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第二次二次キャラ聖杯戦争 part3

1 名無しさん :2015/01/11(日) 03:53:37 ID:MASwPKVk0
ここは様々な作品のキャラクターをマスター及びサーヴァントとして聖杯戦争に参加させるリレー小説企画です。
本編には殺人、流血、暴力、性的表現といった過激な描写や鬱展開が含まれています。閲覧の際は十分にご注意ください。

まとめwiki
ttp://www63.atwiki.jp/2jiseihaisennsou2nd/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16771/

前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1406730151/


【参加者名簿】

No.01:言峰綺礼@Fate/zero&セイバー:オルステッド@LIVE A LIVE
No.02:真玉橋孝一@健全ロボ ダイミダラー&セイバー:神裂火織@とある魔術の禁書目録
No.03:聖白蓮@東方Project&セイバー:勇者ロト@DRAGON QUEST�〜そして伝説へ〜
No.04:シャア・アズナブル@機動戦士ガンダム 逆襲のシャア&アーチャー:雷@艦これ〜艦隊これくしょん
No.05:東風谷早苗@東方Project&アーチャー:アシタカ@もののけ姫
No.06:シオン・エルトナム・アトラシア@MELTY BLOOD&アーチャー:ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険
No.07:ジョンス・リー@エアマスター&アーチャー:アーカード@HELLSING
No.08:衛宮切嗣@Fate/zero&アーチャー:エミヤシロウ@Fate/stay night
No.09:アレクサンド・アンデルセン@HELLSING&ランサー:ヴラド三世@Fate/apocrypha
No.10:岸波白野@Fate/extra CCC&ランサー:エリザベート・バートリー@Fate/extra CCC
No.11:遠坂凛@Fate/zero&ランサー:クー・フーリン@Fate/stay night
No.12:ミカサ・アッカーマン@進撃の巨人&ランサー:セルベリア・ブレス@戦場のヴァルキュリア
No.13:寒河江春紀@悪魔のリドル&ランサー:佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ
No.14:ホシノ・ルリ@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-&ライダー:キリコ・キュービィー@装甲騎兵ボトムズ
No.15:本多・正純@境界線上のホライゾン&ライダー:少佐@HELLSING
No.16:狭間偉出夫@真・女神転生if...&ライダー:鏡子@戦闘破壊学園ダンゲロス
No.17:暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ&キャスター:暁美ほむら(叛逆の物語)@漫画版魔法少女まどか☆マギカ-叛逆の物語-
No.18:間桐桜@Fate/stay night&キャスター:シアン・シンジョーネ@パワプロクンポケット12
No.19:ケイネス・エルメロイ・アーチボルト@Fate/zero&キャスター:ヴォルデモート@ハリーポッターシリーズ
No.20:足立透@ペルソナ4&キャスター:大魔王バーン@ダイの大冒険
No.21:野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん&アサシン:ニンジャスレイヤー@ニンジャスレイヤー
No.22:宮内れんげ@のんのんびより&アサシン:ベルク・カッツェ@ガッチャマンクラウズ
No.23:ジナコ・カリギリ@Fate/extra CCC&アサシン:ゴルゴ13@ゴルゴ13
No.24:電人HAL@魔人探偵脳噛ネウロ&アサシン:甲賀弦之介@バジリスク〜甲賀忍法帖〜
No.25:武智乙哉@悪魔のリドル&アサシン:吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険
No.26:美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ&バーサーカー:黒崎一護@BLEACH
No.27:ウェイバー・ベルベット@Fate/zero&バーサーカー:デッドプール@X-MEN
No.28:テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-&バーサーカー:ガッツ@ベルセルク

883 蒼銀のフラグメンツ ◆Ee.E0P6Y2U :2017/02/12(日) 21:01:23 ID:hhzJhCRU0

【キャスター(シアン・シンジョーネ)@パワプロクンポケット12】
[状態]:健康、残り総数:約261万匹(山小屋:251万匹、学園:10万匹)
[装備]:橙衣
[道具]:学生服
[思考・状況]
基本行動方針:マナラインの掌握及び宝具の完成。
0.十二時に間に合うよう、学園に向かう。
1. 学園を中心に暗躍する。
2. 桜に対して誠意ある行動を取り、優勝の妨げにならないよう信頼関係を築く。
3. 今夜十二時にもう一度学園の校舎裏に行く。
4. 黄金のセイバー(オルステッド)を警戒。
5. 発見した洞窟の状態次第では、浮遊城の作成は洞窟内部の霊脈で行う。
6.洞窟を使うのに必要であれば、白蓮と交渉する。
[備考]
※工房をC-1に作成しました。用途は魔力を集めるだけです。
※工房にある程度魔力が溜まったため、蟲の制御可能範囲が広がりました。
※『方舟』の『行き止まり』を確認しました。
※命蓮寺に偵察用の蟲を放ちました。現在は発見した洞窟を調査中です。
 →聖白蓮らが命蓮寺に帰ってきたため、調査を中止しています。不在の機会を伺うか、交渉も視野に入れています。
※命蓮寺周辺の山中に、地下へと通じる洞窟を発見しました。
※学園のマスターとして、ほむら、ミカサ、シオン、ケイネスの情報を得ました。
 また関係するサーヴァントとして、アーチャー?(悪魔ほむら)、ランサー(セルベリア)、シオンのサーヴァント(ジョセフ)、セイバー(オルステッド)、キャスター(ヴォルデモート)を確認しました。
※ミカサとランサー(セルベリア)と同盟を結びました。
※ランサー(セルべリア)の戦いを監視していました。
※アーチャー(雷)とリップヴァーンの戦闘を監視していました。
※間桐桜から、教会に訪れたマスター達の事を聞きました。
※小屋周辺の蟲の一匹に、シオンのエーテライトが刺さっています。その事にシアンは気付いていません。
※【D-5】教会に監視用の蟲が配置されました。
※学園に向かう十万の蟲に、現在は意識を置いています。
※C-3の学園に潜伏していた十万の蟲の内、九万匹は焼かれ、残りの一万匹は学園から一先ず撤退しています。
 →撤退した蟲はC-1の小屋で合流しました。

【言峰綺礼@Fate/zero】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]黒鍵
[道具]変幻自在手帳、携帯端末機
[所持金]質素
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
0.???
1.キャスター(ヴォルデモート)を利用し、死徒アーカードに対処する。
2.黒衣の男とそのバーサーカーには近づかない。
3.検索施設を使って、サーヴァントの情報を得る。
4.トオサカトキオミと接触する手段を考える。
5.真玉橋やシオンの住所を突き止め、可能なら夜襲するが、無理はしない。
6.この聖杯戦争に自分が招かれた意味とは、何か―――?
7.憎悪の蟲に対しては慎重に対応。
[備考]
※設定された役割は『月海原学園内の購買部の店員』。
※バーサーカー(ガッツ)、セイバー(ロト)のパラメーターを確認済み。宝具『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』を目視済み。
※『月を望む聖杯戦争』が『冬木の聖杯戦争』を何らかの参考にした可能性を考えています。
※聖陣営と同盟を結びました。内容は今の所、休戦協定と情報の共有のみです。
 聖側からは霊地や戦力の提供も提示されてるが突っぱねてます。
※学園の校門に設置された蟲がサーヴァントであるという推論を聞きました。
 彼自身は蟲を目視していません。
※トオサカトキオミが暗示を掛けた男達の携帯電話の番号を入手しています。
→彼らに中等部で爆発事故が起こったこと、中等部が休講になったこと、真玉橋という男子生徒が騒ぎの前後に見えなくなったことを伝えました。
※真玉橋がマスターだと認識しました。
※寺の地下に大空洞がある可能性とそこに蟲の主(シアン)がいる可能性を考えています。
※キャスター(ヴォルデモート)陣営と同盟を結びました。
 アーカードへの対処を優先事項とし、マスターやサーヴァントについての情報を共有しています。

884 蒼銀のフラグメンツ ◆Ee.E0P6Y2U :2017/02/12(日) 21:02:05 ID:hhzJhCRU0


【セイバー(オルステッド)@LIVE A LIVE】
[状態]通常戦闘に支障なし
[装備]『魔王、山を往く(ブライオン)』
[道具]特になし。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:綺礼の指示に従い、綺礼が己の中の魔王に打ち勝てるか見届ける。
1.綺礼の指示に従う。
2.「勇者の典型であり極地の者」のセイバー(ロト)に強い興味。
3.憎悪を抱く蟲(シアン)に強い興味。
[備考]
※半径300m以内に存在する『憎悪』を宝具『憎悪の名を持つ魔王(オディオ)』にて感知している。
※アキト、シアンの『憎悪』を特定済み。
※勇者にして魔王という出自から、ロトの正体をほぼ把握しています。
※生前に起きた出来事、自身が行った行為は、自身の中で全て決着を付けています。その為、『過去を改修する』『アリシア姫の汚名を雪ぐ』『真実を探求する』『ルクレチアの民を蘇らせる』などの願いを聖杯に望む気はありません。
※B-4におけるルール違反の犯人はキャスターかアサシンだと予想しています。が、単なる予想なので他のクラスの可能性も十分に考えています。
※真玉橋の救われぬ乳への『悲しみ』を感知しました。
※ヴォルデモートの悪意を認識しました。ただし気配遮断している場合捉えるのは難しいです。


【ケイネス・エルメロイ・アーチボルト@Fate/Zero】
[状態]睡眠、健康、ただし〈服従の呪文〉にかかっている
[令呪]残り3画
[装備] 月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)、盾の指輪
[道具]地図 、自動筆記四色ボールペン
[所持金]教師としての収入、クラス担任のため他の教師よりは気持ち多め?
[思考・状況]
基本行動方針:我が君の御心のままに
0.仮眠中。零時には目覚めるよう自己暗示済み。
1.起きたらキャスターの指示に従い、合流する。
2.他のマスターに疑われるのを防ぐため、引き続き教師として振る舞う
3.教師としての立場を利用し、多くの生徒や教師と接触、情報収集や〈服従の呪文〉による支配を行う
[備考]
※〈服従の呪文〉による洗脳が解ける様子はまだありません。
※C-3、月海原学園歩いて5分ほどの一軒家に住んでいることになっていますが、拠点はD-3の館にするつもりです。変化がないように見せるため登下校先はこの家にするつもりです。
※シオンのクラスを担当しています。
※ジナコ(カッツェ)が起こした暴行事件を把握しました。
※B-4近辺の中華料理店に麻婆豆腐を注文しました。
→配達してきた店員の記憶を覗き、ルーラーがB-4で調査をしていたのを確認。改めて〈服従の呪文〉をかけ、B-4に戻しています。
※マスター候補の個人情報をいくつかメモしました。少なくともジナコ、シオン、美遊のものは写してあります。


【キャスター(ヴォルデモート)@ハリーポッターシリーズ】
[状態]健康、魔力消費(中)
[装備] イチイの木に不死鳥の尾羽の芯の杖
[道具]盾の指輪(破損)、箒、変幻自在手帳
[所持金]ケイネスの所持金に準拠
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯をとる
1.綺礼と協力し、アーカードに対処する。
2.綺礼を通じてカレンを利用できないか考える。
3.シオンからの連絡に期待はするが、アーチャーには警戒。
4.ケイネスが起きたら一応合流して面通しくらいはする。
5.〈服従の呪文〉により手駒を増やし勝利を狙う。
6.ケイネスの近くにつき、状況に応じて様々な術を行使する。
7.ただし積極的な戦闘をするつもりはなくいざとなったら〈姿くらまし〉で主従共々館に逃げ込む
8.戦況が進んできたら工房に手を加え、もっと排他的なものにしたい

885 蒼銀のフラグメンツ ◆Ee.E0P6Y2U :2017/02/12(日) 21:02:18 ID:hhzJhCRU0

[備考]
※D-3にリドルの館@ハリーポッターシリーズがあり、そこを工房(未完成)にしました。一晩かけて捜査した結果魔術的なアイテムは一切ないことが分かっています。
 また防衛呪文の効果により夕方の時点で何者か(早苗およびアシタカ)が接近したことを把握、警戒しています。
※教会、錯刃大学、病院、図書館、学園内に使い魔の蛇を向かわせました。検索施設は重点的に見張っています。
 この使い魔を通じて錯刃大学での鏡子の行為を視認しました。
 また教会を早苗が訪れたこと、彼女が厭戦的であることを把握しました。
 病院、大学、学園図書室の使い魔は殺されました。そのことを把握しています。
 使い魔との感覚共有可能な距離は月海原学園から大学のあたりまでです。
→現在学園と教会とルーラーの近くに監視を残し、他は図書館と暴動の起きているところを探らせ、アーカードとついでに搬入業者を探しています。
※ジナコ(カッツェ)が起こした暴行事件を把握しました。
※洗脳した教師にここ数日欠席した生徒や職員の情報提供をさせています。
→小当部の出欠状況を把握(美遊、凛含む)、加えてジナコ、白野、狭間の欠席を確認。学園は忙しく、これ以上の情報提供は別の手段を講じる必要があるでしょう。
→新たに真玉橋、間桐桜について調べさせています。上記の欠席者の個人情報も入ってくるでしょう。
※資料室にある生徒名簿を確認、何者かがシオンなどの情報を調べたと推察しています。
※生徒名簿のシオン、および適当に他の数名の個人情報を焼印で焦がし解読不能にしました。
※NPCの教師に〈服従の呪文〉をかけ、さらにスキル:変化により憑りつくことでマスターに見せかけていました。
 この教師がシオンから連絡を受けた場合、他の洗脳しているNPC数人にも連絡がいきヴォルデモートに伝わるようにしています。
※シオンの姿、ジョセフの姿を確認。〈開心術〉により願いとクラスも確認。
※ミカサの姿、セルベリアの姿を確認。〈開心術〉によりクラスとミカサが非魔法族であることも確認。
 ケイネスの名を知っていたこと、暁美ほむらの名に反応を見せたことから蟲(シアン)の協力者と判断。
※言峰の姿、オルステッドの姿を確認。〈開心術〉によりクラスと言峰の本性も確認。
※魔王、山を往く(ブライオン)の外観と効果の一部を確認。スキル:芸術審美により真名看破には至らないが、オルステッドが勇者であると確信。
※ケイネスに真名を教えていません。
※カレンはヴォルデモートの真名を知らないと推察しています。
※図書館に放った蛇を通じてロトとアーカードの戦闘を目撃しました。
 それとジナコの暴行事件から得た情報によりほぼ真名を確信しています。
※言峰陣営と同盟を結びました。
 アーカードへの対処を優先事項とし、マスターやサーヴァントについての情報を共有しています。
 それによりいったん勇者ロトへの対処は後回しにするつもりです。

886 ◆Ee.E0P6Y2U :2017/02/12(日) 21:02:29 ID:hhzJhCRU0
投下終了です

887 名無しさん :2017/02/19(日) 22:19:52 ID:8HcipdSk0
二作品投下乙です!

>みつげ ヴァーチャルロワ
メガテンTALKらしいやりとりからの食い逃げでタイトルに納得w
貢がせるだけ貢がせておいて逃げやがるのメガテンあるある
打って変わって後半はペルソナ4
実際真夜中テレビは何のためにあるのか不明だよな……
流石に電脳空間でのHALは強かった。アキトとの接触もルリ関係もあって期待
狭間はよりによってそのセリフをシャドウに言ってしまうとはどうなるやら

>蒼銀
前の話しと合わせても着々と進みつつある学校決戦
状態表の情報量一つ見ても、実際名前を言ってはいけないあの人はかなり厄介だよな……
気を許し合ってないそれぞれの同盟もどうなるか
言峰の行末も込で楽しみです

888 ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:40:25 ID:ZcbxchO20
投下します。

889 ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:41:01 ID:ZcbxchO20


 吸血鬼は思い出していた。自分がかつて見た夢を。

 自分が敗北する夢だった。それは過去の焼き直しであった。
 ヘルシング教授とその仲間達に、己が心臓を杭で穿たれる夢。
 人間によって化物が打倒された、遥か遠きあの日の記憶。

 彼等はただの人間にも関わらず、死の河を乗り越えてみせた。
 彼等は肉体を変化させず、力持ちという訳でも無ければ、魔法使いでもない。
 だが、それでも彼等は、アーカードという怪物を打ち倒したのだ。

 アーカードは思う。人間とはなんと強い生命なのだ、と。
 強くないのであれば、自分の様な怪物を滅ぼせる訳が無い。
 まさしく彼等こそ、化物を打倒するに相応しい存在なのだろう。
 人間である事に耐えられなかった、弱い化物を滅ぼす者達なのだろう。

 これからアーカードが出会うのも、ただの人間だった。
 人間である事に耐え続けたまま死んだ、もう一人の自分自身。
 そんな男が、自分の目の前に立ちはだかってくれるのだ。
 果たして、これ以上の幸福が何処にあるのか?

 あの廃教会が、自分の夢の終わりになるのかもしれない。
 人王に心臓を穿たれ、今度こそ消えて無くなってしまうのか。
 それもそれでいいのかもしれないと、少し思ってしまった。


 ◇◇◇


 八極拳士は考えていた。自分の相棒の心情を。

 何故だか知らないが、彼はヴラド三世との決闘を待ち望んでいた。
 それはきっと、単純に強者だからという理由ではないのだろう。
 二人の間には、何者でも引き裂けない因縁があるに違いない。

 ふと、少し前に正純が話していた事を思い出してみる。
 たしかあの少女は、聖杯と戦争するなどと話していたか。
 闘争そのものを求めるジョンスとしては、彼女に従っても構わなかった。
 むしろ、胡散臭い聖杯に頼るより、利口な判断なのかもしれない。

 だが神父は、アーカードは、その提案を突っぱねた。
 彼女の勧誘を振り払い、目の前の闘争に突っ込んでいったのだ。
 はっきり言って、愚策と蔑まれかねない選択である。
 刹那主義を愚かと言わずして、果たして何と呼ぶのか。

 だが自分としては、それでも結構だと考えていた。
 元より闘争ばかりを求める、当てもなく彷徨っていた身だ。
 その方針を続けようが、別に問題がある訳でもない。

 アーカードは馬鹿な事をしている、という自覚ならある。
 ただ、そんな彼の行動を咎める気など、微塵も起きなかった。
 そんな奴を召喚した自分もまた、立派な馬鹿の一人だからなのだから。

890 ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:41:28 ID:ZcbxchO20
 ◇◇◇


 神父は信じていた。不死の王と戦う、人間の王の勝利を。

 自分が召喚したのは、奇しくもヴラド三世であった。
 吸血鬼ではなく人間として座に至った、人間達にとっての英雄。
 そして彼もまた、吸血鬼を――同じ名を持つ怪物を、憎みに憎んでいた。

 運命。それを感じずにはいられなかった。
 こうして自分と彼が出会ったのは、とてもじゃないが偶然とは考え難い。
 神の教えに背いた男が言うのも難だが、それこそ天の導きと思えてならなかった。

 そして、やはりと言うべきか、あの怪物も聖杯戦争に招かれていた。
 吸血鬼(ヴァンパイア)、不死の王(ノーライフキング)、死なずの君(ノスフェラトゥ)。
 かつてドラキュラと呼ばれ、今もなお恐れられる真祖――その名は、アーカード。

 あの吸血鬼の強大さは、かつて戦った自分自身が熟知している。
 あれは万人が恐るるであろう魔人だ。並みの実力では到底敵うものか。
 人の身一つで彼に挑むなど、狐が大熊に挑みかかる様なものだ。

 地獄行きの神父は、それでも信じていた。
 主があの男に慈悲を齎してくれるのならば。
 どうか、彼に勝利と言う名の祝福があらん事を――。



 ◇◇◇


 王は猛っていた。これから訪れる、不死の王との闘争に。

 自分を吸血鬼に変えた歴史を、決して赦す事は出来ない。
 あまりにも忌まわしい、血に濡れた吸血鬼(ドラキュラ)の伝承。
 それが形を成して、自分を殺さんと迫ってきている。

 伝承だけでも憎たらしいのに、それが息をして歩くなど。
 これ以上に許し難い事実は、きっとこの世の何処を探しても見つからないだろう。
 だからこそ、あの化物だけは何としてでも滅ぼさなければならないのだ。

 アーカードの情報に関しては、アンデルセンから聞いている。
 真祖の吸血鬼にして、数百万の命を抱える不死の王。
 携えるは二丁拳銃「ジャッカル」。そして切り札の「死の河」。

 一方、こちらはただの人間。スキルも「護国の鬼将」一つのみ。
 たった独りで吸血鬼に挑むには、あまりにも心もとない。
 最悪、瞬く間に粉微塵にされる事さえありえるだろう。

 だがそれでも、諦めを踏破する意思があるのなら。
 不可能を可能とする、人間の可能性さえあるのであれば。
 掴み取れるのは、栄光で輝く勝利に他ならない。

891 ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:41:51 ID:ZcbxchO20
 ◇◇◇




 誰も彼も嬉々として、地獄に向かって突撃していく。


 一体誰があの中で、皆殺しの野で、あの中で生き残るというのだ。


 きっと、誰も彼も嬉々として死んでしまうに違いない。


 ――――誰彼(たそがれ)の中で。




.

892 003a 狂い咲く人間の証明(前編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:42:17 ID:ZcbxchO20
 ◇◇◇














 第二次二次キャラ聖杯戦争 第161話「狂い咲く人間の証明」















 ◇◇◇

893 狂い咲く人間の証明(前編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:43:28 ID:ZcbxchO20

 随分と長い時間、タクシーに揺られ続けたものである。
 大学周辺から廃教会までの距離はそれなりにあるが、それにしたって相当な時間がかかったものだ。
 走り去っていくタクシーの背中を見つめながら、ジョンスは小さく溜息をついた。

 大学で起きた暴動が災いし、冬木新都は珍しく渋滞の憂い目に遭った。
 無理もない。あれだけの騒動が何の前兆もなく発生したのである。
 交通に混乱が起こらない方がおかしい、そう考えるべきだろう。

「時間かけすぎちまったな」
『何しろあれから随分経った。"私"も立腹しているだろうな』

 その立腹を楽しみにしているのは、間違いなくアーカードだ。
 彼の声色を聞けば、ジョンスにだってそれが理解できた。
 怒り狂ったヴラド三世の相手をするのが、そこまで愉しみなのだろうか。
 ひょっとしてコイツはマゾなのではないかと、疑わずにはいられない。

 タクシーを降りた場所は、廃教会へと続く道の入り口であった。
 最早誰も使うまいと見なされたのか、その場所は碌に補修もされていない。
 優雅とかけ離れたこの道の先に、アーカードの宿敵が待ち受けているのだ。

 そして、ジョンス自身もあの神父に戦いを挑むつもりであった。
 そうなると、戦場に放り込むには不相応な少女が、目下の悩みとなる。

「れんげ、お前ここで待ってろ」

 ジョンス・リーがそう言った途端、れんげの顔に愕然が表れる。
 またしても彼に置いてけぼりにされてしまうのだから、そうなるのも無理はない。
 そして子供であるれんげが、それに反発しない訳もなく、

「なんでなん?うちも神父と話したいのん」
「こっから先は俺達の事情なんだよ、お前がいたら危なっかしい」

 それに、あの神父が再びれんげと対話するとは考え難かった。
 大学周辺にて、彼女を拒絶した奴の瞳は、敵を見据える時のそれだった。
 大嫌いな吸血鬼とお友達もまた、憎むべき対象と見なしているのだ。
 所謂、"坊主憎けりゃ袈裟まで憎い"というやつなのだろう。

「なんで危ないのん?やっぱりあっちゃん神父と喧嘩するん?」

 そういう訳じゃないと言おうとするものの、言葉に詰まってしまう。
 れんげのみならず、子供というのは変な所で勘のいいきらいがある。
 このまま否定をし続けると、廃教会で何をするかバレてしまうのではなかろうか。

 さてどうしたものかとジョンスが面倒そうに考えている、その時だった。
 突如アーカードが実体化し、れんげと同じ目線になるまで屈むと、

「れんげ、私達はこれから神父達と大人の会話をする」
「お、大人……」

 大人にしか出来ない会話(ケンカ)である事に違いはない。
 子供があの場に居合わせるのは、どう考えても教育に悪いだろう。
 何より、流れ弾を受けて怪我でもされたら、この上なく目覚めが悪い。

「……でもうち、あっちゃん達と一緒にいたいん。
 あっちゃんも八極拳も、うち置いてっちゃうかもしれんし……」

 こういう時、子供というのは酷く聞き分けが悪いものだ。
 もしジョンスが家庭を持っていれば、簡単に説き伏せれただろう。
 だが生憎、彼は独り身であるが故に、知恵を使って策を練らねばならなかった。

894 狂い咲く人間の証明(前編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:44:10 ID:ZcbxchO20

「……お前、なんか食いたいものあるか」

 ジョンスは方舟に招かれるまで、子供の世話なんてした事がない。
 それ故に、ごねる子供のあやし方なんて、ごく単純なものしか思いつかなかった。
 好きな物を食わせてやると約束するなんて、それこそ子供騙しな方法である。

「ここで待ってたら、終わった後にそれ奢ってやる」
「ほんとですか!」

 なんで急に敬語になるんだ、とは言わないでおく。
 急に眼を輝かせたれんげは、それからちょっとばかり悩んで、

「じゃあうち、カレー食べたいん!」
「なんだそりゃ。そんなんでいいのか」
「うん!八極拳とあっちゃんと一緒に食べるん!」

 どうも、れんげは自分の好物を皆と一緒に食べる魂胆らしい。
 それはそれで悪くないだろうと、ジョンスは彼女の提案を容認する。
 本当はもう少し高価な注文をされるかと慄いていたが、カレーなら安価で済む。

「カレー食いたいならそこで良い子にしてろ、いいな?」
「分かったのん。うち、良い子にしてるん」

 これまでの不満がどこ吹く風か、れんげはぶんぶんと首を縦に振ってみせた。
 差し出した条件一つでここまで態度が変わるとは、流石は子供と言うべきか。 

 何にせよ、これでれんげを戦場に連れ込む事態は防げた。
 これで心置きなく、お互いの闘争に集中できるというものだ。

『しかし餌付けとはな。まるで犬の躾けだな』
『仕方ねえだろ、これ位しか思いつかねえんだ』

 いつの間にか霊体化していたアーカードが、茶々を入れてきた。

『それより分かってるだろうなお前。お前が死んだられんげも死ぬんだぞ』
『案ずるな。れんげは死なんさ』

 相変わらず謎の自信に満ち溢れてやがる、とジョンスは内心でごちる。
 どんな根拠があってそんな事を言えるのか知らないが、聞いても多分答えないだろう。
 いや、答えはするのだろうが、抽象的なポエムになっているせいで理解不能なのがオチだ。

895 狂い咲く人間の証明(前編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:44:46 ID:ZcbxchO20
 ◇◇◇


 ジョンス達が廃教会に到着した頃でも、空の黒は未だ色濃くあった。
 されど、もうしばらくすれば、太陽が昇り朝がやって来るだろう。
 だがその時までは、吸血鬼が暴れ回る時間である。
 それは即ち夜。魑魅魍魎が跋扈する昏き世界だ。

「遅い。遅すぎる」

 廃教会へ続く道に、アンデルセン神父は独り立っていた。
 彼の周囲からは、サーヴァントの気配が感じられない。
 きっと"あの男"は、路の先にある廃墟で待ち構えているのだろう。
 アーカードが待ち望むあの宿敵が、今か今かと待っているのだ。

「何をしていた」
「道が混んでたんだよ、俺達のせいじゃない」

 事実をありのままに述べているが、神父の機嫌はこの上なく悪くなっている。
 これだけ遅れて来たのだから、仕方ないと言えばそうなのだが。

「あの子供はどうした」
「置いてきた」

 ジョンスの言う通り、れんげはこの場にいない。
 せっかく拾っていったというのに、雑な扱いではあると思う。
 しかし当のジョンス達は、彼女をそれほど待たせる気など無かった。
 この戦いの決着に、きっと時間はかからない――そう確信していたからだ。

「……王から伝言だ。アーカード、お前一人で来い」

 殺意たっぷりに吸血鬼を睨みながら、神父はそう言った。
 ヴラド三世は、アーカードとの二人きりの闘争を望んでいる。
 誰にも邪魔をされない、誰にも干渉されない戦いを求めたのだ。

 アーカードが実体化し、ジョンスの横に並び立つ。
 その顔に刻まれていたのは、これから始まる戦いへの期待。
 彼は悠然とした歩みでジョンスの前に出ると、

「命令しろ、マスター。"行って、勝て"と」

 その一言で、ジョンスはアーカードの意図を察した。
 要するにこの男は、自分に令呪を使わせたいのである。
 万全以上の状態で宿敵と戦う、ただそれだけの為に。

「……あのな、もう少し分かりやすく言えよ、そういうのは」

 ジョンスは未だに、吸血鬼の芝居がかった言い回しに慣れてない。
 そして多分、これからも慣れる事はないのだろう。
 だが、慣れないというのは、分からないと同意義ではない。
 ジョンスはアーカードの言葉を理解していたし、その意を汲むつもりであった。

896 狂い咲く人間の証明(前編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:45:11 ID:ZcbxchO20

「"本気で行け、アーチャー"」

 ジョンスは躊躇う素振りすら見せずに、令呪を使用した。
 三画存在していた内の最後の一画、それが遂に消失する。
 消えた令呪の魔力は、残らずアーカードに充填された。

「感謝するぞ、マスター」

 サーヴァントからのその言葉に、ジョンスはむず痒さを覚えた。
 思えば、こうして感謝を伝えられるのは初めてであった。
 よもやこの男に、素直に感謝の意を伝えられる事があろうとは。

「用事は済んだか、アーカード」
「ああ、お陰で本気で戦えそうだ」
「ならば早く行け。俺がお前への殺意を抑えている内にな」

 ジョンスはまだ、アーカードとアンデルセンの関係を知らない。
 一切分からなくとも、二人が恐ろしく険悪な間柄である事は推し量れた。
 きっと元の世界では、彼等は殺し殺されていたのだろう。
 顔を合わせ次第刃を交える、そんな日々を繰り返していた筈だ。

 そんな二人が矛を収め、殺し合わないという事実。
 殺し合いを打ちとめ、一つの目的に向かって邁進しているという現状。
 これから起こる戦いは、それほどまでに重大なものなのだろう。
 憎しみを堪え、最優先事項を入れ替える程に、価値のある闘争に違いない。

 アーカードは振り返る事もなく、前へと歩み始めた。
 もしかしたら、これが後生の別れになるかもしれない。
 それなのに、彼はジョンスに言葉の一つもかけずに去って行く。

 ジョンスは別段、それに対し文句を言うつもりもなかった。
 ここで声をかけるという事は、負ける可能性を万一にでも考えているという事だ。
 これから全力で戦おうとしている男に、その仕打ちはあまりに酷だろう。

 そして何より、今のジョンスには優先すべき事柄がある。
 アーカードが戦うのであれば、此処でやる事はこれ以外にあり得ない。

「それじゃ、俺達は俺達でやるとするか」

 ごく自然に、さもそれが当然であるかの様に、ジョンスは構えをとる。
 腰を低く落とし、右手は軽く前に出して、左手は引いておく。
 それは、彼が唯一使える拳法にして最強の武器。即ち八極拳である。

「ならん。ここで俺達が傷を負えば、王の戦いに傷がつく」

 構えなど取る素振りも見せずに、アンデルセンはジョンスにそう告げた。
 一瞬「は?」と言いたげな顔を見せるジョンスだったが、そこで少し考える。
 確かに、万が一ここで自分が神父を殴り飛ばせば、ヴラド三世のコンディションに影響が出るかもしれない。
 よしんばそうなれば、アーカードはきっと凄まじい剣幕で自分に食ってかかるだろう。

「後にしろ眷属。此処は王の戦場だ、俺達の出る幕はない」
「……仕方ねえな」

 構えを解き、両手をポケットに突っ込むと、ジョンスは小さく欠伸をした。
 アーカードのお楽しみが終わるまで、ひとまず此処で待機せざるを得ない、という訳だ。
 何故か眷属扱いされてるのは癪だが、今は神父の言葉を呑むとしよう。

897 狂い咲く人間の証明(前編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:45:44 ID:ZcbxchO20
 ◇◇◇


 うち棄てられた祈りの場。滅び去りし神の御堂。
 廃教会の奥、老朽化した十字架の前にて、その男は待っていた。

「――――来たか、"余"よ」

 黒い貴族服を身に纏い、絹の様な白髭を蓄えた白髪の紳士。
 彼の名もまたヴラド三世。イングランドを護りし救国の英雄。
 そして同時に、不死の王たる吸血鬼の原型(オリジン)。

「こうして顔を会わせるのは初めてだな、"私"よ」
「そうだな、"余"よ。呪われし吸血鬼の歴史よ」

 吸血鬼(ヴラド)と人間(ヴラド)が、ここに対峙する。
 片や歓喜、片や憤怒を滲ませながら、視線を交差させる。

「この時、この瞬間をずっと待ち侘びてきた。我が呪われし宿命に決着をつける、この瞬間を」

 著しい怒気を孕ませた声で、ヴラドは嘯いた。
 一方のアーカードは、悠然とした表情を保ったままだ。

「私がそうまで憎いか」
「ああ憎いとも。余の半生を汚す貴様が、憎くない筈が無い」

 吸血鬼を忌み嫌うヴラドは、アーカードを決して認めない。
 アーカードとは即ち、吸血鬼であるヴラドそのものなのだから。
 ヴラドがヴラドである限り、彼とは永遠に平行線だ。

「座に名を刻んだその瞬間から、ずっと待ち望み続けていた。
 血で穢れきった吸血鬼伝説、それを欠片も残さず消し去るのをな」

 ヴラドが聖杯にかけた望みは、吸血鬼という汚名の抹消。
 その願いは、如何なる状況に陥ろうが僅かでも揺るぎはしない。
 「鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)」を喪い、ただの人間になった今なら、猶更だ。

「憤怒を以て私を滅ぼすか。つくづくあの神父と似たものだ」
「そうかもしれんな。あの男の業火が、余を呼び寄せたのかもしれん」

 誰よりも化物を憎んだ男――アレクサンド・アンデルセン。
 今のヴラドは、彼が抱いた感情すらもその背中に乗せている。
 アーカードという化物への憎悪と、そんな化物を終ぞ殺せなかった無念。
 二つの炎が、ヴラドの闘志を更に奮い立たせるのである。

「神父が終ぞ果たせなかった悲願、それをも余が完遂する。それが王たる者の務めだ」

 そう、ヴラド三世はルーマニアを統べる王であった。
 その高貴さと誇りは、サーヴァントとなった今でも忘れてはいない。
 アーカードが吸血鬼の王であれば、ヴラドは人間の王なのである。

「今こそ滅び去る時だ、吸血鬼(アーカード)」
「よかろう。どうやらすぐにでも始めれそうだな」

 そう言って、アーカードは二丁拳銃――ジャッカルを構える。
 ブラドもまた、己が得物である槍を、強く握りしめた。
 決戦の幕は、今まさに切って落とされようとしている。

898 狂い咲く人間の証明(前編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:46:27 ID:ZcbxchO20

「さあ来るがいい吸血鬼。貴様を消し去る準備は出来ているぞ!」
「そうか、ならばいくぞ――私を存分に昂ぶらせろ、私(ヒューマン)ッ!」

 その言葉と同時に、アーカードはジャッカルの引き金を引いた。
 幾度も化物を撃ち殺した弾丸、その数発がヴラドを襲撃する。
 が、それらは皆、彼の周囲の地面から生え出た杭に阻まれた。
 ヴラドを護るかの如く、無数の杭が彼を取り囲んだのである。

「我が誇りを踏み荒す悪鬼よ!懲罰の時だ!
 慈悲と憤怒は灼熱の杭となって、貴様を刺し貫く!」

 始まって早々に、奴は宝具を解放しようとしている。
 そう判断したアーカードの肉体から、一匹の獣が出現する。
 黒犬獣(ブラックドッグ)パスカヴィル――総身に無数の眼を携えたそれは、まさしく死の獣であった。

「杭の群れに限度は無く、真実無限であると絶望しッ!」

 魔獣が牙をぎらつかせ、一直線にヴラドへ襲い掛かる。
 その突進の勢いならば、きっと杭を砕き破ってしまうだろう。
 その顎で噛まれれば、きっと瞬く間に肉を食い千切られるだろう。
 だが、それを理解してもなお、ヴラドは一歩も動こうとしない。
 何もおかしな事ではない。指一つ動かす必要さえ、元より無いのだから。

「己の血で喉を潤すが良い――『極刑王(カズィクル・ベイ)』ッ!」

 瞬間、アーカードの足元から無数の杭が生え出てきた。
 豪速で襲い掛かるそれが、彼の腕を、脚を、腹を突き破る。
 それだけではない。ヴラドを喰らわんとした獣にも、大量の杭が突き刺さった。
 総身を杭で穿たれた獣とアーカードは、さながらモズの早贄である。

 これこそが、ヴラド三世の宝具――「極刑王(カズィクル・ベイ)」である。
 解放と同時に、己が領土に大量の杭を出現させる対軍宝具。
 二万ものオスマントルコ兵を串刺しにした伝承、その再現。
 そして同時に、ヴラド三世の吸血鬼伝説の元凶となった逸話であった。

 領土いっぱいに展開される無数の杭、それを回避するのは至難の技である。
 相手が真っ当な吸血鬼であれば、今の一撃で勝敗は決しただろう。
 だが生憎、ヴラドが相手をしているのは、"真っ当な吸血鬼"などではない。

899 狂い咲く人間の証明(前編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:46:55 ID:ZcbxchO20

「――流石だ、流石は私(ヴラド・ツェペシュ)だ」

 串刺しになった筈の身体から、歓喜に満ちた声がした。
 そしてその刹那、アーカードの肉体が崩れ落ちたではないか。
 彼を構成する全てが黒い液体となり、どろりと地に落ちる。
 床に垂れたそれは、意思を持つかの如くうねっていた。

「無限にそそり立つ杭、それがお前の切り札か。なるほど、どこまでも私じゃないか」

 黒いヘドロが杭と杭の間に集まり、それが人の形を成していく。
 それは言うまでもなく、アーカードの姿であった。
 不死の王は何度でも蘇る。杭で貫かれた程度では滅びない。

「素晴らしい。挨拶代わりには上々だ。
 ならば私もまた、切り札を披露するのが礼儀というものだ」

 ヴラドとて、この事態は予測の範疇である。
 既にアンデルセンから、アーカードの不死性は聞き及んでいる。
 彼の不死のからくり――その身に有した、数百万もの魂の存在を。

「拘束制御術式(クロムウェル)、第零号――――開放」

 その刹那、ヴラドの瞳が見開かれた。
 まだ開幕から数分と経たぬ段階、よもや早速"あれ"を出してくるとは。

 アーカードが持つ宝具もまた、ヴラドは把握済みである。
 それがどれだけ壮絶かつ悍ましき業なのかも、もう分かり切っていた。
 そしてこれより、その切り札――死をの呑み込む津波が、襲いかかろうとしている!

「私は、ヘルメスの鳥」

 瞬間、無数の杭がアーカードを襲う。
 彼は防御する事なく、それら一切を受け入れた。
 今一度、無抵抗の彼の全身に杭が打ちこまれる。
 吸血鬼殺しの武器が、足先から頭部にまで叩き込まれた。

「私は、自らの羽を喰らい――――」

 しかし、それでも、アーカードは滅びない。
 数十万の命を持つこの怪物は、この程度では斃せない。
 だがそれは、ヴラドが攻撃の手を休める理由にはなり得ない。
 ほんの僅かであろうが、奴の中に渦巻く命を削り取る。
 彼はその意思の元、更に数十本の杭を彼に打ち込まんとし――――。

「――――飼い、慣らされる」

 刹那、"死"が顕在した。

900 狂い咲く人間の証明(中編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:47:38 ID:ZcbxchO20

 ◇◇◇


 瞬く間に、廃教会の床が黒色に染まっていった。
 アーカードを中心に、真っ黒な液体が流れ出たのだ。
 夥しい勢いで、液体は周囲の地面を黒に染め上げていく。
 それはまるで、決壊したダムの流れの様であった。

 液体の中から出でるのは、無数の亡者達である。
 瞳から黒色の涙を流した彼等が、戦場に現れたのだ。
 その数は加速的に増えていき、ものの数十秒で廃教会を埋め尽くす。

 国籍も、装備も、性別も、年齢も異なる彼等は、全て喰われた命。
 アーカードが喰らい、己のものとした命が、ここに解放されたのだ。

 その中には、黒馬に乗り旗を掲げる鎧の騎士がいた。
 その中には、戦鍋旗を手に持った中年の軍人がいた。
 その中には、三角帽を被った異端狩りの戦士がいた。
 その中には、現代の服を身に纏った若い青年がいた。

「マルタ騎士団……イェニ=チェリ軍団……ワラキア公国軍……ッ!?」

 その有様に、ヴラドはひたすら驚愕するばかりであった。
 これまでアーカードが喰った数万もの命に、ただ愕然として。
 そしてその愕然は、程なくして怒りに変貌し、

「貴様は……!貴様という奴は……どこまで……ッ!」

 話には聞いていたが、よもやここまで醜悪だとは思わなかった。
 この化物だけは、絶対に此処から生きて帰してはならない。
 己の杭を以てして、何としてでも滅ぼさなければならない。
 これまでに無い程の激情が、今のヴラドを突き動かしていた。

「悪魔(ドラキュラ)ッ!やはり貴様は滅ばねばならんッ!」

 怒りに身を任せ、ヴラドは己が宝具を再び解放しようとする。
 しかし、どういう訳か、杭は何処からも出現しないではないか。
 自らの領土でその力を示す『極刑王』が、まるで発動しないのだ。

「まさか、我が領土を"塗り潰した"というのか……ッ!?」
「そうだ私よ、此処はもうお前の領土ではない。私の物だ、怪物(ノスフェラトゥ)の領土だ」

 ある男が言っていた。アーカードの本質は「運動する領土」である、と。
 なるほど確かに、彼は数万もの兵を収容する一種の要塞と言えるだろう。
 その要塞を体外に放出する「死の河」は、即ち領土の解放に他ならない。

 そう、今この瞬間から、廃教会はヴラドの陣地などではなく。
 アーカードが造り上げた、「死の河」という領土に変貌を遂げたのだ。

 自らの領土でなければ、ヴラドの「極刑王」は効果を発揮できない。
 つまり今のヴラドは、杭を出現させる範囲が極端に狭まっている。
 これが意味するものは一つ。アーカードの圧倒的優勢にして、ヴラドの圧倒的不利だ。

 あれだけ生えていた杭は一つ残らず消え、代わりに漆黒が埋め尽くす。
 アーカードを中心に広がる濁流は、人の営みの一片さえ喰らってしまった。
 戦場は既に、死霊が彷徨い歩く地獄の形相を呈していた。

「さあ膳立ては済んだぞ。存分に奮い立て、人間ッ!」

 その号令で、亡者の群れが一斉にブラドに襲い掛かってきた。
 圧倒的な物量の前に為す術もなく、ヴラドは人の波に飲み込まれていく。
 ものの数秒もしない内に、アーカードの視界からウラドが消失した。

901 狂い咲く人間の証明(中編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:49:25 ID:ZcbxchO20

 あまりにも呆気なく、目の前から宿敵が消えた。
 その光景を目の当たりにしたアーカードの表情は、何故だか暗い。

「……どうした、この程度か」

 死の河は未だ増大し、亡者の数も増幅していく。
 廃教会は当の昔に倒壊し、天井には漆黒の空が映し出される。
 だが当のアーカードは、表情いっぱいに失望を塗りたくっていた。
 圧倒的物量による勝利を喜ぶべきにも関わらず、だ。

「応えろ!この程度でお前は斃れるのか!?私が求めた夢は、こんな程度で砕けるのものなのかッ!?」

 アーカードにとって、ヴラドとは宿敵にして自身の夢。
 かつて自分がなれなかった、人間であり続けた自分自身。
 それが瞬く間に潰えてしまっては、拍子抜けもいいところだ。
 故にアーカードは叫ぶ。この程度で終わっていい訳がない、と。

「――この程度か、だと?」

 亡者の列の中から、人間の声が飛んできた。
 目を凝らして見れば、死霊の群れの中に命の鼓動があった。
 それが誰の物であるかなど、最早言うまでもない。
 人間は――ヴラドはまだ、朽ち果ててなどいなかった。

「分かっていた筈だ、"余"よ。余(ヒト)がこの程度で滅びぬ事は、他ならぬ"余"が理解している筈だ」

 ヴラド三世はそう言うと、本来の姿を象っているアーカードを見据える。
 彼の視界には、髭をたっぷりと蓄えた鎧騎士の姿があった。
 身に秘めた命を全解放したアーカードは、本来の姿に戻らざるを得ないのだ。
 今此処に顕在しているのは、"化物として死んだヴラド三世"の肉体。
 それは全ての吸血鬼の始まりにして、真祖の吸血鬼の終わりたる姿であった。

「この身こそが我が領土ッ!余が防衛する最後の領域ッ!余が滅びぬ限り、"人間"は死なんッ!」

 化物を睨み、槍を向け、人間が吼える。
 拵えた領土が消えた今、ヴラド三世の人間性を証明するのは、当のヴラド独りとなった。
 もし自分が消えれば最後、この場に残るのは吸血鬼の伝承だけとなるだろう。
 冗談ではない――怨敵に何もかもを奪われるなど、死よりも悍ましき事態ではないか。

「さあどうした!?使い魔達を出せ、身体を変化させろ、銃で我が身を撃ち抜いてみせろッ!
 来るがいい悪魔(ドラクル)、夜は――貴様(ヴァンパイア)の時間は、始まったばかりだろうにッ!」

 それを口火に、ヴラドは亡者の群れを突き進み始めた。
 得物とする槍で、目の前の敵を容赦なく引き裂いていく。
 不死の王を護る死者の壁を、彼は正面突破する気でいるのだ。

 対するアーカードは、猛るヴラドとは対照的な笑みを浮かべていた。
 それは獰猛さを感じさせない、酷く安堵した様な表情であった。

「……そうだ、それでいい」

 それでこそ、お前達(ヒト)のあるべき姿だ。
 ぽつりとそう呟いた後、アーカードの口が三日月に歪む。
 そこにあったのは、これまで幾度も作った獣の笑みであった。

902 狂い咲く人間の証明(中編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:50:38 ID:ZcbxchO20

 ◇◇◇


「オオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 前へ、前へ、前へ前へ前へ前へ前へ前へ前へ!
 ヴラドはただ愚直に、アーカードに向かった前進していく。
 襲いかかる死者の軍勢を、杭で薙ぎ払いながら。
 憎き宿敵の元へ向かって、我武者羅に猛進していく。

 湧き出る屍鬼の物ともせずに進むヴラドを眺め、満足気に笑うのはアーカードだ。
 彼は迫りくる宿敵の姿に、自らを打倒した人間の面影を見た。
 ミナ・ハーカーを救出しにやって来た、ヘルシング教授とその仲間達。
 死の河を乗り越えた彼等は、ヴラドと同じただの人間だった。

 ヴラドの勇猛を見ると、思い出さずにはいられない。
 彼等の雄姿を、彼等の闘志を、彼等の執念を。
 人間という種が持つ、その秘められし意思の力を。

「ああ、まるで夢だ。夢の様じゃないか」

 そう、まるでそれは、質の悪い甘い夢の様であった。
 人間であり続けた自分が、こうして自分を殺しに来たのだ。
 我こそがヴラド三世だと、吸血鬼のお前など決して認めるものかと。
 これが耽美な夢でなければ、一体なんだというのだ。

「さあ来い!来いよ"私"ッ!見事私の心の臓腑に、その杭を突き立ててみせろッ!」

 その言葉を耳にしたヴラドは、その手に握る槍に更に強く握りしめる。
 夥しい殺意を胸に秘め、亡者の巣を走り抜けていく。

「言われずとも滅ぼしてやろうッ!我が生涯より産まれし、血塗られた忌子めがッ!」

 もう一人のアーカードであるヴラドにとっても、この戦いは耽美な夢であった。
 何しろ、憎みに憎んだ吸血鬼の伝承が、形を成して殺しにかかっているのである。
 今こそ長年の恩讐を晴らす時、そして同時に、己の人間性を証明する時だ。

 一歩歩む度に傷を作りながらも、それでもヴラドは止まらない。
 ここで歩くのを止めれば、そこで全てが台無しになるのだから。
 ほんの僅かでも諦観を見せれば、化物はその隙を容赦なく突いてくる。
 そうすれば終わりだ。瞬く間に死者の雪崩に巻き込まれるだろう。

 だから、ヴラドは振り返る事なく走り続ける。
 今の彼には、領土も護るべき民の姿もありはしない。
 救国の英雄だという自負、そして宿敵への憎悪、そして人間としての誇り。
 その三つの感情だけが、彼を狂犬の如く衝き動かすのだ。

 少しずつではあるが、ヴラドとアーカードの距離は近づいている。
 このまま、両者は再び対面する事になろうと考えられた、その時。

「グッ……!」

 ヴラドの左腕が、前方より飛来した物体に抉り取られた。
 かと思えば、次は左脇腹が背後から撃ち抜かれたではないか。
 ヴラドの肉体を抉った小さな物体は、彼の目の前で静止する。
 それがマスケット銃の弾丸であろ事は、誰の目から見ても明らかであった。
 素早く槍を振るい、再びこちらに飛来した弾丸を撃ち落とす。

「ヴェアボルフが一騎、魔弾の射手"リップヴァーン・ウィンクル"。見事超えてみせろ」

 アーカードが取り込んだ命の一つ、リップヴァーン・ウィンクル。
 かつて彼と敵対した彼女は、弾丸の軌道を自在に操る事が出来る。
 吸血鬼の命の一つとなった今でも、その能力は健在であった。

903 狂い咲く人間の証明(中編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:52:38 ID:ZcbxchO20

 狙撃兵の存在を理解したヴラドは、そこから大きく飛び上がった。
 サーヴァントの脚力であれば、人を優に飛び越える跳躍など容易い。

 空中に移動したヴラドの眼下に、マスケット銃を構えた女の姿が見えた。
 騎兵――ワラキア軍であろう――に相乗りした彼女が、弾丸の射手であろう。
 ヴラドは雄叫びを上げながら、懐に忍ばせたある物を投擲する。
 勢いよく投げ出された横長のそれは、女の心臓部を見事貫いてみせた。

「なるほど神父め――お前も立ち塞がってくれるかッ!」

 ヴラドが投げつけた物の正体、それは銃剣(バヨネッタ)だ。
 アンデルセンは予め、自らの装備を彼に授けていたのである。
 かつての好敵手の影を垣間見て、アーカードは勢いよく破顔した。

 宿敵の笑い声を拾い上げたヴラドは、奴との距離が近い事を確信する。
 されど、死者の壁は依然として彼の行く手を阻んでいる。
 ならばと、ヴラドはアンデルセンのもう一つの武器の使用を決断した。

 鎖に繋がれた無数の銃剣を、彼等に向けて放り投げる。
 ただのそれだけでは、数万をゆうに超える亡者を突破するには物足りない。
 だが見るがいい、銃剣の柄から噴き出るあの多量の煙を!

 刹那、銃剣が残らず爆裂し、アーカードの眷属を消し飛ばす。
 アンデルセンから受け取りし武器が一つ、これこそが爆導鎖である。

 爆破によりこじ開けた道を、ヴラドは獅子の如き勢いで駆け抜ける。
 最早一刻の猶予もない。アーカードを殺せるか、こちらの体力が尽きるかの勝負だ。
 ぼろぼろの身体を酷使しながら、人間は独り死の世界をひた走り、そして。

「――――ようやく、辿り着いたか」

 そうして駆け続けた先に、あの男は待ち構えていた。
 不死の王は悠然とした態度を保ったまま、ヴラドの目前に立っていた。

「見事だ、よくぞ私の元にまで辿り着いた」

 犬歯をむき出しにして、獰猛にアーカードは笑ってみせる。
 対峙している男の必死さを、さながら児戯であると言わんばかりに。

「さあ"私"よ、傷はいくつできた?骨は何本折れた?血は何リットル流れた?
 私に勝つ未来は見えたか?確率はいくらだ?万に一つか、億に一つか、それとも兆に一つか?」

 ヴラドの状態は、それはもう直視し難い有様となっていた。
 生傷の無い部分は見当たらず、染み一つ無かった貴族服は既に血まみれだ。
 左腕に至っては、僅かな衝撃で千切れ飛んでしまう程に損傷が激しくなっている。
 最早その姿からは、ルーマニアの王としての気品など、微塵も感じられなくなっていった。

 されど、そこでアーカードの心中に浮かんだのは、「妙だ」という疑念だった。
 あの"死の河"を単独で超えたにしては、その身形はあまりに綺麗すぎる。
 数万をゆうに超える死者の濁流、それを身体一つで渡り切ってみせたのだ。
 四肢の何れかが使い物にならなくなっていても、別段おかしくはないのだが。

 しかし、ヴラドの身体をよく観察すれば、その疑問は氷解した。
 身体中から流れる血液、そしてヴラド自身の能力を鑑みれば、その答えは自ずと導き出せる。

「……なるほど。杭で身体を固定するとは。見上げた覚悟じゃないか、"私"」

 ヴラドは体内に杭を生やす事で、それを折れた骨の代わりにしているのである。
 なるほどその方法であれば、例え四肢の骨が砕けようとも、前進は可能であろう。
 されど、肉を内部から裂いて杭を通すなど、その痛みたるや尋常なものでない筈だ。
 そして何より、そんな真似をすれば最後、肉体の致命的な損傷は避けられない。
 正気の沙汰ではないこの行動、実行する狂人などいる訳がないのである。

 しかし、ヴラドはその恐るべき行為を実行したのである。
 吸血鬼を倒すという意思一つだけで、正気の壁を飛び越えてみせたのだ。
 何という覚悟、何という性根、そして何という意思の強さか。

904 狂い咲く人間の証明(中編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:53:32 ID:ZcbxchO20

「改めて聞こう"私"よ。何故ここまで闘えた。何がお前をそこまで昂らせた。
 私への憎悪だけではあるまい。お前の胸にはまだ"何か"あるな、それは何だ?」
「……ほざけ。そんな事、"余"たる貴様が誰より理解しているだろうに」

 例えヴラドがアーカードを滅ぼした所で、世界の歴史は変わらない。
 せいぜいドラキュラの逸話が消えるだけで、ヴラドの生涯は影響の一つも受けはしない。
 そんな事は分かり切っている。それでもなお、彼が吸血鬼に挑むのは――。

「人としての誇り。ただの、それだけだ」

 己の中で今も息衝く、ちっぽけな"人間"を護る。
 そんな理由一つを抱えて、ヴラドは絶望的な戦いに身を投じたのだ。
 その相手がどれだけ恐るべき怪物だろうが、決して膝を折るものかと。

 アーカードが思い出すのは、廃ビルにてジョンスと交わしたやり取りだった。
 あの男もまた、死の河を前にして一歩も引こうとせず、こちらに挑みかかろうとした。
 彼が胸に秘めていたもの、それは能力やお守りでもなく、人としての誇り――即ち、プライド。

「く、くくく」

 あの男の言葉が、脳裏に木霊する。
 『安いプライド』さえあれば、人は誰とだって戦える。
 『安いプライド』さえあれば、人は何とだって戦える。

「く、くく、くは、くははははははははははははッ!!!そうか!!貴様も同じか!!」

 この瞬間、アーカードの歓喜は頂点を極まった。
 きっと自分は、この言葉をこそ待ち侘びていたのだ。
 勝てる訳もないのに、犬死にと分かっていても、それでもなお立ち向かう。
 それこそが人間が、化物を倒し得る生命が持つ、光輝かつ最高の力。

「そうだッ!それでこそだ"私"ッ!ならば証明してみせろッ!
 貴様が人間である証をッ!化物を倒す人間の矜持をッ!
 この私の夢のはざまを、その手で終わらせてみせろッ!」
「望み通り終わらせてやろうッ!貴様が綴る、鮮血の伝承をなッ!」

 その啖呵が引き金となり、いよいよ決戦が幕を開ける。
 ヴラドが真正面から突っ走り、それまで以上の速度でヴラドに肉薄する。
 されど、無防備を晒す彼に吸血鬼が向けるのは、ジャッカルの引き金だ。
 数発発射されたそれらが、その勢いを殺さんとヴラドに迫る。

 一発目は、頬を掠めるだけに終わる。
 二発目は、右肩を軽く抉り取った。
 三発目は、貴族服を縦に裂いた。
 四発目は、右脇腹に命中した。

 そして五発目が左腕を千切り、六発目が左脚を吹き飛ばした。
 しかし、四肢の半分を失ってもなお、ヴラドの瞳は死にはしない。
 左脚の断面から、宝具である杭が爆発的な速度で飛び出してくる。
 そしてその勢いを利用し、ロケットの如く加速したではないか。

 アーカードの懐に入りさえすれば、それで勝利は決まる。
 己が槍を以て心臓を抉れば、あの吸血鬼を滅ぼせる。
 今の自分が持つ全てを賭け、今こそ最後の一撃に打って出る。

 狙うは心臓の一点のみ、この攻撃で悪夢を終わらせる。
 相対する二人の影が重なろうとした、その瞬間。
 アーカードが銃の引き金を引き、ヴラドが槍を突き出し、

905 狂い咲く人間の証明(中編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:54:53 ID:ZcbxchO20

「――――――――なん、だと」

 菱形の尻尾が、ヴラドの心臓を穿っていた。

 それによりヴラドの狙いがずれ、槍はアーカードの左肩を傷つけるだけに終わる。
 身体から生える凶器に彼が驚愕する刹那、ジャッカルの弾丸が腹部と右腕を貫いた。

 因縁の闘争は、あまりに理不尽な横槍によって終結した。
 アーカードの眷属による不意打ち、これを理不尽と言わずに何とするのか。

 ヴラドを襲った襲撃者は、この場において場違いなくらいに嗤っていた。
 ベルク・カッツェ――アーカードが方舟の世界で食らった、唯一の魂。
 悪辣なる暗殺者の英霊が、最後の尖兵として待ち伏せていたのである。

「見事だ"私"よ。この上なく心躍る闘争だった」

 最早アーカードの勝利は確定したも同然、それにも関わらず。
 当の本人の顔は、何故だか酷く寂し気なものとなっていた。
 まるで、この結末を認めるのを拒んでいるかのように。

「だがもう終いだ。貴様の夢は芥に還る、世界に残るは"私"の名だけだ」

 うつ伏せで倒れるヴラドの髪を掴み上げ、無理やり立ち上がらせた。
 ここで初めて、アーカードは己が分身の瞳を凝視する。
 吸血鬼を見据える彼の瞳は、未だ敵意で燃え上がっていた。

 ここでヴラドが心臓を貫かれれば、闘争は終わりを告げる。
 それでもなお、彼の双眸には炎が滾っていた。

「………え……………け、だ」

 その時、ヴラドの掠れ切った声を、アーカードの聴覚が捉える。
 決して幻聴などではない。彼は今、自分の意思で声を紡いでいる。
 今何と言ったのだと、アーカードが問おうとするよりも早く、

「お前の敗けだ、アーカード」

 今度ははっきりとした声で、ヴラドが宣言した。
 吸血鬼アーカードの敗北、引いてはヴラド三世の勝利を。

906 狂い咲く人間の証明(中編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:55:37 ID:ZcbxchO20

「……敗ける?誰が敗ける?私が敗けるとでも言うのか?」

 戯言だと言わんばかりに、アーカードはヴラドの宣言を一蹴する。
 指一本さえ動かぬ程に疲弊した挙句、霊格をも撃ち抜かれた今、果たして何が出来るというのか。

「誰に敗ける?お前にか?私が"私"に滅ぼされると?」

 嘲笑う為に出てきた言葉に、妙なデジャヴを覚える。
 以前にも何度か、これと同じ様な台詞を吐いた覚えがあった。
 あれはいつの頃だったか、どんな状況でこんな事を言ったのか。

「私は決して敗けん。断じて敗けるものか。私は――――」

 刹那、アーカードの鼻腔を、妙な臭いが擽った。
 遠い過去で嗅いだ覚えのある、懐かしい大地の匂い。
 この臭いはなんだと知覚する前に、突如横から差し込む光に目が眩んだ。

 こんな真夜中に、どうして光が現れるのだ。
 訝し気に横を向いてみれば、そこには死者の群れなど存在せず。
 アーカードの視界には、夕日が沈む荒野だけが映っていた。

 なんだ、何を見ている。なんだこの場景は、この光景の有様は。
 幻覚などでは決してない。ならばこれは何だ、何故こんなものを見ている。

 刹那、アーカードの内側で、何かが猛烈な勢いで膨れ上がった。
 鋭利で硬く、なおかつぞっとする程に冷たいそれは、急速に形を成していき――。

「……言っただろう、"余"よ。化物(おまえ)の敗けだ、とな」

 ――そして、爆ぜる。
 アーカードの心臓部に、木製の杭が"打ち込まれた"。

907 狂い咲く人間の証明(中編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:56:01 ID:ZcbxchO20
 ◇◇◇




 そうだ、そうだった。



 あの時も、こんな日の光だった。



 私が死んだ光景は、いつもこのこれだ。



 そして、幾度も思う。



 日の光とは、こんなにも美しいものだったとは。





 ◇◇◇

908 狂い咲く人間の証明(中編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:56:34 ID:ZcbxchO20

 死の河が引いていく。死者の列が消えていく。
 地を埋める黒色が消えていき、世界は元の形を取り戻していく。
 それはつまり、この戦いの終息を意味していた。

 横たわるアーカードの心臓には、一本の木製の杭が打ち立てられていた。
 心臓に杭を打たれた吸血鬼は、どう足掻こうが滅びる運命にある。
 死の河を発動し、命を残らず解放した今のアーカードでは、その鉄則からは逃れられない。

「私は、負けたのか」

 虚空を見つめながら、アーカードが呟いた。
 彼は信じられないと言いたげな、しかし何かを悟ったような表情をしている。
 まるで、いずれこの日が来るのを予感していたかの様に。

「そうだ。夢の終焉が訪れたのだ、吸血鬼よ」

 アーカードが声の先に目を向けると、ヴラドの姿が目に見えた。
 彼は槍を杖代わりにし、かろうじて地に立っている状態だった。
 今もなおその足元からは、ヴラド自身の血液が流れ落ちている。

 仮にアーカードが全盛期の実力であれば、結果は変わっていただろう。
 ヴラド三世は死の河を渡り切る事もなく、悲嘆の中で死に絶えていただろう。
 そうはならなかったのは、死の河そのものが弱体化していたからに他ならない。

 アーカードは既に、好戦的な魂を粗方狩り尽くしてしまっていたのだ。
 彼の体内に残っていたのは、逃げ惑っていた臆病者共の命ばかり。
 臆病とは弱者の証拠。それ故に、死の河に出現するのが弱者となるのは自明の理だ。

 無論、それだけがアーカードの敗因になった訳ではない。
 ヴラドが持つ『極刑王』の特性も、不死の王に敗北を齎す原因となっていた。

 「極刑王」は、二万ものトルコの兵を刺し貫いた逸話が宝具に昇華されたもの。
 ヴラドが領土と見なした陣地から発生する、最大二万本の杭はまさしく脅威だろう。
 だがこの宝具の恐るべき点は、無数の生える杭だけではない。

 この宝具は、杭そのものではなく逸話が宝具に転じたものだ。
 即ち、トルコ兵を串刺しにしたという事実こそが本質である。
 ヴラドの攻勢、それにより少しでも傷つけば最後、その"本質"が再現される。
 心臓を杭で串刺しにされたという"結果"が、対象に襲い掛かるのだ。

 そしてその力は、アーカードに対してこそ最大の効果を発揮する。
 吸血鬼ドラキュラの祖の宝具が、最強の吸血鬼狩りとして牙を剥くのである。

「……そうか。終わったのだな」

 息も絶え絶えなヴラドの姿を見つめながら、アーカードが言った。
 視界に映る人間は、それまで目にしたどんな宝石よりも輝いているように見える。
 事実、アーカードにとっては、ヴラドの人間性こそがどんな財宝よりも愛おしかった。

909 狂い咲く人間の証明(中編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:58:16 ID:ZcbxchO20

「そうだ、お前になら、構わない。
 この心臓をくれてやっても、悔いはないさ」

 そう話すアーカードの顔は、かつての吸血鬼のそれとはあまりに程遠い。
 まるで、外で遊び疲れた子供が、眠りに就くような表情だった。
 あまりにも弱々しい、ちっぽけな童の様にしか見えなかったのだ。

「なんだそれは。貴様は人間に……滅ぼされたかったのか?」
「おれの様な化物は、人間である事に耐え切れなかった化物は、人間に倒されねばならない。
 魂を取り込み続けねば生きられん弱い化物は……最期に意思の生物に殺される、それだけだ」

 意思の生物とは即ち人間であり、同時にヴラドの事であった。
 なんという事だと、彼はアーカードへの評価を改める他なかった。
 人道を逸した吸血鬼は、人の意思に何よりも憧れていたのである。

 吸血鬼の身体が朽ちていく。鮮血の伝承が終わりを告げる。
 不死の王が命を散らし、伝説に終止符を打つ時がやって来た。

「なあ、"私"よ」
「なんだ、"余"よ」

 傷だらけの人間を、アーカードは愛おしそうに見つめていた。
 死に行く怪物を、ヴラドは憐れむ様に見つめていた。

「人間とはやはり、いいものだな」
「……当たり前だ」

 そんな当然の事を聞くなと言わんばかりに答え、小さく笑った。
 それに釣られる様にして、アーカードも静かに笑みを作る。
 それを最期に、吸血鬼は眠る様に世界から消滅した。

「さよならだ、"伯爵"」

 人間に滅ぼされたがった吸血鬼は、ただの人間に敗れ去った。
 それはきっと偶然でなく、必然の物語。

910 狂い咲く人間の証明(後編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 00:59:06 ID:ZcbxchO20

 ◇◇◇


 遠くからでも伝わってくる殺気が、急激に縮まっていく。
 闘いは終わったのだと、アンデルセンは直感で理解した。
 どちらが勝ったにせよ、勝者の姿をこの目で確かめる必要がある。

 二人の決着がついた以上、最早この場に留まる理由はない。
 踵を返し、戦場跡へと向かおうとするアンデルセン。
 そんな彼の脚に、あの男の声が掴みかかった。

「……待て、よ」

 ジョンス・リーの、掠れた声だった。
 声の方向に目を向ければ、倒れ伏した彼の姿を認知できる。
 つい先程まで、この男は地面に突っ伏したままだった。

 何故彼が斃れているか。理由は簡単、魔力の過剰消費である。
 アーカードが発動した死の河は、発動に膨大な魔力を必要としている。
 たかだか令呪一画を使った程度では、その量は到底賄えない。
 そして、大量の魔力消費の代価は、肉体への負担となって現れるのだ。

「まだ、俺との勝負、は……ついてねえ、だろ」
「その身で何が出来る。立っているのもやっとだろう」

 アンデルセンの言う通り、ジョンスは満身創痍であった。
 彼の身体に少しでも触れれば、たちまち無様に地を転がる羽目になるだろう。
 こんな有様では、もう闘争を繰り広げる以前の問題であった。

「知るか、んなもん。俺はな……戦いに、来たんだ」

 そう言って構えを取ろうとして、また大きくよろける。
 彼の眼は虚ろで、アンデルセンを見据えているのかすら定かではない。
 顔色も死人の様に真っ青で、次に目を閉じた時が最期ではないかと疑ってしまう。

「どう、した?死に、かけに……敗ける、の、が……怖いの、かよ」
「ほざけ。これは死期を早めるだけの闘争だ。ただ死にに行くだけの特攻だ」
「……だろう、な。でもな、ここで逃げたら……それこそ、恥だろ?」

 そう言って、ジョンスは力なく笑ってみせた。
 誰がどう見たって、それが強がりである事が分かってしまえる。
 死に体の身体に鞭打って、男は無理くり言葉を吐き出す。

「安い、プライド……こいつが、残ってるなら……俺は、戦える」

 己の中にプライドが残っているのなら、それを支えにして立ち上がる。
 例えどれだけ安っぽいものだろうが、両の脚で立つには上々だ。
 そして、地面に立てるのであれば、後は拳を構えるだけである。

 例え、どれだけ絶望的な状況に身を置かれていようとも。
 その身に安いプライドがあるのなら、立ち向かわねばならない。

「……一撃で、終わるんだ……長くは、かからねえ……」

 ゆっくりと、僅かな力を振り絞って、ジョンスは構えをとる。
 右足を相手に真っ直ぐ向け、左足は斜め左後ろにずらす。
 腰を落とす事で重心を移動させ、両の手は腰に移動させる。

911 狂い咲く人間の証明(後編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 01:00:14 ID:ZcbxchO20

 ジョンスはこの構えしかした事がないし、これからするつもりもない。
 彼にあるのは八極拳だけ。一撃で敵を屠る必殺の拳法が、彼の唯一の武器。
 これより最強の八極拳士が、最後の花火(ばくはつ)を披露する。

 息を深く吸い、そして大きく吐き。
 虚ろな眼を大きく見開き、そして。

「――――行くぜ、神父」

 瞬間、ジョンスの全身がアンデルセンに肉薄する。
 足元のコンクリートが罅割れ、空気が大きく振動する。

 ジョンスの動きは、これまでに一度も無い位に滅茶苦茶で。
 元気だった頃の彼が見れば、なんだそりゃと失笑する位に下手糞で。
 けれども、そこに込められたプライドは、どの闘いよりも剥き出しで。

 故に、その一撃はアンデルセンに届くのだった。
 技を打ち込まれた彼の身体は、そのまま真後ろに吹っ飛んでいく。
 バチカン最強の異端狩りに、己の全力を知らしめるには十分だった。

 されど、アンデルセンがこれで斃れたかと言えば、それは別問題だ。
 アーカードが好敵手と認めていた男が、この程度でくたばる訳が無い。
 何より、他ならぬジョンスのコンディションがあまりに悪すぎる。

 何事もなかったかのように立ち上がる神父を見て、もう一度構えをとろうとして。
 その途端に、ジョンスの口元から真紅の液体が吐き出された。
 いや、口からだけではない。鮮血は心臓からも流れ出ている。

 アンデルセンがジョンスの一瞬の隙を突き、手刀を以て彼の身体を抉ったのだ。
 例え素手だろうが杭だろうが、心臓を貫かれてしまえば最後、絶命は避けられない。
 満身創痍で叩き込んだ一撃、その代償はあまりに重かった。

「イケると思ったんだが、な」

 そんな言葉を残して、ジョンスはいよいよ地に伏せた。
 どこか満足げな笑みを浮かべながら、膝から崩れ落ちていく。
 それが、誰よりも闘争も求めた男の終焉だった。

「……そうか」

 既に事切れた男を見つめ、アンデルセンは気付く。
 彼もまた、どうしようもない程に"人間"だったのだ、と。
 その人間性こそが、あの吸血鬼を召喚する"呼び水"となったのだろう。

「褒めてやろう眷属め。お前もやはり、"人間"だったとな」

912 狂い咲く人間の証明(後編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 01:00:50 ID:ZcbxchO20

 ◇◇◇


 薄れゆく意識の中、ジョンスは一人思う。

 勝ち目はないだろうな、とは思っていた。
 何しろこちらの体力は限界で、相手はほぼ健康体そのものなのだ。
 そんな状態では、死合の結果など目に見えてしまっている。

 勝敗が分かり切った試合に臨むなど、愚策と言う他ない。
 されど、そこから尻尾を巻いて逃げ出すなど、それこそ自身のプライドが許さない。
 自分の命が潰えるより、ちっぽけなプライドを捨てる方が、堪らなく恐ろしかった。

(まあ、楽に死ねるなんて思っちゃいなかったしな)

 戦い続ける人生を選んだのは、他でもない自分自身だ。
 ベッドの上で眠る様に息を引き取るなど、元より想像もしていない。
 いずれこういう日が訪れるのだろうな、という覚悟だってできていた。

 勿論、この聖杯戦争だって勝ち残る気でいたし、最後にはアーカードと闘う予定だった。
 その上で願いを叶え、かつて敗れた相手――深道に挑むのが、ジョンスにとっての最上だ。
 けれど、その予定が丸ごと潰えてしまった以上は、仕方ないと考えるしかない。

 志半ばではあるが、通すべき信念(プライド)は通せたのだ。
 やり残した事は数あれど、悔いは無い人生だった。
 そう自分を納得させながら、残り僅かな意識をも手放そうとして、

『じゃあうち、カレー食べたいん!』
『なんだそりゃ。そんなんでいいのか』
『うん!八極拳とあっちゃんと一緒に食べるん!』

 ジョンスの脳裏に、小さな子供との会話が浮かび上がってきた。
 あの無垢な少女はきっと、今もアーカードと自分を待ち続けているのだろう。
 二人が二度と帰らないなんて、露とも思ってないに違いない。

 アーカードが消滅すれば、きっとれんげも消えてしまうだろう。
 あの無知な子供は、聖杯戦争の事も、自分達の顛末も知る事もなく、その生涯を終えるのだ。
 自分が消滅するだなんて、それさえ理解する事も出来ないまま。

 ――ああ、くそ。

 結局、カレーを食べる約束をすっぽかしてしまった。
 死に際にそんな事を考えていた己に気付き、思わず自嘲する。
 どうやら自分は、知らぬ間にれんげの毒にやられてしまっていたらしい。
 日常という名の『意外の毒』は、いつの間にやら全身に回っていたようだ。

 こうしてジョンスは、納得のいく人生に小さな後悔を一つだけ残して。
 この聖杯戦争、引いてはこの世界そのものから、独り静かに降りていく。

 ――約束なんか、するもんじゃねえな。

 あれだけ闘争を求めていた癖に、最期に考えるのがこれか。
 未練はないと言ったが、なんて締まりのない末期だろうか――――。

913 狂い咲く人間の証明(後編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 01:01:44 ID:ZcbxchO20

 ◇◇◇


 廃教会の跡地にいたのは、仰向けで倒れているヴラド一人だった。
 誰の目から見ても、彼が瀕死の状態にあるのは明らかである。
 光の粒子となって消える時が来るのも、そう遠くはない。

 そこに訪れたのは、彼のマスターであるアンデルセンだった。
 周囲を見回し、その場にヴラド独りしかいない事を確認する。

「私は、成し遂げたぞ」

 息も絶え絶えの状態で、それでもヴラドは言葉を紡ぐ。
 彼の言葉通り、見事人間は吸血鬼を打ち倒した。
 アーカードは自身の望み通り、ただの人間に滅ぼされたのである。

「だが、許せ、神父。お前の願いは、叶えられそうも、ない」

 総身から光が舞うヴラドの肉体は、崩壊を始めている。
 如何なる治癒を施したとしても、それを止めるのは不可能だろう。
 そして、サーヴァントの消滅はマスターの消滅と同義だ。
 ヴラドが消えたら最後、アンデルセンもまた消える運命にある。

「王として、臣下の望み、叶えるべき、だったが……」

 名残惜しそうに話すヴラドに対し、アンデルセンは首を横に振った。

「いいのだ、王よ。例え道半ばであろうと、それに見合うだけの物を見せてもらった」

 ただの人間の王が奮起し、分身たる不死の王を滅ぼさんとする戦い。
 その結果を見届けただけで、この場に来た意味はあった。

「もういいのだ、王よ。お前はただ、誇りを抱いて眠ればいい」

 それを耳にしたヴラドは、小さく笑ってみせた。
 さながら、それは誤りだと言わんばかりであった。

「……眠る、だと……?違うな……違うとも……。
 夢ならもう……見せて、もらった……では、ないか……」

 そう答えるヴラドに、アンデルセンは僅かに困惑した様な顔を見せる。
 そんな家臣の様子を尻目に、王は聖杯戦争の記憶を回想する。

 誰よりも吸血鬼(アーカード)を知る男に召喚され、
 それ故に忌々しき吸血鬼の伝承から解放され、
 ひたすらに憎み続けた吸血鬼との一騎打ちの機会を得て、
 そしてその末に、ただの人間として勝利を獲得したのだ。

「お前が……見せたのだ……余に……この一夜の夢を…………」

 このヴラド三世の物語は、きっと誰にも知られる事はない。
 ムーンセルの記憶として保管され、幾億もの結果の一つとして処理されるのだろう。
 だからきっと、これは夢なのだ。アンデルセンがヴラド三世に見せた、短くも尊い――――。

「…………ああ…………良い夢、だった…………」

 至上の幸福を携えながら、王の肉体は静かに消滅していった。
 アンデルセンという家臣に見守られながら、彼はその物語にピリオドを打ったのだ。

 ヴラド・ツェペシはきっと、この世界で息をする誰よりも、満たされながら消えていった。

914 狂い咲く人間の証明(後編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 01:02:20 ID:ZcbxchO20


 ◇◇◇


「……調停者の身分で覗き見か」

 ヴラドが去った後、ぐるりと振り返ってアンデルセンが嘯いた。
 そのドスの利いた声に反応して、一騎のサーヴァントが実体化する。
 ルーラーのサーヴァント、ジャンヌ・ダルクである。

「申し訳ありません。戦闘の介入は避けるべきと静観していたのですが」
「構わん。全て終わったのだ、何もかもがな」

 そう、この場で行われるべき闘争は、残らず終わってしまった。
 今更ルーラーが出てきた所で、何かする事がある訳でもない。

「貴方のサーヴァントから話は聞いています。アーチャーと決着をつけたい、と」
「それがどうしたというのだ。咎があれば俺が受けるが」

 「いえ、そうではなく」と、ジャンヌが否定の言葉を口にした。
 未だ威圧感を放つアンデルセンに対し、彼女は一切気圧される気配を見せない。
 万物を平等に統治する調停者の英霊、それに相応しい気力と言えた。

「アーチャーは処罰を受けるべきサーヴァントを匿っていました」
「ベルク・カッツェか」
「そうです。当初は彼等への警告と罰則を行う為に此処に来たのですが……」

 そこで何かを予測したのか、アンデルセンの殺意が膨れ上がった。
 並みのサーヴァントでさえ怖気づきかねないそれを浴びても、ルーラーは顔色一つ変えていない。

「まさか課したのか、奴等に足枷を」
「いえ。ランサーがそれだけは止めろ、と」

 それを始まりに、ルーラーはランサーとの話を述べ始めた。
 必ずあの吸血鬼を違反者諸共に滅ぼしてみせると、ランサーが宣言し、
 それを聞きいれたルーラーも、決着が着くまで静観すると判断したのだ。

「……感謝する。王の戦いを穢さず、見守ったその判断に」

 話を聞き終えたアンデルセンから、殺意が霧消した後。
 彼は深々と頭を下げ、ジャンヌへの感謝の言葉を口にしたではないか。
 これにはジャンヌも予想外だったのか、頭を上げてくださいと思わずせがむ。
 頭を上げたアンデルセンは、ジャンヌの瞳を真っ直ぐ見据えながら、

「調停者よ、最後に一つ、俺の頼みを聞いてくれるか」

915 狂い咲く人間の証明(後編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 01:02:51 ID:ZcbxchO20

 ◇◇◇


 れんげは待っていた。自分と一緒にいてくれる大人達を。
 あっちゃん達が何をしに行くかは知らないが、時間はかからないと言っていた。
 それならきっと、そんなに大それた事でもないのだろう。

 二人が帰ってきたら、ひとまず睡眠をとりたかった。
 いくら昼寝をしていたとしても、深夜まで起きるのは流石に辛いものがある。
 留守番のご褒美のカレーは、そうして休みを挟んでからだ。

 どんなお店に連れてってくれるのだろうか。
 都会のカレーはどんな味がするのだろうか。
 おかわりやトッピングは自由なのだろうか。
 そんな事ばかりを考えて、早くも涎が垂れてきそうになってしまう。

 もし二人が自分の町に来たら、なんて事を想像してみる。
 都会暮らしらしい八極拳は、村の空気にどんな反応を示すのか。
 どう見ても外国生まれなあっちゃんは、村を気に入ってくれるだろうか。

 そこで、大事な友達を忘れている事に気付いた。
 かっちゃんもまた、あっちゃんと一緒に森の向こうに行っているのだった。
 こっそりあっちゃん達について行けるなんて、羨ましささえ覚えてしまう。

 早く帰ってこないかな、と何度も何度も思えども、二人は帰って来ない。
 もしかしてまた置いてかれたのではと、どんどん不安になってきて。
 本当に置いてけぼりにされたらどうしようと、何だか泣きたくなってきて。

「……本当にこんな所にいたのですね」

 二人が入って行った道から、見た事もない綺麗な人が出てきて。、
 出かけていたれんげの涙が、一気に引っ込んでしまった。

916 狂い咲く人間の証明(後編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 01:03:34 ID:ZcbxchO20
 ◇◇◇


 アーカードは、少々どころかかなり特異なサーヴァントである。
 何しろこの吸血鬼は、座からではなく現世から召喚されているのだ。
 しかも、丁度自分の中の魂を殺し続けている真っ最中に、だ。

 その時点でのアーカードは、"生きてもないし死んでもいない"虚数でしかない。
 言ってしまえば、この世界に漂う大気と大差ない状態にあるのだ。
 生者として存在を視認する事も出来ず、死者として座に登録する事さえままならない。

 だがアークセルは、この問題を簡単に解決する手段を有していた。
 予めアーカードの零基を造っておき、その中にアーカードという名の虚数を流し込んだのだ。
 即ち、零基で存在を固定させる事で、サーヴァントとして現界したように見せかけたのである。

 零基という器を以てして、ありもしないモノを無理やり召喚した存在。
 それこそが、弓兵のサーヴァント・アーカードの正体だった。

 そして、アーカードの零基が消滅した現在、彼は"生きてもないし死んでもいない"状態に戻っている。
 確かに彼は敗退して生きていないが、しかし決して死んでいるという訳ではない。
 生と死が曖昧になっている今、契約も曖昧ながら継続されているのだ。

 つまり、宮内れんげとアーカードの間で繋がっているパスは、未だ生きている。
 そしてそれ故に、この少女はアークセルからの排除を免れているのだった。

 本人であるれんげはおろか、ルーラーであるジャンヌさえ知らない事実。
 この奇怪な奇跡を目にして、ジャンヌも疑問符を浮かべずにはいられなかった。

「お姉さん誰?」

 だがそれよりも、無垢な瞳で語り掛ける少女に対応すべきだろう。
 なるべく優しい声色を心掛けながら、ジャンヌは口を開いた。

「私はこの聖杯戦争を取り仕切るルーラー、ジャンヌ・ダルクと言います」
「せいはいせんそう……あ、ふぇすてぃばるの事なん?」
「ふぇすてぃばる、ですか?」
「うん、あっちゃんが言ってたのん。わしょーいってお祭りをみんなでやるん!」

 聖杯戦争をお祭りと思い込んでいるれんげを見て、ジャンヌは衝撃を受ける。
 まさかこの子供は、ベルク・カッツェの違反はおろか聖杯戦争自体を知らないのか。
 そんな何一つ理解していない者が、どうしてこの殺し合いに巻き込まれているのだ。

「ねえお姉さん、あっちゃんと八極拳どこ行ったか知らないのん?」
「その、あっちゃんというのは一体……」
「あっちゃん、神父にアーカードって名乗ってたん」

917 狂い咲く人間の証明(後編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 01:03:58 ID:ZcbxchO20

 それを聞いて、ただ絶句する他なかった。
 この子供は、アーカードが帰ってくると信じ込んでいるのだ。
 その男は、もうこの冬木から消え去ってしまったというのに。

「あっちゃん達、ここで待ってたらカレー食べさせてくれるって言ってたのん。
 だからうちここで待ってるん……ねえお姉さん、あっちゃんいつ戻ってくるん?」

 もう戻らない男達を待ち続ける少女に、何と答えればいいのか。
 彼等はもういないのだとありのままに伝えるのは簡単だ、しかしそれはあまりに残酷すぎる。
 聖処女は嘆きを心中に押し込み、いつもと変わらぬ優しい顔で、

「彼等は皆、少しばかりこの街を後にするようです。
 数日後にまた戻ってくるから、その時まで待っていてほしいと」

 ジャンヌは、この聖杯戦争で初めての嘘をついた。
 それは人を傷つけない為の、優しくて悲しい嘘。

「……それほんとなん?」
「ええ、本人達がそう伝えてほしいと」

 それを聞いたれんげは、不機嫌そうに俯いた。
 確かに不服だろうが、今はそれを信じてもらう他ない。

「"あっちゃん"でしたか。彼がしばらくは私と行動してほしい、と」
「分かったのん。でもうち、どこで寝ればいいのん?」
「それなら教会へ行きましょう。あの場にいれば安全です」

 ひとまずは、彼女を教会に連れていくとしよう。
 あの場所であれば、この子が他者に襲われる心配もない筈だ。
 カレンが何か言うだろうが、子供を外に放り出す程冷酷ではないと信じたい。

「ねえ、お姉さん」
「なんでしょうか?」
「うちな、あっちゃん達とカレー食べに行く約束してるん。
 だから、カレーはみんなが帰って来た時まで我慢するのん」

 歩き出そうとした時に、れんげがそんな事を言ってきた。
 彼女はあくまで、この街で最初にできた友達との約束を守る気であったのだ。
 それを聞いたジャンヌは、隣で歩こうとするれんげの手を、しっかりと繋いだ。

918 狂い咲く人間の証明(後編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 01:04:26 ID:ZcbxchO20

 
【D-9/森林付近/二日目 未明】

【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康
[装備]:聖旗
[道具]:???
[思考・状況]
基本:聖杯戦争の恙ない進行。
 0.れんげを教会で保護する。
 1.???
 2.その他タスクも並行してこなしていく。
 3.聖杯を知る―――ですか。
[備考]
※カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。
※Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。
※カッツェに対するペナルティとして令呪の剥奪を決定しました。後に何らかの形でれんげに対して執行します。
※バーンに対するペナルティとして令呪を使いました。足立へのペナルティは一旦保留という扱いにしています。
※令呪使用→エリザベート(一画)・デッドプール(一画)・ニンジャスレイヤー(一画)・カッツェ(一画)
※カッツェはアーカードに食われているが厳密には脱落していない扱いです。
 サーヴァントとしての反応はアーカードと重複しています。

【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]ルリへの不信感、擦り傷
[令呪]残り1画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]十円
[思考・状況]
基本:かっちゃん!
 1.かっちゃんに友達できてよかったん……。
 2.るりりん、どうして嘘つくん?
 3.はるるんにもあいたい
[備考]
※聖杯戦争のシステムを理解していません。
※昼寝したので今日の夜は少し眠れないかもしれません。
※ジナコを危険人物と判断しています。
※アンデルセンはいい人だと思っていますが、同時に薄々ながらアーカードへの敵意を感じ取っています。
※ルリとアンデルセンはアーカードが吸血鬼であることに嫌悪していると思っています。
※サーヴァントは脱落しましたが、アーカードがカッツェを取り込んだことにより擬似的なパスが繋がり生存しています
 アーカードは脱落しましたが、彼は"生きてもいないし死んでもいない"状態に還ったので、かろうじてパスも生きています。

919 狂い咲く人間の証明(後編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 01:05:08 ID:ZcbxchO20


 ◇◇◇


『この森を抜けた先に、恐らく子供が独りで待っている』
『狂信者の俺には最早叶わんが、どうかあの子に寄り添ってはくれないか』

 アンデルセンは、最期にルーラーにそう頼んでいた。
 あの生真面目な少女の事だ、きっと頼みを聞き入れてくれるだろう。

 アーカードという真祖が消えた今、宮内れんげはただの少女に過ぎない。
 そして主を喪った今、彼女は数時間の内に消滅する運命にある。
 つい昨日までか弱い子供に過ぎなかったれんげに、孤独な最期はあまりに酷であろう。
 かつて彼女を拒絶した自分には無理でも、ルーラーならば寄り添える筈だ。

 アレクサンド・アンデルセンは、異端狩りの狂信者だ。
 けれども同時に、子供達の善き父親代わりでもあった。

 ヴラドを喪った今、アンデルセンの死はもう避けられない。
 他のサーヴァントと再契約を結べば生き長らえれるが、もう聖杯戦争に関わる気もない。
 かつて廃教会があったこの廃墟で、最期の時を過ごすとしよう。

 そう、これでよかったのだ。
 死者の舞踏は太陽と共に姿を晦まし、生者の時間が再び始まる。
 地獄へ堕ちる背信者は、ここで役目を終えるべきなのだ。

 けれど、その前にやるべき事がある。
 一介の神父として、誇り高き人間を弔わねばならない。

「慈しみ深い神である父よ、貴方が遣わされたひとり子キリストを信じ、
 永遠の命の希望の内に人生の旅路を終えたヴラド・ツェペシュを、貴方の手に委ねん」

 アンデルセンが紡ぐのは、天へと昇る死者を見送る言葉。
 神の祝福があらん事を祈り、その者を"人"として尊ぶ詩。
 人間として化物を滅ぼした王を、ただの人として弔う。
 それがアレクサンド・アンデルセンという神父に今出来る、唯一の行動だった。

「我らから離れゆくこの兄弟の重荷をすべて取り去り、
 天に備えられた住処に導き、聖人のつどいに加え給え」

 明日になれば、アンデルセンは消えて無くなってしまうだろう。
 念の為、孤児院の従業員には前以て話をつけてある。
 子供達には悲しい思いをさせるだろうが、きっとすぐに立ち直れる筈だ。

「別離の嘆きの内にある我らも、主キリストが約束された復活の希望に支えられ、
 貴方の元に召された兄弟と共に、永遠の喜びを分かち合うことがあらん事を祈って」

 アンデルセンは祈る。闘争に勝利した王の、安らかなる眠りを。
 奇跡の様な巡り合わせで生まれた、無辜の怪物ですらないヴラド三世。
 きっとあの様な事は、これから先万に一つとして在り得ないだろう。
 故に、アンデルセンは弔うのだ。

「わたしたちの主イエス・キリストによって―――」

 そしてもう一つ。聖杯に託そうと考え、しかし諦めていた願い。 
 それは異教徒の消滅でもなく、カトリックの繁栄でもなく。
 孤児院を営むただの人間が抱く、大きくも美しき願望。

「―――Amen」

 どうか、全ての子供達が、幸福でありますように。






【ジョンス・リー@エアマスター 死亡】
【アレクサンド・アンデルセン@HELLSING 消滅】
【ランサー(ヴラド三世)@Fate/apocrypha 消滅】

920 狂い咲く人間の証明(後編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 01:05:30 ID:ZcbxchO20


……



…………



………………



……………………



…………………………



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……………………………………



…………………………………………



………………………………………………



……………………………………………………あれから、だれだけ経っただろうか。

921 狂い咲く人間の証明(後編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 01:06:00 ID:ZcbxchO20
 自分の中にいる数百万もの魂を、ただひたすらに殺し続けてきた。
 血の一滴も飲まずに、逃げ惑う腰抜けな魂を狩って裂いて千切ってきた。

 逃げ続ける腰抜けの魂を狩るのは、堪らなく退屈だ。
 そして、その退屈しのぎに思い出すのが、かつての記憶だった。

 それは、人として生き続けたヴラド三世との、己の存在を賭けた一騎打ち。
 人間である事を誇り、そしてそれを尊いものとしたあの男の信念は、身震いする程美しくて。
 ただの人間が見せてくれたあの輝きは、しっかりとこの眼に焼き付いている。

 そして、その度に痛感するのだ。
 やはり人間は、化物なんかより遥かに素晴らしいのだ、と。

 やたらと髪の赤い長身の男を仕留めると、自分の中の魂は一人と一匹になった。
 それは即ち、アーカード本人の魂と、生と死の狭間を飛び交う確率世界の猫の魂。
 これでようやく、自分は"どこにでもいれて、どこにもいない"状態になれたのである。

 虚数の塊となったあの日から、きっと数十年は経っている筈だ。
 いつになったら帰ってくるのだと、主はきっと酷く腹を立てているだろう。
 あれから小皺はいくつ増え、どれだけ美しく老いたのか、見物である。

 ああ、それにしても喉が渇いて仕方がない。
 飲まず食わずで数十年は、流石に堪えるものがあるか。
 挨拶を先に済まそうと思ったが、これでは土壇場で血を吸いかねない。
 本人を肉眼で捕えた途端、吸血衝動が膨らまなければいいのだが。

 もう邪魔する者はどこにもいない。
 自分はもう何処にもいないし、何処にだっていれる。
 三十年前に閉じた瞳を、もう一度開く時が来た。

 さあ、目覚めの刻だ。

922 狂い咲く人間の証明(後編) ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 01:06:36 ID:ZcbxchO20









「おかえり、伯爵」



「ただいま、伯爵」








【アーチャー(アーカード)@HELLSING 帰還】

923 ◆WRYYYsmO4Y :2017/02/20(月) 01:07:04 ID:ZcbxchO20
以上で投下終了となります。

924 名無しさん :2017/02/20(月) 01:26:49 ID:JXeZXMP.0
投下乙です。
二次二次の名簿が決定された時から誰もが一度は妄想したこの勝負。お見事の一言です。
男は帰るべき場所のために幼き少女と約束を交わす。これから起きる戦闘前最後のささやかな日常。
互いの従者が敗北するなど思わず主は黙ってその戦いへ見送るのがかっこいい。彼らには彼らの戦場があって誰にも邪魔されたくない戦いがそこにはあった。

吸血鬼同士の決戦は血で血を洗うようなに最初から全開でどんどん惹き込まれました。
お約束の台詞回しから遂に対峙した余と私。一つ一つの文が凝っていて続きが早く読みたくなる。
アーカードの声一つで一斉に動き出す影、死の河がどれだけ増幅しようがあいつはこんなところで終わらないと。
勢いがありつつ終焉の時にはどこか儚い切なさすら感じる幕切れ。完全燃焼、その胸は空洞なんかじゃなくていっぱいの満足と共に消えたでしょう。

それはジョンスも同じで、最後まで己から目を背けずに生命を燃やす。馬鹿だけどかっこいい。
最後の最後まで己を貫き通す人間は馬鹿で、かっこよくて、最高だ。
作品も最後の最後まで目が離せない。これがHELLSINGとして最高の終わり方でした!
なんか感想っぽくありませんが改めて投下乙です!

925 名無しさん :2017/02/20(月) 01:42:06 ID:mfmjgy/Q0
投下乙です!
ヴラドVSアーカード、人間VS吸血鬼。己でありながら己とは最もかけ離れた存在との闘いはやはり熱い!死の河を突き進んでくる「人間」ヴラドの姿は読んでいるこちらにも眩しく映る…
そしてやはり、その結末は「化物」を「人間」が討ち取るという、ある意味では互いに望んでいたかもしれない幕引き。
>「人間とはやはり、いいものだな」
>「……当たり前だ」
この掛け合いも、やはり「人間」と「人間に憧れた化物」、両者の最期の会話として最高のものだったと感じました
そして、ほぼ死に体ながら、それでも「安いプライド」の為に立ち上がらずにはいられなかったジョンス。アーカードも感じたように、何処か先のヴラドにも重なるところのあるその姿は、神父も認めた通りまさしく「人間」。
その神父はといえば、人間の王に神父としての弔いを送り消える…だけでなく。「子供」であるれんちょんをジャンヌに託すのは、なるほどこの人が誰より適任だ。
約束は守られることなく、その存在すらも知らない消失へのカウントダウンをただ進むれんちょんと、そこに並び立つジャンヌの姿は儚い。れんちょんに幸あれ…!
…そして、最後のアーカード。参戦時期の都合からこうして帰還し、そして原作ラストへと繋がるとはなんともニクい演出。ヴラドに投げかけた最期の言葉、「さよならだ、伯爵」はここに掛かってたのか…!
総じて、まさしくタイトル通り「立ち向かう人間」の美しさをこれでもかと感じられた話でした。大作をありがとうございました!

926 名無しさん :2017/02/20(月) 01:50:51 ID:BP.iYyQY0
投下お疲れ様でした。鮮血の伝承、ここに、終幕。
よくネタにされてたたったひとつしかスキルのないヴラドだけど、この話はそれすらも、ただの人間としての在り方のように書いていて凄かった。
零号による領土の上塗りを前に、領土がなければ自分の身体からしか杭を出せないのを、なればこそこの身こそが最後の領土、護るべき人間そのものと言い切ったのもそう。
極刑王の串刺しにしたという追撃を活かしたことだってそう。
このヴラド三世の、無辜の怪物を、鮮血の伝承を手放せた、ランサーであるヴラド三世を、設定も絡めまくって人間として書ききった作品だった。
誰よりも人間に倒されることを望んだ化物が、誰よりも化物を滅ぼすことを望んだ人間に倒される。
これはそんな物語。
そして共にヴラド三世だからこそ、最後にヴラドも評価を改めたように、ヴラドとアーカードはそこに通じるものがあったという最後もまた美しい。
アーカードに想起させた安いプライドを最後まで貫いたジョンス。
神父として人間を弔い、子どもたちの幸せを祈ったアンデルセン。
果たされぬ約束を待ち続けるれんげ。彼女の残った理由もあの時期から呼ばれたアーカードならではで。
どれもこれも素敵な物語だった。
でも、何よりも、「さよならだ、"伯爵"」が好き。さよならだ我が主やおかえり伯爵を思い出させた。
その上でそのおかえりとただいまな最後に持ってくのもまたこれ以上無い〆でした。

927 名無しさん :2017/02/20(月) 02:19:36 ID:frFlRs2Q0
投下乙!

みんなが考えていたヴラド三世VSヴラド三世
これは予想できるありふれたカード、という意味ではない
参加者を見た時点で誰もが考えるカードであり、『やらねばならない』カードである
たとえば実在する格闘家をモチーフとする異種格闘漫画に、馬場と猪木をモデルとしたキャラが出てきたとして――そいつらが、試合しないでいいワケがねェだろォォォォッッ!
というくらいには、誰もが『あるだろう!』と予想するカードであり、だからこそハードルが高かったカードである

それを! 誰もが期待して、誰もが楽しみで、誰もが心のなかに高いハードルを築いていたカードを! 予約し――書き切っている
冒頭から今回はその話しだぜって感じで始めて、その上で書き切っている
それだけで感動でしょう。それだけで十分でしょう。しかし『それだけ』ではない
なにせ、二人のヴラド三世を『書いた』一作ではなく、『書き切った』一作であるのだから

自分と自分であり、化物と人間であり――いられなかったヴラド三世と、あり続けたヴラド三世
本来、その時点で勝ち目は決まっている
片方がヘルシングという作品のアーカードであるのなら、もうそれだけで勝敗はわかってしまう
ヘルシングを読んだ全員がわかる。わからないのは読んでいない全員であり、わかるのは読んだ全員である

『それを選んだ』ヴラド三世であれば、『それから逃げた』ヴラド三世に夜明けを見せねばならない

――のだが、それはあまりに難しい。
なんと言っても、吸血鬼は力が強い。ただの人間では到底敵わぬほどに、力が強い

しかし、しかし――だからこそ、吸血鬼の胸に杭を立てるのは、いつだって――――

アーカードは英霊の座から召喚されたサーヴァントではなく、己のなかの人間を殺し切り、あとは犬を殲滅していただけの化物だ
安いプライドなき犬を殲滅する作業に明け暮れていたアーカードは、安いプライドに引き寄せられ、そして安いプライドでもって打倒される
安いプライドだ。安いプライドがあれば、なんとだって、化物とだって戦えるんだ
そんなヤツらに会うために、彼はここに来たのだ。そんなヤツらがもういないところから、彼はここに来たのだ
そして、打倒されてなお、しかしアーカードは敗北した化物として帰還する
帰還をする/してしまう/する他ない化物に対して、人間は満足をして/悔いを残して/希望を抱いて終わりを迎える
人間として今回倒れた三人に帰還はないが――まさしく、それこそが証明だ

だからこのSSを読んだ俺は、安いプライドの前に倒れた吸血鬼と同じ感想を抱くのだ

素晴らしい。名作。感動をした。GJである。よかった。たまらん。グッと来た。……なんて言葉では足りないのだ! くそう!

928 名無しさん :2017/02/20(月) 02:23:01 ID:5N/FkU160
投下お疲れ様でした
期待の大一番ヴラド対決ここに決着ッ……!
終わってみればさもありなん、化け物に勝つのはいつだって人間だ
正しく血で血を洗う激闘は収まるところに収まったとも言えますが、それだけに熱い物語になっていたと思います!
特にカズィクルベイを死の川で塗りつぶす、領土を侵すクロスオーバーは見事と感じ入りました
決着の果てを良い夢だったと表するヴラド3世の言葉にもグッとくる
征服王イスカンダルは王とは諸人を魅せ、共に夢を見る者と言っていましたが、そういう意味でも極刑王と不死王の主従ら素晴らしい王と従者だったなと
まさしく王道の傑作でした
こんな作品を書けるなんてやはり人間は素晴らしい

929 名無しさん :2017/02/21(火) 23:40:18 ID:yuOUQQME0
投下、お疲れ様です
ヴラド同士の対決、決着ッ……!
このロワが始まってからずっと、この戦いを待ち望んでおりました。
何年も経過した末の決着、本当に満足です。素晴らしい。

930 名無しさん :2017/03/09(木) 10:36:47 ID:9v8IPpGI0
乙です
英霊のコピーであるサーヴァントにとっては、聖杯戦争はただ一晩の夢なんだよね
でもその一晩の夢に己のプライドと願いを掛け本気で戦うのが儚くて熱い
そしてなんてことだ。二次二次はヘルシング最終回の前日譚だったのか

931 名無しさん :2017/03/21(火) 21:10:38 ID:G0THNzsI0
FGOに人が持っていかれつつある中、どう動くか

932 名無しさん :2017/09/24(日) 13:17:23 ID:gy9hhBmM0
ついに動き止まったな


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