリヤさんの出力で戦うのも無謀。
 あれほどの魔力容量であればイリヤさんが全盛期であったとしても、厳しい戦いになるでしょうし』
「…もし、さっき戦艦から飛び出したロボットみたいなものだったら、いけたのかな?」
『あれですか。なるほど、確かにあれだったり、あとゼロの力でも突破はできるものなのかもしれませんね。
 ですが、今はそれを願うべきではないでしょうね』
「……」

確かにそうだろう。桜と戦うと、向き合うと決めたのは自分自身なのだから。

『イリヤさん、美遊さんを手にかけた桜さんが許せないですか?』
「……」

口にしたくはなかった。
親友の命を奪った相手に対する恨みの念など。

『ではもう一つ。桜さんをどうしたいですか?
 皆を守るためです。殺すこともあるいは一つの選択ではあります』
「…私は、それでも殺したくはない…。できれば、助けてあげたいと思う」
『イリヤさん、それは桜さんが士郎さんの恋人だから、ですか?』
「…うん」

迷ったように頷くイリヤ。
それを見たルビーは、今のイリヤでは少し危険な空気を感じていた。






503 : Another Heaven/霞んでく星を探しながら ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:15:50 aE9bk1Lg0

既に何体かのシャドウサーヴァントを倒すことはできた。
しかし倒した端からまた泥は時間を置いて修復され、元の形を取り戻していく。

巧は戦っていくうちにこの影の英霊達に対して、ある程度の強さの法則が見えてきていた。

例えば、今巧の目の前で長槍を振るう槍兵。
速さは巧の目で追うのがやっとというほどであり、更に離れての射撃が一切命中しない。回避できないよう足払いして打ち込んだブラッディキャノンが外れていくのだ。
しかし一撃一撃にはそこまでの力はない。急所や装甲の薄い場所さえ当たらせなければ受け切ることができる。

槍を胴の装甲で受け止め、腕でがっちりと抑えた後で力を込めて殴り、肘打ち、膝蹴りを叩き込んだところで体が砕け泥へと戻っていく。


その後ろから攻め込んできた巨腕の大男、バーサーカー。
これは先に一度相まみえたことがある存在。しかしそれと比べれば大きく強さは劣化しているものだ。
見かけによらず速く、力強い。劣化しているとはいえ受ければただでは済まない腕力だ。だがランサーのように飛び道具に対し特別な耐性を持ってはいない様子。
ブラスターを構え、光弾を発射すると吹き飛ばされていく。

吹き飛ぶバーサーカーの後ろに見えたのは巨大な魔法陣。
キャスターは接近をこなす技量がない様子で、常に距離を取って他の使い魔達のサポートに回っている。今構えている陣も巨大な砲撃を行う準備なのだろう。
遠距離戦には通じているのか、砲撃は防御陣で防がれることが多い。

だからこそ巧は構えたブラスターから射出された赤い刃で斬りつける。
魔法陣ごと魔術師の体は切り裂かれ、その体は消失していく。


不意に背後に気配を感じた巧は咄嗟に振り返って腕をかざす。

たなびく紫の長髪が視界に映り、腕に当たった刃が火花を散らした。

他の影の英霊と比較して、この存在、ライダーだけは特別厄介な存在に感じられた。
力が強いわけでも、技量が高いわけでもない。速いといえば速いが、槍兵や侍の方が敏捷にも感じられる。
だが、他の存在は攻撃が単調で読みやすいのに対し、こちらはこちらの手にある程度の対応力を持っている。

至近距離からのブラッディキャノンや砲撃は確実に避け、攻撃を受けられても決してこちらには隙を掴ませようとはしない。

大きく展開させた刃を振り、相手を引き離して距離を取る巧。


『おそらくですが、影の英霊達は桜様が操られているからなのでは。技量は再現できても、対応力や経験の再現まではできないということでしょうか』

巧の考えに対してのサファイアの意見だった。
よく見れば、確かに影の英霊達は動く場合せいぜい一度に二体しかかかってはこない。
一体が撃退される度に次が動き始める。

おそらくはそれが桜自身の使い魔使役の限界なのだろう。
巨大で鈍重だが、単調な動きだけで役割をこなせる巨人と比べれば小回りが効く分動きが複雑化しているのだ。


しかし、そんな現状など桜自身とうに自覚していた。
そして相手が自分の限界を見せる程度では殺されてはくれない相手ということも、倒されていく使い魔を見て認識していた。

故に、桜は自身にかけていた枷を解き放った。


504 : Another Heaven/霞んでく星を探しながら ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:16:12 aE9bk1Lg0







「何…?!」

変化は急だった。

キャスターが空から援護射撃を放つと同時に、その合間を縫ってランサーが槍を突き出す。
射線から離れながら槍を受け止める巧だが、その背後からセイバーの剣戟が振り抜かれる。
対応しようにもランサーの連撃を受け止めることが精一杯で、間に合わぬままセイバーの一撃をまともに受けてしまう。
更にはひるんだ隙をついてランサーの鋭く、素早い突きが巧の全身を突く。
後ろからは繰り出されるセイバーの剣、そして前はランサーの槍。そして空からはキャスターの援護射撃。
横に飛び退き避けようとしたところで、影の中から飛び出したワイヤーとその先端につけられたナイフが視界に映る。
腕や足など受けきれなかった箇所に衝撃を感じつつもバックユニットからの飛翔で後退、一同から距離を取った。


離れて周囲を見回し状況を確かめる巧。
さっきまでと比べて、明らかに動きが違う上に一度に動いてくる敵も増えており、連携も取れているように思う。

「…おい、何でだ?」
『……、もしマルチタスクが可能であるならば理論上は可能です。しかし、英霊の力を借りているとはいえこれだけの挙動を一度に扱い切ることは…。
 乾様、少し急ぐべきかもしれません。桜様は、自身の負荷を度外視して能力を行使している可能性があります』
「そうは言っても、なあ!!」

と、振るわれた刀を受け、更に後ろからライダーの飛び蹴りを拳で受け止め。
バーサーカーに放り投げられる形でこちらへと飛び込む桜の、その手の巨斧をブラスターの刃で受け止める。

「あはははははははっ!!」

笑い声を上げながら自身の身長を超えるほどはあろうかという武器を軽々と、まるで自分の腕のように振り回す桜。
その後ろからは更に槍が、魔力弾が飛び込んでくる。

各々の攻撃も精度や速さが先程までとは桁違いで、対応だけでも精一杯だ。

(くそ、時間は…まだか…)

アクセルフォームへの変身はこの戦いの最中で解除されそうにはない。
いや、アクセルフォームでもこの数と技量を相手には手に余るかもしれない。
これだけの攻撃に耐えられているのもひとえにブラスターフォームの持ち前の耐久力のおかげなのだから。

そんな巧の後ろから、今度はマークネモのブロンドナイフが迫る。
その数はあまりにも多く、幾つかは装甲の薄い場所に刺さるかもしれない。

体を襲うだろう衝撃に、心だけは備えようとしたその時だった。

宙から降り注いだ桃色の光弾が、ブロンドナイフのワイヤー部分に着弾、支えを失ったナイフはあらぬ方向へと飛んでいく。

更に迫っていた影にも幾重も砲撃が降り注いでいく。
それらは巧のブラスターと違い使い魔を倒すほどの威力はないものの、的確に武器を落とさせ、進行方向を防ぎ、足を止めさせた。

『追いついてみれば、うわぁ何ですかこれ、どうしてこんなに黒化英霊がいるんですか』
「乾さん!!……で合ってるんですよね?」
「イリヤか!」

空を見上げると、桃色の衣装と透き通った翼を広げた少女の姿が映る。

『姉さん!』
『サファイアちゃん!無事でしたか!』
『乾さんに助けられましたから。細かい話は後です。
 桜様は自身の泥をあのカードの英霊の力で、サーヴァントの形に似せた使い魔として使役しています。それに加えて、ライダーは泥を受けて受肉したクラスカードです』
『うげぇ、この様子を見ると、一体一体は弱くてもイリヤさんの出力では少々手に余る相手ですね』
「…大丈夫、戦うだけが、やり方じゃないから。サファイア、こっちにお願い」
『了解しました』


505 : Another Heaven/霞んでく星を探しながら ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:16:28 aE9bk1Lg0

と、巧の手元を飛んでいくサファイア。

「またあなたですか。何度も何度も出てきて、すごく目障りで癇に障ります」
「桜さん、もう止めてください。これ以上、みんなを傷つけるのは――」

言葉の終わらぬイリヤへと、影の帯を飛ばして捕らえようとする桜。
それをイリヤは、不意を突かれる形になりながらもどうにか避ける。

その行動にやはり戦うしかないと迷う気持ちを払ったイリヤは地に降りて手元のカードをかざす。

「夢幻召喚!!」

光に包まれたイリヤの体を包む衣装が、桃色の魔法少女服からフードを被った黒いセーターのようなものに変化する。
その頭には二つ、髑髏状の仮面が張り付いている。

「その格好……、似た人を知ってますよ。こそこそ隠れまわる蟲みたいに鬱陶しいサーヴァント…」

小さな短刀を構えながら、アサシンのクラスカードの力を得たイリヤは周囲を改めて見回す。

見覚えのある姿をした影たちとかつて戦った黒化英霊の一人、そして見たことのない巨人が一体。

『乾さん、この格好戦闘力に少し難があるので、可能であればサポートをお願いします』
「一人よりはそりゃマシだけど、ただお前、大丈夫なのか?」
「……」

その大丈夫かというニュアンスにどういう意味が込められていると受け取ったのか、イリヤの返答はなかった。

『乾さん、お願いします』
「…ああ、分かったよ」

再度の念を押すかのようなルビーの言葉に何かを察した巧は、改めてブラスターを構え直した。


506 : kaleidscope/涙も痛みも運命さえも超えて ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:17:34 aE9bk1Lg0
ランサーとアサシンが先導を取り、その後ろからセイバーが追いかけ、宙を舞うキャスターが魔法陣を展開し始める。

その中で、イリヤはランサーの攻撃を素早い身のこなしで避けていく。
槍の軌道を読み、突きを顔をそらして避け、振るわれた槍は身をかがめて回避。
そこからリーチ内に入ったことで振るわれたアサシンの刀は短剣の投擲で軌道をそらし、外した隙に地を蹴る。

背を向けた無防備な状態のイリヤを斬りつけようとしたアサシンの体は、その後ろから放たれた赤い光弾によって吹き飛ばされる。
間髪入れず、イリヤの背後で槍を構えるランサーの足元を、巧がブラスターで撃ち抜きその動きを止めた。
振り向いたランサーに向けてブレイカーモードの刃で斬りつけ足止めを図る。

そのままイリヤは突っ込んでいく中で、目の前に立ち塞がる騎士と大男の姿を見た。

(セイバー…、バーサーカー…!)

この殺し合いの場でも出会った二人。しかしその姿には命を感じない。
これはまるで操り人形のように淡々とこちらへの殺意を向けるだけの存在。
あの二人に比べても力は劣化しているとはいえアサシンの能力で相手にできる存在ではない。

瘴気を纏った大剣による横薙ぎを跳んで避ける。
しかしその跳んでいる状態のところに追撃をかけるバーサーカーの一撃を避けることができず、イリヤの体は吹き飛ばされる。

地面に転がった小さな体は、そのまま動かなくなったと同時に消失。
妄想幻像によって生み出された分身を身代わりに、本物のイリヤは既にバーサーカーの背後に着地しそのまま駆け抜けている。

キャスターが宙から幾つもの光弾が放たれ地面を穿つもそれらを避けて走るイリヤの目前に現れたのは巨大な刀を構えた巨人。
マークネモの振り下ろした刀を横に回り込んで回避、次いで放たれた頭髪に結び付けられた多数の刃、ブロンドナイフを縦横無尽に走り回って避ける。

しかしその巨体を足蹴に飛び越えていこうと跳んだところでブロンドナイフの軌道が変わり、地面に刺さっていたはずの刃がイリヤへと向かう。
殺気に振り返ったイリヤの体が刃に貫かれ―――その体はバーサーカーに吹き飛ばされた時と同じく消失した。

そのままマークネモの脇を駆け抜けようとした本物のイリヤの進行を、マークネモから飛び出した人影が遮った。

そこにいたのはかつて初戦闘で戦った黒化英霊と全く同じ姿をした長髪の女。

構えるライダーに対し短刀を投擲。しかし手の刃で弾かれ、返す手で鎖のついた刃が投げられる。
回避し前を向いたイリヤ、しかしライダーは既に目の前。驚愕しつつも刃を振るうが当たらず、逆にその長い脚が体を捉える。
吹き飛ぶイリヤを、その速度より速く地を蹴り迫ったライダーの追撃が迫る。

態勢を立て直す暇すら与えぬライダーの連打。
刃を構えられず隙だらけになった体に、今度は刃が突き立てられた。

刃は肩を貫き、更に宙で鎖に全身を絡め取られ拘束される。
そのまま力任せに鎖を振り回され、地面に叩きつけられるイリヤの体。
しかしそれもまた消失。

分身を囮に、一瞬の間にライダーの横を駆け抜けようと大きく跳び。

しかしその体は宙に張られた鎖に足を取られたことで大きくバランスを崩して地面に転倒。
起き上がった時、ライダーの鎖はイリヤの周囲に蜘蛛の糸のごとく張り巡らされていた。

『姉さん、イリヤさん、流石に何度も使いすぎです!』

妄想幻像による分身も、3度目となれば敵の対応も早い。
鎖を縫ってこちらへの突撃を仕掛けるライダーを避け、後方に下がって態勢を立て直すイリヤ。

『ちょっと、あの黒化英霊、以前私達が戦った時よりも強くなってないですか?』


507 : kaleidscope/涙も痛みも運命さえも超えて ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:18:12 aE9bk1Lg0

ルビーの懸念の声も最もだ。
以前戦った際はイリヤ自身が戦闘経験の少なさ故に圧されたとはいえ、ここまで機敏に、積極的に接近戦を仕掛けてくる敵だっただろうか。

『おそらく、ですが。士郎様がセイバーのクラス、イリヤ様がバーサーカーのクラスのサーヴァントのマスターであったとして。
 ライダーのマスターはもしかすると』

前を向くと、纏った鎧の音を鳴らしながらこちらへと歩み寄る桜の姿。

『なるほど…、偶然か運命か、かつて従えたサーヴァントを受肉させパスを繋げたことで、その魔力相性がかつての黒化英霊以上の戦闘力を発揮するに至っているかもしれないと』

ライダーが鎖を解くと同時、桜の拳がイリヤへと迫る。
腕で防御の態勢を取り防ぐも、基本能力の違いからか守りきれず大きく吹き飛ばされる。

痺れる腕で短刀を投げるも、桜は難なくそれを受け止め、逆に自身の武器のように構える。

『いけません!武器を手放しては桜さんの手数を増やすだけです!』
「…っ」

迫る桜の振るう短刀。
受け止めるも、同じ武器を使っているはずなのに全く受けきれない。
まるで長年の愛刀であるかのように器用にこちらへと斬りつけてくる。

どうにか急所を斬られることだけは防ぎ続けるが、腕や脚、脇腹に幾つもの切り傷がつけられていく分までは対応できない。

後ろに下がって距離を取り、再度桜の様子を確認するイリヤ。
対してゆっくりと体を起こしながらイリヤの方を見る桜。

共に息が荒く、肩で呼吸をしている。

体のあちこちに傷を作り、白い肌を血が汚しているイリヤ。
対して桜は使い魔に任せた戦いが多かったこともあってか傷はない。
しかし短刀を握った手が震えているのをイリヤは見逃さなかった。

更にこちらへと一歩足を進めた桜は、ふいに顔を抑える。
目周りを兜で覆われた顔の、下半分の口と鼻の辺り。そこから手を離した時、桜の手には血がついていた。

『一度にあれだけの使い魔に対してあれだけの動きをさせていれば、脳がオーバーワークにより負荷がかかるもの。
 今の桜さんは、言ってみれば数日間徹夜でぶっ続けの作業をしてるようなものです』
「これ以上続けたら、どうなるの?」
『桜さんの脳の機能に障害が残る、程度ならまだいいでしょうね。下手をすれば脳の機能が停止して命を落とす可能性も』
「…っ、桜さんもう止めて!!」

思わずイリヤは叫んでいた。
体の異常に桜自身が気付いてなかったとは思えない。
こうして止まっている間も、後ろでは巧がサーヴァントを抑えて戦っているのだ。

きっと桜は最後には自分が死んでしまうことも視野に入れた上でこうして戦っている。

「士郎さんも、そんな桜さんの姿、絶対に望んでない!」
「ふ、ふふ。あなたが先輩を語らないでください」

周囲に落ちていた短刀を拾い両手で弄びながらイリヤに殺気を向ける。

「そもそも先輩がどんな気持ちで私を受け入れてくれたか、愛するって言ってくれたか、あなたに分かるんですか?」

無造作に、しかし鋭く一直線に投げられた短刀を弾いて前を向いた瞬間、桜の姿はイリヤの目の前にあった。

「姉さんは助けてくれなくて!!誰も私のことを間桐桜として見てくれなくて、ただの実験材料を見るような目で見て!!
 そんな中で先輩だけが私の味方になってくれた!!こんな化物の私を!!
 ずっと人を食べ続けて、もしかしたらいつか本当に”悪”になってしまうかもしれない私を!!」

刃を受け止めるイリヤの動きが鈍る。


508 : kaleidscope/涙も痛みも運命さえも超えて ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:18:52 aE9bk1Lg0
イリヤの脳裏に浮かんだのは、もう一つの世界でホムンクルスとして生まれ生かされ続けた自分の姿。
あれと同じ業を背負わされて生きてきたのが桜なのかもしれない。

『イリヤさん!!』

動きが鈍った隙を逃さず、桜の突き出した短刀はイリヤの心臓を捉えていた。
しかし貫かれたイリヤの体は黒い煙になって霧散。

『イリヤさんしっかりしてください!今のやつは危なかったですよ!!』
「ご、ごめんルビー…!」

気を取り直して桜の元を向こうとして、横から飛来する鎖の音に咄嗟に飛び退く。
桜の横でライダーも主を守るように動き始めていた。

「分からないですよね、あなたには。だってあなた、とても幸せそうなんですもの」

鎖が投げられると同時に桜が動き、短刀を突き付ける。
身を翻して避けたところで今度は桜は鎖を掴み振り回す。その鎖を掴んでいたライダーの体がこちらへと迫る。
遠心力に合わせた蹴りがイリヤの体を捉え吹き飛ばす。

「がはっ…」

地面をもんどり打って飛ばされたイリヤの体からカードが弾き出される。

『いけません!ダメージを受けすぎました!』
「イリヤ?!くそっ、邪魔だお前ら!」

地面に転がったイリヤを見た巧は近寄ろうとするも、シャドウサーヴァント達を振り切ることができず身動きが取れない。

「もしかしたら本当に、あなたはただの人として生きてきただけなのかもしれない。
 でも、ならそれこそ私や先輩のこと、軽々しく語らないで!」
「くっ…」

起き上がったイリヤはカードを拾い、空へと退く。

「逃しません…、ライダー!!」

しかしキャスターに追撃を任せることなく桜はライダーを呼びかける。
呼び声の意図を読んだライダーは、素早くペガサスを呼び出す。
その背に乗ったライダーの後ろに、膝を立てた態勢で乗る桜。

そして、その手に一本の剣を取り出した。
全体を黒く塗りつぶされた、身長ほどはあろうかという両刃剣を。



動けぬままその場に縫い付けられた巧だったが、それを成していたシャドウサーヴァント達が急に形を失って全てが地に崩れ落ちた。

「…?何だ?」

相手の体力切れか何かかと思った巧だったが、影を形作っていた泥は再度集まり黒くのっぺりした巨人の姿へと変化する。

ふと、その後ろの風景の中で空を飛びイリヤを追う一陣の光を見た。
間桐桜とライダー、そしてその手に握られている剣。


―――もし他者の武器を操る力を封じて、自身の剣を、おそらくは黒き両刃剣を携えてきた時は注意を。それはかの騎士の持つ切り札だ

セイバーの言葉が脳裏を過った。

(…まさか)
「おいイリヤ!!その剣に気をつけろ!!」

思わず叫ぶ巧を、影の巨人の腕が薙ぎ払った。


509 : kaleidscope/涙も痛みも運命さえも超えて ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:19:20 aE9bk1Lg0


『イリヤさん!迎撃を!!あの武器たぶん宝具です!!』
「…っ」

振り返ったイリヤの目には、ライダーの駆るペガサスに跨りこちらへと一直線に迫る桜の姿。
その手に構えられている剣は青白く輝いている。

「―…砲撃(フォイア)!!」

急ぎルビーから魔力砲を放つも、ペガサスに当たる前に消滅。黒化英霊による劣化品とはいえ現状のイリヤの魔力ではペガサスを怯ませることすらできない。

「―――ー縛鎖全断(アロンダイト)」

目の前に迫り宝具の真名を唱える桜。
刀身に魔力の輝きが溢れる。セイバーの聖剣を抜いた時の光に似ているが、それを距離をつけて振り抜く気配はない。
おそらくはあの魔力を刃として斬りつけるつもりなのだろう。

『姉さん、障壁を!!』
『え、はい、イリヤさん!!』

サファイアの声に反応したルビー、イリヤが障壁を展開。
星型の魔力壁が前面に現れる。しかし宝具を受けるものとしてはあまりにも頼りない。

目の前に迫った光を前に、思わず目をつぶったイリヤ。
その時、体が何かに押された。


「過重湖光(オーバーロード)―――!!!」

魔力を纏った魔剣・無毀なる湖光の一撃が放たれ、周囲を光が照らす。
剣に込められた魔力が、斬りつけられた対象の内部に流れ込み絶大な破壊力を生み出す。

しかし、それを受けたのはイリヤではなかった。

『さ、サファイアちゃん!?』
「えっ」

柄の部分を一直線に斬りつけられたサファイア。

イリヤを逃がすために攻撃の命中を錯覚させて相手の注意を一瞬でも反らすために敢えて攻撃を受けたのだ。
それはサファイアの柄の部分へと命中、斬りつけられた場所からは魔力が溢れ、爆発。
障壁で守っていたとはいえ衝撃までは相殺しきれずイリヤの体を吹き飛ばす。

その拍子にルビーもイリヤの手元を離れてしまう。

『イリヤさーーーーん!!』

転身が解け、イリヤの体は浮力を失い墜落していく。

「…!!くそ!!」

巧はそんな様子を見て巨人を捨て置きイリヤの元に飛ぼうとする。
しかし宙を飛んだ巧の足を、巨人の帯が掴んでいた。
進行を阻まれ逆に引きずり降ろされた巧。そして逆に巨人はイリヤの墜落地点まで素早く迫り。


ドプン

まるで粘度の高い沼に落ちたかのような音を立てて、イリヤの体は巨人の中に呑まれていった。

「な…っ」

言葉を失う巧、ルビー。

そんな彼らの前で、桜は手にしていた剣を消失させる。
巨人の形が蠢き、それまでと同じ、シャドウサーヴァント達の形へと変化していく。


「さあ。邪魔者は一人減りました。
 残るはあなただけですよ、乾巧さん」

ペガサスから飛び降りた桜は、口に不気味な笑みを浮かべながら巧達の元へとゆっくりと迫った。




510 : kaleidscope/涙も痛みも運命さえも超えて ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:19:35 aE9bk1Lg0

泥の中に落ちたイリヤは、闇の中を蹲って漂っていた。

本来ならすぐさま消化されるものだがそれが成されないのは桜自身が敢えて嬲るために生かしているのか、あるいはイリヤの持つ特性ゆえか。
しかし生かされたとしてもどうしようもなかった。

体から少しずつ力が奪われていく感覚。
周囲を覆う闇の中から響く憎悪のような声。

(私は…どうすればよかったの…?)

何も知らなかった。知らされなかったから。
助けたいと思ったのは真実だ。衛宮士郎のことを置いても、それがイリヤがイリヤたる思いなのだから。

だけど向き合ってしまうと、まるで自分の人生そのものに対して楔を打たれたかのような感覚に包まれていく。

この泥が、ある意味では自分が背負うべきものだということを知っている。
それを背負わされた少女と、果たしてどう向き合うべきなのか。

(分からないよ…)

それはこれまでの10年と少しをただ普通に生きてきたイリヤには重すぎるものだ。

―――だったら諦める?

誰かが囁く声が頭に響く。

諦める。それも選択肢なのかもしれない。
ここで死んでしまえば、きっとこの泥の呪いも、背負うはずだった宿命も、その苦しみも全てなかったことにできるだろう。

(……―――…)

なのに、諦める気にはなれなかった。

色んな人が死んでいった。
凛さんも、ルヴィアさんも、バゼットさんも、クロも、士郎さんも、バーサーカーも、美遊も。
シロナさんもミュウツーさんも結花さんも。

そして、生きてるみんなはまだ戦っている。
巧さんも、セイバーも、あの白い騎士に乗った人も、Lさん達もきっと。

士郎の背中が脳裏に浮かび。バーサーカーから確かに聞こえた激励を思い出し。


「それでも、…私は……、負けたくない…」

目を閉じたイリヤがそう口にした時だった。

どこからともなく泥の中にひらり、と舞った一羽の純白の羽。
それは泥など存在しないかのようにイリヤの周囲を浮遊した後その足に備え付けられたカードホルダーに触れた。

闇の中を眩い光が照らし、イリヤは思わず目を開く。


511 : kaleidscope/涙も痛みも運命さえも超えて ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:20:03 aE9bk1Lg0
「分かってんじゃないの、イリヤ」

そこに聞こえたのは、もう二度と聞くことがないと思っていた声で。
もう二度と見ることのない顔。

鏡写しになったように自分と同じ形をした顔、しかし褐色の肌を持ったその少女は。

「く、クロ…?!」

クロエ・フォン・アインツベルン。
既に命を落としたはずの、自身の片割れの存在。

「ど、どうして?!」
「私だって驚いてんだけどね。まさかまたこうして出てこられるなんて。
 だけど強いて言うなら、最期にあんたの幸せを祈った一人の少女の願いが起こした奇跡、ってところかしら」

と、クロが手につまんだ一枚の羽。
見覚えはあった。長田結花、クレインオルフェノクの羽。美遊が最期に彼女が残したものと言っていた。

「たぶん美遊が最期に願いを込めた結果、ほんの少しの魔力がこれに宿っていたみたいね。
 私の人格ももうカードから表出することはないはずだったんだけど、少しだけ、こうやって顔を出せたってわけ」
「それじゃあ、クロは…」
「これが最後。魔力が尽きたら消えるわ。イリヤの中に還って、ね」
「…!」

再会に喜ぶ間もなかった。
それではこうして会えた妹は、まるで自分に別れを告げるためだけに現れたみたいだ。

「どさくさで妹とか言わないでくれるかしら。
 と、そんなことを言ってる場合じゃないわね」

と、不意にイリヤの目の前に指を突き出したクロは。

バシッ

鋭い音を立てて指を弾いた。

「ギャイン!!」

額を打ったデコピンの衝撃に思わず仰け反るイリヤ。

「な、何すんの!!」
「全く、答えは分かってるのにそうやっていつも悩んで、そういうところ本当イリヤね!
 だけど今回だけは、私があんたの悩みに答えを教えてあげるわ。
 お姉ちゃんの最後のアドバイスよ、聞きなさい」
「クロこそお姉ちゃんって――」
「それはもういいから!」

と、クロはイリヤを指さして語る。

「いい?確かにこの泥も、あの女の宿命も、本来ならあんたが背負うものだったかもしれないものよ。それはきっとどうやっても変わらない。
 だけど、あんたはそうはならなかった。ただの少女として学校に行って、友達を作って、家族と幸せに過ごしてるわ。
 どうしてだと思う?」
「どうして、って…」

質問の意味が分からなかった。
その問いかけには、そうなったからそうしている、としか答えられない。


512 : kaleidscope/涙も痛みも運命さえも超えて ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:20:20 aE9bk1Lg0
「じゃあ言い方を変えるわ。あんたがそういう生き方をすることを願った人がいるはずよ。誰だと思う?」
「願った、人…」

アインツベルンの家からイリヤを連れ出し。その宿業から解放し。
ただごく普通の、幸せあれと願った人。

「もしかして…、ママと、お父さん?」

母親と父親。アイリスフィール・フォン・アインツベルンと衛宮切嗣。

「分かってんじゃないの」

クロはその答えを聞いて、畳み掛けるように紡ぐ。

「あんたの幸せは、あんた一人のものじゃない。ママやパパがそうあってほしいって願って戦って、その果てに掴み取ったものなの。
 それを否定するってことは、二人の戦いも否定することと同じよ」

ある時見た、封じられたクロの記憶。あれが二人が決意した時の光景なのだとしたら。
そして、クロは知っている。二人がどんな思いで自分の力を封じて、ただの”イリヤ”として生きてこさせたのか。

「これはパパとママのことだけじゃないわ。あんたと一緒に戦った人やあんたを守った人たち、その思い全部が今のイリヤ、あんたなのよ」
「………」
「それは誇るものでこそあれ、後ろめたいなんて思う必要なんてないの。
 だから、もっと胸を張りなさい。私はこんなに幸せなんだって、色んな人に守られて生きてきたんだって」

その言葉に、イリヤは自分を縛っていた一つの鎖が解き放たれたように感じた。
心に引っかかっていたものが取れ、それまで見えなかったものが見え始めた。

「そしたら、もう、後は分かってるわね」
「――――うん」

やらなければいけないこと、ではない。
やりたいこと、やるべきことがある。

因縁も宿業も関係ない。
ただ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとして。

「だったら、やってやりなさい。
 この世全ての悪とか、魔術師何百年の宿願とか、何より女の子のウジウジした悩みとか。
 そんなもの、全部ぶっ飛ばしてやりなさい!」

クロの言葉を噛み締めながら、イリヤは瞳を一度閉じる。

「あんたが生きてきた道に注がれた愛やみんなの想いは、そんなものに負けないんだから!!―――――」

そして瞼を開けた時、そこにクロの姿はもうなかった。
これが本当の意味で今生の別れ。だけど、もう涙は流れなかった。


ただ、聞こえるのは泥の発する呪詛の声のみ。

だけど、もうイリヤはそんなもので止まる気はしなかった。


513 : kaleidscope/涙も痛みも運命さえも超えて ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:20:59 aE9bk1Lg0


ランサーを切り伏せ、アサシンの刀を受け止めた後刀を掴み動きを封じ中断蹴りを叩き込んで粉砕する。

「おい、イリヤはどこだ?!」

巨人が分かれたシャドウサーヴァント達。この中のどれかにイリヤがいる。
そう言ったのは墜落後咄嗟に拾い上げたルビーだった。

『分かりません!詳しく探知をしようにも泥のせいでジャミングが――でもイリヤさんは確かにまだ生きています!』
「くそっ!」

言いながら桜の方を見た巧。
操るシャドウサーヴァントの数は先程と比べて大きく増えている。常にほとんどの敵が動いている状態だ。

加えて。

「…っ!!」

突き出された魔力の刃を受け止める巧。
宝具によって斬りつけられたサファイアを拾ったのが桜だった。
解放された宝具のダメージは魔法使いによって作られた礼装といえども堪えたのか、サファイアはしゃべることも反抗する様子もない。

『サファイアちゃんを離しなさい!』
「五月蝿いですね。あなたもすぐ主と同じ場所に送ってあげますよ」

と、巧の背後から巨斧を振りかざすバーサーカーの姿をルビーは探知。
ランサーやアサシンの攻撃と比べれば避けやすいとはいえ、直撃すればブラスターファイズとて無事で済む攻撃ではない。
しかし桜に対応する巧は、背後のバーサーカーの対処が追いつかない。

そのまま力一杯振り下ろした斧剣は。
巧の体を砕くことなく、逆に巧の体に泥として当たり、その全身を黒く濡らす。

全身から放射される熱により泥が逆に焼かれていく中、巧はバーサーカーの方を向く。
今のバーサーカーに起こったことは桜にも予想外だったのか、彼女の動きもまた止まっている。

そこには白と黒の双剣を手に腕を広げ、赤い外套を纏った――アーチャーのクラスカードを夢幻召喚したイリヤが佇んでいた。

「無事だったか!」
『イリヤさん良かった!…イリヤさんその魔力は――』
「話はあと!まずこの群れの中から桜さんを引っ張り出して!」

巧からルビーを受け取ったイリヤは、一直線に桜の元に向かって駈ける。
既に桜はイリヤの出現に体制を立て直すために後ろに後退している。
その行く先を封じるシャドウサーヴァント達。

しかし襲い来る群れを見ても、イリヤは速度を緩めはしない。

ランサーが振るう槍を双剣で受け、押し返す。
距離を取ったランサーへ向け投影した干将莫耶を投射、同時にランサーはイリヤを迎撃するかのように槍を投擲態勢に入り。
瞬時にランサーの側に転移したイリヤは、干将莫耶が命中する直前でそれを受け取り、その体を切り裂いた。
直前で飛び道具から近接武器へと変化した攻撃には矢避けの加護が発動できず、切り裂かれて消滅していく。

更に駈けるイリヤに向けてキャスターが魔力弾を照射。
イリヤは今度はキャスターへと向けて2セットの干将莫耶を飛ばす。
迫る双剣を迎撃しようと宙に飛びながら砲撃を撃っていくキャスター。撃ちきれず迫ったものには防壁で防ぐ。
そこにイリヤは高く跳び背後に回り、引き絞った矢を射出。
双剣の迎撃に意識を割かれたキャスターは対応できず、体の中心を撃ち抜かれて地に落ちていく。

そのキャスターを蹴り、桜の元に空から向かう。


「私、色々考えてみて、私の因縁とか私の運命とか、そういうことでごちゃごちゃになってた。
 でも、冷静になってちょっと考えてみたの」

その手に構えた双剣を鶴翼のごとく巨大化させ広げ、一気に桜に振り下ろす。

「今の桜さん、すっっっっっっっごく!!!腹が立つ!!!!」

サファイアの刃で受け止め、切り返す桜に、負けず劣らずの気迫で畳み掛けるイリヤ。

「死にたいとか恨めしいとか、全部そっちのことばっかり言って!!
 お兄ちゃんのこと私が取ったとか、自分を裁いてほしいとか!!!
 全部桜さんの都合じゃないの!!」
「…っ!?」


514 : kaleidscope/涙も痛みも運命さえも超えて ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:21:21 aE9bk1Lg0

怒るイリヤの連撃。動揺しつつもその剣を受ける桜。
技量は決して劣ってはいない。むしろそれだけなら今の桜の方が上だろう。
なのに、返しの一撃を打つことができない。

「それを言ったら、友達を殺された私はあなたを許せないし!!
 いっぱい殺したんだったら先にすることあるでしょ!!
 なのにあなたは死にたいとか叱ってほしかったとかそればっかり!!」
「あなたに何がっ…!!」

逆上した桜は、攻撃を篭手の部分で受ける。
返す暇を与えることなく手に持った干将を引き、そのまま武器の主導権ごと奪い取る。
しかし奮った剣はイリヤに当たることなく。

見失ったイリヤの姿を桜が確認した時には、イリヤは高く跳び上がり矢を構え桜へと狙いを定めていた。
射出用に変形させた莫耶が桜へと向けて射出。しかし桜は着弾する寸前でその矢を受け止める。

間一髪で矢の主導権をも奪えたことに安堵した桜。
故に宙からすぐ横に転移したイリヤに気づくのが遅れる。

攻撃を警戒したが、一瞬の交錯の後イリヤはこちらから離れていく。
刹那の困惑の後、その手に握られているものの存在を見た瞬間、イリヤの狙いを桜は悟る。

「サファイア、大丈夫?!」
『い、イリヤ様…。私は大丈夫です』
「…少し、無理をさせるかもしれないけど、大丈夫?」
『――――、大丈夫です。私のことはお気になさらず!』

奪取したサファイアの声の弱々しさを見たイリヤは念の為の確認の呼びかけを行うと、サファイアは調子を取り戻したように声を出す。

今のイリヤの使えるカードの力はこのアーチャーの力だけ。しかしこの能力はあの黒騎士の英霊とは相性が悪い。
もし魔法少女形態であればどうだろう。クロが帰還し魔力が戻った今であっても、魔力総量の違いから一筋縄ではいかないだろう。

ならば、手は一つ。

「私を、馬鹿にしてっ…!!」

怒りのままに桜はマークネモをイリヤへと差し向ける。
立ち止まって両手にステッキを構えたイリヤへと、素早い動きで刀を振り下ろし。

その瞬間、イリヤの体が光に包まれた。

闇を照らさんばかりの輝きを放つイリヤの体は、マークネモの体を振り下ろされた刀ごと断ち切った。
巨体は崩れ、行き場を失った刀身の欠片は桜の元へと飛んでいく。
咄嗟に桜の側に駆け寄ったライダーが、それを弾き返す。
弾き返された刃は泥となって飛び散り、桜の顔を汚した。

拭いながら桜が空を見上げた時、淡い桃色の魔力翼を纏った少女の姿がそこにあった。
手に持っているステッキは一つ。もう一つは消えたのではない。ルビーとサファイアを示す五芒星と六芒星は一つに、同化し一つのステッキとなっている。
身にまとった衣装もイリヤの普段のカラーリングの中に青色の、美遊のそれを連想させる色彩が混じっている。

「私の因果とか、背負うものとか、そんなの関係ない。私がやることはただ一つ……。
 ―――あなたをぶん殴って引きずってでも!!連れて帰って謝らせる!!!!」

カレイドライナー・プリズマイリヤ=ツヴァイフォーム。

イリヤが何に縛られることもなく自身の思うままの想いを胸に飛翔した姿。
そこにあるのは、しがらみでも因果でもない。
ただ一人の、少女の強い思いだった。


歯ぎしりをした桜は、自身がこの場で最大に”信用”している存在の名を呼ぶ。

「ライダー!!」

呼び声と同時にライダーは駆けながら光となって空を舞い。
イリヤに向けて高く跳んだ桜の体を受け止めながら、敵対者のいる高度まで天馬を駆った。

「先輩のことも…、私をバカにしたことも…、何よりあなた自身の存在も…。
 全部許しません。あなたは私がこの場で殺してあげます!!」

天馬の後ろでライダーの体に片手を回し、もう一方の手で双剣二本をまるで繋げるようにして構えた桜。
騎乗兵を思わせる態勢で、桜は目の前のイリヤを強く睨んだ。


515 : kaleidscope/涙も痛みも運命さえも超えて ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:21:58 aE9bk1Lg0
―――彼女は自分の意志で道を選び、それに対し真っ直ぐに進み続ける強さを持っている子だ
―――もし彼女が自らの意志で自身の運命に立ち向かい戦う意志を持ってあなたと共に立った時、彼女を共に戦う戦士として見てあげて欲しい。
   守るべき存在ではなく、背を預けて戦う仲間として。


巧の脳裏に、セイバーに言われた言葉が脳裏を過り。
そして、言葉の意味を今ようやく実感を持って理解した。

「ぶん殴って謝らせる、か」

それは自分には出せなかった答えだと思う。
背負う覚悟だけで自分の中で完結させていたが故に、桜自身の問題が見えていなかった。木場の時と同じだった。
間桐桜と向き合うにはそれだけでは足りなかったのかもしれない。

だけど、自分でもいきなり変わることはできないとしても。
わがままな少女には、更にわがままな少女の強いエゴをぶつける。
そんなことができる少女なら、あるいは。

「なら、やってみろイリヤ」

巧は地上の影の使い魔達を一瞥する。
彼らもただ見ているだけではない。隙さえあれば空の桜を援護しようと構え、あるいは飛ぼう、跳ぼうとするものもいる。

「お前の背中は、俺が守ってやっからよ!!」

そんな使い魔たちに向け、巧もまたファイズブラスターを構えた。




間桐桜とイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
擬似的な使い魔の生み出した天馬の純白の翼と、自身の魔力が生み出す淡く輝く翼。

睨み合った二つの翼は、同時に互いに向けて動き始め。
イリヤは構えたステッキを、桜はその手の奪った双剣を。
互いにぶつけ合った。


周囲に魔力と衝撃が響き、白い少女と黒い少女の戦いの第二ラウンドが幕を開ける。


516 : kaleidscope/涙も痛みも運命さえも超えて ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:22:14 aE9bk1Lg0


【C-4/緑地地域/一日目 真夜中】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(中)、胸に打撲(小)、決意、ツヴァイフォーム変身中、クロ帰還による魔力総量増大
[装備]:カレイドステッキ(ルビー&サファイア(サファイア損傷中))@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター(使用時間制限))(ランサー(使用制限中))(アサシン(使用制限中))(アーチャー(使用制限中))@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、
    破戒すべき全ての符(投影)
[思考・状況]
基本:皆と共に絶対に帰る
0:桜をぶん殴る
1:その後桜を謝らせる。だから絶対に死なせない。
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※ミュウツーのテレパシーを通して、バーサーカーの記憶からFate/stay night本編の自分のことを知識として知りました。



【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)、決意、ファイズ・ブラスターフォーム変身中
[装備]:ファイズギア+各ツール一式@仮面ライダー555 、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品
[思考・状況]
基本:ファイズとして、生きて戦い続ける
1:間桐桜を助けるために、イリヤの支援
[備考]
※参戦時期は36話〜38話の時期です
※遊園地メンバー、イリヤ、さやかと一通りの情報交換を行いました。
※黒騎士の能力をセイバー経由で把握しました



【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:黒化、右腕欠損、魔力消耗(中)、クラスカード(???)夢幻召喚中、投影された干将莫耶、イリヤに対する強い怒り、シャドウサーヴァント使役による脳への負荷
[装備]:マグマ団幹部・カガリの服(ボロボロ)@ポケットモンスター(ゲーム)、クラスカード(ライダー・泥により受肉中、ペガサス召喚中)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、
    クラスカード(???)(夢幻召喚中)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
    シャドウサーヴァント(セイバー、ランサー、キャスター、アサシン、バーサーカー、マークネモ)
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:狂気に任せて行動する
1:イリヤ、巧を殺す。今はとにかく自分を馬鹿にしたイリヤ優先。
2:先輩のいない世界などもうどうにでもなればいいと思う

[備考]
※黒化は現状では高い段階まで進行しています。
※クラスカードを夢幻召喚した影響で状況判断力、思考力が落ちています。時間経過で更に狂化が進行する可能性があります。
※ライダーのクラスカードは泥の影響で英霊の形を象った使い魔となっています。その姿はプリズマ☆イリヤ本編の黒化英霊のそれに近いです。
※欠損した右腕は現状夢幻召喚の影響で一時的に治っています。解除すると元に戻るでしょう。

※シャドウサーヴァントについて
・影の巨人を黒騎士のスキルで変質させたものです。桜が取り込んだものが形を作って顕現しています。
・能力は黒化英霊@プリズマ☆イリヤと比較してもなお劣化しています。宝具は使えませんがスキルは一部再現されています。
・各一騎ずつしか顕現できませんが、桜の魔力、あるいはカードの力が消失するまで復活します。
・挙動や技術は黒騎士の英霊のスキル由来により再現されていますが、多く動かす、再現度を高めていくたびに桜の脳に強い負荷がかかっていきます。


517 : ◆Z9iNYeY9a2 :2018/07/20(金) 23:22:30 aE9bk1Lg0
投下終了します


518 : 名無しさん :2018/07/20(金) 23:54:06 Dvjm5l.M0
投下乙です!
たっくんもイリヤも皆格好良いなぁ
特に色んなもやもやをクロとの会話で乗り越えていつもの調子を取り戻すイリヤはグッとくる
そんで桜もこれ以上戦ったら後遺症か最悪死亡って……頼む!いい加減ハッピーエンドを見せてくれ!


519 : 名無しさん :2018/07/24(火) 16:27:37 fXz.h.ic0
投下乙
イリヤとたっくんの主人公ムーブすき


520 : ◆Z9iNYeY9a2 :2018/09/29(土) 20:48:35 tn0CKzt60
投下します


521 : Nとニャース・ポケモンと人間 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/09/29(土) 20:49:36 tn0CKzt60
遊園地を出発したNはポケモン城へと向かうために南下していた。
しかし同じ行き先を目指す織莉子、アリスとは共にいない。

一旦寄り道をしてから向かうと言った二人に対し、Nにもまた寄りたい場所が存在していた。
これからポケモン城に向かい、クローンポケモン達を救う。その道中が穏やかなものになるとは思っていない。
ともすれば、ポケモン達の力を借りることにもなるだろう。そうなった場合に傷ついたポケモン達を戦わせるわけにはいかない。

本来ならばポケモンセンターに向かうべきだったのだろうが、Nは病院に向かうことにした。
ここであれば何かしらの薬は入手できるかもしれないというのが一つ。
だが既に多くの人が立ち寄っており、自分も一度訪れた場所、あまり機体はできないことはN自身分かっていた。
それでも向かいたいと思う理由が、Nにはあった。

病院。
そこは海堂直也と別れた場所。そして、彼が命を落とした場所。
ゲーチスの手によって。

その事実を自分の中で否定しきることができないでいた。
あるいはもう分かっていたのかもしれない。自分が知らなかった世界を隠し続けたゲーチスが、本当に信じてもいい存在だったのかどうか。
行ってゲーチスの真意が、海堂の死に対する何かが分かるとも思えなかったが、それでも向かわなければならないとNは考えていた。

その未来は、Nの中であまりにも不鮮明だったから。

「――なんて、言ったら、君は身勝手だと言うかい?」

Nがそう問いかけたのはニャース。
ニャース目線での数歩先にあたる場所を歩いている、現在の同行者。

「好きにしたらいいと思うにゃ。少なくともピカチュウ達はおみゃーのことを信じているみたいにゃし。
 ならそっちの判断には従うだけにゃ」

ニャースはそんなNの我儘に付き合わせている形になり、Nの中には申し訳ないと思う気持ちも現れている。
それ自体はいいのだが、少しポケモンを優先しすぎる気がしたニャースは続けるように言葉を投げる。

「ピカチュウもリザードンも、おみゃーのことを信用してるにゃ。なら、そんなあいつらの気持ちはちゃんと受け止めてやるべきにゃ。
 もし嫌なことや間違ったってことがあったら、そいつらはちゃんと言ってくれるやつにゃ」
「そうか、ありがとう。少し気が楽になったよ」

その言葉に心につっかえていたものが取れるように気が楽になったN。

そして、同時にその心中には疑問が湧き上がってきた。

彼はロケット団に所属しているポケモンという。
様々な他地方の組織の名、評判は聞いたことがある。
その中でもロケット団はポケモンに対しての悪事を多く働くものだという認識があった。

ニャースはポケモンであり、ポケモンの心をよく理解している。
そんな彼が、どうしてロケット団などに所属しているのか。

「ニャース。君とは少しじっくりと話してみたいこともあったんだ」
「ニャ?」
「君はロケット団にいるポケモンだと聞いた。それは本当かい?」
「ニャ、本当にゃ」
「それは、君の意志でいるということかい?
 トレーナーの意志でロケット団にいるということではなく?」
「ニャーはトレーナーがいない、フリーのポケモンにゃ。だからボールを投げられたら捕まえられてしまうのにゃ。
 誰かに言われたってわけでもない、自分の意志でロケット団にいるのにゃ」

その口調には迷いも嘘も感じられなかった。
ニャースは本心からそう言っている。

「君は、ロケット団が悪の組織だってことを知って、そこにいるんだよね?」
「そうにゃ」

そしてその肯定も早かった。

「…僕には理解できないんだ。
 君は悪い存在には感じられない。なのに君はロケット団という悪に加担することに迷いを持っていない。
 一体………どっちなんだ?」


522 : Nとニャース・ポケモンと人間 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/09/29(土) 20:49:53 tn0CKzt60

善なのか、悪なのか。
そのどっちなのかと問おうとして、何故かその部分がうまく口から出てこなかった。

そんなNの問いかけの意味を察するように、ニャースは答える。

「別に、ポケモンにもいいやつや悪いやつがいてもいいんじゃにゃいかにゃ?」
「悪いポケモン、そんなものがいるのか…?」
「人間から見たら分からないものかもしれにゃいけど、ポケモンの間じゃ他のやつを騙すやつも、人のものを盗むやつもいっぱいいるにゃ。
 ただそれが人間に対しては大したことのないものが多いから気にされないだけなのじゃないかにゃ」

悪いポケモンはいないと語るポケモンは多く、確かにそれも事実かもしれない。
しかし、だとすると進んで悪事を行う自分は何なのだろうか。

それに生きるために人の世界では悪事にも当たることを行うポケモンも、本人にその気がなくとも普段していることを行うだけで結果的に悪事になってしまうものもいる。
それはきっと環境次第なのだろうとニャースは言う。

「でも、それは人間も同じじゃないのかニャ?」
「それは、人間に近づいた君だからこそ分かることかい?」
「さあ、それはどうなのか分からないニャ」


「じゃあもう一つ。君はどうしてそうして人間に近付こうと思ったんだい?
 ポケモンにはポケモンの、素晴らしい言葉があるじゃないか」
「…まあ話せば長くなることニャし、歩きながら話すかニャ」

ポツポツと、過去の苦い思い出を語り始めたニャース。
話していくうちに、歩みは少しずつ目的地の病院に近付いていった。




ニャースの話した昔話は、Nを絶句させるものだった。
人間の食べ物を盗まなければ生きていけないポケモン達。
好きになったポケモンのために人間になりたいと努力し、ポケモンとしての多くのものを失ってしまったこと。
そして、そんな彼に投げかけられた言葉。

人間と違いポケモンは純粋な生き物と信じて疑わなかったNには、驚くしかできないものだった。


「…好きなポケモンのために人間になろうとした、か…。残酷なこともあるんだな」
「その言い方は少し癇に障るニャ。
 ニャーとしては苦い思い出にゃけど後悔はしていにゃいし」

辛うじて絞り出した、同情する心境を吐露したNに釘を刺すニャース。


「それに、もしニャーが喋れるようにならなかったら、ムサシやコジロウと会うこともなかっただろうしニャ」

それは彼が語る、ロケット団の同僚である二人の人間。
苦い思い出を語る時とは対照的に、彼らのことを語るニャースの口調はいきいきとしていた。

出会いから多くの冒険、関わってきた様々なポケモン。
そして今Nの持つボールにいるピカチュウ、そのトレーナー・サトシ達との縁。

あのトレーナーを連想させるその旅路はNにとって新鮮なものばかりだった。

「確かにニャーもあいつらも、やってることは悪そのものにゃ。人のものやポケモンを盗もうとするし、珍しいポケモンがいたらたくさん捕まえようともする。
 でも、あいつら自身はポケモンは大事にするし、だからこそあいつらのポケモンも悪事だって分かってても全力で尽くそうとするにゃし」
「それは、人間のエゴで悪事に付き合わせているということにはならないのかい?」
「じゃあおみゃーは例えば、他人の食べ物を自分の都合で持って行こうとするポケモンの罪を人間として問えるのかにゃ?」
「…いけないことだ…、でも同時に生きていくためには仕方のないことだ、とも思う」
「そうにゃ。
 それにトレーナーにも色んなやつがいるにゃ。弱いポケモンなら捨てるやつもいるし、ポケモンハンターみたいなやつもいるし。
 でも、捨てられた後で別のトレーナーの手に渡った後も捨てたトレーナーのことを互いに気にして、再会するたびに力をつけていくやつを知ってるしにゃ」
「……」
「あの学校でゲーチスってやつが語ってたことを思い出すんにゃが、あいつの言うことは、おみゃーは正しいと思っているのにゃ?」

ニャースが思い出すのは、Nとファーストコンタクトしたあの場所での出来事。
あの時はサトシの死に対する動揺などもあってあまりニャース自身冷静ではなかった。

だが、改めて考えてみるとあの主張はおかしいと思った。
ポケモンについてを語るゲーチスの言葉は、ある点ではそういう一面もあると言えるものだ。それ故に反論も難しいところがある。

しかし、ポケモンについてを語る言葉は、あまりにも人間視点、それも固定観念に凝り固まったような思想だ。

そしてポケモンの言葉を語るNが、ゲーチスの語る言葉に対して反論できないほどにポケモン自身の”声”を知らないとも思えなかった。

ニャースの問いかけにはそういった数々の疑問が内包されたものだった。


523 : Nとニャース・ポケモンと人間 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/09/29(土) 20:50:12 tn0CKzt60

「…、僕には正直なところ分からない、というのが正しいんだ。
 僕は、自分の城で人に辛い目に合わされたポケモンばっかりを見て育ってきた。君の語るような、幸せな声を持つポケモンに会ったのはここへ来る前の、つい最近のことだ。
 だから、変えたいと思っている世界の形を知らない」
「………」
「ある人に夢について話した時、言われたんだ。『君は人を理解した方がいい』って。
 そのせいかは分からないけど、それ以降色んな人を見るようになった。そうすると、なんだか世界の形が違うものに見えてきたんだ」
「たぶん、おみゃーは自分が探してる答えには少しずつ近付いていると思うにゃ。ならニャーから何か言えることはないと思うのにゃ」
「そうか。ありがとう。君と話せて、よかったよ」

礼を述べるNは、ふとさっきまで話していたことの、自分の中で引っかかっていたある”言葉”についてニャースに問うた。

「そういえば、君が喋れるようになった時にニャースに言われた言葉だけど…」

――人間の言葉を喋るニャースなんて気持ち悪い

「それは、ボクみたいな人間も、そう見えるものなのかい?」

人間の言葉を喋ることが気持ち悪いとポケモンが言われるなら。
ポケモンの言葉が分かる自分が人間に対し同じことを言われるものではないか。

そんな疑問が浮かんできていた。

「まあ、確かに他のやつらと比べたら浮いてるのは確かにゃ。それで色々言われることもあるだろうにゃ」

ニャース自身人間目線では珍しいポケモンとして捕らえられそうになったこともあるし、ポケモンから見てもコミュニケーションツールとして利用されたこともある。

「だけど、それもいいんじゃないかにゃ。
 ポケモンも、人間も、ニャーみたいなやつもおみゃーみたいなやつも、どんなやつでも見える満月は全部一緒にゃ」

それでもいいと言うニャースのその、詩的な表現の言葉の意味。
それを問うことは、敢えてNはしなかった。



海堂と最後に別れた部屋。それは木場勇治と向かい合った一室。
そこには床が割れて大きな穴が空いており。
その穴の下、瓦礫が積み重なった場所に、一山の灰が積もっていた。

それが何なのかを理解しつつ、Nがその中に手を突っ込む。
サラサラとした手触りの粉末の中に、一つ小さな石のような塊があることに気付く。
手を抜き出すと、それは一発の銃弾だった。

この床の崩壊は、きっと木場勇治との戦闘の結果によるものだろう。
しかし、彼との戦いの時には海堂はまだ生きていた。
そして、この場所で瓦礫に埋もれ、身動きが取れない状態の海堂を、ゲーチスは撃ち殺したということになる。

前提として、美遊が語ったゲーチスの言葉を信じるなら、だが。

「…つまり、ゲーチスは」

この場で動けない彼を、手にかけたのだ。
不慮の事故や、手違いなどではない。美遊が語ったものに合致する形で。

「…ちょっといいかニャ?そのゲーチスってやつは、お前の親ってことなのよニャ?」
「…ああ。森でポケモン達と暮らしていたボクを、育ててくれた父親だ」
「おみゃーが会ったって言った人間にひどい目にあわされたポケモン達って、連れてきたのはそいつよにゃ?」
「…ああ」

ニャースが言わんとしていることは今のNには察することができた。

「まず、何か使えそうなものがないか、改めて探してみてほしい。
 色んな人が立ち寄ったという場所だけど、まだ見ていない場所も少しはあるかもしれない」
「了解にゃ」

ニャースは病院内を再度探索するため離れていく。
Nは、その反対方向を歩みながら、今しがた確かに見たものに対して心の中で整理をつけようとしていた。
要するに一人になりたかったのだ。




524 : Nとニャース・ポケモンと人間 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/09/29(土) 20:50:43 tn0CKzt60

病院を駆け回ったものの、やはり幾度も他参加者が立ち寄った場所であるが故にめぼしいものを見つけることはできなかった。
薬自体はかなりの量があるものの、薬剤知識のないNとニャースが触れて大丈夫なものかと言われれば不安は拭えないため、結局ポケモン達への薬として使うことは諦めた。

「だけど、走ってたらこんなものを見つけたにゃ」

そんな時ニャースが取り出したものは一つのバッグ。
他の皆が同じように支給されているもの。おそらく誰かが落としていったものだろう。

何か使えるものが無いか、中をまさぐるN。

「…これは」

出てきたものは。
黒を基調として金色のラインで彩られたモンスターボール、ゴージャスボール。
一見普通のモンスターボールと変わらない、しかし誰も中に入っていないモンスターボール。

あとは基本的な支給品と、飲食物――ポケモン用のペレットとスナック菓子が入っている程度。

うち、目を引いたのはゴージャスボールとモンスターボール。

特に、モンスターボールには説明書きがあり、スナッチボールという特殊な道具だという。

「スナッチボール?」
「…要するに、これはトレーナーが既にいるポケモンを捕まえることができる、特殊なモンスターボールらしい」
「にゃにゃ?!」

ニャースは驚愕の声を上げると共に、その瞳が若干、これを狙っているかのような光を見せたのをNは見逃さなかった。

「あげないからね」
「わ、分かってるにゃ。ニャーも別に欲しいなんて…」
「とりあえず、ポケモン達にはこのポケモンフーズをあげて体力を回復させるとしようか」

そう言ってスナッチボールをバッグに仕舞いながら、ピカチュウ、リザードン、グレッグルを呼び出すN。
ニャースも含めて各々にポケモンフーズを配る。

与えられたポケモン用固形食料を食べる彼らを見ながら、Nはボールを手に語り始める。


「でも、これが手に入ったのは幸運かもしれない」
「どういうことニャ?」
「これは、ボクが考えていることなんだけど」


「そもそも君やミュウツーと他のポケモン達は、参加者と支給品という扱いで大きな開きがある。
 何が違うか、分かるかい?」
「ピカァ?」
「う〜ん、トレーナーがいるかいないか、ということじゃないかにゃ?」
「そう。だけどもう一段階。ピカチュウ達を縛り付けているもの、それがきっとこのモンスターボールなんだ。
 たぶん、僕たちに課せられたこの呪いと同じような縛りだと、ボクは考えている」

Nが話すのは、遊園地での会談時に現在の所有者がモンスターボールを持たないポケモン、ポッチャマのこと。
元々はユーフェミアという人物が所有していたらしいが、ポッチャマは彼女の目を勝手に離れて動き、彼女もまたポッチャマの預かり知らぬ場所で命を落としたという。
結果、ポッチャマのボールを持ったものはいなくなり、ポッチャマを縛るものがなくなった。

実際、アリスと織莉子に頼み、ポッチャマにちょっとした命令を出してもらったが、命令に拘束されている様子は一切感じられなかった。

「きっとボールを持ったポケモン達を縛っているのはこのボールなんじゃないかって思うんだ」
「ピィカァ〜…」
「ニャース、君に頼みたいことがあるんだけど」
「ニャ?」
「君は機械をいじるのは得意だって言ってたよね?
 このゴージャスボールを調べてみてほしいんだ。何か、ポケモンにそういった制約を化す細工がされていないか」


525 : Nとニャース・ポケモンと人間 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/09/29(土) 20:51:18 tn0CKzt60
スナッチボールはともかくとして、ゴージャスボールのような空のモンスターボールが支給されている。
これはすなわち、モンスターボールの制約から解放されたポケモンがいずれ出てくる可能性を想定し、再度捕獲を可能とするためのものだろう。
ならば、このボールにも同じ制約を化す何かが組み込まれているはず。

既にポケモンが登録されたモンスターボールを解析に使った場合ポケモンに対して悪影響を及ぼす可能性も有り得る。
現状ポケモン達に悪影響を与えずにそれが叶うものがあるとすればこの一つだけだろう。

「むー、でもボール自体をいじったことはないからニャ…。まあでもやるだけやってみるニャ」
「ああ、頼んだ。場所は、移動が大変ならここか、それかL達と集合場所と決めた遊園地でやってくれるといい。
 それと、ピカチュウ、君はニャースと一緒にいてほしい」
「ピカァ?!!」

驚くように鳴き声を上げたピカチュウ。

「リザードンは元々スタミナが強いポケモンだったからダメージの回復も早いみたいだけど、君はまだ戦いのダメージの残りが大きい。
 それに君たちは長い付き合いだから少しは気を許せる仲なんだろう?」
「ピ、ピカァ…?」

ピカチュウは顔を顰めている。
そんなことはない、こいつは信用できないと、そう言っている。

「にゃ、ニャア、つまり今はニャアがピカチュウのトレーナーになると、そういうことでいいのかにゃ?」
「まあ、ボクは別行動になるから、その間の一時的にということになるけど」
「了解しましたニャ!このニャース、誠心誠意その仕事を頑張らせてもらうにゃ!!」
「ピカァ!!ピカチュウ!!」

ピシッと立って敬礼するニャース、対してピカチュウは抗議の声を止めない。
そんなピカチュウの肩を、慰めるようにポンと叩くグレッグル。

その様子を見て、とりあえずはピカチュウを任せるのは大丈夫だろうと判断する。

(まあ、流石にスナッチボールはあげられないけどね)

そう思いながら、もう一つのボールにも意識を向けるN。
このボールはきっと存在してはいけないものだと。
ポケモンと人間を明確に分かたれる世界を作ろうとした自分にもそれは分かる。
他者のポケモンを強引に奪うことは倫理的にも許されることではないし、このボールはきっとポケモンとトレーナーの絆すら容易く引き裂くだろう。
サトシを目の前で殺され、その下手人の手に一時的とはいえ渡ってしまい心に傷を作ったこのリザードンのように。

そしてニャースは曲がりなりにもロケット団にいるポケモン。これを解析されたことでその技術が組織の手に渡る事態はあってはならないことだ。
今はピカチュウの面倒を見てもらうことでその気を反らすことはできたが。


ピカチュウのボールをニャースに渡し、食事を終えたリザードンとグレッグルをボールに戻すN。

「じゃあ、ニャアはここでボールの解析ができるかどうか少し調べてからここに残るか遊園地に向かうかは決めるのニャ。
 まあどっちにいても用が終わったら帰りがけにでも拾ってくれたらいいにゃ」
「ああ。ボクたちは出るから。気をつけてね」
「ピィカァ…」
「諦めるニャピカチュウ。まあ今はロケット団も何もニャイからニャ。仲良く協力しようニャ」

ニャースへの警戒心を残し続けるピカチュウに対し、ニャースは笑いながらその肩を叩く。
その様子にピカチュウは諦めたようにため息をついた。

そうして、Nはニャースを残して合流地点へと歩み始めた。



(…どうしたものかな、このスナッチボールは…)

ニャースから離れたNは、このボールに対して思いを馳せる。
無論、他者のポケモンを奪うことは例えNとていかなる場合でもするつもりはない。
だが、もしもだが。

弥海砂に操られたリザードンのように、本来の持ち主ではない相手にいいように利用されているポケモンを見た時には。
このボールを使ってしまうかもしれない。

そんな時が来ないことを願いながら、Nは一人南へと足を進めた。


526 : Nとニャース・ポケモンと人間 ◆Z9iNYeY9a2 :2018/09/29(土) 20:51:29 tn0CKzt60


【D-5/病院周辺/一日目 夜中】

【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(小)
[装備]:、ボール収納)、サトシのリザードン@ポケットモンスター(アニメ)、タケシのグレッグル&モンスターボール@ポケットモンスター(アニメ)、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[道具]:基本支給品×2、割れたピンプクの石、スナッチボール×1@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:ポケモン城に向かい、クローンポケモン達を救う
2:世界の秘密を解くための仲間を集める
3:ゲーチスを探し、真意を確かめたい
4:スナッチボールの存在は封印したいが…
[備考]
※モンスターボールに対し、参加者に対する魔女の口づけのような何かの制約が課せられており、それが参加者と同じようにポケモン達を縛っていると考察しています。


【ニャース@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:ダメージ(中)、全身に火傷(処置済み)
[装備]:サトシのピカチュウ(体力:疲労(小)ダメージ(中))@ポケットモンスター(アニメ)、ゴージャスボール@ポケットモンスター(ゲーム) 、
    小型テレビ入ポテトチップス@DEATH NOTE(漫画)
[道具]:基本支給品一式、
[思考・状況]
基本:この場所から抜け出し、ロケット団に帰る
1:ボールを解析する
2:ニャーがピカチュウのトレーナーに…
[備考]
※参戦時期はギンガ団との決着以降のどこかです
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線
※桜が学園にいたデルタであることには気付いていません


527 : ◆Z9iNYeY9a2 :2018/09/29(土) 20:51:43 tn0CKzt60
投下終了です


528 : 名無しさん :2018/09/29(土) 22:45:19 K.tnaRgs0
投下乙です

このロワでのNの成長ぶりは原作プレイした身としては嬉しいものがある
本人はスナッチボール嫌悪してるけど、ゲーチスとの戦闘があるから使ってしまうかも


529 : 名無しさん :2018/10/01(月) 04:20:22 QlgIJFeQ0
投下乙です
そういやニャースは確かにアニメでよく機械いじりをしてたからなぁ。ボールの解析も期待できそう
そして元々は敵同士だったピカチュウとのコンビがどうなるかも楽しみだ


530 : 名無しさん :2018/10/11(木) 23:23:00 380Fs99Y0
懐かしいなスナッチボール
コロシアムやXDでダークポケモン捕獲専用ボールだっけ
このバトロワでもいつかダークポケモンが出てきたりするのかな


531 : ◆Z9iNYeY9a2 :2018/10/21(日) 19:53:54 hrIWcfeY0
投下します


532 : フレンズ? ◆Z9iNYeY9a2 :2018/10/21(日) 19:55:05 hrIWcfeY0
『俺はこれでゼロの相手をする。君達は先に進め』
「分かった。……、スザク、死ぬなよ」
『お互いにな』

白き人型起動兵器に乗ったスザクにゼロを任せ、アヴァロンは遊園地を離れていく。
その中で、月は通信機の電源を切った。

勝敗に関わらずスザクは追ってくることはできないだろう。
後ろでエネルギー物質で彩られた翼を翻しながら戦うスザクと、それを相手にしているゼロの戦いの様子を見ていれば数分で終わるものではないことは分かる。

そしてその戦いの中、あの魔人相手に自分ができることもない。

やはり不安だったし、改めて思い知らされたものだ。
自分がこうして生きていられるのは、運がよかっただけなのだと。

一息ついた辺りで、ようやく背後に人の気配を感じることができた月。
この場にいるのが誰なのか。それは振り向くまでもなく分かっていることだ。
彼らがここに乗ってくる様子はこの場で見ていたのだから。

「――――久しぶり、だな。L」
「ええ。数日ぶりといったところでしょうか」
「僕時間だと4年ぶりだけどな」

そう言って振り返る月。

立っていた男は、相変わらず猫背で目に隈をつけた、しかしこちらを余さず観察する目は確かに月の知っている探偵だ。

そして、その後ろには二人の少女。
同じ学生服に身を包んだその二人のうち、月は一方を知っていた。

「また会ったな、さやかちゃん」
「月さん……」

その瞳はやはり警戒心に満ちたものだった。
Lを悪人と言って自分を騙していた相手だ。当然のことだろう。

だが、今の彼女はあの時に感じたただの騙しやすい青い学生とは別人のように見えた。
あれからどれだけの経験をこの子は積んだのか。それを月には測ることまではできなかった。

「あの時とは、ずいぶんと違う雰囲気になったな」
「まあ、おかげさまでね」

ともあれ、彼女達は既に自分のことは聞いているのだろう。
ならば、自己紹介を長々とする必要もない。

「月くん、一つだけ聞かせてください。
 今のあなたは、キラですか?それとも夜神月ですか?」

そして、このLが自分を乗り越えた者であるのならば、月がキラかどうかなど今更だろう。
この言葉はきっと、今ここにいる自分がどっちなのかと問うているのだ。

「…キラはもういない。僕はもうキラになることはできないと思う。
 ここにいるのは、ただの夜神月だ。稀に見る大量殺人の実行犯の、成れの果てだ」
「そうですか。
 なら、お願いがあります。私に手を貸してください。
 皆をここから生きて返すために」
「いいだろう」

差し出された手を取ることに、月は迷いはなかった。


533 : フレンズ? ◆Z9iNYeY9a2 :2018/10/21(日) 19:55:34 hrIWcfeY0


その後は、月とL達のチームでこれまでにあったことについての情報交換を行っていた。
その際、互いの集めた情報がもう一方が集め得なかったものも混じっており、やがて会話は自然な形で二人の考え方を纏めるようなものになっていった。

「なるほど、Cの世界、ですか。枢木スザクさんの語ったアーニャ・アールストレイムという人物がいるということは、それがこの殺し合いに大きな影響を及ぼしているかもしれないと」
「ああ。集合無意識の世界、だと」
「集合無意識ですか。……なるほど、だとすると以前私が考えていたことと照らし合わせることができるかもしれない」
「というと?」
「こういうことですよ」


「なるほど、確かに君が考えていたその魔女の結界の考察と辻褄は合うな」
「ええ。ですが問題は手段になります。仮説レベルのこの考察が正しいのかどうかをどうやって確かめるべきか」
「…確かに、問題はそこだな。スザクもCの世界自体にはそう詳しいわけじゃなかったと言っていたし」


「殺し合いの目的、についてですが。私としては一般的に言われている”蠱毒”というシステムに近いものではないかというのが大きいのです。
 セイバーさんやイリヤさん達の世界には、聖杯戦争という儀式が存在しているらしいのですが、それがこの殺し合いにかなり近い仕組みに見えるのです」
「ふむ、確かに君のいうそれは近いようだ。
 僕も村上達オルフェノクの世界について、『オルフェノクの王』という概念の生まれ方が気になっていたんだ」
「九死に一生を得た子供に宿る、ですか。理屈も理由も不明ですが、確かに死に近付いたという意味では共通点が見えなくもない」

「…やはりこうして情報を集めてみると、どうしても欠けているものが出てきてしまいますね」
「確かに、Cの世界だの聖杯戦争だの、そういったものに対してはかなり深い知識を持つ者が必要になるからな。
 スザクも言っていたが、もしC.C.という参加者がいてくれたなら、もっと助かったかもしれないが」
「もういないものの話をしても仕方ありません。今ある情報で何ができるかを考えることが今の我々にできることです」
「分かってるさ」



二人の会話で長い間繰り返される専門用語の応酬。
やがて理解が追いつかなくなったさやかはこっくりこっくりと船をこいでおり、まどかも意識こそはっきりしていたが理解できず何をどうしたらいいのかあたふたとしていた。


「さやかさん」
「―――っ、うぇっ!?はい!!寝てないですよ!!」
「いえ、別に寝ていたことを咎めようとは思っていません。
 ただ、少しお二人にも話に混じって貰おうかと思いまして」

そう言って傍に手招きをするL。

「確かあなたの言っていた、人間を魔法少女にする存在、キュゥべえですが。
 まどかさん、彼の目的は宇宙の寿命を伸ばすために少女達の持つ願いの力をエネルギーに変換する、というもので合っていましたよね?」
「え、そうなの?」
「はい。キュゥべえはそう言ってました」
「そうですか。
 シロナさん達から聞いたアカギの目的とスザクさんの語るアーニャ、その裏にいると考えられるシャルル・ジ・ブリタニアの目的は似通っています。
 そしてもし他に協力者がいると考えた場合、そのキュゥべえという者の狙いは彼らの目的とは利害関係を結べるものではないかと思うのです」
「な、なるほど…?」

強引に頷いてみるさやかだったが、しかし理解できているようではなかった。

「それで、織莉子さんには話したのですが。
 まどかさんが魔法少女になった際に膨大なエネルギーを生み出す。しかしそんなまどかさんをここに連れてこられているというのはその存在の思惑には反するものです。
 まどかさんが死んではそんな狙いも全て無為に返すだけですから」

まどかが最悪の魔女になった際に生まれるエネルギーを求めるキュゥべえ。
そして、その最悪の魔女と化したまどかが世界を滅ぼすのを防ぐためにまどかの命を狙う織莉子。


534 : フレンズ? ◆Z9iNYeY9a2 :2018/10/21(日) 19:55:47 hrIWcfeY0

どちらも中心にいるのはまどかだが、現状キュゥべえの関わりだけは確認できていない。

「ここにまどかさんがいるということは、そのキュゥべえの狙い以上の見返りがあるか、あるいは願いの方向性が違うため相容れないのかのどちらかと考えていますが。
 この辺りは理屈が分からないためこれは直感ですが、こういった場合前者の可能性はだいたい70%くらいあると思っています」
「つまり、どういうことですか?」
「もし、キュゥべえがこの会場に現れるようなことがあったら、敵と見ておいた方がいいということです」

織莉子とまどかの関係を知っている。そして、まどかの願いの力を知って尚もその生命を掛け金にすることができる。
もしそういった状況が予想通りだったなら、その白い異邦人は決して味方たりえない。

「…さて、色々と考えていましたが、少し糖分が欲しくなりましたね。
 まどかさん、さやかさん、少し艦内で探してきてくれませんか?大きな艦ですし、食堂くらいはあるでしょう」
「分かりました」
「じゃあ、僕も見てこようか?」
「いえ、月くんはここにいてください」
「…?分かった」

そう言って、まどかとさやかは艦橋から出ていった。
一応艦内の地図は渡してあるため、迷うことはないだろう。

二人が出ていって足音が遠のいたのを確認したところで、Lは口を開く。

「月くん。私はこの殺し合いを行ったアカギ達のことは許せないと思っています」
「それは、僕も同じ考えだよ」
「ですが私の目的は、一人でも多くの人をこの場から生きて返すことだと思っています。
 アカギ達をどうするかというところについてはまあ最悪二の次になってしまったとしても、それが最終的な目的です」

言いながらLは、月の顔をじっと見つめる。
まるで月を見定めでもしているかのように。

「月くん、あなたと協力することは当然吝かではありません。例えあなたがキラだったとしても、この場だけではそれを見逃してもよかった。
 ただ、この一点についてはあなたのことを完全に信用することができないでいます」
「ある一点…?」
「あなたが、私が生かして返したいと思う人たちを助け得る人かどうかです」

例えばの話。
キラである月がLと手を組みこの場からの脱出を目論んだとして。
自身の生のみに執着し、他者を利用し蹴落としてでも生きようとするようならば、Lは月に他の参加者の命を預けることはできない。

何しろもしこの場で自分や他の参加者が命を落とせば、月がキラだと知るものはいなくなるのだ。

「正直あなたのことは信じたいと思っていますが、それでも月くんにはこういったケースの裏切りに前例があります。
 それに、私の知る月くんは自分の秘密を守ることを優先して恋人の命をノートに書いて利用する人でした」
「恋人…?」
「知らないのであれば説明しましょう。
 あなたは南空ナオミによって追い詰められた際、自分がその時付き合っていた恋人の命を、彼女を殺すためのノートを使った寸劇の一員に利用し命を落とさせた。
 彼女は弥海砂とは違う、キラのことを正しいと言うこともなかった、ごく一般の善良な子です」
「……、そう、か。そっちの僕はそんなことを」

月は南空ナオミを始末するために口八丁で情報を引き出してノートに名を書いたが、あの状況も幸運から来たものだ。
もしあそこで彼女に会うことがなければもっと追い詰められていただろうし、そうなった場合何をしたかは分からない。

やらない、やりたくないと考えたとしても、あの時の自分が追い詰められたら、きっと神を免罪符にして利用してしまうことだって大いに有り得ると思った。

「僕は、もうそんなことはしない―――って言っても、きっと信じてはくれないんだろうな」
「ええ。信じられないというより、疑いの可能性がどうしても消せないと言った方がいいですね」

「分かった。こればっかりは今の僕にはどうしようもないことだ。君自身で見て、その上で判断して欲しい」
「そのつもりです。あなたが果たして」

自分の跡を継ぐに相応しいのかどうか。
その部分は言葉になることなく、Lの中に飲み込まれていった。





535 : フレンズ? ◆Z9iNYeY9a2 :2018/10/21(日) 19:56:02 hrIWcfeY0


「ねえまどか。さっきLさんが言っていたことって…」
「…うん、本当なの」

さやかの言葉に答えるまどかの声に感じる後ろめたさは、それを隠していた事実からか、それともその事実そのものからか。

「キュゥべえが言ってた。私が魔法少女になったらすごく強くなれるけど、魔女になったら世界を滅ぼせるくらい強くなるって。
 美国織莉子さんは、私が世界を滅ぼす未来を見て、それを止めるために私の命を」
「分かった、それ以上は話さなくていいから」

まどかの顔が、話していくだけ辛そうに歪んでいくのを見たさやかは途中で話を止めさせた。
同時に、先にまどかと話した時に自分のことしか聞かなかった自分に腹が立っていた。

キュゥべえからまどかの才能について聞いた時、そこに嫉妬していた自分がいたというのに。
まどかはその事実にずっと苦しめられ、命すら狙われることがあったというのだ。


「まどか」

そんな状況で、まどかに対して言わなければならない言葉は一体何か。

嫉妬した自分の、気遣いが足りなかった自分の謝罪か?違う。
そんなことを気にすることはないという励ましの言葉か?必要かもしれないが、それはまどかへの救いにはならない。

それは、先にさやかがまどかに言われた言葉。

「さっきさ、私がどんな罪を背負っても、友達でいてくれるって言ったよね。
 私も、まどかがどんな存在になるやつだったとしても、友達だって気持ちは変わらないから。それだけは覚えておいて」
「……うん」
「だ〜からさ〜、もしあんたがそんなんで死のうって思うとか、そんなこと考えちゃダメだからね〜。
 そんなことになったら、私も後を追って死んじゃうかもだぞ〜」
「も、もう止めてよー!」

空気が張り詰めすぎたと感じたさやかは、まどかの首に腕を回して、そのまま髪をガシガシとかき回し始めた。
そんなさやかの行動に、笑いながら抗するまどか。

この瞬間だけは、魔法少女とか世界がどうとか色々な罪とか。
そんなことを忘れて、今までのようなただの女子学生のように振る舞いたいと。

その気持ちは、二人とも同じだった。



【D-5/アヴァロン艦内/一日目 夜中】


536 : フレンズ? ◆Z9iNYeY9a2 :2018/10/21(日) 19:56:19 hrIWcfeY0

【夜神月@DEATH NOTE(漫画)】
[状態]:疲労(小)
[装備]:スーツ、
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:キラではない、夜神月として生きてみたい
1:アヴァロンに乗って行動する
2:Lと力を合わせて会場の謎を解く
3:斑鳩を警戒
4:メロから送られてきた(と思われる)文章の考察をする
[備考]
※死亡後からの参戦


【L@デスノート(映画)】
[状態]:右の掌の表面が灰化、疲労(小)
[装備]:ワルサーP38(5/8)@現実、
[道具]:基本支給品、クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ、ブローニングハイパワー(13/13)@現実、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、トランシーバー(電池切れ)@現実 、薬品
[思考・状況]
基本:この事件を止めるべく、アカギを逮捕する
0:月君を信じてもいいのだろうか?
1:アヴァロンに乗って行動する。
2:月がどんな状態であろうが組む。一時休戦
3:遊園地の地下にあるものをいずれ確かめたい
4:向かえるならばポケモン城に向かいたい
5:少し糖分が欲しい
[備考]



【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(小)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み)
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
1:Lさん達と一緒に行動する
2:私は何ができるだろう?
3:さやかちゃんを信じる
[備考]



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)
[装備]:ソウルジェム(濁り30%)(小さな亀裂有り) 、トランシーバー(残り電力一回分)@現実、グリーフシード(濁り100%)
[道具]:基本支給品、グリーフシード(濁り70%)、コンビニ調達の食料(板チョコあり)、コンビニの売上金
[思考・状況]
基本:自分を信じて生き、戦う
1:アヴァロンに乗って皆と行動する
2:ゲーチスさんとはもう一度ちゃんと話したい
[備考]
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※魔法少女と魔女の関連性を、巴マミの魔女化の際の状況から察しました
※まどかから自分の参戦時期〜まどかの参戦時期までの出来事を聞きました
※ソウルジェムの亀裂の影響ですが、ルビー評だと戦闘は2度以上は危険とのことです。


537 : ◆Z9iNYeY9a2 :2018/10/21(日) 19:57:17 hrIWcfeY0
投下終了です


538 : 名無しさん :2018/10/22(月) 00:12:48 fpXOFVv.0
投下乙です

ようやく再会したLと月。考察も順調に進んでるが後一手足りないか
ギアス関連の情報はゼロが一番詳しいだろうけど、素直に協力は無理だろうしなぁ


539 : 名無しさん :2018/10/22(月) 19:14:58 1QysCiP.0
投下来てるぅ〜!乙です!
今回の見所としては何より月とLの邂逅。こういった形になりましたか!
Lが語るキラとしての月が行った非道について、別世界の自分の行為とは言え今の月でも否定しきれないのはやはり悲しかったり。
一方で、普通の女子中学生してるまどかとさやかちゃん。
微笑ましいなと思う一方で、やはりどこかこれから先の暗い展開を少しだけ感じ取らずにはいられない気がするのは、ロワだからなのかそれとも原作が原作だからなのか。


540 : 名無しさん :2018/12/28(金) 21:23:53 kay6XXVI0
今年最後の予約いいゾ〜これ(歓喜)


541 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:07:09 XuLabuP.0
遅れてすみません。これより投下します


542 : 立ち向かうべきもの ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:08:36 XuLabuP.0
暗闇と静寂に支配された平野。
人も多くはおらず明かりも少ない。

そんな場所で、赤く燃える炎がいくつも立ち上っていた。

宙に浮遊しているのは、巨大浮遊艦・斑鳩。
黒の騎士団が旗艦として運用していたはずのそれ、しかし今この艦を支配しているものにはそのようなこと全く関わりのない事実だ。

地に向けて幾つも放たれるミサイルと単装砲が炎を上げて闇を照らしている。

そして、それをかわし続けている少女が二人。

一人は爆風が訪れる場所を的確に避けるように走り続け。
一人は目にも止まらぬ速さで砲撃のことごとくを回避し続けている。

「アリス!あれあなたの世界の艦でしょ!
 どうにかできないの?!」

一発一発を避けるために未来予知を消耗し続けている織莉子が、焦りながらもアリスに向けて声を上げる。
それをギアスによる高速化で回避するアリスも答えるが、

「無理よ!せめて中に入らないと!
 あのクラスの戦艦を単騎で落とそうとしたら、それこそ特機レベルのKMFが必要になるわよ!」

規模を理解しているからこそ、どうにかできるものではないと判断するしかできなかった。
織莉子にしろアリスにしろ、自身の持つ攻撃の全てを撃ち込んだとしても、あの戦艦を撃墜するには至らないだろう。
アリス視点で見れば、きっとほむらが持っていた可変型の単車の火力であっても厳しいだろう。いや、それで落とせるようならば戦艦という役は果たせない。

もし対処するならば戦艦内に入ることは必須。しかし今はあれに迫ることができるだけの飛行能力を自分たちは持たない。
ならば現状最善の選択肢としては逃走しかない。

周囲を見回して逃げる道を見たアリスは、織莉子に呼びかける。

「ちょっと私の手を取りなさい!ここからギアスを使って離脱するから!」

一人ならいざしらず、織莉子を伴った状態で逃げることになれば彼女が加重速による高速化に耐えてもらう必要が出るが、魔法少女ならある程度は耐えてくれるはずだと。
そう信じて織莉子の手を引いて撤退しようとした。

その時だった。

「待って」

織莉子がギアスを発動させようとしたアリスを止める。

「攻撃は間もなく止むわ。無駄に力を使うことはない」

織莉子の未来視が何かを見たのだろう。


543 : 立ち向かうべきもの ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:09:03 XuLabuP.0
そして、その言葉通り、空に赤く燃える炎のような何かが飛来するのが見えた。
赤い竜のような体を持った生き物。織莉子は同じ姿をしたものをポケモン城で見ていた。

その背にはうっすらと、帽子を被った一人の男が乗っているのが見えた。

その姿が確認できたと同時に、戦艦からの攻撃も止んでいた。

「ゲーチス!!その艦に乗ってるのはゲーチスなんだろう!!」

男、Nは戦艦に向けて大声で叫ぶ。

「君と話がしたい!攻撃を止めてくれ!!」

静止の声が届いたのか、戦艦からの砲撃が収まる。
乗っていたリザードンがやがて地面に降り、織莉子とアリスの近くの地に立った。

「ありがとう、だけど何であれに乗ってる相手が分かったのよ?」
「ただの消去法だ。もしゲーチスなら僕とは話そうとはしてくれるはずと信じていたから。
 違ったなら違ったで対処を変えただけだよ」

相手を知らないアリスと織莉子にはできない対処だった。

『Nですか。あなたはこちらの艦に来なさい。
 こちらとしても話があります』
「それは構わないが、なら条件がある。攻撃を止めてくれ」
『そのような些事を気にするようになったのですか。
 いいでしょう。攻撃を止めます。その代わりあなたはこちらに来るのです。
 来る手段はそこにあるでしょう?』

手段。リザードンのことを指しているのだろう。
要するに飛んで来いと言っているのだ。


「待ちなさい」

飛び立とうとしたところで織莉子がNを止める。

「私はあなたのことを知りませんが。
 しかしこちらをいきなり攻撃してきた相手の言葉を信じるということもできません」
『ではどうするというのです?』
「私達もそちらに共に行かせなさい」

織莉子の懸念も当然のものだろう。
もし乗り込んだNを殺され再度攻撃を再開されてはたまったものではない。

そんな心境を汲んだのか、ゲーチスは少しの沈黙の後返答した。

『いいでしょう。しかしこちらもあなた達二人のことを知らぬため信用することができません。
 どちらか一人、付いてくることを認めましょう』

白々しい、と織莉子は思ったものの譲歩は引き出すことができた。

目を閉じて未来視を発動させたところで見えた十分ほど後の未来は、何事もなくこの場に佇んだアリスの姿。
少なくともこの場にアリスがいれば安全ということだろう。

「アリス、あなたは残りなさい。私が乗り込むから。
 大丈夫、少なくとも約束は守ってくれるみたいだから」

抗議の声を抑えるように畳み掛けて話す織莉子。
もし何かあった時も、機動力のあるアリスが素早く行動できる状況の方がいいと織莉子は言った。

観念したようにアリスは織莉子の提案を呑み。


数分後、Nと織莉子を乗せたリザードンは空へと飛び立った。

(…?)

そうして開いた斑鳩のハッチに入り込む寸前。

ふと、Nは一瞬だが、ポケモンの声を聞いた気がした。
リザードンのように自分達の持っている者たちではない、別の何者かの声。

思わず振り返ったNだったが、そこに何か見えることはなく。
ゲーチスに会うことに逸る気持ちがあったこともあり、聞き間違いだろうかとそのまま前へと向き直した。

よく耳を凝らせば聞こえたかもしれない。
大きく鳴り続ける戦艦の駆動音の中でそれらとは別に後ろで僅かに響いていた、小さなホバー音に。


544 : 立ち向かうべきもの ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:09:55 XuLabuP.0

斑鳩艦橋。
艦のあらゆる角度の情報を見渡すため多数取り付けられたモニタにはあらゆる角度の風景が映っている。
星が光る暗闇の空。うっすらと映る地上の光景。艦のすぐ側面の宙の色。

そんな画面の前の席に一人の男が座っていた。

Nと織莉子が室内に入ると同時に男は立ち上がりこちらへと振り返る。

「ゲーチス」
「随分と人のような眼をするようになったのですね、N」

その言葉に、思わず顔をしかめていた織莉子。

「いつもの服じゃないんだね。着替えたのかい?」
「ええ、色々ありまして、あの服も汚れてしまいましたからね。
 この艦にあったものを拝借させていただきました」

ゲーチスの羽織っているマントはいつもの白いものではなく、黒い色のものを纏っていた。
その色はアッシュフォード学園にて一瞬だが目にしていた仮面の男、ゼロの着ていたものと同じもののようだった。

「N、あなたはその手で世界を変えたいと、ポケモンと人間の共存する世界を変えたいとまだ思っていますか?」
「…ああ。思っているよ」

と、答えたNを見るゲーチスの瞳は回答に対して疑いを持つかのような視線を向けていた。
しかしその言葉を一応は信じることにしたのか、すぐゲーチスはその目線を抑えてこちらへと手を差し出した。

「ならばあなたの持つバッグをこちらに渡しなさい。
 手持ちのポケモンも、その全てを」

未来視するまでもなく、織莉子はそれに従うことが碌でもない結果を生むことは見えていた。
一瞬だけ迷うように瞳を動かしたNは、ボールを全てバッグに入れた後ゲーチスの元へと歩み寄り。

「分かった。だけどその前に一つだけ聞かせて欲しい。ゲーチス」
「何でしょうか」
「―――どうしてカイドウを殺したんだ?」

その言葉を発した瞬間、Nの周囲に強い警戒心が現れたのを織莉子もゲーチスも見逃さなかった。
同時に、ゲーチスはその言葉に一瞬意図を問いかねるかのような表情をした後大仰に頭を抱える仕草を見せた。

「カイドウ…、あの化物のことですか。
 なぜあなたがそんな小さなことを気にするのですか。あれがあなたにとって重要なものだったのですか?」

言いながらNを見るゲーチスの目には、強い失望の念があった。

「彼は、短い付き合いだったけどボクにとっては仲間と言えるような存在だったんじゃないかと思ってる。
 化物だからどうでもいい、なんてことは全く思っていない」
「全く、本当に人間のようなことを言うようになりましたね」
「それで、質問に答えてもらっていないよ。ゲーチス」
「そうでしたね。彼を殺した理由ですが―――」

と、一瞬Nの背後の織莉子に視線を向けたと思うと宙から突如現れた黒い影が彼女に向けて炎を撒き散らした。
瞬時に水晶を盾として掲げて防御したことで事なきを得た織莉子。


545 : 立ち向かうべきもの ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:10:22 XuLabuP.0
そしてそれを見ていたNは驚愕の表情を隠せなかった。

「化物、それも私の思い通りにならないような存在など、気持ち悪く不気味なだけじゃないですか。
 殺した理由など、それだけですよ」
「…!」

Nはその言葉で、美遊から聞いたゲーチスの蛮行が真実だったということを実感した。

「…私も、あなたにとっては化物だと?」
「ええ。そうでしょう、魔法を使う少女よ。
 あなたのような子供が、人の摂理を外れたかのような不思議な力を使うなど。
 気味が悪いとしか言いようがありません」
「全く、時代遅れの魔女狩りか何かかしら」

サザンドラの炎を避けながら、ゲーチスに向けて手をかざす。
水晶はゲーチスのすぐ側面へと着弾し、艦橋の床を抉った。

おそらく彼は肉弾戦は不得手なのだろう。
だからこそこのような戦艦に乗って行動し、策謀を巡らせて生き残ってきた。

「次は当てるわよ。私をここに引き入れたのは失敗だったんじゃないかしら」
「ふふ、何の策もなくあなた達をこの場に招いたと思いますか?」

と、ゲーチスは側の機器に触れモニタの一つの映像を切り替えた。

「―――!」

そこに映っていたのは。

「アリス?!」

全身を土で汚し、口から僅かに吐血した状態で意識を失った少女。
安全と判断したはずのアリスの姿だった。



織莉子を見送って間もない頃の地上。
飛び立った二人と入れ替わるように、アリスは謎の存在の襲撃を受けていた。


「…っ、一体どこから攻撃が…、ぐ…」

視界には何も映ってはいない。
しかし何かがいて攻撃を仕掛けてきている。

動き回るアリスの体には、殴られた痕が、動物の爪のようなもので斬りつけられた傷が幾つも作られていた。


―――Exceed Charge

不意の電子音にギアスを使い急加速によって移動。
直後に今立っていた場所を黄色い円錐状のエネルギーが通過していった。

視覚による情報を奪われているのか何処に居るのかが全く分からない。

(これは…遊園地での情報にあった、幻覚を見せるポケモンの能力…?)

ゲーチスが持っている黒い狐のようなポケモンがこのような能力を持っていると聞いていた。
こうなってくると、織莉子が言っていたこの場にいれば安心という情報がアテにならなくなってきた。

彼女は未来予知で自分の安全を見たはずだ。
しかし少し視界を反らした場所には、自分の姿があった。何事もなく誰かを待つように立ちつくしているアリス自身の姿が。
無論自分はここにいる。あれは幻覚、幻にすぎない。

そしてもし織莉子が見たのがあの自分のことだとしたら。

(…どうしてかは分からないけど、先に手を打たれてたってこと…!)


546 : 立ち向かうべきもの ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:10:42 XuLabuP.0

恨んでいても仕方ない。
敵は少なくとも二体。例のポケモンと、情報のないもう一人の何者か。

視界さえ晴れていればそれでも制圧できただろうが、見えないことがあまりにも厄介だった。
幾度かギアスを発動させ敵の攻撃に対し対応、反撃していたものの、最初の数度は手応えがあったがそれ以降一向に当たった気配がなかった。
どうやらこちらの能力に対し学習したようで攻撃そのものに幻影が混じり始めたのだ。

対策としては二つ。
この周囲数メートルの範囲をギアスによる高速化を以てがむしゃらに探して攻撃するか。
あるいは撤退のためにギアスを用いるか。

風を切る音が耳に届き身をかがめる。
引き金を引く音が聞こえたことで大きく飛び退き走り始める。

(埒が明かないわ…!)

何だかんだぼやきながらも攻撃による致命傷そのものは避けられていることに対する相手への見積もり。
逆に細かな傷を与えてくることに対する苛立ち。

その二つがアリスに対して撤退ではなく撃退の選択肢を選ばせた。
無力化、最悪命を奪うことも視野に入れて動きを決める。

不意に宙に巻き上がった熱を避けた辺りで熱源を探知。ギアスを発動させ握りしめた銃のグリップで見えぬ敵を強打。
グェッという鳴き声と共に柔らかい肉体を叩く感触を手が得る。

同時に付近の景色が変化し、紫の瞳を持つ機甲兵のような存在が目に入った。
幻影の解除に気付き動こうとするより早く、手に生み出した対消滅をもたらすエネルギーを形成。
それをその胸に叩きつけようと掌を突き出し。

しかし機甲兵、カイザはほんの一瞬に僅かに体を反らしていた。
叩き込もうとした一撃の狙いがずれ、腰のベルトを掠めていった。

攻撃を外しギアスが解除され、アリスの姿がカイザの背後に現れる。
再度ギアスを発動させようとしたアリスの、その体を突如横から凄まじい衝撃が襲った。

吹き飛ばされるアリスは、辛うじて発動しかけていたギアスを使い地面へ叩きつけられる衝撃を抑え込む。
ふらつく意識の中で見えたのは、それまでどこにもいなかった銀色の巨大な体がこちらに向けて拳を突き出していた光景。

殴られた肩を抑えながら起き上がろうとしたアリスの頭を、カイザが蹴り飛ばす。
本気ではない、おそらくは意識を失わせることが目的の一撃を受けたアリスはそのまま地面に倒れ込んだ。


『よろしい。ではその少女をこちらへ連れてきなさい』

イクスパンションスーツに備えられた通信機を通してカイザに届く声。
それに従い、ゾロアークを叩き起こしながらアリスの体を抱えあげる。

『…いえ、少し待ちなさい』

ゲーチスの静止の声。
少し考えるような沈黙が続き、カイザ、草加雅人に対し次の指示が与えられた。

『その少女を連れてきた後は、ゾロアークを艦内に残した状態で向こうに見える戦艦に向かいなさい。
 もし誰が乗っているようであれば、一人でも多く減らしておくように』

表情が見えないカイザの複眼に、視認できる距離にある斑鳩とは別の戦艦が映る。

ゲーチスの指示を受けた草加は、変身を一旦解除した後人型形態をとったオートバシンに捕まり、そのまま斑鳩へと飛翔した。

一瞬バチリ、とアリスの一撃が掠ったカイザギアの傷が火花を上げた。



「そんな、確かに未来視は無事なアリスを―――」

不確定な未来はあったし、行動次第で未来が変わることもあった。
しかしここまで近くの未来が、それも選択の結果によって変わったことなど、ましてや未来を外すことなどなかった。
思わず口にしかけたところで、聞いていた彼の連れていたポケモンの存在を思い出す。

「なるほど、あなたも未来予知の能力を持っていたのですか。
 こちらとしてはNのそれを警戒してのことだったのですが」

Nは時として未来を見ることがあるのはゲーチスも認識していた。
だからこそ念の為の策として、その未来自体に幻覚を見せることができないかとゾロアークを利用したのだった。
結果として思わぬところで功を奏したが。

「ゲーチス、ゾロアークを連れているのか」
「ええ。とても有効活用させてもらっていますよ。”駒”として」
「…!」


547 : 立ち向かうべきもの ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:10:57 XuLabuP.0
その言葉は、彼の本心から発されたものだということがNにも明確に理解できてしまい。
今まで信じてきた、今までポケモンの解放を理想としていると信じてきた男の姿は何処にもなかった。

「今、君はポケモンのことを駒だと、そう言ったのか…?」
「ええ。そうですよ。そしてあなたも駒です。
 世界からポケモンという力を奪い、私達だけがその力を持った世界を作り出すためのね」

嗜虐心に満ちた不気味な笑みを浮かべながら、ゲーチスはNを見る。

「ですがあなたは余分なことを知りすぎた。
 あのトレーナーのことしかり、この殺し合いで出会った者達しかり。
 まあ私の知る本来のNはあのトレーナーとの戦いに敗れましたが、この殺し合いに連れてこられ別の経験をしたあなたであればあるいは別の使い道があるのでは、とも思っていました。
 それでもやはり要らぬ知恵をつけまるで人間のように振る舞うようになってしまった。
 もう利用価値はありません」
「……!!」

それは信じていた相手から告げられた残酷な真実。
己のそれまでの行動、信念、希望、それら全てを否定するかのようなもの。

思わず、その衝撃にNは膝を折りそうになる。


(……)

そして、それを聞いていた織莉子の中には二つの感情が渦巻いていた。

まず一つは強い嫌悪感。
二人の関係を知らない織莉子が想像できる断片から客観的に聞いていても気分のいい話ではなかった。
サカキのようなまだ矜持を感じる者とは違う、他者を利用することしかしない悪。
そんな存在に対して悪感情を抱くのは至極当然だろう。

一方で、そんな彼の姿の一部に、自分を重ねているところがあることにも気付いていた。
目的のために多くの人を利用し弄ぶ。それは己も行っていたことだ。
そして、今自分の中に囚われているアリスを切り捨てる算段を行っている部分があることにも。

目の前の男は、まるで別側面からの自分を見せられているようにも感じられた。
いわば親近感のようなものかもしれない。




「そういえば、向こうにもう一隻、航空艦が見えますね」

と、別のモニタに映る戦艦に目をやる。

そこには反対方向にいたはずの戦艦、アヴァロンの巨体が近づいているのが見えた。
あれがここにいる、ということは遊園地であれに乗ると言っていた者たちはあの中にいるのだろう。

ゲーチスは側のモニタに手をやる。
斑鳩から、アヴァロンに向けてミサイルが、単装砲が放たれた。


「さて、お二人とも。
 こちらの手札は二つ。囚われているあの少女と、そしてあの艦そのもの。
 あちらにはこちらで駒とした一人の人物を向かわせました。あの中にいる人物を血祭りにあげるようにとね。
 道具の全てをこちらに渡すのであれば、少女は解放し攻撃も止めさせましょう」

言葉の裏に隠された意味。
攻撃を止めるとは言っているが、自分たちをどうするとは一切答えていない。おそらくは無防備になったところを殺す算段なのだろう。
逆に言うと、この場の二人でかかれば現状のゲーチスを制圧することは可能ということ。
だからこそゲーチスはアリスを人質として取っているのだろう。

だが、ゲーチスは織莉子を知らない。
織莉子が必要とあらば人を切り捨てる覚悟を持っていることを知らない。

一方で織莉子自身にも迷いがある。
アヴァロンへの攻撃は、向こうに乗っている者達が対処してくれると信じるしかないとして、問題はアリスだろう。
ここでアリスを切り捨てることが正しいのかどうか。
それはあの男と同じ判断をすることにならないか。

織莉子の心の天秤は揺れていた。





548 : 立ち向かうべきもの ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:11:18 XuLabuP.0
攻撃が始まった斑鳩艦内。
その中を、小さな影が走っていた。

「ポ、ポチャ、ポチャ!!」

その影の正体は、アリスのバッグの中にいたはずのポッチャマ。

彼はアリスから一つの指示を受けていた。

(あの艦の中に入ったら、動力部だと思うところを探して。
 そしてもしあの艦が攻撃を開始したら、そこを破壊してあの艦を落とすのよ)

その指示を受けたポッチャマは、織莉子にバッグに入れられた状態で斑鳩に潜入。
動力部を探して走り回っていた。

そして、攻撃が開始される音を耳にしたポッチャマは、ひたすら走り続けていた。


【E-6/斑鳩艦内/一日目 真夜中】
【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(小)、ゲーチスの言葉によるショック
[装備]:サトシのリザードン@ポケットモンスター(アニメ)、タケシのグレッグル&モンスターボール@ポケットモンスター(アニメ)、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[道具]:基本支給品×2、割れたピンプクの石、スナッチボール×1@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:ポケモン城に向かい、クローンポケモン達を救う
2:世界の秘密を解くための仲間を集める
3:ゲーチスの言葉に対する強い精神的ショック
4:スナッチボールの存在は封印したいが…
[備考]
※モンスターボールに対し、参加者に対する魔女の口づけのような何かの制約が課せられており、それが参加者と同じようにポケモン達を縛っていると考察しています。


【ゲーチス@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(中)、肩に切り傷(処置済み)、精神不安定、強い怒りと憎悪と歓喜、痛覚共有の呪い発動(共有対象:なし)
[装備]:普段着、ベレッタM92F@魔法少女まどか☆マギカ、サザンドラ(健康)@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品一式、病院で集めた道具(薬系少な目)
羊羹(1/4)印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入 印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入×4@現実、きんのたま@ポケットモンスター(ゲーム)
デザートイーグル@現実、流体サクラダイト@コードギアス 反逆のルルーシュ(残り1個)、デザートイーグルの弾、やけどなおし2個@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:組織の再建の為、優勝を狙う
1:N、美国織莉子の支給品を奪った後抹殺する。なるべくダメージは少なく済ませたいが無理なら手段は選ばない。
2:草加雅人を利用し、もう一方の戦艦に乗っている者を皆殺しにする。
3:ゾロアーク、草加雅人の力をもってできるだけ他者への誤解を振りまき動きやすい状況を作り出す。
[備考]
※痛覚共有の呪いを首の刻印の近くに受けていますがまだ共有者はいません。次にこの刻印に触れた者と痛覚を共有することになります。また、その存在にゲーチスは気付いていません。



【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:ソウルジェムの穢れ(4割)、魔法少女姿、疲労(中)、ダメージ(小)、全身に火傷、肩や脇腹に傷
[装備]:グリーフシード×2(濁り:満タン)@魔法少女まどか☆マギカ、砕けたソウルジェム(キリカ、まどかの血に染まっている)、モンスターボール(サカキのサイドンwith進化の輝石・ダメージ(大))@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、ひでんマシン3(なみのり)@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:何としても生き残り、自分の使命を果たす。
1:アリスの命を救うか、それとも切り捨てるか。
2:鹿目まどかに対することは後回し。
3:魔力回復手段が欲しい。
4:優先するのは自分の使命だが、他の手段があるというなら―――?
5:もっと他の人を頼ってもいい?
[備考]
※参加時期は第4話終了直後。キリカの傷を治す前
※ポケモン、オルフェノクについて少し知りました。
※ポケモン城の一階と地下の入り口付近を調査しました。
※キュゥべえが協力していることはないと考えていましたが、少し懐疑的になっています。
※マジカルシャインを習得しました。技の使用には魔力を消費します。


549 : 立ち向かうべきもの ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:11:59 XuLabuP.0

【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:ダメージ(小)、ネモと一体化、全身に切り傷、左肩に打撲と骨にヒビ、気絶
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(9+1発)@現実、ポッチャマ@ポケットモンスター(アニメ)、双眼鏡、 あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。
1:ナナリーの騎士としてあり続ける
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:ほむら……
4:美国織莉子を警戒。しかし警戒心自体は少々軟化している
最終目的:『儀式』からの脱出、その後可能であるならアカギから願いを叶えるという力を奪ってナナリーを生き返らせる
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※アリスのギアスにかかった制限はネモと同化したことである程度緩和されています。
魔導器『コードギアス』が呼び出せるかどうかは現状不明です。


※斑鳩艦内をポッチャマが走り回っています。




斑鳩とアヴァロンの間が視認できる距離まで迫る少し前のアヴァロン艦内。


Lは手に塗りたくったはちみつを舐めながらモニタに映った文字を眺めていた。

「…L、あまり言いたくはないけど、流石にその食べ方はどうかと思うぞ」
「まあお気になさらず。機材に触れたりはしないので」

あの後戻ってきたまどかとさやかが持っていた食料や飲料、そして甘味料として意識したのかはちみつのビン。
それに直接手を突っ込んでくまの●ーさんのような食べ方をするL。
まどかもさやかも流石に口を出したかったもののどうにも言い出しにくい空気だったのを察した月が敢えて指摘するも本人はどこ吹く風だ。
機材に触れないというのも舐めた手で触れないというマナーとかではなく微量な砂糖の粒子などの付着による機械の不具合を気にしているのだろう。

ため息をつきつつ、諦めたように月は自分の手を動かした。

なおまどかとさやかは二人の会話についてこれなくなってきたのか室内の隅で共に並んで座っていた。
話が纏まった時や聞きたいことがあるような時だけ近くに呼んで情報交換を分かりやすい形で行うようにしている。
例えば、この戦艦にかけられたロックを解除する際、月とLだけでは分からなかった情報をまどか達が答えたり、など。
なお戦艦のロックは一つがキーのおかげで解除の必要がなくなったこともあり、それまで関わった者達から集めた情報で全てのものが解除完了していた。

話を続けているLと月。
時間を無駄に過ぎさせていくのも何だと思ったさやかは口を開いた。


「ねえ、まどか。さっきの話の続きなんだけどさ」
「うん」
「織莉子って魔法少女があんたの命を狙ってたのってやっぱあんたがさっき言ってたのが原因で」

さっきの話の流れで聞きそびれたこと。
さやか自身の気持ちの整理のために必要なことだった。

「そうなの」

やはり襲われた時の恐怖心は残っているのか、まどかは顔を伏せる。

「まどかはさ、そいつのことやっぱり許せないって思う?」
「…ううん」

やっぱり、とさやかは思った。
まどかがどういう子なのかは長年の付き合いもありよく分かっている。
こういう時にもまどかは他人のことを悪く言うことはない。

「私はさ、やっぱ許せないって思うよ。
 まどかは私にとって大事な親友だから」
「私が世界を滅ぼしちゃう、ってことがあったとしても?」
「そういうことも、知ってれば私なりにやりようもあったと思うしさ」

さやかにしてみれば友人が困っていることに対して何もできずに勝手に殺されて終わるのは悲しすぎるし怒りを覚える。

「たぶんさ、織莉子さんって世界とかみんなことが大事なんだと思う。
 さやかちゃんが私を大事だって言うみたいに。きっとみんなが大好きなんだって、そう思うんだ」

「だからきっと、あの子も魔法少女なんだって思う。
 マミさんやさやかちゃん達と同じ、たぶん願ったことは違うんだろうけど、同じ魔法少女なんだって」
「そっか…」

まどかのそのいつも通りとも言える返答に溜息をつきながら。

「まあ、あんたの気持ちは分かったよ。おかげでこっちにも少しは気持ちの整理付いたし」

何だかさっぱりした気持ちになった気がした。


550 : 立ち向かうべきもの ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:12:14 XuLabuP.0


「…あれ?Lさん月さんあれは」


ふとさやかが艦の外を移しているモニタに目をやる。
すると、そこにはもう一隻、こちらのものに匹敵するほどの大きさの戦艦が飛行していた。

距離はそれなりにあるが、戦艦のサイズを距離と照らし合わせればそう遠いというわけでもない。

「…みんな、あれには気をつけた方がいい」

警告を発したのは月だった。

「あれはおそらくだが、何者か危険人物が占拠している可能性が高い」
「先ほど見せていただいたメールですか」

おそらくメロが送信したもの。
きっとあの艦に乗っていたのだろうが、中の内容からかなり焦っていたことが伺えていた。

「危険人物、ですか。
 これまでの情報から消去法で判断すれば、もし乗っている者がいるとすればゲーチスでしょう」

さやかがその名前に僅かに反応した。

ゲーチス。
初期は無害そうな面を出して集団の中に混じっていたが、情報が多くの参加者に広がったと思われるタイミングで本性を出し始めた男。
海堂直也の死にも関わっており、美遊達も彼に襲われたという。

残っている明確な危険人物のうち、ゼロ、間桐桜は位置的に無理がある。
木場勇治と村上峡児は既に死亡済みだ。

「あと草加雅人さんの行方が分からないのも気になります。N君が言っていた謎の言動のこともありますが」
「でも、草加さんには…」
「ええ、分かっています。メロさんを襲う理由はない。ですが彼の身に何かはあったことだけは確かです」

謎の言動と共に、草加が真理達に襲いかかったという話を聞いていた。
まどかにしてみれば信じられないことだった。

ともあれ、あの艦に対する対応をどうするかが問題だ。

「防御装置を機動させあの艦より高い位置まで浮上しておくべきでしょう。
 幸いこの艦は、言ってしまえばバリアのような装置を持っているようです」

そのバリアは艦体下部にしか展開できないという。おそらくはこのように飛行する艦自体がスザク達の世界でもそう多いわけではないのだろう。

そんな時だった。

「おい、L」
「どうしましたか。何か動きでも?」
「いや、あれ」

と、月が示したモニタを見る。
銀色の人型機械が空を飛んでこちらに迫っている。
その足に捕まっているのは、全身を謎のスーツに包んだ何者か。
顔もすっぽりと覆われておりその表情を見ることはできない。

「月君、この艦に外部から出入りできるような場所はありましたか?」
「いや、ハッチなどは飛行中は全部閉まるようにはしているが…。
 ただ一つだけ。さっきゼロが操るロボットの砲撃を受けた箇所、あそこが破損していたように思うんだが…」

砲撃で焼け、破壊された箇所。
戦艦の応急処置で緊急ハッチを閉じることでしのぎこそしたが、その箇所は脆くなっていたはず。

月とLの案じていたことが現実になったのか、戦艦に僅かに衝撃が走った。
その緊急ハッチが破壊されたのだろう。見ると一部のポイントで空気が漏れているのか戦艦の気圧が下がっている。

さやかが立ち上がり、出口に向かって駆け出す。

「さやかちゃん!」
「ここは私が行かないと!今戦えるの、私しかいないし!」
「さやかさん、もし可能ならあの侵入者はここのポイントまで誘導してください」

と、Lはモニタに艦内の地図を出し、幾つかの場所を示した。

「情報が欲しいですので。この辺りなら内部カメラがあってかつ、ここともそれなりに離れています」
「分かりました」

「さやかちゃん!その…、気をつけて…!」

心配そうに声を絞り出すまどか。
さやかは、そんなまどかの髪をくしゃくしゃ、とかき回した後飛び出していった。


551 : またあした ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:13:34 XuLabuP.0
アヴァロン艦内に、バイクの走行音が響き渡る。

オートバシンを走らせている草加雅人は、ゲーチスに与えられた指令を果たすために内部の生存者を探していた。
戦艦内でバイクを走らせる行為は本来であれば危険行為でしかなかったが、今それを咎めるほど内部に人はいない。
むしろ自身の戦力を運搬し、かつ素早く探索するということでオートバシンでの移動はこれ以上にない利点だ。

そんな草加の前で、何者かが曲がり角から飛び出してきた。
咄嗟にバイクにブレーキをかけると同時に、そのまま進んでいたら自分がいたであろう位置に剣が突き立った。

「行かせないよ!ここから先は!」

白いマントを翻して剣をこちらに向ける少女が一人。

抹殺対象を発見。

草加雅人は、静かにカイザフォンを取り出した。




『あれは…、ファイズと同じベルト…?』

それを見て驚くさやかの声が艦橋の皆に届く。

そして電子音と共にスーツ姿の何者かは、光と共にその身に鎧を纏った姿となる。
その姿はさやか、まどか、Lが知っているファイズに似通った形。

静かにバイクから降りた変身者、カイザは襟元を正すかのように首の下辺りに手をやり首を振った。

「…えっ」

その光景を見ていたまどかの脳裏に、一人の青年の姿がよぎる。
この殺し合いが始まったばかりの頃、自分を助けてくれた男。

変身している姿こそ違うが、彼もまた変身した時に同じ仕草をしていたのをまどかは見ていた。

気のせいかとも思ったが、一度そうなのではないかと思ってしまえばそこからの動きも彼のものにしか見えなくなっていた。
最初に襲われた、馬のオルフェノクに襲われた時に振り下ろされた剣を避ける姿。それが今振り下ろされたさやかの剣を避ける姿と被ってみえた。
ファイズのベルトに吹き飛ばされた杏子が怒りのままに突き出した槍を受け止める姿。それがたった今突き出された刃を止める姿と同じものに見えていた。

そして何より、草加自身が言っていたことだ。

『このベルトで変身できるのはオルフェノクか……、俺のように改造された人間のどちらかしかいないんだ』

あのベルトも同じものだとしたら。
多くの参加者が命を落とした今の段階で他に変身できる人はもう限られている。

(草加さん…、何で…?)

もうまどかの中では目の前の存在が草加雅人であることは疑いようがなかった。


552 : またあした ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:13:55 XuLabuP.0

「草加さん!!」

思わず、モニタに向けて呼びかけたまどかは、部屋を飛び出して走り出していた。


「まどかさん!!」

Lと月の静止の声にも構わずに、さやかとカイザが戦っている場所へと走っていくまどか。

(止めないと…!)

今の自分に戦いを止めることができるのかは分からない。行っても邪魔になるだけかもしれない。
でも、黙ってみているだけということも、まどかにはできなかった。

自分を助けてくれた命の恩人が、自分の親友と戦っているのだ。
理由も分からぬ以上受け入れられるものではなかった。

置いていかれた月とL。

二人はどうするべきか迷っていた。

まどかは彼を草加と言ったが、Lから今の彼の状態を見れば何かしらの正常ではない状態にあるのは明らかだった。
故に慎重にならざるを得ない。

向かう場所は分かっているし彼女も迷いはしないだろう。
ならばさやかを信じて待つのが現状の得策だ。
逆に下手に動けば見失う危険もある。

「追いかけよう」

そう言ったのは月だった。
Lは一瞬意外そうな目を向けた後で、その答えに反論した。

「いえ、ここは待つべきでしょう。
 今下手に動けば見失いますし、この場所を空けてしまえば逆に占領される可能性だってあります。
 それに、彼らの戦いの中で私達にできることはありません」

Lとしては今言った程度のことは月が認識していないとは思えなかった。
ただ、試したのだ。

これが彼が本心から言っていることなのか、それとも自分の前で信用を引き出すために敢えて言っているだけの言葉なのかを測るために。

月は少し沈黙した後、こう反論した。

「行っても役に立たないというのは、あの子も同じじゃないのか。
 それにもし美樹さやかが負ければ条件は同じだ。ここを目指してくる以上袋小路になる。そうなれば皆殺しだ。
 そうなる前に、一人でも多く生き残れるようにするべき、じゃないのか」
「一理ありますね」
「…L、今僕を試したな?」
「さて、何のことやら」

立ち上がった、とぼけるLを見ながら、とりあえず一言くらいは言うべきかと思ったが今はそれどころではないと思い直し前を向き直す。
Lにしては言うことが後ろ向きすぎた。自分の知るLは逃げる時も常に前を向いているような男だったと思っている。
少なくともまどかとそれなりに共に行動していたらしいLが、彼女を見捨てる側の選択肢を取ることはしない。待機するにしても一つくらいは策を打つはずだ。

「自動運転は利いています。あとはあの戦艦からの攻撃がないかだけが不安ですが」
「なら早めに連れて戻ってこよう」

そうして月とLはまどかの後を追って走り始めた。

もしかすると二人で行く必要はないのではないかという思いを持ちながらも、何が起こるか分からない現状からそうするべきとは言わなかった二人。

その選択は、結論から言えばある意味では不幸だったかもしれないが、ある意味では幸運だったのかもしれない。




553 : またあした ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:14:19 XuLabuP.0

戦い慣れている相手だ、とさやかは思った。

村上峡児のような圧倒的な強さはないが、一撃一撃の攻撃に隙が少なく、かつ的確にこちらを攻めてくる。
手にした剣で相手の黄色の刃を受け止めれば、両手が塞がり対処ができなくなった胴体に蹴りを叩き込んでくる。

どうにか態勢を立て直したところで、今度はその手の銃剣から放たれたエネルギー弾が襲いかかってきた。
着弾直前に大きく飛び退いて避けるが、回避した先に待っていたのは銀色の機人の拳だった。

吹き飛び壁に叩きつけられるさやかの体。
受け身にも失敗した衝撃で骨が砕けるような音が響くが、持ち前の回復力ですぐさま復帰する。

と、次の瞬間機人、オートバシンが構えた手の盾が回転し銃撃音が鳴り響く。
さやかが盾に仕込まれた機関銃の存在に気付き回避したのはその体に幾発か撃ち込まれてからだった。

「く…!」

歯噛みしながら通りの曲がり角に飛び込むさやか。
撃たれた場所は右の腕と足、胸の辺り。
痛覚をカットしていなければ痛みで動くこともできなかっただろう。

動くのに支障をきたす足の治癒を優先する。
幸いにして腹部のソウルジェムは狙われた気配はなかった。

戦うだけでかなり無理をしている現状、もし相手がソウルジェムを重点的に狙ってきていたら防戦が手一杯だっただろう。
ふと角から目だけを覗かせて相手の様子を探る。

ゆっくりとこちらに歩いてくるカイザと、その後ろで佇むオートバシンの姿が見える。
ふと、そんな中でオートバシンの体の中心にある黄色いスイッチのようなものが気になった。

(そういえばあれがバイクから変形した時…)

戦いが始まる直前、変身した相手がどこかを操作してバイクが変形していたのを思い出す。
もしかすると、あれを弄ることができればオートバシンの方は無力化できるかもしれない。

思うが早いか、さやかは剣を両手に構え飛び出す。
今はカイザが前。機関銃は巻き添えを食らう可能性が高いため控えるだろう。

カイザ自身の銃撃を避けながら剣が届く範囲まで迫る。
身体強化を生かして壁や天井を蹴りながらカイザに肉薄し。
引き抜かれた黄色い刃を両手の剣で受け止める。

こちらが上から攻め込んだはずが、技量は相手のほうが上だったためか気がついたらこちらが押し込まれている、
返すことができないと判断したさやかは逆に押し込まれることで体を低く屈め。
その勢いに任せて背後まで回り込んだ。

当然振り返りざまに切り込んでくるカイザ。
同時にカイザより後ろに来たことでオートバシンが手のタイヤ型の盾を突き出す。

一瞬カイザに向けて振り返ったさやかはその刃を受け流し、間髪入れずにもう片方の手の剣の引き金を引いた。
射出された刀身はオートバシンへと飛んでいき、その機械の体の中心へと命中した。

刀身は突き立つこともなく弾かれたものの、それが中心にあるスイッチを作動させた。
体が横になりその巨体は銀色のバイクへと変形していく。

相手の戦力を一つ無力化できたが、安堵する暇もなく残った剣を両手持ちに切り替えて再度刃を受け止める。
ただの接近戦であれば技量に劣るこちらが不利であることはこれまで斬り結んだことで見えている。
さやかはマントを翻しその刀身を受け、同時にその浮き上がった布がカイザの視界を封じた。
払ったカイザの目の前にはさやかの姿はなく。

直後に背中から強い衝撃を受けて前につんのめった。

(…やっぱ、硬い!)


554 : またあした ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:15:11 XuLabuP.0

全力で斬りつけたつもりだったが、その鎧はびくともしていなかった。

村上峡児と戦った時にも実感したものだが、やはり対オルフェノクとして作られたベルトの強さもそれなりになるものだろう。
あの時のクラスカードのような一発逆転アイテムのようなものは今はない。自分の力で対処法を考えるしかない。

武器は剣。しかしこれでマミさんのような高い火力を出せるものではない。
ならばティロ・フィナーレのような技を編み出すか、それともオートバシンの時のような弱点を探るか。

(乾さんならもっと上手くやるんだろうけどな…っと!)

逆手持ちの刃を身を反らして避け、射撃を剣で弾き飛ばす。

目に意識を集中させてカイザを見据えるさやか。

その時ふと、チラリと見落としてしまいそうな光を見た気がした。

それはベルトの端から発されたもの。
一気に接近し攻撃すると見せてカウンターとして振り払われた居抜きを回避。
その横を一気にすり抜けた。

すれ違う瞬間、視覚に魔力を込めて光が見えた付近を視認。
ベルトに小さな傷が見えた。

(あそこを狙えば―――?!?!)

カイザに向いて振り返ったさやか。
その後ろに、息を切らしてこちらに駆ける親友の姿を見て息を呑んだ。

「草加さんっ!!」

通路に声が響き渡り、その大きな音にカイザも振り返る。

「まどか!何でここに…って、草加さんって」

さやかの中で二重の困惑が生まれる。
何故まどかがこの場にいるのか。
そして草加雅人、乾巧の仲間でまどかを助けた恩人だった人のはず。目の前の人間がそれなのか。

混乱は解けないがまどかをこの場に置いておくことがまずいのだけは分かる。

「草加さん、止めて!こんなの、草加さんがやりたかったことじゃないでしょ!!」

まどかの脳裏に浮かぶ、真理を語る時の草加の表情。
そこには強い決意と意志を感じられ、マミさんのようなものを感じ取っていた。
真理の死が彼を混乱させたのか。
分からないが、それでも今やっている行動は決して彼のやりたかったことと繋がるものには見えなかった。

「しっかりして!目を覚まして草加さん!!」

まどかには呼びかけることしかできなかった。
せめて声が届き、元の優しかった時の彼が戻ってくれないかと。

だが、カイザ、操られた草加雅人は静かにカイザブレイガンの銃口をまどかに向けた。

「バカ…っ、避けてまどか!」

声に反応したのかまどかは体を反らす。
放たれたエネルギー弾はまどかのすぐ近くを過ぎ、壁に当たって火花を散らす。
まどかの体に跳ね返った火花が当たり、悲鳴を上げる。

Exceed charge

電子音が耳に届く。
あの音はまずい。走る足を更に早めて飛び出すさやか。

火花が跳ね返った場所を抑えて蹲るまどかに向けて放たれた金色の拘束帯。
その間に、まどかを庇うように割り込むさやか。

「…!!」
「さやかちゃん!?」
「早く、逃げろっての…、まどか!」

全身を網目のエネルギーに覆われたさやか。
その背後でカイザブレイガンの刃を構えて距離を詰めるカイザ。

そして刃が体を切り裂く衝撃を感じた瞬間だった。

大きな爆発音と衝撃が空間に響き渡った。

「きゃあっ!!」

爆発音に驚くまどかの声と共に、周囲に爆発の煙が三人の視界を封じた。

さやかの体が肩から切り裂かれる光景を最後に目にしたまどかは。
携えたバッグに手が突っ込まれるのを感じ、直後にその頭に何かが被され同時に突き飛ばされた。


煙が消え周囲の視界が晴れた頃には、カイザとさやかの戦っていた通路にはカイザしかいなかった。
ミサイルが着弾したのか、壁と床は破損し外の空の光景が見えていた。
二人は爆発の中で外に落ちたのだろうと判断し、カイザは変身を解いてバイクへとに跨った。

(…?!)


555 : またあした ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:15:31 XuLabuP.0
その光景を、通路の端で見ていたまどか。
さやかがいなくなる直前、バッグから引っ張り出されたハデスの隠れ兜を頭に押し付けられ透明になっていた。
目の前で変身を解除した時、一瞬だが顔を覆うヘルメットのレンズの奥で、眠っているかのように瞳を閉じ続ける男の顔を見た。

(やっぱり、草加さん…!)

口元を抑え、声を出したくなる衝動を抑える。
今声を出したらこうして隠されている意味もなくなる。

やがてバイクが離れていき、その走行音も聞こえなくなった辺りで、兜を外して立ち上がるまどか。

「さやかちゃーーん!!!」

破損した外壁の穴から下の空間に向けて声を荒げるまどか。しかし返事はない。
周囲を見回すも、さやかの姿はどこにも見当たらない。

(何で、これじゃ…、あの時と同じ…)

まどかの脳裏に浮かぶ、杏子が魔女となったさやかと向き合っていた時の光景。
さやかが元に戻せると信じて付き合い、しかし何もできず、成すこともできずにただ消えていく命を前に蚊帳の外でしかなかった。

(私、居ても邪魔でしかなかったの…?)

ズキリ、と背中の傷が疼く。
いてもいなくてもいいなら、むしろ居ないほうがいいのではないかと。
そう信じていたからこそ死を選ぼうとする自分がいた時に負った傷。

心の迷いが晴れぬまま、さやかの消えた宙を見ていたその時だった。
景色の中に薄く、光が走った。

(…あれは)

それを見て、まどかは一つの事実を確信する。
同時に、迷いの一つが晴れて心の中に小さな決意が徐々に湧き上がる。

例え追いかけたとしても何ができるか分からない。実際に何もできないかもしれない。
だけど、だからといって何もしなかったらきっと後悔する。

何ができるか、ではない。何かを成したい、と。

戦う人たちの力になるために。
草加雅人を助けるために。

まどかは立ち上がり、草加の去った方に向けて走り出した。



「月くん、一つ聞いてみたいことがあるのですが」
「何だ、こんな時に」
「死とは、どんな感覚なんでしょうか?」

早足で通路を進む月は、後ろについてくるLの質問の意図が分からず振り返った。

「何だ藪から棒に」
「いえ、月くんは最終的に死を経験したと言っていましたよね。キラとして敗れて。
 聞いておきたいと思ったのですよ。私もこの先長くはありませんから」
「老人みたいなことを言うなお前は」

月は呆れつつも、こんな場所で死の気配を感じるのも仕方ないのかもしれないと質問に答える。

「何もないさ。言ってみれば夜に寝た時に夢も見ない深い眠りに入ることがあるだろう?
 それがずっと続く。それだけさ」
「なるほど」
「まあ、これは死神が言ってたことだが、デスノートを使った人間はただ天国にも地獄にも行けずに無に還るだけだってな。
 だったらLがそこに向かうとは限らないんじゃないか?」
「…………そうですね」


556 : またあした ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:16:03 XuLabuP.0

数秒の沈黙の意味を測りかねる月。
そんな雰囲気を感じ取ったのか、続けざまに口を開いたL。

「天国と地獄ですか。私が行くとしたら一体どちらになるんでしょうね」
「お前なら地獄に行く理由がないんじゃないか?」
「どうでしょうね。私、これでもけっこう色んなことをやってますよ?」
「まあ、人の家に監視カメラとか普通なら犯罪だしな」
「地獄に行って舌でも抜かれるんでしょうかね」
「はは、どうだろうな」

曲がり角で耳を澄ましながら目だけを覗かせて誰もいないことを確認して前進する。
二人が戦っていた場所まではもう少しのはずだ。

「そうだな、じゃあ僕からも一つ君から意見を聞いておきたいことがあるんだが」
「何でしょう」
「人が犯した罪ってのは、消せるものなのだろうか?」
「……」

少しの沈黙があった。

「いえ、罪は消せないでしょう。
 例えその罪に釣り合うだけの善行をしたとしても、法に照らし合わせて償いをしたとしても。
 それは一生、それこそその人が生きている限りは一生ついて回るものだと思っています」

ふと自身が犯した罪を自覚し苦しんでいた少女を思い出すL。

「ですから赦すことが必要なのでしょう。
 自分の罪も、他人の罪も。無論時と場合というものはありますが」
「赦す、か」

この時の月が一体何を考えていたのか、どんな表情をしていたのか。
それを確かめようと月の方を見たLは。

視線の先、月の後ろに張られた小さな強化ガラス付きの窓の向こうから飛来する何かを見た。

行動は反射的なものだった。
月の手を引いて自分の後ろまで一気に引き寄せた。


次の瞬間、衝撃と熱、轟音が二人の響き渡った。


斑鳩から放たれたミサイルは、ブレイズルミナスによる障壁が展開されていない箇所へと着弾をしていた。
機関部のような致命的な場所には命中してはいないようで、隔壁の展開でどうにか対処できるようなダメージだ。
しかし艦橋から離れて戦艦内を移動していたL達には不運なものだった。

壁が破壊され夜の闇とうっすらと光る地が見える状態になった通路の隅。

地面にしがみついた月は、必死でその手を握りしめていた。
その先には、外に放り出されたLの姿。月が握る手を、こちらも掴んでいた。

「…っ…!大丈夫か、L?!」
「いえ、あまり大丈夫ではないみたいです」

宙にぶら下がりになったLには、どこか諦めを感じるような口調があった。

月は一応体力や運動神経にはそこそこの自信があり、筋力は標準的なものだとしても人一人を引き上げる程度の力はあるつもりだった。
ただ、現状は態勢と環境、足場が悪く逆に自身が滑り落ちかねなかった。

「月くん、手を離してください。
 その態勢では私を引き上げることは難しい。あなたも巻き添えで落ちてしまいます」


557 : またあした ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:16:54 XuLabuP.0
そんな諦めたかのような言葉と同時にLの手から力が抜ける。
しかし月はその手を逆に強く握り、抜けようとする手を押し止める。

「バカヤロウ!!お前はまたそうやって人のこと試そうとしやがって!!」

手が限界に近づき震えるのも構わずに月はLを強く見据えて手を握り続ける。

「僕さ、もしかしたらお前と一緒に肩を並べて同じ事件を追ったりするようなことがしたかったのかもしれない」


月の記憶に蘇るのは、マオというギアス能力者によって見せられた夢。
他人の潜在的な願望から幸福な夢を見せるというものだった。
そこにはただキラなどには関わることもなく普通に頭脳を生かして過ごし。
その中でLと共に難解な事件を解決していく自分の姿を見ていた。

「周りの人間が自分の頭に付いてこなくて退屈だったから。
 もしかしたらキラに関係なく君と会えてれば、って。そんなことを”キラ”じゃない夜神月は願ってたのかもしれない…!」

Lの瞳が心なしか大きく見開かれた気がした。

「もう、人を死なせてその罪に押しつぶされたくはない!
 それに、せっかくこうやって肩を並べられたんだ!絶対に離さない!」

叫ぶ月。しかし現実問題、もうその手は限界を迎えつつある。
現実問題、自分が落ちれば月は助かる。

そんな算段をしていた時、上を見上げたLの視界に、一つの影が見えた。
月に向けて逆手に持った刃を構えたカイザの姿だった。

「月くん、危ない!!」

叫んだ瞬間、その刃は月の頭部に向けて突き出された。
声に反応した月が偶然振り返ろうと首を動かしたことでそれが頭を貫くことはなかった。

しかし。

「ぎ、があああああ!!」

叫び声を上げる月。
顔を反らした時に頬を掠めた刃が、月の右頬の肉を大きく抉り取っていた。
傷口から血が流れ、地面と月の顔を赤く染める。

だが、それだけの痛みに侵されながらも、月はLを握った手の力だけは決して緩めなかった。

濡れた血で目も開かなくなる月。
後ろの様子を探ることなどできず、再度振り下ろされようとする刃。

「…!!」

月は握った手を離さないように手先に神経を集中させたまま、仰向けに転がり。
振り下ろされた瞬間、その刃を横から蹴り飛ばした。
不意の衝撃で手から離れて地面を転がっていくカイザブレイガン。
同時に態勢を崩し重心がぶれ、月の体がふわりと宙に浮く。

浮いた体は、アヴァロンの通路の床を離れて重力に従い下に落ちていく。

もう掴める場所もない。このまま戦艦を放り出されて地面に叩きつけられるだけだ。
死を覚悟する月。


558 : またあした ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:17:44 XuLabuP.0

「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

そんな時だった。
暗闇の中で青い一迅の光が、こちらに向かって飛来するのを。

重力に従うだけだった体が掴まれ、宙を浮く。

「良かった!間に合った!!」

顔を上げると、そこにはさやかの横顔があった。
その足元には水色の楽譜のような模様が、まるで空に道をかけるかのように伸びている。

「美樹さやか、無事だったのか」
「正直危なかったけどね!美遊の飛び方見て自分なりの浮き方を編み出してなかったら落ちてたから!」

月とLの体を通路に戻し、再度カイザを見据えるさやか。

通路の向こうに転がったブレイガンを拾いに戻ろうとするその道の先に、剣の刀身を射出。
地面に突き立ちカイザの足を一瞬留める。

振り返りざまに、カイザフォンを引き抜き射撃しようとする。
それをさやかは身を屈めて避け、手に作り出した剣を振り抜く。
狙いはベルトにできた傷の部分。

ふと、一瞬だけ、さやかの中に迷いが生まれた。
まどかの恩人で、乾巧の仲間で。きっとこんなことになってしまったのにも何か理由があるのだろう。

だけど、もしここで手を止めれば他の皆に命の危険が及ぶ。

だから。

(――――ごめん)

迷いを呑み込み。心の中で一言、謝罪をして。

その剣をカイザギアの側面に叩きつけた。


本来であればオルフェノクとの戦闘に耐えるためにかなりの強度を持たされていたベルト。
そこに対消滅エネルギーを掠めたことで僅かにできていた綻びに与えられた衝撃は、ベルトそのものを崩壊へと導き。
同時にそれによるフォトンブラッドの制御に不良を起こした結果、ベルトはエネルギーを撒き散らしながら爆発を引き起こした。

吹き飛ばされるカイザの体。
その爆風からLと月を庇うように立ちふさがるさやか。

熱が収まり前を向いた時、通路の端にはベルトを装着していた辺りの腹部から、上半身と下半身が分かれた人体が転がっていた。

「…、魔力を使って回復をさせれば――」
「いえ、まだ息は残っているみたいですがあの様子ではもう助からないでしょう」

駆け寄ろうとするさやかを静止するL。

そんな時だった。
爆発音に引き寄せられたのか、もう一人分の足音がこちらに近寄ってくる音を耳が拾っていた。

「草加さん!!!」


559 : またあした ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:18:23 XuLabuP.0



からだじゅうがいたい。
なんだかとてもいやなゆめをみていたようなきがする。

おきあがろうとしたら、あしのかんかくがない。
てをみたら、ちでまっかにそまっている。

なにがあったのか、なにがおきたのかもわからない。

ただひとつだけ、かくしんがあった。

(死ぬ、のか…、俺は…?)

流星塾の同窓会の時に感じた恐怖が蘇る。
親を失ったあの事故を思い出す。

(嫌だ…、誰か…)

体が冷たくなっていくのを感じる。
このままでは自分が何者でもなくなってしまう。ただそれだけが恐怖だった。

そんな時、一つの声が耳に届いた。

「草加さん!!」

体が上に向けられる。
温かい感触があった。

目を開いた時、そこに一人の少女がいた。

「ま、り…?」

そこには、かつて自分が恋焦がれ愛した、懐かしい少女の頃の真理の姿があった。

『しっかりして、草加くん!』

呼びかけてくる真理。
その姿にとても安心していた。

ああそうか。真理は生きていたんだ。あの時の放送で死んだとばかり思っていたが、あれは嘘だったんだ。

「ま、り…、よかった、生きていたん、だな…」

声を絞り出す。上手くしゃべれない。
呼びかけたことに、一瞬驚いたような表情を浮かべた真理は、静かに顔を包み込んできた。

『…そうだよ、真理だよ』
「俺は、ずっと…、君のために…」
『いいの、いいんだよ。もう全部、分かってるから』

真理が生きていた。その事実を知った瞬間、心の中に活力が生まれてきた気がした。
死にそうだと思った体も、一眠りすれば元気になりそうな気がした。

「真理、少しだけ、眠いんだ…。起きるまで、ずっと、側にいてくれないか…?」
『うん、大丈夫。私がずっと、草加くんの近くにいてあげるから』

その言葉が嬉しくて、小さく笑った。
よく眠れそうな気がする。

「ありがとう、おやすみ、真理。また、あした」
『うん。またあした。草加くん』

また、目を覚ませば見られる。
生きて側にいる、愛する人の笑顔が。

そう信じて、草加雅人は静かに意識を闇に沈めていった。




560 : またあした ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:18:55 XuLabuP.0
「うん。またあした。草加さん」

そう言って顔を撫でたのを最後に、草加雅人の手から力が抜けていった。
静かに永遠の眠りについた男の顔は、その無残な状態とは反対にとても安らかだった。

もう彼に明日は来ない。
それを分かっていながら、ただ最期に彼の心だけは救いたいと思い、まどかは悲しみを抑えて無理に笑いかけた。

望まぬ戦いと愛する人の死と、多くの悲しみを背負ったのだろう男がせめて安らかに眠れるように。

最期に彼は自分のことを真理としか呼ばなかった。きっと死に近付く中で孤独な死を恐れた彼自身が、救いを求めて幻覚を見たのだと思う。
まどかとしては、それでも別に構わなかった。
ただ、草加の死が悲しかった。

もう二度と動かぬ体が少しずつ灰となって散っていくのを感じながら、一人の男を見送った少女はその体を抱いて静かに涙を流した。




月の傷に治癒魔法をかけながらその様子を見ていたさやかは、静かに踵を返した。

「私、あの艦まで行くわ」
「怪我は大丈夫なのか?」

頬が抉れて歯がむき出しになった状態で、痛みを堪えながら話しかける月。

「怪我の方は大丈夫。ただ、ちょっと怪我を治すのに使った魔法でそろそろやばくなってきたみたいで」

その手に出したソウルジェムの亀裂は、それまでと比べて更に広がっていた。
大きな一撃をもらった時のダメージが響いた結果と言う。

「あっちに行って直接止める必要があると思うからさ。
 だから、まどかのことお願いします」
「帰ってこれるのか?」
「…たぶん無理だと思う。
 まどかには何とか言って誤魔化しておいて。嘘は得意でしょ」
「はは、皮肉のつもりか」
「さあね」

あまりもたもたしていると、まどかの顔を見てしまう。そうしたらきっと命が惜しくなってしまう。
月との受け答えの後、再度作り出した音符の足場に足を乗せるさやか。

「Lさん」
「はい」
「今まで、ありがとうございました」
「いえ、こちらもさやかさんの力になれたなら良かったです」

最後にそれだけを言い残して、さやかは向かい側の戦艦に向けて宙を駆け抜けていった。


561 : またあした ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:19:11 XuLabuP.0



「よかったのか、L。
 お前も怪我はしてたはずなのに治してもらわなくて」
「大した怪我じゃないですから」

壁に寄りかかって座るLは、月の顔を見る。
痛みと顔の汚れであまり視界が良好ではなさそうで、目を開けたり閉じたりしながらこちらを見ている。


「月くん、正直、さっきのところであなたのことを信じてない自分がいました」
「L?」
「もし私が死ねば、キラとしてのあなたの抑止力はなくなりますから。だけどそれでもあなたを巻き添えにしてまで止めたいとも思いませんでした。
 だから、仕方ないかな、とも」
「全く、お前ってやつは…」

相変わらずにも聞こえるLの言動に、頭を抱える月。

「私、信じてみたいと思うんです。自分の命をかけて本気で私を助けようとしてくれた、月くんのことを」
「ははは、やっと信じてくれたんだな」

そして、疑いを解いて信じてくれたその事実が嬉しくて小さく笑っていた。

「月くん、もし私が死んだら、Lの名前を継承してくれませんか?
 その後をどうするかは、あなたに任せますから。
 世界最高の探偵として、まずはこの場にいる人たちを一人でも多く生かして帰って、この事件を解決して欲しいのです」
「いいのか?僕はキラだった男だぞ?」
「ええ。月くん自身が自身の罪を、赦し償おうとできるのであれば」

そう言うLの声が、月にはどこか小さくなりつつあるようにも聞こえていた。
視界が定まらなくてLの様子もはっきりとは見えないことももどかしい。

「そうだな、君が死んだら、考えてやるよ」

ただ今返答するのは縁起でもないように感じられて、そう答えた月。
Lが小さく息を吐くような声が聞こえた。


「じゃあ月くん、先に戻っていてください。私は少し休んでから戻ろうと思いますから」
「向こうで休めばいいだろう」
「それだと戻るのに時間がかかります。攻撃がある以上、早急に戻って対処しなければならないですし」

言っているうちにも閉じた非常隔壁の外で攻撃は続いている。
浮上が間に合い、現状は障壁で防げているが、いつまた艦に直撃してくるか分からない。

「はあ、分かったよ。
 すぐに戻ってこいよ、L」
「ええ。よろしくお願いします。また、あとで」

きっと起きるまでは日を跨ぐとでも言いたいのだろう。

月はまどかに呼びかけ、艦橋に向けて通路を駆け抜けていった。

まどかがLを通り過ぎる時、一瞬立ち止まってまるで礼をするように頭を下げていたが。
その意味に、この時の月は気付かなかった。




562 : またあした ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:19:24 XuLabuP.0

正直外の風景が夜で助かったと思った。
この自分の背中が今どんな状態かを月に察せられずに済んだのだから。
今の彼がこの事実に気付いたら、きっと彼の行動に陰りが生まれる。せめてこの場を彼らが切り抜けるまでは、月にだけは隠し通したかった。

ミサイルが直撃した爆発の衝撃を受けた時。
月の体を庇って背に受けた熱は背を焼き、吹き飛んだ破片は背に突き刺さり内臓を傷つけていた。

背を預けた壁は、前からは見えないものの横からよく見れば真っ赤に染まっているはずだ。
さやかが来たときにはもう自己診断では手遅れ状態で、だからこそ治癒も止めさせた。

本来であればもう少し長生きできたはずの命は、ここで終わるらしい。
ノートに書いた安楽死とも程遠いものにも感じられる。

それでも、Lはその眠りがとても安らかなものになりそうな気がしていた。
Lの中で残った後悔の一つ。それは夜神月を救うことができなかったというもの。

例え自分が会ったあの夜神月とは別人であったとしても、同じ道を歩んだ夜神月を信じる確信を得ることができたのだから。


艦が小さく揺れ、Lの体に振動が走る。
壁に背を預けていた体は、ズルリと横に倒れた。

壁と背を真っ赤に濡らした状態で倒れたLのその表情は、まるで眠っているかのように穏やかだった。

【草加雅人@仮面ライダー555 死亡】
【L@デスノート(映画) 死亡】

【D-5/アヴァロン艦内/一日目 夜中】

【夜神月@DEATH NOTE(漫画)】
[状態]:疲労(特大)、右頬に大きな裂傷(応急処置済) 、顔面のダメージによる視界不良(徐々に回復します)
[装備]:スーツ
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:キラではない、夜神月として生きてみたい
1:アヴァロンに乗って行動する
2:Lと力を合わせて会場の謎を解く
3:斑鳩に対処
4:メロから送られてきた(と思われる)文章の考察をする
[備考]
※死亡後からの参戦





【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み)、悲しみ
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
    クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ、ブローニングハイパワー(13/13)@現実、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、トランシーバー(電池切れ)@現実 、薬品
[思考・状況]
1:月さん達と一緒に行動する
2:草加さん…、Lさん…
[備考]


【D-5/一日目 夜中】

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、音符の足場で飛行中
[装備]:ソウルジェム(濁り80%)(亀裂有り) 、トランシーバー(残り電力一回分)@現実、グリーフシード(濁り100%)
[道具]:基本支給品、グリーフシード(濁り70%)、コンビニ調達の食料(板チョコあり)、コンビニの売上金
[思考・状況]
基本:自分を信じて生き、戦う
1:斑鳩に向かい、攻撃を止める
2:ゲーチスさんとはもう一度ちゃんと話したい
[備考]
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※魔法少女と魔女の関連性を、巴マミの魔女化の際の状況から察しました
※まどかから自分の参戦時期〜まどかの参戦時期までの出来事を聞きました
※ソウルジェムの亀裂の影響ですが、ルビー評だと戦闘は2度以上は危険とのことです。

※オートバシンは草加、Lの死体の付近にバイク形態で放置されています。


563 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/01/14(月) 01:19:58 XuLabuP.0
投下終了します
今年もよろしくお願いします


564 : 名無しさん :2019/01/14(月) 02:11:34 pPVjETZU0
投下乙です

ゲスっぷり全開のゲーチスてめええええ!!斑鳩側は大ピンチだがどうなるんだ
草加さんは最後に救われたのか。これでいよいよファイズ勢はたっくん一人に…
そしてLはお疲れ様。月には彼の跡を継いで頑張って欲しい


565 : 名無しさん :2019/01/14(月) 10:58:21 E5M6rv520
新年初投下乙です!
さやかちゃん……戻ってこないつもりってお前は本当にもう……
ゲーチスvsN&織莉子も気になるし、それに加えてポッチャマもなんかしようとしていたりで色々今後が気になる展開が多いな!?
ともかく今回だけでも草加とLという人気キャラ二人が落ちていたりどんどん終盤戦が近づいているんだなと確信できるような内容で大変楽しませていただきました。
繰り返しになりますが、投下お疲れ様でした。


566 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/02/18(月) 23:13:12 qqZebMOM0
短いですが投下します


567 : ReStart準備中 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/02/18(月) 23:14:54 qqZebMOM0
「アクロマという男は、どういう人間なの?」

ふと、ほむらは移動する道中でアーニャに問いかけた。
これから会いに行くつもりの男、彼がどういう人柄なのかを知っておく必要がある。
相手がどういう人物なのか知っておくことで、こちらのペースに持ち込むこともできるだろう。

「一言でいうなら、根っからの研究者と言ったところね。
 研究の対象には非常に興味を持つけど、それ以外のものに対してはかなり冷淡というか」
「なるほどね。ちなみにその対象っていうのは?」
「ポケモンよ。あなたもあの場で出会ったでしょう」

そう言われてほむらの脳裏に思い出される、見たこともない生き物たち。
ペンギンのような生き物であるポッチャマ、サイのような生き物に灰色の怪獣、それに白い体をした宇宙人のような参加者、たしかミュウツーと名乗っていた気がする。

「正確にいうなら彼らの生き物としての限界というか、強さの根源とか、そういうものを探求してるみたいなの。
 だから場合によっては彼らが死ぬことも許容してるのよ」
「私には分からないわね、その感覚は」
「私達が昔いたところにはそういった手の人間もかなりいたけどね。
 ともあれ、その探究心と引き換えに、彼の持っている高い技術を私達のために使ってもらうということで協力を取り付けたらしいわ」
「で、彼はそれで満足しているの?」
「それは私にも分からないわよ。ただ、彼の探究心は相当深いということは分かるわ。並大抵のことでは満足しないほどにね。
 欲望に忠実だから扱いやすいように思えても、少しでも興味から外れたり別の選択肢を与えられたらどうなるか分からないわ」

欲望に忠実な男。
佐倉杏子を一瞬連想したが、おそらく彼女ほど扱いやすいものではないだろう。
彼女はなんだかんだで義理は果たすほどの良識を持っているだろうが、それが彼に通用するものかは分からない。
少し顔を見た時に感じた印象では目的が果たせないと見れば数分後には居なくなっていそうな気もする。


ともあれアーニャ評ではあるが、アクロマの人となりを大まかとはいえ把握することはできた。
あとは、このカードの切るタイミングだろう。

ただ、その前にもう一つ聞いておかねばならないこともあった。

「ちなみに、アクロマが研究してるっていうポケモンって、結局一体どういうものなの?」

存在は認知していたとはいえ、結局それを知る機会はなかったため把握していなかった要素だ。
アクロマがポケモンに対し重きを置いた者であれば、その認識不足を放置したままでいればどこかでやらかしてしまいかねない。

「私も知識程度のことしか知らないんだけど、簡単に言えばある世界で人間と共に共存しているモンスター達のことを総じてそう呼ぶらしいわ。
 あの小さなボールから出したりとかしてたでしょう。それがポケットに入るくらいの大きさになることからポケットモンスター、縮めてポケモンって言うの」
「へえ」
「野生のものもたくさんいるけど、あのボールに入れられた時にポケモンは人の管理下に入ることになるの。
 それを管理する者をポケモントレーナーって呼んでいて、まあ人によってまちまちらしいけど、ポケモンとの間に色んな絆を結ぶものらしいわ。
 ちなみにあなたが反逆にあったあの灰色のポケモンだけど、あなたが目の前で爆散させた人があの子の本来のトレーナーだったのよね」
「………」


568 : ReStart準備中 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/02/18(月) 23:15:12 qqZebMOM0

その言葉には沈黙で返すほむら。
特に触れたいことでもない。贖罪も言い訳も、今は特に必要がないものだ。

「あら、どうかしたのかしら?」

そんな気配を察してか、こちらの顔を覗き込むアーニャ。
問いかけてはいるが、その顔に微妙に浮かんでいる笑みを見る限りこちらの心中を察しているはずだ。

「なんでもないわ。もう少し詳しいところを聞かせて」

そう言ってほむらは、アーニャとの会話を進めながら足を進めていた。




「ふむ、やはり現状ではいまいち求めているデータが得られませんね」

専用の研究室としてあてがわれた広い空間で、アクロマは一人呟く。

並んだ機材には多くの数字やグラフ、図が並んでおり素人が見ては何を表しているのかなど判別がつきそうにはないが、アクロマにとってはそれらは研究に必要なデータだ。
そしてその示している数字は、ある一定の期間は爆発的な伸びを見せている時間があるが、それを超えた現状では低迷している様子。

「やはり生と死をかけてのポケモンの可能性の調査はあまりよろしくありませんでしたかね…。
 求める水準を大きく超えて間もなく命を落とすものが多すぎる」

主との絆を糧にメガシンカを果たし、会場内でも有数の怪物を幾度も打ち倒したガブリアス。
平行世界の自分を受け入れ、自らを肯定することでメガシンカに近い力を独力で手にしたミュウツー。

命の輝きと可能性は表裏一体。しかし限りある中で命を散らさせていくのはアクロマとしても望むことではない。


元々アカギに協力することになったのは、ポケモンの可能性を、そして別世界を通じたポケモンという存在の在り方を探求するためだった。
ゲーチスがいなくなった後で彼の依頼を受けてプラズマ団を纏めていたところで、アカギが接触を図ってきてその技術力を以て儀式の完遂に協力して欲しいと。
特にゲーチスに大きな義理があったわけでもなかったアクロマはあっさりと引き受け、報酬は儀式の中で得られるポケモン達のデータということで手を打った。

モンスターボールへの細工、そして会場内にあるアヴァロンや斑鳩、KMFなどの機械への装置の追加。
機械や情報関係は詳しい者がいなかったということでほぼ全てがアクロマの手で制御されている。

後から気付いたことだが、ここまで自分の独壇場であるなら、自分の都合がいいように多少細工をしたとしてもバレなかったのではないか。
少し愚直に仕事をしすぎたような気もしていた。

正直なところ、自分にあった環境はもう少し自由に立ち振る舞えるような場所であり、このように束縛の多いところではなかったのかもしれない。
どうにも拭えない憂鬱感は、普段なら抱かないような愚痴も思わず口に出してしまっていた。
無論、他の誰かがいる時にはそんな思いはおくびにも出さないようにしているが。

「やはり…、彼の話を聞いておきたいところでしたが、…無理でしょうかね」

と、アクロマは小さく溜息をつきながらその名前を呟いた。


そんなアクロマの様子を、じっとギラティナは見つめていた。
光のない真っ黒な瞳が、その小さな姿をじっと映して。




569 : ReStart準備中 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/02/18(月) 23:15:32 qqZebMOM0

そんなアクロマの元に暁美ほむらがやってきたのはそれから間もなくの頃だった。

彼女の話を端的に言えば、これから自分がとある行動を起こすために手を貸して欲しいというもの。

「あなたは…私の立場を理解しておられるのでしょうか」
「ええ、アーニャから大体のことは聞いてるわ」

と、ほむらの後ろで壁に背を預けて手を組んだ少女に目をやる。

「分からないのはそれですよ。あなたがこのようなことに協力しているというのが」
「確かにキュゥべえに対する裏切り行為にはなるかもしれないけど、この儀式そのものに対しての反逆にはならないわよ。
 最終的にキュゥべえよりもこの子の方が私達の利となりうるって証明できれば、最終目的への意識は変わらないでしょう」
「全く、立場が私より強いからと言って屁理屈を」

溜息をつきながらも、渋々とほむらの会話に付き合うアクロマ。

「さて、そうなるとあなたがキュゥべえ以上の立ち位置につくことができるかどうかという点が争点となりますが。
 できるのですか?」
「ええ、できるはずよ。
 もし失敗した時は、たぶん私の命がないだけ」
「それは失敗した時に私も危険なのでは」
「とぼければいいわ。死人に口無しって言うでしょう」

「ではもう一つ。あなたに協力することで私にどのような利があるのでしょう。
 こちらとしては現状維持で情報を得ることに注力しても構わないのですが」
「それで不満があるのが今のあなたでしょう?」
「む?」

表に出したはずのない自身の認識を出されて眉をひそめるアクロマ。
畳み掛けるようにある者の名前を口にするほむら。

それを聞いたアクロマは、振り向いて封じられた霊竜に視線を写した後、こめかみに指を当てて俯いた。

「…情報は筒抜けですか。
 まさかギラティナの知覚を利用してこの室内の様子を盗み見るとは、迂闊だったのは私ですね」

できれば取引の段階に入るまで伏せておきたかった情報。
しかしそれが相手に漏れてしまえば完全にペースを奪われてしまっている。

ニヤリ、と口に笑みを浮かべてアクロマに語りかけるほむら。

「どうかしら、もしうまくいけばあなたのその願いを叶えてあげられるわ」
「ふむ…」

手を顎に当てて思案するアクロマ。

考えているのは受けるか受けないか、ではない。
何か反証できるものがあるかどうかを考えている。

だが、こちらの手の内を知られている以上お手上げ状態に近かった。

「分かりました。受けましょう、あなたのその願いを。
 その代わり、約束は守ってもらいますよ」
「ええ、もちろんよ」

「では、具体的には何をすればいいのですか?」

アクロマの問いかけに、ほむらは自身の計画を話し始めた。


570 : ReStart準備中 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/02/18(月) 23:16:05 qqZebMOM0

【?????/一日目 夜中】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康?、あかいくさりによる拘束
[服装]:見滝原中学校の制服、まどかのリボン@魔法少女まどか☆マギカ 、右耳にピアス
[装備]:はっきんだま(ほむらのソウルジェムの代用品)@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:キュゥべえ達に従うふりをして、”目的”のための隙を伺う。
1:アーニャの手を借りて行動する。とりあえずの信用はするが完全には信じない。
2:アクロマの協力を得て”あること”を行う。
最終目的:“奇跡”を手に入れた上で『自身の世界(これまで辿った全ての時間軸)』に帰還(手段は問わない)し、まどかを救う。
[備考]
※はっきんだまにほむらの魂が収められており、現状彼女のソウルジェムの代用品とされています。
ギラティナを制御しているあかいくさりによってその生命が間接的に繋ぎ止められている状態です。
魔法少女としての力が使用できるかどうかは現状不明です。
※バトルロワイヤル上においては死亡扱いとなっています。
※ギラティナと感覚が共有されており、キュウべえとアクロマ達の会話を聞いていました。


571 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/02/18(月) 23:16:17 qqZebMOM0
投下終了です


572 : 名無しさん :2019/02/19(火) 21:16:26 Csm9CLUU0
投下乙です

主催陣営もキナ臭くなってきたな。ほむほむを引き入れたのはQBにとって失敗だったか?


573 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:14:37 PTaxq9rA0
投下します


574 : believe ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:15:21 PTaxq9rA0
背負い切れるものは全部一人で背負えばいい。

背負いきれなくなったら切り離せばいい。

それが自分であっても。

これまでずっと、そうやって生きてきた。

だけど、そんな重荷を背負ってくれる人ができて。

少し肩の力が楽になった気がする。

同時に、きっと少しだけ弱くなっていたのかもしれない。

なら、弱くなった自分は、それを背負ってくれる人を失った時どう生きればいいのか。





夜の闇の中、幾重もの光が空を駆け巡る。

白刃のごとく天を走る馬の放つ魔力の輝き。
その背に淡い桃色の光を放ちながら、魔力弾を幾つも放つ少女の光。

ツヴァイフォームへの変化を果たしたイリヤの攻撃は、それまでの戦況を一変させるほどの能力を発揮するものだった。

それまでは元々の魔力行使力の低さもあって夢幻召喚をしてようやく攻撃が通じていた。
しかし今は、放つ弾が命中すれば神代の時代から語り継がれる神獣がバランスを崩して進行の軌道を乱す。
英霊の力を取り込んだ間桐桜ですらも直撃を避けるほどだった。

―――ですが、イリヤさん。気を付けてください。
   この力は、あなたの体全てを擬似的に魔力回路へと変換して魔力を行使しているのです。
   長期戦となれば、イリヤさんの体が持たないでしょう。

それは変身直後にルビーに告げられた警告。

実際、攻撃をするたびに腕に痛みが走る。空を駆けるたびに背中に痛みが走る。防壁を張るたびに体の中に鋭い痛みが走った。

(――大丈夫、そこまで時間はかけないから)

それでもそう返答したイリヤ。
時間がないのは間桐桜とて同じだ。
切り結ぶたびに手が震えている。隠された瞳からは血涙が流れているのが見える。
彼女も長く戦うことはできないはずだ。それでも桜は無理をして戦おうとする。
その先に何があるのか。考えるまでもない。

つまりイリヤ達の勝利条件は一つだ。

(一刻も早く、あの人の力を抑える―――!!)

巨大な魔力の刃を突き出すイリヤ。
片手の干将で受け止めようとするが、あまりの出力に投影された剣は耐えきれず砕け散った。


575 : believe ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:15:47 PTaxq9rA0

桜は苛立ちに歯を食いしばりながらペガサスの背から跳び上がり、イリヤに向けて残った莫耶を振り下ろす。
ステッキで受け止め、弾き飛ばすイリヤ。

大きく後ろに飛ばされた桜、その体に向けてペガサスが飛来し再度桜の足場となる。
間髪入れず一斉に宙に向けて魔力弾を放つ。

天を高速で舞う天馬を追尾する球体。
ライダーは手綱を繰り、そのことごとくを避け切る。

操作しきれず幾つかの弾がぶつかり合って消滅、残ったものも魔力を失って消えるか飛ぶ浮力を喪失して地に堕ちていく。

全ての魔力弾の消滅を確認したライダーは、桜の意志に従うようにイリヤへと向けて肉薄。
高速で迫る光に射撃は間に合わないと見たイリヤはステッキに刃状の魔力を込め固定する。

すれ違い様に振り抜かれた莫耶と魔力の刃。

ぶつかり合った刃は衝撃波を生み、イリヤの体を後ろに吹き飛ばす。
ペガサスの姿勢制御により態勢を崩さずに済んだ桜は笑みを浮かべながら追撃をかけようとして、その手の剣が崩れ落ちるのを見て口元を歪める。

「…っ!!」

苛立ちのまま、おもむろに手を宙に差し出す桜。




「何だ?」

それまで地上でシャドウサーヴァントの軍勢と戦っていた巧は、突如挙動の変わった影に思わず警戒心を高めて様子を伺う。

シャドウサーヴァント達、ランサー、アサシン、セイバーは宙を見上げその手にしていた影の武器を投擲した。
イリヤに向けての援護、にしては投げた武器の勢いが小さい。

砲撃で撃ち落とそうとした巧に、背後からバーサーカーの振り下ろした斧剣が向けられる。
回避に意識を割かれて対処しかねたところで、それらの武器は桜の手元へと収まっていた。


英霊の手から離れて魔力を霧散させていく武器を手に収めて己の武器として存在を固定する桜。
漆黒の槍と刀を背に担いで手には西洋剣を構える。

と、その時桜の体が不意にぐらついた。
すぐに態勢を立て直したしその隙をイリヤは攻め込んだりはしなかったため戦況には影響しなかった。
しかしそれはイリヤとは別ベクトルで体、脳への負担に限界が近付いている証拠だということはイリヤにもすぐに分かった。

「桜さんは、あなたは、どうしたいの!?」

それでも止まらずにこちらに攻め込む桜に対し、イリヤはおもむろにそんなことを問いかけていた。
単身で飛び出し宙を舞いながらイリヤに上段から斬りかかる桜は、質問に対して逆に問い返してくる。

「どうしたいって、――何がですか!」
「生きたいのか、死にたいのか、許してほしいのか怒ってほしいのか!!
 桜さん自身が何をしたいのか、どうしても分からない!」

イリヤの言葉には若干の嘘が混じっていた。
桜がどうしたのか、どうして欲しいのか。それはイリヤにも察することができていた。
端的に言ってしまえば、悪いことを続けた末に裁かれて死にたいのだと。


576 : believe ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:16:05 PTaxq9rA0

だから、これはイリヤ自身が桜に対し問いかけるきっかけとして言った言葉なのだとルビーは察していた。

問いかけても桜は止まらない。
地上のシャドウサーヴァント達も相変わらず巧を排除せんと動き続けている。


「分かっている、でしょう。私は死んでしまいたいんですよ!
 先輩のいない世界で生きてる理由もないし、何より生きてることを私自身が許せない!!」
「藤村先生、のことだよね。
 だけど、それでも士郎さんはあなたが死ぬこと、絶対望んでない!!」

イリヤがそう言う根拠は、一人の少女の存在だった。

士郎が死んだあの戦いの中で、もし彼に何も託すもの、悔いるものがなければ彼女を呪いから救いはしなかったはずだ。
そしてそれは、少女、セイバー自身からも託されたものだと聞いている。

きっと、桜が困難な状況に陥っても、自分が居なくなって絶望してしまっても。
それでも生きていて欲しいという士郎の願いが、最期にセイバーを倒すことではなく救うことを選ばせたのだと。
そう確信している。

叫びながらイリヤは切り結んだ桜の体を押し返す。
後ろに飛ばされた桜の体は、再度ライダーの天馬が受け止める。

「…随分と簡単に言ってくれますね。
 私にとっては、自分を生かしてくれるのも殺してくれるのも、先輩がいてこそだったんですよ」

しかしそんなイリヤに言葉に、桜は苛立ちを募らせる。

西洋剣を片手持ちに変え、もう一方の手で長刀を持つ。
そのまま今度はペガサスの背に立った状態でイリヤへと迫った。

片手持ちになった分一撃一撃は軽くなったものの、手数が増えたことで攻撃回数が増し旋風のごとく振りかざす刃が迫った。
基となった騎士の技量も相まって受け止めきれず体に傷を作っていくイリヤ。

「あなたに!!分かるんですか!!!
 真っ暗な絶望しかない中で、あの人だけが私の光だった!!
 こんな血に濡れた手になった私を裁いてくれる、唯一の人だった!!」

振るわれる刃をイリヤもまた魔力刃で受け止め受け流す。
今のイリヤには決して捌ききれぬものではなかったが、桜の激情のこもった攻撃の中に返し切る隙を見いだせなかった。

「それを、いきなり横から出てきた人に奪われて、何も無くなって!!
 そんな私の気持ちが!!
「分っかんないよ!!!」


577 : believe ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:16:26 PTaxq9rA0

両手で×状に斬り付けた刃をステッキの刃で受け止めて力いっぱい振り上げるイリヤ。
巨大な光が三日月状に宙を舞い、桜の手にした両手の刃が砕け散る。

追撃を受け止めるために背に担いだ槍を手にしようとした桜、しかし迫った追撃は刃ではなくイリヤの掌だった。
兜に覆われていない頬を張られ鋭い痛みが走る。

一瞬の思考の停止の後、何をされたか理解した桜は武器ではなく振り上げた拳をイリヤの左頬に叩き込んだ。

口の中が切れて血の味が広がる。それを吐き出しながらステッキを持った手を握りしめて叩き込むイリヤ。

「何も言ってくれなきゃ分かんないよ!!
 桜さんがどれだけ辛いのかも、何でこんなことになってるのかも!!
 士郎さんにばっかり全部押し付けて、ずっといつまでも一緒にいてくれるか分からないって思わなかったの!?」

イリヤの拳が桜の頬を打つ。
殴り返そうとした桜の腕を、イリヤは掴み取る。

英霊の力と膨大な魔力に強化された腕力が拮抗する。

「もしあなたが自分のことをちゃんと話して、助けてほしいって言えば、きっと助けてくれる人はいた!
 凛さんもルヴィアさんも美遊も、巧さんも私も、士郎さんじゃなくても色んな人が手を差し伸べてくれたはず!!」
「っ…!!」

その言葉を受けて、桜の脳裏にいくつもの光景がよぎった。

ある日、先輩、衛宮士郎と共に学校で昼食を取りたいと思った時。
その場所を人のいない弓道場と定めて彼の意識をそこに誘導して、それを実行しようとした。
ただ、その時姉の呼び出しを受けていたらしく、そのままそこで昼食を取ってしまったらしい。

自分が作った料理ということを聞いて察した姉は自分に謝罪し、さらにそれを受けて先輩自身も謝ったが。

姉に嫉妬する気持ちもあったが、それ以上に大きな後悔もあった。
もし朝共に弁当を作っていた時に、はっきりと『一緒に昼食を食べたい』と言っていれば、こんな拗れたことにはならなかったのだと。

更に、それを思い返してもっと昔の記憶まで呼び起こされた。

幼い頃、間桐の家に引き取られ、鍛錬とは呼べない拷問のような魔術の訓練を行ってきた。
姉はいつか自分を助けに来てくれると信じていたが、そうなることはなかった。
やがて希望は諦めへと変わり、そんな苦痛の日々も当然のように受け入れて過ごしてきた。

だがもし、一言だけ。
どんなこともこなしてしまう、優秀なあの姉に助けを求める言葉を発していれば。

何かが変わったのだろうか。

そんな想像が。


578 : believe ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:16:47 PTaxq9rA0
「ぐっ……!」

一瞬浮かんだ考えを気の迷いと切り捨てるも、その間が隙となってしまう。
掴んだ腕を押し返され、叩きつけられた拳が体を打つ。

天馬ごと後ろに押しやられた桜は、背に担いだ槍を手に取った。




「ち、そろそろきっついな…」

一方地でシャドウサーヴァント達と戦っていた巧は、あまりのキリのなさに舌打ちをした。
もう何体倒したか、数えるのも止めていた。
あまりに攻撃を捌きすぎて相手の動きはもう見切ることができるようになっている。
問題は、倒すのに時間がかかりすぎてブラスターフォームへの変身に体が負荷を感じつつあることだったが。

マークネモとその後ろを飛ぶキャスターをフォトンブレイカーで切り裂く。
その後ろから差し込まれた槍を身を横に反らし、脇に挟んで抑える。
すかさず槍を掴んで放り投げるとランサーの体は走り寄るアサシンと衝突。
そのままブラッディキャノンをアサシン向けて放ち、ランサーを巻き込んで消滅させた。

体はかなり熱を持っている。だが空の様子を伺っているとまだ終わりそうにもない。
だが、桜の相手を頑張っているのは小さな少女なのだ。自分が弱音を吐くわけにはいかない。

(持ってくれよ…、俺の体…!)

自分の内で気合を入れ直し、すかさず振りかざされたセイバーの剣を受け止めた。



素早く突き出される槍の刺突を障壁で受け止め、後ろに下がったイリヤは宙を回りながら魔力弾を放つ。

不意打ちに近いカウンターの一撃、避けきれないと見たライダーが身を呈して受け止めた。
左腕が消滅し、手綱を操るバランスが崩れ飛行が若干精細さを失う。

地上の魔力の泥から離れているライダーは体を治す術がない。
更に桜の頭には血が上っており撤退を選ばない。

ライダーは眼帯を外し魔眼を開放する。

イリヤの体に強い重圧がかかる。膨大な魔力が石化を抑えてはいるが、接近戦は無理だと自己判断するイリヤ。

高く飛び上がりながら周囲に魔法陣を展開、かつてキャスターに受けたもののように一斉に砲撃を放つ。
ライダーは砲撃を回避していくが、片手では旋回能力が落ちているためか幾つもその体に着弾していく。

「っぅぅ!!鬱陶しい!!」

その身にも砲撃を受け、このままではジリ貧になると見た桜は槍を放り投げる。
突如飛来する槍に驚きつつもピラミッド型に張った障壁で弾いたイリヤ。

再度桜へと目を向けるとその手には影ではない、魔力でできているとはいえ確かに実体を持った剣を手にしている。
同時に地上では巨大な影が顕現していくのが見える。


579 : believe ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:17:29 PTaxq9rA0

『イリヤさん!あの剣は先程の宝具です!』

接近戦を避けるために砲撃を放つが、剣で弾いていく。
全弾弾かれ次の手を撃つ前に一気にこちらに迫ってくる。

斬りつけられた剣を受け止めたイリヤだったが、宝具相手に魔力の刃で受けきれず刃が砕けて後ろに追いやられる。
もう一撃来れば、魔眼の重圧もあって受け止めることはできないだろう。

「ルビー!もっと高出力で刃を!!」
『ちょっと待ってください!少しだけあっちからの攻撃を避けてください!』

あの剣も受けきれるような一撃の魔力。それを込める時間を稼ぐために空へと舞い上がるイリヤ。

天馬も追って追撃をかける。
逃げる背を斬りつけんと剣を振るう桜だったが、イリヤの体が左に急旋回し桜から見て左後ろへと逃げていく。

ライダーも追って手綱を繰るが、左腕を喪失した状態では思うように動かせない。
ロスタイムをかけながらも右腕でペガサスの頭の方向を変えさせた頃にはイリヤは上空へと飛び上がっていた。

やがて急停止した頃には、カレイドステッキには鋭く巨大な刃が輝いている。

「あなたがそんな考え方続けるっていうなら――」
「…!縛鎖全断・過……っ!!」

その一撃を受け止めるために剣の真名を叫ぼうとして。
瞬きをした瞬間視界が真っ赤に染まる。
瞳から流れ続けていた血が、ここに来て視界を塗りつぶした。
さらに視界の不調により体がバランスを崩す。
元々狂戦士のクラスで使うには適さない、無毀なる湖光を強引に攻撃宝具として使う絶技。
それは桜の体にも大きな負担をかけていた。
魔力での回復力で強引に誤魔化してきたが、二発目を打とうとしたところで隠しきれなくなっていた。

宝具開放が遅れる。
一方で相手の光はまっすぐにこちらに向けられている。

(間に、合わない…!!)


「――私がこれで、引っ叩いてあげるから!!」

振り下ろされたステッキから放たれた光は、一直線に桜へと飛来。

閃光が視界を包み込む。
膨大な魔力の熱が桜へと迫り来る。


580 : believe ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:18:22 PTaxq9rA0
その直前だった。
不意に体が足場を失い浮遊感に包まれたのは。

ペガサスの背中から体を突き飛ばしたライダーが、その光から庇うように桜と光に間に入り込んでいた。

(…ライダー……)

何も言わず、ただこちらの言うこと、願うことを淡々とこなしてくれた、自分のサーヴァントを模したもの。
不思議とその存在には、少しばかり信頼と安心感を覚えていた自分がいた。
今にして思えば、どうしてこんなに自分の言うことを、望むことをしっかりと付き合ってくれたのか。
結局それは分からないままだった。

それが、光の槍を受けてその身を消していく。
膨大な魔力で構成された天馬も、そこに騎乗したサーヴァントも、瞬きをした瞬間には消し飛んでいた。

後に残ったのは、一枚のカードだけ。

飛ぶ力を失った体は地面へと落ちていく。

(…負けちゃう、のかぁ……)

打つ手はない。
自分はあの少女に負けたのだ。

ここから地面に落ちれば、死ぬことができるのだろうか。
なら、もうそれでいいかもしれない。

諦めの感情に包まれた桜がふと上を見上げると、こちらに飛来する光が見えた。

桃色の光を放つ少女が、脇目も振らずにこちらに迫る。
必死に、その片手を伸ばしてこちらの手を取ろうと。

こんな自分でも、まだ助けようとしているのだ。
感情に任せて殺そうとした自分に対して、助けようと、手を伸ばそうとしたあの子。

それで負けたのだ。
きっと勝負にすらなっていなかったのかもしれない。

(悔しいなぁ)

自分なりに全力を出して、使えるものは全部使ったつもりで、それでも負けた。

そんな現状に、ある欲が湧き上がっていた。

自分が死ぬのは構わない。
だけど、あの子には負けたくない。

ふと、自分と共に堕ちていくカードが目に入った。

(もうちょっとだけ、力を貸してくれないかな、ライダー)

そんな祈るような気持ちで、カードに手を伸ばし。


「―――夢幻召喚」

呟いたその一言は。


おそらくはその場の誰もが。
イリヤも、巧も、桜自身も、そしてきっと、力を貸していたカードの英霊すらも。
誰しもが望まないものをこの場に呼び寄せた。




581 : believe ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:18:44 PTaxq9rA0

クラスカードの特性。

イリヤ達も多くは把握しきれていないが、その中の一つにカードの上書きというものがある。
上書き前に夢幻召喚を行っていた力は、その上から夢幻召喚された際には解除・排出される。

この会場でも自然にイリヤはそうやって力を使いこなしていた。
バーサーカーとの戦いでキャスターからアーチャーへと切り替えていたように。

桜が行ったものもそれと同じこと。
ただ一つ違ったのは、この時に上書きしたカードがバーサーカーのものであったこと。

バーサーカーのカードには一つの例外的な特性があった。
このクラスに上書きした場合、クラスとスキルを継承したまま、上書き後の英霊の力を使うことができる。

無論それは本人の意志で選択することができるものだが、この時の桜はそのようなことは把握していない。
ただ目の前にあった力を使うことのみを考えてカードの力を手に取った。

結果、カードには狂戦士と狂化の特性を保持したまま、夢幻召喚された。

さらにもう一つの要因。桜とライダーのカード、メドゥーサの英霊と相性が良すぎた。
それは力を手にした際に高いレベルで力を引き出すことができることを意味する。

狂化によるクラス変質、そしてあまりに強く引き出された英霊の力。

ゴルゴン三姉妹の末妹、その狂気に堕ちた姿。
真性の魔とも呼ぶべきものへと変わり果てた怪物が、その場に顕現した。



「えっ」
『魔力反応増大!これは…』

ルビーの警戒の言葉と共に飛行にブレーキをかけるイリヤ。

何が起きたのか分からない。

桜がいたはずの場所からは、膨大な魔力が吹き上がっている。
さっきまでの黒騎士の魔力とは比べ物にならないほど強大で、ドス黒いエネルギーを感じる。

下で黒い巨人を吹き飛ばした巧も、見上げた時のその異様な気配に思わず身動きを止めていた。

やがてその光の中から、巨大な紫の蛇が幾つも姿を表す。
一匹ではない、何匹も現れて宙のイリヤへと牙をむく。

一匹目、二匹目を回避、三匹目を障壁で弾き、四匹目を魔力の斬撃で切り裂く。
首元を切り裂かれた蛇は、しかし地に落ちるより早く元あった場所へと戻り修復していく。

やがて魔力の奥からそれらの蛇以上の蛇尾が姿を見せ。
先まで自分を襲っていた蛇の大元、巨大な女の顔が姿を見せる。

顔こそ間桐桜の面影を残してはいるが、その両眼は蛇の鱗を模したかのような紋様の眼帯で覆われている。
その髪の先は蛇となって蠢き吠えている。

背には巨大な黄金の翼を広げ、その胸部や腹部を覆っているのは先まで桜が操っていた泥と同じ色をした影。
そして足は無く、先に見た巨大な蛇の尾があるのみ。

全長をゆうに10メートルは越しているだろう姿をしたそれは、もはや自分が知っている英霊・メドゥーサのものではなかった。

『ギリシャ神話においてメドゥーサは、最期は英雄ペルセウスに討伐されたと言われていますが。
 その時には人には見えぬおぞましい化物の姿をしていた、とか』
「まさか、桜さんはその化物に…」

バーサク・ライダー、メドゥーサ。
いや、その名はもはやこう呼ぶべきだろう。

ゴルゴーンの怪物と。


582 : 絶望を切り裂く希望の光 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:20:02 PTaxq9rA0

『正体は分かりませんが、一筋縄でいくような相手ではありませんよ!!』

ルビーの警告と共に、イリヤを見たゴルゴーンはその蛇の口から一斉に光線を射出。
空を飛び回避するイリヤ。

低空飛行に移動したところでその光線は地を焼き木々を燃え焦がし、周囲を炎に包む。

「イリヤ!!」

巧も気を取り直し、フォトンブレイカーを射出。
赤い光弾がその巨体へと迫り、着弾して爆発する。

肩を仰け反らせる反応を見せるが、決定打となっているようには見えない。

その一撃に巧の存在を意識したか、その巨大な尾を振り回し地を薙ぐ。
広範囲に渡るなぎ払いを避けきれず、またその膨大な質量を受けて巧の体は吹き飛ばされる。

「巧さん!」

イリヤもまた魔力砲を放出、ゴルゴーンの頭部へと命中させるが、こちらは揺るぐ気配すらない。

『相手の魔力量が多すぎてこちらの攻撃が打ち消されています!やばいですよこれ!』

ゴルゴーンは背の翼を広げて地を叩き、その巨体を宙へと飛ばす。

図体に見合わぬほど素早くイリヤに迫ったゴルゴーンは、その髪の蛇をイリヤへと向ける。
迫る蛇の口腔をイリヤは避け続けるが、繰り返し襲いかかる攻撃に意識が続かず、一撃がその足に噛み付いた。

「っ!!!」

痛みに一瞬怯むが、その間に更に幾匹もの蛇頭が迫る光景を前に、ステッキを振り下ろして周囲に一斉に魔力を放出。
足を噛む牙を迫る頭も消え去り、体が自由になったイリヤは距離を取る。

「…はぁ、はぁ…、ルビー、さっきの一撃、問題ない?」
『魔力を幾分か持っていかれたみたいですが、毒などがあった様子はありません。
 しかし、これでは―――イリヤさん、次が来ます!』

ルビーの警告と共に、宙に赤い魔法陣が出現。
赤い稲妻と共に生み出された魔力がイリヤへと襲いかかる。

更に大きく後退して回避したが、その先で更に蛇の頭から放たれた光線が襲いかかる。


583 : 絶望を切り裂く希望の光 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:20:20 PTaxq9rA0

「桜さんっ!!!」

攻撃に対処しながら呼びかけるイリヤ。

先程まではこちらを攻撃する桜には強い殺意や敵意を感じられたが、今はそれがイリヤには見えない。
ただ目の前の敵を排除するために動いているかのような印象を受ける。
間桐桜の意志が感じられないのだ。

加えて、この攻撃。
あまりにも多量の魔力を振り回しているのがイリヤにも感じられる。ツヴァイフォームに変身している自分と同等か、いや、それ以上だろう。
もしこんな攻撃が続けば、彼女の体が持たないのではないか。

焦る気持ちを抑えつつ、蛇頭を魔力弾で迎撃しながら隙、弱点を探る。

撃ち込んだ魔力弾は、末端の髪辺りであれば撃ち落せるが、体を狙うと消失する。
だが末端の蛇をいくら撃ち落としたとしても本体にはダメージはない。

(あれは…、魔力を吸収している…?)

命中する直前で打ち消される魔力を見て、イリヤはそれがゴルゴーンの体に取り込まれていると悟る。
純粋な魔力弾では魔力質量が低く吸収されるより前に届けられないのだろう。

「ルビー!さっきのアレ、もう一回お願い!」

桜に向けて放ちライダーを消失させた光の剣。
あれをもう一度叩き込むのだ。

周囲に魔法陣を生み出し、そこから魔力の光線を放出。
それを迎撃せんと髪の蛇が光線を放つ。


ぶつかり合う二つの光。
その向こうで、イリヤは空に向けてステッキを掲げ、巨大な光を構えていた。

ゴルゴーンの対応も早く、瞬時に魔法陣を目前に生み出し、蛇が吐き出したそれとは比べ物にならないほどの光線を放つ。

振り下ろしたイリヤの刃と、ゴルゴーンの放した魔力砲がぶつかり合い。
刃は魔力砲を貫いてゴルゴーンへと着弾した。


584 : 絶望を切り裂く希望の光 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:21:07 PTaxq9rA0
「グ、ガァァ」

呻き声を上げるゴルゴーン。
着弾した腹部に傷が見える。この量なら通ったということだろう。

だが、

「あれを向こうが音を上げるまでは…」

あと何発打てばいいのか。
それまで向こうとこちらの体は持つのか。

悩んでいる暇はない、とすかさずもう一撃を入れようとして。
体がズン、と重くなった。

視線の先ではゴルゴーンの瞳が解禁され、こちらを睨んでいる。

「まず―――」

石化の重圧で重くなった体では反応が大幅に遅れ、こちらに迫る蛇頭の突撃を避けきれず受けてしまう。
吹き飛ばされた先で更に飛び上がったゴルゴーンが腕を振り下ろしイリヤの体を地面に叩きつける。

「きゃああああああ!!」

地面に激突し巨大なクレーターを作る。
どうにか魔力行使で体へのダメージは見た目ほどはいかないように抑えたが、痛みと魔眼で体が重く動きが鈍っている。

地面に足をつけ蛇で威嚇しつつ追撃をかけようとしたゴルゴーンの体が大きく横に反れる。

「クソ、ちょっと意識が飛んでたぞおい!」

巨体の尾に吹き飛ばされた巧が、赤く発光させた右の拳をゴルゴーンの脇に叩きつけながら首を振るう。

不意打ちに怒りを向けるゴルゴーンは一斉に蛇の頭を巧へと放ち。
ブレードモードに変化させたブラスターを構え蛇の攻撃を払っていく巧。

そのままイリヤの近くまで駆け寄る。

「おい、無事か?!」
「うん、どうにか…」
「桜のやつ、何でこんな姿に…、畜生、話は後だ!
 こいつをどうにかする手はあるか?!」
『見る限りだと、イリヤさんの魔力より巧さんの攻撃の方が効きがいいみたいですね。構成しているエネルギーの問題でしょうか。
 さっきイリヤさんがお腹の辺りに一撃入れて傷が付いてますので、その辺りを狙ってください!』
「分かった!お前は早く退け!」


585 : 絶望を切り裂く希望の光 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:21:25 PTaxq9rA0

言いながらブラッディキャノンをゴルゴーンの顔に向けて射出。
蛇で受け止めるが、爆発がゴルゴーンの視界を封じ、魔眼の効力を抑えた。

視界を奪われている隙に巧はコードを入力。
背のバックパックから蒸気が噴出し空高く飛び上がる。

「やああああああああああ!!!」

赤い光を伴った右足を突き出し、そのまま急降下。

ゴルゴーンが気配に気付いて見上げた時には、既に迎撃態勢を取ることが不可能な距離へと到達しており。
赤い竜巻と共にその飛び蹴りが腹部へと命中した。

「ォォォォォォォォォォォォ!!!!」

イリヤですらも思わず目を背けるほどにまばゆい光とエネルギーが周囲に放出。
その渦の中で、叫び声と血を口から漏らすゴルゴーンの体を巻き起こった旋風が傷をつけていく。
それでも踏みこたえて立ち続けるゴルゴーンだったが、やがて地面が僅かに沈んだと同時にバランスを崩して倒れ込んだ。

渦の中心で、地面に押し付けられるゴルゴーンの巨体。

やがて渦が収まり、地に倒れる巨体の背後で巧が着地。

全身を傷だらけにし血を吐きながらも、巨体を持ち上げるゴルゴーン。
ダメージは大きいが、夢幻召喚が解除される気配はない。

「クソ、これでも無理なのかよ」

イリヤの近くまで退きながら舌打ちをする巧。

『イリヤさん、ルールブレイカーです!あれを使えばきっと解除できます!』
「う、うん!これで―――っ!」
『止まってくださいイリヤさん!何かがおかしいです!』

ルールブレイカーを取り出した瞬間、空気が変わった。
ゴルゴーンの眼前に巨大な魔法陣が展開される。これまでの攻撃に用いていたものとは違う。
周囲の空気から何かが吸収されていくのを感じる。

『こ、これは…、イリヤさん巧さん、撤退を!!
 宝具です!真のゴルゴーンが顕現しようとしています!!
 あれの近くにいると、魔力どころか生命力すら根こそぎ持っていかれます!』

ルビーの警告と共に、ゴルゴーンの姿が少しずつ変わっていく。
メドゥーサの面影を残していた体を黒い蛇の体が覆っていく。

その眼窩は赤く光り、それを見たイリヤと巧の体から力が抜けていく感覚を感じる。

『二人とも、早く!!』

叫ぶルビーの声。
しかしその決断に迷いがあったイリヤはすぐに行動できないでいた。

そんな時だった。
イリヤの目が、あるものを見たのは。





586 : 絶望を切り裂く希望の光 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:21:53 PTaxq9rA0

力が欲しくて取り込んだライダーの力。
だったはずなのに、自分の体は一向に言うことを聞かなくなってしまった。

何よりも信頼していたはずの存在は、自分の魔力を食べて周りのもの全てを滅ぼす化物になってしまった。

でも、もしかしたらこれも自分の中でこんなふうになることを望んでいたのかもしれない。
心も要らない、ただの化物になって殺されてしまうことを。

だけど、これが本当にその望んだことだったのだろうか。
こんな姿になって、殺されたかったのだろうか。

思えば、この殺し合いの中で自分の心はどこにあったのだろう。

デルタの力に魅入られて、たくさんの人を殺して、死なせて。
藤村先生を巻き込んでからはただただ死にたくなって。

先輩すらもいなくなって、どうしたらいいのか分からなくなった。

ただ、先輩と一緒にいられればそれでよかったのに。


体が変わり始めた。宝具を使うつもりなのだろう。
これを撃ったら、終われるのかな?

そんな感情を抱いた時だった。
頭の中の記憶が少しずつ消え始めるのを感じた。

この宝具、化物としての顕現が、脳にこれまで以上の負荷をかけている。

そしてその中には、かけがえのない記憶が、先輩との思い出も含まれていた。

止めて。それだけは奪わないで。

死ぬことを望んでいたはずなのに、それを奪われ自分が何者でもなくなることはとてつもなく怖かった。

弓の撃ち方を忘れた。
自分の得意料理が分からなくなった。

ダメ、嫌だ。
色んな知識、記憶が消えていく中で、最後に残った大事なものに手がかけられていく。

消えないで。
私の、大事なものまで、奪わないで。

お願い―――、誰か。


「―――――助けて」


587 : 絶望を切り裂く希望の光 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:22:10 PTaxq9rA0


ゴルゴーンの中に閉じ込められた桜の意識。
体の制御も効かずただの器でしかなくなった少女の、叫び声。

それは声として出ることはなかった。

しかし、その強い願いは、怪物化していくゴルゴーンの、僅かに残った部位である顔、瞳から流れる一筋の涙として現れた。


そして、ゴルゴーンと対峙する少女、イリヤはそれを見逃さなかった。

「泣いてる」
『え?』
「桜さんが、助けてって言ってる。
 ごめん、ルビー。もう少しだけ付き合って」

イリヤは離れた場所で怪物と化しつつある存在を真っ直ぐ見据えていた。
その言葉は固い。

『何言ってるんですかイリヤさん?!』
「もしここで逃げたら、桜さんが救われない!
 それに、もしあれが完全に出てきて暴れ始めたら、他の皆も危険に晒される!
 だから、ここで終わらせる!!」
「お前、あれを止められるのかよ」

巧も足を止め、イリヤを見る。


「ルビー、あれは魔力や生命力を吸収してるんだよね。
 それを取り込んで、自分の中でエネルギーにしてる。それで正しいよね?」
『それは、一応その解釈でもあってます。ですが、それを越えられる魔力は』
「だったらそれを持ってきて。私の体、全部使ってもいい。
 血管も、筋肉も、神経も、全部使っていい!!」

イリヤ自身自分が何をしようとしているのかは理解している。
だが、それだけの覚悟が必要なのだ。
間桐桜を助け、あの化物を追い払うのには。

『姉さん、私からもお願いします』
『サファイアちゃん?!』
『もう、私は後悔したくないのです。美遊様の時のような後悔を。
 私の全てをイリヤ様に託します』
『あーもう!分かりましたよ!』

サファイアからの懇願で折れたかのように、ルビーもまたイリヤの願いに従う姿勢を見せた。

『だったら変換はこちらで済ませます。ですが行使はイリヤさん次第ですよ』
「ありがとう、ルビー」

やることが決まったイリヤは、巧へと向き直る。

「乾さん離れてて!
 私が、全部終わらせてくるから!」
「おい、イリヤ!」

巧の呼びかけに答えることなく、そのまま高く飛翔する。
全身にこれまで以上の痛みが走る。
魔力回路への変換が始まったのだろう。

そして、そんなイリヤの気配に気付いたゴルゴーンは、それを敵対者と見なし赤く光る単眼を向ける。

――――ォォォォォォォォォ

呻き声が響く。
その声の中に、気のせいかもしれないが桜の悲鳴も混じっているような気がした。

『筋系、神経系、血管系、リンパ系──疑似魔術回路変換、完了!』
「助けるよ。助けを求める人は、どんな時でも―――」

そして、イリヤはその真っ直ぐに向けられた瞳に向けて、ステッキを振り上げ。


588 : 絶望を切り裂く希望の光 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:22:24 PTaxq9rA0

「これが、私の全て―――」
―――ウォアアアアアアア


イリヤの声と、ゴルゴーンの叫びが木霊する。

イリヤが振り下ろしたステッキからは、膨大な魔力の砲撃が放たれ。
同時に、ゴルゴーンの瞳からも、闇色の光が放出された。

「多元重奏飽和砲撃(クヴィンテットフォイア)!!!」
「強制封印・万魔神殿(パンデモニウム・ケトゥス)!!!」

小さな体の、その全てを魔力回路として行使して放出された、限界を超えた高出力の魔力砲撃。
魔眼より放たれた、触れたもの全てを溶解し取り込む魔の光線。

その二つが衝突。

周囲に暴風を巻き起こすほどの衝撃が、光を中心に吹き荒れる。

その力は互いに拮抗している。

高出力の魔力砲撃は、光に触れて逆に吸収されていく。
だがイリヤの火力が不足しているのかと言えばそうでもなく、時折一瞬だけ砲撃が前に出ることがあれば逆に光に押しやられることもある。

イリヤの体が限界を迎えるのが先か、押し切るのが先か。

「っ、あああああああああああ!!!!」

痛みを堪えて気合を更に込め、叫び声を張り上げる。
しかし押し切れない。

(…!こ、このままじゃ…)

勝てない。
そんな弱気な考えが一瞬脳裏をよぎる。

そう思った瞬間、砲撃が徐々に押し込まれ始めた。
魔力が次々と吸収されていく。


589 : 絶望を切り裂く希望の光 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:23:24 PTaxq9rA0
この中に自分も飲み込まれる。
そんな、イリヤが感じた絶望。

―――Exceed Charge

それを、突如奔った赤い閃光が斬り裂いた。

ァァァアアアアアアアア!!!!!

絶叫のような呻き声を上げるゴルゴーンの怪物。
その目のすぐ横に、赤く巨大な光の刃が突き立てられている。

「乾さんっ?!」
「お前が何しようとしてんのかは分からねえけどな!
 俺だけ逃げるとか、ふざけんな!」

巨大な刃を生み出すブレードモードのファイズブラスターを両手で支えながら叫ぶ巧。

イリヤが何をしようとしているのかは分からない巧だが。
全身を魔力回路として行使する。その言葉だけでその身を削って戦おうとしていることだけは察せられていた。

「桜のやつのことはもちろんだけどな!
 俺はなイリヤ、お前のことも士郎から頼まれてんだよ!!」

自分がいなくなったら、イリヤの力になってあげてほしい。
それは彼が命を落とす少し前にした約束だった。

自分は長くは生きられないし、そうでなくともイリヤだけの力にはなってやれないから、と。

「お前を死なせたら、あいつにどうやって顔向けできんだよ!!
 こんなところで、絶対死なせねえからな!!桜も、お前も!!」

刃が突き立てられた影響か、ゴルゴーンの放つ光の吸収力が低下、イリヤの砲撃が押し返し始めた。

(そうか、私は、一人じゃないんだ)

ふとそう思った時、ステッキを支える自分の手に、小さな手が二つ重なったように見えた。
白い肌と褐色の肌をした手が、共にステッキを支えているように。

それが誰の手か、振り返るまでもなくイリヤには分かった。

「はあああああああああああああああああああ!!!!」

意識を集中させ気合を込め直す。
自分の限界の先まで届くほどの攻撃を放つように。

「貫けええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

やがて吸収力を遥かに超え、光を完全に押し返した砲撃は。
そのゴルゴーンの巨体を呑み込んでいった。

ゴルゴーンは、悲鳴のような音を出しながら、その光の中で消滅していった。





590 : 絶望を切り裂く希望の光 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:23:48 PTaxq9rA0
やがて光が収まった時、二つの光の衝突した地点には巨大なクレーターができていた。

その中心で、一人の少女が倒れている。

意識はないが、胸が上下していることから死んでいるわけではない様子だ。

「はぁ、はぁ」

地に足をつけたイリヤは、息を整えることもなくその手に一本の刃を持って歩みを進める。

クラスカードは既に排出されている。だがこれを突き立てるまではまだ終わらない。そんな直感があった。

その直感に応えるかのように、イリヤの進む先に黒い影が現れる。

「っ」

その影は帯をイリヤに飛ばして捕らえようと、捕食しようと迫る。
これからイリヤが行おうとしていることを防がんとしているかのように。

まだツヴァイフォームを解除しておらず、本来ならば避けられた攻撃。
しかし砲撃の影響で全身の動きに支障が生じるほどのダメージが残っている。

体を引きずりながらも地面を蹴って避けようとするが、間に合わず足を取られる。
地面に転がり込むイリヤに、更に追撃の帯が迫り。

影が赤い光の弾を受けて爆発した。

「イリヤ!こいつは俺が!急げ!!」

砲撃が収まった後イリヤの側まで走った巧が追い付いたのだ。

影が消え、足の拘束もまた消滅していく。
だが、影はまだ幾つも生まれてくる。巧の対応が追いつかないような場所に、イリヤの行き先を阻むように。


591 : 絶望を切り裂く希望の光 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:24:18 PTaxq9rA0

それが形作るより前に、決着をつける。

痛みが走る体に鞭をうって駆け。

影が形を形成、触手をイリヤへと飛ばし。

体を屈めて避けたところでイリヤの体が桜の元に到達し。

その手に握りしめたギザギザの短剣、ルールブレイカーをその胸に突き立てた。

「っ、う、あああああああああぁあああ!!!」

桜の絶叫が木霊する。
同時にその体を覆っていた影が消失。
イリヤを襲っていた影もまた、静かにその魔力を霧散させていった。

そして突き立てたルールブレイカーは、桜の生み出した影が消えると同時に、まるで自身の役割を果たし終えたかのように消滅していった。

「こ、れで…」
『はい、終わりました。イリヤさん』
「良かっ、た…」

ルビーの言葉に安心したかのように、イリヤの体が地面に倒れ込んだ。
同時にその衣装もツヴァイフォームからいつもの桃色に統一されたものへと切り替わり、ステッキもルビーとサファイアへと分離した。

「おい、イリヤ!!」

その様子に変身を解除した巧は急ぎ駆け寄る。
慌ててその体を引き起こす。
最悪の事態が脳裏をよぎる。全身の多くの場所から血を流してはいるが、息はあった。

『大丈夫です、巧さん。ちょっと無茶をしすぎたので安心したら疲れがどっと来たのでしょう』
「そうか、良かった…」

ほっと胸を撫で下ろす巧。

「………やっぱり、死なせてはくれないんですね」

そこへ、ポツリとそう呟く声があった。
ルールブレイカーによる魔術解除の衝撃故か意識を取り戻した桜だった。

巧は桜の方へと向き直る。
体は酷い状態だった。
右腕は二の腕の半ばから無くなっており、全身傷だらけ。身に纏っている衣類もボロボロで肌が露わになっている。
顔には右側に目から頬にかけて大きな傷が残っており右目が開いていない。これはきっと自分が刃で斬り付けた影響だろう。

目も虚ろで、視線が定まっていない。視力障害が出ているのかもしれない。

「言っただろ。士郎がお前が死ぬのを望んでねえって」
「何だか、信用できないです…。私を置いて逝っちゃうような人の言葉なんて…」


592 : 絶望を切り裂く希望の光 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:24:53 PTaxq9rA0

思っていることは違うのに、そんな皮肉を言わざるを得ないほどに桜の心は荒んでいた。
それでも影にとらわれていた時と比べればずっとマシなのだろうが。

『桜さん、あなたを助けたあのルールブレイカーですが』

と、ルビーが桜の体を指して告げる。

『あれは士郎さんが最後に投影した武器です。それを使って、セイバーさんを泥から救ったのですよ』
「セイバーさんを…、ああ、そっか。先輩を殺したのって……。
 だったら、私が死なせたようなものですよね…」
『それともう一つ。士郎さんが命を落とした後も何故かあのルールブレイカーはずっとイリヤさんの手元に残り続けたんです。
 まるで、まだ役割が残っていると言わんばかりに』
「……」
『士郎さんの本心は分かりませんが、それでも士郎さんはあなたにも生きていて欲しいと強く願っていたのだと、私は推察します』
「ふ、あはははは」

ルビーの言葉に、桜はそう小さく笑って。

「ほんと、皆、ずるいです…」

それだけ呟いて、静かに意識を落とした。

『大丈夫です。眠っただけです』

不安げに身を乗り出した巧に対しそれを払拭するようにルビーは告げる。

「そうか…」

そう言って巧も地面に座り込む。
巧自身も長期間のブラスター化でかなり体に負担がかかっていた。

『遊園地に戻られるなら、しばらくここで待ったほうがよろしいかと。
 あそこには今ゼロがいます。セイバーさんともう一人、ロボットに乗った誰かが相手をしていますので安全が確認できるまでは』

安全の確認。それはすなわち放送だろう。

巧としてもそこに参戦したい気持ちは強いが、今はあまりにも疲労が溜まっている。


593 : 絶望を切り裂く希望の光 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:25:07 PTaxq9rA0


『姉さん、イリヤさんは眠っていますね』

そんな時だった。
サファイアがルビーを呼びかけたのは。

『はい』
『良かった。余計な気負いはさせたくはありませんでしたから。
 どうやら、そろそろみたいです』
『そうですか…』

ピキリ、とサファイアの六芒星の模様に亀裂が入った。

「おい!」

思わず声を荒げる巧。

『元々無理があったのです。宝具の直撃を受けた状態でツヴァイフォームの運用までこなすのは』

あの魔力で輝く剣を受けた時サファイアは大きな損傷を負っていた。
自身の身の修復に魔力を割くべきだったが、ツヴァイフォーム変身中はそうもいかなかった。

特に、多元重奏飽和砲撃の使用でその身に限界が来てしまった。

ルビーがイリヤに撤退を推奨したのも、サファイアの身を慮ってのことだった。

『ですが、いいんです。全ては私自身が望んだことだったのですから。
 美遊様もきっと、私の立場であったら同じような判断をされたはずですし』
『サファイアちゃん…』
『悲しまないでください、姉さん。きっと、宝石翁がまた気まぐれを起こせば、またきっと私を作ってくださるかもしれません』
『それは、今ここにいるサファイアちゃんじゃないですよ…』

亀裂が広がり、模様から柄の部分まで割れている。
完全に砕け散るまで、もう時間の問題だ。

その中で、時間が許す限り、言わなければならないことを告げるようにサファイアは声を発する。

『乾さん、私のことは気になさらないでください。所詮、私達はモノにすぎないのですから』
「だけど―――」
『それよりも、乾さんは誇ってください。自身の成した功績を』

と、サファイアはイリヤと桜を指し示し。

『―――あなたは、確かに、士郎さんに託されたものを、守り抜いたのですから』

その言葉を最後に、カレイドステッキ・サファイアの体は砕け散った。


594 : 絶望を切り裂く希望の光 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:26:00 PTaxq9rA0
「………」
『………』

その砕けた破片の一つを拾い上げる巧。

『巧さん、サファイアちゃんの言う通りです。
 彼女のことは気負わないでください。それよりも、あなたは胸を張ってください。
 あの時の士郎さんのように、その手で助け守り抜いたものがあるのですから』
「……そう、か」

悲しみを胸に押し込み、空を見上げて巧は言った。

「士郎、お前の大事なものは、守り抜いたぞ…」

その言葉が、もしかしたら天から見ているかもしれない男に届くように。


【C-4/緑地地域/一日目 真夜中】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(特大)、全身にダメージ(大)、ツヴァイフォーム使用による全身の負荷(回復中)、クロ帰還による魔力総量増大、気絶中
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター(使用制限中))(ランサー(使用制限中))(アサシン(使用制限中))(アーチャー(使用制限中))@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
基本:皆と共に絶対に帰る
0:??????
[備考]



【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)
[装備]:ファイズギア+各ツール一式@仮面ライダー555 、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品、クラスカード(ライダー(使用制限中))@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(黒騎士のバーサーカー(使用制限中))、サファイアの破片
[思考・状況]
基本:ファイズとして、生きて戦い続ける
1:放送を聞くまでこの場に待機。その後遊園地に戻るか離れるかを決める。
2:やったぞ、士郎
[備考]


【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:黒化解除、右腕欠損、魔力消耗(大)、顔面の右目から頬にかけて切り傷、右目失明、視力障害、脳への負荷による何らかの後遺症(詳細は現状不明)、気絶中
[装備]:マグマ団幹部・カガリの服(ボロボロ)@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:???????
1:??????
[備考]
※黒化はルールブレイカーにより解除されました。以降は泥の使役はできません。

※カレイドステッキ・サファイアは全壊しました。


595 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/03/03(日) 22:26:15 PTaxq9rA0
投下終了です


596 : 名無しさん :2019/03/04(月) 20:52:05 bGdmdJWI0
投下乙です

因縁のあった桜戦も何とか決着。主人公ぶりを発揮したイリヤも士郎との約束を守る為に奮戦したたっくんもかっこよかった。
桜は見事にボロボロだがこれからどうなるんだろう…。


597 : 名無しさん :2019/03/11(月) 13:30:18 7yffI7ks0
投下乙
そういえば、映画では千切れた腕(見た目だけは)治ってたけど、こっちでは千切れたままなんですね
体も記憶もぼろぼろで、すがるものももうない。
とりあえずは生き延びれたけど、桜の今後が心配です


598 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/07/14(日) 19:31:49 /jEWi4qs0
以前破棄した予約分を投下します


599 : 零の話・仮面が砕ける時 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/07/14(日) 19:33:26 /jEWi4qs0
「ほう、この魔王たる私が敗れるというのか?」
「ええ。あなたはいつか必ず敗れ、命を落とすと思うわ」


「何を根拠に?」
「根拠なんて。決まっているでしょう」

「だって、魔王っていうのは、いつだって勇者に倒されるものじゃないの」




電灯の明かりに包まれた夜の遊園地。
人が寝静まる真夜中の時間にも関わらず、その施設はまるで遊ぶ者を待っているかのように煌々と一帯を照らしている。

一方で、その園内にある最も巨大な遊具、観覧車は柱が折れ倒壊、そのフレームは地面に倒れ転がっている。

その近くに立っているのは二つの人影、二つの巨大な影。

まず動いたのは、一つの人影だった。

青い影は光輝く剣を振りかざし、目前の黒き影へと勢いよく振り下ろす。
対する影もその拳に光を纏わせその一撃を受け止める。

交差する影。

(砕くつもりだったが―――、やはりその黄金の剣は一筋縄ではいかないか)

黒い影、ゼロは既に青い影、セイバーとは幾度も剣を交えている。
しかし今受け止めた一撃は過去に受けたどの剣戟よりも重く鋭いものだった。
棒きれや竹刀は言うに及ばす、太刀を携えていた時もここまでの力はなかった。

すぐさま振り返り振るわれた剣を身を反らして回避。
振り抜いたまま剣が返される前に至近距離へと潜り拳を叩きつけようと身を屈め。

そこでセイバーの体が地を蹴り飛び上がる。
思わぬ挙動に一瞬の思考を割いた後、振り返り横から襲いかかった巨大な影に向けて拳を突き出すが、間に合わず体が宙を舞う。
背後からのランスロットの剣をまともに受けたが、それでもマントを翻していたおかげで斬撃は打撃へと変わり体が吹き飛ばされるだけで済んだ。

空中で態勢を立て直し、ランスロットの肩を足場に跳び上がってきたセイバーに向けて、その背後で直立していたガウェインの指先を放つ。

態勢を変えられない空中での強襲を受け、その指先に吹き飛ばされるセイバーの体。
放たれたスラッシュハーケンはそのままセイバーの体をコンクリートの壁に叩きつけ押し付ける。

それを、ランスロットが剣を振るいワイヤーを切り落とすことで解放。

力を失ったガウェインのワイヤーが先端を失ったままその手に戻り、セイバーは自身を押し込んでいた指を腕で押し出して立ち上がる。

「無事か」
「ああ、この程度大した傷ではない」


600 : 零の話・仮面が砕ける時 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/07/14(日) 19:33:48 /jEWi4qs0
眼前に付着した汚れを払いながら立ち上がるセイバー。
向かい合うゼロも、一旦距離を取り態勢を立て直している。

出方を見て警戒するセイバーとスザク。
するとゼロの背後に立つガウェインの肩が稼働し赤く光った。
その意味を知る二人は、セイバーは大きく横に、スザクは空に向けて飛び退いた。

すぐさまゼロはセイバーへと向け駆け寄り。
ガウェインは飛んだランスロットを追って飛翔した。

地上には二つの光がぶつかり合い。
夜闇の空には赤と緑の閃光が飛び交った。




私は知っているぞ、枢木スザク。

お前が背負う罪を、お前がこれから生涯をかけて背負っていく宿命を。
その罪を、全て見ているのだから。

魔王ではなく、世界を導いた勇者という名の呪い、ゼロを受け継ぎし者。

果たしてその名は、魔王を打倒するものなのかどうか。

この場で以て、図らせてもらおう。



ランスロットの剣がガウェインの体を貫く。

剣を引き抜くまでの間に、その指のスラッシュハーケンがランスロットを狙い放たれた。
しかしそれを腕で絡み取り引き抜き、追撃にエナジーウィングからの光弾で全身を撃ち抜く。

炎を上げ爆発していくガウェインの体。

ランスロットの中で、スザクは一息つこうとし。

炎の中から放たれた赤い熱線を見た瞬間、手がランスロットを緊急回避させていた。
不意に体にかかったGに歯を食いしばりながら前を見ると。

そこにはこちらの攻撃で破壊されたはずのガウェインの姿があった。
傷一つもない、五体満足の状態で。


セイバーの振るう剣戟。
常人には見えぬ速さでありつつ、もし視認できるものがいたとしたらその精錬された美しい太刀筋に目を奪われたことだろうほどの太刀筋。

ゼロもまたそれを徒手空拳、そして拳に写したギアスで受け止める。
しかしその速さに対応が追いつかず、体にいくつもの切り傷が作られている。

一見攻撃に追いつけないゼロの不利にも見える戦い。しかし相対しているセイバーは最大限の警戒を以て接近戦をこなしている。
ゼロが受けているのは致命傷や以降の行動への影響がない一撃であり、大きなものは徹底して避けている。
そしてセイバーが下手に踏み込めば、ギアスの光の直撃を受けることになる。

それを受ければこの魔力によって動く肉体は致命的な消耗を受けることとなる。
もし致命傷を与えたとしてもカウンターを受けてしまえばそれで終わる。さらにゼロ自身には治癒能力が備わっている。これを上回る一撃が必要となる。

故に、セイバーが狙っているのは。

(――この剣の真名解放が叶えば…)

聖剣の光をもって、一撃でゼロの体を消し飛ばす。
現状で最もゼロを打倒しうる可能性があるのはそれだろう。

しかし魔力を消耗している今、この身を全て魔力へと変換して撃てるかどうかという状態。
そして相手もまた頭が回る敵だ、そう安々と撃たせてはくれないだろう。


601 : 零の話・仮面が砕ける時 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/07/14(日) 19:34:08 /jEWi4qs0

と、次の瞬間空から巨大な影が地面に落ちる。
土煙を上げながら頭部と片腕を失い地に叩きつけられた巨体。

ゼロの視線も思わずそちらに、そして空から追ってきた白い巨体に向けられた。
巨大な剣がその体に斬りつけられるもゼロもザ・ゼロにより光を受け止める。

追撃を止め、勢いを殺して後ろに一気に下がる巨体。
セイバーが下がった辺りで、停止した。

その右腕に備え付けられた装飾からは火花が散っており、一瞬翠色の光盾が現れかけて消えた。

「その傷は、大丈夫なのか」
「ああ。少し避け損ねてブレイズルミナス、盾が壊れただけだ。
 …しかしあの機体、おかしい。いくら破壊しても壊した場所がすぐに再生する」

機体から漏れた呟きと共に、眼前に倒れた巨体の破壊された頭、腕が光と共に元の形を取り戻した。

元々ゼロも治癒能力は持っている。あの機体が同じ力を持っていても不思議はない。
だが、この時のセイバーには嫌な予感がしていた。

「――ゼロ、貴様まさか私の鞘を」
「その通りだ、あれはこのガウェインに埋め込ませてもらった」

ランスロットアルビオンとガウェイン。
同じ世界であれば用途も生み出された時代も異なるものであり、機体性能は後に生み出されたアルビオンの方が遥かに上をいく。

だがそれでも、無限に再生し続ける機体といつまでも戦い続けていればいずれは隙も生まれ、エネルギーも切れる。
実際ガウェインはランスロットの攻撃で既に5回は戦闘不能に陥るほどのダメージを受けている。そしてその間に、ランスロットに一撃を入れ武装の一つを損耗させた。

「無論私を倒せるならば再生は止まるだろうが、果たしてガウェインを無視して私を攻め続けることができるかな?」

言ってゼロは、ガウェインの肩に飛び乗りハドロン砲を放った。

「乗れ!!」

スザクの声にセイバーはその白い肩に飛び乗り、同時にランスロットも空へと飛び上がって砲撃を避けた。
背後で着弾した地面が高熱を発して赤く溶解する。

追って放たれたハドロン砲、スラッシュハーケンの間を飛び交い、ゼロと距離を取り向き合うランスロット。

ハーケンは届かず砲撃も見てからの対応が叶う位置だ。
一方でこちらの攻撃もまともには当たらないだろう。


「一つ問いたい。
 あの巨人の、核となりそうな場所は分かるか?」
「核?」
「人間でいう心臓のようなものだ。
 おそらくはそこに鞘が埋め込まれているのだと思う」
「それなら―――」

スザクが示したのは、ガウェインの背にあるこげ茶色の膨らみがある場所。
自分の知る機体と同一なら、あそこがコックピットに当たる部位となるだろう。

「もし全て遠き理想郷があるとすれば、そこではないかと思う。
 そこまで迫り、あの鎧を破壊できればあるいは取り返すことができるかもしれない」
「ならば僕が隙を作ろう」
「ああ。だが、もう一つ頼みたいことがある」


602 : 零の話・仮面が砕ける時 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/07/14(日) 19:34:48 /jEWi4qs0

スザクとセイバーが話し込んでいる頃、ゼロもまたその様子を観察しつつ自身の状態を確かめていた。
セイバー、ランスロットアルビオンの攻撃は着実にゼロの体にダメージを与えている。
しかしそれも時間経過で少しずつ回復していた。

もし彼らが本気で攻撃を直撃させれば治癒も追いつかなくなるかもしれない。故にその隙だけは作らぬように徹してきた。
元よりゼロは武人ではない。ナイトメアフレームを蹂躙するほどの力を得たとしても、力量と装備の整った戦士には技量面で遅れを取ってしまうこともある。

そして今の彼らは、それが揃った相手だ。

しかしランスロットは一撃は重いが巨体故に決定打の一撃は速さにかける。
セイバーは速く力もあるが、その体は生身であるがゆえにこちらの攻撃を警戒し攻めきれていない。

(さて、どう出る)

機動力に劣るガウェインから攻め込ませるような愚策はしない。
ゼロの脳内にはいくつもの相手の攻撃パターンとその対処が映っている。どのように来たとしても迎え撃てるように。
何より相手はよく知る相手、枢木スザクだ。パターンは分かっている。


と、ゼロの視線の先でランスロットが動いた。
ハドロン砲を警戒してか縦横無尽の軌跡を描きながら迫ってくる。

(ああ、だがどれほど軌道を乱して動いても)

スザクの一撃は正面からだ。

ガウェインの頭部に真っ直ぐに振り下ろされた剣をギアスで受け止める。
そのままガウェインの指を向け放つと同時にスザクは後退。

剣を収めつつその手にヴァリスを持ち替えて構えた。
ガウェインの構えた追撃のハドロン砲を正面から受けるかのように、青い銃身を展開させてガウェインのそれと同等の砲撃を放った。

ぶつかり合う二つの赤い熱線、その中心では爆発が起き周囲の視界を塞ぐ。

数秒の沈黙の後、その爆煙の中を一陣の風が切り裂く。

咄嗟に前面に手をかざすゼロ。

放たれたそれがヴァリスの砲弾だと判断してのその勢いをゼロに還すための防御。
しかし視界に映ったのは、砲弾ではなく剣を構えたセイバーの姿だった。

(―――!!)

ヴァリスの砲弾の前に足を乗せて自身の身を弾丸と化してこちらへと肉薄していた。
生身の人間であれば風圧と銃弾で体がバラバラになるだろう暴挙を、サーヴァントとして超常の身を得ていた彼女はやってのけた。

砲撃を受けるつもりだったギアスでは受け切れられず、かざした左手の親指付近が切り落とされ、そのまま脇まで大きく斬りつけられる。

(ちぃ、見誤ったか!)

振り返りつつも背後にも手をかざす。
右腕でセイバーの剣を、左腕で更に追撃で放たれたヴァリスの弾丸を受ける。

左手の治癒が間に合っていないゼロはヴァリスの弾丸の衝撃にバランスを崩しながらもその体制のズレを利用し回し蹴りを放ちセイバーを弾き飛ばす。
宙に投げ出されたセイバーの体は重力に任せて墜落。
更にガウェインのスラッシュハーケンの指先に足を置いたゼロは指先の射出によりランスロットの目前に迫りヴァリスに拳をぶつけ叩き落す。


ランスロットがMVSを抜き対処しようとした瞬間、スザクの内から強い衝動が走る。
生存のギアスが発動したことで、次の攻撃が致命的なものであると瞬時に認識。
逃げ出したいという強制的な欲求を押さえ込みながら機体を動かす。


603 : 零の話・仮面が砕ける時 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/07/14(日) 19:35:15 /jEWi4qs0

至近距離へと迫ったゼロの体に腰のスラッシュハーケンを投射。生存のギアスにより脳が認識するより先に目の前に迫った死の気配に体が反応した。
ゼロの腕が機体前部を突き破りコックピット前面へと穴を開けたと同時にその体が大きく後ろへ弾かれる。

同時に迫っていたゼロの拳により眼前のモニタが破壊され、飛び散った破片が被っていた仮面に亀裂を入れる。
もしハーケンでの迎撃が遅れていればこのまま機体から引きずり出され宙に投げられるなりその腕で握りつぶされるなりしていただろう。

ギリギリのところで攻撃を防ぎ生存のギアスの要求が下がり。
息つく暇もなくランスロットへと向けてゼロの背後のガウェインからハドロン砲が放たれた。

(―――っ)

生きろギアスが発動するも、今度の攻撃には行動が間に合わない。

ゼロに気をとられ、更にコックピットを破壊されたことでカメラによる視認が遅れたことによる対応不足。
たとえ生きろギアスがかかり、発動しようとも、スザク自身が死を認識できない攻撃には対応できず、対応も人間に決して不可能なものであれば間に合わない。

一瞬の認識の遅れにより迫る死。
回避、防御、脱出。全てが間に合わない。




「全て遠き理想郷(アヴァロン)!!!!」


そこに一つの光が割り込んだ。

目を閉じる間もなかったスザクの視線の先に、手を翳してハドロン砲を防ぐセイバーの姿。

思わずゼロが振り返ると、その視線の先、ガウェインのコックピットはまるで巨大な砲弾でも通り過ぎたように破壊されていた。




「ゼロの気を引きつけることはできるか?」

ランスロットの肩に乗ったセイバーは、スザクに問う。

「どれくらいの時間を引きつければいい?」
「私がゼロの認識から外れて数秒だ」
「それなら大丈夫だ」

スザクには一つの確信があった。
もし自分がそれ以外の誰かかが共にゼロへと攻撃を仕掛けた場合、彼はきっと自分への対処を優先するだろう、と。

彼が自分のよく知る男であれば、だが。

「ならその対応を頼みたい。
 あと、その認識が逸れている間に戦線復帰できるような手筈も、可能であれば整えてくれないか?」
「善処はしよう」



ゼロの見立てではセイバーが地に落ちてからの復帰まではまだ時間がかかる見積もりだった。
何しろ投げ出した態勢が態勢だ。普通に墜落すれば大ダメージは免れない。

なのでセイバーは落ちるまでの間に風王結界の風を操ることで落下速度を落としていた。
無論それは逆に地に足をつけるまでの時間がかかってしまうということでもあったが。
それをセイバーは、ランスロットが投げ捨てたヴァリスを足場として飛び上がることで戦線復帰を果たしていた。

彼女の行動を見越してのヴァリス投棄。
普通であればできるはずがない行動、しかしヴァリスの弾丸に乗ってゼロに迫るという超人技を見せたセイバーであればできるとスザクは信じていた。

そしてゼロの意識が逸れている間にガウェインのコックピットからアヴァロンを回収。ランスロットへと迫るハドロン砲を、その鞘の真名を開放することで防ぎきった。


604 : 零の話・仮面が砕ける時 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/07/14(日) 19:35:29 /jEWi4qs0

「今のうちに、あの砲台を!!」

ランスロットの胸部に足を乗せたセイバーは、目前で赤き熱線を防ぎながらスザクへと叫ぶ。

MVSを引き抜き、アヴァロンの力で砲撃を押し返しながら一気に距離を詰める。
迫る二人を迎撃せんと砲撃の間から迫りくるゼロ。

対してセイバーが砲撃を防ぎつつもゼロへの迎撃のためにランスロットの胸を蹴った。

衝突の一瞬、ゼロの手に展開されたギアスがセイバーのアヴァロンを掻き消し。
消滅の瞬間に、後ろに構えていたエクスカリバーをゼロへと叩きつける。

ハドロン砲をせき止めていた障壁が消え、セイバーの後ろのランスロットへ向けて迫る。
すかさずランスロットは片腕のブレイズルミナスを展開。翡翠色の障壁がハドロン砲の軌道を変える。しかし発生装置を破壊された右側の砲撃は防げず白い装甲を溶かし尽くした。
しかし左のそれが保っている間はまだ持ちこたえられる。
砲撃を防ぎつつランスロットの腰部のハーケンを射出。狙いは目の前で剣を振り下ろしたセイバー。

その背にハーケンが打ち付けられると同時に、セイバーの体はガウェインに向けて前進、そのままガウェインの胸部を勢いに任せてゼロを巻き込んで貫通する。
ハドロン砲をあらぬ向きへと放出しながら爆散していくガウェイン。

そして、視界の先のセイバーは、ゼロを地面へと蹴り落としながらも、自身も後を追って落下していく。

その手に、光輝く剣を構えて。



「それともう一つ。
 できれば私がゼロを相手取れるように計らってくれないか。
 この剣の一撃を奴に叩き込むことができれば、おそらくはこの戦いに勝利することができるはずだ」
「それは―――」
「ああ。命懸けの勝負になるだろう。おそらくは私も道連れになるかもしれないだろうな」

一瞬の沈黙の後、セイバーは口を開く。

「私は、既に死んだような存在だ。
 己の願いに縋って奇跡を信じて戦いに参じて、しかしその願いすらも失って大切なものに手をかけた。
 もしもこの先を生きるものがいるとするならば、私のような亡霊ではなくあなた達のような未来があるものであるべきだ」
「………未来があるもの、か」

その言葉に、スザクの脳裏に色々なものがよぎる。
まだ名があった頃に積み重ねた数々の罪と、仮面を被った時のこと。
この場に来て出会ったユフィや夜神月、多くの者たちのこと。

「分かった。なら僕とこのランスロットが、君の行く道を切り拓こう」
「感謝する」




叩きつけられた地面から起き上がりながら、ゼロは頭上の光を見上げる。
夜闇の中で、空を照らす月よりも遥かに眩く輝くその閃光。

(こちらが決め手だったか)

回避が間に合うものではない。
下手に下がれば逆に光に呑まれるだろう。ギアスで相殺しきれるかどうかも怪しい。

真っ向から迎え撃つしかない。

(私を撃つのはお前だと思っていたのだがな)

うっすらと視界の中に映っている、こちらを見下ろすランスロットを見ながら、ゼロはその刹那の中で思考した。

枢木スザク。ルルーシュの親友であり、いずれの世界でも幾度となくぶつかり、時として手を取り合った因縁の相手。
ここであいつがこの場まで生き延びて巡り会えたことに運命すら感じていた。

(いや、むしろこれは俺の失策か)


605 : 零の話・仮面が砕ける時 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/07/14(日) 19:35:53 /jEWi4qs0
その運命に縛られすぎたのかもしれない。
あの男に執着しセイバーへの対応を疎かにし、結果鞘を奪取されて隙を作らせてしまった。

この局面においても、あの男はこちらに介入する意志を見せない。
つまりはこの状況を承諾したということだ。

(フ、ハハハ、なるほど、これは私の負けだろうな)

あいつもきっと、この場で様々な出会いを通じて自分の知らぬところに行ったのだろう。
自分の中にある、ルルーシュという因果を乗り越えられるほどの。

だが、我とて魔王。世界のため全てを捨てるための覚悟をもってこの姿となったのだ。
ただでは死なない。

(だから、せめて付き合ってもらうぞ、騎士王―――――!!!)



鞘が還ってきたことで魔力は体に満ちている。この剣の一撃を放つには絶好の状態だ。

この位置から振り下ろした聖剣を完全に避けることは難しいだろう。
避けたとしても、この剣の余波に巻き込まれる。ましてや防げる一撃ではない。


それを悟ってか、ゼロはその場から動かず。
同時にその手にはあの光が集まっている。

あの光の威力は身を以て把握している。魔力を、生命力を根こそぎ持っていく、桜の影と近い属性を感じるあの攻撃。
今度の一撃はこちらに対抗してか、光がこれまで以上に眩い。おそらくだがあれが直撃すれば消滅は必須。

宙から落ちる自分に、その手を避けることはできない。
この一撃を叩き込むために身をよじることはできても、直後にカウンターとして叩き込まれたあの光がこの体を消し飛ばすことだろう。

(――ここまで、か)

思えば今宵の現界は多くの裏切りを繰り返してその果てに色々なものを削ぎ落とすように失ってきた。

償いというわけではない。これで償いと言えるほど軽い罪ではないだろう。

(――――申し訳ない、シロウ。私には桜を助けることはできなかったようだ)


だからせめて、今を生きる者たちに。

イリヤスフィールや乾巧、Lや鹿目まどか達、そして。



『時に騎兵よ、この白き巨人の名は、ランスロットというのか?』
『ん?ああ、ブリタニアに伝わる高名な騎士の名をあやかって付けられた名だ』
『そうか。…良き名だ。
 そなたの名は、何というのだ?』
『――――、…枢木スザクだ』

今宵背を預け共に戦った枢木スザク。
彼らのような今を戦い生きる者たち。

そして、小さな戦士達に託した士郎の希望、間桐桜。

彼らの未来に光があることを願い。

(この一撃が、彼らの未来への灯火とならんことを――――)

祈りの結晶たる黄金の剣に、未来へと託す己の願いを込めて。
高らかに奇跡の真名を解き放つ―――




「約束された勝利の剣(エクスカリバー)――――!!」
「虚無へと還れ、―――ザ・ゼロ!!」


セイバーの振り下ろした光の剣が、ゼロの左肩へと斬りかかり。
同時にセイバーのその胸に、ゼロの拳の光が叩き込まれ。

ゼロの体は立ち昇った膨大な魔力の光の柱の中に巻き込まれ。

セイバーの体は魔力の残滓を残すこともなく光の中に消えていった。


606 : 零の話・仮面が砕ける時 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/07/14(日) 19:36:11 /jEWi4qs0


立ち昇る光の柱に目を細めながらも、その姿から目をそらすことなく見届けるスザク。
やがて静かに光が収まった頃に、幾度も機体に生じたダメージで飛行するエネルギーも覚束なくなってきたランスロットを地面に下ろす。

地面に降ろしたところでランスロットに膝をつかせてコックピットから出る。
光の柱が立ち昇った中心地はコンクリートの地面に大きなクレーターを作り、地下道の天井まで達したのかところどころに穴を空けてボロボロと崩れさせている。

その中心に、ゼロは立っていた。

「…!!」

思わず身構えるスザク。
ランスロットに乗るのは間に合うだろうが、機体の損傷が大きい。
だが今は生身でも武器はない。

セイバーが倒し損ねた相手を、素手で倒すことができるか。
逃走の算段を立てるかのように瞳が赤く光り。

しかしゼロが振り向いたところでその必要がないことを悟って思考が落ち着いていく。

ゼロの体は左肩から大きく切り込まれ、傷口から少しずつ体が崩れ落ち続けている。
かつてロロ・ヴィ・ブリタニアを倒した時のそれと同じ状態だ。

セイバーの一撃は、確かにこの男に届いたのだ。

「枢木スザク」

クレーターから、静かにこちらへと歩みを進めながら、ゼロは呼びかける。

割れているとはいえ未だ仮面を被り続けるゼロとしてではなく、枢木スザクとして。

「よくぞ魔王を打倒した」
「……いや、僕は何もしていない」
「倒したさ。直接この身を死に追いやったのはあのセイバーであろうが、その道を切り開いたのはお前だ。
 こうして私が滅びへと向かっている中で、お前はしっかりと地に足をつけて立っている。それは誇ってもいいことだ」

賛美の言葉を否定するスザクに、更に否定を投げて肯定するゼロ。
やがてその体がスザクの目と鼻の先というところに来た辺りで、ゼロはスザクの被る仮面へと手を伸ばし。

その中心に静かに、しかし力強くその指を突きつけた。

「その褒美として、お前はこの場においては、ゼロではなく枢木スザクの真名を名乗るがいい。
 私が許可しよう。お前の罪も苦しみも全てを知る、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとして」

小さく亀裂が入った仮面は真っ二つに割れ、スザクの素顔が外気に触れる。
同時にゼロの仮面もまた、砕けて塵となって消えていき、その下のルルーシュの顔が現れる。

同じ顔をした男には会ってきたが、今目の前にいる顔は確かにかつて自分が手にかけた友と同じ表情をした存在だった。

「お前は、どんな世界でも相変わらず頑固なやつだな」
「――君のその身勝手な上から目線も、変わらないね」

小さく笑い合う、別世界の存在でこそあるが互いに通じ合った友。

やがて、体にはしる亀裂が顔にまで及んでくる。

「スザク、お前は生きろよ。魔王ではなく、人として」

最期に、かつてギアスの呪縛をかけられた時の友の願いと同じものを口にして。
魔王の体は塵となって消えていった。

風に吹かれて散っていく残滓を見送りながら。
静かにスザクは、纏っていたマントを外した。

【セイバー@Fate/stay night 死亡】
【ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー 死亡】


607 : 零の話・仮面が砕ける時 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/07/14(日) 19:36:23 /jEWi4qs0



【C-5/遊園地/一日目 真夜中】

【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:ゼロの衣装(マント、仮面無し)、「生きろ」ギアス継続中、疲労(大)、両足に軽い凍傷、腕や足に火傷
[装備]:ゼロの仮面と衣装@コードギアス 反逆のルルーシュ、ランスロット・アルビオン(右足・ランドスピナー破損、右腕破損、胸部貫通)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:基本支給品一式(水はペットボトル3本)、スタングレネード(残り2)@現実
[思考・状況]
基本:アカギを捜し出し、『儀式』を止めさせる
1:この場でだけ枢木スザクとして生き、皆の力となって帰還を目指す
2:他の生存者との合流
3:アカギの協力者にシャルル・ジ・ブリタニアがいる前提で考える


◇◇

主を失った魔女の力、コードは光となって還っていく。

行き先はCの世界――エデンバイタルの扉の奥。
本来であれば次の力を受け継ぎし者へと宿るべき力であり喪失されることはない。

しかしこの儀式によって制約のかけられた空間においてはその法則も絶対ではない。

純粋なるエネルギーと化した力は、しかし本来であればくぐるはずの扉を通らず別の門へと進んでいく。

儀式により因果、死者の魂といったエネルギーを集めるための門へと、意志もなく前進していき。

やがてその力は、突如その進行方向に現れた黒い闇が包み込んで消滅した。


608 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/07/14(日) 19:37:08 /jEWi4qs0
投下終了です

あと月報も近いようなので今期のデータを置いておきます
157話(+ 1) 13/57 (- 2) 22.8(- 3.5)


609 : 名無しさん :2019/07/14(日) 23:01:32 5hzqT3hs0
投下乙です

ゼロとセイバーも遂にここで脱落か。
それぞれ誰かを守る為に戦ったり、素顔で親友に別れを告げたりと救われた最期だったのだろうか。


610 : 名無しさん :2019/07/15(月) 20:29:01 TN5SeNIQ0
投下乙です
鞘持ちセイバーの未来への希望をかけた一撃で遂に魔王ゼロ、陥落……!
残されたスザクが今後どう動くかも気になりますが、桜戦が取りあえずの終結を見せたりどんどん最終盤の空気が漂ってきて今後が楽しみですね


611 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/09/15(日) 20:09:27 SZ4KSwuQ0
ゲリラ投下となりますが、暁美ほむら投下します


612 : 悪魔が生まれた日 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/09/15(日) 20:10:59 SZ4KSwuQ0
時を遡る。

暁美ほむらとアーニャが情報交換をしていた頃のこと。
アーニャから、エデンバイタルの有り方についてを問うていたほむらは、ある一つの方法を考えついていた。

「本気?」
「ええ、本気よ」

それは、自身の求める願い、全てのまどかの救済を叶える可能性となり、更に今のアカギ達のいるこの場における立場を盤石にしうるもの。

「一定の法則の中で、異なる世界の異なるものが類似性から同一のものと扱われる。
 アリスの能力に、私のソウルジェムが魔法少女の魔力と同じものを感じたのはそれが原因だと、説明したわね」
「そうよ、だけど似てるだけ。根本的には違うもの。
 更に言うわ。仮説としては有効かもしれないけど、でも私達はそんな実験は行っていない。どうなるかは分からない」

アーニャの口調には、ほむらを止めようとする意志が感じられた。
殺し合いの中のイレギュラーで生まれた貴重な体を案じているが故か。まさか本当に情から心配していることはないだろうが。

「第一、あなたがあれを継承するには、継承元が必要よ。
 エデンバイタルを通せば力を呼び出すことはできるかもしれないけど、色んな世界の力を繋げて均衡を保っているこの場ではそこまでのことはできないのよ」
「あら、あるじゃない?
 あなたの話を聞いていると、会場にはまだ残っているでしょ。
 エデンバイタルと契約して力を行使する人は」

これが、暁美ほむらが意識を落とすより前にしたアーニャとの会話。

そして少しずつギラティナの力がその身に馴染み、世界の裏へと移動する力の一旦が繰ることができるようになったほむらが。
エデンバイタルへと接続を行い、会場を俯瞰していたゼロとの接触を図ったのがその後のことだった。




613 : 悪魔が生まれた日 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/09/15(日) 20:11:16 SZ4KSwuQ0

一人エデンバイタルへの接続を図ったゼロの思念。
その意識の中で、ほむらはゼロへと接触した。

「お前は―――確かアリスと共にいた魔法少女だったか」
「暁美ほむら、よ」

自身の意識の中に突如現れた少女に対し、しかし困惑することもなく冷静に語りかけるゼロ。

「その名は放送で呼ばれたはずだが。しかし存在の残滓には見えないな。
 それも含めて色々と問いたいこともあるが、こうして私の前に姿を見せたということは何か目的があるのだろう?
 聞いてやる、話すがいい」

何故この場に姿を現したのか。何故現せたのか。

それらの疑問もほむらからの目的を聞けば分かることだと。
前置きを切り捨てて本題を問うゼロ。

「なら、単刀直入に言わせてもらうわ。
 あなたの持っているギアスの源である魔女の力、それを私に譲って欲しいの」
「――――……ほう?」

最初の一瞬で言葉を呑み込み、次の一瞬で言葉の意図を思考し。
放たれた声は興味と警戒、そして若干の殺意と共に放たれた。

「私は目的のために力が必要なの。
 アカギの持つ神々の力に匹敵するものが。
 エデンバイタルとやらと繋がることができるあなたの力を得られるなら、それも叶うかもしれない」
「その情報、お前がエデンバイタルから直接得たものではないな。誰から聞いた?」
「アーニャからよ。アーニャ・アールストレイム」
「アーニャだと?……なるほど、あの女に気に入られたというわけか」

アーニャの名を出したことに得心がいったのか、殺意が消えていく。

「では、幾つか問わせてもらおう。お前が魔女の力を継ぐに値するものかどうかを計るために」

しかし警戒心は変わらず、ゼロの見えない瞳から鋭い視線が向けられるのを感じ。
ほむらはそれをまっすぐに受け止めた。

「まず一つ。お前はギアスユーザーではない。我々とは異なる法則の中に生きるものだ。
 そんなお前にこの力を譲渡したとして、果たしてその体は耐えうるものなのか?」

まずほむら自身の肉体的資質、受け継ぐことが可能なのかどうかを問うもの。
もしも力が拒絶反応を起こせば、この体は崩壊してしまうかもしれない。
無為に散りゆくものに力の譲渡を約束することを受け入れるほど、ゼロは力を持て余した存在ではなかった。

「それは、可能性はある、としか答えられないわね。
 多くの世界の法則が混じり合ったこの場であればあるいは、ってところ。
 だけどギアスと魔法少女の力が近しいものとして扱われていることは実証済み。決して可能性がゼロではないと信じているわ」
「己の体が消滅するかもしれないリスクがあって尚も、挑むということか」
「ええ。私自身の果てのない望みを叶えるためだもの。それに一度死ぬはずだった体、今更命をかけることを躊躇ったりはしないわ」

ほむらの答えには迷いはなかった。
死というリスクがあって尚、欲望、いや、願いのために邁進する覚悟を持っていた。

次に問うのは、精神的資質、受け継ぐに足る心を持っているのかどうか。


614 : 悪魔が生まれた日 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/09/15(日) 20:11:45 SZ4KSwuQ0
「いいだろう、なら二つ目だ。
 この力を得た者には相応の役割が与えられる。世界の調律を果たすための歯車となる役割がな。
 お前に、その覚悟はあるのか?己を殺してその役を受け入れることができるか?」
「できるわ。あの子の世界を守るために必要だというのなら。
 ――逆にあの子を世界が拒絶するというのなら、世界を壊す覚悟もある」

一息入れてそう告げるほむらの瞳は真っ直ぐだった。
世界を壊す。ゼロ自身の思惑からは外れる行為ではあったが、しかしその目は決して嫌いではなかった。

あるいはこの娘なら、この世界のシステムの中に迎合していった自分とは異なるやり方で世界の形を導いていく可能性もあるかもしれない。


「なら最後の問いだ。
 これまでの質問にいくら望む答えを出そうと、このギアスは私が手放さない限りはお前の手元に向かうことはない。
 もし手放すことがあるとすれば私が死ぬ時だろうな。だが私は死ぬつもりはない。
 どうするつもりだ?この場で力づくで私から奪うというのか?」

最後の問いは手段。
まだ生があり、死を望むこともないこの魔王から、如何にして力を継ぐというのか。


「今の私にあなたと戦う力はないわ。こうしてあなたと話しているのも、それなりに無茶なことをしているわけだし。
 だけど、そこに心配はいらないと思っている。いずれ、そうね、近いうちにあなたは負けるでしょうね」
「ほう」

その返答に、若干興味を引かれるかのような反応を示すゼロ。

「この魔王たる私が敗れるというのか?」
「ええ。あなたはいつか必ず敗れ、命を落とすと思うわ」


「何を根拠に?」
「根拠なんて。決まっているでしょう」



「だって、魔王っていうのは、いつだって勇者に倒されるものじゃないの」


615 : 悪魔が生まれた日 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/09/15(日) 20:12:03 SZ4KSwuQ0

その回答に、一瞬虚を突かれたように思考を止められてしまうゼロ。

「―――勇者」
「ええ」
「いると思うのか?そのような存在が」
「いるわ」

ゼロはその先の根拠を問うたりはしなかった。
この少女は、まさに子供のような幼稚な発想を持ってこの魔王を説き伏せようとしているのだ。

もしこれを聞いたのがルルーシュであったならば虚に取られた後その意味を考えて長考してしまっただろう。

なのに、その言葉に妙な説得力を感じてしまった。
あるいはこの夢幻の場において感じ取っていたのかもしれない。
殺し合いを生き抜き、多くの死を乗り越えた者の因果がこの魔王の首元に刃を突きつけようとしている気配を。

それが勇者とでも名付けられるような存在なのかもしれない。

「ふ、フハハハハハハハハハハハ!!!」

言われなければ気付かなかっただろうそんな小さな死の気配を意識させられてしまった。
一周回ってあまりにも愉快な事実に思わず笑いだしてしまった。

「いいだろう!魔法少女よ!
 私が命を落とした際には、この力を受け継ぐことを許可しよう!」
「……!!」

ほむらの無表情を作ろうとしている瞳の内に歓喜の色が映る。

「ただし―――」

だが、ゼロとてほむらに過度の配慮をするつもりはない。
あくまでも力を受け継ぐことを許可しただけ。

「力はお前が受け取りに来い。エデンバイタルに取り込まれて消えてなくなる前に、な」

エデンバイタルに還る時、この力は今いるこの夢の空間より更に奥を進むだろう。
言わずともほむらはいずれその事実に気付くはずだ。

「無論、容易なことではなかろう。故に私からの試練とでも受け取るがいい」
「―――分かったわ、あとのことはこっちでどうにかする」

これ以上ねだるのも限界だろう。むしろ下手に強請って機嫌を損ねることの方が怖い。
会話は終わったとこちらに背を向けるほむら。

「一つ言っておこう」

そこに一言、ゼロが呼びかけた。

「お前の願いは知らん。だが、この力を得た時にお前が進む道は孤独の道だ。
 その覚悟は私が死ぬまでにしておくがいい」
「……孤独の道、ね。
 そんなもの、ずっと歩んできたわ」

答えるつもりもなかったが思わず、ほむらはゼロの呼びかけに答えていた。



これが、ゼロがスザク、セイバーという勇者と戦うより前、夢幻の空間でほむらと交わした会話。




616 : 悪魔が生まれた日 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/09/15(日) 20:12:25 SZ4KSwuQ0
そうして、ゼロは死んだ。
聖剣エクスカリバーの星の光は、エデンバイタルから承った魔王の体をもってしても耐えられなかったのだ。

ゼロが消滅した今現在。
形を失い、集合無意識の中へと還っていこうとするコードの軌跡の前に、黒い影はいた。

ここまで来るのは大変であった。
ゼロがいつ倒されても間に合うように早急にこの場所へとたどり着く準備を進めた。

アクロマを説得してギラティナを縛る赤い鎖の力を緩め、ほむらの中に宿った、ギラティナの持つ異空間へと渡る力を増幅させた。
そうして空間を渡って門の近くへと来た。
しかしその姿はほむらのものではない。黒く巨大な翼を持った骨のような竜の姿。



『念の為の保険ですよ。あなたがその力を受け継ぐことができるかどうか、できたとして例えば拒絶反応などが起きて肉体が崩壊することが無いように』

ぐったりとしたギラティナに、紫色のガスを浴びせるアクロマ。
それを見つめるほむらの頭部には、怪しい機械が取り付けられている。

そのガスはアクロマのいる世界の派生の一つの中で生み出された道具。
ある狂気の思想に陥った男が開発した、人間の精神をポケモンの内に転移させるというものらしい。

『伝説のポケモンをこのようなことに使うのは甚だ不本意ではありますが、今は私の命が第一です。それにギラティナほどの力であれば存在崩壊、死まで至ることはないでしょうし』

ほむらは適当に言い繕えばいいとは言ったが、言い訳として通じるとは限らない。
ならばむしろ成功してこちらの安全を確保することの方が優先事項だと。

そういって機械のスイッチを操作したところで、ほむらの意識はギラティナの中へと取り込まれていった。


それがほむらの体がギラティナと化した経緯。
念を入れてくれるのはありがたいが、おかげでゼロの死ギリギリにこの場に到着することになってしまった。

目の前を飛ぶ、エネルギーの塊となった光の球に静かに触れるほむら。


瞬間、全身に激しい衝撃が走り、同時に意識に混濁が起こった。
肉体をギラティナに依存させ、自身の存在は精神だけに留めているような状況で、まるで全身の内側から剣が生えてくるような感覚に襲われる。

それだけでも気がおかしくなりそうな状況で、自分の意識の中に様々な光景がひたすら移り続けていく。


617 : 悪魔が生まれた日 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/09/15(日) 20:12:46 SZ4KSwuQ0
人が進化していく歴史。積み上がっていく屍。
多くの魔法少女の希望と絶望の歴史。
それだけではない。エデンバイタルの管理外の世界の光景すらも、会場につながった門を通じて流れ込んでくる。

二匹のそっくりな白い獣が争う様子。
空を飛ぶ巨大な建造物から放たれる赤い光。
炎に燃えていく男を看取る死神。
ピンク色の悪魔に飛び蹴りを放つ金色の魔王。
神殿のような場所で殴り合う魔神と少年。

あまりにも多い情報量に脳が悲鳴を上げる。

だが、これでも肉体的な負担はギラティナに押し付けているからこそ耐えられているのだということが分かる。
もしこれが元々の暁美ほむらとして受けたものであれば、きっと耐えきれず意識は霧散し消滅していただろう。

脳裏を過ぎていくたくさんの光景の中で、それでも視界に焼き付いたものがあった。

魔と成り果てようとしている自分に絶望して涙を流す少女。
死にゆく友のために、白い悪魔に契約の意志を告げようとする少女。

そうだ、私が救うべきなのは彼女達だ。
そのためにどんな苦しみにも耐え、どんな悲しみも背負ってきた。

今更この程度の痛みが自分を止められるものか。

(―――私に、受け入れられなさい、意志だけの者達――!!)

体に降りかかる反動、その原因である、ギアスを異界の者に与えまいとする集合無意識の神達に強く抗い、むしろ押さえつけんとするほむらの意識。

やがて意識に浮かび上がってくる光景は、ひたすら一人の少女の姿だけを映し続けていた。

自分が救わねばならない者達、救いたい者達。
強く願い続けていると、痛みを乗り越え慣れたのか、それとも痛みを与える者の力を超えたのか、やがて体の痛みも引いてきていた。

同時に、ギアスの力の反動を押し付け続けてきたギラティナの体も少しずつ小さくなっているのを感じた。
縮小していく体は、ちょうど自分の元々の体程度の大きさに収まりそうだった。

体は力を乗り越えた。
そう感じたほむらは、手と思われる部分を振るい、この空間の中に小さな穴を生み出した。

ギラティナ自身が持っていた空間を渡る能力で生み出した、時空の歪み。
ちょうど今の体の大きさであれば抜け出せるだろう。

空間を抜け出していく最中に体の内から湧き上がってくる力を前に、ほむらの胸は高鳴りを感じていた。



ひたすらに機械の映す波を見続けるアクロマ、その隣に立つアーニャ。
そして頭に器具を付けて眠り続けるほむら。

そんな三人のいる空間に、黒く小さな穴が空き、そこから人一人分ほどの大きさの光が飛び出し。
眠るほむらの中へと飛び込んでいった。

薄い明かりのみで照らされていた場所を、目を覆うほどまばゆい光が照らす。
その奥でほむらの影は起き上がり、その体のシルエットを変化させていく。

膝の上ほどまでの長さであったスカートはその端を地面につくほど伸ばし、背中からはまるで丸めて引きちぎったかのような影が翼のように生えていく。

やがて影は立ち上がる。空間の奥から飛び出した輝く小さな石、ソウルジェムのように収まった白金玉がその手の甲に装着されドス黒く変色する。

光が収まった時、そこに立っていたほむらは露出度の高い黒いドレスのような服を纏い。
その腕に装着されていた魔法少女としての武器であった盾は巨大な金色の時計の針が生えている。砂時計を思わせる外見であった盾はまさしく時計のような形に変化していた。


618 : 悪魔が生まれた日 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/09/15(日) 20:12:56 SZ4KSwuQ0

「―――うまくいったみたいよ」

そう呟いた瞬間、ほむらの頭上の空間に、爪が振り下ろされたかのような亀裂がその体を飲み込まんと走った。
空間を割った一撃。物理的な防御が意味をなさず、魔力、魔術やポケモンといった力を使っても防ぎきれないほどだろう力を持っている。
しかしほむらは動揺することもなく手を頭上にかかげ、黒い影を生み出し異空間へとつながる亀裂を埋め尽くした。

それがほむらという異物に対して発動した防衛機能だったのか、あるいはアカギがほむらを試すために放った亜空切断だったのかはその場の皆には判断はできなかったが。

その一撃を受け止めたという事実だけでも、彼女の力がギアスの継承に成功しギラティナのそれと同等、あるいはそれ以上の力を手にしたということの証明だと。
無言なりにそう表情で告げる彼女から放たれる気配は、魔力を感じる能力のないアーニャとアクロマの二人ですらも畏怖を感じるほどだ。

「いやはや、その気というか存在感というか。まるでギラティナがあなたという形を取って権限したかのようですね」
「あながち間違いではないわね。アレには魔女の力の反動を押し付けて意識を完全に封じて、こっちで力だけを奪った形になるから」

と、ほむらの腕の時計の針がカチリ、と鳴り時間を戻すかのように動いた。
その手にはどこから連れてきたのか、白いウサギほどの大きさの小動物が収まっていた。

「隠れてないで出てくればいいのに。インキュベーター」
「アーニャ、これはどういうことかな?僕は君にほむらの監視を頼んでいたはずだけど」
「監視はしていたわ。私達にとって不利益になりそうなことをしないようにね。この子は使えると判断したから許したのよ」
「―――…まさか君にそんな人間らしい心が残っていたなんてね。見誤っていた僕のミスだ」

言葉の裏に自分に対する反骨の心があるように感じたキュウべぇは、そんな彼女と自分を戒める言葉を紡ぐ。
しかしその大多数はアーニャに対する抗議の念が強く感じられた。

「さて、成功ということは私の行動権限について、もう少し広げてもらうということでいいですね」
「ええ、構わないわ。それが約束だもの」
「待ってくれ、僕は許可しないよ」
「そうね、一応アカギとシャルルの意見は伺っておいたほうがいいかもしれないわね」

自分の存在が疎かにされていると感じたキュウべぇが抗議の声を上げ、追ってアーニャがフォローするかのような言葉を投げる。
しかしその裏には、二人が許可するならば自分の意見は放置してもいいという考えが見えていた。


「それにしても、ゼロの持っていた魔女の力とアカギの連れた二匹と同格の存在をその身に取り入れるなんて、随分と無茶をしたわね」
「アリスに最初に会った時のソウルジェムの反応とあなたから聞いた魔女の力の情報を照らし合わせて可能性を見て、あとは、まあ、信じる心ね」

ほむらの最後の言葉で笑いが吹き出してしまうアーニャ。口元を抑えて笑いながらも、問いかける。

「ふふふ…、今のあなたはもう魔法少女って呼べるような存在じゃないわね。いえ、一度死んで尚も蘇生した時点で今更かしら」
「そうね、今の私は―――」

少し考えるように沈黙したほむらは、掴んでいたキュウべぇの体を放り投げて手を掲げながら告げた。


「世界に混沌をもたらす魔女の力と世界の反対側に住む存在の力を身に宿して、自身に与えられた死という運命にすら抗った存在。
 そんな、世界の条理に抗ったような存在なんて、悪魔とでも呼ぶしかないんじゃないかしら」

悪魔ほむら。

そんな名が、今の自分にはとてもしっくりとくるような気がした。

今のほむらには知る由もないことだったが。
その姿、そしてその名はもしかすると有り得たほむらの可能性の未来のものと同じだった。


619 : 悪魔が生まれた日 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/09/15(日) 20:13:07 SZ4KSwuQ0



【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、ギラティナと同化、魔女の力継承、悪魔化
[服装]:悪魔ほむらの衣装@魔法少女まどか マギカ[新編]叛逆の物語、ギラティナの翼、まどかのリボン@魔法少女まどか☆マギカ 、右耳にピアス
[装備]:ダークオーブと化したはっきん玉、変質したほむらの盾
[思考・状況]
基本:アカギ達に協力、ないし利用し最終目標のための手はずを整える。
1:アカギを含む皆の動向を見て動く。
2:約束なのでアクロマの望むことを叶える。
最終目的:“奇跡”を手に入れた上で『自身の世界(これまで辿った全ての時間軸)』に帰還(手段は問わない)し、まどかを救う。
[備考]
※はっきん玉はギラティナの力と魔女の力を完全に取り込み自身の因果と同調させたことでダークオーブ@魔法少女まどか マギカ[新編]叛逆の物語へと変化しました。
 その影響でギラティナの能力を使用することが可能です。
 ギアス能力に当たる力も獲得しましたが詳細は後のSSにて明かしていきます。
※ギラティナの体はRガス@名探偵ピカチュウによってほむらの精神を移された後、ギアス継承の反動を押し付けられたことで力が弱まりほむらの体内に取り込まれています。
 ギラティナ自身の意識が弱まっただけの状態であり死んではいません。


620 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/09/15(日) 20:13:21 SZ4KSwuQ0
投下終了です


621 : 名無しさん :2019/09/24(火) 21:53:23 U8I8EmXE0
乙です
ゼロの力どうなったんだろうと思ったらほむらが継承したのか…。ラスボスとして対主催者の前にデビほむが立ち塞がりそう(こなみ)
魔王は最後に倒されるものと言うなら、悪魔も最後は倒される運命だがどうなるか


622 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:41:43 EEdhaflU0
投下します


623 : マギアレコード「答えはこころのなかに」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:42:27 EEdhaflU0
利用価値を無くしたと見たNに対し、最後の猶予として自身の持つ道具を渡すように命じたゲーチス。
茫然自失として身動きを取れないNに変わってサザンドラの攻撃を捌く織莉子。

「渡さないというのであれば、仕方ありませんねぇ」

芝居がかったような口調で喋りながら、レバーとスイッチを操作する。
どちらにしても容赦するつもりはなかったのだろう。こちらの戦艦から放たれたミサイルが、モニターに映るアヴァロンに向けて飛んでいく。

向こうも対抗するために弾幕を張り光の障壁が直撃を止めている。
しかしどちらも動きが拙く、幾つかは艦体に命中し爆炎を上げていた。

攻撃が続くと今後の脱出に向けた行動に大きな支障が出かねない。

「N!しっかりしなさい!」

現状をどうにかするには彼に行動してもらう必要がある。
サザンドラがこちらに攻撃を集中しているのも彼が動かないとゲーチスが見越しているのだろう。

だが、すぐに動ける状況にあるとも思えなかった。

分かっている。今の彼は過去の、父や周囲の人間の信頼全てを失った時の自分のようなものだ。
細かい違いはあるだろうが、自分の信じていた理想を根底から裏切られたという点では似ている。

そして、だからこそ共感をしてしまっていた。戦闘中だということもあるがどう発破をかけるべきかが自分の経験からは浮かばなかった。

サザンドラの火が体を掠め衣装を焼く。
転じて水晶を放とうとしたところでゲーチスの手の銃がこちらに向けられていることに気付く。
こちらの威力が高いと判断し反撃から防御に転じて水晶をかざして防ぐ。
しかしサザンドラへの視線がそれ、体を竜の気が覆い尽くす。
全身に走った衝撃と痛みに膝をつく織莉子。

更に銃を織莉子に向けるゲーチス。

その時ゲーチスの腕に巻いている機器から不意に音が鳴り響いた。
何かの警告音のようなアラーム。


624 : マギアレコード「答えはこころのなかに」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:42:56 EEdhaflU0
「どうしました、草加雅人。そちらの仕事は―――……。
 まさか」

機器に口を近づけて何かを呟いたゲーチスの表情が変わった。

ドォォォォン

更に追って、爆発音が鳴り戦艦内に大きな衝撃が走って足元を揺らした。


「チッ、サザンドラ!!大文字の後で炎に乗って波乗り!」

顔を顰めながらもゲーチスはサザンドラへと指示を投げる。
サザンドラの三つ首が炎を吹き大の字となって織莉子、Nの元へと迫る。
そこから少し遅れて、舞い上がった炎を煙幕のように巻き上げて押し付けてきた。

織莉子は手から放った光、マジカルシャインで大文字を抑える。
炎を止めきることはできなかったが、一瞬の隙をついて煙幕の向こうのサザンドラへと水晶を放った。

ギャッ、と悲鳴をあげて吹き飛ばされたサザンドラ。

炎と煙が収まり周囲を見回すと、そこにゲーチスはいなかった。

「逃げた…。追うわよ!しっかりしなさい!!」

Nの肩を叩いて発破をかけながらゲーチスが逃げたであろう方向へと駆け出す織莉子。
そこから一瞬遅れ、Nも織莉子を追って駆け出した。



「ポチャアアアア!!」
「グルルルル」

艦橋を抜け出してきたゲーチスは、そことは別の大量の機材の置いてある部屋にたどり着き、怒りで壁を殴りつけた。

そこでは、ポッチャマが水を吐き出して周囲の機材を破壊していた。
勢いのある水に濡れた機械は内部をショートさせて爆発して動きを止めていった。

更に、そういった行動を止めるはずのゾロアークは、こちらへ向けて牙を剥いている。
周囲にある壁の傷や焦げた跡、それらを見るに少し前までは戦っていたのだろうということが分かる。
何がきっかけで戦闘を止めたのか。おそらくは腕の機器が鳴った時、イクスパンションスーツの通信機が電波の途絶を確認した瞬間だろう。
電波の途絶、それはスーツの機能が停止したことを示す。

草加雅人自身の生死は分からない。
だが向こうの艦内に送り込んだ草加雅人が敗れ、既に言うことを聞く状態ではないことは分かる。

そしてスーツの機能停止と同時に、ゾロアークのボールジャミング効果が切れ、このポッチャマの攻撃を許したのだろう。

水に濡れショートした機材は爆発し、この斑鳩の機能にも障害を与えている様子だ。
先まで大量に放っていたミサイルなどの弾幕も数を減らしているのが分かる。
鳴り響くブザーの音は航空制御にも支障をきたしているということだろう。

「グォォォォォォ!!」

だが呆けている時間はない。
正気に戻ったゾロアークがこちらへと牙を剥いて襲いかかる。

「サザンドラ、ゾロアークを抑えなさい!!」

飛びかかったゾロアークを、左右の頭で噛みつきその腕を押さえつけるサザンドラ。

その間にせめてもの苛立ちの発散も兼ねて、部屋の隅に倒れたアリスに銃を向ける。
見張りともしもの時にアリスを始末する役割を合わせてゾロアークの傍に置いていた人質。だがここにきてもうその存在は必要ない。こんな少女一人で戦局は変えられない。

引き金を引こうとした瞬間、室内に攻撃を続けていたポッチャマがその殺気に気付いたように振り返った。

「ポチャ!ポチャアアア!!!」

その口から放たれた光る泡の光線が銃を捉え、引き金の引かれた銃を弾き飛ばした。
アリスへの狙いは寸前で反れあらぬ方へと銃が発砲。浸水にも耐えていた機械の一つに被弾し、衝撃で限界を迎えたのか爆発を引き起こした。


625 : マギアレコード「答えはこころのなかに」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:43:50 EEdhaflU0
部屋を転がる銃を拾いに行こうとしたゲーチス。しかし背後から迫る足音が近寄っていることに気付くと、銃を拾うのを諦めバッグに手を突っ込んだ。
アクロマからイクスパンションスーツを受け取った際に同時に渡された道具。
その手にした小さなシリンダーの中には紫色のガスが漂っている。

「ゲーチス!!」

追ってきた姿が廊下の角から見えた瞬間、そのシリンダーを部屋の奥へと投げつけた。
割れたガラスから漏れ出したガスは瞬く間に部屋の中を充満し、ゾロアークの姿を覆い、追って警戒して部屋の隅にアリスを守るように移動したポッチャマも包み込んだ。

奥へと逃げ出したゲーチスを追おうと走る二人。
その目の前に、二つの影が飛び出した。

「ゾロアーク、それにポッチャマ!?」

驚くNの前に立ちふさがったのは、眼光を光らせてこちらへ敵意を向ける2匹のポケモン。
混乱しているかのように正気を失っている。

だが、混乱と違いポケモン自身の声がNには聞こえなかった。
それでいてこちらへの敵意はあまりに鋭い。

「やめるんだ!!」

声を張り上げ制止するN。
だがその声が届かぬのかポッチャマは嘴での突きを、ゾロアークはその手の爪を振りかざす。

やむを得ずNはボールを取り出しリザードンを呼び出そうとしたところで、未来を見た織莉子が叫んだ。

「その煙から離れて!それを吸わせたら同じ状態になるわ!」

言葉に素早く反応し、大きく後退して煙の広がる範囲から離れるN。
そのままゾロアークの爪が目前まで迫ったところでリザードンをボールから呼び出した。

リザードンの手がゾロアークの体を押さえつける。
そのままリザードンが火炎放射を吐くと同時にゾロアークも口から炎を放射、ぶつかりあった炎の熱がガスを吹き飛ばす。

織莉子もポッチャマの嘴や放射される水を水晶で弾きながら捌く。
その水晶の一つがポッチャマの視覚外で鋭い光の刃を形成していた。

「?!」

リザードンとゾロアークの戦いに集中していたNは不意にその光景で意識を割かれる。
あれはポッチャマを止めるのみならず命を奪うための攻撃だ。

ゲーチスを追わねばならない現状であってもポケモンを可能な限り傷つけず助けようとするN。
対して織莉子はあくまでも効率を考え殺すことも視野に入れて動いている。

グレッグルのボールを取り出すが間に合わない。

せめて一瞬でも時間を稼ごうと叫ぼうとするNだが、意に介さないように織莉子は刃をポッチャマに向けて放ち。


ザクリ、と肉を切り裂く音が響き渡った。
吹き出した血が周囲の壁や床を塗らす。


626 : マギアレコード「答えはこころのなかに」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:44:23 EEdhaflU0
「〜〜〜〜!!!〜〜〜!!」

しかしポッチャマのうめき声は周囲に響いている。


「間に合った?」

そこには、青い髪の少女が右腕で織莉子の刃を、左手でポッチャマの回転しながら突っ込む嘴を押さえつけていた。

腕を払って水晶を飛ばし、空いた手でポッチャマの頭に作り出した剣の柄を叩きつけた。
意識を失って地に落ちるポッチャマの体を落ちる直前で抱きかかえる少女。

「君は、美樹さやかか?」
「ええ、向こうのアヴァロンから救援に来たの。あっちに来た刺客はこっちで対処したから」
「そうか…。だからゲーチスは」
「ゲーチスさんは、どっちに行ったの?」

ポッチャマを織莉子に渡しながら問うさやか。
右腕と左手に大きな傷を負っていたはずだが、完治したのか既に小さな跡一つ見当たらなくなっていた。


逃げた方を指し示すと、さやかは手に剣を作り揉み合って戦い続けるゾロアークに目をやる。

「分かった、私が対処しとくから、あんた達二人は早くアヴァロンに行って。外に魔力で道を作っといたから」
「待ってくれ。ボクも残る。ゲーチスにはまだ聞きたいこともあるし、ゾロアークはボクが助けたいんだ」

言葉の中に、ゾロアークにもさやかが対処するという意図を感じたNは、それでも自分の力で止めたいと言う。
非効率なのは分かっているが、ゾロアークの実力を一番把握しているのも自分だ。少なからず時間を取られてしまうだろう。
そして同時に、ゲーチスはNにとって父である存在。まだ確かめたいことは残っていた。

「なら織莉子だっけ。あんたは早くこの子を連れて向こうに行って」

アリスの体を抱えあげて織莉子に渡しながら言う。

「いいのかしら、私が向こうに行っても?あそこには、鹿目まどかもいるんでしょう?」

その体を背負いながらも問いかける。

美樹さやか。
その姿は知らないわけではない。織莉子が見た多くの光景の中で鹿目まどかの傍にあった。彼女も魔法少女だとは思わなかったが。
そして彼女の友人であった存在が今更自分のことを知らないとも思わなかった。

しかしここでするには少し意地の悪い問いかけでもあっただろう。

「そうね。正直あんたには色々言いたいこともあるし、ぶっちゃけもっと時間あったら殴りたい気持ちもあるわ。
 だけどまどかが言うのよ。あんたは悪くない、だから恨んでいない、って。私やマミさん達と同じ、奇跡を信じた魔法少女だから、って。
 だから今私にあんたをどうこうするなんてできないのよ」
「…私が向こうに戻って彼女を手にかけるかもしれないわよ?」
「もう、うるさい!!その辺は向こうにいるみんなに賭けて、もしそうなったらあんたを信じるって言ったまどかとそのまどかを信じた私を恨むわよ!!
 早く行け!!」

時間もないと、問いかけ続ける織莉子を急かすさやか。

数秒の沈黙の後、アリスとポッチャマを抱えた織莉子はさやかの示した方へと向けて早足で駆け出した。

振り返ってNの方を見るさやか。
未だにリザードンはゾロアークに手を焼いている。

「…こっちはボクの方で対処する。だから君は先にゲーチスの方に」
「なら私が」
「トモダチなんだ…、彼は」


627 : マギアレコード「答えはこころのなかに」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:44:46 EEdhaflU0

絞り出した言葉には、さやかにゲーチスを託さねばならないことへの悔しさと、それでも見捨てられない存在であることへの葛藤。
何よりどうしても助けたいという感情が混じっていた。

Nとゾロアークの関係は分からないさやかにも、その言葉の中にある重さを感じ取らせた。

残るNに静かに背を向けて駆け出したさやか。


一人残ったNは、リザードンにゾロアークから距離を取るように指示する。
しかしゾロアークは一息もつかせないかのように迫りくる。

それを押さえつけているリザードン。
高い実力を持っている彼だが、いつまでも指示がない状態で持ちこたえることは厳しそうだ。だが無闇な攻撃指示を出せば状況を悪化させるかもしれない。
早く打開策を見つけなければならない。

呼びかけても通じない。声も聞こえない。
あるいはボールに戻せば、ダメだ、所在が不明。ゲーチスが持っていっているならばなおのこと不可能。
状態の解析、治癒。いや時間もかかるしそれだけゾロアークの負担が大きくなる。
時間経過による治癒。これも厳しいだろう。ゲーチスは抜け目がない。そうすぐに治癒できる状態のポケモンでは時間稼ぎにはならない。

「……ボールに回収…?」

ふとNの脳裏に一つの可能性が浮かんだ。
バッグに手を突っ込み一つのボールを取り出す。

スナッチボール。他者のポケモンを奪うことができるという改造モンスターボール。

その存在の危険性を危惧してこの手に収め決して外に出さないようにしていたボール。

(これを使えば…、ゾロアークを…)

ボールの所有権を奪うことができるならば、この手に彼を保護することも可能なはず。

「リザードン頼む!ゾロアークを可能な限り弱らせてくれ!」

保護という名目の上でも、友に攻撃を加えることに抵抗がないはずがなかった。
それでもこれしかないと締め付ける心に耐えて、リザードンに指示を出す。

受け取ったリザードンは首を縦に振り、掴みかかっていたゾロアークを投げ飛ばした。
さらに起き上がるよりも早くリザードンは翼を輝かせ倒れた体へと叩きつける。
床をバウンドして転んでいくゾロアーク。その痛々しい姿にNは唇を噛む。

起き上がったゾロアークはすかさずその手に気のような力を集めた気合玉を放出。
対するリザードンも口から龍の怒りを放ち迎え撃った。

宙で爆発、巻き上がった気が視界を塞ぐ。

次の攻撃を警戒し構えるリザードンの体が、不意に吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられ膝をつくリザードン、その体には鋭い爪の跡。

イリュージョンによる幻影で周囲の景色から自分の姿を消したのだと悟り。
殺気を感じて身を屈めると頭上を風が駆け抜けていった。

(ゾロアーク…!イリュージョンをこんな使い方で…!)

厄介な状態に周囲を見張るN。
その時バッグの中のボールから光が飛び出す。


628 : マギアレコード「答えはこころのなかに」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:45:09 EEdhaflU0

「グレッグル?!」

現れたグレッグルはNに振り向いて親指を立てる。

何もない空間に不意に腕を突き出したグレッグル。
その瞬間、鳴き声と共に景色が歪み、地面を転がるゾロアークの姿が映った。

「そうか、危険予知か!」
「グィッ」

グレッグルの意図を悟ったN。

間髪入れずゾロアークは周囲の景色を更に歪めた。

周囲を見回すNとリザードン。しかしグレッグルは冷静に静寂を保っている。
グレッグルは次の一撃で決めろと言っている。言葉を発さずともその背中が語っているようだった。

そう、言葉などなくとも、通じ合うことはできる。
だからこそ、今のゾロアークは通じ合うための意識すらも奪われていることが分かる。

(ゾロアーク、今助ける―――)

景色の中で空気が張り詰め。

グレッグルの体がビクリと動く。

「グレッグル、瓦割りだ!!」

その体をぐるりと回転させて、背後に腕を伸ばす。
勢いよく叩きつけられた拳は、後ろで爪を研ぎ襲いかかったゾロアークへと直撃。
その身をくの字に折り曲げながら飛ばされていく。

「グ、ギャア」

悲鳴を上げたゾロアーク。
受けたダメージが蓄積しているようで、起き上がるのも一苦労の様子だ。

「頼む、モンスターボール…!」

ゾロアークに向けて、スナッチボールを投げつける。

ボールが着弾すると同時に体が光に包まれて小さな球体の中へと収まっていく。
ゆらり、ゆらりと数度揺れた後、やがて沈むような音と共に静止し動かなくなった。

静かにボールを拾い上げるN。

スナッチボールという兵器にも近いものを使ってしまった事実への悔恨と、それ以上の友を助けられたことに対する安堵。
しかし休んでいる暇はない。

と、Nが気を取り直したところで戦艦内から激しい音が響き渡った。

衝撃に揺れる地面。
倒れそうになる体を支えながらもリザードンとグレッグルをボールに戻し、ゲーチスの去った方へと向けて走り出した。


629 : マギアレコード「答えはこころのなかに」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:45:31 EEdhaflU0



さやかの作った音符の道を辿ってアヴァロンへと帰還した織莉子。
その道中で目にしたのは、二人の男の亡骸。

上半身と下半身を分けられた男と、背と壁を真っ赤に染めて地面に倒れ込んだ男。
後者は知っている。あの時自分に死人を出さない方向で手を貸したいと言っていた名探偵を名乗った者、Lだった。

一瞥した織莉子は、それ以上振り返ることもなく皆がいるであろう場所、艦橋へと向かい、たどり着いた。

「戻ったか!」

そこには、機械に張り付いて必死に手を動かしている男と、その近くで男の出す指示に従ってあくせくと動いている鹿目まどかの姿があった。

「あなたは――」
「悪い、自己紹介とかは後だ、今は手を貸してくれ!」

焦りながらも助けを求める男。
同時に警告のようなブザー音が鳴り始めた。

「まどか、そこの機関砲の制御を頼む!」
「はい!」

まどかは走って指示された箇所を操作する。
接近したミサイルが、戦艦の弾幕に防がれて爆散していく。

この広い場所で、二人で武装制御をして攻撃を防いでいる。
確かに手は必要だろう。

「くそ、Lはまだ戻らないのか…!!」

思わずぼやいたのだろう声が聞こえた。

「―――」

もしかして知らないのだろうか。

「あなた、Lは――」
「織莉子さんっ!!」

思わずびくりと肩を震わせてしまった。

見ると、まどかが小さく首を横に振った。
その瞳には、かすかにだが涙が滲んでいるのが見える。

今は黙っていろと、そういうことなのだろうと悟った。

アリスとポッチャマを寝かせ、まどかの動かしている場所の反対側の席につく。

指示に従い手を動かしながらも、頭の中ではずっと別のことを考えていた。

もし今ここで指示に反して攻撃を通してしまったらどうなるだろう?
艦は落ちてきっと自分は死ぬだろうが、鹿目まどかも命を落とす。
簡単、といっていいのかは分からないが、少なくともこれまで色々と策を練ってきたことに対したら易しいことだ。護り手である暁美ほむらもいない。

考えだけはいくつも浮かんでくる。なのに、実際に行動に移そうという気にはなれなかった。

小さな犠牲も許さないと立ち塞がってきた者がいて。
非情に徹して生きようとした自分を止めようとした者がいて。
大切なものを傷つけた人を赦しはしなくても信じることを迷いなく選んだ者がいて。

その中心にいるのが、この少女だった。

暁美ほむらのような異端者でなくとも、多くの人が彼女を守ろうとしている。
それは倫理とか道徳とか、そんな一般的なものだけではない。鹿目まどか自身の持つ人柄なのだろう。

ともすれば危険とも思えるものでもあるが、普通に生きていくだけならばそれは大きな魅力たりえるものだ。
そう、魔女にさえならないのであれば。

なんて。


630 : マギアレコード「答えはこころのなかに」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:45:45 EEdhaflU0

(なぜ私はそんなことを考えているのかしら)

彼女の人柄についてはずっと考えないようにしていた。
気にしてしまえば、きっと覚悟が鈍るから。

だけど、彼女の友であった美樹さやかを見た時。彼女の鹿目まどかに対する信頼を見た時。
これが友達というものなのだろうななんて無意識に考えていた。

自分は、キリカにとって良き友でいられたのか。
あの斑鳩の中での思考を思い返して気付かされた。自分には必要とあればどんな人物でも切り捨てることができる非情な心を持っている。
それはキリカとて例外ではなかった。

きっとこれは、まどかに対する強い劣等感を感じているのだろう。
随分と人間らしい心が自分の中に残っていたものだと自嘲した。

意識を現実に戻した瞬間、防ぎきれなかったミサイルが艦に着弾した衝撃で空間が揺れるのを感じた。

振動でまどかが地面に倒れ込む。

「痛っ…」

足をぶつけたようで、膝を赤く腫らしている。
さっきの攻撃を防いでしばらく攻撃が収まっているのを見た織莉子は、席を立ってまどかの近くに歩み寄って手を差し出した。

「織莉子さん…、ありがとう…」
「ありがとう、ね。あなたは、自分を殺そうとした相手にもそんな言葉が言えるのね」

一瞬遠い目をして、織莉子は続けて問いかけた。

「私にとって、世界はずっと灰色だった。
 そんな世界でも、救うことが私の使命だと思ったからどんな犠牲を積み上げても戦ってきた。
 ねえ、鹿目まどか。あなたにとって、世界ってどんな色なの?」

唐突な質問に一瞬きょとんとするまどかは、少し考えて、口を開いた。

「色、ってのは分からないけど。 
 私がいて、家族や友達や、色んな人がいて、いつだってみんなが楽しく笑っていられるような。
 そんな場所であってほしいって思うし、そんな世界が素敵だって思います」
「……」

その言葉に、ほんの一瞬瞳を閉じて何かを考えて。

「そう、きっとそれは素敵なことでしょうね」

少しだけ微笑んだような気がした。


「…んっ、…ここは…」

そんな会話が終わったところで、さっきの衝撃が響いたのか眠っていたアリスが目を覚ます。

「アリスちゃん!」
「ここは…、あ、そっか、アヴァロンの中…」
「目を覚ましたんだったら話は早い。
 寝起き早々で悪いが、さっき艦に着弾した場所の様子、ちょっと見てきてくれないか。
 今は攻撃が収まっているから、今のうちに状況を把握しておきたいんだ」

と、艦の状態把握を依頼されたアリス。
混乱しつつも立ち上がろうとしたアリスの肩を、織莉子がポンと叩き。

静かに艦橋を出ていった。

首をかしげながらも、こっちでの作業を任されたのだろうと思ったアリスは立ち上がって織莉子がいた席へと座り作業を始めた。





631 : マギアレコード「答えはこころのなかに」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:46:01 EEdhaflU0

静かに斑鳩の艦橋に戻りパネルに手を添えているゲーチス。
その後ろを、一つの足音が近づいてきた。

入り口に響いた足音に向けて振り返ったゲーチスは、目の前にいた人物に一瞬目を見開いて。

「なるほど、忌々しいものですね、本当に。
 まさかあなたがここに来るとは」
「ゲーチスさん、もう終わりです」

追いついたさやかは剣を向ける。

「あっちに来た草加さんは私が倒しました。
 もう残ってるのはゲーチスさん、あなただけです」
「ほう、あなたが彼を倒した、つまり殺したと!」

駒を削られた苛立ちを抑え、さやかの心を揺さぶり隙を作らんと叫ぶ。

「つまりあなたもめでたく殺人者の仲間入りを果たしたというわけですか!」
「そうよ」

しかし返ってきた肯定の言葉には一切の迷いがなかった。

「杏子も殺した。村上さんも殺した。草加さんも、私がこの手で。
 その罪から逃げるのはもう止めたんです。
 守りたいものを守るために、その責任からも罪からも絶対に逃げないって」
「チッ」

揺さぶりに一切の効果がないと知ったゲーチスは舌打ちをして苛立ちを更に募らせた。

「忌々しい、ああ、忌々しい!!
 私の計画を邪魔した少年、私の体に傷をつけた小娘!
 いつだって貴様達のような子供が私の前に立ちふさがる!」

喚き散らすその姿には、今まで自分が見せられていた冷静で紳士的な口調で話すゲーチスはどこにもなかった。
今までの姿が仮面だったのだろうとさやかは悟る。

「何で、そんな人を傷付けるようなことしかできないんですか!
 それだけ頭が回るなら、もっといいこともたくさんできるでしょう!」
「だからあなたは小娘なのですよ!
 私自身の力だ、より強く、より高みへと昇って自分の望む世界を作り出したい、それは当然のことでしょう!
 私に従わないものも、私より強い力を持っているものも、皆邪魔なのです!」

モンスターボールを取り出しサザンドラを呼び出そうとするゲーチス。
しかしさやかは向けた手の剣の刀身を射出。ボールに当てて弾き飛ばした。

「ぐぅっ…」

ゲーチスは呻きながら衝撃で痺れる手を抑える。
ボールは手に届く場所にない。手元に銃はあるが、別に慣れた武器というわけでもないしこの化け物には通じるとも思いづらい。


632 : マギアレコード「答えはこころのなかに」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:46:22 EEdhaflU0

だが、と表示されたパネルの画面に目をやる。

「降伏してください。命までは取らないです」
「ふ、ふふ」

さやかの言葉に対して、不気味に笑うゲーチスは。

「そうですね、私の負けだ。
 ですが、ただでは負けません。私に屈辱を味あわせてくれたお礼はしっかりとさせてもらいます」

パネルを操作して何かを起動させた。

戦艦から巨大な音が響く。
ふと眼前のモニターに目をやると、艦の前面が開いている。

モニターの横には文字が映っている。

Hadron Braster・Fire

文字の意味は分からないが、それが何かの攻撃を行おうとしていることは察せられた。
この局面で行おうとしている攻撃がどんなものか。

「ゲーチスさんっ!!」
「ははは、いいですね!!その顔だ!!
 もっと絶望した顔を見せてくださいよ美樹さやか!!」
「ゲーチスっ!!!」

笑いながら拳銃を向けてきたゲーチスにさやかは一気に迫り。
銃に胸が撃たれることにも怯まず突撃をかけ、手にした剣で一気にその体を貫いた。

勢いは止まらずゲーチスの体を操作パネルの傍に縫い付けにし。
パネルに手をやったさやかだったが間に合わないと察する。

「みんな逃げて!!!まどか!!!!!」

思わず、眼前で放たれた赤き熱線の射線上にいる戦艦に向けて叫んでいた。



アヴァロン艦内。
目前の斑鳩の前面が機動し、艦内で警告のようなブザーが鳴り始めた。

「何だあれは?」

身構える月に対して、アリスの顔色が変わった。

「まずい、戦艦の主砲が来る!!
 ブレイズルミナスのエネルギーを艦体前面に集中させて!!」

その声に、急ぎ月はアヴァロンの前に障壁を展開させる。
それでもこの中で一応最も艦内の単語の意味に詳しいアリスには、眼前に展開された障壁では防ぎきれないだろうということは見えていた。

(ザ・スピードで脱出――ダメ、人数が多い…!)

ギアスでの退艦を考えたアリスだが、高度があまりに高く、自分一人でも賭けだ。複数人を連れての脱出など自殺に近い。

打開の手段をそれ以上考える間もなく。
逃げ場のない一同のいる場所へと向けて、赤き2本の熱線が放出された。




633 : マギアレコード「答えはこころのなかに」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:46:45 EEdhaflU0

そこまで、自分が見た未来と一致する。
そしてこの障壁でも耐えきれないだろう。

この先の未来の形は織莉子には二つ見えていた。

一つ。障壁を破られ熱線は艦橋を直撃。中の皆は命を落とし艦も墜落する。
一つ。障壁は破られるもかろうじて熱線が届くことなく艦はそのまま空を飛び続ける。

その分岐点にいるのが自分だ。

どちらを選んでも、自分は命を落とす。
自分だけ逃げるという選択肢は有り得ない。もし自分が多くの人を見捨てて自分の命に拘れるような人間なら、こんな難儀な人生は歩んでこなかっただろう。

ならば多くの人が助かる選択肢を選ぶのは自明の理。
どんなものでも切り捨てる覚悟は、時として自分の命も秤にかけさせるのだから。

ただ、そこにこれまでの自分としてではない、少しでも変わりたいと願う自分もいたことは事実だった。
鹿目まどかに対する僅かな問答。あれをもって自分の中で一つの答え――、とは言わなくてもきっかけが欲しかった。

守らねばならないもの、ではなく守りたいもの。
自身を縛る鎖ではなく、胸から出るような想いから来る願いで。

熱線が放出され障壁を破るより前に、多数生み出した水晶を展開、回転させその間にマジカルシャインの光を乱反射させる。
それで大きな光の盾ができる。

何故だろうか。
見える未来にはこのようなものでは守りきれないと出ている。そして自分も死ぬだろうということも。
なのに、この艦に乗る皆の無事が見える。

その未来は見間違いか、それとも起こり得る事象か。
おそらくは起こる未来でもあるし、起こらない未来でもある。
全ては自分にかかっているのだ。

こんな自分にできるのか。
違う、自分にしかできないのだ。


鹿目まどかは、果たして世界を滅ぼすのだろうか。
魔女にならない限りは有り得ないことだ。では、彼女は魔女になるのか。
もうその未来は見えない。色んな可能性が混じり合っておりどこにたどり着くのかも曖昧だ。
なら、悪い未来を潰すのではなく、良い未来の可能性を信じよう。
今の自分は、そうしたいと思っている。

光が視界を包む。
轟音が響き、赤い熱が障壁をぶち破った。

魔力を込めていた全身の負荷が一気に吹き出す。
意識が飛びそうな状況の中で、それでもと魔力を込めて壁を維持し続ける。

だけど2秒しか保たない。
その未来は変わらなかった。

―――ねえ、●●●

ソウルジェムが消耗に耐えきれず黒く濁り切り。

―――次は、もし次があったら、私もあなたと、彼女たちみたいな友人に、なれるかしら?

パキリ、と割れた。




634 : マギアレコード「答えはこころのなかに」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:47:00 EEdhaflU0

逃げようとしたアリスは一瞬の遅れで逃げ損ね。
しかし不意に感じ取ったのは強い魔力の反応。

ブレイズルミナスを破ったハドロン砲を、巨大な光の壁が遮っている。
だがそれもほんの数秒で消し飛んでいく。

壁を作り出している者が誰なのかを察する暇もなく衝撃と共にせめて逃げ出せるようにと構えていたアリス。

その時だった。
モニタを大きな影が覆って、光を遮った。

そこに膨大な魔力が吹き上がっているのを感じた。

「えっ…」

まどかも月も、逃げることを忘れてその光景を見守っている。

やがて、巨大な爆発音と共に影は晴れ、外の光景が見えるようになった。

艦の正面の縁辺りに、白い何かがへばりついている。

巨大なドレスのスカートのようなもの。よく見ると、その下にはたくさんの人形の手のようなものがある。
スカート、つまり下半身だが、上半身にあたるような場所は見えない。
だがその中心部が大きくえぐれている。

これは何なのか。

やがて、力尽きたように動かなくなったその物体は、静かに光になって消えていく。

そこに残ったのは、小さな石。
グリーフシードだった。

「織莉子…さん…?」
「…っ!」

月が急ぎモニタを切り替える。
しかし艦付近に人影はない。

ふと、宙にヒラリと舞う何かが見えた。
それは織莉子の纏っていたドレスの欠片。端々は黒く焦げており、先の物体と同じようにふわりと消滅した。

場にいた一同、特にまどかとアリスは悟った。
先の影は、織莉子の魔女化したものであり。

彼女はその身を賭して、この艦にいる皆を守り抜いたのだと。

あれが魔女としては偶発的だったのか、それとも明確な意志を持って立ち塞がったのかは分からない。

だけど、"美国織莉子"は確かに、この艦を守ったのだと。


【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ 死亡】
【ゲーチス@ポケットモンスター(ゲーム) 死亡】


635 : マギアレコード「Thank you, FRIENDS」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:48:45 EEdhaflU0
放たれたハドロン砲をなすすべなく見ていたが、それでも艦そのものは健在であったことに安堵するさやか。
何があったのかはよく分からない。だが何かはあったのはあそこから僅かに高い魔力の存在を感じたことから分かった。
それを探るよりも先に、艦が無事であることに安堵する。

ふと視線を横にやると、剣で壁に磔にされたゲーチスの姿があった。
剣は胸に突き立っており、即死、ないし刺されて間もなく死んだのかは分からないが完全に事切れている。

「はぁ、はぁ…、ゲーチス、ゲーチス!!」

そこからすぐ、追いついてきたNがゲーチスの姿を見て声を上げた。
悔しさと悲しさの入り混じったような、そんな嗚咽を漏らす。

「どうして…、ゲーチス…、父さん…!!」
「………。
 ごめん。どうしても、分かり合うことができなかったの」

最後の言葉に対し、申し訳無さそうに謝るさやか。

父さん。
ゲーチスとNの関係はよくは知らなかったが、その言葉に含まれた想いは決して軽いものではないのだろう。

「ボクは、ゲーチスの心を分かってなかった。自分のことばっかりで、分かろうともしてなかったんだ…」
「分からなくてもいいことだって、いっぱいあるわよ。私だって、自分が助けようとした人がこんな人だったなんて知りたくはなかったし。
 だからあんたはあんまり気負わずに、自分のやることをやればいいって私は思うわ」
「…君は随分と変わったね」
「巧さんの戦いを見てたらね。まあ他にも色々あったんだけど」

ともあれ戦いは終わった。あとはこの艦をどこかに止めてアヴァロンに戻ればいい。

まだ思うところがある気持ちを抑えて操作パネルに触れるN。

「……ん?」

ふと怪訝そうな声を上げた、その瞬間だった。

戦艦の中で、大きな爆発音が響き渡った。

あまりの衝撃で大きく揺れる地面に足を取られる二人。
起き上がりながらも、再度パネルに手をやったNの顔が驚愕に染まった。

「これは…!?」
「どうしたの?!今の爆発は何?!」
「やられた…!!操舵装置にロックがかけられている!
 しかも今の爆発で機関部が暴走している…、このままだと向こうの艦に突っ込んだ後墜落する!」


636 : マギアレコード「Thank you, FRIENDS」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:49:02 EEdhaflU0

モニタを操作して確認すると、エンジン部分に爆弾か何かを仕掛けられていたようで炎を上げている。
いつそれをつけたのか。おそらくはさっき逃げていた間だろうとさやかは考えた。

おそらくはここで自分が死ぬことを見越して、それでも自分たちを道連れにせんと一つでも策を打っていたということなのだろう。

「あんたは…っ!!」

ゲーチスの最期の表情に浮かんだ僅かな笑みがこちらに対する嘲笑に見えて、思わず壁を殴りつけたさやか。

「とにかく、向こうに連絡だ。
 急いで退艦しないと」

通信機まではロックする暇がなかったのか、通信機を起動させアヴァロンとの連絡を行うN。


『事情は分かった。だが猶予はどれくらいだ?』
「計算したところあと10分だ。それも余裕を持って見積もったとして」
『10分…、逃げるには短すぎるぞ』
「ああ、分かってる。だがこっちでは手が打てない…」

気を沈めている時間も惜しいと脱出の準備を始めるN。
こちらはまだリザードン達に乗って逃げ出せばいいが、向こうはそうはいかない。

魔法などを使えない月とまどか、負傷しているアリス。

ふと、手元のソウルジェムに目をやったさやか。
亀裂と濁りで危険な状態だ。どうやら魔力で道を作った分が響いたらしい。

「……」

通信機の向こうに目をやった。
不安そうな表情で、しかし自分にできることをやろうとあくせくと動いている親友の姿が目に映った。

手がないかと言われればたった一つだけ、さやかの中に浮かんでいることがあった。
できるかどうかは賭けで、失敗すれば皆を危険に晒すかもしれない。

「ねえ、一つ聞きたいんだけど、もしそっちを後退させる感じに動かせれば、少しは離せられる?」
『それくらいならできなくはないがそっちの方が速い。時間稼ぎにしかならないしその間はこっちもこの場を離れられなくなる』
「だったら、それをやってくれない?こっちで手を打つから」
『待ってさやかちゃん、何をする気なの…?』

さやかの言葉に、嫌な予感を感じたまどかは不安そうな声で問う。
皆に見えるようにソウルジェムを出して、さやかは語る。


637 : マギアレコード「Thank you, FRIENDS」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:49:21 EEdhaflU0

「私さ、もう限界っぽいんだよね。ソウルジェムも割れてるし。
 だから、ここで私が魔女化して結界の中にこの戦艦を持っていけば、そっちに衝突せずに済む。
 そっちのやつ今後のこと考えたら必要なんでしょ。だからこれが一番手っ取り早い」
『そんな!ダメだよそんなの!!それってさやかちゃん死んじゃうってことでしょ?!』
『…もしそれをやったとして君はどうするんだ?魔女としてずっとこの場所に残るってことか?』
「落とす戦艦ごと持っていくから、これの墜落に巻き込まれればそのまま消えられると思う」
『ダメだったときは?』
「……」

沈黙するさやか。
そこへ部屋の隅にあったボールからサザンドラが飛び出した。

「サザンドラ?」

真ん中の頭がグルルルとうめき声を上げる。

「もしもの時は、君がどうにかするって…、君はもしかして…」

サザンドラの意図を感じ取るN。
彼は贖罪を求めていた。主の悪事に加担し多くの人を傷つけたことに対する罪滅ぼしを。

そこに主の言葉のような嘘は感じ取れない。
止めたい気持ちは無論あったが、主ゲーチスのことを考えるとNとて静止することはできなかった。

「そっか、じゃあその時はお願いしていいかな」
『待って!!ダメだよさやかちゃん!!せっかく会えたんだよ!!なのに、また…』

進んでいく話に、まどかが悲壮な声で割り込んだ。
そんなまどかに、さやかはにっこりと笑って振り返りながら言った。

「まどか。お願いがあるんだ。
 もしまどかが帰れたらさ、仁美に恭介のことよろしく頼むって、そう伝えてほしいんだ。
 あいつ、たぶん仁美にも色々迷惑かけるだろうけど、じっくりと付き合ってやってほしいって」
『嫌だよ…そんなのさやかちゃんが自分で…、待って、さやかちゃ―――』

と、止めようとするまどかとの会話を打ち切るように通信を切った。

会話している間にも時間は過ぎて一刻一刻と近づいている。
考えれば何か見つかる可能性はあっても、その考える時間がない以上これしか手がない。

「じゃあ、あとのことは頼んだから」
「…」

一瞬の迷いの後、Nはリザードンを呼び出す。


638 : マギアレコード「Thank you, FRIENDS」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:49:45 EEdhaflU0

「君が助かる手は、やっぱりないんだね」
「どうせもう長くないんだもの、だったらせめてみんなを助けた方が有意義でしょ、ってね」

これが現状の最善なのだと、Nも自分を納得させる。

「分かった。
 君の友達のことは、任せてくれ」
「うん」

その言葉を最後に、リザードンに目の前の強化ガラスを破壊する指示を出すと同時。
さやかとNは共に逆方向に部屋を飛び出した。

リザードンに乗ったNは割れたガラスから外へ、可能な限り斑鳩から離れるために。
サザンドラを伴ったさやかは斑鳩の奥に、可能な限りこの戦艦と共に爆散できるように。



魔力を込めた剣を地面に振るい、その硬い床に穴を空けながら戦艦の奥へと進むさやか。
やがて動力室に思える、巨大な空間にたどり着く。

発電機のような何かが高速で動き、パイプを伝ってエネルギーを供給している様子だ。
おそらくここが、この戦艦の中心部に当たる場所だろう。
ここに陣取れば、おそらく結界に取り込み損ねることもないはず。

時間がないとはいえ、魔女となった自分を制御できると思わない。可能な限り万全を尽くしたい。

「あんたは部屋の外で。もし私が死に損ねた時はお願い。
 だけどちゃんと死んだ時は、あんたも逃げるのよ」

コクリ、とサザンドラはうなずく。

部屋の隅にソウルジェムを置いて、手に剣を作り直すさやか。
今までのような細身の片刃剣ではない。人体も軽く切り裂けそうな刀身の、巨大な剣。
これが最後の一撃にできるように、最大限の魔力を込める。


「すーぅ…はーー」

こわばる体をほぐさんと深呼吸をして。
目を見開き。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

気合を入れるように雄叫びを上げながら。
残った魔力を全て込めるがごとく、その剣を動力源へと向けて叩きつけた。

衝撃で爆発するサクラダイトのエネルギーの中で、さやかの体は炎に包まれ。

魔力が肉体の再生を図る中で、魔力は枯渇しソウルジェムはその形を変化させた。




全力でアヴァロンを後ろに後退させる月。
方向転換は間に合わない。このままの艦の姿勢でひたすら後ろに下がるしかない。

まどかはモニタに向かって呼びかけ続けている。
今にも機械を壊さんとするほどの勢いの彼女を、アリスは必死に抑えていた。

やがて、眼前の斑鳩から一際大きな爆発が吹き上がり。
同時に空間が歪むような錯覚をその場にいた皆が見た気がした。

斑鳩の内側から巨大な剣と、それを持った異形の腕が見えた瞬間、斑鳩を覆うようにその空間の歪みが広がって。
艦体を取り込み、そこからもう少しの空間に広がった後、まるでそこには何もなかったかのように内にあった全てを呑み込み消滅した。
こちらも後退して時間を稼いだとはいえ、あと1分ほどで接触しただろうというギリギリのタイミングだった。

その空間には、何もない場所にまるでそこを縄張りとでも言うかのような模様が浮遊している。

まだ安心はできない、とアヴァロンの制御に勤しむ月。

「さやかちゃぁぁぁん!!!!」

その光景を見たまどかの絶叫が、アヴァロンの艦橋に響き渡った。




639 : マギアレコード「Thank you, FRIENDS」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:50:01 EEdhaflU0

友の絶叫の声は届かない。

殻の内側にこもった人魚の魔女は、ただひたすら炎の中で指揮者のように剣を振るいながら、炎の中で鳴り響く音楽に身を任せ続けた。

ただ、その姿にはまるで燃え盛る炎を宥めようとしているようにも見えたかもしれない。だがそれを推し量ることができる存在はこの空間にはいない。

やがて地に落ちた空を飛ぶ船は地に落ち、炎を上げながら消えていく。

爆発。
衝撃はその巨体を爆煙に包んで吹き飛ばした。

剣はへし折れ、腕は燃え落ち、頭には爆炎と共に飛んできた破片が叩きつけられ破砕した。


ボロボロになる体。
しかし、それでも人魚の魔女は消滅することはなかった。
元の少女が戦いを通じて成長し強くなったが故のことか、単純に元からこれに耐えきれるほどには頑丈だったのか。

残った手を、まるで救いを求めるように上に掲げる。

その視線の先で、一筋の光が迫った。



三つ首の竜は、全身に竜の気を纏って魔女の元へと飛翔する。

そんな彼はふと、自分にとって主とはどんな存在だったのだろう、などと考えた。

元より主の行っていた行動が正しくないものではないのは百も承知だった。
それでも他の者達も主に逆らうことはしないように、ひたすら彼に従ってきた。
ただ力だけを求められ、もし及ばなければ痛めつけられることがあっても。

命を落としたのは、自業自得だとも思う。
だけど自分にとっては、ただ一人の主だったのだから。

だからこれはその敵討ちのようなものかもしれない。
仁も義もない、ただのやつあたり。



そのまま竜を象った気は、一直線に空を見上げる異形へと衝突し。
形を失って爆発していく魔力の中に消え去っていった。





640 : マギアレコード「Thank you, FRIENDS」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:50:19 EEdhaflU0

「……!!リザードン!!」

消え去っていく戦艦を離れた場所で見守っていたNとリザードン。
もしも魔女が死に損ね、サザンドラもしくじった際の保険として身構えている。
結界に巻き込まれない、しかし結界から離れすぎない位置で。

そんな時に、宙に浮かんでいた模様がゆらぎ、薄れていった。
結界の主が消え去ったことを示すかのように。

やがて消えていく模様の中心から、小さな何かが吐き出された。

降下していく小石のようなものへとリザードンを急がせ、地に落ちる前に手に取った。


装飾の入った小さな宝石。
乾巧が魔女を倒した時に現れたものと同じ。

美樹さやかが生き、死んだ証がその小さなグリーフシードだった。




消えていく魔女の結界の模様を見届けたアヴァロンの艦橋の皆。

まどかは、ゆっくりと腰を後ろに落とした。

目の前で起こったことが何を示すのかを悟ったから。

その瞳から、一筋の雫が流れた。

ほんの少し前までは、みんな生きていた。
草加雅人も。
Lも。
美国織莉子も。

それでも涙は堪えてきた。
足手まといになるわけにはいかないから。頑張る皆に余計な不安を抱かせないように。

だけど、その一滴をきっかけに。
抱え込んでいたもの全てが決壊するかのように涙が止まらなくなり。

まどかは、声を上げて泣き続けた。全ての悲しみを吐き出すかのように。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】

【E-6/アヴァロン/一日目 真夜中】

【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(小)、ゲーチスの言葉によるショック
[装備]:サトシのリザードン@ポケットモンスター(アニメ)、タケシのグレッグル&モンスターボール@ポケットモンスター(アニメ)、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[道具]:基本支給品×2、割れたピンプクの石、ゾロアーク(スナッチボール)@ポケットモンスター(ゲーム)、グリーフシード
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:ポケモン城に向かい、クローンポケモン達を救う
2:世界の秘密を解くための仲間を集める
3:ゲーチスの言葉に対する強い精神的ショック
4:ゲーチス…、美樹さやか…
[備考]
※モンスターボールに対し、参加者に対する魔女の口づけのような何かの制約が課せられており、それが参加者と同じようにポケモン達を縛っていると考察しています。



【夜神月@DEATH NOTE(漫画)】
[状態]:疲労(特大)、右頬に大きな裂傷(応急処置済) 、顔面のダメージによる視界不良(徐々に回復します)
[装備]:スーツ
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:キラではない、夜神月として生きてみたい
1:アヴァロンに乗って行動する
2:Lと力を合わせて会場の謎を解く
3:……
4:メロから送られてきた(と思われる)文章の考察をする
[備考]
※死亡後からの参戦


641 : マギアレコード「Thank you, FRIENDS」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:50:38 EEdhaflU0


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み)、強い悲しみ
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ、ブローニングハイパワー(13/13)@現実、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、トランシーバー(電池切れ)@現実 、薬品
[思考・状況]
1:………
[備考]


【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:ダメージ(小)、ネモと一体化、全身に切り傷、左肩に打撲と骨にヒビ
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(9+1発)@現実、ポッチャマ(気絶中)@ポケットモンスター(アニメ)、双眼鏡、 あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。
1:ナナリーの騎士としてあり続ける
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:鹿目まどか……
最終目的:『儀式』からの脱出、その後可能であるならアカギから願いを叶えるという力を奪ってナナリーを生き返らせる
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※アリスのギアスにかかった制限はネモと同化したことである程度緩和されています。
魔導器『コードギアス』が呼び出せるかどうかは現状不明です。


※さやかのバッグと支給品、サザンドラ、斑鳩は魔女の結界消滅に伴い消えました。


〜〜♪





広いコンサートホールの空間で、一人の少年がバイオリンを引いている。

透き通った音色は聞くものの心を包み込み、心地よい気分へと誘う。

後に天才と謳われることになる少年の、公の場で初めて弾く音楽。

しかしその音色とは裏腹に、初めてであるがゆえホールの席はまばら。

その中で、美樹さやかは静かに音色に耳を傾けていた。
瞳に映っているのは、バイオリンを弾き続ける少年、幼馴染である上条恭介。その後ろで心配そうに見守る親友の志筑仁美。

自分が守ったもので、だけど自分の手が届かないところに行ってしまった。
そして、自分自身も気がつけば彼とは遠い場所に来てしまっていた。

だけど後悔はなかったと思う。


ドサリ、と、自分の隣の空席に、誰かが座るのを感じた。

座り方から、誰なのかはすぐに分かった。

「で、どうだった。
 色々頑張って、走りきってみた感想は」

と、そんなことを言いながらこちらにりんごを放ってきた。
自分の分も手元に置いているのか、咀嚼音が聞こえてくる。


642 : マギアレコード「Thank you, FRIENDS」 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:50:56 EEdhaflU0

「横でそんな風に食べられてたら、色々台無しなんだけど」
「何だよ、せっかく来てやったっていうのに」
「……あんたにも、悪いことしちゃったよね。杏子」

りんごを突き返しながらも、申し訳無さそうに言うさやか。

杏子に対する罪、それだけはずっと心の奥でつっかえたまま取れなかった強い後悔だった。

「おい」

りんごをひったくった杏子は、若干怒気を混じらせて呼んできた。
顔を上げて杏子の方へと向くと、額に鋭い衝撃が走った。

思わず頭を仰け反らせながらもデコピンされたのだと悟った。

「ーーっーーー。いきなり何すんのよ!!」
「今更んなこと気にしてんじゃねえよ。
 まあ殺されたのはアレだけどさ、さやかはずっと頑張ってきたじゃねえか。
 自分の気持ちにまっすぐに貫いて自分の信じるものを守り抜いたんだろ。
 ならそれでいいんだよ」
「……」

ふと、目を前に向けると恭介はいなくなっていた。
代わりに、たった一人残してきてしまった親友が泣いている姿が見えた。

「まどか、また泣かせちゃったんだよね」
「大丈夫だよ、あいつは。
 さやかが思ってるよりずっと強いやつだし、それに今のあいつには支えてくれるやつがいるしな。
 そいつらのこと、信じようぜ」
「……そうだね」

やがて、まどかの姿も遠くなっていく。

「じゃあ、行くぞ」
「うん」

どこに行くのかとはもう聞かなかった。


ただ一言だけ、

「ありがとう、まどか、皆。
 頑張って」

そう呟いて、杏子の後を追って歩き出した。


643 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/16(水) 21:51:11 EEdhaflU0
投下終了です


644 : 名無しさん :2019/10/17(木) 01:12:32 IlVX9Pek0
投下乙です
やっぱりさやかちゃんと織莉子はここで脱落か。まどかのメンタルはどうなるんだろう…
そして最後までゲスだったゲーチス。でもNにとっては死んで欲しくなかったんだろうなぁ


645 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/29(火) 20:45:52 ogRm8Rpg0
投下します


646 : 第四回定時放送 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/29(火) 20:46:51 ogRm8Rpg0
24:00。これより第四回放送を開始する。

まずは死亡者の名を読み上げよう。

草加雅人
村上峡児
木場勇治
ゼロ
メロ
L
セイバーオルタ
美遊・エーデルフェルト
ゲーチス
美樹さやか
美国織莉子

以上、11人だ。

続いて禁止エリアを発表する。

1:00よりE-7
2:00よりE-7
3:00よりC-5
4:00よりC-4

以上だ。


残り人数が10人を切ったがお前達の行うことは変わらん。
もし24時間以内に死人が一人も出ないようであれば呪術式の発動により皆が死ぬこととなる。
無論私としてもそのような結末は本意ではない。

ここまで人数が減ったのだ。お前達の健闘を祈った後放送を終了としよう。




647 : 第四回定時放送 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/29(火) 20:47:11 ogRm8Rpg0

黄昏の空に覆われた空間。
そこにはアカギの他にシャルル、アーニャ、そしてキュゥべえの姿があった。

たった今、4度目の放送を終えたアカギ。
殺し合いの儀式の人数は10人を切ったというのに、放送の内容には変化がなかった。

「代わり映えのしない放送ね」

アカギの傍に立つシャルルと共に控えていたアーニャがそんな感想を呟く。

「それに、正直残っている子達を見ても殺し合いが進むとは思えないし、大丈夫なの?」

混沌をもたらす者として己の役割に準じていたゼロ。
欲望の赴くままに他者を踏みにじり生き残ってきたゲーチス。

先の放送に残っていたこの二人は既に脱落した。

狂気に操られ、自身の体に巣食う闇を振り回して蹂躙の限りを尽くしてきた間桐桜。

唯一残った殺戮者の少女も生きてこそいるが、戦いの果てに力の大部分を失った。
精神状態を合わせて見ても残りの人数全てを殺しきれるとは考えられない。

「構わんよ。おそらく残った者達は近い内にあの場を脱する術を見つけることであろう」
「そして、そのためのあの娘だ」

暁美ほむら。
参加者であり一度命を落としながらも条理を跳ね除けて復活を果たした者。

彼女の存在は、その実アカギ達には大きな利となりうる者だった。

もし参加者を減らしたければこちらの持つ戦力を会場に投入すればよい。
だがそれでは参加者の持つ因果を幾ばくか無にしてしまう。

参加者は各世界から選別し、なおかつ呪術式の付与によって因果の収束を果たすようにしているのだ。
そこに無関係な者の力が加われば、集めた因果を霧散させてしまうことになる。

だが、あの少女は元々参加者として集められた存在だ。
一度死したとはいえ未だその身には術式の残り香が残存している。

「ついでに言うならば、あの娘が我々に協力するというのであれば、あの娘の力としてこちらの持つ力を振るうこともできる」

これは会場に投入したポケモン達と同じ理屈だ。
術式を持たぬ生物であっても、もし参加者達の力として振るわれるものであれば参加者達のそれと同じように因果の収集は行われる。
そういう概念が術式には付与されている。

言ってしまえば、ここまで来たならばあの場に留まられるよりは脱出してくれた方がつつがなく進行する。

しかしこちらからその脱出のヒントを与えるような真似まではしない。
脱出の過程で命を落とす者がいるかもしれないし、可能性は低いがこのまま殺し合いが進行し最後の一人となることもありえる。


648 : 第四回定時放送 ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/29(火) 20:47:25 ogRm8Rpg0


「――――なるほどね、私を引き入れたのはそういうこと」

不意に、空間に歪みが生じ、ヒビ割れて闇色の異次元が現れる。
その奥から、一人の少女が姿を現した。

「結局、あなた達の側についたとしても、あなた達の掌からは逃れられないってことね」
「不服か?」
「別に。私は私の目的のためにするべきことをするだけ。あなた達の思惑にはそこまで興味はないわ」

長い黒髪を手をやりながら、空間を割って現れた暁美ほむらはアカギの言葉に対し否定した。

「だから最終的な目的にズレが生じない限りは、あなた達の力にもなってあげる。
 だけど、覚えておきなさい。もし必要なら、あなた達の持つ神の力も、私が奪わせてもらうから」

不遜にそう言い放ったほむらに、小さく鼻で笑いながら視線を前に戻すアカギ。

そんな彼らの会話を、空間の片隅に佇んだキュゥべえは静かに聞いていた。



やがてアーニャ、キュゥべえ、ほむらは立ち去り。
静寂な黄昏の間にはアカギとシャルルの二人だけが残された。

「アカギよ。今宵の儀式では目的の世界には近づけそうか?」
「因果は集い、創世の贄に近づきつつある。もう少しだ」

眼前に開かれた光景には、様々な者達の死の形が浮かび上がっていた。

救いを求めて手を伸ばしながら死んだ者。
自身の希望を他者に託して死んだ者。
絶望の果てに己の生を諦めた者。
希望をもって己の体を投げ出した者。

「感情とは実にくだらんものだ」

その光景を見ながら口にされた言葉には何かを思い出すように嫌悪感が滲んでいた。

その中にいた者達。
撃たれた事実に唖然としながら倒れる少年。
友に看取られながら死ぬ少女。
強い悔いを残しながらもこれが最善と魔王に臓腑を抜かれる少女。
割れた仮面の下の素顔を晒し消えゆく魔王。

彼らの姿を見ながら。

「ああ、そうだな」

アカギとは違う瞳の色を見せつつ頷いた。


やがて空間は静寂な黄昏の間に戻り。
シャルルが去っていった後闇色へと変じた部屋の中で、静かに瞑想を始めた。


649 : ◆Z9iNYeY9a2 :2019/10/29(火) 20:47:42 ogRm8Rpg0
投下終了です


650 : 名無しさん :2019/10/30(水) 00:39:42 gTuV4f.w0
乙です
そうか、もう後10人しか残ってないんだよなぁ


651 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/01/12(日) 16:54:17 8GrbtksA0
投下します


652 : ニャースとアクロマ・世界のカタチ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/01/12(日) 16:54:53 8GrbtksA0
病院の一室。

瓦礫が多数積もっている部屋に、しかし一定の空間を確保するように開けられた場所。
その中央に、多数のケーブルが繋げられたゴージャスボールがあった。

それを工具で動かすニャース。
目には拡大鏡をかけ、手には布を巻いた状態で、開かれたボール内部を慎重につついていた。

「ピカァ」
「もっとちゃちゃっとできないのかって?無茶を言うニャ。
 貴重なボールにゃし、もし操作を間違えたらニャーがこのボールに捕まってしまうニャ」

ニャースはロケット団のポケモンではあるが、固有のトレーナーを持たない存在。言ってしまえば野生のポケモンと同じだ。
登録のないボールに不用意に触れてしまえば、そのまま捕まってしまうだろう。
この場合は一体誰がトレーナーとして登録されるのか、とか様々な疑問はつきないが、ともあれ現状で行動制限をつけられることにメリットはない。
ニャース自身の強い拘りが一番の理由だが。

ついでに言うなら、モンスターボールの使用により、もしかすると機材に変化が生じ解析に差し支えるかもしれない。
少なくとも現状の解析が終わるまでは下手な刺激を与えるのは控えたい。

「ピカピカ?」
「何か分かったのかって?
 やっぱりボール自体の設計図とか欲しいニャ。ボールの構造に詳しいわけじゃないし、ちょっと余計なものがついてたとしても区別できないニャ」
「…ピカ、ピカピカ」
「それでもニャー以外には分からないだろうから気落ちせずに頑張れって?
 …Nも無茶振りしてくれたものニャ」

言いながらも手元のメモに構造図を描いていくニャース。

ふと目をそらしたところに、ゴージャスボールとは異なる、ピカチュウのモンスターボールが目に入る。
こっちも合わせて調べたいところだが、登録済みのピカチュウの体に影響を与えないかも問題だ。
できれば登録済みかつすでにそのポケモンがいなくなったボールを調べたいところだ。その意味するところはあまり考えたくないものだが。


再度作業に集中し始めるニャース。

放送が開始されたのはその数分後だった。




653 : ニャースとアクロマ・世界のカタチ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/01/12(日) 16:55:18 8GrbtksA0

作業を止めて放送に意識を割くニャース。

「ゲーチスに…、ゼロ…、みんなやったのニャな…」
「……ピカ」

C.C.を手にかけたゼロや、話術で一度は自分たちをペースに収めたがその実はNを利用するために多くの悪事を働く存在だったというゲーチス。
Nの無事や残っていた危険人物であった二人の名前が呼ばれたことに安堵するニャース。
そして名簿の残っているメンバーに目をやると、残り人数が10人を切ったことに気付いて気を落とす。

「思い返したら、どうしてニャーは生きてるんだろうニャぁ…?」

思わず窓の外の暗闇を眺めながらそう口走っていた。
深い意味があったつぶやきではない。
ただ、知り合いと言えた人間は皆いなくなり、自分よりも圧倒的に強かったミュウツーも命を落とした。

巴マミもシロナも、自分より強かったはずだ。
サカキも生き残るべき人間であったはず。

それだけの参加者が命を落として。

「一体、この殺し合いって何なのにゃ…」

そんな疑問が生まれていた。

一体何を図っているのか、何を確かめようとしているのか。

「なんて、言ったところで答えなんて出ないにゃ」

一人で考えていても仕方のないことは一旦置いておき作業の仕上げに取り掛かろうとするニャース。

構造図やデータはこの2時間ほどでだいたい取り終わった後だ。現段階で9割は終わっている。
部品ごとの役割がどういったものなのかとかを考えるより先に手を動かすことを優先してきたため、そこまでの時間がかかったわけではない。

あとはこれを他の人にも見せてもう少し多角的に調べる。

「ピカ」

一旦集中力を切ってピカチュウに意識を戻す。
放送が流れた後だったが、今更親しい存在の名もなかった故かそこまでショックを受けている様子もない。

「ピカチュウ、こっちは一通り終わったから、一息ついたら出るニャ」
「ピカ?」
「そんなゆっくりしていていいのかって、こっちはずっと頭フル回転で作業してたニャ。少しくらい休ませるニャ」

とはいえ本当にゆっくりしている場合ではないのも確かだろう。
集合場所と定めていた遊園地は3時には禁止エリアになってしまう。
5分か10分程度の休息で動くべきだろう。

バッグに入っていたポテトチップスの袋を開くニャース。
これを食べ終わったら移動するとしよう。

「にゃ〜〜ガジッ」

ガサゴソと袋を弄って、手に内容物を掴み、ガブリと思い切りかじりつき。

「ギニャーーーーーーーーーーーーーーーー!!!?」


654 : ニャースとアクロマ・世界のカタチ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/01/12(日) 16:55:34 8GrbtksA0
歯にはしった衝撃で悲鳴を上げた。

その大きな声にビクリと振り向いたピカチュウが見たのは、人の手に収まりそうな小型のテレビを持って走り回っているニャースの姿だった。
何をしているのかと呆れながら問う。

「にゃ、ニャア!!ポテチが!ポテチがガリッって!!びっくりしたのニャ!!」

落ち着いて手元を見て、その手が握っているのが菓子ではなく機械であることに気付いたニャース。

そこまで硬いものでもなかったため衝撃こそあっても歯が割れたりということはなかったのが幸いだった。
もしニャースがその気になって噛み付いていたらあるいは噛み砕けたかもしれないが。実際、小型テレビの端には歯の痕が残っている。

「何でお菓子の袋の中にテレビが入ってるのニャ。これ、映るのかニャ?」

疑問に思いつつも、小型テレビの電源を入れ始める。
プツリ、と点滅する画面。しかし映像は映ることなく、真っ暗な闇を表し続けるのみ。

「ピカチュウ」
「まあ、そうなるニャ。そういやテレビ塔があったけどぶっ壊れたしニャア」

普通に考えればテレビ放送などやっていないし、あるいはその電波が送れただろうテレビ塔もなくなった今、意味がある道具でもない。
チャンネルを切り替えてみても変化はない。

あるいはどこかから電波が混線するでもすればかかるだろうが、そんなものはないだろう。

『おや、繋がりましたか』

繋がったようだ。

驚き飛び上がるニャース。

「ニャニャ?!もしかしてこの場所の外とかかニャ?!助けてほしいニャ!ニャー達は今変なところに連れてこられて殺し合いをさせられてるニャ!」
「ピカピカ!!」
『あ、お喜びのところすみません。私はあなた達を助けられるような人間ではないので』

と、画面の向こうにいる眼鏡をかけた白衣の男は言う。

男はアクロマと名乗った。
曰く、アカギ達に技術的な協力を行っている者だと。

当然、助けを期待したニャースとピカチュウの顔は曇る。
それどころかその表情には強い警戒心まで見えていた。

「それで、そのアカギの協力者がいったい何の用ニャ」
『そう警戒しないでください。私はアカギの目的に共感したわけではない、あくまで私自身の目的のために協力したというだけなのですから』
「目的って何ニャ」
『それは、ポケモンという生物の持っている可能性、そしてそれを引き出すために必要なものとは何なのかを研究するためですよ』
「………」

ニャースの中に怒りと共に今すぐにでもこの電源を切りたいという思いが生まれる。
しかし、意図したものか偶然か罠かは分からないとはいえこうして脱出の手がかりが得られるかもしれない相手が接触してきたのだ。
ぐっと堪えて質問を続ける。


655 : ニャースとアクロマ・世界のカタチ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/01/12(日) 16:57:21 8GrbtksA0
『私、実を言うとあなたのことは気にかけているのです』
「…どういうことニャ」
『あなたはポケモンでありながら、人間とコミュニケーションを取ることができる。それも明確に、人語を介して。
 それはすなわち、ポケモンの意志の代弁者足り得るのではないかと私は思うのです』
「割と色んなところで聞いてきたような扱いニャ。だいたいそんなに気になるならNの方がいいんじゃないかニャ?」
『彼ではダメですね。私の判断だと彼自身が狂っていてポケモンの声が聞こえると思っているだけなのかという可能性も見えてしまいます。
 同様の理由でミュウツー達のようなテレパシーも信用に欠けます。
 五感に対して明確に、言葉として届けてくれるあなただからこそ重要なのですよ』
「つまり、人の言葉を発する明確な媒体としてニャーが欲しかったってだけのことニャ?」
『言ってしまえばそうなります。とはいえ、これまでの儀式の中ではあなたのことを特別扱いはしていないのですがね。できなかったとも言えますが。
 もし今に至るまでにどこかで命を落としたのであれば、それまでの存在として諦めていたでしょう。ですから最初は私の中でも大きな存在とはしてませんでした。
 ですがあなたは生き残った。参加者が10を切った今に至るまで』
「偶然ニャ」

心の中に突き刺さるものを感じながらも、ニャースはその言葉を否定する。
本当にただの偶然だ。運が良かっただけでそこに意味などない。

『偶然でも構わないのですよ。ただ、あなたが生きていること、それ自体に意味があるのですから』
「もういいニャ。要件を早く言うニャ」

焦らされているようにも感じたニャースは、本題に移るよう話題を変えた。
もう少し喋らせて情報を引き出したかったが、あまり好き勝手に喋らせるとペースにはめ込んでくる相手だというのがこれまでの会話で分かった。

『私としてもこの接触にはかなりの危険を犯しているのですよ。そうまでしても確認したいことは一つです。
 ニャース、あなたにとって、人とポケモンとはどのような関係ですか?』




アクロマにとって、この殺し合いの儀式の中のポケモンの命とは、研究資産であった。

極限の状況でポケモンがいかに力を発揮するのか、生き残ろうとするのか。
しかし他のメンバーにとって、メインは参加者達であり、ポケモンは添え物にすぎなかった。
ポケモンの可能性に目を光らせていたのは自分だけだった。
役割は、道具の一つであるポケモンの制御。

だがそれ自体に変な情を入れたりはしない。
あくまでも自身の研究の答えを満たすために、協力を続けた。

結果として得られたデータは有用なものではあった。
それでも限界はあった。

メガシンカを果たしたガブリアスもミュウツーも、共にバーサーカーの手にかかって命を落としている。
一瞬の命の輝きから得られたものはこれまでにない数値を発揮した。

では、ポケモンをそうまで駆り立てるものは何だ。
彼らに共通したのは、人との関わり、絆だ。

ならば、ポケモンにとって人とは一体何なのか。
その問に答えられる者が今残っているとしたら、彼しかないとアクロマは考えていた。

無論、キュゥべえ達とは一歩下がった立場でもある関係から制約は多く、参加者への接触も禁じられている。

ほむらに手を貸したのは、その接触を果たすためだった。

同時に、急ぐ必要もあった。他の者たちと比較すればまだ安全といえる場所にいる今しか、接触する時間はないだろうと考えたから。





656 : ニャースとアクロマ・世界のカタチ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/01/12(日) 16:58:01 8GrbtksA0


『あなたの言葉をもって、最後の切片が埋まる、そんな予感がするのですよ』

ニャースにとってみれば、アカギの協力者であるということを除いても関わり合いになりたいとは思わない存在だった。
ポケモンを悪意なく道具として見ているとしか思えない姿にはポケモンの目線だと嫌悪感を感じざるを得なかったのだ。

しかし、狂気に満ちたとはいえその真摯にぶつけてきた疑問を解決させずに放っておくことも、向き合ってしまった以上難しかった。
加えて、もしこのまま何も答えず放置した場合同じような実験を繰り返しもっと多くの被害を出す可能性もある。
ここは自分もまた真摯にぶつかるべきところだと直感していた。

「…ちょっとだけ疑問に思ったこともあったニャ。ニャー達とNの世界以外だと人間がいてポケモンがいないのはどうしてなのかニャって」

C.C.の世界にも巴マミの世界にも夜神総一郎の世界にも、ポケモンはいなかった。
代わりにそれぞれの世界特有のものが存在していたというが。

「何というか、どの世界でも人間を中心にして世界があるみたいな感じがあってニャ。
 嫌な感じがしたとかいうことは別にないとしても、気にはなってたニャ。ならニャー達ポケモンは一体何なのかって」

それはずっと心の隅で燻っていた疑問。
ともすれば必ずしも解かねばならないことでもないため後回しにもしてきたことだった。
しかし今こそそれと向き合わねばならない時がきたということなのだろう。

「これはあくまでニャー個人の思ったことになるニャが。あくまでこの場所に呼ばれたニャーや他の皆がその考えに沿っているということになるのなら、ニャが」

魔法少女がいる世界。ギアスなる不思議な力を持った者が生まれる世界。

そして、ポケモンがいる世界。





「ニャー達ポケモンは、言ってしまえばその"世界"じゃないのかって思うのニャ」
『―――ほう…』

一瞬考えた後、声を漏らしたアクロマ。

「あいつらがいた他の世界でも人はいて、そこで生きている人達がいて。それでも世界としては成立しているにゃ。
 それはニャー達の世界でも同じで、だけどもしニャー達の世界でポケモンがいなくなったら、きっと世界は成立しなくなるんじゃないかって思うのニャ」

もし魔法少女がいなければ。ギアスの存在がなければ。
いや、あるいはそれでも彼らの世界は回っていくのかもしれない。
だけど。
もしその存在がなかったら、あの二人もまたいなかったのではないかと。

『ですがその前提だと別の疑問も生まれてきます。人間とは何なのかという問いが、他のポケモンのいない世界にも広がることとなります』

それはそうだろう。
世界と密接に繋がっているというならば、前提として他の世界についての仮説も必要となる。

「正直言うなら他の世界のことはそこまで分からんニャ。だけどおみゃーが聞きたいのはニャーたちの世界のことじゃないニャ?」
『そうですね。極論そこが聞けるならばそれ以外のことについてはそこまで重要視しません。というかそれはこちらで調べた方が早いですね』
「それを聞いて安心したニャ。
 思うのは、人間っていうのはその世界を発展させていくものじゃないかって思っているのにゃ」
『発展、ですか』

「そうニャ。
 ニャー達ポケモンは、人間と関わることがなければ、トレーナーと一緒に過ごして生きることがなければ。
 ただ今を必死に生きる野生の生き物の一つでしかなかったはずニャ」


657 : ニャースとアクロマ・世界のカタチ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/01/12(日) 16:58:20 8GrbtksA0

多くのポケモン達は自分たちの世界を生き抜くのに必死だ。その世界を広げようとまでして生きられるものはほんの一部だろう。
だが、人と関わりトレーナーの協力を得られれば、自分の持つ力を正確に、効率よく活かすことができる。

「当然行き過ぎてしまうことも間違ってしまうこともあるし、悪いことに使おうとするやつもいるにゃ。
 でも、ニャーにはよく分からないけどそういうことがあっても全体的にバランスを取ろうとする世界の力みたいなものはあるんじゃないかって思うのにゃ」

かつてポケモンが守る自然を開発しようとする人間に対し、トレーナーの持つポケモン達が主の指示にも関わらず従わなかったということがあったのを思い出す。
同時に、人間を憎むポケモンがいたとしても人間への逆襲に賛同する野生のポケモンはそういない。


「結局ニャーも人になりたいなんて思わなかったら、ただの野良ポケモンで終わってたはずのポケモンにゃ。そういう意味じゃポケモンから離れてしまった感じはあるけど。
 でも人とポケモンが共存していって互いに高め合う、それがニャー達の世界なんじゃないかって思うにゃ」

『ポケモンは世界であり、人は"世界"を通して発展へと導いていく存在、ということですか。
 では、最後に聞かせてください。人とポケモンの間で最も大切なものは、何だと思いますか?』
「それは、特に難しいことじゃないニャ。
 そうやって高め合い伸ばし合えるものだってことを信じる心、信頼ニャ」

どのような形であっても、ポケモンに対する信じる心がなければ互いに答えることはできない。
ポケモンが世界であるなら、ポケモンと人間の相互の歩み寄り、関わり合いは決してなくてはならないものだろう。

「満足できたかニャ?」

ニャースの心に若干の不安がよぎる。
言葉そのものは真摯にぶつけたものだったが、それでも深く考え纏めるにはまだ時間が必要な議題だったように思う。
言うなれば思いついたそれっぽいことを自分なりに咀嚼して口に出したにすぎない。

『なるほど。理解しました』

だがそんな言葉でも、アクロマは満足したかのように小さく笑みを浮かべる。

「本当に満足したのニャ?」
『内容ではなく、あなたの言葉として聞けたことに価値があると私は考えています。
 そしてそれは私自身も思ったことのなかった内容でありましたし』

映像に映ってる印象ではその言葉に嘘はなさそうだ。


「これからどうするのニャ?」
『私の役割自体はほぼ完遂していますし私の存在がこの儀式に与える影響はほぼないでしょう。
 ですので私はこれでおさらばとさせてもらうつもりです。
 あと、あなたに回答いただいたお礼です。あなたがこの後向かう遊園地に、あなた達にとって役に立つものを置いておきます。
 場所は、おそらく今生きている方たちの中に心当たりのある人がいるでしょう』
「ニャ?」

驚きと疑問の混じった声を上げるニャース。

「そこまでしていいのニャ?裏切りとかと思われないニャ?」
『これで彼らとはお別れとさせていただきますので大丈夫ですよ。それに、私は自らの身を守るためにゲーチスに便宜を図りました。
 他の方達としてはそれが望ましいものだったらしいですが、私としてはこれではあまり公平ではありませんし』
「……」

その言葉を信じていいのか。迷い返答に悩むニャース。
それでもアクロマは待つことなく話を進めている。

『ありがとうございました。では及ばずながらあなた達ポケモンの命が一つでも生き延びることを――』
『そこまでだよ』

プツリ、と何者かの声が割り込んで来たと同時に画面が消滅した。

「………」
「ピカ」

端で話を聞いていたピカチュウは、ここにきてようやく声を漏らした。

最後のあれはおそらくこのやり取りが他の協力者にばれたということだろう。
彼は果たして生きているのかどうかはもう分からない。

ただ、それを以てアクロマの言葉を信じてみてもいいのではないかという気持ちにはなった。
少なくとも他の協力者にとっては裏切り行為に当たることはしていたのだろう。


658 : ニャースとアクロマ・世界のカタチ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/01/12(日) 16:58:33 8GrbtksA0

「なあ、ピカチュウ。…おみゃーは、ジャリボーイがいなくなった今でも、あいつのポケモンだってことが、証明できるニャ?」
「ピカ?」

おもむろにニャースはピカチュウにそう問いかけていた。

若干ムッとしたような表情でこちらを見るピカチュウ。
その問いかけが自分を侮辱されているかのように感じたのだろう。

それはそうだとニャースも思う。ピカチュウは自分のトレーナーをサトシ以外に定めることはないだろう。
一時的にNや自分や、他の誰かの手に渡り協力することがあっても、その一点は決して譲らない。

気持ちはそうだろう。ではその事実をどうやって証明していくのか。
その絆は永遠のものだと、どうやって示していくのか。

だが、今これ以上のことを問うていくのもまた酷だろう。

「行くニャ。これ以上ここでやれることもないしニャ」

荷物とボールの解析に使った道具やその結果をまとめた資料をバッグにしまい、ピカチュウを伴いながら病院を出るニャース。

その心中には、自分自身がアクロマに向けて告げた言葉が、残滓のように残り続けた。


【D-5/病院/二日目 深夜】

【ニャース@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:ダメージ(中)、全身に火傷(処置済み)
[装備]:サトシのピカチュウ(ダメージ(中))@ポケットモンスター(アニメ)、ゴージャスボール@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品一式、
[思考・状況]
基本:この場所から抜け出し、ロケット団に帰る
1:ボールの解析情報などを他の皆と共有するため遊園地に向かう。
2:できればポケモンがいなくなったモンスターボールも見ておきたい。
3:ポケモンとは―――
[備考]
※参戦時期はギンガ団との決着以降のどこかです
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線
※桜が学園にいたデルタであることには気付いていません





659 : ニャースとアクロマ・世界のカタチ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/01/12(日) 16:58:45 8GrbtksA0
ニャースに対して通信を行っていた機材が砕け散った。
黒いマントが翻り、機材から引き抜かれた腕がアクロマへと迫る。

その影は頭には髑髏のような仮面を被り、体は肥大した筋肉に包まれていながらも生気を感じない色をしている。

キュゥべえが連れてきたその存在は、シャルルから借り受けた彼の私兵。
彼が死から蘇生させ不死身の肉体を与えることで最強の兵士としたかつてブリタニアの騎士、ナイトオブラウンズの一騎だった。

機械を難なく貫いたその拳がアクロマの体を貫き、吹き出した血が周囲を染め上げ。



『いやはや。やはり保険は効かせていくものですね』

周囲の風景が一斉に切り替わった。

破壊された機材も、アクロマの体もなく。
地面に備え付けられたパネルのような機械と、青白く映っているアクロマの映像があった。

「…なるほど、幻影を見せる機械と転移装置か」
『ええ、ゲーチスの使うゾロアーク、それとあなた方が捕らえたギラティナの能力を元にすることで完成させました』

転移装置、地面につけられたワープパネル。これを使えばアクロマを追うことは可能だろう。
しかし、追った後で帰ってこれるのかという点がキュゥべえに使用を躊躇わせた。
ギラティナの力だけならば干渉遮断フィールドを抜けられはしない。だが、これにほむらが力を貸していたならば。

『結果としてあなた達の機嫌を損ねてしまい離れてしまうこととなりましたが。
 ですがそちらのワープパネルや諸々の装置は置いていきましょう。逃走用であるので今となっては特に必要ありません。こちらの追跡はできないように切っておきましたし。
 使い方は難しくはないので、お好きなようにお使いください。
 キュゥべえさん、あなたのことは好きにはなれませんでしたが、そちらで過ごした時間はそれなりに有意義でしたよ』


そう言い残して、映像は途切れた。

装置を壊そうとするラウンズ騎士を静止し、静かに周囲を見回す。

会場の装置作成の合間で色々と作っていたのは事実なようで、軽く見て分かるものだけでも転移装置、ホログラム出力装置と使いみちがあるものは確かだろう。
ただ、自分の決めた道筋を外れて勝手に動いた相手に対して後手に回ったという事実は決して面白いものではなかった。


(僕ももっと動くべきなのかもしれないね)

アクロマの干渉にもアカギやシャルル自身は進んで動く様子はない。
ならば自分ももう少し動いたほうがいいのかもしれない。

問題は、どちらに動くかというところだが。
現状の生き残りメンバーに対して、少ない可能性にかけてさらに殺し合いを誘発するように動くか。
逆に自身の不安定な足場を固めるために参加者に対して働きかけて自分の協力者とすることでほむらとの争いを誘発させるか。

思考しながらも騎士を引き上げさせたキュゥべえ。
やがて自分の中で答えを出して転移装置に飛び込んでいった。


※アクロマは脱出しました。ポケモンの世界に帰還したかは不明です。


660 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/01/12(日) 16:59:04 8GrbtksA0
投下終了です
今年もよろしくお願いします


661 : 名無しさん :2020/01/12(日) 21:27:54 xofDBGZw0
新年最初の投下乙です

今回の話で改めてニャースが人と明確にコミュニケーションの取れる異質な存在だと思った
同時にニャースだからこそアクロマを納得させられたのかなぁとも
そしてアクロマまさかの勝ち逃げ。キュゥべえがどう動くか雲行きも怪しくなってきたな


662 : 名無しさん :2020/01/29(水) 22:01:12 /.K4kNdU0
投下乙です
アクロマ、自分の中で結論だして満足したらさっさと退散する姿、すげえ原作っぽいなあ

後、放送読んで思ったんですが、禁止エリアのE-7がダブってしまってるようですが


663 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/02/04(火) 00:28:43 OLycxQ4w0
>>662
ご指摘ありがとうございます。何か間違えていました

2:00からの方のエリアをC-6に変更という形で、wikiの方で修正しておきます


664 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/02/16(日) 20:14:14 EAaTXLAc0
投下します


665 : 星が降るユメ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/02/16(日) 20:15:14 EAaTXLAc0
放送の響き渡った後の、激戦の後を感じさせる森林地帯。
木々は焼け落ち、あるいは溶け落ちたかのように形を保てず崩れ落ちている。
地面は巨大な怪物が暴れた跡が残り、あちこちの地面が大きく抉れている。

そんな場所を、牛歩のような速度で歩みを進める者がいた。

『乾さん!ファイトですよ!!もっと速く!!』
「うるせえ!これでも急いでんだよ!これ以上は無理だろ!」

背に桜の体を、もう片腕でイリヤの体を抱えた状態で歩を進める乾巧。

放送を聞き、ゼロの死を確認。
当初に予定した他の皆が集まるべき場所として行くべきだろうと、今彼らは遊園地へと向けて進んでいた。

(草加…、さやか…、セイバー…)

しかし巧の心境は決して穏やかではなかった。
元々の仲間の中で最後の一人であった男、ともに戦った少女達。
放送で名を呼ばれた数は決して少なくなかった。

放送の直前、遊園地の方角から巨大な光の柱が立ち上るのを見た。
それはルビーが言うには宝具、強力な武器を使ったものがいるということで。
そしてそれを使える者、何よりその光を放ちうる者が遊園地には残っていたという。

ルビーいわく、もしその光をもって戦いを終わらせられ、結果ゼロの名が呼ばれたのだとすれば。
現在のあの場には大きな驚異はいないはずだ。

『まあとはいえ、私達が出発する前の状況と照らし合わせての話です。
 もしまだ何か残っているようだったら死ぬ気で逃げてくださいね』

とのことだったが、今の状況ですら息も絶え絶えなのにこれ以上急ぐとかふざけんなと心中で思いつつ。
他に選択肢や向かう場所もないため結局ルビーに従うしかなかったのだが。

やがて歩みを進める中で、ひっそりと佇む一軒の建物が視界に入った。

「おい、ちょっと休ませろ」
『えー、早くしないと遊園地禁止エリアになっちゃうんですよ〜』
「ちょっとだけだよ。水飲んで一息ついたら出るから」

建物に入り、電気をつける。
中はショップのようで様々な商品の棚が見えるが、多くの人がすでに寄ったようでところどころの空きがかなり多い。

辺りを見回していると、ルビーがショップの中から見つけてきた布を敷く。
その上にイリヤと桜を横たえた巧は、背を壁に預けて座り込む。

バッグからペットボトルを開き、水を口に含む。

「はぁ…」

放送が始まるまでは待機時間であり肉体的に休んではいたものだったが、放送の内容を気にしていたため気は休まらず。
そこから放送を終えて一息ついたところで、襲いかかってきたのは虚無感だった。

もしあそこで美樹さやかやセイバー達と離れず留まっていれば、彼女達を守りながら戦うことができたのだろうか。
それにゼロはきっと木場を殺している。もしできることなら、自分の手でケリをつけたい相手でもあった。

『言っておきますが、もしあの時離れなかったら皆さんのこと守れたんじゃないか、とかは禁句ですよ。
 セイバーさん達はあの泥と相性が悪いんで、下手に二人を近寄らせたら黒い時のセイバーさんとか、あと巴マミさんの時みたいなことが再現されたかもしれないです。
 それに、あの遊園地の場にゼロに加えて間桐桜さんまでやってきてたら、もうシッチャカメッチャカですよ。もっと酷くなってたかもしれないです』
「うっせえ、分かってんだよそんなことは」

ルビーの言っていることは最もだ。
間違っていないからこそ、どこか腹立たしい。ルビーに対してではなく、こんな自分に対して。

そんな時、巧の聴覚が何かの音を確認した。
空気の中に混じる小さな機械音のようなもの。何かの乗り物のようなその音は、音から連想される速さと比べてゆっくりと進んでいる様子だ。


666 : 星が降るユメ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/02/16(日) 20:15:45 EAaTXLAc0

『おや、何か来ますね』

ルビーも気付いたようで、それを確認するために窓から外を覗いた。

「おい…!敵だったらどうするんだよ…!」

その音が巧に連想させたものは、かつて巴マミと別れた際に戦った金色のロボットの姿。
あれが何だったのか、そして誰が操っていたものかを未だに把握していない巧にとって安心できるものではなかった。

『あ、いえ。おそらく大丈夫です。あれは味方でしょう』

しかしルビーはそういって窓を開放。
どこからともなく取り出したライトを上に向けてちかちかと点灯させた。


やがて、光を追うようにやってきたその姿。

片腕が破損し、脚部にも破壊痕が目立ち、胸部にも大きな穴を開け中にいるものの姿が野ざらしに近い状態となった、白いロボット。


『うっへぇ、随分と派手にやられましたね…』

激戦を思わせるその体の損傷に思わず呟くルビー。
その眼前でロボットは座り込み、その背にあるコンテナ状の何かが機動する。

開いたコンテナ状の何か、コックピットから姿を見せたのは、茶色い髪の少年。

「初めまして、枢木スザクだ」




同刻、放送が鳴り響いた頃のアヴァロン艦内。

放送半ば、これから禁止エリアについて流されようとしたタイミングで、艦橋から飛び出していった者が一人いた。

「月さん!!」

まどかの呼ぶ声も届かぬかのように、艦内を走り抜けていく月。
どこに向かおうとしているのかは分かっている。こうなることも予期していたものだ。

「ボクが追おう。君たちはここにいてくれ」

名乗りを上げたのは、あの戦いの後アヴァロンに着艦したNだった。


「私の方が早く追いつけるけど?」
「別にそこまで一刻を争っているわけじゃない。
 それに、そこの彼女もきっと彼と同じ心境のはずだ。出会ってすぐのボクよりは君がいてあげた方がいいだろう」

体の調子もだいぶ戻ってきたアリスが追うことを提案するが、そこまで急ぐわけでもないと、まどかのことを任せて走っていった。

「……言わなくて大丈夫、だったんですよね…?」

そう問いかけたのはまどかだった。


「Lさんが、別れる前に月さんには言わないでってジェスチャーをしてたから…。
 だけどそれって月さんにとって後回しにしただけだったんじゃないかって…」
「あの反応を見る限りなら、彼の判断は正しいわよ。
 さっきまでは非常事態だったんだもの。主柱になるような人がガタガタの心だったら、きっとあの戦いで全滅してたわ」

実際、月は必死に敵艦からの攻撃を、障壁操作や戦艦操舵で捌いていた。
まどかや織莉子は元より、アリスであってもここまで対応はできなかっただろう。もっと艦はボロボロだったかもしれない。

Lの判断はおそらく正しかったし、だからこそここまで隠しきったのだ。

「それで、あなたは大丈夫なの?」
「………」

涙はもう出なかった。放送が始まるまでの間、ずっと泣いていたような気がしたから。

ふと手の中にある小さな石を見る。
Nが渡してきたグリーフシード。かつて親友だったもので、彼女がいたことを示す唯一の証。


「今は、たぶん大丈夫です。でももうちょっと、気持ちの整理は必要かもしれないです…」

二人が出ていった先の道を見ながら、まどかはそう呟いていた。




667 : 星が降るユメ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/02/16(日) 20:16:06 EAaTXLAc0

目の前で眠っている男。
その表情は、最後に会話をした時に見たそれと寸分違わぬものだった。

背中と、それをもたれかからせていた壁を真っ赤に染めている様子を除けば。

「おい、L」

呼びかける。
返答はない。
目を覚ます気配もない。

「起きろよ、L!!」

体に触れる。
体温の抜けた体は、驚くほど冷たかった。

「なあおい、以前俺がお前を殺したって時の仕返しなんだろ…、ちょっと驚かそうとしてるだけなんだろ…!
 起きろよ…、起きてくれよ…!!」

動かぬ体を握りしめながら泣き崩れる月。

もしこの場に彼の正体と所業を知ったものがいれば偽りの姿にも見えたかもしれないその嗚咽は、しかし今の月には紛れもなく真実の姿だった。

「ようやく…ようやくお前に償いができると思ったんだ…、ようやく、ただの月としてお前と同じ場所が歩けるんじゃないかって思ったんだ…!!
 なのに、何で……!」

父の、夜神総一郎の二度目の死を目の当たりにした時は流れなかった涙が、こんなにも流れてくる。

悲しみと、何よりあの時気付かなかった自分に対しての悔しさで声が漏れ続ける。
カイザに斬りつけられた頬の傷が開き血が垂れてきても、その声は響き続けた。



そんな月の後ろに、Nは立っていた。

「彼は君にとって、友達だったのかい?」

ふとそんなことをNは問いかけていた。

「……、君はたしか、N、だったか」
「ああ」

若干その名に対して癪なものを感じながら顔を拭う月。
会って間もない相手なこともあって、自身の弱みを見せることに抵抗を感じて、一旦心を鎮めようと努めた。

「友達、そうだな、昔はそんな関係じゃなかったと思う。だけどこれから先、そんな関係になれたらいいって思ってた相手だ」
「そうか」

静かに、Lの亡骸の前で黙祷するように目を閉じるN。

「少し休むといい。君が落ち着くまでの間はボクが君の役割を受け持とう」

おそらく気を遣っているのだろう。Nは静かに立ち去っていく。


そうして数歩進んだところだった。

「待て」

背後から追いついた月の手が、Nの肩を掴んだ。

「僕の代わりをするっていうのはそう簡単にできることじゃない。
 何しろ僕は、Lからその名前を受け継いだ男なんだから。並大抵のやつじゃ、その役割は果たせないさ」


Nの横を通り過ぎて前を行こうとする月。

(昔お前は俺が負けず嫌いだって言ってたけど、そこはどうしても変わらないらしいな)

気持ちは落ち着いていない。悔しさで頭がどうにかなりそうだ。
だけど、自分に課せられた役割を他人に任せて泣いている自分が許容できるほど敗北者にはなれないみたいだった。


(お前がいなくても、やらなきゃいけないことは変わらないんだ。そうだよな、L)


涙を拭ったその顔はまだ赤く腫れていた。
しかし、瞳は前を向こうとしていた。

その姿にNは小さく笑みを浮かべ、動かぬLの体を抱き上げてその後を追った。





668 : 星が降るユメ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/02/16(日) 20:16:26 EAaTXLAc0

ランスロットに連れられて戻った4人。

眠り続けるイリヤと桜を休憩室のスペースに横たえた後、巧は自分を乗せてきたその機人をじっと見つめていた。


「これがどうかしたかい?」
「…いや、ちょっとこれに似たやつに嫌な思い出がな。
 あの時は金ピカに光るやつだったけど、それに襲われたことがあったからな」
「金色…、ヴィンセントか」
「知ってんのか?」
「ああ、ロロ・ヴィ・ブリタニアっていう名前の男のナイトメアフレーム…、人型機動兵器だ。
 僕の親友と同じ顔をしていて、それを活かしてこの殺し合いの中でも他の者を陥れようと暗躍していたみたいだった」

巧の脳裏に思い出す、マミがルルーシュと呼んだ男の姿。
状況が全く分かっていなかったが、想像するにあの時にはおそらく騙されていたのだろう。

「そいつは…、あんたがやったのか?」
「ああ、C.C.という仲間と、あと巴マミと一緒に倒した」
「……そうか」

自分の知らない間の巴マミの動向に思いを馳せる巧。
あの時何が起こったのか、何があったのかはぼんやりとしか分からなかったが、彼女の背負った重荷の一つは乗り越えられていた事実に少しだけ安堵した。


「…ん……、ここは…」

その頃目を覚ましたイリヤは状況把握のために周囲を見回しながら起き上がった。
体の痛みに顔を顰めながら歩き出し外に出ると、ルビーが飛び寄ってきた。

『イリヤさん、起きられましたか』
「あ、ここは…、私達戻ってきたんだ…。
 桜さんは?」
『別室で眠られています。諸々のダメージは大きいですが、命に別状はないみたいです。安心してください』
「そう…、よかった…」

ほっと息を撫で下ろしたイリヤ。

『というかイリヤさんのダメージも大概なんですよ。
 日常での支障にはならない程度には回復させましたけど』
「さっきから体が痛いのって、そういうことだったんだ…」
『あんな無茶はあの時限りです。
 ともあれイリヤさんは少し休んでいてください。おそらく来るでしょう次の戦いまではしばらく時間がありますし』
「………あの時限り……?」

ルビーの言葉に引っかかるものを感じたイリヤは、周囲を見回す。

『どうかしましたか?』
「ねえ、サファイアは?私のバッグにもいないみたいなんだけど」
『……サファイアちゃんは―――』


「…繋がったな」

その頃、ランスロットのコックピットで機材を触れていたスザクはモニターに反応を確認する。

「こちら枢木スザク、アヴァロン、応答願う!」
『――ク、――ァロン、こちらアヴァロン』

距離もあるしこの会場で使えるかどうかも分からない。
一か八かというところだったが、どうやらアヴァロンとの回線は生きていたらしい。

「月か」
『無事だったか、スザ……それが君の素顔か』

モニタに顔が映る。
その顔はスザクがしばらく共にいた男の顔だったが、片頬には大きなガーゼと包帯をつけていた。


669 : 星が降るユメ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/02/16(日) 20:16:44 EAaTXLAc0

「そっちも随分とやられたみたいだね」
『ああ、だがどうにか生きてるさ。
 そっちには皆揃っているか?情報交換がしたい』
「分かった。巧、イリヤスフィール、来てくれ。
 たぶん積もる話もあるだろうし、まとめて話しておきたい」

そうして巧と、イリヤの代理としてやってきたルビーと共に情報交換が始まった。




『大丈夫ですか乾さん?』
「……大丈夫だ、気にすんな。
 だけど、ちょっと一人にさせてくれ」

顔をしかめながらランスロット、正確に言えばその機材にケーブルを繋いで映像を中継していたルビーから離れていく巧。

情報交換の中で出てきた草加雅人のこと、そしてその最期を聞かされて、強いショックを受けていた。

『やっぱりきついでしょうねぇ。仲間が操られていて、皆さんに襲いかかってきたなんて』

草加雅人のことだけではないだろう。
情報交換の中で、セイバーのこと、美樹さやかのこと、その全てが巧の耳にも届いていた。

「イリヤスフィールは大丈夫なのか?彼女もだいぶショックを受けていた様子だったけど」
『まあ、こればっかりは時間の解決を望むしかないですかねぇ』

サファイアが壊れた理由の一端に関与している自分がイリヤの傍で何か言葉を言うべきではないと思ったルビーは、一人になりたいと出ていったイリヤに付き従うことなく情報交換についていた。

『こっちも色々あったからな。話の途中で次々に外に出ていって、ここで今君の話を聞いているのは僕だけだ』

モニタの向こうに映っているのは月のみ。
だが彼がいれば情報交換や考察は滞りなく行えるだろう。

「……一ついいか、月」
『何だ』
「僕はあまり入り組んだ考察は得意じゃない。それと君と僕は、顔を合わせるのは初めてだがそれなりに知った仲だ」
『そうなるな。少しは君が何を考えてるかは察せるくらいには』
「なら話が早いな」

振り返って、傍にいたルビーに目を向けるスザク。

「頼めるか?」
『人使いが荒いですね〜。まあ、イリヤさんに関わることでもありますし、ちょっとこちらからもお願いさせてもらいましょうかね』




遊園地の芝生の上に座り込んで空を見上げているイリヤ。

視界に映る夜闇の空には多くの星が見える。
大きく輝いて見えるもの、小さく光るもの。分かるものが見ればその星々の中から星座を見つけられたかもしれない。

その一つ一つが、何だか散っていった皆のようにも見えた。

ふと気がついて横を見ると、2メートルほど離れた場所で巧が仰向けに寝転がって空を見上げていた。
互いに物思いに耽ていたせいか、その時まで存在に気付かなかった。

見た瞬間目が合い、思わず問いかけていた。

「…巧さん、サファイアは何か言ってました?」
「………。お前のせいじゃない、やるって決めたのは自分だから、気負うなって」
「そうですか…」

それだけ聞いて、しばらく沈黙の時が続いていった。


670 : 星が降るユメ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/02/16(日) 20:17:03 EAaTXLAc0

「正直、ここまで草加のやつが死ぬことにショック受けるなんて、俺自身驚いてんだよな」

やがてふと、巧はポツリと呟いた。

「……」
「俺みたいなオルフェノクは、一回死んで生き返ってんだ。だから死ぬってのがどんなものかは知ってる。でも死んだらどこに行くのかは分からない。
 みんなどこに行くのかも、それに俺たちが何をしてやれるのかも、何も分からないんだよ。
 なあ、お前だとどこに行くと思う?」
「…私には、分からないです。
 でも、これだけは分かる。それでも私達は生きなきゃいけないんだってことだけは」
「それでも、か」
「ああ、その通りだ」

やがてそこにスザクもやってきた。
寝転がることなく、地に足をつけたまま空を見上げている。

「情報交換の方ならあのステッキがやってくれている。
 少し様子が気になったからね。この顔をここで出した時間もそんなにないし、少しは話をしておこうと思って」
「そうか。
 ……あんたも、色々失ってきたのか?」

空を見るスザクの瞳の中に大きな虚無にも思えるものを見た巧はそう聞いていた。

「まあ、色々ね。自分の信じる道が正しいと戦ってきて、色んなものをねじ伏せてきて、その代償のように大切なものもたくさん失ってきた。
 あの仮面も、名も存在も全て捨てるっていう償いだったんだ」
「辛くはねえのか?」
「辛い、か。最初に大切なものを亡くした時が一番辛かったかな。
 そこからは、たぶん心が凍りついてたのかもしれない。悲しくはあったが、その時ほど辛くはなかった」

夜空を見ていた視線を巧へ向けて下ろすスザク。

「たぶんどこか間違ってると思いながらも進んでいた自分への罰だって思ってたのかもしれない。
 そういう意味だと、道を間違えることなく戦ってきたんだろうあなたのことは、ある意味では羨ましいと思う」

巧の失ったものへの後悔は自分の進んできた道を真っ直ぐに信じていたからだろうと、そう感じたスザクはそんな風に思った。

「以前あるやつに聞かれたことがあるんだ。『戦うことで何かを守れることがあると思うか』って。
 その時は答えられなかった。その後ちょっとしたら答えが見えた気がしたけど、結局迷ってた。
 あの時は10年後に生きてたら答えるって言ったんだけど、結局今でも分かんねえ」
「…10年も、戦うつもりなんですか?」
「さあな。俺にも答えが分かんなかったから、ただの方便だ」
「じゃあ聞き方を変えるけど、戦いを止めようとは思わないんですか?」

10年は嘘だとしても、戦いを止めるという選択肢はないのだろうか。そうイリヤは思っていた。
巧の背負ったものは想像でしか分からないが、それでも守ってきたものを考えれば逃げて責められるようなものではないはずだ。

「止めたいって何度も思ったんだけどな。守れなくて手から零れ落ちたもののことがどうしてもつっかえてんだよ。
 俺が戦わなきゃ、誰かが死ぬって思ったら気がついたらいつもこの手にベルトがあるんだよ」

上に掲げた手を目をやる巧の声は、イリヤには何かに怯えているようにも思えた。


「…『この先を生きるべきは生きて未来を持つ君のような者たちだ』、あの剣士の少女はそう言っていた。
 それが今こうして生きている僕たちの、責任……、いや、僕たちへの願いなのかもしれない」
「重いんだよな…、そういうの」

息を大きくつきながら起き上がる巧。

「…俺にとっては死ぬことよりも、失うことの方が怖いんだよ」

そう告げる巧の言葉に。
巧の背負ったものの一部を共に背負い、そして巧にも守られた者であるイリヤは、どう告げるべきか分からなかった。

皆が見上げた視線の先で、静かに星は輝き続けていた。




671 : 星が降るユメ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/02/16(日) 20:17:20 EAaTXLAc0
時を同じ頃。
上空高くを飛ぶアヴァロンの艦内。
その中で外の光景が見えるガラス張りになった一室で、巧達と同じ夜空を一人の少女が見ていた。

「………」

少女、鹿目まどかはグリーフシードを手に握ったままこの数時間で起こったことをどう飲み込むべきなのかと失った人々への思いを馳せていた。

(どうして、私は生きてるんだろう?
 ――どうして、私なんだろう?)

死ぬ状況は何度もあった。
その中で何度も助けられてきた。
そして、助けられた回数だけ、人が死んでいった。

シロナも、美遊も、草加雅人も、Lも、織莉子も、さやかも。

草加雅人の最期を話した時の、乾巧の苦しそうな表情がまどかの頭の中から離れなかった。

考えないようにしたいと思って星を見ていると、その星々が皆の顔にも見えてきてしまう。

じっとうずくまるまどか。
やがてその隣に、二人の人影が近づいてきた。

「隣、いい?」

まどかの右隣に座り込んだのはアリスで。
その右で立ったまま外を眺めているのはNだった。

「アリスちゃん、Nさん…」
「本当は向こうで一緒に考察するべきだったのかもしれないけどね。ちょっと表情に出てたらしい。
 あとのことは月が聞いておくから外に出てろって追い出されてね」

肩を竦めるN。その表情はどことなく悲しそうだった。

「君たちが許せないって思う気持ちは理解できる。憎む気持ちも」

前の空を見ながら、遠い目をして呟くN。

「ボクにとって、世界は狭い部屋の中と人間を憎むポケモンの声だけだった。
 思えばあれも意図したものだったのかもしれないし、全て彼の掌の上だったのかもしれない。
 だけど、それでもボクにとってゲーチスは父親だったんだ」

もしかすればいつかは分かり合えたのだろうかという望みも、斑鳩を特攻させようとした悪あがきを見た時点で決して分かり合えないのだと思い知らされた。
それでも可能性を信じたいという気持ちは今でもあった。

「美樹さやかは、強くなったと思う。それは君のような友達がいたからじゃないかともね」
「…そんな強さなんて、いらないんです。
 たださやかちゃんとは、いつもと同じように学校に行って、一緒に笑って、そんな当たり前に過ごしていければよかったんです。
 強くなったなんて、言われても全然嬉しくないんです…」
「………」

ただ一人の少女であればよかったと言うまどかに対し。
魔法少女として、戦士としての美樹さやかしか知らないNにはそれ以上の言葉をつげることはできなかった。

「私もね、前に言ったけど大事な友達、守れずに死なせちゃったんだ」

沈黙の中で言葉を繋げたのは、まどかの隣にいたアリスだった。

「そうならないために、一生懸命強くなって、あの子を守れるようになりたいって思ってたのに。
 実はあの子が私より強い力を持ってて。でもそのせいであんなことになって。
 結局伸ばした手は届いたんだけど、間に合わなかった」

アリスの友、ナナリーのことは聞いていた。
しかしその中にあった思いを聞くのは、まどかは初めてだった。

静かにアリスの言葉に耳を傾けるまどか。

「もしあの時一人だったら、頭の中堂々巡りになってただろうからさ。
 ほむらがあそこにいてくれて、だいぶ助けられたところもあった気がするんだ」

そのほむらも結局目の前で死んでいったけどね、と小さく付け加えるアリス。


672 : 星が降るユメ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/02/16(日) 20:17:46 EAaTXLAc0

「私にはまどかの気持ちが分かる、なんて言えないかもしれない。
 もしかしたらさやかって子の気持ちの方が分かるかもしれない。
 もしあなたのことが守れなかったら、きっと私と同じ気持ちを背負ったんじゃないかって思っちゃうから」
「アリスちゃん…」
「だいたい、そんなこと言ってたら私なんて敗残兵みたいなものだからね。
 何もできない間に友達を二度も失って、さっきの戦いでもあの男達にいいようにあしらわれてボロ負けして、恥を晒しながら生きてるんだから」

おどけるような口調で話すアリスだか、その言葉の裏の悲壮感を隠せないでいることに気付かぬのは本人だけだった。

「君は、そうまでして生きることに希望を持っているのかい?」

それでも後ろを向いてはいない少女に向けて、Nは問いかけていた。

「ええ。持っているわ」
「そうか」

何を、とは敢えて聞かなかった。
それはきっと彼女自身が胸にしまっておくべきものだと思ったから。

「…二人は、自分が生きてることに意味があるって、思いますか?」

ずっと守られてきた、そしてその人を一人ずつ失ってきたまどか。
自分の生に自信が持てなかった彼女だからこそ、今この意味を確認したいと思いそう問いかけていた。


「意味、もし私にあるとしたら、たぶんその希望のためなんだって思うのよね。
 例え儚い望みだったとしても、それに縋って生き続けることが私がここにいる意味だってね」

ナナリーの騎士としての、ナナリーとの再会。
口にこそしなかったが、それがアリスが今のアリスたらしめている望み。

そのために自分は生きているのだと。

「ボクは、正直分からない。これまで生きてきた道が嘘に塗り固められたものだって思い知らされた。
 願いも全部、ゲーチスに植え付けられた都合のいいものだった。
 だけど、ボクが見て、感じたことは確かな真実だった。
 生きている意味、それはその中から見つけたいって思う」

生きる意味、それを見つけるために生きたいと。
本当の願いを見つけたいと。
今のNにとっては、それが生きる意味だった。

「………」

それらの言葉を聞きながら、まどかは真っ直ぐと、外の夜闇を見続けていた。

月と星々が、小さく光り続ける夜空を。



そうして生き残った皆が、それでも少しずつ前に進もうとしている頃。

静寂の中で一人眠っていた少女は、静かにその虚無の瞳を開いていった。


673 : 星が降るユメ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/02/16(日) 20:18:28 EAaTXLAc0
【C-5/遊園地/二日目 深夜】


【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、皆の死に対する強い悔恨
[装備]:ファイズギア一式(ドライバー、フォン、ポインター、ショット、アクセル)@仮面ライダー555 、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品、クラスカード(ライダー(使用制限中))@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(黒騎士のバーサーカー(使用制限中))、サファイアの破片
[思考・状況]
基本:ファイズとして、生きて戦い続ける
1:情報交換の結果に合わせて動く
2:見知った人や仲間がいなくなっていくことに対する喪失感
[備考]




【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(特大)、全身にダメージ(大)、ツヴァイフォーム使用による全身の負荷(回復中)、クロ帰還による魔力総量増大
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター(使用制限中))(ランサー(使用制限中))(アサシン(使用制限中))(アーチャー(使用制限中))@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
基本:皆と共に絶対に帰る
1:サファイア…、美遊…
2:体が痛い…
[備考]



【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:ゼロの衣装(マント、仮面無し)、「生きろ」ギアス継続中、疲労(大)、両足に軽い凍傷、腕や足に火傷
[装備]:ゼロの服@コードギアス 反逆のルルーシュ、ランスロット・アルビオン(右足・ランドスピナー破損、右腕破損、胸部貫通)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:基本支給品一式(水はペットボトル3本)、スタングレネード(残り2)@現実
[思考・状況]
基本:アカギを捜し出し、『儀式』を止めさせる
1:この場でだけ枢木スザクとして生き、皆の力となって帰還を目指す
2:アヴァロンの面々との情報交換の後どうするかを決める。
3:アカギの協力者にシャルル・ジ・ブリタニアがいる前提で考える
4:ランスロット・アルビオンを修理したい


【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:黒化解除、右腕欠損、魔力消耗(大)、顔面の右目から頬にかけて切り傷、右目失明、視力障害、脳への負荷による何らかの後遺症(詳細は現状不明)、気絶中、目覚め?
[装備]:マグマ団幹部・カガリの服(ボロボロ)@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:???????
1:??????
[備考]
※黒化はルールブレイカーにより解除されました。以降は泥の使役はできません。


674 : 星が降るユメ ◆Z9iNYeY9a2 :2020/02/16(日) 20:18:43 EAaTXLAc0



【E-6/アヴァロン/二日目 深夜】

【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(小)、ゲーチスの言葉によるショック
[装備]:サトシのリザードン@ポケットモンスター(アニメ)、タケシのグレッグル&モンスターボール@ポケットモンスター(アニメ)、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[道具]:基本支給品×2、割れたピンプクの石、ゾロアーク(スナッチボール)@ポケットモンスター(ゲーム)、グリーフシード
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:ポケモン城に向かい、クローンポケモン達を救う
2:世界の秘密を解くための仲間を集める
3:ゲーチスの言葉に対するショック
[備考]
※モンスターボールに対し、参加者に対する魔女の口づけのような何かの制約が課せられており、それが参加者と同じようにポケモン達を縛っていると考察しています。



【夜神月@DEATH NOTE(漫画)】
[状態]:疲労(特大)、右頬に大きな裂傷(応急処置済) 、視力にダメージ(平時には影響無し)
[装備]:スーツ
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:キラではない、夜神月として生きてみたい
1:情報交換を行い、これからのことを相談する
2:Lの代わりとして恥じないように生きる
3:メロから送られてきた(と思われる)文章の考察をする
[備考]
※死亡後からの参戦


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み)、強い悲しみ
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クナイ@コードギアス反逆のルルーシュ、ブローニングハイパワー(13/13)@現実、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、トランシーバー(電池切れ)@現実 、薬品
[思考・状況]
1:………
[備考]


【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:ダメージ(小)、ネモと一体化、全身に切り傷、左肩に打撲と骨にヒビ
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(9+1発)@現実、ポッチャマ(気絶中)@ポケットモンスター(アニメ)、双眼鏡、 あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。
1:ナナリーの騎士としてあり続ける
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
最終目的:『儀式』からの脱出、その後可能であるならアカギから願いを叶えるという力を奪ってナナリーを生き返らせる
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※アリスのギアスにかかった制限はネモと同化したことである程度緩和されています。
魔導器『コードギアス』が呼び出せるかどうかは現状不明です。


675 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/02/16(日) 20:18:57 EAaTXLAc0
投下終了です


676 : 名無しさん :2020/02/16(日) 20:47:22 ie4iQVQs0
投下乙でした
月がついにLの死を知ったか……
今なら本当の意味で、Lの跡を継げるだろうな


677 : 名無しさん :2020/02/16(日) 21:06:30 V99QHjos0
乙です
残った参加者全員がそれぞれ喪失感を抱いてるのが良く分かる
そして桜はどうなる…?


678 : 名無しさん :2020/02/16(日) 22:56:29 zCuMjKKY0
投下乙です
せつねぇなぁ……死ぬことよりも失うことの方が怖い、とぼやくたっくんも、さやかちゃんに強い戦士としての死後の評価なんていらなかったと俯くまどかも、凄く切ない
そしてこっから先、果たしてこの集団がどうなるのか……色々今後が気になるお話でした


679 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/03/15(日) 20:41:54 1JDY3ICU0
投下します


680 : Why その理由 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/03/15(日) 20:42:32 1JDY3ICU0
「さて少し考察をしてみましょうか。
 できればまどかさんとさやかさんの両名にも加わってもらったほうがいいです」

それはまだLが生きていた時、アヴァロンと斑鳩が目視距離に入る前の時間の話。

Lと月の間で広げられていた会話の中にまどかとさやかの二人も加えられての情報交換が始まった。

「でも、私達そんな難しいことは分からないと思うんですけど…」
「構いません、会話をしている中で気がついたことや率直な意見などが教えてもらえれば。
 今回は我々だけでは常識の範疇から逃れられないかもしれないので、少しでも意見の数は欲しいんです」

と、Lはどこかから持ち出したホワイトボードを4人の前に立てた。

「議題はずばり、今回の殺し合いの目的と、そこからこの舞台からの脱出方法の発見です」

そこに、黒いマーカーで目的、そして我々のすべきことと、それぞれボードの半分の空間を取るように書き記した。

「余談ですが推理を行う場合にはいくつか種類がありまして。例えば誰が犯行を行ったのか、どうやって犯行を行ったのか、何故犯行を行ったのか、と言ったような。
 探偵モノの小説でもよく語られている概念です。
 今回考える上で、誰が行ったのかは既に分かっています。どうやって行ったのかは逆に常識外の事象も多いため絞るのは困難でしょう。
 ですが、何故。この殺し合いを行った理由を考えることはできるでしょう。
 こういった推理は一般的には『Why done it』と呼ばれますが」
「ほえー…、Lさんまるで探偵みたい」
「…探偵なんです」

さやかの言葉に少しばかり落ち込みながらも話を進める。


「まず殺し合いの目的そのものですが、アカギ本人の望みはシロナさんから聞いています。
 『心のない新世界を作る』、これが彼の目的です。
 彼はこの理念の元にこの殺し合いを行っていると考えてもいいでしょう。無論彼がシロナさんの知っているアカギ本人であるということが条件となりますが」
「じゃあもしそうじゃなかったらどうなるんです?」
「材料がなくなって推理自体が停止します。考える中でその可能性が見える材料が発見されればいいですが、今は一旦それを考えるのは置いておきましょう」

さやかの質問に答えて、Lはボードの隅にあれがアカギではない場合、と書く。以降のことを考えていく際に忘れないためだろう。

「それともう一つ、彼に対する協力者ですが。月君はあの先の放送者についての情報を持っているんですよね。
 改めて説明してもらってもいいですか?」
「ああ。分かった。これは一緒にいたあの仮面の男、枢木スザクから聞いた話だが」

月は、スザクから聞いたこと、アーニャ・アールストレイム、真の名をマリアンヌ・ヴィ・ブリタニア、そしてその上にいるであろうシャルル・ジ・ブリタニアという男についてを語る。

「嘘のない世界、ですか。ある意味ではアカギの目的とも通じるものがあるように思いますね」
「彼らはスザク達がその集合知の世界で消滅させたということらしい。その彼らが蘇ってアカギに力を貸しているんじゃないかとも」
「ふむ、興味深いですが、彼らの最終目的についてはこの辺りで一旦止めておくべきでしょうね。
 では次の議題です。この目的のために何故殺し合いなのかという点です」

言いながらボードに次々と話し合いの中で出た情報が綴られていく。


681 : Why その理由 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/03/15(日) 20:43:04 1JDY3ICU0
「シロナさん曰く、アカギが手にしようとした力は実際に世界を作ることを可能にするものであるというらしいです。
 そこに更に協力者までいて、何故その力で真っ先に世界を作らなかったのか」
「それは、それを止めようとしたシロナさん達に対する復讐もある、とか?」
「復讐が目的ならばまずアカギの野望を阻止したという人間がこの場にいないのは不自然です。
 いない理由を考えることもできますが、今はそうではない可能性から考えていきましょう」
「…そういえば」

と、月は記憶を手繰り寄せているかのように呟く。

「これは村上経由で見た情報なんだが、オルフェノクの王というものが彼の世界にいるらしいんだが。
 その存在は『九死に一生を得た子供』の中から生まれるものらしいんだ」
「九死に一生を得た子供、ですか」
「ああ、理屈は分からないが」
「私もセイバーさんや皆さんが集まったあの屋敷で得たものがあります。
 聖杯戦争という過去の英雄を呼び寄せての魔術師の競い合い…、いえ、殺し合いというものがあるらしいです。
 勝者は万能の願望機である聖杯を使うことでどんな願いも叶えられる、とのことです。こちらも裏がある様子ですが、そこに詳しい人からは話を聞けませんでした」


「日本古来には蜘蛛や百足などといった多数の有毒、肉食の虫を同じ壺に入れて共食いをさせ、最後に残った一匹を呪術に使うという呪いが存在すると言い伝えられています。
 おそらくですが、この殺し合い自体もそういった類のものなのでしょう」
「…あの、でもだったらどうして私みたいな戦えない人とか、あとLさんや他の皆さんみたいな人を殺さないって人を入れてるんでしょう?」
「確かにそうですね。本当に殺し合いをさせたければ、それこそ北崎さんのような戦闘狂をたくさん集めてくればいい。
 我々のような存在を入れてしまえば逆に破綻する可能性が高くなる。
 そこに殺し合いの理由があるんじゃないかって私は見ています」

ですが、とボードに別の丸を分けたグループのように記載するL。

「現状ではこれ以上のことは発展させられません。なので少しアプローチを変えて考えてみたいと思います。
 月くん」
「何だ」
「もし月くんがアカギのように、新世界を作るのに必要であるからこのような殺し合いを開くことになった場合、どうしますか?」
「………。お前、それ僕に聞かなきゃいけないことか?」
「ええ、私達には動機が仮想できないので。その点月くんであれば過去の経験から想像はしやすいでしょう?
 それにほら、ちょうど同じ新世界の神ですし」
「お前……、はあ、分かったよ。ちょっと想像だけしてみるさ」

反論する時間が惜しいと思った月はそれ以上言うのを諦め、顎下に手を当てて考え始めた。


682 : Why その理由 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/03/15(日) 20:43:31 1JDY3ICU0

「まあそうだな、まず場所だが。当然警察みたいな外部の手が及ばないような場所を選ぶだろうな。
 僕の想像ができる範囲なら、電波の届かない孤島とかが適当か。
 人は、まあキラとしての僕だったならさっきも言ったように犯罪者か、死刑囚とかを選んだだろうな。
 あとは僕たちがその島の様子を監視できる、かつ他の参加者の手にかからないような場所も必要だ。
 電波が届かない孤島だと仮定した場合、大型船か今乗ってるような飛行船とかになるだろう」

ひっくり返したボードに、Lが月の話した内容を次々と記載していく。

「そういえばこの首につけられた刻印は要するに鎖だろうな。生死の管理もこれで行っているんだろう。
 ただ僕の発想なら例えば首とか心臓付近に爆弾をつけるとか程度しか浮かばないだろうな。ノートでもそこまで複雑な指定はできそうにないし。
 …でもそういえばどうしてわざわざこんな手の混んだ鎖をつけたんだ?
 この縛り自体に目的があるのか…?」

ふと先程Lと共にまとめた情報を探る月。

「L、君の考えだと、この殺し合いは殺しに乗らない者が反抗の機を伺うことも想定の内と見られてるって言っていたよな?」
「ええ、それが何か?」
「例えばだが。もしもさっき言った殺し合いの動機が、蠱毒のような僕たちの知識を越えたものだったとしよう。
 だとすると、そこには何かしらの超自然的な力がどこかに発生して集まっているか集められているかしているんじゃないかって思う」
「なるほど」
「じゃあそれがどこに集められているのかを考えた時、大きく2つに分けられると思う。
 この空間の中か、あるいは外かだ」

参加者の中に蓄積されるのか、それともそれ以外の場所に蓄えられるものなのか。
そこまでは分からないが、会場の中か外かの二択は動かないはずだ。

「そしてもしみんなの中に蓄積されるものだとしても、この刻印が作用している可能性は高い」
「カレイドルビーさん曰く、この刻印はどこかに発生源となるものが存在しているはずということでしたが」
「もし僕がそれを会場の外か中かのどちらに置くかと言われたら、…いや、どっちだろうな。
 さっきの僕の仮定の話だと、破壊されるか逆探知されるかのどっちかのリスクを選ぶかということになるが」
「そこから考えると、会場の外からだと私は思いますがね。
 中に設置してわざわざそれを参加者の希望とする必要がない」

更に考えるように黙り込む月とL。

数秒の沈黙が空間を支配した頃だった。


683 : Why その理由 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/03/15(日) 20:45:21 1JDY3ICU0
「あの」

それまで話に加われてなかった少女が手を上げた。

「どうしましたかまどかさん」
「わざと、ってことはないですか?」

会話の中で出てきた希望という単語が、ふとまどかの中で一つの考えを思いつかせた。

「以前キュゥべえが言ってたんです。感情をエネルギーにして集める時、一番効率がいいのは、希望と絶望の、えっと、そうてんい…だったかな…、だって」
「相転移ですね。なるほど、言いたいことは分かりました。
 希望と絶望ですか、確かに希望がなければ絶望による振れ幅も大きくはならない。
 つまり本当にここから抜け出す手段となり得るものを置いてこそ、希望足り得るんじゃないかと」
「はい、たぶんそんな感じです」
「えっと…、どういうことですか?」
「さやかさん、分かりやすく例えるなら。
 -3と3の差は6ですよね。これをもし0からスタートした場合、同じ数値を出すのに6の力が必要になります。
 もし上限が決まっているなら、マイナス側から始めた方が大きな数値を得やすいでしょう?」
「うーん、分かるような納得できないような…」

眉をしかめながら首を傾けるさやか。
そんな少女から視線を外してLは話を進める。

「そうなるとやはりその候補として上がってくるのがポケモン城ですね」
「だけど仮に希望を残すとしてもそれは当然簡単に乗り越えられるものではないだろうな。僕ならそうする」
「ポケモン城が罠である可能性も低くはない。本命は他にあることも十分考えられる。
 それに聞いた情報から見れば、そこにも警備が引かれている。ある程度の戦力は当然必要でしょうね。
 向かう前に改めて、他の方達との合流を目指すべきでしょう」
「そうだな。今のところはメロの残した様子の情報とも照らし合わせて、もう少し考えてみよう」


斑鳩の接近による戦いが繰り広げられたのは、このしばらく後だった。





684 : Why その理由 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/03/15(日) 20:45:34 1JDY3ICU0

「と、ここまでがLと話した内容だ」
『ふむふむ、興味深い話ですね』
「加えてアリスが遭遇したというキュゥべえの件もある。
 もし何か考えられることがあるなら教えてほしいところだけど」

通信機ごしにルビーと話す月。
今会話をしているのはこの一人と一本だけだった。
他のメンバーは皆外に出ている。


『魔術的なことをいうとするなら、これだけの大掛かりな術を行う場合だと、相応の術式が必要になるんですよね。
 つまり行えるだけの魔術的な効率がよくて、その術式を組み込めるだけの広い空間のある場所を選ぶ必要があるんです』
「心当たりはあるのか?」
『セイバーさん経由の情報だったのですが。
 この会場にある柳洞寺、あれは元々の世界では優れた龍脈を持った土地だったらしく。
 ここでもそんな扱いなのかどうかは行ってみないと分かりませんが』
「ふむ、となるとポケモン城とどちらかということになるか?」
『あるいは両方とも、ということも有り得ます。
 そちらとこちら、現状だとメンバー的には戦力は足りてますかね?』
「正直なところ、こちらは戦艦とNのポケモン達とアリスが戦力といったところだ。
 だが城に入るとなれば戦艦は小回りが効かない。少し調整を頼みたいんだが」
『分かりました。じゃあ皆が集まったらその辺も相談しようと思います』
「頼んだ。それとNが言うにはニャースがそちらに向かっているかもしれないらしい。
 もし来たなら頼みたいと思う」
『はいは〜い、っと。
 ところで、もう少し通信に付き合っていただいてもいいでしょうか?』
「何だ?」

通信機の向こうで、羽のような形の体を小さく動かしながら、ルビーは言った。

『今私の探査機が魔力反応の揺らぎを感知しました。
 桜さんが目を覚ましたようです』

【E-6/アヴァロン/二日目 深夜】

【夜神月@DEATH NOTE(漫画)】
[状態]:疲労(特大)、右頬に大きな裂傷(応急処置済) 、視力にダメージ(平時には影響無し)
[服装]:ビジネススーツ(汚れ、血の跡有り)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:キラではない、夜神月として生きてみたい
1:今後のことについて皆と相談する(ポケモン城に向かう人員の確認)
2:Lの代わりとして恥じないように生きる
3:間桐桜から話を聞く
[備考]
※死亡後からの参戦


685 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/03/15(日) 20:45:49 1JDY3ICU0
投下終了です


686 : 名無しさん :2020/03/15(日) 22:51:32 14h/oMhA0
投下乙です
月とLの協力する姿は安心感があるが、もう見れなくて悲しい
桜にはどう対処するのだろう


687 : 名無しさん :2020/03/16(月) 21:24:50 Kna8TMg20
投下乙でした
やはり月とLのコンビは理想的だったんだよな……
原作を知るだけに感慨深いが、もはや二度と見れないのが辛い


688 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:31:27 k1BvQl460
2本続けて投下します
まず暁美ほむら、アーニャ、キュウべぇ投下です


689 : 暁美ほむらの退屈 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:32:32 k1BvQl460
「ふぅ…」

一人になったほむらは一息つく。

元々人見知りが多く人付き合いも少なかったほむらは、そもそも腹芸が得意ではない。
かといって喋らない状態のままであの場に乗り込むなどしたら舐められかねない。
実際にはそのような感情を抱く者が相手ではなかったし必要かと言われれば微妙なところなのだが、そんなことはほむらは知らない。

故に、仮面を被ることにした。
不安や願いを悟られぬほどには人格を変えられる仮面。
新しい顔を生み出すのはこれで二度目といったところだろうか。

かつての仮面は結果的に人が近寄ることを避けさせるようなものだったが、今回は相手に舐められないためのもの。
少しばかり精神的な負担もあった。

衣装を黒いドレスから制服に戻し、放送内容を反芻する。

残りの参加者は9人。
その中には鹿目まどかもいる。

正直なところ、若干苛立つ気持ちがあった。

(今までまどかを助けられた世界はなかったというのに)

この殺し合いの中でまどかが生きられる可能性は低いと最初から考えていた。
だからこそ、まどか一人を生かすことよりも全てのまどかを救うという目的を心の中に置いて動けたのだ。
このまどかを死なせることになっても、と。

だというのに、今彼女はこうして残っている。

まどかのことだけではない。
美樹さやか。
自分との相性が悪く、また彼女の心も強くはないため共闘を避けてきた少女。
その弱さがまどかの心を縛ることもあり、目的のための障害になったことは数え切れない。
そんな彼女は、これまでの世界では見られなかったような心の強さを手にして、最後は魔女化する覚悟をもって多くの参加者を守って死んだ。
その強さがかつての世界で表せたなら、どこかの世界のまどかを救うくらいはできたかもしれないのに。

美国織莉子もそうだ。
今更あの時の敗北についてとやかく言おうとは思わない。
だが、一体何の心変わりがあったのかは知らないが彼女の最後の行動は確かにまどかの命を救うためのものでもあった。
本来ならば感謝の一つでも投げはしたかもしれないが、今の自分にとっては。


690 : 暁美ほむらの退屈 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:32:55 k1BvQl460
「………」

自分の中に、矛盾と葛藤があるのを感じた。

もしも自分の手が届かぬ場所で死んだのであれば、それも止むなしと諦め、また彼女も救うべき存在としてこの身を動かすことができただろう。
しかし、今の自分にはあのまどか一人を救うための手は届く。

(私に、まどかを殺すことはできないでしょうね)

それを幻視するだけで、かつてソウルジェムを砕いたまどかの姿が脳裏によぎって心を激しく揺さぶってくる。

「随分悩んでいるみたいね」

気配もなく隣に現れたアーニャに、それでも動揺を見せぬよう無表情に視線を向ける。

「警戒しなくてもいいのよ。今の私は、一応あなたの味方だから」
「……」
「気になる子でもいるのかしら?」

動揺を抑える。

「…」
「どうして分かったのって目をしてるわね。
 だってあなたの顔、ナナリーのことを気にかけてる時のルルーシュと同じだったもの」
「はぁ…」

隠していても仕方ない、と息を吐く。

「キュゥべえは、私に接触を図ってきたことを考えたら少なからずあの儀式に対して干渉を行っていたのよね。
 もしもだけど、私も干渉しようとしたら、許されるのかしら?」
「別に構わないと思うわ。
 ―――と、言いたいんだけど、この段階であなたがしようとしてることを許すとなると少し宜しくないのよね。
 そこまで許容するとなると、シャルルかアカギに聞くしかないと思うけど、流石に許してくれないでしょうね」
「………」

ほむらの中で思考がめぐる。
どうするべきか。
強引に行くべきか、それとも心を凍らせて諦めて彼女自身の可能性にかけるか。

前者はこれからの行動において最終目標に差し支える。
後者は心に大きな痼を残してこの先をいくことになる。

後者は個人的な問題だ。彼らに話したところで解決策など出るはずもない。

「だけど、無理ってわけじゃないと思うのよね」

小さく笑いながら、悩むほむらにアーニャは呼びかけた。

「私から言える条件としては2つね。
 まず今現在、儀式は一時的な停滞期間になっているわ。積極的に人を殺せるような子達がいなくなってしまったんだものね。
 キュゥべえの見立てだとここから状況を動かそうとするなら、彼らが私達の元に近づいてくるしかない」
「つまり、そのための行動だというのなら、多少は肯定されると」
「そうね。そしてもう一つ、こっちが重要になるんだけど」

そうして問いかけられるアーニャの言葉。
それにほむらは静かに頷く。


691 : 暁美ほむらの退屈 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:33:26 k1BvQl460

「何だ、そんなことなの」
「できるのかしら」
「できるわ」

告げられた課題を、異論を挟むこともなく受け入れた。

「ただ、その前提で動くなら少しだけ、私の計画の流れも変えなければいけないわ。
 そこだけは了承してもらいたいわね」



殺し合いの目的。

アカギやシャルルの狙う世界の想像。

それをなすための装置として、この儀式の核たる部分には最終兵器が備え付けられていた。

かつて多くのポケモンの命をエネルギーとして捧げて駆動させることで、兵器として世界を滅ぼしたと伝えられる兵器。

しかしキュゥべえにしてみればこれはとても非効率的なものだという見立てだったらしい。
多くの命を捧げてなしたことが一個体の生命の蘇生、そして何も生み出さない戦争による単純な破壊活動。
これに対しての改良を加え、効率を上げることとなったのがキュゥべえの最初の仕事だったという。

まず、ポケモンの命のみを捧げていたこれに対し人やその他の命も動力として使えるものに変更。
さらに焚べた命に対してのエントロピーを換算して出力を底上げできるよう、キュゥべえ達自身の持つ技術を導入。

これにより、殺戮兵器だったこの装置は世界の創造を成し得るものへと形を変えた。

無論、世界の創造となればそれだけのエネルギーが必要となる。
効率を上げたとはいえ、そのために何万、何億も必要かもしれない人間の命を回収することは不可能ではないが難しく、時間も膨大で妨害だって有り得る。

そこで無作為、しかし多くの因果を備えうるという者たちを厳選し、殺し合いをさせることでエネルギーの回収を目的としたのが、この儀式である。
これにはある世界で行われていた聖杯戦争という儀式の形式に一部倣わせているところがある。

このエネルギーを世界創生へと用いることでアカギ達の望む世界を作る。


更にもう一つ。アーカーシャの剣というものがある。
シャルルの持つ、神を殺す武器と呼ばれる装置。集合無意識に干渉し世界を作り変える役割を持っている。

この機能、Cの世界の法則を書き換える武器を合わせることが可能ならば、より広い世界へと干渉できる。
破壊されたはずの装置ではあるが、アカギの力を借りることでこの空間にて再現することができたのだ。
だが再現が限界。これを実際に動かすには鍵であるコードが足りなかった。
かといって敗北を認めて世界から弾かれたシャルルや別世界の住人のアカギにはコードを収集することはできなかった。世界が拒絶するのだ。

しかし、今ここにはそのコードを持っているほむらがいる。




692 : 暁美ほむらの退屈 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:33:43 k1BvQl460
「それで、あなたをあの会場に送り込んでほしい、と」
「ああ」

そうキュゥべえが頼み込んできたのは手持ち無沙汰になったほむらが待機している間だった。

「現状で脱落者が出る可能性は低く、むしろ彼らがこちらに来る可能性の方が高いだろう。
 だけど今からタイムリミットまで待ってしまうと彼らは余計なことをするかもしれない。少し頭が回る者が残っているからね。
 ほどほどに手を加えておいた方がいいと判断した。アカギとシャルルにも了承してもらったからね、反対することは彼らに対する裏切り行為になるから気をつけてね」
「……」

横のアーニャに目をやると、小さく肩をすくめた。
どうやらここは逆らえないようだ。

「分かったわ。会場に繋がる空間の穴を作ればいいのね?」
「いや、そこまでは必要ないよ。アクロマが残した装置があるからね。
 ただ転移先の座標が固定できないんだ。干渉遮断装置はそれほどに強力でね、パスがない状態から繋げるのが難しいんだ。
 変なところに飛んでしまうと生存者に会うまで時間がかかってしまう。時短のための介入なのにそれはまずいからね」
「私が空間を繋げて送ってもいいのだけど」
「君が会場に対する干渉を行うのは今回が初めてだからね、不確定要素はできれば下げておきたいんだ。
 介入実績があるアクロマの方が信頼性が高いんだよ、気を悪くしないでほしいけど」
「ならそのアクロマの装置自体から繋げられないの?」
「細かい調整を行う肝心なところがブラックボックス化されてて下手に手が出せないんだよ」

はぁ、とため息を一つ付くほむら。
最初の仕事がキュゥべえの手助けだという事実は気に入らないが、ここでごねたところで印象を悪くするだけだろう。

ほむらの身を包む衣装が黒いドレスへと変える。
その腕にかつて盾があった場所に装着された場所につけられた時計状の装置に手をやる。

「じゃあ、その空間を開きなさい。私のギアスで因果を確定されてあげる」

コードを受け継いだことでほむらに発現したギアス、それは因果を操る能力。
様々な可能性に揺れる世界を確定させることができる。端的にいえばそういうものだ。

一見強力な力に見える能力だが、手にして間もない力なこともあって制約が分かっていない。
そういう意味ではキュゥべえの懸念も当然だろう。
少なくともアカギやシャルルの力も合わさっている干渉遮断装置の内側には力を及ばせられないということは確認しているが。

「……」

時計の針が動いた瞬間、幻視したのは多数の糸が分岐するように広がった因果。
それが一本の糸に集約されていく形。

やがて目を開いた辺りで、キュゥべえが起動させた転送装置の先が見えた。
会場の中でもキュゥべえ達しか入ることができない場所の風景が映っているらしい。
とりあえずは成功したようだ。

「じゃあ、あとのことは頼んだよ。
 これを通って会場に行くと僕のスペアもこちらには出せなくなるようだ。会場の制約が僕自身にもかけられてしまうからね」
「安心しなさい、一応あの場であなたに手が加えられないようにもしておいてあげたから」
「気休めだとは思うけど、一応信用させてもらうよ」

ピョンと穴の中に飛び込んでいき、空間に開いたワームホールは小さく消えていった。

「それにしても意外ね。あなたのことだから事故に見せかけて彼を次元の狭間に落として消すかもとも思ったのだけど」
「そこまで感情的には動かないわよ」

アーニャの軽口に答えるほむら。
それに、と更に言葉を続ける。


693 : 暁美ほむらの退屈 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:34:21 k1BvQl460

「キュゥべえに手が加えられないようにしたというのは本当のことよ。だけど、もう幾つかキュゥべえ自身に因果操作を加えさせてもらったわ。
 少し私に都合のいいように動いてくれるようにね」

これも実験だ。
自分の能力がどこまで通じるのか。

いずれ来るだろう生き残った者たちとの戦いに備えて、己の能力を把握しておく必要がある。

「それにしても、キュゥべえもその考えに至らないとも思えないんだけど。少し迂闊だったんじゃないかしら」
「少し焦っているのでしょうね。あなたが自分では及ばない力を手に入れたってことに。
 だから多少のリスクを飲んででも動こうとしてるのよ」

果たしてその言葉が嘘か真か、あるいは彼女自身も騙されているのか。
それを読もうとしたところでにっこりと笑顔を向けられてしまった。

読まれたのだと察し、やはりこういうのは向いていないと心中ため息をつきながら衣装を解除して座るほむら。

「さて、キュゥべえも向かったし次に動くまで少し時間があるわね。
 せっかくだし少し親交を深めない?」
「断るわ。一人でいるのは慣れてるし、今後の段取りだって決めなきゃいけないし」

会話が好きではない。それにこの少女の姿をした女に苦手意識を持っていた。
できれば関わり合いたくない。静かに過ごしたいと思っていた。

利用できればいいと思っていたのだが、心中を悉く読まれているような気がする。

「もう、そうやって一人で抱え込んでワルプルギスを倒すためにどれだけ繰り返してるのかしら?」
「………うるさい、母親みたいなこと言わないで」

今の言葉には少しカチンとくるものがあったほむら。

「こういうことを言ってくれるような人がお母さんしかいなかったってところかしら?」
「そもそも私の親は今の私を知らない。今も病弱だった頃の私がいると思ってるわ」

徐々にアーニャのペースに入れられていることに、ほむらは気付いていなかった。


「そう。じゃあずっと一人暮らしだったってところかしら」
「あの頃の私と今の私はもう別物よ。だから親のことはもう片隅に置かれた記憶の一つでしかない」
「そう」

気がついたところで目の前にカップとコーヒーが置かれている。
間を取る何かがほしいと思い、具現化させたものだ。

疑うこともなく目の前に現れたそれに口をつけるアーニャ。

「あなたはそうやって過去を切り捨てたのかもしれないけど、案外過去ってどこまでいっても付いてくるものよ」
「………」
「例えばあなたを殺した相手が鹿目まどかを守って死んだことも気にしないようにしてたりとか」
「…………」

ほむらが一度に口に含むコーヒーの量が多くなった。

「私のことは置いていたとして、じゃあじゃああなたはその過去に囚われて生きるべきだというのかしら?」
「そうは言わないわ、というか囚われてたのはむしろ私達だもの。言う資格はないわね」


694 : 暁美ほむらの退屈 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:35:12 k1BvQl460

気がつけばコーヒーは空になっていた。

「そもそも説教とかじゃない、ただの雑談のつもりだけどね」
「ならこれで終わりにさせてもらうわ」
「こらこら。
 確かに重要じゃないけど、そんな細かい積み重ねが人を変えるものよ。
 少なくとも今生き残ってる参加者は、みんな大なり小なりそういったところに影響を受けている。
 あなた自身が与えたものだって、ね」
「……」

敢えて言葉に対しての反応はしなかった。
ただ、数秒だけ瞳を閉じた。

「一般論はそうかもしれない。だけど。
 それは、私の目的には必要のないものよ」

気がつけば、カップにコーヒーが入っている。
それを、静かにすすった。

「やっぱり、”時間”かしらね、問題は」

やはりこの少女の心に踏み入るには、時間が不足しているようにアーニャは感じた。

自分たちの使命、とは別にこの少女の行く末を見届けてみたいと思っているアーニャ。
しかしこの少女の心の壁の向こうを見るには時間が足りないだろうと感じていた。

キュゥべえが動いた以上、あと数時間単位のうちに状況は動くことになるだろう。

(ま、それまでできるだけのことはやってみましょうか)

目の前に復活していた、まだ熱がこもったコーヒーを一気に流し込んだ。




【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、ギラティナと同化、魔女の力継承、悪魔化
[服装]:悪魔ほむらの衣装@魔法少女まどか マギカ[新編]叛逆の物語、ギラティナの翼、まどかのリボン@魔法少女まどか☆マギカ
[装備]:ダークオーブと化したはっきん玉、変質したほむらの盾
[思考・状況]
基本:アカギ達に協力、ないし利用し最終目標のための手はずを整える。
1:アカギを含む皆の動向を見て動く。
2:キュゥべえの動きを見て、今の生存者に合わせて動く
3:アーニャがちょっと鬱陶しい
最終目的:“奇跡”を手に入れた上で『自身の世界(これまで辿った全ての時間軸)』に帰還(手段は問わない)し、まどかを救う。
[備考]
※はっきん玉はギラティナの力と魔女の力を完全に取り込み自身の因果と同調させたことでダークオーブ@魔法少女まどか マギカ[新編]叛逆の物語へと変化しました。
その影響でギラティナの能力を使用することが可能です。
※ギラティナの体はRガス@名探偵ピカチュウによってほむらの精神を移された後、ギアス継承の反動を押し付けられたことで力が弱まりほむらの体内に取り込まれています。
ギラティナ自身の意識が弱まっただけの状態であり死んではいません。
※ギアス能力について
腕の変質した盾についた時計の針を動かすことで、因果を操り固定することが可能です。
現状で分かっている制約としては、魔女の刻印が残っている影響で会場に対する干渉には強い制限がかかっているため現在の参加者への干渉はできません。


695 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:36:50 k1BvQl460
投下終了です。続けて
乾巧、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、間桐桜、枢木スザク、夜神月、鹿目まどか、N、アリス、ニャース、キュゥべえ投下します


696 : 消せない罪 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:38:44 k1BvQl460
目が覚めた。
目の前に広がる光景は見慣れた部屋。
先輩の家の2階、木造の天井。

時計を見る。少し眠りすぎたようだ。

「そろそろ、先輩帰ってくるかな…」

体を起こしてベッドから立ち上がり部屋から出る。

部屋から出る時、視界の端に人影が映った。
体のあちこちをあらぬ方向に曲げられ、骨や内臓もはみ出して血塗れになった男がいる。

そのまま歩幅も変えず、真っ直ぐ階段を降りていく。
階段の角には、全身から血を流し銃痕や裂傷でボロボロになった少女がいる。

「今日の晩ごはんの担当って、どっちだったかな」

キッチンへと向かう。リビングの襖を開けた。
胸に穴を開けた女の人がじっとこっちを見ていた。

キッチンに人影はない。まだ先輩は帰っていないようだ。
食材はまだ残っていただろうか。足りなくなっていたら帰ってくる前に買い出しに行かなければならない。
冷蔵庫を開く。
上半身だけになった金髪の女の子がいた。こちらをじっと見つめている。

ガタリ、と扉が揺れる音がした。

「あ、先輩、帰ってきたのかな」

玄関へと急ぐ。
襖を開けたところに全身に火傷痕のようなものをつくった車椅子の少女がいる。閉じられている目なのにじっとこっちを見ているような気がした。

木の床の音を鳴らしながら小走りに玄関へと急ぐ。
向こうには二人分の人影が見える。きっと先輩と藤村先生だろう。
鍵を開けようとしているのだろう。こちらから開けよう。

玄関の脇に人の手と黄色い人形が置かれているのが見えた。視線は感じないが妙に存在感があった。

「今開けます、先輩、藤村先生、おかえりなさ―――」

鍵を開けて入口を開く。
そこに先輩はいなかった。
藤村先生はいた。腕を無くした上半身だけの姿で、地面にうつ伏せで転がっていた。

「―――」

それで全部思い出した。

気付いた瞬間、それまで背後にあった家がドロリと溶けて闇の中に消えていく。
それまで見てきた人影が、背後に集まってじっとこちらを見ている。

正面には少女が立っている。感情のない瞳で静かに見つめてくる。

これらが一体何なのかを理解したところで悲しくなってきた。

先輩がいないこと、藤村先生を自分の手で殺したこと。それらもある。
だけどそれ以上に。
先輩がいないことを思い出すまで、これまで行ったことを思い出さなかったこと。
これだけの人を殺しておきながら、そこに大きな罪の意識を感じなかったことに気付いたから。

「プク」

視線を下に下げる。小さなピンク色の生き物がいた。
それは野球ボールほどの石を抱きかかえている。
その石を、こちらに向けて投擲した。

避けることもできぬままいたところ、それは右目付近に命中。
痛みを感じて顔を拭うと、ドロリとした液体が手を濡らし、右のまぶたが開かなくなった。

そこで、私の意識は覚醒した。




697 : 消せない罪 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:39:48 k1BvQl460
病院を出発したニャースが遊園地へとたどり着いたのは、ルビーが夜神月と情報交換を行っている頃、屋外にそれ以外の3人が出ていた時だった。

「あ、ニャースだ」
「君たちはこっちに戻ったのか」
「Nのやつとは別行動ってことにしたからにゃ。
 ところでおみゃーは誰にゃ」

イリヤとは顔合わせをしたことがあった故に面識があったが、スザクの顔を認識していなかったニャースは呼びかけられて思わず問いかけていた。

「この顔で合うのは初めてだったかな。仮面をしてたから無理もないか」
「あ、おみゃーはあっちのゼロだったにゃ?」
「ピカ?」
「そういやさっきのタイミングじゃおみゃーはいなかったにゃ。
 こいつはNから預かったジャリボーイ―サトシってやつのポケモンでピカチュウっていうにゃ」
「……何か猫が二足歩行で歩いて喋ってるんだが」
「君はあまり見たことがないんだっけ?
 彼らはポケモンという生き物らしい。その中でも彼は特異的な存在で、人間との会話が可能なんだとか」
「へぇ」

ニャースの姿に一瞬驚くような表情を浮かべた巧は、そう聞いてとりあえず納得したように頷く。
一方でイリヤはじっとピカチュウの姿を見つめている。

「ピカ?」
「ね、ねえ。その子」
「ニャ?そういえばおみゃーもこいつを見るのは初めてだったかにゃ?」

さっき遊園地に来た時にはそういえばポッチャマの元に向かっておりニアミスしていたかもしれない。
ピカチュウも合わせて初対面の巧達に自己紹介をするニャース。

「…おみゃー何やってるにゃ?」

ふと見るとイリヤがピカチュウの前で棒をぶらぶらとさせている。
こちらからはその表情は見えなかったが、それが真っ直ぐと見えるピカチュウは露骨に警戒している。

「ねえ、ちょっとこの子抱き上げていいかな?」
「ちょっと目がおかしいにゃ。
 ……仕方にゃーな。ピカチュウに少し話すから待ってるにゃ」

放置してもいいのかもしれないが、ニャースから見ても現状のイリヤの目の色は驚異に見えた。
かといってここで無理をさせればピカチュウは暴れて電撃を振りまくことになる。

ピカチュウを説得するニャース。
ものすごく不服そうに顔をしかめるピカチュウだが、しぶしぶニャースの説得を受け入れた。現在ニャースの言うことに逆らうことが難しいことも察した上での判断のようだ。

抱き上げて頬ずりをするイリヤ。そのまま少し離れた場所まで歩いていった。

「まあピカチュウのことは一旦置いといて、Nにモンスターボールの解析を頼まれたのにゃ。
 もしかしたらこれがニャー達の首輪に関係あるかもしれないってことでにゃ」
「なるほど。今Nとの通信は可能だ。向こうの皆も交えて話すべきだろうな」

と、ランスロットを待機させた辺りに目をやった時だった。

建物の中からガタリと何かが落ちるような音が響いた。
その衝撃から周囲のものを揺らしたのか、地面に落ちた何かが鋭い音を響き渡らせる。

「おい、あの音の部屋、間桐桜が寝てた部屋だろ!」

巧とイリヤがすぐさま立ち上がり音のした方向へと向かっていった。

ニャースとスザク、そしてランスロットのコックピットで通信を行っていたルビーも遅れて飛び出した。




698 : 消せない罪 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:41:12 k1BvQl460
起きた場所は見知らぬ天井だった。
今は夜で室内に明かりがないせいだろう、周囲が真っ暗でよく見えなかった。

腰を起こして腕で体を支えようとしたところで、寝かされていたベッドの上から転げ落ちた。

すぐそばに置いてあった机と、その上に置かれていたものを倒しながら地面へと倒れ込む。
地面に落ちたものは耳障りな音を奏でる。

受け身も取れずに転がり込んだ体は地面に打ち付けられて節々に痛みを走らせる。

「…っ」

小さくうめき声をあげながら、何故転がってしまったのかを思い返す。
周囲を探ろうと右手を動かそうとする。何も触ることができない。

「あれ…?」

右の二の腕付近に左手をやる。
まるで何かにすっぱり斬られているかのように、二の腕の先がなくなっていた。

少しずつ記憶が蘇ってくる。

これは確かナナリーの呼び出した巨人と戦った時に斬られたものだ。
体の他の傷は時間経過で治っていったからいつか治るだろうと思っていたのだが、なぜかこの腕だけは治ることがなかった。
吹き飛ばされて全身を地面に打ち付けられた時の体の傷や折れた骨も治ったのに、これだけはこのままだ。

「―――――――あ」

それをきっかけに、全ての記憶が脳裏に浮かび上がってくる。
逃げる少女へと銃を向ける自分。
こちらに立ち向かう少女を刃で切り裂く自分。
頼りになった大人の体を溶かしていく自分。
人を殺していく自分。

食って、殺して、殺して、襲って、溶かして、殺して、暴れて、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺して。

「あああああああああっ、違う、それは、私じゃ…!!」

思わず顔を掻き毟りながら絶叫する桜。

その時、部屋に明かりが灯った。

「おい、大丈夫か!!」

眩しい光の中で上から呼びかける人の顔を見る。
だけどその顔がよく見えない。というか視界もなんだか狭い。

「誰、ですか…?」
『はーい桜さん、ちょっと失礼しますね』

ふわふわと、おもちゃのような何かが視界に入って質問を呼びかけてくる。

その問いかけに、答えられる範囲で答えていく。
その中で、今の自分の体の状態がある程度把握できていた。

右腕と右眼の欠損。そして残った左眼も視力を大きく失っている。

『ふむ、意識は少し混濁しているみたいですが、記憶に抜け落ちてるところはとりあえず見受けられませんね。
 視力の低下はおそらくクラスカードを使用して神代の存在へと転身した副作用でしょう。もしかしたら他の身体機能にも影響が出ているかもですね』
「…大丈夫です、目は覚めました……」

話していく間に、全部思い出した。
ふわふわと飛んでいるような、夢の中での感覚にも思われたが自分でも驚くほど全ての出来事をはっきりと記憶していた。

「皆さんを呼んでください。これまでのこと、全部話します」

だからこそ、話さなければいけないと思った。




699 : 消せない罪 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:41:31 k1BvQl460

介護を受けながらもベッドの上に戻った桜は視線を下げて座り込んでいる。

室内にはイリヤ、巧、ニャース、スザク、そしてイリヤの手の中にいるピカチュウ。
そしてベッドの傍の窓にはルビーが陣取り、建物のすぐ横まで移動したランスロットに繋がっている。

ランスロットの通信機とルビーを通じてその光景が映し出されている先のアヴァロンにおいてはNや夜神月達がその光景を見ている。
可能な限り皆に聞いてほしいというのが桜自身の言ったことだった。

(…まずいな)

その中で、月とNはこの後彼女が起こすだろう行動、そしてその影響に強く警戒をしていた。
彼女が何をしようとしているのかは、桜自身の思い詰めたような表情が全てを語っている。

「私は、ここに来てたくさんの人を殺しました」

そして告げられた言葉はその予想に違わぬ、自身の罪の告白だった。

デルタの力を纏って。
警官を惨殺したこと。
半狂乱の少女をおもちゃのように扱って殺したこと。
殺人者の女を撃ち殺したこと。

慕う恩師を食い殺したこと。
巨人を操って姉に似た人を殺したこと。
自分を叩いた男を怒りに任せて消したこと。
少女の杖を奪い、意のままに操って斬り殺したこと。

その一つ一つを、ゆっくりと口にしていく。

『一つ忘れてるわ。
 ナナリーって子を覚えてる?』

桜が全てを口にし終わったと思ったところで、通信の先からアリスが口を挟んだ。

「…覚えてます」
『あなたが操ったっていう巨人に乗っていた子よ。
 あの時N達に襲いかからなかったら、あの子も死ぬことはなかった』
「そう、ですよね…」
「……」

責めるアリスの姿を見る巧とN。
巧は巴マミが魔女化した直接の原因が彼女ではないかと思い、Nもデルタのキックで消し飛んだピンプクのことを思い出す。
しかし言ったところで話が進まない。縁から桜を気にかけている二人は敢えてそれを言うことはなかった。

場を沈黙が支配する。
桜の反応を待っている様子のアリスに対し、桜自身も相手の続く言葉を待っているようだった。

あまり空気がよろしくないことを感じた月は話を進めるために口を挟んだ。

『それで、君はどうしたいのか?
 元々ここの皆は君が行ってきた殺人はだいたいは把握している。細かいところや知らなかったこともないではないが。
 だから真新しいというほどのものはない。その上で問いたいんだが。
 君はその罪の告白をもって、どうしたいんだ?』
「………」

月から見てモニター越しのその表情は前髪に隠れて窺うことはできない。
数秒の沈黙の後、絞り出すように口を開いた。

「私は、たくさんの人を、殺しました…。
 今いるみなさんの大事な人も、アリスさんみたいに殺してる人がたぶんいると思います…」
「………」
「それに、私はこんな体です、もし生きてたらきっと皆さんに迷惑をかけます」
「おい」

その先に続く言葉に予想がついた巧は、桜の言葉を止めようと呼びかける。
しかし桜の言葉は止まらない。


700 : 消せない罪 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:41:53 k1BvQl460

「もし私のことが許せない、生きていちゃダメだって思うなら、殺してください…」
「お前、何言ってんだよ!!」
「辛いんです…、たくさんの人を殺して、藤村先生も殺して、先輩もいなくて…。
 私には何も残っていない、血で染まった手しか、残ってないんです!!」

桜の荒げた声が響き渡る。

「いいだろう、もし君が本当にそれを望むというのなら」

静かに桜の話を聞いていたスザクが答える。
壁に預けていた背を前に動かすより先に、巧がその前に立ちふさがった。

「待てよ、今のこいつは別に危なくはねえだろ、なあ!」
『確かにあの黒い魔力の気配はほぼ消えています。もし今の桜さんが人を殺そうとしても身体機能的に返り討ちにあうのがオチでしょう』

桜の心の奥にまだ残っているかは分からないが、とは言わなかった。

『すみません、少し桜さんを外して話し合いましょう』

提案したのはルビーだった。
当事者を外すことが正しい議論とは思わなかったが、今は本人がいてはやりづらい。
ついでに言うなら、正直まだ年端も行かぬ自身の主もこの議論からは外すべきではないかと思った一面もある。

桜は俯いたまま、何も言わなかった。
それを肯定と受け取った一同は部屋から出ていく。

『イリヤさん、結果次第では気持ちのいい話し合いにはならないでしょうし、席を外しておくべきだと思います』
「…ううん、私も、命を張って桜さんを助けた一人だから」

出るところでこっそり耳打ちするルビーだが、イリヤはその言葉を拒否して話に混ざることを選んだ。




ルビーの通信で映像と音声が繋がっているアヴァロン内部。

「あの、アリスちゃん、大丈夫…?」
「大丈夫よ、うん、大丈夫。
 ごめん、やっぱり抑えきれてないみたい」

桜の姿を見ていたアリスを気遣うまどか。
その座る場所の近くにはえぐり取られたような穴が空いていた。

「どうも、無意識のうちに力を使っちゃってたみたい」
「席を外しておくことをオススメするが」
「いいわ、夜神月。私だってそこまで感情に任せて動いたりはしない。
 しないから」

ナナリーのことを許せたわけではない。
だが引きずっていては前に進むことができない。だからこの感情は心中の奥底に仕舞っておこうと思ったのだ。
それが、彼女自身が言った償いのための死を望む言葉で表出しかけた。

彼女がいる場所がモニタの向こうで良かったとアリスは思った。

通信の始まったタイミングで目を覚ましたポッチャマは一言も声を発していない。
Nにも心中を確信させないが、それでも察することはできた。


701 : 消せない罪 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:42:26 k1BvQl460

「お前はどう思う、N」
「…タイガのことには思うところはある。が、これは彼女自身の問題だろう。
 手を差し伸べることはできるかもしれないが、最終的な結論は彼女にしか出せないと思う」
「あの人は言わなかったけど、マミさんが絶望して魔女になったのも桜さんのせいかもしれないんですよね…?」
「あまり追求しすぎても仕方ないことだ。済んだことなのだから」

この殺し合いで他者を殺す者がいなくなり脱出に向けて動き出そうと思ったこの段階において。
彼女の処遇が最後の試練となるのかもしれない。

「ただ、どうしても考えてしまうことはある。
 僕がもしまだキラだったら、彼女を裁いたのかどうか」

個人が直接手にかけただけでも8人。
過失や精神的な問題があったとしても多すぎるし、もし法であっても死刑以外の解決は難しいだろう。
そんな彼女を、おそらくキラは許容しなかっただろうと想定する。

「なら今の君は彼女を裁くのかい?」
「そんな資格はないさ。
 松田や美砂はこちらから報復が必要な仲じゃない。美砂に至っては僕が言うのも何だが自業自得だ。
 父さんのことは、それを理由に報復するようならきっとあの世で父さんにぶん殴られるだろうな」

そう言いながら、通信機の先のルビーに連絡を取り、桜の処遇はそちらに任せると言って通信を一時的に止めた。

現状介入する手段がないこちらがどうこう言う場面ではない。
ポッチャマを肩に乗せて窓の外を見るアリスと、彼女が座っていた場所にできた小さな床の窪みに目をやりながらそう考えて。




『分かりました。では桜さんについてはこちらで話し合わせていただきます』

室外に出たところでルビーはそう言って通信を切った。

『向こうの人には桜さんをどうするか決める権限がないのでこちらに一任したいとのことです』
「そうか、でも正直、彼女がいる場所がこっち側で助かったと思う」

そう言って周囲にいる皆を見回す。
桜を助けるために戦った巧とイリヤ。イリヤは美遊とルヴィアのことにはまだわだかまりが残っているようだが、助けた相手にここで行動に移すほど直情的でもないだろう。

ニャースとピカチュウは複雑だろう。特にピカチュウは仲間を殺されている。
一方で自分のトレーナーを殺害した相手を手にかけたのが桜だということには言葉にしづらいほどの複雑な感情がある。

だが向こうには桜のせいで友が死ぬ原因になった少女がいる。トレーナーを殺されたというポケモンがいる。
特に少女、アリスは向こうのチーム内では最大戦力といえるほどの力を持っている。
決してそこで行動に出るほど感情的だとは思わないが、その仇がさっきのような反応をした場合、果たして彼女は冷静でいられるだろうか。

「俺個人には彼女に恨みはない。裁く権利もないと思ってる。
 だけど間桐桜自身が生きる意思がないというのなら、この先は戦う力がない者以上に足手まといになるだろう。手を下す必要もあると思っている」
「…待てよ。言っただろ、あいつがおかしくなったのは最初にデルタギアを使ったからだって
 ならあいつが自分を取り戻したんだったらやり直せる、そうじゃねえのか?」

スザクのある種冷徹な意見に反論する巧。

「…一つ聞いておきたいことがある。
 君がこれまでどう戦ってきたかは一通り聞いている。それを知った上で聞きたい。
 彼女を生かしたいと思うその感情は、君自身の意思かい?」
「どういう意味だよ」
「本来彼女は君とは関わりを持っている人じゃない。
 君が間桐桜をかばうのはきっと衛宮士郎という男のことだろう。
 だがその男はもう死んだ。そして君は乾巧、衛宮士郎じゃない」
「だから、見捨てろってのか」
「余計なお節介かもしれないが、彼女を守るという意思がその男ありきのものだというのならその選択も必要だ」
「お前…っ!!」


702 : 消せない罪 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:42:45 k1BvQl460

思わず胸ぐらを掴んでしまった巧。
傍にいたイリヤの体がその怒気にビクリと震える。

『落ち着いてください二人とも!話が本題からズレてます!!』

ルビーが二人の顔の間に割り込む。

イリヤが一息飲み込むほどの間が空いて、巧はその手を離した。

「彼女が背負っているものはきっと、生半可な覚悟じゃ共に背負うことはできないものだ。
 たぶん、それを背負うことに全てをかける必要さえあるかもしれない」
「…士郎はたぶん、それくらいの覚悟を持ってたんだよ。
 だけど、俺だって軽い気持ちで言ってるわけじゃねえよ。うまくは言えねえけど」

場の空気に険悪なものが混じりつつあった。
巧が手を出してしまったことが原因だが、スザクの言葉に対して巧だけでなくイリヤも若干の苦手意識を持ちつつあった。

『はぁ…、議題は桜さんをどう対応するかです』
『じゃあ、こういうのはどうだい?
 間桐桜自身に、役割を与えるんだよ。この場の皆の利益になるような役目をね』
「…おい、今の声は誰のだ」

不意に、一同の会話に未知の声が響き渡った。
周囲を見回す中で、ニャースとピカチュウの隣に白い影が見えた。

「ピカ?!」
「何ニャ、おみゃーは?!」

横にいきなり現れた未知の生き物に大きく後退する二匹。

『君たちの前に姿を表すのは初めてだね。
 はじめまして。僕はキュゥべえ。アカギに協力してこの殺し合いを管理しているものさ』

白い生き物は、無機質に笑顔を向けながらそう答えた。




703 : 消せない罪 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:43:54 k1BvQl460

再度通信を繋げたルビー。今度は桜も会話に交えている。
先程までと違うのは、その場に一匹の白い生き物が加わっている。

そのせいか、映像の中に映っているアリスの表情は非常に硬い。

『そんなに睨まないでほしいな、アリス。僕は君たちにとって有益な情報を持ってきたんだから』
『信用すると思うの?そもそもあんたはさっき私が消したはずよ』
『あれは僕たちの一個体にすぎなかったからね。
 ただ、この場に敢えてこうやって入ってきた僕には色々制約がかかってしまったみたいで、今殺されると再度侵入は困難になるんだ。だから手を出さないでほしいんだ』

ヒョイ、と窓縁に乗りかかるキュゥべえ。
こちらの動きを警戒しているようで、最悪いつでも逃げられるような位置を陣取っている。

『ねえ、キュゥべえ、何でこんなことに協力したの…?
 あなたのせいで、みんな死んじゃったんだよ?杏子ちゃんも、マミさんも、ほむらちゃんも、織莉子さんも、さやかちゃんも…』
『暁美ほむらのことは…、それは今はいいか。
 確かに基点は僕たちだろうけど、その結果に至るように動いたのは君たちだ。全ての責任を僕たちに押し付けないでほしいな』
「お前…っ」

責めるまどかの言葉を受け流すキュゥべえに怒りの声をあげる巧。
ルビーが宥めつつも、キュゥべえへと問いかける。

『落ち着いてください。その辺は後で。
 キュゥべえ氏、我々の元に現れたのはどういう理由ですか?』
『実は、君たちの中に殺し合いを行うものがいなくなったことで儀式が停滞する可能性が生まれたんだ。
 もしかすると残り24時間、タイムリミットまで至ってしまうんじゃないかと心配になってね』
『なるほど、それで誰かを扇動して殺し合いを再開させようって?』
『そうじゃないよ。そもそも今の現状、扇動して大きな戦果を上げられるような者は殺し合いを決して行ってはくれないだろう?
 もし可能性があるとしたら、君、夜神月かそこの間桐桜かだろうけど、それじゃあたかがしれているからね』

名指しされた月は思わずむっとした表情を浮かべる。
一方で間桐桜は無反応だ。

『だから君たちにはこの会場の外に来てほしいんだ。
 このままここで燻っていられると失敗の可能性が高くなるからね』
「意味が分からないな。何故君がそこで僕たちを導くことに繋がるんだ?」
『会場の外に出れば君たちはアカギやシャルルの私兵達と戦うことになる。
 殺し合ってくれることと比べれば非効率的だけど、完全に殺し合いを失敗されるよりはマシだからね』
『我々を敢えて呼び寄せて残り人数の口減らしを行うということですか。
 分かりました。皆さん、時間いっぱいまで粘って調査を進めましょう』
『いいのかい?今この殺し合いには時間が経つと君たちに課せられた制限がより厳しくなるよう調整してある。
 正確には放送を死人0で過ぎた場合に、ということだけど。そうなればより君たちの勝利は遠のくよ?』
「………」

キュゥべえの表情はNや月にも読むことは出来なかった。あまりにもその性質が人間、は元より生き物離れしすぎた無機質さだった。

「その戦力というのは?」
『僕が把握している、言える限りだと。
 ナイトオブラウンズ、それもアリスの世界のものでゼロに匹敵する不死性を持った不死身の騎士達だ。
 他にも体長10メートルを超える巨体のオルフェノクも支配下に置いてる。
 あとイリヤスフィール、君の手元にないクラスカードがあるよね、あれもこっちにある。ここまで言えば分かるよね?』
「もしかして、あの黒い英霊が…?」
『あと最終ゴールはアカギのいる場所になるんだけど、そこからディアルガパルキアの力で援護してくるかもね。
 こうなるときっとファイズのブラスターフォームやランスロットアルビオンもどうなるか分からないよ?』
「ナイトオブラウンズ、あれが不死になっているとなると確かにぞっとするな…」


704 : 消せない罪 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:44:12 k1BvQl460

スザクの小さなぼやきがキュウべぇの警告に説得力をもたせる空気になってきた。

『最終的な生存者ゼロ、というのは困るんだ。
 僕の流す情報は君たちにとっては利しかないものだと思うけど』
「…確かに、言う通りではある」
『……』

スザクがキュウべぇの言葉に同意しつつある中で、月はまだ探るような表情を浮かべていた。

「具体的に何やれって言うんだよ。間桐桜の力がいるって言ってたけど」
『この会場には幾つかの干渉遮断フィールドの維持装置が備え付けられている。
 君たちが行こうとしているポケモン城もその一つだ。
 そしてもう一つ、柳洞寺ってあるよね。元々ここの地下には聖杯戦争のための大聖杯が備え付けられていた。
 会場にその柳洞寺を再現した時、その機能も一緒にできちゃってね。せっかくだから維持装置の一つとして利用させてもらったんだ』
『もし僕たちがそこにたどり着くことがあったらどうしたんだ?』
『人避けくらいは設置してるし、もしもの時のために門番も置いているさ。
 ともあれ、そこで必要になってくるのが間桐桜、彼女だよ』

呼ばれた桜の顔が小さく動いた。

『彼女は聖杯の機能を持たされていた存在だ。大聖杯と同調すれば本来の聖杯の形を図ることができるだろう。
 あとから付与されたその維持装置を取り除くことができれば、君たちにも時間短縮ができる』
『随分とピンポイントですね、もしここに桜さんがおられなかったらどうされたんですか?』
『この手段は数あるうちの一つだよ。もしこのやり方が無理なら別の方法を挙げたさ。
 今は条件が揃っているからこれが一番早いんだ』
「そのやり方ってのは、危険じゃねえのか?こいつの命が危なくなるってことは?」
『危険かと言われれば多少のリスクはあるさ。だけどどの方法だって同じさ。
 今回は彼女に白羽の矢が立ったというだけで』
「…私に、やらせてください」

それまで俯いていた桜が、声をあげた。

「それで許されようとは思ってません、でも、私が少しでも役に立てるっていうのなら…!」
「分かった、それが最善でなおかつ君自身の選択なら尊重しよう」

ポケモン城に向かう一行と桜を合流させるのはチーム内の空気のために避けておいたほうがいいのではないかと思っていたスザクは桜の選択を受け入れた。

「なら俺も一緒にいく。こいつ一人じゃまともに行けねえだろ」
「私も」

その桜と共に行くことを選んだのは巧とイリヤだった。

『分かった。じゃあスザクとニャース達はこっちに来てくれ。あのロボットがあれば合流も可能だろう』
「そうだな。ただ、戦いでかなり機体にダメージがある。調子を確かめたら合流しよう」
「そういえばキュウべぇ、おみゃーに確認しておきたいことがあるにゃ。
 アクロマはあの後どうなったにゃ?」
『彼は少し独断での行動が過ぎたから粛清が必要と思ったんだけど、逃げられてしまったよ。
 アクロマが君に譲渡したものについては、アクロマの一任だから僕にどうこうすることはできない。彼は探究心と技術力は本物だったからね
 僕個人としてはいい顔はできないけど君の好きにしてくれてもいい』
『そういえばキュウべぇ、君はどうするんだい?こっちに合流するのか?』
「いや、この組分けなら桜に同行させてもらうよ。そっちに行ったら殺されかねないからね」


705 : 消せない罪 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:44:35 k1BvQl460

アリスが露骨に顔を顰めた。

『それじゃあ方針は決まったね。善は急げだ、早く動こう。
 ここも禁止エリアになるまでそう時間が残っていないからね』
「何でお前が仕切んだよ」

一通りの話が終わり、各々動き始める。

桜のおぼつかない足取りを巧が支えながら、イリヤを伴って目的地に歩み始めた。

そんな彼らを先導するようにその先頭にはキュウべぇが歩いている。

ニャースはランスロットの調子とアクロマの残したものを確認するために部屋から出ていく。

そうしてランスロットを動かすためにコックピットに戻ったスザク。
そこにアヴァロンにいる月から、通信が入った。

『そうだ、スザク。キュウべぇが出ていったらでいい。少しいいか?』

桜達が既に遊園地敷地内を出ていることを確認したスザクは、その言葉に頷いた。






【C-5/遊園地/二日目 深夜】


【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、皆の死に対する強い悔恨
[装備]:ファイズギア一式(ドライバー、フォン、ポインター、ショット、アクセル)@仮面ライダー555 、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品、、クラスカード(黒騎士のバーサーカー(使用制限中))、サファイアの破片
[思考・状況]
基本:ファイズとして、生きて戦い続ける
1:情報交換の結果に合わせて動く
2:見知った人や仲間がいなくなっていくことに対する喪失感
3:間桐桜を守りたいというこの思いは―――
[備考]


706 : 消せない罪 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:45:05 k1BvQl460
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(特大)、全身にダメージ(大)、ツヴァイフォーム使用による全身の負荷(回復中)、クロ帰還による魔力総量増大
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター(使用制限中))(ランサー(使用制限中))(アサシン(使用制限中))(アーチャー(使用制限中)(ライダー(使用制限中))@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、
[思考・状況]
基本:皆と共に絶対に帰る
1:巧、桜と共に柳洞寺に向かう
2:桜のことは守りたいが…
[備考]


【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:右腕欠損、魔力消耗(大)、顔面の右目から頬にかけて切り傷、右目失明、視力障害、脳への負荷による何らかの後遺症(詳細は現状不明)、強い罪悪感
[服装]:マグマ団幹部・カガリの服(ボロボロ)@ポケットモンスター(ゲーム)、キュウべぇ@魔法少女まどか☆マギカ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:死にたい
1:柳洞寺に向かう。あわよくばそこを自分の死に場所としたい
[備考]
※黒化はルールブレイカーにより解除されました。以降は泥の使役はできません。
※切断された右腕はナナリーのギアスの影響で修復不可となっていました。


【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:「生きろ」ギアス継続中、疲労(大)、両足に軽い凍傷、腕や足に火傷
[服装]:ゼロの衣装(マントと仮面無し)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[装備]:ランスロット・アルビオン(右足・ランドスピナー破損、右腕破損、胸部貫通)@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:基本支給品一式(水はペットボトル3本)、スタングレネード(残り2)@現実
[思考・状況]
基本:アカギを捜し出し、『儀式』を止めさせる
1:この場でだけ枢木スザクとして生き、皆の力となって帰還を目指す
2:月との相談後アヴァロンに向かう
3:アカギの協力者にシャルル・ジ・ブリタニアがいる前提で考える
4:ランスロット・アルビオンを修理したい



【ニャース@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:ダメージ(中)、全身に火傷(処置済み)
[装備]:サトシのピカチュウ(ダメージ(中))@ポケットモンスター(アニメ)、ゴージャスボール@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品一式、
[思考・状況]
基本:この場所から抜け出し、ロケット団に帰る
1:ボールの解析情報などを他の皆と共有するため遊園地に向かう。
2:できればポケモンがいなくなったモンスターボールも見ておきたい。
3:ポケモンとは―――
[備考]
※参戦時期はギンガ団との決着以降のどこかです



【E-6/アヴァロン/二日目 深夜】

【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(小)、ゲーチスの言葉によるショック
[装備]:サトシのリザードン@ポケットモンスター(アニメ)、タケシのグレッグル&モンスターボール@ポケットモンスター(アニメ)、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[道具]:基本支給品×2、割れたピンプクの石、ゾロアーク(スナッチボール)@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:ポケモン城に向かい、クローンポケモン達を救う
2:世界の秘密を解くための仲間を集める
3:ゲーチスの言葉に対するショック
[備考]
※モンスターボールに対し、参加者に対する魔女の口づけのような何かの制約が課せられており、それが参加者と同じようにポケモン達を縛っていると考察しています。



【夜神月@DEATH NOTE(漫画)】
[状態]:疲労(特大)、右頬に大きな裂傷(応急処置済) 、視力にダメージ(平時には影響無し)
[服装]:ビジネススーツ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:キラではない、夜神月として生きてみたい
1:情報交換を行い、これからのことを相談する
2:Lの代わりとして恥じないように生きる
3:メロから送られてきた(と思われる)文章の考察をする
[備考]
※死亡後からの参戦


707 : 消せない罪 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:45:26 k1BvQl460


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み)、強い悲しみ
[服装]:見滝原中学校指定制服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、咲夜子のクナイ@コードギアス反逆のルルーシュ、グリーフシード(人魚の魔女)@魔法少女まどか☆マギカ、ブローニングハイパワー(13/13)@現実、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、トランシーバー(電池切れ)@現実 、医薬品
[思考・状況]
1:………
[備考]


【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:ダメージ(小)、ネモと一体化、全身に切り傷、左肩に打撲と骨にヒビ
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(9+1発)@現実、ポッチャマ@ポケットモンスター(アニメ)、双眼鏡、 あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。
1:ナナリーの騎士としてあり続ける
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:間桐桜に対して―――
最終目的:『儀式』からの脱出、その後可能であるならアカギから願いを叶えるという力を奪ってナナリーを生き返らせる
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※アリスのギアスにかかった制限はネモと同化したことである程度緩和されています。
魔導器『コードギアス』が呼び出せるかどうかは現状不明です。


708 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/10(日) 17:46:35 k1BvQl460
投下終了です
wiki収録の際容量オーバーした場合は>>703から分割します


709 : 名無しさん :2020/05/11(月) 20:34:33 McCmscok0
投下乙です
うーむ、たっくんやイリヤの桜を助けたい気持ちも分かるが、それに対するスザクの言葉も重い
そしていよいよ主催者との直接対決が近いか…?


710 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/24(日) 14:52:19 6yyAG8nc0
投下します


711 : 憐れみをください ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/24(日) 14:53:00 6yyAG8nc0
目の前を歩く士郎の姿。
その背には眠り続ける小さな少女が背負われていたが、巧には何だかそれ以上に重い何かを抱えているようにも見えた。

思えば、あの時からもっとあいつの傍を離れずにあんなことにはならなかったのかもしれない。
そんな選択は互いに取れないのだろうと思っていながらも、今思い返すとそう考えずにはいられなかった。

「…なあ、お前の気にしてるやつ、間桐桜、だっけ。お前の彼女なんだろ、どんなやつなんだ?」

雑談のつもりでふと口にした言葉。
その中で無意識のうちに、その背が背負わされているものが何なのかということにもっと近づきたくて探ろうとしていたのかもしれない。

「桜は、…、まあ話せば長くなるんだけどな」

ポツポツと思い出を語り始めた士郎。
その一つ一つに、士郎が桜に対して抱いている想いを感じさせた。

「だけど、桜は俺の前以外だと、今でもあまり笑わないらしいんだ」

語る細かい内容はよく理解できなかったが、要約すれば彼女は家で行われていた実験のようなものの結果短命であり、そこで命を伸ばすために人を食らうこともあったのだという。

「そうなったのは最近だったんだけど、でもずっとそうやって、誰にも助けを求めずに過ごしてきたってことに俺はずっと気付けなかった」

自分を責めるように言う士郎。
慰めの言葉を口にしかけて、しかし言いかけたところで喉元で止まった。

「お前は、そいつを助けたいんだよな?」
「そうだな。助けたい、生きてほしい、一緒に隣で歩んでいきたい、そう思う」

空を見上げながらそう言う士郎。

「だけど」

その視線のまま、どこか遠くを見ているような目のままでこう続けた。

「こうも思うんだ。一緒に歩むだけじゃない。
 桜が、いつか俺がいなくても、笑えるようになってほしいって」
「…縁起でもないこと言うんじゃねえよ」
「はは、そうだよな」

笑い飛ばした士郎。

「…だけど、そうだな。
 そんなふうにできたら、いいな」
「そうだな」

その言葉の奥底に含まれていた意味に、あの時の俺は気付けなかった。
そして自分が口にした言葉がどれほどの重みを持っていたものだったのかも。





712 : 憐れみをください ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/24(日) 14:53:21 6yyAG8nc0

「……」
「お、おい。大丈夫か」
「…だ、大丈夫です……。自分で歩けます…」

躓きそうになりながら歩を進める桜。
遊園地を出発して以降、フレンドリィショップが見えてくるこの場所まで来るところまでで既に四度は躓いている。
うち一度は地面に倒れており、出発前に遊園地で見繕ったシャツとロングスカートも既に土で汚れている。

そして、そのたびに時間をかけて起き上がる。手を貸そうとする巧を拒絶して。

「……ねえ、少し休んでいった方がいいんじゃ…」

イリヤがポツリと、フレンドリィショップを指差しながら言う。
何度も転ぶ桜の姿があまりにも痛々しく、歩いているだけでも辛そうだ。

無理もない。そもそも右腕を喪失した桜にはバランスを取ろうとして歩くだけでも常人より負担がかかる。
転んでしまおうものなら尚の事だ。

「…大丈夫、です。まだ行けます。急がないと、行けないんですよね…?」

しかし桜はイリヤの提案も断って前に進む。

『確かに今はあまりゆっくりするよりも次の放送までに目的を果たした方がいいだろうからね。
 まあ、もう一方の彼らがどれだけ時間がかかるかは分からないけど』

そんな背中を見ながら、ひょこひょこと歩いてきたキュゥべえ。

『一つ聞いておきたいんですが、キュゥべえさん、あなたのいうやり方には桜さんが必要、ということでしたが。
 それは桜さん自身に危険が及ぶってことはないんですよね?』
『全ては彼女次第だよ。
 例えば精神状態を悪化させた人間は得てして不幸に巻き込まれやすくなる。事故や事件、魔女の餌になるなんてことも僕たちの世界じゃあったね。
 そういう因果が集まりやすくなる。彼女に生きる気力がなければ結果は一つしかない』
『答えになっていませんよ。桜さん自身に危険が及びはしないのかどうかという一点を聞いてるんです』
『敢えて言わせてもらうなら、五分五分といったところだ。
 だけど彼女の気力があの様子なら、結果は見えている。
 イリヤスフィール、そんな顔をしないでほしいな。少なくとも現状だとこれが最善なんだよ。
 時間をかけるわけにもいかないし、君たちに間桐桜という罪を背負った存在を抱えたままアカギ達との戦いに挑むことは難しいんだから』

言外で見捨てようとも取れる言葉を投げるキュゥべえをにらみつけるイリヤ。
弁解のように、これが最善だと告げるキュゥべえだったが、その言葉が逆にイリヤと巧の心に強い敵愾心を植え付けていた。

「一番いいやり方だから見捨てるとか、そういうものじゃねえだろ、人の命ってのは」
『君たち人間はどこの世界でも変わらないよね。
 僕たちが宇宙全体のために行動してるって話しても、みんな決まって同じ反応をする』
「まどかさんがあなたのこと恨むような目で見ていた気持ち、何か分かった気がする…」

これがわざわざこっちに来たのもその辺りの事情だろう。
きっと巧やイリヤには自分を手に掛けるほどのことはできないと踏んでいるのだとルビーは推測した。

『僕のことよりも間桐桜を追った方がいいんじゃないのかな?』

キュゥべえがそう言うやいなや、視界の外まで行った様子の桜が再び転倒するかのような音が響いた。
駆け出す巧、その後を少し遅れて追うイリヤ。


713 : 憐れみをください ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/24(日) 14:53:35 6yyAG8nc0
キュゥべえはそんな二人を後ろから見ながら、ゆっくりと後を追って歩き始めた。


追いついた巧が見たのは、地面に倒れた状態でまた起き上がろうとする桜の姿。

「おい、大丈夫か!」
「…大丈夫です、自分の力で起きられ……っ」

桜は手を地面についたところで、一瞬息を詰まらせた。

それでも起き上がった桜。その様子が気になった巧は、桜を無理やり座らせた。

「…!何するんですか…!」
「いいから!じっとしてろ!!」

スカートの膝元を捲ると、膝を擦りむいていたようで肌に血が滲んでいた。

「お前、足が」
「…足が、どうかしたんですか?」
「そうか、見えねえんだったな。悪い。
 擦りむいてるぞ。痛かったんだろ」
「これぐらい、大したことないです。どうせ体はもう、ボロボロですから…、今更傷一つくらい」
「だからって放っとけるか」

残っていた飲料水で濡らした布で傷口を拭き取る。

「ねえ、ルビー。あれくらいの傷は治せない?」

どこからいたのか、巧の後ろでその様子を見ていたイリヤがルビーに問いかける。

『んー、やろうにもイリヤさん自身治癒魔術とか医療技術とかに精通してたりってことがないですからねぇ。
 それにあれくらいの傷ならすぐに治るでしょうし』
「そうかもしれないけどさ、でも」
「…気にしないでください。これくらい、大丈夫ですから」

巧が傷を拭き終わったと見るや、バランスを崩しながら立ち上がる。

手を貸そうとした巧を、桜は振り払って歩き出す。

その後ろに追随しながら、思わず巧は問いかけていた。

「お前、何でそんなに全部自分でやろうとするんだよ」

他人を拒絶して全部を自分で背負い込んで。
何だか、少し前の自分を見ているような錯覚を覚えた。

「…だって、全部私のせいだから…、私にできることは、私がやらなきゃだめじゃないですか」

こちらに背を向けたままそう呟き。

「先輩も、もういないんだから…」


714 : 憐れみをください ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/24(日) 14:53:51 6yyAG8nc0

諦めの混じった、その小さな呟きを巧の耳は聞き逃さなかった。

その言葉に、士郎が語った間桐桜という少女についての話が脳裏をよぎった。

『桜は俺の前以外だと、今でもあまり笑わないらしいんだ』

笑わなかった。それはどういうことか。

もしかして、こんなふうに感情全てを押し込んで辛いという気持ちも外に出すことなく抱え込んでいたんじゃないか。
そして、その感情を出せる唯一の相手が、士郎だったんじゃないか。

『桜が、いつか俺がいなくても、笑えるようになってほしいって』

士郎の言葉が、再び蘇ってきた。


前を行く桜の前に回り込んで、その左腕を自身の肩に置く。

「な…、っ、止めてください!一人で行けます!」

不意の行動に思わず声を荒げてしまう桜。

その体を支え、抗議する桜を放さないようにしながら巧は言った。

「ああ、士郎はもういねえんだ。守れなかった俺の責任だからな。
 でも、だからってあいつの代わりにお前を守ってやるなんてことは言えねえ」
「…だったら邪魔しないでください!私は一人でも大丈夫だって言ってます!」
「だけど、俺は俺として、お前を支えてやることはできる」
「…!」

桜の抗議する力が緩まった。

「お前がどんな世界で生きてきたかなんて、俺には分からねえけど。
 でも、お前の世界はどうあれ、俺は俺が守りたいものを守る。それだけだ」
「私の世界は、もう壊れてるんですよ…。父さんに捨てられて蟲だらけの倉で心と体を壊されたあの日から…」

それでも、拒絶の意思は曲げられなかった。

「もし私の役目を果たしたら、たぶん私は死にます。それが私の償いで、私の最後の願いなんですから…」

そう願うからこそ、これ以上こちらに情けをかけられることも手を差し伸べられることも、受け入れたくはなかった。
このまま、虚無の中で沈んでしまいたい、消えてしまいたい。

「それは、嘘だよ」

そんな桜の言葉を否定したのは、二人の後ろを追っていた少女、イリヤだった。

「私見てた。最後に撃ち合ったあの時、桜さん、泣いてたの」

宝具を放つ直前の一瞬。
ほんの小さな光だったが、イリヤは怪物と化しつつあった桜の瞳から漏れ出た一筋の光を見逃さなかった。

それが、あの決死の一撃への意思に繋がったのだ。


「そ、れは」


715 : 憐れみをください ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/24(日) 14:54:11 6yyAG8nc0

夢を見ていたかのように記憶から薄れかけていたものが蘇る。
狂気の中、英霊との同化が進行しすぎて記憶を食いつぶしそうになったあの瞬間。

「あれは、あの記憶は、私の、私だけのものだから、それだけは無くしたくなかったから」

罪を重ね、狂気に堕ち、最後は死すらも望んでおきながら。
大切な記憶を、想いすらも失って何でもない何かになってしまうことだけは恐れていた。

「身勝手なんですよ、私。死んでもいいって思っても、そんなことに怖いと思っちゃって。
 みんなを殺したことだってそうです。たくさん人を殺したことより、藤村先生を殺したこと、先輩が死んだことの方が、ずっと悲しいんです」
「いいんですよ、ワガママで。みんなぐちゃぐちゃで、その時々で言うことも違ったり後先考えないことしちゃったり。
 私の周りにもいたんだし」
「…私は、あなたの友達も殺したんです。
 恨んだりはしないんですか?」

イリヤの胸に、一瞬チクリと刺さるような痛みが奔る。
美遊やルヴィアの命を奪ったという事実は、取り繕おうとしてもそう簡単に拭えるものではない。

「正直、私にもまだ整理しきれてないのかもしれない。
 もしかしたら士郎さんのことがあるから、目を背けてるだけなのかもしれない」

それは現状のイリヤの正直な気持ちだった。

「だけど、どんなことをした人でも、どんな悪いことをした人でも。
 私の目の前に苦しんでいる人がいるなら、私は手を伸ばすよ」

桜に向けて手を差し出すイリヤ。
その表情はよく見えない桜はその白い手を見つめていた。

「……今までずっと1人でした。助けてとも言えなくて、ずっと孤独で苦しくて。
 もし私の周りにいた人に、あなた達みたいな人がいたら、ここまで苦しまなくてもよかったのかな」
「何言ってんだよ。まだこれからだろ」
「………」

こんな自分を助けようとする巧とイリヤ。

拒絶することを止め、巧に肩を貸された状態で歩く桜。

だけど。
この二人の放つ光は、桜にはあまりにも眩しすぎた。




「巧さん、疲れたら言ってね。私が代わるから」
「これくらい何ともねえよ。それに子供に無理させられねえだろ」
「そうかもしれないけど、…あんまり一人で背負いすぎないで」

歩み始めた三人。
イリヤは巧と桜の後ろをその背を見ながら付いていく。

『イリヤさん、いいんですか?スザクさんに言われたことは』
「……うん、よくはないけど、どうしたらいいのかが思いつかなくて」

後ろから見る二人の背中。
覇気も生きる気力も薄い桜の背に対して、巧の背は何だか色々なものを背負いすぎているようにも見えた。

出発前にスザクに呼び止められて、言われた言葉を思い出す。




「僕は乾巧、彼のことをよく知ってるわけじゃない。
 そんな僕から見ても、彼はいろんなものを背負い込み過ぎているように見える。
 僕にもそんな経験があったけど、彼はそれを全部自分の中で完結させようとしてるんじゃないかって」
「…それは」
『あー何か分かります。最初に会った時だってかなり壁高かったですし』
「そうだな、死者に心を囚われているとでもいうべきなのかな。
 間桐桜のこともそうだ、僕と彼はなんとなくだけどいざというところで相容れないと思う。だけど気がかりではある。
 もし君にできるなら、彼のその心を支える役割をお願いできないか?」



断る理由もなかったから、その役割を承諾した。

ただ、現状は桜のことで手一杯であり巧に対してどうするべきなのか、何ができるのか。
それが思いつかなかった。

(どこかで何かできる時が、来るのかな)


716 : 憐れみをください ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/24(日) 14:54:29 6yyAG8nc0

【C-4/西部/二日目 黎明】


【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、皆の死に対する強い悔恨
[装備]:ファイズギア一式(ドライバー、フォン、ポインター、ショット、アクセル)@仮面ライダー555 、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品、、クラスカード(黒騎士のバーサーカー)、サファイアの破片
[思考・状況]
基本:ファイズとして、生きて戦い続ける
1:キュゥべえのいう会場の装置をどうにかするため柳洞寺に向かう
2:見知った人や仲間がいなくなっていくことに対する喪失感
3:間桐桜を絶対に死なせない
[備考]




【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(小)、ツヴァイフォーム使用による全身の負荷(回復中)、クロ帰還による魔力総量増大
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター、ランサー、アサシン、アーチャー、ライダー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
基本:皆と共に絶対に帰る
1:巧、桜と共に柳洞寺に向かう
2:桜に手を差し伸べる
3:巧のことも気がかり
[備考]


【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:右腕欠損、魔力消耗(大)、顔面の右目から頬にかけて切り傷、右目失明、視力障害、全身傷だらけ、強い罪悪感
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:死にたい
1:柳洞寺に向かう。あわよくばそこを自分の死に場所としたい
2:二人の優しさが眩しすぎる
[備考]
※黒化はルールブレイカーにより解除されました。以降は泥の使役はできません。
※切断された右腕はナナリーのギアスの影響で修復不可となっていました。


717 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/24(日) 14:54:44 6yyAG8nc0
投下終了です


718 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/05/24(日) 14:58:17 6yyAG8nc0
あと月報用データも置いておきます
165話(+2) 10/57(-0) 17.5


719 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/06/07(日) 22:14:09 WrCpge8k0
投下します


720 : 白き牙の飛翔 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/06/07(日) 22:14:42 WrCpge8k0
ニアは考えていた。
この殺し合いには、何か目的があると。
そして、そのためにあえて殺し合いの中に希望を残していると。

それはニアが残していたメモからも分かる。
だがニアが考えられる情報はおそらくこれ以上のものは望めまい。
動くことなく、周りに誰も置かぬ状況で更に深くを考えることはできない。

ニアのいた場所に他に誰もいなかったのは、殺害者と争った形跡も殺された形跡もないことから読み取れる。

なら俺が考えるべきはその先だ。
何故その必要があるのか。そのために用意されたこの会場から脱するための手がかりは何か。

考えてみよう。

まず、会場についてだ。
この空間は孤島のようになっているが、この外はどうなっているのか。
無論見ることは難しいだろう。何しろ島の外は海だ。
30秒の猶予でどれほどの移動ができるか。戻る時間も込ならなおさらだ。

だがもし手段があるならば―――。


そして美国織莉子から聞いた、ポケモン城のこと。
ここに何かがあるのは間違いないだろう。しかし同時に胡散臭いとも思う。
何故そんな場所を初期位置とさせる参加者がいたのか。

ランダムとするにしてもおかしい。もしそこに移動手段を持たない者がいたならば留まるしかなくなり、場合によっては殺し合いが停滞する可能性もある。
ポケモンを知るものがいたというのも偶然と片付けるにはできすぎている。

不自然な点は今挙げたように多い。ならばどうするべきか。
仮定を立てて考えていこう。

もし自分であれば、見つかって不都合なものはどこに隠す?
これは場合によりけりだろう。遠くに離すことが安定だろうが、木を隠すなら森の中、灯台下暗しという言葉もあるように近くに置くことを視野に入れるケースとて有り得る。

逆にあからさまに怪しく、しかし目につかなくはない場所に置かれたものはどういうものか。
これは、いずれかのタイミングで見つけてほしいものではないかと考える。
参加者に希望を持たせるという意味ではこれらは本物である可能性は高い。だがそこにはアカギ達にとっても都合のよい何かが隠されているだろう。

だとすればどこに本命があるだろうか。

仮説ならば幾つか立てられる。

例えば会場の中心。管理にしろ監視にしろ、位置的にはうってつけだろう。
ちょうどその位置周囲には病院や遊園地をはじめ、幾つかの施設がまとまっている。

例えば別方面の会場の端。この場所なら蓬莱島なる場所が該当するだろう。
何しろポケモン城とは位置が反対だ。両方を調べるには時間がかかりすぎる。ならば普通はダミーとして置かれた怪しい方を選ぶ者が多いだろう。


721 : 白き牙の飛翔 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/06/07(日) 22:14:58 WrCpge8k0


さて。仮説は立てたが実証するには動かなくてはならない。
だが動くのはもう難しいだろう。あるいはここで俺は命を落とすかもしれない。

だからせめて、今挙げた考えを元に誰かが動いてくれれば。
そう思って、俺、メロはこのメールを送ろうと思う。

Lか、あるいはそれに並ぶ…ものはいないだろうがこの情報を活かして動くことができるものの手に渡ることを信じて。





「単刀直入に言おう。
 スザク、キュウべぇの言うことには何かが隠されていると思う」

巧達の出立を確認したスザクは、アヴァロンとの通信を再開した。
ルビーがいない以上、スザク個人との通信という形になったが、現状この場には他にニャースしかいないのでそこまで問題にはなっていないだろう。
そのニャースにもいくつかの仕事を任せている。

「やっぱりそうだろうね。具体的には?」
「これはヤツの言葉が信じられないっていう前提で考えたことなんだが。
 情報の出し方があからさますぎると思う。わざわざ自身が矢面に立ってまでこの場に来る、果たしてそこまでしなければならないことなのかってね」

月にはその動きは、Lの名を知るために記憶を失わせてまで彼に接近しようとした自分のことを思わせていた。
まどかから聞いた話では彼らは感情はないといい、人間から見れば合理的な判断の元で行動する生き物だと言っていた。
ならば、そこには彼らにとって大きな利となるものがあるはずだ、と月は疑いを持ったのだ。

この話はキュゥべえがいる場所ではできない。

「鹿目まどかの言を聞くに、おそらくキュゥべえの言うことは真実だろう。柳洞寺に向かうことはこっちにも利になる可能性が高い。
 だけど」
「その裏で何か不都合なものを隠そうとしていると」
「そうだ」
「おーい、ちょっといいかニャー!」

そこまで話したところで、ニャースの声が響いた。

コックピットから顔を乗り出し、ランスロットの破損箇所を梯子に乗って見ていたニャースに目を向ける。

「どうかな、直りそうかい?」
「腕の部分の破損と足のホイールの欠損と、あと全体的にエネルギー効率が落ちてパワーも下がってる様子ニャが。
 まあ、直せないわけじゃないと思うニャ」
「そうか、ならすぐに」
「ただ問題は、時間が足りないってところかにゃあ」

それまで元いた世界では組織で自前のメカの作成、開発を行っていたということでランスロットの修繕をニャースに頼んでみたスザク。
ニャースの反応としては、不可能ではないが時間が厳しいということだった。

「…ちなみにもし現状で動かした場合はどうなると予想される?動かす上での不都合はあるだろうか?」
「にゃー、動かすの自体にはたぶん問題はないと思うにゃ。ただその場合、このメカのパワーに影響するんじゃないかにゃあ」

コックピットに戻り、電源を入れてみるスザク。
機体の部位の出力を見ると、確かに破損箇所のパワー不足が機体全体に影響している。
これだと今まで見ていたアルビオンの性能と同等、とはいかなくなるだろう。せいぜい通常のランスロットと同等程度まで落ちる。

「ということらしい。ちなみにさっき送った情報についてはどうだい?」
『こっちでも調べてはいる。だが、はっきり言おう。不可能だ』
「…そうか」

月に頼んだ事柄。


722 : 白き牙の飛翔 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/06/07(日) 22:15:14 WrCpge8k0

それはニャースがアクロマに報酬として譲渡されたという情報。
遊園地に、自分たちにとって有益となる何かを置いたということ。

どこにあるのか、見つけるのはそう時間はかからなかった。

遊園地において、L達が地下になにかあると考え、後々調べるとしていた空間。鹿目まどかから聞いた情報だ。
そしてその場所は、セイバーが最期にゼロに剣を振るい消滅させた地点。それが偶然だったのか彼女自身狙ったものだったのかは今となっては分からないが。

崩壊した地面はすぐに割れ、まるで地下倉庫のような施設への入口がそこにあった。

その扉の側面にタッチパネルが備え付けられており、こう書かれていた。

【あなたに必要なものを一つだけ検索し取り寄せます。希望するものを入力してください。
 なお、入力内容の具体性により検索個数は変化します】

要するにアクロマは何かを準備したのではなく、必要なものを一つだけ手にする機会をニャースに報酬として与えたということなのだろう。

例えばで、武器、と入れると銃器、刀剣類、棒や何に使うのか分からないものなど多数の武器情報がモニタに陳列され。
逆に銃器を型番で入れると、その銃本体や銃弾などの部品が出てくる。

一例として夜神月の言うようにデスノートと入れると、複数の黒いノートが画面に並んだ。
複数並んでいるのは所有していた死神の違いのようで、リュークのもの、レムのもの、それ以外の知らない名前のものがあった。
本物かどうかは分からないが、この辺りの道具も用意できるのであれば何でも出せるというのは嘘ではなさそうというのが月の言だ。

そうなると当然現状必要なものは、この会場からの脱出に必要な道具だろう。
抽象的とはなってしまうが道具は絞り込んで必要そうなものを選べばいい。そう考えていた一同の希望は実際に表示された道具の数に打ち砕かれていた。

出てきた道具の数は何百万にも及び、更に道具も名前を見ただけでは分からないものも多く一つ一つの詳細を見ていかなければいけない、そんな状況だった。

禁止エリアまでの時間という制約もあり、月の方がもっと効率よく見つけられるのではないかと考えた。
だからこそ月にこの端末データを転送したのだが、その結果が先程の言葉だった。

『正確に言うなら、できなくはないだろうが、これを見るためには数日単位で時間を見る必要がある。時間が足りない』

例えば大層な名前がついているから開いてみたらただのネジだったり怪しげな球だったり時計だったり。
おそらくだが、何かしらの要素でそれを使うことが脱出に繋がる道具、その全てを表示するようにしているのかもしれない。

『条件を追加して絞ってみたりもしたんだがそれでも数万単位は残ってしまう。
 意図的なものなのかは知らないが、キュゥべえがこれを放置したのは直接脱出に繋がるものを見つけ出すのは困難だと知っていたからかもしれない』

Nに意見を聞いてもみたが同じ回答だったという。
この二人で無理であれば手の打ちようはないということだろう。おとなしく別の手を考えた方がいい。それが結論だった。

「じゃあこれはどうしたらいいかな?」
『それなんだが、一つ試したいことがあるんだが。
 スザクが乗っていったあのロボット、どれほどの火力がある?できれば遠距離から建造物を吹き飛ばせるくらいの威力は欲しい』
「今は、ゼロとの戦いのダメージが残っていてそこまで強い攻撃は機体できないな…」
『そうか。それだけの火力を出すことは、可能なものはスザクの知る限り存在するか?』
「なくはない、と思う。この場にはないけど……、あっ、そういうことか」
『まあ、できればでいい。できなければそこから出すものはそっちに任せる』
「ああ、分かった。じゃあこっちで取り寄せるものが決まったらアヴァロンと合流する」


通信機の電源を切り、パネルに再度検索する単語を入力する。

思いついたのはランスロット・アルビオンの代用となるもの。
戦艦を呼び寄せれば月の要求には答えられるだろうが、扱える自信がない。使い慣れたものである方が重要だろう。

もう一機のアルビオンが準備できればベストなのだが、とモニタに目をやる。

ランスロット、ランスロット・エアキャルバリー、コンクエスターなどかつて搭乗してきた乗機が並ぶ。
他にもランスロット・フロンティア、グレイル、クラブ、トライアルなどという自身の乗ったものではない機体も目に入った。
その中にアルビオンの名を見つけ、選択しようと指を近づけた時にその隣にあった名前に目を取られた。


723 : 白き牙の飛翔 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/06/07(日) 22:15:33 WrCpge8k0

ランスロット・アルビオンゼロ。
聞いたことのない名ではなかった。ゼロとなった自身の乗るべきKMFとして用意される予定があったという機体だ。
話としては企画段階でまだ開発されたものではなかったと思うが。
性能はアルビオンを越えたものだったはず。選択肢としてはそれ以上に優秀だろう。

しかしこの機体を選ぶのは気が進まなかった。

(優秀だが…ゼロ、か。今の僕が乗るべきものじゃないな)

アルビオンゼロから意識を離すも、未来の機体の存在から、もしかしたらと考えが浮かんだスザクは指を走らせ。

そして、”それ”を見つけた。




アヴァロンを進めながらスザクの到着を待つ艦内の一同。
ニャースとの合流、及び月がスザクと共に出るために艦の速度は速すぎず遅すぎずという辺りで移動を続けている。

少なくとも月はスザクとの行動が必要なものだと言っている。

「でも、大丈夫かい?」
「分からない、だけど僕がここにいることに対する利もないからね」

ポケモンの様子見も兼ねて室内にリザードンやゾロアーク達が呼び出された空間を一瞥しながら言う。

「こういうことを言うと嫌われるかもしれないけど、僕には彼らポケモンのことがよく分からない。だから大事に思うこともできない。
 場合によっては彼らを見捨てる、切り捨てる選択をするかもしれない。だけどそれは君にとっては許せないことだろう?」
「…まあ、そうだね」

本来なら時間をかけて相互理解を深めていくところだったのだろうが、如何せんそこまでを行う時間もなかった。
Nもそれを分かっているからこそ、月の言葉に怒ることも否定を行うこともなくその妥協を受け入れていた。

「キュゥべえの狙いがあるなら、なるべく急いで行動するべきだ。
 もし可能なら、巧達と僕達、そして君達の目的が同時に達成されることが望ましいんだろうけど、そこまでは望めないかな」

やるとすれば次の放送までを期限として会場維持施設なるものの破壊を目指すべきなのだろう。
期限はキュゥべえから聞いたように決められているため、そこがとりあえずのタイムリミットとして見るべきだ。
まあ、間に合わなかった時はその時で誰を責めるというつもりもないが。

メロから受けたメールの考察に合わせ、ニャースが調査したというモンスターボールの情報も合わせて思考を巡らせる月。

『ボールの制御については、何か怪しい周波数を受け取っている装置があるみたいなのにゃ。
 それを電気ポケモンのピカチュウに確かめさせたんにゃけど、今までは全然そんな気配を感じなかったのに病院内だとちょっとだけその電波を感じ取るところがあったみたいにゃ。
 遊園地でもそんな感じはしたって言ってたし。言ったから自覚して気付いたって可能性もなくはないけど、ちょっと気になるにゃ』

ふと気になったのが、病院と遊園地というところだ。

確か3回目放送前にゲーチスを最後に目にしたという場所は病院近辺だったはずで。
その時にはあの他人を操る服などは持っていなかったという。
ニャースが言っていた、アクロマのゲーチスに対する融通、それは病院で行われたものではないか。

そしてあのアクロマが残したニャースに対する報酬。それにもアクロマが関わっている。

偶然か、この二箇所の位置は妙に近いものだった。


その時、アヴァロンのレーダーがこちらに向かって飛行する何かを捉えた。


724 : 白き牙の飛翔 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/06/07(日) 22:15:50 WrCpge8k0

「スザクか。ようやく追いついたみたいだな。
 ……あれは、何だ?」

捉えたそれをモニタに映して拡大する。
するとそこに現れたのは奇妙な物体だった。

両腕には巨大な槍状の武器を取り付け、一面を青い鎧で覆った何か。
ひと目見た時の印象は、まるで巨大なサナギに蝶の羽が生えて飛んでいるよう、といったものだ。
騎士を思わせる外見だったランスロット・アルビオンとは大きくかけ離れている。
その背にある巨大な翡翠色の翼と、白い顔だけがかろうじてスザクが乗っていたランスロットアルビオンと連想させるものだった。

『こちら枢木スザク。ニャースも一緒だ。通信、聞こえるか?』
「こちらアヴァロン、夜神月だ。
 …スザク、それは一体…」
『アルビオンは出力低下で以降の使用は厳しそうだったから、乗り換えさせてもらったよ。
 例の装置で取り寄せさせてもらった新しい機体だ。
 君の言っていた火力については申し分ないと思う』
「ああ、それは見れば何となく察せるな」
『ただ、機体の巨大化に伴ってアヴァロンでの格納が難しくなってしまったと思う。
 乗り換えは格納庫付近で、機体を起動させたまま行いたいんだが、大丈夫か?』
「分かった、すぐそっちに向かう」

通信を切って荷物を纏め始める月。

「それじゃあN、この艦のことは任せる」
「ああ、君も気をつけて」
「お互いにな」

時間が押していることもあり、Nとまどか、アリスに別れの言葉を告げて、月はニャースと入れ替えにアヴァロンから離れていった。




「…狭いな」
「こればっかりは耐えてくれとしか言えないな。
 元々ここは一人用のコックピットだったんだから」
「それにしても、さっきのランスロットアルビオンという機体もすごかったがこいつはそれに輪をかけてすごいロボットだな」
「ランスロットsiNという機体らしい。僕も知らない、おそらく僕のいた世界より未来に作られたナイトメアフレームだろう」
「シン…、罪か」
「ああ、たぶんそうだと思う。
 ランスロットシリーズはその悪の象徴的な存在から開発が凍結されていたはずだ。
 もしかしたら、罪の名前を刻むことでその象徴として敢えて作られたものなのかもしれない」

ランスロットのコックピットに二人の人間が入るのはかなり厳しく、内部はかなりギュウギュウ詰めの状態だった。
かといって飛んでいる機体の外に生身の人間を出すわけにはいかない。それでも乗りこなしたセイバーと違って月はただの人間だ。

「場合によってはどこかで下ろすかもしれない、一応そのつもりで頼みたい」
「ああ、分かった」


725 : 白き牙の飛翔 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/06/07(日) 22:16:22 WrCpge8k0

飛行を続けるランスロット。
目指す先は遊園地だ。

「この機体は、禁止エリア外から遊園地を撃ち抜くことはできるか?」
「できると思う。説明書を見る限りではかなりの高火力が詰め込まれているみたいだからね」

既に禁止エリアに入る時間は過ぎている。
その外から施設を撃ち抜く必要がある。
Cのエリアに入るのは危険だろう。やるとするなら直下のD4のエリアからか。ちょうどここには病院もある。

「まずは病院からか。
 あそこはもう施設自体がかなり倒壊している状態らしいけど、地盤自体は無事の様子だからね」

やがてその病院の直上に到着したスザク。

狙うべき病院にロックをかけ。

「アロンダイト・マキシマ、発射…!」

腕のニードルにエネルギーを集中させ、それを一気に放出。
エネルギーは赤い光線となって病院に直撃。

夜闇の中に、轟音と共に熱と光が広がって病院があった地点を吹き飛ばした。
巨大なクレーター状に穴が空き、その奥には深い闇が広がっている。何がそこにあるのかは見ることはできなかった。


「月、会場に影響はないか?」
「視認する限りじゃ分からないな。あのステッキがあれば何か感じ取れたのかもしれないが
 じゃあ次は遊園地だな」

そういって視線を遊園地のある方に向けた時だった。

モニターが警告のアラートを鳴らし始めた。
探知用のモニターに目をやると、北、遊園地のあったエリアから3つの影がこちらに近づいてきている。

「スザク、これは…」
「向こうの目についたらしい。おそらく迎撃に来たんだろう。
 月、しっかり捕まっていてくれ。舌も噛まないように」

画面を拡大すると、迫っていたのは細身で巨大な剣を携えたグロースター、そして2機のヴィンセント。
ナイトメアフレームが3機。全てフロートユニットを装着している。

おそらくキュゥべえの言っていた、シャルルの私兵であるナイトオブラウンズだろう。

「慣れない機体でどこまでできるか分からないけど―――」

言いながら、その腕の巨大なスピアーを構えた。


726 : 白き牙の飛翔 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/06/07(日) 22:16:37 WrCpge8k0
【D-5/病院跡地付近/二日目 黎明】

【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:「生きろ」ギアス継続中、疲労(小)、両足に軽い凍傷、腕や足に火傷
[装備]:ランスロットsiN・ホワイトファング装備@コードギアス 復活のルルーシュ
[道具]:基本支給品一式(水はペットボトル3本)、スタングレネード(残り2)@現実
[思考・状況]
基本:アカギを捜し出し、『儀式』を止めさせる
1:この場でだけ枢木スザクとして生き、皆の力となって帰還を目指す
2:中央部の施設を破壊、会場に影響を与えるかどうかを確かめる
3:目の前に現れたナイトメアフレームに対処。



【夜神月@DEATH NOTE(漫画)】
[状態]:疲労(中)、右頬に大きな裂傷(応急処置済) 、視力にダメージ(平時には影響無し)
[服装]:ビジネススーツ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:キラではない、夜神月として生きてみたい
1:情報交換を行い、これからのことを相談する
2:Lの代わりとして恥じないように生きる
3:メロから送られてきた(と思われる)文章の考察をする
[備考]
※死亡後からの参戦



【E-7/アヴァロン/二日目 黎明】

【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(小)、ゲーチスの言葉によるショック
[装備]:サトシのリザードン@ポケットモンスター(アニメ)、タケシのグレッグル&モンスターボール@ポケットモンスター(アニメ)、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[道具]:基本支給品×2、割れたピンプクの石、ゾロアーク(スナッチボール)@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:ポケモン城に向かい、クローンポケモン達を救う
2:世界の秘密を解くための仲間を集める
[備考]
※モンスターボールに対し、参加者に対する魔女の口づけのような何かの制約が課せられており、それが参加者と同じようにポケモン達を縛っていると考察しています。




【ニャース@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:ダメージ(小)、全身に火傷(処置済み)
[装備]:サトシのピカチュウ(ダメージ(中))@ポケットモンスター(アニメ)、ゴージャスボール@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品一式、
[思考・状況]
基本:この場所から抜け出し、ロケット団に帰る
1:ボールの解析情報などを他の皆と共有するため遊園地に向かう。
2:できればポケモンがいなくなったモンスターボールも見ておきたい。
3:ポケモンとは―――
[備考]
※参戦時期はギンガ団との決着以降のどこかです






【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(小)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み)、強い悲しみ
[服装]:見滝原中学校指定制服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、咲夜子のクナイ@コードギアス反逆のルルーシュ、グリーフシード(人魚の魔女)@魔法少女まどか☆マギカ、ブローニングハイパワー(13/13)@現実、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、トランシーバー(電池切れ)@現実 、医薬品
[思考・状況]
1:………
[備考]


【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:ダメージ(小)、ネモと一体化、全身に切り傷、左肩に打撲と骨にヒビ
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(9+1発)@現実、ポッチャマ@ポケットモンスター(アニメ)、双眼鏡、 あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。
1:ナナリーの騎士としてあり続ける
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:間桐桜に対して―――
最終目的:『儀式』からの脱出、その後可能であるならアカギから願いを叶えるという力を奪ってナナリーを生き返らせる
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※アリスのギアスにかかった制限はネモと同化したことである程度緩和されています。
魔導器『コードギアス』が呼び出せるかどうかは現状不明です。


727 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/06/07(日) 22:16:50 WrCpge8k0
投下終了です


728 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/02(木) 22:10:47 U0iC5Wdk0
投下します


729 : PAST ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/02(木) 22:12:06 U0iC5Wdk0
「この儀式も大詰めか」

エデンバイタルの神殿を再現した空間。

集合無意識へと還っていく死者たちの記憶を見ながら、シャルルは一人呟く。

会場破壊へと行動を移した者達に向けて配下のラウンズの一部を差し向けた。
無論それで止められるとも思わないが、マリアンヌが向かうまでの時間稼ぎにはなるだろう。

暁美ほむらの見張り役がいなくなることが難点ではあるが、元々マリアンヌ自身が肩入れしていた少女だ、ここまで来たなら見張りの有無など些細なものだろう。

アクロマは逃亡、キュゥべえは単独で儀式参加者と接触を図り表向き彼らの脱出に手を貸し、現在のこちらで戦力として動かせる最大の存在は元々参加者であった暁美ほむらときた。
ただ一度、殺し合いというものを行うだけでもこうも場は乱れる。
それだけ参加させた者たちの因果が強いということなのだろうが。

ここから果たして儀式は望む方向に終わるのか、それとも失敗に終わるのか。
成功すれば世界を作り変える準備が整う。アカギの望む世界を、広範囲で創ることができるだろう。
もし失敗した時はどうなるだろうか。アカギは次の儀式の準備を迎えるのか、それとも諦めるのか。
いや、愚問だったかもしれない。おそらくアカギはその力が続く限り進み続けることだろう。

シャルルは回想する。アカギと出会い、この世に今一度現界を得たあの時のことを。



娘であるナナリーとの問答から敗北を受け入れ、集合無意識の中に消えていってからどれほどの時が流れたか。
あるいはエデンバイタルの時空の中では時の流れを数えることなど無意味であったかもしれない。

その間に何をしていたかなど覚えてはいない。自分が自分であったかどうかすら曖昧であったのだ。
多くの思念が流れ、消え、生まれ。
激流のごとく流れていくそれをただただ俯瞰するだけの刻。

それが満たされるものだったかといえばそうではない。
しかしこの身は敗北を受け入れた。過ちを飲み込んだ。だからこそ虚無に苦痛を感じることもなく、その永遠にも感じる時間に身を任せることもできた。


あの男、アカギによってこの身が呼び起こされるまでは。


アカギはエデンバイタルに迷い込んだ異物とでも言うべき存在だった。
破れた世界という世界の裏側から脱出を図りつつも己の目的を果たすための探索も続けていたという。

その破れた世界とエデンバイタル、共に世界の裏側であるということが何かしらの偶然で繋がりを持ってアカギの進入路として顕現したのかもしれない。

ともあれエデンバイタルに侵入したアカギ。本来であればこの多数の思念による情報の奔流に飲み込まれ精神を壊され消える運命だっただろう。
だがアカギは、その膨大な流れの中で心を揺るがされることなく己の意思を保ち。
情報の中からこのシャルル・ジ・ブリタニアの思念を引きずり出した。


730 : PAST ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/02(木) 22:12:36 U0iC5Wdk0
何故呼び出したのが自分だったのか。
今にして思えば、最も力を持ち、アカギに近い思想で世界の破壊と創生を目指した者だったからなのだろう。
だがもし偶然であろうとこの身を見つけるのがもう少し遅ければ、アカギの精神も砕かれていたはず。
そう思えばアカギも強い強運、大きな因果を持っていたのだろう。

呼び出された後は思想の奔流から抜け出し、どことも言えぬ空間でアカギと対面していた。
アカギは時間と空間を司る力をその手に宿していたが、こちらもエデンバイタルの力の一端を手にしている。

「儂を呼び覚ましたのは貴様か」
「ああ、そうだ」
「このシャルル・ジ・ブリタニアを呼び起こして、何を望む?」
「この不安定な世界を破壊し、平穏で静かな、新世界の想像を」

言葉には一切の濁りも迷いもなく。
まるで嘘に塗れた現世を否定したかつての自分を見ているかのようだった。

そしてその男の瞳は、このシャルル・ジ・ブリタニアの力を望んでいることもすぐに察した。

「儂は既に世界の創生に失敗した敗北者。現世で力を振るうことなどできぬ。
 それでもこの力を欲するか?」
「お前が世界で現存するための手ならある。
 この世界の力を引き出せる者の力が必要だ」

ずっと警戒していたこちらに対して威嚇する様子もなく、アカギはそう言った。
アカギなりに、二人は対等な立場だと言いたかったのだろう。

「一つ条件がある。
 儂は嘘が嫌いだ。もし手を貸し、力を借りる関係を築きたいならば、お前の心をこちらに見せよ」
「いいだろう」

にべもなかった。

抵抗する素振りを微塵も見せることなく心を開放するアカギ。
その内にある願い、感情、希望、絶望、それら全てをエデンバイタルの力をもって読み込んだ。





「――――良かろう。今より、儂とお前は同じ目的を往く同志だ」



何故アカギに力を貸そうと思ったのか。
似た者同士であるが故の共感、同情だろうか。
この男が歩もうとする世界を見届けてみたいという興味からだろうか。

前者の方が近いかもしれない。だがそれだけではなかった。

かつて人が人を信じるという可能性の中で夢を諦めた。
そんな中でかつての自分を連想させる男が目の前に現れた。
シャルルにはこれが偶然とは思えなかった。


731 : PAST ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/02(木) 22:12:53 U0iC5Wdk0

だからこそ世界に希望を託した娘への裏切りでもあることを承知で、この因果の行く末を確かめたかった。
この男との出会いに果たして何か意味があるのかどうか。


世界を見通していく中で、多くの場所に共通するものがあると感じた。
その世界における神、エデンバイタルにあたる者たちは、世界そのものが歩みを止めることを良しとしないことが多い。
例えばある世界では、神や真人が人に永劫の反映と安らぎを与えたがそれがその停滞に触れ、行き詰まったものとして切り捨てられているものがあった。

我らの試みは世界を停滞させてでも安寧の場所を作ろうとするもの。もしそれに触れることがあれば例え世界を創り出したとしてもいずれ消えゆくだろう。
逆に言えばその神さえいなくなるならば世界の創造は難しいものではない。

結局のところやることは自身に生があった時と変わりなかった。ただその範囲が広くなっただけ。
抵触する神のことごとくを滅ぼし、アカギの望む世界を創り出す。




エデンバイタル、世界の裏を越えて様々な世界の根源にあるものに触れてきて、その影響でこちらの存在を察知したものもいくつかいた様子だった。
その一つがインキュベーター、キュゥべえと名乗る異邦人だった。

その者は我らに宇宙の熱力死の法則を教え、同時にそれを避けるために宇宙へのエネルギーを集めていたという。
そしてそれは我らの願う世界の想像においても逃れられぬものだと。

キュゥべえは集めたエネルギーを一部自分たちの宇宙へ分けることを引き換えに、世界の創造へ向けた技術協力を申し出た。

アカギは気付いていたかどうかは知らないが、キュゥべえが嘘をつく存在だということを見破るにはそう時間はかからなかった。
正確に言えば、真実の中に告げない言葉を混ぜることで己の都合のいい形に物事を進める者だったというところか。

相容れない相手であるし拒絶することもできただろうが、申し入れを受け入れたアカギに従い敢えて見逃した。



最終的な結論として殺し合いの儀式という形となったのは実験的な意味合いが強かった。
ある世界において、一定の存在を殺し合わせることで集めたエネルギーを様々な目的に使用するというものが見られたことから出た発想だった。

アカギ、キュゥべえ、そして自分の世界。
集めた参加者はある程度恣意的なものがあったり、ランダムであったりと理由は様々だった。

そこからある程度の因果を備えたものや因果に影響を与えうるものを集めた。

そして自分の世界から選出する場合、世界を変えた己の息子や娘達の参加が避けられないものであった時も顔色一つ変えることなく受け入れた。
ここで嘘を言ったとて何もならない。既に自分は世界から外れた存在、思い返すことなどないのだから。


舞台を整えるための準備を行った。
外界からの干渉を遮断するための結界を用意し。
会場に置く参加者外の生命であるポケモンを制御するため科学者アクロマを勧誘し。
そして万が一に備えてこちらの戦力を収集。ナイトオブラウンズを蘇らせ、他にもいくつかの世界にあったものを手駒とした。

そうして、儀式が始まった。




732 : PAST ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/02(木) 22:13:08 U0iC5Wdk0

この儀式自体は実験的なものであり、失敗を次に活かせるならばあるいはという考えも強かった。
だが、次があるかどうかも分からなくなりつつあった。

アクロマやキュゥべえの独断行動により会場の安定も崩れつつあり。
参加者達の因果も想定外の方向に向きつつある。
何より、ナナリーやルルーシュを贄としたことはマリアンヌにも少なからぬ反感を与えた様子だ。次の協力が望めるかどうかが怪しい。

今キュゥべえは参加者をこちらへとおびき寄せるためあの空間から脱する手段を参加者へと教えている。
だがそれだけが狙いでないことも知っている。

会場に置かれた柳洞時の聖杯。
あれには万が一の時に備えてキュゥべえ自身が余分にエネルギーを回収できるようにする機能が備えられていることも知っている。
キュゥべえは隠しているつもりだろうが、シャルルは既に見破っていた。
間桐桜を連れて行くように指示したのもそれを稼働させるためだろう。

ふと、自身の手に目を落とした。
大きな白い手の指先が、微かに綻んで形を崩しているように見えた。

(なるほど、次の猶予はない、ということか)

世界の修正力とでもいうのだろうか。
本来存在することが許されないものが、異世界の力をもってこうして顕現している。
まだ生があるアカギと違い、本来消滅しているべき自分が本来の世界の流れに逆らうことに限界が生じつつある。
干渉遮断フィールドが張られているうちは影響を最小限に抑えられるが、それがなくなればどうなるか。
マリアンヌにもその影響は出るだろうか。いや、彼女とラウンズはまだ呼び出して日が浅い。直ちに影響が出ることはないだろうが。

(フ、時間がないのは儂も同じか)

焦り急ぐ参加者達とキュゥべえにとやかく言うことはできないと自嘲する。

もしここで消えたとして、アカギは再びこの身を呼び起こすだろうか。
あるいはアカギの力でも干渉できないように消されるかもしれない。
もしそうなった場合、アカギの望みは誰が手を貸すことになるだろうか。

(だが、まだ消えるわけにはいかぬ)

その本来消えるべき亡者が多くのものを巻き込んでまで手を出したこの儀式だ。
消えることが避けられぬというなら、せめてアカギと今戦う者達の行く末だけでも見届けるまでは。

ラウンズと戦う枢木スザクや。
各々の運命と向き合う者たちの姿を、エデンバイタルの玉座の空間に映し出される映像から見ながら。

シャルル・ジ・ブリタニアは一人、誰に気づかれることもなく意思を固めた。


733 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/02(木) 22:13:27 U0iC5Wdk0
投下終了です


734 : 名無しさん :2020/07/04(土) 07:11:29 HBG6F9d.0
乙です。
こういう黒幕側の描写がくると佳境に入った感じしますねー。
アカギとシャルル間にユウジョウめいたものがあるのいいなぁ、QBは許さない


735 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:22:22 RPMoHKfk0
投下します


736 : I beg you ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:23:01 RPMoHKfk0
柳洞寺に設けられた地下大空洞。
再現元の世界で大聖杯の保管場所とされた空間であり、この殺し合いの場においてもある種特殊な空間とされている。

儀式により集められたエネルギーを一時的に集めるという意味で聖杯に近い機能を持たされた場所。
だが今はそのエネルギーは器の中には残っていない。放送毎にエネルギーそのものは回収され最終兵器へと転移させられている。

これにキュゥべえが細工し、エネルギーをばれない程度に、しかし魔法少女から集めてきたそれと比べれば破格な量を溜め込むようにしている。

「そういうことね」

それをたった今ほむらは見破ったところだった。
キュゥべえの動きを見ていて、この場所に対する変な拘りを感じたほむらが先回りして調査を行い、その結果が今見えたのだ。

キュゥべえが何を狙って殺し合いの場に入ったのか、それが分からなかったほむらはキュゥべえの因果を操作し行動に焦りが混じるようにさせた。
結果、若干迂闊にも思える動きをしてくれたことで彼自身の目的も理解できた。

どうやらキュゥべえはどさくさ紛れに自分の分だけを横領することを選んだようだ。その後逃走するのか儀式が終わるまで図々しくも居座るのかは分からないが。
何故そんなやり方を選んだのか。
あれの考えなど分からないが、少なくとも自分が協力者として取り入ったことは影響しているのだろう。

うまくいくのかどうかと言えば、少なくとも疑似聖杯の解析が会場の結界に影響することは事実な以上その後の混乱を考えれば全くの無謀とも言い切れない。


「アーニャに連絡する時間はないわね。彼らももう近くまで来てるみたいだし。
 それに私の目的のための要素もあることだし。
 ……そうね、少しこれを利用させてもらおうかしら」

意地の悪そうな笑みを小さく浮かべて、ほむらは聖杯の壁面に手を触れた。

その手には手に二枚のカードが握られていた。
アーニャから渡された、剣士と牛頭の男が描かれたものを。




737 : I beg you ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:23:20 RPMoHKfk0

(ねえルビー)
(何でしょうかイリヤさん)
(桜さんと話をしたいんだけど、どんな話題がいいと思う?)
(………、とりあえずどういう文脈でそうなったのか説明いただきましょうか)

薄暗い道を、桜を支えながら歩くイリヤと巧。

桜に手を差し伸べると告げたイリヤは、桜ともう少し近づきたいと考えていた。
しかし、話題がなかった。

共通の話題。例えば衛宮士郎のどんなところが好きなのか。
地雷である。少なくとも自分が持ちかけていいものではない繊細な話だ。

これまでどんなふうに過ごしてきたんですかとか聞くのはどうだろう。
そう思ったイリヤだったが、何か直感的にまずいものを感じた。だからこそルビーに問うたのだ。

(止めておきましょう。少なくともイリヤさんには恐ろしく刺激の強い話が飛び出しますよ)
(ど、どんな話を想定してるのルビー…。分かった、止めておこう)

考えれば考えるほどドツボにはまってしまっていた。

士郎のこともあり、かなり微妙な関係だったのだ。


「……なあ、お前、士郎のどんなところが好きだったんだ?」
(あれ…?)

不意に巧の口から出た言葉に思わずそちらに視線を向けるイリヤ。
すると一瞬、チラリと巧と視線があった。
偶然ではなく、明確な意図があるように。

(あ、もしかして今の話聞こえてた…?)

聞こえないくらいに小さな声で話していたつもりだったが、巧の耳には届いていたようだった。
気を遣われてしまったことに静かに感謝するように頭を下げた。

「なんで今更、そんなことを聞くんですか…?」
「今だからだよ。士郎の件には、俺に大きな責任があるからな。
 あいつが守りたかったやつがどんだけ士郎のこと想ってたのかとか、知っておくべきなんじゃないかって思ったんだよ。
 ていうかよ!!何か空気重いから話でもしたいんだけど話題が思いつかなかったんだよ!」

どこまで気を遣われていてどこからが本心なのか。ぶっきらぼうに言われた言葉の中にある想いがどれほどのものかイリヤには測れなかった。
まあでも話題が思い付かなかったというのは本心だろう、とイリヤは思った。

一方で桜も問われたことに沈黙で返す勇気はなく、沈黙だらけで重苦しい空気に桜自身疲れていたのか、ポツリと語り始めた。

「最初は、おじいさまの命令だったんです。
 兄さんと付き合いがあった先輩が怪我をした折、前回の聖杯戦争で生き残った人の息子だっていう先輩を見舞いと手伝いに乗じて監視しろって。
 あの時は何を考えていたのか分かりません。あの時は操り人形みたいなものでしたから」

よく見えてもいないだろう目をどこか記憶の彼方を思い起こすように遠くへ向ける桜。

「…でも先輩のことは、その日より前に知っていたんです。
 私にないものを持っていて、心の中にどこか残っていて。その気持ちが形になっていったのが、その日からでした」

その日より前。桜が最初に衛宮士郎と出会った日のことの詳細は、彼女は口にはしなかった。
おそらくその記憶は、彼女にとって最も大事なものなのだろう。

「でも、お手伝いで行ったはずなのに最初は何もできなくて。そんな私にずっと先輩は隣で私に色々なことを教えてくれました。
 そのうち一つずつできることが増えていって。それまで褒められたことなんてなかったから、すごく嬉しかった」
(……褒められたことがない…?)

ささいな言葉の中に何かを察するイリヤと巧。

「だけど、だからずっと悪いとも思っていたんです。
 先輩の居場所に勝手に入り込んで騙し続けて、だけどそんな場所が私にとってもかけがえのない居場所で。
 全部バレちゃった時に、もう消えてしまいたいって思った私を、先輩は抱きしめてくれたんです」

「なのに私は先輩の足を引っ張ってばっかりで。
 今思えば姉さんが力を貸してくれてるのにも、ずっと先輩の傍にいるって嫉妬していたんです。
 そんな気持ちばっかり持ってたから、あの時変身しておかしくなったときも―――」
「分かった。もう止めろ」

話していくうちに自己嫌悪に入っていることに気付いた巧は一旦話を打ち切った。


738 : I beg you ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:23:39 RPMoHKfk0

それまで褒められたことがないという言葉。
自分を掘り下げていくうちに陥る自己嫌悪。

間桐桜に何が足りないのか。


「お前は、もう少し自分に自信を持てよ。
 言ってること自分を下に下げてばっかりだぞ」
「自信なんて。
 魔術の家に生まれたのにろくに魔術も使えずに、鈍臭くて暗くて、人に迷惑をかけてばっかりです」
「………」

何と言ったものか、と言葉を考える巧。

「いや、あるでしょ、桜さんにも誇れるものが」

そこで口を開いたのはイリヤだった。

「…何が、あるっていうんですか」
「桜さんは、衛宮士郎さんに選ばれた、好きだって言ってもらえた。
 それは他の誰にも変わることができない、桜さんだけの唯一のことでしょ」
「―――…」

桜の瞳が、少しだけ見開かれたような気がした。

「私にも似たような気持ちを持ったことがあるから、ちょっとは分かると思う。
 好きな人に好きって言ってもらえることが、すごく素敵なことだってのは」
「でも、もう先輩はいないんです。いないんです!」

それでも声を上げる桜の姿が、イリヤには少し前の衛宮士郎を目の前で死なせてしまったときの自分と被って見えた。
あの時自分がいた感情の穴から、彼女はまだ抜け出せていないのだ。

「だからよ、これから色々作っていけばいいじゃねえか。
 ここから帰って、迷惑かけてったやつにはごめんなさいって謝っていってよ。
 せめて、あいつが生きた証が無駄にならねえようにさ」
「…ずいぶん先のことを言うんですね。
 私、これから死ぬかもしれないっていうのに」
「俺はお前が死なない方に賭けてるからな」
「私も!」

桜の心に小さくとも明かりを灯そうとする二人。

この移動していく道中、この会話が。

この3人にとって最後の安らぎの時間だった。




やがて三人と一匹は山の側面に空いた洞窟の前にたどり着いた。

禁止エリアに挟まれた場所であり、その場所に入ろうとすればエリア間の隙間を可能な限り素早く通るしかない。
キュゥべえの案内でその最短箇所を、桜を抱えた巧はウルフオルフェノクの身体能力で素早く通り抜けることで対処した。

そうしてやってきた場所も、禁止エリアギリギリのところだ。

洞窟へと足を踏み入れた時、イリヤの中で何かがざわつくようなものを感じ取った。
思わず歩幅が乱れるイリヤ。

『そうだろうね。ここは元の世界にあった大空洞に近づけて作られている。
 イリヤと桜は元より、巧にも何か感じるものがあるかもしれないね』
「…正直長く居たいとは思わない場所だよ」
『この奥だよ。目的の場所は』

どこから光が差し込んでいるのか、中に生えた鍾乳洞を薄明かりが照らし、幻想的な色を見せている。
不気味にも感じる感覚とは釣り合わないほどの視覚情報に、どこか混乱を起こしそうにもなる。

足を踏み出すと、岩壁に足音が反響して響き渡る。
風音もせず、人の気配もなく。

歩く3人の足音だけが洞窟の中に響き渡っている。

『…なんだか、ここ魔術的な何かがかかってません?』
『鋭いね。ここには軽い人避けの結界が張ってある。
 明確な意図をもってやってきた人は避けられないけど、ただ通りすがっただけの人がここに入ろうと思うことはないんだ』
『それもですけど、なんだか空間が安定していない気が。
 虚数域の中に近いものを感じるんですが』
『まあ、今は会場自体が少し不安定だしね、そういうことも―――
 待って、今虚数域だって言った?』
『ええ、それが何か?』

ルビーの言葉の何かに引っかかったのか、前を進んでいたキュゥべえは反転した。

『まずい、先を越された!引き返そう!!』
「え、ちょっと?!」


739 : I beg you ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:24:02 RPMoHKfk0

走り始めたキュゥべえ。
しかしその向かう先に不意に黒いモヤのような空間の歪が生まれ。
そこに飛び込んだキュゥべえは姿を消した。

「おい!」
『?!魔力反応!?イリヤさん巧さん!!』

何の前触れもなく背後に現れた魔力反応に驚き、振り返る3人。
そこには。

「そうよ、キュゥべえ。あなたのことは見張らせてもらっていたもの。
 この先にある疑似聖杯には、私が手を加えておいたわ」
『暁美、ほむら…!』

黒いドレスのような衣装をまとって背からは禍々しい形の翼を生やし、その手でキュゥべえの首を掴み上げている少女。
その少女の顔は、巧は一度見たもので。
イリヤにとっては初対面、しかしキュゥべえの口にした名は聞いたことはあった。

「ほむら…、お前、死んだんじゃなかったのか」

暁美ほむら。
放送で既に名を呼ばれたはずの存在が、そこにいた。

「そうね。久しぶり、それとはじめましてかしら。
 美国織莉子に殺された、ってのは嘘じゃないわ。本当ならそこで死んでたはずだから」
『ほむらさん、あなた、体に何を取り込んだんですか…?!』

その体から溢れている、魔法少女の持っているそれに混じって吹き出す魔力。
探知したルビーは思わず問いかけていた。

「まあ、色々よ。私にもよく分からないもの。
 アカギの持つポケモンと同等の力とか、あとゼロの持っていたギアスとか。
 そんなことは今はどうでもよくて。
 ご苦労さま、キュゥべえ。あなたの役目はここで終わりでいいわ」

キュゥべえの首を掴み締め上げているほむら。

「…!!転身!!
 ――照射(フォイア)!!」

好かぬ相手だったとはいえ見過ごすことはできず、とっさに転身したイリヤが魔力砲を放つ。
しかしその砲撃は眼前に現れた闇に呑まれ。
ほむらを挟んだ向かい側に洞窟の奥へと向かって消えていった。

「そうそう、奥の疑似聖杯にも細工させてもらったわ。
 あなたが持っていこうとした分の魔力だけど、別のことに使わせてもらうようにしたから」
『…!そこまで…!どうして、君は』
「……気付いていないならおめでたいことかもしれないわね。
 キュゥべえ、私、あなたのこと大嫌いなのよ」

その言葉を聞いた時に思い出したのは、アクロマが去っていった時の言葉。
彼も自分のことは好きではなかったと言っていた。
好かれていると思ったことはなかった相手だが、ここまで行動に影響するとまでは考えていなかった。

なるほど、とキュゥべえは納得したように呟き。

『全く、本当に理解できないよ。君達人間の感情というものは。
 だけど、それを知らないまま君という存在を引き入れてしまったのが僕のミスだ。まいったよ、本当』

その言葉を最後に、グキリ、と首を握りつぶされた。
手を放され、力を失って地面へと転がり込んで倒れ。
白い体は静かに塵となるように消えていく。

本来であればまた別のキュゥべえがこの場に現れるはずだろう。
しかしこの殺し合いの場そのものに課せられた制限に、彼を手にかけたほむら自身の力が合わさったことでこの場におけるキュゥべえの命はこの一つで尽きたこととなった。

無論、殺し合いの外まで見れば、彼と記憶を共有したインキュベーターも存在しているかもしれない。
だが儀式の中に再び彼が呼び起こされることはもうない。

魔法少女を翻弄し、殺し合いの場を創ることに協力した白い獣は、黒い魔法少女の手で静かに追放された。



【キュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカ バトルロワイヤルから追放】


740 : I beg you ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:24:37 RPMoHKfk0
白い体が消滅したことを確認したほむらは、3人の方に向き直った。

「さて、キュゥべえを消したところで悪いんだけど。
 今回はあなた達と戦いにきたとかそういうのじゃないの」
「どういうことだ」
「私は私の目的のためにアカギ達の側についたの。
 そしてそのために―――」

と、あの黒い空間がほむらの隣に現れ、そこに彼女の手が入れられた。

「え、きゃあっ!!」

巧が肩に抱えていた桜の体が、不意に引っ張られる。
突然のことに対処できなかった巧とイリヤの目の前で、桜の体はほむらの手へと抱えられていた。

「桜!!
 お前、桜をどうする気だ!」
「別に、殺しはしないわ。利用させてもらうだけよ。
 この子は元々強い因果を抱えている、その上この殺し合いで一番人を手にかけているんだもの」

その言葉で、抱えられた桜の体がびくり、と震えた。

翼を広げて浮かび上がるほむらの体。

「そうそう、いいことを教えてあげるわ。
 あなた達の目的である会場の結界の破壊だけど。この子がいなくても手はあるわ。
 疑似聖杯自体を破壊してしまえばいいのよ」

ファイズに変身して飛びかかってきた巧を避けながらそう言うほむら。

『何故あなたは、それを我々に教えるんですか』
「この局面までくると、会場がずっと維持しっぱなしっていう状況はキュゥべえも言ってたように都合が悪いのよ、私達にとっても。
 まあ、最も」

と、その手に二枚のカードを取り出し、こちらに向けて放った。

カードに黒い魔力が収束していき、2つの影を形作った。
黒いバイザーを備えた、漆黒の鎧の騎士。
筋骨隆々の、巨大な大男。

「クラスカードの…!」
「素通りまでさせてあげる義理はないから、邪魔はさせてもらうわ。都合がいいことと殺し合いの進行は別件だし。
 もしこの先に立ちふさがる運命に打ち勝てたなら相手をしてあげる」

顕現した二騎。
バーサーカーは吠え、セイバーは剣を構える。

『よりによってカードの中でも強敵だった二体が…』

姿を消していく、桜を抱えたほむらの前で立ち塞がるセイバーとバーサーカーを前に。
ファイズとイリヤはその身を構えた。




「そう、あなた達の前に本当に立ち塞がるのはこの先にある”運命”よ」

正直なところ、クラスカードで生み出したあの英霊達にここまで生き残ったあの二人が負けるとはほむらは思っていなかった。

確かにあの二体は強いだろう。仮にあの二人であっても油断をすれば敗北するだろう。
油断をするならば。

ここまで戦い抜き、生き抜いてきた二人。今更あの程度に負けるような隙を作るとは思えない。
もし負けるようならばその程度だ。

だからこそ、あれに勝ってからが本命だ。

自分の魔力を込めて生み出したあの影の英霊。
もしあれらが倒された時には、疑似聖杯にその魔力が回収され、同時に先程埋め込んだ機能が起動する。

打倒した者を倒すための本命、彼らの因果の糸を手繰り寄せ、彼らを倒しうるものを召喚する。
召喚のためのリソースはキュゥべえが置いていたエネルギーを利用させてもらう。元々彼への嫌がらせのために行うことだ。

呼び出された者は、平行世界からサーヴァントに近い形で顕現することだろう。
何が呼び出されるかまでは分からない。せめて見ていくくらいはできただろうが、間桐桜を手に入れた以上次の段取りもある。

ぐったりと意識を失っている桜を尻目に、最後に聖杯の中にあるものの蠢きに目をやり。

「ええ。もしあなた達がこの運命に打ち勝ち生き残れたなら、いずれまた会えるでしょうね」

それだけ言い残して、静かにほむらは姿を消した。


741 : I beg you ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:24:52 RPMoHKfk0



【???/二日目 早朝】


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、ギラティナと同化、魔女の力継承、悪魔化
[服装]:悪魔ほむらの衣装@魔法少女まどか マギカ[新編]叛逆の物語、ギラティナの翼、まどかのリボン@魔法少女まどか☆マギカ
[装備]:ダークオーブと化したはっきん玉、変質したほむらの盾
[思考・状況]
基本:アカギ達に協力、ないし利用し最終目標のための手はずを整える。
1:アカギを含む皆の動向を見て動く。
2:キュゥべえの動きを見て、今の生存者に合わせて動く
3:アーニャがちょっと鬱陶しい
最終目的:“奇跡”を手に入れた上で『自身の世界(これまで辿った全ての時間軸)』に帰還(手段は問わない)し、まどかを救う。
[備考]
※はっきん玉はギラティナの力と魔女の力を完全に取り込み自身の因果と同調させたことでダークオーブ@魔法少女まどか マギカ[新編]叛逆の物語へと変化しました。
その影響でギラティナの能力を使用することが可能です。
※ギラティナの体はRガス@名探偵ピカチュウによってほむらの精神を移された後、ギアス継承の反動を押し付けられたことで力が弱まりほむらの体内に取り込まれています。
ギラティナ自身の意識が弱まっただけの状態であり死んではいません。
※ギアス能力について
腕の変質した盾についた時計の針を動かすことで、因果を操り固定することが可能です。
現状で分かっている制約としては、魔女の刻印が残っている影響で会場に対する干渉には強い制限がかかっているため現在の参加者への干渉はできません。



【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:右腕欠損、魔力消耗(大)、顔面の右目から頬にかけて切り傷、右目失明、視力障害、全身傷だらけ、強い罪悪感、意識無し
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:死にたい
1:柳洞寺に向かう。あわよくばそこを自分の死に場所としたい
2:二人の優しさが眩しすぎる
[備考]
※黒化はルールブレイカーにより解除されました。以降は泥の使役はできません。
※切断された右腕はナナリーのギアスの影響で修復不可となっていました。


742 : Destination Time〜因果からの刺客 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:25:35 RPMoHKfk0



「上書き、夢幻召喚(オーバーライト・インストール)!」

バーサーカーの体を貫く光。
ライダーを夢幻召喚したイリヤの放った宝具、騎英の手綱で体を貫かれるバーサーカーの体。

そのまま間髪入れずに反転したイリヤは、上書きしたカード、ランサーの力をその身にまとって高く跳び上がる。

「刺し穿つ死棘の槍 (ゲイボルク)!!!」

再生を完了しこちらへと振り返ったバーサーカーは、上から飛来した赤き閃光に体を貫かれて吹き飛んだ。

「ルビー、これであといくつ?!」
『具体数まではちょっと。正直何回かオーバーキルしてる気はしますし!』

バーサーカーの威圧感に最初は気圧されたが、実際に戦うと息こそ切らせているものの自分で驚くほど戦えている。

クラスカードが手元に何枚も揃っていることもある。
だがそれ以上に大きな要因にはイリヤ自身既に気付いていた。

(やっぱり…。このカードから生み出された英霊には、魂がない)

確かに常人ならばその覇気には圧倒されるだろう。
しかしイリヤは本物の、狂化と黒き泥に侵食されながらも守るものを忘れることなく戦いを続けた英雄と相対した。

それと刃を交えたのに比べれば、目の前にいる相手に怯えるようなことは決して起こらなかった。


胸から紅槍を引き抜きながら起き上がるバーサーカー。
そこに、吹き飛んできた黒い体が勢いよく衝突して更に後ろに吹き飛ばした。。

それはファイズ・ブラスターフォームの放つフォトンバスターに体を吹き飛ばされたセイバーだった。

ファイズの体にはいくつかの切り傷こそあるものの、致命的なものは見受けられない。

イリヤがバーサーカーと刃を交えた経験があるように、巧にもセイバーとは剣を交えたことがあった。
黒騎士の姿を夢幻召喚した桜の呼び出したシャドウサーヴァント。その中にはセイバーの姿も存在していた。
本物と比較すればその基本的な性能は比べるまでもないものだが、剣の技量は英霊自身の力量もあってそれなりの再現がなされていた。
その剣を交えた経験からすれば、巧には剣の癖をある程度は見切ることができる。少なくとも決定的な一撃を叩き込む小さな隙を伺うくらいは。

本来のセイバーであれば太刀筋を見切られたと察すれば、その癖を変えるくらいはできただろう。しかしここにいるのは魂のない再現しただけの現象。
そこまで臨機応変に動く判断力など持ち合わせていなかった。


壁面に押し付けられた二体の英霊。
そこに、高く飛び上がった巧の、赤き竜巻を纏ったキックが炸裂する。

渦巻くエネルギーの中で体を切り裂かれながらも抗い、自身の持つ魔力で吹き飛ばそうとするセイバー。


743 : Destination Time〜因果からの刺客 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:26:08 RPMoHKfk0


「投影 ( トレース )――」

その中心に向けて、イリヤは弓を番える。
構える矢は、身に宿した英霊が生み出せる武具の中で最上級に位置するもの。
イリヤ自身も知るその剣の名を約束された勝利の剣という。

当然本物と比べれば質は大きく劣る。
しかしこれを構成する魔力を、弾丸として撃ち出せば。
それは宝具にも匹敵する威力の爆弾となる。

「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!!」

巧の離脱を確認したイリヤは、その竜巻の中心部に向けて構えた矢を放った。

放たれたその剣は一直線に、セイバーとバーサーカーの体を諸共に貫いて。
洞窟の空洞内を揺るがすほどの爆発を引き起こした。

思わず爆風に巻き込まれないように構えた二人。

やがて光と爆風が収まった爆心地には、二枚のカードが地面に落ちていた。

「セイバーと、バーサーカー…。そういえばこれでカードは全部揃ったんだよね?」
『ですね。クラスカードは全部使っちゃったところですから、ここで戦力補充ができたのはよかったです』
「で、この奥まで行けばいいんだよな」

空洞の先に目をやる巧。
そこに現状の目的である聖杯がある。

『聖杯の破壊ですか。
 まあ最悪、セイバーのカードさえあるなら宝具で吹き飛ばせるでしょうし、それで終わりでしょうね』
「…そう、なのかな」
「どうした、何か気になることでもあるのかよ?」
「だって、ほむらさん言ってたよね?
 『立ちふさがる運命に打ち勝てたなら』って。セイバーとバーサーカーが運命だっていうのは、何か引っかかる気がして」
『なるほど、何か門番がこの先にいるかもしれないと。
 どちらにしても警戒はしておくべきですね。巧さん、変身を解くのは待ってもらっていいですか』

そうしてイリヤは魔法少女の転身を、巧はブラスターフォームの変身を解除することなくその奥に向けて走った。


やがてたどり着いたのは、巨大なオブジェのようなものが爛々と光を放ち続けている広い空間。

「あれが…大聖杯…」

周囲に意識をやる二人。
人の気配はなく、ルビーの探索にも引っかかるものは存在しなかった。

「よし、行くぞ」

と、足を一歩踏み出した時だった。


744 : Destination Time〜因果からの刺客 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:27:10 RPMoHKfk0
聖杯からまばゆい光が放たれ、暗所に慣れていた二人の目を焼く。
思わず目を閉じる二人。

「何だ!?」

周囲を見回すが何かが起こっている気配はない。

「う、ぅ、目が痛い…」
「おい、大丈夫か―――?!」

と、イリヤの肩に手を置こうとした巧。
しかしその手は触れることなく、イリヤの体をすり抜けた。

「な、何だこれ?!」
『これは…、二人の空間位相がずれています!
 視覚、聴覚的な感覚には影響なく確かに存在していますが、物理的干渉ができない状態になっています!!』
「何か来るってこと?」
『言うなればボス戦前の退路経ちとか、その手のやつでしょうね…!
 言っている間に、聖杯から何かが出てくる反応が!!』

動揺を抑えて構える二人。

『この反応は…、サーヴァントに近い存在です!
 巧さんの方にはライダーが、そしてこちらには……、え、なんですかこのクラス反応は…?』
「ルビー?」

動揺するルビーを気にかけるように呼びかけるイリヤ。

その時だった。


――――――イリヤちゃん

「えっ?」

耳に届いたのは、イリヤを呼びかける声。
どこか優しく、自分を包み込むような感覚を覚えるその声は、イリヤにとって聞き慣れた声色をしていた。

顔を上げた先には、一人の人影が見えた。

白い帽子と服を着たその人を、イリヤは知っている。

「お、お母さん…?」
「良かったぁ、やっと会えたのね、イリヤちゃん」


745 : Destination Time〜因果からの刺客 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:27:33 RPMoHKfk0

満面の笑みを浮かべてこちらに手を広げている、その自分と同じ銀髪を持った女性。
アイリスフィール・フォン・アインツベルン。
イリヤもよく知る人物、何しろ己の母親なのだから。

「さ、もう怖がることはないのよ。
 こっちに来て、イリヤちゃん。一緒に帰りましょう?」

アイリの笑顔を前に、一歩踏み出したイリヤは。

その顔の横を通り過ぎる形で、魔力砲を撃ち込んだ。

「はぁ…、はぁ…、…あなたは、誰?」

自身の母親と同じ顔をした相手に対して向けた攻撃。
その事実に対する強い抵抗を押し込めながらかろうじて放った威嚇。

「私のお母さんは、そんなところで手を広げて待ってたりなんてしない。
 車で突撃して無理やりにでも手で引っ張って帰るのが、私のお母さんなの」

それでも今向けているイリヤに対する笑顔は変わらないだろうが、とは言わなかった。

少し困ったように笑みを浮かべながら、目の前にいる女は応える。

「なるほど…、随分と活発になっているのね、そっちの世界の私は。
 確かに私はあなたの知るアイリスフィールではないわ。どちらかというと衛宮士郎や間桐桜さんたちのいた世界の私に近い、と言ったところかしら」

と、不意にその姿がかき消えた。

「そう、聖杯の器として捧げられ、愛しい娘とも離別させられた私。
 泥に侵され、この世全ての悪へと変貌して。それでも、イリヤスフィールへの愛だけは忘れることはなかった私」

言葉は耳元から聞こえてきた。
背後から体を静かに、体を包むように抱きしめられている。

同時に、その触れられた箇所から何かが侵食してくるような感覚が走った。

「…っ!止めてっ!!」

咄嗟に振りほどいて飛び退いたイリヤ。
振り返った目に入ったアイリの姿は、今までのそれとは大きく変わっていた。

間桐桜が操っていた泥の色を思わせる、漆黒のドレスを身にまとっている。
その放つ魔力は禍々しく、

「あれに呼ばれた私のクラスは、いうなれば復讐者(アヴェンジャー)。この世の人類全てに悪をもたらすもの。
 だけど今は嬉しいのよイリヤちゃん。どんな形でも、どんな平行世界の存在でも、こうしてまたあなたと会えたんだから」

なのにこちらに向ける笑顔は、それに反するかのような母性と慈愛に満ちたものだった。

(平行世界の…お母さん…。
 私は、戦えるの…?)
「さあ、おいでイリヤちゃん。
 これまでできなかった分も、存分に愛してあげる」

そう告げたアイリの足元から、漆黒の泥が溢れ始めた。


746 : Destination Time〜因果からの刺客 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:28:25 RPMoHKfk0

【B-2/柳洞寺・地下大空洞/二日目 早朝】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(小)、ツヴァイフォーム使用による全身の負荷(回復中)、クロ帰還による魔力総量増大
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター、ランサー、アサシン、アーチャー、ライダー、バーサーカー(転身制限中))(セイバー、バーサーカー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
基本:皆と共に絶対に帰る
0:平行世界の、お母さん…?
1:アイリスフィール・フォン・アインツベルンに対処
2:桜に手を差し伸べる
3:巧のことも気がかり
[備考]

【アイリスフィール・フォン・アインツベルン(黒聖杯)】
[状態]:健康、歓喜、クラス・アヴェンジャー
[装備]:聖杯の泥
[思考・状況]
基本:娘、イリヤを愛し、その果てに自分と同じ泥に侵す
[備考]
外見、能力は黒アイリ@Fate/Grand Orderコラボイベント「Fate/Accel Zero Order」です。
人格、記憶はFate/Stay night世界線に属するアイリのものとなっています。



そうしてイリヤがアイリと対峙している同じ頃。

巧の元にも向かい来る驚異があった。

その耳に届いた、何かが飛来するような音。
回転するプロペラのそれだと気付いた巧は上を見上げ。

迫りくる一機の戦闘機が、こちらに向けて砲撃を放った。
バルカン砲が着弾し、ブラスターファイズの体を吹き飛ばす。

「…っ!!」

痛みにうめきつつもその戦闘機から目を放さず見据え、フォトンバスターを構える巧。
その時、上空で旋回したそれの下部から、何かが飛び降りた。

人型にも見える何かは、両手両足を広げ、まるでムササビのように皮膜を広げて滑空する。
それが、手足を閉じ、態勢を取り直す。

何故だかは分からない。
ただ直感的に、体は回避を選択するように大きく交代した。

その態勢が、まるで空中からの飛び蹴りのようで。


747 : Destination Time〜因果からの刺客 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:28:42 RPMoHKfk0

「―――ライダーーーキック!!」

オルフェノクにとどめを刺す時に使う技、クリムゾンスマッシュのようにも見えたからかもしれない。


回避されたその飛び蹴りは、巧がいたはずの場所を轟音と共に砕き土煙を巻き上げた。

向き直った巧の目に入ったのは、そこから飛び出した人影がこちらに拳を突き出す瞬間。

「ライダーパンチ!!」

咄嗟の判断だった。
十メートルはあろうかという距離を一気に詰めてくるそれが突き出した拳に対し。
巧はグランインパクトを起動させ迎え撃った。

ぶつかり合う拳。
衝撃と共に、二つの体は吹き飛ぶ。

地面を転がるファイズに対し、迫ってきたそれはバランスを取って地面に着地した。

顔を上げた巧はその姿をはっきりと目にする。

飛蝗を思わせる茶色がかった鈍い緑色の体。
全身はプロテクター、頭部はフルフェイスヘルメットと思わせる鎧に包まれ、瞳に当たる部分は爛々を赤く輝いている。
その腰には、謎の回転が生み出されている特徴的なベルトが装着があった。

何故だろうか。
似ても似つかないはずのその姿が、どこかファイズに、ベルトで変身して戦ってきた自分たちの姿に被って見えた。

「…久しぶり……、いや、今のお前とははじめまして、だな。
 今のは挨拶代わりだ。この程度で落ちるようなやつだとは思っちゃいない」
「…何だ、お前は。誰なんだよお前は!!」

その疑問をぶつけるように、思わず叫ぶように問いかける巧。
フ、と笑いながら手を顎に当てながら、それは答えた。

「仮面……、いや、今のお前にこの名を名乗る意味はないか。
 言ったところで分からないだろうが、もし名が必要というのならこう呼べ。
 俺は、『4号』」
「4号…?」
「分からないだろうな、俺とお前の間にある因果など。
 だが、それでもいい。今の俺はお前を倒すために召喚されたモノでしかないのだから」

起き上がり、グランインパクトを撃ち込んだ衝撃に震える右腕を振るいながら。
それは首元に親指を近づけて横に動かしながら告げた。

「乾巧。
 その夢と後悔を抱いたまま、地獄へ送ってやろう」


748 : Destination Time〜因果からの刺客 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:29:03 RPMoHKfk0

【B-2/柳洞寺・地下大空洞/二日目 早朝】

【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、皆の死に対する強い悔恨、ブラスターファイズ変身中
[装備]:ファイズギア一式(ドライバー、フォン、ポインター、ショット、アクセル)@仮面ライダー555 、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品、、クラスカード(黒騎士のバーサーカー)、サファイアの破片
[思考・状況]
基本:ファイズとして、生きて戦い続ける
1:4号に対処し、イリヤと合流する
2:見知った人や仲間がいなくなっていくことに対する喪失感
3:間桐桜を絶対に死なせない
[備考]


【仮面ライダー4号】
[状態]:健康、クラス・ライダー
[装備]:スカイサイクロン
[思考・状況]
基本:己が呼ばれた役目に従い、乾巧を殺す
[備考]


749 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/07/12(日) 16:29:22 RPMoHKfk0
投下終了です


750 : 名無しさん :2020/07/15(水) 18:11:12 FUlCYhFY0
投下乙です
QBはここで退場か。もう少し感情を理解できてたら少しは変わったのかな
そしてまさかの4号だと…!?確かにファイズの物語において或る意味最も重要な人物ですね…


751 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/08/24(月) 23:41:28 GUpHMD/w0
遅れてすみません、これより投下します


752 : 黄昏の騎士達の輪舞曲 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/08/24(月) 23:45:00 GUpHMD/w0
ランスロットの腕につけられた巨大な槍から放たれた高エネルギーの砲撃。
それは距離を詰めてきたナイトメアのうち1機の体を貫く。
残り2騎は砲撃を見て散開、両側から剣を、大剣を引き抜いて振り下ろした。

しかしその一撃はランスロットの前に張られたエネルギー障壁、ブレイズルミナスに阻まれた。

止まった一瞬で腰のハーケンを撃ち込む。
咄嗟に交代するも、放たれたハーケンは足を、片腕を掠め、その掠めた箇所を吹き飛ばす。

「直撃させるつもりだったが、…流石に皇帝直属の部隊ということか」

数々の敵と戦ってきたスザクから見れば、少なくとも彼らの動きは並の騎士にできるものではないと見ていた。
この動きはおそらく皇帝直属のナイトオブラウンズに匹敵するものだ。
しかし、同時にそれでもこの機体の相手ではないとも感じていた。

そう考えていたこと、そして機体が後退し距離が空いたことで油断があったのかもしれない。
そのほんの一瞬の間の後、機体に強い衝撃が走った。

「ぐっ…!」

揺れた機体のコックピット内に安定しない態勢でいた月が、コックピットの壁に体をぶつけてうめき声をあげる。

「っ、どこからの攻撃だ…!」

2騎は後退、もう1騎は撃墜したはず。再攻撃がくるには早すぎる。
周囲を見回すと、そこには上半身の右側だけを残した状態のヴィンセントがこちらに肘のニードルブレイザーを向けている光景。
機体の装甲にはそこまで大きなダメージはなかったが、衝撃は届いたようだった。

機体の断面からは触手のようなものが蠢いて、少しずつその形を戻しつつある。
さらに後退した2騎を見ると、そちらも損傷した腕や足から同じように修復しつつあった。

「これはゼロのガウェインと同じ…、いや、性質はゼロに近いか…?」


753 : 黄昏の騎士達の輪舞曲 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/08/24(月) 23:45:25 GUpHMD/w0

体をナイトメアフレームの剣で斬りつけても元に戻るゼロの体も、彼らと似たような体の動きがあったように思える。

考えている間に、再度距離を詰めた残りの2騎がこちらへと振りかざした大剣と両肘を向けている。
大剣から放たれた輻射波動、そして両肘のエネルギー弾がランスロットの体を後ろへと吹き飛ばした。

「スザクっ!」
「いや、大丈夫だ、この程度ならばやられはしない」

機器のアラームに目をやるが、致命的なものはない。すぐに修正できる程度のものだ。

「ただ、あの回復力は厄介だ。
 一撃で吹き飛ばす必要があるが、相手も機動力がそれなりにある。捉えるには少し手間がかかるかもしれない」

コクーンを分離させれば捉えるのは問題ないだろうが、それをやってしまえば火力が足りず余計手間がかかるだろうし施設攻撃にも支障をきたす。

「…一つ聞きたい。さっきの攻撃で問題ないとのことだったが、向こうの持っている武器にそれ以上強いものはあるのか?」
「いや、知っているものと同じだとすれば、あとは近接武器とハーケンくらいのはずだ。他に携行武器を備えている様子もないし」

巨槍とハーケンでナイトメアを捌きながら月の質問に答えるスザク。
一撃一撃が機体を大破レベルまで損傷させるが、その都度数秒で回復し十秒もあれば完治して復帰する。

「だとしたら妙だ。こちらの迎撃に来たにしては戦力が足りていない。
 あの部隊というのはあの3体で全部なのか?」
「いや、もしラウンズだとしたならば13人いるはずだ……、そういえば確かに少ないな…」

かつてこの機体の前世代機であるランスロットアルビオンでも、ラウンズ4人を鎧袖一触で斬り伏せた。
たとえ相手が強い再生能力を備えていたとしてもそれだけでどうにかできるはずはないと思うのは自惚れだろうか。

「……時間稼ぎ、か?」


754 : 黄昏の騎士達の輪舞曲 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/08/24(月) 23:45:40 GUpHMD/w0


『その通りよ』

ふと月がつぶやいた時、一迅の光が奔ると共に横殴りに強い衝撃がランスロットを襲った。
機体が吐き出す警告音に目をやると、3騎の攻撃でも目立った損傷がなかったランスロットの外部装甲が大きく斬りつけられている。

光はランスロットより上の宙で静止、その姿がスザクの視界で顕になった。
大きな角を備えた頭部はスザクにも見覚えのある機体、しかしその体はナイトメアフレームの機械というよりもまるでスーツを纏った人体を模したかのようにも見える外見。

「トリスタン…?ジノか?」
『残念、この子は確かにトリスタンだけど、乗ってるのは私よ』

その機体と、あるいは機体の乗り手と思われるものの名を呟いたスザク、しかし帰ってきた声はかつての友のものではなく少女の声。
そして、その声もスザクは知っている。

「アーニャか、いや、お前はまさか」
『察しが良いわね。せっかくだから騎士として名乗らせてもらおうかしら。
 シャルル・ジ・ブリタニアの筆頭騎士、アーニャ・アールストレイム、いいえ、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア。
 悪いけど枢木スザク、あなたはここで死んでもらうわ』

手にした剣を構えて一気に距離を詰めてくるトリスタン。
反応しようとしたが、追加装甲を纏ったナイトメアでの動作が間に合わず装甲の上からも伝わる衝撃が機体を襲った。
いや、今の動きはおそらく機体がランスロットアルビオンのような使い勝手のいいものであっても受けきれなかっただろう。こちらの反応そのもの以上の速度で襲ってきていたのだから。

振り向いたところで、視線に入ったのはランスロットの頭部、カメラに位置する場所に突きつけられた剣先。
瞬間、生存のギアスが発動、手にした操縦桿を自然に機体を大きく反らすように動かしていた。
一瞬前にはスザク達のいるコックピットがあった場所、そこをランスロットの肩装甲を大きく削りながら貫いていった。

「…っ、速い!」
『驚いたわ、もう反応できるなんてね。初手で遊ばずに決めておくべきだったかしら』

大きく後ろに下がって距離を取るスザク。
動きがナイトメアフレームの動きを大きく超えている。自分とランスロットでもあそこまでの速度は出ない。
機体そのものの仕様もあるのだろうが、それだけではないはずだ。

「これが『閃光のマリアンヌ』か…!」
「…スザク……」


755 : 黄昏の騎士達の輪舞曲 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/08/24(月) 23:46:01 GUpHMD/w0

驚愕するスザクの耳に、呻くような声が届く。
今の急な動きで月に不意にかかった強い圧力が彼の体に強い負荷を与えていた。

(まずいな、あの動きに対応するなら月がいるのはまずい)

あの挙動に反応しようとすれば、ギアスも込で全力を出さねばならない。
だがその動きには月は耐えきれないだろう。

(もし月を降ろす機会があるとすれば、このコクーンを分離する時か。
 だけど今それをすれば、下の施設破壊ができなくなる…)

距離を取りつつ思考を続けるが、答えは出ない。
むしろ倒し損ねた他の3機がトリスタンの指揮下に入ったことで編隊となって襲いかかってくる。

どちらかを選ばねばならない。

(……ルルーシュなら、こんな時どうしたんだろうな)

飲み込んだ弱音の代わりに、ふと浮かんできたのは追い詰められた状況下でも切り抜けてきた、もういない友のことだった。

前にハーケンを打ち込むと4機は散解、それぞれ四方から迫り各々の武器をかざす。
マリアンヌの散った方向を重点的に警戒し障壁を貼るも、マリアンヌはそれを読んでいるかのように別の1機の位置と入れ替わる形で攻め立ててきた。
機体が揺らいだところで、他の機体のうち後のタイミングで攻め込む者の攻撃が再開。どうやら装甲にダメージが入った箇所を狙っている様子だ。

まずいと感じた時には、ギアスが発動して大きく機体を退避させていた。

「…っ、大丈夫か、月!」

コックピット内にかかった負荷が再度月を苦しめている。

「だ、大丈夫だ、スザク。それよりも、この機体、全力を出せばあいつらを離すことはできるか?」
「機体の出力を一直線に向ければ可能だとは思うが…だけどそれじゃこの場所から引き離されてしまう」
「なら、上だ。ここから、可能な限り全力で上に上昇してくれ!
 上からなら目標の場所も見渡せる!」

言うや否や、機体の全出力を推進へと回して上に向けて上昇した。
これだけの巨体を浮遊させるだけのエネルギーは通常KMFよりは高い。
運動性では巨体となった分エース機には及ばないところがあるとしても、一直線に進む速さであれば決して遅れは取らないものだ。

挙動に虚を突かれたこともあって、敵の反応が少しだけ遅れ、追ってくるまでの間がわずかに発生。その間に上昇を続けて距離を開いていく。

「―――あの、マリアンヌとかいうやつが、乗っている機体以外は、どれほどの腕前があるんだ?」
「並の騎士は遥かに超えているはず、少なくともエース級はあるはずだ。あまりしゃべると舌を噛むぞ」
「大、丈夫だ…!」


756 : 黄昏の騎士達の輪舞曲 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/08/24(月) 23:46:22 GUpHMD/w0

重圧に体を押されながらも、口を開く月。

「…、これが限界だ。少し間を開けないとオーバーヒートする」

と、周囲一面が見渡せる高度まで来たランスロット。

「はぁ、はぁ、下を映してくれ。目的の施設の場所、その周辺を」

息を切らしながらもモニターで映した下の光景を見渡す。
機器を操作して施設の周囲を拡大して様子を見回す。

画面の端が、追ってくるナイトメアの一群を映し出す。
ここまで追いついてくるまで数秒といったところか。

「…あれは……」

ふと、月が何かに気付いたように呟いた。

「スザク、遊園地まで近づいてくれ。ただし禁止エリアに引っかからないギリギリのところまででいい!」
「分かった!」

方向を変え、再度全力で飛ぶランスロット。
今度は敵の追う方向に飛び込むように進む。
巨体に吹き飛ばされる形で、3機のナイトメアは散り散りになる。唯一こちらに対応してきたトリスタンだけがすれ違いざまに装甲を斬りつけてきた。
肩の装甲板の一部が吹き飛びトリスタン目掛けて迫るも、難なく相手は回避。しかしその行動でどうにか隙を生み出すことに成功した。

飛びながら、舌を噛みそうになりながらも月はスザクにいくつもの質問を投げた。

「こいつの装甲は、あいつらの攻撃に耐えられるか?」
「トリスタン以外なら可能だ。トリスタンだけは装甲のつなぎ目や薄い箇所を的確に破壊してくる。あれを受け続ければ危険だ」
「分かった。次。君はかなり無茶な行動にも耐えられるか?」
「よく分からないけど、ナイトメアを生身で相手にしろとかじゃなければできる気はするな、今なら!」

その後のいくつかの質問をした後、月はスザクにどうすべきかを話す。

「…つまり互いの身を大きな危険に晒すことになるってことだね」
「ああ、自分でも無茶苦茶なことを言ってるとは思う。だから強要はできない」
「無茶を言われるのは、慣れてるさ!」

遊園地に突っ込もうというところで地面にハーケンを打ち込み、それを軸にぐるりとカーブを描いて方向転換するランスロット。

「僕のことはいい。君は大丈夫なのか?」

ただ、その月の語る手はむしろ月の方が危険にも思えるものだ。
そちらの方が気がかりだった。

「そうだな。もしかしたらここで死ぬかもしれない。
 だけど、だからこそ自分なりに最善を尽くした上で後悔したいんだ」
「…じゃあ、約束してほしいんだ」

そう口にした月に、昔の自分に似た匂いを感じたスザクは、一つの願いを口にした。

「僕は絶対に成功させる。
 だから、絶対に死ぬな。僕のことを、何があっても信じてほしい」
「ああ、分かった。約束する、絶対に成功させて生き残るって」

小さく手をぶつけたスザクと月。
次の瞬間、ランスロットの巨体は、一直線に遊園地の中に突っ込んでいった。


757 : 黄昏の騎士達の輪舞曲 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/08/24(月) 23:46:44 GUpHMD/w0


「…?」

追尾を続けていたマリアンヌは、その行動に怪訝な表情を浮かべた。

「禁止エリアってことを、分かってないわけじゃないはず。どういうつもりかしら?」

あの機体が全力でブーストを吹かせば制限時間までに禁止エリアを抜けることは可能だろう。
しかしあえてあの場を通ることを選んだ意図が分からない。儀式の参加者ではない自分達には何ら影響がないものだ。

「禁止エリアだから、かしらね。そっちの施設を優先して潰してからこっちの迎撃をやりやすくするって思惑というところかしら」

ただ、それにしては高度が低いところが気になる。さっきの高度でも狙い撃てるだけの火力はあるはずだ。
考えている暇はない。禁止エリアに入ろうというならば、そこで撃墜するだけだ。

と、ランスロットがこちらへと振り向いた。
その腕の巨槍がこちらに向けられ、その先端が赤く輝いている。

配下の騎士達に散解を指示。
槍から放たれた砲撃は間にあった遊園地施設を破壊しながら追っていた自分たちの位置を通り過ぎていく。
崩れた施設が土煙を巻き上げ周囲の視界を塞ぐ。

その中を突き抜けるようにランスロットが飛び出す。

「…?南に向かって?」

同じく禁止エリアであるC4へと向かうものだと思っていた。
ついでに言うなら、まだ遊園地そのものが破壊された形跡はない。

禁止エリアでの行動時間に限界がきたから一旦離脱をするというところだろうか。

一斉にランスロットを追う一隊。
やがて速度を落としながら停止、こちらに向き直して腰のハーケンを牽制のように射出した。

「ん?」

難なく回避しながらも、その挙動にふと違和感を感じるマリアンヌ。
今の挙動にどことなく動きの拙さを感じた。
枢木スザクの攻撃にしては、狙いがあまりにも適当に見えたのだ。

困惑が一瞬マリアンヌの動きを止めさせた。
その間に他の騎士達は三方向から攻撃を仕掛け、ランスロットはその決定打にはならない攻撃を受け続けている。

何かがおかしいと。
その違和感で周囲を見回した時、視界の奥で何かがキラリと小さな光を放った。


758 : 黄昏の騎士達の輪舞曲 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/08/24(月) 23:48:36 GUpHMD/w0


「…?」

追尾を続けていたマリアンヌは、その行動に怪訝な表情を浮かべた。

「禁止エリアってことを、分かってないわけじゃないはず。どういうつもりかしら?」

あの機体が全力でブーストを吹かせば制限時間までに禁止エリアを抜けることは可能だろう。
しかしあえてあの場を通ることを選んだ意図が分からない。儀式の参加者ではない自分達には何ら影響がないものだ。

「禁止エリアだから、かしらね。そっちの施設を優先して潰してからこっちの迎撃をやりやすくするって思惑というところかしら」

ただ、それにしては高度が低いところが気になる。さっきの高度でも狙い撃てるだけの火力はあるはずだ。
考えている暇はない。禁止エリアに入ろうというならば、そこで撃墜するだけだ。

と、ランスロットがこちらへと振り向いた。
その腕の巨槍がこちらに向けられ、その先端が赤く輝いている。

配下の騎士達に散解を指示。
槍から放たれた砲撃は間にあった遊園地施設を破壊しながら追っていた自分たちの位置を通り過ぎていく。
崩れた施設が土煙を巻き上げ周囲の視界を塞ぐ。

その中を突き抜けるようにランスロットが飛び出す。

「…?南に向かって?」

同じく禁止エリアであるC4へと向かうものだと思っていた。
ついでに言うなら、まだ遊園地そのものが破壊された形跡はない。

禁止エリアでの行動時間に限界がきたから一旦離脱をするというところだろうか。

一斉にランスロットを追う一隊。
やがて速度を落としながら停止、こちらに向き直して腰のハーケンを牽制のように射出した。

「ん?」

難なく回避しながらも、その挙動にふと違和感を感じるマリアンヌ。
今の挙動にどことなく動きの拙さを感じた。
枢木スザクの攻撃にしては、狙いがあまりにも適当に見えたのだ。

困惑が一瞬マリアンヌの動きを止めさせた。
その間に他の騎士達は三方向から攻撃を仕掛け、ランスロットはその決定打にはならない攻撃を受け続けている。

何かがおかしいと。
その違和感で周囲を見回した時、視界の奥で何かがキラリと小さな光を放った。


759 : 黄昏の騎士達の輪舞曲 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/08/24(月) 23:49:13 GUpHMD/w0
戦士の勘とでもいうべきものが、機体を即座に横に動かした。
次の瞬間、トリスタンがいた場所であり退避途中で持っていた剣があった場所を、高速で迫ったその光が貫いていった。

その光は、ランスロットの近くで攻撃を続けていたグロースターとヴィンセントを貫き、斬り裂き、蹴り飛ばして距離を開かさせた。
やがてそれはランスロットsiNの頭上で静止し、その姿を露にした。

「…?!ランスロットアルビオン!?」

眼前で翡翠色の翼を広げ剣を構えたそのナイトメアフレームは、遊園地に乗り捨てられていたはずのものだった。
何故アレがこの場にあるのか。

「なるほど、そういうこと。とんでもない無茶をするのね」

状況を察するのに時間はかからなかった。



『待たせた。大丈夫か、月』
「正直、寿命を半分削るような無茶をした気がするよ」

ランスロットアルビオンからの通信に応える月。
ランスロットsiNのコックピットには、夜神月しか乗っていない。

あの状況から二兎を取るための選択肢。
それは上空で乗り捨てられていたランスロットアルビオンを、夜神月が見つけた時に思いついたものだった。

以前の連絡で機体としてはまだ動かせないわけではないものであったことから閃いたものだった。
しかし、禁止エリアにあるそれを拾い上げ、機動させるまでの時間を稼ぐ。
その機動させるまでの時間稼ぎを、自動操縦もあったとはいえ月が代わりに動かすことで行う。
機体のバランスのとり方と万が一の時の攻撃の操作程度しか聞けない状況で、それを行ったのだ。
無論、アルビオン自体も無事ではなく機動時間の短縮をしすぎて機体のあちこちがエラーを上げて動作不良を起こしかけている。

未だに体から吹き出す汗は止まっていない。まるで100メートル走に全身全霊をかけた直後のようだ。

「やっぱり、君を信じたのは間違いじゃなかったな」
『これくらいの無茶はたくさんしてきたからね。少し下がっていてくれ。場を整える』

剣を抜いたランスロットアルビオンは、一気に目前のグロースターへと迫る。
こちらに射出させたハーケンを腕で受け止め引きずり込み、その機体を地面へと叩きつける。
ハーケンの先端を握りつぶしながら、エナジーウィングの光弾でその体をズタズタになるまで切り裂く。
さらにダメ押しのようにこちらのハーケンをぶつけて地面へとめり込ませて動きを封じた。

その場所が、ボロボロに崩れた屋敷である間桐邸であることを確認して再度飛び立つ。
追ってきたマリアンヌの剣を、左腕を切り裂かれながらも捌く。
その後ろから更に残りの2機のヴィンセントを見た時、トリスタンを振り切ってその2機へと突撃をかける。

片方をMVSで貫きつつ、もう片方はぶつかった衝撃と共に一気に北の位置に向けて押し込む。
そのまま、小さく明かりが灯っている建物、フレンドリィショップにその剣を一気に投擲。
貫かれたヴィンセントごと放られ、ショップの天井を破壊しつつもその体を地面に縫い付けた。


760 : 黄昏の騎士達の輪舞曲 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/08/24(月) 23:49:29 GUpHMD/w0

更に向きを変え、砕かれた箇所の再生を始めているもう1機のヴィンセントを押し込み。
ハーケンをその脇に打ち込みながら回転蹴りを放つ。
絡まったワイヤーがヴィンセントの身動きを封じる。
さらにワイヤーを切り離すことでヴィンセントを縛ったまま、蹴り飛ばされた勢いで遊園地の地面を転がった。

その勢いのまま高速で禁止エリアとなった遊園地を飛び出すランスロット。
そこに横殴りに一迅の光が殴りかかった。

「ルルーシュがいないからって油断したわ、まさかここまで無茶苦茶なことをするなんてね」

剣を拾い直して襲いかかったトリスタン、その剣に腕を切り落とされる。

(やっぱり、この機体で彼女の相手は無理か…!)

元々、ゼロとの戦いの損傷で機体がパワーダウンしていたランスロットアルビオン。
それでも量産機やその発展機程度の相手であれば、スザクの技量と合わせて圧倒できるだけの力は残っていた。だからこそ拾い上げる価値があった。

だが目の前にいる、かつて戦ったナイト・オブ・ラウンズの面々も凌駕する技量を備えた彼女の攻撃に耐えうるだけの力は、もう残ってはいなかった。

ハーケンの残り、そして剣は他の敵の拘束に使い尽くし、相手の攻撃を見切ることも叶わない。
かろうじて反応するも、閃光のごとき斬撃はかわしきれずにランスロットの両腕を、頭部を切り裂いていく。

これ以上は無理だと、そう判断したスザクは脱出装置のレバーを引いた。
コックピットの排出と同時に、ランスロットの体を剣が貫く。

かつての乗機であり、罪の証であり、それでも今この場においては皆の力となった己の剣が目の前で炎に包まれて散っていく。
だが、思いを馳せていく時間はない。

ランスロット・アルビオンの破棄、ここまでが想定通りなのだから。

「月!!」

スザクの叫び声と共に、敵の意識から消えていたもう一機のランスロットがスザクの乗るコックピットを受け止める位置に飛び出す。
コックピットのパラシュートが機体に絡まり落下を阻止、その間に互いの機体のコックピットを開いてスザクが乗り移る。

「大丈夫か!?」
「いいタイミングだ!ありがとう!」

言いながらも手を素早く動かし、ランスロットの飛行制御を操作。
同時にトリスタンもまたこちらへと距離を詰める。


761 : 黄昏の騎士達の輪舞曲 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/08/24(月) 23:49:46 GUpHMD/w0

牽制のスラッシュハーケンを、コックピットを先に乗せた状態で射出。
他の乗り手であれば直撃コースだったそれを、命中する直前で回避、しかしコックピットごと射出したことにより風圧を見誤ったか機体のバランスが崩れる。
その隙に上へと上昇していく。

上がる間にも、両腕の槍の先にエネルギーを蓄積させていき。

エネルギーが溜まった辺りで機体を停止させ、上空から3点に狙いを定める。
遊園地、間桐邸、フレンドリィショップ。
各ポイントに押し付けたナイトメアフレーム3機は機体を再生させつつあるが同時に拘束を解くことに腐心している。
中には拘束を解くことを諦め機体のコックピットを破壊して出ようとしているものもいる様子だ。

だが、どうやら間に合ったようだ。

「プラズマニードルキャノン、発射…!!」

左腕から放たれた砲撃は一直線にフレンドリィショップと遊園地を薙ぎ払って消失させていき。
右腕から放たれた砲撃は間桐邸へと着弾して施設のあった土地そのものを根こそぎ吹き飛ばした。

同時に、その場に縛り付けられた各ナイトメアフレームも、その爆発と共に跡形もなく消し飛ばされた。

追撃していたマリアンヌも、阻止しきれないと悟った砲撃直前には追うのを諦め退避している。

「よし、目的は果たした。この追加装甲を破棄すると同時に君を下に降ろす」

そう言って、緊急時用のパラシュートを月に着せる。
再生するあの機体達を、跡形もなく消滅させることで倒せるかどうか、そこは賭けに近かったが、現状レーダーに反応はない。うまくいったと考えてもいいだろう。
他の機体がある間に月を降ろすことはあまりに危険だったが、残った機体があの一機だけならば気を引きつけられる。

「下に降りたら、とにかく戦闘から離れてくれ。
 こちらも気を使うが、あまり君に気は払えないと思う」
「分かった。
 それとスザク―――」
「悪い、今は急ぐ。大したことじゃないなら後にしてくれ」
「じゃあ後で。スザク、気をつけろよ」

宙に身を投げ出すと同時に、月が背負ったパラシュートが開く。
同時に、再度接近したトリスタンに向かって装甲をパージしつつ中から白い光が飛び出して迫った。

実質的なランスロットアルビオンの後継機として作り出された機体、ランスロットsiN。
アルビオンと同じようなエナジーウィングを備え、その肩部には青い装甲が追加されている。
武装はランスロットアルビオンのものとほぼ同等。故に扱いやすい。


762 : 黄昏の騎士達の輪舞曲 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/08/24(月) 23:49:59 GUpHMD/w0

その腕部に仕込まれた剣、MVSがトリスタンへと突き出された。

(月の姿は…、よし、装甲の影に隠れて見えないな…)
『本当に、無茶苦茶やるのね。複数の施設を一気に吹き飛ばせるナイトメアなんて、そんなもの誰が出す許可を与えたのかしら。
 おかげで下、すごいことになってるのよ』
「……!」

と、思わず下に目をやるスザク。
そこには、施設があったエリアのあちこちの空間に黒い穴が浮かび上がっては消えてを繰り返している。

やはり思った通り、破壊した施設の中に会場にとって重要な何かが備わったものがあったということなのだろう。

『ここまでいくつも一気に壊されるなんて想定していなかったせいだけど、まあすぐにまた空間バランスは取れるでしょうね。
 それより気付いてる?あなたが今そうやって反応を取った意味』

と、切り結ぶ剣とは反対側の腕が、一直線に破棄した装甲へと向けられている。

『頭を使ったようだけど、ルルーシュと比べたら状況が悪かったわね。私という人物を視野に入れて思考できていなかったんだもの』
「…っ、しまっ」

向けられた腕には、いくつもの刃が備わっている。それがこの状況でどう扱われるものなのか、気付くのが一瞬遅れた。
放たれた腕のハーケン状のナイフが、落下途中の追加装甲を貫いた。

『そこで下を気にするってことは、下を気にしなきゃいけない何かがあるってことでしょう?』

破壊された追加装甲は爆散、その後ろをパラシュートで落ちていた月を爆風に巻き込みながら、砕けた部品を散らして落ちていく。

「月ォっ!!」

パラシュートを吹き飛ばされながら、月の体が落ちていく姿だけが目に入る。

やがて、その姿は暗闇の中に落ちていき見えなくなっていった。

『さぁて、これで邪魔者はいなくなったわね、坊や』
「…!!」

月を助けにいく時間など、目の前の存在は与えてくれないだろう。
この高さで、パラシュートを失った状態で落ちればどうなるか。

(…月……)

一瞬だけ目を閉じる。

(今、君の死を悲しむことはできない…)

目の前にいる相手は、心を乱した状態で戦って勝てる相手ではない。

(だから)

高速で突き出された剣を、引き抜いたMVSで受け止めながら。

(彼女の撃退を以て、君への弔いとさせてもらおう!!)

そう心中で誓いながら。
生きろギアスの発動する中で剣を振りかざした。



【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:「生きろ」ギアス継続中、疲労(大)、両足に軽い凍傷、腕や足に火傷
[装備]:ランスロットsiN@コードギアス 復活のルルーシュ
[道具]:基本支給品一式(水はペットボトル3本)、スタングレネード(残り2)@現実
[思考・状況]
基本:アカギを捜し出し、『儀式』を止めさせる
1:マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアを倒す
2:月…


【マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア】
[状態]:健康
[装備]:トリスタン@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー、MVS
[思考・状況]
基本:今の己の役割に従い、枢木スザクを殺す
[備考]


763 : 黄昏の騎士達の輪舞曲 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/08/24(月) 23:50:15 GUpHMD/w0




爆風に巻き込まれて意識を失う直前。
最後に覚えているのは、宙に投げ出され平衡感覚を失う体と、全身を焦がす爆風の熱。

(そうか、ここで死ぬのか)

あの巨大な機体をひたすら必死で動かしていた時はとにかく死の気配を近くに感じたが、今感じるのは気配ではない、死そのものだった。
二度目だからだろうか。死に対する感覚は自分でも驚くほどに冷静だった。
死んだ後の感覚が分かっているからだろう。恐怖はあまりなかった。

リュークの言っていた、死んだ後に向かう先は無。その意味がよく分かっている。

ただ、恐怖はなかったが二つだけ気がかり、心残りなことがあった。

(L、すまないな。君にあんな気を遣わせてまで生き残ったというのに、結局何もできなかった)
(スザクは、大丈夫だろうか。戦いの中で僕が死んだことで動揺して負けたりしてないだろうか)

だけど、もう考えても仕方がない。
静かに死に体を委ねよう。

そう思っていたら、ふと目の前に二つの人影が見えた。

白い肌で目には隈を作った、猫背の男が二人。

(Lか…)

片方は自分が殺したL。片方はこの儀式の場で会ったL。
似てるしほぼ同じだと思っていたが、こうして並んだ姿を見ると何だか割と違う。

(迎えにでも、来たのか?)

そう思ったところで、二人は首を静かに振るった。
そして、寸分違わぬ動きでゆっくりとこちらに向けて指を指した。
よく見るとその先は背後を指差していた。

その先に向けて振り向いた時。

「――――はっ」

目が覚めた。

「ぐ…あ、ああ…!!」

その瞬間、全身を熱風に晒された時の痛みが体を襲った。

「あ、は……、ここ、は…」

宙に投げ出され、墜落を待つだけだったはず。
だが今自分がいるこの石造りの地面のような場所はあの近くにあっただろうか。

「運のいいやつだな。宙に投げ出されたところであの場にできた空間の歪みに飛び込んでくるとはな。
 あのまま空間の狭間で漂われていても鬱陶しいだけだったのでな、拾わせてもらった」

そう、頭上で声が響いた。

視線を上げた先には、鋭く、しかし無感情な視線をこちらに向ける者がいた。

「アカギ…」

その顔はこの場に連れてこられた時に最初に見た男の顔だった。
淡々と口を開く姿からは、彼の心理を読み取ることは月にもできなかった。

「どちらにしてもお前の運命は変わらんだろうな。
 その火傷なら、放置すれば命に関わる。
 だが、ここに来たというのも何かの運命か」

と、視線をどこなのかも分からない、黄昏のような色の空が広がった空間へと向けて静かに言った。

「少し、話でもしようか」



【夜神月@DEATH NOTE(漫画)】
[状態]:疲労(中)、右頬に大きな裂傷(応急処置済)、全身に火傷
[服装]:ビジネススーツ(熱風による損傷多数)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:キラではない、夜神月として生きてみたい
1:アカギと、話……?
2:僕は死んだのか…?
[備考]
※死亡後からの参戦


764 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/08/24(月) 23:51:07 GUpHMD/w0
投下終了です
あと、>>758はミスです


765 : 名無しさん :2020/08/27(木) 16:37:45 4Gc8Jezc0
投下乙です
スザクvsマリアンヌという原作では見られなかった対決に、スザクと月の友情
そしてアカギと対面する月と続きが気になる…!


766 : 名無しさん :2020/08/29(土) 22:39:12 LxWwZok60
投下乙です
まさかスザクと月との関係がここまで深くなるとは、当初思わなかったな
月もまだまだ危うい状況だが、Lの意思を継いでなんとか生き残って欲しい


767 : <削除> :<削除>
<削除>


768 : 名無しさん :2020/09/04(金) 12:37:26 x8Capc0A0
アカギも月も新しい世界を作りたがっていた者同士だもんな
これは期待せざるを得ない


769 : <削除> :<削除>
<削除>


770 : <削除> :<削除>
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771 : <削除> :<削除>
<削除>


772 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/10/10(土) 22:12:29 BnbE1OpU0
遅れてしまいすみません
破棄した予約分を投下します


773 : あなたと私は友達じゃないけど ◆Z9iNYeY9a2 :2020/10/10(土) 22:14:52 BnbE1OpU0
アヴァロンから立ち去る前の夜神月。
キュゥべえの言葉の裏を取るために、敢えて遊園地近辺へと戻ろうとした彼は、同様にポケモン城のあからさまな警備も罠である可能性をあげていた。
おそらくは、待っているのはポケモンだけではないかもしれないということ。
いや、それだけならまだしも例えば戻ると同時に侵入者を殲滅するような罠が新たに仕掛けられている、などという可能性も無きにしもあらずだ。

「そういうことだから、気をつけた方がいい」
「ああ、分かった。十分に用心するよ。到着するまでに方針も組んでおく」

無論、だからといってN自身の目的がぶれることはなかった。
だからこそ別行動という道を選んだのが月とNだった。

4人の参加者が残された艦内。
そこにはモンスターボールから出されたポケモン達が並んでいた。

ピカチュウ。
リザードン。
グレッグル。
ゾロアーク。
ポッチャマ。
そして、織莉子が残したバッグに入っていたドサイドン。

今は各ポケモン達のコンディションを整えるのと同時に、彼らと話をして城に入って以降のことを説明していた。

あそこは既に禁止エリアとなっていて、自分たちはこの艦の中から出ることはできない。故にポケモン達に自分で判断して動いてもらうことになる。

まずは部隊のまとめ役、司令塔となるものを決める必要がある。
通信機器としてカメラ機材を持ってもらうことで映像から何をすればいいかの軽い指示くらいは出せるだろう。
しかしそれにも限度はある。
その司令塔的な役割に、Nはピカチュウを指名した。
強弱の問題ではなく、モンスターボールの外で、最もトレーナーのバトルを見てきたピカチュウなればこそとの判断だ。
リザードン、グレッグル、ポッチャマは賛同した。ゾロアークもまた、Nの言う事ならばと渋々ながらも従ってくれた。
問題はドサイドンだった。

そもそも今の彼には、自分たちと共に行動し言うことを聞く理由がない。
元々のトレーナーがロケット団のボスというクセだらけの経歴だったこともあり、他の一堂と比べてかなりの扱い辛さがあった。
そんな見ず知らずのポケモンの言うことを聞く気はないと。自分は自分で勝手にするから好きにしろと。
どうしてもというのなら命令すればいい、とNが最もやりたくないことまで自分から提言してくる。

それでも粘り強く言葉を重ねて。
最終的には、サカキが命を落とす遠因となった者への敵討ちという形で落ち着かせた。


774 : あなたと私は友達じゃないけど ◆Z9iNYeY9a2 :2020/10/10(土) 22:15:08 BnbE1OpU0


ゾロアークといい、ドサイドンといい。
その力を利用するために説き伏せているかのような自分に少し自嘲する。
かつての自分であれば、このような言動を行っただろうか。
いや、おそらくは言い方や思想は多少変わっていたかもしれないが行っただろう。ポケモン城に囚われているポケモン達の開放という目的があるのだから。
だがこの矛盾には目を向けることはなかったかもしれない。

正直なところ、この目的にはポケモンだけでなく他の参加者も巻き込んでいる。
枢木スザクや夜神月が別行動を取ったのも、その意識、方針の差が亀裂とならないために気を使わせたものだ。

「何考えてるのかは何となく分かるニャが、今は目の前のことに集中するニャ」

そんな思考が顔に出ていたのか、ニャースがそう言葉を投げかけていた。
思考から戻り、周囲を見渡す。

ニャースはポケモンではあるが参加者である故に、こちらに残るメンバーとなっている。
現状はできることがあるわけではない。後々に合わせて臨機応変に動いてもらうことになる。

「それで私達はどうすればいいのかしら」

ニャースと同じようにやるべきことが見えないアリス。
ポケモン周りのあれこれは完全に門外漢であるためにすべきことが分からない。
最もポケモンの開放自体がN個人の望みであり、ポケモンも含めた他の皆にはそれに協力してもらっている立場である以上それにどうこう言うことはできないのだが。

「ポケモン達には、もし城に入った後でポケモン以外の驚異と遭遇したら、外に出てくるように指示している。
 そこから君に迎撃してもらいたいんだ。
 禁止エリアに引っかかるようならこの艦の上で、引っかからないなら陸の上でってなるね」
「なるほどね、分かったわ」

艦上からというと艦の砲撃を使うか、あるいは降車口辺りからの攻撃となるだろう。
まあ多少禁止エリアに入ったとしても、ギアスでの高速移動を用いればある程度のケアは可能のはずだ。

「じゃあこっちは艦の武装と、あと出口のところの状態を確認しておくべきかしらね。
 さっきの戦闘の時のこともあるし、いざって時に動かないじゃ話にならないから」
「私も、何か手伝ってもいい?」
「ならニャーも手を貸した方がよさそうニャ」

立ち上がったアリスに続いて、まどかとニャースもその後ろに連れ添ってきた。
機械関連の扱いを聞くなら色々詳しいというニャースの手はあったほうがいいだろう。
まどかについては、彼女もやることがなくて手持ち無沙汰になっているため何かしたいということだとアリスは判断していた。

そうして、ポケモン達に薬を与えて体調を整えているNの後ろで、三人はアヴァロンの操縦機器に手を入れ始めた。




775 : あなたと私は友達じゃないけど ◆Z9iNYeY9a2 :2020/10/10(土) 22:15:38 BnbE1OpU0


会場の外、参加者にとってはどことも知れぬ場所。
正しく言うなら、会場の中での出来事により収束した因果から発生したエネルギーを集める機能を備えられた場所。

刺々しく尖った花弁が開いたかのような、透き通った白色の物体が地面に植え付けられ。
中央に向かってエネルギーが赤い粒子となって浮遊し、少しずつ集まっている。

そしてその中心に、1人の人間が磔にされていた。
何もない場所に、赤い鎖と黒い羽が空間に縫い付けるように止められている。

「気分はどうかしら、間桐桜」
「………」

虚ろな瞳を開く、縫い付けられた人間、間桐桜。
暁美ほむらは、その傍に立ってささやくように話しかけていた。

「あなたの望みよね。死にたいって。
 そうしてじっとしていれば、その願いを叶えることができるわ。
 その結果多くの人を救うことにも繋がる。あなたの罪滅ぼしとしては十分じゃないかしら」
「………」

反応がなくなっている。
それを確認して小さな笑みを浮かべるほむら。

アカギの世界に存在したという最終兵器を象り、そこにアーカーシャの剣による神殺し、聖杯による魔力収集、そこにキュゥべえの技術を合わせたことで生み出されたもの。
このエネルギーを用いて文字通り世界を司る神を殺し、世界の法則を一度崩した後に改めてアカギ達の力を使って新しい世界へと作り変える。
そのための装置がこれだった。

そして間桐桜。
彼女は最終兵器を駆動させるためのエネルギーとしてくべられていた。

まだ殺し合いの儀式の決着はついていない。装置が起動するエネルギーが足りていない。
だからこれはほむら自身の望みのための行動だ。
キュゥべえは容認しなかっただろうが、現状アーニャを通してシャルルとアカギの了承は取っている。このままだとともすれば停滞しかねない儀式を進めるための見返りとして。

間桐桜である理由、それはいくつかの要因が重なったことで彼女自身が強い因縁を持つことになったから。
元々聖杯戦争におけるマスターの一人で、聖杯の機能を備えた魔術師であるという点で一定のものを備えていた。
そこに加えて殺し合いの中で彼女が多くの人を手にかけ多数の人間に影響をもたらしたことで因果はより強固なものとなっている。

彼女自身最初は少しばかりの抵抗を見せたが、彼女の罪を改めて自覚させた上でこれが償いにもなると言うと、やがておとなしくなっていった。

アーニャは枢木スザクの相手をしている。
柳洞寺地下に入り込んだ二人はこちらが呼び出した駒が戦っている。

残るはポケモン城に向かった面々。
無論あの地下にはポケモン達の他にも妨害できるものを用意している。

「だけど……不安ね」

アヴァロンに乗っている面々に目をやりながらもつぶやくほむら。

問題がないとは言わないが、できれば可能性は削っておきたい。

少しの迷いの後、空間を繋げる黒い穴を作り出した。

「………」

その足元に、小さな影が見えた。
近寄り目を凝らすと、その姿が桜の操っていた黒い巨人に似ていることに気付いた。

その黒い小人とでも呼ぶべきもの。
ほむらの足を小さな触手で叩こうとするのを避けて、逆にその胴を蹴り遠くへと飛ばした。

そのまま追いかけることもなくその闇の中に姿を消していった。

やがて間桐桜だけが残された空間。
遠くから跳ねるように移動してきたその影の小人は、桜に寄り添うようにその足元へと留まった。

【???/最終兵器中央/二日目 早朝】
【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:右腕欠損、魔力消耗(大)、顔面の右目から頬にかけて切り傷、右目失明、視力障害、全身傷だらけ、強い罪悪感、意識無し、赤い鎖と黒い羽で拘束
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:死にたい
1:柳洞寺に向かう。あわよくばそこを自分の死に場所としたい
2:私は、死ぬことでしか許されない…?
[備考]
※黒化はルールブレイカーにより解除されました。以降は泥の使役はできません。
※切断された右腕はナナリーのギアスの影響で修復不可となっていました。




776 : あなたと私は友達じゃないけど ◆Z9iNYeY9a2 :2020/10/10(土) 22:16:29 BnbE1OpU0
艦橋での作業を一通り終わらせたアリスは、まどか、ポッチャマ、グレッグルと共に艦の昇降口での作業に移っていた。
まどかは艦橋での作業に引き続いての手伝い、ポッチャマは暇を持て余したようで着いてきた。
グレッグルは何故来たのか分からない。時々体を身震いさせているのが気になった。

「ここを動かせばそこが下がる、ね…。空中から撃てるかな」

地上にいる目標を撃つイメージを組んでみるアリス。
前線での切り込み隊員をやってきたこともあって長距離狙撃はあまり得意ではない。

「最悪突っ込んで最速で戻ってくるのも有りかな…。でも何回もやるのはまずそうだし…」

一人物思いに耽るアリス。

結果暇になってしまったまどかはポッチャマを抱えて話しかけていた。

「ほむらちゃんは、こんなふうにあなたを抱きかかえてくれたの?」
「ポチャ?ポッチャ」

首を横に振ったポッチャマはその肩に乗る。

「こんな感じでほむらちゃんの近くにいたの?」
「ポッチャ!」

実際は共にいた時間もそう長くはなかったのだが、それでもポッチャマにはその位置が印象に残っていた。

「……。今、みんな終わらせようって頑張ってるんだよね。
 私達、帰れるのかな?」
「………」

ふと呟いた言葉。
だけど返答はなくポッチャマは俯いていた。

そこでポッチャマは自分の持ち主であった子がもういないのだということをまどかは思い出した。

「ごめん、ちょっと無神経なこと聞いちゃってた」
「ポチャ…」

小さく鳴き声を上げたポッチャマ。

「大丈夫よ。あなたのことは私が"救う"から」

その時だった。
不意に誰のものでもない声が響いた。

「えっ」

それが聞き覚えのある声色で思わず振り返ったまどか。


777 : あなたと私は友達じゃないけど ◆Z9iNYeY9a2 :2020/10/10(土) 22:17:34 BnbE1OpU0
そこに立っていたのは、黒い長髪をなびかせて漆黒のドレスをまとった少女。

「ほむらちゃん…?」

ほむらの話題を話していたせいで幽霊が現れてしまったのかと。
そう思ってしまうほどにその存在が想定外で、ほむらの横に黒い穴が空いているのを見ても思考が動いていなかった。

「ゲッ!」

思考が回復したのは、グレッグルがほむらに向けて光る拳を振りながら飛びかかる姿が映った時だった。

舌打ちが聞こえたと思ったら、グレッグルの姿は消え、ほむらに手を掴まれていた。

「あ、アリスちゃ―――」

思わずもう一人の少女の名を叫びかけたところで、視界が黒く塗りつぶされていった。



「…!ギアスの反応…?!」

不意に近くでギアスが発動したのを感じ取ったアリスは作業を続けていた手を止めて振り返った。

「アリスちゃ―――」

視界に入ったのは、宙に空いた黒い穴に飲み込まれていくまどかと。
穴の近くで血を流して倒れているグレッグル。

判断は早かった。
ギアスを発動し一瞬で距離を詰めてその穴へ向けて手を伸ばす。しかし気付くのが遅かったのが影響し手は届かず消えていった。

「まどかっ!!」

そのまま消えかかっている穴に向けて、アリスは更に踏み込み、追うように飛び込み。
自分の体も消滅する穴と共に消えていく寸前で、壁に向けて対消滅の穴を生み出して破損させた。

やがて穴が消え、倒れたグレッグルだけが残された空間で、艦内で生まれた損傷から警告音が鳴り響き始めた。





艦橋へと響いた警告音を聞き、Nが昇降口へと走ってきたのはそこから数分の時間を置いた頃だった。
ニャースとピカチュウに艦橋を任せて、ゾロアークと共に駆けてきた。

「これは…グレッグル!!」

倒れたグレッグルへと駆け寄るN。
何か強い力で切り裂かれたような傷が胴体にできている。
まだ息はあるが、血を流しすぎたせいだろう、虫の息だった。

「…っ、一体、何があったんだ、グレッグル!」
「ゲ…ゲゲ」

小さく、絞り出すように言葉を紡ぐグレッグル。
暁美ほむらなる少女が現れたこと。彼女がまどか達を連れ去り、それを追ってアリスもいなくなったこと。

言葉の端々から悟ったのは、グレッグルは危険予知で彼らに何かしらの危機があることを察知していたのだ。
しかし何が起こるかまでは分からない。だから彼らと共にいたのだと。

「…分かった。よく頑張った。あとは僕たちがどうにかしよう。
 もう、休んでくれ」

息をするのも苦しそうだったグレッグル。もう手当も間に合わないだろう。
グレッグルに、そう優しい声で囁きかけるN。
その言葉を聞き、安心したように静かに目を閉じて、そのままグレッグルは静かに息を止めた。

動かなくなったグレッグルの瞳を、ゆっくりと閉じるN。

だが悲しんでいる暇はそう残されてはいなかった。

アヴァロンがポケモン城に辿り着く時が、刻一刻と迫っている。


778 : あなたと私は友達じゃないけど ◆Z9iNYeY9a2 :2020/10/10(土) 22:18:11 BnbE1OpU0
【E-7/アヴァロン/二日目 早朝】

【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(小)、ゲーチスの言葉によるショック
[装備]:サトシのピカチュウ@ポケットモンスター(アニメ)、サトシのリザードン@ポケットモンスター(アニメ)、
    サカキのサイドン(ドサイドン)@ポケットモンスター(ゲーム)、ゾロアーク(スナッチボール)@ポケットモンスター(ゲーム)、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[道具]:基本支給品×2、割れたピンプクの石、
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:ポケモン城に向かい、クローンポケモン達を救う
2:世界の秘密を解く
3:グレッグル…!
[備考]
※モンスターボールに対し、参加者に対する魔女の口づけのような何かの制約が課せられており、それが参加者と同じようにポケモン達を縛っていると考察しています。


【ニャース@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:ダメージ(小)、全身に火傷(処置済み)
[装備]:ゴージャスボール@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:この場所から抜け出し、ロケット団に帰る
1:ボールの解析情報などを他の皆と共有するため遊園地に向かう。
2:できればポケモンがいなくなったモンスターボールも見ておきたい。
3:ポケモンとは―――
[備考]
※参戦時期はギンガ団との決着以降のどこかです



全てのまどかを救う。
それを自身の悲願として行動してきた。
そのためにそれ以外の全てを切り捨てる覚悟もあった。

だけど、まどかを切り捨てること、それだけはできなかった。

もしどこかで死んでいてくれたら良かったのに、などと考えてはいけないことを考えていた。

ここまで生き残ってしまった以上、自分で手を下すか他の誰かに殺させるしかない。

どうするべきなのかを考えた末に出たのは、まどかを最後の一人として生き残らせること。
いくつかの条件の元、アーニャの了承は取っている。
その一つとして間桐桜を事前に手元においておく必要もあった。

あとは、まどかを確保した上で様々な手を使い他の参加者を狩っていけばよかった。

良かったのだが。

「…何であんたが生きてるのよ」
「ポチャ…?!」

まどかを確保する過程で、余計なものまで着いてきてしまった。

「詰めが甘かったわね…」
「どういうこと、ほむら!!」

まどかを庇うようにアリスはその前に立つ。

「そうね、簡単に説明するなら、死んだ後で生き返ったってところよ。
 その上で、今はアカギ達に手を貸しているの」
「何であんたからギアスの存在を感じるの?」
「ゼロが死んだ時に引き受けたの。魔法少女の力や私の因果と混じり合って適合してくれたわ」

話しながら時間を止めてアリスとポッチャマに向けて魔力の弾を至近距離から放とうと歩み寄る。


779 : あなたと私は友達じゃないけど ◆Z9iNYeY9a2 :2020/10/10(土) 22:19:39 BnbE1OpU0
しかし。

「……!?」

その手を掴まれた。

「無駄よ。私も最初に会った時の私じゃないもの」

アリスの手を振り払いながら後退するほむら。

時間停止を解除してアリスを睨む。

「まどかを連れてきたのって、もしかしてこの子を生き残らせたいから、とか?」
「ええ、その通りよ」

先の行動が原因で警戒させてしまい隙が見えなくなったアリス。
問いかけに答えながらも、その事実に歯噛みするほむら。

「そのために、キュゥべえ達とも手を組んだっていうの?」
「そうよ。最もキュゥべえはもう追放したからこの場にはいないんだけど」
「…そう」

アリスの声色が下がっていった気がした。

「ほむらちゃん、私は―――」
「あなたはいいの、黙ってて。まどかの意見は聞いていないから」

会話に割り込もうとしたまどかに、突き放すような言葉を投げるほむら。
そんなほむらに、顔を伏せたまま口を開くアリス。

「…ねえ、ほむら。私さ、何だかんだであんたとは仲良くやれたって思ってたんだ。
 何かあったってわけじゃないけど、一緒に行動してて、少しはあんたと仲間になれたって」
「そうね。それは私も同じよ。
 あなたと行動してて、新鮮だったし少しはずっと一人だった孤独も晴れたようには感じた」
「だったら、どうして?」
「簡単な話よ」

この先の言葉は、言ってはいけないものだとほむらの中で直感していた。
それでも、決別の意味を込めて、敢えてそれを口にした。

「私の目的に対して、あなたの存在が、感じた絆がその程度だった。
 踏み台にして切り捨てられるようなものだった。
 ただそれだけ」
「…そう」

アリスの口から出た呟きには周囲の空気を変えるような冷たさを纏っているように感じられた。

次の瞬間、膨大な魔力反応を感じたほむらは、瞬時の判断で時間を停止させた。
さっきとは違う、油断せず一撃で素早く消し飛ばすように動く。

瞬きをする間だった。
目の前に突きつけられた掌を左手が掴んでおり。
顔を横にそらした瞬間、膨大なエネルギーとなった魔力がその掌から放たれ、頭があった場所を通り過ぎていった。

「まどか、ちょっと下がってて。たぶん周りに注意払えないと思うから」
「アリスちゃん…?」
「あなた、今何をしたの」

時間は確かに止めたはずだったのに、アリスは目の前にいた。動く姿すら見えない一瞬で。

「あんたが時間を止めるなら、私は無限に私の時間を加速させるわ。それこそ、時間を止めたと思えるほどにね」
「無茶苦茶ね、あなたも」

言いながらもほむらはアリスから漏れる魔力の気配を見る。
どこか、自分の力と親しいようにも思う力が感じられた。

(なるほど、この子もあの魔女の力を継承したってこと…。
 私の力とあの子の力、その属性が近づいたから私の能力にも対応できてしまったってところかしら)

若干アリスの言葉に腑に落ちないものを感じたものだが、得た力に対して思わぬところで変な副作用が出てしまった。

他の参加者ならば楽に対応できただろうに、この期に及んで最も厄介な相手を連れてきてしまったようだ。
あるいは、これが今の自分の因果とでもいうのだろうか。

「理解したわ。あなたは私が全力でかかる必要がある相手みたいね。
 まどかのための糧として、あなたを殺してあげるわ」
「やってみなさい。
 あんたがどれだけ時間を止めようと、私は前に進み続けるわ」

今の自分の、戦うための衣装へと体を変異させるほむら。
肩と脇腹を大きく露出した黒いドレスに、骨を思わせる刺々しい翼を背から生やす。

対するアリスも、その手に対消滅のエネルギーを携えて構え。

ほむらの時間停止の発動と同時に、アリスもギアスを発動して地を蹴った。


780 : あなたと私は友達じゃないけど ◆Z9iNYeY9a2 :2020/10/10(土) 22:20:06 BnbE1OpU0
【???/最終兵器付近/二日目 早朝】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、ギラティナと同化、魔女の力継承、悪魔化
[服装]:悪魔ほむらの衣装@魔法少女まどか マギカ[新編]叛逆の物語、ギラティナの翼、まどかのリボン@魔法少女まどか☆マギカ
[装備]:ダークオーブと化したはっきん玉、変質したほむらの盾
[思考・状況]
基本:アカギ達に協力、ないし利用し最終目標のための手はずを整える。
1:アリスを排除して、最終段階への手筈を整える
2:キュゥべえの動きを見て、今の生存者に合わせて動く
3:アーニャがちょっと鬱陶しい
最終目的:“奇跡”を手に入れた上で『自身の世界(これまで辿った全ての時間軸)』に帰還(手段は問わない)し、まどかを救う。
[備考]
※はっきん玉はギラティナの力と魔女の力を完全に取り込み自身の因果と同調させたことでダークオーブ@魔法少女まどか マギカ[新編]叛逆の物語へと変化しました。
その影響でギラティナの能力を使用することが可能です。
※ギラティナの体はRガス@名探偵ピカチュウによってほむらの精神を移された後、ギアス継承の反動を押し付けられたことで力が弱まりほむらの体内に取り込まれています。
ギラティナ自身の意識が弱まっただけの状態であり死んではいません。
※ギアス能力について
腕の変質した盾についた時計の針を動かすことで、因果を操り固定することが可能です。
現状で分かっている制約としては、魔女の刻印が残っている影響で会場に対する干渉には強い制限がかかっているため現在の参加者への干渉はできません。



【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:ダメージ(小)、ネモと一体化、全身に切り傷、左肩に打撲と骨にヒビ
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(9+1発)@現実、双眼鏡、 あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。
1:ナナリーの騎士としてあり続ける
2:目の前のバカをぶん殴る
3:間桐桜に対して―――
最終目的:『儀式』からの脱出、その後可能であるならアカギから願いを叶えるという力を奪ってナナリーを生き返らせる
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※アリスのギアスにかかった制限はネモと同化したことである程度緩和されています。
魔導器『コードギアス』が呼び出せるかどうかは現状不明です。




【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(小)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み)、強い悲しみ
[服装]:見滝原中学校指定制服
[装備]:ポッチャマ@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2(確認済み)、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、咲夜子のクナイ@コードギアス反逆のルルーシュ、グリーフシード(人魚の魔女)@魔法少女まどか☆マギカ、ブローニングハイパワー(13/13)@現実、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、トランシーバー(電池切れ)@現実 、医薬品
[思考・状況]
1:………
[備考]


781 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/10/10(土) 22:20:26 BnbE1OpU0
投下終了です


782 : 名無しさん :2020/10/12(月) 14:23:07 JepAyLts0
投下乙です
ここまで生き延びてたグレッグルも逝ったか…せめてあの世でタケシと再会して欲しい
ほむほむェ…やっぱサイコレズは怖いっスね、アリスに何発かぶん殴ってもらわんと


783 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:09:29 1xlulQqY0
遅くなりすみません
以前予約した4人の分を投下します


784 : 決斗・アヴェンジャー&ライダー ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:10:55 1xlulQqY0
アヴェンジャー・アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

この世全ての悪に冒された聖杯が、擬似的にアイリスフィールの人格を得た姿。
擬似的とはいえ、その人格自体は確かにアイリスフィールのものと同一。

彼女が現界において聖杯から与えられた役割は、『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンを愛し、その心を侵して取り込む者』

聖杯の泥の属性を得た彼女に取り込まれることは、即ち心の崩壊、そして死を意味する。
加えて、イリヤにとって母と同じ顔をしたものと戦うことは強い迷いを生み出す。



仮面ライダー4号。

ある世界において、乾巧が持つ仲間の死に対する強い悲しみをきっかけとして生み出された機械兵士。

彼が現界において聖杯から与えられた役割は、『乾巧に終末をもたらす者』

乾巧の悲しみを元に生まれ、力をつけた4号。
その力は未だ悲しみを乗り越えられていない乾巧にとって、越え難い壁となってその前に立ち塞がる。


会場からの脱出に向けた2人にとっての最後の壁として、ほむらから呼び出されたその2騎はそびえ立っていた。



閃光と共に、白い糸で編まれた多数の剣と鳥が飛来する。
イリヤはそれを見たことがある。自身の母が自分たちに対する折檻として糸で編んだ拳を繰り出したことがあった。
それを魔術的攻撃として転用するとああいった形となるのだろう。

宙を舞いながら砲撃を放ち、迫ったそれらを撃ち落とす。
衝突した魔力が弾け、剣や鳥は細かな糸となって散り散りになっていく。

横から迫った鳥を魔力の刃で切り裂く。
細かく千切れた糸が体にくっつく。

アイリに目を向けるイリヤ。
その顔が、ニヤリと笑っているように見えた。

手を大きく横に広げる姿が目に入る。

「っ!!」

体に付着した糸、宙を浮遊していた糸の残骸が一気につながってイリヤの体を縛り上げる。


785 : 決斗・アヴェンジャー&ライダー ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:11:18 1xlulQqY0
「さあ、イリヤちゃん、抱擁してあげる。いらっしゃい」

身動きを封じられたまま糸で引き寄せられるように地面に落ちていくイリヤ。
下には蠢く漆黒の泥が、まるで口を開けた化け物のように大きく広がっていた。

落ちる軌道の先に、咄嗟に魔力障壁を幾重にも重ねて展開。落下速度が障壁が割れるまでの少しの間分だけ低下する。

「……、ルビー、全身に魔力放出を!」

その間に状況からの対応を見出したイリヤは、全身から魔力を放って、一気にその糸を引きちぎって吹き飛ばし。
泥に到達する直前でようやく体制を立て直して飛び立った。

『あの泥は…、桜さんのものと同質のものです!
 ですが属性の違いか、彼女のものと比べれば魔力を奪う性質はないですが侵食性が高いです、注意してください!』
「分かってる、あれに触ったらまずいってことくらい…」

後ろに飛びながら魔力弾を放つ。
弧を描きながらアイリに迫る6発の弾。しかしアイリスフィールの放った糸の鳥がそれらを撃ち落とす。

「イリヤちゃん、どうして私をそんなに拒絶するの?」
「当たり前でしょ、だってあなたは、私のお母さんじゃない」
「ふふ、確かにあなたの知るアイリスフィールじゃないのは確かよ。
 だけどね、私はアイリスフィール。あなたのお母さんとは違っていても、それは違わないのよ?
 聖杯としての役割をはたして、消えていったアイリスフィール・フォン・アインツベルン。
 衛宮切嗣を愛し、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンを愛していた。何も違わないの」

一歩足を踏み出すアイリスフィール。
それに意識を取られた瞬間、彼女の姿は目の前から消えて。

「それにね、私とても嬉しいのよ」

横から、後ろからたくさんの手が、イリヤを抱きかかえるように迫ってきた。
ぞわっとする気配を感じたイリヤは、直感的に地面に大量の散弾を撃ち込む。

霧散していく魔力の中から、アイリスフィールの姿が形作られる。

「あなたが私の知るイリヤちゃんじゃなくても。
 娘がこんなに健やかに育ってくれる世界があったことが、とっても嬉しいの」
「……」

目の前にいるアイリスフィールは自分の知る母ではない。それを分かっていても。
彼女がアイリスフィールであるということは否定しきることができなかった。
どうしても母と被って見えてしまう。もしもの世界にいる母として。


786 : 決斗・アヴェンジャー&ライダー ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:11:36 1xlulQqY0

一方で泥を使役してこちらの進行を妨げる彼女は紛れもない敵で。

その釣り合わないギャップが、イリヤの迷いを生んで全力で戦うことを阻んでいた。

「だからね、イリヤちゃん。
 あなたを、私に愛させて?」

泥の中から蠢きながら現れる手を前に、ルビーを握るイリヤの手から汗が滲んだ。



知識だけはうっすらとあった。
バーサーカーを通じて得たイリヤの記憶だ。

曰く、イリヤは母と共に過ごした時間がそう長くはない。
家を空けていていないという意味では自分と同じではあるが、向こうのイリヤはずっと孤独だった。

兄はいない。セラやリズは共に過ごすようになったのはかなり後だ。

ある日を境に、母・アイリスフィールは姿を消した。
アインツベルンの役割を果たすため聖杯戦争へと赴き、そのまま帰ってくることはなかった。

想像してしまう。
もし、無念の中で散った母が自分の子と再会できたなら、一体どんな反応をするのか。

目の前にいるものが、イリヤの想像そのものだった。

ステッキを握る腕が鈍る。
心に強い負担がかかる。

違うと分かっているのに。あれは母とは違う存在だと知っているはずなのに。
心がついてきてくれない。





787 : 決斗・アヴェンジャー&ライダー ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:11:55 1xlulQqY0

繰り出された互いの拳が胸を打つ。

体を後ろに傾け衝撃を逃す4号。
対する巧は衝撃を殺し切れず後ろに吹き飛ばされた。

「木場勇治、園田真理、菊池啓太郎、巴マミ、衛宮士郎……。
 なるほど今のお前も随分と色々失ってきたようだな」
「だから、何だよ…っ!!」

起き上がりながらその顎に向けて拳を繰り出す巧。
しかしそれは到達する直前で掌で受け止められる。

「せっかくの機会だ、教えてやろう。
 俺はある世界で、お前が失ってきた命に対する後悔、悲しみを起点として生み出された存在」

言いながら拳を引き寄せて4号のカウンターの拳が頬を打った。
強い衝撃に仰け反り倒れる。

「ある世界ってのはそうだな、お前と木場勇治の世界、くらいの並行世界とでも思っておけばいい。
 まあそれはいい。重要なのは、今のお前は俺が生み出され強くなっていった世界と同じ悲しみを背負っているってことだ」

ファイズの首を掴み上げて体を起こし、その胴体に拳を叩きつける。

体の中に響き渡る衝撃に蹲る巧。
しかしそれでも堪え、反撃のため態勢を整えようと4号の胴体に掴みかかる。

「別に理解する必要はない。お前は俺に勝てない、それだけを理解っていればいいんだよ」

そこに膝打ちが加えられ、体が浮き上がる。

「ライダーパンチ!!」

腕で防御し直撃は避けるも、衝撃で大きく後ろに吹き飛ばされる。

「ぐあっ…!」

地面を転がるファイズ。

追撃に迫る4号に、咄嗟に拾い上げたフォトンバスターを向ける。
赤い光弾が放たれ、一直線に4号へと向かう。

横に転がることで回避する4号。
迫る勢いが一瞬途切れる。すかさず巧はフォトンブレイカーへと武器を変形。
肉薄してきた4号めがけてその刃を振り下ろす。

回避の隙を狙われたことで避けきれないと判断した4号は、その一撃を腕で受け止めた。
黄色のエネルギーの刃と4号の前腕がぶつかり火花を散らす。

「ちぃ」

傷付く腕の表面に舌打ちしつつも、斜めに腕を動かすことで刃を退け。
再度振りかぶられた刃を懐に入り込むことで回避。
そのままファイズの頬に向けて、突き上げる形で拳を放った。
強い衝撃が巧の頭を揺らし、勢いで吹き飛ばされ倒れ込む。

身動きが取れるようになるまでに手こずっている間に、横に落ちたファイズブラスターの刃を思い切り踏みつける4号。
エネルギーを形成していた棒状の基部が砕け散る。
続いてファイズブラスター本体目掛けて足を振り下ろそうとしたところで、横からの衝撃が4号の体を吹き飛ばした。
ふらつきながらも無理やり立ち上がった巧が飛びかかったのだ。

数歩後ろに下がりながらも、その力が入りきっていない体を掴み抑えながら、間近に迫ったファイズの目を注視する。


788 : 決斗・アヴェンジャー&ライダー ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:12:16 1xlulQqY0

「ふん、そこまでしても立ち上がるか」

振りかぶられた拳を受け止め、関節から弾く形で腕を振りほどいて、中段蹴りをその腹に叩き込む。
うめき声を上げながら後ろに飛ばされるも、転がる道中でファイズブラスターを確保したことで破壊されることは防いだ様子だった。

「強化フォームでなければ俺には勝てない、か?
 無理だな。たとえその形態だったとしても、お前は俺には勝てない」
「うるせえ!」

その言葉に煽られていると感じたのか、激高した巧は更に胴に向けて拳を打ち付ける。
しかし、それを正面から受けた4号は微動だにしていない。

「必死なものだな。
 生きる理由を失ったお前が、そうまで死に場所を求めて戦うか」
「何…?」

巧の動きが一瞬止まる。
その隙を逃さず4号は巧の体を抑えるように締め上げる。

「だってそうだろう?
 今のお前に、元の世界に帰ったところで誰がお前を迎えてくれる?
 園田真理も、菊池啓太郎も、草加雅人も、木場勇治もいない世界でただ孤独に生きていくつもりか?」
「…!」

抗おうとする力が一瞬弱くなる。
畳み掛けるように、4号は巧に向けて囁く。

「皆死んだ。お前の仲間も、友も。帰ってどうなる?」
「黙れ…!」
「お前が守れなかった。お前が情けなかったから、逃げ続けていたから。
 だから皆死んだ。お前が殺したようなものだ。
 なあ、乾巧。俺には分からないんだが、誰もいない場所で、一人で行き続けていく気持ちは、どんなものなんだ?」
「黙れぇっ!!!!」


体を締めながら耳元で囁く声に、巧の力が緩まった。

「お前は、死にたいんじゃないのか、乾巧」
「止めろぉっ!!!」


789 : 決斗・アヴェンジャー&ライダー ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:12:36 1xlulQqY0

その巧にとっては呪いとも思えた言葉を振り払おうと声を上げる巧。
しかし、その体の拘束は解けなかった。



考えたことはあった。
だけど、それに気付いてしまったら戦えなくなる。
そう思っていたから、考えないようにしていた。

皆死んでいった。
家族と言ってもよかった者たちも。
背中を預けて戦った仲間も。
共に道を歩んでいける友も。

失った者たちと同じくらいに出会いもあった。
手を差し伸べるべきで、しかし振りほどいてしまい悔いを残した少女。
危なっかしくて、だけど真っ直ぐで、何かあれば消えてしまいそうだからこそ守りたかった少年。
自分の戦いを見届け、その果てに背を預けて戦うことができた少女。
他にも色んな出会いがあって、その多くが消えていった。

こんな自分が、仮にここから脱出して帰ったとして。
何が残っているのだろうか。

戦う理由を、生きる理由を、見出だせるのだろうか。

考えてはいけない。
まだ、戦いは終わっていない。
皆は戦っているのに、自分だけ折れるわけにはいかない。


―――お前は、死にたいんじゃないのか?

その言葉が、乾巧の心を侵食していく。




「止めろぉっ!!!」

もがく巧、しかし拘束を解くことはできない。
そんな巧を嘲笑うかのように、体を蹴り飛ばし前に押し出す4号。

不意に自由になった体に思わず前に数歩分突き動かされる。
それでも踏ん張って振り返る巧。

「ライダーパンチ!!」

その視界に入ったのは、構えた拳を振り抜く4号の姿。
反射的に迎撃のカウンターのパンチを構え迎え撃つ巧。

互いの拳がそれぞれの胸を打つ。

「がぁっ!!」

吹き飛ばされたのは巧の体だった。
同時に、体が限界を迎えたことを知らせるかのようにファイズブラスターからファイズフォンが弾け飛ぶ。


790 : 決斗・アヴェンジャー&ライダー ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:12:58 1xlulQqY0

巧からの一撃に動じることもなく拳を放った態勢から拳を引きつつ、その姿を見下ろす4号。
変身が解除された巧。ファイズブラスターはこちらの足元に、ファイズフォンはそこから離れた場所に落ちている。

そこに思い切り足を振り下ろす。
バキリ、と激しい音と立てて、ファイズブラスターは真っ二つに砕けた。

そのまま巧の傍に落ちたファイズフォンに目を向ける。
変身が解除された巧は、それを急ぎ立ち上がって拾い上げる。
当然その隙を逃す理由もない。4号は歩み寄りながら拳を巧に叩きつける。
ファイズへの変身が間に合わないと見た巧は咄嗟にその姿を灰色の怪人のものへと変化させた。

「オルフェノクの姿か。だがそれは俺の前では悪手だ」

地面を転がるウルフオルフェノク。
その姿を真っ直ぐに見据えながら、4号は腰を低く落として飛び上がる。

起き上がり、その飛び上がった4号の姿を見上げる巧。

「そうだ悪手なんだよ、この俺の前ではなぁ!!」

出合い頭に放たれた一撃と同じ態勢をこちらに向けている。
クリムゾンスマッシュによく似た、巧に直感で身の危険を感じさせたあの一撃。

そして、今の巧にはそれを回避する余裕がない。

「ライダー、―――――キック!!!!」

その飛び蹴りは、ウルフオルフェノクの胸に突き刺さり。
反動で宙を後ろに舞う4号。

そして衝撃のまま後ろに大きく吹き飛ばされる。
洞窟内の岩壁に叩きつけられるほどの衝撃を受ける巧。

オルフェノクの姿を解除され、生身に戻った巧は、ゴホッと血を吐き出して。
ゆっくりと地面に倒れた。




791 : キミがくれたKISEKI ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:15:27 1xlulQqY0


『イリヤさん、しっかりしてください!
 あれは、あなたのお母さんではありません!』
「分かってる、分かってるんだけど…!!」


知らなければ戦えたかもしれない。
顔が違ってくれれば戦えたかもしれない。

多くの要素が絡み合ってしまい、イリヤの攻撃の手が鈍っている。

それでも抗おうと反撃を行うが、決定打にならない。

アイリスフィールの放つ糸の使い魔、泥の手の数々を躱す。
その心中には強い焦りが生じていた。

自身の母親と同じ顔をした、別世界の人間。
脳裏によぎるのは殺し合いの場で会った衛宮士郎のこと。

自分の知る衛宮士郎とは違い、しかしそれでも"イリヤ"にとっては兄に違いなかった存在で。
同一視してしまうのを克服できたのは、彼が命を落とした後だった。

そしてその時に克服に時間のかかったものと同じ感情が、イリヤの心にこびりついて離れない。

加えて、アヴェンジャーという特殊な存在であるがゆえか、あるいは対イリヤとして与えられた役割であるがゆえか、その力も驚異だった。
砲撃や斬撃をいくつも放っているが、泥に阻まれる。
濃密な負の魔力で構成されたそれは、防御に転じれば今のイリヤの攻撃が届かない。
能力はおそらく、かつて戦った黒化英霊に匹敵、いや、自我がある分それ以上かもしれない。

接近して魔力刃で直接切り裂けるならあるいは突破できるかもしれないが、それはあの泥の中心に突っ込むということ。あまりにリスクが高い。

もし手があるとすれば。
先程の戦いの中で回収した、2枚のクラスカード。
それ以外のものは全て消費済で、現状ではこれらだけが使用可能。
だがこれを使えば、カレイドステッキによる飛行能力を失う。泥から逃げ切ることが難しくなる。
サーヴァントに対する泥の影響はあの黒いセイバーを見た後ならば分かる。下手をすれば心まで侵食されるかもしれない。

「ねえ、どうして逃げるのイリヤちゃん?」


792 : キミがくれたKISEKI ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:16:00 1xlulQqY0

優しく微笑んでくるその表情と声色がイリヤの心を揺さぶる。

「一つになることに、何も怖いことなんてないのよ。
 私だけじゃない、美遊ちゃんもクロちゃんも、あなたのお友達ともみんな一緒にいられるのよ」
「…っ、止めて!!」

友の、妹の名を出されて思わず声を張り上げて砲撃を放つ。
しかし泥が一凪すると桃色の砲撃は霧散する。

『このままじゃ埒が明きません。
 イリヤさん、ここは巧さんと相談して作戦を練り直すべきです』

未だ攻め手に欠け続けるイリヤに、ルビーが提案を持ちかける。
撤退は難しいかもしれないが、少なくとも彼との会話でイリヤの心の膠着状態に何らかの動きをもたせられる可能性はある。


『姿は視認できないので向こうの状況は分からないですが、音声は届くようです。
 今はこちらの戦いに集中していたのでそれでも現状は分からないですが、私が音を拾って向こうに伝えることに集中すれば通話は可能でしょう』
「なら、お願い!」

言いながらも飛来する糸の剣に地面に落とされそうになるのを捌く。

この結界は自分と巧、両方に立ちふさがっている敵を倒さなければならない。
ルビーの反応を見るに向こう側も苦戦しているというところなのだろう。
撤退か戦闘継続かあるいは何らかの連携が取れるかどうか。
いずれにしてもどうにかしなければこの状況の打破は難しい。

『分かりました。音声を繋げます。
 まず音を拾う方を優先して状況把握に努めますので、その間の攻撃対処はイリヤさん、どうにか耐えてください!』

ルビーはそう言って、結界の向こうの音を拾い始めた。
ステッキとのパスを通じて、見えない結界の向こうからの音がイリヤの聴覚に響き始めた。



うつ伏せに倒れた巧。
ライダーキックの衝撃を受けて、オルフェノクの姿すらも解けている。
しかしまだ死んではいない。体が小さく動いている。

「こんなものか。所詮はあの時の幾度も戦った乾巧と何ら変わらないな」


793 : キミがくれたKISEKI ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:16:15 1xlulQqY0

体のダメージは大きいだろうに、それでも立ち上がろうとするのはまだ戦う意志が折れていないということだろう。
それでこそだろうなと4号は思いながらも、今の乾巧に彼の底を見ていた。

故にその最後の意志を折るかのように、4号は言葉を紡ぐ。

「もういいだろう。立ち上がってどうなる、乾巧。
 お前はまた、結局失い続けるだけだ。
 巴マミのように、衛宮士郎のようにな。
 守るものももう残っていない、何も守ることができない。そんな空っぽのお前が生き続けてどうなるというんだ?」
「お、れは……」
「何も守れない。何も残っていない。
 生きる価値ももうない。
 ならばお前がこのまま生きていることには何の意味もない」

このまま生きる気力を失えばここまま死ぬだろう。トドメを刺すまでもない。
そう判断した4号は巧の体を踏みつける。

「夢を守る、か。
 希望もないお前に、守れるものなんてないんだよ」

起き上がろうとする力が少しずつ抜けているようにも感じた。
倒れた巧を見下ろしながら、4号は冷酷に言い放った。

「ただ失い続けるだけのお前に、生きている意味などない。
 さあ、その虚無の中で静かに死んでいけ、今のお前はただの敗北者だ」




思えば、何も残らなかった。
助けられない者、取り零した者もたくさんあった。

この手で奪った命を背負う覚悟はあっても。
取り零した命を背負う覚悟はなかったのかもしれない。

失うたびに傷ついていった心。
4号が言っている言葉が、その傷をえぐり、広げ。
粉々に砕こうとしてくる。

もし心が壊れれば、今かろうじて繋いでいる命は断ち切られるだろう。

だけど、それもいいのかもしれない。
これ以上失うことも、これ以上背負うことも。

もう疲れてしまった。

ここで、立ち上がることを止めてしまってもいいのかもしれない。

瞳が、ゆっくりと静かに閉じそうになる。




794 : キミがくれたKISEKI ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:16:34 1xlulQqY0


「ねえ、ルビー。お願いがあるの」

状況は分からない。
拾えたのは、何者かが巧に話しかける声だけ。

だけど、その声で、巧に向けて言われている言葉が何なのかは理解することができた。


静かに小さな声で、イリヤはルビーに語りかける。

「たぶんこれからしばらくの間、攻撃避け切れないと思うから。
 だから魔力を防御に回して」
『――分かりました』

冷静に、しかし彼女に親しいものが聞いたら底冷えしそうなほど冷たい声で。


腹が立っていた。
乾巧の生き様を否定、侮蔑する言葉を投げる何者かにも。
その言葉に負けそうになっている巧にも。
そして何よりも、彼が苦しんでいる状況の中で、彼に頼ろうなどと甘えたことを考えた自分自身に。

どこか楽観視していたところもあったのだろう。
今自分たちの目の前に現れた敵がどんな相手かを把握せずに。
どこかで巧の現状を考えることが抜けていたのだろう。
こんな戦い、力を合わせれば先程のクラスカード英霊のように勝てる相手だと。

巧が戦っている相手が、巧自身の内にある絶望をもって追い詰めてくる者だとは、予想だにしていなかった。

その絶望を知っていたのに、伝えなければならないことを言わず、その結果が現状なのだから。

ルビーの防壁が、糸の鳥を弾き飛ばす。
避けられるはずの攻撃だったが、しばらくは避けきれない。いくつかの攻撃は当たってしまうだろう。

それでも、言わなければならない。

「――――それは違う!!!」

イリヤは、大空洞の中一帯に響き渡るような大声で叫んだ。




795 : キミがくれたKISEKI ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:17:09 1xlulQqY0
最初に会った時は無愛想そうな人だなと思った。
そこからしばらくの間は、自分のことで手一杯で彼に意識を回すことができなかった。

それでも今にして思えば、彼がいたからこそ自分と衛宮士郎は心を支えられたのではないか、と。
もし彼がいなければ、ゼロやバーサーカーと戦ったあの乱戦の中で命を落としただろう。
互いを守ろうと必死で庇い合って、きっとその噛み合わない戦いの中で死んでいたかもしれない。

思えば、一緒にいた時は色んな場面で彼の力にも守られて生き残ってきている。


だというのに数々の出来事を経て、最終的に心に余裕ができたのは、数々の死を乗り越えた4度目の放送が終わった頃だったと思う。

その頃には、彼は既に傷だらけだった。
もしかしたら出会った時から傷だらけだったのかもしれない。気付くのが遅かった。

彼も自分も、この殺し合いの中で多くのものを失ってきた。
だけど、仲間の多くが自分の手の届かぬ場所で死んでいった自分と違って、乾巧は手の届く場所にあったもの全てを取りこぼしていた。

自分が衛宮士郎や美遊を目の前で失ってきた。
それに匹敵するものを、彼は殺し合いの中でずっと背負い続けてきたのだ。

『俺にとっては死ぬことよりも、失うことの方が怖いんだよ』

自分が死ぬことよりも恐ろしいと思うほどのものを失ってきたのだと。

それでも違うと。
多くを取り零したかもしれないけど。
あなたは確かに、守ったものがあるのだと。

少なくともその何者かが言うような、何も守れなかった敗北者ではない。
その言葉は、守られた自分達や、それを守って命を落とした衛宮士郎達皆を侮辱するに等しい言葉だ。

全てを取り零してなどいない。
守りきることができなかったとしても、そこに意味がなくなどないのだと。


あの時言いそびれた言葉を、今こそ言う時だと。



「あなたは、確かに守ってる!!何も無いなんてことはない!!!」

避けきれなかった剣と鳥がイリヤの体を撃つ。
防壁のおかげでダメージは少なかったが、衝撃で地面に落ちそうになる。

「私も、桜さんも!!あなたがいなかったらこうして生きてない!!
 巧さんが助けたものは、無意味なんかじゃない!!!」

メドゥーサを夢幻召喚した桜の宝具と撃ち合った時。
もし巧の援護がなかったら、きっとあの砲撃に撃ち負けて死んでいた。
そしてそうなったら、間桐桜はきっと止まることなくカードの力に取り込まれて怪物に成り果てていただろう。

他にも言葉にして伝えきれない、たくさんのことが思い出される。


796 : キミがくれたKISEKI ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:17:23 1xlulQqY0


『おい、アヴェンジャー。そいつを黙らせろ!』
「言われるまでもないわ、ライダー。
 悪い子ね、イリヤちゃん、ママを無視してお喋りなんて」

数えるのも億劫になるほどの糸の剣がイリヤに降り注ぐ。
着弾のたびに飛んでいる体の高度が下がる。

それでもイリヤは、気にせずに叫び続ける。

「もしあなたが、全部失いそうで、折れそうになるなら!!
 私があなたの希望になる!!生き抜いて、あなたの戦いの証を証明する!!!」

巨大な糸の掌で地面まではたき落とされる。
泥から現れた黒い手がイリヤの体を拘束する。
ルビーが魔力を防御に回しているおかげで、侵食速度は遅い。しかし振りほどけないなら時間の問題だ。

それでも。

「だから!!!希望を、あなたの夢を捨てないで!!!」

ただイリヤは。
壊れてしまいそうな仲間の光とならんと、言葉を叫び続けた。




閉じかけていた瞳がゆっくりと開き、消えかけていた光が少しずつ蘇る。

「俺の……夢……」

その言葉は、確かに乾巧の元に届いていた。

同時に、巧の意識が遠ざかっていった。


797 : starlog/星と絆 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:18:22 1xlulQqY0
体を拘束する手はすでに幾重にも及んでいる。
魔力の侵食も進み、全身に痛みが走っている。

「本当、悪い子ね。
 ママと話しているっていうのに、無視して話して」

動けないイリヤに迫り、その頬に手をやる。
その目が、先程までのどこか逃げ腰でもあったようなものとは異なる、強い決意を感じさせるものになっていることをアイリスフィールは気にしなかった。

「だけどいいのよ。あなたをこうして抱けたんですもの」

その体を抱きしめると同時に、イリヤの後ろの泥が、静かに体を覆うように迫り。
体を抑えていた拘束を解きながら、地面に広がる泥の中へとゆっくりと飲み込んでいった。




アヴェンジャー・アイリスフィール・フォン・アインツベルン。


彼女が現界において聖杯から与えられた役割は、『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンを愛し、その心を侵して取り込む者』

しかし、心せよ。

母として娘を愛することを全うできなかったアイリスフィールには。
そして泥に取り込まれその願いに取り込まれてしまった彼女には。

母親として娘を愛する形がどこか歪なものとなっている。
だからこそ、気付けない。目の前で起きていることに。

子供の成長は早い。
いつしか親の手元を離れていくものであることに。
自分の手で道を切り開ける者として立つことに。





膠着状態を打ち破る手段はないわけではない。
ずっと、手の中にあった。

ただ、心が弱かった。
どこか逃げようとする想いがあった。
だからこそ気付けなかったのだ。

気分は悪いし体の痛みも酷い。
だけど、まだ動ける。

ホルダーから、一枚のカードを取り出す。

『イリヤさん、使うのですね』
「うん」

危険なのは分かっている。
ともすればサーヴァントとしての身が引っ張られて戻ってこれなくなるかもしれない。

『ですが、気をつけてください。そのカードを使えば、イリヤさんはおそらく正気を失うかもしれません』


798 : starlog/星と絆 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:18:59 1xlulQqY0

牛のような頭をした怪人が描かれたカード。
バーサーカー。
他のカードと比べても扱いづらく危険なクラスだ。
実際、間桐桜が持っていたものを先のクラスカード英霊との戦いで使った際にはその戦闘本能に身を乗っ取られそうになったこともある。
そのリスクを考えて、使うことを躊躇っていた。

「大丈夫」

だけど、今のイリヤの中には強い確信があった。
このカードは大丈夫だと。

「私は信じてるから。このカードの英霊は、強いって」

それは、私ではないイリヤの記憶であり。
同時に彼と相対した自分だからこそのもの。

体を闇に奪われてなお、一人の少女を守ろうとした英雄。
狂気に落とされても、心まで堕ちることなく守り続けたその者の名は。

「お願い、力を貸して。
 ヘラクレス―――ううん、バーサーカー!!!」

カードを掲げて、イリヤは叫んだ。

泥の中に、眩い光が溢れ出した。


799 : starlog/星と絆 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:19:31 1xlulQqY0




「―――!」

取り込んだはずのイリヤの体から、まるでこちらの侵食を阻むかのような強い魔力が溢れ出すのを感じたアイリスフィール。
取り込むどころか、その体は泥から抜け出そうとしている。それも抑えきれないほどの力をもって。

そう感じ取ったアイリスフィールは、咄嗟に後ろに大きく下がった。

泥が弾け飛び、その中から小さな体が姿を現す。

銀の長髪は後ろに一本に結ばれ。
身を包む衣装はどこか古代の人間を思わせるサラシと巨大な腰布を身につけ。
その手には、小さな体に不釣り合いなほど巨大な岩の剣を携えている。

ギリシャ神話に名を連ねる大英雄、ヘラクレス。
イリヤの身に宿った英霊の名だ。

『イリヤさん、このカードを夢幻召喚した以上、長期戦は避けてください!』

ルビーの声が警告する。
これを長い間身に宿していれば、狂化が体を侵食し自我を保てなくなる。

「うん、分かってる。だけど、大丈夫」

手にした剣を前に構える。
確かに少し思考は酩酊している感覚がする。
だがそれ以外の体の状態は万全以上だった。


(当然だよね、だって、バーサーカー、あなたは)

糸の鳥が、剣が一斉に弾幕のように降り注ぐ。
カードを取り込んだ体を警戒してか、これまでのものとは比べ物にならない数だ。

それを避けることなく、その場で剣を大きく振りかぶり。

「誰よりも、強いんだから――――!!!!!」

一気に薙ぎ払った。

至近距離まで迫ったものは粉々に砕け散り。
その後を追っていたものは風圧で吹き飛ばされ消滅していく。

同時に地を蹴り、視線の先にいる敵へと一直線に迫る。

前方と両側から迫った鳥が、目の前で糸へと解けてイリヤの体に絡みつく。
しかしその魔力の糸を、走りながら引きちぎる。


800 : starlog/星と絆 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:19:51 1xlulQqY0


小さな体に、その不自然な怪力と技量。
不釣り合いなはずのそれらは、不思議なほどに体に馴染んでいた。
バーサーカーと自分の体が、一点の曇りもなく同期しているようにも思えた。

もしかすると平行世界における縁かもしれない。
イリヤとバーサーカーが通じ合い共に歩んだ存在であるからこその。


そしてもう一点。
イリヤが自覚していない要素があった。

バーサーカーの戦いを、英雄としての心を知識として触れ。
そして一瞬とはいえイリヤはバーサーカーと心を通わせた。
故にイリヤは知っている。彼がいかに偉大で力強い存在かを。

カレイドの魔法少女の力としての最大の原動力、イリヤが魔法少女足り得る大きな要素。
それは思い込む力、信じる力。
幻想を信じ、できると疑わない心、それこそが多くの困難を乗り越えさせるイリヤ自身の力。

そしてバーサーカーの力を一片も疑わず信じる今のイリヤにとっては。
その身に宿した狂戦士の力は、本来引き出し得るものを越えて振るわれている。


「…この力は…!」

空間を震わせるほどの力を振りまくイリヤ、その圧倒的姿を前にアイリスフィールに焦りが生まれる。
鳥や剣は弾かれ、糸での拘束も一瞬で振りほどかれる。

後ろに下がりながら、足元に黒い泥を展開する。

同時にイリヤの周りに数羽の鳥を舞わせ、その体を縛り付ける。
無論、それがイリヤを足止めするには至らず、ほんの一瞬拘束を破るまでの時間を作っただけに終わる。
その一瞬で十分。アイリスフィールは泥を巨大な池のように広げ、イリヤの足元まで覆い尽くした。

一斉に泥の中から現れた漆黒の手がイリヤの体を包み込む。
いくつかは引き千切られるも、それを越える数でその体を抑え、やがて体全体を覆い尽くす。

「サーヴァントの力を取り込んだのは失敗だったわね。
 この泥は、サーヴァントの魔力をも汚染するもの」

泥はやがて球状にイリヤが見えなくなるほどに広がり。
その体を一瞬で泥の中に沈めていった。


801 : starlog/星と絆 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:20:09 1xlulQqY0


(痛い。苦しい。気分が悪い)

覆われた泥はイリヤの体を、それまで以上の速度で侵食してくる。

だけど、その苦痛は耐えられないものではない。
本来であれば一流の魔術師だろうとやがて発狂するほどの苦しみを味わうものでありながら。

(この苦しみに、バーサーカーは耐えてきたんだから)

イリヤが身に宿した英雄は、狂気と苦痛の中でも自我を保っていた。
前後不覚で状況も分からない中でも、ただ一人の少女を守らんと戦い続けていた。

「なら、今の私に、耐えられないわけないでしょ!!」

手の巨斧を振るう。
衝撃が、風圧が、轟音が泥の中に響き渡る。
泥の飛沫が撒き上がり、地面が割れる。
その中から、小さな影が飛び出す。

漆黒の手のことごとくを引き千切り、戦意に赤く瞳を光らせたイリヤが、上段に大きく構えた斧を振りかぶる。

そのイリヤを見つめるアイリスフィールの顔に驚愕が移る。

「だああああああああああっ!!!」

叫び声を上げながら、それを振り下ろす。
そのイリヤに向けて、一直線に飛び出す一本の線。

泥から飛び出したそれは、それまで出していた手とは違い細く鋭く、こちらを貫かんとするもの。

既に構えて飛びかかったイリヤにはそれを避ける手段がない。

(見誤った…!?)

攻撃が拘束、侵食に特化していたことでこんな直線的に鋭い一撃を放ってくることが想定できていなかった。

その攻撃は、イリヤの眼前へと、その眼孔へと迫っていた。







802 : starlog/星と絆 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:20:27 1xlulQqY0

顕現したアイリスフィールの内にあったのは強い歓喜と、深い愛情。
願いを叶えられないままに命を落とした元の人格は、己の娘に対する愛を与えられなかったことで飢えていた。

だから、彼女にとっては目の前に立つ少女との戦いも、母子の触れ合いの一環だった。

例えばその愛の果てにイリヤの身を焼き心を壊してしまうことがあったとしても、それは今の彼女にとっては触れ合った末の結果でしかない。
最もそういった思考になっているのはこの世全ての悪に汚染されている影響だが。

そして、だからこそアイリスフィールにとってはイリヤとの戦いは言ってしまえば児戯のようなもの。
魔法少女の力で抗うイリヤの力は自分には届かない。そう確信しておりかつその通りだったからこそ立ち振る舞いには大いに余裕があった。

しかし、目の前で狂戦士の力を振るうイリヤの力はアイリスフィールにとっては知らないものだった。

ただ英霊の力をその身に宿しただけであれば汚染すればいい。
泥はサーヴァントにとっては最悪の相性であり、ただその力を振るうだけであれば何ら問題はない。

だがイリヤとバーサーカーの間にある繋がり、信頼。それはアイリスフィールの知らないもの。母子の間に何ら関わりのないもの。
それがイリヤの力を大きく増幅させていることなど知る由もなかった。

娘が、既に自分の手元を離れて飛び立っていることなど、知ろうはずもなかった。

故に余裕がなくなった。
イリヤを愛だけで捕らえることができなくなった。

今のアイリスフィールにとって、イリヤの足止め、ないし始末は与えられた役割。それは外すことができないもの。

ならばどうやってその力強い歩みを止めるか―――

(―――もう、殺すしか)

ほんの一瞬だけそんな考えが脳裏をよぎり。
攻撃に対する迎撃としてその殺意をイリヤに向けて。

(―――――)

私は、何をしようとしてるの?

アイリスフィールの中で自己に亀裂が走った。

例え泥で取り込むことでイリヤを壊してしまうことがあっても、それはアイリスフィールにとっては愛の成した形であり。
大きく歪んでこそいるが、彼女自身の母の愛として逸脱したものではなかった。

だが、その一直線に向けた殺意は違う。
母親が娘に、決して向けてはいけないもの。

世界を見ればそうとは言い切れないこともあるだろう。親が子供を殺すことなど珍しいことではないかもしれない。
しかし母を全うできなかったアイリスフィールにとっては。人間ではない人造人間が一人の少女の母としてあり続けたいと願っていた彼女にとっては。
それは決して有り得てはいけないもの。

一直線に向かう殺意。イリヤには避けきれない。

「ダメっ!!!」




803 : starlog/星と絆 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:20:50 1xlulQqY0

「……どう、して?」

動揺を抑えきれぬ声で問いかけるのはイリヤだった。
顔を貫くはずだった一撃は、イリヤの目の前で泥となって霧散。貫くはずだった右目付近に飛びかかって顔を汚したがその程度で進行を止められるはずもなく。

アイリスフィールの体は、その大斧で大きく肩から腹部にかけて切り裂かれていた。
その一撃は確かにアイリスフィールの霊核を砕いている。

死を覚悟した。
だからこそその現象に、この想像と異なる結末を前にして驚かずにはいられなかった。

「ふふ、そう、よね。私はあなたにとってはただの門番だけど。
 私にとってのあなたは、大事な娘の一つの形なんですもの…。
 母親としてのあり方を望んだ私が、あなたを殺そうなんて思っちゃ、ダメなのよ…」
「………」

喋るアイリスフィールの口から血が流れる。
体は魔力の粒子となって消滅しつつある。

「ねえ、イリヤちゃん」

そんな彼女の顔を真っ直ぐに見つめるイリヤの顔に、ゆっくりと手をやる。

「本当に、大きくなったわね」

そう言って、ニコリと微笑んで。
静かにアイリスフィールの体は消滅した。

イリヤの体からカードが排出される。
同時に体を駆け巡っていた闘争本能が収まる。

「っ…、はぁ、はぁ」
『大丈夫ですか、イリヤさん!』
「うん、大丈夫。たぶんだけど、バーサーカーが力を貸してくれてたおかげで、思ったほどは」

膝を着きそうになった体を無理やり持ち上げる。
顔に泥を浴びたところがヒリヒリと痛む。火で炙られて火傷をしたかのようだ。

『顔の傷ですが、目には問題なさそうです。ただ、跡まで完治させるには少し時間がかかるかもしれません』
「目が大丈夫なら後回しでいいから、今はそれ以外のところに魔力を優先させて」

と、視界を上げると空間に亀裂が走った。
クラスカード回収の時に虚数空間が崩壊する時のような光景。

そういえば今巧の方はどうなっているのか。戦いに集中していたから向こうの状況が把握できていない。

消滅していく結界の中で、もう一方の戦いの様子が見えるようになっていく。
その視界に2つの戦う影が入った。

一方は、乾巧の変身していたファイズの姿。

「巧さんっっっ!!!!」


思わずイリヤは、声を張り上げて名前を呼び―――――


804 : 夢と希望を守る戦士・仮面ライダー555 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:22:08 1xlulQqY0


俺にとっての夢。
なぜ戦うのか。

確かに持っていたはずで、確かに心の中にあったはずのもの。

だけど失い続ける中で渇いていき、いつしかあいつの言ってたように死に場所を求めるようにもなっていた。

なぜ戦っていたのか。
何を守ろうとしたのか。

何を希望としていたのか。


「お前だったら、なんて答える?もし何のために戦ってるのかって聞かれたら」

不意に口から出ていた問いかけ。




「………何で君は、それを俺に聞くのかな?」

それに、呆れたような声で答える隣にいる男。
嫌そうに顔を顰めているのは、草加雅人。
色々いがみ合いながらも、カイザとして共にオルフェノクと戦ってきた男。

「…だってお前は、こういうことで迷ったりしなかったじゃねえか」

嫌いではあったが、戦いにおいては自分よりも迷いなく己の信念を貫いていた。
ほんの僅かだが、そんな部分に憧れも感じなくもなかった。

だからだろうか、この疑問を問いかけられる存在だと思ったのは。
己の信念の中で自分の罪を隠して迷い続けてきた木場勇治よりも。
背を預けると共に守るべき対象であった巴マミよりも。
その信念の起源にどこか危うさを感じていた衛宮士郎よりも。


「答えてやる義理はない、と言いたいが、今の君があまりにも不甲斐ないからな。
 特別に答えてやってもいいさ」

拒絶されるかもしれないとも思ったが、意外にも草加はすぐ答えてくれた。


「何のために戦っているのか、だったな。
 君も知ってるだろう、真理のためだ」
「それは分かってる。俺が聞きたいのは」
「その先に何を求めてるのか、だろ。
 単純な話だ」

そう言って草加は、顔を近づけた。

「君たちみたいなオルフェノクのいる世界で、俺や真理が平和に暮らせるわけないだろ。
 そんな世界の汚れのような存在がなくなって、俺たちは安心して生きていけるんだよ」
「お前達の生きる世界のため、か」
「じゃあ逆に聞きたいんだけど、君は何を思って戦っていたのかな?
 夢を守ると、罪を背負うと言って本来仲間であるはずのオルフェノクを殺していって、何を求めていたのかな?」

嘲笑する表情を浮かべながら、草加は巧に逆に問いかける。

その言葉を受けて、巧は考える。
何故戦えたのか。
夢を守ることに、何を見たのか。

何を望んだのか。


805 : 夢と希望を守る戦士・仮面ライダー555 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:23:02 1xlulQqY0
大それたものを望んだつもりはなかった。
ただ、俺が欲しかったのは。
俺が見たかったもの、それは。

夢を持った人間の持った希望。
そして、その紡いでいく世界。
もしそれが世界を包めば、もしかしたら世界はもっと美しいものになるんじゃないか。


「…そういう、ことか」
「答えは見えたか?」

迷いは晴れた。
自分がなぜ戦っていたのか。何を望んでいたのか。
そして、まだ立ち止まることができないことにも気付くことができた。

「ありがとな。今回は礼を言っておくぞ」
「ふん、礼なんていらないさ。
 こっちはせいぜいその代わりに、君がどんなふうにもがき苦しんで死んでいくのか、じっくりと見させてもらうとするからさ」

草加の姿が遠くなる。
意識が覚醒しようとしているようだ。


「…ありがとな」

もう聞こえないだろう感謝の言葉を、再度口にする巧。
その心の強さは、やはり巧にとって必要なものだったのだと。

あれは本当に草加だったのか。
答え自体は自分の中にあってただそれが形を取ったものなのかもしれない。

ともあれ、分かったことは、答えは得られた。
あとは、立ち上がるだけだ。



仮面ライダー4号。

ある世界において、乾巧が持つ仲間の死に対する強い悲しみをきっかけとして生み出された機械兵士。
彼が現界において聖杯から与えられた役割は、『乾巧に終末をもたらす者』
故に乾巧が戦う場合その存在は大きな驚異となる。

しかし、心せよ。

サーヴァントの型に嵌められ呼び出されたこの戦士は、敗北し命を落とした存在。

乾巧にとって4号の驚異となるのと同じく。
逆に乾巧は、4号を打ち破ったものと同じ称号を持ち得るものであり。
4号を倒すことができる戦士であるということを。

その事実を忘れているのならば、この悪の機械兵士はいずれ敗れるだろう。





806 : 夢と希望を守る戦士・仮面ライダー555 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:23:29 1xlulQqY0

イリヤスフィールの声が聞こえなくなった。
向こうでアヴェンジャーが処理しているのだと判断した4号は、あの叫び声以降動かない乾巧の元に歩み寄る。
あれが万が一にも立ち上がるきっかけになったら厄介だ。

足元で倒れ伏す巧を、踏み潰さんと足を上げ。

振り落とした瞬間、巧の目は開いた。

瞬時に横に転がって、足を回避。

「…、起きたか」

しかしその動きはやはり体には負担だったようで、起き上がる途中、膝をついた状態で息を切らせている。

巧の目を見る4号。
その瞳からは、まだ戦意は消えていなかった。

「―――なあ、知ってるか?」

息を呑み込んで呼吸を落ち着けた巧は、唐突に口を開いた。

「夢ってのはさ、時々すっげえ切なくなるもので、時々すっげえ熱くなるものらしいんだけどよ。
 その夢に向かって走ってるやつってさ、すっげえキラキラしてんだよ」
「何を言っている?」

話の意味が分からず問う4号。

「そういうキラキラってのは確かに俺にはないけどよ。
 今を必死に生きて、夢を叶えようとしてるやつっての見てると、すっげえ守りてえってなるんだよ」

体を奮い立たせながら立ち上がり、決して手放さなかったファイズフォンを開く。

「だから、それを奪うようなやつは許せねえし、戦うことが罪でも、守らなきゃいけないって思うんだよ」

巧の脳裏によぎる者たち。
イリヤや桜、枢木スザクや鹿目まどか。
彼らの夢は分からないし、今はまだなにもないかもしれなくても。
彼らが生きて夢を、希望を繋ぐことで戦いの証を立てられるなら。
きっと、自分の戦いにも意味があるだろう。

「だから、俺は戦うんだよ」

4号の中で、直感的な何かが警告を告げていた。
さっきまでの乾巧ならば問題なかった。
今の乾巧は、”危険”。

「戦う意味があるのか、守る意味があるのかって―――」

咄嗟に駆け出す4号。
しかし数歩踏み出したところで、響き渡る銃撃音。
突然体に衝撃が走りその足を止めさせた。

「当たり前だろうが!!!」

その瞬間で、巧の心は、体は固まった。

大きく上に掲げられ、ベルトに差し込まれたファイズフォン。

「――――変身!」

その体を、赤いフォトンストリームの閃光が覆い。
薄暗がりの闇を照らしながら、ファイズが顕現した。


807 : 夢と希望を守る戦士・仮面ライダー555 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:23:56 1xlulQqY0


「ちぃっ!」

舌打ちしながら、ファイズの傍に視線をずらす4号。
それを追った巧の目に入ってきたのは、巨大な銀色の影。

腕に掲げられたホイールを回して牽制しながらファイズの隣に降りてきた。

オートバシン。
この会場のどこかでまだ残っていたらしいそれが、巧の戦意に反応して飛んできたのだろう。

見なくなって二日も経っていないのに、巧にはその姿がずいぶんと懐かしいものにも感じられた。

思わぬ増援を前に、4号は大声で叫ぶ。

「スカイサイクロン!!」

自身の愛機の名を呼ぶと共に、洞窟の奥から機関銃を放ちながら一機の戦闘機が迫った。
巧に向けて放たれた弾丸をその前に出てくることで庇うオートバシン。

頭上を大きく過ぎ去っていくと同時に、オートバシンも飛び立ちスカイサイクロンへと迫っていく。

同時にファイズに向けて4号が迫る。

拳の連撃がファイズの胸を打つ。
退きそうになる体を堪えながら、前を見据えて追撃に放たれた一撃を脇で受け止める。
身を引こうとする4号の体に、返すように拳を打ち付ける。
動じている様子はなく、攻めに意識を向けたことで弱まった拘束が振りほどかれた。
至近距離から離れようとする4号に向けて中段蹴りを放つファイズ。
咄嗟に腕で受け止め防御。

バチリ、とその防いだ腕から一瞬火花が走った。
そこは先ほどフォトンブレイカーの一撃を受け止めた場所。
巧は気付いた。しかし4号に気付いている様子はない。

4号が距離を取ったところで、上を飛ぶスカイサイクロンからミサイルが放たれる。
同時にスカイサイクロンを迎撃していたオートバシンがその弾頭に機関銃を掃射。
巧の元に到達する前に宙を爆光が照らし、一部の破片が4号とファイズの間に炎を巻き上げた。

その火炎の奥から、ファイズが拳を構えて飛びかかる。
カウンターをファイズの胸に叩き込む4号。しかし同時に4号の体にも強い衝撃が走り膝をつく。
吹き飛ばされ地面を転がるファイズの手元を見ると、そこにはファイズショットが備えられている。

「チ、この程度で…!」

視線の先でゆっくりと起き上がったファイズは、ファイズショットを外してファイズポインターを足に取り付ける。

ならばこちらもライダーキックで、と考える4号だったが態勢を立て直すのが間に合わない。

(たかが通常のファイズ相手に、一体何が違う!)

ブラスター相手にも押していたというのに、何故こうもただのファイズ相手に手こずるのか。
答えが出るよりも先に目の前にファイズポインターが展開される。

受けきれないものではないはずだが、先ほどのグランインパクトから受けたダメージが判断を迷わせる。

駆け出したファイズが飛び上がったと同時に、4号はそれを迎え撃つように拳を引き絞る。

「らあああああああああぁぁぁぁ!!!」
「ライダーパンチ!!」

フォトンブラッドに包まれたファイズのキックと、4号の渾身のパンチがぶつかり合う。

拮抗する互いの一撃。

その中で、4号は何かに気付いたように拳を反らす。
拳はファイズのキックを受け流し、ファイズの頬を打つ形で突き抜けていった。
キックは体をわずかに反らした4号の腕を掠めるように通り過ぎていき、頬を打たれたファイズの体は4号の背後で地面を転がる。

ファイズの会心の一撃を受け止めた4号。しかし出てきた声には怒りが満ちていた。

「これが狙いか…、やってくれたな!」

キックを受け止めた腕には火花と電流が漏れ出ている。
幾度も放った攻撃と、今しがた受け止めたキック。それらで蓄積されたダメージが腕の機能に障害を与えている。
これではもうライダーパンチが放てない。下手に撃てば自壊する可能性がある。

同時に、巧の攻撃が何故ここまで体に響いているのかも察した。

ライダーキックを受ける以前と比べて、攻撃が正確になっているのだ。
こちらの攻撃がその身を打つとしても、的確にこちらへの一撃を打ち込んでくる。
防御をほぼ捨てて意識をひたすら攻めに向けている。

腕のこともある。このままの状態が長引けば、乾巧の身が限界を迎えるか自分の身が打ち負けるかのチキンレースになるだろう。

『―――まずいぞ、これ以上加速すると爆発する!』
『構わない、それが――――だ!!』


808 : 夢と希望を守る戦士・仮面ライダー555 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:24:13 1xlulQqY0


一瞬脳裏に何かがフラッシュバックする。

(これは…、不味い…!)


咄嗟に4号は、その記憶を振り払うように起き上がった巧に向けて駆け出す。
狙うは今度こそその身を打ち砕く、そのための必殺技を。

巧が起き上がり、こちらへと視線を上げ。

「ライダーキック!!!」

4号の飛び蹴りが、ファイズの体へと迫り。



スカイサイクロンの銃弾を避けながらもホイールの機銃を放つオートバシン。
主であるファイズ、巧の元へ向かわせないためにこの場に縛り付ける必要がある。そのため執拗にスカイサイクロンに食い下がり攻撃を続けていた。

しかし戦闘機に対してスマートブレインの技術を注ぎ込んだ特注品とはいえバイク、その性能差は大きい。
既に銃撃や体当たりを受け止め続けたその体の節々からは火花が散っている。頭部のバイザーも割れ、胴体はひび割れ、機関銃は弾切れになりホイールも大きく歪んでいる。


オートバシンの割れたバイザーに、チリチリと光が点滅する。
その時、両翼の残り2発のミサイルをオートバシンに向けて射出。

飛び回って回避しようとするオートバシンだが、追尾機能によりミサイルはその後ろを追ってくる。

急旋回や高速退避しても食い下がってくるミサイルに対し、オートバシンはその手のホイールをミサイルに向けて投擲。
追いすがる一発に命中し爆発、その爆炎の奥に残りの一発が突っ込み遅れて爆発音が響く。

その奥から、爆風で左腕を損失したオートバシンがスカイサイクロンに向けて肉薄する。

迎撃の機関銃を放つと、既に盾を失ったその機体に命中して体に穴を空けていく。
それでも速度を落とすこともなく突き進み、すれ違いざまにスカイサイクロンの片翼に拳を叩きつけた。

翼がへし折れ、バランスと制御を失い宙を回りながら岩壁に叩きつけられ、スカイサイクロンは爆散する。

モニターが下を向き、4号と戦う主の元へと向かう。


「ライダーキック!!!」

そこは、4号が飛び蹴りを放とうと飛び上がった瞬間だった。

4号はオートバシンの接近に気付かない。
こちらの存在に気付いたのか、ふと一瞬空を見上げたファイズがこちらを見て。

オートバシンはその二人の間に飛び込んだ。




809 : 夢と希望を守る戦士・仮面ライダー555 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:24:33 1xlulQqY0

「何?!」

乾巧を仕留めるはずだった一撃。
しかし命中したのはその間に飛び込んできたオートバシン。

スカイサイクロンはどうしたのか。
まさかあの程度のバイクに遅れを取るとは思っていなかった4号は少しの間思考を奪われ。
オートバシンが爆散していく向こうに、ファイズの姿がなかったことに気付くのが遅れてしまった。

Exceed Charge

「はああああああああああ!!!」

巧の叫び声が耳に届き、振り返った4号の視界に入ったのは。
宙から上段にファイズエッジを構え、それをこちらに向けて振り下ろしてくるファイズの姿。

オートバシンが間に割り込んだ姿を見た巧は、咄嗟の判断で4号の視界に入らぬ向こう側でオートバシンを足場に飛び上がっていた。
その背に備えられたファイズエッジを引き抜き、、空中でミッションメモリーを差し替えて。

振り返った時には、既にその距離は目と鼻の先。反応が間に合わず。

向けられた高出力のエネルギーの刃は、4号の体を大きく斬り裂いた。

「がああああああああああああ!!」

胸部の装甲が大きく裂かれ、裂け目からは内部の機械の体が露わになる。

よろけながらも数メートル後ろに後退。
その目の前で、ファイズはファイズエッジを投げ捨て。

Exceed Charge

宙に飛び上がったファイズを視界に収めた瞬間、目の前に赤いポインターが出現した。


「はあああああああああ!!!」

乾巧の叫び声と共に、そのキック、クリムゾンスマッシュが迫る。
ライダーパンチでの迎撃は間に合わない。
腕を前に出して防御の構えを取る。

今この一撃を受けるのはまずい。
万全の状態ならばともかく、装甲が割れている今これを受ければ間違いなくこの体は砕け散る。

「おおおおおおおおおおぉぉぉ!!!!」

負けじと押し返そうと、4号も気合を入れるかのように叫び声を上げる。

拮抗する中、キックの力が僅かに弱まる。
ずっと防御を捨てて攻撃を受け続けた体が、限界を迎えているのだろう。

このまま保てば、押し返すことができる。


810 : 夢と希望を守る戦士・仮面ライダー555 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:24:56 1xlulQqY0

「ハハハ!!乾巧、俺の勝ち―――」
「巧さんっっっ!!!!」

勝利を確信した瞬間、空間に少女の叫ぶ声が響き渡る。

振り返ることができないまま、その声が示すものを4号は悟る。

(まさかアヴェンジャーがやられた?!チィ、こんな時に…!!)
「っ!あああああああああっ!!」

再度巧の声が響く。同時に弱まっていた力が再度取り戻される。
いや、その力はより強まっている。
腕の傷から亀裂が広がり、少しずつ砕けていく。こちらの体が保たない。

「な、ぜ、お前なんぞに…!」

乾巧を倒す、それだけのために呼ばれたはずの自分が、何故敗北しようとしているのか。
その事実に納得できぬ4号。

『お前に、仮面ライダーを名乗る資格はない!』

その時、再度フラッシュバックしたかつての光景。
ぼやけていた箇所が明確になった。
このような状況に陥った時に、自分を倒した男に言われた言葉。

「は、ははは、そういう、ことか…」

割れていく腕を、押し込まれていく体を見ながら、4号は何故負けるのかを察する。

乾巧を殺す。その役目のために呼ばれた。つまりは自分は彼に勝ち得る存在だと。
その事実が、乾巧はまだその名を持つに相応しい者になっていないのだと考えていた。

実際、少し前までの乾巧にはその意志が不足していた。
だというのに、あの小娘の言葉が彼の眠っていた意志を目覚めさせてしまった。

今のこの男は。

『それが仮面ライダーだ!!』

「やはり、お前も―――仮面ライダーかあああぁぁぁ!!!!」


かつて自分を倒した男と同じ、そして概念的には自分が持ち得ぬその名を持った戦士の一人。


腕が砕け、防ぎきれなくなった乾巧のライダーキックは、4号の胴体を貫き。
巧が地面に足をつけた瞬間、その背後で宙に浮かんだ赤いΦの文字の中で爆炎を上げて消滅した。






811 : 夢と希望を守る戦士・仮面ライダー555 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:25:27 1xlulQqY0
乾巧の戦いを見届けたイリヤは、笑みを浮かべてその傍へと駆け寄る。

「巧さんー!!」

大きく手を振りながら、その背中へ向けて走り。

「よかった、無事だったんですね、巧さ、…ん……?」

その表情から笑みが消えていく。

ゆっくりと体を起こしたファイズ、その体から。
青い炎が立ち上り始めた。

燃えていく体、その手のひらを見て。ゆっくりと巧はファイズへの変身を解く。

「わりぃ、俺はここまでみたいだ」

深く息を吸って、イリヤに背を向けたままそう告げる巧。

ライダーキックを受けた時点で、本来ならばもう死んでいるほどのダメージを受けていた。
むしろ何故ここまで戦えたのかが不思議なほどだった。

「そん、な…」

言葉を詰まらせたイリヤに、巧は振り返る。

シャツの胸の部分は真っ赤に染まり、口からは血が流れている。
立っているのが不思議に思える重傷だ。

それでも、巧はイリヤに笑いかけながら言った。

「そんな顔すんじゃねえよ。
 何となくだけど、お前の声があったから戦えたんだってのは分かるんだよ」

と、手元のベルトとファイズフォンに巧は目をやった。

こんなボロボロの体でも、ファイズギアは健在だった。
ふと思った。もしあのキックを受ける時にファイズに変身していたら、あるいは命を落とすことまでは避けられたかもしれない。
だがその場合、きっとファイズギアは破壊されたはず。
根拠があるわけではない。何となくそんな気がしただけだ。

だがそんな考えが浮かんだ巧には、このベルトをこのまま自分と運命を共にさせるのが惜しく感じられた。

体から外したベルト一式を、イリヤに向けて放った。

咄嗟にそれを受け取るイリヤ。

「え…これは…」
「お前が、持っていってくれ。俺と一緒になくなるの、何か惜しい気がするんだよ」

手元に投げ渡されたファイズギアに視線をやる。
何故だろうか。ずっと巧が使っているところを見ていたはずなのに、思っていたよりもずっと大きく、重いものに感じられた。

「使ってくれ、とは言わねえよ。どうせ使えやしねえだろうしな。
 ただ、もしもでいい。もしもそれを使えそうで、使ってくれてもいいって思えるやつがいたら、渡してくれねえか?
 たぶんそれが、そのファイズの力のためになるような気がするんだよ」

願いというほどでもない、ただのワガママに近いものだ。
あるいはこれを手にしたものに、自分のように過酷な運命を背負わせることになるかもしれない。

それでも、自分が、ファイズという戦士がここにいたということを、少しでも残しておきたい。

「…分かりました」

それをバッグにしまうイリヤ。
と同時に、ルビーが口を開く。

『…イリヤさん、門番がいなくなったことで結界が壊れます。
 あとはあの聖杯を模した制御装置を破壊すれば、会場に綻びが生まれるはずです』
「うん。分かってる」

現状で手元で使用可能である、最後のカードを取り出しながらイリヤは巧と向き合う。
既に体は崩壊が進んでいる。

これ以上心配をかけないようにと、涙を堪えるイリヤ。

「巧さん、ありがとうございました!」

最後に一言、礼の言葉を述べるイリヤ。

「私、絶対にあなたのことを忘れたりしない。
 あなたの希望も、託された願いも、きっと紡いでみせるから!」


顔を下げた一瞬、堪えきれず一筋の涙が伝ってしまい。
悟られまいと頭を上げると同時に振り返って飛び去る。


812 : 夢と希望を守る戦士・仮面ライダー555 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:25:44 1xlulQqY0

「―――夢幻召喚」

聖杯の目の前に到達すると同時に、カードをその身に宿す。

桃色の魔法少女衣装は、白い百合を思わせるドレス形の鎧へと変わる。
その手には黄金の聖剣。
かつて戦いで最も苦戦した英霊であり、そして別の世界では衛宮士郎のサーヴァントでもあった者の力だ。

その刃に、黄金に輝く魔力が収束する。


「約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!」

真名の開放された宝具は、巨大な光の柱となって目の前に存在したものを呑み込んでいく。
存在していた疑似大聖杯が消滅した後には、洞窟の奥の空間にはぽっかりと外の夜の夜景が見えるほどの巨大な穴が空いていた。

『イリヤさん、巧さんの生体反応が、たった今消失しました』
「そう…」

もう、振り返っても誰もいない。

だから、今は前に進もう。

託されたもののために、希望を繋ぐために。


一瞬、大気に大きな揺れが走ったかのような感覚を感じ取る。

見上げるイリヤの視線の先には、まるで空間に穴でも空いたかのような鈍く光る円状の空間があった。

『これは、どうやら制御装置を破壊したことで生まれた空間の歪みですね。
 不確定要素がありますが、出口に通じるどこかにつながっている可能性もあります。
 行きますか?』
「行くよ。今は時間が惜しいから」
『分かりました』

そうして、イリヤはその中に飛び込んだ。



【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大)、右目の周りに火傷の跡、クロ帰還による魔力総量増大
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(セイバー)転身中@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター、ランサー、アサシン、アーチャー、ライダー、バーサーカー、バーサーカー(転身制限中))@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
    ファイズギア一式@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:皆と共に絶対に帰る
1:他の皆と合流、障害を切り抜ける
2:桜に手を差し伸べる
[備考]



【アイリスフィール・フォン・アインツベルン(黒聖杯)死亡】
【仮面ライダー4号 死亡】


813 : 夢と希望を守る戦士・仮面ライダー555 ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:26:03 1xlulQqY0
※オートバシン@仮面ライダー555、ファイズブラスター@仮面ライダー555は破壊されました。



イリヤの背中を見送った巧。その燃えゆく体は徐々に崩れ落ちる。

やることはやった。自分にできる限りのことは全部。

だけど。

(やっぱ、死にたくはねえよな)

本音を言えば、やはり生きたいという気持ちは心の中に残っていた。

そのまま視界の先で、一筋の光が走り。
それが空間を覆い尽くしたところで、乾巧の視界もまた完全に消えた。





「もう、早く起きなよ巧」
「あ?」

ふと目を開けた巧。
そこには真理が立っていた。

「あれ?真理?」
「どうしたのよ、そんな幽霊でも見たような顔して」
「いくら天気がよくて気持ちいいからって、そんなところで寝てたら変な夢見ちゃうよ」

その後ろから啓太郎が駆け寄ってくる。

どうやら皆で出かけている時に、河川敷に寝転がり、そのまま眠ってしまっていたようだ。

少し離れた場所では、中学生らしき女子がじゃれながら走り回っている。
後ろの通りを、赤みがかった髪の高校生が、妹らしき子供と一緒に歩いている。
離れたところでは、草加がバイクに腰掛けながら手を拭いている。

静かで平和な光景だった。
何故か、その青空の下で繰り広げられてる日常が、とても尊いものに思えた。

「ああ、悪い、ちょっと夢見てた」
「全く、せっかく皆で出かけたってのに、寝てばっかりじゃ家にいるのと変わらないでしょ」

そう笑いながら、真理と啓太郎は隣に座る。

そんな時、ふと思ったことがあった。

「…夢っていやあさ、ちょっと思ったことがあるんだ」
「何?」
「俺の夢だけどさ、もしかしたら」

こんな、皆が笑っていられるような。
平和な日常を守っていきたい。

それが、俺の願いで、夢だったのかもしれない。

「やっぱ、何でもねえ」
「何よ、話の途中で。気持ち悪いわね」
「うるせえな!起きたばっかで頭働いてねえんだから!」

もう一度、ゆっくりと目を閉じる。

―――俺の夢は、もしかしたら。

こんな、何でもなく当たり前で、だからこそ尊いものだったのかもしれない。





やがてイリヤが立ち去っていった空間。


そこにはもう乾巧の姿はなく。
彼のいた場所には一山の灰だけが残っていた。

空間の振動で生じたものか、そこに一陣の風が吹き。
静かに灰は崩れ、飛んでいった。


【乾巧@仮面ライダー555 死亡】


814 : ◆Z9iNYeY9a2 :2020/12/26(土) 22:26:48 1xlulQqY0
投下終了です
次はポケモン城周りの話を投下予定で、少し遅くなるかもしれません


815 : 名無しさん :2020/12/27(日) 04:23:28 VtcWieTg0
投下乙です
ついにその身を燃やして灰と散ったたっくん…
企画進行中に出来た4号の設定も踏まえつつ丁寧に飾られた最期は、熱く切なくキラキラと輝いた物であったと思います


816 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/04/20(火) 23:31:17 o0ZylQOM0
テスト


817 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/04/20(火) 23:34:17 o0ZylQOM0
したらばが入れなくなってるみたいなのでこっちで
N、ニャース、
参加者外キャラでピカチュウ、リザードン、ゾロアーク、ドサイドン、
クローンポケモン×12、ナイトオブラウンズ×6、エラスモテリウムオルフェノク、アクロマ予約します


818 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/04/20(火) 23:38:03 o0ZylQOM0
言い忘れました。延長も込でおねがいします


819 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:38:54 3zW6Uu2k0
投下します


820 : ポケットの中の戦争(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:39:50 3zW6Uu2k0
周囲を海で囲まれた孤島の中に、夜闇の中巨大な影を映し出す城。
その側に、空から巨大な影が降り立った。

戦艦アヴァロン。
N達が乗るポケモン城攻略のための移動拠点。
浜辺に降り立った艦の昇降口から、数匹のポケモン達が飛び出す。

ピカチュウ、リザードン、ゾロアーク、そしてドサイドン。

殺し合いの参加者として数えられているN、ニャースにはこの場は禁止エリアであり、その成約を緩められる艦の中から出ることができない。
故にこのポケモンたちが城攻略の鍵でもあった。

しかし彼らの状態は決して万全とも言い難いものだった。
片腕を失ったゾロアーク。
体力は回復しているとはいえ体に細かな傷を多く作っているリザードン。

そして、ピカチュウも体に多くの傷を作っていたがそれ以上に顔色が優れなかった。


その彼らの様子を、アヴァロン艦内の通信室から見ていたNとニャース。

「ピカチュウ、大丈夫かニャ…」
「……」

ピカチュウの心境は分かっている。
艦内にある遺体が収められた一室に、少し前に並べられることとなった一匹のポケモン。
その死はNの心にも激情を波立たせている。

グレッグルが最後に言い残した言葉。
突如現れた謎の少女がまどかを攫い、それを追ってアリスとポッチャマも消えていったと。

ポッチャマがどうなっているのかということにも不安があるが、少なくとも独りでいなくなったわけではない。
彼についてはアリスを信じるしかない。

仲間の死に対し、心を落ち着ける時間もない。
つくづく、時間が押しているという現状に苛立ちを覚えてしまう。

「ピカチュウ、大丈夫か?
 もしも辛いようなら休んでいてほしいと思うんだが」
『ピカ…』

ピカチュウの心境を察したNは彼に今は休むことを提案する。
しかし通信機の向こうでピカチュウは戻らない、行くと行った。


821 : ポケットの中の戦争(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:40:17 3zW6Uu2k0


「ピカチュウがこう言うなら、これ以上突っ込むのは野暮ニャ。
 色々辛い目にも合ってるけど、折れずに頑張ってるあいつはそんな弱いやつじゃないニャ」
「………」

息を吐き出して心を落ち着けながら、Nは通信機器の前の席に腰掛けた。

N達がいる場所は、アヴァロン艦内の通信室。
艦橋にあったそれとは異なる、多くの映像装置や音響施設が備えられた空間だ。
カメラなどの映像機材、無線といった遠隔通信用の機器が充実した場所であり、ニャースの手を借りることで艦内にいてもポケモン達の状況が分かるようにすることができた。
送り出したポケモンにはそれぞれリアルタイムで画面を移すカメラと無線をもたせている。

これでポケモン達への指示を送ることはできる。
Nとしてはピカチュウたちに任せてもいいのではないかとも思っていたが、

「ポケモンだけだと状況の判断力には限りがあるのニャ。ニャーは人間の言葉が喋ることができるのもあってある程度はその辺大丈夫ニャが。
 だからあいつらが十全に動けるようためにはおみゃーの力も必要なのニャ」

とのニャースの言葉を受けて、ここから彼らに向けて司令塔として指示を出すことになった。

目標は2つ。
まずポケモン城にいるという、クローンのポケモン達の解放。
おそらくは城に侵入してきた者に対する防衛として置いているのだろう。Nとしては放っておくことはできない。

そしてその奥にある、会場の制御を行っているという装置の破壊。
これがこの場からの帰還に繋がる。

優先順位は難しいが、Nとしては流れとしてまずクローンのポケモン達の救助を行いたかった。

救助後は城の最深部に向かい、ポケモン達に装置の破壊ないし奪取してもらう。
本来はアリスの手を借りてアヴァロン艦内からでも支援を行いたかったが不慮の事故により難しくなってしまった。

「難しいことだと思う。だけどボク達や君たち、そして未だ囚われているポケモン達の未来のために、どうか力を貸してほしい。
 みんなで、生きて帰るために」

それが、ポケモン達が出立する前に言った言葉だった。

死ぬな、という命令を出すことはできなかった。
この戦いの中に待ち受ける困難をNは直感していたから。
そして、ポケモンだけではない。多くの友達、仲間を守れず失ってきたNからその命令を出すことのエゴをどこかで感じ取っていたから。



カメラの端に、影が映った。
薄暗い空間に、それはいくつも蠢いていた。

ピカチュウが光源を向ける。

鼠色の体が見えた。
巨大な翼が見えた。
鋭利な鰭が見えた。
三つの首が見えた。

別のカメラも数々の姿を映している。


822 : ポケットの中の戦争(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:40:33 3zW6Uu2k0

ピカチュウ。
ポッチャマ。
グレッグル。
テッシード。

ピカチュウのカメラが映し切れなかった小型のポケモン達の姿を映す。

目に入ったポケモン。数にして12匹。
ポケモン達の法則性にはすぐに気付くことができた。

ピカチュウやリザードン、ゾロアークなど会場に支給されたポケモン達。
会場内では見覚えも聞いた覚えのない者たちもいる。それはおそらく、彼らを知っている者と会うことがなかったポケモンだろう。
そしてそんな彼らも、今はもう生きていないだろうことも直感する。


吠えながら、ポケモン達は火炎を、電撃を、波動を放つ。
ピカチュウ達は散開し、彼らを追ってまた各々へと迫ってくるポケモン達。

美国織莉子から聞いたというサカキからの評価としては。
ばらつきこそあれクローン元となったポケモンの能力が反映されているためか野生のポケモンと比べれば練度はまずまず。
チャンピオンや四天王ほどの腕前がある者ならば一対一であれば倒せない相手ではない。だがおそらくは集団で襲撃をかけてくるだろうとのことで油断は禁物。
一方でどこか動きが無機質なようにも思えたと。

確かに目の前のポケモン達は支持者がいないにも関わらずどこか動きが統率されているように感じられた。
それも不自然なほど綺麗に。
ポケモン達がばらけて乱戦になりつつあっても、味方に攻撃を当てるなどを起こす気配もない。

何より、Nにとって不自然だったのは。

(ポケモン達の、声が聞こえない…?)

ポケモン達の鳴く声はいくつも響いている。にも関わらずそこにポケモン達の言葉がない。
ただの鳴き声として、Nの耳に届いている。Nにしてみれば初めてのことだ。

「ニャース、気付いているかい?」
「…分かっているニャ。これは、おかしいニャ」

それは隣のニャースにとっても同じで、不自然なことのようだった。
ニャースにとっても言葉が分からないポケモンはいたが、そもそも言葉が聞こえないということがなかった。

「一応聞いておくけど、クローンだから、なんてことはないんだよね?」
「いや、クローンだからってことは関係ないはずニャ。そういったポケモンには会ったことあるけど、その時はちゃんと話せたニャ」
「ということは…」

ポケモン達をモンスターボールに付与した装置で制御しているという事実。
Nの脳裏に浮かぶのは、そこから更に発展したもの。すなわちポケモン達から自我を奪い、操り人形のようにしているのではないか。

「ピカピ!」

困惑しながらも声をあげるピカチュウ。戦いを止めてくれと叫んでいる。
しかしそんな声に耳を貸すこともなく、彼らは攻撃を続ける。

ピカチュウとリザードンは攻撃できない。Nの願いを分かっているから。
ゾロアークもまた攻撃の手が鈍っている。Nの願いもあるが、何よりそのポケモン達の在り方がかつての自分と被ったから。

しかしそんな中で、ドサイドンは猛攻を捌き、反撃を続けている。その手に迷いはない。
多くのポケモンの波状攻撃もどうにか対応しつづけている辺りはさすがは曲がりなりにもジムリーダーだった男のポケモンというところだろう。
だがためらいがなさすぎることが逆に災いし、クローンのポケモン達の体の傷も無視できない状況になっている。

「くっ…!ゾロアーク、一瞬でいい、クローンポケモン達に幻影を見せてくれ!
 リザードンとピカチュウはそこの柱を破壊するんだ!ドサイドンは岩雪崩を!!」

瞬間、ゾロアークは周囲の景色を塗り替え、木々の生い茂る森へと変える。
唐突に視界を奪われ、攻撃の手が止まるポケモン達。
その隙にピカチュウとリザードンはアイアンテールと鋼の翼を渾身の力で柱に叩きつけ、破壊。

さらにドサイドンの岩雪崩が降り注ぐ。
崩れた柱と岩が、自分たちとクローンポケモン達の居場所を分断する。

一息つくピカチュウ達だが安心するのは早い。
抜けようと思えば抜け道は多い。迂回すれば、空から来ればすぐに抜けられる。それをゾロアークの幻影で誤魔化しているにすぎない。

「どうする、どうする…!」

想定していなかった、いや、想定することを恐れていた事態だった。

ピカチュウ達に負担を強いるか、あるいはクローン達の救出を諦めるか。
どちらも選べるはずのない選択肢に頭を悩ませるN。

そんな時、ふとピカチュウのしっぽが小さく揺れ動いた。
何らかの電気信号を感じ取った様子で、部屋の隅に駆けていく。


823 : ポケットの中の戦争(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:41:13 3zW6Uu2k0
そこに小さなガジェットが落ちていた。
それを拾い上げると同時に、道を塞いでいた岩が砕かれ、ゾロアークの幻影が解けた。

『…ロト、君たちは誰ロト?』

ピカチュウの知るポケモン図鑑ほどのサイズをしたそれは、目と口があってポケモン独特の言語とは違う、人間と同じ言葉を口にしていた。

襲いかかってきたガブリアスとサイドンを、リザードンが押し止める。
上から来るサザンドラやリザードンを避けるようにピカチュウは物陰へと走った。

『ああ、君たちがアクロマの言っていたポケモン達ロトね。
 僕はロトム。今はポケモン図鑑の中に入らせてもらっているロト』
「君も、人間の言葉を喋るのか…。いや、今はいい」

一瞬その存在に虚をつかれるN。しかしすぐに気持ちを切り替える。
アクロマ。ニャースの言っていたアカギの協力者でありこちらに情報を渡した男の名だ。

『今はあまり時間がなさそうロトね。アクロマから預かってきてる伝言を伝えるロト』

言っていると、物陰の中にグレッグルやポッチャマ、ピカチュウたち小型のポケモンたちが入ってこようとしている。
ピカチュウは電気をまとわせた尻尾で追い払いながら、ロトムの支持に従って画面を操作した。



おそらくこの映像を見ているということは、私は少なくともアカギたちの元にはいないでしょうね。
なのでこのポケモン城の中の情報をあなた達にお伝えします。

まずクローンポケモン達ですが、彼らは遺伝子操作によりある電波を受けると自意識を失ってただ一定の指示をこなすだけの存在となります。
殺してしまえば楽でしょうが、そうできないというのであれば、ポケモン達が控えていた部屋の天井のシャンデリアと、その奥に隠されている電波発生装置を破壊してください。

シャンデリアは電波の拡散を行っていて、さらにこれが破壊された時には超音波を無差別にばら撒き続けるようになっています。城内のポケモン達は正気ではいられないでしょう。
そうなるまでの猶予は、おそらく10秒もないはずです。しかしシャンデリアに触れずに破壊することはなおのこと困難でしょう。

もしこの言葉を信じることができないというのであれば、私の動機をお話ししておきましょう。

私はアカギたちにはポケモンの可能性の研究という目的のために協力していました。
しかし他の協力者、特にインキュベーターなどはポケモンのことを人間と比べて下等な、儀式においては駒のようなものとしか認識されていませんでした。
その彼らが運営を主導した結果、私は生体兵器としか扱われないポケモンを生み出すという罪を犯してしまいました。

ここまで生き残った君たちに手を貸すことで、わずかでもその罪を濯ぐことができるのであればというのがこの情報を残した理由です。

まだいくつかお伝えしないといけないことはありますが、急ぎのようであれば後で構いません。




『この続きは、今は無理そうロトね』

そう呟いたロトム。彼を抱えたピカチュウは既に物陰を飛び出して広間を駆け回っていた。

「ニャース、彼の言葉は信じても大丈夫か?」
「信じられるかはわからないニャが、今は判断材料も時間も足りないし信じるしかなさそうニャ」
「分かった。
 ピカチュウ、リザードン!聞いての通りだ!天井のシャンデリア付近に向かってくれ!
 ドサイドンとゾロアークはその援護だ!」


824 : ポケットの中の戦争(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:41:30 3zW6Uu2k0

言うが早いか、ピカチュウは飛び上がったリザードンの背に飛び乗る。
同時にサザンドラ、リザードン、ガブリアスの飛行可能なポケモン達が追うように地を蹴る。

そこにゾロアークの気合玉がガブリアスを、ドサイドンの岩雪崩がサザンドラを捉えた。
意識を取られ対応を強いられた二匹の飛行速度が減速、置いていかれる。

唯一残ったリザードンは、ピカチュウ達に向けて炎を吐きながら迫る。
蛇行に動きながら避けるリザードンは一瞬速度を落とし、すぐ背後にまで距離を詰められたところでその尻尾を思い切り顔面に叩きつけた。

一瞬怯むも、しかし下がることなく食いつき逆にその尻尾を掴み上げる。
思わず振り向いたリザードン。目線があった時に見えた瞳が、何も映していない闇のような状態だったことで一瞬気が遅れる。

「ピカ!」

そのリザードンの様子に気付いたピカチュウは、即座にリザードンに指示。
気を取り直し、すぐさまピカチュウを上に投げた。

「ピィカァ、チュウウウウウ!!」

そこから10万ボルトを下のリザードンに向けて放出。
電撃を受けたリザードンは、掴んでいた尻尾を手放す。
掴まれていた尻尾からいくばくかのダメージを受けてしまったリザードンだったが、それでも翼を広げてピカチュウを拾い上げて上に力いっぱい投擲。
その勢いに任せたまま、ピカチュウの体を電撃が覆う。

宙を走っているかのように放たれたピカチュウの電気を纏った体当たり、ボルテッカーは天井を撃ち抜き、その奥にあった何かを破壊。
爆発と共にシャンデリアが落下する。

その巨大な明かりを、リザードンはその体を叩きつけて弾き飛ばし。
さらに爆発の中から落ちてきたピカチュウを拾い上げた。


ゾロアークに背を噛みつかれグレッグルに組み付かれながらもガブリアスの体を抑えていたゾロアーク。
ニドキングとサザンドラを押し付けながらもキリキザンとテッシードの攻撃を受けていたドサイドン。

他にも様々なポケモン達が入り混じり混沌を擁していた場に、静寂が訪れる。
クローンポケモン達の力が緩み、敵意が静かに引いていった。

やがて正気を取り戻していったポケモン達。
その中央にリザードンとピカチュウは降り立った。

ボルテッカーの反動と電撃のダメージが残っている二匹は少しふらついている。

「…なんとか落ち着いたか」
「でもここからニャ」

一息つくNに対し、ニャースは周囲のポケモン達の様子がおかしいことに気付いていた。

体をふらつかせながらもピカチュウが歩み寄り声をかける。
もう争う必要はないのだと。君たちは解放されたのだと。

そう言ってクローンのガブリアスに向けて手を伸ばし。

その体に向けて腕のヒレが振り下ろされた。

とっさの判断でそれを回避したピカチュウ。
同じタイミングで、各所にいるポケモンたちが一斉にこちらに襲いかかり始めた。

「どうして戦う?!君たちはもう戦う必要はないんだ!!」
「そうじゃないニャ、これは、このポケモンたちは…」

スピーカーの奥から聞こえてくるポケモンたちの声。
そこにはこれまでとは違う、クローンポケモンの感情が混じっていた。
悲しみ、苦悩、迷い。

「ロトム、こいつらについてのデータは何か入っていないのかニャ!?」

感情が分かっても何を思っているのかが分からない。
混乱したニャースはピカチュウに抱えられたロトムに助けを求める。

「ロ、ロト!?
 ちょ、ちょっと待ってロト…、確かこの辺にアクロマの研究レポートが…」

そう言って自身のメモリを漁るロトム。そこにクローンリザードンが襲いかかる。
横からの不意打ちに反応が遅れ対処ができないピカチュウ。
そこに上から降ってきた岩がリザードンの体を直撃。先程のピカチュウの電撃と合わせて大ダメージを受けたリザードンは倒れる。


825 : ポケットの中の戦争(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:41:46 3zW6Uu2k0

岩を降らせたドサイドンには、その横からサイドンとニドキングが遅いかかるもそれを抑え込む。

リザードンはガブリアスやサザンドラを、ゾロアークも各所のポケモン達の対処に追われている。
ピカチュウの元にもテッシードやポッチャマ、キリキザンが迫っていた。

「あ、あったロト!今再生するロト!」

そう言ってファイルを開いたロトムのスピーカーから、アクロマの音声が流れ始めた。



クローンポケモン研究。

元は別世界のミュウツーが研究していた技術。
これをキュゥべえ達は利用することでこの会場における番兵とすることを目論んでいました。
生み出す際には、こちらの言うことを聞きやすくなるように一定の遺伝子調整も加えています。
そこで私はそこで生まれたポケモン達の生体研究を並行して行いました。

クローンによって生まれたポケモンにどれだけの可能性があるのかを調べるために。

結果、彼らは自然に生まれたポケモン達とは異なる特性となることが明らかになりました。
タマゴを生み繁殖することもできず。
生まれた時から覚えている技はそのまま、新しい技を覚えることも叶わず。
無論、道具や戦闘経験から進化することもありませんでした。

おそらくクローンとして作られた元のポケモンから、在り方が固定されているというところでしょう。

これがクローンであるからなのか遺伝子調整の結果なのかは分かりませんが。
そのどちらかを確かめることまではできませんでした。増やしたポケモンを私兵にすることをキュゥべえは警戒していたのでしょう。

結論として、彼らは研究対象としては不適切であり、キュゥべえの思惑通り会場の番兵として置くしかないということです。



「……」

ニャース、Nはそのレポートに言葉を失う。

ピカチュウも攻撃を避けていながらも絶句していた。

「…つまり、彼らは自分の生まれてきた意味も役割も、ここの番人をするということしかないと、そういうことなのか」
「アクロマは言ってたニャ。あくまでも自分の目的のためにアカギに協力している、ニャー達に手を貸したのもその一貫だってニャ。
 だから、こういうことをしてたとしても、矛盾してるわけじゃないニャ」
「………」

Nの中に思い起こされる、かつての自分の記憶。
ただゲーチスの役目を果たすために、世界の情報を与えられずただ閉じた世界で理想のみを肥大化させられ続けた日々。

その記憶が、彼らの今の在り方と重なって見えた。いや、あれから多くの知見を得られた自分と比べればポケモンとしての多くを否定されている彼はなお酷いだろう。

3匹の攻撃を避けたピカチュウの横から、黄色い影が飛びかかった。

「ピカ…!」

地面に押し倒され、抱えていたロトムは地面を転がる。
その首に、小さな黄色い手が押し付けられ息を封じる。

ピカチュウに馬乗りになったクローンピカチュウが、その首を締め付けていた。

呼吸を押さえつけられた状態で、それでもピカチュウは必死に口を開く。
こんなことをする必要はないのだと。君たちのいるべき世界はあるのだと。
こんな役割に従うことはない、君たちは自由なのだと。

クローンピカチュウの力が緩む。
同時にその瞳から流れた雫が、ピカチュウの胸におちた。

クローンピカチュウは言う。
外の世界は知らない。だけど進化することも技を覚えることもできない、こんな出来損ないのポケモンに他にどんな居場所があるのだと。

そのピカチュウの言葉に呼応するかのように、周囲で戦っていたポケモン達の手も止まった。
座り込んで意気消沈するもの、ピカチュウと同じように涙を流すもの。
反応は様々だったが、皆からは一様に深い悲しみを感じ取られた。

「泣くんじゃないニャ!!!」

悲痛な空気が漂う中、響き渡ったのはニャースの叫ぶ声だった。

「進化できないから、技を覚えられないから何ニャ!!
 ニャーだって、こうやって喋れてる代わりに進化もできないし新しい技も身につかない、おみゃーらの言う出来損ないのポケモンニャ!!
 だけどこうやって生きてる、自分の目的のために一生懸命頑張ってるのニャ!!おみゃーらにだってできないことじゃないニャ!!」

叫ぶ声は震えている。その瞳からは涙がこぼれている。

クローンポケモン達は言う。
それはお前自身が選んだ生き方だろうと。自分たちにはそれを選ぶ権利も与えられなかったのだと。


826 : ポケットの中の戦争(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:42:02 3zW6Uu2k0

「だったら選ぼうニャ!!
 自由に野生の中で生きていくもよし、友達や仲間を作って生きていくもよし!!
 何ならニャーと一緒にくればロケット団に入って悪いことをいっぱいしまくれるしそういうのだって有りニャ!」
「…それはさすがに待ったをかけたいが。だけどニャースの言う通りだ。
 たとえどんな生まれだったとしても、それが君たちの生き方を縛る理由にはならない。
 もし居場所がないと思うなら、僕たちも手を貸す。君たちの生きられる場所を作ってあげられる。
 だから、君たち自身として生きることを諦めてはいけないんだ」

クローンポケモン達がその言葉に顔を上げる。

ふと部屋の片隅にいたサイドンの背をドサイドンが叩く。
その腕っぷしが気に入ったらしい。まあかつてのドサイドンのクローンなのだから当然ではあるのだろうが。
自分の弟のようなものにならないかと誘っている。ある意味で自分自身同士であるからかどこか放っておけない部分があったらしい。

この辺りは殺し合いの環境下で進化しその姿を変えた彼ならではの感覚なのだろう、リザードンやピカチュウにはよく分からない様子だ。

ピカチュウもリザードンも、ポケモン達に手を差し伸べる。
ゾロアークは自分のクローンに歩み寄ろうとしてどこか迷っている様子だ。いざ目の当たりにすると困惑しているのだろう。

「……良かった。これで一段落か」
「いや、まだニャ。ここに来た目的は」
「ああ、そうだった。すまない、少し気が抜けてしまっていた」

今の戦いの中で傷ついたポケモン達に回復の支持を出す。
持たせていたバッグに入っている回復薬を使って傷を癒やしていく。

その中でポケモン達に何を守らせていたのかを問いかけた。
それによると、本来ポケモン達は命令として城を彷徨かれることを防ぐために各所に配置され、戦いが始まったらそこになるべく集まるよう支持を受けていたらしい。
今回はおそらく一点突破を狙ってくるだろうと城のロビーに集められたということだが。洗脳装置の存在も影響しているのだろう。

詳しくは知らないが、どのポケモンも入ったことがない場所として、城のそばにあるバトル場が怪しいということになった。

それは城の上空を飛んでいるアヴァロンからも確認できる。ポケモンバトルが行えそうなコロシアムがぽっかりと見えている。
だが、そこには何も見えない。何かある様子はない。

「いや、もしかしたら城から入ることに意味があるのかもしれないニャ」
「なるほど。そこまでの道のりを教えてほしい。だがもし正解だとしたら相当の危険が伴う場所だ。
 説明を君たちはこっちに戻ってくれないか?」

クローンのポケモン達にそう提案する。
しかし戻りたいというポケモンは一匹もいなかった。
自分たちの居場所をくれたみんなの力になりたいと。

ピカチュウは小型のポケモン達と。
リザードンは比較的大きいポケモン達と。
それぞれ馴染んでいた。
ゾロアークは構われることに慣れていないのか少し困惑しており。
ドサイドンは仲良くなった様子のサイドンと楽しそうだった。

実験動物、駒としてしか扱われていなかったクローンポケモン達。
もしかしたら、今こんな時間が彼らが初めて安息を得た時なのかもしれない。

Nはそう思った。





827 : ポケットの中の戦争(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:42:15 3zW6Uu2k0
ロトムはこちらで調べたい情報があるためアヴァロンまで来るように頼み。
短い休息を取った一同は城の深部へと足を進めていた。

クローンポケモン達の案内でやってきたのは、城から通じるコロシアムへの扉の前。

おそらくだが、この向こうにアカギ達の元に行くための何かがあるのだろう。
そして、その道を阻む何者かもいるはずだ。

どうしてもNには、その最初の一歩を踏み出させることを躊躇われた。

そんな迷いを感じ取った様子で、その一歩を踏み出したのはドサイドンだった。
自分が先に様子を見てくる、他のポケモン達は後からついてこいと。
共に行きたいと言ったサイドンのみを伴って、扉を開けた。

門のように巨大な扉が開かれ、そこをくぐった。
次の瞬間、その扉が大きな音をたてて勢いよく閉じた。誰も手を触れていないにも関わらず、まるでここから逃さないとでもいうかのように。

思わず気後れしたポケモン達。

次の瞬間、扉の向こうから轟音が響き渡った。
まるで何かと戦っているかのような、地鳴りと破壊音。

ドサイドンのカメラは電波妨害を受けているのか映らず様子が見えない。

困惑するニャースの声でただ事ではないと感じたポケモン達が、扉を開けて一斉に中に飛び込む。

全員が入った辺りで、再び扉が閉まる。
同時に、乱れていたカメラの映像が元に戻る。

ニャースがアヴァロンの窓に駆け寄り下を見ると、バリアのような何かが張られていたコロシアムの空間が歪み、中の様子が艦内からでも目視できるようになる。

6機のロボットが直立していた。
剣を携えた騎士のような機体が4。
それより巨大な、馬のような下半身と巨大な鎚を手にした異形の機体が1。
銀色の体に翼のような腕を携えて宙に直立している機体が1。

そして、それらが囲んでいる中心で。

倒れ伏したサイドンと、彼を庇おうとする位置で上からくる巨大な何かを抑え込んでいるドサイドン。


海堂や巧達のようなオルフェノクを思わせる灰色の体をしていた。
しかしその体は彼らと比べてあまりにも巨体で異形だった。
ホエルオーを思わせるその体の大きさと、サイホーンを思わせる巨大な四肢と角を持った怪物。

エラスモテリウムオルフェノク。
人の心を完全に消し去り、ただ本能にまかせて暴れるだけの存在となった、オルフェノクの成れの果て。
それが、この場に置かれた番人だった。

その姿は、そして放つ覇気は、一般的な生き物とはかけ離れた容姿を持つものも多いポケモン達から見ても化け物としか形容できないものだった。

思わず身が竦んでしまい動けないポケモン達。
そんな中でドサイドンはサイドンを踏みつけようとする足を必死で抑えていた。

体格差もあり少しずつ後ろに下がっていくドサイドンの体。
傷ついた体の苦痛に呻くサイドンの鳴き声を耳にしたドサイドンは、大きく吠えて渾身の力でその足を横に反らし。

「ピカ!!!!」

その疲労から思わず一息入れるように顔を下げて。
ピカチュウの声が届いたところで顔を上げたところでドサイドンの視界に映ったのは。
ずらりと並んだ巨大な牙とその奥に通じる漆黒の闇。

それが、ドサイドンの見た最後の景色となった。


828 : ポケットの中の戦争(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:43:18 3zW6Uu2k0
エラスモテリウムオルフェノクの巨大な顎に食らいつかれ、そのまま大きく振り回される頭部に揺さぶられるドサイドンの体。
やがて食らいつかれたその体が限界を迎えて地面に投げつけられた時、ドサイドンの体は頭を食いちぎられた無惨な屍と化していた。

同時に地面に倒れ伏しているサイドンにその巨大な足を振り下ろす。
サイドンの硬い体は、それでもエラスモテリウムオルフェノクの重量に耐えきれず潰れた肉片となった。

そしてその視線がたった今入ってきたポケモン達の方に向かった時。
周囲で待機していた騎士型のナイトメアフレーム、グロースター達が動き始めた。

機械音が鳴り響くと同時に、ポケモン達の中に剣が振り下ろされる。

どうにかポケモン達は避けたものの、目の前でドサイドン達に行われた惨劇を前に恐慌状態に陥っていた。

散り散りになっていくポケモン達。そこに巨大な四肢を持ったナイトメアフレーム、エクウスが立ちふさがる。
狙われたポッチャマとテッシード、ニドキング。ハイドロポンプとミサイル針を放つも、エクウスの巨体はびくともせず。
ニドキングがシャドークローを放ち飛びかかるも振り下ろされた鎚により地面に叩きつけられる。
その体から放たれた砲撃がニドキングの体を貫いて爆発、ポッチャマとテッシードは吹き飛ばされる。

開けた空へと逃げようとする飛行能力を持ったポケモン達。
ガブリアスとリザードン、サザンドラ達の元へ、一迅の風が舞ったと思うとその体が吹き飛ばされた。
空中で待機していた、飛行能力を持った銀色のナイトメアフレーム、アクイラが迫る。
その翼状の腕から放たれた電撃が3匹を襲う。サザンドラ、リザードンの体は撃ち落とされるも、電撃の効かないガブリアスはそのまま宙に留まる。
落とされ地面で電撃のダメージに苦しむ二匹に気を取られてしまったガブリアス。その眼前に、アクイラが迫り。
その鋭い翼状の腕に備えられた刃が、ガブリアスの体を切り裂いた。

ポッチャマとテッシードに追撃をかけようとするエクウス、リザードンとサザンドラに迫りくるアクイラ。
そこにピカチュウとリザードンが飛びかかる。
エクウスの鉄鎚をピカチュウのアイアンテールが弾き、アクイラの体をリザードンの力いっぱい振りかざされた拳が吹き飛ばす。


他の4機のグロースターに対しては、ゾロアーク2匹が幻影を見せることで凌いでいた。
多数に分身したゾロアーク達に対し本物を見つけ出せず攻めあぐねている4機。
その時ピカチュウに攻撃を弾かれたエクウスが声もなく、何らかの仕草をするように動く。
グロースターの1機が盾に剣を収め、それを地面に突き刺した。
地鳴りがコロシアム内に響き、地面に放出されたエネルギーに熱せられた地面が隆起してゾロアーク達へと襲いかかる。
吹き飛ばされた衝撃で周囲のイリュージョンが解除される。

そこでエクウスの鎚から音が鳴り響いたと同時に、エラスモテリウムオルフェノクが突撃をかけた。
一斉に退避するグロースター達。ポケモン達も急いで駆け出すが、逃げ遅れたキリキザンの体がエラスモテリウムオルフェノクの角と共にコロシアムの壁に叩きつけられる。
エラスモテリウムオルフェノクが退いた時、衝撃でひび割れた壁にキリキザンの姿はなく、ただ飛び散った血痕だけが残っていた。

体制を立て直したサザンドラと、ゾロアーク2匹が気合玉を放ち、1機のグロースターへと命中させる。
爆発し機体を損傷させう中で更にポッチャマのハイドロポンプとクローンのピカチュウの10万ボルト、テッシードのミサイル針が直撃、各部を爆発させながら地面へと倒れ伏す。

大きな爆発で機体が粉々になったその時、機体の中から黒い影が飛び出した。
髑髏を思わせる形をした黒い仮面と、黒衣をまとった魔人。それがポケモン達の元に迫り。
その拳を叩きつけてテッシードの体をグシャリという音と共に潰した。


混迷を極めていく状況。
その中で、ポケモン達の命が一つずつ消えていく。
しかし今必死に戦うポケモン達には、その死を悼み悲しむ時間すら与えられていなかった。





829 : ポケットの中の戦争(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:44:20 3zW6Uu2k0

「しっかりするニャ!!」

ドサイドンが死んだ辺りのこと。
アヴァロンにてその映像を見ていたNは艦から飛び出さんとしていたのをニャースによって止められていた。

「これ以上ポケモン達を死なせるわけには……!」
「あいつらも着いてきた時点である程度は覚悟していたニャ!!
 最初はぐちゃぐちゃだったけど、今はみんな必死で戦ってるのニャ!!おみゃーの指示は必要なのニャ!!」
「…っ」
「それにニャーだって、この場所で戦ってきた皆だって、仲間が死ぬのをずっと見てきたのニャ!!
 皆のことを思うのニャら、友達だって思ってるニャら!!今の現状から目を反らしちゃダメなのニャ!!」

ニャースの言葉を受けて、唇を血が出るほど噛むN。

映っているモニターに目をやる。

ガブリアスの体が切り裂かれて墜落していく。
キリキザンが体も残すことなく消える。
テッシードが振り下ろされた拳に潰される。

砕けそうな心を支えながらも、その映像の中でふと気づく。

「あの四足の機体、もしかしてこの場の皆の司令官か…?」

見ると他の5機は皆あれの合図を受けて動いているように見える。巨角の怪物もあれがうまく操っているようで、味方への攻撃を防いでいる。
現場のポケモン達には気付けないだろう。各々の状況対応で精一杯の様子だ。

マイクをつなげて叫ぶ。

「みんな!!あの四足で鎚を持ったやつの動きを止めろ、あれが司令塔だ!!皆で集中だ、でないとおそらく勝てない!
 それ以外との交戦はなるべく避けるんだ!!」

Nの指示を受けたポケモン達は目的を、戦い方を見出したことで一斉に動き出す。

2匹のリザードンの火炎放射がエクウスの頭部へと襲いかかる。
鎚でその火を防ぐが、視界を塞がれた奥からゾロアークとサザンドラの気合玉が迫る。
視界を塞がれた状態での一撃だったが、相手の直感故か命中する直前に大きく飛び退くことで避ける。

そんな一同の元にグロースターとアクイラ、機体を破壊されたラウンズ兵士が迫る。
ラウンズ兵士の元にはグレッグルが迫り、身軽な動きで攻撃を交わして足に毒づきを打ち込む。脚部への攻撃に動きが鈍る。
グロースターの前にはピンプクが立ち塞がり、秘密の力を発動。コロシアムの足場の砂が巻き上がり機体の視界を塞ぎ進行を封じた。

大きな咆哮と共にエラスモテリウムオルフェノクがエクウスが飛び退いた元へと突進をかける。
その巨体に向けて、ポッチャマが渦潮を放つ。巨大な水の渦がエラスモテリウムオルフェノクの体を押し返す。

「今だ、その獣から先に倒すんだ!」

Nが叫ぶ。

巨体と攻撃力、何よりも何をしてくるかが読めない思考の不明さ。
Nの直感はエラスモテリウムオルフェノクが最も危険と判断していた。
だが彼を制御している様子のエクウス。その存在が邪魔でもあった。
あれが距離を取った今がチャンス。いや、今しかないかもしれない。

咄嗟に空から迫るアクイラ。
その渦を消し飛ばそうと腕に溜めた電気を投げつける。

その電気と渦の間に、小さな影が飛び込む。


830 : ポケットの中の戦争(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:44:41 3zW6Uu2k0

2匹のピカチュウ。その片方が、尻尾をかざしてその電気を受け止めた。
その隙にもう一方のピカチュウがピカチュウを足場にその機体に飛びつき、10万ボルトを放つ。
電気により不調を起こしたのか、動きが止まるアクイラ。

そして、電気を受け止めたピカチュウは渦の中心に飛び込み。

「チュゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

渦の中央で、その体から電撃を放った。

アクイラの電撃と合わせて放たれた10万ボルトは、渦の水に電気を通していく。
帯電した渦潮の中で、エラスモテリウムオルフェノクの苦しむような鳴き声が響き。

視界を失ったグロースターの1機が意図せず渦に突っ込み、電気に機体が耐えきれず爆散する。

その爆発に触発されるように、渦はエラスモテリウムオルフェノクを巻き込んで大爆発を引き起こした。

「やったか…!?」


地面に足をつけると同時によろけるピカチュウ。
その体を、横から飛び出したグレッグルが突き飛ばした。

次の瞬間、グレッグルの体を爆煙の奥から飛来した巨大な針が貫いた。

「ピカ?!」

晴れていく煙の奥から、怒りの咆哮を上げるエラスモテリウムオルフェノクの姿があった。

確かにダメージは与えたはずだった。
しかし、それで止まるような相手ではなかった。

それはポケモン達の、そしてNの見誤りだった。

この殺し合いの中で、ポケモン達は殺し合いの道具として連れてこられ多くの参加者に配られた。
しかしその数に対して参加者に実際に死を与えたポケモンは少ない。
多くのポケモンが放った攻撃は、バトルの延長線上にあるもので、他者に死を与えるものではない。もしそこで死を与えようとするならば強固な覚悟、あるいは強い感情が必要になる。
主、シロナを守らんとバーサーカーに立ち塞がったガブリアスのような。
主を殺した相手へのやりきれない思い全てを己の技に乗せてぶつけたサザンドラのような。

人を殺したことのない人間が銃の引き金を引くことに躊躇するように。
ポケモンにとっても死を与える攻撃というのは躊躇われるものだった。

無論、そうでない攻撃でも相手を無力化することは可能だ。
だが今目の前に立ち塞がっているエラスモテリウムオルフェノクは、それが効く相手ではなかった。
体が動く限り、己の本能に任せて暴れる凶獣。

さらにエクウスが戦線に復帰したことで指揮系統が復活した様子で状況が悪化していく。

グロースターから脱出したラウンズ兵がピンプクを握り潰さんと掴み上げる。
その腕に飛びかかったゾロアークは、ピンプクの命を救う代償に顔面を叩き潰された。
Nのゾロアークがその光景に叫び声を上げる。

グロースターは一斉に後退し、エラスモテリウムオルフェノクが前面に突っ込んでくる。目標は電撃を浴びせた2匹のピカチュウ。
二匹のリザードンとサザンドラがその体を受け止め至近距離から炎を浴びせるが堪えている様子はない。

狙われていると分かったピカチュウが後退したところで、空中からアクイラが腕の刃をかざして斬りかかってきた。
回避するピカチュウを、まるで舞のようにも思える連撃を繰り出して追い詰めていく。

避けることに必死なピカチュウ達はその進行先がエラスモテリウムオルフェノクの足元であることに気が付かない。

やがて距離を取られたアクイラがその腕から電撃を放出。
それはピカチュウに命中することなく、エラスモテリウムオルフェノクの脚部へと直撃。
不意の一撃に怒り、体を抑えていたリザードン達を振りほどきピカチュウ達へと意識を向ける。

ピカチュウの目の前で咆哮が轟く。体がすくみ足が止まる。
その頭上に、巨大な足が振り上げられ。

「ピカ!!」

その体をクローンのピカチュウが突き飛ばした。

突き飛ばされた直後の一瞬。
ほんの刹那の瞬間の中で、クローンのピカチュウはピカチュウに向かって呟いた。

これでいいんだ、と。

やがてその姿は、柱のような足の下に消えていった。





831 : ポケットの中の戦争(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:45:04 3zW6Uu2k0

「くそ、こうなったらこの戦艦の武装で援護を…!!」
『ダメロト!こんな大きな戦艦の攻撃をあの空間に使ったらポケモン達も巻き込むロト!!』
「だけど、なら僕たちはどうすればいいんだ…!!」

Nは壁を叩きながらも慟哭の叫びを上げる。

あそこで戦っているポケモン達を目の前にしながら何もできない。
分かっている。今自分があそこに向かってもできることはないと。
もし向かったとしても禁止エリアの制約によって命を落とすだけ。そうでなくても無力な人間一人、何ができようか。

分かっていても、N自身の心はそれで納得はしてくれなかった。

「………」

頭を壁に叩きつけたところで、少しだけ冷静になる。
そこで、気付く。

「ニャースは、どこに行ったんだ?」
『ろ、ロト。ニャースは、この映像を見せたらここから出ていったロト』

それはアクロマからのメッセージの残りらしかった。
だがそれを聞いている時間はない。ここから飛び出したということはニャースの行動は一つだ。

『それと、ニャースからの伝言ロト』

追いかけようとしたNの足を、ロトムの言葉が留める。

『もし自分に何かあっても、絶対に追いかけてこないでくれ。
 Nはクローンポケモン達に未来をくれる希望なんだから、って』



アヴァロンの格納庫から1機のナイトメアフレームが飛び立つ。

ランスロット・フロンティア。
ランスロット・アルビオンと共に格納されていたものの乗り手がおらず持て余していた機体。

それをニャースは、説明書を片手に動かしていた。

「ニャ…!こんなの、今までずっと動かしてきたメカと変わらないニャ…!!」

強がるようにそう呟くが、人間用に作られたその機体はニャースの体格で操縦しきれるものではなかった。
それでも今はとにかく動けばいいと、操縦桿とアクセルだけを必死に操作している。

ロトム図鑑の中で、アクロマは言っていた。

『ポケモン城はクローンを生み出す装置のある施設でしたが。
 もう一つ重要な役割がありました。
 あの場所は会場の中でバランサー的な役割を与える施設です。おそらくその役割としては最も重要な場所でしょう。
 つまりポケモン城は、エデンバイタルと最も近い場所なのですよ』

おそらくこれは、自分に向けたメッセージなのだろう。
ニャースはこれを聞き終わってからそう感じた。

『だからこそあらゆる可能性が集約しやすい場所でもあります。
 クローンポケモン達の可能性を測るという意味では大いに利用させてもらいました。結果は先程申し上げた通り散々なものでしたが。
 彼らクローン達には持て余すものです。そしておそらく番兵として使われている者達にとっても同じでしょう。彼らは停滞した存在ですから。
 ですが今を生き進み続ける者たち、ポケモンであれば、あるいは』

最後のアクロマの小さな笑みがそれをニャースの中で確信させた。


832 : ポケットの中の戦争(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:45:38 3zW6Uu2k0


この場所が禁止エリアであることは分かっている。
その上で突っ込めというのであれば何かある。何かができる。そう信じた。

開けたコロシアムの上部から、思い切り突っ込むニャース。
横から不意に現れた存在にアクイラは突き飛ばされた。

同時に、グロースター達がその存在に気付きスラッシュハーケンを放ち機体を穿つ。
肩に直撃したハーケンに腕を吹き飛ばされる。
更に駆け寄ってきた二人のラウンズ兵がコックピットを潰そうと走り寄る。

「…!これニャ…!」

脱出装置を起動させ、コックピットを射出させる。
ここに来るという役割は果たせた以上、使い慣れぬメカに乗り続ける必要はない。

地面を滑っていくコックピットから飛び出したニャースの鼻を、舞い上がった土と血、煙の匂いが突く。
その視線の先では、クローンのピカチュウを目の前で潰され動けないピカチュウがいた。

「ピカチュウ!!」

呼ぶ声を聞いてハッと顔を上げるピカチュウ。

「おみゃーは、ニャー達ロケット団がずっと追いかけてきた特別なポケモンニャ!!
 こんなところで死んだりするようなやつじゃないはずニャ!!!」

体に青い炎があがる。

「ここにいるみんなを助けたいって思うニャら、おみゃーならできるはずニャ!!
 自分の力を、信じるのニャ!!ニャーが保証するニャ!!!」

爪を構えて走るニャース、その元にラウンズ兵が迫る。

言葉を受けたピカチュウは、エラスモテリウムオルフェノクに向けて尻尾を構えて飛び上がる。

ニャースは願った。
皆を救いたいと。

ピカチュウは願った。
これ以上誰も死なせたくないと。

そのために、この身の全てを出したいと、そう願い――――




「そう。強い願い。感情ですよ」

どこか遠く離れた場所。
会場とは異なる世界である場所で、アクロマは呟いていた。

「ガブリアスがチャンピオン・シロナのため命を燃やした時もそうでした。
 あなた達ポケモンの力を引き出すのは、強い絆だと」


会場のことはすでに観測できない場所で、まるで会場の中を見ているかのように。

「惜しむらくは、あなた達のその極限の中で導き出した姿を、私は見ることができないことですが」




コロシアムの地面から、光の柱が出現し。
ピカチュウとニャースの体を包み込んだ。


833 : 可能性の獣たち ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:46:28 3zW6Uu2k0
突然の閃光に、足を止めるラウンズ兵。
エラスモテリウムオルフェノクもクローンポケモン達も、その様子に目を取られて戦場が一瞬静寂に包まれる。

光の柱が収まったところで、その中央から巨大な2つの影が姿を表す。


「ニャ〜〜〜?」
「ピカ…?」

ずんぐりとした体型となったピカチュウ。
異様に長い胴体と爛々と光る目をしたニャース。

その体は、エラスモテリウムオルフェノクをゆうに超える巨体へと変異している。

キョダイマックス。
ポケモン世界のとある地方において確認されている、ポケモン達に生じる特殊な巨大化現象により変異する姿。

その姿は、アヴァロンにいるNの目にも見えるほど大きなものだった。

「この姿は…」
「キョダイマックス、ある地方で確認されたポケモンの新たな形態ロト。
 理屈は分からないけど、もしかするとあの二匹の強い願いが、あの城の装置を通してその姿の可能性を自分の中から呼び寄せたのかもしれないロト」


エクウスが鎚を鳴らす。
その合図と共に、我に返ったエラスモテリウムオルフェノク、ラウンズ達が攻撃をしかける。

ニャースの巨体に巨大な針を飛ばすエラスモテリウムオルフェノク。
ピカチュウはそれを迎撃せんと構えていた尻尾を思い切り振るう。

すると鋼鉄化した尻尾はまるで地面を伝うように波立ち流れる。
放たれた技、ダイスチルは地を走るラウンズ、そして飛ばされた針とエラスモテリウムオルフェノクを吹き飛ばす。

「ニャ…、この技は…、今のニャーなら使えるのニャ?!」

同時にニャースも腕を振るい、黒い波動を放つ。

技を習得する能力を失ったニャースは、かつて幾度か新たな技を習得しようと訓練したことがあった。
その一つに、悪技であるつじきりが存在した。結局練習に留まり己に定着させることはできなかったが。

エデンバイタルの力で可能性を引き出したニャースは、その技をダイマックス技・ダイアークとして使用した。

宙を舞う波動は吹き飛ばされた敵へと向けて直撃する。

押しのけられるエラスモテリウムオルフェノク。グロースターは腕や頭部を破壊され、ラウンズ兵も膝をついていた。
攻撃範囲から避けたエクウス、機動力で回避したアクイラだけが健在だった。

「ニャース、もういい、早く戻れ!!君の体は…」

叫んだNの声で、ニャースは自分の体に目をやる。
あちこちに青い炎があがり、少しずつ体を侵食している。


834 : 可能性の獣たち ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:47:25 3zW6Uu2k0
「大丈夫、ニャ。なんとなく分かるニャが、今の大きな体なら少しは保つみたいなのニャ」
『でも、それじゃキョダイマックスの効果が切れたら消えちゃうロト…』
「…この体は、どれくらい保つニャ!?」
『戦闘不能か、技を3回撃つまでロト!』
「十分ニャ!」

クローンポケモン達をかばうように立ち塞がるピカチュウとニャース。

エクウスの砲撃とアクイラの電撃、グロースターの射撃とエラスモテリウムオルフェノクの毒針が飛来。
それを前に出たピカチュウが受け止める。

「なっ、ピカチュウ!?」
「ピカ…」

戦闘不能になったら消えてしまう、そんなニャースにダメージを負わせるわけにはいかなかった。
幸い、ダイスチルの影響で防御力が上がっている今なら、多少の攻撃は耐えられる。

無論、ニャースもそんなピカチュウを許容するわけにはいかない。

追撃するように突撃を仕掛けてきたエラスモテリウムオルフェノクの体を、ニャースの腕が掴み抑え込む。

「ン、ニャアアアアアア!!!」

叫び声と共にその体を後ろに押し込み退ける。

「ピカチュウ、合わせるのニャ!技を同時に使ってあいつらを吹っ飛ばすニャ!」
「ピカ!!」

状況の打開のために力を合わせる二匹。

体に蓄えた電撃を一気に放出するピカチュウ。
周囲に舞い散る電気がナイトメアフレームの攻撃を弾き飛ばし、コロシアムの上を駆け空へと届く。

ニャースが大きく吠え、体からエネルギーを放出。
地響きが轟き、留まるラウンズ達やオルフェノクの足元に亀裂が走りその奥から何かがせり上がる。

キョダイピカチュウのキョダイマックス技、キョダイバンライが発動し、空から巨大な雷の柱が降り注ぎ。
キョダイニャースのキョダイマックス技、キョダイコバンが発動し、割れた地からエネルギーと共に大きな小判が噴き出す。

電気とエネルギー、小判に挟まれたグロースターは次々と爆発していき、ラウンズ兵の身をも焼き焦がし消し飛ばしていく。
エラスモテリウムオルフェノクも身動きが取れぬまま体を膨大なエネルギーに侵され。
回避しそこねたアクイラも体の節々を爆発、退避していたエクウスも巻き込まれる。

中でもダイアークを受けたグロースターとエラスモテリウムオルフェノクのダメージは大きかった。
体周囲に浮遊する黒いエネルギーが、ピカチュウの電撃の威力を増幅させている。

膨大な電磁波が発生して周囲の電子機器を爆破、ピカチュウやリザードン達が担いでいたカメラもスパークしていく。
アヴァロンへの映像中継が途切れ、状況が把握できなくなるN。


やがて閃光が晴れていき。
地面に撒かれた小判が電気を帯びて小さく放電している中で、体から電気を漏らしながらぐったりとしているエラスモテリウムオルフェノクがいた。
ナイトメアフレームもラウンズ兵も視界の中で跡形もなく消し飛んでいる。


「ピカ…ッ…!?」

その中でピカチュウが何かに反応するように視線を動かし。
ピカチュウの体を、巨大な槍が貫いた。


835 : 可能性の獣たち ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:47:41 3zW6Uu2k0

「ピカアッ!!」

血と悲鳴を上げながら倒れるピカチュウ。
体から光が漏れ出して巨体が消えていき、元の小さなピカチュウの体だけがその場に残っていた。

見ると、視線の先には一つの巨大な影。
エクウスの体とアクイラの翼を兼ね備えた金色の体。
機体性能でどうにか攻撃を凌いだエクウスとアクイラ、その最後の2機が合体したナイトメアフレーム、レガリアの姿があった。

最後に残った敵相手に、ピカチュウ達を守らんとリザードン、ゾロアークやクローンポケモン達が一斉に攻撃を仕掛ける。
それをレガリアは、巨大な翼から放出したエネルギー弾で吹き飛ばす。
衝撃で飛ばされるポケモン達。

倒れたピカチュウの側に駆け寄るポッチャマとピンプク、キョダイニャース達。
胸付近に大きな傷があり、そこから絶えず血が流れ続けている。
ピンプクがタマゴうみを使いピカチュウの体力を回復しようとする。しかし傷が塞がることはない。

痛みで歪むピカチュウの目の先では、ポケモン達がレガリアの足を止めんと抗っている。
しかしグロースター達とは違う特注製のナイトメアフレーム、ポケモン達の攻撃ではびくともしていない。

ふと、ピカチュウはその体がバチリと静電気の火花を散らすのを見た。

その様子を見て思った。自分ならあるいは勝てるかもしれない。
だけど立ち上がる力がない。

起き上がろうとして、胸の痛みと力の入らない手に転び。
その拍子に、ひっくり返ったバッグから転がり出たものがあった。


それは、クローンのピカチュウに渡されたもの。
実験の中で自分には使うことができず、故にポケモンとしての失敗作との烙印を押されてしまった道具。

ピカチュウは受け取りを拒否したが、使わずともいいから持っていて欲しいと言われバッグにしまっていたもの。

使わなかった理由は簡単。怖かったのだ。
これを使うと自分が自分でなくなる、サトシとの思い出を消してしまうのではないかと。

「ニャ…」

ピカチュウの様子に気付いたニャース。
それを使うべきだとピカチュウ自身が思っているのに、心の奥にある恐怖がそれを止めているのだと。

「大丈夫ニャ、ピカチュウ。おみゃーがどうなっても、おみゃーはピカチュウニャ。
 ニャー達が追っているポケモンで、ジャリボーイのポケモンなのニャ」

その言葉に勇気をもらったように、ピカチュウは微笑み。
四肢に力を入れて立ち上がり。

地面に転がったその道具、雷の石に手を触れた。





836 : 可能性の獣たち ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:48:03 3zW6Uu2k0

サザンドラの竜の波動、リザードン2匹の火炎放射を拾い上げた槍で難なく弾き飛ばすレガリア。
ゾロアークが懐に迫り、隻腕での辻切りを放つもその装甲はびくともしない。

頭部から放たれた雷撃がポケモン達を地に伏せさせる。

身動きできないリザードン達。残った強豪ポケモン達を、確実に息の根を止めようとその手の槍を突きつける。
それを思い切り振り下ろした時だった。

レガリアの顔面に素早く何かが叩きつけられた。
鋭い音と共に顔の部分に亀裂が走り、機体が衝撃で後ろに下がった。

その気配が背後に移ったことを感じたレガリアの顔は後ろへと向く。

息も絶え絶えながらも、こちらへ向けて闘志の眼を燃やす小さな影。
小さな体は一回り大きく変位している。

「ライチュウ!」

ピカチュウ、いや、ライチュウ。それは雷の石に触れたことで進化した姿だった。

「みんな、ライチュウを援護するニャ!!」

ニャースの叫びで、ポケモン達は最後の力を振り絞るかのように一斉にレガリアへと飛びかかる。

同時にレガリアの背部にあるコックピットから一人の魔人が姿を表す。
カメラを破壊され視界を封じられたことで直接見る必要が出たのだろう。
これまでのラウンズ兵と同じ佇まいながらも、ポケモン達にもどこか彼らと違う威圧感を感じさせていた。

その本体を狙うように、リザードン二匹は火炎放射を放つも、槍の一振りの風圧で下げられる。
ゾロアークが幻影を見せて撹乱しようとするも、翼から周囲一帯に射出されたエネルギーの散弾が辺りの地面を抉り幻影を引き剥がす。

そうして前を見る魔人の背後をライチュウのアイアンテールが迫った。
不意打ちだったにも関わらず、即座に反応し拳で受け止める。
反動で後ろに下がったライチュウにレガリアの巨槍を振り叩き落とそうとするもライチュウもまたそれらを尻尾で受け止めて弾き返す。

足を地面につけるライチュウ。
しかし胸の傷の痛みか膝を突く。

隙有りと言わんばかりに、振りかざした槍を大きく地面に突き刺し。
その姿は掻き消えた。

今のライチュウがゾロアークの幻影だと気付いた時にはライチュウの姿は空の上にいた。

空を見上げ、追いかけるレガリア。
そこに、巨大な咆哮が周囲に轟く。


837 : 可能性の獣たち ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:48:18 3zW6Uu2k0



(ピカチュウ、おみゃーは次の一撃に全部をつぎ込むつもりニャ…)

ライチュウに進化し体力をある程度上げることで戦う力を蘇らせたピカチュウ。
しかし体の傷の治癒にはそれは関与していないことにニャースは気付いていた。

だから次の一撃で決めるつもりだと。

こちらも最後の一撃は温存していたが、巨大化させて保たせていた体もそろそろ限界がきていた。

だから。

(先に、行ってるニャ…!!)
「キョダイコバンニャァァァァ!!!!!」

地から噴き出した大量の小判が、空を飛ぶレガリアへと襲いかかった。


突如周囲を舞うエネルギーと小判に機体を蹂躙されるレガリア。
機体に重大なダメージを与えるものではないが、それが逆に苛立たせる。

そのレガリアに向けて、リザードンからの投擲を経て宙を走るように迫るピカチュウの姿が目に入った。
小さな体を電気が纏う。
先程洗脳装置を破壊した一撃を放とうとしている。

判断力に陰りを見せた苛立ちをぶつけるように、レガリアはその胸部を展開する。

エクウスの時に持っていた巨大な鎚の鈍器の部分を格納した胸部、そこから放たれた一発の巨大なミサイル。
吹きすさぶ風圧が小判を吹き飛ばし、一直線にライチュウへと向かう。
レガリアの胴体にも匹敵する大きさの弾頭、故に進行速度は遅いがその重厚な一発はライチュウの体を吹き飛ばすだろう。

ぶつかり合おうとするライチュウのボルテッカーとミサイル弾頭。
しかしその2つが衝突する直前、横から降り掛かった何かが弾頭を貫いた。




「…ニャース、ピカチュウ、これが、君たちの選んだ答えなんだね……」

キョダイコバンを放った後、その体が縮小していく様子はアヴァロンにいたNにも見えた。
そしてその体が消滅していく姿も。

同時にピカチュウ、いや、ライチュウの攻撃が捨て身のものであることも分かった。

死にゆく彼ら自身に対してできることはない。
だからせめて自分にできる精一杯のことをしよう。
彼らの想いに報いるために、この先の未来に進むために。

飛んでいるゆえに距離が近いからこそ。ポケモンが周囲にいないからこそ。

この攻撃は外さない。
アヴァロンから放たれた単装砲が、ライチュウと衝突しようとしているミサイルへと直撃した。


838 : 可能性の獣たち ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:49:34 3zW6Uu2k0



もし放たれた攻撃がレガリアに向いたものであれば、あるいは搭乗者の戦士としての勘が攻撃を避けさせただろう。
もし搭乗者がキョダイコバンによって精神を乱されず冷静であったならば、ミサイルの爆破がされた後で後ろから迫る攻撃を避ける道を選んだだろう。

あるいは心がなければそれぞれを冷静に対処できただろうが、そうなってはエラスモテリウムオルフェノクやラウンズ兵達をまとめられなかっただろうから言っても詮無きこと。

視界の先に迫っているのは、爆発し進行能力を失ったミサイルを前から押し込んでくる小さな生き物の姿。

「…なるほど、これが今を生きる生命の力か」

そして、その姿に感心してしまったことで反応することを忘れてしまった。
既に生命を失い未来を捨てた上で力を得た自分たちに対する、未来を進もうとする意志に。
それが自分たちを打ち破った事実に。

「見事だ」

押し込まれたミサイルと高電圧の雷撃がレガリアの体を砕いていき、爆風の中で割れていく仮面の奥で。
戦場に最後に残ったラウンズ、ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインは称賛の声を漏らして消滅していった。




爆風の中からライチュウの姿が現れることはなかった。

だが、リザードンはそれに涙を流す暇もない。
コロシアムに最後に残った敵、エラスモテリウムオルフェノクが麻痺状態から復帰しつつあった。

司令塔であったビスマルクによる制御を失って暴走しつつある。

飛来した針を避けながら、その顔面に至近距離から火炎放射を叩き込む。
熱に怯み身をそらすエラスモテリウムオルフェノク。

振るわれる腕をかいくぐりながら、リザードンはその背後、ラウンズ達がいたときには決して通ることができなかった扉へと突っ込む。

その奥に備えられた台の上にあった2つの大きな宝石、金剛珠と白珠を咄嗟にその手に取った。

リザードンには、この場で戦う皆には知る由もないことだが。
その少し前に、会場の各所で重要施設の破壊が行われ、会場の維持バランスに変化が生じていた。

その中で、最後のバランサーとして機能していたポケモン城の施設を制圧した。

彼らの戦いはまだ続く。
最後に残った凶獣を倒さねば、この先に進むことはできない。

ただ、この戦いそのものとしては彼らの勝利だろう。
その一手を以て。

会場の崩壊が始まったのだから。


839 : 可能性の獣たち ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:49:48 3zW6Uu2k0




【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(小)、ゲーチスの言葉によるショック
[装備]:サトシのリザードン@ポケットモンスター(アニメ)、ゾロアーク(スナッチボール)@ポケットモンスター(ゲーム)、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555、ロトム図鑑
[道具]:基本支給品×2、割れたピンプクの石
[思考・状況]
基本:クローンポケモン達の世界を守るため、生き残る
1:ピカチュウ…、ニャース…、みんな…!
2:世界の秘密を解く
[備考]
※モンスターボールに対し、参加者に対する魔女の口づけのような何かの制約が課せられており、それが参加者と同じようにポケモン達を縛っていると考察しています。


【エラスモテリウムオルフェノク】
[状態]:ダメージ大、暴走
[思考・状況]
基本:■■■■■■■■―――――



【ニャース@ポケットモンスター(アニメ) 死亡】

※サトシのピカチュウ、サカキのサイドン(ドサイドン)は死亡しました
※残っているクローンポケモンはリザードン、サザンドラ、ポッチャマ、ピンプクです。それ以外は死亡しました。
※会場の空間が崩壊しました。




金剛珠と白珠。

ディアルガ・パルキアの力を制御するために使われる道具。
無論本物ではなく、アカギが一定の役目を果たすために生み出したレプリカのようなもので本物ほどの力はありませんが。
ですがあれが会場の時空間を維持する重要な触媒となっていたのは確かでしょう。
他の場所で他の方々がどれだけ頑張ったのかにもよると思いますが、あれを確保したならば会場の崩壊は進行し脱出への道は見えることです。


さて、ですが私にはこの先どのような結果を導き出すかは分かりません。
ポケモン達が何かを成すかその身の可能性を以てしても敗北するかも。

ポケモンに対して私ができることはもうないでしょうね。
こうして何かを考えるのもここまでかもしれません。

余計なお世話かもしれませんが、一つ。
アカギ、もしポケモン達がこの戦いの中で可能性を開いたならば、あなたはそれを見届けるべきでしょう。
その中にある可能性にも、感情のない世界が見せることはない輝きにも、目を向けるべきでしょう。

本当に、余計なお世話かもしれませんが。
ただ、私あなたに同調はできませんが、ゲーチスと比べたらそこまで嫌いではないのですから。


840 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 13:50:09 3zW6Uu2k0
投下終了です


841 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/02(日) 21:58:58 3zW6Uu2k0
まだ予約スレ入れないみたいなのでこっちで
夜神月、アカギを延長込みで予約します


842 : 名無しさん :2021/05/03(月) 13:27:16 bkjsXQ2s0
乙です
ついにここまでと……しみじみ
ニャースとピカチュウらに敬意と哀悼を
それと避難所は専用ブラウザなら閲覧と書き込みができましたので、一応


843 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/15(土) 20:28:47 eLR42hzA0
夜神月、アカギ投下します


844 : シンセカイ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/15(土) 20:29:47 eLR42hzA0
小さな頃の記憶。

幼い私は、ただ親の期待に答えることに必死だった。
学業を進め、喜ぶ親の姿を見る。いや、本当に親は喜んでくれていたか。優秀な子供が当然と思っていなかったか。

今となっては思い出せない。
覚えているのは、そうやって努力を続け、どこか疲れてしまった自分がいたということ。

やがて機械を弄ることに楽しさを見出した。
機械はよかった。0か1か、有か無か。そこにあるのは明確な2択だけ。
ただ自分の知識さえあれば動いてくれる、自分が疲弊していた親の期待などのような曖昧なものも挟まれていない美しい存在。

そんなある時、彼と出会った。
機械の中に入り込むポケモン。
機械と戯れてばかりで人間はおろかポケモンともあまり付き合うことのなかった自分にとって、初めての出会いだったと思う。

色んな機械に入り込むポケモンに心を奪われ、そんな彼も私を見るたびに嬉しそうだった。
心と心が通じ合っていたと思う。

だが、ある時を境に彼と会うことは叶わなくなった。

出会いが初めてであれば、別れも初めてだった。



「…、どういうつもりだ?殺し合いの主催者が気まぐれで助けようっていうのか?」
「何だ、元に戻してやった方がよかったか?ただし戻るのであれば元いた場所の、地面に叩きつけられるまでの空中に戻すことになるが」

熱を受けた体が発する痛みを堪えながらも、弱みを見せぬように強がるように言う月。
そんな言葉にもただ淡々と受け答えるアカギ。

「助けるつもりなどない。話が終われば元の場所に戻すだけだ。
 だがここに来たのがお前であることも何かの因果かと思った、それだけだ」
「………いいだろう」


845 : シンセカイ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/15(土) 20:30:35 eLR42hzA0
月としても既に死ぬはずだったところで命を掬われた形だ。
せめて短い時間でも足掻いてみよう。叶うならば、スザク達他の皆の助けになる何かができるならば。

そう考え、アカギの言葉に応じる。

「私の願いはもう知っているのだろう。天才と謳われたお前の頭脳のことだ。
 新世界の神。私の目指すものだ」
「…そうか」
「お前が目指したものも新世界の神なのだろう」

アカギとしてはいち参加者に逐一興味があるわけではない。しかしエデンバイタルを通じて得た知識程度はある。
各々の世界のこと、参加者についての基本的な情報。その程度は網羅している。

そして、目の前にいる男が己の知恵と神の道具ともいえるもので世界を変えようとした者であることも。

「世界を変えた者として、神として世界に君臨したお前なら私の考えも理解できるはずだと」
「お前の…、考えが?」
「ああ。世界には無駄なものが多すぎる。その中でも感情というものは世界の美しさを失わせる最も不要なものだ」

手を宙にかざしながら話すアカギ。

「お前の世界とてそうだっただろう?
 人間の愚かな欲、それを御すこともできぬ法、そういった不完全なものに絶望した。だからお前は世界の在り方を変え神となろうとした。違うか?」
「………」

そんな大層なものじゃない。
今ならそう言えるがかつての自分がどうだったか、それを否定しきれたか。
月には分からなかった。

「ある意味ではお前の望む世界でもあるのではないか?
 静寂で完璧な世界。不完全なものは存在しない美しい世界。
 お前の望む人々の罪の存在しない世界でもある」

意図したものなのかそうでないのか。
どこか見透かされたようにも感じた言葉だった。

「…それを言ってどうするんだ?」
「今のお前に対してどうしようということもない。
 だが共感できるのではないかと思っただけだ。お前なら理解できるのではないかとな」

今の自分にできることは何だろうか。
会話を聞きながらも月はひたすら頭を回転させていた。


846 : シンセカイ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/15(土) 20:31:03 eLR42hzA0

自分の武器は頭脳であり、それを出力した言葉だ。
せめてアカギの心を探ることができれば―――

――何故アカギがこの殺し合いを行ったのか

ふと月の脳内にLとの会話が浮かび上がってきた。

アカギが殺し合いをした理由を少しの間推理したあの時間。
あの時は殺し合いという儀式を選んだ理由を話し合っていた。あの場にあった材料で考えることができたのがそれだったからだ。

だが、今なら。
アカギの心からその動機を読み解くこともできるのではないか?

「どうした?お前の意見を聞かせてみろ」
「…あんたは、俺とあんたが似ているって言ってたな」

どこを似ていると思ったのかは分からない。
新世界の神になろうとしたことか。世界の理を越えた力をもって世界を都合よく変えようとしたことか。

「だったら、聞かせてくれ。あんたは何故、世界を変えようと思ったんだ?」
「言っただろう、世界が不完全だと」
「違う、もっと根本的な、何故そんなに不完全な心を憎むようになったのかだ」

ただ世界を変えて自分の罪を打ち消してしまおうとした自分のように。
そう思うようになった何かがあるはず。

正直この問いかけはカマかけに近かった。
確信はなく、推測の中から証拠を手繰り寄せるためのもの。

アカギの表情は変わらなかった。
ただ、ずっとその顔を注視していた月はその視線が一瞬だけ逸れたのを見逃さなかった。

アカギの回答はない。
だからこそ更に踏み込むべきだと感じた月は畳み掛ける。

「俺は自分の罪を消し去りたくて世界を作り変えようとした。
 だけどそれはただ自分の過ちを認める強さがなかった、だからこそあんなにも間違いを続けてしまったんだ」
「己の不完全さを認めるというのだな」
「ああ、不完全だ。だけどそれはあんたも同じはずだ」
「そう、不完全だ。だからこそ世界を作り変える必要があると言っている」
「違う。あなたはその自分の弱さと向き合っていない。逃げようとしているだけだ
 かつての俺と同じ、逃げるために世界を変えようとしている」

アカギの目に嫌悪の色が宿る。
それはかつて夜神総一郎から逃げ出した時に鏡で見えた自分のそれと同じものに見えた。
だからこそ確信する。アカギは何かあった自身の過去の記憶を克服できないからこそ、こんなことを行っているのだと。

同時に、月は死の気配を明確に感じ取った。
似ているからこそ分かる。きっと自分の言葉はアカギの逆鱗に触れている。

だけど、それでも止めることはない。


847 : シンセカイ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/15(土) 20:31:25 eLR42hzA0

もし自分の考えが正しく、そしてアカギの心に少しでも楔が打ち込めるなら。
あとはきっと、いずれこの場に辿り着くだろう誰かがその先を成し遂げてくれるかもしれない。

今戦っているだろう者たちの中には、咎人である自分や間桐桜も救おうとした者がいたのだから。


「だから神なんかじゃない。俺もあなたも。
 ただの小さなエゴイストってだけの、一人の人間だ」
「黙れ」

アカギと自分は、確かに似ているのかもしれない。
一人で全てを背負い込み、神のごとき力を得ることで世界を思いの儘にしようとした者として。

そう感じた時、目の前の男が理解不能な怪物ではなく、ただ小さな一人の人間に見えるようになってきた。

だからこそ、今の自分になら分かる。

「もし、あなたが一人で全てを背負いどうにかしようとするなら。
 きっと同じく多くのものを背負って手を取り力をあわせた人に負けるだろう」

例えどんな天才でも、一人は目的のため力を合わせた多くに勝つことは難しい。
自分が信じられる者がいない状況の中で、ニアとメロ、対策本部の人間達に負けた自分のように。
多くの犠牲を払いながらもゲーチスの悪辣な殺戮を皆で食い止めたあの時のように。

全く、頭のいい考え方ではない。かつての自分ならこんな考え方はしなかったはずだ。
きっとLやスザク、皆のせいだ。だが悪い気はしなかった。

だから。
振り返ったアカギの、憎悪の込められた視線が体を貫いて。
自分の存在が不安定になるような、得体のしれない感覚に身を包まれていても。

月は決して絶望も恐怖も感じなかった。

皆なら、きっとアカギに勝てるとどこかで確信していたから。

(あとは任せた、みんな)

それが、最後に月の中に浮かんできた言葉だった。




848 : シンセカイ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/15(土) 20:31:43 eLR42hzA0




「やはり醜いものだな、心は」

心の中に湧き上がった嫌悪感が、月に対して亜空切断を使用するまでに至ってしまった。
本来なら会場のどこかにでも送ってやろうと思っていたはずが、感情的になりすぎてもうどこに飛ばしたのかも補足できない。

次元の狭間をさまようことになるかもしれない。
どこか得体のしれない場所に送られ野垂れ死ぬかもしれない。

どうなったとしても、曲がりなりにもここまで生き残った貴重な資源を一つ無駄にしたということになる。

そんな自分への怒りで眉に皺を寄せる。
何かの縁かと思い気まぐれを起こしてしまった自分への戒めが必要だろう。

資源を失った事実は反省点として考慮する必要がある。
だが夜神月個人のことはもうどうでもいいだろう。
体の傷、そしてどこに行ったかも分からぬ状況。
もしも運が良ければ、どこかの世界にでも流れ着くかもしれないが。もう興味もない。

興味は、ない。
彼の言葉に思うところがあったなどということもない。
ないのだと。
そう自分に言い聞かせながら。

アカギは静かに、ただ状況を監視するように。
空間に映し出される、会場内で行われている戦いを見続けた。


【夜神月@DEATH NOTE(漫画) 死亡………?】





ある少年の記憶。
ある日の出来事。

そのポケモンを驚かせてしまい、不意の放電を受けて意識を失ってしまった。
目が覚めたら彼はどこにもいない。

ようやく見つけた場所はゴミ捨て場のおもちゃの中だった。
安心した。もう会えないんじゃないかと思ったから。

その時彼はとてもうれしそうに目を光らせた。
もっと彼のことが分かる気がした、通じ合える気がした。

次の日、そのおもちゃがなくなると共に、彼はどこにもいなくなって。
二度と会うことは叶わなかった。

あの時驚かせて気絶してしまったから。
僕を傷付けたことを強く悔いたのかもしれない。

だけど、彼と別れることの方がずっと辛かった。

その後数日は食事もろくに喉を通らず、ずっとふさぎ込んでいた。
それでも時間は傷付いた心を癒やしてはくれなかった。

初めての別れで。だけど彼が唯一の友で。
楽しかった機械弄りもそれ以降はどこか空虚に感じるようになってしまった。

やがて、一つの考えに至っていた。
心があるから苦しいんだ。
こんなもの捨ててしまえばいい。

癒えることがなかった傷は、苦しみは。
やがて嫌悪、憎悪へと転じていた。

世界の形そのものを忌み嫌い、憎むほどに。


849 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/05/15(土) 20:32:32 eLR42hzA0
投下終了です
月の扱いについてですが、死亡者リストには載せておこうと思います


850 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/06/02(水) 22:10:36 hW2YWxi.0
延長込で枢木スザク、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア予約します


851 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/06/13(日) 00:41:39 TBGHy4cs0
すみません、一旦破棄します


852 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/10(火) 21:46:12 68faYMYY0
すみません遅くなりました
>>850の予約分を投下します


853 : 閃光のマリアンヌ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/10(火) 21:46:49 68faYMYY0
夜空の中に、ところどころ亀裂がはしっている。
何もないはずの場所が、まるでテクスチャを剥がすかのように少しずつ崩れている。

儀式の会場がゆっくりと崩壊を始めていた。

そんな空間の中、2つの閃光が宙を飛び回っていた。
縦横無尽に飛行する光は、幾度もぶつかり遠目からでも確認できる火花と戦闘音を放っている。


ランスロットsiNはナイトメアフレームの中でも最新の技術を詰め込み化け物とも称された機体、ランスロット・アルビオンの発展型。
機体性能においてはスザクの知る最強の機体を凌駕したものであり、これに追随する性能をもったKMFはそうはいないだろう。
マリアンヌの乗ったトリスタンは数世代前のもの。
とはいえスザクの知る機体とは大きく形・姿を変えておりその認識が正しいとは言えないだろうが、こちら以上の性能であることは有り得ないのは剣を打ち合った最初の数合で読んでいる。

だというのに。

「…っ!」

スザクの額から汗が滲む。

一騎打ちに移行してからの戦い。
ヴァリスやハーケンを使うも逆に隙となり、間合いを詰められてしまう。
MVSを交えての切り合いへと切り替えたものの、それが仇となっている。

まるでこちらの動きが読まれているかのような太刀筋。
ナイトメアフレームとは思えぬ細かく素早い身のこなし。

ゼロが超常の力をもって挑みかかってきた相手だとしたら。
目の前の彼女は純粋な自らの技量のみで圧倒してくる、全く異なる驚異だ。


(…っ、やはり閃光のマリアンヌ、一筋縄ではいかない相手か…!)

スザクとて剣術には自信がある。体術も並のものではない自負がある。
搭乗したナイトメアフレームがランスロットのように高性能なものになりがちなのは、その体の反応速度に並の機体ではついてくることができないから。

その反応速度をもって、目の前から迫る剣撃を受け切るのが精一杯だ。

ナイトメアの規格の違いか、まるで生身の人間が剣を振るっているかのようにも思える挙動をしている相手なのもあるが。
その挙動そのものは、マリアンヌの技量あってのものであることが間違いがないだろう。

「だが、…だとしても!」

後ろに引き、手のヴァリスとハーケンを同時に射出する。
相手はヴァリスを回避、ハーケンを腕で反らしながらも前進。そのまま剣を振りかぶる。
いくつかの想定した動作パターンの中の一つ。だからこそ対応可能な動作も瞬時に見出す。

「僕たちの未来のために、負けるわけにはいかないんだっ!!」

攻めに転じたトリスタンの体に、瞬時にヴァリスを捨てて持ち替えたMVSを振るう。

「未来、ねぇ」

しかしその一手はまるで読まれていたかのように、身をかがめたトリスタンの頭上を空振りしていく。
次の瞬間に全く警戒していなかったトリスタンの脚部が目の前に迫っていたのをどうにか受け止めたのはスザク自身の咄嗟に働いた勘のおかげだろう。


854 : 閃光のマリアンヌ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/10(火) 21:47:06 68faYMYY0

「果たしてあなたに未来なんてものがあるのかしら」

反動で後ろに下がりつつも、腕のハーケンを放つトリスタン。
飛来する6つの短刀はどの方向に避けてもどれか一つが機体を捉える軌道を描いている。
故にその場に剣を構えてやりすごすランスロット。
肩や脇腹、脚部を捉えるも装甲の厚いところで受けることで機体ダメージを最小限に抑える。

その飛ばされたハーケンが腕を横に動かすことで薙ぎ払う動きへと切り替わり、ランスロットの身を縛りつつ体勢を崩させる。
倒れ込むより先に、背のエナジーウィングを展開。すると刃がハーケンのワイヤーを切り裂くより早く、トリスタンのハーケンはランスロットの体から離れトリスタンの手元に戻っていく。

「顔も無くし、名前も無くし。自分の犯した罪を贖うためにただ世界に尽くす。
 それが生きているって言えるものなのかしらね」

投げつけられた剣がエナジーウィングを捉える。
翼の付け根が切り裂かれ、片翼を失った機体がバランスを崩して傾く。

「それでも、それが自分への、世界を混乱に貶めたことに対する罰だ!」

崩した体勢を整えるより先に迫りくるトリスタンへと意識を割くスザク。
傾いた姿勢のまま、MVSを振るい迎撃。
すれ違いざまに剣を受け止めつつも、直後にフライトユニットへ一撃を入れていた。
振り返ったトリスタンの背から煙が上がる。

「罰、か。だとしたら、敗北し世界に弾かれて尚もこうしてまた同じことをやろうとしている私は、一体何なのかしらね」

自嘲するようにマリアンヌの口から漏れた言葉。

言い終わる頃には、飛行機能に障害を生じさせた2機は同時に地に足をつけた。
緑の草地やコンクリートの地面は少しずつ形を崩壊させている中で、ただ視界だけが狂っているかのように何もない空間に着地している。

「別にどこに足をおいてても落ちたりはしないわ。会場を生み出した時点で空間としては完成してるんだもの。
 ただ貼り付けていたものが剥がれただけ」

ハーケンを繰り投擲した剣を回収しながら言うマリアンヌ。
スザクもまたエナジーウィングの片方を失った機体への影響を確かめバランスを取りつつ体勢を直す。

一瞬の沈黙の後、一気に距離を詰め両手の剣を同方向に振り下ろすランスロット。
片手で受け止めるには難しい一撃。左右両方の剣で受ける必要がある一撃。
そう考えていたスザクの思惑を裏切って、トリスタンは片手の剣で受け止めた。
予想外であるが、そう動くのであれば次の一撃を予想するのは容易い。受け止めるのではなく受け流しつつもう一方の剣で攻め込むのだろう。
その一撃に対応するため体を屈めた傍を過ぎていく剣の軌跡を切り替え構え直すスザク。


855 : 閃光のマリアンヌ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/10(火) 21:47:43 68faYMYY0

しかし次の瞬間機体に強い衝撃が走る。
警戒していなかった一撃。トリスタンの脚部がランスロットの胴体を捉えていた。
機体の駆動が止まる。カメラが捉えたのは、明確な殺意をもって剣を振りかざす敵の姿。
瞬間、思考より早く体が勝手に動いた。スピナーを駆動させて大きく後ろに後退。
トリスタンが空振りした一撃は、もしあのままその場所に留まっていればコックピットごと切り裂かれていただろう。

攻めきれない状況、徐々に収まっていくギアスの衝動に歯噛みしながらも息を整えるスザク。




その時だった。

「ぐべっ!!」

小さな悲鳴と共に何かが地面にぶつかるような音が響いた。

「痛た…、あれ、ここは…」

打ち付けた顔面を押さえながら立ち上がった、白い服に銀の鎧を纏った少女。

大空洞での戦いの後、崩壊する空間から抜け出すために空間の歪に飛び込んだイリヤ。
どこにたどり着くのかも分からぬまま、ただ直感でここに飛び込むべきだと判断し入り。
いきなり視界が開けた途端、地面に追突していた。

『おや、そのロボットは…、スザクさんですか!』
「イリヤスフィールか!」
「そう、あなたがそこにいるってことは、あの子が洞窟に呼び出した護衛は全滅したのね」

離れた位置でマリアンヌはイリヤがここにいる状況を把握する。

「間桐桜と乾巧の二人はどうしたんだ?」

イリヤは一人で出ていったわけではなくキュゥべえの導きでその二人を伴って出ていったはず。

「桜さんは攫われちゃって、巧さんは…」
「――そうか」

声色が下がる様子から察するスザク。

『それでそちらの状況ですが、あれは敵ですか?』
「ああ。彼女は説明したアカギの協力者の一人。マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアという騎士だ。
 会場施設破壊の最中に襲撃を受けた。その中で、…月をやられた」

イリヤのトリスタンを見る表情が鋭くなる。
手にした剣を構えてランスロットの横で対峙する。

『つまり、あれが我々にとってのボスということになるわけですね。
 …それにしても、空間の歪から抜け出したらお二方の戦う場に送り出されたというのは、何らかの意図みたいなものを感じますが』
「当然でしょ。多くの屍の上で生きているあなた達の因果は、収束しつつあるんですもの。
 運命はあなたが進むべき路へと導くはずよ」

言いながらも剣を構えるトリスタン。
ランスロットだけを相手取っていた先程と違い、今度はイリヤの存在も意識しているかのように複数の敵を、複数の己の部位を意識するような構えとなっている。

「さて、ナイトオブゼロと、アーサー王の力を宿した身の実力、見せてもらおうかしら」

言うが早いか、大きく横に軌道を描きながら二人の元に突撃をかけるトリスタン。
弧を描くように開かれた脚はイリヤの小さな体へと迫る。大きく上に飛び上がってその水面蹴りを避けるイリヤ。
その勢いのままにランスロットへと剣を振り抜く。
ランスロットもまたMVSを振り抜き剣を押し返さんと打ち合うが、移動の勢いも加わった一撃を弾く力を加えるには一瞬タイミングがズレてしまい後ろに弾き飛ばされる。
バランスを崩したところに腕の短刀型のハーケンが飛来。
構えたランスロットの脇の下をワイヤーが過ぎ去っていき。
大きく振るった腕にかかった遠心力がランスロットの体を絡め取る。
ブースターを吹かせながらMVSでワイヤーを切り裂こうと手に持った剣を繰るランスロット。しかしワイヤー回収の反動を生かして一気に距離を詰めてきたトリスタンの蹴りの衝撃で動きが止まる。
バランスを崩した方向に、思い切り腕を振り抜くトリスタン。


856 : 閃光のマリアンヌ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/10(火) 21:48:48 68faYMYY0

「うぇっ!?」

投げ飛ばされたランスロットの体は、飛び上がった空から風を纏った剣を振り下ろそうと迫ったイリヤの元へと迫っていた。
衝撃に吹き飛ばされる小さな体。ランスロットとイリヤの体が漆黒の地面を滑る。

「この程度かしら―――っ」

一息つきかけたマリアンヌは、咄嗟に剣を構えた。
地面を転がっていたはずのイリヤが、剣に纏っていた風を放出しその勢いで一気に距離を詰め、その体勢のままにトリスタンへと向けて剣を振り抜いてきた。

4メートル以上はある巨体に振り下ろされた少女の身長ほどの刃渡りの剣。その聖剣の直撃を受けるのはまずいが、受ける事自体は難しいものではない。
受け止められた一撃は質量差から拮抗することもなく一瞬で弾き飛ばされる。
その後ろから4つのスラッシュハーケンが飛来した。
イリヤに気を取られ一瞬反応が遅れその身に受けつつもその一つをつかみ取り逆に引き寄せる。
腕のハーケンを引かれたランスロットは、その勢いのままにトリスタンへと蹴りを放つ。
剣とハーケンで両手を塞がれたトリスタンもまた、マリアンヌの咄嗟の判断で回し蹴りを放って迎え撃つ。

衝撃で風圧が周囲に巻き上がり、イリヤの視界をなびいた前髪が塞ぐ。
互いの機体が反動で後ろに後退。

「共闘するのは初めてのはずなのにね。ずいぶんと思い切ったことに息を合わせられるじゃない」

大小2つの白い体を見ながら呟くマリアンヌ。
枢木スザクの技量は高く、多少の事態にはアドリブが効かせられる。
イリヤスフィールもその鋭い直感と周囲をよく見る目はこちらも目を見張るものがある。

二人を同時に相手にするのはよろしくない。長期戦になればなおのこと粘り続けた末に一瞬の隙を突かれる可能性もある。
そう隙を与えるつもりもないが、ただ念には念を入れておく必要がありそうだ。

「なら、こういうのはどうかしら?」
「えっ?」

そう言ってトリスタンの背部のコックピットが開き、中から一人の少女が飛び出す。
イリヤの前に着地したのはイリヤの頭一つ高い身長の、桃色の髪をした少女。
身長とは裏腹にまだ少女にしか見えない顔つきをしているが、なぜかその雰囲気は少女の持つものには見えなかった。
むしろ先に戦った黒きアイリスフィールのそれに近いものを感じる気がするほどだった。

「よそ見をしていていいのかしら?」

その言葉はイリヤに対してではなくその隣で行動の意図を図りかねていたスザクに向けたもの。
直後に隣に立っていた無人のはずのトリスタンがおもむろにランスロットへと距離を詰めて剣を振るった。
驚きつつも辛うじてその一撃を受け止めるスザク。

「あなたもよ、お嬢ちゃん!」

今度は思わずそっちを見てしまったイリヤへと向けられた言葉。
聖剣が少女の握っていた直剣を受け止める。

受け止められた剣には騎士王の力を宿したイリヤの体を押し込む力はなかった。
すぐさま押し返して反撃に転じようとした一閃は大きく空振る。
次の瞬間、屈んだ体から放たれた蹴りがイリヤの顎を捉えて蹴り上げる。

「っ」


857 : 閃光のマリアンヌ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/10(火) 21:49:03 68faYMYY0
目の前に火花が散る感覚に五感を乱されながらも、追撃の突きを手甲で受け止める。
直後、五感の調子も戻らぬ間にアーニャの細い脚がイリヤの首を絡め取る。
ふらつく視界の中に、迫る地面が映る。

イリヤの脳裏によぎったのは、地面に叩きつけられた後自身の体に剣が突き立てられる光景。
咄嗟に剣に風圧を纏い周囲に発散。マリアンヌの体は至近距離からの風に弾き飛ばされた。

「やっぱり英霊っていう存在は生身の人間を相手にするのとは勝手が違うわね。
 むしろギアスユーザーを相手にしてるのに近いのかしら」

イリヤは頭を抑えながら立ち上がり、距離を取りながら着地したアーニャ/マリアンヌの姿を見る。

突如横から轟いた音に耳を奪われる。
感覚が戻りつつあることを確認しつつ、アーニャへの警戒をそのままに視界を横にやると、トリスタンに押し込まれ後退したランスロットの姿があった。

「くっ、何だ、この動きは。さっきまでとまるで変化がない…!」

スザクの口から漏れた言葉には強い困惑があった。
トリスタンには誰も搭乗していない。だというのにその挙動は先程までのマリアンヌが乗っていた時と遜色ないものだった。
自動操縦でここまでの動きは不可能だ。

「どうしてって、当然でしょ。あなたが戦っているそれも、お嬢ちゃんの前にいる私も、どちらもマリアンヌなんだから」

このトリスタンは通常のナイトメアフレームとは仕様が異なる。
スザクの知らないことだが、マリアンヌの世界、ナナリーやアリスのいた世界においてはギアス能力をナイトメアフレームに反映させるための伝導回路が組み込まれているものがある。
他のナイトオブラウンズの機体もシャルルのザ・デッドライズが反映されるよう組み込まれており、このトリスタンも例外ではなかった。

そして自身のギアスによりエデンバイタルと繋がったマリアンヌは集合意識の中でも自我を保つことができていた。
そのギアスをナイトメアに反映することで、今行っているような、ナイトメアを己の手足のように動かしつつ少女の剣を捌くことを造作もなく行えるようになっていた。


「乗って動かす時と比べたら少しは技量も落ちてるかもしれないけど、あなた達を同時に相手にするのに比べたらこっちの方が楽よ」

言ってイリヤに向けて距離を詰めるアーニャと、ランスロットに向けて腕のハーケンを射出するトリスタン。

油断を切り捨て、改めてマリアンヌと対峙した時の意識を取り戻すスザク。
マリアンヌは技量が落ちていると言ったが、こちらに向けての嵐のような連撃と踏み込みには衰えがあるようには全く見えない。
操縦者が不在となったことで自動操縦だと考えた自分に隙があった。マリアンヌが乗っていた時と変わらないならばその前提の元で戦えばいい。
かといって、それで戦っても勝てる相手かと言われれば、動きを見るに容易い相手とは思えなかった。

トリスタンの射出したハーケンを大きく跳んで避けたスザクはブースターを吹かせて突撃、同時に腰のハーケンを打ち出す。
ハーケンを凌いだ体勢で大きく振り抜かれた剣は受け止め切れない。かといってあの大ぶりの剣は少しの回避動作で避けられるものではない。無論ハーケンを受けるのも致命傷になる。
大きく後ろに飛び退いてハーケンとその後ろから迫る剣を回避。飛び退いた状態で、再度ランスロットに向けて手のハーケンを全て射出。
避けようとしたスザクだが、その軌跡が全てランスロットに当たることなく横をすり抜けるものだと気付き即座にその場に停止。
地面に突き立ったハーケンを切り落とそうと剣を振るいかけたスザクは、視界に映った光を見てそこに向けてMVSを構えた。
トリスタンの投擲した剣が一直線にランスロットへと向かってきていた。思い切り剣を振るって弾き返す。
直後、ハーケンを戻した反動でこちらへと飛びかかるトリスタンの姿を目にする。
飛びかかり蹴りを放つトリスタンに向けて、腕にブレイズルミナスを展開した拳を叩き込む。

強い衝撃に押し返される2機。しかしブレイズルミナスを展開していたことで機体に直接的なダメージはなかった。
トリスタンを弾き飛ばした方を見上げるスザク。そこで目に入ったのは弾いた剣を宙で回収して振り下ろすトリスタンの姿。

軌道は直撃コース、しかし今の体勢では受け止めることができない。
瞬間、本能的に機体を動かし、剣を持った腕に向けて膝蹴りを放つように機体のブースターを吹かせた。
トリスタンは大きく勢いを削がれるも、振り抜いた剣の軌道は変えられずランスロットの胴体に傷をつけた。


858 : 閃光のマリアンヌ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/10(火) 21:49:18 68faYMYY0
着地に失敗したトリスタンから距離を取るスザク。
その額には汗が滲んでいた。

ギリギリの戦いを強いられている。しかし相手はこちらの手は知っているようで、よほどの一手でなければ致命打となる攻め込みを行ってこない。
生きろのギアスが受動的に発動させられづらい状況の中で、終わりの見えない長期戦を行うことがスザクにとっての大きな負担となっていた。



一方でアーニャと対峙するイリヤもまた、相手の技量に振り回され苦戦していた。
自身の性格と夢幻召喚したカードの英霊の特性から、どうしても踏み込みが一直線になりがちだったイリヤ。
それでも騎士王のサーヴァントとしての力があるならば並大抵の相手を蹴散らすことはできるだろう。だが目の前にいる相手は並大抵の範疇にいない存在だった。
対してマリアンヌは、その剣を真正面から受け止めずいなし、流してカウンターを打ち込み続けていた。
決定打にこそなっていないものの、一撃一撃は着実にイリヤの体にダメージを与えていた。

「少し剣と力に振り回されすぎね。それじゃ私には届かないわよ?」

膝をつきかけたイリヤに、更に幾撃もの剣が叩き込まれ続ける。
全てを捌ききれないと判断したイリヤは致命打になりそうなものだけを集中して対処。
腕や腹を切りつけられるが、頭や首、心臓を狙ったものや踏み込みが深い箇所は守り、防ぎ切った。
当たった攻撃も通常であれば大ダメージだっただろうが、英霊を宿しサーヴァントに近付いた身であればどうにか耐えられた。

(だけど…ダメだ、こんなのじゃ…)

これまでのような、力押しで勝てる相手ではないことはひしひしと感じていた。
最優のクラスであるセイバーだから戦えている。弓や槍のクラスのカードを使っていた場合、きっと押し切られていた。
英霊が弱いのではなく、自分が届いていないのだ。

もっと、相手をよく見ないと。
もっと、精神を研ぎ澄ませないと。

(――もっと…、セイバーの力を…!)


(諦めない心、ってのはやっぱり驚異になりえるものね)

そんなイリヤと剣を交えるマリアンヌは、冷静にイリヤの姿を分析していた。
こちらの動きについてこれていないが、そのこちらを見る目は諦めどころかこちらの動きに追随しようとさらに鋭さを増している。

一気に決めるのが得策なのだろうが、あの剣の英霊の体に致命打を加えることはマリアンヌの技量をもってしても容易なものではなかった。
増してや今は枢木スザクも同時に相手をしている状況。

(状況を動かせる何かでも起こればいいんだけどね…っ!)


剣舞を繰り広げ続ける2人の少女。
ワイヤーと剣を武器に舞い続ける2機の白い機体。

互いの戦いに集中し気付かぬ一同、そのすぐ傍の空間にも小さく亀裂が入っていた。




【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:「生きろ」ギアス継続中、疲労(大)、両足に軽い凍傷、腕や足に火傷、精神疲労
[装備]:ランスロットsiN@コードギアス 復活のルルーシュ
[道具]:基本支給品一式(水はペットボトル3本)、スタングレネード(残り2)@現実
[思考・状況]
基本:アカギを捜し出し、『儀式』を止めさせる
1:マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアを倒す


【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、右目の周りに火傷の跡、クロ帰還による魔力総量増大
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード(セイバー)転身中@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター、ランサー、アサシン、アーチャー、ライダー、バーサーカー、バーサーカー(転身制限中))@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
    ファイズギア一式@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:皆と共に絶対に帰る
1:スザクと協力してマリアンヌに対処。
[備考]


【マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア】
[状態]:疲労(小)
[装備]:トリスタン(遠隔操作中)@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー、MVS、長身両刃の剣
[思考・状況]
基本:今の己の役割に従い、目の前の二人を殺す
[備考]


859 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/10(火) 21:49:58 68faYMYY0
投下終了です。あと2話で本編終了予定です
暁美ほむら、アリス、鹿目まどか、間桐桜予約します


860 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:01:26 dXveI1Ew0
投下します


861 : 時間よ止まれ/時間は止まらない ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:02:47 dXveI1Ew0
「ところでほむら、あんたって普段どんなことして過ごしてるの?」
「何よいきなり。質問の意図が分からないわ」
「意図っていうかほら、こういう会話を通して互いのことをよく知るようになればって」
「知ってどうするのよ…」
「友達とこういう会話とかしたりしない?」
「覚えてないわ。私普段一人だし」
「じゃあこの話からそういうの開始ということで。あんた普段何して過ごしてるの?」
「何って…、街の散策とか……、あとは銃器の手入れ…?」
「ごめん、それは想定してない回答だったわ…」
「じゃあアリスは何をしてるっていうの?」
「私は……、あー、こっちも人のことは言えなかったわね。軍務に駆り出されること多かったから」
「そう」
「……」
「……でもさ、そこで銃器の手入れって回答出てくる辺り、普段どういう生活してるの」
「いざという時に不具合があったら困るもの。取りこぼすわけにはいかないから」
「ああ、確かにそうね」



止まった時の中で、2つの影が交差する。
黒いドレスを纏った少女と、学生服の少女が互いに攻撃を繰り出している。

黒い羽根と銃弾が空間を飛んでは静止していく中で、迫る少女は腕から生み出した黒い渦でそれらを弾きながら進んでいく。
いざ黒いドレスの少女の元にその腕が届こうという時には、相手は宙に生み出した黒い影の中に姿を隠し消失。

周囲を見回す残された少女は、背後の気配に気付いた瞬間即座にそちらに振り返り、そこにあった黒い影から現れた巨大な翼を自身の腕の渦で受け止めていた。

互いに一歩引いた瞬間時間が動き出し、周囲に撒き散らされた羽根の残りやぶつかり合った衝撃で生み出された羽根、攻撃の余波の影響が周囲に巻き散らかされた。
あちこちの地面が抉れ土埃が上がり、羽根が地面に突き刺さっていく。

時間を止めるほむらに対して、自身の時間を無限に加速させ光速をも超えることでその時間停止にも抗うアリス。
結果ほむらには自身の最大の武器であった能力に対して抗われたことで能力による優位性を喪失した形となっていた。

しかしほむらの顔には焦りはなかった。

黒翼から多数の羽根を撃ち出し、同時に時間を停止させる。
対するアリスもギアスを発動させて自身の時間を超加速、止まった時間の中で動き出す。

発動にほんの一瞬のラグが存在した故か、放物線状に放たれた羽根の中心にほむらの姿は既にない。
警戒するように周囲に意識を割くアリス。

次の瞬間、止まった時間の中では動くはずのない羽根が一斉に軌道を変えた。
一瞬意識が虚を突かれながらもそれらを弾き飛ばしながら周囲を伺う。

弾いた羽根は宙を舞い、アリスの視界外で軌跡を変え。
一斉にアリスの元に再度一斉に飛来。
追撃も避けるため完全に消滅させようと対消滅を構えるアリス。
その時、下から巨大な竜の爪のような影がアリスを襲った。


862 : 時間よ止まれ/時間は止まらない ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:03:06 dXveI1Ew0
咄嗟にエネルギーを下へと向けて迎撃。
エネルギーは衝撃波を生み出し周囲の羽根をも巻き込むが、いくつかはアリスへと命中。
肩を刺し脇腹を掠め、傷を作った箇所から血が滲み出した。

やがて時間が動き出す中で、割れた竜の腕は黒翼へと形を変えてその中からほむらが姿を見せる。

破れた翼に顔をしかめつつも、魔力を注ぎ込んで元の形へと戻す。

「随分と変な技使えるようになったじゃないの。
 いつからそんな化け物みたいな姿になったの?」
「ソウルジェムが割れてからよ。姿に関して言うならお互い様でしょ」

言いながらアリスの右腕に目をやる。
かつてほむらも相対したナイトメア、マークネモを思わせる紫色のプロテクターのようなものが腕を包んでいる。

「拳銃が通じるなら良かったんだけどね。
 あんたの攻撃が訳解んないものが多いから、こっちも手の内引っ張り出すしかないのよ」
「そう。ならお互い様ね」

時間停止を常時使わねばならないのはほむらにとってはそれなりに負担だった。
魔力消耗の負担をギラティナに押し付けている以上気にしすぎるものではないが、いつまで保つかが不明だ。
時間停止をせずに踏み込んだ場合、あの時間停止中にも動けるほどの加速を発動したアリスの攻撃が襲いかかるだろう。

一方でアリスにとっても時間停止の対応に最大レベルまで加速させたギアスを使うことは大きな負担であった。
ギアス能力を酷使しすぎたロロ・ヴィ・ブリタニアがギアス使用の副作用で体を崩壊させたように、使用のしすぎは人体には害となる。
魔女の力を受け継いだアリスにとっても無視できるものではなかった。

互いに、自身の体の負担があるにも関わらず、目の前の相手のことを全力で叩き潰そうとしている。

鹿目まどかに強く関わりがあるでもない事象に、必要以上に力を注いでいる自分がいることに驚きを感じていた。

ナナリーを生き返らせるための障壁であるにはしろ、自分でも驚くほどには力を入れていると自嘲するように思った。

互いにそんな感情の自覚を振りほどくように時間を止め/加速させ、動いたのは同時だった。
翼の爪と対消滅を備えた腕をぶつけ合った瞬間に、互いの口に無自覚に笑みを浮かべている姿が、互いの視界に映っていた。



時間を止め時空間を歪めながら戦っている二人。
そんな姿も、それを見ている鹿目まどかには全く視認することができぬものだった。

隣にいる間桐桜は、まどかには分からない謎の力で宙に浮いている。
下にいるポッチャマと共に、色々と手を加えてみたが、この拘束を外すことはできなかった。

ほむらが自分のために戦っている。それは何となくだが、これまでの会話の中で察していた。
だが、ここまでのことをされる理由がまどかには分からなかった。

目の前で戦う二人の傍で、自分はまたその姿をこうやって見ているしかない。
戦いに加わることも、戦う彼女の心境を知ることもできず。

ふと視線の先にいるポッチャマに目をやる。
彼は戦う二人の姿を前にしていながら、意識はどこか間桐桜の方に向いているように見えた。
静かに激情を抑えているように見えるその目は、きっと自分の友達を彼女の手にかけられたことが影響しているのだろう。
もしもポッチャマが間桐桜に手を出そうとしたなら、止められるかどうかはともかくとしてこの子のことを止めるんだと思う。
ただ、それでも何かを見ている、向き合おうとしているその目線は自分よりもずっと前を歩いているように思った。

(何で、私なんだろう…)

離れた場所、少なくとも自分に攻撃の余波が届くことがない位置で戦う二人の姿。
光景的にも心境的にも、とても遠くの世界の戦いに見えるものだった。

拘束された桜に対して何度か話しかけた。しかし全く返答はなかった。
まるで現実と関わることをどこか拒絶しているかのように、沈黙を保ったまま。

なんとなくだが。境遇や行いは全く違うが。
彼女の見ているものは、今の自分が思っているこの隔絶感、虚無感に通じるものがあるような気もした。


863 : 時間よ止まれ/時間は止まらない ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:03:23 dXveI1Ew0

何の力もない自分。
持っている道具も拳銃、姿を隠す帽子、苦無、そして使うことのできないカードが一枚。

(私に、何ができるの…?)

ふと、一時的に攻撃を止めた二人の姿が目に入った。
何で、戦うの?疑問ばかりがまどかの脳裏を堂々と巡っていく。

(止めて、二人とも…)

ただの印象だけど、アリスは一緒にいたらしいほむらとはそれなりに仲が良かったらしい。アリスの話す様子からはそんな雰囲気が伺えた。
なのに、どうして戦うのだろうか。

(何で、ほむらちゃんは…)

ただ桜の足元で、あわあわと困惑するような動きをする黒い小さな影がいた。
その様子が、まるで自分の姿を、心を表しているようにも見えていた。



「ポチャポチャ」
「ほむらってさ、小さい生き物は嫌いなの?」
「何よいきなり」
「ずっとこの子目の敵みたいに敵視してるから。
 理由でも分かればこっちも気の使いようとかあるし」
「別に気を使うことなんてないわよ。
 生き物が嫌いなんじゃない、よく分からない生き物は警戒しておくべきって思うだけよ」




「何か随分と気を赦すようになったんじゃない?
 わけの分からない生物は嫌いって言ってなかった?」
「嫌いなんじゃないわ。とりあえずこいつには利用価値があるって分かったから。
 少なくとも変なことをしてくる様子もなさそうだし」
「利用価値って…。あんたもう少しそういう言い方とか考え方とか変えられないの?」
「性分なのよ。今まで私なりにやろうとして、うまくいったことがなかったからこんな風に生きるしかできなくなっただけ」
「じゃあ、私に対してもそういう冷めた感じで付き合ってきてるわけ?」
「―――そうよ」
「ふぅん…」




攻撃を互いに交え続けてどれくらいの時間が経ったか。
時間停止と超加速の応酬も、何度も続けていれば能力の形もおぼろげながら把握できるようになってきていた。

まずアリス。
時間停止の際は遠距離攻撃を行うと止まった時間の中で射出物が停止する欠点があることは聞いていた。しかし今はその法則に縛られず放たれた攻撃は動いている。
虚を突かれはしたが、威力自体は拳銃の弾丸程度。後は空間移動とほむらの翼が竜の爪となって攻撃してくるくらいだ。
ネモと契約した際の副産物であるマークネモの外装をもってすれば防げぬものではない。
ただ、羽根の軌道が不規則で読みづらいものが交じることがあることだけが問題だった。
時間停止の中で最大加速して動いている中で行動を確保している関係から、その止まった時間の中で銃弾の速度で飛来するものは対処できなくはないが厄介ではあった。

一方でほむら。
本来持っていた時間停止時の遠距離攻撃の制約は己に発現したギアスで軌道を思うままにすることで克服していた。
魔法少女であった頃の能力と発現させたギアス能力は並行しており干渉しあうことがないのは幸いだった。
大きなアドバンテージを得たはずだったのにアリスが時間停止そのものに対応してきたことで優位性が大きく減らされてしまった。
銃弾の速度にも対応してくる反応速度の前では、空間移動と羽根を使ってのドラゴンクローも対処されてしまっている。
だから、戦い方を変えた。

時間が止まる。同時にアリスの超加速のギアスも発動する。
視界を覆うようにばら撒かれる羽根。消えるほむらの姿。幾度となく見たパターンだ。
攻撃を防ぐために一歩踏み出しながら腕にエネルギーを集中。

次の瞬間、時間停止が不意に解除、無限の加速の中で踏み出した体と目の前に迫る羽根がぶつかりあう。
防御タイミングを見失いながらも、ギアスの速度を瞬時に制御。しかし間に合わず体にその羽根が突き刺さる。
プロテクターの侵食が既に胸部まで届いていたおかげで心臓や肺などの重要器官へのダメージは避けられたが、体のあちこちを羽根が切り裂いていく。
第二陣が飛来する前に、腕のエネルギーを地面に叩きつけ周囲全面にエネルギーを爆発させる。
羽根は吹き飛び地面へと落ちていく。


864 : 時間よ止まれ/時間は止まらない ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:03:39 dXveI1Ew0

息をついたところで時間停止を確認。ギアスを発動するもその一息が反応を遅らせた。
その後ろに現れた影から黒翼のドラゴンクローを放つほむら。
体を切り裂こうと迫ったその爪が、アリスの体に触れる直前で霧散した。
ほむらの視線の先には、アリスの対消滅のエネルギーが爪の軌跡上に置かれ消し飛ばしていく様子と、こちらにもう一方の腕を振りかぶって突っ込んでくるアリスの姿。
拳が頬を捉え、時間停止解除と同時に吹き飛ばされるほむらの体。

地面を転がりながらも勢いのまま起き上がるほむら。
一方アリスは羽根に切り裂かれた出血、ダメージから膝をつく。服はボロボロになりつつあるが、服の下はアリスの肌ではなく異形の鎧が姿を見せている。

「今のは見えなかったわ。ずっと手を隠してたってことかしら」
「別に。力に慣れてきたからできるようになっただけよ。
 あんたこそ何やってくるのかの手が読みやすすぎるんじゃないの?」
「…そうね、私の戦い方は基本的に時間を止めての力押しだものね。
 武器が変わってもそこはなかなか変えられないものね」

能力の使用機会に恵まれず使い勝手を知るタイミングがなかったが、ここにきて何度も使用を繰り返したことで精度が上がったアリス。
一方で強力であるがそれゆえに能力そのものに応用性が効かず練度を鍛えることもなかったほむら。
ほむらにしてみれば小細工で工夫はこらしてきたが、能力としては完成してきたため今更変えようもなく。
かといってギラティナの力の練度を上げている暇はないだろう。

羽根を広げつつ、懐に手を入れるほむら。

「だから、更に力押しでいくわ」

取り出したのは、一枚のカード。
弓を構える兵士が描かれている。

アリスが駆け出した時には既に準備は終わっている。

―――美樹さやか、あの子にもできたことだもの。私にだってできるわ。

「夢幻召喚(インストール)」

時間停止と共にほむらの姿が光に包まれる。

何をしようとしたのかは分からないが、良からぬことをしようとしていることはアリスにも察せられた。
しかしその光の元を蹴り飛ばした時にはその姿は既に消えていた。

周囲を見回すと、あちこちにほむらが現れる際に出現する黒い影が浮遊している。
どこからほむらが現れても対応できるようにと警戒するアリス。

その時、その影の中から一斉に様々な武器が飛び出した。
剣、槍、短刀、斧、様々な形状の武器が同時にアリスに向けて飛びかかる。
迎撃しようとしたが直感が警告を発し、大きく飛ぶことでそれらの武器を回避。
互いにぶつかるその重厚な金属音を耳にして、あれを銃弾や羽根のように迎撃しようとすれば逆に体を貫かれていたかもしれないと察する。

足場がなくバランスも取れない状況の中で、アリスの元に更に追撃の剣が飛び込む。
身を捩って避けつつ、その飛び込んだ剣を踏み台に地面に足をつけようと飛んだところで。
着地する付近の地面に現れたほむらが、手にした剣を振るった。

加重力操作により着地のタイミングをずらすことで剣の直撃は避けるも、振るった剣が冷気を生み出し周囲を凍りつかせる。
冷気はアリスの足の表面をも凍りつかせ、移動速度を奪う。

瞬時にほむらの背後から赤く輝く巨大な剣先のようなものが見えたと思うと、そこから焔の刀剣のようなものがアリスへと振り下ろされた。
熱がアリスの足の氷を溶かした一瞬で飛び退くが、掠めた剣先はアリスの肩から胸にかけて焼き焦がした。

時間停止が終わったところでほむらを見る。
黒いドレスと翼はそのままに、脚に金色の鎧を装着している。

「英霊の力を身に宿すことができるカード、らしいのだけど。
 何かあった時に使えって言われてたけど、なかなかに強力なものね」

それまで移動に使っていた影ではなく金色の輪の中から、幾重にも金色の鎖が飛び出す。こちらを拘束するつもりなのだろう、アリスの周囲を回り続ける。
速度を調整したギアスで飛び退き、回る円が縮まりアリスの体に触れる前に回避。

時間停止を発動される前に接近しようと地を蹴ると同時にギアスを発動させようとしたアリスの目の前で大量の刃が剣山のごとく生えた。
刃の中に突っ込みかけた脚に急制動をかけ宙に飛び上がる。

次の瞬間時間が停止。同時にほむらが距離を詰めてこちらに飛び込んでくる。
飛翔しながら黒い影に手を突っ込み何かを取り出す。
目には映らなかったが何かを構えるその様子から透明な武器だと察するアリス。

ギアスは発動させたため時間停止には対処できているが、宙高く飛びすぎたこともあり移動のための足場や掴めるものが何もない。
見えない斬撃を腕で防ぐ。弾き返すことには成功するも間合いを測り損ねたゆえか腕の装甲に亀裂が走った。
更に不可視の武器を振るうほむら。その背後には逃さないと言わんばかりに金色の輪から剣が見える。

「っ!!ああああああああっ!!!」


865 : 時間よ止まれ/時間は止まらない ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:03:57 dXveI1Ew0

どうにかしようと頭を振るった瞬間、アリスの後ろ髪が変質。
スラッシュハーケンとなった髪を動作させほむらの腕を絡め取り、一気に地面に叩きつけた。
不意の攻撃に対応できなかったほむらは地面を転がり。
その勢いに乗ることで地に足をつけたアリスは駆け出し地面に突き立っていく剣を回避。
倒れたほむらの元まで走り、その体にスラッシュハーケンを射出。
ほむらはそれが命中する一瞬前に自身の体を影の中に隠すことで回避。

時間停止が解除されると同時に、ほむらはアリスと距離を取った場所に姿を表した。

「…本当、随分と化け物じみた外見になってきたじゃないの」

僅かに刃を掠めてしまった頬の傷を拭いながらアリスを睨むほむら。

後ろ髪のワイヤーと短剣は元より、前進を黒い鎧のような外骨格が覆っている。
生身の部分は既に頭部と顔周りだけだ。

「あんたも鏡、見てみなさいよ」
「今となってはあなたほど化け物みたいな格好にはなってないわ」
「顔色の方よ。真っ白で目つきも酷いことになってるし、格好も合わせて悪魔みたいな状態よ」

ふと自分の目に手をやるほむら。
自覚がなかったが、素の目付きがまるで寝不足の時のごとく悪くなっているようだ。
鏡で顔色も確かめたかったが、さすがにそんな隙は晒せない。

「だったら何。これが私の目的のために必要な力よ」
「そう、だったら私の姿も、ナナリーの騎士足り得るために必要なものよ」

言いつつも息が上がりつつあるのをほむらは見逃していなかった。
しかし時間をかけすぎたことでアリスをあそこまで強化してしまったことも否めない。
ついでにアリス一人に時間をかけすぎるのもあと少しで終わる儀式の進行によろしくない。

「だけど、残念ね。ここまでよ」

空間を移動して距離を取り、一本の巨大な剣を取り出す。
いや、アリスの目にはそれが剣には見えなかったが。
まるで手持ち型のナイトメア用ランスを重ねて紋様をあしらえたように見えた武器。

直感的に気付いた。これからほむらはこれまでで最大の攻撃を仕掛けてくると。

その姿に意識を取られすぎたのだろう。飛びかかろうとした時に足が動かないことに気付いた。
視界の外で地面の影から現れた鎖が足を縛っていた。これまでの武器であれば気付けたかもしれないが、前を意識しすぎて足元までは気をつけていなかった。

「あなたもまだ、何か出せるんでしょう?
 出さないと、死ぬわよ」
「そうみたいね」

ほむらの出した剣が赤い渦を発しながら回転する。
それを見ながらアリスも構える。体のプロテクターが剥がれていき、アリスの背後に数メートルの黒い巨人の姿になって現れていく。
アリスを守る守護神のように現れたマークネモ、その手にエネルギーが収束していく。

「たぶん最後になると思うから言っておくけど。
 あなたと過ごした時間が案外楽しいものだったっていうの、あれは本当だったわ」
「そう、それは―――よかったわ。こんなことにならなかったら、もっとよかったんだけど」
「全くね」


866 : 時間よ止まれ/時間は止まらない ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:04:13 dXveI1Ew0

そう話す2人の口には僅かに笑みが浮かんでいた。まるで懐かしい過去を思い出すように。
しかし互いの距離が離れていることもあって、その事実には互いに、自分すらも気付くことはなかった。


「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)」

アリスを見下ろす形で、静かにそう呟き、手にした剣・乖離剣エアから膨大な魔力が渦を巻きながら放たれた。
同時にアリスの背後にいたマークネモの手に集まった対消滅エネルギーが、戦艦の放つ最大主砲・ハドロン砲にも匹敵するものとなって放出される。

暴風が吹き荒れ周囲を吹き飛ばす。
それは巻き込むことがないようにと離れた場所にいたはずのまどか達の元まで、彼女達が立っていることができないほどの風が襲いかかる。


アリスが全力で放った一撃は確かに驚異。
しかし乖離剣の放つ魔力は本来戦艦の主砲などに比べられるものではない。
拮抗しているその威力は英雄王が自ら放つそれと比較して威力が落ちていた。

そこには複数の理由がある。

まずほむら自身が安定性を求めるためにカードとの親和性を下げていたこと。
英雄王ギルガメッシュのカード一枚に収まりきらぬその人格は、カードの使用者の人格をも侵食することがある。
カードを使用した時己の人格に強引に入り込もうとするその存在に気付いたほむら。
故にそういったカードの与える負荷をソウルジェムと化した白金玉の本来の主であるギラティナに押し付けることで緩和した。
しかし故にカードとの親和性が低く、全身を覆うはずのギルガメッシュの装飾もほむらの脚に現れるに留まっていた。

そしてもう一つ。その己の力を使いながら、言ってしまえば力だけを都合よく取り出し使用するその姿勢が、ギルガメッシュ自身の怒りを買ったこと。
故にそのギルガメッシュの人格の抵抗によりカードの力を引き出すことに大きな制限がかかっていた。

王の財宝から武具を取り出すだけであればそう大きな影響はなかった。
しかし真名開放が必要となるこの武器についてはその制限が大きく響いていた。

本来の威力を知らないながらも火力の減衰には何となく気付いていたが、ほむらは重要視してはいなかった。

この一撃が拮抗している。正確に言うなら若干こちらが押しているという状況か。


そんな一撃を全力で迎撃するアリス。
ほむらも意識をそちらに集中させているが故か、脚の鎖の拘束が緩みつつあった。
自分とほむら。どちらの攻撃が勝るか。
悔しいがおそらく、向こうが勝つだろう。だから打ち負けた時が攻め時となる。
押し込まれこちらの砲撃が止まった瞬間、ギアスを発動して接近しこの攻撃に意識を向けているほむらを攻撃する。
この一撃に力を使いすぎた。おそらくそれが最後の攻撃になる。



(なんて、考えているのでしょうね)

その狙いをほむら自身も読んでいた。
逆の立場なら自分もそうするだろうという仮定からそう思った。
言うなれば今は早撃ちの決闘のようなものだ。
仕掛けてくるタイミング、仕掛けてくる方向。それらを一瞬で見極めなければならない。


暴風の中でただ互いの髪やドレス、服だけがはためき続ける。
10秒にも満たない時間が永遠にも近いものに感じられていた。

やがて放たれ続ける魔力の奔流を抑えきれなくなった対消滅エネルギーが押し込まれていき。
エネルギーを放出し続けた影響で限界を迎え崩れ落ちていくマークネモ、それでも砲撃だけは決して絶やさなかったその体が消滅し。
乖離剣の魔力に呑み込まれ霧散した欠片ごと吹き飛んでいく。

同時に、アリスはほむらの背後の宙に浮いていた。
その手には引き千切ったスラッシュハーケンの小さな刃が握られていた。

加速させた体をほむらに向けて突撃させて。
同時に時が止まり。ギアスを最大駆動させて止まった時間の中を駆け。

ドラゴンクローを放つ翼がアリスの行く先を阻もうとする。
が、ほむらの顔に焦りが生まれた。翼の変形が間に合わない。

(あんたが、律儀なやつで助かったわ…!!)

もしここでほむらに空間移動で逃げられていれば勝ち目はなかった。
様々なものに賭けた。
ここで自分を迎え撃ってくれること、そこで自分が迎撃より早く攻め込むこと。

前者については、ある意味ではほむらのことを信じたとでも言えるのかもしれない。

(そうね、あんたは律儀なところがあったもんね…)

目の前にいる少女に思いを馳せた。


867 : 時間よ止まれ/時間は止まらない ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:04:25 dXveI1Ew0



「あんたってさ、何ていうか口下手よね」
「そうね、自覚はしてるわ」
「どこかで話拗れさせそうな気もするのに何も喋らないようにしようとはならないのね」
「………」
「でもそういうのもいいと思う。
 黙り込んで喋らなくなるよりは少しは話そうとしてるの、んー何ていうか、少しでも前に進もうとしている?ような感じがあって」
「無理に褒めようとしてないかしら?」
「いや、そんなことないって!!別に今ちょっと考えたとかなんてことないから!!」
「―――」
(あれ?今少し笑った?)
「さっさと進むわよ」


関係ないのに脳裏に不意にほむらと一緒にいた時の記憶がよぎった。
よぎってしまった。

(あっ、クソ。しまった―――)

ほんの刹那の隙。
それがアリスの振るった刃の軌跡を鈍らせた。

翼を引き裂き胸にかけてを切り裂いたが、ほむらの核であるソウルジェムには大きく空振ってしまった。

同時に時間停止が解除。アリスのギアスも停止した。
急制動をかけすぎた影響で脚が鈍ってしまった。振り返るのが遅れた。

ほむらのもう一方の翼から形成されたドラゴンクローがアリスの体を抉り突き飛ばし。
まだ周囲を舞っていた乖離剣の爆風を吹き飛ばしながらその体は転がっていった。

「あなたは、いい友達だったわ。だけど」

肉体に受けたダメージから排出されたクラスカードを手に取り、投げ捨てながら。
その過去は振り返らないとばかりに振り向くこともなく。

「さようなら。私の勝ちよ」

殺し合いの儀式の中で唯一と言える、育んだ友情に、別れを告げた。


868 : ナイトメア・オブ・ナナリー ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:05:43 dXveI1Ew0
(―――不味った、なぁ)

吹き飛びながら悔やむアリス。
大きく脇腹を抉り取られた体は、痛みも感じることがなかった。
これが致命傷だということは、助からないことは分かっていた。

ほむらをあそこで仕留められなかった時点で死を覚悟していた。今更驚きもしない。

地面に激突し転がる体。
体を起こそうとするが、力が入らなかった。
同時に、肉体がダメージを自覚したのか傷の痛みが体を侵食してきた。

(――アリス)

ふと耳が自身を呼ぶ声を捉えた。
表情を顰めながらも顔を上げると、そこには白く丸い人形が浮遊していた。
顔に該当する場所にはギアスの紋様をつけているだけのそれは、どこか怒りを湛えているように感じられた。

「ネモ、か」
「ここで死ぬつもりか?
 お前はナナリーを生き返らせるために契約しただろう」
「………」
「もしまだ戦う覚悟があるのなら、その約束を果たす気があるのなら。
 左に2メートル進め」

言われるままに、体を進めた。
動くたびに血が、内臓が体から漏れ出しているのを感じる。
それでもまだ体が動くのは、ネモが生かしているのだろう。

手が何かに触れた。
傷だらけの体と顔に大きな傷を作って右腕がない少女。
その体には
その顔は忘れない。間桐桜だった。
うつ伏せの体は、起きているのかどうか分からない。


「そいつを殺せ。
 ナナリーの仇であるその女を」

ネモはそう呼びかけた。


869 : ナイトメア・オブ・ナナリー ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:06:04 dXveI1Ew0

「躊躇うことはないだろう。お前はナナリーの騎士なのだろう?なら主の仇を討つのは当然のことだ。
 私は契約者の負の感情を食らうことで力とすることができる。その怒りが、憎しみがあれば、お前の傷を癒やすことも可能だ」
「………。こいつを殺せば、私はまだ立ち上がれるんだな…?」
「そうだ。こいつ自身も死を望んでいる。お前はまた立ち上がれる」

通信機越しに見た時の姿を思い出す。
生きる気力も感じられず、まるで裁きとして死を望んでいるようでもあった。

「殺して、ください…」

いつ目が覚めていたのか、あるいは最初から意識はあったのか。
私の呟きに反応したように、自分の死を望む言葉を漏らした。

彼女自身も死を望んでいる。
彼女を殺せば、私はまだナナリーのために戦える。
そして何より、ナナリーを傷付け裏切ったこの女のことが、許せなかった。

(そうだ。私は、ナナリーの騎士なのだから…)

ゆっくりと、アリスはその手を持ち上げ。
ネモの気遣いかいつの間にか手の中に握られていたハーケンの短剣を振り上げた。



『生きている価値が、今のあなたにあるのかしら?』
『あなたが一緒にきたあの2人はああ言っていたみたいだけど。
 あなた自身は自分のことを許せているのかしら?』

許せていない。
大切な恩師を手にかけた自分のことを。

『耐えられるのかしら?あなたが殺した人たちから向けられる怨嗟の声に』
『何人殺したのかしら?その殺した数の人たちの友達・家族に、あなたは顔向けできるの?』

できない。
顔をあわせることなど。

こんな私でも一緒に罪を背負ってくれると言ってくれた人がいた。
生きることを諦めるなと言ってくれた人がいた。
そんな言葉に安らぎを感じる自分がいたけど。
心のどこかでは、それが何より辛いと感じてもいた。

もしかしたらと思う気持ちがないわけではなかった。
そんな中で目の前の少女の言葉を耳にしてしまったことでその思いは砕かれていた。

『もしあなたが自分の罪の贖罪をしようと思うのなら、この装置のための生贄になりなさい』
『そうすることで、救える人がいるの。その血塗れの命が、他人の役に立てるのだから』

弱った心にその言葉は毒であり、ある意味では救いでもあった。
考えるのを止めて、ただ時がくるのを待てばいい。

そう思っていたのに。

目はほとんど見えない。片目は失われ、もう片方も視力はほとんど残っていない。
ただ、潜在的な魔力不足の飢え、多くの人を捕食してきた影響か生命力や魔力に準ずるものを持ったものの存在を感じることはできる。
だから近くにいる少女の存在を感じることはできた。

知っている。ナナリーの友達の女の子だ。
ナナリー。私を助けようとして暴走する私に立ち向かった、だけどその言葉を聞くことなく私の闇で侵しただの操り人形にしてしまった少女。
勇敢で優しい子だった。

この子はさぞ私のことを恨んでいるだろう。憎んでいるだろう。
これも運命なのかもしれない。

「殺して、ください…」


870 : ナイトメア・オブ・ナナリー ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:06:21 dXveI1Ew0

絞り出された言葉は、懇願だった。

強い怒りを感じる。
激しい憎しみを感じる。
振り上げられた腕に、殺意を感じた。

これで、苦しみから解放される。

(これで、休める―――)

パキリ、と。
何かを断ち切るような音が聞こえた。
同時に体を縛っていた感覚が消え腕や脚が動くようになった、

体を拘束していた赤い鎖と羽根の拘束具が断ち切られていた。

「ゆる、さない」

怒りの声を吐き出すアリス。
その手に握られていた短剣は拘束具を断ち切った後地面に突き立てられていた。
まるでそれの更なる使用を封じるかのように。

「ナナリーを殺したあんたのことを、私は赦さない…。
 だけど、その責任から逃げて死んで楽になろうとすることは、もっと赦さない…!」

アリスは息も絶え絶えの状態で、それでも最後の力を引き出すように私の体を引き起こした。

「もし、罪を償いたいって思うなら、赦されたいって思うなら、生きて償え…!!
 汚した手を、背負った罪を忘れずに、だけど精一杯それが自分で赦せるようになるまで良いことをして。
 人の役に立って多くの人を笑顔にして、あんた自身も笑顔で生きて、その果てに死ね…!!」

座り込んだ体で、アリスの体を見る。
その命の灯は既に消えてしまいそうなほどに小さかった。
最後の力を振り絞って、私を殺すことなく立ち上がらせるために力を使っていた。

「生きていて、いいんですか…?」

頬を伝うものがあった。
泣いているのだと気付いた。

「私は、生きる資格があるんですか…?笑顔になって、いいんですか…?」

もう無くしたと思っていた。もう笑顔になってはいけないのだとずっと思っていた。

「笑顔になっていい、じゃないの。笑顔にならなきゃ、いけないのよ。
 あんたが、どんなに辛くても、いつか、笑えるように」


いつか、大切な人に言われた言葉が脳裏をよぎる。
悪いことをした罪を許し、共に背負ってくれると。
もう彼はいない。だけど彼の遺した思いに、私は助けられた。

ふと、目の前に彼が立っている気がした。
もう絶対にいるはずがないのに。
私の前に手を差し伸べて。

その手を受け取って、立ち上がって。
そこには誰もいなかった。

「私が、やることは…」

ふと、こちらに向かってくる大きな魔力の塊を感じた。

ゆっくりと、足を一歩ずつ前に踏み出し始めた。




アリスへとトドメを刺した後、ほむらが優先的に向かったのはまどかの元だった。
激しいエネルギーのぶつかり合いの衝撃は、離れた場所にいたまどか達の元へも届いていた。
気を使ってはいたが、戦いが長引く中で意識できなくなっていたところもあったのだろう。
意識していれば、逆にアリスに勝てなかったかもしれないが。


871 : ナイトメア・オブ・ナナリー ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:06:48 dXveI1Ew0

だが、幸いなことにまどかの命に別状は見られなかった。
意識は失い、体のところどころに汚れは見えるが、怪我をしている様子はなく心拍や呼吸も安定している。

可能であれば安全な場所に置きたい。
シャドーダイブを使用した時に移動する裏の世界であれば安全かもしれないが、生身の人間をそこに置くことが何を起こすかが分からない。
とはいえ、今この場ではもう戦闘が起こることはないだろう。

残っているのは最終兵器起動のためのタンクとなった間桐桜。あとポッチャマ。
あれらに自分に抗う術も意思もない。

ただ乖離剣を使用した影響もあって空間が崩れつつあるのが問題だが。
会場が壊れ、残った参加者が一同にこの空間に現れた時、まどか以外の参加者を皆殺しにする。
その時までに自身の傷を癒やし、まどかの安全を確保しなければならない。

まどかを寝かせ、間桐桜の元へと歩を進める。
死んで貰っては困る。安全だけは確認しなければならない。

やがて、こちらに向けて歩いてくる一つの影が目に入る。

「…間桐桜、どうして拘束が解けてるの?」

鎖や羽根で編んだ拘束具がなく、間桐桜はゆっくりと歩いている。

「戻りなさい。あなたがいる場所はそこじゃないでしょう」

残った片翼を繰り、桜の周囲にまた羽根の縄を編む。
迫った縄が桜の体を縛ろうとした時、その目前で縄が、正確にいうとそこに込められた魔力がかき消えた。

「………」

桜の周りに、等身大ほどの黒い影が数体姿を表す。

「そう、抗うというの」

アリスの差し金か。厄介なものを残してくれた。

「私も、戦います。
 自分の罪と向き合うために。先輩やナナリーちゃん達のように、みんなの力になれるように…!」

虚空しか移していなかった瞳には強い決意が映っていた。
基本的に好意的なものだったはずのそれは今のほむらには鬱陶しいものだった。

ほむらは小さくため息をついた。




殺す気だった。殺意はあったはずだった。

なのに、刃を振り下ろそうとした瞬間、ナナリーの言葉が脳裏をよぎった。

『桜さんにも見せてあげて欲しいの…。
 もっと優しい、あんな悲しみや絶望に負けないくらいに、喜びに満ちた世界を』

最後まで自分を殺した相手を恨むこともなく、ただ彼女の心配だけをしていた。
そんなナナリーの姿を思い出した瞬間、殺すことができなくなった。

結局、最後に尽きそうな命の中でできたことは、仇を討つことではなく。
その仇に一歩踏み出させることだった。

ナナリーの願った世界に向かうための、一歩を。

ゴロリと仰向けになる。
ふと手元を見ると、体が崩れ始めていた。


872 : ナイトメア・オブ・ナナリー ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:07:34 dXveI1Ew0
間桐桜を、ナナリーの仇を殺せなかったこと。
それが契約不履行として決定的だと見なされたのだろう。
ネモに見捨てられたことで、もはや生存する術はなくなった。

結局、ナナリーのための騎士としてはいられなかった。
だけど。

「…これで、いいんだよね。ナナリー」

ナナリーの意志を汲み受け継いでいく、そういう意味では。
ナナリーの騎士でいられたのだと。

最期に閉じた瞳の先で。
ナナリーが微笑んでいたような気がした。


【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー 死亡】





崩れ落ち消滅していくアリスの体を見ながら、ネモは憤慨していた。
ただ仇を殺すだけでよかった、その役割を放棄したアリスに対して。

もはやナナリーを蘇生させる願いは潰えたと言ってもいいだろう。
ナナリーの仇が生きていることも忌々しかったし、アリスを殺した女に対しても強い怒りを感じていた。

間桐桜は暁美ほむらと戦っている。
どうするか。共倒れになってくれる方が好ましいが。
しかしこの身一つでできることはない。


ふとネモの視線に、遠くに倒れている一人の少女の姿が映った。

一か八か。それもどこまでのことができるか。
だがもはや消えるだけの体。賭けてみる価値はある。

影に溶け込み、静かにその傍へと進んでいった。


873 : コネクト ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:09:03 dXveI1Ew0
アリスとほむらの最大攻撃がぶつかり合って生まれた衝撃波に吹き飛ばされたまどかは意識を失っていた。

その中で、まどかは不思議な夢を見ていた。
まどか自身には何だかそう感じられた。

夢の中の自分は魔法少女になっていて。
無力な私ではない魔女と戦い人を守ることができる。
嬉しかったし、生きているという、私がここにいるという実感があった。

毎日がとてもキラキラしているように見えて。
こんな私でも、誰かのためになれるんだって思えて。

マミさんが隣にいて。
さやかちゃんや杏子ちゃんも一緒にいて。
ほむらちゃんは―――

(ほむらちゃん…?)

ほむらちゃんだけいない。
どうしてなんだろう。


「おい」

唐突に、何かに話しかけられた。
小さな、泥人形のような何かが浮遊していた。

「鹿目まどか。私が見えているか?」
「あなたは…?」
「私はネモ。アリスに力を与えていた存在だ。
 だがアリスが死んで体が維持できなくなったのでな。お前に話を持ちかけにきた」
「えっ…」

心に衝撃が走った。
また一人、友達が死んだ。


874 : コネクト ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:09:23 dXveI1Ew0
それはつまり、ほむらちゃんが。

「まだ目を覚ますな。夢の中だからこそ実体化に耐えられてるんだ。
 それに時間もない。話を切り出させてもらう」

夢の中で映っていた光景が消えて風景が変わる。
どこかの遺跡のような場所に、大きな門があった。

「ここは…」
「私の還るべき場所、エデンバイタルの門だ。ギアスユーザーの能力はこの向こうから発生している。
 ここは数々の平行世界と繋がっている。この儀式の場であれば、各々の世界と繋がることも可能だ。
 お前の世界のあらゆる過去、未来、IFの世界、その全ても見ることができる」
「私を、どうしたいの?」

門の先。
もしかしたら、どうしてほむらちゃんがこんなことをするようになったのか分かるのだろうか。

「お前には、お前の世界と接続してもらいたい。
 過去未来、だけではない。おそらく暁美ほむらの過去とも繋がることができる。
 あいつが過去に何を経験したか、何を思って今の力を得るまでに至ったのか、それを見ることができる」
「何で、私なの?」
「今この場にいるのがお前しかいないからだ。
 加えて今の私の力でできるのはここまでしかできない。
 言ってしまえば悪足掻きだ。
 ナナリーを生き返らせる術を無くして存在意義の無くなった私にできる、最後のな」

口調からは悔しさが感じられた。
キュゥべえの時と比べて感情を感じられる分、信じられそうな気がした。

「見返りは与えられない。だから懇願になる。
 接続したところで何か得られるかは分からない。ただ見るだけで終わるかもしれない。
 もしエデンバイタルと接続することで、何かを得ることができたら仇を取ってくれ…とは言っても受け取ってはくれないだろうが。
 せめて戦ってほしい。あいつに一泡吹かせてほしいんだ。このままやられたまま消えることはあまりにも悔しい」
「……」

この先にいけば、ほむらちゃんがなぜ戦うのか、あんなふうになったのかが分かるかもしれない。
でも、分かったところで戦えるのだろうか?
キュゥべえがいればあるいはとも思ってしまうほど、自分の無力さは分かっていた。

だけど。

「分かった。お願い。その先に何があるのか、私に見せて」

それ以上に、今にも消えかけているこの人形の願いを無下にすることもできなかった。

「一度だけだ。それもお前の精神力が続くまで、それ以上やればこの夢が覚めるからな。
 だから、しっかりと見届けろ。何かを掴んでこい」

最後にそう言い残して、ネモの体は光の粒子となって消えていき。

同時に開いた門の中に自分の意識が同化していった。


875 : コネクト ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:09:39 dXveI1Ew0





眼鏡をかけた三編みの少女がいた。
自信なさげに歩みを進めるその子の姿は、どこか見覚えのあるようにも感じられた。

(あれ?もしかして、ほむらちゃん…?)

面影はあった。だが雰囲気が自分の知るそれとあまりに違いすぎた。

彼女の纏うどこか陰鬱な空気に引かれるように、魔女の結界に入っていき。


『クラスのみんなには、内緒だよ!!』


そんな彼女を助けたのが、魔法少女の自分だった。

その出会いを通して、その時の私とほむらちゃんはより絆を深め仲良くなっていき。
別れは訪れた。

ワルプルギスの夜との戦いの果てに、命を落とした私。
その亡骸を前に、ほむらちゃんはキュゥべえに願った。

『彼女に守られる私じゃなく彼女を守る私になりたい!!』

その願いの元、時間を巻き戻す力を得たほむらちゃんはまた私との出会いからやり直した。
魔女の真実を知るまでには、そこからそう時間はかからなかった。

誰にも信じてもらえず、空気も険悪になっていく皆。頼れたはずのマミさんすらも、真実を知って発狂してしまった。

『ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね?こんな終わり方にならないように、歴史を変えられるって、言ってたよね』
『キュゥべえに騙される前のバカな私を、助けてあげてくれないかな?』

他の魔法少女は皆死んでいき、2人だけが残った場所で、魔女化間際の私がそう願っていた。
最後にほむらちゃんにソウルジェムを壊されることを望んで。

その時のほむらちゃんの絞り出すような声が耳にこびり付いて離れなかった。

そこから、私の知るほむらちゃんとなっていった。
だけどどれだけ繰り返しても、私を助けられた世界はなかった。

何度繰り返しても、私を救うことができなかった。
まるで因果が私が救われることを拒んでいるかのように見えた。

私の危険性に気付いた魔法少女が、私の命を狙って襲ってきた世界もあった。
織莉子さんの姿もあった。そしてその世界では私は織莉子さんの手にかかって命を落としていた。

『役に立たないとか、意味がないとか、勝手に自分を粗末にしないで。貴女を大切に思う人のことも考えて!』
『貴女を失えば、それを悲しむ人がいるって、どうしてそれに気づかないの!?』

あの時言われた言葉。あの頃は混乱していたことも含めて意味が分からなかった言葉だった。
だけどほむらちゃんの歩んだ道を見た後だと心に突き刺さっていた。

もう止めて欲しいと思った。
あの時死んだ私も、そこまで苦しむことを望んで願ったはずじゃない。自分のことだからそう思う。

そこから、広い世界の中で特別細まった、先も見えない世界があることに気付いた。
これはきっと、今のこの儀式が行われている世界だ。

アリスちゃんと一緒に行動しているほむらちゃん。
ポッチャマに銃を向けているほむらちゃん。

一人静かに、会場に入り込んだキュゥべえと話すほむらちゃん。
織莉子さんに憎悪をぶつけて戦うほむらちゃん。

ソウルジェムを壊されて、それでも生きたいと願って奇跡を起こして生き返ったほむらちゃん。


876 : コネクト ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:09:53 dXveI1Ew0

そして。

『キュゥべえは、私に接触を図ってきたことを考えたら少なからずあの儀式に対して干渉を行っていたのよね。
 もしもだけど、私も干渉しようとしたら、許されるのかしら?』
『私から言える条件としては2つね。
 まず今現在、儀式は一時的な停滞期間になっているわ。積極的に人を殺せるような子達がいなくなってしまったんだものね。
 キュゥべえの見立てだとここから状況を動かそうとするなら、彼らが私達の元に近づいてくるしかない』
『つまり、そのための行動だというのなら、多少は肯定されると』
『そうね。そしてもう一つ、こっちが重要になるんだけど』

桃色の髪をした女の子と話している。
話の内容を考えると、アカギの仲間なのかもしれない。

『儀式として完遂するには、最終的に生き残れるのは一人だけなの。
 あなたは一度死んでいる分その縛りの範疇にはいないけど、干渉した場合その中に戻されるわ。
 参加者だった頃の刻印が消えていないから、会場に認識されちゃうのよね』
『つまり、例えば干渉しつつ狙いの誰かを生存させるためには、私も最終的に死ななければならないってことね』
『ええ。参加者ならいざ知らず、私達に取り入った以上二兎を取ることは許されないのよ』
『なんだ、そんなことなのね』

私を生かそうと考えているらしいほむらちゃん。
すごく不穏に感じる会話が聞こえてくる。

『そんなこと、なんて。自分の命の話なのに随分と軽いのね』
『私の命なんて、それ一つで全てのまどかを助けられるなら軽いものよ。
 それが叶わなかったから苦しんできたんですもの』
『ふふ、なるほどね』
 だけど、もしこの会場にいるあの子の命も捧げれば、全ての鹿目まどかを救った世界の中であなたも生きることができるのよ?』
『いらないわ』

悪魔の囁きにも聞こえる言葉、だけどほむらちゃんの答えは即答だった。

『あの子が幸福に生きる世界に、その隣に私がいる必要はないもの』
『ふふふ、本当に面白い子ねあなた。
 いいわ。あなたの望みに対して、私ができる限りの便宜を図ってあげる』

その先は、自分の知らないこの会場のことが見えて。
桜さんを拉致する経緯、乾巧さんやニャース、夜神月さんの顛末まで見えて。

そこで世界の記録は途絶えた。
この先は、まだ未来がないということなのだろう。


(ほむらちゃん……!)

私なんかのために、などとはもう言えない。
もしかしたら私のことすらも見てはいないのかもしれない。

きっと、あの時自分の手で死なせた"鹿目まどか"の願いに縛られているのだろう。

止めたい。止めるべきだ。
だけど、私には力がなかった。

ネモは何かを得られるかもしれないと言っていた。
だけど、見ないほうが良かったと後悔していた。

そんな事実を知っても何もできない。ただ想いだけが募っていく。

(アリスちゃん…、美遊ちゃん…、Lさん…、さやかちゃん…、みんな…。
 私、どうしたらいいの…)

魔法少女になるべきではない、それは分かっていても。
だとしたら、どうすればほむらちゃんを止められるのか。

拳銃で戦えるだろうか。苦無一本で何かできるだろうか。
姿を隠してどうなるだろうか。
このカードで、何かできないだろうか。

ただ、ひたすら願いを込めながらぎゅっとカードを握り込んだ。
これを使って美遊ちゃんのように、戦えればいいのにと。

これが使えないものだというのは聞いている。
実際に美遊ちゃんに渡した時も、これは何の反応もしなかった。
万が一の時に間違えて取り出してしまった場合大きな隙になるから預けられていた、それだけの道具だ。

まるで今の私のよう。

そう思った時、カードが光りだした。

―――ほむらちゃんを、止めたい?

誰もいない背後から声が聞こえる。
その言葉に肯定した。

―――だったら、私の力を使って。いつか辿り着くはずだった、この力を。

どこかキュゥべえの勧誘を思い出してしまいそうになる。
だけどあの言葉と違って、これは不思議と信じられる気がした。

光るカードを手に握って。
いつか美遊ちゃんが私を守ろうとした時に唱えたそれと、同じ言葉を呟いた。

同時に、静かに意識が夢の中から浮上していくのを感じた。




877 : コネクト ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:10:06 dXveI1Ew0

体のダメージは無視できるようなものではなかったが。
しかしアリスであればまだしも、目の前にいる相手と戦うのに影響するものではなかった。

消しかけてきた影の使い魔は時間を止めている間に全滅させた。
羽根を飛ばし二体、ドラゴンクローと化した翼を叩きつけて残る一体。

ただ、ドラゴンクローを叩き付けた際に僅かに魔力を吸われる感覚を感じ取っていた。

使い魔の全滅を悟った間桐桜は周囲に大量の小さな影を顕現させた。
ぬいぐるみのようなもの、小人のようなもの、水中の甲殻類のごとく全身に棘を生やしたオブジェ。

(奪った私の魔力を元に形成したのね)

オブジェは自分の近くに近寄らせないように配置され。
ぬいぐるみや小人は隙間を縫ってこちらへと飛びかかってくる。

直接触れるには厄介だと見たほむらは時間を停止して空間の歪の中に飛び込み。
手の内に魔力を溜めて時間停止を解除、同時に位置を変えた歪の中から飛び出し。
襲いかかる影の軍勢の頭上からその魔力を叩き付けた。

吸収されるより早く消滅していく影の使い魔。同時に余波でオブジェも吹き飛ばされる。

吹き飛んだオブジェの奥に間桐桜の手が見えた。
トドメを刺そうと大量の羽根を一斉に飛ばす。魔力は吸収されるかもしれないが主を落とせば関係ない。
一つずつ弾け跳んでいくオブジェ。
やがて全ての影が破壊、無くなったところで目を凝らす。
そこには腕だけが落ちていた。
鋭利な刃で切断されたような、血の気のない右の腕。

「やるじゃないの」

時間を止めて横を見ると、黒い影が波のようになってこちらの体を飲み込もうとしていた。
大きく回って歩みをその後ろにいる間桐桜の背後まで進めて。

時間停止を解除すると同時にその足を蹴り飛ばした。
小さな悲鳴を上げながら地面を転がる桜。

変な仕込みなどがないことを確認し、そのままトドメを刺そうと翼を掲げた
その時、広げた翼に向けて何かが衝突してきた。

「……」

不意の一撃に爪の形を失う。
翼に潜り込んだ小さな体を、翼を振るうことで地面に放り投げる。

「そういえばあなたもいたんだったわね」
「ポチャ!!」

どこに転がっていたのだろうか。
気がついたらまどかを連れてきた際についてきた、ほむらにとってはどうでもいい存在、ポッチャマ。

「私の邪魔をするなら一緒に消すだけだけど、それよりもいいのかしら?
 あなたが助けたその女は、あなたの主を殺した張本人よ?」
「ポチャッ…」

息をつまらせるポッチャマ。
ゆっくりと、間桐桜へと振り返る。

「…あなたにも、私を裁く権利があるんですね……」


ポッチャマを見ながら、自分の罪を振り返る桜。
名前も知らなかった人。
血塗れの斧を持っていて、その様子から悪い人だと判断して話を聞くこともなく体をぐちゃぐちゃにした。


878 : コネクト ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:10:29 dXveI1Ew0
「あなたの前で、許してくれなんて言うことはできません…。
 だけどアリスさんに言われたんです。罪を償いたいなら、生きて償えって、少しでも人の役に立つように生きて。笑顔になれるようになって死ねって。
 だから、もしあなたが少しでも猶予をくれるのなら」

もし生きたいという願いが身勝手なものなら。
残された者の怨恨が自分の死を望むというのなら。

「せめて、この戦いの中で、みんなの役に立たせて、その果てに死なせてください…!」

自分に課せられた願い、いや、呪いと。殺された者達の怒り。
その2つを受け止めるには、それしか思いつかなかった。


じっとポッチャマは桜の姿を見て。
力弱くもどこか前に進もうとする、そんな姿に見えた。

ほむらの方へと振り向いたポッチャマ。
その背を桜に預けた状態で。

「…アリスも厄介な置き土産を残してくれたものね」

溜め息をつきながら、時間を止めて一人と一匹の体を蹴散らした。
それぞれ別方向に飛ばされていく体。

まずは間桐桜の方へと向いて歩を進める。
能力が鬱陶しい。放っておくのも厄介だ。

「死を望んでくれてれば、そのまま装置の燃料にできたのに、穏やかに死ねたのにね。
 もういいわ。死になさい」
「ポチャ!!」

叫ぶポッチャマ。
振りかざした翼が竜の腕へと変形して桜の体へと迫る。


一迅の光が、空間を通り過ぎた。

振りかざした翼を撃ち抜いていった、淡い桃色の光。

ほむらの思考が一瞬止まった。
撃ち抜かれたことではない、その光がほむらの記憶の奥にしまったものと同じものだったから。

桜が、ポッチャマがその光の元へと目を向け。
遅れてほむらもそちらへと振り向いた。

一つの人影。
この場に他にいる者は誰がいたか。鹿目まどかだけだ。
それは驚くことではない。彼女が目を覚まして立ち上がっていたとしても問題はない。

何故、目の前にいる彼女は。

「ほむらちゃん、もう止めて…!!」

魔法少女の姿をして、こちらに弓を向けているのか。


879 : コネクト ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:10:41 dXveI1Ew0





ほむらの感じた動揺、それ以上の怒りに連動するように。
空間の外壁であったテクスチャが砕け。
内側にいた者たちが、同じ空間へと姿を現し始めた。



【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、ギラティナと同化、魔女の力継承、悪魔化
[服装]:悪魔ほむらの衣装@魔法少女まどか マギカ[新編]叛逆の物語、ギラティナの翼、まどかのリボン@魔法少女まどか☆マギカ
[装備]:ダークオーブと化したはっきん玉、変質したほむらの盾
[思考・状況]
基本:アカギ達に協力、ないし利用し最終目標のための手はずを整える。
1:まどか…っ?!
2:間桐桜とポッチャマを殺し、他の参加者を迎え撃つ準備を整える
3:アーニャがちょっと鬱陶しい
最終目的:“奇跡”を手に入れた上で『自身の世界(これまで辿った全ての時間軸)』に帰還(手段は問わない)し、まどかを救う。


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、手足に小さな切り傷、背中に大きな傷(処置済み)、強い決意、魔法少女(カードによる夢幻召喚)
[服装]:魔法少女衣装
[装備]:ポッチャマ@ポケットモンスター(アニメ)、クラスカード(弓・魔法少女鹿目まどか)
[道具]:基本支給品、ハデスの隠れ兜@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、咲夜子のクナイ@コードギアス反逆のルルーシュ、グリーフシード(人魚の魔女)@魔法少女まどか☆マギカ、ブローニングハイパワー(13/13)@現実、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、トランシーバー(電池切れ)@現実 、医薬品
[思考・状況]
1:ほむらちゃんを止める
[備考]
まどかの最後の支給品はアーチャーのクズカード@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤです。
エデンバイタルと接続したまどかの強い願いに応じた円環の理によって、魔法少女としての鹿目まどかの力をカードに呼び出しました。


【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:右腕欠損、魔力消耗(大)、顔面の右目から頬にかけて切り傷、右目失明、視力障害、全身傷だらけ、強い罪悪感、
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)
[思考・状況]
基本:生きる、あわよくば人の役に立って死ぬ
1:暁美ほむらを倒し他の参加者の役に立つ
2:死ぬのではなく贖罪のために生きる


880 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/24(火) 20:11:45 dXveI1Ew0
投下終了です
次の投下には少し間が空くと思いますが11/19までには投下する予定です


881 : 名無しさん :2021/08/25(水) 20:48:21 tSMgZeVE0
それならその前に投下しようかと思います。
鹿目まどか、暁美ほむら、枢木スザク、夜神月で予約します


882 : 名無しさん :2021/08/26(木) 08:37:34 vhvQhHOY0
トリップ出てないですよ


883 : ◆xVzOffeniE :2021/08/26(木) 11:50:47 kuMxwcxk0
>>881
失礼しました
改めて、鹿目まどか、暁美ほむら、夜神月、枢木スザク、間桐桜で予約します


884 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/26(木) 18:56:08 v0K9os6I0
>>883
すみません、予約頂いたところで申し訳ないのですが
以前予告したように次回最終回予定なので、ずっとほぼ一人で書いてきたのもありこの時期に構想に変更が入りそうなのは厳しいです
また投下時に書きましたが夜神月は脱落扱いとしているのでここで連れ戻されるのも困ります
非リレー宣言していなかったこちらにも落ち度はありますが、予約は取り下げていただけないでしょうか?


885 : ◆oe9KtvF/AE :2021/08/26(木) 21:32:56 6B6fNVwI0
>>884
それはおかしいんじゃないんですか。それって企画の私物化ですよね?
仮に非リレー宣言したところで◆xVzOffeniE氏の妨害をしていい理由にはなりませんよ
あなたの構想を強要するのはよくて◆xVzOffeniE氏の作品を否定していいというのはどういう了見ですか?
予約そのものを一方的に取り下げろと迫るのは一書き手としても自己中心的に思えます


886 : 名無しさん :2021/08/27(金) 00:00:18 asECafn60
ルールとしては別にあれでまったく間違ってないかもしれんけど、◆Z9iNYeY9a2氏はパラで何年間も書き続けてくれていた人だから最後までこの人で見たい
ずっと見てきた住民としては、もうルールとかいいので◆Z9iNYeY9a2氏で最後まで書くのが見たい、ただそれだけ
そういう局面ですらこういう事が起きるのかと絶句してる

そもそも一読み手としても当たり前にそういう流れだと思ってましたし、このタイミングでわざわざ予約する意味がさっぱり理解できません
自己中心的とか以前にこの企画の中心人物はもう◆Z9iNYeY9a2氏であるとしか言いようがないですし、執筆もwiki管理もずっと全部氏が一人で続けていたわけでしょう?

◆Z9iNYeY9a2氏の意見でパラロワに関するルールは決めてしまってよいと思います。
そもそもロワの終盤は普通、一人のまとめ役が対応しなきゃならないものなので空気読んでください
あとはもう◆Z9iNYeY9a2氏が決めた通りでやりましょう
これパラロワの住民の総意、ハイ異論なし

……ちゅーか今更私物化とか自己中心とかおっしゃる方々はじゃあ今まで何してたのって感じよ
◆Z9iNYeY9a2氏以外の書き手の最後の投下さかのぼってみたら2014年の5月すなわち7年前だぞ
当時放送しているライダーで言えば鎧武とかそんなレベル(オーバーロード登場して少ししたくらい)、竹内涼真とか誰も知らん時代よ
パラロワが遺失物ならとっくに◆Z9iNYeY9a2氏のものってくらい時間も経過してる
ここでいまさらパラロワはみんなのものですとかニルヴァーナのジャケットの全裸赤ん坊の訴訟かよタイムリーだな同一人物か?

個人的な考えとしては、このタイミングで荒らしが来てるんだとしたら馬に蹴られて地獄に落ちろ程度じゃ物足りん
ユニコーンに突かれて大地獄に時速200kmのスピードで自由落下しろ

別に◆xVzOffeniE氏は投下してもいいけど◆Z9iNYeY9a2氏はその投下ガン無視していいと思います
パラロワだけに分岐してその話はパラレルワールドって事でどうぞよろしくお願いします


887 : 名無しさん :2021/08/27(金) 00:38:48 Lin68KHQ0
そりゃ企画の私物化と言われればそうかもとは思うけど、これだけ一人で書いてきたんなら多少私物化してもいいとも思うよ
◆Z9iNYeY9a2さんが書きたい展開からズレそうだったら無視しちゃっていいんじゃない?


888 : 名無しさん :2021/08/27(金) 00:41:16 QgnIZ0vI0
そもそも悪意以外の何物でもないんだから
強制破棄でいいし、>>885みたいな愉快犯のバカみたいなクレームは無視でいいでしょ
逆にこれが悪意由来の予約じゃなかったらびっくりするよ
仮に投下されてもガン無視して氏の最終回を投下すれば良いと思います


889 : 名無しさん :2021/08/27(金) 06:18:14 iHZA71GA0
実際問題次が最終回って予告もしてあるし、退場した月が予約に含まれてる時点で横槍もいいとこでしょ
このまま氏の書く最終回を待つよ


890 : 名無しさん :2021/08/27(金) 14:32:17 OG1I0npA0
作品を見てすらいないのに予約すら許さんってのはな
それこそ新参だろうがそっちの方が面白いのできるならそうするに越したことはないし
古株だから作品発表の機会まで奪ってもいいんだって居直るのはいくらなんでもやりすぎだわな


891 : 名無しさん :2021/08/27(金) 21:02:31 ywK2uoHM0
>>890
いや次で最終回って予告してるとこに横から予約入れるのは、どう考えたっていかんでしょ
作品発表の機会も何も、このタイミングでやられたら迷惑に決まってるでしょうに…
◆xVzOffeniEさんを擁護したいのかどうか知らんけど、言ってる事が滅茶苦茶ですよ


892 : ◆xVzOffeniE :2021/08/27(金) 21:21:40 9JiDObLE0
>>6
>>883
失礼しました
再読の上、問題がなさそうなので改めて予約させていただきます。

鹿目まどか、暁美ほむら、枢木スザク、間桐桜で予約します。


893 : 名無しさん :2021/08/27(金) 21:55:11 WiHMm6FI0
>>892
問題あるに決まってる
あなたの作品を望む人なんてここにはいないよ
誰にも望まれないどころか拒否されてるのに勝手に書こうとするとか、この企画を私物化しようとしてんのはそっちじゃん
チラシの裏にでも書いてればいいだろ

◆Z9iNYeY9a2氏はこれ無視していいですよ間違いなく。最終回楽しみに待ってます


894 : 名無しさん :2021/08/27(金) 22:21:00 asECafn60
正直、ここまで企画を一人で存続させてきたのは◆Z9iNYeY9a2氏であることは誰の目にも明らかなので、今からでも◆Z9iNYeY9a2氏が非リレー宣言をすれば誰も反対はしないと思う
名無しの意見はこの際どうでもいいから、今まで企画を作り上げてきた書き手諸氏の声を聞かせてほしい


895 : 名無しさん :2021/08/27(金) 22:52:54 PmnFuuiM0
別に ◆xVzOffeniEが投下する事自体は良いのでは?その後リレーされるかは解らないし何ならパラレル扱いで他の書き手さんが別√を書かれるかもしれませんが
ルール違反では無い以上少なくとも投下の権利だけは守られるべき


896 : 名無しさん :2021/08/27(金) 23:18:55 N6Ne75VA0
この一連の流れを見て「問題なさそうなので」って書き込む時点で信用できない


897 : 名無しさん :2021/08/28(土) 06:16:11 Ifv4HEfg0
だいぶ燃えてるみたいですが、予約した人はスザクとイリヤが共闘中ってことも知らないっぽいですから、反応せずにスルーしていいと思いますよ
あれこれ言わなくても投下しないし、したとしても問題なく弾ける内容でしょうから


898 : 名無しさん :2021/08/28(土) 06:46:57 enEWL65E0
実績のある書き手の◆Z9iNYeY9a2氏がNGと言ってる以上、他の書き手がOKと言わないかぎりはNGでしょ
一作も書いてないなら読み手と変わらないし、書いたこともないのに酉つけてる>>885みたいなアホも出てきてるし


899 : 名無しさん :2021/08/28(土) 08:23:05 CLX50HaU0
そんなにめくじらたてるものかなぁ…?
何人か言ってるように分岐なりにすれば良いんだし。まぁん?ってなるのは分かるけど。
でも>>884みたいに掲示板を私物化するような発言もちょっと気になるよね。個人でしたいなら別個でやればいいだけだし。

あくまでリレー小説って形なんだから、いろんな展開を楽しめば良いんじゃないか?
>>883もルールは破ってるわけじゃないしさ。とりあえず完成品を見てみるのもありだとは思う


900 : 名無しさん :2021/08/28(土) 08:24:08 CLX50HaU0
そんなにめくじらたてるものかなぁ…?
何人か言ってるように分岐なりにすれば良いんだし。まぁん?ってなるのは分かるけど。
でも>>884みたいに掲示板を私物化するような発言もちょっと気になるよね。個人でしたいなら別個でやればいいだけだし。

あくまでリレー小説って形なんだから、いろんな展開を楽しめば良いんじゃないか?
>>883もルールは破ってるわけじゃないしさ。とりあえず完成品を見てみるのもありだとは思う


901 : 名無しさん :2021/08/28(土) 09:13:12 OjA4MvYk0
そんなにめくじらたてるものかなぁ…?
何人か言ってるように分岐なりにすれば良いんだし。まぁん?ってなるのは分かるけど。
でも>>884みたいに掲示板を私物化するような発言もちょっと気になるよね。個人でしたいなら別個でやればいいだけだし。

あくまでリレー小説って形なんだから、いろんな展開を楽しめば良いんじゃないか?
>>883もルールは破ってるわけじゃないしさ。とりあえず完成品を見てみるのもありだとは思う


902 : 管理人★ :2021/08/28(土) 09:21:00 ???0
管理人です。

本来は企画参加者様の協議により方針を決定していただきますが、
本企画は完結直前であり企画のコアとなる書き手様の人数が少なく
本件においては当事者2名のみとなる点、また企画への貢献度の差異から
双方の主張についてフラットな受け止められ方をされ難いと考えられる点、
本件エスカレートによって完結を目前とした企画に悪影響が及びかねない点、
以上より、管理者として本件に介入、裁定を行わせていただきます。
悪しからずご了承くださいますようお願い申し上げます。

<結論>
◆Z9iNYeY9a2氏による>>880のレスは事実上の予約であると考えられ、
また>>859により>>880の予約による投下が最終話である構想を事前に公開している以上、
当然として全キャラ予約に類するものとみなせます。

予約期間の長期化については下記のとおりです。
企画開始当初に定められた予約期限はキャラの専有により企画のスピード感が
損なわれることを抑止することを主目的として設定されているものと解釈されます。
他方、ロワ企画の構造上、最終話に近づくにつれ話数ごとの文量が
長大化していくことは避けられず、当該開始当初の定めを超過する点は
慣例上問題視されないものと思料いたします。

以上より、>>883の◆xVzOffeniE氏による予約はキャラ被りによる無効と判断されます。


<補足>
本件においてはこれ以上の意見対立、言動のエスカレートを避けていただきたく存じます。
◆xVzOffeniE氏ならびに氏のご主張に賛同いただく方におかれては誠に申し訳ございませんが、
管理人の権限として上記を最終決定とさせていただきます。
何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。


903 : 名無しさん :2021/08/28(土) 16:45:59 .AFchtr60
>>902
ルート分岐とかいくらでもあるから、書き手に機会くらいあげたら?


904 : 名無しさん :2021/08/28(土) 19:18:48 3uLi94Kk0
したらばの管理人氏からも結論が出ましたし、件の書き手側が予約を取り下げるべきでは


905 : 名無しさん :2021/08/28(土) 21:06:59 .AFchtr60
>>904
たしかに管理人がそういうならそうかぁ…
読み手としては沢山のストーリーを見てみたかったなぁ
ノベルゲーとかでもグッドもバッドも好きなので、少し楽しみではありました


906 : 名無しさん :2021/08/28(土) 21:11:31 Y45Nml/U0
そもそも予約は無効ってことで結論出てるので、わざわざ取り下げる必要もないかと
この話は>>902にて終了。以後はおとなしく◆Z9iNYeY9a2氏の最終話を待ちましょう


907 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/08/29(日) 19:36:14 XCHkvkKQ0
管理人さんご裁定ありがとうございます

念の為改めて宣言しておきます
鹿目まどか、暁美ほむら、間桐桜、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、枢木スザク、N、ポケモン×3、クローンポケモン×4
マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア、エラスモテリウムオルフェノク、シャルル・ジ・ブリタニア、アカギ
以上のメンバーの予約になります。予約期間は少し長くなるかもしれませんが11/19までには投下予定です
また夜神月は登場してもエピローグになる状況なので予約は禁止になっています


908 : <削除> :<削除>
<削除>


909 : <削除> :<削除>
<削除>


910 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:10:39 i4CFovlM0
最終回、及びエピローグを投下します
スレがギリギリだと思うので、もしオーバーしそうになったらしたらばの方に投下しようと思います


911 : EndGame_LastBible ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:11:24 i4CFovlM0
孤島。
スマートブレイン本社が、衛宮の人間の家が、ポケモン達の休息所がある島。
殺人者キラを捜査するための警察施設、見滝原中学校、飛行戦艦の発着場も存在している。
雑種多様な、同一世界にあるはずのない要素が入り混じった空間。

参加者達の記憶、知識から継ぎ接ぎのように作られた島。
継ぎ接ぎであるがゆえに安定させるための多数の要素が会場には備えられていた。
例えば孤島であるポケモン城の奥、ナイトオブラウンズや古代種の巨大オルフェノクが守る先に隠された時空神の眷属の珠。
柳洞寺の奥に隠された聖杯戦争の管理システムたる魔術炉心、大聖杯。
他にも複数の施設に小分けにされた制御装置が潜まされていた。

しかし、小分けにされた制御装置は参加者の戦闘に巻き込まれた会場施設の破壊に巻き込まれ、また最終的にはランスロットsiNのフレームコートの一撃によって大多数が破壊。
大聖杯はそこに携えられた魔力によって生み出された使い魔も敗れ、イリヤスフィールの約束された勝利の剣によって崩壊。
ポケモン城の奥にある白金珠、白珠も城に潜り込んだポケモン達の奮戦により奪取。

ポケモン城の出来事が最後となるだろう。
スザク、イリヤがマリアンヌと、桜、まどかがほむらと戦っている頃に最後の鍵が開いた形となる。

空間に走った亀裂が大きくなり、会場の形が維持できなくなっていく。
海辺の水は消滅していき、亀裂の中に荒れた陸地がこぼれ落ちていく。

ポケモン城に残った最後の守り手、凶獣エラスモテリウムオルフェノクの咆哮が響き渡った時。
崩れた会場の中にいたまだ命を持った者たちは、会場とは別の空間にあった場所に集まっていった。





「何、この鳴き声!?」

後ろに下がりながら周囲の風景が切り替わっていること、耳に届く巨大な鳴き声に意識を向けるイリヤ。
一見隙だらけとなってしまうが、相対していたマリアンヌもまた、その様子に気を取られていた。

周囲は無のように真っ暗な、地平の先も見えない場所なのに自分たちの姿はしっかり見える。
ある方向には、巨大な花びらを連想する巨大なオブジェが存在し、その近くでは暗い影や光が飛び交っているのが見える。
そして鳴き声の聞こえた方向に目を向けると、ランスロットの機体全長以上に巨大な怪物が、ポケモン達と戦っている。

「あの珠が取られたってことは…、へぇ、あのポケモン達、ビスマルクに勝ったのね。
 なかなか頑張ったじゃない」

感心する声を漏らすマリアンヌ。
ビスマルク・ヴァルトシュタイン。ナイト・オブ・ワンの名を冠した騎士であり、ラウンズ達の中では最も高い技量、力量を備えた者だった。
シャルルのデッドライズで蘇らされて以降もその技量は衰えることはなく、かつてはゼロとも拳を交えた騎士。
その技量からこの儀式に蘇らされてからはエラスモテリウムオルフェノクの管理と弩級ナイトメアフレーム、エクウスを扱うことを任されていた。
知性を持たないエラスモテリウムオルフェノクはともかく、彼を倒さずに金剛珠、白珠を奪取することは不可能だろう。

スザクやゼロのような参加者であればいざ知らず、ポケモン達にとっては荷が重い相手だとも思っていたが。

(そういえば、アクロマがキュゥべえに言っていたわね。今を生きようとする命は、参加者だろうとポケモンだろうと違いはないって)

思い返すのはキュゥべえとアクロマの会話。どういった流れだったかは思い出せないが、ポケモンを支給品として扱うことを徹底しようとするキュゥべえとの会話の中で出てきた言葉だったと思う。
図らずもその言葉が正しいことが証明されたわけだ。

しかし、まだ終わってはいない。
ポケモン、そしてそれを操る参加者にとって最後の壁として残った怪物がいる。

(そして、私も)

剣を振り抜く。
神速の一撃、そこいらの騎士であればいざ知らず、騎士王の直感と経験を身にした者に受けられないものではない。
イリヤの五感が殺気を感じ取り、打ち込まれた剣を受け止める。

トリスタンもまたランスロットとの距離を離されすぎない程度に張り付いてハーケンと剣の乱舞でスザクを翻弄している。

「余所見をしている暇はあるのかしら」
「っ…」


912 : EndGame_LastBible ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:12:07 i4CFovlM0

目の前に剣を押し付けられた状態。
抗うイリヤは剣に風を纏う。迫ったマリアンヌを吹き飛ばして攻めに転じるためだ。
しかしそんな目論見は届かず、剣から風が拭き上げた瞬間大きく飛び上がったマリアンヌからの上段斬りに翻弄される。
辛うじて避けたイリヤの背に冷や汗が流れる。

ルビーも何かアドバイスをしようとしているが、相手の技量ゆえに下手な口出しは逆効果になることが分かってしまい口を噤んでいる。

(考えろ、何か、絶対に突破口があるはず…)

踏み込み突き出してきた剣。これはこちらが避けることを前提とした一撃、本命はその後の追撃。
しかしそこが本当の決め手となるか先に体術を使った体制崩しが入るか。
その体勢からは足を使った体術は不可能。もう一方の手に握られた剣がその後に来る。
だとするとその剣を受け流して返す刃で切り伏せる。

瞬時に脳内でそのシミュレートを行うイリヤ。
しかし。

剣を振るい受け止め。その後の追撃の剣を警戒したところで、その手には剣が握られていなかった。
至近距離、刃の奥まで潜り込んだアーニャはその距離で拳での掌打を放って意識と体勢を揺るがし。
さらに手放して地面に突き立てた剣を軸に遠心力をかけて回し蹴りを放ちこちらの姿勢を大きく崩させる。

対応できない。
そう感じたイリヤは瞬時に生き残るための行動方針に切り替える。
剣に纏った風王結界の風圧でアーニャの前進を阻みつつ一気に後ろへと距離を取る。

(ダメだ…、攻撃が読めない…)

剣技はカードを通した経験が身に宿っている。それを振るう身体能力も今は充分にある。
しかしそれを活かすだけの己自身の経験が欠けていた。
初めて戦う相手、剣技だけで圧倒できぬ高技量の敵に対して、剣技をもって如何に倒すかどうか。相手の手に対してどの札を切るべきなのか。

(…もっとよく見て、もっとよく考えて―――)

――剣は考えて振るものではありません。

ふと、どこからかそんな声が聞こえた気がした。

――考えるのではなく、ただ相手の動きをよく見て、そこから己の直感を信じて剣を振るのです。
  私の力を宿したその身であれば、あとはあなた自身の直感が勝利への手を導き出せるはずです。

(考えるんじゃなくて、自分の直感を信じて……)

一呼吸置いて、肩の力を抜くイリヤ。それでいて決して相手から目を離すことはなく。


そんなイリヤの様子に、どこか空気が変わったようなものを感じ取ったマリアンヌ。

(これは…そろそろ決めないとまずいかしら)

手を抜いてきたつもりはなかったが、本気で刺しにいってもいなかったかもしれない。
だがこれ以上時間をかけるのもまずい。
隣で動かしているトリスタンも枢木スザクに対して有効打といえる攻め手は打ち込めていない現状だ。

幾度も踏み込んでは手を止めて、を繰り返していたのも相手を警戒してのことだった。
長く打ち込み続けると手元を狂わせる確率が僅かに表出する。並の相手なら気にすることはないが、騎士王相手では危険だった。
英霊としての超常的な身体能力も厄介だった。普通の人間であればこれまでの斬り合いの中で6回は刻んでいると思う。それが未だに生きているのはその膂力と耐久力あってのものだ。

だが、そろそろ決める時だろう。

意志を固めたマリアンヌは、これまで通りにイリヤに向けて踏み込む。
小振りの剣を幾度も打ち込み、時折体術を混ぜて攻め続ける。

素早く、フェイントも混ざった攻撃に翻弄されていた今までに比べて、一つ一つを的確に受け止め続けるイリヤ。
致命打になる一撃は剣で受け、そうでなければ流すかその体で受けて対応する。

それでも生まれる僅かな隙の中に、差し込むように大ぶりの一撃を叩き込む。
剣で受けられたところに更にもう一方の剣で突きを放つ。
二刀の特性を生かしての、的確な動き。

それを、目の前の騎士王は受けきった。
受けたこと自体を驚きはしない。この程度はできて当然だろう。

(動きに無駄が消えている…)

ただ、これまでにあった、受けてからの反撃に転じる際にあった僅かな隙がその剣筋から消えていた。
受けた剣を、梃子のように大ぶりの剣で弾き飛ばす。
マリアンヌの手元から弾かれる剣。


913 : EndGame_LastBible ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:12:37 i4CFovlM0
こちらの武器の片方が抜け落ちたところで攻めに転じるイリヤ。
離れた場所に刺さった剣を取りに行く暇はない。残ったもう一本の剣でその剣を受け止める。

(…やっぱり、ダメね)

高速で繰り出される連撃を受け止めるたびに、剣が軋んでいるのが分かる。膂力が違いすぎるのだ。
だから真っ向から受けなければならない状況に陥らぬよう、適宜イリヤの隙を突く形で攻めていたはずだったのだが、逆にこちらの手をこじ開けられてしまった。

「はあああああああっ!!」

もはやこちらから隙は作れない。
大きく剣を振り下ろす少女の姿に、一瞬金髪の女騎士の姿が被ってみえた。

受けた衝撃で大きく後ろに下がる体。
サーヴァントの馬力を受け止め続けた剣は刃が砕け散っていた。

アーニャの視線の先には、騎士王と被った一瞬の間にまとった鎧を変えたイリヤの姿があった。
白を基調としたドレスから、銀の鎧と体を覆うようなマントをまとった姿。

「…姫騎士から騎士王に、その心を変えたわけね」
「あなたがどんな思いで戦ってるのか、何をしたくて戦ってるのかは分からないけど。
 私達も負けるわけにはいかない、負けられない。だから、前に進み続けるの!」

その手の聖剣をマリアンヌに向けるイリヤ。
マリアンヌの手元の剣は刃が割れており、弾かれたもう一本は少し逸れた位置の地面に突き刺さっている。
いくらマリアンヌの技量があっても素手で騎士王と戦うなど正気の沙汰ではない。あれを拾いにいかねば戦えないだろう。

そう思ってイリヤは、マリアンヌがその方向に動き出せばいつでも飛び出せるように構え、マリアンヌを注視していた。

「そう。そうよね。
 でも、残念だけど―――」


と、動いたマリアンヌ。
しかしその方向は剣のある場所ではなく。
スザクのランスロットから距離を取ったトリスタンの背へと飛び乗っていた。

「騎士王相手にまともに戦おうって思えるほど、無謀じゃないのよ私も」

素早くトリスタンのコックピットへと入り込み、起動を変えてイリヤとスザクの双方に挟まれない位置へと下がり。
スザクに向けてその手に持っていた剣を投擲した。

回避して両手のMVSを振りかざして接近するランスロット。
同時にイリヤも剣を構えて前進する。
スザクの剣を受けつつ接近してきたイリヤに対しては剣が間合いに入る前に足を振るって吹き飛ばした。

「ぐっ…」

騎士王の力といえど巨体相手との間合いをどうにかできる能力はなく、スザクの剣を受けた相手ということで油断していたこともあり宙を舞う。
それでも体勢を立て直す。視線を戻すと先の足での攻撃で剣を受け損ねた様子で、攻め手に転じられぬまま後退しながらランスロットの連撃を受け止めている。

今の一撃を受けてしまったのはずっと生身相手に剣を交えていた時の感覚が抜けていなかったためだ、と意識を切り替え。
再度剣を構えたところで。

巨大な咆哮と共に地響きが横から迫ってくるのを感じ取った。

思わず横を見たイリヤ。
視線の先には顔の側面に剣を突き立てた灰色の怪物が、怒りを放つかのようにこちらに迫ってきていた。





914 : EndGame_LastBible ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:12:53 i4CFovlM0
空間が割れ、会場の風景が壊れ始めると同時。
アヴァロンに乗っていたNの周囲も変わり始めていた。

風景が虚無に侵食されていくように、アヴァロンの艦橋の景色が消えていく。

気がついた時には、ポケモン達がいる近くの場所に足を付けていた。

「…!みんな、大丈夫か?!」

生き残っていたポケモン達が振り向く。

リザードン、ゾロアーク。クローンのリザードン、サザンドラ、ポッチャマ、ピンプク。
皆自分の出現に驚いたように振り向く。その姿は戦いでのダメージ、怪我こそあれ大きな問題を持っているようには見えなかった。
景色の崩壊に巻き込まれ何かおかしなことになっていないかを心配したが何もないようで安心するN。

しかし消えた景色の中には、風景やアヴァロン、ポケモン城といった施設と共に戦って散っていったポケモン達の亡骸も含まれていた。
見ることも辛く痛々しいものだったポケモン達の変わり果てた姿、しかし存在した証すらもなくなるかのように消滅することなど望んではいなかった。

視線をそらすと、2つの巨人が剣を交えている姿が目に入る。
おそらく片方は会場の別の場所で戦っていた参加者、もう片方は自分たちが戦ったようなアカギの手下、あるいは協力者だろう。

別の場所で戦っていたものがこれほど近くにいる。つまり会場の風景と共に位置関係も崩壊している。
アヴァロンから降りたことで禁止エリアのことが気がかりだったが、おそらくは問題なくなったと思われる。

気がかりな点をいくつか脳内で解決させたところで、ピカチュウのキョダイバンライを受け麻痺で動きを止めていたエラスモテリウムオルフェノクが吠えた。
あの巨体に見合うとてつもないスタミナと生命力が状態異常から復帰させたのだろう。
よろけながらもバランスを取るように起き上がり、こちらに意識を向けた。

飛び寄ってきたクローンのリザードンがその背に乗れと自身の背中をNに向ける。
その背に乗ったと同時に、ポケモン達は一斉に散開。エラスモテリウムオルフェノクが走り出した。

統制を失ったエラスモテリウムオルフェノクはもはや何にも縛られず周囲を破壊するだけの怪物と化している。
だが敵が編隊を組んでいた先ほどと違い、今のこれには誤射に巻き込まれる味方がいない。ただこちらを殺し尽くすために暴れるだけだ。

これを前に生身で地面に立っていることは危険極まりない。しかし飛んでいたとしても相手は射出攻撃を持っている以上油断できない。
空から火炎放射や竜の波動を放つリザードンやサザンドラに対して、額から撃ち出した巨大な針が飛来する。
避け続ける中で、サトシのリザードンが大きく吠えながら接近する。
ピカチュウやニャースといった仲間を失ってきた悲しみをぶつけるように、その巨体に迫り抑え込む。

高熱を放ちながら迫ってきた敵に意識を向けるエラスモテリウムオルフェノク。
角を突き出して突撃するエラスモテリウムオルフェノクに対し、リザードンは角の先から体を反らしつつ体に取り付く。
しかし巨体を抑え込むことはできず逆に押し込まれてしまう。

翼を広げ空中で踏み耐えるリザードン、その足元でポッチャマやゾロアークが、空中からサザンドラとNの乗ったリザードンが遠距離からその動きを留めるように攻撃を行う。
足を止め反撃のため首を動かそうとするも、リザードンが抑え込んでいることで針の射出口をポケモン達に向けることができない。
力を入れて頭部を抑えるリザードン。

「グォォォォォォォォ!!!」


915 : EndGame_LastBible ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:13:17 i4CFovlM0
激情の雄叫びを上げるリザードン。
やがてその尻尾の炎が青白い色へと変化していき。
青い炎を体から放出しながら、抑え込んでいた頭部に思い切り拳を叩き付けた。

悲鳴のような鳴き声を上げながら頭を反らすエラスモテリウムオルフェノク。
動きが止まった一瞬を見て、リザードンは更に前進に青い炎をまとってその顔面へと突撃をかける。
高熱と突撃の勢いでその巨体が後退する。

青い炎が収まった時、リザードンの体は炎を思わせるオレンジがかった赤から、黒い体に青い炎を纏った姿へと変化していた。

仲間を奪ったもの達への強い激情、そしてより強い力の渇望。それがリザードンの姿をメガリザードンXへと変化させた。

「リザードン!!」

Nにしてみれば得体のしれない変化。不安を感じ呼びかける。
リザードンは振り返り、大丈夫だと答えた。意識を奪われ暴走しているといった様子がないことに安堵するN。

ピンプクとポッチャマを乗せたサザンドラはNの指示で距離を取る。ここから先は自分と2匹のリザードンで抑えると。

その角を振り回して、目の前を浮遊するリザードンに再度突撃をかけようとしたエラスモテリウムオルフェノク。

次の瞬間、エラスモテリウムオルフェノクの頭部側面に、Nの意識してなかった方角から飛来した一本の剣が突き立った。
リザードンにとってもNたちにとっても、エラスモテリウムオルフェノクにとっても不意の攻撃。

不意打ちされたことで怒りをかった様子で、エラスモテリウムオルフェノクはそのまま剣が飛来した方向、巨人2人、ランスロットとトリスタンが剣を交えている方へと吠えながら直進していた。



突撃を避けるイリヤ。
しかし突撃はその先のランスロットとトリスタンの元に辿り着くまで止まることなく。
予めその姿を見ていたトリスタンが大きく後ろに跳び、ランスロットが避けきれず突撃の衝撃で吹き飛ばされる。

エラスモテリウムオルフェノクに急接近したトリスタンは、その頭部に刺さっていた剣を引き抜く。
痛みで吠え、怒りを周囲に振りまく。

「両方は相手にできないものね。だから片方の子にはそれと遊んでいてもらうわ」

言いながらマリアンヌはエラスモテリウムオルフェノクの気がイリヤの方に向くよう音を鳴らして刺激し。
自身はランスロットに向けて剣を押し込み、その巨体の意識から逃れられる場所まで動き始めた。

「っ、スザクさん!!」
「こっちは大丈夫だ!片付けたらすぐに合流する!!」

咄嗟に出た言葉。
スザク自身相手がすぐに片付けられる相手ではないと分かっていたはずなのに。あるいは戦いの中でこちらに気を取られぬように気遣ったのかもしれない。

ただ、マリアンヌと剣を交えたからこそイリヤも同じことは感じていた。こちらを意識しながら戦って勝てる相手ではないと。
エラスモテリウムオルフェノクの噛み付きと振り下ろされた腕を避けながら、スザクに向けて大声で叫んでいた。

「スザクさん!!死なないで、絶対に”生きて”ください!!」

どうしても、嫌な予感が抜けなかったから。
それでもただ言葉を伝えるしか現状でできることがなかったから。

その気持ちを拭うため、イリヤはそう叫んで、エラスモテリウムオルフェノクへと向き合った。




スザクは意識の中で感覚が鋭く研ぎ澄まされていくのを感じた。
ただイリヤはこちらを心配しての言葉を伝えたというだけだろう。
それでも、その言葉はスザクの生存本能を、己にかけられた呪縛を引き出させた。


「生きろ、か。そうだな、こんなところで負けている場合じゃないからな」

目の前で体勢を直し剣を構えるトリスタン。
その姿を見据えながら、スザクの瞳に赤い光が宿った。

「俺は、生きる!!」

手に構えた剣を振るってトリスタンの元へと迫り。
互いの武器がぶつかり合って火花を散らした。


916 : EndGame_Just the truth ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:13:57 i4CFovlM0
本能に任せ暴れ回る巨大な怪物。
アルトリア――アーサー王の記憶の中には似たような存在と戦った記憶はないわけではなかった。

ただ、それでも今まで技量の優れた剣士を相手にしていた感覚からその意識に切り替えるには少し時間がかかった。
剣を振りかざして直進するも、その進行先に振り下ろされた前脚がイリヤの進行を留めていた。
一瞬止まるのが遅ければ足の下敷きになっていただろう。

飛び上がって剣でその顔を斬りつける。
顔面を斬られた痛みでその巨大な頭を引くも、すぐに立て直し、反対側に着地しようとしたイリヤへと尻尾を叩きつけた。
かろうじて防御が間に合ったが、その膨大な質量はイリヤの体を大きく弾き飛ばす。

体勢を宙で立て直して着地するイリヤ。
視線を前に向けると、その意識はエラスモテリウムオルフェノクの頭部のある一部分に向いていた。

「…ルビー、あの場所って」

怪物の頭部。
うっすらと、人型に見えるなにかが埋め込まれているように思えた。

『調べてみましたが、あの怪物の意識は全て怪物本体にあります。
 あれはただ、かつてそうあった者の残骸にすぎないでしょう』
「……」
『巧さんと一緒に戦ってきたイリヤさんに言うのも酷かもしれないですが、敢えて言いましょう。
 ――あれは、もう私達には救えない存在です。イリヤさんや巧さんの前に立ちふさがった黒化英霊や聖杯から呼び出された存在と変わりません』

イリヤの方を向いたエラスモテリウムオルフェノクの頭部。そこからいくつもの巨大な針がイリヤ向けて撃ち出される。
進もうとした足を止めて飛来する針を切り払うも、その場に静止していたイリヤへと角を突き出して突撃をかけてきた。

それがイリヤへと衝突しようかという一瞬前、イリヤの背後から飛来した青い炎がその巨体を弾きあげた。
顔面を覆う炎に怯むエラスモテリウムオルフェノク。

イリヤが顔を上げると、青い炎を纏った黒い竜の姿があった。

「イリヤスフィール!」

その後ろから、もう一匹の竜の背中に乗ったNが呼びかけてきた。

「Nさん!」
「大丈夫か。
 あれは僕たちが相手をしていたんだが、急に狙いを変えたようで」

あの怪物が意識を変えるきっかけになった相手へと目をやる。
エラスモテリウムオルフェノクの攻撃範囲に入らない場所でランスロットと刃を交えているが、今向かっても入り込めないと感じた。

まずはこの怪物をどうにかしなければ。

「もし問題がないなら彼の背に。リザードン、問題ないか?」
「グゥ」

首を縦に振りつつイリヤに背を向けるリザードン。
その背に捕まるイリヤ。

こちらへとエラスモテリウムオルフェノクが突撃してきたと同時に、二匹は飛び立った。
宙を飛ぶ二匹の竜に対し、エラスモテリウムオルフェノクは針を飛ばして迎撃する。

イリヤとNの直感で回避する二匹のリザードン。
Nのリザードンが火炎放射を放ち灰色の巨体を炎で炙るも、相手を打破するほどのダメージを与えられている様子はない。

「ゾロアーク!!」


917 : EndGame_Just the truth ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:14:26 i4CFovlM0

Nの声が響くと共に、どこからともなく周囲の景色が歪む。

次の瞬間、大量に分身したリザードンがエラスモテリウムオルフェノクの周囲を囲む。
ポケモンの技の影分身のようなものだが、ゾロアークの見せた幻影だ。

一斉に迫りながら、その爪を、炎を纏った体を、翼を巨体に叩き付けていく。
無論多くは幻影。そんな光景を見せていたとしても実際に攻撃を当てているのは2匹のリザードンだけだ。

だというのに、エラスモテリウムオルフェノクはまるで幻影など見えていないかのように、正確に本物のリザードン達を狙い撃つかのように針を射出した。
かろうじて回避する2匹。

どうやら相手は視覚ではなく動物的な勘でこちらの場所を把握している。
幻影に惑わされる理性など、持っていないと言わんばかりに。

やがてその前脚を大きく浮かせて、地面へと叩きつける。
揺れる地面がゾロアークの体勢を崩し、幻影が消滅。
同時に、息を潜めて気配を隠していたゾロアークがエラスモテリウムオルフェノクに認識される。

「不味い、逃げろゾロアーク!!」

叫ぶN。しかし体勢を整えるのが間に合わない。
射出された針がゾロアークの元へと届く。

「はあっ!!」

次の瞬間、メガリザードンから飛び降りたイリヤがゾロアークの前でその針を切り払う。
すんでのところだった迎撃。しかしその奥からエラスモテリウムオルフェノクの巨体が迫る。

ゾロアークの体を抱えて地を蹴るイリヤ。
決して軽いものではないが、セイバーの力を得た今なら抱えることができる。

リザードンの背に乗るイリヤ。しかしイリヤと共にゾロアークも乗せたことでリザードンの飛ぶ高度が下がる。

「戻ってくれ、ゾロアーク!」

ボールを掲げてゾロアークへと向ける。発された光がゾロアークへと当たり、その体がモンスターボールの中に収納されていく。
幻影が見破られた以上、地を移動するしかなく怪我も軽くはないゾロアークを出しておくことは危険が大きい。

Nの騎乗したリザードンが火炎放射や竜の怒りを放って牽制しつつ、イリヤの乗ったリザードンが爪や炎を纏った体で接近戦を仕掛ける。
同時にイリヤも、メガリザードンの背からエラスモテリウムオルフェノクの肉体に飛び降り聖剣でその体にダメージを与えていく。
対するエラスモテリウムオルフェノクも、針の射出で迎撃しつつ接近してきたリザードンには牙や爪を振るい続ける。

リザードンの攻撃はダメージは確かに与えている様子だが、まだエラスモテリウムオルフェノクを倒すには至らない。
一方でエラスモテリウムオルフェノクの攻撃は一撃で致命傷になり得る危険な攻撃だ。

「…こうなったら…」

焦れたイリヤは、その手の聖剣に魔力を集中させる。
真名を解放し、膨大な魔力をぶつければあの巨体とてひとたまりもないだろう。

だがエラスモテリウムオルフェノクはまるでその危険性を察知したかのように、リザードンの攻撃を振り払ってイリヤへと突撃を仕掛ける。

『イリヤさん危ない!!』
「……!だったら!!!」


918 : EndGame_Just the truth ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:14:48 i4CFovlM0
と、剣を下ろしつつその場から動くこともなく。
エラスモテリウムオルフェノクの衝突と共にイリヤの体が光に包まれる。

「バーサーカー、もう少しだけ、付き合って…!!」

巨大な斧剣を背負い、小柄な肉体でエラスモテリウムオルフェノクの体を抑え込んでいる。
バーサーカーのカードを咄嗟に夢幻召喚したイリヤは、怪力をもってエラスモテリウムオルフェノクに対抗していた。

ただ剣を斬りつけてもその巨体もあってダメージが通りづらい。ならば打撃や質量をぶつける方が効果があるかもしれない。

ギリギリ、と拮抗する2つの体。
そこにメガリザードンの炎を纏った爪が顔面を斬りつける。
怯んだエラスモテリウムオルフェノク、その隙に力を込めて巨体を押し返す。

背負った斧剣を手に構え、前に駆け出すイリヤ。
頭頂部から放たれた針がイリヤを狙うも、斧剣を前面に構えて弾き飛ばしながら前進。
針が飛ばせない位置まで迫ったところで、その巨大な角に向けて思い切り斧剣を振り抜く。

衝撃で横に倒れ込むエラスモテリウムオルフェノク。その角に亀裂が入り、倒れ込む衝撃で根本から割れた。
すぐさま起き上がったエラスモテリウムオルフェノクは、角が砕かれたことを理解して怒りの咆哮を上げる。

その衝撃波のような風圧が荒ぶ鳴き声に対して、メガリザードンは対抗するように吠えた。
瞬間、その体から光が溢れ出し始めた。

牙をむき出しにして突撃をかけるエラスモテリウムオルフェノク。
その正面に、リザードンの体を守るように立ったイリヤは、その大きく開かれた顎を斧剣でつっかえることで閉じるのを止める。
頭を前に押し出して、閉じる顎につっかえた武器ごとイリヤを押しつぶそうとする。

イリヤは手の武器を支えたまま、地を蹴って思い切りその下顎に向けて膝蹴りを叩き込んだ。
衝撃で斧剣と下顎が砕ける。流石に堪えられずエラスモテリウムオルフェノクの巨体が後ろに後退する。

「………」

接近できない現状、リザードンに乗ったNは離れた場所からその姿を見る。
先程の戦いの傷も残っているだろうし、たった今も重症といえるほどのダメージを受けた。
なのに、未だ逃げよう、退こうという意志が感じられない。ただ、周りを破壊しようとするだけの怪物。

生命の進化の果てに得た姿がそんなものであることに虚しいものを感じつつも。
その姿は一歩間違えれば自分達人間もそれに近い化け物になってしまうのかもしれない。
他者を受け入れることがなく、この手も届かなかった父、ゲーチスのように。

(だけど僕たちはそうはならない。誰の意志でもない僕のまま、僕のために生きてみせる…)

光に包まれたリザードンの目がこちらと合った。

「リザードン、彼を倒そう」

頷いたリザードンは、光の中で大きく吠え。
その中で肉体を巨大化させていった。
先程ピカチュウとニャースがその現象を発現させたように。


光が収まった時、そこにはエラスモテリウムオルフェノクを超える身長となったリザードンの姿があった。
体色は炎を思わせる橙色だが、メガリザードンのように口や翼からは炎が漏れ出している。

Nの懐からロトム図鑑が飛び出す。

「キョダイリザードンロト!!さっき言ったように攻撃は3回が限界ロト!!」
「解説はいい、今の彼が使える技を教えてくれ!!」

視線の先では、顎の形を崩したエラスモテリウムオルフェノクがイリヤに、そしてリザードンに向けて走り出している。
武器を失いながらもその体を受け止めようと構えるイリヤ。

「リザードン、ダイジェット!!」

リザードンに向けたNの指示。
咆哮と同時にリザードンの巨大な翼が風を巻き起こす。
風は渦を巻いて大きな竜巻を形作って、眼前を進行する巨獣へと襲いかかる。

暴風がエラスモテリウムオルフェノクの体を切り刻み進行速度を鈍らせるも、まだ止まるには至らない。

「…!ルビー!!」


919 : EndGame_Just the truth ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:15:07 i4CFovlM0

その暴風を背に受けたイリヤは、ルビーに呼びかけながら一枚のカードを取り出す。
体からバーサーカーのカードを排出しながら、取り出したカード、ライダーのクラスカードを構え。

「夢幻召喚!!」

体が光に包まれると同時、白い光の翼が姿を表す。
純白の天馬に跨ったイリヤは、光の手綱を握りながら宝具の真名を叫ぶ。

「騎英の手綱(ベルレフォーン)!!!」

キョダイリザードンの巻き起こした風に乗って、進行するエラスモテリウムオルフェノクへと一直線に突撃するペガサス。
ダイジェットの突風によりこれまで以上に加速した一撃は、拮抗することもなくその体を押し返す。
巨体が浮かび上がり宙へと浮き、吹き飛ばして地面へと転がる。

カーブを描いてリザードンの巨体の前に着地する天馬。

その目前で、吹き飛ばされた体から青い炎が立ち上り始めた。
今の一撃がエラスモテリウムオルフェノクの生命力を大きく削り取り、限界を迎えたのだろう。

体の末端部分から少しずつ灰化していく。だというのに、怪物は起き上がり吠え。
まるでその一撃に自身の生命力をかけるかのように走り出した。

その様子にNもイリヤも顔を顰める。
ここまで戦い続けるのか、と。

「キョダイゴクエン!」

Nの指示と共に、リザードンの翼の炎が広がり、エラスモテリウムオルフェノクへと襲いかかる。
巨大な炎の翼に押さえつけられるエラスモテリウムオルフェノク。

その体を焼き続けるも静止は一瞬だけ。すぐに進行を再開する。

だがイリヤが準備を整えるにはその一瞬で充分だった。

「―――今、解放してあげるから」

再度変わった姿は、マントと鎧を纏った騎士王のもの。
そしてその手の剣を構える体勢も整っていた。

「―――約束された(エクス)、」

叫ぶは、星の聖剣の名。

「勝利の剣(カリバー)!!!!―――――」

エラスモテリウムオルフェノクの巨体を覆う炎と共に。
聖剣の放つ膨大な魔力の光が、その体に向けて撃ち出され。

断末魔のような叫び声を上げたのを最後に、その巨体は炎と光の中に消えていった。


【エラスモテリウムオルフェノク@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト 死亡】


920 : EndGame_モザイクカケラ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:15:43 i4CFovlM0
生きろ。

それはかつて友であった男にかけられた呪縛。
死を望んでいたその頃の自分にとっては呪いでしかない忌まわしいものだった。

だが時が経つにつれ、それが己をこの世に縛る呪いであると共に罪を償うための証へと形を変えていた。

発動条件は己が死を感じること、そして生きることを意識させられること。



トリスタンの振るう剣の軌跡が見える。
次の手がどこから襲いかかるかが見える。
まるで頭と体が分離したかのように、手は相手の攻撃を捌くため動き続ける。
だが分離していてはいけない。ギアスに引っ張られていては目の前の敵には勝てない。
知覚はギアスに任せ、意識はその感じ取ったものを正確に捌き、流し、勝つための一手を瞬時に模索し続ける。

普段ならここまで集中することはない。カレンを相手にした時でも、彼女の言葉に答えるだけの余裕はあった。
意識を戦闘に集中させ続けるのはここまで戦い詰めであることの疲労、そして何より相手が相手だからだろう。
こうなった自分はまるで機械のようだと、今更考えていた。

剣を弾き、返す体が反動から蹴りを放つ。
腕で受け止め逆にその脚を掴み上げる。
一撃で決めるため体を狙うか、長期戦を見越して体の自由を奪うため脚を切り落とすか。
瞬時の判断で脚へとMVSを振り抜く。
次の瞬間、トリスタンの腕から放たれたスラッシュハーケンがランスロットの腕や頭、胸部を貫かんと迫っていた。
体を反らして難なく避けたところで、地面に刺さったハーケンを軸にトリスタンの回し蹴りが機体を揺らす。
衝撃で手が離れる。

着地しハーケンを回収するトリスタン。しかし放った左右計4本のハーケンのうち右2本がワイヤー部分から切断されていた。

「…やるわね」

着地しながらも目前に迫るハーケンを交わしつつ呟くマリアンヌ。
仕留めるまでの時間がかかりすぎた弊害だろう。こちらの技量にはかなり付いて来ている。
スザク自身にかけられたギアスの発動の影響もあるのだろう。挙動の一つ一つに迷いがなく、気味が悪いほど精錬されている。

イリヤを引き剥がしてスザクのみをターゲットに絞ったことは判断ミスだとは思っていない。
それでも今目の前にいる戦士に勝つことは、マリアンヌの経験から判断しても困難と言わざるを得ない状況だった。

「それでもね…、負けられないのよ、私も!」

ハーケンの後ろから飛び出してくるランスロットへ向けて、その手の剣を振るう。
縦横無尽に繰り出される剣戟。その合間を縫って撃ち出されるスラッシュハーケン。
スザク自身もその全てを目視できてはいないだろうそれらの攻撃を、紙一重で受けて流して返し続ける。
無論スザクも負けず、その剣捌きの隙間を縫うように攻め続けている。

何十手ほどそれを繰り返したか。
やがてランスロットの腕がついていくことができず火花がスパークする。
一瞬の動きの停止を見逃さず斬りかかるマリアンヌ。しかしスザクもまた瞬時の判断でランスロットの左腕を犠牲に退避。

真っ二つになる腕に視界の一部を塞がれる。その奥からスラッシュハーケンが飛来、マリアンヌの腕に直撃した。
吹き飛ぶ腕に体勢を崩される。しかし元々こちらもランスロットと同じように人工筋肉が悲鳴を上げていた部位だ、問題はなかった。

迫るランスロットの眼前で二の腕から先が無くなった右腕を振るう。
噴出したオイルがランスロットの顔にかかり、カメラを汚して視界を遮る。
それでも踏み込んできた斬りつけを、宙に飛び上がって回避。そこから左腕の剣を体ごと回すように振り下ろす。

視界を塞がれていても跳んだ方向から推測したか、ナイトメアの駆動音かあるいはギアスからくる直感か。
コックピットを狙ったそれを、身をかがめて回避。
しかし完全には避けきれずコックピットの一部を刃が削り取る。


921 : EndGame_モザイクカケラ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:15:59 i4CFovlM0
空中での体勢立て直しは困難。
方向調整の後射出されたハーケンがトリスタンの顔面を抉る。

吹き飛ばされ、地面に膝を付けながらも着地するトリスタン。
対してスザクはランスロットを振り向かせつつ、今の攻撃でボロボロになったコックピット上部を蹴り破り、汚れたカメラの代わりの視界を確保する。

立ち上がったトリスタンは、間髪入れずに剣を振りかざして攻め込む。
左腕を喪失し剣を受け止めることが難しくなった左側へと向けて切り込み続ける。
手は休められない。片腕を損失しているのはこちらも同じ。
しかし機体パワーでは勝てる相手ではない。今の損傷で受けに回れば防ぎきれない。

防ぎにくい方向から繰り出される剣戟を、もう一方の手の剣で、あるいは避けることで的確に防ぐランスロット。
スザクにしてみれば攻めれば勝てる相手ではあるが、剣捌きの練度は向こうの方が高く攻め入る隙が見つけられない。

事態の硬直をどうにかする一手。先に動いたのはスザクだった。
トリスタンに向けてハーケンを射出。しかし避けられる。
外して地面に突き立ったハーケンを巻き取りながら斬り込むランスロット。対してトリスタンはワイヤーを切断しながら飛び上がる。

宙から斬りかかろうと剣を構え、しかし既に使った一手であることに気付き警戒のために距離を置こうと後ろに下がって着地しようとし。
次の瞬間、横から強い衝撃が殴りかかってきた。

飛び上がっていたトリスタンへと向けて、ランスロットは斬られたハーケンの先を拾い、ワイヤー部分を掴んで振り回してきた。
機体に巻き付き動きが縛られる。

空中では対応できたかどうかは分からない。
それでも攻めるか退くかの判断をした一瞬のせいで相手の行動への反応が遅れてしまった。

引き寄せられる機体。破れかぶれに左腕の剣を振るいランスロットの切り込みに備える。
剣をぶつけ体への直撃を避けるも、逸れた剣はトリスタンの脚部を切り落とす。
引き寄せられた勢いのままランスロットの後ろに転がる。

剣を杖代わりにするように立ち上がるトリスタン。

「降伏しろ。あなたの負けだ」

ランスロットから呼びかけの声が響く。
もうその機体で戦うことはできないと確信して、そう告げてくる。

確かにスザクの判断は間違っていない、とマリアンヌも思う。
機体が飛べたなら足など飾りといえたかもしれないがフライトユニットは破損済み。
足がなくなれば機体制動が難しくなり今までのような剣技に体術を交えた自在な動きも不可能。

ただ。

「そこで一声呼びかけちゃうのは、あなたの甘さよ」

その敢えて騎士らしく振る舞おうとするところはかわいいところだとも思うが。
この自分を相手にしている今は弱点だ。

バランス感覚の悪化した機体を、最後の一手を放つかのように地を蹴り剣を振りかざす。
対するランスロットは、その姿に驚くこともなく剣を構える。
至近距離で剣を受け止め。
腰のハーケンのもう一方を射出して距離を離す。

その空いた距離、手にしたMVSの間合いとなったところで。
トリスタンを胴体から一閃した。




922 : EndGame_モザイクカケラ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:16:42 i4CFovlM0
イリヤスフィールが手に負えなくなった時点で、こんなことになるような予感はしていた。
彼女がこちらで処理できていたならば、もっと気兼ねなく枢木スザクの相手もできただろう。
騎士王の能力を引き出し始めた時点で、彼女を倒すことを諦めてせめて枢木スザクだけでもと彼女をエラスモテリウムオルフェノクに押し付けた。

それでもと残った枢木スザクも、彼女の言葉でギアスを発動させて手に余る相手となった。

コックピットの空間そのものが浮遊感に覆われる。
負けたことを理解する。

(ごめんなさいシャルル。先にまた、あの場所に行っているから)

この先どんな結末になるとしても、シャルルはまたあの世界に引き戻される。
隠そうとしていた、彼の限界にも気付いていた。

もう少しは頑張りたかったが、ここまでのようだ。

(ごめんなさい暁美ほむら。あなたに残す負荷が、少し多すぎるかもしれないわ)

イリヤスフィールはきっとあんな怪物に負けることはないだろう。
彼女が残った参加者をどこまで相手にできるか。どんな結末に辿り着くか。
見届けられないことは少し悔いが残っていた。

(――ほんとに、あなたは強かったわ)

下半身もなくなり、残っているのは胴体と頭と片腕のみ。
機体ももうすぐ爆散するだろう。

その残った左腕を、前に出して。
最後の足掻きとして、腕のハーケンを射出した。

こちらの最後を見届けようとしていたスザクは当然のように見切り、その軌跡から機体を反らした。
一直線に伸びていくハーケン。こちらを表情もなく見届ける枢木スザク。

その様子を見て、マリアンヌはほくそ笑んだ。

「だけど残念。私の、勝ちよ」

次の瞬間、ハーケンの軌道が折れ曲がるように切り替わり。
スザクの視界の外から、一直線にコックピットへと向けて突き抜け。

その体を引き裂くと同時に、トリスタンの上半身は爆散し搭乗していたマリアンヌごと消滅した。



マリアンヌのいた世界には、ナナリーやアリスが操っていたナイトメアフレームと同じように特殊な仕様を施された機体がいくつもある。
ギアス能力に対応して超加速や怪力を発揮する機体といったように。

このトリスタンにも、ハーケンの軌道を自在に切り替えることができる能力が備わっていた。
しかし、今の今までマリアンヌはその使用を封じていた。

なくても勝てる相手だと舐めていたわけではない。
ただ、もし手の内がバレていればこれを使ったとて対応してくる。使うのであれば、この一撃で仕留めねばならない。
使わずに勝てるのであればそれでよし。もし使って勝てないなら手はない。むしろ生存のギアスを刺激してしまう分こちらが不利になる。

だから隠し続け、この自身が敗北するその瞬間に。勝ちを確信し意識に隙を見せたそのタイミングで。
最後の一手を撃ち込んだ。

マリアンヌは枢木スザクに敗北した。
しかし、最後の一瞬で、引き分けにまで持ち込ませることに成功した。




923 : EndGame_モザイクカケラ ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:17:52 i4CFovlM0
トリスタンだったものの残骸が炎を上げている。
その近くに、背部のコックピットを抉り取られたランスロットsiNが倒れていた。

中から転がり出たスザクは、ランスロットの機体に背中を預けて座り込む。
腹を抑えていた手を退ける。服は血に濡れ、腹を大きく破られている。致命傷だ。
生きなければならない、とギアスが命じる。しかしどうやっても手遅れだ。
いくらギアスといえども、ただの人間の体の傷を瞬時に治すことなどできない。

(最後の最後で…、くそ、油断した…)

もし軌道を変えるハーケンが視界の中にチラリとでも映っていれば、ギアスが反応して対処しただろう。
最後の最後、自身の命を担保にして、こちらの命を刈り取る隙を見出したのだ。その瞬間まで、最大の切り札を隠し続けて。
閃光のマリアンヌ。技量は元より経験、覚悟も恐ろしい相手であったことに今更気付かされた。

息を吐き出すと、体から力が抜けていくのを感じていた。

体を強引にでも生かそうとするギアスの働きが体に苦痛を与える、
無理だと分かっていても、この呪いは勝手に働き続ける。その度に出血が増しているにも関わらず。

ふと、マリアンヌに言われた言葉を思い出す。

顔も名も、生きている証も無くして世界への償いのために生きる。
それは果たして生きていると言えるのかと。

その通りだ。
だからこそ、ほんの短い間でも枢木スザクとしていられたこの場は、居心地がよかった。
なんて、そんなことを考えてしまえばルルーシュには怒られてしまうかもしれないが。

"枢木スザク"としていた自分は、何かを遺せたのだろうか。

「眠いな…、少しだけ……」

遠ざかっていく意識の中で、静かに瞳を閉じていく。
瞳の奥で光るギアスが抗っていても、それがもう二度と目覚めないものだと分かっていても。
その睡魔に抗うことはできなかった。




エラスモテリウムオルフェノクを撃破したイリヤはNと共にスザクの援護に向かっていた。
その時まず目に入ったのは地面で炎を上げるトリスタンだったものの成れの果て。

「よかった…、スザクさん勝ったんだ…」

安堵の声を漏らすイリヤ。
どこかにいるはずのスザクと合流しようと周囲を見渡して。

「イリヤスフィール」

Nの声が耳に届く。
その色を感じない声に、嫌な予感が心のなかに湧き立つ。

Nの元に駆け寄ったイリヤの目に入ったのは、地面に倒れ伏したランスロットsiNの姿。
機体そのものは部分的なダメージはあるが比較的原型を留めている。ただコックピット部分が潰れていた。

そして、その機体の裏で。
ランスロットに背を預ける形で座り込んだ状態で、枢木スザクは眠っていた。

『心肺停止状態、お亡くなりになっています…、イリヤさん…』
「なんで…、そんな…」

腹部から流れた血が体と地面を真っ赤に染めて。
二度と目覚めることのない眠りへと落ちていた。

【マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー 死亡】
【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】


924 : EndGame_叛逆の物語(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:18:45 i4CFovlM0
周囲の光景は不安定になりどことも言えない場所になっていく中で。
ほむらの意識はただ一点、目の前に立つ少女に向いていた。

「なん、で…」

魔法少女の姿になった鹿目まどかの姿。
そうならないために戦ってきたし、キュゥべえも追放したはず。
だというのにそこに立っている変身したまどかはほむらの思考を停止させるには充分すぎた。

ほむらの意識が戻ったのは、背後にいた桜が操った影に翼を攻撃されたところでようやくだった。

「っ!」

意識を戻したほむらは影を切り裂きつつ時間を停止。
即座にまどかの背後に回ってその体を締め上げた。

「ほむらちゃ…!」

まどかの体に触れる。
ソウルジェムの存在は感じ取れない。ただその体の内側に力を生み出す何かの存在を感じ取る。
先程自分が体に取り込んだクラスカード、それと同じ力を感じ取った。

手を離して時間停止を解除する。
どうやらまどかの姿は魔法少女契約によるものではなく外的要因でこの力を引き出しているだけのようだ。
ひとまず安堵する。そして次に現れた感情は苛立ちだった。

手を離して距離を取るほむら。

「どいてまどか。あなたと戦うつもりはないの」
「もう止めてほむらちゃん。こんな戦い、絶対間違ってる」
「…勘違いしないで。私はあなたのために戦ってるんじゃない。私の願いのために戦ってるの」
「分かるよ。あなたが見捨ててきたたくさんの"私"、それを助けるために戦ってるんだよね」

ほむらの目が見開かれる。

「あの日、ワルプルギスの夜に負けちゃった私を、ほむらちゃんがソウルジェムを壊すしかなかった私を。
 それ以外にもたくさんの、助けられなかった私を、みんなを救いたいんだよね」

ほむらの心が揺れる。

「あなたは、誰なの?
 まどか、あなたは、誰と繋がってるの!?」

目の前にいるまどかが、まるで過去に救えなかったまどかと被るような、そんな錯覚に陥る。

「私、ネモさんの力でほむらちゃんの歩んできた道を見てきたの。
 だから分かるの。ほむらちゃんがどれだけ苦しんでたのか、何をしようとしてるのか」
「―――黙りなさい」

会話していられなかった。
これ以上話すと、誰にも知られたくなかった心の奥底に仕舞い込んだものを全部吐き出せられてしまいそうで。

翼を変化させた竜の腕がまどかの体に迫る。
地面を叩いたそれを、まどかは飛び退いて回避。
どうやら身体能力や攻撃は自分が知る魔法少女・鹿目まどかのそれの様子だ。

「魔法少女になったって言うなら、多少は耐えられるわよね」

殺す気はない。ただ黙らせたいだけだ。
今の自分の前にあの鹿目まどかが立っているのは心が耐えられない。

間桐桜の隣に立ったまどかをギロリと睨みつける。


925 : EndGame_叛逆の物語(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:19:03 i4CFovlM0
「桜さん、一緒に戦いましょう…!」
「鹿目さん…」
「ポチャ!」

ほむらの目を見て戦うしかないと決意するまどか。
元よりこの姿になった時点で覚悟していたことだ。

腕の盾の時計が動いたのを見て、瞬時に弓を放つまどか。
次の瞬間にはほむらの姿は消えており、背後から巨大な竜の爪が地面を抉っていた。

ほむらの姿が消えた瞬間にまどかは桜を突き飛ばして後ろに飛び退くことで攻撃を避ける。

再度時間を停止させるほむら。
咄嗟に、桜は帯状の影を生み出してほむらの足を縛り付ける。
狙いがあったわけではない。ただほむらの動きに何か対応しなければならないと急いで動いただけだ。

まどかとポッチャマの動きが停止し。
その中でほむらと、帯で繋がった桜の体だけが動き続ける。
周囲の様子が変わったことに一瞬困惑する桜だが、すぐに意識を戻して小さな獣を象った影を飛ばす。

止まった世界に入り込んだ異物に舌打ちしながら、ほむらは自身の姿を影の中に移す。
その瞬間帯は千切れ、桜の時間も止まる。

桜の背後で再度ドラゴンクローを構えつつ時間停止を解除。
その体を切り裂こうとしたところで横から迫る魔力を探知しそちらに向き直る。
先程まどかの放った光の矢が方角を変えてほむらの元に飛来していた。

爪を振るい矢を叩き落とす。
竜の腕と矢が衝突したところで強い光が巻き起こり腕は吹き飛んでいた。

その威力を見てまどかの今の戦闘力を図るほむら。
ワルプルギスの夜を一撃で吹き飛ばすような威力はない。かつて共に戦ってきた頃と同じくらいの力だろう。
だが、まどかの弓には対象を追尾する機能が備わっている。ワルプルギスに対抗できるほどではないとはいえ矢の威力も軽いものではない。時間停止で避けても気を抜くと落とされる。

桜の方へと向き直ると、既にまどかがその体を抱えて離れていた。

「桜さん、動ける?」
「その、ごめんなさい…。目もおかしいし体のバランスが取れなくて…」
「ううん、分かった。じゃあ私が前で戦うから、お願いがあるの」

桜の前に出つつ、耳打ちをするまどか。

「お願い。あなたのことは絶対私が守り切るから」

翼を魔力で修復しつつまどかの方を向くほむら。
向き合う2人を見ながら、地面に片手を置く桜。

破れた翼が元の形に戻ると同時に。
時間が止まる。

こちらを向いたまま動かないまどか。
その横を通り過ぎて、後ろの桜の隣に立つ。

翼を変化させた爪を抜き、一撃の元にその体を叩き潰そうと振るう。
まどかと違い、間桐桜を殺すことに躊躇などない。むしろその影の攻撃の多様性はあまりにも厄介だ。

振り下ろされた爪。しかし桜の体に触れる直前、何かがその腕を食い止めた。

「くっ…」

視界の外にいた、動くはずのないまどかが割り込んでその手の弓で爪を受け止めている。
腕の軌跡を変えつつ後ろに後退。

見ると、まどかの腰に細く黒い影のリボンが結びついている。
その先は間桐桜が手を付けた影の中。更に追っていくと、自分の足元の影から足首に結びついたリボンがあった。

いつの間に、と舌打ちしつつ影に潜り込んで繋がりを絶とうと手を翳す。

「ポッチャマァァァ!!」


926 : EndGame_叛逆の物語(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:19:23 i4CFovlM0
大きな鳴き声が響き、ほむらの手の先で巨大な渦が巻き起こった。
逃げ込もうとした影の前ですさまじい水の流れが発生し、止まる。

時間停止の影響と合わさり、水の渦は壁となってほむらの移動を阻む。
その渦の上から、ポッチャマを肩に乗せたまどかが飛び込んできた。

「しっかり捕まってて!」
「ポチャ!」

手にした光の矢をまるで剣のように振り下ろす。それを翼で受け止めつつ弾き飛ばすほむら。
狭い空間で地に足をつけると同時に手にした矢を放つ。

狭いが故に矢はほむら目掛けて飛来、それを体を傾けたところでその背後、渦を突き抜けた先で停止する。
矢を放った後それが停止するより早く走り出したまどかは再度手にした光の矢でほむらの元に迫る。

ドラゴンクローを構えて迎え撃つほむら、しかしその動きは鈍くアリスや桜と戦っていたような精細さがなかった。

渦の中は狭く、行動が縛られる。
渦潮に覆われた空間ではシャドーダイブで影に潜り込むより早くまどかが迫ってくる。
加えてまどかはほむらにとって殺害対象ではない。できれば傷付けずに済ませたいとも思っている相手。そんな彼女と狭い場所で戦うことは強いストレスだった。

爪で矢を弾きながらまどかの体を抑え込もうとするも、肩のポッチャマが的確に迎撃してくる。
吐き出された泡は止まった時の中で留まり続けるだけだが、体が当たりやすい狭所では地雷のごとき障害物だ。

矢と爪、互いの武器がぶつかり続ける中で徐々に焦れていくほむら。
時間停止、自分に有利なはずの空間で押し切ることができない。
そんな相手、アリスだけで充分だというのに。

「なら、まずはあっちから…!!」

まどかの矢を弾きながら、渦の上部に向けて羽の一群を飛ばす。
飛び上がったそれらは渦の上で間桐桜へと向いた状態で停止した。

「…っ、させないよ!!」

狙いに気付いたまどかが上に向かって弓を引く。

同時にまどかの意識が逸れたことを確認したほむらは時間停止を解除。
まどかとほむらの体が渦に呑み込まれ錐揉み状態に打ち上げられていく。

羽は一斉に桜へと向けて飛び始める。
まどかが天高く撃ち込んだ矢は空で巨大な魔法陣へと形を変える。

放たれた羽の弾丸は、魔法陣から放たれた矢の雨が一斉に撃ち落としていく。
直線的に動く羽を、それらを追うかのような軌道を描いて降り注ぎ、桜に辿り着くことなく落ちていく。

その状況の中、ほむらは宙で作り出した影の中に飛び込んでいく。
まどかが着地したところでほむらの姿は視界から消えている。ほむらの足に巻かれていた影の帯も途中で途切れている。

「桜さん、今そっちに――」
「大丈夫です、まどかさんはそのまま…!」

ほむらの狙いが桜になることは分かっている。
駆け寄ろうとしたまどかを、桜が止める。

同時に、2人のいる空間の時間も止まった。

影から姿を現したほむらは桜の背後に立ち、ドラゴンクローを構え。
時間を解除してその爪を振り下ろした。

「桜さんっ!!!」

まどかの叫び声と共に、爪に体を引き裂かれる桜。

「……!しまった…!」

その声はほむらが漏らしたものだった。
切り裂いたはずの桜の体は爪が触れた瞬間、まるで糸が解けるように形を崩して影の帯へと変わり。
体を切り裂いた爪を起点にほむらの全身を縛り上げていく。

「まどかさん、今です…!」

少し離れた場所で、影で体を覆うようにして身を潜ませていた桜がまどかに呼びかける。

手足のみならず翼も拘束されており振りほどくには時間がかかる。
時間を止めようにも帯の一部は桜の手にある。さらに振り切った帯の端が別の一端と繋がっておりまどかも巻き込むため意味がない。

一瞬の焦り。
目の前でまどかが光を引き絞っている光景が見えたところで意識を戻す。

「ほむらちゃん、かなり痛いかもしれないけど…!」

放たれた一迅の光がこちらの体へと向けて一直線に飛来する。

破れかぶれに、これまで使わなかったギラティナの技を放つ。
両手両足と翼を拘束されていても発動可能な技。
収束させた魔力が岩のような形をとって眼前に展開される。
それらは障壁となってまどかの放った矢を受け止める。


927 : EndGame_叛逆の物語(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:19:54 i4CFovlM0
ほむらの発動させた原始の力とまどかの矢がぶつかり、一瞬の拮抗の後矢がほむらへと着弾する。
体を覆っていた影を引き裂きながら吹き飛ばされていくほむらの体。
しばらく宙を舞い、地面を転がって仰向けに倒れ込む。

矢が当たった腹部はドレスが破れ血が付いている。
使い勝手を把握していなかったがためにギリギリのタイミングで撃つことになってしまった原始の力では受け止めきれなかったようだ。

魔力で怪我を治しながら体を起こす。遠くからまどかが桜を伴って近付いてくるのを感じる。
同時に、ここから離れた場所に光の柱が立ち上るのを確認した。あの方向は確か多くのポケモンがアーニャの部下達と戦っていた場所だったと思う。
アーニャから制御を預けられていた最終兵器を通して、この空間の状況を確認する。

ポケモン城にいた最後の刺客であるエラスモテリウムオルフェノクはいない。
アーニャのナイトメアは枢木スザクと刺し違えたようだ。
それ以外の参加者は健在である。

N、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
乾巧はいない。ニャースの存在も感じ取れない。それぞれ会場内で刺客が倒したか、あるいはこの場で死んだか。

残り5人。殺すべきは3人。

「まどかと間桐桜の2人に苦労してる場合じゃないわね…」

おそらく残り2人も寄ってくる。それだけではなく、ポケモンも何匹かが残っている。
アリスとの戦いで消耗しすぎた。時間停止だけに頼っている場合ではないかもしれない。

腹の傷に触れながら、ふと気付く。
あのまどかがどの世界のまどかと繋がっているのかは分からないが、知っているまどかは全力で射った矢の一撃で魔女を射抜くほどの力を持っている。
少なくともこの体であっても無事で済むものではない。

ふと感じた違和感から、体の状態を確かめるほむら。

「…なるほど」

そうして今体にかかっている状態に気付いたほむらは、立ち上がりつつ翼を広げる。
そういうことであれば、ゼロから引き継いだ魔女の力、ギアスが使えるかもしれない。




追いついてきたまどかと桜。
もしもの時間停止に備えるようにその手には影の帯が互いに結ばれている。

血に濡れた腹部は少しずつ修復されている。
自分なりに全力でぶつからねばほむらは止められない、それに魔法少女としてのほむらであればあの一撃で命までは奪わないだろうとの攻撃。
ただ、まどかには想定よりもダメージが少なそうにも見えた。

「やっぱり強いわね、まどかの力は。あの時私を助けてくれた時もそうだったわ」
「ほむらちゃん…」
「私の行動パターンも、だいたい把握してるんでしょうね。時間停止の特性も、弱点も、それを活かしての私の動き方も。
 なら、それ以外でやらせてもらうわ」

額に浮かんだ紋様から赤い光が放たれる。
ほむらの広げた翼から、風が巻き起こされた。

まるで魔女の結界の中に入り込んだ時のような、嫌な感じがする風だと思った。
風は強いがそこまでの暴風というわけではない。動きは制限されるが飛ばされるほど強くはない。

だが、何故か仰ぐ一発ごとにその風の勢いが増しているようにも感じられた。

「ポ、ポチャポチャ…!ポチャア!!」

そのほむらの姿を見ながら、ポッチャマが真っ青な顔になって慌てている。

やがて風を起こすのを止めてこちらへと向かい直す。
まどかにはその時のほむらが何故か先程よりも大きくなっているように感じられた。視覚的には何も変わってはいないのに。

風を起こしている間に桜が作り出していた影の使い魔数体。一歩踏み出したほむら、それに対して桜はその行く先を封じるように展開させる。

「無駄よ」


928 : EndGame_叛逆の物語(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:20:40 i4CFovlM0
地を蹴って踏み込んだほむらは、手に込めた魔力を使い魔に一気に叩き込んだ。

「っ…!うぁっ!!」

吸収の能力を備えた使い魔は、その能力を発揮することもなくたった一撃で吹き飛んだ。
想像を越えた威力は桜の元にも衝撃を与え、まどか達の身をも吹き飛ばすほどの風を巻き起こす。
攻撃の威力だけではない、先程と比べて移動速度も異常に上がっている。

「桜さん!」

桜に呼びかけながら矢を放つ。
矢は一斉に分岐してほむらの前を覆うように飛びかかる。
先程は体を撃ち抜かれた矢、それが数発分一斉に襲いかかってきた。

それを、ほむらは手を前にかざして魔力で生み出した岩を浮遊させる。
先程受け止めるのに使った原始の力。
矢が直撃する。しかしそのまま砕けることなく、逆にまどか達の元に降り注ぐ。

咄嗟に桜を抱えて避けたまどかだったが、余波だけで吹き飛ばされた。

「…っ、うあっ!!」

桜を抱えた状態で受け身を取るまどか。

理由は分からないが、ほむらの能力が全体的に跳ね上がっている。
まるで魔法少女の力で自分の身体能力を強化したよう。だがそれでもここまで強化されることはない。


「なるほど、因果を操るギアス、こうやって使えばいいのね…」

ゼロから受け継いだことで発現したギアス。
鹿目まどかの運命を変えたいという強い意志から生み出された能力。
強力なものとは思っていたが、この会場で発現させた故に制限から逃れることはできず、他の参加者の因果や運命まで捻じ曲げることはできなかった。
もっぱら最終兵器を起動させた際に神を殺すこととその後の世界の作り変えのための能力と思っていたが。

ギラティナの使う技の原始の力、怪しい風。
この2つは時として自身の能力全般を底上げすることがある。それに気付いたのはまどかの矢を受け止めるために原始の力を発動させた時だった。
確率は低いが、発生しうる事象。その確率を捻じ曲げて呼び寄せた。
原始の力で1回、怪しい風で5回。これが底上げの限界らしい。
それでも、まどかの弓矢にもびくともしない防御力、そして彼女達を圧倒できる力があるのを感じていた。


桜が影を生み出し、ほむらの周囲を結界のように覆っていく。
檻のごとく体を閉じ込めるために囲われたそれを、ほむらは翼の一振りで吹き飛ばす。
ポッチャマがその外側からハイドロポンプを放出、水の柱で体を押し返そうとする。しかしドラゴンクローがこともなげに切り裂いて消失。

まずい、とまどかは感じていた。
おそらく今のほむらは自分でも止められない。
なんとしても桜だけは他の皆と合流させないと、それまでの時間を稼がないと。

ほむらの姿が影の中に消失する。
周囲を見回すまどかだが、どこに行ったのか、その場所が掴めない。
現れた時には桜を狙ってくるだろう。

「桜さん、目を閉じて!」

上に向けて矢を放つまどか。
矢は宙高くで形を変え、光の魔法陣を形成する。

桜のすぐ傍の空間に影が表出、その奥からほむらが姿を表す。
手には魔力が集まっておりそれで桜の体を貫くつもりなのだろう。

同時に上から矢が降り注ぐ。
魔法陣から放たれた光の矢の群はほむらの元へと軌道を描く。
今の体であれば当たったところで影響は少ない。無視したまま桜へと踏み込み。
ほむらに命中する直前、集まった魔力の矢がいきなり弾けて眩い閃光を放った。
思わず目を閉じるほむら。視覚に与えられた刺激に腕の軌跡が外れる。

その腕を、目を閉じながら迫ったまどかが掴み、背負い投げの形で投げつけた。
勢いのまま遠くに飛ばされるほむら。

息を切らしながら少しずつ目を開いていくまどか。
1人では厳しい相手だ。増してや桜を守りながらではそろそろ限界が来る。

「桜さん、逃げてください。私が時間を稼ぎますから…!」

決定打がないことは分かっている。しかしカードを通した記憶から、ある程度ほむらの動きに対して立ち回ることはできる。
せめて他の生存者と合流してくれれば、桜は助かるだろう。

言うと同時に、桜の近くで影が獣や人形を象って現れる。


929 : EndGame_叛逆の物語(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:21:59 i4CFovlM0
「…ダメです。私も…」

この戦い自体が、桜にとっては贖罪を意味するもの。逃げられるものではない。
だがそれ以上に、まどかの言葉、それは自分がどうなっても他人を助けようとする人のものだと。
脳裏によぎったある姿が、自分にその犠牲を許容させてはいけないと決意させていた。

それでも、まどかは桜の息が荒くなっているのが見逃せなかった。
使い魔を生み出したり影を使役するたびに、体に負担がかかっている。

一方でまどか自身も度重なるプレッシャーで心が締め付けられていた。
一手のミスで命が奪われる状況、己の行動に全てがかかっている。
息が荒くなっていることに、まどか本人が気付いていない。



そんな2人の様子を見ていたポッチャマ。
心の様子と体に与えられている負担も。何より間桐桜の先の言葉が。
ポッチャマ自身逃げるべき状況だと思う。だけど桜は逃げないだろう。戦うことを贖罪と思っているから。

小さな歩幅で2人の元に歩み寄る。

「ポチャ!」

呼びかけると2人がこちらに向く。

「ポチャ、ポチャポチャ、ポッチャマ!!」

手を胸の上に置きながら、自分の思いを伝える。

自分が前に出れば、少しは時間が稼げる。その間に2人は他の皆と合流するように。
そういったことを伝えていた。

通じてはいないだろうが、何となく言わんとすることは分かってもらえたのではないかと思った。

桜の体に手を置く。

ほむらの方に進み始めたポッチャマ、それを追いかけようとしたまどかは周囲に現れた水の渦に足止めされた。

「…!どうして…」

渦の中に閉じ込められたまどかはその場から動けない。
ほむらの元へと走っていくポッチャマの背中を、ただ見送るしかできなかった。



まどか達に歩んでくるほむらの前に、ポッチャマが立ちふさがる。
その小さな体を一瞥した後無視して進もうとするが、その進行先に割り込む。

「ポチャ!」

そういえば、時間停止の中で渦を作ってこちらの行動を縛ってきたのはこのポケモンだ。
他の参加者が集まってくるまでに障害は減らしておくのがいいだろう。

「思い返したら、あなたとの付き合いもそれなりの時間があったわね。まさかここまで立ち塞がってくる相手になるなんて思わなかったけど」

アリスとて手にかけたのだ。今更容赦することなどない。

その小さな口から吐き出した巨大な渦潮を、翼の一振りで弾き飛ばす。
続いて吐き出された泡の光線を、右手をかざして受け止める。
続いてハイドロポンプを撃ち込むも、ドラゴンクローが難なく受け止め切り裂いた。

「もう終わりかしら?」

その爪をほむらはポッチャマに向けて振り下ろした。
命中する直前、ポッチャマの体が光に包まれる。

叩き落された巨腕はポッチャマの体を切り裂きながら吹き飛ばす。
その一撃でポッチャマの片腕が切り裂かれて吹き飛んでいく。


930 : EndGame_叛逆の物語(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:24:30 i4CFovlM0
地面を転がるポッチャマ。周囲の地面に血が飛び散る。
もう起き上がれないだろうと進むほむら。

「ポ、ポチャ…」

数歩歩いたところで、ポッチャマの鳴き声がほむらの耳に届く。
後ろを見ると、傷ついた体を引きずりながら起き上がる姿があった。
重傷ではあるが、まだ死ぬほどでない。手加減したつもりはない。体の小ささ故に爪の動作調整が難しかったんだろうと考えた。

「どうしてそこまで戦えるのかしら。自分の主の仇のために」

あまりにも理解ができなくて、思った疑問が口に出ていた。
そんなにボロボロな状態になっても守りたいものなのだろうかと。
自分であれば許せないだろう。
まどかを殺した美国織莉子を許さなかったように、まどかを庇うような形で死んだ今でも許してはいないように。

「ポチャ…」

言った言葉は分からない。
ただ、その瞳がこちらを笑っているように思えた。
そんなことも分からないのかと言っているような、そんなことを気にしているのかと言っているような。

どこか憐れまれているような表情が、癇に障った。
その首を掴み上げる。

「分かったわ。次の攻撃で死なせてあげる。
 主の後を追えばいいわ」

持ち上げたポッチャマの体を放り投げる。
上に高く打ち上げられたポッチャマの体に向けて、巨大な爪が掲げられる。
今度こそその生命を断つための一撃。
その爪を見て、自分は死ぬんだろうなとポッチャマは思っていた。
桜を守ろうとした理由は大したものではない。ただ、ここで桜を見捨てるような自分がヒカリのポケモンとしていられるかが分からなかった。

ピカチュウやニャース達はどうなっただろうか。まだ生きていてほしい。そう信じたかった。
桜は立ち直れるだろうか。ヒカリのことだけではない、たくさんのことを背負った状態で。それでも少しずつはきっと変わっている。そう信じよう。

果たしてこれが通じるか、せめて時間稼ぎにはなっていて欲しい。
この一撃で、即死さえしなければ。発動までの間を堪えることができたら、自分の勝ちだと。
体が引き裂かれる。
傷が腹から背中まで貫くのが分かった。
遠ざかる意識を、一瞬だけ堪える。
発動準備が整った。体の光が、勢いを増す。

「ポッチャマァァァ…!!!」

最後に叫ぶ声を上げて。
ポッチャマが最後に準備していた技、がまんが発動。
受けたダメージをほむらに返すように、膨大な光のエネルギーがほむらの翼を貫いて包み込んだ。



閃光が奔ったのと、ポッチャマが放った渦潮が消滅するのは同時だった。

「ポッチャマちゃん!」

状況は分からないが嫌な予感を感じて、大声で呼びかけるまどか。
その隣で、魔力、エネルギーを通して状況を感じ取っていた桜が震えている。
ポッチャマが気になったもののそちらも放ってはおけず、まどかは桜に駆け寄る。

「桜さん…!」
「今…、すごい力が現れて……、命が一つ、消えたような……」
「…っ!」

まどかの顔から血の気が引いていく。

同時に、迫ってくる強い魔力の気配も感じ取った。
振り返るまどか。

「ほむら…ちゃん…?」

翼は破れ、肩から右胸にかけてが消滅し、顔は片目から頬にかけて大きく抉れていた。
人間であれば生きているのが不思議な損傷。

それでも魔力を通すことで体を修復しようとしているようで、少しずつ肉が、骨が、血管が治っていく様子はまどかには見るに堪える姿ではなかった。
ポッチャマの最後の足掻きであるがまん、それによって反射されたのは増幅された威力で放たれたドラゴンクロー2発分×2のダメージ。
強化された体を持っていたほむらであっても甚大なダメージを受けるほどのものだった。

それでもほむらの命であるダークオーブに当たることがなかったため、大きな損傷を受けつつも生き延びていた。

魔力で体を修復しつつも、それだけに意識を割くこともなく残ったもう一方の翼を掲げる。
あれだけのダメージを受けていても彼女から感じる力には衰えを見つけられない。

桜を庇うように弓を構えるまどか。

次の瞬間、まどかと桜の後ろから一筋の光が奔る。
まどか達に向けたはずだった翼は、それを払うために振るわれる。

「まどかさん、桜さん!!」

振り返った先で聞こえた少女の声。
赤い竜、リザードンに乗ったイリヤが赤い外套を纏った姿で弓を構えていた。
その後ろからはもう一匹のリザードンに乗ったN、あとは幾匹かのポケモンの姿が見える。

「1人ずつ相手をしようと思っていたけど、まあいいわ。
 集まってくれたなら探す手間が省けたんだし」

そんな光景を見ながら、ほむらは呟いて不敵に笑った。


931 : EndGame_叛逆の物語(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:25:39 i4CFovlM0
「桜さん大丈夫ですか?!それにまどかさんその格好は…」
「ちょっと色々あって。今は戦えるから」

リザードンの背から飛び降りたイリヤは状況を把握しながら双剣を構える。

「イリヤさん…」

呼びかけに答えながら桜はゆっくりと立ち上がる。
影の中から小さなぬいぐるみのような使い魔が現れる。

立ち上がりつつ魔力を行使して戦おうとする姿に驚くイリヤ。

「大丈夫です、私も戦えます」

言いながらやる気を見せるその姿に、今までずっと沈んでいた桜の心が前に進む決意をしたのだということが感じられた。
何があったのかまでは分からないが、小さく胸を撫で下ろす。


『ロ、ロト?!』

地面に降りたNの懐から飛び出したロトム図鑑が、前にいる暁美ほむらを見ながら慌てた様子を見せる。

『どうしてあの人間からポケモンの反応がするロト?!』

言葉の通り、ほむらの体からは確かにポケモンを見た時と同じ反応を受信していた。
そこに映っていたのは、反骨ポケモンのギラティナ。Nが見比べると、確かに翼部分にその面影が見えた気がした。

「…君たち魔法少女の体が普通の人とは違うことは聞いている。だけどこれはどういうことなんだ?」
「少し、予想を越えたことが起きただけよ。私はうまく利用させてもらっているけど」
「気をつけてくださいNさん!あの人は桜さんを攫って私達に黒化英霊達を差し向けてきたんです!」
「なるほど、君はアカギに協力することにしたんだね」

理屈は分からないが、その体からギラティナの反応がしているということは力を奪われたギラティナがどこかに存在していると推測した。

「ギラティナのことも、解放させてもらう」
「できるかしらね?」

魔法少女とはいえ美樹さやかほどの回復力がない故か、あるいはポッチャマの遺した置き土産か、体の回復速度はあまり早くはない。
ようやく腕と顔が形だけは戻ってきている様子だった。
身体機能としてはまだかなり支障があるが、情報が漏れている以上あまり時間を与えて連携・対策の暇を作るのはよろしくない。

一歩踏み出すと同時に、イリヤが双剣を振りかざして迫る。
体に降ろされた刃を、魔力を付与した腕で受け止める。

「な…、腕で…!?」
『イリヤさん、この人硬いです!』

素手で受け止められたことに驚愕するイリヤは、ほむらの背中の翼が爪の形となって振り下ろされたのに対して反応が遅れてしまう。
巨腕に吹き飛ばされた体は地面を転がるも、どうにか宙に浮いたところで体勢を立て直す。

『ロ、ロト…』
「どうしたんだロトム」
『今あの人間の状態を分析したけど、まずいロト…!全能力がポケモンのあげられる限界まで上がってるロト…!』
「全能力…!?」
『それってどういうことなのか、もうちょっと噛み砕いて言ってもらってもいいですか?!』

イリヤが弓や空中に投影した剣を放って牽制しながら、その体に取り付いたルビーが問いかける。

『要するにすごい攻撃力があってすごい防御力があって、すごく速いってことロト!』
「なるほど!」

イリヤが捻れた剣を放ち、それに合わせるようにまどかが引き絞った光の矢を撃ち込む。
すごく硬いということを理解したが故に、矢として放ったのは極大威力の螺旋剣。まどかもそれに合わせ引き絞った矢を射出した。
二つの閃光はほむらに命中する軌跡を描くも彼女の展開した翼が直撃を防ぎ、そのダメージを大きく軽減させていた。
翼は損傷するも、もう一方、再生を続けていた側の翼が形を取り戻して翻る。

『今のを耐えるとなると、宝具クラスの火力がないと厳しいですよ』
「じゃあこれで…。まどかさん、桜さん、後方支援お願い!」


932 : EndGame_叛逆の物語(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:26:01 i4CFovlM0
前に出ながらカードを掲げるイリヤ。
その姿が紅い槍を手にした青い槍兵の姿へと変わっていく。

まどかの放った矢が拡散しほむらへと着弾していく。
ダメージはさほどないが、視界を奪われたところで追ってイリヤの槍が迫る。
繰り出される素早い突きをほむらは手で捌く。

背後の翼の竜爪が薙ぐように振るわれる。
見かけよりも速いその腕を身を反らして交わしながら。

(この武器は心臓を穿つ…。魔法少女なら…)

発動すれば相手の心臓を穿つ因果を放つ宝具。
殺したいわけではないが、魔法少女なら死ぬことはないかもしれない。聖剣よりは確実に動きを止めることはできるはず。

ほむらの横から黒い影が飛びかかる。
翼を使うまでもなく手で薙ぐと、崩れた形が帯となってほむらの体を縛り上げる。

(今だっ…!)

隙が生まれたところで体勢を立て直したイリヤは、槍を構え。

こちらを見ていたほむらの額が光る。

「刺し穿つ死棘の(ゲイボル)―――」
『…!!!いけません!!』

その真名を言い切るまでのところで、何かに気付いたルビーが叫ぶ。
同時にルビーの制御によりカードが強制停止、排出。
魔法少女の姿に戻ると共に、反動で吹き飛ばされる。

「ごほっ、げほっ…、な、何…?」
『危なかったです…、今の攻撃を放っていたらゲイボルグはイリヤさんの心臓を貫いていました』
「えっ…?」
『何故か、槍の暁美ほむらさんの心臓を穿つという因果の対象が何故かイリヤさんへと切り替わったのです。
 それと、そのタイミングでほむらさんからゼロと戦った時に感じたものと似た魔力反応を感じました。おそらくそれをもってゲイボルグの呪いを弾いてイリヤさんに押し付けたのでしょう』

危うい状況からどうにか乗り越えたということは分かった。しかし休んでいる暇はない。
立ち上がろうと前を向いた時には、視線の先に巨大な竜爪が迫っていた。

「イリヤちゃん!」

割り込んだまどかが弓の柄をぶつけてその一撃を反らす。
逸れた爪はイリヤの隣の地面を抉り取る。

同時に後ろから追ってくるように矢の弾幕が迫る。
動きを止めるほむらと、その隙を縫って離脱するまどかとイリヤ。
しかしすぐさま気を取り直してほむらが地を蹴って迫る。その速度は速く逃げる2人にすぐに追いつくほどだった。
すぐさま飛び出したリザードンが火炎放射を放ち、2人とほむらの間を炎で焦がす。

立ち止まって上を向いたほむらに向けて、続けて龍の怒りを吐き出す。
ドラゴンの力を宿した覇気は一直線にほむらへと軌道を描く。それに特に慌てるでもなく振り払おうと翼を掲げる。
それが翼に当たった瞬間、大爆発を引き起こした。


933 : EndGame_叛逆の物語(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:26:17 i4CFovlM0
その体を焼くダメージは想定外のもので、爆風をやりすごし切れず吹き飛ぶ。

(炎は大したことなかったのに、…攻撃の属性の問題?)

身を起こしながら体の状態を確かめる。
威力はそう大きくはない。ただダメージがあの同じポケモンが放ったものと思えなかった。

空を飛ぶリザードンを見ながら不快そうに目を細める。

「邪魔ね」

一度なら問題ない。だが何度も撃たれるとまずい。
今一番の驚異と認定し、緋色の翼竜を落とすため飛翔した。



「そうか…!龍の怒りは相手の能力に左右されずダメージを与えるから…!」

ほむら/ギラティナの能力から能力値に上昇がかかっていることを読んだロトム。
その言葉を聞いてNは対策を思考し続けていた。

その中で、リザードンの撃った龍の怒りは対策の一つになり得るものだと判断していた。

「頼む、リザードン!君も彼を援護してくれ!」

クローンのリザードンにも指示を出し、ほむらの対応を任せる。
龍の怒りは能力に左右されないダメージを与える。しかし決して大きな威力ではない。対応ではあるが決定打にできない以上一匹では厳しい。

「イリヤちゃん、大丈夫?!」
「だ、大丈夫…。それより、どうにかできないの?」

胸を抑えて起き上がりながらロトム図鑑に問いかけるイリヤとルビー。

『あれはあなたの世界のポケモンの勝負で起こり得る状態なんですよね。であれば何かしら対処方法があるはずです。
 あなたの世界のバトルではどうやって対処してるんですか』
『ロト。能力上昇がかかったポケモンは、一度引っ込めて上昇をリセットさせるか上昇自体を無効化するか、あるいは能力上昇を無視できる攻撃を当てて対応してるロト。
 ポケモンじゃないから引っ込めるのは不可能として、黒い霧とかクリアスモッグが使えるポケモンがいればいいんだけどロト…』

残ったポケモン達にそれらの技を使える者はいない。
能力上昇を無視、龍の怒りは有効ではあるだろうが威力が小さい。イリヤが放った刺し穿つ死棘の槍も防御を無視可能な攻撃だったが、別要因によって阻まれた。

「無効化…、そうだ!」

頭を抱えていたイリヤに一つの考えが浮かぶ。

「Nさん、まどかさん!
 ほむらさんの動きを止められますか?少しの間で大丈夫ですから」
「動きを止める、それで対応できるのか?」
「できます、当てれば行けるんですけど当てるのが難しいから」
「だったら、私も手伝います…」

桜が再度影の使い魔を生み出す。
しかしそろそろ息が苦しそうだった。

「ありがとう、だけどみんな無理はしないで。桜さんも」
「大丈夫です、これくらい……」

足元がふらついている。その体をNが支える。

「彼女は僕が守ろう、だからみんな、気を付けてくれ」

言いながらほむらとリザードン達の戦いに目を向ける。
おそらくリザードンと比べてほむらが空中戦に慣れていないからだろう、どうにかリザードン達でも対処はできているが当たれば一撃で戦闘不能も有り得る攻撃を捌くのに精一杯の様子だった。

イリヤの姿が黒衣と髑髏の仮面を被った姿に変わる。
短刀を構えて突撃をかけるイリヤ、その後ろから大きく迂回しつつ矢を放って迫るまどか。

迫る2人の姿に視線を移したほむら。その隙を打ってリザードンが同時にほむらへ尻尾を叩き付けて地面に落とそうとする。
両手でそれを受け止めつつ尻尾を掴み、そのままリザードン同士の体をぶつけ合わせた。
衝撃に鳴き、その体から力が抜ける。
それを掴んだまま地に降下、リザードンをまるで武器のように容赦なく振り回して迫るイリヤを牽制する。


934 : EndGame_叛逆の物語(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:26:33 i4CFovlM0
素早い身のこなしでその攻撃を避けつつ合間を縫って短刀をほむらの体向けて投げつける。
リザードンを壁にしようと掲げるも、短刀の柄へと目掛けて射られた矢が短刀の軌道を変えてほむらの体へと刺さる。
体を貫くことはなく、少し傷つけただけで地面に落ちる。
しかしほむらは顔をしかめた。

「毒…、こんなもので…」

傷自体は大したものではなくかすり傷をつけた程度だ。
ただ、体に回った毒が手に痺れを引き起こし、リザードンを掴んでいた手を離してしまう。
解放されたことでふらつきながら離れていく2匹。その合間から再度短刀が飛びかかる。

翼で風を巻き起こすことで、風圧で短刀を弾き飛ばす。同時に生温く不気味な魔力のこもった突風にイリヤの動きが止まる。
狙いをイリヤに絞ろうとしたところで、横から迫る気配を感じそちらに意識を移す。
迫ったまどかが振り下ろした弓の柄を、手で受け止める。

同時に視界の端でイリヤが短刀を投げつけてくるのを見て、再度風を巻き起こして2人の体を吹き飛ばす。
別方向に飛ばされていくイリヤとまどか。
すかさず影の中に飛び込むほむら。

イリヤが体勢を立て直して地に足をつけたところで、その背後に影が現れ、ドラゴンクローを構えたほむらが姿を表す。

「イリヤちゃん!!」

離れた場所に飛ばされたまどかが呼びかけながら弓を構えるが間に合わない。
巨大な爪がイリヤの体を貫く。

血しぶきが舞い、ほむらの顔を濡らして。

その姿が弾ける。

「―――!」

本体ではない、これは身代わりだと。
同時に弾けた体から飛び出した影が帯状にほどけ、ほむらの両翼を縛り付ける。

(また、これか…っ!)

翼が拘束され、ドラゴンクローが封じられる。
だが影の強度は分かっている。この程度なら引き千切るのは容易い。

その時、背後に気配を感じ取った。

分身を用いてこちらの攻撃を回避したイリヤの姿。その身を覆う衣装は黒衣から変わっている。
全身をローブで覆って、その手には短刀ではなくギザギザの刃を持った短剣が握られていた。

「破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)!!」

翼が封じられており振り払えない。腕で受けるのも不味いと直感で感じ取った。そもそも目の前で突きつけられた刃をやり過ごす技量はほむらにはない。

(いけるっ!!)

そう思ったイリヤ。
しかし。

「残念ね。私が魔法少女でさえなければ、当てられていたでしょうに」

突如ほむらの姿が消失、視界の外の頭上からその声が響いて。
同時に爪の一振りでイリヤの体は吹き飛ばされた。

見上げた一瞬イリヤの視界に映った姿、宙に座るような姿勢をするほむらの腕には、時計を思わせる盾が装着されていた。


しまった、忘れていたと咄嗟に矢を構えるまどか。
しかし引き絞った矢を放とうとした次の瞬間、目の前に移動したほむらに腕を取られ、地面に叩き伏せられていた。

その様子を見て、退いていたリザードン2匹がほむら向けて飛び立とうと翼を広げる。

「まずい、戻れリザードン!!」


935 : EndGame_叛逆の物語(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:27:03 i4CFovlM0
直感が危険を感じたと同時にNはモンスターボールを構え、リザードンをボールに戻す。しかしボールのないクローンのリザードンはその場に残ったままだ。
ほむらが目の前に現れたと同時、空間に岩を象ったエネルギーが出現、リザードンやN達に向けて放たれた。

リザードンを庇うように前に出るN。しかし降り注いだ原始の力を防ぐことなどできず、N、桜、リザードンの体は吹き飛ばされる。

「うあっ!」

前に出たNをリザードンが翼で庇ったことでダメージを軽減できたものの、リザードンの受けたダメージは甚大だった。

ポケモンバトルであれば戦闘不能になるほどのダメージ。しかし今やっているのはポケモンバトルの試合ではなく命をかけたバトル。
体を起こし、Nと桜を庇うように立ち上がる。

リザードンに向けて爪をかざしたところで、背後から二つの閃光が奔った。

背に受けた衝撃に振り返ると、弓を構えたまどかと魔法陣を宙に描いたイリヤ。
イリヤはローブが裂けて血が滲んでいる。それでも息を切らしながら杖を支えにして立ち上がっている。

思ったより立ち上がるのが早かった。トドメを刺すより追いすがってきそうな方を優先して叩いたが判断を間違えたかもしれない。
立ち位置が逆方向なのも面倒だ。

時間を止めて2人の元に迫る。
目前まで距離を詰めたところでドラゴンクローを構えて解除。

目の前に迫った敵に驚きつつも魔術の盾を形成して振るわれた一撃を防ぐイリヤ、しかし盾は耐えきれず破壊され吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた体を、駆け寄ったまどかが受け止め、そのまま駆け出す。

「っ…」
(どうしよう…、このままじゃほむらちゃんに勝てない…)

距離を取りながら考え続けるまどか。
おそらく今のイリヤの、さっき取り出した短剣がこの状況を打開する鍵なのだろう。
だが不意打ちに失敗した以上当てるのはより困難になった。

(どうすれば、どうすれば…)

思考を巡らせる。
脳裏に、まどかの知らない記憶が巡っている。おそらく別の時間軸の、魔法少女としての自分の記憶だろう。
何か、魔法少女としての力に反撃の一手が打てる手段は。

多腕の巨大な魔女に矢を射る自分がいた。
人魚の魔女の攻撃を避ける自分がいた。
ワルプルギスの夜に向けて矢を放つ自分がいた。

見知らぬ魔法少女の手を取って、共に矢を射る自分がいた。

「――――!!」

上に向けて矢を放ち、光の魔法陣を作り出す。
目の前に迫ったほむらに対し、上から降り注いだ矢が一斉に襲いかかる。
大きなダメージを受けた様子こそないが、衝撃でまどかとの距離を離されてしまう。

時間は稼げた。

「イリヤちゃん、さっきの短剣、もう一回出せる?あれが今ほむらちゃんに効く武器なんでしょ?」

地に足をつけ抱えたイリヤを下ろしながら聞くまどか。

「え、うん、あれは燃費がいいから出すのは問題ないけど…」
「じゃあお願い、今から言うことに合わせて!」

説明しながら、こちらに振り返るほむらがまどかの目に映る。

「そんなことが、できるの…?!」
『私達にそもそも互換性があるのかは分かりませんが、いえ道理を無茶で突破してこその魔法少女ですし、やってみましょうイリヤさん!』


936 : EndGame_叛逆の物語(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:27:30 i4CFovlM0
説明を終えたまどかは、イリヤと手のひらを合わせ。

「「―――コネクト!!」」

そう叫ぶと同時に、二人の内にあるクラスカードが光を放ち。
光が収束したと同時に、まどかの構える弓とイリヤの構える杖が一つに合わさった武器となる。
二人の持つ魔力が、一つの武器となり互いの特性を保持したまま混ざり合っていた。
イリヤの構えた杖の先端に照らされる魔法陣の中心で、まどかが光の矢を引き絞っている。

直感的に、何かまずいことが起きたと感じたほむらは二人の元へ飛ぶ。
おそらく距離を詰めるより矢を放たれる方が先だろう。そう判断し時間を止める。

距離を詰めて二人の目の前に移動。
羽状の魔力の矢を一気に周囲に撒き散らして二人の逃げ場を封じ。
そのままドラゴンクローをイリヤに向けて構えた。

仮に時間停止から攻撃までの僅かなラグに対応できたとしても、この羽根の弾丸を避けることはできない。

時間がかかったが、これで締めとなるだろう。
イリヤスフィールさえ殺せば向こうには対抗する手立てはなくなる。

「これで最後よ」

時間が動き出す。
ドラゴンクローがイリヤの体を叩き潰し、同時に一斉に降り注いだ弾丸が二人を襲う。

「な…」

思わず声が漏れるほむら。
今放った攻撃に、手応えが感じられなかった。

いや、それどころか二人がいたはずの場所とは違う方向を向いている。
振り返ると二人の魔法少女は武器を構えた姿で健在。

視界の端で、地に膝を付いているN。
その傍には、幻影を操る黒い狐の姿があった。


「ちょっと痛いかもしれないけど――我慢してほむらちゃん!!」

放たれた閃光。
まどかの敵を追尾し貫く攻撃と、イリヤ/メディアの相手の魔力効果を打ち消す宝具の効果が合わさった矢が、ほむらの体を貫いた。




残った参加者達が戦っている場所とは別空間。
会場の空間崩壊と共に風景が剥がれ、どんな場所とも言えない空間となった場所。
そこに力を奪われ抜け殻のように倒れていた一匹の巨竜。
その瞳が、静かに開いた。




貫かれた腹部を抑えながら膝をつくほむら。
ほむらの纏っていたドレスや巨大な翼が消滅し、まどかにとって見慣れた魔法少女のものへと変わっていく。
転がり落ちた、変質したソウルジェム・ダークオーブは一つの珠へと形を戻していく。

『やったロト!能力強化が消滅、ギラティナの反応も消えていくロト!』
「勝った、のか…?」

原始の力の余波で意識を失ったままの桜を抱きかかえながら、ゾロアークに警戒をさせつつ様子を伺うN。

イリヤは矢を放つことに協力したことで魔力を消費しすぎたか、クラスカードを排出して息を切らせていた。
疲労から膝をつくイリヤの隣で、まどかは魔法少女の姿を保ったままほむらへと歩み寄った。


「ほむらちゃん…」
「まどか…、ぐっ……」

苦しそうに胸を抑えるほむら。
ギラティナが解放されたことで力を取り戻そうと暴れている。
ほむらの魂を捉えた白金珠だが、もし力を取り戻されたならその魂は完全に追放され消滅するだろう。

「私の、負けね…」
「勝ちとか負けとかじゃないよ。
 ほむらちゃんはずっと私達のために頑張ってくれてたんだよね」

ほむらの体を静かに抱きしめるまどか。

「ありがとう。だけど、これ以上はダメだよ。ほむらちゃんが頑張ってきたこと、それが全部ダメになっちゃう」


937 : EndGame_叛逆の物語(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:27:55 i4CFovlM0
何度も繰り返して、いろんなものを見捨てて、いろんな罪を犯して。
それでも戦い続けてきた軌跡、その全てが穢されていく。
ほむら自身のより大きな罪によって。

「ずっと辛かったんだよね。ごめんね…」

まどかの瞳から涙が零れ落ちる。
自分のせいで、こんなになるまでほむらちゃんを傷だらけにしてしまった。その罪悪感が胸を痛める。

そんなまどかを、抱きしめようと動いたほむらの手は。

「―――まだ、よ」

抱きしめることなく、まどかの肩を掴んで引き剥がした。
そのまま、まどかの体を突き飛ばす。

「ほむらちゃん…?」
「まどか、あなたは優しすぎる。自分にしかできないことがあると知ったら、どれほどつらい事だとわかっていてもそれを選択できてしまう勇気がある。
 あなたにしかできないことがあると知った時、あなたは、自分でも気づいていないほど優しすぎて強すぎる…」

自分のソウルジェムに手をかけるほむら。

「その優しさがないと進めない世界なら、あなたを犠牲にしないと続けられない世界だったら、そんな世界なくなってしまえばいい…!」
「ほむらちゃん…!」
「アーニャ、あなたから預かった最終兵器の起動キー、ここで使わせてもらうわ」

ほむらの手が光る。
今や自分のソウルジェムでもある白金珠に、それを撃ち込もうとしている。

「ダメっ!!」
「ずっと大好きよ、まどか。いつも、どんな時も」

ほむらを止めようと手を伸ばすまどか。

しかし間に合わず。
額に紋様を浮かべたほむらはその光を白金珠の内部に撃ち込んだ。

白金珠には傷一つ付いていない。
しかしその内側にあった輝きの一部、ほむらの魂であった部分が消滅した。


同時に、戦いと空間崩壊の影響で別位相に移動していた最終兵器、巨大な花の蕾を思わせるオブジェのような水晶の物体が動き出す。
ほむらの魂の流入を楔として起動したそれは、膨大なエネルギーを持った閃光を放つ。

最終兵器、ポケモンの世界にて戦争を終わらせるための大虐殺を行ったそれはシャルルやキュゥべえ達の技術をあわせることで神を殺すための兵器となっていた。
そこにほむらの因果を操るギアスを用いて世界の形を変える楔を、神を殺すと同時に撃ち込むことで世界の形を作り変える。
もし最後の1人となるまでに参加者の因果が集まっていれば多数の世界の法則を壊し影響を与えるものになっただろう。
しかしまだ参加者は残っていることで影響を与える範囲は大きく狭まってしまった。
それを承知で、ほむらは自分の世界の「神」を殺す攻撃を放った。
まどかに因果が集まることのない、ただの人間として生きていられる世界を願って。

閃光は空間を割って遥か彼方の空へと飛んでいく。
それを見る皆にはどうにかする手段などなく、ただ見ているしかできなかった。



【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】


938 : EndGame_close ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:28:43 i4CFovlM0


閃光に包まれ目を閉じた一同。
正体が分からぬまま、あるいは死を覚悟したかもしれない。

やがて閃光が収まっていく中で、小さく目を開く。
黄昏の空を思わせる色をした景色に、遺跡のような場所が存在していた。

その風景の中から、巨大な影がこちらを見ていた。

「ギラティナ…」
「ギォォォォッ」

一声咆哮を上げるその影、ギラティナ。

その声からは皆に対する感謝が聞こえた。
どうやら暁美ほむらを倒したことでその体が解放されたということだ。

「さっきの光は…」
「…うっ……」
「桜さん!」

状況が掴めない中で、桜が目を覚まし。

「あれ…、カードは…」

まどかの姿は魔法少女ではない、制服姿へと戻っていた。
まどかの使ったクラスカードは周囲を見回してもどこにも見えなくなっている。

空間にいるのはまどか、イリヤ、N、桜。
そしてギラティナやゾロアーク、クローンのポケモン達。
手元を確かめると、ボールをはじめとした所持品は消えていないようで安心する。

「ギシャアアアア」

状況が掴めぬまま困惑する一同の前で、ギラティナが警戒するような声を上げる。

その視線の先を見ると、一人の恰幅のいい男の姿がそこにあった。
どこか威厳も感じるその傍に、4つの黒い影が姿を表す。

Nはその姿がポケモン城でポケモン達の命を奪った黒い騎士達のものであることに気付き、警戒する。

「よい、下がれ」

しかし男はそう指示を出して黒い騎士を下がらせた。
4人の騎士は影となって消えていく。

「我が名はシャルル・ジ・ブリタニア。この殺し合いの儀を取り仕切る者の一人だ」
『あなたが、スザクさんが言っていたアカギの協力者かもしれないという人物ですか』
「そうだ。今は儀式を生き延びたお前達を祝福しにきたのだ。
 喜ぶがよい。ここにいる者たちが、儀式を生き抜いた者の全てだ」
「えっ、全てって…、乾さんは…」
「あれ…、スザクさんがいない…」
「………」

桜が巧を、まどかがスザクを探す。
知っているイリヤは顔を伏せる。

「言ったであろう。ここにいる者が全てだと。
 この先にアカギが待っておる。あとはお前達次第だ」
「あっさり通すんだな。妨害はしないのかい?」
「既に儀式が続けられる状況ではない、マリアンヌも逝った。私だけここにいる意味もないのでな」


939 : EndGame_close ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:29:01 i4CFovlM0

そう言ったシャルルの体から光の粒子が漏れ始めた。

「一人となった今ではそろそろ限界のようだ。あとは好きにするがよい」

それだけ言って、シャルル・ジ・ブリタニアの体は消失し。
空間には大きな扉が一つだけ残されていた。

『イリヤさん、皆さん体調が万全ではありません。休息を取って回復してから入った方がいいのではないでしょうか?』
「そうかな…」
「…いや、これ以上戦うことはないんだろう。
 シャルル・ジ・ブリタニアの反応を見るに、彼やアカギが僕たちを殺すことに利点がないみたいだ」

言って扉に手をかけるN。

「だけどもしものことがあった場合は、僕とゾロアークが全力で逃がすさ」

そう言うNも全身傷だらけで、少し足を引きずっているようにも見えた。

イリヤ、まどかに抱えられた桜。
そしてクローンのポケモン達、リザードン・サザンドラ・ポッチャマ・ピンプク。

4人と4匹は扉を開いて門をくぐった。



「…4人か」

二匹の巨竜のポケモンが固まっている中で、その間の虚空を見つめながらアカギは呟いた。

「アカギ…」
「儀式は失敗だな」

名を呼んだところで、こちらを振り向くこともなくアカギは手を翳す。
身構えたN達だったが、次の瞬間空間に割れ目が生じた。

「その歪はお前達の帰るべき世界に繋がっている。
 細かい調整はギラティナに任せればいいだろう。さっさと帰れ」

にべもなくアカギは皆に対して帰れと言っていた。

「ま、待ってよ…。あなたのせいで皆死んだんだよ!
 せめてみんなに謝るとか―――」
「知らん。私は目的のためにお前達を利用した、それだけにすぎん。
 今回は失敗したようだが、次はうまくやってみせるさ」
「次って…」
『あなたは、また同じようなことを繰り返すつもりですか?!』

シャルル・ジ・ブリタニアは消え、キュゥべえも追放された。
協力者はいなくなり、アカギは一人しかいない。
同じようなことができるとは思えなかった。

「次はもっと有用な協力者を探す。それに暁美ほむらの最期のおかげで収穫はあった。
 お前達は生き残ったことで私の望む世界には届かないものだが、あれは確かに暁美ほむらの望みだけであれば叶えうる力だった。
 しかしそれでも世界改変には失敗した。世界を、『神』を殺すには尚も強力な力が必要だということ。
 また一からだ、だが時間がかかろうと必ずたどり着いてみせるさ」
「…っ!ほむらちゃんのことをモノみたいに言わないで!」


940 : EndGame_close ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:29:27 i4CFovlM0
淡々と話し続けるアカギの言葉、その中にほむらの名を出されてまどかは激昂する。
イリヤもステッキを構える。

「戦うというのであれば付き合いはするが、しかし今のお前達で戦えるかな?」

巨竜、ディアルガとパルキアの瞳が赤く光り、咆哮を上げる。
その威圧感に皆が気圧されていた。
様子を見ていたギラティナが介入しようと爪を振り上げるも、それを拒絶するかのように張られた障壁が侵入を阻む。

イリヤと桜は傷つき、まどかは戦える人間ではない。
ポケモンも多くがダメージを追っており、伝説のポケモン2匹を相手にする力は残っていない。

「みんな、お願いがあるんだ」

そんな状況を見回して、Nは口を開く。

「君たちは先に帰っていてほしい。
 あとは僕が決着をつける」
「Nさん?」
「アカギも言っている。ここで君たちが戦うメリットはない。
 ただ、それでも僕には戦わなければならない理由がある。これは僕一人でケリをつけたいんだ」

真っ直ぐアカギを見るN。
他の皆にはその背中にどこか強い決意を感じさせていた。

「分かりました。だけどNさん」
「大丈夫だ。僕は絶対に生きて、勝つ」

心配するまどかの言葉に、続く言葉を読むようにNは答えた。

空間を潜っていく3人。おそらくだが、これが最後の会話になると思った。
次いでダメージが大きすぎるクローンのリザードンも先に帰らせた。

他のクローンポケモン達は付き合うと言って聞かなかった。彼らの居場所を作ると言った自分が死んでは元も子もないと心配しているのだろう。

「理解に苦しむな。お前一人残って何がしたい」
「まだ終わらせていないことがある。そこにいる2匹、ディアルガとパルキアを解放しなければいけないからね」
「………」

アカギが初めてこちらを振り向いた。
鋭い眼光の奥の瞳は、どこか虚無を感じさせるように感情がなかった。

「黙って帰っていればいいものを、くだらん感情に惑わされて死に急ぐか」

ゾロアークとリザードンがボールから飛び出す。
サザンドラとポッチャマ、ピンプクが前に出る。

だが相手にはならないだろう。それだけの力が目の前の二匹にはあった。

「それでも、諦めたくはないんだ。僕の信じる、理想を、真実を」


941 : EndGame_close ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:29:53 i4CFovlM0
アカギの瞳を真っ直ぐに見返しながらそう告げるN。

その時だった。

「キシャアアアアア!!」

皆を送り届ける役割を負ったはずのギラティナが空間に姿を現した。

「ギラティナ…?どうして」

この空間に干渉することはできない。戻ってきても何もすることはない。困惑するN。
ギラティナの手元から二つの光が現れ、Nの手元へと収まる。

「これは…」

干渉できないはずなのにそれはNの元へと届けられた。
それを確認すると同時に、ギラティナの尻尾が空間を割る。

二つのモンスターボール。
一見すれば何の変哲もないボールだが、片方は自分には分かる。これに入っていたポケモンが。
だとすればもう片方のボールは。

「そうか。君は、僕を探してくれていたんだね!」

Nの心に歓喜が溢れ出す。
巨大な咆哮と共に、二つの空間の割れ目から巨大な影が姿を表す。

黒い体と紅い瞳を持った竜。
白い体と蒼い瞳を持った竜。

ゼクロムとレシラム。
一方はNのトモダチで、もう一方はあのトレーナーを選んだ伝説のドラゴンポケモン。


二匹が空間の障壁に阻まれることなくディアルガ、パルキアの前に足をつける。
同時にギラティナは本来の自分の役割を果たすために飛び去っていった。

アカギの顔が不快そうに歪んだ。


「決めよう。アカギ、君の持つ願いと、僕の持つ心、そのどちらが強いか」

ディアルガ、パルキアの牙、爪が振るわれ。
それをレシラム、ゼクロムが受け止める。


最後の戦いが、ここに始まった。




【間桐桜@Fate/stay night 生還】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 生還】
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ 生還】


942 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:33:11 i4CFovlM0
ここまでが最終回となります。以降エピローグとなります。
スレ数節約のため立て続けに投下するので、タイトルと登場キャラを先に記載しておきます

・そこに空があるから
N、アカギ

・Light up the Another World
夜神月

・あなたのいない、春をゆく
間桐桜

・Over Kaleidscope
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、門矢士

・続く・ツナガル・円環の中で
鹿目まどか、キュゥべえ、円環の理、アルセウス、オーマジオウ


943 : そこに空があるから ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:34:37 i4CFovlM0
ディアルガ、パルキアが吠える。
組み合ったレシラム、ゼクロムに対して、威嚇するように向かい合っている。

それだけで足元は揺れ、Nやポケモン達は立っているのもままならない。

互いの体を弾き飛ばし反動で離れる。

ディアルガが胸部にエネルギーを蓄積させ、時間を歪める光線となった一撃を放つ。
パルキアが爪を構え、空間に歪みを入れるほどの斬撃を放つ。

対してゼクロムが体に激しい音を轟かせる電気を纏い、その後ろでレシラムは巨大な火球を作り出す。
同時に放たれた技はやがて混じり合い、雷撃と火球を纏ったゼクロムが閃光となって二匹の攻撃を迎え撃つ。

時空を歪める時の咆哮、亜空切断。
合わせ技により威力を増したクロスサンダー、クロスフレイム。
それが共にぶつかり合い、時空間の止まっていた一帯に一瞬歪みが奔った。

閃光となっていたゼクロムの姿が戻ると共に4匹は共に離れ、体勢を立て直す。
直接攻撃を受けたことで多少ダメージを受けてしまったゼクロムだが、一方でディアルガもまた時の咆哮の反動で動きが止まっている。

ディアルガとパルキア。
時空神の力を持ったその能力はおそらくこちらの、イッシュの二竜よりも上だろう。
だが、Nにはその力が発揮しきれていないようにも思えた。おそらくアカギが自我を奪い操っていることで本来の力が出せずにいるのだろう。

とはいえ決して油断できる相手ではない。

戦ってくれている二匹に任せてばかりではいけない。
こちらが戦うべき相手は目の前にいる。

「アカギ!」

叫ぶと、リザードン、ゾロアークが駆け出す。
今のアカギの力であるディアルガ、パルキアはゼクロム、レシラムにかかりきりだ。
彼を取り押さえられるのは、今しかない。

リザードンとゾロアークの振るった腕が、アカギに迫る。

その時、アカギの懐から光が走る。
それは二匹の攻撃を受け止めていた。

「何…!?」

リザードンの攻撃を受け止めたものは龍のごとき青く長い体を持った姿を形取り。
ゾロアークの攻撃を受け止めたものは一回り小柄な黒い体を持った二足の獣となる。

ギャラドスとマニューラ。
アカギの、ポケモントレーナーとして所有していたポケモン達。

「伝説のポケモンだけが私の力だと思ったか?」

アカギがそう言うと同時に、追って現れた光が更に二匹のポケモンを呼び出す。

翼状の四肢を持った蝙蝠型のポケモン、クロバット。
恰幅のいい大きな漆黒の体を持った鴉型のポケモン、ドンカラス。


迫ってきたゾロアーク、リザードンを追い返した二匹と共に、現れた四匹は吠える。
まるで主を守るかのように、彼らは構えていた。

「…っ、サザンドラ、ポッチャマ、ピンプク!君たちも力を貸してくれ!」

リザードン、ゾロアークだけでは抑えきれない。
ゼクロム、レシラムはディアルガパルキアにかかりきりでこちらに気を配っている余裕がなさそうだ。


リザードンはギャラドスに、ゾロアークはマニューラに。
サザンドラはクロバットに、ポッチャマとピンプクは二匹がかりでドンカラスに。


944 : そこに空があるから ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:34:57 i4CFovlM0
それぞれが向かい合ってぶつかり合う。

リザードンの吐き出す火炎をかいくぐりながら、ギャラドスが滝を登る勢いで水を纏って突撃をかける。
ゾロアークとマニューラの辻切りがぶつかり合う。隻腕のハンデは中距離に離れての火炎放射や気合玉でカバーしている。
竜の波動とエアスラッシュがぶつかり合い、距離を取るサザンドラと逆に詰め寄るクロバットの空中戦が繰り広げられる。
ポッチャマのバブルこうせんとピンプクの秘密の力が、ドンカラスの放つサイコキネシスと衝突する。

全てを見通すのはNであっても難しく、多くの流れがポケモン任せとなってしまう。
しかし、アカギのポケモン達はまるでアカギから指示を受けているかのように統率のとれた的確な動きをしている。
どうやっているのか、アカギのポケモン達には口にせずともアカギの命令が分かる様子だった。

その行動の一つ一つの中には、ポケモン達のアカギに対する強い信頼を感じられた。
アカギの指示であれば間違いがないと、彼の言う通りにすれば勝てると。
ギンガ団、ポケモンを悪用する組織の首領であるトレーナー。自身のポケモンにもどこか嫌悪を感じられていたゲーチスとは対照的だった。
同時にそれは、力を利用されているディアルガ、パルキアからは感じられないものだ。

「ポケモン達のことは、よく育てているんだね」
「下らんことを。こいつらは自分の力だ、磨き上げるのは当然だろう」

アカギの口から出た言葉はあくまでも冷淡なものだった。

物理で戦うギャラドス相手に戦い切れなくなってきたリザードンの体が光る。
眩い輝きと共に全身を黒く染めたリザードンの拳がギャラドスを捉えその巨体を吹き飛ばす。

「メガシンカか。元来はポケモンとトレーナーの絆が発揮する力。
 だがそんなものがなくとも私の力には何の問題もない」

冷気を纏ったギャラドスの牙が、メガリザードンの爪とぶつかる。
その力は近接戦により強くなったリザードンをもってしても押し切ることができない。

それはアカギの執念が象ったかのようにも思えた。

「静寂の世界…、絆の力すらも否定するほどの力をこれほどまでに備えて。
 何があなたをそこまで駆り立てるんだ」

マニューラに弾き飛ばされたゾロアークが、周囲の景色を塗り替える。
アカギがパルキアを一瞥すると、パルキアが相手をしていたゼクロムを押し返しながら咆哮した。
塗り替えられていた景色が元に戻り、詰め寄ったマニューラの冷凍パンチを受けて吹き飛ばされる。

周囲を見回すが、アカギのポケモンは練度が高く皆追い詰められている。

ゼクロム、レシラムもまた互いに劣勢となっていた。
ディアルガの爪に切り裂かれ、パルキアの放つ大地の力に吹き飛ばされている。

アカギの一糸乱れぬ静寂の流れの中に、場の空気が取り込まれつつある。
危機的状況。にも関わらず、Nはどこかこの場の状態に感心しているところがあった。

ポケモン達の無駄のない動き。洗練された技。
無機質にも感じるがどこか論理に則った幾何学的にも思える。


945 : そこに空があるから ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:35:12 i4CFovlM0
思いかえせば、殺し合いの中でポケモン同士を戦わせる機会などなかった。
当然といえば当然の話であり、今目の前で繰り広げられている戦いも試合ではなく一歩間違えれば命を落とす戦い。
それでも、これまでの戦いとは違う、どこか新鮮な感覚を感じていた。

バトルを通して相手を知る気持ち。
もっと深く知りたいと思う気持ち。

現状においては間違いなく雑念だろう。
だが、この戦いにおいてはそれを捨ててはいけないという直感があった。
この戦いに勝つだけではダメだと。

マニューラのシザークロスを受けて吹き飛ばされたゾロアークが膝を付く。
ギャラドスのギガインパクトを受け止めたリザードンが地面に叩き付けられる。

サザンドラは怪しい光に惑わされ、ポッチャマとピンプクも熱風に押されて動けない。

「リザードン、ゾロアーク!」

走り寄るN。
まだいけるとばかりに、二匹は立ち上がる。

そんな様子を見て、飽いたかのようにアカギは言う。

「もういい、遊びは終わりだ」

ゼクロム、レシラムを押し込んだ二竜はアカギの後ろに下がる。
構えた体にエネルギーが集まり、周囲の空気を震わせる。
時の咆哮と亜空切断を同時に、合わせて放とうとしている。時空を揺るがす二つが合わさり周囲の風景すらも捻じ曲がっているような錯覚を覚える。

攻撃を止めさせようと構えたゼクロム、レシラム。しかしそこにマニューラとギャラドスの攻撃が割り込み逆に動きを止められる。

迎撃が間に合わない。
やがて放たれた、二つの攻撃の合わさった一撃は周囲の風景を、時間感覚を歪ませ。
その場にいたNの連れたポケモン達、そしてN自身の存在を消し飛ばさせた。





「僕は、死んだのか?」

平衡感覚も掴めぬ空間で、あれから過ぎた時間が一秒のようにも一時間のようにも感じられる場所で。
何が見えるわけでもなく、Nの意識が覚める。

ポケモン達はどこにもいない。
この場所にいるのは自分だけ。

ふと、誰かの話す声が聞こえた。

わけも分からぬ空間の中を、その声の元に向かうように泳いで進む。

小さな子供を含む親子が、なにもない空間を歩いていた。
大きな声で呼びかけるが反応はない。まるでこちらの声が聞こえていないかのように。

親子の話す声が聞こえた。

――バケモノ
――ポケモンの言葉が分かるなんて
――なんでこんな子供が私達から

息が止まるような感覚があった。
小さな子供に目を向ける。その顔はどこか自分の顔に似ているようにも思えた。

やがて親は森の中で子供、少年を捨てた。
少年は親を待ち続けているうちに、森に住むポケモン達と仲良くなっていった。

そんな少年に、一人の大人が近づいていく。

「―――ゲーチス」

確信する。
今見せられている光景は過去の光景。
自分の記憶ではない。知っていない情報もたくさん映っている。

僕を連れたゲーチスは小さな僕に一つの部屋を与える、いや、部屋に閉じ込めた。
そこに、色んなポケモン達を連れてきた。


946 : そこに空があるから ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:35:38 i4CFovlM0
例えば捨てられたポケモン。弱いから、使えないからとトレーナーに捨てられたポケモン。
例えば人間に居場所を奪われたポケモン。切り拓かれていく森に住み、巣を失い人を憎んだポケモン。
例えば無理やり捕まえられて奴隷のように働かされ、やがて働けなくなるほどボロボロになったポケモン。

「お前は、こんな世界を正しいと思うのか?」

背後から、まるで誘うような声が聞こえた。

「お前は人とポケモンを切り離すことで、ポケモンが傷つかぬ世界を作ろうとした。
 私は心に囚われることのない世界を作ることで、何も傷つかぬ世界を作ろうとした。
 何が違う?」
「違うさ」

誘う声を、一言で切り捨てた。

確かに一つ一つは許すことはできないものだ。
その一方で、例えば森を切り開くのに手を貸す格闘ポケモン達の姿があった。
ポケモンを奴隷のように働かせる一方でその主は自分の飼うポケモンには非常に優しかった。

また、ポケモン同士の戦いや営みでも似たようなことが起こらないわけではなかった。
山を切り崩し餌とするポケモンに棲家を追われるものもいたし、縄張り争いから戦い傷つくポケモンもいた。だがゲーチスはそんなポケモンには目もくれなかった。
結局、ただ利用する道具でしかなかったのだ。

やがて大きくなった僕は、大きな理想を胸に外の世界へと踏み出し。
彼と出会った。

ポケモンに好かれる、あの頃の僕にはとても不思議に思えたトレーナー。
理想への道から外れた出会いだと思っていたが、今にして思えばきっとこれが僕にとっての最初の一歩だったのかもしれない。

「あなたは世界を知っていて、だけどきっと世界から目を背けた。
 悲しいことばかりじゃない。その中には嬉しいことや楽しいことだってある。その事実から目を背けたまま進んだんだ」

それはあくまでも誘うような言葉に感じられた印象からのもの。
それだけの材料、だけどそれだけでアカギと僕は違うのだと思えた。

ある意味では昔の自分は同じだったのかもしれない。世界を見ず、ゲーチスから与えられた世界だけを全てだと思って自分を曲げることがなかった。

もしも、僕の中の迷いが吹っ切れていたなら、あの時ゲーチスに向き合うことができたかもしれない。
それができなかった結果、辛い役割を美樹さやかに押し付けてしまった。

海堂やルヴィアや大河、タケシや園田真理や乾巧、鹿目まどかやイリヤスフィール、ニャースに、リザードンやピカチュウのトレーナーだったサトシ。
多くの人がいてそこには一つの視点だけでは語れない混沌がある。中には闇があれば光もある。
どうあっても酷いことを行う人間がいれば、理想のために戦える人もいる。

真実の世界として、白か黒かをはっきりさせた世界を求めた。
だけどそうじゃない。両方が混ざり合っての世界なのだ。

「真実を求めた先にあった真実、確かに最初とは形は違ったかもしれない。
 だけど、僕にとっての真実は、あなたのものとは違う!」
「貴様っ…!」

焦るような声が聞こえる。

同時に、空間が割れて青い瞳がこちらを見つめる。
Nの心に満ちる真実を求める想い、それを感じ取ったレシラムが乱れた空間の中からNを探し当てたのだ。

亀裂が広がり、レシラムの片腕がNの体を掴み取る。

空間が安定していくような気がした。

その中で。
ほんの少しの間、一つの光景が見えた気がした。
電気を携えたポケモンと戯れる、一人の少年の姿が。


947 : そこに空があるから ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:35:57 i4CFovlM0
はっ、と意識が戻る。
ゾロアーク達は何が起こったのか分からず困惑しているようだったが、レシラム、そして皆を庇ってダメージを負ったゼクロムは安堵するような表情をしていた。

「何故帰ってこれた?」

アカギの無表情の中に困惑を感じ取れた。
今の攻撃に勝ちを確信していた、それが破れた故のものだろう。

「僕の心だ。例えどんな時間や空間の中に乱されても、今の僕の真実に向かう意志はなくならない。
 その想いがレシラム、トモダチとの強い絆だ」
「…夜神月といい、流石に儀式を生き残ったトレーナーといったところか。
 積み重ねられた因果は、時空の中のエントロピーに呑まれても耐えるということか」

アカギの周囲に控えたポケモン達が構える。

こちらのポケモン達も構えるが、皆息を切らせており一様に体が傷付いている。

足元にいる小さな体に視線をやる。

「ピンプク」
「プク?」
「タマゴうみを頼めるかい?」

ピンプクが頷くと同時に、アカギのポケモン達が一斉に動き出す。
それをリザードンが火炎放射で牽制し詰めてくる距離を保ち。

その間にピンプクは作り出した光のタマゴを、素早く皆の口に押し込んだ。
傷が少しだけ癒えてあがっていた呼吸も元に戻った。

ようやく炎をかいくぐってきたポケモン達を、皆がまた迎え撃った。





(やっぱりアカギのポケモン達は強い)

アカギの的確な指示がポケモン達を苦しめている。
よく育てられているし、トレーナーとしての命令も的確だ。

だが、ある種その指示は型に当てはめすぎていた。
ポケモントレーナーとしての一般則ではなく、アカギ自身の信念として。
まるで揺らぎも変化もなく、淡々とことを進めるように戦況を動かす。

そこにいくつかの変化が現れ始める。

ギャラドスに対する有効打を欠いたリザードンは、それでもぶつかり続けていくうちにその拳に電気を纏うようになる。
かつてのリザードンの友を思わせる電気を纏って放たれたメガリザードンXの雷パンチは、ギャラドスの巨体を大きく吹き飛ばす。

片腕でマニューラの攻撃を捌ききれないと見たゾロアークは距離をとっての攻撃に集中し始めた。
距離を詰めて追い込むマニューラだが、やがて中距離からの攻撃に慣れたゾロアークは暗黒の衝撃波を放つ技、ナイトバーストを習得し使い始めた。
衝撃波に視界を覆われたマニューラは攻撃を外すことが増え、逆にゾロアークの攻撃を捌ききれなくなりつつあった。

ポッチャマ、ピンプクはサザンドラと合流、その背中に乗ってドンカラス、クロバットと戦い始める。
空を飛ぶ機動力は落ちるが、飛行とは独立した対空手段を得たサザンドラは二匹を翻弄し始める。
渦潮が二匹の動きを閉じ込め、そこから追撃で放たれたバブル光線や竜の波動がじわじわと体力を削り始める。

淡々と動いていた戦況に荒立ち始めた不規則な波の動きに、アカギの心が少しずつ乱れ始める。
それは心を繋げ乗っ取っていたディアルガ、パルキアにも通じてしまう。
押していたはずの伝説の竜の戦いが逆に追い込まれ始める。

「アカギ、あなたは心を否定して変化しない世界を望んだ。
 だけど変わりたいと思う心は、前に進もうとする意志は、これだけの力を発揮することができるんだ。
 きっと、世界だって変えるくらいに」
「黙れっ!
 ただのトレーナーに敗北してからずっと、一人研究を続けて!
 人としての形を捨てて、神の、世界の理に近づいて、ようやくここまでできたのだ!
 またしても敗北するなど認められるものか!!」

パルキアの爪が空間を切り裂く。ディアルガの雄叫びが時間を歪ませる。
アカギの乱れぬ心で放たれていた時はそれは合わさり時空を乱れさせたが、心に動揺が生まれている今はその時ほどの精度を持たない。
ゼクロム、レシラムが同時に放ったクロスサンダー、クロスフレイムとぶつかり合う。
数秒の拮抗の後、火炎と電撃の合わさった攻撃は時空の歪みを打ち破って時空神へと命中する。


948 : そこに空があるから ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:36:34 i4CFovlM0
吹き飛ばされ、膝をつく二竜。
間髪入れずゼクロム、レシラムのエンジンのような尻尾に光が灯る。
起動した炉を思わせるように駆動音を放ちながら、二竜が咆哮。

全身にほとばしる高電圧の電気を纏ったゼクロムが、パルキアへと突撃をかける。
燃え盛る青い炎を口から放出したレシラムが、それをディアルガへと吹き付けた。


青い炎と電撃に包まれた時空神二竜は、絶叫の声を上げた後やがて地に倒れ込んだ。

同時にアカギのポケモン達もそれぞれが敗北し倒れていく。

「アカギ、もう止めよう。あなたの負けだ…」

アカギのポケモン達が敗れると同時に、ディアルガとパルキアの意志が感じ取れるようになってきた。
彼らを支配していたアカギの力が弱まり、本来の意識が戻りつつあるのだろう。

自由になった彼らは、アカギの意には従わないだろう。

「負け、か…。また敗北したというのか…。
 何故だ、そんなに世界は私の願いを否定するというのか!?」
「世界は、不安定で不規則だからこそ多くの可能性を生み出す。
 喜びも悲しみも、その不規則の中の一つ一つ、なくてはならないものなんだ」
「ならば、私の感じたこの怒りは、憎しみは、憤りは、どうすればいいというのだ!
 こんなものは、不完全な世界の生み出す不要物だ!」

アカギの言葉に答えを詰まらせるN。
多くを経験し自分の答えを持ってはいた、しかし今のアカギに言うべき言葉は分からなかった。

「ロトト、戦いは終わったロト?」

その時、Nの懐から飛び出してきたロトム図鑑。
それまでずっと隠れて沈黙を保っていた図鑑、それが突然飛び出してきたことに一瞬驚くN。

「ロトム、どうしたんだ」
「分からないけど、アクロマに言われたロト。
 アカギがもしみんなに負けたら、その時に姿を現せ、それまでは隠れているようにって」

意図を測りかねつつアカギの方を向く。
すると、その顔に驚くような困惑するような表情が浮かんでいた。

「お前は、何だ…?」
「ボクはロトム図鑑ロト。ポケモン図鑑としてトレーナー達をお助けするロト!」

そこにある表情は、戦いを通していく中で見ることのなかったものだった。
一瞬目を閉じて、何かを考えるような仕草をするアカギ。

「……お前は、その役割をどう思っている?」
「ロト?ポケモントレーナー達の手助けになって、色んなことを知っていくのは楽しいロト!とてもやりがいのあることロト!」
「そうか……、お前も、心を持つのだな…」

Nの脳裏に、亜空間の中で一瞬見えたロトムと戯れる少年の姿がよぎる。
小さな少年が、目を輝かせてロトムと共に過ごす姿。

あれはもしかして。

「あなたは、もしかしてある出来事をきっかけに深い悲しみを持って、そこから抜け出せなくて世界から心を否定したんですか?」
「ふん、言ってくれるな」
「N、あまりそういうことをはっきり口にするのは嫌われるロト」

小さな声でロトムに言われてそれ以上の言及を避けるN。

「だが、お前の言う通りだ。
 あるいは私もあの時から変わることがあれば、お前のようにあの時のロトムを探し出して心を通わせる、そんな世界もあったかもしれない」
「アカギ、今からでも遅くはない。省みることができたならやり直せるはずだ。
 野望を捨てて、もう一度僕たちの世界に帰ろう」

手を差し伸ばすN。
しかしアカギはそれを受け取ることはなかった。

「そうかもしれない。だが遅すぎたようだ。
 この全てが入り混じる時空の中で形を保つため、既に人としての体は捨てている。私の望みがこの体を繋ぎ止めていたが、諦めた以上もう長くはない」

アカギの体から光の粒子が漏れ始めた。

「この二匹は、お前に返そう。お前は、私のように道を誤るなよ」
「あなたは、どこに行くんですか?」
「私は居るべき場所に帰る。多少煩わしいところはあるが、現世よりは静寂な場所だ」

アカギはこちらに背を向けて、奥にある何も見えない闇の中に歩みを進めていく。
その姿は少しずつ闇に呑まれていき、やがてNの視界から消えていった。




949 : そこに空があるから ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:37:46 i4CFovlM0
歩を進んだ先に、一人の男が立っていた。

「気は済んだか?」
「さあな」
「出会った時と比べれば、どこか憑き物が落ちたような顔をしている」
「……」
「静寂を望むというが、一人で行くには静かすぎるだろう。
 私も付き合おう。お前の連れたその者達も付き合うと言っているぞ」

視界を後ろに向ける。
マニューラ、ギャラドス、ドンカラス、クロバット。
他にもあの場では出すことがなかったが自分の力として使役したことのあるポケモンもいた。

「…そうか。
 済まなかったな。これまでお前達のことはお前達として見てはこれなかった」

ポケモン達は、そんな自分を肯定するように笑い、吠え、翼を広げた。
こんな自分に、ポケモン達は敬愛する感情を持っていたのだ。
もっと早くそのことを意識していれば、あるいは何かが変わっただろうか。

「さて、行くか」
「ああ」

後ろにポケモン達を連れたアカギは、隣に共に目的のため協力した同士を伴い。
時間も空間も、己の生死すらもあやふやな空間に向けて歩んでいった。



「…そうか。君は君のいた世界に帰るんだね」
「グゥ」

目を覚ましたディアルガ、パルキア、そして自分を元の世界に送り出すために戻ってきたギラティナ。
彼らの導きの元で帰還するところで、リザードンは自分のいる世界に帰ると言った。
あくまでもNは仮のトレーナーであり、自分にとってのトレーナーは今でもサトシだけだと。
生き残った自分は、帰りを待つ皆に知らせなければいけないことがあると。

「分かった。それが君の意志なら止めることはできない。
 これまでありがとう、辛いことも色々あったけど、君たちと会えてよかった」

握手を交わした後、リザードンは翼を広げて空間の歪の光の中に消えていった。

残ったのは元々トモダチであったゾロアーク、クローンポケモンであるポッチャマ、ピンプク、サザンドラ、アクロマの残したロトム図鑑。
そして、ディアルガ、パルキア、ギラティナ、ゼクロム、レシラム。

ディアルガ、パルキア、ギラティナの三竜は着いてはこなかった。
今回のことで乱れてしまった時空を安定させる仕事が残っていた。

「行こうか」

ゾロアークはボールに戻し、ゼクロムがクローンポケモンを抱える。
レシラムの背に乗り、光を潜っていく。
僕たちの、帰る場所へ向けて。


やがて、どれほどの時間が経ったのかも分からない間の後。
サザンドラ、ピンプク、ポッチャマは初めて見る自然の中を駆け回っていた。
彼らを追って、先に帰ってきていたリザードンもやってきている。
走っていく先には、Nとレシラムの姿があった。
森の中、切り拓かれた一帯の中にその姿があった。

そして。

「やあ、心配をかけたね」

視線の先には一人の男の子の姿。その後ろにはゼクロムが控えている。
Nの心が踊っていた。

「君がレシラムとゼクロムを送ってくれたんだ。ずっと、探してくれていたんだね」

男の子はニィ、と笑う。

「いい顔をするようになったって?
 そうだね、向こうでも色々あったんだ。色々」

Nも笑い返す。

「積もる話も多いけど、その前に一ついいかな?
 君と、ポケモンバトルがしたいんだ」

ボールを構えるN。
彼もまた、了承するようにボールに手をやる。

それが、Nには嬉しかった。

「教えてくれ。ポケモンバトルを通して、もっともっと、君のことを!」

以前だったらきっとこれほど強くは思わなかった願い。
ただ自分の欲望でしかないものなのに、レシラムは応えてくれた。

青空、いつだって変わらぬ、全てを包み込む空の下で。

Nとそのトレーナーは、ボールを投げた。

【N@ポケットモンスター(ゲーム) 生還】
【N@ポケットモンスター(ゲーム) エピローグ 了】


950 : Light up the Another World ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:38:39 i4CFovlM0
砂漠のような不毛な大地が広がる空間。
人には厳しすぎるだろうと思える環境には、生き物らしいと思えるものは一つとして見当たらない。

骨を思わせる色をした刺々しい突起を全身から突き出した者、獣の髑髏のような仮面を被った毒々しい体色の者。
頭に体、手足を持ちながら人とは思えぬ外見をした異形の怪物達がそこかしこに屯していた。

死神。
人の死を司り、その運命すら時として操る超常の存在達。

しかしそんな肩書とは裏腹に、何をしようとするでもなくただ惰眠を貪るもの、向かい合って髑髏を積む遊戯に興じるものなどただただ適当に過ごしているといった者が多い。

そんな中で、地面に空いた穴を覗き込んでいる一団がいた。

「おい、見えなくなったぞ!」
「ちっ、いいところだったのによぉ。別世界から面白そうな映像が来たと思ったら、最後だけブッツリ途切れやがった!」

覗いていた光景が唐突に途切れたことに野次を飛ばす、その穴を覗いていた者達。

そこから静かに離れていく1体の死神がいた。

「おい、リューク、いいのかよ。
 確かあそこにいた一人、お前が昔見ていたやつだろ」
「ああ、そうかもな。でもそうじゃねえかもしれねえし分かんねえよ」
「何だそりゃ。まあどうでもいいか。
 そういや死神大王が何か呼んでたぞ、速く行った方がいいんじゃねえのか?」
「大王がか。どうせ暇だし、今から向かうか」

リュークと呼ばれた死神は、一団から離れて飛び去っていった。





気がついた時、目に入ったのは真っ白い照明だった。

「患者が目を覚ましました!ドクターをお願いします!
 気が付きましたか?自分が誰か、分かりますか?」

全身の節々が痛く、動かせない。
視界に白い服を着た女の姿が映る。数秒経って思考力が回復してきた辺りで、それが看護師の格好であることに気付く。
そこでようやく、自分が今病院のベッドの上にいることに気付いた。

喋れないことを装って、頭の中で状況を整理する。

自分、夜神月はアカギとの対面の後どことも分からぬ空間に追放された。
皆が戦うあの場所に帰ることもできぬまま、前も後ろも、一秒も一日も分からぬ場所で漂い続けるうちに、意識を失った。

(漂流の末にどこかの世界に辿り着いた…?)

ここがどんな世界かを把握する必要がある。
周囲の様子を見るにここが日本のどこかであることは分かる。会話で聞こえてくる言語も日本語だ。

分からぬ状況で迂闊なことは口走れない。
口を開いたところで、記憶喪失だと告げた。自分の身分を証明するものがちょうど手元になかったのも幸いだった。


951 : Light up the Another World ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:38:57 i4CFovlM0
その後一日の時間を経て警察の人間も病室に訪れるようになった。
何か事件に巻き込まれたのではないかとのことだったが、本当のことを言えるはずもなく分からないで貫き通した。
逆に自分に何があったのかを聞くと、雨の降る中で路地裏に倒れていたとのことだった。
全身に軽〜中度の火傷、顔には大きな裂傷ができており頬が裂けていた。意識のない中で衰弱しており1週間ほど目を覚まさなかったと。

いくつか質問をされたが、話せることはなくやがて病室を去っていった。

そこから病院にいるしばらくの間、記憶の回復に必要かもしれないと言って新聞やインターネットを借りて世間の情報を集めた。

そこにはキラの名前が大きく存在していた。
罪を犯した人間を捌く神のごとき殺人犯、キラ。しかし警察のキラ事件解決との報以降、裁きで死んだと思われる人間は減少していると。

(ここは、キラのいる、ノートの存在する世界か…)

スザクのいた世界やポケモンが存在するという世界に迷い込むことがなかったのには安堵する。
一方で自分のいた、自分が死んだはずの世界とは時間が合わない。あるいは平行世界、儀式の場で会ったLや父のいた世界の方なのだろうか。

改めて、夜神月を名乗らなくてよかったと胸を撫で下ろした。
おそらくこの世界の夜神月も既に死んでいる。警察の発表と、何より裁きが行われなくなったことがそれを示している。
滅多にある名前ではない。名乗っていれば一悶着あったことは想像に難くない。

体の状態だが、衰弱は休養の間に回復、火傷もある程度の痕を残すだけでほとんどが治癒された。
しかし顔の裂傷については縫合による治癒の過程で皮膚が引っ張られる形で癒着し、顔つきに歪みが生じてしまった。
元々端正な顔立ちだった顔はあまり人に見せられないようなものに変化してしまう。

包帯が取れても、顔を隠すようにマスクをつけるようになった。
その顔があまりにも他人の意識を引くためだ。あまり意識されるのは好ましくない。

その後紆余曲折はあったが、治療費もどうにか対処して退院。
警察は捜査を続けるとは言ったがそれからあまり積極的に関わってくることもなく、晴れて自由を手にした形となった。


「…、今更自由を手にして、どうしろって言うんだ」

夜神月の名前はもう使うことはできない。過去のニュースにてその名前の男はキラ事件に関わって死んだとあった。
自分のいない、いるべきでない世界。
仮面を被り続けたスザクの気持ちが少しだけ理解できた気がした。

街の喧騒に目を向ける。
多くの人が街を歩いている。一人ひとりが何を考えているかなど伺いしれない。
以前は街を無法に走り回る若者もいたが、今はいない。キラの事件の影響だろう。
一見街の治安は改善されたように見える。
しかし街の影、建物の間の人の目につかない場所に目をやる。
複数のチンピラらしき男が、地面に倒れた一人の男を見下ろしている。倒れた男は震える手で財布を取り出している。

ふとした心の弾みだ。
そんな一同に声をかけていた。男を離してやれと。

数分後、顔を殴られて地面に倒れ伏している自分がいた。
おそらくただのカツアゲだったのだろう、割り込みで気が削がれたのか男から何も取ることなくチンピラ達は去っていった。
男は感謝するように頭を下げながら、去っていった。

何をしてるんだろうと思う。
もしも、ノートがあれば彼らを殺したんだろうか?
心臓麻痺とはいかなくても、例えばチンピラの頭上から不意に降ってきた建築資材などが彼らを押しつぶすか。


952 : Light up the Another World ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:39:17 i4CFovlM0
自嘲する。
思えば随分と命を軽く見ていた自分がいたんだなと。

服の汚れを払う。
体の怪我は、相手も目立つ場所は避けて殴ってきたためそう目立つことはなかった。

どこへ向かうでもなく歩き続ける。

やがて、視界に一つの家が映る。
夜神、と表札が出された家。

キラ対策本部にいた頃はもう帰らなくなって久しい。母と妹は療養のため田舎に引っ越したこともあり顔を合わせる機会もほとんどなくなっていた。
行く場所がなくなって辿り着いたのがここなのは帰巣本能とでもいうのだろうか。

気がつけば足は家の前に辿り着いて、チャイムを鳴らしていた。

門の向こうから声と駆け寄る足音が聞こえて。
母、夜神幸子が顔を出した。

「はい。…どちら様でしょうか?」
「僕はその、田代修二といいまして。
 以前夜神総一郎氏にお世話になったことがあり、近くに寄ったのでと思いまして…」

一瞬戸惑う色が見えた。口元をマスクで顔を隠した人間が現れれば無理もないだろう。

何と言えばいいのか考えていなかった。
夜神月の名前を名乗るわけにはいかない。偽名を名乗りつつ、どうにかそれらしい理由を考えた。
夜神総一郎の名前を出すしか浮かばなかったが、そう言うしかなかった。

行動がどうにも衝動的になっていて、先のことが考えられない。
口にした言葉の先をどう言うべきかと考えていると、入り口はあっさりと開けられ、そのまま笑顔で迎え入れてくれた。

若干困惑しながらも、入ってどうすればいいのか、その後の対応に頭を悩ませる。
夜神総一郎の最期を話すべきなのか、黙っているべきなのか。

しかし居間に足を踏み入れた時、そんな心配は不要であったことを意識させられた。
リビングの端にある棚、そこには仏壇が備えられており。
夜神月の写真の隣に、夜神総一郎のものも置かれていた。



「色んな人に慕われてた人だったから、今でも時々家にお焼香をあげに来る人がいるのよ」

仏壇の前で手を合わせた後、リビングの席にてお茶を出された。


「息子の月が死んでから、仕事を随分と頑張ってたんだけど、やっぱり心労が祟ったんでしょうね…。
 体を壊して、そのまま…」
「そうだったんですか…。知りませんでした…」

写真に映っている夜神総一郎。顔つきはあの儀式で出会った父に近かった。
しかしあれから数年の時が経ったにしては、白髪が増えていてどことなく老けたように感じられた。

「月くんのことは、何と伺っておられるのですか?」
「月、月ねぇ…。お父さんの捜査に協力するって言って、その中で…。
 あまり多くは語ってくれなかったけど、ずっと気にしてたんでしょうね…」

彼は息子の罪を家族に知らせることなく、真実を墓まで持っていったのだ。
そのストレスが彼の体や心を蝕んだのだろう。

そういったやり取りで確信する。
この世界は自分の世界ではなく、なおかつ殺し合いに連れてこられた夜神総一郎の世界でもない。しかし夜神総一郎の世界に近い場所。
アカギもイレギュラーな出来事が起きたと言っていた。送り返したのではなく偶然辿り着いたこの世界がそうだったというだけの話だ。

月の中でもしかしたら自分がおかしな夢を見ていただけなのか、あるいはただの精神異常者なのではないかという錯覚が少しだけ生まれてくる。
この世界では、おそらくあの場所での戦いを証明するものは何もないのだろう。誰も行方不明などになっておらず、アカギの介入がなかった本来の歩みを進んでいる世界。
そこに、自分という異物が一つ入り込んでいるのだと。

「大丈夫ですか?」

そんなことを考えながら顔を伏せていると、心配そうな顔で幸子が覗き込んできた。

「いえ、お気になさらず。少し総一郎さんとの会話を思い出して、少し…」
「そうですか…。
 何だか不思議。田代さんと話していると、何だか月がそこにいるような気がして…。
 そうだ、そろそろ粧裕も帰ってくる頃だし、一緒に夕食でも…」
「いえそこまでお世話になるわけには…」

少しこの場にいるのが辛くなってきた。
幸子の誘いを断り退出しようと立ち上がったところで、玄関の扉が開く音が聞こえた。


953 : Light up the Another World ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:39:33 i4CFovlM0

「ただいま〜。あー疲れた。
 あれ?誰かお客さん来てるの?」
「こら、粧裕!お客さんの前よ、はしたない!」
「ハハ、大丈夫ですよ」

ドタドタと入る足音に注意する幸子。
しかし月にしてみれば聞き慣れたものだ。

「いらっしゃい、お客様って誰?」

リビングに顔を見せた粧裕。
月にはその顔を見る勇気がなかった。

「………………お兄ちゃん?」

鼓動が一瞬大きくなった。
思わず振り返る月。

「あ、いや、その、すみません。
 何でだろう、一瞬、お兄ちゃんに見えて…」
「いえ、構いません。自分も、こんな変な格好なもので」

出るタイミングを失ってしまい、結局幸子の言う通りに夕食をご馳走してもらうことになってしまった。

父親の知り合いとして訪れたこともあり、総一郎の話が話題にあがりやすくなってしまう。
その節々で悲しそうな表情を見せる二人を見るのは月にとって非常に辛いものだった。

(そういえば、家で夕食を食べるなんて、いつぶりだっただろう…)

粧裕がメロに捕まって以降、家族で食卓を囲むことなんてなかった。
粧裕は心を病み、父はキラとメロ両者への逮捕に躍起になり家にいられなくなって自分もそれに従った。
結果家族を失い、残った人を傷つけた。
この世界でも変わらない。粧裕が病むことこそなかったが、家族を失ったことで残された二人は深く傷付いている。

自分がいるべき場所はここではない。
久しぶりに食する、家族の味に人知れず涙を流しながら、月はそう思い。

そして一つの決意が生まれていた。




ある時、地上に6冊のデスノートがばらまかれた。

人々はキラのそれと同じ力を求めて争い合い、世界は混乱に包まれていった。
その中で、かつてキラの片腕として動いていた少女だった者もまた、平穏から呼び戻され混沌の渦の中に足を踏み入れていた。

時を経てもう少女とは呼べないほどに成長した弥海砂。
かつて恋した夜神月にまた会えるのではないかと儚い希望を描いて、しかし既にこの世にいないことを悟っていた。

ノートを求めて争う所有者と警察が去っていくのを見送りながら、手元に残したノートの切れ端にその仄かな願いを託して座り込んだ。

忘れていれば生きていけた。しかし思い出してしまった今、月のいない世界を生きていても仕方ない。
【弥海砂 夜神月の腕の中で死亡】

だから、こんな願いを書いても無駄だと分かっていた。
せめて、苦しくなかったらいいな。
そう思いながら瞳を閉じようとして。

倒れかけた体を誰かが抱き寄せた。

「…え?」

顔はよく見えない。
マスクで口元を覆っていて全容が掴めない。

「月…?」

小さくそう名前を呼び。
その人は小さく頷いた。

「…嬉しい。また会えた……」

そう呟いて、弥海砂は静かに瞳を閉じた。




954 : Light up the Another World ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:39:46 i4CFovlM0
腕の中で瞳を閉じた弥海砂を静かに地面に寝かせる。

彼女を看取ったことに意図があったわけではない。
ただ生死を確かめて、彼女の持っているものを回収しようと思った。それだけだ。

しかし、回収しようとして目に入ったそれ、ノートの切れ端に書かれている文字を見て彼女に対する哀憐が生まれた。
最期くらいは願いを叶えてもいいのではないかと。

元々同情の余地があるわけはなかった。かつての自分の命令に従っていたこともそうだし、ノートを使って罪のない人も手にかけてきている。
だが彼女の人生を狂わせたのもまたデスノートだった。ノートに翻弄された人間の一人。
死ぬ間際くらいは願いを叶えてやりたいという気持ちくらいは月の中にもあった。

手に握られたノートの切れ端を取り、周囲に目を配りながらその場を離れる。

「いるんだろリューク。出てこいよ」

大声で呼ぶわけにはいかない。
人が普通に話す程度の、しかし雑踏には紛れるような声でそう口にした。




この数年、行く宛のない夜神月が訪れた場所。
それはLがかつて育った養護施設、ワイミーズハウスだった。
世界で最も中立であると言われる機関であり、様々な国を多くの捜査員が裏で支えている面もある。

自身の頭脳を駆使したとは言っても、接触を図れるようになるまでは決して容易な道ではなかった。
既に戸籍すら存在しない自分が生きていくのは、金を稼ぐだけでも相当の苦労を要求された。
加えて向こうは各国の援助も受けた秘密機関。
それでも執念をもって探し続け、接触に成功した。

彼らに対して嘘はつけない。信じてもらう必要がある。
月は全てを話した。自分がキラであったこと、生きている理由と、これからやりたいこと―ワイミーズハウスへの協力。
当然信じてもらえるとは思わなかったし向こうはこちらの話を狂人のものとして受け取った。それでも今の自分が嘘を付きたくはなかった。
だが接触を絶たれるたびに、諦めずにコンタクトを取り続けるうちに姿勢が変わっていく。
施設の天才達、世の常識に囚われずかつ柔軟な思考を持った子供達が自分の言葉に嘘はないと読み取ったと、しかしその上で、キラであった人間を信じることはできないと。

これで接触が絶たれるかと思いきや、自分に興味を持った、様々な事件の捜査に協力している子供達が接触してくるようになった。
事件について、多角的な意見や物の見方を聞いてくることが増えた。

それに一つ一つ対応していくうちに、少しずつ施設の人間の信頼を得ていった。

そんな中だった。
世界にデスノートがばらまかれたという情報が入ってきたのは。




今の月はワイミーズハウスのLの後継者という扱いの男の片腕として動いている。
月自身の頭脳やノートの知識をかわれている。
この事件を解決に導くことができれば、ワイミーズハウスの一員として完全に受け入れてもらえるだろう。

動いていく中で、ノートの切れ端を手に入れられる状況を得たのは偶然だった。
これを手にしたということは、あいつと接触が可能になる。

「何だ。俺の名前を呼んでるやつがいるが。
 ん…お前は…、おお、月、月じゃないか!!」
「……久しぶりだな、リューク」


955 : Light up the Another World ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:39:59 i4CFovlM0
真っ白な顔に真っ黒な唇をして口には鋭い牙が見える。
人とは思えぬ巨体をした死神、リュークがその背の翼で飛びながら話しかけていた。
おそらく自分にしか見えない。
口元を隠すマスクがあるのが助かった。唇でも読むことはできないだろう。

ただ、一つ気にかかることがあった。

「俺がいることに対してはそんなに驚いてないんだな。
 お前がノートに書いて殺した相手だろう」
「いや、驚いているさ。
 ただ、お前がいた殺し合いだっけ、あれ死神の世界からも見れたんだ」

月の眉が動く。

「ただ途中からお前がいなくなってな、どこに行ったのかずっと気にしてたんだが。
 そうか、ここの世界に来てたんだなぁ」
「なるほど、そういうことだったか…」

会えるかどうかは賭けに近かったし、会ったところで理解されるかも気がかりだった。
しかしその手間が省けたのは幸運だ。

懐に隠し持っていたりんごを投げ渡す。

「お、気前がいいじゃねえか」
「久しぶりの再開だ、手土産くらい用意するさ」
「へえ。で、何が聞きたいんだ?
 せっかくの再開だ、そうだな、3つくらいは答えてやってもいい」
「お前こそ気前がいいな」

少し警戒する気持ちもある。
が、元々聞きたいことは幾つもあったのだ。3つというのはありがたい。

「そうだな…、まず…。
 あの殺し合いをお前も見ていたといったな。皆は、どうなった?」

月にとってはずっと気がかりで、胸につっかえていた疑問。
聞かなければならないことではない。しかし思わぬところで知る機会を得てしまったことで聞かずにはいられなかった。
もはや知る由もなくなった現状で、今この時だけが聞ける瞬間だった。

「途中で見れなくなってしまったから分からねえけど、確か4人生き残ってたと思うぜ。
 変な生き物を連れたやつと、魔法を使うやつが二人、あとめちゃくちゃ人を殺してたやつだ」
「魔法を使う……、………もしかして片方は鹿目まどかか?」
「名前は覚えてねえけどよ、そいつらが黒髪の女と戦って勝つところまでは見えたんだがな。
 ちなみにお前と一緒にいたやつは死んだぜ。似たようなロボットに乗ってたやつと相打ちになってな」
「………、そう、か」

枢木スザクは死んだ、その事実にショックを受ける。
生きるのなら、自分じゃなくて彼が生きるべきだったはずなのに。

それでも、その後どうなったのは分からなくても、勝って生き延びた人はいた。それを知ることができただけでこの数年胸に残っていたしこりが取れたような気がした。

「次の質問だ。
 お前は、いや、もしかしたらお前達は、か?人間の世界で何をしようとしている?」
「ノートを6冊落としたことか?
 死神大王の命令でな。あの殺し合いのゲームが楽しかったみたいで、似たようなことがやりたくなったってな。
 それで次のキラを生み出すゲームを死神の間で始めたんだよ。勝った死神が次の死神大王になるってな」
「意外だな、お前がそういうのに興味があるやつだったなんて」
「俺は別に。ただ退屈な日々よりは刺激があった方が面白いじゃねえか。キラがいなくなってから、てんで世界は退屈だったんでよ」

言いながらリンゴを噛み砕き終わっていたリューク。

「つまりお前達が満足するまではこの悪趣味な、人間界を巻き込んだノート争奪戦は終わらないってことか」
「そうなるな。あの頃に比べたらどうにも刺激が足りねえって思ってたところだが。
 夜神月、お前がいるならこの世界はまだまだ楽しめそうだ」
「…」

今この世界と言ったか。
その言葉に引っかかりを覚える月。

「お前は、俺の知っているリュークと同じ存在か?」
「おっと、最後の質問だがそれでいいのか?」
「……。ならいい。お前がどんな存在だろうとやることは変わらない」
「懸命だな。そもそも俺達は仮にも神だ。人の常識で測らないほうがいいぜ?」
「忠告ありがとう。だけど、いつまでもそうやって笑っていられると思うなよ、死神」


956 : Light up the Another World ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:40:10 i4CFovlM0

敢えてリュークではなく死神と呼ぶ。
その言葉はノートを使って人間界を混乱に陥れる存在に対する宣戦布告だった。

それを、リュークは笑って受け流した。
楽しみだと言わんばかりに大笑いしている。

「で、最後の質問は何だ」
「…俺はノートの力で確かに死んだ。だがこうして生きている。
 今の俺に、デスノートは効くのか?」

その問いかけをした時、リュークはじっと月の顔を見つめた。
やがて小さく鼻で笑いながら、その質問に答えた。

「月、当たり前の話だが大事なことを教えてやろう。
 死んだ人間ってのは生き返らないんだよ。そしてノートで死が確定した人間は、死から逃れられない。本来は」

含みがあるような言い方をするリューク。
その言葉だけで察する。

「つまり、その決まりから逃れた俺は、お前達の手に追える存在じゃなくなったってことか」
「ハハハハハハ、自惚れるなよ。そんなイレギュラーなやつが一人出たところで、俺達には別に何の影響もねえんだからよ。
 だけど、このゲームも少しは楽しめるかもしれないってことは期待させてもらうぜ」

翼を広げる。
質問は全て使いつくした。

「じゃあな、月。天国からも地獄からも追い出されたんだ、せいぜい頑張ってみろ。
 もう会うことはない、いや、お前がノート全部を集めたりした時には、また会えるかもしれねえな」
「ああ、待っていろ。せいぜい退屈させないくらいには足掻いてやるさ」

そんなやり取りを最後に、翼を広げた死神は飛び去っていった。


曇天の、雲に覆われた空はまるでこの先の世界の不安を映し出しているようだった。
それでも月の心の中には曇りはなかった。

Lから託された、Lの名。まだ自分にはそれを名乗る資格はないが。
その名前に恥じないよう、この混沌としていくだろう世界を守ってみせる。
それが多くの人間を殺めた自分の、罪滅ぼしだ。

やがて倒れた海砂を見た一般人の呼んだ救急車のサイレンの音がなる中で、静かにその場を立ち去っていった。



ある時、一人の男が動かすパソコンの画面に一つの文字が映った。

大きな筆記体で書かれた白黒のLの文字。
ハッキングを受けたか?怪訝に思う男の前で、パソコンのスピーカーから声が流れた。


「初めまして、私はLです」


【夜神月@DEATH NOTE(漫画)OtherWorld 生還】
【夜神月@DEATH NOTE(漫画)エピローグ 了】


957 : あなたのいない、春をゆく ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:40:52 i4CFovlM0
主がいなくなって数日の時が経った衛宮邸。
本来いるべき人間である衛宮士郎、間桐桜、藤村大河の姿はなく。
仮住まいとしてその家に留まっていた遠坂凛、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンだけがいた。

ある時、いきなり行方が分からなくなった3人。
聖杯戦争の最中の出来事であり、間桐臓硯の策略を疑ったが、臓硯本人も非常に焦っていた。
言峰に聞きに行ったが何も知らないとのことで、凛には打つ手がなかった。

近辺一帯を調べられる場所は虱潰しに探しても手掛かりはなく、聖杯戦争も中断となりお手上げの状態になる中。
凛が自分の家に置いていたイリヤが家を探索して見つけたものが何か手掛かりになるかもしれないとのことだった。
士郎の家は結界の関係で侵入者に対する守りが強くない。嫌がるイリヤを多少強引に自宅につれてきたのだが、その仕返しとばかりに色々と家の中を漁られたようだ。
頭を抱えつつ、厳重に保管していたそれ、カレイドステッキを取り出す。

『おそらくですが、皆さんは不意に生まれた時空の歪みから別世界に飛ばされた可能性があるんですよね』
「別世界って、あんた世界を移動するのは魔法級の奇跡だってこと分かって言ってる?」
『ええ、ですからアクションはこの世界の外、理から外れたモノからもたらされたものっぽいんです。
 そして、今こちらに世界をつなげようとしている人がいます。
 そのうち自然に帰ってくるでしょうが、私の力で道標を作ることはできると思いますよ』
「信じて、いいんでしょうね?」
『はい、そのためにはあの格好になってもらう必要がありますが!』

杖を投げつけかけた凛だったが、他に手掛かりもなく何もしないよりはいい。

士郎の家の庭で、イリヤを奥に引っ込めさせた上で、あの衣装へと切り替える。
カレイドルビーの言う通り、杖を掲げて指示された魔術を発動させる。

少し時間を置いて、空間に裂け目が生まれ。
そこから二人の人間が飛び出した。

「え、あれ?凛さん!?」
「姉…さん?」

そこにいたのは、凛が手にしたステッキと同じものをもってひらひらな衣装を着た、後ろの家にいるイリヤよりどこか幼さを感じさせるイリヤ。
そして、全身が傷だらけでボロボロの体をした桜。

イリヤの存在に混乱しつつ、驚かれたのは格好のことだと思った凛はルビーに命令して転身を解除させた。

「私だって好きでこんな格好してるわけじゃないから!
 ていうか、何でそっちにもそのステッキがあるのよ!」
『おや、あなたはこっちの世界の私ですか』
『ふむ、なるほど。そのイリヤさんを見るに、そういうことですか』

何か知ったような会話を始めたルビー2つを問い詰めようとも思ったが、後回しにして桜に駆け寄る。

「桜、大丈夫なの!?」
「姉さん…、生きて…いたんですね…」

それだけ呟いて、桜は糸が切れたように意識を失った。

「私が説明します」
「そうね、あなたを見たら只事じゃないことが起こったってのは分かるけど」
『手短にお願いしますね。ここはイリヤさんの世界ではないので、あまり長居はできません』

アカギという人間によって引き起こされた、殺し合いの儀式。
この世界から巻き込まれたのは桜、士郎、藤村大河、セイバーとバーサーカー。
多くの人が死に、生き残ったのはこの世界の人間は桜だけ。その桜も、不安定な状況に置かれる中で多くの罪を背負ったと。

ちなみにルビーが言うには、この世界にイリヤが来てしまったのは彼女の世界がこの世界と近しい平行世界であるが故に、道標を示された際に巻き込んでしまったのことだ。
状況説明ができたから結果オーライではあるが。

「なるほどね。ちょっと頭の中が飛んでいきそうなくらい混乱してるけど大まかな話は分かったわ
 後の話は桜から聞くわ。ありがとう」
『さて、行きましょうイリヤさん』
「うん、桜さんのこと、お願いします、凛さん」

それだけ言って宙に浮く裂け目に足を進めるイリヤ。
ふと視線を感じて振り返る。


958 : あなたのいない、春をゆく ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:41:13 i4CFovlM0
じっとこちらを見る、小さな顔が建物から覗いていた。
身長は同じくらい、しかしこちらと比べてどこか儚げで大人びた雰囲気も感じさせる、イリヤと同じ顔をした少女。

(あれが、士郎さんの…)
「あのっ!」

呼びかけるイリヤ。
しかし向こうのイリヤは踵を返して部屋の奥に引っ込んでいった。

『すみませんがイリヤさん、もう時間がないので』
「うん…」

後ろ髪を引かれるような思いを感じながらも、イリヤは裂け目に飛び込む。

「さようなら!桜さんに、よろしく伝えてください!」

もう、会うことはない、会えないのだろうという直感を感じながら、イリヤは別れの言葉を言って去っていった。


部屋に引っ込んだイリヤの元にルビーが飛び寄る。

『よろしいんですかイリヤさん?』
「…別に、話すことなんてないわ。
 あの子がどんな人生を歩んできたのかなんて知らない。あくまでもあの子の人生で私が何か言うことなんてないもの」

あの顔や佇まいなど諸々を見れば多少は分かる。
おそらく、孤独を知らず、愛し愛されて育った少女なのだろう。
かといってそれをとやかく言いたくはない。自分の人生を否定するような気がして嫌だった。

だけどそれでも、どこか少し、嫉妬する気持ちは拭えなかった。



聖杯戦争は中断された。
魔力を収集する役割に割り込んだ間桐桜によって、7騎いるサーヴァントのうち5騎が収集され、その役割を強引に打ち捨てられた。
今の聖杯に再度サーヴァントを再度呼び出す魔力はなく、次の機会に持ち越しということになった。

残ったサーヴァントはアサシンはマスターとなった間桐臓硯のあの惨状により魔力を維持できず消滅、マスターの魔力によって現界が許されているライダーだけが残っている状態だ。

「随分とつまらぬ結末よな、言峰」

教会の椅子に座り込んだギルガメッシュが祭壇に立つ言峰綺礼に話しかける。
前回も聖杯戦争は中断されその結末を見届けることはできなかった。

「お前が期待した小僧も、聖杯の器も、全てが台無しになったのだ。
 少しは憤りを覚えたりもするのか?」
「確かに忌々しいと感じるところはある。だが、済んだことを言い続けても己の心を乱すだけだ」

振り返りギルガメッシュを見る綺礼。
その瞳には、まだ諦めていない何かを感じさせた。

「ほう、なら何を期待するというのだ?
また次の聖杯戦争でも待つというのか?」
「いや、期待するものがあるとすれば、間桐桜だな」

帰ってきた間桐桜の様子を見に行っていた言峰。無論顔を見ただけで傍にいたサーヴァントに追い出されてしまったが。
一瞬見えた彼女の状態は実に興味深いものだった。
何人殺したのか。おそらくは街で行方不明になった人間に比べれば大したものではないだろう。しかし与えた傷で言うならより深いものだ。
罪にまみれた身でありながら、そして体はボロボロになっていながらも、生きる意思は失っている様子はなかった。

「フン、だから死んでおけと言ったのに」
「いや、生きている方がより価値がある。
 愛するものも失い、身も心も傷だらけで罪にまみれながらも、なおああして生きているのだ。
 これからどれほど傷付きながら生きていくのか、見届ける価値はある。
 そしてもし、折れることなく生き続けたなら、あるいは私の前に立ち塞がる驚異になるかもしれないな」

語る言峰の顔は喜悦に満ちていた。
見届けようとしていた衛宮士郎も、この世全ての悪もふいにされていながらも、その心は次の探求を求めて止まなかった。

「だが俺には興味がない。
 せいぜいその時がくるまで、この世界で静かにやっていくとしようか」

そう言ってギルガメッシュは、蔵から一つの薬を取り出しながら教会を立ち去っていった。

後に残った言峰は、静寂に包まれた祭壇で物思いに耽るように瞳を閉じた。





959 : あなたのいない、春をゆく ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:41:31 i4CFovlM0
帰ってきてから最初に桜が行った場所は病院だった。
全身傷だらけで片腕を喪失している人間の対処としては当然だろう。

体の状態を検査された結果、命に別条のある傷はないとのこと。喪失した腕も、傷口はほぼ塞がっている。
ただ、斬り裂かれた右目は戻らず、もう一方の大幅に視力が落ちた左目も矯正が必要とのこと。
もしかすると聴覚や味覚にも何かしらの異常が出ているかもしれないが検査からは分からなかったらしい。

しばらくの検査入院の間、ほとんどの時間を一人で過ごした。
姉である遠坂凛は魔術協会からの呼び出しを受けて出張中。私を探し出すために少し無理をしたとのことで、その後処理の一環だと言っていた。

間桐の家族は会いに来てくれる人はいない。
兄は言わずもがな。祖父臓硯は自分が不在の間に精神異常をきたし、屋敷の奥で生ける屍のようになったとのこと。
聖杯戦争が失敗したことが原因かと一瞬思ったが、曰く何かの外的要因によるものであるのは間違いなく、何者かの魔術的な攻撃かもしれないが詳細は分からないとのことだった。
もし桜が自身の心臓に臓硯の核である蟲が潜んでいることを知っていれば心当たりを見出すことができたかもしれない。
例えば間桐桜が殺し合いの中で使用した道具。人を狂気に落とすベルトであったり、狂戦士の力を宿したカードであったり。そうしたものが主たる核の精神を破壊したのでは、と。
しかしその事実を知ることがなかった桜にはその答えにたどり着くことはできなかった。

ライダーだけは傍にいると言ってくれたが、今は一人になりたいと言って必要な時以外は出てもらうことで対応した。言峰綺礼が病室に訪れた際は流石に姿を見せたが。


もしもだが。
あの殺し合いが起こらなかった世界で自分が入院した場合誰が会いにきてくれただろうか。
二つの顔が浮かぶ。もういない人の顔が。


数日の検査入院の後、もう病院でできることはないということで退院となった。
病院を出て、いつもの道を歩く。
いつもの、何度も通った道。なのに視界が悪く人とぶつかりそうになったり、体のバランスが悪くて転びそうになったり。
そのたびにひっそりと着いてきていたライダーに対応され続けて。

帰ってきた。
忌まわしい記憶しかない自分の家ではない、まるで自分の家のように過ごしていた場所。
もう主がいなくなった衛宮邸に。

「待っていたわ、桜」

その門に、小さな影があった。

「イリヤさん…」
「あなたならまずこっちに帰ってくると思ったから。
 だけど残念な話。この家は主も管理する人もいなくなってる。
 凛が手を打ってくれたから少しは時間が稼げてるけど、じきに売地になる可能性があるんだって」
「………」
「だから、もしあなたがこの家を残したいって、守りたいって思うなら急いだ方がいいわ」

そう告げて、イリヤは屋敷から離れていく。
こちらとすれ違っていく小さな体。
その際、手に渡された家の鍵。

「イリヤさんは、どうするんですか?」
「ん〜、どうしようかなー。聖杯戦争は中断されたから私がアインツベルンに帰る理由もなくなっちゃったし。
 少し世界を回る旅に出ようと思うわ。セラとリズと一緒に、切嗣が見て回った色んな世界を。
 桜がサーヴァントを多く取り込んでくれたおかげでまだ少し余裕があるみたいだから」

振り返った桜、対してイリヤは振り返ることもなく門をまたいで。

「あ、でも」

一度だけ振り返った。

「もし私の寿命が尽きそうになった時、私が眠りにつく場所はこの家がいいと思ってるの。
 それまでここ、残ってるといいなぁ。独り言だけど」


960 : あなたのいない、春をゆく ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:41:47 i4CFovlM0
最後に、何かを期待するような視線を向けて、イリヤは去っていった。

鍵を開けて家に入る。
視界はぼやけているが、見慣れた光景には変化がない。足を踏み入れると、この家の主がおかえりと言いながら台所に立って包丁を握っている。そんな光景を幻想する。

リビングの座布団に腰掛ける。。
騒がしい先生が、ドタバタと入ってきながら台所に向かってお茶を要求する。そんな光景が思い起こされる。

もう、二度とその風景は見ることができないというのに。

家の中を歩き回る。
誰もいなくなった場所、少し前までイリヤがいたこともあってか少しは生活感が残っている。

一つの襖を開く。
その部屋には仏壇があった。
衛宮切嗣、自分は知らないかつての家長の写真の隣に、先輩の遺影が置いてあった。
遺骨もない。ただ言峰綺礼の処置によって聖杯戦争の影響で発生した死体なき犠牲者の一人として、遺体もなく葬式があげられた。
きっと、藤村先生も同じ扱いとなったのだろう。

やがてリビングに戻ってきて。
同じ座布団に腰掛けて、机の上に顔を沈める。



先輩。藤村先生。
もう会うことのできない大事な人達。
私は一人になってしまいました。でも、強く生きていきます。
いつか、殺してしまったたくさんの人達にも顔向けできるようになるくらいに、生きてみせます。
アリスさんの言ったように、こんな私も笑っていけるようになります。

だから、今、この場所でだけ。
最後に泣くことだけは、許してください。



「大丈夫なのですか、桜」
「いいの、ライダー。これはきっと、私に必要なことだから。
 だからライダーは絶対に手を出さないで」
「……分かりました。可能な限りは見守ります。桜の命に危機が及ばない限りは」

霊体化して姿を消すライダー。
心配性なサーヴァントだ、と改めて思う。
だけど今からしようとしていることが無茶であることも理解している。

間桐邸。本来の己の家の前に立つ。
祖父、臓硯に管理されていた屋敷は静寂に包まれている。
陰湿な空気はそのままに、しかしその中にはかつてはあった不気味な気配も、屋敷の周囲に蠢く蟲も何も感じられなかった。

(お祖父様、本当に…)

息を吸って屋敷の扉を開く。


961 : あなたのいない、春をゆく ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:42:21 i4CFovlM0
そこには、一人の男が立っていた。

「よう桜、随分と長い留守だったじゃないか」

間桐慎二。自分には血の繋がりのない兄。
待っているのは当然だ。帰ってくる前に電話で連絡したのだから。

「兄さん…」
「みっともない姿だなぁおい。そんなバカみたいにボロボロになって。
 だけどこの家はもっとボロボロだよ。爺さんは狂っちまうし、聖杯戦争は結局中断されて何の成果も得られないし。
 ほんと、お前がいなくなったせいだよ!!」

力いっぱい頬を張られる。
足がよろけ、受け身を取ることもできず床に倒れ込む。

倒れたところで馬乗りになり、そのまま握った拳を振るってくる慎二。
それを、桜は顔を手で庇うようにして受けることしかできなかった。

「聞いたぜ、衛宮のやつも死んだんだってな!
 全部台無しになって、衛宮もいなくなったってのに、お前だけどの面下げて帰ってきてんだよ!!」
「兄さ…、やめ…」

拳を受ける衝撃でうまくしゃべることができない。
それでも言いたいことは伝わっているはずなのに、振るわれる腕は止まらない。

むしろ今まで抵抗することが少なかったのに反抗の姿勢を見せたことが逆鱗に触れていたようだ。

「こんな状況になっても何もできなくってさ、ただ家がぐちゃぐちゃになっていくのを見てるしかなかったってのにさ。
 なのにお前は、お前ばっかりいっつも!!」

もう言っていることが要領を得られていない。
殴りたい、いや、おそらくこのどうしようもない怒りをただぶつけたいだけなんだろう。

なんで、この人はいつもこんななんだろう。

殴るのを止めて手を掴み、服従させるように体を弄り始める。
その顔が直視できず顔を背ける。

「そうだ、爺さんはいなくなったんだ、なら間桐の主は僕じゃないか!?
 そうだよな?!お前はずっと僕のものだったんだ、だったら僕に従うのは当然だよな!!」

頬を張りながらそう言ってくる。

心の中に黒いものが湧き上がってくるのを感じた。
いなくなったのは事故のようなもので。ただ生きるために必死で、自分すら無くしそうになりながら藻掻いていた。
それをバカにされているようで。それは自分だけじゃない、先輩、藤村先生、殺してしまった人達、守ってくれた人達、一緒に戦った人達、みんなをバカにされているようで。

なんで、こんな人が生きて――――

ピタリ、と。心の中で。
黒い私が思いかけた言葉を、別の私が止めた。

それはダメだと。
その先を願ったら、あの場で殺戮の限りを尽くしていた私と変わらないと。

今の私には、もっと見えるものがあるはず。今まで自分のことだけで精一杯だった私には見えなかったものを見ることができるはず。

背けていた顔を、ゆっくり前に向ける。

うっすらと映る兄の顔。
屈辱と喜悦で歪んだような表情、だけどその目元には本人も気付かぬかのように流れる涙があった。

思い返せば、彼はずっと泣いていたような気がする。私を服従させるために乱暴する時や犯す時は。
何で泣いているのか。
いつから泣いているのか。

いつから、こんな歪んだ関係になったのか。

あの日からだ。この家の秘密、本当の後継者、全てを知った兄に対して、私は謝罪の言葉を言った。
その日から、記憶にうっすらとだけ残っている優しかった兄はいなくなった。


962 : あなたのいない、春をゆく ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:42:39 i4CFovlM0

「止めてください!!兄さんっ!!!」

大声で叫んだ。
広い屋敷内に響き渡るくらいに、もしかしたら屋敷の外まで届いたかもしれないような、今まで出したことのない声で。

声の音量か、あるいは声から感じた剣幕か。
慎二が怯むように後ずさる。
見ていられないと物陰から飛び出そうとしていたライダーすらもその足を止めた。

「…兄さん、覚えてますか?
 私がこの家に来た頃は兄さんは私を毛嫌いするように扱って、だけど少しずつ優しくなっていって。
 もしかしたら兄と妹ってあの時みたいな関係が普通だったんじゃないかって、今だと思います」
「何言ってんだよ、今更お前…」
「だけどどこかで間違えてしまった。このおかしな家にいるうちに、私達の関係もこんな捻れたものになってしまった」

だけどその歪みの原因である存在はもういない。
だとすれば、まだ間に合う。

「だけどそれは私にも罪があります。 
 自分のことばっかりで、兄さんのことを全然見てなかった。兄さんはずっとこの家で苦しんでいたのに、そのことを分かろうともしてなかった」
「…何だよ、何なんだよ!いきなり知ったような口聞きやがって!何が言いたいんだよ桜!!」
「兄さん、もう一度やり直しましょう。もう一度最初から、兄妹として」


私は間桐の魔術が使える。だけど知識がない。臓硯にとっては後継者ではなく駒でしかなかったこの体には基本的な知識すら教えられはしなかった。
だけど兄には知識がある。魔術が使えなくとも書斎で学んだ多くの知識を持っている。それに魔術外でも何事もそつなくこなす能力は私にはないものだ。

こんなどうしようもない家だとしても、今の自分にとっては、たった一つの居場所なのだから。

「お祖父様の思っていたものとは形は変わってしまうかもしれないけど、でも二人なら間桐の家をまた作り直していくこともできるはずです。
 だから、お願い兄さん、力を貸してください。私にできなくて兄さんにできることは、たくさんあるんです」
「何だよ…、今更お前は!!
 こんな…こんなになるまでぐちゃぐちゃになって、今更やり直すってのかよ!!
 お前が、お前が家になんてこなければ―――」

その時はきっと、自分ではない誰かが連れてこられただけだろう。その人が間桐慎二を間桐慎二として扱うかどうかなど分からない。あるいは実験材料として消費されていた可能性も有り得る。
その可能性は慎二も意識させられたのか言いかけた言葉を噤む。

慎二自身も、何をしても反抗しない間桐桜という存在に甘えて振る舞っていたにすぎなかった。

「僕は、ずっとお前に酷いことし続けてきたんだぞ…。
 そんなやつを、兄だって言って許せるのかよ…?」
「許す許さないじゃないんです。
 私達は、血は繋がっていなくても、たった二人のこの家の兄妹じゃないですか」

兄の体を抱き寄せる桜。

もっと早くこうできていれば、こんな関係にはならなかったかもしれない。
先輩と兄の関係も、また違った形になったかもしれない。
だがそれは言っても詮無きこと。この現実の中で、私達は生きていかなければいけないのだから。

嗚咽を漏らして泣く兄。こんな姿を見るのは桜にとっては初めてだった。
その涙が止まるまで、桜はその感情の吐露を受け止めるように抱きしめ続けた。




963 : あなたのいない、春をゆく ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:42:58 i4CFovlM0
先輩。藤村先生。

私は元気です。

先輩の家は、あの後私達の家が買い取り、管理することになりました。

家を継ぐための魔術のことは分からないことだらけで、兄さんや遠坂先輩―姉さんに色々教わりながら学んでいます。
お祖父様のものとは別のやり方で、今の私の居場所である間桐の家を変えて、守っていこうと頑張っています。

兄さんは私への勉強の他には、資産管理みたいな事務的なことを色々お願いしています。

学校にも復学するようになりました。
弓道部はもう無理ですし色々大変ですが、矯正器具で視力を補ったりしてついていけるようにやっています。

姉さんとは遠坂と間桐の家としての盟約を改めて結び直して、いつか必ず返す借りの代わりに色々面倒を見てもらっています。
姉妹としての仲も戻ってきています。たまにお買い物に連れ出されたりもしています。

色々と苦労の多い日々ですが、それでも頑張れているのはあの儀式の中で出会った人達のおかげだと思っています。

春になった今は、桜を見に来ています。
姉さんや兄さん、新しくできた友達の人も都合が合わなくて一人ですが。

満開に咲いて、散っていく桜は綺麗です。
来年もまたこの場所にこられるように、その時にはもっとたくさんの人と来て、もっと笑顔を見せられるように。

私は今日を生きていきます。




いつかの未来の話。

冬木に残った大聖杯を解体しようとする魔術師と、それを妨害する者達との最後の戦い。

その妨害者の中には教会の神父の男と金色の英霊の姿があり、解体作業は困難を極める。
しかし最終的には解体を成し遂げ、冬木における聖杯戦争は完全に終息することとなる。


その戦いの中に、長髪の女の英霊と影を操る一人の女魔術師の姿もあったが。


それはまた、別の物語。


【間桐桜@Fate/stay night エピローグ 了】


964 : Over Kaleidscope(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:44:05 i4CFovlM0
ある時。

ビルが立ち並ぶ街の中、建物の屋上、人気のない場所に人知れずオーロラの壁のようなものが現れ。
そこから一人の男が姿を表した。

「ここがプリズマイリヤの世界か」

首からカメラを下げた男は、そう呟いた。




「はぁ、はぁ…」

イリヤは走っていた。

後ろから追ってくるものがある。
走れども走れども、距離は離せない。相手の足が速すぎるのだ。

ルビーはいない。転身して迎え撃つことができない。
カードも今は手元にない。ただ学校に行くだけだと思い家に置いてきた。

(なんで、こんなことに…)



イリヤが帰還した時、行方不明となって一週間ほどの時間が経っていたという。

セラやリズ、兄や両親は方方を探し回っており、帰った時は涙を流して喜ばれた。

どこに行っていたのか。何をしていたのか。
両親には全てを話した。お供のルビーと共に。
ちょうど兄とセラ、リズが安堵からの夕食の買い出しに出ている間だ。あるいはセラが空気を読んでくれたのかもしれない。

信じてもらえるかは分からなかった。もしかしたらおかしくなったと思われるかもしれないと怖かった。
だけどママは、ただ一言、「頑張ったわね」と言ってくれた。
それからはママに縋り付いて、出掛けた3人が帰ってくるまで泣いた。

こうして取り戻した日常。だけどそれはどこか違う風景だった。

家が広くなった。一緒の部屋で寝ていた存在がいなくなって日常が静かだった。

正面の家にあったルヴィアさんの家がなくなった。片付けを見守っていた執事のオーギュストさん曰く、家主がいなくなったので引き上げることになったのだと。
オーギュストさんにも本当のことを話した。その上でオーギュストさんは「あなたが悪いわけではない。あまり抱え込まないで」と言ってくれた。

そういえばルビーは私と一緒にいてもいいのか、帰らなくてもいいのかと聞いてみた。
返答が怖かったが 『呼び出しでも受けない限りはイリヤさんとずっと一緒にいますよ。そして今の所は呼ばれる気配はないですし』と言ってくれた。
それだけは有難かった。


時期はちょうど夏休みだった。だから行方不明になった期間の学校の出席がどうとかは特に影響がなくて。
その後は普通通りの日々に戻った。
学校のみんなには、美遊とクロは急な事情で転校・引っ越しとなったと説明しておいた。みんな悲しんでいたけど、仕方のないことだと受け入れ、一週間も経つ頃には元に戻っていた。

私だけが、そんなみんなから置いていかれるような感じがした。

今でもたまにいなくなったみんなのことを幻視する。
朝起きると隣にクロがいる気がするし、遊んでいる最中に美遊のことを探したりする。

美遊、クロ、凛さん、ルヴィアさん、バゼットさん、それにサファイア。
偶然か、いなくなったみんなは数ヶ月前の、かつての日常にはいなかった人達。
だから、ただこれまで通りの日常に戻っただけ。

それだけ。

夏休みはひたすら楽しんだ。
友達と遊びに出るとたくさん騒いで。
家族で旅行に行ったらとにかくはしゃいで。


965 : Over Kaleidscope(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:44:33 i4CFovlM0

ああ、これが日常なんダ。
これガ、わタしの日常ナンダ。

………

たまに吐いたりもした。
眠れないこともあった。

みんなには無理をしてるって気付かれていたと思う。
忘れたい。忘れたくない。
この気持ちを振り払うためにとにかく楽しむ。でも楽しむとそれだけみんなの記憶が遠ざかっていく。

どうしたらいいんだろう。

悩んでいるうちに、夏休みは終わった。
殺し合いに巻き込まれてた時の方が長く感じるくらいに、時が流れていった。

そして夏休みが終わっての始業式の日。

自分の中の時間が動き出す出来事があった。



出口が見つからない。
まるでどこかに閉じ込められているかのような感覚。
ルビーがいれば出口を探せたかもしれない。

『待ってくださいイリヤさん!!』
『早くこないと置いていくよー!』

一人で先走っておいてきた自分をぶん殴りたい。

足場のよくない路地裏だ。道幅はそれなりに広いが、逃げ道は一つの方向にしかない。
地面に転がるゴミを踏みつけた。バランスを崩して躓き転ぶイリヤ。

後ろから追ってくる足音が聞こえる。
一人の男の影が見えた。

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、だな。追われる理由は分かっているか?」
「…っ、誰なの…?!」

男の声に問いかけるイリヤ。
しかし男は名乗ることもなく、手をかざした。



「行ってきまーす!!」

夏休みが終わった始業式の朝。
空元気を続けるイリヤは、その複雑な心中を振り払おうとするように家を飛び出した。

『待ってくださいイリヤさん!!
 そんな前後不覚で走ると危ないですよ!』
「もー別に気を付けてるってば!ルビーも、早くこないと置いていくよー!」

走るイリヤに振り払われてしまったルビーはイリヤに注意を促すがイリヤは気にせず走る。
学校に行けば何かが変わると信じているように、走り続ける。

ルビーが離れ、ついでに少し注意が散漫になっていたのだろう。
足が急ぐ中、ふと路地裏の暗い通りが気にかかった。

ここを通れば、学校への近道になる。
初めて意識した道だったのに、何故かそんな風に思った。

『え?!ちょ、イリヤさん?!そっちは通学路じゃないですよ!?』

ルビーの静止も聞かず、イリヤはその通りに飛び込む。

慌てて後を追うルビー。
しかしそこにイリヤの姿はなかった。

『イリヤさん?イリヤさーん?
 ……イリヤさん?!』

見失うはずがない道で、イリヤの姿が見えない。
時間が経って冷静になってきたルビーは周囲を魔力探索し、焦るように飛び回った。




966 : Over Kaleidscope(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:45:05 i4CFovlM0
イリヤを追っていた二人の男。
一人はスーツ姿、もう一人はローブのような服を纏っていて顔が見えない。

漆黒の犬が数匹姿を現す。

イリヤを追う男二人が呼び出したものだ。

「おとなしく着いてくるのなら丁重に扱う。
 だが抗うのなら、手荒に対応させてもらうことになる」

犬は唸り声を上げながらこちらに迫っている。

「しかし驚いたよ。通学路に罠を張っていれば引っかかってくれるかもとは思っていたが。
 まさかこうも簡単に来てくれるなんて」
「じゃあ、…この場所はあなた達が…」
「そう。だから逃げられるとは思わないことだ。当然、助けも来ない。
 その状況で抗うっていうなら」

犬のギラギラとした瞳がこちらを見ている。
ルビーがいれば大した驚異ではない。逆に言えば、ルビーがいない今の自分には立ち向かう術がない。

だけど。
罠を張って、こっちを脅迫してくるような人だ。従ってもいい方向に事態が転がるとも思えなかった。

背を向けた瞬間、犬はこちらに飛びかかってくるだろう。足には自信があっても獣と競争して勝てるとは思えない。

落ちていた木材を前に構えて起き上がる。せめてもの抵抗だ。

「抗うか。なら仕方ない。
 命までは奪えないが、手足の一本無くすくらいは覚悟してもらうぞ」

走り始めた犬を前に、顔をそらさず前を向き続けるイリヤ。
顔をそらせば対処できなくなる。

怖い。最悪死ぬかもしれない。
だけど、震える足で立ちながら迫る犬に視線を合わせ続け。

その大きく開かれた牙が目の前に迫った瞬間。

「ギャンッ!」

悲鳴を上げて犬の体が弾かれた。

「えっ?」

困惑するイリヤ。よく見ると犬が弾かれた目の前に、モノクロのオーロラのような何かが広がっている。

「子供相手にそんな凶暴なやつをけしかけるなんてのは、いくらなんでも見過ごせないな」

オーロラの中から声が聞こえ、一人の男が姿を現す。
現れた男は、イリヤに向けてポイ、と何かを投げつけた。

『イリヤさん!!良かった、無事ですか?!』
「ルビー!?」

渡されたのは相棒の魔術礼装。
飛んで寄ってくる相棒を前に、しかしイリヤにあったのは安心より困惑だった。

「あの人は?」
『分からないです。イリヤさんを探していたらいきなり掴まれて…』
「ことが終わるまでそこから出るなよ」

そう言ってオーロラの壁をイリヤの前に設置する。
触ると体が弾かれるような感覚があり出ていくことができない。

そして、困惑しているのはイリヤ達だけではなかった。

「何故この結界の中に入れる?!」
「何だ、お前は?!協会の反対勢力の手の者か?!」

追ってきていた二人の男も困惑している。
警戒して影の犬を下がらせて様子を伺っている。

そんな男たちの前に、臆することなく進んでいく。
懐から何かを取り出しながら、男は言う。

「名乗るほどのものじゃない。ただの通りすがりだ。そう、ただの―――」

言って眼前に、一枚のカードを掲げながら。

「通りすがりの仮面ライダーだ」


967 : Over Kaleidscope(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:45:51 i4CFovlM0
そう言って、カードを腰の前に掲げた何かに差し込む。

「変身」

KAMEN RIDE
D E C A D E

男の姿が変わる。
体が装甲のようなものに覆われていく。
顔に板を縦に貼り付けたかのような、黒とマゼンダを基調とした体。

「えっ…?」

その姿が、イリヤにはどこか見覚えのあるようなものに感じた。
あの殺し合いの中で、背中を預けて戦った戦士、乾巧の変身した姿、ファイズに。
どこがと言われれば全く似ていないのに。
例えるなら、魔法少女と分類した時の鹿目まどかと自分たちカレイドの魔法少女、といった概念的なもののような。

「仮面ライダーディケイド、それが俺だ」

ちらりと様子を伺うように振り返った男、ディケイドはそう名乗った。
問いかける間もなく、状況は進んでいく。

犬達が飛びかかる。
素早い身のこなし。建物の壁面を走りながら迫るものもいる。
それを、ディケイドは拳を振るい足を振り上げてなぎ倒していく。

起き上がった一匹が頭を飛ばし高速で牙を差し向ける。
それをディケイドは、腰から引き抜いた剣で受け止める。

その様子から動けないと見た他の犬が、一斉に飛びかかる。

「誰が動けないと言った?」

ディケイドは犬の体ごと剣を振るい回転斬りを放ち、飛びかかった個体全てを斬り伏せた。
最後に残った剣に食らいついた一匹も、頭を掴んで剣を引き抜き顎を切断。

犬の体は影となって消えていく。
使い魔の消失に焦る男たち。

「おい!」
「クソ、仕方ない、アレを出すぞ!」

言ってスーツの男は指笛を鳴らし、ローブの男は宙で印を切った。

歩を進めるディケイド。
その前に通りの奥から黒く巨大な影が飛び出す。

「!?」

影の突撃を受けディケイドの体が吹き飛ばされる。
地面を転がった後前を見たところにいたのは、黒く影を纏った熊のような巨体の怪物。

『あれは、魂を食らう魔術生物、ソウルイーターです!』

起き上がったディケイド。その背後の気配を感じ振り向きざまに剣を振るう。
振るわれた剣はその影を通り抜けていき、影の伸ばした爪がディケイドの装甲を引き裂く。
再度地面に倒れ込むディケイド。

影はソウルイーターの隣に並ぶ。
巨大な上半身の骨格を思わせ、薄いフードを纏った半透明の怪物。
まるで幽霊を思わせる外見をした、しかし見上げるほど大きなそれ。巨大霊とでも呼ぶべきか。

ソウルイーターがディケイドへと飛びかかる。
牙を剣で受け止めるが巨体を押しきれず壁に押し付けられる。
その後ろから、巨大霊がディケイドの体を爪で嬲っていく。ソウルイーターにも当たっているはずのそれは霊体であるが故かすり抜け、ディケイドだけを捉えていく。

その体をソウルイーターが蹴り飛ばし、宙に飛ばされたディケイドの体を巨大霊の撃ち出した光線が撃ち抜く。

地面を転がって流石に苦悶の声を漏らすディケイド。

「ハハハ、誰かは知らないが、こいつらは並の魔術師じゃ太刀打ちもできない怪物だ!
 わざわざ関わってきたことを後悔しながら死んでいけ!」

さっきまでの焦りはどこへやら、勝利を確信し笑う二人。


968 : Over Kaleidscope(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:46:12 i4CFovlM0
「魔術師…。なら見せてやるよ。
 俺達の世界の魔術師(ウィザード)ってやつを」

剣でソウルイーターの体を受け流し身を捩って抜け出しながら、ディケイドは腰から引き抜いたカードを差し込む。

KAMEN RIDE
WIZARD

ヒーヒー、ヒーヒーヒィー

謎の音声と共にディケイドの体が炎に包まれ、その姿が変わる。
炎が迫ったソウルイーターの体を焦がし、怯んだ隙に蹴り飛ばすディケイド。

炎が収まった時、顔を宝石のルビーのような顔をして魔術師の衣装を思わせるマントを纏ったような姿に変わっていた。

『魔力反応があります。我々とは形体が異なりますが…』

壁から離れて距離を取るディケイドウィザード。

そこに再度飛びかかってくるソウルイーターと巨大霊。
その進行先で剣を、まるで何かを描くかのように素早く振るうと宙に紅い魔法陣が出現。
先行した巨大霊はそれに向かって突撃し、姿を消す。

『空間転移?!こんな高度なものを…!』

巨大霊をどこかに転移させて敵を分断。
残ったソウルイーターの進撃を身を屈めてかわしながらその腹を斬りつけた。
痛みに呻いて蹲りながらも、吠えて再度突撃。牙がディケイドに触れるかどうかというところでその体が急停止する。
ソウルイーターの後ろに置かれた魔法陣から現れた鎖がその後ろ足を拘束しており、それ以上の進行を阻んでいた。

その目の前でカードを差し込むディケイド。

FINAL ATTACK RIDE
WIWIWI WIZARD

前面に手を翳し魔法陣を写し出すと、その中に思い切り手を振るい込む。
次の瞬間、ソウルイーターの下に写った魔法陣から巨大な腕が飛び出し、その巨体を拳で大きく打ち上げた。

高く飛ばされるソウルイーターの体。その下でディケイドウィザードは足に炎を纏わせながら側転し。
その勢いのまま飛び上がって、打ち上げられた巨体に飛び蹴りを放った。

魔法陣と炎に覆われた足がソウルイーターの頭部を粉砕し、地面に激突すると共に爆散、消滅させた。

地に足を付けて振り返ったディケイドに透明な爪が襲いかかる。
どことも知れぬ場所に移されたことに怒りを覚えているのか、巨大霊は体を震わせながら襲いかかる。
剣で受け止めようとするが、ディケイドウィザードの剣は体をすり抜け届かない。
距離を取ったところで放たれた光線を避けながらカードを取り出す。

「ゴーストにはゴーストってところか」

KAMEN RIDE
GHOST

レッツゴー!カクゴ!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!

再度姿が変わる。体からパーカーのような布が飛び出し、のっぺりとした体を着飾る。
頭部に角の生えた、どことなく不気味にも感じる造形をした体へと変わっていた。

ガンガンセイバー!!

どこからか取り出した巨大な両刃剣を構えるディケイドゴーストに対し、巨大霊は爪を振るう。
それをふわり、とまるで幽霊を思わせるような緩慢なジャンプで避け、その頭に向けて剣を振り下ろす。
バッサリと、それまで当たらなかった体を剣が捉えて斬り裂いた。
怯む間に幾度も斬りつけ、そのまま蹴りを加えて弾き飛ばす。

体勢を立て直した巨大霊は、体から光を射出。巨大霊の周囲にそれより小型の幽霊が多数権限する。
対してディケイドゴーストは印を組むように手を動かす。するとその体から3体のパーカー状の何かが飛び出した。
飛び込んできた小型の霊を迎撃する3体。二刀の剣を振るうもの、弓を構えて射抜くもの、電撃を放つもの。それらが霊を1体1体打ち破り消滅させていく。
やがて全てが消え去ったところで3体のパーカーは巨大霊に突撃をかけて体勢を崩させる。

FINAL ATTACK RIDE
GHO GHO GHO GHOST


969 : Over Kaleidscope(前) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:46:34 i4CFovlM0
巨大霊が顔を上げた時にはディケイドゴーストの体は浮き上がっており。
構えるより早く、その体を橙色のエネルギーを纏った飛び蹴りが打ち砕いていた。

ソウルイーターと巨大霊、敵の二つの切り札を破ったディケイドは男達に目を向ける。
すると周囲を黒い犬が囲っており、男達は既にこちらに背を向けていた。

切り札を破られて撤退を選んだということだ。
そして残った犬は足止め。

状況を把握したディケイドは一瞬チラリとイリヤの方に視線を向け。

KAMEN RIDE FAIZ
Complete

次に変身した姿に、イリヤは息を飲んだ。
その姿は、あの人の、今も持っている託されたベルトを使った時の姿、ファイズだったから。

FORM RIDE FAIZ ACCEL

立て続けに差し込まれたカードでまた姿が変わる。
胸部が開き、目の部分の色が変わる。乾巧も使っていた、高速化する形態だ。

犬が飛びかかってくると同時にその姿がかき消え。
周囲の犬に円錐形の赤いポインタが設置。のみならず、背を向けて逃げる二人の男をも捉えていた。

その姿がイリヤの前にまで戻ってくると同時に、一斉に設置されたポインタが起動。
犬と男達の体へと命中し、消滅させていった。

「終わったぞ」
「え、あの…、その…」

変身を解除しオーロラの壁を解いて、こちらに手を伸ばす男。
しかしイリヤの混乱は収まらない。
周囲の風景が変わり、堂々巡りだった路地裏は、自分が飛び込んで間もない場所の建物の間に戻った。

「さっきのか。まあ気にするな。あそこにいた魔術師ってのもどうやら本人じゃないらしい。
 本物は他の場所にいるんだろう」
『それじゃ、そちらも対処しなければ危険なのでは』
「そっちは、……まあ、大丈夫だろう。
 たぶん、お前達が気にすることはもうないだろうさ」



「クソ!何が起きた!!」
「何なんだあの男は!こっちの切り札の魔獣達をあんなに簡単に…!」

どこかの建物の中で叫び散らす二人の男。
彼らはある依頼を受けて動いていた傭兵のような存在だった。

難しい仕事ではないと聞いていたが念には念を入れて準備を整えて行動して失敗した。

「こんな有様、雇い主になんて報告すればいいんだ!」
「クソ、考えろ、畜生…」

頭をかきむしりながら呟き続ける男たち。

次の瞬間だった。

入口のドアのある方向から、体に衝撃が走って地面に倒れ込む。

何が起こったのか。
把握する前に片方の男は即死していた。
生き残った方はその全身を血まみれにした様子と、自分の体から流れる血を見て、撃たれたのだと理解し。

扉を蹴破って踏み込んできた男が、銃を突きつけその頭部を撃ち抜いた。
その姿が、噂に聞いた魔術師殺しの姿と一致することを見て、しかし何故そんな男がこの場にいるのかを理解する前に意識は途切れ。

「安心しろ。お前達がこれ以上何かを心配するようなことは、もう二度とない」

反応するものがいなくなった空間で、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの父親である男、魔術師殺しの衛宮切嗣は小さな声で呟いた。




970 : Over Kaleidscope(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:47:29 i4CFovlM0
「イリヤちゃん!!」
「ママ!?」

どこからともなく飛び出してきたベンツから出てきた母に驚くイリヤ。

「良かった、無事だったのね…」

落ち着いた母から話を聞く。
魔術協会に属するある勢力の人間が、イリヤを狙って刺客を放ってきたのだという。
動きが急すぎて察知するのが遅れ、帰ってくるのが間に合わなかったと。

父はそれに関連して別の場所で動いているためこの場にいないとのことだった。

「それで、あなたは誰かしら?」

イリヤの隣にいた男に警戒する目を向けるアイリ。

「名前なら門矢士だ。…おいおい、娘を助けたって相手に対して随分な目を向けるんだな」

名乗りながらも警戒されすぎていると見た士は手を上げて抗議するような声をあげる。

「当たり前じゃない。このタイミングでイリヤちゃんを助けた正体不明の男の人なんて、母親の立場からしたら信用できるわけないじゃない」
「ま、待ってママ!この人はたぶんそういうのじゃないと思うの!」

険悪な雰囲気が収まらないところでイリヤが声を上げる。

「私が危なかったところを助けてくれたのはホントのことだし、それにこう、何ていうか!
 根拠ははっきりとは言えないんだけど!この人たぶん大丈夫だと思うの!!」

うまく説明できない、というか、言えない。あの殺し合いの儀式の経験を通して得てきた直感的なものだったから。
しかしそう力説するイリヤを見て、アイリはため息を一つついて警戒を下げる。

「イリヤちゃんがそういうのなら、私が同じ立場だったなら同じことを思うのでしょうね…。
 それで、イリヤちゃんはどうする?家に帰る?それとももう遅刻になっちゃうけど、このまま学校に行く? 
 ただママはパパと合流しないといけないから、その後になっちゃうんだけど…」
「私は…、学校に行こうと思う。というか行きたいの」
「そう…。でも今からだとかなり遅刻しちゃうことになるけど、それでも――」
「なら俺が送ろうか?」

士がそう提案する。

「今から直接行けば始業式には間に合えるだろ。
 それに、こいつ自身俺に話があるみたいだしな」
「それは…、ううん、だったら、お願いしようと思う。
 ママ、それでお願い!」

その後は少しの悶着を通した結果、万が一の時はルビーの力を持って対応するということで、アイリ側が折れることで決着がつき。

アイリは車を走らせて去っていき、通学路に沿ってイリヤと門矢士は歩き始めた。

「さて、まずはお前の状況からだが」
「うん」

士の話すところでは。
自分が帰ってきた時の空間の歪み。協会にも観測されたそれは魔術師的には見過ごせないほどに貴重なもので。
そこから帰ってきたイリヤは、根源に到達するために重要な手掛かりにもなり得る可能性を秘めているのではないかという意見があるとのこと。

「それじゃ…、向こうに帰った桜さんも同じ目に…?」
「さあな。そこまでは俺には分からない。
 ただ聞くところによるとこの街を管轄としていた魔術師がいなくなって、協会が手を出しやすくなったとかいうのがあるらしい」
『ああ、そういえばこの街には以前なら凛さんとルヴィアさんがいましたからねぇ』

協会としても一枚岩ではなく、そのようなことを言う勢力は力を抑えられ気味であり。
ならばと起死回生の一手を狙ってイリヤに直に手を出してきたというのが顛末らしい。


971 : Over Kaleidscope(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:47:53 i4CFovlM0
「なんか、詳しいですね」
「まあ、少しだけ情報を集めたからな」
「じゃあ、またあんな人が来る可能性があるってことですか?」
『いえ、おそらくは今回の失敗を通じて責任追及とかがされるでしょうね。
 首謀者はおそらく弱体化も免れないでしょうし、今の所は派手な動きはなくなると思いますよ』

胸を撫で下ろすイリヤ。
あのようなことはそうそうあって欲しくない。警戒しながら日常を過ごすのはもう嫌だ。

そうして本題に戻る。今イリヤが最も聞きたかったこと。

「それで、士さんですっけ。
 あなたは誰なんですか?」
「言っただろう。俺は仮面ライダーディケイド。
 お前の出会った男、乾巧―仮面ライダーファイズの世界の平行世界の人間だ」

そうしてイリヤは士から、乾巧の、ファイズの世界についてのあらましを聞いた。
仮面ライダーという、人々を怪人の驚異から守る戦士が存在する世界。
ファイズの世界において怪人とはオルフェノクが該当し、それらと戦うその世界固有の存在がファイズであるのだと。

「ま、あの世界は仮面ライダーって名称がなかったからな。知らないのも無理はない」

それぞれが独立して歴史を刻んでいく。交わることは基本的にはない。
言いつつも交わってしまう歴史もたまによく見つかるらしいが。

士が変身した姿はディケイド、そして他の姿であるウィザードやゴーストは他の世界の仮面ライダーの姿。
ディケイドの能力は多くの世界の仮面ライダーに変身できるというものらしい。ファイズもその中の一つだと。

「で、俺の役割は世界の破壊だ」
「は、破壊…?!」
「ああ。ライダーの存在する世界を、時と場合によっては破壊する。
 そのために俺の、ディケイドの中には時空を越えられる力がある。
 だから基本的にはライダーのいない世界にパスをつなげることはできないんだが、全く行けないってわけじゃない」

何故そんな彼がこの世界に来たのか。
イリヤには一つの心当たりがあった。

「もしかして、私が持ってるファイズのベルトが…」
「当たりだ。あれは本来この世界に存在しないもの。もしここにあれば、万が一にもファイズが生まれる可能性がある。
 あるいは誰かに奪われ解析されれば、この世界特有の仮面ライダーが誕生する可能性もある。
 そうなれば、この世界はライダーの世界の一つとして数えられ、本来相容れない世界観がぶつかり合うことになる」
『そんなことが…。恐ろしすぎないですか、仮面ライダーって』

想像がつかずぽけーっと聞いているイリヤに対し、その有り方から話の大きさを理解して絶句するルビー。

「じゃあ、あのベルトを持っていくってことですよね…?」
「まあ、当初はそのつもりだったんだが」

と、恐る恐る問うイリヤに対し、士は言い直す。

「この世界の仕組み、内部に対する自分の世界の驚異に対してはそれなりに強固なものがあるっぽくてな。
 もしお前がベルトを持っていることが問題なら、その力が働いて何かしらのアクションを起こしてくるはずだ。
 だがこの一ヶ月、特に何もなかっただろう?」
「そう、ですね」
「それにお前を見て考えを改めた。乾巧自身が選んで、託したお前なら大丈夫だろうってな。
 危険はゼロではないが、無視しても構わないって程度だ。
 ちなみにどういう管理だ?」
『それなら私が管理しています。他の方の手には絶対届かない場所に』
「なら直ちに問題はないだろうさ」
「持ってはいかないってことですか?」
「何だ、持っていってほしいのか?」
「………」
「何か悩んでいるみたいだな。ことのついでだ、話してみろ。助言できるかは分からないが」


972 : Over Kaleidscope(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:48:08 i4CFovlM0
色々と複雑なものが入り混じった心中を見抜かれたイリヤ。
少し迷った後ポツリと話し始めた。

「あの殺し合いの中で、美遊もクロも、凛さん達もいなくなって。
 そしたらルビーと出会う前の、いつもどおりの日常が戻ってきて。
 みんながいなくなっても時間はずっと過ぎていく。いなくなったみんなが何だか忘れられていくみたいで」

この夏休み、亡くした人達へのジレンマで苦しんでいたイリヤ。
忘れたい記憶。忘れたくない人達。悪夢であってほしかった時間。今のこの現実で流れる時間。

この時間の中で、大事だったみんなのことも忘れていくのか。

答えは出ない。ルビーにも答えられない。

「なるほど。ファイズギアをどうするか話してる時の戸惑いはそういうことか」

あのベルトが、今のイリヤには唯一手元に残ったあの殺し合いの記録だから。
本当なら返すべきであるのに、返したくない、返すと全てを忘れてしまうと思う自分がいた。

「―――人ってのは変わっていくものだ。時間が経つ中で、出会いがあれば別れもある。
 楽しいことも、辛いことも、色んなものを積み重ねて成長していく」
「………」
「辛いことは忘れていくし、楽しいことは記憶の中で積み重なっていく。
 それでも忘れたことだって生きる中では確かに糧になってるものだ」


「それでも、もしその中に忘れたくない記憶がある、手放したくない思い出があるっていうなら。
 そいつらをお前の生き方に刻み込んだらいい」
「生き方に刻み込む…?」
「ああ」

遠くを見ながら士は言う。

「お前はまだ幼い。答えを出すには早すぎるかもしれないが。
 それでも刻みたいというのなら、そのファイズギアはお前に預けておこう。
 いつか、お前の手でそれを返しに来い。そのベルトを持つべきやつのところに渡しにな」
『えっ?』

視線を動かしてイリヤの隣を浮遊するルビーに目をやる士。
言った言葉の意味、そして意味ありげな目を向けられたことへの戸惑いだろう。

「簡単な道じゃないだろうさ。平行世界どころか世界そのものを越えてこないといけないんだからな。俺だって簡単じゃなかった。
 だがお前のところにあるそいつは多少の無理を可能にしてくれる存在だろう?」
『いやぁ、ちょっと無茶振りがすぎるというか…』
「それにそのベルトがお前を繋ぐ縁にもなる。現に俺がこの世界に来られたのもそいつを辿ってきたからだ。
 強く願って進み続けるなら、いつかはできるようになるかもしれないぜ?」
「――…いいんですか?」
「ああ。俺が許す。
 で、どうするんだ?たぶんお前が踏み入れるところは見たことないような酷い世界かもしれない。
 もしかしたら殺し合いの方がマシっていうような出来事だってあるかもしれない。それでも行く気はあるか?」


973 : Over Kaleidscope(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:48:24 i4CFovlM0
最後に問われた覚悟。

きっと言っていることは、魔術の世界に足を踏み入れろということでもある。
クロを封印した世界、間桐桜を苦しめた世界、両親が逃げてきた世界。どんなものかは想像もつかない。

言えば考える時間もくれるだろう。
だけど答えはとうに決まっている。

「――はい。行きます」
「フ、いい返事だ。気に入ったぞ。
 さて、そのためには色々やらなきゃいけないこともあるがな」

そう言って空を示す。
一羽の白い鳥、いや、白いワイヤーで編まれた鳥型の使い魔が飛んでいた。

「警戒は当然か。話は聞いてただろうから説明の手間は省けただろうが。
 あとはお前の仕事だな」
 
学校が見えてきた。
この会話ももうすぐで終わりだ。

「そういえば、士さん。一つだけ聞かせてください」
「何だ?」
「あなたが私を助けてくれたのって、ファイズギアを持ってた人からですか?」

自分を助けた理由。
合理的に考えればそういうことになる。ベルトを守るために、それを持っていた人を助けた。
だけどこの人はそんな人ではないはずだと。

「子供が目の前で襲われてるんだ。助けるのに理由がいるか?」

答えは、イリヤの期待したものだった。
巧もきっと、同じ状況なら迷わずそうするのだろうと。

「何だか、仮面ライダーってのがどういう人なのか、少し分かった気がします」

そう言って笑った。


974 : Over Kaleidscope(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:48:43 i4CFovlM0
学校の正門に、白衣を着た一人の女性が立っていた。

「遅いわ。遅刻よ。ホームルームには間に合わないでしょうね」
「カレン先生…」

保健医として学校に赴任している先生。
何故保健医が校門で挨拶をしているのかと疑問に感じるイリヤ。

「暇だったのよ」
「そうですか…」
「早く教室に行きなさい。みんな普通に過ごしているわ。あなたがいないことにも気付かないくらいに」
「……?」

含みのあるような言葉。

「気になりますか、付き添いのお方」
「まあ、気になることはあるが」
「大丈夫よ。私がいる限り、学校に不審者を入れることなんて有り得ませんので」

ニコリと笑った笑顔の中には、保健医ではない別の顔が映ったように見えた。

「なるほど、大体分かった。
 じゃあ、俺の役目もここまでだ」

そう言って士はイリヤを学校に促しつつ来た道を戻るように歩いていく。

「士さんっ!」

その背中に呼びかけるイリヤ。

「その、また会うことはできますか?!」
「………。
 この世界にライダーが生まれない限りは来ることはない。
 だけど、お前の進む道次第では、いつかその道中ですれ違うことくらいはあるかもな!」

そう言って手を上げる。

「――それなら、また、いつか!!」

最後に別れ、いや、いつかの日の再会を信じる言葉を告げて。
イリヤは校舎に向けて走っていった。




去っていく士は、カメラから出てきた一枚の写真に目をやる。
走るイリヤの後ろ姿を密かに収めたもの。
まるで士の存在を世界が排斥しようとしているかのように周囲の風景はぐちゃぐちゃに乱れている。
その中で少女の背中、未来に向けて進もうとしているイリヤの姿と、それをどこか見守るような周囲に溢れる温かい光が輝いている。

それを見て、彼女の未来を信じるように笑いながら。
門矢士はオーロラの壁の中に消えていった。




975 : Over Kaleidscope(後) ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:48:59 i4CFovlM0
美遊、クロ。遅くなっちゃったね。

帰ってこられなかった二人のお墓は、カレン先生がかけあって街のはずれの教会に作ってもらいました。
戸籍で揉めてたのもあって色々複雑で手続きとかで止まっちゃって時間がかかったけど、ようやく二人のいる場所が作れた気がする。
凛さんやルヴィアさんは後見人の人達で対応したらしいから、この後向かおうと思う。

士さんと会ってから、お母さんやセラ達と話したの。
魔術について勉強したいと。
当然いい顔はされなかった。だけど「イリヤさんの目を見たら、反対をしても無駄だというのは分かります」と言って、最後には許してくれたよ。

学校が終わってから基礎的なことをするようになったんだ。
色々と複雑でわけの分からないことも多かったです。少しずつ二人の見てた世界がどんなものだったのかも見えるような気がするよ。

それで、ある時決めたんだ。
小学校を卒業したら、留学しようって。

家だけじゃない、外の世界にいけばもっと知識が広げられる気がする。
それにどこかに所属すれば、あの時襲ってきたような人達も手を出せないんじゃないかってのも聞いたし。

たぶん美遊もクロも、凛さん達もいたら反対しただろうなってのは分かる。
勉強していくと、これがどれだけ危険な世界なのかが身を以て分かってきた。

だけど私はそれでもこの道を行こうと思う。
みんなのことを忘れないために。
あの殺し合いの1日の中で起こったことを刻むために。
あの人との約束を果たすために。


美遊、クロ。
凛さん、ルヴィアさん、バゼットさん、サファイア。

士郎さん。

バーサーカー、セイバーさん、シロナさん、Lさん、さやかさん、スザクさん。
巧さん。

まどかさん、Nさん、桜さん。

みんなことを絶対に忘れないために。
みんなの想いを背負って。だけど前を向いて。

『イリヤさん、そろそろ出ないと、時間に間に合いませんよ!』
「うん、今から出るから」

私は、走り続けるから!

「――行ってきます!」


【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ エピローグ 了】


976 : 続く・ツナガル・円環の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:50:09 i4CFovlM0
あるところに神様がいました。
神様は、たくさんの世界を見つめていました。

ある時、一つの世界が自分を見つめていることに気付きました。
その世界から、殺意を向けられていることに気付きました。

神様は怖くなりました。
怖くて怖くてどうしようもなくなって、その世界を壊そうとしました。

そこに、光に包まれた大きな生き物が現れました。
神様にも見たことのないその生き物は、世界を壊さないでと頼みました。
あなたがその世界を壊すと自分の世界も巻き込まれるからと。

神様は悩みました。

GAIM
AGITΩ
DECADE

そこに、金色の魔王様も現れました。

生き物と魔王様は、神様を説得しました。
世界を壊すのは考え直してほしいと。



『やあ、おかえり』
「……」

ベッドから起き上がったまどかを目覚め一番に出迎えたキュゥべえ。
それをまどかは渋い顔をして見つめる。

『そんな目で見ないでくれ。僕だって暁美ほむらに追い出されて困ってたんだ』
「……」

話すこともなければ話したくもなかった。
キュゥべえを無視して1階に降りる。

そこではお母さんがゆったり新聞を読んで、お父さんがご飯の準備をして。
家族で食卓を囲んでの朝食。いつもの日常だった。


977 : 続く・ツナガル・円環の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:50:33 i4CFovlM0
まどかがいなくなって数日の時間が流れていた。
帰ってきた時、何と説明したものか、と悩んだまどか。
しかし両親は怒ることなくまどかを抱きしめた。

色々と誤魔化しながら聞いた話では、まどかがいなくなったのはさやかの葬式があった辺り。
つまり友達の死がショックで家出をしたのではないかと。そう解釈されたようだった。

(そっか…。さやかちゃんはもう…)

魔女となって魂は消え、抜け殻となった体だけが残された。それが自分のいたこの世界の美樹さやか。
あの世界で、自分を守ってあの業火の中で消えていったさやかのことは、誰も知らない。

デリケートな問題だと思ったのだろう、深く追求してくることもなく、ただ悪いことや事件に巻き込まれていないかだけは心配して。
あとはいつもの日常に戻った。

幸運なことに今日は休日。
心を落ち着かせる時間は作ることができた。

家を出て、向かった先はさやかの家だった。
葬式に出られなかったことについて家の人、さやかの写真の前で謝罪しつつ焼香をあげた。

「まどかさん…っ!」

少しの滞在の後で家を出たところで、さやかの家に向かう志筑仁美とすれ違い、抱きつかれた。
仁美もまどかのことを心配していたと。

「ごめん…、心配かけて…」

さやかの家からの帰り道。話したいこともあると言って、仁美も着いてきてくれた。

「さやかさんがあんなことになって、私はショックでしたが…。まどかさんはもっと悲しかったでしょうね…」
「うん、その…、みんながさやかちゃんを見つける前に見つけちゃって…、何も分からなくなっちゃって…」

本当のことを伏せて話を合わせる。
前を歩くキュゥべえがこちらを振り向いてくるのを無視して歩き続ける。

「さやかさん、何か仰っていませんでしたの…?」
「………」

首を振る。
何を話せばいいのか、何を言えばいいのか。

あの殺し合いでの出来事も、有り得ないはずの再会も。
世界には何の影響も与えてはいなかった。

いや。

「だけど、さやかちゃん言ってたんだ。
 恭介くん、きっと仁美ちゃんにはたくさん苦労かけちゃうだろうけど、じっくり見守ってあげててほしい、よろしくって」
「…っ、さやかさん…!!」

堪えきれず涙を流す仁美。

「私があなたから聞きたかったのは、そんな言葉じゃありませんでした…!どうして…!」

泣く仁美を静かに抱きしめるまどか。
本当なら、さやかはこんな言葉を遺すことすらできなかった。

こんな小さなことでも、少しは何かを変えられていたら。
それはまどかにとって、とても嬉しいことだった。




978 : 続く・ツナガル・円環の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:50:48 i4CFovlM0
『まどか、君は暁美ほむらの歩んだ道を見たんだよね?』

仁美と別れ、部屋のベッドに寝転がったまどか。
その枕元でキュゥべえは話しかける。

『彼女の死をもって、確かに引き継がれてきた因果の歴史は終焉を迎えるだろう。
 だけど、その場合どうなると思う?』
「…?」

無視していたかったが、その話題には意識を取られてしまった。

『暁美ほむらが繰り返さなかった本来の歴史では、まどか、君が魔法少女になったはずだ。
 そして魔法少女にならなかった暁美ほむらは魔法少女になった君に出会い、あとは分かるだろう?』

魔法少女になった私。
マミさんと一緒に戦い、ワルプルギスに挑んで死ぬ。
そしてそれを見たほむらちゃんが魔法少女になり、また因果が繰り返される。

『そういう意味では、全てのまどかを救いたい、っていう言葉は果たされなかったというわけだ』
「…!ほむらちゃんの戦いが、無意味だったって言いたいの!?」

色々とやり方を間違えてしまったけど、それでも彼女の戦いそのものを否定したくはなかった。
だからこそ、キュゥべえの言葉は聞き捨てならないものだった。

『そこまでは言わないよ。何より今こうして君が魔法少女になることなく生きている、それが成果だからね』
『だけど、平行世界は今も続いている。また時間を繰り返すほむらが生まれ、また因果を積み重ねるまどかが生まれる。
 その因果は続いていくんだよ。よほどの奇跡によってそれが切り拓かれでもしない限りはね』
「…キュゥべえ、私は、あなたとは契約しないから」
『だろうね。僕も今の君を無理に魔法少女にしようとは思わない。
 クラスカードを使って魔法少女になった時、有り得ざる現象の発現が君に蓄積されていた因果を大きく減らしていったみたいだ。
 だから、僕もそろそろ行かせてもらおうと思う。
 ただ、もし君の気が変わったならいつでも呼んでくれ。その時は君を魔法少女にしてあげるから』

ベッドから飛び降りたキュゥべえ。
そんな日は絶対に来ない、と無言を返すことで答えとした。


『最後に幾つか言っておきたいことがあるんだけど』

と、少し離れて振り返る。

『この街に接近していたワルプルギスの夜、暁美ほむらが戦っていた大きな原因だけどね。
 君が帰ってきて少し経った辺りで、いきなり消滅したんだ。前触れもなくいきなりね』
「…それがどうしたの」
『原因が一切分からない。魔法少女が戦ったっていう記録もないし、障害物があった進路でもない。
 ましてやあの儀式を通してこの世界に介入してきた何者か、というのもこの件に関しては無い。こちらとしては気味が悪いとしか言えない現象だ』


979 : 続く・ツナガル・円環の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:51:48 i4CFovlM0
ワルプルギスの夜。
この街を通り過ぎていく災害級の魔女。
暁美ほむらが何度も戦い破れ、別の時間軸では自分も命を落としていた。
それが来れば街は崩壊するほどの被害を受け多くの人が死ぬ。
生還したまどかにとっても気掛かりなものには違いなかった。

『それで気になったんだけど、君の因果は確かに以前ほど強力なものではなくなっている。
 だけど君の中に何か不思議なものを感じるんだ。僕たちでも解析することのできない、まるで何か神に等しいものとの繋がりみたいなものが』
「……」
『まどか、君はほむらを倒した時にカードの記憶から知識を読み取ってイリヤスフィールと魔法少女の力を重ねたよね?
 確かに魔法少女は時として協力し合い、その中で互いの能力を合わせた攻撃を行うこともある。
 だけどあの時に使ったものは君から聞く限りではそういうレベルじゃない、もっと明確に体系化された能力だ』
「そんなこと言われても私にも分からないよ」

あの時は必死だった。
ただ記憶に浮かんできたものを使ってとにかく対応することに一生懸命だった。

『そう。君は分からないだろう、だけど僕にも分からないものなんだよ。
 エデンバイタルの力をもって平行世界を見てきた僕にも、そんなものは見えなかった。
 あれが使える世界が存在した、というのなら確かにそうなのかもしれない。だけどそれを君が見たっていうのは不可解なんだ。
 魔法少女の記録を引き出した君、というのはなるほど図に叶っている、だけどじゃあどの魔法少女である君の記録を持ってきたっていうんだい?』

どこかの時間軸にその技術が存在するなら、キュゥべえにも観測できるはず。しかしエデンバイタルを通してもそんな世界は見えてはいなかった。
つまり、まどかがアクセスしたものは、エデンバイタルと同等、あるいはそれ以上かもしれない何かである可能性がある。

『君がアクセスしたもの、その君に残った解析できない繋がり。そして消えたワルプルギス。
 鹿目まどか、本来の君は、一体どれほどの存在になり得たんだろうね?』

それだけ言い残して、キュゥべえの姿は消えていった。

もう会うことはないと、まどかは信じたかった。



私に何ができるかは分からない。
魔法少女という、望むものを叶えられる力もあったけど、その世界からは手を引いた。

でも、私が魔法少女になることを諦めても、それで世界が変わったりはしない。
こうしてただ生きている中でも、どこかで呪いが魔女を生み、魔法少女は戦っている。

戦いに背を向けた私に、彼女達にできることはない。

それでも私は忘れたくはなかった。無視したくもなかった。
この世界で誰に振り返られることもなく戦う魔法少女達のことを。

戦えなくても、私は私らしく生きることができる。
それをあの殺し合いの中で学んだから。

だから、魔法少女のことを。
さやかちゃんやマミさん、杏子ちゃん、ほむらちゃん、織莉子さん。
会ったことのないみんな、どこかで戦っている子達のことを。

絵に描いて、語り継いでいこう。

どうして絵なのかって言われたら、私が絵を描くのが得意だからって理由しかないんだけど。
落書き程度しかないかもしれないけど、それでもこの絵を通して、多くの人達に魔法少女の生きる姿を記憶してもらいたいって思うから。

だから描いていく。
出会ったみんなの絵。
噂、都市伝説として残っている、どこかで戦う魔法少女達の姿を想像した絵。

たくさんのものを、私の手で描いて残していく。



「ねえねえ、見た?この前ネットに上げられてた神浜の魔法少女の絵!」
「ああ、あの神浜市に伝わってる、戦う少女の噂をモデルに描いたっていう絵でしょ」

ふと街を歩いて通りすがったところで、そんな声を聞いた。
振り返ると、二人の女の子が魔法少女のことを話していた。自分の描いた絵についてを話している。

嬉しくて、笑みを浮かべて走り出す。

晴れた空。
いつもの通学路。
見上げた空の下で、誰かが笑いかけたような気がした。

世界は変わらない。
だけど、私の中の世界は、少しは変わってきている。

そう思いながら、いつもと同じ時間を、少しずつ変えていくように、前に進んでいく。


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ エピローグ 了】




980 : 続く・ツナガル・円環の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:52:44 i4CFovlM0
円環の理。
いつかの世界、いつかの時間にて魔法少女の契約によって神と呼ぶに相応しい存在にまで有り方を変えた鹿目まどかの呼び名。

彼女は殺し合いの儀式が行われている世界を感知していた。
それが自分に害を成すものであること、あるいは消滅させることもある儀式だということも全て見取っていた。

故に、干渉を行おうとした。
隔離され、触れることすら容易ではない世界。
しかし自分の命にも関わるものと、多少強引にでも干渉しようとした。それがその殺し合いの世界を滅ぼしかねないことにまでは意識が向かなかった。

そんな中で接触してきた二つの存在。

ある世界を創造したともされる始まりの神、アルセウス。
ある世界の概念的存在達を束ね君臨するとされる魔王、オーマジオウ。

共に、殺し合いに巻き込まれた者たちの世界における上位存在。

もし円環の理の干渉によって世界が破壊されれば、そこと枝葉のように繋がっている自分たちの世界にも影響を与える。
それを止めるため、干渉を避けるようにと接触を図ってきた。

円環の理は驚きつつも、自分と同じ立ち位置に存在する者達に興味を持ち、彼らの話を聞きつつ提案を受け入れることにした。
内部で戦う者達の可能性を信じてみようと。もし万が一の時にはアルセウスとオーマジオウが驚異から守るから、と。


しかし、殺し合いが終わる直前。
儀式の世界から放たれた攻撃は、一直線に円環の理の元に向かっていた。

円環の理を滅ぼし、世界の概念をも作り変える。
本来であればアルセウスやオーマジオウ達のいる世界にも影響を及ぼすもの、しかし儀式が完了しないまま放たれたそれは円環の理のみを狙いとしていた。
そして、それが円環の理を滅ぼしかねないほどの力を持っていることも一同は気付いていた。

迫る光に向けてアルセウスが構える。
頭部に収束した光を掲げ、打ち上げる。するとその光から礫のように小さな、しかし一つ一つが膨大なエネルギーを持った光が降り注ぐ。

光同士がぶつかり合い、円環の理目指して進むその力の侵攻を食い止める。
しかしアルセウスの放った光では抑えきれず、少しずつ前に進み始める。

オーマジオウが手に持っていた掌大の金色の時計を起動させる。
手を前面に掲げると、まるでその空間の時間の流れが歪んでいるかのように光の速度が緩やかになっていく。
しかしそれも時間稼ぎにしかならない。
更に複数の時計を起動させ空間を歪める。削れた空間はエネルギーをえぐり取るも、光は進み続ける。

まるで、これを放った少女の持った怨念とも言えるかもしれない強い感情が止まることを拒絶しているように。

「うん、そうだよね、ほむらちゃん」

そんな中、静かに胸を抱いて瞳を閉じていた円環の理は呟く。

「ほむらちゃんだったら、そうするのかもしれない。全ての私が幸せになれる世界。
 それを作るために、世界の理が邪魔なら、神様にも屈しないって」

カードの呼びかけに応じて、あの儀式の中で戦う鹿目まどかに力を貸した。
世界の因果を歪めることのない、今の円環の理に許された唯一の介入。

それによって、内での戦いを円環の理は見届けていた。
暁美ほむらと鹿目まどか、そして抗う人達の戦い。

ほむらがそれほどまでに自分のことを大事にしてくれていることに気付けなかった。
あの時自分が別れを告げた彼女も、きっと同じ気持ちを持っていたはずなのに置いてけぼりにしてしまった。
そのことに負い目があった。

あるいは、彼女の執念が自分を殺すならそれもいいかもしれないと思いかけてしまった自分がいた。

だけど。

「ごめんね、ほむらちゃん。私はそっちには行けないの。
 だって、壊れて作り直された世界には、その"私"は行けないから…」

それでも、と抗った鹿目まどかがいた。他にも、苦しみながらも戦い抜いた人達がいたのを彼女は見た。
そんな皆の戦いを無駄にすることはできない。

迫りくる光に目を向ける、まどか。

「だから、あなたのその呪いも全部、私が受け止めてあげる―――!!」

幾つもの円陣が浮かぶ中で弓を構え、そこから収束した光を、理を壊さんと迫る光に向けて放った。

暁美ほむらの最後の呪い。
鹿目まどかの未来への希望。

二つの閃光がぶつかり合う。

凄まじいほどの感情の渦。平時であれば受けられたかどうか、まどかにも分からなかった。

拮抗する光。
その時まどかの傍に一つの円陣が現れる。

戦いを通じて繋がった、今を生きる鹿目まどかの因果の力。
それを光に込めて、再度撃ち出した。

放たれた光は、一直線に向かい来る閃光の中心を貫いて。
小さく霧散して、やがて消滅していった。


981 : 続く・ツナガル・円環の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:52:59 i4CFovlM0
「…苦労、かけちゃいましたね。すみませんでした」
「そういう約束であったからな。お主を守護すると」

申し訳無さそうに謝る円環の理。
自分が未熟だったばかりに、たくさんの世界に迷惑をかけるところだった。

「お二人を見てたら、私も神様としてはまだまだなんだなって気にさせられます」
「これから精進してゆけば良い。時はまだまだ充分になるのだろう、若き女神よ?」
「ふふ。こんな感じで誰かと話すの、久しぶりだったから何だか嬉しいな。
 またいつかこうやって話したいです」
「それは無理な話だ。我々は己の世界を守るためにこの場にいるのだからな。
 世界の理が崩れでもしない限りは、ここで別れだ」
「そうですか…。それじゃあ、元気で!ありがとうございました!」






そうして互いの世界に帰っていく中での、アルセウスとオーマジオウ。

「お前も食えぬ男よな。異世界の王よ」
「さて、何のことやら、時空神」
「とぼけるでない。もし余があの場所にいなければ、あの神をも手にかけあの世界を滅ぼすことも視野にいれておったであろう?」
「どうであろうな。だが、私の守る世界はあくまでも仮面ライダーの世界だ。必要とあれば滅ぼすことも辞さぬという意味では否定はせんよ」

アルセウスは、とある世界での眷属たるポケモンが捉えられたことからアカギの企みを知った。
介入しようともしていたが、アカギ以上に目の前の世界の危機としてこちらの神の乱心を止める方を優先せざるを得なかった。

オーマジオウは、ライダーの中で異世界での異常とそれによる世界の危機を察したとある神からの知らせによりこの世界に訪れた。
こういう状況下においては察知したその存在の方が解決には向いていたかもしれないが、その男はライダーのいない異世界を渡る術を持たない。
彼の力を借り受けた自分がその変わりとしてやってくることになった。

円環の理は気付かなかった様子だが、時空を渡ってきた時のオーマジオウからは明確な殺意を感じていた。
その時点での争いは望まなかったアルセウスが即座に牽制したことでオーマジオウは矛を収める形となったが。

だがもし戦いになったとて円環の理が統括する世界において、異なる時空に属する存在がどれほどの勝率を持っていたか。
アルセウスが戦いを避けた一因もそれだ。
しかしオーマジオウは、敗率が高い争いになると知っていても挑んだことだろう。自身の世界を守るために。そこが彼が王であり、同時に魔王でもある所以なのだろうとアルセウスは思った。

「一つ言えるのは、私の力は破壊することだけだ。
 お前こそ、自身の眷属を随分といいように扱われたようだが」
「それについては返す言葉もない。ギラティナを余の代わりに送り込んだはいいが、逆に取り込まれてしまったのは失態だ」

結局のところ自分たちはあの女神の機嫌取りで精一杯で。
儀式そのものを打ち破ったのは中にいる参加者達だった。
あまり円環の理のことを言えた存在ではないなとアルセウスは自嘲する。

「だが、それでよかったのかもしれぬな」

戦いは神が終わらせることなく、あくまでも今を生きる者達によって未来が切り拓かれた。
犠牲は少なくなく、アルセウスにとっては恩のあった人間もまた命を落としているのは悔やんでも悔やみきれぬ事実には違いないが。

オーマジオウはファイズの顔が映ったウォッチを見ながら語る。

「そうだな、我らの役割は今を生きる者達を見守り、世界の安定を守ること。
 今回のように彼らの手に負えぬことが起こるのならば立ち上がるが、世界の行く道はその道を進む者達が切り拓くべきだ」

アルセウスとオーマジオウの姿が互いに消滅しつつある。
各々の世界へと帰っていくのだろう。

ポケモンと人が生を営む世界へ。
多くの仮面ライダー達が平行世界で戦い続ける世界へ。

「戦い続ける者、その者達を覚えている者がいる限り、世界も私もそう簡単に消えることはない。
 世界の中に生きる者がいるのではない。生きる者達がいるその場所こそが、世界なのだから」


982 : 続く・ツナガル・円環の中で ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:53:12 i4CFovlM0




静かに一つの世界を見つめる円環の理。
そこは儀式を生き延びた鹿目まどかの帰還した世界。

円環の理がある限り、世界に魔女は生まれない。しかし全ての世界を網羅しきれているわけではない。
魔女が存在し、鹿目まどかが存在し、暁美ほむらが戦い続けている世界だって存在する。
あるいはまた円環の理に到達した鹿目まどかが生まれ、自分と一つになることもある。

そしてこの世界のまどかは、自分が選んだ未来とは別の道を進み始めた。
だから、この世界は静かに見守ろう。

ただ、その結果舞台装置の魔女の存在が浮いてしまった。
暁美ほむらがいなくなり撃退する者がいなくなった。
魔法少女がいない以上、見滝原を通るそれはただの天災でしかなく、キュゥべえの言葉を借りるなら何のエントロピーを生み出すこともない。
だから少しだけ干渉した。存在が浮いてしまったワルプルギスの夜を、人知れず静かに浄化した。

言うなればご褒美、よく頑張ったねの証として。

あとはあの子の世界。
あの子がどのような生を歩んでいくのかは自分にも分からない。その道を、見届けよう。

空を見上げるまどかを見守るように、小さな笑顔を浮かべて。

円環の理は、ただ世界を見守り続けた。


983 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/03(水) 15:54:36 i4CFovlM0
投下終了です。スレの方は間に合ったみたいです
以上でこちらの投下するSSとしては最後となりました。
なのでこれをもって完結とさせていただきます。
これまで読んで頂きありがとうございました。


984 : <削除> :<削除>
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985 : <削除> :<削除>
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986 : <削除> :<削除>
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988 : <削除> :<削除>
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989 : ◆Z9iNYeY9a2 :2021/11/08(月) 22:22:03 kP4IOLdI0
企画も終わったことですし上がちょっとアレなので埋めさせていただこうと思います


990 : 名無しさん :2021/11/08(月) 22:22:39 kP4IOLdI0
うめ


991 : 名無しさん :2021/11/08(月) 22:22:53 kP4IOLdI0
かめ


992 : 名無しさん :2021/11/08(月) 22:23:32 kP4IOLdI0
        ヾ  /    
        . -ヤ'''カー、   ⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒
 ー―ァ  /r⌒|:::|⌒ヾ
   _ノ オ{(  |0|  )} オオオォォォォ!!!!!
     __,ヽ,ヾ,_|V|,_ノ、/ ,r-,,=
    ,゛==ゝ_ViV_ノ~i/ 〃 `ー―-、
    /  /⌒`//´⌒c/^^^ ))))))))))
 ,,―イ  {ー''"~{ {~゛`ー`/'`'~/ー--―'
))   ,./ゝ_/∧ゝ_ノ  ノ
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  人,_,人,_,人,_,人,_,人,_,人,_,人,_,人,_,人,_,人,_,人,_,人,_,人,_,


993 : 名無しさん :2021/11/08(月) 22:24:49 kP4IOLdI0
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994 : 名無しさん :2021/11/08(月) 22:27:07 kP4IOLdI0
                     /_二ニ=- 、
                    / /
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                    | .|   _ --――-≦=-l
                    ヽ∨/          \|‐t
                  ____≦         ー 、  ヽv-、
                  `>.    i  、        ヽ ,.∧ /
                  レ /./ ∧ , ∨、 ヽ,  、 ヽ.ヽヽ,.Y ヽ,  __, = 、
                    il ./| |  | l i ∧\ |\ _A ∨i ヽl < ̄  ̄ ´   `
                  V || l_⊥ ∨ヽ.∧_ =≦ニ_.l > |   ヽ__ ノノ
                   ∧ Vシ‐t卞ゝ  < 匕v|ソi| ミ゙        -  、
                  /  ∧ヽ 叨リ:.     ー´  .Ξ_ー _      ヽ
                 / /  .l ∧    l:::.         lニ`Vイ >x,  __  ∨
               { / {   | |ニ             /- ンノ_| ̄ ̄>, ヽ ヽ l
                |  |  .∨,ニ\  ´ ̄`     1/三ー‐--  }__V ´
                - .|_   ヽ  ̄ \      , .::::::::| L \___>Y ̄`__
                   \≧x Y  ..≧= ≦.====⊥_ニ>、__ \ ≦ ̄、::::_:::::::::<
              _ -―==-ry ̄ ̄ ̄ニ  ̄l ̄ ̄l {i_,、_ ー‐ヘ \\   >'''´
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       _ -=ニニニ L:::::::- -::-:::/__ニ____ _r ヽ::::::/x:::::__≦ <:::::::::::::::::::\
      /ニ---..__ 。> \::::::::::∠ フ / ̄ ̄ ̄ ̄´ゝ‐〈_⊥<::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
     ∧≦== __ο<――< ̄  >=ニ ̄`<―<‐´:: ̄ ̄:::tー- _ :::::::::::::::::::::::::::::::::::}
    .仁ニYニ.|4-,_|       >、   \   \  >x::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::i
   仁 〈‐‐Y  ,x‐- _.         ∧  .  ∧   ∧   ∨::::::::::::::::::::::::::::::::::/::::::::::::::::/
  ∠〈 ̄.l .人-^ <,   \  , -‐三 )(ニニニ) i----f, ,____∨:::::::::::::::::::::::::>x_:::::::::::::/
 v\ }  ト‐      .\  ∧ ` ̄   }      }  ̄ ̄ l ー‐y|:::::::::::::::::>´/    ̄ ̄
  \∨ナY^ー-<_  ∧... |_ __  бフ--__OL  L._   L:::_ >   /
    |__l      ∨_ -― ̄  V-― ┘    テ‐ナフ ー―´.      /
       ̄lー- ‐‐      ∨.iゝ∨ ’ ` ,,,,;;''" ,ソ/      //.  /
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995 : 名無しさん :2021/11/08(月) 22:30:12 kP4IOLdI0
兎目


996 : 名無しさん :2021/11/08(月) 22:30:26 kP4IOLdI0
4


997 : 名無しさん :2021/11/08(月) 22:30:37 kP4IOLdI0
3


998 : 名無しさん :2021/11/08(月) 22:31:02 kP4IOLdI0
2


999 : 名無しさん :2021/11/08(月) 22:31:13 kP4IOLdI0
1


1000 : 名無しさん :2021/11/08(月) 22:31:31 kP4IOLdI0
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