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仮面ライダーオーズバトルロワイアル Part4

1名無しさん:2015/01/10(土) 19:56:27 ID:lo8EFRkE0
当企画は、仮面ライダーオーズを主軸としたパロロワ企画です。
企画の性質上、版権キャラの死亡描写や流血描写、各種ネタバレなども見られます。
閲覧する場合は上記の点に注意し、自己責任でお願い致します。

書き手は常に募集しております。
やる気さえあれば何方でもご自由に参加出来ますので、興味のある方は是非予約スレまで。

したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15005/

まとめwiki
ttp://www18.atwiki.jp/ooorowa/

302 ◆m4swjRCmWY:2015/08/28(金) 22:08:16 ID:S..ROBTg0
感想ありがとうございます!
修正箇所は収録の際に修正しておきます、ありがとうございます

303 ◆z9JH9su20Q:2015/09/21(月) 18:04:39 ID:6ZS6zWG20
投下開始します

304泪のムコウ ◆z9JH9su20Q:2015/09/21(月) 18:05:30 ID:6ZS6zWG20




 ……映司おにぃちゃんが、それを聞かれたくないと思っていたことは、カオスにも聞こえていた。
 でも、最初のそれは無関係に聞こえてしまって。意図がわかっていても、不安で仕方なかったけれど……タイガーおじさんも、大丈夫だって言ってくれたから。
 だから、カオスは彼の帰りを待つことにした。
 放送で己の罪を突き付けられ、更には希望を断たれても。同じ人の名前を聞いたタイガーおじさんが、どれほどの苦しみを覚えたのかが聞こえても。
 痛みを圧してカオスを想ってくれたおじさんのおかげで、待つことができた。

 抱きしめて貰えて……あったか、かったから。

 でも……少しして帰って来たおにぃちゃんは、頑張るって言っていたけれど。
 その声は、とても……元気そうには、聞こえなかった。

 だからカオスは、彼に気づかれないよう、くいっと静かにおじさんの腕を引く。
 あの時のように。タイガーおじさんは、カオスの目を見ただけで頷いてくれた。

(……大丈夫だ。おまえが心配する必要なんかねぇ)
 そんな、力強い声が聞こえてくる。

 だけど……そのせいじゃ、なかったかもしれないけれど。
 仁美おねぇちゃんもあの時――大丈夫って言ったのに、大丈夫じゃなかった。

 それに――おじさんだって、おにぃちゃんが本当に大丈夫だとは思っていないのに。

 きっと何とかしてくれるって、二人のことを信じたい。優しい二人を疑うわけじゃない。
 けれど、何もかもを誰かに任せて、手放しで安心するには……カオスはもう、知り過ぎていた。






      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○






「……どうしたの?」
 目的地までの移動の最中。
 幾度も向けられた視線に振り返った映司は、言われたカオスが目を逸らすのを見て、淡く微笑み掛けた。
「ああ、ごめん……大丈夫だよ」
 今の彼女が、他人の外に出していない声まで聞こえていることは理解している。
 だから聞かれてしまわないように、先程は席を外していたけれど……思えばあれから、映司はカオスと言葉を交わしていなかった。

「別に、カオスちゃんと話をするのが嫌なわけじゃなかったんだ。だけど目の前のことでいっぱいいっぱいで……ごめんね」
 余計な不安を与えてしまっただろうかと、映司は幾らかの罪悪感を覚える。
 自分がもっと強かったら、そんな心配をさせずとも済んだのに、と――

305泪のムコウ ◆z9JH9su20Q:2015/09/21(月) 18:07:45 ID:6ZS6zWG20

「ううん……だって、わたしのせいだから……」
 しかしカオスは、小さな声で映司の言葉を否定する。自らの寂しさは映司ではなく、己に責があるのだと言った少女は――消沈したまま、ふと胸に手をやった。
「……さっき。ここが、痛かったの」
 カオスが吐露した心境に、映司は想いを馳せる。
「すっごく、すっごく……痛くて。……でも」
 消え入りそうな声で、カオスの告白は続く。
「おにぃちゃんたちも……痛かったん、だよね?」

 ――ああ、そうだった。

 さっきの放送。きっと、一番辛いのは……自分なんかじゃなかったのに。
 どうして自分は、己を責めるばっかりで……まず、この子に目を向けてあげなかったんだろう?

「その痛いのは……わたしのせい、で……」
「――違う。カオスちゃんのせいじゃない」
 そうだ、断じて違う。
 まどか達が死んだのは、苦しみの中にいたカオスのせいではない。
 全ては、映司が弱かったせいだ。
 二人が何とかしてくれるまでカオスを止めてあげられなかった、映司の弱さが全ての罪だ。
「俺が――」
「……違わねぇだろ」
 そこで口を開いたのは、黙って会話を見守っていた虎徹だった。

 その言葉に、びくりとカオスの体が強張るのを見て、映司は思わず声を上げる。
「鏑木さん――!」
「それはさっき、おまえも言ってたことだろ、映司」
 抗議の声を静かに受け止めながら、虎徹は二人の若年者に目を配る。
「カオスが酷いことをしちまったのは事実だ。それを誤魔化すのは簡単だが、んなのはただのエゴってもんだ。
 折角反省してるんだから、そこはちゃんと認めてやれよ。もう……カオスが悪い子じゃないってことと一緒にな」

 ……ぐうの音も出ない正論だった。
「そう……ですね。そうでした」
 救いたい、役に立ちたいという気持ちばかり空回りさせても、それが本当に意図した通りの結果になるのか、ちゃんと考えなければどうなるのか……映司は嫌というほど、知っているはずなのに。
 ある意味では『王(先代のオーズ)』の言う通り――喪失の恐怖で高まった欲望が、避けるべき焦りを産んでしまっていたのかもしれない。

 どんなに力を手にしたところで――過去は、変えられないのに。

「……それは」
 それでも。
 ならせめて、これからを変えるためには。今一緒にいる人達を守るためにも。
 もっと、自分がしっかりしないといけないと――そんな思考に囚われつつあった映司の耳に入ったのは。

「……愛、なの?」
 どこか物怖じしながらも放たれた、カオスの疑問だった。
「……ん」
 僅かに明るくなった声に問われた虎徹は、少しだけ考え込むように上を向いて。「そういや、カルテの奴にそんなことも言ったっけか」などと小さく呟き、頷いた。
「そうだな。カオスにちゃんとやり直して欲しいってのも……ちょっと大袈裟に言えば、愛なのかもしれないな」
「ちゃんと……やり直す……」
「そうだ。カオスはもう、誰かに痛い想いをさせるのはいけないことだってわかってるんだろ?
 確かに俺も映司もマミも、カオスと戦って痛い想いはした。そりゃあカオスも後で辛くなるような、悪いことだ。
 けど今日からは、その力を良いことに使えるはずだ。後から思い出した時、嬉しい気持ちになれるようにな。
 俺は、カオスにそうして欲しいと思う――おまえもそうだろ、映司?」

「……はい」
 微かに返事が遅れたのは、素直に聞き入っていたからだ。
 罪は消えない――その意味は、こんな幼い少女に背負わせたくないと思っていても、誰より映司は理解している。
 けれど、それがどんなに苦しい道でも。彼女にやり直して欲しいと思っているのもまた、紛れも無く本心だった。

306泪のムコウ ◆z9JH9su20Q:2015/09/21(月) 18:09:31 ID:6ZS6zWG20

 そんな映司の胸の内を見透かしたように、虎徹は続ける。

「多分、伊達の奴も……そうなって欲しかったんだと思うぜ」
 きっと――まどかも、智樹も。
 映司の中に居る、彼らさえも。

「だから……俺達はおまえの傍にいる。カオスがしたことはもちろんわかってる。けどその罪をちゃんと悔いてやり直そうと思っている限り、今更突き放したりしねぇよ。心配すんな」
「できる……かな?」
 そんな虎徹の言葉に、しかしすぐに言われた通りとは行かず、カオスの声は不安に引っ張られるように重いままだった。
「わたし……悪い子、だったのに」
「できるさ」
「……ほんと?」
「ああ。別に、良いことってのは難しいことじゃない。ちゃんと反省してるなら、後はただ一緒に居る奴らと飯喰ったり、遊んだり喋ったり……そういう時のあったかい気持ちを誰かと分かち合えてたら、本当はそれで良いんだ」
 虎徹の述べた善良であること――素朴な幸福は、まさに映司も同意することだった。
 狂ってしまった欲望に苦しめられることなく、誰もがそうで居られるようにと、映司は願い続けてきたのだから。

「まだまだちゃんと、償わなきゃいけないこともあるけどよ……良いことはもう、カオスにもできるだろ?」
 喜びを分かち合う誰かが傍に居る――自身と映司を指した虎徹は暗にそれを告げて、カオスに笑いかけた。
「だから大丈夫だ、な?」
「……ありが、とう」
「気にすんな。……俺こそゴメンな、ちゃんと安心させてやれてなくて」
「……それは俺ですよ、鏑木さん」
 また微かに涙ぐむカオスの頭に手を置き、屈託なく笑う虎徹に向けて、映司は言う。
「俺が自分のことばっかりで、不安にさせちゃったんです」
 ほんの少し前に屈んで、映司はカオスと視線の高さを合わせる。
「けど、大丈夫だよ。鏑木さんの言う通りだから。俺も傍にいる。何も心配しなくたって良い」
「ほんとに……?」
「うん、本当」
 力強く頷いてみせるが、しかしカオスは疑いを眼差しに込めていた。
 微かに訝しむ映司に対し、カオスは微かに俯いて、その言葉を口にする。
「でも……おにぃちゃん、目が……」

 ――しまった。

 虎徹が思わず凝視してくるのを見て……しかし映司は動揺を一瞬に抑え、ゆっくりと首を振った。
「ごめん、心配掛けたね。大丈夫、これはカオスちゃんのせいじゃなくて、元々だから」
「おい……どういうことだ映司」
「……黙ってて、すいません。実はここに来るちょっと前から、目が悪くなってて。でも見えないわけじゃないし、変身してる間は大丈夫ですよ」
「……本当か?」
 映司の言い分に、しかし虎徹は納得した表情を見せなかった――のだと思う。
 それさえも――夜の闇も相まって、気を抜くと色褪せた視界では判別できなくなってしまいそうではありながらも。
 でも、輪郭は見えるからと、声音で判断した映司は躊躇わずに頷き返す。

「本当です……ね、カオスちゃん?」
 追求そのものに対して、嘘は言っていない。
 だからだろう。読心能力を持つカオスも、虎徹にそれ以上問答の足がかりとなる言葉を出せず、弱々しくも頷いた。
「……行きましょう。マミちゃんが待ってます」
 それを確認して、映司は移動の再開を提案する。促された虎徹は、暫し間を開けてからそれを受け入れる。
 しかしカオスはまだ、首を縦には振れず――姿勢を戻した映司の顔を見上げていた。
「……、よね?」
「うん?」
 掠れた声が聞き取れず、映司は小さく首を傾げて聞き返す。

307泪のムコウ ◆z9JH9su20Q:2015/09/21(月) 18:10:46 ID:6ZS6zWG20

「おにぃちゃんまで……いなく、ならないよね?」
 いっそ執拗とすら思える確認は、それだけ切羽詰まっていて――疎ましさよりも、不安を覚えながら映司は繰り返す。
「だから、大丈夫だって。自分のことは自分で……」

「仁美おねぇちゃんも……だいじょうぶって言ったのに、だいじょうぶじゃなかったの」

 ぽつりと吐き出されたカオスの声の、その震えに。映司はようやく、事態の重大さを理解した。
「……ごめん」
 何度目かの謝罪を口にする。少女の心を不安で苛んだ己の無様と浅慮を映司は詫びる。
「本当にごめん」
 ……どれだけ想いを込めてみても、自分の言葉は何と軽いのだろうと、どこか醒めた部分で認識しながらも。
「言葉だけで信じろなんて、無理なのかもしれない」
 それでも言葉しか、今の映司が彼女にあげられるものはなかったから。
「……俺の力じゃ、頼りないかもしれないしね」

 ああ、嗚呼。
 ……力が欲しい。
 この子を心配させないで済む力が。
 もう、誰にも悲しい想いをさせないで済む力が。

 どうして――俺には、ないんだろう。

「でも、俺はもう君にも、誰にも泣いて欲しくない。それが……多分、俺の夢だから。
 だから……カオスちゃんを、心配で泣かせるようなことはしない。それだけは約束する」

 己の無力を痛感しながらも。この胸の内を覗き見れる少女に向けて、映司は敢えて、そこにある全てを伝える。
 この言葉のたった一つの根拠――その欲望の強さを、示すために。

 ……それでもカオスは、未だ心底から納得してくれたような表情ではなくて。
 しかし、もう、それ以上。確認しない程度には――彼女にも泣いて欲しくないという映司の望みは、伝わったようで。
 それを見た映司は、その手を引いて今度こそ、前進を再開することができた。

 とはいえ――繋いだ手から伝わるその無言の足取りは辿々しく、頼りなく。
 映司が不安にさせてしまっているというだけでなく。虎徹の言葉に、彼女が求めていた「愛」を感じることができたのだとしても……それだけで晴れるには、彼女の心に冷たく張り付いた物は重過ぎたのだ。
 その手で犯してしまった罪も、喪ってしまったという悲しみも。
 それに気づいた時、映司は自然と口を開いていた。

「――ニンフちゃんのこと、残念だったね」

 ……本当は、残念だなんて言葉、使いたくはなかった。
 そんな風に割り切るのは、まるで……誰かの命に届かなかったのが仕方のないことだと、受け入れてしまっているようで。
 ……だが、それでも痛みに耐え続ける今のカオスを、そんな気持ちのままにはしておきたくなかったから。

「だけど……仁美ちゃんのことなら、まだ手がかりがあるかも知れない」
「……え?」
 俯いていた顔が俄に浮いたのへ頷き返して、映司は続ける。
「仁美ちゃん達の友達……美樹さやかちゃんに会えれば。カオスちゃんの知りたいことも、もっと教えて貰えるかもしれない」
「さやかおねぇちゃん……」
 告げられた光明を、カオスは小さな声で繰り返す。
 少しでも軽くなれば、と思われた声は――しかし、次の瞬間に続いたのも、沈むように重たいままだった。
「おしえて、もらえる……かな?」
 カオスの――鹿目まどかの命を奪った少女の漏らした不安に、映司はできる限り力強い声で応じる。
「きっと。俺達もカオスちゃんと一緒に、お願いするから」

308泪のムコウ ◆z9JH9su20Q:2015/09/21(月) 18:12:38 ID:6ZS6zWG20

 ……それが、簡単ではないことはわかっている。
 それでも……これは、元々ニンフを相手に行おうとしていた約束と変わりはない。
 故に、困難などを言い訳に。まどかや、智樹や、伊達から託されたこの少女の望みを、断ち切らせたくはないと映司は思った。

「だから、諦めなくて良いんだよ」

 ――もう少ししたら、カオスは自らが傷つけてしまったマミと対面することになる。
 おそらくは、ニンフの亡骸とも向き合わなければならなくなる。
 そんな、楽なはずのない、逃げるわけにはいかない現実に挫けず、立ち向かおうと思える勇気を、希望を――欲望を。
 泪のムコウを見るための心の寄辺を、彼女に与えたくて。

「…………うん」
 あるいは、単なる錯覚なのかもしれないが。
 そんな映司の気持ちが通じたのか、カオスの返事は……先程までに比べ、ほんの少しだけ。微かに、弾んでいるように聞こえた。






      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○






 背後で繰り広げられる、そんな二人のやり取りを聞きながら。
(……ったく。どうしていつもいつも、後になってからじゃなきゃできねーのかね、俺は)
 寸前の会話を思い返して、虎徹は内心で嘆息していた。

 放送が明けてから、映司の様子をカオスが心配していることはわかっていた。何しろ直接訴えて貰っていたのだから。
 なのに任せておけと心の中で言うだけで、虎徹自身も映司との距離を測り損ねている間に、結局何かするより先に当事者同士の会話をさせてしまった。

 土壇場になってから何とかするのは毎度のことだが、会社からも他のヒーロー達とも分断され、フォローの期待できない現状で万が一にも失敗を許されないことは、とっくに理解しているはずだというのに。
 ……いやそもそも、放送を聞いてからずっと頭の隅で考えていたからようやくそれらしいことを言えただけで……何とかなってすらいないのではないか、現状は。

 カオスが勇気を出して、自分から不安を解消できた、という形なら、虎徹自身が情けなかろうがまだ良かっただろう。
 しかし実際は……と。虎徹は一瞬だけ、背後の映司を振り返る。
 身体の不調を黙っていたのは、自分達に心配をさせまいとする気遣いが主であることはわかっている。読心能力を持つカオスが映司の嘘に付き合うような状況でもなかったから、自分達を騙すつもりはなかったのだと虎徹も理解している。
 だがそんな人としての気遣い以上に、彼から悪気のない根本的な危うさを感じてしまうのは、先程彼の中の歪さを認識したことと無関係ではないのだろう。

 今のカオスにはそれが直に読み取れてしまう以上、映司に対する不安を晴らすのは難しいだろう。
 映司の抱える危うさの正体を推察することは、まだ虎徹にはできない。歪んでいると感じていても、具体的に何を正せば良いのかがわからない。
ジェイクとの決着を機とした出会いから過ごした時間は、おおよその人となりを把握するには充分でも、その根幹を見透かすには足りていないのだ。

(……ごめんな、頼りなくてよ)
 内心で詫びた次の瞬間、虎徹は小さく首を振る。
 そんな自虐も、カオスには聞こえているのだ。
(……頼りなかろうが、俺しかいねぇじゃねーか)
 虎徹がそうなって欲しいと望むことを、実現できる人物は。
 頼れるバーナビーとは未だ合流できない。だから自分で考えろ。材料が足りないだの、理ではなく情を取るスタンスだのは関係なく、できる限りのベストを尽くせ。
 誰にも泣いて欲しくない――映司が口走った夢は、虎徹達が掲げる理想(ユメ)と同義だ。
 なのに、彼を見ているとどうしてもこうも不安になるのか――何故カオスを泣かせてしまいそうなのかを考えろ。

 歩きながらも虎徹の張り巡らせた思考の糸に、微かに触れる記憶が見つかったのは、その少し後のことだった。

309泪のムコウ ◆z9JH9su20Q:2015/09/21(月) 18:13:46 ID:6ZS6zWG20

 伊達明――カオスを自分達に託して逝った、映司と旧知であった男。
 ほんの僅かな時間の邂逅しかできなかった彼は、あるいは虎徹の掴みきれていなかった映司の根元を、把握していたのかもしれない。

 ……そういえばあの時、映司のことを馬鹿と呼んでいた伊達は、どんな人間を嫌いだと言っていただろうか。
 そのことに思い至った時――ようやく虎徹の中で、それが繋がった。

 火野映司は、もう誰にも泣いて欲しくないと望み。
 彼を馬鹿と罵った伊達明は、自らの手で己を泣かせる輩を嫌悪した。
 ならば……

(……誰にもの中に、おまえはちゃんと居んのかよ? 映司)

 それはあるいは、自分一人が闇に落ちてでも皆を笑顔にしたい――そんな、時に自分達ヒーローが強いられる、覚悟を背負った自己犠牲ですらなく。
 何もかもにも手を伸ばそうとする貪欲さを持ちながら、最初から抱いているものを平気で捨ててしまう――いや、本人としては捨てているという認識すらないような、人としての欠落があるのではないか。

 そんな不安が、ふと。虎徹の中で鎌首をもたげたが……そのことに思考を割くのは、一時中断させられた。

 というのも……見覚えのある景色が、虎徹の視野に入り込んで来たためで――――その先にある、あるべきものがない彼女の姿を、目に収めてしまったからだった。

 次の瞬間。くぐもった声が、虎徹の唇の割れ目から漏れた。






【二日目 深夜】
【D-4 北東(ニンフ、牧瀬紅莉栖の死体前)】



【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】疲労(大)、ダメージ(極大)、精神疲労(大)、幻覚症状、視覚異常、まどか達への罪悪感、カオスへの複雑な心境、葛西への怒り
【首輪】70枚:0枚
【コア】タカ、トラ、バッタ、ゴリラ、プテラ×2、トリケラ、ティラノ×2
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、カオス用の替えの服(クスクシエから回収したものです。種類、枚数は後続の書き手さんにお任せします)
【思考・状況】
 基本:グリードを全て砕き、ゲームを破綻させる。
 1.虎徹、カオスと同行する。
 2.カオスがやり直せるのか見守りたい。さやかのことも探してやりたい。
 3.マミと合流したい。
 4.グリードは問答無用で倒し、メダルを砕くが、オーズとして使用する分のメダルは奪い取る。
 5.もしもアンクが現れたら、やはり倒さなければならない……?
 6.もしもまた暴走したら……
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です。
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。
※通常より紫のメダルが暴走しやすくなっており、オーズドライバーが映司以外でも使用可能になっています。
※暴走中の記憶は微かに残っていて、また話を聞いたことで何があったかをほぼ把握しています。
※真木清人が時間の流れに介入できることを知りました。
※「ガラと魔女の結界がここの形成に関わっているかもしれない」と考えています。
※世界観の齟齬を若干ながら感じました。
※詳細名簿を一通り見ましたが、どの程度の情報を覚えているかは不明です。
※仁美を殺した“火野映司”が葛西善二郎であることをを知りました。
※罪悪感と精神疲労から、救えなかった者の幻覚を見るようになっています
 今は消えていますが、次いつ現れるかは不明です。
※グリード化が進行し、視覚異常が発生しました。

310泪のムコウ ◆z9JH9su20Q:2015/09/21(月) 18:14:56 ID:6ZS6zWG20


【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、背中に切傷(応急処置済み)、カオスへの複雑な心境、バーナビー達への心配、葛西への怒り、映司への不安
【首輪】20枚:0枚
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(両腕部ガントレット以外脱落)、天の鎖@Fate/Zero
【道具】基本支給品×3、不明支給品0〜2 、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW、P220@Steins;Gate、カリーナの不明支給品(1〜3)、切嗣の不明支給品(武器はない)(1〜3)、雁夜の不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
 基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
 0.ニンフ……っ!
 1.映司、カオスと同行する。
 2.マミと合流したい。
 3.できればシュテルンビルトに向かい、スーツを交換する。
 4.イカロスを探し出して説得したいが……
 5.他のヒーローを探す。
 6.マスターの偽物と金髪の女(セシリア)と赤毛の少女(X)、及び葛西善二郎を警戒する。
 7.カオスがやり直せるか見守り、力を貸してやりたい。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」「そらのおとしもの」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。
  ……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています!今の彼はもうヒーローじゃない!』
※ヒーロースーツは大破し、両腕のガントレット部分以外全て脱落しています。
※ジェイクの支給品は虎徹がまとめて回収しましたが、独り占めしようとしたわけではありません。
※“火野映司”こと葛西善二郎の顔を知りました。
※カオスに更正の可能性を与えられたことでセルメダルが増加しました。


【カオス@そらのおとしもの】
【所属】青陣営
【状態】精神疲労(大)、葛西への憎しみ(極大)、罪悪感(大)、成長中
【首輪】45枚:90枚
【装備】なし
【道具】志筑仁美の首輪、映司のトランクス及びスペインフェアの際の泉比奈のクスクシエ従業員服(着用中)
【思考・状況】
 基本:「愛」を知りたい
 1.ニンフおねぇさま……
 2.映司おにぃちゃん、タイガーおじさんといっしょにいる。
 3.仁美おねぇちゃんのことをもっと知りたい。諦めたくない。
 4.葛西のおじさんに、もう一度会ったら……
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より若干落ちています。
※至郎田正影、左翔太郎、ウェザーメモリ、アストレア、凰鈴音、甲龍、ジェイク・マルチネス、桜井智樹、鹿目まどかを吸収しました。
※現在までに吸収した能力「天候操作、超加速、甲龍の装備、ジェイクのバリア&読心能力」
※鹿目まどかのソウルジェムは取り込んでいないため、彼女の魔法少女としての能力は身につけていません。また双天牙月を失いました。
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。現在は17歳前後の身長にまで成長しています。
※智樹、及びまどかを吸収したことで世間一般的な道徳心が芽生える素地ができましたが、それがどの程度影響するかは後続の書き手さんにお任せします。
※まどかの記憶を吸収しましたが、「Pandora」の機能が低下していたこと、死体の損壊が酷かったことから断片的にしか取り込めておらず、また詳細は意識しなければ読み込めません。
※読心能力で聞き取った心の声と、実際に口に出した声の区別があまりついていません。
※“火野”のおじさんが葛西善二郎であること、また彼に抱く感情が憎しみであることを知りました。

311 ◆z9JH9su20Q:2015/09/21(月) 18:15:43 ID:6ZS6zWG20
以上で投下完了です。
ご指摘等ございましたらよろしくお願い致します。

312名無しさん:2015/09/21(月) 23:41:41 ID:1KlSlWWg0
投下乙です
カオスを支える2人の優しさが強く感じられる回でした
イカロスや士というカオスを排除しようとする参加者から守りきれるかな?

313名無しさん:2015/09/26(土) 22:07:20 ID:NZn9.i8Q0
お二方とも投下乙です
年長者だからこそ自分も傷付きながらも周りへの気配りを欠かさない虎徹は、実力で劣っていてもこの上なく頼もしい
叱られるべき部分を誤魔化さず、その上で道を指し示す姿がまさに大人で嬉しい
虎徹と映司に道を示され、少しずつ成長していくカオスの姿を見れば希望を見出せそう
……と言いたいのに、その映司は自分の弱さを責める思いゆえに、まともな神経が少しずつ崩れていくのが…
痛みを乗り越えるのではなく、ただ無理矢理突き進んでいるだけの姿に希望を見出せないのが哀しい
この調子だと一人だけバッドエンドになりそうだけど、打開策はあるだろうか…

314名無しさん:2015/10/01(木) 16:48:00 ID:BANaBIN60
フィリップのみならず映司までもがミツザネェ!状態か…

315名無しさん:2015/10/10(土) 21:07:16 ID:qLHsUyM.0
タイバニがハリウッドで実写化と聞いて

316名無しさん:2016/01/03(日) 16:33:31 ID:QEMARQTw0
あけましておめでとうございます
新年早々ですが、明日、パロロワ企画交流雑談所・毒吐きスレ10(ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/8882/1403710206/l50)にてオーズロワ語りが行われますので、告知をば
皆様よろしくお願いします。

317 ◆2kaleidoSM:2016/01/26(火) 20:42:57 ID:cYyNSHUY0
投下します

318戦いの果てに待つものはなにか ◆2kaleidoSM:2016/01/26(火) 20:47:11 ID:cYyNSHUY0
夢を見ていた。


街だったはずの場所を燃え盛る炎が包み込んでいる。
夜の闇が広がっているはずの空も、まるで地上に影響されたかのように朱に染まるほどに。
そして、当然そこにいる人間もまたその炎に飲み込まれていた。

燃える炎の中でもがく人がいた。
炎が近づく中で動かぬ子供を抱きかかえて必死に呼びかける親がいた。
倒壊した家屋の下敷きとなり動けぬまま、迫る炎の恐怖に助けを求める人がいた。

それはまるで地獄のような光景だった。

そんな場所で、男は助けを求める人々を一人でも多く救おうと必死で助けようと駆けまわっている。
だが、誰も助けることはできない。
必死に手を伸ばすも、誰一人間に合わぬまま死んでいく。

それは地獄のような光景だが。
そこを駆け回る男にとっても生き地獄のようなものだった。

自分の行動が、その戦いで全ての争いを終わらせ、誰も苦しむことのない世界を願うためのものだったその男にとっては。

心が擦り減らされるほどに失われていく命を見ていく、そんな中で。

男はようやく一人の生存者を見つけることに成功した。

もう動くことのできないほどの状態、もう少し遅れていれば間違いなく死んでいただろうという様子の、しかし確かに生きている一人の少年。
弱々しくも確かに脈を残したその少年の手を取り、その生を実感する。

『…生きてる……生きてる……生きてる……!!』

たった一人。だが確かに間に合った。
ただそれだけで、男にとっては救いだった。

『ありがとう……ありがとう……ありがとう……!!』

まるで助けられたはずの少年よりも、助けた男が救われたかのようにも思えるほどの感謝の言葉を述べながら。
その男、衛宮切嗣は少年を抱きしめて涙を流していた。



それは、セイバーが知らない衛宮切嗣。

(もしやこれは、キリツグの……)

マスターとサーヴァントは精神的なパスを通じて互いの体験を夢として見ることがある。
今までは切嗣による精神的なシャットアウトによりこのように通じたものを見ることはなかった。故に初めてであり。
そして、この光景が自分の知らない、いずれ体験したかもしれない未来のものであるということも直感していた。

これが、あの聖杯戦争の果てにある未来だというのなら。

(キリツグ…、あなたは…)

あの戦いの果てに、一体何を得られたというのだろう。



319戦いの果てに待つものはなにか ◆2kaleidoSM:2016/01/26(火) 20:48:32 ID:cYyNSHUY0
「…戻ったよ」

セイバー、千冬の二人の帰還からしばらく経った頃、一人離れていた鈴羽が三人の元へと戻った。
その顔色を見るにあまり大丈夫そうではないが、しかし気持ちに一段落はつけたのだろう。

まずは状況を整理しなければならない。
セイバーと同行した千冬に鈴羽は問いかける。

「セイバーは、まだ起きない?」
「ああ。傷が深くてな。彼女の持つ武器のおかげで命に別状はないみたいだが、しかしメダルが足りない」
「バーサーカーってやつに負けたの?」
「…いや、その戦いには勝った。セイバーはバーサーカーを、深手を負うこともなく倒した」
「じゃあ、何でセイバーは……」
「私は先行するセイバーを追っている時、一人の男と遭遇した。
 お前も最初の場所で見ただろう。あのワイルドタイガーという男だ」

ワイルドタイガー。
真木清人に向けて、この殺し合いを絶対に止めると宣言していたあの男だ。
無論殺し合いに乗ることなど考えられない。
だが、それがどうしてこの話と関係するのか。

「バーサーカーを倒した時、正確にはやつがセイバーのために一つの道具を取り出した時、奴はセイバーを背後から攻撃した」
「な…っ…」

その言葉に絶句する鈴羽。
決して殺し合いに乗ることはないだろうと思われたはずの男の凶行。
千冬や切嗣にも衝撃だったそれは無論鈴羽にとっても同じもの。

「正気を取り戻したバーサーカーはセイバーを私に託して、ワイルドタイガーの足止めをした。おそらくはもう生きてはいないだろう」
「…どうして、ワイルドタイガーは?」
「分からん。あの時のあいつは最初のあの場所にいた時とはまるで別人のように豹変していた…」

そう思い出しながら答える千冬に、鈴羽はふと疑問の目を向けた。
似たようなことが、以前になかっただろうか、と。

「……ねえ、その辺の話、詳しく聞かせてもらっていい?」

問われた千冬は、ワイルドタイガーに出会ってからの様子をある程度詳細に説明する。
だが、実際説明したところで何故そんな凶行に走ったのかという理由に当たりそうなものは思い当たらなかった。
この殺し合いの環境が、あの男を変えてしまったのか、それとも真木に宣言したあの時の姿は偽りだったのか。

「…ちょっといい?あくまでも可能性の話なんだけど…」

説明が終わったところで鈴羽は未だ思考を続ける千冬に一つの事柄を告げる。
それは鈴羽にとっても苦い記憶となった一つの戦い。

「私、この場所にきて数時間くらいの頃だったかな。似たような状況に遭遇したわ。
 友好そうな顔で近寄ってきて襲いかかられたことが。 と言っても、そいつすごく雰囲気がおかしかったからすぐにヤバイやつだって気付いたんだけど。
 でも逃げられなくて、仲間が、そはらが殺されたの」
「…まさか……」

それはセイバー達との情報交換の中で聞いていたものだ。
そして、その襲撃者の名前は、確か。

「そいつは名乗ってたわ。織斑一夏、って」
「…!」

織斑一夏。
千冬の弟であり、最初の放送で名を呼ばれた者の一人。
その辺りの説明は既に聞いている。一夏の姿を借りて狼藉を働く者がいるということも、そいつが行った所業についてもこの場の者が知っている限りは。
間桐雁夜を殺し、月見そはらを殺し。
おそらくは、姿を写し取った織斑一夏も。

無論、あのワイルドタイガーがそうだと断言するにはまだ早い。ことが事なだけに状況証拠だけで判断していいものではない。
だから、鈴羽は畳み掛けるように千冬に問う。

「私があった織斑一夏は、何だかやたらと私達の中身を見せてくれ、みたいなことを言って襲ってきたわ。
 そのワイルドタイガー、もしかして似たようなこと口走ってなかった?」
「………言っていた」

『なあ、教えてくれよ───アンタの中身、如何なってるのか』

確かにあのワイルドタイガーはそう言った。
あの時は言葉の意味を考える暇もなかったものが、しかしそれがその正体を示すものとなるのならば。

320戦いの果てに待つものはなにか ◆2kaleidoSM:2016/01/26(火) 20:49:23 ID:cYyNSHUY0

自分でも意識しない間に握り締めた手に力が篭っていた。

「…私も連れて行って」

そんな千冬の様子を見て察したのだろう。鈴羽が厳しい表情で懇願してきた。
その目に宿った激情は千冬のものと同じものだろう。

一方的に襲いかかり、そはらを殺し、そしてセイバーをも傷つけた。
織斑一夏を殺し、あまつさえその姿で人を襲っている。

二人にとっては仇敵と言っても差し支えない相手だ。

「待て、二人とも」

だが、そんな二人の会話を横で聞いていた切嗣が待ったをかける。

「今互いに別行動を取るのは得策じゃない。相手は姿かたちを自由自在に変えられる化物だ。
 下手をするとこの中の誰かの姿に変身して隙をついてくるかもしれない」
「それは…、そうだけど……、でも、衛宮切嗣!」

「君の気持ちが分かる、とは言えないだろうけど。
 だけどこんな状況だからこそ、冷静になって行動しないといけない。
 もしかしたら、奴はまた別の姿で近づいてくるかもしれない。
 だけど今僕たちに残されたメダルはそう多くはないのだから」

二人のようにあの存在に深い恨みがあるわけではないが、だからこそ切嗣は冷静にどう対処すべきかを述べることができた。

実際問題、ここにいる一同のメダル残数は心許ないものだ。
セイバーの傷を回復させるために千冬が追加でメダルをつぎ込んだこともあり、今手元にある枚数は30枚。
これを切るとISを動かすことは厳しくなる。
たとえ生身でも並大抵の相手ならば倒す自信はあるが、しかし相手は人間ではない正体不明の相手。慎重に行動することに越したことはないのも事実なのだ。

「そう、だな…。こちらからの行動はセイバーが目を覚ますまで保留としておこう」

一旦その怒りの感情を心の中に押し留める千冬。
もしかするとユウスケが戻ってくる可能性だってある。

「阿万音鈴羽も、少し落ち着け。
 お前が辛いのは私にも分かる」

相手は不意打ちとはいえセイバーに深手を負わせるほどの力がある。
そこに変身能力での撹乱までされてしまっては全滅は必須だ。
今は互いの安全を確認しつつ力を合わせることが重要になる。


「…ねえ、少しだけ、弱音を吐かせてもらってもいい?」

やがて鈴羽は、ポツリと弱々しい声色で呟いた。

「私、怖いんだ。私の近くで人が死んでいくのを見るのが」

321戦いの果てに待つものはなにか ◆2kaleidoSM:2016/01/26(火) 20:49:48 ID:cYyNSHUY0

鈴羽自身今まではこんなことをここまで痛感したことはなかった。
ワルキューレにいた元の時代、世界でも自分の近くで多くの人が死んでいくのは日常だった。
だけど、皆分かっていた。自分たちのいる場所が、その世界では何よりも死に近いものだということが。
だからこそ自分も必死で戦ってきたし、仲間が死んでも気持ちを切り替えることができるように努めていたのだ。
そう、皆死を覚悟して生きていた。だからこそ、死を背負うことはあっても引きずることはなかった。

ただ一つのことを除いて。

作戦名『オペレーション・ギャラホルン』
一言でいうならSERNにおける重要人物、牧瀬紅莉栖を狙撃するもの。
その作戦における狙撃手という最重要ポジションを与えられた鈴羽。
しかし結論から言えばその作戦は失敗した。手元を狂わせた狙撃により殺すことができず、結果多くの仲間が犠牲になった。

自分の失敗が多くの仲間を死なせたという事実から、優秀な狙撃の腕を持ちながらそれを2年間封じるほどに。

「別に人が死ぬのはたくさん見てきたはずなのに。でもやっぱりあの時とは違う。
 家族が死んで、仲間が死んで、なのに私は何もできていない」

今の自分の中にあるのはその悔恨の念に近いものがあった。
月見そはらは一般人だった。戦いに生きてはいない、本来ならば自分達のような戦士が守るべき者。椎名まゆりのように、ごく普通の世界を生きる権利があった。
それを、守ることができなかった。
すぐそばにいながら、守れなかった。

そして逃げた結果、今度はセイバーが傷付けられた。そはらを殺したあいつの手で。

「そしたらさ、どうしても思っちゃうんだ。もっと最善の行動ができてれば、ううん、もっと自分に力があれば、誰も死なず、傷つかずに済んだんじゃないか、って」

もしかしたらその時点で、自分は”失敗”してしまったのではないか。
あのそはらを守れなかった時点で。

皆が死に、傷ついていく中で、自分だけ何もできていない。
特に月見そはら。守れるはずだった彼女を助けることができなかったことは、鈴羽の心に深い悔恨を残していた。
そして、その下手人が今度はセイバーを傷付けたのだ。
耐えられるはずがなかった。


「もしかしたら、私がそはらを守れなかったせいで、あの時あいつを止められなかったせいで…。
 そはらも、セイバーも、セイバーの仲間も、お父さんも牧瀬紅莉栖もフェイリス・ニャンニャンも、みんな、みんな私がもっとしっかりできていれば――――」
「落ち着け!阿万音鈴羽」

思わず大声で鈴羽の自責を止める千冬。

「少なくともお前の父親や友達、私達のことはお前には責任はない。
 気負う気持ちは分からんではないが、そうやってあまり自分を追い詰めるな」

慰めるように鈴羽の肩に手を置く千冬。

年齢にしてみれば教え子の生徒達とそう離れたものではない少女。
そんな娘がここまで思いつめている。きっとこの殺し合いだけの話ではないのだろう。
一体どんな人生を彼女が歩んできたというのか。

322戦いの果てに待つものはなにか ◆2kaleidoSM:2016/01/26(火) 20:50:52 ID:cYyNSHUY0

月明かりの美しい夜。
屋敷の縁側に二人の人間が座っていた。

一人は衛宮切嗣。もう一人はキリツグが助けた少年。
あの災害の中で親を失った子供を、キリツグは養子として育てていた。
普通の親のようにずっとそばにいてやれないながらも、キリツグなりに愛情を注いで共に暮らしていた。

そこには、魔術師殺しと恐れられた男の姿はなかった。

『子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた』

キリツグはまるで遠い情景に想いを馳せるように少年にそう呟いた。

『ヒーローってのは期間限定でね。大人になると名乗るのが難しくなるんだ』
『そんなこと、もっと早くに気付けばよかった』

言葉の裏で、キリツグが一体どれだけのものを失ってきたのか、セイバーには知る由もない。
だが、この衛宮切嗣という男が戦いの果てに得たものがあの大災害による犠牲だったというのであれば。
これほど残酷なことはないだろう。

(キリツグ……)

『なら、しょうがないな』

と、そんなキリツグを真っ直ぐ見つめて、少年は口にした。

『しょうがないから、俺が代わりになってやるよ』

衛宮切嗣という男が叶えられなかった夢を、自分が代わりに叶える、と。

『だから安心しろって。爺さんの夢は』

その瞳はどこまでも真っ直ぐで純粋で。
傍から見ても分かる危うさも少なからず感じてしまうほどのものだった。

『ああ、安心した』

だが、その言葉に心底救われたように小さく呟いて。
それを最後に、キリツグの意識は消失した。
これが、衛宮切嗣という男の最後に見た風景だった。



自分が知る衛宮切嗣と、あの衛宮切嗣。
その差の間にあったものをセイバーは理解した気がした。

キリツグは結局何も得ることができず、全てを失って。
自分の行動全てを自身が否定せざるをえないほどの結果を受けながらも。
それでもただ一つだけその手に残すことができたものに、自分の夢を託すことができたのだ。

それが正しいことなのかどうかはセイバーには分からない。
だが、その最期は彼にとって間違いなく意味のある、救いだったのだろう。


(私は…何を成せたのだろう…?)

自分の願いを遂げられなかったキリツグの姿が自分と被って見えたセイバーは、ふと自分を見つめ返す。

キリツグのように、小さくとも何か一つでも残せたのだろうか。
国に対して、人に対して、そして、

(ランスロット…、私は……)

友に対して。

眠り続けるセイバーにはまだ答えにたどり着くことはできない。
しかし、その目覚めの時も少しずつ近づいていた。

323投下順をミスしました。>>321の前にこちらを入れてください:2016/01/26(火) 20:52:26 ID:cYyNSHUY0
だが、少なくともこの場所での歩みに限定するのであれば、自分も人のことを言えるものではない。

「それに、守れなかった、というなら、私こそ……」

無残な肉塊と化した弟。
狂気に走り、正気を取り戻すと同時にその命を目の前で断った教え子。
それに殺された別の教え子もいれば、未だどう出会ったのか分からぬが死んでしまったことだけは確かな者もいる。

思い返せば後悔ばかりでキリがない。
特にセシリア・オルコットのことは。

「力があっても、私はセシリア一人救うこともできなかった…」
「…ごめん、何だか私ばっかりこんな目に会った、みたいなこと言って」

強い後悔を噛み締める千冬の表情を見て、鈴羽は謝罪の言葉を述べる。

思わず口走ってしまった言葉だったが、しかしこの場にいる皆が同じ気持ちだった。
千冬だけではない。
あまり積極的に話に入ってこない切嗣もまた、同じなのだ。

間桐雁夜を死なせ、アストレアは別れて間もなく放送で名を呼ばれ。
牧瀬紅莉栖をバーナビー・ブルックス・Jrから助け出すことができなかった。
挙句、生き延びた末にこうして皆の介護があってようやく動けている有様だ。



(力、か……)

そんな鈴羽を見ながら、ふと千冬は自身のバッグに入った一つの存在に思いを馳せる。
百式。弟である織斑一夏のIS。
ブルー・ティアーズ、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII。二人の教え子の持っていたIS。
この中で自分のスタイルと相性のいい百式を除いた二つのISは、千冬にとっては持て余し気味のものだ。
特にビットによる遠隔操作を用いた戦闘が可能なブルー・ティアーズはともかく、多様な装備を状況に応じて持ち替えていくラファール・リヴァイヴ・カスタムIIは併用して使うことはできない。

もしこれを鈴羽に渡せば、彼女の悩みの一つ、戦う力がない無力さを消すことはできるかもしれない。

(いや、だがそれは鈴羽自身の身を危険に晒すことと同じだ)

だが、戦いに加わるということは同時に命の危機も増えるということだ。
それに仮に鈴羽に渡したとしても、彼女はISを動かすことにおいては素人に近い。いきなりではなく、ある程度訓練で慣らさなければ戦闘と同時に撃墜、ということになりかねない。
だが、それをするだけのメダルの余裕はない。

(今は、私がやらねばならない。私が…)

拳を握る千冬は、その心中にある、ISを渡すことを保留した理由の一つから目を背けた。
それは、鈴羽の抱いた感情と同じものであるということを認識しながら。




324 ◆2kaleidoSM:2016/01/26(火) 20:54:44 ID:cYyNSHUY0
【二日目 深夜】
【A-4 南】

【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】精神疲労(大)、疲労(大)、左腕に火傷・骨折、肉体に多くの裂傷
【首輪】30枚:0枚
【装備】白式@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品×4、ニューナンブM60(4/5:予備弾丸17発)@現実、スタッグフォン@仮面ライダーW、ブルー・ティアーズ@インフィニット・ストラトス、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトス
【思考・状況】
基本:生徒達を守り、真木を制裁する。
 0. セイバーが治るまで、前線に立つ。
 1. 落ち着いたら、ユウスケがどうしているのかをセイバー達に伝える。
 2.ボーデヴィッヒと合流したい。
 3.井坂深紅郎、門矢士、一夏の偽物を警戒。
 4.ユウスケは一夏に似ている。
 5.セイバーが迷いを吹っ切ったら再戦したい。
  6.鈴羽にISを渡すべきか、それとも…?
【備考】
※参戦時期は不明ですが、少なくとも打鉄弐式の存在は知っています(開発中か実戦投入後かは不明です)。
※小野寺ユウスケに、織斑一夏の面影を重ねています。
※ブルー・ティアーズが完全回復しました。
※セイバーを襲ったワイルドタイガーが一夏の仇であると確信しています。

【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】疲労(大) 、気絶中、肩口に裂傷、背中に傷、全身に裂傷、全て回復中
【首輪】20枚(消費中):0枚
【コア】ライオン(放送まで使用不能)
【装備】無毀なる湖光@Fate/zero、全て遠き理想卿@Fate/zero
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:殺し合いを打破し、騎士として力無き者を保護する。
 0. ???
 1.衛宮切嗣に力を貸す。彼との確執はこの際保留にし、彼が望むならもう少し向かい合っても良い。
 2.悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
 3.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。また、相応しい時が来れば千冬と再度手合わせをする。
 4. 聖杯への願い(故国の救済)に間違いはないはず。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※アヴァロンの真名解放ができるかは不明です。
※鈴羽からタイムマシンについての大まかな概要を聞きました。深く理解はしていませんが、切嗣が自分の知る切嗣でない可能性には気付いています。
※ランスロットの本心を聞きました。
※夢を通じて切嗣が聖杯破壊以降に体験した記憶を見ました。
  本編中の描写以上の箇所をどこまで見たかは不明です。

325 ◆2kaleidoSM:2016/01/26(火) 20:55:30 ID:cYyNSHUY0


【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(大)、貧血、全身打撲(軽度)、背骨・顎部・鼻骨の骨折(軽)(現在治癒中)、片目視力低下、牧瀬紅莉栖への罪悪感、強い決意
【首輪】0枚:0枚
【コア】サイ
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
1.まずはセイバーを回復させる。
2.回復後、偽物の冬木市を調査する。それに併行して本当の意味での“仲間”となる人物を探す。
3.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
4.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
5.バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とグリード達を警戒する。
6.セイバーはもう拒絶する必要はない?
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※セイバー用の令呪:残り二画
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用されている可能性を考えました。
※意識を取り戻す程に回復しましたが、少しでも無理な動きをすれば傷口が開きます。


【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、深い哀しみ、決意、強い無力感、そはらの仇(X)に対する怒り
【首輪】0枚:0枚
【装備】タウルスPT24/7M(7/15)@魔法少女まどか☆マギカ 、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
0.戦うための力がほしい。
1.まずはセイバーを回復させる。
2.罪のない人が死ぬのはもう嫌だ。
3.知り合いと合流(岡部倫太郎優先)。
4.イカロスと合流したい。見月そはらの最期をイカロスに伝える。
5.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……。
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。
※タコメダルと肉体が融合しています。
 時間経過と共にグリード化が進行していきますが、本人はまだそれに気付いていません。

326 ◆2kaleidoSM:2016/01/26(火) 20:57:47 ID:cYyNSHUY0
投下終了です。もし問題点などあれば指摘お願いします

327名無しさん:2016/01/27(水) 00:03:50 ID:UpYPLBoY0
投下お疲れ様です!
そうか、セイバーは切嗣と共鳴夢を見ていない……しかもこの切嗣は未来の切嗣だから、セイバーが消えた後のことも見れるのか
月下の誓いを目の当たりにして果たして彼女は何を想う
そういえばXとの因縁が非常に濃い千冬と鈴羽、その正体に近づくのも自然でなるほど これでタイガーの悪評も少しは減る……けど今はさやかの姿なんだよなぁ
鈴羽にISを渡しても良いかもしれない、けれど……という千冬の葛藤も先が気になる 早くしろ、鈴羽がグリードになっても知らんぞぉっ!
改めて久々の投下、楽しませて貰いました Xとの三度の接触も迫る、先が気になる作品投下乙です

ただ、気になった点としては、>>319周辺の鈴羽の口調に違和感がありました
それ以降もですが、そはらのことを名前だけで呼んでいますが、鈴羽は基本的に誰のこともフルネームで呼んでおり、ロワ内でも一貫して「月見そはら」呼びだったので、そこが気がかりとなりました。
「○○だわ」というような、「わ」という語尾についてもそのようなしゃべり方ではなかったと思いますので、合わせてよろしくお願いできればと思います。
あと、>>323で白式が百式になってしまっていますのでそちらも修正お願いします

328 ◆2kaleidoSM:2016/01/27(水) 22:13:29 ID:.If9aid60
ご指摘ありがとうございます
したらばの修正スレにて該当箇所の修正文を書いておきました

329 ◆z9JH9su20Q:2016/08/19(金) 23:24:52 ID:xsVreBL.0
仮投下・修正用スレ(2)(ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/15005/1319116527/ )に予約分を仮投下してきましたので、ここに報告します。
気軽にご意見・ご指摘頂ければ幸いと存じますので、よろしくお願いいたします。

330 ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:05:12 ID:UHAKG6eE0
これより、予約分の本投下を始めます。

331交わした約束と残した思いと目覚めた心(前編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:06:24 ID:UHAKG6eE0






 ――――交わした約束、忘れないよ






「だぁあああああああああああああああああっ!!」

 雄叫びと共に。美樹さやか――新生した仮面ライダーエターナルは、込み上げる衝動のままに目の前の道を直走る。
 右手に握るのは受け継いだ専用武器、エターナルエッジ。短く優美ながらも、力強く勇ましい刃に月光を照り返らせ、その刀身を眼前の悪へと抉るようにして繰り出す。

「――だから甘いと言っておるのだ、ド素人の小娘がっ!」

 しかしその突きは、ハイパーアポロガイストの翻した太陽を模した楯によって軽々と払い除けられた。
 仮面ライダーに変身したことで更に強化された脚力による、最速の刺突。必殺を期した一撃をあっさりと弾かれたエターナル=さやかは、思わぬ結果に瞠目する。
 そして理由を悟った時には、アポロガイストの炎を纏った翼に打ち据えられて、思わず後退させられていた。

 必中を狙った最速の一撃はしかし、正直に過ぎた。しかも得物が変わった最初の一撃では、ガイアメモリによる補正を加味しても、僅かながらとは言え誤差も存在する。
 エターナルの再誕に動揺している最中だったとはいえ、真正面から飛び込んだのでは、アポロガイストに立て直す時間を与えるのに充分過ぎたのだ。
 いくら彼の力を受け継いだとはいえ、だからこそ高揚のままにではなく、冷静に立ち回らなければならなかったというのに――漲る力と意志を御しきれず、さやかは思わぬ隙を作ってしまっていた。

 そんなエターナルを押し退けた翼を、アポロガイストはそのまま高々と掲げ、その羽の先に無数の火球を灯し出す。
「喰らうが良い!」
「く……っ!」
 同じくエターナルへの変身を果たしたとはいえ。連続で放たれる火球の全てを回避できるほどの判断力は、大道克己ならともかく、美樹さやかには未だ備わっていない。
 故にエターナルローブを翳して猛攻を凌ぐという選択肢を余儀なくされるが、被弾を許すたびに残り僅かなメダルが消費されて行くのを感じ、さやかはエターナルの仮面の奥で臍を噛む。

「――ぐぉっ!?」
 しかし次の瞬間、アポロガイストのくぐもった声と共に、火炎による制圧射撃の矛先が逸れ――その隙に気づいたエターナルは再び、膝を弛めて大地を蹴る。
「やぁあああああああっ!」
 文字通り超人の跳躍力で、一息足らずに距離を詰める。
 間合いの足りなくなった刃物では、遠距離からの奇襲に用いるには迎撃を振りきれない。
 だから、その防御ごと打ち飛ばす――!
「――っぅあぁああっ!!」
 気合の叫びと共に引き出した、エターナルメモリの余剰エネルギー。ガイアメモリの王者の力が転じた蒼炎を纏った蹴りは、アポロガイストの掲げた楯を跳ね上げるのに充分な威力を有していた。
 がら空きとなったアポロガイストの胴体目掛け、エターナルは更に距離を詰める。
 払い除けようとするようなアポロフルーレの一閃は、取り回しに優れるエターナルエッジの刀身で走らせて、受け流し――全力で、身体をぶつける!
「ぬぅおぁああああああっ!?」
 エターナルの痛烈な体当たりを受けて、アポロガイストは膝裏に突き立てられていた金の杭を支点にひっくり返る。エターナル自身が転びかねない勢いがそれで終わることはなく、アポロガイストの身体は更に後方へと投げ出されて行く。

「――立てる!?」
 その隙にエターナルは、先程の窮地を救ってくれた仲間に呼びかけていた。
「あ……、ああ」
 金色の装甲を纏った漆黒の仮面ライダー――ライジングアルティメットクウガに。
 敵手の放つ焔の弾幕にエターナルが釘付けにされていた時、アポロガイストに踏みつけられていた彼が咄嗟に肘を敵の膝裏に叩き込むことで体勢を狂わせ、逆転のチャンスをくれたのだ。
「……すまない、さやかちゃん。俺は……」
 しかし、俯くクウガから聞こえる小野寺ユウスケの声は、どこかか細かった。
 アポロガイストからあれほど手酷い暴行を受けながら、今立ち上がったその絢爛な威容は少しも貶められていない。ネウロや克己でさえ苦戦した頑健な装甲と、さやか以上の驚異的な治癒力の為せる業だろう。
 だから彼の声を翳らせている痛みの正体は、身体に受けた傷以外にあることがさやかにも理解できた。

「……良いよ、そのことは。あいつは――克己はあんたに、自分を責めて欲しいなんて思ってないよ」
 きっと、そうだ。
 操られ、利用されていただけの彼は悪くない。
 だから克己も、彼に後を任せたはずなのだ。

332交わした約束と残した思いと目覚めた心(前編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:07:48 ID:UHAKG6eE0

「それより今は、あんたの力を貸して――仮面ライダークウガ」
 故にさやかは、ユウスケに助力を乞うた。
「悔しいけど、あたしだけじゃまだアポロガイストには敵わない」
 立ち上がり、再び武器を構えた赤い怪人と向き合いながら、エターナルは微かに声を震わせる。
 先程の短い攻防で痛感した。いくら同じ祈りを理由に彼の力を継いだからって、自分はまだまだ亡き師匠に追いつけていない。
 しかし絶望する気も、意地を張る気もさやかにはない。そんな必要はないのだと、克己と過ごした時間の中で学んでいたから。

「克己との約束を果たすには……あんたの力が必要なんだ」
 あの悪を、克己の仇を一人で倒せる力が――ないわけではないのに、使い熟せない自分のことは確かに悔しい。
 それでも祈りを忘れることなく。さやかは素直に、出会ったばかりの同志に共闘を申し込めた。

「……わかった。大道さんには悪いけど、俺も今は一人じゃあいつを倒せそうない……」
 そんな新たなエターナルの言葉を受けて、クウガも落としていた視線を眼前の敵手に向け、少女の隣に並び立つ。
「だから、君の力を貸してくれ……仮面ライダーエターナル」
「オーケー、望むところっ!」
 弾むような声で頷き、エターナルはクウガに背中を預けて得物を構える。

「……ちぃ、小癪な仮面ライダーどもめ」
 その様を見て、忌々しそうにアポロガイストは舌打ちした。
「二人がかりとはいえ、弱体化したクウガに中身が小娘となったエターナル……貴様ら程度、このハイパーアポロガイストの敵ではないのだ!」
「……やっぱりやってみせなきゃわかんないみたいだね、あんたみたいなバカには」
 構えを解かぬまま、エターナルは最早怒りですら無い闘志を胸に、アポロガイストの言葉を否定する。
「それにあんたの敵は、二人だけじゃない――!」
「ふん……今更アンク達が、何の力になると言うつもりだ!?」
 少女の啖呵をアポロガイストが嘲笑い、それにさやかは笑い返す。
「だからわかってないって言ってんのよ、あんたには!」
 今――ここにさやかを立たせているのは、さやか一人の力ではない。
 さやかに勇気をくれるのは、ユウスケやアンク、ネウロ達だけではない。
 こんな自分を認めてくれた、忘れ得ぬ仲間達が今も、この胸にいるのだから。

「何をわけのわからぬことを……まぁ良い。せいぜい現実を知って絶望するまで、滑稽な夢でも見ているのだな!」

 さやかの言葉の意味は、悪の大幹部に届くことなく。しかし届かせる必要もなく。ただ今は、この力でわからせてやれば良いと彼の形見(エターナルエッジ)を強くその手に握り込む。

 次の瞬間。赤い翼を広げ、迎え撃つ悪の大幹部と――地を蹴った二人の仮面ライダーの間の距離が消失し、雌雄を決するべき最後の戦いの火蓋が、ここに切って落とされた。








      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○






「……ふむ。まずいな」

 そうして始まった激突を目にして呟いたのは、傷ついた身体を引き摺って戦場に向かおうとしていた魔人、脳噛ネウロだった。

「笑えるほど遅いとは思っていたが、本当にここまで遅いとはな……」

 魔人の手の中には、残された魔力の全てを費やし召喚(ローディング)を始めた絶対無敵の切札が、その片鱗を顕現させようとしていた。

 魔帝7ツ兵器(どうぐ)が一、“二次元の刃(イビルメタル)”。ネウロの手持ちの武器の中でも最強であると同時、グリードと化し、通常の手段では息の根を止めることのできないアポロガイストを唯一倒し得るジョーカー。
 その強大過ぎる力故に、召喚には莫大な魔力と多くの時を必要とする。そもそも瀕死に近い今のネウロが使用できるかも怪しい代物ではあったが……意外にも、発動自体に課されたコストは低かった。
 攻撃できる範囲と捕捉数が劣るためなのか、他の魔帝7ツ道具と比べれば、Xとの戦いで使用したそれらの半分程度のメダル消費しかなかったのだ。

333交わした約束と残した思いと目覚めた心(前編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:10:57 ID:UHAKG6eE0

 しかし……それはただ、発動するだけのコストの話。
 いざ攻撃に転用できる状態――即ち召喚の完了まで、体感に基づき推測すれば、千秒近い時間を要求されていたのだ。

 仮面ライダー達は二人がかりで戦線を支えているが、方や未熟、方や疲労困憊となれば、今のアポロガイストを相手に戦力が足りているとは言い難い。
 数の差で粘れば勝ちの目もあるかもしれない。しかしこのままでは奴を倒しきる前に、エターナルとクウガのメダルは底を突くだろう。遠からず、少なくとも十五分は保たずに。
 そうなればアポロガイストに抗し得る戦力など残されておらず、“二次元の刃”による攻撃が可能となる前にネウロ自身も殺害されて終わってしまう。

「……手が足りん」
 精彩を欠いて、あるいは未熟ゆえに攻撃を捌かれ、焔に押されて後退する二人の姿を目にしたネウロは、苦々しくそう吐き出した。
 勝ち筋は見えている。だがそこに到るまでの道を崩され、間に合わない。今のままでは勝機はない。
 何か、もう一手。その欠損を埋めるだけの何かを見出さなければ……

「おい」

 そんな思考を遮る声が届くまで、ネウロは彼の接近に気づくことができなかった。
 魔力の枯渇と身体的ダメージによる精神消耗と、”二次元の刃”の召喚に意識を割いていた間に――身を隠していたはずのアンクが再び、その姿を現していた。
 アンクはその険しい視線をネウロの右手に向けたまま、口を開く。

「今呼び出してるそいつが、コアを砕ける能力か」
「……気づいていたのか」
 微かな驚嘆を胸に覚えながら、ネウロは婉曲な肯定を返した。
 そしてそれ以上の――喜悦にもよく似た、ある意味先程さやかに感じた物にも近しい感情に満たされていくのを自覚しながら、アンクの姿を睨めつける。

「それは単にコアを砕くだけじゃなく……奴を倒すのに使えるのか?」
「ああ。完成すれば魔界王にも防げない……あのアホ一匹に使うには豪勢に過ぎるが、確実に無力化できるだろうな」
「……なら、何でさっさと叩き込まねえ。何が足りないんだ」
「間合いもそうだが……これは呼び出すのに時間が掛かる兵器なのだ。完了までまだ500秒近くは必要だろう」

 ネウロの返答に、仮面ライダーの健闘も限界が近いことを見取っていたアンクは、苛立ちを隠そうともせず舌打ちした。

「使えねぇじゃねぇか」
「我が輩もここまでとは思っていなかったぞ。時間を短縮できるにしても、余力が残らんのでは時間稼ぎもできん」
「……何?」

 ――喰いついた、とネウロは微かに頬を緩めた。

「どうやらこの刃、召喚を始めるコスト自体は15枚で済むらしいのだが……追加で我が輩の持つメダルを強制的に吸い上げて、その分召喚に要する時間を圧縮できるらしい。おかげで召喚しながら奴を抑える目論見が崩れた」

 制限がもう少し緩ければ、この体調(コンディション)でも召喚に要する時間はもう少し短かったかもしれない。
 あるいは発動まで魔力(メダル)をプールしておけるのなら、まだ多少は動けるネウロもさやか達に加勢することで単純に的を増やし、戦線を維持できる時間を引き伸ばす手筈だった。
 そしてそもそも発動ができないなら、手元に残った魔力で別の手段を模索するのみ。
 そんな考えだったが、しかし実際には、どれも叶わなかった。召喚に要する時間は予想以上で、発動を終えてではなく先にコストを要求された。それもどんな悪徳か、ネウロに有無を言わさず根刮ぎメダルを持って行かれたのだ。
 切札中の切札であるからと、ここまで試し打ちもせず、制限を確認していなかったことが土壇場で響いてしまった。

 だが……それを補う手段があることを、ネウロは知っている。

「それで? 貴様もまさか、ただ世間話に来たわけではあるまい」

 そう――非常食とも見込んでいた、アンクという存在を。

334交わした約束と残した思いと目覚めた心(前編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:12:14 ID:UHAKG6eE0

 今、彼を殺してメダルを奪う余力すらネウロには残っていない。しかしアポロガイストを撃退しなければ先がないのは、おそらくは他の誰よりアンク自身だ。
 この危機的状況において協力を拒まれることはないと、ネウロは踏んでいたのだ。
 但し。

「……何枚だ」
「さあ。先程は十枚ほどの追加で一割は短縮できたが、この先も同じ比率とは限らん。そもそもが我が輩が干からびるほど燃費の悪い兵器であることを考えれば妥当なところなのだろうが……さてアンクよ、今は何枚余裕がある?」

 そう――そもそもアンクが提供できる限界値に達していれば、話は変わって来てしまう。
 未だに体を維持できているのなら、枯渇しているということはないはずだ。
 だがそこに余裕が無いのであれば。アンクに延命のために血肉を削る覚悟はあれど、それで死んでしまうような愚は犯すまい。

「……貴様のコア、アポロガイストに奪われているのだろう? あの虫頭ではない貴様は、どこまで保つ?」
「……さあなァ。少なくとも、今すぐ撃てるほど貸してやれそうにはない」

 案の定のアンクの返答に、しかしネウロも引くことはできない。
 限界があるなら、限界まで絞り取る――それがネウロの考え方であり、やり方であり、そしてこの場における唯一の活路である以上、譲歩することなどあり得ない。
 そんな風にネウロの意志が固まる横で、再びアンクが口を開いた。

「……だが、そいつを完成させるまで、おまえは使い物にならないんだったな?」
 溜息と共に漏れた言葉には、諦念――というよりはそれを装った何か別の感情が潜んでいる気もしたが、あいにくネウロはその手の機微には疎かった。

「あいつらだけじゃ手が足りないんなら、出し惜しみしたって俺まで死ぬだけだ」
 もう少し難儀するかと思ったが、意外にもあっさりと、アンクも覚悟を決めたようだ。
 いや、そもそもネウロに声をかけてきた時点で、アンクとてこの展開は予想していたのだろう。ならば覚悟など、とっくの昔に決まっていたに違いない。
 奥の手を見透かされていたことといい、ネウロはこの人外への評価を改める必要があると認識した。
 微かに愉悦の滲んだ笑みを漏らしていることを自覚しながら、ネウロはアンクに告げた。

「どの程度短縮できるのかはわからんが、使い物にならない者を徒に増やしても仕方あるまい。献上は意識の消える寸前で止めても許してやろう」
「てめぇ、状況が状況だからってなァ……後で覚えてろ」

 ネウロの物言いに顔を顰めながらも、怪人が魔人へとその異形の腕を差し出した、次の瞬間のことだった。

「――っ、さやかァッ!」

 アンクの切迫した叫びに振り返ったネウロが――アポロガイストの前で生身を晒すさやかの姿を、その目に収めたのは。






      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○






 拳の打ち込みを潜り抜けられ、逆袈裟の反撃に姿勢を崩す。
 横合いから突撃していたエターナルをついでに牽制する翼の一振りで、重心の安定を欠いていたクウガはその身を宙に舞わせていた。

「……クソッ!」
 ダメージは軽い。それによるメダルの放出すらない程度でしかない。
 なのにこうも踏み止まれない身体の鈍さに、クウガに変身したままユウスケは臍を噛んだ。
 奴に操られていた間は、経験したことのないほどの力が身体に満ちていたというのに――今はそれを引き出すことができない。
 この身に植え付けられた力――笑顔を奪ってしまったそれを、笑顔を守るためには揮えない。

335交わした約束と残した思いと目覚めた心(前編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:13:14 ID:UHAKG6eE0

 苦い思いを噛み潰しながら、ユウスケはその足で走り出す。ナイフによる一撃をまたも楯に阻まれ、その隙に連撃を受けて防戦一方となったエターナルの元に駆けつけると、体当たりでアポロガイストを引き剥がそうとする。
 ……だが、ここに至っても、まるで神経や筋組織に異物が潜り込んでいるかのように、思うような力が出せない。

「ぬるいわ!」
 そうして手間取っている間に、アポロガイストの振り下ろした剣の柄で強かに背中を打たれ、更に崩れた先を膝で迎え撃たれる。
「ユウスケっ!」
 蹴り上げられたまま転がっているところを、守るべき少女の変身したエターナルに受け止められる不甲斐なさに、クウガは再び拳を握り締める。

「言っただろう。地の石に抗った反動と、矛盾した命令でアマダムの混乱した今の貴様では、私に勝つことなど不可能! 大人しく死を受け入れるのだ!」
「――っ、誰が!」
 反発して立ち上がるが、鈍った反動ではアポロガイストが構えた銃口から逃れきれず、放たれた炎弾に呑まれて再び後方へと身を運ばれる。

 地に叩きつけられるまで追撃がなかったのは、その間にエターナルがアポロガイストに突貫し、クウガの隙を庇ったからだ。

 だが、またしてもコンバットナイフによる攻撃は日輪の楯に食い止められ、その影から突き出された刃が肩口を掠める勢いのままにエターナルは後退する。
 後は繰り返しのように、広がった翼がエターナルを打ち据えるだけ――かと思われたが、アポロガイストは舌打ちを残し、その翼を停滞させた。

 ――同じ攻防の繰り返しの中で、しかしさやかは消耗より早く学習していたのだ。
 クウガが不調である分まで補おうとする気持ちと、残されたメダル量への焦燥が、彼女の攻め気を高め過ぎていることは、ユウスケにも見て取れていた。
 しかし初めての変身、慣れない武器で防御より攻撃を優先して勝てるほど、アポロガイストは甘くない。
 だから、彼女はかつて我武者羅なだけの攻めを諌められたことを思い出し――敢えて踏み込みを浅くして、反撃に備えたのだ。
 ここまでのパターン通りに、その追撃として翼が振り抜かれれば、更なる反撃としてそれを切って捨てられるように。

 しかし相手もさるもので、アポロガイストは寸前にそれに気づき、逆に距離を取られてしまった。
 再び火炎の嵐に見舞われるエターナルの元に駆け出そうとして、しかしクウガは一度冷静に立ち返る。

 居ても立ってもいられないのはさやかも同じだ。ユウスケよりも、目の前で大道克己を喪った彼女の方が、心に受けた傷も大きいはずだ。
 なのに、自分が耐えられないからと、我武者羅に飛び込むばかりで一体どうする。
 本当にそれしか手段がないなら仕方ない。だが、ひたすらに突撃を繰り返すしか本当に打てる手段はないのか、もう一度よく考えろ。
 克己の繋いだ希望を――さやかの奮戦を、無駄にするな。

「――――!」
 そうして突破口を見つけるべく、思考を巡らせたユウスケの脳裏に一つの賭けが閃いたのは……アポロガイストの強烈な一撃によってエターナルのメダルが枯渇し、美樹さやかがその生身を晒す寸前のことであった。






      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○






 薙いで、打って、撃つ。
 爆炎を孕んだ剣閃を繰り出して、アポロガイストはエターナルを間合いの外に弾き出す。

「ぐぅ……っ!?」
「甘いと言ったはずだ小娘。貴様が仮面ライダーの力を得たところで、中身が貴様のような未熟者では意味など無いのだ!」

 確かにエターナルエッジによる攻撃は速さと回転数に加え、ハイパー化したアポロガイストの躯さえ貫くに充分な威力を兼ねた脅威そのものだ。
 だが間合いは短い。距離を詰めさせなければどうということはなく、左右の翼にアポロフルーレ、ガイストカッターと近中距離を制圧する攻撃手段を豊富に揃えた今のアポロガイストからすれば、それは実に容易いことなのだ。
 距離を詰めなければ何もできないのは、空いた手足の三本も同じこと。先程は防御ごと跳ね上げられたが、エターナルの打撃と言えど来るのがわかっていれば充分持ち堪えられる。
 そしてマントの防御だけに頼って距離を詰めようというのなら、攻撃しても無駄なのがわかっているのだから付き合うことなどせず、牽制でメダルを削りながら距離を取れば良い。
 文字通り足元を掬いに来ていたクウガも今は密着しておらず、視界の隅で常に動きを把握できている。
 邪魔が入ることもなくなった以上、アポロガイストにエターナルが攻撃を届かせることは叶わず、一方的に攻撃を受けるだけとなるのも当然の帰結だった。

336交わした約束と残した思いと目覚めた心(前編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:14:39 ID:UHAKG6eE0

 しかし、アポロガイストの繰り出す怒涛の攻めは、なおもエターナルを仕留めるには及んでいなかった。
 変身者である美樹さやかの、ゾンビ故の再生力は疾うに把握している。何度攻撃を浴びせたところでその動きに陰りは見られず、その持久力は間違いなく厄介であるとアポロガイストも認めていた。

 ――だが、それだけではないのだ。要因は。

 アポロガイストの一撃を、エターナルはローブで捌く。
 そう、捌く。
 正面から万全の防御として受け止めるのではなく、最低限の接触でメダル消費を抑えながら、攻防の転換のラグを最低限に抑えることができるように。
 それでも彼女の刃は未だアポロガイストに届くことはないが、徐々に、しかし着実に、その喉笛までの距離を縮めつつあった。

 ――最早美樹さやかのそれは、殺し合いが始まった直後の交戦時のように、自らの弱点を晒すような素人丸出しの戦い方とは違う。
 挙動に緩急をつけ、時には反撃のための誘いの隙を見せるなど……ほんの数分前と比べてみても、格段に戦士として成長しているのだ。
 変身直後の、感情に振り回された初撃はともかく。既に彼女を本気でド素人と罵ることはできまいと、アポロガイストも内心では認めていた。

 素人ではなくとも、未だ歴戦の精鋭とはとても言えないだろう。だがこの短時間で成長していく彼女のセンスを軽視することは決してできない。

 こちらがこれだけの好条件を揃えていても、変身者があの大道克己のままならば、おそらくエターナルはアポロガイストの呼吸を読んで喉笛を狙うこともできていただろう。
 もちろん経験の不足している今の美樹さやかに、繊細な洞察力があってこその大胆さを要求される技術を発揮することはできないが――この少女は、その大道克己の指南を受けた後継者なのだ。

 持久戦に持ち込めば、不死身のゾンビだろうと先にメダルが尽きるのは仮面ライダー達の方だ。
 だが逆を言えば、持久戦ではメダルが切れるまでこちらも彼らを仕留めることはできない……その短いはずの猶予で、エターナルが真の意味で復活することをアポロガイストは恐れていた。

「気味の悪いゾンビぶりだが、いつまで続くか見ものなのだ!」
 だからこそ。そんな焦りはおくびにも出さないまま、敢えて舌先に載せる言葉は実際の認識とは真逆のものを選んでいた。
 全てはさやかの油断を招き、焦燥を煽り、感情に惑わされた末に生まれる、勝負を決める隙を作らせるために。
 今この瞬間は安全であっても、成長の余地を与え窮鼠が猫を噛みかねない長期戦に持ち込むのではなく、急所の宝石を早々と打ち砕いてその芽を詰むために。

「……だったら!」
 そんな狙いを秘めながらも、表面的に続けるのは延々と距離を保つような消耗戦。それにエターナルも痺れを切らしたのか、ローブを前面に展開して再びの突貫を開始する。
 当然、それまでの繰り返しのように距離を稼ぎながらアポロガイストは飛び道具による牽制を重ねる。しかしエターナルはメダルの消費を惜しまず、更なる勢いで突っ込んで来る。
 追い詰められた彼女が勝負に出たのだと気づいたアポロガイストはそこで迎撃をやめ、更に距離を稼ぐことに専念する――のではなく、敢えて狙いに乗ることにした。
 エターナル=さやかにとってのみならず。これこそがアポロガイストの待ち望んだ、千載一遇のチャンスと見なして。

「喰らうが良いのだ!」
 数瞬の溜めの後、繰り出したのは特大の火炎弾。
 爆炎による破壊そのものは掲げられたローブに阻まれるも狙い通り、それ自体が死角となってエターナルの視野を塞ぐ――アポロガイストの姿を隠すのに、充分なほどに。
「――終わりだっ!」
 口端を歪めながら、アポロガイストは即座に身を運ぶ。こちらの攻撃を尽く無為化する絶対防御の暗幕、その背面へと。
 これまでの動き通り、距離を取られるものと予想しただろうエターナルの意表を突き、明確な隙となった瞬間を狙うためにローブの裏側に回り込んだアポロガイストは愛刀を構え――そして瞠目した。

「いないっ!?」
《――UNICORN!!――》

 明かさた暗幕の裏の空白に驚愕の声を漏らしたのと、上空からその電子音が降りて来たのは全くの同時。
 辛うじて視線だけを間に合わせれば、そこにはローブを脱ぎ捨てたエターナルが、拳を番え降って来ていた。
 アポロガイストにもどうしようもない、絶対防御のローブこそエターナルの切札――その認識を逆手に取られた。
 悪の大幹部との読み合いを制し、手玉に取ることができるほど彼女は既に成長していたのだと悟った時には、既に遅かった。

337交わした約束と残した思いと目覚めた心(前編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:15:43 ID:UHAKG6eE0

 勝負を終わらせるつもりで構えていたアポロガイストの隙を突き、最早防御の間に合わないところにまで翠の閃光と化した拳が肉薄していたのだから。

「やぁあああああああああああっ!!」
《――MAXIMUM DRIVE!!――》
「おぐぅっ!?」
 エターナルの繰り出した一撃は、咄嗟に身を捻るぐらいしかできなかったアポロガイストの横面を思い切り捉えた。
 首が取れるかと錯覚する一撃。兜が拉げ、左側の飾りが折れ、そして身体が宙を舞うで、しかしアポロガイストもただでは転ばない。
「舐めるなっ!」
 防御が間に合わないと悟った時点で、アポロガイストは既に反撃に意識を割いていた。結果として照準できたマグナムショットは、ローブを手放し、攻撃後の微かな隙を突いてエターナルを確かに捉えた。
 起死回生の博打に精魂を一度絞り尽くしていたエターナルは、焔を纏った着弾にもんどりを打って倒れ、そしてその白い装甲を消失させた。
 
「……小娘なりによく頑張ったと褒めてやりたいところだが、これで終わりなのだ!」

 今の攻防で、遂にメダルが枯渇したのだろう。あるいはそれ故の捨身だったのか。
 駆け引きに敗北しようとも、どんな形であれ生き残った者こそが勝利者――ベルトに触れることなく生身を晒した美樹さやかを目にした己にそう言い聞かせながら、アポロガイストは再びマグナムショットの銃口を向ける。

「――さやかァッ!」
 銃爪を引く一瞬前、アンクの絶叫が耳に入り、アポロガイストは微かに視線だけをそちらに向ける。
 見ればアンクが、またガイアメモリらしき長方形の物体と――気配でわかる、奴に残されていた最後のコアメダルを、さやか目掛けて投擲したのが確認できた。

(哀れな奴なのだ)
 いや、それとも幸運なのだろうか。
 コアの放出によって瞬く間に失われていくアンクの気配、結果として崩れて行く躯の様子を目にしながら――そこまでして救おうとした相手が吹き飛ぶのは、最早避けようがないことなのだと、アポロガイストは嘲笑とともに銃爪を引ききった。
 勝負は決まった。コアメダルの到達より、ハイパーマグナムショットの弾丸がさやかを砕く方が早い。それを見届けることすらできず、自らの感情を宿したコアメダルを間抜けにも死体の前に転がし、そのままアポロガイストの糧となる愚か者の無念を想像するのに浸ろうとして――

 突然、目の前が金色の闇で染まった。

「――っ!?」
「おぉりゃあっ!」
 忽然と現れたそいつは、凶弾と少女の間に割り込ませた己の肉体を楯として――しかし被弾した事実がなかったかのように。停滞することなく思い切り、アポロガイストの横っ面を殴りつけに来た。
 ガイストカッターの移動が間に合わなかったアポロガイストは、咄嗟に左の翼を即席の楯として構えた。勢いを削いでくれることを期待したそれはしかし、薄紙のように破られてアポロガイストの側頭部に拳の着弾を許す。
 残されていた兜飾りの片割れが砕け散るのを、音より早く伝わった衝撃で理解しながら。吹き飛んだアポロガイストは、穴の空いた翼の弾みを利用して何とか、それ以上の無様を晒さずに起き上がった。

「ば、馬鹿な……」
 未だ震れる頭を起こして、アポロガイストは視界に収まった敵手の姿に――先程の一撃で伝えられた力の程への驚愕を、辿々しくも口から漏らす。
「何故、貴様が既に回復を……!?」
「……おまえが教えてくれたおかげだ、アポロガイスト」
 早過ぎる、と毒突くアポロガイストに対峙して、それは――突如として本来の力を取り戻したライジングアルティメットクウガは、静かに滾る調子でそう答えた。

「俺の身体は石に逆らって消耗して、アマダムも二つの指令に混乱して……そこから元に戻るまで満足に戦えない。
 だから思ったんだ。だったら、俺が地の石を使えば良いってな――!」

 構える凄まじき超戦士から伝わる圧力に、アポロガイストは思わず身動ぎする。
 この迫力、そして先程の一撃、奴の言葉はハッタリではない――!

 成程、地の石からの指令と小野寺ユウスケの意志の乖離がアマダムの混乱の元ならば、それを統一すれば解消されるというのは道理だ。
 だが、しかし――使えば良いと言った割には、どこにも地の石を身につけている様子はない。そもそもあれは、憎っくきアンクの放った凶弾で破壊され――

338交わした約束と残した思いと目覚めた心(前編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:17:40 ID:UHAKG6eE0

 そこでアポロガイストの脳裏を、一つの仮説が閃いた。

「貴様――まさか、地の石を取り込んだのかっ!?」

 究極の闇から零れ落ちたのゲブロンの破片を取り込んだグロンギや、二つのキングストーンを揃えた創世王のように。
 あれらの霊石が持つ、他の霊石と同調する能力を持って――地の石の残骸を、アマダムが取り込んだとすれば。
 二つの石が等しく小野寺ユウスケの物となれば、反発していたはずの霊石の力まで合一して取り込むことで、肉体の負担さえも緩和される。

 しかし……口は災いの元だったと悔やむとともに、本当にそれだけでライジングアルティメットに大ショッカーが埋め込んでいたセーフティが突破されたのだろうかと、微かな疑問がアポロガイストの脳裏を掠める。
 筋は通っている。しかしそれだけで、果たして消耗に回復が追いつくのだろうか。
 あるいは他にも、何か。地の石以外にも、彼奴のアマダムに影響を与えた何かがあるのではないかと。

 先程までの闇色とは異なり、金色に輝くアマダムの様子に気づいたアポロガイストはそんなことを考えたものの、それ以上悠長に構えては居られなかった。

「行くぞ!」
「く――っ!?」
 微かな思考の彷徨から帰還する前に、クウガは肉薄を開始していた。
 距離を詰めさせまいとするマグナムショットの一撃。しかしそれが、この凄まじき超戦士に通じないことは先刻証明されている――!
 当然のように、灼熱の弾丸を無造作に叩き落としたクウガは足を止めることなく懐に潜り込む。発砲の反動でやや跳ね上がっていた銃身を容易く掴み上げられ、アポロガイストは手首ごと持って行かれるかという悪寒を覚え、しかしすぐにそれを杞憂と悟った。
 何故なら代わりに、金属が爆ぜる不快な音が響いていたことに喫驚するハメとなったのだから。

「き、貴様――っ!」
 愛銃を奪い取るよりも早く、掴んだ勢いのまま軽々と握り潰された畏怖に声を震わせるアポロガイストは、続く一撃を咄嗟にガイストカッターで受け止め、切れなかった。楯を構えることは間に合っても打撃の威力に押され、そのまま胸と顔面にガイストカッターを減り込ませてしまっていたからだ。

 目の奥で散る火花が視界を封じて、一瞬の暗転。後頭部と脚部に感じる鈍い感覚は、それぞれを一度ずつ打っていた証左だろう。
 勢いのまま後方に一回転して、偶然にも元通り立ち上がった状態に戻れていたアポロガイストは、痺れが残る左腕を持ち上げるのが間に合わないのを直感的に理解して、空いた右手にアポロフルーレを握り込んだ。
 ――握り込んだ時には、やはりクウガは眼前に出現していた。

「っ!」
 焔を纏わせた刺突は、易々とエルボースパイクに払われる。そのまま流れるような手刀に右手を襲われ、アポロガイストは愛刀を取り零す。
 無手になったことを度外視しても、ここまで距離が詰まれば、後は速さと回転数に優れる徒手空拳の独壇場。そしてその土俵において、今のクウガに敵う者など――っ!

 咄嗟に後退しようとした足を、上からの激烈な踏みつけで大地に縫い付けられ。逃げ場を失くしたことを悟ったアポロガイストの背を氷塊が滑り落ち、その肩に。

 脇に、顎に。
 腹に、胸に。
 鼻っ面に。

 一息吐く間もなく突き刺さる猛烈なラッシュが、一撃ごとにアポロガイストの鎧を凹ませ、亀裂を走らせ、砕け散らせる。

 六発目で一度クウガの攻勢が途切れたのは、一つ一つがマキシマムドライブに相当する打撃の威力に踏みつけの拘束が耐え切れず、クウガ自らアポロガイストを追撃の届く距離から打ち出してしまったためだ。
 だがそれでは終わらないということを、アポロガイストはよく知っている。

「はぁああああああああ……っ!」

 残り僅かだったメダルを、アポロガイストに放出させることで逆に回復したクウガは、その拳に烈火を灯す。
 それはアポロガイストが圧倒された近接戦でも持ち堪えていたあの大道克己や、ネウロが召喚した魔界生物すら葬った必殺の一撃。
 ライジングアルティメットナックル。

「うおぉりゃぁああああああああああっ!」
 爆発的な踏み込みで距離を詰めたクウガの拳の一撃に、何とか迎撃に間に合わせたガイストカッターが、四散する。
 ライジングアルティメットナックルを前に、握っていた左腕ごと太陽を模した楯は砕け、散り散りとなって闇に葬られる。爆ぜるように腕の取れた勢いのままアポロガイストは後方に飛ばされていたが、しかしそれは僥倖だった。

339交わした約束と残した思いと目覚めた心(前編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:18:20 ID:UHAKG6eE0

「……メダルを切らしおったな、馬鹿めがっ!」
 罅割れた仮面の下の表情は、未だ余裕がなく凍結したまま固まっていても。本来ならばこの体そのものを砕かれていた一撃が届く前に、生身を晒してしまった小野寺ユウスケを狙って、アポロガイストは火球を飛ばす。

《――ETERNAL!!――》

 しかし逆転のための一撃は、夜闇を切り裂いて現れた、蒼白い光に遮られる。
 それを為したのが何者であるかなど、最早考えるまでもない。
 アンクから与えられたコアメダルを使って再変身した美樹さやか――仮面ライダーエターナル。
 先程己がクウガに救われたように。今度はエターナルが、メダルを得たことでその真価を取り戻したあの絶対防御のマントで以て、グリードの放つ猛火を完全に防ぎきっていた。

「小娘……っ!」
「――これで、終わりだ!」

 目前の勝利を阻まれる――その再演を歯噛みするアポロガイストに、今度は仮面ライダーが勝利宣言を叩きつけた。

《――ETERNAL!! MAXIMUM DRIVE!!――》

 マキシマムドライブ――名前の通り最大出力に達したガイアメモリのエネルギーが、エターナルの全身へと伝播されて行く。
 そしてエターナルが一度に発動できるマキシマムは、一本だけではない。

《――JOKER!! MAXIMUM DRIVE!!――》
 アンクが投げ渡していた新たなガイアメモリもまた、エターナルの手でその真の力を起動する。
 全身に拡散していたエターナルの蒼白いエネルギーが、ジョーカーの放つ紫電によって導かれ、エターナルの足元へと帯雷して行く。

「だぁああああああああああああああっ!!」

 討つべき悪を目指し、吹き荒れる雷嵐を従えて、エターナルが宙に跳ぶ。高々と、力強く。
 それはまるで、左翔太郎と大道克己――同じく風都の希望たる仮面ライダーでありながら、在りし日に相容れることは遂になかった二人の力が今ここに合わさったかのような、ツインマキシマムのライダーキック。
 悪を駆逐するそれを名付けるならば、そう――死神の鎮魂歌(ジョーカーレクイエム)。

「りゃあああああああああああああああああああっ!!」

 黒白の螺旋を描く両足は、アポロガイストが迎撃に放った火球を易々と貫き、二枚を重ね最後の守りとした両翼さえも突き破る!

「ぐぬぁっ!?」

 そうして到達した両足は、アポロガイストの胸郭を踏み砕き――そこから膨大な稲妻を体内に流し込んだ。
 全身の内で莫大な電圧が荒れ狂い、灼き尽くす。圧倒的な力の炸裂に耐え切れず、アポロガイストは弾かれたように吹き飛ばされた。

「お……おのれエターナルッ!」

 立ち上がった瞬間、膝が折れる。致命傷を受け崩れ行く肉体は、限界を迎えたことを告げていた。
 だが、そのまま敗北を受け入れることをアポロガイストの矜持は認めなかった。

「……これで勝ったと思うな。私は必ず、宇宙で最も迷惑な存在として蘇ってやる……っ!」
「だったらまた倒してやる。克己の祈りを受け継いだあたしや、あたしの次の他の誰かが、そのたびに!」
 崩壊までの、わずかな猶予を振り絞って吐き出されたアポロガイストの捨て台詞を、即座にエターナルは切って捨てた。

「あんたの思い通りになる時なんか、もう二度とやって来ない――永遠に!」
 先代となる男を喪った事実を受け止めた上で、それを二度と繰り返させないと、決意を表明したエターナル=さやかは、その左手の親指を下に突き出した。
「だからあんたは、せいぜい……地獄を楽しんできな」

 別れの言葉を告げられた次の刹那――ハイパーアポロガイストの肉体は遂に限界を迎え、爆散した。

340交わした約束と残した思いと目覚めた心(後編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:19:44 ID:UHAKG6eE0





 ――――その瞬間、アポロガイストは己の身に起きた全てを悟り、歓喜した。

(――ならばその永遠、今この場で断ち切ってくれるのだ、美樹さやか!)
「な――っ!?」

 ハイパーアポロガイストの肉体が爆発したと同時、飛び出したコアメダルは明らかに爆風に煽られたのとは異なる機動を見せた。
 それもそのはずだった。今となってはそのクジャクのコアメダルこそが、悪の大幹部アポロガイストの意識を宿した、本体と呼ぶべきものだったのだから。
 明らかに死したはずの男の声を聞き、流石に動揺を隠せないでいるエターナル目掛けて、クジャクコアと化したアポロガイストは飛翔する。

(貴様の肉体を奪い、直ちに復活してくれる!)
 アポロガイストは、自らの肉体が滅び、コアメダルのみとなったことにより、グリードとしての性質を理解した。
 グリードの肉体は欲望の塊であるオーメダルで構成される。
 しかし自分がハイパーアポロガイストへと変じてみせたように、人間の身体もまた、メダルの代用品として機能する欲望の塊なのだと。
 そしてグリードの身体はコアが抜ければそれを形作る結合力を失い、ただのメダルの集まりへと解けてしまうが――アンクのコアメダルが全て抜けた後も、あの体は残っていたことを爆発の直前、確認していた。

 故に肉体が破壊されながらも残された自意識は、即ちその意味すること――グリードは人間の肉体を奪い、活動できる事実を知った。
 消滅することのないコアメダルに意識を宿し、何度でも肉体を新たにできる――自らがあれほど恐れた死の支配を、完全に克服した巨悪となったのだと!

(やはり私は――貴様らにとって大迷惑な存在なのだっ!)



「――まったくだな。だからここでご退場願おう」



 その声と共に、アポロガイストの意識に『線』が走った。

(あっ――?)

 満ちていた活力が漏れ出して行くような感覚に襲われたアポロガイスト=クジャクコアは、それまでの勢いを失い停滞する。
 その全体に、無数の境界線を走らせながら。

(バカな……コアメダルは、破壊不可能のはず……っ!?」
「生憎だが、ただ斬ったという結果のみを造り出すこの剣の前では、そんな事実に何の意味もない」

 静かに嘲弄するような、嗜虐心に富んだ声――その主の正体を悟り、アポロガイストは切り裂かれた意識だけで絶叫する。

(キ……サマ……脳噛、ネウロォオオオオオオオオッ!)
「魔帝7ツ兵器(どうぐ)、“二次元の刃(イビルメタル)”――貴様如きが拝謁できた栄誉を、その脳髄に刻むのだな」

 傍らに立つ魔人の宣告と同時、彼の揮った無敵の刃に囚われ不自然に停止していたコアメダルが、線に添って分断されて行く。

「おっと。刻むべき脳髄ももうなかったな」
(まさか……私が、死……)
「違うぞアポロガイスト。貴様が迎えるのは死ではない」

 そうして用を成さぬただの破片、それ以前の単なる『欲望』の残滓へと完全に溶けてしまう直前。消滅までの刹那に残された猶予に、アポロガイストは愉悦に満ちた魔人の声を聞いた。

「おまえはもう、コアメダルというただの『物』。死ぬのではなく、消えるだけだ……その意識ごと、永遠にな」
(な、お……いっ)

 残忍な宣告に何かを言い返そうとしたところで、彼の声は途切れた。

 それ以上、意味のある言葉すら残せずに――バトルロワイアル参加者にとって大いに迷惑な存在であり続けた大ショッッカー大幹部・アポロガイストの意志を宿したコアメダルは、完全に消滅したのだった。





【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド 消滅】







「――よく働いたな、サヤカ」

 アポロガイストの最期の抵抗――コアメダルの襲来を砕いたネウロが顔だけをこちらに向けて、そう口を開いていた。

「犠牲は伴ってしまったが……一先ずは、我らの勝利だ」

 ――終わった。

 自らに言い聞かせるようなネウロの声を聞いて、そう思った途端。さやかはエターナルの変身を解くと同時に、その場に腰を落としていた。
 誰よりボロボロで、体の表面から皮膚の破片を零し続けて、今にも倒れてしまいそうなネウロが立ったままだというのに、思わず倒れ込んでしまっていたのだ。

「あたしはあいつを……殺した、んだね」

 そうして、最初に口から零れたのは――敵を討った喜びではなく、生き残った安堵でもなく。
 最期の瞬間、敵の残した悲鳴で直視した、そんな事実の再認だった。

341交わした約束と残した思いと目覚めた心(後編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:21:01 ID:UHAKG6eE0

「……気にすることはない。奴にトドメを刺したのは我が輩だ」

 それが事実とはいえ、この状況下においてはいっそ間抜けですらあるようなさやかの呟きに、しかし意外にもネウロは真摯な様子で応えた。

「そして我が輩、実は極力『殺人』は避けている。どんな人間であれ、生きてさえいればまた『謎』を作るかもしれんからな」

 ネウロは足元に転がる、かつてハイパーアポロガイストの肉体を構成していたメダルを拾い上げ、それを指先で弄びながら続ける。

「だが奴は既にグリード……本性はただのメダルだった。大道克己とは違う、本当にただの『物』でしかない害悪だった。だから排除したに過ぎん」
「それは……そうだけどさ」

 時折間抜けな姿を見せることはあっても、自らを悪と謳い我欲に生きるアポロガイストは徹頭徹尾、もしかすれば、魔女以上に邪悪だった。
 奴は自分達を殺そうとして来て、事実克己の命を奪った。そのことについて憎しみも恨みもあり、それを忘れる必要だってどこにも在りはしない。
 改心させることなど不可能だった。ここで殺してでも止めなければ、この先もっと大勢の犠牲者が出ていたことも疑いようはない。

 ――それでも、人の形をした、意思疎通の可能な相手に対し、一線を越えたことは初めてだったのだ。

 間違ったことをしたつもりはない。だとしても、正しいと信じることを押し通すために暴力に訴え、時には相手の生命を絶たねばならないということ。
 それが、存外、堪えるものなのだということを――さやかは漸く、実感していた。
 かつて、佐倉杏子との戦いを殺し合いなどとまどかに語っていたが、あの時はきっとこんな痛みなど、わかってはいなかっただろう。

「ヤコもそうだったが……難儀だな、ニンゲンという種族は」

 今度はアポロガイストの遺した首輪を回収しながら、やれやれとネウロが嘆息した。

「しかし、そこまで似た姿形をした物を壊すのが気に病むというのなら……まぁ、まず我々の余裕ができてからの話だが」
「――うん、考えておく」

 ネウロが言わんとすることを察して、先んじてさやかは首を斜めに振った。
 ――悪人だろうと、その命が喪われることは悲しいことだと今は思う。
 だけど、それがこの先、魔法少女として、仮面ライダーとして、正義の味方として戦っていく上で足枷となる、単なる甘さではないのかと……そんな不安が、なおもさやかに躊躇を覚えさせていた。
 しかし、それでも――佐倉杏子に向ける感情が、確かに、心変わりし始めている己を、今はさやかも自覚していた。

「そうか。なら構わんが……あの男を継ぐというのなら、貴様には立ち止まる時間とやらはないはずだぞ、サヤカよ」

 それだけを言い残し、今度はユウスケの方に進むネウロの傷だらけの背中を目の当たりにして。
 自分が喪ったものを、彼もまた奪われながら――なおも歩み続けようとしていることを理解して、さやかは迷いを払うように首を振り、立ち上がった。

「……わかってるよ」

 まどかも、仁美も。克己も、ガタックゼクターだって。
 色んな人が、色んなものを自分にくれた。
 だからこの胸の痛みさえも、保証して貰えた人間の証として受け止めて。
 それを全部受け取って、自分は前に進まなければ。
 いつかそれを受け継ぐ誰かのために、未来を描いてみたいから。






      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○






「……ということだから、教会にも今、殺し合いを止めようとしている人達が集まってる」

 暫しの後。
 ネウロに命じられた、アポロガイストの残していったオーメダルの回収を終えたユウスケは、その最中から続けていたこれまでの経緯を、簡単ながらにさやかに語り終えていた。

「セイバーちゃ……さんも、千冬さんも、グリードにも負けないような強い人達だ。よっぽどのことがない限り、無事だと思う」

 そのよっぽどのことを、さやか達の身に降りかからせた張本人が己であることを自覚しながら、ユウスケは力強く断言した。
 誇り高き仮面ライダーであった、大道克己の命を奪った罪――自分自身がそれを許せなくとも、気に病むような素振りだけは、せめてさやかの前では晒すまいと心に決めながら。

342交わした約束と残した思いと目覚めた心(後編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:21:45 ID:UHAKG6eE0

「えっと……『全て遠き理想郷(アヴァロン)』だっけ。衛宮切嗣って人が治療に使ってるの」

 ユウスケに散らばったメダルを集めろ、と命じたネウロ自身は、今この場には居ない。
 コアメダルを一枚渡したところで、確認することがあるから引き続きメダルを回収しながら暫く待っていろと言い残し、早々に南東の方へと向かってしまったのだ。
 何をしているか気になるが、さておき。結果今は、気絶したアンクを除けばさやかと一対一。故に簡潔に留めた内容だったが、その中からもさやかは必要な情報を取捨選択し、必死に思考を束ねていた。

「どんな傷でも治せる伝説のアイテム……それがあれば」
「ああ、もし今のアンクが大変な状態だとしても、元に戻せるかもしれない」

 言い終えると共に、ユウスケは腰掛けた自分達の間に横たわったアンクに視線を向ける。
 さやかを助けるために、その身を削った――キバの世界に生きる多くのファインガイア同様、人間と共に生きる怪人に。

 彼に対しても、操られる以前からユウスケは酷いことをしてしまった。目覚めれば居心地の悪さが増してしまうだろうが、逃げるわけにはいかない。
 しかし、さやかの窮地に託したメダルが、彼の持つ最後のコアメダルだったようで……彼らにとっての生命そのものであるメダルを一度全て吐き出したアンクの意識は、今も戻ることがなかった。

 色が抜けるのとは逆に、金から黒に染まっているのだが――髪の色が変わるほど衰弱しているのは只事ではないと、グリードをよく知らないユウスケにも予想できた。
 グリードの血肉がオーメダルだというのなら、一度バラバラにされた物を戻されたところで果たして治癒できるのかは定かではないが、そこは怪人の生命力を信じるしかない。

 本当なら手持ちのメダルを全て彼に渡したいところだが、この状況では彼の護衛も含め、戦闘用にメダルを確保しておく必要がどうしてもあった。
 改めて忌々しい制限だと、ユウスケは臍を噛む。

「あっ、いや……それはそうなんだけど……そうじゃなくて」

 しかし、何故かさやかは言い淀み、視線を泳がせた。
 アンクを心配していない、というわけではないだろうし、そう思われたいわけでもないはずだ。
 理由を推察する前に、さやかは一つ小さく咳払いする。

「とにかく。ネウロが戻ったらあたし達もそっちにお邪魔しても良いかな、ユウスケ。ネウロが何考えているかわかんないけど、元々行く宛もなかったし」

 何かを露骨にはぐらかされたのを感じながらも、それが自分との距離を置きたい故でなかったことに、回答することに安心を伴ってユウスケは頷いた。

「ああ、こちらこそ。きっと皆歓迎してくれるよ」

 今は、互いに表面を取り繕ったままでも。
 同じ思いを残された、同じ結末を願う者同士なら、きっと手を取り合えると信じて。







      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○






「そろそろ手を離してくれないかな」
「おや、何故だ? これまでの疲れを思えば、自分で歩かずに済むなど快適だろうに」

 己が五指で掴み、ぶらぶらと振り回していた白い塊が発した抗議の声に、ネウロは嗜虐心も隠さずすっとぼけた。

「爪が食い込んで痛いじゃないか」
「また、勝手に逃げられても困るのでな。まぁ暫くは我が輩の奉仕をありがたく受け取っておけ」
「こういうのは奉仕じゃなくて、虐待と言うんじゃないかな」

 E-4で回収した、自らの支給品だったインキュベーターと懐かしい調子の会話を交わしながら、ネウロは気分良く夜道を歩いていた。
 もちろん、インキューベーターと仲良く散歩することが目的ではなく、ウヴァを追う手掛かりであるこの異星獣を確保することが当初の予定だった。
 しかしもう一つ、確認すべき――否、確認できる事柄が増えたために、ネウロは少しだけ、さやか達への直線から逸れたルートを進んでいた。

343交わした約束と残した思いと目覚めた心(後編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:23:21 ID:UHAKG6eE0

「ところでインキュベーターよ」
「何だい?」
「ウヴァはディケイドとやらに倒された際、全身がメダルと化してバラバラになったのか?」

 更に別件として。先程目にしたアポロガイストの最期を思い返しながら、ネウロはインキュベーターに問いかける。

「そうだけど、それがどうかしたのかい?」
「こちらのことだ」

 そのように返答しながら、ネウロはもう一人のグリード――“全てのメダルを吐き出しながら”人型の肉体を形成したままの個体を思い返す。

「なるほど。だからウヴァの情報を売ったわけか」

 それが意味するところを、ネウロとの交渉材料にする際、即理解を促すことができるように。
 手に持ったキュゥべえにも聞こえないほど小さな声で呟いた後、ネウロは目当ての物を見つけていた。
 左手でインキュベーターを捕らえたまま。空いた右手で必要な操作を行い、目当ての画面を呼び出す。

「ふむ。やはりルールブックに記載がなかったとおり、認証する首輪はその状態を問わないようだな」

 呟くネウロの右手に握られていたのは、アポロガイストが身に着けていた首輪。
 彼の全身がメダルに解けた際に脱着できたそれをネウロは回収し、ATMと認証させていたのだ。
 先程口に出して確認したとおり、ルール上では首輪は参加者が装着しているかどうか、生存しているかどうかをATMとの認証条件に含んでいなかった。

「貯金はない、か……まぁ計画性のなさそうな男だったからな」

 まずはアポロガイストの残高を確認してみたが、残念ながら回収できるメダルはなかった。
 とはいえ、口に出したとおり想定の範囲内であり、本命はそれではない。

 ネウロがここに立ち寄った真の目的は、殺害数ランキングの閲覧にあった。
 アンクがさやかにコアメダルを託し、結果として結合力を失い吐き出されたセルメダルを回収できたおかげで「二次元の刃」で自律行動していたアポロガイストのコアを仕留めることができたネウロだが、肉体を破壊したわけではなく、メダルを砕いただけの己が殺害数ランキングの閲覧権を取得できたのかは確証が持てなかった。

 しかし、確実に大道克己を殺害したと言える実績を持つアポロガイストならば、その権利を確実に取得していると予想できた。
 故に、この首輪を使うことで――魔法少女であるさやかの精神的負荷をある程度コントロールできる状態になるよう、先んじてこれまでの犠牲者と加害者の関係を把握できるとネウロは踏んでいたのだ。
 そして、その読みは見事的中し――ネウロは無事に、バトルロワイアル中の殺害記録というこの上ない情報に辿り着くことができていた。

 画面を開いたネウロは、早速飛び込んできた名前から優先度の高い情報をピックアップして行く。

「――門矢士、というのはウヴァを倒した男だったな?」
「そうだね。どうかしたのかい?」

 ATMの画面を覗き込めない位置で宙吊りにされたインキュベーターの問いを黙殺し、ネウロは思考を巡らせる。

 アンクが――おそらくは人格を含め、戦力としてアテにできると言っていた伊達明は、門矢士が殺め。
 さやかの友人の内、鹿目まどかがカオスという参加者に葬られていた。

 更に半日前に、志筑仁美はシックス率いる「新しい血族」の一人――葛西善二郎の手にかかり、
 そして、ネウロが救えなかったノブナガは、やはりあのウヴァによって命を奪われていた。

「……」

 この内、ネウロにとって重要なのは、グリードであるウヴァを倒し、メズールをも屠った門矢士――タイミングを鑑みれば、ある重大な可能性が見えてくる人物のことだ。
 即ち、前回の放送までの間にグリードを倒した唯一の参加者――その間に砕かれたコアメダルを破壊した、張本人である疑いの強い参加者。

 勿論、砕かれたのがウヴァかメズールが有していたコアメダルとは限らない。先程アポロガイストのコアメダルをネウロが破壊したように、他の参加者が手にしていたメダルが破壊された可能性も考慮できる。
 しかし、主催者が複数形で呼称した、コアメダルを破壊できる者達……その放送の後まで確証がなかったネウロ自身と、オーズこと火野映司以外にも存在する場合、真っ先に候補に挙げられる名であることは間違いないだろう。

 コアメダルを破壊しないかぎりは、グリードは何度でも蘇る――そのしぶとさは先程、後天的なグリードであるアポロガイストが(頼んでもないのに)存分に見せつけてくれた。
 しかしネウロがコアメダルを破壊するのは、あまりに燃費が悪すぎる。「二次元の刃」はおそらく、その時ネウロが保有する全魔力(メダル)を強制的に吸い上げて召喚に要する時間を削るという制限をされているのだから、一撃ごとにガス欠になってしまうのだ。

344交わした約束と残した思いと目覚めた心(後編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:24:31 ID:UHAKG6eE0

 故に、可能であればグリードへのトドメはネウロ自身が身を削るより、他に存在するコアの破壊者達に委せる方が好ましいと、ネウロは考えていたのだ。

 だがそこで問題となるのは、アンクの言が正しければ、確実にコアを破壊できる存在だという火野映司は殺し合いに乗っているということであり。
 もう一人のコアの破壊者として有力な候補である門矢士もまた、伊達明を殺している事実を、どう受け止めるべきかということだろう。

 得られた情報から考察を進めながら、画面をスクロールしていったネウロは――その表情を一瞬にも満たない刹那、硬直させた。
 そしてそれを緩やかに歪め、嗜虐的に嗤う。

「おやおや。さてこれは……」

 弄ぶように思案する、ネウロの視線の先にあるのは――ランキングに記載された、『アンク』の名前と。
 彼のスコアとして並んだ、左翔太郎とアストレア――火野映司の手によるものだと、アンクが語っていた犠牲者二人の名前だった。






      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○






「……起きないね、アンク」

 ネウロの帰りを待つ間。ユウスケとのある程度の情報交換が終わってしまえば、気まずさから互いの口数が減ってしまったことに耐えかねたさやかは、何度目かになるアンクの話題に挙げていた。

「このままじゃ、教会は遠いよね……」
「……確かに、背負ってだと遠いかな」

 現在地からすれば、直線距離で20km弱。禁止エリアは迂回することを考えれば、一般的な歩行速度では次の放送まで掛かってしまう。
 そこに、意識がないアンクを背負っての移動という条件が加われば、教会組との合流は夜が明けてからになりかねない。
 無論、会場中に設置されたライドベンダーを使えば、そんな問題も即解決する……のだが。

「……四人乗り、は無理があるか」

 ユウスケに提案に、さやかは無言のまま頷く。
 かと言ってアンクは気絶中であり、さやかは仮面ライダーを継いだと宣いながらも、単車の免許は取得していない。
 単に無免許運転なだけなら、今の状況なら逮捕されるということもないだろうが……いきない二人乗りで、となれば事故が怖い。
 かと言ってネウロに運転して貰うというのは………………………………何だか怖い。

 まともに運転できるのがユウスケだけ、という状況が意外にも厄介である事実に、さやかは重い溜息を零した。

 ――そして、ふと。どうしても脳裏を過ぎった想いに釣られ、少しだけ深度を増した思考へと沈み込む。

(……やっぱりあたし、いろんなことを克己に頼りきってたんだ)

 移動手段一つ考えても、彼のことを思い出してしまう。
 ……考えてみれば、ユウスケとの二人乗りを無意識に思考から外していたのも、きっとそのせいなのだろう。頭ではわかっていても、心の深いところがまだ受け入れられていないのだ。

 たったこれだけのことで、二度と埋められない喪失を、再認識してしまう。
 終わってみれば、わずか半日――たったそれだけを共に在っただけの、仲間。
 それでも彼はきっと、さやかの人生の中でも大きなモノをくれた人だったのだろう。

 その彼は、もう、自分達の記憶の中にしか居はしない。
 それはとても悲しいことで、寂しいことで。
 けれど、大切なことでもあるのだと、今のさやかには自然と理解できていた。

(……大丈夫だよ、エターナル。あたしはあの約束、絶対に忘れないから)

 時の経過に削られて、いつかは風化してしまうかもしれない大切な記憶(メモリ)を、さやかは強く握りしめる。
 例えその外観が損なわれたところで。託された物を、決して取り零すことがないように――足掻いてみせる。

 とりあえず。いつか距離は詰めるとして、ユウスケにはアンクを任せ。不安が一杯でも、ネウロに運転を頼み込んでみようかと……そんなことを考えていた、最中。
 足元の方でもぞもぞと、何かが動く気配があった。

「あっ、アンク。目、覚めた?」

 さやかの問いかけに、黒髪のままのアンクは小さく首を振って立ち上がる。
 それから己を見たアンクの顔に、さやかは少しばかり目を丸くした。
 全く同じ顔なのに――まるで別人かと疑うほど、印象がガラリと変わっていたのだ。
 ただ、髪の色が変わっただけではなく。全く同じ輪郭でありながら、随分柔和な顔立ちへと。

「……はじめまして、二人とも」

 アンクはその顔のまま、さやか達の知らない口調で喋る。
 そうして彼は、少し困ったのか、はたまた照れたようにして、はにかみながら。

345交わした約束と残した思いと目覚めた心(後編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:26:01 ID:UHAKG6eE0

「俺は……泉、信吾です」

 さやか達の知らぬ名を、その口から名乗り上げていた。






【二日目 深夜】
【F-3(北東端) 市街地】



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】青
【状態】健康、決意、杏子への複雑な感情、Xへの強い怒り
【首輪】30枚:0枚
【コア】シャチ(放送まで使用不可)、ワニ(放送まで使用不可)
【装備】ソウルジェム(さやか)@魔法少女まどか☆マギカ、NEVERのレザージャケット@仮面ライダーW、T2エターナルメモリ+ロストドライバー+T2ユニコーンメモリ+T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、ライダーベルト(ガタック)の残骸@仮面ライダーディケイド、克己のデイパック{基本支給品、NEVERのレザージャケット×?-3@仮面ライダーW、カンドロイド数種@仮面ライダーOOO}
【思考・状況】
 基本:克己の祈りを引き継ぎ、正義の魔法少女として悪を倒す。
  0.泉、信吾……?
  1.ネウロが戻ったら、情報交換をしながら教会を目指したい。
  2.アンク達と一緒に悪を倒し、殺し合いを止める。
  3.佐倉杏子のことは……
  4.克己やガタックゼクターが教えてくれた正義を忘れない。
  5.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡してはならない。
  6.マミさんと共に戦いたい。
  7.少なくとも、暁美ほむらとは戦わなければならない。
【備考】
※参戦時期はキュゥべえから魔法少女のからくりを聞いた直後です。
※ソウルジェムがこの場で濁るのか、また濁っている際はどの程度濁っているのかは不明です。
※回復にはソウルジェムの穢れの代わりにメダルを消費します。
※NEVER、グリード、ネウロ関係に関する知識を得ました。
※アンク、ネウロが魔女について知っている事は知りません。
※佐倉杏子の、アンクから伝え聞いたこの場での活躍と、自身の見た佐倉杏子の差異に困惑しています。
※エターナルの制限については、第81話の「Kの戦い/閉ざされる理想郷」に続く四連作を参照。
※T2エターナルメモリがさやかにとっての『運命のガイアメモリ』となりました。メモリ使用の副作用はありませんが、他のT2ガイアメモリでの変身が困難となりました。
※T2ユニコーンメモリはエターナルメモリにさやかの『運命のガイアメモリ』の座を譲りましたが、ユニコーンにとっても適合率が最も高い人物は引き続きさやかのままです。


【アンク(泉信吾)@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・代理リーダー
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、覚悟(アンク)、仮面ライダーへの嫌悪感(アンク)、『王』への恐怖と憎悪(アンク)、さやかと克己のやり取りへの非常に強い興味 (アンク)、気絶中(アンク)、覚醒(泉信吾)
【首輪】20枚:0枚
【コア】タカ(感情A・放送まで使用不能)、クジャク(放送まで使用不能)、コンドル(放送まで使用不能)、パンダ(放送まで使用不能)
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品×5(その中からパン二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、大量の缶詰@現実、不明支給品1〜2
【思考・状況】
 基本:???
  0.???
【備考】
※本編第45話、他のグリード達にメダルを与えた直後からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※参加者毎に参戦時期の差異が生じることに気づきました。
※ネウロにコアメダルを破壊することができる能力があると推察、警戒しています。
※『王』と真木の結託に何かしら裏があり、それが主催陣営の弱点になるかもしれないと予想しています。
※「泉信吾の肉体」とコアメダルの融合が一度解除されました。またタカ(感情A)のコアメダルから色が失われたせいか、泉信吾の意識が回復し主人格となりました。アンクの意識がどのような条件で回復するのかについては後続の書き手さんにお任せします。

346交わした約束と残した思いと目覚めた心(後編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:32:31 ID:UHAKG6eE0
【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】無所属(元・赤陣営)
【状態】疲労(大)、精神疲労(大)、克己を殺めてしまった罪悪感、さやかへの負い目
【首輪】30枚:0枚
【コア】クワガタ(次回放送まで使用不能)、カンガルー(次回放送まで使用不能)
【装備】龍騎のカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】なし
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
 1.ネウロが戻ったら、B-4に戻って千冬、切嗣達と合流する。
 2.井坂、士、織斑一夏の偽物を警戒。 士とは戦いたくないが、最悪の場合は戦って止めるしかない。
 3.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
 4.大道克己の変わり様が気になる。
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
 しかし千冬から聞かされたのみで、ユウスケ自身には覚醒した自覚がありません。
※ライジングアルティメットクウガへの変身が可能になりました。
 但し地の石の破片を取り込んだことや、他に何らかの影響があるためか、ライジングアルティメットに変身した際のアマダムの色が黒ではなく金になっています。
 通常のライジングアルティメットとのその他の具体的な変化については後続の書き手さんにお任せします。



【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、ボロボロの服
【首輪】55枚:0枚
【コア】コンドル:1(放送まで使用不可) 、タカ(十枚目・放送まで使用不能)
【装備】魔界777ツ能力@魔人探偵脳噛ネウロ、魔帝7ツ兵器@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式×2、弥子のデイパック(桂木弥子の携帯電話+あかねちゃん@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)※黒ずみ進行度(中)@魔法少女まどか☆マギカ、 衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero)赤い箱(佐倉杏子) 、キュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカ、首輪(アポロガイスト)
【思考・状況】
基本:己の欲望を満たす
 1.???
 2.怪盗Xに今度会った時はお望み通り“お仕置き”をしてやる。
 3.火野映司及び門矢士の動向に注目し、利用価値を見極める。
 4.佐倉杏子を復活させられる人材とメダルを準備したい。
 5.ラウラ・ボーデヴィッヒを探し出し、ウヴァに操られていないかを確認する。ウヴァが生きている場合は丁重にもてなした(※意訳)後コアを砕く。
【備考】
※DR戦後からの参戦。制限に関しては第84話の「絞【ちっそく】」を参照。次回消費の二日目2時時点での維持コストはセルメダル7枚です。
※魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器は他人に支給されたもの以外は使用できます。しかし、魔界777ツ能力は一つにつき一度しか使用できません。
 現在「妖謡・魔」「激痛の翼」「透け透けの鎧」「醜い姿見」「禁断の退屈」「花と悪夢」「無気力な幻灯機」「惰性の超特急5」「射手の弛緩」「卑焼け線照射器」を使用しました。
※ノブナガ、キュゥべえ、アンク、克己、さやかと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
※杏子のソウルジェムについては第131話の「悩【にんげん】」を参照。
※体の維持が少しずつ困難になってきています。メダルの枚数の為なのか、最早メダル関係無しに限界なのか、弥子の命の炎ではネウロの体にパワー不足が生じているのかは不明です。
※コンドルメダルはアンクだけでなくここにいる全員に秘匿中です。
※参加者毎に参戦時期の差異が生じることに気づきました。アンクから聞いた情報によっては、ノブナガと映司にはそれ以上のものが発生していると気付いているかもしれません。
※『王』と真木の結託に何かしら裏があり、それが主催陣営の弱点になるかもしれないと予想しています。
※アポロガイストの首輪を使い、キルスコアランキングを閲覧しました。
※門矢士がコアメダルを破壊できる可能性を考慮しています。
※キュゥべえを嬲ることで少しメダルを獲得しています。

※「二次元の刃」の制限について:発動コストは通常の必殺技のレートに収まりますが、効果を発揮するまでに要する召喚時間として1000秒が設けられています。
 また、発動時にネウロが所持する全てのセルメダルを自動的に消費して、効果発動までの時間を短縮することができます。
 但しシグマ算でコストが設定されており、具体的な目安としては、10枚で100秒、次の100秒は追加20枚(合計30枚で200秒)、次の100秒は更に追加30枚(合計60枚で300秒)ずつ短縮できる模様です。

347交わした約束と残した思いと目覚めた心(後編) ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:34:05 ID:UHAKG6eE0



【全体備考】
※「二次元の刃」により、クジャク(感情:アポロガイスト)が破壊され消滅しました。
※キルスコアランキングでは、作中の名簿同様アンクとアンク=ロストの表記に区別がありません。
※アポロガイストが自律行動するための肉体を破壊したのは美樹さやかであるため、キルスコアは彼女の物として計上されていますが、少なくともネウロが閲覧した時点ではまだ第二回放送までの情報しかランキングには反映されていません。

348 ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 18:35:20 ID:UHAKG6eE0
以上で投下を完了します。
仮投下を通してはありますが、何かご指摘がございましたら気軽にご指導頂ければ幸いです。
よろしくお願いします。

349名無しさん:2016/08/21(日) 18:50:24 ID:q86Df91gO
投下乙です

アンクの感情コアがお兄ちゃんの体から離れても死亡認定されないってことは、アンクの生死はお兄ちゃんの体が死んだかどうかで判断するのかな
首輪してるのはお兄ちゃんだし

350 ◆z9JH9su20Q:2016/08/21(日) 21:44:19 ID:UHAKG6eE0
ご感想ありがとうございます。
本投下後に申し訳ありませんが、全体備考欄に以下の事項を記載し忘れていたので、wiki収録時に追加させて頂きますことをここにご報告します。

>※アンクが一度泉信吾の体内から全てのコアメダルを放出したため、深夜の時間帯に赤陣営が一時的に消滅しました。現在のリーダー代行は泉信吾です。

大変失礼いたしましたが、ご了承くださいますようお願いいたします。

351名無しさん:2017/10/09(月) 23:19:51 ID:P7YHwu4A0
オーズ&アンクオリキャスで復活記念


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