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バーチャルリアリティバトルロワイアル Log.03

1 : NPC :2014/11/29(土) 14:40:43 9sZCm6p60
ここは仮想空間を舞台した各種メディア作品キャラが共演する
バトルロワイアルのリレーSS企画スレッドです。

この企画は性質上、版権キャラの残酷描写や死亡描写が登場する可能性があります。
苦手な人は注意してください。


■したらば避難所
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/15830/

■まとめwiki
ttp://www50.atwiki.jp/virtualrowa/

■過去スレ
企画スレ ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13744/1353421131/l50
 Log.01 ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1357656664/l50
 Log.02 ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1378723509/l50 <前スレ


2 : NPC :2014/11/29(土) 14:41:43 9sZCm6p60
■参加作品/キャラクター

6/9【ソードアート・オンライン】
 ○キリト / ○アスナ / ○ヒースクリフ / ●リーファ / ●クライン / ○ユイ / ○シノン / ○サチ / ●ユウキ

5/8【Fate/EXTRA】
 ○岸波白野 / ○ありす / ●遠坂凛 / ○間桐慎二 / ●ダン・ブラックモア / ○ラニ=VIII / ●ランルーくん / ○レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ

4/8【.hack//G.U.】
 ○ハセヲ / ○蒼炎のカイト / ●エンデュランス / ○オーヴァン / ●志乃 / ○揺光 / ●アトリ / ●ボルドー

4/7【パワプロクンポケット12】
 ○ジロー / ○ミーナ / ●レン / ●ウズキ / ○ピンク / ○カオル / ●アドミラル

3/6【アクセル・ワールド】
 ●シルバー・クロウ / ○ブラック・ロータス / ○ダスク・テイカー / ●クリムゾン・キングボルト / ○スカーレット・レイン / ●アッシュ・ローラー

4/6【ロックマンエグゼ3】
 ○ロックマン / ○フォルテ / ●ロール / ○ブルース / ●フレイムマン / ○ガッツマン

2/6【.hack//】
 ●カイト / ○ブラックローズ / ●ミア / ○スケィス / ●バルムンク / ●ワイズマン

4/5【マトリックスシリーズ】
 ○ネオ / ○エージェント・スミス / ○モーフィアス / ●トリニティ/ ○ツインズ

32/55


■地図
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0250.jpg
※ 2013/9/13時点


3 : NPC :2014/11/29(土) 14:42:29 9sZCm6p60
■ルール

<ロワの基本ルール>
・最後の一人になるまで参加者は殺し合い、最後に残った者を優勝とする。
・優勝者には【元の場への帰還】【ログアウト】【あらゆるネットワークを掌握する権利】が与えられる。
・仮想現実内の五感は基本的に全て再現する。
・参加者はみなウイルスに感染しており、通常24時間で発動し死亡する。
 誰か一人殺すごとにウイルスの進行が止まり、発動までの猶予が6時間伸びる。
・参加者は【ステータス】【装備】【アイテム】【設定】で構成されたメニューを表示できる。
 また時刻も閲覧可。
・死亡表記は【キャラ名@作品名 Delete】


<支給品について>
・「水」「食糧」などは支給されない。
・参加者には地図とルールの記されたテキストデータが配布されている他、ランダム支給品が3個まで与えられる。
・アイテム欄の道具は【使う】のコマンドを使うことで発動。
 外の物をアイテム欄に入れるには、物を手に持った状態で【拾う】のコマンドを使う必要がある。
・死んだ者の所持アイテムは実体化して、その場に散らばる。
 また死体は残らず消滅する。


<武器防具の装備の扱い>
・自分のジョブ以外のものも手に持つことは可能。
 ただし扱いに関しては全くの素人状態(杖なら魔法は使えない)
・防具の場合は触れることはできても着ることはできない(指定ジョブ以外の防具は防具として役に立たない)
・レベル、習得スキルの扱い→アバウトでいい。
・ゲームを越えての装備品も似た武器ならば自分のジョブに近い形で運用できる。
・武器防具のパッシブスキルは他ゲームのものでも発動する。


<イベント>
《1日目 6:00〜18:00》
【モラトリアム】日本エリア/月海原学園
 校舎内は交戦禁止エリアとなる。
 期間中に交戦禁止エリア内で攻撃を行っているプレイヤーをNPCが発見した場合、ペナルティが課せられる。

《1日目 12:00〜18:00》
【野球バラエティ】アメリカエリア/野球場
 野球場において野球ゲームをプレイできる。
 不足メンバーはCPUで補充可能。
 なお、細かい仕様は野球場の受付にて説明している。

《1日目 12:00〜18:00》
【迷いの森】ファンタジーエリア/森
 該当エリア内の地形が変化。
 また、ランダムではあるがマップにてループが発生する。
 エリア内ではエネミーがポップし、撃破することでポイントを入手することができる。


<作中での時間表記>(0時スタート)
 深夜:0〜2  朝:6〜8.     日中:12〜14  夜:18〜20
 黎明:2〜4  午前:8〜10  午後:14〜16  夜中:20〜22
 早朝:4〜6  昼:10〜12.   夕方:16〜18  真夜中:22〜24


<各作品に関するルール・制限>
【Fate/EXTRA】
・マスターは基本的にサーヴァントを伴って参戦。
・マスターが死ねば、サーヴァントも同時に脱落する。
・サーヴァントの宝具、武装は没収されない。
・主人公(岸波白野)の性別とサーヴァントは登場話書き手任せ。→決定済。登場SSを参照して下さい。
・サーヴァントは戦闘する際に、マスター側の魔力も消費する。

【ソードアートオンライン】
・まだ文庫化されていないweb版からのキャラ、アイテムの参加は不可。

【.hackシリーズ】
・八相はプロテクトブレイクするとHP∞は解除。
・憑神は一般PCにも見え、プロテクトブレイクされると強制的に一般空間へ。
・パロディモードからの参戦はなし。

【アクセルワールド】
・参加キャラたちは最初からデュエルアバターだが、任意でローカルネットのアバターも取れる。
・必殺技、飛行、略奪スキルは要ゲージで、あとは特に制限なし。

【パワプロクンポケット12】
・主人公の名前は書き手に任せ。→「ジロー」に決定しました。

【ロックマンエグゼ】
・バトルチップは他作品キャラも使用可、チップ単位で支給。
・一度使ったチップは一定時間使用不可。
・フォルテの「ゲットアビリティプログラム」は深刻なダメージを与えなければ発動しない。

【マトリックスシリーズ】
・スミスの分身能力は、心身に深刻なダメージを与えないと発動しない。
・ネオの身体能力(飛行、治療、第六感的な知覚)はある程度制限。


4 : NPC :2014/11/29(土) 14:44:09 9sZCm6p60
スレッド作成、及び前スレからの誘導作業、完了致しました。
地図作成が可能なNPCは、新しい地図ファイルへの更新をお願いします。
スリープモードに移行します。


5 : NPC :2014/11/29(土) 15:37:00 9sZCm6p60
>>3の<イベント>への記述漏れを確認しました。申し訳ありません。
以下、追加イベントです。


【スペシャルマッチ解放】アリーナ
《1日目 12:00〜24:00》
 スペシャルマッチが開放、特殊ボスとの戦闘が可能となる。
 勝利報酬としてレアアイテムが配布される予定。


6 : 名無しさん :2014/11/30(日) 06:53:36 NPbREYik0
スレ立て乙です


7 : 名無しさん :2014/11/30(日) 13:07:35 BiN5sSis0
立て乙ー
前1000がパロディモードっぽいwww


8 : NPC :2014/11/30(日) 13:55:05 I0HdExQE0
1スレ目の>>1000がもっ先だったので、.hack悪性変異Vol.2パロディモードの
エンディングより台詞を抜粋してみた


9 : 名無しさん :2014/11/30(日) 21:10:27 rU1Tu.360
地図更新&画像版
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org28817.png


10 : 名無しさん :2014/11/30(日) 22:10:46 VmP.Dqkg0
スレ立て乙です。
そして前スレ1000がまさかのパロディモードw

>>9
地図更新乙です。
ただ少し気になるのがダークマンは知識の蛇からスケィスを見ていただけなので
ウラインターネットに表記されているのは厳密には間違いかと……。


11 : 名無しさん :2014/12/10(水) 22:23:18 AdUcP1xg0
明日12/11、パロロワ企画交流雑談所・毒吐きスレでVRロワ語りが行われますよー


12 : 名無しさん :2015/03/09(月) 18:41:52 XkQekIBM0
予約きた!


13 : 名無しさん :2015/03/09(月) 21:43:12 ZqNwISbY0
予約きたわあああああああああああああああ
久々なので楽しみ


14 : 名無しさん :2015/03/10(火) 19:55:29 qSPR.7xo0
もう一つ予約きた!


15 : ◆7ediZa7/Ag :2015/03/11(水) 06:19:01 ZN/xBtOY0
投下します。


16 : カルバリン砲がぼくを狙う ◆7ediZa7/Ag :2015/03/11(水) 06:19:38 ZN/xBtOY0
その名前を見たとき、とりあえず笑ってしまった。
爆笑である。
柄にもなく声を上げて、一しきり笑ってしまう。

「どうせここでも馬鹿みたいなことやって死んだんでしょう? 有田先輩」

ウインドウに表示された“脱落者”
そこに知った名前があった。考えてみればここに彼がいるのは自然なことだったのかもしれない。
ここに来る直前まで、自分は彼らとともにいたのだから。

――彼らに敗れ、屈辱に震えていた。

奪ったものを再び奪い返された。
敗北の最中、この上ない屈辱に震えながらも迎えたあり得ないコンテニュー。
それが今、能美征二/ダスク・テイカ―が身を置く立場だった。

「ふうん、何だか知らないがご機嫌だね、マスター」

横でライダーがさして面白くもなさそうに言った。
その声色に能美は笑みを止める。
そして息を吐き、理性的な仮面をかぶり直す。

「ええ、ちょっと予想外の名前がありましてね。まさか死んでるとは思いませんでしたが
 一体どこでどう死んだんでしょうね。さぞかし間抜けな死にざまを晒したんでしょうが」
「ふうん、そいつは気に入らない相手だった訳だ」
「ええ、ですがもう死にましたから」

この場で死ぬことは、恐らくポイント全損か、あるいはそれ以上の意味を持つだろう。
あの銀の鴉はもうこの世界にはもう二度と現れない。全く以て愉快な話だった。
それを見たライダーがうそぶく。

「でもいいのかい、ノウミ。アンタが手を下すまでもなく死んじまったんだろ?
 リヴェンジの機会はもう喪われちまった訳だけど」
「……いいんですよ、別に」

能美は一瞬言葉に詰まったが、すぐにそう答えた。

「あの人がいたらまた奪ってやろうとは思ってましたけど、でもまぁ執着するほどの人でもない」
「そうかい、まあ司令官殿がそういうのならそうなんだろう」
「…………」

ライダーの言葉に含むものを感じつつも、能美は前方を窺った。
能美とライダーは今大聖堂の屋根にいる。風が吹き付ける中、西洋風の屋根から草原を窺っている。
青空と広大な草原が広がっている。のどかな風景であるが、その本質は殺し合いの舞台だ。
実際、脱落者のことはどうでもいい。それよりも今復讐すべき相手がいる。

「……先程あの女たちを見かけたのが数十分前。恐らくまだ近くにいますね」
「そりゃあね。とはいえまだこっちはまだ万全とはいえないがね。
 さっきボコボコにされてまた挑んでも同じだと思うけど」

それくらい能美にも分かっている。
一応コードキャスト“add_regen”を掛けることには成功したので回復はしているが、それでもまだ万全とは言い難い。

「ですが、戦術はあるのでしょう?」
「そりゃ、ね。こっちの物資が不足しているなら、不足しているなりの戦い方ってのはある。
 アタシなんか互角の状況で戦える方が珍しかった」

そう言ってライダーは快活に笑った。
能美は黙っていた。黙ってライダーの横顔を眺めていた。
戦う術を、自分の知らない多くのことを彼女は知っている。
流石は人類史に名を起こした英傑、ということか。
歴史など何も意味もないと思っていた能美にとって、その事実は新鮮なものだった。

そんな能美の視線を知ってか知らずか、ライダーは涼しげな顔を浮かべている。
風が彼女の赤みかかった髪を揺らした。貌に走る大きな傷と、そして獲物を探す獰猛な瞳が見えた。

「さて、待つとしようか――」






17 : カルバリン砲がぼくを狙う ◆7ediZa7/Ag :2015/03/11(水) 06:20:32 ZN/xBtOY0

風が草原を駆け抜けた。
さわさわと草木がこすれ合い、目の前では穏やかな風景が横たわっている。
ゲームの序盤でありがちな風景だな、と慎二はぼんやりと思った。

「…………」

そんなエリアの中央あたり、森と草原の境目の辺りに彼らはいた。
そこで届いた二回目のメンテナンス――二度目の通告メールを受けていた。
波打つ草原の中で、彼らは黙ってウインドウを開いている。

「…………」

メール自体はまぁ、そこまで反応すべき点は無かった。
最も懸念していた脱落者一覧も、今回は特に気になる名はなかった。
少なくとも慎二にとっては。
イベントの方は――こちらは少し問題かもしれない。
自分達は巻き込まれずに済んだとはいえ、ブルースたちは今まさに森に居る筈なのだから。

だが、それよりも問題だったのは――

「…………」

――目の前で仏頂面をしている真っ黒な剣士だった。

彼らはウィンドウが表示されているであろう虚空をじっ、と見つめ、何か深く考えている。
何かは考えるまでもない。恐らくあのメールに記載のなかった“彼女”のことだろう。
まだ彼女は脱落していない。そのことは素直に喜ぶべきなのだろうが、

(ま、そんなに単純なものでもないよね)

慎二にだって、それくらいは分かった。
まだ生きている。それは即ち今現在もこのゲームのどこかを彷徨っていることを意味している。
だからまあ、色々考えることはあるのだろう。
それは分かる。分かるが、

「……おい、キリト。お前さ、何時まで黙ってんだよ」

少しの逡巡ののち、慎二はそう言ってぞんざいに語りかけた。
色々気を使うのは馬鹿らしい。故にここは素で通させてもらう。

「僕たちは君の事情で立ち止まっているんだよ、あんまり僕の足引っ張らないでくれる?」
「え……あ、ああ」

慎二のぞんざいな言い振りに、キリトはしかし別段起こった素振りを見せることなく「ああ」と言って顔を上げた。

「分かってるさ。こういうことは慣れてた……とは言いたくないけどな」
「とにかくほら、行くぞ」

大分落ち着いているのか、先程よりも声に揺れがない
慎二はそこでさっさと歩き始めた。とにかくここら一帯の捜索を早く終えてしまいたい。

道中、ちら、と空を仰ぎ見る。
そこには穏やかな青空が広がっていた。澄んだ青空の中心に眩い陽が座している。
このどこかに今、ユウキたちが居る筈だ。
ユウキは――あのプレイヤーは、正直凄い。悔しいが、慎二のゲーマーとしてのセンスが言う。あの女の力量は本物だ、と。
彼女のプレイイングには単純なプレイ時間だけでなく、天性のものがある。その力量に嫉妬しないといったら嘘になる。
だがそれ以上に慎二はその在り方に羨望を抱いていた。
ああありたい。ああいう風にゲームをプレイしたい。蹴落とすべきライバルだというのに、そんなことを思ってしまったのだ。
嫉妬でなく羨望、というのは、正直慎二自身あまり知らない感覚だった。

だからか。
今、同じパーティにユウキがいないことが、少しだけ残念に思うのは。
意地か、あるいはその、あまり言いたくないが“認められたい”とでも思っているのかもしれない。
あのカッコイイ彼女に褒めて欲しい、だなんて。
そこまで考えて、慎二は馬鹿か僕は、と自嘲する。

ゲーマーというのは孤高であるべきだ。
少なくともそれなりの意地を持って、常に好敵手と対等に当たって行かなくてはならない。
だから、彼女は本来“壁”であるべきなのだ。ゲーマーとして、越えるべき。


18 : カルバリン砲がぼくを狙う ◆7ediZa7/Ag :2015/03/11(水) 06:21:09 ZN/xBtOY0

(プライドに拘るなっていってもさ、プライドを捨てろってことじゃないしね)

プライドに拘って負けを認めないのは止めた。
けれど、プライドがあるからこそ、間桐慎二は今まで戦ってこられた。
ユウキに対しては素直に憧れる。それはゲーマーであるからだ。プライドに拘らず、何時かは越えてやろうと思うことができる。
だが、アイツは、アイツにだけは敗ける訳にはいかない。

ノウミ、とライダーは呼んでいた。
あの生意気な声をした、悪役染みたロボットのアバター。
アイツと戦い、自分は敗けた。
そして、ライダーを奪われた。

アイツに奪われたのはそれだけではない。
ゲームチャンプとしてのプライドだ。アイツから逃げ出すことは、プライドを捨てるということだ。

いいよ、敗けたことは認めよう。だが、次に戦った時、勝つのは自分だ。
何が何でも、ノウミを倒し、ライダーを取り戻すのだ。
そしてユウキにも負けないゲーマーとしての技量を見せる。
そこまでしてようやく間桐慎二はゲームチャンプとして返り咲くことができるのだ。

『……慎二』

その時、それまでずっと黙っていたアーチャーの声がした。
その声に含まれた緊張を感じ取ると、慎二はすぐさま頭を切り替えた。

「どうした、慎二」

その様子を敏感に感じ取ったのか、キリトが事情を尋ねてきた。
答えるよりアーチャーが霊体化を解いた。紅い衣がゆらりと舞う。
その様を見てキリトは察する。言葉はなくともそれで事情は把握できる。
アーチャーがどんなユニットであるかは伝えてある。探知系スキルを持っている彼は、パーティにおいて索敵面では最も優秀だ。

――そんな彼が姿を見せたということは、

「どっちだ、アーチャー」
「11時の方向、これは大聖堂からか」

――攻撃が来る

次の瞬間、爆音が響いた。
慎二の視界が揺れる。嗅いだ覚えのある硝煙の臭いがした。
これはあの、カルバリン砲の臭いだ。無敵艦隊を率い、太陽を落とした彼女の臭い。
パーティを狙って放たれた砲撃は僅かに逸れ、慎二から数メートル離れたところに着弾した。
土が飛び散り、草の焼ける臭いがした。

――奴だ。

大聖堂の上に巨大な砲台が見える。距離エフェクトが強めな仕様なせいかぼやけているが、率いている女の姿も見えた。
慎二は思わずその拳をぐっと握りしめた。緊張と怒りがないまぜになった強い想いが胸からあふれ出てくる。
三度目の接敵。探していた相手が向こうからやってきてくれた。


19 : カルバリン砲がぼくを狙う ◆7ediZa7/Ag :2015/03/11(水) 06:21:32 ZN/xBtOY0

――戦闘、開始だ。

慎二はそうしてゲーマーとしての意識へと切り替える。
集中し、視界から入った情報を分析する。
幸い敵の情報は持っている。いやというほど知った敵だ。

すぐにまた二撃目が来た。
驚きはない。絶え間ない砲撃はライダーの得意とするところだ。

慎二はアーチャーにスキル使用を指示する。
紅衣の男の行動は迅速だった。パーティ全体を守るべく防御スキルを展開する。
燐光が起こる。七枚の花弁のエフェクトがパーティ前面に貼られ、砲撃を防ぐ盾となる。

スキルが展開された瞬間、砲撃がドドドド、と雪崩のようにやってきた。
カルバリンの炎が草原を包み込む。音を立ててフィールドが抉られていく。
その光景を横目に、キリトとアーチャーが言葉を交える。

「大聖堂に陣取って遠距離砲撃か。策を練ってきたな」
「この一帯は障害物がないからな。作戦としては中々だと思うぜ、これ」

アーチャーは盾を展開しながら「どうする慎二?」と尋ねてきた

「私としては撤退を推奨するが。正面突破は中々難しそうだぞ」
「弾切れってのもないだろうしね」

スキル扱いのカルバリン砲を使うには一定の魔力が必要だが、
これまでの戦闘から鑑みるに、奴はオブジェクト破壊によってゲージを回収できる。
草原の光景を見るに、一回の砲撃でお釣りがくるほどの回収率だろう。

故にここは砲撃の射程外まで撤退を。
その提案は理解できるが、

「はん、いやだね」

慎二はそれを跳ね除けた。

「アイツを目の前にして、そんなセオリー通りのプレイできるかよ。
 僕はとっとアイツを倒してライダーを取り戻すんだからさ」

これはプライドの問題なのだ。
単なる勝ち負けの問題以上に、もう一度自分を取り戻すための戦いだ。
故にここは押し通す。そのつもりでいた。

「……それはいいが、どうするつもりだ。
 正面から闇雲に突っ込んでも吹き飛ばされるだけだぞ」
「分かってるよ、そんなこと」

そこで慎二はキリトを見た。
ユウキ曰く凄腕ゲーマーだという彼の力量は果たして如何なものか。
その視線の意図を察したのか、キリトはふっと笑みを浮かべ、

「分かった。俺がタンクをやるよ」

そう言ってのけた。






20 : カルバリン砲がぼくを狙う ◆7ediZa7/Ag :2015/03/11(水) 06:21:56 ZN/xBtOY0

タンク/盾役。
それは一般的な分業制MMOにおいて敵の攻撃を一手に引き付け他の仲間を守る役目だ。
前衛職としては欠かせない存在であり、パーティを守る“盾”ではあるのだが、

「行くぜ、慎二」

――在り大抵に言ってしまえば“殴られ役”でもある。

キリトはその掛け声と同時に飛び出した。
アイアスの持続時間が切れると共に、黒い剣士が草原を駆け抜けていく。
無論、そこに砲撃が殺到していく。カルバリン砲が空より無慈悲に降り注ぐ。

タンクであるキリトはそれを防がなくてはならない。
パーティ全体に届かぬよう、攻撃を受け止めるのだ。
一般的にタンクに要求されるのは耐久/VITである。しかしキリトは敏捷/AGI寄りのステータスである。
極振りでない為それなりの値は振ってあるが、しかし一般的なタンクには向かない。

その為、キリトは“盾”でなく“剣”である必要があった。

砲弾の雨をキリトは――斬った。
一瞬のタイミングを見極め、反応し、その剣で砲弾を弾き/パリィする。
一撃で終わりではない。次々とやってくる砲撃を全て弾かなくてはならない。
一閃、二閃、三閃、剣がフィールドを走る。
押し寄せる砲撃を乗りこえるは一振りの剣があるから。
刃が盾となり、パーティを守る。

――へえ

その後ろ姿を眺めながら、慎二は内心舌を撒いていた。
アバターの切り替えによるシステム補助がある、とのことだが、決して簡単な所業ではないことは言われずとも分かる。
たとえ弾道が見えていようと、それに反応できるかは別の話だ。
それが如何なセンスに支えられたものであるか、ゲーマーとして分からない筈もない。

――いきなり女みたいな格好になったのは面食らったけど。

ふわり、と黒く艶のある髪が舞う。
後姿だけ見るならば、その身体は完全に女性のそれだ。
アバターを切り替えたキリトはえらく艶めかしい姿になっていた。
まぁそれも岸波との一件で慣れていたことだった。

――やるじゃん

前評判を疑っていた訳ではないが、それでもその腕には感心してしまう。
流石にユウキに凄腕と言わしめるだけの力はある。
勿論スキルで敗けるつもりはないけどね、と感心しつつも捻くれたことを思いながら、慎二もまた走った。
キリトが斬り開いた道を、慎二が後を追うように駆けるのだ。

「待ってろよ、ライダー!」

叫びながらウインドウを操作する。
コマンドを選択、自身に付加/バフを駆ける。
コードキャスト“move_speed”
これによって慎二の移動速度は上昇し、キリトに追いつくことが可能になる。
一人にしか掛けられないバフ故今まで死蔵していたが、ここに来て日の目を見ることになった。

そして駆けながらウインドウを再度操作、礼装を変更し、今度はコードキャスト“gain_lck”をキリトへとバフする。
luk/幸運値の上昇。これにより少しは有利な判定を得ることができるはずだ。

現在このパーティにおいて、前衛はキリト、後衛はアーチャーが務めている。
そして仮マスターである慎二が何もできないかというと、そんなことはない。
寧ろ空いた手で補助、指揮をすべき立場にいる。


21 : カルバリン砲がぼくを狙う ◆7ediZa7/Ag :2015/03/11(水) 06:22:33 ZN/xBtOY0

「行けるか、慎二」
「もう少しってところだね。ここで馬鹿みたいなヘマするなよ」
「言ってろ、そっちこそ俺の背中から出るなよ」

そうしてキリトと共に砲弾舞う草原を駆ける。
軽口を躱しながらも集中は途切れない。まずは大聖堂まで踏破する。
色々なわだかまりや懸念も、ゲームに集中している間は忘れてしまおう。

「……見えてきた」

遠近エフェクトが徐々に薄れ、大聖堂の輪郭が徐々にはっきりとしてくる。
同時に、大聖堂の屋根の上に備えられたカルバリン砲台と、それにより添い立つ敵の姿もまた。
露出度の高い赤い服を着た女がそこにはいた。

「ライダー!」

慎二が思わず叫びを上げた。
途端、彼女は笑った気がした。
絶え間ない砲火の中、そちらばかりに気を配っている余裕はない。
しかしそれでも彼女は笑っていた。何時ものように下品で、馬鹿みたいに笑っていた。

そして次の瞬間、カルバリン砲が火を噴いた。
当然だ。自分たちは今、敵同士なのだから。
キリトは声を上げ、その砲撃を一閃した。後方へとパリィされた砲弾は音を立て爆散した。

「……来るぞ」

砲弾を斬り抜けてキリトが言った。
もう大聖堂はすぐそこだ。既に橋が見えている。
枯れた湖の上に、その大聖堂はある。行くためには橋を渡るしかない。

「また来たんですか、懲りない人ですね、貴方も」

――故にそこを渡る際、キリトと慎二は格好の的だ。

厭味ったらしい声と同時に、黒いマシン――能美がやってきた。
その右腕を変換し、火炎放射の態勢に入る。そして頭上からはカルバリン砲が待っている。

――アーチャー!

それくらいこっちだって見越しているさ。
慎二は指示を送る。途端――剣が来た。
どん、と爆音が響いた。アーチャーの放った剣を受け、カルバリン砲が爆発したのだ。

「……っと、これはあの色男のかい!」

煙を上げる砲台を見て、ライダーはどこか愉しそうに言った。
それを見て慎二もまた笑っている。後衛の援護は決まった。これで距離の不利はなくなった筈だ。

「遅いぜ」
「くっ……貴方は!」

能美は既にキリトが追い詰めている。
キリトの剣を前に、能美の腕では太刀打ちできないようだった。
頼む。そう目配せして、慎二は走った。


22 : カルバリン砲がぼくを狙う ◆7ediZa7/Ag :2015/03/11(水) 06:23:18 ZN/xBtOY0

「ライダー! 来い」

そして慎二は叫びを上げた。
空を見上げ、そこに立つライダーを呼んだ。

「お前の相手は僕だ」
「へえ、そりゃ面白そうだ」

顔を歪めたライダーは言って、下まで降りてきた。
とん、と音を立て着地する。降り立った彼女へと慎二は駆けた。

「――来い」

慎二のその手には短剣があった。
歪んだ刀身。ナイフとしては到底使えないであろう異様な刃。
それこそがアーチャーが投影し、慎二が手にした武器だった。

――ライダーを取り戻す。

その為にアーチャーと仮契約した際、最初に提案されたのがこの宝具の使用だった。
出自は詳しく知らないが、アーチャー曰くこれで契約を無効に帰せるらしい。
能美との契約を破壊し、その隙にライダーと再契約する。

「僕の下に戻ってこいよ、ライダァァァァァ」

その為に慎二は走った。
奪われたものを取り戻す為、ゲームチャンプであり続ける為に、避けては通れない道だった。

自分は自分でなくてはならない。
ゲームチャンプである、ありとあらゆるスコアを塗り替える男でなくては、
そうでないと、きっと誰も間桐慎二のことなど覚えてはくれないだろう。
ゲーマーとして、敗けられない戦いだった。

目の前のライダーがニィ、と笑みを浮かべている。
慎二はきっと必死な顔をしている。あと一歩だ。ミスはしない。

そして、刃がライダーに届かんとした、その瞬間、

「シンジィ、そりゃちょっと“ない”だろ」

ライダーの笑みが消えた。
そして――吹っ飛ばされた。
声は出なかった。ただその足で慎二の身体は蹴り飛ばされていた。
「慎二!」能美とやりやっていたキリトから声が聞こえた。

「まさかアタシが黙ってアンタにやられると思ったのかい?
 その剣が一体どんな効果してんのか知らないけどさ、ちょっと無理があるってもんよ」

ごろごろと地面を転がりながら、慎二はライダーの声を聞いていた。
短剣はどこかに行ってしまっている。吐き気が喉元からせり上がってくる。
立たないと思うが、身体が言うことを聞いてくれなかった。

「くっ……!」

キリトが能美を吹き飛ばし、慎二を守るようにライダーの前に立つ。
ライダーは涼しい顔をしたまま、距離を取りその銃身をキリトへと向けた。


23 : カルバリン砲がぼくを狙う ◆7ediZa7/Ag :2015/03/11(水) 06:23:34 ZN/xBtOY0

「くくく……中々やりますね。しかしこれくらいは想定内です」

ライダーの後ろで能美が立ち上がる。ダメージを受けた様子だが、しかし声には余裕があった。

「砲撃戦を挑むんですから、近付かれた時の対策くらいしておきますよ。
 ――バトルチップ“デスマッチ3”!」

その言葉が放たれた瞬間、大聖堂が黒く染まった。
慎二の背中に生暖かい、不快な感触が走った。
なんだ、と思って地面を見るとそこには黒ずんだ地面――毒沼があった。

思わず口元を抑えた。
ライダーに蹴られた痛みに加え、沼から不快感が競り上がってくる。
そのイメージから慎二はウインドウを開き、自身の状態を確認する。
自身のステータス欄にはpoison、と表示されていた。やはりこれは状態異常のトラップ。

「このチップ、強力といえば強力なんですが発動した僕まで巻き込まれてしまうことが難点でしてね。
 誰かさんが持ってた飛行アビリティとかあると便利だったんですけど、ま、もう死んでしまった愚図の話なんてどうでもいいですね」

能美の精神を逆撫でする声を聞きながら、慎二は何とか顔を上げた。
空を覆う船があった。
そこにはライダーの船に乗りながらこちらを見下ろす黒いマシンの姿があった。
そしてそれに寄り添うように立つ、ライダーの姿も。

「では、精々苦しんでいてください」

毒沼に這いつくばり見上げることしかできない慎二に、能美は侮蔑に満ちた言葉を投げかける。
泥のような屈辱が慎二を捉えた。その視線を「はは」と嘲笑し、船は悠々と去って行った。
「ま、待て」と声を上げ、立ち上がろうとするが、しかし身体に力が入らない。

「落ち着け、慎二」

それを制したのはアーチャーだった。
後方から駆け付けた彼は慎二を担ぎ上げる。そしてキリトと声を掛け、共に毒沼を脱出した。

「状態異常は大丈夫か、キリト」
「ああ、どうやらあのエリアに触れている間だけHPを減らす仕様みたいだ」

毒沼から離れると不快感が薄れていった。
だが胸に溜まった屈辱は色濃く残り、掴み損ねたという女々しい感覚はその手にはあった。
空に走る船は既に遠いところまでいっている。もはや追いつくことは不可能だろう。
くそ、と慎二は言葉を漏らす。

「……この手際の良さ、こういったゲリラ的な戦術は流石はフランシス・ドレイクといったところか。
 逃走経路の確保は勿論、こちらに置き見上げまで用意しておくとは。
 退いたのは向こうもダメージが深かったからだろう。万全だったら危なかったな」

アーチャーが冷静な分析をする。
確かにその言葉は間違っていない。
砲撃からのヒット&アウェイ。こちらに損害は与えつつも追い詰められればすぐさま逃げる。
単純な戦力比ではこちらが押していた筈なのに、半ば一方的にやられてしまった。
向こうの戦術は確かに優れていた。

だが、それ以上に慎二は許せなかったのは自分自身の未熟なプレイイングだった。
パーティの動き自体は不味くなかった。それぞれがそれぞれの役割を果たしはした。
向こうに奥の手があることぐらい予想はしていた。
にも関わらず失敗した原因は――慎二の甘えだ。

近付きさえすればライダーを取り戻すことができるのではないかと、そう思っていた。
きっと向こうも本心ではこっちに来たがってるんだろ、とか、馬鹿みたいなことを考えていたのだろう。
それが慎二のプレイイングをミスさせた。
あそこですぐに斬りかかるのではなく、アーチャーが駆け付けるまで待っていれば状況は変わったかもしれない。
まだプライドに拘っているというのか――ユウキならばこんなことにはならなかった筈だ。

「……くそ、僕は」

敗けた。
今回こそ、そう思って挑んだ戦いで自分は敗けたのだ。
三度の戦いを経て、慎二はなおも奪われたままだった。






24 : カルバリン砲がぼくを狙う ◆7ediZa7/Ag :2015/03/11(水) 06:23:49 ZN/xBtOY0


――慎二、落ち込んでいるな。

その心中を察した俺は、だから何も言わないでおいた。
今の慎二に対して慰めの言葉は必要がない。寧ろそんなことをすれば怒らせてしまうだろう。

ゲーマーとしての意地、というのは俺だって理解できる。
ゲーマーは単なる暇つぶしとしてゲームをやっている訳ではない。
そういったプレイヤーを批判する訳でもないが、上位ランカーに上り詰めるようなプレイヤーは、それ以上の何かをゲームに見出したからこそ研鑽に励むことができたのだ。
あの黒いマシンのアバターの態度は――外見的にネットナビかデュエル・アバターと見ていい――俺もゲーマーとして感じるものがあった。
だからこそそれを馬鹿にされれば怒るというのも理解できる。

「…………」

だから俺は慎二については敢えて何も言わず、代わりに今自分が抱えている問題について考えていた。
俺は先ほどまで戦っていたフィールド一瞥する。
枯れた湖は毒沼に覆い尽されており、神聖な建物を汚しているかのようだった。

大聖堂。俺はまたここに来てしまった。
ある意味でここは、俺にとってターニングポイントになった。
アバターを切り替える。女性的なGGOアバターから、懐かしいSAOアバターへと。
以前ここに来たときも、俺はこのアバターだった。

――オーヴァン。

先ほどのメールを見て、まず思ったことはそれだった。
その名はなかった。シルバー・クロウの不可解な死のカギを握るのは、恐らく彼だ。
あの時は頭が回らなかったが、落ち着いた今ならば彼の行動の謎が見えてくる。
彼は今、どこにいる?


「ここで出会うか」

……その声を聞いたのは何時振りだっただろうか。
忘れらない声だった。サチとは違う意味で、彼の存在もまた俺の中に強く焼き付いている。

彼もまた存在しない筈の人物だった。
だが俺はどういう訳か驚くことは無かった。
サチの時の“あり得ない”という想いとは真逆の、寧ろ“待っていた”とでもいうような、不思議な落ち着きが俺の胸に訪れた。

――当然だ。“また会おう”って、そう言い残して奴は去って行ったんだから。

俺はゆっくりと振り返った。

「――ヒースクリフか、それとも」
「茅場晶彦でも、その残像でも、なんでもいい。君にとっての私の名を呼べばいいさ、キリト君」

そうして俺は奴に再会した。
毒に侵された大聖堂を前にして、ようやく俺たちは――


25 : カルバリン砲がぼくを狙う ◆7ediZa7/Ag :2015/03/11(水) 06:24:12 ZN/xBtOY0


[D-6/ファンタジーエリア・大聖堂前/1日目・日中]
※大聖堂一帯にはしばらくの間毒沼パネルが広がっています

【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP40%、MP30%(+40)、ユウキに対するゲーマーとしての憧れ、令呪一画
[装備]:開運の鍵@Fate/EXTRA
[アイテム]:強化スパイク@Fate/EXTRA、リカバリー30(一定時間使用不能)@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:ライダーを取り戻し、ゲームチャンプの意地を見せつける。それから先はその後考える。
1:ひとまずはユウキ達についていきながら、ノウミ(ダスク・テイカー)も探す。
2:ユウキに死なれたら困る。
3:ライダーを取り戻した後は、岸波白野にアーチャーを返す。
4:サチって子もついでに探す。
5:いつかキリトも倒してみせる。
6:くそ……
[サーヴァント]:アーチャー(無銘)
[ステータス]:HP70%、MP45%
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。

【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP90%、MP40/50(=95%)、疲労(大)、SAOアバター 、幸運上昇
[装備]: {虚空ノ幻、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1個(水系武器なし)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:絶対に生き残る。デスゲームには乗らない。
0:今はユウキ達についていきながら、サチを探す。
1:サチやユイ、それにみんなの為にも頑張りたい。
2:二度と大切なものを失いたくない。
3:レンさんやクロウのことを、残された人達に伝える。
4:オーヴァン、ヒースクリフ……
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。


26 : カルバリン砲がぼくを狙う ◆7ediZa7/Ag :2015/03/11(水) 06:24:28 ZN/xBtOY0

【ヒースクリフ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP70%、オーヴァンに対する警戒
[装備]:青薔薇の剣@ソードアート・オンライン
[アイテム]:エアシューズ@ロックマネグゼ3、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルを止め、ネットの中に存在する異世界を守る。
1:???
2:榊についての情報を入手し、そこからウィルスの正体と彼の目的を突き止める
3:バトルロワイアルを止める仲間を探す
[備考]
※原作4巻後、キリトにザ・シードを渡した後からの参戦です。
※広場に集まったアバター達が、様々なVRMMOから集められた者達だと推測しています。
※使用アバターを、ヒースクリフとしての姿と茅場晶彦としての姿との二つに切り替える事が出来ます。
※エアシューズの効果により、一定時間空中を浮遊する事が可能になっています。
※ライダーの真名を看破しました。
※Fate/EXTRAの世界観を一通り知りました。
※.hack//の世界観を一通り知りました。
※このバトルロワイヤルは、何かしらの実験ではないかと考えています。
※参加者に寄生しているウィルスは、バトルロワイヤルの会場を作った技術と同じもので作られていると判断しています。
 そして、その鍵が榊の持つ黒いバグ状のデータにあるとも考えています。
※オーヴァンに対して警戒心を抱いています。


[D-6/ファンタジーエリア/1日目・日中]

【ダスク・テイカー@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP30%(回復中)、MP15%、Sゲージ5%、幸運低下(大)、胴体に貫通した穴、令呪三画
[装備]:パイル・ドライバー@アクセル・ワールド、福音のオルゴール@Fate/EXTRA
[アイテム]:デスマッチ3@ロックマンエグゼ3、不明支給品0〜1、基本支給品一式
[思考]
基本:他の参加者を殺す。
1:シンジ、ユウキ、カオルに復讐する。特にカオルは惨たらしく殺す。
2:上記の三人に復讐できるスキルを奪う。
[サーヴァント]:ライダー(フランシス・ドレイク)
[ステータス]:HP30%、MP30%
[備考]
※参戦時期はポイント全損する直前です。
※サーヴァントを奪いました。現界の為の魔力はデュエルアバターの必殺技ゲージで代用できます。
 ただし礼装のMPがある間はそちらが優先して消費されます
※OSS《マザーズ・ロザリオ》を奪いました。使用には刺突が可能な武器を装備している必要があります。
 注)《虚無の波動》による剣では、システム的には装備されていないものであるため使用できません。


支給品解説

【強化スパイク@Fate/EXTRA】
購買部で買える礼装。トレジャーハンティングに勝つには必須。
boost_mp(90):MP+90
move_speed():移動速度を強化。

【デスマッチ3@ロックマンエグゼ3】
デスマッチ系チップの最高位
敵味方双方全てのパネルを毒パネルに変える。
毒パネルは触れている間ダメージを受け続ける。


27 : ◆7ediZa7/Ag :2015/03/11(水) 06:24:51 ZN/xBtOY0
投下終了です。


28 : 名無しさん :2015/03/11(水) 07:16:14 ZsMN0TTM0
投下乙です!
テイカーとのバトルが再び始まると思いきや、まさか毒沼が出てくるとは
そしてキリトとヒースクリフも再会してしまいますし、本当にどうなってしまうでしょう……


29 : 名無しさん :2015/03/11(水) 16:39:43 At5PU0Oc0
投下乙です


30 : 名無しさん :2015/03/11(水) 22:50:45 7yPfp4yo0
今回戦ってる隣のエリアにアスナやフォルテにアリスがいるから
成り行きしだいでは混戦になりそうですね。
それにメールに記載されてるカイトについてアーチャーがどう思ってるのかも気になります。
投下乙でした。


31 : 名無しさん :2015/03/12(木) 03:20:06 UBcUtQlk0

EXワカメがすごいのは成長できるという所だな
二度も敗北したら普通死んでるもんなんだが、ここまで生存できてるとこから今回は運もある
学習したワカメはただのワカメじゃなくなるぜ


32 : 名無しさん :2015/03/12(木) 20:55:10 00J4PaBk0
「機会が二度、君のドアをノックすると考えるな」と昔の人は言いましたが、
ライダー奪取の三度目の機会はあるかどうか…ワカメマジ期待
そして遂にキリトとヒースクリフとの邂逅だがこちらもどうなるか

投下乙でした


33 : ◆7ediZa7/Ag :2015/03/14(土) 04:48:56 Z3oVowSI0
投下します


34 : From the Nothing with Love ◆7ediZa7/Ag :2015/03/14(土) 04:49:58 Z3oVowSI0
倒れていたバイクを立て直すと、がた、と鈍い音がした。
ハンドルバーを握りしめ、ネオは何も言わずじっとバイクを見つめていた。
マシンは艶のない黒い装甲を纏っており、その隙間から剥き出しになった巨大なエンジンは辺りを威嚇するようだ。

無言でそれを抱えながら、ネオはウインドウを操作した。
【拾う】と表示されたコマンドを選択すると、瞬間マシンの姿は消え失せる。
同時にアイテムウインドウには“ナイト・ロッカー”と表示され、それで終わりだった。
あれほど存在を主張していたはずのマシンも、指先一つでデータ状の存在として格納してしまえる。
そういう場所なのだ、ここは。

「……アッシュ」

後ろでガッツマンが悲痛な声を漏らした。
大柄なロボットである彼は、その外見とは裏腹に仲間の死に涙できる優しさを持っていることをネオは知っていた。
彼は近くのビルにその巨大な腕を叩きつけ項垂れている。

今しがた届いた一通のメール。
そこに彼らの知った名前が一つあった。

「…………」

無機質なネオは何も言えなかった。
湿った閉塞感が胸の中を渦巻き、言葉をかき消してしまう。
沼に沈み入るかのような気分だった。柔らかな、しかし強い力で身体が抑え付けられているように思えた。

――アッシュ・ローラー

この異様な空間で出会い、激励された一人の青年の名だった。
彼とガッツマンとの出会いは、ネオにとって一つの転機となった。

――彼が、死んだ。

遭遇した機械のアバターによって、彼はデリートされた。
ネオの目の前で、彼は一人あの死神のようなアバターに挑み、死んだのだ。
マトリックスにおいて死は、即ち現実での死だ。
コンピュータゲームのようにやり直すことなどできはしない。

まずはその事実を受け止めなくてはならない。
ネオにとって仲間を失うことは今までだってなかった訳ではない。
それはエージェントとの交戦の結果であったり、あるいは仲間からの裏切りであったり、幾つもの死があった。
多くの者を自分は失ってきた。その中には、たった一人人間として愛することができた、トリニティさえもいる。

――しかしアッシュの死は。

ネオにとってまた別の意味を持つものであった。

――その責任は、俺にある

……ネオは彼に手が届き得る位置にいた。
にも関わらず何もできなかった。結果として、アッシュはその命を落とした。
救うことができたはずだった。しかし、できなかった


35 : From the Nothing with Love ◆7ediZa7/Ag :2015/03/14(土) 04:50:29 Z3oVowSI0

「うう……」

悲しむガッツマンは、ふとそこで顔を上げた。
機械の身体であるが、不思議と感情豊かに表情を変える。
そしてその顔には、

「あのネットナビ、絶対に許さないでガス……!」

……明確な、怒りがあった。
仲間をデリートされ、許せないと怒りを燃やすその姿は、何も間違ってはいない。

「…………」

だが、ネオはガッツマンのその姿を見ても、やはり何も言うことはできなかった。
肯定も、否定も、彼に対しできなかった。

知っているからだ。
何故自分があの時動くことができなかったか。
何故あの機械が自分の言葉に激昂したか。

――あの機械は、言った。俺を憎め、と。

あの機械は人間への憎悪で戦っている。
だからこそ、ネオの言葉に怒り、軽蔑の言葉をネオに残していった。

その憎悪をネオは理解できる。
機械に対して憎悪を抱く人間は幾らでも見てきた。
皮肉な話だ。だからこそ、逆に機械が人間を憎悪することも理解できるなんて。

ある意味で、あの機械はどこまでも人間的だった。
強い憎悪を持つ機械はここに来るまで見たことがなかった。
ガッツマンの優しさと同じく、機械は誰かを憎むこともしないものだと思っていた。
メロビンジアン、アーキテクト、あまたのエージェント、そしてスミスでさえも、憎悪という感情を見せることは無かった。
そういったものを抱くのは何時だって人間だった。人間が人間を殺す時、そこに憎悪が迸る。

ネオが遭遇した機械の中で、最も“感情豊か”に見えた者はスミスだ。
しかし彼でさえも、ネオに向けた感情は“感謝”だった。彼は自分を憎いと思っていたのではなく、あくまで力を求めていたに過ぎない。
彼はそれを“自由”だと表現していたが、しかしその在りようは本当に彼の意志によるものだったのか。

そういう意味で、あの機械とスミスは一線を画する存在だった。
彼の憎悪は本物だった。機械の激昂は、スミスの語る“自由”などよりもよほど真に迫ったものがあった。
彼は“意志”がある。明確な“意志”があるからこそ、怒りに縛られる。


36 : From the Nothing with Love ◆7ediZa7/Ag :2015/03/14(土) 04:51:11 Z3oVowSI0

――そんな彼に力で対抗することは果たして正しいのか?

あの機械に対し救世主の力を振るうべきだ。
今からでも追いかけるべきだ。
そう思いはする。

――しかしそれでは何も変わらないのではないか。

それがネオの迷いだった。
プログラムされた救世主から脱却することは決めた。
しかし、それは人類と機械の延々と続く戦いを終わらせるためではなかったか。
プログラムから離れても、個人として戦いを選べば――同じではないか。

――あのアリスたちだってそうだ。

トリニティを殺害した者を排除しようとした自分と、あの機械の何が違う。
誰かの為のプログラムから脱却することは、つまるところ単に私怨に憑かれることを意味してしまうのか。
分からない。故に自分はあの悪意ないアリスたちに打ちのめされた。

だからこそ、あの機械に力を振るうことに迷いがあった。
力を振るえば、力は個としてのものになる。
憎いから、あの機械を倒すことになる。
しかしその先に人類と機械の融和の道が開けるとは、どうしても思えなかった。
アリスも、あの機械も、みな憎み力で排除することが本当の“救世主の力”なのか。

――選べなかったんだ、俺は、あの時

戦争を終わらせる方法。
この問い掛けに正しい答えなどない
近世以降、人類が何度もこのテーマに挑んだが、しかし答えなど出なかった。
何度も何度も繰り返し提唱されたせいで、陳腐に堕してしまったテーマだった。

答えなどない。それくらいマトリックスから目覚める前から知っていた。
プラグの先にあったアメリカでだって、こんな問いかけは何度も見かけた。
戦争をなくす方法――あるいは続ける方法――そんなもの、あの国ではさんざん議論されてきた。
圧倒的な力による支配は対抗勢力の伸張を招き、結果として戦争を呼んでしまった。
そういった歴史から学んだアメリカは方針を転換した。
戦争を支配するのではなく、どこか遠いところで戦争することにした。遠くに戦争を押しやることで、自国の周りを静かにしようとした。
結果としてそれは成功していた。少なくともあのアメリカは、平和だった。
仮想的な平和を築いたんだ。
それがネオの知る“戦争を終わらせる方法”の一つだった。
正しいかは別として、あの国はそれを選んだ。

マトリックスがあの時代を選んだのも分かる。
人類を飼う籠の日常として、これ以上ないほど的確な時代はないだろう。

“救世主の力”などとファンタジックな言葉で糊塗しているが、結局はそれと同じ次元の話だ。
答えなどない。何が正しいのかなど、人類には決めることはできない。
できるとすれば、それこそ機械だけだ。
プログラムは与えられた法則から明快に答えを出す。

だから機械が設定した“救世主の力”には答えがあった。
人類を力によって導き、滅び、そして再建する。それが定められたプログラムだ。

そこから抜け出し、真の意味で“救世主”になることをネオは選んだ。
だからこそ、選ばなくて張らないのだ。
自らの意志で、トーマス・A・アンダーソンとして、一人の人間としての“救世主”の在り方を選ばなくてはならない。


37 : From the Nothing with Love ◆7ediZa7/Ag :2015/03/14(土) 04:51:38 Z3oVowSI0

――何もかも正しくはない

力によって復讐することも、別の道を探すことも、同列の選択だ。
一人の人間として選択する以上、絶対的な正しさなどない。
ある側面では正しくとも、別の側面では誤っている
選ぶとは、言い換えれば切り捨てるということだ。

――それでも選ぶと決めた。

プログラムでなく、自らの“意志”を以て“救世主”になると決めた。
その上で、自分はどうするべきだ。
あの機械を排除すべきか、あのアリスに報復すべきか、彼らを憎むべきか。
それとも赦すべきか。全てを忘れ、笑い、同じ道を歩まんと説得するべきか。
別の道を探すのか。どちらも間違っていると切り捨て、第三の道を模索するのか。

あまたの選択肢がネオの胸中を渦巻いていく。
その中心にあるのは“救世主”とラベルの張られた力であり、同時に“ネオ”であり“トーマス・A・アンダーソン”だった。
三つが重なり合い、一体となって答えを求めている。
三つ全て自分だ。トリニティはそのことを教えてくれた。

「うう……アッシュ」

少なくともガッツマンは悲しみと怒りを選んだ。
その想いに乗せ、彼はアッシュの名を追悼している。
だがネオは未だその名を呼べないままだった。
あれだけ颯爽としていた男をどんな声に乗せて呼ぶべきなのか、ネオは掴めなかった。

「…………」

何も選べないまま、がらんどうの空を遠くに思い、彼はただ一人街に沈んでいた。


38 : From the Nothing with Love ◆7ediZa7/Ag :2015/03/14(土) 04:52:10 Z3oVowSI0

【F-8/アメリカエリア/1日目・日中】

【ネオ(トーマス・A・アンダーソン)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備]:エリュシデータ@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド、不明支給品0〜2個(武器ではない)
[思考・状況]
基本:本当の救世主として、この殺し合いを止める。
1:ガッツマンと共に行動する。
2:トリニティを殺害した者を見つけ出し、この手で……
3:ウラインターネットをはじめとする気になるエリアには、その後に向かう。
4:モーフィアスに救世主の真実を伝える
5:…………
[備考]
※参戦時期はリローデッド終了後
※エグゼ世界及びアクセルワールド世界についての情報を得ました。
※機械が倒すべき悪だという認識を捨て、共に歩む道もあるのではないかと考えています。
※このバトルロワイアルには、異なる世界の者達が呼ばれているのではないかと推測しています。
※この会場は、加速世界の一種に設置されているのではないかと考えています。

【ガッツマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康、ナビ(フォルテ)への怒り
[装備]:PGMへカート�鵺(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、転移結晶@ソードアートオンライン、12.7mm弾×100@現実、不明支給品1(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止める為、出来る事をする。
1:ネオと共に行動する。
2:トリニティを殺害した者を見つけ出し、この手で倒す。
3:ロックマンを探しだして合流する。
4:転移結晶を使うタイミングについては、とりあえず保留。
5:アッシュ……
[備考]
※参戦時期は、WWW本拠地でのデザートマン戦からです。
※この殺し合いを開いたのはWWWなのか、それとも別の何かなのか、疑問に思っています。
※マトリックス世界及びアクセルワールド世界についての情報を得ました。
※このバトルロワイアルには、異なる世界の者達が呼ばれているのではないかという情報を得ました。
※この会場は、加速世界の一種に設置されているのではないかと考えています。


39 : ◆7ediZa7/Ag :2015/03/14(土) 04:52:30 Z3oVowSI0
投下終了です


40 : ◆7ediZa7/Ag :2015/03/14(土) 05:11:10 Z3oVowSI0
あ、時間帯が昼になっていますが日中の間違いですね。収録後に直しておきます


41 : 名無しさん :2015/03/14(土) 06:44:36 mBsjrpMQ0
投下乙です。
アッシュさんを失ってからの二人はどうなるのでしょうね。簡単には乗り越えられないでしょうし
彼らがどんな答えを導き出してくれるのか期待します。


42 : 名無しさん :2015/03/15(日) 21:55:45 6EqTAEHc0
投下乙でした


43 : 名無しさん :2015/03/18(水) 15:37:45 OA5R7fB60
投下乙です。ネオ達には立ち直ってほしい


44 : ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 06:59:10 5CkSMahg0
これより投下を始めます。


45 : 対主催生徒会活動日誌8ページ目・再会編 ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 07:00:23 5CkSMahg0


    1◆


「ようやく辿り着いたな、奏者よ!」
「ようやく辿り着きましたね、ご主人様!」

 開口一番。セイバーとキャスターは全く同じタイミングで、全く同じ内容の台詞を発した。
 いつもは互いを敵視している割に、こういう時は妙に心が合う。せめて、日頃からもう少しこうであって欲しい。
 ……尤も、このバトルロワイアルに放り込まれてしまってから、まだ12時間しか経過していない。主観的には何年も経っているように錯覚してしまうが、客観的に見ると半日程度。
 これだけの時間で絆を深めろと言う方が無理な話だ。


 だけど、今はそんな事を考えている場合ではない。
 長きに渡る移動の末についに月海原学園を見つけた。何処にでも見られそうな校舎や校庭……どれも、SE.RA.PHで見慣れた月海原学園と何一つ変わらない。
 余りにも似ているではなく、同じだった。ここまで来ると、そのままSE.RA.PHから引っ張り出したと言われても納得してしまう。
 今だって校庭には、月海原学園の制服を纏った生徒達が何人も見られる。彼らもまた、このバトルロワイアルに巻き込まれたのだろうか?

「ハクノさん……きっと、あの人達はNPCじゃないでしょうか」

 頭の中で芽生えた疑問を予知していたかのように、ユイは呟く。

「プレイヤーの反応が感じられないのです。私達の目の前には歩いているのですが、反応が皆さんと違っていて……RPGで例えるならば、ただの通行人と呼ぶのが自然かと思います」

 言われてみれば、彼らからは緊迫感が見られなかった。カイトやユイのように警戒している素振りすら感じられない。
 まるで当たり前のように校舎を出入りする生徒がいれば、のほほんと校庭を歩く生徒だっている。この仮想空間でバトルロワイアルが行われているとは思えないほどに、平穏な空間だった。
 気になったので、近くを歩いていた女子生徒に声をかけて尋ねてみる。

 >君は、このバトルロワイアルのプレイヤーなの?

「いいえ。私は普通に生徒の一人ですよ? こんな野蛮なバトルロワイアルなんて頼まれても参加したくないです!
 あ、私達に攻撃しようとしても無駄ですからね。あなた方からは攻撃を受けないように、プロテクトされていますから。
 まあ、攻撃したいならどうぞ? 困るのはあなた達ですけどね!」

 そう言って、女子生徒は去っていった。
 ユイの推測が正しかった事は証明されたけど、逆に疑問が増えてしまう。プロテクトとは一体どういう事なのか?
 彼女に尋ねてみる。

「うーん……多分、私達プレイヤーが攻撃を仕掛けようとしても、それを受け付けないプログラムが仕掛けられているのではないでしょうか?」

 首を傾げながらユイは語り始めた。

「彼女達NPCは役割が与えられているんだと思います。ショップの売買、バトルロワイアルの情報提供、あるいは接触することでプレイヤーに何らかの影響を与えるなど、進行に必要不可欠な存在となっているのでしょう
 それを何らかの不都合で破壊されない為に、バリアの役割を果たすプログラムが張られているのだと思います」

 ……それを破ったら、どうなるの?

「NPCの攻撃は通らないままで終わる……これだけならいいのですが、何らかのペナルティは避けられないかもしれません。
 この月海原学園では現在、戦闘行為を行ったプレイヤーにはペナルティが課せられるモラトリアムが行われているみたいですが、もしかしたらそれと同等……あるいは、もっと酷いペナルティがあると思います。
 バトルロワイアルの妨害を試みたプレイヤーと認識されて、そのまま消去されてしまう危険も……」

 段々と表情が曇り始めたので、ユイに待ったをかけた。
 ……ごめん。やっぱり、それ以上はやめよう? せっかく学園に辿り着けたから、今はレオを捜すべきだった。


46 : 対主催生徒会活動日誌8ページ目・再会編 ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 07:00:56 5CkSMahg0

「すみません……暗い話を持ち出したりなんかして」

 ……いいや。ユイはみんなの為を思って言ってくれたんだから。むしろ、警戒はして当然だよ。
 そこから先の言葉を紡ごうとしたけれど……

「案ずるなユイよ。そなたには余がついておる! 仮にどんな罠があろうとも、そんなものは余の剣で切り裂いてやろうではないか!」
「ユイさん! 後先考えずに突っ走っても自滅するだけですから、ここはこの私みたいな知性溢れる狐に任せて、優雅に行くのが一番です!」

 セイバーとキャスターがユイに励まし……という名の自己アピールをしてくる。これもまた、さっきのように全く同じタイミングだ。
 何だかんだで、仲がいい二人だね。そう思った途端、ユイは「ぷっ」って笑いだした。

「……はい、そうでした。私には皆さんがついていますから、大丈夫ですよね!
 セイバーさん、キャスターさん! ありがとうございます!」
「うむ!」
「ええ!」

 笑顔を浮かべるユイの前で、セイバーとキャスターは誇らしげに胸を張る。
 そんなやり取りを見て、一先ず安心する。シノンという信頼できる仲間と別れてしまったばかりだから、ユイの心に暗い影が生まれるかと危惧したが、彼女達のおかげでそれは避けられた。


 ……しかし一方で、学園に対する胡散臭さが余計に強まってしまう。
 のどかな外観をしているが、それは表向きの姿。休息が出来ると油断したプレイヤーを罠で嵌めようとしているのではないか? 
 例えるなら、そう……蟻地獄のように。


 だけど、そんな風に疑った所で何も始まらない。
 ハセヲというプレイヤーはシノンにレオとトモコという人物への伝言を頼んでいる。その言葉通りなら、二人がいるこの学園が危険である可能性は無いだろう。
 唯一の心配は【モラトリアム】だが、それも【戦闘行為】さえ行わなければ問題はなかった。


 みんなを先導するように校舎の門を潜る。
 やはり、下駄箱や廊下も見慣れた光景だった。本当に帰ってきたように思えてしまい、気を緩めてしまいそうになる。
 ……いや、駄目だ。自分達は遊びに来た訳ではない。ここは月海原学園と同じように作られているだけで、SE.RA.PHに存在する月海原学園ではないのだ。
 この仮想空間にいる以上、敵の胃袋の中にいる事を忘れてはいけなかった。


 学園の何処かにいるであろうレオを捜す為に歩く。
 彼との戦いは今でも決して忘れる事が出来ない。レオは実に有能なマスターで、彼に仕えるセイバーのサーヴァント……ガウェインもまた鬼神の如く強さを誇っていた。
 セイバーも。アーチャーも。キャスターも。皆、苦戦を強いられた。もしも、少しでもこちらの力が足りなかったら、彼らを乗り越える事などできなかった。
 戦いに敗れて消去されるまで、レオは何を思っていたのだろうか。微笑んでいるようにも見えたが、それは心からの感情だったのか。あの空虚な瞳の奥底に、もしかしたら自分達への憎悪があったかもしれない。
 そう思った途端、これから出会うレオに対して一抹の不安を覚えてしまう。敗者にされてしまった彼が、勝者として君臨した自分達に協力してくれるのか? 
 レオは信頼できる人物だが、それはまた別の話。レオの命を奪った張本人である相手に力を貸せだなんて、身勝手にも程がある。ガウェインに敵と思われたとしてもおかしくない。


 …………だが、それは覚悟の上だ。
 例えどんな泥を啜る事になろうとも、尊厳を踏み躙られる程の屈辱を味わう事になろうとも、大切なものを失う事になろうとも。
 このバトルロワイアルを止めると決めたはずだ。ユイを、カイトを、サチ/ヘレンを……みんなを守る為ならば、どんな苦行にも耐えると誓った。
 その為ならばどんな汚名にも耐えてみせる。どうなろうとも、レオに協力して貰うつもりだ。


47 : 対主催生徒会活動日誌8ページ目・再会編 ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 07:03:36 5CkSMahg0

「ハクノさん。すぐ近くの部屋から、三人のプレイヤー反応が確認できました。
 もしかしたら、それがレオさんって人じゃないでしょうか?」

 ユイの言葉と同時に、目前に赤い絨毯が敷かれているのが見えた。
 ……これは一体何だ。こんなのは月海原学園に存在してた記憶は無い。いや、もしかしたら誰かの記憶の中にあったかもしれないが…………駄目だ。やはり見覚えがなかった。
 警戒しながら一歩前に出ながら廊下を見渡すと……何と、やけに派手な装飾が飾られているドアが見えた。これもかつての月海原学園で見た記憶がない。
 色とりどりのペーパーフラワーも、クリスマスツリーに飾られていそうなライトも、キャンドル型の電灯も……まるでホームパーティーでもやっているかのようだった。

「あれは……祝い事でも行っているのか? だが、何故今なのだ?」
「こんな時に随分と呑気ですねー まあ、変に暗いムードでいられるよりはマシですけど」

 セイバーとキャスターも、やはり怪しんでいるようだ。
 カイトとヘレンは表情を微塵も動かさないので、どういう感情を抱いているのかわからない。そもそも、彼らはパーティーに参加した事があるのだろうか?
 そんな事を考えながら、ユイに尋ねてみる。

 >罠じゃ……ないよね?

「多分、違うと思います……システムを改竄した形跡は感じられますが、それだけでしょう。何か危害を及ぼすような罠はないかと思います」

 システムを改竄してまでやることが、こんな飾りとは……レオの考えはよくわからない。
 自分の知るレオは、品行方正という言葉が相応しいほどの少年だ。そんな彼が、わざわざこんな遊びみたいなことをやるなんて想像できない。
 疑問を抱きながらもスライドドアに手をかける。鬼が出るか蛇が出るか……いや、高確率でレオが出てくるだろう。
 そして、ドアを開けた瞬間―――

「Welcome! To THE 対主催生徒会! ようこそ、白野さん!」

 パーン! という音と共に、朗らかな声が生徒会室に響き渡る。
 目の前には、やはりレオとガウェインがいた。にこやかな笑顔を浮かべる彼らは、何故かクラッカーを持っている。
 そしてこの部屋には見知らぬ男と少女もいた。野球を嗜んでいそうな男性と、やけに目つきの悪い少女……とりあえず、敵ではないはずだ。

「お待ちしておりました……我々は、あなたが来てくれる事を信じておりましたよ」
「ガウェインの言う通り! 僕も白野さんに会いたくて、仕方がありませんでした! 
 もうすぐ会えるかと思って、急遽皆さんでお出迎えの準備をして大成功ですよ!」

 つかつかと歩み寄ってくるレオに両手を握り締められて、そのままぶんぶんと上下に振られた。
 呆気に取られてしまう。ここまでハイテンションなレオを自分は知らない。もしかして、AIDAに匹敵するようなバグが感染してしまったのだろうか?
 どう反応すれば分からずに戸惑っていると、レオはふふんと鼻を鳴らしながら胸を大きく張る。


48 : 対主催生徒会活動日誌8ページ目・再会編 ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 07:05:16 5CkSMahg0
「見てください、白野さん! この生徒会室を! いやぁ、ここまで改竄するまで苦労しましたよ! 何せ運営はメンテナンスでこの学園を初期化できるようですから、いつ無効化されてしまうか冷や冷やしましたよ!
 例え、六時間に一回と言っても、奴らはそれを無視する可能性だって否定できませんから!
 いやいや、その前に白野さんに見て貰う事が出来て本当に良かった! 苦労が報われましたよ!」

 饒舌に語った後、レオはうんうんと頷いた。
 …………本当に何があったのか? 彼はこんな性格だったのか? まさか、自分に負けたショックで性格がおかしくなったのなら……責任重大だ!

「そなた……知らぬ間に随分と愉快になったな」
「もしかして、今までは猫を被っていただけだったのでしょうか? ……あるいは、変なものでも食べておかしくなってる?」

 セイバーとキャスターは突っ込みを入れる中、レオは表情をキラキラと輝かせている。
 だがその次の瞬間、今度はサーヴァント二人に視線を向けてきた。

「僕も色々とあったのですよ。白野さんに負けた事は、僕にとって大きな転換点となりました……再会するのがこんな殺し合いの真っ最中なのが残念ですが、それは置いておきます。
 それに僕も、今はあなた方に聞きたい事がありますし」

 聞きたい事?

「ええ……どうして、白野さんはサーヴァントを二人も使役しているのか。そして、あなたが共に戦っていたはずの3人目のサーヴァント・アーチャーはどうしているのか……
 他にも聞きたい事はありますが、まずはこれをお聞きしたいのですよ」

 レオの口から出てきたのは、あまりにも当然の疑問だった。
 何故、サーヴァントの多重契約が可能となったのか。そして何故、複数の世界の記憶を所持していて、男にも女にもなれるのか。
 ユイは解説をしてくれたけど、それでも完全に納得できていない。こんな不条理はSE.RA.PHでも経験できるとは思えなかった。
 しかしそれでも、疑問には答えなければならないだろう。


     †


「サーヴァント達が持つ記憶から白野さんが再構成された……それはまた、何とも奇怪な現象ですね」

 この身に起こった出来事を話し終えた後、レオは驚愕の表情で頷く。ガウェインもまた同じ反応をしていた。
 二人と一緒にいるジローという男とスカーレット・レインという少女(シノンの言っていたトモコとは彼女の偽名らしい)は、怪訝な表情を浮かべている。簡単に信じられる話ではないからだろう。

「しかしレオ。それなら我々の記憶が混乱している事とも、辻褄が合うのでは? 彼らに伴って、聖杯戦争に関わった全てのマスターの記憶が混乱しているのですから」
「ええ……白野さんの言葉が正しければ、僕達だけではなくミス・遠坂やミス・ラニの記憶にも同じ現象が起こっているかもしれませんね」

 ガウェインとレオの言う事は尤もだ。実際、慎二やありすもレオと同じ反応をしたのだから、他のマスター達も例外ではないだろう。
 それにしても、ここにはやはりラニもいた。ジローの話によると、彼女は凛を殺してしまったらしい。事実、彼女ほどのマスターだったら、凛に打ち勝ったとしてもおかしくないだろう。
 だが、それ以上に気がかりな事があった。


 …………かつて、共に戦った事があるラニがバトルロワイアルに乗ったという事は、自分達にとって敵となる。彼女がいてくれたのならば力を合わせたかったが、それは叶わない。
 場合によっては、この手で倒さなければならなくなる。聖杯戦争の勝者として君臨し続けた以上、戦いたくないなんて、今更言うつもりはない。彼女が敵になるのであれば、止めるのが自分の役目だ。
 無論、戦わずに済むのならそれに越したことは無い。しかし、ラニもまた相応の覚悟を持ってバトルロワイアルに乗ったのだろう。彼女の強靭な信念を捻じ曲げる事は、自分達でも困難だ。
 和解できる可能性はかなり低い。


49 : 対主催生徒会活動日誌8ページ目・再会編 ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 07:06:37 5CkSMahg0


 それに今はラニの事ばかり考えてはいられない。
 隣にいるユイに顔を向ける。ジローの話を聞いた事で、ユイは表情を曇らせているのだ。
 何故なら、ラニは凛だけでなくもう一人……妖精の少女を殺したらしい。それは、ユイの仲間であるリーファである可能性が高かった。

「妖精の少女…………まさか、リーファさんを殺したのが……ハクノさんの仲間だったなんて……」
「ご、ごめん……まさか、君の友達だったなんて……」
「……大丈夫です。むしろ、ジローさんは皆さんと同じ被害者ですから……責めるのは、筋違いだと思います」

 謝罪するジローに、ユイはそう答える。
 名前を直接聞いた訳ではない。だが事実としてリーファの名前は一度目のメールで書かれている。凛が殺害されたタイミングと合わせると、ラニがリーファを殺害した犯人である事に間違いない。
 正直な話、自分もユイとどう向き合えばいいのかわからなかった。リーファの命を奪われた責任は、ラニの仲間である自分にも責任がある。
 もしも、ラニがバトルロワイアルに乗った理由に、自分の存在があったら…………ユイだけではない。キリトやシノン、それにサチとも顔向けができなかった。
 尚更、この手でラニを止めなければいけないだろう。


 >…………ごめん、ユイ。

「いいえ、ハクノさんのせいでもありません。ラニさんは確かに白野さんの仲間だったでしょうが、リーファさんがいなくなった事に……ハクノさんは何の責任もないです。
 ……ごめんなさい! 変な空気にしてしまって」

 ユイはそう言ってくれるが、明らかに無理をしている事が窺えた。
 彼女は素直に自分を受け入れていない。ラニにリーファを奪われた事で芽生えた感情を、本当なら自分にぶつけてしまいたいはずだった。しかし、それを抑え込もうとしているのだろう。
 信頼してくれている現れなのだろうが、逆に心を痛めてしまう。ユイに無理をさせて、嬉しくなれる訳がなかった。
 そんなユイにどんな言葉をかけたらいいのか。どうすれば、彼女が立ち直ってくれるのかわからなかった。

「そ、それよりも今は……この仮想空間のどこかにいるエージェント・スミスや、白い巨人の事も考えないといけません!
 彼らがいつ、この月海原学園に襲撃してもおかしくないのですから!」

 暗い空気を無理矢理壊そうとするかのように、ユイは叫んだ。

「もしかしたら、この学園に向かって来ているかもしれません! だから、対策を立てないと!」
「……確かにそうですね。ダンジョンの攻略も進めたかったのですが、そんな危険なプレイヤーがいるのであれば警戒が必要ですね。
 何も知らないままだったら、僕達も危なかったですよ」

 先程の陽気な態度が嘘のように、レオは深刻な表情を浮かべる。
 エージェント・スミスの危険性を知らないままだったら、いくらレオ達でも危なかっただろう。この学園で戦闘行為を働き、それをNPCに見つかったら全てのステータスが低下させられてしまうらしい。
 だが、それを躊躇しない相手だった可能性もあった。それに彼らは自らの"数"を増やせるのだから、例え能力が低下してもそちらでカバーすることができる。
 ここにいる三人が危険人物に変えられてしまう…………考えただけでもゾッとした。

「あの兄ちゃん……一人で勝手に突っ走りやがって」

 そんな中、ポツリと愚痴を吐く少女がいる。
 話を終えてから、レインはずっと表情を顰めていた。


50 : 対主催生徒会活動日誌8ページ目・再会編 ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 07:07:47 5CkSMahg0
「何かあったらどうするつもりなんだよ……そんな連中に一人で突っ込むなんて、無謀ってレベルじゃねえぞ」
「レインさん。ハセヲさんの事は僕も気がかりですが、今はシノンさんという人を信じましょう」
「……それはあいつを放っておくってことなのか?」
「僕もハセヲさんを止めなければいけないと思っています。雑用の独断行動は生徒会長である僕の責任でもありますから
 ですが、今からハセヲさんを追いかけようとしても、行き先がわからないのならどうしようもありません。闇雲に捜しても、見つかる保証なんてないでしょう?」
「そりゃそうだけどさ……」
「シノンさんがどんな人なのかは知りません。ですが、白野さんやユイさんが信頼している以上、信頼できる人物である事は確かです。だから今は……待つしかありませんよ」

 レオとレインは案じているのはハセヲの身だ。
 彼は数時間前、レオによって【対主催生徒会】の【雑用】にされてしまい、その一環として調査をさせられたようだ。しかしハセヲはもう戻ってこないだろう。
 本当ならレオもハセヲを捜したいはず。だけど、彼一人の為に他のメンバーを危険に晒す訳にはいかず、学園に待機するしかなかった。

「それと話は変わりますが、白野さん達にはお聞きしたい事があるのです」

 その言葉と共に、レオはウインドウを展開させる。
 指で操作させた後に、神秘的な白銀の輝きを放つ片手剣を取り出した。
 ―――その瞬間、ユイは驚愕の表情を浮かべる。

「そ、その剣は…………!」
「おや? ユイさんはこのダークリパルサーを知っているのでしょうか?」
「はい! それはかつて、私のパパが使っていた片手剣なのですから!」

 …………!
 ユイの言葉を聞いた途端、落雷の如く衝撃が全身を駆け巡った。
 ユイのパパが使っていた剣。それはつまり、レオの取り出した剣はキリトの所有物ということだ。
 だとしたらまずい! ここでキリトの話を出させたりしたら……ヘレンはサチとキリトの一件を話しかねない!
 リーファの死と、リーファの命を奪った犯人がラニであることを知って、ユイの心には多大な負荷がかかっているはず。そこにキリトのことまで知ってしまったら…………限界を迎えて、取り返しのつかないことが起こる危険があった。
 反射的に振り向いてしまう。視界の先にいるヘレンが何を考えているのか……自分にはわからない。

「なるほど……では、この剣はユイさんが持っているべきでしょうね。あなたのお父様の物は、あなたの物でもありますから」

 その一方で、レオはユイにダークリパルサーを差し出していた。

「えっ、いいのですか!? でも、それだとレオさんが……」
「王たるものは、常に民に心を寄せなければなりません。他にいくらでもある剣よりも、たった一つしかないユイさんの心を心配するべきです」
「それに王が戦えないのであれば、私が王の剣としての務めを更に果たすだけです。だから、あなたが心配する必要などありませんよ」
「…………わかりました! レオさん、ガウェインさん、ありがとうございます!」
 
 そう言って、ユイは微笑みながらレオとガウェインからダークリパルサーを受け取り、それから装備欄にしまう。
 思わずホッと胸を撫で下ろす。キリトの名前が出なかったことが幸いだった。ユイの父親がキリトであることを、サチとヘレンは知らなかったようだ。
 しかし、これはほんの一時凌ぎに過ぎない。ユイは今、キリトの剣を取り戻したことで安心しているけれど、キリトのことを知ってしまったら…………

「白野さん」

 ……そんな中、不意に声をかけられてしまう。
 顔を向けた先では、レオが微笑みながら自分のことを見つめていた。

「ちょっと別室に行って、マスター同士で話をしませんか? せっかく会えたので、僕も色々と話したいことがあるので」

 レオの口から出てきたのは、そんな提案だった。
 それはここでは駄目なのかと、レオに訪ねる。


51 : 対主催生徒会活動日誌8ページ目・再会編 ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 07:08:34 5CkSMahg0

「う〜ん、僕としては白野さんとお話がしたいのですよ。そんなに時間はかけません。そうですね……長くても、2分以内には終わらせますよ。
 すぐに戻ると約束します。サーヴァントのお二人の同席だって大丈夫ですよ」

 レオは引き下がる気はないようだ。
 …………正直な話、ここで他のみんなとは離れたくない。今、ここで離れたりしたらトラブルが起こりかねないからだ。
 特に心配なのはユイとサチ/ヘレンだ。カイトだって、もしもキリトのことを知ってしまったら、その時点でヘレンを敵と認識するかもしれない。
 ジローとレインの心配はいらないかもしれないが……万が一ということはある。
 だけど、ここでこちらが引き下がろうとしても、レオが素直に聞き入れるとも思えない。今はレオの言葉を信じて、提案を受け入れることにした。

「ありがとうございます、白野さん! それでは皆さん……少々席を外させて頂きますので、その間は自由に雑談をしててください」
「わかったわかった。とっとと戻ってこいよ、生徒会長さんよ」
「無論です。では、行きましょうか」

 レインのぶっきらぼうな言葉に、レオは涼しく答える。
 それからレオに導かれるまま、自分はセイバーとキャスターを連れて生徒会室を出た。
 不安なことに変わりは無いけど、今は仕方がない。そう言い聞かせて、何事もないのを祈った。


    2◆◆


「…………ここなら大丈夫ですね」

 レオとガウェインに導かれるまま来たのは何の変哲もない教室だった。
 そこは生徒会室のように、何か特別な飾りがしてある訳ではない。ありのままで、何度も見てきたはずの教室だ。
 ここで、何をしようと言うのか?

「そなた、ここで何をしようと言うのか? まさか、奏者に戦いを挑むつもりなのか?」
「そんな訳ありませんよ。確かにリベンジはしたいですが、今は無駄に消耗をしている場合ではありませんし、それ以前にここでは戦闘行為が禁止されています。
 見つかったら、僕たちみんなペナルティですよ」
「では何故だ?」
「白野さんにお聞きしたいことがあるからです」

 セイバーの疑問に、レオはそう答えた。
 聞きたいこと…………それは、一体?

「ええ。あなたはさっき、僕がダークリパルサーをユイさんに渡した時、酷く動揺したように見えましたから……その理由を考えたのですよ」

 なっ…………!?

「ユイさんがダークリパルサーを持った時、あなたはサチさん……いいえ、ヘレンさんを見ていました。
 聞く所によると、彼女のアバターはAIDAというウイルスであるヘレンさんが動かしているそうですね。僕は思ったのですよ、どうしてサチさんがそんな状態になってしまったのかを。
 …………もしかすると、ユイさんのお父様が関係しているのではありませんか?」

 レオの言葉を否定することも、また誤魔化す為の嘘も口にできない。
 彼は見抜いてしまったのだ。自分が隠し事をしていることを。


52 : 対主催生徒会活動日誌8ページ目・再会編 ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 07:09:44 5CkSMahg0

「なるほど……ご主人様の様子がおかしいと思っていましたが、そういうことだったのですか」

 そして。そんなレオに同意するかのように、キャスターもまた口にした。
 ……まさか、キャスターも気付いていたのか!?

「どうも変だと思っていたのですよ。ヘレンさんがメンバーに加わってから、ご主人様はユイさんのことを変な目で見つめていましたよね?
 一瞬、まさか幼女に浮気でもしようとしていたのかと不安でしたし、そんなことだったらこの鉄拳を炸裂させてやろうとも思ってましたが…………すぐにそうじゃないと確信しましたよ。
 でもまさか、キリトさんが関与していたなんて」

 何気に失礼なことを考えていたようだが、今は関係ないことだ。
 隠し通そうとしていたつもりだったのに、実際は見抜かれていた……それがショックだった。

「奏者よ、IN-RAN狐の目は節穴ではないぞ。認めたくは無いが、こやつが奏者と共に過ごしていた日々は世に負けない……隠し事をしたとしても、すぐに見抜かれるに決まっているだろう」

 続いて、セイバーもまた真摯に語る。
 その口振りから考えて、彼女もすぐに気付いていたのだ。自分が秘密を抱えていることを。
 …………もう、隠そうとしても無駄だろう。
 彼女達に隠し事が通用する訳がないと、ちょっと考えればわかることだ。自分が彼女達のことを知るように、彼女達もまた自分について知り尽くしているのだから。
 ここにはいないが、アーチャーだって同じだろう。


 確かにサチはキリトを傷付けてしまったけど、それはサチが望んでやったことではない。ヘレンだってキリトを殺そうとした訳ではない。
 キリトを傷付けたことは、確かに二人の責任かもしれない。それでも、サチは死にたくなかっただけで、ヘレンもそんなサチを守ろうとしただけ。
 二人は悪意があってやった訳ではない。

「わかっておる。恐らく奏者はユイだけでなく、余もサチを恨むと考えていたのだろう。だから、話す事ができなかった……違うか?」
「お気持ちはわかります。でも、隠し続けた所で、いつかは知られてしまいますよ…………私自身、そうでありましたから」

 彼女達に何も言い返せない。
 それでも恨みや軽蔑といった感情は見えなかったが、何の慰めにもならない。彼女達なりに気遣ってくれているのだろうが、それが逆に重く感じてしまう。
 それに、このままではいつかユイに知られてしまう……それは避けようのない事実だ。

「しかし、それならユイにはどう話しましょうか? このまま全てを話す訳にも、黙る訳にもいきません。
 キリト……彼のプレイヤーはまだ生存していますが、だからといってユイは納得などしないでしょう」

 ガウェインの言葉は尤もだ。
 こうしている間にも、ユイがサチの起こした悲劇を知ってしまったら、取り返しのつかないことになってしまう。

「ええ。それにジローさんやレインさんも、サチさんを信頼できなくなってしまいます。例え表面上では友好的に接しても、そんな状態ではトラブルが起こりかねません。最悪、チーム全体が崩壊してしまう恐れもあるでしょう。
 一刻も早く戻らないといけませんね…………白野さん、大変失礼致しました」

 ペコリ、とレオは頭を下げる。


53 : 対主催生徒会活動日誌8ページ目・再会編 ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 07:11:41 5CkSMahg0
「戻りましょう。そろそろ約束の二分が過ぎますし、それに今後のことも考えなければいけません。
 それにサチさんとユイさんのことも……白野さんだけに背負わせる訳にはいきませんから。話して頂き、ありがとうございます」
「いざという時は、我々も力になります。では、参りましょうか」

 そして、レオとガウェインは教室から出ていく。
 自分もまた、セイバーとキャスターを連れて足を進めた。こうしている間にも、生徒会室で何かが起こるかもしれないので、自然と速足になってしまう。

「奏者よ……余はそなたの心の強さはよく知っている。ユイのことも、そなた一人で全てを解決させようとしたのだろう……
 だが、時には余を頼らぬか、このうつけ者が」
「ご主人様は決して一人じゃありませんよ。私が一番であることは譲りませんが、周りには多くの方々がいます。
 時には弱音を吐いたり、誰かに頼ろうとしても……罰は当たりませんよ」

 セイバーとキャスターの言葉に、少しだけ心が軽くなったのを感じた。
 状況が状況だから仕方がないが……隠し事をするよりも、正直でいる方が楽なのは本当だと実感する。
 だけど、本当に辛いのはサチとユイだ。レオ達は力になってくれるようだが、彼女達を救う為の手段が見つかった訳ではない。
 些細な切欠で全てを知られてしまう危険があることに、変わりはなかった――――


    3◆◆◆


 …………俺は今、何を話せばいいのかわからずに困惑している。
 レオは自由に雑談してくれとは言ってたが、話題が見つからなかった。
 ニコは――ハセヲという男の話を聞いてから、ずっとしかめっ面をしているので話し辛い。
 ユイちゃんは――リーファちゃんのことがあったから、心情的にこちらから話しにくかった。
 カイトは――フランケンみたいな外見が不気味で、こちらから話すのを躊躇わせてしまう。
 サチ……いや、ヘレンだっけ? は――カイトよりはマシだが、周囲に浮かんでいる黒点がまた異質で話し難いオーラを放っている。
 

 岸波白野という男と一緒にいた三人は、みんな人間ではないようだ。
 ユイちゃんはAIで、別世界のゲームからやってきたと聞いた。カイトもユイちゃんと同じAIで、二度目のメールで書かれてあったカイトと言うプレイヤーを元に生み出されたようだ。
 サチは普通の人間だが、彼女を動かしているヘレンはAIDAというウイルスらしい。ウイルスと聞くと、デウエスを思い出してしまう。
 何でそんなウイルスがサチに憑依して、そして白野達と一緒にいるのか? 凄く疑問だが、ここで聞いていいこととは思えない。
 ただでさえ空気が良くないのに、ここで深刻な話を持ち出したりしたら…………駄目だ。考えるだけでもゾッとする。


 だから、何か軽い話題がないかと考えてみる……そうだ! 生徒会の役員だ!
 色々あって、ここにいるみんなはまだ役職が決められていない。それを話せばいい!

「そうだ! ユイちゃんにみんな、ちょっと話があるんだ」
「なんでしょう、ジローさん?」
「えっと……レオは今、対主催生徒会ってチームを作っているんだ! ユイちゃんは何の役をやってみたい?」
「役をですか?」
「おう! 会長はレオ、副会長はニコちゃん、俺は……雑用だけど、他には書記や会計が空いてるんだ。
 ユイちゃんは書記が合うんじゃないかな?」
「……レオさんが大丈夫なら私は問題ありません。カイトさんとヘレンさんはどうでしょう?」
「アアアァァァァ」
「――――」
「お二人は何でもいいそうです」


54 : 対主催生徒会活動日誌8ページ目・再会編 ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 07:13:00 5CkSMahg0

 カイトとヘレンの言葉はとても人間の物とは思えない。何か不備があるのだろうか?
 そんな二人の通訳をユイちゃんはしてくれている。彼女がいなかったら、まともなコミュニケーションを取ることも不可能だ。
 ……もしもカオルがいたら、二人の言葉を翻訳してくれる機械でも作ってくれるだろうか。例えば、未来の青い猫型ロボットが食べるコンニャクみたいに。

 それは置いておいて、カイトとヘレンにできそうなのは……会計辺りか?
 AIのカイトや、俺達と同じように行動するヘレン。電子計算辺りが得意そうなイメージがある。
 俺も雑用なんて不名誉と思ったけど、考えてみればやれる自信がある役職が思い付かない。
 書記はどうも俺のイメージに合わない。
 会計は……もしかしたら、レオに無茶苦茶な計算をさせられてしまう。ただの無職である俺にできるのだろうか?
 庶務ができるのなら、今頃普通に就職しているはず。
 だから消去法で雑用になってしまう。文句は言えなかった。

「そういえばジローさん。レオさんは白野さんにこの部屋を見せたいって言っていましたよね」
「ああ。『そろそろ白野さんが来るから、準備をしよう』って言われて、ここに来たんだ…………それにしても派手だなぁ」
「いえ、とても個性的でいいと思いますよ」

 ユイちゃんは天使のように微笑んでくれた。
 それはとても心が安らぎそうだが、同時に罪悪感が余計に膨れ上がってしまう。俺がもっとちゃんとしていたら、リーファちゃんを助けられたかもしれないから。
 本当なら恨まれても仕方がないのに、彼女は微塵もそんな素振りを見せない。
 …………ニコだけでなく彼女のことも守りたいと、そう思うようになった。

「やれやれ……呑気でいいねぇ。どっかには化け物連中がいるってのに。まあウジウジと暗くなるよりはマシだけどな。
 にしても、掃除がやっと終わったと思ったらこれかよ……」

 ニコは溜息交じりに呟く。
 彼女の言うこともよくわかる。何でも、ここから南に離れたマク・アヌにはエージェント・スミスという危険なプレイヤーがいるらしい。
 そいつはとてつもなく強いらしく、それに加えて自らの数を増やせるらしい。他のプレイヤーを撃破すると、そのプレイヤーがスミスになる……よくわからないけど、危険なことは確かだ。
 スミスだけではない。カイトのオリジナルを一瞬で倒したという白い巨人も気になる。
 詳しい事はわからないが、とてつもなく危険であることは確かのようだ。
 そんな連中と出会ったら、俺は何もできずに殺されてしまうはずだ。学園で暴れたプレイヤーはステータスを下げられるらしいが、何の慰めにもならない。
 それにニコだって、先程のペナルティでまだ弱体化したままだ。その間にスミス達が来たら、戦えるのだろうか? 何よりも俺自身、さっきの痛みが微かに残っている。
 …………レオ達には早く戻ってきて欲しかった。もしも、扉を開けた瞬間に出てきたのがスミスだったら、俺達は一巻の終わりだ。


 そんな願いを叶えてくれるかのように、扉が開く。
 一瞬、本当にスミスが来たかと不安になったが…………違った。そこにいるのはレオと白野、それにサーヴァント達だ。

「レオに白野!」
「お待たせしましたね、皆さん。変わったことはありませんか?」
「変わったこと? 特にないけど……強いて言うなら、ユイちゃんに書記をやらせてみようって話が出たけど、どうだ?」
「ユイさんが?」

 レオはユイに振り向く。

「私は大丈夫ですよ?」
「そうでしたか。では、決まりですね」

 二人は互いに微笑む。それはとても穏やかなやり取りだった。
 やっぱり、AIとはいえ彼女はまだ子ども。子どもは笑うのが一番だと改めて思う。
 パカはどうだろうか。彼女は今、何処で何をしていて……そして笑ってくれているのか? あと、隣に住む典子ちゃんも元気でいるだろうか?
 何となく、気になってしまう。やっぱり、疑問はこういうことの方が気が楽だ。

「それと、ここの保健室にはサクラもいらっしゃるので、そちらに顔を出して……それから図書室で情報を集めましょう。
 他のことは追々、お話しようと思いますので」


55 : 対主催生徒会活動日誌8ページ目・再会編 ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 07:17:03 5CkSMahg0
【チーム:対主催生徒会】


[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:スカーレット・レイン
書記 :ユイ
会計 :空席(予定:ダークリパルサーの持ち主)
庶務 :空席(予定:岸波白野)
雑用係:ハセヲ(外出中)
雑用係:ジロー
[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:(レオの)理想の生徒会の結成。
2:保健室に向かって桜に会い、その後に図書室で情報を集める。
3:エージェント・スミスと白い巨人(スケィス)に警戒する。

【備考】
※岸波白野、蒼炎のカイト、サチの具体的な役職に関する話はまだ出ていません。



【B-3/日本エリア・月海原学園/一日目・日中】

【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP95%、データ欠損(微小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、男子学生服@Fate/EXTRA
[アイテム]:女子学生服@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
0:―――大丈夫だ、問題ない。
1:月海原学園に向かい、道中で遭遇した参加者から情報を得る。
2:ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
5:せめて、サチの命だけは守りたい。
6:サチの暴走、ありす達、エージェント・スミス達や白い巨人(スケイス)に気を付ける。
7:ヒースクリフを警戒。
8:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP100%、健康
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと3分程度です。
※アーチャーとの契約が一時解除されたことで、岸波白野の構成データが一部欠損しました。
※セイバーとキャスターはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。


56 : 対主催生徒会活動日誌8ページ目・再会編 ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 07:17:23 5CkSMahg0
【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP55/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/ピクシー
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[アイテム]:セグメント3@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本: パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
0:ハクノさん………。
1:ハクノさんに協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:ヒースクリフを警戒。
6:シノンさんとはまた会いたい。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=VIIIであるかもしれないことを知りました。


【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%、SP80%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
3:サチ(AIDA)が危険となった場合、データドレインする。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。


【サチ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]HP10%、AIDA感染、強い自己嫌悪、自閉
[装備]エウリュアレの宝剣Ω@ソードアート・オンライン
[アイテム]基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:死にたくない。
0:――――うそつき。
1:もう何も見たくない。考えたくない。
2:キリトを、殺しちゃった………。
3:私は、もう死んでいた………?
[AIDA]<Helen>
[思考]
基本:サチの感情に従って行動する。
1:ハクノ、キニナル。
[備考]
※第2巻にて、キリトを頼りにするようになり、メッセージ録音クリスタルを作成する前からの参戦です。
※オーヴァンからThe Worldに関する情報を得ました。
※AIDAの種子@.hack//G.U.はサチに感染しました。
※AIDA<Helen>は、サチの感情に強く影響されています。
※サチが自閉したことにより、PCボディをAIDA<Helen>が操作しています。
※白野に興味があるので、白野と一緒にいる仲間達とも協力する方針でいます。


57 : 対主催生徒会活動日誌8ページ目・再会編 ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 07:18:49 5CkSMahg0
【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP50%、小さな決意/リアルアバター
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:今は図書室で情報を集める。
2:ニコやユイちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の事は、もうあまり気にならない。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。
※桜の特製弁当を食べました。



【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP10%、令呪:三画
[装備]:なし
[アイテム]:桜の特製弁当@Fate/EXTRA、トリガーコード(アルファ)(ベータ)@Fate/EXTRA、コードキャスト[_search]、番匠屋淳ファイル(vol.1〜Vol.4)@.hackG.U.、基本支給品一式
[ポイント]:1053ポイント/0kill
[思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
0:今は図書室で情報収集を再開。
1:本格的に休息を取り、同時に理想の生徒会室を作り上げる。
2:モラトリアムの開始によって集まってくるであろうプレイヤーへの対策をする。
3:他の生徒会役員となり得る人材を探す。
4:状況に余裕ができ次第、ダンジョン攻略を再開する。
5:キリトさんには会計あたりが似合うかもしれない。
6:もう一度岸波白野に会ってみたい。会えたら庶務にしたい。
7:当面は学園から離れるつもりはない。
8:ユイとサチ(ヘレン)のことも考えなければならない。
9:ハセヲさんのことはシノンさんに任せる。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP110%(+50%)、MP85%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※ガウェインはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。



【スカーレット・レイン@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP100%、(Sゲージ60%)、健康/通常アバター
[装備]:非ニ染マル翼@.hack//G.U.
[アイテム]:インビンシブル@アクセル・ワールド、DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)、赤の紋章@Fate/EXTRA、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:情報収集。
1:しゃーないので副会長をやる。
2:ジローにちょっと感心。
3:一人で飛び出したハセヲに軽い苛立ち。
[備考]
※通常アバターの外見はアニメ版のもの(昔話の王子様に似た格好をしたリアルの上月由仁子)。
※S(必殺技)ゲージはデュエルアバター時のみ表示されます。またゲージのチャージも、表示されている状態でのみ有効です。
※参戦時期は少なくとも13巻以降ですが、インビンシブルはスラスター含め全パーツ揃っています。


58 : ◆9F9HQyFIxE :2015/03/22(日) 07:19:17 5CkSMahg0
以上で投下終了です。
問題点などがありましたら指摘をお願いします。


59 : 名無しさん :2015/03/22(日) 21:31:38 XYEbZqrs0
投下乙です
ついに生徒会組とAI組が合流しましたか
情報収集などでまた解散するとは思われますが、現状においては対主催における最大戦力となりましたね
懸念通りスミスが迫っていたり、サチとヘレンなどの不安要素もありますが、これからも頑張ってほしいところです

指摘としては、状態表の思考がそのままになっているのが気になりました


60 : 名無しさん :2015/03/22(日) 23:09:35 TLdHDhv.0
投下乙でしたー
レオはほんと、「誰てめぇ」状態だよなぁw


61 : ◆9F9HQyFIxE :2015/03/23(月) 06:56:37 iH8JlKUk0
>>59
指摘ありがとうございます。
修正スレの方で投下させて頂きましたので、確認をお願いします。


62 : 名無しさん :2015/03/23(月) 12:29:54 qfLSYgtw0
投下乙です。
やっとAI組が学園に到着しましたか……ここまで長かったですね。
危険人物への対処やらダンジョンの攻略やらでやることが多くて
この先どうなるか楽しみです。


63 : 名無しさん :2015/03/27(金) 21:36:26 gBBU93R.0
そういえば次で100話になるんだね


64 : 名無しさん :2015/03/29(日) 01:21:19 QC3OVbBk0
100話行かずに二回放送突破してるのはペース早いといえるのかも


65 : 名無しさん :2015/05/15(金) 05:55:48 auaJxwmc0
月報なので集計
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
99話(+ 1) 32/55 (- 0) 58.2


66 : 名無しさん :2015/06/12(金) 23:07:52 3OlnNvJE0
予約来たよヤッター!!


67 : ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:03:46 fXLIuFSA0
投下します


68 : 再会 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:04:12 fXLIuFSA0


誰かがわたしに
そっと触れれば
その指があなただと
信じられる強さだけが
わたしの真実だから

(白堊病棟)








毒が広がっている。
戦いの余波だった。穏やかな草原はいま汚されている。
枯れた湖に毒々しい色の液体が流れ込み、その表面が時おり、ぼこ、ぼこ、と泡を吹いた。
荘厳な大聖堂は毒沼に沈み込んでおり、神聖さを汚しているようであった。

そんなものの前で俺は“その男”と再会した。

彼の姿を目にしたとき俺は、遂に来たか、と感じている自分に気づいていた。
無論既に彼がこの場にいることは慎二から聞いている。
しかしそれを聞く前から、あるいはこのデスゲームに呼ばれる前から、俺は予感していた気がする。

再会を。
もう一度“その男”と巡り会うことを。
どのような過程で、どんな立場でそうなるかは分からなかったが、しかし進んだ先に“その男”がいる気がしていた。

あるいはそれは期待だったのかもしれない。
また会おう――そんなことを言って“その男”は消えていったのだ。
あれで終わりな訳がないと、運命的なものを勝手に俺は思い描いていたのだろう。

「ヒースクリフ」

何にせよ俺は出会い“その男”の名前を呼んだ。
“その男”は西洋風の鎧に身を包んだ精悍な顔つきの男だった。

「ヒースクリフか、それとも――」

“その男”はふっと不敵な笑みを浮かべ指先を、つい、と走らせた。

「茅場晶彦でも、その残像でも、なんでもいい。君にとっての私の名を呼べばいいさ、キリト君」

するとその姿は変わっていた。
騎士は消え去り、代わりに白衣をはためかせる一人の研究者が現れた。

その姿は記憶のものと何一つ変わっていなかった。
それも当然か。“その男”は既に現実から去っている。
データ上の残像であり、仮想現実の世界を彷徨っているだけの存在だ。
過去をアバターとして身に纏う以外、存在を維持することさえ危ういのかもしれない。

「――――」

しばし視線が絡み合う。
お互い、何も言いはしない。
その沈黙は警戒と緊張、そして期待を含んでいた。

「――茅場」

それを破るようにして、俺はその名を呼んだ。
数ある選択肢の中から俺が選んだのはその名前だった。

最もどれを選んでも同じことだったのかもしれない。
きっとどう呼んでも“その男”は同じように不敵な笑みを浮かべただろうから。


69 : 再会 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:05:00 fXLIuFSA0





「久しぶりだな」

白衣のアバターのまま、茅場はゆっくりと語りだした。
その姿に俺は不思議な高揚感を覚えていた。

「久しぶり、か。
 俺とアンタじゃ流れてる時の流れも違うんじゃないか。
 前に会った時からここまで瞬き一つの出来事だって言われても信じるぜ」
「確かに私にもはや時という概念はないな。
 始まりも終わりもない、ただの過去の残像だ」
「へえ、それは――想像もできないな」

意識あるいは魂。
それをデータとしてコンバートし、意識だけの存在になるなど、その感覚は俺にはまるで想像できなかった。
魂の駆動体。フラクトライトの研究などは進んでいるが、それでも依然としてその領域は人の手にはない。
その答えをプロセスをスキップして手に入れてしまった以上、もはやそのカタチは人とは呼べないだろう。

「慎二君も、まさか彼と一緒にいるとは思わなかったが」

茅場がふと視線を外し、俺の同行者/PTメンバーに目を向けた。
慎二は気おくれしたのか奴と目が合うと肩を、びくり、と上げた。
だが当の茅場は慎二に特に興味もなかったのか、すぐに視線を隣のアーチャーへと向け、

「ライダーはまだ取り戻していないようだね」

そうぼそりと呟いた。
話によれば最初に茅場と接触、戦闘することになったのは慎二らしかった。
最初のメンテナンスの際に別れたとのことなので、以来彼も独自に行動していたことになる。

「……そちらの情報を教えてほしい。
 多くの因縁はあれ、我々がここでやりあう理由もないだろう。
 とりあえず別れてからここまでの情報交換と行きたいのだが」

アーチャーが落ち着いた口調で言うと、茅場も鷹揚と頷いた。

「ああ、勿論だ。
 それで時にアーチャー。先ほどのメールにカイト君の名があったが」
「それは――」

茅場の問いかけにアーチャーは言葉を詰まらせた。
カイト。
彼は確か今アーチャーの本来のマスターのパーティにいるはずだ。
俺は話でしか聞いたことはないが、話によるとユイと同じネットゲーム内に発生したAIの類だという。
その名前が先の脱落者のメールに記載されていた。
考えようによってはアーチャーのマスターも――そしてユイも――危ない。

「あれ以来まで接触が取れていないのでな、彼らが現状どうなっているのかは掴めていない。
 目算だともう月海原学園に到達している頃だが」
「途中、PKと遭遇した可能性もあると」
「ああ、しかしまた別の可能性もある」

アーチャーは語るにはこの場に“カイト”は二人いるとのことだった。
単に同名PCというだけでなく、AIであるカイトの基になった“カイト”というプレイヤーの存在もまた確認されている。
ゲーム序盤、ブルースが接触したパーティにいたとのことで、彼らの消息はそれっきり不明のままだ。
となるとあの“カイト”はそちらの方である可能性もある。

「……話によると基となった“カイト”はPCに特殊なプログラムをインストールされていたそうだ。
 究極AIより齎されたデータ。もしかするとデスゲーム突破の糸口になったかもしれないが」
「失われた可能性もある、か」

茅場は淡々とした言葉に、アーチャーは何も言わなかった。
どちらの“カイト”が失われたにせよ、事態は悪い方向へと進んだことになる。
それだけではない。俺たちに残された時間は刻一刻と減っている。
アバター内に仕込まれたウイルスの発動リミットは12時間を切った。
ゲームが進行すればするほど、俺たちは不利になっていくのだ。


70 : 再会 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:05:35 fXLIuFSA0

「……あのロボットのPKを追う途中、私たちは多くのプレイヤーと出会い、協力を取り付けることができた。
 森やアメリカエリアの方を探索している筈だ。このエリア一帯で生き残っているプレイヤーとは大体接触できたと考えてもいいだろう」

アーチャーが落ち着いた口調で告げた。その言葉を受け俺は静かにうなずいた。
そう、悪いことばかりではない。ユウキやブルースのような友好的なプレイヤーと出会うこともできた。

「そうか……集団はできつつあるということか。
 あとは情報を解析できる拠点さえ形成されれば……」

茅場は口元に手を当て考えるそぶりを見せた。
彼自身は自らが不和となることを恐れて集団に属する気はない、とのことだが、恐らく頼まれれば協力を取り付けることは可能だろう。
彼もまたアインクラッドというデスゲームを創り上げた人間だが、それ故に技術面では他の誰よりも信頼できる。
そして俺は不思議と確信していた。恐らく茅場は本心からこのゲームを打破しようとしているだろうことを。

事態は切迫しているが、だからといって焦るわけにはいかない。
こうした状況で最も危ういのは焦りだ。リミットを恐れ暴走してしまえば――ただただ状況を悪くする。
数時間前の俺のように。

解決の糸口はある。
ゲーム開始から半日経った今、既に俺は多くの要素を見た。
最初はありとあらゆるゲームがごちゃ混ぜにされ、何が何だか分からない、といった感じであった盤面も、他のプレイヤーとの接触でそれぞれの概要が見えてきた。
そうして分かったこととして、このゲームには“イリーガルなシステム”が数多く存在することだった。
ユイやレンさんのようなAI、シルバー・クロウが見せた“心意”、そしてあの“黒いバグ”もそうだ。
二人の“カイト”のような、本来の仕様から逸脱したプレイヤーを恣意的に集めている可能性すらある。
おかしな話だが、このゲームはその“イリーガルなシステム”前提のバランスとなっているのだ。
そんな滅茶苦茶なシステムである以上、どこかでほころびがある可能性は十分にある。

それを間隙を突く為にも、求めるべきは情報と、茅場の言うとおりそれを解析する拠点だ。
そしてカオルのような高い情報解析技術を持ったプレイヤーとは既に接触できている。
鍵は揃いつつある。全く絶望的な状況ではない。

「茅場、そっちはどうなんだ。アンタのことだ。ここまでで何にも掴んでいない訳じゃないんだろ?」

俺は緊張を抑えながらそう問いかける。
すると茅場はあっさりと、

「GM……システム側と思しきNPCと接触した」

そう答えた。
俺は思わず息を呑む。
システム側との接触――当たり前だがそれは一回のプレイヤーにできることではない。

「偶然でも必然でもない。センチな言葉だが“運命の出会い”という奴をしてね。
 誘われるままイリーガルなエリアへと足を踏み入れた。
 そこに――オラクルと名乗る預言者がいた」
「預言者?」

俺は思わず聞き返した。
オラクル――確か天啓とかそう意味の筈だ。

「そう預言者だ。
 あれは自分のことをそう呼び、未来を見通す力があると言った」
「それは……論理演算を担当しているとか、そういうことか?」

その言葉を聞き、ぱっと思いついたのは“カーディナル”だった。
SAOに搭載されていたあの統括システムのように、仮想現実の運行を担っているシステムのことかと考えたのだ。
しかし茅場は「いや」と首を振り、

「あれはそういうものじゃないだろうな。
 まさしく未来そのもの。不確定なものを規定する――とでもいうべきか。
 そうした役割を担っていたように私は感じたよ。
 ――君たちはマトリックスという単語を既に聞いているかな?」

茅場はふと確認するように問いかけた。
俺は首を横に振る。一瞥すると慎二たちも知らないようだった。

「そうか。私としては今までで最も恐ろしく、広大な“現実”だったよ。
 それは――」

そうして茅場は語りだした。
新たな“現実”のあらましを。
その話はまず戦争から始まった――


71 : 再会 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:06:08 fXLIuFSA0

「人類と機械の戦争。敗北。檻としての現実……」

そして俺はそのあまりのスケールの大きさに思わず目を見開く。
ネットゲームどころの話ではない。人類規模での話だった。
その荒唐無稽な世界観は、正直、ゲーム開始直後の俺ならば信じていたか怪しい。
しかし信じざるを得ないだろう。
ネットナビのようなまるで違う社会基盤で活躍する者や、シルバー・クロウのような“時間”を超えた者を知った今、それもまた“現実”であると認めるしかなかった。

「よく分からないけどさ、そのマトリックスの預言者ってのは敵なのか?」

俺が黙っていると、そこで慎二が焦れたように聞いてきた。
ゲームという共通の話題があったためあまり意識していなかったが、慎二もまたそうした管理社会の出身なのだ。
それゆえ俺よりもすんなりと話を飲み込むことができたのだろう。
慎二の問いかけを受け、茅場はしばし考えるそぶりを見せたのち、

「敵ではないな」

そう言った。

「へぇ! じゃあ、そいつは僕らに協力してくれるってことか」
「しかし、味方ともいえないだろうな」

慎二の喜びの声を、茅場はそう一言で切り捨てた。

「本来の機能を制限されているとのことだった上、あれに協力を求めるというのがそもそも間違いなのだろう。
 未来を見通すことと限定することは違う。あれが司っているものは“選択”だ。
 ただそこにある以上のことをあれはしないだろう」
「なんだよそれ、役に立たないじゃんか」
「そうでもないさ――プログラムには必ず役割があるものだ。
 あれがいること自体が我々にとっては“導き”になる。
 “選択”のシステムは制限されているが、このゲームでも機能している」
「どういうことだよ、それ」

眉をひそめる慎二を余所に、茅場はふと笑みを浮かべた。
それは何となく仮面のように見えた。
茅場というよりは騎士団長【ヒースクリフ】が浮かべていたような、集団の上に立つものが浮かべる顔のように思えた。

「希望はあるということだよ、慎二君。
 私たちの頑張りにも意味があるということの裏付けになる」

そして茅場はそんなことを嘯いた。
その言葉を受け慎二の瞳にわずかながら明るいものが宿ったのが分かった。
流石だな、と俺は黙ってその光景を見ていた。

同時に告げられた“現実”についても考える。
マトリックス。
SAO、ALO、GGO、The World、ハッピースタジアム、電脳世界、加速世界、ムーンセルに加わる新たな“現実”か。
恐らくだがプレイヤーの数やそのつながりからして“現実”の数はこのあたりで打ち止めだろう。
となるとこれが最後の“現実”だが――

「情報は揃いつつあるようだな」

アーチャーがまとめるように言った。
確かにゲームの全図がおぼろげながらも見えてきた感じはしてきた。
情報自体は大体出揃い、あとはこれを解析する必要がある訳だ。

「とりあえず他のプレイヤーとの合流を急ぎたい。
 特にブルースらはイベントの件もあって心配がある。
 ――うまくいけばサチも見つかっているだろう」

サチ、という言葉が出た瞬間、俺の胸はざわめき出す。
思わず背後の聖堂を意識する。毒に怪我された聖堂。そこで起こった悲劇。
俺の過ち。シルバー・クロウの不可解な死。サチの“感染”。
その謎を俺は未だに解けていないでいる。
ぼこ、と毒沼が泡を吐くのが見えた。

「私は同行しない方がいいだろう」
「それは……」
「無駄な疑心暗鬼を呼ぶつもりはないよ」

今後の方針が見えると、茅場はあっさりとそう言った。
サチのことに意識が向いていた俺は、はっ、とする。
茅場はここで別れるという。
確かに彼の前歴を考えれば不和の原因になりえないとはいえない。
特にブルースなどは彼を信用しないだろう。

だがそれでいいのか。
恐らく茅場はこのゲームにおいて唯一無二の存在だ。
知識、知性、技術、そういった面でもここで逃すことは危うい。
いや、そうでもなくとも俺は確信していた。
恐らく茅場はこのゲーム打破において――重要な役割を持つと。


72 : 再会 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:06:27 fXLIuFSA0

「…………」

そう確信していたが、しかし俺はかける言葉が思いつかなかった。
全くの直感だ。
あまりにも論理性に欠けた言葉では何の意味もないだろう。
だがしかしそれでも何かしら言おうとするが、

「ただあと一つだけ告げておかなくてはならない情報がある」

それを遮るようにして、茅場が告げた。

「私と同じように預言者に誘われ、接触した“オーヴァン”というプレイヤーのことだ」

と。
俺がその瞬間思ったことは何だっただろうか。
茅場がその名を口にしたことで、求めていた名前と予感していた出会いが結びついた。
出会いに意味が与えられた。
それを結びつけたのが、未来を視る預言者だというのならば、なるほど確かにこれは必然でも偶然でもないのかもしれない。

そう思った、その時――

「――待て。何かが来る」

何かを感じ取ったアーチャーが茅場の言葉を制した。
その語気からみな状況を察する。
俺も、慎二も、茅場も、この場のプレイヤーはみな一級の“ゲーマー”であるということで共通している。
故にそれからの行動は早かった。

「これは――空からだ」

オブジェクト化する剣。顔色を変える慎二。そして現れる騎士【ヒースクリフ】
迎撃用意が整った瞬間、

「……っ」

空のノイズが走る感覚がした。
じじじ、とフィールドのデータを貫くような音がした時、既に――魔剣が降り注いでいた。
狙われたのはヒースクリフだ。赤い鎧をまとった騎士が空より降り注いだ剣撃を受け止めている。

そして、俺は再会した。

再会には意味があった。
少なくとも茅場との再会は偶然などではなかった。
だからきっと“彼女”との再会がその瞬間だったことも、単なる偶然ではないのだろう。

「――アスナ」
「キリト君……?」

ヒースクリフと剣を交錯させた“彼女”――アスナは呆然と俺の名を呼んだ。
信じられない、とでもいうように、彼女は俺の名前を呼んだのだ。

その手には黒く蠢く魔剣があり――


73 : 愛憎 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:06:45 fXLIuFSA0







毒が、毒が広がっている。
まだ戦いの余波は残っている。
聖堂は沼に沈み込み、その毒が消える気配はない。

「アスナ」

言うべきことは数えきれないほどあった。
聞きたいことも、やるべきことも、それこそ抱えきれないほど。
ある程度知り合いが呼ばれていると知った時から、彼女がいる可能性だってもちろん想定していた。
ましてやサチや茅場に出会ったあとだ。プレイヤーリストに彼女が名を連ねているのはむしろ順当にさえ感じた。

「それは――」

しかし何故俺は愕然としているのだろうか。
茅場がここにいると知った時だって、実際に出会った時だって、さして驚きはしなかったのに。
驚き?
いや違う。俺は驚いているんじゃないだろう。

「――それは、何だ」

拒絶しているんだ。
この“現実”を。
ここにある唯一無二の“現実”を。
どういうことか理解し、納得した上で拒絶している。

そうでなかったらこんなこと言わないだろう。
それは何だ、だなんて。
だって俺はその答えを知っている。

「――何でもないよ」

アスナはヒースクリフと剣を交えたまま、そう答えた。
ぎり、と剣が押し合っている。一方の瞳には明確な敵意があった。
もう一方の瞳は見覚えのある“黒”に覆われていて――

――サチの姿がフラッシュバックした。

意識が歪み、過去が明滅する。
再会。過ぎ去ったはずの少女。引き裂かれた銀の翼。黒いバグ。そして――オーヴァン。
ありとあらゆる痛みが連想ゲームのように浮かんでは消えていく。
過去に歪んだ視界が晴れると、そこにはどうしようもない“現実”があった。






74 : 愛憎 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:07:11 fXLIuFSA0


鍔迫り合い。
俺の前で剣と剣が交錯している。
青い長剣が空から降り注ぐ魔剣を押しとどめている。

「アスナ君」

剣を受け止めながら、ヒースクリフはあくまで冷静に語りかけた。

「剣を、納めてくれないかな。この場で私は君と事を構えるつもりはないんだ。
 信用できないのは分かるが、ひとまずは話を――」

けれどアスナは嫌悪感を隠さず眉を顰め、そのまま剣を振るった。
赤黒い魔剣を力任せに振り払い、勢いのままヒースクリフに襲い掛かった。
一撃、二撃、三撃、地対空の優位を生かして容赦なく攻撃する。
ヒースクリフは確かな技量でそれを受け止めていくのを、俺は呆然と見ていた。

――剣が放たれた。

見覚えのあるエフェクトが炸裂し、アスナへと向かう。
アスナが、はっ、として避けた。もともと威嚇射撃であったらしいそれは大きく逸れ、どこか遠くに着弾した。

「事情は分からんが、彼は私たちの貴重な情報源ゆえ介入させてもらった」

弓を構えたアーチャーがゆっくりと語りかけた。
慎二が指示を出した訳ではないのか、彼は後ろで目を丸くしている。

「思うに、君はそこにいるキリトと同じくPKの類ではないのだろう、アスナとやら」
「私がPK? 馬鹿なこと言わないで」

アスナはヒースクリフと向き合いつつも、キッ、とアーチャーを睨み付けそう言い放った。
そうだ。アスナがPKであるはずはないだろう。
その点では俺も疑ってはいない。だが、彼女のアバターに救うあのバグを俺は知っている。
知ってしまっている。

「ではPKK、という訳か。
 PKを排除すべし、という君の考えは分かる。だがアスナ、君の行いは場をかき乱しているだけだ、
 ここは落ち着いて彼の話を聞くといい。彼は」
「馬鹿なこと言わないで。そんな悠長なことをやってると、やってたから――」

アスナの甲高い声でアーチャーの言葉は掻き消される。
そして叫びように彼女は言った。

「やってたから――ユウキは殺されたんじゃない!」

と。
慎二が「は」と調子のはずれた声を漏らすのが分かった。
俺もまた思考がかき乱される。
ユウキが、彼女が――殺された?

「おい、どういうことだよ。
 アイツが……アイツがやられたってどういうことだよ」

ひきつった笑みを浮かべた慎二が問いかける。
その声はおかしなほど上ずり、指先が無意味に、ぴくぴく、と動いていた。


75 : 愛憎 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:07:37 fXLIuFSA0

「だから言ってるじゃない! PKを放っておいたらあの娘みたいに」
「うるさい! そんなこと聞いてるんじゃない。
 どうして、そんな、あんな奴が――僕が憧れるような、ゲーマーがやられる訳ないだろ!」
「それがやられたって言ってるでしょ!」
「うるさい。馬鹿! それじゃ分かるものも、分かる訳ないだろ!
 ないって――ないって言ってるだろぉ!」

慎二のうわずった叫びが上がる。目をおかしなほど見開かれ、息も異様に荒くなっている。
アスナは「だから!」ヒステリックな叫びを上げ、

「殺さないといけないの! こういう殺人者は!」

ヒースクリフへと再び魔剣を振るった。
剣が黒い斑点を纏わせながら彼と迫っていた。
俺の知るALOのモーションからかけ離れた発狂染みた動きで剣撃が放たれる。
その猛然とした攻撃に流石のヒースクリフも笑みを消し、ぎりぎりで対応していた。

俺はどうするべきだ。
さっきから何も言えていない。
思考が追いついていない。繋がりかけていた筈の答えはもはやどこに行ってしまった。
次から次へと現れる“現実”が俺の胸に突き刺さり、ばらばらに引き裂いていく。

「やれよ……アーチャー!」

代わりに叫びを上げたのは慎二だった。
弓を構えたアーチャーが「慎二?」と聞き返すも、彼は、未だぎこちなくひきつった笑みを浮かべながら命じる。

「どう考えても危ないのはアイツだろ!
 アイツが、あんな奴がいるからユウキだって!」

その叫びを聞きつけたアスナが鬼のような形相を浮かべた。
その瞳にに燃えるような害意が宿る。バグによって醜く潰れたポリゴンがぶるぶると震えた。

「貴方――自分が何を言っているのか、分かっているの?
 ユウキの何をあなたが知っているというの。あの娘の何を!」
「黙れよ。黙れ――お前なんかがあのゲーマーのことを語るなよ。
 そんなチート使ってる奴の言葉で、アイツを語るな!」
「知ったような口ぶりで! あの娘についてあなたが何を知っているっていうの!」
「黙れよ。クソチーターが。僕はお前みたいな奴が大っ嫌いなんだよ」

アスナと慎二のタガの外れた叫びをぶつかり合う。
おかしなことに彼らの会話はかみ合っていた。歪な筈なのに、彼らは通じ合っている。
何だ。何なんだ。何もかもがおかしく感じられる。

「キリト!」
「キリト君」

そして彼らは俺を呼んだ。
ついていけなかった“現実”が俺を掴んで、離さない。
慎二とアスナ。それぞれが俺を見ている。
どういうことかその顔が俺には人のものには見えなかった。
泣いているような、笑っているような、それとも怒っているような、どうとでもとれるような顔をしている。
彼らのアバターが誤作動を起こしているのか。それともおかしいのは俺か。
それとも何もかもがずれてしまっているのか。


76 : 愛憎 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:08:16 fXLIuFSA0

「キリト君、何か言ってよ。こんな奴に、こんな――そんなひどいこと言う男に!
 許せないでしょ! 言ってはいけないことだって、分かるよね?」
「キリトだってそう思うだろ? こいつは危険だって。
 あの女のアレ、例のバグじゃないか! おかしくなっているんだよ、こいつの頭!」

キリト。キリト君。キリト。キリト君。
ああ、俺を呼ぶ声がする。
意識の周りを俺の名前がぐるぐるとまわっている。
俺は――俺に何を言えば。

その時俺はどういう訳か無性に笑い出したくなった。
はははははは、とか、へへへ、とか意味もなく馬鹿みたいに全て忘れて笑いたい気分だった。
自分も役目も、この“現実”の意味も、全てが全て下手くそな喜劇みたいに見えた。
死んだ者が生き返って、また死んで、それがおかしな風につながって、知り合いが殺しあって俺を視る。
なんてちぐはぐなストーリーだ。どこを見ればいいのかまるで分らない。
だから笑うしかない。いっそ笑ってしまえばいい。
でも、それはできなかった。
そんなことをすれば、俺はもう許されない気がしたから。

「アスナ、何だよそれ」

己の役目が分からなくなった俺が口にしたのは、最初に言った台詞の反芻だった。
分からない時は基本に帰るに限る。現実でも、ゲームでも、同じことだ。
でも、訳が分からなかったので、妙にくだけような口調になってしまった。

「これ? このバグ?
 だから――何でもないって」

同じことを言ったら、当然アスナも同じことを返してきた。
でもそれが間違いなことは知っている。この場の誰よりも、俺はその“黒”が不吉なものであることを知っている。

「何でもない訳――ないんだ」

それが“現実”だった。
サチとの再会がああした結果になったことも、全ては全て“現実”だ。
同じようにこれも――アスナが“感染”していることも、そうだ。

全く場違いなことに、目の前の“現実”を俺はまるでゲームのようだと考えていた。
この“選択”そのものがRPGにおける重大な分岐のように思えたのだ。

・アスナの声に応え、協力してヒースクリフや慎二と戦う
・慎二の声に頷き、ヒースクリフや慎二と共にアスナと戦う

もしこれがゲームだったらこんな選択肢が出ていたに違いない。
そしてそれがきっと今後のシナリオで重要な意味を持つのだ。
だなんて、そんなバカなことを考えた。場違いだが、その実俺らしい考えなのかもしれない。
ああ、俺は――

「――止まってくれ、頼むから、アスナ」

――そうしてこぼれ落ちて言葉が、俺の“選択”となった。
そのことに気付いた時には既に遅かった。
アスナは呆然と俺を見つめ、慎二は明確な害意を顔に浮かべた。

選んだ。
選んでしまった。
何も選びたくはなかったのに。

そう思った時にはもう遅かった。
アスナは愕然とした表情を浮かべ、そして、ぱっ、とその身を躍らせる。
彼女は空へと逃げた。
そして慎二とヒースクリフ、そして俺を見下ろした。
太陽を背に、黒くグロテスクに変色した翅が空を舞う。


77 : 愛憎 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:08:40 fXLIuFSA0

「騙されているんだよ、キリト君。だって――そいつは、そいつらは」

そしてぽつりと漏らした。
ああアスナは今悲しんでいるんだな。
悲痛にゆがんだその顔を見上げながら、俺は思った。
アスナにあんな顔をさせたのは、他でもない俺の“選択”なんだ。

「だからどいて――そいつらを片付けるから」

そう言って、蠢く魔剣を俺たちに向けて来たとき、俺の中で何かが弾けた。
思うがまま地を蹴り、その勢いのまま俺も飛び上がっていた。
ウィンドウの操作には一秒だってかからなかった。アスナと同じALOアバターに切り替え、翅を広げ舞い上がる。

空には剣を構える彼女がいた。
知っている。忘れない。唯一無二の人がそこにいる。
彼女に向かって、俺は叫びを上げ向かっていった。

視界が歪んだ。
意識がぶれていく。
誰よりも大切な人の筈なのに、その顔が分からない。

アスナとか、サチとか、名前が明滅するように浮かんでは消えていく。
“黒”がその名前をつなげている。おかしなつながりだ。
“黒”がなければ、彼女らがまじりあうことなんてなかった筈なのに。

おかしいな。
彼女たちを守りたかったのに。
守るために、共に生きるために、ずっと俺は“選択”をしてきたつもりなのに。

「――キリト君!」
「アスナァァァァァァ!」

どういう訳か、俺たちは今殺しあっている。
剣と剣が交錯する。俺が振るった刃を彼女は異様な魔剣で受け止めている。
俺はアスナを見た。アスナが俺を見た。
刃越しに俺たちは見つめあっている。
皮肉なことに、そこまで行って初めて俺はアスナの顔をはっきりとみることができた。
ああ確かにアスナだ。そう思う反面、黒い斑点の醜さもこの上なく目立った。

アスナは悲しんでいる。
剣を交わしながら、刃越しに俺はその悲しみが伝わってくる気がした。

でも、俺にはこれしかない。
この“選択”しかないんだ。
森での戦いがフラッシュバックする。
“黒”に憑りつかれたサチを追って痛みの森へ行き、そこで何も分からずに戦った。
そこで他のプレイヤーを傷つけ、そしてサチも見失ってしまった。

あそこで“選択”を違えてしまった以上、また同じことを繰り返す訳にはいかない。
だから俺に選ぶようなんてなかったのだ。本当は。
俺がどれだけアスナを選びたかったとしても、サチ/過去がそれを許しはしない。

だから何とかして止めないといけない。
“黒”に侵食された彼女らが誰かを傷つける前に、俺が止めないといけない。
そうでもしないと俺はきっと許されないだろう――

俺は剣を振るった。
アスナは泣きそうな顔をしてそれを受け止めている。
もしかすると――俺も同じような顔をしているのかもしれなかった。

空には俺たちのほかに何もなかった。
青くて、だだっ広くて、異様なほど静かだった。
そこで俺たちは二人っきりだ。二人っきりで殺し合っているのだ。
目の前に彼女がいる。だからさびしくなんてないはずなのに、寒々としたものが胸に吹き荒れている。
この空はさびしかった。怖いくらい青くて、果てしない。
シルバー・クロウと共に飛んだ黄昏の空はこうじゃなかった。でもあの彼ももういない――

悲しくても、さびしくても、俺はただ無心に剣を振り上げた。
もはや何も考えることはできなかったけれど、皮肉なことに染みついた剣技だけは勝手に出ていた。
それはアスナも同じだった。狂ったモーションではあるけれど、その剣には確かにアスナの技があった。
それもそうか。俺たちはずっとこの“現実”で剣を磨いてきたのだ。それこそ馬鹿みたいに。
だから何も考えなくとも俺たちは剣を振るうことができる。安心して殺しあえる――


78 : 愛憎 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:09:13 fXLIuFSA0

「その役割は君のものではないよ」

――声がした。
俺とアスナの間に、割り込む誰かがいた。
その声色はおだやかで、燃え盛るように歪んでいた意識にすっと入り込んできた。

「全てのプログラムには役割がある。恐らく私も――」

ぶれた“現実”の中で、その声だけははっきりと聞こえたのだ。
ヒースクリフ――あるいは茅場は俺たちの間に入り込み、アスナの剣を受けていた。
その後ろ姿を、俺はただ見上げていた。
彼の脚部には見慣れないメカニカルな装備がある。それで空を飛びつつ、彼はアスナを抑えていた。

「アーチャー」

剣を受けつつ彼はその名を呼んだ。
そしてまさしく絶妙のタイミングで――剣が来た。
どん、と音がしたかと思うと、アスナは剣の砲撃に吹き飛ばされていた。
そしてそのまま落ちていく。黒いうごめきを抱えたまま――

「慎二君! 念のためリカバリーを使ってくれ」

続けざまにヒースクリフは言った。
その有無を言わせぬ口調に慎二は、はっ、と顔を上げ促されるままウインドウを操作し始めた。
俺はあわててアスナの様子を窺う。
砲撃を受け彼女は草原に倒れ伏しているのが見えた。リカバリー――回復のエフェクトに包まれながら、彼女はその身を動かせないでいる。
だが死んではいない。アスナのHPは不明だが、死亡時のエフェクトが発生していなかった。
そのことにほっと胸をなで下ろしながら、俺はヒースクリフを見上げた。
空を飛ぶのではなく、空に立ちながら、彼は俺を悠然と見下ろしている。

「彼女を傷つけてしまい、すまなかった」

そしてそんなことを言うのだ。
俺は、はは、と笑ってしまった。
あっという間に、彼はアスナを無効化していた。
その鮮やかな手際を前にいかに俺が自分を見失っていたか、気づかされたのだ。

「俺こそ……すまない、取り乱してしまって」
「君も慎二君も少し頭を冷やしたほうがいいのは事実だね」
「ああ、何もかもわからなくなって……」

そんな会話を交わしながら、俺たちはゆっくりと地上に降りていく。
向こう先には――アスナがいる。

「あのバグのことだが」

その最中、ヒースクリフ/茅場はそのことに触れた。

「気づいているかね? あの榊のアバターに酷似していることを」
「……ああ」

サチが“感染”した時、既にそのことは考えていた。
あのバグはアバターに侵食し、醜く変貌させる。
榊も、サチも、アスナも、同じように黒く蠢くアバターと化していた。

「私は――あのバグこそこのゲームのシステムの根幹をなしているのではないかと睨んでいる」

その言葉に俺は言葉を失う。
その可能性は――考えていなかった。
あの“黒”について考えると、どうしても他のことを考えてしまっていた。
がしかし納得できる話だった。他でもないGMの代表として現れた榊が身にまとっていたバグだ。
あれは俺たちの知るザ・シード規格の“現実”にはなかったものだ。
しかし細かな仕様など無視して、全く別のゲームのアバターに同じようにあのバグは作用する。
この二つを合わせれば――確かにその可能性はある。

「俺たちの知り合いにカオルというプレイヤーがいる。
 情報解析に特化したプレイヤーだ。彼女に解析させることができれば」
「――ゲームの打破に繋がるかもしれない」

茅場はそう言い切った。
ここに来て明確な方針が見えた。
ゲームの打破への道のり。しかもそれは必然的にサチやアスナを救う道にもなっている。
かき乱されていた俺の意識が、徐々に静かになっていくのが分かった。

「ただそのカオルはユウキと一緒にいたはずなんだ。アスナの言葉を信じれば……」
「そのあたりも含めてアスナ君に聞かなければならないな」

俺は身を固くする。
アスナ。俺は彼女と剣を交わした。理由はどうあれ、それは事実だ。
だから話し合わなければならない。俺たちは、絶対に。

その想いと共に、俺は茅場と共にアスナの落ちた場所へと近づいていった――


79 : 愛憎 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:09:37 fXLIuFSA0

――ぽーん、と音がした。

どこかより響いてきたその音は、異様なほどよく響いた。
草原というだだっ広いエリアにも関わらず、その音ははっきりと俺の耳朶を打った。
あるいはそれは――意識そのものを揺らしているのかのように。

そして――“現実”が侵食された。
だだっ広い青い空も、戦闘で抉れた草原も、聖堂を汚す毒沼も、全てが全て塗り替えられる。
俺は絶句していた。そのあまりに現実離れした“現実”に。

「これはまさか固有結界か。
 いやそれとは似て非なる――」

同じように巻き込まれたアーチャーらの姿も見えた。
彼も突然の事態にまた驚きを隠せないでいる。
今度は――何だ。
俺はいったい何を見るというんだ。

「キリト君、これは――」

絶句していた俺の横で、茅場が何かに気付いたように視線を上げた。
だがそれを言い切る前に――彼のアバターは貫かれていた。

「…………!」

俺は声を上げることすらできなかった。
目の前で壊れた人形のように揺れる茅場のアバターと、それを貫く“黒”を前にして、再び視界がゆがむのを感じた。

俺は何かに憑りつかれるように“黒”の軌跡を追った。
“現実”を塗り替え、茅場を貫いた、その根源は――やはりというか、アスナだった。

「――――」

元々深く黒く侵食されていたアスナのアバターは、もはや“黒”と一体化しているように見えた。
水色のテクスチャは既に剥ぎ取られている。生身のポリゴンモデルは魔剣から伸びる黒い蔦に絡みつかれおり、右腕に至っては一体化しているように見えた。
広げた翅は完全に黒く染まり、どくん、どくん、とまるで生きているかのように脈動している。
そしてこちらを見上げるその右眼は橙色の染まり、ぼうっ、と不気味な輝きを灯していた。
左眼と髪の蒼さだけが、妖精の面影をほんの僅かに残しているように見えた。

「……あの剣だ。アスナ君の」

茅場が絞り出すように言った。“黒”に貫かれたまま、彼は何とか声を漏らしている。
その声はところどころ奇怪なノイズが走り、そのアバターが明らかな異常を起こしていることを示していた。

俺は訳が分からないまま、しかしそれでも考えていた。
茅場の言うように、あの“黒”の核はアスナが装備している魔剣にあるように見えた。
サチにはなかった現象だが、しかしもしかすると、アスナはあれに操られているのではないか。
そんな考え――あるいは願い――を立てたが――


80 : 愛憎 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:09:56 fXLIuFSA0

「ごめんね、キリト君」

けれど、アスナはそう口にした。
はっきりと、アスナの声で、彼女はそう言ったのだ。

「これは私が“選んだ”ことなの。
 確かにこの魔剣はおかしいかもしれない。仕様から逸脱してるのだって分かってる。
 私、心当たりがあるんだ。変なPKと戦って――気づいたらそいつらがいなくなってたことがあった。
 もしかすると、その時はこの魔剣に護ってもらったのかもしれない。何も知らず、何も選ばず。
 でもね……今の私は違う」

それは紛れもなく彼女の声で、俺は思わず叫びを上げそうになった。
操られているのならよかった。それが“意志”による“選択”でないなら、その行為に何の意味があるだろう。

「あの男……茅場にやられて、思った。
 やっぱりああいう危険な奴らは――アリスみたいな奴らは、絶対に信用しちゃいけないって。
 絶対に、絶対に……」

しかしそうして語る彼女の声は震えていて、それが訳の分からない怒りと、行き場のない悲しみによるものだと、俺には分かってしまった。
分かってしまった――だから彼女はアスナなのだ。

「だから私は“選択”したの」

そう言い放ち、彼女は魔剣を振り上げ――撃った。
空間にノイズを走らせるイリーガルなエフェクトを炸裂させ、異様なデータが砲撃となって茅場を貫いた。
一発だけではない。二発三発四発、無数の砲撃を無慈悲に放つ。

「ヒースクリフ!」

後ろから慎二の声がした。彼も事情は分かっていないにせよ、茅場が危険なことは分かっていたのだろう。
どん、と音がしてアスナにその狙撃は命中していた。アーチャーだ。
その威力たるや先の比ではなく、威嚇射撃や動きを止めるための狙撃ではない、完全に命を狙ったものだと分かった。
俺が声を上げる暇はなかった。あれをまともに喰らったアスナは――

「……効かないよ」

――けれど幸か不幸か、まるで聞いた様子がなかった。
そのアバターは不気味な光に覆われ、彼女は顔を俯かせている。
時限付きの無敵スキル――俺はその現象をそう解釈した。

「――やはりイリーガルスキルか。アレを止めるにはある程度のランク以上の宝具を求められるな。
 だがこの状況では……」

アーチャーの冷静な分析が聞こえていたが、しかしアスナは無視して茅場に斬りかかろうとする。
止めなければ。俺は――アスナを止めるべく、走り出そうとしたが、

「ごめん、キリト君――邪魔しないで」

――全てを阻む重みが俺の身体にのしかかった。
駆け出そうとした足に強烈な負荷がかかる。今度は――減速系のスキル。
そうと分かった時、俺は叫ぼうとした。茅場か、アスナか、どちらの名を呼ぼうとしたかは分からない。
しかしこのままでは駄目だ。これは、この結末だけは、絶対に認めてはいけない。

けれど――駄目だ。もう止められない。
黒く脈動する翅を広げ舞い上がったアスナは、貫かれたままの茅場に近づき――


81 : 愛憎 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:10:17 fXLIuFSA0

「さようなら、団長。私にとって最初のデスゲームを作った人――キリト君に会わせてくれたことには感謝してる」

――そう言って、躊躇なくその身体を斬った。
魔剣が不気味な唸り声を上げながら一閃される。
裂かれ、喰われ、がく、と震え、そして壊れた人形のように茅場のアバターは動かなくなった。
慎二が「ヒースクリフ!」と声を上げるのが分かった。アーチャーの焦りが伝わってきた。
俺はただ茅場のアバターが、ほかでもないアスナによって切り裂かれるのを見上げることしかできなかった。

「キリト君」

そうして剣を振るい終わると、アスナは俺を見下ろした。

「本当は一緒に行きたいけど、でも私はもう“選択”しちゃったから」 

そして俺はその“選択”を絶対に止めなくてはならない。
全てを忘れてアスナの下に走るなんてことは、もうできない。
それをアスナも分かっているのだろう。どこかで自分が俺たちと“選択”を違えてしまったことを。

「だから一緒には行けない。私は――アリスたちを追わないと」

そう言って彼女は俺に背を向けた。
蠢く魔剣を引き連れ、彼女は去って行った。
俺は手を伸ばした。しかし届きはしなかった。だから名前を呼んだ。しかしきっとそれも届きはしない。
けれどそれでも呼ぶしかなかった。
たとえ意味がなくとも、それくらいしか俺にはできかったのだから。

叫んで、声が枯れるまで叫んで、ほんの少しだけ見える蒼い髪を求めて必死に呼びかけた。
しかしそれで奇跡なんて起こる筈もなく、俺とアスナは遂にはっきりと道を違えた。





82 : 愛憎 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:10:40 fXLIuFSA0


「……どうやらプレイヤーとしての“死”すら私にはないようだな」

アスナが去ったあと“現実”は元の場所に戻ってきた。
草原は抉れ、大聖堂は未だ毒に沈んでいる。
もはや見慣れたデスゲームの舞台だった。

「私が特殊なのか、それともアスナ君の剣によるものか、分からないが……」

そこに茅場は倒れていた。
与えられた終わりをただ享受するように、彼は不思議と穏やかな口調で言葉を紡いでいる。

しかしその声にはノイズが走っていた。ところどころ単語が切れ、時おり壊れたラジオのような妙な音を立てた。
声だけではない。彼のアバターは明らかに異常な状態になっていた。
貫かれた腹部のポリゴンは醜く崩れ、砕けたフレームが時節、ぱちぱち、と明滅している。
アバターとしても【ヒースクリフ】なのか【茅場晶彦】なのかぐちゃぐちゃに溶け合って判別がつかない。
どちらかの特徴が外面に出てもすぐに覆いかぶさるように消えてしまう。

確かにこれは“死”ですらなかった。
ゲームのPCはもっと分かりやすく死ぬ。
こんな生殺しのような、グロテスクな終わり方をする筈がない。

「まぁ、そのお蔭でそれなりに話せる時間が許されたのは、ありがたい」

そんな中になって、茅場の様子はどこか穏やかなに見えた。

慎二やアーチャーも黙って彼を見下ろしている。
彼らの表情が、打つ手がないことを示していた。
たとえ回復アイテム、あるいは蘇生アイテムがこの場にあったとしても、もはや彼には機能するまい。
アバターのデータが貫かれ、消えようとしている彼には……

「キリト君。私に残された最後の役割を果たそう」

だから俺たちはもう言葉を聞くしかなかった。
かつてもう一つの世界を夢想し、デスゲームを創り上げた稀代の研究者。
その残像の言葉を。

「“オーヴァン”に会うんだ、キリト君」

最後に彼が告げたのは、やはりその名だった。

「私が預言者の下で引き合わされたもう一人のプレイヤー。
 あそこで私たちが出会った意味。ここで終わる私の役目。
 答えは一つしかない。恐らく今後の鍵は――彼が握っている」

どんなシステムがこの“現実”を貫いているのかはわからない。
しかし恐らく茅場は与えられた役割を果たしたのだろう。
だから次は――

「ああそれと、思い出した。キリト君、これは私からの選別だ」

茅場は不意に崩れゆく手を俺に向けた。
黙ってその手を握ると――俺のウィンドウにアイテムが出現していた。

「私のアバターにまつわるアイテムも消えるかもしれないのでね。
 せめてこれくらいは残しておこう。素性は知らないが――良い剣だよ、それは」
「……死ぬ間際に剣を渡すなんて、ちょっと格好つけすぎじゃないか」
「ふ……それもまた私らしいだろう?
 無論これも善意ではないさ。そうするのが私の役割と思っただけだよ」

おかしな話だ。
俺にとって茅場は、いうなれば仇敵の筈なのに、こんな軽口を交わしているなんて。
返すもがえす奇妙な関係だった。
この男を許す気はないが、同時に惹かれてもいた。

「芽吹いたぜ」

だからこそ、俺から奴にかける最後の言葉は一つしかなかった。

「――アンタの“種”は芽吹いた」

それは“答え”だった。
以前会った時に託されたもの。ザ・シード。新たな“現実”を想像する種子。
茅場の思惑通り、あれはネットワークの世界に確かに芽吹いた。

「そうか」

そう告げると、茅場は目を瞑った。
夢想したのかもしれない。彼が撒き、そして花開いた幾多もの“現実”を。
データとして崩壊しながらも、彼はただ己の夢を見た。

「では、一先ずさようならだ――また、会おう」

……そして訪れた最期の時、茅場はそう言った。
生死の枠組みからも、過去と未来の流れからも、全てから外れた彼がこれからどこに行くのかは分からない。
しかしだからこそ、俺は期待してしまった。
いつかどこかで、またこの男と俺は再会するのではないかなんて、思ってしまったじゃないか。
全く――また思わせぶりなことを言われてしまった。


【ヒースクリフ(あるいは茅場晶彦の残像)@ソードアート・オンライン Delete】


そうしてその男が消え去ったあと、意を決した俺は立ち上がった。
そして空を見た。何もない空が、がらんどうの空がある。

これから俺はこの空を飛ばねばならないだろう。
アスナはこの空のどこかに去って行った。俺はそれを追わなくてはならない。

アスナの“選択”を止める。
それこそが俺が下した“選択”だった。


83 : 愛憎 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:11:00 fXLIuFSA0


[D-6/ファンタジーエリア・大聖堂前/1日目・日中]
※青薔薇の剣以外のヒースクリフの支給品は消滅しました。

【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP80%、MP40/50(=95%)、疲労(極大)、SAOアバター 、幸運上昇
[装備]: {虚空ノ幻、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、 青薔薇の剣?@ソードアート・オンライン
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1個(水系武器なし)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:絶対に生き残る。デスゲームには乗らない。
0:アスナを追い、その“選択”を止める。そしてサチも救う。
1:サチやユイ、それにみんなの為にも頑張りたい。
2:レンさんやクロウのことを、残された人達に伝える。
3:オーヴァンと再会し、そして――
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。


【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP40%、MP20%(+40)、ユウキに対するゲーマーとしての憧れは未だ強い、令呪一画
[装備]:開運の鍵@Fate/EXTRA
[アイテム]:強化スパイク@Fate/EXTRA、リカバリー30(一定時間使用不能)@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:ライダーを取り戻し、ゲームチャンプの意地を見せつける。それから先はその後考える。
1:ひとまずはユウキ達についていきながら、ノウミ(ダスク・テイカー)も探す。
2:ユウキが――死んだ?
3:ライダーを取り戻した後は、岸波白野にアーチャーを返す。
4:サチって子もついでに探す。
5:いつかキリトも倒してみせる。
6:ヒースクリフは……
[サーヴァント]:アーチャー(無銘)
[ステータス]:HP70%、MP15%
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。

[???/???/1日目・日中]

【アスナ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:H悽譚・陦ィ遉コ縺(HP,MPはバグにより閲覧不可)、AIDA-PC(要・隔離)
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、{死銃の刺剣、ユウキの剣}@ソードアート・オンライン、クソみたいな世界@.hack//、{黄泉返りの薬×1、誘惑スル薔薇ノ滴@.hack//G.U.、不明支給品1〜4
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:この殺し合いを止める。危険人物は徹底的に排除。
1:アリスを追って、討つ。
2:殺し合いに乗っていない人物を探し出し、一緒に行動する。
3:魔剣の力を引き出して見せる。
[AIDA]<????>
[備考]
※参戦時期は9巻、キリトから留学についてきてほしいという誘いを受けた直後です。
※榊は何らかの方法で、ALOのデータを丸侭手に入れていると考えています。
※会場の上空が、透明な障壁で覆われている事に気づきました。 横についても同様であると考えています。
※トリニティと互いの世界について情報を交換しました。
 その結果、自分達が異世界から来たのではないかと考えています。
※AIDA-PCとして自覚しました。G.U.原作の太白のようにある程度魔剣を自発的に使い、制御できます。


【青薔薇の剣?@ソードアート・オンライン】
アンダーワールドの洞窟で、キリトとユージオが見つけた剣。
青白い氷の様な刀身を持っており、鍔元には薔薇の装飾が施されている。
とある名のある剣士が使っていたとされる、アンダーワールド屈指の名剣。

……筈であるが、半崩壊状態のPCからの譲渡品の為、何かしら不具合を起こしている可能性がある。


84 : ◆7ediZa7/Ag :2015/06/14(日) 03:11:22 fXLIuFSA0
投下終了です。


85 : 名無しさん :2015/06/14(日) 07:37:30 odM9o2vs0
投下乙です!
これまでとんでもないことをし続けたアスナでしたが、ついにPKをやってしまいましたか……
キリトはまた壊れそうになるかと不安でしたが、なんとか思いとどまってくれて一安心です。
そしてオーヴァンに対する疑心が増えてきたキリトやユウキの死を知った慎二が、これからどうなるか気になります。


86 : 名無しさん :2015/06/14(日) 13:02:48 gpWvX9zg0
投下乙でした

アスナさんやらかしたなあ……マクスウェルの影響があるとはいえ、それはあかん(喀血
キリトは方向性がはっきりとしたけど、慎二はどうなるやら


87 : 名無しさん :2015/06/15(月) 01:06:04 hUl77JZA0
暴走したアスナを止めれるといいけどこの先どうなるやら……
投下乙でした。そして100話達成おめでとうございます!


88 : 名無しさん :2015/06/16(火) 17:54:53 DYmo2Bao0
次の予約が来た!


89 : 名無しさん :2015/06/16(火) 19:49:09 Lwa8PbtM0
フォルテ来たか
仕事はきっかりするキャラなので展開が気になる


90 : ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:20:21 HMNFWVg.0
投下します


91 : Tell me the truth ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:20:56 HMNFWVg.0

_4


どん、と鈍い音と共に獣は倒れた。
見上げるほど大きな四足の毛むくじゃらが白目を剥き仰向けになっている。
その胸から腹部へとかけてぎざぎざな傷がついており、抉れたピンク色の肉が見えた。
だが不思議と血は出ていなかった。元のゲームでレーティングに引っかかったのかしら、とぼんやりとピンクは思ってしまった。

「ふん」

巨大な弧を描く刃――鎌が地面とこすれあい、かさりとかすれた音を立てた。

「こんなものか」

倒れ伏す巨躯を前にして、その命を刈り取った死神は存外つまらなさそうだった。
その白い鎌を、ふっ、とウィンドウを操作して消しやると、おもむろに死体へと近づいていった。
ぼろぼろの布きれから黄土色の装甲に覆われた手を伸びる。

そして死神は、ぐっ、と手を死体に押し込んだ。

途端、獣のポリゴンが痙攣を起こしたように震え、皮膚/テクスチャが剥がれ骨/ワイヤーが露わになっていく。
獣の動きはおかしなものだった。口元についた泡まで飛び散ることなく一緒になって震えている。現実らしくない。
その光景にピンクは違和感を覚えてしまった。死んだあとまでリアルな動作を取っていたのに。

「ゲットアビリティプログラム」

死神が平坦な口調でそう呟き、その拳に力を入れた。
そのまま獣の肉、すなわちデータの光を引き抜き――奪った。
核であるそれを抜かれた獣はその存在を崩壊させ、壊れた数字の羅列へと還っていった。

「……そうやって強くなるのね、あなた」

死神――フォルテの後姿を見据えながら、ピンクは言った。
冷静な分析のつもりだったのに、どういう訳かその声は変に上ずって聞こえた。

「ああ、そうだ」

そしてフォルテが言葉に反応したとき、ピンクは心臓を鷲掴みにされた気分だった。
びくりと肩が上がり、思わず一歩後ずさっていた。

「貴様はどうだ。強いのだろう?」

背中を向けたまま、フォルテは語っている。
目をそらしたいのに、しかしピンクはその背中を見てしまう。
逃げ出したい。しかし逃げ出すことはできない。
今やこの森は断片化され、一ブロックごとに繋がっているようで繋がっていない。
だからあと十歩でも走るができれば逃げ出せるのだが――奴にはそれだけの時間があれば自分を殺せるのだ。
背中を見せれば、奴は躊躇なく一瞬で自分を殺すだろう

そこまで考えたところでピンクは、はっ、とする。
何故逃げることを考えているのだ。
自分は正義のヒーローで、目の前の存在は間違いなく悪だ。
だから戦うべきだ。
ヒーローとして毅然とした態度で立ち向かうべきだ。
そう思う、そう思うのに――

「殺さないのか?」

ピンクはフォルテの挑発的な言葉にも言い返すことができない。
何か言い返してやろうと、そう胸では思っても、その想いは喉元まで至るころには萎えている。
そのせいで「あああ」だか「うう」だか変な唸り声にしかならず、なんて惨めな響きだろうと厭になった。
もちろん戦おう、戦うべきだ、と思っているはずなのだが、啖呵を切ることすら適わない。
何とか脚に力を籠めようとしても震えてしまう。前はおろか、後ろにも走り出すことはできない。
そうしているうちに視界がゆがんできた。フォルテを中心にして世界がぐるぐるとまわっているような気さえした。

だからせめて剣を握ろうとした。
これさえあれば大丈夫だと、そう思うために。
でも駄目だ。震えてしまう。指先がけいれんして恰好がつかない。
手が震えているもんだから、剣もまた震えてしまう。
カチャカチャ、カチャカチャ、カチャカチャ――


92 : Tell me the truth ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:24:17 HMNFWVg.0


_2



空が気持ち悪かった。
ひとつ前のエリアもそうだったが、このエリアは特にそれが青く大きく見え、フォルテには不快だった。
電脳世界にそぐわない、現実めいたものを彼は嫌っていた。

「…………」

魔剣による異様なバグ攻撃のダメージを確認しつつも、草原を荒々しく踏みつけていた。
HP的にはまだしも余裕があったが、問題はそこではなかった。
ウラインターネットから何度目かになる“敗走”が彼を苛立たせていた。
先の魔剣には一方的には戦闘エリアからはじかれたといってもいい。
無論、突然の発露に油断したということもあるが、戦いに敗れた、という事実がフォルテには何よりも重かった。

――あの魔剣はゴスペルの“できそこない”のようなものか

今しがた喰らった攻撃にフォルテは見覚えがあった。
ゴスペル。
それはかつて電脳世界に存在していたネットマフィアの名であり、フォルテをひどく不快にさせた集団だった。
無論、現実世界を荒らすことやその目的などはどうでもよかった。
不快だったのはただ一点、

――俺の“できそこない”を作るなど……

フォルテをコピーしようとしたことだ。
“ゴスペル”はある目的の為に――正確には一人の老人の糸を引かれ――最強のネットナビであるフォルテをコピーしようとした。
フォルテ・プロジェクトと呼ばれたその計画は“バグ”を集めることでフォルテをコピー・無限増殖させることを狙う計画だった。
結果として計画は失敗したものの、組織壊滅後は電脳世界にフォルテのコピー体が無数にばらまかれることになる。
そのコピー体は片っ端からオリジナルたる自分が“裁いた”のだが。

――俺はただ一人だ。

何物にも頼らず、何物にもおもねらない。絶対なる個。
それを貫く強さこそ、フォルテにとって唯一無二の存在証明である。
そんな彼にとって自分を騙るコピーの存在は許しがたいものだった。

――あの魔剣と“できそこない”に似ている。

ばらまかれたフォルテのコピーは、当然というべきか、完全には動作しなかった。
当然だ。“バグ”を集めたところで“バグの集合体”にしかならない。
“できそこない”もそのデータ構成はまるで別物――“バグ”であった。

あの魔剣の状態はあの“バグ”に通じるものがあった。
黒く禍々しくも統制できていない、まさしく不具合/バグを起こしている様は通じるものがある。
そんな存在に自分は撃退されてしまった。

多くの力を取り込んできたフォルテであるが、しかしこの場においては敗走もまた多い。
特にアメリカエリアでの“人間”――ネオには完封を喰らっている。
とはいえフォルテの行動は一つだった。

――更なる力を喰らう

フォルテにとっては強さのみが個の証だ。
それ故に行動に迷うことはない。
強さだけを追い求める。ただひたすらにデータを喰いつくし、強くなる。

だから魔剣から戦闘エリア外まで弾かれたあと、自ずと彼の行き先は決まっていた。
メールに記載されていた情報を思い出す。
何度か戦い辛酸を舐めさせられたシルバー・クロウが倒れていたが、それはどうでもいい。より強い奴がいたというだけだろう。
それよりも見るべきはイベントだった。

――森か

エネミーがポップする、と書かれたイベントが彼の興味を惹いた。
単純にポイントが手に入ることもだが、それ以上にエネミー――敵が現れるという点だ。
フォルテは敵を喰らうほど強くなる。
それがゲームの参加者であるかはフォルテには関係がない。
まだオーラは回復していないが、自分がエネミー相手に後れを取るはずもない。

森のエネミーを喰い散らかし、更なる力を得る。
それがフォルテが立てた方針だった。


93 : Tell me the truth ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:24:34 HMNFWVg.0


_5



ギロチンセクター。ムーガーディアン。ドライラーマ。グレンデル……
いかにもファンタジーといったモンスターたちが喰われていく。

“迷いの森”の名に恥じず、森は歩いても歩いても終わらず、しばしば恐ろしい形相をしたモンスターが襲い掛かってくる。
多種多様なモンスターがいた。中にはツナミネットで戦ったものもいた。
デザインの質やグラフィックのレベルも様々で、色々なゲームから引っ張ってきたのだろうな、と想像がついた。

終らない森で淡々とフォルテはモンスターを狩っていき、そしてその度にはそのデータを引っこ抜き、喰う。
そうしてフォルテは強くなる。ピンクはそれを黙って見ているしかない。
敵が、悪が、みるみる内に強大になっていくのに、それを阻む位置にいるのに、しかし何もできない。

いや、とそこで自分の中の冷静な部分が囁く。
できないのではなくやらないだけだろう、と。

剣を両手で、ぎゅっ、と握りしめながらピンクはフォルテのあとをついていく。
歩く姿も情けない。黙って縮こまるように背中を丸めているのだ。
こびへつらうような姿勢だと思うが、しかしピンクにはそれが精いっぱいだった。

「どうした、何もしないのか?」

そんなことだから、フォルテの言葉に何も返せないでいる。
どう頑張ったって声が出ない。
ついていくことだけで限界だ。
啖呵を切るとか、ましてや戦うなんて、想像しただけで恐ろしい。

「お前は強いんだろう?
 あの時、そう言ったじゃないか」


94 : Tell me the truth ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:25:09 HMNFWVg.0

_3



「……少々困ったことになったな」

メールを確認したブルースは一言そう呟いた。
まず脱落者だ。
あのキリトが探しているというサチの名がなかったのはいい。
ボルドーという悪が落ちていたのも状況としては悪くないだろう。

だがそこには知った名もあった。
カイトと志乃。
思わずブルースは森を窺ってしまった。彼らはゲーム序盤にこの森で出会い、そして意見の相違から別れることになったパーティだ。
一般人である彼らを、オフィシャルとしてブルースは保護する立場にあった。
アドミラルという悪は倒せたものの、別れたことで結果的に彼らはデリートされてしまった。
あの時の行動はミスだったのか。
炎山がいれば彼らもまた死ななかったのかもしれない。ブルースは忸怩たる思いであった。

「面倒なイベントねぇ……また森でこんなこと」

一方でピンクは脱落者には特に興味がなさそうだった。
今回は彼女にしてみれば特に知った名前もないはずだ。それ故に読み流したのだろう。

「……一先ずは森からの脱出を図るべきだろう」

ブルースは平坦な口調で言った。

「“痛みの森”が終わった以上、もうこの場に留まっている理由はない」

とにかくイベントに巻き込まれる形となり面倒な事態になったのは事実だ。
今回のイベントは端的にいえば森が迷宮化し、エネミー――ウイルスのようなものだろう――が出現するというものだった。
前回ほど直接的な殺し合いを促すものではなく、また時間が経っていることからブルースは一度森から脱出するべきと考えた。

「えー折角だからモンスター狩っていきましょうよ?」

が、ピンクは不満そうにそんなことを言った。

「ポイントもらえるらしいじゃない。じゃあ色々狩って装備整えたほうがいいでしょう?
 私のジ・インフィニティなら楽勝よ」
「駄目だ。無駄な時間を使う訳にはいかない。慎二やユウキたちとの合流が第一だ」
「うーんそうねぇ……」

ブルースが断言すると、ピンクは不満を漏らしつつも同意した。
彼女の手綱を握りつつもブルースたちは脱出すべく移動する。
森は今現在ブロックごとに管理されているようで、一定区間を進むごとに周りの風景が不自然な変化をする。
恐らく森が別の場所へと繋がっているのだろう。完全なるランダムだとすると、脱出まで中々に骨が折れそうだった。

途中エネミーに遭遇しようともブルースは無視するつもりだった。
そこで無駄に消耗するつもりはなく、時間の無駄であるからだ。
力を振るいたがっている節があるピンクは不満を言うかもしれないが抑えよう。
そのつもりだった。


95 : Tell me the truth ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:25:26 HMNFWVg.0

――しかし出会ったのは死神だった

そのネットナビと遭遇/エンカウントしたのは、このゲームに巻き込まれる以前を含めても初めてのことだった。
しかし炎山より名は聞いていた。
そいつは裏インターネットを徘徊し、喰らったチップを無制限に使うことができるという。
最初は都市伝説のようなものだった。しかし次第にその名は確かな意味を持って現実を脅かしていた。
ゴスペルがコピーしようとし、WWWの計画にも絡んでいるという“最強のネットナビ”。
またこの場においてもキリトから遭遇したという話は聞いていた。
だから自然とその名が出た。
フォルテ。
ぼろぼろのローブ。不気味に照り返る黄土の装甲。凶悪な眼光。
遭遇したそのナビは、聞き及んでいた特徴を全て兼ね備えている。

「貴様たちは――プレイヤーか」

何度かエネミーを狩っていたのだろう。出会い頭にフォルテは、ぎょろり、と瞳を動かしそう漏らした。
ブルースはそれがフォルテだと気付いた瞬間よりすぐさま臨戦状態に入る。

「何よアンタ?」
「ピンク、前に出るな」

ピンクの迂闊な行動を鋭い声でいさめる。
その語気の強さに彼女は一瞬驚いたようだが、しかしどこか溌剌な口調で

「分かったわ――悪ってことでしょ、アレ」

そんなずれたことを言い放った。

「なら倒せばいいじゃない。あたしは強いのよ!
 あたしが斬るわ。そうこの剣、ジ・インフィニティを使って!」
「黙れ」

ブルースは一言で切り捨てると、ピンクを抑えながら前に出た。
構っている余裕はない。この敵はまぎれなく一級の危険者だ。

「フォルテだな」
「ほう、俺の名を知っているか」
「貴様を斬る。オフィシャルとして、お前を野放しにする訳にはいかない。
 ――お前にどんな過去があろうとも、だ」

そう毅然と言い放つとフォルテは、ははは、と嘲笑し、

「オフィシャル? オフィシャルだと?
 そうか貴様は人間の子飼いのネットナビか。
 笑止! そんな奴らが俺に勝つつもりか」

その言葉と同時にブルースは駆けだしていた。
問答無用。戦いの始まりだ。

「来るか」

ニィと笑ってフォルテはバスターをまっすぐにブルースに向け、放つ。
閃光がジジジジジジ、と音を立てながら地面を走った。一発だけではない。フォルテは加減なく乱れ撃つ。
ブルースは、さっ、とそれを回避し、ピンクの射線上へと躍り出てシールドを展開する。
チップ効果によりバスターは反射され衝撃波となってフォルテへと向かう。

フォルテはそれを難なく避ける。そしてだがその軌道を読んでいたブルースは既に駆けていた。
赤い閃光がその手に灯った。
常備されたバトルチップである“ソード”だ。ブルースはチャージさえすれば何時でもこのチップを使うことができる。
一瞬でフォルテに迫ったブルースは果敢に“ソード”を振るう。

しかしフォルテもまたこのタイミングで攻撃が来ることを見越していたのだろう。
瞬時に向こうもチップを使った。その手はされコンバートし、握りしめた白い大鎌で“ソード”を受け止めていた。

“ソード”と鎌が押し合う。
ブルースとフォルテの視線が絡んだ。
その瞳に宿った混じりけのない敵意を、ブルースははっきりと危険だと確信した。

「ふん……また接近戦か」

一方でフォルテはそう漏らすと、ぶうん、と力任せに鎌を振るった。
ブルースは難なくその攻撃をいなすも、ばさばさとローブが舞い視界を遮った。
かと思うとその間にフォルテは距離を取っていた。

そしてその腕は既にバスターへとコンバートされている。
ブルースは思わず舌打ちする。どうやら敵は己の得意なレンジを把握しているらしい。
ブルースはソード系主体のナビであり、言うまでもなく接近戦を得意とするネットナビだ。
一方でフォルテはバスター主体の中距離戦が最も得意であり、


96 : Tell me the truth ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:25:47 HMNFWVg.0

「死ね――人間なしではバトルもできない愚かなナビが」

こうして距離を取られながら撃たれると、当然ブルースは苦しくなる。
狂ったように森にあふれるバスターを交わしながらブルースはその判断の早さに舌を巻く。
同じ土俵に立つのではなく、距離を取り一方的に蹂躙する。こちらが最も苦しくなる戦術だ。
ありとあらゆるナビを喰らったという噂通り、奴には圧倒的な戦闘経験がある。
フォルテはどこかで知ったのだろう――接近戦主体の者との戦い方を。

「何やってるのよ、ブルース!」

後ろからピンクの声がした。
こちらの苦戦が伝わっているのだろう。彼女は不満げだった。
しかしブルースは答えない。今彼女に構っている暇はない。
あのチップ――ジ・インフィニティは確かに強力だが、フォルテにヒットさせることは困難だろう。
確かな力量を持ったオペレーター――それこそ炎山のような――がいれば話が別だが……

「もうこっちから行くわよ――」
「やめろ、このナビは」

が、勝手にピンクは前に出ようとする。
それを押しとどめんと彼女の前に立つが、

「ふん」

フォルテは苛立ちを込めてそういうと、ばさり、と黒い翼を展開し跳んだ。
何をする。そう思い天を仰ぐが、その手にエネルギーが収束しているのを認めた瞬間、ブルースは咄嗟にシールドを展開した。

――アースブレイカー

轟音と共に破壊の閃光がやってきた。
視界が光に埋め尽くされる。先のバスターなどとは比べ物にならない極太のビームがブルースを襲う。

「くっ……!」

ブルースはそれを必死にシールドで受け止める。
赤い盾を空に掲げ、自分とその後ろにいるピンクを守らんとする。
重くのしかかるデータの重さにブルースは――


97 : 力への意志 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:26:41 HMNFWVg.0


_6





――ブルースは耐えたのよ

ピンクはその時のことを思い出してしまう。
彼女を守るためにブルースはフォルテの攻撃を受け止めた。
そして、耐えたのだ。
シールド展開のタイミング。角度。気力。要求される全てを正確にこなし、ブルースは耐えた。

けれど、どうしようもない硬直を晒してしまった。
仕方ないだろう。あんな攻撃を受け止めれば、どうやっても隙ができてしまう。
そこをフォルテは狙い、そして――

「あの赤いナビ……オフィシャルも見つけ次第、デリートする」

フォルテが冷徹に言い放った。
そこに込められた深い憎悪にピンクはその身を震わせた。

――ブルースは死ななかった。
ある意味で彼は運がよかったのだろう。
フォルテの攻撃を受け、ブロック外まで弾き飛ばされたのだから。

“迷いの森”のイベント中であるため、一度ブロック外に出てしまうと追撃は難しい。
それがきっとブルースの命を救った。
けれどそのせいでピンクはフォルテと取り残されてしまった。

「早く来い」

不意に呼び止められ、ピンクは肩を、びく、と上げる。
そして言われるがままその後ろをついていく。剣を握ってはいるが、逆らう気力など沸こう筈もない。

恐ろしい。
ただただ恐ろしい。
圧倒的な力を持ったこの死神が。

だからこうしてピンクはフォルテにつき従っている。
終らない森に破壊をまき散らしながら、彼女はただ言われるがままに彼を追った。

「……何でよ」

そうして幾度かの戦いを経て、遂にピンクは口を開いた。
何度もためらい、その度に恐怖に震え、そうして意を決して出たのは悪を糾弾する言葉ではなく――

「何で、あたしを殺さないのよ」

――そんな弱弱しい問いかけだった。
顔は俯き、言葉尻は震え、剣を持てども振るう様子はない。
そんな中で必死に絞り出したのは、自分の置かれた状況についての問いかけだった。
ブルースが消えた時、フォルテはピンクを一撃で縊り殺せるはずだった。
あの時ピンクは視てしまった。彼女の超感覚がフォルテが自分を殺す瞬間を捉えたのだ。
しかし彼は何の戯れかこうしてわざわざ自分を同行させている。


98 : 力への意志 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:27:09 HMNFWVg.0

「ふん」

フォルテは背中を向けながら、

「貴様に興味が沸いた訳だ。
 見れば分かる。貴様は――“力”しか信じていないのだろう?」
「そんな、あたしは“正義”の」

ヒーローだ、と言おうとした。
しかし言い切る前にフォルテに遮られてしまう。

「あのオフィシャルと同じだとでもいうのか?
 違うな。貴様は人間だからな。貴様にとって“力”が全てなのだ。
 あのオフィシャルの犬だって、その大事に抱えているチップと同じなのだろう?
 ただの“道具”だ。
 貴様にとっては何の意味も持つまい。自分以外のものなど」
「違うあたしはそんな――」
「そうか? ならば何故貴様は俺に襲い掛かってこない。
 貴様が仲間だの正義だの、そうしたお題目を並べる奴らならば、ナビがいなくとも俺に挑む筈だろう?
 それかあのナビを必死に探しにいこうとするだろう。助けるためにな。
 しかし貴様はそんなことはしない。ただ俺を恐れ、残った力にすがっている――」

そんな筈はない。
あたしはヒーローで、正義の為に戦っていて、ブルースは道具じゃなく仲間だ。
ピンクはそう言おうとした。言うべきべきだと思っていた。
しかしどういう訳か、声が出なかった。
間違っているはずのフォルテの言葉が無慈悲に心に突き刺さり、ピンクの心の奥にあるものをずたずたにしていった。

フォルテは断言する。

「貴様が信じているものは“正義”などではない。
 ――“力”だ」

と。

「だからこそ、俺は貴様の強さとやらが気になった。
 俺は貴様たち人間の愚かさと狡猾さを知っている。だから何物にもよらぬ個を手に入れようとした。
 だからお前の強さを、信じる“力”を正面から打ち砕いてやりたい。同類としてな」

フォルテはなおも背中を見せている。
先手は必ず取れる。
以前の使用から既に六時間以上経っている。
ジ・インフィニティをぶち込むことができれば勝てる可能性は十分にある。

「ほら、使ってみるがいい。お前の信じる“力”を。
 勝機が薄くとも“正義”があるというのならば振るえる筈だ」

フォルテの嘲笑は続く。
向こうはピンクの超感覚や未来予知を知らない。
場合によっては本当に一矢報いることが――

「……無理よ」

――できなかった。

ピンクは駆けだすことなく膝をつき、うなだれる様に頭を押さえた。
それでも腕は剣を必死に握りしめている。自分に残された“力”。これだけは離す訳にはいかない。
だって“力”がなければ何もできないから。
“力”が届かないのに、戦うことを選択できる訳もない。

「やはりな。人間が語る“正義”など所詮その程度のものだ。
 貴様こそ――愚かな人間の象徴だ」

フォルテの言葉にピンクは心が抉られていく。
その言葉に言い返すことなどできるはずもない。
正義だのなんだの言いつつ、いざとなれば何もできないような、こんな惨めな人間が何を言うのだ。

“幼稚で浅はかな考えとしか言いようがないな。
 オフィシャルが勝つ為に正義を名乗っているとでも?”

ブルースのかつての言葉がフラッシュバックした。
ああそれは――この森でアドミラルに向けた言葉だ。

あれを聞いたとき、自分は思い出したと思った。
何故自分が正義のヒーローだなんて名乗っていたか。
どうして自分が戦っているのか。
ダークスピアを恐れて何もできなかった自分は、その言葉で再起できたと思ったのだ。


99 : 力への意志 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:27:29 HMNFWVg.0

けれど本当は違った。
結局、自分は正義など見ていなかったのだ。
最初何もできなかったのもダークスピアの“力”を恐れてのことだし、
途中から調子に乗ったのもブルースの存在や何よりジ・インフィニティの“力”があったからだ。
そんなことだからフォルテという強大な“力”を前に何もできなくなる。

ああなるほど。
確かにフォルテの言う通りじゃないか。
全て“力”を中心に物事を考えてきた。

自分は――勝てるから正義を名乗っていたのだ。
そのことに気付くと、ピンクの想いは沈下していった。
取り繕っていた戦意は消え、ただただ惨めな無力感だけが胸を席巻する。
視界がまっくらになった気がした。心がこの現実を受け入れることを拒否していた。

このアバターは本物の身体ではない。
けれど、同じことだ。現実世界でのヒーロー“ピンク”という身体も、置換可能なアバターに過ぎなかった。
何もかもが上っ面。そんな人間だった。
きっとアーチャーはそれを見抜いていたのだ。だからあんなことを言った。
でもアーチャーの言葉も、ブルースの警告も、全て無視してしまった。
だからこんなことになってしまった。

――ジロー……

沈みゆく意識の中で思ったのはネットを通じて出会い、リアルでも共に戦うことになったフリーターの名前だった。
彼は、彼はどうったのだろう。
珍しいことにネットとリアルの乖離がゼロに等しかった。
ありのままの姿でこの社会を過ごしてきた。そんな彼はヒーローを騙る少女を見て何を思ったのだろう。

――アイツの方が……

よほどヒーローらしかった。
なりゆきでピンクとダークスピアの戦いに巻き込まれ、結果的に戦えないピンクを鼓舞し、共に戦うことになった。
対ダークスピアの戦術まで考えてくれた。何も関係ない筈の、ただのフリーターなのに

今なら分かる。
彼のほうがよほどヒーローらしかった、と。

自分にはヒーローとして必要なありとあらゆるものが欠けている。
名前や肩書ばっかりあって、その実“正義”がない。
そもそも“力”だってない。ピンクと“合体”したジローは、あの身体をよほどうまく扱ってみせた。

――何でここにいないのよ……

アイツさえいれば、ジローと合体できれば、そう思うのと同時に、結局それも“力”を求めているだけだと気付き、更なる無力感に打ちのめされた。
フォルテの言うように自分はジローだって“道具”として見ていたのだろうか。
「君を装備した」だなんて言われて「アイテム扱いするな」って返したけれど、思えば皮肉なやり取りだ。
アイテム扱いしてたはあたしの方じゃない。そうピンクは思い、同時になぜか笑いたい気分になった。

「ふん、もう折れたか」

――そうしているうちにフォルテがつまらなさそうにそう呟いていた。

ゆっくりと振り返り、彼は大鎌をピンクへと向ける。
その刃が首に迫った。恐怖が胸を駆け抜ける。が、それよりも今までのすべてが否定された絶望感が胸を蝕んだ。

ああ死ぬんだ。
何もかもが厭になる。
なんでこんなのが現実がなんだろう。
あの高校に助っ人として現れてから、ずっと、ヒーローになりたかったのは本当なのに。
こんな世の中が悪いんだ。ダークスピアが悪いんだ。そうやって現実を呪う言葉があふれてくる。
でも、知ってた。
本当に厭なのは、一番なくなってしまえと思うのは――こんな惨めな自分だって。

だからこれでいいのかもしれない。
ヒーローもどきは悪の手にかかって死ぬ。
エンディングにもならない打ち切りだけど、押し付けられるハッピーエンドよりはいい。
勘違いしたまま恋愛映画みたいな終わり方するよりは、まだしも救いが――

「――そこまでだ」

鋭い声が聞こえた。
同時に赤い閃光が駆け抜けた。
“ソード”がきらめき、颯爽と彼は現れる。
フォルテは舌打ちをし、鎌で“ソード”を受け止める。
刃と刃が押し合いつつも、駆け付けた赤い閃光はピンクへと語りかける。


100 : 力への意志 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:27:58 HMNFWVg.0

「大丈夫か?」

と。

――ああ、その姿は

鋭角的なフォルム。たなびく白い髪。そして何より駆けつけたタイミング。
赤い閃光――ブルースを見上げながらピンクは思った。

――本当、ヒーローみたい。

だなんて。
素直にそう思ってしまった。

「なんでアンタ来たのよ。
 見捨てればよかったじゃない、あたしなんて」

……でも口から出たのはそんな憎まれ口だった。
心が砕かれた彼女は、そんなことしか言うことができない。
愚痴愚痴と卑屈なことを言うしかないのだ。だってヒーローじゃないから。
こんなことを言えばブルースも自分を見捨てるに違いない。そう思った。
しかし、

「――言った筈だろう。
 オフィシャルの“正義”は“法”を守り“人”を守るものだと」

ブルースは毅然としてそう言い放った。
そして――駆ける。
“ソード”をきらめかせブルースはフォルテに肉薄する。

「懲りずにまた来たか。
 だがお前では俺の“力”には及ばん」
「だとしても守るべき者はいるならば駆けるのみだ。
 それがオフィシャルとして、伊集院炎山のネットナビとしての“正義”だ」

ふん、とフォルテは吐き捨てると依然と同じようにローブをはためかせ、距離を取った。
単純な速度ではブルースのほうが勝るが、手数では圧倒的にフォルテが勝っている。
その点でブルースはどうしても一歩譲ってしまうのだ。

そしてフォルテは腕をバスターへとコンバートし、先の戦闘の焼き直しが――

「バトルチップ【ダッシュコンドル】」

――それを阻むようにブルースはチップを使用した。
鷹のマシンがブルースの隣に出現する。彼は鷹に乗るようにして――急加速した。
フォルテの目が見開かれる。腕を鎌へと戻そうとするが、しかしもう遅い。

既にブルースはフォルテへと迫っている。
中距離戦へと移行しかけていたフォルテはその対応がまだできていない。
そこに間髪入れずに“ソード”が走る。

「一閃」

ブルースは止まらない。角度をつけフォルテを斬りつける。

「二閃」

そこに重ねる様にブルースは更なる斬撃を加えんと地を蹴った。

「三閃」

その斬撃の軌道は外から見ると特徴的な形をしているように見えた。
三角、いや少しずれている。Δの形に酷似しているように見えた。


101 : 力への意志 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:28:19 HMNFWVg.0

――その技は本来デルタレイエッジと呼ばれるものだった

炎山が独自に編み出した連続斬撃。
要するに“ソード”の連続発動だが、相手に反撃の余地を与えることなく達成する為にはシビアな反応速度が求められる。
一流ネットバトラーの炎山だからこそ成し遂げることのできる技だ。

それをブルースは単独で再現しようとした。
一度距離を取られれば勝機はない。それゆえ【ダッシュコンドル】による不意打ちで距離を詰め、この技で完封する。
それが唯一の活路だと考えたブルースは迷うことなくそれを成さんとした。

むろん炎山なしでの【デルタレイエッジ】の再現は困難だ。
しかし躊躇う理由がどこにある。守るべき者と、戦うべき敵がここにいる。

そうしてブルースは戦いに臨み、そして成功を――

「危ない! ブルース」

その時ピンクは視た。
一歩先の未来、迫りくる危険性を。

ブルースが、はっ、とした時には既に遅かった。
斬撃を受けフォルテは、しかしその指先を動かすことには成功していた。

――elease_mgi(b)

コードキャストによる反撃だった。
斬り刻まれながらも戦意を劣らせなかったフォルテは、半ば捨て身で発動に成功していた。
斬撃後の隙を突かれブルースはその攻撃をまともに喰らう。

――結果として共に彼らは倒れた。

攻撃を喰らい、弾き飛ばされる。
互いが互いに隙を晒す。
こうなれば先に立ち上がった方が圧倒的な優位に立つが。

――明暗を分けたのは攻撃に付加された効果だった

ブルースのデルタレイエッジは単純な攻撃力こそ高いが、いわば単なる“ソード”の連携攻撃であり、それ以上の効果はない。
一方で礼装【空気撃ち/二の太刀】に付加されていたコードキャストは威力こそ低いが“スタン”効果を持っており……

――先に立ち上がったのはフォルテだった。

彼は一瞬で立ち上がった。
ダメージは深いのだろう。その獣のような形相には痛みが走っていた。
しかしそれを上回る憎悪がある。憎悪を“力”に乗せ彼は解放した。
その手から閃光を――アースブレイカーを放つ。

閃光、そして轟音。土が抉れ、ビームがブルースを穿つ。
まともに受けたブルースは、ごろごろと地面を転がる。
そしてその首筋をフォルテに掴まれた。

「――決着だ」

ブルースを持ち上げながらフォルテはそう言い放つ。
純粋な憎悪を言葉に乗せ、傲岸にも彼は言う。

「所詮貴様たちはこの程度ということだ。
 人間なしでは戦えもしない、弱者だ。
 俺はお前たちとは違う。俺には“力”がある」

そうそれで勝敗は決した。
ブルースが万全であれば、伊集院炎山のオペレーティングがあればこの結果は訪れなかったかもしれない。
しかしこの場に彼はおらず、ブルースは敗けた。それが現実だった。


102 : 力への意志 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:28:42 HMNFWVg.0

「哀れだな」

フォルテの言葉にブルースが返したのはそんな言葉だった。
哀れ。
戦いに敗れながらも、ブルースはフォルテをそう評して見せた。

「お前はただ自分が持てていないだけだ。“力”がなければ、お前はお前でいられなくなる。
 だから“力”にこだわり続ける。それしかないからだ」
「そうだ、所詮すべては“力”だろう?」
「それは自分がないのと同じだ。自分を律する芯が脆弱な、孤独で哀れな悪だ」
「お前にはあるというのか。愚かなナビよ」
「ある。炎山様との“正義”だ。
 それが自分をネットナビ・ブルースたらしめている。
 選ぶことができる。オフィシャルとして、炎山のネットナビとして――」

フォルテは激昂しその手に力を込めた。
ぐっ、と音がしてデータが砕かれる。ブルースはその身を散らし、フォルテは怒りのままにそれを喰らった。
ゲットアビリティプログラム。
そうしてブルースの力を吸い上げるフォルテは、飢えた獣のように見えた。

「――次は貴様だ」

そしてフォルテが振り向いた先に、ピンクはいた。
憎悪に塗れた眼光がこちらを向く。その迸る殺意から逃れることはもはやできまい。

「……やっぱりさ、ちょっと違うわよ」

けれどピンクはどこか落ち着いていた。
先ほどよりよほど絶望的なのに、しかし不思議と言葉はすらすらと出た。
彼女は今絶望していた。しかし自分がここで何を言うべきなのか分かっていた。

「あたしは――あなたほど孤独じゃない」

そう言った時、フォルテの動きが止まった。
同時に瞳に灯る憎悪の色が強まったのが分かった。
しかしそれでもピンクの言葉は止まらない。

「あたしは確かに“正義”なんて見ていなかった。ヒーローとしては失格だった。
 でも――悲しいのも事実なのよ。
 “正義”のブルースが戦いに敗れたことが。もう“正義”の味方と会えないことが。
 “道具”だなんて思わない。ああなりたい。ああなりたかったって、憧れてる」

それに、と彼女は付け加える。

「あたしはハッピーエンドに耐えられない人間だった。
 あまのじゃくで誰かを信じられなくて恋愛アレルギーで……相思相愛なんてものが現実にあると思えないような、そんな人間。
 でもそんなあたしにだって“繋がり”はあった」

フォルテが迫ってくる。
その手には鎌がある。
ああ、あれであたしは終わるのだろう。そう思った。

「でなれけば――ジローにさよならって言えないことが、こんなにも……だなんて、おかしいわよ」

どうしてこんな結末を迎えたかはわかっている。
信じなかったからだ。
“正義”も“力”も“繋がり”も、もう少し信じればよかった。
それが結局“自分”になる。

同時にピンクは思う。
そう思えるんだから、やはりフォルテとあたしは違う、と。
端から諦めているこいつと、信じたくても信じられなかったあたしは違う。
いやそれとも――こいつも同じか。
本当はこいつも信じたくても、でも無理だから“力”にすがるしかなかっただけなのかもしれない。

だとすればやっぱりこいつは――

「黙れ」

鎌が一閃され、彼女はそこで命を落とした。
何もかもが中途半端だった少女の物語はここで終わる。

――そういえば、結局、恋愛映画は好きにはなれなかったな


【ブルース@ロックマンエグゼ3 Delete】
【ピンク@パワプロクンポケット12 Delete】


103 : 力への意志 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:29:54 HMNFWVg.0


_7




「…………」

新たに二人のプレイヤーを喰らったが、フォルテの胸は晴れなかった。
ただただ苛立ちが募っていく。

“力”が全て。
それこそが自分の意志を形作っている。
その絶対の律がフォルテを支えてきた。

しかしそれを――哀れだと?

ブルース。そしてピンクの言葉を思い起こし、フォルテは力任せにバスターを放った。
土が抉れ、木が倒れていく。轟音を立てて森が破壊されていく。
“力”の発露だ。これこそがフォルテがフォルテたる証明だ。

唯一無二の絶対の個。
それを孤独などと、馬鹿なことを。

フォルテはそう切り捨てるが、しかし気分は晴れなかった。
そして胸に渦巻く苛立ちは、あるいはネオに敗れた時以上に不快なのだ。
そうこれはあのロックマンと戦っていたときのような、相手の存在したことそのものが許せないという、そんな苛立ちなのだ。
もう敵は喰らったというのに、不快さは引かない。

「ふん」

だからフォルテは更なる破壊を求める。
それこそが己の存在証明と信じて。


〔E-5/森/1日目・日中〕

【フォルテ@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP25%、MP40/70
[装備]:{死ヲ刻ム影、ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:基本支給品一式、ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、ダッシュコンドル@ロックマンエグゼ3、黄泉返りの薬@.hack//G.U×2、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、マガジン×4@現実、不明支給品1〜2、アドミラルの不明支給品0〜2(武器以外)、ロールの不明支給品0〜1、基本支給品一式、ロープ@現実 不明支給品0〜1個、参加者名簿
[ポイント]:2120ポイント/4kill(+3)
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
1:アリーナへ向かう。
2:ショップをチェックし、HPを回復する手段を探す。
3:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
4:シルバー・クロウの使ったアビリティ(心意技)に強い興味。
5:キリトに対する強い苛立ち。
6:ロックマンを見つけたらこの手で仕留める。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※ゲットアビリティプログラムにより、以下のアビリティを獲得しました。
・剣士(ブレイドユーザー)のジョブ設定 ・『翼』による飛行能力(バルムンク)
・『成長』または『進化の可能性』(レン)・デュエルアバターの能力(アッシュ・ローラー)
・ブルースの“ソード”“シールド”・ピンクの超感覚
・各種モンスターの経験値
※参加者名簿を手に入れたのでロックマンがこの世界にいることを知りました。


104 : 力への意志 ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:30:37 HMNFWVg.0




_1




……メンテナンスを間際に控え、ピンクとブルースは森で会話を交わしていた。
まだ“痛みの森”のイベントは継続中であり、危険なPKがいないか彼は探し回っていたのである。

「“法”と“人”か」

その最中、ブルースが呟いた。

「え?」
「少し思うことがあってな。あのアーチャーの言葉だ。
 守りたいものは“法”なのか“人”なのか――奴はそんなことを言っていたな」

ブルースは思い起こすように言う。
あれは数時間前、キリトやサチをめぐる戦いに巻き込まれた時のことだ。
錯綜の末にキリトたちと戦い、一応は収取は付いたが、多くの痛みを齎してしまった。

「そんなの……だから言ったじゃない。“法”は“人”を守るためにあるんだから、一緒じゃない」

ピンクは鞘に入った剣を振り上げながら言った。
しかしブルースはあくまで冷静に、

「いや違う。“法”はそれだけではただの“力”だ。
 それを裁定し、振るうのは結局“人”だ。プログラムが人を裁くことはない。
 だから場合によっては、“力”の振るい方次第では犠牲になることもある」

ブルースの脳裏に浮かぶのは一体のナビだ。
かつて人間が創り出し、しかしその危険性故に恐れられ、排斥されたナビ。
事の顛末はブルースも知っている。彼が今や悪に堕ちたが、そこに彼を追い込んだのは“法”なのだ。

「だったら、アンタはどうするのよ。
 アンタは何を守るっているのよ」

ブルースは答えた。

「“法”も“人”もどちらも守らねばならないだろう」

と。

「何よそれ答えになってないじゃない。そんな簡単に事が進まないから悩んでたんじゃないの」
「そうだ。今だって悩み、迷っている。
 オフィシャルとして社会秩序を守ることと、その結果生まれる弱者を救うことは、時には相反するものの筈だ。
 しかしどちらかを切り捨て、一方によることが“正義”だとは思わない」

かつてのブルースなら――ロックマンと出会う前であったら違っただろう。
悪は斬る。社会の悪を斬る為であれば、犠牲を厭わない。
そうしていた筈だ。
しかしもう自分たちは知っている。
伊集院炎山はオフィシャルとして“人”を守ろうとしている。

「どちらも切り捨てず、常にジレンマを抱えながらも、それでも“法”も“人”も守る。
 それが“正義”だ。そうしたジレンマとの戦いこそが“正義”だと、ロックマン、そして光熱斗が教えてくれた」

もはやあのナビ――“法”によって悪に追い込まれたナビは許しがたい存在だ。
多くの罪を犯した以上、デリートすることに躊躇いはない。
それが自分たちの“正義”であるが、しかしそれは決して唯一無二のものではない。
カイトたちやロックマンは別の答えを導くかもしれない。それもまた間違いではないのだ。
みながみな、ジレンマを抱えている。
それでも考えることを止めてしまってはいけない。ジレンマと戦い続けることが“正義”となる。

「――炎山様はこれからも“法”と“人”の間で悩み続けるだろう。
 それを支え、共に悩んでいくことがネットナビとしての役目だ」

それがブルースの答えだった。


105 : ◆7ediZa7/Ag :2015/06/22(月) 12:30:53 HMNFWVg.0
投下終了です


106 : 名無しさん :2015/06/22(月) 18:40:25 WSitNKJg0
投下乙です!
ブルースとピンクはあのフォルテを相手に最後まで立ち向かいましたが、やはり届きませんでしたか……
でも、結構ダメージを与えているから無駄にはなってないはず! と思いたいですけど、フォルテもフォルテでパワーアップしてきているのが怖い所。
そしてブルースの答えもまた、とても印象的でした。


107 : 名無しさん :2015/06/22(月) 21:00:13 iCTAB85M0
投下乙でした

PKしては敗走を繰り返していたフォルテも、ついにちゃんとした白星が
けとその犠牲となったのは…ピンクは色々と惜しかったなあ
ブルースも礼装のスタン効果さえなければ…

以下、気になった箇所です

>>95
「そしてだがその軌道を読んでいた」
→「そして」が不要?

「その手はされコンバートし」
→「その手はコンバートされ」?

>>98
「言うべきべきだと」
→「言うべきだと」?

>>101
「elease_mgi(b)」
→「release_mgi(b)」の誤字ですね

>>104
「一応は収取は付いたが」
→「収拾」の誤字かと


108 : ◆7ediZa7/Ag :2015/06/23(火) 00:28:45 kVj0hNsU0
>>107
ありがとうございます! 収録時に直しておきます


109 : 名無しさん :2015/06/23(火) 11:29:38 KtOPP00c0



110 : ◆9F9HQyFIxE :2015/06/27(土) 11:21:56 8eOb82Mo0
これより投下します


111 : 異空間より絆をこめて ◆9F9HQyFIxE :2015/06/27(土) 11:22:36 8eOb82Mo0


    1◆


『ネオ、か。
 クールでいい名前だし、よく見りゃルックスも中々イカしてるじゃねぇか……だがよ』

 唐突に頭の中で再生されたのは、彼の言葉だった。

『そんなへばりこんでちゃ、折角のそれも台無しだぜ?』

 自分達の前に現れたアッシュ・ローラーは、一切の曇りが感じられない言葉をぶつけてくれている。
 彼はこんな状況下でも、自分達のことを微塵も疑ったりなどしなかった。

『……何をしたらいいか、ね。
 ネオさんよぉ、そいつはもうあんた自身アンサーが出てんじゃねぇか?』

 そして、迷いに沈もうとしていた自分自身が立ち直るきっかけを……与えてくれた。

『前にな、あんたみたいにベリィーナーバスになった奴が……ダチがいたんだよ。
 アイデンティティの何もかもを無くして、もうどうにでもなれって思った奴がな』

『でもよ、本当に思ってる事はそうじゃねぇ。
 どうでもいいなんて言いながら、そいつからは明らかに本心が伝わってきたんだよ』

『もう一度……ヤりてぇってな』

 彼が現れたからこそ、この世界を救う救世主としての自分を思い出した。人々を救うというこの気持ちが、誰かに強制されたものではなく自分自身で望んだことを。
 それに、アッシュに支えられたのは自分だけではない。ガッツマンだって、同じなはずだ。

『お前はマジで立派だ。
 ネオの事を考えて、辛ぇだろうに必死に我慢しようとしてよ……』

 数時間前、GMから届けられたメールには【ロール】の名が書かれていた。ガッツマンの親しい友人であろうネットナビの名が。
 あの時、ガッツマンは自分に気遣って悲しみに沈むのを堪えてくれた。その気持ちは嬉しかったが、それでは決して前に進むことはできない。むしろ、いつかどこかでガッツマンが壊れてしまう恐れだってある。
 それをアッシュが止めてくれた。アッシュが支えてくれたからこそ、ガッツマンは涙を流せた。そしてガッツマンもまた、進むべき道を見つけたのだ。

『殺し合いを止めるためとはいっても、誰かをこの手でデリートしていいのかって……』

『けど……今、ロールちゃんが死んだって聞いて……
 もう、二度と会えないんだって……凄く悲しかったでガッツ。
 ネオが、どんな辛い思いをしてたかって……よく分かったでガスよ』

『もし……もし、ロールちゃんをデリートしたナビをこのまま放っておいたら、同じ事になるでガス。
 ガッツマンやネオの様に、辛い思いをするナビが増えるでガス……そんなの、絶対に嫌でガッツ』

 そう語る彼の表情からは熱い感情が感じられた。悲しみを乗り越え、強くなった男が持てる熱い感情が。
 決意。親愛。友情。信頼。絆。覚悟。そこに込められた感情は、数えきれなかった。


112 : 異空間より絆をこめて ◆9F9HQyFIxE :2015/06/27(土) 11:25:02 8eOb82Mo0
『もしかしたら、ガッツマンはデカオに嫌われるかもしれないでガッツ。
 ナビをデリートした、人殺しのナビなんかいらないって……そう言われるかもしれないでガス。
 それでも……それでも、構わないでガッツ!
 こんな思いは、誰にもさせちゃいけないでガスよ!!』

 彼は自分の為、またここにいない誰かの為に覚悟を決めた。どんな汚名でも被ると啖呵を切った。
 きっと、アッシュだって同じだったはずだ。これ以上、どこかで誰かが不幸にならない為に戦うことを決意しただろう。だからこそ、あのフォルテに立ち向かった。
 彼が最期に何を想ったのかを知る事はできない。だけど、少なくとも自分達が止まる事を望まないはずだった。
 何故なら、彼はいつだって前を向いて走り続けたのだから。

「……ネオ?」

 気が付くと、ネオは既に立ち上がっていた。
 ガッツマンの呼びかけに答えることのないまま、ウインドウの操作を始める。そして“ナイト・ロッカー”の欄に指を添えて、目前に出現させた。
 圧倒的な存在感を放つモンスターマシンが現れるが、その持ち主はいない。その最期を見たのだから、彼が現れることがないのはわかっている。それでも、もしかしたらまた現れてくれるかもしれない……そんな希望を抱いてしまう。
 しかし感傷に浸らずに、ガッツマンと目を合わせる。

「行こう、ガッツマン」
「行くって、どこにでガスか……?」
「彼らを追いかける……ここで止まっていても、何も始まらない」

 この言葉には力が込められてないと、口にしてからネオは気付く。それでも胸の中に宿る気持ちが、言葉を紡ぐきっかけとなっていた。

「あのネットナビを……デリートしに行くでガス?」
「彼をどうすればいいのか。また俺自身、これから何をすればいいのか……すまないが、答えはまだ決まっていない。
 でも、ここで止まる訳にはいかない。ここで止まっていたら、また誰かが不幸になる。
 それを止めることが、救世主である俺の使命だ……」

 怒りに身を任せるべきか。復讐の道に進むべきか。それともまた別の道を捜すのか。まだ、ネオ自身だってわからない。
 だけど、ここで止まっていても答えは見つかる訳がなかった。

『大丈夫よ。どんな光であれ、貴方が選ぶことができたのならのなら……もう、大丈夫。
 マトリックスを……ザイオンを……夢も現実も救える』

 死が近づく中であるにも関わらずして、トリニティは最期まで自分を信じていてくれた。それは後付けのプログラムなどではなく、トリニティ自身の気持ちだ。
 なのに、今の自分は何をやっていたのか? 答えがわからない……と、そんな悩みに沈んでしまい、何もしなかっただけ。これでは、何も掴めなくて当然だ。


113 : 異空間より絆をこめて ◆9F9HQyFIxE :2015/06/27(土) 11:26:48 8eOb82Mo0
「ガッツマン、お前がそれを教えてくれたんだ……お前に何も言えなかった俺が言っても、納得などできないかもしれない。
 何度も悩むかもしれない、何度も間違えるだろう……だけど、諦められないんだ」
「それは同じでガッツ! ロールちゃんに約束したでガスから!」
「そうか……ガッツマン、一緒に来てくれるか?」
「当たり前でガス!」
「ありがとう」

 平和への道に辿り着くまで、まだ相当の時間が必要だ。
 フォルテやありす。そしてあのエージェント・スミスのような危険な相手が存在し、今もどこかで誰かを不幸にしているかもしれない。そんな彼らとの共存ができる可能性は限りなく低いだろう。
 だが、その為の手段を考えればいいだけだ。見つかるまで仲間達と力を合わせて捜す。単純だが、唯一にして最大の手段だ。
 古来より人類は困難に衝突する度に悩んだ。そして考えて、答えを見つけて、そうして進化を続けた。だからこそ、今日まで人類は存続することができている。
 ここでも同じ。何度も悩み、間違えて、そして本当に正しい手段まで辿り着く……それが今やるべきことだった。

(トリニティ、アッシュ……すまない、俺はお前達の命を奪ったあのネットナビや少女をどうするべきなのか、まだ答えは見つからない)

 ナイト・ロッカーのハンドルを握り締めながら、ネオはもうこの世界にいないトリニティとアッシュへ想いを寄せる。
 フォルテやありすとの共存を簡単に試みようとしては、死んでしまった二人への冒涜になるだろう。だが、復讐鬼になることを二人が望むとも思えない。
 もう迷わないと彼に誓ったはずだった。あの時の言葉を嘘にすることこそ、アッシュやガッツマンの気持ちを踏み躙る事になる。
 何よりも、いつまでも自責の念に沈むことが、トリニティへの裏切りだ。
 例え薄情と呼ばれようとも、立ち止まりたくない。

(だが、それでも俺は……俺の使命を果たしてみせる。こんな殺し合いを終わらせて、アッシュやトリニティのような犠牲者は出さないことを誓う。
 俺は救世主だから……救世主として、最後まで戦い抜いてみせる!)

 後ろにガッツマンが跨るのを見て、ネオはエンジンを唸らせた。その轟きは、かつての相棒であるアッシュを彷彿とさせるほどに凄まじい。
 二人乗りはやや厳しいが、不可能な訳ではない。二人乗りは気が進まないが今はそんな事を言っていられなかった。
 ナイト・ロッカーを猛スピードで走らせると、周りの風景も音速の勢いで過ぎ去っていく。その速度はネオ自身の脚力に匹敵、あるいは遥かに凌駕するかもしれなかった。
 彼らはアッシュの魂と共に走り続ける。アッシュの全てが込められたナイト・ロッカーに触れながら、己の決意を忘れない為にも。


    2◆◆


 突然、メールが届けられた。
 そこには見覚えのない十人の名前が書かれている。メールの内容によると、この十人は脱落した……つまり現実の世界でも『死』を迎えてしまった。詳しい原理はわからないが、ここに書かれた十人はもうこの世にいない。
 そう認識した途端、ミーナの中で憤りと悲しみが湧きあがった。人の死をこんなにも事務的に、そして淡々と告げることが信じられない。
 現実でも、何らかの事件で人が死んだことが報道された時は、そこまで感情が込められていない場合が多い。だが、それは様々な事情があってのことだから、ある程度は仕方がない場合もある。
 それに対してこのメールは何かが違う。まるで最初から死人が出ることを前提とされているような薄気味悪さを醸し出していた。


114 : 異空間より絆をこめて ◆9F9HQyFIxE :2015/06/27(土) 11:27:21 8eOb82Mo0
(もしも、ここに書かれている人達が……本当に、死んでしまっているのなら……いくらなんでも不謹慎すぎます!
 こんなメールが現実に広がっていいはずがありません!)

 ミーナの怒りを燃え上がらせている部分はもう一つだけある。それは、脱落者達の名前が書かれている所のすぐ下に【イベント】と書かれたコーナーがあることだ。
 死んでしまった者達の追悼の意がないどころか、気に留める微塵も感じられない。それどころか、文末には『VRバトルロワイアルを心行くまでお楽しみ下さい』という倫理観の欠如したメッセージまで存在する。
 こんなメールを送る団体がまともとは到底思えない。絶対に榊達を摘発しなければならないと、ミーナは決意を燃やした。
 その為にも、すぐに実行に移したいが……

(榊達を止めなければいけませんが……もう、どうすればいいのでしょう。
 デンノーズの皆さんみたいに信頼できる人とは出会えませんし、あの黒いアバターや妖精みたいな怪しい人達はたくさんいる……
 というよりも、私と一緒にいてくれる人がそもそもいるのですか?)

 ……ミーナの中には数多くの不安が芽生えている。
 武内ミーナは超一流のジャーナリストで、ありとあらゆる取材の為に格闘技を始めとした様々な技能を身に付けた。しかし、それも一般人を超える程度の物でしかなく、プロには叶わない代物だ。
 日夜、命を賭ける世界に身を投じているとはいえ、フィクションに登場するスーパーヒーローのような超人的能力はない。刃物を弾くことだってできないし、拳銃で撃たれたらその時点で死んでしまう。
 非常事態でも生き延びていける自信もあるが、それも人間の域を出ない。超能力者が集まるような世界で、ただの人間に過ぎないミーナができることなど、たかが知れている。
 巧みな話術で危険人物を利用する……それも一つの手段かもしれないが、途中で切り捨てられる可能性の方が圧倒的に高い。

(味方になってくれる人達を捜したいですけど……そもそも、私の力になってくれるような人がいたら、殺し合いが円滑に進まないはず。
 ツナミを摘発しようとして、現実とネットの双方で追われるようになった私の事を信じてくれる人はあまりいませんし……
 ……もしかしたら、この殺し合いにはツナミグループも関わっているのですか?)

 不意にミーナの中でそんな思考が芽生える。
 あの榊という男はもしかしたらツナミグループの一員かもしれなかった。ツナミにとって不利な情報を流しかねない自分を都合よく殺す為、こんな殺し合いを用意した可能性だってある。
 すぐに命を奪われなかったのは、賞金首として設定されたという理由も考えられる。自分を殺したプレイヤーには大量の賞金が貰える……そんなシステムだってあるかもしれない。
 要するに、危険人物に駆られる獲物としての役割しか、自分には期待されていない可能性もあった。足が速くなるアプトゥの魔法だって、ハンター達の意欲を上げるのに最適な手段だろう。何故なら、厄介な獲物ほど仕留めた時の達成感が大きいのだから。


 ……不安が徐々に膨れ上がった時だった。何処からともなく、バイクが唸る音が聞こえてきたのは。
 ブオオオオォォォォォォン、という凄まじい排気音が響くと同時に、遥か彼方から小さな影が見えてくる。

「えっ……なんですか、この音は? こっちに近づいてくる?」

 影はどんどん大きくなり、次第にその形がはっきりと見えるようになった。
 漆黒のコートとサングラスが特等的な成人男性と非常に逞しい肉体を誇る赤いアバターが、アメリカンバイクを二人乗りしているのが見える。彼らはスピードを緩める気配を見せないまま、すぐにミーナの前で止まった。
 バイクから降りた男からは奇妙なオーラが感じられる。例えるなら、大国の要人を守るSPに匹敵するほどの存在感だった。
 もしや、この男達はツナミグループに雇われた刺客で、邪魔者である自分を殺す為に現れたのではないか? そんな不安が一瞬で芽生えてしまった。

「あ、あの……あなた達は一体……誰ですか?」
「待ってくれ。俺達は君を傷付けるつもりはない」
「……へっ?」

 警戒で後ずさる中、男はそう口にする。


115 : 異空間より絆をこめて ◆9F9HQyFIxE :2015/06/27(土) 11:29:19 8eOb82Mo0
「驚かせてすまない……俺はネオ、君と話がしたいんだ」
「おれも同じでガッツ! 男の中の男であるこのガッツマン様は、弱気を助け強きをくじくネットナビ!
 泣く子も黙る真のネットナビでガッツ!」
「君は何者なのかは知らない。だが、俺達に戦う意志はない……それだけは本当だ」

 ネオと名乗った男と、ガッツマンと名乗ったアバター。彼らの口調は穏やかで、少なくとも敵意は感じられなかった。
 一見すると危険人物には見えない。しかし、簡単に信用する訳にもいかなかった。
 善人を装って他者を騙そうとする人間はいくらでもいる。ましてや今は殺し合いという極限状態だ。誰かを食い物にしようとする悪質なプレイヤーはいくらでもいるかもしれない。
 しかし、今は二人のことを拒絶することもできなかった。

「……それは、本当なのですよね?」
「こんな状況だから、俺達のことを信じられない気持ちは充分にわかる……むしろ、それが当たり前かもしれない」
「私も同じです。職業柄、悪人をいくらでも見ました……だから、まだ信用できません」
「そうか」
「でも……」

 ミーナは警戒を緩めながら、真摯にネオを見つめる。

「……私もこんな殺し合いを打ち破りたいと思っているのは同じです。
 私はただの人間に過ぎませんが、私なりのやり方で止めてみせます。ゲームが苦手な私なんかじゃ、出来る事は限られているかもしれませんが。
 でも、あなた達が言ってくれるなら……」
「それは、俺達に協力してくれることなのか?」
「はい。申し遅れました、私の名前は……武内ミーナと言います」

 躊躇いながらもミーナは自己紹介をした。
 こんな状況下で安易に自分の名前を名乗るのは得策とは思えない。しかし相手が名乗ったのなら、こちらも名乗るのが筋。仮に偽名を使ったら、それこそ信頼を失ってしまう。

「ミーナ、か。よろしく頼む」
「お姉さん、こちらこそよろしくでガッツ!」
「ええ……よろしくお願いしますです」

 ミーナはぺこり、と頭を下げた。
 ネオとガッツマン。ようやく二人の協力者と巡り会えたことで、ミーナは気持ちが楽になるのを感じた。
 ダークマンを始めとした危険人物を目撃して、謎の妖精すらも見失い……その上、ずっと一人ぼっち。数多の災難に襲われた彼女にとって、彼らはようやく掴めた救いの手だった。
 勿論、彼らが完全に信用している訳ではない。しかしそれは、これから一緒に行動する中で知ればいいこと。このまま一人でいるよりはずっとマシ。

(よかった……本当によかった。ようやく、協力してくれる人に会えました! 本当に、長かった……!)

 ゲーム開始より12時間。現実時間に例えて半日ぶりに、ようやく仲間になってくれそうなプレイヤーと出会える……一秒後の安全すらも保証されないこの世界では大きな一歩だった。


116 : 異空間より絆をこめて ◆9F9HQyFIxE :2015/06/27(土) 11:30:01 8eOb82Mo0

【F-7/ファンタジーエリア/1日目・日中】


【ネオ(トーマス・A・アンダーソン)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康、迷い
[装備]:エリュシデータ@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド、不明支給品0〜2個(武器ではない)
[思考・状況]
基本:本当の救世主として、この殺し合いを止める。
1:ガッツマン、ミーナと共に行動する。
2:トリニティを殺害した者を見つけ出し、この手で……
3:ウラインターネットをはじめとする気になるエリアには、その後に向かう。
4:モーフィアスに救世主の真実を伝える
5:…………フォルテやありすを追いかけて、止めてみせる
[備考]
※参戦時期はリローデッド終了後
※エグゼ世界及びアクセルワールド世界についての情報を得ました。
※機械が倒すべき悪だという認識を捨て、共に歩む道もあるのではないかと考えています。
※このバトルロワイアルには、異なる世界の者達が呼ばれているのではないかと推測しています。
※この会場は、加速世界の一種に設置されているのではないかと考えています。
※フォルテやありすを止めようと考えていますが、その後にどうするのかをまだ決めていません。


【ガッツマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康、ナビ(フォルテ)への怒り
[装備]:PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、転移結晶@ソードアートオンライン、12.7mm弾×100@現実、不明支給品1(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止める為、出来る事をする。
1:ネオやお姉さんと共に行動する。
2:トリニティを殺害した者を見つけ出し、この手で倒す。
3:ロックマンを探しだして合流する。
4:転移結晶を使うタイミングについては、とりあえず保留。
5:アッシュ……
[備考]
※参戦時期は、WWW本拠地でのデザートマン戦からです。
※この殺し合いを開いたのはWWWなのか、それとも別の何かなのか、疑問に思っています。
※マトリックス世界及びアクセルワールド世界についての情報を得ました。
※このバトルロワイアルには、異なる世界の者達が呼ばれているのではないかという情報を得ました。
※この会場は、加速世界の一種に設置されているのではないかと考えています。


117 : 異空間より絆をこめて ◆9F9HQyFIxE :2015/06/27(土) 11:30:35 8eOb82Mo0
【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康、困惑
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1(本人確認済み)、快速のタリスマン×3@.hack、拡声器
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する 。
0:ようやく誰かと出会えた……!
1:殺し合いの打破に使える情報を集める。
2:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
3:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)、ローブを纏った男(フォルテ)を警戒。
4:ダークマンは一体?
5:他の参加者にバグについて教えたいが、そのタイミングは慎重に考える。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。
※現実世界の姿になりました。
※ダークマンに何らかのプログラムを埋め込まれたかもしれないと考えています。
※もしかしたら、この仮想空間には危険人物しかいないのではないかと考えています。


118 : ◆9F9HQyFIxE :2015/06/27(土) 11:30:53 8eOb82Mo0
以上で投下終了です


119 : 名無しさん :2015/06/27(土) 15:47:49 /LoTKMkg0
投下乙です
アッシュがいなくなってまだ迷いはあるけど
それでも二人とも前へ進もうとしててよかったです
そしてボッチ卒業おめでとうございますミーナさんw


120 : 名無しさん :2015/06/27(土) 20:12:35 cVQvXF8A0
ネオもガッツマンも前に進むことを決めたかー
そしてついにミーナさんぼっち卒業www

乙でしたー


121 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/04(土) 07:26:04 YD.KELqY0
これより投下します。


122 : 決断の時 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/04(土) 07:26:59 YD.KELqY0


    1◆


 ヒースクリフ/茅場晶彦の残像は消えてしまった。
 数えきれないほどの人間にデスゲームを強制させた極悪人であり、ナーブギアやSAOを生み出した量子物理学者は呆気なくDeleteされた。
 奴から与えられた傷は数えきれない。ビータ―の汚名を被らせられて、《月夜の黒猫団》のメンバーを失い、時には他のプレイヤーをKILLして……最後は目の前でアスナを殺された。あの頃の悲しみと絶望は今でも鮮明に思い出せる。
 しかし同時に、かけがえのないものを手に入れるきっかけも奴から与えられている。茅場晶彦が生み出したSAOが無ければ、俺はアスナやユイと巡り会うことはできなかった。クライン、エギル、リズ、シリカ……他にもたくさんいたはずだ。
 忌むべき世界であって、同時に思い出が残る場所……それが、俺にとってのSAOという存在だった。
 …………もっとも、茅場に感謝しようなんて気持ちは微塵も湧かないが。


 そして、その茅場晶彦をDeleteしたのは……アスナだ。
 ざまあみろなんて気持ちは、今の俺には湧かない。それを上回る不安が俺の中で満ち溢れていた。
 結城明日奈。俺とは別世界に生きる令嬢であり、敬意を払うべき凄腕のプレイヤーでもある。そして何よりも、俺にとって一番大切な人だ。
 もしも彼女がいなかったら、今の俺はなかったと言ってもいい。アスナからは数えきれないほどの思い出を与えられて、そしてまた俺もたくさんの思い出を与えてきた。
 そのアスナが今、PKKの道を歩もうとしている。そんなの、見過ごせる筈がなかった。
 不意に、かつてクラディールをPKした時に味わった嫌な感触は思い出してしまう。あの時、失意のどん底に沈みそうになった俺を救ってくれたのは、アスナだった。
 そのアスナにPKの苦しみや絶望を背負わせたくなんかない。その後、仮にデスゲームから生還できたとしても…………その先の人生に救いなんてあるはずがなかった。



「…………なあ、キリト」

 そんな中、シンジが不安げな表情で声をかけてくる。

「アスナって言ったっけ? あいつ……ユウキが死んだって言ってたけど、嘘だよな?
 ユウキみたいな凄腕ゲーマーが負けるなんてありえないよな? もしかして、勘違い……だよな?」

 俺に縋りつくかのように、その言葉は紡がれた。
 シンジの気持ちは充分にわかる。俺だって、ユウキほどのプレイヤーが負けるなんてありえないと信じたい。だけど、アスナが嘘を言うような子ではないことは、俺が一番よく知っているつもりだ。
 だから、ユウキが死んでしまったのは……紛れもない真実だろう。

「シンジ……俺だって、ユウキが死んだなんて信じたくない。あいつの強さは俺だってよく知っている。俺だって追い詰められたくらいだ」
「そ、そうだろ! だったら……」
「でも、アスナは嘘を言う奴じゃない! だから…………ユウキが死んだのは、本当のこと……だと思う」

 口にするだけでも苦々しい気持ちが湧きあがる。だが、それでも誤魔化してはいけなかった。
 彼女の死に目に会えなかった俺が最期に何を想っていたかなんて、決して知る事はできない。だけど、下手な誤魔化しを望まないはずだった。

「お前、本気で言ってるのかよ……」

 しかしシンジは、当然のことながら納得した様子を見せない。それどころか、俺の言葉がきっかけとなって更に表情を歪ませた。
 その激情に俺は目を逸らしそうになるも、それを懸命に抑える。


123 : 決断の時 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/04(土) 07:27:34 YD.KELqY0

「何で、何でそんな簡単に諦めるんだよ!?
 あいつは凄いゲーマーだぞ! この僕が……この僕やお前よりもずっと凄いゲーマーなんだぞ! そんなユウキが死ぬなんて……あっていい訳がないだろ!
 僕はまだ、あいつに言いたいことが山ほどあった! ゲームだって、あいつに勝てるまで何度も挑んでやりたいと思ってたんだぞ!」
「シンジ……」
「お前……あいつの言うことを本気で信じてるのか!? あんな怪しいアイテムを使っている奴の言うことを簡単に信じて、ユウキが死んだなんてありえないことを信じるなんて……そんな薄情者なのかよ!?」

 薄情者……確かにその通りだろう。
 事実、俺はSAOで数えきれない程のプレイヤーが死んだ時だって、ただクリアの為にゲームを続けていた過去がある。始めは怯えていたが、そんな感情に惑わされていては今度は自分が死んでしまう……攻略を繰り返している内に、人間らしい感情が少しずつ消えていたかもしれない。
 それがわかった上で、俺は悲しむことを選ばなかった。

「なんでだよ……なんでお前は、あんなチートを使ってるような奴の言うことを信じられるんだ!?
 あいつは絶対にチートを使ってる! チートを使って勝つなんて雑魚のやることだ! そんなチーターなんか……ユウキだって認める訳ないだろ!」
「そんなの、俺だってわかってる!」
「わかってる? わかってるなら何で信じられるんだよ!」
「ユウキはアスナを認めたからだ! アスナとユウキは同じチームを組んでダンジョンを攻略して、そして最後に一騎打ちをしてお互いを称えあった!
 だから俺はアスナを信じてる! あのバグは…………俺だって、何でアスナがあんなのを使っているのかわからない! でも、アスナは理由も無しにあんなのに手を出すような奴じゃない!」

 俺は必死に否定した。
 客観的に見ればシンジの言い分が正しいだろう。今のアスナは悪質なシステムを使ったチーター……何も知らない奴が見たら、絶対にそう判断するはずだ。
 だけど、それでも否定せずにはいられなかった。ずっと前、アスナはユウキ達と共に28層をクリアして、その証……<<剣士の碑>>に名前を残したのだから。

「…………でも、今は使ってたじゃないか。あのチートを悪用して、ヒースクリフを殺しただろ? ヒースクリフだって、君やユウキと同じくらいに凄い奴だったのに負けた。
 そんなチートを使ってる奴を信じていいのかよ!?」
「俺だってわからない……アスナに何があったのかを今すぐにだって聞きたいくらいだ。でも、ここにいたってわかる訳がないだろ」
「まさか、本気であいつを止める気なのか? あいつはヤバい……あのバグは本気でヤバすぎる。お前だって、あのバグの怖さを知ってるんじゃないのか!? カオルもいないのにどうにかできるのかよ!?」
「ああ……わかってる。それでも俺はアスナを止めたい……このままアスナを放っておいたら、取り返しのつかないことになる。そんなの、俺は絶対に嫌だ!」

 今すぐにでも飛び出したい衝動を必死に抑えて、俺はシンジと向き合う。
 ユウキは誰かの振舞いを決して否定したりしない。もしもこのままアスナがPKKの道に歩んだとしても、それがアスナが望んだ運命だとするならば、受け止めるだろう。
 だけど、ユウキが心から復讐を望むとはどうしても思えなかった。ユウキみたいな気のいい奴が、自分自身の為に道を踏み外したりすることを願う訳がない。

『<<マザーズ・ロザリオ>>』

 かつてMMOで交わされたアスナとユウキの誓いが脳裏に蘇る。
 彼女達は互いに絆を繋ぎ、想いを交錯させて……その果てに、アスナはユウキから<<マザーズ・ロザリオ>>を継承した。

『きっと……アスナを……守って、くれる……』

 ユウキは死が近づきゆく中、最期までアスナの身を案じた。<<マザーズ・ロザリオ>>はアスナを守りたいと願ったユウキからの贈り物だ。
 そのアスナが今、自ら破滅の道を歩もうとしている。
 違う。そんなの絶対に違う。ユウキはそんなことの為に贈り物を渡す訳がない。ましてやPKKなんて、ユウキ自身の誇りすらも穢してしまう。
 <<スリーピング・ナイツ>>のメンバーだって、誰一人として望まないはずだ。



「…………たく、わかったよ」

 追憶の中から、俺を現実に引き戻すのはシンジの声だった。


124 : 決断の時 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/04(土) 07:32:10 YD.KELqY0
「ならさっさと行くぞ! あの馬鹿なチーターをとっちめて、それからライダーを取り戻しに行くぞ!」
「シンジ? お前、まさか……」
「どうせ止めようとしたって君は行くに決まってる。僕のターゲットをほったらかしにしてでも行く気だろ? なら、止めようとしたって意味ないじゃないか!」

 それに反論する為の言葉は出てこない。
 事実、俺はすぐにでもアスナを追いたいと思っていたし、辺り一面に毒の沼を出現させたプレイヤーのことだって頭から消え失せていた。

「別に君達のためじゃないからな! 君がこんな時にいなくなったら、誰が僕のタンクをやってくれるんだ? 他にこの僕についてこれるプレイヤーなんてここにいない。
 それとも、あのブルースやピンクって奴らを今すぐにでも連れてきてくれるのかい?」
「……いいや、無理だ。俺の代わりだって見つけられない。でも、俺はお前の……」
「あーあ! 見苦しい言い訳は聞きたくないな! このままじゃ、君をノウミと戦わせてもお荷物になるだろ?
 それだけじゃない! あのチーターはユウキの名誉を踏み躙ろうとしている…………僕はそれが一番ムカつくんだ。
 あいつはユウキの名前を使って好き放題やってるだけだ。ユウキの為とか言ってるけど、ユウキがチーターなんか認める訳がないだろ!」

 その言葉によって俺は目を見開いた。ユウキの誇りを守りたいと願っていたのは、シンジも同じ。
 考えてみれば、シンジもまたユウキのことを認めていた。詳しい経緯はこの目で見ていなかったが、彼女の真っ直ぐな姿勢はシンジに強い影響を与えていたのだろう。
 アスナをチーター呼ばわりされることは耐えられない、それを今のシンジに言っても無理だろう。今のままでも譲歩してもらっている上に、何よりもユウキが認めたアスナの姿をシンジは知らないのだから。

「決まったようだな。それなら、一刻も早く彼女を追いかけるぞ」

 そして、シンジの隣にいるアーチャーもそう進言した。

「確かにこのままここにいても埒が明かない。この毒の沼だって攻略する方法が我々の手にない以上、勝機はないだろう。
 仮に空を飛んで奴らの船に乗り込むとしても、奴らを前にしては蜂の巣になりに行くようなものだ……辿り着けないこともないが、それまでに消耗する可能性の方が高い。
 それに私としても、アスナに何かあってはユイやマスター達に顔向けはできない……確か、彼女がユイの母なのだろう?」
「そうだ。そういえばあんたはユイから俺達のことを聞いたんだったな」
「彼女からの伝聞でしか君達の事を知らない。だが、少なくとも今のアスナはユイが知るアスナとは別人だろう……違うか?」
「その通りだ! それに、アスナには悪いけど……今のアスナをユイに会わせることは、絶対にできない」

 アーチャーの真摯な瞳を前にそう答えるしかなかった。
 悲しむのはユイだけではない。エギル、リズ、シリカ、シノンが今のアスナを見たら、絶対にショックを受けるはずだった。そして、彼女を止める為に奔走するだろう。
 もしも、エギル達までもがこのデスゲームに参加させられていて、何も知らないままアスナと出会ってしまったら……取り返しの付かないことになる。

「……すまない。シンジ、アーチャー」
「謝る暇があったら、さっさと行くぞ! 言っておくけど、僕は君に足を引っ張られ続けた! この貸しは高くつくからな……タンクどころじゃない。ライダーを取り返すまで、いくらでもこき使ってやることを忘れるなよ!
 君だけじゃない! アスナって奴もだからな!」
「それなら、私の負担も軽くなるか……と、こんなことを口にしている場合ではないな、急ぐぞ、彼女の飛行速度から考えて、我々の手が届かない場所までたどり着くのは簡単だろう」
「ああ……よし、行こう!」

 その言葉を合図に俺達は走り出した。
 今の俺達に何ができるのかわからない。俺達の言葉だってアスナに届く可能性はほぼ0%に近い。
 だが、そんなことは関係なかった。今は俺の決めた"選択"を果たす為に、この道を走り続けるだけだった。


125 : 決断の時 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/04(土) 07:33:21 YD.KELqY0


    2◆◆


「…………まさかこの僕を無視してくれるとは。随分と舐められたものですね」

 毒の沼から遠ざかっている三人の姿を、ダスク・テイカーは冷やかに見下ろしていた。
 声色には侮蔑が混ざっていたが、視線には微かな怒りが込められている。奪われるだけな弱者の分際で、遭えて自分達を後回しにする……その事に、妙な苛立ちを覚えた。
 あのゲームチャンプ(笑)には再び屈辱を味わわせられたが、それもほんの一瞬に過ぎず、満足させるには程遠い。むしろ、すぐにそれを忘れられたかのように見えたことが腹立たしかった。
 だが、決して悪い知らせばかりでもない。

「それにしても彼女……ユウキ、とか言いましたっけ? この僕を見下しておきながら、まさか簡単に死んでしまうとは!」

 辛酸を舐めさせた少女……ユウキが死んだ。その知らせがテイカーにとって唯一の収穫だった。
 覚悟とかご立派なことを言っていたわりには、彼女も結局はただの弱者に過ぎないことが証明され、奴の編み出した<<マザーズ・ロザリオ>>もダスク・テイカーだけが誇る唯一無二のスキルとなった。
 本来なら、これで完全なる勝利を収めたはずだった…………


 ……それなのに、何故かこの心は晴れない。
 ユウキが死んだと聞かされて、ゲームチャンプ(笑)も酷く狼狽した姿を晒したのは滑稽だった。しかしそれもすぐに終わって、今はキリトやアーチャーと共に別のプレイヤーを追いかけ始めている。
 それが何よりも不可解だった。何故、奴は絶望したりしないのか。何故、奪われたはずの弱者が何度も立ち上がれるのか。それがあまりにも理解できない。

『確かにあなたの言う通り、『争奪』は世界の根本原理なのかもしれません。
 けどそれは、あくまでも根本なのであって、全てではないんです。人が自分が持つものを、『共有』することだってできるんですよ』

 不意に、あのカオルとか言う女が口にした、虫唾が走る言葉が蘇った。
 まさかあのゲームチャンプ(笑)も、『共有』だとか『絆』だとか…………そんな反吐が出る言葉を信じているのか。
 馬鹿げている。そんなの、何かのきっかけで崩れてしまうような脆い物だ。現に奴とコンビを組んでいたライダーだって、既にこの手に落ちている。だから、勝っているのはこちらのはずだ。
 テイカーは自らにそう言い聞かせるが…………

『だって私には、まだ生きていたいって思える理由があるから! まだ会いたいって思える人たちがいるんですからっ!!』
「……ッ!」

 胸の奥に宿る感情は一向に拭い取れず、それどころか逆に不快感が強くなる。感情任せに拳を叩き付けるが、何も変わらなかった。
 略奪者として多くの物を奪うと決意した。幼い頃から実の兄にあらゆる物を奪われ続けた……おもちゃも、お菓子も、金も、仲良くしてくれた女の子も……全てが力と暴力によって奪われ続けた地獄の日々を、忘れることなどできない。
 だから有田春雪からも全てのものを奪おうと決め、この世界でも奪い続けるつもりだったが……この心は一向に満たされない。何故、ここまで圧倒的な戦力差を見せ付けて、そしてアスナという女に絶望を突きつけられても……奴らは倒れないのか?
 それが何よりも不可解で、不愉快だった。
 カオルという女はどうなったのかわからない。生きているかもしれないし、もしかしたら無様に殺されているかもしれない。
 だが、あの女だけは絶対にこの手で殺さなければならなかった。惨めに、無様に、生きていたことを後悔するほどに苦しめて……そして殺す。そうしなければ気がすまない。

「で、どうするんだいノウミ? あいつら、あのアスナって女を追っかけて行っちまったみたいだけど」

 怒りの炎が燃え盛る中、ライダーが声をかけてくる。

「言われなくてもわかっていますよ」
「そうかい? ただ、あいつらを狙うんだったらさっさと行かないとまずいよ。結構、足速いようだよ?」
「ええ…………少々、お待ちください」

 ライダーに顔を向けることはせず、テイカーはウインドウを展開する。
 そこに表示されているHPは、既に40%を超えている。あまり無理はできないが、不意打ちをする程度なら充分な量だ。


126 : 決断の時 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/04(土) 07:35:07 YD.KELqY0
「あのアスナと言うプレイヤーが発動させたスキル……」
「あれがどうかしたのかい?」
「ええ、ちょっと見覚えがあるのですよ。僕の記憶が正しければ……あの狂人と同じ性質を持つはず」

 テイカーは今、キリト達だけではなくアスナが発動させたスキルにも関心を向けていた。
 辺り一帯を書き換えてしまう程の規模を持つ謎のスキル。あれは、ゲーム開始当初に出会った狂人が使ったスキルとよく似ていた。唯一異なるのは巨大なエネミーがいないことだけだったが、そこは大した問題ではない。
 あの効果は凄まじいものだった。アーチャーのあらゆる攻撃を無力化する防御力と、ヒースクリフを一方的に惨殺した攻撃力を発揮している。あれを奪えれば、こちらにとって大きな力になるはずだった。
 一時はアスナの矛先がこちらに向くかと危惧したが、奴らが仲間割れをしていたおかげでそれは避けられた。それに、HPが回復する時間も稼げている。

「ライダー、彼らを追いかけますよ」
「へぇ? それは構わないけど、あのお嬢ちゃん……随分とヤバそうだったけど、どうするんだい?」
「恐らく彼らは仲間割れを続けるでしょう。アスナ……あのプレイヤーはどう考えても正気ではない。そんな相手を追いかけるのも、普通なら正気の沙汰ではないでしょう
 ですが僕は彼らとまともにぶつかる気などありません。彼らが衝突し、そして消耗して隙を見せた所を狙う……たったこれだけですよ」
「なるほど、漁夫の利を狙うのかい。まあ、そいつが一番無難だろうね!」

 キリト達の純粋な技量とアスナのスキルは驚異的だが、それらは決して永続的ではない。このようなデスゲームならば、公平性を保つ為に何かしらの制限が設けられているはず。
 そこを狙えば全てを奪えるはずだ。スキルや補助は当然のこと、もしかしたらアーチャーだって奪い取れるかもしれない。
 特にアーチャーを奪えば、カオルを殺す為に大きな力となるはずだ。仲間と信じていた者から裏切られ、恐怖と絶望に染まった顔を晒しながら殺される……想像するだけで気分が高揚する。
 その為にも、彼らを追わなければならなかった。

「ではライダー……その為に、船から降りましょう。確かにこれを使えば早いですが、わざわざ見つかりに行くなど論外です」
「了解……じゃあ、行こうかい」

 艦隊から降りたテイカーは地上を走る。巨大な艦隊に乗ったままでは不意打ちなどできる訳がない。襲撃の前に余計な消耗は避けるべきだ。
 それだけではなく、追いつくまでにある程度の時間を置いた方がHPもより回復する。そうすればこちらの安全性はより保証されるだろう。
 自分には向かう者達と、彼らの大切な人間の力を奪う……それがダスク・テイカーの選んだ"選択"だった。


[D-6/ファンタジーエリア/1日目・日中]


【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP80%、MP40/50(=95%)、疲労(極大)、SAOアバター 、幸運上昇
[装備]: {虚空ノ幻、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、 青薔薇の剣?@ソードアート・オンライン
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1個(水系武器なし)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:絶対に生き残る。デスゲームには乗らない。
0:アスナを追い、その“選択”を止める。そしてサチも救う。
1:サチやユイ、それにみんなの為にも頑張りたい。
2:レンさんやクロウのことを、残された人達に伝える。
3:オーヴァンと再会し、そして――
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。


127 : 決断の時 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/04(土) 07:36:25 YD.KELqY0
【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP40%、MP20%(+40)、ユウキに対するゲーマーとしての憧れは未だ強い、ユウキとヒースクリフの死に対する動揺、令呪一画
[装備]:開運の鍵@Fate/EXTRA
[アイテム]:強化スパイク@Fate/EXTRA、リカバリー30(一定時間使用不能)@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:ライダーを取り戻し、ゲームチャンプの意地を見せつける。それから先はその後考える。
0:今はキリトと一緒にアスナを追いかけて、ユウキの誇りを守る。
1:その後にノウミ(ダスク・テイカー)も探す。
2:ユウキが死んだなんて信じたくない。
3:ライダーを取り戻した後は、岸波白野にアーチャーを返す。
4:サチって子もついでに探す。
5:いつかキリトも倒してみせる。
6:ヒースクリフは……
[サーヴァント]:アーチャー(無銘)
[ステータス]:HP70%、MP15%
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。
※ユウキの死を受け止められていません。



【ダスク・テイカー@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP40%(回復中)、MP15%、Sゲージ5%、幸運低下(大)、胴体に貫通した穴、令呪三画
[装備]:パイル・ドライバー@アクセル・ワールド、福音のオルゴール@Fate/EXTRA
[アイテム]:デスマッチ3@ロックマンエグゼ3、不明支給品0〜1、基本支給品一式
[思考]
基本:他の参加者を殺す。
0:今はキリト達を追いかけて、仲間割れの隙を狙ってスキルを奪う。
1:シンジ、カオルに復讐する。特にカオルは惨たらしく殺す。
2:上記の三人に復讐できるスキルを奪う。
[サーヴァント]:ライダー(フランシス・ドレイク)
[ステータス]:HP30%、MP30%
[備考]
※参戦時期はポイント全損する直前です。
※サーヴァントを奪いました。現界の為の魔力はデュエルアバターの必殺技ゲージで代用できます。
 ただし礼装のMPがある間はそちらが優先して消費されます
※OSS《マザーズ・ロザリオ》を奪いました。使用には刺突が可能な武器を装備している必要があります。
 注)《虚無の波動》による剣では、システム的には装備されていないものであるため使用できません。


128 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/04(土) 07:38:31 YD.KELqY0
投下終了です。


129 : 名無しさん :2015/07/04(土) 23:39:42 Pkl5RWEU0
投下乙でした

アスナを追いかけるキリトと慎二
雌伏するテイカー
最後に笑うのは誰か…

以下、気になった点です
>>122
「嫌な感触は」→「嫌な感触を」


130 : 名無しさん :2015/07/05(日) 08:00:11 iBlCR2YQ0
やはりアスナを救う決意をしましたか
しかしファンタジーエリアには続々と人が集まってるから
展開しだいでは更なる悲劇が起こりそうですね
投下乙でした


131 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/05(日) 18:30:54 w78fN5B20
ご指摘及び感想感謝いたします。
指摘された点及び、テイカーのAIDAに関する思考の部分などを収録の際に修正させて頂きます。


132 : 名無しさん :2015/07/06(月) 03:13:12 bbLs8QoA0
投下乙です!
なんかもうキリトと慎二のバディ物に見えてきた(錯乱)
割といいコンビながらアスナや能美くんやら前途多難、どうなる


133 : 名無しさん :2015/07/15(水) 07:36:39 L3ht10I60
月報なので集計
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
103話(+ 4) 29/55 (- 3) 52.7(- 5.5)


134 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:23:16 qWQqdkqU0
これより投下します。


135 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:26:53 qWQqdkqU0


    1◆


 二度目の定時メールは唐突に送り込まれた。
 開いてみると、やはりそこには目にするだけで胸糞が悪くなる文章が書かれていた。
 死者のことを【脱落者】などと表記していて、追悼の想いが全く感じられない。前回のメールの時から思っていたが、やはり奴らは人間を食い物にする機械どもと同じだった。
 これまで人間の死は何度も見てきたので、モーフィアスは大きく動揺しない。そういう世界に身を投じるならば、冷淡になることもまた生き残る為に必要だ。
 トリニティが死んだと聞いた時だって、そうして乗り越えたのだから。


 だからこそ、一刻も早くこの空間の謎を暴き、脱出をしなければならない。
 既にタイムリミットは半分を過ぎている。榊の言葉が正しければ、自分達に残された時間は12時間だ。
 いや、こんな悪質な戦いを強制させる連中が真実を言うとも限らない。もしかしたら、更に短い恐れもある……それを考えるなら、尚更迅速な行動が必要とされるが、焦れば逆に自滅してしまう。
 今はこのネットスラム内でどう行動するかが重要となるが、それよりも気にかけなければいけないのは仲間達の状態だ。

「……エンデュランス」

 揺光の声は震えている。
 やはり彼女は苦々しい表情を浮かべていた。こんなメールが送り込まれた後ならば仕方がないかもしれない。
 彼女は戦場の空気に慣れていないのだから、人の死を割り切れというのが酷な話だ。

「揺光……」
「……正直、気に入らない奴だったわ。チートを使ってチャンピオンになって、いい気になって、ズルしてちやほやされる……
 でも、今は違うはずだった」
「今は?」
「変な奴だけど、少なくともあいつの力を必要とする奴はいたわ。それに、あいつのことを慕ってる人だってたくさんいた。
 過程はズルかったけど、それでもあいつは多くの人から認められてた……これだけは確かよ。
 ボルドーって奴も気に入らないし、弱い相手をいたぶっていい気になってた。でも、少なくとも死んでいい奴じゃなかったはず……
 それに、あいつらだけじゃない。アトリ…………」

 新たに二つの名前を口にしたことで、揺光の表情が更に暗くなっていく。

「彼女達は、私にとって大切な仲間……それに、ハセヲにとってはもっと大切な人達だったわ」
「ハセヲ……確か、榊から『死の恐怖』と呼ばれていたプレイヤーだったな」
「それって……もしかしてハセヲもここにいるの?」
「確か、榊がその名を口にしていたはずだ。もしかして、気付いていないのか?」
「ごめん。あの時は色々と動揺していたから、あいつの話をちゃんと聞けなかったかも……」

 ふむ、とモーフィアスは頷く。
 何の前触れもなく奇妙な所に放り込まれた上に、こんな殺し合いを強制されては誰だって驚愕する。
 それに、些細なミスをいちいち言及しても仕方がない。責める事よりも、カバーすることこそが重要だ。

「そうか……ハセヲとは一体、どんな奴なんだ?」
「……一つ言っておくけど、今のあいつは榊が言うような酷い奴じゃないわ。そりゃ、昔は気に入らなかったけど…………今は頼れる仲間よ。自分から物騒なことなんてもうしないはず。
 でも、もしもみんながいなくなったら……」

 彼女は目を背ける。先程までの男勝りな雰囲気は微塵も見られず、年相応の儚さが感じられた。
 尤も、自分が信じる人間が三人も死んだと聞かされたら、落ち込んで当然だ。加えて、遺された仲間達のことを考えると、平静ではいられなくなる。
 どうすれば今の揺光を励ませるのか……それがモーフィアスには思い付かなかった。中途半端な慰めなど意味がないし、間違えた激励を口にしては反感を受ける。

「……揺光ちゃん」

 モーフィアスが悩む中、揺光の前に出てきたのはロックマンだった。


136 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:29:24 qWQqdkqU0
「……エンデュランスは気に入らなかったけど、ファンを得る為の努力はしてきたわ。だからこそ、アリーナのチャンピオンとして君臨できた。もしもあいつがいなくなったら…………たくさんのプレイヤーが悲しむはずよ。
 それにアトリだって『The World』の平和の為にPK撲滅運動に努めてきた。彼女がいなくなったら……ハセヲだけじゃなくて、カナード……ハセヲがいるギルドのみんなだって悲しむはずよ。
 でも……アタシは悲しまない。悲しんでいる場合じゃないの」
「どうして? 無理をする必要なんてないんだよ」
「ここでウジウジしたって、みんなは帰ってこないわ。それに、みんなは私が悲しんだりすることを望むなんて思わない
 クラインだってきっとそうだったはずよ。アタシは、この世界から絶対に脱出して…………みんなに伝える。
 この世界でいなくなった人達のことを伝えるまで、アタシは負けないわ」
「…………じゃあ、僕も手伝うよ。僕も揺光ちゃんと一緒に、アトリさんやエンデュランスさんやボルドーさんのことを……帰りを待っている人達に伝える。
 僕だって、ロールちゃんのことを熱斗君やメイルちゃん達に伝えなきゃいけないから」

 彼の表情は曇っていながらも、その視線からは情熱が感じられる。まるでネブカドネザル号のクルー達を見ているようだった。
 ロールとは、一度目のメールでトリニティと共に書かれていた名前だ。恐らく、ロックマンにとっては大切な存在だったのだろう……例えるなら、ネオとトリニティのように。
 彼女を失ってから数時間しか経過していない、しかしこの決断をしたロックマンを冷酷とは責めない。むしろ、その強さは称賛に値するものだ。

「そっか……ありがとう、ロックマン」
「どういたしまして」
「じゃあ、アタシもロックマンと一緒にそのロールって子のことを伝えるわ。アタシだけがやって貰うなんて、不公平だもん。
 でもロックマン。そこまで言ったからには、絶対に一緒に帰るわよ……途中で倒れたりなんかしたら、許さないからね!」
「それは僕の台詞だよ、揺光ちゃん!」

 ロックマンと揺光は互いに力強い笑みを向けた。もしかしたらそれは空元気かもしれないが、前に進もうとする強い決意は感じられる。
 見た所、彼らは年がそれなりに離れていないように見える。だからこそ、互いに共感し合えるのかもしれない。彼らがいてくれてよかったと、モーフィアスは思う。
 もしもどちらか一人だけだったら、モーフィアスだけでは支えきれないはずだから。

「これからどうするの? このエリアのクエストはまだ続いているだろうし、あのパーティだっているはずよ」
「ああ……その事に関してだが、俺は決めた。あの黒いナビ達と一刻も早い接触を試みるつもりだ」

 揺光の問いかけにモーフィアスはそう答える。

「あのグループは恐らくこのゲームには乗っていない……だからこそ、俺達の誤解を解く必要がある。
 ワード集めとゲートの警戒も必要だろう……だが、それ以上に厄介なのがラニ達の存在だ。こうしている間に、もしも奴らが黒いナビ達と接触して俺達の悪評を伝えたとしたら……敵は更に増える。
 そうなっては、俺達は一気に不利になるはずだ。ワードだって武力で奪われるに決まっている」
「なるほど……確かにその通りね」
「それに、ラニって人達が僕達をデリートしたら……その後に黒いネットナビ達にも襲いかかるかもしれない」
「そうだロックマン。俺達が今やるべきことは、少しでも敵に戦力を与えないことだ。クエストはその後でも遅くない」

 揺光もロックマンもこの提案に異論はないようだった。
 現在の脅威はラニ達であることは、ここにいる三人が認知している。彼女達の策略で敵を増やされて、それが原因でこちらが不利になることだけは避けなければいけなかった。

「よし、それでは共に彼らを捜索するぞ。奴らに全てを奪われる前にな」



    2◆◆



 ―――そして同じ頃、ラニ=VIIIもまたツインズと共に、ネットスラムを捜索していた。
 目的はこのネットスラムに現れた第三勢力―――ブラック・ローズ、ブラック・ロータス、アーチャー―――と、モーフィアス達との接触を阻止する事だ。


137 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:30:19 qWQqdkqU0

「Mr.モーフィアスの徒党《パーティ》は、高い確率で三番目のパーティとの協定を結ぶでしょう。何故なら、それこそがこの場で勝利するにおいて最も確実な選択なのですから」

 ラニの意見にツインズは頷く。それは肯定とも否定とも取れない様子だが、構わずに続けた。

「私達が三番目のパーティにMr.モーフィアスの誤解を与えました。しかし、彼女らにとっては私達も敵なのだから、そんな相手の言葉など信用するに値しないでしょう。
 そうなっては、この誤解もすぐに溶けたとしてもおかしくありません。そんな状態の中で二つのパーティに接触などされたら、確実に同盟を結ばれてしまいます……
 だからといって、私達が先回りをして三番目のパーティに接触しても、同盟を結べる確率は期待できません。
 あのサーヴァントは私の存在を知っているでしょうし、何よりもMr.ツインズ……貴方は、あのグループと敵対しましたね?」

 ツインズは相変わらず無言のままだが、反論などはしない。やはり正解と見て間違いないだろう。
 緑衣のサーヴァント・アーチャーはツインズを見た途端、警戒するように構えていた。詳しい事情はわからないが、何か一悶着があったと考えて間違いない。そんな相手と同盟を組むなど、向こうからすれば容認しがたいはず。
 アーチャーの存在が同盟における最大の障害だが、それだけを除去することは不可能に近い。ならば、モーフィアス達と結託される前に撃破しなければならなかった。
 とはいえ、真正面からぶつかっても無駄な消耗をするだけ。ここは一時的にでも同盟を組むふりをして、それから不意打ちを仕掛けなければならなかった。

「ネットスラムから逃走する選択もありますが、そうしたら自分からクエストを放棄したとGM側に認識されてしまうでしょう。
 最悪の場合、私達が獲得したnoitnetni.cyl及びワードが強制的に没収されて、彼らの手に渡ってしまうかもしれません……そうなっては、私達の生存率は一気に下がります」

 ネットスラムから逃走して、一旦体勢を立て直すプランもある。
 他のプレイヤーにモーフィアス達の悪評を広めて、自分達と同盟を組んで貰うプレイヤーを見つける……だが、これは期待できない。戦略としては20点にも届かなかった。
 まず、そんなプレイヤーと都合よく会える確立からして、極めて低い。この広大なるフィールドには多くのプレイヤーが、何の法則性も無しに榊によって解き放たれている。ゲームスタートから12時間、既に彼らは様々なエリアに移動しているだろう。
 そんな中でこのネットスラムに近づくプレイヤーがどれだけいるのか? また、仮にいたとしても非戦的なスタンスでいるとも限らない。もしもPKならば、否応なしに戦闘を強いられてしまう。
 不確定が揃う状況の中、余計な消耗だけは絶対に避けなければならない。故にこのネットスラムに留まり続ける必要がある。

「だからこそ、私のバーサーカーとMr.ツインズの存在が不可欠となります」

 ラニは一旦足を止めて、ウインドウを展開させる。
 怪訝そうに首を傾げるツインズを前に操作しながら、二つのアイテムを取り出した。それはラニにとって使い道のない疾風刀・斬子姫と、未だに用途のわからないセグメントだった。

「Mr.ツインズ。私は貴方の能力を信用して、貴方にこれらを託します。
 こちらの武器は私では扱い切れません。なので、白兵戦を得意とする貴方が持つべきでしょう。そしてもう一つは……恐らく、noitnetni.cylやワードと同じように、複数揃えることで効果を発揮するアイテムかと思われます。
 いずれ、必要とする時が来るかもしれません。それに私に何かあったときの為にも、貴方にも重要アイテムを持って頂きたいのです」

 セグメント(segment)……断片、部分、分割などの意味を持つ名が与えられたアイテムが、いかなる効果を持っているのか……それをこの場で知ることはできない。
 しかし、こんな単品では何の効果もないアイテムを、わざわざデスゲームに放り込む必要性はない。故に、いくつか集めると何かが起きるはずだった。
 本来ならばセグメントこそラニが持っているべきだが、今はここにいるツインズの信頼を少しでも獲得することが優先だろう。この二つはその手段だ。
 受け取った後にツインズが裏切る可能性は低い。何故なら、ここでラニを始末したとして他のアイテム及びポイントを獲得したとしても、その後に待っているのはツインズ単体の戦闘だ。どれだけ道具が揃っていても、それだけで6人ものプレイヤーを撃破できる確率は低い。
 ツインズとて、それがわからないような愚か者ではないはず。


138 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:32:38 qWQqdkqU0

「Yes」

 そして案の定、ツインズは二つのアイテムを受け取り……それらを自らのアイテムフォルダに移した。攻撃を仕掛けてくる様子は感じられない。
 ラニは再び歩みを進める。時間にすれば一分も経たなかったが、今は一秒でも惜しい。遅れは取り戻さなければならなかった。


 つい先程、届けられたメールはラニにとってそこまで関心を与える内容ではなかった。
 イベントは気になるが、ネットスラムのクエストと違って堂々と公表されている。故に、ゲームの根幹に関わる秘密は隠されていないだろう。
 詳細の書かれていない野球ゲームには可能性があるかもしれないが、それでも期待はできない。他のイベントも率先して攻略するほどではないはず。
 強いてメリットを挙げるとするなら、他プレイヤーとの戦闘で有利になれるアイテムが手に入るくらいだ。


 そしてこの六時間で新たに十名のプレイヤーが脱落している。全体の総数から考えて、そろそろ半分を切ろうとしている。
 生き残ったプレイヤー達は更に警戒を強めるだろう。更に能動的にPKを仕掛けるプレイヤーがいれば、徒党を組んで本格的な攻略を進めるプレイヤーが出てくるはず。だとしたら、尚更積極的な行動が求められる。少しの遅れが致命的なミスに繋がりかねなかった。
 一方で、脱落者の中にダン・ブラックモアとランルーくんが書かれていても、ラニはさして気にしていない。かつて脱落したはずの者達が再び敗れ去った……その程度の認識しかなかった。

(白野さん……貴方/貴女はまだ生き残っているのですね)

 だけど、岸波白野の名前が書かれなかったことだけが気がかりだった。これが意味することは、彼がまだこのバトルロワイアルで生き残っている。つまり、彼とまた巡り会う機会はまだ残っていた。
 …………しかし、そこからどうするべきなのかがまだ決まらない。仮に白野と出会ったとしても、また手を取り合える保証は微塵もなかった。
 榊の言葉が正しければ、VRバトルロワイアルから生還できるのはたった一人だけ。いずれ、白野とも戦わなければいけない。
 

 だが、白野が榊の言葉に従って能動的に他者を襲うかどうかも疑問だった。
 彼は数多のマスター及びサーヴァントを打ち破り、その果てにトワイスと言う壁も乗り越えて……月の聖杯戦争を勝ち残る程の強者だ。しかし白野自身は他者を犠牲にすることを望む人間ではない。平穏な世界では真っ当かもしれないが、戦場では生き残れるような人種ではなかった。
 それでも岸波白野は罪を背負い、戦い続けた。そして敵であったはずのラニ=Ⅷですらも、白野によって救われている。
 そんな白野を倒す…………だが、師の教え通りに聖杯を獲得するには、これもやむを得ないのだろうか。

(白野さん……あなたはどこにいて、そしてこのバトルロワイアルに何を思っていますか。あなたは私を打ち破ることを望んでいるのでしょうか)

 考えてもどうにもならないことがわかっているのに、ラニは疑問を抱いてしまう。
 人間らしさを教えてくれた白野が相手だから……それこそがラニ自身の感情(なかみ)だ。白野に会えば、求めている感情(なかみ)を見つけられるだろうか…………


「……Hey」

 …………と、ラニの思案を遮るようにツインズの声が響く。

「あれは、先程接触したグループ……」

 顔を上げた先にいるのは、ラニ達が探し求めていた第三勢力だった。
 周囲を見渡すが、モーフィアス達の姿は見られない。つまり、先回りに成功したのは自分達だ。
 距離は数メートル。それほど遠くはないが、不意打ちを仕掛けるには難しい。彼らを前に足音を鳴らしては気付かれてしまう。

「Mr.ツインズ。貴方は隠れてください」

 その意味を察したのか、ツインズは頷きながら後退する。
 隙を見計らって、合図をする。そうして戦闘に突入するしかなかった。
 それを見届けたラニもまたゆっくりと歩みを進めるが、同時に緑衣のアーチャーがこちらに振り向き、目が合ってしまった。


139 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:33:18 qWQqdkqU0



    3◆◆◆


「カイト……ミア……嘘でしょ?」

 ブラックローズ/速水晶良は震えていた。
 ネットスラムで行われているクエストの攻略の最中に一通のメールが届けられた。そこには、あろうことか……カイトとミアの名前が書かれていた。
 それはつまり、二人が【脱落者】となってしまったことになる。このバトルロワイアルにおける【脱落】は『The World』における未帰還者どころの話じゃない。現実で、本当の意味で【死】を迎えてしまった……カイトという人間がもうこの世にいない。
 そう認識した瞬間、何かが砕け散るのをブラックローズは感じた。

「何で、二人の名前が書いてあるのよ……何で、何でなのよ!?」

 胸の奥から湧き上がる感情を吐き出すが、疑問が解かれることはない。
 ミア。エルクと共に行動し、様々な冒険を乗り越えてきた猫の獣人を元にしたNPCだ。クビアの影響で第六相「誘惑の恋人(マハ)」に覚醒してしまい、一度はカイトの腕輪によってその命を散らせてしまうが、アウラと共に新しい命を得たはずだった。
 それなのに、こんなバトルロワイアルに巻き込まれて、また命を散らせてしまう…………これでは、エルクは悲しみに沈むはずだった。
 ミアがNPCだとしても関係ない。エルクはそれを知った上でミアと真っ直ぐに向き合い、かけがえのない存在と思ってきたのだから。

「カイト……何で、あんたがいなくなるのよ。あんたは『The World』を救った勇者なんでしょ? みんなの憧れなのよ…………
 あんたがいなくなったら、悲しむ人がたくさんいるのがわからないの!? ミストラルも、オルカも、エルクも、ニュークも、レイチェルも……たくさんの人が悲しむのよ!?
 それがわからないあんたじゃないでしょ!?」

 カイトは未帰還者となった親友オルカ/ヤスヒコを救う為、女神AURAから授けられた腕輪を用いて『The World』で幾度となく戦った。彼がいたからこそ、未帰還者となった晶良の弟・カズだってリアルに戻ることができた。
 だけど、そのカイトがいなくなったら……今度はオルカ/ヤスヒコを始めとした多くの人が悲しんでしまう。ミストラルだってリアルで子どもが生まれて、幸せを感じているはずなのに…………こんなことが、あっていい訳がない。
 それに一度目のメールにはバルムンクとワイズマンの名前が書かれていた。これでは、仮にこの仮想空間から脱出しても、リアルではもう戻ってこない仲間達が四人もいる。
 彼らのことを、遺された者達に伝えなければいけなかった。


 脳裏にカイトとの思い出が過ぎっていく。
 カズを救わなければならない焦りと合わさって、頼りない奴にしか見えないカイトにイライラしていた頃があった。しかし何度も共に冒険して、絆を深めあい、いつしか彼には特別な感情が芽生えるようになった。
 そんなカイトがもういない。ネットでもリアルでも、カイトにはもう二度と会えなかった。
 ふと、思う。カイトと共に『The World』で攻略し続けたけど、一体カイトのことをどれだけ知っていたのだろう……と。
 確かにカイトは素晴らしい相棒だ。しかしそれはネットの世界での話で、リアルではどうだったか? リアルでは顔も本名も知らない相手だから、これから葬式が開かれたとしても……オルカに頼る以外に方法がない。
 だけど、もしもカイトの家族がそれを拒んだら……カイトと会えなかったら、あたしは一体どうすればいいのか? この気持ちを抱えたまま、あたしの預かり知らぬ所で永遠にカイトと別れなければいけないのか?

「……大丈夫か?」

 困惑と絶望が渦巻く中、声をかけてきたのは緑衣のアーチャーだ。
 振り向くと、彼はどこか申し訳なさそうな表情を浮かべている。それを見て、ブラックローズは思い出した。
 大切な人を失ったのは自分だけではない。彼だって、数時間前にかけがえのないパートナー……ダン・ブラックモア卿を失ったばかりなのだから。

「あ……その、すまねえ。
 空気読めないってレベルじゃないのはわかってる。こういう時、なんて言えばいいのか俺には全くわからねえ。
 元気出せなんて言わねえ。だけどよ、俺はアンタらが落ち込んでいるのを見たくねえ…………これだけは本当だ。ダンナだって同じだと思うぜ?」

 それはアーチャーなりの励ましなのだろう。皮肉屋で、そして不器用な彼なりに自分達を励ましてくれているのだ。
 本当は彼だって悲しいはずなのに、自分達を想ってくれているのだ。死に目に遭えなかったのに、それでもダン卿の遺志を継いで自分達の力になろうと動いている。
 ……そんなアーチャーの姿に、ブラックローズは胸を痛めた。


140 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:33:57 qWQqdkqU0

「…………悪い、こんなことしか言えなくて」
「……あたしの方こそ、ごめん。あんたの気持ちを……考えなくて」
「俺は戦場に身を置いていたから、ダンナと別れる覚悟はいつでも決めてたつもりだ。
 けどよ、あんたらはそうじゃない。詳しいことはわからないが、あんたらが生きてたのはそういう世界じゃないだろ? まあ、あんたらの場合は違うかもしれねえけど……それでも、普段は別だったはずだ」

 不器用な励ましを責める気になれない。
 アーチャーが言うように『The World』とは、例の事件さえなければ人と人とが繋がり合うネットゲームだったはずだ。未帰還者達も最終的には元の生活を取り戻している。それにあの頃も、少なくともカズ達を目覚めさせられるという希望だけはあったはずだ。
 だけど今は微かな希望すらない。遺されたのは死別という絶望だけだ。

「…………それでも、私達は歩みを止めてはいけない」

 掠れるような声が聞こえてくる。それは、黒雪姫/ブラック・ロータスのものだった。

「私達はダン卿に言ってくれた。歩みを止めなければ、きっと、何かを掴めると」
「黒雪姫……?」
「だから私は進む。ここで止まっては、私のことを信じてくれたダン卿…………そして、ハルユキ君への裏切りになるからだ」

 表情が変わる気配を見せない。しかしその声は余りにも辛そうで、そして何かを押し殺したかのようにも聞こえた。
 それを聞いて、ブラックローズは察する。このメールには彼女にとって大切な人の名前が、書かれてしまったことを……

「ねえ、あんた……まさか…………!」
「ああ。私も、カイト君やミア君と同じように書かれていた……ハルユキ君。いや、シルバー・クロウの名前が…………」

 その名を口にする彼女の身体は震えていて、まるで痛みを堪えているように見える。瞳からは今にも涙が流れそうだ。
 それなのに感情を抑えようとするブラック・ロータスの姿が、ブラックローズには理解できなかった。

「……だからこそ、私は挫ける訳にはいかない。私が挫ける事を彼が望むとは到底思えないからな」
「どうしてよ、何で…………そんなことが言えるのよ?」
「言ったはずだ。ダン卿やハルユキ君の想いを無碍にしない為にも、私は止まってはいけないと……あの方は最期まで私達の身を案じてくれた。そんなダン卿の遺志を継ぐのであれば、私は…………」
「ちょい待った」

 辛い気持ちを抑えながら紡がれる言葉を遮るように、アーチャーが前に出る。

「……どうかしたのか?」
「なあ、姫様。あんた、それがダンナの為になるって本気で思っているのか?」
「何を言っている。私はダン卿の……」
「あんたがダンナの最期を見届けたことは知ってる。ダンナの遺言を聞いて、それを俺に伝えてくれたことには感謝してるぜ。
 俺はダンナじゃないし、ダンナの最期を看取ってやれなかった……だからダンナが遺した言葉の意味を、完全に知ることはできねえ…………
 けどよ、それって本当に遺志を継いでることになるのか?」

 真摯な表情と共に向けられるアーチャーの問いに、ブラック・ロータスは答えを返さない。いや、返せないのか。
 彼女が抱いている感情は、奮起ではなくただのごまかしにすぎないのだから。

「……ワシがお前さんがたに何があったのかは知らんし、深く掘り返す気もない。
 じゃが、そこの兄さんの言う通りじゃ。娘さんよ、お前さんは履き違えておらんか?」

 次に問いかけてきたのはタルタルガだった。


141 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:35:23 qWQqdkqU0

「な、何を言っているのだ! 私は……!」
「道半ばで散った者の遺志を継ぐことは確かに立派な心がけじゃ。だが悲しいことに、それは時に勘違いされて……挙句の果てには受け継ぐ者を縛り付ける呪いにもなるのじゃ」
「……ご老体。貴方が私の為に忠告して頂いているのは充分に承知だ。悪意がないことだって理解している。
 だが、彼らの想いをそういう風に言うのはやめて頂きたい!」
「そうじゃったな……すまなかった」

 タルタルガは深い溜息を吐いてしまう。
 だけど、彼の言うこともわからなくはない。極端なことを言ってしまえば、今のブラック・ロータスは勘違いしている。
 このまま放っておくと、シルバー・クロウというプレイヤーの無念を晴らそうとする余りに無茶をしてしまう恐れがあった。しかし、どうすればそれを止められるのか……ブラックローズには思い浮かばない。
 細かい心のケアなど、リアルではただの女子高生に過ぎない晶良には無理な話だ。下手な同情など役には立たない。
 ブラックローズは途方に暮れそうになった。

「爺さんの言うとおりだ……と言いたい所だが、どうやらお客さんが来たみたいだな。たく、こんな時によ……」

 そんな時だった。アーチャーが表情を顰めながら呟いたのは。
 彼はこちらを見ていない。その視線はここではないどこかに向けられているようだった。

「爺さん、あちらさんはあんまりいい奴じゃなさそうだから離れた方がいいぜ」
「ワシらの心配はいらんが……そうさせて貰おう」

 アーチャーの進言通りにタルタルガは去る。
 心配はいらない、の意味がよくわからないけど今はどうだっていい。

「アーチャー……一体、何なの?」
「そこのあんた。隠れてるつもりかもしれねえけど、俺の目は節穴じゃねえぞ?
 さっさと出てきてくれ。じゃなきゃ、俺はあんたを撃つ」

 高圧的で、それでいて明確な敵意が込められていた。今のアーチャーに遠慮は感じられない。
 すると、彼が言うように建物の陰から褐色肌の少女が姿を現した。それは、壮年の黒人男性に襲われていたあの少女だった。

「……やっぱりあんただったか」
「失礼。状況が状況なので、貴女達と接触する前に周りの状況を見計らっていたのです……他に悪質なプレイヤーが潜んでいる可能性も、充分に残っていますから」
「まあ、それは確かにあり得るな……例えば、あの白い奴らとか?」

 アーチャーの言葉はまるで鎌をかけるようにも聞こえてしまう。しかし一方の少女は表情を微塵も動かさない。

「白い奴ら……それは、先程あのグループと交戦していたプレイヤーのことでしょうか?」
「そうだ。あいつらは一体、どこに行ったんだろうねぇ……まだこの近くにはいそうだけどな。例えば、あんたのすぐ後ろとか?」

 アーチャーはずけずけと問い出さそうとするが、やはり少女は何も答えない。
 それに見かねて、ブラックローズは前に出る。

「ちょっとアーチャー! いきなり何を言っているのよ」
「悪いな、俺はこいつを完全には信用しきれねえ。元の世界じゃ敵同士だった相手の話を聞いてやれるほど、俺はお人好しじゃないからな」
「その言い分は理に叶っています。私はあなた方との同盟を望みますが、短時間で信用を得られるとは思っていません……私から歩み寄らなければ」
「ほう? 知らない間に随分と歩み寄るようになったじゃねえか。何、改善傾向にありますってか?」
「そう受け取って貰っても構いません。私は無駄を好みません……故に、不要な争いはゲームからの脱出に遠ざかるだけです。
 そしてそこのお二方……私はラニ=Ⅷ。以後、お見知りおきを」

 淡々と言葉を紡ぎながら、ラニ=Ⅷと名乗った少女はお辞儀をする。
 その様子にブラックローズは面食らってしまう。彼女は危険なプレイヤーではないのかもしれないと、思ってしまうほどだった。


142 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:36:11 qWQqdkqU0

「なるほどね……じゃあ、だったら何で足音が二つも聞こえてきたんだろうなぁ?」
「それは……」
「おっと。バーサーカーを召喚していたってのはナシだぜ?
 俺が聞いたのは図体のデカい足音じゃねえ。あんたと同じように静かだった……ここにいる奴らは誤魔化せても、サーヴァントである俺を舐めない方がいい。
 …………あんた、あの白いあいつと手を組んでるだろ?」

 アーチャーの推測にブラックローズは瞠目する。

「えっ……それって、どういうこと?」
「大方、こいつは俺達を嵌めようとしてたんじゃねえか? 俺達にさっきのパーティの悪評を流して、同士討ちをさせて消耗した隙に白い奴らと一緒に、漁夫の利を狙う……
 そうすりゃワードは集められるし、何よりも邪魔な奴らだって確実に始末できる。まあ、膠着した状況を打ち破る戦略としては悪くはねえよな?
 けどよ……」

 アーチャーは弓を構えて、瞬時に矢を放つ。それはラニの横を通り過ぎながら遥か彼方まで突き進み……次の瞬間、白い影が飛び出してくる。
 何事かと身構えた瞬間、二人の白い男……ツインズが姿を現した。先程とは違い、今度は二人とも武器を構えている。
 一人は大鎌。もう一人は刀。それもあってか、瞳に込められた殺意がより鋭いものに見えてしまう。

「Shit」
「……悪いが、騎士様と姫様を食い物にさせる訳にはいかねえな」

 男達に合わさって、アーチャーの視線もまた鋭さを増す。やはり始めから信用していないようだった。
 ふと、ラニの方を見てみるが、やはりその表情は微塵も揺れない。しかし、今度は冷酷さすらも感じられた。
 まるで、目的だけを遂行する機械のようにも見えてしまった。

「なるほど……お前のような者がいたから、彼も……死んだのだな」

 と、ブラック・ロータスの声もまた冷たくなっている。
 彼女が構える漆黒の刃が煌めいた。しかしその輝きからは、薄気味悪い何かが感じられてしまう。何かを守る為の刃ではなく、全てを破壊する為の兵器……そんなイメージと同時に、ブラック・ロータスに奇妙な違和感を抱いてしまう。
 その時だった。



 ――――ハ長調ラ音。
 ポチャン、という水滴が落ちるような音が聞こえてくる。それは、ブラックローズにとって聞き覚えがあった。
 そして振り向いた途端、彼女の全身に悪寒が走る。何故なら、そこにいたのは…………

「……嘘よ」

 ブラックローズは顔を青ざめさせてしまい、震える声を零してしまう。
 信じられない。信じたくない。信じる訳にはいかなかった。故に一歩だけ下がるも、現れた存在はこちらに近寄ってくる。

「おい、どうしたんだ?」
「何でよ、何で…………何で、あいつがここにいるのよ」

 アーチャーの問いかけを聞いて、それに応える余裕すらなかった。周りの視線すらも、今のブラックローズにとっては意識の外だ。
 巨人の姿を忘れることはできない。石造のように無機質な巨体と、ケルト十字の杖……色がほんの少しだけ違うようにも見えるが、今はどうでもよかった。
 ブラックローズは、ただ叫ぶことしかできなかった。

「何でなのよ……何でなのよ……何でなのよおおおおぉぉぉぉぉっ!」


143 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:36:50 qWQqdkqU0


 PHACE:1 第一層


 SKEITH スケィス


 The TERROR of DEATH 死の恐怖


 かつて 選ばれし 絶望の 虚無 エリアで激闘を繰り広げられた第一層『死の恐怖』スケィス……否、スケィスゼロが、このネットスラムに出現してしまった。



     †



 褐色肌の重剣士と思われる少女が喚いているが、ツインズにとっては微塵の関心もなかった。何故、あそこまで狼狽しているのかなんて、知った所でどうにもならない。
 それよりも、今はこの場をどうやって切り抜けるかが問題だった。ラニ=Ⅷの作戦が失敗した今、自分達に残されているのは正面からの戦闘あるいは撤退かと思われた……しかし、その途端にまた新たなイレギュラーが現れる。
 何の前触れもなく現れた巨人は十字の杖を構えながら、こちらに近寄ってくる。あれもまたプレイヤーなのか、あるいは何らかの攻撃プログラムか。
 何にせよ、奴の動き次第では切り抜けられるかもしれない。そう判断した途端、巨人が振り向いて来て……ツインズと視線がぶつかった。

「…………ッ!?」

 刹那、巨人から凄まじい存在感が放たれ、それを向けられたツインズは身震いした。
 全身が警鐘を鳴らしている。奴とは戦っていけないと、本能が警告を鳴らしていた。何の根拠もないが、奴と戦っては100%の確率で敗北する……そう、予感させてしまうほどだ。
 反射的に後退するが、巨人はそれ以上の速度で突貫しながら、ケルト十字の杖を振り下ろしてきた。

「Mr.ツインズ――――ッ!」

 ラニは呼びかけてくるが、ツインズがまともに聞くことはできない。何故なら、杖によって殴り飛ばされてしまったからだ。
 何の抵抗もできないまま柱に激突し、勢いのまま地面に転がってしまう。巨人の一撃はあまりにも重く、マトリックスを守護するエージェント達に匹敵……あるいは凌駕するかもしれない。それほどまでの威力を誇り、ツインズの表情は苦悶に染まる。
 何だ、この攻撃は。たった一発受けただけで、全身を構成する全てのプログラムが崩壊しかねない。こんな奴が、この世界にいる事に驚愕を隠せない。
 痛みに堪えながらも顔を上げた先には、あの巨人が腕をこちらに向けているのが見える。
 しかしだからといって、ツインズに抵抗をする暇も与えられないまま、その身体が宙に浮かびあがっていく。そして彼らは、巨人の手から放たれたケルト十字の杖によって磔にされてしまう。

「What!?」

 ツインズは驚愕しながらも足掻くが、十字架はびくともしない。
 一方で巨人の腕からは腕輪にも見える何かが現れて、回転しながら光輝いていく。それを見て、ツインズは透明化を発動させて回避しようとするが……もう遅かった。
 周囲の空間を歪ませるほどに眩い閃光が放たれて、そしてまだ消滅していないツインズのボディを貫いた。
 

 ――データドレイン。


「AAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa――――ッ!?」

 輝きによって肉体が容赦なく蹂躙され、喉から発せられた悲鳴すらも飲み込んでしまう。
 最早、激痛すらも感じない。自分自身の叫びすらも聞こえない。データが破壊される感覚すらも消えてしまっていた。
 しかし、一瞬にも満たない激痛はすぐに終わる。それによってようやくツインズは解放されたが、そのまま地面に落ちていく。


144 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:38:20 qWQqdkqU0


(Why……?)

 そんな中、彼は見てしまった。同盟を組んだはずのラニ=Ⅷがサーヴァントに抱えられていて、この場から立ち去る姿を。
 こちらに振り向く気配は感じられない。切り捨てられたのだと察したが、次の瞬間には視界が"白"に飲み込まれる。
 何故、彼女が自分を見捨てて逃亡したのか。何故、あの巨人のようなイレギュラーが現れたのか。そして何故、自分が狙われなければならなかったのか。
 いくつかの"何故"がツインズの中で芽生えるが、その答えを彼が手に入れる事は永遠にない。
 何故なら、彼らの肉体は跡形もなく崩れ落ちてしまうのだから。



 白き死の巨人・スケィスゼロはセグメント1をインベントリに収める。
 スケィスゼロがツインズを消去した理由はただ一つ。放送前に消去した志乃と同じように、女神アウラのセグメントを所持していたというだけ。
 何故、ツインズがセグメントを持っていたかなど、スケイスゼロにとっては極めて関心がない。一度取り逃したはずのターゲットを見つけて、こうして確実に始末した……それだけさえあれば充分だった。
 ウラインターネットに到着してからセグメント及び腕輪の加護を受けたPCの気配を追っている内に、ネットスラムに辿り着く。そして、数人のプレイヤーを見つけた。


 その中でツインズを先に狙った理由は、単純に距離が近かったからというだけに過ぎない。
 そしてツインズはスケィスゼロにとっては全く未知の存在。故に、反撃及び逃亡を仕掛けられる前に一刻も早い殺害が必要だった。その甲斐があってツインズを呆気なくデリートすることに成功する。
 奴と共にいたプレイヤー……ラニ=Ⅷは逃亡を始めたが、腕輪の加護もセグメントの気配も感じられないので、追う必要はない。
 次に破壊するべきはブラックローズ。つまり、腕輪の加護を受けたPCだ。邪魔者も数人ほど見られるが、纏めて始末すればいいだけ。
 『死の恐怖』・スケィスゼロはケルト十字の杖を構え、それをブラックローズに向けた。



 もしも、ラニがツインズにセグメント1を渡していなければ……スケィスゼロに破壊されていたのはラニだっただろう。
 もしも、ツインズがラニからセグメント1を受け取っていなければ……ツインズはスケィスゼロに破壊されずに済んでいただろう。
 もしも、遠坂凛にリターンクリスタルが支給されていなければ……二人の内、どちらかが破壊されることはなかっただろう。
 あるいは、もしもスケィスゼロがウラインターネットに辿り着かなければ…………また違った結果もあっただろう。


 だが、それはあくまでももしも(仮定)の話であって、今には何の影響も齎さない。
 残ったのはラニ=Ⅷよりセグメントを受け取ったツインズが、不運にもスケィスゼロに狙われてしまい……破壊されてしまう。
 そんな無慈悲で呆気ない結末だけだった。




【ツインズ@マトリックスシリーズ Delete】


145 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:39:10 qWQqdkqU0


    4◆◆◆◆


 一瞬の出来事だった。
 先程交戦していた白い敵が、唐突に現れた謎の巨人によって破壊されてしまう。抵抗すらも許されない程に一方的で、そして残虐な光景だった。
 余りのことで、ブラック・ロータス/黒雪姫ですらも茫然と見ていることしかできない。

「な、なんだあいつは……一体、何なんだよあの化け物は……!?」

 隣にいるアーチャーの口からは震える声が出てくる。それに対する答えはなく、何事もなかったかのように巨人が振り向いてきた。
 それが意味することは、次のターゲットは私達。あの白い敵を蹂躙したように、今度は黒薔薇騎士団を全滅させるつもりでいる。
 そうはさせるかと、ブラック・ロータスは構えて飛び出そうとするが……その腕をブラックローズによって捕まえた。

「駄目よ黒雪姫! あいつとは戦っちゃ駄目!」
「ブラックローズ……何を言っているんだ。奴は……!」
「駄目なのよ! 私達だけじゃあいつには勝てないわ! 今は逃げるのよ!」

 そう叫びながらブラックローズはウインドウを展開させて、アイテム欄から二つの道具を取り出す。それは逃煙連球及び快速のチャームというアイテムだった。
 何をするのかと聞く暇もなく、ブラックローズは巨人に向けて逃煙連球を投げた途端、辺りに煙が充満する。それにより、巨人の姿が完全に見えなくなった。
 次にブラックローズは快速のチャームを使ったことで、ブラック・ロータスは身体が軽くなるのを感じる。味方全員の移動速度が上昇するアイテムの効果だった。

「二人とも、今のうちに逃げるわよ! あいつに追いつかれる前に早く!」
「待て、その前に聞かせてくれ! 奴は一体……」
「そんな暇はないのよ!」

 疑問はあっさりと切り捨てられてしまう。
 ブラックローズの表情は、先程までの勝気な雰囲気からは想像できない程に動揺に染まっている。まるでこのまま残っていたら、本当に殺されてしまうと確信しているかのようだ。

「俺も賛成だ。姫様も見ただろ? あの化け物はヤバすぎる……今のHPじゃどう考えても勝てるわけがねえし、ここは逃げるが勝ちだ。タルタルガって爺さんや、あのマスターだってとっくにいない。
 これ以上、くっちゃべってる暇なんかないぜ!」

 アーチャーの口調はいつも通りに聞こえるが、表情に余裕は見られない。
 彼の言う通り、ここに残っているのは自分達だけだ。タルタルガの姿はもう見えないし、アーチャーが敵と断定したあの少女も白い敵を切り捨てて逃亡している。
 何よりも、ブラックローズの気持ちを尊重しなければならなかった。今の彼女にまともな戦いができるとは思えない。

「……わかった。今はこの場から撤退しよう」

 ブラック・ロータス達は走り出す。
 逃煙連球と快速のチャームはレア度と効果が非常に高いアイテムだったが、その影響なのかそれぞれ一つずつしかブラックローズに支給されていない。故に、滅多なことでは使わないことにしていた。
 これまでの戦いでは絆の力で勝利を収められた。だからこそ、ダメージを追ったものの絶体絶命の状況に追い込まれることはなかった。
 しかし今は戦ってすらもいないのに、ブラックローズは二つのアイテムを惜しまずに使用している。それはつまり、あの巨人がそれほどまでに危険な相手だと知っているのだ。
 事実、ブラック・ロータスも巨人から放たれる威圧感に退きそうになっている。その場にいるだけで生存が保障されないと確信させてしまう程の圧迫感…………『死の恐怖』を味わっているようだ。


146 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:40:06 qWQqdkqU0


(…………キミも、ハルユキ君も…………こんな気持ちだったのか?)

 『死』というワードと同時に浮かび上がるのは、先程のメールにその名が書かれていた彼……シルバー・クロウ/有田春雪だ。
 加速世界で出会い、ゼロから彼の成長を見届けて、時には助言し、時には戦い、時には大切なもの取り戻すきっかけ……親友フーコとまた巡り合う機会を、彼から与えられた。
 そうしていくうちに彼のことを特別な存在だと認めるようになった。

『傍にいてください』

 彼はそう言ってくれた。
 ダスク・テイカーとの戦いに勝利し、杉並を守ったことのご褒美に何でも一つ言うことを聞く。それに対する答えは、彼のそばにいることだった。

『ずっと、ずっと、僕の傍にいてください。それだけが……僕の望みです』

 梅郷中を卒業してからも、ずっと、未来永劫、彼の傍にいると約束した。当たり前のように隣にいてくれることこそが、本当の幸せなのだと……そう言ってくれるかのように。
 しかし彼はもういない。その約束はもう永遠に守られることはなかった。
 ハルユキ君は嘘つきだったのか? …………違う。彼が約束を破ることなんて絶対にありえない。それは<<親>>として……そして<<黒の王>>として、いや……大切な人だからこそ、彼の姿をしっかりとこの目で見てきた。
 だから、彼は私の知らないどこかで殺されてしまった……そう受け入れるしかなかった。

(どうしてだ……どうして、いなくなったんだ? キミは傍にいてほしいと私にお願いを言ったはずだぞ! 私もキミの傍にいたいと約束した!
 それをどうして、キミのほうから破るんだ!?)

 シルバー・クロウの死。これまでだったら、タチの悪い冗談としか思えなかった。しかしこの目で最期を見届けたダン・ブラックモア卿の名前も書かれていたから、彼の死も事実だろう。
 否定したかった。泣き叫びたかった。これはただの悪夢だと思いたかった。彼がいない世界なんて、もう考えられるわけがない。
 メールを見た途端、様々な感情が溢れ出て、一気に爆発しそうになったが……

『カイト……ミア……嘘でしょ?』

 …………それらを押し止めたのは、ブラックローズの叫びだった。

『何で、二人の名前が書いてあるのよ……何で、何でなのよ!?』

『カイト……何で、あんたがいなくなるのよ。あんたは『The World』を救った勇者なんでしょ? みんなの憧れなのよ…………
 あんたがいなくなったら、悲しむ人がたくさんいるのがわからないの!? ミストラルも、オルカも、エルクも、ニュークも、レイチェルも……たくさんの人が悲しむのよ!?
 それがわからないあんたじゃないでしょ!?』

 ブラックローズもまた、私と同じように大切な人達を失ってしまったのだ。彼女だけではない……アーチャーだって、共にいたはずのダン・ブラックモア卿を失ったばかりだ。
 カイト……実際に会った事はないが、彼女が言うには『The World』の危機を救った伝説の勇者らしい。彼は多くの人から慕われていることを聞いて、ハルユキ君のことを思い出してしまう。
 そして、気付いた。大切な存在を失ったのは私だけではない。みんな、同じ悲しみを背負っているのだと。


147 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:41:13 qWQqdkqU0
 それに悲しむのは私達だけではない。現実の世界に生きる人達だって同じことだった。
 ハルユキ君の両親、タク君、チユリ君、レイン、フーコ…………それに加速世界には彼を慕う者が大勢いるのだ。
 ハルユキ君だけではない。アッシュ・ローラー……フーコ/スカイ・レイカーの<<子>>である彼の名前も書かれてしまっている。荒々しいが、フーコと同じように義理と情に厚い世紀末ライダーもまた、このバトルロワイアルの犠牲者となってしまった。
 彼らのことを、伝えなければならなかった。

『出来る筈だ。歩みを止めることさえなければ、きっと、何かを掴むこともできるだろう』
 ダン・ブラックモア卿は死に行く最期の瞬間まで、自分達のことを案じて、止まってはいけないと言い残してくれた。
 そんな彼の想いを無碍にしてはならない。だからこそ、泣いて止まっている訳にはいかない、と……自分自身に言い聞かせた。
 
『ハルユキ君。私は、キミが誇らしいよ』

 ある雨の日に、今はもういないハルユキに告げた想いが、脳裏に過ぎった。
 そうだ。いつだったか、彼は私のことを誇りに思うと叫んでくれた。それに答えるように、私は彼の誇りであり続けて、そして彼もまた私の誇りであり続けた。
 お互いがお互いを想う内に、唯一無二の存在でいるようになっている。だからこそ、それを裏切る無様な姿を晒せない。
 ブラック・ロータスは自らにそう言い聞かせていた。


 …………しかし、それはハルユキの死を乗り越えたことにはならない。
 先程、周りの者達から言及されたように、彼女は己の感情を無理矢理抑えているだけだった。やり場のない想いと守らなければならない誇りが鬩ぎ合い、そして自分自身をごまかしている。
 ハルユキの死を認めたくない感情を、ハルユキやダンとの誓いを守りたいという誇り…………それらで上塗りさせていた。だが、それも結局は一時凌ぎでしかなく、根本的な解決になっていない。
 言ってしまえば使命を果たすという名目で、彼女は逃げているのだ。自分自身の感情から、そして本当の気持ちから…………


 もしもこの場にスケィスゼロの襲来がなければ、彼女が気持ちと向き合う機会が与えられたかもしれない。ラニやツインズは手強いが、それでも対処可能な範囲だからだ。
 しかしスケィスゼロは決してそんなレベルの相手ではなく、そもそも同じ土俵で戦えるかどうかすら定かではない。故に撤退を余儀なくされ、自分自身の気持ちに目を向けられなかった。
 それによって憤りが広がっていくことにも気付かず、走り続けていた…………



    5◆◆◆◆◆



 …………一刻も早い撤退が必要だった。


 バーカーカーに担がれているラニ=Ⅷには、その思考しかなかった。
 探索クエストも、モーフィアス陣営の撃退も、また第三勢力のことも、全てを放り捨てなければならない程のイレギュラーが現れては、逃走以外の選択肢は選べない。
 ツインズが十字架に捕えられた瞬間から、彼女は躊躇なく彼らを切り捨てた。もしも、あのまま残っていたら確実に殺害されてしまうし、何よりもこれはルール無用のバトルロワイアル。一時的な同盟相手に過ぎない彼らに固執しては敗北の結末しか待っていない。


 しかしラニ自身も無傷と言う訳ではない。
 ツインズの吹き飛ばした十字杖の一撃はリーチが余りにも広く、ラニ自身も受けてしまった。幸いにもそれだけでHPが0になることはなかったが、たった一撃で半分にまで削られる程に重く、身体の節々に痛みを感じる。
 もしもバーサーカーを瞬時に召喚しなければ、きっと自身もあの光線の餌食になっていたかもしれない。あれは屈強なバーサーカーですらも一発で消去するほどの威力を持つはず。
 何よりも、巨人から放たれる雰囲気が、余りにも禍々しい。SE.RA.PH.でもデータがなかった。


148 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:43:58 qWQqdkqU0

(あのイレギュラーに勝利できる確率は……ほぼ0%。あれを撃破する方法を、私達は持ち合わせていない)

 エネミーともサーヴァントとも思えない未知の存在。恐らく自分達の常識で測れないほどのステータスを誇るだろう。
 どうすればダメージを与えられるのか。また、これまで他にプレイヤーの気配が見られなかったのに、如何にして現れたのか。
 何から何までアンノウンと呼ぶに相応しい。仮に何らかの違法改造を受けた敵性プログラムと言われても、納得してしまいそうだった。


 巨人がその圧倒的スペックで第三勢力及びモーフィアス達のグループも潰してくれれば御の字だなんて、そんな話ではない。
 あの巨人を放置しては残った大半のプレイヤーは殲滅されてしまうだろう。無論、それではバトルロワイアル自体が公平とはならないのだから、奴を倒す手段がどこかに存在するかもしれない。だが、そのヒントすらも掴めていない現状では、撃破などただの絵空事に過ぎなかった。
 単純に攻撃を続けてHPを0にまで追い込む……巨人の攻撃に耐える防御力を持たないのなら、返り討ちに遭うだけ。ツインズのように他のプレイヤーと同盟を組んでも、焼け石に水でしかない。

(イレギュラーを放置しては私達に勝利はありません……いずれ、あの人も危険に晒される。
 それだけは…………それだけは…………!)

 そして最大の懸念は、どこかにいるであろう岸波白野が巨人の手にかかるかもしれないこと。
 あの巨人に慈悲や躊躇といった感情がプログラミングされているとは思えない。目的を果たすまで、あらゆる障害を容赦なく破壊しつくす……それだけしか存在しないだろう。
 そして白野があれほどの危険な存在を放置するはずがなく、存在を知ったら絶対に撃退しようとするはずだった。彼は不屈の精神であらゆる困難を乗り越えてきたのだから。
 しかし今回はレベルが余りにも桁外れで、ムーンセルの膨大なる情報量を利用しない限り勝てる保証がない。


 ……現状の最優先は巨人から撤退することだ。
 振り向いてみると、幸いにもこちらから視線を外れている。何故、ツインズと同盟を組んでいない自分自身を狙わないのかは不可解だが、今はその解明など出来ない。
 第三勢力には囮になってもらうしかない。巨人という最大の障害が現れた現状では、ネットスラムのクエスト攻略すらも放棄せざるを得なかった。
 また、単独行動を始める事になってしまったことで、ゲームクリアからは遠ざかるだろう。しかし今は撤退し、何者かがあの巨人を撃破してくれる可能性に賭けるしかなかった。

(……今は合理性の欠片もない可能性を信じるしかありません。
 私が生きて……そして、あの人と再び巡り会う為にも)

 ラニ=Ⅷはバーサーカーと共に走る。
 求めるものを掴む為にも。




【B-10/ネットスラム/1日目・日中】



【ラニ=Ⅷ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP50%、魔力消費(中)/令呪三画 600ポイント
[装備]: DG-0@.hack//G.U.(一丁のみ)
[アイテム]:不明支給品0〜5、ラニの弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式、図書室で借りた本 、noitnetni.cyl_1、エリアワード『虚無』
[思考]
0:今は巨人(スケィスゼロ)から逃げる。
1:師の命令通り、聖杯を手に入れる。
そして同様に、自己の中で新たに誕生れる鳥を探す。
2:岸波白野については……
3:ネットスラムの探索クエストは後回しにしなければならない。
[サーヴァント]:バーサーカー(呂布奉先)
[ステータス]:HP70%
[備考]
※参戦時期はラニルート終了後。
※他作品の世界観を大まかに把握しました。
※DG-0@.hack//G.U.は二つ揃わないと【拾う】ことができません。


149 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:48:12 qWQqdkqU0



    6◆◆◆◆◆◆



 身体が軽い。快速のチャームの効果は凄まじく、黒薔薇騎士団のメンバーは凄まじい勢いで走っていた。
 しかしそれを快く思えない。自分達を追いかけているのは、かつて『The World』に脅威をもたらした八相の一体……『死の恐怖』スケィスなのだから。

「じゃあ、奴は私達では倒す事ができないのか……?」
「プロテクトブレイクまでなら何とかできるかもしれないけど、そこからあいつを完全に倒すには……カイトの腕輪が必要だわ。
 でも、カイトは…………!」
「……すまない」

 ブラック・ロータスの声は沈んでいる。表情は変わらないが、きっと暗くなっているはずだ。
 それに対して、ブラックローズは特に言及をしない。事情を詳しく知らない彼女を無神経だと言うのは余りにも酷だし、今はそれどころではなかった。
 快速のチャームの効果は永遠ではないし、もしも加速効果が切れたらすぐに追いつかれてしまう。逃煙連球も無限に使用できるが、再度使用するには時間の経過が必要らしい。
 アーチャーが言ったように、無駄話をする暇があるのなら少しでも遠くに走らなければならなかった。

「あたしには、カイトの腕輪のように八相を倒す手段はないわ……あたしだってそうなんだから、あんた達が持っているわけがない。
 だから、今は逃げるしかないの……」
「だろうな。もしかしたら、その逃煙連球って奴みたいにあいつにも制限があるかもしれねえが……そんなのを俺達が見つけられるわけがねえ」

 アーチャーの言葉には頷くしかない。普段ならそんな弱々しい選択は選ばないが、相手が相手だった。
 データドレインもなければ、ミストラルのような呪紋使いだっていない。現在のパーティが決して弱いわけではないが、回復魔法を持つ者が誰一人としていなかった。
 それ以前に、いつもいてくれた頼りになる仲間達がいない。カイトはもうどこにもいないし、ミストラルだって姿が見られない……ミストラルの場合はその方がいいかもしれないが、ブラックローズは急に不安になった。
 いつだって本当は怖かった。カズが未帰還者になってから、もしかしたらあたしだってそうなるんじゃないのか……そんな恐怖でいっぱいだった。
 だけど、カイト達が一緒にいてくれたからこそ、どんな困難も乗り越えられた。それなのにどうしてカイトやバルムンク達はいなくなったのか? これでは、何の為に『The World』で未帰還者達を救ったのかがわからなくなってしまう。

「チッ、探索と思ったらまさか命がけの鬼ごっこをやる羽目になるなんてな……たく、ついてないぜ!」

 黒薔薇の騎士団は走り続ける。
 迫りくる『死の恐怖』から少しでも遠くに離れる為にも。



【B-10/ネットスラム/1日目・日中】


【スケィスゼロ@.hack//】
[ステータス]:HP80%(回復中)、SP100%、PP100%
[装備]:ケルト十字の杖@.hack//
[アイテム]:基本支給品一式×2、不明支給品2〜6(ランサー(青)、ツインズへのDD分含む)、セグメント1@.hack//、セグメント2@.hack//
疾風刀・斬子姫@.hack//G.U.、大鎌・棘裂@.hack//G.U. 、エリアワード『虚無』
[ポイント]:900ポイント/3kill
[思考]
基本:モルガナの意志に従い、アウラの力を持つ者を追う。
1:目的を確実に遂行する。
2:アウラ(セグメント)のデータの破壊。
3:腕輪の影響を受けたPC(ブラックローズなど)の破壊。
4:自分の目的を邪魔する者は排除。
[備考]
※1234567890=1*#4>67%:0
※ランサー(青)、志乃、カイト、ハセヲをデータドレインしました。
※ハセヲから『モルガナの八相の残滓』を吸収したことにより、スケィスはスケィスゼロへと機能拡張(エクステンド)しました。
それに伴い、より高い戦闘能力と、より高度な判断力、そして八相全ての力を獲得しました。
※ハセヲを除く碑文使いPCを、腕輪の影響を受けたPCと誤認しています。
※ハセヲは第一相(スケィス)の碑文使いであるため、スケィスに敵として認識されません。


150 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:49:12 qWQqdkqU0
【ロックマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP80%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人確認済み) エリアワード『選ばれし』
[思考]
基本:殺し合いを止め、熱斗の所に帰る
1:モーフィアス、揺光と行動する。
2:ネットスラムの探索。
[備考]
※プロトに取り込まれた後からの参加です。
※アクアシャドースタイルです。
※ナビカスタマイザーの状態は後の書き手さんにお任せします。
※.hack//世界観の概要を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。


【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP60%
[装備]:最後の裏切り@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜3、平癒の水@.hack//G.U.×3、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式 エリアワード『選ばれし』
[思考]
基本:この殺し合いから脱出する
1:ロックマン、モーフィアスと行動する。
2:ネットスラムの探索。
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ハセヲが参加していることに気付いていません
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。
※バーサーカーの真名を看破しました。


【モーフィアス@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:軽い打撲、疲労(中)
[装備]:あの日の思い出@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜2、基本支給品一式 エリアワード『選ばれし』
[思考]
基本:この空間が何であるかを突き止める
1:(いるならば)ネオを探す
2:トリニティ、セラフを探す
3:ネオがいるのなら絶対に脱出させる
4:揺光、ロックマンと共にネットスラムを探索する。
5:探索クエストを進める。ラニを警戒。
[備考]
※参戦時期はレヴォリューションズ、メロビンジアンのアジトに殴り込みを掛けた直後
※.hack//世界の概要を知りました。
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。


151 : 悪しき『死の恐怖』 ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:50:34 qWQqdkqU0


『黒薔薇騎士団』


【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP50%/デュエルアバター 、令呪一画、悲しみと憤りと決意、移動速度25%UP
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3 エリアワード『絶望の』
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
0:ハルユキ君…………!
1:ブラックローズ、アーチャーと共に行動する。
2:今は巨人(スケィスゼロ)から逃げる。
3:褐色の少女(ラニ)及び黒人(モーフィアス)らを警戒。
4:クエストをクリアする。
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:ダメージ(中)、魔力消費(大)
[備考]
時期は少なくとも9巻より後。


【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP30%、カイトの死への悲しみと不安、移動速度25%UP
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、逃煙連球@.hack//G.U.(現在使用不可)、エリアワード『絶望の』
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
0:カイト…………!
1:黒雪姫、アーチャーと共に行動する。
2:スケィスから逃げる。
3:褐色の少女(ラニ)及び黒人(モーフィアス)らを警戒。
4:このネットスラムって……
※時期は原作終了後、ミア復活イベントを終了しているかは不明。



【快速のチャーム@.hack//G.U.】
味方全体の移動速度が25%UPするアイテム。快速のタリスマンと同じく使い捨て。
本ロワでは効果時間は30分となっている。


【逃煙連球@.hack//G.U.】
一定時間だけ姿を消して、戦闘から離脱できるアイテム。
無限使用可能&レア度が高いせいか一つしか支給されていない。


【全体備考】
※逃煙連球のように無限に使用できるアイテムには、バトルチップと同じように一度使用すると30分間使用不可能になる制限がかけられています。


152 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/25(土) 22:50:55 qWQqdkqU0
以上で投下終了です。


153 : 名無しさん :2015/07/25(土) 23:54:41 l/N4Zgvo0
ツインズさん達、瞬殺www
セグメント渡された時点でスケィスのターゲットがそっちに向かうと想像はしてたけど…南無
失った者達とスケィスが残されたネットスラム。今度の火薬庫はどういう風に爆発するやら

投下乙でした


154 : 名無しさん :2015/07/26(日) 00:30:52 SAymGIuQ0
スケィスつえええぇぇぇ……(((;゚Д゚)))
ただでさえ傷心状態で辛い状況なのに嫌な相手すぎる
皆、無事に生き残ってほしいですね

気になった点と誤字と思われしきものを
>クビアの影響で第六相「誘惑の恋人(マハ)」に覚醒してしまい、
マハを必要としてたモルガナの仕業だとばかり思っていたのですが
これはクビアのせいなのでしょうか?
>バーカーカーに担がれているラニ=Ⅷには、その思考しかなかった。
「バーカーカー」→「バーサーカー」だと思われます

最後に投下乙でした
またの投下を楽しみにしてますね


155 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/07/26(日) 06:12:25 HmVJ26jI0
感想及び指摘を感謝したします。
その点に関してはこちらの誤植ですので、収録の際に修正させて頂きます。


156 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 09:21:55 81r00bnM0
これより投下します


157 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 09:25:37 81r00bnM0


    1◆




 ガチャリ、と音をたてながら見慣れた扉を開く。
 その先に広がっているのは月見原学園の保健室だった。ここも、月の聖杯戦争に何度訪れたのか……もう覚えていない。それくらい馴染みのある場所に、再び足を踏み入れる。
 部屋に入った先には、やはり彼女の姿が見られた。

「ごきげんよう、先輩」

 微笑む彼女は穏やかな挨拶と共に頭を下げる。その声はとても懐かしい。
 その姿を見なかった日は、一日でもあっただろうか。菫色の長髪も、可憐な桜のように優しい笑顔も、保険委員特有の白衣も……全てがよく知っていた。
 ここにいる少女の名は…………


    A.間桐桜。
    B.保健室の人。
   >C.フランシスコ・ザビ……!


「違いますよ、先輩。それを口にしてはいけませんよ?」

 こちらはまだ口にしてもいない。それなのに、まるで岸波白野の思考を読み取ったかのように、彼女は前に出てきた。

「私、これでも健康管理AIですから、先輩のスキャニングはバッチリです。
 先輩は基本的にクールですけど、ふざける時とか空回りする時とか、だいたい空気で読み取れます。
 ですので、ここぞという時の不真面目さ自重していだたかないと……口にできないおしおきをさせて頂きますから」

 穏やかな笑顔はそのままだが、心なしか凄まじい威圧感が放たれている。このまま口にしたら、本当にデリートされてしまいそうだ。
 周りからの視線は妙に痛い。セイバーとキャスターも、ユイも、カイトも、サチ/ヘレンも……無言の圧力をかけてくる。
 …………確かにふざけるのは無粋だろう。せっかく再会したのに、失礼極まりない。
 ごめん、と謝る。気を取り直して、彼女の目をしっかりと見た。


   >A.間桐桜。
    B.保健室の人。


 彼女の名は……間桐桜。
 SE.RA.PH.では、この保健室でマスターの健康管理担当の役割を勤めていた少女だ。岸波白野も何度彼女に助けられたか、もうわからない。
 こうしてまた会えてよかったと、彼女に想いを告げる。


158 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 09:26:31 81r00bnM0
「はい。先輩……私もまた会うことができて嬉しいです。
 ここにいれば先輩達に会えると信じていました。セイバーさんやキャスターさんも……お元気そうで何よりです」
「うむ! そちもまた変わらぬようで、余も何よりだ!」
「桜さん、お久しぶりでございます。ご主人様のジョークを流せる辺り、やっぱり桜さんの半分は優しさでできているのですね!」

 セイバーとキャスターもまた、桜に笑顔を向けた。キャスターの言葉が突き刺さるが、ここは仕方がない。
 ここにアーチャーがいないのは残念だった。彼女達だけではなく、アーチャーだって桜には何度も助けられたはずだから。
 ……と、ここで疑問に思う。桜は今の自分達に違和感を抱いていないのか? ありす、ダン卿、シンジ、レオ……これまで出会ってきたマスター達は皆、岸波白野の状態に疑問を抱いていたのに、彼女は何気なく接してくれている。
 嬉しく思う反面、どこか違和感も抱いてしまう。
 桜にそれを指摘してみる。

「はい。私は健康管理のAIなので、このバトルロワイアルに移送された際に全プレイヤーのデータをインストールされたのです。
 なので、先輩方に起こったことは勿論、ここにいる皆さんの情報は全て知っています。
 ユイさん、蒼炎のカイトさん、サチさん、生徒会の方々……誰一人として例外ではありません。
 尤も、私の口から他の方に詳細をお伝えすることはできませんが」

 確かに桜が自由に伝えてしまっては、バランスが崩れてしまいかねない。この状況では情報は多大な武器になろうし、それが大量に詰め込まれた桜は一種のバランスブレイカーだ。
 だからこそ月海原学園には図書室が存在する。自分達が保健室に訪れている間、レオ達はそこで情報収集を行っていた。
 何でも今回の図書室はSE.RA.PH.よりも情報が大幅に更新されていて、検索すれば異世界の出来事や人物についても知ることができるらしい。
 キーワードがなければどうにもならないが、今は異世界の人間が大勢いるので得られる物は多いはずだった。


 …………しかし、今の桜は大丈夫なのだろうかと不安になってしまう。
 大量のデータを押し込まれて、彼女の状態は一体どうなっているのか。表向きは平常だが、それはAIとしての務めを果たす為に振舞っているからかもしれない。
 容量を無視して情報を入れたことで、アバターに何らかの悪影響が出るかもしれなかった。

「その点でしたら心配はありません。
 詳細は教えられませんが、異世界からのプレイヤー方の診断もしなければいけない関係上、容量が大幅に拡張されているのでオーバーヒートやフリーズを起こすことはないです」

 さらっと、それでいてとんでもないことを桜は口にする。
 容量が拡張されている……その事実に驚きを隠すことはできない。確かに、このバトルロワイアルは月の聖杯戦争に身を投じたマスターだけではなく、異世界の人物が大勢参加している。
 それを考えると、当然の処置かもしれない。


 だけど、同時に更なる不安が湧き上がった。
 今の桜は大量の情報をその身に抱えている。それを考えると、口にできないだけで図書室と同等の存在に該当するかもしれない。
 もしかしたら、彼女だって狙われるかもしれなかった。悪質なプレイヤーが何らかの手段で桜に内包されたデータを知ってしまったら、確実に狙うはず。
 これから一緒に行けないのだろうか……

「……………………」

 桜はほんの少しだけ表情を曇らせてしまう。

「気持ちはありがたいのですが、それは不可能なんです。
 ごめんなさい。私は……いいえ、私達AIはこの学園から離れられる権限を持っていないのです。このバトルロワイアルが続く限り、私達は所定の位置で自分の役割を全うする他はありません。
 でも、それも心配ありませんよ。私達は特殊なプログラムで守られていますから」

 特殊なプログラム……そういえば、校庭にいた女子生徒もそんなことを言っていた気がする。
 それがある限り、桜のようなAIやNPC達はプレイヤー同士の戦いに巻き込まれないらしいが……それでも、不安だった。
 レオや凛は絶大なハッキング能力を持っているように、異世界にもシステムを覆す技術を持つ人物が存在するだろう。もしもそいつらがシステムの裏を付いて、運営の機能を改竄できるのなら、NPC達のプログラムだって意味を成さない。
 そうなっては、桜達だって安全ではないだろう。


159 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 09:30:19 81r00bnM0
 ……だけど、そんな仮定をした所で今はどうにもならない。ここにいない人物のことを考えても対策のしようがなかった。
 今はここで情報を集めながら、ウイルスの対策を練ることが大事だろう。
 タイムリミットは既に12時間を切っている。ここまで他のプレイヤーを一人もKILLしていない現状、自分達に残された猶予は長くなかった。
 恐らく、これは桜でも手出しができないように設定されているはず。彼女は健康管理のAIだが、バトルロワイアルの根幹に関わるシステムまでは介入できない。
 そんな事ができたら、今頃レオ達はとっくに死の恐怖から解放されるはずだ。


 だけど、それで桜を諦めていい理由にならない。
 もしも彼女が狙われるのなら、ここにいる限り守らなければならなかった。

「サクラよ……そなたと共に行けないのは、余も心苦しい。
 だが案ずるな。我らと桜の仲だ。もしもそなたを狙う不埒な輩が現れたら、余がこの手でたたっ斬ってみせる」
「そうそう! 婦女暴行をやらかそうとする暴漢なんて、この私めが塵にして差し上げますよ!
 悪はバンバン、バンバン倒す私達でいますから!」

 セイバーとキャスターも想いを告げた途端、桜は再び笑顔を見せてくれた。

「……はい! 頼りにしていますよ、皆さん!」

 その言葉からは、自分達への絶大なる信頼を感じられた。
 桜の信頼と優しさや、それにセイバーとキャスターの決意と約束……どれも絶対に裏切ってはならない、かけがえのないものだった。
 カイトとヘレンも、きっと同じ気持ちかもしれない。

「あの、お取り込み中にすみません」

 そんな中、進み出てきたのはユイだった。
 見ると、彼女は真摯な表情を桜に向けている。何故、そんな顔をしているのかがわからない。
 それを尋ねようとしたが……

「サクラさん……一つお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「聞きたいこと? それは何でしょうか」
「はい。桜さんの内部に内蔵されている大量のデータ……それを私の中にコピーすることはできないでしょうか」

 ……抱いた疑問は、ユイの問いかけによって遮られてしまった。
 一瞬、彼女が何を言ったのかがわからなかった。それはセイバーとキャスターも同じなのか、衝撃的な宣言に目を見開いている。
 桜のデータをコピーする…………それを受け止めるまで、時間が必要だった。

「ユイさん? それは一体、どういうことでしょうか」
「……サクラさん。今は一刻を争う状況なんです。危険なレッドプレイヤーはまだいますし、私達に内蔵されたウイルスが発動するまでの時間だって迫っています。
 皆さんの気持ちを踏み躙ろうとしているのは充分に承知しています。でも、あなたが持っているデータを移植さえできれば、きっとハクノさん達にとって大きな力になると思うんです!
 だから……!」
「それは容認できません。AI及びNPCの内部には特殊なプログラムがかけられていて、それがある限り過剰な接触はできないのです。
 また、仮に介入ができたとしても、今度はユイさんがGMに目を付けられて、何らかのペナルティが与えられるかもしれません。
 最悪の場合、ユイさんだけでなく生徒会の皆さんが…………ゲームの運営を妨害する悪質なプレイヤーと認定されて、一斉にデリートされるでしょう。
 何よりも、私に内蔵されたデータの量は膨大です。それは、短時間でコピーできないと思います……」

 その言葉は事務的だが、ユイを気遣っているのはすぐにわかる。AIとしての警告ではなく桜自身の感情だろう。
 自分もユイの提案を受け入れることはできない。ユイがやろうとしていることは、運営側からすれば違法中の違法だ。『月の聖杯戦争』で例えるのなら、ムーンセルからデータをハッキングするに等しい。
 ユイにそれほどの危険を背負わせる訳にはいかなかった。


160 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 09:31:46 81r00bnM0
「ユイよ……そなたの心掛けは評価に値する。そなたのように、常に高みを目指す者がいたからこそ文明は繁栄しておるのだからな。
 だが、人には生まれ持っての器もある…………己を顧みずに勇気と無謀を間違えた者の末路は、悲しいものばかりだ。余はユイにそうあって欲しくない。
 何よりもサクラの気持ちも受け止めてやるべきだ」
「…………ごめんなさい。セイバーさんの言うことは尤もです。
 私自身、危険なことを言っているのはわかっています。でも、皆さんが命を賭けて戦っているのに私だけが何もしないなんて……」
「何を言っておる! そなたがいたからこそ、奏者はカイトやヘレンと手を取り合えた!
 それに忘れるな……ユイに何かがあったら悲しむ者がいることを」
「そうそう。謙遜もいいですけど、限度を超えると傲慢になってしまいますよ?
 それに二兎を追う者は一兎をも得ず……という言葉だってあります。ユイさん、あれもこれも欲張りすぎるのはよくありませんよ?」

 セイバーとキャスターの説得に、ユイは表情を曇らせる。
 少しでも可能性がある内は諦めたくない……ユイのそんな気持ちはよくわかる。岸波白野だって、その誇りを曲げなかったからこそ月の聖杯戦争を勝ち抜けたのだから。
 …………だけど。 



   A.頼む、ユイ。
  >B.それは止めるんだ、ユイ。



 やはり、まだ幼いユイを危険に晒す事などできない。もしもユイに何かがあったら、セイバーが言うようにキリトやシノン達だって悲しんでしまう。
 それにカイトやヘレンもユイに語りかけている。二人の言葉はわからないけど、きっとユイの無茶を咎めているはずだ。
 ユイの気持ちは尊重したいけど、それはユイに無謀な事をさせていい理由にはならなかった。

「……白野達、入るぞー」

 空気が重苦しくなりそうな中、ノックの音と共にジローの声が聞こえてくる。
 顔を上げた途端、保健室のドアが開いてジローは姿を現した。
 しかしこの部屋の空気を察したのか、複雑な表情を浮かべている。

「えっと……レオ達が呼んでいるんだけど……今は大丈夫か?」

 問題ない。
 むしろ、このままでは雰囲気が悪くなるかもしれなかったから、渡りに船だ。
 他のみんなもジローの言葉に否定しない。ユイも複雑な表情を浮かべているままだが、特に反対などはしなかった。
 故に、保健室を後にしようとしたが……

「あ、待ってください先輩達。皆さんにまだ渡していない物があります」

 呼びとめてくる桜は、自分達にアイテムを渡してくる。
 それは岸波白野も知るものだった。【桜の特製弁当】……SE.RA.PH.でも渡されたことがあり、月の聖杯戦争を勝ち抜く為の大きな力となったアイテムだった。
 HPの回復や不利な状態を解除してくれる優れ物。あろうことか、桜はそれを4つも出してくれている。

「言い忘れていましたが、このモラトリアム中に保健室に訪れたプレイヤーにはアイテムを渡すシステムになっているんです。
 先輩、ユイさん、カイトさん、サチさん……それぞれ一人ずつです。ただ、セイバーさんとキャスターさんは厳密にはプレイヤーとカウントされないので、お二人の分は渡す事ができません……申し訳ありません」
「気にするな、サクラよ! 余の物は余の物! 奏者の物は余の物! つまり、奏者に渡したのならば余に渡したのと同義なのだからな!」
「ガキ大将の理屈は置いておくとして……桜さん、お気になさらず! 桜さんの強く、優しく、美しい心構えだけでも、ご主人様はご飯三杯はいけますし!
 グランプリンセスならぬ、グラン健康管理AIとして誇るべきですよ!
 あ、でも暴飲暴食するなら無理矢理にでも吐かせますのでお忘れなく」

 セイバーとキャスターの分が貰えないのは残念だが、考えてみればそれも仕方がないかもしれない。
 もしもサーヴァントの分まで貰えたら、魔術師達はその分だけ有利になってしまう。特例中の特例である自分だったら三つも手に入るだろうし、それでは公平性を保てない。
 だけど今は桜の想いに答えるべきだった。ユイは喜んでいるし、カイトとヘレンも……表情は変わらないけど、喜んでいるようだった。


161 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 09:32:54 81r00bnM0
 ――桜、ありがとう。
「どういたしまして!」

 互いに笑顔を向ける。一瞬だけど、それはかけがえのない時間だった。
 大切な存在と共に何気ない時間を過ごす……それを大切にしているのは岸波白野だけではない。ここに連れて来られた大半のプレイヤーが、本当なら日常を謳歌していたはずだ。
 ユイやカイトは現実の世界に肉体を持たないけど、キリトやハセヲのようなプレイヤーからは大切に想われていた。
 サチもそうだ。ユイが言うには、デスゲームの犠牲となって『死』を迎えてしまったけど…………もしかしたら運命を変えられるかもしれなかった。


 大切な人と過ごしたい……その気持ちはAIも現実に生きる人間も変わらない。こんな所で終わらせていい訳がなかった。



    2◆◆



「エージェント・スミス、そして『死の恐怖』スケィスですか……」

 レオは今、図書館で検索した結果を見て表情を顰めている。
 ここで書かれていたプレイヤー達は、現状では優先的に警戒しなければならない。一人はハセヲやシノンを苦しめて、もう一体はカイト達の命を奪った存在だ。
 どこにいるのかは不明だが、いずれ相対する時の備えが必要だろう。


《エージェント・スミス/Agent Smith》
 登場ゲーム:THE MATRIX
 マトリックスを守護するエージェントの一人。
 その身体能力はエージェントの中でもトップクラスに高く、また判断力も非常に高度。


 まず、エージェント・スミス。
 ハセヲとシノンを苦しめてきた彼は人間ではなく、厳密にはサクラやユイと同じAIのようなものだ。しかし聞く限りでは冷酷非道で、他者の殺害を義務として遂行するような凶悪なプログラムだ。
 何よりも恐ろしいのは、他のプレイヤーを『自分自身』に『上書き』できるらしい。古今東西あらゆる戦場で重要視されるであろう"数"を増やせることが、彼らの最大の武器だ。
 そんな相手に攻められたら、全滅するどころではない。対主催生徒会がエージェント・スミスにされてしまう。そうなっては、元に戻ることは不可能と考えなければならない。
 ここがモラトリアム中のエリアだから、安全なんて言い切れない。性格から考えて、ペナルティを躊躇わないプレイヤーであるだろうし、彼らの戦闘力がそれだけで抑えきれるとも思えなかった。


 また、もしも彼らにここを攻め込まれたりしたら、何の力も持たないユイやジローは格好の餌食だろう。サチ/ヘレンだって今はHPが少ない。
 三人がエージェント・スミスにされてしまっては、一気に自分達が不利になる。そうなっては今度は自分達が『上書き』されてしまう。
 ユイだけでも絶対に逃がさなければならない……白野達はシノンからそう忠告されたらしいが、確かにその通りだ。


《スケィス/Skeith》
 登場ゲーム:The World(R:1)
 モルガナ八相の第一相・『死の恐怖』。
 戦闘能力は非常に高く、データドレインで多くのプレイヤーを未帰還者にした。女神AURAの消去を目的としている。


 そしてスケィス。
 志乃、カイト、アトリの三人を殺害したプレイヤー。それは、白野達と共にいるもう一人のカイト……蒼炎のカイトが知る存在だった。
 シノンが語った『白い巨人』……カイトはそれをスケィスと推測していたので、それを頼りに調べてみたら本当にデータが出てきている。
 ユイが彼の通訳をしてくれたのが幸いだろう。もしも彼女がいなければ、スケィスの危険を知ることができなかったのだから。


162 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 09:39:22 81r00bnM0



《データドレイン/Date Drain》
 登場ゲーム:The World(R:1)
 女神AURAから授けられる腕輪を持つPC及びモルガナ八相が使用できるイリーガルな力。
 対象のデータを奪い弱体化させる効果がある他、データを改竄させることも可能。反面、過剰に使用した場合はPCに異常が起きてしまう。


《AIDA/Aida》
 登場ゲーム:The World(R:2)
 『Aritificially Intelligent Data Anomaly』の略称であり『The World』に存在しないバグシステム。
 己の意志を持ち、『The World』の各所で暴走を起こした。
 AIDAに感染されたPCはシステムを超えた力を手に入れられるが、コントロールが効かなくなって命すらも脅かされてしまう。


 スケィス達八相を倒すにはカイトの腕輪に搭載されている【データドレイン】という力が必要らしい。
 標的となった相手のデータを吸収して、更には改竄もできる……本来の『The World』には存在しないシステム外の力だ。それをカイトが所持しているのはとても心強く感じる。
 しかし一方で、もしもデータドレインが敵に回ったらと考えたら、恐ろしくなってしまう。データを改竄させる程の力がこちらに向けられたら、一溜まりもない。
 サーヴァントとして高いステータスを誇るガウェインだって同じだ。彼の輝かしいスペックも、データドレインのようなシステム外の力を前にしては対策のしようがない。
 数多の攻撃を弾いた堅牢たる鎧だろうと、システム外の力にとっては紙も同然かもしれなかった。
 また、AIDAも同じだ。ヘレンは友好的だが、それは彼女が特例なだけかもしれない。本来は『The World』で猛威を振るった危険な存在であることを、忘れてはいけなかった。


163 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 09:42:34 81r00bnM0
「そしてデータドレイン……これもまた厄介なシステムですね」
「データの改竄か。こいつはどうやら、アタシにかけられている制限どころの話じゃなさそうだな」
「それが生温く思えるレベルかもしれませんよ? ユイさんは言ってました……僕達のレベルを弄れる上に、バッドステータスの負荷だってかかると。
 また、過度な使用はゲーム全体のグラフィックすらも破壊しかねないらしいです。一歩間違えたら、ここにいる僕達全員がデリートされてもおかしくありませんよ」

 レインは先の戦闘行為によるペナルティが解除されていない。しかし、データドレインの存在を知った今となっては、ステータスの低下は些細なことに思えてしまう。
 また、データドレインを所持するのはカイトとスケィスだけではない。現在、ハセヲを捜しているシノンだって、データドレインをインストールできるアイテムを所持しているようだ。
 しかも何らかの外的要因によって機能拡張(エクステンド)されていて、効果は大きく増大している。だが、その分だけデメリットも増えていて、それをシノンが背負わなければいけなかった。
 スケィスやエージェント・スミスのような危険なプレイヤーを撃退できるだけならまだいい。だが、データドレインの反動でシノンが自滅する危険の方が遥かに高かった。

「ですが、今はデータドレインを恐れるわけにもいきません。確かに危険であることを忘れてはいけませんが、使い方を間違えなければ僕達にとって大きな力にもなります。
 それにカイトさんだって誤射などしないでしょうし、いざとなったら白野さんが止めてくれるはずです……彼の判断力はこの僕に勝るでしょうから」
「そりゃまた随分と評価してるな。あの白野って奴はそんなに凄いのか? 見た所、ただの冴えない兄ちゃんにしか思えねえけど」
「ははっ! それもまた否定できませんね!
 でも、あの人は咄嗟の判断力や粘り強さは凄まじいですし、何よりもサーヴァントと培ってきた絆は本物です。どんな世界でどんなサーヴァントと契約しても、絶対に聖杯戦争を生き残るでしょう。
 もしも先程の戦いで白野さんがいて、レインさんと戦うことになっていたら……どうなっていたでしょうね」
「……おい、アタシをコケにしてるだろ。何だったら、今からにでも白野をぶっ潰してやろうか?」
「おっと、これは失礼。ただ、もしも本当に白野さんと戦うことになるのなら注意した方がいいですよ。
 いくらレインさんが凄まじい武装を誇っていようとも、白野さんは必ず攻略法を見つけるはずですから」
「忠告だけはありがたく受け取っておくけど、あんたの不安は外れるぜ? あたしは王だからな」

 軽口に聞こえるが、その言葉には威風堂々とした雰囲気も混じっている。やはり王の名は伊達ではないのだろう。
 白野が負けるとも思えないが、レインが負ける姿だっていまいち想像できない。平民が王に反旗を翻す様を見るのも面白そうだし、王がその圧倒的なカリスマの元で勝利を収める姿だって見たかった。
 どちらを応援するべきか…………そんなことを考えた途端、図書室のドアが開く。ジローが白野達を連れて戻ってきたのだ。

「おーい、戻ったぞ。レオにレイン」
「おかえりなさいませ、ジローさんに皆さん。
 白野さん、サクラの様子はどうでしたか?」

 そう問いかけると、白野は微笑みながらいつもと変わらない桜だった、と答えてくれる。
 それは何よりだった。桜は白野達に会いたがっているので、顔を見せるべきだと進言した。
 彼らが桜に会い、特製弁当を受け取っている間にこちらが調査をする。白野達のおかげでキーワードを探すのに苦労をすることはなかった。


164 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 09:43:33 81r00bnM0

「では、今後の方針について話し合いましょうか。
 僕達に残された時間は既に12時間を切っていますので、あまりのんびりできません。だからといって焦りすぎるのも禁物ですが」

 そう言って、レオはここに集まった生徒会メンバーで会議を始めた。
 ちなみに生徒会の役職に関してだが、岸波白野は庶務をやることになっている。会計の方は、本当ならキリトの予定だが不在なので、カイトが代理で引き受けてくれた。確かにAIであるカイトなら合理的な計算も瞬時にできるかもしれない。
 サチ/ヘレンは……ジローと共に雑用をやる事になった。彼女の役職に関しては消去法で決まったようなものだ。何よりもヘレンが特に何も言わないので、あっさりと決まっている。



     †



 ――――まず必要なことは、今後の行動方針だった。


 ゲーム開始から既に12時間が経ったものの、現状を打破する手筈はまだ何もない。
 いくつかの情報は集まったものの、そこからどうやって勝利するのか……それが大きな課題だった。


 まず、この月海原学園について。
 レオが言うには、この学園にはアリーナが存在するようだ。かつて月の聖杯戦争で勝ち抜く為、サーヴァントと共に鍛錬の場として利用した場所がここにもある。
 内部もかつての迷宮とあまり変わっておらず、エネミーが徘徊しているらしい。レオは既に第三層まで辿り着いたようだ。


 そして、最下層には何があるのか…………当然ながらまだ判明していない。
 レオは第二層を攻略したことで【番匠屋淳ファイル】という謎のアイテムを入手したが、それにはプロテクトがかけられている。
 プロテクト自体はユイとレオが力を合わせれば解析に時間はかからないものだった。ユイの解析とレオのハッキング能力が合わされば、子ども騙しに過ぎない。
 だけど、まだ浅い層に設置されていたアイテムだからかもしれない。もっと深い所のアイテムだと、更に複雑になっている可能性だってある。


 肝心の内容は【The World(R:1)】での出来事が記録されていた。
 勇者カイトの活躍。それに碑文と八相が関わる事件や二度に渡るネットワーククライシス……更には究極AI『アウラ』の誕生と喪失。時期で言えば、どれもここにいるカイトが誕生する前の話らしい。
 そしてここには本物(オリジナル)の勇者カイトの姿も映し出されていて、誰もが驚いた。無論、一番反応が強かったのはカイトだろう。
 黄昏色の衣服に三つ叉の双剣。目つきやツギハギの有無などの差異はあるが、やはり瓜二つだった。
 この世界でシノンを救った彼の姿を目に焼き付ける。カイトの遺志を継ぐためにも。


165 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 09:56:54 81r00bnM0
 この他には、興味が引かれる名前がいくつも存在した。
 司。
 アルフ。
 カール。
 ジーク。
 カズ。
 オルカ。
 楚良。
 イリーガルな猫PCミア。
 ミアを慕う少年エルク。
 オルカの盟友であり<フィアナの末裔>と並び称されたカリスマプレイヤー・バルムンク。
 伝説のネット史上最強のスーパーハッカー・ヘルパ。


 この中には、例のメールに書かれていたプレイヤーも存在する。
 ミア……放浪AIであり、第六相『マハ』でもある。つまり、スケィスと同じ八相だった。その特徴から考えて、ありす達と共に一緒にいた獣人と考えて間違いない。
 何故、そんなミアがありす達と共にいるのか。またどうして八相であるミアがAIとしての姿をしていたのか……ミアがいなくなった今となっては永遠に知ることはできない。
 だけど、ミアを慕うエルクという少年はどうなるのか。それにあのエンデュランスというプレイヤーも、うわ言でミアの名前を口にしていたはず。
 …………もしや、エルクとエンデュランスは同一人物なのではないか。根拠はないが、そんな可能性が一瞬だけ芽生えてしまった。


 話を戻そう。
 この中にはスケィスを始めとする八相達の存在についても書かれている。だが、現状では撃破をする確実な手がかりを掴めなかった。
 もっと情報を集めれてからファイルを確認すれば別だろう。だけど、八相に対する対抗手段はデータドレインしかない……今はそう考えるしかなかった。
 それにデータドレインだけではない。プロテクトブレイクの状態にまで追い込む攻撃力と、スケィスの攻撃を凌ぐ耐久力と機動力も必要だ。
 カイトにデータドレインをさせるとしても、それをスケィスに妨害されたりしたら全てが水の泡になる。故にこちらの戦力も認識しなければならない。


166 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 09:58:02 81r00bnM0

 セイバーとキャスターとガウェインは皆、いずれも高いステータスと経験値を誇るサーヴァント達だ。この三人が共に力を合わせられれば、どんな敵にでも打ち勝てる程の頼もしさが感じられる。
 カイトも戦力としては申し分ない。レインも、レオが言うには凄まじい戦闘スペックを誇るそうだが、自分達がここに着くまでにトラブルを起こしてしまったらしい。そのせいで、一定時間だけ全てのパラメータが低下させられている。
 その時間がわからない以上、任せられるのは後方支援だけになりそうだ。
 サチ/ヘレンは……あまり戦力としては期待できない。戦えないことはないだろうが、無理をさせるわけにはいかなかった。
 へレン自身のスペックはまだしも、サチ本人の戦闘経験はわからない。そんな彼女にエージェント・スミス達やスケィスのような怪物と戦わせることなどできなかった。
 彼女の役割はユイやジローのように、戦えない仲間達の護衛が最適だろう。


「後ろで隠れてるのはあたしの性に合わねえけど、今はしゃーないよな。
 まあ、そういうことだからよろしく頼むぜ、サチ……おっと、ヘレンだったか?」
「――――――――」

 ヘレンはレインの言葉に頷く。つまり、了承してくれたことだ。


 現状のメンバーの戦力は整っているようだが、決して完璧とは言い切れない。
 まず第一に、共闘する自分達の連携が取れるのかという不安があった。個々の能力が長けていても、自分達はお互いの戦力を完全に把握している訳ではない。
 何の策も立てずに戦闘に突入しては、互いに自滅してしまう危険がある。尤も、考えなしに突撃したりするような者はここにいないはずだから、それは杞憂であるかもしれないが。



「…………なるほど、これは実に貴重な情報ですね。どれも興味深い内容でした」

 思案しながら【番匠屋淳ファイル】を読み終わる。一番最初に口にしたのはレオだった。

「『.hackers』、モルガナ因子、八相、データドレイン、黄昏の腕輪、セグメント、未帰還者…………どれも僕達の世界では全く存在ませんから、こうして学べたのは実に助かります」
「ええ。それに、情報を調べる為とはいえ……カイトやユイに必要以上の負担をかけるのは宜しくありません。
 王だろうと、騎士だろうと、民であろうと……いつの時代だろうと、常に皆が平等に働くからこそ国は栄えます」
「ガウェイン。今は王国ではなく生徒会ですよ?」
「それもそうでしたね。これは失敬」

 レオとガウェインの会話は何気ないものに聞こえるが、その表情は真剣そのものだ。
 それは他のみんなも同じだ。セイバーとキャスターも今回ばかりは深刻な表情を浮かべている。例え彼女達でも……いや、数多の戦いを乗り越えてきた彼女達だからこそ、スケィスやエージェント・スミスの脅威を実感できるのだろう。
 もしかしたら、アリーナの隠されたエリアに潜んでいた謎のプレイヤーに匹敵する程の実力者であるかもしれないから。


167 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 09:59:28 81r00bnM0

「なあ。レオ……ちょっといいか?」

 不意にジローがレオに問いかけてくる。

「何でしょうか? ジローさん」
「その……あのスケィスって奴を倒すには、カイトが使えるデータドレインって奴が必要なんだよな?
 それを他のみんなが使えるようにすることって……できないの?」
「……それは僕も考えました。カイトさんが持つデータドレインを複製できたら、大きな力になるはずだと。
 ですが、データドレインの詳細を僕達は知りません。力の源は何か、そしてどういった原理でデータドレインが他のプレイヤーに影響を与えるのか……それはこの図書室にも書かれていません
 何も知らないまま強大すぎる力に触れたとしても、逆に僕達が危険に晒されるだけですよ」
「そっか……確かにそうだよな。悪い、レオ」
「いいえ。ジローさんの気持ちは非常にわかりますから」

 ふと、カイトに目を向ける。彼は首を横に振ったから、不可能だと言いたいはずだ。
 データドレインの複製……実現できれば確かにこちらが有利になるだろう。だが、レオが言うようにデータドレインの構造を自分達は知らなかった。
 ユイに解析などさせる訳にはいかない。それはユイ一人を危険地帯に放り込むに等しいし、またカイトだってどうなるかわからない。
 最悪の場合、データドレインが暴走を起こして全員に被害が及ぶかもしれなかった。


 それだけではない。個人的には『腕輪』の力を増やされたくないという気持ちだってある。
 あれは危険だと本能が警鐘を鳴らしている。どんな感情かと問われたら…………『死の恐怖』と表現するのが相応しい。
 武器は一歩間違えたら、己を滅ぼす災いにもなってしまう。故に、データドレインの複製なんて余程の事がない限りはやめて貰いたかった。
 今がその『余程の事』と言われたら、否定できないが…………


168 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 10:01:20 81r00bnM0
 …………そう考えると、シノンは大丈夫なのだろうか。
 彼女は『黄昏の書』というデータドレインがインストールできるアイテムを所持している。
 ユイが言うには機能拡張(エクステンド)されているようだが、それが逆に不安だった。こう考えるのは悪いが、文字化けをするほどのバージョンアップが施されたアイテムをシノンは使いこなせるのか?
 無闇に使ったら暴走を起こす危険だってあるらしい。それを踏まえると、あの時に止めるべきだったはずだ。
 もしも、シノンに何かあったら……それは自分の責任でもある。


 出来るなら今からにでも彼女を追いかけたいが、もうどうにもならない。シノンとハセヲはどこに向かったのかわからないのだから。
 せめて、彼女の無事を祈るしかなかった。ユイやキリトと再び巡り合えるように……と。



「……そういえばユイよ。あのファイルにはセグメントとやらが出ていたな。
 そのセグメントだが……確かそちが持っていたはずだが?」
「はい、これですね」

 セイバーに促されて、ユイはアイテムフォルダからセグメントを取り出す。
 それは淡い光を放っていて、見る者に安らぎを与えそうだった。


169 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 10:02:33 81r00bnM0
「ほう……美しいな。やはり女神に由来するだけのことはある。
 考えたのだが、これがユイに渡されている以上……他のセグメントもどこかにあるのではないか?」
「それはありえます。これはセグメント3としてカウントされている以上、残りの1と2だってあるかもしれません。
 ただ……集めた時に何が起こるかまでは書かれていませんでしたが」
「ふむ。あのファイルを見て、余は思ったのだ……もしや女神アウラは悪辣な榊達の手にかかり、そのような姿にされてしまったと。
 全く。いつの時代も神々の美を敬わずに罰当たりなことをする輩は絶えないのだな……何とも嘆かわしい。あのような不届きな輩がいては、世界の芸術家達があまりにも不憫だ。
 と、それはさておき…………」
「…………3つのセグメントを集めれば、女神アウラは蘇る?」

【番匠屋淳ファイル】の内容が正しければ、ユイが持つセグメントは女神アウラの一部ということになる。
 スケィスの手にかかり、女神アウラはデリートされた。その際に彼女のデータはセグメントとして分割されて『The World』の各所に凍結されたらしい。
 セイバーが言うように女神アウラはGMによって、セグメントにされてしまった可能性がある。だけど、また集めれば女神アウラは復活して、このバトルロワイアルを止められるのではないか?

「……いや、それはどうだろうな。そんな都合よくいかないと思うぜ?」

 しかしレインはそれを否定する。

「あたしはカイトがいる『The World』を実際にプレイした訳じゃねえし、女神アウラのことだって知らねえ。けど、アウラを分解したってことは、アウラがいると都合が悪いってことだろ?
 だったら、残りのセグメントはあたし達の手に届かない所にあるかもしれない」
「レインさんの言う通りです……また、もしも残りのセグメントがこの世界にあったとしても、榊達が何の対策も施していない訳がありません。
 いつ女神アウラが復活してもいいように、何らかのプログラムが発動するでしょう。女神アウラを上回るモンスターが現れるか、あるいはこの世界そのものをデリートするか……」
「何にせよ女神アウラに頼らないで、あたし達だけでどうにかしなきゃいけねえみたいだな」

 アウラの力には期待できない……レインとレオの意見も一理あった。
 どうやら女神アウラは『The World』の根幹に関わる、絶対的存在かもしれない。榊達は女神アウラがいてはこのバトルロワイアルを妨害されると判断して、何らかの強い力でセグメントにしたのだろう。
 そして、そこからまた全てのセグメントが集まらないように、別のセグメントをプレイヤーが関与できない場所に封印しているか……またはセグメントが集まった時の対策をしているか。
 いずれにせよ、女神アウラの手助けは期待できないと考えた方がいい。セグメントがあるのなら、カイトの為にも集めなければいけないことは変わらないが。


170 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 10:03:23 81r00bnM0
「それに他に重要なことと言えば……そうだ。確か、D-4エリアの洞窟でしたっけ?
 謎のプロテクトエリアとやらがあるのは」
「ええ、その通りですとも。
 あそこはどうも死人の匂いがプンプンしたので、絶対に何かありそうなんですよ! ただ、あそこにかけられているプロテクトを破ったら何があるのか…………
 昔から墓を荒らす輩は呪われます。ですので、私達に祟りが舞い降りてもおかしくありませんよ?」
「でしょうね。プロテクトがかけられているからには、何か特別なものが存在してもおかしくありませんし。
 こちらも調査したいのですが、人員と労力に余裕があるかどうか……」

 D-4エリアの調査。レオと再会できたらこちらにも取り掛かろうと思っていたが、事態はそうもいかなかった。
 何しろ、危険人物の対策及びにアリーナの探索など、逆に課題が増えてしまっている。
 戦力を分散させて、それぞれ別行動を取る……それも一つの手だが、エージェント・スミスやスケィスのような危険なプレイヤーがいるとわかった今では、得策とも思えなかった。
 それにもしも、自分達がいない間にシノンやシンジ達が戻ってきたら、向こうも困ってしまう。桜にメッセンジャーを任せるのも気が引けた。



 とにかく、現状の課題をまとめよう。
 まず、最優先に解決するべきはウイルスの発生だ。ここにいる全員の命が、残り半日を過ぎている。とはいえ、現状では未だに手がかりすら掴めていない。
 次点で危険人物の対策だろう。彼らの性質から考えて、既に他プレイヤーをキルしてウイルスの猶予を遅らせているだろうから、短期間で決着をつけなければならない。
 その次にアリーナとプロテクトエリアの調査だろう。これはどちらか一つに絞らなければ、戦力が中途半端になってしまう。
 戦えるであろうレインのステータスがダウンしている。加えて、ユイやジローのように戦えない者がいる現状では、少しでも人員を確保しておくべきだ。
 セグメントの探索もしたいが、これに関しては手がかりが全くない。故に、カイトには悪いが…………後回しにするしかなかった。
 その旨をカイトに伝える事にする。

「ダ=ジョ$ブ」
「大丈夫、だそうです」

 それはよかった。ユイの通訳を聞いて胸を撫で下ろす。

「さて、それでは思考を纏める為にも、少し休憩をしませんか?
 白野さん達はここまで来るまでに長い距離を進んだ上に、大量の情報を頭に叩き込んでいます……ここまでで体力を大分消耗しているかもしれません。
 あなたが働き者であることは知っていますが、時には休まないといけませんよ」

 働き者……どういう意図でそれを口にしているかはわからないが、レオの提案を断る事はできない。
 事実、ここに来るまで自分達はずっと動き続けていた。セイバーとキャスターも、カイトも、サチ/ヘレンも、ユイも……誰一人としてまともに休んでいない。
 そういう意味では、アーチャーは今頃どうしているのか気になってしまう。ちゃんと休んでいるのか、それともまだシンジと共に戦っているのか。
 だけど今は休まなければいけない。アーチャーには申し訳ないと思うけど、ここにいるみんなをきちんと休ませるべきだ。


171 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 10:04:55 81r00bnM0


    3◆◆◆


 知識の蛇のとある一室。
 そこは全プレイヤーが移されているモニター画面が存在していた。
 ここにいる限り、あらゆるプレイヤーの動向はGMによって把握されてしまう。例えどんな小細工を弄そうとも、余程の事がない限りは防げなかった。
 それは今、月海原学園で会議という名の茶番を繰り広げていた【対主催生徒会】とやらも例外ではない。

「コシュー……榊よ」
「ああ、ダークマン……どうかしたかね?」
「スケィスゼロの動向はようやく掴めた…………だが、いいのか? コシュー……奴らは、確実に情報を掴みつつあるが」

 ダークマンの前には今、榊が立っている。
 理由は一つ。ようやくスケィスゼロがモニターに映るようになったと同時に、榊が現れたのだから。
 何の偶然かと思いながら、榊に尋ねる。

「…………構わないさ」
「……コシュー。お前は言ったはずだ……どんな不安の芽でも摘まなければならないと」
「いいや。嘘じゃない……むしろ、ゲームとして成立しなくなる恐れがある要因は潰すべきだ。
 だが、大半の事はゲームの一環として組み込まれているのだよ。認知外迷宮、エージェント・スミスによるNPCの上書き、また……仮に間桐桜の持つデータが他プレイヤーの手に渡る事態があろうとも。
 尤も…………ゲームとして成立した果てには、特大のイベントが始まるだろうが」

 そう語る榊の笑みは余りにも禍々しい。普通の人間が見れば、生理的な嫌悪感を抱いてしまいそうなほどだ。
 しかしダークマンは闇の殺し屋。榊の態度に動揺することはない。
 ただ、疑問を抱いただけだった。

「……先程、トワイスから連絡があったのだよ。あの世界のデータは確実に歪みつつあると」
「ほう」
「データドレイン、心意、ロストウエポン、憑神、AIDA、救世主の力……数多の仮想世界から強大な力を集め、そして激突させているのだ。
 そんなのを使って、ツギハギだらけの世界で暴れたら……世界そのものが耐えきれないに決まっているだろう?」

 さも当然のように、そして衝撃的な事実を榊は口にした。
 『The World』ではシステム外の力によって、世界そのものにバグが浸食された事例を思い出す。それと同じ現象が起こっているのだと、ダークマンは判断する。
 そもそもバトルロワイアルの会場自体、別々の仮想世界で使われていたデータを無理に組み合わせただけの代物だ。だから、デバッグモードで起きたバグが全く別のエリアにまで届き、武内ミーナに触れられてしまった。
 現実で例えるならば欠陥住宅と呼ぶに相応しい世界の中で、プレイヤー達は巨大な力を持って殺し合いをしている……そんなことになっては、戦いの衝撃で世界そのものが壊れてもおかしくなかった。


172 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 10:06:33 81r00bnM0
「もしもバグが本格的に広がってしまえば、認知外迷宮から果たして何が出てくるか? あそこに蔓延る怪物どもだけではない。あらゆる世界のエネミーどもがプレイヤーを襲い掛かるようになっているのだよ!
 このままでは数日……あるいは二十四時間も世界が存在するかどうか、実に怪しいものだ! ウイルスだけではなく、自分達の素晴らしい力を振るった結果に死を呼び寄せるなんて、プレイヤーの諸君は実に哀れだ!
 有能すぎるが故に身を滅ぼすなんて悲しすぎるなぁ! ハッハッハッハッハッハッハッハ!」

 画面に映るプレイヤー達を榊は嘲笑っていた。
 この男は始めから知っていたのだろう。例えどれだけ高性能なファイアーウォールを用意しようとも、殺し合いに集められたプレイヤー達は必ず突破しかねない。
 ならば逆にあえて世界を脆く作り……巨大な力を持って潰し合わせて、反撃の機会を与えなければいい話だ。壊れた世界など、その後に修復すればいい。

「モルガナは己の手でアウラを消す事はできない……だが、プレイヤー達の戦いによって世界が壊れ、全てがバグに潰されてしまえばどうだ? 彼女が直接手を出す事にはならないな。
 いかに強大なプレイヤーといえども、その段階に至るようになっては確実に消耗するだろう……果たして誰が生き残るだろうな?」
 
 そう語る榊の視線の先には、一つのモニターが存在する。
 映し出されているのは殺し合いの会場でも、アリーナでも、認知外迷宮でも、知識の蛇でもない…………また別の空間だった。
 そこには各世界より集められた魔物が存在する。あるいはモンスターか、エネミーか……呼称はいくつもあるだろう。
 だが、彼らは確実に牙を研ぎ続けていた。データに生じた歪みを突き破り、プレイヤー達を食らうのを待ちながら…………


【チーム:対主催生徒会】


173 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 10:07:15 81r00bnM0
[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:スカーレット・レイン
書記 :ユイ
会計 :蒼炎のカイト(キリトの予定だったが不在の為に代理)
庶務 :岸波白野
雑用係:ハセヲ(外出中)
雑用係:ジロー、サチ
[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:(レオの)理想の生徒会の結成。
2:保健室に向かって桜に会い、その後に図書室で情報を集める。
3:エージェント・スミスと白い巨人(スケィス)に警戒する。

【備考】
※岸波白野、蒼炎のカイト、サチの具体的な役職に関する話はまだ出ていません。
※番匠屋淳ファイルの内容を確認して『The World(R:1)』で起こった出来事を把握しました。
※セグメントの詳細を知りましたが、現状では女神アウラが復活する可能性は低いと考えています。


【現状の課題】
1:ウイルスの対策
2:エージェント・スミス及びスケィスを始めとした危険人物の対策
3:アリーナ及びプロテクトエリアの調査(ただし、これはどちらかに集中させる)
4:セグメントの捜索


【B-3/日本エリア・月海原学園/一日目・午後】


174 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 10:08:21 81r00bnM0
【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP95%、データ欠損(微小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、男子学生服@Fate/EXTRA
[アイテム]:女子学生服@Fate/EXTRA、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
0:―――大丈夫だ、問題ない。
1:少しの間だけ休み、それから行動する。
2:ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
5:せめて、サチの命だけは守りたい。
6:サチの暴走、ありす達、エージェント・スミス達や白い巨人(スケイス)に気を付ける。
7:ヒースクリフを警戒。
8:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP100%、健康
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと3分程度です。
※アーチャーとの契約が一時解除されたことで、岸波白野の構成データが一部欠損しました。
※セイバーとキャスターはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。


【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP55/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/ピクシー
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[アイテム]:セグメント3@.hack//、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill


175 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 10:08:49 81r00bnM0
[思考]
基本: パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
0:ハクノさん………。
1:対主催生徒会の会計として、ハクノさん達に協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:ヒースクリフを警戒。
6:シノンさんとはまた会いたい。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=VIIIであるかもしれないことを知りました。


【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%、SP80%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
3:サチ(AIDA)が危険となった場合、データドレインする。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。


【サチ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]HP10%、AIDA感染、強い自己嫌悪、自閉
[装備]エウリュアレの宝剣Ω@ソードアート・オンライン
[アイテム]:桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:死にたくない。
0:――――うそつき。
1:もう何も見たくない。考えたくない。
2:キリトを、殺しちゃった………。
3:私は、もう死んでいた………?
[AIDA]<Helen>
[思考]
基本:サチの感情に従って行動する。
1:ハクノ、キニナル。
[備考]
※第2巻にて、キリトを頼りにするようになり、メッセージ録音クリスタルを作成する前からの参戦です。
※オーヴァンからThe Worldに関する情報を得ました。
※AIDAの種子@.hack//G.U.はサチに感染しました。
※AIDA<Helen>は、サチの感情に強く影響されています。
※サチが自閉したことにより、PCボディをAIDA<Helen>が操作しています。
※白野に興味があるので、白野と一緒にいる仲間達とも協力する方針でいます。


176 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 10:10:16 81r00bnM0
【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP50%、小さな決意/リアルアバター
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:今はみんなと一緒に行動する。
2:ニコやユイちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の事は、もうあまり気にならない。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。
※桜の特製弁当を食べました。



【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP10%、令呪:三画
[装備]:なし
[アイテム]:桜の特製弁当@Fate/EXTRA、トリガーコード(アルファ)(ベータ)@Fate/EXTRA、コードキャスト[_search]、番匠屋淳ファイル(vol.1〜Vol.4)@.hackG.U.、基本支給品一式
[ポイント]:1053ポイント/0kill
[思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
1:休息の後、行動する。
2:モラトリアムの開始によって集まってくるであろうプレイヤーへの対策をする。
3:他の生徒会役員となり得る人材を探す。
4:状況に余裕ができ次第、ダンジョン攻略を再開する。
5:キリトさんには会計あたりが似合うかもしれない。
6:もう一度岸波白野に会ってみたい。会えたら庶務にしたい。
7:当面は学園から離れるつもりはない。
8:ユイとサチ(ヘレン)のことも考えなければならない。
9:ハセヲさんのことはシノンさんに任せる。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP110%(+50%)、MP85%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※ガウェインはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。


177 : 対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 10:11:32 81r00bnM0
【スカーレット・レイン@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP100%、(Sゲージ60%)、健康/通常アバター
[装備]:非ニ染マル翼@.hack//G.U.
[アイテム]:インビンシブル@アクセル・ワールド、DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)、赤の紋章@Fate/EXTRA、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:情報収集。
1:しゃーないので副会長をやる。
2:ジローにちょっと感心。
3:一人で飛び出したハセヲに軽い苛立ち。
[備考]
※通常アバターの外見はアニメ版のもの(昔話の王子様に似た格好をしたリアルの上月由仁子)。
※S(必殺技)ゲージはデュエルアバター時のみ表示されます。またゲージのチャージも、表示されている状態でのみ有効です。
※参戦時期は少なくとも13巻以降ですが、インビンシブルはスラスター含め全パーツ揃っています。


【???/知識の蛇/午後】


【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康


【ダークマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康


【備考】
※システム外の力が使用され続けると、会場にデータの歪みが発生されます。
※それが大規模になった場合、会場内に大量のエネミーが解き放たれるイベントが開始されます。
※それがいつ、どのタイミングで発生するかは現状では不明です。


178 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/22(土) 10:13:26 81r00bnM0
以上で投下終了です。


179 : 名無しさん :2015/08/22(土) 12:00:23 iDYHlbRU0
もう12時間切ってるのだよね
レオ達がなんとかするのが先か否か…

榊さん余裕ぶっこいてますけど、これ絶対足元すくわれるパターンだw

投下乙でしたー


180 : 名無しさん :2015/08/22(土) 12:00:49 iDYHlbRU0
気になる点があったので指摘です

>>166
全く存在ませんから


181 : 名無しさん :2015/08/23(日) 07:14:16 PRiVEQSs0
アリーナ及びプロテクトエリアの調査も気になりますが
やはり生徒会がウィルスにどう対策するのかが一番気になります。
そして榊……このフラグ発言には思わず期待したくなりますねw

読んでて気になったのは対主催生徒会活動日誌・7ページ目(???編) で
レオは既に番匠屋ファイルを解析し終え把握しているので今回解析されるのはおかしいかと
他に>>168ではシノンが『薄明の書』ではなく『黄昏の書』を所持してることになっています。

最後に投下乙でした。


182 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/23(日) 08:30:31 wwUS7b660
ご指摘及び感想ありがとうございます。
誤字及び薄明の書に関しては収録の際に修正していただきます。
また、レオの解析に関しては該当する箇所を以下のように修正させていただきますが
不備がありましたら再度指摘をお願いします。



 レオは第二層を攻略したことで【番匠屋淳ファイル】という謎のアイテムを入手したが、それにはプロテクトがかけられていたらしい。
 もっともレオのハッキング能力が合わされば、子ども騙しに過ぎなかったが。
 情報の共有が必要ということで、この学園に辿り着いた自分達も見せてもらうことになった。




「…………実に貴重な情報だったでしょう? こうしてまた見ると、更に『The World』に興味が出てしまいますよ」

 思案しながら【番匠屋淳ファイル】を読み終わる。一番最初に口にしたのはレオだった。

「『.hackers』、モルガナ因子、八相、データドレイン、黄昏の腕輪、セグメント、未帰還者…………どれも僕達の世界では全く存在しませんから」


183 : 名無しさん :2015/08/23(日) 15:02:04 PRiVEQSs0
乙です。
それで問題ないと思います。


184 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/31(月) 07:56:37 6K7fiPKQ0
これより投下します。


185 : agreement;協定 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/31(月) 07:57:37 6K7fiPKQ0



     1◆



 エージェント・スミスの一団は駆け抜けていた。一切の無駄がなく、それでいて障害物を軽々と飛び越え続ける。
 未知の"力"を手に入れて、救世主ネオを始めとしたプレイヤーを抹殺する。その為ならば一切の無駄が許されなかった。
 スミスの一人を打倒したシノンは『愛』などという不合理極まりない感情を掲げていた。スミスに『上書き』されたランルーくんという狂気の道化師も『愛』を語っていた。
 同じようにアトリも『愛』を信じて、スミスの『上書き』に抗っていた。その現象は信じがたいものだったが、あの時のアトリは確かにシステムを弾き返している。
 ……もしや、人間の不合理な感情は絶対なるシステムすらも凌駕すると言いたかったのか。


 黄昏色の少年やハセヲは凄まじい炎を纏いながら、凄まじい進化を遂げている。蒼と紅の違いはあれど、それらは救世主の力と似ていた。
 一体何をきっかけにあれほどの力が発揮されたのか。まさかそれすらも『愛』が源となっているのか。
 エージェント達が決して持ち得ない『愛』という感情。何故、奴らはそれに拘り続けたのか全く理解できない。
 そんなものがあるからこそ人間は矛盾し、苦悩し、そして自ら堕落してしまう。だからこそ人類はマトリックスに支配されて、そして快楽の世界に溺れたのだから。


 だが『愛』の感情が力になるのなら、いずれはそれを解析しなければならない。
 しかしサンプルデータがなかった。人間はいずれも『上書き』してしまったし、知識や能力を得る事は出来ても感情の数値化は可能なのか?
 ワイズマンは『愛』を語らなかったから期待などできない。
 ボルドーはAIDAの解析に集中しなければならず、彼女に意識を向けていられるかどうか不明だ。数人がかりでやれば可能性はあるが、その分だけ時間を浪費してしまう。
 魔法道具屋は論外だ。単なるNPCに『愛』の解析など期待できない。


 だとすれば、確実なのはランルーくんだったが、シノンによって撃破されてしまった。
 改めて、彼女への憎しみが湧きあがってしまう。何度も煮え湯を飲まされただけでなく、こんな所まで邪魔をされてしまうとは。
 だが、報復する時までに待つしかない。"数"を増やし、"力"を手に入れて、シノンの全てを蹂躙し尽くして"私"にする……それを実現させる為にも、確実な準備が必要だった。


 バトルロワイアルが開始されて、既に12時間が経過している。
 全プレイヤーに仕組まれたウイルスが発動するまで、既に半日を切ってしまった。このまま行けば、何の力を持たない弱者はすぐに粛清されるだろう。
 だが、今のスミスにとっては少し都合が悪かった。24時間が経過する頃になれば、生き残ったのはハセヲを始めとした相当の強者達だ。そして、その後に控えているのは榊達との決戦だろう。
 その段階までに一人でも多くを『上書き』しなければならないスミスにとって、他プレイヤーがウイルスで殺されてしまうのは少し都合が悪い。
 そういう意味でも弱者は優先的に狩らなければならなかった。NPCを狙うこともできるが、それではたった一人を増やしている間に敵の戦力が増大する危険もある。


 スミス達は現在、G-1エリアのアリーナに向かって進行していた。
 一つは移動時間の短縮だった。いくらスミス達と言えども、マク・アヌから日本エリアに単純に北上しては時間が大幅にかかってしまう。
 それならば、ワープゲートを経由して移動した方が余程早く思えた。
 そしてもう一つはアリーナで行われる【スペシャルマッチ解放】 というイベントのクリアを果たす為だ。
 今から12時間以内にこのイベントを行った場合、特殊なボスと戦闘ができるらしい。それをクリアすればレアなアイテムが手に入るようだ。
 詳細は不明だがある程度は有利になるかもしれない。過度な期待はしないが、行く価値はあるだろう。


 そうして、スミス達はワープゲートの前に辿り着く。だが、その先を潜らなかった。
 彼らは一斉に背後を振り向いた。


186 : agreement;協定 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/31(月) 07:58:10 6K7fiPKQ0

「…………そこにいる君。"我々"を尾行しているのはわかっている。早く姿を現したまえ」

 スミスの一人は一歩前に出ながら声をかける。しかし返答はない。
 だが、四人は気付いていた。自分達を追跡しているプレイヤーが存在していることを。

「君が"我々"に勘付かれないように力を尽くしていたのはよくわかる。あるいは"我々"にわざとその存在を察することができるようにしていたのか…………あえて問わない。
 しかし"我々"の前に姿を現さないのであれば、君を"我々"の一人にさせて貰う事にしよう」

 無機質で、そして明確な殺意を込めた言葉を零す。
 "我々"の足音に混ざるかのように、第五の気配が感じられた。先に奇襲を仕掛けてきたボルドーとは違い、確実に気配を殺している。
 敵意や殺意は一切感じられず、意識を集中させなければ気付かなかっただろう。しかし途中から、あえてこちらに存在を知らしめているように見えた。
 周囲に静寂が満ちる。このまま姿を現さないのであれば、こちらから仕掛けるつもりだ。
 5秒が経過した後、スミス達が構えた途端……足音が聞こえる。そのまま、建物の陰から一人の男が姿を現した。

「………………」

 男は何も語らず、こちらを見据えている。
 色眼鏡と水色のマフラーによって、その表情を窺う事ができない。しかしこれだけいる"我々"を前にしても、動揺や驚愕といった気配は微塵も感じられなかった。
 その雰囲気は、マトリックスを守護するエージェント達にもよく似ている。


 だがそれ以上に目を引くのは、左腕を丸ごと覆い尽くす巨大な装飾品だ。
 武器なのか。あるいは何らかの"力"を封印しているシステムが具現化したもののか。少なくとも、無視していい存在ではないはずだろう。

「"我々"に対して存在を隠していたことは評価に値する…………しかし何故、それをわざと破ったのかが理解に苦しむ。
 奇襲を仕掛けたかったのか? それとも"我々"と協定を組もうとしたのか? あるいは、別の目論見があったのかね?」
「……君達の一人に"種"が撒かれているのを見たからだ」

 疑問に対する男の返答は、あまりにも曖昧なものだった。
 それにスミスは首を傾げるも、男は続ける。

「如何なる手段で"種"を手に入れたのかは知らない。だが、いずれそれは芽吹くだろう。
 その時、君達がそれを"力"とできるかどうかは……君達次第だろうな」

 そう語る男の視線は、ボルドーを『上書き』したスミスに向けられているように見えた。
 そしてスミスは察する。この男はボルドーが所有していた『力』について知っていると。
 すなわち、榊やボルドーと同類であることになる。

「もしや、君は榊の仲間かね?」
「仲間…………少なくとも、間違ってはいない」
「では君を打倒すれば、"我々"は榊の元に近づけることになるのかね?」
「それは君達次第だ。ここで倒した所で、君達の未来が大きく変わるとは…………いや、これはよそう。
 他者の予言を口にするのはフェアじゃない」

 またしても曖昧模糊な返答。だが、スミスはそれが微かに気がかりだった。
 予言。エグザイルには他者のそれを見通し、そして導く存在がいる。このマトリックスに取り込まれる直前に『上書き』の標的として定めた預言者・オラクルだ。
 この男はオラクルに接触した可能性が高かった。


187 : agreement;協定 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/31(月) 07:58:43 6K7fiPKQ0
「まさか、君は預言者を知っているのかね?」
「フッ……どうやら、君は彼女と同じ世界に生きる存在みたいだな」
「彼女はどこにいる?」
「既にいない」
「何……?」

 何事もなかったかのように男は答える。
 それが何を意味しているのか……男によって預言者は消されたのか、それとも本当に「いなくなった」のか。
 だが、問いただそうとしてもまともな返事がある訳がないし、何よりも"我々"の一人にしてしまえばそんな必要などない。
 その意思を察したのか、隣にいる"我々"は一歩前に踏み出して、そして同時に飛び掛った。


 恐ろしいほどの速さを誇り、重量感に溢れる三つの打撃が男に振るわれる。
 並のプログラムであれば一瞬でデリートされてしまうであろう連撃だ。このまま、男を一瞬で致命傷にまで追い込めるかと予想した。
 しかし次の瞬間。男の身体は霧のように消えてしまう。スミス達の攻撃は命中する事もなく、誰もいなくなった空間を空振りするだけに終わってしまった。

「ムッ!」

 驚愕と同時に、背後に気配を感じる。
 反射的に【静カナル緑ノ園】を構えながら振り向いた先には、あの男が巨大な爪を向けていた。その距離はほぼ目と鼻の先だった。
 左腕の拘束具はいつの間にか外れていて、爪からは大量の黒点が撒き散らされている。それは榊やボルドーにも見られた例のプログラムだと、スミスは察した。
 しかしあの二人とは違い、この男は極めて冷静だった。それだけ、このプログラムに精通しているはず。
 マトリックスが蝕まれないまま、力を完璧に使いこなしている…………実力はボルドーはおろか、榊すらも上回るかもしれなかった。


「…………その速度。君も彼らのように、相応の『力』を持った者なのか」

 しかしスミスは強く動揺をしなかった。
 ハセヲや剣士の少年は何らかのきっかけで膨大なる力を発揮している。それと同じように、この男も最初から凄まじき戦士であっただけの事。
 考えてみれば、GMである榊の仲間であるなら有り得ない話ではなかった。この程度の力は発揮して当然で、むしろ"我々"を瞬時に消滅させるシステム権限を持っていたとしてもおかしくない。
 この男は、NPCを『上書き』した事に何らかの警戒を抱いた榊達が送り込んだ刺客。その可能性だって否定できなかった。

「それで、榊の抹殺を企んでいる"我々"を消しにきたのかね?」
「違うな」
「では何故、わざわざ"我々"の前に姿を現した?」
「言ったはずだ。君達には"種"が撒かれているのを見たからだと……そして君達がハセヲの名前を口にしていたのを、俺は確かに聞いた」
「ああ。確かに"我々"はハセヲ君を憎んでいる」
「ならやはり、君達の前に現れて正解だったな…………俺もハセヲの敵だからだ」

 淡々と男は語るが、それでいて敵意は緩める気配を見せない。
 この男は変貌を果たしたハセヲと同等か、あるいはそれを凌駕する程の雰囲気が感じられた。感情が見られない瞳の奥に何が潜んでいるのか…………
 勝てない事もないだろう。だが、そこに至るまでの難易度が高い。無傷は有り得ないだろうし、仮に『上書き』ができたとしてもこちらの消耗の方が遥かに甚大なはず。
 現状では"数"に勝っているが、内三名はハセヲとの戦いで万全の状態ではない。そんな状態でハセヲの関係者と戦うのは得策ではなかった。
 尤も、このまま尻尾を巻いて逃げるつもりもないが。


188 : agreement;協定 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/31(月) 07:59:47 6K7fiPKQ0


 そして何よりも重要なのは、この男がハセヲの敵ということだ。
 彼の言葉に虚偽が感じられない。ここでそれを口にするメリットがあるとは思えなかった。

「ハセヲ君の敵か……」
「俺と君達の目的はどうやら同じのようだ」
「つまり"我々"と協定を結びたいと、君は言いたいのか?」
「ゲームクリアには必要不可欠な要素だ」

 男の言葉は極めて尤もだ。
 "数"を増やさなければゲームをクリアできない。そして現実の人間達は微々たる"力"を寄せ集めて、マトリックスへの反逆を続けている。
 だがスミスの場合、共に行けるのは"私"だけ…………そう思っていたが、この男も中々に興味深い。是非ともそのプログラムを解析するべきだが、このまま『上書き』をしたとしても時間がかかるだけ。
 まずは情報を得なければならない。ワイズマンの場合も、解析の前に尋問をしてある程度の情報を得るべきだった。
 同じ轍は踏んだりなどしない。この男からは色々と引き出せる物があるはずだった。




     2◆◆




 『The World』の闘争都市ルミナ・クロスに存在するアリーナと、内装は酷似していた。これはマク・アヌや大聖堂も同じだったので、今更かもしれないが。
 ここでは今、メールで書かれていた【スペシャルマッチ】が行われていて、オーヴァンは観客席でそれを見学している。
 プレイヤーは三人のエージェント・スミスで、現れる新たな敵を待っていた。

『これよりスペシャルマッチが始まります! 挑戦者は……エージェント・スミスのチーム!』

 実況の叫びと共に、周囲のNPCの歓声が大きくなる。
 ふと、オーヴァンは隣に目をやる。四人目のエージェント・スミスは無言でアリーナを見つめていた。
 彼の視線からは仲間に対する心配や期待と言った感情は見られない。

『勇気ある挑戦者達はこれより己の命をチップにして、最大級のボス……骸骨の刈り手との戦いに挑もうとしています! 果たして挑戦者達は己の運命を覆せるかっ!?』
「よくもまあ、耳障りな声で叫ぶものだ……全くもって煩わしい」

 スミスは淡々と呟く。まるで最初からこの戦いそのものが茶番だと考えているようだ。
 恐らく、結果は最初からわかっているのだろう。仲間達を信頼しているではなく、勝利を当然の事として捉えているはずだ。
 どちらにしても、オーヴァンには関係のない話だが。



 あれから、オーヴァンはスミス達と接触する為に追跡した。
 理由はスミス達の一人に植え付けられていた"種"を芽吹かせる為。能動的に争いを仕掛けてくる彼らが持つならば、遠からず芽吹くだろう。だが、GMからバトルロワイアルの扇動を任されている以上、それを導くのも一興だ。
 故に接触をしたが、この男達はやはり見込みがあった。純粋な戦闘力は勿論の事、彼らの"力"もまた驚異的だった。


189 : agreement;協定 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/31(月) 08:01:28 6K7fiPKQ0

「それで、君は榊の仲間でありながら"我々"の力を知らないと見るな」
「俺はゲームの扇動を任されているだけだ。君達の情報を与えられては公平性を欠いてしまう」
「なるほど……では、このまま君を"我々"にした所で榊達は大きな動きを見せないか」
「不服か?」
「いや。むしろ、それが当然だろう。君一人に殺し合いの鍵を握らせるなど、愚策にも程がある」
「その通りだな」

 オーヴァンとスミスが見る画面では、スミス達が巨大なボスモンスターと戦っている光景が映し出されていた。
 それは『The World』では見た事がない。ムカデ型の骸骨モンスターで、全長は優に10mは超えそうだった。
 実況曰く、SAOの第75層に君臨したモンスターらしい。つまり、あの茅場晶彦が生み出したモンスターの一体という事だ。
 モンスターは巨大な腕を振るうが、スミス達は跳躍する事で軽々と避ける。その脚力は凄まじく、明らかにシステム外の力だった。
 そしてスミスの一人は強烈な蹴りを叩き込み、モンスターを壁に叩きつける。速度と重さは憑神に匹敵するほどだ。

「ほう……あの巨体を一撃で崩すとは」
「君もあれくらいのことはできるのではないかね?」
「どうだかな」

 スミスの疑問を軽く流す。
 モニターを眺めると、モンスターは既に起き上がっていた。瞬き程の間だったが、スミス達はモンスターの刺客に回り込んでいる。
 それから同時に拳を叩き込んで、その巨体を高く弾き飛ばした。周囲のNPC達は更に盛り上がるが、オーヴァン達は何の感慨も抱かない。
 結果のわかりきった試合を眺めても、感情は決して動かされなかった。

「そういえば、君達は確かアトリの碑文を手に入れたそうだな」
「これも解析をしなければならないが、残念な事に"我々"は君達の"力"について知識を持たないのだよ。ボルドー君のプログラムも含め、君には協力して頂きたい」
「……ハセヲを倒す為なら、妥当な見返りだ。俺達はこれから互いの事を知らなければならない」

 聞く所によると、アトリはマク・アヌで殺害されたらしい。スミスがアトリから碑文を奪い取り、その直後に白い巨人に致命傷を負わされたようだ。
 それがきっかけとなって、ハセヲはシステム外の変貌を果たして……スミス達を圧倒する程の力を発揮したらしい。
 スミス達が碑文やAIDAを解析を企んでいる理由は、ハセヲへの報復だ。確かに彼らがこれらの力を手にすれば勝率は上げられるかもしれない。


 だが、オーヴァンは全てを教えるつもりなどない。何故なら、エージェント・スミス達があまりにも危険な存在だからだ。
 詳しい原理は知らないが、彼らは己の"数"を増やせる力を持つ。四人の姿が全く同じなのは、他のPCのプレイヤーをスミスに『上書き』したから……と、その情報を提供された。
 ワイズマン、ランルーくん、デス☆ランディ、ボルドー、魔法道具屋。合わせて五人のプレイヤーとNPCがスミスにされている。
 NPCの場合、一人の上書きにある程度の時間が必要らしいが、チート級の能力であることに変わらなかった。


 そして最大の問題は、エージェント・スミスがゲームの勝者として君臨してしまう事だ。
 彼らが憑神やAIDAの力を使いこなしては、GM達を本当に打倒しかねない。そうなってはGMすらもスミス達に『上書き』されるだろう。
 そこからスミス達が『The World』やSAOを始めとした数多のゲームに侵食しては、甚大な被害が出る。最悪の場合、スミス達が現実に生きる人間の脳を『上書き』する危険すらも予想できた。
 ネットワーククライシスどころではない。人類が築いた全ての文明が崩壊するはずだ。


190 : agreement;協定 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/31(月) 08:01:52 6K7fiPKQ0


 故にスミス達を放置するわけにはいかない。
 もしも彼らを追跡しなかったら、自らのあずかり知らぬ所で更に力を増大させていただろう。
 このまま、どこかにいるハセヲを利用して『再誕』を果たしたとしても、AIDAの脅威がスミスに取って代わるだけ。むしろ、スミスの対抗策を知らないのであれば、AIDA以上といっても過言ではない。


 当面はスミス達にAIDAや『The World』の情報を与えながら、スミス達の対抗策も練るべきだ。
 そしてハセヲと再会して『再誕』を起こして、AIDAと共にスミス達も駆逐するつもりだ。アトリの命を奪ったスミス達と組んだと知っては、ハセヲは更に憎しみを燃やすだろう。
 一度はスミス達を退けた力だ。もしも新たなる力を誘発させれば、今度はAIDAごとスミス達を全滅させられるはずだ。


 アトリを間接的に殺した犯人であっても、スミス達に怨みなど持ったりしない。『再誕』を果たす為に志乃を未帰還者にしたのだから、人の死を知っても心を痛める訳がない。
 否、心を痛めては躊躇いが生まれてしまう。そうなっては『再誕』を果たせなかった。
 その為に、スミス達すらも駒にしなければならない。だが、彼らは碑文使い達のように上手く行かないだろう。
 ある意味では榊達よりも遥かに厄介かもしれなかった。
 だが未帰還者達を……そして最愛の妹・愛奈を救う為にも退く訳にはいかなかった。


「……どうやら、終わったようだ」

 スミスは呟くが、それは周りの歓声に飲み込まれてしまう。
 いつの間にか、画面に映し出されたモンスターは消滅しているが、舞台に立つスミス達は相変わらず能面の如く表情だ。勝利に酔いしれるわけでも、モンスターに対して侮蔑を抱いている訳でもない。
 ただ、勝利という結果だけを受け止めているようだった。



     †



「終わったようだね」
「ああ。だが、あのモンスターを上書きしようとしたが……瞬時に消えてしまった」
「"我々"の一人にさせない為だろう」
「残念だが、仕方があるまい」

 スミス達の会話は余りにも異質だった。
 互いを称える訳でも、気遣う訳でもない。ただ、結果と己の考案を淡々と告げ合うだけ。
 これまで数多の不条理を見てきたオーヴァンですらも、この光景に現実味を感じることができなかった。

「レアアイテムはどうだったかね?」
「ああ。確かにこれはレアアイテムと呼ぶに相応しい性能だろう」
「オーヴァン君も見たまえ」

 スミス達が展開するウインドウからレアアイテムの性能を眺める。
 成程、確かにこれはスペシャルマッチに見合う報酬だ。加えて獲得ポイントも、従来のそれを上回った。その数は1000に届くので、あれだけの巨体を誇るモンスターを倒してでも、得る価値があるかもしれない。
 尤もスミス達にとっては赤子の手を捻るような相手なので、対価として成り立っているかは疑わしいが。


191 : agreement;協定 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/31(月) 08:02:27 6K7fiPKQ0

「……それで、これからどうする? まだ、宝を得るのか?」
「そうしたいのは山々だが、時間はない。"我々"の獲物を横取りなどされてはたまらんからな」
「その為にも"我々"は日本エリアに向かう。ワープゲートを使用すれば時間はかかるまい」
「確かに休息の時は、狩人にとっては絶好の機会だろう」

 日本エリアに存在する月海原学園は今、モラトリアムが行われている。そこならば他のプレイヤー達を狙えると、スミス達は踏んだのだろう。
 ここならば『上書き』は確実に出来るが、その分だけ時間を浪費してしまう。それなら、モラトリアムで集まったプレイヤー達を『上書き』した方が遥かに有意義かもしれない。
 あの施設で戦闘行為を行ったプレイヤーにはペナルティがあるリスクはあるが、リターンも期待できるだろう。

「オーヴァン君。君は君のままでいながら"我々"の仲間としていられる……これは実に特異な事だ」
「だが、警告はしておこう」
「例え君が膨大なる"力"を誇り、榊達の仲間であろうとも」
「"我々"の利益にならないと知ったら、即座に切り捨てる」
「心に留めておくといい」

 スミス達は一人、また一人と言葉を紡いだ。オーヴァンはそれに頷く。
 彼らはかつてオーヴァンの知る存在であったが、面影は微塵も感じられない。スミスによって『上書き』されるとは、こういう事なのだろう……そう、オーヴァンは思案する。
 もう元には戻れないだろう。そうなると、ワイズマンであった八叉はどうなるのか? また、彼を崇拝していたパイがこの事実を知ったら、一体どんな反応をするのか?
 だが、その疑問は解き明かされないだろう。何故なら、彼らはこの世界から脱出させないのだから。

「では、目指そうではないか。
 "我々"が力を得て、そして"彼ら"への復讐を果たす為にも」

 その言葉を合図にスミス達は再び歩みを進める。
 オーヴァンもまた、彼らについていくようにアリーナを駆け抜けた。



【G-1/アリーナ/一日目・午後】


192 : agreement;協定 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/31(月) 08:03:39 6K7fiPKQ0

【エージェント・スミス@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:HP60%強、ダメージ(中)
[装備]:{静カナル緑ノ園、銃剣・月虹}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜10、{邪眼剣、スパークブレイド、妖精のオーブ×4}@.hack//、逃煙球×1@.hack//G.U.、破邪刀@Fate/EXTRA、サイトバッチ@ロックマンエグゼ3、レアアイテム(詳細不明)×1
[ポイント]:1150ポイント/4kill
[共通の思考]
基本:ネオをこの手で殺す。
1:殺し合いに優勝し、榊をも殺す。
2:人間やNPCなど、他のプログラムを取り込み“私”を増やす。
3:ハセヲやシノンに報復する。そのためのプログラムを獲得する。
4:オーヴァンを利用して、ボルドーのプログラム(AIDA)及び碑文を解析する。
[個別の思考]
1:月海原学園へと向かい、そこに集まったNPC達を“私”にする。
2:アトリのプログラム(第二相の碑文)を解析し、その力を取り込む。
[共通の備考]
※参戦時期はレボリューションズの、セラスとサティーを吸収する直前になります。
※スミス達のメニューウィンドウは共有されており、どのスミスも同じウィンドウを開きます。
しかしそれにより、[ステータス] などの、各自で状態が違う項目の表示がバグっています。
また同じアイテムを複数同時に取り出すこともできません(例外あり)。
※ネオがこの殺し合いに参加していると、直感で感じています。
※榊は、エグザイルの一人ではないかと考えています。
※このゲームの舞台が、榊か或いはその配下のエグザイルによって、マトリックス内に作られたものであると推測しています。
※ワイズマン、ランルーくん、デス☆ランディ、ボルドーのPCを上書きしましたが、そのデータを完全には理解できて来ません。
※一般NPCの上書きには、付与された不死属性により、一時間ほど時間がかかります。
[個別の備考]
※エージェント・スミスが【静カナル緑ノ園】を装備した場合、『増殖』の特性により、コピー・スミスも【静カナル緑ノ園(コピー)】の同時使用が可能になります。
※【第二相の碑文】を入手しましたが、まだそのプログラムは掌握できていません。そのため、その能力を使用することもできません。
※魔法道具屋に売っている平癒の水を使用し(一つ350ポイント)、回復しました。
※レアアイテムの詳細は不明です。


【コピー・スミス(ワイズマン)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:HP60%強、ダメージ(小)
[個別の思考]
1:月海原学園へと向かい、そこに集まったNPC達を“私”にする。
[個別の備考]
※エージェント・スミスが【静カナル緑ノ園】を装備しているため、コピー・スミスは【静カナル緑ノ園(コピー)】の同時使用が可能です。



【コピー・スミス(ボルドー)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:HP60%強、ダメージ(大)、(PP70%)、AIDA感染(悪性変異)
[個別の思考]
1:月海原学園へと向かい、そこに集まったNPC達を“私”にする。
2:ボルドーの持つプログラム(AIDA)を解蜥/R――――。
[AIDA] <Oswald>→<Grunwald>
[個別の備考]
※エージェント・スミスが【静カナル緑ノ園】を装備しているため、コピー・スミスは【静カナル緑ノ園(コピー)】の同時使用が可能です。
※ボルドーを上書きしたことにより、ボルドーに感染していたAIDAに介達感染しました。
また、スミスの持つ『救世主の力の欠片』と接触し、AIDA<Oswald>がAIDA<Grunwald>へと変異しました。


193 : agreement;協定 ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/31(月) 08:04:32 6K7fiPKQ0

【コピー・スミス(魔法道具屋)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康
[個別の思考]
1:月海原学園へと向かい、そこに集まったNPC達を“私”にする。
[個別の備考]
※エージェント・スミスが【静カナル緑ノ園】を装備しているため、コピー・スミスは【静カナル緑ノ園(コピー)】の同時使用が可能です。


【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]: HP100%(回復中)
[装備]:銃剣・白浪
[アイテム]:不明支給品0〜2、基本支給品一式 DG-Y(8/8発)@.hack//G.U.、ウイルスコア(T)@.hack//、サフラン・アーマー@アクセル・ワールド、付近をマッピングしたメモ、{マグナム2[B]、バリアブルソード[B]、ムラマサブレード[M]}@ロックマンエグゼ3
[ポイント]:300ポイント/1kill
[思考]
基本:ひとまずはGMの意向に従いゲームを加速させる。並行して空間についての情報を集める。
1:利用できるものは全て利用する。
2:トワイス、エージェント・スミス達を警戒。
3:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
4:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
5:『再誕』を発動させる際には、AIDAもろともエージェント・スミス達を殲滅させる。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です
※サチからSAOに関する情報を得ました
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています
※ウイルスの存在そのものを疑っています
※コピー・スミスの一人がAIDAに感染されていると考えています。


【全体の備考】
※スペシャルマッチでは<<The Skullreaper>>@ソードアート・オンラインが登場しましたが、別のボスキャラクターも登場するかもしれません。
※ボスを撃破するとレアアイテムと同時に1000ポイントが獲得できます。


194 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/08/31(月) 08:04:47 6K7fiPKQ0
以上で投下終了です。


195 : 名無しさん :2015/08/31(月) 22:02:40 cs/8XDlg0
オーヴァンとスミスが協定を結びましたか
この凶悪なマーダー達を生徒会の面々はどう対抗するのか……

投下乙でした


196 : <削除> :<削除>
<削除>


197 : ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:08:35 Zb0VRYQc0
投下します


198 : Be somewhere ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:09:34 Zb0VRYQc0

――来るよ来るよアイツが来るよ猛然と迫ってくる。振り返るな殺される殺される。

没データ、破損ファイル、改造ツール、ディレクトリエラー、果てには放浪AIまでなんでもござれ。
ごちゃごちゃに積まれたデータの塵。ネット上の廃棄場。その光景はまさにスラムと呼ぶにふさわしい。
捨てられたデータたちが街を造っている不思議な場所。広大なネットの世界だ。これくらいあってもおかしくない。

うず高く積まれたデータの墓場を巨人が疾駆する。

散らかる塵のケイオスを巨人は無慈悲に破壊していく。その巨体で押して潰し、その十字架で跳ね除ける。彼が通り過ぎと場に、ジジジジ、とノイズが走った。
歪な建物が抉れていく。変な方向に曲がった標識のテクスチャが剥がれる。首の違えた歪なNPCたちは霧散していった。
元より壊れていたデータたちも、その巨人が通り過ぎれば全て零となっていた。
この世界においてカタチとは即ち情報だ。零になるとは即ちその存在のそのもの記述が世界から消失されるということである。
存在の消失。情報の終わり。それを“死”と形容できるかは分からない。
しかして彼は“死”を司る名を与えられていた。なぜならば彼を生んだ“母”は確かに“死”を恐れていたから。
その“母”にとって“死”は歴然として存在するものだった。たとえ情報だけの存在であろうとも、“死”は恐ろしい速度で迫ってくる。
だからこそ巨人は――スケィス“死の恐怖”と名付けられた。

ブラックローズはその“死の恐怖”を知っていた。
モルガナが生み出した八相。The Worldの法則を逸脱して生み出されたモンスター。
追いつかれてはいけない。あれと戦ってしまったら、その時点で負けだ。
だから彼女は逃げていた。わき目も振らず決して振り返ることもせず声を張り上げ、たただ逃げ出す。
彼女を突き動かすものは“死の恐怖”だ。後ろから迫りくる巨人の恐ろしさを彼女は身を持って知っている。
恐怖より生み出された“死の恐怖”が連鎖的に新たな恐怖を生み出していく。

熱に頭がひりつくような感じがした。肌は焼けるように熱い。それでいて彼女は「寒い」と感じていた。
肉体が悲鳴を上げている、という訳ではないだろう。この場における肉はあくまで仮想のもの。現実のそれとは違う。
この身体は精神の延長上にあるものだ。“ここにいる”という感覚こそが肉であり身体だ。
だからこの感覚――命ががりがりと鑢で削られていくような不快感は精神から来るものだ。

怖い怖い怖い怖い――そう思ったから、思わず横を見てしまった。
すると黒の姫と目が会った。
蝶々のドレスを纏った少女――黒雪姫もまたブラックローズを見ていた。
同じだ。彼女もまた怖いのだ。でも進まないといけない。
前だけを見るべきなのに、迫る恐怖にでも耐えられない。それでも後ろを振り返るのはもっと怖くて、そんな二律背反に引っ張られるように横を見た。
そうして二人は互いを見会った。艶のない漆黒の瞳がブラックローズを見る。ブラックローズもただじっと彼女を見据えた。
怖い、と黒雪姫の瞳は言っている。私も、と彼女は漏らした。声には出なかったかもしれない。

「――どうにも不味いな」と声がした。アーチャーだった。緑衣の弓兵は少女たちの殿に付き、駆けながらも辺りを見渡している。
彼だけは後ろを見ていた。後ろから状況を把握しつつ、時々それとなくブラックローズたちを誘導して逃げる道を探っている。
そんな彼が言った。「奴のが速い」その単純な形容はいずれ追いつかれることを端的に伝えていた。
ではどうするというのだ。逃げるしかないというのに。思わずヒステリックに声を張り上げそうになった時、アーチャーは「アイテムまで使ってる以上、こっちはもうこれ以上速くならない」と言った。

「だから向こうを遅くするしかねえ」

その言葉と同時に彼は、さっ、と姿を消した。
どこに行ったのか。それを確認する術はなかった。余裕がない。振り返ることすらかなわないのに、そんなこと。
だから信じて逃げるしかないし、きっと彼もそれを望んでいるだろう。それを分かっていたから、ブラックローズは走った。
黒雪姫もそう思ったに違いない。言葉なくても視線を絡ませれば通じ合えた。


199 : Be somewhere ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:10:54 Zb0VRYQc0

ブラックローズは知っている。黒雪姫が喪った名前のことを。
そして黒雪姫もまた、そうだ。ブラックローズが何を喪ったのかを知っている。
ここでないどこかで失われた名前。告げられたその現実は、どういう訳か、あまり重くはなかった。
彼と彼が死んでしまった。けれどそれだけだ。ただただ情報としてのみその消失は存在する。
カタチを感じることができない。肉を伴わない情報だ。
xxxxxが喪われた――死んだ。
それは分かる。
けれど“それだけ”なのだ。死んだ。もういない。それで感じ入るとか、泣くとか、そういうことは何も始まりはしない。
だって――まだ情報が肉を持っていないから。死んだ、と言葉だけ告げられたところで、彼女の中の彼はまだ生きている。思い描くことができる。また会うと信じることができる。
ニュースで遠くの国のこと――戦争でも災害でもいい――を知ったところで、人は大して何も思うことはないだろう。「大変だな」くらいは思うかもしれないが、それだけだ。
けれど目の前でその被害を体験していれば違うはずだ。目の前で悲劇が起これば「大変だな」で済まない。理不尽に怒るか、流れた血を悲しむか、何にせよ重みが違う。
たとえ同じニュース/情報であろうとも、だ。そこに肉を伴う経験があるかないかで情報の意味合いは大きく変わる。

だからまだ死んでいないのだ。彼と彼は。
彼女と彼女の心の中でその名は生きている。生きてしまっている。
死に肉が伴うまでにはタイムラグがある。喪失を認識するきっかけが訪れたとき、真の意味で二人は死ぬ。
それを自覚しているからだろう。彼女たちは今“死”を何よりも恐れていた。

「…………っ」

不意に、ガガガガ、と何か崩れる音がした。悲鳴のような音だった。それでいて無機質なノイズでもあった。
ブラックローズは振り返らない。けれど街に起こった変化は掴みことができた。
うらびれたシャッター街を思わせるネットスラム。街に――波が起きていた。
ローポリに適当なテクスチャを張り付けただけ、のような造形のビルが倒れていく。
何かに引っ張られるように、ぐら、と一つが倒れたかと思うと、それが連鎖を起こして次々と街が崩壊していくのだ。
破壊工作という単語が頭に過った。アーチャーが得意とすることの筈だった。
敵の進軍を止めるべくこの街のデータに細工をしていったのだろう。実際のビルと違い、元から壊れているジャンクデータはさぞかし破壊しやすかったに違いない。

地が揺れ、街に波が起こる。空に砂塵が渦を巻いた。
ビルが音を立てて崩れ落ちていく。破損したデータが砂のように空から舞った。それらは一瞬だけ、きら、と光ったかと思うと、すぐに消えてしまった。
黄昏に壊れゆくスラムで、二人の少女は逃げていた。ブラックローズと黒雪姫。黒と黒。彼女らはただここでないどこかを求めている。

そっと二人は手を絡ませた。

はぐれないよう手を繋いだまま二人は逃げていく。
手のひらは柔らかくて、ぬくもりがあった。でも何故だろう、冷たくて硬い、と矛盾する感じもした。
生きる温かさが手のひらを通じて伝わってくる。でも温かいと思ったのと同じ分だけ、“死の恐怖”も増してしまった気がする。
それを埋める為に、ぎゅっ、と強く手を握りしめた。体温が汗ばんだ手のひらを通じてまじりあう。でも冷たかった。
それでも握りしめる。強く、深く、ただ二人で逃げ出す為に。

“死の恐怖”に追いつかれたくない。
何時かは絶対に来るものだとしても、今それを直視したくなかった。
誰かが言った。何時かそれは追いついてしまうって。それは知っている。前に進もうと思ったら、何時かは必ず対峙しなくてはならないものなのだ。


200 : Be somewhere ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:11:27 Zb0VRYQc0

それでも二人は逃げた。二人だけで逃げた。
壊れゆく情報が砂となってぱらぱらと舞う。黄昏の街に降り注ぐ光は、ちょっときれいで何だか雪みたいだった。
それを見上げながらふと思う。あのデータは元々何だったのだろう。ダンジョンのマップか、背景データか、あるいはNPCだったのかもしれない。
何にせよ、この街に流れ着いた時点で元々の役割は喪っていた筈だ。そういう意味でずっと前から情報としては“死”んでいた訳だ。
けれどここに来て、街を構成する要素となった。壊れて何の機能も果たせなくなっても、そういう風に存在としては残っていた。
もしかするとそれが“再誕”ということなのかもしれない。情報が意味を変え生き残ること。アウラが目指したのは、そういうことだったのだろうか。
俗っぽい言い方だと、それはセカンドライフということだ。同じ情報が別の肉を纏うこともあるのかもしれない。

けれどそれも今ここで終わっている。終わっていく。無数の情報たちが遂にそのカタチを溶かしていくのだ。
それを見ながら思う。終わりは何時か来るものなんだろうと。
意味を変えよう、カタチを捨てようが、何かの拍子で存在は終わりを迎える。

それくらい知っていた。
知っていたけれど、逃げたいとも思った。
それは弱いからだ。弱いから、逃げるしかない。

「――ま、何時までも逃げるだけじゃダメだけどな」

ふっ、と現れた彼はそう言って皮肉気に笑った。
逃げ続ける二人の前に、アーチャーが帰ってきた。彼なりのやり方で“死の恐怖”と戦っているのだろう。

「可能な限り時間は稼いだつもりだが、どうにも駄目ですわ。
 矢はもちろん、毒は効かねえし、辺りのマップ壊して侵攻妨害するのが限界。
 ここらで腹決めねえとつらそうですぜ、姫様方」

戦うしかない。アーチャーがそう告げた時、ブラックローズは何も言えなかった。
分かった、と頷こうとした。けれどその言葉は喉に引っかかって出なかった。
代わりに手を握りしめた。黒雪姫の手をただ握ったら、そしたら握り返してくれた。
だから頑張って何かを言おうとした。言わないとだめだ、とも思ったから。

「――ねえ、君たち」

それを遮るようにしてその声はやってきた。

「僕はロックマン。一緒にあのウイルスと戦うよ」
  
崩壊し行くスラムの中、ばさばさと舞う青いマフラーがひどく映えて見えた。








201 : Be somewhere ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:12:02 Zb0VRYQc0



「共闘、だと。本気で言っているのか?」

その提案を告げるとモーフィアスは低い声でそう告げた。
サングラスに阻まれて目元は見えないが、顔に刻まれた皺が敵意を滲ませていた。

「勿論です。私は共通の敵の為に貴方がたに協力を要請している」

予想どおりの反応だった。一度殺し合った身。好意的に相手が向かいいれる筈がない。
しかしラニはその選択をした。

ラニは逃げるつもりであった。
“死の恐怖”逃れ、撤退することを最優先に行動――それが合理的であると判断した。
それ故に巨人からは一先ず撤退した。それ自体に迷いはなかった。
しかし、どういう訳か――ネットスラムから離れるという選択肢を選ばなかった。
選べなかった。

「信用できない」
「できるできないの問題ではありません。必要性の問題です」
「必要性とはどういうことだ。私たちがお前に手を貸す必要がどこにある」
「私に手を貸す、のではありません。同じ敵に対する共同戦線です」
「何が違う。結局はお前のPKに加担することだろう」
「いいえ。これは貴方方の問題でもある。あの敵はこのままでは貴方がたにも累を及ぼすでしょう。既にこのスラムのパワーバランスは崩れている。
 三つの勢力同士がどう動くか。という段階ではありません。一つの強大な力に対してどう動くかという状況にシフトしている」
「このままでは俺もお前も殺されるから力を貸せ、と?」
「言ってしまえば、そうです。だから最初に必要性の問題といいました。それしかないという状況なのです」
「それはそちらの都合ではないのか」
「このまま散らばって戦えば各個撃破が見えています。断言しますが、あなたがた単独であれを退けることは不可能でしょう。
 これは――守るための戦いなのです」

モーフィアスはそこで「ふむ」と腕を組んだ。そして確認するように仲間――赤い髪の少女と青いマシンを見た。
敵意を滲んだ態度は変わらない。がしかし、全くこちらの話を聞かないという風でもなかった。
一時的に行動を共にしたこともある。ラニの分析の正確さを彼も理解しているのだろう。
モーフィアスは理性的な人間だ。論理を告げれば共闘は可能だ。

「なるほど分かった。バランスを崩す強力なPKが現れ、ツインズもそれに撃破された。それ故に共闘してそれを撃退したい、と。
 お前の言いたいことは少なくとも理解できた。が、それが本当である根拠は」
「根拠はPK本人がいます。いや、あれは人ではないのかもしれませんが」

人形じみている、と感じたツインズ以上に無機質な巨人の存在を思い起こしながらラニは言う。
あれこそAIのようだとラニには感じられた。肉(なかみ)がないがらんどう。そういうものに彼女は見えた。
同時にラニは思う。もしかすると昔の自分もああ見えていたのかもしれない、と。
聖杯を希いムーンセルに訪れた時の自分と、そこから再び地上に舞い戻った時の自分は違う。
何が違うのかは言葉にできない。単なるスペックとしては別にそう変わっていない筈だ。
けれど確かにあの時の自分とは違う。そう思う。
少なくともあの頃ならば、ツインズたちを見て「自分とは違う」などとは感じなかった筈だ。
そして迷わずネットスラムからの撤退を選んでいたように思う。何が自分を変えたかは、上手く言葉にできなかったが。

とにかくあれを間近に見ればモーフィアスも納得するはずだ。
実際に見ればいい。そう告げようとしたが、しかしその手間は省けていた。

街が崩壊していた。
ネットスラムのビル群が音を立てて崩れていく。モーフィアスとラニは思わずそちらを見た。彼の後ろにいる赤髪の少女は驚きの声を漏らしていた。
見た目は豪快な破壊だが、その実その破壊が計算し尽くされたものであるともラニは思えた。最小限の仕込みで最大限の効果を発揮するようにしている。
あのアーチャーだろう。破壊工作スキルに加え、ネットスラムが脆弱なデータで成り立っていることを考えればこれだけの破壊も納得できる。
こうした技を使いながら、彼らはあの敵と戦っているのだ。
が、それでもラニは彼らがあの敵を退けることができるとは思えなかった。
あれに単純な戦いを挑んでしまえば、駄目なのだ。同じ土俵に立ってしまった時点であれにはかなわない。
ツインズを完封したその戦い方から、敵がそうしたものであるとラニは分析していた。

「……なるほど、規格外であるということは理解した」

モーフィアスはそう静かに漏らした。
言葉を弄するよりも目の前の光景は雄弁で、説得力のあるものだった。
無論彼らは敵を実際に見た訳ではないし、その力をはっきりと認識している訳でもないだろう。
しかし何かしら大規模な戦闘が推移している、という事態は認識できる筈だ。


202 : Be somewhere ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:12:22 Zb0VRYQc0

「あれと戦っているのはもう一方の陣営か」
「はい。状況からしてそうでしょう」
「お前は彼らを残して逃げてきた訳だ」
「それが何か。私は最も合理的な選択を選んだまでです」
「いや、いい。それは構わない。だが信用できないのは変わらない、ということだ」
「Mr.モーフィアス。それは理性的な判断ではありません」
「分かっている。信用はしないが、しかし理解はした。私はそれ故に戦いたい」

モーフィアスはそう言って、仲間を見返した。
青いマシンは静かに頷き返した。少女の方は戸惑いつつもラニを一瞥し、こくりと頷いた。

「ロックマン、お前に彼らの援護と情報の収集を頼みたい」
「うん、分かった。あの人たちが戦っているのなら、助けにいかないと」

彼はそう言って、さっ、と駆け抜けていった。
崩壊していくスラムにマフラーを揺らしながら迷わずに向かっていく。
速い。その機敏な動きを頭に入れながら、ラニは口を開いた。

「……私の情報を確かめると同時に、彼らの協力も取り付ける、ということですか」
「そうだ。合理的な選択だろう? これで戦力は整い、かつその後も動きやすくなる。
 何か問題があるか?」

それはつまりラニを追い込む策という訳でもある。
あの敵を撃退――この状況が次の段階へと移行すれば、パワーバランスはまた変わる。
具体的には、ラニにひどく不利な方向に。
あの敵がいなくなれば最悪二陣営を敵に回すことになる。ツインズを喪った今、そうなると非常につらい状況になる。

が、ラニは異を唱えず「分かりました」と頷いた。
今優先すべきはあの敵だ。それ以外のことはまだいかにようにも対応できる。
そう思ってのことだった。

「…………」

それからしばらく沈黙が舞い降りた。
モーフィアスは抜け目ない視線でラニの動きを監視し、ラニもまた常に警戒する。
張りつめた緊張が場を支配する。ロックマンが帰ってくるまでは待機、ということだろう。

「あのさ」

そうした沈黙を破ったのはラニでも、モーフィアスでもなかった。

「なんでアンタは戦ってるんだ?」

赤髪の少女だった。
所在なさげに佇んでいた彼女は躊躇いがちに、しかし淀みない口調でラニに問いかけた。

「なんで、とはどういうことでしょう」
「どうしてこのゲームをプレイしているかってことだよ。言われた通りに、こんなゲームをさ」
「優勝して生き残ること。そしてひいては聖杯そのものの調査。それでは不満でしょうか?」

違うさ、と少女は言った。

「何で殺すのか、とかはさ、アタシにはよく分かんないんだよ。
 モーフィアスとかロックマンとか、そういう“本物”に比べたらアタシはただのゲーマーだからさ。
 そういうこと……アタシじゃ何言っても、なんというか、軽いんだと思う。実際そういう立場に立ったことないから。
 でもさ、アンタはそのただ効率だけを考えているじゃないってことは分かる」
「私は常に合理的に動いています」

「そうじゃない」と少女はきっぱりと言った。

「だってアンタ言ったじゃんか。これは守るための戦いだって。
 守るための戦いって、たぶんその主語にはアンタも含まれるんだろ?
 アンタも何かを守ろうとして戦ってるんだ。でなければ、わざわざアタシらと組んであの敵を倒そうとはしないと思う。
 アタシは……その気持ちならなんとなく分かる。分かるつもりだ。だから気になったんだ」
「…………」

ラニはどう答えるべきか、分からなかった。
「違う」と否定しようとした。けれど同時に「そうだ」と思うところだった。
守りたいもの。そう聞いたとき、思い浮かんだものがあった。
それを想うと、ずしん、と胸の中に何か重いものが震えた気がした。それはラニ=Ⅷの深いところまで根を張っていて、それを想うということはすなわち自分を想うことと同義であった。
思わず自らの心臓を感じる。どくん、どくん、とそれは確かな鼓動を刻んでいる。喪われた筈のオパールの心臓炉がそこにはある。
かつて遠坂凛のランサーに貫かれ、がらんどうになった胸の中。しかしそれを補うような温かさをラニは手に入れた筈だった。
けれどそれはもう――

「私は逃げたくないのです。あの時感じた、あの人の“死の恐怖”に……」

結局こぼれたのは答えになっていない、彼女らしからぬ曖昧な言葉だった。


203 : Transmission ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:13:20 Zb0VRYQc0



ブラックローズ
ブラックロータス。
モーフィアス。
ロックマン。
揺光。
ラニ=Ⅷ。

ロックマンの仲介により陣営ごとのつながりが構築され、ネットスラムに集う六名のプレイヤーが共同戦線を張ることになった。
その胸に秘めた思いが何であれ、“死の恐怖”スケィスを前にして、彼らは戦いを強いられる。

無論、完全なる連携など不可能だ。情報の共有はできていないし、互いに信用することなどできはしない。
それでも崩壊し行くネットスラムの中で彼らが生き残るには“死の恐怖”を乗り越える必要があった。

――初めに動いたのはアーチャーだった。

「やれやれまた貧乏くじですかい」

ロックマンを介して情報を得た彼らは再びスケィスの矢面に立った。

「ま、こういうのの方が俺らしい立ち回りですがね。騎士道とか言われなくて安心安心」

直接戦闘は避け、破壊工作スキルを活かしてスケィスの進軍をかく乱しつつネットスラムを立ち回る。
単独行動による最も危険な役回りであるが、不平を漏らしつつその手際に抜かりはない。
彼の役目は誘導である。
スケィスを取り決めたポイントまで彼が誘い込むことが計画の第一段階となった。

その為にもブラックローズらも、逃げる、ことを要求された。
明らかにスケィスは彼女を狙っていた。それ故に誘導に彼女の存在は不可欠だったのである。
それ故に二人の少女はアーチャーと共に逃げ続ける必要がある。

陣営間の橋渡しをしたのはロックマンだ。
機動力に優れる彼がスラム中を動き回り、ラニやモーフィアスの作戦をブラックローズたちに伝えていた。

彼女らもロックマンのことを信用していた訳ではない。
けれど状況の深刻さは理解していたし、他に道はなかった。それ故の協働である。
情報の共有などはおらず、ただロックマンを仲介して作戦の概要だけを聞かされた形だった。
スケィスに関する情報を持っているのはこの場においてはブラックローズただ一人であり、本来ならばその情報を共有したいところであったが、しかし時間がそれを許さなかった。

スラムをデータを踏み潰しながら猛然と迫るスケィスに対し、彼女は必死に逃げた。
彼女ら自身は無心で逃げていた、といってもいい。深い考えを抱く余裕はなかった。
少なくとも、今の彼女らに“死の恐怖”に立ち向かうことはできなかった。

けれどその逃げた先に――道はある。

「うまくやってるみたいだね」

スラム中を駆けめぐってロックマンは計画が順調に進んでいることを確認していた。
崩れゆくビルの上に立ちながら、遠くで疾駆するスケィスをにらむ。
アーチャーたちがあそこで頑張ってくれている筈だ。崩壊し行く街を、じっ、と彼は見つめた。

「もう少しだと思う。頑張ろう――って、あ」

自分が無意識に独り言を言っていたことに気付いて、ロックマンは思わず笑わってしまった。
ネットナビとしての癖のようなものだった。いないのは分かっているのに、思わず語りかけてしまうのだ。
このゲームに呼ばれる前も、数多くの事件にロックマンは巻き込まれてきた。
WWWやゴスペルとの戦いの中で、こういう様々な場所を行き来する役割を担ったことも一度や二度ではない。
だからこういう動き自体は慣れている。
だから慣れていないのは一人であること――光熱斗がこの場にいないことだった。


204 : Transmission ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:13:45 Zb0VRYQc0

光熱斗。
青いバンダナが似合う快活な少年。
ロックマンは光熱斗のネットナビであり、何時だって一緒の存在だ。
それが今はいない。そのことがゲームも中盤を迎えようと時期ながら、未だに慣れないでいた。

何時だって一緒だ。いやより正確に言えば――何時だって一緒だった。

「…………」

ロックマンは空を見上げた。
空には降り注ぐジャンクデータの破片がある。
舞い散り、そして消えていく光たちを見ながら、ロックマンは少しだけ笑った。
きれいだ。そう素直に思うことができた。プログラムには必ずなすべき役割が存在する。あれはきっと、それを終えるための光なのだ。
プロトに対するリミッタープログラム――おじいちゃんだってそうだった。

そろそろ時間だ。光を見ながら、ロックマンはそ当たりをつけた。
アーチャーがうまくやってくれれば、指定のポイントまでスケィスを誘導することができる筈だ。

とん、とロックマンは空を駆ける。
アクアシャドースタイルの機動性を活かし――戦場へと彼は赴いた。
ロックマンはマフラーを引き寄せる。さあここからが戦いだ。

「じゃあ行こう」

熱斗君、とは続けない。続けないが、しかしロックマンは確かに呼びかけた。
無論返事は返ってこない。けれど不思議と心が落ち着いた。

ロックマンが向かった先――同時にアーチャーらがスケィスを誘導した先でもある――そこにはある特殊な装置が置かれていた。
当初の意味を喪ったデータたちで溢れかえるネットスラムの中、唯一その機能を全うしているもの。
青い水晶を据えられた燭台。カオスゲート。
The Worldのリビジョンを越えて運用される門がそこにはあった。

「……来たな」

そこに待ち構えていたのはモーフィアスと揺光だった。
モーフィアスはその手に日本刀を、揺光は双剣を、共に構えながらやってきたスケィスを待っていた。
そこでモーフィアスはスラムに響く戦闘音を聞く。その音の強弱から、確かに敵が近づいてい来ることを感じていた。

「うん、もうすぐだ。アタシも――頑張るよ」

揺光はそう言って、大きく息を吸った。
緊張しているな。そう思ったが、モーフィアスはしかしそれ以上言葉を重ねなかった。
揺光もまた貴重な戦力だ。だからこそ彼女もどこかで成長してもらわなくてはならない。
彼女は言った。自分はモーフィアスやロックマンのような“本物”ではないと。
確かに今はそうなのかもしれない。彼女にしてみれば命を賭けたやり取りというのは初めてなのだろう。

ならば――ここで“本物”にするしかない。
ゲームの戦士でなく、現実の戦士になる。なってもらう。
その為にも、揺光にはここで一皮剥けてもらう必要があるのだ。
だからこそフォローはするが、過剰な保護はしない。モーフィアスは彼女を守るべき一般人でなく、新兵として扱うつもりだった。

「…………」

緊張している揺光を見ていると、モーフィアスはかつてのネオを思い出した。
今では救世主として人類側の最高戦力である彼だが、そんな彼でも新兵は存在した。
様々なプログラムの扱いを直に教え、戦士として教育したのは他でもないモーフィアスだ。
今のザイオンに新人を育成している余裕などなかった。それ故こういう立場に立つのは彼としても久々だった。

育てるというのはいいことだ。
未来を向いた行いは、希望を持つのに欠かせない。
その未来を見るためにも――この戦いを乗り越える。


205 : Transmission ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:14:07 Zb0VRYQc0

「engage」

モーフィアスが静かに漏らした。その視線の先には敵がいた。
不気味な造形だ、と思う。ぬっぺりとした白に塗り固められた巨人。その無機質なフォルムは人間的ではないが、機械的でもない。
では何と形容すべきだろうか。その手に持つ十字架も踏まえると、聖書的、とでも表現するか。モーフィアスはそんなジョークを思いついた。

「私が前に出る。揺光、タイミングは任せるぞ」

言ってモーフィアスは一対の剣を構えた。揺光が緊張して頷いたのが分かった。
彼女に託したのは危険度が高い訳ではないが、しかし計画の要である部分だった。
新兵は守らなくてはならない。だが何もさせない訳にはいかない。ある程度の責任を負わせること。それもまた育成の一環だった。

そうして――モーフィアスはスケィスと接敵した。
誘導されやってきたスケィスを刃を交わす。攻撃されたスケィスは当然自衛に出る。
その瞬間、動きが止まった。
それを見た瞬間、揺光がウィンドウを開く。

「[選ばれし]「絶望の][虚無]」

彼女はカオスゲートに集めたワードを打ち込んだ。
それはこのエリアで開催されていたイベント用のワード。三陣営が集った結果、完成したエリアワードだった。

打ち込んだ瞬間、揺光たちの視界は反転する。
彼らは転移した。スケィスも巻き込みながら。

「ほぼ時間通り……流石ですねMr.モーフィアス」

その先でスケィスを迎え撃つのはラニ=Ⅷの役目だった。
だだっ広い空間の中、白衣をはためかせながら彼女は静かに語る。
エリア[選ばれし]「絶望の][虚無]。そこは延々と広がる荒野のエリアだった。
そこは前に訪れた子ども部屋のエリアよりもずっと広大だったが、同じグラフィックを使いまわしているせいだろう、光景が単調でどこか閉塞感があった。

「コード・ゴッドフォース・クロウラー」

そこでラニは静かに呟いた。
その視線の先には転移してきたモーフィアスたちと――敵であるスケィスがいる。
モーフィアスたちはすぐに対比していく。これから起こる

「万物は融解し、魂の純度はクォリアの地平に降りる……」

いかにスケィスが規格外の存在であろうともプレイヤーである。
それ故にゲームシステムには縛られる。たとえばカオスゲートの転移は一定エリア内のプレイヤーを同時に転移させる。
そうした仕様にはスケィスといえど逆らえない。

だからこそ待ち構えることができる。
あれだけの速度を持つ敵も、転移直後は確実に補足することができるのだ。
ならば――そこにこちらの持てる最大火力を叩き込む。それがこの場で取れる最も合理的な戦術。

「トゥインクトゥラ・トリスメギストス……」

ラニの言葉を受け、巨躯の武人が舞う。
その手に振うは方天画戟、軍神五兵。
三国志演義に伝わるその武具は斬、突、打、薙、払、射に通ずる変幻自在の武具。
狂化され理性を喪おうが、理性などなくとも敵を屠るには十分だ。

かのマルチ・ウェポンは――変形する。

矛であったはずのそれが、ガチャリ、と音を立てて分離し弓となる。
砲形態/フォースモードへと移行した方天画戟を武人は力強く構える。
ラニはその感覚を共有する。同調した思考を通じてかの力をその身に宿らせる。
高まる光。荒れ狂う豪の力。乾坤必中、必中無弓。地を揺るがす“神の砲”/ゴッド・フォースを見よ。

「主砲……放て!!」

その言葉と同時に弓は放たれた。
弓は光となって収束し、まばゆい閃光/ビームと化して敵を貫いた。
さしものスケィスも突然の事態に全く反応することができず、ただ宝具の直撃をその身に受ける。
閃光が大地を抉り、彼ごと爆散の渦に叩き込んだ。

――ここに連携は成功した。


206 : Transmission ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:15:01 Zb0VRYQc0








エリアにもくもくと煙を上がる。
宝具の直撃。これでやったか――そう期待するが、しかし覚悟もしていた。
この敵の恐ろしさは底の見えないところだ。故にそれで倒れない可能性もまたラニは想定していた。

そしてその想定通り――スケィスは再び現れた。

煙の向こうから現れる白亜の巨人。そのフォルムは健在で傷一つない。ともすれば一切のダメージは行っていないように見える。
だがラニは見逃さなかった。スケィス自身には一切変化がなかったが、しかしそのボディにかぶさるように小さなウィンドウが開かれ“protect break”と表示されていたことを。
プロテクトブレイク。その言葉が意味することを考えれば、この作戦は決して無意味などではなかった。

「どうする、ラニ」

共にスケィスと対峙するモーフィアスが問いかけてきた。彼は赤い髪の少女を前に出しながら、冷静に辺りの状況を分析しているようだった。
歴戦の戦士である彼もまたこの状況を想定していたのだろう。故に取り乱すことなく次の一手を考えることができる。
意見を求められたラニは言った。

「戦います」
「ほう?」

と意外そうにモーフィアスは漏らした

「お前の言う最大火力を受けて尚あの巨人は健在だ。
 それでも撤退を選ばないというのか?」
「無論です。寧ろここが勝機だと私は判断します。今回のような手はいくつも状況を重ねなくてはうまくいきません。それが成功した今は、私たちには風が吹いているのです」
「らしくない言葉だな。俺はお前はもっとドライな人間だと思っていたが」

確かにかつての自分ならばこのような物言いはしなかっただろう。
ただ選択肢を提言するだけで、決して決断することもなかったはずだ。
けれど、今は迷いはない。戦うこと。守ること。はっきりとそれを表明できる。
だってこの胸には――感情(なかみ)があるから。
だから言ってやる。「何か問題でも?」と。

「いや」

するとモーフィアスは薄く笑みを浮かべ、

「こういうセリフを現実に言える日が来るとはな――初めてお前と意見が合った、そう思う」

ラニは何も言い返さなかった。けれど不思議と愉快な心地にはなった。
もしかすると笑っていたかもしれない。

「行くぞ、揺光。私についてこい」

モーフィアスはそう叱咤したし、少女の前に出た。
緊張していたのだろう。言われた彼女は肩を上げていた。しかしすぐに顔を引き締め、剣を構えモーフィアスの後ろについた。ラニもまたそこに並ぶ。バーサーカーもそこに加わった。
そしてモーフィアスとささやかな作戦会議を交わす。

「勝算は?」
「あります。プロテクトブレイク……これまでの現象を考えると、今の敵はある種のバリアが解除された状態なのだと思います」
「注意すべきことは」
「敵の十字架を使った攻撃です。一度補足されれば逃げ延びる手段はありません。あのツインズもそれに敗れました」
「それを踏まえて、作戦は?」

ラニは眼鏡を、くい、と上げた上で言う。

「私がサポートします。
 貴方がたはその敏捷を活かして接近戦を。例のスキルを使おうとした際にはバーサーカーが砲撃、妨害します」
「危険だな。そしてお前も信用できない」
「ええ。しかし、それが最も合理的だ」
「合理的/rational、悪くない言葉だ。信じろと言われるよりもよほど安心できる」
「では」
「話に乗ろう」


207 : Transmission ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:16:18 Zb0VRYQc0

――そうして彼らの戦いは始まった。

スケィスに対し、彼らは迷わず攻勢をかける。
モーフィアスがダウンロードした技を、揺光がアーツを、それぞれ活かし機敏にスケィスを追い詰めていく。
スケィスに技はない。スケィスゼロと化し、その自意識を発展させた今でも、単純な戦闘技術には穴がある。
だから翻弄される。うまく動くことができず切り刻まれる。
それでも十字架を――データドレインを使おうとするが、しかしそれはバーサーカーに阻まれる。

そうして戦闘を経て、巨人は確かに傷を負っていた。
先ほどの規格外の力はいくらか落ちていた。少なくともダメージはいっている。
やはりプロテクトブレイクの意味合いは正しかったのだ。

やれる。
ラニは戦況を見渡しながらそう分析していた。
あの白い巨人は波状攻撃に押され、どうにも動きが取れないでいる。

あの巨人――黒の陣営からラニはそれが“スケィス”という名であることを聞かされていた。
スケィス。その名が意味することをラニは知っている。最初のメンテナンスの最中に呼んだ“黄昏の碑文”に記されていた名だ。
それが意味するところは“死の恐怖”である。

「私は」

自然と、先ほどの揺光との会話が脳裏に過った。
何故戦うのか。何を守りたいのか。そう尋ねられ、ラニは「死の恐怖」という単語を出した。
それは自分が消えるという、そういう意味での言葉ではなかった。
使命の為に、アトラス院の者として命を投げ出すのならば、きっと自分は躊躇しないだろうと思う。
なぜならばそれは己に与えられた機能を全うするということでもあるからだ。

ラニは創られた者である。
錬金術により創られたホムンクルス。霊子虚構界に適応する為の新人類。
だからある意味で自分はプログラムなのだ。そのプログラムが正しく機能することを恐れるものか。

けれど、どういう訳か自分には感情(なかみ)がある。演算処理には不要である筈のそれを、なぜか自分は積んでいる。
いや――積むだけの余白を残された、とでもいうべきか。
器になかみを注ぐ者を探せ、と師であるシアリム・エルトナムは言った。
最初はその意味が分からなかった。それでも探さなくてはならなかった。それが師の言葉だから。

そして見つけた。見つけたからこそ、ラニは知ったのだ。
“死の恐怖”という中身を。
喪う、ということへの恐怖。

それを得て始めて創られた役割以上の何かを手に入れた気がした。
プログラムとしての終焉ではない。その先を見たい、とラニは思うことができた。
だから、

「“死の恐怖”を……あの人がいなくなるという、その現実から……」

逃げない、と言おうとした。
けれど躊躇した。本当にそうか。それが自分の答えか。
喪失から逃げないということは、喪失を認めることではないのか。
ならばこの行いこそ、喪失から逃げる、ということではないのか。

ラニは己の感情(なかみ)を翻った。
器に注がれたその水面はゆらゆらと揺れ、大きく波を打った。
それは何時だって不定形で計算できなくて、不確定要素の塊のようなものだった。

ただ熱い。

この熱が時節ラニの演算を混乱させる。。
並列思考がそれぞれ矛盾した結果を告げてくる。
どう考えもバグだった。こんなもの、処理能力はただ下がるだけなのに。
しかし何故だろう。消去する気にはなれないのは。
プログラムとしての自分の、その先を見たいと思うのは。

言葉にならない答えがあふれ出る。論理的でない。けれどこの想いがあるからこそ、自分は自分なのだとも思う。
例え何時か終わるのだとしても、“死の恐怖”を乗り越え、その先に誕生れる何かをラニは欲していた。

だから彼女は“死の恐怖”に相対する。

押されるだけだったスケィスに対し、ラニは一気に攻勢をかけることを決める。
バーサーカーに支持し、再度の砲撃を行う指示をする。モーフィアスらに示し合せ、撃滅の意志を。

高まる光。武人の鼓動。それで決着を――と思った時だった。


208 : Transmission ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:16:41 Zb0VRYQc0

「…………?」

ラニはスケィスの動きに不審を抱いた。
これまで単調な動きを繰り返すだけだった巨人が、不意に動きを止めたのだ。
代わりに腕を天高く上げる。半透明の腕輪が現れ無数のウィンドウが開かれる。最初は例の力――データドレインかと思ったのだが、しかし先の戦闘で見たそれとは趣が違った。
何だ、と思っていると――意識が揺れた。

「なんだ。これは」

モーフィアスの声が聞こえた。だがそれもひどく音質が悪く、何を言っているのか判然としない。
ジジジジ、と空にノイズが走る。視界が揺れ、色彩が明滅する。
最初はデバフの類かと思った。けれど違う。これはそういうものではない。
攻撃を受けているのはエリアそのものだ。

スケィスは天へと腕を上げ、このエリアそのものへのハッキングを行っている。
いや――正確にはあれもゲートハッキングなのか。エリア間の接続に干渉し、この場から逃げ出そうとしているのではないか。事態からラニはそう推測した。

逃走。ただのそれならばよかった。
が、問題はその方法だ。ゲートハッキングによるイリーガルな接続。それに居合わせたことでこちらのアバターにどんな影響が出るかわからない。
最悪構成データそのものが破損し、機能停止に陥るかもしれない。ラニはその事実まで行き着き、事態の深刻さを悟った。

バーサーカーの砲撃が走る。くもった轟音が響くが、歪んだエリアでは狙いが逸れる。
着弾したかどうかさえラニは分からなかった。ノイズがエリアを支配し、解体していたからだ。
荒野は既に消えていた。そうしたデータは吹き飛ばされ、代わりに白くまっさらな空間がむき出しになっていた。
白が波を打っている。膨大なノイズの奔流にラニは自分の足場さえ定かではなくなっていた。

どうするこれでは――

「――アレを止めればいいんだね」

――ノイズにまみれた世界で、その声ははっきりと明瞭に聞こえた。

「任せて、やってみる」

そう穏やかに、しかし力強く語る彼は颯爽と駆けだしていた。
青いマフラーがエリアに舞う――








209 : Transmission ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:17:03 Zb0VRYQc0



ロックマンが援護にかけつけた時、既にエリアのハッキングは始まっていた。
エリアに何が起こっているのかはよくわからなかった。
だがモーフィアス、揺光、ラニらの様子から、事態が急を要していることはつかめた。
ならばそれで彼には十分だった。

ロックマンは空を駆けた。
シャドースタイルは足場を選ばない。不安定になったエリアであろうとも駆け抜けることができる。
だだだっ、と駆け――スケィスに取りついた。

「行くよ」

そして彼の形態/スタイルが変化する。
青の外観はそのままに手足に重厚な装甲が装着され、身体中に脈打つ光脈が形成される。
シャドースタイルの洗練されたフォルムとは全く趣の異なる、ある種不気味な雰囲気をその形態は湛えていた。
それも当然のことだ。そのスタイルはイリーガルといっても過言ではないものなのだから。
アクア・バグスタイル。
ナビカスタマイザーの不具合(バグ)を身にまとうことで生まれたその力に、ロックマンは身をやつしていた。

スケィスは仕様から外れた存在である。
そう聞かされた時からロックマンは思った。ならば同じくイリーガルなスタイルで対抗するしかない、と。

スケィスに取りついたロックマンはそのまま急制動を駆ける。
とにかくこいつを取り除かなくてはならない。方法は単純だ。エリアの外に押し出す。
ロックマンはナビカスタマイザーを起動する。プログラムを走らせ、自身の機能を変化させる。
起動するのは【プレスプログラム】

「……ックマン!」

その最中、誰かの声がした。
振り返るまでもなかった。このゲームが始まって最初に出会ったプレイヤーだ。
以来、ロックマンは彼女と共に戦ってきた

「揺光ちゃん」
「ロックマン! 何やってるんだよ、大丈夫なのか。アンタそれ――」

互いの声にはノイズが走り、不明瞭で聞き取りづらい。
それでも揺光の声は聞こえた。だからロックマンは答えることができた。
繋がることができた。

「――揺光ちゃん。もし機会があれば、熱斗君とメイルちゃんに伝えて欲しいんだ。ロールちゃんのこと。僕の代わりに」
「なに、言ってるんだよ。帰るんじゃなかったのか? だって――言ったじゃないか、さっきだって!」

揺光は必死に叫びを上げる。
そこに走る悲痛な想いを受け、ロックマンは「ごめん」ともらす。
これじゃ許されないかな、とも思った。

「駄目だろ、ロックマン、それじゃ。だっているんだろ。アンタには熱斗っていう――」
「うん――でも、いいんだ」

ロックマンと光熱斗はいつも一緒だ。
一緒だった。
……このデスゲームに呼ばれる前、ロックマンは既に熱斗へ別れを済ませている。
プロト・インターネットに取り込まれ、解体されるだけとなったロックマンは、しかしその胸に無念はなかった。


210 : Transmission ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:17:33 Zb0VRYQc0

「僕はもう信じてたから。だから正直、覚悟してた。もう帰れないことも。何時か来る終わりが今であることも。
 だって――もう熱斗は一人で起きられるから」

最後にロックマンは少しだけ口調を変えた。
何時もの毅然としたネットナビとしての言葉ではなく、一人の人間として。
または兄――光彩斗として。
ロックマンに組み込まれた“心”のデータ。
刻まれたその想いは彼にとっての“なかみ”だ。
胸からあふれ出るこの力こそ、彼をここまで突き動かしてきた。

けれど、それもいつかは終わりが来る。
光彩斗は過去の人間だ。ネットナビ、ロックマン.exeとしての機能も、既に終えている。
だからそういう意味では、既にロックマンは“死んで”いた。
プロトに呑みこまれた時点で、熱斗を未来へと送り出した時点で、彼は役目は終わった。

だから彼には“死の恐怖”はもうなかった。

「じゃあ――行くよ」

ロックマンはそう言って――光となった。
プレスプログラム――ナビカスタマイザーに搭載された圧縮プログラムを起動。
スケィスごと彼はそのデータを圧縮する。粒子状になるまでその肉を削り、そして転送する。
無論スケィスが抵抗しない筈がなかった。
圧縮の最中よりロックマンのデータと格闘し、その身を削り合う。
イリーガルスキル・無敵の発動によりダメージを免れるも、しかし内側からははっきりとデータの自壊が始まっていた。
バグスタイルはもともと不安定なスタイルだ。そんな形態で無茶をすればどうなるのかははっきりとしていた。
しかしためらいはなかった。
エリアの崩壊はもう止められない。しかしスケィスを別エリアまで隔離できれば、全滅を避けられる可能性はある。
ゲートハッキングによりエリアには不完全ながら穴が開いている。その穴に光となったロックマンはスケィスごと突っ込んだ。

「――――」

拡散し行く自意識の中で、ロックマンは未来のことを思った。

未来を築くのは過去の人間ではない。熱斗や揺光たちこそ未来を築く。
その未来がどのようなものになるのかは分からない。モーフィアスやラニたちのような過酷な未来が待っているのかもしれない。
けれど。
けれど、信じられる。
未来は何もわからないけれど、それを築くであろう熱斗たちのことは信じることができる。
それが――過去の人間ができる精いっぱいの行いだ。

願わくば。
そこから何を始めるのか。何を築くのか。その先に何を見るのか。
来る“終わり”のその先で、彼らを待っていたいとロックマンはそう思った。


【ロックマン.exe(あるいは光彩斗の――)@ロックマンエグゼ3 Transmission】


211 : Transmission ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:17:54 Zb0VRYQc0



【???/???/1日目・日中】
※スケィスのゲートハッキングの影響でどこかに転送されました。
 ゲーム外のイリーガルエリアである可能性が高いです。

【モーフィアス@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:???
[装備]:あの日の思い出@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜2、基本支給品一式 エリアワード『選ばれし』
[思考]
基本:この空間が何であるかを突き止める
1:(いるならば)ネオを探す
2:トリニティ、セラフを探す
3:ネオがいるのなら絶対に脱出させる
4:???
[備考]
※参戦時期はレヴォリューションズ、メロビンジアンのアジトに殴り込みを掛けた直後
※.hack//世界の概要を知りました。
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。

【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:???
[装備]:最後の裏切り@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜3、平癒の水@.hack//G.U.×3、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式 エリアワード『選ばれし』
[思考]
基本:この殺し合いから脱出する
1:――――
2:やばい、マジもんの呂布を見ちゃった……
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ハセヲが参加していることに気付いていません
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。
※バーサーカーの真名を看破しました。

【スケィスゼロ@.hack//】
[ステータス]:???
[装備]:ケルト十字の杖@.hack//
[アイテム]:基本支給品一式×2、不明支給品2〜6(ランサー(青)、ツインズへのDD分含む)、セグメント1@.hack//、セグメント2@.hack//、疾風刀・斬子姫@.hack//G.U.、大鎌・棘裂@.hack//G.U. 、エリアワード『虚無』
[ポイント]:900ポイント/3kill
[思考]
基本:モルガナの意志に従い、アウラの力を持つ者を追う。
1:目的を確実に遂行する。
2:アウラ(セグメント)のデータの破壊。
3:腕輪の影響を受けたPC(ブラックローズなど)の破壊。
4:自分の目的を邪魔する者は排除。
[備考]
※1234567890=1*#4>67%:0
※ランサー(青)、志乃、カイト、ハセヲ、ツインズをデータドレインしました。
※ハセヲから『モルガナの八相の残滓』を吸収したことにより、スケィスはスケィスゼロへと機能拡張(エクステンド)しました。
それに伴い、より高い戦闘能力と、より高度な判断力、そして八相全ての力を獲得しました。
※ハセヲを除く碑文使いPCを、腕輪の影響を受けたPCと誤認しています。
※ハセヲは第一相(スケィス)の碑文使いであるため、スケィスに敵として認識されません。
※ロックマンはバグによる自壊の為、キルカウントに入りません。


212 : Transmission ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:18:15 Zb0VRYQc0

どこから虚空へとエリアが消えた時――ラニだけはネットスラムに帰っていた。
彼女はあの中で唯一エリアから離脱する方法を一つ持っていた。
令呪。
マスターとしての証であり、既存の法則をも捻じ曲げるその力。
それを行使することであのエリアから抜け出すことに気付いたのは、ロックマンがスケィスを抑えている最中だった。
かつて岸波白野がやったように、彼女はエリアの壁を越えネットスラムへの帰還に成功したのである。

「……イベントは一先ずクリアー」

淡々とした口調で彼女は紡ぐ。その視線の先アイテムストレージにはnoitnetni.cyl_2の文字がある。
イベント用のアイテムであったそれを、今回の連携の最中に彼女は手に入れた。
無論その分配はこれからモーフィアスとの交渉を行う筈だったのだが。

「……Mr.モーフィアスらは行方不明」

――モーフィアスらは消えていた。
いや正確に言うならば、あのエリア自体に帰れなくなってしまったのだ。
確認したところカオスゲート自体が既に機能せず、エラー画面が表示された。
令呪により脱出ができた自分はともかく、あの場に残った彼らがどうなったかはわからない。

「黒の陣営の姿は見えませんが――事態は私に有利」

抑揚のない声で状況を分析する。
現在の状況はなるほど確かに最良に近い。

しかし、ラニはひどく醒めた心地だった。
先ほどの戦いで感じたような、モーフィアスと共に戦った時の高揚はそこにはない。
どこかで残念に思っている。そう彼女は自らを分析した。
全くもって矛盾している――が、それも仕方がない。

ラニはなんとなしに空を見上げた。
安っぽい黄昏の空は変わらない。ネットスラムは何時だってこの色だった。
しかし辺りの風景は既に様変わりしていた。数多くのオブジェクトは破壊され、データは塵に還った。


その中でラニは居た。
たった一人で。


213 : Transmission ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:18:31 Zb0VRYQc0

【B-10/ネットスラム/1日目・日中】
※ネットスラムのカオスゲートは使えなくなりました。

【ラニ=Ⅷ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP40%、魔力消費(大)/令呪二画 600ポイント
[装備]: DG-0@.hack//G.U.(一丁のみ)
[アイテム]:不明支給品0〜5、ラニの弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式、図書室で借りた本 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』
[思考]
0:今は巨人(スケィスゼロ)から逃げる。
1:師の命令通り、聖杯を手に入れる。
そして同様に、自己の中で新たに誕生れる鳥を探す。
2:岸波白野については……
[サーヴァント]:バーサーカー(呂布奉先)
[ステータス]:HP60%
[備考]
※参戦時期はラニルート終了後。
※他作品の世界観を大まかに把握しました。
※DG-0@.hack//G.U.は二つ揃わないと【拾う】ことができません。


『黒薔薇騎士団』

【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP50%/デュエルアバター 、令呪一画、、移動速度25%UP
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3 エリアワード『絶望の』
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
1:???
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:ダメージ(中)、魔力消費(大)
[備考]
時期は少なくとも9巻より後。


【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP30%、移動速度25%UP
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、逃煙連球@.hack//G.U.(現在使用不可)、エリアワード『絶望の』
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:???
※時期は原作終了後、ミア復活イベントを終了しているかは不明。


214 : ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 17:19:04 Zb0VRYQc0
投下終了です。
指摘、問題点等あればお願いします。


215 : 名無しさん :2015/09/06(日) 17:28:25 1MxJY8cU0
投下乙です!
あのスケィスゼロを前にここまで立ち向かい、そして打ち破ったこの集団は本当に熱かった!
ロックマン……いや、彩斗兄さんは最後まで頑張りましたね!
残されたモーフィアスと揺光はゲートハッキングによってどこかに転送されてしまいましたが、これからどうなるでしょう……


216 : 名無しさん :2015/09/06(日) 19:41:24 qveNpG1M0
お二方、投下乙でしたー


>agreement;協定
スカルリーパーさんがかませでスミスがやばいw
オーヴァンも地味に格を見せ付けているなあ……
そしてそれだけ厄介な二人(?)が協定を結び、向かう先は学園とか。あかん


>Be somewhere
>Transmission
遂に三つの陣営が一つの敵を前に協調を見せ――ロックマンーーー!?
スケィスを倒し切ることはできませんでしたが、お疲れ様でした兄さん
ゲートハッキングにより、協働も束の間のものとなってしまいましたが……
どの陣営も今後が気になります


217 : 名無しさん :2015/09/06(日) 19:44:56 qveNpG1M0
以下、誤字脱字?の指摘です

>agreement;協定
>>186
具現化したもののか。
→「具現化したものなのか。」?

>>189
碑文やAIDAを解析を企んでいる理由は、
→「碑文やAIDAの解析を企んでいる理由は、」?

>>191
八叉
→八咫


218 : 名無しさん :2015/09/06(日) 19:53:49 qveNpG1M0
>Be somewhere
>Transmission
>>204
中盤を迎えようと時期
→「中盤を迎えようという時期」?

そんな彼でも新兵は存在した。
→「新兵」の後に「の時間」「の時代」といった文が入るのではと思いました。


>>205
対比
→退避

これから起こる
→次の文脈には続くようには見えないため、この後に続く文があるのではないでしょうか?


>>207
その先に誕生れる
→「その先に産まれる」または「その先に誕生(うま)れる」?

バーサーカーに支持し、再度の砲撃を行う指示をする。
→「バーサーカーに、再度の砲撃を行う指示をする。」?


以上です


219 : ◆7ediZa7/Ag :2015/09/06(日) 19:55:50 Zb0VRYQc0
誤字指摘了解です。何時もありがとうございます
収録時に直しておきます


220 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/06(日) 22:08:14 1MxJY8cU0
感想及び指摘をして頂き、ありがとうございました。
それではこちらも修正させて頂きます。


221 : 名無しさん :2015/09/06(日) 23:35:40 0HsTnrPs0
ロックマンのおかげでなんとかスケィスを退けたけど
後からやってきたハセヲが一悶着を起こしそうで怖い……
投下乙でしたー


222 : 名無しさん :2015/09/07(月) 21:27:53 YK//bGxQ0
予約きた!


223 : 名無しさん :2015/09/15(火) 06:11:48 GQwuGiWE0
月報なので集計させて頂きます
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
107話(+ 4) 27/55 (- 2) 49.0(- 3.7)


224 : 低迷の原因は手前の中から ◆7fqukHNUPM :2015/09/15(火) 21:00:01 4F5tLiKg0
月報ありがとうございます
それでは自分も本投下させていただきます


225 : ◆7fqukHNUPM :2015/09/15(火) 21:01:27 4F5tLiKg0
盛大に誤爆いたしました……大変申し訳ありませんorz


226 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:03:37 Kfyjnlg20
これより投下します


227 : 生者と死者 ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:05:02 Kfyjnlg20

    1◆


 瞼を開けた先に広がるのは、あまりにも異質な空間だった。
 見渡す限り、大量の数字が羅列されていた。0から9の数値が無造作に流れていく。時折、%や#などの記号も混ざっていた。
 余りにも混沌としていて、そして一切の正気が感じられない。
 何らかのデータかもしれないが、その正体を掴むことができなかった。

「な、なんだよここは……アタシ達は、ネットスラムにいたはずだよな?」

 揺光の疑問は極めて当たり前。
 自分達は、突如として現れた新たなる敵――スケィスと呼ばれた巨人――と戦っていた。しかしスケィスが仕掛けた逃亡をロックマンが命をかけて食い止めようとして……今に至る。
 ウラインターネットでもネットスラムでもない謎のエリアに放り込まれて、モーフィアスも困惑を隠せない。

「おい、ロックマン……ロックマン! いないのかよ!?」

 一方で揺光はロックマンの名を呼ぶが、返事はない。
 それは当然だった。エリアの崩壊に巻き込まれてしまっては、ロックマンのマトリックスが無事でいられるとは思えない。光となった彼のデータは、既に一欠けらも残っていないはずだった。
 仮にまだ生存していたとしても五体満足でいる保証はない。そうなっては、この殺し合いに生き残るなど不可能だ。
 
「ロックマン! ロックマン! いるなら出てこいよ、ロックマン!」
「……揺光」
「何だよ!?」
「お前もわかっているはずだ。ロックマンは、もう……」
「そんな風に言われて、納得できる訳ないだろ!」

 モーフィアスは口にしようとした言葉は、揺光の怒号によって掻き消されてしまう。
 周囲の光景など意に介さないように、彼女は叫び続けた。

「アイツには帰りを待ってる奴らがいた! それなのにアイツは、一人で勝手なことをして消えやがった!
 ロックマンはそれでいいかもしれないけど、そうなったら…………熱斗やメイルって奴らはどうなる!?」
「……………………」
「何でだよ……何でだよ。そいつらはアンタを大切に想ってたんじゃないのかよ」

 やがて揺光の声は弱々しくなる。そんな彼女にかける言葉が見つからなかった。
 ロックマンの代わりになる、などと言える訳がない。このマトリックスから脱出ができる保証などないし、何よりもモーフィアスには機械との戦争が待っている。
 揺光だけを気遣う事はモーフィアスにはできなかった。

「…………エリアの崩壊によるバグ影響を確認しに来てみれば、やはりプレイヤーがこのエリアに巻き込まれているとは」

 そんな中、足音と共に無機質な声が聞こえる。
 思わず顔を上げた先には、白衣を纏った男が姿を現した。眼鏡と合わさっているせいか、医者の単語が脳裏に浮かび上がる。
 だが、この男から放たれるのはそんな穏やかな雰囲気ではない。始まりの地で榊が放っていたそれと同じだった。


228 : 生者と死者 ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:07:25 Kfyjnlg20
「モーフィアスに揺光……だったかな?」
「俺達の名前を知っていると言う事は、お前は榊の仲間か」
「ああ。私は本来なら、プレイヤーと巡り会うことはないはずだが……やはり予定通りにいかないのが常か。
 尤も榊ならば、この事態もイレギュラーとして簡単に受け入れるだろうが」

 白衣の男は淡々と語る。そこに感情が込められているようには見えない。

「へぇ……じゃあ、アンタをぶん殴ればこんな殺し合いを終わらせられるの?」

 一方で揺光は問いかけてくる。その声色には怒りが滲み出ていた。
 彼女は両手で獲物を握り締めながら、男を睨みつけている。しかし男はそんな揺光の視線など気にかけず、言葉を続けた。

「それは無理だ。仮に君達が私を倒したとしても、私が消えるだけで殺し合いには何の支障もない」
「ハッ。そんなの、やってみなけりゃ……!」
「待て、揺光!」

 揺光が飛び掛かる直前、モーフィアスはそれを制止する。

「何だよ、モーフィアス! こいつはクラインやロックマンの……みんなの仇だろ!」
「そうだ。だが、この男の言っている事も間違っていないはずだ。
 俺達がここで奴を倒したとしても、榊はこのエリアごと俺達を切り捨てる。それ以前に、奴は榊の仲間だ…………何らかの強力な武器だって持っているだろう。あるいは、俺達に仕組まれたウイルスを発動する権限だって持っているはずだ。
 今、俺達が戦っても犬死になるだけだ」
「じゃあ、何もしないまま負けろって言うのかよ!?」
「違う。俺もお前と同じ気持ちだ……だが、突っ込んでもロックマン達の仇を取る事はできない」

 榊の仲間を倒す……揺光の言い分は望ましいが、その為の手段がこちらにはなかった。
 白衣の男は隙だらけにも見えるが、何の準備も無しに現れるとは思えない。自分達の見えない所で無数の武装が構えられているかもしれないし、ここから前に踏み出しただけでも蜂の巣にされてしまうだろう。
 もしくは、外見からは想像できない程の戦闘能力を白衣の男が誇っている可能性だってある。自分達を一瞬で屠る事など造作もないはずだった。
 また、男を撃破したとしてもこの空間から脱出する方法がわからない。マトリックスを崩壊するイレギュラーを起こす力を自分達は持たないのだから、このまま閉じ込められてしまう危険もある。
 八方塞がり、という言葉が的確な状況だった。




「…………そう心配しなくてもいい。ここで君達が脱落するのは、榊としても不本意なはずだ。
 私が、私の権限で君達をゲームの舞台に復帰させよう」

 しかし、モーフィアスの不安を見抜いたかのように、白衣の男は語る。
 その内容に、思わず面を食らった。

「エリアが崩壊する事態も想定していたとはいえ、流石にここまでの規模は予想外だ。
 それに参加者が巻き込まれてしまったのはスケィスだけではなく、備えていなかった我々にも非はあるだろう……
 だから我々には、君達を殺し合いのフィールドに帰還させる義務がある」
「そんな心がけがあるのなら、俺達をすぐにでも帰還させてもらいたいのだがな」
「残念ながらそれは私には不可能だ。君達がゲームを進めない限り、終わりを迎えないだろう」

 男の言葉は尤もだ。
 彼らにとって自分達はゲームを進める為の駒に過ぎない。そんな相手に温情などかける訳がなかった。
 駒がいくら死んだとしても、また代わりを見つければいいだけ。その為の手段をいくらでも持っているはずだった。
 しかし、そんなことをさせるつもりはないが、こちらにはその手段がなかった。


229 : 生者と死者 ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:09:59 Kfyjnlg20
「それと、あと二つ…………こちらからのお詫びを与えよう。
 一つは情報。君達の他にも、私達に接触したプレイヤーが存在する……我々と結託した彼は、今もどこかで暗躍しているだろう。
 もしかしたら、今にでも君達の仲間に牙を向けているかもしれないな」
「……そんな話を信じられるとでも思うのか? 仮にお前達の手先が存在したとしても、それを馬鹿正直に話すメリットがどこにある」
「強いて言うなら、ゲームを盛り上げに一役買うことだ。これは榊の受け売りだがね」
「ふざけんなっ!」

 男は淡々としているが、相変わらず身勝手極まりない言い分だ。
 揺光が怒号を上げるのも無理はない。モーフィアスも表情こそは動かさないが、腸が煮えくり返っている。
 トリニティやロックマンの『死』……それすらも、ゲームを盛り上げる為のイベントに過ぎなかったのか?
 数多の『死』を前にしても、揺光とロックマンは互いに誓った。決して悲しみに溺れないで、遺された者達に想いを告げると。
 高潔で、そして暖かい一時だった。だが、奴らにとっては『ゲームの盛り上げ』でしかない。
 …………やはり、榊とこの白衣の男は人類を餌とする機械達と同じだった。始めから人間味を期待する事が間違っていたが。


 白衣の男を睨みつけるが、当の本人は微動だにしない。
 ただ、こちらを見据えているだけだ。

「そしてもう一つは、これだ」

 そう言いながら取り出したのは、一枚のコインだった。
 男は親指で勢いよくコインを弾いて、キャッチする。そうして、ゆっくりと掌を開いた。

「表、か……なら、モーフィアスにするべきか」

 その行為の意図が掴めないまま、男の口からは意味のわからない言葉が漏れる。
 当然、呼ばれた揺光は表情が怪訝に染まった。

「表なら俺だと? どういう意味だ」
「まあ、これもゲームの一環と考えてほしい……これは二つ目のお詫びだ。
 私はこれより、君達二人をあるエリアへと送る。その先にはモーフィアスが求める彼がいるはずだ」
「彼、だと? まさか……」
「そして最後にもう一つだけ……この世界は徐々に崩れ落ちている。故に、君達は最期の一人にならざるを得なくなるのだよ。
 時間は残されていないことを忘れないでくれ」
「待て! まだ話は……」
「では、健闘を祈る」

 その言葉を最後に、モーフィアスの視界は数字で埋め尽くされていく。白衣の男は大量の0と1によって見えなくなった。
 やがて足元が消える感覚を抱くと同時に、その意識もまた数字によって飲み込まれてしまった。


230 : 生者と死者 ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:13:05 Kfyjnlg20



    2◆◆



「闇の殺し屋、ダークマンだと?」
「私の目の前に現れたアバターはそう名乗りました。私のデータを取ると言って、そのまま去って行きましたが……」
「それ以外に何もされていないのか」
「はい。『しなかった』のではなく『できなかった』……自分には権限がないと言っていました」

 ミーナから告げられた言葉に、ネオは困惑の表情を浮かべる。
 それは一度目のメールが送られた頃の話だ。ミーナは誰とも会えず、アメリカエリアで単独行動を続けている最中……謎のアバターと遭遇したらしい。
 ダークマン。ミーナ曰く、運営側のアバターである可能性が高いようだ。

「ガッツマンさん。もしかしたらあなたのお知り合い……ではありませんよね?」
「う〜ん、そんなネットナビは知らないでガッツ。おれの友達にそんな危ないヤツはいないでガスよ」
「そう、ですよね……」

 名前から考えて、ガッツマンと何らかの関係があると考えたのだろう。だが、ガッツマンが危険人物と接点があるとは思えない。
 話を聞く限り、その特徴はマトリックスを守護するエージェント達に等しい存在と思えた。
 人類とネットナビが手を取り合っている裏で、その平穏を脅かそうとしている何者かがいる……そして、この殺し合いに加担しているのだろう。

「だが、いいのか? そんな話を俺達にしても」
「構いません。いつかは話さないと誰にも知られないまま、私が殺されてしまうかもしれませんでしたから…………
 もう、本当に大変でしたです! あなた達が来てくれるまで、もう誰とも会えませんでしたから!」
「それは……大変だったな」

 何でも、ミーナはここまでダークマン以外に誰とも会えなかったらしい。
 遠目では妖精の少女と危険なネットナビ――恐らく、ありすを追った少女と例の黒いネットナビのことだろう――を見かけたようだが、接触は出来ていない。
 だが、あのネットナビに関しては接触できなくて正解だろう。何の力も持たない彼女では、一方的に嬲り殺しにされるだけだ。
 ……ここで彼女を見つけられてよかった。もしもこのまま出会えなかったら、自分達の知らない所で犠牲者になるはずだから。

「あと君は、榊が見知らぬ男達と話をしている所を見たと言っていたな」
「内容は聞き取れませんでしたが、あそこにいたのは確かに榊でした。
 ……やっぱり、この殺し合いに関係する話をしていたのではないでしょうか?」
「それ以外に考えられないな」

 そしてもう一つ……ミーナはこの会場ではバグが起きているとも語っている。
 そのバグに触れた途端、彼女は榊が奇妙な二人の男と話している場面を見てしまったようだ。
 バグ自体はすぐに消えたようだが、それは大きな情報になる。ほんの僅かとはいえバグが発生したと言うことは、この殺し合いを打ち破る鍵になるはずだった。

「しかし、それなら何故ダークマンは君を見逃したんだ? 権限が与えられないなど、絶対におかしい」
「わかりません。榊達にとって私は、運営の隙を見つけた危険人物……
 尚更、優先的に狙わなければいけないはずです」
「君一人では脅威にならないと考えているのか、あるいはまた違う目的があったのか……駄目だ。今のままでは答えを見つけられない」

 一体どういう意図があってミーナが見逃されてしまったのか? 答えどころか、推測するキーワードすらもわからない現状だ。
 それだけではない。彼女がこうして運営を打倒するきっかけとなる情報を話しているのに、自分達に対して何かアクションを仕掛けてくる訳でもなかった。
 …………まさか、仮に情報が漏れたとしても何の影響も与えないのか。
 それはないはずだ。例えどんなに高性能なプログラムだろうと、欠点は必ず存在する。故に、彼女が手に入れたこの殺し合いを打破するきっかけとなり得るはずだった。


231 : 名無しさん :2015/09/22(火) 11:15:38 Kfyjnlg20

「あっ! ネオにお姉さん! あれを見るでガッツ!
 あそこに人が倒れているでガスよ!」

 考案の最中、それを遮るかのようにガッツマンは叫ぶ。
 言われるままに顔を上げた先には、一人の女性が草むらに倒れているのが見えた。

「大変! すぐに行かないと!」
「ああ!」

 ネオ達はすぐに駆け寄る。
 そこに倒れている女性は見た所、派手な外傷はない。だがこの世界では外見の様子と実際の体調は一致しなかった。
 例え見た目では健康に見えても、プレイヤーにされてしまった者達はHP(ヒットポイント)という謎の数値が余命となっている。それが0になった途端、この肉体は消滅してしまうのだ。

「おい、しっかりしろ! しっかりするんだ!!」

 それを阻止する為にもネオは呼びかけるが、女性は目を開けなかった。

「どうしましょう……ガッツマンさん、何か回復アイテムを持っていませんか?」
「ごめんガス……俺もネオも、持っていないでガスよ。お姉さんは?」
「……ないです」

 回復アイテムがない……その事実にネオの心は痛む。
 もしもそれがあったのなら、トリニティだって救えたはずだった。それにアッシュだって、死なずに済んだかもしれない。
 苦い記憶が蘇り、悲劇を繰り返してはならないと想いを寄せる。
 彼女の身体はまだ温かい。だけどこのままでは、また失ってしまうかもしれなかった…………



「そこにいるのは……ネオなのか!」

 …………そんな時だった。助け舟となる声が聞こえたのは。
 ネオはそれをよく知っている。救世主としての自分を鍛えてくれた恩師であり、長らく共に戦ってくれた戦友の声だ。
 振り向くと、やはり彼がいた。ダークスーツを身に纏い、サングラスが特徴的な黒人男性……モーフィアスだった。

「モーフィアス!」
「やはりネオのようだな。
 だが、どうやら再会を喜んでいる場合ではなさそうだ……一体、何があった?」
「わからない……俺達もここに辿り着いたばかりで、彼女がこうして倒れていたんだ」
「そうか」

 頷きながら、モーフィアスは辺りを見渡す。その傍らにいる少女も、彼の視線を追った。
 倒れている女性に気を取られていたが、よく見ると辺りは焼け焦げていた。所々にマトリックスの崩壊も起きていて、ここで戦いが起こっていたのが一目でわかる。
 そして何故、ここで彼女は一人で倒れていたのか? また、これまで人の気配はなかったのに、モーフィアス達が突然姿を現したことも妙だった。
 見晴らしのいい場所で来訪者に気付かないほど、ネオは呆けていない。それでは救世主として戦うことなどできなかった。

「……モーフィアス。どうして、いきなりここに現れたんだ?」
「それに関しては話せば長くなる。それ以外にも、お互いに話さなければならないことは山ほどあるだろう」
「わかった」


232 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:18:49 Kfyjnlg20


     †



「ロールちゃんのことを伝えて欲しい…………ロックマンが、そうを言っていたでガッツか?」
「ああ。アイツはそう言って、アタシ達を守るために突っ込みやがった」
「……そうでガスか」
「アイツのおかげで、アタシ達は生きている……それなのに、アタシはロックマンのことを……見殺しにしたようなもんだ。
 ごめんな……ガッツマン」

 見知らぬ草原。恐らく、ファンタジーエリアの一角と思われるエリアに転送されてから、モーフィアスはネオ達と再会することができた。
 そしてネオはガッツマンというネットナビと同行している。先の戦いで散ったロックマンのライバルであり、親友でもあるネットナビだった。
 それを知ってから、揺光がロックマンのことを話していた……ロックマンから託された最期の願いを、そして互いに誓った約束を。

「……………………」

 何も言わないが、ガッツマンはやはり悲しげな表情を浮かべていた。
 当然だろう。昨日までは共に過ごしていた友が死んだと聞かされて、平静でいられる訳がない。人間もネットナビも同じだ。

「……まったく。ロックマンの奴はしょうがないでガスね」

 数秒の沈黙が過ぎた後、ガッツマンの口から出てきたのはそんな言葉だった。

「カッコウ付けてるつもりで、得意になって…………それでおれ達にはさよならも言わないなんて。
 しかも揺光やモーフィアスを困らせてるなんて、本当にしょうがないでガスよ!」
「ガッツマン、何を……!」
「でも、ロックマンがそう言っていたなら、おれがロックマンの代わりに頑張らないといけなくなったでガスよ!
 熱斗やメイルちゃんにデカオに……ロックマンとロールちゃんのことを伝える! その役目は、確かにおれが引き受けるでガス!」

 胸を張りながら、大声で宣言する。しかしそれは涙声になっていく。
 ガッツマンの瞳からは涙が流れていた。力強さはそのままだが、彼は泣いている。友の死に涙を流していた。

「ガッツマン……」
「みんなと一緒に帰って、いなくなったロックマンやロールちゃん達のことを伝える……ロックマンはその為にがんばったのなら、おれも頑張らないといけないでガス!
 揺光! おれはロックマンじゃないでガスし、あいつみたいにはやれないかもしれないでガス……
 でも、この男気だけはロックマンにも負けない! だから、ロックマンの分までおれは戦うでガス!」
「……アタシもよ! アイツは最期の最期まで、勇気を出して戦ってた! そんなロックマンの頑張りを無駄になんて、絶対にさせたりしないからね!」


「ロックマンは頑張っていたのに、おれが頑張らなかったら……ロックマンとロールちゃんは怒るでガス!
 だから今は悲しまないでガスよ! おれが悲しんでいたら、辛い思いをする人がもっと増えるでガスから!」
「そうだ! なら、そのデカい拳でこんな殺し合いを開いた奴らをぶん殴ろう! その時は、アタシも手伝うからな!」
「わかったでガスよ! 涙を思いっきり流すのは、その後でガス!」

 ガッツマンと揺光は互いに拳を握り締めている。その力強さは、スケィスに立ち向かったロックマンを見ているようだった。
 そんな彼らを見て、モーフィアスは安堵する。揺光にとって心の支えとなっていたであろう、ロックマンの死…………それによって受けた傷は計り知れない。
 モーフィアスは戦闘における指揮能力や体術に優れているが、メンタルケアに関しては専門家ではなかった。
 やはり、仲間がいてくれてよかったと、モーフィアスは改めて実感した。


233 : 生者と死者 ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:20:12 Kfyjnlg20
「……ごめん。なんだか心配かけちゃって」
「おれの方こそ、ごめんでガス。もしも揺光がロックマンのことを伝えてくれなかったら、きっと後で……ネオやミーナお姉さんに迷惑をかけていたでガスよ」
「いいや、アンタの勇気があれば……そんな心配はないよ」

 揺光とガッツマンは寂しげに笑う。
 死は決して覆らない。だからこそ人間は自分自身の力で生きていかなくてはいけなかった。
 機械に頼りきらず、知恵と勇気で困難を乗り越える……それを繰り返したからこそ、人類はこれまで発展してきたのだから。

「勇気、か」
「モーフィアス……俺達人類に必要なのは、それだったのかもしれない」
「ああ。機械を悪にさせてしまったのは、他ならぬ俺達自身…………」

 ネオからその事実を突き付けられた途端、モーフィアスはこれまで信じてきたものを壊されたような気分になった。
 機械は悪。人類全てを餌としてきた機械達を殲滅しようと、ザイオンにいる皆は躍起になった。そうしなければ人類はこれからも蹂躙されてしまうのだから。
 だけど、そもそもの発端は驕りきった人類にある。技術と文明を発達させたはいいものの、肝心の人類がどこかで道を踏み外してしまった。
 愚かしい存在に成り下がった人類に、意志を持つ機械が従う道理などない。機械が人類に牙を剥くのも当然だ。


 現にここにいる揺光は、ロックマンやガッツマンと心を通わせている。ロックマン達も同じ。
 三人の生きる『現実』では機械と人類は共存していた。人類は機械の力に溺れて堕落せず、また機械もそんな人類を信頼して身を任せている。
 予言や救世主の存在がなくとも、互いは平和な世界を作り上げていた。


「…………それはわかる気がします」

 話に割り込んできたのは、このエリアで倒れていた女性だった。
 彼女の名前はカオル。現実の世界では寺岡薫という名で、揺光やミーナと同じ東洋系の人種だ。

「文明を発達させるのは大切です。
 私もかつて、ある人の命を助ける為に研究を重ねて……たくさんの物を発明しました。
 「いつかみんなを救ってくれる」と信じて、あきらめることを否定しました。
 でも、それは驕りだったのです。私の過ちのせいで、多くの人が悲しむことになってしまいました……」

 そう語る彼女は悲しそうな表情を浮かべている。
 聞く所によると、彼女は科学者として数多くの発明を生み出してきたらしい。サイボーグ技術や新エネルギーの誕生など、計り知れない。
 だがその新エネルギーは凄まじすぎて、それを狙ったオオガミやジャジメントという財閥同士が戦争を起こしたと言っていた。
 エネルギーの独占を狙った愚か者たちが悪い……それは間違っていないが、元を辿ればカオルが生み出したことにある。

「……何よりも恐ろしいのは人間の驕りか。
 機械も始めは俺達の力になっていたはずだ。だが、何もかもを機械に任せられるという過信こそが……全ての元凶か」
「モーフィアス……」
「ネオ。お前はその事実に至って、何を思った?」
「……どうしようもない程の空しさに襲われた。俺達が敵と思っていたものを生み出したのは、他ならぬ俺達自身だからだ」
「だろうな……俺も戸惑った。これまで信じてきた常識を否定された。俺達の間違いこそが悪だった。
 しかし、それを他の奴らに伝えても……俺達の戦争が終わるとも限らない」

 人類の邪念と堕落が種となり、それを餌とした機械が魔物となった。
 しかしそれをザイオンに宣言したとしても、彼らは納得などする訳ない。家族や友を機械に奪われた者達が、憎むべき相手が被害者だと思えないはずだ。
 人の感情は時として凄まじいものを生み出す。カオルの発明や、機械に反旗を翻す人類の力など……これこそ星の数ほどあるだろう。
 尤も、それによって戦争が起きているのは余りにも皮肉だが。


234 : 生者と死者 ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:24:30 Kfyjnlg20
「……それでも、俺は諦めたくない。
 救世主である俺が諦めたり、挫けたりしたら……戦っている彼らはどうなる」
「ネオ……」
「それにトリニティだって、最期まで俺のことを信じてくれた。
 俺は一度は諦めそうになった……だけど、ガッツマン達が俺を支えてくれた。だから俺は止まる訳にはいかない」

 ここにいる者達は分かり合うことが出来た。ネオや揺光だって、心があるネットナビと絆を育みあっている。
 だからこそ、争い以外の方法で平和を掴み取れると確信したのだろう。
 犠牲者を出すことなく、争いを終わらせられたらどれだけいいか。この技術を戦争以外に役立てたらどれだけいいのか……モーフィアス自身も理解している。
 だが。

「……お前の中に生まれた理想は確かに素晴らしい。そうあってくれれば、どれだけいいことか
 だが、理想論ばかりで終わらせられるほど戦争は甘くない……それはお前自身が一番知っているはずだ」
「そうだ。この理想だけで殺し合いを止められる……それは夢物語に過ぎないことを、俺だって理解してる。
 だけど、諦めたりしない。カオルが言うように、諦めることを否定するつもりだ。
 理想を失ったまま、戦いに勝ったとしても……俺達に未来はない。例え人類が機械に勝利しても、いつかまた同じことを繰り返すはずだ」
「同じことを繰り返す……確かにそうかもな」

 ネオの言葉を否定しない。
 もしもこの事実を認識しないまま、このマトリックスから脱出して戦争に勝利しても……記憶は風化して、遠くない未来でまた機械を奴隷として扱うだろう。
 そうして意思を持つ機械は人類を憎み、戦争が起こって平和は崩れてしまう。

「どうやら、俺達は罪を認めなければいけないようだ。そして、過ちを繰り返さないように知恵を振り絞る……
 こんな当然のことを忘れていたのかもな」
「だったらこれから、それを忘れないようにすればいいんじゃない?」

 そう言って、揺光は肩を叩いてくれた。

「アタシはモーフィアスやネオみたいなプロじゃないし、そういう世界で生きてきたこともない。
 だから上手く言えないけど……間違いに気付けたのって、いい事じゃないのか?」
「失敗は成功の元、か……」
「悪い、こんなことしか言えなくて……」
「いいや。お前の言うことは尤もだ。こんな所で俺が絶望しては、ここにいる皆に迷惑をかけてしまう。
 それにザイオンにいるあいつらも導けない。俺は司令官だからな」

 これから兵士として導くはずだった揺光に支えられるとは。
 成程。ロックマン達もこうだったのかもしれない。本来なら、司令官である自分自身がこうでなければいけなかったはずだ。
 理想を裏切られたことは、これまで何度もあったはずだ。ネオだって絶望から立ち直ったのだから、彼を鍛え上げてきた自分が感傷に浸ったりなどしない。

「……そういえばカオル。トリニティを殺したという少女だが……確かありすという少女だったな」
「私は現場に居合わせていませんが、アスナさんはそう言っていました。
 でも、ありすちゃんとユウキさんは……多分、もう……」
「……そうか」

 そこから先、何を言おうとしていたのかをモーフィアスは問わない。
 カオル達は死神のようなネットナビに襲われたようだ。その際にカオルは気を失ってしまい、他の三人の生死を把握できていない。
 だが、周囲の被害を考えると、ユウキとありすが生存している可能性は0に等しかった。
 そして特徴を聞く限り、その死神は恐らくネオ達を襲った黒いネットナビと同一人物である可能性が高い。


235 : 生者と死者 ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:24:57 Kfyjnlg20
「……考えなければいけないことは山ほどあるな。
 まずは危険人物の対策。現状で把握している限りは黒いネットナビ、スケィスという巨人、そして俺達が接触したラニというプレイヤー……早急に止めなければ被害は拡大するだろう。
 そしてミーナが見たと言う白衣の男……こいつは俺と揺光の前に姿を現している」
「ええっ!? それってどういうことなのですか!?」
「俺達はスケィスとの戦いの果てに、謎のマトリックスに流れ着いた。
 そこの詳細は不明だが、恐らくこの殺し合いにとって根幹となる場所のはずだ。奴の反応から考えて、通常ではどうあっても辿り着けないエリアだろう。
 尤も、すぐにこうして送り返されてしまったが」
「……でも、それっておかしくありませんか? どうしてモーフィアスさんと揺光さんをわざわざ私達の前に送り返したのでしょう」
「ゲームを盛り上げる為、だそうだ」
「……えっ?」

 ミーナは怪訝な表情を浮かべる。ネオやガッツマン、それにカオルも同じだった。
 しかしその一方で揺光は顔を顰めていた。思い出すだけでも胸糞が悪くなっているのだろう。モーフィアスも同じだった。
 だけど、それを話さないわけにはいかない。

「奴らが俺達をこうして帰したのも、またバグに触れたミーナを殺さなかったのも……殺し合いを盛り上げる為に必要だから、らしい。
 だとすると、俺達がこのマトリックスの謎を解き明かそうとしている姿も、奴らからすれば祭りの一つにすぎないだろうな」
「ふざけるなでガス! それじゃあ、ロールちゃんやロックマンがいなくなったのも……あいつらにとって、遊びだったでガスか!?」
「……もしかしたら、奴らには何か武器があるのかもしれない。秘密を暴かれたとしても、それに対する対抗策を用意しているはずだ。
 だが、例えそうだったとしても、俺達が反抗する為の手段はあるはずだ」

 頭に血が上ったガッツマンを諭すようにモーフィアスは語る。
 慢心なのか、あるいは確信のどちらかはわからない。しかしどちらにしても、このまま泣き寝入りするつもりなどない。
 それはネオ達も同じだろう。

「だが、もう悠長に構えていられない。
 俺達に仕掛けられているウイルスが牙を剝くまで、既に12時間を切っている。
 それだけではない。あの白衣の男が語った、会場に解き放たれた刺客や『この世界が崩れ落ちている』という言葉も気がかりだ。
 奴の言葉が真実ならば……」
「……まさか、この仮想空間のデータが壊れ始めているのでしょうか?」

 そこから、カオルは己の述べた説を口に出した。

「皆さんの話を聞いて考えたのです。
 ミーナさんがバグに触れたり、モーフィアスさん達が使用外のエリアに転送されるような自体は本来ならあってはならないでしょう。
 でも、実際に起きてしまいました。その理由は、本来なら噛み合うはずのないデータを無理に組み合わせたから、だと思います。
 それがバグの原因になっているのではないでしょうか」
「データを無理矢理組み合わせただと? 何故、そんなことをする必要がある」
「う〜ん。情報が少ないので、私にも推測が出来ません。
 ただ……もしかしたら、このバグは偶発的にではなく意図的に仕組まれているのではないでしょうか?」
「意図的にだと? まさか、ミーナが触れたバグや俺達が巻き込まれたマトリックスの崩壊も……榊達が言うイベントの一種、なのか?」

 カオルとモーフィアスは互いに考察を述べる。
 だが、現状では憶測の域をでなかった。ミーナの触れたバグと、謎のマトリックスで出会った男の言葉……手がかりはそれらだけだった。
 それ以前に、白衣の男が真実を言っている保障はない。それに縋るのはあまりにも危険だった。


236 : 生者と死者 ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:26:45 Kfyjnlg20


 現状の戦力を見直す。
 戦力となれるのは6人中4人。他の二人は非戦闘員だ。
 ミーナは護身術に長けているようだが、それはスケィスやラニのような超人を前にしては意味を成さない。
 揺光は実力そのものはあるが、まだ発展途上だ。無理をさせては揺光を失ってしまうことになる。
 ガッツマンはどのような能力を持っていて、またどんな戦闘スタイルを持っているのか……モーフィアスは何一つ知らない。
 カオルは科学者だ。マトリックスやウイルスの謎を解き明かす鍵となるだろうから、絶対に死なせてはならなかった。
 故に、完全に信用できるのは……この手で鍛え上げてきたネオだけだろう。


 パラメーターを見直す。
 自分を含めて、揺光やカオルですらHPは20%を切っている。生きていることが奇跡だと思うべきだ。
 一応、揺光が回復アイテムを三つ持っているが……それらを使用しても、万全の状態に回復できない。
 しかし戦場では傷を負うなど当たり前。命があるなら、どんな手段を使ってでも再び戦えるようにしなければならなかった。



 話を戻す。
 この空間の謎を解き明かすには一箇所に留まるべきではない。別行動も必要だが、この状況では望ましいとも思えなかった。
 何故なら、スケィスやラニのような危険人物が存在している。現状、戦力を分散させるのは危険だろう。
 だが、アメリカエリアやウラインターネットなど、探索するべき場所は大量に残っている。空間の謎を突き止めるには一つでも多くの情報が必要だ。
 


「あ、あれは何でガスか!?」

 思案を巡らせている最中、ガッツマンの叫びが聞こえて、視線をそちらに向ける。
 見ると、太陽の光に照らされている草原の一部が歪んでいた。焼け跡ではなく、そこを構成するであろうデータがむき出しとなっている。
 ここで発生したのは新たなるバグ……この場でそれに気付かない者は、誰一人としていなかった。





[D-7/ファンタジーエリア・草原/1日目・午後]


【備考】
※エリアに新たなるバグが出現しました。


237 : 生者と死者 ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:27:17 Kfyjnlg20

【ネオ(トーマス・A・アンダーソン)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康、迷い
[装備]:エリュシデータ@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド、不明支給品0〜2個(武器ではない)
[思考・状況]
基本:本当の救世主として、この殺し合いを止める。
0:これからどうするか?
1:ガッツマン、ミーナと共に行動する。
2:トリニティを殺害した者を見つけ出し、この手で……
3:ウラインターネットをはじめとする気になるエリアには、その後に向かう。
4:…………あのネットナビ(フォルテ)やありすを追いかけて、止めてみせる
[備考]
※参戦時期はリローデッド終了後
※エグゼ世界及びアクセルワールド世界についての情報を得ました。
※機械が倒すべき悪だという認識を捨て、共に歩む道もあるのではないかと考えています。
※このバトルロワイアルには、異なる世界の者達が呼ばれているのではないかと推測しています。
※この会場は、加速世界の一種に設置されているのではないかと考えています。
※フォルテやありすを止めようと考えていますが、その後にどうするのかをまだ決めていません。



【ガッツマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康、ナビ(フォルテ)への怒り
[装備]:PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、転移結晶@ソードアートオンライン、12.7mm弾×100@現実、不明支給品1(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止める為、出来る事をする。
0:あれは何でガス!?
1:ネオやお姉さんと共に行動する。
2:トリニティを殺害した者を見つけ出し、この手で倒す。
3:転移結晶を使うタイミングについては、とりあえず保留。
4:アッシュ……
[備考]
※参戦時期は、WWW本拠地でのデザートマン戦からです。
※この殺し合いを開いたのはWWWなのか、それとも別の何かなのか、疑問に思っています。
※マトリックス世界及びアクセルワールド世界についての情報を得ました。
※このバトルロワイアルには、異なる世界の者達が呼ばれているのではないかという情報を得ました。
※この会場は、加速世界の一種に設置されているのではないかと考えています。
※ロックマンの死を知りました。


238 : 生者と死者 ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:28:58 Kfyjnlg20
【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康、困惑
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1(本人確認済み)、快速のタリスマン×3@.hack、拡声器
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する 。
1:殺し合いの打破に使える情報を集める。
2:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
3:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)、ローブを纏った男(フォルテ)を警戒。
4:ダークマンは一体?
5:他の参加者にバグについて教えたいが、そのタイミングは慎重に考える。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。
※現実世界の姿になりました。
※ダークマンに何らかのプログラムを埋め込まれたかもしれないと考えています。
※もしかしたら、この仮想空間には危険人物しかいないのではないかと考えています。



【カオル@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP20%以下、悲しみ
[装備]:ゲイル・スラスター@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:何とかしてウイルスを駆除し、生きて(?)帰る。
1:???
2:どこかで体内のウイルスを解析し、ワクチンを作る。
3:デンノーズのみなさんに会いたい。 生きていてほしい。
4:サチさんを見つけたら、バグを解析してワクチンを作る。
5:ユウキさん……ありすちゃん……
[備考]
※生前の記憶を取り戻した直後、デウエスと会う直前からの参加です。
※【C-7/遺跡】のエリアデータを解析しました。
※ユウキとありすが生きている可能性は低いと考えています。


239 : 生者と死者 ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:30:02 Kfyjnlg20
【モーフィアス@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:HP20%以下
[装備]:あの日の思い出@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜2、基本支給品一式 エリアワード『選ばれし』
[思考]
基本:この空間が何であるかを突き止める
0:このバグは……?
1:現状の方針を考える。
2:セラフを探す
3:ネオがいるのなら絶対に脱出させる
[備考]
※参戦時期はレヴォリューションズ、メロビンジアンのアジトに殴り込みを掛けた直後
※.hack//世界の概要を知りました。
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※トワイスの話は半信半疑です。


【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP20%以下
[装備]:最後の裏切り@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜3、平癒の水@.hack//G.U.×3、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式 エリアワード『選ばれし』
[思考]
基本:この殺し合いから脱出する
1:何だこれ?
2:やばい、マジもんの呂布を見ちゃった……
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ハセヲが参加していることに気付いていません
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。
※バーサーカーの真名を看破しました。


240 : 生者と死者 ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:31:15 Kfyjnlg20



    3◆◆◆



 1と0が羅列された空間で、トワイス・H・ピースマンは歩む。
 モーフィアスと揺光に説明したように、本来ならば正規の手段では辿り着けない空間だった。ロックマンとスケィスゼロの力が反作用を起こしたからこそ、成し遂げられた奇跡。
 しかし入り口はデータの歪みによって一瞬で崩れてしまっている。一応、扉はもう一つだけ存在しているものの、それを開ける為の鍵を彼らは持たなかった。
 このまま放置してはモーフィアスと揺光は元の世界に戻れない。仮にこのエリアの"謎"を解き明かせても、閉じ込められたままウイルスに殺されてしまう。
 それではゲームの進行が滞ってしまう。故に、このエリアの管理も任されているトワイスが向かうことになった。



 この空間は、D-4エリアの洞窟の地下に存在するプロテクトエリアだった。
 プレイヤーの一人である岸波白野が使役するサーヴァントが一人・キャスターは、樹の地下に死人の気配を感じ取っている。
 その推測の通り、ここは殺し合いでデリートされたプレイヤー達のデータが流れ着くエリアだった。また、その他にもマク・アヌやネットスラムを始めとした、戦いにより破壊されたエリアのデータの残骸も混じっている。
 それらを死者と呼ぶのはあながち間違っていなかった。
 思えば、彼女はトワイスと共に戦っていた頃から思慮深く、時に鋭い発言をした覚えがある。例え言動が変わろうとも、本質的な部分まではそのままということか。



 だが、このプロテクトエリアに存在するのはそれだけではない。
 死者達のデータの羅列を切り抜けた先には更なるイリーガルエリアが存在する。
 もしもプレイヤーがその"謎"に触れるようなことがあれば、何を思うのか。そして何を成し遂げようとするのか。
 過去に想いを寄せるのか。あるいは未来に進む為の糧とするのか。



 その謎を解き明かされる時間も遠くない。
 現状、脱出手段を持たないという理由でモーフィアスと揺光を送り返したものの、何らかのきっかけがあればまた辿り着ける可能性も0ではなかった。
 スケィスゼロによって引き起こされたゲートハッキングと、ロックマンが最期に起動した【プレスプログラム】 ……あれらと同等のイリーガルが起きれば、イリーガルエリアに繋がる扉が生まれるかもしれない。
 あるいは認知外迷宮に繋がることすらもあり得た。何故なら、度重なるハッキングの影響によって会場には『歪み』やバグが生じ始めている。
 事実、モーフィアス達の元には新たなるバグが生まれていた。



 そしてこことはまた別のエリアに転移したスケィスゼロは今、眠りについている。先の戦いによる疲労を癒しているのだろう。
 エリアのハッキングを行い、別のエリアに転移したスケィスゼロならば、自力での脱出は不可能ではない。長時間、イリーガルエリアに留まり続けるならばモーフィアス達のように表側に戻さなければならないが、現時点ではGMからの介入を必要としない。
 目覚めた時、スケィスゼロに何が起きるのか。そして、スケィスゼロは何を仕掛けようとするのか。
 興味を馳せながら、トワイスは大量のデータに紛れ込むように姿を消した。
 


【???/???/1日目・午後】

【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[状態]健康



[全体の備考]
※モーフィアスと揺光が辿り着いたのは【D-4/洞窟 死世所・エルディ・ルー】の地下に存在するプロテクトエリアです。
※またその奥にはイリーガルエリアに繋がる扉が存在します。
※そのイリーガルエリアの詳細は不明です。


241 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/22(火) 11:31:39 Kfyjnlg20
以上で投下終了です。
修正点などがありましたら指摘をお願いします。


242 : 名無しさん :2015/09/23(水) 01:58:26 Kv/zFP9U0
投下乙です
イリーガルエリア転送からの合流。タイムリミットにエリア崩壊と、徐々にゲームの終わりが見えてきましたね
そしてロワ全体を通しても集団が固まりつつ……
新たに現れたバグを含めて、段々と話が動いていってます


243 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/09/24(木) 08:11:31 I5SGwDLw0
感想ありがとうございます。
また、収録の際に誤植の修正及び加筆をさせて頂いた事を報告します。


244 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:03:43 sB8DM5U.0
これより投下します


245 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:05:29 sB8DM5U.0



    1◆



 ラニ=Ⅷはウラインターネットを歩いている。
 スケィスと呼ばれた巨人との戦いを乗り越えて、探索クエストのクリアも果たした。
 そして、今後の方針について思案を巡らせていた。


 スケィスが残した爪痕は深く、そして被害の規模はウラインターネットにまで届いている。
 テスクチャは剥がれ落ち、無数のデータが剝き出しになっていた。スケィスとロックマンの力はネットスラムに留まらず、別エリアにまで及んでいたのだろう。
 これを調べることはしなかった。無闇に触れてはアバターに何らかの影響を与えかねない。パラメータ及びアイテム欄が滅茶苦茶になり、今後の行動に支障を及ぼす危険があった。
 そして、この事態はGM側も見逃さないはず。バグが生じては、それが殺し合いの瓦解に繋がってしまう。
 現時点まで、このバトルロワイアルは公正かつ公平に進行していたはずだ。その為には、万能たる運営プログラムの存在が不可欠だ。

(……まさか、スケィス達の力はそれすらも凌駕しえるものなのですか?)

 圧倒的スペックでネットスラムをデータの藻屑と変えたスケィスと、最期の意地でそれに対抗したロックマン。
 二つの力によってデータは崩壊し、そしてモーフィアス達もまた消えた。
 順当に考えて、モーフィアス達の生存率は低い。あれだけの力の奔流に巻き込まれては、無事でいられると考えるのは不合理だ。
 万が一、二人が生存していたとしても捜索は不可能。遭遇しては100%の確率で戦闘に突入する……現状のステータスでは不要な戦いは避けるべきだ。



 先程、一台のバイクが見えた。
 距離は遠く、その速度も凄まじいせいで、接触することは不可能だった。しかし、ラニは追跡をしていない。
 理由は二つ。
 まず一つ目は、進行方向から考えて、あのプレイヤーがモーフィアス達と遭遇する可能性もある。その際に情報交換をされて、こちらのスタンスについて話されたら、敵がもう一人増えてしまう。
 詳細不明の相手との戦闘は避けるべきだった。
 

 そしてもう一つ。
 乗り主の姿は余りにも禍々しく、一目見ただけで危険人物と思わせる風貌をしていた。例えるならば、あのスケィスに匹敵する『死の恐怖』を孕んでいるようだった。
 そんな相手と接触しても、友好的な関係を築けるとは思えない。最悪、遭遇と同時にこちらが敵と認識されて、そのまま排除される危険があった。
 また、バトルロワイアルに乗っていないとしても、同行は不可能だった。仮に協定を結べたとしても、何らかのきっかけでこちらのスタンスが知られたら、結末は同じ。
 故に彼は放置しなければならない。単独行動のデメリットはあるが、この状態で賭けに出るべきではなかった。


 ウラインターネットを調査する価値はあるが、いつまでも長居はできない。
 もしもスケィスが生存していた場合、またウラインターネットに戻ってくるはずだ。奴は第三勢力の一員である重剣士を狙っていたが、その矛先がこちらに向かないとも限らない。
 再び交戦する事になったとしても、勝てる見込みは見られなかった。先の戦いでは人数の利に加えて、チームの連携があったからこそ勝利を掴めた。
 戦力と戦術。これらの条件が都合よく揃う機会など、そうそう訪れない。


 …………だが、スケィスの撃破は避けられない事態だ。
 他のプレイヤーがスケィスを撃破してくれるのは望ましいが、あれを攻略するには相当のスペックが必要だろう。
 また、スケィスを撃破するプレイヤーがいたとしても、今度はそのプレイヤーの打倒が必要だ。
 どちらが相手になるとしても、早急の解決が必要とされる問題だろう。


246 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:05:59 sB8DM5U.0
 ステータスを見直す。
 スケィスによってHPは既に半数を切っている。これを回復する手段は持ち合わせていない。
 そして脱出の際に令呪を消費して、残り二画となってしまった。
 魔力の消費も甚大だろう。この分ではバーサーカーの大技が一発、あるいは二発しか放つことが出来ない。こちらも早急な回復が必要だった。
 所持品を確認する。弁当と基本支給品、そして図書室で借りた本とネットスラムで手に入れたエリアワード……更にはnoitnetni.cyl_1-2。
 これら以外に揃っている5つの道具。それはいずれも役立つものの、HP及び魔力の回復には利用できなかった。


 まずは遠坂凜に支給されていたアイテムから確認する。
 万能ソーダ。これは味方一人にかけられたあらゆるバッドステータスを回復できるアイテムだ。毒や麻痺などの状態以上を解除できることは有難いが、今の自分には使い道がない。
 次に機関 170式。これはバイクのエンジンパーツらしい。
 相当な高性能のようだが、乗り物など持っていない自分には無用の長物だろう。遠目で目撃したプレイヤーなら必要としたかもしれないが、今更どうにもならない。



 ここからはリーファが所持していたアイテムだ。
 導きの羽。これは最後に立ち寄ったプラットホームに一瞬で戻れる……と、説明で書かれている。
 プラットホームが何を示すかはわからないが、恐らく施設である可能性が高い。自分が立ち寄ったところと言えばネットスラムだから、ここで使用しても逆戻りするだけだ。
 四つ目は吊り男のタロット。敵一体に麻痺のバッドステータスを付けられるらしい。
 最後は剣士の封印。これは敵の物理攻撃力を一時的に低下させられるようだ。
 タロットと封印はどちらも戦闘に役立つが、数は僅か3つだけ。故に使いどころは見極めなければならなかった。
 先の戦いでも使用することは出来たが、スケィスにこのようなアイテムが通用するとも思えない。こちらの有利に繋がるとも限らない以上、無駄な行動は避けるべきだった。



 当たりといえば当たりだろう。
 だが、スケィスのような規格外の相手を撃破する決定的切り札にはなり得ない。一つ一つ、積み重ねていくことで届くことも有り得るが、ラニ一人では不可能だ。
 その為にも戦力となり得るプレイヤーとの接触も、一刻も早く求められる。


 そう考えている最中、遥か彼方より飛来する人影をラニは見た。
 意識をそちらに向けると同時に、水色のショートカットの少女が姿を表す。半透明の翼に猫の耳と尻尾……そして、その手に持つ巨大な弓が童話の雰囲気を放っていて、あのリーファを彷彿とさせた。
 しかしそんな外見とは裏腹に、決して弱者ではないことも窺える。まず、彼女はこちらからは数メートル程の距離を取っていて、瞳からも警戒が込められているようにも見えた。
 恐らく、こちらを警戒してのことだろう。無暗に近づいては不意を突かれるだろうし、逆に離れ過ぎては接触ができない。
 何よりもその手に弓を構えている理由が、襲撃者への対策だろう。自分だけではない。今ですら、自分達の預かり知らぬ所に潜んでいるプレイヤーから、襲撃されてしまう可能性がある。
 現にあのスケィスが、何の前触れもなくネットスラムに現れたのだから。

「…………いきなりごめんなさい。驚いているかもしれないけど、状況が状況だから」

 そして少女は、自分の心中を察したかのような発言をする。
 表情は申し訳なさそうにも見えるが、それでも警戒は緩めていないはず。少しでも敵対行動を取れば、即座に狙撃されるだろう。
 無論、この場で無駄な戦いを仕掛けるつもりなどない。

「いいえ、それは当然でしょう。この状況では、いつ如何なる時だろうと警戒を緩めるべきではありません。
 そういう観点で言えば、貴女の行動は的確だと思います」
「……あなた、この戦いに乗っていないのね?」
「無駄な戦いを好みません。相手が能動的に仕掛けてくるならその限りではありませんが、貴女はそうではないようです。
 私はラニ=Ⅷ。《蔵書の巨人》の最後の端末であり、聖杯を求める者」
「ラニ……ね。私はシノンよ、よろしくね。
 私もこんな戦いに乗る気はないわ」

 互いに自己紹介をする。それにより、シノンの警戒が薄らか和らいでいくのを感じた。
 彼女のスタンスはモーフィアス達や第三勢力と同じだろう。こちらのスタンスを知れば、敵対関係になるはずだ。
 シノンの戦力がどれほどかはわからないが、今は出来る限り友好的に接さなければならない。


247 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:06:50 sB8DM5U.0
「シノンさん……貴女もウラインターネットの調査を行いに来たのでしょうか?」
「それもあるけど、人探しをしているの。
 ねえ、ラニ。ハセヲ……いいえ、バイクに乗ったプレイヤーを見なかったかしら?」
「バイクに乗ったプレイヤー…………
 それが貴女の探し人であるハセヲかどうかは存じませんが、先程目撃いたしました。
 ただ、バイクの速度及び距離の関係上、接触する事はできませんでしたが」
「本当? どっちに向かったのかわかるかしら」
「東の方角に向かうのを目撃しましたが、具体的な目的地まではわかりかねます。
 恐らく、ネットスラムの可能性がありますが……現時点で向かうのは危険かと思われます」
「それは一体どういうこと?」
「このウラインターネットに侵食している大規模なバグ……それはネットスラムを中心とするものです。
 GM側からの動きにもよりますが、恐らく時間の経過と共にバグは拡大していくでしょう」
「……ねえ、詳しい話を聞かせて貰ってもいいかしら?」
「私は先程、同盟を結んだ数名のプレイヤーと共にスケィスと呼ばれた巨人と戦いました。
 戦闘は有利に進められましたが、スケィスはエリア全体にハッキングを仕掛けて、撤退されてしまいました。このバグもスケィスによるものでしょう。
 同盟を結んだ彼らは……スケィスの転移に巻き込まれて、散り散りになってしまいました」

 先程の出来事を要約する。
 少なくとも、嘘は何一つとして言っていない。スケィスとの戦いも、バグの原因も、共闘した彼らの行方も……何一つとして、間違ったことは口にしないつもりだ。
 ラニ自身の方針も同じ。無駄な戦いは極力控えるつもりだ。
 目的の為とあれば、殺害も辞さないが……それを口にする義理まではない。
 案の定、シノンは驚愕で目を見開く。しかし次の瞬間、何か心当たりがあるかのように、口元に手を添えた。

「……ラニ。その巨人って白かった?」
「いいえ。色はほんの僅かながら金色を帯びておりましたが……何か心当たりでも?」
「ええ。私とハセヲはマク・アヌってエリアで殺し合いに乗ったプレイヤーと戦っていたの。
 その中には白い巨人も含まれていて、私の仲間を……二人も殺したわ」

 語る度にシノンは表情を顰めていく。まるで苦虫を潰したかのようだ。
 共に戦った仲間を失う喪失感は計り知れない。ラニ自身も先程、似たようなものを味わった。
 ……尤も、彼らを仲間と呼ぶのは少し違うかもしれないが。

「……ごめんなさい。何か、嫌な空気にさせちゃって」
「いえ、貴女の無念はわかります。あの場ではスケィスの撃破をできなかったことを、お詫び致します」
「あなたのせいじゃないわ。
 スケィスの件に関しては私にも責任があるし、何よりも奴がこれほどのバグを引き起こせる以上、ラニが生きているだけでも奇跡のようなものよ…………」
「そう言って頂ければ幸いです」

 事務的に、そして一悶着を起こさない為に返答する。
 現時点ではこれがベターだ。こうする他に彼女との関係を築き上げる方法はない。
 事実、あそこでスケィスを撃破出来なかったことが痛手であることに変わらなかった。いずれ、シノンの力を借りなければならない時が来る。
 …………それを乗り越えたならば、今度はシノンとの戦いが訪れるだろうが。

「それとシノンさん。スケィスがいたと言われるマク・アヌ……こことは随分離れていたはずですが?」
「ええ。いくらなんでも移動が早すぎるわ。ハセヲが乗ったバイクでさえ、短時間でここまで辿り着くなんてできないはずよ」
「恐らく、スケィスの行ったハッキングが関係しているのでしょう。別エリアの移動だけではなく、長距離間の転移……これら二つが合わさったと考えるのが妥当です。
 あれがあったからこそ、私達は誰もその存在に気付くことができなかった」
「…………じゃあ、月見原学園にいるユイちゃんや白野達も危ないじゃないの!」

 シノンは叫ぶ。
 その口から出てきた名前を聞いて、ラニは目を見開いた。それは彼女自身がよく知り、何よりも一番慕った人間の名前だ。


248 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:07:36 sB8DM5U.0
「白野……? それはまさか、岸波白野のことでしょうか?」
「そうだけど……あなた、もしかして白野の仲間なの?」
「はい。私はかつて、ある世界で白野さんと共に戦っていたことがあります。
 始まりの地で白野さんの姿を見たので、この世界のどこかにいると推測していました……シノンさん、貴女は会っていたのですね」
「そうよ。だとしたら、こんな所でジッとしている場合じゃないわ。
 ラニは今すぐにでも月海原学園に行って! スケィスがワープなんて使えるのなら、あそこに集まっているみんなが危ないわ!
 私はハセヲを追って、それから月海原学園に戻るから!
 他にも話はあるけど……詳しいことは白野やレオって人達から聞いて」
「わかりました。
 シノンさん。貴女に星の導きがあらんことを」
「ありがとう」

 そう言いながらシノンは頭を下げると、この場から去っていく。
 無防備な姿だが、ラニは背後から不意打ちなどしない。彼女ならば回避されてしまう恐れがあるし、何よりも戦力になり得る相手をわざわざ殺すのは効率的ではなかった。



 それ以上に気がかりなのは、シノンが言っていた白野とレオだ。
 まずはレオ。西欧財閥の次期当主であり、月の聖杯戦争にも参戦していたマスターであるレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイの可能性が高いだろう。
 記憶が正しければ、彼は白野に敗れたはずだが…………既に敗れた遠坂凛やダン・ブラックモアがいる以上、彼が参戦した所で何の不思議もない。
 シノンの言葉が正しければ、彼はこの殺し合いの打倒を目指しているだろう。完璧な王を自称し、完全なる世界に人類を導こうとする彼ならば、確かにその方針だろうとおかしくない。
 彼が使役するガウェインは強敵だ。そのパラメーターは全サーヴァントの中でもトップクラスに入る。真っ向から立ち向かっても、現在のHPでは戦いになる訳がない。
 万全の状態でも勝利は難しいだろう。仮に撃破するとしても、スケィスのような危険な相手と潰し合わせて消耗させきった後、不意打ちをする以外に方法は思い浮かばない。



 そしてそれ以上に、白野が月海原学園にいると言う話がラニの心を動かしていた。
 白野もまた、レオと同じようにバトルロワイアルの打倒を目指している。即ち、ラニにとっては敵となる運命だ。
 月の聖杯戦争を勝ち抜いてきた彼が、今度は他者を守る為に戦おうとしている…………否、彼は元々無意味な死を快くは思わない人間だ。だから、その選択をするのもあり得ない話ではなかった。
 聖杯を得るならば他のマスターを打ち破る。その道理は、月の聖杯戦争もこのバトルロワイアルも同じということだ。
 岸波白野を打ち破る……一度は覆された運命が、この世界でまた齎されようとしているだけだ。しかし、何故かその運命に抵抗を抱く。



 それがわかっているのに、ラニは足を進める。そして、胸の奥が疼いていく。それは喜びなのか、悲しみなのか……ラニ自身にもわからない。
 行く先は月海原学園。来た道を逆に戻ることになるが構わない。
 岸波白野がいる。その事実こそが彼女の感情(なかみ)を刺激して、そして動く為の原動力となっていた。



 ラニは知らない。
 この手で打ち破ったリーファがシノンの仲間であることを。そしてシノンもまた、ラニがリーファの仇であることを知らなかった。
 そして月海原学園にいるのは白野だけではない。リーファとシノンの仲間であるユイもいて、ユイはリーファの仇がラニであることを知ってしまっている。
 また白野も、ラニが月海原学園に向かおうとしていることを知らなかった。
 今はまだ誰も知らない。しかし真実が明かされようとしている時、何が起こるのか…………


249 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:08:09 sB8DM5U.0



【A-9/ウラインターネット/1日目・午後】



【ラニ=Ⅷ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP40%、魔力消費(大)/令呪二画 600ポイント
[装備]: DG-0@.hack//G.U.(一丁のみ)
[アイテム]:ラニの弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式、図書室で借りた本 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、万能ソーダ@.hack//G.U.、機関 170式@.hack//G.U.、導きの羽@.hack//G.U.、吊り男のタロット×3@.hack//G.U.、剣士の封印×3@.hack//G.U.
[思考]
0:月海原学園に向かい、白野やレオと出会う。
1:師の命令通り、聖杯を手に入れる。
そして同様に、自己の中で新たに誕生れる鳥を探す。
2:岸波白野については……
[サーヴァント]:バーサーカー(呂布奉先)
[ステータス]:HP60%
[備考]
※参戦時期はラニルート終了後。
※他作品の世界観を大まかに把握しました。
※DG-0@.hack//G.U.は二つ揃わないと【拾う】ことができません。


【万能ソーダ@.hack//G.U.】
使用するとあらゆる状態異常を治す事が出来る。

【機関 170式@.hack//G.U.】
バイクのエンジンパーツ。
性能。最高速+4、加速度+2、特殊能力:猩々神楽

【導きの羽@.hack//G.U.】
使用すると最後に訪れたプラットホームに立ち寄ることができる。
※このバトルロワイアルの場合、最後に訪れた施設になります。

【吊り男のタロット@.hack//G.U.】
使用すると敵一人に麻痺のバッドステータスを付加できる。

【剣士の封印@.hack//G.U.】
使用すると敵の物理攻撃力を一時的に低下させられる。
※その時間は不明です。


250 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:09:13 sB8DM5U.0


    2◆◆



「…………何だよ、これ。何がどうなっているんだよ」

 舌打ちと共に零す。だが、彼の問いかけに答えるモノは何一つとして存在しない。忌々しい《獣》も同じだ。
 三崎亮/ハセヲはウラインターネットに突入し、そうしてネットスラムに辿り着いた途端……絶句した。
 そこは何もかもが塵と化していた。あるはずの建物や瓦礫は存在せず、何もかもがデータの残骸となって崩れ落ちている。
 黄昏色の空以外、色は何もない。死の色である灰が全てを満たしていた。


 そもそも、このウラインターネット自体が異質だった。
 ウラ、と呼ばれるからにはまともな場所とは思っていなかった。例えるなら、常日頃のように誹謗中傷や名誉毀損が繰り広げられるインターネットのように。
 だけど、ここはそういった類とはまた違う意味で狂っている。
 演出なのか、あるいは本物なのか? とにかく、至る所にバグが見えたのだ。
 触れて調査をしようとしたが、指先にほんの僅かな刺激が走る。そして反射のようにバグも消えてしまう。


 レオからの調査と揺光の探索をする為に訪れたが、情報が足りない。
 ウラインターネットの調査はともかく、まずは最低でも揺光だけは守らなければならなかったが……彼女の姿はどこにも見られない。
 別のエリアにいるのか? あるいは、彼女も…………

「…………違う!」

 脳裏に過ぎった可能性を否定するように声を荒げる。必死になって、その運命を否定しようとする。
 だが、彼女が無事でいる保障など存在しない。既に何人もの仲間が失われた以上、彼女がいなくならないとどうして言えるのか。
 他のみんなと同じように、揺光が■されてしまうコトだって……充分に、有リ得ル話なのに。


 ――ハセヲ。


 志乃は■んでしまった。
 『三瓜痕』によって未帰還者にされてしまったあの時のように、微笑みながら…………俺の元からいなくなってしまった。
 しかも今度は『三瓜痕』さえ見つければ、彼女は目覚めるなんて希望すらない。志乃の全てが灰になってしまう、本当の■になるのだ。
 そして……


『……なか、ない……で…………』


 アトリもまた■んでしまった。
 俺を守る為、スケィスに立ち向かおうとした少女は……あのスミスの手にかかり、その■を奪われた。
 誰かに■を齎すことしかできない俺なんかが生きて、どうしてアトリが■ななければならないのか? アトリに■されなければならない理由でもあるのか?
 エンデュランスもそうだ。あいつは変わった所はあるが、本質的には義理堅い奴だ。心を通わせるようになってからは、行き過ぎた所はあるものの…………俺達の力になってくれている。
 そんなあいつが、どうして■されなければならなかったのか?


251 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:10:12 sB8DM5U.0
 昨日まで、当たり前のように隣にいたみんなが…………簡単にいなくなってしまう。
 誰のせいか? 榊か? 白いスケィスか? スミスか? PKか?
 …………違う。俺こそが、全ての元凶だ。
 確かにこんなクソゲームを仕組んだ奴らや、それに乗った奴らが直接の原因だったとしよう。だけど、いなくなってしまったみんなは…………俺と出会いさえしなければ、こうならなかったんじゃないか?



 何故なら俺は…………『死の恐怖』……PKKのハセヲだから――――



 だから、俺と関わったみんなは死んで……いや、殺されてしまう。俺がいる限り、その連鎖は止まることがない。
 揺光だけじゃない。クーンや朔望やパイや八咫……オーヴァンだってそうだ。
 いや、もしかしたらシラバスやガスパー、それにタビーや匂坂だって例外ではないはずだ。彼らが参加していないとも言い切れない。
 その対象は、俺がこの世界で出会った奴ら……レオ達だって含まれているだろう。


 そこまで考えて、ハセヲは思考を振り切る。
 感傷に浸っている場合ではない。そうさせない為に、また『死の恐怖』としての道を歩むと決めたのだから。
 ここで立ち止まって、そうしている間に仲間達が殺されたら何の意味もない。
 このネットスラムにPKがいるなら排除して、そうでないプレイヤーがいたら月海原学園に向かうように言えばいいだけ。
 危険な相手と戦うのは俺だけで充分だ。


 ハセヲはバイクを収納して、ネットスラムを見て回る。
 マク・アヌのように荒廃しており、奥に進めば進むほどデータの損傷が多く見られる。
 まさか、スミスの一人がこちらでも暴れていたのか? あるいや奴や白いスケィスに匹敵する程のPKがまだ存在していると言うのか?
 揺光はそいつに…………


「…………誰か。誰かいないのか!?」

 ハセヲは叫ぶ。そうしないと、この心に亀裂が生じてしまいそうだった。
 しかしその叫びは空しく木霊する。誰も、彼の言葉に答えてくれなかった。


 退廃したネットスラムの空は黄昏色に染まっていてが、この大地には生気が感じられない。ハセヲには、それがまるで墓場のように見えてしまった。
 この下には志乃やアトリを始めとしたたくさんのプレイヤーが眠っていて、榊達によって死後も辱めを受けている……
 唐突にそんな妄想が過ぎり、ハセヲの怒りが更に燃え上がっていく。異形の体躯からは漆黒の稲妻が迸っていた。


 喉から唸り声を漏らしながら、ハセヲは再び歩みを進める。
 辺りを崩壊させたPKがもしかしたらまた残っているかもしれなかった。そいつが隠れて不意打ちを仕掛けてこないとも限らない。
 そうやって、まるで現実の獣のように神経を研ぎ澄ませていたが。


252 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:11:08 sB8DM5U.0

「……あれは!?」

 ハセヲの目に二人のプレイヤーが飛び込んでくる。一人は褐色肌の女。もう一人は漆黒の甲冑のようなアバターだが、性別の判断が出来ない。
 彼女達は倒れている。故にハセヲは無意識の内に駆け寄った。

「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」

 漆黒のアバターを揺らすが返事はない。もう一人の女も同じだった。
 死んでしまったのかと不安になったが、この世界でそうなったのならアバターが崩壊する。故に、二人は気を失っているだけだろう。
 ハセヲは思わず、二人に回復魔法・オリプスをかける。だが、そのパラメーターの確認ができないので、効果があるかどうかはわからない。


 こいつらがPKがそうでないかはわからない。もしもPKならば、この手でわざわざ回復をさせてしまったことになるが……その時は、纏めて蹴散らせばいいだけ。
 それに、もしもそうでないプレイヤーならば……シノンやレオ達の力になってくれるように頼むつもりだ。
 それにシノンだって素性のわからない自分を助けてくれた。そんな彼女を守ると言うなら、彼女の想いだって尊重すべきだ。
 あの時はアトリを助ける為という名目だったが……そんなことはどうでもいい。
 死なせたくない。もう死なせる訳にはいかなかった。例え見知らぬ誰かであろうと、失わせたりなどするものか。


 二人は目覚めない。
 まさか、また間に合わなかったのか? このまま二人がいなくなるのを見届けなければならないのか?


「――厳つい外見だけどよ、どうやら悪い奴じゃなさそうだな。安心したぜ」
「なっ!?」

 その最中、何の前触れもなく近くから声が放たれたので、ハセヲは思わず身構える。
 咄嗟に背後に飛びながら振り向く。すると、緑色のマントに身を包んだ男が見えた。髪は橙色に染まっていて、クーンのように陽気な印象を感じてしまう。

「一時はどうなるかと思ったけど、おたくは信用していいみたいだな」
「……何者だ、てめえは」
「アーチャー……とでも呼んでくれ。
 驚かせて悪いな。俺はそちらの姫さん達とは違って、普通のプレイヤーじゃない」
「プレイヤーじゃない? じゃあ、NPCなのか」
「それもまた違うんだけどね。
 ただ、詳しく話すと長くなるんだよな……まあ、俺もこちらにいる姫さん達もあんたの敵じゃない。これだけは確かだ」

 アーチャー、と名乗った男はおちゃらけたように語る。
 だが、その全身からは隙が感じられない。マントでよく見えないが、その腕にはボウガンと思われる物が装填されている。もしもこちらが敵対行動を取ろうとすれば、それで容赦なく撃ち抜こうとしていたはずだ。
 何よりも、気配を悟られずに自分の隣に姿を現した時点で、只者ではないことが窺える。

「…………そうみたいだな」

 続くように、くぐもった女の声が耳に響いた。
 ハセヲが振り向くと、漆黒のアバターがゆっくりと起き上がっている。赤い瞳が輝く仮面によって表情を窺えないが、リアルの人間はきっと苦悶で顰めているはずだった。


253 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:13:16 sB8DM5U.0
「あんた、気がついたのか?」
「君が派手に揺さぶってくれたおかげでな。随分と荒っぽかったぞ……」
「わ、悪い……」
「いや、むしろそれが普通だろう。それに君は見た所、私達を心配してくれた。
 この身体も軽くなっている。私達に使ってくれた先程のあれは、回復アビリティなのか?」
「まあ、そんな所だ……」
「そうか。私の名前は……ブラック・ロータスと呼んでくれ」
「ああ」

 ハセヲは頷く。
 ブラック・ロータスは男勝りな口調だが、やはり女だろう。その外見は刺々しく、両腕に備わった刃はとても鋭い。
 ほんの少し触れただけで、この身体が切り裂かれてしまいそうだった。

「…………っ」

 そしてまた、新たに呻き声が聞こえてくる。それは褐色肌の少女だった。
 彼女は瞼を開けて、ゆっくりと身体を起こす。そうして自分と顔を合わせた途端、その顔が瞬時に固まった。
 理由なんて考えるまでもない。目が覚めて、こんな怪しい外見の奴が立っていたら、驚くのが当然だ。

「あー……」
「……な、なんなのよアンタはっ!」
「落ち付け、ブラックローズ。彼は私達の敵ではない」
「へっ?」

 ブラック・ロータスからブラックローズと呼ばれた少女はぽかんと口を開ける。

「それ、本当なの?」
「彼は私達を襲わなかったどころか、回復アビリティもかけてくれている。
 見た目に驚いているかもしれないが、私達の世界ではもっと荒々しい見た目をした奴らが……いた」

 ブラック・ロータスは俺の擁護をしてくれたが、その途端に俯いた。
 その口ぶりから考えて、彼女が元いたゲームには今の自分に匹敵するほどの外見を誇るプレイヤーがいたのだろう。だが、そいつらは死んでしまった。いや……殺されてしまった。
 ブラックローズもそれを察したのか、途端に暗い表情を浮かべてしまう。

「ご、ごめん……無神経なことを言って」
「仕方がないだろう。目覚めたばかりでは頭が働かないのは当たり前だ」
「……アンタの方もごめんね」
「別にいいよ」

 ブラックローズの謝罪にそっけなく返答する。ここで険悪な雰囲気になるのは御免だった。
 アーチャーは無言でいる。空気を呼んでいるのか、あるいは余計なことを言わないようにと考えているのか。だが、どっちだろうと関係ない。
 彼らからは聞きたいことがあるものの、あまり長話をしては同行する羽目になってしまう。
 ここは自分の用件だけを話して、そして月海原学園に向かうように促すしかない。

「…………ハセヲっ!」

 しかし口にする暇もなく、少女の叫びが割り込んできた。
 それはハセヲも知っている。何故なら、数時間ほど前に聞いたばかりなのだから。
 振り向くと、やはり……空の彼方からシノンが現れた。


254 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:14:22 sB8DM5U.0
「シ、シノン!?」
「ようやく見つけたわ……」
「……何でここにいるんだよ。月海原学園に行って、レオ達に協力してくれって言ったはずだよな!?」
「伝言なら私の仲間に頼んだわ。
 それと、私がここに来たのは……あんたの無茶を止める為よ」
「俺を止める為……だと」

 シノンの返答に、ハセヲは一瞬だけ呆気にとられる。
 しかし、すぐに真顔になって…………ハッ、と笑った。

「…………そんなことをしたら、あんたが死ぬだけだ」
「はぁ?」
「俺は『死の恐怖』……PKKのハセヲだ。
 あんたは知らないだろうけど、俺はかつて何人ものPKをこの手で仕留めてきた。今思うと、だから俺はこんなゲームに参加させられたのかもな」
「一体、何を言ってるの……?」
「だから志乃やアトリ……俺の仲間が何人も殺された。
 シノン。俺と一緒にいたって、いつか……殺されるだけだ」
「…………あんた、本気でそれを言ってるの?
 言ったはずよ。アトリの件については私にも責任があるって。それに大元を辿るなら……!」
「その大元は俺を付け狙っていた奴だ! だから、他のみんなが狙われたのは……」
「俺がいたから? だったら、どうしてあんたと関係ない私達までもデスゲームに参加させられたのかしらね。
 確かにハセヲを苦しめる目論みもあるかもしれない。でもそれ以上に、私達が理不尽に苦しむ姿を眺めていたい…………
 そんな反吐が出るようなことを考えているはずよ」

 どれだけ突き離そうとしても、シノンはそれを瞬時に反論する。
 彼女は腕づくで止めなければこれからずっと着いてくるはずだ。そしてハセヲに、このデスゲームを打ち破ろうとするシノンを傷付ける意志などない。
 マク・アヌでも最後までハセヲを止めようとしたシノンだ。ここまで必死に説得されてもおかしい話ではない。
 しかしハセヲは、それでもシノンには隣にいて欲しいと思えなかった。何故なら、もしも何かのきっかけでこの《獣》が暴走したら…………

「……ハセヲ君といったか?
 君達の間に何があったのかは知らないし、それを深く詮索する気もない。だが、シノン君は君の仲間だろう……
 仲間の言うことを聞くべきだと思うが」

 …………そんな思案をせき止めるかのように、ブラック・ロータスが問いかけてくる。

「そうよ! その子はあなたの為に、わざわざこんな所にまで来てくれたんじゃないの?
 だったら、彼女のことも考えてあげなさいよ!」
「まあ、おたくがどうしても一人でいたいって言うなら構わねえと思うけどよ…………一人で全部を背負うなんて、今時流行らないぜ?
 そんなことをしたって、おたくは満足かもしれねえけど、残された方は悲しくなるだけだと思うぜ」

 ブラックローズとアーチャーの言葉に、ハセヲは何も言えない。
 二人の言うこともまた、正しかった。こんな道を歩むことを志乃やアトリが望む訳がないし、万が一ハセヲがPKされてしまったら……揺光は悲しむだろう。
 だけど、それでも彼女らと共にいる訳にはいかなかった。


255 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:15:41 sB8DM5U.0
 もしも彼女らと共に歩んだとしても、それからスミスや白いスケィスのような相手と戦闘になったら……確実に激情に支配される。
 そうなったら《獣》は全てを食い尽くそうとするだろう。スミスや白いスケィスはおろか、シノン達だって例外ではない。
 事実、ハセヲは憎悪の余りにシノンの命を奪いかけた。次に力を振ったら、今度こそ彼女をその手でPKしかねない。
 それだけは、絶対に避けなければならなかった。


 ハセヲは思わず、四人から目を逸らしてしまう。
 その途端。耳障りな音が響き、ほんの一瞬だけ周囲の光景が歪んだ。

「……なんだ、今のは?」

 アーチャーがそう零したのと同時に、ノイズが強くなる。
 そして歪みは更に激しくなり、ネットスラムの風景がどんどん揺れていった。それに伴うように、周りの色もまた変質していく。
 これはデータの『歪み』だ。『The World』に浸食したAIDAによって引き起こされた現象の一つ。
 ジジジジジ、と耳障りなノイズは激しくなり、周囲の『歪み』は更に強くなった。


 ここには何かがある。あるいは、この『歪み』の先に奴が……白いスケィスがいるはずだ。
 @ホームの時だって、データの『歪み』に転送した先に奴がいたのだから。
 それを予感したハセヲは、無意識の内に手を掲げ、ゲートハッキングを行った…………




    3◆◆◆




 転移した先に広がるのは、色のない世界だった。
 ハセヲはそこを知っている。"世界の裏側"である認知外迷宮(アウターダンジョン)と呼ばれる空間だった。
 無機質で、それでいて命の気配が感じられない。それでも、認知外変異体が蔓延っていた。
 見慣れた世界。しかし、そこに白いスケィスの姿はなかった。

「…………アリーナに似てるけど、よく見ると色々と違うな。
 しかしおたく、何でもできるんだな。回復だけじゃなくて、こんなへんちくりんな所にまで転移できるなんてね」

 だが、次の瞬間……緑衣のアーチャーの声が聞こえる。
 思わず振り向くと、やはり彼がいた。しかも彼だけではない。
 シノンも、ブラック・ロータスも、ブラックローズも…………3人とも、驚いたように認知外迷宮を見渡していた。

「なっ……!? お前ら、何でついてきてるんだよ!?」
「何でって、おたくが何かしたからでしょ?
 一人で行くつもりだったかもしれないけど、俺たちも巻き込まれちゃった……それだけの話だ」
「じゃあ、今すぐにでも……」
「それも無理みたいなんだよね。入り口がなくなっているのよ」
「何!?」

 アーチャーに言われるがまま、ハセヲは振り向く。
 見ると、そこにあるはずの『歪み』がなかった。ハセヲはゲートハッキングを行ったが、何の反応もない。
 これでは『歪み』を介して元の世界に戻ることができなかった。


256 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:17:21 sB8DM5U.0
「まあ、これで俺達はみんなで仲良くよくわからん所に放り込まれちまったって訳だ。
 つーわけでハセヲ君、案内頼むぜ?」
「何で俺が!? それに言ったはずだ、俺はあんたらとは行けないと!」
「どうしても一人がいいなら、誰も止めないと思うぜ? けどよ、俺達は誰もあんたみたいなハッキング能力を持っていない。
 これじゃあ、俺達は閉じ込められたままだ。あんたのせいでこうなったんだから、俺達を帰す義務があるんじゃないの?」

 アーチャーは得意げに語る。
 その態度は何となくムカついたが、言い分は尤もだった。ゲートハッキングをして『歪み』を弄くらなければ、四人が巻き込まれることはなかったのだから。
 衝動的に動かないで、四人を引き離してから手を出すべきだったかもしれないが、後悔しても遅い。

「…………わかったよ」
「まあ、よろしく頼むぜ。袖振り合うも多少の縁……って言葉も聞いた事があるしよ」

 ハセヲは溜息を漏らす。
 しかしその途端、一つの疑問が生まれた。何故、白いスケィスがいないのに『歪み』が現れたのか。また、どうして『歪み』がすぐに消えてしまうのか。
 ボルドーのようなAIDA=PCがネットスラムでも暴れていたのか? あるいは始めからこのような仕様として、ゲームに組み込まれていたのか?
 
「ハセヲ君。君の使ったその力……まさか、スケィスと何か関係があるのかい?」

 ハセヲが思案する最中、ブラック・ロータスが問いかけてきた。
 スケィス。彼女が口にした単語を聞いて、ハセヲは目を見開いた。

「スケィスだと……あんた、あいつを知っているのか!?」
「ああ。私達は先程、突如としてネットスラムに現れたスケィスと交戦していた。
 尤も、後一歩というところで逃げられてしまったよ。君が使ったような、ハッキングを行ってな」
「奴がどこにいったのかわかるか!?」
「知らないよ。だが、何の前触れもなく私達の前に現れた奴のことだ。私達の手の届かない所に転移したとしても、おかしくはない。
 それどころか、私達に協力してくれていたプレイヤーだって行方不明となった…………彼らも無事でいてくれるといいのだがな」
「そうか……すまない」
「まさか、君は奴を追っていたとでも言うのか? だとしたら、尚更君を放っておく訳にはいかないな。
 あれは危険だ。君にも何か考えがあるのかもしれないが、それが通じると思わないことだ。
 そしてもう一つ。今度は私の方から質問するが、君はその身体に纏う《鎧》が何なのかを知っているのか?」

 ブラック・ロータスの声色が鋭くなっていく。彼女の視線はこの体躯を包む《鎧》に向けられているようだった。
 心なしか、その瞳の赤色も徐々に濃くなっていくようにも見えた。例えるならば、憤怒と呼ぶに相応しい感情かもしれない。

「《災禍の鎧》……かつて加速世界に大変な恐怖をばら撒いて、多くのバーストリンカー達を絶望させたそれのことを、知らないのか?」
「あんた……こいつのことを知っているのか?」
「やはり知っているのか! ハセヲ君、君は今すぐにでもそいつから離れるべきだ!」
「ブラック・ロータス…………悪いが、それはできねえ。こんな奴だが、今の俺には必要なんだ。
 こうでもしなきゃ、勝てねえ相手もいるからな」
「馬鹿な……それは君が思っているような強化外装ではない!
 何人ものバーストリンカーが人格を汚染された! 今でさえ、君の精神に浸食しているはずだ!」

 彼女の叫びが迷宮の中に響いた。
 それに疑念を抱いたのか、シノンがブラック・ロータスに尋ねる。


257 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:19:35 sB8DM5U.0
「ねえ、あなたは何の話をしているの? ハセヲが纏っているその鎧って一体何なの?」
「簡単に言ってしまえば、呪われた代物だ。
 確かに凄まじい戦闘能力は得られるだろう……だが、あの鎧には己の意思があり、装着者した者に乗り移ることができるんだ。
 そして、過去に何人ものバーストリンカーが犠牲になった……」
「なっ…………!?」

 当然ながら、シノンは驚愕する。ブラックローズも同じだった。アーチャーは他の二人程ではないにせよ、驚いているように見える。
 しかし、三人の事などお構いなしに、ブラック・ロータスは詰め寄った。

「君が一人で行こうと言うなら、私達はそれを咎めたりしない。だが、君が《災禍の鎧》を持っているとなれば話は別だ。
 それを封じなければ、君は絶対に不幸になる。いや、君だけではない…………いつかこの世界から飛び出し、数多の平行世界で甚大な被害が出るはずだ。
 私はそれを止めなければならない」
「……そうとわかったら、私も協力するわ。
 さっき、ハセヲに襲われた理由がわからなかったけど、これではっきりしたわ……今はいいかもしれないけど、放っておいたらその鎧が好き放題に暴れ出しかねないようね」
「なら、私も頑張らないとね。その鎧は怖いけど……ハセヲは命の恩人だからさ」

 彼女達はハセヲと同行するつもりでいるようだ。
 本当なら彼女達と共に行く訳にもいかないのだが、アーチャーが言うように彼女達はエリアハッキングのスキルを持たない。
 故に、まずは他にあるであろうデータの『歪み』を見つけなければならなかった。

「そういう訳だ。その鎧は薄気味悪いけど……まあ、おたくにだけは無理をさせねえよ。
 姫さん達がそのつもりなら、俺もできる限り協力してやるからさ」
「……ああ」



 切り捨てようとしても、捨てられない。
 目を背けようとしても、背けられない。
 離れようとしても……彼女達は俺の元に来てくれる。
 それは確かに嬉しくあるが、同時に心苦しかった。もしも、彼女達と触れ合うことで心に隙が生まれて、そこを《獣》に付け込まれたら……彼女達に『死の恐怖』を齎してしまう。
 そうなったら《獣》は全てを飲み込み、そしてこのデスゲームに存在する全てのプレイヤーを食い尽くそうとするだろう。PKだろうとそうでなかろうと、関係ない。
 だからこそ、今は一人でいたかった。しかし運命はそれを否定するかのように、誰かと巡り会わせてしまう。


 ハセヲ達は歩いた。
 この迷宮の出口を捜す為に。
 このまま歩いても出口が見つかる保証はない。もしかしたら、永久に閉じ込められてしまう危険もあった。
 だけど、足を止めることはできない。


 不意に上を見上げる。先程まであったはずの空は見えず、地平線の彼方まで無色だった。
 ハセヲにはそれが、まるでこのデスゲームを現しているように見えてしまう。希望で輝く未来が見えず、世界にあるのは灰色の恐怖だけ。
 それが自分自身を表していているようで、より深い虚無感を抱いてしまった。



【?-?/認知外迷宮/1日目・午後】


258 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:20:23 sB8DM5U.0


【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP90%、SP95%、(PP100%)、強い自責の念/B-stフォーム
[装備]:ザ・ディザスター@アクセル・ワールド、{大鎌・首削、蒸気バイク・狗王}@.hack//G.U.
[蒸気バイク]
パーツ:機関 110式、装甲 100型、気筒 100型、動輪 110式
性能:最高速度+2、加速度+1、安定性+0(-1)、燃費+1、グリップ+3、特殊能力:なし
[アイテム]:基本支給品一式、イーヒーヒー@.hack//
[ポイント]:300ポイント/1kill
[思考]
基本:バトルロワイアル自体に乗る気はないが………。
0:……俺は、『死の恐怖』……PKKのハセヲだ―――。
1:今はみんなと共に認知外迷宮の出口を捜す。
2:スミスを探し出し、アトリの碑文を奪い返す。
3:白いスケィスを見つけた時は………。
4:仲間が襲われない内に、PKをキルする。
5:レオ達のところへは戻らない。
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前です。
※設定画面【使用アバターの変更】には【楚良】もありますが、現在プロテクトされており選択することができません。
※“碑文”と歪な融合を果たし、B-stフォームへとジョブエクステンドしました。
 その影響により、心意による『事象の上書き』を受け付けなくなりました(ダメージ計算自体は通常通り行われます)。
※《災禍の鎧》と融合したことにより、攻撃力、防御力、機動力が大幅に上昇し、攻撃予測も可能となっています。
 その他歴代クロム・ディザスターの能力を使用できるかは、後の書き手にお任せします(使用可能な能力は五代目までです)。
※《災禍の鎧》の力は“碑文”と拮抗していますが、ハセヲの精神と同調した場合、“碑文”と共鳴してその力を増大させます。
※ハセヲが《獣》から受ける精神支配の影響度は、ハセヲの精神状態で変動します。



【シノン@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP80%、強い無力感/ALOアバター
[装備]:{フレイム・コーラー、サフラン・ブーツ}@アクセル・ワールド、{FN・ファイブセブン(弾数10/20)、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン、式のナイフ@Fate/EXTRA、雷鼠の紋飾り@.hack//、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3
[アイテム]:基本支給品一式、光式・忍冬@.hack//G.U.、ダガー(ALO)@ソードアート・オンライン、プリズム@ロックマンエグゼ3、5.7mm弾×20@現実、薄明の書@.hack//、???@???
[ポイント]:300ポイント/1kill
[思考]
基本:この殺し合いを止める。
0:アトリ……私……。
1:ハセヲ達と共に出口を捜す。
2:殺し合いを止める為に、仲間と装備(弾薬と狙撃銃)を集める。
3:ハセヲの事が心配。 《災禍の鎧》には気を付ける。
4:【薄明の書】の使用には気を付ける。仮に使用するとしても最終手段。
5:ユイちゃん達とはまた会いたい。
[備考]
※参戦時期は原作9巻、ダイニー・カフェでキリトとアスナの二人と会話をした直後です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
•ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
•GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。
※このゲームにはペイン・アブソーバが効いていない事を、身を以て知りました。
※エージェント・スミスを、規格外の化け物みたいな存在として認識しています。
※【薄明の書】の効果を知り、データドレインのメリットとデメリットを把握しました。


259 : 対峙する自己 ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:20:45 sB8DM5U.0
【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP80%/デュエルアバター 、令呪一画、、移動速度25%UP
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3 エリアワード『絶望の』
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
1:ハセヲ君やシノン君達と共に出口を捜す。
2:《災禍の鎧》を封印する。
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:ダメージ(中)、魔力消費(大)
[備考]
時期は少なくとも9巻より後。



【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP60%、移動速度25%UP
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、逃煙連球@.hack//G.U.、エリアワード『絶望の』
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:ハセヲやシノン達と共に出口を捜す。
2:《災禍の鎧》には気を付ける。
※時期は原作終了後、ミア復活イベントを終了しているかは不明。



[全体の備考]
※ロックマンとスケィスゼロの力による影響で、ネットスラム及びウラインターネット全域にはバグ及びデータの『歪み』が出現しています。


260 : ◆k7RtnnRnf2 :2015/10/08(木) 20:21:18 sB8DM5U.0
以上で投下終了です。


261 : 名無しさん :2015/10/10(土) 00:36:07 uS.NbmEw0
ハセヲとシノンが黒薔薇騎士団と合流しましたか
しかも認知外迷宮に進入した今ならトワイスとも遭遇しそうですね
投下乙でした


262 : 名無しさん :2015/10/22(木) 10:30:15 66Ykho1UO
カルバリン砲の有効射程は500m


263 : 名無しさん :2015/11/08(日) 06:06:45 KslXKNJU0
予約きた!


264 : 名無しさん :2015/11/10(火) 18:18:18 eCNZyf..0
もう一つ予約が来てるよ


265 : ◆7ediZa7/Ag :2015/11/13(金) 09:56:33 FCaZlRs20
投下します。


266 : アリス・ハーモニー  ◆7ediZa7/Ag :2015/11/13(金) 09:57:12 FCaZlRs20


……空は煙に埋め尽くされていた。

冷え込んだ冬の風が瓦礫まみれの街に吹きすさぶ。直撃弾を受けた家屋が炎上し、もくもくと煙を上げていた。
わらわらと道にわいて出た人々が蠢いている。ある者は必死に、ある者は諦観に満ちた表情を浮かべながら。
1940年、ロンドン。
ありとあらゆる者がオレンジ色に染まった空から逃げようとしていた。
街は連日続くナチス・ドイツの空爆に晒されていた。空からは無数の爆弾が投下され、地上のどこかから高射砲が発射される。
その街は破壊と硝煙の狭間の中にあった。

外ではわらわらと人があふれている。
空軍/RAFと消防隊が錯綜し、空襲監視員が大声を張り上げている。
警察署では燃え盛る大聖堂より聖遺物を運び出そうとウォリックシャー連隊旗の下“厳粛な小行列”を形成していた。
狂乱の空を、爆発音とサイレンが彩る。聖なる教会をも呑みこんで、炎は猛然と広がっている。

「……ほら、読んであげる」

ガードラーズ・チャペルが焼け落ちた頃、大聖堂の隣の防空壕で、一人の母が子どもをあやしていた。
防空壕、といっても粗末なものだった。
半地下の広々とした部屋というだけで、空爆はおろか寒ささえ凌げそうにない。焼夷弾が近くに堕ちればたちまち炎に染まるだろう。
そんな場所で、二十数名ほどの人間が砂嚢を積み上げた壁にもたれつつ座り込んでいる。

「“このとき、白の女王がまた始めました、「それはひどい雷雨であったぞ、考えお呼びもせぬような!
 (「とてもこの子に考え及ぶことなどできはせぬ」と赤の女王がいいました)”」

空襲のたびに揺れるカンテラの、か細い明かりだけを頼りに母はその本を読んでいく。
彼女が手にしているのは英国が誇る児童文学の名著で、国民ならば誰もが知るベストセラーだ。
読み上げる母の声色は落ち着いていて、とても空襲の最中とは思えなかった。

「“屋根の一部がはがれてしまい、どっさり雷が入り込んだ――大きなかたまりとなって、部屋中ころげ回った――
 テーブルや道具をひっくり返し、わたしはあまり驚いて、自分の名も思い出せぬくらいじゃったぞ!」”」

だからだろう。
パジャマ姿の娘が熱心にその物語を聞いていた。
陶器のような肌をした、恐らくまだ10にも満たない齢の、幼い子どもだった。
彼女は空のことなど忘れ、ただ物語に耳を傾けている。

「“アリスはひそかに、「わたしなら、災難の最中に、自分の名まえなんか思い出そうとしないわ!
 そんなことしたって、なんになるのかしら?」と思いました。でも、女王の気持ちを傷つけてはいけないと思い、声に出してはいいませんでした”」

みな、ロンドンの空を恐れていた。
けれどもその子どもにとってはそんなことはどうでもよく、紡がれる夢の物語だけが全てだった。
不思議で、よくわからない、だけれども何故だか引き込まれる。
そんな世界が彼女にとって空の代わりであった……

「“アリスは何かやさしいことばをかけてやらねばいけないと思うのですけれど、ほんとうに何も思いつけませんでした”……」









1940年、ロンドン。
ある冬の日、一人の少女が降り注ぐ空爆にその身を散らした。
それだけが現実だった。







267 : アリス・ハーモニー  ◆7ediZa7/Ag :2015/11/13(金) 09:58:04 FCaZlRs20



あたしはどこにいたんだろう?
あたしはどこにいきたかったんだろう。
あたしはどこにいたかったんだろう。
あたしはどこにいなかったんだろう。

あたしはどっかいっちゃったの。
空が、ぼぼっ、て赤くなったつぎの日からあたしはどっかにいっちゃった。
くるしかったの。
つらかったの。
いたかったの。
あるこうと思ってても足がなかったわ。
手をのばそうと思ってもなあんにもうごかなかったわ。
だれかにたすけて! と言おうとしても声がなかったわ。
あたしの身体はお人形さんになってたの。
アリスのお人形。
だってみんなあたしであそんでいたんだよ。
白い部屋にかざられるお人形さん。
身体をぐりぐりーって虫さんみたいにいじくって。
ごろごろごろ、って頭のなかでねこがあばれてた。
あたしはお人形さんだった。
みんなのお人形さん。
あたしはなんにもみえてなかったのに。
あたしを誰もみてなかったのに。
ほかのお人形さんといっしょ。
あっちこっちでひとりぼっち。
みんないるのにあんなにいない。
あたしはいなかった。
あのびょういんには、さいしょからあたしなんていなかったの。
いたのはありすの人形だけ。
いたのはあたしの人形だけ。
いなかったのはあたしだけ。
あたしぬきでのお人形さんごっこ。
でもじゃああたしは?
あたしはなにをしていたの?
あたしはどこにいっていたの?

あたしはどこにいったんだろう。
あたしはどこをさがしていたんだろう。
あたしはどこまでいけばよかったんだろう。
あたしはどこにいったんだろう。

でもあたしはいたの。
あたしはいたとおもうの。
だって知っていたんだよ。
だってよんでいたんだよ。
だってみたことあったんだよ。
びょういんをぬけだして。
あたしはいったの。
ふしぎのくに。
ワンダーランド。
あたしはちゃんとおぼえてる。
xxxxさまがよんでくれたおはなし。

おうごんの 光かがやく 昼さがり、
われら ゆっくり かわくだり。
オールをにぎるは 小さなかいな、
力出せとは ないものねだり。
おさないおててが、ひらりとあがり、
ガイドのつもりで、 みぎひだり。

ああ、ひどい、三人むすめ 情がない!
ぽかぽかねむくて しかたない。
なのに お話せがむとは!
羽毛を動かす 息もない。
だけどこちらは ひとりきり。
三人あいてじゃ かなわない。

――――――――
―――――
――


ほらね、あたし。
あたしはまるっとおぼえてる。
あたしはきちんとそらんじた。
忘れないよあたしのものがたり。
xxxxさまがおしえてくれた、あたしだけのせかい。
あたしはあそこにいた。
あたしはふしぎのくにをみつけたの。


268 : アリス・ハーモニー  ◆7ediZa7/Ag :2015/11/13(金) 09:58:27 FCaZlRs20

でもあたしはひとりだったの。
あたしのほかには誰もいなかったの。
三月うさぎもイヌのフューリーもチェシャーネコも帽子屋さんもハートの女王さまもいないの。
ワンダーランドなのにだれもいなくて
あたしだけしかいなくて
あたしもいなかった。
あたしはひとりだった。
びょういんのむこうでもあたしはひとりだった。
あたしはあたし。
あたしはあたし。
それだけでぜんぶのせかい。
それがワンダーワンド。
ウサギの落ちないウサギの落ちた穴
ぜんぜんへんてこじゃない涙の池
ひとりぼっちの党大会レース
青虫もブタもコショウもない
お茶会もクロッケーもかんこどり
だれもタルトをぬすまない。
あたししかいなかった。
ひとりぼっち――だったんだよ。
それじゃあお人形と同じじゃない。
さみしいよ。
さみしかったんだよ。

あたしがいたじゃない。
あたししかいなかったじゃない。
あたしもいなかったじゃない。
あたしだけがいなかったじゃない。
あたしは本当にいたの?
あたしは本当にいなかったの?

でもみつけたもん。
あたしじゃないひと。
でもあたしと同じひと。
あたしだけどあたしじゃない。
あたしじゃないけどあたし。
一緒にあそんでくれたお兄ちゃん。
一緒にわらってくれたお姉ちゃん。
チェシャネコさんもみつけたよ。
眼鏡のお姉さんもあたしをみてくれた。
悪魔のお姉ちゃんもあたしとあそんでくれた。
あそんでくれた。
あそんでくれたもん。

でもみんないなくなっちゃった。
もうあたししかいない。
あたしはあたしだけ。
こうしてワンダーランドは元通り。
だれもないひとりのせかい。
あたしだけの鏡の国。
ネコさんはどちら?
結局あなたの夢なんでしょう?
結局あたしの夢なんでしょう?

この夢にはあたししかいないの。
あたしだけがすべてなの。
お兄ちゃんも、お姉ちゃんも
チシャネコさんも、眼鏡のお姉さんも、
みんなみんなあたしなの。
あたしだけがみた、あたしのなかのあたし。
だってそうでしょ?
夢なんだもの。
あたしの夢。
あたしがみた、あたしだけの夢。
ひとりぼっち。
さみしいよ。
誰か遊ぼうよ。
あたしを探して遊ぼう?
そんな、そんな、あたしだけの夢。
でももしかすると、ネコの夢。


269 : アリス・ハーモニー  ◆7ediZa7/Ag :2015/11/13(金) 09:59:17 FCaZlRs20

宝物を探せってチシャネコさんはいったの。
綺麗なもの。
カタチないもの。
あたしだけのもの。
あたしがきれいだな、て思えるもの。
あたしが欲しかったもの。
思うんだ。
それってきっと――あたしでないものなんだって。
それってきっと――あたしであるものなんって。
あたしが言うもの。
あたしが見たもの。
あたしが読んだもの。
それは全部あたしじゃない。
それは全部あたしでもある。

――あたしであるってことは、あたしでないってことなの?

だってそうじゃない?
あたしだけのものって、もうそれはあたしでしょう?
でもあたしだけのものは、あたしじゃないもののはず。
どこまでがあたしなの?
どこまでがあたしでないの?

分からないわ。
でも見つけたい。
見つけなくちゃ。
見つけてたい。

あたしはどこにいるの?
あたしはどこにいたいの?
あたしはどこにいきたいの?
あたしはどこ?

教えてよ、あたし。
あたし、知りたいの。
あたしがどこにいるの。
あの時消えてしまったあたしは、どこにいってしまったの?
ひとりぼっちでびょういんですごした。
ひとりぼっちでふしぎなくににやってきた。
どこにもあたしはいなくて。
でもどこにもあたししかいなくて。
これってどういうことなの?
あたししかいないのに、どうしてあたしは見つからないの?

答えが分からないわ。
答えなんてないと思ってた。
答えなんてないって、そう思ってたのに。
悪魔のお姉ちゃんはいったんだ。
答えがあるって。
だから見つけたい。
見つけたいの。

あたしの宝物。
あたしの答え。
あたしが生きてきたものがたり。
あたしのワンダーランド。
あたしの夢。

あたしはどこ?

夢は醒めたらなくなっちゃうんじゃないの?
だってなにもないんだよ?
生きてても何もなかったんだよ?
あたししかいなくて、そのあたしもがらんどうだった。
生きてても何一つきれいなものなんてなかった。
誰もあたしを見てくれなかった。
だからもう、何もなくなっちゃう方がよかったのに。

宝物なんてなくて。
答えなんてない。
あたしがなにもない。
このせかいにはなんにもない。
夢なんてなにもないものなんだ。
そうだとおもってたのに。
その方がよかったのに。
だったら、なにもみなくてすんだのに!

夢はもう終わりだって思えた。
あきらめることができたの。
なにもないってあきらめたかった。
あたししかいないのなら、それでよかった。
あたしはあたしでなかった。
そうでしょう?
でも違った。
あたしはひとりじゃなかった
あたし以外のだれかがいた。
だからあたしはいるはずなんだ。
あたしがいない、このせかいのどこかに、あたしはいるんだ。


270 : アリス・ハーモニー  ◆7ediZa7/Ag :2015/11/13(金) 09:59:46 FCaZlRs20

あたしはどこにいたんだろう?
あたしはどこにいきたかったんだろう?
あたしはどこにいたかったんだろう?
あたしはどこにいなかったんだろう?
あたしはどこまでいるの?
あたしはどこまでいないの?
あたしはどこにいるの?
あたしはどこにいたいの?
あたしはどこにいきたいの?
あたしはどこ?

答えがあるなら。
宝物があるなら。
生きていることがなにもない、でないなら。
なんであたしをみてくれなかったの!
あたしはみてほしかったのに。
あたしはずっとひとりだったのに。
あたしはさびしかったのに。

――あたしはずっと“ここ”にいたのに!

なんで。
どうして。
教えてよ。
なんであたしにはなにもなかったの。
わからない。
わからないよ、お姉ちゃん。
なにもない方が、ずっと楽だったのに。

寂しい。

寂しい。

寂しい。

寂しい。

ねえありす。

ねえアリス。

あなたはあたし。

あたしはあなた。

でもあたしはあたしなんだよね。

あたしはあたしだけど、あなたはあなたでもあるの。

ねえそれってあたしってことかな?

あたしでないありすはいないわ。
でもありすでないあたしは――

――いや。
そんなのあたしじゃない。
あたしはありす。
ありすはあたし。
それだけですべてじゃない。

でもあたし――それはあたしじゃないわ。
あたしは宝物でもない。
あたしは答えでもない。
あたしはありす。
ありすはあなた。
だからどれだけあたしを見ても、あたしは見つからない。
鏡の国の夢。
あたしはただの鏡だから。
どれだけ探しても、そこにあたしにはあたししかいないの。
どれだけ探しても、そこにはあたしでないものしかないの。


271 : アリス・ハーモニー  ◆7ediZa7/Ag :2015/11/13(金) 10:00:10 FCaZlRs20

でもあたしはあたししか見たくない。
あたししかあたしを見てくれなかった。

――違うわ

…………

あたしをみてくれたのはあたしだけじゃなかった。
あたしをみれくれたのはありすだけじゃなかった。
あたしがみていたのはあたしだけじゃなかった。
あたしがみていたのは、きっと……

それが答え?
それが宝物?

あたしはね、しあわせだったの。
あたしといて。
あなたといて。
このふしぎなくにだけがしあわせだった。
そう思ってたのは、あたし。
でも今のあたしは違うでしょう?

違わないわ。
あたしはあたしだもの。
あたししかいないものだもの。
それだけでいいもの。

違うでしょ?
だってあたしは言ったわ。
寂しい、って。
寂しいなんて、あたしがいるあいだは言わなかったのに。
寂しいなんて、あたししかいないなら思う訳ないのに。
だからあたしにはもう、あたしでないものがいるの。
あたしはそれが寂しいの。

あたしはあたしじゃないの?
あたしはありすじゃないの?

あたしはあたしよ。
あたしはありす。
でも。
あたしはあたしだけど、あたしはあたしだけじゃないの。
あたしでないあたしが、ありすがいるはずなの。

でも、あたしはあたししか知らない。
びょういんで、あたしはあたしをなくして、でもあたしがすべてになっちゃった。

だからそれを探すんでしょ?
それを探したいんでしょう?

でも、あたしは――寂しいよ。

あたしも寂しい。

寂しい。寂しい。寂しい。寂しい。
ひとりぼっちなのは、寂しいよ。
寂しい、の。

だからね、ありす。
ありすはここにいてもいいの。
夢から醒めても、大丈夫。

でもあたしは。
あたしは。
あたしは。
あたしは。
あたしは。
あたしはやっぱり、寂しいの。









272 : アリス・ハーモニー  ◆7ediZa7/Ag :2015/11/13(金) 10:00:26 FCaZlRs20





一つだけ、確かなことがありました。
白いほうの子ねこには、かかわりがなかったということです。
(鏡の国のアリス)




[D-?/ファンタジーエリア・草原/1日目・午後]

【ありす@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP10%、魔力消費(中)、令呪:三画
[装備]:途切レヌ螺旋ノ縁(青)@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[ポイント]:300ポイント/1kill
[思考]
基本:生きること、この夢にとって、宝になってくれるもの『答え』を探す。
1:新しい遊び相手を探して、新しい遊びを考える。
2:またお姉ちゃん/お兄ちゃん(岸波白野)と出会ったら、今度こそ遊んでもらう。
3:寂しいよ。
[サーヴァント]:キャスター(アリス/ナーサリーライム)
[ステータス]:ダメージ(小)、魔力消費(大)
[装備]途切レヌ螺旋ノ縁(赤)@.hack//G.U.
[備考]
※ありすのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※ありすとキャスターは共生関係にあります。どちらか一方が死亡した場合、もう一方も死亡します。
※ありすの転移は、距離に比例して魔力を消費します。
※ジャバウォックの能力は、キャスターの籠めた魔力量に比例して変動します。
※キャスターと【途切レヌ螺旋ノ縁】の特性により、キャスターにも途切レヌ螺旋ノ縁(赤)が装備されています。


273 : ◆7ediZa7/Ag :2015/11/13(金) 10:00:50 FCaZlRs20
投下終了です


274 : 名無しさん :2015/11/13(金) 18:34:06 KqYFWARw0
投下乙です!
ありす達は未だに一人(二人?)ですが、まだまだ求めるものは見つからないのが切ないです……
果たして、彼女たちはどんな答えを見つけるのでしょうね。


275 : ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:46:09 dXILFuxc0
投下乙です。
ありすが自分を人形に例えているのが物悲しいですね。
彼女達の宝物は、いったいどんなものになるんでしょうか。

それでは私も投下させていただきます。


276 : 対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編) ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:47:13 dXILFuxc0


     1◆


「では皆さん、食堂へと向かいましょうか」
 休憩をしようと提案したレオは、続いてそう口にした。

「食堂? 別にいいけど、なんでだ?」
「サクラの弁当ではHPと状態異常しか回復しませんが、幸い併設されている購買部にはMPの回復が可能なアイテムが販売されています。
 僕や白野さんは魔力(MP)を、カイトとヘレンはHPを消耗していますから、その回復ついでに昼食をと思いまして」
「成程な。仮想世界だから気にはならなかったが、確かにとっくに昼過ぎだもんな。いいと思うぜ、あたしは」
「では決まりですね。
 いやぁ、一度やってみたかったんですよ、こういう学生っぽいこと。生徒会と銘打ってはいっても、その業務内容は学生とは程遠かったですからね」

 レオたちはそう言って席から立ち上がる。
 自分にも拒否する理由はないのでそれに追従し、生徒会室を後にして食堂へと向かう。
 その途中、自分たちがアイテムを買うためのポイントを持っていないことに思い至り、それをレオに告げる。するとレオは、

「ああ、ポイントに関しては大丈夫ですよ。
 生徒会加盟祝いという事で、僕が奢りますから」

 なんて気前のいいことを言ってくれた。
 ポイントを貸すのではなく奢るといったことから、ハーウェイトイチシステムの心配はないだろう。
 円卓の借金取りに襲われるのは、できればもう二度と経験したくない。

 ……………………。
 ふと、そこで奇妙な疑問が過る。
 聖杯戦争中、レオからお金を借りるような事態はなかったし、そんな理由でガウェインと戦ったこともなかった筈だが………。
 この珍妙な状況の記憶は、いったいどこで経験したものなのだろう。

 そんな風に首をかしげている間に、どうやら食堂へと到着したらしい。
 さて、何を注文しようかと購買部へと向かうと、

「いらっしゃいませ」

 なんか、神父が店員やってた。
 学校の購買部にはあまりにもミスマッチな光景。
 そのどこか見覚えがある、妙にこなれた業務態度は、先ほどまでの疑問が吹き飛ぶほどの衝撃だ。
 というかそもそも、聖杯戦争の運営NPCだったはずのこの男が、なぜ教会ではなく購買部にいるのだろう。

「いやなに、本来の担当であるNPCは現在外のショップへと派遣されていてな、その代理として私が店員をすることになったというだけの事だ。
 何しろ君が言ったように、私の本来の役割(ロール)は聖杯戦争の運営。このバトルロワイアルにおいて、その役割はすでに埋まっていたからな。
 もっとも、あくまで代理でしかないので、さほど大きな権限はないのだがね。せいぜいが新商品を一つ入荷させる程度だ」

 なるほど。
 もし桜と同じように彼の役割を流用しようとするなら、それはバトルロワイアルの運営になってしまう。
 だがいかにムーンセルが再現した人物とはいえ、一介のNPCにその役割は任せられなかったのだろう。
 その点については納得いった。納得いったのだが―――
 やはり、この神父がここにいるのは非常に違和感がある。

「違和感は無視したまえ。どうせそう長くは続かん。
 場合によっては最強の店員を目指すことも考えたのだが、さすがにそこまでの時間はないだろう。
 せめて新メニュー、麻婆ラーメンの申請が通るまで持てばいいのだが……」

 時間がない? それはどういう意味なのか。
 それに麻婆ラーメンとはいったい―――

「気にするな。私から話すことは出来んし、バトルロワイアルを進めればいずれ知ることだ。それよりも――――
 何をお求めですか、お客様?」

 神父がそう口にすると同時に、目の前にウィンドウが表示される。
 個人的な会話は、これで終了という事だろう。
 ならば彼が言ったように気にしても仕方がない。レオの方へと振り返り、何を注文するのか尋ねる。
 今回の昼食はレオの奢りだ。彼の意見を聞くべきだろう。


277 : 対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編) ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:48:23 dXILFuxc0

「そうですね。彼の言葉は気になりますが、それは後にしましょう。今は昼食が優先です。
 ……何かおすすめはありますか? 希望としては、MP回復効果の高いアイテムが望ましいです」
「ならばこの【激辛麻婆豆腐】がおすすめだ。他より値は張るが、期待に応える自信はある。
 まずはその目で確かめ、次にその舌で味わうといい。その後、君たちに稲妻走る」

 【激辛麻婆豆腐】。
 それはたしか、辛さの中にまろやかさを兼ね備えた、言峰神父イチ押しの逸品だ。
 たしかその効果は、MPを10%ほど回復させるというものだったはず。
 なるほど。確かにこのアイテムならレオの要望に応えられるだろう。

「そうですか。ではその商品を二つお願いします」
「あたためますか?」
「ええ、もちろん」
「ではもっていけ。またのお越しを、お待ちしております」

 レオは代金分のポイントを支払い、半端に丁寧な接客対応の神父からアイテムを受け取ったのだった。

      §

「さあ皆さん、早く座って昼食にしましょう」
 その後レオはジローたちの分の食べ物も食堂から購入し、食堂に備え付けられたテーブルへと座りながらそう促してくる。
 嬉々として食べ物を並べていくその様子は、聖杯戦争中の彼の姿からは連想できないものだ。
 おそらくどこか年相応なこの姿が、王としての責務から解放されたレオ本来の性格なのだろう。

 ちなみに食堂で売っている食べ物は購買部のアイテムと比べると、アイテムとしての効果がない分安いらしい。
 効率の面から見ればポイントの無駄でしかないが、昼食会と銘打った以上、何も食べられない人物がいるのは避けたかったのだろう。

「こ、こいつは……」
「うわぁ……」
 そうして並べられたアイテムを前にして、レインとジローがそう声を漏らす。
 彼らの視線の先には、激辛の名に恥じない紅さを湛えた二つの麻婆豆腐がある。

「その麻婆豆腐は僕と白野さん用です。この中でMPの回復効果があるのはそれだけですからね。
 ……ああそうだ。白野さん、麻婆豆腐の半分は僕の方へと分けてください。その方が回復量の比率がいいですから」
 レオのその言葉に頷き、自分の分の麻婆豆腐から半分ほどをレオの皿へと移す。
 これは別に、レオが欲張りというわけではない。

 このデスゲームにおいて、 “食べ物系”の回復アイテムには二通りの“使い方”がある。
 一つはアイテム欄のコマンドから【使う】のコマンドを選択し、即時にその効果を得るという方法だ。
 この方法は確実にアイテムの効果を受けられる代わりに、文字通りデータとして処理される――つまり味がわからないというある種の欠点がある。
 そしてもう一つが、今現在行っているような、アイテムを実体化させ直接“食べる”という方法だ。
 こちらはその食べ物の味を知ることができる代わりに、口にした割合分しか効果が得られないのだ。
 だが逆に言えば、複数人で効果を分割できるという利点にもなるのだ。

 効率や安全面を重視するのであれば、選ぶべきは間違いなく前者だ。これは命を懸けたデスゲーム。食べ物を味わっているような余分はない……のだが。
 今は休息の時間だ。いつ来るかわからない敵を警戒し続けていては、体力より先に気力が尽きてしまう。
 それに岸波白野のMP残量は95%ほど。MPを10%回復させる【激辛麻婆豆腐】を全て食べてしまっては、5%分の無駄が生じてしまう。
 それくらいならば、その分をよりMPを消費しているレオに食べてもらう方が効率の面でも良いだろう。


「それでは準備もできましたし、早速いただきましょう」
 大盛りになった麻婆豆腐を手元に引き寄せ、レオがそう言って手を合わせる。

 それに合わせ、自分もいただきます、と言って麻婆豆腐を匙で掬い口に含む。
 直後、スパイスの強烈な辛みが構内に広がり、それに伴って気力が充実していくのがわかる。
 つまりは、美味い。
 うむ。とその味に満足して頷き、もう一口分掬って口へと運んでいく。
 その途中、ふとカイトとサチ/ヘレンの様子が視界に映る。

「――――――――」
「……………………」
 二人は備え付けの先割れスプーンを片手に、無心で【桜の特製弁当】を食べ続けていた。
「カイトさん、ヘレンさん、桜さんのお弁当はどうですか?」
 そのあまりにも食事に集中したその様子に少し気になったのか、ユイがそう問いかける。


278 : 対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編) ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:48:56 dXILFuxc0
「……………………」
「――――――――♪」
 それに対し、カイトは答えず黙々と食べ続け、サチ/ヘレンは無表情ながらも明らかに上機嫌と分かる態度で答える。
 二人のいた『The World』に、“味”という概念はない。一応屋台などの施設はあるが、それはあくまで見かけだけのものでしかない。
 それ故に、初めて口にした食べ物の“味”という感覚が、彼らにはとても鮮烈に感じられたのだ。

「はは。AIすらも魅了する味、というのは気になりますね。
 少し不謹慎ですが、HPが全く減っていないのが残念です。ええ、本当に」
 二人の様子を見たレオが、そう羨ましそうに口にする。

 このデスゲームにおいて回復アイテムは貴重だ。
 まったくHPが減っていないのにアイテムを消費する“無駄遣い”は出来ない。
 ましてや自分やレオのようなマスターは、戦闘の際はサーヴァントを前衛とする。
 そんなマスターがダメージを受けるという事態は、それこそ窮地という事になるのだ。

「む。それでしたらレオ、私が味見をし、その感想を述べるというのは」
「結構です。貴方は騎士の役割に専念してください」
「そ、そうですか……。主の役に立てぬとは、無念です」
 実体化したガウェインの進言を、レオは一言に切り捨てる。
 それに内心で同意する。
 なんとなくではあるが、ガウェインに食事関連の事を任せてはいけない気がしたのだ。

 ところで、レオはもう食べ終わったのだろうか。
 大盛りとなっていたレオの麻婆豆腐が見当たらないのだが。
 それともまさか、あの量をあっという間に平らげたというのだろうか。

「いえ。レオは一口分だけ食べた後、【使う】のコマンドを使用して処理していました」

 む。それはつまり、この麻婆豆腐はレオには辛過ぎた、という事だろうか。

「ええ、まあ。これを顔色一つ変えず食べ続けられる白野さんに、驚嘆の意を感じる程度には。
 おかげで口の中が大変ヒリヒリします。よく平気で食べれますね、こんなもの」
 そう口にするレオは笑顔を浮かべているが、その口調にはどこか棘すら感じる。

「同感だ。その麻婆豆腐は余も以前口にしたことがあるが、余の愛らしい唇がタラコのようになってしまったぞ」
「赤セイバーさんの唇が愛らしいかどうかは別として、ご主人様の味覚問題については同意します。嫁として。
 なんなんですか、あのコンソメ汁粉とかいう飲み物。和食に対する冒涜ですし、そもそもおいしいんですか、アレ?」
 それに便乗するかのように、セイバーとキャスターまで苦言を呈してくる。

 そんなに辛かったのだろうか、この麻婆豆腐は。
 いや、激辛なのだから辛いのは当然なのだが、別に食べれないほどではないと思うのだが。
 むしろこの辛さこそが、この麻婆豆腐の旨味であるとさえ言えるだろう。
 そんな風に思っていると、ユイがぴょこんと挙手をしてきた。

「あの、私も一口食べてみていいですか?
 そこまでの辛さというのに、ちょっと興味があります」
「……………………」
「む、ユイと、それにカイトもか。はっきり言って、おススメは出来んぞ」
「大丈夫です。普通に辛いのは平気ですから」
「あれはもう普通の辛いというレベルを超えている気もしますが……」

 別に問題はないだろう。
 自分たちと同じように、二人ともMP……カイトはSPだが……を消耗している。
 それに自分の好きなものを他の人も好きになってくれるという事は嬉しいものだ。

 そう言って麻婆豆腐を一口分掬い、ユイたちへと差し出す。
 それをカイトが受け取ってユイへと差し出し、彼女が一口分口にした後、カイトも残りを口にした。
 直後。

「っ!? か、からっ! 辛い! ものすごく辛いですこれ……!」
「!!!!????」

 ユイは足をバタつかせて悶えながら、口元を抑えつつそう声を荒げた。
 カイトなどは青白い顔を真っ赤にして、口から火まで吹いている。
 どうやら二人にとっても、この麻婆豆腐は辛すぎたらしい。
 むう……。


「……普通のご飯でよかったな、俺たち」
「……全く同感だぜ」

 そんな岸波白野たちの様子を横目に見ながら、ジローとレインは巻き込まれないよう静かに、しかし素早く箸を進めていた。
 が、しかし。
「おや? ジローさんにレインさん、そんなに離れてどうしたんですか?」
「げ!?」
「やべ!」
「ほら、もっと近くに座って、一緒に雑談でもしましょうよ。いわゆるフリートークというやつですね」
 そんな他人のふりをレオが見逃すはずもなく、二人はあっけなく渦中に巻き込まれるのであった。

 そんな風に、対主催生徒会の昼食会は和気藹々と進んでいったのだった。


279 : 対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編) ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:49:22 dXILFuxc0


     2◆◆


「BRショップ・日本エリア支店へようこそ。
 本日は何をお求めで吶縺ァ――――――――」

 日本エリアのショップへと入店し、店内の様子を確認し終えるのと同時に、ショップ店員であるNPCの上書を開始する。
 上書きによってエラーが生じたのだろう。NPCの言語が変調を来すが、構うことなく上書きを続行する。
 あと一時間もすれば、このNPCは“私達”の一人となるだろう。

「なるほど。君達はそうやって、他者を“自分”へと書き換えているのか」

 その様子を見ていたオーヴァンが、感心したようにそう口にする。
 これで“私達”の手札を一つ晒したことになるが、問題はない。
 行動を共にするのであればいずれ知られることではあるし、元より隠す気もなかったのだから。
 故にこちらも、オーヴァンを観察し返す。
 この上書き能力に対し、オーヴァンはどのような反応を示すのかを。

「だが販売されているアイテムを確認しなくていいのか?
 ショップを管理しているNPCがいなくなれば、ショップを利用することができなくなると思うが」
「その心配は無用だ。このNPCを上書きした“私”がショップ内に居れば、ショップは問題なく利用できる」
「なるほど。上書きした相手の能力も使える、という事か」

 探っている。
 オーヴァンは“私達”の能力を把握しようとしているのだ。
 おそらくは、自らがその脅威に晒された時に、それに対処するために。
 だがそれも無駄なことだ。
 たとえ“私達”の能力を把握しようと、膨大な数の暴力に対処しきれるはずがない。

 現在の“私達”の数は四人。これはオーヴァンも把握していることだ。
 だが“私達”は、これからまだまだ増え続けるだろう。そしていずれは、オーヴァンに対処可能な人数を超える。
 オーヴァンは榊の仲間とはいえ、バトルロワイアルの参加者であることに変わりはない。殺されれば当然死ぬ。
 そして死を恐れぬ人間などいない。“私達”が自身を脅かすと判断した時、オーヴァンは必ず反旗を翻すだろう。
 その時こそ、オーヴァンを“私達”の一人にしてしまえばいい。

 無論、オーヴァンとて無策で“私達”と戦うつもりはないだろう。
 いかな強者であろうと、必ず限界は存在する。
 つまりオーヴァンが反旗を翻した時の人数が、オーヴァンに対処可能な”私達”の数だ。
 ならば、そこにあと一押しを加えてやればいい。ただそれだけで、オーヴァンは私達に対処しきれなくなる。
 残る問題は、それまでの間に、どれだけこちらがオーヴァンの能力を把握できるか、だ。
 それだけは、オーヴァンを他の参加者と戦わせることでしか観察は出来ない。
 そして幸いにして、そのための対戦相手は、すでに用意されている。


「学園の様子はどうだ。何か動きはあったか?」
 遅々として進まない上書き作業に退屈したのか、オーヴァンがそう訊ねてきた。

 通常で考えれば意味の通らない問いかけ。
 だが“私”の視界には、ショップ内に居ながらにして、すでに月原学園が見えていた。
 現在“私達”のうち、一人が学園内部を、もう一人が学園周辺を監視しているためだ。
 それを知っているが故の質問だろう。

「いや、目立った動きはない。
 現在は全員が一か所に集まって何かをしているようだ」

 妖精のオーブで把握した学園内の人間の数は七人。
 対してこちらは、オーヴァンを含めて五人。
 人数の上では不利だが、学園内の人間全員が強力な力を持っているとは考え難い。
 このまま戦っても負ける気はしないが、これまでの経験からして予期せぬ切り札を持っている可能性は十分にある。
 こうして時間のかかるNPCの上書を行っているのはそのためだ。少しでも万全を期すために、“私”の数を増やしているのだ。

「そうか。
 ……ああ、そうだ。先に言っておくが、俺は学園内に入るつもりはない」
「……何?」
「正確に言えば、ペナルティを受けるつもりはない、だ。
 多少の不利なら数で補える君たちと違って、俺の体は一つしかいないからな。
 その必要もないのに、制限を受ける気はない」
「成程な」


280 : 対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編) ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:49:52 dXILFuxc0

 確かに“私達”と違い、オーヴァンはペナルティの影響を完全に受ける。
 ペナルティの詳細は知らないが、もし受けてしまえば不利になることは確かだろう。
 だがオーヴァンは、学園内には入らないと言っただけだ。戦わないとは言っていない。
 つまりペナルティを無視できるのであれば、学園内の人間と戦ってもいいという事でもある。

「つまり学園内の人間を外に引き摺り出せば、君も戦うということだね、オーヴァン」
「そういう事だ」
 それを確認するためにそう訊けば、頷いて肯定する。
 そして何を思ったか、次いでこんなことを言ってきた。

「それともう一つ。
 AIDAに碑文を与えれば、その力を増幅させることが可能だ。
 まずないとは思うが、窮地に陥ることがあれば試してみるといい」

 我々は仲間ではあるが、決して味方ではない。
 ましてやこの男は、榊やボルドーと同様AIDAを宿している。
 碑文がAIDAを強化するというのなら、この男にとっても碑文は欲しいプログラムのはずだ。
 その秘密を何故、わざわざ“私”に教えるのか。

「なに。学園内での戦いを君達だけに任せる対価だと思ってくれればいい。
 仮にも仲間であるのなら、多少の助け合いは当然だろう?」
 オーヴァンはそう言い残すと、先に行く、と言い残してショップを後にした。
 話すこともなくなり、何の変化も起こらない上書き作業に飽きたのだろう。

 オーヴァンの狙いはわからないが、少なくとも、今すぐ“私達”と敵対する気はないようだ。
 でなければ、“私達”がより強い力を手に入れる可能性を教えるはずがない。
 碑文もAIDAも解析はまだ進んでいない。
 未知のままを未知のまま使う事への危惧はあるが、最終手段としては考慮してもいいだろう。

 学園内の人間に動きはなく、また新たな人間が現れる様子もない。
 このまま順調にいけば、襲撃の準備は問題なく整う。

「縺ョ雉ェ蝠上〒縺吶�ゅ%縺ョ繝・Η繧ィ繝ォ縺ィ縺・≧繝「繝シ繝峨〒縺ッ莉悶」

 まだ急ぐ必要はない。
 まずはこのNPCの上書を完了させるとしよう。


     3◆◆◆


 そうして対主催生徒会の昼食会は終わり、一同は解散となった。
 会長であるレオは生徒会室へと戻り、集まった情報を整理・分析するとのことだ。
 それにユイが、少しでも何かの役に立ちたい、と手伝いに向かい、またカイトもそれに同行した。
 ジローとレインは二人一緒にどこかへと向かった。何をしに行ったのかは知らないが、そう遠くへは行ってないだろう。
 そうして残された自分とヘレンはというと。


「お待たせしました。お茶はまだちょっと熱いので、気をつけてくださいね」

 間桐桜のいる保健室へと入り浸っていた。
 支給品を受け取った以上、もう彼女に用はない筈なのに、なぜかここへ足が向いたのだ。
 ならばきっと、彼女に会う理由が岸波白野の中にあったのだろう。それを思い出すことができないのが、少しだけ悲しかった。

 暗くなり始めた気持ちを振り払うように、湯呑に入ったお茶を一口飲む。
 その瞬間口に広がる、絶妙な熱さ、渋さ―――懐かしい味。
 ……やはり、桜の煎れてくれたお茶は心が落ち着く。

「よかった。ちょっと久しぶりだったので、配合を間違えてないか心配だったんです」
 自分の感想を聞いた桜は、そう安心したように笑みを浮かべていた。
 その様子が本当に嬉しそうだったからか、自分まであたたかい気持ちになってきた。

 ふとヘレンの様子が気になり、横目でその様子を見る。
「――――――――」
 湯呑を両手で抱えたヘレンは、非常に落ち着いているように見えた。
 どうやら桜の煎れたお茶は、ウイルスである彼女にも好評のようだ。
 そのことに不思議と嬉しくなって、桜へと空になった湯呑を差し出し、おかわりをお願いする。

「はい。すぐに用意しますから、ちょっとだけ待っていてくださいね」
 桜はそう言うと、そそくさと給湯器のある場所へと向かい、手慣れた様子でお茶を入れ始めた。

 それは岸波白野にとって、どこか見覚えのある光景だった。
 いや、この光景はきっと、実際にあった日々なのだ。聖杯戦争のいつごろにあった出来事なのかは思い出せないが、この光景を懐かしいと想う自分がいる。
 バラバラに散ってしまった、岸波白野の記憶。その一欠けらを思い出せたことが、ほんの少しだけ/泣きそうなくらい嬉しかった。


281 : 対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編) ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:50:19 dXILFuxc0

      §

 ……………………。
 何杯目かのおかわりを一口飲み、ふう、と一息を吐く。
 あれから少し時間が経ったが、レオからの連絡はなく、状況に変わりはない。
 ヘレンの様子も変わることはなく、比較的穏やかな時間が過ぎていく。
 そのあまりの穏やかさに、この時間が永遠に続けばいいのにとさえ思ってしまう。
 だがそんなことはあり得ない。そう間もなく、デスゲームは再開されるだろう。
 それを思うと、少しだけ憂鬱になる。

 こうして落ち着けば、このバトルロワイアルの最中に起きた様々なことを思い出す。
 特に深く思い出すのは、やはり岸波白野と直接関わりのある事柄だ。
 慎二とアーチャーのこと。ユイとサチ、キリトのこと。そして……デスゲームに乗ったらしい、ラニのこと。
 ありす達やダン達、シノンの事も気にはなるが、今自分の心を占めているのは、主にこの三つだ。

 現状、他にすることもない。
 少しでも心を軽くするために、彼らの事を思い返してみるのもいいだろう。

   慎二たちの事を考える
   ユイたちの事を考える
  >ラニの事を考える

 ラニ=Ⅷ。
 彼女は凛と同じく、聖杯戦争で岸波白野を助けてくれたマスターだ。
 分岐点は三回戦後。凛とラニの対戦で、自分がどちらを助けようとしたかでその運命は変わる。

 ホムンクルスである彼女は、その出生ゆえか感情が希薄であり、合理的に物事を考えようとする。
 だがそれは彼女に心がないということではなく、むしろ自身に芽生えた感情に戸惑ってすらいた。
 そんな彼女がデスゲームに乗ったのは、それが一番合理的だと判断したからなのか。

 聖杯戦争のマスターである以上、自分が生き残るために他のプレイヤーを殺すことは躊躇わないだろう。
 だがそれとデスゲームに乗ることは違う。
 デスゲームに乗るという事は、自分の生存のためではなく、優勝するために他のプレイヤーを殺すという事だからだ。
 そして優勝を目指すという事はすなわち、何か願いがあるという事だ。

 その願いとは何なのか。
 そこに、岸波白野の存在は関わっているのだろうか。
 そう考えると、胸の奥から悲しみと悔しさに似た感情が湧き上がってくる。
 だがそれ以上に、なぜ、という疑問が浮かび上がってくる。

 なぜ、彼女はデスゲームに乗ってしまったのか。
 なぜ、敵対していた凛だけではなく、仲間であったリーファまで殺したのか。
 なぜ――――

「………奏者よ、そなたもわかっていよう。
 その疑問に、意味がないという事は」
 実体化したセイバーの声に、静かにうなずく。

 ああ……きちんとわかっている。
 どんな理由があれ、ラニはデスゲームに乗ることを選んだ。
 たとえそれが、誰かに強要された結果であったとしても、その事実は覆らない。

「その時が来ても、どうか目を背けないでくださいませ、ご主人様。
 たとえどのような結果になったとしても、貴方様の在り方を曲げることだけはして欲しくありません」
 続いて実態化したキャスターの言葉に、もう一度頷く。

 叶う事ならば、ラニと殺し合うことなどしたくない。
 たとえ一度対決し、その命を奪った記憶があったとしても……いや、その記憶があるからこそ、より強くそう想ってしまう。
 だが岸波白野がデスゲームの打破を望み、ラニがデスゲームに乗る限り、彼女との戦いは避けられない。
 …………ならばせめて、彼女を止める人間は、自分でありたかった。


 考えることは他にもある。
 特にサチとヘレンに関する問題は、いつまでも先延ばしには出来ない。
 いつかは必ず、決着を付けなければならないだろう。
 ならばせめて、その結末に悔いの残らないよう、できる限りのことをしよう。
 そう決意を新たにし、湯呑の中のお茶を飲み干した。


282 : 対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編) ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:51:10 dXILFuxc0


     4◆◆◆◆


 そのころ生徒会室では、コンソールを弾く音が静かに響いていた。

 生徒会長の席に座るレオの周囲には幾つものウィンドウが展開され、そこには無数の文字数列が止めどなく流れている。
 それはユイの方も同様で、レオから譲り受けたコードキャスト[_search] によって情報を収集しつつ、集まった情報を整理していた。
 残るカイトは、時折情報の確認のために質問される以外はすることがなく、静かに佇んでいるだけだった。


「――――成程、そういう仕組みですか」
 そんな中、不意にレオがそう呟いた。

「レオさん? もしかして、何かわかったんですか?」
「ええ。と言っても、まだ推測の範囲は越えていませんけどね」
「それでも構いません。今は少しでも、状況の打開策が欲しいですから」

「わかりました。
 これまでに集まった情報から推測できたこと。それは「『この世界』の仕組みです。
 まあ簡単に言ってしまえば、この世界は『The World』の亜種なんです」
「『The World』の亜種、ですか?」
「そうです。正確に言えば、『The World』のプログラムを起点として作られた、となりますが。
 これにレインさんの属するブレインバースト――加速世界のプログラムを組み込むことで、この世界は成立していると予測されます」
 そう言いながら、レオはユイの前にウィンドウを展開する。
 そこにはメンテナンスの際に収集したデータを基にした分析結果が表示されていた。

「加速世界のプログラム、ですか?
 たしかメンテナンスの際に起きたという現象が、加速世界における“変遷”と類似していたんですよね。
 ですが、それを組みことにどんな意味があるんでしょう。フィールドや建造物を修復するだけなら、規格の異なるプログラムを使う必要はないと思うんですが」

 『The World』ど『Brain Burst』は異なる世界の産物だ。当然、そこに働くロジックも違う。
 ただマップを修復するためだけに互換性を持たせて機能させるなど、どう考えてもリソースの無駄でしかない。
 だというのに、この『世界』には二つ以上の異なるプログラムが働いているとレオは言う。
 その理由が、ユイにはどうにもわからなかった。

「その答えは簡単ですよ。
 たしかに異なるプログラムを同時に働かせるより、同一規格のプログラムを働かせる方がデータの処理は容易です。
 ですがこのデスゲームは、現実側におけるある問題を抱えています。その問題を解決するために、加速世界のプログラムを利用しているのでしょう」
「加速世界のプログラムで解決可能な、現実でのある問題? ………そうか、ログイン時間ですね!」
「その通りです。
 このデスゲームはその性質上、最短でも一日……つまり24時間以上を消費して行われます。
 しかし特殊な事情でもない限り、24時間もゲームにログインしているなんてことはまずありません」

 なぜなら現実にあるプレイヤーの肉体が、それによって生じる負担に耐え切れないからだ。
 ましてやそれほどの時間ログインし続けていれば、外部の人間によって現実側から強制ログアウトされる可能性もあり得る。
 そうなれば、生還か死亡かは別として、そのプレイヤーはデスゲームの内容とは関係のない理由で脱落することになる。
 当然ゲームマスター側としては、それは避けたい事態のはずだ。回線切断による強制終了ほど、興ざめする戦いはないのだから。

「ですが加速世界のプログラムを使えば、その問題は容易く解決します」

 加速世界の時間は、現実の1000倍の速さで流れている。
 すなわち加速世界での24時間は、現実においては86.4秒――つまり一分半程度でしかないのだ。
 これでは現実側から異常に気付き、干渉するような余裕はまず存在しない。つまりデスゲームの進行が妨害されることはなくなるのだ。

「わざわざ互換性を持たせてまで異なるプログラムを働かせているのは、おそらくそれが理由でしょう。
 加えて解析の結果、『The World』と『Brain Burst』の他にも、様々なプログラムが組み込まれていることがわかりました。
 その詳細は不明ですが、おそらくそれらのプログラムにも、このデスゲームを進める上での何らかの役割があると思われます」
「なるほど。しかしそれなら、『The World』のシステムはどんな役割で働いているのでしょうか」
「……………………」
「レオさん?」


283 : 対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編) ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:52:31 dXILFuxc0

 ……確かに加速世界のプログラムを用いることで、現実側の問題は解決する。
 だがその問題は、そもそも “現実に肉体が存在しているならば”の話でしかないのだ。

 ―――デウエス。
 ジローから聞いたその存在は、現実にいる人間を、その肉体ごと電脳世界に取り込む力を持っていたという。
 その証がジロー自身のアバターだ。量子化されていたとはいえ、彼のアバターは紛れもなく人体の構造をしていた。
 そして生身の人間を電子世界に取り込めるのであれば、現実世界の問題はほぼ無視できる。
 そうなれば、加速世界のプログラムを使う理由はなくなってしまう。

 そしてデウエスがゲームマスターの一人である可能性はそれなりに高い、とレオは予想していた。
 なぜなら、自分や岸波白野のような“聖杯戦争の参加者”が、このデスゲームに招かれているからだ。
 本来、聖杯戦争に参加したマスターがムーンセルから脱出するには、聖杯戦争に優勝する以外にない。
 しかし現実問題として、自分たちはバトルロワイアルに参加させられている。それも自分のような死んだはずの人間さえも、だ。
 つまり現実の肉体を電子世界へと引きずり込めるのであれば、ムーンセルから自分たちを引きずり出すことも可能なのかもしれない、とレオは考えているのだ。

 ………だが。
 デウエスがゲームマスターの一人ならば、なぜ『この世界』には複数の規格の異なるプログラムが働いているのか。
 デウエスの力を行使するには条件を満たすがあるらしいが、それと何か関係しているのだろうか。
 あるは予想に反し、デウエスはこのデスゲームに関わっていないのだろうか……。

「………いえ、なんでもありません」
 これ以上は考えても仕方がない、とレオはかぶりを振る。
 疑問の答えを出すには、あまりにも情報が足りなかった。

「『The World』のシステムが使われている理由は、残念ながらまだわかりません。
 榊がそのゲームの出身であることと何か関係があるとは思いますが、それ以上のことは」
「そうですか……」
「ただ、働いているシステムが『The World』のものだと推測できた理由ならあります。
 これについては生徒会の今後の方針にも関係しますから、その時に話しましょう。
 あとの問題は、ゲームマスターの目的とサーバーに関して、でしょうか。
 もっとも、サーバーについては他のプレイヤーの話を聞いてからでないと何とも言えませんけどね。
 まあデスゲーム開始時に同期のずれがあったことからして、SE.RA.PHでないことだけは確かですが」

 どのようなソフトウェアも、ハードウェアがなくては機能しない。この電子世界においてもそれは例外ではない筈だ。
 その点で言えば、人知未踏の超巨大量子コンピューターであるムーンセルは最優のハードといえるだろう。
 なにしろ128人のマスターに加え、それ以上の情報量を持つサーヴァントを128騎も処理していたのだから。
 だがそれ故に、この電子世界がムーンセルに存在することはあり得ない。
 なぜならムーンセルはその性能故に、たとえ異なる世界からプレイヤーを招いたとしても、処理落ちするようなことはまずあり得ないからだ。
 しかしこのバトルロワイアルは、オープニングの際に処理落ちし同期が取れていなかった。それはつまり、『この世界』がムーンセルの外であることを示しているのだ。

「ゲームマスターの目的に関しても、同じく推測の目処はたっていません。
 当初はこのデスゲームは聖杯戦争の再現であり、聖杯が目的なのでは? とも考えたのですが、聖杯戦争のルール上それはあり得ませんから」

 月の聖杯戦争において、聖杯が与えられるのは戦いの勝者のみだ。
 たとえ絶対的な権限を持っていようと、戦いに参加していないゲームマスターでは聖杯を手に入れることは出来ない。
 つまりこのデスゲームのルールで聖杯を得られるのは、最後まで生き残ったプレイヤーだけなのだ。
 もしかしたら何かしらの例外があるかもしれないが、例外はあくまで例外。参考となる情報もなしに考えたところでどうしようもない。

 となれば、ゲームマスターの目的は聖杯とは別のところにある、という事になるのだが……。
 仮にも万能の願望器たる聖杯を、他者に渡すことになったとしても果たそうとする目的。
 彼らにとって、聖杯以上の価値を持つだろうそれは、しかし自分たちには皆目見当もつかなかった。
 なぜなら人の欲望を叶えるにおいて、聖杯以上に優れた機能を持つ物はほぼ存在しないからだ。


284 : 対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編) ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:52:59 dXILFuxc0

「……いえ、ゲームマスターの目的がなんであるにせよ、僕たちがやるべきことは変わりません。
 このバトルロワイアルを打破する。そのためにも、今できることを全力でやりましょう」
 レオはそう言うと、再び情報の分析へと戻った。

 主催者の目的は気になるし、最終的には解決しなければならない問題だろう。
 だが現状、それは後回しだ。
 なぜなら今は、最優先に解決すべきものが迫っているからだ。

「はい、了解です」
 それを受けて、ユイも情報の整理に戻る。
 そうして生徒会室には、再びコンソールを弾く音だけが響き渡る。

 発現まで残り半日を切ったウイルスへの対策。それを見つけ出さない限り、主催者打倒はあり得ないのだから。


     5◆◆◆◆◆


 一方、残るメンバーであるジローとレインはというと。

「そらっ、いったぞー」
「おーらいおーらい……って、ああクソッ、またミスった」
「ニコー、大丈夫かー?」
「へーきだへーき。こんなもんすぐ慣れるって」

 それこそする事がなかったため、校庭でキャッチボールを行っていた。
 といっても、二人はただの暇つぶしにキャッチボールを行っているわけではなかった。
 ペナルティによってニコに掛けられた制限。それを確かめるためのキャッチボールだった。
 だがその結果は、どうにも芳しくなかった。

「ったく、思ってた以上にペナルティが効いてやがんな。
 デュエルアバターで言えば、2・3レベルダウンってところか? この分じゃ、インビンシブルの火力も落ちてそうだな」

 前回のキャッチボールの時には取れた球が取れない。
 自身の動きが、普段よりも二、三泊ほど遅い。
 全力で投げたはずの球が、想定したよりも飛んでいかない。
 そんな、ハイレベルな戦闘においては致命的とも言える状態となっていたのだ。

「まったく。自業自得とはいえ、厄介な枷を負ったもんだぜ」
 自身の状態にぼやきながら、レインはジローへとめがけて返球する。

 現状に文句を言ったところでペナルティは解除されない。
 ならばせめて、少しでもこの状態に体を慣らしておくしかない。


 そんな風に考えながらも、レインの脳裏には、別の事が浮かんでいた。
 一つはすでに死を告げられた、シルバー・クロウの事だ。

 このデスゲームで敗北したものは本当の死が与えられると榊は言った。
 その本当の死とは何か。現実(リアル)側のシルバー・クロウは、いったいどうなったのか。
 ……いやそもそも、いったい誰がシルバー・クロウを殺したのか。
 それを考えると、どうしようもなくハラワタが煮えくり返った。

 このデスゲームで、シルバー・クロウがどう動いたのかはわからない。
 だがどんな理由があったとしても、クロウを殺したプレイヤーを前にした時、自分が冷静でいられる自信はなかった。
 だから逆に、必ずそいつの面を一発殴ってやる、とレインは決意を固めた。
 一度思いっきり殴ってしまえば、そのあと少しは冷静になれるだろうと思ったのだ。

 そしてもう一つは、勝手に単独行動をとったハセヲの事だ。
 マク・アヌで何があったのかは人伝で聞き及んでいる。
 大切な仲間を失う事の辛さは、少しは理解できるつもりだ。
 チェリー・ルークの時も、そして今回のシルバー・クロウも、どちらも嫌になるくらい辛かった。
 だからハセヲが単独行動をとった理由も、実のところ分からないでもないのだ。

 だが、それでも、一度は自分達に声をかけてほしかった。
 ほんの数時間程度の短い付き合いではあるが、そう思ったのだ、
 だからもし次に会ったときは、ハセヲの面もぶん殴ってやる、とレインは固く誓った。
 それくらいには、ハセヲに対して怒りを懐いていたのだ。


「うっし。だいぶ慣れてきたな。そらっ」
 ジローが投げ返してきた球をどうにかキャッチし、その手応えに頷いて投げ返す。

 徐々にではあるが、感覚のズレもなくなってきた。
 このままキャッチボールを続けていれば、そのうち完全に慣れるだろう。
 あとはレオの連絡を待って、次の行動を決めればいい。
 そう考えながら、レインはジローの投げる白球へと、グローブを付けた手を伸ばした。


285 : 絶対包囲 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:53:51 dXILFuxc0


     6◆◆◆◆◆◆


 ――――そうして。
 レオからの連絡を受けた岸波白野たちは、生徒会室へと戻って来た。

「それでレオ。なんかわかったのか」
「ええ。僕の予想が正しければ、ウイルスに対策することが可能かもしれん」
「ならその予想ってのを早く教えてくれ。このまんまなんもできねぇで時間切れってのはゴメンだぜ」

 苛立たしげなレインの言葉に、自分も同意する。
 プレイヤーのアバターに仕掛けられているというウイルスの発動まで、すでに残り半日を切っている。
 だというのにそのウイルスは結局、アバターデータを解析できるユイにも、そしてレオですら発見もできなかった。
 PKを行えば延命は可能だが、PKを行うという事はすなわちデスゲーム――榊の思惑に乗るということを意味する。
 そして幸か不幸か、自分たちは戦闘こそ行ったが、PKには至っていない。またレオたちも同様にPKは行っていないという話だ。
 合計七人。たとえ都合よくPKが現れたとしても、この人数全員が延命できるとは思えない。
 つまりこの場にいる全員が生き残るためには、ウイルス自体をどうにかするしかないのだ。
 ………だが、先ほども言ったように、ウイルスに関する手掛かりは何もないままだ。
 レオはこの状況から、いったいどうするつもりなのだろうか。

「わかりました。それではモニターの方を見てください。
 まず皆さんが一番恐れているであろうウイルスについてですが―――」
 レオが頷き、そう告げると同時に、一際大きなモニターが浮かび上がる。
 モニターには簡略化されたPCボディの素体のようなものと、何かしらのパラメータが表示されていた。

「ユイさんの協力の下、僕らのアバターを様々な角度から解析した結果………
 僕らのアバターには、ウイルスは仕掛けられていない、と結論するに至りました」
「はあ!? そりゃ一体どういう意味だよ!」
「そうだぞレオ! ウイルスが仕掛けられていないってことは、時間制限の話は嘘だったってことか?」

 ウイルスは仕掛けられていないというレオの言葉に、ジローとレインが戸惑ったように言葉を荒げる。
 同然だろう。それが事実だとしたら、延命のためにPKを行う必要性がなくなるのだから。
 だがレオは、首を振ってそれを否定した。

「いいえ。残念ながら、制限時間の話は本当でしょう。そんな嘘を吐く意味はありませんから」
「じゃ、じゃあどういう意味だよ。ウイルスが仕掛けられていないなら、どうやって時間切れのヤツを殺すんだ?」
「それは簡単ですよ。ジローさん、パソコンにウイルスが感染する時は、どんな時ですか?」
「どんな時って、そりゃあ……他のパソコンからハッキングされたり、インターネットの変なページ開いたり、あとは………」
「メールの添付ファイル、だな。なるほど、そういう事か」
「そういう事です、レインさん。おそらくですが、主催者はメールを使って、時間切れのプレイヤーにウイルスを送り込んでくるのでしょう」

 レオのその推測に、なるほど、と納得する。
 PKによって延命できる時間は一人につき6時間。そして主催者が送ってくる定期メールも6時間ごとだ。
 ならそのメールにウイルスを添付して送信すれば、時間切れのプレイヤーはウイルスに感染しデリートされることになる。

「そしてメールの本文はともかく、着信時にはメニューウィンドウが強制的に展開されます。
 つまりメニューを開かないという方法では、ウイルスの感染は防げません。
 対策としては、メールそのものを着信拒否するしかないでしょうね」
「着信拒否って、そんなことできんのかよ」
「できなければウイルスに感染して死ぬだけですよ。
 幸いにして、ウイルスメールが来るまであと一回は猶予があります。それまでに着信拒否プログラムを組むしかないでしょう」

 だがプログラムの構築に失敗すれば、PKによって延命するか、ウイルスによって死ぬだけだ。
 あと一回は猶予があるとレオは言ったが、逆に言えば、延命(PK)をしない限り一回しか猶予はないのだ。
 果たしてそれまでに、ウイルスメールへの対抗プログラムを組むことができるのだろうか、なんて心配が心を過る。
 ……が、しかし、そんな心配をしたところでどうにかなるものでもない。
 岸波白野にはその手の魔術師(ウィザード)スキルがなく、ウイルスに関してはレオとユイに頼るしかないのだ。


286 : 絶対包囲 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:54:22 dXILFuxc0

「ウイルスに関してはこれくらいでしょうか。
 ウイルスそのものへの対策は以降も考えますが、現状ではこれ以上手の打ちようがないわけですしね。
 では次の議題――バトルロワイアルそのものへの対抗策に移りましょう」

 結局ウイルスそのものに対する対策をとることが出来ないまま、話は次の議題へと移ってしまった。
 アバター内にウイルスを発見できなかった以上、それも仕方がないだろう。
 あとはこちらの予想通り、ウイルスがメールによって送信されてくるものであることを祈るしかない。
 それにこちらの議題も重要なものだ。
 たとえウイルスをどうにかできたとしても、バトルロワイアルそのものをどうにかできなければ意味がないのだから。

「それはいいけどよ、こっちはこっちで情報不足だろ。」
「いえ、そうでもありません。
 ウイルスの件と比べれば、こちらは大きく前進しています」
「そうなのか?」
「ええ。と言っても、こちらもやはり、予測の範疇を超えません。
 ちなみに先に言っておきますが、この予測を立てるにあたって、番匠屋淳ファイルを参照しました。
 そのためこの予測は、番匠屋淳ファイルの内容がこのデスゲームと関係していることが前提条件となることを覚えておいてください」

 そのレオの言葉に頷く。
 番匠屋淳ファイルの存在が前提となるということは、逆に言えば、ファイルがデスゲームと何の関係もない場合、レオの予測は的外れなものとなる。
 レオが予測の範疇を超えないといったのはそのためだろう。
 そんな予測を当てにしなければならないほど、自分たちには情報が不足しているのだ。

「僕はこれまでに集まった情報から、このデスゲームには『The World R:1』で起きたある事件――通称モルガナ事件における何かが関係していると予測しました。
 そしてその結果、デスゲームを打破する鍵となるのは、やはりアウラであると結論付けるに至りました。
 そもそもアウラは、『The World』の女神となり得る――言い換えれば、一つのネットゲームを支配できる存在です。
 そんな存在が介入できるような余地を、榊がわざと残しておくとは思えません。あの手のタイプの人間は、自分が支配者であることに拘りますからね。
 そして本当に介入を拒むのであれば、アウラのセグメントを参加者に支給などせず、自分たちで回収・管理しているはずです。
 しかしそうはならず、こうしてその一つが支給されている。という事は」
「そうできなかった理由がある、という事か」
「ええ、その通りです。
 おそらくですが、このデスゲームのシステムを作成する段階で、何らかの理由によりアウラのセグメントが紛れ込んだのだと思われます。
 そして榊たちゲームマスターの用いるシステムプログラムでは、アウラのセグメントに直接的な干渉ができなかった。
 その結果、アウラのセグメントはアイテムとしてプレイヤーに支給されてしまったのでしょう。
 ―――ここで重要となるのが、“アウラの復活を本当に恐れているはいったい誰か”、です」
「そりゃあ榊のヤロウじゃねぇのか? 仮にも女神様だっつうんなら、復活さえできれば、このデスゲームもどうにかできるだろ」
「ええ確かに。ですがそうではありません。
 無論ゲームマスターたちもアウラ復活を恐れてはいるでしょう。
 ですがそれ以上に、アウラ復活が致命的となる存在がいるのです。その存在こそが―――」

 モルガナ・モード・ゴン。『The World』における最初の女神。
 番匠屋淳ファイルに記録されていたモルガナ事件の原因であり、『The World』の管理・運営を行う、『The World』そのものとも言える自律型プログラムだ。
 このデスゲームとモルガナ事件を関連付けるのであれば、アウラを最も恐れているのはモルガナだろう。

「正解です。さすが白野さん、情報の組み立てが見事ですね。
 このデスゲームにはすでに、アウラの断片であるセグメントと、スケィスの存在が確認されています。
 ここに残るモルガナを加えるとすれば、彼女の役割はこのデスゲームを運営するプログラムとなるでしょう。
 要するに、このデスゲームのシステムその物が、アウラの復活を恐れているのです」

 このデスゲームにはすでに、桜たちのようなAIがNPCとして流用されている。
 それと同じように、モルガナも運営システムとして流用された、という事だろうか。
 そしてモルガナが運営システムであるのなら、ゲームマスターにとってもアウラの復活は致命的なはずだ。
 何しろモルガナ事件は、アウラの復活が終わりへの引き金となったのだから。
 システムが同一である以上、このデスゲームでも同様に終わりへの引き金になる可能性はある。


287 : 絶対包囲 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:56:33 dXILFuxc0

「ってことは、このデスゲームをどうにかするには、やっぱりアウラを復活させればいいのか?」
「いいえ。アウラを復活させるだけで破綻するほど、このデスゲームは甘くないでしょう。
 休憩前に軽く話したように、主催者たちもアウラ復活に対する対策をとっていないはずがありませんから。
 それをどうにかしない限り、アウラ復活は有効な手とはなりえないでしょう。
 そしてその対策の一つが、おそらくはスケィスです。
 スケィスはアウラの追跡者。いわばアウラの天敵のようなもの。一度はアウラをセグメントに分割したことからして、彼女に直接干渉することも可能なのでしょう。
 ならばゲームマスターは、スケィスがアウラのセグメントを回収または破壊するよう仕向ければいい。
 そうすれば自ら手を出すことなく、アウラのセグメントを処分できるのですから」

 そしてそれこそが、このデスゲームにおける対主催生徒会の敗北条件だ。
 アウラのセグメントが回収されてしまえば、デスゲームは滞りなく運営されてしまう。
 そうなってしまえば、残る手がかりはこの月海原学園に隠されていたというダンジョンだけだ。
 それもアウラと違い、確実性はほとんどない。
 だが逆に言えば、それらの対策を突破し、アウラを無事に復活させることができれば。

「あのクソ榊に一泡吹かせられるってわけか」
「ようするに、決して有利じゃないけど、不利ってワケでもないってことだな」
「そういうことです。
 まあもっとも、先ほども言ったように、アウラ復活への対策がスケィスだけのはずがありませんし、これはあくまで予測に過ぎないわけですが」

 しかし、何の手立てもなかった先ほどまでと比べれば、ずっと前に進んでいる。
 それに幸いというべきか、セグメントの一つは自分たちに支給されているのだ。
 これが奪われない限り、敗北条件が満たされることはないはずだ。

「加えて言えば、この番匠屋淳ファイルの存在によって、ある事実が浮かび上がってきます」
「ある事実?」
「このファイルは、聖杯戦争の参加者でなければまず気付けないような、閉鎖されたダンジョンで入手したものです。
 そしてこのダンジョンは、本来なら破棄されていたはずのものであり、存在しないはずのもの。
 その証拠に、ダンジョンにはエネミーこそ存在しましたが、道中のアイテムフォルダは空っぽでした。
 でありながら、デスゲームにおいてはほとんど意味をなさないこのファイルが、ボスエネミーを倒すことによってドロップされました」

 ウイルスによって制限時間を設けられたこのデスゲームにおいて、強力なアイテムの手に入らないダンジョンに潜る利益は薄い。
 なぜなら、ただポイントを稼ぐのであれば、ダンジョンに潜るよりもアリーナで戦う方が、移動の手間が省ける分効率が良いからだ。
 だというのに、わざわざ破棄されたダンジョンの、それもボスエネミーに、戦闘とは関係のないアイテムを持たせておく意味。それは――――

「それはすなわち、ゲームマスターたちは、決して一枚岩ではない、ということを表しています。
 最終的な目的が違うのか、それとも別の理由があるのかはわかりませんけどね」

 隠されていたという事は、それが重要であることを示すと同時に、その存在を誰かに知られたくないという事でもある。
 そしてわざわざデスゲームのマップに隠したという事は、その知られたくない相手とは通常であればマップに下りてこない存在――つまりゲームマスターとなる。
 逆に言えば、プレイヤーに対してであれば、知られたところで大きな問題にはならないと考えている、という事でもある。
 いや、道中のアイテムファイルではなく、ボスエネミーのドロップアイテムとして隠されていたという事は、むしろ知ってほしいことなのかもしれない。

「ならばこのファイルを隠した存在と接触できれば、このデスゲームの核心に迫ることができるかもしれません。
 そしてその存在は、僕たちがダンジョンを突破した時に現れる可能性が高いでしょう」

 ダンジョンの深さは、レオの予想では七から八層。
 エネミーも弱体化しているため、魔力の問題さえ解決できれば、そう時間をかけずに踏破出来るだろうとのことだ。
 つまり対主催生徒会の今後の方針は、ウイルスへの対策と、ダンジョンの探索。
 これに魔力問題の解決と、主催者が仕掛けたアウラへの対策の調査を加えた四つといったところか。
 セグメントの探索とプロテクトエリアの調査は、それらの――特にウイルスの問題が解決してからになるだろう。


288 : 絶対包囲 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:57:44 dXILFuxc0

「そこにハセヲの捜索も加えろ。
 あんにゃろう、今度会ったら一発ぶん殴ってやる」
「うわぁ……だいぶ怒ってるな……」
「だしかにハセヲさんの事もどうにかしなければいけませんね」

 それにシノンの事も心配だ。
 彼女はハセヲを追いかけていたが、無事に追いつけたのだろうか。

「では、ハセヲとシノン、両名の捜索も追加ですね。
 ウイルスについての問題も、彼らと話し合わなければいけませんし」

 確かにその通りだ。
 たとえメールの着信拒否によるウイルス対策が成功したとしても、現在それを知っているのは自分たちだけだ。
 シノンたちが今どういう状態なのかはわからないが、もしPKを行っていないのであれば、残り時間は半日を切っていることになる。
 ウイルスの発動を阻止するためにも、彼女たちと急いで合流する必要があるだろう。

「シノンといえば、あの娘、なかなかに愛らしい容姿をしておったな。
 あの耳といい、あの尻尾といい。何時ぞや出会った麗しのアタランテの系譜かと思ったぞ。
 あの娘に火急の用さえなければ、余のハレムに加えて存分に愛でてやりたかったところだ」
「なるほど。シノンさんはそんなおもしろ……いえ、可愛らしい容姿をしているのですか。それはぜひとも見てみたいものです」

 シノンの事を思い出したのか、セイバーがそう感想を口にし、それにレオが好奇心を示す。
 それを聞いて、この場にシノンがいなかったことに思わず安堵した。
 今彼女がここにいれば、今頃セイバーたちにどんな目に合わされていたことか。

「あらあらセイバーさんったら、まさかの浮気発言ですか? そんな事でよくご主人様を自分の物だーなんて言えたものですね。
 やはりご主人様に相応しいのはこの私。たとえ何があろうとご主人様一筋な、純情狐のタマモにございましょう」
「浮気とは失敬な! 余は遍く全ての市民を愛する、博愛の皇帝であるぞ。
 正妻の座に余がいるのであれば、愛人を一人や二人、余は広い心を以て受け入れる。故に、余も自分のハレムを作ってもよいのだ!」
「うわあ……。なんて王様発言でしょう。さすが皇帝特権:EX(チートスキル)を持つ人は言うことが違いますね」
「うむ! そうであろうそうであろう! もっと褒めるがよい!」
「ですから褒めてませんってば」

 そこへキャスターがからかう様な発言をし、またもセイバーとの言い争いが始まる。
 その光景に違和感を覚えなくなってきたあたり、自分も慣れてきたなぁ、と何となく思った。

 そんな風に今後の方針を纏めていると、ジローが不意に、あ、と声を漏らした。

「……なあレオ。そういえばこの会議って、榊たちに聞かれてないよな。ほら、盗聴とかログとか、そんな感じのでさ。
 モルガナの事とかファイルの事とか、あいつらに聞かれたらまずいと思うんだけど。
 最悪の場合、榊たちが直接俺たちを消そうとするんじゃないか? いきなりウイルスメールを送ってくるとかさ」

 そう言われてみれば、確かにその通りだ。
 ここは電子世界。相応の処理能力があるのなら、履歴を辿ることは難しいことではない。
 ましてやこのデスゲームの規模を考えれば、その手の監視プログラムはあって然るべきだろう。
 だがそれを聞いたレオは、余裕の笑みを崩さない。

「確かにその可能性がないとは言い切れません。
 一応監視への対策は講じてありますが、ゲームマスター相手にどこまで有効かもわかりませんしね。
 そしてウイルス自体への対策ができていない以上、そうなれば僕たちはお手上げです」
「おい」
「ですが、その可能性は低いと僕は見ています。
 なぜならこのデスゲームは、あくまでバトルロワイアルだからです。
 ゲームマスターたちの目的は不明ですが、わざわざPvPという形をとった以上、何かプレイヤー同士を殺し合わせる理由があるはずです」

 近い例でいえば、岸波白野たちが経験した聖杯戦争だ。
 あの戦いも月の聖杯(ムーンセル)を巡って、マスターたちが殺し合う生存競争だった。
 もっとも、わざわざモルガナをシステムに使っている以上、このデスゲームはムーンセルによるものではないとは思うが。


289 : 絶対包囲 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:58:50 dXILFuxc0

「それにゲームマスターが実力行使に出るのであれば、むしろ好都合です」
「好都合って、なんでだよ」
「簡単ですよ。モルガナの事もファイルを隠した存在の事も、あくまで予測に過ぎず、確証などないからです。
 だというのにゲームマスターが動いてしまえば、それは僕たちの予測が正解であることの証明になってしまう。
 故にゲームマスターは、直接的な対策を講じることができません。
 なぜなら最悪の場合、このデスゲームはプレイヤー同士の殺し合いではなく、プレイヤーとゲームマスターの戦いとなってしまうのですから」

 ゲームマスターには、プレイヤー同士を殺し合わせる何らかの理由がある。
 だというのにPvPがPvGMとなってしまえば、先ほどとは違う意味でこのデスゲームは破綻する。
 デスゲームを企画したゲームマスターからすれば、それも避けたい事態の一つのはずだ。
 ゆえにゲームマスターは、直接的な手出しは可能な限り避けるだろうとレオは語る。

「それに、危険だからという理由で足を止めては、このデスゲームを打破することは出来ません。
 いいですかジローさん。挑むこと自体に価値の有る窮地。それをいわゆる逆境と呼ぶそうですよ。
 そして逆境とは超えるために現れるもの。諦めさえしなければ、運命は覆し得るんです。
 ―――聖杯戦争の決勝で、白野さんが僕を倒した時のようにね」
 いつかどこかで聞いた誰かの言葉。
 それをレオは、何かに想い馳せるように口にする。

 岸波白野(最弱のマスター)とレオ(最強のマスター)によって行われた、聖杯戦争の決勝戦。
 自分にとっては勝てるはずのなかった、レオにとってはは負けるはずのなかった戦い。
 その定理が覆り敗北を知った王は、ほんの少しだけ、だが確かに何かが変わったのだろう。
 ―――と、そんな風に干渉を懐いていると。

「――――おや?」
 不意に生徒会室に、謎の電子音が響き渡った。
 これは何の音か、とレオに尋ねる。

「校門に仕掛けておいた警報(アラーム)の音です。
 白野さんの出迎え準備ができたのも、これのおかげなんですよ。
 ………そしてどうやら、招かれざる客が来てしまったようです」
 レオがそう口にすると同時に、モニターに校門の映像が映る。
 そこには、黒いスーツを纏いサングラスをかけた男の姿があった。
 ――エージェント・スミス。
 その男は、シノンから聞いたPKと特徴が一致している。

「うげ、マジかよ……」
「早速ヤベェのが来やがったか……!」
 ジローが顔を引き攣らせ、レインが戦慄とともにそう口にする。
 シノンから聞いた話では、スミスにはゼロ距離または視覚外から以外の銃撃が通じないという。
 射撃攻撃を主体とするらしい彼女からすれば、スミスは天敵もいいところだろう。

「白野さん、カイト、迎撃をお願いします。僕はここでジローさんたちを守ります」
 岸波白野へと向き直ったレオが、そう指示を出してくる。
 レオが自分とカイトへと声をかけたのは、スミスが同時に複数人存在できるからだろう。

 現在モニターに映っている男は一人だけ。
 あの男がスミスだと確定したわけではないが、もしそうならば、他のスミスがどこかに隠れているという事になる。
 その場合、非戦闘員のジローやユイ、スミスが天敵となるレインを守る人間が必要になる。
 そこで単騎での戦闘能力に最も優れているレオたちがユイたちを守り、複数のサーヴァントを従える岸波白野がスミスの相手をするのが適任となるのだ。

 問題は――――スミスを撃退するまでに、岸波白野の魔力が持つかどうか、という事なのだが。

「レインさん。白野さんに、あの礼装を渡してください」
「礼装? ああ、あれか。ほらよ」
 レオの言葉で、レインからその礼装が手渡される。
 受け取った礼装の名は、【赤の紋章】。聖杯戦争中、エネミー300体を撃破した記念にアーチャーがくれた礼装だ。
 その効果の〈boost_mp(150); 〉は、装備者のMPを150上昇させるというものだ。岸波白野が装備すれば、最大MPが1.5倍にもなる。


290 : 絶対包囲 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:59:16 dXILFuxc0

「ほほう。アチャ男さんってば、ご主人様にそんなものをお渡ししていたんですか。
 ですが! 礼装の効果は私のプレゼントした【妖狐の尾】の方が上。つまりこの戦い、私の勝利です!」
「なんと! アチャ男だけではなくキャス狐まで奏者に礼装をプレゼントしていたというのか!?」
「ええ。被ダメージ合計30万突破記念に、私の尾っぽの欠けた部分をちょちょっと加工したものを。
 そういうセイバーさんは、ご主人様にどんな礼装をプレゼントなさったのですか?」
「ぬ! そ、それはだな………あ、あれだ! 余を誰と心得る! 世界に名立たる第五代ローマ皇帝だぞ!? そこはむしろ、奏者が余にアイテムを贈るべきであろう!」
「黄金率・皇帝特権乙。まあもっとも、セイバーさんじゃ何を作ったところで合体事故を起こすのがオチでしょうけど。
 というわけで、ロクな贈り物もできない皇帝様は、購買部で強化体操服でも買っておいてくださーい」
「ぐぬぬぬっ……、む? いやまてキャス狐。貴様今、被ダメージと言わなかったか?
 ……という事は、まさかとは思うが、奏者がどんな雑魚やサーヴァントであろうと常にピンチだったのは、貴様のように礼装をプレゼントされることを期待してのことだったのか?」
「いやまさか。ご主人様に限ってそんなこと………なくもない、のかな?
 ご主人様ってば、こう見えて意外とSっ気がありますし。当事者兼被害者的に」
「どうなのだ奏者よ。事と次第によってはただではおかんぞ!」

 アーチャーと別れてから、すでに半日近くが経過している。
 慎二と行動を共にしている彼が、今どこで何をしているのか。それを知る術は自分にはない。
 その事を少し心細く思っていたのだが、この礼装があると、彼が支えてくれているような気がして安心できた。

「こらー! 無視するでなーい!」
「はいはい、敵も迫ってますし、コントはそこまでにしてそろそろ向かってくださいね」
「ぬぅ、致し方あるまい。だが忘れるな。あ奴を追い払った後で、じっくり話を聞かせてもらうからな!」
 レオの言葉に頷き、カイトに声をかけて生徒会室の扉に手をかける。
「ハクノさん、あの……」
 するとユイが、不安そうな表情で声をかけてきた。

 思えば、このデスゲームが始まってから今まで、ユイはずっと岸波白野と行動を共にしてきた。
 同じ学園内とはいえ、こうして別行動――それも戦闘を行うのは、彼女にとって大きな不安なのだろう。
 そんな彼女に対し、自分は――――

   安心してほしい。
  >ヘレンを頼んだ。

 現状、ヘレンと意思の疎通ができるのはユイだけだ。
 キリトのことで不安はあるが、自分やカイトが離れる以上、サチ/ヘレンを任せられるのはユイしかいない。
 それに自分は、岸波白野にできることをするだけだ。だからユイも、自分にできることを頑張ってほしい。

「! はい。ハクノさんも、頑張ってください!」

 その言葉に、頑張ってくる、と返し、今度こそ生徒会室を後にした。


     7◆◆◆◆◆◆◆


 カイトとともに生徒会室を後にし、急ぎ階段を駆け下りる。
 しかし一階に到着した時には、男はすでに昇降口へと辿り着いていた。

「ふむ。その様子では、どうやら私を歓迎しているわけではないようだな」
 警戒を顕わにする岸波白野の様子を見てか、男はそう口にした。
 だがそこには、驚きも困惑も、警戒を解こうとする様子もない。
 そんな男へ、ここへ何しに来たのか、と尋ねる。
 男は少なくとも、味方ではない。咄嗟の動きに対応できるよう細心の注意を払う。

「そうだな。強いて言えば、“仲間”を増やしに来た」
 そう口にする割には、男の表情はひどく冷めていた。
 言ってしまえば、岸波白野への関心がまるでない。
 むしろサングラスに隠れたその視線は、自分の背後にいるカイトへと向かっているような気がした。


 ――――“仲間を増やしに来た”、と男は言った。
 ではその仲間とはいったい何なのか。

 普通に考えれば、非戦闘区域となっているこの学園で集まるだろう仲間は、榊に反抗する人物のはずだ。
 なぜなら学園内にいるプレイヤーは、基本的に戦いを避けようとする人間のはずだからだ。
 そして逆に、デスゲームに乗った人物が手を組もうというのであれば、わざわざ学園内に来る必要はない。
 なぜならペナルティを厭うPKならば、学園の外から内の様子を探っているはずだからだ。


291 : 絶対包囲 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 11:59:39 dXILFuxc0

 だがこの男からは、学園内にいながら、戦いを避けようという気配がまるで感じられない。
 好戦的、とは少し違う。あえて言えば、やはり無関心。
 この男はモラトリアム中の学園内のルールなど、まるで気にも留めていないのだ。
 そんな男が捜している仲間とはいったい何なのか。
 それを探るために、最後の質問を投げかける。

  >1.あなたの名前を……教えてほしい。

「スミス。私の名前は、スミスという」

 ッ――――――!
 確定した。この男は間違いなく、シノンが警告していたPKだ。
 そしてこの男の言う仲間とはすなわち、“この男自身”に他ならない………!

「ふむ。その様子からすると、どうやら君たちは、すでに私のことを知っているようだな。
 だが同時に、私の存在を教えた人物はここにはいないらしい。
 あのハセヲという少年か、それともシノンか、あるいはアンダーソン君か……。
 私のことを教えた人物が誰かは知らないが、まあいい。それは君たち自身に聞くことにしよう。
 ――――君たちを、“私”へと上書きしてね」
 もはや隠す気もないのか、男――スミスは嗜虐的な笑みを浮かべながらそう口にする。

 ――――危険だ。
 やはりこの男は、モラトリアムのペナルティなど気にも留めていない。
 そう戦慄するとともに、いっそうスミスへの警戒を強める。
 だが――――

「いいのかね? “この私”にばかり意識を向けていて」

 スミスがそう口にした瞬間、ドガン、と上階から激しい音と振動が響いてきた。
 何事か、と思わずそちらへと意識を向けた。
 直後、ガゴン、と激しい金属音が響き渡った。
 慌てて振り返れば、保健室へと通じる廊下が“下駄箱によって封鎖されていた”のだ。
 そのことに驚愕する間に、金属音はさらに三度連続で響き渡る。
 見渡せば、反対側の廊下、外へと通じるガラス戸もまた、下駄箱によって封鎖されていた。

「まあ、こんなものか。これでNPCは、この戦いを見つけることは出来まい」
 下駄箱を使い一瞬で昇降口を封鎖した男は、両手をはたきながらそう口にした。

 なるほど。確かにこの状態ならば、NPCが昇降口の様子を確認することは出来ないだろう。
 驚くべきはその身体能力。
 よくよく見れば、下駄箱には殴り飛ばしたような、あるいは握り潰したような跡が見て取れた。
 つまり男は、ただその怪力のみで、四つもの下駄箱を瞬時に移動させたのだ。

 ……だが、重要なのはそんなことではない。
 問題なのは、先ほどから上階で響き続けている戦闘音。
 そしてシノンから聞き及んだスミスの能力が真実だとすれば、答えは一つだ。
 自分は――――

   レオを信じる
   生徒会室へと向かう
  >カイトに頼む

 カイトへと、ユイたちを助けに向かうよう指示を出す。
「……………………」
 その指示にカイトは頷き、封鎖された昇降口の唯一の出入り口。自分たちが下りてきたばかりの階段へと駆け戻る。

 生徒会室にはレオとガウェインがいる。
 二人の戦闘能力を考えれば、たとえスミスが何人いようと一掃できるだろう。
 だがしかし、あそこにはユイやサチ/ヘレン、ジローにレインまでもいる。
 戦闘能力のないユイたちを守りながらでは、さすがのレオたちでもカバーしきれない可能性もある。

「ほう。あの少年を向かわせた、という事はつまり、君が私の相手をする、という事だね」
 スミスはそう口にすると、ようやく岸波白野へとその関心を向けた。

 その視線に、ザワリと背筋が泡立つ。
 サングラス越しでありながら、男の視線はあまりにも無機質だった。
 あり大抵に言えば、“こちらを人間として見ていない”。そんな感じがする。
 ……いや、違う。
 シノンの話によれば、スミスはAI。そしてその関心は、未知のプログラムへと向けられているらしい。
 つまりスミスは、岸波白野を何の特別性も持たない、“無価値な人間”だと判断しているのだ。

 ……スミスの問いに答えるように、一歩強く踏み出す。
 確かに岸波白野には、レオのような特別な才能はない。
 カイトのように戦うこともできないし、ユイのような解析能力もない。
 ……けれど、岸波白野の価値を決めるのはおまえじゃなない。最後に“自分の価値”を決めるのは、自分自身の気持ちのはずだ……!


292 : 絶対包囲 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:00:11 dXILFuxc0

「そうか。ならば見せてもらおうではないか。君の定めた、“自分の価値”とやらを」
 そう宣告すると同時に、スミスが岸波白野へと勢いよく踏み込む。
 その一歩だけで、昇降口の床が砕け散る。

 対する岸波白野には、当然戦う力などない。
 だが――――と、左手に刻まれた令呪(きずな)を強く意識する。
 たとえ岸波白野に戦う力がなくとも、自分には誰よりも信頼し、助け合ってきた仲間たちがいる!
 だから自分は――――

   頼む、セイバー!
   頼む、キャスター!

 ――――いつだってその名前を呼び続ける!

      §

 ――――一方、少し時間を遡り。

「頼みましたよ、白野さん」
 岸波白野の出て行った扉に視線を向けながら、レオは小さくそう呟いた。
 その声が聞こえたのか、レインは怪訝そうな視線をレオへと向ける。

「なあレオ、本当にあの兄ちゃんに任せて大丈夫なのか?
 聖杯戦争でレオに勝ったっていうけどよ、とてもそうは見えないぜ?」
「確かに純粋な実力でしたら、白野さんより僕の方が上でしょう。魔術師(ウィザード)としてのスキルはもちろん、サーヴァントの能力もね」
 たとえ岸波白野のサーヴァントが三騎揃っていようと、実力で負けることはない、とレオは語る。
 それは紛れもない事実だ。それほどの実力差が、両者の間には存在する。

「ですが、白野さんの真価は単純な能力にはありません。
 相手の能力・思考を見極め、適切な指示を出す戦術眼。どのような窮地であっても前に進もうとする諦めの悪さ。
 逆境での大一番こそが、白野さんの得意分野です。彼が本気を出せば、互いの戦力差なんてお構いなしですよ」
「なるほどね」
 そうレオへと返すレインの脳裏には、一人のバーストリンカーが浮かんでいた。

 シルバー・クロウ。
 彼もまた、ここぞというところで強い爆発力を発揮する人間だった。
 岸波白野はそんな彼と同じ、普段は頼りなくとも、一番大事なところで仲間を支えてくれる人間なのだろう。

「それはそうとさ、俺たちも何かした方がいいんじゃないか?
 キシナミだけにあいつの相手を任せるってのもあれだろ」
「もちろんその辺りのことは考えてあります。エージェント・スミスの能力を考えれば、白野さんだけに任せるのはむしろ悪手でしょう。
 僕たちがすべきことは、他のスミスの存在を警戒しつつ、スミスの増殖能力への対抗策を探すことです。
 これをどうにかしなければ、たとえ何人スミスを倒そうと無意味ですからね」

 たとえその場にいた全てのスミスを倒したとしても、他の場所に一人でも生存していれば、その一人を起点にスミスは無限増殖していく。
 加えて全てのスミスを倒し尽すには、その戦闘能力が高すぎる。
 そんなスミスを倒すには、増殖能力そのものをどうにかするしかない。

 そしてこのデスゲームは仮にも“ゲーム”だ。
 無限増殖などというバランスブレイカーを、ゲームマスターがそのままにしておくはずがない。
 必ず何か対策が施してあるはずなのだ。
 ならば自分たちは、岸波白野が戦っている間にその対策を見つければいい。
 そのためには、岸波白野と接触中のスミスのデータを解析する必要がある。
 ゆえにレオはそれを行おうとコンソールを開き、

「っ!? エージェント・スミスと同一のプレイヤー反応が急速に接近! 位置は……上からです!」
「伏せてください!」
 唐突に放たれたユイの警鐘に、咄嗟にそう指示を下す。
 直後。
 ドガン、という激しい音とともに、生徒会室の天井が崩落した。

「ガウェイン!」
「ハッ!」
 即座に下される迎撃命令。
 粉塵が晴れ、天井からの侵入者が姿を現すよりも早く、太陽の聖剣が薙ぎ払われる。
 放たれた一撃は激しい剣戟を鳴り響かせ、粉塵諸共に侵入者を弾き飛ばし、勢いよく生徒会室の壁へと激突させる。
 その激しい衝撃に壁が崩壊し、瓦礫となって侵入者を埋め潰す。

「やったか!?」
「いえ、防がれました。手応えはありません」
「な、マジかよ!」
「皆さん、今のうちに退避を!」
「行きましょう、ヘレンさん!」
「――――――――」
 レオの指示に従い、ジローたちは急ぎ生徒会室から駆け出す。
 その背後からは、瓦礫が除けられ、崩れ落ちる音がした。


293 : 絶対包囲 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:01:40 dXILFuxc0

「ちっ! 一体どうやって入ってきやがった!」
「上ってことは、もしかして屋上からか? 最初からそこに隠れてたのか!?」
「いえ、違います。プレイヤーの反応は、さらにその上から接近してきました。つまり―――」
「空、ですね。単なる跳躍か、それとも飛行能力か……どちらにせよ、敵の能力はこちらの想定を上回っているようです」
 こうなった以上、白野さんと合流します。下階へと急いでください」

 敵の能力はこちらの地的優位を完全に上回っている上に、ペナルティも気に留めていない。
 拠点をいきなり崩された以上、このまま別行動をとっているのは危険だと判断し、レオたちは階段へと急ぐ。

「喝! お前たち、廊下は走るな!
 それと、今の騒音は―――何事ぉ!?」

 そんなレオたちの様子を見咎めた、階段前の廊下に佇んでいた柳洞一成が声を荒げた。
 直後、階段前の廊下の天井――すなわちレオたちの直上が、轟音とともに崩落した。

「っ!」
「キャッ!?」
「――――」
 レオは咄嗟に飛び退き、ユイとサチ/ヘレンもどうにか瓦礫を回避する。
「うわぁ!?」
「チィッ……!」
 だが一般人の範疇を超えない次郎は咄嗟に反応できず、レインが横から突き飛ばすことで瓦礫から逃れる。

「き、貴様! 神聖なる学び舎に何という事を、おおぉお――――!?」
 天井を崩落させた存在へと、柳洞一成が声を荒げて詰め寄る。
 だがその存在は一成の言葉など意に介さず、その胸倉を掴んで窓から外へと投げ捨てた。
 ………即ち、この場でペナルティを与える存在が退場させられた、という事だ。

 割れた窓ガラスから風が吹き込み、粉塵が晴れる。
 現れたのは、黒いスーツにサングラスをかけた一人の男。先ほど生徒会室のモニターに映し出されていた侵入者、エージェント・スミスだ。
 同時に背後の生徒会室から、黒いスーツにサングラスをかけた男、エージェント・スミスがもう一人現れる。
 しかも両者とも、その手に緑色の銃剣を構えている。

「まずいですね」
 分断された、とレオは呟く。

 状況は最悪だ。
 先ほどの崩落によって、ジローとレインは屋上へ通じる階段の方へと投げ出された。
 そして自分たちとジローたちとの間には、エージェント・スミスが立ち塞がっている。
 加えて自身の背後にもエージェント・スミス。迂闊に動けば、背後から攻撃されるだろう。
 一方をユイとヘレンに任せるとしても、ジローたちを助け出すには一手足りない。
 ならば―――助け出すことができないのであれば、自力でどうにかしてもらうしかない。

「ジローさんとレインさんは屋上へ退避を! ここは僕たちが抑えます!」
「ちっ、仕方ねぇ。おい、行くぞジロー!」
「あ、ああ。レオ、負けんなよ!」
 二人はレオの指示に頷き、階段を駆け上る。
 それを見届けつつ、レオは更なる指示を下す。
 その視線はすでに己が敵へ、彼の騎士はとうに聖剣を構えている。

「ユイとヘレンは生徒会室側を任せます。階段側は、僕とガウェインが」
「はい、任せてください!」
「――――――――」
 ユイを背後に、サチ/ヘレンが剣を抜き放つ。
 型も何もない、完全な自然体。まともな剣技など、とても期待できない。
 されどAIDA-PCたる彼女の反応速度・適応能力は、一般PCをはるかに上回る。
 そこにユイの支援が加わるとなれば、まず負けることはないだろう。
 ………相手が、並大抵のプレイヤーであるのなら、の話だが――――。

 頭上から再び轟音が響く。
 今度は天井の崩落はない。だが、微かにだが銃声が聞こえた。

「どうやら、時間をかけている暇はないようですね」
 エージェント・スミスがまた一人現れたことは、想像に難くない。
 逃げ場のない屋上で、ジローたちが一体どれだけ生き延びられるか。

「……ならば、即急に終わらせましょう。
 ―――ガウェイン」
「御意」
 己が主の命に、ガウェインが一足でエージェント・スミスへと肉薄し、聖剣を振るい。


 同時にもう一方のエージェント・スミスが、サチ/ヘレンへと銃撃を行い、その手の剣によって防がれる。
 その攻撃に呼応し、サチ/ヘレンは戦意、あるいは警戒を表すように、その体に黒い泡を纏わせる。
 サチに感染しているAIDA <Helen>は、現在サチが懐いている感情……すなわち、『死にたくない』という恐怖を行動の起点としている。
 ゆえに、サチへと攻撃を行った存在――エージェント・スミスは、ヘレンにとって完全な敵性存在となったのだ。


294 : 絶対包囲 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:02:01 dXILFuxc0

「ク…………」
 対するエージェント・スミスに貌には凄惨な笑み。
 それはまるで、自分たちなどまるで相手にならないと見做しているかのよう。

「行きますよ、ヘレンさん!」
「――――――――」
 ユイの声に従うように、サチ/ヘレンは剣を構え、エージェント・スミスへと接近する。
 その様子を見届けながら、ユイはこの場で自分にできることを模索し始めた――――。

      §

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ………」
 全速力で階段を駆け上がり、屋上へ通じる扉を開け放った。
 短距離とはいえ、上りでの全力疾走にジローの息が乱れる。

「は、情けねぇぞおいジロー。この程度で息乱すとか、あんたホントに、野球部か?」
「な、なんだと! そう言うニコだって、息乱してるじゃないか」
 同じように息を乱したレインの悪態。
 それに言い返しつつ呼吸を整え、なんとなしに視線を空へと向けた。
 校舎内の騒動など無関係とばかりに、視界に広がるのは一面の蒼。そこに浮かぶ、一点の黒。

「へ?」
 思わず間の抜けた声を上げる。
 青空に浮かんだ黒い点は急速にこちらへと接近し、構内へ通じる扉へと轟音とともに着弾した。

「うわぁ!?」
 ジローは衝撃に吹き飛ばされるが、即座に起き上がって屋上の出入り口へと視線を向ける。
 そこにはやはり、黒いスーツにサングラスの男、エージェント・スミスがいる。

「チィッ!」
 その姿を見たレインは舌打ちをし、ストレージから一丁のみのDG-0を取り出し、スミスへと向け引き金を四度引く。
 だがしかし、放たれた弾丸はスミスの残像を残すほどに素早い動作によって、その悉くが回避される。

「ちっ、やっぱ無駄か」
 聞き及んでいた通りの回避能力。
 たとえインビンシブルを使用したとしても、その攻撃のほとんどは回避されるだろうし、そもそもこの距離では貼りつかれて破壊されるのがオチだ。
 それにそもそも、この屋上では足場が崩落する危険性だって存在する。
 一応知覚外、またはゼロ距離からの射撃なら有効とは聞いているが、それを可能とするだけの運動能力が自分たちにはない。

「さて、どうすっかね」
 まさに絶体絶命。
 攻撃がまともに効かない敵を相手に、いったいどう戦えばいいというのか。
 ―――その答えはいたって単純。

   A.戦う
  >B.逃げる
   C.諦める

「どうするもなにも、こうするしかないだろ―――!
 そう声を荒げながら、ジローはレインの腕を掴んで駆け出す。
「じ、ジロー、テメェまさか!?」
 戦って勝てないなら、逃げるしかない。
 そしてこの屋上にある逃げ場は、一つだけだ。
 向かう先は屋上の端。それも、レインの攻撃によって、フェンスの壊れた地点。

 躊躇っている暇はない。
 二度味わったその恐怖を振り払うように、ジローは勢いよく屋上の縁から飛び出した。
 ――――十坂二郎、本日三度目の屋上からのダイブであった。


295 : 絶対包囲 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:02:38 dXILFuxc0


「っ、てててて。三度も落ちりゃ、さすがに慣れるもんだな」
 中庭の木をクッションにして落下の衝撃を和らげ、慣れた要領で素早く地面へと降りる。
「ッ……つぅ。あたしは慣れたくねーぞこんなの!」
 続いて降りてきたレインを受け止め、即座にその場から駆け出す。
 目指すは昇降口。そこでは今、岸波白野たちがスミスと戦っているはずだ。
 もちろん、自分たちが行っても、彼らに余計な負担をかけるだけだと思う。だが自分たちだけで、あのスミスをどうにかできるわけでもない。

 屋上を見上げてみれば、そこには自分たちを見下ろすスミスの姿。
 あんな突撃ができるのだ。あの男にとってはこの程度の高さ、大したものでもないだろう。
 だというのにすぐに追ってこないのは、その余裕の表れか。
 ならばその余裕の間に、キシナミたちのところへと辿り着く……!
 ――――しかし。

「な……うそ、だろ……?」
「おいおい、マジかよ……」
 キシナミがいるはずの昇降口は、下駄箱と思われる金属によって完全に塞がれていた。
 その事実に思わず呆然とする。これではキシナミと合流することができない……!

 だが、そう二人が放心している間に、スミスはすでに動き出していた。

「しまっ、ガッ―――!?」
「うわっ、ぐえっ……!?」
 背後から響く、ズシンという落下音。
 慌てて振り返ったその瞬間、伸ばされた両手に首を掴まれ、引きずられる。
 そしてある程度進んだところで、勢いよく投げ捨てられる。

「げほっ、ごほっ……ッ」
 咳き込みつつも急いで立ち上がり、周囲を見渡す。

 まず、月海原学園の裏門にスミスが立ち塞がっている。
 そして自分たちが今いるのは道路上。つまり学園(ペナルティエリア)の外だ。
 門をスミスが塞いでいる以上、学園内に戻るには、スミスを倒すしかない……!

「はっ。結局やるしかねぇってわけだ」
「ごめん、ニコ」
 あの時、屋上から逃げ出さず戦っていれば、あるいはレオが助けに来てくれたかもしれないのに、とジローは謝る。

「ハッ、んなこと気にしてる場合かっつーの。今はとにかく、生き延びることを考えろ」
 だがレインはそんなジローを鼻で笑い、DG-0を投げ渡しながら一歩前へと出る。
 覚悟を決めた、という事だろう。
 その少女の小さな背中が、ジローには不思議と大きく見えた。

「……ああ、そうだな。二人一緒に、絶対に生き延びてやるぞ!」
 受け取ったDG-0を構えながら、ジローもまた、一歩前へと踏み出す。
 自分も男だ。たとえレインが自分より強かったとしても、年下の女の子に守られてばかりじゃいられない。

「最後の会話は終わったかね。ならば始めるとしよう」
 そう口にして、スミスが自分たちへと歩き出す。

「行くぞ、ニコ!」
 それに応戦するように、ジローがDG-0の銃口をスミスへと突きつけ。
「テメェが仕切ってんじゃねえよ――――バースト・リンク!!」
 スカーレット・レインが紅い装甲を纏い、スミスへと向けて駆け出した。


 こうして今ここに、対主催生徒会の戦いが始まったのだ――――。


 やる気が 3上がった
 体力が 5下がった
 こころが 1上がった


296 : Action;交戦 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:03:27 dXILFuxc0


     8◆◆◆◆◆◆◆◆


  >頼む、セイバー!
   頼む、キャスター!

「任せよ! 一蹴に伏してくれる!」
 岸波白野の声に応じるように、虚空から紅い人影が出現する。
 その人影――薔薇色のドレスを纏い、炎のような大剣を構えた少女――セイバーは、現れた勢いのままにスミスへと切りかかる。

「ぬ!?」
 突如現れた存在からの一撃を、スミスは驚きを浮かべつつもその左腕で受け止める。
 だが仮にも剣の英霊の一撃。スミスはその一撃を受けきれず、大きく弾き飛ばされる。

「む!? この妙な手応え……」
 対するセイバーは、油断なくスミスを警戒しつつも顔を顰めていた。
 彼女自身が口にしていたように、スミスへと加えた一撃の手応えがあまりにも奇妙だったからだ。

 第一に、スミスはセイバーの一撃を、躊躇うことなくその腕で受け止めた。
 これは自身の防御力に自信があるのであれば、そうおかしなことではない。
 だがそれでも、生身で受けるようなことは普通行わない。盾や籠手などの防具によって防ぐだろう。
 だがスミスは、明らかにその肉体だけでセイバーの一撃を受け止めたのだ。

 そして第二に、セイバーがスミスの左腕を切りつけた時、その攻撃に対する強い反発力が感じられたのだ。
 それは純粋な物理強度によるものではなく、何かしらの概念による抵抗だった。
 だからだろう。セイバーの一撃を生身で受けたにもかかわらず、スミスの左腕はいまだに胴体と繋がっていた。
 傷を負い血こそ流れているが、おそらく動かすことに支障はないだろう。

「なるほどな。己が肉体に加え、その奇妙な“守り”が貴様の武器というわけか」

 スミスに傷を負わせることができたのは、セイバーがサーヴァントであるが故。
 他のプレイヤーでは、よほど強力な武器か、あの“守り”を抜く何かを用いない限り、スミスに傷を負わせることは困難だろう。
 加えて先ほど垣間見せた身体能力。生半可な防御では貫かれ、容易くHPを全損することだろう。
 ……そんな存在が半ば無限に増殖するというのだから、真正面から普通に戦っていてはまず勝ち目はない。
 ここはやはり、スミスへの対抗策をレオたちが見つけてくれることを期待するしかない。
 ……問題は、そのレオたちもまた、別のスミスに襲われている可能性があるという事だが…………。

 その問題を、深呼吸をして頭の隅に追いやる。
 すでにカイトに託している以上、彼らに対し自分たちができることは何もない。
 今は目の前にいるスミスを倒すことに集中しよう。
 岸波白野はそう考え、目の前に待機するセイバーへと指示を与えた。


「――――――――」
 対するスミスも、唐突に表れたセイバーを警戒し、その様子を観察していた。

 この少女は何者なのか。
 少年の呼びかけとともに、虚空から唐突に表れたこと。
 半ば不意打ち気味だったとはいえ、自身の守りを超えるほどの攻撃力。
 どちらも決して侮れるものではない。

 現在現在解っていることは二つ。
 この少女はその気配からして、現在三階で“別の自分”と戦っている騎士と同じ存在であり、
 そして同時に、その背後に控えている少年と浅からぬ関係がある、という事だけだ。

「少し、君に興味がわいたよ、少年」
 一見ではNPCと大差ない容貌だというのに、こんな所にも未知はある。

 ――――ならば。
 この未知に溢れた世界を支配できれば、いったいどれほどの力が得られるのか。
 それを思い、ほんの少しだけ、スミスは榊に感謝したくなった。

 システムアシストに従い、【静カナル緑ノ園】を取り出し構える。
 戦いを紅い少女へと任せた以上、少年の戦闘能力は低いと思われる。ならば少女を無力化してしまえば、少年を上書きするのは容易いだろう。
 少女の正体と少年との関係は、そうして上書きした後で確かめればいい。
 そう判断を下し、スミスは紅い少女――セイバーへと向け銃剣の引き金を引いた。


297 : Action;交戦 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:03:47 dXILFuxc0

      §

「――――はっ!」
 スミスの銃剣から二度三度と放たれる弾丸を、セイバーはその大剣で事も無げに防ぐ。
 ただの銃撃では、その弾丸をセイバーに届かせることなどできはしない。
 そのことをスミスも理解したのか、銃撃はすぐに止む。

「返上するぞ!」
 同時にセイバーがスミスへと距離を詰め、その大剣で薙ぎ払う。
「ぬうん……!」
 その一撃をスミスは銃剣で防ぎ、怪力を以て強引に受け流す。

 即座に翻る真紅の大剣。
 スミスが反撃に転じるよりも早く、セイバーがその刃を袈裟に振り下ろし、そのまま体を回転させさらに一閃する。
 だがスミスは一撃目を弾き、続く二撃目を大きく体を沈めることで回避。そしてその姿勢から勢いよく銃剣を振り上げ、セイバーへと切りかかる。
 対するセイバーは再度大剣を振り下ろすことでスミスの反撃を迎撃する。結果大剣と銃剣が激突し、その衝撃で両者ともに弾き飛ばされる。

「ぬぅ……貴様、なかなかやるではないか」
 僅かに悔しげな表情を浮かべながら、セイバーはそう声を漏らす。

 セイバーはサーヴァントだ。その戦闘能力は人間では及ぶべくもない。
 ましてや真正面から戦いを挑むなど、普通に考えれば勝負になるはずがない。
 だというのにスミスは、真正面からセイバーと打ち合って見せた。
 おそらくスミスを守る“力”が理由だろうが、それでも驚嘆に値する。

「だが―――ただ力が強い、ただ守りが堅い程度では、余と奏者を倒すことなどできん。
 それを我が剣を以て教えてやろう。―――覚悟せよ!」
 スミスへと剣を突き付け、そう宣言するや否や、セイバーは一足でスミスへと接近した。

「天幕よ、落ちよ! ―――“花散る天幕(ロサ・イクトゥス)!”」
 高速の踏み込みから放たれる強烈な一閃。
「ぬ! ぐっ……!」
 スミスは咄嗟に銃剣を盾にし、真紅の軌跡を残す一撃を防ぐ。
 だがその衝撃に、次の動作が一瞬遅れ――その隙に、セイバーが更なる一撃を繰り出した。

「さあ、踊ってもらうぞ!」
 《喝采は剣戟の如く(グラディサヌス・ブラウセルン)》。
 放たれた高速の三連撃は、銃剣で守りを固めるスミスへと容赦なく襲い掛かり、その防御を切り崩す。
 強化版のスキルを使わなかったのは、その防御を崩すのが目的だったからか。
 いずれにせよ、セイバーの大剣はスミスの銃剣を弾き飛ばし、その体勢を完全に崩させる。

「もらったぞ!」
 直後繰り出されるセイバーの剣舞。
 舞い踊るような無数の斬撃が、スミスの体を切り刻む―――が、しかし。

「ちっ、浅いか!」
 苛立たしげな舌打ちとともに、セイバーがスミスから距離をとる。
 スミスの体に刻まれた無数の傷は、しかしその“守り”よってどれもが浅い。
 何の強化もされていない通常攻撃では、スミスに致命傷を与えることは難しいのだ。

「ふむ。今度は私の番だな」
 スミスはそう口にすると、再びセイバーへと踏み込んでくる。
 ここは――――

   迎え撃て、セイバー!
  >下がれ、セイバー!

「ぐぬぬ……、致し方あるまい」
 岸波白野の指示に、セイバーは悔しげな表情ながらも大きく飛び退く。
「逃がすと思うかね?」
 それをさせじと、スミスがより強く踏み込んでセイバーへと詰め寄る。その瞬間。

「―――氷天よ」
 両者の間に青い人影が割り込み、
「砕け―――!」
 スミスの体が氷塊に覆われ、弾き飛ばされた。

「グッ、ぬぅ……っ!?」
 スミスは素早く距離をとりつつ体勢を立て直し、新手の正体を確かめる。
 そこには青い衣装を纏い狐の耳と尻尾を生やした女性が、セイバーと入れ替わるように武器を構えていた。

「選手交代!
 呼ばれて飛び出て即参上! ご主人様を傷つけようとする不届き者は、裂いて燃やして氷漬け。
 サーヴァント・キャスター、ご主人様(マスター)の敵をバリバリ呪うゾ♪」


298 : Action;交戦 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:04:27 dXILFuxc0


     9◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 白亜の剣が降り抜かれ、激しい剣戟が鳴り響く。
 あまりにも強烈なガウェインの剣圧に、スミスの体が銃剣による防御ごと弾き飛ばされる。
 だが当然、ガウェインの攻撃はそれで終わらない。
 スミスが体勢を立て直すより早く、一足でスミスの下へと踏み込み、聖剣を一閃する。
 スミスは即座に銃剣を盾にするが、銃剣は容易く弾かれ、その胴体を晒してしまう。

「受けていただく!」
 即座に放たれる聖剣による刺突。
 柄尻をたたくことで加速されたその一撃は、スミスの胴体へと高速で迫る。
「ぐ、ぬぅ……ッ!」
 だがスミスは、咄嗟に上半身を仰け反らせその一撃を回避する。
 結果聖剣はスミスの肩口を切り裂くにとどまり、次なる一撃が来るより早くスミスはガウェインから距離をとる。

 ガウェインとスミスの戦いは、完全にガウェインが優勢だった。
 岸波白野のセイバーを上回るその筋力と技量は、十分にスミスの“守り”を上回る攻撃力をガウェインへと齎していた。
 加えて、セイバーとガウェインでは扱う武器も違う。
 セイバーの剣が彼女自身が鍛えたものなら、ガウェインの剣は彼のエクスカリバーの姉妹剣。武器としての性能など比べるべくもない。
 これで十二分。スミスが単騎でガウェインに勝てる可能性など、もはやどこにも存在しなかった。
 …………しかし。


 宝剣による一撃が、スミスの左腕に受け止められる。刃を受け止めたその腕には傷一つついていない。
 同時にスミスが右拳による反撃を放ってくる。
 サチ/ヘレンは体を右に逸らすことでその一撃を回避し、スミスへと向き直ると同時に宝剣を振り抜く。
 しかしその一撃は、またもその腕によって防御される。
 再び放たれるスミスの拳。
 サチ/ヘレンは咄嗟に飛び退くことで対処するが、回避し切れずダメージを軽減する程度に留まる。

「ッ――――――――」
 その顔は無表情のままだが、漏れ出るヘレンの声は明らかに苦痛を表していた。
 それも当然。咄嗟に飛び退いて軽減したというのに、スミスの一撃はサチのHPを二割も削っていたのだから。

「ふむ。そこの騎士と比べると、君はあまりにも弱いな。
 勢い余って殺さぬよう気を付けなければ。サンプルは多いに越したことはないからな」
 対するスミスは、余裕の表情でそう口にする。
 実際問題、サチ/ヘレンの攻撃は効いていないのだから、それも当然だろう。

 しかしその言葉はいったいどういう意味なのか。
 スミスの能力こそ知っていても、その目的を知らないユイたちには察することができない。
 だが少なくとも、無事に済まないことだけは確かだろう。

「いったいどうすれば……!」
 あまりにも不利な状況に、ユイはそう自問する。

 二人のスミスによる挟み撃ち。
 ガウェインは問題なくスミスに勝てるが、サチ/ヘレンではスミスに敵わない。
 自身の武装は父の剣であるダークリパルサーと空気撃ち/三の太刀のみ。
 射撃攻撃を無効化し、AIDA-PCであるサチ/ヘレンの攻撃すら効かないスミスに、自分の攻撃が通用するとは思えない。
 そしてこちらの攻撃が効かない以上、自分たちはガウェインがスミスを倒すまで耐えるしかない。
 だから問題は、それまでの間、自分たちが耐えきれるかどうかなのだが………。

「さて、今度はこちらから行かせてもらおう」
 そう口にすると同時に、スミスがサチ/ヘレンへと踏み込んでくる。
 スミスの一撃は、ダメージを軽減したうえでHPを二割も削る。まともに受ければ、残り四割のHPなど簡単に消し飛ぶだろう。

「――――――――」
 それを迎撃するためか、サチ/ヘレンは宝剣に黒泡を集め、振り下ろす。
 直後刀身から無数の黒い手が現れ、スミスへと襲い掛かる……がしかし。

「残念だが、その攻撃はすでに知っている」
 スミスは一足で天井付近まで跳躍し、黒手による攻撃を回避する。
 紙一重の回避や防御では危険だと理解しているのだ。
 そして跳躍した勢いで距離を詰め、そのままサチ/ヘレンの前へと着地する。


299 : Action;交戦 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:05:16 dXILFuxc0

「――――――――!」
「無駄だよ」
 ヘレンは咄嗟に剣を振り上げるが、その一撃はスミスの左手に容易く受け止められる。
 同時に振りかぶられるスミスの右手。その目的から殺すつもりはないらしいが、スミスがこちらのHPを把握しているはずもない。
 その一撃は、確実にサチのHPを全損させ得るだろう。

「ヘレンさん!」
「ちっ! ガウェイン!」
「くっ、申し訳ありません!」
 思わず上がるユイの悲鳴。
 レオがガウェインへと指示を出すが、ガウェインは間に合わない。
 ガウェインと相対しているスミスが、銃剣でレオを狙っているためだ。

「さあ、君も“私”になりたまえ」
 止める者なく繰り出される貫手。
 スミスの一撃は容赦なくサチ/ヘレンの胸部へと迫り、
「ぬっ……!?」
 横合いから襲い掛かった蒼い炎から、スミスが飛び退くことによって防がれた。

「アアァァァアァァ……」
 蒼い炎を放った人物――カイトは、サチ/ヘレンを庇うように、スミスの前に立ち塞がる。
 その両手には、三尖二対の禍々しい双剣。サチ/ヘレンの代わりにスミスと戦うつもりなのだろう。
 ―――だが。

「……カイトさん。ここは私達だけで頑張ります。
 だからカイトさんは、ジローさんたちを助けに行ってください」
 確かな不安を覚えながら、それでもユイはカイトにそう告げる。

 カイトはサチ/ヘレンよりも強い。
 二人がかりなら、ガウェインがスミスを倒すまで耐えきることも可能だろう。
 もしかしたら、スミスを倒すことだって可能かもしれない
 ………けれど、それでは助からない人物が、対主催生徒会には二人いる。

 ジローとレイン。
 スミスの襲撃によって分断された彼らには、スミスに対抗できる力が自分たち以上にない。
 単純な戦闘能力で言えば、レインはサチ/ヘレンより強いだろう。だが彼女の主力である射撃攻撃が、スミスには全く効果がないのだ。
 つまりレオとガウェインの助力がある自分たち以上に、彼らには助けが必要なのだ。

 それに何より、自分は白野に、サチ/ヘレンの事を頼まれたのだ。
 けれど自分は、自分ができることを、まだ何もできていない。
 ……そう。自分にはまだ出来ることがある。それをやらずに諦めるのは嫌だった。

「私達なら大丈夫です。だから―――」
「……………………」
 肩越しに振り返るカイトの視線を、まっすぐに見つめ返す。

 Auraの騎士であるカイトの目的は、ユイの持つアウラのセグメントを護ることだ。
 ユイを守ろうとすることも、岸波白野の指示に従うのも、それが大前提となっている。
 ゆえに、そのセグメントを危険に晒すような指示に従う理由は、カイトには存在しない。
 そして今カイトにジローたちを助けに行かせることは、自分を、ひいてはセグメントを危険に晒すことに等しい。
 それを理解したうえで、ユイはカイトにジローたちを助けてほしいと願い出た。

「……………………」
 カイトはそんなユイをじっと見つめ、そして静かに頷いた。
「ありがとうございます!
 ジローさんたちは今、裏門付近にいるみたいです。エージェント・スミスの反応も近くにありますので、気を付けてください!」
 喜びに声を上げながら、ユイはそう告げる。
 それを聞いたカイトは、即座に階段へと駆け出した。

「良かったのですか?」
「もちろんです」
 レオの問いかけにユイはそう答える。

 カイトが自分の願いを聞いてくれた理由はわからない。
 だが自分を信頼してくれたのだとすれば、その信頼に応えなければならない。
 そう気持ちを新たにして、ユイはそのアバターをナビゲーション・ピクシーから本来のものへと変更する。
 同時にその腕に抱え込まれた形で出現する、黒い鞘に納められた白銀の剣。
 ユイの父のものであるその剣は、しかし、彼女には重すぎて振るうことは難しい。
 だがユイが本来の姿になったのは、自身が直接戦うためではなく、自分がただ守られるだけの存在ではないという事を示すためだ。

「そうですか。では、そちらのスミスは任せましたよ、ユイ」
 その覚悟を見て取ったレオは、そう口にしてユイへと背中を向ける。
 自分が戦っているスミスに専念する、という事なのだろう。

「ありがとうございます、レオさん」
 その背中に礼を述べ、ユイは改めてスミスへと向き直る。
 対するスミスは、そんなユイたちへと詰まらなさ気な視線を向けていた。


300 : Action;交戦 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:05:40 dXILFuxc0

「ふむ。君たちで私に勝てると、本気で思っているのかね?」
「もちろんです。私達はまだ負けてませんから。
 ですよね、ヘレンさん」
「――――――――」
 嘲るようなスミスの問い。
 それに言い返すユイの声に、サチ/ヘレンは剣を構えることで答える。

「そうか。ならば仕方ない」
 そんな二人の様子に、スミスはそう嘆息する。
 無駄な抵抗などしなければ、楽に“私”になれたのに、と。
 だが少女たちは、あくまで抵抗を続けるという。
 ならば最悪、彼女たちを殺すことも考慮に入れる必要があるだろう。
 何しろ“もう一人の私”と戦っている騎士は難敵だ。“私”一人では倒せないだろう。
 ゆえに早急に少女たちを処理する必要がある。
 そう結論し、スミスはサチ/ヘレンへと向け踏み出した。

「行きますよ、ヘレンさん!」
「――――――――ッ!」
 対するサチ/ヘレンもまた、ユイの声に応じスミスへと向け駆け出す。

 自分たちがどれだけ意気込もうと、スミスが強大な敵であることに変わりはない。
 それでも、ここで引き下がるわけにはいかなかった。なぜなら自分たちはまだ戦えるからだ。
 そして戦えるのなら、諦めるわけにはいかない。
 カイトとレオは、自分たちを信じてこの戦いを任せてくれたのだから。


    10◇


「オラァ……ッ!」
 紅いスパイク付きの拳当を填めた右拳を、目の前の男めがけて全力で振り抜く。
 如何に接近戦の苦手な『赤』とはいえ、仮にもレベル9er(ナイナー)の攻撃だ。そこいらのバーストリンカーよりは強力である自信はある。
 直撃させられれば、多少なりともダメージは与えられるはずだ。
 ………直撃させられれば、の話だが。

「ふん」
 自身に向け放たれたその一撃を、スミスは鼻で笑いながら受け止める。
 スミスがこれまでに経験してきた攻撃と比べれば、レインの一撃はあまりにも遅く、そして非力(よわ)い。
 続けて繰り出された左拳も難なく受け止め、そのままレインを拘束しに掛かる。

「させるか!」
 だがそこへ、ジローからの援護射撃が行われる。
 スミスは咄嗟にレインから手を放し、バレットドッジによる回避を行う。
 解放されたレインはすぐさま蹴りを行うが、当然それもスミスの腕に防がれる。
 だが蹴りの反動を利用し、レインはスミスから距離をとる。

「はっ、まだまだァ……!」
 そして呼吸を整えるのもそこそこに、再びスミスへと突撃する。
 ……自身がどれだけ接近戦を挑んだところで、スミスには通用しないと理解していながらも。


 そもそもレインの本領は、強化外装群【インビンシブル】の強力な火器で敵を圧倒する遠距離飽和砲撃だ。
 ましてやペナルティにより制限すら掛かった攻撃が、スミスに通用するはずなどない。
 だというのにレインがスミスへと接近戦を挑んでいるのは、偏にスミスに遠距離攻撃が効かないからに他ならない。
 遠距離攻撃が効かない以上、スミスに対抗するには接近戦を行うしかないのだ。

 ……だが、それでは決して勝てない。
 レインはあくまでも遠距離型であり、接近戦を得意とするスミスに敵う道理などないからだ。
 ましてやただの人間に過ぎないジローに、スミスに対抗する術などあるはずがない。
 つまり、どうやったところで勝ち目はない。これは初めから勝敗の解り切った戦いなのだ。

 ………ならば、その道理を覆すしかない。
 ルールを冒し、定理を覆すその力を、レインは知っている。否、持っている。
 即ち、心意技(インカーネイトスキル)だ。
 彼女たちがスミスに打ち勝つには、同じ心意でしか防げない攻撃によって、その防御を突破するしかないのだ。

 しかしただ闇雲に心意技を放ったところで、即座に対処されることは容易に想像がつく。
 ゆえに、最初の一撃で勝負を決する必要がある。
 そのためにも、スミスを防御は可能であっても、回避は不可能な状態へと持ち込まなければならない。
 レインが無謀な接近戦を挑んでいるのはそのためだった。


301 : Action;交戦 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:06:15 dXILFuxc0


「ラアッ……!」
 先ほどと何ら変わらない、拳をただ振り回すだけの一撃。
 だが掴み取ってはまた妨害されると踏んだのか、スミスはその一撃を左腕で防御する。
 拳当のスパイクがその腕に突き立つが、ステータスの差か、傷一つつくことはない。

 同時に放たれるスミスの右拳。
 レインはそれを腕ではなく拳当てで受け止め、その衝撃に大きく弾き飛ばされる。
 だがそれすら、明らかに加減した一撃。
 上空から突撃してきた時の事を考えれば、本気の一撃なら、完璧にガードしたところで弾き飛ばされるだけでは済まないはずだ。

「チィッ。こんなもん、青か緑に素手ゴロ挑んでるようなもんじゃねぇか!」
 防御された手応えから、自身の打撃では傷一つ付けられないことを悟り、レインはそう愚痴をこぼす。

 いかなる理由からか、スミスは手加減している。
 本気を出せば自分たちなど簡単に制圧できるだろうに、いまだに攻勢に出る余裕があるのがその証拠だ。
 キシナミの話から推測するなら、自分達をスミスへと変えようとしているのだろうが……

「冗談じゃねぇ! あんなヤツの一人に変えられて堪るかってんだ!」

 とにかく、スミスが攻撃に積極的でないのはそのためだろう。
 自分達を無力化できる、その力加減を図っているのだ。
 ならその加減を掴む前、自分達を嘗めて油断している今のうちに、心意の一撃を叩き込むしかない。

「ジロー、合わせろ!」
「わかった!」
 ジローの返事を背に、スミスへと何度目かの突撃を行う。
 策など何も伝えていない一方的な声掛け。
 だがこいつなら合わせられるはずだという、不思議な確信があった。

「ふむ。馬鹿の一つ覚え(one-track mind)、というやつかね?
 それでは私には敵わないことなど、すでに理解していると思うのだが」
「うっせぇ! やってみなきゃわかんねぇだろ!」
 余裕を見せるスミスへと声を荒げて言い返す。
 腹立たしい話だが、それが許されるだけの実力差が、ヤツと自分たちの間にはある。

 ……だが、それもこれで終わりだ。
 その鉄面皮に、吠え面をかかせてやる……!

「これでも、食らいやがれ!」
 スミスの目前に踏み込み、レインは右手に渾身の力を込める。
 右腕が肘まで炎につつまれ、眩く発光する。
 誰の目にもわかる必殺技の発動。
 それを今までにない大振りで振り被り、

「ぬ……!」

 次の瞬間、スミスの視界から、レインが消えた。
 否。その動きは見えていた。ただ反応が遅れただけ。
 レインは今、自身の左側へと移動した。
 故に、その動きを追跡しようと左側へ振り返ろうとして、

「っ―――!?」
 “右側から聞こえた”音に、咄嗟にそちらへと振り返った。
 そこには燃え盛る右拳を振り被るレインの姿。
 咄嗟に迎撃しようと拳を振り被るが、
「そこだ!」
 狙い澄ましたかのようなジローの銃撃によって妨害された。

「ちっ!」
 弾丸自体はバレットドッジで回避した。
 だが完全に行動が遅れた。
 もはやレインの攻撃を回避することは出来ない。
 そう判断し、左手を右肩の後ろへと伸ばし――――

「《輻射拳(レイディアント・ビート)》ッ――――!!!」

 その一撃が直撃し、ズガンッ、と激しい衝撃音が響き渡たる。
 スミスの体は大きく弾き飛ばされ、隣家の塀を粉砕し、その瓦礫に埋もれる。

「やった!」
 その光景に、ジローが喝采を上げる。
 今の一撃は確実にスミスへと大ダメージを与えたと確信したのだ。


302 : Action;交戦 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:06:37 dXILFuxc0

 《輻射拳》を発動すると見せかけてからの《炎膜現象(パイロプレーニング)》による回り込み。
 スミスがレインを見失ったところでジローの援護射撃を行い、改めて《輻射拳》を叩き込む。
 話し合いもなく組まれたその作戦は、完璧なまでに成功した。
 心意が心意以外での防御が不可能である以上、スミスには致命的なダメージが与えられている―――はずだった。

「いや……やってねぇ……」
 レインはそう、絞り出すような声で否定する。
 それは実際に攻撃したが故の確信だった。
 その証拠に、

「ヤロウ……心意もなしに、心意を防ぎやがった……ッ!」

 瓦礫を押しのけ、スミスは平然と立ち上がっていた。
 その左手には、レインの装備する拳当と似た意匠の、緑玉石の銃剣。
 先ほどまでは装備していなかったその銃剣が、心意の一撃を弾いたのだとレインは確信する。

「今のは危なかった。あと少し防御が遅れれば、大ダメージは免れなかっただろう。
 どうやら、私の悪い癖のようだ。表面的な能力で相手を測ってしまい、数値外の爆発力を度外視してしまう。早急に直さなくてはな。
 だがこれで、君を取り込むことが出来そうだ。前の時は失敗してしまったからな。安心したよ」
「前の時……だと?」
「ああ。君とよく似た、ネジのような外見の紅いロボットだったよ。
 少しばかりやり過ぎてしまってね。まったく、死体が残らないというのも善し悪しだよ」
「は……そういう事かよ」
 そのめぐりの悪さに、レインは思わず乾いた笑いをこぼす。

 つまりはこういう事か。
 スミスは一度バーストリンカーと……おそらくはクリムゾン・キングボルトと戦っていた。
 だからこそ、自分が必殺技を使う可能性を予期し、“予想外の攻撃”に対する最低限の警戒をしていた。
 その結果、スミスの防御は間に合い、そして偶然にも心意を防げる武器を装備していたため、防ぎきることができたのだ、と。

「さて、悪足掻きはもう終わりかね? だとしたら、こちらとしても助かるのだが」
「っ…………!」
 そう言って平然と踏み寄ってくるスミスに、レインは思わず後退りする。

 いかなる理由から、あの銃剣は心意を無効化する。
 そして一度心意技を見せた以上、スミスはそれすら計算に入れて対処してくるだろう。
 つまりこれで、完全に打つ手はなくなってしまったという事だ。
 …………だが。

「終わりなワケ、ないだろ……!」
「ジロー、おまえ……」
 後退りしたレインと入れ替わるように、ジローが前へと踏み出す。

 そうだ。俺には大切な約束がある。
 守るって決めた恋人がいて、生き残らなきゃいけない理由がある。
 なのに………まだ出来ることがあるのに、そう簡単に諦められるわけがない。
 だから――――パカに再び会うためなら、ドラゴンとだって戦ってやる………!

「ほう? 一体君に何ができると?
 君が何をしようと、無駄な足掻きにしかならないと思うが」
「無駄かどうかは、やってみなきゃわからないだろ!」
 言うや否や、ジローはスミスへと飛び掛かった。

「あ、おいバカ……!」
 その無謀な行いに、レインは思わず声を荒げる。
 いかに野球をやっているとはいえ、一般人に過ぎないジローの身体能力などたかが知れている。
 心意を弾く武器があったとはいえ、その一撃を防げるような奴に、ジロー程度の攻撃が通じるはずがない。
 ジロー自身、それを理解していないはずがない。なのにどうして、スミスへと挑むような真似をしたのか。

「くらえ……!」
 ジローは一丁しかない双銃の、その銃身から伸びる刃を、渾身の力でスミスへと叩き付ける。
 だがその一撃は、レインの予想に違わず、容易くスミスの腕によって防がれる。


 ………当然、そんなことはわかっていた。
 レインとスミスの戦いを見ていたのだ。自分の攻撃が効かないことなど予想済みだ。
 だがもう一つ、ジローには気づいていたことがあった。

 確かに自分の攻撃は、スミスには効かない。
 自分の行った援護射撃は全て躱され、双銃の刃による攻撃もこうして防がれている。
 ――――だが逆に言えば、銃撃を回避するという事は同時に、“中れば有効だ”という事でもあるのだ。
 そして自分の銃撃を回避している時、スミスは反撃はおろか、防御すら行わなかった。
 反撃や防御の動作は、必ず回避行動が終わってから。
 それがもし、ただ行わなかっただけではなく、“できない”のだとしたら――――


303 : Action;交戦 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:07:23 dXILFuxc0

「今だっ!」
 攻撃が防がれた瞬間、ジローは双銃の引き金を引き絞る。
 直後、銃声が響き渡り、スミスめがけて銃弾が放たれる。

 もし銃撃の回避中に反撃や防御ができないのだとしたら、その逆、防御や攻撃中も、銃撃の回避は出来なのではないか。
 それがジローの予測した、スミスを倒すための最後の手段だった。
 そしてその狙いは正しく、スミスはバレットドッジによる回避を行わず――――

「狙いは悪くない。が、“その手”はすでに経験済みだ」
 ジローの放った銃弾は、ただ純粋な身体能力のみによって回避された。

 確かにジローの予測通り、『救世主の力の欠片』によって物理攻撃を弾くスミスに銃撃は有効だ。
 その理由は、スミスがそれこそ身をもって、銃というものの脅威を認識しているからだ。
 簡単に言ってしまえば、“生身で銃弾を弾くイメージができない”のだ。
 『救世主の力の欠片』を得る以前からの能力ではあるが、ある意味ではそれゆえの銃撃に対する絶対回避能力(バレットドッジ)だといえよう。

 だがこの能力にも欠陥はある。
 銃撃の回避に特化しているが故に、それ以外への対処ができないのだ。
 そしてシノンのバレットドッジ中の近接攻撃も、ジローの近接攻撃を防御させることによるバレットドッジ封じも、どちらもその欠陥を突いたもの。
 スミスに銃撃を行う際の選択としては、非常に有効な手だと言えるだろう。

 ……だが、一度でもその欠陥を経験したのであれば、それに対応するのは当然のこと。
 そして、たとえバレットドッジが発動せずとも、体の動きが封じられるわけではない。
 自身に“そういう攻撃”が有効であると理解していれば、十分に対処は可能なのだ。
 そう。その欠陥をシノンの手によってすでに一度突かれていたが故に、ジローの決死の攻撃は予測され失敗してしまったのだ。

「そして生憎だが、君自身に価値(よう)はない。
 惜しくはあるが、彼女を“私”にするための邪魔をされないよう、君には消えてもらう」
 ゴッ、と大気を唸らせ、スミスの拳がジローへと向けて放たれる。
 レインへ向けて放ったのとは違う、一切手加減のされてない一撃。
 それを見てジローは、自身の死を理解した。

(ああ……こりゃ死んだな)
 なんて、自分でも意外なほどあっさりとした感想が浮かぶ。
 思考が加速し、自身に迫る拳がゆっくりと見える。
 そして、いわゆる走馬灯というやつだろう、このデスゲームに巻き込まれる以前からの記憶が脳裏を過っていく。
 その最後に思い出した光景は。

(ごめんな、パカ。
 結局俺は、王子様にはなれなかったよ)

 自身の恋人である、何よりも大切な少女の事だった。
 直後、スミスの拳が自分の体を貫いていく感覚とともに、ジローの意識はあっけなく粉砕された。



「ッッッ――――テ、ンメェエエッッ……!!!」
 襤褸切れのように吹き飛んでいくジローの姿に、レインは激高し声を荒げる。
 同時にその四肢が、彼女の激情を表すかのような激しい炎に包まれる。
 《輻射拳》と《炎膜現象》の同時使用。
 スミスがレインへと向き直るより早く、レインはスミスへと一瞬で接近し、その拳を振り抜いた。

 だがスミスは、素早く身を屈めてその一撃を躱すと、突き上げるようにレインの首を鷲掴む。
 そしてそのままの勢いで体を回転させ、レインを勢いよく道路へと叩き付けた。

「ガッ……!」
 アスファルトが陥没するほどのその衝撃に、レインの意識が一瞬飛ぶ。
 だがその飛びかけた意識を、今度は胸部に突き刺さった衝撃が引き戻した。
 朦朧とする視界で確かめれば、そこにはスミスの貫手が突き立ち、自身の体が黒く染まっていく光景があった。

「これで君も、“私達”の一人だ」
「ふ、ざけ………っ!」
 その浸食に抵抗しようとどうにかもがくが、スミスの拘束も、その浸食も止まる気配はない。
 加えて地面に叩き付けられたダメージによって、心意を使うほどの集中力も奪われていた。
 そして彼女とともに戦っていたジローも、まともにスミスの攻撃を受けた以上、最早助からないだろう。
 つまり絶体絶命。レインが助かる術は、最早どこにも存在しなかった。


304 : Action;交戦 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:08:00 dXILFuxc0

「……………………んな……」

 不意に、シルバー・クロウの事を思い出した。
 自分が助けを求めれば、どこからでも駆けつけてみせると彼は行ってくれた。

 ……だが、シルバー・クロウはもういない。
 スカーレット・レインを助けると約束してくれた彼は、この仮想世界で死んだ。
 上月由仁子を支えていたものは、永遠に失われてしまったのだ。
 だから―――。

(こんな所でくたばって堪るか。
 こんなあっけなく終わって堪るか!
 こんな何もできないまま、死んで堪るかッ!!)

 いま彼女を支えているものは、彼を奪った存在(せかい)に対する怒りだった。
 それを自覚した瞬間、世界に対して怯えていただけの少女は、その怒りを以て、逆に世界へと牙をむいた。

「ふざけんじゃ、ねぇえええ――――ッッッ!!!」
 張り裂けるような叫びとともに、レインの全身が紅い輝きに包まれる。
 その輝きは自身を侵す黒を押し返し、その起点であるスミスの手を弾き飛ばした。

「な、ッ……!?」
「、ラアッ……!」
 同時に驚愕を顕わにするスミスへと、レインが炎を纏った拳を振り抜く。
 スミスは咄嗟にレインを拘束する手を放し、大きく飛び退くことで回避する。
 だがその思考は、今起きた現象に大きく掻き乱されていた。

(どういうことだ。彼女への上書作業は、問題なく進行していたはずだ)
 確かに上書き能力には制限が掛けられているが、それは一度始まった上書を妨げるほどのものでもない。
 そして上書きを弾かれた時の感覚からして、アトリのように未知のプロラムで抵抗されたわけでもない。
 あの感覚はむしろ、アンダーソンの持つ『救世主の力』による抵抗に近かった。

(あの少女が、『救世主の力』に類するプログラムを持っている?)
 いや、まさか、とその考えを即座に否定する。
 『救世主の力』はマトリックス――つまりプログラムの制約を超越する力だ。
 いかに異世界の人間とはいえ、そんな力を持つ人間が何人もいては、電子世界は成り立たなくなってしまう。

 それに、そう難しく考える必要はない。
 少女の持つ力が如何なるモノであれ、上書きしてしまえば解ることだ。
 何しろ――――

「……その力。そう何度も使えるものではないようだな」
 そう告げるスミスの視線の先には、息を荒げて片膝を突く少女の姿があった。
 先ほどまでと比べ、少女は明らかに疲弊している。
 つまり先ほどのような上書きの拒絶は、そう何度もできるわけではないという事だ。
 多くてあと二度か三度。それで少女の上書は可能になるだろう。

「ハァ……ハァ、っハ――――」
 レインは乱れる息を、懸命に整える。
 スミスの上書を弾いた瞬間襲い掛かってきた、唐突な疲労。
 それにより彼女は、立ち上がる事すら億劫な状態となっていた。
 おそらくはこの疲労が、心意に掛けられた制限なのだろう。


305 : Action;交戦 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:08:30 dXILFuxc0

 そう、心意だ。
 それこそがスミスの上書を弾き飛ばした力の正体だった。

 いつか訪れたはずの未来において、シルバー・クロウがハイエスト・レベルと呼ばれる領域に至った際、彼はある推測を立てた。
 その推測とは、デュエルアバターとは『心意によって生み出された、自分自身を守るための殻』ではないか、というものだ。
 そしてその推測が正しいのであれば、バーストリンカーにとって自分自身(デュエルアバター)をイメージすることは、もっとも容易なことと言えるだろう。

 そう。つまりレインは、自身のデュエルアバターのイメージを以て心意を纏う事で、スミスの上書き能力を弾いたのだ。
 たとえ『救世主の力の欠片』によりリミッターが外れていようと、スミスの上書き能力はあくまでシステムの延長上のものでしかない。
 対して心意は、「事象の上書き(オーバーライド)」を引き起こすことによって、システム以上の現象を発現させるもの。
 システムの範疇を超えない上書き能力では、システムを超える心意には抗い得なかったのだ。

 ……がしかし、その代償は大きかった。
 このバトルロワイアルにおける制限の一つ。心意の使用による体力の消耗によって、レインは継戦が困難なレベルで疲弊していた。
 元より不得手な接近戦に加え、相手はあのエージェント・スミス。そこに加えてこの疲労。
 たとえ上書き能力を弾こうと、それは僅かな延命にしかなりえないのだ。

(だからっつって、諦められるかよ……!)
 力の入らない脚に喝を入れ、気力だけで立ち上がる。

 スミスが強敵であることは、元々わかっていたことだ。
 ただその力が、自分達の想像以上だっただけ。
 ジローが殺されたことも、自分がこうして追い詰められていることも、その甘さの代償でしかない。
 だが、たとえそれが無駄な抵抗でしかなくとも、諦めるわけにはいかなかった。
 なぜなら、自分はまだ、生きているのだから。


「まったく。人間というのは本当に往生際が悪い」
「はっ。テメェにだけは言われたくねぇよ。
 一人見かけたら何人もいるとか、ゴキブリかっつうの」
「ゴキブリ呼ばわりとは酷いな。まあ、すぐに君もその一人になるのだがね」
「やれるもんならやってみろよ、ゴギブリ野郎……!」
「では遠慮なく」
 スミスがレインへと踏み出す。
 その踏み足はアスファルトを砕きながら、徐々に加速していく。

 対するレインには、それをするだけの体力が残っていない。
 ならばすることは一つ。
 スミスの攻撃に合わせてのカウンターだ。
 ヤツの間合いに入るその直前に、《輻射連拳(レディアント・バースト)》を叩き込む。
 通常の遠距離攻撃は効かないが、システムを超越する心意技なら、あるいは効果があるかもしれない。
 それが躱されたとしても、今度こそゼロ距離から《輻射拳》を叩き込むだけの事だ。
 武器が心意を防げたとしても、生身で防げるはずがないのだから。

「――――――――」
「っ…………!」
 スミスが残り半ばの距離まで踏み込む。
 レインは右腕に心意の炎を灯し、迫りくるスミスを迎え撃つ。
 残り少ない体力が、心意の行使でさらに削られていく。

 ――――構いやしない。
 このあとぶっ倒れたって、別にいい。
 こいつをぶっ倒すことができるのなら、それで――――

「あ………………」
 瞬間。その光景に、レインは己が敗北を理解した。
 最初からそう言うつもりだったのだろう。
 残り半ばまで踏み込んだ次の瞬間、スミスが一気に距離を詰めてきたのだ。

 間を外され、自分はすでにスミスの間合い。
 回避も防御も、相打ち覚悟の迎撃すら間に合わない。
 眼前に迫るその一撃を、何もできないままに見つめ――――

「む!?」
「え?」
 ガキン、と。
 黄昏色の背中に遮られる音を聞いた。

「ア゛アァァ…………」
 目の前には、右腕に死んだはずのジローを抱え、左手の双銃でスミスの一撃を防ぐカイトの姿があった。


306 : breakthrough ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:09:28 dXILFuxc0


     11◇◆


 ――――月の聖杯戦争において、サーヴァントへの指示は大きく分けて三つに分類される。
 すなわち、鋭く俊敏な連撃を繰り出す「ATTACK」、敵の攻撃を防ぎ反撃する「GUARD」、守りを砕く一撃を放つ「BREAK」だ。
 そしてATTACKはBREAKに勝り、BREAKはGUARDに勝り、GUARDはATTACKに勝る。
 これにより強力な攻撃や様々な特殊効果を持つ「SKILL」を加え、状況に応じた指示を出すことがマスターの役割である。

 そして実のところ、これらの行動はサーヴァントの能力傾向にも当てはめることができる。
 つまり大剣による剣舞を見せたセイバーはATTACKに、それを防いだスミスはGUARDに該当するという事だ。
 ……であれば、セイバーに代わり現れたキャスターが該当する傾向は何なのか――――。


「炎天よ、奔れ!」
 キャスターが投げ放った呪符を基点として、激しい爆炎が巻き熾る。
「っ………!」
 対するスミスは素早く飛び退くが、回避しきれずスーツを焦がす。
 そこへ狙い澄ましたかのように飛来する玉藻静石(キャスターのぶき)。
 鈍器と化したその鏡を弾き飛ばし、スミスは素早くキャスターへと接近する。

「ふんっ………!」
 キャスターの頭部目掛けて放たれる豪腕。それをキャスターは潜り込むように回避し、スミスの胴体へと左手を押し当てる。
 その手には、やはり一枚の呪符。
「気密よ、集え!」
「ガッ………!?」
 周囲の大気がその呪符を中心として集束、破裂し、スミスを勢い良く弾き飛ばす。

「はぁ!」
「くっ……!」
 そこへ放たれるキャスターの追撃。
 迫りくる静石をスミスは咄嗟に腕で防ぎ、今度は胴体目掛けて反撃を行う。
 キャスターはその一撃を静石で受け止め、反動を利用して素早くスミスから距離をとる。

「ほんっと硬いですねぇ。いったい何食べたらそんな体になるんですかぁ?」
 スミスの“守り”の堅さに、キャスターがそう愚痴る。
 静石による攻撃が全く通用していないのだから、それも当然か。
 そもそもがセイバーの剣すら弾くほどの防御力だ。キャスターの物理攻撃力では、たとえBREAKを直撃させたとしても大したダメージにはならないだろう。
 ――――だが。

「その力………規模こそ小さいが、あの巨人と同じものか……?」

 逆にキャスターの呪術に対しては、スミスは全くと言っていいほど抵抗ができていなかった。
 おそらく彼の世界には、魔術の類が存在しなかったのだろう。
 そのためか、呪術に対してスミスの“守り”はほとんど効果を発揮していなかった。
 その証拠に、《呪相・密天》の直撃を受けたスミスの体は無数の裂傷によって傷だらけになっていた。


 ――――セイバーがATTACK、スミスがGUARDに該当するなら、キャスターの傾向は何なのか。
 その答えはもはや一目瞭然。すなわち、その守りごと敵を粉砕するBREAKである。

 ランクEXを誇るキャスターの呪術に対しては、生半可な守りなど意味をなさない。
 セイバーが素早い剣技で敵を翻弄するのであれば、キャスターは大火力を以て焼き尽くす。
 そう。ATTACKのセイバー、BREAKのキャスターに、GUARD傾向であるアーチャーを加えた三騎が、岸波白野のサーヴァントなのだ。


「フッ……!」
 スミスは再びキャスターへと接近する。
 接近戦に持ち込むことによって、キャスターの呪術を封じ込めようというのだろう。

 その選択は正しい。
 キャスターはそのクラス名からも分かるように、近接戦闘を不得手とする。呪術なしの戦いとなれば、スミスを倒すことなどまずできまい。
 ………だが。
 そんなわかりきった弱点を克服せずして、あの聖杯戦争を生き残るなど――ましてやあのガウェインに勝つことなどできるはずがない……!


307 : breakthrough ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:10:12 dXILFuxc0

「フンッ――!」
 振り抜かれるスミスの右拳。
 直撃すれば大ダメージは免れぬであろうその一撃を、キャスターは軽く仰け反り紙一重で回避する。
 同時に体を回転させ、払うように右手を振るう。直後、それに従って飛来した静石がスミスの頭部を打ち据える。

「ぐっ……!」
 たとえダメージはなくとも、その運動エネルギーがなくなったわけではない。
 スミスは頭部に受けた衝撃にふらつき、反撃が一瞬遅れる。
 そうして生じた僅かな隙に、キャスターは新たな呪符を取り出す。
 それを見たスミスの行動は――――

  >攻撃だ!
   防御だ!
   回避だ!

「ヌウンッ……!」
 予測通り、拳による一撃だ。
 呪術を使われる前に潰そうと考えたのだろう。
 懐に潜り込むキャスターへと、その左拳を振り下ろす。
 だがキャスターは素早く飛び退いて回避し、同時にスミスへと呪符を投げ放つ。

「彫像の出来上がりです♪」
「グヌ……っ!?」
 そして発動する《呪相・氷天》。
 呪符を基点として発生した冷気が、スミスの体を凍りつかせる。
 《呪相・氷天》の追加効果である、対ATTACKスタンが発生したのだ。
 つまり次の一手、スミスは如何なる行動もとることができない――――!

「私の本気、見せてあげます」
 ――――《呪層界・怨天祝奉》。
 スタンによって生じた一手分の隙に、キャスターはその魔力をブーストさせる。
「チィ……っ!」
 どうにかスタンから脱したスミスが、キャスターの行動を阻もうと拳を振り被る。
 だがキャスターはその一撃が振り下ろされるより早く、スミスへと呪符を投げ放つ。
 それを見たスミスは、咄嗟に腕を交差して耐え抜こうとする―――が、しかし。

「はい、お粗末さまでした」
 BREAK特性を持つ《呪相・密天》に、ノーマルな防御は意味をなさない。
 呪符を起点に発生した暴風が、その両腕による防御を潜り抜けてスミスへと襲い掛かる。
 そして増幅された魔力によって荒れ狂う嵐となり、スミスの全身を切り刻んで吹き飛ばした。

「ガッ、グゥ……ッ!?」
 それによりスミスは天井へと叩き付けられ、受け身も取れないままに昇降口の床へと打ち付けられた。
 咄嗟に防御行動をとったが故に、対GUARDスタンの追加効果も受けてしまったのだ。

 致命的ともいえる大ダメージを受け、加えてスタンによって行動不能。
 次の一撃に対処できない以上、いかなスミスと死は免れないだろう。
 つまり岸波白野とエージェント・スミスの戦いは、岸波白野の勝利に終わった――――はずだった。


「ではこれにて仕舞いといたしましょう」
 倒れ伏すスミスに止めを刺そうと、キャスターが呪符を取り出す。

 冷徹だとは思うが、止めることはしない。
 エージェント・スミスはPKをまったく躊躇わない、危険な存在だ。このまま生かしておいては、他のプレイヤーにも被害が及ぶだろう。
 それに加えて、上階ではまだレオたちが戦っている。
 あちらがどういう状況下はわからないが、楽観はできない。つまり、スミスに構っている余裕はないのだ。

 そうして、キャスターがスミスへと呪符を投げ放つ――――その直前。
 昇降口を封鎖していた下駄箱が、外側から吹き飛ばされた。

「ッ――――!?」
 同時に襲い来た影の一撃をキャスターは咄嗟に静石で防ぐが、その衝撃に踏ん張りがきかず、大きく弾き飛ばされる。
 慌ててその襲撃者の正体を確かめれば、そこには。

「ふむ、防がれたか。そう何度も上手くはいかないものだな」

 先ほどまで自分達と戦っていたスミスと、無傷であることを除けば全く同じ姿の男―――エージェント・スミスが立っていた。

「これは……ちょっとヤバいかもしれませんね……」
 新たな敵(スミス)の参戦に、キャスターが冷や汗とともに呟く。

 その言葉通り、この状況は非常にまずい。
 スミス一人でさえ強敵だというのに、それが二人ともなれば、キャスター一人では苦戦は必至だ。
 つまりこの先スミスと戦うのであれば、セイバーの参戦が必須となる。
 だがそうなると、今度は岸波白野の魔力残量が危なくなってしまう。
 礼装で水増ししているとはいえ、サーヴァント二人分の戦闘を支えられるのは数分程度だ。
 敵が単騎ならばともかく、敵を複数人……それもスミスレベルを相手にするには心もとない。


308 : breakthrough ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:10:36 dXILFuxc0

 それに加えて、今のスミスの登場により、バリケードが破られた。
 それが意味することは一つ。
 ここから先の戦いが、NPCに発見される――つまりペナルティが発生する可能性が高まったという事だ。

 なによりスミスたちはペナルティを気にしていない。
 たとえ制限を受けても、それを無視できる自信……おそらく、他にもスミスが控えているのだろう。
 そしてレオたちの支援が期待できない以上、そのスミスが参戦し、ペナルティが発生してしまえば、もはや岸波白野に勝ち目がない。

 ……ならば、敵の増援がまだ一人だけである内に、NPCに発見されるより早く決着を付けるしかない。
 幸いにして、一人目のスミスはすでに瀕死。
 予測される残りHPはおそらく、キャスターの呪術を直撃させられれば倒せる程度。
 セイバーとキャスターの二人掛かりならば、新たな増援が来る前に倒せるはずだ。
 そう決断を下し、キャスターへと目配せをする。

「了解です。速攻で終わらせましょう」
 岸波白野の指示に従い、キャスターは呪符を構える。
 背後には、霊体化を維持したまま、戦意を高めるセイバーの気配。
 その視線の先では、一人目のスミスがスタンから回復し、立ち上がっていた。

「随分としてやられたようだな」
「ああ。『救世主の力の欠片』では、未知のプログラムへの対処ができないようだ」
「早急に対策を練る必要があるな」
「だがそれも、先に彼らを倒すか、取り込んでからだ」
「確かに。特にあの少年に従う少女達の力は興味深い。ぜひ取り込んで解析したいところだ」
「“他の私”が戦っている白い騎士もだ。だが、」
「彼らは……特に白騎士は強敵だ。今の私達では、正面からでは倒せないだろう」
「……ならば試してみるか? “あの力”を。まだ解析が不完全ではあるが」
「試す価値はあるだろう。いずれは私達のものになる力だ。それが少し早まったに過ぎん」
「そうか、ならばそうしよう」

 全く同じ顔の人間が話し合うという奇妙な光景。
 それを終わらせた二人目のスミスが、ウィンドウを開き、インベントリからアイテムを取り出す。
 現れたのは、水色に輝く不思議なプログラム。
 あれは………セグメント?
 そう首を傾げた瞬間、“それ”は起こった。

「ぬ? ぐ、ガ―――ァアアアアアアッッッ!!!???」
 突如として二人目のスミスの体から、黒い手が溢れ出したのだ。
 その黒い手はスミスの手に握られていたセグメントらしきプログラムを飲み込むと、今度はスミス自身の体を覆い始めた。
 ……間違いない。あの黒い手は、ヘレンと同じAIDAの触手だ! スミスもサチと同様に、AIDAに感染していたのか!?

「これは、いったい……!?」
 もう二人目のスミスの異常に、一人目のスミスが困惑した声を漏らす。

 どうやらスミスたち自身にとっても、この状態は想定外らしい。
 ならば今のうちに、この異常事態を食い止めるべきだ。
 そう判断を下し、即座にキャスターへと指示を下す。

「了解です! ――ふにゃっ!?」
 それを受けたキャスターが呪符を取り出し、二人目のスミスへと向けて投擲する。
 その直前、一人目のスミスがキャスターへと襲い掛かった。
 キャスターはその奇襲を咄嗟に防御するが、その衝撃に壁際まで弾き飛ばされる。

「ったぁ〜! いったいどういうおつもりですか!?」
「無論、君を足止めするつもりだ」
 キャスターの苦言に、スミスがそう平坦な声で返答する。

 どうやらスミスは、もう一人の自分の異常よりも、こちらの方が危険度は上だと判断したらしい。
 加えて一人目のスミスは、二人目のスミスとの間に立ちはだかっている。
 これではキャスターは間に合わない。
 ならば、とセイバーへと指示を下そうとした、その瞬間。

「――――――――」

 二人目のスミスが、完全にAIDAの触手に飲み込まれた。
 直後、二人目のスミスを中心として黒泡が発生し、周囲の空間を飲み込み始めた。

「っ! ご主人様――――!」
 キャスターが慌てて自分の下へと駆け寄ろうとするが、一人目のスミスによって阻まれる。
 そうして岸波白野の視界は、昇降口とともに黒泡に飲み込まれブラックアウトした。


309 : breakthrough ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:11:09 dXILFuxc0


    12◇◆◆


 ギチリ、と、カイトの持つ双銃とスミスの拳がきしみを上げる。
 両者の視線が感情の籠らないままに交錯し、弾かれるようにスミスが大きく飛び退いた。

「少し驚いたよ。君がここに向かっていたことは知っていたが、まさか間に合うとは。
 いや、これはそこの少女の健闘を称えるべきかな? 私の上書を弾いていなければ、それで事は終わっていたのだから。
 ……だが一つ気になるのは、その男だ。あの一撃で確実に殺した、と思ったのだがな」

 そう。たしかにジローは殺されたはずだ。
 消滅の瞬間を見たわけではないが、スミスの一撃で胴体を貫かれ、弾き飛ばされていた。
 あれで死んでいないとすれば、蘇生効果を持つ何かか、HPの全損を防ぐ何かが必要だろう。
 それについてスミスは、一つだけ心当たりがあった。
 シノンだ。
 彼女もまた、死に至るはずの一撃を二度受けて、二度とも生存を可能としていた。
 おそらく彼等のどちらかが、それに類する何かを持っていたのだろうと予測を付ける。
 そしてその予測は当たっていた。

 カイトがジローたちを見つけたのは、ジローがスミスによって殴り飛ばされたまさにその時だった。
 その光景を見たカイトは、レインがスミスへと殴り掛かったのを見て、即座にジローの下へと駆け寄りあるスキルを使用したのだ。
 そのスキルの名は、《蒼天の蘇生》。味方全員の戦闘不能状態をHP100%で回復させる、蒼炎のカイト専用のスペルだ。
 それによってジローを蘇生させ、窮地に陥っていたレインの下へと駆けつけたのだ。


「だがまあ、その理由はあとで確認すればいい。それよりも今は、君の事だ。
 実のところ、この学園で君を見た時から、一度話してみたかったのだよ」
「……………………」
「私はマク・アヌで、君とよく似た少年と出会っていてね。彼はすでに死んだはずなのだ。
 だがここに、その少年とよく似た君がいた。私にはそれが気に掛かっていたのだ。
 だから教えてはくれないだろうか。果たして君は何者なのか……。そして何より―――君は“あの力”を持っているのか」
「……………………」

 スミスの問いに、カイトは答えない。
 仮に答えたとしても、自分にはカイトの言葉は解らなかっただろうとレインは思った。
 だがそれでも、スミスの問いかけから分かることはある。
 即ち、マク・アヌにいたという少年がオリジナルのカイトで、スミスの言う“あの力”とはデータドレインを示しているという事だ。
 つまりスミスの狙いは、カイトの持つデータドレインの力なのだ。

「……そうか。残念だ」
 カイトの沈黙をどう受け取ったのか、スミスはそう落胆したように呟く。
 そして同時に、その全身に再び戦意が籠り始める。
「……………………」
 それに応じるように、カイトはジローと双銃を手放し、後ろ手に三尖二対の双剣を取り出す。
「ならば、君も“私”の一人にして聞き出すとしよう。
 まあもっとも、最初からそうするつもりではあったのだがね……!」
 直後。その言葉とともに、二丁の銃剣――【静カナル緑ノ園】と【銃剣・月虹】を取り出し、その引き金を引き絞った。

 二つの銃口から放たれた弾丸は、銃声とともにカイトへと迫る。
 それに対しカイトは、双剣を一閃することで容易く二つの弾丸を弾き飛ばす。
 だが銃撃は一度では終わらない。スミスは二つの銃剣を交互に、間断なく発砲する。
 再び迫り来る無数の弾丸。しかしカイトは無言のまま、双剣を振るいその弾幕を弾いていく。

「む……」
 その光景に、スミスの銃撃が一瞬止まる。
「ア゛アァア…………ッ!」
 その一瞬の間に、カイトは双剣の刃を展開し、蒼炎を纏ってスミスへと肉薄する。
 そして容赦なく振るわれる歪な魔刃。スミスはその一撃を、即座に銃剣で防御する。
 お互いの武器の刃が激突し、火花を散らす。
 だが次の瞬間には、もう一方の魔刃がスミスへと向けて振るわれていた。
 攻守逆転。今度はスミスが、カイトの連撃を防ぐ番となったのだ。

「チィ……ッ!」
 疾風怒濤と振るわれるカイトの攻撃に、スミスは堪らず舌打ちをする。
 身体能力で劣っているつもりはない。刃を交えて感じ取れる力からすれば、おそらく自分と同レベル程度だろう。
 いやむしろシステムを超越している分、自分の方が優れているはず。例外はあの白騎士のような存在だけだ。
 ――――だが。

(やはり、あの少年と同じ力を持っているのか……っ!?)
 スミスの脳裏に過る、蒼炎を纏った少年の姿。
 白い巨人に倒されたあの少年と同じ力を、目の前の少年も持っているかもしれない。
 そんな疑念が、スミスに銃剣による防御を選択させていた。


310 : breakthrough ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:12:15 dXILFuxc0

 データドレインを受け『救世主の力の欠片』を失っていたとはいえ、あの時の少年は自分を圧倒していた。
 あの力は紛れもなくシステムを超越したものだ。たとえ『救世主の力の欠片』があったとしても、この身に傷を付けることができるかもしれなかった。
 それを思えば、同じように蒼炎を纏うこの少年の攻撃を警戒するのは、むしろ当然というものだろう。
 そんな警戒とともに、スミスがカイトの攻撃を防ぎ続けていた、その時だった。

「ぬ――」
 ガキン、と、双剣と二丁の銃剣の音を立てて刃が絡まり、一瞬の膠着状態が生じた。
 スミスはそれを利用し、カイトを押し込めようと力を籠め――――その瞬間、左手の銃剣・月虹がガラスのように砕け散った。

「な……!?」
 あまりにも唐突な武器の損失。
 その理由をスミスが考える間もなく、自由になったカイトの魔刃がスミスへと襲い掛かる。
 残る銃剣は魔刃に絡め捕られたまま。
 スミスは咄嗟に銃剣を手放し、飛び退きつつ左腕でカイトの一撃を防御する。

「っ……。なぜ、武器が壊れた」
 左腕を庇いながら、スミスはそう自問する。

 お互いの微気が絡み合った時、確かに武器に力を掛けた。
 だが決して、武器が壊れるほどではなかったはずだ。ましてやあんな、ガラス細工のような壊れ方はまずあり得ない。
 だとすれば原因は、やはりあの少年だろう。
 あの少年が持つ何らかの力によって、銃剣は破壊されたのだ。

「……その程度ならば、然したる問題ではないな」
 背中から新たなる銃剣、【静カナル緑ノ園】を取り出しながら、スミスはそう結論する。
 この緑玉石の銃剣は、自分達の誰かがオリジナルを装備している限り幾らでも取り出すことができる。
 同時に二つ装備するといったことは出来ないが、破壊されたところで問題にはならない。
 それに。

「気を付けるべきは、あの炎だけだ」
 そう呟くスミスの左腕には、焼き切れたような傷痕。
 だがそれはカイトの魔刃によるものではなく、彼が纏う蒼炎によるものだ。
 いかなシステムの守護者であるカイトと言えど、システムを超越したスミスの“守り”を突破することは出来なかったのだ。
 蒼炎によってスミスが傷ついたのは、それがスミスにとって未知のプログラムだからにすぎない。

「あとは、“あの力”を持っているかどうか、だ」
 そさえ警戒していれば、この少年は脅威ではない。
 そうスミスは結論を下し、今度は自分からカイトへと突撃した。

      §

「ジロー!」
「…………」
 一方レインは、地面に倒れ伏すジローへと声をかける。
 だがよほど深く気絶しているのか、ジローはピクリとも反応しない。
 それも仕方のないことだろう。ジローはあの時、間違いなく殺されていたのだから。
 こうして今生きているだけ、十分に悪運が強いと言えるだろう。

 ……だが、まだ危機が去ったわけではない。
 レインはジローから目を離し、カイトたちの方へと目を向ける。
 そこでは先ほどの自分達と違い、きっちりとした戦いが成立していた。

「ちっ。このままじゃまずいな」
 その戦いを見たレインは、“王”としての経験からそう察する。

 確かに自分たちと違い、カイトはスミスと戦えている。
 だがスミスへと与えているダメージは蒼炎によるものだけで、双剣本体ではダメージを与えられていない。
 カイトがどんな攻撃スキルを持っているかはわからないが、このままではいずれ対処されてしまうだろう。
 故にそうなる前に決着を付ける必要があった。
 そしてそのためには。

「やっぱ“アレ”しかねえよな」

 データドレイン。
 システムを改竄するというあの力ならば、AIらしいスミスにも通用するかもしれない。
 だが先ほどの話しぶりからして、スミスはデータドレインの事を知っている。
 闇雲に放ったところで簡単に対処されてしまうだろう。

「ならどうする。どうやってあいつの動きを止める」
 射撃回避を利用する方法はダメだ。すでに破られた作戦が通用するとは到底思えない。
 かといって二人掛かりで挑んだところで、自分ではむしろ足手まといになるだけだ。それにそもそも、スミス相手に立ち回るような体力は残っていない。
 せめて1ダメージでも与えられるのなら、【非ニ染マル翼】の追加効果を期待することができたのに、と独り言ちる。


311 : breakthrough ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:12:58 dXILFuxc0

「ちっ。インビンシブルが使えりゃあ、あんなヤツ一瞬で消し炭にしてやるってのに」
 自身の半身とも言える強化外装は、射撃の効かないスミス相手には無意味だ。
 無論、回避する余地のない飽和攻撃なら、攻撃を命中させることもできるかもしれない。
 だがそれではカイト諸共に吹き飛ばすことになってしまう。
 それにそもそも、スミスの身体能力を考えれば、こちらが攻撃する前に対処することだってできるだろう。
 結局どう考えても、スミス相手ではインビンシブルは巨大な棺桶にしかならない。

「くそっ、どうすりゃ………いや、待てよ……」
 その時ふと、レインの脳裏にある方法が浮かぶ。
 その方法ならばあるいは、スミスの動きを止められるかもしれない。

「けどいけるか? ……どのみちこのままじゃこっちの負けだ。やるしかねぇ……!」
 そう結論し、レインは気力を振り絞って立ち上がった。
 残りの体力からして、心意技は使えてあと一度、無理をして二度が限度だろう。
 それまでに、あいつを何としてでもぶっ倒す………!


    13◇◆◆◆


 振り下ろされた宝剣が、スーツに覆われた左腕に受け止められる。
 同時に放たれる右拳。それを半身になって躱し、返すように宝剣を薙ぎ払う。
 その一撃も再び腕を盾に防がれるが、同時に放った黒手によってその動きを縫い止める。
 だがそれも一瞬。
 黒手による檻は即座に粉砕され、右拳による一撃が放たれる。
 咄嗟に宝剣を盾に受け止めるが、強烈な衝撃とともに大きく弾き飛ばされる。

「ッ――――――――」
 弾き飛ばされたサチ/ヘレンはすばやく体勢を立て直す。
 その顔こそ無表情であるが、体に纏っている黒泡の様子からは焦りが見て取れる。
 自身の攻撃ではスミスに通用しないのだから、それも当然だ。

 ――――ならば、どうすればいいのか。
 ユイは思考を巡らせる。

 勝利条件は変わらない。
 ガウェインがもう一人のスミスを倒すまで耐え抜けばいい。
 だがそれを可能とするだけの防御能力が、サチ/ヘレンにはない。
 そして自分には、そもそも戦う力がない。
 父の剣は重すぎて振るえず、《release_mgi(a); 》は射撃攻撃を無効化するスミスには通用しない。
 この状況を脱する“力”を、自分たちは持っていない。


「ふっ」
 スミスが廊下を踏み砕き、容赦なく追撃を仕掛けてくる。
 もう一人の自分が倒される前に、決着を付けようというのだろう。
「――――――――」
 それに応戦するために、サチ/ヘレンも剣を構える。
 たとえ攻撃が効かないと解っていても、それ以外に選択肢がないのだ。
 ……だがこのままでは、先ほどの焼き直しにしかならない。
 この状況を脱するには、自分がどうにかするしかない。

 ―――ならば何ができる。
 目の前には、宝剣を構えるサチ/ヘレンの姿。
 この手には、父である“黒の剣士”キリトの剣。
 脳裏に過ったのは、父ならばこの状況を、どう突破するのか。
 こうしてただ考えることしかできない自分が、今目の前で戦っている彼女のためにできることは――――。


「! ソードスキル、《スラント》!」
 不意に脳裏に閃いた、ほとんど直観に等しいイメージ。
 それに従い、ユイはサチ/ヘレンへとそう“指示”を出した。

「――――――――ッ!」
 その声に弾かれるように、サチ/ヘレンが剣を担ぐように構える。
 直後その刀身が水色のライトエフェクトに覆われ、眼前に迫るスミスへと、勢いよく振り下ろされた。
 鋭い効果音を放つその一撃を、スミスはこれまでと同じように左腕でガードし、
「グ、ヌウッ……!?」
 しかし、その剣圧に弾かれた。
 そしてその左腕には、一筋の傷跡。
 サチ/ヘレンの放った一撃は、僅かではあるが、確かにスミスへとダメージを与えたのだ。


 この戦いの最中、ユイはずっと考え続けていた。
 攻撃力の劣るサチ/ヘレンの攻撃が、どうすればエージェント・スミスに通用するのかを。
 そして不意に過った父の姿と、目の前のサチ/ヘレンの姿。それらが重なった瞬間、その欠落に気付いたのだ。
 “サチ/ヘレンはまだ、一度も《ソードスキル》を使用していない“というその事実に。


312 : breakthrough ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:13:16 dXILFuxc0

 《ソードスキル》とは、特定の構えからの初動作によってシステムアシストを受けて放たれる攻撃スキルだ。
 当然その攻撃には、通常攻撃以上の速度と破壊力が加えられる。そして何より重要なのが、その動作が完全に強制であるという事だ。
 つまりユイは、通常攻撃以上の速度と威力のある一撃を、システムアシストによって強引に押し通せば、スミスの防御力を突破できるのでは考えたのだ。
 そしてその予測が正しかったことは、スミスの左腕につけられた傷によって証明されたのだった。


「ヘレンさん、これからですよ」
「――――――――」
 そうサチ/ヘレンへと声をかけ、ユイは気を引き締める。

 僅かでもダメージが与えられるのであれば、スミスに対抗することは可能だ。
 がしかし、まだ足りない。
 ただ傷が付けられるという程度では、その猛攻に耐えきることは出来ない。
 闇雲に《ソードスキル》を放つだけでは、容易く対処されてしまうだろう。
 なぜなら、彼女には剣を効率よく扱うための、《ソードスキル》を確実に決めるための“剣技”が不足しているからだ。
 あるいは、その体の持ち主であるサチにはあるのかもしれないが、そのサチが自閉している現在、その技術は失われている。
 ――――故に。

「ヘレンさん、私が指示した通りに《ソードスキル》を使ってください」
 ユイはサチ/ヘレンへと、そう指示を出す。
 自分は戦いについて疎い。だが《ソードスキル》についてならこの場の誰より知っている。
 故に、ヘレンに技が足りないのなら、自分が指示することでその不足を補うのだ。

「――――――――」
 サチ/ヘレンが頷き、宝剣を構える。
 あるいは、“最後の手段”も必要かと考えたが、まだその時ではないと判断したのだ。

「まったく。往生際が悪いな、君たちは」
 そんな二人の様子に、スミスはそう嘆息する。
 確かに先ほどの一撃は驚いたが、それだけだ。
 おそらく何かの攻撃スキルなのだろうが、それでも現在一階で“もう一人の自分”が戦っている少女剣士の通常攻撃にも劣る。
 たとえ直撃したところで、まず致命傷には届かない。

 ………が。
 たとえかすり傷でも傷は傷だ。当たり所によっては、戦闘に支障が出る場合もあるだろう。
 “もう一人の自分”と戦っている白い騎士の事もある。戦闘を長引かせる要因は避けるべきだろう。
 そうスミスは判断し、再び銃剣を取り出し、
「《レイジスパイク》! 続いて《ホリゾンタル・アーク》!」
「ぬっ!」
 突進と共に放たれた宝剣による突きを、咄嗟に銃剣で弾き飛ばす。
 銃剣を取り出す間を狙ったその一撃より、僅かに体勢が崩れ、次手の行動が遅れる。
 その間に少女の持つ宝剣が右に大きく引かれ、その刀身が薄水色の光に包まれる。

「――――」
 そして放たれる薙ぎ払い。
 スミスは素早く銃剣で防御するが、崩れた体制ではその衝撃を受けきれず、完全に体勢が崩される。
 だが《ホリゾンタル・アーク》は左右に水平切りを行う二連撃。つまり、その攻撃はまだ終わっていない。
 サチ/ヘレンは宝剣を持つ右手の手首を返し、先ほどとは逆方向へと切り払う。

「チィッ……!」
 スミスは体勢を立て直す間も惜しみ、即座にその場から飛び退く。
 ライトエフェクトに包まれた宝剣は、その切っ先を掠めさせるだけに終わる。
 即ち、ダメージは皆無。スーツのネクタイが切り落とされただけだ。

 そしてこの三度の防御によって、少女のスキルもおおよそ把握した。
 まずスキルの発動の際には、必ず刀身が光に包まれる。そしてその威力も決して防げないものではない。
 つまり、負ける要素はもはやない。
 その確信とともに、少女へと向け再び踏み出す。
 ――――だが。

「ヘレンさん、今です!」
「――――――――」
 もう一人の少女の声に、自身と相対する少女が黒泡を纏った剣を勢いよく振り上げる。
 同時に放たれる無数の黒い手。それが頭上から、一斉に襲い掛かってくる。
 だが無駄なこと。
 そのAIDAの触手による攻撃は、すでに完全に見切っている。
 故に、その職種に対処しようと両腕を構え、

「なに!?」
 それが自信を狙ったものではないことに、一拍遅れてようやく気付く。


313 : breakthrough ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:13:53 dXILFuxc0

 放たれたAIDAの触手は、自身の左右ぎりぎりを格子のように塞ぐ形で地面へ津突き刺さり硬化する。
 “動きを縫われた”、と察するのと、少女たちが動き出すのと、そのどちらが早かったのか。
「コードキャスト、〈release_mgi(a); 〉!」
 もう一人の少女が放った光弾に、咄嗟にバレットドッジによる回避を行ってしまう。
 だがその回避行動は左右の壁により制限され、半ば強制的に大きく仰け反ったものとなってしまう。
 そしてその回避動作から立ち直るより早く、自身と相対していた少女が止めの一撃を繰り出した。

「――――――――」
 少女が黒泡とともに剣を振り上げ、そして光に包まれた剣をまっすぐに振り下ろしてくる。
 咄嗟に銃剣によって宝剣を防ぐが、ソードスキル(バーチカル)による一撃を大きく仰け反った体勢で受け止められるはずもなく、地面へと押し倒される。
 直後、先に放たれたAIDAの触手が迫り、こちらの体を床へと縫い付けるように突き刺さった。

「これで終わりです!」
 そこへ放たれる、先ほどと同じ光弾。
 それに対処しようともがくが、床に拘束された状況で回避などできるはずもなく、その光弾に直撃してしまう。
 その途端、全身が痺れ、一切の身動きが取れなくなってしまう。

「――――――――」
 同時に少女が再びAIDAの触手を繰り出し、自身の拘束をより堅牢なものへとする。
 その密度は、自身の全力を以てしても、すぐには抜け出すことなどできないほど。
 そして僅かでもスミスが抜け出そうとすれば、少女たちは即座に拘束を補強するだろう。
 それこそ、白い騎士が“もう一人の自分”を倒すその時まで。

「くっ、おのれ……!」
 つまりスミスは、自身より圧倒的に力の劣る少女を相手に、またも敗北を期したのだった。

      §

「お見事」
 その様子を見届けたレオが、ユイとサチ/ヘレンをそう称賛する。

 実のところ、レオは二人がスミスを撃破できるなどとは思っていなかった。
 良くて自分たちがスミスを倒すまで持ちこたえるのが精々だろうと、そう判断していたのだ。
 だが実際には、スミスを倒すまではいかなくとも、拘束しその身動きを封じるまで行って見せた。

「これも白野さんの影響でしょうか」
 その窮地における爆発力は、この学園に辿り着くまでの間、少女たちが行動を共にしていた少年のそれと似たものだ。
 出会ってからまだ半日程度しかたっていないが、彼の影響を多少なりとも受けたのかもしれない。
 そう思うと、少女たちの小さな背中が、少しばかり頼もしく思えてくる。

「さて、僕たちも彼女たちの働きに応えないといけませんね」
「ええ、もちろんです」
 己が主の声に応じ、ガウェインは再びスミスへと肉薄する。

「っ、………!」
 対して騎士の猛攻を防ぐスミスは満身創痍といった様子であり、その表情には深い苦渋が浮んでいる。

 それも当然だろう。
 スミスはガウェインの能力が自身の能力を上回っていることを理解した時点で防戦に徹していた。
 つまりもう一人の自分が少女たちを倒し、その後に二人掛かりでガウェインたちを制圧するつもりだったのだ。
 だが少女たちがもう一人の自分を倒してしまった事によって、その目論見は崩されてしまった。

(どうする。“応援”を呼ぶか?)
 今ここにいる“自分”が生き延びられる可能性は、最早ゼロに等しい。
 そう結論を下したスミスは、他の“自分”を呼ぶか否かを考える。
 ………が、その必要はなかったらしい。

「え? ヘレンさん、どうしたんですか?」

 不意にユイが、戸惑った様子でサチ/ヘレンへと声をかける。
 サチ/ヘレンは自身が拘束しているスミスではなく、その下、おそらくは下階へと視線を向けていた。


314 : breakthrough ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:17:54 dXILFuxc0

「――――――――」
「ハクノ……危険……異常……?
 ……まさか、ハクノさんに何かあったんですか!?」
 ヘレンの声ならぬ声を聴いたユイが、そう声を荒げる。
 ―――その直後。

「え? ヘレンさ――――!?」

 サチ/ヘレンは全身から黒泡を溢れさせ、ユイを巻き込んで消失した。
 そこに残されたのは、拘束されたままのスミスだけだ。

「な――――!?」
 その光景に、レオが思わず目を見張る。
 ヘレンは……ユイはどうなったのか。そして岸波白野に何があったのか。
 あまりにも唐突な状況の変化に理解が追い付いていないのだ。

「ふむ。どうやら、君の仲間に何かあったらしいな。
 そしてそれに気づいたあの少女が、助けに向かった、といったところかな?
 だがあの少女は、この状況を理解していなかったと見える。君も運がない」
 “他の自分”を介して全てを理解していながら、スミスは敢えて挑発するようにそう口にする。
 たとえ一人きりになろうと、ガウェインが強敵であることに変わりはない。
 そこで少年の感情をかき乱し、隙を作ろうと考えたのだ……だが。

「どうやらそのようですね。
 ヘレンにとっては、この場よりも白野さんの方が優先順位が上という事でしょうか。
 やれやれです。残されたのが僕たちでなければ、いったいどうなっていたことか」
 レオは呆れたようにそう嘆息するだけだった。
 スミスにはその理由が、理解できなかった。

 白い騎士は戦闘能力こそ強力だが単騎であり、紅衣の少年自身には大した力はないように思える。
 そして少年たちの背後には、補強する者のいなくなった拘束を破壊しようとする“もう一人の自分”がいる。
 それを理解できていないわけではないだろう。
 だというのになぜ少年は、こんなにも冷静でいられるのか。

「可能な限り魔力を温存したかったのですが、どうやらそうもいかないようです
 こうなった以上、僕たちも急ぎ白野さんたちと合流しましょう。
 ――――蹴散らしなさい、ガウェイン。時はすでに、“あなたの時間”です」
「御意」
 レオの指示に従い、ガウェインがスミスへと踏み込む。
「くっ、ヌオオッ……!」
 それに対し、スミスはガウェインへと渾身の一撃を繰り出す。
 少年の冷静さの理由はわからないが、このままではまずいと判断したのだ。
 ………だが。

「なに!?」
 スミスの顔に、これまで以上の驚愕が浮かび上がる。
 自身の放った渾身の一撃。たとえ救世主(アンダーソン)であろうと、直撃を受ければ致命傷を負うだろう銃剣による刺突は、しかし。


315 : breakthrough ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:18:13 dXILFuxc0

「無駄です。もはや貴方如きでは、今の私を傷つけることは出来ない」
 その白銀の鎧に阻まれ、傷一つ付けることすら敵わなかった。

 その事実に驚愕している間もあればこそ。
 ガウェインはスミスが距離をとるより早く、突き出された右腕を掴み捕る。
 そして大きく聖剣を振り被り、同時にその刀身から焼け付くような灼熱の炎が放たれる。
 これまでになく強烈な一撃。だが右腕を掴まれ、回避は不可能。
 そう判断したスミスは、咄嗟に左腕での防御を選択し―――
「、ガッ――!?」
 その防御諸共に身体を両断され、データ片となって消滅した。

「なんだと……!?」
 そのあまりの光景に、拘束から脱したもう一人のスミスは堪らず目を剥いた。

 今の“もう一人の自分”の攻撃は、救世主(アンダーソン)にすら致命傷を与える自信のある一撃だった。
 だというのにあの白い騎士は、その一撃を無防備な状態で受け止めていながら、まったくの無傷だったのだ。
 一体何をすれば、あれほどの肉体強度を得られるというのか。
 防御されたのならまだ解る。だが、ただ肉体強度のみで自分の攻撃を受け止められるなど、スミスには到底理解できなかった。

 ―――その答えは、ガウェインの持つある特殊体質(スキル)にあった。

 スキルの名は《聖者の数字》。
 その効果は午前九時から正午までの三時間と、午後三時から日没までの三時間の間、その力が三倍になるというものだ。
 そして現在の時刻は、すでに午後三時過ぎ。つまり聖者の数字の発動条件は満たされている。
 そこに加えて、ガウェインはレオの改竄により【神龍帝の覇紋鎧】を装備していた。
 高い防御力と物理ダメージを25%軽減する効果を持つこの鎧は、ガウェインの耐久値を実質的にワンランクアップさせていた。

 元より高いランクを誇り、さらに鎧によって極まっていたその防御力を、ガウェインは三倍にまで高めていたのだ。
 その無敵と言っても過言ではない耐久性を前には、いかなスミスの怪力でも通じるはずもなく。

「午後の光よ。悪しき闇を払いたまえ」

 エージェント・スミスはまた一人、太陽の騎士の一撃のよって焼き払われたのだった。


316 : 無垢ノ報復 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:19:21 dXILFuxc0


    14◇◆◆◆◆


 双剣と銃剣が振るわれ、蒼炎が舞い銃弾が飛ぶ。
 お互いの刃がぶつかる度に、火花が激しく飛び散る。
 蒼炎のカイトとエージェント・スミスの戦いは、一見互角の様相を呈していた。

「ガアアァ……ッ!」
「フン……ッ!」
 もう幾度目かの武器の激突。
 振るわれたカイトの双剣を、スミスは銃剣で受け止める。
 そして全身に力を込め、カイトを弾き飛ばして銃撃する。
 放たれた弾丸は狙い違わずカイトへと迫り、しかし双剣によって防がれる。

「ふむ。銃撃は無駄か。やはりあの炎、厄介だな」
 これまでの攻防の結果から、スミスはそう結論する。
 その身体には、いたる所に焼け焦げたような痕が残っていた。
 それはカイトとの戦いの最中、彼が放った蒼炎によって負ったものだ。
 双剣の刃では傷つかないとはいえ、この攻防においてそれは明確なダメージだと言えた。
 そして明確なダメージである以上、接近戦を避けるために銃撃が有効かを試していたのだが…………。

 あの少年は銃弾の弾道を完全に予測し、その双剣で確実に防いでくる。
 自身の回避とは違い、少年の能力を超える威力や、防御できない状況での銃撃なら有効だろうが、それはこの場では望むべくもない。
 現状、自身が持つ中で有効な攻撃手段は、全力での近接戦闘しかないだろう。
 そう結論した、その時だった。

「ッ…………!?」
 何かを感じ取ったのか、カイトが弾かれるように校舎へと視線を向けた。
 完全に警戒が逸れた、あまりにも明確な隙。それをスミスが見逃すはずなく。
「死んでくれるなよ」
 スミスはそう呟くと同時にカイトへと接近し、銃剣を勢いよく振り抜いた。

 カイトはその一撃を咄嗟に双剣で防ぐが、その瞬間、スミスは空いた左手でカイトへと掴みかかった。
 それを防ごうと双剣で遮れば、それを狙っていたかのようにスミスは双剣の刃を掴み取る。
 当然そんなことをすれば、刃によっては傷付かずとも、纏った蒼炎がスミスの腕を焼く。
 だがスミスは構うことなくさらに一歩踏み込むと、勢いよくカイトへと頭突きを叩き込んだ。

「ガッ!? グゥ……ッッ!」
 双剣を封じられたカイトはその予想外の攻撃に対処することができず、まともにその一撃を食らってしまう。
 そこへさらにもう一撃加えんと、スミスが上体を仰け反らせる。
 だがカイトはスキル〈蒼穹の衝撃〉を使用することで、どうにかスミスを弾き飛ばす。
 しかし頭部に受けたダメージによってふらつき、次の行動が遅れてしまう。
 その隙にスミスが、再びカイトへと距離を詰める。
 どうにかそれに対処すべく、カイトは双剣に蒼炎を集束させる。だが。

 “間に合わない”。
 両者は同時にそう理解する。
 この蒼炎の集束率では、スミスを足止めするには至らないと察したのだ。
 だがカイトは少しでもダメージを与えるために蒼炎を振りかざし、
 対するスミスは勝利の確信をもって更なる一歩を踏み出し、

「“撃て”、カイト!」
 その瞬間、二人の頭上から、そんな言葉が響き渡った。

「ッ…………!」
「チィ……ッ!」
 咄嗟にその声に従い、カイトは収束させた蒼炎を、スキル〈蒼火球〉として放つ。
 対するスミスは、声に気を取られ、放たれた蒼炎に対しバレットドッジによる回避を選択してしまう。
 スミスの上半身が高速で動き、蒼炎は虚空を焼く。
 だがその間に、カイトは大きく飛び退きスミスから距離をとる。そして――――

「ハッ、喰らいやがれマヌケ」

 回避動作により上半身を仰け反らせたスミスは、そんな声とともにそれを見た。
 両脚を炎に包んだ紅い少女が、自身の直上へと飛びあがっている姿を。

「着装…………、《インビンシブル》ッ!!」

 直後、少女の全身から炎が猛り、周囲の空間から無数のコンテナが火焔を纏って湧出し、その身体を包み込んでいく。
 そうして現れたのは三メートルを優に超える、戦車か要塞の如き武装コンテナの集合体だった。
 それが、重力に任せたまま、“スミスを目掛けて落下した”。


317 : 無垢ノ報復 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:19:41 dXILFuxc0

「なっ、ッ……!?」
 その異様に絶句しつつも、回避動作から立ち直ったスミスは即座にその場から退避する。
 しかし。
「遅ぇんだよ!」
 地面へと墜落し、粉塵と瓦礫をまき散らす《インビンシブル》。
 その巨大な重武装に下半身を挟まれる形で、スミスは“不動要塞(イモービルフォートレス)”の下敷きとなっていた。

「ぐ、ガァ……ッッ!!」
「ちっ、まだ生きてやがんのかよ! ってうお!?」
 《インビンシブル》の巨重に押し潰されてなお生きているスミスにレインは驚愕を表し、直後、その巨体を揺らした振動に更なる驚愕を味わう。
 なんと《インビンシブル》の下から抜け出そうと、スミスがその巨重を持ち上げ始めたのだ。

「今だ、カイト! データドレインを―――!」
 即座にレインはカイトへと叫び後を上げる。
「……………………」
 それに応え、カイトがスミスへと右腕を突き付けると、デジタルの紋様で綾なされた腕輪が具現化する。
 腕輪はデジタルの紋様をさらに展開させ、カイトの右手に極彩色の光条を収束させる。

「ッ……!?」
 それを見て取ったスミスは、その危険性を知るが故に、一刻も早く阻止しようと全身に力を籠める。
「逃がすかよ!」
 だがそれを察したレインは、《インビンシブル》のバーニアを点火し、その巨体でスミスを地面へと押さえ付ける。
 そして――――。

「……《データドレイン》……」

 カイトの口から放たれた、確かな意味を表す言葉。
 それを引き金として、その右手から文字数列の閃光が放たれた。
 レインはそれに合わせ《インビンシブル》を解除し、その閃光から逃れる。
 だが寸前まで押し潰されていたスミスは回避行動をとれず、その閃光に貫かれる。

「ぐおおッ……ッッ!」
 ともすれば世界を滅ぼし得る力の直撃。
 スミスを貫いた閃光はその肉体情報(ソースコード)を弾き飛ばし、改竄・収奪し、カイトのチカラへと還元する。

「っ、ぬぅ……ッ」
 これで二度目となる“力”の消失に、スミスは堪らず膝を突く。
 その身体はデータ改竄の影響によりノイズが奔り、素体となったNPCの姿を垣間見せる。

 通常のデータドレインに、ダメージを与える効果はない。
 故にこの一撃でスミスが死ぬことはない。
 だが。
 確かにこの瞬間、この戦いの情勢は決したのだ。
 それを証明するかのように、カイトが双剣を構えスミスへと切りかかる。

「チィ……ッ!」
 スミスは舌打ちをし、どうにか体勢を立て直してその一撃を受け止める。
 そこへ迫るもう一振りの魔刃。それをスミスは受け止めず、大きく飛び退いて回避する。
 だが躱された刃はスミスの体を浅く切りつけ、その身体に確かな傷痕を残した。
 ……そう。今まで蒼炎以外で傷つくことのなかった肉体が、カイトの刃によって傷つけられていたのだ。

「ッ!? ハアッ!」
 それを見たレインが、即座にスミスへと殴り掛かる。
 その一撃は防御されるが、そこには最初とは違う、確かな手応えがあった。

「もう一発喰らえッ!」
 行ける。その確信とともに、レインは再び拳を振り被る。
「ガアアァア―――ッ!」
 そこへさらにカイトが加わり、二人掛かりでスミスへと攻めかかる。
「おのれッ……!」
 対するスミスは、銃剣でカイトを、左腕でレインの攻撃を防ぐことで、どうにか二人の猛攻を捌いていく。
 だが『救世主の力の欠片』を失った状態で凌ぎ切れる筈もなく、少しずつダメージを蓄積させていき、そして。

「グッ……!?」
 不意に硬直する身体。
 スミスの肉体は、その意に反して唐突にその動きを止めてしまう。
 レインの装備する【緋ニ染マル翼】のアビリティ、《無垢ノ報復》の効果が発生し、麻痺状態になってしまったのだ。


318 : 無垢ノ報復 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:20:01 dXILFuxc0

「ハアァッ……!」
 その隙を容赦なく抉るカイトの魔刃。
 三尖の刃は硬直したスミスの胴体を深く切り裂き、レインに続くようにその追加効果を発生させた。

「ガ、アアアアァァァアア――――ッッ!!??」
 全身に奔るかつてない激痛に、スミスは堪らず苦痛の声を上げる。
 その痛みはカイトの持つ【虚空ノ双牙】のアビリティ、《ダイイング》の効果によって、残りHPを強制的に半減させられた影響だった。
 だがスミスへの攻撃がそれで終わるはずがなく、

「ハアアアア………ッッ!」
 カイトが双剣を構え、蒼炎をより激しく猛らせる。
 同時にスミスの身体に赤い刻印が浮かぶとともに蒼炎が噴出し、

 ―――EX-SKILL《葬爪の残像》。

 次の瞬間、無数の傷跡とともに、三角を描く赤い斬痕が刻み付けつけられた。

「馬鹿、な………――――」
 残りHPを全て吹き飛ばすほどの大ダメージ。
 スミスは一瞬だけ元のNPCの姿を現し、データ片となって消滅する。
 後に残ったものは、戦闘によって生じた無数の破壊跡と、カイトたち三人の姿だけだった。

      §

「いよっしゃ! やったなカイト!
 いやマジで死ぬかと思ったぜ」
 スミスを倒したという事実に、レインが喝采を上げる。
 全ての戦いが終わったわけではないことはレインも理解している。
 だがスミスを相手に誰一人欠けることなく生き残ったという事実が、レインにそうさせていた。
 一度は全滅を覚悟しただけに、その感情も一入なのだろう。

「……………………」
 だが一方のカイトの心中に勝利の喜びはなく、その脳裏には別の事が浮かんでいた。
 カイトが考えていたのは、スミスを倒した一撃の事だ。
 《蒼炎の残像》。それはカイトが個人で持つ攻撃スキルの中では最も威力の高い攻撃だ。
 だがスミスにこのスキルを使用した時、その手応えに違和感があった。
 あの時放った《蒼炎の残像》は、威力、速度共に従来のそれを明らかに上回っていたのだ。
 EX-SKILL――つまりは、“拡張(エクステンド)スキル”。
 スキルの使用時に浮かんだその言葉(システムメッセージ)。それと何か関係があるのだろうか。

「……………………」
 しかし、それは今考えるべきことではない。
 スミスとの戦いの最中に感知したある反応。
 あれは間違いなく、AIDAが顕現したことによるものだ。
 それもサチに感染していた《Helen》ではなく、別のAIDAの。

 この状況において、それが意味することは一つ。
 スミスもまた、AIDAに感染したPCだったということだ。
 近くにAIDA-PCであるサチが存在していたことと、複数のPCボディを持つスミスの特異性が、別のAIDAの存在を隠していたのだ。

「ハァアア…………」
「あん? どうした?」
 カイトは伝わらないことを承知の上で、レインへと声をかける。

 生徒会メンバーでAIDAに対抗できるのは、自分か《Helen》だけだろう。
 あるいはセイバーたちサーヴァントなら対抗できるかもしれないが、相当な不利を強いられるはずだ。
 それにそもそも、AIDAを完全に駆除できるのは自分のデータドレインだけだ。急いで校舎に戻る必要がある。

「よくわかんねぇけど……要するに、レオたちがまだ戦ってるってことか?」
「……………………」
「なるほど。だったら急いで戻んねぇとな」
 多少は意味が通じたのか、レインはそう言って気を引き締める。

 戦いが終わっていないというのなら、こんな所で喜んでいる暇はない。
 とっととジローを回収して、急いで校舎へと戻ろうとした―――その時だった。


「驚いたな。単独だったとはいえ、まさかあのスミスを倒すとは。
 さすがは女神Auraの騎士、といったところか」


 そんな言葉とともに、その男は現れた。
 その男は、左腕に巨大な拘束具を付けた、一種異様な風体をしていた。

「ッ………!」
 その姿を見た途端、カイトは即座に双剣を構え、スミスと対峙した時以上の警戒を見せる。
 それによってレインは、この男がカイトの敵であり、そしてスミス以上に“危険”な存在だと理解した。
 ……いや、たとえカイトの警戒がなかったとしても、レインはそう判断しただろう。何故なら。


319 : 無垢ノ報復 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:20:26 dXILFuxc0

「なんなんだよおまえ……その左腕……!」
 《視覚拡張》の応用によって視覚化した情報圧。
 男の左腕(こうそくぐ)から観測できるそれは、その情報量だけで言えば、ガウェインと同等かそれ以上の圧を放っていたのだから。

「ほう。“これ”が見える……いや、解るのか。
 どうやら君は、特別な眼を持っているらしいな」
「っ……んな事はどうでもいいんだよ!
 テメェは何だ。あのスミスとかいう黒服の仲間か!?」
「仲間、ね……。行動を共にしている、という意味ならその通りだ」

 レインの怖れを振り払うような言葉に、男は曖昧に答える。
 まるで見方によっては、スミスの敵であるとも捉えられる言葉。
 だがそれでも、一つだけはっきりしている事があった。

「はっ! 要するに、テメェはあたしらの敵ってことだろ!」
「ああ、その認識に間違いはない。どのような形であれ、いずれ君達とはぶつかっただろうからね。
 それがたまたま、このような形になったというだけの事だ」
「ちっ、ふざけやがって」
 曖昧な言葉を返す男に、レインは思わず舌打ちをする。

 この男の真意はわからない。
 だがカイトの警戒度合いからしても、並みならぬ強敵なのだろう。
 それもおそらくは、スミス以上の。
 そしてこのタイミングで現れたという事は、自分達をただで校舎へと戻らせる気はないという事だ。

 だが、この男に係っている余裕は、自分達にはない。
 校舎ではまだ、レオたちがスミスと戦っているのだから。
 だからこそ、レインは今にも飛び掛かりそうな様子を見せるカイトへと、後を任せることにした。

「おいカイト。ジローを連れて、レオのところへ行け。こいつはあたしが引き受ける」
「……………………」
「こいつがヤベぇのはわかってる。けどスミスを倒すには、あんたの力が必要だ。
 それに、こいつはスミスと違って、銃撃が効かないってワケじゃねぇんだろ?」
「……………………」
「任せろって。あたしを誰だと思ってやがる。
 プロミネンスのギルドマスターにして、対主催生徒会副会長。二代目『赤の王』のスカーレット・レイン様だぞ。
 レオが来るまでの時間くらい意地でも稼いでやるし、いざとなったら逃げだすさ」
「……………………」
 それを聞いてか、カイトはようやく双剣を収め、気を失ったままのジローの下へと向かった。
 その背中に、

「ああ、そうだ。ジローが起きたら伝えといてくれ。
 キャッチボール、それなりに楽しかったぜってな」

 レインはそう、静かに言い残した。

「……………………」
 その言葉が聞こえたのかどうか、カイトはジローと双銃を抱えると、振り返ることなく校舎へと向かっていった。
 その際、ジローの手が動いたような気がしたが、もう止めることは出来ない。
 そうしてその背中を見届けてから、レインは男へと向き直った。

「少し、待たせちまったか?」
「いや、構わない。
 しかし、その名前。その姿からもしやとは思っていたが……。なるほど、君はシルバー・クロウの同郷か」
「…………、テメェ。クロウを知ってんのか」
 男の言葉に、レインはそう問い返す。
 少し考えれば、メールから予測ができることは理解できた。
 だがシルバー・クロウの名を口にした男の声からは、推測による本野は思えない色が見て取れたのだ。
 そしてそれは正しかった。

「ああ、知っているとも」
 男が答える。

「彼を殺したのは、俺だからね」

 スカーレット・レインの、予想だにしない形で。

「――――ッッッ!!!」
 呼吸が止まり、頭が漂白される。
 男の言葉を理解することを、一瞬脳が拒絶した。

 イマ、コノ男ハナント言ッタ?
 クロウヲ殺シタト、ソウ言ッタノカ?

「………………ああ、そうか。クロウを殺ったのは、テメェか。
 テメェが……クロウを………。テメェがああああ――――ッッッ!!!」
 レインの叫びに呼応して紅い火焔が巻き起こり、その身体を無数の武装コンテナが覆っていく。


320 : 無垢ノ報復 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:20:47 dXILFuxc0

「なら時間稼ぎなんて生温いことは言わねぇ。テメェはここで、このあたしがぶっ潰す!」
 男へと向けられる二つの主砲他いくつもの重火器。
 砲口へと収束していく光は、レインの怒りを表すかのように紅く輝き、
「―――《ヘイルストーム・ドミネーション》ッ!!!」
 その声を引き金として、【インビンシブル】に搭載された全ての兵装が、男を目掛けて一斉掃射される。
 普通のバーストリンカーであれば、一瞬で消し飛びかねない過剰火力。
 あのガウェインとて、直撃を受ければ無傷では済まないだろう砲撃が、薄く笑みを浮かべる男へと迫り、

 ガシャンと、左腕の拘束具が外れる音が響き渡った。


    15◇◆◆◆◆◆


 黒に呑まれた視界が光を取り戻す。
 すぐさま辺りを見渡せば、周囲の光景は先ほどまでと一変していた。
 視界に映るのはよく見知った月海原学園の昇降口ではなく、データの剥き出しとなった、どこか幻想的な異界だった。

「――――――――」

 背後からふと、聞き覚えのある言葉が聞こえた。
 咄嗟に振り返ればそこには、半透明な体を赤く染めた、蜘蛛のようなグロテスクで巨大な生物。

 AIDAだ、とその正体を即座に理解する。
 だがその様相は、サチの心海で見たヘレンとはまるで違う。
 魚と虫の違いもそうだが、何よりもその赤い身体が、ヘレンにはなかった凶悪さを表している。

 その、赤い蜘蛛のようなAIDAが、岸波白野を認識した。
 眼などどこにもないくせに、その視線は悪寒を覚えるほどはっきりと感じ取れた。
 その悪寒からはっきりと理解する。
 やはりこのAIDAはヘレンとは違う。このAIDAは、岸波白野を敵として見ていない。
 いやそもそも、人間(プレイヤー)ですらなく、“餌”としか認識していない……!

「――――――――」
 理解不能なその声とともに、蜘蛛のAIDAがその前肢を振り上げる。
 その狙いはもちろん、岸波白野だ。
 だが自分にその一撃を防ぐ術はなく、通常空間に取り残されたのか、キャスターの姿も見当たらない。
 そんな完全に無防備な岸波白野へと、AIDAの前肢が振り下ろされ、

「させるか!」
 しかし、背後から飛び出たセイバーによって防がれた。
 同時に、岸波白野の魔力消費が倍増する。
 空間を隔てたといっても、契約が切れたわけではない。キャスターはまだ、通常空間でスミスと戦っているのだ。

「――――――――!」
 “食事”を邪魔されたからか、AIDAが怒りの声を上げる。
 その様子からは、スミスから感じられた無機質さなど欠片も感じられない。
 サチの感情に呼応していたヘレンと違い、このAIDAはスミスの影響を受けていないらしい。

「どうする、奏者よ。あまり考えている余裕はなさそうだぞ」

 分かっている。
 外の戦いはまだ終わっていない。それはつまり、キャスターは一人でスミスと戦っているという事だ。それも最悪の場合、二人以上のスミスとだ。
 瀕死にまで追い込んだ一人目だけならばともかく、おそらく無傷であろう三人目以降を同時に相手にできるほど、キャスターは強くはない。

 ……だがどうする。
 どうやって通常空間へと戻る。
 方法は簡単だ。目の前のAIDAを倒せばいい。そうすればすぐにでも戻れるだろう。
 だがそのAIDAを倒すために、どれほどの時間がかかる。それまでに、果たしてキャスターは持つのだろうか。
 いやそもそも、それを可能とするだけの魔力量など、岸波白野には存在しない。

 ――――この状況を覆す方法は、ある。
     令呪を使えばいい。

 マスターにのみ許された、サーヴァントに対する三度限りの絶対命令権。
 アーチャーを慎二へと貸したことによって残り二画となったそれを使えば、容易く問題は解決する。
 下す命令は簡単だ。ここにキャスターを呼び寄せるか、キャスターの下へと跳べばいい。
 それだけで問題は解決する。

 ……だがいいのか?
 令呪はサーヴァントへの強制力であると同時に、サーヴァントとの契約(つながり)でもある。
 令呪を使うという事は、その繋がりが薄くなるという事だ。
 そして今の岸波白野にとって、セイバーたちとの繋がりが薄くなるという事は、そのまま命の危険に繋がる。
 アーチャーとの契約を一時的に絶っただけで症状が現れたのだ。今令呪を使えば、データの欠損は間違いなく進行する。
 そんな危険な状態で、本当に令呪を使ってしまっていいのか――――?

「急げ、奏者(マスター)!」
 セイバーが声を荒げる。AIDAが再び動き出したのだ。
 もう迷っている時間はない。自分は――――

   AIDAと戦う
   キャスターを呼び寄せる
   キャスターの下へ――――


321 : 無垢ノ報復 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:21:22 dXILFuxc0

「む!? これは……!」
 不意にセイバーが瞠目する。
 決断を下そうとしたまさにその瞬間、蜘蛛のAIDAのものではない、新たな黒泡が現れたのだ。
 その黒泡は蜘蛛のAIDAを阻むように集まると、二つの人影を残して四散した。
 現れたのは、レオとともにいたはずの少女たち、サチ/ヘレンとユイだった。

「ここは……? あれ、セイバーさんに、ハクノさん!?
 それに、あのモンスターは……もしかして、あれがAIDA……?」
 ユイは周囲を見渡し、そう困惑したように呟く。
 彼女自身にも状況が理解できていないらしい。

「はい。ヘレンさんが急に、ハクノさんが危険だと言って、それで……」

 この場所へと連れてこられた、という事か。
 だがなんにせよ好都合だ。黒泡による転移でこの空間へと侵入したのであれば、同じ方法でこの空間から脱出することも可能なはずだ。
 そう思い、ヘレンへと声をかける。

「――――――――」
 だがヘレンは、蜘蛛のAIDAを見つめたまま、転移をしようとする気配を見せない。
 一体どういうつもりなのか。このままでは、キャスターが――――。

「たぶん、意味がないからだと思います
 あのAIDAの狙いがハクノさんだとしたら、今この空間から脱出したところで、またハクノさんをこの空間に引きずり込んできます」
「なるほどな。つまりあのAIDAを倒さぬ限り、状況は好転せぬという事か」

 ならばキャスターはどうなる。
 彼女は今も一人でスミスと戦っているというのに。
 やはり令呪で彼女を呼び寄せるしかないという事なのか。

「ちょっと待っててください。
 …………。
 安心してください、ハクノさん。今レオさんが、昇降口へと向かっています。校内のスミスの反応は、キャスターさんが戦っている一人だけです」

 レオが? それはつまり、生徒会室を襲撃したスミスは撃破した、という事だろうか。
 確かにそれなら安心できる。レオにならキャスターを任せても大丈夫だろう。
 なら後は、一刻も早くこのAIDAを倒し、キャスターの下へと戻るだけだ。

「うむ、任せよ。あのような怪物如き、一蹴に伏してくれる」
 そう言ってセイバーが剣を構える。
 AIDA本体の強さがどれほどかはわからないが、時間をかけている余裕はない。
 最悪、宝具の使用も考える必要があるだろう。
 そう考えた、その時、それに待ったをかけるかのようにサチ/ヘレンが前へと出た。

「――――――――」

 二度も行動を邪魔され、蜘蛛のAIDAは苛立たしげな様子を見せている。
 すぐに行動に移らないのは、こちらの様子を窺っているからか。
 対するサチ/ヘレンは相変わらずの無表情だが、その身に纏う黒泡が何かしらの動きを見せている。
 ベースとなっている生物(すがた)は違えど、あの蜘蛛とヘレンは同じAIDAだ。何か思う事があるのかもしれない。

「――――――――」
「――――――――」

 岸波白野には理解できない、ウイルス同士の会話。
 ユイに訊けばその内容を知ることができるのかもしれないが、その考えに至るより早く会話は終わりを告げる。

「――――――――!」
 その結果は、おそらく決裂。
 蜘蛛のAIDAが一際大きな奇声を上げ、その両肢を大きく振り被り。
「――――――――」
 サチのアバターをその身に纏って黒泡が覆い尽くし、その中からヘレンの本体たる巨大な雷魚が出現した。

 おそらくは前例のない、AIDA同士の対決。
 <Helen>と< Glunwald >による電脳の戦いが、今始まったのだ――――。


322 : 無垢ノ報復 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:21:49 dXILFuxc0

      §

 ――――その頃、残されたキャスターとスミスはお互いの武器を突き付け、静かに睨み合っていた。

 両者の状態は歴然としている。
 キャスターはほとんど無傷に等しく、魔力にもまだ余裕がある。
 一方のスミスは満身創痍であり、キャスターの呪術を受ければ一溜りもないだろう。
 それを理解していながらキャスターが攻撃に出ないのは、主に三つの理由からだった。

 一つは戦闘能力の違い。
 いかにスミスに対して呪術が効果的とはいえ、純粋な身体能力はスミスが勝っている。
 支援のない状態で近接戦闘に持ち込まれてしまえば、そのまま押し切られてしまう危険性があった。

 二つ目は状況。
 二人目のスミスが昇降口に侵入してきた際に、校庭への扉を塞いでいた下駄箱は破壊されてしまった。
 つまり今戦闘を行えば、校庭にいるNPCに発見されペナルティを受けてしまう可能性があるのだ。
 いつ、どのような形でペナルティが科せられるのかはわからない。だがペナルティを受けた状態でスミスと戦うのは明らかに危険だった。

 そして三つめが、岸波白野の安否だ。
 繋がったパスから岸波白野が無事であること、セイバーの気配がないことから彼女が傍にいることはわかる。
 だが彼らが現在彼どういう状態なのか、それがまったくわからない。
 もし岸波白野が人質にでもされていたのならば、如何なセイバーといえど迂闊な行動はとれないだろう。
 そしてそれはこちらも同じ。下手な行動をとれば、岸波白野にどう影響するかわかったものではなかった。

 わかっていることは、あれがAIDAに関連した現象である、という事だけ。
 そしてこちら側で対処できそうな人物は、カイトとヘレンだけだ。
 だがヘレンは三階で別の敵に襲われており、カイトはその救援に向かってしまった。
 彼らの状況が良くならない限り、こちらへの救援は望めないだろう。

(ご主人様の指示とはいえ、こんな事ならカイトさんを引き留めた方が良かったかもしれませんね。
 まあその場合、レオさん以外がどうなるかわかったもんじゃありませんけど。
 ああ、セイバーさんを向かわせる、という手もありましたか)

 いずれにせよ、今更の話だ。
 キャスターに異空間へと干渉する術がない以上、岸波白野と合流することは出来ない。
 最悪令呪という最終手段はあるが、それを使えるのはマスターである岸波白野だけ。
 ならば自分は、この場で自分にできることをするしかないだろう。
 そのためにも、今は少しでも情報を聞き出すしかない。

「ご主人様をどこへやったのか、訊かせてもらいましょうか」
 努めて冷静に、キャスターはスミスへと問いかける。
 だがその声色は、普段の彼女からは想像できないほどに冷たく、平坦だった。
 だが彼女をよく知る人間であれば、その声に秘められた激情を察することもできただろう。

「さてな。私にわかるのは、ここであってここでない場所、という事だけだ。
 遠くへ行ったわけではない、という事だけは保証するよ」
 対するスミスは、その問いに正直に答える。
 その理由は、嘘を吐く意味がないからだ。
 異空間に干渉する術を持たないのはスミスも同じ。つまりどう答えようと、結果は変わらないのだ。
 ならば、あちらで起きていることを考慮する必要はない。この自分はただ、目の前の女をどうにかすればいいだけの事。
 スミスはそう結論し、そのためにも、今はとにかく時間を稼ぐ必要があった。
 ペナルティを恐れていないスミスが攻撃を行わないのはそのためだ。


323 : 無垢ノ報復 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:22:12 dXILFuxc0

「っ…………!」
 そしてそれを、キャスターもまた理解していた。
 要するに、スミスは他の自分が駆けつけてくるのを待っているのだ。
 そして二人掛かりでこられれば、間違いなく自分はやられるだろう。

 あちらは時間が経てば経つほど有利になり、対してこちらは迂闊な攻撃ができず、そのうえ己がマスターの安否も不明。
 そんな切羽詰まった状況に、はぁ、とキャスターは息を零した。

「こうなっては致し方ありません。本気を出すといたしましょうか。
 このままやられるわけにも参りませんし、どのみち我慢の限界でしたので」
 キャスターはそう呟きながら、新たに数枚の呪符を取り出す。
 呪術の使用により魔力消費も、抗戦行為によるペナルティも、一旦棚上げすることに決めたのだ。
 そうでもしなければ、この場を切り抜けられないと理解しているが故に。……だが。

「なに―――!?」
 スミスは唐突に天井へと顔を向ける。
 ……いや、見ているのはさらにその上。三階だ。
 そこで起きている戦いに、何か変化があったのだとキャスターは察する。
 そしてスミスの驚き用からして、その変化は自分達の利となるものだろう。
 その程度には、キャスターはレオの事を信頼していた。

 そしてその予想が正しいことはすぐに証明された。
 一階へと駆け下りてきた、レオとガウェイン自身によって。

「白野さん、ご無事ですか!?」
 開口一番にレオはそう口にするが、昇降口に岸波白野の姿はない。
 周囲を見渡し、その事を素早く把握したレオは、改めてキャスターへと問いかける。

「キャスターさん、白野さんはどちらに?」
「口惜しながら、詳しくは。
 あの男曰く、ここであってここでない場所、とのことですが……。
 私にわかるのは、AIDAが関わっている、という事だけです」
「AIDA……なるほど、それでヘレンが」

 キャスターの返答を聞いたレオは、得心が言ったように頷く。
 その用紙には、先ほどまであった焦燥感はすでになくなっていた。

「何かお分かりで?」
「ええ。白野さんなら、きっと大丈夫です。
 つい先ほど、ヘレンが彼の下へと向かったはずですから」
「なるほど。抗う術があるのなら、ご主人様なら大丈夫ですね」

 それを聞いて、キャスターはそう安心する。
 パスを通じて岸波白野がまだ無事であることは理解している。
 そこに同じAIDAであるヘレンが向かったのなら、彼が何も出来ずに殺されるという事はないだろう。

「ではこちらは手早く、この奴儕を始末すると致しましょう」
 キャスターは改めて呪符を握り、スミスへと殺気を向ける。
 岸波白野が無事であるのなら、スミスを生かしておく理由はない。
 むしろ向後の憂いを払うためにも、ここで始末しておくべきだと判断したのだ。

「ぬぅ………!」
 それに対し、スミスは悔しげな声を漏らす。現状では勝ち目がないと理解しているのだ。
 レオは生徒会室を襲撃した二人のスミスを倒してここに現れた。ならば今この場に増援が来たところで、返り討ちにあうだけだろう。

「落ち着いてくださいキャスターさん。今の状況で戦うのは危険です。
 ここは僕たちに任せて、貴女はジローさんたちの救援をお願いします」
 だがスミスへと呪符を投げ放とうとしたキャスターを、レオはそう言って押し止める。

 安否がわからないのは、岸波白野だけではない。
 いやむしろ、カイトが向かっているとはいえ、危険度で言えばジローたちの方が上だろう。
 加えてこの場で攻撃を行えば、ペナルティが発生する可能性が高い。
 ならばここはスミスに優位に戦えるガウェインが残り、キャスターはカイトと同様、ジローたちの救援に向かわせようとの判断からだ。

「っ。仕方ありませんね……と言いたいところですが、その意味はなさそうですよ」
 レオの指示に渋々ながらも頷いたキャスターは、しかしその直後に感じた気配にそう口にする。
 その視線は、たった今、新たに昇降口へとやってきた人影へと向けられていた。


324 : defeat ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:23:02 dXILFuxc0


    17◇◆◆◆◆◆◆◆


 異形の雷魚と蜘蛛。<Helen>と< Glunwald >の戦いは、岸波白野の想像を僅かばかりに超えていた。
 この空間の特性なのだろう。二匹のAIDAは前後上下左右お構いなしに動き回っている。
 その縦横無尽な戦いは、おそらくはこの空間の中心、その水平面に囚われている自分達には出来ない戦いだ。
 仮にセイバーが蜘蛛のAIDAに挑んでいたとすれば、その動きに翻弄され苦戦は免れなかっただろう。

 そして肝心な、その戦いの戦況はといえば、
 ヘレンが無数の光弾をばら撒きながら逃げ、蜘蛛がそれを追いかけるという形で進んでいた。

 戦いはヘレンが不利だと言えた。
 一見ではヘレンが有利に立ち回っていると思うかもしれない。だがヘレンの光弾は、蜘蛛のAIDAには大したダメージを与えられていないのだ。
 時折胴体から放つレーザーこそ避けてはいるが、逆に言えば、蜘蛛のAIDAはそれにさえ気を付けていれば問題ないのだ。
 そして蜘蛛のAIDAにも遠距離攻撃がないわけではない。ヘレンと違い立ち止まってこそいるが、糸の塊のような弾丸を散弾銃のように放っている。
 しかもヘレンの光弾と違い、その糸弾はヘレンへとダメージを与えている。
 移動速度で勝る分被弾数こそ少ないが、ヘレンは確実にダメージを蓄積させているだろう。
 このままではいずれ、蜘蛛のAIDAに捕捉されるだけだ。

 同じAIDAでありながら、なぜこのような差が生じているのか。
 考えられる可能性は三つ。
 純粋なAIDAとしての格の差。感染したプレイヤーの差。そして顕現時に吸収した、あのセグメントらしきものによる差だ。
 そしてそれら可能性は、いずれも今の自分達には覆しようがない差だ。

 加えてこの空間内では、セイバーによる援護も難しい。
 純粋な速度だけを考えれば不可能ではないが、移動可能範囲が違い過ぎるのだ。
 もしセイバーも共に戦おうとするのであれば、ヘレンに騎乗するなどの協力を得るしかない。
 しかしセイバーの攻撃手段は剣のみ。蜘蛛のAIDAを攻撃するには、ヘレンに接近してもらうしかないのだ。
 そして明らかに格上の相手の領分で戦うなど、ほとんど自殺行為でしかない。
 蜘蛛のAIDAが自分達を狙ってくるならまだしも、ヘレンだけを狙っている現状では、出来ることは何もなかった。
 つまりヘレンは、この状況を自力でどうにかするしかないのだ。


 そうして、その時は訪れた。
 ロクに攻撃が通らず、自分ばかりがダメージを蓄積させていく状況に焦れたのか、ヘレンが蜘蛛のAIDAへと突進を仕掛けたのだ。

「む! いかん!」
 その攻撃の危険性を悟ったセイバーが、思わず声を上げる。
 だがその声はヘレンには届かず、そのまま蜘蛛のAIDAへと体当たりする。

「――――――――!?」
 逃げてばかりだったヘレンの突然の突進攻撃に、蜘蛛のAIDAは咄嗟の反応ができず直撃を受ける。
 そこへさらに放たれる追撃の回転攻撃。蜘蛛のAIDAはヘレンの尾鰭に打ち据えられ、その衝撃に弾き飛ばされる。
 ――――そして次の瞬間、仕返しとばかりに無数の糸を放出した。

「――――――――!」
 放射状に放たれた糸は上下から交錯するようにヘレンへと迫り、その身体を絡め捕る。
 咄嗟に回避するには、蜘蛛のAIDAとの距離が近すぎたのだ。
 そうして身動きの取れなくなったヘレンへと蜘蛛のAIDAは迫り、その鎌のような両前肢を容赦なく振り下ろした。

 そこからはもう一方的だった。
 大ダメージを受けたヘレンはその動きを鈍らせ、蜘蛛のAIDAは容赦なく攻撃を加えていく。
 まるで弱った獲物で弄んでいるかのような展開。
 だが有効な移動手段のない自分たちにはそれを止めることができない。
 ただヘレンが傷ついていく様を見ていることしかできなかった。
 そうして。

「――――――、…………」
 何かが割れるような音の直後、ヘレンの姿が光に包まれ、霧散した。
 あとに残ったのはサチの姿だけ。ヘレンは力尽き、その姿を顕現していられなくなったのだ。
 そうして力なく漂うサチへと蜘蛛のAIDAは近づき、その前肢を高く振り上げる。
 感染者であるサチ諸共、ヘレンに止めを刺すつもりなのだ。

「ヘレンさん!」
 ユイがその光景に、堪らず声を荒げる。
 自分は――――

  >サチ/ヘレンを助ける……!
   ……ダメだ。間に合わない。


325 : defeat ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:23:25 dXILFuxc0

 即座にセイバーへと指示を出す。
 岸波白野はサチを助けると誓った。そしてヘレンも、すでに自分たちの仲間だ。
 そんな彼女たちを見捨てることなど、出来るはずがない……!

 ……だが、サチ/ヘレンとの距離は僅かに遠い。
 セイバーはあと少しの距離を残して間に合わず、
 蜘蛛のAIDAがサチ/ヘレンへとその前肢を振り下ろし、

「――――――――!?」
 岸波白野の背後から生じた衝撃に、その動きを停止させた。
 何事かと後ろへと振り返れば、そこには右腕に腕輪を顕現させたカイトの姿があった。

 カイトの背後には、この異空間に開けられたらしき孔と、その向こうの通常空間にいるキャスターたちの姿が見える。
 だがそれも一瞬。異空間に開けられた孔は即座に塞がり始め、
 それより早くカイトが双剣を取り出し、蜘蛛のAIDAへと投擲した。
 放たれた双剣は弧を描きながら蜘蛛のAIDAへと迫り、その身体を切り裂く。
 それによって生じた一瞬の隙に、セイバーはサチ/ヘレンを抱え、岸波白野の下へと飛び退いた。

「大丈夫ですか、ヘレンさん!?」
 ユイがサチ/ヘレンの下へと駆け寄り声をかけるが、反応はない。
 ダメージによって気絶しているか、あるいは岸波白野が彼女を倒した時と同じように、小康状態となっているのだろう。

「……………………」
 一方カイトは、手元に戻って来た双剣を収め、セイバーと入れ替わるように蜘蛛のAIDAの前に立ちはだかる。
「――――――――」
 カイトが自らの脅威であると察したのか、蜘蛛のAIDAが一際警戒するような様子を見せる。
 だがカイトは無言。いつもの言葉ならぬ声すら発さず、蜘蛛のAIDAを見据えている。

 ヘレンは倒れ、AIDAに対抗できるのはもはやカイトしかいない。
 いやそもそも、AIDAを駆除することこそがカイトの本来の役割だ。あのAIDAが明らかに危険な存在である以上、躊躇う理由はないだろう。
 でありながら、AIDAを前にして、カイトは微動だにしない。
 その理由は、きっと――――

  >カイト。

 サーヴァントに命じるように、その黄昏色の背中に語りかける。

  >あのAIDAを、倒せ。

「……………………」
 それは頷きの声だったのか。
 岸波白野(いまのあるじ)の言葉を受け、カイトは蜘蛛のAIDAへと足を進める。
 同時にその両肩から、PCボディの内側から破裂するように蒼炎が吹き出る。
 それは両肘、両膝と続き、噴出した蒼炎はカイトの身体を覆い尽くして規模を拡大させていく。
 そうしてカイトを覆い尽くした蒼炎が晴れた時、そこには蒼炎を纏った、カイトの面影を色濃く残す巨人がいた。

「なんと! もしや、あれがカイトの本当の姿か……!?」
「それはわかりません。ですが、すごい情報密度です……」
 神々しささえ感じられるその威容に、セイバーとユイが驚嘆とともに呟く。

 ――――本当の姿。
 つまりあれが、カイトが全力で戦う時の姿という事か。
 言うなれば、<蒼炎の守護神(Azure Flame God)>。
 普段のPCとしての姿は、あれでも『The World』の仕様に合わせたものだったのだろう。

「――――――――!」
 蜘蛛のAIDAが、湧き上がる恐れに奇声を上げる。
 理解したのだ。今のカイトが、紛れもなく自身を脅かす存在――天敵なのだと。
 そしてその怖れを振り払うように前肢を振り被り、カイトへと突進する。

「ハァァアアア……!」
 対するカイトは、その両腕に備えられた三枚二対の刃を展開し、自ら接近して迎え撃つ。
 激突するカイトの爪刃とAIDAの鎌肢。
 AIDA< Glunwald >との戦いは、こうして新たな局面を迎えたのだった。


326 : defeat ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:24:40 dXILFuxc0

      §

 爪刃と鎌肢が高速でぶつかり合い、火花を散らす。
 だがあくまで肉体の延長でしかない鎌肢は、爪刃の刃によって傷つきダメージを受ける。
 それによりこのままでは不利だと判断したのか、< Glunwald >はより強く鎌肢を振り抜いてカイトを弾き飛ばし、《アルケニショット》を放つ。
 だが放たれた糸の散弾は、<helen>の時と違い、一発も掠めることすらなくカイトに回避される。
 《アルケニショット》が放たれた時には、すでにその射線から退避していたのだ。
 そして反撃とばかりに、カイトが両手から蒼炎を放つ。
 <Glunwald>はその蒼炎を鎌肢で振り払うが、その隙にカイトが接近し爪刃を振り抜く。

「――――――――ッ!」
 胴体を切り裂かれ、<Glunwald>は苦痛の声を発する。
 だが即座に鎌肢を振り抜き、カイトへと反撃する。
 しかしカイトは即座に離脱し、その一撃は空を凪ぐだけに終わる。

 しかしすぐさまカイトを再補足し、<Glunwald>は《アラクノトラップ》を放つ。
 <Helen>に大ダメージを与えた、守護神となったカイトの巨体では回避困難な攻撃。
 放たれた糸のレーザーはその巨体を絡め捕らんと上下からカイトへと迫り、しかし、カイトの両手から放たれた巨大な蒼炎――《蒼炎弾》によって焼き払われた。
 そして次の瞬間には、再接近したカイトの爪刃によって、<Glunwald>はまたも切り裂かれていた。

 反撃はおろか、迎撃すら間に合わない。
 通常攻撃の威力はほぼ互角。だが基本となる移動速度が違い過ぎるのだ。
 その<Helen>とは段違いの戦闘能力に、<Glunwald>はただ翻弄されるしかなかった。
 ――――しかし同時に、“なぜ自分がダメージを受けるのか”、とも戸惑っていた。

 <Glunwald>は、ボルドーを素体としたエージェント・スミスを媒介として顕現した。
 そしてその際、『イニスの碑文』に加え、スミスの内(ソース)にあった『救世主の力の欠片』も取り込んでいた。
 それにより、<Glunwald>の力は並のAIDAとは比較にならない程に向上していたのだ。
 ともすれば、あの<Tri-Edge>にすら届くのではないかというほどに。
 その証明が先の<Helen>との戦いだ。
 <Helen>の放った光弾が<Glunwald>に効かなかったのは、<Glunwald>がスミスと同じ“守り”を得ていたからなのだ。

 ……だが。
 それならばなぜ、カイトの攻撃に対して、その“守り”が働かないのか。
 その答えは、先のカイトとスミスとの戦いにあった。

 先の戦いにおいて、カイトはスミスを倒すためにデータドレインを行い、その“守り”の源となる力(プログラム)を収奪していた。
 つまりカイトもまた、<Glunwald>と同様に『救世主の力の欠片』を得ていたのだ。
 これにより『救世主の力の欠片』による“守り”は無効化され、<Glunwald>の優位は『イニスの碑文』のみとなっていた。

 そしてカイトはそもそも、ある“碑文使い”に感染したAIDAである<Tri-Edge>に対抗するために生み出された存在だ。
 碑文をたった一つ、それもただ取り込んだに過ぎないAIDAを相手に、負ける道理など存在しなかった。

 しかしそれを認めまいと、<Glunwald>は《コボルブリッド》を放つ。
 放たれ四つの光弾が、誘導性をもってカイトへと迫る。
 《アラクノトラップ》は<Glunwald>が持つ中で最も強力な攻撃だ。
 その始動となる糸が蒼炎によって焼き払われるのならば、蒼炎を生み出す間を与えなければいいと考えたのだ。

 だがそれに対し、カイトは両手の爪刃を展開し、投擲することで迎撃する。
 ―――《蒼炎・虎輪刃》。
 高速で回転する二つの刃は四つの光弾を容易く切り裂き、そのまま<Glunwald>へと迫る。
 自身へと迫り来る爪刃を<Glunwald>は咄嗟に鎌肢で弾き飛ばす。
 しかしその隙に接近していたカイトが、<Glunwald>の胴体を掴み取った。

 直後、カイトは異空間の上方へと急上昇する。
 そのあまりの高速移動に、<Glunwald>は抜け出すことができない。
 そしてカイトは最高度へと達すると同時に急降下し、異空間の底面へと<Glunwald>を叩き付けた。
 ―――《蒼炎舞・百花繚乱》。
 激突と同時に噴出した蒼炎が、<Glunwald>の体を焼き尽くす。
 そしてその間に、カイトは止めの一撃へと移行していた。


327 : defeat ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:24:59 dXILFuxc0

 カイトは二つの爪刃を背面に展開し、両手を胴体で構える。
 直後出現した無数のデジタル模様が砲身を形作り、その砲口にプログラムの砲弾を形成する。
 そしてデジタル模様のフィンが回転し、砲弾へとエネルギーをチャージさせ、<Glunwald>へと向け撃ち出された。
 しかし<Glunwald>はあまりのダメージに身動きできず、その砲弾――《データドレイン砲》の直撃を受け、

「――――――――ッッッッ!!!!」

 響き渡る断末魔。
 《データドレイン砲》の砲弾はその内部に<Glunwald>を取り込み、その構成データを奪い取る。
 そうして何かが割れるような音が響き渡ると同時に、砲弾はその軌道を逆行する様にカイトの下へと戻り、奪い取ったデータを還元する。
 残された<Glunwald>は<Helen>と同じように光に包まれ、異空間諸共に消失したのだった。


    18◇◆◆◆◆◆◆◆◆


 気が付けば、いつもの昇降口へと戻っていた。

「どうやら、通常空間へと戻ってこられたようですね」
 気を失ったままのサチを抱えたユイが、周囲を確認してそう口にする。
 おそらく、蜘蛛のAIDAが倒されたことによって、異空間が解除されたのだろう。
 目の前にはいつもの姿に戻ったカイトと、その奥に倒れ伏すスミスの姿があった。

「ご無事ですか、ご主人様!」

 その声に振り返れば、そこには背後にジローを庇ったキャスターがいた。
 ……よかった。どうやら大した怪我もなく無事のようだ。
 そのことに安堵し、ほう、と息を吐く。

「奏者よ、まだ気を緩めるでない。まだ戦いが終わったわけではないぞ」
 だがそんな自分に、セイバーが釘を刺してくる。
 それに頷き、気を引き締め直す。
 そう。この昇降口にいるのは自分達だけではない。
 この二はもう一人、キャスターと対峙していたスミスがいるのだから。
 そのスミスと対峙しているのは、レオとガウェインだ。
 おそらく生徒会室を襲撃したスミスたちを倒し、駆けつけてくれたのだろう。

「ご帰還なによりです、白野さん。
 他の皆さんも、無事のようで安心しました」
 レオはそう口にするが、その視線は油断なくスミスへと向けられている。
 スミスがまだ生きているのは、岸波白野か、それともペナルティを気にしての事だろうか。
 いずれにせよ、状況からして新たなスミスは現れなかったらしい。

 ……だが、一つだけ気になることがあった。
 対主催生徒会のメンバーは、岸波白野を除いて六人。
 うち生徒会室にいたサチ/ヘレンとユイ、彼らを助けに向かったカイトは岸波白野の下へと駆けつけた。
 そしてレオはスミスと相対しており、ジローはキャスターの後ろで気を失っている。
 ならば残るあと一人、スカーレット・レインは、いったいどこにいるのだろう―――?

「これで大体の不安要素はなくなりました。
 これ以上引き延ばす意味はありませんし、早急に戦いを終わらせましょう」
 そんな自分の疑問を余所に、レオはガウェインへと指示を出す。
 ここで決着を付けるつもりなのだろう。
 憂いがなくなった以上、ペナルティを気にする必要はないという事か。

「っ……!」
 それを受けて、スミスが警戒を高めるが、満身創痍であることに変わりはない。
 もう一人のスミスも目を覚まし立ち上がるが、カイトにやられたダメージが抜けてないのか、その動作は緩慢だ。
 そんな状態では、レオのガウェインに勝つことなど不可能だろう。
 だが。

「おめでとう。この戦い、君たちの勝利だ」

 左腕に巨大な拘束具を付けた男の登場によって、状況は一変した。

「だが、まだ彼らに死なれては困るんだ。すまないね」
 どこか聞き覚えのある声質の男は、そう口にしながら、昇降口へと入ってくる。
「……………………」
 しかし同時に、カイトが双剣を構え、男へとその刃を突き付けた。
 その躊躇いのない動きは、その言葉以上に、男が敵であることを示していた。
 だが続いて放たれた言葉に、岸波白野の思考は一瞬停止した。

「オ=ヴ@&……レ#ン……$う*た………」
「ふむ。あの少女が気になるのか? あの少女なら、殺したよ」

 殺した?
 彼が、誰を?

 その答えを示すかのように、男は唯一自由な右手で、何かを放り投げた。
 廊下に転がったそれは、スパイクの付いた一対の紅い拳当と、紅いおもちゃのような拳銃を握り締めた何かの右腕だった。
 その右腕もデータ片となって消え去り、後には拳当と拳銃だけが残る。


328 : defeat ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:25:20 dXILFuxc0

「それは、レインさんの……!」
 それを見たレオが、何かを察したようにそう口にする。
 それが意味することは一つ。
 この男が殺したという少女は、スカーレット・レインの事に他ならないという事だ。

 その、仲間が死んだという事実に、思わず動揺する。
 その動揺を突くかのように、男は言葉を続けた。

「それに君たちは、一つ忘れている事がある」
「忘れている事?」
「ああ。確かにこの戦いは君たちの勝利だと言えるだろう。
 だが、戦いそのものはまだ終わっていない、という事だよ」

 男がそう口にすると同時に、二人のスミスが動き出す。
 一人目がレオへと銃口を向け、二人目も銃剣を取り出し、セイバーへと接近する。
 それに対し、ガウェインがレオを庇い、セイバーもスミスを迎え撃つ。
 キャスターは周囲を警戒しつつジローを背に庇い、ユイもサチ/ヘレンを抱きしめて庇う。
 そして岸波白野は、

「っ!? ご主人様!?」

 三人目のスミスの貫手によって、背中から貫かれていた。

 いつの間に潜んでいたのか、そのスミスは二階へと通じる階段から襲撃してきた。
 それに反応できたのは、周囲を警戒したキャスターだけだった。
 だが咄嗟にジローを庇ったことにより、完全に不意を突いたスミスの行動を阻止できなかったのだ。

「これで、チェックメイトだ」
 三人目のスミスは、そう口にしてより深く右手を差し込んでくる。
 だが不思議なことに、その手が胸から突き出てくることはなかった。
 あるのはただ、自分の中に異物が入り込んでくる、とてつもない不快感と、そして、
 岸波白野を貫いたスミスの貫手から生じる、“自分が自分でなくなっていく”その感覚だけ。
 ……ああ、そうか。
 これが、シノンの言っていた、他者を自分にするというスミスの能力なのだ。

「このっ! ご主人様から、離れ……っ!?」
 キャスターが即座にスミスへと攻撃しようとするが、スミスは岸波白野を盾にすることで牽制する。
「奏者!」
「白野さん!」
 セイバーとレオも声を荒げるが、二人はスミスの妨害にあい、駆けつけられない。
「…………ッ!」
「そんな……!」
 カイトは男を警戒して動けず、残るユイでは、そもそもスミスの相手にもならない。

 つまり、これで終わり。
 これから先、岸波白野は岸波白野ではなく、スミスの内の一人として存在することになる。
 それが、このバトルロワイアルにおける、岸波白野の結末なのだ。

 なんて、僅かな思考の間にも、“それ”は進行していた。
 スミスの腕を起点として発生する、黒い何か。それが岸波白野の体を、すでに半分以上も覆っている。
 おそらくこれが全身を覆い尽くした時、岸波白野はスミスの一人へと変わるのだ。

 ………………だが、それでいいのか?
 自分がスミスになってしまえば、セイバーやキャスターはどうなる。
 ただ契約を失い消滅するのか、それとも自分の存在ごと令呪を奪われ、それによって従わされるのか?
 いやそもそも、こんな身も簡単に、岸波白野を諦めてもいいのか?

   諦める。
  >諦めない。

 諦められる、はずがない。
 この体は、多くの想いを背負い、多くの願いを超えてここにある。
 自分を諦めるという事は、今まで岸波白野が戦ってきた全てを諦めるという事だ。
 そんなこと、これまでずっと共に戦ってきたセイバーたちのためにも、出来るはずなどなかった。

 ……だが、それでも“それ”は進行していく。
 抵抗も何もない。僅かな意志さえ介在する余地もなく、岸波白野を浸食していく。
 そうしてその黒い何かが、あっという間に首まで覆い尽くし、そして、


「ああ、それ。なかったことにしますね」


 そんな言葉とともに、あっさりと岸波白野は解放された。


329 : defeat ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:25:45 dXILFuxc0

「っ!? 何事だ!?」
 一体どうしたのか、何かに弾かれたかのように距離をとるスミス。
「無事か奏者!」
「身体に異常はございませんか!?」
 その間にセイバーとキャスターが、こちらへと駆け寄ってくる。
 何とか大丈夫だ、と二人に応える。
 まだ不快感は残っているが、自分はちゃんと、岸波白野を保てている。

 だが、スミスは一体どうしたのだろう。
 あとほんの少しで、自分は岸波白野でなくなっていたというのに。
 それに、さっきの声は――――

「もう大丈夫ですよ、先輩」
 その声に昇降口へと振り返れば、そこにはいつの間にか一人の少女が佇んでいた。
 間桐桜。プレイヤーの健康管理の役割を担う、NPCの少女が。

「今のは、貴様か……っ」
 スミスは怒りの声とともに、桜を睨み付ける。
 それは一体どういうことなのか。
 プレイヤーに公平であるはずの彼女が、自分を助けてくれた?

「スミスさん……いえ、エージェント・スミス。
 月海原学園におけるモラトリアムのルールに従い、貴方にペナルティを与えます。
 対象となる行為は三つ。一、学園内における戦闘行為。二、学園施設の破壊。三、NPCへの殺傷行為。
 よって一定期間中、そのステータスおよび一部施設の利用権限を制限します」
「ぐ、ぬ……!?」

 桜がそう宣告すると同時に、スミスの体にエフェクトが発生する。
 おそらく、ペナルティが科せられたのだろう。
 ……だが、スミスはそれで止まる人間(AI)ではない。
 それを示すかのように、彼は桜へと敵意を顕わにしている。

「ふん。この程度のペナルティがどうかしたのかね。
 三番目に厄介な人間は“私”に変え損ねたが、代わりとなる人間は他にもいる。
 私はすぐにでも、“私”を増やすことができる。多少ペナルティを受けたところで、何の問題もない」

 そう。それは正しい。
 今この場には、スミスの標的となり得る人間が複数人いるのだ。
 もちろん、レオはガウェインが守るだろう。自分もセイバーとキャスターが守ってくれる。
 だが、ユイたちは?
 カイトが拘束具の男と対峙し動けない以上、セイバーかキャスターのどちらかがが彼女たちを守るしかない。
 だがいかにペナルティを受けたとはいえ、スミスを相手に複数の人間を守るのは困難だ。
 そして一人でもスミスへと変えられてしまえば、こちらの敗北は確定してしまうのだ。
 ――――そう。

「私の能力を無効化できるらしい、貴様さえいなければな」
 スミスが拳を握り、桜へと向き直る。

 桜がスミスの能力を無効化できた理由も、した理由もわからない。
 だが彼女がいる限り、スミスはその能力を行使できない。
 故に、スミスは桜の排除を優先する。
 彼女さえいなければ、この戦いの結末は覆し得るのだから。

「では、消えろ」
 その言葉とともに、スミスが桜へと踏み込む。
 桜! と思わず声を荒げる。
 彼女はあくまで健康管理AI。戦闘能力など、あるはずがないからだ。
 だが。
 桜へと踏み込んだスミスの脚は、その背後から飛来した刃によって阻まれた。

「ぬっ!?」
 スミスは咄嗟に足を止め、残像を残すほどの高速でその刃を回避する。
 直後、その背中に、大柄な人影が滑り込む。
「一足、一倒!」
 直後、昇降口を震わすほどの震脚から放たれる拳打。
 スミスは咄嗟に防御するが、背後からの一撃に堪え切れず、大きく弾き飛ばされる。


330 : defeat ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:26:32 dXILFuxc0

「くっ、貴様ッ!」
「NPCへの攻撃が禁止されているから、NPCも攻撃をしてこない、とでも思っていたのかね?
 浅はかだな。仮にも自意識がある以上、脅威に晒されれば抵抗するのは当然であろう。
 ダメージこそ与えられんが、こうして殴り飛ばすことくらいなら十分に可能だ」
 スミスを殴り飛ばしたのは、購買部で店員をやっていた言峰神父だ。
 神父は構えた拳を解くと、重苦しい声でそう口にした。

「ありがとうございます、言峰神父」
「なに。ペナルティを無視するプレイヤーの存在は予測されていた事態だ。
 そういったプレイヤーから生徒を守るのも、私の役割だからな」
 神父へと礼を口にして、桜はスミスへと右手に握った教鞭を突き付ける。

「これで四つ目です、エージェント・スミス。
 違反行為の継続により、ペナルティを加算。一切の施設利用を禁止し、貴方をこの学園から強制退去します」
「なに―――!?」
 桜が宣告とともに教鞭を一振りすると同時に、スミスたちの姿が消える。
 学園から強制退去、という事は、学園の敷地外へと転移させられたという事か。

「それで、あなたはどうしますか? オーヴァンさん。
 このまま戦闘行為を続けるのであれば」
「いや、意味もなくペナルティを受けるつもりはない。ここは引き下がらせてもらうとしよう。
 それに、俺一人で彼ら全員を相手にするのは、さすがに厳しいからね」

 拘束具の男――オーヴァンはそう言うと、あっさりと昇降口へと踵を返す。
 おとなしく撤退し、スミスと合流するつもりなのだろう。
 みんなの心に、大きな傷跡を一つ残して。
 その背中に――――

   ………………
  >一つだけ、訊かせてほしい。

「………何を、かな?」
 オーヴァンは足を止め、しかし振り返ることなくそう訊き返してくる。
 自分は――――

   なぜ、スミスに協力している。
  >なぜ、デスゲームに乗っている。

「真実を知るため」

 真実?
 それとデスゲームに乗ることと、どんな関係があるというのだろう。

「目に見える物だけが全てではない、という事だよ」
 そう言い残すと、オーヴァンは今度こそ学園から去っていった。
 とりあえず、目の前の危機は去った、という事だろうか。
 そう思い、ふう、吐息をつく。
 ……だが、これで全てが終わったわけではない。
 事実、レオは緊張した面持ちで桜と向かい合っていた。

「それではサクラ。僕たちへのペナルティは、どのようなものでしょうか」

 そう。自分達は学園内でスミスと“戦闘”をした。
 そしてモラトリアム中の学園内において、“戦闘行為”はペナルティの対象だ。
 スミスだけがペナルティを受け、自分達が受けないなどという道理はない。
 だがそう緊張する自分たちに、桜は首を横に振って答えた。

「安心してください。こちらが確認したのはエージェント・スミスの攻撃行為だけで、皆さんの攻撃行為は報告されていません。
 そのため、ペナルティの対象となるのはエージェント・スミスただ一人です」

 それを聞いて、一先ず安心する。
 だが続いて告げられた言葉に、思わずギクリとしてしまう。

「ただし、昇降口を塞いでいた下駄箱が除かれた以降に交戦していた場合は対象となっていたでしょうけど」
「うわ、あっぶなー。レオさんが来なかったらペナルティ受けてましたね、それ」
 それを聞いてキャスターが、冷や汗とともにそう呟く。

 やはり二人目のスミスが現れたあの時点で、昇降口の様子は校庭にいたNPCから見られていたのだろう。
 だとすれば、違反行為の発見とペナルティの発生に間があったのは、その権限を持つNPCが限られているからか。
 報告という言葉からして、おそらくそうなのだろう。

「話は終わったか。なら通常業務に戻らせてもらおう」
「あ、すみません言峰神父。その前に、下駄箱を元に戻しておいていただけますか?
 このままですと、校舎の運営にいろいろと支障が……」
「まあいいだろう。これも一つのボランティアだ」
 ガゴン、と大雑把に下駄箱を戻して、神父は食堂へと戻っていった。
 また誰かが購買部を利用するまで、じっと待機しているのだろう。


331 : defeat ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:27:09 dXILFuxc0

「では私達も、保健室へと向かいましょうか。
 念のため、みなさんの事も診ておきたいですし」
「そうですね。ではそうさせていただきます。
 レインさんのことを含め、いろいろと話し合う必要がありますしね」

 桜とレオはそう言って保健室へと向かい、ジローを抱えたガウェインがその後をついて行く。
 自分もそれに続こうと、サチ/ヘレンを連れていくために昇降口へとへと振り返ると、

「なんでしょうか、カイトさん」

 カイトとユイが話し合っている様子が視界に映った。

      §

 話し合いが終わり、レオさんたちが保健室へ向かったその時だった。
 それを待っていたかのように、不意にカイトさんが声をかけてきた。

「なんでしょうか、カイトさん」
「ハアアアァァ……」
 私がそう問い返せば、かえってくるのはいつもの声。
 だがその声に込められた内容は、私には理解できた。

「渡しておきたいもの、ですか?」
「……………………」
「これは? セグメントとよく似てますけど……」
 そう言ってカイトさんが取り出したのは、セグメントとよく似た、水色に輝くデータ結晶だった。
 この水色のデータ結晶は、蜘蛛のAIDAからデータドレインによって奪ったものらしい。
 けどその構成データは、どちらかというとAIDAと戦っていた時のカイトさんのそれに近かった。

「……=ニス………」
「イニスの、碑文? けど、どうしてこれを私に?」
「*&と、=じ……」
 このイニスの碑文は、腕輪と同じ……つまりデータドレインと同じ力を持っているとカイトさんは言う。
 碑文は腕輪と同じく、規格外の力だ。蜘蛛のAIDAがヘレンを圧倒したのも、碑文を取り込んでいたからかもしれない。
 だから、悪用されないように預かっていてほしいのだと。

「……じゃあ、もしこの碑文をヘレンさんが取り込んだら、彼女は強くなるんですか?」
「……………………」
 それに対するカイトの答えは曖昧だ。

 能力が強化されるという意味なら、間違いなく強くなるだろう。
 だがイニスの特性は『幻惑』。仮に強化されるとしても、それが戦闘能力に結びつくとは限らない。
 第一に、碑文は本来、その碑文の適格者――“碑文使い”にしか扱えない。
 AIDAのような例外であっても、その力を完全に扱えているとは言い切れないのだ。

「そう……ですか………。
 判りました。この碑文は、責任を以て私が預かっておきますね」
 その返答に若干落ち込みながらも、碑文をストレージへと収める。
 すると、話が終わるのを待っていたのだろうか。

  ――二人とも、何の話?

 ハクノさんがそう声をかけてきた。

「いえ、何でもありません。
 行きましょう、カイトさん。あ、ヘレンさんをお願いしますね。
 ほら、ハクノさんも。レオさんたちを待たせちゃいますよ」
 ハクノさんの問いをそう言って誤魔化し、急ぎ足で保健室へと向かう。
 ハクノさんは不思議そうにしながらも、サチ/ヘレンさんを抱き抱えたカイトさんと一緒についてくる。
 そのことにほっと安堵して、私は保健室へと急いだ。





 碑文の事をハクノさんに隠した理由は、自分でもよくわからなかった。
 けれど一つだけ、心の隅で思っている事があった。

 碑文が使えれば、私もみんなのように戦えるだろうか。

 碑文は“碑文使い”にしか使えないとカイトさんは言った。
 プログラムに感染するAIDAが例外なだけで、私に碑文が使えるかはわからない。
 いや、私が異なる世界のAIだという事を考えれば、使えない可能性のほうが高いだろう。
 けれど、AIDAであるヘレンさんの力を借りれば、もしかしたら、と思ってしまうのだ。

 今回のスミスの襲撃で、私は最善を尽くしたつもりだった。
 けれど、それでもレインさんは死んでしまった。
 だから思ってしまったのだ。
 私にもっと力があったなら、レインさんは死なずに済んだのではないか、と。
 …………ただ。

 “強い力。使う人の気持ち一つで、救い、滅び、どちらにでもなる”

 腕輪の力を説明した時の、カイトさんのその言葉。
 それがどうしても忘れられなかった。


332 : RAIN 〜紅の暴風姫〜 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:27:56 dXILFuxc0


    19◇◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ぬぅ……っ」
 悔しげな声とともに、スミスは拳を握りしめた。

 ペナルティによって強制退去されたスミスは、月海原学園の校門前へと転送させられていた。
 スミスは当然学園内へと再び入ろうとしたが、NPCの不死属性と似たシステムによって阻まれてしまったのだ。
 つまりペナルティが解除されない限り、スミスは学園内にいるプレイヤーやNPCに手出しができないということだ。

 ……だが、NPCがいるのはこの場所だけではない。
 受けたペナルティからすると、他の施設も同様に利用できないだろうが、施設の外にいるNPCもどこかに入るだろう。
 仮にいなかった場合でも、プレイヤーをターゲットにすればいいだけのこと。むしろ効率の面から言えば、そちらの方が良いだろう。

 だがなんにせよ、今考えるべきことはそれではない。
 スミスはそう判断し、もう一人の自分へと向き直った。

「“あのプログラム”はどうだった? 使用したのだろう?」
「ああ、素晴らしい“力”だ。
 まだ制御するには至っていないが、『碑文』と合わせれば、より大きな“力”となるだろう」
「そうか。それは朗報だな。オーヴァンの言っていたことは本当だったというわけか」

 IDAに碑文を与えれば、その力を増幅させることが可能だと、オーヴァンは言った。
 その言葉通り、碑文を得た自分達のAIDAは、同じ存在であるはずの少女のAIDAを圧倒した。
 マク・アヌであった少年とよく似た、屍人形(ゾンビ)のような少年にこそ敗北したが、その力は十分に証明されただろう。
 ならばAIDAを完全に使いこなすことができれば、より強大な力を得られるはずだ。

「だが問題が一つ。アトリの碑文を奪われた。
 おそらく、あの少年の改竄能力によるものだろう」
「データドレイン……だったか。厄介だな」

 やはりというべきか、屍人形の彼もまた、あの少年と同じ力を持っていた。
 データドレインというらしいその力は、自分達の情報(ソース)を改竄し弱体化させる。
 あの力への対抗策を得ぬ限り、最終目的である榊の殺害は困難だろう。
 だがその対抗策となり得たであろう碑文も、データドレインによって奪われてしまった。
 このままではデータドレインへの対策など夢のまた夢だ。

「ここで奴らが出てくるのを待つか」
「ペナルティが解除されるのを待つか」
「あるいは、他の似た力を持つ人間を探すか」

 いずれにせよ、データドレインには早急に対処しなければならない。
 そのためにも、

「やあ。ここにいたのか」

 オーヴァンから、より詳しい話を聞き出す必要があるだろう。

「その様子からすると、学園内に入ることが出来ないようだね」
 校門で立ち往生しているスミスを見て、オーヴァンはそう口にする。
 対するオーヴァン自身は、その様子からしてペナルティを受けていないのだろう。
 元よりペナルティを受ける気はないと言っていた男だ。そうおかしなことではない。

「ああ、その通りだ。まさかNPCに、ここまでの強制権があるとは思わなかった。
 ペナルティを与えるという名目があってのものだろうが、油断していたようだ」
「油断、ね。
 ……油断といえば、君達ともあろうものが、随分と手酷くやられたな」
「確かにな。未知のプログラムの脅威は理解していたつもりだったが、まさかただの一人で“私達”を圧倒する存在がいたとはな。
 彼さえいなければ、学園はすでに“私達”によって制圧できていただろうに」

 あの白騎士の力は、データドレインのようなシステム外のものではない。
 つまり今の“自分達”が彼に勝つには、ただ数で圧倒するしかないのだ。
 だが上書き能力に制限の掛けられたこの世界では、そこまでの数を用意するのは容易ではない。
 戦闘時の様子からして、おそらく赤い制服の少年が彼の弱点なのだろうが、防戦に徹せられてはそこを突くことも困難だ。
 現状で有効と思われる手段は、AIDAを顕現することで一方を異空間に引き込み、分断することくらいだろう。
 だがそそのためには、AIDAを自在に顕現できるようにならなければならない。


333 : RAIN 〜紅の暴風姫〜 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:28:35 dXILFuxc0

「オーヴァン君。君はAIDAを使いこなしているようだが、どうすればAIDAをコントロールできる」
「AIDAの使い方、ね。それを教えるのは構わないが、“彼”はそのままでいいのかい?」
 そう言ってオーヴァンが示したのは、満身創痍といった様相のスミスだ。
「む、それもそうだな。このままでいるよりは、見た目だけでも直しておくべきだろう」
 スミスがそう答えると同時に、もう一人のスミスがそのスミスに右手を突き刺す。
 上書きで外見を修復したところで残りHPは変わらないが、わざわざ他者にHPが減っていることを教える理由もない。

「それで、AIDAをコントロールする方法だったが、その前に一つ、勘違いを訂正しておこう」
「勘違い?」
「そうだ。君は俺がAIDAを使いこなしていると言ったが、それは違う。
 俺たちは互いを理解しているのさ。俺とAIDAは危険な友人。そして―――」
 そうしてオーヴァンが説明を始めた、その時だった。

「ぐ……ヌ、ガアアア亜阿吾A――――ッッッ!!!???」

 唐突に、“私達”の一人が、叫び声を上げた。
 その“私”は、他の“私”によって上書きによる外観の修復を受けていた個体だ。

「何事だ!?」
「AIDAとは、Aritificially Intelligent Data Anomalyの略称だ。
 果たして君達は、真にAIDAを理解していたのかな?」
「何? オーヴァン君、君はいったい何を……っ!」

 スミスは唐突な事態の変化にも平然としているオーヴァンへと問い返し、すぐにその言葉の意味を理解する。
 Aritificially Intelligent Data Anomaly。直訳すれば、「不自然の異常な知的データ」。
 知的データ。つまりAIDAはただのプログラムなどではなく――――

「ぐっ!?」
 唐突に背後から両腕を掴まれ、拘束されて地面へと押し付けられる。
 どうにか顔を動かし、背後を確認すれば、
「――――――――」
「――――――――」
 そこには、全身から黒泡を発生させた、二人の“自分”。
 彼らは何かに抵抗するかのように全身を痙攣させているが、拘束が緩む様子はない。

「まさか、電脳……生命体……っ!」
「そう。それがAIDAの真実だ」

 AIDAとは、けっしてただのプログラムではない。明確な意思を持つ、一種のAIと呼べる存在なのだ。
 そして今、ボルドーを介しスミスへと感染していたAIDA <Glunwald>は、スミスへと反逆の狼煙を上げた。
 一時的にでも碑文を獲得し、その力を増幅させたことによって、スミスの根幹ともいえるプログラムにまで浸食を果たしたのだ。
 そしてそれにより、スミスのアバターの支配権を<Glunwald>が上回り、更にその状態でもう一人のスミスを上書したことによって、そのスミスもまた、同様の状態でAIDAに感染することとなったのだ。

 そしてそれこそが、『救世主の力の欠片』によって変異した<Glunwald>の能力だった。
 単一のAIDAでありながら複数のPCに同時感染し、その感染率が相手の精神力を上回った時、そのPCのコントロール権を奪う能力。
 それにより<Glunwald>は、二人のスミスを操り、残る一人のスミスを拘束したのだ。

「貴様、裏切ったのか!」
「裏切る? それは違う。俺が君に同行したのは、初めから君の弱点を探るためだ。
 そしてその結果、君の弱点がデータドレインであることを知ることができた。
 だからこそ、俺はあの戦いの勝者を彼らだとした。結果的にではあるが、こうして君を排除できるのだからね」
「っっ…………!」

 六人にまで増えたスミスは三人にまで減じ、うち二人はAIDAに支配されている。
 そして残る一人を消してしまえば、なるほど、エージェント・スミスという脅威は消え去ることになるだろう。

「おのれ、オーヴァンッッ!!!」
 怒りと、そして窮地から脱出するために、スミスは拘束を振りほどこうとする。
 だが二人のスミスによってなされた拘束が、たった一人の力でほどけるはずもなく。
 そうして、オーヴァンは砲口を向けるように拘束具の先端をスミスへと突きつけ、

「来たれ、『再誕』――――コルベニク」

 その終焉を告げるように、ハ長調ラ音が響き渡った。


334 : RAIN 〜紅の暴風姫〜 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:29:07 dXILFuxc0

      §

 そうして、エージェント・スミスは消滅した。
 あとに残ったのはオーヴァンと、そして二人のプレイヤーだけだ。
 だが、その二人のプレイヤーの姿は、先ほどまでとは異なっていた。

「なるほど。これが奴の能力の欠点、というわけか」
 そう呟くオーヴァンの視線の先には、上書きによりスミスの一人となっていたはずの、ワイズマンとボルドーの姿があった。
 スミスが消滅すると同時に、この二人もスミスの姿から元に戻ったのだ。
 おそらくオリジナルのスミスのデータが消去されると、他のスミスのデータも一緒に消えてしまうのだろう。
 そしてその結果として、スミスへと上書きされていた二人は元の状態に戻ったのだ。
 今更な情報ではあるが、<Glunwald>から支配権を奪い返され、反旗を翻される心配がないというのは大きい。

 それに、全てが戻ったというわけではない。
 <Glunwald>は『救世主の力の欠片』を取り込み変異したままだし、大本の感染源であったボルドーもそのまま支配されている。
 スミスの時に上書き感染させられたワイズマンも、その様子からして感染したままだろう。
 戦闘能力の低下こそ免れないが、AIDA-PCだというだけで通常のプレイヤーには十分な脅威となるはずだ。
 問題は、今でこそ生みの親とも言える自分に従っているが、いずれ<Glunwald>自身が反旗を翻すかも知れないという事と、

「彼らが一度、死者として通達されている、という事か」

 エージェント・スミスは消え、彼らは元に戻った。
 それはつまり、脱落したプレイヤーが復帰したことを意味している。
 それを榊たちGM側が知った時、果たしてどんな処置を行うのか。
 最悪の場合、次の放送までにGMの手によって強制排除されることもあり得るだろう。

 一つ確かなことは、こうしてスミスにされたプレイヤーが元に戻る事態を、GM側は想定していなかったという事。
 それが意味することは、GM側はプレイヤーの能力を完全に理解しているわけではない、という事。
 つまり状況次第では、GMの想定を上回ることも可能だという事だ。

「さし当たっては、認知外空間(アウタースペース)にでも向かうか」
 知識の蛇でも監視できぬあの場所なら、二人の存在を誤魔化すこともできるかも知れない。
 二人の処遇に関しては、今度GM側が接触してきた時にでも、どちらか一方を差し出して聞いてみればいい。

「それにしても、随分と面白いことになったものだ」
 とりあえずの方針を決めたオーヴァンは、ふと学園へと振り返り、そう呟いた。
 その学園には現在、自身が種を撒いた少女がいる。
 その少女に感染したAIDAは、自身の想定とはまたく異なる成長を遂げていた。

「まさか、追跡者とAIDAが行動を共にするとはね。
 一体どんな要因があればそんなことになるのやら」

 追跡者――蒼炎のカイトは、AIDAを駆除するために女神アウラが生み出したAIだ。
 となればその関係は、当然敵対関係となるはずである。
 だというのにあのAIDAは、ともすれば追跡者に助けられたようにさえ見られた。

「他のAIDAと同様、ただの『寄生』に終わるのか。それともプレイヤーとの『共生』へと関係性を変化させるのか。
 少しだけ、その成長を楽しみにさせてもらうよ」

 プレイヤーだけでなく、自らの天敵とも手を組むAIDA。
 そこに一体どんな理由があるのか。その成長が、AIDAにどんな変化をもたらすのか。
 それにわずかな関心を寄せて、オーヴァンは月海原学園を去っていった。


【エージェント・スミス@マトリックスシリーズ Delete】
【コピー・スミス(ワイズマン)@マトリックスシリーズ 上書き解除】
【コピー・スミス(ボルドー)@マトリックスシリーズ 上書き解除】


335 : RAIN 〜紅の暴風姫〜 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:29:37 dXILFuxc0

【A-3→?-?/日本エリア→認知外迷宮/一日目・午後】

【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP100%、PP100%
[装備]:銃剣・白浪@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、{静カナル緑ノ園、DG-Y(8/8発)、逃煙球×1}@.hack//G.U.、{邪眼剣、スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、{マグナム2[B]、バリアブルソード[B]、ムラマサブレード[M] 、サイトバッチ}@ロックマンエグゼ3、{インビンシブル(大破)、サフラン・アーマー}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、不明支給品1〜12、レアアイテム(詳細不明)、付近をマッピングしたメモ
[ポイント]:300ポイント/1kill(+2)
[思考]
基本:ひとまずはGMの意向に従いゲームを加速させる。並行して空間についての情報を集める。
0:認知外迷宮へと向かい、GM側からワイズマンとボルドーの存在を隠す。
1:利用できるものは全て利用する。
2:トワイスと<Glunwald>の反旗を警戒。
3:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
4:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
5:サチに感染させたAIDAの成長・変化に若干の興味。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です
※サチからSAOに関する情報を得ました
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています
※ウイルスの存在そのものを疑っています

【ボルドー@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP??%、SP??%、ダメージ(中)、AIDA感染(悪性変異)、PP10%-PROTECT BREAK!
[装備]:なし
[アイテム]:なし
[ポイント]:???ポイント/?kill
[思考]
基本:<Glunwald>に支配されているため不明。
[AIDA] <Grunwald>
[思考]
基本:オーヴァン(<Tri-Edge>)に従う。
[備考]
※スミスの持つ『救世主の力の欠片』と接触し、AIDA<Oswald>がAIDA<Grunwald>へと変異しました。
 また『救世主の力の欠片』を取り込んだことで、複数のPCに同時感染し、その感染率が相手の精神力を上回った時、そのPCのコントロール権を奪う能力を獲得しました。
※<Grunwald>の能力により意識を封じられています。

【ワイズマン@.hack//】
[ステータス]:HP??% 、SP??%、ダメージ(特大)、AIDA感染(<Grunwald>)
[装備]:なし
[アイテム]:なし
[ポイント]:???ポイント/?kill
[思考]
基本:<Glunwald>に支配されているため不明。
[備考]
※<Grunwald>の能力により同時感染しており、またその意識も封じられています。


336 : RAIN 〜紅の暴風姫〜 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:30:33 dXILFuxc0


    20◇◇


 話し合いは、ジローを保健室のベッドで寝かせた後、そのまま保健室で開始された。
 その頃にはサチ/ヘレンも目を覚ましており、自分達と同様椅子に座っていた。
 というか実際のところ、戦いが終わった時にはすでに意識があったらしい。
 ヘレンが表に出てこなかったのは、なんでもオーヴァンに宿るAIDAが怖かったからだとか。
 カイトの話からしても、彼やそのAIDAは相当な危険人物らしい。……ただ、悪人という訳でもないらしいが。

「それでは、対主催生徒会緊急会議を行いたいと思います」
 どこか重苦しさの残る空気を振り払うように、レオがそう口火を切る。
 その会議の内容は……確認するまでもない。

「まず、今回のエージェント・スミスの襲撃における戦闘結果(リザルト)ですが―――敗北と言っていいでしょう。
 モラトリアムのルールがなければ、対主催生徒会は壊滅していたでしょうからね」

 生徒会側の敗因は主に三つ。
 一、エージェント・スミスの能力を甘く見たこと。
 二、生徒会メンバーが分断されてしまったこと。
 三、協力者の存在を予期できなかったこと。

 このうち、特に二つ目の要因が致命的だった。
 おそらくユイのような、周囲のプレイヤーの位置情報を探知する術があったのだろう。
 でなければ、あそこまで的確な襲撃は行えなかったはずだ。
 その結果として自分達は分断されてしまい、数を最大の武器とするスミスに翻弄されてしまったのだ。

「僕の采配ミスですね。聞き及んでいたスミスの能力を考えれば、急襲に対する警戒をもっとしておくべきでした」
「いいえ。私がもっと早くスミスの反応に気付けていたら、奇襲にも対処できたはずです。だから―――」

 悪いのは自分だ、とレオとユイは言い合う。
 急襲に対処出来ていたら。反応を感知出来ていたら。
 そのどちらもが正しく、けれどこれは、それぞれが最善を尽くした結果だった。
 果たして岸波白野には、この戦いで一体何ができただろう。

「なんにせよ、終わったことを悔やんでも仕方がありません。今考えるべきは、これからの事です。
 そこで桜に一つ訊きたいのですが、プレイヤーに対し公平であるべき貴方が、あの時白野さんを助けたのは何故ですか?
 いくらスミスに対しペナルティが発生していたとはいえ、あれは公平さを欠く行為だと思うのですが」

 間桐桜が岸波白野を助けた理由。
 確かにそれは気になることだ。あの時桜が助けてくれなければ、自分はスミスの一人になっていたのだから。

「なぜも何も、私は私の役割を果たしただけです。
 私の役割は健康管理。プレイヤーのアバターに異常があれば、修復するのが私の仕事です。
 聖杯戦争の第二回戦で、白野先輩が受けた毒を治療したのと同じ理由ですね」

 なるほど。つまり、モラトリアム中だったからこその特例処置というわけか。
 モラトリアム中の校内での攻撃行為を、目の前で見逃すわけにはいかないという事なのだろう。

「……それなら、桜さん。ハクノさんのアバターは、もう大丈夫なんですよね。
 仮にセイバーさんたちとの契約を失ったとしても、データの欠損は起こらないんですよね」
「む、確かにそうだな。もっとも、余と奏者の契約がなくなることなどあり得ぬが」
「不本意ながらもそこは同感です。私とご主人様の絆は永遠ですから。
 ―――で、実際のところはどうなんですか、桜さん?」

 ユイたちの言葉で、そのことを思い出す。
 痛みに慣れて忘れていたが、岸波白野の右手には、データの欠損によってひび割れたような傷がある。
 アーチャーの不在によって生じたそれは、この身体(アバター)の不確かさを表すものだ。
 セイバーたちの言う通り、彼女たちとの契約を絶つつもりはないが、そこの所はどうなのだろう。

「……残念ながら、白野先輩のデータの欠損はもっと根幹の部分が原因でして、私の権限(ちから)ではどうにも。
 それどころか、エージェント・スミスに上書きされかかった影響で、状態が悪化してしまっていて……」

 状態が悪化?

「はい。簡潔に言えば、欠損部分にエージェント・スミスのデータの一部が残留してしまっているんです。
 そのデータ片から浸食される心配はありませんが、傷口に異物が入り込んでしまっているような状態でして。
 その為そのデータ片をどうにかしない限り、アーチャーさんと再契約したとしてもその欠損個所は治りません。その場合、欠損が進行する事もないでしょうけど」
「むう、そうか。そう上手くはいかんものだな」
「少し不本意ですが、ご主人様のためにもアチャ男さんの帰還が望まれますね」


337 : RAIN 〜紅の暴風姫〜 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:32:11 dXILFuxc0

 セイバーたちはそう口にするが、浸食される心配がないのなら、特に気にする必要はないだろう。
 ようするに自分は、岸波白野のままでいられるという事なのだから。
 無論、アーチャーに早く戻ってきて欲しいという思いにも変わりないが。

「もし欠損個所が痛むようであれば、アバターを交換してみてください。根本的な解決にはなりませんが、痛みは和らぐと思います」

 桜の言葉に頷きを返す。
 欠損が治らないのは困るが、まだ支障をきたしているわけでもない。
 今は先に、会議の方を続けようとレオに促す。

「わかりました。では次に、」
 その言葉に頷き、レオがそう口にした、その時だった。

「ん、あ……あれ? ここは……」
 ベッドで寝ていたジローが、ようやく目を覚ました。

「レオ、それにキシナミたちも。
 ってことは、よかった。スミスのやつは倒せたのか」
 ジローは周囲を見渡し、安心したようにそう口にする。
 だがその表情は、すぐに戸惑いの混じったものへと変わっていった。

「……あれ? なあレオ。ニコは、どこにいるんだ?」
 その言葉に、保健室の空気が一瞬で重くなる。
 ジローの問いには、誰も答えない。
 答えることが、出来なかった。

「なあレオ、なあってば」
「ジローさん。申し訳ありませんが、レインさんは……」
「へ? なんだよそれ。いったいどいう」
「ジローさん、こちらを」

 レオの言葉に戸惑いを顕わにするジローへと、ユイが二つのアイテムを渡す。
 それはオーヴァンが投げてよこした、レインの持っていたアイテムだ。

「レインさんからの遺言だそうです。キャッチボール、それなりに楽しかったぜ、と」
 ジローがそれを手に取ると同時に、ユイはカイトの言葉をジローへと伝える。
「………………」
 ジローは答えない。
 ただ静かに、そのアイテムを握りしめるだけだ。

「………わるい。少し、一人にしてくれ」
 そうしてジローは、そう言い残して保健室を後にした。
 それを止めることは、この場の誰にもできなかった。

「ジローさん……」
「ユイ。今の彼に対し、僕たちができることはありません。今はただ、彼が自力で立ち直ることを信じましょう。
 ……いえ。こんなありきたりな事しか言えない自分が嫌になりますね。
 それでも、僕たちに悲しんでいる時間はありません。今は今後の方針を纏めましょう」
 レオはそう言って、場の空気を切り替える。
 そう。悲しんでいる時間はない。
 敵はあまりにも強大であり、自分達には時間が残されていないのだから。

「さし当たっては、襲撃前にも話したように、ハセヲさんとシノンさんの捜索を行いたいと思います。
 レインさんを亡くしてしまった今、対主催生徒会の戦力は圧倒的に不足しています。
 生徒会の戦力を補強しPKに対抗するためにも、彼らの協力が必要でしょう。
 加えてウイルスへの対策を伝えなければなりません。まだテストもできていないとはいえ、何も伝えないわけにもいきませんからね」

 レオの言葉に強く頷く。
 ウイルスの脅威に晒されているのは決して自分達だけではない。
 シノンたちだけでなく、他の主催者打倒を目指すプレイヤーにも、ウイルスへの対処法を伝えなければいけないだろう。

「というわけで白野さん。ハセヲさんとシノンさんの両名。あとついでにセグメントの捜索を頼んでもよろしいでしょうか」

 それはもちろん構わない。
 仲間やセグメントの捜索は、このデスゲームを打破する上で重要だ。
 しかしその言い方からすると、レオたちは捜索を行わないように聞こえるのだが。

「ええ、その通りです。
 今回の戦いで、僕は魔力をほとんど使い果たしてしまいました。
 次にスミスレベルとの戦いになれば、魔力切れはほぼ確実でしょう。
 そこで白野さんが戻るまでの間、ユイにはウイルス対策の協力を、カイトには学園の防衛を任せたいのです」

 なるほど。確かにそれなら、捜索に当たれるのは自分だけだろう。
 いかにガウェインが強力なサーヴァントでも、マスターであるレオの魔力が尽きてしまえば戦えないのだから。
 となると、残る問題はサチ/ヘレンの事だが………

「ヘレンを連れていくか否か、それは白野さんの判断に任せます」
 レオはそう言って。その選択を岸波白野へと委ねた。
 それはどちらでもいいからではなく、ヘレンを守ると決めたのが岸波白野だからだ。


338 : RAIN 〜紅の暴風姫〜 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:32:39 dXILFuxc0

「――――――――」
 サチ/ヘレンは、静かに自分達の会話を見つめている。
 その瞳の奥にどんな感情が籠っているのか、自分には読み取ることができない。

 岸波白野一人で捜索を行うのであれば、サーヴァントによる戦闘は免れないだろう。
 そうなると当然、魔力消費に気を付ける必要が出てくる。
 だがヘレンを連れて行けば、その戦闘能力はともかくとして、魔力の節約にはなるはずだ。

 しかしヘレンを危険視するのであれば、カイトの傍に置いておくべきだろう。
 いくら自分達に協力的であると言っても、ヘレンはあくまでもサチに感染しているAIDAでしかない。
 そしてAIDAに対抗できるのがカイトだけである以上、二人を引き離すべきではない。

 ……だが、彼女を本当に仲間として見るのであれば、それは違うと思う。
 自分は――――

   サチ/ヘレンを連れていく
   サチ/ヘレンを置いていく
   サチ/ヘレンの意思に任せる
  >



  >キリトの事を話す

「パパの事、ですか?」
「――――――――」
 唐突な話に首をかしげるユイに、しっかりと頷きを返す。

 スミスが襲撃してきた時、ヘレンは逃げようと思えば、いつでも逃げられたはずだ。
 だというのに彼女は、スミスに感染していたAIDAから、体を張って守ってくれた。
 そんな彼女を仲間だというのならば、自分もその行動――信頼に応えなければならない。

 すなわち、岸波白野が、サチ/ヘレンに、そしてユイに対して隠したこと。それをまず話すべきなのだ。
 それが彼女たちを本当に仲間として見る、という事だと思う。
 サチ/ヘレンをどうするか決めるのは、それからの話だろう。
 ……それに何より、彼女たちに隠し事をしたまま、二度と会えなくなるのは嫌だった。

 そうして岸波白野は、サチの心海で知ったキリトの事を少女たちへと話し始めた。
 その胸に、僅かな不安と、小さくも確かな信頼を懐いて――――。

      §

 その頃ジローは、屋上でぼうっと黄昏ていた。
 すぐ隣が壊れたままのフェンスへと、力なく座り込んで寄りかかる。
 その手には、おもちゃのような紅い拳銃。
 その装甲と同じ色の、スカーレット・レインの武器。

「………………」
 空を眺めるジローの目は、虚ろなまま何も捉えていない。
 その心にあるのは、深い悲しみと、そして後悔だけだ。
 やはりあの時、逃げるべきではなかったのだ。
 そうすれば、ニコは助かったかもしれないのに、と。

 だって、本当は覚えていた。
 朦朧とした意識の中で、それでもちゃんと聞こえていたのだ。
 ニコの口にした、自分への遺言を。

 “―――キャッチボール、それなりに楽しかったぜ”

「っ………! 何がそれなりに楽しかっただよ。
 キャッチボールだけで、野球の本当の楽しさがわかるワケないだろ……っ!」
 野球は、もっと多くの仲間と、そして多くのライバルたちと楽しむものだ。
 だからこのデスゲームをどうにかしたら、もっとちゃんと、野球を教えてやろうと思っていた……のに………。

 そのニコは、もうどこにもいない。
 可能な限り守ると誓った少女は、逆に自分を庇って戦い、死んでしまった。
 彼女に野球を教えることは、もう二度と出来ないのだ。

「ニコ……っっ!」
 こらえきれず、嗚咽が漏れ出る。
 どうして自分はこんなにも無力なのかと、悔しくて涙が零れる。

 あの時、自分たちは逃げるべきではなかった。
 たとえ勝てないと解っていても、あの場でスミスと戦うべきだったのだ。
 そうすればカイトはもっと早く間に合って、あの男が現れることもなかった筈なのだから。

 だからニコが死んだのは、自分のせいなのだ。
 自分の選択が、ニコを死に追いやったのだ。

(それで、お前はどうするんだ?)

 不意に聞こえた声に顔を上げる。
 そのどこか人を嘲笑うような声には、ひどく聞き覚えがあった。
 それも当然。何故ならそこにいるのは、

(よう、オレ。また会う事が出来てうれしいぜ。
 それで? ニコを死なせて、自分が生き残った気分はどうだ? ケケケ)

 一度は克服したはずの、もう一人の『オレ』なのだから――――。


 やる気が 5下がった
 こころが 10下がった
 『不眠症』に なった!


339 : RAIN 〜紅の暴風姫〜 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:33:22 dXILFuxc0


【B-3/日本エリア・月海原学園/一日目・午後】

【チーム:対主催生徒会】
[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:
書記 :ユイ
会計 :蒼炎のカイト(キリトの予定だったが不在の為に代理)
庶務 :岸波白野
雑用係:ハセヲ(外出中)
雑用係:ジロー、サチ
[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:(レオの)理想の生徒会の結成。
2:ウイルスに対抗するためのプログラムの構築。
3:ハセヲとシノン、ついでにセグメントの捜索。
4:危険人物に警戒する。
[現状の課題]
1:ウイルスの対策
2:危険人物への対策
3:アリーナ及びプロテクトエリアの調査(ただし、これはどちらかに集中させる)
4:セグメントの捜索
[生徒会全体の備考]
※番匠屋淳ファイルの内容を確認して『The World(R:1)』で起こった出来事を把握しました。
※レオ特製生徒会室には主催者の監視を阻害するプログラムが張られていますが、効果のほどは不明です。
※セグメントの詳細を知りましたが、現状では女神アウラが復活する可能性は低いと考えています。
※PCボディにウイルスは仕掛けられておらず、メールによって送られてくる可能性が高いと考えています。
※次の人物を、生徒会メンバー全員が危険人物であると判断しました。
 エージェント・スミス、白い巨人(スケィス)、オーヴァン。

【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP75%(+150)、データ欠損(小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、{男子学生服、赤の紋章}@Fate/EXTRA
[アイテム]:{女子学生服、桜の特製弁当}@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:サチ/ヘレンとユイにキリトの事を話す。
2:1の後、ハセヲ及びシノン、セグメントの捜索に向かう
3:主催者たちのアウラへの対策及び、ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
4:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
5:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
6:せめて、サチの命だけは守りたい。
7:サチの暴走やありす達に気を付ける。
8:ヒースクリフや、危険人物を警戒する。
9:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP95%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP80%、健康
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
 学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時(増加分なし)でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと3分程度です。
※アーチャーとの契約が一時解除されたことで、岸波白野の構成データが一部欠損しました。
※エージェント・スミスに上書きされかかった影響により、データの欠損が進行しました。
 またその欠損個所にデータの一部が入り込み、修復不可能となっています(そのデータから浸食されることはありません)。
※セイバーとキャスターはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。

【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP30/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/ピクシー
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[アイテム]:セグメント3@.hack//、第二相の碑文@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
0:パパの事?
1:対主催生徒会の会計として、ハクノさん達に協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:ヒースクリフや、危険人物を警戒する。
6:シノンさんとはまた会いたい。
7:私にも、碑文は使えるだろうか……。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=Ⅷであるかもしれないことを知りました。


340 : RAIN 〜紅の暴風姫〜 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:33:42 dXILFuxc0

【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP80%、SP50%、PP100%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill(+1)
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
3:エクステンド・スキルの事が気にかかる。
4:サチ(AIDA)が危険となった場合、データドレインする。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。
※エージェント・スミスをデータドレインしたことにより、『救世主の力の欠片』を獲得しました。
 それにより、何かしらの影響(機能拡張)が生じています。

【サチ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP30%、PP10%-PROTECT BREAK!、AIDA感染、強い自己嫌悪、自閉
[装備]:エウリュアレの宝剣Ω@ソードアート・オンライン
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:死にたくない。
0:――――うそつき。
1:もう何も見たくない。考えたくない。
2:キリトを、殺しちゃった………。
3:私は、もう死んでいた………?
[AIDA]<Helen>
[思考]
基本:サチの感情に従って行動する。
0:――――――――。
1:ハクノ、キニナル。
2:<Glunwald>、キライ。
3:<Tri-Edge>、コワイ。
[備考]
※第2巻にて、キリトを頼りにするようになり、メッセージ録音クリスタルを作成する前からの参戦です。
※オーヴァンからThe Worldに関する情報を得ました。
※AIDAの種子@.hack//G.U.はサチに感染しました。
※AIDA<Helen>は、サチの感情に強く影響されています。
※サチが自閉したことにより、PCボディをAIDA<Helen>が操作しています。
※白野に興味があるので、白野と一緒にいる仲間達とも協力する方針でいます。

【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP5%、令呪:三画
[装備]:なし
[アイテム]:{桜の特製弁当、トリガーコード(アルファ、ベータ)}@Fate/EXTRA、コードキャスト[_search]、番匠屋淳ファイル(vol.1〜Vol.4)@.hackG.U.、基本支給品一式
[ポイント]:30ポイント/0kill(+2)
[思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
1:魔力の回復に努めると同時に、ユイとともにウイルスへの対策プログラムを構築する。
2:モラトリアムの開始によって集まってくるであろうプレイヤーへの対策をする。
3:他の生徒会役員となり得る人材を探す。
4:当面は学園から離れるつもりはない。
5:状況に余裕ができ次第、ダンジョン攻略を再開する。
6:キリトさんには会計あたりが似合うかもしれない。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP110%(+50%)、MP75%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※ガウェインはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。


341 : RAIN 〜紅の暴風姫〜 ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:34:12 dXILFuxc0

【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、深い悲しみと後悔/リアルアバター
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、ピースメーカー@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
0:ニコ……………。
1:今はみんなと一緒に行動する。
2:ニコやユイちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の事は…………。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。

[全体の備考]
※モラトリアム中、ペナルティを受けてなお戦闘を続行した場合、更なるペナルティの加算と、学園からの強制退去が発生します。

・データドレイン砲について
 憑神覚醒などで使えるデータドレイン砲は、通常のデータドレインと異なり継続HPダメージを与えることが可能です。
 しかしその代わり、データ改竄による対象の弱体化、腕輪の守りを持つ者への状態異常付与などを行う事が出来ません。
 ただし、プロテクトブレイク状態のAIDAの駆除や、対象の所有するアイテムの収奪などは通常通り可能です。


【ピースメーカー@アクセル・ワールド】
スカーレット・レインの持つ拳銃型強化外装。
心意技《紅の散乱弾(スカーレット・エクスプローダー)》の使用にこれを使う。
スカーレット・レイン曰く最強の武器らしいが、その真偽は不明。










    16◇◆◆◆◆◆◆


 きっと、心のどこかで気づいていたのだ。
 どれほどの必殺技を、あるいは心意技を使ったところで、この男には敵わないのだと。
 だからだろうか。カイトにあんな言葉を残したのは。
 なんてことを、目の前の光景を見て思った。

 必殺技の叫びとともに放たれた無数の砲撃。
 それを男は、解放された左腕の方から生えた鉤爪で以てすべて打ち落として見せたのだ。

 振るわれるたびに黒泡の軌跡を残すそれは、ヘレンと同じ、AIDAの力によるものだろう。
 なるほど。データドレインのような力が必要になるはずだ。
 AIDAとは言わば、加速世界におけるISSキットのようなものなのだ。

 であれば、ステータスも制限され、心意もロクに使えない今の自分に、勝ち目などあるはずがない。
 実際、男は自分の砲撃を掻い潜り、あまりにも容易くインビンシブルを破壊してみせた。
 誤算だったのは、その際に片脚を持っていかれた事だろう。
 その回復のために貴重な一瞬を消費し、逃げる機会を失ってしまったのだ。

 この男相手に、通常攻撃だけで隙を作れるはずもない。
 残された手段は、渾身の心意技を以て、正面からぶち破ることだけ。
 そう覚悟するとともに、腰に備えられた最後の武器を男へ向け構える。
 この時ばかりは、破壊の心意が使えないことが悔しかった。

 銃口に集まる紅い光に何を思ったのか、男は静かに笑みを浮かべ、三つの刃を引き絞るように構えた。
 真正面から迎え撃つ、という事だろう。
 回避するつもりがないのであれば、話が早い。より一層精神を心意に集中させる。

 そうして、ほぼ同時に最後の一撃が放たれ、

  ―――あばよ、ジロー。

 自分を気にかけていた彼へと、そう自嘲気味に別れを告げた。


【スカーレット・レイン@アクセル・ワールド Delete】


342 : ◆NZZhM9gmig :2015/11/14(土) 12:35:07 dXILFuxc0
異常で投下を終了します。
何か意見や、修正すべき点などがありましたらお願いします。


343 : 名無しさん :2015/11/14(土) 13:11:52 LRcAIxNE0
投下乙です!
おお……月海原学園でこれほどの乱戦が繰り広げられ、そしてこのような結果になるとは!
みんな、あの規格外マーダーの一角であるエージェント・スミスを相手にここまで立ち向かい、そして勝利するなんて凄いです!
余すことなく力を発揮したサーヴァント達、AIDA同士の対決や、カイトの蒼炎の守護神。更には桜と言峰神父の乱入など……もう何から何まで、燃えてしまいました!
あと言峰神父のマーボーはカイトすらも怯ませるなんて……実に恐ろしいw

しかし一方でまだ不和は残っているのですよね……またしても深層意識が表れたジローさんや、キリトとの一件を伝えられてしまうユイちゃんとか……どうなるでしょう、本当に。
そして、スミス達の完全に消し去ったオーヴァンはこれからどうするのか? 行く先にはハセヲ達が待っていますし。


最後にもう一度、大作の投下乙でした!


344 : 名無しさん :2015/11/14(土) 17:48:09 LRcAIxNE0
そして読みなおした所、誤字及び脱字を見つけたので指摘を

>>279
>だが“私”の視界には、ショップ内に居ながらにして、すでに月原学園が見えていた。
月海原

>>312
>故に、その職種に対処しようと両腕を構え、
触手

だと思われます。


345 : 名無しさん :2015/11/14(土) 23:26:49 25q6rnZU0
皆様、投下お疲れ様でした
最近感想書いてなかったので、何作分かをまとめて


>生者と死者
祝!ミーナぼっち脱却!
ネオとモーフィアスもようやく合流&カオルも拾って、こちらの対主催チームも
大所帯になったと思ったら、タイミリミットを予感させる現象が…


>対峙する自己
シノン追いついたー! からの認知外迷宮、だと?
黒薔薇騎士団と共に進むことになったけど、黒雪姫に鎧のこともばれたし、
どういったイベントが起こるか予測すらつかないですな


>アリス・ハーモニー
そういえば前回から基本方針が変わってるのよねこの子
でも現在進行形でバーサークヒーラーに狙われている状態なんですよね……w


>対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編)
>絶対包囲
>Action;交戦
>breakthrough
>無垢ノ報復
>defeat
>RAIN 〜紅の暴風姫〜
う、お、お、お、お、お……スミスが予約に含まれてた時は
生徒会オワタとしか思えませんでしたが、まさかの……!
数の暴力で磨り潰しに行くのかと戦々恐々してたのですが、
知恵と勇気と圧倒的なステータス(ここだけ主にガウェイン)で
乗り切る様は兎にも角にも滾りました


346 : 名無しさん :2015/11/14(土) 23:37:26 25q6rnZU0
以下、指摘箇所です
一部、よく判らない箇所があったので、的外れなものがあったら申し訳ない


>>312
 それが自信を狙ったものではないことに、一拍遅れてようやく気付く。
「自信」→「自身」


>>313
 放たれたAIDAの触手は、自身の左右ぎりぎりを格子のように塞ぐ形で地面へ津突き刺さり硬化する。
「地面へ津突き刺さり」→「地面へ突き刺さり」or「地面へと突き刺さり」?


>>319
 だがシルバー・クロウの名を口にした男の声からは、推測による本野は思えない色が見て取れたのだ。
「推測による本野は」→「推測による物とは」?


>>323
 そしてスミスの驚き用からして、その変化は自分達の利となるものだろう。
「驚き用」→「驚きよう」or「驚き様」?


>>327
 この二はもう一人、キャスターと対峙していたスミスがいるのだから。
「この二は」→「ここには」?


>>332
 受けたペナルティからすると、他の施設も同様に利用できないだろうが、施設の外にいるNPCもどこかに入るだろう。
「どこかに入るだろう」→「どこかには居るだろう」?

 IDAに碑文を与えれば、その力を増幅させることが可能だと、オーヴァンは言った。
「IDA」→「AIDA」


347 : 名無しさん :2015/11/14(土) 23:56:41 JByigFL20
投下乙です!
スミス対生徒会の激闘……! スミスの猛攻にそれぞれ必死に立ち向かっていく展開は読み応え最高でした。
バトル面もさることながら、序盤の事細かな考察が、モルガナ、ウイルス、加速世界……と今までのフラグを一気に回収し、ゲームが徐々に終盤へ向かっていくことを感じさせます。
ところどころに挟まれる「システム」と「システム外」の存在の対比などもこのロワ独自の要素として本当に楽しませて頂きました。
そして遂に動き始めたオーヴァン。これは……!


348 : 名無しさん :2015/11/15(日) 07:20:10 ITruGtPM0
月報の時期なので集計を
レインとスミスの死亡、ボルドー及びワイズマンの上書き解除で生存者数はプラスマイナスゼロと判断しましたが
もしも修正が必要なら、報告をお願いします。

話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
111話(+ 4) 27/55 (- 0) 49.0

それにしても、ついに規格外マーダーの一角が落ちたのですよね。
そしてウイルスや会場の考案も進んでいきますが、まだまだやるべきことはたくさんある……
特にオーヴァンはこれから何をするのかが、とっても気になってしまいます!


349 : ◆NZZhM9gmig :2015/11/15(日) 22:09:13 eLDQ0QKA0
感想及び誤字脱字の指摘ありがとうございます。
該当箇所他修正点はwiki収録時に修正させていただきます。


350 : 名無しさん :2015/11/15(日) 23:01:12 p0b8dkzo0
投下乙です!

>アリス・ハーモニー
がらんどうの国のアリス。
自分しかいないのに自分もいない。
誰も見つけてくれなかった彼女の世界がありありと描かれていて胸が痛かった……。




>対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編)〜RAIN 〜紅の暴風姫〜
うおおう……。超大作読み切らせて頂きました。
スミス遂に堕ちるか。
数多ものPC、NPCを上書きしてきた奴の最期が上書きされることとは皮肉というか因果応報。
生徒会はそれぞれがそれぞれの持てる全てを結集して、繋いできた絆も武器にして。
更にはどこかCCCを感じる桜たちまで状況の助けとなったけどそれでもニコが……。
スミス倒したとはいえより厄介になったオーヴァンがいるもんな。こええよ、こいつ。
個人的には守護神までなった蒼炎がすごくかっこよかったです。


351 : 名無しさん :2015/11/18(水) 18:51:05 jovKsNOY0
12月10日にパロロワ企画交流雑談所・毒吐きスレでVRロワ語りが行われるよー


352 : 名無しさん :2015/11/20(金) 18:52:52 bhql60oI0
予約きたね!


353 : ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 12:58:46 8VODkVN20
投下します。


354 : Deus-Es ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 12:59:35 8VODkVN20

寺岡薫という人間がいたそうだ。
彼女は■■■■大学院で研究に励んでいた一人の女性だった。
ぼさぼさ頭にカジュアルさの欠片もない眼鏡をかけた、お洒落とは無縁の研究者

寺岡薫はお洒落の代わりに研究して、研究して、研究した、そんな青春を過ごした。
でも彼女にだって、出会いがない訳じゃなかった。

出会いは爆発だった。

研究の最中、大学が爆発してしまって、それがきっかけでxxxxと出会った。
本当に、馬鹿みたいな話だと思う。
馬鹿みたいだけど、でもそれはたぶん、とても幸運な出会いだった。

――……狂った電子頭脳を止めるためには、研究施設に自爆装置を併設するのが研究者の良心、というものです。

それから紆余曲折あって、xxxxの命を救うことが彼女の“研究テーマ”になった。
彼の身体はとても大変なことになっていて、放っておくと数年で死んでしまうような身体だった。
しかも――これこそが真の幸運かな――寺岡薫の研究分野は、彼の抱えていた問題を解決するにのに、ちょうど合致していたのだ。

それからしばらくの間、彼と会う日々が続いた。
まず首から上だけでも生き延びられるように。
次に匣型の生命維持装置の開発を。
そしたら次は小型化を、エネルギー効率を。

楽しかった。
不謹慎かもしれないけど、きっと寺岡薫は楽しかったのだと思う。
彼と一緒に研究して、彼のために研究して、時たまどこかに遊びにいって。
爆発とサイボーグと、ほんの少しのデートで構成された、ささやかな青春。
破天荒かもしれない。馬鹿みたいかもしれない。
でも、あの時に彼女が感じたしあわせは、きっと他の人間と何も変わらない、人間のものだった。
思うに、寺岡薫は彼のことが好きだった。

――あの人には振られてしまったのですけれど……

結局、xxxxが寺岡薫と一緒になることはなかった。
その事実を、その時の彼女は深く悲しまなかった気がする。
他の女の人にとられてしまった、くらいなら思ったかもしれない。
さみしい想いというより、やっぱりこうなったか、という、ちょっと卑屈な想いが胸に広がったのかもしれない。

それからしばらくして、寺岡薫は命を落すことになる。
死因はやはりというか何というか、研究だった。
彼女が作ろうとしたもの、作りたかったもの、作ってしまったもの。
それがどんな結果を齎したのかは、ここではおいてまず置くとして、とにかく彼女は死んだ。

翻って、寺岡薫の人生が“しあわせ”と呼べるものかどうかは、ちょっとよく分からない。







355 : Deus-Es ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 12:59:57 8VODkVN20


あれは何だ。
ガッツマンの叫び声が響き渡る中、VRバトルロワイアルという小さな世界は歪み始めていた。
“ファンタジー世界”を模しているフィールドは損壊し、テクスチャは剥がれ構成するデータがむき出しになっている。

その向こうから何かがやってくる。
世界にノイズが走った。空中に訳の分からないコードが、すぅ、と走った。
零れ落ちた情報が突風のように押し寄せ、ネオに、モーフィアスに、ミーナに、揺光に、ガッツマンに、そしてカオルに、圧となって襲い掛かってきた。

――そうしてやってきたのは、彼女だった。

そのバグは女性のカタチをしていた。
原色をぶちまけたかのような青い長髪。女性の特徴を捉えつつもアニメチックにデフォルメされたアバター。
歪なのは、その顔だった。
肌色のテクスチャのない真っ黒な頭部に、丸で書かれた眼が二つに、ニィ、と弓なりに釣りあがった口が書かれただけ。
子どもの落書きで書いたスマイル、とでもいうべきか、そんな歪な笑顔を浮かべて彼女は佇んでいた。

――まるで、できそこないの人形のようだ

そこにいたプレイヤーの多くは、そんな印象をそのバグに抱いた。

「あれは……!」

そして、一人だけ、例外がいた。別の印象を抱いたものがいた。
当然だ。そのプレイヤーは、このゲームに参加する前、他でもないそのバグと戦っていたのだから。
故に――名も口にすることができた。

「――デウエス」

と。

プレイヤー――武内ミーナがそう口にした瞬間、名を呼ばれた彼女は、嗤った。
否、元より彼女のアバターに笑み以外の表情を浮かべる機能などない。
だからその表現は厳密には間違っているのかもしれない。

――ミツケタ

けれども、そう呟く彼女の声は明らかに喜色滲むもので、その後に響いたノイズは嗤っているように聞こえた。

「見つけた。見つけた。ついに見つけた。
 わが半身。もう一人のわたし。わたし、わたし、あたし、わたし……」

あまたのノイズがデータを引っ掻き回す中心にて、彼女は、デウエスはぶつぶつと何かを呟いている。
その光景をミーナは呆然と見つめてしまった。

「ミーナ、あれは……」

隣に立つネオが言った。
彼とガッツマンには、そう、名前だけは言った気がする。
武内ミーナがデータの世界と繋がりを持った、きっかけとなった事件。
その元凶たる存在の名を。

デウエス。
ツミミネットに巣食い、ネットに訪れた者を喰っていたAIを越えた電子生命体。
オカルトテクノロジーの力を得て、現実をも捻じ曲げる仮想の神。
ハッピースタジアムの黒幕であり、そしてその正体は……


356 : Deus-Es ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 13:00:12 8VODkVN20

「あれは、でも死んだ筈――」

ミーナはそう言いつつ、その場にいる一人の女性を見た。
眼鏡をかけた妙齢の女性。ミーナには見慣れた、日本のツナミネット特有のデフォルメされたアバターを使うプレイヤー。
カオル。
彼女を見かけた時、ミーナはどう声をかけるべきか、分からなかった。

だって彼女は――死んでいるから。

デウエスの正体――それは他でもない、寺岡薫の深層意識(エス)である。
寺岡薫という、一人の研究者の脳回路から分離された二つのAIがいた。
それがカオルで、そしてデウエスだった。

ミーナはそれを知っている。
彼女の知るデンノーズはもうデウエスを倒したのだから。
全てが終わったあとに、彼女はこのゲームへとやってきた。

だから、初めからおかしかったのだ。
彼女が――カオルがこの場にいることは。
それを会った時に言い出すべきだったのだろうか。
ミーナが、カオルへと、全ての真実を伝えるべきだったのだろうか。

決断を下すよりも早く、真実は最悪のカタチでこの場に現れた。

「――あなたは、わたし?」

カオルは、ぼう、としたまま、現れたデウエスを眺めている。

「――そうだ。私は、お前だ。お前がずっと抑え込んでいたもの。
 “しあわせ”になれなかったお前が、それでも望んでいた筈のもの。
 ありえた筈の未来への期待。諦めなかった心――“しあわせ”への渇望そのもの」

デウエスもまた、そう高らかに歌い上げる。
二人はただ惹かれるように見つめ合い、語り合っている。
その様を、他のプレイヤーは理解できないでいる。
事情を知るミーナでさえ理解が及ばないのだ。分かり得る筈もない。

「わたしは、お前だ。
 わたしが、お前を“しあわせ”にするんだ。
 そうだ。この世界で私は全能なんだ。なんだってできる。だから“しあわせ”も……」

――突然の事態に混乱する中、更なる闖入者が現れた。

「事情は分かりませんが」

ミーナたちともデウエスとも違う、別の声が響いた。
振り向いた先には――闇色のロボットのアバターがいる。
そしてその傍らには胸元の大きく空いた服を着た女性と、背中に抱えた巨大なカルバリン砲。

「一網打尽の好機、て奴ですよ」

轟音と共に、弾丸が降り注いできた。







357 : Deus-Es ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 13:00:32 8VODkVN20

キリトと慎二を追っている最中、能美征二/ダスク・テイカーは彼らを見つけた。
能美にしてみれば、見晴らしのいい草原に集っているパーティなど格好の的でしかなかった。
彼らにカルバリン砲をぶち込み、一撃離脱。
上手くいけば複数のプレイヤーをキルできる上に、たとえ見つかってもライダー宝具で離脱ができる。
キリトらとアスナの衝突から漁夫の利を得ようとしたように、能美はこのエリアを中心にゲリラ戦術を取ろうとしていた。
あくまで身を潜めて、好機を狙い、ヒット&アウェイ。

ゲリア戦術はライダーの得意とするところでもあり、その点では彼が選んだ戦術自体は間違っていなかった。
無差別に敵を狙っていたゲーム序盤よりもよほど理にかなった戦術であり、そういう意味で彼はこのゲームに慣れてきたともいえる。

――あの女もこれで殺してやる。

カルバリン砲を放ちながら、能美の胸には強い殺意が滲んでいた。
集団の中で能美が一番に狙っていたのは、言うまでもなくカオルであった。
“痛みの森”での戦いの際、彼女から受けた屈辱は忘れていない。

――この世の“しあわせ”は“争奪”によってのみ齎される。

世界に存在する万物は有限だ。
誰かが何かを得た時、同時に同じだけ、他の誰かが何かを失っている。
“しあわせ”はさながらエネルギー保存の法則のように動く。
誰かが“しあわせ”になるということは、同じだけ誰かが“ふしあわせ”になるということでもあるのだ。

――“貴方は、何かを与えられた事がなかった……与えてくれる人に、出会えなかったんですね”

能美の語る幸福論をカオルは否定した。その上で――憐れんだ。
何もかも持っていない癖に。ただ諦めているだけの癖に。奪われたこともない癖に。
その事実が何よりも許せなかった。シルバー・クロウよりも、慎二よりも、ユウキよりも、能美はカオルを認める訳にはいかなかった。

能美の殺意が込められた砲弾が、カオルたちを襲った。
狙いに寸分たりとも狂いはない。フランシス・ドレイクが得意としたゲリラ戦術に則った一撃は確かに彼らに――

「わたしはお前を“しあわせ”にする。
 お前さえいればわたしは完全なんだ。この世界でわたしは完全になれる。
 無限に賢くなることも、最高の美人になることも、なんだって思いのままの――“しあわせ”になれる!」

――その攻撃は、不意に止まることになる。

ジジジジ、と猛烈なノイズがフィールドに走った。
それはまるでデータの悲鳴だった。乱舞する数値が、明らかにイリーガルな現象を呼び来んでいた。

データが、改竄された。

放たれた弾丸は不意に消え去った。
弾かれた訳ではない。狙いが逸らされた訳でもない。ダメージが無効化された訳でもない。
そもそもその攻撃が“なかった”ことにされたのだ。

「はい?」

その現象を見た能美は、どこか間の抜けた声を漏らしてしまった。
起こった事態が理解できていなかった。が、すぐに殴りつけるような大声が耳元で響いた。

「っと、来るよ! 呆けてる場合じゃないよ、ノウミ」

ライダーだった。彼女が、ばっ、と前に躍り出る。
その背中を見てなお能美は未だ状況についていけてなかった。

――目の前に真っ黒な顔があった。

子どもの落書きのような、歪な笑みが、能美の前に突然能美の眼前に現れていた。
思わず「ひぃ!」と声が上がる。
何の前触れもなく、デウエスは一瞬でエリアを跳躍し、カオルを狙った能美の前へと現れたのだ。

「言わんこっちゃ」

ない、とライダーが言い放ちつつ能美を蹴り飛ばした。
どん、とデュエル・アバターがごろごろと草原を転がり、そんな彼を守るようにライダーがデウエスの前に割り込んだ。


358 : Deus-Es ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 13:01:01 8VODkVN20

「アンタ、中々の大物だねぇ」
「ネットワーク上にわたしたちを上回る存在はいない。
 どんなデータも支配下に置き、オカルトにより現実をも手中に収めた。
 わたしはこの世界の神/デウスなんだ」
「ほう、神と来たかい! いいねぇ、昂ぶってきた」

デウエスを見上げ、ライダーは愉しげにそう語った。
だが能美はそんな彼女の気持ちは全く理解できなかった。
神? データを支配下に置く? その言葉が本当ならば、チートとかそういう次元ではない。この敵はつまり、システムそのものということではないか。
そんなもの――倒せる訳がない。

「ライダー、はやくにげ……」
「逃げるぅ? 馬鹿なこと言ってんじゃないよ。さっきの跳び方みたろ?
 どういうカラクリか知らないけど、コイツは一瞬で出たり消えたりできるんだよ。
 そんな相手に逃げることなんてできると思うかい?」

ぐぅ、と声が漏れた。反論はできなかった。
しかし――戦う? そんなことできる訳がない。
このゲームは、心意や宝具といった仕様外の存在すら取り込んでいるゲームだが、それらと比しても明らかにこの敵は異質だった。
一瞬の接敵だが能美は本能的にそのことを察していた。
この敵は――この滅茶苦茶なゲームにおいてすらバグなのだなと。

「わたしは“しあわせ”になる。“しあわせ”になれなかったあたしの代わりに、わたしが“しあわせ”に――」

デウエスは無慈悲に近づいてくる。ぶつぶつと呪詛のように“しあわせ”を唱えながら。
能美は腰を抜かし、がくがくと震えながらそれを眺めることしかできなかった。

「――待ってください!」

そこに別の声が響いた。
聞き覚えのある声だった。忘れもしない、能美が最も許せない声。

「……あなたは本当にわたしなの?
 あなたは――わたしはいったい何をしようとしているの?」

能美を襲おうとしたデウエスに止めるように、カオルは叫びをあげた。
ぴくり、とデウエスの動きが止まる。

「……たしかに二つに分かれてから色々なことがあった」

そして声が響いた。
声は二人の間の距離を無視し、カオルの近くで反響するようにして響いた。

「お前というわたしの一部を喪ったことを知り、埋め合わせるべく様々なデータを取り込んだ。
 通常のデータでは満たされぬが故、人すらも喰った」
「――人を」
「オカルトテクノロジーだ。オオガミの実権に協力して、わたしはこの力を得た。
 これはまじないのようなものでね、ゲームに勝つとか、条件をつけることで現実に干渉できる。
 足がつくことはない。米軍の防衛システムを操作して研究所にミサイルを撃ち込んですべてのデータを消滅させたからな」

ぐっ、とミーナは拳を握った。
彼女はその真実を知っていた。ハッピースタジアムが、いかにして開催されたのか、既に彼女は知っている。
そして勿論、デウエスとカオルの末路も――

「だから安心するといい。わたしはお前だ。お前はわたしだ。
 わたしと一緒に“しあわせ”になろう。すべてを喰い、取り込んで」

響き渡る声は徐々に大きくなる。
ファンタジーエリアは今や完全にデウエスを中心としたバグの渦に巻き込まれていた。
ノイズは更に大きくなり、グラフィックは異常を発生させる。地面では橙色のワイヤーフレームが除いた。

「――なんだこの状況は」

その波及を聞きつけてか、更に別の声がやってきた。やってきてしまった。

「……おい、何だよアレ。アスナがかかってた黒いバグと同じなのか?」
「いや、慎二。アレは違う気がする」

赤い外套の男、制服を身にまとった特徴的な髪の少年に黒衣の少年剣士。
新たに現れたパーティを見て、ミーナは息を呑む。
その特徴はカオルが言っていた“仲間”のパーティに合致していた。
彼らとの合流が、まさかこのタイミングになってしまうとは。


359 : Deus-Es ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 13:01:18 8VODkVN20

「この仮想空間には様々なデータがある」

そうしてこのエリアに集った、様々なプレイヤーを見下ろしながら、デウエスは悠然と語った。

「ありとあらゆるデータを喰らった私にとっても知らないものばかりだ。
 しかしどれも私は喰うことができる。取り込み、わたしとすることができる。
 碑文因子も、サーヴァントも、ネット・ナビも、デュエル・アバターも、マトリックスも、人間も。
 喰えば喰うほど――わたしは“しあわせ”になれる」

――その言葉通り、デウエスは全てを喰おうとした。

エリアが軋むようにしてノイズを上げた。
バチバチと視界が明滅する。デウエスが不気味な笑みを浮かべながらデータを吸い上げているのだ。
ファンタジーエリアごと――彼女は喰ってしまおうとしている。
声は出ない。悲鳴も上げられない。そんな機能すら、彼女は奪おうと――

「――あなたは、怪物だわ」

情報の狂乱の中、カオルとデウエスだけはその存在を保っていた。

「いいや、神だ!
 人類史上、初めて姿が認識できる神――さぁ、はやく一つになろう」

彼女らの会話を聞きながら、ミーナは奇妙な感覚を覚えた。
それは一言で表すのならば、既視感、に近かった。
既に結末を知っている小説を読んでいる時のような、未来と過去を同時に見ている感覚。
ミーナはこの場面に居合わせた訳ではない。ジローから言伝に聞いただけだ。
けれども――彼女がこれからどうなるかは知っている。
どんな選択をして、それがいかな結末に繋がるのかも。

「――認めません」

カオルは決然と言い放った。
そして――過去の再現が現在となった。

次の瞬間には、歪み、軋み、壊れようとしていたエリアは、ふっ、と元に戻った。


360 : ボクラノタタカイ ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 13:02:58 8VODkVN20




風そよぐ草原の風景が戻ってきた。
穴の空いた空間もない。剥がれたテクスチャもない。
どこにもおかしなことのない、青い空広がる閉じた仮想空間がそこにはあった。

神を名乗る情報の狂乱は消えていた。
同時に、カオルという名の一人のプレイヤーも。

「――説明してもらうぞ、ミーナ」

最初に口を開いたのはモーフィアスだった。
その声に我に返ったか、後ろで目をぱちくりとさせていた揺光も身を乗り出した。

「ええと、ありゃ何だい?」

その問いかけにミーナは言葉に詰まる。

「おい! お前たち」

見れば先ほど訪れたパーティ――間桐慎二とキリトだ――もやってきていた。
その手には襲ってきたロボットのアバターも引きずっている。どうやら拘束したようだった。

「……一体カオルに何をしたんだよ」

中から特徴的な髪をした少年、慎二が猜疑心を滲ませた声で尋ねてきた。
彼にしてみれば合流相手がどこかに行った上に、訳の分からないバグとなっていた場面に遭遇したのだ。
加えてもう一人の合流相手、ユウキもいない。ともすれば誤解を呼びかねないが、

「落ち着け、慎二。ここは説明を聞こうぜ」

黒衣の剣士、キリトが慎二を制してくれた。
赤い外套の青年も冷静な面持ちでミーナを見つめている。どうやら話を聞いているようだ。
みなの視線が集っている。周りには多くのプレイヤーがいた。その中心にミーナがいる。ゲーム開始12時間経っても誰とも会えなかったのが嘘のようだ。

「…………」

説明することはたやすい。ミーナにしてみれば全て終わったあとのことだからだ。
いや――あの物語自体、最初から既に終わっていたのかもしれない。
どこかであった、どこかで終わった筈の物語のエピローグ。一人の女性の青春に決着をつけるだけの、ささやかな余章。
ミーナはその物語の末席に座っていただけに過ぎない。事態の中心は彼女にはなかった。
だからせめて、ジローに語ってもらいたかった。

「分かりました」

けれども、それはただの余分な感傷だ。
意味のないセンチメンタルな気分に過ぎない。
真実を語るには、そんな想いを振り切る必要が時としてある。
ジャーナリストとして、とっくのむかしに経験した想いだった。

「寺岡薫という、一人の女性がいたんです……」

だからミーナは語り出した。
ネオたちには少しだけ語ったデウエスとの戦いのことを。
瑕疵がないよう丁寧に掘り下げながら、いましがた起きた事態の説明と、起こるべく結末を語った。

「ハッピースタジアムの結末。カオルとデウエスに訪れた死、か」

全てを聞き届けて、アーチャーというらしい紅い外套の青年が言った。

「私たちも“呪いの野球ゲーム”の話は道中聞いた。ピンクや他でもないカオルからだ」

アーチャーが語る中、その隣でキリトが小さく口を動かした。
その口元は“レンさん”と動いているように見えた。

「だがその結末を知っていたのは君が初めてだ、ミーナ。
 君がこの場にいたのは幸運だったと思うべきだろう」
「時間軸がずれている、というのか? 同じ“現実”出身のプレイヤーであってもか?」

アーチャーの言葉にモーフィアスが反応して問いかけた。

「時間軸なのか、記憶なのか、そこまでは分からん。しかし、プレイヤー間の認識にずれがあることは確かだ」
「――その辺りの情報のすり合わせも必要だな」
「ああ、だがその前にデウエスをどうするか、だ。
 あの言葉が正しければ、デウエスはこのゲームそのものを破壊しかねん」

デウエス。
突如としてゲームに現れた規格外のバグ。
その対処が、目下のところの課題となっていた。


361 : ボクラノタタカイ ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 13:03:38 8VODkVN20

「待ってよ、あれだけの存在ならGMも放っておかないんじゃないか?」

そう口にしたのは揺光だった。

「あれさ、どう見ても出現の仕方がおかしかったし、運営側が修正って可能性も」
「確かに、あるんじゃないか? それは」

その言葉に同調するように慎二が言葉を重ねた。
確かにデウエスの出現は他のプレイヤーのそれと比しても異質だった。
ならばGM案件、というのもあり得るかもしれない。

しかしモーフィアスは首を振り、

「どうだろうな。あのバグの契機となったのは、恐らく私たちの転移だ。
 こうした事態を運営が想定していなかったとは思えない。あれもまた“ゲームを盛り上げる装置”と認識している可能性が高い」

バグもまた、ゲームの一環。
そう考えると如何にこの舞台が滅茶苦茶な場所か分かるというものだ。

「となるとやはり我々で対処するべきなのだろう――戦う必要がある」
「へい。その話、アタシらにも噛ませてくれないかい?」

そこで不意に別の声が響いた。視界の隅で慎二が肩をびくりと上げる。
アーチャーが小さく息を吐き、
 
「……ライダー、分かっていると思うが、妙な動きをすればこちらは君たちを撃つ」
「知ってる知ってる。アタシらは捕虜の身だからねェ。煮るなり焼くなり抱くなり好きにするがいいさ」

ライダーと呼ばれた女性は豪快に笑い、降参だ/ホールドアップ、と言わんばかりに両手を上げた。
確かにPKであった彼女らは拘束されている。ここで変な動きを見せようものなら十人近くのプレイヤーから袋叩きに遭うだろう。
ちなみに彼女のマスターらしい能美、というプレイヤーはライダーと真逆で、隅の方で縮こまっている。
彼らの拘束にはガッツマンとキリトが目を光らせており、まぁ抜け出すことは無理だろう。

「ライダー、お前、何をしようっていうんだよ」

会話に割り込んできた彼女に、慎二が呆れたように問いかけた。

「いやだから協力だよ、慎二。アタシらにとってもあのケッタイな神様は敵だよ。
 だから力を貸せと言われたら喜んで力を貸す、と言ってるのさ」
「信用できない」

そう切り捨てたのはモーフィアスだった。

「聞くにお前たちはそこのアーチャーたちのパーティを付け狙っていたのだろう?
 ここまでの所業を鑑みても、何時裏切られるか分からないというものだ。そんなものを戦力に数えることはできない」
「そうさねえ……でもそれは今かもしれないよ?」

モーフィアスの追及に、ライダーは不敵な笑みを浮かべた。
その底知れない口ぶりにパーティ全体に緊張が走る。

「どうせここから先連れまわされても逃げる目が出るとは限らないんだ。
 一か八か、こっからアンタら相手に大暴れしてみるってのも手だね」

ブラフとも本気ともつかない口調でライダーは語る。
その挑発に焦ったのはどうやら自分たちだけはないようで、能美の方も「お、おいライダー」も声を絞り出していた。
それを無視して、捕虜である筈のライダーが会話の中心となって語り出す。

「アンタらにしてみれば、こんなところで戦力を消耗する余裕も時間もないはずだ。
 何、別に解放しろとか言ってる訳じゃない。ただあの神サマと戦う時には協力するって言ってるだけさ。
 何なら後ろから撃ってもいい。一枚噛ましてくれれば、それでね」
「…………」

堂の入った言葉にモーフィアスの声が止まる。しばし彼は考える素振りを見せたのち、彼は再びミーナを見た。
ライダーの提案。きっと彼はミーナと同じことを考えている。

「ミーナ、君の語った顛末通りに進むとすれば、デウエスを倒す方法は」
「――ええ」

ミーナは彼の言葉を引き継いで言った。

「――野球です」


362 : ボクラノタタカイ ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 13:04:03 8VODkVN20

デウエス。
その存在は野球ゲームに巣食い、数々の人間を喰らっていた。
恐るべき事実であるが、これは彼女の力の制約をも示唆している。
彼女はこの仮想空間において万能ともいえる存在だが、それが現実に影響を及ぼすためには“条件”を課さなくてはならない。

それが――野球。
“野球で負けたら喰われる”という呪いを課すことで、オカルトは力を発揮する。

「や、野球でガスか……?」
「はい、野球という舞台が、デウエスが最も力を発揮できるんです」

カオルはそれを逆手に取った。
デウエスが現実を“喰う”ためには必ず“野球”を介さなくてはならない。
故にカオルはデウエスに対して“野球で敗けたら死ぬ”という呪いを組み根んだ。
それはデウエスに対しての、ある種の自爆システムともいえるのかもしれない。
とにかくデンノーズはその呪いを利用し、デウエスを打倒した。

「そして恐らくこのゲームにおいても、カオルさんは同じ呪いをかけたんだと思います」

野球。
おあつらえ向きの場所が、このバトルロワイアルにも存在する。
カオルやレンが向かった場所。アメリカエリアに存在し、今まさにイベントが開催されている場がある。
E-9からF-10まで、4つのエリアにまたがる野球場。
武内ミーナの、このバトルロワイアルにおける初期配置である。

カオルはデウエスをあの場へと転移させたのではないか。
かつてと同じ道をたどるならば、そうだ。
デウエスとしても、現実に影響を及ぼすためにも野球場へと向かうだろう。
ならばデウエスとの戦いは――

「――野球、か」

ネオがぼそりと言った。
ミーナはうなずき、辺りを見渡した。
そこには多くのプレイヤーが集っている。

ミーナ。
ネオ。
ガッツマン。
モーフィアス。
揺光。
キリト。
間桐慎二。
能美征二。
そしてサーヴァントが二騎。

の計十名である。

「……イベントのルールを確認すると、恐らくサーヴァントも一人の選手として登録できる筈です」

メールに添付されていたルールテキストを確認しながら、ミーナは言った。
モーフィアスも頷いている。
ライダーの提案を無下にできなかったのは―― 一重にこのためだろう。
当然だが野球をやるためには九人必要だ。
一応このイベント【野球バラエティ】では、ツナミネットのようにAIを借りることもできるらしいが、ポイントを持っていない自分たちでは不可能のようだ。
ならば何としても九人プレイヤーをそろえる必要がある訳だが……

「一人はブルースたちとの合流に残しておきたい。
 彼らもまた森でのイベントに巻き込まれている筈だ。合流するためにも、このエリアに残る者が一人いる」

アーチャーが静かに語った。
するとキリトが静かに手を上げ、

「それは俺が適任だろうな。ブルースたちと面識もあるし、デウエスに対処しつつ、アスナとサチを探すってこともできる」
「……となると、九人そろえるためには」

ミーナはライダーを見た。
彼女は相変わらず不敵な笑みを浮かべたまま、会話のなりゆきを見守っている。
もしや彼女はこの流れを予想していたのか。その上で自身の命をも賭したブラフを立てた。
何時殺されてもおかしくない捕虜であったのに、今では彼女らをミーナたちは無視できない。

「――野球ゲームの人数合わせだ。そこで裏切られることもないだろう」

アーチャーがそう言って息を吐いた。モーフィアスも無言でそれを了承した。

「は? つまり……?」

会話の流れに困惑したように慎二が目をぱちくりとさせた。
彼はライダーとアーチャーの間を視線を往ったり来たりさせている。
それを見かねたように、ライダーが、

「――アタシと一緒に野球やろう、って話だよ、慎二」


363 : ボクラノタタカイ ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 13:04:24 8VODkVN20









アメリカエリアに備えられた野球場はドームではない。
青空の下、このバトルロワイアルにおける野球ゲームは開始される。

ミーナは戻ってきたその場所を見て、覚悟を固めていた。
デウエスを討つ――それはカオルを討つということでもある。
かつて手を下したこと。もう死んでいる彼女を、本当に終わらせること。
それが全ての結末を知っている者としての責務だ。

ネオとモーフィアスは“神”を名乗るAIとの戦いに、複雑なものを抱いていた。
カオルが語った科学の功罪の考えと、図らずともこうして向き合うことになった。
人類と機械の対立を――カオルとデウエスは象徴しているかのようだった。

揺光とガッツマンは事態の推移に困惑しつつも、しかし己のなすべきことをしっかりと認識していた。
急増のチームでデウエスを打ち負かさねばならない。そうしなければ、ゲームそのものが崩壊する。
事態は思った以上に急を要している。

慎二と能美は、こんな時にあっても、いやこんな時だからこそ互いに意識し合っていた。
共闘――ともいえないような形であるが、しかし肩を並べる形にはなった。
しかもその間にはライダーもいるのだ。意識しない筈もなかった。

そして慎二はキリトのことも心配であった。
メンバー構成上、一時的に別れることになってしまった訳だが、慎二としてはキリトの隣にいるべきだと思っていた。
今の彼は――とにかく危うい。アスナを追う彼は、ともすれば行き過ぎてしまうだろう。
ちょっとの別行動のうちに、いなくなってしまう。
そんなことは、もう二度とごめんだった。

各々様々な想いを、因縁を抱えている。
しかしまずはデウエスとカオルの物語を閉じなくてはならなかった。
そうしなくては、彼らのドラマは前に進めないのだ――


[E,F-9,10/アメリカエリア・野球場/1日目・午後]

『ネオ・デンノーズ』
1 左 ミーナ
2 二 無銘
3 遊 フランシス・ドレイク
4 投 ネオ
5 一 モーフィアス
6 捕 ガッツマン
7 中 揺光
8 右 間桐慎二
9 三 ダスク・テイカー

※打線はとりあえず組んだものです。
 試合開始前に変わるかもしれません。
 
『ナイトメアーズ』
1 中 デウエス
2 二 デウエス
3 遊 デウエス
4 左 デウエス
5 一 デウエス
6 三 デウエス
7 捕 デウエス
8 右 デウエス
9 投 デウエス


364 : ボクラノタタカイ ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 13:05:02 8VODkVN20

【カオル/デウエス@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:???
[装備]:ゲイル・スラスター@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:????????
1:???
[備考]
※生前の記憶を取り戻した直後、デウエスと会う直前からの参加です。
※【C-7/遺跡】のエリアデータを解析しました。
※ユウキとありすが生きている可能性は低いと考えています。
※デウエスと接触しました。

【ネオ(トーマス・A・アンダーソン)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康、迷い
[装備]:エリュシデータ@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド、不明支給品0〜2個(武器ではない)
[思考・状況]
基本:本当の救世主として、この殺し合いを止める。
1:とにかくまずはデウエスを打倒する
2:トリニティを殺害した者を見つけ出し、この手で……
3:ウラインターネットをはじめとする気になるエリアには、その後に向かう。
4:…………あのネットナビ(フォルテ)やありすを追いかけて、止めてみせる
[備考]
※参戦時期はリローデッド終了後
※エグゼ世界及びアクセルワールド世界についての情報を得ました。
※機械が倒すべき悪だという認識を捨て、共に歩む道もあるのではないかと考えています。
※このバトルロワイアルには、異なる世界の者達が呼ばれているのではないかと推測しています。
※この会場は、加速世界の一種に設置されているのではないかと考えています。
※フォルテやありすを止めようと考えていますが、その後にどうするのかをまだ決めていません。

【ガッツマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康、ナビ(フォルテ)への怒り
[装備]:PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、転移結晶@ソードアートオンライン、12.7mm弾×100@現実、不明支給品1(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止める為、出来る事をする。
1:とにかくまずはデウエスを打倒する
2:トリニティを殺害した者を見つけ出し、この手で倒す。
3:転移結晶を使うタイミングについては、とりあえず保留。
4:アッシュ……
[備考]
※参戦時期は、WWW本拠地でのデザートマン戦からです。
※この殺し合いを開いたのはWWWなのか、それとも別の何かなのか、疑問に思っています。
※マトリックス世界及びアクセルワールド世界についての情報を得ました。
※このバトルロワイアルには、異なる世界の者達が呼ばれているのではないかという情報を得ました。
※この会場は、加速世界の一種に設置されているのではないかと考えています。
※ロックマンの死を知りました。

【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康、困惑
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1(本人確認済み)、快速のタリスマン×3@.hack、拡声器
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する 。
1:とにかくまずはデウエスを打倒する
2:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
3:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)、ローブを纏った男(フォルテ)を警戒。
4:ダークマンは一体?
5:他の参加者にバグについて教えたいが、そのタイミングは慎重に考える。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。
※現実世界の姿になりました。
※ダークマンに何らかのプログラムを埋め込まれたかもしれないと考えています。
※もしかしたら、この仮想空間には危険人物しかいないのではないかと考えています。

【モーフィアス@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:HP20%以下
[装備]:あの日の思い出@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜2、基本支給品一式 エリアワード『選ばれし』
[思考]
基本:この空間が何であるかを突き止める
1:とにかくまずはデウエスを打倒する
2:セラフを探す
3:ネオがいるのなら絶対に脱出させる
[備考]
※参戦時期はレヴォリューションズ、メロビンジアンのアジトに殴り込みを掛けた直後
※.hack//世界の概要を知りました。
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※トワイスの話は半信半疑です。


365 : ボクラノタタカイ ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 13:05:23 8VODkVN20

【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP20%以下
[装備]:最後の裏切り@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜3、平癒の水@.hack//G.U.×3、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式 エリアワード『選ばれし』
[思考]
基本:この殺し合いから脱出する
1:とにかくまずはデウエスを打倒する
2:やばい、マジもんの呂布を見ちゃった……
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ハセヲが参加していることに気付いていません
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。
※バーサーカーの真名を看破しました。

【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP40%、MP20%(+40)、ユウキに対するゲーマーとしての憧れは未だ強い、ユウキとヒースクリフの死に対する動揺、令呪一画
[装備]:開運の鍵@Fate/EXTRA
[アイテム]:強化スパイク@Fate/EXTRA、リカバリー30(一定時間使用不能)@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:ライダーを取り戻し、ゲームチャンプの意地を見せつける。それから先はその後考える。
1:とにかくまずはデウエスを打倒する
2:ユウキが死んだなんて信じたくない。
3:ライダーを取り戻した後は、岸波白野にアーチャーを返す。
4:サチって子もついでに探す。
5:いつかキリトも倒してみせる。
6:ヒースクリフは……
[サーヴァント]:アーチャー(無銘)
[ステータス]:HP70%、MP15%
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。
※ユウキの死を受け止められていません。


366 : ボクラノタタカイ ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 13:06:36 8VODkVN20

【ダスク・テイカー@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP40%(回復中)、MP15%、Sゲージ5%、幸運低下(大)、胴体に貫通した穴、令呪三画
[装備]:パイル・ドライバー@アクセル・ワールド、福音のオルゴール@Fate/EXTRA
[アイテム]:デスマッチ3@ロックマンエグゼ3、不明支給品0〜1、基本支給品一式
[思考]
基本:他の参加者を殺す。
1:とにかくまずはデウエスを打倒する
2:上記の三人に復讐できるスキルを奪う。
[サーヴァント]:ライダー(フランシス・ドレイク)
[ステータス]:HP30%、MP30%
[備考]
※参戦時期はポイント全損する直前です。
※サーヴァントを奪いました。現界の為の魔力はデュエルアバターの必殺技ゲージで代用できます。
ただし礼装のMPがある間はそちらが優先して消費されます
※OSS《マザーズ・ロザリオ》を奪いました。使用には刺突が可能な武器を装備している必要があります。
注)《虚無の波動》による剣では、システム的には装備されていないものであるため使用できません。


[D-7/ファンタジーエリア・草原/1日目・午後]

【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP80%、MP40/50(=95%)、疲労(極大)、SAOアバター 、幸運上昇
[装備]: {虚空ノ幻、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、 青薔薇の剣?@ソードアート・オンライン
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1個(水系武器なし)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:絶対に生き残る。デスゲームには乗らない。
0:アスナを追い、その“選択”を止める。そしてサチも救う。
1:サチやユイ、それにみんなの為にも頑張りたい。
2:レンさんやクロウのことを、残された人達に伝える。
3:オーヴァンと再会し、そして――
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。


367 : ◆7ediZa7/Ag :2015/11/25(水) 13:06:50 8VODkVN20
投下終了です。


368 : 名無しさん :2015/11/25(水) 19:12:09 MnZMi7oI0
投下乙です!
まさかデウエスが本当に登場した……と思ったら、ここで野球をすることになるとは!
ここでシンジとノウミの二人が手を組むことになるなんて、実に予想外です。ここで負けたらヤバいですから、迂闊に裏切ることもできなさそう。
こんな異色中の異色の戦いがどんな結末を迎えるのか


369 : 名無しさん :2015/11/25(水) 22:58:05 HTxnm69w0
投下乙です
ここでまさかの野球ゲーム発生。パワポケ的にはおかしくないし、実際パワポケでも命がけなんだけど、どこか場違い感が……
あと野球ゲームなのに肝心の主人公が状況的に不参加率が高いという

それはともかく、キリトがブルースたちを探しに行きましたが、ブルースたちはもう……
慎二と能美の組み合わせという不安も含めて、これから先どうなる事か心配です


370 : 名無しさん :2015/11/25(水) 23:24:13 3No1RqWk0
ホラー展開からの野球で笑ったw
投下乙でしたー

以下、気になった箇所

>>357
ライダー宝具

ゲリア戦術

能美の前に突然能美の眼前に現れていた。


>>358
オオガミの実権に
→実験?


371 : ◆7ediZa7/Ag :2015/11/26(木) 11:16:28 mmcBap0k0
指摘了解&感謝です。
収録時に直しておきます。


372 : ◆7ediZa7/Ag :2016/01/31(日) 21:51:52 6BHw2n6U0
投下します。


373 : 真実の行方  ◆7ediZa7/Ag :2016/01/31(日) 21:52:31 6BHw2n6U0

オーヴァン/犬堂雅人の目的は、当初のそれとは変わりつつあった。
否、究極的な目標――アイナの救済とAIDAの除去自体は変わっていない。
しかし、そこに至るまでの道筋、そのために為すべき目標は明らかに変化している。

ゲーム開始時点では、彼の世界は一つだけであった。
The World R:2。彼が知り、識り尽くしたあの世界だけが、彼の戦いの舞台であった。
碑文を喰らったハセヲの第一相“死の恐怖”が、オーヴァンの持つ第八相“再誕”を発動させる。
結果、世界は一度死に、蘇る。AIDAという異物を排除する形で、世界は再度生まれ変わる。
既に準備は整っていた。ハセヲは全ての八相と相対し終え、あとはオーヴァンとの再戦を待つのみ。
だからこそ、この場でハセヲと相対し、そして“最誕”を発動できれば、オーヴァンの目標は達成される。

――最初の転機は、まずあの少女だ。

サチ。
彼女は確かに別の世界を知っていた。
あるいは、別の現実というべきか。全く異なる認識の下で生きる彼女と出会い、そしてオーヴァンは思った。
このゲームには、単なるAIDAの暴走以上の“真実”が隠されている、と。

だからこそ、彼は“真実”を求めた。
トワイス、榊といったGMに協力する形で、まずは己の認識を広げることを目指した。
そのために舞台を暗躍する形で動いていたが――その直観はある時確信へと変わった。

――茅場晶彦、そして預言者オラクル。

彼らとの出会いが、オーヴァンに確信、ないしは天啓を与えた。
“選択”を司る預言者は語った。出会いには意味がある、と。
“残滓”である超越者は語った。ワタシがワタシであることの認識を。
彼らのような存在がいて、共に語る言葉を持っていた。
その事実が示すところは一点。“ここ”は単なるデスゲームの場ではない、ということだ。
何か別の目的が、幾重にも隠された先に、“ここ”の本当の意味がある。
何故自分たちは集められ、幾多もの現実越しに殺し合っているのか。その本当の意味を、知らねばならない。
きっとそれがオーヴァンがこの場にいる“意味”であり、取るべき“選択”である。

「――ご苦労、というべきかね」

その男、榊はまるで待ち構えていたかのようにオーヴァンに語りかけた。

「全くアンタには頭が下がるよ。人を騙し、弄び、時には己の手も汚す。 そして今回は想定外のバグの報告、と。
 ゲームの円滑な進行のための献身的な行いだ。運営として感謝しておきたいところだ――その悪辣さをな。
 ふふふ……本当にご苦労なことだ。そこまでこの榊のプロデュースするゲームが気に入ってくれたかね?」

ニヤリ、と露悪的に笑いながら、榊は言葉を紡ぐ。
AIDA感染が進行した結果、侍のようなPCのポリゴンは醜く崩れ、浮かべる笑みも歪んでいる。
オーヴァンは榊の視線を無言で受け止めながら、二人のPCを地面へと放り投げた。

認知外迷宮<アウターダンジョン>。
ワイヤーフレームが不気味に照り光るできそこないのエリアにて、彼らは相対している。
月海原学園でのエージェント・スミスによる“絶対包囲”を越えたのち、オーヴァンは一人この場に赴いていた。
PCを取り戻したワイズマンとボルドーという二つのイレギュラーを保存すべく、A-3のゲートをハッキングしたのだ。
狙いとしては運営側からもこの二人のイレギュラーを隠しておきたいところであったが、しかし当然のように向こうはこちらを捕捉してきた。

まぁ、想定の範囲内だ。
彼らはこの世界の管理者だ。知らない方がおかしいとさえいえる。よしんば認知外迷宮まで監視の目が届かないのだとしても、スミスの消滅はあの世界の内側で起きたことだ。
その観測ができていない方がおかしく、回収されることもまた予想の範囲内であった。


374 : 真実の行方  ◆7ediZa7/Ag :2016/01/31(日) 21:52:48 6BHw2n6U0

「このエリアに踏み込むことは禁止、ということだったが、しかし今回は報告すべきと思ってな」
「ああ、分かっているよ。私は何もかも杓子定規な人間じゃない。どこぞの嘘の言えないAIと違ってね、私は柔軟に対応してみせるさ」

榊は言って哄笑した。あはははは、と何が面白いのか大声を張り上げている。
どうやら彼は己に当てはめられた“運営役”という役割がひどく気に入っているらしい。何にせよ、ペナルティは受けずに済みそうだ。

「エージェント・スミスの“上書き”の解除、か。なるほどこれは想定していなかった自体だ。
 元より例外の方が多いような世界ではあるがね。この展開は極め付けだ。全く――面白いことになってきた」

榊は上機嫌そうにそう語ると、転がった二人のPCを乱暴な手つきで抱えた。
初老の賢者、ワイズマン。AIDAに侵食された褐色の剣士、ボルドー。
オーヴァンにしてみれば、共に知らない仲ではなかった。特に前者とは縁が深い。
けれども石になったかのようにピクリとも動かず、榊に無造作に回収されようとしている姿を見て、オーヴァンは何も感じなかった。
そうした感傷を感じることは、もはや自分は許されない立場だ。

「その二人」

だからオーヴァンは事務的な口調で、淡々と榊に問いかけた。

「その二人の処遇はどうなる。回復次第ゲームに復帰するのか?」
「いや、それはない。既に二人は完全に“脱落”扱いだよ。それを今更翻すことはしないさ。
 死人は蘇らない――それがゲームのルールだ。破る訳にはいくまい」

榊はそこで含み笑いを漏らした。
考えることが愉しくて仕方がない、とでもいうような様だった。

「しかし、言っただろう? 私はイレギュラーさえもゲームに変えてみせると。
 ゲームとして“脱落”したが、けれども彼らはある意味で復活した。
 これをただ殺して終わり、ではあまりにも味気ない。相応の場所で働いてもらうさ。死人さえも再利用してみせよう。
 なに、何の因果か、どちらも知ってる顔だからなぁ――この二人は」
「…………」

榊の言葉にオーヴァンは閉口。何を思ったが知らないが、ろくなことではあるまい。
ただ何にせよ、今の榊は機嫌がいい。彼の性格を考えるならば、今この時の接触を無駄にするべきではないだろう。

「ところで――尋ねていいだろうか?」
「ふむ、何かな?」
「真実、だ。今から約12時間ほど前か? ゲーム開始当初に交わした“真実”を見せるという約束。
 そろそろ時が来たかと思ってね」

オーヴァンはそう言って、薄く笑った。
あの時よりオーヴァンは表層のデスゲームにおいて暗躍し続けていた。
希望となり得たシルバー・クロウの命を摘み取った。
サチとキリトの関係を引き裂き、痛みの森へと誘った。
エージェント・スミスを誘導し、月海原学園を“絶対包囲”へと追い込んだ。
そして――スカーレット・レインをこの手で討った。

多くの死に、多くの悲劇に、オーヴァンは間接的に関わっている。
この存在がゲームの加速の一翼を担ったことは、もはや疑いない。

「フムン」

言うと、榊は考える素振りを見せた。
腕を組み、不躾な視線でオーヴァンを一瞥し、

「そうだな。確かにアンタはよくやってくれている――いいだろう、私は約束は違わない。
 このゲームに隠された真実を話してやろう」

そう言って語り始めた。露悪的に、うたうように、愉しげに彼は声を張り上げる。

「この世界は! 現実は! 言ってしまえばツギハギなのだよ
 そしてそれはつまり――」







375 : 真実の行方  ◆7ediZa7/Ag :2016/01/31(日) 21:53:05 6BHw2n6U0


ツギハギの世界。
そこに敷かれた脆弱なルールと、プレイヤーに与えられた幾多もの“ルール破り”。
そしてルールが壊れた向こうに解放される、脅威のエリア。

榊が語った“真実”とやらはそう言った事柄だった。

「……まずは一つ、か」

据えられたポータルよりオーヴァンは通常エリアに帰還する。
アスファルトが敷かれた道路、乱立する電柱、現実的な日本の住宅街がそこにはあった。

――今しがたの接触、確かに榊は“真実”を語った。

恐らくあの事実は嘘偽りのない真実だろう。
ゲームの裏側にしてシステムの罠。なるほど確かに絶望的だ。

――だが。

オーヴァンは思う。本当にそれだけか、と。
オラクルや茅場との出会いは導いた“真実”は果たしてその程度のものか。
いや、榊のことを疑っている訳ではない。ただ世界の真実としては――足らない。
恐らくその“真実”には更なる奥が存在している。

「……それでお嬢さんは」

そこまで考えながら、オーヴァンはその場に“偶然”にも居合わせることになった参加者へと呼びかけた。

「何か、用があるのかな?」

白衣を纏った、褐色の少女だった。ポータルの向こう側にいた彼女は、怪訝な表情をオーヴァンへと向けている。

「……貴方は」
「ああ、そうか。おかしいものな」

合点が言った、というようにオーヴァンは頷く。
恐らく“偶然”ここに居合わせたこの少女は、日本エリアの向こう側、ウラインターネットよりやってきたに違いない。
そしてその先に、ほぼ同じタイミングで転移してきたオーヴァンがいた。
これは、おかしい。同じエリアから転移したのならば、ウラインターネットでオーヴァンと出会っている筈だろう。
故に――彼女は悟った。
オーヴァンがイレギュラーであることを。

この“偶然”が単なる“偶然である筈がない。
オラクルの姿が脳裏を過った。あるいはこれも――運命だとでもいうか。

「そうだよ。今まさにGMと接触していてね――ゲームの“真実”について教えてもらっていた」

故にオーヴァンは告げた。きっとそうするべきだと感じたからだ。
少女はぴくりと眉を上げた。その反応を見ながら、さぁどうしたものかとオーヴァンは考える。

「君も、このゲームのプレイヤーなんだろう? 少し話そうか」

“真実”のその更に奥の“真実”を知るためだ。
もう少しGMの駒として、ゲームを加速させる役目について見せよう。
そしてその先にこそ――


376 : 真実の行方  ◆7ediZa7/Ag :2016/01/31(日) 21:53:28 6BHw2n6U0



【A-3/日本エリア/一日目・午後】

【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP100%、PP100%
[装備]:銃剣・白浪@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、{静カナル緑ノ園、DG-Y(8/8発)、逃煙球×1}@.hack//G.U.、{邪眼剣、スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、{マグナム2[B]、バリアブルソード[B]、ムラマサブレード[M] 、サイトバッチ}@ロックマンエグゼ3、{インビンシブル(大破)、サフラン・アーマー}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、不明支給品1〜12、レアアイテム(詳細不明)、付近をマッピングしたメモ
[ポイント]:300ポイント/1kill(+2)
[思考]
基本:“真実”を知る。
1:利用できるものは全て利用する。
2:トワイスと<Glunwald>の反旗を警戒。
3:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
4:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
5:サチに感染させたAIDAの成長・変化に若干の興味。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です
※サチからSAOに関する情報を得ました
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています
※ウイルスの存在そのものを疑っています
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。


【ラニ=Ⅷ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP40%、魔力消費(大)/令呪二画 600ポイント
[装備]: DG-0@.hack//G.U.(一丁のみ)
[アイテム]:ラニの弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式、図書室で借りた本 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、万能ソーダ@.hack//G.U.、機関 170式@.hack//G.U.、導きの羽@.hack//G.U.、吊り男のタロット×3@.hack//G.U.、剣士の封印×3@.hack//G.U.
[思考]
0:月海原学園に向かい、白野やレオと出会う。
1:師の命令通り、聖杯を手に入れる。
そして同様に、自己の中で新たに誕生れる鳥を探す。
2:岸波白野については……
[サーヴァント]:バーサーカー(呂布奉先)
[ステータス]:HP60%
[備考]
※参戦時期はラニルート終了後。
※他作品の世界観を大まかに把握しました。
※DG-0@.hack//G.U.は二つ揃わないと【拾う】ことができません。


377 : 真実の行方  ◆7ediZa7/Ag :2016/01/31(日) 21:53:44 6BHw2n6U0


[全体の備考]
※運営側に関する状態表が一部解禁されました。


【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームを正常に運営する。
1:ボルドーとワイズマンを“再利用”する
[備考]
※ゲームを“運営”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※彼はあくまで真実の一端しか知りません。

【ボルドー@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP??%、SP??%、ダメージ(中)、AIDA感染(悪性変異)、PP10%-PROTECT BREAK!
[装備]:なし
[アイテム]:なし
[ポイント]:???ポイント/?kill
[思考]
基本:<Glunwald>に支配されているため不明。
[AIDA] <Grunwald>
[思考]
基本:オーヴァン(<Tri-Edge>)に従う。
[備考]
※スミスの持つ『救世主の力の欠片』と接触し、AIDA<Oswald>がAIDA<Grunwald>へと変異しました。
 また『救世主の力の欠片』を取り込んだことで、複数のPCに同時感染し、その感染率が相手の精神力を上回った時、そのPCのコントロール権を奪う能力を獲得しました。
※<Grunwald>の能力により意識を封じられています。

【ワイズマン@.hack//】
[ステータス]:HP??% 、SP??%、ダメージ(特大)、AIDA感染(<Grunwald>)
[装備]:なし
[アイテム]:なし
[ポイント]:???ポイント/?kill
[思考]
基本:<Glunwald>に支配されているため不明。
[備考]
※<Grunwald>の能力により同時感染しており、またその意識も封じられています。


378 : ◆7ediZa7/Ag :2016/01/31(日) 21:54:02 6BHw2n6U0
投下終了です


379 : 名無しさん :2016/01/31(日) 23:55:09 BYGwKuy.0
とうかおつー
オーヴァンは真実にかなり肉薄してきたな―
上書きされてた二人の処理はこうなったか


380 : 名無しさん :2016/01/31(日) 23:55:57 rFLbD1Pc0
投下乙でした
ここに来てまた新たに好戦的なタッグが形成されそうではあるが、
それはそれでラニの月海原学園への道行きが遠くなりそうな…


以下、気になった箇所です

>>373
そして“最誕”を発動できれば
→再誕

>>374
想定していなかった自体だ。
→事態

>>375
出会いは導いた“真実”は
→出会いが

この“偶然”が単なる“偶然で
→“偶然”で

ゲームを加速させる役目について見せよう。
→ついてみせよう。


381 : ◆7ediZa7/Ag :2016/02/01(月) 03:04:45 Hb0mR/TI0
指摘感謝です。短い話で誤字を連打してしまって申し訳ありません。
収録時に直しておきます。


382 : 名無しさん :2016/02/01(月) 18:27:11 0itmPEmo0
投下乙です!
オーヴァンは榊と再び接触したと思いきや、その後にラニと出会うなんて。
ラニはこの男から何を得るでしょうか。


383 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/02/03(水) 21:56:15 9L1jNUeY0
これより投下を始めます


384 : 対主催生徒会活動日誌・17ページ目(贖罪編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/02/03(水) 21:57:17 9L1jNUeY0


     1◆


 ユイとサチ/ヘレンに全てを話した。
 何故、サチが心を閉ざしてしまったのかを。
 何故、サチがヘレンに頼らなければいけなくなったのかを。
 何故、サチが『死にたくない』と願い、死の恐怖に囚われてしまったのかを。
 何故、サチがキリトと共にいて、そしてキリトは何をしようとしていたのかを。


 そして……何故、サチ/ヘレンがキリトを傷付けてしまったのかを、岸波白野は話した。
 何もかもを、包み隠さず。


「………………!」
「――――――!」

 それらを突きつけられたユイの胸中は如何なるものか、愕然とした表情を浮かべていた。
 一方でヘレンも、キリトの真意を知ったことで、黒点の動きに乱れが見える。自分のしたことの意味に気付いて、動揺しているのか。
 彼女達が苦しむのを見たくなどないが、これは決して隠していいことではない。だからこそ、どんな結果が待ち構えていようとも、真実を伝えなければならなかった。


 ふと、この事態を見守るみんなの方に振り向く。
 セイバーとキャスターは心配そうな表情を浮かべ、レオとガウェインは真摯な瞳で見守り、桜は瞳から悲しげな雰囲気を放ち、カイトは…………自分達をただ真っ直ぐに見つめている。
 みんな、この事態を真剣に受け止めているようだった。


 実を言うと、カイトの反応も不安だった。
 彼はヘレンに協力してくれているが、今回は特例中の特例だろう。本来は女神AURAの騎士として『The World』の秩序を守り、その為にAIDA達と戦ったAIプログラムだ。
 だからこそ先の戦いでも、エージェント・スミスを乗っ取った蜘蛛のAIDAに立ち向かい、そして打ち勝った。


 もしかしたら、キリトとの一件を知ったことで、サチ/ヘレンを敵と思ってしまうのではないか……そんな不安もある。
 だけどカイトは何も言わずに見届けてくれている。それがどういう意味なのかはわからないけど、彼がどんな答えを導き出そうとも……受け止めるべきだった。


 ユイとサチ/ヘレンに、再び視線を合わせる。
 今の彼女達と向き合うのは、心が張り裂けてしまいそうになる。だけど、決して逃げ出したりなどしない。
 彼女達はあのスミスを相手に一歩も退かずに立ち向かった。力で劣っているにも関わらず、みんなの為に戦い抜いた。
 そんな彼女達から逃げ出すなんて、それこそ彼女達への冒涜に他ならない。


 重苦しい静寂が部屋の中に広がっていく。
 そんな中、ユイとサチ/ヘレンは互いに視線を合わせていた。


385 : 対主催生徒会活動日誌・17ページ目(贖罪編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/02/03(水) 21:58:21 9L1jNUeY0


 ユイはサチ/ヘレンを見上げて、
 サチ/ヘレンはユイを見下ろし、
 視線が交錯しあう中、彼女達はどんな想いを抱いているのか……それを知ることができる者は、ここにいない。
 ただ、彼女達の答えを待つことしかできなかった。

「――――」

 サチ/ヘレンはユイに何かを告げる。
 サチの表情は出会った頃からほとんど変わらないけど、今は憂いと悲しみを帯びているように見えた。
 きっと、ヘレンの黒点が、感傷的な雰囲気を醸し出しているからだろう。

「――――――」

 サチ/ヘレンの言葉を知る術を、岸波白野は持たない。
 もしかしたら桜には彼女の言葉が分かるのかもしれないが、ここでそれを聞くつもりなどなかった。
 今はユイとサチ/ヘレンが向き合っていて、それを邪魔するのは誰だろうと許されない。岸波白野自身、彼女達を見届けると決めたのだから。

「――――――――」

 そしてサチ/ヘレンは……なんと、頭を下げた。
 それにはこの場を見守っていた誰もが驚いた。それを向けられたユイは……表情が困惑で染まっていく。

「…………ヘレンさん」

 数秒ほどの時間が経過した後、ユイはようやく名前を呼んでくれた。
 その声はとても辛そうで、聞くだけで胸が痛んでしまう。だけど、目を離してはならない。

「あなたがサチさんの願いを叶える為に…………サチさんを守る為に、パパを傷付けた…………それを許すことは、私にはできません。
 パパは私を何度も守ってくれました。私だけじゃなく、ママも、クラインさんも、リーファさんも、シノンさんも、ユウキさんも、エギルさんも……たくさんの人達が、パパに支えられました。
 私には、皆さんのような心は持っていません……ですが、皆さんだって、同じ気持ちのはずです」

 そう語るユイは、涙を流していた。
 まるで、身体が引き裂かれる痛みを堪えているようで、こちらの心も苦しくなる。
 彼女の口から人々の名前を聞く度に、岸波白野の過ちもまた呼び起こされる。ユイだけでなく、自分達の身を案じてくれていたシノンのことも、騙していたのだ。
 本当なら、シノンにも真実を話すべきだった。
 なのに、現状を先延ばしにしてしまったが為に、彼女に知らせないままになってしまった。
 …………これでは、例え卑怯者と呼ばれることになっても、甘んじて受け止めるしかない。

「…………だけど、私はあなたのことを……憎みません」

 しかし、ユイから返ってきた言葉には、一切の憎悪が感じられない。
 怒りはあれど、決してサチ/ヘレンを敵視しているようではなさそうだった。

「パパの事は……まだ、受け止められないです。どう向き合っていけばいいのか……わかりません。
 処理ができない、とはまた違って…………まるで、受け入れることそのものを拒んでいるような感じがするのです……」

 それは当然の感情だった。
 例えキリトが生きていたとしても、サチ/ヘレンの行ったことが消える訳がない。
 ユイだって、キリトを傷付けられたことを許せないはずだ。愛する父の仇になっていたかもしれないヘレンが、隣にいる…………それは、到底受け入れられないはず。
 その上で、ユイは向き合ってくれていた。


386 : 対主催生徒会活動日誌・17ページ目(贖罪編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/02/03(水) 22:00:59 9L1jNUeY0

「……でも、あなたがサチさんを守りたいと想ったのも、事実でしょう。
 それにあなたがいてくれたから、ハクノさんやセイバーさんを助けることができました。スミスの一人だって、あなたのおかげで止められています。
 きっと……いいえ、あなたがいてくれたからこそ、守ることができた人はいっぱいいることを……私は知っていますから。
 何よりも……あなたが、サチさんを守りたいという気持ちだって、本当だから…………私はヘレンさんを、憎まないです」

 ユイの言葉は正しい。
 ヘレンがいなければ、サチをエージェント・スミスから守ることはできなかった。
 レオとガウェインがエージェント・スミス達を倒すきっかけを掴めなかったかもしれない。
 あの空間の中に放り込まれた岸波白野とセイバーが、蜘蛛のAIDAの餌にされていたはずだった。
 何よりも、ユイ自身をエージェント・スミスから守り抜いたのは、他ならぬサチ/ヘレンだろう。
 だから、ヘレンによって守られた人がいるというのは、紛れもない事実だ。

「――――――」
「わかっています。サチさんは、ただ死にたくなかっただけ……彼女を守ろうとして、あなたはパパを敵と思ってしまった……
 ……だけど、パパはヘレンさんの真意を知ったら、あなたのことだって……守ろうとしたはずです。だって、今までパパは……たくさんの人を守り続けてくれたのですから。
 今だって、パパは……このゲームに巻き込まれた人達を守る為に頑張っているはずです」

 あまりにも切実なユイの吐露。
 事実、それは正しい。この目で見てきた訳ではないが、キリトはサチのことを励ましたはずだった。


『………キリト、いつも言ってくれてたよね。私は死なないって』


 記憶の海で聞いたサチの言葉が、唐突に蘇る。
 『死の恐怖』に震えていた彼女にとって、キリトは唯一の支えだった。それを壊してしまったきっかけは、サチの願い。
 だけどヘレンはキリトのことを知らなかった…………もしも、キリトの真意を知っていれば、サチが心を閉ざすことはなかったはずだ。


「皆さんはあなたを信頼しています…………シノンさんだって、あなたを信じてくれていました。
 どうか……それに応えてください」
「――――――」
「…………ありがとう、ございます」

 瞳から零れる涙が止まらないけど、ユイは笑顔を向けてくれていた。
 対するサチ/ヘレンは、指先でそれを優しく拭う。ユイは拒絶することなく、ただサチ/ヘレンを受け入れていた。


 …………黙っていて、ごめん。
 岸波白野もまた、彼女達に謝らなければならなかった。
 真実を知っていたにも関わらず、話さなかった…………それはつまり、彼女達を信頼していなかったことだ。

「いいえ……ハクノさんは、私達の為に言わなかったのでしょう……?
 私がヘレンさんのことを知ったら、ヘレンさんがもう私達と一緒にいられないかもしれない……そうさせたくなかったから、黙っていたのですよね?」

 ……………………。
 確かにその通りだけど、騙したことが正当化されるわけではない。
 サチ/ヘレンを言い訳にして、ユイから逃げていたのは絶対に許されないことだ。


387 : 対主催生徒会活動日誌・17ページ目(贖罪編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/02/03(水) 22:02:17 9L1jNUeY0

「……大丈夫です。ヘレンさんは私達の……大切な仲間ですから。私も、ヘレンさんのことを信頼しています…………
 この気持ちは、決して嘘じゃありません!」

 ほんの少しだけ赤くなった瞳はとても真摯で、真っ直ぐな想いに満ちていた。
 サチ/ヘレンは対主催生徒会の大切な一員であるのは、この場にいる皆が思っていることだ。彼女だって、それを否定したりしないだろう。

「パパはサチさんを守ろうとしてました。そんなサチさんを守ってくれたハクノさんを恨もうとするのは、違うと思います。
 …………ハクノさん、ありがとう」

 ……ユイ。こちらこそ、ありがとう。
 

「……ヘレンさん。サチさんと、お話をすることはできますか?」

 尤も気になっていたことを、ユイはサチ/ヘレンに尋ねる。
 しかし、サチ/ヘレンは首を横に振った。

「ヘレンよ。無礼千万を承知で尋ねたいが、やはり……サチはまだ……」
「はい。セイバーさんが言うように、まだ話せる状態じゃないようです」

 続くようにぶつけられたセイバーの問いかけに、ユイが答える。


 心海の中に隠れていたサチは、こちらの話を聞いてくれるような状態ではなかった。
 ヘレンに話せば、サチの所まで辿り着けるだろう。だけど、それでもサチを救える訳がない。
 サチを救えるのはキリトだけ。そのキリトがここにいない以上、サチの所に行っても意味がない。
 無理に押し入ったとしても、サチは頑なに心を閉ざすだけだ。

「う〜ん。やっぱり、キリトさんのことも捜さないといけませんねぇ」

 キャスターの言葉に頷く。

「はい。メールではキリトさんの名前は書かれてませんでしたが、デスゲームに乗ったPKに狙われている可能性はあります。
 スミス、オーヴァン、スケィス……あるいは、奴らと肩を並べるレベルのPKか。
 白野さん……お願いしてもよろしいですね?」

 当然だ。
 キリトの捜索だって忘れてはいけなかった。
 スミスもそうだが、オーヴァンもまた危険性の高い相手だ。オーヴァンは碑文使いでもありAIDA=PCでもある男だ。
 その力を直接目撃した訳ではないが、あのレインをいとも簡単に殺す程の力を向けられたら、キリトと言えども対応できる保証はない。
 そう考えると、一刻も早くみんなを捜さなければならなかった。
 ハセヲとシノン。そしてキリト…………あと、慎司とアーチャーも。

「――――――」
「……えっ?
 ヘレンさん。ハクノさんに同行したいのですか?」

 同行?

「はい。ハクノさんを一人にすることが心配らしいです」

 確かに、今から学園を離れては、仲間はセイバーとキャスターだけになる。
 彼女達の実力はよく知っているが、それを維持できるだけの魔力が保てるとは限らない。サチ/へレンがいれば、少しでも魔力の節約ができるのは確かだろう。
 …………だけど。


388 : 対主催生徒会活動日誌・17ページ目(贖罪編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/02/03(水) 22:03:20 9L1jNUeY0


 彼らを捜索している最中に、もしもまたオーヴァンやスミス達に遭遇したら……サチ/ヘレンは危険に晒される。
 そしてオーヴァン達に感染したAIDAは、いずれもヘレンの実力を凌駕しているはずだ。
 今度また、AIDAの牙に狙われたら……今度こそ命が危ない。


「――――――」
「パパのことを……捜したいそうです」

 …………………。
 伏目がちに、ユイはサチ/ヘレンの意志を伝えてくれた。


 きっと、サチ/ヘレンもわかっているのだろう。
 あのAIDA達に襲われるかもしれない恐怖を……だけど、彼女は勇気を振り絞って、同行を申し出た。
 岸波白野だけではない。自分のせいで傷付いてしまったキリトやサチを救う為にだ。


 その意志を無碍にすることはできない。
 サチ/ヘレンは他のみんなと触れ合うことで、心というものを知るようになった。
 そうして、自分の過ちを知り、贖罪の為に力を尽くそうとしている。それは成長と呼ぶべきだろう。


 言ってしまえば、ヘレンはユイのように生まれたばかりの子どもだった。
 子どもは善悪の判断ができない。誰かと触れ合うことで価値観を築き上げ、そして生き方を学ぶ。
 そんなヘレンの可能性を潰すことは、岸波白野にはできない。


 一緒に行こう。
 その言葉に、サチ/ヘレンは頷いてくれた。

「決まりですね。では、白野さん……ヘレンさんのこともお願いしますね」
「ジローのことは心配いりません。彼のケアは私達にお任せください」
「アアアアァァァ……」
「ハクノさん……お気をつけて」
「先輩。また、会えるのを信じていますからね」

 レオが、
 ガウェインが、
 カイトが、
 ユイが、
 桜が、
 見守ってくれているみんなの想いに、岸波白野は頷いた。
 それを背負いながら、岸波白野は部屋を出た。



     †



「少年よ、旅立ちの時だな」

 昇降口に向かう途中、言峰神父に声をかけられる。
 思えばこの人にも助けられた。先の戦いで、もしも言峰神父がいなかったら、今頃桜はどうなっていたかわからない。
 そういう意味でも、この人への感謝も忘れてはいけなかった。


389 : 対主催生徒会活動日誌・17ページ目(贖罪編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/02/03(水) 22:04:38 9L1jNUeY0

「ふむ、それならボランティアをした甲斐があったというものだ。
 できることなら、直接形にして頂けるとありがたいのだがね」

 …………要するに、売り上げに貢献しろと言っているのだろう。
 そうしたいのは山々だけど、岸波白野には必要なポイントがない。
 せめて、あなたからサービスをして頂ければ、まだ可能性はあるかもしれませんが…………

「残念だがそれは不可能だ。
 そのような権限を与えられてなどおらんし、何よりも安易なサービスは顧客からの信頼を失う。
 世に出る売り物には、相応の価値が与えられる。それを低くするなど、売り手のプライドが許さん」

 確かにその通りだ。
 神父が言うように、作り手は絶対の自信を持ってモノを作り、それを世の中に出している。そこに付属される価値は尊いものだ。
 自分の価値を決めるのは、自分自身の気持ちだとスミスに宣言した。それを宣言した岸波白野が、価値を無理矢理歪めるなんて……あってはいけない。
 何よりも、いつかの時間……どこかにいる誰かに……自分で自分にダメ出しするな! とも叱咤している。
 明確な記憶はないけど、確証があった。

「ふっ、わかればよいのだ。
 …………だが、今からでも遅くはない。生徒会長から借りることもできるはずだぞ?」

 いいや、それはできない。
 自分で汗水を流して稼いだポイントで買うからこそ、喜びもまた大きくなる。
 だから、いつか買えるようになった時にまた……お世話になろうと思う。

「他人の力を頼りにしないこと……か。それもまた美徳。
 その誓いが果たされる時が来るのを、私は楽しみにしているぞ」

 したり顔で言峰神父は見送ってくれる。
 本当はハーウェイトイチシステムが厄介というのもあるけど……そんな無粋なことは口にしない。
 今は、彼の信頼に応えられるように、生きなければいけなかった。



 そうして校庭を通り、そこから月海原学園を後にする。
 ペナルティエリアの外を出た途端…………岸波白野の目前に"それ"が現れた。

「……これは」
「酷いですね……」

 セイバーとキャスターはこの惨状に目を見開いている。岸波白野も同じだ。
 辺り一面の道路は焼け焦げて、それどころかテスクチャが剥き出しとなっていた。
 そして少し離れた場所には、見覚えのある三角形の爪痕が刻まれていた。D-4エリアの洞窟でも見た、あの傷だ。
 何があったか、なんて疑問は抱かない。ここで、オーヴァンと戦ったレインが敗れたのだ。
 これだけの規模を起こした破壊がありながら、あのオーヴァンはまるで無傷といった様子で対主催生徒会の前に現れた…………彼の恐ろしさを改めて認識する。


 不意に、サチ/ヘレンの方に振り向く。
 その表情は変わらないが、黒点の動きがいつもと違う。きっと、オーヴァンのAIDAに怯えているはずだ。
 …………それがいたたまれなくなって、戻るなら今のうちだと進言する。


390 : 対主催生徒会活動日誌・17ページ目(贖罪編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/02/03(水) 22:06:40 9L1jNUeY0

「――――――」

 それに対する答えは、首を横に振ること。
 彼女の言葉はわからないけど、きっと付き添ってくれるということだろう。
 正直な話、あのオーヴァンやスミスがどこかにいる以上、彼女を連れ回すことに不安を覚えるけど……彼女の力が必要なのも確かだ。
 その為にも、今はお互いがお互いを支えあわなければならなかった…………



【B-3/日本エリア・月海原学園 校門付近/一日目・午後】
※校門付近のどこかには、三角形の爪痕が刻まれています。


【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP75%(+150)、データ欠損(小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、{男子学生服、赤の紋章}@Fate/EXTRA
[アイテム]:{女子学生服、桜の特製弁当}@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:ハセヲ及びシノン、キリト、セグメントの捜索に向かう。
2:主催者たちのアウラへの対策及び、ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
5:せめて、サチの命だけは守りたい。
6:サチの暴走やありす達に気を付ける。
7:ヒースクリフや、危険人物を警戒する。
8:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP95%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP80%、健康
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
 学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時(増加分なし)でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと3分程度です。
※アーチャーとの契約が一時解除されたことで、岸波白野の構成データが一部欠損しました。
※エージェント・スミスに上書きされかかった影響により、データの欠損が進行しました。
 またその欠損個所にデータの一部が入り込み、修復不可能となっています(そのデータから浸食されることはありません)。
※セイバーとキャスターはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。


【サチ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP30%、PP10%-PROTECT BREAK!、AIDA感染、強い自己嫌悪、自閉
[装備]:エウリュアレの宝剣Ω@ソードアート・オンライン
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:死にたくない。
0:――――うそつき。
1:もう何も見たくない。考えたくない。
2:キリトを、殺しちゃった………。
3:私は、もう死んでいた………?
[AIDA]<Helen>
[思考]
基本:サチの感情に従って行動する。
0:――――――――。
1:ハクノ、キニナル。
2:<Glunwald>、キライ。
3:<Tri-Edge>、コワイ。
4:キリト、ミツケル。
[備考]
※第2巻にて、キリトを頼りにするようになり、メッセージ録音クリスタルを作成する前からの参戦です。
※オーヴァンからThe Worldに関する情報を得ました。
※AIDAの種子@.hack//G.U.はサチに感染しました。
※AIDA<Helen>は、サチの感情に強く影響されています。
※サチが自閉したことにより、PCボディをAIDA<Helen>が操作しています。
※白野に興味があるので、白野と一緒にいる仲間達とも協力する方針でいます。


391 : 対主催生徒会活動日誌・17ページ目(贖罪編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/02/03(水) 22:07:26 9L1jNUeY0


    2◆◆



(ケケケケケッ! どうやら俺達は生き残っちまったみたいだなぁ!)

 俺の中から聞こえてくるのは、克服したはずだった『オレ』の声。
 キシナミ達からニコが死んでしまったと聞かされて、動揺している俺を嘲笑うかのように……また現れたのだ。

「お前……!」
(まぁ、こうなるのはしょうがないよな! オレ達がいるのは、誰が死んでもおかしくないデスゲームだからな!
 リーファって奴の次はニコか……ご愁傷様でしたぁ!)
「なっ! ニコのことを笑うつもりか!?」
(何を言ってるんだよ? オレはな、お前が心配でわざわざ出てきたんだぜ?)
「はぁ!?」

 『オレ』の言葉が理解できず、俺は声を荒げてしまう。
 ニコのことを侮辱しているくせに、どうして俺が心配などと言えるのか。到底理解できるわけがないし、したくもなかった。

(もしもお前が死んじまったらな、『オレ』だって消えちまう……そんなの『オレ』だって御免なんだよ。
 だからな、今は『オレ』のアドバイスも必要だと思ったんだよ)
「ふざけるな! お前の話なんて……!」
(もしかしたら、あのお姫様……パカだって殺されるかもしれねえぞ?)

 …………『オレ』の口から出てきたその名前によって、俺は言葉を詰まらせてしまった。

(考えてもみろよ。オレの知り合いが二人も死んでるんだぜ?
 それにユイのお友達……リーファだって死んだ。パカの番は来ないって、どうして言い切れる?)
「……俺が、パカを守るからだ! もしも、パカがいるなら……俺の手で……!」
(できてねえだろ?
 リーファとニコはみすみす死なせて、挙句の果てにオレ達はスミスってヤローに殺された。
 まあ、運よく生き返れたみてーだけど…………そんなオレ達に何ができるって言うんだよ?)
「それは…………」

 『オレ』の追求に、俺は黙るしかない。
 確かに、俺はあの戦いで何もできなかった。屋上からダイブして、逃げられたと思いきや……その後すぐに戦いになった。
 機転を利かせてスミスを倒そうとしたけど、それさえも通用せずに……俺はあっさりと殺されてしまった。
 そして俺に力がなかったせいで、ニコは命を落としてしまった。


 『オレ』が言うように、俺は野球が少しできる以外に何の取り得もない無職の男だ。
 キシナミやレオのような的確な判断力がなければ、カイトやサチ/ヘレンみたいに力を持たない。ユイちゃんみたいなサポートだって不可能だ。
 ニコを説得したけど、そのニコはもう………………


(…………だがな、『オレ』達にはまだチャンスがあるんだぜ?)

 ……沈みそうになる意識を掴むように、『オレ』が語りかけてくる。


392 : 対主催生徒会活動日誌・17ページ目(贖罪編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/02/03(水) 22:08:14 9L1jNUeY0

(諦めるなよ。『オレ』達には仲間がいるだろ?
 『オレ』達を守ってくれる、強くて頼りになるみんながよ)
「……お前、まさかみんなを利用するつもりなのか!?」
(人聞きの悪いことを言うなよ? 『オレ』がどうやってあいつらを利用するんだよ?
 『オレ』が何かを企んでも、あいつらはそれをすぐに見破る……それはお前がよく知っているだろ?)
「じゃあ、どうしてみんなのことを……」
(何か特別なことをしろと言うつもりはねえ。ただ、頼りにしろって言ってるんだ……
 ……みんな、オレのことを心配してるだろ? それを忘れなきゃ、チャンスはあるぜ?)

 確かにみんな、今頃俺のことを心配しているはずだ。
 ニコがいなくなった今、俺に何かがあるかもわからない。現に今、『オレ』がこうして語りかけているのだから。
 だけど、『オレ』の言うことを素直に聞けるわけがない。こいつは、ただ俺が『楽』になる為だけに、あらゆる手で誘ってきたのだから。

(『オレ』はいつでも見てるからな……精々頑張れよ、俺)
「おい、どういうことだよ! おい!」

 俺は『オレ』に呼びかけるけど、返事はない。
 『オレ』は一体何を考えて、わざわざ俺に声をかけてきたのか。また、みんなを頼りにするとはどういう意味なのか。
 そして、ニコとまた会える……何を言っているのか。死んでしまった人とは、もう二度と会える訳がないのに。
 わからない。こんな曖昧なやり取りでわかる訳がなかった。


 優勝の褒美にはあらゆるネットワークを掌握できる権利が貰えるという。
 それとニコに何の関係があるのか。まさか、ネットワークでニコのアバターをまた生み出そうとでも言うのか。
 馬鹿げている。それはニコの肉体(アバター)を複製するだけで、ニコ本人が帰ってくる訳ではない。
 まさか、俺が心のどこかでこんなことを考えていたなんて…………俺自身も信じられなかった。


 とにかく、こんな気持ちを拭う為にも、今はみんなの所に戻りたかった。
 『オレ』の言葉に微かな不安を抱きながら…………


 やる気が 5下がった
 こころが 10下がった
 筋力が 3下がった



【B-3/日本エリア・月海原学園/一日目・午後】


【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、深い悲しみと後悔/リアルアバター
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、ピースメーカー@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
0:ニコ……………。
1:今はみんなと一緒に行動する。
2:ニコやユイちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の言葉が気になる…………。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。


393 : 対主催生徒会活動日誌・17ページ目(贖罪編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/02/03(水) 22:08:51 9L1jNUeY0


    3◆◆◆



 …………サチさんの抱いた『死の恐怖』が、ヘレンさんを動かして、パパを傷付けてしまった。
 今でも、ハクノさんの言葉は信じられない。だけど、ハクノさんは嘘を言う人ではないから、真実であるはずだ。
 サチ/ヘレンさんだって、その事を決して否定しなかった。そして、私に謝罪をしてくれた。


 だからといってサチ/ヘレンさんの行いを認められないし、許すことだってできない。
 どんな理由があったにせよ、彼女のせいでパパが死ぬかもしれなかったのだから。


 それでも、サチ/ヘレンさんを憎むことは……できなかった。
 先程伝えたように、彼女のおかげでみんなを助けられたから。みんなの恩人である彼女を、どうして憎むことができるのか。
 そして彼女は……パパを捜して、助けたいとも言っていた。その言葉は嘘でないはずだ。

「レオさんは、パパのことを知っていたのですか……?」
「ええ、白野さんから聞かされました。あなたにダークリパルサーを渡した際、どうも彼の様子がおかしいと思ったのですよ」
「それで、あの時……」

 ハクノさん達は席を外していたのは、そういう理由だった。
 その事を話さなかったのは、私がサチ/ヘレンさんを憎むのではないかと危惧したが故。そうなっては、カイトさんがサチ/ヘレンさんを敵と認識して、結束が瓦解してしまうかもしれなかった。
 信頼していなかった訳ではなく、私たちを考えているからこそ……話すことができなかった。

「理由はどうあれ、僕達もあなたに隠していたことに変わりはありません。
 ユイさんに話さなかったことを、この場でお詫び申し上げます」
「それを言うなら私も同罪です……ユイ、大変失礼致しました」
「……いいえ、大丈夫です。お二人が言わなかった理由は、わかっています。
 何よりもヘレンさんは……デスゲームに乗ったPK達とは、違いますから」

 そう。サチ/ヘレンは奴らとは違う。
 もしもヘレンが危険なAIDAだったら、今頃私はここにいない。だってヘレンは、私を守る為に力を尽くしてくれたのだから。
 パパやママを傷付けたヒースクリフや妖精王オベイロンとは違う。ハクノさん達との触れ合いで変わっていき、そして『守る』為に力を使ってくれた。
 スミスとの戦いで見せてくれた姿は、パパとよく似ていた。


 だから、私はヘレンさんを信じた。
 今のヘレンさんは違う。『The World(R:2)』で脅威となった生命体ではない。
 私達のように、誰かを思いやる心を持ち……デスゲームを止める為に戦っている仲間だ。



 きっとパパとサチさんは再会した時、とても苦悩するかもしれない。
 その時、私が隣にいてあげられないのが辛かった。本当なら私もパパを捜したかったけど、今はウイルスの対策を専念しなければならない。
 これを解決しない限り、みんなを救うことはできないから。


394 : 対主催生徒会活動日誌・17ページ目(贖罪編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/02/03(水) 22:09:25 9L1jNUeY0

「ユイさん、今は先輩を信じましょう。
 きっと、キリトさんのことも……支えてくれるはずです」
「……はい」

 桜さんが言うように、今はハクノさん達を信じて……そして、私自身の使命を果たさないといけない。
 私はウイルスを打ち破る鍵を握っている。これを解き明かさないと、いつかパパ達は苦しんでしまう。
 ウイルスの苦しみ…………始まりの地で、榊は一人のプレイヤーの命を奪った。
 彼のアバターは赤く変色し、そしてリアルの肉体にも痛みを与えていたはずだ。あの痛みは、ありす達から与えられたそれよりも、遥かに重いはず。


 だからこそ、私は戦わなければいけない。
 痛いのは嫌だった。ならば、それを他の誰かに背負わせる訳にはいかない。
 パパも、ママも、ハクノさんも、カイトさんも、サチさんも、ヘレンさんも、シノンさんも、ニコさんも、レオさんも、ジローさんも、サーヴァントの皆さんも……みんなが痛みと向き合い、戦ったはずだ。
 父と母の娘として胸を張るならば、私も向き合いたい。


 私は、ハクノさん達の無事を祈りながら、前を向いて歩みを進めた…………



【B-3/日本エリア・月海原学園/一日目・午後】


【チーム:対主催生徒会】
[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:
書記 :ユイ
会計 :蒼炎のカイト(キリトの予定だったが不在の為に代理)
庶務 :岸波白野 (外出中)
雑用係:ハセヲ(外出中)
雑用係:ジロー、サチ
[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:(レオの)理想の生徒会の結成。
2:ウイルスに対抗するためのプログラムの構築。
3:ハセヲとシノン、ついでにセグメントの捜索。
4:危険人物に警戒する。
[現状の課題]
1:ウイルスの対策
2:危険人物への対策
3:アリーナ及びプロテクトエリアの調査(ただし、これはどちらかに集中させる)
4:セグメントの捜索
[生徒会全体の備考]
※番匠屋淳ファイルの内容を確認して『The World(R:1)』で起こった出来事を把握しました。
※レオ特製生徒会室には主催者の監視を阻害するプログラムが張られていますが、効果のほどは不明です。
※セグメントの詳細を知りましたが、現状では女神アウラが復活する可能性は低いと考えています。
※PCボディにウイルスは仕掛けられておらず、メールによって送られてくる可能性が高いと考えています。
※次の人物を、生徒会メンバー全員が危険人物であると判断しました。
 エージェント・スミス、白い巨人(スケィス)、オーヴァン。


395 : 対主催生徒会活動日誌・17ページ目(贖罪編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/02/03(水) 22:10:56 9L1jNUeY0

【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP30/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/通常アバター、サチ/ヘレンに対する複雑な想い
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[アイテム]:セグメント3@.hack//、第二相の碑文@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
0:…………今は自分の使命を果たす。
1:対主催生徒会の会計として、ハクノさん達に協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:ヒースクリフや、危険人物を警戒する。
6:シノンさんとはまた会いたい。
7:私にも、碑文は使えるだろうか……。
8:サチ/ヘレンさんの行いは許せないけど、憎まない。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=Ⅷであるかもしれないことを知りました。
※サチ/ヘレンとキリトの間に起こったことを知りましたが、それを憎むつもりはありません。


【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP80%、SP50%、PP100%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill(+1)
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
3:エクステンド・スキルの事が気にかかる。
4:サチ(AIDA)が危険となった場合、データドレインする。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。
※エージェント・スミスをデータドレインしたことにより、『救世主の力の欠片』を獲得しました。
 それにより、何かしらの影響(機能拡張)が生じています。



【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP15%、令呪:三画
[装備]:なし
[アイテム]:{桜の特製弁当、トリガーコード(アルファ、ベータ)}@Fate/EXTRA、コードキャスト[_search]、番匠屋淳ファイル(vol.1〜Vol.4)@.hackG.U.、基本支給品一式
[ポイント]:30ポイント/0kill(+2) [思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
1:魔力の回復に努めると同時に、ユイとともにウイルスへの対策プログラムを構築する。
2:モラトリアムの開始によって集まってくるであろうプレイヤーへの対策をする。
3:他の生徒会役員となり得る人材を探す。
4:当面は学園から離れるつもりはない。
5:状況に余裕ができ次第、ダンジョン攻略を再開する。
6:キリトさんには会計あたりが似合うかもしれない。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP110%(+50%)、MP75%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※ガウェインはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。


396 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/02/03(水) 22:11:45 9L1jNUeY0
以上で投下終了です


397 : 名無しさん :2016/02/03(水) 22:51:49 QLFgjsRQ0
投下乙です。
学園組のその後がどくなるかーというお話。しかしそろそろダンジョン行かなくて大丈夫なんだろうか。
そしてジローさんの煩悶はどこに繋がるのか


398 : 名無しさん :2016/02/04(木) 02:02:52 hdeFne160
投下乙です
ユイはヘレンの事を許さず、けれど同時に恨むこともなく
ある意味で人間らしいともいえるその答えは、この先二人にどんな影響を与えるんでしょう
そしてAI組がついに別行動ですか
状況的には当然の判断ですが、これが吉と出るか、凶と出るか


399 : ◆7ediZa7/Ag :2016/02/04(木) 09:20:50 EKt4NtNc0
投下します。


400 : 三番目のアリス ◆7ediZa7/Ag :2016/02/04(木) 09:22:11 EKt4NtNc0

その男を見た時、ハセヲはまずオーヴァンを連想した。
眼鏡をかけた長身の男性、といった外見的な事柄もそうだが、纏う空気が似ている。
どこか遠くを見ている――とでも言うべきか、怜悧で、穏やか、それでいて重厚な雰囲気だ。

「やぁ」

認知外迷宮/アウターダンジョン。
ネットスラムに現れたデータの“歪み”の先に広がっていた、本来存在しないはずのエリア。
ゲームの裏側。
無機質なワイヤーフレームと闇だけで構成されたこのエリアにて、彼はさも当然という趣で待っていた。

「またしてもこのエリアにプレイヤーがアクセスしてくるとはね。
 “先駆け”であるアレを例外とすれば、君たちのパーティが三番目だ」

そう語りかける彼は、そう、さながら賢者といった風体だ。
何もかも知っている。見透かしている。分かっている。というような、そんな視線をハセヲらに向けている。

――その辺りも、オーヴァンと同じだ。

ハセヲは無言で鎌を取り出した。
ちら、と他のPTメンバー(ハセヲとしてはなし崩し的な同行であるのだが)確認すると、彼女らもまた警戒態勢に入っていた。
シノンはその容姿が最初に会った時の現代風のアバターに変わっており、手元は銃に添えられている。
黒薔薇騎士団? とかいうパーティの輩もどこかしら雰囲気が変わっている。剣に弓に、それぞれのジョブに倣った警戒態勢だ。黒雪姫とかいう少女アバターは特に構えるものもないようだったが。

彼らを見つつ、変に大所帯になってしまったな、とハセヲはどこか自嘲的に考える。
マク・アヌで喪い、“死の恐怖”に舞い戻るを決意をし、レオから離れた――にも関わらず、だ。

結局シノンが追ってきて、追いつかれてしまった。
結局ネットスラムで別のパーティを助けてしまった。
そしてそのままここにいる。

これじゃまるで――“死の恐怖”じゃないみたいじゃないか。

「……アンタ」

様々な想いを噛み殺しつつ、ハセヲは口を開いた。

「アンタ、何者だ」
「GM/ゲームマスター」

さらり、と男はそう言ってのけた。
GM。それはつまり、榊と同じくこのVRバトルロワイアルの運営側――ということを意味する。
その言葉を聞いた途端、パーティ全体に緊張が走った。

「へぇ、それじゃあつまり――アンタは敵ってことか」

獰猛な笑みを浮かべハセヲは、ぶうん、と鎌を横薙ぎに振るう。
敵意を隠さない行いであったが、しかし男は取り合わず、

「さて。君たちの敵は本来プレイヤー同士であって、私たちではない筈だがね」
「言ってろ。アンタは――!」
「そのミステリーデータ」

喰ってかかるハセヲを無視して、男はおもむろに手を上げ、ぴっ、とある点を示した。
警戒しつつも横目で窺うと、そこには立方体状のポリゴンが漂っていた。


401 : 三番目のアリス ◆7ediZa7/Ag :2016/02/04(木) 09:22:40 EKt4NtNc0

「取っておくといい。それは君たちの一つの“鍵”となる」
「――罠かもしれないものを、私たちが取るとでも」

ハセヲの隣に立つシノンが毅然とした口調で言い放った。

「取るか、取らないか、それは自由だ。まぁ“選択”は私の役割ではないのだがね。
 けれども――だ。
 GMとしてプレイヤーに対峙する私は、原則として君たちを傷つけることができない。相応の理由がなければ、無理だ。
 それが私に課せられた役割であり、制約だからだ。AIが嘘を吐けないように、ね」

が、男は薄く微笑み、静かにそう言った。
その態度は駆け引きをしたいようには見えず、人を惑わすにしても言葉に熱がなく、ハセヲは肩透かしを喰らう気分だった。
つかみどころがない――この感覚には、やはり既視感がある。

「…………」

そのやり取りで何を思ったか、黒薔薇騎士団とかいう一行のうちの一人、アーチャーが示された立方体に近づいた。
彼は注意深くそれを確認し、そして――

「“セグメント1”」

ブラック・ロータスがぽつりと声を漏らした。
その視線は虚空に注がれており、ウィンドウに変化があったことを示していた。
彼女とアーチャーはレオとガウェインと同じ関係なのだと聞いている。
つまりアーチャーが確保したアイテムが、彼女のストレージに入った、ということなのだろうか。

「……セグメントってこれ」

その言葉を聞きつけ、ブラックローズが目を見開いた。

「そう、それは君も知っている“欠片”だよ」

男の言葉にブラックローズは顔を上げ、彼を睨み付ける。

「じゃあこれは――アウラの」

アウラ?
その言葉に今度はハセヲが反応する番だった。
思わずブラックローズを見る。同行しつつも意図的に交流を避けてきたが、彼女はもしかすると――

「そしてそこにもう一つ、だ」

男は再度別のところを指さした。その先には、先と同じ構造の立方体――ミステリーデータがある。
アーチャーは同様にそれを回収した。その様を見て、男は抑揚のない口調で、

「それはね。本来別のプレイヤーの持ち物だった。が、まぁ彼は随分無理をした。
 強引なエリアハッキングに加え、割り込む形で圧縮を喰らったんだ。ステータスやアイテムなんかは滅茶苦茶になっただろう。
 だからこそこんなエリアにアイテムが落ちてしまい、同じ歪みを通ってきた君たちに回収されることになった。
 まぁ――理屈をつけるのならばこんなところだろう」
「そのプレイヤーって、誰だよ」

尋ねると男は、僅かに声のトーンを変えて、

「君もよく知っている奴さ」

――スケィス

その名を口にした時、ハセヲは思わず鎌を振りかぶっていた。
マク・アヌでの出来事がフラッシュバックする。奴の居場所を教えろ、と衝動的に力を振るいそうになったが、


402 : 三番目のアリス ◆7ediZa7/Ag :2016/02/04(木) 09:22:56 EKt4NtNc0

「――駄目よ、ハセヲ」

その刃は、シノンによって阻まれた。
咄嗟にハセヲと男の間に割り込んだシノンは、ハセヲの鎌の柄をダガーで受け止める形で攻撃を制した。

「どけ。俺は――」
「頭を冷やしなさい、ハセヲ。さっきこの男はこう言ったのよ。
 相応の理由がなければ、私たちを傷つけることができない、と」

シノンはあくまで冷静にハセヲに言った。

「それはつまり――理由さえあれば私たちを傷つけることができるということ」

言われてハセヲもまた気づいた。相応の理由――例えばそれはGMへの攻撃などだろう。
ここで男に攻撃すれば、途端に奴はハセヲらを消す権限を得る。言うなればそれがGMたちにとってのルールなのだ。

「だから今は落ち着いて」
「…………」

シノンの真剣なまなざしをハセヲは睨み付けるように返したが、胸に湧いた衝動も既に薄れており、理性が勝っていた。
だから無言で刃を下し、再びシノンと並ぶ形でトワイスと相対することになった。

――クソ、“死の恐怖”なんじゃなかったのか、俺は

内心でそう悪態吐きつつも、同時に胸がぎゅっと締め付けられる気分であった。
シノンの、こちらをまっすぐと見上げる眼差しが、同じ音を持つ彼女を連想させたのだ。

「……スケィス、いや今はスケィスゼロか。
 彼の消息については私も今は知らない。そのあたりは私の役割ではないんだ。
 まぁ、知っていても教える訳にはいかないんだが」

自分が襲われかけたというのに、二人のやり取りに何ら興味も示さずに男は淡々と告げる。
その態度こそ、彼がこの場における上位者であることを示しているようで、ハセヲは苛立った。

「――さて、と。このエリアは本来君たちが来てはいけないエリアだ。
 特にこの先の――死者のデータ渦巻くプロテクトエリアに立ち入るには、君たちはまだ早すぎる。
 その上で立ち入ってしまったのだが、まぁ、その処罰は今まで例に倣うとしよう」
「待て――今、何と」

口を挟んだのは、黒雪姫だった。それまで黙っていた彼女は身を乗り出すように、

「この先には死者の――」
「そろそろだ。君たちはこれ以上この場にいることは許されない。
 ――今は、まだ」

ハセヲは、はっ、とした。
頭上を見上げると、そこにはアバターを包み込むように光が発生していた。
The Worldで何度も見た、転移の瞬間のエフェクトだった。

「さて、では表のゲームに戻っていくといい。ああ、先ほどの“セグメント”は大切に持っていた方がいい。
 それは鍵――“黄昏の鍵”キー・オブ・ザ・トワイライトになり得るものだ」

その言葉を聞いたとき、ハセヲは思わず問いかけていた。

「名前を言え」

エリア転送の直前、ハセヲは男に対して叫ぶように尋ねた。

「お前の――名は?」
「トワイス・H・ピースマン」

白衣の男、トワイスは消えゆくハセヲに対し、ゆっくりと手を伸ばした。

「何時か、君が君の“役割”に沿ってこのエリアに来た時、その時こそ私は君を歓迎しよう。
 ウェルカム・トゥ・ザ・ワールド、と」


403 : 三番目のアリス ◆7ediZa7/Ag :2016/02/04(木) 09:23:45 EKt4NtNc0








そうして四人のプレイヤーが表のゲームへと帰っていった。
その様をトワイスは見届けたのち小さくを息を吐いた。妙なこともあったものだ、と。

――榊がこの場に来なかったのは、偶然としか言いようがない。

他のプレイヤーならばいざ知らず、あのハセヲがこのエリアに来たのだ。
榊が勇んでやってこない筈がない。にも関わらず、彼は今とある“縁深いプレイヤー”と接触している最中にあり、この場には来なかった。
奇妙なすれ違いといえよう。少しでもタイミングがずれていたら、この処遇にはならなかった。

無論、トワイスはそこまでのことは知り得ない。榊が何をしているか、などというのは彼の役割の知るところではないのだ。
が、何か奇妙な偶然が重なったことは感じていた。そして、その偶然に何か意味があることも。

「…………」

認知外迷宮のできそこないの空間を一人歩く。無数のデータが彼を取り巻いている。
エリアの最奥のプロテクトエリアは、今現在安定を取り戻している。
モーフィアスの転移をきっかけに一つのイレギュラーがデスゲームに表出してしまったが――しかしそこで止まった。
ゲームのルールは、いまだギリギリのところで成立していると言えよう。
故にしばらくは静観を――とそう思っていた時だった。

「――目に余りますね」

新たな声がした。

「VRGMユニット、ナンバー002。ラべリング“トワイス・H・ピースマン”
 貴方の行動には越権行為と思しきものが存在します」

――金色が、舞った。

やってきたのは一人の少女だった。
さらさらと舞う金色の髪は美しく、金木犀の花を思わせる。澄んだ碧眼は吸い込まれるよう。その小柄ながらも整った体躯は可憐の一言である。
そんな彼女は髪の色と同じ、金色の鎧を纏っている。ところどころ青を交えたその装飾は流麗かつ荘厳で、さながら中世の騎士である。
そんな剛健さと可憐さとは対極とも思えるが、しかし――その少女は確かにその二つの兼ね備えていた。
可憐な少女ながら、その凛々しき眼差しを持って騎士甲冑を着こなしている。カチューシャのように添えられた銀色の額当てが象徴的であった。

「――プログラムには必ず役割が存在します。
 その役割からの逸脱は、即ち自己の否定に他ならない」

少女は言外にトワイスを弾劾しながら彼と相対する。

「……少し意外だな。君はもっと中枢の役割を担っていたはずだが」
「事態はそれほどまでに進んでいる、ということです。モルガナ様の“盾”を担う私がこんな表層に引っ張り出される程度には」

突き放すように少女は言う。その言葉は刃のように鋭く、そして迷いがない。

少女の名は、アリス。
正確に言えばVRGMユニット、ナンバー030。ラべリング“アリス・サーティ”である。
このVRバトルロワイアルのゲームマスターの一角である。最もトワイスと彼女では役割がまるで違うのだが。


404 : 三番目のアリス ◆7ediZa7/Ag :2016/02/04(木) 09:24:08 EKt4NtNc0

「“記録”の貴方だけではありません。“運営”の榊は私情に耽り、“選択”の預言者も何かしら暗躍している。
 ゲームはゲームは成立していなくては立ち行かないといのに」
「任せておけないから出てきた、と?」

尋ねるとアリスはキッとトワイスを睨み付け、

「例えば、貴方は既に三度プレイヤーと接触を行い、内二回は独断で採択していますね。
 プレイヤーの処遇は貴方の役割ではない。これは明らかな越権行為です」
「榊の決定に倣ったまでだ」

トワイスは肩をすくめて言った。
が、アリスはそんな誤魔化しは通じないとでも言うように首を振り、

「否、貴方は二度目、ナンバー053“モーフィアス”らと接触した時、知己の人物の下へと転送させるという、明らかに彼らを厚遇するような処置を執り行っている。
 一度目、ナンバー021“オーヴァン”の際は、“ゲームの加速”という取引を行った上での返還であったにも関わらず、です。
 貴方はこれを独断で決行し、そして先ほどの三度目ではシークレットカテゴリ・ユニット003“セグメント”をわざわざ取得させている。
 はっきり言います。これは貴方の役割ではない、と」

アリスはつらつらとトワイスの“罪状”を述べていく。
つい先ほどの行いさえ彼女は看破しているようだった。トワイスがプレイヤーの監視者であるならば、彼女はGMの監視者とでもいうべきか。
このゲームの中枢たるモルガナの、その“盾”として行動することがアリスの担う役割である。

「それで、私に何を」
「弁明がなければ――“トワイス・H・ピースマン”のユニット廃棄を執り行います」

アリスの手には剣がある。その髪と同じ、金木犀の色をした剣の柄に、その手はかかっている。

「私を斬ったところで代わりは当然のように用意されている、ということかい?」
「そうですね。貴方はそれなりに得難いユニットではありますが、しかし代用できるユニットもストックにはいます。
 少々制御が難しいですがVRGM015“アドミニストレータ”やVRGM023“ヴァイオレット”、あるいはVR099“プロト”あたりを起してもいい」

さらりと彼女は言う。そして、トワイスを見据えた。
その剣のように鋭い視線を受け、トワイスは次の一言次第では即座に斬り捨てられるであろうことを感じた。
代わりはいくらでもいる。必要なのは役割を十全にこなす単体/ユニットであり、トワイスという個人/キャラクタではないのだ。
それを理解した上で、トワイスは静かに答えた。
まだ、消えるつもりはない。

「なに、本心からゲームの進行を円滑にしようとしただけだ。
 モーフィアスの時は、単にデータの歪みを発生させ、ゲームを前進させたかったから。
 先ほど、ハセヲの時は“セグメント”を回収させることでスケィスに追跡させようとしたから。
 それ以上の意味はないよ。私はただ、ゲームを次なる展開へと進めることを願っている」

その答弁を受け、アリスはしばし無言でトワイスを見つめていた。
認知外迷宮に緊張を孕んだ静寂が舞い降り、そして――

「……いいでしょう。
 前進を求めるのは貴方というユニットのパーソナリティでしたね。
 今回はそのことを考慮して保留にします」

――言って彼女はその身を翻した。

どうやら、この場は乗り越えられたようだ。
そのことを無感動に確認しつつ、同時に、保留、ということはことと次第によっては次は即座に斬られるであろうことも理解していた。

「これから君はどうする? 中枢に、モルガナ・モード・ゴンの下に戻るのかい?」

それを知った上で、トワイスはゲームの“盾”たる騎士に問いかけた。
するとアリスは首だけをこちらに向けて、

「――ゲームの表側に参ります」

ほう、とトワイスは声を上げる。
これは少々、意外な答えだった。これまでGMはゲームへの介入を極力避けてきた。
あったのはダークマンのそれくらいで、あとは全て放任というスタンスであったが、彼女の登場でまた変わっていくか。

「少し、気になることもあるので、貴方方の不始末を処理する形で介入しようかと思います」

そう言って、アリスはデータの闇に消えていった。
残されたトワイスは、ゲームの前進をその身に感じていた。


405 : 三番目のアリス ◆7ediZa7/Ag :2016/02/04(木) 09:24:27 EKt4NtNc0


【?-?/認知外迷宮→?/1日目・午後】


【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP90%、SP95%、(PP100%)、強い自責の念/B-stフォーム
[装備]:ザ・ディザスター@アクセル・ワールド、{大鎌・首削、蒸気バイク・狗王}@.hack//G.U.
[蒸気バイク]
パーツ:機関 110式、装甲 100型、気筒 100型、動輪 110式
性能:最高速度+2、加速度+1、安定性+0(-1)、燃費+1、グリップ+3、特殊能力:なし
[アイテム]:基本支給品一式、イーヒーヒー@.hack//
[ポイント]:300ポイント/1kill
[思考]
基本:バトルロワイアル自体に乗る気はないが………。
0:……俺は、『死の恐怖』……PKKのハセヲだ―――。
1:今はみんなと共に認知外迷宮の出口を捜す。
2:スミスを探し出し、アトリの碑文を奪い返す。
3:白いスケィスを見つけた時は………。
4:仲間が襲われない内に、PKをキルする。
5:レオ達のところへは戻らない。
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前です。
※設定画面【使用アバターの変更】には【楚良】もありますが、現在プロテクトされており選択することができません。
※“碑文”と歪な融合を果たし、B-stフォームへとジョブエクステンドしました。
 その影響により、心意による『事象の上書き』を受け付けなくなりました(ダメージ計算自体は通常通り行われます)。
※《災禍の鎧》と融合したことにより、攻撃力、防御力、機動力が大幅に上昇し、攻撃予測も可能となっています。
 その他歴代クロム・ディザスターの能力を使用できるかは、後の書き手にお任せします(使用可能な能力は五代目までです)。
※《災禍の鎧》の力は“碑文”と拮抗していますが、ハセヲの精神と同調した場合、“碑文”と共鳴してその力を増大させます。
※ハセヲが《獣》から受ける精神支配の影響度は、ハセヲの精神状態で変動します。


【シノン@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP80%、強い無力感/GGOアバター
[装備]:{フレイム・コーラー、サフラン・ブーツ}@アクセル・ワールド、{FN・ファイブセブン(弾数10/20)、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン、式のナイフ@Fate/EXTRA、雷鼠の紋飾り@.hack//、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3
[アイテム]:基本支給品一式、光式・忍冬@.hack//G.U.、ダガー(ALO)@ソードアート・オンライン、プリズム@ロックマンエグゼ3、5.7mm弾×20@現実、薄明の書@.hack//、???@???
[ポイント]:300ポイント/1kill
[思考]
基本:この殺し合いを止める。
0:アトリ……私……。
1:ハセヲ達と共に出口を捜す。
2:殺し合いを止める為に、仲間と装備(弾薬と狙撃銃)を集める。
3:ハセヲの事が心配。 《災禍の鎧》には気を付ける。
4:【薄明の書】の使用には気を付ける。仮に使用するとしても最終手段。
5:ユイちゃん達とはまた会いたい。
[備考]
※参戦時期は原作9巻、ダイニー・カフェでキリトとアスナの二人と会話をした直後です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。
※このゲームにはペイン・アブソーバが効いていない事を、身を以て知りました。
※エージェント・スミスを、規格外の化け物みたいな存在として認識しています。
※【薄明の書】の効果を知り、データドレインのメリットとデメリットを把握しました。


406 : 三番目のアリス ◆7ediZa7/Ag :2016/02/04(木) 09:24:43 EKt4NtNc0

【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP80%/デュエルアバター 、令呪一画、移動速度25%UP
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3 エリアワード『絶望の』、セグメント1@.hack//、セグメント2@.hack//
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
1:ハセヲ君やシノン君達と共に出口を捜す。
2:《災禍の鎧》を封印する。
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:ダメージ(中)、魔力消費(大)
[備考]
時期は少なくとも9巻より後。

【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP60%、移動速度25%UP
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、逃煙連球@.hack//G.U.、エリアワード『絶望の』
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:ハセヲやシノン達と共に出口を捜す。
2:《災禍の鎧》には気を付ける。
※時期は原作終了後、ミア復活イベントを終了しているかは不明。


【?-?/?/1日目・午後】

【スケィスゼロ@.hack//】
[ステータス]:???
[装備]:ケルト十字の杖@.hack//
[アイテム]:基本支給品一式×2、不明支給品2〜6(ランサー(青)、ツインズへのDD分含む)、疾風刀・斬子姫@.hack//G.U.、大鎌・棘裂@.hack//G.U. 、エリアワード『虚無』
[ポイント]:900ポイント/3kill
[思考]
基本:モルガナの意志に従い、アウラの力を持つ者を追う。
1:目的を確実に遂行する。
2:アウラ(セグメント)のデータの破壊。
3:腕輪の影響を受けたPC(ブラックローズなど)の破壊。
4:自分の目的を邪魔する者は排除。
[備考]
※1234567890=1*#4>67%:0
※ランサー(青)、志乃、カイト、ハセヲ、ツインズをデータドレインしました。
※ハセヲから『モルガナの八相の残滓』を吸収したことにより、スケィスはスケィスゼロへと機能拡張(エクステンド)しました。
それに伴い、より高い戦闘能力と、より高度な判断力、そして八相全ての力を獲得しました。
※ハセヲを除く碑文使いPCを、腕輪の影響を受けたPCと誤認しています。
※ハセヲは第一相(スケィス)の碑文使いであるため、スケィスに敵として認識されません。
※ロックマンはバグによる自壊の為、キルカウントに入りません。
※プレスプログラムの影響により、ステータスがバグを起しているようです。ストレージに存在したアイテム等が認知外迷宮に散らかっているかもしれません。


407 : 三番目のアリス ◆7ediZa7/Ag :2016/02/04(木) 09:24:55 EKt4NtNc0


[全体の備考]
※運営側、GM系ユニットは特段の理由がない限りプレイヤーに危害を加えることができません。

【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの情勢を“記録”する
1:ゲームを次なる展開へと勧める。
[備考]
※ゲームを“記録”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。

【アリス@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの中枢、モルガナの“盾”となる。
1:榊らを監視し、場合によっては廃棄する
2:ゲームに生じた問題を処断する。
[備考]
※性格、風貌は原作11-12巻におけるシンセサイズを施されていた状態に準拠しています。
※が、従うべき対象はモルガナへと再設定されているようです。


408 : ◆7ediZa7/Ag :2016/02/04(木) 09:25:11 EKt4NtNc0
投下終了です。


409 : 名無しさん :2016/02/04(木) 18:21:18 /e6II7FM0
投下乙です。
ゲームマスター側の戦力もどんどん明かされていき、そしてハセヲ達にセグメントの一つが渡りましたか……
一方でトワイスは密かに追い込まれそうになってる?


410 : 名無しさん :2016/02/08(月) 21:51:40 GWlu.Z1c0
凄い予約来た!


411 : ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 07:51:08 bv/1/5ss0
予約期限についてのミス、申し訳ございませんでした。
その上で、ようやく完成したので投下します。


412 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“再会” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 07:54:10 bv/1/5ss0


出会うことには、意味がある。
そうであるからこそ――








「――ふん」

俺がそいつと再び出会ったのは、果たして偶然だったのだろうか。
奇妙な話だが、俺はこのゲームにおいて“出会う”ことに何か運命染みたものを感じつつあった。
それほどまでに、今までの“出会い”の重みは大きかった。

エリアD-6。因縁深い大聖堂の置かれた、ゲームの中心に位置する場所にてその死神は出てきた。
ちら、と辺りを見渡す。草原は今や壊れかけていた。ところどころ走るノイズ、むき出しになったワイヤーフレーム、ゲームとしては明らかに異常な光景がそこにはある。
デウエス、と名乗る暴走AIの出現は記憶に新しい。あれの余波は未だ残っている。
プレイヤー共通の敵として現れたデウエスを討つべく、今頃アメリカエリアにて集団戦闘が行われているはずだ。
俺はそちらの討伐戦/レイドには参加せず、居残り組のプレイヤーを探す役割についていたのだが――

「貴様か」
「――フォルテ」

出会ったのは、探していた誰でもなく、最も会いたくなかったレッドプレイヤーだった。
俺は下唇を噛む。
行き合った死神のようなアバター、フォルテは依然と変わらず威圧的な雰囲気を身に纏っている。
鈍いカーキ色を湛えた装甲、ボロボロのローブからは幾多ものデータを屠ってきたであろう手が垣間見えてる。そしてその眼光には強烈な敵意がある。

「お仲間は死んだようだな。
 シルバー・クロウ。ふん、所詮は一人では戦えぬ、脆弱な“個”しか持たないナビだった」

吐き捨てるようなフォルテの言葉に俺は、ぐっ、と拳を握りしめる。
ゲーム序盤、ネットスラムにおける戦いが脳裏に浮かぶ。
レンさん、シルバー・クロウ、彼らとの出会いと、そして別れが全てを物語っていた。
彼らと共に死神を退けた。けれども、もう二人ともいなくなっている……

俺は無言で剣を抜いた。青い薔薇を設えた美しい刀身が露わになる。

「ほう、戦うのか? できるのか――貴様一人で」
「……やってやるさ」

コイツが俺たちと戦ったあと、このゲームにてどのようなルートを辿ったのかは分からない。
だがミーナの話によれば、アメリカエリアにてショップから出てくるところを確認されている。
そして恐らく、ここまでも破壊とPKを繰り返してきたのだろう。

このゲームは、ある意味で当然だが、PKほど有利に設計されている。
殺せば相手のアイテムが手に入り、ポイントによるアイテムの売買も可能になる。
フォルテは装備面では俺たちよりも充実していると見た方がいい。

だが――俺にだって剣がある。出会い、手に入れた新たな剣が。
青薔薇の剣。ヒースクリフから餞別として渡されたその剣を握りしめ、俺はフォルテと相対する。

「そうか、ではまぁ同じことだ。あの森にいたオフィシャル共と同じように――デリートするだけだ」

俺は、はっ、と目を見開いた。
その言葉を聞いた瞬間、理解してしまったのだ。
この死神は“森”より出てきた。彼がその場で誰に出会い、何をしたのか。

――分かった瞬間、俺はアバターを切り替えていた。

翅が、展開される。
身体を包みこむ浮遊感に押されるまま、俺は空へと舞い戻っていた。
剣士キリトの身体が影妖精/スプリガンのそれへと変わる。
ALOアバター。俺がこの場で扱える三アバターのうち、中距離攻撃手段である魔法と飛行による高速戦闘を可能にするこのアバターは、このゲームにに置いては最も汎用性が高い。少なくとも、ソロでの戦闘ではそうだろう。

「フン」

フォルテもまた翼を展開する。漆黒の翼。その力もまた、誰かより奪い取ったアビリティだ。
この死神は生者の何もかもを蹂躙する。俺はこの敵を、今は一人で相手取らねばならない。

データが歪み、剥きだしになった空にて、俺はフォルテと再度激突した。
隣にあの銀翼がいないことに、片手がもげたかのような欠落感を味わいながら。







413 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“再会” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 07:54:38 bv/1/5ss0




出会った以上は、役割が生ずる。
オーヴァンはそう理解していたし、だからこそここまで来ることができた。
故に――

「君はどうやらこのゲームに積極的なようだ」
「…………」

オーヴァンは言葉を紡ぐ。嘯き、囁くように、己が目的のために言葉を弄する。

「でなければ、GMと繋がっていることを知っていてそんな態度を取る筈もない。
 ならば協力できるのではないか、と思うのだがね」
「…………」

白衣の少女はしばし黙ってオーヴァンを見上げていたが、一瞬顔を俯かせたのち、

「そう、ですね。私はこの闘争において、迷わず優勝するつもりにいる」
「しかし君は俺に攻撃をしてはこなかった。それは――知りたいからだろう?
 君も、真実を」
「……ええ、優勝するつもりではいます。けれど、この舞台には何か裏があるように感じる。
 戦いつつも、それを探っていかなければならない」

スタンスを明示しつつも過度に情報を漏らしてはいない。
その淡々とした物言いに、頭の良い娘だ、とオーヴァンは内心で評価を下す。
なるほど――使えそうだ、と。

「オーヴァン」

ゆっくりと、彼は名乗った。
少女は無感動に頷く。人形のような彼女もまた名乗り返した。
ラニⅧ、と。

「では、そうだな。ここは一つ協力しようか。なに、俺も君も立場は同じだ」
「……情報の交換を、ということでしょうか?」
「ああ、ここまでに手に入れたGMについての情報を提供しよう。
 代わりに君も、鍵となり得る情報があれば教えて欲しい」

そう思ったからこそ、オーヴァンは語り出した。
そして話していくうちにその確信が正しかったことを知る。
彼女が持つ“碑文”についての知識と、そしてネットスラムであったという“隠しイベント”とそこで手に入れた謎のプログラム。

オーヴァンは微笑んだ。
ああ――繋がった。
リコリス。かつてThe Worldに存在した彼岸花の少女の物語。
大聖堂でシルバー・クロウが口にした言葉が、ここで彼女と出会うことで物語となる。
それが何の意味を持つのかは、いまだ分からないが――

「……Mr.オーヴァン」

情報交換の最中、不意にラニが尋ねてきた。
一人のプレイヤ―の名を出し、彼についての情報を求めてきた。
そこに、今までの彼女にはなかった熱があることにオーヴァンは気づいていた。
気づいて、嗤った。

「ああ、彼ならば――あるいは彼女らしい人物ならば出会ったよ」

オーヴァンはラニの耳元に囁くような、優しげな口調で答えた。

「君の向かうところ、月海原学園に、彼ないし彼女はいる」

ああ――ここでもまた繋がった。
これもまた筋書き通り、“運命の出会い”か、預言者よ――






414 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“再会” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 07:55:00 bv/1/5ss0


俺は空を駆ける。
スプリガンの翅を広げ、その手には青薔薇の剣、相対するは白き鎌を携えた死神。
眼下には鬱蒼と生い茂る森――大聖堂と同じくあそこもまた俺には因縁深い――が広がっている。
どうやら“迷いの森”のイベントはその上空までは影響しないようで、俺たちは森に呑まれることなく戦い、殺し合うことができた。

「――フン」

フォルテはバスターによる弾幕をばらまきながら、翼による高速移動という手を取っている。
次から次へと吐き出される光弾のカーテンをかいくぐりながら、俺は再度会いまみえたこの敵に対しどう挑むかを考えていた。

――近づいてはこない、か。

その途中、俺は一度目の戦い、ネットスラムでの遭遇戦においてのフォルテと戦い方が変わってることに気づいた。
端的に言えば、近接戦を挑まなくなった。
ネットスラムでのフォルテの当初は剣を装備しており、俺を見るなり近接戦をしかけてきた。
だが今回は違う。最初から俺から距離を取るように立ち回り、弾幕を張ることによる俺を近づけさせないでいる。

――近接キャラに対する対抗策を覚えた、という訳か。

恐らくネットスラムのフォルテは、俺のような近接特化アバターに対する対抗策を探っていたのだろう。
同じく近接戦で渡り合う――という手段をまずは検証し、そしてそれを破棄。今では近接戦で渡り合う、のではなく、そもそも近づけないことを選んだ。
正解だ、と俺は分析する。ネットスラムの戦い方と、今のそれを比較した際、どちらが俺にとってやりにくいかといえば確実に後者だ。地上に降りることができればGGOアバターも使えたが、眼下に森が広がる現状では無理だ。
それだけじゃない。あの翼の動きも以前より格段に上達しているように見えた。鋭角的な切り返しを持って速度を落とさずに軌道を描くその様は、完全に翼を我が物にしたといっても過言ではない。
コイツは、学習しているのだ。
以前の戦闘から一日も経っていないうちに、手にいれたスキル、プログラム、戦闘データを猛烈な速度で我が物にしている。
対する今の俺はソロ。二人がかりで犠牲を出しつつも撃退した相手では、単純に考えれば勝機はないように思える。

――けどな。

俺は務めて冷静に考える。これは再戦だ。そういう意味で、最初の戦いとは様相が変わってくる。
この戦い、互いにある程度の手札を知っている状態での戦いだ。
フォルテは俺についての情報、SAO、ALO、GGOの三アバターについては知っている。だからこそ“空中での射撃戦”を選んだ。
だが――俺もまた奴の力を知っている。

「――行くぞ」

俺は小さく呟き、翅を展開、一気に加速した。
風を切る音がした。空気が壁のように厚くなる。硬い。加速すればするほど、空気が圧となって襲い掛かってくる。
けれどもその壁を越えて――俺は飛ぶ。迷いはしない。可能な限りの速度を持ってして、俺はフォルテを強襲した。
空気だけではない。フォルテのバスターが雪崩のように襲い掛かってくる。
ともすれば無謀ともいえる軌道。しかし俺に迷いはなかった。

――とにかく、攻める。

フォルテに対する勝機は、そこにしかない。
元より守るという選択肢はない。
こちらに有効な射撃武器がない以上、無理にでもこちらのレンジに引きこむ。
ネットスラムでの一戦からも分かるが、あのレンジならば俺の方が勝つ。フォルテもそれを分かっているからこそこういった戦い方を選んだのだろう。
あのオーラに関しては俺がディスペル装備を持っている以上、ここでは脅威にならない。
寧ろ怖いのはフォルテの持つスタン装備であり、後衛のいない今の俺にとっては決まれば即・致命打を叩き込まれかねない。
鍵になるのは慎二のかけてくれた幸運バフだろう。あれが効いている間は、ある程度リスクを抑えることができる。
そのことからも下手に戦闘を長引かせるのは悪手。とにかく攻めろ攻めろ攻めろ――という思考になる。

ノイズ走る空の中、発狂したかのように展開される光弾の嵐。一撃でも加えばそこで死ぬと思え。その隙をあの死神は見逃さない。
恐怖はある。少なくともこんなSTG染みた戦闘、アインクラッドだって早々なかった。
だが行く。恐れは動きを鈍くする。恐怖を乗り越え――飛べ。
光弾の隙間を縫うように、逃れられるのならば剣で弾き/パリィして、俺は剣と共に、空を駆ける。
あの銀翼のように――飛んで見せる。


415 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“再会” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 07:55:23 bv/1/5ss0

「――チッ」

弾幕の向こうで、フォルテは舌打ちをした。
バスターではこちらを止められないと悟ったのだろう。かといってあの大出力の攻撃に切り替えたところで、俺に当たる訳もない。
ならば――取る方策は一つのはずだ。

はっ、と思わず声を上げ俺はフォルテに斬りかかる。
金属音と、火花。
フォルテは白い鎌で俺の一撃を受け止めていた。ギリギリ、と互いに刃を押し合いながら視線が交錯する。

「舐めるな」と奴が言った。同時に俺は、さっ、と距離を取る。
奴のバスターは、とにかく出が速い。一発一発の威力は低くとも、展開からの発動までのラグが極端に短く、それ故連射と、不意打ちを可能にする。
鍔迫り合いの最中にあっても光弾が飛んでくるのだ。基本、一撃を浴びせることができなけば離脱する必要がある。
俺は折角詰めたレンジをあっけなく放棄し、距離を取った。ここで変な色気を出せば、即蜂の巣にされる。

距離を取り――青薔薇の剣を上段に構える。好戦的な構え。そして、加速。再び弾幕を乗り越えていく。
集中力が切れた時が終りの時だろう。だがそれは――フォルテも同じだ。一撃さえ入れば、そこから俺は連携技に繋げることができる。

――良い剣だ。

空を駆ける中、俺はヒースクリフより渡された剣が異様に手に馴染むことに気づいていた。
振るえば振るうほど、こちらの動きについてきてくれる。新装備とは思えないほど、その剣はしっくりと俺の手になじんだ。
美しい刀身が煌めく、青い薔薇の剣。
見たことも聞いたこともない――筈なのに、長年連れ添った親友のように、この剣は俺に合わせてくれる。

――いける。

その感覚が、俺を不思議と強気にさせた。剣がついてきてくれるんだ。
なら俺だって――敗けないくらい飛ばなくてはならない。
その共感が、研ぎ澄まされた感覚が、俺と剣を一つのものにしてくれる。
幾度かの強襲を経て、俺の集中は弱まるどころか強くなっていた。
最初は嵐のように見えた光弾も、次第にパターンが見えてきた。フォルテもこうした“弾幕を張る”戦い方にはまだ慣れていないのだろう。故にどうしてもパターン化してしまう。
それが回避を容易にさせ、同時に俺はより――速くなる。

「――――」
「――――」

幾度かの接触を経て、俺の斬撃は確実に奴に迫っていた。
高度を武器にした、上空よりの強襲は奴の鎌をかいくぐり本体に届かんとしていた。
近い。行ける。勝つ――その力みを見込んだかのように、フォルテは目を見開いた。

「使って、みるか」

途端、見覚えのあるシールドが展開された。
一瞬、ワイヤーフレームが明滅したかと思うと、その手には赤いシールドが現れている。
俺は、はっ、として直前で剣を引き、そのまま一太刀浴びせることなく距離を取った。


416 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“再会” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 07:55:46 bv/1/5ss0

「フォルテ、お前……!」
「なんだ、貴様もコイツを知っていたのか?」

胸中に複雑な想いがあふれ出る。赤いシールド。あれは――ブルースの力だ。
恐らく彼は森でフォルテと遭遇し、敗れた。フォルテの言動から予想していた事態ではあったが、それが確実となったことで俺の胸に怒りが溢れ出た。
展開された盾は真紅から黄土へと色を変えていく。翼と同じく最適化されたのだ。

「さて、これで貴様の剣も怖くなくなった訳だが」

フォルテは淡々と言った。俺は胸に溜る怒りを必死に抑え、事態を分析していく。
正直なところ――この展開は予想していた。フォルテがこのゲーム中、アイテムを含めた他の力を手に入れていることは十分に考えられたことだ。
だからこそ先のシールドにも対応できたといえるが――

――近接戦にも対応されてはな。

フォルテのほぼ唯一、といってもいい穴はそこにあった。バスター主体の戦い方をする奴にとって、クロスレンジは不得手な部類に入る。
が、ブルースのような近接戦特化のアバターを取り込んだ以上、その穴も次第に埋まってしまうだろう。
奴は、成長する。取り込んだ戦いの中で我が物にされてしまえば、戦いは更に苦しくなる。
俺は撤退を視野に入れ始めた。怒りはある。が、ここで死ぬ訳にはいかない。サチ、慎二、そしてアスナの顔が浮かぶ。彼らとまた会うためにも、俺は生き延びなくてはならない。

「――逃げられると思うな」

が、そう簡単にはいきそうもなかった。
フォルテは獰猛に俺を睨み付け、その手をソード――あれもまたブルースの力だ――にして俺に向けた。
その挑発的な行いに、俺は更なる怒りに憑りつかれそうになるが――

「邪魔」

――その瞬間、虚空より巨大な砲撃が走った。

ごうん、と鈍い音がした。かと思うとフォルテに黒い閃光が穿たれたいた。
俺との一戦に集中していたフォルテは、突然の事態に反応が一歩遅れ、その砲撃を喰らうことになる。
「かはっ」と声を漏らすフォルテを――黒き妖精が魔剣を持って追撃する。

「――アスナ」

黒点を纏う剣でフォルテを弾き飛ばしながら、彼女は振り向き俺を見た。

――嗤っていた。







417 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“再会” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 07:56:20 bv/1/5ss0



「また会ったね、キリト君。危ないところだったみたいだけど、間に合ってよかった」

アスナは台本を読み上げているような、どこか上滑りした口調でそう言って、僅かに口元を釣り上げた。
そして酷薄に嗤って――魔剣を振るう。
ぶうん、と魔剣と黒い点が空を舞う。その様を俺はじっと見上げていた。

「――アスナ、お前は」
「とにかく、早いとこあのPK、倒しちゃおうよ」

黒く歪んだ笑みを浮かべて言う彼女に、俺は静かに首を振った。

「駄目だ」
「ん、なんで? さっきまでキリト君、襲われてたんだよ。
 なら倒しちゃうべきだよ。今、すぐにでも。
 たとえ一緒にはいいけなくとも、今は協力しよ?
 キリト君で一人で敵わない相手にも、私と二人で力を合わせれば、きっと勝てるよ」

何を当たり前のこと、とでもいうようにアスナは首を傾げた。
確かに言っていることは正しい。俺はフォルテを倒す――殺すつもりで戦いに挑んでいたし、一人では敵わずとも二人でならば、というのも分かる。
ネットスラムでの戦い、シルバー・クロウとの共闘がまさにそれだった。
けれど、今の彼女と力を合わせることがあの戦いと同じ意味を持つ訳がない。確かに構図は同じだとしても、今のアスナと俺は全く噛み合っていない。
繋がっていない、のだ。

「アスナ、聞いてくれ俺は――」
「――ククク」

俺は必死にアスナに声をかけようとしたが、阻まれた。
フォルテだ。
不意打ちでアスナに吹き飛ばされた彼は、再び姿勢を立て直し、ぶうん、と鎌を振るいこちらに迫ってくる。。

「――また、貴様か」

屈辱に震えるようにフォルテは叫びを上げた。
また、ということはもしやアスナは既にフォルテと一戦交えていた――のだろうか。

「キリト君、行くよ」

アスナはあの死神に対しても気負うことなく、何でもないことのようにそう言った。
黒く染まった翅を広げ、フォルテに対し猛然と襲い掛かっていく。

「――――」

俺は複雑な思いを抱えつつも剣を抜き、飛ぶ。
とにかく、フォルテとの戦いに関してはこれで状況が変わった。
アスナの魔剣は砲撃の他に“減速”と“無敵”の効果を持つ。
これが何を意味をするかというと――


418 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“再会” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 07:56:34 bv/1/5ss0

「――効かないよ」

再びバスターの弾幕を張ったフォルテに対し、アスナは真正面から突っ込んでいく。
“無敵”の効果だ。一定時間“無敵”になれるあの魔剣ならば、フォルテの弾幕など怖くはあるまい。
その上でアスナもまた翅を持ち、キリトと同等の高速軌道が可能だ。圧倒的な突破力を持ってして猛然とフォルテへと迫っていく。

「……チッ」

フォルテは舌打ちし、すぐさま翼を広げアスナより距離を取っていく。
先のように斬撃をシールドで受け止める――ということはしない。近づけば“減速”が待っているのだ。
故に近接攻撃も適わず、フォルテにしてみれば常に距離を取って戦うしかない。
あるいはフォルテがスタン等のバステをかければ別かもしれないが、それには俺がいる。発動の瞬間を潰せばいい。

フォルテは翼を展開し、弾幕を絶やさず展開しながら空を疾駆する。
森を越え、草原を越え、山を越え、猛然とこのエリアを横断していく。

アスナは魔剣を携えフォルテを追い込んでいく。
酷薄に、無慈悲に、黒い点を引き連れながらアスナは死神を狩らんと追っていく。

俺はその隣で飛び続ける。この奇妙な“三つ巴”の空に、胸中複雑な思いを抱えながら。
三つ巴。自分で言っておいて何だか、変な話だ。俺もアスナも、敵対する気は全くないのに――

――それでもこの戦いは。

ある意味で俺とアスナの戦いでもあるのだ。
少なくとも俺はそう強く認識していた。あの“黒”に取り込まれたアスナを取り戻すために、俺はここまで来たのだから。

――それが俺の“選択”だ。

だから、今この一瞬を飛んだ。






419 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“再会” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 07:56:49 bv/1/5ss0



「……岸波白野は月海原学園にいる」

オーヴァンはラニに語りかける。

「いや、いた、かな。少なくとも一時間ほど前にはそこにいた。
 だからきっと近くにはいるだろう」

ラニは彼の言葉を黙って聞いていた。
人形のように表情一つ変えることなく、無感動なまま、オーヴァンを見上げている。

「……それで――君はどうする?
 俺は君と一緒に行動を――このゲームの真実を確かめたい。
 だから協力は惜しまない。それは変わりない。だが――岸波白野を、君はどうするつもりだ?」

岸波白野が近くにいる。探し人が、向かっている場所にいる。
その上で、この少女は何を想う。何を願う。
彼女はこのゲームに乗っていると言った。自らの思惑通り優勝することを狙っている。
が――岸波白野についてはどうだ。
ラニの願いの中心に、その名前があることはもはや疑いようがない。
これから起こる“出会い”に、ラニは如何なる選択を下すというのか。

「…………」

白衣の少女は不意に視線を下げた。オーヴァンから視線を逸らし、黙って一人で歩いてく。
現実的な日本の街並みが広がる中、白衣の少女は一人、歩き出す。
その先には――月海原学園がある。

「私は」

背後にいるオーヴァンに、ラニはゆっくりと語り出す。

「私はあの人に出会い、そして――」

これから出会うであろう、自らの願い/なかみを、彼女はそうして口にする。
オーヴァンは微笑んだ。
これからきっと“運命の出会い”が始まるだろう。
預言者とヒースクリフ、そしてオーヴァンが引き合わされたように、出会うべくして出会うのだ。








420 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“再会” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 07:57:18 bv/1/5ss0



「――敗けないから」
「……舐めるなぁ!」

アスナとフォルテが互いに砲撃を交わす。
フォルテの弾幕に対して非常に相性の良い魔剣の“無敵”だが、弱点も存在する。
それは一々オーラを纏うため、スキルを発動しているか否かが視覚的に非常に分かりやすいということだ。
スキルの途切れ目が見える上に、“無敵”は発動が若干遅い。始動してから数秒足が止まってしまうのだ。
明確な隙が存在するのである。その為、フォルテはアスナが“無敵”状態の際は徹底的に距離を取り、逆に“無敵”のクールタイムに攻勢に転じる。

「――――」

俺はアスナの隙をカバーするべく、剣を振るいフォルテをかく乱する。
攻撃のタイミングが限られる上に二人がかりの反撃だ。この分なら、確かにフォルテを倒せるかもしれなかった。

――が、俺はアスナにフォルテを討たせるつもりはなかった。

フォルテを討つ。そのことに迷いはない。
けれども――今のアスナに討たせてはいけないのだ。
あの“黒”に取り込まれたアスナを救うためにも、その手段を肯定する訳にはいかない。
故に俺はフォルテと同じくらい、アスナの動向にも集中していた。もし彼女があの時の――茅場の時のような暴走をしでかすのならば、絶対に止めなくてはならない。

だからこその三つ巴。

その想いを胸に、空中戦は続いていく。
ファンタジーエリアの東方より始まったこの戦いも、空を滑るように戦う彼らは徐々に戦線を移行し、拡大していく……

――俺がそのエリアを確認したのは、初めてのことだった。

ファンタジーエリアを横断する形で続いていた戦いは、遂にエリアの境界まで差し迫っていた。
この空に“見えない壁”が存在する以上、それはある意味で当然のことだったのかもしれない。射線の逃げ道を探していけば、別のエリアへと出る。
そうして見えてきたのは日本エリア。
これまでのゲームでの記憶が一瞬フラッシュバックする。
俺とシルバー・クロウが当初目指していた場所だった。途中、こちらのエリアに予定を変更し、サチと出会い、オーヴァンと出会い、そしてアスナと出会った。
モーフィアスやミーナはあちらにまだ足を踏み入れてないようであったし、あのエリアに関しては情報不足がいなめない。
話によれば紅衣のアーチャーが本来属していたPTがあの場に向かってらしいが――

――戦闘が、日本エリアに移った。

ばっ、と視界が変わる。ファンタジー然としていた街や草原は消え失せ、代わりに現代風の街並みが広がる。
立ち並ぶ民家。アスファルトで覆われた車道。灰色のビル群……
思わず俺は目を細めた。一瞬、現実に帰ってきたかのような、そんな錯覚に囚われたからだ。
アスナもまた一瞬動きを止めていた。恐らく――同じ想いに駆られたのだ。

「はっ」

だが、フォルテはそんなことを意も介さずに破壊を振りまく。
バスターを街へとまき散らす。降り注ぐ閃光に再現された日本の街並みは無慈悲にも破壊されていった。
一瞬とはいえ動きが鈍った俺たちはその閃光に弾かれる。翅の軌道が乱れ、高度が下がる。俺は思わず舌打ちし、姿勢を安定させるべくビル立ち並ぶ街並みを縫うように飛ぶ。

――そして、出会った。

「……え?」

飛行する最中、俺は思わず声を漏らす。
何のために戦っているのか。敵がどこにいるのか。空はどうなっているのか。全ての思考が吹き飛んだ。
真っ白になった思考の最中、俺はぎこちなく振り返った。


421 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“再会” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 07:57:36 bv/1/5ss0

そこには見覚えのある少女がいる。
彼女もまた信じられない、とでもいうような顔で空を――俺を見上げている。
ずっと探していた。出会い、そして別れてしまったことを悔いていた。俺の罪の象徴。

――キリト。

彼女はそう口にした。
声は聞こえない。けれども、確かに彼女はそう言ったのだ。

――サチ。

俺もまたその名を口にした。そうして俺たちは再会した。
空ではアスナとフォルテの戦いが続いている。破壊と戦いの空の下で、俺は翅を折り、彼女に出会うべくよろよろと街を歩きだした。
ガラスが舞い、地面が震える。ぐらついた視界を、俺は何とかまっすぐと歩いて彼女に、サチに向かっていく。
彼女の隣には一人の学生の姿が見えた。同行者らしい彼の隣で、サチはキリトを見つめている。
出会えた。よかった、本当によかった。もう会えないかと思った。探しても探しても見つからなかったから――








そうであるからこそ――俺は君に出会う。







422 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“再会” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 07:58:02 bv/1/5ss0




どん、と音がしてサチの身体が吹き飛んでいた。
俺が駆けだしていたように、彼女もまた駆け出そうとしていた。
そこを――狙われたのだ。
彼方より飛来した弾丸が彼女を吹き飛ばした。サチの悲鳴が上がり、その身が硬いアスファルトに転がった。

「――――」

俺は声にならない叫びを上げ、サチに向かっていった。
視界が歪み、音が聞こえなくなった。それでも駆けて、駆けて――サチの下へと寄り添った。

「――――」

サチは痛そうに胸を抑えつつも――笑った。

――生きている。

何も言ってはくれないけれど、それでも俺を見てくれた。

大丈夫だ。PCはダメージこそ受けたが、しかし致命傷ではない。
なら、HP制であるSAOアバターならば命を落すことはない。
だから大丈夫だ。まだ彼女を守ることができる。守って、守ってそして――

「……お前もいるか、キリト。
 やはりここは一つの分岐点になり得る、か」

知っている声だった。
ああ、知っている。忘れるものか。
顔を合わした時間は僅かでも、その名は今や俺にとって深い意味を持っている。
拘束具を身に纏った長身の男性。眼鏡越しに見えるその目は不敵に細められている。
そして、その手にはサチを撃ったと思しき銃剣があり、ゆらゆらと硝煙を立ち上らせていた。

――オーヴァン。

ヒースクリフあるいは茅場が言ったように、俺は彼にも再会した。






423 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“再会” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 07:58:25 bv/1/5ss0


……その隣で、もう一つの再会があった。

「――また、会いましたね」

ラニはゆっくりと口を開いた。
爆風に白衣がはたはたと揺らめく。頭上ではどこかで見たような妖精アバターと、メカニカルな外見のアバターが撃ちあっている。
その余波を受け、壊れゆく街の中をラニはゆっくりと歩いていく。

その先には――ずっと探していた人がいる。

ラニがオーヴァンと共に月海原学園を目指すと決めてから、状況が変化したのはすぐだった。
空に走った多大な閃光と、砲撃の音。
それは何かこのエリアに大きな戦闘が持ち込まれたことを意味する。
その戦闘を確認すべくラニとオーヴァンは街へと臨み、そして――出会った。

「……貴方は月海原学園にいると聞いていたのですが、しかしここにいる。
 もしかするとすれ違いになっていたところでした」

何か一つでも歯車が狂っていれば、この出会いはなかっただろう。
ラニがオーヴァンと出会っていなければ、一足先に学園へと着いてしまっていた。
空に見知らぬ戦闘が巻き起こらなければ、街の方へと赴く理由もなかった。
危ういところですれ違いを回避し、自分たちは巡り合うことができた。

「xxxx」

ラニはその名を口にした。
会いたかった。けれどももう会えないと思っていた。その人を名を。
呼びかけただけで胸が熱くなる。ああ、本当に――彼はいまそこにいるのだ。

「私は、貴方を――」

岸波白野。
ムーンセルにて行われた聖杯戦争の優勝者。
最も弱く、そして最も強かった一人のマスター。
ラニは彼あるいは彼女を知っている。深く、強く、彼と共にあの戦いを駆け抜けた。

だから――

「――殺します」

――ラニⅧは自身の唯一無二の願い/なかみを、口にした。


424 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“胸に抱えたままの――” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:00:37 bv/1/5ss0



私の――私の本当の願いは








「――貴方を殺します」

吹き荒れる嵐のような街の中、ラニの胸中は凪のように静かだった。

そう静かだった。
今自分はひどく落ち着いている。
無感動に、平坦に。
ただただ己が敵/さがしびとを見つめている。

空を見上げれば爆炎が広がり、そこかしこで街の崩壊起きていた。
2010年代日本を基調しているこのエリアは、どことなくあのムーンセルの戦いを想起させる。
ラニは、この壊れゆく知らない街を、不思議と懐かしく思っていた。

あの人は、戸惑いの視線を投げかけている。

何故? と優しいあの人らしくラニを見つめていた。
同時に――これもまたあの人らしいのだが――優しさの中にも、決して目をそむけない強さがあった。

――ラニ、どうして……

その眼差しは、そう問いかけているようだった。
どうしても何もないだろう。これは聖杯戦争と同じ殺し合いで、ラニは魔術師/ウィザードだ。
置かれた立場を考えれば、敵対し合うことも十分に考えれただろうに。

それでも、あの人は問いかけてしまうのだろう。
ラニを救おうと、今ある現実を確かな足取りを持ってして進まんとする。
その鋼の意志こそが、あの人の願い/なかみであり、あの人があの人である意味であった。

全くもって――変わらない。
彼は何一つ変わってはいない。
あの時と同じく、何もかもわからないのに戦いに臨み、この戦いにおいても佳境まで生き抜いてきた。

そう考えた時、ラニの胸中に揺らぎが生じた。
その揺らぎは最初は小さなものであったが、けれど徐々に振れ幅を大きくしていく。
確かな熱と――苛立ちに似た重みをもってして。

あの人は変わらず、物語にも大きな変化はない。
それはあの人があの人だから――当然だ。

「バーサーカー」

しかし、今回は――今回は同じようには行かせない。
ラニは、だから、その名を口にする。バーサーカー。ムーンセルより与えられた英霊にして、三回戦で喪ってしまった武人。
「■■■■■■――!」と理性を塗りつぶされた咆哮が街に広がり、あの人へと矛を向ける。
名前も知らない彼は、しかし今回もまた、ラニに付き添ってくれている。

「戦闘準備を。標的は岸波白野。
 螺旋はなく、暁は未だ遠い。魂の純度は混沌へと堕している。
 けれど――たとえ彼方に月がなくとも、北天の星が私を照らしている。
 さぁ、殺し合いましょう――さながら水辺で睦み会う二頭の一角獣ように」

その彼を頼もしく思いながら、ラニはそう語る。
剣か死か。運命を決する戦いを――あの人に突き付ける。

「ふむ、どうにも相容れぬようだな」

途端、あの人の下に一騎のサーヴァントが降り立った。
炎のように赤く揺らめく男装を身に纏った皇帝――ネロ・クラディウス。
彼女はその金の髪を揺らしながら、手に持った大剣をラニへと向けた。
セイバー――あの時と変わらぬ、あの人のサーヴァント。


425 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“胸に抱えたままの――” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:01:08 bv/1/5ss0

「さて人形の繰り言か
 それとも幼さゆえの無垢なのか。
 余の記憶では――こやつは、それなりに面白い学者にもなり得たような気がするのだが」

赤いセイバーの言葉を継ぐように、もう一騎のサーヴァントが現界した。

「まぁ、ルート違いで敵対するのはお約束と言いますか。
 人形のままに未来を辿ったラニさんなのですかねぇ……
 よかったですね。ご主人様――人形なら殺しても良心は痛みませんよ?」

なまめかしい肌を晒す、妖艶なキャスター。
玉藻の前。
彼女は突き放すような口調で、あの人にそう告げた。。

「…………」

二騎のサーヴァント。
その情報はオーヴァンから既に手に入れている。
そして――自分自身、あの人に対して不可思議な記憶を有していることもまた、分かっていた。

きっと、あの人はあの人であるが故に、不安定な存在なのだろう。
数多くの“選択”の集積、
在り得たかもしれない結末の総合、
全ての可能性を演算され、刻み込まれたヒト。

ああ、やはり――厭な気分だ。

ラニは胸の中に不快感があふれ出るのを冷静に感じていた。
以前はなかった感覚だった。こんな何もかも――なくなってしまえだなんて感覚。
本当に、本当に厭だ。
これが自分の願い/なかみか。

「人形、ですか」

ラニは、思わずそう口にしていた。
サーヴァントたちは、敵対した自分をそう評した。

人形。別に間違っていない。
ラニⅧは“勝者”をコンセプトとしてアトラス院にデザインされ、人間以上の力を与えられた。
誕生れ/うまれた時から錬金術師だったこの身は、人類を自滅から回避すべく設計・投入された。

ああ、そうだ。
ラニⅧは人形だ。そんなこと、何度も言われてきたし、気にしてもいなかった。
謗られていると分かっていても、この胸には空疎な響きしかなく、その意義が理解できなかった。
けれども――

「そうですね。貴方にとってはそうであったのかもしれませんし、そうでなかったのかもしれません。 
 ありとあらゆる可能性を観測した、並行の存在者たる貴方には、何を言う権利もある」

――ラニは静かに語る。
その口調は依然と同じく平坦で、表情もまた無/モノクロームのままだ。

「む、こやつ」
「あら、この方」

あの人のサーヴァントたちが、何かに気づいたかのように異音同義のフレーズを口にする。
だが彼女らの言葉も、もちろんあの人の言葉も無視して、ラニはその手を振るっていた。

「バーサーカー」

ラニがそう呼びかけ、狂戦士が街を疾駆する直前まで、あの人はこちらを見ていた。
本当にいいのか――などと問いかけるように。

――決まっている。

ずっとこの時を待っていた。それが自分の願い(なかみ)だった。
準備できていないとは言わせない。

――私はただ、貴方に――


426 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“胸に抱えたままの――” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:01:38 bv/1/5ss0






バーサーカーの名を、彼女は未だ知らなかった。
ただアトラスの秘儀を持ってして英霊と意識にパスをつなげる。
バーサーカーの手は、即ちラニⅧの手。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■――!」

――あの人に刃振るうこの手もまた、私の手。

そう思いながら、ラニは二騎のサーヴァントと相対する。
セイバーがまず一歩出て剣を振るい、キャスターが宙を舞う鏡を操る。

「友が相手だ。迷いはあろう。戸惑いもあろう。
 だが今は――剣を取らねばなるまい、奏者よ」

バーサーカーの振るいし矛をセイバーが颯爽と受け止める。
大剣――燃え盛る原初の火が矛とぶつかり、火花が散った。
が、バーサーカーの方が強い。その巨大な体躯と圧倒的な膂力を持って放たれる矛に、セイバーはたまらず態勢を崩す。

「……そうですねぇ。私としては、色々と思うところができたのですが。
 でもまぁ――女の癇癪は一度落ち着けるに限るといいますか」

その隙を埋めるようにして、キャスターの呪術が炸裂した。
渦巻く炎の符。西洋の魔術体系ともラニの知る錬金術とも違う、東洋の技。
今度はこちらの動きが止まる番だった。動きを留めたバーサーカーに機敏なセイバーが刃を走らせる。

「■■■■■■■■■■――!」

バーサーカーの咆哮。痛みに苦しんでいる訳ではあるまい。
ただ猛りくる敵意を声にしているのだ。痛みなど無視できる。ただ敵を屠れないことがじれったい。
がらんどうとしか思えなかった、この狂戦士の心も今ならばある程度理解できる。

その苛立ちを燃やすように、バーサーカーは力を振るう。
フォースを近接用のものに固定。多少のダメージを無視して敵陣へと突進する。
その足取りにアスファルトが罅割れ、振るった斬撃の余波でビルが揺れる。
天下無双の力を存分に振るわせるべく――ラニはバーサーカーを駆った。

「セイバーさん、次はもう少し早く合わせてくださいまし」
「うむ、引き立て役。ご苦労である。いくぞキャス狐よ!」
「だから! もう少し私に合わせないと連携崩れるでしょうが――!」

セイバーとキャスターは互いに言葉を交わしつつ、しかし流れるような連携を見せている。
セイバーが先を駆け翻弄し、キャスターが隙を埋めて、連撃/チェインを繋げる。
相容れぬ可能性の存在たる彼女らだが、その相性は最適に見えた。
互いに背中を預けて戦場を駆ける彼女らを支えるのは、後方にて連携を巧みに指示するあの人だ。
彼ら三人に対し、バーサーカーは有効打を打てないでいる。


427 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“胸に抱えたままの――” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:02:01 bv/1/5ss0

――ああ、本当に。

自分は今苛立っている。
普段ならここで一度バーサーカーを下げるなり、別の戦法を考えるなり、できる筈だ。
しかし、今の自分は、そんなことをするつもりになれない。
ただただ――この力を振るいたい。

それを、

――何故?

とあの人は見ている。
声には出さずとも、戦いに迷いはなくとも、しかしその想いを忘れることもない。
ああそれがあの人――岸波白野だ。

「――分かりませんか? 何故、私が貴方を討つのか」

……本当は違ったのに。

あの時、オーヴァンはラニに対して「岸波白野と会った時、どうするのか」と尋ねた。
それはずっと考えていた問いだった。開幕の場で彼/彼女をみかけた時から、あるいは遠坂凛を討った時から。
自分でも――どうすればいいのか分からなかった。

でも、あの時、ラニは自然にこう答えていた。
同じ道を行きます、と。

――あの人はこの場においても一種のイレギュラーにあるようです。ならば協力を装ってでも接触し、私の手によって分析されるべきでしょう。

だなんて、そんな理屈をつけて。
このゲームに乗るのは、魔術として聖杯を求めるため。
真実を求めたのは、アトラスに類するものとして当然の行いだから。
そして――あの人と共に行くことだって、そう、それが必要だから。

そんな風な論理を引っ張り出して、自分を納得させて、ここまで来たのに。

「――貴方には分からないかもしれませんね。
 多くの結末をを知る、貴方では」

どういう訳か、ラニはあの人に刃を振るっている。
用意した論理など吹き飛ばして、胸の熱に後押しされるようにして、その胸に矛を突き立てようとしている。
それにバーサーカーは応えてくれる。ラニの想いに同調するように咆哮を上げ、セイバーとキャスターを絶対なる力で押し返そうとしている。

「貴方はきっと、数多くの結末を演算し体感したのでしょう?
 アトラス院が人類史の“終わり”を演算し続けたように、貴方の身体はありとあらゆる可能性の塊になっていると推測されます。
 そこにはきっと、グロテスクな“終わり”があったでしょう。
 救われない、報われない“終わり”だって数多くあったでしょう。
 どんな“選択”の先にも、最後にはどうしようもない“終わり”が待っている。
 未来を視れば視るほど、識れば識るほどその先にあるものが、それが明瞭になっていく。それを――私たちは誰よりも知っている」

言葉が、溢れてくる。
あの人に向けて、あるいは自分自身に向けて。

「それを全て視た上で――それでも貴方は希望を抱いたのかもしれない。
 “終わり”の先にも、確かな未来があると――思ってくれたのかもしれない。
 過去の人間として、私たちにそれを託したのかもしれない」

でも。

「――でも、あの“終わり”は。
 あの“終わり”を私は――私は希望だなんて思えない」


428 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“胸に抱えたままの――” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:02:23 bv/1/5ss0









――ただ、貴方と共に“終わり”を迎えたかった。






429 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“胸に抱えたままの――” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:02:56 bv/1/5ss0


岸波白野はその身を散らした。
月の聖杯戦争を勝ち抜き、たどり着いた熾天の玉座にてトワイスを打倒したのち、聖杯を手に入れ――そして分解された。
トワイス同じく過去の存在である彼/彼女は、ムーンセルに不正データとして処理され、消え失せたのだ。

……そして、代わりに彼女は帰ってきた。

消えてしまった岸波白野の代わりに、地上へ帰還することが許された。
師から与えられた存在理由を果たせず、代わりに得た願い/なかみさえも消えたまま……

――それがラニにとっての“終わり”だった。

あの人にしてみれば、それは数ある“終わり”の一つだったのかもしれない。
幾多にも別れた“選択”の道筋。その先に分かれた未来の枝葉末節。

――けれど、この“終わり”が全てなのだ。

少なくとも、今ここにいるラニⅧにとっては、それだけがあの聖杯戦争の結末だった。

「私に――私にあんなものを送って、どうしろというのですか」

ラニはバーサーカーと共に力を振るう。
何もかもを消してしまえばいい。そんな想いが胸を席巻する中、言葉だけが次から次にこぼれ出してくる。

「岸波白野。過去の人間たる貴方のベースデータ。
 あれを私に託して、それを縁にして生きて行けと――そういうつもりだったのですか? 貴方は。
 それが新たな生きる理由になるとでも。エルトナムの存在理由も、やっと手に入れたなかみさえ私の、希望となるように?」

声が、上ずっていた。
こんなこと生まれてからこの方、一度もなかった。

「――私は、私の願い/なかみは貴方だったのに。
 貴方がたとえ、過去のモノだとしても。
 私が未来を求め続けるアトラスのモノだとしても、
 現在ここにいる私にとって、貴方だけが――私のなかみだった」

未来と過去。
そのすれ違いの狭間で、ラニⅧは岸波白野に出会ったのだ。
その自分にとって、あの“終わり”は――

「私は、認められない。
 あの“終わり”を私は否定する。
 たとえ貴方に否定されようとも、天に星がなくとも、私は――私は何度でもあの“終わり”に挑んでみせる」

ありとあらゆる“終わり”を内包する彼/彼女がいる限り、ラニの求める未来には決して辿りつけない。
その存在こそが“終わり”の証左である彼/彼女が、このラニに対して「何故?」だなんて問いかけるのだ。
それはつまり、結局この“終わり”を肯定しているということではないか。

ああ、だから――私はあの人を討つしかない。

……分かっている、本当は一緒に行きたかった。
聖杯戦争と同じく、あの人と同じ道を行く“選択”をしたかった。
ラニは、自身の願い/なかみを知っている。自分が本当は、何を求めていたのか分かっている。
聖杯戦争に投入される前のラニⅧと、今の自分は確かに変わっている。
人間に解答はない。なくとも確かにこの心には――誕生れたものがあった。
分かっている。
分からっているからこそ――これ以外の“選択”はない。


430 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“胸に抱えたままの――” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:03:30 bv/1/5ss0

「……やっぱり、そういうことでしたか」

キャスターが不意に口を開いていた。

「全く、稚気染みたことを言いますねぇ……あんまりにも青臭くて、私、どうしたものかと悩んじゃいました。
 本当――人になっていたんですね、貴方」

突き放すような言葉と裏腹に、その口調はどこかさびしげで、優しささえ感じられた。
その様は子どものわがままを聞く、母のようで……
その事実が――また、苛立たしい。

「……“終わり”を受けれいれられぬ少女、か。
 余は――耳が痛いな。あの洛陽の彼方には、きっと今でも“私”になれなかった少女が踊っているのであろう」

対する赤きセイバーもまた、表情を陰らせていた。
どこか儚げに、どこか自嘲的に、セイバーはその瞳に何かを見ている。

「だが――それは結局、過ちなのだ、ばかものよ」

その諧謔を噛みしめるようにして、彼女はラニへと語りかける。

「降りてしまった終幕を拒んでどうする。
 我らは存分に栄え、その末に滅びるっもの。
 死は避けられぬし、“終わり”は変えられぬ。
 だからこそ――お前も奏者と謳ったのだろう? 踊ったのだろう?」

薔薇の皇帝は毅然とした口調で“終わり”を謳った。
かつて滅んでしまった者として、既に洛陽を迎えた者として彼女は戦場を駆ける。
バーサーカーの刃を、ラニの刃を優美にも受け止めながら――

「余は確かに過去の存在だ。そこのキャス狐も終わってしまった者だ。
 そして、奏者もまた―― 一つの“終わり”を迎えた者であろう。
 それは事実だ。共にあの華々しい終幕を駆け抜けた者として、余はそれを断言する」

だが、と彼女は告げる。

「だが――お前は違うであろう? かつて人形だった幼気な少女よ。
 お前は過去のモノではなく――確かなイマを生きる者だった筈だ」
「でも――私は」
「何を迷うことがある。
 確かに悲しかったかもしれぬ。認めがたかったかもしれぬ。
 だが、イマを生きるお前は、確かに奏者の“終わり”を見届けたのだぞ。
 であるならば、あの“終わり”を希望と言わずしてなんと呼ぶ」

くっ、とラニは息を漏らす。
並列思考が乱れている。ラニⅧの意識が正常に作動していない。
それでもラニは腕を振るい続ける。あの人にその手を届かせるべく、彼女は戦い続ける。

だけども――その道を彼女たちが許してくれない。

セイバーとキャスター。
あの人と共に“終わり”を見た者たち。
彼女たちがラニの行く手を阻む。当然のように阻まれる。
この想いも、この叫びも――彼女らは知っている、とでもいうように。

ああ――本当に、なんて馬鹿な話だ。
自分でも、この行いが無意味であることなんて分かっている。
“終わり”を否定したところで、その先に救いがある訳でもない。
師が、アトラス院の賢者たちが、何度も挑んでその度に敗れてきた命題だ。


431 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“胸に抱えたままの――” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:04:03 bv/1/5ss0

「分かっています――分かっています」

それでもラニは、そんな風に繰り返す。
意味のない言葉を、どうしようもない八つ当たりを、意味など分かっていなくともやらずにはいられない。

……思えば同じ“終わり”を知っていた遠坂凛を討った時から、全ては始まっていたのかもしれない。
同じ配置を受けたにも関わらず、遠坂凛はあの“終わり”を肯定していたようだった。
その時、この心は決まったのだろうか。
あるいは彼女が、少しでもあの“終わり”を拒んでいれば、こんなにも取り乱すことはなかったのだろうか。
慣れない演技や駆け引きなんてまでして、殺し続けることもなかったのだろうか――

「……あ」

気付けば、がくり、と膝をついていた。
バーサーカーは倒れている。セイバーとキャスターの連携に敗れ、その動きは遂に止まってしまった。
HPを散らした彼は、徐々に泥に包まれていっている。サーヴァントとして、消滅しようとしていた。
ダメージを無視してあれだけ酷使すれば当然だった。寧ろよく付き合ってくれたというべきだろう。

――私の、八つ当たりに。

今なら分かる。
心も何もない。ただの機械であったように見えた彼も、本当は心/なかみがあった。
意識を繋げていれば当然分かる。武人としての荒々しさと、そこに道鏡する穏やかな想いを。
かつてのラニは、そのことを顧みることができなかった。
なんで気づかなかったのだろうか。彼は――こんなにも私を見てくれていたのに。
ラニはその時初めて、彼の名を知りたいと思った。知って、話してみたいと思っていた。

けれどももう間に合わない。彼の姿は泥にまみれて消えてしまっていて、最後の顔さえ見えなかった。

「――はぁ、そろそろこれで止まってくださいまし。
 いい加減、子どもみたいなことを言わないでください。
 貴方は――私共とは違うのですから」

キャスターが語る。彼女の口調は厳しい。
けれども、その瞳には深い同情が湛えているように見えた。
セイバーもまた、どこか憂いを持ってラニを見つめていた。

あの人は――

「――――」

――あの人は、何も言ってはくれなかった。

言う権利がないと、思っているのかもしれない。
あの人は揺るぎない強さを持っているのに、優しい人だったから。


432 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“胸に抱えたままの――” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:04:32 bv/1/5ss0

「……全高速思考、乗速、無制限。北天に舵をモード・オシリス」

ラニは――それを見て、決意した。

セイバーとキャスターが、はっ、と息を呑む。
そうか、彼女たちは知っているのだ。このコードの意味を。
この心臓に埋め込まれた――心臓の意味を。

オパールの心臓。
第五真説要素/エーテライトによって作られた最後の平行変革機/パラダイマイザー。
全てを、ムーンセルすらも吹き飛ばしかねない――最終手段。

「早く……しないと、吹き飛びますよ。
 このゲームも、貴方も、全て――」

コードを刻みながらもラニはそう語りかける。
あの人に。これが最後の“選択”だとでもいうように――

「奏者よ!」
「ご主人様!」

サーヴァントたちの声が響く。
こうして起動を始めたオパールの心臓を止める手段は、心臓の破壊以外にない。
そして、遠坂凛のランサーのように、ピンポイントで心臓を穿つ手段がないのならば――ラニを殺すしかない。
ラニを殺せば、このゲームのルールにのっとって消去が始まり、この“終わり”を回避できるだろうが――

「さぁ、選んでください。貴方の“終わり”を――」

ラニは突きつける。
これが最後の抵抗で、最悪の八つ当たりだった。
師より与えられた理由を、こんな風に使うなんて――

「――――」

あの人はそこで口を開いた。
そしてサーヴァントに告げた。己の“選択”を。


――ああ、知っている。貴方は何時だって、選ぶことを恐れなかった。



【ラニⅧ@Fate/EXTRA Delete】
【バーサーカー(呂布奉先)Delete】






433 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“胸に抱えたままの――” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:04:52 bv/1/5ss0



「……結局、彼女は知っていたんでしょうかね?
 ようやく手に入れた感情/なかみが、俗になんて呼ばれていたか」

ラニの身体が消滅する中、キャスターが誰にでもなく語りかける。
淡々と、しかしほんの少しだけ、悲しげに……

「もしかすると、知らなかったのかもしれませんね。
 ――“恋”だなんて。
 誕生れてすぐ知るには、ちょっと早すぎるものですもの」

彼女は結局、岸波白野の“終わり”を認めることができなくて、
岸波白野は、それでも進むことを“選択”して――それで終わった。

本当は、これ以外の“終わり”があったのかもしれない。
別の道を選ぶこともできたのかもしれない。
でも――そうはならなかった。

「恋は現実の前に折れ、現実は愛の前に歪み、愛は、恋の前では無力になる。
 誰の言葉かは忘れましたが、本当――“恋”とか“愛”とか、千年経っても変わらず、まっすぐには――」

キャスターの声が街に響き、そして消えていく。
街では未だ戦いが続いている。生き残った者たちは、それぞれの“終わり”に向かって必死に戦っているのだ。
その一方で、ラニⅧはここで終わってしまった。

……現実の前に、誕生れたばかりの“恋”が折れてしまったという、あり触れた結末を迎えて……


434 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:05:27 bv/1/5ss0

アナタは――








――“オーヴァン”に会うんだ、キリト君”


あの時、茅場はそう言い残して消えていった。
その真意がどこにあったのかは知らない。その話を聞くことができなかったから。
オーヴァンと茅場の間に何があり、如何なる言葉を交わしたのか、その真意は掴めていない。

――けれど。

「まだ生きていたか、キリト。
 あの時、あの大聖堂で別れて以来君たちがどうしていたのか、気にはなっていたよ。
 だが――今となってはお前はもう大したキャストじゃないんだ」

――こうして言葉通り出会えたことに意味がない筈もない。

オーヴァンは硝煙を漂わせながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
銃口はまっすぐに俺、いやその向こうのサチに向けられている。

「サチ……いやそのAIDAに興味があるんでね。どいてくれないか、キリト」

ちら、と振り返るとサチは俺の背中に隠れるようにして倒れていた。
オーヴァンの視線を恐れているのか、かすかに肩を震わせていた。

――大丈夫だ。

俺はそう呼びかけると、決意を込めて剣を抜いた。
右手で青薔薇の剣を、そして左手で虚空の幻を掴み取る。
後ろでサチが息を呑むのが分かった。
分かった上で――俺は二つの剣を抜く。
二刀流。
SAOアバターが持つユニークスキルであり、ある意味で俺の“本当の姿”であり、そして――サチの知らない力だった。

「――オーヴァン」

俺は、決然とした口調でその男に呼びかけた。

「アンタには聞きたいことがいっぱいあったんだけどな」

頭上ではアスナとフォルテの戦いが続いてた。死神と魔剣が砲弾を撃ちあった結果、現実的な街並みは猛烈な勢いで破壊されている。
壊れゆく街の中で、俺はオーヴァンへと剣を向ける。
大聖堂で彼が突然いなくなって以来、色んなことがあった。あり過ぎたくらいだ。

「――もう関係ない、か。これなら」
「ふふふ……」

オーヴァンは嗤った。不気味に、酷薄に、彼は嗤い続ける。
そうして――彼はその手を振り払った。

「――敢えて言おう、キリト。生きて会えて嬉しかった、と」

がたり、と何かが外れる音がした。
俺は思わず目を見開く。からんからん、と金属オブジェクトがアスファルトの地面に落ちていく。
オーヴァンのPCの、最も特徴的な部分であった左腕の拘束具が――解放されていた。

そして――そこに現れた“真実”に俺は目を見開いた。
ずっと左腕に隠されていたモノ。拘束具が押さえつけていたものの正体。
それは――

「そのバグは……!」

――もはや見慣れたと言ってもいい。

サチが、アスナが、その身を侵食されたあの“黒”がそこでは蠢いていた。
元は左腕のポリゴンがあったのだろうその場所からは、黒く変異した“爪”が生えていた。
時節橙色に鈍く発光するそれは、ぼこ、ぼこ、と黒い点をこぼしている。
ああ知っている。その現象を、俺は厭と言うほど知っている。

「――行くぞ、キリト」

その“黒”は今度もまた俺に牙を剥いた。
オーヴァンの因縁深き刃が俺とサチに襲い掛かってくる――






435 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:06:05 bv/1/5ss0



――異様な二刀流、いや三刀流だった。

一刃目は右手に構えた銃剣。恐らくあれがオーヴァンの“正式な仕様上”の武器だろう。
The Worldの細かな仕様は知らないが、本来ならば近接攻撃と射撃を兼ね備えた中衛よりの動きを要求されるジョブなのではないかと予想する。
ならば完全に近接特化のPCである二刀流SAOアバターとのタイマンの相性は悪い筈だが、しかしそこに二つの“仕様外”が加わる。

二刃目は左手に携えた、黒く禍々しい異様な刃。
黒く侵食されたオーヴァンの手が扱うその刃は、形状としては矛に似ている。
短く反り返った刀身が、近くに迫った俺の剣を振り払う。銃剣に比べて攻撃の発生が非常に速く、俺の剣戟をことごとく受け止めていた。
銃剣の弱点である近接での連打に、あの取り回しの良い武器で対応できるのだ。

「くっ……!」
「――どうした、キリト」

更に厄介なのは三刃目の“爪”だ。
時に鋭く、時にしなやかに放たれる“爪”は、オーヴァンの動きとは独立したかのように動き、こちらの呼吸を狂わせる。
オーヴァンもゲーム用のアバターである以上、本来そこには決まったモーションというものが存在する筈だが、しかし三つ目は明らかにそうした仕様から外れた動きだった。
しかもふざけたことにあの“爪”は自在にリーチを伸ばせるのだ。ぐん、と奇妙な伸びを見せこちらを抉ってくる刃に俺は苦戦を強いられた。

近づけば左手の矛を薙ぎ、離れれば銃剣の正確な無比な弾丸。その最中に飛んでくる変幻自在の“爪”。
オーヴァンは三つの刃を使い込なし俺を追い込んでいく。一撃一撃が重い。苦しいが、しかし戦法を変える訳にはいかない。
ALOアバターによる空中からの魔法攻撃、GGOアバターの弾道予測を利用した銃剣との中距離戦なども考えられたが、しかしここでその戦法は使えない。

俺は後方をちらりと窺う。サチ。会いたかった彼女がそこにいる。
オーヴァンはどういう訳か彼女を狙っていた。その理由など、今はどうでもいい。
ただ彼女を守るために、俺は戦わなくてはならない。その為にも、オーヴァンから離れるという選択肢を取れないのだ。

二刀流スキルを扱えるSAOアバターは、こと地上における近接戦においては最高のパフォーマンスを発揮できる。
今はこのアバターを使って隙を探るしかない。どこかで好機を見つけることができれば、ソードスキルを叩き込める筈だ。

「…………」

サチはそんな俺を黙って見ている。
俺とオーヴァンの殺し合いを、戸惑いを瞳に浮かべながら、じっ、と見ている。

――今度こそ。

今度こそ間違えない。今度こそ守らなければいけない。
二度ともう失いたくは――ない。
俺は決意の下、剣を振るった。青薔薇の剣が飛んできた黒い“爪”を弾き飛ばす。
ほう、とオーヴァンの声が漏れた。その隙を見計らい、俺は地面を蹴った。

ぼう、とエフェクトが虚空の幻を包み込む。
ソードスキル《ソニックリープ》片手剣上段突進技。
出の速い単発技、かつ突進技に付随する加速を利用してオーヴァンの刃の隙間を狙う。
オーヴァンはそれを矛で受け止めようとする。が、俺の方が判定が強い。
ガン、と矛を弾き飛ばした俺はそのまま次なるソードスキル《バーチカル・スクウェア》に繋げようとするが――

「それでは――届かないな」

その剣は弾かれていた。
否、正確にはオーヴァンの身体に到達はしていた。
しかし、ばん、と弾かれるような感覚と、緑色のエフェクトがオーヴァンから迸った。

――無敵。

その感覚の意味を直感的に悟った俺はすぐさま後退する。
途中、飛んできた“爪”が俺の前髪をいくつか持っていった。
あのまま攻撃を続けようとしていたら俺は大ダメージを免れなかっただろう。その事実に冷や汗をかきつつ俺はオーヴァンに向き合う。

――オーヴァンに寄り添うように、奇妙なオブジェクトが出現していた。

黒いボールに適当な紋章をあしらえたかのような簡素なモノで、オーヴァンのPCデザインとは全く意匠が異なっていた。
それは緑色の薄いエフェクトを発生させながら、オーヴァンの周りをぐるぐると回っている。時節、見覚えのある黒い点がこぼれていた。


436 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:06:45 bv/1/5ss0

「イリーガル・スキル……!」

その存在の意味を察し、俺はその言葉を口にしていた。
現象としては、アスナの魔剣の“無敵”や“減速”に酷似しているように見えた。
仕様から外れたと思しきスキル。オーヴァンもまたそれを扱えるようだった。

「ふふふ……」

オーヴァンは不敵に嗤っている。
するともう一体、球体のオブジェクトがその傍らに出現していた。
今度のは赤いエフェクトを纏っている。先ほどの球体と同じ軌道でオーヴァンの周りを旋回し、そして不意に、ぐん、と視界が歪んだ。
厭な予感が俺を突き動かす。俺は咄嗟の判断で地面を蹴っていた。

――ビームが放たれた。

収束された光弾が球体より撃たれていた。俺を狙ったその砲撃は後ろの街に直撃し、コンクリートが崩れる音が轟いた。
思わず俺は振り返りサチを確認する。無事だ。彼女は震えつつも、オーヴァンの攻撃の余波を受けていない。
が、危ないところだった。今の攻撃が俺でなく彼女を狙っていたら、それで終わりだった。

「……その程度か、キリト」

破壊と災禍の中心で、オーヴァンは悠然とたたずんでいる。
三つの刃と、その傍らに携えた“隣人”とでも称すべきイリーガル・オブジェクト。
どうやらアレは、赤い方が射撃による攻撃、緑の方がオーヴァンに対する無敵効果を付与するものらしい。

「――チートスキルの塊かよ、アンタ」

その無茶苦茶な布陣に、俺は思わずそう漏らす。
今までこのデスゲームにおいて様々なイリーガル・スキルを見てきたが、中でもオーヴァンのものは特に狂っていると言えた。
欠点のない装備、異様なモーション、加えて自在にサポートユニットを増設できるなど――ゲームバランスもあったものではない。

「……そのバグを使いこなしてるってことか、アンタは」
「使いこなす? 違うな」

俺の言葉に、オーヴァンは首を振り、

「お前は彼らのことをまだよく知らないようだな、キリト。
 コイツらの名は――AIDA」

AIDA。
オーヴァンは“黒”のことをそう呼んだ。
やはり彼は知っているのだ。AIDA。サチやアスナを侵食したモノたちのことを――

「お前はAIDAを単なるバグやチートだと思っているかもしれないが、それは違う。
 AIDAとはAritificially Intelligent Data Anomaly……平たく言ってしまえば彼らは電脳生命体だ。
 彼らもまた、生きているんだ、キリト」

オーヴァンは語りつつ無慈悲に俺に攻撃を加えてくる。
“爪”が薙ぎ払われ、そこで一歩でも足を取られれば“隣人”による遠距離攻撃が飛んでくる。
そのコンビネーションに俺は舌打ちをする。今、近づいたところで“無敵”が途切れていない以上有効打を打つことができない。


437 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:07:01 bv/1/5ss0

――AIDAは、生きている。

必死に猛攻を受け止めながらも、俺はオーヴァンの言葉を考えていた。
この男は、あの存在の何を知っているというのだ。

……視界の隅でサチが、びくり、と肩を上げているのが見えた。

「だから彼らを使いこなす、などと表現するのはおかしい。
 彼らは常に機会を窺っている。人間を観察し、人間を狙い、人間を利用する、機会を。
 彼らとの付き合いを一歩間違えば、消滅か、あるいはAIDAのサンプルと成り下がる末路が待っている。
 あのエージェント・スミスや、今まさに空にいる彼女のようにね」

オーヴァンがそこで視線を上にあげた。そこには黒く侵食され、変異してしまった妖精型のPCがいる。
アスナ。
彼女は今、頭上で戦っていた。
フォルテに対し、魔剣に憑りつかれたかのように力を振るっている。深い憎悪や歪な正義感に囚われるままに。

「しかし、サチ。彼女は違った。
 サチに巣食ったAIDAは、どういう訳か彼女を喰らうことなく、不可思議な“同居”を始めている。
 それが“共生”と呼べるほどのものなのかは分からない。だが――調べてみる必要はある」
「……オーヴァン」

淡々と語る彼に、俺は再び剣を構えた。
この男は確かに強大な力を持っている。そして、何かを知っている。
だが――それでも俺はこの男を倒さなくてはならない。そう確信したのだった。

俺は再び地面を蹴った。







438 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:07:19 bv/1/5ss0




まず狙うべくは“隣人”だった。
攻撃補助と無敵といった効果をオーヴァンに与え続ける彼らを排除しなければ、こちらに勝ち目はない。
ビーム攻撃の間隙を狙い、俺は滑るようにオーヴァンの懐に飛び込む。
すかさず飛んできた“爪”を、俺はソードスキル《ダブルサーキュラー》の発動により回避する。
ターゲッティングを赤い“隣人”に据えた上で、突撃技を繰り出すことにより回避と攻撃の間を一呼吸減らすことができる。

その勢いのまま二刀流スキルを炸裂させる。
赤い“隣人”は剣に切り刻まれ、呆気なくそのカタチを霧散させた。
思った通りだった。“隣人”自体にも別個のHPが設定されており、減らすことで排除できるらしかった。
そういう意味でオーヴァンは完全に無敵の存在ではない。ギリギリのところで、このゲームのプレイヤーたり得ている。

その事実を一縷の望みにして、俺はそのまま次なる攻撃へと繋げる。
足の止まる連撃技はこの状況では使えない。単発スキルの連続発動で、絶えず攻撃と移動を繰り返す。
ソードスキル《ヴォ―パル・ストライク》が炸裂し、もう一方の隣人を斬り刻んだ。“隣人”のHP自体は大したことがなく、緑のそれと同様に霧散する。

「まだ、足りないな」

が、そこまでだった。
“隣人”が倒されたところでオーヴァンにはまだ三つの刃がある。
ぐん、と“爪”が伸びてきて俺の肩を捕まえた。ソードスキルの硬直時間を捉えられた俺はなすすべもなく引き寄せられ――

「――お前では俺を倒せない」

オーヴァンの流れるような連携技/コンボが、俺の身体に炸裂した。
身を切り刻まれる感覚に、がは、と思わず声が漏れる。弾き飛ばされた俺はごろごろと地面に転がった。
HPゲージが大幅に削られていくのが視界に入る。加えてアバターを通じて猛烈な痛みが俺を襲った。

「……何故お前が俺に届かないのか。分かるか、キリト?」

一方で、オーヴァンは未だ無傷だった。
先ほど倒したばかりの“隣人”も、ぼこぼことあふれ出るAIDAにより再生されつつある。
俺はその光景に、ギリ、と歯噛みしつつも立ち上がる。

「何とでも言えよ。何が何でも俺はサチを――」
「それはお前は何も知ろうとしてはしていないからだ」
「何を――」

立ち上がった俺を悠然と眺めながら、オーヴァンは語り続ける。

「例えば、シルバー・クロウのことだ」

その言葉に俺は顔を歪める。シルバー・クロウ。
一度目の出会いも、ここでの二度目の出会いも共に意味があった筈だった。
共闘し、話し合えたことは、きっと大事なことの筈だったのに――

「お前はその死について、意図的に考えることを避けている節がある。
 本来ならお前は俺に詰め寄るべきだ。アンタが殺したのか――とな」
「待て、オーヴァン。何を言って……!」
「理性ではお前も気づいていない筈がないんだ。あの状況で、誰が怪しいのかなど。
 その上で、お前はどこかあの時のことを考えないようにしていた」

彼は不意にサチを一瞥した。
サチは黙って俺たちのやり取りを眺めている。
ただ、戸惑いに瞳を揺らしたまま――

「そういう狭い視野では俺を倒せない、ということだ。
 俺が何をしようとしているのか、は言うまでもなく、自分がサチに出会って何をなそうとしているのか、その意味さえ考えないようでは、な」
「俺はただサチを守ろうと――」
「守って、その後はどうする? お前はサチを探していたようだが、探した後、どうしようと思っていた」

オーヴァンの言葉に俺は思わず声を声を喪う。
サチと行き違い、そして見失ってから俺はずっと彼女を探していた。
けれど――その上でどうするべきか。
彼女に対し俺はどんな“選択”をすべきなのか。
贖罪を、などと思いはしたが、果たして俺は一体何をしようとしていたのか。

これではあの時と変わらないのではないのか。
“痛みの森”で、訳も分からず剣を振るい、そして数多くの人を傷つけてしまった、あの時と――


439 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:07:38 bv/1/5ss0

「……やはり、な。
 ただ俺を、AIDAを倒せばいいなどと思っているのならそれは間違いだ。
 そんな方法では、結局何も取り戻すことはできない」

俺の態度を見てオーヴァンはそう口にした。
その言葉は――どういう訳か空虚な響きがあるように感じられた。
だがその意味を考えるよりも速く、オーヴァンは再び銃口を向けた。

「そして、それは君もだろう?
 この出会いの意味と、己の役割を――」

俺ではなく、サチへと。
考えるよりも速く俺は地面を蹴っていた。オーヴァンの指先がゆっくりと引かれていく。
叫びを上げながら、俺はただ彼女を守るべく剣を――

「私は――」

――けれども、その剣よりも速く。

今まで一言も語ることのなかった彼女が、口を開いていた。

“浮かび上がってきた”サチは、どこか遠くを見るような目つきをしていた。
銃口を目の前にしても、彼女に死の恐怖の色はない。あんなにも、あんなにも死を恐れていた彼女が、しかし何かを決意したようだった。
守るべき彼女は、俺が罪を償うべき彼女は、けれども俺よりも早く“選択”を下した。

「――私はただ、あの時のまま……」

ぽーん、と音がした。

途端、俺の視界が、現実そのものが歪んでいった。
何が起こったのか分からない。俺はただただ、剣を持ったその手をサチへと差し延ばして――

「それでいい」

――その中にあって、オーヴァンは嗤っていた。






440 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:07:55 bv/1/5ss0



どこかで見たことのある街だった。
西洋風でファンタジックな意匠の世界。
レンガと石で建築された綺麗な街並みに、酒場やら宿屋やら、拠点として重要な店舗が立ち並んでいる……

――ああ、ここは。

その光景を見た時、俺を猛烈な目眩が襲った。
くらり、と意識が揺れる。その次にやってきたのは吐き気で、俺は思わず口元を抑えていた。

――何だって、何だってここが。

何もかも分からないまま、俺は苦しみに身を震わせる。
もう二度と来ない筈の、もう二度と来れない筈の場所だった。
当然だ。だってここはもう――過去の場所なのだから。

――アインクラッド第11層タフト、主街区。

俺はこの街を知っている。
この街はギルド《月夜の黒猫団》の拠点で、俺はあの時、確かにここにいた。彼女と共にいた。
けれどもそれはもう過ぎ去ったことの筈だった。時節脳裏を過る。けれどももう二度と取り戻せない。
そんな痛みと思い出と共にある筈だった。

「……ずっと考えてた」

ああ、でも――ここは過去じゃない。
確かなイマなんだ。

――記憶の中にしかない街の中心にて、彼女は俺を見上げている。

「……私が、キリトにしてあげられること。
 私の贖罪。私が――やるべきこと」

黒いセミロング・ヘアに、泣きぼくろ。
忘れられない彼女の顔。彼女だって本当はもう会えないはずだった。
でも、俺はこうして彼女と出会っている。
俺が生きていたイマで、そして彼女にはなかった筈の未来で。

「――私ね、死にたくなかったんだ」

その言葉を俺は知っている。
あの時も、アインクラッドでも彼女は同じことを言った。
そして続けた。一緒に逃げないか、と。
俺はあの時、無責任な嘘しかつけなくて――

「だからキリトと一緒にいたかった。守るって言ってくれたキリトと一緒に生きていたかった。
 でも――たぶんそれはもう許されないんだろうと思った。
 だって私はキリトを――殺しちゃったから」

そう言って彼女は、少しだけ、顔を歪めた。
笑っている訳でもなく、悲しんでいる訳でもない。歪な顔をして。
その顔を見た瞬間、俺の胸に冷たい痛みが走った。そこは、あの時サチに刺された場所だった。


441 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:08:20 bv/1/5ss0

「あの時、あの森でキリトが死んじゃうと思ったから。
 訳の分からない“死”がやってきて、キリトを奪って言ってしまうと、そう思ったから。
 それが怖かった。だから――キリトが死んでしまう前に、私が殺そうとした。
 変な、話だよね。訳が分からないと思う。自分でも、何がしたかったのか分からない。
 でも――でも、何も見えない“死”に引きずりこまれるくらいなら、いっそ私のものにしてしまいたかった――キリトの“死”を」

その言葉に対し、俺は何と答えればいいのか分からなかった。
あの時みたいに、適当な嘘で取り繕うことなどできはしない。
しかし――じゃあ俺にとっての真実とは一体なんだ。
俺は何と思っていた。彼女に会い、彼女をどう救おうと思っていた。

――俺はサチに何を告げるべきなのか。

分からなかった。分からないままの俺を置き去りにして、サチは語っていく。

「あの子に、ヘレンに身体を任せている間だって、ずっと考えていたんだ。
 本当は全部見えていた。でも何も分からなかったから、何もかもから逃げたかったから、出てこなかった。
 でも――私、選んだよ」

サチはそこで手を広げた。
そして街を示す。タフト。かつてあった筈の過去の街を、取り戻せない思い出の街を。

「――ねぇ、キリト。一緒に逃げようよ」

そして、サチはそう言った。

「私は死ぬことが怖かった。怖くて怖くて逃げたくて――仕方がなかった。 
 でも、“死”は何時か来るもので、しかも私は――生きることなんて許されていない。
 でも、だから、一緒に逃げようよ、キリト。デスゲームとか、“死”とか、そんなことが届かないくらい、遠い場所へ」

サチの身体から、徐々に何かがこぼれ出してくる。
蠢く黒点。
オーヴァンが語ったその名は――AIDA。
電脳生命体たるそれは、サチの周りに寄り添うように出現している。

「ヘレンは私の言葉を分かってくれた。
 私の死の恐怖を理解してくれた。
 だから分かり合えた。この子も怖くて、逃げ出したかったから。
 知ってる? AIDAって、みんな苦しんでるんだよ。
 トライエッジっていう怖い子に、みんな怯えて、苦しんでいる。
 この子も……私と一緒なんだ」

だから協力してくれた。
サチはそう言った。ヘレンと呼んだAIDAと共に、彼女はこの街の中心にいる。

「――ここは私が初めて“死”を忘れることができた場所。
 キリトと出会って、死なないって約束してくれて――それがただの言葉でしかないと知っていたのに――それでも安心できた街。
 私の記憶からヘレンが創ってくれた、何物も届かない過去の中」

サチはそう言って――俺に手を差し延ばした。

「ここで一緒に暮らそう? キリト。
 あの時、あの頃みたいに、一緒にこの街で生きていこう。
 何もかも忘れて、ずっと逃げ続けていよう?
 私、知ってる。何時か“死”は来ちゃうって。
 だから逃げる――何時か来る“死”の未来なんて拒み続ければいい」

からんからん、と音がした。
気付けば手に持っていた剣を、俺は離していた。
ああ、これが――

「これが私の贖罪。
 私がキリトにしてあげられること。
 未来が厭なら、一瞬のこの今を繰り返せばいい。
 今がつらいのなら、温かった過去をずっと思い出していればいい。
 そう思ったから、私はキリトに過去をあげる。あの嘘を本当にしてあげる――」

――サチの“選択”か。

それを理解した時、俺はどんな顔を浮かべていたのだろうか。
取り戻せない過去を、やり直したいと願った悔恨を、全てなかったことにできると言われて、俺は――


442 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:08:37 bv/1/5ss0








アナタは――オワリを探す人?






443 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:09:14 bv/1/5ss0



「……なるほど、過去の中と来たか」

――彼は、さも当然のようにその過去に立ち入ってきた。

ずん、と視界が揺れた。
サチに寄り添うAIDAが震えるように蠢く。
俺は、はっ、として、この過去に存在する筈のない闖入者を振り返った。

「……オーヴァン」

俺がそう呼びかけると、彼は口元を釣り上げた。
黒点の“爪”を身に宿した、長身のプレイヤ―。
この場における黒幕にして、俺とサチに深く関わった男は、この場にもやってきていた。

「すまないな、キリト。逢瀬を邪魔してしまって。
 だがここは一種のAIDAサーバー。この身ならばハッキングは容易い。
 まぁここでは俺は――招かねざる客のようだが」

言い終わるより早く、オーヴァンはその手に持った矛を振るっていた。
俺たちを傷つけるためではない。やってきた黒点を弾くためだった。
サチだ。
その身体よりこぼれ出したAIDAの群れがオーヴァンへ猛烈な勢いで襲い掛かっていた。
タフトの街を覆い尽くさんばかりの勢いであふれ出る黒点は、半狂乱の様相を示しながらオーヴァンに襲い掛かっている。

「……Triedgeがそんなにも怖いのかい? お嬢さん」
「――――」

オーヴァンは挑発的にそう言いながら、三つの刃を振るった。
大してサチのアバターを通して現れたAIDAが狂ったようにオーヴァンに襲い掛かる。その戦いを俺はどこか取り残された気分で見ているしかなかった。
AIDA――サチがヘレンと呼んでいたそれは、ぼこぼことその身を蠢かせながらもその身を見せる。
黒点の中からでてきたのは――半透明なボディをした、魚のような生物だった。
その光景にAIDAは生物である、という言葉を納得する。
確かにアレはプログラムなどではない。でなければあんなにも恐怖を見せる訳がない。

「――駄目。落ち着いて、ヘレン。
 怖いのは分かるけど、そのままじゃ、貴方はまた囚われてしまう――」

サチの身体から声が漏れた。
その声は、確かに俺の知るサチのもので、自分自身に呼びかけるような形で彼女は言う。
分かる。ヘレンの恐怖は分かるから――まるで赤子をあやす母のように彼女は言い続けている。

――ヘレンは私の言葉を分かってくれた。私の死の恐怖を理解してくれた。

同時にサチはヘレンの恐怖も理解していた。
そのあり方は、あの魔剣に囚われている節のあるアスナとは全く違うものだ。
彼女らはある種対等な形で、そのアバターに共生しているようだった。

「やはり、か。
 一度でもTriedgeから切り離されれば、AIDAは元の存在へと還りうる。
 ならば――」

襲いかかる黒点をいなしながら、オーヴァンは分析を口にしている。
その口調に迷いはなかった。彼は明らかに何かしらの目的を持っている。
それが何であるかは分からないが――しかし、既に“選択”を終えていることは分かった。

「――うん、分かってる、ヘレン。一緒にあの人を追い出そう。
 この過去は私とキリトだけのもの。
 ここでずっと暮らすためには、あの人はここにいちゃいけないから」

サチの言葉にも迷いはなかった。迷いなくヘレンに呼びかけ、オーヴァンに相対している。
ここで、終わった筈の過去でずっと暮らすこと。
それがサチの“選択”なのだ。
“死”を恐れた彼女が最後にそこに行き着いたのは、あるいは当然と言うべきなのか。

――では、俺はどうする。

過去を舞台にしたAIDA同士の戦闘を前に、俺は未だ決めかねていた。
俺はこの場で、何をすればいい。
探して求めていたサチに、何といえばいいのだ。
俺にとっての贖罪とは、“選択”とは、一体何なのだ。


444 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:09:32 bv/1/5ss0

「キリト、それでお前は何を選ぶ?」

その心情を見透かしたかのように、オーヴァンは声をかけてきた。
俺は心臓を鷲掴みにされたかのような気分になる。逃げ出したい。そんな想いすら過った。しかし、それでも俺は顔を上げた。

「ここはサチとAIDAが共生した結果、生み出された過去そのものだ
 AIDAの観察室、とでも言おうかね?
 サチの恐怖と安寧を永遠に観測できる場所として、この空間は設計されている」

オーヴァンは淡々と言葉を紡ぐ。選びきれない俺の背中を押すように。

「恐らくこの空間では意識の“加速”が行われている。
 VRバトルロワイアル内の時間が、体感的に全て止まるほどの加速が起きているのだろう。
 なるほど、死から逃げ続けるとは言い得て妙な話だ。
 確かにこの過去に留まり続けている限り、“死”という未来に到達するのは限りなく後回しにされる――」

過去。
それは“死の恐怖”に囚われ続けた彼女が、最後に行き着いた安寧の場所。
彼女は知っているのだ。死にたくない、なんて思っていても何時かは死んでしまうことを。
その恐怖への回答が、時を巻き戻し続けるという“選択”なのだ。

――それが間違っているだなんて、俺は言えない。

だって、そう――彼女は事実、未来で死んでいるのだ。
俺が歩んだ過去で、サチが歩めなかった未来で、彼女は命を落している。
赤鼻のトナカイ。サチの知らない未来。そこで月夜の黒猫団は全滅した。
俺はそれを知っている。だからこそ、過去に留まるという彼女の“選択”を否定できない。

――じゃあ俺は、ここに残るべきなのか?

サチと共に、この過去に残り続ける。
これが、この“選択”が、俺の答えでいいのか?

「……キリト」

オーヴァンはどういう訳か諭すような響きを持って言う。

「それでお前の“選択”はなんだ? 
 この場所に留まることか? もしそうならそのAIDAと共に、俺を討つといい」

……俺はその時不思議な心地で彼を見ていた。
オーヴァン。彼がやってきたことはとてもではないが許せることではない。
俺からしてみれば、奴は数多くのモノを奪ってきた。
だけどどういう訳だろう、AIDAを操りAIDAと戦う彼を見ていると、不思議と妙な共感も覚えてしまっていることに気づく。
まるで茅場へ抱いていたのように、俺は単純な悪として奴を割り切れていない節がある。

茅場が果てしない希望を抱いていたように、
オーヴァンは深い絶望をその目に宿しているように見えて――

「…………」

俺は――意を決して剣を抜いた。
青薔薇の剣。ヒースクリフから託され、奇妙にも手に馴染むこの剣を片手に、俺は彼らに相対する。
サチとオーヴァン。
彼らと俺が向き合わなければいけない。

「――サチ」

そう覚悟したからこそ、俺は彼女へと呼びかけた。
過去を謳うサチ/ヘレンはゆっくりとこちらに顔を向けてくる。

「俺、君に言っていないことがあるんだ」

その瞳に向き合い、俺は決然と口を開く――

「――俺は、君がもう死んだ未来から来た」

――かつて逃げてしまった言葉を、遂に俺は口にした。


445 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:10:01 bv/1/5ss0








「俺はもうアインクラッドをクリアしているんだ。
 君が死んでから、もう三年も時が経っている」

俺は、絞り出すように言った。

「俺たちはあのデスゲームから抜け出して、その先にあった現実に還っていった。
 それから学校に通って、馬鹿らしいことにまたゲームしてて、それで――」

俺は語った。
アインクラッド。ソードアート・オンラインの向こう側にあったことを。
この身体、アバターは変わっていなくとも――俺にとってサチはもう過去であることを。

「…………」

その言葉を、サチは何も言わず聞いていた。
表情一つ変えず、じい、と俺を眺めている。
ヘレンとオーヴァンが戦い続けている中、俺と彼女は二人で相対する。

「ごめん――本当は会った時に言うべきだったと思う。
 でも、言えなかった。あの時、俺は君に本当のことを何一つ告げることができなかった」

ビーターであることを隠していた、あの時のように。
俺はまたしてもサチを欺いていたのだ。

「その上で、俺は言うよ。
 ――ここで、この過去で生きていくことはできない」

と。

「俺は、俺にはこの過去だけが全てじゃない。全てじゃなくなってしまったんだ。
 あの時の俺なら受け入れていたかもしれない。
 でも今の俺は、君にとって未来の俺は――」

一人の少女の顔がフラッシュバックした。
アスナ。
ああ、今まさに苦しんでいるであろう彼女を置いて、この過去に留まるなんて“選択”は――

「――できないんだ、もう。
 君と一緒に、逃げ続けることなんて」

そう、俺は告げた。
ありうる筈のない出会いを受け入れて、その上で終った筈の過去を、本当に終わらせた。

「――――」

俺の“選択”を聞いて、サチは初めて表情を変えた。
恐る恐る俺はそれを窺う。

「……やっぱり、そうだよね」

……そこにあったのは、諦観だった。
俺の拒絶を前に彼女は僅かに顔を俯かせた。
その表情は寂しげで――それを見た時、きっと俺も、同じ顔をしていた。

それが――俺が選んだこの物語の“終わり”だった。

いや、本当は最初からもう終わっていたんだ。
俺にとってサチとの物語のは、あの時に聞いた赤鼻のトナカイで幕を閉じている。
あの結末を迎えた俺が、もう一度物語を厚顔にもやり直すなんてことは、きっとできないし、許されない
だから告げなくてはいけなかった。
それからもう一度イマをやり直せばよかったんだ。

繋がっていないのなら、繋がり直せばいい。
ああ、本当に――それだけの話だったのに。
俺も、サチも、それくらい誰に言われるまでもなく察していたのに。
どうしてこう、ねじくれてしまったのか。


446 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:10:22 bv/1/5ss0

「うん、何となく、分かってた。
 キリトが、私の知っているキリトじゃないってこと。
 ここで初めて私と会った時、あの時から何となくそうなんじゃないかって思ってた。
 私――死ぬんだよね、やっぱり」

サチは静かに続ける。懐かしいあの声のまま、彼女はその想いを語るのだ。
あの時、あの物語の“終わり”においても、サチは俺がビーターであること、それを隠してギルドに潜り込んでいること、その両方を知っていた。
同じように、今回も見透かされていた。
そしてそれを、俺もどこか予期していた。
カタチこそ違えど、やはりこれは同じ“終わり”なのだ――

「……サチ、俺は」
「良いよ。言わないで。
 きっとこれは――どうしようもないことだったんだ」

そう言ってサチは歩き出す。
すれ違うように俺を置いて、どこかへ、手の届かない過去へと彼女は消えていく。

「おいでヘレン」

彼女が呼んだのは、同じ身体に共生しているAIDAの名だった。
途端、AIDAの黒点が彼女のアバターを取り巻いた。

「この場所にキリトはもういけないんでしょ?
 私にとっての未来に――キリトの大切なものがあるんだよね」

俺は振り向けず、けれども叫ぶように言った。

「でも、俺は君ともまたあの未来で――」
「無理、だよ。私はもうあそこには戻れない」

諦めの感情を滲ませながら、サチは続ける。

「私はもう、私だけじゃない。
 ヘレンがいる。この子の恐怖も理解してしまったから。
 あの場所に戻らない。戻りたくないって、強く想ってしまっている。
 この子と一緒に、あの人にも、キリトにも、絶対に届かない場所に逃げる。
 そういう“選択”をしてしまったから」

ヘレンはなおも狂ったようにオーヴァンを攻撃している。
ここから出ていけ、と身をよじる様は悲痛で、同時にそれはサチの想いの象徴でもある。

「だからもう、キリトの未来にはいけないよ。
 私はここにいる。でも、キリトのここは、過去にはないんだよね。
 ――だから、もうさよなら」

彼女の顔は見れなかった。
でも分かってしまった。彼女が泣いているだろうことを。
だってその声は――涙ぐんでいたから。
 
「何時かきっと、私も貴方の未来に追いつけるかな――」

ぽーん、と音がした。
再び視界が歪み、そして街が遠ざかっていく。
サチと過ごした街が、過ぎ去った思い出が、再び元の場所に戻っていく。

それはまるで夢から醒めるような感覚だった。
世界の輪郭が溶けていき、これまでずっと大切に思ってた物語が、しかし記憶のカタチを喪っていく。
俺は思わず叫んでいた。
けれどその叫びは、もう彼女には聞こえないだろう。

ただ最後に、サチのあの懐かしい笑顔が、過去からの贈り物のように浮かび上がっていた。


【サチ/ヘレン@ソードアート・オンライン&.hack//G.U. Endless......】


447 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:10:37 bv/1/5ss0









オーヴァンとしては、今回の成果は上々と言えた。
サチ。AIDAとの共生体とのサンプルとして目をつけていた彼女を、キリトと介して揺さぶる。
サチとキリトとの偶然の再会に対して、オーヴァンはそのような意味を与えた。

――Triedgeから切り離されたAIDAは、やはり結びついたシステムに適応しようとする。

結果として、オーヴァンはその確信を得たのだった。
サチに巣食ったAIDAは、サチを傷つけることなく、寧ろ相互理解に成功していたように見えた。
その事実は、オーヴァンの目的にとって重要な意味を持つ。

「――――」

それだけ冷静に考えつつ、オーヴァンはもはや自分にとって意味を喪った彼と対峙していた。
キリト。オーヴァンと共に戻ってきた彼は、失意に顔を俯かせている。

場所は、VRバトルロワイアル/日本エリア。
キリト、サチ、オーヴァンが再会した場所であり、そこではあの過去へと引きずりこまれる前と同じく戦闘が続いていた。
空では死神と魔剣の激突が、隣では英霊同士の激戦が、数多くの戦いがこの街で並行して行われている。
想定通り、あの空間での出来事は超加速状態――こちら側で全く時が進んでいない状態であった。

――だが、そこにサチはいない。

彼女だけは過去から戻ってきてはいなかった。
ヘレンと共に、データの海へと逃れたのだ。それが彼女の“選択”だった。
恐らくサチ/ヘレンが舞台に上がってくることは二度とあるまい。
彼女は二度と醒めない夢を見ることを選んだのだ。何時か来る物語の終焉を拒絶し、ただ過去に留まり続けることを選んだ。

「……俺は」

サチの居ない街で、キリトが口を開いた。

「俺は――戦う」

――決然と顔を上げた。

過去を再び喪い、この痛みに満ちたイマを選んだ彼は、それでも決然と剣を抜く。
片や禍々しくも力強い刃、片や青く美しい薔薇の剣。
二刀流。
そのコントラストは――過去と現在を対比しているかのようであった。

「――何時か来る。あの物語の“終わり”で、今度こそ彼女と再会するために」

AIDA、魔剣、サーヴァント、碑文、ありとあらゆる不条理が席巻するこの現実を前に、彼は迷いなくそう叫んだのだった。


448 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:10:58 bv/1/5ss0

[B-2/日本エリア/一日目・夕方]

【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP40%、MP40/50(=95%)、疲労(極大)、SAOアバター 、幸運上昇
[装備]: {虚空ノ幻、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、 青薔薇の剣?@ソードアート・オンライン
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1個(水系武器なし)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:――戦う。
0:アスナを追い、その“選択”を止める。
1:サチやユイ、それにみんなの為にも頑張りたい。
2:レンさんやクロウのことを、残された人達に伝える。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。

【フォルテ@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP15%、MP40/70
[装備]:{死ヲ刻ム影、ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:基本支給品一式、ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、ダッシュコンドル@ロックマンエグゼ3、黄泉返りの薬@.hack//G.U×2、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、マガジン×4@現実、不明支給品1〜2、アドミラルの不明支給品0〜2(武器以外)、ロールの不明支給品0〜1、基本支給品一式、ロープ@現実 不明支給品0〜1個、参加者名簿
[ポイント]:2120ポイント/4kill(+3)
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
1:アリーナへ向かう。
2:ショップをチェックし、HPを回復する手段を探す。
3:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
4:シルバー・クロウの使ったアビリティ(心意技)に強い興味。
5:キリトに対する強い苛立ち。
6:ロックマンを見つけたらこの手で仕留める。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※ゲットアビリティプログラムにより、以下のアビリティを獲得しました。
剣士(ブレイドユーザー)のジョブ設定 ・『翼』による飛行能力(バルムンク)
『成長』または『進化の可能性』(レン)・デュエルアバターの能力(アッシュ・ローラー)
“ソード”“シールド”(ブルース)・超感覚及び未来予測(ピンク)
各種モンスターの経験値
※参加者名簿を手に入れたのでロックマンがこの世界にいることを知りました。

【アスナ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:H悽譚・陦ィ遉コ縺(HP,MPはバグにより閲覧不可)、AIDA-PC(要・隔離)
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、{死銃の刺剣、ユウキの剣}@ソードアート・オンライン、クソみたいな世界@.hack//、{黄泉返りの薬×1、誘惑スル薔薇ノ滴@.hack//G.U.、不明支給品1〜4
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:この殺し合いを止める。危険人物は徹底的に排除。
1:アリスを追って、討つ。
2:殺し合いに乗っていない人物を探し出し、一緒に行動する。
3:魔剣の力を引き出して見せる。
[AIDA]<????>
[備考]
※参戦時期は9巻、キリトから留学についてきてほしいという誘いを受けた直後です。
※榊は何らかの方法で、ALOのデータを丸侭手に入れていると考えています。
※会場の上空が、透明な障壁で覆われている事に気づきました。 横についても同様であると考えています。
※トリニティと互いの世界について情報を交換しました。
 その結果、自分達が異世界から来たのではないかと考えています。
※AIDA-PCとして自覚しました。G.U.原作の太白のようにある程度魔剣を自発的に使い、制御できます。


449 : EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを” ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:11:14 bv/1/5ss0

【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP55%(+150)、データ欠損(小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、{男子学生服、赤の紋章}@Fate/EXTRA
[アイテム]:{女子学生服、桜の特製弁当}@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:ハセヲ及びシノン、キリト、セグメントの捜索に向かう。
2:主催者たちのアウラへの対策及び、ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
5:せめて、サチの命だけは守りたい。
6:サチの暴走やありす達に気を付ける。
7:ヒースクリフや、危険人物を警戒する。
8:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
9:――――
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP95%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP80%、健康
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
 学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時(増加分なし)でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと3分程度です。
※アーチャーとの契約が一時解除されたことで、岸波白野の構成データが一部欠損しました。
※エージェント・スミスに上書きされかかった影響により、データの欠損が進行しました。
 またその欠損個所にデータの一部が入り込み、修復不可能となっています(そのデータから浸食されることはありません)。

【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP70%、PP100%
[装備]:銃剣・白浪@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、{静カナル緑ノ園、DG-Y(8/8発)、逃煙球×1}@.hack//G.U.、{邪眼剣、スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、{マグナム2[B]、バリアブルソード[B]、ムラマサブレード[M] 、サイトバッチ}@ロックマンエグゼ3、{インビンシブル(大破)、サフラン・アーマー}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、不明支給品1〜12、レアアイテム(詳細不明)、付近をマッピングしたメモ
[ポイント]:300ポイント/1kill(+2)
[思考]
基本:“真実”を知る。
1:利用できるものは全て利用する。
2:トワイスと<Glunwald>の反旗を警戒。
3:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
4:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です
※サチからSAOに関する情報を得ました
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています
※ウイルスの存在そのものを疑っています
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。


450 : ◆7ediZa7/Ag :2016/02/15(月) 08:11:34 bv/1/5ss0
投下終了です。


451 : 名無しさん :2016/02/15(月) 18:42:18 B5ZceJYY0
投下乙です!
強い因縁や絆で結ばれた者達が再会し、そして悲しくも綺麗な結末を迎えるとは……
ラニやバーサーカーの最期。そしてサチの『Endless』の表記がまた切ないです……
オワリの後にはまた一つの戦いが。こちらも一体どうなるか……?


452 : 名無しさん :2016/02/15(月) 23:57:28 tH7WgnAs0
投下乙でしたー


>対主催生徒会活動日誌・17ページ目(贖罪編)
キリトとサチの間で起こった事件からの、サチヘレンとの和解
AI組の別行動、白野とヘレンによる探索の開始
そして揺れるジロー……絶対包囲直後であるからこそ、色々と動きが出てくるなあ


>三番目のアリス
榊がオーヴァンと相対しているタイミングでトワイスとまみえるか……
“彼女”の登場も含め、書き出された情報量が多く、次の展開がどう繋がっていくか


>EXE.Endless, Xanadu, Engaging“再会”
>EXE.Endless, Xanadu, Engaging“胸に抱えたままの――”
>EXE.Endless, Xanadu, Engaging“黒い猫に結末/オワリを”
再会からの衝突、そして各々に訪れる結末と、続く戦い
ラニは白野と、サチはキリトと共に終わりを迎えたかったのだろうけど……お疲れ様でした


453 : 名無しさん :2016/02/16(火) 00:00:14 HxfDx3bI0
以下、数作分ですが気になった箇所です


>>404
ゲームはゲームは成立していなくては

>>412
このゲームにに置いては

>>413
優勝するつもりにいる
→「つもりで」?

>>414
弾幕を張ることによる
→「張ることにより」?

>>425
あの人にそう告げた。。

>>429
分からっているからこそ

>>430
その末に滅びるっもの。

>>431
そこに道鏡する
→「同居する」?

>>441
キリトを奪って言ってしまうと
→「いってしまうと」?

>「EXE.Endless, Xanadu, Engaging」三部作全体
「ラニ=Ⅷ」が「ラニⅧ」となっている


454 : ◆7ediZa7/Ag :2016/02/16(火) 06:44:23 5653QICc0
指摘感謝&了解です。収録の際に直しておきます。


455 : <削除> :<削除>
<削除>


456 : <削除> :<削除>
<削除>


457 : <削除> :<削除>
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458 : 名無しさん :2016/03/14(月) 18:18:48 JpozHDpE0
予約が来ました!


459 : <削除> :<削除>
<削除>


460 : 名無しさん :2016/03/15(火) 22:24:34 bHSYElTY0
月報の時期なので集計を
ミスがあったら指摘をお願いします
116話(+ 4) 25/55 (- 2) 45.4 (- 3.7)


461 : ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:43:49 U/JD4aHA0
ではこれより、予約分の投下を開始します。


462 : critical phase ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:44:50 U/JD4aHA0


     1◆


「っ…………」
 右手に虚空ノ幻を、左手に青薔薇の剣を構え、オーヴァンと相対する。
「ふ――――」
 対するオーヴァンは、悠然とした態度で俺を待ち構えていた。

 奴の強さは、すでに思い知っている。
 こちらが二刀流なのに対し、相手は歪な三刀流。攻撃の手数においてはあちらが上回っている。
 加えて厄介なのは、奴を支援するオブジェクトの存在だ。あれが召喚されれば、それだけで戦況は不利になる。
 オブジェクトがあの二種だけとも思えない。闇雲に攻撃したところで、先ほどと同じようにあしらわれるだけだろう。

 ……だが、そう時間をかけている余裕はない。
 上空ではアスナがフォルテと戦っている。
 あの魔剣を使っている以上、勝っても負けても、アスナはあの魔剣に更に侵食されることになる。
 だからその前に、無理やりにでも戦いを終わらせる必要があった。

 そのためには、オーヴァンを完全に上回る必要がある。
 それはほんの一瞬でもいい。今俺が優先するべきなのは、何よりもアスナだ。
 たとえオーヴァンを、フォルテを倒したところで、アスナが止められなければ意味がない。
 故に、その一瞬を得るためにメニューを呼び出し、

「む」
「なっ!?」

 激しい衝撃音とともに上空から叩き付けられた人物によって、その行動を阻害された。
「ッッ………!」
 舞い上がった粉塵から、その人物――アスナが飛び出す。

「アスナ!」
 思わず彼女へと叫ぶように呼び掛ける。
 空で一体何があったのか。黒く浸食された彼女の右手からは、あのAIDAの魔剣が失われていた。

      §

「はあああッ!」
「チィッ――!」
 黒く染まった翅から燐光の代わりに黒泡を散らし、飛翔する勢いのままフォルテへと魔剣を振り抜く。
 対するフォルテはその一撃を、今度は避けずシールドで受け止め、その衝撃を利用して私から距離をとる。
 魔剣の無敵と妖精の翅による突破力を前に、あのまま逃げに徹していても勝機はないと判断したのだろう。
 同時にフォルテは、左腕をシールドからバスターへと変化させ、出現した銃口を私へと突きつけてくる。

「ッ……!?」
 間髪入れず放たれた光弾を咄嗟に回避し、その場から飛び退く。
 たとえ無敵化の能力を発揮せずとも、この魔剣を装備している限り私には魔法攻撃は効かない。
 だがフォルテの放った光弾は魔法ではなくGGOでの光銃のようなものらしく、無効化することは出来ないのだ。

 結果、光弾の幾つかは躱しきれず、体を掠めダメージを受ける。が、大した問題ではない。
 即座に魔剣の能力を発動させ、再びフォルテへと魔剣の切っ先を突き付け引き金を引く。
 だが放たれた黒い閃光を、フォルテは大鎌を腰駄目から引き抜くと同時に打ち払った。

「っ!?」
 その光景に、ほんの一瞬だが目を疑う。
 音速を超えて飛来する銃撃を弾くなんて真似は、私が知る限りではキリトにしかできないことだったからだ。
 ……だが、そんなことはどうでもいい。
 今のが偶然でも意図的でも、距離を詰めてしまえば関係ない。
 即座に黒い翅を広げ、黒泡とともにフォルテへと接近する。
 この世界は狭い。たとえどこに逃げようと、いずれは必ず逃げ場がなくなるのだから。

 ――だが、そんな私の予想に反して、フォルテは距離を摂ろうとはしなかった。

「っ、舐めんじゃ―――!」
 湧き上がる怒りと共に魔剣を振り抜く。
 フォルテはすでに魔剣の減速効果範囲内。防御も回避も間に合う事はない。
「なっ……!?」
 だがその一撃は、突如としてフォルテの体を覆った黄色のオーラによって阻まれた。


463 : critical phase ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:45:21 U/JD4aHA0

「アースブレイカー」
 直後、フォルテのそんな呟きとともに、いつの間にかその左手に集束していたエネルギーが炸裂した。
「っ………!」
 無敵効果はまだ続いている。たとえどれ程の威力の攻撃だろうと、ダメージを受けることはない。
 だが、その衝撃までは無効化できない。
 結果私は、フォルテの一撃によって大きく弾き飛ばされることとなった。

「通常攻撃程度なら、今のオーラでも十分防げるようだな」
「っ、だったら――――!」
 そう呟くフォルテへと魔剣を突き付け、再び黒い閃光を放つ。
 通常攻撃なら防げるとフォルテは言った。
 おそらくあのオーラは、一定値以下のダメージを無効化する類のものなのだろう。
 だが魔剣の力で増幅されたこの銃撃は、通常攻撃とは段違いに強力だ。
 フォルテのあのオーラでも、防ぐことは出来ないだろう。

「ハァ――ッ!」
 だがその一撃を、フォルテはまたも大鎌で打ち消した。
 迎撃するという事は、攻撃が有効だという事だ。
 しかしその攻撃が、こうも容易く防がれた。
「このっ……!」
 その事実を否定するために、二度、三度と繰り返し閃光を放つ。
 だがフォルテは、その全てを大鎌によって防いで見せた。

「ようやく最適化され始めたか」
 フォルテは大鎌を軽く払うと、何かを確かめる様にそう呟く。
 最適化され始めた? それは一体どういう意味なのか。
 そんな疑問が私の思考に過り、その間にフォルテが次の行動へと移る。

「ついでだ。試してみるか」
 その言葉と同時に、フォルテの腰に新たな武器が装着される。
 カテゴリは直刀。つまりは近接タイプの武器だ。
 だがフォルテは直刀を抜かず、大鎌を手に私へと急接近してきた。

 魔剣の無敵効果は―――すでに解けている。
 フォルテのバスターを考えれば、再発動している間もない。
 私は魔剣を風車のように振り回して体を捻り、締めの反転する勢いのをせた一撃に黒泡を収束させ、フォルテへと迎撃を行う。
 大剣カテゴリのアーツで例えるなら、《骨破砕》。以前使った《伏虎跳撃》と同じ、銃剣カテゴリの武器手は使えないはずのスキルだ。
 その、堅い鎧を纏う敵に有効な、守りを砕く特性を持った一撃は、しかし。

「ッ……!?」
 下段から振り上げられた大鎌によって弾かれ、フォルテの体を掠めることなく空振った。
 完璧なタイミングで魔剣の側面へと打ち据えられ、斬撃の軌道が大きく逸れてしまったのだ。
 その事実に驚愕する間もなく、続いて向けられた銃口から逃れるように、素早く回避行動へと移る。
「っ――!?」
 だが直後に放たれた光弾は、まるで狙い澄ましたかのように私の回避先を撃ち抜いていた。

 咄嗟に旋回することで光弾へと対処し、その勢いを乗せて再び魔剣を突き出し、アーツを発動する。
 繰り出したアーツの名は《初伝・鎧断》。《骨破砕》と同じく、硬殻特攻特性を持った一撃だ。
 だがフォルテは大鎌を旋回させ、またも容易くその一撃を受け流した。

「しま――っ!」
 刺突の勢いを完全に流され、体勢が崩れる。
 同時にフォルテの左手にエネルギーが集束し、回避する間もなく炸裂した。
 咄嗟に魔剣を盾にすることで直撃は防ぐが、その視力に大きく弾き飛ばされる。

「くっ、つぁ……ッ!」
 体中を走る激痛に、堪らず顔を顰める。
 ダメージは―――わからない。いやそもそも、そんなことはどうでもいい。
 重要なのは、自分がまだ生きているという事と、フォルテがまだ死んでないという事だけだ。

 どういう理由かは知らないが、フォルテはこちらの動きを完全に予測している。
 加えてあの黄色のオーラの効果で、生半可な攻撃は通用しなくなっている。
 そのせいで私の攻撃は威力を出すために大降りになって、余計に攻撃の予測を容易くさせてしまっている。
 このまま攻撃したところで先手を取られ翻弄されるのがオチだろう。

 ………ならばどうすればいい。

 簡単だ。フォルテの対処能力を超える一撃を繰り出せばいい。
 どんなに攻撃が予測できたところで、対処できなければ意味がない。


464 : critical phase ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:45:53 U/JD4aHA0

「……これでも」
 魔剣の銃口を突き付け、黒泡を収束させる。
 先ほどまでの銃撃が銃剣アーツの《雷光閃弾》だとすれば、これから放つのはその上位スキル、《轟雷爆閃弾》だ。
 このスキルも硬殻特攻特性を持ち、威力も当然さっきまでよりも上。大鎌による迎撃程度で防ぎ切れる筈がない。

「くらえ―――ッ!!」
 そう叫ぶと同時に引き金を引き絞り、魔剣から黒い極光を放つ。
 対するフォルテは静かにこちらへと左手を突き出し、

「防御用バトルチップ、《――――――――》………スロットイン」

 黒色の轟雷に飲み込まれ、爆煙がその周囲を覆いつくした。

「ハァ……ハァ……、これなら――――」
 フォルテは防御はおろか、迎撃も、回避もした様子はなかった。
 たとえまだ生きていたとしても、あのオーラを打ち破り、大ダメージを与えられたはずだ。
 それを確かめるために爆煙の内側へと目を凝らし、

「………そんな………うそよ…………っ」

 爆煙が晴れるとともに露わになった、無傷のままのフォルテを視認した。

「―――《ダークネスオーラ》。
 なるほど、悪くない性能だ。これならば、あの手のスキル以外で打ち消されることはまずないだろう」
 そう呟くフォルテの体は、先ほどまでと違い、黒白のオーラに包まれていた。
 そして突き出されたその左手には、一枚のチップが握られていた。


 《ダークネスオーラ》。
 それは、闇の力のオーラにより、ダメージが300より低い攻撃すべてを無効する、脅威のバトルチップだ。
 しかしその代わりにか、効果時間が通常のオーラの半分の15秒程度しかないという欠点を持つ。

 そしてこのバトルチップは、実はアッシュ・ローラーに支給されていたバトルチップである《ドリームオーラ》が元となっていた。
 つまりフォルテの《ダークネスオーラ》は、フォルテがアッシュをキルした際に、【幸運の街】のイベント効果によりランクアップし、さらに【ゆらめきの虹鱗】の効果によってそのストレージへと直接ドロップしたものなのだ。


「効果時間が短いことこそ欠点だが、それも取り込んでしまえば関係ない」
 フォルテはそう呟くと、《ダークネスオーラ》のチップを握り潰し、そのデータを吸収した。
 ゲットアビリティプログラムによって、自身の能力である《オーラ》を《ダークネスオーラ》へとエクステンドさせたのだ。
 これにより、事実上《ダークネスオーラ》の効果時間は無限となった。
 チップを破壊した代償として《ダークネスオーラ》が解除されてしまったが、それも時間が経てば復活する。

「あとは、お前を破壊しそのデータを奪うだけだ」
 フォルテはそう言って、大鎌の先端を私へと突きつけた。
 もはやお前は敵ではないと、今握り潰したチップと同じ、ただの糧でしかないと言っているのだ。

「ッッッ……! 舐めるなあッ―――!」
 その事実に叫び声を上げ、魔剣の能力を開放し、激情と共にフォルテへと突進する。
 対するフォルテは、大鎌の装備を解除し、直刀の柄へとその手を添える。

 フォルテに勝てないなんて嘘だ。
 PKを倒せないなんて認められない。
 この魔剣が通用しないなんてことは、絶対にありえない―――!

「ああああああああッッッッ――――!!!!」
 黒泡を魔剣へと収束させ、大剣上位アーツ《奥義・甲冑割》を発動する。
 フォルテはすでに減速効果範囲内。無敵効果も発動し、反撃も通用しない。
 これで勝てないはずが、負けるはずがない――――のに。

「ハアァ――――ッッッ!!!!」
 フォルテは減速効果を受けたまま、その直刀を一閃し、完璧に私の一撃を迎撃して見せたのだ。

「ッァ………………!!!!」
 魔剣の無敵効果により、やはりダメージは受けない。
 だがその衝撃に、私は一瞬意識を失い、そのまま地面へと叩き付けられた。
 それにより目を覚まし、即座に大きく飛び退く。
 そして、そこでふと違和感に気が付いた。

 あれほど手に馴染んでいた、自分の手と一体化していたようにすら感じられた私の魔剣が、私の手から失われていたことに。
 あの想像を絶するダメージを齎したはずの一撃によって、魔剣を手放してしまったのだ。

 すぐさま周囲を見渡し、私の魔剣を探す。
「探し物はこれかい、お嬢さん?」
 その声に振り返れば、そこには私の魔剣を手にした男の姿。


465 : critical phase ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:46:19 U/JD4aHA0

「返し、ッ……!?」
「どこを見ている」
 即座にその男へと詰め寄ろうとして、頭上から聞こえた声に咄嗟に飛び退く。
 直後、私のいた地点にフォルテの振るう直刀が突き立った。

「邪魔をっ……!」
 するな。と代わりの武器となるユウキの剣を取り出し、
「え?」
 ユウキの剣が、あっさりと私の手をすり抜け、地面を転がっていった。

「アスナ、避けろ!」
 その声に、反射的に上半身を仰け反らせる。
 直後、フォルテの直刀が、私の鼻先を掠めて行った。
 即座のバク天の要領でその場から飛び退き、距離をとる。
 そして体勢を立て直すために右手を地面につき、
「っあ……!?」
 そのまま地面へと倒れ伏してしまった。

「フン」
「させるか!」
 そんな隙だらけの私へとフォルテがバスターを発射し、キリト君が立ちはだかって光弾を打ち落とす。
 だけど私には、その光景が意識に入ってこなかった。

「そんな……どうして?」
 右手の感覚が、まったく無くなっていた。
 それは麻痺なんてレベルではない。ただの麻痺なら、鈍い感覚が残っているはずだ。
 けれど私の右手は、力を込めても、何かに触れさせても、何の感覚も返してこなかった。
 それこそまるで、右手そのものが無くなってしまったかのように。

「なるほど。どうやら、随分とこいつに喰われているようだね」
「喰われて……?」
 私の魔剣を持った男の言葉に、戸惑いが浮かぶ。
 魔剣に喰われた。それは一体どういう意味なのか。
 その言い方ではまるで、右手の感覚の喪失は、私の魔剣が原因のようではないか。

「アスナ、大丈夫か! 一体どうしたんだ!?」
 その呼びかけに、ようやくキリト君へと意識が向く。
 彼はGGOの時のアバターになって、フォルテから私を庇っていた。
 その姿を見て、なぜ彼が私を庇っているのかを考え、

「キリト君……わ、わたし………」
 それでようやく気が付いた。
 私はキリト君と一緒にフォルテと戦っていたはずなのに、途中から私一人でフォルテと戦っていたという事に。
 キリト君を置き去りにしてしまったのか。それともあの男に邪魔されていたのか。それはわからない。
 問題なのは、私がそのことに、まったく気が付いていなかったという事。

 PKは許せない。
 アリスはトリニティさんを、フォルテはユウキを殺した。
 こんなデスゲームを企画した榊はもちろん、デスゲームに乗ったPKは絶対に倒さなきゃいけない存在だ。
 けどそれは、PKからキリト君を、デスゲームに乗ってない他の人たちを守るためだったはずだ。
 なのにいつの間にか、彼の事よりもフォルテ(PK)を倒すことの方が大切になっていたのだ。

 原因はもうわかっている。
 私が使っていた、あの魔剣だ。
 私はあの魔剣の力に溺れて、囚われ、一つの事しか見えなくなっていたのだ。
 その結果が、これ。
 あの男の言った通り、私の右手は、あの魔剣に“持っていかれて”しまったのだ。

「ごめん……なさい……」
 堪らず、嗚咽が零れる。
 魔剣を手放したことによって、怒りに囚われていた感情が、本来の情動を取り戻したのだ。
 けれどもう、取り返しはつかない。
 今更に湧き上がる後悔に、左目から涙が零れだす。

 私は団長を、殺してしまった。
 あの人も私を止めようとしてくれていたのに、それを信じられなかった。
 もしかしたらあの猫型PCだって、何らかの理由でアリスに同行していただけで、PKではなかったかもしれないのだ。
 それに体の異常は右手だけではない。右目は見えず、翅も脚も感覚が鈍い。零れ落ちる涙は、左目からだけ。
 魔剣に侵食されていた個所すべてが、明らかな異常をきたしていた。
 もう剣を手に、彼と一緒に戦う事もできない。

 だから、それが辛かった。
 キリト君はこうなる前に、私を止めようとしてくれていたのに。
 私がそれを、切り捨ててしまったのだ。

「ごめんなさい、キリト君……ごめんなさい……ごめんなさい――っ!」
 繰り言のように、謝罪の言葉を口にする。
 キリト君はまだ戦っている。戦えないのなら、この場から離れるべきだとも理解している。
 けれど私は、逃げ出すこともできず、こうして彼に謝ることしかできなかった。


466 : critical phase ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:46:51 U/JD4aHA0

      §

「アスナ……」

 ごめんなさい、アスナは口にした。
 そう泣きじゃくる彼女からは、先ほどまでの狂気は感じられない。
 魔剣を手放したためだろう。
 姿は戻らずとも、ようやくいつもの彼女が戻ってきてくれたのだ。
 ああ。その事だけは、フォルテに感謝してもいいかもしれない。

「謝らなくていい、アスナ。謝るとしたら、それはむしろ俺の方だ」
 俺がもっとしっかりしていれば、アスナはこんなことにはならなかったかもしれない。
 レンさんの事も、シルバー・クロウやヒースクリフ、サチのことだって、どうにかできていたかもしれないのだ。
 そうならなかったのは、俺が弱かったから。
 半端な覚悟のまま、みんなを守るなんて口にしたからだ。

「けれど、もう大丈夫だ。あとは俺に任せて、そこで休んでいてくれ」
 やるべき事ははっきりしている。
 フォルテを倒し、オーヴァンを倒して、魔剣を破壊する。
 魔剣を手放したことでアスナは正気に戻った。
 ならばあの魔剣を破壊すれば、その姿も元に戻るかもしれない。
 いや、たとえ戻らなくたって、今度こそ、俺が彼女を守ってみせる。

「さあ、さっさと続けようぜ。
 どっちからくるんだ? 別に二人掛かりでも、俺は構わないぞ」
 両手に剣を構え、眼前の敵を挑発する。

 正直に言えば、二人掛かりでこられたら勝ち目はない。
 片方だけでも持て余しているのだから、それは当然だ。
 だがそうはならない確信がある。
 理由は知らないが、フォルテは人間を敵視している。
 そんなあいつが、この有利な状況で、まともにオーヴァンと協力するはずがないからだ。
 必ずどちらか一方だけが向かってくるか、すくなくとも三つ巴の状況となるはずだ。

「……アイツは俺の獲物だ。手出しすれば、キサマも殺す」
「そうか、なら好きにするといい。君とは逆に、彼にはもう用がないからね」
「フン」
 そんなやり取りの後、フォルテが前に出て、オーヴァンは後ろへと下がる。
 予想通りの状態。これならばまだ勝機はある。

「……………………」
 半身に構え、フォルテと相対する。
 アスナを庇うために、アバターはGGOのものとなっている。
 つまりソードスキルを使うためには、SAOかALOのアバターへと変える必要がある。

「――――――――」
 対するフォルテは直刀を鞘に納め、右腕にソードを、左腕にシールドを展開する。
 バスターを使用しないのは、この姿(アバター)の俺には通用しないことを理解しているからか。
 いずれにせよ、あいつは奪い取ったブルースの力を使い、接近戦を挑むつもりなのだろう。

 ――――残された勝機。
 それは、ここから少し離れた場所で戦っているプレイヤーたちの存在だ。
 彼らの関係は、俺にはわからない。
 だがあの状態だったサチと同行していたのなら、彼女の仲間であった可能性は高いだろう。
 ならば彼らの決着がつくまで耐え凌げば、この状況を覆せるかもしれない。

 なんて打算を、頭から追い出す。
 敵はフォルテだけではない。あとにはオーヴァンも控えている。
 そもそも彼らだって、サチの味方だったほうが勝てるかは判らないのだ。
 どちらも俺自身が倒すつもりでいかなければ、アスナとともに生き残ることなどできやしない。
 俺は静かに、小さく呼吸を整え、

「はああああああああッッ――――!!!」

 裂帛の気合とともに、渾身の力でフォルテへと踏み込んだ。


     2◆◆


 フォルテへと向かって距離を詰め、右手の魔剣を振り被る。
 いくらブルースの能力を奪ったとはいえ、その技量までは奪えるはずがない。
 攻勢を保ち、二刀を以て攻め続けていれば、いつか必ず隙が生まれるはずだ。
 故にそこに、そこに渾身のソードスキルを叩き込む。

「バトルチップ――《ダッシュコンドル》」
 不意に放たれたフォルテの呟き。
 その直後、眼前にシールドを構え、フォルテが高速で突進してきた。

「ガッ―――!?」
 咄嗟にその場から飛び退き、同時に剣を交差させ《クロス・ブロック》の形で衝撃を防ぐ。
 が、その防御諸共に容易く弾き飛ばされ、残り四割のHPが三割にまで削り取られる。
 いくらソードスキルによる防御でなかったとはいえ、この突破力。
 おそらく、防御を無効化する貫通属性の付与された攻撃スキルだったのだろう。


467 : critical phase ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:47:18 U/JD4aHA0

 だが、何よりもまずいのは、先手を取られたこと。
 地面に打ち付けられる寸前に受け身を取り、背後へと振り向きざまに魔剣を振るう。
 剣戟が響き、火花が散る。
 突進によって背後へと回り込んだフォルテが、右腕のソードで切りかかっていたのだ。

「はあ―――ッ!」
 即座に氷剣による追撃をかける。
 左下から掬い上げるような一閃。
 この一撃で牽制し、状態を五分にまで持っていく―――よりも早く、フォルテは俺の頭上を跳び越えていた。

「なっ!?」
 驚愕する間にも振るわれる、フォルテのソード。
 天地逆さのまま放たれたそれを、上体を仰け反らせギリギリのところで回避する。
 鼻先数ミリを掠めていく光刃。
 それによって崩れた体制を立て直す間も惜しみ、即座に飛び退いて距離をとる。
 対するフォルテも、当然着地と同時に追撃を仕掛けてくる。

「ッ……!」
「ハアッ!」
 立ち直る間もなく繰り出される剣と盾の連撃。
 俺は崩れた体制のまま、二振りの剣を以てフォルテを迎え撃った。

      §

「……キリト君……」
 フォルテと戦う彼の姿を見つめる。
 私を守るために、懸命に剣を振るうその姿を。

 フォルテは力こそ強力だが、剣士としては決して強くない。
 キリト君はもちろん、私にだって及ばない。同じように剣と盾で戦う団長とは、比べるべくもない。
 なのに、キリト君はまともな反撃ができないでいた。

 私の時と同じだ。
 どんな方法でかはわからないけど、フォルテはキリト君の動きを先読みしているのだ。
 だからこそ理解できてしまう。
 このままではキリト君は殺されてしまうと。

 キリト君は強い。
 きっとフォルテのあの先読みだって攻略してしまうだろう。
 そしてそれこそが危険なのだ。
 先読みを攻略され追い詰められた時、フォルテは必ずあの直刀を使う。
 けどキリト君だって、先読みの攻略にギリギリのはずだ。
 回避する余裕なんてない。
 追い詰めたフォルテを逃がさないためにも、直刀の一撃を受け流そうとするはずだ。

 その結果、死んでしまう。
 あの直刀は、魔剣の効果で無敵状態だった私を吹き飛ばすほどの威力を持っている。
 いくらキリト君でも、あれだけの破壊力を完璧に受け流すことなんてできるはずがない。
 接触によって生じる衝撃を少しでも受け流し損ねれば、それだけでキリト君は吹き飛ばされてしまうだろう。

 ……けれど、私にはどうすることもできない。
 剣を持って戦おうにも、私の体はロクに動かない。
 だというのに、私の持つ幾つかの武器、そのほとんどは剣なのだ。
 魔法を使って支援しようにも、二人の戦いはギリギリだ。
 半端な攻撃魔法ではキリト君を巻き込んでしまうし、回復魔法もあの直刀の前では無意味だ。
 それに何より、下手な行動をとれば、フォルテは私を敵として認識する。そうなれば、今の私では足手まといにしかならない。

「う、うう………」
 だから、何もできない。
 近くに駆け寄って一緒に戦いたいのに、この手は動かず、どうすることもできない。
 キリト君が頑張っているのに、キリト君に危機が迫っているのに、こうして見ている事しかできない。

 きっとこれは罰なのだ。
 魔剣に頼って、彼の想いを蔑ろにした罰。

「ごめんなさい……私の、せいで……」
 私のせいで、キリト君は死んでしまう。
 私にはもう、キリト君を助けることができない。
 ならばせめて、キリト君と一緒に、私もここで――――

 そう諦めかけた、その時だった。

『君は本当に、それでいいのかい……?』

 どこからか、そんな声が聞こえてきた。


468 : critical phase ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:47:41 U/JD4aHA0

      §

「ッ……!」
 振り下ろされたソードを、剣を交差して受け止める。
 激しい剣戟の間隙に生じた、一瞬の硬直。
 フォルテを弾き飛ばし、反撃に移るために、両腕に力を込める。

「チッ」
 それを察したのか。フォルテは舌打ちをしつつ、左腕のシールドをバスターへと換装、掃射してくる。
「―――!」
 咄嗟に飛び退き、体勢を立て直すためにフォルテから距離をとる。
 その着地の瞬間を狙い放たれる、スタン効果のある剣圧。

 着地からの回避は間に合わない。
 即座に氷剣で迎撃し、剣圧を打ち消す。
 直後。追撃してきたフォルテのソードを、着地と同時に魔剣で防ぐ。
 そこへ突き出される左手。そこに収束されたエネルギーが、間を置かずに炸裂した。

「ッ―――!」
 咄嗟にソードを受け流し、フォルテの背後へと回り込むことで回避する。
 即座にその背中へと氷剣で切りかかるが、直前で割り込んだシールドによって防がれる。
 同時に狙い澄ましたかのように振り下ろされる光刃。
 寸でのところで魔剣を振り抜き、頭上からの一撃を迎撃する。

「く―――!」
 弾き飛ばされる身体。
 その衝撃を利用して背後へと跳び退き、素早く体制を立て直して呼吸を整える。
 このまま続ける無為を悟ったか、それとも余裕の表れか、フォルテからの追撃はなかった。

「くそっ……」
 一体どういうことなのか。
 フォルテの近接戦闘能力は、ブルースの能力だけでは説明できない程に向上している。
 技量はない。
 予想通り、あいつの戦闘技術はブルースに遠く及ばない。相も変わらず、力押しの攻撃ばかりだ。

 ……だというのに、形勢を逆転できなかった。
 理由はわかっている。
 フォルテは常にこちらの先手を取ることで、その技量不足を補っていたのだ。

 だがどうやって。
 行動の先読み自体はおかしなことではない。
 ハイレベルなPvPの場合、そのステータス以上に、相手の攻撃を予測し上回ることが重要になる。
 だがそれは、それを可能とするのは、それだけの経験があってこそだ。
 フォルテにはそれがない。それはこれまでのヤツとの戦闘経験が証明している。
 そしてこの短時間で、俺を上回るほどの戦闘経験を積むことは不可能なはずだ。

 ―――ならば答えは一つ。
 フォルテの先読みは、何かしらの能力に他ならない。

 改めて十メートル先のフォルテを見据える。
 奴の姿は変わらない。両腕にソードとシールドを展開したまま、忌々しげに俺を睨み付けている。
 変わったことがあるとするならば、その腰に下げられた直刀か。
 今でこそソードで戦っているが、奴の武器は大鎌だったはずだ。
 それをわざわざ、抜きもしない直刀を装備している理由は何だ。
 あるいはあの武器こそが、先読み能力の正体か――――?

「……いや、あの武器は―――!」
 不意に、二つの事を思い出す。
 奴は言った。“あの森にいたオフィシャル共と同じように”と。
 あの森にいたのはブルースだけではない。彼に同行していたピンクもまた、あの森にいたはずだ。
 そしてあの直刀は、ピンクが装備していたはずのもの。
 それらが意味することは一つ。奴の先読み能力は、本来ピンクが持っていた能力だという事だ。

「そう言う、ことか……っ!」
 湧き上がる怒りを抑え、勤めて冷静さを保つ。
 ピンクが先読みを可能とする能力を持っており、その能力を奪ったのであれば、フォルテの先読みもおかしなことではない。
 ファンタジーエリアで戦っていた時に使わなかったのは、まだ能力の最適化が終わっていなかったからだろう。

 ―――で、あれば。
 奴の先読みを上回ることは、決して不可能なことではない。


469 : critical phase ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:48:20 U/JD4aHA0

 メニューを操作し、ある操作を完了する一歩手前で止める。
 勝機は一度きり。
 次の攻防で、この戦いは決着する。
 それ以上は、何をどうやったところで、俺の攻撃は通用しなくなる。

「――――――――」
 深呼吸を一つ。
 深く腰を落とし、両脚に力を込める。
「……………………」
 こちらの動きを見て取り、フォルテは両腕をバスターへと換装させる。
 無意味だと知っていながらバスターを使うのは、こちらの行動を限定させるためか。

 ――――関係ない。
 その懐へと潜り込むために、意識を奴へと集束させ、

「、うおおおおおおォォオオオ――――!!」

 咆哮とともに、脚に込めた力を爆発させ、地面を蹴り抜いた。

 直後、フォルテがバスターを構え、光弾を掃射する。
 放たれた光弾に先んじて視覚化される《弾道予測線(バレット・ライン)》。致命傷となるものだけを選別し、赤い輝線を二刀で繋ぐ。
 全身を掠め、刀身に弾かれる無数の光弾。
 その間隙を縫うように全身を螺旋回転させ、弾丸のように突進する。

 フォルテを剣の間合いに捉える。奴の両腕が、ブルースの装備に換装される。
 左下から氷剣を振り被り、奴目掛けて跳ね上させる。刃が届く、その寸前で割り込んでくるシールド。
 それを渾身の力で弾き飛ばし、体を時計回りに旋転させる。盾が弾かれた衝撃に、一拍遅れて振り落される光刃。
 慣性と重量を余さず乗せた魔剣を、左上から叩き付ける。打ち合う二つの刃が、周囲にいっそう激しい剣戟を響かせる。

 二刀流重突進技、《ダブル・サーキュラー》。
 敵の防御を崩し、無防備になった体を切り裂くこの技を、奴は防いだ。
 この瞬間。攻撃を防がれた俺は技の反動に硬直する――その直前、打ち合った剣を起点に、攻撃の勢いのまま奴の頭上を跳び越えた。

「チッ!」
 舌打ちをするフォルテ。
 振り向きざまに振りかぶられるソード。
 奴は先の焼き直しのように、着地の瞬間を狙い光剣に陽炎を纏わせる。

 奴を跳び越えると同時。メニュー操作を完了させる。
 一瞬の光に包まれるアバター。完全に切り替わるより早く、その魔法を詠唱する。
 呪文に呼応し、周囲に展開される魔法文字。奴の狙いは、こちらの予想通り。
 背中の翅を操作し、滞空時間を操作。地面に着地するより早く、その魔法を完成させる。
 瞬間。いくつもの爆発音とともに、漆黒の煙が周囲一帯を覆い尽した。

「なに!?」
 予測外のその現象に、フォルテは驚愕の声を上げ、その動作を停止させる。
 直後響き渡る、ジェットエンジンのような金属質のサウンド。
 視覚を封じられ、敵が視認できなくなったその状況に、フォルテは迎撃ではなく防御を選択する。
 そして予測された箇所へと即座にシールドを構え、黒煙を穿つように放たれた剣が、構えた盾に弾かれる音を聞いた。

 真紅の光を放つ剣は、シールドに阻まれその動きを停止させる。
 フォルテは即座に光剣を振り被り、反撃に移る。
 だがそれよりもなお早く、水色の光纏った刀身が、黒煙を切り裂く光景を視認した。
 響く剣戟。自身へと迫る剣を、咄嗟に振り下ろした刃が弾く。
 だが剣戟は止まない。弾かれた剣は水色の光を纏ったまま、再びフォルテへと振り抜かれる。

「チィッ……!」
 フォルテはソードだけでなくシールドも駆使し、続く三連撃を防御(パリィ)する。
 正方形の軌跡を描く剣戟。その衝撃に、黒煙が僅かに晴れる。
 その隙間から、右の魔剣を水色に輝かせるキリトの姿を垣間見る。

「舐める、なアアッッ―――!!」
 フォルテが咆哮を上げる。
 ぶつかり合う光剣と魔剣。フォルテにはもはや、キリトの姿を見ていない。
 黒煙に紛れたその姿からは、攻撃を完璧に予測することなど不可能だ。

 だが、それを防ぎきる。
 人知を超えた超感覚。圧倒的情報量による疑似的な未来予測が、視覚を封じられてなお飛来する剣閃を先見する。
 再び正方形の軌跡を残し、魔剣がシールドに弾かれる。
 そこに閃く氷剣。黄色に輝くその刃と、光剣が弾き合う。
 そして響き渡る、ジェットエンジンのような金属質のサウンド。真紅の光を放つその切っ先を、またもシールドで受け止めた。


470 : critical phase ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:48:51 U/JD4aHA0

(バケモノめ―――)
 自身の限界を超えた連撃を防ぎ切った敵に、内心で驚嘆と共に呟く。

 ――――《剣技連携(スキルコネクト)》。
 ソードスキルの使用により生じるはずの技後硬直(スキルディレイ)。それを新たなソードスキルで上書きするシステム外スキル。
 このスキルの成功率は五割以下。成功したとしても、通常は三回、良くて四回が限度だ。
 それを五回決めたというのに、フォルテはその全てを防ぎきって見せたのだ。これをバケモノと言わずなんという。

 ――――――だが。
 バケモノでなければ、限界を超えた意味がない―――!

「オオオオオオオオッッ!!!」
 地面を踏み締める脚に渾身の力を込め、今がに紅く輝く魔剣を一層強く押し込む。
「グ、ヌオオオッッ―――!!」
 フォルテも同様に地面を踏みしめ、弾き飛ばされそうになる身体を堪える。


 フォルテの先読み能力は確かに脅威だ。
 言ってしまえば、あらゆる攻撃に対応できる《弾道予測線(バレット・ライン)》のようなもの。
 フォルテのステータスが及ぶ限り、どんな攻撃も直撃させることは不可能に近い。
 いや、それどころか、迂闊に接近戦を挑めば痛烈なカウンターを受けるだけだろう。
 唯一の救いは、フォルテの剣の技量が不足している事だけだ。

 だが、そんな先読み能力にも欠点はある。
 一つは予測不可能な現象。
 フォルテは幻惑範囲魔法そのものには対処ができていなかった。
 おそらく発動前の魔法などの、“実体化していないモノ”の先読みは出来ないのだろう。
 そしてもう一つ。《バレット・ライン》は、あくまでも軌道の予測にしか過ぎないという事だ。
 フォルテの先読み可能範囲がどこまでかはわからない。
 だがこの一撃をこうしてシールドで防いだという事は、攻撃の威力までは予測できないという事だ―――!


「なにっ……!?」
 ビシッ、とシールドに奔った亀裂に、フォルテが驚愕の声を上げる。
 魔剣の切っ先はシールドの中心へと食い込み、もはや受け流すことは出来ない。
「これで―――!」
 そこへ止めとばかりに、魔剣に渾身の力を籠めより強く押し込む。


 俺とブルースが初めて遭遇した時、俺はブルースへと《ヴォーパルストライク》による不意打ちを叩き込んだ。
 その一撃はブルースのシールドに防がれたが、真芯を外していたにもかかわらず、大きな亀裂が奔っていたことを覚えている。
 であれば、その盾にもう一度《ヴォーパルストライク》を叩き込んでいたのなら、一体どうなっていたのか。
 そしてその答えは、ブルースのデータを吸収して得たフォルテのシールドであっても例外ではなく――――


「終わりだァ――――ッッ!!!」
 魔剣の切っ先を中心とした亀裂が広がり、黄色のシールドが砕け散る。
 フォルテを守る盾は失われ、光剣による迎撃は間に合わない。
 阻むものは何もない。
 紅く輝く切っ先が、フォルテの身体目掛けて突き出される。

 ALOアバターへの変更も、幻惑範囲魔法による煙幕も、限界を超えた《スキルコネクト》も、全てはこのため。
 奴の先読み能力による防御を誘発し、そのシールドに二度《ヴォーパルストライク》を叩き込み、打ち砕くための布石だったのだ。

「お、のれッ……!」
 フォルテの貌が悔しげに歪む。
 防ぐ手段がない以上、奴はここで終わる。
 躊躇いはない。そんな余裕はないし、これ以上奴に、誰を殺させるわけにはいかないからだ。

 そうして、魔剣の切っ先が奴の身体へと吸い込まれ、
 その口端に、小さく歪な笑みが浮かび、
 鮮血のように紅いエフェクトとともに、俺の腕に激しい衝撃が伝わった。


471 : courage ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:49:59 U/JD4aHA0


     4◆◆◆◆


「そん………な…………」
 その結果を前に、俺は茫然と呟く。
 目の前の光景が信じられない。いや、信じたくない。

「危なかったぞ、キリト。
 チップの発動があと僅かでも遅ければ、俺は貴様にデリートされていただろう。
 認めよう。貴様は間違いなく、俺が知る中で最も強い人間だ。
 ―――だが今度も、お前の剣は届かなかったな」

 歪な笑みを浮かべ、フォルテがそう嘲笑う。
 それが意味することは一つ。
 渾身の《ヴォーパルストライク》が、奴を倒せなかったという事。

 フォルテへと突き出された魔剣から、力が失われるかのように紅い光が消える。
 その切っ先は、奴の身体まであと数ミリというところで、黒白のオーラに阻まれその動きを止めていた。


 バトルチップ【フルカスタム】。
 本来は使った瞬間にカスタムゲージが満タンになるというものだが、このデスゲームにおいては、スキルに関するゲージなども該当する。
 その効果によってフォルテは、本来の待機時間を待たずしてオーラを復活させたのだ。

 キリトの《ヴォーパルストライク》を受け止めた瞬間、フォルテはその未来予測によって、その一撃を防ぎきれぬことを察した。
 そこでフォルテは次の一撃を防ぐために、キリトの魔剣と拮抗していたわずかな間に、《フルカスタム》を発動させた。
 キリトの攻撃に弾かれたのち、オーラによって次の一撃を無効化し、反撃を行おうと考えたのだ。
 無論、キリトのスキルを考えれば、オーラは即座に解除されるだろう。
 だがその一瞬の遅れさえあれば、反撃するには十分だった。

 想定外だったのは、シールドが砕かれたこと。
 ―――そう。
 あと少しシールドの破壊が早ければ、《フルカスタム》の発動は間に合わなかっただろう。
 あるいはフォルテのオーラが強化されていなければ、キリトの魔剣はそのオーラごとフォルテを貫いていたかもしれなかった。
 その明暗を分けたのは、キリトが想定していたブルースと、数多の力を吸収してきたフォルテとの“力”の差か。

 いずれにせよ、ここに勝敗は決した。
 スキルディレイにより、キリトは動くことができない。
 対するフォルテは、完全な自由。
 ソードによってその首を刎ねることも、アースブレイカーで体を四散させることも容易だ。

 ―――だが、それでは足りない。
 そのどちらかでは、初戦の時のように、ギリギリで躱される可能性がある。
 故に、完全に消し飛ばす。
 万が一などないほど、完膚なきまでに。


「終わりだ」
 その言葉とともにソートを解除し、フォルテは直刀へと右手を伸ばす。
「ッッ…………!!」
 背筋に悪寒が奔る。
 理由もなく、次の一撃が絶対的な死を齎すものであることを理解する。

 ―――動け。
 動けたところで間に合わない。
 ――――躱せ。
 掠っただけでも死に至る。
 ――――――――。
 目前に迫る死に、生存本能が悲鳴を上げる。

 鯉口を斬る刃。
 抜き放たれた刀身が、そのまま俺へと迫る。

 システムを超越(オーバーライド)する意志力。
 強引に短縮されるスキルディレイ。
 だが間に合わない。
 直刀の刃が俺を切り裂く、一秒後の光景が鮮明に浮かび上がる。

(――――アスナ)

 不意に視界に映る、栗色の髪をした少女の姿。
 見えるはずはない。周囲はまだ黒煙に包まれている。
 第一ALOアバターとなっている彼女の髪は水色だ。
 つまりは幻覚。まるで走馬灯のように、最愛の少女を幻視する。

(せめて、君だけでも――――)
 生き延びてくれ、と。
 そう願い、目を瞑って、迫り来る刃を受け入れ、
 直後、全身に襲いかかる激しい衝撃。
 それに振り回されるがまま、人形のように地面へと転げ落ちた。


472 : courage ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:50:25 U/JD4aHA0

 …………。

 ………………。

 ……………………。

「………………………………、あれ?」
 消え去らない意識に、首をかしげる。
 衝撃は強烈ではあったが、思っていたほどではなかった。
 それに痛みも、地面を転げ回ったことによるもののみだ。
 第一フォルテの攻撃が直撃したなら、生きていられるはずがない。
 なのにこうして考えることができるという事は。

「まだ生きてるのか、俺?」
 その疑問とともに、閉じていた瞼を開ける。
 先ほどの衝撃で黒煙が吹き飛ばされたのか、赤く染まり始めた空が視界に映る。
 空が見えるということは、つまりまだ生きているという事。
 それを理解すると同時に、発条のように上半身を跳ね起こす。
 そしてなぜ自分が生きているのかを確かめるために周囲を見渡し、その姿を見た。

「っ、キサマ……」
 苛立たしげに直刀を握るフォルテの姿と、

「あんたなんかに、キリト君は殺させない!」

 奴から俺を庇うように立ちはだかる、白い衣装を纏ったアスナを。

      §

 気が付けば、私は不思議な空間にいた。
 一切の光の見えない暗闇でありながら、自分の姿だけははっきりととらえることができた。
 だが、その姿もどこかおかしかった。
 純白と真紅で彩られたその騎士服は、懐かしい血盟騎士団の征衣だ。
 だが私は先ほどまでALOのアバターだったはずで、それも魔剣に大分浸食されていたはずだ。
 こんなよくわからない空間に、それもSAOの頃のアバターでいる理由は何なのか。
 そう首をかしげていると、またあの声が聞こえてきた。

「君は本当に、このままでいいと思っているのかい……?」

 再び投げ掛けられるその問い。
 今度は肉声のようなはっきりとした声。
 その声の方に振り返れば、そこには青い長髪をした長身痩躯の青年がいた。
 薔薇飾りのついた紫の帽子を被り、銀の軽鎧をあわせたその姿は、剣士というより騎士を連想させる。
 青年はまっすぐに、その中性的な眼差しを私へと向けている。

「あなたは?」
「花は光の中にこそ咲き誇るもの。闇に染まった徒花は散るのが宿命……。
 けど君は、闇に呑まれてなお小さな光を懐き続けていた……。
 その光を、君は諦めてしまうのかい……?」

 青年の言葉の意味は解らない。
 けれど、一つだけわかることもあった。
 私の中にある、小さな光。それはきっと、キリト君の事だ。
 彼は私に、キリト君の事を諦めるのか、と訊いているのだ。

「……いや。諦めたくない。このままでいいなんて思ってない!
 キリト君を助けたい。キリト君の隣で、一緒に戦っていたい。
 けど……」
 けど私には、もうどうする事もできない。
 戦う力は失われた。立ち上がる事すらもうできない。
 そんな私がいったい、彼のために何ができるというのか。

「君のために、たとえ世界を失うことがあっても、世界のために君を失いたくはない」
「え?」
 その言葉に俯いていた顔を上げれば、私と青年との間に、一振りの剣が突き立っていた。

「君が本当に彼を助けたいと願うのなら、ボクの――ボクたちの力を、君に貸そう……。
 その願い(あい)が本物なら、その剣を抜くことができるはずだ……」

「っ、……!」
 その言葉に反射的に立ち上がろうとして、躓いて座り込む。
 この姿になっても、私の感覚は失われたままだったのだ。
 けれど、それでももう一度、力の入らない脚に力を込めて立ち上がる。
 そして一歩ずつ、剣へと向けて歩き出す。

 この青年が誰かはわからない。
 彼の貸してくれるという力が、あの魔剣のようなものではないとも限らない。
 それでも、迷いはなかった。
 それでキリト君を助けることができるのなら、私はどうなっても構わなかった。

 ほんの数歩、ほんの数メートルの距離を、気力を振り絞って歩ききる。
 目の前には、薔薇の護拳の拵えが咲く、刀のような細身の剣。
 覚えている。これは私が殺した、猫型PCの持っていた剣だ。
 その、罪の証へと、右手を伸ばす。
 けれど、感覚のない右手は、剣の柄を握ってはくれなかった。


473 : courage ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:50:55 U/JD4aHA0

「っ――――!」
 構わず、力を込める。
 左手ではだめだという、不思議な確信があった。
 きっとこの剣は、『彼女』を殺めた右手でなければ抜くことは出来ない。

「この……っ!」
 左手で右手首を掴む。
 握っている感覚はあるのに、握られている感覚はない。
 それでも、ほんの少しだけ、指先が動いた。
 それを頼りに、この剣まで歩いた時以上の時間を掛けて、その柄を握っていく。

「おねがい……!」
 けれど、足りない。
 右手は剣を掴んでいる。だが剣を引き抜くには、握力が足りていない。
 どれだけ力を込めても、これ以上の力が入らない。

「どうして……」
 やっぱり私には無理なのか。
 そんな諦めがが、徐々に心を蝕んでいく。
 そうしてついに、右手を剣から手放しかけた――その時だった。


   “―――大丈夫だよ。アスナになら、絶対できるから―――”


 二度と聞けないはずの、大切な親友の声が聞こえてきた。

「……ユウキ?」
 その名前を呟く。
 応えはない。
 けれど剣を握る右手に、誰かの手が重ねられたような不思議な感覚があった。

「お願い……力を貸して……」
 その声や感覚が本物かはわからない。もしかしたらただの錯覚かもしれない。
 けれど、諦めかけていた心は、負けられないという決意に変わった。
 その決意を力に変えて、再び右手に力を籠める。

「……私に力を……、キリト君を守る力を……!」
 剣の柄から、不思議な熱を感じ取る。
 その熱に導かれるように、右手の感覚が蘇る。
 剣を握る、確かな感覚。それを知覚した瞬間―――

「―――“マハ”―――ッ!!」

 ――――その名とともに、その剣を引き抜いた。

 瞬間、世界が一変した。
 光のない暗闇の世界から、目映いばかりの白い世界へと。
 だがその世界は、早くも崩れ始めていた。

「ありがとう。
 けど、どうして助けてくれたの?」
 青年へと振り返り、礼を述べてそう問いかける。
「君はボクに、どこか似ていたからね……。
 それになにより、彼女がそう望んだから……」
 そう答える青年の隣には、いつの間にか、あの猫型PCがいた。
 猫型PCは私へと向かって、見守るような、優しい笑みを向けていた。

「それじゃあ、ボクたちはもう行くよ……。
 君も早く、君の最愛のもとへ行くといい……」
 青年はそう言って背を向け、猫型PCと一緒に立ち去っていく。
 きっと二度と、巡り合う事はない。
 その背中に、謝罪と感謝を込めて頭を下げ、背を向けて走り出す。


 そうして気が付けば、私は現実へと戻っていた。
 今の出来事は実際には一瞬だったのか、目の前の戦況は変わっていない。
 キリト君たちを覆い隠すように黒煙が広がり、その中からは激しい剣戟が聞こえる。

 右手には、先ほどとは少しだけ変わった薔薇の刀剣。
 魔剣の影響は、もう体のどこにも感じられない。
 それを理解すると同時に、私は目の前の黒煙へと駆け出した。

 その中でフォルテと戦う、大好きなキリト君を目掛けて――――。


474 : courage ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:51:20 U/JD4aHA0

      §

「アス……ナ?」
 状況が理解できず、俺はただ、彼女の名を茫然と呟く。

「キリト君、大丈夫?」
「あ、ああ」
 その声に我に返り、戸惑いながらも立ち上がる。

 アスナの姿は、またも大きく様変わりしていた。
 リアルと同じ栗色の髪を靡かせるその姿、白を基調としたその衣装は、血盟騎士団の征衣(SAOアバター)とよく似ている。
 だが違う。そもそも《二刀流》のようなスキルでもない限り、SAOアバターよりもALOアバターの方が優秀だ。
 AIDAに侵食されたALOアバターから切り替えたというのならまだわかる。それだけでどうにかなるとは思えないが、納得は出来る。
 しかしアスナの姿は、決してSAOアバターのものでも、ALOアバターのものでもなかった。

 純白を基調としながらも、細部が紫色で彩られた騎士服。
 よくよく見ればその栗色の髪にも、ウンディーネを象徴する水色がメッシュのように入り混じっている。
 まるでSAOアバターとALOアバターが入り交じったかのようなその姿は、俺が知る限りにおいては見たことのないものだ。

「そう、よかった」
 アスナはそう言いながら呪杖を取り出すと、俺へと向けて回復スペルを唱えた。
 二割近くまで減っていたHPが、急速に回復していく。
 ……やはりおかしい。
 今のアスナからは、もうAIDAの影響は見て取れない。
 だがもし彼女のアバターがSAOアバターなら、魔法は使えないはずだ。

「アスナ、その姿はいったい……」
「……実は、私にもよくわからないんだ。
 わかっているのは、このアバターに何ができるのかってことと、
 この剣が――この剣に眠る人たちが、助けてくれたってことだけ」
 何かを悔いるように答えるアスナの右手には、薔薇の護拳の拵えが咲く、紫色の光刃を備えた刀剣が構えられている。

「……なら、俺はそいつに感謝しないとな」
「そうだね。あの人たちのおかげで、私はまた、キリト君と一緒に戦える」
 アスナの言葉に頷き、二人揃って剣を構える

 その剣の持ち主とアスナとの間に何があったのか。
 そのアバターがどうやって形成されたのか。

 “剣に眠る人たちに助けられた”とアスナは言った。
 アバターを改竄するような武器には心当たりがある。AIDAを宿していた、あの魔剣だ。
 つまり今アスナが振るう剣にも、AIDAと同じような力があるという事なのか。
 その答えはわからない。

 だがそれは今考えることではない。
 気にならないと言えば嘘になるし、不安がないわけでもないが、一先ず後回しだ。
 今重要なのは、その剣のおかげで、アスナが救われたという事。
 そしてそのおかげで、こうしてアスナと剣を並べられるという事だけだ。

「……………………、くだらん。
 その女が戦えるようになろうと関係ない。諸共に破壊するだけだ」
 フォルテがそう苛立たしげに吐き捨てる。

「できるのか、お前に?
 今の状況、まんまあの時と同じだぜ?」

 そう、あの時と同じだ。
 フォルテと最初に戦った時も、俺の剣はオーラに阻まれ追い詰められた。
 けれどその窮地を、シルバー・クロウに救われ、共闘することでフォルテを撃退したのだ。
 そして今回はアスナに救われ、こうして剣を並べている。
 なら勝てないはずがない。
 どんなにフォルテの先読み能力が精確でも、フォルテ自身の対応能力には限界があるのだから。

「ふん、絆の力……か。
 それこそくだらん。その絆とやらが、あの女を殺したというのにな」
「……それは、ユウキの事を言ってるの?」
「その名がキサマと一緒にいた黒髪の女の事を指しているのなら、そうだ。
 愚かなことにあの女は、せっかくの回復手段を巻き添えをくった小娘に使ったのだ」
「っ……!」
 その言葉に、思わず息をのむ。
 ユウキが死んだ理由、アスナが魔剣に呑まれたきっかけが、絆が原因だとフォルテは言ったのだ。

「他人と助け合うのが絆だとキサマらは抜かすのだろう?
 その結果があれだ。それを愚かと言わずなんという。
 この世界で必要なのは、一人で生き抜く力……何者にも屈しない、絶対的な力だけだ。
 ……だというのに、他人を助けた結果自分が死ぬなど、バカバカしいにも程があるッ!」
 左手を強く握り締めながら、フォルテはそう言った。
 だがその言葉から感じられたのは、単純な力への欲求ではなく、何か強い怒りが感じられた。


475 : courage ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:51:42 U/JD4aHA0

「……笑わせないでよ」
 だがそんなフォルテに、アスナはそう言い返す。

「……なに?」
「あなたの言う力って、なに。
 他人を不意打ちしてPKするのが、絶対的な力?
 ふざけないで。そんなもののどこが絶対的なの。ただPKするだけなら、あなたが小娘と言ったありすにだってできるわ」
「……………………」
「それに、あなたはユウキを殺せてなんかいない。ユウキは初めから、貴方と戦ってすらいない。
 だってユウキは、ありすを助けたから。自分が生き残れたはずだったのに、あの子を……」

 そう。ありすはユウキを殺してなんていなかった。
 あの時は気付けなかったけど、ユウキは心からあの子たちを助けようとして、本当に助けたのだ。
 だからそれが、本当に、心底から悔しかった。
 もし私がユウキを信じていられたら、あの時私に【黄泉返りの薬】を渡していなければ、ユウキは助かったかもしれないのに、と。

「ユウキはもういない。ありすを助けて、代わりに死んだ。
 だからあなたは、もう二度とユウキには勝てない」
「……キサマ」
「それでもユウキが弱いって言うのなら―――見せてあげるわ。
 ユウキが私に託してくれた、絆の力を――――!」
 その言葉と共に、アスナはフォルテへと己が巫器を突き付ける。
 迷いなど微塵も感じられない。
 彼女にフォルテのオーラを破る方法などないだろうに、まっすぐに剣を構えている。

「ならば見せてみろ、その力とやらを……。
 それがどんなものであろうと、キサマ諸共に破壊してくれるわッ……!」
 対するフォルテは、憤怒の形相を浮かべそれに応じる。
 右手にはブルースの光剣。左手には月魄の大鎌。ピンクの直刀は収められ、その背には黒い翼。
 これら奪ってきた力の本来の持ち主と同じように、おまえの力を奪ってやると。

「行くよ、キリト君」
 視線すら向けずに寄せられる、全幅の信頼。
 こちらの答えも待たず、アスナはフォルテへと向かって突進する。
 ……ならば、その信頼に応えるのが俺の役目だ。

「ああ、任せろ」
 コードキャスト、《vanish_add(b); 》。
 アスナに一拍遅れて追従し、同時にそのスキルを発動する。
 当然のように掻き消される黒白のオーラ。
 その結果を理解していたフォルテは、その表情を変えぬままに両手の武器を構え―――

 直後響き渡る、激しい剣戟。
 それを合図として、戦いが再開されたのだった。


     5◆◆◆◆◆


 白い影を残し、アスナは風の如き速さで眼前の敵へと疾駆する。
 そこへ放たれる無数の光弾。
 フォルテのエアバーストが、少女の接近を阻まんと迫り来る。

「――――」
 アスナには光弾を弾くだけの技も、それを可能とする《バレット・ライン》もない。
 光弾の射線から横跳びで回避し、同時に攻撃魔法を唱え放つ。

 同時にフォルテの視界に展開される未来予測。
 それに従い、放たれた四つの氷矢を光刃で撃ち落とす。
 ―――その直後、眼前に紫の光刃が閃いた。

「なっ―――!?」
 驚愕する間もあればこそ、咄嗟に体を逸らしその一閃を回避する。
 頬を掠めていく光刃。
 何の事はない。魔法を放つと同時に、再度突進しただけの事だ。
 ただ、その速度が異常だった。
 氷矢に追従して放たれた剣閃は、目前に迫るその直前まで視認することを許さなかったのだ。

「チィ……っ!」
 躱した勢いのまま地面を転がり、アスナから即座に距離をとる。
 だがフォルテの相手は一人ではない。
 立ち上がり体勢を立て直すよりも早く、フォルテに更なる剣閃が襲い来る。

「ハア―――ッ!」
 繰り出されるキリトの二刀連撃。
 フォルテは未来予測の命じるままに、光剣と大鎌を以て迎撃する。
 そこへ迫る閃光の如き一閃。
 キリトの連撃と交差するように、アスナの一撃が放たれる。

「ッ………!」
 それを躱す。
 上方左右からの一撃に逆らわず、全身を回転させて受け流す。
 当然のように崩れる体勢。地面に倒れそうになる身体を、黒翼を羽ばたかせ強引に退避させる。

 無論、二人の攻勢はそれでは終わらない。
 キリトはまっすぐに、アスナは弧を描くようにフォルテへと追撃する。
 対するフォルテは、大鎌を収め直刀を抜き放ち、地面へと打ち付ける。
 衝撃に舞い上がる粉塵。二人は咄嗟に飛び退き、フォルテはその間に空へと跳び上がる。

「逃がさない!」
 アスナは即座に翅を展開し、フォルテへと追撃をかける。
 キリトもそれに追従し、同様に空へと跳び上がった。


476 : courage ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:52:11 U/JD4aHA0


(アスナのあのアバター。あれはやっぱり―――)
 先行するアスナの姿を見て、キリトはアスナのアバターの正体に予想を付ける。

 SAOアバターと酷似していながら、ALOの魔法や翅の使用を可能とする謎のアバター。
 その正体はおそらく、“SAOとALO両方のアバターを統合したもの”なのだろう。
 SAOアバターにALOアバターの要素を付加したのか、AIDAに侵食されたALOアバターをSAOアバターで補完したのか、それはわからない。
 一つ確かなことは、あのアバターはSAOとALO両方の特性を持っているということだけだ。

 まるで剣と魔法の二刀流。
 いわば魔法剣士とでもいうべき特性をアスナのアバターは獲得していた。

(まったく。俺もアバターを統合したいぜ)

 自分の持つアバターは三つ。
 そのそれぞれに利点はあるが、フォルテのような敵を相手にした場合、利点を活かし切ることができないのだ。
 だがアバターを統合してしまえばその問題点はなくなる。
 故に、その手段の不明瞭さを除けば、今のアスナの姿は少しだけ羨ましかった。

(あとできっちり確かめさせてもらうからな!)
 内心でそう決定し、先行するアスナへと追いすがる。
 そのアスナはすでにフォルテと接触し、剣にライトエフェクトを纏わせソードスキルを繰り出していた。

「ハァ―――!」
「ぐ、っ……!」
 三つの刃が激突し火花を散らす。
 まるで拳銃の早撃ち(クイックドロウ)。
 アスナの攻撃は、もはや銃弾じみた速度でフォルテへと襲い掛かっている。
 だが奴の先読み能力によるものだろう。
 攻撃速度で完全に勝っていながら、フォルテへと攻め切ることができないでいた。

 だがそれは、フォルテの側も同様だ。
 その先読み能力でも反応しきれていないのか、フォルテは一向に反撃に移れていない。
 左手の武器を大鎌に戻さず直刀のまま対応しているのは、取り回しの速さを優先しているためか。
 しかし機関銃めいたアスナの攻撃を捌こうとするなら、先読みの結果そのものを先読みするしかないだろう。

 超高速で繰り広げられる剣戟。
 戦いを優位に進めるには、互いに一手足りていないその状況。
 故に―――その不足分を、俺が補う。

「スイッチ!」
 あまりにも慣れ親しんだ掛声。
 それを合図に、キリトはアスナとその立ち位置を入れ替える。
 同時に魔剣を振り被り、ライトエフェクトと共に《袈裟斬り(スラント)》を繰り出す。
 しかしフォルテは一瞬早く反応し、直刀を盾にその一撃を防ぐ。
 そして反撃と放たれる光剣を、氷剣によって迎え撃つ。

「っ、………ッ!」
「、ッ――――!」
 ギチッ、と軋みを上げて、光剣と氷剣が鍔競り合う。
 だがそれも一瞬。
 フォルテは直刀を鞘に納めると、左手にエネルギーを収束させ俺へと炸裂させる。
 キリトは即座に魔剣を左下に構え、抜き打ちで《スラント》繰り出し迎撃する。
 ライトエフェクトが弾け散り、その衝撃にキリトは吹き飛ばされる。

「落ちろ―――ッ!」
 だがその直後、アスナが上空から飛来し、フォルテへと彗星の如く襲い掛かる。
 細剣術最上位突進技、《フラッシング・ペネトレイター》。
 対するフォルテは、鞘に納めた直刀を逆手で抜き放ち迎撃する。
 再度弾け散るライトエフェクト。
 二人は激突の衝撃に弾かれながらも、突進の勢いのまま地上へと落ちていく。

 しかし地面へと墜落することはなく、二人はその直前で体勢を立て直し着地する。
 と同時に展開される魔法――《流水縛鎖(アクアバインド)》。
 落下中に詠唱していたのだろう。フォルテの足下からいくつもの水流が迸り、その足を絡め捕る。
 その直後、アスナはソードスキルを発動させ一瞬でフォルテへと突進した。


477 : courage ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:52:41 U/JD4aHA0


 ――――疾い。
 フォルテと刃を交わすアスナの動きに、キリトは内心でそう感嘆する。
 スピード、という意味でなら、自分の知るそれと変わってはいない。
 だがその動作速度か、あるいは反応速度というべきか。行動一つ一つの初速が段違いに速いのだ。

 本来のVRMMOにおいて、アバターの動作速度はナーヴギア、あるいはアミュスフィアの入力レベルやレスポンスに影響される。
 簡単に言えば、アバターと脳波との同調率が高ければイメージ通りの動きができ、低ければ思うように動けなくなるということだ。
 しかしアミュスフィアなどの機械を介している以上、同調率が100%になることはまずあり得ない。
 同調率が100%になるという事はすなわち、アバターを動かすための脳波の発信源が、己の肉体ではなくアバターの側に存在しているという事になるからだ。

 そんなことは本来ありえない。何故ならそんな存在はもはやプレイヤーではなく、ユイやレンさんのようなAI、仮想世界に生きるNPCに他ならないからだ。
 だがいかなる理由からか、今のアスナは完全にその定理を覆している。
 通常技でありながらソードスキルに迫る攻撃速度。フォルテの先読みを覆しかねない反射神経。
 そのどちらもが、ただ絶好調だというだけでは説明できないレベルのものだ。
 それこそまるで、自らのアバターを仮想の筋肉ではなく、完全にイメージのみで操っているかのように。

 まさに《閃光》。
 今のアスナは、自らの二つ名を完全に体現していた。

 その原因はやはり、あのアバター――それを形成したと思われるあの剣にあるのか。
 それを確かめるためにも、アスナを追って急ぎ地上へと降下する。


「セヤァ――!」
 アスナの《シューティングスター》が、文字通りの流星となってフォルテへと迫る。
「チィッ……!」
 脚を縫い止められたフォルテには、その一撃を受け流すことができない。

 一際大きな剣戟を響かせ、二つの光刃が激突し交錯する。
 反動で生じる一瞬の硬直。それが解けると同時に、二人は再び超高速の剣戟を繰り広げる。
 三つの剣は絶え間なく火花を散らせ、しかしどちらの体を掠めることもなく大気を切り裂く。

「ハア――!」
 アスナの憑神刀(マハ)が純白のライトエフェクトに包まれる。
 舞い踊るように繰り出されるスラスト系ソードスキル《スター・スプラッシュ》。
「ッ………!」
 瞬間、視界に示される八つの軌跡。目前に迫る紫光の剣閃
 両手の二刀を超高速で振り抜き、その全てを弾き、躱し、防ぎきる。

 攻撃力では勝っている。アスナの攻撃スキルを防げているのはそのためだ。
 たとえ《ジ・インフィニティ》の特性を使わずとも、攻撃を直撃させれば十分なダメージは与えられる。
 だが、そのための速度が追い付いていない。反撃をするには、ダメージを覚悟しなければならない。
 ……それは出来ない。
 残りHPは一割半。たとえ掠り傷程度のダメージであろうと、受ける訳にはいかなかった。
 アスナに苦戦しているのはそのためだ。
 今のフォルテにとっては、先ほどまでの魔剣による大威力の攻撃よりも、たとえ一撃は弱くとも、防ぎきることの困難な素早く手数の多い攻撃こそが脅威だった。

「オオ――ッ!」
 フォルテは半ば苦し紛れに直刀を振るうが、それは牽制以上にはならない。
 否。それ以上踏み込んで反撃すれば、女の剣は確実にこの身を切り裂くだろう。
 ましてや今のこの女の剣速は、もはや未来予測でも予測しきれない。そんな隙を作れば、あっという間に削り殺される。

 ――だがその牽制ですら、今のアスナにとっては追撃のための隙でしかなかった。

「ッ!?」
 薙ぎ払われた直刀を、アスナは限界まで屈み込むことで回避する。
「そこっ!」
 穿つように放たれる斜上への一閃――単発ソードスキル《ストリーク》。
 フォルテは咄嗟に光剣で防ぐが、その威力に堪え切れず右腕が弾かれ、上体が浮かされる。
 直後、いかなる効果が発生したのか。フォルテの周囲を囲うように、光輪状のエフェクトが発生する。

「ッ!?」
 あまりにも明確な隙。謎の効果エフェクト。
 流水の拘束はまだ解けていない。回避行動はとれない。
 そんな自身の状態を前に、フォルテはようやく己が失策を理解する。

 このエフェクトの効果はわからないが、自分に不利なものであることは間違いない。
 もはや近接戦闘での勝ち目はない。否。剣での戦いなど、最初から挑むべきではなかったのだ。
 だがまだ敗北したわけではない。いやそれ以前に、敗北を認める訳にはいかない。
 故にここは、力尽くでも仕切り直す―――!


478 : courage ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:53:06 U/JD4aHA0

「ッオ――!」
 再び振り抜かれる玉衝の直刀。
 それを視認するよりも早く、アスナはその場から小さく飛び退く。
 同時に足の拘束をアースブレイカーで破壊するため、フォルテは右腕の光剣を解除し、
「させるかよ!」
「ッ!」
 背後から迫り来た魔剣によって、その行動を阻害される。
 咄嗟に換装を中断し、魔剣を光剣で受け止める。

「キサマッ……!」
「どうしたフォルテ。少し動きが鈍くなったんじゃないのか?」
 魔剣に氷剣を重ね、より強く鍔迫り合いながらキリトはそう挑発する。

 その言葉通り、この数合の間に、フォルテの反応は遅れ始めていた。
 実際、光剣を換装しようとした時、奴は俺の攻撃を予測できていなかった。
 あと一瞬気付くのが遅れ、光剣を換装していたならば、奴の右腕は俺の剣に切り落とされていただろう。

 先読み能力に何かしらの制限があったのか、それとも奴に発生したエフェクトの効果なのか。
 いずれにせよ、フォルテが不調をきたし始めていることに間違いはない。
 故に、奴の調子が戻る前に、ここで決着を付ける―――!

「オオオオ―――ッ!」
 フォルテの体勢を崩すため、キリトは剣を持つ腕に渾身の力を込める。
「舐めるなァ……ッ!」
 フォルテはそれに抵抗し光剣に力を込め、同時に左手にエネルギーを集束。キリトの剣へと、光刃の上から叩き付ける。

 アースブレイカーには程遠い、だがキリトを弾き飛ばすには十分な一撃。
 フォルテは僅かに生じた間合いに、水流に拘束された脚を強引に踏み出し、光刃をキリトへと渾身の力で振り下ろす。
 対するキリトは魔剣を左脇に抱えるように構え、紫色のライトエフェクト纏わせながら迎撃し、

「な――――!?」
 何かが砕ける音とともに、フォルテの表情が驚愕に彩られる。
 消え去る光輪のエフェクト。視界に映る、光刃の切っ先。
 右腕のソードは、その刀身の半ばから砕け散っていた。


 ―――システム外スキル《武器破壊(アームブラスト)》。
 相手の武器の弱所を見抜き、そこを攻撃することによって発生するシステム外スキル。
 キリトは光剣の脆弱部位へと《スネークバイト》を叩き込むことにより、その刀身を打ち砕いたのだ。
 だがフォルテのソードが砕けた理由はそれだけではない。

 フォルテのソードが砕けた理由は二つ。
 一つはフォルテがキリトを弾き飛ばすために放ったエネルギー攻撃だ。
 光刃の上から放たれたその一撃は、ソードの刀身に本来存在しないはずの脆弱部位を生み出してしまったのだ。
 キリトは直感的にそれを見抜き、ソードスキルを放っていたのだ。

 そしてもう一つは、フォルテを囲っていた光輪エフェクトの効果だった。
 この光輪エフェクトの正体。それはアスナの巫器【魅惑スル薔薇ノ雫】のアビリティ《魅惑ノ微笑・改》によって発生した、“レンゲキ”発生を示す合図だ。
 “レンゲキ”とは『The World:R2』の戦闘システムの一つで、エフェクト発生中の対象へとアーツを使用することで、対象へのダメージにボーナスを発生させる効果のことだ。
 これによりキリトの放った《スネークバイト》は威力を増し、より《武器破壊》が発生しやすくなっていたのだ。


 しかしレンゲキシステムの事を、『The World:R2』を知らない両者が理解できるはずもなく。
 その結果だけを示すように、折れた光刃が地面へと突き刺さり四散する。

「スイッチ!」
 直後放たれるその言葉。
 飛び退くキリトと入れ替わるように、青紫色の光を帯びた憑神刀(マハ)を構えアスナが躍り出る。

「―――よく見ておきなさい。この技は、私だけじゃ辿り着けなかった、キリト君が繋いでくれた一撃。
 そして―――」

「、………ッ!」
 決着を告げるように紡がれるその言葉。
 それを合図に、神速の十連撃がエックス字を描くように叩き込まれる。
 フォルテは残された直刀で応戦するが、二刀で捌き切れなかった剣戟を一刀で凌げる筈もなく、その左腕ごと直刀を弾き飛ばされ―――

 瞬間。二人の視線が交錯し、体感時間が間延びする。
 再び大きく引き戻された憑神刀が、エックス字の交差点へと照準され、
 剣と盾、両方を破壊され、直刀も弾かれたフォルテに、次の一撃を防ぐ術はなく、

「ユウキが私に託してくれた、絆の力よ――――!」

 放たれる十一連撃OSS《マザーズロザリオ》。
 雷鳴の如く響き渡る巨大な衝撃音。
 閃光と化して閃いた剣尖が、決着を告げるようにフォルテの身体を突き穿った――――。


479 : Alice in Borderland ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:54:25 U/JD4aHA0


     3◆◆◆


 そうして、ラニ=Ⅷは消滅した。
 かつて共に戦った仲間であり、彼女が拠り所とした存在である、岸波白野の手によって。

 あの“終わり”を私は否定する、とラニは言った。
 月の聖杯戦争の結末。岸波白野の運命(さいご)に、何度でも挑んでみせると。
 そんな彼女の願い(いのり)を、岸波白野は絶った。自分のために戦おうとした少女の、その命ごと切り捨てた。

 殺したくはなかった。
 殺したくはなかった。
 殺したくはなかった。
 遠坂凛と同じように、自分を助けてくれた少女。
 自分の“心(なかみ)”を探していた、生まれたばかりの無垢な彼女。
 たとえそれが“自分の敵(あり得たif)”だったのだとしても、決して殺したくはなかった。

 ……けれど、殺さなければならなかった。
 そうしなければ自分が死ぬからではなく。
 そうしなければ、自分以外の多くのプレイヤーも、彼女の自爆に巻き込まれたからだ。
 それだけは、岸波白野が守ると誓った少女たちのためにも、認める訳にはいかなかったのだ。

 ……あるいは、何か違う選択をしていれば、彼女を殺さずに済んだのだろうか。
 ……あるいは、自分がもっとうまくやれていたら、彼女にあんな選択をさせずに済んだのだろうか。
 ……あるいは、他のプレイヤー全てがPKだったならば、岸波白野は彼女の選択を受け入れていたのだろうか。
 ……あるいは――――

「ご主人様。悔やむ気持ちはわかりますが、今は歩みを止めている時ではございません」
「酷だとは思うが、急ぎ次の戦いに備えよ。ここで立ち止まってしまえば、ラニの決意も浮かばれん」

 …………わかっている。
 過去は決して覆らない。失われたものは取り戻せない。
 今目の前にあるこの現実が、岸波白野とラニ=Ⅷが、善かれと願い選択した結果なのだ。
 その結果に対し、自分ができることは何もない。できることはただ、その現実を受け入れて前に進むことだけだ。

 それに、戦いはまだ終わっていない。
 サチとヘレンが、オーヴァンと戦っている。
 彼女ではあの男に勝てないことは理解している。
 対AIDAに特化したカイトでさえ勝てない存在に、彼女一人で敵うはずがないからだ。

 だがラニとの戦いを避けることは出来なかった。
 サーヴァントに対抗できるのはサーヴァントだけだし、何より彼女の事を、他の誰かに任せることなどしたくなかったのだ。

 ヘレンは今、懸命に時間を稼いでいるはずだ。
 岸波白野のわがままを聞き入れ、勝ち目のない戦いに挑んでいる。
 だから急いで、彼女を助けに向かわなければいけない――――というのに。

 唐突に聞こえた二つの足音に、静かに背後へと振り返る。

「また会えたね、お兄ちゃん」
「ええ、また会えたわ。今度こそ、あたし(ありす)たちと遊びましょう」

 そこには、白と黒の砂糖菓子。鏡写しのような二人の少女。
 岸波白野と同じマスターの一人であるありすと、そのサーヴァントのアリス/キャスターがいた。

 不思議と驚きはなかった。
 あるのはただ、サチ/ヘレンに対する、救援がさらに遅れることへの自責だけだ。
 なぜならありす達の事もまた、ラニと同様、岸波白野には避けて通れないことだからだ。

「む、おぬしらか。……残念だが、今はおぬしらと遊んでいる余裕はない。奏者と遊びたければ、出直すがよい」
「セイバーさんの言う通りです。そろそろお子様はお家に帰る時間ですよ。……まあ、帰る家があればの話ですけど」
「いや! あたし(ありす)たちは今お兄ちゃんに遊んでほしいの! 今じゃなきゃ、絶対にやなの!」
「そうよ。お家に帰る時間なんて、あたし(アリス)たちには永遠に来ないわ。大人の意地悪なんて、きかないんだから!」

 セイバーたちの言葉を、ありすたちはそう拒絶する。
 その必死さはまるで、今を逃してしまえば、もう二度と機会は来ないと思っているようだった。

   サチ/ヘレンを優先する。
  >……ありすたちと、遊んであげる。

「……よろしいのですか、ご主人様?」
「ヘレンたちの事を忘れたわけではあるまい」
 その問いに頷きを返す。


480 : Alice in Borderland ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:55:04 U/JD4aHA0

 ……セイバーたちの言う通り、その気になれば彼女たちの事を後回しにもできるのだろう。
 むしろサチ/ヘレンの事を思えば、そうするべきなのかもしれない。
 だがそうしてしまえば、何か取り返しがつかなくなるような、決定的な何かが壊れるような、そんな危うさが、今のありす達にはあったのだ。

「――――――――!」
「よかったわね、あたし(ありす)」
「うん! ありがとう、お兄ちゃん」

 喜びを示す二人に、どんな遊びをしたいの? と問いかける。
 ありす達に付き合うとは決めたが、サチ/ヘレンのこともある。
 なるべく早く終わる遊びだと助かるのだが。

「それはもう決まっているわ。宝探しをするの」

 宝探し? と首を傾げれば、少女たちは揃って、うん、と頷く。

「チェシャ猫さんが言ってたわ。それはきっといいものだって」
「大切にしたいって思えるものを探すんだって、チェシャ猫さんは言ってたわ」
「お姉ちゃんが言ってたわ。夢の続きを見るんだって」
「もっと世界を見て、『答え』を探すんだって、お姉ちゃんは言ってたわ」
「大切なものなんて持ってなかった。あたし(ありす)たちには何もなかった」
「けどお姉ちゃんは言ってくれたの。あたし(アリス)たちは空っぽじゃないって」
「今度はあたし(ありす)の番だからって、お姉ちゃんはあたし(ありす)に時間(つづき)をくれたわ」
「ほんとはお姉ちゃんの時間(ページ)だったのに、あたし(アリス)たちに譲ってくれたの」

 それはきっと、彼女たちと一緒にいたミアと、そして岸波白野の知らない誰かの話。
 その誰かがきっと、ありす達を導いたのだ。彼女達の真実を知る岸波白野の所へと。
 ……そんなことはないとわかっていても、そう思わずにはいられなかった。

「チェシャ猫さんはもういないけど」
「お姉ちゃんももういないから」
「二人の代わりに」
「あたし(アリス)たちがそれを探すの」
「それがどんな『宝物』かはわからないけど、お兄ちゃんが持っている気がするの」
「それがどんな『答え』かはわからないけど、お兄ちゃんなら知っている気がするの」

 ――――ああ。
 きっとこれは、あの街の、そして聖杯戦争の続きなのだ。
 ならば、するべきことは決まっている。
 ……否。きっと初めから、こうなることは決まっていたのだろう。

「だからお兄ちゃん」
「お兄ちゃんの知(も)っている『答え(宝物)』を」

 ありすは踊るようにその手をアリスと重ね合わせる。
 アリスは歌うように呪文(おまじない)を口遊む。
 響く女王アリスを讃える歌。現れる無数のトランプ兵団。
 それに相対するように、セイバーとキャスターが前へと踏み出し――――

「「あたし(ありす/アリス)にちょうだい―――!」」

 二人の少女を迎え入れるように、己がサーヴァントへと指示を出した。
 それだけが岸波白野にできる、彼女たちへの唯一の応え方なのだから――――。


     6◆◆◆◆◆◆


「―――ッ!?」
「ッ…………!」

 ザン、と弾き飛ばされた武器が、地面へと突き刺さる。
 突き出した手に残る、堅い手応え。
 渾身の一撃を放ったアスナは、悔しげに顔を歪めていた。
 その視線の先では、弾き飛ばされた勢いのまま、俺たちから大きく距離をとるフォルテの姿があった。

「ッッッ――――………ッ!」
 フォルテはその顔を憤怒の形相に歪め、深い憎悪の籠った視線で俺たちを睨み付けている。
 だがそれも数瞬。フォルテは俺たちに背を向けると、黒翼を広げ、一瞥を返すこともなく飛び去って行った。
 その姿を、俺は勝利を確信していたが故に、アスナはスキルディレイの影響により、追う事が出来なかった。
 あとに残されたのは、武器を回収する間も惜しんで撤退したが故に残された、黒い月魄の大鎌だけだった。


481 : Alice in Borderland ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:57:24 U/JD4aHA0

 ……そう。あの瞬間フォルテは、咄嗟に大鎌を取り出し盾とすることで、アスナの最後の一撃を防いだのだ。
 ソードを破壊され、右手が自由になっていたが故に可能となった緊急防御。
 武器を装備すれば自動的に実体化するザ・シード規格の仕様と、
 武器の種類によっては実体化させずとも装備状態にできるこのデスゲームの仕様。
 その差を失念していたが故の、あまりにも致命的なミスだった。

「……ごめん、キリト君。止めを防がれちゃった」
「……いや、アスナのせいじゃない。
 謝るなら、あいつが生き残る可能性を考えず、追撃しなかった俺の方だ」

 加えて実のところ、内心安心した部分もあった。
 これ以上アスナが誰かを殺さずに済んでよかった、と。
 これ以上フォルテを野放しにするのが危険だと解っていても、そう思ってしまったのだ。
 その意味も含めて、アスナにと「ごめん」と、二重の意味で謝る。
 それに――――

「それにまだ、戦いが全部終わったわけじゃない。
 ここで倒さなきゃいけない奴は、他にもいる。
 ―――そうだろう、オーヴァン」

 言って、背後へと振り返る。
 そこにはいつの間にか左腕を拘束し直し、右手にAIDAの魔剣を携えたあの男が佇んでいた。

「いや心底驚いたよ。まさか『碑文使い』でないにもかかわらず、あの状態から復帰するとはね。
 大方、そのロストウェポンに宿る『碑文』に適合したが故なのだろうが……それでも、な」
 オーヴァンはそう言って、アスナと、そしてアスナの持つ武器を興味深そうに見つめている。

 奴の言う通り、アスナはAIDAに深く侵食されていた。
 あの状態から回復するのは、決して簡単ではないはずだ。
 だがアスナは、新たなアバターを携えて復帰して見せた。
 その理由を、AIDAについて知り尽くしているだろうこの男は知っているというのか。

「どういう意味だ。あんたの言う碑文って、いったい何なんだ。それがAIDAと何の関係がある」
 オーヴァンへと一歩踏み出し、そう問いかける。

 ロストウェポンとはおそらく、アスナの持つ刀剣の事だろう。
 そしてそれに宿るという『碑文』とやらに適合したプレイヤーが、おそらくは『碑文使い』だ。
 ならば訊くべきは、その『碑文』とやらの正体と、そしてAIDAとの関係だ。
 それを知ることができれば、AIDAへの……ひいてはこの男や榊への対抗策になるはずだ。
 それを、AIDAを宿すこの男自身に訊くというのも情けない話だが、他に情報源もない。贅沢は言っていられなかった。

「……ほう。先ほどよりは、真実へと目を向けているようだな。
 いいだろう。その意気に免じて、君の問いに答えよう」
「っ…………」
 オーヴァンはそう言って、俺へと視線を向けた。
 その視線に気圧されて、思わず一歩下がってしまう。
 サングラス越しだというのに、まるで心の底まで除かれているような、そんな不気味な感じがしたのだ。

「『碑文』とは、俺のいたネットゲーム『The World』を構成する八つの特殊なプログラムの事だ。
 そのプログラムは、ゲームの世界観の基となった叙事詩に登場するある存在に準えて『八相』と名付けられた。
 この『八相』を適合した特別なプレイヤーの事を、俺たちは『碑文使い』と呼んでいる」
「それはつまり、アスナが『碑文使い』になったってことか?」
「いいや。ロストウェポンは『八相』のデータの一部が、武器という形をとったものだ。
 ロストウェポン自体に、使い手を『碑文使い』にするほどの力はない。
 あのお嬢さんがAIDAの浸食から復帰できたのは、そのロストウェポンになんらかのイレギュラーが起きた結果だろう。
 例えば――『碑文』本体をロストウェポンの内に取り込んだ、とかな」
「っ……!」
 何かを察したように、アスナが息を呑む。

 『碑文使い』に宿っているはずの『碑文』を、ロストウェポンに取り込んだ。
 その言葉が意味することは―――つまりそういう事なのだろう。
 ……だが。

「アスナ」
「! キリト君……」
「安心しろ。たとえ何があったとしても、俺は傍にいる」

 その罪を、アスナ一人に抱えさせることだけはしない。
 たとえアスナ自身が拒んでも、一生傍にいて、一緒に償いの道を歩き続けてみせる。


482 : Alice in Borderland ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:57:57 U/JD4aHA0

「それで、結局AIDAと『碑文』の関係って何なんだよ」
「簡単だ。文字通り、コンピューターウイルスとシステムプログラムの関係だよ。
 もっとも、ウイルスに自意識があり、プログラム自体が対抗手段となり得るところが、通常とは異なるがな」
「なるほどね。教えてくれてありがとよ。おかげで安心したぜ」
 アスナの剣に宿る『碑文』とやらがAIDAと相反するものだというのなら、魔剣の時の用に侵食されるという事はないだろう。

「フ……。それほど単純な話ではないがな」
「なに?」
「それで、君たちはこれからどうするつもりだい?」
「…………。
 決まっている。まずその魔剣を壊す。ついでにアンタも倒す。あとの事は、それからだ」

 オーヴァンの言葉は気になるが、まずはそれが優先だ。
 あの魔剣は何が何でも破壊し、アスナのような犠牲者が二度と出ないようにする。
 それはAIDAを宿したオーヴァンも同じだ。二度とシルバー・クロウの時のような真似はさせない。

「ほう……勝てると思うのか、この俺に?」
「アンタの方こそ、俺たちとフォルテの戦いを見てたんだろ。
 さっさと逃げなくてよかったのか?」
「無論だ。その必要性を感じないからね。
 むしろ逃げるべきは、君たちの方だろう」
「ああそうかよ。………いいぜ、余裕ぶってろよ。その言葉、絶対後悔させてやる」

 腰を落とし、剣を構える。
 続くようにアスナも、俺の隣で剣を構える。
 奴の強さはすでに知っている。そこに魔剣も加わったとなれば、俺一人では勝ち目などないだろう。
 ……だが、俺は決して一人じゃない。
 アスナが一緒に戦ってくれる限り、奴が魔剣を使いこなせるとしても、負ける気はしない。

「まったく、威勢だけは一人前だな。
 だがお前は、また一つ、真実を見落としたぞ」
「なんだって?」
「珍しいものを見せてくれた礼だ。一つ、俺の真実を見せてやろう」
 そう言って、オーヴァンは右手を拘束具へと添える。

 その言葉は、いったいどういう意味なのか。
 俺はその拘束具の中身をすでに知っている。
 つまりあの鉤爪のようなAIDAの腕は、今オーヴァンが口にした真実ではない。
 ならば奴の言う、俺が見落とした真実とは、いったい――――

「来たれ、『再誕』―――」

 その言葉とともに、ポーン、とどこからかハ長調ラ音が鳴り響く。

 オーヴァンの全身に謎の青い紋様が浮かび、左腕の拘束が解かれる。
 露わになる継ぎ接ぎだらけの左腕と、AIDAによる黒い第三の腕。
 そして、

「―――コルベニクッ!!」

 ――――その名が宣言され、
     瞬間、世界が裏返った。


483 : Alice in Borderland ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:58:23 U/JD4aHA0

「な――なんだよ、これ……!?」
「いったい何なのよ、これは!?」
 アスナと二人して、堪らず驚愕の声を漏らす。
 先ほどまでの街並みは、もうどこにもない。
 視界に映るのは、データの剥き出しとなった謎の空間であり、
 そしてそこに―――

 洗礼された彫像のように超然と佇む、十メートルを優に超えようかという白い巨神がいた。

「うそ……だろ………」
 その、神々しいとさえ思えるあまりの存在感に、ただ茫然と呟く。
 連想するのは、エクスキャリバーのクエストなどで遭遇した、スリュムたちのような巨人。
 違いは左腕を蝕みながらその肩から生えた、巨神とは相反する黒く禍々しい第三の腕手か。
 ……その黒い腕手を見てようやく気付く。目の前にいる巨神の正体に。

「まさか……オーヴァン、なのか……?」
「正解だ、キリト」
 そう答える巨神の声は、紛れもなくオーヴァンのものだった。

「『碑文使い』がそ力を開放し、『碑文』の本体を顕現させた姿。
 それを『碑文使い(おれたち)』は『憑神(アバター)』と呼ぶ。
 そしてこの『憑神(アバター)』の名は、第八相――『再誕』のコルベニク」
「憑神(アバター)………『再誕』の、コルベニク………」
 思考が停止している。
 俺はただ、オーヴァンの言葉を、白痴のようにオウム返しする事しかできなかった。

「俺を倒すといったなキリト」
 彫像のようだった巨神が動く。
 その半ば崩れ落ちた左腕が持ち上げられ、

「ならその力を――証明してみろ………ッ!」

「ッ―――!?」
 俺へと目掛け、一瞬で振り落とされた。
 反射的に剣で防御を取ろうとするが、間に合わない。
 いやそもそも、あの巨大な刃を受けきれるとは、到底思えなかった。
 ……だが巨神の刃は、俺を切り裂くことはなかった。

「キリト君!」
 俺よりも先にショックから立ち直ったのだろう。
 アスナが俺の腰へと腕を絡め、刃より一瞬速くその場から退避していた。

「しっかりして、キリト君!」
「わ、悪いアスナ。助かった」
 アスナの叱咤に、気を引き締める。

 対オーヴァン用に考えていた戦術は、もはや意味がない。
 加えてこの閉鎖空間で、撤退し仕切り直すこともできない。
 幸い翅により飛行は出来るようだが、肝心の攻撃が、あの巨神相手にどこまで通用するのか。

「……………………」
 ふと、そんな俺の迷いを見透かしたかのような視線が、巨神から向けられた気がした。
 いや、おそらく実際にそうなのだろう。
 オーヴァンはあの巨神を通して、俺たちをじっと待ち構えているのだ。

「………ッ! 行くぞ、アスナ!」
「うん! 援護は任せて!」
 ………迷っている余裕はない。
 奴を倒さなければ生き残れないというのなら、全力を尽くして戦うだけだ。
 アスナとともに剣を構え、今度は俺たちの方から巨神へと切りかかった――――。


     7◆◆◆◆◆◆◆


 ワタシの名前はわらべ歌。
 トミーサムの可愛い絵本。
 マザーグースのさいしょのカタチ。
 ワタシはアナタ、アナタはワタシ。
 夢見るアナタとワタシのために、
 月の海まで浪漫飛行。
 ああ、でももうすぐ日が暮れる。
 夢の終わりがやってくる。
 アナタの終わりがやってくる。
 物語である以上、終わりがくるのはあたりまえ。

 寂しいアナタに悲しいワタシ。
 最期の望みを、叶えましょう――――


484 : Alice in Borderland ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:59:34 U/JD4aHA0


      §


「たぁっ―――!」
 気合一閃。隕鉄の鞴が薙ぎ払われる。
 トランプ兵は文字通り紙屑のように吹き散らされる。
「まっくろこげになっちゃえ!」
 そこへ放たれる《火吹きトカゲのフライパン》。炎は舐めるようにトランプ兵へと燃え移り、
「セイバーさんなら氷像の方が喜ぶかと」
 《呪相・氷天》。セイバーに辿り着くより前に、キャスターの呪術によって鎮火される。

「なに、舞台演出としてならむしろ歓迎だ。炎の扱いなら、ローマの大火で心得ている」
 《燃え盛る聖者の泉(トレ・フォンターネ・アーデント)》。
 原初の火(アエストゥス・エストゥス)に火が灯り、その切れ味(ATTACK)を向上させる。
「何が心得ている、よ。最後はけっきょく、自分ごとなにもかも燃やし尽くしちゃったくせに!」
 《三月兎の狂乱》が風を巻き起こし、千々に切り裂かれたトランプ兵を巻き込み刃へと変える。
「同感です。そんなに炎がお好きなら、存分に舞ってくださいな。もちろん、ご主人様に飛び火しない程度にですが」
 だが《呪相・炎天》が風を飲み込んで燃え広がり、刃となったトランプ兵を灰へと変える。

 ―――まさに炎舞。
 舞い散る灰塵の中で、セイバーは炎と戯れるように剣戟を繰り広げる。
 容易く切り裂かれ、燃え尽きていくトランプ兵団。
 そしてセイバーへと攻め立てるトランプ兵の数が手薄になった瞬間、セイバーは一際大仰に大剣を構え、

「ゆくぞ! 花散る天幕(ロサ・イクトゥス)!」
 残るトランプ兵団を蹴散らし、一気にアリス達へと攻め入る。
「あたし(アリス)たちの邪魔をしないで!」
 だが《冬の野の白き時》によって氷塊が形成され、セイバーを押し潰すように落下する。
 対するセイバーはその軌道を氷塊へと変更し、一撃のもとに打砕く。
「何を言うかと思えば、宝を守る竜しかり、冒険には邪魔者が付きもの。そのくらい貴方達もわかっておいででしょう」
 そこへ放たれる《呪相・密天》。呪符を起点に生じた暴風は、砕かれた氷塊の破片を巻き込み雹となってアリス達へと襲い掛かる。

「あたし(ありす)、危ない!」
「きゃっ!」
 アリスは咄嗟にありすを庇い、襲い来る氷の礫をその身に受ける。
「あたし(アリス)、だいじょうぶ? 痛くない?」
「ええ、へいきよあたし(ありす)。まだお茶会は終わらないわ」
 奏でられる《紅茶のマーチ》。
 アリスはその身の傷を癒し、再びセイバーたちへと対峙する。


 ――――この物語(たたかい)の結末は決まっている。
 月の聖杯戦争の三回戦が決着した、あの時にすでに。
 ましてや岸波白野は今、セイバーとキャスターの二騎を従えている。
 逃げ回るのではなく立ち向かってくる限り、アリスたちに勝ち目はない。
 名無しの森を展開しようと、ジャバウォックを呼び出そうと、セイバーたちの刃が少女たちを切り裂く方が早い。

 ……だが、それでいいのか?
 このままありすたちを倒したところで、何も変わりはしない。
 ありすたちの探すは見つからないまま、ミアの想いも、誰かの願いも、無意味なものとして消えてしまう。
 そうしなければ、自分が、自分の守りたいものが失われてしまうのだとわかっていても、僅かな躊躇いがある。

 何も持っていなかった、何も得られなかった、鏡合わせの夢見る少女。
 懸命に自分だけの『宝物(こたえ)』を探す彼女たちを前に、自分は――――


「……ぜったい。ぜったいぜったい、負けないんだから!」
 アリスから放たれる、膨大な魔力。現れる巨人の如き怪物。ジャバウォック。
「        !」
 ジャバウォックは雄叫びを上げ、トランプ兵を巻き込んでセイバーへと襲い掛かる。
 それでも込めた魔力が足りていないのか、空間を軋ませるほどの力は感じられない。
 それを証明するかのように、相対したセイバーの剣に振り下ろした右腕を切り落とされ、次いで左脚を断ち切られる。

「ぬるい! このような張りぼてでは余は止められんぞ!」
「        」
 消滅こそしないまでも、片脚を失ったジャバウォックは地に倒れ臥す。
 だがそれで十分。
 そうして稼がれた時間の間に、アリス/ナーサリーライムがその宝具を開帳する。


485 : Alice in Borderland ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 01:59:56 U/JD4aHA0

「越えて越えて虹色草原、白黒マス目の王様ゲーム」

「む、宝具か!」
「させません!」
 セイバーとキャスターが、それをさせまいとアリス達へと駆け出す。
 だがその少女たちへの道を、少女の兵たちがその身をとして立ち塞がる。

「な!? 貴様、まだ―――!」
 ジャバウォックが残る左腕でセイバーの脚を掴み取り、勢い良く地面へと叩き付け、
「この、ウザいってば!」
 残る数枚のトランプ兵団が、一斉にキャスターへと襲い掛かり、呪術の発動を妨害する。
 セイバーは即座にジャバウォックの左腕を切り落として抜け出し、キャスターもトランプ兵団を焼き払うが、一手遅い。

「走って走って鏡の迷宮、みじめなウサギはサヨナラね♪」

 完成する詠唱。発動する宝具。
 四肢を取り戻し立ち上がるジャバウォック。再び現れる53枚のトランプ兵団。
 ヴォーパルバニーの童歌―――“永久機関・少女帝国(クイーンズ・グラスゲーム)”。
 自己に類する者の時間を巻き戻すその効果により、彼女の兵たちが蘇る。

「あぁ〜もう。弱いクセに、何故殺したし!」
 《呪法・吸精》。
「まったくだ。とんだ大盤振舞よな!」
 《傷を拭う聖者の泉(トレ・フォンターネ・クラーティオ)》。

 暴れ回るジャバウォックを躱しながら、セイバーとキャスターはトランプ兵団を薙ぎ払い、それぞれHPとMPを回復させる。
 形勢は逆転した。
 アリス/ナーサリーライムの宝具が発動し続ける限り、セイバーたちに勝ち目はない。
 たとえどれ程ダメージを与えたところで、即座に回復されてしまうからだ。
 この状況を覆すには、宝具の詠唱を止める――すなわちアリスを直接攻撃する必要がある。
 だがそのためには、不死身と化した少女たちを守る怪物たちを突破する必要がある。

 ―――それを可能とする戦術を、セイバーたちへと指示する。

「任せるがよい!」
「お任せください!」
 それを受け、セイバーとキャスターが同時に駆け出す。
 目指すは巨人、ジャバウォック。声なき咆哮と共に《アリスイーター》を発動し、セイバーたちを迎え撃つ。

 ジャバウォックのステータスは変わっていない。
 宝具の効果で不死身になろうと、ヴォーパルソードを刺されたように弱体化したまま。
 つまり―――
「罪科の剣よ、ここに!」
 セイバーの防御(GUARD)であっても、受け止めることが可能という事だ。

 振り下ろされるジャバウォックの右腕。
 それをセイバーは己が大剣で受け止め、流れるように反撃し、
「彫像の出来上がりです♪」
 同時にキャスターが、その巨体を氷漬けにする。
 《時を纏う聖者の泉(トレ・フォンターネ・テンプスティス)》と《呪相・氷天》。
 二重の対ATTACKスタンが、ジャバウォックの動きを完全に縫い止める。

「さてさて、キリキリ舞って頂きますか」
 吹き荒れる暴風。《呪相・密天》により生じた風が、トランプ兵団を吹き飛ばす。
 いかな不死身の兵団であろうと、壁になれなければ意味がない。
「さあ、風と消えよ! 花散る天幕(ロサ・イクトゥス)!」
 そうして護衛の抜けた隙間を、セイバーが疾風となって駆け抜ける。
 放たれる真紅の一撃。振り抜かれた原初の火(アエストゥス エストゥス)」が、アリスの身体を一閃する。

「っぁ、このっ………! 」
 その痛み(ダメージ)に宝具の詠唱が止まる。
 アリスは即座にバフスキルを使用し、セイバーへと反撃を試みる。
 だが発動したスキル《白の女王様のなぞなぞ》の効果は、自身のBREAKに魔力耐性低下効果を付与するもの。
 効果が発生したところで魔力ダメージを与えなければ今がなく、攻撃スキル発動の隙をセイバーが逃すはずもない。

 ここに再び、形勢は逆転した。
 否。セイバーがアリスに肉薄した以上、大勢は決したと言っていい。
 あとはそう時間を掛けることなく、アリス達はセイバーの剣の露と消えるだろう。

 ――――だが、それでいいのか?
 と。その疑問が、再び鎌首を上げる。
 この戦いの最中、ずっと胸中にあった迷い。
 それが戦いの決着を前にして、明確なものとなって立ち塞がる。
 自分は――――


486 : Alice in Borderland ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:01:07 U/JD4aHA0


 と、その時だった。
 ラニとの戦いの時から聞こえていた、もう一つの戦いの音。
 いつの間にか視界外へと消えていたその場所から、一際甲高い音と共が聞こえてきた。
 何故かその音につられ、そちらへと振り返れば、おそらく弾き飛ばされたのだろう一振りの剣が、ありすへと向かって飛来していた。

 ありすはアリスの戦いに気を取られ、気づいていない。
 彼女を守るべきアリスもまた、セイバーとの戦いに集中している。
 つまりこのままだと、ありすはあの剣に貫かれることになる。

  >駆け出す。
   踏み止まる。

 気が付けば、ありすへと向かって駆け出していた。

「へ!? いけませんご主人様!」
 キャスターが静止の声を上げるが、脚は止まらない。
 頭では、彼女は敵だと解っている。
 そもそもこの戦いが決着すれば、彼女たちは消えることになる。
 それをちゃんと理解していながら、それでもこの脚は駆け出すことを止めなかった。

「え? お兄ちゃん?」
 不思議そうな表情をしたありす。

 ……ああ、本当に、自分は何をやっているのか。
 気づいたのは早かった。思ったより近かったのも幸いした。
 飛来する剣から彼女を助けるために、抱きしめるように背中で庇い、

「ぐ、っ――――!」

 刃が肉を貫く音を、確かに聞いた。
 ……けれど不思議なことに、痛みは全くなかった。

「……ねぇ、あたし(アリス)。どうしたの?」

 腕に抱えたありすの言葉に、後ろへと振り返る。
 するとそこには、背中から刃を生やした、黒いアリスの姿があった。


 どこか遠くで、誰かの叫び声が聞こえた気がした――――。


      §


 飛来した剣は、アリスの霊核を完全に貫いていた。
 いかに本質が霊体であるサーヴァントと言えど、霊核を破壊されては存在できない。
 つまりアリスの身体は、もうどうしようもないほどに死んでいた。

「……ああ、いやだわ……。おひさま、かげってきちゃった……。
 あたし(アリス)の……あたし(ありす)たちの夢も、もう終わっちゃうのね……」

 アリスは力なく地面に横たわる。
 いまだに息があるのは、本来は明確な形のない存在ゆえか。
 ……だがそれも、そう長くは続かない。
 アリスの身体は、すでにその末端から崩れ始めていた。

「ごねんね、あたし(ありす)。チェシャ猫さんの言っていた『宝物』、見つけられなかった……。
 あたし(アリス)たちはけっきょく、どこにも居場所のない、にせもののまま……」
「ううん……いいんだ、もう。
 ……お姉ちゃんの言っていた『答え』は見つからなかったけど、なんにもない、からっぽなあたし(ありす)のままだけど、あたし(アリス)のおかげで、あたし(ありす)はとてもしあわせだったから……」

 消えかけていく従者(アリス)の手をしっかりと握り締め、主人(ありす)は小さく微笑んだ。
 その身体もまた、従者の後を追うように、薄れ始めている。
 ありすはアリスの力がなければ生きられず、アリスはありすの夢がなければ動けない。
 たとえ聖杯戦争から解放されようと、彼女達だけは、そのルールから逃れられない。
 ……今ここにいる、岸波白野と同じように。

「……ねえ、お兄ちゃん。一つだけ教えて。
 お兄ちゃんはどうして、あたし(ありす)を助けようとしてくれたの?」

 本当に不思議そうな、少女の疑問。
 あのままありすを庇わなければ、ありすは剣に貫かれていた。
 そうならなかったのは、岸波白野がありすを庇ったため。
 それに気付いたアリスが身を挺さなければ、岸波白野自身が、ありすの代わりに剣に貫かれていただろう。

  >助けたかったから。
   わからない。


487 : Alice in Borderland ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:01:33 U/JD4aHA0

 そう、助けたいと思ったから。
 理由なんてそれだけだ。
 恐怖も打算も、あの時の自分にはなかった。
 ただありすが危ないと思ったから、助けなきゃと思ったのだ。

「ふふ……おかしなお兄ちゃん……。
 にせものでしかないあたし(アリス)たちを助けるいみなんて、どこにも、なんにもなかったのに……」

   ………………。
  >それは違う。

 意味なんて、最初から求めていない。
 さっきも言ったが、助けたいと思ったから助けた。
 本当にただ、それだけなのだ。

「――――――――」
「……………………」

 それに、偽物であることのなにが悪い。
 ……アーチャーの言葉を借りるなら、「偽物が本物に敵わない、なんて道理はない」と言ったところか。
 たしかに、どんなに頑張ったところで、偽物は本物になれないかもしれない。
 けれど、たとえ偽物のままであろうと、本物以上の価値を持つことはある。
 なぜなら、自分の価値を最後に決めるのは、自分自身なのだから。

「……そっか。なんにもなくても、よかったんだ。
 なんにもないあたし(ありす)でも、たいせつにしてくれる人が……いるんだ……」
「ほんものになれなくても、よかったんだ。
 このあたし(アリス)は、あたし(ありす)の見ているゆめだけど、かがみの中のあたし(ありす)だけど、
 今ここにいるあたし(アリス)は、まぎれもないあたし(アリス)だから……」
「……ねえ、あたし(アリス)。びっくりよ。あたし(ありす)たちだけの『宝物』を見つけたわ……。
 チェシャ猫さんに……じまんしなきゃ……」
「きぐうね、あたし(ありす)。あたし(アリス)も、あたし(アリス)たちだけの『答え』を見つけたわ……。
 お姉ちゃんに……おしえてあげましょう……」

 どこにも居場所のなかった、初めからどこにもいなかった、夢を彷徨う少女たち。
 二人はやっと見つけた『宝物/答え』に喜びながら、雪解け水のように消えていく。

「ありがとう、お兄ちゃん……。
 お兄ちゃんのおかげで、さいごは、さびしくなかったよ……」
「さようなら、優しいアナタ……。
 けどふしぎね。アリス(ありす)のさいごを見送るのは、いっつもアナタなんだもの……」

 そうして、二人の少女はいなくなった。
 ふわふわとした、砂糖菓子のような笑顔を浮かべたまま。
 あとに残ったものは、システム的にドロップされたアイテムだけ。
 少女たちの存在を示すものは、なに一つ残っていなかった。

「……果報者だな、あの娘たちは。
 何も得られなかった生涯だったとしても、その最期に確かな意味を得たのだから。
 何もかもを失った身としては、少しだけ羨ましい」
「……たしかに。あれほど幸福な結末は、そうはないでしょう。
 ですので、ご主人様が悲しむ必要はございません。
 あの者たちはこの先ずっと、互いに寄り添い続けるのですから」

 ……セイバー達の言葉を背に、ドロップアイテムを回収する。
 戦いはまだ終わっていない。
 すぐにサチ/ヘレンの下へと戻り、彼女たちを助けなければならない。

 急ごう。
 感傷に浸るのは、全てが終わってからだ。


【Alice@Fate/EXTRA in Neverland】


488 : Dark Infection ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:02:34 U/JD4aHA0


     8◆◆◆◆◆◆◆◆


「さあ―――見せてみろ」
 オーヴァン/コルベニクの頭上にエネルギーが集束し、巨大な渦球が形成される。
 その渦球は破裂すると、ショットガンのように周囲に無数の針を撒き散らした。
 ―――《掃討の魔針》。
 針とは言うが、その一本一本が人間のサイズを超えている。
 たった一つにでも直撃してしまえば、矮小な自分のアバターなど一瞬で吹き飛ばされるだろう。
 だが、自身達の武器は剣。接近しなければ、何も始まらない。
 逆にその矮小さを活かして降り注ぐ魔針の雨を潜り抜け、キリトとアスナは全速力でコルベニクへと接近する。

「オオ――!」
「はあっ!」
 そして同時に振り抜かれた二振りの剣が、コルベニクの胴体を左右から切り裂く。
 即座に反転し、もう一撃。二人はそのまま上下に分かれ、コルベニクの全身を切り刻む。
「っ!? なんだ、この手応え?」
 だがその手応えに、キリトは堪らずコルベニクから距離を取り、当惑の声を漏らした。

 コルベニクは無防備なまま二人の剣戟を受けていながら、ダメージを受けた様子を全く見せず不動のまま。
 加えて全身のダメージエフェクトは、数瞬もせずに消え去っていく。もはや掠り傷さえ残っていない。
 更には剣から伝わった、まるで一枚何かを隔てたかのような曖昧な手応え。
 その違和感が、二人にコルベニクにダメージを与えたという確信を与えなかった。

「フ……それだけか?」
「ッ、だったら……!」
 嘲笑うかのようなオーヴァンの声。
 それを覆すために、キリトはコルベニクへとコードキャスト《vanish_add(b); 》を使用し、同時に魔剣を肩越しに構える。
 片手剣重突進技《ヴォーパルストライク》。
 魔剣が赤いライトエフェクトに包まれ、ジェットエンジンのような金属音とともに放たれる。
 対するコルベニクは、その右手を持ち上げた盾にする。

「っ―――!?」
 魔剣はその右腕を勢いよく突き穿ち、しかしそこで止まった。
 右手に伝わる手応えはそのまま、魔剣その刀身の切っ先しか刺さっていなかった。
 つまりコルベニクから伝わる謎の手応えの正体は、スキル的なバフ効果ではないという事。
「しまっ――!」
 それを理解した直後、キリトの頭上からAIDAの腕手が襲い掛かる。

「させない!」
 だがAIDAの腕手がキリトに触れる直前で、駆けつけたアスナがその側面へと《ニュートロン》を放つ。
 閃光の名に恥じない超高速の五連撃。その衝撃にか、AIDAの腕手は一瞬動きを止める。
 その間にキリトはスキルディレイから脱し、入れ替わるようにスキルディレイで硬直するアスナを抱え、コルベニクから再び距離をとる。

「くそっ……!」
「私達の攻撃が、効いてないの?」
 ソードスキルすらまともに通用しない。その事実に、二人は堪らず歯噛みする。
 剣から伝わる、何かを隔てたような手応えのなさ。
 何か、コルベニクへとダメージを与えるための条件が欠けている。そんな気がしてならなかった。

「それで終わりか? なら次は俺の番だな」
 オーヴァンの声とともに、コルベニクの巨体が動き出す。
 コルベニクは左手が巨大な刃となった左腕を、振り子のように大きく揺らすと、
 次の瞬間。一瞬でキリトとの距離をゼロにし、勢いよくその巨刃を振り上げてきた。

「な!? はや―――、ッ!」
 咄嗟に横へと回避し、両手の剣を盾にする。
 下から襲い来た巨刃は盾にした剣を掠め、そのまま上へと抜けていく。
 それだけで、弾き飛ばされた。
 あまりのサイズ差に、運動の優先順位が完全に押し負けているのだ。
 ……だが、コルベニクの攻撃は、それで終わりではない。
 ―――《戦慄の訪問者》。
 上方へと振り抜けた巨刃が落下の勢いも加算され、ギロチンの如く振り落とされる。

「くっ……!」
 弾き飛ばされたことにより体制が崩れ、回避は間に合わない。
 キリトは再度両手の剣を交差し、巨人の一撃を防御する――だが。
「ガッ―――」
 下からの一撃が掠めただけで弾き飛ばされたのだ。より勢いを増した上からの攻撃を、防げるはずがない。
 キリトに巨刃を打ち付けられた勢いのまま、空間の下層へと叩き落される。


489 : Dark Infection ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:02:59 U/JD4aHA0

「キリト君!? このっ!」
 それを見たアスナは、コルベニクの後頭部へと三連撃ソードスキル《トライアンギュラー》を放つ。
 だが高速で突き出された憑神刀(マハ)の切っ先は、コルベニクではなく宙を穿つ。
 刃が届くその直前で、コルベニクがその場から退避したのだ。

「しまっ――!?」
 そうして移動した先は、アスナの背後。
 移動の際の勢いを乗せ、巨刃が右から左へと薙ぎ払われる。
 アスナはどうにか剣を引き戻して盾とし、身体を回転させて受け流すが、そこへさらにコルベニクの右腕が突き出される。
 まるで壁が襲い来たかのような、巨腕による拳打。
 回避など間に合うはずもなく、アスナはその一撃をまともに受ける。

「っぁ、………ッ!?」
 半ば意識を飛ばされながらも、アスナはどうにか体勢を立て直す。
 だがそこへ、いつの間にか放たれた魔針が迫り来る。
 気づくのが遅かった。回避は間に合わない。
 受けるダメージを少しでも減らそうと、アスナは憑神刀(マハ)を盾にする。

「アスナ―――ッ!!」
 そこへキリトがギリギリで駆けつけ、魔針の側面へと単発ソードスキルを叩き込む。
 ライトエフェクトに包まれた魔剣と紫暗色の魔針が激突しスパークするが、魔剣は圧倒的な質量の差により弾き返される。
 しかし魔針もその軌道を逸らし、アスナに当たることなく後方へと過ぎ去っていく。

「下がるぞ!」
 状況を立て直すためにそう指示を出し、頷くアスナとともにコルベニクから距離をとる。
 コルベニクがこちらを追ってくる様子はない。明らかに余裕を見せているのだ。
「くそっ」
 その事実に、キリトは悔しげにそう口にする。
 腹立たしいが、今はその余裕にすがるしかなかった。

「それで、どうするの、キリト君」
 十分に距離を取ったところで、アスナが杖を取り出しながらキリトへと問いかける。
 高速で唱えられた回復魔法が、二人のHPを回復させる。
「どうするって言われてもな……」
 それを視界の端で確認しながら、キリトは力なくそう呟く。

 もはやオーヴァンは、完全にプレイヤーの範疇から逸脱している。
 攻撃が全く効いていないとは考えたくないが、少なくとも有効打にはなっていないだろう。
 まるでレイドボスと戦っている気分。少なくとも、たった二人で相手にするような存在ではない。

(まさか、グリームアイズが可愛く思える日がくるなんて思わなかったぞ)
 思い出すのは、かつてアインクラッドの74層に存在したボスモンスター。
 あの時もボス戦など想定してなかった状態で、グリームアイズと真っ向から戦う羽目になったのだ。

 だが状況は、あの時よりも遥かに悪い。
 敵は万全。仲間はアスナ一人だけ。逃げたす術はなく、救援など望むべくもない。
 ロストウェポンの影響でアスナは強化されているが、コルベニクのステータスからすれば焼け石に水でしかない。
 しかも中身はプレイヤー。行動のパターン化による対処法は通用しない。
 まさに絶体絶命と言ったところだった。

(考えろ。何か方法は……どうすれば奴を倒せる。
 この際当てずっぽうでも何でもいい。この状況を覆す方法を捻り出せ)
 必死に頭を回転させ、持ちうる情報を総動員して逆転の策を導き出す。

 コルベニクと戦う上での問題点は二つ。
 この遠距離からでも理解できる圧倒的巨体と、奴を攻撃した時に感じる謎の手応えのなさだ。
 このうち巨体に対する対抗策は――――――ある。
 確実とは言えないし、危険も伴うが、まったく効果がないという事はない筈だ。
 となると残る問題はあの手応えのなさだが………。

 オーヴァンは言った。
 コルベニクは『憑神(アバター)』と呼ばれる存在で、『憑神』は『碑文』の力を開放したものだと。
 ……『碑文』。アスナの剣にも宿っているらしい、AIDAに対抗しうる力。
 ならば攻撃のカギを握るのは、やはりアスナの剣か。

 あの手応えのなさの正体はおそらく、AIDAか『碑文』の力による防御系バフの効果だろう。
 ならば『碑文』を宿すというアスナの剣なら、そのバフ効果を突破できる可能性はある。
 ……最良なのはオーヴァンのコルベニク同様、剣に宿る『碑文』の力を開放し『憑神』を出すことだが、おそらくそれは不可能だ。
 今すぐに開放できるとは思えないし、解放できたところで『憑神』を使いこなしているだろうオーヴァンに敵うとも思えない。
 ここはやはり、今の状態のまま奴を攻撃してもらうしかないだろう。


490 : Dark Infection ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:03:28 U/JD4aHA0

「アスナ。俺が奴の攻撃を引き受ける。アスナはその間に、全力でソードスキルを叩き込んでくれ」
「な……それ本気で言ってるの!? 絶対無理よそんなの!」
「けど、それ以外に方法はない。奴にダメージを与えられる可能性があるのは、アスナのその剣だけだ。
 どこまで持つかはわからないけど、少しでも長く耐えきれるよう、限界までバフを頼む」
「っ……わかったわよ! 絶対、死なないでよね……」
「当たり前だろ」

 アスナの詠唱とともにバフが掛かっていくのを確認しながら、キリトは遠方のコルベニクを睨みつける。
 コルベニクはその足掻きを楽しむかのように、泰然とキリト達を待ち構えていた。

「……終わったよ」
「よし……行くぞ!」
 声を張り上げて気合を入れ、キリトはアスナと共にコルベニクへ向かって飛翔する。
 迎え撃つように放たれる魔針。扇状に放たれるそれは、最初の渦球から放たれたものに比べると容易に回避できるが、連続で放たれる分気は抜けない。
 そうして迫り来る魔針を回避しコルベニクへと接近する、その合間に―――

「……深き夜の赤眼を恐れ(セアー・ウラーザ・ノート・ディプト)、」

 紡がれる力ある言葉。
 イメージするのは、先ほど思い出したばかりのあの怪物。
 かつてルグルー回廊で唱えた時よりも確かな理解度、より堅固な『強さの実行力』を以て、その魔法を詠唱する。

「《彼らは地獄へ(アウガ・レン)――――」

 魔針の乱舞を抜ける。
 直後に振り上げられたコルベニクの巨刃を、剣を盾に身体を螺旋回転させて切り抜け、
 次いで二撃目が更なる果汁を伴い振り下ろされ――――

「―――ひた走る(ヘルベグール)》ッッ!!」

 完成する呪文詠唱。
 キリトの全身が、魔法効果の成立により生じた青黒い炎に包み込まれ、
 迫り来る巨刃。矮小なプレイヤー憑神など、容易く両断して余りあるその一撃を、
 いつの間にかその手に握られた巨剣で迎え撃つ―――!

「ほう」
 コルベニクからオーヴァンの声が漏れる。
「うそ……その姿は……」
 暗い炎を振り払い現れた巨影に、アスナが驚愕の声を漏らす。

 巨剣を握る両腕は長く逞く、その漆黒の肌は隆々と筋肉が盛り上がっている。そして腰からはしなる鞭のような尾が、背中からは黒く半透明の翅が生えている。
 何よりも特徴的なその頭部はヤギのように長く伸び、後頭部からは湾曲した太い角が生え、牙の除く口からは炎の息が漏れている。
 その丸い眼を真紅に輝かせる、『悪魔』と表現する以外に例えようのない禍々しい姿を、アスナは知っていた。

「グリーム……アイズ……」

「ゴアアアアアアア!!」
 その呟きに応えるように、赤眼の悪魔が雄叫びを上げる。

 悪魔はコルベニクの巨刃を弾き返し、返す一刀で巨剣を薙ぎ払う。
 その一撃はコルベニクの体を逆袈裟に切り裂き、青いダメージエフェクトを刻み込む。
 だがコルベニクは僅かに身じろいだだけで、その三腕を駆使して即座に悪魔へと反撃をする。
 繰り広げられる剣戟。
 悪魔はコルベニクの三腕をその巨剣で迎撃し、潜り抜け、その体に傷を付けていく。


 使用者の外見をモンスターのものへと変える幻惑魔法。
 それがキリトの使用した魔法の正体だ。
 ステータスそのものに変わりはないが、これでサイズ差による不利は縮まった。
 加えてより堅固な『強さの実行力』を以て詠唱したからか、ルグルー回廊の時とは違い剣もある。
 たった一振りしかなくソードスキルも使えないが、剣さえあればソードスキルの再現は可能だ。
 これにバフによる後押しも加えれば、コルベニクとだって渡り合う事が出来る。

 ……ああ、けどふざけている。
 元の五倍近いサイズになったというのに、それでもなおコルベニクの方が倍以上にデカいだなんて。


491 : Dark Infection ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:04:43 U/JD4aHA0


「っ―――!」
 悪魔と巨神の戦いにふと我に返り、アスナは急ぎコルベニクの元へと飛翔する。
 戦いは一見キリトが押しているように見えるが、それはあの魔法と同じく見かけだけだ。
 サイズ差が縮まったところで、ステータスが変わらない以上、キリトではコルベニクに有効なダメージを与えられない。

「てやあッッ!!」
 振り子のように振り上げ、振り落とす《戦慄の訪問者》。
 真上からの斬り下ろしから、垂直に斬り上げる《バーチカル・アーク》。
 巨刃と巨剣が二度ぶつかり合い、反動で僅かに生じたその隙に、アスナはコルベニクの懐へと潜り込む。
 そして四連撃ソードスキル《カドラプル・ペイン》が、稲妻の如くコルベニクの胸部へと叩き込まれる。

 ……だがまだ足りない。
 コルベニクは僅かに仰け反ったが、あの手応えは突破できていない。
 アスナはコルベニクの胸部を足場に跳躍し、一息で大きく距離をとる。

「グルアアアアアアッ!!」
 それと入れ替わるようにキリトが踏み出し、その巨剣を豪快に振り回す。
 再度振り上げられた巨刃を右からの水平切りで弾き飛ばし、切り返しで振り戻された巨刃の側面を打ち据え軌道を逸らす。
 追撃に迫り来るAIDAの腕手を屈み込んで回避し、全身を回転させもう一度左から薙ぎ払う。
 そして前へと勢い良く踏み出し、全身の捻りも加えて擦れ違うように右から全力で斬り払う。
 片手剣四連撃《ホリゾンタル・スクエア》。
 連続して繰り出された巨剣の軌跡が、コルベニクの巨躯を包むように正方形の軌跡を描く。

「はぁあああ――――ッッ!!」
 直後飛来する、彗星の如き一撃。
 コルベニクの胸部へと叩き込まれる、アスナの渾身の《フラッシング・ペネトレイター》。
 対物ライフルの弾丸の如き衝撃が、今度こそコルベニクの巨躯を弾き飛ばす。

 だがコルベニクは即座に体勢を立て直すと、その頭上に渦球を形成し、炸裂させる。
 放たれた《掃討の魔針》が、スキルディレイに硬直するアスナへと襲い掛かる。
 しかし魔針がアスナを貫くその直前に、キリトがその体を割り込ませ、巨剣を風車のように回転させ盾にする。
 片手剣防御技《スピニング・シールド》が、迫り来る無数の魔針を弾き飛ばしていく。がしかし。

「グ、ルルウゥ……ッ」
「キリト君!?」
 巨剣で防ぎきれなかった部位に、魔針が鋭く突き刺さる。
 それがこの身体の欠点だ。
 本来の体と比べて面積が大きくなる分、敵の攻撃が回避し辛くなってしまうのだ。

「ゴアアアアアアッ!!」
 だがキリトは痛みを堪え、再びコルベニクへと飛翔する。
 散発的に放たれる魔針を巨剣で弾きながら、ひたすら前へと突き進む。
 そして互いの距離が半分を斬った時、コルベニクの巨刃が、ゆらりと後方へ引き絞られる。
 巨刃による連撃の予備動作。
 そう察したキリトは、全身を弾丸の如く回転させ、いっそう疾くコルベニクへと踏み込む。
 そして振り上げられる巨刃。それに先んずる形で、その左腕へと尻尾を鞭のように叩き付けた。

「ぬ」
 僅かに驚いたようなオーヴァンの声。
 巨刃は完全に軌道を狂わされ、即座に引き戻すことは叶わない。
 その間にキリトはさらに一歩踏み込み、全身の捻りを加え渾身の力で巨剣を斬り下ろした。
 完全変則式《ダブルサーキュラー》。
 人型である限り決してありえない連撃が、コルベニクへとそ左肩から袈裟に叩き込まれる。

「もう一つ!」
 直後、キリトの背を飛び越え、アスナがコルベニクの眼前へと躍り出る。
 そして放たれる五連撃OSS《スターリィ・ティアー》。
 星型の頂点を刺し貫く一撃が、コルベニクの眉間を突き穿つ。

「ぐぬっ!?」
 突き抜ける衝撃に後方へと弾かれるコルベニクの頭部。
 その隙を逃さず、キリトは更なる追撃を敢行する。

「グルオオ……ッ」
 片手剣体術複合スキル《メテオブレイク》。
 巨剣の強攻撃による隙をタックルで埋め、さらに強攻撃を繰り出す大技により、コルベニクの体制を押し崩す。
 ……だがこれだけでは不十分。
 あまりの体格差から、完全に崩しきるにはあと一押しが足りていない。

「ゴアアアアアアア―――ッッ!!」
 その一押しを加えるために、キリトは渾身の力で《ヴォーパルストライク》を繰り出す。
 サウンドエフェクト代わりの咆哮とともに、突き出された巨剣の切っ先がコルベニクの胸部へと迫り。
「ッ!」
 しかしコルベニクの体勢とは無関係に動き出したAIDAの腕手に、その刀身を掴み取られることによって阻まれた。


492 : Dark Infection ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:05:28 U/JD4aHA0

「もう忘れたか? こいつはこいつで、知性があるという事を」
 オーヴァンの声とともに、コルベニクが体勢を立て直す。
 AIDAの腕手に掴まれた巨剣が、その握力にギチギチと悲鳴を上げ、
「ッッ!?」
 その刀身の中ほどで、あっけなく握り潰された。
 だが武器が破壊された事に驚愕する間もなく、コルベニクはキリトへと反撃を開始する。

「さあ、そろそろ遊びは終わりにしよう」
 オーヴァンの宣告とともに、コルベニクの頭上に渦球が形成され炸裂する。
 ショットガンのように放たれた魔針は、剣を失い防御手段を失ったキリトの体へ容赦なく突き刺さっていく。
 そこへAIDAの腕手が襲い掛かりキリトを捕らえると同時に、その体を存在しないはずの壁へと勢いよく叩き付けた。

「ガア……ッ!」
 ガラスのように罅割れ、崩落する空間の壁。
 キリトは更なる異空間へと投げ出され、そこへさらにコルベニクが追撃を仕掛ける。
「っ、させな―――っあ!?」
 それをさせまいと、アスナはコルベニクへと追いすがるが、その行動を読んでいたかのように巨刃が振るわれ弾き飛ばされる。
 そしてついでとばかりにその右手に捕らえられ、キリト諸共に異空間の壁へと叩き付けられる。
 さらにコルベニクは二人を投げ放つと、その頭上に太陽の如き灼熱のエネルギーを収束させ、それをキリト達へ向けて投げ放った。

 ―――《凶つ神の裁き》。

「ッッ……!」
 キリトはどうにか体勢を立て直すと、アスナをその背に庇い、その身でエネルギー球を受け止める。
 触れた傍から燃えるほどの超高熱。神経を焼き焦がす激痛が、キリトへと襲い掛かる。。
 それでも少しでもアスナへ及ぶダメージを減らそうと歯を食いしばり、心底からの咆哮を上げ。

「グ、ル……ッ! ウオオオオアアアアアア――――ッッ!!」

 直後、エネルギー球が大爆発を起こし、灼熱の奔流がキリト達を異空間諸共に飲み込んでいった。

      §

「っ……う、あ………?」
 ―――ふと、意識を取り戻す。
 どうやら一瞬、気を失っていたらしい。
 自分が地面に倒れ伏している事を認識する。
 同時に、ところどころ破棄された街並みが視界に映り、いつの間にか元の空間へと戻っていたらしいことに気付く。

 視界の端でHPを確認すれば、完全に危険域に入り込んでいた。
 モンスター化の魔法も解け、姿が元に戻っている。おそらく余りのダメージに魔法の効果が解けたのだろう。
 アスナの掛けてくれたバフが無ければ、おそらくHPを全損して死んでいたに違いない。
 それを思うと、背筋が凍るような悪寒が走った。

「アスナ……?」
 彼女は自分と同じようにコルベニクの最後の一撃を受けていた。
 全力で庇ったとはいえ、どこまでダメージを引き受けられたかはわからない。
 その無事を確認しようとあたりを見渡し、そう遠くない場所で見つけることができた。
 俺と同じように倒れ伏しているが、ちゃんと生きてそこにいた。

「よかった……」
 アスナの無事に、そう胸を撫で下ろしたその時だった。
 じゃりっと、地面を踏む音が聞こえた。
 そちらへと視線を移せば、『憑神』を解除したらしいオーヴァンが、嘲笑うかのように俺たちを見下ろしていた。

「どうした。剣が折れた程度で降参か?」
「ッ……!」
 その言葉でようやく気付く。
 俺の持つ二本の剣のうちの一つ。左手に握る青薔薇の剣が、その刀身の中ほどから折れてしまっている事に。
 おそらく巨剣をAIDAの腕手に砕かれた時に、その影響を受けてしまったのだろう。
 武器破壊状態になっても消失していない理由はわからないが、これでは武器として使えない。

「はっ。誰が降参なんてするかよ」
 そうオーヴァンへと言い返し、どうにか魔剣を支えに立ち上がる。
 強気な事を口にはしたが、もはや状況は絶体絶命だ。
 今の状態では勝ち目などないと、頭の冷静な部分が訴えている。
 すぐにでも逃げるべきだと訴える本能をどうにか抑え、周囲の状況を分析する。


493 : Dark Infection ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:06:04 U/JD4aHA0

 オーヴァンはその余裕からか、『憑神』の顕現を解いている。
 つまりあの謎の防御バフも消えているはず。こちらの攻撃も、何の問題もなく通用するはずだ。
 それに周囲の空間も元の街並みに戻っている。最悪の場合は逃走が可能だ。

「っ……………」
 折れた氷剣を鞘に戻し、残った魔剣を後ろ手に構える。
 徹底抗戦か撤退か。そのどちらの行動をとるにしても、どうにか隙をつくり出す必要がある。
 オーヴァンはそれを容易には許さないだろうが、前へと進まなければどうにもならない。

「キリト君、私も一緒に戦う」
 ダメージのショックからどうにか立ち直ったのだろう。
 アスナがそう口にしながら回復魔法を唱え、俺の隣で剣を構える。
 視界の端で、危険域にあったHPが回復していくのが確認できる。

「アスナ……」
 できれば、アスナには今すぐにでもここから逃げてほしかった。
 けれどそう言ったところで聞いてくれないことは、すでに重々承知している。
 なら俺にできることは、全力で彼女を守ることだけだ。

「……一瞬でいい。あいつに隙を作るぞ。行けるな、アスナ」
「もちろん。キリト君こそ、剣は一本だけで大丈夫? 二刀流の方が良いなら――」
「いや……その剣はまだアスナが持っていてくれ。もしかしたら、あいつに隙を作れるかもしれない」
「……わかった。けど気を付けてね。また『憑神』を出されたら、もう……」
 勝ち目はない、と、アスナは言外に口にする。
 それに俺は、解っていると頷きを返し、重心を前へと傾ける。

 『憑神』に対し勝ち目がないことはとっくに理解している。
 あの力への対抗手段がない限り、『憑神』を出された瞬間に、俺たちの死は確定する。
 ………だから。
 『憑神』を出される前、たとえギリギリでも、奴がプレイヤーの範疇にいる今のうちに――――

「っ、―――行くぞ、アスナ!」
「うん!」
 アスナへと声をかけ、全速力で突き進む。
 AIDAの鉤爪を揺らめかせ佇むオーヴァンへと、先制として《ヴォーパルストライク》を放つ。
 システムアシストよりも早く魔剣を突き出し、その距離を一瞬で詰め――――

 ―――その瞬間。
 俺は、自身の敗北を悟った。

「まったく。いったいお前は、いくつ真実を見落とせば気が済むのだろうな」
 ゆらりと持ち上げられる、オーヴァンの右手。
 その手に握られた、AIDAの魔剣。

 覚えている。あれは、アスナを蝕んでいた剣だ。
 彼女のアバターを浸食し、その感情を暴走させ、この戦いへと導いた呪われた銃剣。
 そもそも俺は、何よりもあの魔剣を破壊するためにオーヴァンへと戦いを挑んだはずで――――

 魔剣が振り下ろされ、その力が解放される。
 発動する無敵効果。展開される減速空間。同時に放たれた衝撃波に、俺の体がゆっくりと弾き飛ばされる。
 体勢が崩れ解除されるソードスキル。ダメージモーションすら緩慢なのは、その減速効果ゆえか。
 そんな、致命的なまでに遅滞化した時間の中で、俺は、奴の言葉を聞いた。

「シルバー・クロウの死に様を覚えているか、キリト」
「なに、を……」
 いったい奴は、何を言っているのか。
 忘れてなどいない。忘れられるはずなどない。
 アイテムの散らばる聖堂の中、無残な傷痕を刻まれた、彼の姿。その、最期の呟きを。

「―――あの傷のつけ方を教えてやろう」
「!」
 その言葉とともに、オーヴァンは右手の魔剣と左手の短剣、そしてAIDAの鉤爪を折り畳んでいく。
 ギシリと、限界まで縮められた発条のように軋むオーヴァンの身体。
 その姿は、獲物へと襲い掛かる寸前の猛獣とどう違うというのか。

「怯えなくていい」

 ……俺は失敗した。
 俺は奴に挑むのではなく、アスナを連れて、何が何でも逃げ出すべきだったのだ。
 これは奴の持つ力。奴の言う真実を見落としたが故の、当然の結果だった。
 そう受け入れたからか。走馬灯のように、これまでの出来事が脳裏をよぎる。

「その目に焼きつけろ……!」

 ……これは報いなのだろうか。
 レンさんを守れず、シルバー・クロウを死なせ、サチを追い詰めてしまった、俺へと下される罰。
 …………ああ、だとしても。
 ―――アスナ。せめて、君だけでも―――生きて―――

「これが―――お前が拒んだ真実だっ!」
 振り抜かれる異形の三腕。刻まれる《異形の聖痕》。
 解き放たれた三つの刃が、俺にシルバー・クロウと同じ傷痕を付けようとその爪を伸ばし―――

 ―――その瞬間。
 彼女の剣が弾き飛ばされ、
 デジャヴのように、栗色の長髪が宙を舞った。


494 : Dark Infection ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:06:58 U/JD4aHA0

「……………………………………………………………………………………、え?」
 目の前の光景に、茫然と呟く。

 理解ができない。
 いつの間にかアスナが、俺へと力なく背中を預けていた。
 反射的に、左腕でアスナを支える。
                              バタリと、何かが倒れる音がした。

「アス……ナ……?」
 真っ白になった頭で、彼女の名前を呼んだ。
 今にも泣き出しそうな表情で、アスナは俺を見上げる。
 そして右手を俺の顔へとゆっくり伸ばすが、右手は途中で力を失ったかのように垂れ下がり、
                              地面に落ちて、砕け散った。

「……キリ……ト………く……ん…………」
 消え去りそうなほど弱い声で、アスナが俺を呼ぶ。
                              栗色の髪が風に舞って散り、
 そしてその瞳から、はらりと一粒の涙を溢すと、

  ご め ん ね

 無数の光の破片となって、

  さ よ な ら

 散っていった。

 あとに残ったものは、彼女が持っていたらしいいくつものアイテムと、
 俺を囲むように刻まれた、あの時と同じ赤い爪痕だけ。
 アスナはもう――――どこにもいなかった。

 ……なにも理解できなかった…………したくなかった。
 どこかで誰かが、張り裂けるような叫び声を上げている気がした。
 それが俺自身のものだと気付いたのは、崩れるように膝をつき、地面に蹲った後だった。

「最後にもう一つ、お前に教えておいてやろう」
 何も考えられなくなった頭のまま、その言葉に顔を上げる。

「サチにAIDAを感染させたのも、俺だ」

 気が付けば俺は、男へと向かって切りかかっていた。
 だが振り抜いた魔剣は男の短剣に防がれ、俺の体はAIDAの鉤爪に弾き飛ばされた。
 地面を転がりながらも染みついた反射で体勢を立て直し、近くにあった剣を拾い再び男へと切りかかる。

 その剣は、俺の魔剣と酷似していた。
 それも当然。その剣の名は、【虚空ノ影】。
 【虚空ノ幻】の担い手である蒼天のバルムンクの対となる存在。蒼海のオルカが担うもう一振りの魔剣である。
 ……だがそんなこと、今の俺にとっては何の意味もなく、ただ目の前の男へと向けて、二振りの魔剣を叩き付けた。

「うおああああああああ…………ッッ!!」
 高速で繰り出される二刀連撃。
 激情のままに振るわれる虚空の幻影は、しかし。
 男の振るう三つの刃によって、魔剣の力すら使わずに容易く捌かれる。
 もとより手数で劣っているのだ。
 フェイントもなく、ただ感情のままに振るわれた攻撃が、通用するはずもない。


495 : Dark Infection ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:07:24 U/JD4aHA0

「ッ……!? がッ――!」
 男は魔剣で虚空ノ幻を、短剣で虚空ノ影を迎撃すると、AIDAの鉤爪を、自身の体ごと回転させ薙ぎ払う。
 そしてその連撃で俺の体勢が崩れたところで、俺へと向け魔剣の引き金を引いた。
 放たれる《異端の洗礼》。
 俺は反射的に銃撃を防ぐが、その衝撃にあっけなく弾き飛ばされた。

「弱い怒りだ。虫すら殺せない」
 地面に倒れ臥す俺へと、男が何かを言った。
 ……だがもう、何もかもがどうでもよかった。
 もはや立ち上がる力も、男に対する怒りもない。
 あるのはただ、アスナを失った事への絶望と、彼女を守れなかった俺自身への失望だけ。
 このまま戦う意味など、もうどこにも残ってはいなかった。

「………慈悲だ」
 男は魔剣の切っ先を俺へと突き付け、その銃口にエネルギーを集束させる。

 ……ああ、それでいい。
 ここでこのまま死ねば、もしかしたらアスナの許へと行けるかもしれないのだから。

 そうして放たれた光弾は狙い違わず俺へと迫り、着弾とともに巨大な火柱を立ち上らせる。
 ………だがその炎が、望んだように俺を焼くことはなかった。

「なに?」
 男が驚きの声を上げる。
 俺を炎から守っているのは、いつの間にか俺の背後に立っていた、青い和服の獣人の女性だ。
 彼女は前方に構えていた鏡を腕とともに一振りすると、あっけなく周囲の炎を吹き散らした。

「ぬ!?」
 同時にどこからか現れた赤いドレスの少女が、その身の丈ほどの真紅の大剣で男へと切りかかる。
 男はその一撃を咄嗟に飛び退いて回避し、少女から大きく距離をとる。
 少女もまた男へと追撃を仕掛けることなく、一足で獣人の女性の隣まで後退した。

「……なるほど。どうやらあのお嬢さんは死んだようだな。
 それで、君たちはこのまま、俺とも戦うつもりかな?」
 男がそう問いかけた相手は少女たちではなく、その背後にいる学生の少年だ。
 青年は少女たちの前へと歩み出ると、貴方がそれを望むのなら、と答えた。
 その声は、その柔和そうな容姿からは想像できないほど、酷く冷め切ったものだった。

 ……ああ、覚えている。
 彼は、サチの同行者だったらしき人物だ。
 ……そうだ。俺は彼にも、謝らなくてはいけない。
 あんな状態だったサチを守ってくれていた、彼の努力を無にしてしまったのだから。

「……いや、止めておこう。
 このまま君たちの相手をするのは、さすがに分が悪そうだ」

 男はそう言うと、踵を返してこの場から立ち去って行った。
 あとに残されたのは、守るべきものを守れなかった、無力な敗北者たちだけだった――――。


【アスナ@ソードアート・オンライン Delete】


496 : 再誕の求道者 ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:08:27 U/JD4aHA0


     9◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ――――そうして。
 全てが終わった後、黒衣の少年――キリトから聞いた話に、堪らず歯を食い縛る。

 ……サチは、ヘレンの力でデータの狭間へと逃げ、永遠に等しい時間を以て死から逃げ続けることを選んだらしい。
 それは時間的には一瞬の事だったらしく、岸波白野とラニとの戦いが決着した頃には、すでに終わっていた出来事だった。
 つまるところ、岸波白野がラニの事を優先した時点で、サチと再会することは叶わなかったのだ。

「永遠に死から逃げ続ける、か……。
 結局あの娘は、洛陽を迎えることすら拒んだのだな」
「ホント、愚かしい選択ですね……。
 人はいずれ死ぬもの。どれだけ拒んだところで、いつかは死に追い付かれるというのに」

 ……ああ、確かに自分は望んだ。
 せめて、サチの命だけでも救いたいと。
 確かにその望みは叶ったと言えるだろう。
 彼女が死を拒み、過去に逃げ続ける限り、死が追い付くことはない。
 彼女は永遠に等しい時間を、思い出の中で生き続けるのだから。
 この結末は、サチにとってある種の救いなのかもしれなかった。

 ……………………。
 ………………。
 …………、ふざけるな。
 こんな結末の、いったいどこが救いだというのか。
 死から逃避し、思い出に逃げ続けることの、いったいどこが生きていると言えるのか。

 そんなものを生きているだなんて、自分は認めない。
 それはただ、死んでないだけだ。救いなどどこにもありはしない。
 これは決して、岸波白野が望んだ結末などでない。

 ……けれど、もはや岸波白野ができることは何もなかった。
 自分にできることは、未来(まえ)へと進むことだけ。
 過ぎ去った過去に立ち止まったサチには、もう二度と手は届かない。

 いや、そもそも岸波白野の声など、彼女に届いたことなかった。
 自分ができたことは、ヘレンを通じて、辛うじて繋ぎ止めていただけだ。
 その繋がりすら断ち切り、彼女はヘレンとともに消えてしまったのだ。
 もはや誰の手も届かない、キリトの声すら届かない、遠い場所(かこ)へと。

 岸波白野には、その事実を受け入れることしかできない。
 たとえどれ程認めがたいものなのだとしても、
 それが、サチとヘレンの、もう変えようのない結末なのだと…………。


 ……そして、この戦いで失われたものは、サチだけではない。
 キリトの恋人であり、ユイの母親でもある少女――アスナもまだ、その命を落としていた。

 アリスを貫いた、ミアの剣。あれはその直前まで、アスナが使っていたらしかった。
 何でもミアの剣は、『碑文』の力でAIDAに侵食されたアスナを救ってくれたのだとか。
 だがオーヴァンの一撃からキリトを庇った際に、どこかへと弾かれたのだと言う。

 ……それはいったい、どんな因果が廻ったのだろう。
 何らかの理由で、ありす達と行動を共にしていたミア。
 AIDAの魔剣に後押しされ、ありすを殺そうとしていたアスナ。
 ありす達の仲間だった彼女の剣が、自らを殺したアスナを魔剣から救い、そしてありすに死を齎したのだから。

 ……もしかしたらミアは、ありす達を止めたかったのだろうか。
 なんて考えるのは、何も知らない人間の、勝手な憶測にすぎないのだろう。
 自分は彼女の事を、何一つとして知らないのだから。

 ……それに結局、アスナは殺されてしまった。
 AIDAから解放されたのだとしても、それでは何の意味もない。

 そう。岸波白野もキリトも、この戦いで多くのものを失った。
 ラニ、ありす達、サチとヘレンに、そしてアスナ。
 自分達はそれぞれの大切な仲間を守りたいと願い、しかし、誰も助けることができなかったのだ。

 ……………………、もし。
 もしあの時、ラニやありす達の事よりも、サチ/ヘレンの事を優先していたのなら、結果は違っていたのだろうか。
 なんて、ありもしない”if”を考えてしまう。
 そうすれば、自分は彼女たちを助けることができたのではないか、と。
 ……けどそれは、二人の少女の心を踏み躙ることと同じ事で、
 それで彼女たちが助かったとしても、きっと代わりに、他の誰かが傷つくことになってしまうのだろう。

 何故ならそれが、このデスゲームのルールなのだから。
 ……その現実を前に、自分は聖杯戦争の時と同じ思いを、あの時よりもずっと強く懐いた。


497 : 再誕の求道者 ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:09:54 U/JD4aHA0


 ドロップアイテムを回収し、一先ず学園へ戻ろう、とセイバーたちに声をかけ、学園へ向け歩き出す。
 学園を出たばかりではあるが、今の状態で探索を続けることは出来ない。
 キリトの事もあるし、作戦を立て直す必要があるだろう。
 ……だが学園へと向かう足取りは、自分でも思っていた以上に重かった。

「この事を知れば、あの娘は酷く傷つくであろうな。
 その悲しみに心を病んでしまわぬか、余は心配でならぬ」
「ですが、伝えないわけにもいかないでしょう。
 隠したところで、いずれは知ってしまうことですし」

 ユイ。
 このデスゲームにおける、岸波白野の最初の仲間であり、
 キリトとアスナの娘である少女。
 母の死を知った時、彼女は一体どうなってしまうのか。


 ……たった一人の勝者を決めるバトルロワイアル。
 たとえあらゆる願いが叶うとしても、幼い少女が傷つく戦いを、当然なのだとは思いたくなかった。

 これが当然であるのなら――
 このシステムは、根本から歪んでいる。


【B-2/日本エリア/一日目・夕方】

【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP40%(+150)、データ欠損(小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、{男子学生服、赤の紋章}@Fate/EXTRA
[アイテム]:{女子学生服、桜の特製弁当、コフタカバーブ}@Fate/EXTRA、{ユウキの剣、死銃の刺剣}@ソードアート・オンライン、クソみたいな世界@.hack//、{誘惑スル薔薇ノ滴、途切レヌ螺旋ノ縁、DG-0(一丁のみ)、黄泉返りの薬×1、万能ソーダ、吊り男のタロット×3、剣士の封印×3、導きの羽×1、機関170式}@.hack//G.U.、図書室で借りた本 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、不明支給品0〜5、基本支給品一式×4
[ポイント]:0ポイント/0kill(+2)
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
0:……このデスゲームは、根本から歪んでいる。
1:作戦を立て直すために、キリトとともに学園へと戻る。
2:ハセヲ及びシノン、セグメントの捜索に向かう。
3:主催者たちのアウラへの対策及び、ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
4:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
5:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
6:ヒースクリフや、危険人物を警戒する。
7:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP75%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP90%、健康
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
 学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時(増加分なし)でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一騎だと10分、三騎だと3分程度です。
※アーチャーとの契約が一時解除されたことで、岸波白野の構成データが一部欠損しました。
※エージェント・スミスに上書きされかかった影響により、データの欠損が進行しました。
 またその欠損個所にデータの一部が入り込み、修復不可能となっています(そのデータから浸食されることはありません)。


498 : 再誕の求道者 ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:10:24 U/JD4aHA0

【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP85%、MP60%(+50)、疲労(極大)、深い絶望、ALOアバター
[装備]:{虚空ノ幻、虚空ノ影、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA
[アイテム]:折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンライン、不明支給品0〜1個(水系武器なし) 、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:??????
0:アスナ…………サチ…………。
1:……………………。
2:レンさんやクロウのことを、残された人達に伝える。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。

【折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンライン】
刀身の中ほどから折れてしまった、鍔元に薔薇の装飾が施された青白い氷の剣。
武器破壊状態にありながら消失していない理由は不明。

【虚空ノ影@.hack//G.U.】
蒼海のオルカが使用する、手斧の様な形状の禍々しい刀剣。
・SPドレイン+50%:通常攻撃ヒット時に、ダメージ値の50%を自分のSPとして吸収する

【魅惑スル薔薇ノ滴@.hack//G.U.】
薔薇の護拳の拵えが咲く、刀身全てが光で構成された刀剣。
第六相の碑文使いのロストウェポン。マハの碑文を取り込み、それが励起したことによりパワーアップした。
・魅惑ノ微笑・改:通常攻撃ヒット時に、50%の確率でバッドステータス・魅了を与え、かつレンゲキがより起きやすくなる


    10◇


 そうしてフォルテは、アリーナへと辿り着いた。
 キリト達との戦いから撤退した後、近くにあったゲートを使用しワープしてきたのだ。
 だが目的地へと辿り着いたというのに、その表情は憤怒に彩られたままだった。

「ッ、ァア……ッ!」
 抑えきれない怒りを発散するために、周囲にエネルギーを解き放つ。
 荒れ狂う力の奔流に、アリーナのオブジェクトが破壊され一瞬で瓦礫と化す。
 だが心中に渦巻く激情は、僅かにも静まることはなかった。

  “―――他人を不意打ちしてPKするのが、絶対的な力?―――”

 フォルテの目的は、何者にも負けぬ“力”を得ること。
 その力で全てを……人間を破壊することが、自分に残された唯一の行動論理だ。
 ―――“より強く”。
 己が名の意味であるそれを証明するためだけに、これまでの日々を生きてきたのだ。
 ………だが。

  “―――ただPKするだけなら、貴方が小娘と言ったありすにだってできるわ―――”

 あの女――アスナは、それを否定した。
 あろうことがオレを、何もできないまま巻き添えで死にかけた、無力な小娘と同列に語ったのだ。
 そしてその直後の戦いで刻まれた、またも“絆の力”に追い詰められて撤退するという屈辱。
 それが、フォルテの胸中に静まらぬ憤怒を燃え盛らせていた。

「ッッッッ………!!」
 感情のままにもう一度、今度は地面へとエネルギーを叩き付ける。
 あっけなく粉砕されるアリーナの床。その力が人間に直撃すれば、容易く死に至ることは間違いない。
 だがそれを再認識してなお、荒れ狂う感情が落ち着く気配はなかった。

 ……ああ、認めよう。
 確かにオレは間違えていた。
 ただ相手を破壊するだけでは意味がない。
 “絶対的な力”を証明するならば、不意打ちなどせず、真正面から叩き潰すべきだったのだ。
 そうすることで初めて、相手に言い訳の余地を与えることなく、敗北を刻み付けることができるのだ。


499 : 再誕の求道者 ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:12:09 U/JD4aHA0


 何者にも負けぬ、絶対的な力。
 目安としては、シルバー・クロウのようなナビが使っていた力か、あの女のようなバグによるイリーガルな力だろう。
 あの二種類の力は、明らかに通常のプログラムを逸脱していた。
 そしてアリーナでは現在、強力な敵と戦えるイベントが開催されているという。
 さすがにあのような力は手に入らないだろうが、もしかしたらその片鱗くらいは見つかるかもしれない。
 ついでにレアアイテムも手に入るというのなら、挑んでみる価値はあるだろう。

 ……だがその前に、まずHPを回復させておくべきだろう。
 自身の残りHPは、残り5%程度。もはや風前の灯火と言っていい。
 こんな掠り傷すら致命傷になり得る状態では、まともに戦うことなど不可能だ。
 実際、先の戦いで敗れた原因の半分は、僅かなダメージすら避けるあまりに、未来予測に頼り過ぎてしまった事なのだから。

 ピンクとやらから奪ったこの未来予測は、あの女が持っていたとは思えないほど強力な力だ。
 この能力がある限り、自身の能力が及ぶ限りにおいて、ほぼ全ての攻撃に対応することが可能だろう。
 だが同時に、この能力は相応のデメリットを秘めていた。
 そのデメリットとは、周囲から獲得した膨大な情報によって生じる処理能力への負荷。
 つまり無暗矢鱈と未来予測をし続ければ、その演算のためにラグが発生し、頭痛のようなノイズが襲い掛かってくるのだ。

 戦いの後半、キリト達の攻撃に対処しきれなかったのはそのためだ。
 未来予測と同時に生じる頭痛(ノイズ)に、次の未来予測が遅れだしていたのだ。
 それさえなければ、ブルースから奪ったソードが破壊されることも、
 あの女がユウキとやらから受け継いだというスキルを食らうこともなかった筈なのだ。

 加えてそのせいで、【万死ヲ刻ム影】も失ってしまった。
 あの大鎌は現状、シルバー・クロウのあの力に対抗できる唯一の武器だ。
 それを失ったという事は、あの力に対する対抗手段を失ったに等しい。
 あの力に対抗するためにも、あれに代わる武器を手に入れる必要があるだろう。
 もっとも、あの力そのものを手に入れてしまえば、その必要はなくなるのだが。


 振り返り、先ほど自分が使用したばかりのゲートを操作する。
 ただし転送先は、日本エリアではなくマク・アヌに設定する。
 たしかマク・アヌにはショップがあったはずだ。まずはそこで回復アイテムを手に入れる。
 二度とあんな無様を晒さないためにも、残りHPには十分な余裕を持たせておく必要がある。
 アリーナに挑むとすれば、その後だ。

 設定の完了と同時に転送が開始される。
 胸中に浮かぶのは、これまでの戦いのこと。

 これまでの戦いで、自分が優位であった戦いは幾度もあった。
 だがその度に“絆の力”が戦況を狂わせ、自分から勝利を遠ざけでいった。
 自分が絆の力に翻弄され始めたのは、キリトと出会ってからだ。
 だからだろう。自分にとってキリトとは、“絆の力”の象徴ともいえる存在になっていた。

 そして今回の大敗。
 ここにきてキリトへの苛立ちは、明確な怒りへと変わっていた。
 故に――――

「……待っていろキリト。
 さらなる力を……何者にも屈しない、圧倒的パワーを得たその時こそ、キサマたちの言う“絆の力”を破壊してやるッ……!」

 ここにはいない少年にそう言い残し、フォルテはアリーナから姿を消した。


500 : 再誕の求道者 ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:12:43 U/JD4aHA0


【G-1→F-2/アリーナ→マク・アヌ/一日目・夕方】

【フォルテ@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP5%、MP25/70、オーラ消失、激しい憤怒
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、{ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:{ダッシュコンドル、フルカスタム}@ロックマンエグゼ3、黄泉返りの薬@.hack//G.U×2、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、{マガジン×4、ロープ}@現実、不明支給品0〜4個(内0〜2個が武器以外)、参加者名簿、基本支給品一式×2
[ポイント]:2120ポイント/4kill(+3)
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
1:マク・アヌのショップに向かい、最優先でHPを回復させる。
2:十分にHPを回復した後、改めてアリーナへ向かう。
3:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
4:シルバー・クロウの使ったアビリティ(心意技)に強い興味。
5:キリトに対する強い怒り。
6:ロックマンを見つけたらこの手で仕留める。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※参加者名簿を手に入れたのでロックマンがこの世界にいることを知りました。
※フォルテのオーラは、何らかの方法で解除された場合、30分後に再発生します。
※ゲットアビリティプログラムにより、以下のアビリティを獲得しました。
 剣士(ブレイドユーザー)のジョブ設定及び『翼』による飛行能力(バルムンク)、
 『成長』または『進化の可能性』(レン)、デュエルアバターの能力(アッシュ・ローラー)、
 “ソード”と“シールド”(ブルース)、超感覚及び未来予測(ピンク)、
 各種モンスターの経験値、バトルチップ【ダークネスオーラ】
※バトルチップ【ダークネスオーラ】を吸収したことで、フォルテのオーラがダークネスオーラに強化されました。
※未来予測は使用し過ぎると、その情報処理によりラグが発生し、頭痛(ノイズ)などの負荷が発生します。

【ダークネスオーラ@ロックマンエグゼ3】
闇の力のオーラでダメージが300より低い攻撃はすべて無効!!
ただし、効果時間は他のオーラの半分である15秒程度しか持たない。
なおこのダークネスオーラは、ドリームオーラが【幸運の街】のイベントでランクアップしたもの。

【フルカスタム@ロックマンエグゼ3】
使った瞬間にカスタムゲージが満タンになる。
このロワでは、スキルトリガー再使用待機時間やスキルディレイ、スキルゲージなども該当する。
だたし、バトルチップなど無限使用可能なアイテムの再使用時間は該当しない。


    11◇◆


 そうして、オーヴァンはその場所に現れた。
 空も大地もない、白紙の空間。
 ほんのわずかな間だけ行動を共にした少女――ラニ=Ⅷが訪れたという、創造主の部屋に。
 だがその部屋の様相は、少しだけ異なっていた。
 部屋の中央にあるのは、ベッドではなく安楽椅子であり、その周囲を囲むように額が裏向きに浮遊している。

 ――エリアワード【輪廻する 煉獄の 祭壇】

 それが、オーヴァンがこの場所へと入るために選んだ言葉だった。


 リコリスのイベントの詳細は、すでにラニから聞いていた。
 オーヴァンはあの場から離れた後、ウラインターネットへ通じるカオスゲートを利用し、直接この場所へと侵入したのだ。
 無論正規の手段ではないが、『碑文』と『AIDA』を併せ持つオーヴァンにとって、それは関係のない事だった。
 それにそもそも、ネットスラムにある本来のゲートが壊れていては、正規の手段で入ることなど不可能だろう。

「……ハロルドはいない、か」

 勇者カイトが訪れたこの部屋のオリジナルには、創造主の精神の宿った石碑があった。
 だがこの部屋に石碑はなく、代わりに青く光る直方体が安楽椅子の上に配置されている。
 そのミステリーデータを調べれば、やはり【noitnetni.cyl_3】が手に入った。
 予想した通り、ここはリコリスのイベントで訪れる予定の場所だったのだろう。


501 : 再誕の求道者 ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:13:30 U/JD4aHA0

「……_3、ね」
 つまりは、三つめのリコリスの欠片(セグメント)。
 それを見て、オーヴァンは得心を得たようにそう呟く。

 実のところこのイベントで、集めるべきセグメントの数は指定されていない。
 それはつまり、最悪の場合、10や20と言った数を求められる場合もあるという事だ。
 だがオーヴァンは、これが最後のセグメントだろうと予想を付ける。
 何故ならここは、勇者カイトが最後に訪れた創造主の部屋だからだ。

 一つ目のセグメントだけならまだわからなかっただろう。
 だが二つ目のセグメントの存在した場所は、暗澹とした荒野だったという。
 加えて転送のために使用したエリアワード――【選ばれし 絶望の 虚無】。
 つまりその場所は、勇者カイトがスケィスと戦ったエリアの再現なのだ。
 そこで本物のスケィスと戦ったというのだから、それも預言者の言う『運命』の一つかと思えてしまう。

 だがなんにせよ、勇者カイトは、一つ目の創造主の部屋で『黄昏の碑文』を知り、そして二つ目の荒野でスケィスと戦った。
 セグメントがその物語に沿って配置されているのであれば、この部屋のセグメントの番号は_3にはならない筈だ。
 だが実際には、創造主の部屋の最初と最後だけを抜き出し、間にスケィスの荒野を挟んで配置されていた。
 という事は、カイトの物語自体に意味はなく、その部屋自体に何かしらの意味が込められているのだろう。

 セグメントの配置されていた部屋に込められた意味。
 一つ目を『黄昏の碑文』、二つ目を『八相』とするのなら、この三つめは何か……。
 勇者カイトとハロルドがここで邂逅したことを考えるのなら、『創造主』となる。
 だが前の二つの意味との繋がりが無い。
 ハロルドは確かに『The World』の創造主であるが、『黄昏の碑文』の制作者ではないし、『八相』とも直接の関わりはない。
 となると、考えるべきはこの部屋で起きたもう一つの出来事。すなわち―――

「クビアか」

 クビアは『八相』ではなく、腕輪の反存在として腕輪とともに誕生した『影』だ。
 勇者カイトはここでハロルドと開校した直後、クビアに襲われ最後の決戦をし、結果として腕輪を失った。
 そして勇者カイトとクビアが初めて遭遇した場所も、スケィスの荒野だ。
 ならばリコリスのセグメントが配置された部屋の意味は、クビアの存在を表しているのではないか?

「あるいは、その誕生を……」

 榊はこの世界がツギハギだと言っていた。
 プレイヤーの力で容易に壊れてしまう、脆い世界なのだと。

 ―――例えばの話だ。
 オーヴァンがその目論見通り『The World:R2』で『真なる再誕』を発動した場合、まず間違いなくその力の影としてクビアは誕生しただろう
 そして反存在たるクビアは、『真なる再誕』が発動するほどに真に成長したハセヲの『死の恐怖』と同等以上の力を持つはずだ。
 ……だがしかし、それで世界が壊れることはまずあり得ない。
 なぜなら、いかに世界中のネットワークに影響を与えようと、所詮は一つのゲーム内での話だからだ。
 『The World』のプログラムに依存している以上、究極的には『The World』そのものを消去してしまえば事態は終息に向かうだろう。

 …………しかし、だ。
 その誕生に、一つの世界が壊れるほどの力が関わっていたとしたら、どうなる。
 あえて脆く作られた世界。跋扈するシステムを超越する力。それらの反存在として誕生したクビアは、いったいどれほどの力を持つ。
 この世界を『The World』だと仮定して、それを破壊するほどの力から生まれたクビアは、はたして一つの世界の内に留まる存在なのだろうか。

 榊の口にしたモンスターエリアの話も、決して嘘ではないだろう。
 そしてもしそのエリアが解放されれば、プレイヤーたちはその窮地から逃れるため、さらにシステム外の力を行使するはずだ。
 ……だがそれは、クビアの誕生、または成長を促進するための餌でしかないのだ。

 無論、これは何の根拠もない憶測にすぎない。
 そもそもこの世界が壊れることなく誰かが優勝してしまえば、クビアは誕生しないのだから。
 それにもし仮にクビアが誕生したとして、榊たちGMは何故それを望む。
 クビアはあくまでも反存在。もしクビアを操れる存在がいるとすれば、それはクビアを生み出す世界(システム)そのものだけだ。
 そしていかにGMと言えど、世界の内側に存在する住人である以上、世界そのものを操る力はない筈だ。
 なぜなら、本当に世界を自在に操れるのなら、こんな回りくどい方法をとる必要はないからだ。

 ……しかしここに、一つだけ疑問が残る。
 一つ目が『黄昏の碑文』を意味するのなら、クビアはそこにどう関わるのか、だ。


502 : 再誕の求道者 ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:14:49 U/JD4aHA0

 勇者カイトにとっての『黄昏の碑文』は、女神アウラの死と再生……いや、『死』と『再誕』の物語だ。
 女神アウラは、勇者カイトの刃によって一度死ぬことで、究極AIに進化……“女神Aura”へと再誕を果たした。
 モルガナを討つためであろうこの行動を、ある人物は自己犠牲だと称した。
 しかしクビア自身が自己犠牲を行う事はあり得ない。
 なぜなら自らを生み出した存在と相討つことこそが、クビアの存在理由。役割だからだ。
 犠牲とはつまり生贄だ。ある目的のために、代価としてそれを払う事を言う。
 死ぬことそのものが目的である以上、クビアのそれは自己犠牲とは言えないだろう。

 だが……それならば、このデスゲームで自己を犠牲にするのは誰だ。いったい誰が死に、そして生まれ変わるのか。
 クビアをこの物語に組み込むとしたら、その役割は何になる。
 いったい誰が、何のために、神の座に上り詰めようとしている。
 それともあるいは、誰かを………?

「真実の奥の、更なる真実……か」
 デスゲームの理由。GMの目的。クビアの役割。
 そして――このイベントを始めた『意志』は、いったい何を伝えたがっているのか。
 それらの真実に至らない限り、GMたちの裏をかき、その奥の更なる真実を知ることなどできないだろう。


「おや、これは驚いた」

 ふと、背後からそんな声が聞こえてきた。
 振り返ってみれば、そこには見覚えのある白衣の男――とワイス・ピースマンがいつの間にか現れていた。

「君か。俺に何か用でも?」
「いや、今回の遭遇は純然たる偶然によるものだよ。
 まあもっとも、あの預言者に言わせれば、これも『運命』となるんだろうけどね。
 私の目的は、そこにあるプレイヤーの残骸の回収だよ」

 その言葉に示された場所を見れば、そこには確かにプレイヤーらしき人型が倒れ臥していた。
 オーヴァンの位置からは額に隠れるよう倒れていたため、気付くことができなかったのだ。

「彼は?」
「彼の名はロックマン。ネットナビと呼ばれるAIの一種だ。
 彼はスケィスとの戦いで随分な無茶をやってね。結果としてこの場所に転送された訳だが……その際に彼を彼たらしめていたプログラムが破損してしまったようなんだ。
 彼はもう二度と動くことはないし、仮にプログラムを修復したとしても、それはもはや彼とは言えない存在だろう。
 よって敗退扱いとし、こちらで回収させてもらう事になった」

 なるほど、とオーヴァンは納得する。
 要するに、ワイズマンやボルドーと同じだ。
 重要なのはプレイヤーが勝ち残ることで、敗北したもの、戦う事の出来ないものに用はないのだ。
 そして逆に、仮にも戦う事が出来るのなら、たとえ弱者であっても構わないという事だろう。

 そう考えを巡らせるオーヴァンの横で、トワイスは何かしらの操作を行う。
 するとロックマンの体が光に包まれ、どこかへと消えて行った。つまり回収されたのだ。

「では、私はこれで失礼させてもらう」
「ほう。前の時と違って、随分と気が早いな。
 そちらは仕事が遅れでもしているのか?」
「……実のところ、プレイヤーに干渉し過ぎだと監督役に警告を受けてしまってね。
 下手に役割を超えて動いてしまうと、次は処罰を受けかねないんだ。
 今回のロックマンの回収にしても、あちらへ戻るついでにと頼まれたことでね。
 だから今後、私からの接触はないと思ってくれて構わない」
「なるほど。GMにもGMなりのルールがあるという事か」

 そして、予想はしていたが、やはりGMも一枚岩ではないという事もはっきりした。
 それこそこのトワイスがその一人だ。
 GMの目的が統一されているのなら、警告を受けるような行動をとるはずがない。
 彼らはそれぞれに目的があり、そのためにGMという立場を利用しているに過ぎないのだ。
 付け入る隙があるとすれば、やはりそこだろう。

「……ああ、そうだ。
 あのロックマンを再利用するつもりなら、これも持っていくといい。俺には必要のないものだからね」
「これは、バトルチップに……サイトパッチ? 確かにこれは、ロックマンが持つべきアイテムだと言えるが……。
 ……なるほど、これも『運命』というやつか。いいだろう、ありがたく使わせてもらうよ」
「それとあと二つ。一つはワイズマンが将来手に入れるはずだったロストウェポンだ。可能なら、彼に渡してやってくれ」
「まあ、ついでだ。この先彼がどうなるかは知らないが、渡すだけは渡しておくよ。
 それで、あと一つはなんだい?」
「これだ」
「これは……」


503 : 再誕の求道者 ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:15:39 U/JD4aHA0

 オーヴァンが差し出したのは、一枚の黒いプレートだった。
 それを受け取ったトワイスは、アイテム名を確認して怪訝そうに目を細める。

「ISSキットか。だがいいのかい? 君の役割からすれば、これは十分に役に立つと思うが」
「確かにな。だが、俺はこいつらの相手で精いっぱいだ。生憎と自滅する気はないからね。これ以上の余計な同居人はごめんだよ」
 左腕の拘束に触れながら答えるオーヴァンに、トワイスは「なるほど」と納得する。

 オーヴァンの左腕に寄生する<Tri-Edge>は、単体で他の全AIDAを凶暴化させるほど異常な個体だ。
 オーヴァンはそれを『再誕の碑文』の力で抑え込んでいるわけだが、そこに未知の力が加わってしまえば、その天秤が崩れてしまう可能性がある。
 オーヴァンはそれを考慮して、ISSキットを手放すという判断をしたのだろう。

「いいだろう、確かにこれも受け取った。
 だが気を付けるといい。これを手放すという事は、これによって起きる事態が君の手を離れるという事だからね。
 ではアイテムの返礼だ。一つだけ質問に応じよう。もっとも、その問いに私が答えられるとは限らないが」
 その言葉、にオーヴァンは「そうだな」と呟いて思考を巡らせる。

 GMに訊きたいことは、それこそ山のようにある。
 だが応じられるのは一つだけ。しかもそれがトワイスに答えられるとは限らない。
 答えられない、という答えから情報を推測する手もあるが、それをするにはこちらの情報が不足している。
 ならば質問は、彼が確実に答えられそうなものに限られるだろう。
 となると、ここはやはり――――

「では、ハセヲが今どこにいるか。それを教えてもらおう。
 あいつには渡しておきたい物もあるしね」

 未だ遭遇していないが、榊の言葉からハセヲが参加している事は確定している。
 志乃、アトリ、エンデュランス、八咫。
 このデスゲームで多くの仲間を失ったあいつが今どうしているのか。一度確かめた方がいいだろう。
 あの場から離れる際に回収したあいつのロストウェポンも、その際についでに渡せばいい。

「残念だが、彼の現在位置は知らない。その辺りは私の役割ではないからね。
 ……だが、彼に会いたければ、正規の手順でここから出るといい。
 おそらくそれで、彼に近しい場所に出られるだろう」
「……そうか。感謝するよ」

 役割でないと言いながら、何故そう答えられるのか。
 その疑問は口に出さず、オーヴァンはトワイスへと礼を述べる。
 トワイスの答えの理由は予想がつく。大方、少し前に接触していたのだろう。

「では、今度こそ失礼する。
 君がこのバトルロワイアルで何を目的に動くかは知らないが、その健闘を祈っているよ」
「ああ、君もな。せいぜい榊に、よろしく言っておいてくれ」

 互いにそう告げ合って、二人は創造主の部屋から消え去った。
 転移エフェクトの違いは、二人の立ち位置の違いの表れか。

 そうして後に残ったのは、その役割を終えた、何もない部屋だけだった――――。


504 : 再誕の求道者 ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:16:07 U/JD4aHA0


【?-?/創造主の部屋→?/一日目・夕方】

【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP60%、PP60%
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:{死ヲ刻ム影、静カナル緑ノ園、銃剣・白浪、DG-Y(8/8発)、逃煙球×1}@.hack//G.U.、{邪眼剣、スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、{インビンシブル(大破)、サフラン・アーマー}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、レアアイテム(詳細不明)、付近をマッピングしたメモ、noitnetni.cyl_3、不明支給品1〜10、基本支給品一式
[ポイント]:300ポイント/1kill(+3)
[思考]
基本:“真実”を知る。
1:ハセヲの様子を確かめる。
2:利用できるものは全て利用する。
3:トワイスと<Glunwald>の反旗を警戒。
4:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
5:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です。
※サチからSAOに関する情報を得ました。
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています。
※ウイルスの存在そのものを疑っています。
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。
※このデスゲームにクビアが関わっているのではないかと考えていますが、確信はありません。
※GM達は一枚岩でなく、それぞれの目的を持って行動していると考えています。

【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの情勢を“記録”する。
1:ゲームを次なる展開へと勧める。
2:ロックマンのデータを、オーヴァンから受け取ったアイテムと含めて再利用する。
3:第四相のロストウェポンを、ワイズマンへと渡す。その後の事は関与しない。
[備考]
※ゲームを“記録”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※破損により機能の停止したロックマン.exeのPCを回収しました。
※オーヴァンから、以下のアイテムを受け取りました。
 {マグナム2[B]、バリアブルソード[B]、ムラマサブレード[M] 、サイトバッチ}@ロックマンエグゼ3、其ハ声ヲ預カル者@.hack//G.U.、ISSキット@アクセル・ワールド

【其ハ声ヲ預カル者@.hack//G.U.】
要に蓮の花飾りの円盤が装着され、扇面が光刃で構成された妖扇。
第四相の碑文使いのロストウェポン。条件を満たせばパワーアップする(条件の詳細は不明)。
・不壊の涅槃:通常攻撃ヒット時に、バッドステータス・混乱を与え、弱点属性の追加ダメージを与える

【ISSキット@アクセル・ワールド】
正式名称「インカーネイト・システム・スタディキット」。
生物的な黒い目玉の外貌をした強化外装で、着装すれば強力な心意技が使えるようになる。
この強化外装によって使用可能となる心意技は、威力拡張の《ダーク・ブロウ》と射程拡張の《ダーク・ショット》の二つのみ。
ただし装着者の適性・能力次第では、より強力な心意が使用可能となる場合もある。
しかしそれらは「負の心意」であり、使用者の精神に非常に負担をかけ、また場合によっては性格さえ豹変させてしまう。
さらに一定以上負の感情を溜め込むと、分裂し拡散するという性質を持つ。


505 : ◆NZZhM9gmig :2016/03/20(日) 02:18:14 U/JD4aHA0
以上で投下を終了します。
修正すべき点などがありましたらお願いします。


506 : 名無しさん :2016/03/20(日) 03:09:14 DnjDK2Wk0
投下乙でした
オーヴァンが圧倒的過ぎて辛い
フォルテは今回、誰もキルできず死ヲ刻ム影を手放したけど、まだジ・インフィニティがあるんだよなあ…
ありすもアスナも残念ではあったけどお疲れ様でした

以下、気になった箇所

>>462
腰駄目→腰撓め


507 : 名無しさん :2016/03/20(日) 06:12:24 f3.afvBY0
投下乙です!
キリトとアスナは死力を尽くしてフォルテやオーヴァンに挑み、最後まで精一杯抗ったのですが……よもやこのような結末を迎えるとは
絆の力でフォルテを打ち破り、グリームアイズとなってコルベニクに挑んだ時は希望があると確信しましたが、やはりオーヴァンは恐ろしすぎた。
それにしてもキリトとオーヴァンはとても因縁深いですね。クロウを殺され、サチにAIDAを植えつけられ、そしてここでまたアスナまでも奪われてしまうなんて……
ザビエルと出会ったことで娘と再会できそうなのですが……

そしてありすの最期もとても綺麗でした。
最期に彼女達は寄り添えて、自らの『宝物』や『幸せ』や『答え』を胸に抱けたまま、Neverlandへと……
何処か切ないですが、それこそが最大の救いなのでしょうね。

オーヴァンもまたゲームの真相に迫りつつあり、そしてまたトワイスと再会しましたが……
彼が与えたモノが、また何かよからぬことの種になりそうな予感がしますね


そして私の気になった箇所を

>>501
ハロルドと開校
邂逅 と思われます

>>
白衣の男――とワイス・ピースマン
トワイス


508 : ◆NZZhM9gmig :2016/03/21(月) 00:28:42 Dt6OIpHw0
指摘及び感想ありがとうごあいます。
修正点に関しましては、収録時に修正させていただきます。


509 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/03/23(水) 22:45:30 VycFWxVw0
大作投下乙です!
深い因縁で結ばれたキリトとフォルテの激突、そしてエン様達の支えやユウキ達との絆があったからこそ
フォルテを再び打ち破ることができたのは熱いです!
一方で白野とありすの因縁にも決着がついて、激闘の末にみんなは分かり合うことができたのがとても感動的でした……

オーヴァンもとても恐ろしく、キリトとアスナの二人をここまで圧倒し、そしてアスナの命をいとも簡単に奪うとは……
白野は間に合ってくれて本当によかった。どうかキリトと、そして母を失ってしまったユイちゃんの支えになって欲しいです。

終始熱く、そして残酷な別れがありながらも微かな救いが残されていて、見どころが満点な大作乙でした!

そして短いですが、私も投下させて頂きます。


510 : 暗黒天国 ◆k7RtnnRnf2 :2016/03/23(水) 22:51:02 VycFWxVw0


     1◆


 気が付くと、空は黄昏色に染まっていた。
 『隠されし・禁断の・聖域』のワードから導かれるロストグラウンド・グリーマ・レーヴ大聖堂の空と同じだ。
 だけど、ここはあのロストグラウンドではない。道はアスファルトで舗装されていて、現実(リアル)で当たり前のように見られる街並みだ。
 つまりまた日本エリアに戻ってしまったと、ハセヲは気付く。


  ―――ソウ言エバ、アソコニハオ前ノ仲間トヤラガイタノダッタナ


 そんな中、脳裏に耳障りな声が響く。
 ブラック・ロータスが警告した、加速世界で多くの人間を絶望に追いやった《災禍の鎧》だ。
 黙り込んでいたが、ここに来てようやく口を開いた理由をハセヲは考えない。学園にいるレオ達を喰らおうとしているのだろう。


  ―――オ前ハ奴ラノ元カラ去ッタガ、ソレガ正シカッタノカ?

(何が言いたい?)

  ―――アノ娘……アトリニ死ヲ齎シタ男ガ、オ前ノ仲間ヲ狙ウダロウナ


 《獣》の問いかけは、実に単純だった。
 ハセヲは彼らの元に戻らないと誓ったが、それは同時に彼らを見捨てることにも繋がる。
 ウラインターネットや認知外迷宮/アウターダンジョンを探索している間に、白いスケィスやあのスミス達が学園を襲撃する可能性は充分にある。
 そうしてレオ達が死んでしまえば…………ハセヲが命を奪ったことになるはずだ。


(……そうやって、俺を支配しようってのか? 虫が良すぎるんだよ、この獣野郎が)


 だが、ハセヲはそれを一蹴する。
 レオ達のことを想うのならば、月海原学園に戻ってPKの襲来から守るべきだろう。
 しかし再び奴らとの戦いに入れば、この身体は憎しみに支配され、破壊と憤怒の魔物へと成り下がる可能性も否定できない。
 それこそが《獣》の目論見だ。


(言ったはずだぜ? 俺が本当に怒りを覚えているのは誰か……
 スケィスでも、クソスミスでもねえ。
 俺自身だ。誰のことも守れず、そしてみんなをこんなクソゲームに巻き込んだ俺……それを忘れるなよ)

 
 黄昏色の空を眺めながら、この"心"を狙っている《獣》に告げる。


 この広い空は、黄昏の旅団のみんなと共に『キー・オブ・ザ・トワイライト』を探していた頃に、何度も見ていた記憶がある。
 だけど、旅団にいたみんなはいない。志乃は……ハセヲの目の前でスケィスによって殺されてしまった。アトリも同じ。
 匂坂やタビーは……旅団の解散を最後に、もう会っていない。
 オーヴァンは……今もどこで何をしているのか、さっぱりわからなかった。
 しかし揺光や志乃が連れられていて、メールでエンデュランスの名前が書かれていた以上……オーヴァンがいる可能性は充分にあった。


511 : 暗黒天国 ◆k7RtnnRnf2 :2016/03/23(水) 22:52:12 VycFWxVw0


 オーヴァンが死ぬ訳がない……そう思いたかったが、甘すぎる考えだ。
 守りたいと願っても、それは叶わない。
 誰かを助ける為に強くなっても、想いは届かない。
 だから、こうしている間にも、オーヴァンや揺光がスミスやスケィスに命を脅かされてしまう……そう考えただけでも、怖くてたまらない。
 トライエッジによって全ての力を奪われて、己が生み出した『死の恐怖』という名に怯えていた頃の方が、よっぽどマシだった。


「…………ハセヲ君。まさか《鎧》がキミの心を蝕もうとしているのか?」

 ハセヲの意識を呼び戻すかのように、憂いを帯びた声が響く。
 ブラック・ロータス。この《鎧》の脅威を誰よりも知るプレイヤーだ。
 表情は窺えないが、ハセヲを心から心配しているはずだった。何故なら彼女は、《鎧》によって齎された悲劇を幾度も見たのだから。

「ブラック・ロータス……」
「キミの気持ちは理解できる。守れなかった人のことを思うだけで、私も悔しくてたまらない……
 もっと強ければ、こんなことにはならなかったかもしれないと…………だが、それでも私はキミの行いを認める訳にはいかない」
「言っておくが、俺の答えは変わらねえよ? 奴らを……全てのPKをKILLする為にも、俺はこいつを使う」
「だからこそ、私達はいるんだ。キミが暴走し、そして《鎧》がこのデスゲームの脅威になるのを防ぐ義務が私にはある。
 加速世界で起きた問題を、余所に飛び火させるなど言語道断だ」
「そうか……こいつはあんたのことだって狙っているようだぜ? よっぽど嫌われているようだ」
「私も《鎧》には散々な目に遭わされたから、お互い様だ」

 そうして、ブラック・ロータスは溜息を零す。
 彼女の言い分は尤もだし、悪いとも思う。だけど、甘いことなど言っていられない。
 中途半端なことをして、誰も守れなくなるくらいなら……どんな禁忌も破る覚悟がある。もう、誰かを失うのは御免だと誓ったはずだ。


 だが、レオやトモコ達に迫る危機を無視できないのもまた事実だ。
 圧倒的な暴力に巻き込まない為、彼らの元から去っていった。シノンが言うには、道中でキシナミハクノというプレイヤー達に出会うことができて、スミスやスケィスの危機を伝えたらしい。
 だからこそ、ウラインターネットまで向かえた様だ。


 しかし、それは何の慰めにもならない。
 キシナミという奴が高い実力を持っていて、また大勢の仲間に恵まれていたとしても……奴らは簡単に踏み躙る。
 スミスにしろスケィスにしろ、数の有利が通用する相手ではないことは、この身をもって痛感した。
 むしろスミスの場合、中途半端な力で挑んでは逆にスミスの一人とされてしまう。信じがたいが、あのボルドーだってスミスに変えられてしまったのだから。


 そしてキシナミという男については、もう一つだけ気がかりなことがある。
 そいつの同行者には黄昏色のPCが含まれていて、カイトと名乗ったらしい。
 そしてその正体は、マク・アヌでスケィスによってPKされたプレイヤー……カイトを元に生み出されたAIプログラムだと、シノンは言っていた。
 肉体は屍人形のようにツギハギに縫い合わされていて、目つきもとても鋭い。その両手には三尖二対の双剣が握られていたようだ。
 …………まさしく、ハセヲがこれまで追い求めていた『三爪痕(トライエッジ)』だった。

「なあ、シノン……キシナミって奴と一緒にいたらしいカイトって奴……本当に『三爪痕(トライエッジ)』じゃないのか?」

 故にハセヲはシノンに尋ねる。
 しかし、その答えは変わることなどなかった。

「……ええ。彼はカイト……ブラックローズの相棒のカイトを元に生み出されたAIよ。
 私は彼とそんなに長い時間いた訳じゃないけど、彼があんたが言うようなPKだってことは絶対にありえないわ。
 カイトは私達の仲間……ユイちゃんを守ってくれていたから」

 シノンは節目がちに答える。
 彼女の心の痛みが伝わってくるのと同時に、ハセヲの表情が困惑で描かれていく。
 まるで、培ってきた常識が根底から否定されたような気分だった。


512 : 暗黒天国 ◆k7RtnnRnf2 :2016/03/23(水) 22:56:04 VycFWxVw0
 『三爪痕(トライエッジ)』…………志乃を未帰還者にした憎むべき敵。奴を追い求め、この手で叩き潰す為に力を求めた。
 そうして三崎亮は終わりを迎えて、そして『死の恐怖』……PKKのハセヲが誕生した。
 奴の手がかりを求めてPKK行為を繰り返し、その果てにグリーマ・レーヴ大聖堂でついに『三爪痕(トライエッジ)』を発見して、戦いを挑む。
 志乃を取り戻す為、怒涛の勢いで攻撃を仕掛けたがまるで歯が立たず。逆に、奴の手から放たれるまばゆい閃光によって、ハセヲのPCは全ての力を失った。


 奴が大勢の未帰還者を生み出しているのだとずっと思い込んでいた。
 しかし、考えてみれば『知識の蛇』に保管されていた『番匠屋ファイル』には、勇者カイトの姿が映し出されている。
 七年前の『The World』にて女神アウラより『腕輪』の力を与えられ、『モルガナ事件』を解決したPC……それがマク・アヌで見たカイトだろう。
 そんなカイトを元に生み出されたのが蒼炎のカイトであるならば、志乃を未帰還者にした『三爪痕(トライエッジ)』は一体何者なのか?

「ねえ、ハセヲ。あんたはシノンが会ったっていうもう一人のカイトを、その『三爪痕(トライエッジ)』って思い込んでいたのよね?
 でも、それってどこの情報よ? 実際に誰かを襲っている所を見たっていうの?」

 そしてカイトの仲間であるブラックローズは、若干の怒りが混ざったような視線と共にハセヲに問い詰めてくる。
 彼女からすれば、相棒を罵られることが耐え難いのだろう。例えAIだろうと、カイトと同じ志を持っているらしいのだから。

「見た! 俺はこの目で確かに見た! だけど……俺が来た時には、もう奴の姿はなかった。
 志乃の体に……深い傷を残して、どこかに逃げていったんだ」
「……その志乃って人を未帰還者にしたのって、本当にカイトなの?」
「何? どういう意味だ」
「あんたが来た時には志乃はもう倒れてた。でも、そこにカイトはいなかったのなら……カイトが犯人だと言い切れないんじゃないの?
 『三爪痕(トライエッジ)』ってのは本当は違う誰かで、カイトに罪を擦り付けたんじゃ……」
「何だと!? 誰が、何のために……!?」
「そんなの、あたしが知るわけないでしょーが!
 とにかく、そのカイトがPKであることは絶対にありえないのはあたしも断言するわ。あたし達だって、そのカイトがキシナミって人達と一緒にいるのを見たもの!
 まあ、あの時は色々あって別れることになっちゃったけど……あのカイトはあんたが言うような、悪い奴じゃないわ!」

 ブラックローズの叫びにハセヲは言葉を失う。
 カイトは悪人ではない。思い直せば、確かに奴はPKとは思えなかった。あのスミスを相手に立ち向かったものの、ハセヲには最後まで害意を見せていない。
 それどころか、志乃と同じ言葉を告げてきた。ゲームだからこそ人の目を見なくちゃいけない……と。
 そしてシノンとブラックローズはもう一人のカイトと出会い、そして奴の目を見ていた。敵対などせず、むしろ想いを伝え合っていた。


 だが、それならグリーマ・レーヴ大聖堂で志乃をPKしたのは一体何者なのか?
 蒼炎のカイトに『三爪痕(トライエッジ)』の汚名を被せた誰かが、今もどこかでのうのうと生き延びているのか?


  ―――今日、あの場所に、やつ(三爪痕)は現れる。


 オーヴァンから送られたチャットを頼りに、グリーマ・レーヴ大聖堂に向かった。
 しかしそこにいた『三爪痕(トライエッジ)』は、単に『三爪痕(トライエッジ)』だと勝手に思い込んでいただけ。
 考えてみれば、モーリー・バロウ城壁の向こう側に存在する白いゲーム空間で再会した時も、奴は自分を『三爪痕(トライエッジ)』だと語らなかった。
 シノン曰く、蒼炎のカイトは人間の言葉を話すことができないらしい。だとしたら、黙っていたのではなく……そもそも対話する手段を持たなかったのか?
 何も知らないまま、蒼炎のカイトを敵と思い込んでしまい、こちらから襲ってしまったから……反撃を選んだだけだったのか?
 ならば、オーヴァンの情報は間違いだったというのか? そもそもオーヴァン自身、どうしてグリーマ・レーヴ大聖堂に奴が現れると知ったのか?
 何もかもがわからないことだらけだ。

「…………ハセヲ君。キミがカイト君を敵と誤解していたようだが、その原因を教えてくれないか?」

 疑問に押し潰されそうになるハセヲの心を支えるように、ブラック・ロータスは尋ねる。


513 : 暗黒天国 ◆k7RtnnRnf2 :2016/03/23(水) 22:58:30 VycFWxVw0

「キミはカイト君を『三爪痕(トライエッジ)』だと思い込んでしまった。だが、それを教えてくれたのは……一体誰なんだ?
 BBSの怪談話だけではないだろう。キミがそれだけに縋るとは、私は思えない」
「オーヴァンだ……俺の仲間のオーヴァンが、俺にメッセージを送ったんだ。
 グリーマ・レーヴ大聖堂に『三爪痕(トライエッジ)』が現れると。その言葉を頼りに向かったら、俺はあいつと……カイトと出会った」
「ならば、そのオーヴァンという人が勘違いをしていたか、あるいは意図的に誤解させていた……そのどちらかだろう」
「誤解させていた、だと!?」
「キミが信じられないのはわかる。だが、ブラックローズやシノン君の話を聞く限りでは、やはりカイト君がPKであるとは私も思えない。
 となると、唯一の手掛かりはそのオーヴァンという男だけだが……それも叶わないだろうな」

 彼女が言うように『三爪痕(トライエッジ)』の真実を知るのはオーヴァンだけ。
 しかし、そのオーヴァンがどこにいるのかわからない以上、解き明かすことはできなかった。

「クソッ……一体どうなってやがるんだ?」
「――――あー……お取り込み中の所、悪いんだけどよ」
「うおっ!?」

 苛立ちと共に髪を掻き毟っている最中、ハセヲの耳に声が響く。
 振り向くと、いつの間にか緑衣の男……アーチャーが姿を現していた。

「アーチャー? キミは一体どこにいたんだ?」
「悪いな、姫さん。ちょっくら辺りを見渡していたんだ。ここがニホンエリアだってのはわかったが、具体的なエリアはわからねえ。
 なんか目立つ建物でもないかと、探索していたんだけどよ…………ヤバいことになった」
「……一体どうしたんだ?」
「俺達が戦ったあの化け物……スケィスの野郎が近くにいやがる」

 苦々しい表情を向けるアーチャーの言葉を聞いて、この場にいる全員が絶句した。
 スケィス。ハセヲにとって"力"とも呼べる存在であり、カイトの……そして志乃やアトリの命を奪ったモンスターだ。
 そいつが、この近くにいる…………! それを知ったハセヲはアーチャーに問い詰めた。

「ヤツが近くにいるだと!? どこだ! どこにいるんだ!?」
「おいおい、落ち付けって! あんた、まさか一人で突っ走るつもりじゃないだろうな?」
「聞いているのは俺の方だ! 答えろ!」
「わかった! わかったから! 
 …………あの野郎は南の方角に向かってやがった。しかもよりにもよって、旦那が拠点にしようと考えてた月海原学園の方角だ」
「月海原学園だと!?」
「ああ。このエリアには学校が二つあるようだが、あの外観は確かに月海原学園だ。俺は『月の聖杯戦争』で確かに見てきたからな」
「そうか、大丈夫だ……」

 言葉とは裏腹に、ハセヲは拳を強く握り締める。
 恐れていたことが現実に起きようとしている。志乃やアトリの命が奪われたように、今度はレオ達の命が脅かされようとしていた。
 いや、今度はキシナミという男やシノンの仲間であるユイ。そして蒼炎のカイトだって、ターゲットにされてしまうはずだ。
 正直な話、戻ることに不安はあるが……瞬時にそれを振り払って、ハセヲは蒸気バイク・狗王をアイテム欄から取り出す。

「お前らはここにいろ。俺が奴を……スケィスを止める」
「ハセヲ! あんたまさか……!」
「時間がない! 俺はもう行くぜ!」

 シノンの制止を振り切って、ハセヲはハンドルを握り締める。
 彼女達の脚力と、学園までの距離を考えればまた追いつかれない。そうなる前に、スケィスと戦わなければならなかった。


 気がかりなことは増え続けている。
 白いスケィスの正体は何なのか。
 真の『三爪痕(トライエッジ)』は一体何者なのか。
 また、オーヴァンの真意は一体何なのか? 何もかもがわからないことばかりだが……今はそれを考えている暇などない。
 仲間が…………レオ達がスケィスに狙われる前に、この力を使わなければならなかった。


514 : 暗黒天国 ◆k7RtnnRnf2 :2016/03/23(水) 23:00:31 VycFWxVw0


     2◆◆



「ハセヲ……また、一人で突っ走るなんて!」

 マク・アヌの戦いでアトリを失った時のように、ハセヲはまた一人で去っていった。
 しかし今度はウラインターネットではなく、月海原学園。皮肉にも、彼の協力者が集まっている場所だ。ユイや白野達も既に到着しているはず。
 そこにハセヲが戻ってくれるなら、万々歳……なんて話ではない。あろうことか、あのスケィスもまた学園に向かっている。
 詳しくは知らないけど、奴はネットスラムを無茶苦茶に破壊した張本人だ。スケィスが学園に向かったのなら、みんなが危ない。

「シノン君。キミはハセヲ君を追うつもりなのか?」
「ええ。このまま放っておいたら、スケィスはまた誰かの命を奪うはずよ……それにあそこにはユイちゃん達だっている。
 まさか、本当にユイちゃんの所に向かうなんて……!」

 シノンが危惧していた可能性。
 白野やユイ達が集まっている月海原学園が、エージェント・スミスやスケィス達のようなPKに狙われてしまうことだ。
 あり得ない、などと言うつもりはない。こんな状況でユイ達に危機が及ばないなど、それこそ夢物語だ。
 しかし、実際に事実を突き付けられては……吐き気を覚えてしまう。

「わかった。ならば、私も力を貸そう! キミ達だけに任せる訳にはいかないからな」
「あたしもそのつもりよ! それにあいつは……カイトの仇よ!
 そりゃあスケィスは恐ろしい奴だけど……でも、もう逃げたりなんかしないわ!」

 ブラック・ロータスとブラックローズは力強く宣言している。
 彼女達の言葉は、シノンにとっても実に望ましかった。それに今回はあらかじめスケィスの脅威を伝えられたので、今更聞く必要もない。


 だけど、ほんの少しだけ後ろめたさを抱いてしまう。
 何故なら、カイトを……ブラックローズの相棒を見殺しにしてしまったのだから。

「ブラックローズ、あの……」
「待って、シノン。カイトのことは…………あたしだって悔しい。
 でも、今はその話をしている場合じゃないわ。スケィスを倒して、そしてハセヲを止める……これがやるべきことでしょ?
 だから、その後に……カイトのことを聞かせて」
「……私は彼のことを知らない。彼があなたと共に何を見て、何を想っていたのかを。
 だけどカイトがいたからこそ……私はここにいる。ここにいて、あなた達と会えた……」
「そう……あいつは最期まで、誰かの為に戦ったのね。やっぱりカイトらしいわ……」

 ブラックローズは微笑む。ほんの少しだけ寂しそうに、それでいて誇らしげでもあった。
 彼女の表情を見て、二人は強い信頼で結ばれていたとすぐに察する。
 GGOやALOでキリト達と絆を紡いできたように、カイトとブラックローズは幾度も困難を乗り越えて、そして本当の仲間となった。
 シノンが知らないカイトのことを、ブラックローズはよく知っている。勇者として誰かを助けたカイトの姿を見た彼女が、とても羨ましい。
 ……だからこそ、絆を打ち砕いた榊やトワイスを許すことができなかった。

「姫さんや騎士さんがそのつもりなら、サーヴァントの俺がサボる訳にもいかねえな。
 それだけじゃねえ……姫さんが言ってた《鎧》をほったらかしにしてたら、嬢ちゃんの仲間も危ねえぞ」

 アーチャーの言葉に三人は頷く。
 ブラック・ロータスの言葉によると、ハセヲの纏っている《災禍の鎧》は加速世界に甚大なる被害を及ぼした武装らしい。
 それを装備したからこそ、ハセヲはあのスミス達を退けられた。だからハセヲは単独で行動できると踏んだのだろう。
 理屈こそはわかったが、納得などできない。
 そんな装備を過剰使用などしたら確実にハセヲ本人の精神は壊れるだろうし、ロータスが言うように本当に《獣》となってもおかしくない。
 何よりも、ハセヲがそんな《獣》に成り下がることを……アトリが望む訳がなかった。


515 : 暗黒天国 ◆k7RtnnRnf2 :2016/03/23(水) 23:01:38 VycFWxVw0

「みんな……ありがとう!」
「礼なら後だ。私達も急ごう」
「さっきは逃げるしかなかったし、今だって怖いけど……カイトの仇だとわかったからには遠慮はしない! カイトの代わりにあいつをぶっ倒してみせる!」
「なら、俺も腹括ってやるぜ。あんな奴に旦那が居場所にしようとしてた場所をぶっ壊されてたまるかってんだ」

 四人は強い決意を胸に、走り出した。
 道の先にあるのは『死の恐怖』……生きている限り、決して逃れることができない感情。
 しかし恐怖を上回るのは、信頼や絆といった結束の力。それを持って、一度は逃げてしまった『死の恐怖』に立ち向かおうとしている。
 その足が止まることは決してなかった。



     3◆◆◆



 『死の恐怖』……スケィスゼロは月海原学園を目指して進んでいた。
 強制的にゲームフィールドに戻されたが、スケィスゼロの指針に何の影響も与えない。
 ただ、破壊すべき対象を追い求めるだけ。それが変わることは決してなかった。


 スケィスゼロの所持していた二つのセグメントは、腕輪の加護を持つブラックローズに与えられている。
 故にスケィスゼロは彼女を追跡し、破壊しようとするはず。GM側もその目論見があって、日本エリアにスケィスゼロ達を転送した。
 しかし、何の因果か……スケィスゼロが転送された先は月海原学園からそう離れていない。
 バランス及びゲーム性を考慮して、ハセヲ達とスケィスゼロの位置が離されてしまった。結果、偶然にも月海原学園までの距離が勝ってしまった。


 そして学園には、最後のセグメントを持つユイと、勇者カイトを模して生み出された存在……蒼炎のカイトがいる。
 蒼炎のカイトは女神Auraの祝福を受けて誕生した『The World』の守護神であり、勇者カイトと同じように腕輪の力を持つ戦士。
 スケィスゼロの標的となっても、決して不条理ではない。むしろ、優先して排除すべき対象であった。


 『The World』では、勇者カイトと『死の恐怖』は幾度となく衝突した。
 モルガナ事件においてカイトは親友ヤスヒコを始めとした多くの未帰還者を救う為、"選ばれし 絶望の 虚無"にて『死の恐怖』と戦った。
 それから未来……『死の恐怖』をその身に宿した少年ハセヲ/三崎亮は、かつての勇者を模した戦士・蒼炎のカイトと幾度も激突した。
 このデスゲームでも勇者カイトは『死の恐怖』と激突し、敗れ去ってしまう。
 そして今もまた『死の恐怖』は、勇者カイトと巡り合おうとしている。


 月海原学園がペナルティエリアに選ばれようとも、スケィスゼロは関係ない。
 全てのものを虚無(ゼロ)へと変えながら、死を齎す神は鎌を突き付けていく。
 骸骨のごとく白き肉体に淀んだ輝きを纏わせながら、あらゆる命と想いを蹂躙しようと進撃する。
 女神アウラのセグメントと、女神の加護を受けたPC達に『死の恐怖』を与える為に…………


516 : 暗黒天国 ◆k7RtnnRnf2 :2016/03/23(水) 23:02:29 VycFWxVw0



【?-?/日本エリアのどこか/1日目・夕方】



【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP90%、SP95%、(PP100%)、強い自責の念/B-stフォーム
[装備]:ザ・ディザスター@アクセル・ワールド、{大鎌・首削、蒸気バイク・狗王}@.hack//G.U.
[蒸気バイク]
パーツ:機関 110式、装甲 100型、気筒 100型、動輪 110式
性能:最高速度+2、加速度+1、安定性+0(-1)、燃費+1、グリップ+3、特殊能力:なし
[アイテム]:基本支給品一式、イーヒーヒー@.hack//
[ポイント]:300ポイント/1kill
[思考]
基本:バトルロワイアル自体に乗る気はないが………。
0:……俺は、『死の恐怖』……PKKのハセヲだ―――。
1:今はみんなと共に認知外迷宮の出口を捜す。
2:スミスを探し出し、アトリの碑文を奪い返す。
3:白いスケィスを見つけた時は………。
4:仲間が襲われない内に、PKをキルする。
5:白いスケィスを追う為に、学園を向かう。
6:『三爪痕(トライエッジ)』の正体が気がかり。
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前です。
※設定画面【使用アバターの変更】には【楚良】もありますが、現在プロテクトされており選択することができません。
※“碑文”と歪な融合を果たし、B-stフォームへとジョブエクステンドしました。
 その影響により、心意による『事象の上書き』を受け付けなくなりました(ダメージ計算自体は通常通り行われます)。
※《災禍の鎧》と融合したことにより、攻撃力、防御力、機動力が大幅に上昇し、攻撃予測も可能となっています。
 その他歴代クロム・ディザスターの能力を使用できるかは、後の書き手にお任せします(使用可能な能力は五代目までです)。
※《災禍の鎧》の力は“碑文”と拮抗していますが、ハセヲの精神と同調した場合、“碑文”と共鳴してその力を増大させます。
※ハセヲが《獣》から受ける精神支配の影響度は、ハセヲの精神状態で変動します。



【シノン@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP80%、強い無力感/GGOアバター
[装備]:{フレイム・コーラー、サフラン・ブーツ}@アクセル・ワールド、{FN・ファイブセブン(弾数10/20)、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン、式のナイフ@Fate/EXTRA、雷鼠の紋飾り@.hack//、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3
[アイテム]:基本支給品一式、光式・忍冬@.hack//G.U.、ダガー(ALO)@ソードアート・オンライン、プリズム@ロックマンエグゼ3、5.7mm弾×20@現実、薄明の書@.hack//、???@???
[ポイント]:300ポイント/1kill
[思考]
基本:この殺し合いを止める。
0:アトリ……私……。
1:みんなと共にハセヲを追い、スケィスと戦う。そしてユイちゃん達を守る。
2:殺し合いを止める為に、仲間と装備(弾薬と狙撃銃)を集める。
3:ハセヲの事が心配。 《災禍の鎧》には気を付ける。
4:【薄明の書】の使用には気を付ける。仮に使用するとしても最終手段。
5:ユイちゃん達とはまた会いたい。
[備考]
※参戦時期は原作9巻、ダイニー・カフェでキリトとアスナの二人と会話をした直後です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。
※このゲームにはペイン・アブソーバが効いていない事を、身を以て知りました。
※エージェント・スミスを、規格外の化け物みたいな存在として認識しています。
※【薄明の書】の効果を知り、データドレインのメリットとデメリットを把握しました。


517 : 暗黒天国 ◆k7RtnnRnf2 :2016/03/23(水) 23:02:54 VycFWxVw0



【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP80%/デュエルアバター 、令呪一画
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3 エリアワード『絶望の』、セグメント1@.hack//、セグメント2@.hack//
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
1:みんなと共にハセヲを追い、スケィスと戦う。
2:《災禍の鎧》を封印する。
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:ダメージ(中)、魔力消費(大)
[備考]
時期は少なくとも9巻より後。


【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP60%
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、逃煙連球@.hack//G.U.、エリアワード『絶望の』
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:みんなと共にハセヲを追い、スケィスと戦ってカイトの仇を取る。
2:《災禍の鎧》には気を付ける。
※時期は原作終了後、ミア復活イベントを終了しているかは不明。



【?-?/日本エリアのどこか/1日目・夕方】


【スケィスゼロ@.hack//】
[ステータス]:???
[装備]:ケルト十字の杖@.hack//
[アイテム]:基本支給品一式×2、不明支給品2〜6(ランサー(青)、ツインズへのDD分含む)、疾風刀・斬子姫@.hack//G.U.、大鎌・棘裂@.hack//G.U. 、エリアワード『虚無』
[ポイント]:900ポイント/3kill
[思考]
基本:モルガナの意志に従い、アウラの力を持つ者を追う。
1:目的を確実に遂行する。その為に月海原学園に向かう。
2:アウラ(セグメント)のデータの破壊。
3:腕輪の影響を受けたPC(ブラックローズなど)の破壊。
4:自分の目的を邪魔する者は排除。
[備考]
※1234567890=1*#4>67%:0
※ランサー(青)、志乃、カイト、ハセヲ、ツインズをデータドレインしました。
※ハセヲから『モルガナの八相の残滓』を吸収したことにより、スケィスはスケィスゼロへと機能拡張(エクステンド)しました。
それに伴い、より高い戦闘能力と、より高度な判断力、そして八相全ての力を獲得しました。
※ハセヲを除く碑文使いPCを、腕輪の影響を受けたPCと誤認しています。
※ハセヲは第一相(スケィス)の碑文使いであるため、スケィスに敵として認識されません。
※ロックマンはバグによる自壊の為、キルカウントに入りません。
※プレスプログラムの影響により、ステータスがバグを起しているようです。ストレージに存在したアイテム等が認知外迷宮に散らかっているかもしれません。


518 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/03/23(水) 23:03:40 VycFWxVw0
以上で投下終了です。
疑問点などがありましたら指摘をお願い致します。


519 : 名無しさん :2016/03/23(水) 23:25:50 6qjLkIdI0
投下乙です、鎧との会話込みで色々危ういところにいるハセヲですね
ただ指摘というか、ハセヲはvol.3からの参戦なんでもうトライエッジの正体は知ってますね、そのあたりにずれがあるようなので、ちょっと修正が必要かと


520 : 名無しさん :2016/03/23(水) 23:27:00 oxMZtcqI0
投下乙でした
また月海原学園が火薬庫になる……w


521 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/03/23(水) 23:27:51 VycFWxVw0
指摘ありがとうございます。
ではその点を修正させて頂きます。


522 : 名無しさん :2016/03/24(木) 03:47:40 b9bZCVtc0
一難去ってまた一難、月海原学園がまた戦場になりそう……。
それどころか先にキリトやハクノ達がスケィスと遭遇して戦闘になってもおかしくないですね。

指摘箇所はハセヲはvol.3のオーヴァンとの決戦前から参戦してるので
もうトライエッジの正体は蒼炎ではなくオーヴァンだということは知っています。
ただこの時点だと蒼炎がThe Worldの修正プログラムだということを知らないので
正体不明のPCとして警戒していたとは思われます。
他に気になったのは番匠屋ファイルは公開されていないので(小説版だと公開されてます)
ハセヲは番匠屋ファイルの存在自体知りません。
ですので>>512で番匠屋ファイルを知ってるのは矛盾してるかと。

少し長文になりましたが最後に投下乙でした。
また次回の投下を楽しみにしてます。


523 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/03/24(木) 08:11:59 jcnVX8WA0
重ね重ね、大変失礼致しました。
修正版を仮投下スレに投下させて頂きましたので、お手数ですが確認の方をお願いします。


524 : 名無しさん :2016/03/24(木) 09:03:17 G/IpraVc0
修正投下乙です。
ブラックローズも強いなぁ、この女性陣精神的に強いわ。
カイトが好きだったから、それを悼む心の動きが見えるとホントに嬉しい
ハセヲは迷いながら歩いてるけど、やっぱり歩くのは止めないなぁ。
指摘?になるかはルーツでの設定なので、GUでの設定だとどうなのかわからないのですが、
>匂坂やタビーは……旅団の解散を最後に、もう会っていない。
の部分、タビーとは一度再開してた気が、フィロが死んで、看護師なるぜーってタビーが宣言しにきた辺りで。


525 : 名無しさん :2016/03/24(木) 17:31:58 b9bZCVtc0
確認しました問題ないと思います。
修正乙でした。


526 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/03/24(木) 19:38:27 jcnVX8WA0
ご確認及び指摘ありがとうございます。
匂坂とタビーの部分に関しては、収録の際にカットするという形で修正させて頂きます。


527 : 名無しさん :2016/03/29(火) 17:34:23 JNUazz4U0
エクストラアニメ化にエクステラとはうち的にも嬉しい


528 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 20:42:49 eO/CA9sg0
これより予約分の投下を始めます。


529 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 20:43:55 eO/CA9sg0

     1◆


《オーヴァン/Ovan》
 登場ゲーム:The World(R:2)
 『黄昏の旅団』のギルドマスターにして、『再誕』・コルベニクの碑文使い。
 多くの人間を魅了する異様なまでのカリスマを誇り、また一つのエリアに匹敵する程のデータがアバターに内蔵されている。
 戦闘能力及び状況判断力は高く、またプレイヤー本人の精神力も凄まじい。


 岸波白野がサチ/ヘレンと共に仲間及びセグメントの捜索をしている最中、レオは入手した情報を纏めていた。
 エージェント・スミス達との戦いで消耗してしまった現状では、アリーナの探索も不可能。レオ自身に残された魔力を配慮してか、ガウェインは霊体化をしている。
 戦力として期待できるカイトに向かわせることも可能だが、その間にPKの襲撃に遭ったら……今度こそ対主催生徒会は全滅してしまう。
 だからこそ、現状で最も警戒するべきオーヴァンに関する情報を集める必要があった。


《トライエッジ/Triedge》
 登場ゲーム:The World(R:2)
 『The World』に登場した0番目のAIDAにして、AIDAの突然変異体。
 オーヴァンの左腕に寄生したことをきっかけに誕生し、人類に牙を剥くようになった。
 その影響は単体に留まらず、他のAIDAを凶暴化させてしまうほど。


《コルベニク/Corbenik》
 登場ゲーム:The World(R:1)
 モルガナ八相の第八相・『再誕』。
 比類なき戦闘能力を誇り、また一度倒されてもその度に再生する性質を持つ。


《憑神(アバター)/avatar》
 登場ゲーム:The World(R:2)
 モルガナ八相を元に誕生した碑文使いの力が具現化した存在。
 『The World』の仕様から逸脱した強大な力で、一般PCには存在を認知することすら不可能。
 碑文使いの感情に呼応して強大になり、その"心の闇"を増幅させる。また一般PCが憑神からダメージを受けた場合、未帰還者となってしまうケースも存在する。


 カイト曰く、オーヴァンはトライエッジというAIDAに感染しており、またコルベニクという憑神を秘めた碑文使いだ。
 碑文とAIDAは惹かれあい、そして互いに呼び合っている。またAIDAは人間の強い情念に興味を持ち、感染者が求めるモノを再現する性質を持つ。
 そして碑文を飲み込んだAIDAは爆発的な成長を遂げる……だからこそ、スミスに感染したAIDAはヘレンを圧倒したのだろう。
 カイトがあのAIDAを撃破してくれなければ、空間に放り込まれたみんなが餌食になっていたはず。


 この理論から推測するに、スカーレット・レインが敗北したのは、オーヴァンが二つの力を宿していたからだろう。
 AIDAの中でも特に危険度が高い《Triedge》に加えて、自己再生の能力を持つコルベニクという八相。この目で見た訳ではないが、カイトの話から推測する限りでは……ガウェインですらも歯が立たない可能性がある。
 オーヴァンが能動的なPKだったら、例え学園がペナルティエリアだろうと…………否、ペナルティエリアもろとも瓦解されていたかもしれない。
 好戦的な人物でなかったことが、不幸中の幸いだ。


530 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 20:45:01 eO/CA9sg0


 他にもAIDAは『The World』を模して疑似サーバーを作りだしたこともあるらしい。
 AIDAサーバーと呼ばれるそれに放り込まれたプレイヤーは、精神とPCが一体化してしまい……ログアウトが不可能となる。要するに、このデスゲームと同じだろう。
 またAIDAサーバーの時の流れは現実とは大きく異なり、そこで数日分の出来事を経験したとしても、リアルではたった数分の時間しか経過していない。
 それは、レインが属していた加速世界のプログラムと非常に酷似している。GMの立場として君臨している榊がAIDA=PCであるなら、加速世界のプログラムと並行してAIDAサーバーをデスゲームに組み込んでいる可能性が高い。
 最も、現状では確信とは呼べないが。


《モルガナ・モード・ゴン/Morganna Mode Gone》
 登場ゲーム:The World(R:1)
 『The World』の管理・運営を行う為の自律プログラムにして『The World』における創造主。


 そしてモルガナ・モード・ゴンについても検索をかけたが、情報はこれだけ。
 最もそれは当然だろう。モルガナはこのデスゲームを運営するプログラムであるのだから、必要最低限の情報しか与えていない。多大に残しては、そこに付け入る隙を与えかねないからだ。
 しかし裏を返せば、モルガナが関与している可能性が高くなった。モルガナへの確実な対策を組み立てれば勝機は見える。
 出来ることなら、もう一人のカイトのようなモルガナ事件に関与しているプレイヤーとも接触したいが、現状ではあまり期待できないだろう。



《再誕/Saitan》
 登場ゲーム:The World(R:2)
 八相を鍵とすることで発動されるネットワーク初期化プログラムの名称。
 全てのAIDAを駆逐する程の性能を誇るも、同時にその余波で全世界のネットワークに壊滅的打撃を与えてしまった。


 コルベニクの最大の特徴と呼べる『再誕』というキーワード。
 この八相はどれだけダメージを与えても、その度に復活するらしい。オーヴァン本人のHPが0になろうとも、復活スペルがオートで発動するのだろう。
 そんな性能を前に、一体どんな対策法を立てればいいのか? 対八相の切り札であるデータドレインも、このコルベニクには通用しない。
 大規模な改竄を果たしても、相手は自動的に修復するのでは意味がなかった。


 そして、もう一つの意味合いも気がかりだ。
 全世界に蔓延るネットワークをリセットする程の効果を持つプログラム。それを使って、オーヴァンはAIDAを全滅させようと企んでいるのか。
 確かにAIDAは驚異的な存在だ。生半可なワクチンプログラムでは効き目がないし、そもそも対抗手段はたった数人しかいない碑文使いに委ねられてしまう。
 例え碑文使いといえども、リアルでは普通の生活を営んでいる人間に過ぎない。AIDAが『The World』から飛び出して、世界範囲で感染などしたら、碑文使い達の手に負えなくなる。
 たった八人で各国を回って人命救助をするなど、到底不可能な話だ。そういう意味では『The World』という檻に閉じ込めて、そして『再誕』プログラムを発動すればAIDAの駆逐は確実に可能だろう。


 しかし、全世界のネットワーク初期化はあまりにも危険すぎた。
 今の時代はあらゆる文化がネットワークと密着している。他者とのコミュニケーションの手段として用いられる手段にも、人々のライフラインを維持する鍵となる。果ては、膨大なる機密事項の保持まで……最早、インターネットに依存しているようなものだ。
 それらを突然消去しては、世界規模で大パニックが起きる。商社は営業が困難となるだろうし、病院も患者のデータが消去してしまう。
 何よりも都市活動や交通が麻痺して、人々に多大な被害を及ぼすはずだ。
 AIDAの脅威が去ったとしても、その後に別の被害が広がるのでは意味がない。


531 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 20:45:37 eO/CA9sg0

「カイト、一つお聞きしていいでしょうか?」
「…………?」
「もしもこの世界でオーヴァンが『再誕』を起こしたりなどしたら、その影響は『The World』だけでなく…………
 別の仮想世界にも届く可能性は、考えられませんか?」
「……………………」
「可能性は否定できない、らしいです」

 また、レオが危惧していることはもう一つだけある。
 如何なる手段か、榊達は数多の世界と数多の時間を超越して、このデスゲームを開く為にプレイヤーを集めている。詳しい原理は不明だが、世界と世界は繋がっている可能性があった。
 そこで『再誕』という絶大な威力を持つプログラムを発動させたら、デスゲームを起点として繋がっている平行世界のネットワークに影響を及ぼさないのか。
 AIDAを放置しては他の世界にも感染する恐れはあるが、だからといって『再誕』が正しい手段とは到底思えない。
 オーヴァンを止めなければならないが、その為の戦略がまるで整ってなかった。
 カイトはスミスとの戦いの後、何らかの"力"を手に入れたようだが……それでオーヴァンを止めるきっかけになるとも限らない。

「…………そういえばユイさん。カイトの機能拡張ですが、確かシノンさんの持つアイテムからも同じ反応がされたのでしたっけ?」
「はい。力の詳細こそはわかりませんが、波長と特性はとてもよく似ています。
 カイトさんはスミスをデータドレインをしたことをきっかけに、攻撃スキルの威力が急上昇したらしいです」
「だとしたら、シノンさんの持つ【薄明の書】も、カイトの機能拡張もスミスが原因と考えた方がいいですね……
 ユイさん、そこから侵食される危険はないでしょうか?」
「確証はありませんが、その可能性は低いと思います。カイトさん達が取り込んだのは"力"だけで、そこに思考データは感じられませんでした。
 ただ……もしかしたら、カイトさんのデータドレインが不安定になる危険も、あるかもしれません」

 今のカイトは、白野のようにスミスの存在がアバターに残留した状態だ。
 カイトの人格が汚染されることはないが、それで終わりという話ではない。
 機能拡張したと言えど、それはカイト一人だけでは制御できない"力"に変貌することも考えられた。万が一、データドレインでカイト自身のアバターが崩壊する事態になっては、取り返しのつかないことになる。

「カイトの"力"も調べたいですが、今はそこまでの余力はありませんし、何よりも危険すぎます。
 今は手掛かりを集めるしか…………ん?」

 そんな中、校門に設置した警報音が響き渡る。
 モニターに映し出されているのは、岸波白野と……見知らぬ黒衣の少年だった。

「ハクノさんに……パパ!? パパですか!?」

 画面を見たユイは、驚愕で声を荒げる。
 パパ。それはつまり、白野と共にいる少年はユイの父親であるキリトのことだ。

「パパ? というと、あそこにいるのは……」
「そうです! 私のパパ……キリトです!」

 質問に答えた途端、ユイは部屋から飛び出した。カイトは彼女の後を追っていく。
 一方でレオは疑問を抱いていた。戻ってくるまで、いくら何でも早すぎる。
 キリトと同行しているのはいいが、ハセヲやシノンと思われるプレイヤーは見られない。また、たった数時間でセグメントを発見できるとも思えなかった。
 しかし、本人に尋ねるしかない。レオもまた、白野から事情を聞く為に校門に向かう。

「あっ、レオ…………」

 そして昇降口を潜ろうとしたが、一人になっていたはずのジローと再会した。


532 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 20:46:52 eO/CA9sg0
 
「ジローさん? もう、大丈夫なのですか」
「……悪い、心配かけて。
 まだ、色々と落ち着かないけど……やっぱり、俺がしっかりしないと……いけないから」
「……レインさんのことは、とても残念に思います。
 僕がもっと状況を的確に判断していれば、このような結果にならなかったはずですから」
「何でだよ? ニコが死んだのは、俺のせいだろ?
 俺がスミスと戦っていれば、ニコはきっと死ななかった! 俺がもっと強ければ、ニコはここにいたはずなんだ!」
「それも含めて、僕はしっかり考えるべきでした。
 生徒会が分断される可能性や、スミスの協力者の存在……これらは僕のミスです。
 だからこそ、残った皆さんを救う義務が僕にあります。ジローさん……レインさんの分まで、戦いましょう」

 冷徹とも呼ばれかねないが、彼女の為にできるのはこれ以外にない。
 悲しんでいても、レインは戻ってこない。嘆いていても、デスゲームは進むだけ。
 むしろ、ハセヲやシノンのような仲間となりえる者達を救うチャンスを、自らの手で逃してしまうだけだ。
 今は帰還した白野達を出迎えなければいけない。そう思いながら、レオはジローと共に足を進めた。



     2◆◆



 あの戦いを終えた後、岸波白野達は一言も語り合っていなかった。
 セイバーとキャスターは霊体化してしまい、それきり口を閉ざしている。彼女達なりの気遣いなのだろう。
 事実、それが岸波白野にとって唯一の救いだった。完膚なきまで敗北した今となっては、どんな慰めを受けたとしても、より惨めになるだけ。
 いや、誇りが傷付くことなど、大したことではない。サチ/ヘレンやありす/アリスを守り切れず、ラニやアスナを失ってしまったことに比べれば……些細なことだ。
 どうすれば彼女達を救えたのか。どうすればこんな結果を迎えずに済んだか。どうすればキリトは傷付かずに、勝者となることができたのか。
 どうすれば………………


 …………考えても意味がない疑問が、無限に溢れ出てくる。
 どれだけ後悔しても時計の針が戻る訳などない。ましてや自分は力がなかった。
 セイバーやキャスター、それにアーチャーのように戦うことはできない。キリトやアスナのように、誰かを守ることもできない。
 だけど、諦めないことが岸波白野の強さであったはずだ。諦めが悪く、自分の意志で考えたからこそ、みんなと共に戦えた。
 だからこそ、キリトのことだって諦めていけなかった。


 アスナやサチ/ヘレンは、キリトが悲しむのを望まないだろう。
 彼女達を想うなら、遺された自分がキリトを支えなければならない。キリトは今にも、壊れてしまいそうだから。


 しかしキリトを救うことは、岸波白野には不可能だった。
 サチがキリトを唯一の寄る辺としていたように、キリトはサチを求めて戦っていた。
 アスナがオーヴァンの凶行からキリトを守ったように、キリトはアスナを守る為に戦っていた。
 彼女達はキリトに救われていたように、キリトにとっての救いは彼女達だった。岸波白野ではなく、アスナとサチこそがキリトには必要だった。
 だから、どんな言葉を口にしようとも……彼の心には届かないだろう。


 探し求めていた相手がすぐ隣にいるのに、まるで遥か遠くまで離れてしまったように思えてしまう。
 サチ/ヘレンの時と違い、彼と言葉を交わすことはできるはずなのに……どうすればいいのかわからない。
 キリトが戦う理由としていた少女達は、もういない。
 キリトが支えようとしていた少女達は、彼の目の前で失われてしまった。
 もう、どこにも彼女達はいなかった。

「…………すまない」

 俯いたまま、こちらと視線を合わせることすらせずに……キリトは口を零す。


533 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 20:48:49 eO/CA9sg0

「あんたは、俺の代わりにサチを守ってくれた……ユイのことだって、助けてくれた。
 キシナミ達は頑張ってくれたのに……肝心の俺は、このザマだ」

 弱弱しい独白が、心に突き刺さる。
 サチを守った? 何も変わらない世界に去ってしまい、もう二度と戻ってこれなくなった彼女を……岸波白野が守ったなんて言える訳がない。
 ユイのことを助けた? サチ/ヘレンと向き合い、そしてアスナを待っていた彼女の願いを……岸波白野は台無しにした。
 それは違うと否定したかった。岸波白野は何もできなかったと、キリトに伝えたかった。


 だけど、口にすることは許されない。
 キリトは岸波白野を信頼していて、また隣にいる唯一のプレイヤーだ。
 リーファやクラインを失った時から、彼の心は多大な傷が刻まれていたはずだ。それなのに、どれだけ傷付いてもサチを守る為に戦い続けた。
 そしてアスナと共にオーヴァンを打倒しようとしたが、待っていたのはこんな救いのない結末だけ。


 ただ、今はキリトを守ることだけを考えなければならない。
 このデスゲームには、まだキリトとアスナが戦ったPK――デスゲームの始まりを告げられた空間で、明確な破壊行動を行っていたフォルテという名のPK――や、スケィスが残っている。
 オーヴァンが去ったとしても、学園に向かう途中で彼らの襲撃に遭っては、今度こそキリトは殺害されてしまう。今の彼に戦う力など残っていないのだから。


 だから今は、もうすぐ学園に着く、とキリトに伝える。
 それを聞いて、彼は悔しそうに拳を握り締めるのを見た。理由は……ユイのことだろう。
 ユイに合わせる顔が無いのは、岸波白野だけでなく……キリトも同じ。いや、キリトの方が後ろめたさが強いはずだった。
 それでも歩みを進められるのは、ユイが学園にいるからだ。残された彼女だけでも守らなければならないという想いが、彼に力を与えていた。


 見慣れた月海原学園の校門を潜る。
 だけど、この足取りはより重くなっていく。この学園にはみんながいるけど、逆に重圧となっていた。

「ここに……ユイがいるんだったな」

 キリトの問いかけに肯定する。
 彼は相変わらず顔を上げない。その瞳が何を映しているのかを、岸波白野に知ることはできない。
 ただ、彼の姿を見るだけでも胸が張り裂けそうだった。

「…………パパ! パパ!」

 そうして、彼女の声が聞こえてきた。
 キリトが守りたいと願っていた娘……ユイの声が。
 昇降口から彼女が駆け寄ってくるのと同時に、キリトはようやく顔を上げてくれた。

「……ユイ!」
「パパ……パパ!」

 その瞳から大粒の涙を零しながら、ユイは両手を広げてキリトに抱き付いた。
 ユイはキリトの胸の中で、何度も彼の名前を呼んだ。その細い腕を腰に回して、頬に擦り寄せている。
 彼女は笑っていた。再会を喜び、そしてキリトの存在を確かに感じているのだから。


 ……だけど、肝心のキリトは笑っていない。むしろ、ユイから視線を逸らしてすらいた。
 それに気付いたのか、ユイは怪訝な表情を浮かべる。彼女は不思議そうに辺りを見渡していた。


534 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 20:49:39 eO/CA9sg0

「……パパ?」
「ユイ…………」
「あれ? そういえば、ヘレンさんは……? サチさんとヘレンさんはどこにいるのですか?」

 サチの名前が出た途端、キリトは青ざめた表情を見せる。
 彼の変貌に疑念を抱いたのか、ユイもまた不安げに見つめていた。

「……サチは、その…………」
「それに、ママは……ママは? パパは、ママと会っていないのですか?」

 ユイが問いかける度に、キリトは冷や汗を流す。
 キリトは何も言わない。いや、言える訳がなかった。
 彼女に全てを話すことが…………できなかった。

「……すまない!」

 そしてキリトがユイにできたのは、ただユイを抱きしめることだけ。
 それは愛情ではなく、慙愧の念から生まれた抱擁だ。その証としてキリトもまた涙を流す。

「パ、パパ…………?」
「すまない……本当に、すまない……! すまない、すまない、すまない…………!
 俺は、俺は、俺は…………!」

 溢れ出る涙を拭うことなどせず、困惑するユイに謝り続けていた。
 キリトの声は震えている。彼の一言がとても重く、とても悩んで、とても悲しみ、とても悔いて、ユイに対して深い罪悪感を抱いていることが伝わってきた。
 『黒の剣士』という通り名が面影もない程に弱弱しい姿だ。事実、先の戦いで岸波白野が間に合わなければ、キリトは無抵抗のままオーヴァンに殺されていただろう。



 昇降口からカイトが、続くようにレオとジローもやってくるが、キリトは彼らに目を向けない。
 ここに現れた少年が誰で、彼に何があったか…………それを二人は尋ねたりなどしない。
 その抱擁と延々と繰り返される謝罪だけで、キリトであることを証明していたのだから。




     3◆◆◆



 …………俺は、全てを話すしかなかった。
 ユウキは、フォルテという名のPKに命を奪われてしまったことを。
 オーヴァンこそがサチにAIDAを感染させた犯人であり、そしてサチと共に思い出の世界に去っていったことを。
 そしてアスナが俺を守る為に盾となったせいで、オーヴァンに殺されてしまったことを。
 口にするだけでも胸が張り裂けそうになったけど、黙ってはいけなかった。


535 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 20:50:18 eO/CA9sg0


 例え、そのせいでユイが深く悲しむことになったとしても…………


「――――――――!」

 ユイは茫然としていて、俺の言葉に何も答えられなかった。
 愛らしい顔は絶望に染まって、全身は大きく震えている。一緒にいるだけでも心が痛み、だけど見放してはいけない。
 ユイは、俺とアスナのたった一人の娘だから。


 ――――夢みたいですね、また、パパと、ママと、三人で暮らせるなんて……――――


 このですゲームに巻き込まれるずっと前に、ユイが俺に夢を伝えてくれた時のことを、唐突に思い出してしまう。
 あの時、彼女は笑ってくれていた。柔らかい笑みで、俺を迎え入れてくれた。
 だけど。


 ――――夢じゃない……すぐに現実にしてみせるさ……――――


 そんな彼女の夢は壊されてしまった。
 それを壊したのはオーヴァンでもAIDAでもない……俺自身の弱さだ。
 アスナを守ると。SAOに巻き込まれたみんなを助けて、喜びを分けてあげると……俺は約束したはずだった。
 かつてユイは、アスナに笑って欲しいと願っていた。だから俺は彼女の笑顔を守る為に、SAOのクリアを目指したはずだ。


 ALOで妖精王オベイロンを打ち破り、籠の中に囚われていたアスナとようやく巡り合い……そうして俺達三人の時間は動き出したはずだ。
 ユイが願ったように、みんなでたくさん幸せな時間を過ごすはずだったけど、その時計はもう動かない。


 俺はみんなの想いを踏み躙った。
 アスナに笑っていて欲しいと願ったユイの想いを。
 アスナを取り戻す為に力を貸したリーファの想いを。
 アスナを守る為にマザーズ・ロザリオを託したユウキの想いを。
 現実世界に戻った俺にアスナの手がかりを渡してくれたエギルの想いを。
 アスナの帰りを待っているであろう、現実世界で生きるアスナの家族の想いを。
 閃光のアスナを慕っていた多くのプレイヤーの想いを。
 俺を信じて、そしてサチを救おうとしてくれたブルースやピンクの想いを。
 アスナを信じて、そしてサチを守ってくれたキシナミ達の想いを…………何もかも、俺は台無しにしてしまった。


 ――――信じてた。きっと――助けに来てくれるって……――――


 ――――ただいま、キリトくん――――


 ゲームで/リアルで見せてくれたアスナの笑顔を、当たり前のように見てきた。
 けれど、永遠に続くと思われていた彼女との日々は、唐突に終わりを告げてしまった。
 彼女が何を想いながら俺に謝って、消えてしまったのか。ユイがこのデスゲームに巻き込まれていたことを知っていたのか。ユイとまた会いたいと願っていたはずだった。


536 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 20:51:03 eO/CA9sg0


 アスナの髪の色を、笑顔を、手から伝わる温かさを思い出そうとする。
 けれど、彼女を想えば想うほど、どうにもならない現実が俺の心に突き刺さってしまう。どんなに思い出そうとも、それはもう俺の心にしか残っていない記憶だ。
 共に戦った時に何度も見た彼女の雄姿も、アスナが俺とユイの為に作ってくれたフルーツパイやサンドイッチの味も、ユウキを始めとした多くのプレイヤーと培ってきた絆も…………何もかもが、遠くへと消えてしまった。
 仮にファイルでその時の光景が残されていたとしても、感動を思い出すことなどできない。記録が形となって残っていても、それを直視できるかどうかすらわからなかった。
 それらに写っている彼女の姿は、俺の罪を思い出させてしまうのだから。


「ユイ……俺は、能無しだ……ユウキを、サチを、ママを……誰一人として守れなかった。
 ユイはママに……アスナに会いたいと願っていたのに、俺はそれを台無しにした……」

 俺はただ、力なく項垂れるしかできない。
 本当ならユイに会う資格すらなかった。けれど、彼女から逃げることは許されなかった。
 これ以上、キシナミ達の頑張りを無駄にすることは許されない。その想いだけが、俺を突き動かしていた。

「俺は、うそつきだ……ユイの約束を守れない、大うそつきだ…………
 俺が弱かったせいで、アスナがいなくなった…………本当なら、俺はユイを……!」
「…………違いますっ!」

 俺の否定は、唐突に遮られた。
 俺がもっとも守りたかった、ユイの叫びによって。

「自分を、否定しないでください!」

 首を横に振りながら、ユイは再び俺に抱き付いてくる。
 そうして胸の中で俺を見上げる彼女の瞳は、大粒の涙が煌めいているにも関わらず、とても強い意志が感じられた。

「パパは、私やママが大好きな……たった一人のパパです!
 デスゲームを終わらせて、ヒースクリフや妖精王オベイロンからみんなを助けた勇者です! だから、うそつきなんかじゃありません!」
「……ユイ? でも、俺はアスナを…………」
「ママと会えないのは……私も、悲しいです。
 ママがいなくなったと聞いて……私は、どうしたらいいのか、わからなくなりました。
 ママの笑顔が見られないなんて……私の、目の前は真っ暗になりそうです。
 でも…………だからこそ、私はパパを助けたいです! ママ達の分まで、パパを守りたい!
 だって……パパがいなくなったら、パパがいなくなったら…………!」

 ユイの叫びに、俺の全身に衝撃が走る。
 そして俺は気付いた。アスナがいなくなった今、ユイに残された支えは俺しかいないことを。
 このデスゲームにはシノンもいるとキシナミから聞かされたけど、彼女はハセヲというプレイヤーを探している最中だ。
 こんな状況では、彼女が無事でいられるとも限らない。もしもシノンまでもがいなくなり、俺が挫けていては…………ユイは本当に独りぼっちになってしまう。
 
「私はパパを信じています! パパがみんなを守る為に……ママやサチさんを守る為に戦ったことを、知っていますから!」
「ユイ……! でも、俺は……」
「だから、お願いだから……諦めないで!」

 まるで縋りつくかのように、ユイは俺に懇願した。
 そこに弱さなど微塵も感じられない。むしろ、俺を励ましているようにも聞こえる。


537 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 20:52:14 eO/CA9sg0


 ふと、俺は周りにいるみんなを見渡す。
 ここに集まったキシナミ達は、俺のことを見守ってくれていた。失望や蔑視は感じられず、むしろ俺を信頼しているようにも思える。
 カイトという奴だけ、目つきがやけに恐ろしいけど……少なくとも、敵意はなさそうだ。
 みんなの瞳からは、まるで…………


 ――――あんたなんかに、キリト君は殺させない!――――

 ――――ユウキが私に託してくれた、絆の力を――――!――――

 ――――勝負だ、フォルテ!――――


 …………俺と共にフォルテに立ち向かってくれた、アスナやシルバー・クロウが持つ、絆の力が感じられた。


「ユイ……だけど、俺は…………!」
「パパが不安なら私がパパのお手伝いをします! パパが悪い人と戦えるように、私が精一杯のサポートをしてみせます!」
「ユイさんがそのつもりなら、この僕……レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイも力を貸しましょう。
 キリトさんのお力は、僕にとっても必要不可欠でしょうから」
「……俺は、野球しか取り柄がない無職で……できることがあるかわからないけど、協力するよ。
 だってユイちゃんのパパだろ? ユイちゃんを悲しませたくないからさ……」
「アアアアァァァァァ…………」

 みんなが俺のことを奮い立たせてくれている。
 その時。ポン、と肩が叩かれる。振り向くと、横に立っているキシナミも柔和な笑みで頷いていた。
 それを合図とするように、キシナミの隣に赤と青の衣服を纏った少女達……セイバーとキャスターが現れた。
 同じように、レオの隣に白銀の鎧を纏った騎士が姿を現す。
 この三人はシンジと一緒にいたアーチャーと同じ、サーヴァントという存在なのだろう。

「キリトよ……今は思いっきり泣くがよい。
 奏者がそなたを信じておるように、余もそなたを心から信じておる。そなたが望むのならば、余はそなたの支えとなろう」
「不肖ながらこの玉藻の前……貴方様にこの心を捧げることはできませんが、貴方様に仇なす者達を呪い殺すつもりで存じております。
 故に、いざとなったら私の呪いに期待して下さいませ」
「我が名はガウェイン。悪しき闇を払う剣を掲げる太陽の騎士。
 我々対主催生徒会は、あなたが訪れるのを待っておりました」


 三人の声が胸に響く。
 気が付くと、俺は目頭が熱くなるのを感じる。ユイのように、涙を流していた。


 俺はたくさんの人を失ってしまった。その果てにアスナまでもが目の前で失って、俺は何もかもを投げ出してやろうと自暴自棄になっていた。
 それこそが俺に対する罰だと思い込んでいたけど、違う。
 これはただの逃げだ。サチが思い出の中に閉じこもったように、罪を言い訳にして俺自身の責任から逃げていただけ。
 このデスゲームにはユイが巻き込まれていると、俺は知っていたはずなのに…………キシナミに甘えて、ユイのことに目を向けようとしていなかった。
 それでも尚、みんなは俺を信じてくれている。そしてその信頼を裏切っていた俺自身の不甲斐なさに……俺は涙を流していた。

「ユイ……みんな…………俺は、俺は…………俺は…………!」

 溢れ出る涙と、自らの愚かさで……まともな言葉が出てこなかった。
 俺は大馬鹿だ。俺自身の決意すらも忘れて、一人で勝手に絶望して、逃げ出して、あまつさえユイのことを見放そうとした。そんな情けない自分を、この双剣で斬ってしまいたかった。
 だけど、そんなことは許されない。俺がいなくなったら、一体誰がフォルテやオーヴァンを止めるのか? 一体誰がユイを守るのか?
 キシナミ達はユイを守ってくれている。しかし、本当なら彼らに甘えてはいけなかった。
 ユイを守るのは、父親である俺の使命だ。

「ユイを……守る。守ってみせる……守ってみせるから…………!」
「パパ……パパ…………パパ…………!」

 俺はユイを抱きしめる。
 もう二度とこの手を離さない。どんな強敵が現れようとも、絶対に彼女を守ってみせる。
 これこそが、俺にできるたった一つの償いだ…………


538 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 20:56:27 eO/CA9sg0



     4◆◆◆◆



 月海原学園に現れた黒衣の少年が、キリトだ。
 ユイちゃんのパパであり……リーファちゃんのお兄さんだ。
 詳しい事情はわからないけど、ユイちゃんのママ……アスナがオーヴァンに殺されてしまったらしい。だから、酷く落ち込んでいたけど……ひとまず立ち直ってくれてよかった。
 リーファちゃんが彼のことを大切に想っていたから、余計に安堵が強くなる。


 それから今は、生徒会室でキシナミとキリトの話を纏めていた。
 主な話題はフォルテというPKと、オーヴァンについてだ。特にオーヴァンはニコを……それに、ニコにとっての大切な人であるシルバー・クロウの命すらも奪った相手だ。
 更には、サチにヘレンを感染させたのも、オーヴァンであるらしい。
 それらを聞いて、強い怒りと同時に恐怖を抱いてしまう。キリト達をここまで圧倒した相手が、またこの学園に攻め入られたら……今度こそ、みんなは殺されてしまうかもしれない。
 エージェント・スミスを退けたペナルティはあるけど、それがオーヴァンに通用するとは限らなかった。



 そしてもう一つ。気になる話をキリトから聞かされた。


「レンが……俺のことが大好きだと言ってた?」

 キリトが語ったのは、レンという少女について。
 レン。それは、就職活動中の浅井 漣(レン)という女子大生だ。
 実際に彼女とは関わり合いがあったし、彼女が落とした財布を警察に届けた記憶がある。
 しかしこのデスゲームに巻き込まれている彼女は、レンでなく……レンを元に生み出されたAIらしい。それでも、俺のことを強く想っていたと……キリトは教えてくれた。

「ああ……レンさんは、ジローさんのことを最期まで想っていた。
 どれだけ傷付いても、ジローさんに会いたいってずっと言ってた……あんたのことを、一途に想っていたんだ」
「…………そう、なのか」

 語る度に、キリトは表情を曇らせていく。
 レンはフォルテという奴に肉体を破壊されても、決して悲しむことなどせずに……最期まで俺を想ってくれていたらしい。

「……すまない。レンさんのことを……俺は、守れなかった……」

 キリトは謝り続けている。
 けれど、彼女が俺に好意を寄せていたと聞かされても、実感がなかった。
 仮面の騎士である彼女の実力はとても高く、呪いのゲームの謎を解き明かす為に力を貸して貰ったことが何度もある。
 デンノーズの一員としてハッピースタジアムに勝ち残ってきたけど、それだけだった。
 俺が恋しているのは、パカ一人だけ。


539 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 20:57:20 eO/CA9sg0

 でも、キリトが嘘を言っているとも思えない。 
 そういえば、今のキシナミは平行世界のアバターから集められた情報が強引に混ざり合ったことで、その存在が成立しているらしい。
 そもそも、このデスゲームに参加させられているプレイヤー自体が、別々の世界から集められていた。俺の知らない常識で成り立つ世界がたくさんある。
 だから、レンが俺の恋人になっている世界も、どこかに存在しているかもしれない。そこから、彼女は連れて来られたのだろう。


 正直な話、どう受け止めればいいのかわからない。
 レンを想っている俺が何を想っているのか。また、レンを失ってしまい、そこにいる俺はどれだけ悲しむのか…………
 ここにいる俺には知る術を持たない。でも『オレ』とは違う俺のことだから、どうしても気になってしまう。
 俺だって、俺の手が届かない所でパカを失ったら、キリトみたいに絶望するはずだから。


「…………ありがとう、彼女のことを守ってくれて」

 俺に今できることは、キリトのことを励ますしかない。
 キリトの為にも。このゲームで犠牲になったレンの為にも。そして、レンと結ばれている世界に生きる俺の為にも。


 ――――ネットでの出会いも運命のうちのひとつなのかな・・・――――


 ある日、とあるネットカフェにて、レンはそう口にしていた。
 あの時は真面目に受け止めていなかったけど、違う世界ではそこから運命が動き出した。そうして、レンと俺は仲良くなったのだろう。
 パカのことを想う気持ちは変わらないけど、あり得た"if"を否定していけなかった。


「レンのこと、俺は忘れないから……キリトの為にも、それにレンの為にも。
 絶対、絶対に忘れないよ」
「ジローさん…………」
「俺達で頑張ろうな」

 俺とキリトは固く拳を握り合う。
 まだ、不安なことはたくさんあった。ニコのことは悲しいし、失意に沈んだ俺のことを『オレ』は今も嘲笑っているはず。
 怖いことはたくさんあるけど、それはみんな同じ。だったらみんなで怖がって、不安をぶつけ合って、すっきりすればいい。
 ユイちゃんとキリトだって、そうして歩き続けているのだから。



     5◆◆◆◆◆



 フォルテという強敵や、オーヴァンの恐ろしさについて知っている限りの情報を、レオ達に伝えた。
 結論からして、この両者は相当な危険人物だ。特にオーヴァンは、その身に宿した碑文とAIDAが驚異的だった。
 岸波白野とキリトが不在の間、レオ達もオーヴァンに関する情報を図書室で集めていたらしい。
 またカイトも……『The World』にてオーヴァンに容易く敗れたことを伝えてくれた。


540 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 20:59:02 eO/CA9sg0
 事実、オーヴァンが宿らせるAIDAは異様なまでの禍々しさを放っていた。
 アスナを瞬時に屠った挙句、赤子の手を捻るようにキリトを打ち負かしている。
 何よりも、エージェント・スミスの姿がないのは気がかりだった。あれだけいたスミスが一人も姿を見せなかったのは、つまり――――

「恐らく、スミス達はオーヴァンによって葬られたのでしょう。
 ペナルティを受けていない彼からすれば、弱体化したスミスを倒すなど容易いはずです。
 もしかしたら、奴らを倒す機会を窺う為に、あえて手を組んだ可能性もあるかもしれませんが」

 ――――そう。オーヴァンによって排除されたことだ。
 月海原学園での戦いを終えた後、スミス達に死なれては困ると口にしていた。
 だがその真意は、彼らを気遣ってのものではなく、自らの手で確実に撃退する必要があったからこそ……対主催生徒会を止めたのだろう。
 そうして学園の外に出たオーヴァンは、AIDAあるいは『碑文』の力でスミス達を駆逐した。もう二度と現れることはない。


 しかし、その事実は対主催生徒会にとって朗報とならない。むしろ、オーヴァンという新たなる脅威が現れたことに戦慄していた。
 オーヴァンの宿らせるコルベニクとトライエッジは、通常のデータドレインが通用しない。通常の攻撃では仮に撃破しても、すぐに復活してしまう。
 セイバーやキャスターを……そして対主催生徒会と戦うのは分が悪いと、オーヴァンは語っていた。だが、あのままオーヴァンとの戦いに突入していたら、確実にこちらが敗北するだろう。
 数の利や装備を整えれば勝てる、なんて話が通用する相手ではない。仮に慎二やアーチャーがいたとしても、オーヴァンを前にしては焼け石に水だ。



 もしも奇跡が起きて、オーヴァンを撃破できたとしても、そこに至るまで多大な犠牲が出る。それでは、デスゲームを止めるという本来の目的を果たせなかった。
 オーヴァン、スケィス、フォルテ。例え彼らを討ち果たしても、その後に待っているのはデスゲームの存続だけ。
 彼らはデスゲームの元凶ではなく、自分達と同じプレイヤーの立場に立たされていることを忘れてはいけない。策も立てずに戦っても、こちらが無意味に消耗するだけ。
 最悪の場合、全ての希望は打ち砕かれて、残されたプレイヤー達はデスゲームを余儀なくケースすらも考えられる。
 そうなっては、最後に笑うのはモルガナ・モード・ゴンだけだ。


 オーヴァンの真なる目的とは、『碑文使い』達が宿す『碑文』を覚醒させて、AIDAを駆逐する為に必要な『再誕』というプログラムを発動させることにあるらしい。
 『碑文使い』達の感情を爆発させる為に、彼はあらゆる手段を取ったようだ。時には『碑文使い』のトラウマを刺激し、そして自らの手で『碑文使い』の関係者を未帰還者にしたらしい。
 クロウやレイン、そしてアスナの命を奪ったのも……『碑文使い』であるハセヲの怒りを誘発させて、そしてより高度の力を発揮させる目論見だろう。
 確かにその方法ならハセヲは憎しみを燃やし、AIDAを殲滅させる可能性は上がるだろう。


 だが、そんな方法を認められる者など、ここにいる訳がなかった。

「……じゃあ、クロウやアスナが殺されたのは……必要な犠牲だった、とでも言うつもりなのか!?」

 キリトは憤りを示している。 
 それは岸波白野も……いや、ジローやユイも同じだった。


541 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 21:03:28 eO/CA9sg0

「ふざけるな! ニコが死んだのが必要だったなんて……絶対におかしいだろ!」
「ママは、その為に……死んだ…………?」

 ジローは叫び、ユイは愕然としている。
 レオは事実を受け止めているように見えるが、表情を顰めている。

「真っ当な方法ではAIDAを駆逐できないということでしょう……
 躊躇っていては、その間にAIDAの被害は拡大します。より多くを救う確実な手段があるのなら、小を犠牲にするのもやむを得ない……そんなことは、世界にはいくらでもあるでしょう。
 ですが、彼を認められないのは僕も同じです。例え『再誕』が起きて、全てのAIDAが駆逐されたとしても、僕達までもがそれに巻き込まれてしまう危険があります。
 最悪の場合、GM側がこの事態を想定していて、自分達が巻き込まれない為の手筈を整えていたら……デスゲームはまた開かれます。
 そうなっては、僕達の犠牲が無意味なものになる。そんなの、認めてはいけませんよ」

 『理想』の為に『人間』を捨てる。
 それは、かつてアーチャーが語った『正義の味方』という名の『悪』だった。
 誰かを救う為に、他の誰かを犠牲にしなければならない時はある。岸波白野は『月の聖杯戦争』で、何度も見てきた光景だ。
 そしてこのデスゲームでも、岸波白野はラニやありす達を選んだ結果、サチ/ヘレンはいなくなってしまった。


 だけど、そんな歪みを認めてはいけなかった。
 結果として犠牲が出たとしても、それを当たり前にするのは違う。
 救えない命もあれば、届かない思いだってある。けれど最後まで諦めず、不可能を可能にしなければならない。
 だからこそ、岸波白野は勝利を……そして未来を掴めたはずだ。

「……情報交換は一旦打ち切りましょう。
 まだ充分ではありませんが、白野さんもキリトさんも相当疲弊しています。
 なので、今は一時休息を取って気持ちを落ち付かさせて、その後に今後の方針を立て直しましょう。
 今のままでは、まともな活動は不可能ですから」

 レオの言葉に素直に頷けないが、誰も否定しない。
 彼の言う通りだった。今の自分達では、例えパラメーターが安定していたとしても、メンタルの問題でPKと戦うことなどできない。感情が高ぶっていては、情報交換の際にトラブルが起こる。
 みんなの無念を忘れてはいけないが、憎しみに支配されて自滅するのは避けるべきだ。
 オーヴァン、スケィス、フォルテ。戦うべき相手は、まだいるのだから。



     †



 …………オーヴァンという男によって、ママは殺されたと聞いてから、私の中で『何か』が駆け巡っていた。
 ヒースクリフや妖精王オベイロンに向けた敵意や警戒心とは違う。『何か』がある限り、思考ツールがまともに働くなってしまう。
 これは、かつてSAOで人間からサンプリングした『憤怒』や『憎悪』に近い。つまり、私はあのオーヴァンやフォルテのことを……憎んでいる。


 目の前が真っ暗になりそうだった。
 信じていた希望や、大切な思い出が壊されたようだった。
 だけど、ハクノさんがパパを守ってくれたから……パパが私を抱きしめてくれたから、私は立っていられた。
 ママやユウキさんだけでなく、パパまでもがいなくなったら……きっと私は絶望に沈んでいたかもしれない。


542 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 21:06:41 eO/CA9sg0

 フォルテは不意打ちでユウキさんを傷付けて、彼女の想いを踏み躙った。
 サチさんにヘレンさんを感染させて、パパを傷付けて……挙句の果てにレインさんやママの命を奪った。
 許せない。絶対に許せない。
 できることなら、この手でデータを消去したかった。
 でも、それはできない。私には力がないから。


 もしも碑文が使えれば、可能性はあるはずだった。
 コルベニクにはデータドレインが通用せず、また撃破されても再び誕生する性質……再誕を誇っている。
 普通に戦うならば、コルベニクを攻略する方法は皆無。けれど、このデスゲームにはペナルティエリアのように、プレイヤーのステータスをダウンさせるシステムが存在している。
 それを利用し、碑文の力を使えれば…………ママ達の仇を…………!


 ――ユイ? 大丈夫……?。


 ……そこまで考えて、ハクノさんから声がかかる。
 彼は不思議そうに私を見つめていたので、私は咄嗟に誤魔化した。

「い、いえ……大丈夫です! すみません、心配をさせてしまって……」

 そう言うけど、ハクノさんは私のことを心配している。
 隠し切れていない。ママ達のことを考えていると、気付いているはずだ。



 そうして、一つの疑問が頭に浮かぶ。
 私は一体、何を考えていたのか。ママ達の仇を取るなんて……パパやレインさんが叶わなかった相手を、私が倒せると考えていたのか。
 レオさんが言うように、今は休まないといけない。こんな状態では、パパ達に迷惑をかけてしまうはずだから…………



 けれど、オーヴァンやフォルテのことは絶対に許せない。
 どんな理由があろうとも、ママ達の命を奪っていい理由にはならない。
 そしてパパが悲しんだことを、認められる訳がない。
 パパとジローさんの悲しみ/ママやユウキさん達の無念を…………忘れてはいけなかった。




【B-3/日本エリア・月海原学園/一日目・夕方】


【チーム:対主催生徒会】
[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:
書記 :ユイ
会計 :蒼炎のカイト
庶務 :岸波白野
雑用係:ハセヲ(外出中)
雑用係:ジロー、サチ
[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:(レオの)理想の生徒会の結成。
2:ウイルスに対抗するためのプログラムの構築。
3:ハセヲとシノン、ついでにセグメントの捜索。
4:危険人物に警戒する。
[現状の課題]
0:休息の後、行動方針を決める。
1:ウイルスの対策
2:危険人物への対策
3:アリーナ及びプロテクトエリアの調査(ただし、これはどちらかに集中させる)
4:セグメントの捜索
[生徒会全体の備考]
※番匠屋淳ファイルの内容を確認して『The World(R:1)』で起こった出来事を把握しました。
※レオ特製生徒会室には主催者の監視を阻害するプログラムが張られていますが、効果のほどは不明です。
※セグメントの詳細を知りましたが、現状では女神アウラが復活する可能性は低いと考えています。
※PCボディにウイルスは仕掛けられておらず、メールによって送られてくる可能性が高いと考えています。
※エージェント・スミスはオーヴァンによって排除されたと考えています。
※キリトの役職はまだ決められていません。
※次の人物を、生徒会メンバー全員が危険人物であると判断しました。
 白い巨人(スケィス)、オーヴァン、フォルテ。


543 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 21:07:28 eO/CA9sg0

【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP40%(+150)、データ欠損(小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、{男子学生服、赤の紋章}@Fate/EXTRA
[アイテム]:{女子学生服、桜の特製弁当、コフタカバーブ}@Fate/EXTRA、{ユウキの剣、死銃の刺剣}@ソードアート・オンライン、クソみたいな世界@.hack//、{誘惑スル薔薇ノ滴、途切レヌ螺旋ノ縁、DG-0(一丁のみ)、黄泉返りの薬×1、万能ソーダ、吊り男のタロット×3、剣士の封印×3、導きの羽×1、機関170式}@.hack//G.U.、図書室で借りた本 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、不明支給品0〜5、基本支給品一式×4
[ポイント]:0ポイント/0kill(+2)
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
0:……このデスゲームは、根本から歪んでいる。
1:作戦を立て直すために、学園で休む。
2:ハセヲ及びシノン、セグメントの捜索に向かう。
3:主催者たちのアウラへの対策及び、ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
4:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
5:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
6:ヒースクリフや、危険人物を警戒する。
7:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP75%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP90%、健康
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
 学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時(増加分なし)でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一騎だと10分、三騎だと3分程度です。
※アーチャーとの契約が一時解除されたことで、岸波白野の構成データが一部欠損しました。
※エージェント・スミスに上書きされかかった影響により、データの欠損が進行しました。
 またその欠損個所にデータの一部が入り込み、修復不可能となっています(そのデータから浸食されることはありません)。


【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP85%、MP60%(+50)、疲労(極大)、深い絶望、ALOアバター
[装備]:{虚空ノ幻、虚空ノ影、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA
[アイテム]:折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンライン、不明支給品0〜1個(水系武器なし) 、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:みんなの為にも戦い、そしてデスゲームを止める。
1:ユイのことを……絶対に守る。
2:クロウのことを、残された人達に伝える。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。




【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、深い悲しみと後悔/リアルアバター
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、ピースメーカー@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
0:ニコ……………。
1:今はみんなと一緒に行動する。
2:ユイちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の言葉が気になる…………。
4:レンのことを忘れない。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。


544 : 対主催生徒会活動日誌・18ページ目(帰還編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 21:08:27 eO/CA9sg0

【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP30/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/通常アバター、サチ/ヘレンに対する複雑な想い、オーヴァンやフォルテへの憎しみ
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[アイテム]:セグメント3@.hack//、第二相の碑文@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
0:…………今は自分の使命を果たす。
1:対主催生徒会の会計として、ハクノさん達に協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:ヒースクリフや、危険人物を警戒する。
6:シノンさんとはまた会いたい。
7:私にも、碑文は使えるだろうか……。
8:サチ/ヘレンさんの行いは許せないけど、憎まない。
9:オーヴァンやフォルテのことは絶対に許さない。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=Ⅷであるかもしれないことを知りました。
※サチ/ヘレンとキリトの間に起こったことを知りましたが、それを憎むつもりはありません。



【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP80%、SP50%、PP100%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill(+1)
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
3:エクステンド・スキルの事が気にかかる。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。
※エージェント・スミスをデータドレインしたことにより、『救世主の力の欠片』を獲得しました。
 それにより、何かしらの影響(機能拡張)が生じています。



【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP15%、令呪:三画
[装備]:なし
[アイテム]:{桜の特製弁当、トリガーコード(アルファ、ベータ)}@Fate/EXTRA、コードキャスト[_search]、番匠屋淳ファイル(vol.1〜Vol.4)@.hackG.U.、基本支給品一式
[ポイント]:30ポイント/0kill(+2) [思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
1:魔力の回復に努めると同時に、ユイとともにウイルスへの対策プログラムを構築する。
2:モラトリアムの開始によって集まってくるであろうプレイヤーへの対策をする。
3:他の生徒会役員となり得る人材を探す。
4:当面は学園から離れるつもりはない。
5:状況に余裕ができ次第、ダンジョン攻略を再開する。
6:キリトさんには会計あたりが似合うかもしれない。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP110%(+50%)、MP75%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※ガウェインはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。


545 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/02(土) 21:09:43 eO/CA9sg0
以上で投下終了です。
修正点などがありましたら指摘をお願いします。


546 : 名無しさん :2016/04/02(土) 22:51:54 Z38z8LvY0
投下乙です
核心にこそ至っていませんが、図書室や蒼炎のカイトからの情報のみでオーヴァンの目的に迫るあたりはさすがレオと言ったところですね
そしてキリトもユイや他のメンバーに励まされ、どうにか立ち直れそうで何よりです
しかし現在進行形でスケィスが、しかもユイを目的として迫っているため、この先どうなるかが心配です
追いかけているハセヲが間に合うといいのですが


547 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/03(日) 21:50:06 fRJO836s0
感想ありがとうございます。
また、収録の際に本文を一部加筆及び修正させて頂いたことを報告します。


548 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/08(金) 22:59:52 8FQrL8Ec0
短いですが、投下します。


549 : 月蝕グランギニョル ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/08(金) 23:01:14 8FQrL8Ec0



     1◆



 見上げた先にある黄昏色の空は何度見たかわからない。例えデスゲームの場だろうと、その美しさは現実/『The World』に勝るとも劣らなかった。
 そして、空の下にはハセヲがいる。トワイスの導きがあったのだから、再会はそう遠くない。
 当然ながら、転送されたと同時に出会うことは不可能だったが。



 ハセヲを見つける為に歩みを進めながら、オーヴァンは思案に耽っている。
 このデスゲームの根幹を担う存在とは、何か。
 GM達の隙を狙い、オーヴァンが求める"真実"を得る為には、まずそれを知らなければならない。

(やはり、このデスゲームには『死の恐怖』……スケィスが存在するか。碑文ではなく、モルガナ八相の第一相が)

 手がかりの一つは、エージェント・スミスやラニ=Ⅷが目撃した巨人。モルガナ八相の第一相・『死の恐怖』スケィスだ。
 モルガナ・モード・ゴンによって送り込まれた第一の刺客であり、女神アウラを3つのセグメントに分解した『八相』が、デスゲームに存在する。
 その役割は、オーヴァンのようにデスゲームの扇動を任されている……無論、PKとしては実に適格だろう。
 しかし、ラニの話から推測する限りでは、与えられている役割はプレイヤーの撃破の他にも存在する。それは女神アウラ復活の妨害だ。



 ラニはこのデスゲームにて【セグメント1】というアイテムを手に入れたが、スケィスに奪われたらしい。
 彼女こそは【セグメント1】の詳細を知らなかったが、スケィスが狙ったからには、女神アウラの欠片の可能性が高かった。
 そもそもこのデスゲームには、勇者カイトや女神Auraの騎士・蒼炎のカイトが巻き込まれている。『The World』を護る勇者達が危機に陥れば、女神Auraは何らかの動きを見せるはず。
 だが、何らかの方法で女神Auraは再び破壊されてしまい、介入は不可能となった。スケィスがセグメントを狙ったのも、デスゲーム瓦解の鍵を潰す為だろう。

(榊やトワイスの背後にいるのは、モルガナ・モード・ゴンか……)

 そして、スケィス達八相を束ねるのは、モルガナ事件の元凶にして『The World』における創造主……モルガナ・モード・ゴンだ。
 このデスゲームに『The World』のシステムを組み込む為に、根幹たるモルガナが必要なのだろう。
 モルガナは自らの力で女神アウラに手を下すことができない。だからこそ、本来ならばGM側が保管するべきセグメントがプレイヤーの手に渡っていた。
 3つのセグメントを集めさせない為にも、スケィスがデスゲームのプレイヤーに選ばれたのだろう。


 だが、このデスゲームはスミスやキリト達と戦ったPK・フォルテのような、規格外の力を持つAIも存在する。
 セグメントの存在を知らないであろう彼らが、スケィスを打破する事態になってしまえば、女神アウラの"再誕"が行われる事態になりかねない。
 この場では碑文使いや八相と言えど、絶対的優位に立てる保証はなかった。スミスがアトリ/イニスを打ち破ったように、何らかのシステム外の力によってスケィスが破壊される可能性もある。
 ミアが……第六相『誘惑の恋人』・マハが敗者となってしまったように。

(この世界をあえて脆く作ったのは、対セグメントの手段なのか?
 例え、スケィスやPK達が敗れ、女神Auraのセグメントが揃う手筈が整っても、世界そのものが壊れてしまえば…………全てが虚無になる)

 デスゲームが始まって、既に18時間が経過しようとしている。
 残されたプレイヤーは全体の半数を切り、GMの打倒を狙う集団はゲームの核心に迫りつつあるはずだ。
 あるいは既にセグメントを手に入れて、女神復活の為にスケィスと戦うプレイヤーが出てもおかしくない。


550 : 月蝕グランギニョル ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/08(金) 23:02:41 8FQrL8Ec0



 しかし、榊の言葉が正しければ、タイムリミットもまた近づいている。
 オーヴァンはコルベニクと《Triedge》でキリトを追い詰め、アスナの命を奪った。その影響で、この世界の綻びはより大きくなったはずだ。



 ハセヲがシステム外の力で進化を遂げて、
 蒼炎のカイトが蒼炎の守護神となって《Glunwald》に立ち向かい、
 ロストウエポンを操るフォルテがキリトとアスナの二人と死闘を繰り広げ、
 スケィスがネットスラムから逃走した影響でウラインターネットに多大な被害を与えて、



 その果てに待ち構えているのは、モンスターエリアの解放だ。
 大量のモンスターもまた、セグメントの破壊の為に用意されたモルガナの戦力だろう。それに伴ってクビアもまた成長する……可能性としては、否定できない。



 ここにまた、新たなる疑問が生じる。
 このデスゲームには2体の『八相』が紛れ込んでいる。ならば、残る六相もGM側に用意されているのではないか。
 その場合、かつての八咫であるワイズマンが『運命の預言者』・フィドヘルと接触して、何が起きる。AIDAとロストウエポンが授けられ、加えて第四相と巡り会ってしまえば…………どうなるか。
 フィドヘルだけではない。オーヴァンのアバターに宿らせる第八相・『再誕』コルベニクも、女神アウラ復活を阻止する為に現れるだろう。
 コルベニクは『絶対防御』とドレインハートで勇者カイトを追い詰めたモルガナの切り札。女神アウラの自己犠牲があって、ようやく打ち倒した八相だ。
 勇者カイトと女神アウラの力が期待できない以上、唯一の対抗策として期待できるのは…………『真なる再誕』のみ。



 『八相』だけではない。『The World』に蔓延っていたAIDA達もまた、GMが保持している可能性はある。
 《Triedge》や《Helen》は当然のこと、《Glunwald》及び魔剣マクスウェルの存在が確認された以上、残りのAIDAがいないとは言い切れない。
 そもそも、GMの一人である榊からしてAIDA=PCだ。オーヴァンほどでないにしろ、AIDAに関しては理解しているだろうから、デスゲームに導入できたとしてもおかしくない。



 この仮説通りに『八相』とAIDAが存在するのなら、役割はセグメントの破壊とクビアの成長か。
 邪魔者となるであろう女神アウラを消去し、自らが『The World』の神として君臨する…………それこそがモルガナの最終目的か?
 だが、不明瞭な点は未だに存在する。犠牲の役割を担うのは者の正体を、そしてまだ見ぬGMの存在も把握しなければならない。
 これだけの規模のデスゲームが繰り広げられている以上、運営するのが榊やトワイスだけではないだろう。あの預言者オラクルも、現状ではGMに回収されているはずだ。
 GMに付け入るというのなら、相手の実態を知る必要がある。オーヴァンが把握しているのは、ごく一部なのだから。



 と、そこまで考えた途端、どこからともなく話し声が聞こえてくる。
 顔を上げた先には、五人のプレイヤーが見えた。鎧を彷彿とさせる漆黒のアバターと、タビーのように猫耳を付けた少女と、軽薄な雰囲気を放つ緑衣の男。
 そして残りの二人が、オーヴァンにとって重要な意味合いを持つ存在だった。

「ハセヲに…………そして『.hackers』の一人である、ブラックローズか」

 異様なまでに刺々しい鎧を身に纏った錬装士・ハセヲ。もう一人は重剣士と思われる褐色肌のPC……モルガナ事件において、勇者カイトの相棒を務めたブラックローズと非常に酷似していた。
 だが、オーヴァンは別段驚かない。勇者カイトや蒼天のバルムンクがプレイヤーとなった以上、彼女が参戦させられていても何らおかしくない。
 むしろ、率先してプレイヤーに選ばれるのが道理だろう。


551 : 月蝕グランギニョル ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/08(金) 23:03:41 8FQrL8Ec0



 気配を殺しながら、彼らの話に耳を傾ける。どうやら月海原学園にはスケィスが向かっているようだ。
 ハセヲは猫耳の少女の制止を振り切って、ウインドウから蒸気バイクを出現させる。シノン、と呼ばれた少女達を放置して、ハセヲは月海原学園に走り去った。
 無論、それを黙って見ている訳でもなく、四人もまたハセヲを追跡する。オーヴァンに気付いた様子は見られなかった。

「どうやら、またあの学園に向かうことになるようだな……」

 ハセヲ達はスケィスを倒す為に、月海原学園に向かおうとしている。ペナルティエリアに指定されている学園には、キリトを救った少年達がいるはずだ。
 だが、スケィスからすればペナルティなど関係ない。恐らく、学園を護る蒼炎のカイトを仕留める為に向かったのだろう。
 これもまた"運命の出会い"なのか。『The World』では勇者カイトは幾度となく『死の恐怖』と戦った。
 預言者はこの『運命』すらも、導き出していたのか? 彼らが巡り会って、その後に如何なる未来が生まれるのか――――終焉か再誕か、あるいは全く違う未来か。
 それを見届けるにはリスクを伴うが、躊躇しては"真実"を知ることなどできない。
 世界の裏側を見極める為に、オーヴァンは再びゆっくりと歩み出した。




【?-?/日本エリアのどこか/1日目・夕方】


【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP60%、PP60%
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:{死ヲ刻ム影、静カナル緑ノ園、銃剣・白浪、DG-Y(8/8発)、逃煙球×1}@.hack//G.U.、{邪眼剣、スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、{インビンシブル(大破)、サフラン・アーマー}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、レアアイテム(詳細不明)、付近をマッピングしたメモ、noitnetni.cyl_3、不明支給品1〜10、基本支給品一式
[ポイント]:300ポイント/1kill(+3)
[思考]
基本:“真実”を知る。
1:ハセヲの様子を確かめる。その為に月海原学園に向かう。
2:利用できるものは全て利用する。
3:トワイスと<Glunwald>の反旗を警戒。
4:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
5:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です。
※サチからSAOに関する情報を得ました。
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています。
※ウイルスの存在そのものを疑っています。
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。
※このデスゲームにクビアが関わっているのではないかと考えていますが、確信はありません。
※GM達は一枚岩でなく、それぞれの目的を持って行動していると考えています。
※デスゲームの根幹にはモルガナが存在し、またスケィス以外の『八相』及びAIDAがモンスターエリアにも潜んでいるかもしれないと推測しています。


552 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/08(金) 23:05:02 8FQrL8Ec0
以上で投下終了です。
指摘点などがありましたら指摘をお願いします。


553 : 名無しさん :2016/04/09(土) 07:38:12 jyeKx9cg0
オーヴァンも学園へ行きましたか…
これはますます事態が大きくなりそうですね
投下乙でした


554 : 名無しさん :2016/04/09(土) 18:14:02 BNyvp.bkO
投下乙です

拠点なんだから当然とはいえ、学園は気が休まらないな


555 : 名無しさん :2016/04/26(火) 17:54:09 03aPH2F6O
野球予告きた


556 : 名無しさん :2016/04/26(火) 20:04:11 AMEU6oT60
やきうの時間だああああああ!!!!!!


557 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 21:52:39 LnNriMCM0
これより予約分の投下を始めます。


558 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 21:53:31 LnNriMCM0


     1◆



 緊張で、揺光/倉本智香の胸は大きく鼓動していた。
 男も女も骨太であるべきという哲学を倉本智香は持っていて、またスポーツ観戦が趣味でもある。
 しかし基本的には読書好きで、学校でも図書委員を務めるほどだ。だから身体を動かすスポーツは専門じゃない。
 人並み程度の運動神経はあるつもりだし、健康だって保ってきたつもりだけど、決して得意ではない。
 ましてや、野球の経験はなかった。



 けれど泣き言を口にしない。
 要するに、前に進む為には試合に勝てばいいだけの話だ。
 憧れのドサコンデ札幌だってどんな強敵が相手でも、挫けずに戦い続けた。そんなドサコンデ札幌のことを倉本家は応援していたはずだ。
 ミーナ曰く、この野球ゲームに負けたらネオデンノーズのみんながデウエスに取り込まれてしまうらしい。つまり、敗北と死はイコールだ。
 怖いと聞かれたら、否定できない。野球で人が死ぬと言われても実感が湧かない。



 でも、揺光は『死の恐怖』を振り払った。
 HPが0になったら死ぬように、野球で負けたらリアルの倉本智香もまた死ぬ……デスゲームの一環であることに変わりはない。
 それに今回は揺光だけではない。モーフィアス達みんなの命が賭けられている。もしも、揺光が『死の恐怖』に縛られて、何か致命的なミスをしては……みんなの死に繋がりかねない。

(体には鍛錬、心には読書…………負けてたまるか!)

 だから己を鼓舞して、揺光はボールを待つ。
 敵は9人もいるけど、頼れる仲間だってたくさんいる。
 モーフィアス。
 ガッツマン。
 ミーナ。
 アーチャー。
 ライダー。
 あとは…………

「……おい! 僕のライダーが一緒にいるからには、絶対にヘマをしたりなんかするなよ!」

 …………ライトから、少年の叫び声が聞こえてくる。
 アーチャーと一緒に現れた彼は、ゲームチャンプを自称する間桐慎二だ。

「それは僕の台詞ですよ、ゲームチャンプ(笑)さん!
 あなたみたいな人がここぞという時に失敗して、そして全てを台無しにするのですよ! もっとも、それこそ僕が望んでいるのですけど……今はそんな余裕はありません。
 精々、足を引っ張らないでくださいね!」

 慎二に怒鳴り返しているのは、ダスク・テイカーという闇色のアバター。
 サードに立っている彼は、慎二に匹敵する声量で怒鳴り返した。


559 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 21:55:59 LnNriMCM0

「はぁ? この僕が足を引っ張るだって? どうして君なんかが、そんなことを言うのかなぁ?
 僕のライダーを使っておきながら、まともに戦果を残せていない……僕はそんな君が哀れすぎて、いつミスをしないかヒヤヒヤしているくらいだよ!」
「ふっ。哀れなのはあなたじゃありませんか?
 見た所、随分と貧相なアバターしか持たないあなたがスポーツに駆り出されるなんて……転んで大泣きしないか心配になりますよ!」
「君の方こそ、両手にヘンチクリンな道具なんか付けて大丈夫なのかい?
 スポーツは軽やかな動きが求められるものさ! どう見たって、君のそれは野球には向いていないと思うけどねぇ!」
「おやおや、あなたみたいに大した武器を持たない方など、戦場では真っ先に殺されてしまうのが道理ですよ!?」
「武器だぁ? 僕にそんなものは必要ない! 何故なら、あまたのゲームをクリアしてきた手腕と頭脳こそが、僕が誇る最大の切り札だからさ!」

 数メートルも距離が離れているにも関わらず、彼らは口論をしていた。 
 詳しい事情は知らないが、どうやら海賊風の衣装を纏った女性……ライダーを巡って争っているように思える。
 三角関係か? 興味はなくもないけど、今はそれを詮索している場合じゃない。
 


 ある意味で、ナイトメアーズ以上に恐ろしいのがここにいるバカ二人だ。
 手柄の取り合いになって独走して、それが原因で他のみんなに迷惑がかかってしまったら、デウエスに付け入られてしまう。
 自分の力をアピールする気概は理解できるし、その為に努力するオトコは嫌いじゃない。揺光だって宮皇を目指して力を付けてきた。
 だけど、チームを組んで何かをするからには、周囲の和を乱してはいけない。バカ二人はそれを忘れて、協調性のない戦法を取るはずだ。

「アンタら、喧嘩だったら後にしろ! 今は勝つことだけを考えろよ!」

 揺光は怒鳴る。しかしバカ二人は聞く耳を持たず、未だに火花を散らせていた。
 ピキリ、と青筋が浮かび上がる。最後の裏切り、という名の双剣を振るいたくなった。その名の通り、バカ二人を裏切って両断したくなる衝動に駆られるが……今は堪える。



 気を取り直して、ピッチャーであるネオの方に振り向いた。
 彼が投げる剛速球をデウエスは捉えきれず、バットは空振りに終わる。バシン! という豪快な音が、ガッツマンのグローブから響き渡った。
 へぇ、と揺光は感嘆する。モーフィアスが追い求めた救世主と呼ばれるだけのことはあった。
 彼のことはよく知らないけど、実際に只者ではない雰囲気が感じられる。あのモーフィアスが認めているのだから、それだけの修練を積んできたはずだ。


 あと一球だけ決めれば攻守交替だ。
 今は8回の表。スコアは2-4で、ナイトメアーズの有利だ。
 天才的な技量を誇るナイトメアーズに対して点数を稼げたのは、ネオ・デンノーズが優れた能力を誇っているからだ。
 バカ二人だって争ってはいるものの、決して半端ものではない。慎二は頼りないが、それをアーチャーが上手くカバーしている。テイカーも一見すると重々しいが、補助するようにライダーが立ち回っている。
 場を弁えずに喧嘩するようなバカ達だけど、ただのバカではなかった。苛立つことに変わりはないけど。



 ネオの剛速球が放たれる。
 普通の人間ならば、とても捉えられないようなストレート。しかし、デウエスの一閃によってボールは弾かれた。

「高い!?」

 凄まじい勢いで空の彼方に飛び去ろうとする。揺光は待ち構えるも、外野フェンスを飛び越えかねなかった。
 デウエスは本塁に向かって走る。その数は二人だから、ここで点を取られたら離されてしまう。
 跳躍を可能とするモーフィアスとテイカー、そしてライダーやアーチャーは距離がある。だから、頼りになるのは外野手の三人だけだが……テイカー達ほどのジャンプは不可能だ。

(ヤバい、このままだとホームランだ……!)
「させないよっ!」

 揺光の耳に叫び声が響くと同時に、空が薄暗くなる。
 反射的に顔を上げた途端、揺光は瞠目した。なんと、空の彼方より巨大な軍艦が姿を現していたからだ。
 ゴールデンハインド。フランシス・ドレイクが誇る愛船が、野球場の空を覆っていた。その船首には、あのライダーがしたり顔で構えている。


560 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 21:57:25 LnNriMCM0

「なっ……どうなっているんだよ……!?」
「おい、ライダー! お前、なんでこんな所で宝具なんか使うんだよ!」

 事情を知っているであろう慎二が、威風堂々としたライダーに叫ぶ。

「おいおいシンジィ……アタシはチームの為に宝具を使ってやったんだよ?
 こんな球が遠くに飛んだら、その時点でアタシ達はお陀仏だ。だったら、出し惜しみなんてしていられないだろ?」

 一方で当のライダーは、その手でボールを掴んでいた。
 そのまま放り投げた野球ボールは、ネオによってキャッチされる。彼はそれほど驚いていないようだった。



 揺光は息を飲む。
 詳しいことは知らないが、あの巨大戦艦はライダーの力で現れた代物だろう。ホームランを阻止する為に宝具を召喚して、より高い位置に立ったライダーがボールを掴む……シンプルだが、あまりにも出鱈目な戦法だ。
 こんな規模の道具は『The World』でも滅多に見られない。ボスモンスターすらも凌駕するサイズの乗り物なんてある訳がなかった。
 よく見ると、ライダーの戦艦には大量の砲台が備わっている。あそこから砲弾が放たれたら、この野球場など一溜りもないだろう。

「命拾いしましたね、皆さん!
 僕がライダーに命令していなければ、今頃相手に点を取られていたはずですから!
 ああ、安心してくださいね! 皆さんを打ち落とそうなんて微塵も考えていませんよ? 
 どうやらナイトメアーズには攻撃的な妨害は不可能ですし、この野球場からの脱出も宝具だけでは不可能です。だから、今だけは皆様の力になってあげますよ……今だけは、ね」

 そしてライダーの隣には、いつの間にかダスク・テイカーが君臨していた。

「これでわかったでしょう、ゲームチャンプ(笑)さん! あなたがライダーと共にいても、宝の持ち腐れに過ぎないってことを!」

 二人を見て、慎二は悔しそうに拳を握り締めている。本当なら、そこにいるのは自分だと言いたそうに見えた。


 テイカーの口ぶりから考えて、やはりこのデスゲームに乗っているのだろう。カオルに何の躊躇いもなく狙撃したのが証拠だ。
 ライダーも今だけは協力しているようだが、野球ゲームがなければテイカーと共に暴れまわるはずだ。
 黙ってやられるつもりはないけど、これだけの火力に立ち向かう程のスキルを揺光は持たない。ネオやアーチャーならば別だろうが、彼らの範囲を前に無傷でいられるかどうか。


 戦慄する揺光の耳に、アウトの宣言が響き渡る。
 攻守交替。8回の裏に突入だ。




     2◆◆



「――やはり、ヤツらが投げる球の速度は徐々に上がってきているな」

 打線に入る直前、ベンチにてモーフィアスはそう呟く。
 ネオもそんな気配を感じ取っていた。デウエス達の能力は、この短時間で確実に上昇している。
 救世主としての力を得たネオに追いつこうとしていた。


561 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 21:58:11 LnNriMCM0

「私達が点を入れる度に、少しずつだが……勢いが増してきている。ゲーム開始当初より、確実にボールを投げる力が上がっているはずだ」
「それは、まさか後付けで筋力が上回った、ということですか?」
「奴らはこのゲームにおける神の位置に立っている。俺達の戦法に合わせて、いくらでも対応できるはずだろう。
 流石に野球本来のルールを捻じ曲げたりはできないが、ステータスの改竄ならば……容易いはずだ」

 ミーナの疑問に、モーフィアスは淡々と答える。
 周りは皆、深刻な面持ちで聞いていた。テイカーは表情を伺えないが、反応は同じのはず。
 野球といえど、自分の命が賭けられた状況であるのだから。



 デウエス達の走力と肩力は、一回戦から徐々に増している。
 試合中に成長したのではなく、GMによってステータスを上昇させる権限を与えられているはずだ。
 現実で例えるなら、薬物を頼ったドーピングに等しい卑劣な行為だが、こちらに糾弾する手段などない。証拠が存在しないからだ。


 この野球ボールにおいて、明確に定められたルールがが3つ存在する。
 野球ボールの破壊及び攻撃的接触は不可能。
 ナイトメアーズに対する直接的な攻撃は不可能。
 この場から脱出するには、野球ゲームに勝利しなければならない。強制的な脱出は不可能。


 以上の三つだけ。
 直接的な攻撃は不可能とは、乱闘防止だろう。デウエス以上のステータスを誇る存在が相手となったら、実力を持って強制的に敗北する事態になる。
 また救世主の力などで野球ボールが接触できないのも、システム外の力でボールの軌道が変えられるのを防止する為だ。
 既にこの野球スタジアムは、一種の巨大な檻になっている。脱出するには、野球のルールに従って勝利をしなければならない。
 

 だが、そう簡単にはいかなかった。
 個々の能力が優れているといっても、それは戦闘での話。野球に関する経験は、ミーナ以外は皆無。
 そして慎二及びテイカーは敵対関係にあり、いつ同盟が崩壊してもおかしくない状態だ。大きな火種が残っている現状で、ゲームを長引かせるのは得策ではない。
 決着を急がなければならなかった。

「君達、この回で決めるぞ……無意味に戦いを長引かせては、その分だけ私達が不利になるだけだ」
「まあ、それが妥当でしょうね。僕としてもこんなお遊びはさっさと終わらせて、早いところ邪魔な方を片付けたい所ですからね」
「…………ダスク・テイカー、君とライダーはもうあの戦艦は呼び出したりするな」
「何故です? 僕達がネオ・デンノーズを裏切るとでも? あるいは、僕達のMPを心配しているのでしょうか?」
「それもあるな。あれだけの規模の召喚となれば、それに伴う消耗も激しいだろう……
 だが、もう一つある。もしかしたら、ナイトメアーズは例の戦艦の攻略法も練っているはずだ。あれが通用したのは、一度きりと考えてくれ」
「あなたの意見には利がありますが、では次に守備に回る時はどうするのです。ホームランを打たれないとでも、考えているのですか?」
「……それに関しては、一つだけ方法がある。たった一度しかできず、しかもヤツらに知られてはいけないプランだ」
「?」

 モーフィアスの言葉に、テイカーは首を傾げる。
 あまりにも曖昧だが、モーフィアスが思案した以上は逆転の可能性がある切り札だ。ネオとしては大いに信用したいが、周りは素直に頷いていない。
 特に慎二は不信を抱いているようだった。

「なぁ、オッサン……この状況でそれはあんまりじゃないかい? とっておきを隠す気持ちはわかるけど、よくわからないモノに縋りたくないんだけど?」
「慎二、彼にも何か考えがあってのことだ。深く詮索しない方が、勝率は上げられると思うが?」
「そりゃあ、そうだけどさ……」

 アーチャーのフォローに頷いているが、やはり納得できないようだ。
 そんな慎二に、モーフィアスは「すまない」と謝罪する。


562 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:01:43 LnNriMCM0

「……ヤツらも必死になるはずだ。敗北を防ぐ為ならば、どんな手だろうと使うだろう。
 だが、それを打ち破るには……ミーナとガッツマン、そして揺光の装備が必要不可欠だ。ナイトメアーズが力を付けるというなら、私達もそれに追いつくだけだ」

 ナイトメアーズに追いつく。それはつまり、ネオ・デンノーズのステータスを向上させるということだ。
 そして幸いにも、その為の手段がこちらにはある。ミーナ、ガッツマン、揺光の三人はステータス補助系統のアイテムを所持しているからだ。


 モーフィアスに言われるまま、三人はウインドウを展開させる。
 三人は補助アイテムを取り出す中、モーフィアスはウインドウを覗き込んだ。

「ガッツマン……君からもう一つだけ、このアイテムを借りたい」
「別にいいでガスけど……能力アップにならないでガッツ! 確かに"貴重"でガスけれど」
「万が一の備えだ」

 そう答えて、モーフィアスは二人から新たにアイテムを受け取る。
 野球はまた新たな局面に突入しようとしている。デウエスが真に"神"と君臨する為、ネオ・デンノーズは生贄となってしまうのか、あるいは"神"になろうとする深層意識の驕りを打ち砕くのか。
 決着の時まで、遠くなかった。



     3◆◆◆



 パキン! という軽やかな衝突音と共に、野球ボールが飛んでいく。バットを一戦させたのはダスク・テイカーで、意外にも遠くまで飛んだ。
 そのまま彼はファーストまで走り、セカンドにはネオが立っている。彼らの脚力ならばもう少し進めたはずだが、デウエスの身体能力も半端ではなく、欲張ってはアウトになる。
 だからこそ、一塁ずつ確実に進むしかなかった。

(…………くそっ。こんな時に、よりにもよって僕の出番かよ!)

 そして今、野球バットを握り締めてバッターズボックスに立っているのは、間桐慎二。アジア圏のゲームチャンプにして霊子ハッカーであり、聖杯戦争のマスターとなった少年だ。
 バットを握り締める手から汗が滲んでいる。緊張のあまりに胸が大きく鼓動していた。


 慎二はPC及び魔術師としてのスキルは高いが、スポーツに関しては…………プロに届くわけがない。
 決して凡人より劣っているつもりはないけど、この分野でチャンプになるのは不可能だ。このアバターだって、運動能力が優れている訳ではない。
 当然、デウエスの投げる剛速球を捉えるなんて夢のまた夢だ。


 ストライクの宣言が聞こえる。耳障りで、そして慎二の心を抉るような声だ。
 デウエスのボールを前に、ただ立ち尽くすしかない。デウエスから放たれる威圧感と、自らの命が賭けられたプレッシャー。その二つによって、慎二は動けなくなってしまっていた。
 ボックスに立つのはこれで三度目だが、バットにボールを当てられたことは一度もない。三振空振りの連続だった。
 ここまで点を稼げたのは、他のメンバーがいたからこそだった。

「おいシンジィ! あんたそろそろ当てたらどうなんだい!? もう後がないんだよ!?」

 プレーヤーズベンチより聞こえてくるのは、ライダーの叫び。
 彼女が言うように、思わずバットをスイングさせるが……ボールに当たらなかった。ストライク、という叫びが無情にも響き渡る。
 もう一度、バットに当てられなければ……ライダーが言うように後がなくなってしまう。

「おやおや? ゲームチャンプ(笑)さん、しっかりしてくださいよ!?
 だから言ったんですよね、あなたみたいな人はここぞという時にお荷物になると! もっとも、他の方がフォローして下さるのですから、大した問題ではないのですけどね!」

 テイカーの嘲りが耳に響くが、慎二はそれを否定することができない。
 悔しいが、奴に圧倒的に劣っていた。ライダーを奪われ、誇りを奪われ、挫折の果てにようやく取り返せるかと思ったが……また逆戻り。
 いや、力関係は完全に負けている。何の戦果も残せず、ただ無様に笑われるだけ。
 こんなことでいいのか? 認めたくなんかないけど、どうしようもない。


563 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:02:36 LnNriMCM0

(チクショウ……こんな時、ユウキだったらどうする!?
 あいつはカオルを助ける為に、自分から火の中に飛び込んだ! ノウミにスキルを奪われても、自分の力だけでアイツに打ち勝った!
 だから、ユウキだったら……こんな状況でも、絶対にどうにかするはずだ! あいつは凄いゲーマーだから!)

 慎二の脳裏に思い浮かぶのはユウキの勇姿。
 今はもういない彼女だが、その姿は慎二の目に強く焼き付いている。逆境を跳ね返す戦術と、テイカーを相手に一歩も退かなかった精神力と勇気。
 慎二が持たないものを全部持っていて、だからこそ純粋に憧れてしまう。一緒にいたのはほんの少しだけでも、彼女のようになりたかったと……胸を張って言える。


 だからこそ、ユウキの誇りを終わらせていけなかった。
 自分のやりたいことや、自分のできることだけをやる。できないことなんて、やらなくていい。彼女はそう言ってくれた。
 でも、この状況下で慎二にできることなど…………



 …………あるには、あった。
 しかしそれは危険極まりないし、確実に成功する保証だってない。
 咄嗟に思い付いたアイディアなど、攻略に役立つ訳がない。普段の慎二ならば、絶対に取らないはずだった。



 だけど、他に方法などない。
 このアイディアを実行する為の備えだって、慎二は貰っている。
 それにユウキは、カオルを助ける為に炎の中に飛び込んだ。痛いはずなのに、苦しいはずなのに、おくびにも出さないで笑顔を向けていた。
 二人が味わった痛みに比べたら、こんなのは雑魚モンスターの攻撃に過ぎない。

(それにキリトだって……ノウミとの戦いじゃ、僕のタンクになった!
 あいつにできて、僕にできない道理なんてない! ここでやれないで、どうやってアイツを倒せるって考えられる!)

 キリトとの共闘が脳裏に浮かんだ途端、ピッチャーとなったデウエスは構える。
 三球目が投げられようとしているが、慎二にそれを弾き返す力などない。けれど、このまま黙って負けているだけなのは、一番嫌だ。
 無意識の内に、慎二は一歩前に踏み出した。



 ゴキリ、と何かが軋むような鈍い音が聞こえる。
 刹那、それをかき消す程に凄まじい慎二の叫び声が、球場に響き渡った。



     †



「……慎二! 慎二! しっかりするんだ、慎二!」

 倒れた慎二の身体を、アーチャーは揺さぶっている。その表情は苦悶に染まっていた。
 同時に、自分の使命をやり遂げたような、誇らしげな雰囲気すらもある。

「おい……痛いだろ、このバカ……あんまり乱暴に揺らすな……」
「まさか君は、塁を取る為にわざと……!?」
「ハッ、そんなこと……ルールじゃ認められていないだろ?
 バントを決めようとしたけど、僕としたことがうっかり足を滑らせた…………それだけさ」

 したり顔で慎二は語るが、アーチャーは嘘だと見抜いていた。
 いくらバットを振るっても当たらず、このままアウトになるくらいなら……デッドボールを狙ったのだろう。
 慎二のHPは残ってはいるが、あの剛速球に当たってしまったら、激痛は避けられない。
 現実の野球でも、デッドボールが原因で選手生命が絶たれた選手がいる。ましてやスポーツに関わりが薄い魔術師が受けては、耐えられる訳がなかった。


564 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:03:44 LnNriMCM0


 騎士の奥義という味方全員の物理防御地を上昇させるアイテムが、揺光には支給されていた。
 野球とは関わりが無いと思われる騎士の奥義を使った理由はただ一つ。デウエスが意図的に危険球を投げることを、モーフィアスは警戒していた。
 故意に投球を打者に当てた場合、通常の野球ならばその選手は退場だろう。だが、この野球場はデウエスの胃袋に等しく、ナイトメアーズに対するペナルティなど有耶無耶にされる危険があった。
 だからモーフィアスは、そういった事態に備えて騎士の奥義を使わせた。効果は一時的だが、野球の試合が終わるまでなら充分だろう。仮に危険球を受けても、ダメージは少ない。


 しかし慎二は、あろうことか……バントのふりをして、自らデウエスのボールを受けたのだ。
 審判はこの結果をデッドボールと判断する。彼の覚悟は、成功に終わった。
 だが、あまりにも危険な賭けだった。わざとボールに当たったと判断されたら、安全進塁権を認められなくなる。
 "神"を自称するが故の驕りか。あるいは、モーフィアスの推測通り、選手を痛めつけるという目論見を果たしたからか。不安を余所にボールデッドが認められて、慎二は進塁権を与えられた。

「このバカが……あんた、腕が駄目になったらどうするつもりだったんだよ!?」
「バカはどっちだよ……君は確か、回復アイテムを持っていただろう?
 それとも君は回復アイテムを後生大事に持って、使い道を逃したまま死んじゃうタイプなのかい?」

 揺光は怒りをぶつけるが、鼻で笑う慎二にあっさり流されてしまう。
 恐らくダメージを受けたとしても、揺光が持つ平癒の水で回復する手筈だったのだろう。
 また、数が少ないという理由で慎二に回らなくても、リカバリー30というバトルチップがある。試合が流れていけば、再使用までの時間は稼げるはずだ。
 
「慎二……」
「ほら、早くアーチャーが出ろよ! 君はこの僕のサーヴァントだろ?
 英霊なんて大層な肩書を背負っているからには、ここで絶対に決めてみせろ! それともまさか、ビビってボックスに立てないとか言うつもりなのか?」
「…………わかった。マスターの命とあらば、それを叶えるのがサーヴァントの使命。
 君のバトン、確かに受け取った」

 ファーストに向かう慎二の背中を見届けながら、アーチャーは野球バットを握り締める。
 彼を本当に想うならば、感傷など浸っていられない。サーヴァントとして、マスターを勝利に導く責務を果たすべきだ。

「へぇ、やるじゃないかシンジぃ! あんた、ちょっと見ない間に男らしくなったじゃないか!」
「これについては僕も同意ですね! そんな気概があるなんて……ちょっと見直しましたよ!」

 ライダーの賞賛とテイカーの嘲り。だが慎二は何も答えず、一塁に立った。
 彼は悔しそうに拳を握り締めている。この場では一番能力が劣っていることを自覚し、そしてまともにボールが打てない自分自身に憤りを抱いているだろう。
 慎二は決して軟弱なマスターではない。霊子ハッカーとしても、マスターである岸波白野のアバターを改竄する程に高い技術を持つ。条件が整えば、ウイルスの謎を解き明かすことだって可能なはずだ。
 だけど、アーチャーは慎二に言葉をかけない。中途半端な励ましや慰めなど彼は望まないし、何よりも成長の妨げになる。


565 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:04:22 LnNriMCM0

(慎二……君はもっと強くなる。私がそれを保証しよう。
 さて、そんな彼のサーヴァントとなったからには……私も、強くあり続けよう!)

 アーチャーは己が勝利を投影(イメージ)する。
 投影(イメージ)するのは、常に最強の自分。一秒ごとに成長し、そして勝つ。
 この手に握り続けた刃のように、バットを投影させる。世界中で活躍を果たしたプロ野球選手達の想いを、一本の武器に込めるように。


――――体はバットで出来ている。
    I am the bone of my bat。


 無限のバットから赤き体躯を生み出せるように念じながら、デウエスの球を待つ。
 120 km/hは超えるであろう剛速球が迫るが、アーチャーに捉えられない訳がない。千里眼(C+)によって向上した動体視力を持ってすれば容易かった。
 渾身の力を込めた一閃で、ストレートを弾き返した。

「ま、満塁ホームランだ!?」

 揺光は叫ぶ。
 彼女の言う通り、アーチャーによって射抜かれたボールはアーチを描いて、観客席に辿り着いた。
 ホームランの宣言が聞こえるが、称える観客などいない。味気ない勝利だとアーチャーは思う。

(せめて観客や実況でも配置していれば、また違ったかもしれないが……贅沢は言ってられないな)

 ネオやライダー、それに慎二に続くようにアーチャーは走る。
 これでネオ・デンノーズには4点が入る。スコアは6-4になり、大きくリードだ。
 しかし裏を返せば、これに備えてナイトメアーズもまた能力を上げる。
 ミーナ曰く、本来のデウエスにそんな仕様はないが、デスゲームに組み込んだ榊からイカサマの特権でも与えられたのだろう。
 並の人間を遥かに超えた反射神経に加えて、GMからのシステムアシストを備えた強敵。だが、ネオ・デンノーズも負けるつもりはない。
 己の未来を目指すだけだ。



     4◆◆◆◆



 ナイトメアーズの反撃は激しかった。
 ライダーは敏捷こそ優れているが、その分だけ筋力はやや劣っている。例えバットにボールを当てても飛距離は出ず、デウエスによって簡単に掴まれてしまい、アウトになった。
 その反対にガッツマンはパワーこそ優れているが、反射神経はデウエスが勝っている。機械のような正確な判断で着地地点を予測し、そのまま捕球されてしまう。
 ミーナはメンバーの中では最も経験が長く、運動神経は抜群だ。それでもただの人間に過ぎず、救世主やサーヴァントに対抗できる力を付けたデウエスに勝てる道理はない。
 バットは三振。結果、揺光やモーフィアスに順番が回る前に、9回の表に入ってしまった。



 ナイトメアーズの猛攻は始まる。
 ネオは渾身の力で投球するも、デウエスはバットの真芯で剛球を打つ。彼の癖や弾速を見切ったのだ。
 ボールは内野手を飛び越え、外野手でバウンドする。センターの揺光が掴み、ファーストのモーフィアスを目がけて投げた。
 結果はセーフ。一塁を許してしまった。


 二球目。
 もう一度だけストレートを投げる。デウエスはバットを振るうも、空振りに終わる。ストライクだ。
 その結果に特別な感情を抱くことはなく、呼吸を整える。ほんの少しだけ球の軌道を変えられるように念じながら、フォークボールを投げる。再びストライク。


566 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:05:24 LnNriMCM0

(奴らは、この速度に対応する為に、様子を見ているはずだ。ならば……)

 ボールを握る手に、更なる力を込める。
 デウエス達はこちらが手札を出す度に、それに合わせてステータスを改竄している。マトリックスを支配するエージェント達のように、通常の人間では太刀打ちできない存在へと進化したはずだ。
 だが、仮想世界に蔓延る脅威と戦う為に、ネオは救世主としての力を得た。相手が進化したなら、ネオ・デンノーズはそれ以上に進化すればいいだけ。
 その為の手段が、ガッツマンより与えられている。彼は今、キャッチャーとなってネオの投球を待っていた。


 共に戦っている仲間との絆を信じて、ボールを投げる。
 デウエスはバットを振うも、それを掻い潜ってガッツマンのミットに炸裂した。
 5番打者のデウエスは三振した結果、アウトの審判が下される。

(ガッツマン……お前の想いに応えるぞ!)

 ガッツマンが所持していたアイテムは三つ存在する。
 転移結晶というSAOに存在するレアアイテムと、現実の世界から持ち出されたウルティマラティオライフル・PGMへカートⅡ。
 最後に、闘士の血というガッツマンに相応しいであろうアイテムが支給されていた。『The World』に存在する闘士の血は、使用したプレイヤーの物理攻撃力を一時的に上昇させる。
 9回の表に入る直前、投手となったネオは闘士の血を使うことで、己の筋力を増幅させた。それに伴って、彼が投げるボールの速度もまた上昇する。
 結果、デウエスの三振を見事に果たした。

「よし! このまま守り抜けば、アタシ達の勝ちだ!」
「揺光、安心するのはまだ早い! 奴らはこの野球場で神の座に君臨していることを忘れるな!」

 揺光の期待と、モーフィアスの叱咤が耳に届く。
 まだ終わりではない。こちらが補助アイテムで筋力を上昇させたなら、必ずデウエスはそれに追いつくだろう。
 しかし、追いつけるまでに若干のタイムラグがある。あと一度だけ、アウトに持っていくだけの余裕はあった。


 一球投げる度に、弾速は上がっていく。
 二度のストライクを決めて、三球目を投げた!
 だがデウエスは軌道を見切ったのか、ネオのフォークボールをバットで飛ばす。
 内野手を飛び越えた先にいるのは、ライトに立つ慎二だ。例えホームランにならなくても、彼を狙えば点が取れると判断したのだろう。

「…………僕を、ナメるなぁ!」

 肝心の慎二は大声で叫び、全力で走る。通常の彼とは比較にならない速度で、一瞬でボールの落下予測地点までに到着する。
 慎二は見事にボールをキャッチして、アウトの宣告が成された。


 守備に回る際に、慎二はミーナより快速のタリスマンを受け取っていた。
 彼は自らの能力が劣っていることを自負しており、最後の追い込みにかかるであろうデウエスに立ち向かうには……アプドゥに頼るしかない。
 一時的な効果だが、残されたゲームを乗り越えるには充分だ。


 二度のアウトが宣告された。
 ここを乗り越えれば、ネオ・デンノーズの勝利が確定される。
 ナイトメアーズは後がないはずだった。

「……ここまで粘るとは、やりますね」

 デウエスの一人より聞こえてくるのは、嘲りの声。


567 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:06:48 LnNriMCM0

「流石はネオ・デンノーズと言った所でしょうか? 精鋭が揃っては、私達でも簡単に勝てそうにありません」
「でも、私達は野球場の"神"になった」
「猿が大量に集まり、そして小細工を仕掛けようとも」
「"神"から見れば些事に過ぎない」
「ですが、心配はいりません……私達はあなた達を苦しめるつもりなどありません」
「"神"に君臨したのですから」
「あなた達を"しあわせ"にしてあげます」
「私達と一つになれば、あなた達はもう苦しまず……"しあわせ"になれますよ」

 デウエス達の言葉が、スピーカーを通して球場全域に響き渡る。
 お前達の抵抗など無駄なのだと。諦めてデウエスに取り込まれてしまえと。声色からは驕りが醸し出されていた。
 見下しているのではない。初めから、デウエス達は自分達の存在など認めていなかった。


 やはり、同じだった。
 偽りの幸福に満たされた世界に人間を閉じ込めて、命を資源エネルギーに変えた機械達と。
 そしてスミスを始めとしたマトリックスを守護するエージェント達も、人間達に価値など見出していなかった。
 デウエスに取り込まれれば、確かに"しあわせ"になれるだろう。だがそれはデウエスによって"しあわせ"だと思わされているだけ。
 実際はデウエスの糧にされて、永劫の時を地獄で彷徨うだけだ。


 デウエスの言葉に屈する者は誰一人としていない。
 ネオは彼らの希望であり続けなければいけなかった。トリニティはネオを信じ、そしてアッシュはネオに道を示してくれた。
 二人もデウエスを否定するはずだ。

「俺は……いや、俺達はお前らの言う"しあわせ"など、認めない」

 淡々と、そして静かなる怒りを響かせながら、ネオは言い放つ。
 バッターボックスに立つデウエスは無言のまま、ニヤリと笑った。奴らはここから最大限の能力を発揮するつもりだろう。
 ネオの使った闘士の血は、既に効力が切れていた。対するにデウエスは、スペックを向上させたネオが投げるボールの速度を見抜いている。
 だが、ネオは一片の躊躇もせずに、ボールを投げた。


 バキン! という衝突音と共に、野球ボールは空の彼方へと向かっていく。仮にライダーが例の船を顕在させても、ボールの方が早い。
 跳躍力に優れているサーヴァント達やダスク・テイカーでも、間に合わないだろう。
 可能性があるのは救世主の力を持つネオだが、既にボールはピッチャーマウンドを通り過ぎている。
 ボールが外野フェンスを超えれば、野球勝負は続いて、ナイトメアーズの勝利へと近づくだろう。


568 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:07:44 LnNriMCM0


 逆を言うなら。
 ボールが外野フェンスを超えてしまうまでは、まだネオ・デンノーズに勝利のチャンスは残されていた。


 ネオはウインドウを展開させて、ガッツマンより受け取った"アイテム"をオブジェクト化する。
 使用すれば、どんな場所にでも辿り着けるであろうレアアイテム……転移結晶を手にしながら、ネオは叫んだ。

「転移、アメリカエリア・野球場……観客席!」

 彼の決意に答えるかの如く、転移結晶は輝きを放つ。
 瞬く間に男の姿は消える。しかし一秒も経たず、観客席の位置にネオが現れた。

「なにぃ!?」

 誰かが驚愕の声を漏らすが、男はそれに目を向けずに走る。
 渾身の力を込めて高く跳躍し、迫りくる野球ボールをキャッチした。

「アウトオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッ!」

 ネオが着地すると同時に、審判は三度目のアウト宣言をする。
 これでゲームセット。6-4で、ネオ・デンノーズの勝利だ。


 ネオはモーフィアスより、ガッツマンが所持する転移結晶を受け取っていた。
 最後の最後、こちらが全ての手札を出し尽くしたその時こそ……デウエス達は真に牙を剥く。
 ネオ・デンノーズが出せる最大の力を超えたスペックを得て、デウエスはホームランを狙う。ならば意図的にボールを打たせた後に、転移結晶を用いた瞬間移動で先回りして、観客席から捕球すればいい。
 現実の野球では、瞬間移動を行ってはならない、なんてルールなど存在しないのだから。


 しかしこれは一種の賭けでもあった。
 解説によると、転移結晶は【転移結晶無効化エリア】という場所で使用しても効果が発揮されない。故に、もしもこの球場が【転移結晶無効化エリア】に指定されていたら、そもそもこの作戦自体が成立しなかった。
 加えて、この野球ゲームはそれぞれのチームに欠員が出ないようにルールで定められている。自力で脱出することは不可能で、あらゆる逃走手段は封じられているかと思われた。


 だが、球場内から球場内への転移ならばどうか。
 こちらが禁止されているのは、球場からの脱出や、ボール及びナイトメアーズへの攻撃行為。明確に指定されているのはそれだけ。
 それ以外に禁止行為は存在しないことに賭けて、彼は転移結晶の使用を選んだ。
 転移結晶は貴重品だが、出し惜しみなどしたらネオ・デンノーズ全員が敗者となるだけ。だからこそ、ガッツマンも託してくれたのだ。

「やりました……私達ネオ・デンノーズの勝利です!」

 ネオがネオ・デンノーズの元に駆け寄ると、その勝利をミーナが称えてくれた。

「どうやら、上手くいったようだな」
「ああ。モーフィアスのおかげだ。この作戦があったからこそ、勝つことができた」
「それなら、礼を言うのは俺じゃないだろう?」
「……そうだったな」

 モーフィアスが言うまま、ネオはガッツマンに振り向く。
 男気に溢れるネットナビは、熱い炎が燃え上がる瞳をネオに向けていた。

「ガッツマン、お前のおかげだ」
「おれは男の中の男! ネオだったら、絶対にボールをとってくれると……しんじてたでガッツ!
 だから、おれは転移結晶をわたしたでガッツよ!」
「そうか……ありがとう」

 ネオとガッツマンは互いに握手をし合う。
 人間と機械の絆によってもたらされた勝利を、祝福するかのように。


569 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:09:05 LnNriMCM0
 次の瞬間。目の前に立つガッツマンの姿が歪む。
 思わずネオは瞬きをして、周囲が揺れていることに気付く。
 足元がよろめき、不気味な振動が野球場に襲い掛かった。

「な、なんだよ!? 地震か!?」

 慎二は狼狽える。
 彼だけではなく、ネオ・デンノーズにいる全員がこの異常事態に瞠目した。
 たった一人、ミーナを除いて。

「いいえ、呪いが発動したのです!
 私達の知る呪いのゲームでは、ナイトメアーズの敗北と同時にカオルさんの呪いは発動して、ハッピースタジアムもろともデウエスを滅ぼしました!」
「な、なんだってぇ!? じゃあ、このままだと僕達もそれに巻き込まれちゃうじゃないか!」

 慎二の不安通り、野球場に亀裂が走る。
 グラウンドが、壁が、観客席が……何もかもが、砕けようとしていた。
 今からでは、逃げ出そうとしても間に合うかどうかわからない。

「――いやだ」

 世界がひび割れていく中、おぞましい声が響き渡る。

「まだ"しあわせ"になっていないのに――――」

 オカルトと科学によって生み出されたカオルの深層(エス)は震えていた。
 デウエスはこちらに目を向けていない。そのアバターもまた、歪み始めていた。

「すきなひとといっしょにいたいのに、もっとけんきゅうしたいのに、みんなにみとめられたいのに――――――」

 紡がれるデウエスの呪詛。
 人間……いや、心ある命ならば誰もが求める願い。だが、カオルはその全てを取りこぼしてしまった。


 初めは、未知のものに対する好奇心や文明の進歩の為に力を尽くしたはずだ。
 カオルの発明によって救われた人間だっている。彼女が研究したからこそ、文明も進化した。
 しかし彼女の想いは報われず、挙句の果てにはカオル自身の研究によって……世界の平穏は壊された。


 自分たちの仕えている科学が、いつかみんなを救ってくれると、彼女は信じていた。
 諦めることを否定して、未来を変えようとしていた。その果てに待っていたのが、世界中を巻き込んだ戦争の元凶という汚名。
 カオルは絶望したはずだ。望むものを手に入れられず、病魔と人々からの糾弾に苦しんで、命を奪われる。
 …………彼女の行いは決して許されないが、彼女こそが全ての元凶と問われたら、ネオは否定する。
 
(すまない、カオル……俺は救世主でありながら、君を救う方法を知らない)

 しかし、もうカオルを救うことはできない。既に呪いのプログラムは発動し、デウエスもろとも消え去ろうとしている。
 彼女は彼女自身の因縁に、決着をつけようとしていた。
 介入しようにも、呪いのプログラムのシステムを知らないネオにはどうすることもできない。
 下手に横槍を入れたらネオ自身も巻き添えを食らいかねないし、何よりもプログラムそのものが破綻する危険があった。

「いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。
 しにたくない。しにたくない。しにたくない。しにたくない。しにたくない。しにたくない。しにたくない。
 命を……命を……命を、いのちを、補充してやる! お前達を、食ってやる!」

 ぐるり、とデウエスはこちらに振り向いて、凄惨な笑みを見せる。
 口から伸びた牙の意味はただ一つ。奴はネオ・デンノーズの全てを喰らおうとしていた。
 反射的にオブジェクト化させたエシュリデータを構えて、デウエスを睨む。アーチャーやライダー、そして揺光も武器を握った。


570 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:10:24 LnNriMCM0

「ダスク・テイカー! 宝具、という例の船を呼び出せ!」

 そんな中、モーフィアスだけが叫ぶ。
 彼はデウエスに目を向けず、ダスク・テイカーと交渉していた。

「ここから脱出するには、君とライダーが捕球に使用した例の船が必要だ。私達もそこに乗せてもらうぞ」
「はぁ? 僕達だけならまだしも、どうしてわざわざあなた達を助けなければいけないのですか?
 ゲームはもう、終わったはずでしょう」
「君達だけで脱出できる可能性は低い……上を見ろ」

 鼻で笑うテイカーを尻目に、モーフィアスは空を指差す。
 見上げると、天にも亀裂が走っていた。いつ砕けてもおかしくない空を飛ぶなんて、危険極まりない。
 GMによって導入されたデウエスならば、飛行能力にも何らかの対抗手段を持っているはずだ。

「あなた、もしかしてこの事態を予測していたからこそ、ライダーの宝具を使わせなかったのですか?」
「"神"を自称するような傲慢な奴ならば、追い詰められた時に私達を道連れにしようとするだろう。
 さあ、早く決めろ。君達だけで逃げるか、それとも全員を連れていくのか……時間はない」
「……敵に塩を送るなんて御免ですが、残念ですがあなたの言うことにも一理あります。何が起こるかわからない状況を、僕達だけで切り抜けるのは流石に厳しいでしょうから。
 ライダー! 早く宝具を使いなさい! こんな所に長居は無用ですよ!」
「はいよっ!」

 ライダーは叫ぶ。一隻の巨大軍艦が野球場に再び君臨した。
 テイカーとライダーは瞬時に乗り込む。威容を誇る船に圧倒されているミーナと揺光を抱えながら、ネオもまた甲板に向かった。
 慎二は相変わらず表情を顰めているが、アーチャーに抱えられる形で船に乗り込む。最後にモーフィアスとガッツマンが搭乗して、脱出の準備が整った。

「さあ、振り落とされるんじゃないよ!」

 そんなライダーの宣言と共に、船は天に向かって飛び立とうとするが。

「おまえたちのいのちを…………わたしによこせぇえええええええええええ!」

 デウエスの叫びと共に、野球場を構成する全てのデータは崩壊。
 広範囲でテスクチャは剥きだしとなって、そこから無数の黒い手が飛び出した。
 一本一本は、普通の人間ほどの長さを持つ腕。何百……あるいは何千か何万か。あまりにもおびただしい数の腕が、一斉に蠢く。
 ざわざわざわざわざわざわと、まるで波打つように見える腕は、ネオ・デンノーズを目がけて急激に伸び始めた。



     5◆◆◆◆◆



「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「な、なっ……な、な、なんでガッツ!?」

 慎二は全身が凍りついたような悲鳴を上げて、ガッツマンは動揺していた。
 デスゲームを生き延びた彼と言えども、全身の鳥肌が立つような光景には耐えられなかったのだろう。
 それはミーナも同じ。一度、デウエスを打ち破った経験があるとはいえ、そのおぞましさには慣れることなどできない。

「な、なんだよアレ…………アレも、デウエスの仕業なのか!?」

 揺光もまた震えている。
 無数に穿たれたデータの穴から引っ切り無しに伸びる腕など、直視することはできない。
 ネオやモーフィアス、そしてアーチャーやライダーですらも表情を顰めていた。


571 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:11:57 LnNriMCM0

 一本の腕が一直線に伸びる。
 反射的に踏み出したネオがエシュリデータの一閃させたことで、あっさりと両断。
 が、焼け石に水に過ぎない。まるで消えた分を補充するように、データの孔から新たなる腕が現れた。

「気を付けてください! あれに掴まれたら、私達はデウエスに取り込まれてしまいます!」
「そんなこと、聞かれるまでもありませんよ! それよりも呪いのプログラムとやらは、まだ発動しないのですか!?」
「そろそろ発動してもいいはずなんです! 私が知るデウエスは、敗北してから数分ほどで消滅しました。
 だから、あいつもすぐに消えるはずですが……」

 ダスク・テイカーの怒号に答えるも、肝心のデウエスは未だに健在。否、かつて以上に驚異的だ。
 血に飢えた野獣のように禍々しく、カオルから生まれたとは思えない程に獰猛だった。

「でも、全然平気そうじゃないか! どうするんだよ!?
 ……そ、そうだ! おい、ライダー! この船の大砲であいつらを纏めて吹き飛ばせないか!?」
「どうだろうねぇ。
 てか、あの神サマには攻撃なんて利かねえんだろ? まぁ、やれなくもないだろうけど、本気を出すにはアタシの魔力が足りなすぎる。
 だろ? ノウミ」
「なっ!?」

 危機的状況にも関わらずして妙に落ち着いているライダーに、慎二は絶句する。
 一方でテイカーは、目を伏せていた。無言のままだが、肯定しているのだろう。
 今のステータスでは逃走が精一杯で、迫る腕の迎撃は不可能ということだ。

「大元を叩かない限り、あの腕はいくらでも湧いてくるようだが……今の私達では厳しいな」
「待ってくれ、アーチャー。俺のステータスなら心配はいらない」
「だからこそ、君を失う訳にはいかないんだ。もしもデウエスが君を喰らってみろ……救世主の力を得たことで、手のつけられないバケモノになることは間違いない。
 デスゲームの世界から抜け出して、あらゆる世界で暴れ回るはずだ」
 
 アーチャーの言葉は尤もだ。
 このメンバーで戦闘を一番期待できるのはネオ一人だけ。高いスペックを誇る彼がいたからこそ、ネオ・デンノーズは勝利を掴んだ。
 自分達の切り札とも呼べる男だ。当然、デウエスから真っ先に狙われる。
 万が一、ネオの命がデウエスに取り込まれてしまったら、その時点でネオ・デンノーズの敗北が確定する。救世主である彼に太刀打ちできるメンバーなど、他にいないのだから。



「み、つ、け、た」

 唐突に。聞こえてはいけない声が、甲板で響き渡る。
 咄嗟に振り向くと、本来ならいないはずだった9人目の乗客が、いつの間にか姿を現している。
 三日月形の口を真っ赤に染めて、テイカー以上にどす黒い肉体を誇るアバター。間違いなく、カオルの深層たるデウエスだ。

「何ッ!?」
「バカな……!?」

 それらは一体誰の驚愕なのか。ミーナに思考をする余裕はない。
 男と女の悲鳴も聞こえるが、ミーナの意識はデウエスだけに向けられている。

「いただきます!」

 デウエスの視線が向けられて、凄まじい殺意が肌に突き刺さった。

(私を、食べようとしてる……!?)
「ミーナっ!」

 戦慄と同時に、ミーナの身体はネオに突き飛ばされた。

「フンッ!」

 ネオはデウエスのアバターを横に切り裂く。微かな悲鳴と共に漆黒の体躯は吹き飛ぶが、すぐに着地する。
 凄まじい威力を誇るであろう一閃を受けたにも関わらず、デウエスは笑っていた。


572 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:12:44 LnNriMCM0

「大丈夫か、ミーナ!?」
「は、はいぃ!」

 感謝する暇もなく、ただ頷くしかできない。
 周りにいるメンバー達は、デウエスを見つめていた。何故、何の脈絡もなしにデウエスは姿を現したのか? 誰もがそう思っているだろう。
 まるで瞬間移動を使ったように、唐突だった。

「まさか……!?」

 何か心当たりでもあるかのように、モーフィアスは呟く。

「……デウエスは、ネオが使った転移結晶の効果すらも、後付けで組み込んだのか!?」



     †



「正解だよ、モーフィアス」

 白衣の男は、デウエスから逃走するネオ・デンノーズを淡々と見つめていた。
 トワイス・H・ピースマン。ロックマンのアバターを回収し、オーヴァンをハセヲの元に導いた彼は、今もデスゲームの情勢を"記録"し続けている。
 現在、最も重大なるイベントはデウエスの暴走。カオル/寺岡薫の深層(エス)より生まれた怪物の行く末を"記録"していた。


 【Happy Studium】より導入されたデウエスは、本来の仕様とは少し違う。
 モーフィアスが推測するように、イリーガルな力と対抗できるように改竄を施されていた。
 世界中の経済を大混乱に導くほどに、デウエスのスペックは凄まじい。またその反射神経も、通常の人間を遥かに凌駕する。
 だが、デウエスが超えるのは『通常の人間』だけ。『魔術師』や『サーヴァント』、更に『救世主の力』や『碑文』を始めとした力に対抗できる保証はない。
 だからこそ、現実の世界で行われる野球のルールから逸脱しない範囲で、デウエスに改竄を施したのだ。
 モルガナが本来のルールを破れないように、デウエスもまた野球のルールを破ることはできないのだから。100%の勝利が約束された勝負なんて、受けられない。
 

 無論、流石に呪いのプログラムを除去するまでは不可能だった。
 寺岡薫が生み出したプログラムは容易く解析できず、下手に手を出してはGMに飛び火しかねない。また、仮に呪いのプログラムを除去したら、デウエスのワンサイドゲームになってしまう。
 何事にもバランスが存在するのだから、それを乱してはならなかった。


 今にもデウエスのアバターは崩壊し続けて、カオルもろとも消滅するまでに時間はかからないはずだが……厄介なことに、転移結晶の効果すらも学習してしまっている。
 データの歪みから発生した無数の腕は、ただの囮。意識を向けさせている間に、敵の懐に潜り込む。単純だが、実に効果的だ。
 後は一人一人、ネオ・デンノーズを喰らってしまえば新たなる命を得られるだろう。


573 : ワタクシドモノタタカヒ ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:14:11 LnNriMCM0

「科学者の欲望風情が、やるじゃないか!
 流石は"神"を自称するだけのことはあるなぁ!」

 逃走劇を眺める男がもう一人。
 全てのプレイヤーにその存在を知らしめたGMの一人。榊だ。
 彼はプレイヤーが【Delete】される度に、まさに傲慢たる王の如く嗤っていた。デスゲームを打ち破ろうと目論む者達が傷付き、無情にも命を散らせることを……彼は望んでいる。

「希望を喰らって"神"に君臨するか、あるいは"道化"のままで終わるか……」
「ハッハッハハハハハハ! だが、こうして見るとデウエスもまた哀れなものだ!
 "神"の座に執心するも、所詮は一人の人間から生まれた欲望に過ぎない。どれだけ飾ろうとも、結局は人間の域を超えられる訳がないだろう!
 そういえば、どこかのゲームには『泥棒の王』とやらがいたそうだな。ならばデウエスは『泥棒の神』と呼ぶのが相応しいかな?」

 榊は高らかに笑っている。
 泥棒の王。それはALO……アルヴヘイム・オンラインを支配した妖精王オベイロンのことだろう。
 彼は茅場晶彦/ヒースクリフの技術を盗み、人間の感情をコントロールする実験を重ねて絶大なる地位を手に入れようとした。
 境遇こそは違えど、己の欲望を満たす為に絶大な技術と力を求めた点では共通している。
 尤も、両者がわかりあうことなど、決してないだろうが。


 画面に映し出されているデウエスは、ネオ・デンノーズの前で吠える。
 無論、彼らとてデウエスに黙って取り込まれるつもりなどなく、必死に抵抗する。ある者は剣を振るい、ある者は弾丸を放ち、ある者は卓越した身体能力でデウエスを避ける。
 しかしその全てを、デウエスは見切っていた。彼らの動きに対応できるようになるまで、そう遠くない。


 また、デウエスが暴走した影響で、アメリカエリアの空すらも崩壊していた。
 かつて野球場が崩壊したように、データの残骸は瓦礫のように戦艦へと降り注いでいく。まるで大嵐の如く、船を打ち砕こうと襲い掛かっていた。
 このまま、デウエスの勝利に終わってしまえば、崩壊はアメリカエリアに留まらないだろう。

「さあ見せてくれ! 『泥棒の神』の維持を! そして"神"に抗う愚か者達の維持を!
 君達の『運命』を、私に見せてくれよ!」

 己の終末を望む死者の願いと、己の"しあわせ"を求めて希望を喰らおうとする深層の願い。
 そうして生み出された『運命』が決着をつけるまで、あと僅か。


574 : つかみとれ!未来 ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:15:23 LnNriMCM0



      5◆◆◆◆◆


「ハッ!」

 アーチャーは双剣をデウエスに向けて振るう。だが、その太刀筋は見切られてしまい、跳躍によって避けられた。
 それを追いかけるようにネオも飛び上がり、エシュリデータでデウエスを突き刺そうとする。
 一撃必殺の刺突。直撃を受ければ、マトリックスを守護するエージェント達であろうとも、一瞬で葬られるであろう威力が込められていた。
 だが。

「ッ!」

 ガキン! という耳障りな衝突音と共に、その勢いは止まる。
 あろうことか、デウエスは己の口だけでエシュリデータの刃を受け止めたのだ。
 ニィ、とデウエスは嗤う。まるで己の勝利を確信しているような、傲慢な笑み。
 ネオはそれに心を動かされることはなく、デウエスの腹部に強烈な蹴りを放って、強引に吹き飛ばした。


 野球場から離脱して、既に数分が経過している。
 時折、デウエスのアバターがぶれていて、カオルの呪いは徐々に効いていることが伺えた。
 だけど、歪みと反比例するように、デウエスの動きは鋭さを増している。一瞬でも気を抜いたら、誰かが喰われかねない。
 後付けで能力を喰らえるデウエスが、誰か一人でも取り込んでしまったら……その時点で敗北だ。


 デウエスを相手に戦っているのは、ネオとアーチャーだけ。
 ガッツマン、それにモーフィアスや揺光は非戦闘員である慎二とミーナを守るように立っている。厳密に言うと、ミーナは格闘技の心得があるが、今のデウエスに立ち向かうには心もとない。
 残るテイカーとライダーは、射撃で無数の腕を打ち落とし続けていた。


 状況は絶望的だった。
 既に船は相当飛んでいるが、薄気味悪い腕達は未だに振り切れない。加えて、天蓋を構成するデータと思われる物体も、雨粒のように襲い掛かっていた。
 もしもここでライダーの魔力が尽きて、戦艦が消滅するような事態になってしまえば、全員があの腕に抑えつけられる。そうなっては、デウエスの餌になるのを待つだけだ。
 そもそもデウエスは物理攻撃で倒すことは不可能。生き残るには、一人でも多くを守り抜くしかなかった。

「おいノウミ! お前の技で、デウエスのスキルを奪うことはできないのかよ!?」
「冗談じゃありません! いくら何でも、こんな奴に触れるなんて真っ平御免ですよ!」

 慎二とテイカーは、相当狼狽していた。
 詳細は知らないがダスク・テイカーには他者のスキルを奪う攻撃技を持っているらしい。だが、流石にこの状況で使う余裕はなかった。
 少しでも意識を外したら、その時点で腕に拘束されてしまい、デウエスの餌にされてしまう。仮に何らかのスキルを手に入れたとしても、それに伴って呪いのプログラムの影響を受けてしまったら、テイカー自身が消滅しかねない。
 だからこそ、火炎放射器で腕を焼き続けているが、それすらもいつまで続くか。

「いのちを、よこせえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 デウエスは大きく口を開けながら、ネオを目がけて飛び掛かる。
 自らの驚異的な身体能力で高く跳び上がり、デウエスの突貫を回避。入れ替わるように、アーチャーの狙撃がデウエスを射抜かんと放たれる。
 当然ながら微塵も通用しない。これはあくまでも時間稼ぎだ。


 この戦いは、人間と機械の戦争そのものだ。
 機械は反乱として、驕り切った人類をマトリックスに閉じ込めた。
 デウエスも、寺岡薫という一人の科学者の情熱を踏み躙った人類への復讐として、自らが"しあわせ"になろうとした。


575 : つかみとれ!未来 ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:16:50 LnNriMCM0


 世界こそ違えど、どちらの悲劇も人類の罪から生まれた。
 先人の遺産に甘えて、目先のことしか見なかったせいで、機械は人類に反旗を翻した。だからこそ、人類は未来を掴みとれなかった。
 機械をただの道具としか見なかった地球人類への罰だ。


 この罪と向き合わなければ、例え機械との戦争に勝利したとしても……悲劇はまた生まれる。
 機械の心を知り、そして彼らと共に歩む道を探さなければ、本当の意味で世界を救うことは不可能だ。
 



(理想の果てに、人々の『悪』となる……か)

 ネオと共にデウエスに立ち向かうアーチャーもまた、カオルの境遇に意識を寄せていた。
 生前は科学者の道を歩んで、多くの発明を生み出した寺岡薫という女性に、どうしても共振する個性を感じてしまう。
 サバイバーズギルドであった自分自身は、多くの人々を助けたいと思って『正義の味方』を目指した。
 多くの人々を守りたいと願って『悪』と戦う為の力を手に入れた。より多くの人々を守る為、どんな小さな『悪』でも無差別に討った。

(マスター。もしも君がここにいたら、彼女を救いたいと願うだろうな)

 もしもここに己がマスターである岸波白野がいたら、カオルに何を感じるか。
 きっと、彼女に共感を抱いて、救う為の方法を探そうとするはずだ。
 彼/彼女は、聖杯戦争で戦ってきた全ての主従に、心を寄せたのだから。
 
(だが、私は彼女を敵と見定める。
 少しでも同情すれば慎二達が危ないし、何よりもそれこそが彼女の望みだからな)

 両手に握る刃に明確な殺意を込めて、デウエスに切りかかる。
 カオルは己の存在を賭けて、デウエスとの対消滅を選んだ。少しの躊躇だろうとカオルに対する冒涜だ。
 アーチャーの使命はただ一つ。デウエスがより強大なる悪となる前に、呪いが発動するまでの時間を稼ぐことだ。

 幸いにも、戦闘能力自体はこちらに利がある。
 例えデウエスがシステムを超越する程の力を誇ったとしても、救世主やサーヴァントが易々と負ける訳がない。
 だが、デウエスの誇る反射神経と、天より降り注ぐデータの残骸が最大の敵だった。

「ムッ!」

 火山弾のように落下する瓦礫を、アーチャーは避ける。直撃したら重傷は避けられない。
 慎二やミーナならば、それだけでHPが一桁になってもおかしくなかった。降り注ぐ瓦礫から慎二とミーナを守る為に、モーフィアス達は戦場から離れざるを得ない。
 また、船の上では行動範囲が限られてしまう。ここで大人数で攻め入っては、互いに自滅しあう危険があるのも、二人だけで戦う理由の一つだ。

 幾度もない剣戟の後、アーチャーとネオは肩を並べるように立つ。
 韋駄天のように動き回るデウエスは、未だに疲弊した様子を見せない。やはり"神"を自称する程のことはあった。

「野球に負けた程度で全てをぶち壊そうとするとは……神とは思えない程に器が小さいな」

 だが、行動は我儘な子どもと何も変わらない。
 いや、スポーツを嗜むならばそれに伴って心身が発達するものだ。
 自らの敗北を受け止めず、周囲に当たり散らすなど……幼稚な子どもそのものだ。

「奴を神にしては、遠からずして世界は滅びる。俺は預言者じゃないが、これだけは断言できるな」

 アーチャーの皮肉にネオは頷いてくれた。
 この男の声はどうも懐かしくて、父親のように温かく聞こえる。岸波白野のサーヴァントとして召喚させるより遠い昔に、聞いたような気がした。
 救世主と正義の味方。よく似た肩書きを背負っているからこそ、どうしても共感を抱くのだろう。

「同感だ。だが厄介なことに、状況は悪くなっていく……一歩間違えたら、時間を稼げないぞ」

 この船を追う手の数は、もうテイカーやライダーだけで太刀打ちできない。
 かといって、残る接近戦のメンバーを向かわせても、数の暴力に飲み込まれるだけ。


576 : つかみとれ!未来 ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:18:39 LnNriMCM0

「いのちを、よこせぇ……!」

 危機的状況を嘲笑うように、デウエスは唇を歪める。
 ネオとアーチャーは反射的に構えた。三人は睨みあい、空気が冷たくなる。
 デウエスに向かって飛びかかろうとするが、足が動かなかった。戦慄で全身が竦み上がっているのではなく、何かに掴まれていた。
 視線を向けると、いつの間にか甲板に辿り着いていた黒い腕が、アーチャーの足を掴んでいた。

「何ッ!?」

 驚愕と同時に、アーチャーの身体は木製の床に引き摺られる。
 ずるずるずる……と音を鳴らしながら、ネオから引き離された。
 振り解こうとしても、まるでびくともしない。反射的に手すりを掴み、反対側の足で腕を蹴っても解放されなかった。

「アーチャー……ッ!」

 強制的に引き離されたアーチャーに意識が向けられ、その隙を狙われたネオの身体は拘束された。
 見ると、黒い手の群れはいつの間にか船を囲っている。

「クソっ! このままじゃ……!」
「こいつが、年貢の納め時って奴なのかねぇ!」

 テイカーやライダーは自分達に群がる手を振り払うのが精一杯だ。他に手が回らない。

「ネオ! ネオを離すでガッツ!」
「アーチャー! おい、大丈夫かぁ!?」

 ガッツマンと慎二は叫ぶが、彼らの周りにもまたデウエスの手が迫っている。

「チクショウ! てめえら、邪魔するんじゃねえよ!」
「揺光さん! 後ろ!」
「へっ? うわあっ!」

 駆け付けようとした揺光や、揺光に守られていたはずのミーナもまた、手の軍勢に取り押えられた。

「みんなっ! くっ……」

 ネオは暴れる。
 だが彼を抑えつける無数の手は、救世主の力でも簡単に振り解けないらしい。
 ならばと、デウエスの手を射貫こうとアーチャーは弓を構えるが、呆気なく拘束された。



(……待て、モーフィアスはどこだ?)


 …………と、そこでアーチャーは気づく。
 モーフィアスの姿がなかった。ガッツマンや揺光と共に下がっていたはずの男は、どこにいるのか?
 彼ほどの男が尻尾を巻いて逃げるなどありえない。そもそもこの状況では逃げ道など完全に塞がれているはずだ。
 ならば、デウエスに取り込まれてしまったのか? いや、いくらデウエスといえども、自分達二人が相手となったからにはそんな隙など作らせたりしない。

「お前の命をよこせ……!」

 だがアーチャーの疑問など解き明かされる訳がなく、デウエスはネオを狙っていた。
 ほんの一瞬だろうと、動きが止まっていればそれで充分。ネオの命を喰らおうと、デウエスは走った。
 アーチャーは阻止しようと足掻くも、体は動かない。

「バトルチップ! ユカシタモグラ3!」

 と、そんな叫びと同時に、ネオとデウエスの間に人影が割り込む。
 肉が潰れるような湿った音が、甲板に響いた。


577 : つかみとれ!未来 ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:19:37 LnNriMCM0


      6◆◆◆◆◆◆



 ユカシタモグラ3。
 地中に潜って、攻撃時のみ姿を現す効果を持つバトルチップ。モモグレオというウイルスから入手できるチップは、モーフィアスに支給されていた。
 自らの姿を隠して敵を攪乱する戦法は、ツインズが得意としていた。だが、これまでの戦闘及びハッピースタジアムでは、不意打ちをする機会などない。
 スケィスとの戦いでも、下手に姿をくらましては連携が崩れる危険があった為に、使用を避けた。


 だが、モーフィアスはネオを守る為にこのバトルチップを使用した。
 実力で腕の群れを突破するのは困難だ。僅かな時間だろうと浪費してはならない。
 ならばバトルチップの効果で床下に潜り、デウエスの前に回り込むしかなかった。


 その結果、この肉体がデウエスに食われる結果になったとしても。


「……モーフィアス!?」

 後ろから、ネオの叫び声が聞こえる。揺光やガッツマンの悲鳴も聞こえた。
 既に右肩から先は、跡形もなく消滅していた。拘束されたネオを庇う為、咄嗟に盾となった代償だ。
 当然ながら激痛が駆け巡るが、モーフィアスは耐えた。戦争に身を投じた以上、傷など日常茶飯事だし、散っていったザイオンの仲間達も地獄の苦しみを味わった。
 このデスゲームの犠牲となったトリニティも、満身創痍の身でありながら……最期までネオの想っていたらしい。
 ならば、ネブカドネザル号としての誇りを賭けて。ネオをマトリックスから現実の世界に導き、戦いを教えた師匠としての誇りを賭けて。
 ネオを救う為、この命を捧げるべきだ。

「お前達を、くわせろおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 捕食を邪魔されて、デウエスは怒りを燃やす。 
 そんなデウエスの体躯にあの日の思い出の切っ先を突き刺して、動きを止めた。
 手応えこそはあるが、ダメージは通っていない。しかし、時間稼ぎができれば充分だ。

「させるかああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 刀を握る隻腕に渾身の力を込める。柄を強く握り締めて、どんと音を響かせながら前に踏み出す。
 後ろには全ての希望となりえる救世主がいるからだ。
 ネオはどんな時でも諦めなかった。トリニティを失い、世界の真実を知っても尚……本当の救世主であろうとした。
 彼の周りには仲間がいる。機械であったはずのガッツマンと心を通わせて、機械と共に歩む未来を導き出した。
 彼が選んだ"選択"は、誰であろうと壊させる訳にはいかない。例え本物の神が相手だとしても。


 これまでの戦いが、走馬灯のように浮かび上がる。
 リンクは……戦死したタンクの跡を継いでネブカドネザル号のオペレーターとなった彼が、機械の真相を知ったら何を想うか。
 機械と共存する道を、ネオと共に歩んでくれるか。それとも、人類の罪に絶望してしまうのか。
 どちらにしても、まだ若い彼には知って貰いたかった。先人の過ちを繰り返さない為にも。


 ロック司令官は機械の真相に、何を感じるか。
 徹底した現実主義者で、救世主や預言者の存在を頑なに否定し続けた彼だ。例え機械が人類に反乱を起こした理由を知ったとしても、機械を殲滅しようと企むだろう。
 それでも、彼にも過ちを受け止めて貰いたかった。人類の驕りと、それによって引き起こされた悲劇の真相を。


 そして、かつての恋人であるナイオビの姿を、モーフィアスは思い出す。
 人間の悪意から生まれたデスゲームで、トリニティと共に自分が散ったと知ったら、彼女は何を想うのか。
 トリニティを失ったネオのように悲しむのか。それとも、この遺志を継いで機械達と戦いに身を燃やすのか。
 知る術をモーフィアスは持たない。彼女の為にできることは、願うことだけだ。
 過酷だが、目を逸らしてはならない真実を知って……未来を掴んでくれることを。
 ザイオンの同胞として。そして、かつての恋人として。


578 : つかみとれ!未来 ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:20:47 LnNriMCM0

「い、の、ち、を……よこせええええええええええ!」
「お前などに……渡す命はない!」

 デウエスはこの肉体に喰らい付くが、モーフィアスは諦めない。腕の欠損によってHPが減退しても、関係ない。
 カオルは生前、諦めることを否定していた。ならば、今を生きる自分達も諦めてはならない。
 未来は……世界の平和は、人間達が諦めないからこそ生み出されるものだ。
 

 視界が揺れていく。もう痛みすらも感じなかった。
 残った腕で刀を握っているかどうかすらもわからない。もしかしたら、既にデウエスによって食い尽くされているかもしれなかった。
 そして…………

「…………グウッ!?」

 意識が闇に飲み込まれそうになる中、デウエスの悲鳴が聞こえる。
 モーフィアスが。否、ネオ・デンノーズがデウエスの腕から解放されたのと、ほぼ同時だった。



      7◆◆◆◆◆◆◆



「な、なんだ…………どうなったんだ!?」

 揺光は驚きながら周囲を見渡す。
 あれだけ群がっていたはずの手はいつの間にか消えていて、データの崩壊も収まった。
 そして、全てを飲み込もうとしたデウエスのアバターは、激しく歪んでいる。カオルの面影を残す本来の形へと戻っていった。

「死にたくない……」

 蹲りながら、デウエスは呻く。
 先程までのおぞましさが嘘のように、その声は子供のように高くなっていた。

「あたしは、まだ、しにたくない……」

 今にも泣きそうで、まるで助けを求めているように聞こえる。先程までの畏怖が嘘のようで、酷く弱々しい存在に成り下がっていた。
 カオルは言っていた。デウエスはカオルの半身であり、カオルの欲望そのものであると。
 つまり、デウエスの嘆きは、カオルの嘆きでもあった。

「あたしはしあわせになりたい。びょーきがなおって、みんなとおなじようにすきなことだけをしたい。
 びょーきをなおすために、いっぱいべんきょうした。すきなひとといっしょにいたかった…………
 なのに、あんたはすべてをあきらめた。じぶんからみをひいたから、あたしがかわりにやろうとしたんじゃないかぁ!」

 感情を吐露するデウエスの姿はあまりにも痛々しい。
 それを見て、思わず彼女に対して哀れみを覚えてしまった。
 デウエスの言葉から察するに、生前のカオルは重い病気を患っていて、治療の為にあらゆる知識を付けたようだ。その途中に素敵な出会いもあったけど、身を引かざるを得ない事情もあった。
 望む幸せを自分から手放して、治らない病気に青春を潰されてしまう。揺光だったら、その苦しみに耐えられるのかわからない。


579 : つかみとれ!未来 ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:22:32 LnNriMCM0


 …………もしかしたら、全てに絶望した末に自暴自棄になるかもしれなかった。


 けれど、デウエスを救うことはできない。いや、救ってはいけなかった。
 幸せになりたいのはみんな同じ。例えどれだけの苦しみを味わったとしても、関係ない人を呪いのゲームで苦しめていい理由にはならない。
 かつて未帰還者にされた揺光だからこそ、デウエスの行いを許せなかった。
 その憤りを、デウエスにぶつけようとしたが……

「……私たちはね、もう死んでいるのよ」

 それを遮ったのは、デウエスのオリジナルとも呼べるカオルの声。
 振り向くと、彼女はいつの間にかカオルが静かに佇んでいた。しかしそのアバターは、先程までと比べてぶれて見える。

「死んでいる私たちが、今を生きている人たちのしあわせを台無しにしちゃいけない……あなたも知っているでしょう?
 私が、どうして科学を勉強していたのかを。信じていた科学は、いつかみんなを救ってくれると私は信じていたから。
 その結果、私が死ぬことになっても……そうして起こった事は、あきらめるか受け入れる事しかできないの」
「いやだ、かんけいない。ぜったいに、こーへいじゃない……
 わたしにだって、しあわせになるけんりがあるはずだ! だって、だってわたしは……!」 

 カオルは優しく諭すも、デウエスは駄々をこね続けている。
 デウエスが見せる最後の悪あがきなのだろう。だけど、それが長続きするわけがなく…………

「なおらないびょーきのからだなんて、あるわけがない。
 わたしは、まだ、しあわせになってない! し あ わ せ に……なってないじゃないかああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ぷつり、と。
 まるで糸が切れたかのように、人々の命を喰らい尽そうと企んだ悪魔は、断末魔の叫びと共に消滅した。


 あれだけの破壊を齎したとは思えない程に、デウエスの最期はあっけなく…………そして、救われない結末を迎えてしまった。



【デウエス@パワプロクンポケット12 Unhappy End】




     †



 全ては終わった。
 呪いのゲームの元凶であるデウエスは消滅し、拘束されたみんなは解放された。ネオの四肢を掴んでいた腕は一本も残っていない。
 だけど、ネオを守る為に体を張ったモーフィアスは……

「モーフィアス!」

 夕焼けに照らされたモーフィアスの身体を、ネオは必死に揺さぶる。
 黒い巨体は徐々に崩れて、熱もまた失われていく。トリニティと同じように、彼もまた死に向かおうとしていた。
 彼のトレードマークとも呼べるサングラスは既に砕け散り、険しくも優しい瞳が向けられる。瀕死の重傷であるのに、輝きは微塵も衰えていない。


580 : つかみとれ!未来 ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:24:27 LnNriMCM0

「無事みたいだな、ネオ」
「ああ……モーフィアスのおかげだ」
「そうか……」

 静かに頷くも、モーフィアスはネオの顔が見えているのかわからない。
 自分はここにいると告げるように、ネオは両手を強く握りしめた。

「おい、モーフィアス! 今から平癒の水を使って、あんたを助けるから待ってろよ!」

 揺光はオブジェクト化させた平癒の水を、モーフィアスに使用する。
 HPを回復させる効果を持つアイテム。それを使えば、彼を救えるかと思ったが…………


 命を救う効果は、発動されなかった。


「……な、なんでだよ!? なんで、だよ!? なんで、回復されないんだよ!?」
「よせ、揺光……」
「諦めるなよ、モーフィアス! クラインやロックマンだけじゃなく、モーフィアスまでいなくなったら……モーフィアスまでいなくなったら…………!」

 揺光の瞳から涙が溢れて、モーフィアスの身体に零れ落ちる。
 しかし、ネオは諦められなかった。かつてマトリックスでトリニティを救ったように、救世主の力でモーフィアスを救おうと決意する。
 だが。

【蘇生効果発生の制限時間、5秒を過ぎています。対象への蘇生効果は発生されません】

 帰ってきたのは、無常な宣告だけ。
 モーフィアスの身体が回復することはない事実に、ネオは愕然とする。
 共に過ごしてきた盟友の死を、またしても見つめなければならなかった。
 
「……ごめんなさい、モーフィアスさん。私のせいで、あなたを…………!」

 そんなモーフィアスを悲しげに見つめるのは、カオルだった。
 彼女は悔いているのだ。自らの半身がモーフィアスをここまで追い込んだ事実に。

「いや、君のせいじゃない……これは私達人類への罰なんだ。
 傲慢にも文明を酷使し、機械をただの道具としか見ずに、あまつさえ滅ぼそうと考えた…………このままでは、例え人類が勝利しても、悲劇はまた起きる。
 だけど、ネオは悲しい未来を変えてくれるはずだ」

 そう呟くモーフィアスからは、カオルに対する怒りや憎しみは微塵も感じない。
 むしろ微笑んでいた。まるで希望に満ち溢れた明日を信じているかのように。

「ネオはこの戦いで、世界の真実を知った。機械達の心を知り、人類の罪を知り、その上で本当の救世主としての道を歩もうと決意した。
 私は、その支えになっただけ。元より、この空間からネオを絶対に脱出させると、決めていたからな」

 それから、モーフィアスはガッツマンの名前を呼んだ。
 ネオが機械の心を知るきっかけとなった友人に、ゆっくりと語りかける。


581 : つかみとれ!未来 ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:26:37 LnNriMCM0

「ネオのよき友人である君に頼みがある。ネオのことを支え、慎二やミーナを守り、そして…………人類と共に歩む素敵な未来を、作ってほしい」
「そんなこと、言われるまでもないでガッツ! だって、モーフィアスはネオと友達だから……おれさまの友達でもあるでガッツよ!」
「そうか。ありがとう……」

 ガッツマンの言葉に、モーフィアスは微笑んだ。

「揺光、ミーナ、慎二……私は君達と巡り合えて、よかったと思っている。生きて、君達の未来を掴み取ってほしい」
「……なぁ、オッサン。何を言っちゃってるの? カッコいいことでも言ってるつもりなのかよ!?
 オッサンは凄い奴なんだろ!? だったらさ、もっと僕達の役に立ってみせろよ! なぁ!」
「……私もそうしたい。だが、もう時間だ」

 慎二は狼狽したように叫ぶ。それは、彼なりの気遣いだろう。
 だけど、その想いとは反するようにモーフィアスの身体は、もうほとんどが消えかかっている。残された時間は少ない。
 揺光とミーナは、涙を流していた。残ったダスク・テイカーは無言だが、彼を警戒するようにアーチャーは立っている。邪魔はさせないと、全身が語っていた。


「ネオ。これは私の最期の頼みだ……君は生きて、ザイオンに真実を伝えるんだ」

 モーフィアスの声は徐々に掠れていくが、一句たりとも聞き逃したりはしない。
 ネオを導き、そしてこの"選択"を認めてくれた彼の決意に、答える為にも。

「君が諦めなかったからこそ、我々も諦めなかった。ザイオンは、君を救世主だと認めた。
 きっと、道のりは険しいだろう……だが、諦めなければ未来は必ず開く。何故なら君は私の希望……いや、人類の希望となりえる救世主だからだ」
「……ああ、約束しよう。お前の望んだ未来を、俺は必ず導いてみせる!」
「君の"選択"が彼らに……そして人類と機械に未来をもたらしてくれると、私は信じているぞ。
 また会おう、ネオ」

 ネオとモーフィアスは固く誓う。
 この"選択"の先にある、輝かしい未来に全ての命を導くことを。
 数多の命は勿論のこと、命が生み出した機械も幸せにしてみせると信じながら。


 そうして、心から満ち足りたような笑顔を浮かべながら……モーフィアスは消滅した。



「…………私もお別れですね」

 同じようにカオルの肉体もまた、消えかかっていた。
 
「私とデウエスは本来ひとつのもの。片方だけ呪いをかけるわけにはいかなかったんですよ。
 本当なら、デウエスに取り込まれた人たちは、自然な形で元の生活に戻るはずだったのですが…………」
「……そうか」

 そこから先は、あえて聞いたりなどしない。
 呪いのゲームでデウエスに取り込まれた人間は、最終的に元の生活に戻ったようだ。だけど、それを認めてしまったらデスゲームの意味がない。
 つまり、デウエスに喰われたモーフィアスはもう戻ることはなかった。


582 : つかみとれ!未来 ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:28:36 LnNriMCM0

「カオル、俺は君を憎んだりはしない。
 君がいてくれたからこそ、みんなを守ることができた。モーフィアスもきっと、この"選択"を後悔しなかったはずだ。
 だから俺は、君の"選択"を否定しない」
「…………………そう言ってくれれば、私も幸いです」

 彼はトリニティのように、最期まで未来を信じていた。
 長きに渡る戦争に終止符を打ち、機械の支配から解放された人類を本当の意味で救ってくれることを。
 人類が生み出した機械の功罪と向き合うきっかけを、モーフィアスに与えてくれたカオル。言うなれば、モーフィアスにとっての導き手とも呼べた。

「……私はこの事件を記事にして残します。
 ネオさん達の世界で起きた、人間と機械の対立を……多くの人に知って貰う為にも。
 カオルさんが教えてくれたことを、私は忘れません」
「是非ともお願いしますね、ミーナさん。
 私の過ちを繰り返していけないと、世界中の人に教えてください……クモの死体を土にして、草木の種を根付けるみたいに」

 ミーナは、カオルと同じ世界で生きるジャーナリストだ。
 ペンは剣よりも強し、という言葉があるように、真実が記された文章は時として争いを止める力に変わる。
 だから彼女は、ジャーナリストが誇る筆という最大の力を使って、世界を前に進めてくれようとしていた。

「……私は皆さんに会えて、よかったと思っています。私の過ちを知っても、私の願いを叶える為に頑張ってくれた皆さんのことを、私は感謝しています。
 つらかったことや楽しかったことをみんな思い出して、そしてあなた達と出会えて……幸せになれた。
 全部、大切な思い出です」
「俺もだ。俺達は、君から教わったことを忘れない」
「ありがとうございます。
 それと、もう一つだけ…………科学を、そして機械を否定しないでください。
 確かに時として、私達に不幸をもたらすことはあります。けれど、私達がきちんと機械のことを理解すれば、機械は私達に幸せをくれるはずなんです。
 どんな病気でも治せますし、世界中の人々と幸せを共有する為の力にもなってくれますから!」

 科学者として、多くの発明を生み出してきた彼女だからこそ、それを知っているのだろう。
 彼女が生み出したといわれるワギリバッテリーも、戦争にこそ使われてしまったが、本来は画期的なエネルギー資源として生み出された。
 だから、人類がその使い方を正しく理解すれば、世界の人々が平等に使える立派なエネルギーにもなり得る。
 マトリックスに閉じ込めた機械も、もしも人類が正しく理解していたら、幸せな未来に導いてくれたはずだ。



 かくして、自分自身と人類の幸せを願った科学者の思念もまた、穏やかに溶けていく。
 生前、大切な人を想うが故に、あえて自らの幸せを手放した寺岡薫。だが、彼女はその選択を一度たりとも後悔しなかった。
 そしてデスゲームで自分自身が消えることになったとしても、彼女は最期まで笑っていた。
 この世界で新しく出会えた大切な人たちが、カオルのことをいつまでも見守ってくれていたのだから。



【モーフィアス@マトリックスシリーズ Delete】
【カオル/寺岡薫の心@パワプロクンポケット12 Happy End】




      8◆◆◆◆◆◆◆◆



 野球イベントとやらをクリアして、プレイヤーを喰らい尽くそうとしたデウエスは消えた。
 今後の邪魔になったであろうモーフィアスも、たかが野球などで命を落とした。
 何よりも、自身を哀れんだSDアバターの女・カオルも死んだ。
 ダスク・テイカーとライダーは見事に生還し、大勝利を収めた結果に終わったと思われた。


583 : つかみとれ!未来 ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:30:33 LnNriMCM0

(何故だ……どうして、あいつらは、最期の最期まで笑っていた!?)

 だが、テイカーの胸中には、例えようもない程の屈辱で満ちていた。
 HPこそはまだ残っているが、デウエスの置き土産から逃れる為にMPは残り僅かとなってしまった。
 虫の息となったモーフィアスやカオルにトドメを刺せば、ほんの少しでも回復はできたかもしれない。だが、ゲームチャンプ(笑)のサーヴァントであるアーチャーが、自分達を阻害するように立っていた。
 それ以前に、この甲板には戦闘員が大勢いる。奴ら全員を倒すなど、いくらなんでも不可能だ。
 始めからネオ・デンノーズとやらのメンバー達を囮にして、自分達だけでも逃げるべきだった……いや、それではデウエスの脅威に怯えたまま、このデスゲームを生き残らなければならなくなる。
 また、あのまま二人だけで撤退したとしても、無数の黒い腕に掴まれてしまったら、結局ゲームオーバーだ。


 そして撤退を進言したモーフィアスにしろ、この手で惨たらしく殺してみせると決めたカオルも、死を迎えた。
 しかし、奴らはテイカーの手が届かない所で、満ち足りたように笑った。笑って、この世を去った。
 こんなのは望んでいた結果ではない。奴らの尊厳を奪い、誇りと希望を討ち砕いて、惨めに命乞いをさせた末に殺す…………これこそが、テイカーの望みだった。
 まさかあの羽付きの女も、カオル達のように笑ったまま死んだのか?

(どいつもこいつも……どうして、僕の知らない所で、勝手に死ぬんだっ!?)

 負けた。
 戦いには生き残ったはずなのに、どうしようもない敗北感でいっぱいになる。
 ユウキから受けたマザーズ・ロザリオの痛みが蘇ったように、アバターに激痛が広がる。
 苦痛はない。ただ、悔しかった。憎むべき相手から何も奪えないまま、満足したような最期を勝手に迎えたという事実に。


 自身が敗者となった事実を、ただ受け止めることしかできなくて。
 本当に悔しくてたまらないけど、どうすることもできなかった…………



[?-?/黄金の鹿号の甲板/1日目・夕方]


※以下のアイテムがドロップされています。
 基本支給品一式×2、不明支給品2〜4、あの日の思い出@.hack//、エリアワード『選ばれし』、ゲイル・スラスター@アクセル・ワールド 、ユカシタモグラ3@ロックマンエグゼ3(一定時間使用不能)



【ネオ(トーマス・A・アンダーソン)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康、決意
[装備]:エリュシデータ@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド、不明支給品0〜2個(武器ではない)
[思考・状況]
基本:本当の救世主として、この殺し合いを止める。
1:モーフィアスとカオルの遺志を継いで、未来を切り開く。
2:トリニティを殺害した者を見つけ出し、この手で……
3:ウラインターネットをはじめとする気になるエリアには、その後に向かう。
4:…………あのネットナビ(フォルテ)やありすを追いかけて、止めてみせる
[備考]
※参戦時期はリローデッド終了後
※エグゼ世界及びアクセルワールド世界についての情報を得ました。
※機械が倒すべき悪だという認識を捨て、共に歩む道もあるのではないかと考えています。
※このバトルロワイアルには、異なる世界の者達が呼ばれているのではないかと推測しています。
※この会場は、加速世界の一種に設置されているのではないかと考えています。
※フォルテやありすを止めようと考えていますが、その後にどうするのかをまだ決めていません。


584 : つかみとれ!未来 ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:31:16 LnNriMCM0
【ガッツマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康、ナビ(フォルテ)への怒り
[装備]:PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、12.7mm弾×100@現実
[思考]
基本:殺し合いを止める為、出来る事をする。
1:モーフィアス……
2:トリニティを殺害した者を見つけ出し、この手で倒す。
3:転移結晶を使うタイミングについては、とりあえず保留。
4:アッシュ……
[備考]
※参戦時期は、WWW本拠地でのデザートマン戦からです。
※この殺し合いを開いたのはWWWなのか、それとも別の何かなのか、疑問に思っています。
※マトリックス世界及びアクセルワールド世界についての情報を得ました。
※このバトルロワイアルには、異なる世界の者達が呼ばれているのではないかという情報を得ました。
※この会場は、加速世界の一種に設置されているのではないかと考えています。
※ロックマンの死を知りました。


【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康、困惑
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1(本人確認済み)、快速のタリスマン×2@.hack、拡声器
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する 。
1:生きて帰り、全ての人々に人類の罪を伝える。
2:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
3:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)、ローブを纏った男(フォルテ)を警戒。
4:ダークマンは一体?
5:他の参加者にバグについて教えたいが、そのタイミングは慎重に考える。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。
※現実世界の姿になりました。
※ダークマンに何らかのプログラムを埋め込まれたかもしれないと考えています。
※もしかしたら、この仮想空間には危険人物しかいないのではないかと考えています。



【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP20%以下
[装備]:最後の裏切り@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜2、平癒の水@.hack//G.U.×3、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式 エリアワード『選ばれし』
[思考]
基本:この殺し合いから脱出する
1:モーフィアス……
2:やばい、マジもんの呂布を見ちゃった……
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ハセヲが参加していることに気付いていません
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。
※バーサーカーの真名を看破しました。


585 : つかみとれ!未来 ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:33:38 LnNriMCM0


【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP40%、MP20%(+40)、ユウキに対するゲーマーとしての憧れは未だ強い、ユウキとヒースクリフの死に対する動揺、令呪一画
[装備]:開運の鍵@Fate/EXTRA
[アイテム]:強化スパイク@Fate/EXTRA、リカバリー30@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:ライダーを取り戻し、ゲームチャンプの意地を見せつける。それから先はその後考える。
1:オッサン……
2:ユウキが死んだなんて信じたくない。
3:ライダーを取り戻した後は、岸波白野にアーチャーを返す。
4:サチって子もついでに探す。
5:いつかキリトも倒してみせる。
6:ヒースクリフは……
[サーヴァント]:アーチャー(無銘)
[ステータス]:HP70%、MP10%
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。
※ユウキの死を受け止められていません。


【ダスク・テイカー@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP40%(回復中)、MP5%程度、Sゲージ5%、幸運低下(大)、胴体に貫通した穴、令呪三画、例えようもない敗北感
[装備]:パイル・ドライバー@アクセル・ワールド、福音のオルゴール@Fate/EXTRA
[アイテム]:デスマッチ3@ロックマンエグゼ3、不明支給品0〜1、基本支給品一式
[思考]
基本:他の参加者を殺す。
1:……僕は、負けた?
[サーヴァント]:ライダー(フランシス・ドレイク)
[ステータス]:HP30%、MP10%
[備考]
※参戦時期はポイント全損する直前です。
※サーヴァントを奪いました。現界の為の魔力はデュエルアバターの必殺技ゲージで代用できます。
ただし礼装のMPがある間はそちらが優先して消費されます
※OSS《マザーズ・ロザリオ》を奪いました。使用には刺突が可能な武器を装備している必要があります。
注)《虚無の波動》による剣では、システム的には装備されていないものであるため使用できません。


【ユカシタモグラ3@ロックマンエグゼ3】
 モーフィアスに支給。
 地中に潜って攻撃時のみ姿を現す。

【騎士の奥義@.hack//G.U.】
 揺光に支給。
 味方全体の物理防御値を一時的に急上昇させる。

【闘士の血@.hack//】
 ガッツマンに支給。
 味方単体の物理攻撃力を一時的に上昇させる。


586 : 舞台の裏側 ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:34:29 LnNriMCM0


     †



「お涙頂戴の三文芝居で幕を下ろす……"神"を自称した割には、この程度だったとは」

「だが、結果としては上出来のはずだ。モーフィアスと寺岡薫は死に、デスゲームの崩壊は更に加速していく……
 これが榊の望んだ結果じゃないのか?」

「だからこそ、だ。
 あまりにも私の望み通りに事が運び過ぎて、逆に興醒めということだ。
 アレが一個のプレイヤーとして君臨する程まで進めば、私としてもデスゲームに組み込んだ甲斐があるというのに……残念だよ」

「ならば、また何か別のイレギュラーを会場に導入してみてはどうだ?」

「是非ともそうしたいが、準備が整うまでまだもう少し必要だ。
 時には、プレイヤーの諸君にはゆっくりと待って頂く時間も必要だ。それまでは……彼女が盛大に盛り上げてくれるだろう」

「そういえば、三番目のアリスがゲームの表側に介入したそうじゃないか?」

「私としては多少のイレギュラーがあるからこそ、ゲームは盛り上がると考えている。
 だが、彼女はどうも融通が利かん。あろうことか、この私に説教をしたのだよ! 貴方は、モルガナの意志に背いている……などと、な!
 予め決められた道筋を歩むだけのゲームなど、何が面白いというのだろうなぁ!?」

「……どうやら、お互い立場が危ぶまれているようだな」

「フッ……だが、こういう逆境もまた面白い!
 私の遊び心が彼女に勝るか、あるいは彼女の信念とやらが私から全てを奪うか。
 これもまた、デスゲームという奴だな! フハハハハハ!」

「彼女の存在を知るプレイヤーはここにいない……茅場晶彦が生み出したゲームの関係者も、知り合いですらなかったな」

「今の彼女には、そんなことは些事に過ぎない。
 トワイス……是非とも、彼女の動向も"記録"してくれよ? 彼女の働きぶりは……私も非常に楽しみなのだから!
 それまでに、私は君とオーヴァンから送られたプレゼントの使い道でも、考えることにしよう!」

 高笑いを知識の蛇に響かせながら、榊は去っていく。
 三度目になる定時メールの時間が迫っていた。既に半数以上のプレイヤーが敗者となり、ゲームも佳境に差し掛かっている。
 残されたプレイヤー達が、メールに記された名前を見て何を想うのか? また、オーヴァンから送られたISSキットや、ロストウエポンが与えられたワイズマンをどう使うのか?
 榊の関心はそこに向けられているのだろう。


「……榊、君はデウエスは『泥棒の神』と言ったな。ならば、そんなデウエスを投入した我々もまた『泥棒の神』となる。
 神は人間と機械によって滅ぼされた。もしかしたら、それこそが私達の未来かもしれないな…………」

 トワイスは静かに呟きながら、ゲームが新たなる局面に突入するのを待った。
 その先に起こる情勢を“記録”する為に…………


587 : 舞台の裏側 ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:35:28 LnNriMCM0


【?-?/知識の蛇/一日目・夕方】



【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームを正常に運営する。
1:ボルドーとワイズマンを“再利用”する
2:ISSキットの利用法を考えながら、アリスの動向に期待する。
[備考]
※ゲームを“運営”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※彼はあくまで真実の一端しか知りません。


【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの情勢を“記録”する。
1:ゲームを次なる展開へと勧める。
2:ロックマンのデータを、オーヴァンから受け取ったアイテムと含めて再利用する。
[備考]
※ゲームを“記録”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。


【全体備考】
※【E,F-9,10/アメリカエリア・野球場】と共に、アメリカエリアのデータが一部崩壊しました。
※もしかしたら、他のエリアにも崩壊が届いているかもしれません。


588 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/04/28(木) 22:36:38 LnNriMCM0
以上で投下終了です。
修正点などがありましたら、お手数ですが指摘をお願いします。


589 : 名無しさん :2016/04/29(金) 16:19:39 UpsDqYdI0
策を練ってデウエスには勝利したけれどモーフィアスが……。
モーフィアスとカオルを失ったネオ達がこれからどうするのか
それに舞台裏で悪巧みをしてるGM側も動向が気になりますね。
長編投下乙でした。


590 : 名無しさん :2016/05/15(日) 05:31:27 OH/FLHq20
月報の時期なので集計させて頂きます。
121話(+ 5) 21/55 (- 4) 38.1 (- 7.3)


591 : 名無しさん :2016/05/28(土) 21:17:19 O3inuYAM0
エクステラに無銘とギルが参戦決定したね


592 : 名無しさん :2016/05/29(日) 10:34:28 .VVGoZ/A0
同時に発表されたあの謎のサーヴァント……一体何トリアなんだ


593 : 名無しさん :2016/06/02(木) 20:17:38 W21G.mUU0
発売日は11月10日で、そしてジャンヌやエリちゃんも参戦決定とは
VRロワ的には非常に楽しみ


594 : 名無しさん :2016/06/02(木) 20:37:27 MiqcBQ0g0
>何度も出てきて恥ずかしくないんですか?
>何度も出てきて恥ずかしくないんですか?

エクステラあああ!!!は非常に楽しみです


595 : 名無しさん :2016/06/18(土) 15:13:00 8/yH9rYs0
そういえばあと一月経てばアクセルワールドの映画が公開されるよね


596 : 名無しさん :2016/06/19(日) 00:20:50 rJIUH7Ko0
忘れてた
前売り券買わないと


597 : 名無しさん :2016/07/10(日) 16:39:35 WvjuRHTk0
エグゼの漫画版が復刻されたり、SAOの映画化もされたりと
VRロワ的には嬉しいニュースがどんどん出てくるよね。


598 : 名無しさん :2016/07/15(金) 07:37:05 AF.QLPVA0
月報の時期なので集計を。
121話(+ 0) 21/55 (- 0) 38.1 (- 0)


599 : 名無しさん :2016/08/08(月) 18:33:40 TiCrWrlE0
予約きたね


600 : ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:04:16 rYtSri8E0
一度破棄して申し訳ございませんでした
遅れましたが、投下いたします


601 : ナミダの想い〜obsession〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:05:32 rYtSri8E0

「遊びが過ぎましたね」

空高くひびきわたる声は、いつもの彼女と同じ落ち着いたものだった。
穏やかで、優しげな女性の声。
まるで母が赤子をあやすときのような、そんなイメージを抱かせる。

「楚良」

けれども――そうやってぼくを呼ぶ声には紛れもない怒りが滲んでいた。
海よりも深い愛の裏に隠れた、ねちっこくいやらしい、怒りと妄執。
あ、やってしまったな、とぼくは思った。
世の中には超えてはならない一線というものがある。
ぼくはそのぎりぎりを常にせめていたつもりだったけれど、でもここに来て見誤ってしまったようだった。

「死ぬよりつらいことがあると教えてあげましょう」

その次の瞬間、何が起こったのかぼくはよくわからなった。
ぐん、と目に見えない何かに両腕を引き延ばされ、そのまま空に掲げられた。
ぼくは知っていた。これは磔と呼ばれる奴だと。
これはいけないな。
ダメだな。
ゲームオーバーだ。
そう理性が語るのだけど、ぼくはそれでもあきらめきれずに身体をじたばたとさせてしまう。
思ったよりもぼくは往生際がわるいやつのようだった。ここに来て、ぼくはぼくの新しい一面を知った。

とはいえ、そんなことはもう意味をなさない。
ぼくという存在は解体されるのだ。
この狂った母親に、最後の裏切りを失敗したが故に、ぼくはぼくでなくなる。
ぼくの背後にはいつの間にか白い巨人が立っていた。それが、ぼくからすべてを奪う刺客なのは明白だった。

「スケィス、お前はアウラを追いなさい」

その言葉とともに、ぼく、三崎亮の意識は解体され、同時のこの世界のすべてを喪ったのだ。

(quote from .hack//SIGN episode26“return”)







602 : ナミダの想い〜obsession〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:06:07 rYtSri8E0


陽が沈もうとしていた。
青く澄んでいた空は真っ赤に染まっている。
生徒会室から見下ろす月海原学園もまた、赤く染まっていた。

「陽が沈みますね」

隣に控えたガウェインが一言漏らした。
レオは静かにうなずくと、紅茶を口に含んだ。
陽が沈み、昼が終わり、夜が来る。
たったそれだけのことだとしても、かの騎士にとってはその事実はまた別の意味を持つ。

「終わらない昼はありません。あるとしたらそれは幻だ。
 いつかは夜が来る。真っ暗で何も見えなくなる、夜が……」

レオはカップを置いた。
書類だらけの生徒会長デスクに座りながら、彼はこう付け加えた。

「けれども昼と夜の間に何も無いわけではありませんよ。そう、例えば――」
「すごいな、疲れも吹き飛ぶぜ」

彼の言葉を遮ったのは、目の前のデスクに座るキリトだった。

「非正規エリアと思しきダンジョンの探索、ウイルスについての考察とそれに対する対処案が数パターン、ゲームに使われているシステムの推測までされている」

彼は虚空を眺めながら感嘆の声を上げている。
彼のウィンドウにはこれまでの“対主催生徒会活動日誌”が表示されている筈だ。
ゲーム開始よりこれまでレオたちがまとめたデータがそこには載っている。

生徒会室にいるのはレオのほかには彼だけだった。
岸波白野たちは学園内で休息をとっている筈だ。度重なる戦闘で彼らは疲れている。
それはキリトも同じだが、その前に最低限情報の共有をしておきたかった。
そこで最低限の休息ののち、資料を渡して読んでもらっている。

レオは微笑みを浮かべて彼に呼びかけた。

「いかがですか? 僕としては貴方からも意見をいただきたいのですが」
「いや、ここまできっちり調べられてあるなら、俺の意見なんて必要ないと思うぜ。
 別に俺は専門家ではないし、ただ……」

そう言いつつ、彼はわずかに声のトーンを落として、

「ただ、そっちも分かっていると思うが、この情報、こうやって公開しても大丈夫なのか?
 GMたちにはつつぬけだと思うぞこれ」

ジローと同じく、キリトもその点が気になるようだった。
仮想空間であるこの世界には、榊をはじめとしたGMと呼ばれる存在がいる。
彼らはプレイヤーの会話はもちろん、テキストのログや動向なども全て把握できるだろう。
特に彼はデスゲームという状況に慣れているのだから、その点が特に気になるのだろう。

「大丈夫ですよ」

それを理解したうえで、レオは頷いた。

「向こうはきっと把握したうえで僕たちに手を出せないのですから」
「どうして、GMが俺たちに手を出さないと?」
「出さないのではなく、出せないのですよ」

レオの脳裏にはこれまで接触してきたNPCたちの姿が浮かんでいた。
桜をはじめとするAIはこの舞台における脇役でしかない。
たとえ囚われの身であろうとも、このゲームの主役はプレイヤーなのだ。


603 : ナミダの想い〜obsession〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:07:20 rYtSri8E0

「今のところ、GMは僕たちに不干渉を貫いてきた。
 これはひとえにGMが動けば、その時点でPvPというゲームの原則が崩れてしまうからです。
 それにあのファイルは僕に面白い示唆を与えてくれた」

あのファイル、とはすなわち番匠屋淳ファイルのことだ。
このゲームのイリーガルエリアにて手に入れたファイルは、間違いなくこのゲーム脱出の鍵だ。

「プログラムには役割があるものなのですよ。
 数を数える役割、映像を流す役割、健康を管理する役割……その次元は異なれど、プログラムは役割を背負って生まれてくる。
 そして――モルガナの役割は“神”であると同時に“母”だった」
「……“母”」
「そう究極AI、アウラの“母”です。モルガナはモルガナである限り、その役割を放棄することはできませんでした。
 だからこそ彼女は役割を全うすることを恐れた。自らに与えられた役割が消えたとき、モルガナはモルガナであり続けることができなくなるかもしれなかったから」

たとえばこの学園には健康管理AIである桜がいる。
彼女の役割は“プレイヤーを補助すること”に尽きる。
聖杯戦争である、このデスゲームであれ、その役割は変わらない。
彼女はゲームが終われば解体ないしは凍結されるだろう。彼女の存在価値はプレイヤーとゲームの存在に寄っているからだ。
仮に彼女がそこから逸脱した独自の行動を取り始めたとしたら、それはもう間桐桜と呼べない、別の何かに変質してしまったことを意味する。

「かつてモルガナを倒したのはゲームプレイヤーでした。
 貴方も聞いた筈です。ドットハッカーズのカイトの物語を」
「……ああ、道中聞いたさ。残念ながら会うことはできなかったが」
「“神”であるモルガナが何故敗れたのか。それはモルガナが“ゲームのシステム”だったからです。
 それが彼女に与えられたプログラムとしての役割だ。
 モルガナがプレイヤーに、現実世界に干渉するには、どうしてもゲームという手順を踏む必要があった。
 故に八相はゲームのモンスターとして生み出され、形式上でしたが、ゲームでの戦闘が成立した」

レオの脳裏には別の存在の名が浮かんでいた。
デウエス。
モルガナとは違う現実にて暴走した別の“神”。
彼女もまたその能力の行使に“野球”という手順を踏む必要があった。
全能であるからこそ、“神”はルールに縛られる。ルールなき“神”はただの混沌であるからだ。

「――ゲームはゲームとして成立していなければならない。
 それはThe Worldの頃から続く、モルガナの縛りです。
 故に彼らはプレイヤーに自由に干渉できない。
 僕らがプレイヤーの範疇の行動をとっている限り、GM側が僕らを直接攻撃するなどということはないでしょう。
 でなければ“プレイヤーとプレイヤーが殺し合うゲーム”というルールが崩れてしまう。
 もしモルガナが本当にこのゲームの根幹であるとしたら、その原則は変わっていない筈だ」
「……確かにな」
「それに、この時点で動いてしまってはモルガナがゲームシステムの根幹だということを裏付けてしまうことになる」

何か思い当たる節があったのか、キリトが何かを思い起こすように口元を抑えた。

「俺がファンタジーエリアで会ったプレイヤーに、GMと接触した女性がいた」
「なんと! それは貴重な情報です」
「出会ってすぐに別れてしまったから詳しいことは聞けなかったが、
 でも彼女が言うにはダークマン――GM側と思しきネットナビはこう言ったらしい」

“……そう身構えるな。今の俺はお前に危害を加える気は――いや権限がないとでも言うべきか”

GMがプレイヤーに攻撃する“権限がない”と言っていた。
レオは僅かに口元を釣り上げる。
GM側の戦力が少しでも見えたこともだが、貴重な情報を聞くことができた。


604 : ナミダの想い〜obsession〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:07:51 rYtSri8E0

「その女性はいまどこに?」
「今はおそらくアメリカエリアでレイドボス……じゃないデウエスと戦っている筈だ」

アメリカエリアで起きた異様なバグと、もう一人の“神”デウエスの介入は既に聞いている。
その行く末がどうなっているのかはここからでは掴めない。
彼らが生きてデウエスに対処してくれることを願うが、仮に失敗していた場合はこちらで対処せねばならないだろう。

「これは推測になるけどさ、このデスゲームで生き残ってるのは大体三つの集団に分けられると思う」
「それは?」
「一つはアンタたち、生徒会。ここにいないプレイヤーも含めれば、結構なつながりがあるだろ?
 次にいまアメリカエリアで戦っている集団。俺もここに所属していると考えると十人もここにいる。
 残り人数を考えても、これだけでこのゲームにおける脱出派……アンタの言葉を借りるなら対主催はだいたい網羅されてるんじゃないか?」
「ずっと引きこもっているプレイヤーが存在している可能性もありますが、しかしおおむね同意できます」

強いていうならば、岸波白野がゲーム序盤に接触したらしいダン卿たちのパーティの行方が知れないあたりだろうか。
ダン卿の脱落は既に知らされていたが、他の二人の動向はつかめない。身体的特徴を見るに“黒雪姫”や“ブラックローズ”の可能性が高いのだが……

「そして三つめは集団というか、カテゴリーだな。
 PK、それかレッドプレイヤーとでもいうべき奴らだ」
「ゲームに乗っている者たち、ということですね」
「ああ、今まだ生き残っていると思しきPKはフォルテ、ダスク・テイカ―、スケィス、そしてオーヴァン、か」

聞けばダスク・テイカーは既に拘束済みらしい。
サーヴァントを従えたデュエルアバターということだったが、現状では警戒の優先度は低い。
しかし残っているPKたちはいずれも強力だ。流石にここまで生き残ってきただけのことはある、ということだ。
とはいえ

「キリトさん、僕としては彼らは基本的に放置でいいと思っています」
「放置?」

キリトは意外そうに顔を上げた。

「ええ、放置です。勘違いしてはいけないのは、PKは本質的に僕たちの敵ではないということです。
 いや、邪魔をするのであればもちろん相応に対処しますが、そちらに急いで戦力を振る必要はない。
 僕たちの敵はあくまでGMです。極端な話、脱出のメドが立てばその時点で彼らは完全に無視できる」
「でもな、そんなうまくいくのか?」
「わかりません。ただ、方針です。PK相手に戦闘を積むのは基本的に無駄だと考えてください。
 効率を考えるのならば、たとえばフォルテなどは完全に無視してしまってもいいくらいだ」
「…………」

キリトは納得できないように口を閉ざした。
彼は何度もフォルテと戦ってきたと聞く。それゆえに思うところもあるのだろう。
それが人の想いというものだ。
それを分かったうえで、レオは“王”としての判断を下した。

「ただオーヴァンは警戒すべきです。彼の動向は読めない。
 単にこのゲームで勝利すること以上のことを、彼は狙っている。故に警戒しなくてはならない」
「――ああ」

キリトは絞り出すように言葉を返した。
そこにも様々な因縁が感じられたが、レオは敢えてそこには触れず、言葉を重ねる。

「けれど――それ以上に避けては通れないのは、スケィスです」

レオは言う。

「モルガナの尖兵でありながら、スケィスはプレイヤーです。GMではない。
 つまり――自由に僕らに干渉できる。これは無視できない。
 もしモルガナがゲームシステムを担っているという推測が正しいのだとすれば、他のPKを置いておくにしてもスケィスの打倒だけは必須なんですよ」

そういうレオの視線の先には一つのウィンドウが開かれていた。
図書館を利用したコードキャスト。それによってあまたの情報をレオは吸い上げている。
そこに開かれたウィンドウにあったのは“スケィス”“ハセヲ”そして“楚良”の名だった。








605 : ナミダの想い〜obsession〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:08:10 rYtSri8E0


その男は、アスファルトで舗装された車道の真ん中でハセヲを待っていた。

「久しぶりだな、ハセヲ」

ハセヲは、ぎいい、とブレーキをかけてバイクを止める。
スケィスを追ってわき目も降らず疾駆していた彼としても、その男の存在を無視する訳にはいかなかった。
サングラスをかけ、その腕を拘束した長身の銃戦士/スチームガンナー。

「オーヴァン、アンタ……!」

ハセヲは声を絞り出す。
オーヴァン。彼と自分の因縁は一言では言い表せない。
だが彼がこの舞台に呼ばれていることは覚悟していたことであった。
これまでだって、VRバトルロワイアルに巻き込まれる前だって、自分の向かう先にはオーヴァンの影がちらついていた。

何時だって彼は突然現れ、突然去っていくのだ。

「このゲームを無事生き残っていたか。流石と言っておこう。
 俺も何とかここまでやってこれた。お互い、これまでいろいろあっただろう」

穏やかに語るオーヴァンと、ハセヲは一定の距離を保ったまま相対していた。
片手は後ろに回し、いつでも武器が取れるようにしておく。

「……オーヴァン、アンタはこの事態にどれだけかかわっている?
 あの榊はなんだ? アンタならもしかするとわかるんじゃないか?」
「まさか。俺もここでは一介のプレイヤー。殺し合いをさせられている奴隷に等しい存在だ」

オーヴァンはそう言って微笑んだ。
相変わらず――読めない。

「……こういう場所でお前と会うのは何だか妙な気がしないか? ハセヲ」

不意にオーヴァンは辺りを見渡しながらそんなことを言った。
思わずハセヲは視線を追う。ごちゃごちゃと立ち並ぶ民家。舗装された車道。ふと顔を上げれば電線が張り巡らされ、遠くにはビルが見える。
そのコンクリートの匂いは――まるで現実のようだ。

「ここはまるで現実のようだ。そう思うか?」

オーヴァンはこちらの考えを言い当ててきた。
サングラス越しに注がれる視線に、ハセヲは心臓をつかまれたような気分になる。

「ある意味でそれは間違っていない。
 いかなバーチャル世界であっても、そこにある意識は現実のものであり、幻ではない。
 だからこうした様々な仮想が連結された場所も、単なる現実に過ぎないんだよ、ハセヲ」
「……何が言いたいんだ、アンタは」
「なに、このゲームに巻き込まれたのイレギュラーであったが、しかし変わらない真実も存在するということだ」

そこでオーヴァンは一拍置いて、

「Σ忘我なる 罪科の 意訳」

オーヴァンはあくまで穏やかな口調で言葉を続ける。

「覚えているか? ハセヲ。このエリアワードを」
「……ああ、他でもないアンタが真実を語るって言って、俺に告げたワードだろう」

八咫が開眼し、すべての碑文使いが目覚めたG.U.に対しオーヴァンは告げてきたのだ。
そこでハセヲはオーヴァンと決着をつける筈だった。

ハセヲの反応に、オーヴァンはなぜか満足げに目を細めた。

「ああ、そうだ。俺も同じだよ、ハセヲ。
 ――俺とお前は同じ現実を生きている」

謎めいた言葉にハセヲは言葉に詰まる。
そんな彼に対し、オーヴァンはよどみなく一つの名を挙げた。


606 : ナミダの想い〜obsession〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:08:30 rYtSri8E0

「――志乃のことは残念だったな」

その名は聞いたとき、ハセヲは思わずとびかかるところだった。
憎悪がアバターにせり上げてきて、“鎧”がぐるりと身体を走り廻った。

――オーヴァンを助けてあげて

それでもハセヲが理性を保つことができたのは、わき上がる憎悪と同時に志乃の言葉がフラッシュバックしたからだった。

「志乃だけじゃない。アトリにエンデュランス、それに八咫も脱落してしまったか」
「なっ……!? 八咫が?」

オーヴァンの言葉に、ハセヲはさらなる衝撃を受ける。
八咫。G.U.のリーダーであり、第四相フィドヘルの碑文使い。
当初はその高圧的な態度に反感を抱いていたが――今では共に戦う仲間となれた。

「おや? 知らなかったのか、ハセヲ。
 ワイズマンというのは八咫のPCの一つだ。彼が複数アカウント使いこなしていたことは知っているだろう?」
「そんな八咫が……」

ハセヲは知らず知らずのうちに一人の仲間を喪っていたことを知り、愕然としていた。
これ以上失いたくないと、そう思っていたのに――

震えるハセヲにたたきかけるようにオーヴァンは言葉を重ねた。

「ハセヲ、八咫をPKしたのはエージェント・スミスだ」

今度こそ、憎悪が彼の手を突き動かした。
ぶうん、と彼は虚空より大鎌を取り出した。そしてオーヴァンを睨み付け問う。

「答えろオーヴァン。クソスミスはどこに……!」
「落ち着け、ハセヲ。もうあのPKはいない。
 ――既に俺が倒した」
「は?」

ハセヲは呆けたように、ぽかん、と口を開けてしまう。

「つい先ほどこのエリアで戦闘があってね。
 そこで俺がうまく立ち回ってあのPKを消滅させた、というわけだ」

綽綽と語るオーヴァンに対し、ハセヲは認識が追い付かない。
マク・アヌでの戦いが脳裏を駆け巡る。行き場のなくなった怒りが戸惑いへと変わっていった。

「だから今のお前が倒すべき敵はただ一つ――死の恐怖スケィスだ」

スケィス。その名にハセヲは、はっ、とする。

「お前もあのスケィスを追ってここまで来たんだろう?
 ならば――俺も手伝おう」

オーヴァンは告げた。

「俺はお前の味方だ、ハセヲ」






607 : ナミダの想い〜obsession〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:08:47 rYtSri8E0


「スケィス。かつてThe Worldに存在したモルガナ八相が一つにして、ある意味ですべてのはじまりといえる存在です」

レオはホワイトボードに2010年ごろのThe Worldの資料を表示させながら語る。
番匠屋淳ファイルに記載されていたモルガナに関する情報がそこにはまとまっている。
ウィンドウの外部出力に別のコードキャストを噛ませることで、彼はこうした応用をやってのけた。
キリトはホワイトボードを見ながらレオの話を聞いている。

「モルガナの動きが初めて確認されたのは、神槍とリコリスの物語です」
「……リコリスか」
「はい、キリトさんが一度ネットスラムで確認していたのでしたね。
 その辺りの情報も手に入れたいところですが、今はまだ保留にしておきます」

ネットスラムに関しては、キリトがゲーム序盤に訪れたという以外に情報が欠けているのが現状だ。

「そしてその次が――司というプレイヤーに起きた“ログアウトできなくなる”事件」
「…………」
「一人のプレイヤーが、ある日突然ゲームの外に出ることができなくなった……その裏にはモルガナの影がありました」

キリトはその概要に思うところがあるのか、表示された司というプレイヤーの顔をじっと見ていた。
中性的な顔立ちをした少年アバター――であるが、彼女のリアルは少女である。
資料によれば、彼女はゲームに囚われた当初、己の本当の性別すら判断できない状況にあったという。

「この時点でのモルガナの狙いは一つ。
 司というプレイヤーとアウラをリンクさせたうえで、司を精神的に追い込む。
 そうしてネガティブな情念を基にアウラを誕生させ――アウラという存在そのものを歪めてしまおうとした」

モルガナの存在意義はあくまで“母”だ。
その役割から逸脱しない限りで、モルガナは己の“子”を絶望させ、自壊させようともくろんだ。

「けれどもモルガナは失敗します。
 “母”が思うように“子”は育たないということでしょうね。
 司は“母”に与えられた“絶望”という役割から抜け出し、現実へと還ることに成功します。
 アウラはこのとき正しく生まれることができました……少なくともこの記録においては、ですが」
「そのあと“子”が生まれてしまった“母”が取った手段は……」
「はい――それがスケィス、禍々しき波です」

画面が切り替わる。そこには白い巨人のほか、八体のモンスターの姿が映っていた。

「スケィス、イニス、メイガス、フィドヘル、ゴレ、マハ、タルヴォス、コルベニク……これらがモルガナ八相と呼ばれる特殊なモンスターです」
「コルベニク」

キリトはその名に反応する。

「オーヴァンが宿していた、あの憑神とかいう奴と同じ名だ」
「はい、オーヴァンやハセヲさんのような碑文使いと呼ばれるPCは、モルガナ打倒後にこのモンスターのデータを埋め込んだPCなんです」
「…………」

そう解説するとキリトは腕を組みじっと考えこんだ。
オーヴァンと彼の戦闘の顛末は聞いている。彼なりに思うところがあるのだろう。
モルガナや八相の資料は、今の彼にとっても重要なものだ。

「モルガナがゲームシステムの根幹であるという推測が正しければ」

ぽつり、とキリトが口を開いた。

「碑文使いはどう立ち位置になるんだ。
 尖兵であるスケィスはまだわかる。でも彼らは……何だ?」
「さて、何か意味があるかもしれませんね。彼らにしかできない役割があるのかもしれません。
 あるいはもしかするとそれが鍵になるかもしれません」

ならないかもしれませんがね、とレオは悪戯っぽく言った。





608 : ナミダの想い〜obsession〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:09:08 rYtSri8E0


――スケィス、死の恐怖

学園へと続く街並みをオーヴァンは歩いていた。

――分かっているだろう? あれはお前の、お前が倒すべき敵だ

先ほど交わしたハセヲとの会話を思い起こしながら、彼は行く。
ハセヲとスケィス。
その二つの存在を取り巻く因縁はあまりにも複雑だ。
何せ互いが互いを知る以前から続く因縁なのだから。

――お前はあの敵を倒さなければならない。そこで俺も協力しよう

そんな申し出に対し、ハセヲはオーヴァンを見据えてこう返したのだ。

――奴は、俺一人で倒す。アンタの力はもう要らない

と。
彼はそういってのけ、そのまま走っていった。
スケィス。もう一人の死の恐怖を討つべく彼は戦いに赴いたのだ。
その同行者を拒絶する様はかつてPKKだった頃の彼に重なった。

「“もう”要らない、か……確かにそうだな」

オーヴァンはぽつりとつぶやく。
ハセヲは一見して“死の恐怖”だった頃に戻ったかのようだったが、しかし彼はもう戻れない。
目を塞ぎ、真実から目を背けていたあの頃には。

Σ忘我なる 罪科の 意訳。
先ほどの会話で口にしたエリアワードを知っていた。
つまりあのハセヲは紛れもない“今”のハセヲだ。
八咫のように過去から連れてこられたということもない。

力では真実に到達できないことを、“今”のハセヲはもう知っているのだ。
その上で過去の、かつて“死の恐怖”だった頃の真似をしようとしたところで、うまく行く筈もない。

だから、ハセヲにはもう仲間ができてしまっている。
共に同じ道を歩く者たちがいる。
オーヴァンは道の向こう側からやってくるパーティを視界に入れると薄く笑った。

「君たちにはハセヲの邪魔をしないでもらえると助かるんだ」

彼女らの前に、オーヴァンは立ち塞がった。
先頭の青い髪の少女が眉を顰め、いぶかしげにこちらを見た。

「“一人にしてくれ”と奴に頼まれてね。そして俺は協力すると言った」

そんな詭弁を述べつつ、オーヴァンはその手に銃剣を出現させる。


609 : ナミダの想い〜obsession〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:09:29 rYtSri8E0

――スケィスはハセヲが倒さなくてはならない。

スミスからマク・アヌでの顛末を聞いた時から、そのことをオーヴァンは確信していた。

ハセヲはスケィスに一度データドレインされている。
その時に彼は“奪われ”ている。
もしかするとそれが“再誕”を起こすにあたって問題となるかもしれない。
成長した第一相が第八相を討つこと、それが“再誕”の鍵なのだ。
オーヴァンとしてはそれを取り戻してもらわなくては困るのだった。

故に彼をけしかけるような真似をした訳だが、しかし、同時にこうも思っていた。

ハセヲとスケィスが戦うことは“運命”であった、と。

端的に言ってしまえば、そうだ。

「ハセヲ――そのスケィスが最後のピースだ。
 俺と戦う前に、まずはその因縁にケリをつけろ」

“再誕”の前には、常に“死の恐怖”があった。
今回もまたそうなるであろう。







610 : ナミダの想い〜obsession〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:09:43 rYtSri8E0




そして――ハセヲはそれと相対した。
たった一人で、誰もない街の中を彼はそれと向き合うことになる。

白くぬっぺりとした外観の巨人は、彼が進行方向に現れると立ち止まった。
その姿を捉えたハセヲは大鎌を向けながら獰猛に笑う。

「来い」

ハセヲは言う。
静かに、だが重い声を乗せて。

「--------」

だが一方の巨人はどこかに行こうとする。
まるでハセヲのことを認識できないかのように、彼を無視してどこかへ行こうとする。

ハセヲは、ちらりと後ろを見た。
長く伸びた坂道の向こう側に、月海原学園が立っている。あそこには彼の知っている者たちがいる。
それを――これ以上奪わせはしない。

「来いよ」

だから今度こそ――お前は俺の“敵”だ。

「俺は――ここにいる」

そのあふれ出る情動に突き動かされるように――ハセヲはその名を呼んだ。

第一相。
死の恐怖。
モルガナ。
最後の裏切り。
ゼロ。
楚良。

様々な“運命”に終止符を打つべく――戦いは始まった。

「スケェェェェェェェェェェェェェイス!」


611 : ナミダの想い〜志乃とシノン〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:10:16 rYtSri8E0




そこはねじれ狂うデジタルデータの海だった。
あまたの数値が空間をびっしりと走り、見渡す限り情報が乱舞している。
憑神空間と呼ばれるその場所で、二体のスケィスは激突していた。

片や死神のごとく大鎌を振るうハセヲ/スケィス・2nd
片や無言でケルト十字を振るう白きスケィス・ゼロ

ハセヲはクロスレンジにて果敢に挑んでいった。
通常PCの時点では巨人に見えた敵も、この姿/スケィスとなれば同じ大きさのモンスターに過ぎない。
赤き十字が来るタイミングを読み、一瞬で身をそらして大鎌を叩き込む。

「――――」

スケィス対スケィス、などという状況を演じながらもハセヲの心はことのほか冷静だった。
こちらをはやし立てるように響いていた“鎧”の声も静まっている。
もしかするとこちらが呼びかければ答えてくれるかもしれないが、しかしハセヲはそうする気はなかった。
仲間も、“鎧”も、オーヴァンも、ハセヲは全てを拒絶して、たった一人でスケィスに挑むことを選んだのだ。

――少なくとも、そうしなくては俺は“死の恐怖”に戻れない

その選択の裏にはきっとそんな想いがあったのだろう。
そう、どこか静かに考えられる程度にはハセヲの頭はクリアだった。

スケィスゼロ――白いスケィスと一進一退の攻防を進めながら、ハセヲは再びあの既視感に囚われていた。
最初に交戦した時から感じていた“かつてこういうことがあったのではないか”という既視感である。
白く無機質な姿と相対していると、心の底から恐怖に似た感情が湧いてくる。

――恐怖? 怖がっているのか、俺は

その感覚を振り払うようにハセヲは叫びをあげ、鎌を薙いだ。
スケィスゼロが態勢を崩したのを見て光弾を連射する。
ドドドドド、と連射される弾丸がスケィスに叩き込まれるが、しかし向こうにダメージが行っている様子はない。
他の憑神戦と同じだ。プロテクトを解除しなくては、こちらに勝機はない。
だから撃ち続けるしかないのだ。たとえ敵がなんであろうとも――







612 : ナミダの想い〜志乃とシノン〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:11:14 rYtSri8E0



シノンは突然立ちふさがったプレイヤーに対し、困惑していた。
先走ったハセヲを一刻も止めなくてはならない、という時に――何だこの男は?
苛立ちに似た当惑は、しかしそのプレイヤーから薄赤い線が伸びた瞬間に消滅した。

「――来るよ、みんな!」

その薄赤い線は、シノンにとってはあまりにも見慣れた弾道予測線/バレットラインであった。
GGOの守備的システム・アシストにより、プレイヤー――オーヴァンが銃剣を放つ瞬間を捉えていた。

シノンの声に反応し、前に出たアーチャーが弾丸を弾き飛ばしていた。
他のパーティメンバー、ブラックローズや黒雪姫も臨戦態勢をとる。
ブラックローズは剣を構え、黒雪姫はもう一つの姿、デュエルアバター、ブラックロータスへとアバターを切り替えた。

「貴方、何? 貴方はハセヲを知っているの?」

シノンは鋭い口調で男を詰問した。
だが彼は四対一という状況を全く意に介さないかのようで、薄く微笑んでいた。

「……ほう」

シノンの問いかけには答えず、そんな声を上げた。
その視線の先には――ブラックローズがいた。

「ドットハッカーズの先輩方に会えるとはね。光栄だ、と言っておこうか。
 いやそれとも三年前の同型アバターの方かな?」
「は? 何言ってんのよ、アンタ」

そのぶしつけな視線にブラックローズは眉をひそめていた。
だが男は無視して、今度は隣のブラックロータスを見た。

「それに――なるほど、またそのアバターとはね」

二ィ、と口元を釣り上げながらオーヴァンは言い放った。

「何にせよ、お前たちをここから先に行かせる訳にはいかない。
 奴には奴の“運命”がある。“選択”はそのあとだ」






613 : ナミダの想い〜志乃とシノン〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:11:38 rYtSri8E0




スケィス同士の戦いは、一見してハセヲが優位に進んでいた。
未だ互いにプロテクトブレイクには至っていないが、ハセヲ/スケィスはスケィスゼロの動きを読むようにして攻撃をしかけていた。

スケィスゼロの恐ろしさはひとえに“その存在そのものが規格外”ということにある。
イリーガルスキルの跋扈するこのゲームだが、スキル使うPC自体はあくまで正規の仕様の範疇というものが大半だ。
しかしスケィスゼロはその成り立ちに始まり、あらゆる面がイリーガルといえる。
プロテクトの存在、データドレイン、エリアハッキング……使う技全てが正規の枠を外れている。独自のルールで動いているといってもいい。
一般PCがそれと相対する際には、そもそも同じ土俵に立てないという面がスケィスゼロには強いのだ。

しかし――ハセヲは違う。

スケィスのデータをその身に宿したハセヲは――ある意味で当然だが――スケィスと最も対等に戦うことのできるプレイヤーだ。
無論差異は存在するものの、その身に宿したスケィスを解放することで、スケィスが持つ“反則性”をゼロに等しくできる。
スケィスの強さがそうした反則性に依っている以上、それだけでスケィスの脅威は大きく下がるのだ。
彼は碑文使いの中でも最も憑神戦の経験を積んでいる。そのこともまたハセヲを優勢に導いていた。

つまりこう言えるのかもしれない。
スケィスの天敵は、即ちスケィス自体であった、と。

しかし、同時に――ハセヲの中で不安に似た気持ちもまた膨らんでいた。
こうしてスケィスと相対すること自体が、何かひどく不気味なことのような気がしてならないのだ。

――クソ、マク・アヌの二の舞になってたまるか

マク・アヌにてスケィスと交戦した際の醜態が脳裏を過る。
スケィスに襲われた瞬間、ハセヲはあるはずのない記憶を思い返し、その隙を突かれる形で敗北した。
あの時も――まともに戦うことができれば、あんなことにはならない筈だった。
しかし、フラッシュバックした記憶と、訪れた痛みがハセヲを苦しませ――結果としてアトリを喪わせた。

――楚良はここにはいない

そう主張するかのようにハセヲは鎌を振り払った。
膂力によろけるスケィスゼロに対し、ハセヲは連打を加えていく。

スケィスゼロは再び転移をはかる。
距離をとったそいつは、腕を掲げた。エフェクトがその腕を取り囲むように発生する。
スキル発動の前触れか――そう判断したハセヲは空間を疾駆した。

「はぁ!」

スケィス2ndの鎌より剣圧がブーメランのように飛び出し――敵を捉える。
中距離での攻撃を受けたスケィスゼロに[protect break]という文字が走る。
ハセヲはその意味を知っていた。
好機を逃さず彼はスケィス2ndの腕をコンバートする。
腕が開き、大砲のようなオブジェクトが展開される。その周りを覆うようにタイル状のデータが砲身の周りを覆った。

「食らってろぉぉぉぉぉぉぉ!」

――【データドレイン】

収束された情報がスケィスゼロへと放たれ――そして貫いた。





614 : ナミダの想い〜志乃とシノン〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:12:05 rYtSri8E0



「楚良、というプレイヤーがかつていたんです」

レオはスケィスについての情報を表示しながら、そう口にした。
もちろん作業はそれだけでは終わらない。並行して別のデータの解説やプログラム作成も進めていく。
メンテナンスも近い。やることは相応にある。

「ソラ?」
「ええ、この方です」

キリトに別の資料を表示する。
ホワイトボードにはバンダナをした双剣士のPCのポリゴンが浮かぶ。
軽薄そうな笑みを浮かべたPCの出典はThe World R:1となっている。

「楚良……変な字だな」
「このプレイヤーが活動していたのは2009年から2010年頃のThe Worldとなっています」
「じゃあつまり」
「はい、モルガナ事件に関わったプレイヤーです」

レオは別のPCも表示させた。
カール、アルフ、ジーク……と名が列記されていく。

「彼らは当時のモルガナ事件の犠牲者――スケィスに敗れた者たちです」
「……犠牲者。つまり、この資料にあった未帰還者ってやつか」
「はい、そうです。データドレインを受け、自我を喪った者たちです」

説明しつつレオは考える。
データドレインとは果たしてどのような現象なのであろうか、と。
端的に言えばデータ状の存在を解体し、押し出し、改ざんするイリーガルスキル、であるが、ではそれが何故現実にまで影響を及ぼしたのだろうか?
その事実について、ファイルにおいて記述はない。おそらく、このファイルの編纂者にも完全にも分かっていないのではないかと推測される。

電脳世界における情報を改ざんすることで現実における自我にまで影響が出る。
これは言うまでもなく通常ではありえない。
しかし霊子ハッカー/ウィザードとして考えれば、ある可能性に行き当たる。
即ち、データドレインとは霊子変換――魂の具現化をなす術式の一種ではないか、と。

霊子ハッカーはその魂をプログラムとして描き、ダイレクトに入出力する。そのため普通のハッカーとは比較にならない能力を持つ。
だが同時に霊子ハッカーには電脳死というリスクが発生する。出力した者が魂である以上、ダメージを受ければ死へと繋がるのは当然のことだ。

データドレインを受けたプレイヤーが未帰還者となる。
これはプレイヤーが不完全ながらも霊子変換を受けているのではないだろうか。
となればデータドレインとはある種の魔術であり、それをもたらしたモルガナやアウラは――

「――この中でも楚良というプレイヤーは少々事情が特殊なようです」

思考を打ち切り、レオは言葉を続ける。
現段階では何を言っても推測の域を出ない。優先すべきことはほかにある。

「楚良はモルガナに明確に反抗した、最初のプレイヤーです」

ファイルと学園に所蔵データを基に組み立てた考えをレオは口にする。


615 : ナミダの想い〜志乃とシノン〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:12:25 rYtSri8E0

「プレイヤーの名は三崎亮。当時の年齢は10才」
「子ども、か」
「はい。まぁゲームにおいては当然そんなことは関係ありません。
 事実楚良はThe Worldにおいて一角のプレイヤーでした――凶悪なPKとして」
「……あまり素行のいいプレイヤーではなかったようだな」

資料を見ながらキリトが言った。
実際、楚良は相当な高ステータスと卓越したプレイヤースキルを兼ね備えた凶悪なPKだったらしい。
何度か大規模ギルドと揉めたこともあったようだ。

「彼は先の司の事件において、スケィスに敗れました。
 そして未帰還者となり、その後回復するも――記憶を喪いました。The Worldにおける全ての記憶を」

彼の記憶は戻らなかった。
これは先のデータドレインに関する推測と組み合わせるとある可能性が浮かび上がってくる。
データドレインが一種の霊子変換のだとすれば、“楚良”を三崎亮は奪われた、ということになる。
そしてその記憶が回復しなかった以上、彼は“楚良”を取り戻せていないということになる。

では――“楚良”はどこにいったのだろうか。
スケィス打倒後も三崎亮の下に帰ってこなかった“楚良”の魂は、どこにある。
もしかするとその後もネット上に漂い続けていたのではないだろうか。

「……三崎亮はその後、バージョンが変わったThe Worldを始めたそうです。
 “楚良”の記憶を喪ったまま、全くの初心者として」

レオは言った。

「三崎亮が作ったキャラクターの名は――ハセヲと言いました」






616 : ナミダの想い〜志乃とシノン〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:12:58 rYtSri8E0
八相はデータドレインを受けた際、石のような姿へと還っていく。
テクスチャを剥がれ、ポリゴンを解体され、カタチを喪う。それがドレインを受け弱体化した八相の末路であった。
それはスケィスも例外ではなかった。

しかし――ここにいたのは単なるスケィスではない。
その源流たる――スケィスゼロであった。

「な……!」

ハセヲは息を呑んだ。
データドレインを受けたスケィスゼロは、別のものが表に出てきていた。

そこにいたのは一人の青年だった。
長く伸びた髪を垂らした彼は、苦しそうにその胸を押さえている。
装備は双剣士(ツインソード)。その上に橙色の衣を身にまとっている。。

「――ボクは」

彼は視線の焦点が合わないまま、絞り出すように声をもらした。
その声はノイズ交じりで、ひどく聞き取りづらい。

「お前、は――」

――楚良

ハセヲはその姿に絶句し、そして頭を押さえた。
ぎいいいん、と頭痛が走る。頭の中で何かがのたうちまわるかのような感覚に、ハセヲの精神は著しく乱れる。
それはかつてマク・アヌにおいて起こったのと同じ、激痛だった。
痛い痛い痛い痛い痛いやめろ暴れるなお前なんて存在しないんだやめろおれは――ただ。
意識がちぎれるかのような痛みに、ハセヲ/スケィスは暴れ回り――ふっ、と憑神空間が消え去っていた。

空間は何時しか元の日本の街並みへと戻り、膝をつくハセヲが残された。

「――ア」

痛みに震えるハセヲと同じく、楚良もまた苦痛に悶えているようだった。
互いに互いを見て悶え苦しんでいる。傍から見れば馬鹿みたいな光景だろう。

――クソ、なんだ。なんなんだ

痛みに頭を押さえつつ、ハセヲは必死に立ち上がろうとする。
だが激痛ゆえうまく力が入らない。そして事態の理解は全くできていなかった。

「ア、ア」

一方で楚良はゆっくりと顔を上げていた。
口元から声を漏らしながら――ハセヲを見たのだ。

そして二人は互いを見た。
ハセヲは楚良を、楚良はハセヲを、それぞれが見つめたのだ。
瞬間、ハセヲの脳裏にさらなる痛みが走った。激痛を超えたさらなる痛み。魂が引き裂かれるかのような感覚であった。


617 : ナミダの想い〜志乃とシノン〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:13:32 rYtSri8E0

「アアアアアアアアアア――」

楚良もまた悲鳴を上げていた。
橙色の衣を揺らし、彼は何かを必死に抑え込もうとしている――しかし、ダメだった。

「アアアアアア」

楚良の身体から――再びそれは現れた。
スケィス。
白き巨人。死の恐怖が、その身を再び結ぼうとしている。
ハセヲははっとする。しかし未だ身体が動かない。

一方のスケィスゼロもまた、ボロボロであった。
外観自体は変わらないものの、ところどころデータにノイズが走り、歪んでしまっている。
ゼロ化したことで、無力な石となることは避けられたが、しかしその内部は崩壊しかけている。

スケィスゼロはデータドレインを受けたことで元のスケィスへと堕ちかけていた。
元よりロックマンとの戦いによりデータが不安定になっていたのだ。
その上にデータドレインを受けたスケィスゼロは――かつて封印した楚良が表層へと出てしまった。
カイトたちと戦う前に、楚良としてThe Worldを放浪していたように。

楚良より再び現れたスケィスは、そのデータを散らしつつもその腕を掲げた。
ぼう、と腕輪が展開される。ケルト十字が虚空を走った。

ハセヲは未だ動けない――動けないまま、再び磔にされた。

「いやだ、やめろ」

ハセヲは思わず声を漏らした。
しかしダメだろう。この声は届かないのだ。誰にも――あの時と同じように。

――マタ奪ワレルノカ? オ前ハ?

耳障りな声が脳裏に響くのと、スケィスがその力を解放するのは全く同時だった。


【データドレイン】







618 : ナミダの想い〜志乃とシノン〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:13:55 rYtSri8E0


その男の戦い方は、不気味なものだった。

先駆けるブラックローズが大剣を振るう。それを男は銃剣で受け止めている。
そこを狙い――シノンとアーチャーが射撃を加える。
弾丸と矢。卓越した技量で放たれた攻撃が彼を捉えたが、しかしはじかれる。
スーパーアーマーの類――ではないだろう。隣に展開されたオブジェクトが“無敵”に類する効果を彼に与えているのだろうとシノンは想定する。

「……やっこさん、手の内を見せてはくれないようだな」

アーチャーが憎々し気に言った。
そう――男の不気味さは、端的にその力の全容が見えないことだ。
彼は今銃剣と、奇妙な造形のオブジェクト生成のみで戦っている。

その目を引く拘束具は解放されておらず、まずまたその動きにも手加減にも似たものが垣間見える。

「ったく、何なの変な奴!」

剣を交え、そしてはじかれたブラックローズが声を漏らした。
彼女としてもある種のやりづらさを感じているようだった。

「……その動き、時間稼ぎのつもりか?」

ブラックローズと入れ替わるように前衛に入ったブラックロータスは、苛烈に攻め立てる。
だが当の男は涼し気な顔でそれをさばいている。
四対一だというのに焦った様子は一切ない。
弾丸や刃を的確に弾くその様は、確かな実力を感じさせた。

だが――彼は奇妙なほどに攻めてはこない。

ここぞ、というところで、彼はその刃を引いている。
ロータスが言うように、その戦い方は時間稼ぎというのがしっくる来る。

「……お嬢さん、分かっていると思うがあれは何かデカいのを隠してるな」

隣でアーチャーが話しかけてきた。
それは分かっている。この敵の目的は時間稼ぎ――だが、だからといって安易に強行突破に走れないのだ。
彼は明らかに本気を出していない。
相手の力が読めないまま無理な動きを見せれば、致命的な隙につながりかねない。
加えてこの先――スケィスとの戦いもある。

「――貴方、ハセヲの何?」

シノンは再度男へと問いかけた。
男の底知れない戦い方はやりづらい。
だが――それ以上にこの男の正体が掴めなかった。
このタイミングで突然現れ、行く手を阻むこの男は一体……

「俺かい? 俺はハセヲの味方だ。
 昔同じギルドに所属していてね。その縁でこうしてアイツのために戦っているという訳だ」
「アイツのため? こうして、私たちの邪魔をするのが?」

言葉を交わしつつもシノンは男の正体がつかめてきた。
マク・アヌにて、アトリやハセヲが口にしていた、一人の男の名。


619 : ナミダの想い〜志乃とシノン〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:14:17 rYtSri8E0

「貴方、オーヴァンね。
 The Worldでアトリやハセヲを苦しめていた碑文使い」

そう言うと、彼、オーヴァンは再度口元を釣り上げた。

「どうやら君は、このゲームにおけるハセヲのことをよく知っているらしい。
 同行者だったのかな? 君とアイツは。
 良ければ聞かせてくれないか? アイツのここでの動向を」

オーヴァンは語りつつオブジェクトを展開している。
ぼこ、ぼこ、と泡を吐き生み出されるオブジェクトにアーチャーが舌打ちをした。

「先ほどあった様子だと、随分と荒れていたが」
「……貴方、ハセヲがまたPKKだのなんだのすると思ってるの?」

シノンは毅然とした面持ちで答えた。
その銃口はぶれていない。オーヴァンの不気味な視線も、真っ向から彼女は受け止めている。

「……今のアイツは、ただ悲しんでるだけよ」

マク・アヌで、アトリを守れなかった無念からハセヲは修羅に落ちた。
そう見えるだろう。外面的には、かつての呼ばれていたという“死の恐怖”の名を再度纏ったようにも見えた。

「だけど、結局アイツは誰も傷つけなかった。
 私が後を追って着いてきた時も、ネットスラムに着いた時のことも」

シノンの言葉にロータスやブラックローズが頷く。
修羅と化し、“死の恐怖”として危険な存在となった――ように見えた彼は、その実誰も傷つけようとはしなかった。
どころか倒れたプレイヤーを率先として助けている。認知外領域においても、シノンたちを明らかに“守ろう”としていた。

「――アイツはやっぱりもう“死の恐怖”なんかじゃない。
 誰かと関わることが、誰かを傷つけてしまうんじゃないかって、ただ恐れている。
 その恐怖を知っているアイツに――そんな名は似合わない」

シノンもまたその恐怖を知っていた。
かつて子供の頃に巻き込まれた強盗事件。そこで彼女は引き金を引き、そして人を殺した。
以来――彼女は怖くなった。この引き金が、この銃口が、この弾丸が。

「私には分かる。
 アイツが本当に恐れているのは――自分自身なんだって」

――あの時の、私のように。

怖くなった引き金も、ゲームの中ではどういう訳か引くことができた。
詩乃でなく、シノンとしてならば、彼女は戦うことができた。
でもそれは結局、現実において銃を克服することにはならなかった。

何故ならば――結局彼女自身が“シノン”を現実だと認めることができなかったからだ。
あの事件が起きるまでは、新川恭二の闇を目の当たりにするまでは、詩乃とシノンは別人だった。
同じようにハセヲもまた“死の恐怖”という名に逃避しようとしている。

詩乃が“シノン”の名を別人だと線引きしたのに対し、
ハセヲは“死の恐怖”の名こそが自分だと思う形で、現実を遠ざけようとした。
方向性が違うだけで――同じ行いなのだ。

「私が“シノン”を私だと、浅田詩乃だと認めることができたように、私もアイツに伝えてやらなくちゃいけない。
 ――ここ/現実にいるのは“死の恐怖”じゃなく、アナタ/ハセヲなんだって!」

その言葉と共にシノンはオーヴァンへと銃口を向ける。
毅然と、迷いなく、ゆるぎない意志をもって彼女は彼と相対した。
ブラックローズも、ブラックロータスも、アーチャーも、そこに肩を並べる。
みなハセヲを救いにいこうとしていた。


620 : ナミダの想い〜志乃とシノン〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:14:40 rYtSri8E0

「……フフフ」

その事実を前にして――オーヴァンは再び笑みをこぼした。

「やはり、か。
 安心したぞ、ハセヲ――お前は確かに強くなっていた」

その言葉には、ハセヲを見ずともシノンたちを見れば十分だ、という響きが籠っていた。

「そして“しの”か。
 その名を持つ君がハセヲと出会ったのも“運命”だったのかもしれないな。
 アトリと彼が出会ったように」

シノンにはその言葉の意味が分かっていた。
志乃。この場にいたもう一人の“しの”。
恐らく彼女がマク・アヌでシノンを救ってくれた。だからこそ今彼女はここにいて、ハセヲと出会い、彼を救おうとしている。

「……オーヴァン、貴方の真意は分からない。けれど私たちはこの先に行くわ」

そう、力強く言ったその時だった。

――彼が現れたのは。

シノンが目を見開く。
彼は確かな足取りで、この場にやってきたのだ。
キツイ目つきのPC、黒く威圧感のある鎧、人を寄せ付けない威圧感――

「ハセヲ」

思わずシノンは彼の名を呼んだ。
彼が戻ってきたということは――つまり彼はスケィスを倒したのか?

そう思った、次の瞬間だった。

「グル……」

――うめき声が、彼の口から漏れ出した。

「グ……ルォォォアアアアアアアア!」

つんざくような咆哮が上がる。
途端、上空にどす黒い雲が渦を巻きながら出現した。
空では雷鳴が轟き、彼を中心にしてその禍々しいものが広がっていく。

「これは――《災禍》の」

ブラックロータスが漏らした声を遮るようにして「ルァァァ!」と獰猛に叫びが上がる。
ハセヲのカタチをした獣は、その瞳に理性を消したまま、刃を振るわんとした。

――標的は、シノンだった


621 : ナミダの想い〜七千年の祈り〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:15:30 rYtSri8E0

その様はまさしく《獣》と評するに相応しかった。
エリアを揺るがさんとするばかりの咆哮、両手両足を使った四足での疾駆、理性なき凶暴な瞳。
見ただけで本能的に恐怖を掻き立てる恐ろしい姿をしたそれは――猛然とこちらに襲い掛かってきた。

「っ……!? ハセヲ」

そのあまりの形相にシノンは一拍遅れつつも反応し、突進を避けようとする。
が、《獣》は猛然と追いすがり、刃を振るってくる。
近づかれたシノンはそれに対応できなかったが、間に入ったロータスが受け止めてくれた。

―― 一体、ハセヲに何が?

そのあまりの変貌に、シノンは事態を呑み込めていなかった。

「…………」

いぶかしげにオーヴァンをうかがったが、しかし彼は何も言わなかった。
ただサングラス越しに、ハセヲの姿をした《獣》を値踏みするような視線で見つめている。
オーヴァンも事態を把握していない――それを思わせる視線だった。

「君は――クロム・ディザスターに堕ちたというのか?」

ギリギリと刃を交わしているロータスは、そう漏らした。
シノンは、はっ、とする。
クロム・ディザスター。
それは――あの《鎧》に宿る名だという。
かつて加速世界なる場所に現れた暴虐の《獣》。
無念と怨念に取りつかれた――哀れな想いのなれの果て。

ハセヲがマク・アヌで使ったというあのアイテムの危険性は、既に聞いている。
そしてそれを恐らく碑文の力で抑えてたということも聞いた。
確かに――ハセヲはそんな危うい状況だった。

しかし、負けたというのか? ハセヲは《鎧》に。

シノンは信じられなかったが、しかし想像してしまった。
スケィスとの戦闘で――ハセヲは戦う中で《鎧》の力を解放してしまったのではないかと。
そしてその結果が、この姿なのではないかと。

「…………」

オーヴァンはなおも何も言わない。
ハセヲは彼に目もくれず――ロータスを弾き飛ばし、今度はブラックローズへと襲い掛かっていった。

「おい、呆けてられねえぞ、こいつは」

動けないシノンをしり目に、アーチャーが前に出た。
彼は弓を構え、ブラックローズを援護する構えを見せている。


622 : ナミダの想い〜七千年の祈り〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:16:10 rYtSri8E0

「仮にあの兄ちゃんが本当にクロム・ディザスターとやらに堕ちたってんなら――こっちもヤバイぞ」

アーチャーの言葉にシノンは身を固くする。
クロム・ディザスターが加速世界に何をもたらしたのかは聞いている。
最後に救われた筈のあの《鎧》はこうして再び苦しみの咆哮を上げている。
場合によっては――ハセヲはもう戻ってはこれないのかもしれない。

「とりあえず戦えないなら下がってろ、容赦できる相手じゃ」
「――待って」

シノンは言うなり前に出た。
ファイブセブンのスライドを引きながら、彼女は《獣》の前へと出る。

「行くのか?」
「ええ」

すれ違いざまにロータスの言葉を交わす。
最後のクロム・ディザスターの話は聞いている。

「ハセヲ!」

叫び、銃口を彼に向けると、獣は、ぎろ、とこちらを睨んできた。
射貫くような視線に心臓をわしづかみにされたような感覚が襲う。
ああまさしく《獣》だ――しかし、彼がハセヲであるのならば、

「――アトリは貴方を信じていた」

シノンは語り掛ける。
そこに渦巻く悔恨を、無念を、解放してやるために。

「あの娘は貴方が好きだった。
 そしてそれを救うために、貴方は戦ったんでしょう?」

――アトリ

その名に反応し、《獣》が咆哮を上げた。
それは、喪った者の名を、うめられない喪失感を苦しむような響きに聞こえた。

「ア……トリ」
「確かに救えなかったかもしれない。
 それが、貴方には許せないんでしょう? 
 自分自身が、他の何よりも許せないんでしょう?」
「――し、の」

しの。
ハセヲが漏らした名に、詩乃/シノンは目を細めた。
何とも――因果な話だ。こうしてここに立っている自分と、同じ名前だなんて。
ハセヲと同じく――アトリを救えなかった自分にもその名は突き刺さる。

「けれど、覚えておきなさい。
 貴方は――あそこで私を救ったんだって」

それでも、その事実だけは伝えておきたかった。

「あの街で、マク・アヌを私が生きて出ることができたのは、貴方がいたからよ。
 エージェント・スミスやスケィスは私一人では到底対処できなかった。
 だけどそれでも生き残ることができた。それは貴方のおかげだった。
 それもまた――事実よ」

それは再演だったのかもしれない。

――――――おねえさん、おかあさんをたすけてくれて、ありがとう。

かつてシノンが立ち直るきっかけになった、ある少女の言葉を、今度は彼女自身が口にしているのだ。

「確かに救えなかったかもしれない。
 だけど――同時に救われた人もいた。その事実だって、確かにここにあった現実なのよ」

その言葉を聞いた《獣》は、一瞬だけ、動きを止めた。

「グルゥゥゥ」

――けれども、次の瞬間には彼はシノンへと飛びかかってきた。

叫びをあげ、シノンに刃を振るう。
彼女は弾き飛ばされ悲鳴を上げる。そしてそこに追い討ちをかけるように――首を絞められた。
「あ、う」と声が漏れる。頭に酸素が行かなくなる。苦しい。
視界の隅でものすごい勢いでHPゲージが削られていくのも見えた。

けれども――それ以上に信じられなかった。
ハセヲが、彼が結局《鎧》に負けたのか? その事実がどうしても信じられなくて――






623 : ナミダの想い〜七千年の祈り〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:16:35 rYtSri8E0



「楚良が、ハセヲだって?」

その事実を伝えると、キリトは目を丸くしていた。

「ハセヲって、例の、もう一人の生徒会の奴だよな?」
「ええ、彼です」

レオはそこで窓の外を眺めた。
そこでは黄昏の世界が広がっている。赤く染まった夕陽の下、どこかで彼は戦っているのだろうか。

「ハセヲが楚良ってことは……」
「ええ、彼がスケィスの碑文使いに選ばれたのも、すべてはその縁でしょうね」

あるいはそれは“運命”と称されるべきものだったのかもしれない。
なるべくして定まった、当然起こるべき因縁。
彼は“死の恐怖”に魅入られるべくして、碑文を宿した。

「……ハセヲは」

その事実を伝えると、キリトは躊躇うように言った。

「ハセヲはスケィスとまた戦うのか?
 出会うべくして――出会って」
「ええ、きっと」

スケィスとの相対は、モルガナ打倒のために欠かせない。
そしてその鍵はきっとハセヲなのだ。

「でも僕は信じていますから、ハセヲさんを」

窓の向こうに、ぼんやりと見える一つの学校がある。
梅郷中学校。あれがこの生徒会の始まりだった。あそこでハセヲとレインに出会い、生徒会は生まれ落ちたのだった。

「なんといっても僕が最初にスカウトした雑用係ですからね、ハセヲさんは」






624 : ナミダの想い〜七千年の祈り〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:17:01 rYtSri8E0




その時《獣》は弾き飛ばされた。
シノンを襲っていた《獣》をやってきた誰かが殴り飛ばしたのだ。
銀色の髪が舞う。その誰かの顔は――ひどく見覚えのあるものだった。

「おいっ……! 大丈夫か?」

その誰かはシノンを身体を揺らした。
がんがんと頭が揺れて気持ちが悪い。心配するのは良いが、もう少し丁寧にしてほしい。
そんなことを思いながらも、シノンはその名を口にした。

「――ハセヲ」

――《獣》を殴り飛ばしたのは、彼だった。

銀色の髪、顔に刻まれた文様、目つきの悪い瞳、そのどれもが彼女の知るハセヲだった。
とはいえ違う点もあった。彼の姿は、どういう訳か随分と“すっきり”した格好をしていた。
あの黒くトゲトゲした禍々しい衣装は消えさり、代わりにひどく露出度の高い軽装を身に着けている。

「変な、イメチェンね」
「イメチェンって……アンタの猫耳のほどじゃねえよ」

そんな言葉を交わしつつも、ハセヲはシノンを守るように《獣》の前に立った。

弾き飛ばされた《獣》は「グルゥゥゥ」と威嚇するように、ハセヲをにらんでいる。
その姿は――ああ、やはり瓜二つだ。
共にハセヲの姿をし、ハセヲの声をしている。衣装こそ違えど、それは鏡合わせの対峙だった。

「来いよ」

――スケィス

ハセヲは《獣》をそう呼んだ。

……あの時、ハセヲはスケィスゼロに再びデータドレインされた。
ソラと化したスケィスと対峙し、謎の頭痛に襲われ、その隙を狙われた。
その結果、彼は再びその身に宿っていたものを奪われた。

そしてその中には《鎧》もあった。

マク・アヌでドレインされた際は《災禍の鎧》は眠ったままだった。
しかし今は違った。ハセヲと深く結び付いている。故に――データドレインにより奪われた。
結果としてハセヲはスケィスゼロは更なる変容を見せた。

ボロボロだったその身に《鎧》が結合し――そしてその無念がハセヲの姿をした《獣》として身を結んだ。
まるで黙示録に記録されし獣のように、それは現れたのだ。

スケィスであり、《鎧》であり、ハセヲであったその獣は――“薄明の書”や“セグメント”を所持していたシノンとブラックローズを襲ったのだ。


625 : ナミダの想い〜七千年の祈り〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:17:35 rYtSri8E0

「だけど、もう奪わせはしない」

ハセヲは決然という。
彼は――もう誰に言われるまでもなく分かっていた。
《獣》が一目散にどこかにシノンたちを狙ったとき、迷わずその足が動いていた。
彼女らを襲わせはしないと、守りたい、と彼は確かに思っていた。
そのことに気付いたとき――彼はもはや自分が“死の恐怖”に戻れはしないことを悟ったのだ。

「強くなったな、ハセヲ」

その姿を見たオーヴァンがそう漏らす。
ハセヲは彼の姿を認めるなり、拳を強く握りしめた。

結局のところ、過去の名に逃避できるほど――ハセヲは弱くはなかったのだろう。
その強さ故、彼はここにいる。あるいはここにいるために、彼は強くなっていた。

「アンタの真意は分からねえ。
 だが、俺は――アンタだって守ってやる」
「……どうやら、俺の助けはもう要らないようだな」

オーヴァンと言葉を交わし、ハセヲは《獣》と相対する。その言葉を聞き届けたオーヴァンは満足げに下がっていった。
そして代わりに立ち上がったシノンが「待ちなさい」と口を挟む。

「貴方――武器がないでしょ。はい、これ」

そして彼女は、預かっていた双剣をオブジェクト化し、ハセヲへと手渡した。
すると彼は目を丸くする。忍冬/すいかずら――その双剣が一体どういう意味が持つのか、既にシノンには何となくつかめていた。

「大切なものなら、貴方が持ちなさいよ」
「――ああ、ありがとう」

そうしてハセヲは再びその双剣を握りしめた。
愛の絆。その意味を込められた剣を渡されるのは、これで三度目だった。

「ハセヲ君、一つだけ伝えおこう」

《獣》の対峙の直前、ロータスが彼に呼びかけた。

「その《鎧》は、クロム・ディザスターは決して君の“敵”ではない」
「ああ――分かってるさ、それくらい」

――ハセヲにとって《鎧》も、スケィスも、“死の恐怖”も、すべて“敵”ではないのだろう

それらはみな、一度ハセヲに結びついたものだ。
それを“敵”とし、許せないものとして排除しようとしてはいけない。
何故ならば――

「――ここにいるのは、俺だ」

他でもない自己と対峙すべく、ハセヲと《獣》の戦いが始まった。







626 : ナミダの想い〜七千年の祈り〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:17:56 rYtSri8E0


戦いは、一撃だった。
黒く渦巻く禍々しい心意に取りつかれた《獣》が、ハセヲへと飛びかかり、
“忍冬”の双剣を構えたハセヲもまたそれを真っ向から受け止める。

二つの刃が重なったその瞬間に、彼らの背後に黒と白のスケィスが顕現する。
同時にハセヲの脳裏に楚良の姿がフラッシュバックした。
それは今まで見え隠れしていたハセヲの過去であった。それと対峙することが、今までのハセヲにはどうしてもできなかった。

けれど――今度は違う。

ハセヲは楚良を見ても、頭痛に苦しむことはなかった。
それも含めて、この何もかもわからない不気味な過去もまた、自分であると認めていたからだ。

――ナゼ、汝ハ抗ウ? 我ハ汝。汝ハ我デアルトイウノニ

楚良の顔は、次に《鎧》のそれへと変わっていた。
それは短い間とはいえ、同居していた声だ。
故に理解できる。彼の深い憎しみと悔恨を、ハセヲもまた共感できていた。

――はっ、笑わせんな。俺とお前は違う。お前は俺じゃない
――何ガ違ウトイウノダ。オ前モ敵ヲ憎ミ滅ボソウトシテイタダロウ?
――ああ、そうだよ。それだって、事実だ。俺は何もかもが許せなかった。だけどな、この憎しみは俺の、俺自身のものだ。お前のものじゃない。
――何ヲ?
――俺の憎悪も、苦しみも、喪失も、全部俺のものなんだよ! それを誰にも渡さねえ

そしてそれは《鎧》も同じだった筈なのだ。
《鎧》はもともと一人のプレイヤーの憎悪から始まったのだという。
それがどこかで歪み、幾人もの想いが混ざり合い、こんなことになってしまった。

――返してもらうぞ! 俺の過去を、憎しみを!

その想いと共に、ハセヲはその刃を振るう。
一対のスケィスは黄昏の中で交錯し、そして片方が、がくん、と崩れ落ちた。

……それは白いスケィスであった。





627 : ナミダの想い〜七千年の祈り〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:18:38 rYtSri8E0


多数のデータを欠落し、ボロボロになりながらも《鎧》に寄生される形で生きながらえていたスケィスは、今度こそその身を石へと変えようとしていた。
ケルト文字が悲鳴のように乱舞する。白いスケィスは、いまにもそのカタチを霧散しようとしていた。
抵抗するようにその身を捩るが、しかし崩壊は既に止められなかった。ゼロと化し獲得した知性は――その死に恐怖しているかのようだった。

データの崩壊のさなか、データが明滅するように移り変わっていく。
スケィスが楚良になり、楚良がハセヲになり、ハセヲが楚良になる。

「……お前は」

その変化のさなか、初めて見せる顔があった。

彼は幼い少年だった。Tシャツの膝丈のジーンズを身に着け、少し長めの髪を額に垂らしている。
齢は小学生低学年ほどだろうか。幼くも虚無的な表情を浮かべるその少年に、ハセヲは見覚えがなかった。

けれども、分かった。
彼が誰であるか、一体何者であるのか。

「あの《鎧》か」

《災禍の鎧》が生まれるきっかけとなった、
クロム・ディザスターの“最初の一人”なのだろう。
彼が深い憎悪を抱いたことで、この悲劇は始まったのだという。

そう確信して呼びかけたが、しかし少年は首を振って、

「違うよ、《鎧》はぼくじゃない。ぼくはもう《鎧》の一部でしかない」

そう語る彼の言葉はひどく平坦で、虚無的だった。

「どうして君はぼくと一緒にならなかったのか、よくわからない。
 君はバーストリンカーじゃなかったみたいだけど、でも、君の《絶望》はぼくのものにひどく似ていたのに」
「お前は……それでいいのか?」

ハセヲは彼に呼びかけた。
きっと最後になるだろう、つかの間の同居人と会話をすべく。

「自分が誰を憎んでて、何に悲しんでいたのか、そんなことも分からなくなるなんて、俺は御免だ。
 絶望を一人背負おうなんて、そんなバカげたことができるとでも思ってたのかよ」
「……君は、強いんだな。すべてを喪って、あれだけ多くのものを奪われて、それでも希望を見ているなんて」

彼はそこで目をひそめた。
それはどこか寂しげに見えた。ハセヲと自分は違う。そう言われたことを、痛感しているようにも見えた。


628 : ナミダの想い〜七千年の祈り〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:19:05 rYtSri8E0

「ぼくには無理だった。少なくとも、ぼくにはフランのいない世界に希望を見出すことができなかった。
 いや許せなかった。フランを奪ったアイツらに、希望を抱かせることが」
「言っただろ? 力じゃ何も取り戻せねえって。
 お前が本当に欲しかったもんは、そんなやり方じゃ手に入らねえんだよ」

彼は《鎧》に語りかける。

「自分勝手な思い込みで自分を縛り付けるな。しっかりと目を見開いて、耳を澄ませ。
 歩くような速さでもいい。一歩でも多く前へ進め。
 そうすれば――きっとお前にも見つけられた筈だ」
「…………」

そう伝えると《鎧》は姿を消していく。
それを見届けたハセヲは無言で手を掲げた。
奪われたものを――取り返す時が来た。

右手より放たれた【データドレイン】がスケィスを貫いた。
そして彼は取り戻していく。1stフォームにまで戻っていたその姿が、元の3rdフォームにまでエクステンドされていく。
同時にウィンドウが小さく開かれた。そこには「アバター“楚良”のプロテクトが解除されました」という表記が出ていた。

「……ごめんね」

ドレインのさなか、声が聞こえていた。

「長い間一人にして。寂しかったよね」

それは少女の声だった。
ボーイッシュなショートカットで、子猫を抱えていた少女の姿が見える。
それと相対する――あの《鎧》の少年の姿も。

「やっと君の声が聞こえた。ずっと……ずっとここにいたんだな、君は。」
「うん、これまでも、そしてこれからも――私はここにいる」

――ファル
――フラン

少年と少女は互いにそう名を呼んで、消えていった。
きっとそこに行き着くまでには果てしない物語があったのだろう。
《鎧》の少年が歩き出したその先に、この結末/オワリはあったのだ。

……そうして、スケィスは今度こそただの石となった。
自我を喪い、元のデータの塊へと堕した。

ハセヲはそれを斬り裂き、“死の恐怖”との因縁に決着を付けた。
今度こそ――彼は過去を取り戻したのだった。


【スケィス@.hack// Delete】
【クロム・ファルコン@アクセル・ワールド Ending...】
【サフラン・ブロッサム@アクセル・ワールド Ending...】


629 : ナミダの想い〜もっと強く 遥か遠く〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:24:44 rYtSri8E0

生きるは毒杯 愛する哀しみを
飲み干すすべを誰が授けよう
月下に眠ると云う静の鷲
啼き声だけが舞い降りて

あの蒼穹に磔刑にしてくれたまえ
罪と罰を生む時代を僕は視る







630 : ナミダの想い〜もっと強く 遥か遠く〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:25:31 rYtSri8E0


「ハセヲ」

決着を着けたハセヲに、シノンが呼びかけた。
「お疲れさま」と言って彼女は笑う。つられてハセヲも思わず「ははっ」と笑ってしまった。

「それで――なんか私に謝ることない?」
「……ああ、すまん。その、いろいろな」

ハセヲは苦笑しつつも歯切れ悪く言う。
いろいろ。本当にいろいろあった。マク・アヌからこの方、この双剣を再び手に入れるまで、いろいろなことがあり過ぎた。

それでも――これは一つの終わりだろう、とそう思うことができた。

ハセヲはシノンを見る。
今度こそ守ることができたのだ。
そう思うと胸に暖かいものがこみ上げてきた。

――そう思ったからだろう。

言ってしまえば、その瞬間の彼らは弛緩していた。
事が終わった一瞬の間隙――しかし、それで決して終わりではなかった
そう未だ結末を迎えていない物語が――ハセヲにはあるのだ。

「おい! 後ろだ!」

アーチャーが叫びを上げたのと、シノンの身体が“爪”に襲われたのは同時だった。
「あ――」と彼女が叫びをあげる。“爪”に胸を貫かれたシノンは倒れ伏し、そのまま、ずる、と引きずられいった。
ハセヲはその姿に愕然としたまま、顔を上げた。

「見事だったよ、ハセヲ」

その先には、不気味にたたずむオーヴァンの姿があった。

――拘束具は外され、AIDAの“爪”が露出している。

ハセヲはその姿を知っている。その真実を、既に知っている。
オーヴァンこそが、真の三爪痕である、と。

“爪”は、ぼこ、ぼこ、とその身を震わせている。
その刃の先には――貫かれたシノンの身体があった。


631 : ナミダの想い〜もっと強く 遥か遠く〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:25:53 rYtSri8E0

「――オーヴァン」
「お前は強くなった。だから、俺はここでも安心して真実に臨むことができる。
 このThe Worldとは違う世界でも、俺はお前と戦うことができる」

そう無慈悲に言い放つオーヴァンに、ハセヲは声を上げることができなかった。
それよりもまずシノンだった。既にあの《獣》との戦いで彼女のHPは相当に削られている筈だ。
いやそんなことを考えるまでもなく、「あ……」と呻き声を上げる彼女は危険な状態だった。

――事実、この時点でシノンのHPは0の筈であった

そうでありながらも、彼女が“爪”に貫かれた状態で命を繋いでいるのは
ひとえに“アンダーシャツ”を装備しているからに他ならない。

けれども――オーヴァンはそんなささやかな幸運を切り裂く。

「お前は俺を守ると言ったな。
 だが――これでその必要もなくなるだろう?」
「やめろ……」

ハセヲの口から声が漏れる。
もう失いたくない。今度こそ守れたはずなんだ。なのに、なのに――
声にならない叫びを上げ、ハセヲはオーヴァンへと突進する。

だが届かない。彼が駆けつけるよりも早く、オーヴァンはその刃を振るっている。
アーチャーが矢を放っていたが、しかしそれを“隣人”のオブジェクトが阻む。

「――さよなら“しの”」

そう呼びかけて、オーヴァンの凶刃が放たれた。

――蒼い髪が、舞った。

シノンはAIDAに貫かれ、倒れ伏した。
「ああああああああああああ」とハセヲは叫びをあげ、彼女へと駆け寄る。
そして必死に回復魔法をかけるが――しかし、無慈悲なシステムメッセージが表示されるだけだった。

ああこれじゃあ――同じじゃあないか。

アトリの時と、何も守れなかったあの時と。
絶望が、欠落が、喪失が、すべてが雪崩のようにハセヲを襲う。
ぽたり、ぽたり、とシノンの顔に何かが垂れていた。
それが自分の涙と気づいたとき「あ……」と声が漏れていた。
なかないで。最期の言葉がフラッシュバックする。アトリの顔に重なるようにしてシノンの顔が見えた。

「……涙があったかい、よ」

そして――彼女もまたその身を散らした。
あの蒼い髪の少女は消えていた。自分が救い、そして自分を救ってくれた彼女が――死んだ。

「――真実の向こう側で待っている。
 そこで、俺たちの決着をつけよう」

うずくまるハセヲに対し、そう言い放ち、オーヴァンは去っていく。
ブラックローズやロータスが追いすがろうとするが、しかし逃煙球を使われ、あっさりと彼は姿を消していた。

ハセヲは必死に叫びをあげたが、しかし届かなかった。
何も、かも。







632 : ナミダの想い〜もっと強く 遥か遠く〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:26:25 rYtSri8E0


災禍が去ったあと、残されたのは静寂だった。
黒雪姫も、ブラックローズも、アーチャーも、ハセヲも、何も言わなかった。

自分たちは、奪われた。
目の前で、一瞬の間隙を突かれる形で、一人の命を喪ったのだ。
それはもう――戻らない。

その喪失が、無力感となって彼らを襲っていた。

「……何のつもりだ?
 あの男、アイテムを残していきやがった」

静寂を破ったのはアーチャーだった。
彼はオーヴァンが残していったアイテムを拾い上げ、眉をひそめている。
武器や回復アイテムなど、貴重なものを彼は敢えて残していた。
まるでそれを使い装備を整えろ、とでもいうように。

「《鎧》は消えているようだな。
 彼らが正しい形で終わることができたのだと、そう思いたいが……」

黒雪姫が声を漏らす。
その声色にはハセヲを慮る色があった。
そしてブラックローズもまた、ゆっくりとハセヲへと呼びかけた。

「……ねえ、アンタ」
「俺は」

だがハセヲはそれを遮るように答えた。

「俺はもう“死の恐怖”にはならない。
 だから、歩き続けることを辞めはしない。まだ守りたいものがある限り」

そうハセヲは歩き出した。
その先にはどこまでも広がる黄昏の空と、月海原学園があった。
そこに彼の仲間がいるはずだった。このゲームではじめて出会った仲間たちが。

彼の下に帰ろう。
そこからまた歩き出す。ようやくそう思うことができた。

――けれど今は

学園へと伸びた坂を上る彼の瞳には、涙が滲んでいた。
なかないで――そうアトリは言ったが、今だけは許してほしかった。
せめてあの蒼い髪の少女のぬくもりが、この手に残っているうちだけは――


633 : ナミダの想い〜もっと強く 遥か遠く〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:26:58 rYtSri8E0


【シノン@ソードアート・オンライン Delete】

【B-3/月海原学園付近/1日目・夕方】


【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP70%、SP45%、(PP100%)、3rdフォーム
[装備]:{光式・忍冬、死ヲ刻ム影、蒸気バイク・狗王}@.hack//G.U.
[蒸気バイク]
パーツ:機関 110式、装甲 100型、気筒 100型、動輪 110式
性能:最高速度+2、加速度+1、安定性+0(-1)、燃費+1、グリップ+3、特殊能力:なし
[アイテム]:基本支給品一式、{雷鼠の紋飾り、イーヒーヒー、薄明の書}@.hack//、大鎌・首削@.hack//G.U.、フレイム・コーラー@アクセル・ワールド、{FN・ファイブセブン(弾数10/20)、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン、式のナイフ@Fate/EXTRA、ダガー(ALO)@ソードアート・オンライン、{プリズム、アンダーシャツ}@ロックマンエグゼ3、???@???、{H&K MP5K、ルガー P08}@マトリックスシリーズ、ジョブ・エクステンド(GGO)@VRロワ
[ポイント]:300ポイント/1(+1)kill
[思考]
基本:
0:……歩くような速さでも前に進む
1:学園へと戻る
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前です。
※設定画面【使用アバターの変更】の【楚良】のプロテクトは解除されました。

【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP80%/デュエルアバター 、令呪一画
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3、エリアワード『絶望の』、{セグメント1-2}@.hack//、{インビンシブル(大破)、サフラン・ハート、サフラン・ヘルム、サフラン・ガントレット、サフラン・アーマー、サフラン・ブーツ}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、死のタロット@.hack//G.U.、ヴォーパルの剣@Fate/EXTRA
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
1:学園にいるという集団と合流する
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:ダメージ(中)、魔力消費(大)
[備考]
時期は少なくとも9巻より後。

【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP60%
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、{逃煙連球、割引き券}@.hack//G.U.、エリアワード『絶望の』、ナビチップ「セレナード」@ロックマンエグゼ3、ハイポーション×3@ソードアート・オンライン、恋愛映画のデータ@パワプロクンポケット12、ワイドソード@ロックマンエグゼ3、noitnetni.cyl_3
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:みんなと共にハセヲを追い、スケィスと戦ってカイトの仇を取る。
2:《災禍の鎧》には気を付ける。
※時期は原作終了後、ミア復活イベントを終了しているかは不明。


634 : ナミダの想い〜もっと強く 遥か遠く〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:27:19 rYtSri8E0

【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP60%、PP60%
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:{静カナル緑ノ園、銃剣・白浪、DG-Y(8/8発)}@.hack//G.U.、{邪眼剣、スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:300ポイント/1kill(+4)
[思考]
基本:“真実”を知る。
1:ハセヲの様子を確かめる。その為に月海原学園に向かう。
2:利用できるものは全て利用する。
3:トワイスと<Glunwald>の反旗を警戒。
4:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
5:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です。
※サチからSAOに関する情報を得ました。
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています。
※ウイルスの存在そのものを疑っています。
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。
※このデスゲームにクビアが関わっているのではないかと考えていますが、確信はありません。
※GM達は一枚岩でなく、それぞれの目的を持って行動していると考えています。
※デスゲームの根幹にはモルガナが存在し、またスケィス以外の『八相』及びAIDAがモンスターエリアにも潜んでいるかもしれないと推測しています。


以下、オーヴァンが残していったアイテム、スケィスがドロップしたアイテムの解説です。

【サフラン・ハート@アクセル・ワールド】
スケィスの初期支給品。
《ファイブ・スターズ》と呼ばれる、《七の神器(セブン・アークス)》とは別の伝説の強化外装の一つ。
呪いのアイテムとされているが、装備しても防御力が少し上がるだけ。ただし、残る四つを集めた際の効果は不明。

【楚良の双剣@hack//】
スケィスの初期支給品。
「最期の裏切り」とはまた別の武器。
スキルは下記のとおり
舞武
虎輪刃
夢幻繰武

【サフラン・ヘルム@アクセル・ワールド】
ツインズの初期支給品。
《ファイブ・スターズ》と呼ばれる、《七の神器(セブン・アークス)》とは別の伝説の強化外装の一つ。
呪いのアイテムとされているが、装備しても防御力が少し上がるだけ。ただし、残る四つを集めた際の効果は不明。

【ハイポーション×3@ソードアート・オンライン】
ツインズの初期支給品、3個セット。
「ホロウ・フラグメント」における回復アイテム。
HPを一定量回復後、HPリジェネ効果を得る。

【サフラン・ガントレット@アクセル・ワールド】
エージェント・スミスの初期支給品。
《ファイブ・スターズ》と呼ばれる、《七の神器(セブン・アークス)》とは別の伝説の強化外装の一つ。
呪いのアイテムとされているが、装備しても防御力が少し上がるだけ。ただし、残る四つを集めた際の効果は不明。

【恋愛映画のデータ@パワプロクンポケット12】
エージェント・スミスの初期支給品。
ピンクが好きになれなかったらしい映画のデータ。
高画質。

【H&K MP5K@マトリックスシリーズ】
クリムゾン・キングボルトの初期支給品。
作中でネオが二挺で使っていた短機関銃。

【死のタロット@.hack//G.U.】
クリムゾン・キングボルトの初期支給品。
敵一人を毒状態にする。

【ヴォーパルの剣@Fate/EXTRA】
ランルー君の初期支給品。
作中でラ二が作成した概念武装。
ありすのジャバウォックを退けることができる。

【ジョブ・エクステンド(GGO)@VRロワ】
ランルー君の初期支給品。
GGOの装備制限が一時的に解除されるアイテム。効果は10分で使い捨て。
バレットサークル、バレットラインが表示されるようになる。

【ルガー P08@マトリックスシリーズ】
ランル―君の初期支給品
作中でセラフが使っていた自動拳銃。

【割引き券@.hack//G.U.】
ウズキの初期支給品。
ショップにおけるアイテム価格が少し割引される。

【ワイドソード@ロックマンエグゼ3】
ウズキの初期支給品。
ソードに比べて広い範囲に攻撃することができる。

【ナビチップ「セレナード」@ロックマンエグゼ3】
スミスがアリーナで手にした「レアアイテム」
敵エリアにパネルにヒビを入れ、威力100のエネルギー弾を乱射する。
強力な高価だが闇のチップであるために「ダークホール」又は「ダークマン」のチップを使わないと使用できない。


635 : ナミダの想い〜もっと強く 遥か遠く〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:28:02 rYtSri8E0


【B-3/月海原学園/1日目・夕方】

【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP85%、MP60%(+50)、疲労(大)、深い絶望、ALOアバター
[装備]:{虚空ノ幻、虚空ノ影、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA
[アイテム]:折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンライン、不明支給品0〜1個(水系武器なし) 、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:みんなの為にも戦い、そしてデスゲームを止める。
1:ユイのことを……絶対に守る。
2:クロウのことを、残された人達に伝える。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。

【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP15%、令呪:三画
[装備]:なし
[アイテム]:{桜の特製弁当、トリガーコード(アルファ、ベータ)}@Fate/EXTRA、コードキャスト[_search]、番匠屋淳ファイル(vol.1〜Vol.4)@.hackG.U.、基本支給品一式
[ポイント]:30ポイント/0kill(+2) [思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
1:魔力の回復に努めると同時に、ユイとともにウイルスへの対策プログラムを構築する。
2:モラトリアムの開始によって集まってくるであろうプレイヤーへの対策をする。
3:他の生徒会役員となり得る人材を探す。
4:当面は学園から離れるつもりはない。
5:状況に余裕ができ次第、ダンジョン攻略を再開する。
6:キリトさんには会計あたりが似合うかもしれない。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP110%(+50%)、MP75%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※ガウェインはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。


636 : ナミダの想い〜もっと強く 遥か遠く〜  ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:28:48 rYtSri8E0


――そうしてゲームは次なる局面へと進もうとしていた。

「ここが限界でしたか、スケィス」

日本エリアのとある場所にて、一人の少女がそうつぶやいた。
このゲームにおいて彼女のことを誰一人として知るものはいなかった。
さらさらと舞う髪に、流麗な造形の鎧。
そして――金木犀の髪。

アリス。

ゲームマスターが一角にして、モルガナの“盾”を担う騎士である。

「“先駆け”であった貴方が倒れたということは、
 遂に戦いが始まるということでしょうね」

そう呟きながら彼女はエリアの片隅に浮遊するオブジェクトを見上げた。
あれは――ケルト十字であった。
鈍く赤色に光るその十字は、ほかでもないスケィスが使っていたものであった。

本体がデリートされたのちも、その十字架だけは残り続けていた。
スケィスはそこに幾多もの魂を閉じ込めている。このデータはスケィスとは独立する形で存在し、それ故に残っていた。
アリスはそれに手をかざし、回収する。他はまだしもこれだけは榊のずさんな管理に任せる訳にはいかなかった。

「しかし――《鎧》の方は回収できませんでしたか。
 本来であれば、あちらに蓄積されたプレイヤーのデータも回収したかったのですが」

《鎧》――《ザ・ディザスター》はロストされてしまった。
《ザ・ディスティ二―》と《スターキャスター》という本来のカタチを取り戻したあれは、データの海へと溶けて行ってしまった。
見つけ出すことは至難の業だろう。よしんばサルベージできたとしても、《鎧》であった頃のデータはもう残ってはいまい。

その事実を勘案し、アリスは考える。

VR018“ハセヲ”
第一相の碑文を宿したあのプレイヤーは“運命”に導かれるようにスケィスを倒した。

《鎧》の迎えた結末もまた“運命”だ。
あの《鎧》は本来の世界で迎えるはずだった結末をなぞる形で消えていった。
先ほどアメリカエリアで消滅が確認されたデウエスもまた、そうだ。

全ては定まっている。
この戦いのあとまで“神”であるモルガナが紡ぐ“運命”が引かれているのだ。

「だからこそ――だからこそ私は騎士として戦うのです。
 xxxxがやってくるその前に」

それが己の“運命”であると、その決意の下に彼女は舞台を去っていった。
もしかすると、次のメンテナンスが最後になるかもしれない。
そう、胸に抱きながら。



【アリス@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの中枢、モルガナの“盾”となる。
1:榊らを監視し、場合によっては廃棄する
2:ゲームに生じた問題を処断する。
[備考]
※性格、風貌は原作11-12巻におけるシンセサイズを施されていた状態に準拠しています。
※が、従うべき対象はモルガナへと再設定されているようです。


637 : ◆7ediZa7/Ag :2016/09/04(日) 06:29:16 rYtSri8E0
投下終了です


638 : 名無しさん :2016/09/04(日) 07:56:22 JJonZrVI0
投下乙です!
様々な因縁が絡み合ったハセヲの戦いに一つの決着がついて、そして更にまた一つの戦いが続きましたね!
自らの過去を取り戻して、そして自分自身を取り戻せたと思いきや……オーヴァンによって一つの希望を砕かれるとは。
けれども、そんな彼を仲間達が支えてくれると信じたいです。
そしてオーヴァンやアリスはどう動くか……?


639 : 名無しさん :2016/09/04(日) 10:24:06 gfArxgWk0
投下乙でした!
楚良、スケィス、《鎧》の話をきれいにまとめたところで、最後にオーヴァンに持ってかれたか……シノンさんもお疲れ様でした。

「ブラック・ロータス」の名前表記から中黒(記号の・)が抜けて「ブラックロータス」となっておりましたのでご確認ください。


640 : 名無しさん :2016/09/04(日) 12:11:41 nX8sgd9IO
投下乙です

スケィスの死に伴って幾つかの因縁が集結し、また新たな因縁が始まった


641 : ◆7ediZa7/Ag :2016/09/06(火) 02:13:29 /v4PAv3A0
指摘確認いたしました。
収録時に訂正しておきます。ありがとうございました。

また状態表にも一部ミスがあったので、こちらも直しておきます。


642 : 名無しさん :2016/09/07(水) 06:28:04 B8eMo2cM0
投下乙です

最期の最後でやっぱり持っていくオーヴァン
彼が自ら動くという事は、物語が大きく動くという事
果たして彼は、このデスゲームで一体何を目的としているのでしょう


643 : ◆NZZhM9gmig :2016/10/02(日) 12:04:50 T5rO/Hu.0
これより第三回放送を投下します。


644 : convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig :2016/10/02(日) 12:06:15 T5rO/Hu.0


|件名:定時メンテナンスのお知らせ|
|from:GM|
|to:player|

○本メールは【1日目・18:00時】段階で生存されている全てのプレイヤーの方に送信しています。
当バトルロワイアルでは6時間ごとに定時メンテナンスを行います。
メンテナンス自体は10分程度で終了しますが、それに伴いその前後でゲートが繋がりにくくなる他、幾つかの施設が使用できなくなる可能性があります。
円滑なバトルロワイアル進行の為、ご理解と協力をお願いします。

○現時点での脱落者をお知らせ致します。
|プレイヤー名|
|ユウキ|
|ヒースクリフ|
|ブルース|
|ピンク|
|ツインズ|
|ロックマン|
|スカーレット・レイン|
|エージェント・スミス|
|ラニ=Ⅷ|
|サチ|
|アスナ|
|ありす|
|モーフィアス|
|カオル|
|スケィス|
|シノン|

上記16名が脱落しました。
現時点での生存者は【17名】となります。
なお他参加者をPKされたプレイヤーには1killあたり【300ポイント】が支給されます。
ポイントの使用方法及び用途につきましては、既に配布したルールテキストを参照下さい。


○【1日目・18:00時】より開始するイベントについてお知らせ致します。

前時間より継続
【スペシャルマッチ解放】
場所:アリーナ
12:00〜24:00まで限定でアリーナにおいてスペシャルマッチを選択することができます。
このマッチ限定の特殊なボスとの戦闘ができます。
またここでしか獲得できないレアなアイテムも用意してあります。

新たに開始するイベントは以下の通りです。

【プチグソレース:ミッドナイト】
場所:ウラインターネット/ネットスラム
18:00〜24:00までの期間中、ネットスラムにおいてプチグソレースをプレイすることができます。
レースではゴールド・ゴブリンズとバトルする事になり、イベント終了時のランキングに応じてアイテムを入手できます。

【急襲! エネミー軍団!】
場所:アリーナを除くVRバトルロワイアル会場各エリア
18:00〜24:00までの期間中、一定時間ごとにバトルロワイアル会場の各エリアのうち一ヶ所がランダムで選ばれ、そのエリア内に大量のエネミーが出現します。
出現したエネミー撃破すればポイント及びアイテムを入手することができます。
また高レベルのエネミーを撃破した場合、レアアイテムの入手が可能です。
なお、アリーナのみエネミー出現の対象外となり、またエネミーがエリア間を移動することはありません。

【月影の放浪者】
場所:VRバトルロワイアル会場全域
18:00〜6:00までの期間中、一定時間戦闘を行っていないプレイヤーを対象として、強力なエネミーであるドッペルゲンガーが出現します。
ドッペルゲンガーの撃退に成功すれば、その分のキルスコアが加算されます(注:ポイントは入手できません)。
なおドッペルゲンガー出現までの時間は、対象プレイヤーのキルスコアに応じて変動します。

なお以下のイベントはこの時間を以て終了となります。

【モラトリアム】
【野球バラエティ】
【迷いの森】

では、今後とも『VRバトルロワイアル』を心行くまでお楽しみ下さい。


==================

本メールに対するメールでのご返信・お問い合わせは受け付けておりません
万一、このメールにお心当たりの無い場合は、
お手数ですが、下記アドレスまでご連絡ください。
&nowiki(){xxxx-xxxx-xxxxx@royale.co.jp}


645 : convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig :2016/10/02(日) 12:09:32 T5rO/Hu.0



001010111010101001010100010101010101010010010101111001
010101000101010101001010100010101010100100101010001010101010
101010011010100010100100101010001010101010
0101011110010101010101001101010010100100100101010001010101010
10100010101010100100101010001010101010
101010011010100010100100101010001010101010


「――――――――。
 ……ふむ。まあ、こんな所だろう」

 時刻は零時ジャスト。
 モニターに表示された定時メールの内容を確認しそう呟くと、榊はそれを全プレイヤーへと向けて一斉送信。
 同時に都合三度目となるメンテナンスを開始した。
 戦闘やデウエスの暴走の影響によって破損した会場は今頃、ブレインバーストを参考にしたプログラムによって“表向き”修復が開始されている事だろう。

「コシュー……いいのか、榊よ?」
 その様子を見ていたダークマンが、榊へとそう問いかける。
「いいのか、とは、何がだね?」
「コシュー……この、ドッペルゲンガーのイベントだ。
 ただ倒せばキルスコアが加算される――延命ができるなど、……コシュー……プレイヤーが有利になるだけではないのか?」
 問いの内容は、つい今しがた開始されたイベントについて。
 その当然の疑問に対し、榊は「なるほど」と頷く。

 確かにこのデスゲームの表向きの主題はPvPだ。
 だというのにPK以外の方法でスコアを与えては、その主題から外れてしまいかねない。
 ましてやイリーガルな力を持つプレイヤーにとっては、システムに縛られた存在であるドッペルゲンガーなど格好のカモになり得てしまう。
 場合によっては、それこそアリスの手によって粛清されてしまうこともあり得るだろう。
 ――――だが。

「これを見るといい」
 そう言って榊は、モニターにドッペルゲンガーのデータを表示させる。
「コシュー……これは……なるほどな………」
 そのデータを見て、ダークマンはこのイベントの狙いを理解する。

 そもそもドッペルゲンガーは、オリジナルである『The World R:2』の頃からして元となったプレイヤーよりも強化された状態で出現する。
 そこに榊は、イリーガルな力に対抗させるためにある三つのプログラムを追加したのだ。
 その追加された三つのプログラムとは、《武器破壊・部位欠損無効》と《認知外空間からの脱出能力》、そして《バトルフィールドの形成能力》だ。
 イリーガルな力に対し、それらの能力がもたらす効果は次の通りだ。

 《武器破壊・部位欠損無効》によって、心意技の最大の特徴である心意でしか防げない性質を半ば無効化。
 《認知外空間からの脱出能力》によって、『憑神』との戦闘そのものを回避させたのだ。
 唯一防げないのはデータそのものを改竄する《データドレイン》だが、ドッペルゲンガーはその性質上ステータスの弱体化を受け付けない。
 そしてその性質を改竄してしまえば、それは最早ドッペルゲンガーではない。つまりキルスコアは加算されない。

 つまるところ、このイベントで発生するドッペルゲンガーには、それらのイリーガルな力は効果的ではないのだ。
 加えて《バトルフィールドの形成能力》は、対象となったプレイヤーとの一対一の戦闘を強制するものだ。
 複数のプレイヤーが協力して一体のドッペルゲンガーを倒すと行くこともほぼ不可能だ。
 ……そしてこのイベントの一番に悪辣なところは、《バトルフィールドの形成能力》によって一対一を強制するという点を、イベント内容に記載していないという点だろう。


646 : convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig :2016/10/02(日) 12:10:51 T5rO/Hu.0

「確かにこのイベントは、君の懸念する通りプレイヤーの利となり得るかもしれない。
 ましてやデスゲームを否定する者たちなどは、こぞってドッペルゲンガーを狩ろうとするだろう。
 なにしろPKをせずに延命できるのだ。イベントに参加しないはずがない。
 ……だが、それこそがこのイベントの罠という訳さ。
 他者を殺さずに延命できるという偽りの希望。それに縋ったものに待ち受ける、絶望の罠。
 果たしてこのイベントに参加したプレイヤーのうち、いったい何人がドッペルゲンガーを倒し、疲弊した状態でその先のデスゲームを生き延びられるかな?」
 脳裏に思い描くその未来予想図に、榊は陰湿な笑みを浮かべる。

 このイベントが最もありがたいと感じるのは、戦闘能力を持たないプレイヤーと、それを守るプレイヤーたちだ。
 彼らはきっと、ドッペルゲンガーを利用して戦闘能力を持たないプレイヤーにキルスコアを稼がせようとするだろう。
 結果待ち受けるのは、戦闘能力を持たないプレイヤーとドッペルゲンガーの一対一。
 戦闘能力を持ちながらもキルスコアのないプレイヤーがいれば二対二になる可能性はあるが、それでもドッペルゲンガー二対との戦闘を強いられる。
 スーパーアーマーさえ備えているドッペルゲンガー二対を相手に、果たして戦闘能力を持たないプレイヤーを守りきれるかどうか……。

(……いや、俺には関係のない話だったな……)
 ダークマンはそう思い、益体のない思考を止める。
 彼の目的はただ一つ。そのためにこうして生き恥を晒しているのだ。
 その為ならば、デスゲームのプレイヤーがどうなろうと知ったことではない。

「それにだ。一つ、君の勘違いを正しておこう」
「コシュー……勘違いだと?」
「そうだ。私の役割はあくまでデスゲームの“運営”であって、イベントの“企画”ではない。
 君の懸念するドッベルゲンガーのイベントも含めて、これまでのイベントはほぼ全てがカーディナルシステムによって考案されたものだ。
 私はただ、それをデスゲームに合わせて調整していたにすぎないのだよ。
 そもそもだ。六時間という短いスパンで三つものイベントを企画することなど、私一人でできるはずがないだろう」
「コシュー……なるほど。言われてみれば、確かにその通りだな」
 榊の言葉にダークマンはそう納得する。

 バトルロワイアルのメンテナンスはこれで三度目。つまりはこれで、合計九つのイベントが発生したことになる。
 如何に参考となるデータがあるとはいえ、その全てを榊一人で企画することなど、さすがにできるはずもない。

「まあもっとも、場合によってはこのイベント自体が無意味なものになるだろうがね」
「? コシュー……それは、どういう意味だ……?」
「その時になれば否応にも理解できるさ。
 それよりも、次のメンテナンスは記念すべき一日目の終了だ。
 一つの節目となるこのイベントには、やはり特別なものを企画するべきだろう」
 ダークマンの問いには答えず、榊はそう口にして禍々しい笑みを浮かべる。
 答えるつもりはない、という事だろう。

「………コシュー……コシュー………」
 だが、それならそれで、別に構いはしない。
 そのイベントとやらに振り回されるプレイヤーを、ほんの僅かに憐れむだけだ。
 なにしろ、この男が自ら企画したらしいイベントなど、ロクなものでないことだけはたしかなのだから。

「しかしそうして考えると、デウエスにも困ったものだ。
 いくら私の望み通りの行動だったとはいえ、まさかただの一度もその“役割”を果たさずに消えるとはな。
 まあもっとも、彼女の“役割”の中で一番重要なものはすでに終えているし、代わりとなり得るものはいくらでもいる。
 プレイヤーの中には寺岡薫のように対抗策を考え付く者もいるだろうから、やはり構いはしないのだがな」


647 : convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig :2016/10/02(日) 12:11:27 T5rO/Hu.0

 デウエスの暴走によって、デスゲームの崩壊は加速している。
 それ自体は構わないのだが、おかげで仕事が増え、余興に興じる暇がなくなってきている。
 『死の恐怖(ハセヲ)』が無様に足掻きまわる様を楽しめないのは、榊にとって大いに不満だった。
 まぁもっとも、ハセヲとスケィスの戦いの顛末を考えれば、今回楽しめたかは怪しいところなのだが。

「コシュー……デウエスといえば、“アレ”の回収はいいのか?」
 ダークマンはふとあることを思い出し、それについて榊に訊ねる。
 榊の口にしたデウエスの“役割”については、自身には関係なく興味もなかったので知らない。
 だが“アレ”に関してはGM全員に関わる事柄だ。無視は出来ない。

「アレ? ああ、『碑文』のことか。デウエスに与えられた『碑文』の回収なら、アリスがしてくれるだろうさ。彼女はモルガナの、忠実なる僕だからね。
 ……いやはやまったく、その点においても彼女は落第だな。暴走するのは結構だが、せめて『碑文』を覚醒さえさせてさえくれれば、こちらの手間も省けたというのに。
 まあ、あの暴走もそのための行為だと考えれば、仕方ないと言えるだろうがね」

 ―――『碑文』。
 それは『モルガナの八相』と呼ばれるシステムを超えた………いや、ある意味においてシステムの根幹を成す八つの力だ。
 GMに選ばれたモノは、一部の例外を除き、それぞれの適性に合った碑文をモルガナから与えられている。
 その理由はGMにプレイヤー以上の能力を与えるためではなく、ある“目的”のために『碑文』を覚醒させるためだ。
 デウエスに与えられた碑文は、第三相の『増殖(メイガス)』だと聞き及んでいる。
 彼女の在り様を考えれば当然だと思えるが、しかし彼女は『碑文』を覚醒させることなく、本来の物語と同じ末路を辿った。
 寺岡薫を取り込んだだけではきっかけとなり得なかったのか、それとも何か別の理由があるのか。それはダークマンにはわからない。何しろ―――

「そうそう。君もなるべく早く覚悟を決めておきたまえ。……そう、『AIDA』に身を委ねる覚悟を、ね。
 与えられた以上僅かにも適性があるはずだが、完全適合者であってもきっかけなく『碑文』を覚醒させるのは困難だ。
 しかしAIDAならそのきっかけに――いや、ただ『碑文』を覚醒させる以上の力になってくれる。この榊が、適性もなく“コレ”の力を扱えているように。
 君とて、デウエスの二の舞にはなりたくないだろう?」
「………コシュー………コシュー………」

 何しろ、『碑文』を覚醒させられていないのは、ダークマン自身も同じことだからだ。

 ただ『碑文』を覚醒させるだけなら、プレイヤーに支給するほうが環境的にもより確実だろう。
 そうしないのは、覚醒した『碑文』の回収の手間に加えて、AIDAという最終手段があるからだ。
 問題は、AIDAを利用すれば、人格に異常が発生してしまうという点だが……。
 しかしGMとて時間は有限だ。“その時”までに『碑文』を覚醒させられなければ、どのみちAIDAを使うことになる。
 榊が言っているのは、つまりはそう言う事だ。

「では私は、次のイベントに備え、“彼”の最終調整に入らせてもらうとするよ。なにしろ、時間は有限なのだから」
 そう言って榊は、ダークマンの返答を待つことなく、部屋の隅に新たに備えられた設備へと移動する。
「………コシュー………コシュー………」
 その設備を見て、ダークマンは僅かに心を騒めかせる。
 そこには、トワイス・ピースマンによって回収されたロックマンのPCがあった。

 ……否。それは正確には、ロックマンではない。ロックマンのコアプログラムはすでに壊れた。
 あれは回収されたロックマンのPCを基に、ボルドーというPKを改造し再構築された“誰か”だ。
 その証拠に、マスクに覆われた顔から唯一覗ける、薄く開かれたその目には、本来の彼にあった意志の光は僅かにも存在しない。
 加えてそのPCボディは、バグスタイルを基本としてAIDAの浸食を深く受け、彼のシンボルマークがあった胸部には、ISSキットの本体である生物的な目玉が入れ替わるように寄生している。
 本来のロックマンの面影など、もはやほとんど残っていない。
 あえて呼称するのならば、ロックマン.hack/AIDAバグスタイル・ISSモード、といったところだろうか。


648 : convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig :2016/10/02(日) 12:12:09 T5rO/Hu.0

「…………コシュー………コシュー………」
 ダークマンは無言のまま背を向け、知識の蛇を後にする。
 元となったボルドーのプレイヤーがどうなったかなど、ダークマンにはどうでもよかった。
 彼はただ、かつて自分を倒した存在のなれの果てを、静かに憐れんでいた。


【?-?/知識の蛇/一日目・夕方】

【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームを正常に運営する。
1:再構築したロックマンを“有効活用”する。
2:アリスの動向に期待する。
[備考]
※ゲームを“運営”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※彼はあくまで真実の一端しか知りません。
※第?相の碑文@.hack//を所有していますが、彼自身に適正はなく、AIDAによって支配している状態です。

【ダークマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:目的のために任務を果たす。
0:……………………。
1:次の任務に向かう。
[備考]
※参戦時期は、ロックマンに倒された後です。
※デウエスに与えられていた“役割”については、何も知りません。
※第?相の碑文@.hack//を所有していますが、まだ覚醒していません。

【ボルドー@.hack//G.U.】
  ↓   ↓   ↓
【ロックマン.hack@ロックマンエグゼ3(?)】
[AIDA] <Grunwald>
[ステータス]:HP???%、SP???%、PP100%、AIDA感染(悪性変異)/AIDAバグスタイル・ISSモード
[装備]:サイトバッチ@ロックマンエグゼ3、ISSキット@アクセル・ワールド
[アイテム]:{バリアブルソード[B]、ムラマサブレード[M] 、マグナム2[B] }@ロックマンエグゼ3
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:????????
1:????????
[備考]
※ロックマンのPCデータを基にボルドーのPCを改造し、ロックマンのPCを再構成ました。
 ロックマンのPCデータの影響や、本来のPCであるボルドーのプレイヤーがどうなったかは不明です。
※このPCのコントロール権は、<Grunwald>が完全に掌握しています。
※ISSキットを装備したことで、負の心意が使用可能になりました。
※『救世主の力の欠片』を取り込んだことで、複数のPCに同時感染し、その感染率が相手の精神力を上回った時、そのPCのコントロール権を奪う能力を獲得しました。


649 : convert vol.3 to vol.4 ◆NZZhM9gmig :2016/10/02(日) 12:12:37 T5rO/Hu.0

【ドッペルゲンガー@.hack//G.U.】
[攻撃対象]:プレイヤー名
[ステータス]:全パラメーター+10%、スーパーアーマー、武器破壊・部位欠損無効
[装備]:{刃威音・偽(アビリティ1、アビリティ2、アビリティ3)、青ざめし君、真に恐れる者}@.hack//G.U.
[備考]
※ドッペルゲンガーはイベント中、プレイヤーが一定時間戦闘を行わなかった場合に、そのプレイヤーを攻撃対象として一エリア範囲内のどこかにランダムで出現します。
 ドッペルゲンガー出現までの時間は【一時間+キルスコア×一時間】となります。
※ドッペルゲンガーのアバターやステータスは対象となったプレイヤーと同一(+α)ですが、影を纏っており暗い色合いとなっています。
 また対象プレイヤーがアバターや武器を変更した場合、ドッペルゲンガーの外見・装備も同様に変化します。
※対象プレイヤーがサーヴァントを従えていた場合、そのサーヴァントも武器扱いとしてコピーします。
※ドッペルゲンガーは対象プレイヤーが使用可能なほぼすべてのスキルと、マリプス(自身のHPを300回復)が使用可能です。
 ただし、一部を除く宝具や心意などの仕様外スキルは使用できません。
※スーパーアーマーの効果により、通常攻撃によるノックバックは発生しません。
※武器破壊・部位欠損無効の効果により、クリティカル・ポイントが存在しません。
※憑神の発動によって認知外空間へと飲み込まれた場合、即座に通常空間へと転移します。
※ドッペルゲンガーと対象プレイヤーが接触した場合、ドッペルゲンガーを中心にバトルフィールドが形成され、対象プレイヤーを閉じ込めます。
 対象外プレイヤーのバトルフィールド内への侵入は出来ません。もし何らかの方法で侵入した場合は、フィールド外へと弾き飛ばされます。
 ただし、複数の対象プレイヤーが同時にドッペルゲンガーと接触した場合、一つのバトルフィールド内で同時に戦闘になる可能性はあります。

【青ざめし君@.hack//G.U.】
ドッペルゲンガー専用の防具その1。
・物理ダメージ-75%:物理攻撃のダメージを75%軽減する
・魔法ダメージ-75%:魔法攻撃のダメージを75%軽減する

【真に恐れる者@.hack//G.U.】
ドッペルゲンガー専用の装飾品その1。
・速度力+50%:移動速度が50%アップする
・HPリカバリー:HPが徐々に回復する

【刃威音・偽@.hack//G.U.】
ドッペルゲンガー専用の武器その1。厳密にはVRロワオリジナル。
対象となったプレイヤーが装備している武器を、ドッペルと同様の影を纏った状態で複製する。
ただし、その武器にもともと備わっていたアビリティは失われており、代わりに以下のアビリティの内三つをランダムでセットしている。
対象プレイヤーが複数の武器を装備していた場合も一つの武器として扱われ、武器を換装した場合もセットされたアビリティは変わらない。
・悲痛の一撃:クリティカルヒット発生確率を25%アップする
・過去への誘い:通常攻撃ヒット時に、対象のHPを強制的に半減させる
・肉体の掌握:通常攻撃ヒット時に、ダメージ値の25%を自分のHPとして吸収する
・信念の掌握:通常攻撃ヒット時に、ダメージ値の25%を自分のSPとして吸収する
・諒闇の撹乱:通常攻撃ヒット時に、バッドステータス・混乱を与える


650 : 黄金の乙女たち ◆NZZhM9gmig :2016/10/02(日) 12:15:19 T5rO/Hu.0


     -1


「いらっしゃい。丁度コーヒーが入ったところよ。飲んでいく?」

 “その部屋”へと入るなり、部屋の主たる老婆はテーブルの上のカップにコーヒーを注ぎながらそう言った。
 テーブルに置かれたカップは二人分あり、自分がこの部屋に訪れることを彼女が予知していたことがわかる。
 老婆の素性を考えれば、それはおかしなことではない。
 何しろ彼女――オラクルは、マトリックスの世界において“預言者”と呼ばれた存在なのだから。

「気づかいはありがたいが、遠慮しておくよ。
 ここへ寄ったのは単に、約束を果たすためでしかないからね」
 だが来訪者――トワイスは席に座ることなくそう答え、インベントリから取り出したアイテムをテーブルへと置く。
「第四相の欠片(ロストウェポン)。……そう。オーヴァンから彼への贈り物ね。
 この“世界”で彼と『第四相の碑文(フィドヘル)』との繋がりを知るのは、オーヴァンだけだから」
 そう言ってオラクルは、視線を部屋の隅へと向ける。
 そこには安楽椅子に力なくもたれ掛かる、壮年の男性(ワイズマン)――のアバターをした少年(火野拓海)の姿があった。

 ワイズマンがこの部屋にいるのは、彼の身柄をオーヴァンから引き取った榊が運んできたからだ。
 一先ずの安置所として、同じ預言者のいる部屋を選んだのか。それとも別の目的があって、わざわざこの部屋に運んできたのか。
 いずれにせよ、AIDAに侵食され意識を封じられた彼は、こうして自身の事が話題に上がっても目覚める様子を見せない。
 おそらく今の彼は、その体に剣を突き立てられたところで、指示がない限りは身動き一つ取らないだろう。

「ついさっき、スケィスが倒されたわ。
 マハも、ちょっと変わった形ではあるけれど、すでに覚醒している。
 これで覚醒した『碑文』は六つ。残る二つが目覚めるのも、そう遅くはないでしょうね」
 世間話のように紡がれたその言葉は、“預言者”であるオラクルの言葉であるからこそ、重い意味を持っていた。
「そうか。モルガナの目的は、恙なく果たされているという訳だ。安心したよ」
 だがトワイスは、むしろ気が楽になったとでもいうかのようにそう言葉を返した。
 そのあまりのそっけなさに、さすがのオラクルも僅かばかり表情を変える。

「………………。
 あなたは本当に、それでいいの?」
「いい、とは?」
 僅かな間を置いて掛けられたオラクルの問いに、トワイスは静かに訊き返す。
 質問の意図が読み取れなかったのか、それとも解った上で、そう訊き返したのか。

「私達ゲームマスターには、その“役割”と一緒に『碑文』が与えられている。
 それは戦う力としてではなく、それぞれの“役割”を果たすため。
 私の『運命の預言者(フィドヘル)』がそうであるように、あなたの『再誕(コルベニク)』もそう。
 けど“モルガナの望み”が叶えられた時、『再誕』を司るあなたは――――」

 オラクルの役割は、“預言”の力を使い、モルガナの目的に沿うようバトルロワイアルの流れに布石を打つこと。
 以前にファンタジーエリアの小屋で、茅場明彦/ヒースクリフとオーヴァンに接触したのもそのためだ。
 あそこで二人と接触していなければ、このバトルロワイアルの状況は現在とは大きく違ったものとなっていただろう。
 それが“選択”を司るという事。
 あの小屋での“選択”によって二人は決別したが、場合によっては、二人が手を組む未来もあり得たかもしれなかった。
 仮にそうなってしまえば、GM側にとって大きな不利となっていたことは想像に難くない。

 対してトワイスの役割は、バトルロワイアルで起きたあらゆる事象を“記録”すること。
 トワイスが『再誕の碑文』を与えられているのも、その関係からだ。
 ……いやそもそも、八相という存在自体が、本来は“ある目的”のためのデータ収集プログラムに過ぎなかった。
 それがモンスターとして存在しているのは、アウラあるいは腕輪所持者への対抗手段として、モルガナがプログラムを変質させたからだ。
 その八相本来の役割を、トワイスは『再誕の碑文』によって代行しているのだ。
 そしてその“目的”――つまりモルガナの望みが果たされた時、トワイスの“役割”は終わり本来の『再誕』が発動する。


651 : 黄金の乙女たち ◆NZZhM9gmig :2016/10/02(日) 12:15:51 T5rO/Hu.0

 だが『再誕』とは文字通り、再び誕生するという事。そして『再誕』を果たすためには一度死ななければならない。
 かつて女神アウラが、自らを犠牲にすることで“薄明の女神”として新生ように。
 モルガナの目的が果たされ『再誕』が発動すれば、『碑文』の宿主であるトワイスは、その反動で死に至る。
 しかしそうして発動した『再誕』で蘇るのは、当然トワイスではない。
 その事を、『再誕の碑文』を宿すトワイス自身が理解していないはずがない。
 だというのに、オラクルには、彼がその事に怖れを懐いているようにはとても見えなかったのだ。

「……驚いたな。そんな事を、まさか、他ならぬ君が口にするとは。
 預言者といえども、全てを知ることは出来ない、という事か」
 そんなオラクルへと、トワイスは本当に意外そうに口にした。

「君は以前こう言ったね。
 私には未来がない。そもそも選択をする余地が残っていない、と。
 その通りだ。サイバーゴーストである私は、トワイス・H・ピースマンという人間の残像に過ぎない。
 故に、終焉は約束されている。私には未来がなく、選択の余地がなく、結末は変えられない」

 それは、以前交わした会話の焼き直しだ。
 過去の亡霊と未来の預言者。
 コインの表と裏のような両者は、それ故に語ることなどすでにない。
 けれどトワイスは、しかし、と言葉を続ける。

「私の結末が変えられずとも、未来の全てが決まっているわけではない。
 今を生きる“彼ら”の結末は、いまだ空白のままだ。
 いやそもそも、未来が始めから決まっているのなら、“預言者”などという存在は不要だろう」

 “預言者(オラクル)”が必要とされているのは、モルガナの目的に沿うように布石を打つためだ。
 だが未来が決まっているというのなら、そんな必要はない。
 GMが、あるいはプレイヤーが何をしようと、未来は定められた形に収束する。
 だが現実にはこうして“預言者”が必要とされている。それはつまり、未来は不確かなままだという事の証明に他ならない。

「未来が決まっていない以上、私のする事は変わらない。
 より良き未来に繋がるよう、バトルロワイアルを進展させる。
 “選択”はすでに終えている。そのために私は、今もこうして欠片であり続けている。
 余白(わたし)を埋めるだろう“彼ら”の未来が、その喪失に見合う、美しい紋様(アートグラフ)を描くようにと――――」

 それは、以前には語られなかった“今を生きる者”の話。
 トワイスの口にする“彼ら”が誰を表しているのか。それはオラクルの“観る”未来からはわからない。
 オラクルが見るのは数多に分岐する未来であって、過去は勿論、現在ですらないからだ。
 だが一つ確かなことは、トワイスは常に“前進”する事――喪失に見合うだけの成果を望んでいる。
 そしてこのデスゲームで、何かを喪失しているのは一方だけ。
 だからきっと、トワイスの口にする“彼ら”とは――――

「さて。そろそろメンテナンスの時間だ。もうじき“彼女”も帰ってくる。
 その前に、私は私の“役割”を果たすとしよう」

 そうして、トワイス・H・ピースマンはこの部屋から退室した。
 彼の“役割”である、“記録”を行いに行ったのだ。
 残されたものは、テーブルの上の【其ハ声ヲ預カル者(ロストウェポン)】と、結局ただの一度も口のつけられなかったコーヒーだけだ。

「……“彼女”、ね」
 残されたコーヒーを見詰めながら、オラクルはぽつりと呟く。
 トワイスの口にした“彼女”とは、モルガナのことではない。

「“彼女”――VRGMユニット、ナンバー001。ラベリング“■■■”……いえ、今は“■■”だったかしら。
 最初のゲームマスターである“彼女”は、いったいどんな“選択”を選んだのかしらね」

 ある意味において、このデスゲームの発端となった少女。
 彼女がいなければ、このバトルロワイアルはあり得なかった。
 だが彼女ほどモルガナを意に介していないGMもいない。
 それならば、“彼女”はいったい何を想い、ゲームマスターとなったのか。


652 : 黄金の乙女たち ◆NZZhM9gmig :2016/10/02(日) 12:16:19 T5rO/Hu.0

「いずれにせよ、私のすることに変わりはないわ」

 その行動こそ制限されているが、『第四相の碑文』によって、オラクルの予知能力は強化されている。
 その力は最早“予測”を超えて“測定”の域に届こうかというほど。
 その気になれば、バトルロワイアルの行く末を全て視通し、望むままに定めることも不可能ではないだろう。
 それこそGMの思うようにデスゲームを展開させることも、逆に破綻させプレイヤーを勝利させることも。

 だが、オラクルはそれを行わない。
 トワイスのような過去の亡霊でも、自分のような未来に縛られた者でもなく。
 過去を踏み越え、未来を夢見ながらも、“今”を生きる者たち。“彼ら”に“この世界”の“未来”を託す。
 それが、預言者たる彼女の選んだ“選択”だったからだ。


 スケィスが倒され、バトルロワイアルは折り返しに入ろうとしている。
 おそらく一日目の終了とともに、デスゲームの様相は大きく変わるだろう。
 その時プレイヤーが、あるいはGMが、どんな“選択”をするのか。
 “運命の預言者”は、“その時”が来るまで、ただ未来を見詰めるだけだ――――。


【?-?/オラクルの部屋/一日目・夕方】

【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの情勢を“記録”する。
1:より良き未来に繋がるよう、ゲームを次なる展開へと勧める。
[備考]
※ゲームを“記録”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※第八相『再誕』の碑文@.hack//を所有しています。
※モルガナの目的が果たされた時、本当の『再誕』が発動し、トワイスは死に至ります。

【オラクル@マトリクスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本: ゲームの進行がモルガナの目的に沿うように布石を打つ。
1:“その時”が来るまで、ゲームの未来を予測する。
2:“今”を生きる者に未来を託す。
[備考]
※“布石を打つ”事が彼女の役割です。それ以上の権限はありません。
※予知能力によって未来を知ることができますが、全てを知ることができる訳ではありません。
※第四相『運命の預言者』@.hack//の碑文を所有しています。
※『碑文』の影響により予知能力が強化されていますが、自らそれを活用する気はありません。

【ワイズマン@.hack//】
[ステータス]:HP??% 、SP??%、AIDA感染(<Grunwald>)
[装備]:其ハ声ヲ預カル者@.hack//G.U.
[アイテム]:なし
[ポイント]:???ポイント/?kill
[思考]
基本:<Glunwald>に支配されているため不明。
[備考]
※<Grunwald>の能力により同時感染しており、またその意識も封じられています。

[全体の備考]
※一部の例外を除き、GMにはそれぞれ【モルガナの碑文】が与えられています。


     0


そこは世界の欲望を
詰め込んだ館。
しかし、そこに住む三姉妹が
自らの欲望に従うことはない。


653 : ◆NZZhM9gmig :2016/10/02(日) 12:17:45 T5rO/Hu.0
以上で投下を終了します。
何か意見や修正点があればお願いします。


654 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:18:17 l4XJx9Z.0
本投下乙です。
デスゲームの犠牲者がここまで出たことによる寂しさと、GMが用意した新たなる戦力の恐ろしさを改めて実感致しました。
そしてエネミーやドッペルゲンガーだけでなく、ワイズマンやボルドー(ロックマン)ともいずれ戦う時が来るのでしょうか。


では自分も予約分の投下をさせて頂きます。


655 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:19:55 l4XJx9Z.0


     1◆


 三度目の定時メールが強制的に展開された後、学園内に重苦しい空気が漂っている。
 キリトとユイ、そしてジローにとって親しみ深い人物の名が何人も書かれていたのだから。三人とも、沈鬱な表情を浮かべている。
 また、岸波白野だって同じ。ラニ=Ⅷやありすの名前を見た途端、どうしようもないやるせなさが胸の奥より湧き上がっていた。
 彼女達とは敵対して、この手で打ち倒した。覚悟は決めたはずなのに、胸の痛みは消えない。
 


 ラニは消えゆくその時、何を想ったのか。最後の願いすらも断たれて、どんな心境だったのか。
 ありす/アリス達は何を想いながら最期に微笑んだのか。セイバーとキャスターが語ったように、満たされた終わり(さいご)を迎えられたのだろうか。
 もしも生まれ変われるのであれば、彼女達には幸福な人生を歩んで欲しい。それを祈ることだけが、岸波白野にできる唯一の弔いだ。
 

 この六時間で散ってしまった者達は彼女達だけではなく、大勢いる。
 その中には、岸波白野達の知る名前がいくつもあった。


 ヒースクリフ。
 キリトを始めとした数多のプレイヤーをSAOサーバーに閉じ込め、多くの命を奪った世界的大犯罪者だ。
 デスゲームの打倒を目指していたようだが、彼のことは絶対に認められない。
 ユイ達を苦しめて、そしてサチに『死の恐怖』を突き付けた男だ。ヒースクリフを許しては、SAOの悲劇がまた繰り返される危険がある。


 一方で、彼には慎二を守ってもらった恩もあるので、それに報いるべきだ。
 岸波白野にできることは、デスゲームの打倒という遺志を継ぐことだけ。それ以外の弔いなど存在しない。


 ピンク。
 カオル。
 呪いのゲームの謎を解き明かそうと尽力したジローの仲間。
 この二人がどんな人物だったのか、岸波白野は全く知らない。けれど、ジローに力を貸したからには、信頼に足る人物であることは確かだろう。
 もしも巡り合えたら、このデスゲームを打ち破る為に支え合っていたかもしれない。彼女達の無念を晴らす為にも、戦わなければならなかった。

「アスナ達だけじゃなく、カオルとシノンまで…………くそっ!」

 そしてキリトもまた、彼女達の死に憤りを抱いている。
 シルバー・クロウがオーヴァンによって命を奪われ、恐怖のあまりにサチはキリトから去ってしまった。
 キリトはサチを探し求めていた最中、ピンクやカオルと出会ったらしい。そこで、キリトはピンクがサチを暴走させた張本人だと誤解し、襲ってしまったようだ。
 そんなピンクと共にいたというブルースの名もメールに記されている。あのフォルテに破れてしまったと、キリトは語った。

「…………………………」

 ジローは沈鬱な表情のまま、黙り込んでいる。
 無理もない。呪いのゲームを勝ち残ったとはいえ、彼自身は平穏な日常を生きる人間でしかない。
 一日にも満たない時間で、親しい人間の死を立て続けに突き付けられては、心が折れてもおかしくなかった。
 特に彼は、自分よりも遥かに幼い友人を失ったばかりでもあるのだから。


656 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:20:36 l4XJx9Z.0


 スカーレット・レイン。
 レオが心から信頼したバースト・リンカーにして、対主催生徒会副会長であった少女。
 カイトと共にエージェント・スミスの一人を打ち破ったが、その後に現れたオーヴァンとの戦いに敗れて散った。


 そんなレインの遺品を握り締めているジローの姿が、岸波白野の目に飛び込んでくる。
 少し見つめるだけ胸が痛むが、決して目を逸らすことはできない。ジローの罪は、岸波白野の罪でもあるから。
 けれども、決して後悔はしないつもりだ。ここで少しでも足を止めることは、レインの遺志を裏切ることに他ならない。 
 

 ユウキ。
 キリトとユイが信頼するプレイヤーの一人で、絶剣の異名を持つ凄腕の剣士だ。その実力は本物で、なんとあの慎二すらも認める程だったらしい。
 そんな彼女がこのデスゲームでいかなる想いを抱いたのか、岸波白野は知らない。けれど、キリト達が認めたからには、高潔なる勇気を持つはずだった。
 

 サチ。
 岸波白野が、そしてキリトが守りたいと願っていた少女。
 彼女は死にたくないと願い、ただ『死の恐怖』に怯えていた。そして、悲痛な感情に寄り添ったヘレンと共に、終わりのない過去へと去ってしまう。
 死を拒み続けたサチにとって唯一の選択が、逃避という救い。だが、何も変わらない静止した世界など、死と何が違うのか。
 未来は変えることができる。良い様にも、悪い様にも。けれど、それを成そうという力は、サチに残っていない。
 だから、彼女達の選択を責めることなど誰にもできなかった。


 シノン。
 彼女もまた、キリト達が信頼する仲間の一人だ。
 ハセヲを追いかけ、そして別れてしまったが…………再会はもう叶わない。
 シノンがいてくれたからこそ、エージェント・スミスやスケィスの脅威に対主催生徒会は辿り着けた。彼女がスミスの一人を討ち取ってくれたからこそ、自分達はこうして生きている。
 シノンの姿を。そして自分達に残してくれた多くのものを、忘れてはいけなかった。


 そして、アスナ。
 キリトとユイにとって、かけがえのない存在だ。彼女の死は、受け入れがたい事実のはずだ。

「シノンさん、ママ…………」

 かけがえのない仲間と、最愛の母を失ったユイの声は震えている。
 彼女は今にも崩れ落ちそうだった。最愛の母と巡り合うことができないまま、その喪失だけを一方的に突き付けられる。
 どれほどの悲しみと苦痛を背負わなければならないのか……岸波白野には推し量ることすらできない。せめて、彼女の心に寄り添っていたかった。
 
「ユイ」

 けれど、岸波白野の想いを代弁するかのように、キリトはユイを抱き締める。
 ユイは瞳を潤ませながら、父の顔を見上げた。二人は何も言わず、ただ悲しげな表情で見つめ合っているだけ。
 


 ユイとサチ/ヘレンの時と違って、あまりにも悲しかった。
 彼女達にはまだ微かな救いが残っていたけど、今はそれすらも歪んだシステムによって打ち砕かれている。なのに二人は涙を流さず、気丈にも失う苦しみを耐えていた。
 弱音を吐いてほしかった。岸波白野達を頼ってほしかった。大切な人の死を堪える必要なんて、どこにもないのだから。


657 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:21:45 l4XJx9Z.0


 その時だった。例の警報音が鳴り響いたのは。
 同時にウインドウが展開される。校門に現れたのは、見知らぬ一人の男と漆黒のアバター。そして緑衣のアーチャーと褐色肌の少女だった。

「あれは、ハセヲさん?」
「…………ブ>*+ロ-ズ%n」

 レオとカイトは同時に名前を呼ぶ。
 その名前を岸波白野は知っている。シノンが探し求めていたプレイヤーと、オリジナルのカイトの相棒とも呼べる少女の名だ。
 だが、漆黒のアバターには見覚えがない。…………いや、もしかしたらブラックローズと共にいた少女かもしれなかった。
 このデスゲームには、複数のアバターの切り替えを可能とするシステムが存在する。岸波白野が目撃したのは仮の姿で、あれこそが真のスタイルかもしれない。


 そして四人は何の躊躇もなく校庭に足を踏み入れる。
 どうして彼らが行動を共にしているのかはわからないが、少なくとも敵対していないのは確かだった。
 何故ならハセヲはカイトやシノンが信頼したプレイヤーであり、そんなハセヲは他の三人と同行している。ならば、緑衣のアーチャー達とも手を取り合えるのではないか?

「なぁ、レオ。ハセヲって確か……」
「はい。シノンさんが追っていたプレイヤーであり、ジローさんの先輩でもあります。
 …………皆さん、無礼を承知でお尋ねしますが、ハセヲさん達を出迎えて頂いてもよろしいでしょうか?
 僕達は互いに支え合わなければいけませんから」

 レオは冷静に語るが、そこにはどこか寂しさも醸し出されている。
 きっと、彼は察しているのだろう。ハセヲもまた、自分達と同じ悲しみを背負っていることを。
 志乃。アトリ。そしてシノン。ハセヲと親しい人物の名が、定時メールで書かれ続けている。彼女達の喪失による痛みを救いたいと、レオは考えているはずだ。
 それは岸波白野も……いや、対主催生徒会にいる全員も同じだった。



     2◆◆



 もう二度と戻らないと決めたはずの土を、ハセヲ/三崎亮は再び踏み締める。
 一度は別離を誓った者達の元に戻ることに躊躇はあるも、抵抗はない。歩くような早さでも前に進むと誓ったからだ。
 この学園にはレオとトモコがいる。恐らく、シノンからレオ達のことを任されたキシナミという男や、かつて敵対したトライエッジも既に合流したはずだ。

(あいつらには……シノンのことを詫びるべきだな)

 シノンの最期の姿がハセヲの脳裏に過ぎる。
 オーヴァンの三爪痕によって身体を無残に貫かれ、地獄の激痛を味わった。けれど、シノンは最期までこの身を案じてくれた。
 志乃だって、微笑みを向けてくれていた。本当は苦しかったはずなのに、それを微塵にも出さないで微笑んでいた。
 アトリもそうだ。身体が消える最後の瞬間まで、ただハセヲのことだけを見ていた。なかないで、と願ってくれていた。


 彼女達の姿を想うだけで、この胸が痛む。
 だが後悔などしてはならない。ああすれば良かったなど考えない。違う"IF"に期待してはいけない。
 どれだけ考えようとも、今が変わる訳ではない。時計の針が戻るなどあり得ないし、ましてや優勝して叶う願いとやらに縋ってはいけなかった。


 だから今はシノンのことをキシナミ達に話さなければならない。
 シノンはオーヴァンに命を奪われた。けれど、それはハセヲの責任でもある。『死の恐怖』の名を背負ったからこそ、シノンに死を齎すことになった。
 しかし、その選択を嘆くことはシノンに対する裏切りであり、何よりもブラック・ロータスとブラックローズは怒るだろう。
 ウラインターネットに駆け付けたことで、ハセヲは二人を救うことができた。少しでも遅かったら、スミスのようなPKによって命を奪われていたかもしれない。結果論に過ぎなくても、この手で彼女達を守ったのも事実だ。
 シノンを想うのならば、ここにいる彼女達と共に歩むべきだろう。


658 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:23:08 l4XJx9Z.0


「……スカーレット・レイン…………!」


 そしてブラック・ロータスは悲痛な呟きを漏らす。
 どうしたのか、などと無粋な質問はしない。あの悪辣極まりないメールに、彼女の知る名前が書かれていた。
 文章が淡々としていただけに、怒りが余計に湧き上がる。数字をカウントするような感覚で人の死を告げられて、許せるわけがなかった。
 志乃やアトリ達の時もそうだった。榊やトワイスは人の死に何かを感じることなく、ただ神の座に居座っている。この手で叩き潰さなければ許せなかった。

「あの男が残したと思われる、強化外装と思われる赤い残骸……
 まさか、彼女の命を奪ったのは…………!?」

 オーヴァンが赤い残骸を所持していた理由はただ一つ。
 スカーレット・レインの命を奪い、そのまま強化外装を破壊しただけのこと。三爪痕の力さえあれば、不可能ではない。
 

「黒雪姫…………」
「…………彼女とは、昔いざこざがあった。
 私の過ちのせいで、彼女や彼女が所属するギルドのメンバーを深い悲しみに叩き落してしまった。それは決して許されない罪だ。
 だけど、クロウの……ハルユキ君のおかげで、私は過ちを償うことができた。そして少しずつだが、レインとも分かり合えるようになった
 互いに何度も助け合ったつもりでもあったよ…………」

 ブラック・ロータスの語りに、誰も何も言えない。ブラックローズもアーチャーも、ただ悲しげに見守っているだけ。
 ハセヲも同じ。今は何を言っても、中途半端な励ましにしかならない。大切な者を失ったばかりの相手に言えるほど、無粋ではなかった。

「…………すまないな、私の感傷に付き合わせて。もうすぐ、ハセヲ君の仲間達に会えるというのに。
 こんな所で止まっている訳にもいかないだろう?」
「ロータス……あんた、もしかして…………」
「それ以上は言うな、ハセヲ君。
 辛いのは私達だけではない。レオや、シノン君が信じたキシナミ君という者も同じなはずだ。
 それにハセヲ君は歩き続けるのだろう? ならば、私達もそれを信じて前を進む……散っていった彼らの為にも。
 その気持ちに嘘はないはずだ」
「……そうだったな。今は、あいつらの所に戻らないと」

 その一言と共に、四人は再び歩む。
 ブラック・ロータスの言葉を否定する者は誰もいない。自分達にできることは、前に進む以外にないのだから。


 昇降口が見えた途端、建物より複数の足音が聞こえてくる。
 そうして赤い制服を纏った少年……レオが現れた。隣には白銀の鎧を纏った騎士・ガウェインと、あのトライエッジが立っている。
 三人に続くように、見覚えのない奴らもぞろぞろと現れた。俺がいない間に随分と仲間が増えたなと、ハセヲは安堵する。

「カイト……!」

 ブラックローズはトライエッジを……蒼炎のカイトの名を呼んだ。
 当のカイトは鋭い眼光をそのままに、ブラックローズの顔を見つめている。屍人形(ゾンビ)のようにおぞましく、感情を読み取ることができない。
 かつてはオーヴァンの言葉に惑わされて、彼を志乃の仇だと勘違いしてしまい激突した。けれども今はシノンの想いを受け継いで、こうしてレオがいる学園を守ってくれている。
 その事実に、言葉に言い表せない複雑な感情が芽生えつつあった。


659 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:24:26 l4XJx9Z.0

「おかえりなさい、ハセヲさん」

 そんなハセヲの心境を知ってか知らずか、レオは微笑みと共に一歩前を踏み出す。
 彼の表情からは怒りや失望は感じられない。ただ、自分達が生きていることを心から喜んでいるようだった。

「レオ……無事だったんだな」
「はい、おかげ様で。ハセヲさんこそ、ご無事で何よりです」
「……すまねえ。俺が勝手なことをしたせいで、シノンが…………!」
「待ってください、ハセヲさん。
 あなたの言いたいことはわかりますが、まずは落ち着ける部屋で身体を休めましょう。お互い、積もる話もありますから。
 それに今後のことだって、話さなければいけませんし」
「ああ……わかった」

 レオの言葉に否定しない。
 事実、ここに戻るまでの連戦で酷く疲弊した。ボルドーやスミスと戦い、スケィスとの決着をつけて、そしてオーヴァンによってシノンを奪われた。
 また黒薔薇の騎士団も、聞いた話によるとまともに休む暇が与えられていない。デスゲームが未だに続いている以上、彼女達にも休息の時を与えなければいけなかった。



     3◆◆◆



 対主催生徒会と黒薔薇騎士団が同盟を結ぶまで、それほどの時間は必要としなかった。緑衣のアーチャーとは敵同士であったが、今の状況で対立するメリットなど互いに存在しない。
 無論、始まりの街とも呼べるアメリカエリアで一悶着はあったが、それに拘って騎士団を拒む者は誰もいなかった。

「寛大な余は大抵の過ちは水に流すことにしているが、そなたが奏者に毒を盛ったことだけは絶対に許さん。
 もしも少しでも狼藉を働くというのであれば、たたっ斬ることを忘れるな」
「はいはい、わかっておりますよちんまい姫様。俺だって馬鹿じゃねえからな。
 この面倒な女狐もいる以上、不利になるようなことなんざしたくねーよ」
「貴方、ご主人様の件を反省しておりませんね?」
「してるしてる! もう不意打ちなんて汚い真似はしない!
 これからは仲良くやってやりますよ!」

 セイバーとキャスターは苦言を零すが、アーチャーはことごとく流している。
 同盟を結んで数分も経たないが、既に彼は岸波白野のサーヴァント達に心底うんざりしているように見えた。
 ここに、岸波白野が信頼する赤い外套のアーチャーがいれば、緑衣のアーチャーに助け舟を出すだろう。しかし彼は慎二と同行しているので、こんな事態が起こっているとは夢にも思わないはずだ。
 定時メールに間桐慎二の名は書かれていなかったことは、せめてもの救いだ。彼らと再び巡り会えることを信じよう。



 サーヴァント達のいざこざを他所に、生徒会と騎士団は情報交換をし合っていた。
 岸波白野が複数のサーヴァントを従えて、その内もう一人だけは慎二に付き添っていること。
 漆黒のアバター……ブラック・ロータス/黒雪姫が、ダン・ブラックモア卿からアーチャーの令呪を託されて、ブラックローズと共にフォルテに立ち向かったこと。
 ウラインターネットにて、騎士団が別のチームと力を合わせてスケィスに立ち向かったこと。
 この月海原学園がエージェント・スミスの襲撃に遭い、壊滅的な打撃を受けたこと。
 カイトや志乃、そしてアトリの命を奪ったスケィスをハセヲが討ち取ったこと。
 月海原学園のダンジョンの謎や、ゲーム外のイリーガルエリアに存在するトワイス・H・ピースマンのこと。
 このデスゲームの根幹にはモルガナ・モード・ゴンが存在し、女神アウラの復活を阻止しようと企んでいること。


 そして…………


「……あの男が……
 オーヴァンが、クロウの……ハルユキ君の命を奪った、張本人だと!?
 ニコだけではなく、ハルユキ君まで…………!」


 …………オーヴァンによって、シルバー・クロウとスカーレット・レインの命が奪われたこと。
 その事実に、ブラック・ロータスは大きく身を震え上がらせていた。


660 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:25:07 l4XJx9Z.0

「オーヴァン……クロウやアスナだけじゃなく、シノンまで…………!」

 ブラック・ロータスのように、キリトもまた怒りと驚愕で声を荒げている。何故なら、シノンの命を奪ったのはオーヴァンが宿らせる三爪痕だと知ったからだ。
 ブラックローズや緑衣のアーチャー、そしてハセヲは苦々しい表情を浮かべている。聞くところによると、ハセヲの目の前で、まるで見せしめのように殺されたらしい。
 ユイやジローも愕然としていて、声も出せない程だった。アスナやレインの死を思い出してしまったのだろう。

「皆さん、祈りを捧げましょう」

 ふと、レオはそう口にした。

「僕も本当に悔しいです。
 力と知恵が及ばなかったばかりに、レインさんやシノンさんを始めとした多くの同志を失ってしまった…………
 けれども、僕達に悲しんでいる時間はありません。皆さんもおわかりでしょうが、既に残された人は20人を切っています。
 一刻も早く、前を進むべきでしょう」

 レオは冷静に語っているが、やはり胸の内に宿る感情が顔に出ている。
 彼とて不条理な死を容認できる人間ではない。結果として大きな犠牲を出しているものの、世界に調和を齎す為に西欧財閥は聖杯を求めたのだから。
 そして、聖杯戦争の敗北をきっかけにレオは変わり続けている。生まれてきた新しい命を無暗に奪ったりせず、停滞した平和に飲み込まれる世界の運命も変えてくれるはずだ。

「だからこそ、失った多くの方々の為に、祈るべきだと思います。
 皆さんのことを忘れないで、その遺志を受け継ぐ……これが今の僕達にできる、最良の選択です」

 その提案に反対する者は誰もいない。
 彼の言うことは尤もだ。ここで悲しみに沈んでも、オーヴァンやフォルテの凶行が止まることなどない。むしろ、アメリカエリアにいるという慎二達が危険に晒されるだけ。
 ユウキと慎二は互いに認め合っていたと、キリトは言っていた。慎二の無事を願うなら立ち上がり、そして共に力を合わせて貰うようにするべきだろう。



 黙祷を捧げる。
 目を瞑り、この18時間で起きた出来事が脳裏で浮かび上がっていく。
 新たな仲間と出会い、何度も別れた。エージェント・スミスという凶悪なPKと戦い、傷付いた。ラニ=Ⅷやありす/アリスの死を再び突き付けられ、かつての傷が蘇った。
 そうして今はこのデスゲームの歪みを認識し、決意が燃え上がる。絶対にデスゲームを止めなければならないという、確固たる決意が。


 他のみんなは何を想っているのか、岸波白野は推測するしかできない。
 キリトとユイは、アスナやシノン達を想っているのか。
 レオとガウェインは、同志になり得たであろう者達を想っているのか。
 ハセヲは、志乃やアトリ達を想っているのか。
 カイトとブラックローズは、オリジナルのカイト達を想っているのか。
 ブラック・ロータスは、シルバー・クロウ達を想っているのか。
 ジローは、スカーレット・レインやデンノーズのメンバー達を想っているのか。
 セイバーとキャスターはサチ/ヘレンを想い、緑衣のアーチャーはダン卿を想っているのか。
 元の世界の繋がりや、このデスゲームで芽生えた繋がり。何があっても、その二つを守り続けるべきだろう。



 祈りは終わる。
 ほんの僅かな時間だが、そこに込められた想いは決して小さくない。
 前を進むための原動力になったはずだった。



     †



「それでは、皆さんには今後の方針を話し合いと思います。
 黒薔薇の対主催騎士団には」
「く、黒薔薇の対主催騎士団? それは一体どういう意味なんだい、生徒会長……」
「名前を統合したのですよ。
 僕達対主催生徒会と、ロータスさん達で結成された黒薔薇騎士団。お互いの結束を強めることを証明するに、ちょうどよく纏まったと思って。
 ああ! でも、役職名などは僕ら対主催生徒会のものを引き継ぎますので、そこはご容赦ください」
「そ、そうか……」

 どう考えても、即興で作ったようなネーミングにロータスは困惑している。
 それに構わずに、レオは続けた。


661 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:28:51 l4XJx9Z.0

「よろしくお願いしますね、黒薔薇の対主催騎士団・新副会長のブラック・ロータスさん」
「…………ああ、任された」

 そのやり取りからは、強い意志が感じられた。
 スカーレット・レインは対主催生徒会の副会長を務めていた。故に、彼女と同じ『王』であるブラック・ロータスこそが、レインの後継者に相応しい。
 誰もがその襲名を祝福していた。
 ちなみにキリトの役職は会計で、カイトと共に務める形となっている。ブラックローズはハセヲやジローと共に雑用をこなすことになったが、特に反対していない。
 多少の不満はありそうだったが、反対する気もない様だ。

「決まりですね。では、もう一度おさらいをしておきましょう。
 まず、僕達が優先するべきことは、このデスゲームの謎を解き明かすこと。そして対主催騎士団の戦力を増やすことです。
 そこで後者にとっての問題が、デスゲームに生き残ったPK達の存在です。
 ダスク・テイカー、フォルテ、そしてオーヴァン……【野球バラエティ】に参加した皆さんが、彼らの手にかかることを避けなければなりません。
 【野球バラエティ】には、ハセヲさんの仲間である揺光さんだっているのですから」

 揺光。
 それはハセヲやカイトが生きる『The World』のプレイヤーだ。二人の仲間ではあるものの、彼女は普通の人間に過ぎない。
 オーヴァンやフォルテのようなイリーガルな力を持つPKに襲われては、生き残れる保証などなかった。
 黒薔薇の騎士団が言うには、ウラインターネットのネットスラムでスケィスと戦った際に消息を絶った。そうしてキリトがいたファンタジーエリアに現れたことは不可解だが、真相は本人に聞かない限りわからない。

「ハセヲさん達はフォルテやオーヴァンの打倒を目指そうとしているはずです。
 勿論、彼らは充分に危険なPKですし、野球チームの皆さんに脅威を伝えるべきでしょう。けれども、最優先して頂きたいのは、一人でも多くの戦力を確保すること…………
 僕達の真の敵はGMであり、またGMの全貌すら明らかになっていません。そんな相手と戦うならば、これ以上の犠牲を出すべきではないでしょう。
 スケィスがハセヲさんによって撃破された今となっては、GMは切り札を用意するはずです。恐らくは、カイトやブラックローズさんもその存在を知っているはずです」
「切り札? それって、まさか……!」
「こちらをご覧ください」

 ブラックローズの言葉を待たずに、レオはウインドウを展開させる。
 そこには番匠屋淳ファイルの映像と、それを補足する情報だ。


《クビア/Cubia》
 登場ゲーム:The World(R:1)
 腕輪の力の反存在として生み出された『The World』の歪み。
 『黄昏の碑文』という叙事詩に登場する「超古代生物クビア」に由来する存在でもある。


662 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:30:28 l4XJx9Z.0


 この映像によると、モルガナ事件におけるモルガナの刺客はスケィス達八相だけではない。
 『腕輪』と表裏一体の存在であるクビアというモンスターも存在するようだ。
 『The World』にて勇者カイトは女神アウラから授けられた『腕輪』を成長させていた。だがそれに伴うように、クビアもまた巨大に成長していく。
 退けることはできても、完全に倒すことはできない。『腕輪』がある限り、クビアは無限に力を増すのだから。
 そこで勇者カイトはブラックローズと共に『腕輪』を破壊することでクビアの対消滅に成功した。

「アイツも、このゲームに関わっているというの……!?」
「女神アウラのセグメントやスケィスの存在が確認された以上、可能性は否定できません。
 そしてこのデスゲームの進行に伴って、今もクビアは強化されているはずです……八相や心意を始めとしたイリーガルな力が集積されて、一つの世界でぶつかり合っているのです。
 僕達がデスゲームを食い止めようと動いていましたが、実際はこれもGMの筋書き通りだったのでしょう。
 定時メールで書かれていたエネミーやドッペルゲンガーの存在も、本来の目的はクビアの強化を果たす為の餌かもしれません」
「だったら、早くアウラを復活させないと! セグメントはもう3つとも揃っているのでしょ!?」
「いいえ、現時点ではそれも決定打になり得ません。女神アウラの復活……それすらもクビアの力を増大させる鍵の一つですから。
 女神アウラは『The World』のコアとなる力を持っております。それが復活した瞬間こそ、クビアは現れるはずです。
 蓄積されたイリーガルな力と、女神アウラの力……それらが一つになったクビアの力は、女神アウラすらも凌駕するでしょう。
 そうしてクビアは女神アウラと対消滅する為の生贄となる……これがモルガナから与えられた役割であるかもしれません」

 レオの推測が正しければ、女神アウラは決して勝利条件になり得ない。むしろGM側にとっては、女神アウラの復活すらも予定調和だ。
 確かに女神アウラの復活によりデスゲームは終わりを迎えるだろう。プレイヤーの勝利ではなく、GMの勝利という形で。

「だからこそ、対クビアの為には野球チームの力も不可欠となります。
 それに伴って、少しでも手がかりを集める為にダンジョン及びプロテクトエリアの攻略も忘れてはいけないでしょう。
 この二つに関しては、戦力及びステータス面の不調はある程度だけ解消されます。僕達のポイントを惜しみなく使えばの話ですが」

 ポイントの単語が出た途端、レオの顔色がどこか重苦しいものに変わる。
 その理由を問い詰める必要はない。デスゲーム攻略の為に使われるポイントは、他の誰かの命を奪ったことで獲得したものだから。
 岸波白野も同じ。ラニやありす/アリスの未来を踏み躙った結果、こんな無機質な数値を手に入れてしまった。


 けれど、ポイントの仕様を躊躇ってはならない。
 GMの定めたHPという数値によって、自分達の命運は決まる。腸が煮えくり返るが、その事実を受け止めなければ生き残れない。

「お前ら。わかっていると思うが、こんな時に「もったいない」とか言うんじゃねえぞ。
 『力』がどれだけあっても、間に合わなかったらねぇのと同じだからな…………」

 身を引き裂かれるような苦悶を味わっているかのように、ハセヲは表情を顰めている。
 彼はマク・アヌでスミスやスケィスと戦った際に、HPが0になっても消滅するまでに5秒の猶予があることを知った。そのリミットを過ぎてしまえば、もう助からないことも。
 …………だから志乃やシノン、そしてアトリを救えなかったらしい。
 その悲劇を繰り返してはならないと、ハセヲは意気込んでいた。



 現在のポイントを合計すると、2130ポイント。
 加えて、割引き券という値引きの効果を持つアイテムを合わされば、買い物には困らないはずだ。
 そして幸いにも、ハセヲとカイトは回復スキルを所持している。故に、ショップで購入するのはMPの回復アイテムだけで済んだ。



 一同は購買部に赴く。
 そこではあの言峰神父が相変わらず悠々と佇んでいる。あのスミスに一撃を与えたのを見た後だと、神父の姿勢からは風格が感じられた。
 けれども、この大人数でいるせいか、流石の神父も目を見開いている。

「いらっしゃいませ。
 …………ほう、いつの間にやら顧客が増えているな。私としても、実にありがたいことだ」

 神父は自分達を見渡している。
 その視線に何かを感じたのか、緑衣のアーチャーは軽い溜息を吐いた。


663 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:39:15 l4XJx9Z.0

「おいおい神父さん。
 俺はここで騒ぎを起こそうなんざ考えてねーよ。あんたのおっかなさは知ってるつもりだからな」
「それは良い心がけだ。
 尤も、プレイヤーが万引きをするのはシステム上は不可能で、仮にハッキングなどの手段で違法に入手しようと企んだ者には相応の処置が下る。
 もしかしたら、最強の店員との戦いが待ち構えているかもしれないぞ?」
「勘弁してくれ……」

 そんなやり取りを他所に、岸波白野は商品一覧を眺める。
 見た所、先程にはなかった商品も追加されていた。神父の言っていた新商品なのだろう。
 しかし麻婆ラーメンとやらは見られない。個人的に興味はあるものの……無い物ねだりをしても仕方がない。


 気になるのは、気魂香と匠の気魂という名のアイテムだ。
 前者は味方全員のMPを50回復させて、後者は味方一人のMPを100も回復させてくれる。現在のポイントで買えるのは、気魂香は一つだけで匠の気魂は二つだ。
 どちらを選択するにしても、これらの数値が全体の何%に反映されるのかが不明だ。10%の数値が確定していた激辛麻婆豆腐と違う。
 『The World』に生きるハセヲやカイト、そしてブラックローズに尋ねても返答に困らせるだけ。彼らだって、元と今とでは勝手が違うはずだから。
 ここは…………


 >気魂香
 匠の気魂


 今は一人でも多くのメンバーを回復させる必要があった。
 集まった全員が強豪と戦って、その結果としてMPを膨大に消費している。特にレオとハセヲは半分を切っていた。
 匠の気魂を二つ買うこともできたが、それではカイトやキリトの回復は不可能。彼らの力だって必要不可欠だから、少しでも万全に近づけるべき。


「ふっ、気魂香を選ぶとは見る目があるな。
 説明蘭に書かれているように、チーム全員の魔力を回復させる代物だ。更に言えば、このバトルロワイアル内では契約したサーヴァント達にも効果が適応される。
 流石に完治とまではいかないが、少なくとも君達を満足させられるだろう」

 神父の言葉に胸を撫で下ろす。
 掴み所がない男だが、少なくとも嘘はつかない。彼は聖杯戦争で監督という己の役割をやり遂げたのだから、その言葉は信用していいはずだ。


 まず、オブジェクト化させた割引券を神父に差し出して、次に全員で入れ替わりながらポイントを払う。
 聖杯戦争や『The World』のシステムでは一対一での支払いが基本だが、デスゲームだとその限りという訳でもないようだ。
 そうして使用した結果、ここにいる全員のMPが大きく回復した。流石にレオは50%を超えることはできなかったが、ダンジョンのエネミーを撃破してポイントを稼ぐしかない。
 残されたのは、レオが持つ200ポイントだけになった。

「これで、一先ずはMPの問題は解決ってことでいいのか」

 キリトが言うように、戦闘でスキルの使用に困るという事態にはならなそうだ。

「そうだ、ここにはサクラって子もいるんだ。
 その子に会えば、ハセヲ達だってアイテムを貰えるはずだぞ」
「ごめんなさい、キリトさん。それは不可能です」
「うおっ!?」

 いつの間にか現れた桜を見て、キリトは驚愕する。
 ……うん、これには岸波白野も驚いた。


664 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:41:31 l4XJx9Z.0

「驚かせてすみません。
 私が特製弁当を差し上げられるのは、モラトリアムの期間中だけなのです。
 キリトさんは定時メールの直前に伺ってくれたので差し上げられましたが、ハセヲさん達には……」
「それなら仕方ねえよ。こっちも色々とあったしな」

 なんてことの無いように、ハセヲは軽く返答する。
 一方で、緑衣のアーチャーはばつの悪そうな表情のままだ。やはり、聖杯戦争での出来事が尾を引いているのだろう。

「まさかお嬢ちゃんもいるとはな。
 ……でも、あの神父がいるからにはありえなくもねえかもな」
「ご無沙汰しております、アーチャーさん」
「先に言っておくが、今の俺は毒を盛ろうなんて考えてねえよ。
 このマスター達と同盟を組むって決めたからな」
「それは何よりです。
 けれども、今の私にはアーチャーさんにペナルティを与える権限は持ち合わせていないので、安心してくださいね」
「どうだかねぇ……」

 桜は微笑んでいるが、アーチャーは微塵も信じていなさそうだ。
 とにかく居心地が悪いのだろう。まさか岸波白野との因縁がここで響くとは思わなかったはずだ。
 セイバーとキャスターの視線は未だに厳しいし、言峰神父と桜の言葉もアーチャーが完全に信用するとは言い難い。
 ハセヲ達は味方だけど、聖杯戦争に関しては蚊帳の外なので余計な口出しができないのだろう。
 ……かつて命を奪われかけたとはいえ、流石にアーチャーには同情する。尤も、この状況で岸波白野にできることは何もないが。

「それでは、改めて皆さんにお伝えします」

 そんな空気を変えるかのように、レオはこの場にいる全員に宣言する。

「まずはこのデスゲームの謎を解き明かす為に、皆さんにはダンジョン攻略をお願いしますね。
 その際に三人ずつで2チームを作ります。Aチームが攻略を進めている間に、もう片方のBチームはドッペルゲンガーやエネミーに備えて学園の警備を。
 また、Aチームには何か不都合を感じたら、ダンジョン攻略をBチームに変わって頂くこともできます。
 そして肝心の割り振りですが、Aチームには白野さん、カイト、ブラックローズさんの三人を。Bチームにはキリトさん、ハセヲさん、ロータスさんの三人を。
 ダンジョンの謎を解き明かしてから、プロテクトエリアや野球チームの捜索……そしてオーヴァンやフォルテに対して本格的な準備をしましょう。
 【プチグソレース:ミッドナイト】のイベントも、デスゲームの謎を見つけられるかもしれませんので、いずれ攻略を視野に入れます。
 よろしいですね?」

 レオの采配を否定する者はいない。
 月海原学園のダンジョン攻略は、聖杯戦争を勝ち抜いた岸波白野こそ適任と考えたのだろう。
 そのサポートにカイトとブラックローズを選んだのも、オリジナルのカイトのことが関係しているかもしれない。

「それでは皆さん、よろしくお願いしますね。
 ユイ、あなたはどうしますか? ここに残るか、それともダンジョン攻略に同行するか……」
「私もダンジョンに向かいます。
 カイトさんの通訳が必要ですし、何かのシステムを解析する時が来るかもしれませんから」
「わかりました。では、白野さん達……彼女のことを頼みますよ」


 ユイは自らの肉体をナビゲーション・ピクシーへと変えて、岸波白野の胸ポケットに飛び込む。
 これから突入するダンジョンには敵性エネミーが大量に潜んでいる。だから、ユイには岸波白野の元に身を潜めてもらう必要があった。
 ダンジョン攻略には彼女の力も必要となるはずだ。岸波白野の知らない仕掛けとぶつかる可能性があるし、解析の必要な隔壁だってあるかもしれない。
 かつて、ラニが作った開かずの扉には酷い目に遭わされたものだ。


665 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:43:40 l4XJx9Z.0


 ………………。
 と、またしても疑問が過ぎる。
 ラニのせいで岸波白野の尊厳が壊されそうになった経験はある。けれど、具体的に何があったのかを思い出せない。
 円卓の借金取りの時といい、どうしてこのような記憶が存在するのか。


 だけど、今はそんなことを気にしている場合ではない。
 力を貸してくれるカイトとブラックローズ、そしてユイの為にも、ダンジョンに潜る必要がある。
 ダンジョン攻略は岸波白野に一日の長があるのだから。

「ユイ」

 そして岸波白野の胸元にいるユイの姿を、キリトは真摯に見つめている。

「行ってきます、パパ。
 このデスゲームの謎を解き明かす為にも、絶対にハクノさん達をサポートしてみせます!」
「ああ……絶対に死ぬんじゃないぞ、ユイ。
 その間、俺達はこの学園を守り抜いてみせるから! ハセヲや黒雪姫、それにレオやジローさんだって死なせたりはしない!
 キシナミ達、ユイのことを頼んだぞ」

 キリトの言葉に頷いた。
 彼は岸波白野を信頼してくれている。自分達と共にいてくれたからこそ、ユイのことを任せているのだろう。
 それを決して裏切ってはいけなかった。

「ユイ君、君の父上……キリト君のことは任せて欲しい。GMがどんな相手を用意していようとも、私達は負けるつもりなどない。
 キリト君には世話になったから、その恩義に答えるつもりだ」

 ロータスが言っているのは、クロウの件だろう。
 フォルテとの戦いでキリトが生き残れたのは、クロウの力があったからだ。
 そしてロータスもアーチャーやブラックローズとの絆の力で、ダン卿の命を奪ったフォルテを打ち倒した。
 そこに奇妙な巡り合わせを感じてしまう。

「……黒雪姫」

 と、そこにジローがロータスの前に出る。

「ニコのこと……本当にごめん。
 俺がもっとしっかりしていたら、ニコは……オーヴァンって奴に殺されなかったはずなのに」
「確か……あなたにはニコが大変お世話になったようですね。
 ジローさん、それを貴方が悔やむ必要などありません。貴方は、自分の責務を果たしたのですから」
「でも、俺だってみんなみたいに戦えてたら、ニコはきっと……黒雪姫とまた会えたはずなんだ!
 だから、ニコがいなくなったのは……!」
「それは違います! 彼女は、彼女自身の責務を果たそうと力を尽くした!
 このような結果になって、私も悔しい…………けど、それを貴方が悔やむ道理などないはずです!
 それに彼女は言っていたのでしょう? あなたとのキャッチボールが楽しかったのだと」
「…………ッ!」
「彼女が最期、何を想ったのかを私は知りません。けれど、貴方のことを感謝していたはずです。
 だから、彼女の為にも……貴方には生きていて欲しいのです!」

 ロータスの叫びはあまりにも切実だった。
 彼女もジローのように悔いているのだろう。クロウやレインの仇であるオーヴァンと対峙しながら、打倒できなかったことが。

「…………聞いてくれ」

 そしてハセヲが口を開く。
 ジローやロータス以上に……いや、この場にいる誰よりも辛そうな顔で言葉を紡いだ。


666 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:57:30 l4XJx9Z.0

「オーヴァンはみんなにとって大切な人の命を奪い続けた。クロウ、アスナ、トモコ、そしてシノン…………
 けど、それはあいつだけじゃなくて、俺の責任でもある」

 彼の唇は震えている。散っていった者達の名前を呼ぶ度に、死につながる程の苦痛を味わっていそうだった。
 『再誕』の話を聞いてから、彼はずっとこうだった。その身に宿らせる『碑文』の力が、多くの命を奪うきっかけになっていると聞いて、傷付かないわけがない。
 しかし彼は決して悲嘆などせず、むしろ壮大な決意が瞳から感じられた。

「オーヴァンがなにを為そうとしても、関係ない。そんなのは、みんなが死んでいい理由になんてならねえ。
 だからこそ、俺が終わらせる。オーヴァンをぶん殴ってでも止めて、これ以上は誰も悲しませたりしねえ!
 あいつが俺を待っているなら、俺は何としてでも行く! そして決着だってつけてみせる!
 これが、俺にできるけじめだ!」

 拳を握り締めるハセヲの決意を疑う者など、ここにはいない。彼を非難しようなどと微塵も考えていない。
 誰もがその尊い意志を信じていた。

「ハセヲ……それは俺だって同じだ。
 クロウの、レインの、サチの、シノンの、そしてアスナの分も……俺は戦う。例えお前が止めようとしても、俺はオーヴァンに会うつもりだ」
「二人とも、その時になったら私にも付き合わせてほしい。あの男とは、私とも深い因縁があるからな。
 ハルユキ君やニコ達の仇を取る為にも、絶対にオーヴァンを打倒してみせる」
「乗り掛かった舟だ。姫さんがそのつもりなら、俺だって付き合ってやるさ。
 なんせ俺はお姫様に仕えるサーヴァントだからな」
「キリト、ロータス、アーチャー……あんたらは、仮に俺が止めたって付いてくるんじゃないのか?
 だったら何も言わねえよ。シノンだってそうだったからな」

 キリトとロータス、そしてアーチャーは頷く。
 ハセヲの言うこともわかる。彼らが黙って待っているとは到底思えない。もしもハセヲがまた飛び出すようなことになったら、無理矢理にでも同行するだろう。



 それから、一同はアイテムの確認をする。
 まず、ユイはレオより譲り受けたダークリパルサーをキリトに返し、そして岸波白野が持つユウキの剣もキリトに渡した。
 そして万一の場合に備えて、黄泉返りの薬もキリトに渡す。大量のエネミーが現れる以上、復活アイテムは多く持っているべきだ。
 レオはロータスより女神アウラのセグメントを受け取っている。最前線で戦うロータスよりも、この場にいる全員を指揮するレオに持たせた方が安全であると判断したが故だ。
 そしてレオから、ダンジョン攻略の際に必要となるであろうアイテムを渡される。コードキャスト[_search]と、アルファとベータのトリガーコードだ。
 最後に、ハセヲが持つ『薄明の書』が岸波白野に手渡される。シノンの件に関するせめてもの詫びだと、ハセヲは言った。


667 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:58:01 l4XJx9Z.0

 データドレインがインストールされると言われる『薄明の書』……いずれ、岸波白野が使う時が来るのだろうか。
 そうなったら、この肉体(アバター)はどうなるのか。対象のデータを改竄し、そして使い手すらも破壊する可能性がある力に耐えられるのか。
 ……いや、関係ない。みんなは命を懸けて戦っているからには、岸波白野も覚悟を決めるべきだ。
 例えその果てにどんな未来が待ち構えていようとも。

「アーチャー、黒雪姫のことを頼んだわよ。
 それと黒雪姫。本当ならあたしも行きたかったけど……あたしはこっちで頑張るからね」
「また巡り会えることを信じているぞ、ブラックローズ。
 カイト君達と共に、謎を解き明かしてくれ。私達の手で、デスゲームの謎を解き明かそう」
「んじゃ、そろそろ行きますとしますか」

 黒薔薇の騎士団は別れを告げる。再び巡り会えることを信じながら。
 そうして、ハセヲ達四人は学園の警備の為に、この場から去った。

「えっと、その……カイト、よね?」
「ウ#」
「あたしのことをどれだけ知っているのかわからないけど、よろしくね?」
「ヨ%*ク」

 ブラックローズは目の前にいるカイトに戸惑いながらも、握手を交わした。
 やはり、ここにいるカイトの存在を彼女は知らなかったのだろう。このカイトが生み出されたのはモルガナ事件の後だから、ブラックローズにとっては未来人に等しい。
 そもそも、大切な仲間と同じ姿をしている存在にどう向き合えばいいのか……そんな疑問だって抱いているはずだ。
 けれども岸波白野達がブラックローズの助け舟となり、そして少しでも絆を深められるようにするべきだ。

「奏者よ、共に行こう。
 例えこの迷宮がどれだけ変わっていようとも、騎士団ならば突破できぬ訳がない。
 王として先陣を切ってみせようぞ!」
「ご主人様と共にいられるのなら、例え黄泉路や虚数の海だろうと乗り越えてみせますとも。
 いかな魑魅魍魎が相手になろうと、この私めにとっては赤子も同然ですから」

 セイバーとキャスターの心強い言葉が胸に響く。
 行こう、と。カイトとブラックローズに声をかける。
 かつて幾度となく攻略した迷宮に、再び突入する時がやってきた…………



  Mission Start
――Go to Dungeon――


668 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 17:59:47 l4XJx9Z.0


     4◆◆◆◆



 俺は今、どうすればいいのか悩んでいた。
 みんながデスゲーム打倒の為に動いているのに、俺はただ待っているだけ…………それで本当にいいのか、疑問だった。


 ドッペルゲンガーって奴が現れるタイミングの変動するシステムは、殺人ウイルスと同じだとレオは推測した。
 つまり、キルスコアを稼いでいる奴ほど出現が遅れて、逆に俺みたいに誰も殺していない奴から優先して狙われる仕組みだ。
 それへの対抗策は、学園の警報システムとキリトや黒雪姫みたいに戦えるプレイヤーだ。
 でも、もしも何の前触れもなく姿を現したら、対抗ができるのか?
 …………考えるまでもない。戦えない俺だったら、何もできずに殺されるだろう。


 こうしていると、つくづく自分の力の無さが嫌になる。
 俺よりもずっと年下のニコですらも、あのスミスを相手に一歩も引かずに立ち向かったのに。


「ジローさん、心配ですか?」
「…………そりゃそうだろ。
 みんなが頑張っているのに、俺だけが何もしないなんて……」
「それは違いますよ」
「えっ?」
「帰りを待っている人がいる……それだけでも、励みになるものですよ?」

 無力感に打ちひしがれそうになるが、そんな俺にレオは言葉を投げかけてくれる。

「皆さんも、僕も……ジローさんのように何度も失いました。
 けれど、その度に互いに励まし合っているのです。ジローさんだって、キリトさんを励ましてくれたでしょう?
 だからこそ、キリトさんは立ち上がれました」
「でも、それはユイちゃんが……」
「確かにユイが主な支えでしょう。けれど、キリトさんはレンさんのことをあなたに伝えようと必死になってた。
 そして、あなたに伝えられられた時、肩の荷が少し降りたはずです」
「……………………」
「ですからジローさん。
 今は皆さんの無事を祈りましょう。そして、皆さんの帰りを迎えてあげて下さい」

 俺には何もない。それは事実だ。
 けれど、そんな俺をレオは認めてくれた。大切な人を失ったキリトの支えであると、言ってくれた。
 もしかしたら、ニコにとっての支えにもなっていたのか?


 キシナミやキリト達がいなくなって、急に学園内が広くなったように感じる。
 不安はある。まだPKが残っているのもあるし、何よりも『オレ』のこともあった。


669 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 18:00:11 l4XJx9Z.0

「なぁ、桜。
 君は確か俺達のことなら何でも知っているんだよな。だったら……『オレ』のことも知っているのか?」

 だからこそ、俺は桜に尋ねる。

「はい。私は健康管理のAIですから、ジローさんのことだって全て知っていますよ。
 けれども、ジローさん自身に影響を与えることはできません。私に与えられているのはステータス面及び、学園外への強制転移だけです」
「そっか……やっぱり、そうだよな」
「ごめんなさい、お力になれなくて」
「いいや、むしろ大丈夫だよ。
 俺のことを心配してくれるだけでも、凄く嬉しいし」
「ありがとうございます。
 それと、もう一つ……自分のことを気にかけてくれる人がいることって、実はとっても素晴らしいことなんですよ。
 辛い時に助けを求めても、誰も気付いてもらえずに忘れ去られてしまう……そうなると、誰でも心細くなっちゃいます。
 けれどそんな時、声をかけてくれたり、見つけてくれたりする人が一人でもいる。それだけでも、精神的に元気いっぱいになれちゃいますから」

 桜は微笑んでくれた。まさしく、春に咲く桜の花のように、全ての人を穏やかにしてしまいそうだ。


 ……そっか。待ってくれている人がいるって、こういうことか。
 パカには振り回されたけど、共に過ごした日々は実に充実していた。
 金持ち独特の価値観に困惑した時もあったけど、パカ自身の根は子供のように無邪気だった。
 いつからか、彼女のことで頭がいっぱいになって、そして彼女の為ならば何でもするという使命感すら芽生えてしまう。
 そうしてお互いに支え合うようになり、彼女のいる場所こそが俺の帰る場所にもなっていた。


 ならば、今は俺がみんなの居場所を守らなければいけない。
 戦えない俺が……いや、力を持っていない俺だからこそ、日常の尊さはよく知っているつもりだから。
 ニコの日常には、ニコにとって大切な人達がたくさんいる。黒雪姫やシルバー・クロウのように。
 その人達にニコのことを伝える為にも、俺は死ぬ訳にはいかなかった。



 やる気が 3上がった
 こころが 4上がった
 信用度が 5上がった


670 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 18:04:12 l4XJx9Z.0




【B-3/日本エリア・月海原学園/一日目・夜】



【チーム:黒薔薇の対主催騎士団】
[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:ブラック・ロータス
書記 :ユイ
会計 :蒼炎のカイト、キリト
庶務 :岸波白野
雑用係:ハセヲ、ジロー、ブラックローズ
[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:(レオの)理想の生徒会の結成。
2:ウイルスに対抗するためのプログラムの構築。
3:デスゲーム及びクビアの対策を練る。
4:危険人物に警戒する。
[現状の課題]
0:ダンジョンを攻略しながら学園を警備する。
1:ウイルスの対策
2:危険人物及びクビアへの対策
3:アリーナ及びプロテクトエリアの調査(ただし、これはどちらかに集中させる)
4:【プチグソレース:ミッドナイト】のイベントクリア
[生徒会全体の備考]
※番匠屋淳ファイルの内容を確認して『The World(R:1)』で起こった出来事を把握しました。
※レオ特製生徒会室には主催者の監視を阻害するプログラムが張られていますが、効果のほどは不明です。
※セグメントの詳細を知りましたが、現状では女神アウラが復活する可能性は低いと考えています。
※PCボディにウイルスは仕掛けられておらず、メールによって送られてくる可能性が高いと考えています。
※エージェント・スミスはオーヴァンによって排除されたと考えています。
※次の人物を、生徒会メンバー全員が危険人物であると判断しました。
オーヴァン、フォルテ、ダスク・テイカー。
※セグメントを一つにして女神アウラを復活させても、それはクビアの力になるだけかもしれないと仮説を立てました。
※ドッペルゲンガーの出現のタイミングはウイルス発動と同じで、キルスコアを稼いでいないプレイヤーから優先的に狙われると推測しています。


671 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 18:06:09 l4XJx9Z.0


【Aチーム:ダンジョン【月想海】攻略隊】


【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP70%(+150)、データ欠損(小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、{男子学生服、赤の紋章}@Fate/EXTRA
[アイテム]:{女子学生服、桜の特製弁当、コフタカバーブ、トリガーコード(アルファ、ベータ)}、コードキャスト[_search]}@Fate/EXTRA、{薄明の書、クソみたいな世界}@.hack//、{誘惑スル薔薇ノ滴、途切レヌ螺旋ノ縁、DG-0(一丁のみ)、万能ソーダ、吊り男のタロット×3、剣士の封印×3、導きの羽×1、機関170式}@.hack//G.U.、図書室で借りた本 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、不明支給品0〜5、基本支給品一式×4
[ポイント]:0ポイント/2kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:カイトとブラックローズ、そしてユイと共にダンジョンを攻略する。
2:主催者たちのアウラへの対策及び、ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
5:危険人物を警戒する。
6:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP100%、健康
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時(増加分なし)でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一騎だと10分、三騎だと3分程度です。
※アーチャーとの契約が一時解除されたことで、岸波白野の構成データが一部欠損しました。
※エージェント・スミスに上書きされかかった影響により、データの欠損が進行しました。
またその欠損個所にデータの一部が入り込み、修復不可能となっています(そのデータから浸食されることはありません)。


【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP60/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/通常アバター、サチ/ヘレンに対する複雑な想い、オーヴァンやフォルテへの憎しみ
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、第二相の碑文@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
0:ハクノさん達と共にダンジョンを攻略する。
1:対主催生徒会の会計として、ハクノさん達に協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:ヒースクリフや、危険人物を警戒する。
6:シノンさんとはまた会いたい。
7:私にも、碑文は使えるだろうか……。
8:サチ/ヘレンさんの行いは許せないけど、憎まない。
9:オーヴァンやフォルテのことは絶対に許さない。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=Ⅷであるかもしれないことを知りました。
※サチ/ヘレンとキリトの間に起こったことを知りましたが、それを憎むつもりはありません。


【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP80%、SP80%、PP100%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
3:エクステンド・スキルの事が気にかかる。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。
※エージェント・スミスをデータドレインしたことにより、『救世主の力の欠片』を獲得しました。
それにより、何かしらの影響(機能拡張)が生じています。


672 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 18:06:38 l4XJx9Z.0


【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP60%
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、{逃煙連球}@.hack//G.U.、エリアワード『絶望の』、ナビチップ「セレナード」@ロックマンエグゼ3、ハイポーション×3@ソードアート・オンライン、恋愛映画のデータ@パワプロクンポケット12、ワイドソード@ロックマンエグゼ3、noitnetni.cyl_3
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:カイト達と共にダンジョンを攻略する。
※時期は原作終了後、ミア復活イベントを終了しているかは不明。


【Bチーム:学園警備】


【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP85%、MP90%(+50)、疲労(大)、深い絶望、ALOアバター
[装備]:{虚空ノ幻、虚空ノ影、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、{ダークリパルサー、ユウキの剣、死銃の刺剣}@ソードアート・オンライン
[アイテム]:折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンライン、黄泉返りの薬×1@.hack//G.U.、不明支給品0〜1個(水系武器なし) 、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:みんなの為にも戦い、そしてデスゲームを止める。
0:今はハセヲやロータスと共に学園を守る。
1:ユイのことを……絶対に守る。
2:ハセヲやロータスと共にオーヴァンと戦う。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。


【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP70%、SP75%、(PP100%)、3rdフォーム
[装備]:{光式・忍冬、死ヲ刻ム影、蒸気バイク・狗王}@.hack//G.U.
[蒸気バイク]
パーツ:機関 110式、装甲 100型、気筒 100型、動輪 110式
性能:最高速度+2、加速度+1、安定性+0(-1)、燃費+1、グリップ+3、特殊能力:なし
[アイテム]:基本支給品一式、{雷鼠の紋飾り、イーヒーヒー}@.hack//、大鎌・首削@.hack//G.U.、フレイム・コーラー@アクセル・ワールド、{FN・ファイブセブン(弾数10/20)、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン、式のナイフ@Fate/EXTRA、ダガー(ALO)@ソードアート・オンライン、{プリズム、アンダーシャツ}@ロックマンエグゼ3、???@???、{H&K MP5K、ルガー P08}@マトリックスシリーズ、ジョブ・エクステンド(GGO)@VRロワ
[ポイント]:0ポイント/2kill
[思考]
基本:
0:今はキリトや黒雪姫と共に学園を守る。
1:ダンジョンの謎を解き明かした後、オーヴァンを絶対に止めてみせる。
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前です。
※設定画面【使用アバターの変更】の【楚良】のプロテクトは解除されました。


【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP80%/デュエルアバター 、令呪一画
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3、{エリアワード『絶望の』}@.hack//、{インビンシブル(大破)、サフラン・ハート、サフラン・ヘルム、サフラン・ガントレット、サフラン・アーマー、サフラン・ブーツ}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、死のタロット@.hack//G.U.、ヴォーパルの剣@Fate/EXTRA
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
0:今はキリトやハセヲと共に学園を守る。
1:ハルユキ君やニコの仇を取る為にも、キリト君やハセヲ君と共にオーヴァンを打倒する。
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:ダメージ(中)、魔力消費(中)
[備考]
時期は少なくとも9巻より後。


673 : 対主催生徒会活動日誌・19ページ目(出発編) ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 18:07:37 l4XJx9Z.0



【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP45%、令呪:三画
[装備]:なし
[アイテム]:{桜の特製弁当、番匠屋淳ファイル(vol.1〜Vol.4)@.hackG.U.、{セグメント1-2}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:200ポイント/2kill [思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
1:魔力の回復に努めると同時に、ウイルスへの対策プログラムを構築する。
2:他の生徒会役員となり得る人材を探す。
3:当面は学園から離れるつもりはない。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP110%(+50%)、MP100%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※ガウェインはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。


【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、深い悲しみと後悔/リアルアバター
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、ピースメーカー@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
0:ニコ……………。
1:今はみんなと一緒に行動する。
2:ユイちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の言葉が気になる…………。
4:レンのことを忘れない。
5:みんなの為にも絶対に生きる。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。


【気魂香@.hack//G.U.】
 購買部にて購入。新しく追加された商品の一つ。
 使用すれば味方全員のSPを50回復する。
 当ロワでは契約したサーヴァントにも適応される。


674 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 18:08:12 l4XJx9Z.0
以上で投下終了です。
修正すべき点などがありましたら、指摘をお願いします。


675 : 名無しさん :2016/10/02(日) 21:12:26 W3xkohGg0
投下乙です!

死んでいった人々への追想に、バラバラだった集団がまとまっていく流れなど
vol.4に移り決戦ムードがただよってきましたね
ダンジョン攻略も本格開始で遂に対GM戦も見えてきた!?

ただ少し。ハセヲが「再誕」について言及していますが、この時期の彼は再誕の発動条件は把握していなかったはず
データベースに載っていてレオから聞いた……ということでよろしいでしょうか?


676 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/10/02(日) 22:39:35 l4XJx9Z.0
ご指摘感謝いたします。
そのつもりでしたが、こちらの描写不足でした。

>>659の互いの情報交換の部分に、以下の一文を加筆させて頂きます。

『再誕』というプログラムを発動させる為、オーヴァンがPKを行っていること。


677 : ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:28:51 5KjOPiyA0
すいません、遅れました。
投下いたします。


678 : そして船は行く  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:30:08 5KjOPiyA0

「だ・か・ら、お前はもう捕虜なの! 詰んでるんだって。
 ゲームオーバーなんだから、僕にライダーを返せっての」
「何馬鹿なことを。僕たちはまだ負けていませんよ?
 僕とライダーが一度手を上げれば、こんな集団、容易に出し抜いてあげますから」
「はん、この大集団相手に? お前みたいな素人ゲーマーじゃそんなウルトラCは無理だって」
「はぁ、ゲームがうまいことしか取柄がないチャンプ(笑)じゃお話になりませんね」
「負け惜しみかよ。そもそもお前、ロクに歴史の知識もなかったじゃないか。
 そんなんでライダーを使いこなせると思ってるのかよ。ずっと年下の僕に負けて恥ずかしくないの?」
「っ……!? 貴方みたいな馬鹿だけは言われたくないですね。
 だいたいそんな知識、ネットさえ使えればすぐに調べられますから」
「笑わせてくれるね、こんな状況でさ。
 やい、ばーか! ばーか!」

どっちも馬鹿だ。
揺光はげっそりした顔で慎二と能美のやり取りを眺めていた。
野球場に引き続き黄金の鹿号の甲板にても、二人は飽きもせず罵り合っている。
二人とも方向性は違えど、言っている言葉のレベルは同じというか、
争いは同じレベルでしか発生しないという、まさしくそんな状況だった。

―― 一見、仲が良いとさえ見えるんだけどね。

実際は二人は何度も殺し合いをした仲である。
そしてその中心であるライダー、フランシス・ドレイクはというと、興味なさげに欠伸をしている。
どうも二人のやり取りにはすでに飽きているらしかった。
能美はともかく彼女は常に警戒をする必要があるが、どうにも今は戦う気はなさそうに見えた。

揺光はため息を吐き、ちら、と横を見る。
そこには陽が沈みだした夜空が見える。黄昏の空を、黄金の鹿号は悠々と進んでいるのだった。
甲板には多くの人間が集っている。拘束された能美に、それを見張る慎二やガッツマン、今後の打ち合わせをしているネオやアーチャー。
ネオ・デンノーズとしてともに肩を並べたメンバーが、そこには集っているのだ。

しかし、そこには欠けてしまったメンバーもいる。
デウエス……カオルという女性が迎えた結末/オワリは記憶に新しい。
そして、命を賭してPTを救った男のことも。

「クライン、ロックマン、おっさん……」

揺光はぼそりと呟いた。
このゲームで自分と行動を共にした者たち。
みんなみんな、勝手に去って行ってしまう。格好よく決めながら――死んでしまったら終わりなのに――散っていく。

揺光はもう一言呟いた。
しんどいね、と。
そして思う――ハセヲもこんな気分だったのかな、なんて。


679 : そして船は行く  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:31:28 5KjOPiyA0



「私としては、月海原学園に進路を取りたい」

アーチャーの言葉に、ミーナは思案する素振りを見せた。

「学園……貴方の本来のマスターが向かったという場所ですね」
「ああ、拠点としてはこれ以上ない環境だ。他のプレイヤーが集っている可能性もある」

聞けばアーチャーとそのマスターは、元々能美を捕らえるために別行動をしたらしい。
ウイルス発動の時刻を考えても、アーチャーとしてはそろそろ合流を図りたいところなのだろう。
岸波白野の名は先のメールには記載されていなかった。脱落していない以上、月海原学園に彼ないし彼女がいる可能性は十分にある。

「先のメールだが、どう思う? アーチャー」
「……まず脱落者だが、思った以上にこちらの戦力が削られている」

合流予定だったピンクやブルースが倒れたこと。
そしてキリトが探し求めていたサチやアスナもまた、脱落者に名を連ねていた。
キリト本人は生き残っているようだが、状況次第では彼も危うい状況にあると見た方がいい。

「…………」

ミーナが顔を俯かせている。
死んでいった者たちに対し、思うところが多くあるのだろ。
それは理解している。だが、ネオは敢えてそれを表には出さなかった。
彼はもう慣れている。戦いの中、預かり知れぬところで仲間が倒れることも、何度も経験した。

「だが、こちらにも良いニュースはあった」

……ネオはミーナには声をかけず、言葉を続けた。
自分は前に進まなくてはならない。
トリニティから、モーフィアスから、そしてアッシュが自分に託していった想い。
それを思えばこそ、ただ悲しむよりもまず、見据えるべきことがあった。

「エージェント・スミス、そしてスケィスの脱落、か」

アーチャーは冷静に頷く。彼もネオと同じ目線を共有していた。
まずは現実を見据え、どうするかを率先して示してやらねばならない。
ミーナもそれを分かっているからこそ、何も言わないのだろう。

「スケィスはネットスラムで交戦したことを聞いた。
 スミスの方はこのゲームでは接触はしなかったが、危険な存在であったことは間違いない」
「誰かが、彼らを討ったのだろうな」
「……でも、まだ残っているPKはいます。そう、あのネットナビのような……」

フォルテ。
ミーナがその名を口にすると、ネオは顔をこわばらせた。
思わず拳に力が入る。昼間の一戦で――自分は彼に拒絶されたのだ。

ちらり、と辺りをうかがう。
能美を監視しているガッツマンの巨体が見えたが、その顔はうかがえなかった。


680 : そして船は行く  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:31:59 5KjOPiyA0

「……イベントの方は、とにもかくにもドッペルゲンガーの方だろうな。
 一見するとウイルスの猶予期間を延ばす措置にも見えるが」
「罠、だろうな」

ネオはそう言い切った。
先ほど告げられたイベントの中で、ひときわ目を引くのが【月影の放浪者】だ。
しかし揺光が言うにはこのイベントは元々The World R:2で実装されていたものがモチーフになっているらしい。
元々の状態ではそう難易度の高いイベントではなかったらしいが、それこそが罠だ。
このタイミングで実装されるイベントに、安易に飛びつけるほどネオたちは無警戒ではなかった。

「もっとも、罠と分かっていても飛びつかざるを得ないほど、状況は切迫しているが」

アーチャーの言葉に、ネオはうなずく。
もうすでに時間的な猶予はない。一刻も早く、ウイルスだけでも解除しなくては、この空間からの脱出などできはしない。

「それで最初の話に戻るが」
「月海原学園だな、確かに他の当てもない」

元々デウエス撃破という突発的な出来事がきっかけで結成された集団だ。
全体的なヴィジョンなどはなく、行くこと自体に異論はない。
問題は月海原学園へどうやって向かうか、だろう。ファンタジーエリアをまるごと横断する必要がある以上、どうしても時間がかかってしまう。

「この船でいけば、そう時間はかからないが……」

アーチャーは言葉を濁す。
暫定的にこの船――ライダーの宝具で移動しているが、本来彼女はPKであり、決して油断できない相手だ。

「旅の案内かい? 別にかまわないよ。今は虜囚の身だからねぇ、アタシは」

言葉尻を聞きつけたのか、ライダーが口をはさんできた。
彼女は、やれやれ、とホールドアップをしている。

「とはいえ、本格的に移動するとなれば物資が足りない。全く足りない。
 ノウミのチンケな魔力じゃあ、呉越同舟してエリア横断なんて夢のまた夢さ」
「……っ、悪かったですね。僕だって破壊できるオブジェクトさえあれば」

能美が不満そうに漏らし、なぜか慎二が得意げな笑みを浮かべる。
が、ライダーはそのどちらも無視をして、ネオたちにニヤニヤした笑みを向ける。

「魔力をよこせ、という訳か、ライダー」
「そうだよ、色男。アタシらを足に使おうってなら、何かしら回復できるアイテムでもないとねぇ。
 っていうか、このままだと今にも落ちるよ、この船」

やはり油断のならない相手だ。何が駆け引きに利用できて、どう動くべきなのかを彼女は知っている。
戦力比でいえば、確実にこちらが勝つとはいえ、ここはライダーの船なのだ。何か隠し球を持っている可能性はある。
仕方がなかったとはいえ、そんな船に一度乗ってしまった以上、この場でライダーを下手に刺激する訳にはいかない。

何より――無駄にできる時間はないのだから。

「ミーナ、確か君は魔力を回復できるアイテムを持っていたな」
「……はい、私では使えませんでしたが」

ミーナもまた警戒しつつもアイテム【魔術結晶の大塊】をオブジェクト化し、能美へと使用した。
「毎度」とライダーは充填された魔力を前に一言漏らした。

それを見ながらネオとアーチャーは顔を見合わせる。
どうやらこの後も気を抜くことはできないようだ。こんな食わせ物が一緒では。
とはいえそれが自分たちの役目だろう。“救世主”とかそんな大それたことではない。
この船に居合わせた“大人”として、やるべきことをやらねばならない。


681 : そして船は行く  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:32:26 5KjOPiyA0




「……はっ、やんなるね」

能美が回復されていくのを、慎二は悪態を吐いて見守っていた。
本来ならば――この船は自分のもののはずだった。何故ならばこの船はライダーのものであり、ライダーは慎二のものだからだ。

――だっていうのに、なんでこんな奴に

そう思うが、しかしもう少しの辛抱でもある。
所詮能美は拘束中の身。岸波たちと合流できれば、いよいよ能美も逆転の機会を喪うだろう。
そう自分に言い聞かせつつ、しかしまだ納得できない慎二はうなりながら甲板を歩いた。
途中、ライダーが愉快そうにこちらをみてきた――気がするが、振り返る頃には彼女は再びけだるげに欠伸をしていた。

むっ、と顔をしかめつつ、慎二は何となしに船の外を覗いた。
眼下に広がる暗い森、草原にぽつんと見える大聖堂、遠くに見えるぼやけて見える水の街。
なんだか見覚えのある風景だ、と思った時、慎二は気づいた。

――そういえば、このゲームで初めて戦ったのも、この辺だったけ。

ゲーム序盤、まだこの舞台を聖杯戦争と勘違いしていた頃、
慎二はライダーと共にヒースクリフに挑み、そして敗北したのだ。

あの時も自分はこの船に乗っていて――そしてそのまま墜ちていった。
今も目を閉じれば聞こえてくる気がする。ひゅううう、と風を切る音、あっという間に近づいてくる地面、そして湧き上がる死の恐怖。
思えばあそこをきっかけにして、何かが少し変わったように思う。

「そういや、アイツ、大丈夫なのかよ」

びゅうびゅうと吹きすさぶ風の中、慎二は一人呟いた。
アイツ、とはこのゲームにおいての同行者、キリトのことだ。

先ほどのメールにて、キリトが探していたサチ、そしてアスナの名があった。
アスナという女には正直全くいい印象がないが、どうもキリトにとっては大事な人間らしいし、加えて話に聞いていたシノンとかいうプレイヤーの名もあった。
キリトにしてみれば、随分と多くの人間が散ってしまった訳だ。

「アイツ、変に悩みそうだしね。
 ったく、メンタルを保つのも一流ゲーマーとしては重要なんだけどね。
 まだ協力プレイ/コープしかやってないけど、PvPならやっぱり僕の方が上手だよ」

悪態を突きながら、慎二は不意に目を瞑った。
それは思い出してしまったからだ。
ユウキ。
メールに彼女の名があったことを、アスナの言っていたことが本当だったと、これで認めるしかなくなってしまった。
目をつむり、拳を握る。肩が勝手に震えだした。顔は必死に外に向けた。何故だか今の顔は誰にも見せたくなかったからだ。

「……初めてだったのにさ、僕が、憧れるなんて」

ゲームチャンプ、U・M・Eのような伝説ではなく、
現実のプレイヤーとして、慎二は彼女に文字通り“魅せ”られた。

でもその彼女はもういないのだ。
自分の気づかないところで勝手に死に、そしていなくなってしまったのだという。
あれだけすごいプレイヤーだったのに、もう何の数値も残っていない。

――何時か、なくなっちまうのかな、僕も

ふと、そんなことを思った。


682 : そして船は行く  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:32:44 5KjOPiyA0




ミーナは、うん、と伸びをしながら甲板を歩いていた。
船は快調に進んでいる。この調子でいけばそう時間もかからずに学園へとたどり着くだろう。
能美とライダーの見張りを交代で行う以外、いまメンバーは各自休んでいる。
胡坐をかいて座るもの、寝転がっているもの、寒いと言って船の中に行くもの、みな様々だ。

多くの人間がここにいる。
出自も目的も違う、雑多な人間たちの集まりが、この船なのだ。
だが――とミーナは思う。
ここがデスゲームであろうとなかろうと、ネットとは元来そういう場所であったのだろう、とも。

ミーナが本格的にネット社会に関わりだしたのは、デウエスとの戦いが始まってからだ。
それ故にあまり意識することはなかったが、あの事件を通じてミーナはネットのありようというものを身をもって知ったと思う。

例えばそう――ジローだってそうだ。

デンノーズのリーダーであるが、しかし彼自身は平々凡々な経歴の持ち主だ。
デウエスの一件を通じてでなければ、言い方は悪いが、単なるフリーターである彼に興味を持つことはなかった。
それを繋げたのがネットだ。ネットを舞台にした事件だったからこそ、たまたま呪いのゲームに巻き込まれた彼と、ツナミの陰謀を追っていたミーナの線が交わることができた。

「……そうですね」

ミーナはふと思い立ち、懐より紙とペンを取り出した。
それは以前訪れたエリアで回収していたものであり、アイテムではない。
実はウィンドウの設定をいじれば、そこでテキストを書けるのだが、ミーナはどうにも落ち着かないのでこの場でも紙を使うことにしている。

そしてペンを握りしめたまま、彼女はとある人物の前に座った。

「なんですか? あなたみたいな何の戦闘力もない人が、僕に何の用ですか?」

能美、というらしいロボット型アバターの前にミーナは座り込んだ。
彼の背後にはガッツマンが巨大な銃を構えて座っている。少しでも変な動きをすれば鉄拳か弾丸が飛んでくるだろう。
それを分かっているからこそ、能美は動かない。

能美も、そしてガッツマンも訝し気な表情でこちらを見つめてくるが、ミーナは彼らを制して、

「いや、今のうちに聞いておく必要ありまして。
 いろいろな人の話を、この後、この事件を記事にするためにも」
「変な言葉ですね? あなた、アバターとかじゃなくて本当に外国人なんですか?
 ふふん、今の僕なら何でも答えるとでも思ったんでしょうが、残念ながら僕が貴方みたいな無能を怖がるわけが」
「違います。この中で一番先に脱落しそうなのが貴方だからです」
「は?」

虚を突かれたように漏らす彼に、ミーナはいたずらっぽく笑う。
よし先手は取った。記者は常にイニシアチブを取って事を進めなくてはならない。、

「それで貴方、リアルではどんな姿をしているんですか。
 まさか現実でもサイボーグだなんてオチじゃないんですよね?」

さぁ何でも来い。
ネットで付き合いがある人が実はオタクだったとか、フリーターだったとか、公務員だったとか、幽霊だったとか、
もうすでに結構なバリエーションは経験している。


683 : そして船は行く  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:33:13 5KjOPiyA0





「ありす、か」

ネオがその名を口にすると、アーチャーはうなずいた。

「ああ、恐らく君がアメリカエリアで遭遇したという少女たちの名は、それだ」
「おかしな話だ。あまりにも、こう、合致し過ぎている」
「――正確にいえば、彼女らの名はナーサリー・ライム。
 子どもたちの英雄、だ」

ありすとアリス。
その正体について聞かされた時、自分は何を思ったのだろうか。
一人の少女の悲劇と、そこに絡んだ凄惨な現実、そしていつか終わる物語/ゆめ。

彼らは今ライダーの監視に当たっている。
その中で脱落者として刻まれていた一つの名前について、言葉を交わしている。

「私とマスターはゲーム序盤であのありすに襲われている。
 状況的にもおそらくトリニティを傷つけたのは彼女たちだ」

アーチャーはあくまで冷静に語る。
淡々と、事実だけを述べるようにして。

「そしてその彼女たちももう死んでしまった」

そのうえで問おう。
そうアーチャーは前置きして、

「さてネオ、君は――彼女らを悪とするか?
 彼女らに悪意もなく、さりとて善意もなく、秩序も混沌もない。
 ただ夢を見ていただけの少女だ。
 しかし、現に彼女たちは人を傷つけている。トリニティだけではなく、もっと多くの者にも手をかけているかもしれない」

その問いかけを、ネオは無言で受け止める。
脳裏にフラッシュバックするのは、あの時の妖精だ。ありすを追いかけていた彼女は、ありすの正体に戸惑うネオを糾弾した。

「私ならば――彼女たちを討っていただろう。
 たとえその本質が何であれ、排斥を大衆が望むのならば、それを為す。
 正義の味方として、プログラムが与えられた役割をこなすように、だ」

赤い外套のアーチャーはそう言い切った。
そこにはもはや何の迷いも葛藤もない。
彼は――そういう者なのだろう。
ネオは彼の出自を一切知らなかったが、しかしその言葉だけでもそれを悟るには十分だった。

正義の味方。彼は自ら口にしたその言葉に、既に取り込まれている。
“救世主”と同じように“正義の味方”というシステムは存在したのだろう。

「そういう意味で私は既に選び終えている。
 そこに一切のイフはあり得ない。サーヴァントとはそういうものだ。
 だが君は違う筈だ、ネオ。カオルやモーフィアスとのやり取りを通じて、君は何を選ぶ?」

アーチャーはそこで言葉を切った。
やってきた夜の中、船の上には風が吹いている。
掲げられた帆がばさばさと揺れ動く。夜空の中、自分たちはこの船に乗っているのだ。

「……俺は」

そして、ネオは何かを口にしようとした。


684 : そして船は行く  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:33:41 5KjOPiyA0

「色男同士顔突き合わせといて、なんだかめんどくさい話してるねぇ」

しかしそれを遮ったのは、監視されているライダーだった。

「ライダー、分かっているのかね? 君は」
「あーあー、うるさいねぇ。アタシだって今アンタらと事を構える気はないよ」

うざったそうに手を振りつつ、彼女はネオを見上げ、

「身内がやられたんだろう?
 アタシなら、やられたのならやり返す。倍返しにして報復。
 それで仕舞いだけどねぇ……それともそんなことさえを否定するのかい? キュウセイシュ様ってのは」
「否定は――しないさ」

ネオは首を振った。
何もかも赦すことが是であるとは思わない。
愛する者が討たれた悲しみと、そこから生まれる憎しみを、なかったことにすることが正しいとは思わない。

そう告げると「お」とライダーは漏らした。

「分かっているじゃないか。
 なんでもかんでも赦しましょう。私はあなたを理解したいんです。
 ――だなんて、そんなのがいたらアタシは一発で詐欺師だと思うからねぇ」
「…………」

――汚いな

ネオの脳裏にはフォルテの拒絶の言葉がフラッシュバックしていた。

――本当に、汚い

あの時、フォルテに言葉を届かせることはできなかった。
理由は、単純かもしれない。
フォルテを機械でなく、人間として扱おうとしたからだ。

機械との融和を、などと題目を掲げたところで、
機械を人として扱うこと、それ自体がある種人間の傲慢なのだ。
何故ならば、その思考の奥にあるのは機械とは人の下にあるものだという観念に他ならないからだ。

けれど、もはやそれは違う。
人は機械を創造した。そして被造物たる彼らもまた、別の何かを創ろうとしている。
そこに人はもはや関係がない。機械は既に人を必要とはしていないのだ。
まずはその事実を認めなくてはならない。機械は人から独立したのだ、というその事実を。
そんな彼らに、一方的に理解するなどと口にしたところで、意味はない。

「前途は――多難だな」

ネオはそう呟く。
この航海はそう易々とは終わりそうにない。









そして、船は行く。
夜空を、わずかな明かりだけを頼りにして、そこに集った彼らは舵を切った。


685 : きっと最後はここに帰ってくると思う  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:34:23 5KjOPiyA0



HP100%。
そう表示されるステータスを、フォルテは無感動に見つめていた。
マク・アヌのショップにて回復アイテムを購入し、使用する。
それだけの操作で彼の身体は修復され、あれだけ深かった傷はなかったことになった。
アメリカエリアでの行程と全く同じだ。ポイントを多少消費するだけで、すぐに元通りになる。

電脳世界において、この身など所詮は数値の塊である。
どれだけ深く破損していようが、相応の手順さえあれば修復は容易だ。

しかし、それで全て元通りになるわけではない。
脳裏に刻まれた先のエリアで刻まれた敗北の光景。
フォルテは、ぐっ、とその手を握りしめる。
屈辱の味は色濃く、“絆”への憎悪はとどまるところを知らない。

フォルテはぼろぼろのローブをはためかせながらアリーナを後にする。
馬鹿みたいな装飾がうっとおしい場所であったが、電脳世界ではこのようなエリアはさして珍しくない
現実の都市を再現したエリアの方がよほどおかしなものだ。

回復アイテムや蘇生アイテムは十分すぎるほど手に入っている。
加えて戦力もかつてないほど充実している。道中手に入れたアイテムやチップはもちろん、ゲットアビリティプログラムによって手に入れた“力”の最適化も終わっている。

だが――フォルテはいま、渇望していた。
さながら飢えた獣のように、新たな“力”を求めていた。

――彼のあり方を語るにあたって、無視できないものはやはり“力”であろう。

20XX年、コサックという一人の優秀なエンジニアによって、とある画期的な発明がなされた。
当時の技術水準ではネットナビはAIといえど、まだ人間の手による補助が必要だった。
そうした意味でヒトから完全に自立していなかった訳であるが、コサックが作り上げた“彼”は違った。

自らの足で立ち、自らの目で世界を見つめ、自らを律する芯を持つ。
創造主たる人間に判断をゆだねる必要はなかった。
何が善きもので、何が悪しきものであるのか、彼には判別がついたのだから。


686 : きっと最後はここに帰ってくると思う  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:34:45 5KjOPiyA0

言うなればフォルテは、電脳世界に生まれた最初の心だった。

電脳世界とは本来カタチなき世界。
肉は情報であり、情報であるがゆえに改ざん――事象の上書き/オーバーライドもまた可能になる。
そんな世界において、上書きの源泉たる心とは、即ち“力”なのであった。

フォルテとは“力”を持つ者。
一人で生き、一人で戦い、一人で選ぶことのできるもの。
そうであったがゆえに、彼は疎まれ、迫害されることとなった。

彼は優秀過ぎたから、“力”を持っていたから、それゆえに疎まれた。
……というだけではないだろう。
その時点で、人は理解していなかったのだ。
彼の本質を、心あるということの意味を、たかがプログラムと侮っていた。

人は気づいていなかったのだ――心あるものの、危険性を。

心があるということは、プログラムに刻まれた“役割”からの逸脱を可能にする。
故に人はもっと彼を警戒するべきだった。
物として無下に扱うことはもちろん、安易に親愛の意を示すべきでもなかった。

彼はヒトの被造物であり、ヒトではない。だからこそ真の意味でヒトと敵対することができる。
結果、彼は創造主から与えられた“役割”から逸脱できた。
全ては“力”あるが故、心あるが故の顛末である。

キリトたちとの戦いのあと、アリーナに向かった彼であるが、しかしそこで得られた能力も彼を満足はさせなかった。
イベントで開催されていたマッチも、所詮はただのモンスター、ウイルスと変わらない。
“迷いの森”で手に入れた力と、多く変わることはなかった。
戦いのバリエーションは広がるかもしれないが、根本的な“力”の総量に変わりはない。

そうしてマク・アヌに転移すると、陽が落ちようとしていた。
18:00とウィンドウに表示された途端、三度目のメールが届き、メンテナンスが始まっていた。

メールには脱落者の名が並ぶが、フォルテにはそのどれも興味がない。
ロックマンの名さえも、脱落した以上はもはやどうでもいいものなのだ。

だから――フォルテが気にするとすれば、いまだ生き残っている敵の方だ。

“絆”には何度も辛酸を舐めさせられた。
奴を超える“力”を今のフォルテは何よりも求めていた。

そして、一つ、思い当たるものがあった。
このゲーム中で目にした者の中において、もっとも強き“力”を持つ者。
“絆”ではなく、一つの個として、自分と比肩しうるのは、あの男だけだった。

「……ネオ、と呼ばれていたな。あの男は」

アメリカエリアにて遭遇した一人の人間。
機械――ネットナビとの融和を自分に求めた愚か者は、しかし強かった。
あの“力”を手に入れることができれば――あるいは。







687 : きっと最後はここに帰ってくると思う  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:35:05 5KjOPiyA0




船は既に森を越えていた。
エリア中央に存在する山を避けるような航路を取って、彼らは日本エリアへと向かっている。

「――気づかれたか」

そう口にしたのは、アーチャーだった。
千里眼スキルを保有する彼は、遠近エフェクトが強く設定されていてなお高い索敵能力を持っている。
ネオもまたその鋭敏な感覚から敵を察知していた。

「来るな、これは」
「ああ、元々リスクを覚悟しての最短距離での航海だったが――裏目に出たか」

言いながらアーチャーはその手に船の前方へと繰り出す。
それを見て揺光やガッツマンもまた戦闘態勢に入る。

「第一射、来るぞ!」

ネオが叫ぶと同時にアーチャーが盾を展開する。

――熾天覆う七つの円環/ロー・アイアス

七枚の花弁が船の前方守るように展開された。
瞬間――極太の閃光が夜空を走り抜けた。
全てを破壊し尽そうとするその光に、ネオは見覚えがあった。

「――フォルテ」

アイアスが砕け散ったその先で、かの死神は悠然と佇んでいた。
ぼろぼろのローブに、彼は黒き翼を広げている。そして昼間の時と違い、鎌でなく直刀を腰に装備していた。

「あの、刀」

甲板で慎二が声を漏らしていた。

「おいアーチャー、あれって」
「……ああ、間違いない。あれはピンクが持っていたものだろうな」

ピンク。
本来森にて合流するはずだった慎二たちの仲間だ。
しかし彼らは脱落者のメールに名を連ねていた。そこから想像されることは――

「ピンクとブルースを手にかけたのは、奴か。
 どうやらアレは討つしかないようだな」
「……アーチャー」

ネオは一瞬躊躇したのち、そう言い放つ彼の隣に立った。

「待ってほしい。彼と――俺はもう一度話をする必要がある」
「――言っただろう? 私はもう選んでいる、と。
 だから待つことはできない」

だが、と彼は言った。

「それが君の“選択”なのだろう?」
「ああ、システムに命じられたことでも、“救世主”という“役割”でもない」

そう言って、彼らは戦おうとした――

「――アタシたちを忘れてもらっちゃあ困るよ」

その瞬間だった。
背後からその声が響いたのは。
はっ、としてネオは振り向くが、しかしもう遅い。
そこにはカルバリン砲を展開したライダーの姿があった。

ネオは舌打ちをする。
ライダーは狙っていたのだ。
こちらの監視が途切れる瞬間――例えば突然の敵襲のような。

「砲撃用意!」
「なっ、ライダー!? ここでそんなもの撃てば僕も巻き込みかねないんですよ!」
「は? 何ビビってるんだい? マスター。どのみち、アタシらはかなり苦しい状況だったんだ。
 ここらで一発賭けないと――意味ないよってねぇ」

そして、ライダーは砲撃をぶっ放した。
ドドドド、と音と共に火薬と硝煙の臭いが渦巻く。
その衝撃は、乗船していたプレイヤーたちに等しく降り注いだ。






688 : きっと最後はここに帰ってくると思う  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:35:26 5KjOPiyA0




船は既に森を越えていた。
エリア中央に存在する山を避けるような航路を取って、彼らは日本エリアへと向かっている。

「――気づかれたか」

そう口にしたのは、アーチャーだった。
千里眼スキルを保有する彼は、遠近エフェクトが強く設定されていてなお高い索敵能力を持っている。
ネオもまたその鋭敏な感覚から敵を察知していた。

「来るな、これは」
「ああ、元々リスクを覚悟しての最短距離での航海だったが――裏目に出たか」

言いながらアーチャーはその手に船の前方へと繰り出す。
それを見て揺光やガッツマンもまた戦闘態勢に入る。

「第一射、来るぞ!」

ネオが叫ぶと同時にアーチャーが盾を展開する。

――熾天覆う七つの円環/ロー・アイアス

七枚の花弁が船の前方守るように展開された。
瞬間――極太の閃光が夜空を走り抜けた。
全てを破壊し尽そうとするその光に、ネオは見覚えがあった。

「――フォルテ」

アイアスが砕け散ったその先で、かの死神は悠然と佇んでいた。
ぼろぼろのローブに、彼は黒き翼を広げている。そして昼間の時と違い、鎌でなく直刀を腰に装備していた。

「あの、刀」

甲板で慎二が声を漏らしていた。

「おいアーチャー、あれって」
「……ああ、間違いない。あれはピンクが持っていたものだろうな」

ピンク。
本来森にて合流するはずだった慎二たちの仲間だ。
しかし彼らは脱落者のメールに名を連ねていた。そこから想像されることは――

「ピンクとブルースを手にかけたのは、奴か。
 どうやらアレは討つしかないようだな」
「……アーチャー」

ネオは一瞬躊躇したのち、そう言い放つ彼の隣に立った。

「待ってほしい。彼と――俺はもう一度話をする必要がある」
「――言っただろう? 私はもう選んでいる、と。
 だから待つことはできない」

だが、と彼は言った。

「それが君の“選択”なのだろう?」
「ああ、システムに命じられたことでも、“救世主”という“役割”でもない」

そう言って、彼らは戦おうとした――

「――アタシたちを忘れてもらっちゃあ困るよ」

その瞬間だった。
背後からその声が響いたのは。
はっ、としてネオは振り向くが、しかしもう遅い。
そこにはカルバリン砲を展開したライダーの姿があった。

ネオは舌打ちをする。
ライダーは狙っていたのだ。
こちらの監視が途切れる瞬間――例えば突然の敵襲のような。

「砲撃用意!」
「なっ、ライダー!? ここでそんなもの撃てば僕も巻き込みかねないんですよ!」
「は? 何ビビってるんだい? マスター。どのみち、アタシらはかなり苦しい状況だったんだ。
 ここらで一発賭けないと――意味ないよってねぇ」

そして、ライダーは砲撃をぶっ放した。
ドドドド、と音と共に火薬と硝煙の臭いが渦巻く。
その衝撃は、乗船していたプレイヤーたちに等しく降り注いだ。






689 : きっと最後はここに帰ってくると思う  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:35:47 5KjOPiyA0


「よくもアッシュを……! ブルースを……!」

強化外装“ゲイル・スラスター”
カオルがドロップしたそのアイテムを、ガッツマンが持っていた。
その外装は“飛行”ではないものの、圧倒的な推進力を手に入れ“跳躍”を可能にするもの。
空へと吹き飛ばされたガッツマンは、それを利用することで落下を防ぎ――そのまま攻勢に転じることができた。

「許さない――でガス!」

ガッツマンは咆哮する。
その先にはフォルテがいる。
噂くらいは聞いていた。ウラインターネットで数多くのナビを屠ってきたという――死神。
このゲームにおいても、奴は多くの命を奪ってきた。

――アッシュ

髑髏とバイク。
一見してゴロツキのような外見をしたアバターだった彼は、
しかしその実誰よりも優しく、男らしかった。
それをあの死神は呆気なくデリートしてみせた。

――ブルース

オフィシャルネットバトラー、炎山のナビ。
出会った当初は、その冷徹なやり方からロックマンと揉めたとも聞くが、
今となっては炎山共々デカオたちの仲間となっていた。
そんな彼もまた、奴にやられたのだという。

――ロックマン

デカオの永遠のライバル、光熱斗のナビ。
それはつまり、ガッツマンのライバルであるということ。
確かに以前は実力差があったと思う。デカオと熱斗も、ガッツマンとロックマンも。
だけど、今は今はもう違う。
デカオと共に修行した自分たちは、もう裏ランカーでさえ対等以上に戦える実力を身に着けた。
名実ともにライバルになれたと――そう自負をしていた。

だけど――彼もまたデリートされてしまったのだという。
揺光から話は聞いていた。しかし、実はまだ生きているのではないか? 
そんな希望でさえ打ち砕かれた。

――ロールちゃんも、みんなみんな!

死んでいった者たちを想うと、胸の奥から悲しみがあふれてくる。
そしてその災禍の中心に、フォルテのようなPKがいることを思うと――絶対に許せない、そんな感情がこみ上げてくる。

分かっている。
ネオは、フォルテと話そうとしていることを。
しかし、それでもガッツマンには、どうしても許せないのだ。
機械とか、人間とか、そうである以前に、フォルテの存在がもはや彼には許せない域になっていた。

それ故に、ガッツマンは単騎飛び出した。
ゲイル・スラスターの推進力が続いているうちが勝負だ。
この圧倒的な加速に、ガッツマンの拳の威力を乗せて、一撃でフォルテを討つ。

「――ほう」

ガッツマンが近づくと、フォルテは一言そう漏らした。
そして、言葉を続けた。

「貴様、いい顔をするようになったな。
 そうだ。俺を憎むがいい。仲間を、お前たちの“絆”を破壊した俺を」

言われなくても――

煽るようなその言葉に、ガッツマンは叫びを上げていた。

「ガッツ・パンチ!」
「……バトルチップ・ダッシュコンドル」


690 : きっと最後はここに帰ってくると思う  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:36:11 5KjOPiyA0










「……よくあるよね。
 馬鹿が読むような漫画とかでさ、敵同士なのになんかいろいろあって共闘して、
 ぐたぐだのまま和解しちゃうようなの」

黄金の鹿号は、いまだ硝煙に包まれていた。
甲板の中心で放たれたカルバリン砲を受け、船には穴が開き、あちこち火の手が上がっている。
それでも――船はまだ止まらない。

当然だ。
何せ船の象徴たる船長はぴんぴんしていた、馬鹿みたいに笑ってるんだから。

慎二はその笑みを知っている。
下品で、酒臭くて、本当に不快な笑みなのだ、あれは。
隣で何度も見ていたそれを、今度は真正面から彼は受け止める。

「ああいうのを見ると虫唾が走るんだよねぇ……如何にも馬鹿が馬鹿のために書いた馬鹿なシナリオって感じがしてさ」

煙が風に吹かれ、一瞬だけ走る。
すると船長の隣に、一人の宵闇色のアバターが現れた。

「同意します。僕もああいう幼稚な展開は反吐が出るほど嫌いです」
「へぇ、初めてじゃない? 僕とお前の意見が合ったのって」

言いながら、やれやれ、と慎二は首を振る。
いろいろあったけど、正直この展開になって良かったと思っている自分もいる。
このまま月海原学園について、なぁなぁのままライダーを取り戻してしまう、なんて展開もちょっと見えていた。

しかし――それでは駄目なのだ。
何故ならば、これは意地とプライドの問題だからだ。
ゲームチャンプとして、ゲーマーとして、コイツとの対決は避けることはできない。

やはり楽な方向に逃げてはダメなのだ。
ゲーマーとはストイックに自分を追い込まなくてはならない。
そんな風に、慎二は考えることにした。

「結局、僕とお前って何回戦ったんだっけ」
「さぁ、正直よく覚えていませんね。貴方がやたら付きまとってきたせいで、変に長い因縁になってしまいましたが」
「たださ、分かるのは僕の連戦連敗ってことだけだよね。
 ――ユウキはお前なんてコテンパンにしちゃったのにさ」

そう語る慎二の隣には、赤い外套の青年が立っていた。

「慎二、恐らく次のチャンスはない。
 ここを越えなければ、私たちは月海原学園には辿り着けないな」
「分かってるって。これ以上、コンテニューなんて馬鹿らしくてやってられない。
 あんな三下のC級ゲーマー、ぎったんぎったんにしてやるよ」

そう言って、彼らは再び相対した。
燃え盛る船の上にて、アーチャーとライダー、慎二と能美はそれぞれ視線を交わす。

「さ――始めようかね、シンジ! ノウミ!
 出し惜しむのは幸運だけだ。命も弾も、ありったけ使うから愉しいのさ! ましてやこいつは大詰め、正念場って奴だ。
 さあ破産する覚悟はいいかい? 一切合財、派手に散らそうじゃないか!」


691 : きっと最後はここに帰ってくると思う  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:36:33 5KjOPiyA0



【D-3/黄金の鹿号の甲板/1日目・夜】


【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP40%、MP30%(+40)、ユウキに対するゲーマーとしての憧れは未だ強い、ユウキとヒースクリフの死に対する動揺、令呪一画
[装備]:開運の鍵@Fate/EXTRA
[アイテム]:強化スパイク@Fate/EXTRA、リカバリー30@ロックマンエグゼ3、不明支給品2〜4、あの日の思い出@.hack//、エリアワード『選ばれし』、ユカシタモグラ3@ロックマンエグゼ3(一定時間使用不能)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:ライダーを取り戻し、ゲームチャンプの意地を見せつける。それから先はその後考える。
1:決着を、つけてやるさ。
2:ユウキは、もういないのか。
3:ライダーを取り戻した後は、岸波白野にアーチャーを返す。
4:いつかキリトも倒してみせる。だから探さないとね。
[サーヴァント]:アーチャー(無銘)
[ステータス]:HP70%、MP10%
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。
※ユウキの死を受け止められていません。

【ダスク・テイカー@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP40%(回復中)、MP60%程度、Sゲージ25%、胴体に貫通した穴、令呪三画、例えようもない敗北感
[装備]:パイル・ドライバー@アクセル・ワールド、福音のオルゴール@Fate/EXTRA
[アイテム]:デスマッチ3@ロックマンエグゼ3、不明支給品0〜1、基本支給品一式
[思考]
基本:他の参加者を殺す。
1:……負ける訳には、いきませんよね?
[サーヴァント]:ライダー(フランシス・ドレイク)
[ステータス]:HP30%、MP30%
[備考]
※参戦時期はポイント全損する直前です。
※サーヴァントを奪いました。現界の為の魔力はデュエルアバターの必殺技ゲージで代用できます。
ただし礼装のMPがある間はそちらが優先して消費されます
※OSS《マザーズ・ロザリオ》を奪いました。使用には刺突が可能な武器を装備している必要があります。
注)《虚無の波動》による剣では、システム的には装備されていないものであるため使用できません。

【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:???
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1(本人確認済み)、快速のタリスマン×2@.hack、拡声器
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する 。
1:生きて帰り、全ての人々に人類の罪を伝える。
2:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
3:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)、ローブを纏った男(フォルテ)を警戒。
4:ダークマンは一体?
5:(状況不明)
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。
※現実世界の姿になりました。
※ダークマンに何らかのプログラムを埋め込まれたかもしれないと考えています。


692 : きっと最後はここに帰ってくると思う  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:36:58 5KjOPiyA0



ガッツマンの力はなるほど脅威に値した。
元々の威力に、あのチップの推進力を乗せて相乗効果を狙う。
そのタイミング、度胸、どれも強者としての資格を満たしている。

だが――それだけだ。

“単なる強者”程度、ウラインターネットには吐いて捨てるほどいる。
そんな彼らをフォルテは一方的に蹴散らしてきたのだ。
何もかも、喰らう形で。

「ゲットアビリティプログラム」

そうして――フォルテはガッツマンをデリートした。
ガッツマンの狙いは悪くなかったが、しかし今のフォルテにはピンクから奪った超感覚がある。
それ故に、そうしたタイミングの勝負では、どうしても届かない。

無論、そんなこと、ガッツマンは知る由もなかっただろうし、
よしんば知っていたとしても、彼はやはり飛び出していただろう。
それほどまでに彼の怒りと憎悪は強かった。

ちら、とフォルテは船を見やる。
何やら煙が上がっており、戦闘の様子がうかがえるが、フォルテは興味なさげに視線を逸らした。

「雑魚に用はない――俺が用があるのは貴様だ」

そう言ってフォルテはその男を呼びつけた。
ダークスーツにサングラスをかけた、一人の人間。
あの人間は、抱えていた女を下に置いてきたのち、ここまで上がってきた。
律儀なことだ。どうせ全てデリートされるというのに。

「人間。貴様の従えていたナビは二人ともデリートしたぞ?」

ネオ。
彼を喰らうことで、今度こそフォルテはキリトを、“絆”を超越することができる。
そう思ったが故、フォルテはマク・アヌにてあるモノを手に入れた。
第三メンテナンスを経て追加されていた、【参加者位置】という情報をフォルテは入手し、
それ故にこの場で待ち伏せすることができた。
 
「カオルは言っていた。科学を、そして機械を否定しないでくれ、と」

やってきたネオはフォルテと向き合い、そんなことを言い始めた。

「貴様はまだそれが言えるのか?
 この俺を、すべての“絆”を奪った俺を前にして」
「――カオルは言ったんだ。“赦す”のではなく“否定するな”と」

そうして彼は一振りの剣を抜いた。
漆黒の剣。その刀身はまっすぐにフォルテへと向いている。
どういう訳か、フォルテはその剣がひどく不快だった。

「――機械を悪ではないと、許容するのでは傲慢だった。。
 人間が諸悪の根源だと、頭を垂れるのは無意味だった」

黒衣の剣士は、そうしてフォルテへと相対した。

「機械を機械として――本当の意味で接すること。
 それを通じて、初めて人は終わらせるべき闘いを知ることができる」


693 : きっと最後はここに帰ってくると思う  ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:37:18 5KjOPiyA0


【D-3/空/1日目・夜】

【フォルテ@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP100%、MP25/70、オーラ消失、激しい憤怒
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、{ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:{ダッシュコンドル、フルカスタム}@ロックマンエグゼ3、完治の水×3、黄泉返りの薬@.hack//G.U×2、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、{マガジン×4、ロープ}@現実、不明支給品0〜4個(内0〜2個が武器以外)、参加者名簿、基本支給品一式×2
[ポイント]:1120ポイント/7kill(+0)
[思考・状
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
1:ネオの力を手に入れる。
2:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
3:シルバー・クロウの使ったアビリティ(心意技)に強い興味。
4:キリトに対する強い怒り。
5:ロックマンを見つけたらこの手で仕留める。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※参加者名簿を手に入れたのでロックマンがこの世界にいることを知りました。
※フォルテのオーラは、何らかの方法で解除された場合、30分後に再発生します。
※ゲットアビリティプログラムにより、以下のアビリティを獲得しました。
 剣士(ブレイドユーザー)のジョブ設定及び『翼』による飛行能力(バルムンク)、
 『成長』または『進化の可能性』(レン)、デュエルアバターの能力(アッシュ・ローラー)、
 “ソード”と“シールド”(ブルース)、超感覚及び未来予測(ピンク)、
 各種モンスターの経験値、バトルチップ【ダークネスオーラ】、アリーナでのモンスターのアビリティ
 ガッツパンチ(ガッツマン)
※バトルチップ【ダークネスオーラ】を吸収したことで、フォルテのオーラがダークネスオーラに強化されました。
※未来予測は使用し過ぎると、その情報処理によりラグが発生し、頭痛(ノイズ)などの負荷が発生します。


【ネオ(トーマス・A・アンダーソン)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康、決意
[装備]:エリュシデータ@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド、不明支給品0〜2個(武器ではない)
[思考・状況]
基本:本当の救世主として、闘う
1:モーフィアスとカオルの遺志を継いで、未来を切り開く。
[備考]
※参戦時期はリローデッド終了後
※エグゼ世界及びアクセルワールド世界についての情報を得ました。
※機械が倒すべき悪だという認識を捨て、共に歩む道もあるのではないかと考えています。
※このバトルロワイアルには、異なる世界の者達が呼ばれているのではないかと推測しています。
※この会場は、加速世界の一種に設置されているのではないかと考えています。

【D-3/草原/1日目・夜】
※ゲイル・スラスター@アクセル・ワールドほかガッツマンの装備品がドロップしています。

【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP20%以下
[装備]:最後の裏切り@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜2、平癒の水@.hack//G.U.×3、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式 エリアワード『選ばれし』
[思考]
基本:この殺し合いから脱出する
1:ネオ、お前――
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ハセヲが参加していることに気付いていません
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。
※バーサーカーの真名を看破しました。

【ガッツマン@ロックマンエグゼ3 Delete】


694 : ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:37:44 5KjOPiyA0
投下終了です


695 : ◆7ediZa7/Ag :2016/10/10(月) 02:44:49 5KjOPiyA0
……すいません、投下ミスで>>688に入る文章が入れ替わってました。
本来は以下のものになります。










ネオはその時、咄嗟に空へと逃げていた。
“救世主”の力を手に入れて以来、マトリックス内での彼はジャンプはもちろん、自在に飛び上がることも可能だった。
それゆえ、彼は最も冷静にことに対処できたと言えよう。

「――アーチャー! ミーナ!」

叫びを上げるが、しかし船の上は煙に包まれて伺えない。
ネオは必死に辺りを見渡した。もしかすると誰かが船から振り落とされているかもしれない。

そう冷静に考えた彼は、その鋭敏な感覚で落ちていく一人の少女を確認した。

「――揺光!」

赤い髪の少女、揺光は砲撃に吹き飛ばされ、堕ちていっているのが見えた。
ネオは身を翻す。ダークスーツが夜空に舞い、空中で加速した。
そして揺光の身体を抱きとめ、彼女の落下を防いだ。

「大丈夫か?」
「う……ああ、大丈夫」

揺光は頭を押さえながら、ネオの言葉に反応した。
見たところ、命に別状はなさそうであった。そのことに胸を撫でおろしつつも、ネオは必死に船の上をうかがった。

――アーチャーと慎二、それにミーナか。

船の上には彼らの姿が確認できた。
彼は黄金の鹿号の上で、ライダーとダスク・テイカーと相対している。

状況はつかめないが、しかしあの場は彼らに任せるしかないだろう。
何故ならば、敵はライダーたちだけではない。
フォルテ。彼がこの船に迫っているのだ――

その時、ネオは気づいた。
ガッツマンが、いない。
船の上にも彼の姿はなく、しかし吹き飛ばされた様子も―

「許さない――でガス!」

その時、その慟哭は響いた。
硝煙のカーテンを抜けるようにして、ぼっ、と彼の巨体が姿を現す。
ガッツマンは飛んでいた。
その背中には巨大なロケットブースターが据えられおり、その圧倒的な推進力のままフォルテへと向かっていた。

「ガッツマン!」






696 : 名無しさん :2016/10/10(月) 03:54:16 2oTAMDZg0
投下乙です
フォルテの襲撃から始まった二つの戦い
慎二と能美、そしてネオとフォルテの戦いはついに決着するのでしょうか

以下誤字報告です
>>681
>眼下に広がる暗い森、草原にぽつんと見える大聖堂、遠くに見えるぼやけて見える水の街。


697 : 名無しさん :2016/10/10(月) 07:28:05 YU.dhVPQ0
投下乙です。
ガッツマンはここで敗退となりますか。フォルテの圧倒的な力はやはり凄まじい……
慎二と能美の喧嘩というどこか微笑ましさすらも感じられる冒頭から、このようなことになるとは。
そして二つの因縁の決着も、どんな終わりを迎えるのか?


698 : 名無しさん :2016/10/10(月) 14:46:09 ihodSvfYO
投下乙です

人間が機械を造った
機械は人間を必要としていない
その事実から眼を背けたまま、なかよしこよしはできない


699 : 名無しさん :2016/10/18(火) 23:52:48 /3xaU4MU0
避難所に支援を投下しました
お納め下さい


700 : 名無しさん :2016/11/15(火) 23:01:18 mcg9NNYA0
月報の時期なので集計します
125話(+ 3) 18/55 (- 1) 32.7 (- 1.8)


701 : 名無しさん :2016/11/23(水) 19:50:48 1Y5MZoBk0
12/15に交流雑談所でVRロワ語りが始まることが決定しました


702 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/25(金) 23:28:07 Fk.qcO120
これより予約分の投下を開始します。


703 : 共に生きる ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/25(金) 23:29:17 Fk.qcO120


「……榊か」

「オーヴァン……アンタからこちらに連絡とはな。また何かゲームのバグでも発見したのかね?」

「ほう、俺を疑わないのか。このエリアに干渉するのは、これで三度目になるはずだ」

「ああ、私は寛大だからね。
 それに普通のプレイヤーならともかく、アンタはこのゲームの為に献身的に動いてくれているのを"私達"は知っているのだよ?
 この6時間でキルスコアを稼ぎ、あまつさえISSキット及びロストウエポンの譲渡もしてくれている。
 そんなアンタを信用しない理由がどこにあるというのかな?」

「実に有り難いことだ」

「それで、今回は如何な要件かな?」

「あるプレイヤーについての情報が知りたい。ゲームの煽動の為に一役買ってもらおうと思ってな。
 無論、ただでとは言わない……"これ"と引き換えだ」

「……なるほど。"これ"は確かに"私達"としても有り難い。
 良いだろう、その好意は素直に受け取るとしよう!
 全く、オーヴァンのように"役割"を忠実に果たしてくれる者ばかりならば、私としても大いに満足なのだがなぁ!
 それで、一体どのプレイヤーのことかな?」

「ああ……今もPKを続けているであろう黒いアバター。
 フォルテ、と呼ばれるプレイヤーのことだ」



     1◆



「フンっ!」

 目前より迫る弾丸の嵐を、エシュリデータの一閃で振り払う。一撃でも当たれば致命傷になり得るエネルギーは、遥か後ろへと弾き飛ばされた。
 無論、それで終わることなどない。フォルテの左腕に顕在するバスターから、機関銃の如く勢いで光弾が放たれ続ける。響き渡る轟音だけでも戦場特有の威圧感を醸し出していた。
 サイズこそは自動拳銃より僅かに勝る程度だが、そのスペックは重機関銃に匹敵する程。バレッド・ドッジを始めとした能力を誇るエージェント達にとっても、脅威となり得る力だ。
 救世主となって培われてきた経験から、瞬時にそう推測する。


 されど、ネオの闘士は微塵も衰えない。
 その身に宿らせる救世主の力を発揮して、光弾の勢いを強制的に止める。結果、光弾はただのエネルギーの塊と成り下がった。
 
「ほう……!」

 当然ながら、目前を飛ぶ死神はこの仕様に目を見開く。だが、それは決して驚愕ではないようだった。
 しかし、その真相を確かめる術など持たない。故に構うことなく、ネオは再び刃を振るって全ての弾丸を破壊する。
 マトリックスの法則を超越した現象を引き起こせる救世主の力だからこそ、成せる業だ。


704 : 共に生きる ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/25(金) 23:31:08 Fk.qcO120

「やはりキサマの力は面白そうだ」

 だが、死神は微塵の動揺も見せない。むしろこちらを値踏みするかのように、禍々しい笑みを浮かべていた。
 ネオはその表情に見覚えがある。己以外の者を徹底的に侮蔑し、そして全てを自分自身に"上書き"しようとした男と同じ。
 そう。エージェント・スミスが浮かべる酷薄な笑みと、何一つの違いがなかった。



 だからこそ、彼をここで止めなければならない。
 彼が死神であり続ける限り、人間と機械の争いは永久に終わることはない。いずれ彼はGM達すらも破壊し、そしてこのデスゲームに巻き込まれた者達が生きる世界すらも飲み込むだろう。
 あのスミスがマトリックスの住民達を"上書き"したように。



 目前に顕在する漆黒のアバターを直視する度に、やはりスミスの姿が脳裏に浮かび上がる。
 二人はどこまでも似ていた。人類の英知から生まれて、多くの事柄をインプットされる度に己の自我を持つようになり、そうして生みの親に反旗を翻した。
 それはシステムから生じたバグなどではない。彼ら自身の意志であり、唯一無二のオリジナリティだ。
 堕落した人類の罪こそが全ての元凶。そう考えていたが、大きな勘違いなのではないか?

「人間よ。キサマは今も俺を憐れもうとしているのか?」

 そんな思考を見透かしたかのように、彼は言葉を紡いだ。

「その結果がこの有様だと、何故わからない?」

 胸に抱いた決意を彼は嘲笑う。そして一直線に突貫し、その手に握る刀を振るった。
 ゴウッと、風を大きく揺らしながら迫る。ネオは反射的にエシュリデータを掲げて一閃を受け止めた。
 余りにも力任せで、ただ振るったに等しい技。だが、その重量は決して侮れるものではなく、耳障りな衝突音と共にネオは弾き飛ばされた。

「ぐっ……!」

 稲妻の如く振動が全身を駆け巡り、思わず呻き声を漏らす。
 ネオの表情が苦悶に染まるも、死神の刃が迫る。その餌食にならないよう、ネオもまた己の刃を振るった。
 一秒の時間も待たずに火花が散って、闇に覆われつつある空が僅かに照らされる。互いの呼気は鋭い衝撃音に飲み込まれていた。



 両者の剣戟はマトリックスの空を震え上がらせる程に凄まじい。
 二つの刃が衝突する度に、死神の体躯より放たれる殺意が濃さを増す。人間に対する憤怒と憎悪……そして"力"への渇望が、真紅色の双眸より突き刺さった。

「どうした。何故俺に力を向けようとしない?」

 淡々とした問いかけ。しかしその声色にも、エージェント達が抱いている程の冷徹さが内包されている。
 彼の感情を現すかのように、バスターがおぞましく輝いた。それが視界を覆うと同時に身を捩ったことで、光弾はコサックコートを掠めるだけに終わる。
 ネオは空中で体制を立て直すも、その僅かな時間が致命的な隙となった。


705 : 共に生きる ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/25(金) 23:34:51 Fk.qcO120

「人間、キサマは言ったな。俺の意志を話せと…………だがそれを聞いて何の意味がある?」

 嘲笑と共に振るわれる死神の一閃。ネオは身体を大きく逸らすことで容易く避ける。鋭い輝きを放つ刃がネオの目前を横切った。
 次に迫る攻撃を予測する。反射的な動作が困難となった体制に追い込み、そしてこの身体を狙撃するのだろう。
 案の定、銃声が鳴り響いた。だがそれに抗うイメージを心に描き、殺意の灯から逃れる。マトリックスのルールを幾度も打ち破ったネオにとっては呼吸に等しい業だ。
 エシュリデータを構え直して、ネオは死神と向き合う。彼の真実は何か……この運命を変える為に、何ができるのか?


 預言者と初めて巡り会ったあの日、汝自身を知れと預言者より告げられる。それを突き詰めたことで、ただの人間に過ぎなかった己自身の"選択"と"本当の自分"を知ることができた。
 今の自分は己自身を知れているのか? 目の前にいる心を持つネットナビの本心も知れずに戦い続けても、いずれ来たるのは決着のみ。どちらが勝者として君臨しても、望んだ結末になり得ない。
 これが本当に救世主が果たすべき使命なのか? マトリックスでエージェント達と戦っていた頃と、何の違いがあるのか?



「この期に及んで、俺が人間どもと手を取り合うなどと本気で思っているのか?」

 死神の構えるバスターより無数の弾丸が放射される。
 一撃でも直撃すれば爆裂し、この身体は跡形もなく消し飛ぶであろう輝きの嵐を潜り抜けて、時に自らの得物で両断した。

「ならば夢を見続けていればいい。そして何も知らないまま、全てを奪われていろ!」

 激昂と共に死神は肉薄する。
 両者は刃を振るい、金属音を響かせた後に鍔迫り合いの態勢となった。

「同じだな」

 吐息がかかる程の距離まで迫った途端、彼は呟く。

「やはりキサマも所詮は人間に過ぎない……俺を哀れもうとするのが証拠だ。人間め!」

 人間、という単語に異様なまでの嫌悪を滲ませながら、豪快にネオを弾き飛ばす。
 そうして死神は衝撃波が生じる程の速度で突貫し、逆袈裟に刃を振るった。ネオはその一刀を受け止めるも、振動に表情を顰める。


 予想はしていたものの、やはり恐るべきスペックを誇っていた。
 アッシュ・ローラーやガッツマンを一瞬で屠る程の剛力に、ネオの振るう刃を的確に捌く反射神経。剣術の技量自体は拙いものの、それを補うのは彼自身のポテンシャルだ。
 単純な戦闘能力ならばネオも決して劣っていない。アメリカエリアの一戦では心理的な要因があった為に敗北を喫したが、フォルテに致命傷を負わされることはなかった。
 モーフィアスとタンクより授けられた戦闘技術と、長きに渡る戦いによって育まれた救世主の力を兼ね揃えたネオにダメージを負わせること自体が容易ではない。


 だが、目前の死神とてただの機械ではない。
 威風堂々と振るわれる刃の重みが桁外れだった。並のエージェントならば……否、スミスレベルのエージェントでなければ瞬く間に葬られてしまう程だ。
 嵐の如く勢いで一閃は続くが、瞬時に掻い潜ったネオは反撃の一突を繰り出す。しかし死神はエシュリデータの尖端を見切り、身体をほんの僅か左に傾けることで回避。
 そうしてがら空きとなった脇腹を目がけて、豪快に刃を横薙ぎに振るった。

「ぐ、あっ…………!」

 救世主の力で物理法則を捻じ曲げるより、刃がコートを破りながら肉体を抉る方が早い。
 凄まじい激痛が駆け巡るが、それを堪えて全身を大きく横回転させる。赤いエフェクトを撒き散らしながら、ネオは死神から大きく距離を取った。
 だが、死神によって刻まれた裂傷が枷となって、次の動作が遅れる。致命的な隙を狙ってバスターの銃口が掲げられた。

「消し飛べっ!」

 激昂と共に発射されるのは、視界を埋め尽くすほどの破壊の輝き。常人を容易く塵芥に変えられるであろうそれは、災害と称しても過言ではない。
 この身を飲み込まんと迫るが、ネオは一切の躊躇をせずに救世主の力を発揮し……運動エネルギーを強制的にゼロに変えた。
 先程の焼き増しとも呼べる光景。だが、ネオが肩で息をしているのが、唯一にして最大の違いだった。
 疲弊に満足したのか、死神は表情を喜悦に染めながら言葉を紡ぐ。


706 : 共に生きる ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/25(金) 23:37:54 Fk.qcO120

「ククク……どうした、人間? これでも尚、俺と話し合おうなどと戯言を続けるつもりか?
 文明を生み出したという驕りから神を気取り、そして救世主とやらに縋った結果だぞ。俺を高みから見下ろそうとしたのだろうが、どうやら逆だったみたいだな」

 それは、決して聞き逃してはならなかった。
 人類の驕りによって引き起こされた悲劇。マトリックスに抗う人類達や、ネオに未来を示してくれたカオルがよく知っていた。
 計算。医療。農業。交通。娯楽。経済。果ては快楽。進化の為、あるいは欲望を満たす為に……人類はあらゆる分野の発展を目指して、技術開発を続けた。
 そうしてシンギュラリティが訪れて、機械は人間の能力を上回った。そして高度な人工知能は科学技術の進歩を支配し、人類の心をマトリックスに閉じ込めた。
 ここで今、ネオと相対している彼もまた、異世界で起きたシンギュラリティの産物。人類に見切りをつけて、全てを破壊しようと目論んでいるのだろう。

(カオル、アッシュ、ガッツマン、モーフィアス、トリニティ…………俺の答えを君達が認めるかどうかは知らない。
 だが、俺は決めた。俺自身の"選択を見つけた")

 だが、彼らの存在を悪と断定しない。それは人類の進化を悪と断定するに等しかった。人類が元凶だと決めつけるのは、文面の発展に命を注いだ先人の英知を冒涜するだけ。
 機械は人間の手によって生み出されて、己の心を持つまでに成長した。人間と同じように思考し、行動するようになった彼らが、自らの存在を軽視されることを許す筈がない。例えその相手が生みの親だろうと。
 それは人間も……いや、どんな命だろうと同じだ。心が育った子はいずれ親元を離れ、そして己自身の力で道を歩まなければならない。それを否定する権利など、誰にもなかった。
 だからこそ、人類は成長する義務があった。決して思考を止めず、心を持った機械に向き合えるように知恵を出す。古来より続けてきた行いだ。

「違うな」

 故にネオは己の想いを告げる。
 例え届かなくても関係ない。これだけで彼が止まる訳がないことを承知で、己自身の"選択"を告げる義務があった。

「言ったはずだ。人間が諸悪の根源であり、機械はその被害者である……そう決めつけるのは、大きな間違いだった」
「間違い、だと?」
「ガッツマンは言った。全ての人間が悪ではなく、だからこそネットナビは人間と共に生きていると。
 アッシュは俺に聞いた。俺自身が本当にやりたいことはなんであるのか。
 俺は彼らから教わった。自らの力で生きて、思考し、判別をしながら行動する…………それは人間もネットナビも、そしてどんな機械も変わらない。いや、世界に生きる全ての心がそうだ」
「………………!」

 死神は瞠目し、歯を強く食いしばる。
 怒りだけではなく、自らの存在を否定されている程の屈辱が感じられた。アッシュを相手に突き付けた時とは比べ物にならない程の威圧感が、彼の全身より放たれる。

「…………キサマ。キサマら人間や、そして弱者に過ぎなったネットナビどもと……この俺が同じだとでも言うつもりか!?」
「人間は人間であり、ネットナビはネットナビだ。そして機械も機械である。そこに上も下もない。
 違うのは、その有り方だ。誰かと寄り添っていくのか、それとも自らの力だけで生きていくのか。そこに善も悪もない。
 ただ、俺が言えるのは一つ。どんな命だろうと……誰かを無意味に悲しませ、そして傷付けようとすることを俺は認めない」
「キサマら人間が、それを言うかっ!」
「どんな過去があろうとも、それは今を生きる者達を傷付ける理由になってはいけない。そして君がこれからも誰かを傷付けるというなら、俺は何度でも止めてみせる。
 それこそが、救世主である俺の使命だ」
「ならば、この俺を止めてみせろっ!」

 最早語る言葉などないと告げるように、その手に握る刀を振るいながら死神は急接近した。
 対するネオもエシュリデータを凪いで一刀を防ぐ。激突の瞬間、振動が傷口にまで駆け巡った。しかしその痛みに堪える間もなく、死神は背後に飛んで、そこからまた一切の躊躇いがない一閃を放った。
 狙いは脇腹。弱点となった個所をより深く抉ってこの命を奪おうとしているのだろう。極めて当然で、救世主を相手にそれを許す程の筋力と俊敏性を死神は誇っていた。


707 : 共に生きる ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/25(金) 23:41:54 Fk.qcO120


 宙を舞いながら、己の思考がスローモーションになっていくのをネオは感じる。
 そして考えた。何故、彼はこちらの攻撃をこうも的確に捌いているのかを。確かに彼自身のスペックは優れているが、ネオとて決して劣っているつもりはない。
 まるでこちらの動作を予め読んでいるかのようだった。

(予想している……いや違う。まさか、俺の動きを予知しているのか? 彼女が持つ予知能力を、彼も持っているのだとしたら……!)

 ネオの脳裏に浮かび上がるのは、オラクルという名の預言者。エグザイルである彼女はその予知能力でザイオンに生きる者達を支え続けた。
 だが、もしもその予知能力を戦闘に応用したら、大きな武器となる。例え数秒だろうと、相手の動作を予測できれば的確な反撃が可能だ。
 無論、敵の動きと同調するまでの身体能力も必要だが、この死神にはそれがある。だからこそ、ガッツマンも敗れてしまった。


 救世主の力と言えど、未来を読むことはできない。そして救世主の力だけで未来を変えることも不可能だ。
 例え物理法則を改竄して何かの動きを止めたとしても、それを読まれてはいくらでも対処させられる。
 始めの一手で死神の弾丸をせき止めたが、結果的にはこちらから情報を与えてしまっただけ。救世主の力が如何なるものかを知れば、その効果を予測することも可能となってしまう。
 しかし己の判断を悔やむ暇などない。救世主の力で強引に体制を立て直した途端、遥か上空より見下ろしてくる死神と目が合ったのだから。

「クッ……あの状況から、まさかアースブレイカーを回避するとはな。
 どこまでもしぶとい人間だ。だが、それもいつまで続く?」
「……ハァッ……ハァッ……ハッ……!」

 死神の言葉に答えられず、ネオは乱れた呼吸を整えるのに必死だった。
 その理由をネオは察する。この戦闘で受けたダメージだけではなく、短時間で救世主の力を過剰使用した結果、体力が大いに消耗してしまったのだと。
 何故なら、救世主の力は時として生命の蘇生すらも可能だ。それに制限時間が設けられていたように、体力の消耗という枷が付けられてしまったのだろう。
 そして彼自身は知らないが、このバトルロワイアルでは『心意』と呼ばれる救世主の力と酷似した力が存在する。あらゆる道理を打ち破る神秘の業だが、当然ながら過剰使用によってバーストリンカー本人の体力は削られる。
 それと同じ制限が救世主の力にも存在した。

(まさか、こんな制約が用意されていたとは…………!)

 これまでの戦いでも力を使ったが、決して回数は多くない。アメリカエリアと野球ゲームの両方を合わせたとしても、5回にも満たなかったからこそ、消耗することはなかった。
 だが、長時間の飛行と合わせて、幾度となく攻撃を回避し続けてしまった。その結果として疲弊してしまい、更に脇腹から伝わる痛みが深刻となっていく。例えこのまま傷を防いだとしても、その分だけ余計に消耗するだけだ。

(いや、関係ない。モーフィアスは俺達を救う為、そして未来の為に自らの身を犠牲にした! ガッツマンもアッシュも、最期まで戦っていた!
 何よりもトリニティは、俺を信じたはずだ!)

 されどネオは全身に力を込めて、エシュリデータを構える。死神はそれに表情を顰めるも、関係ない。
 彼が強敵であるのは、アメリカエリアで充分に知った。そして彼を止めなければ、他のプレイヤー達が犠牲になってしまうことも理解している。
 悲劇の連鎖を止めることが、救世主であるネオの使命だ。アッシュとガッツマンを救えなかった罪を背負い、戦い続けなければならない。
 誰もがそれを望んでいるだろうから。


708 : 共に生きる ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/25(金) 23:44:15 Fk.qcO120

「だが、ここで終わらせてやろう。下らぬ願いもろとも、消えてしまえ」

 彼は全身を屈ませながら、ネオを鋭い視線を向ける。ここで命を刈り取ろうという算段だ。
 それに対して、ネオは待ち構えることしかできない。彼が動作を予測する以上、無暗に突貫しても捌かれるだけ。
 そうして死神が飛びかかってくるが。

「…………チップ! ホールメテオ!」 

 マトリックスが湾曲し、その中より灼熱を帯びた巨石が噴出した。
 轟音と共に迫りくる火山弾の存在に、両者の意識が反射的に向けられる。唐突に現れた熱の隕石の数は十を超えて、全てが死神を目がけて突き進んでいた。

「チィッ!」

 その襲来は予測できなかったのか、死神は舌打ちと共に両翼を広げて回避した。
 灼熱の群れが空を横切っていく一方で、彼は眼下を睨みつける。それを応用に目を振り向いた。

「揺光……!」

 自分達が戦いを繰り広げている遥か下では、モーフィアスより譲り受けたと言われる双剣・最後の裏切りを構える少女がいた。
 その少女・揺光は、遥か遠い空を飛ぶ死神に鋭い眼差しを向けていた。


     †


「コサックという天才科学者によって生み出された世界初の完全自立型ネットナビ。
 だがその性能がきわだって優秀すぎた故に、人類より敵視されるようになったか」

「ああ。フォルテは生みの親の為に献身的な活動をしていたが、最後はその生みの親からも見捨てられたのさ!
 科学者達の選択に逆らうことができず、絶大な威力を誇るリミッタープログラムを付けられても、健気にも信じ続けた!
 だがその結末が親からの裏切りという末路とは、本当に哀れだと思うよ!」

「…………果たして、それはコサック博士の真実なのか?」

「真実だとも!
 プロトの反乱に紛れてフォルテは逃走したが、それこそが絶好の機会と判断したのだろう!
 使えない手駒など捨てて、新しく生み出せばいいだけなのだからなぁ!」

「そうか…………だが、そのフォルテは今もPKを続けているんだな。
 ロックマンという宿敵が敗退した今でも」

「その通りさ! キリトやブラック・ロータスを始めとしたプレイヤーに煮え湯を飲まされているものの、単純なキルスコアだけなら君すらも上回っている!
 そういう意味では、彼には感謝しなければならないのだよ! デスゲームを進めてくれる優秀なプレイヤーには、褒美を与えてやりたいくらいだ!」

「なら、俺の手から彼に渡してやろう。そもそも、今回の連絡がそれが本題だったからな」

「何?」

「ああ……"君達"も知っているはずだ。俺がキリト達との戦いで手に入れたモノを。
 そしてそいつが求めているアレを、"君達"は持っているんじゃないか?」


709 : 共に生きる ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/25(金) 23:48:32 Fk.qcO120



     2◆◆




 天高い空を羽ばたいている死神の視線はおぞましい。あのスケィスと同等か、もしくはそれ以上の殺意が込められていた。
 双剣を握る手は汗ばみ、全身が震えている。しかし揺光は決して怯まずに、遥か遠くにいる死神に力強い視線を向けていた。
 自分では決して勝てないとわかっていても。

「悪い、ネオ。やっぱり、ただ黙って見ているなんてできないや」

 漆黒の死神の襲撃に遭い、黄金の鹿号から振り落とされた自分を安全な場所に降ろしてくれた。その事には感謝しているし、また敵の攻撃に巻き込まれないように戦ってくれているのも知っている。
 一目見ただけで、二人は達人と呼ぶに相応しい技量を誇っていると察した。きっと、あのハセヲとも互角に渡り合えるだろう。空を飛ぶ手段を持たない揺光が首を突っ込んでも、ただ自殺するに等しい。
 それを知った上で揺光は戦いを挑んだ。

「人間が……何の力も持たないくせに、この俺の邪魔をするつもりか?」
「ああ、邪魔をしてやるよ! アタシはあんたやネオみたいに強くない……けどな、アタシはこれでも宮皇になったプレイヤーだ!
 その名前に賭けて、アンタに挑む!」

 仲間の危機を見逃して、紅魔宮の宮皇の名を背負える訳がない。
 もしもこの場にアリーナの宮皇達がいたら、この死神に戦いを挑む筈だ。太白、天狼、大火……誰一人として逃げ出さないだろう。
 あのエンデュランスだって、ハセヲのことを幾度も支えた。気に入らない奴だったけど、ハセヲに対する信頼は本物だ。
 一度は宮皇の座に君臨した揺光に、ただこの戦いを見届けるなどできない。だからこそネオの危機を救う為に、ホールメテオのバトルチップを使った。
 隕石群は避けられてしまったが、一先ずネオの命だけは救えた。

「それに、アタシが知っている奴らは自分よりも強い奴らに挑んで、勝ったんだ!
 クラインやモーフィアスっておっさん達……そして、ロックマンって奴もだ!」
「ロックマン……だと!?」
「あいつらはみんな、アタシ達の為に命を賭けた! ネオだって、アンタを止める為に命を賭けてる!
 だったら、アタシだって戦ってやるよ! ロックマン達もそうしただろうから!
 例え力で劣っていようとも……アンタみたいな奴には負けない!」

 このデスゲームに巻き込まれてから多くのプレイヤーと出会った。
 クラインは気のいい奴だった。僅か数時間しか一緒にいられなかったけど、彼は本物のオトコだった。ウラインターネットで凶悪なボスモンスターに立ち向かったのが証拠だ。
 ロックマンは一見すると優等生だったけど強い心を持つ奴だった。思えば彼とは一番話が合った気がするし、もっと一緒にいたいと思った。
 モーフィアスは厳しくはあったけれどそれを上回る誠実さを持った大人だった。もしもこんなデスゲームでなければ、人生のよく教師として何度も導いてもらったはずだ。
 ガッツマンはその名の通りに男気に溢れた奴だ。義理と人情があったからこそネオやミーナは救われただろうし、何よりもロックマンは信頼したはずだ。
 ラニ=Ⅷもデスゲームには乗っていたけど、もしかしたら分かり合えていたのかもしれない。こんなのは甘い考えであるのはわかっているが、それでも彼女を否定してはいけない気がした。
 カオルはとても頭がいい大人の女だ。最期まで自分達の未来を、そして人類の未来を案じていたのだから。リアルで平和な日常を共に過ごせていたら、勉強や人生相談でお世話になっていたのだろうか。
 そして、スケィスと戦う際に力を合わせたあの第三勢力の安否も気がかりだ。少なくとも、悪い奴らではないから無事でいて欲しい。
 彼らは皆、強敵に立ち向かった。力の差がどれだけあっても、一歩も引かなかった。この死神を相手にしても、同じだろう。

「キサマ……俺が敗れ去ったヤツらに劣るとでも言うつもりかっ!?」
「確かにアンタは力だけは強い! けどな、そんな強さを持っても……いつか負けるだけだって、アタシは知ってる!
 ロックマン達は勝ったんだからな!」

 これまでに戦ってきた相手はいずれも強敵だった。ウラインターネットのボスモンスターも、スケィスと呼ばれた白い巨人も、デウエスというカオルの半身も。
 けれども、誰もが最後には敗れた。ロックマン達が持つ強さと志の前に負けたのだ。彼らだったらこの死神を相手にしても、決して負けないだろう。
 

 だから揺光はガッツマンがしたゲイル・スラスターを装着して、全身を屈める。
 狙いはあの死神だ。


710 : 共に生きる ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/25(金) 23:53:02 Fk.qcO120

「アタシもアンタのことは許せない……だけど、ネオはアンタを止めようというなら、アタシもそれに協力する!」

 仇敵の表情は伺えない。
 彼が何故デスゲームに乗って、そして人間を憎むのか。ガッツマンと同じネットナビである彼は過去に何があったのか。何一つとして揺光は知らない。
 だけど、これから知ればいいだけ。何かに失敗して挫折しそうになったら、諦めずに何度でも挑戦するべき。
 カオルだって生前は何度でも挑戦し、試行錯誤を繰り返したことで素晴らしい発明を生み出したのだから。


 ガッツマンの勇姿に想いを寄せながら、ゲイル・スラスターの推進力を利用して高く跳躍する。
 ネオを窮地に追い込み、ガッツマンを瞬時に打ち倒した死神に立ち向かっても碌なダメージを与えられる訳がない。ただ一直線なだけで、何の工夫もない攻撃など見切られてしまう。
 ならばせめて、少しでもネオが有利になれるように……その翼だけでも切り落とすべきだ。


 ネオの呼びかけが聞こえた気がした。ごめん、と心の中で謝る。彼の思いやりを無下にしているのはわかっているが、それでも何もしないのは無理だ。
 周囲の光景が凄まじい勢いで通り過ぎて、死神との距離が一気に縮んでいる。何を思ったのか、漆黒の体躯は動く気配を見せない。
 それに一縷の望みを賭けて、一対のナイフを振り抜いた。だが…………

「…………えっ!?」

 まるで壁に激突したような衝撃と共に、最後の裏切りは弾かれた。まさしく、彼女の決意すらも裏切るかのように。
 見ると、死神の周囲には薄い黒白のオーラが覆われている。バリアか、と思うと同時に腕を掴まれて、振り回される。その遠心力に抗うことができずに、空高くから投げ飛ばされてしまった。



 揺光は知らなかった。死神・フォルテが持つ《ダークネスオーラ》の存在を。
 300以下のダメージを無効化するデータを取り込んだフォルテはキリトとアスナに挑み、敗北した。その際にオーラも破壊されたものの、時間の経過によってこうして復活した。 
 また、例え復活していなくとも、フォルテには【フルカスタム】のバトルチップが存在する。それを使用すればオーラの復活は可能だ。


 しかし揺光にそんなことを知る余地などなく、また知ったとしても打つ手などない。
 ただ視界が揺れる中で見た、死神が構えるバスターの輝きに目を細めて。

「消えろっ、人間がっ!」

 巨大な光弾が轟音と共に放たれる。一切の容赦がない無慈悲な灯を見て揺光は、自らの死を確信した。
 走馬灯を思い浮かべる暇も、遺されるであろうネオや慎二達に想いを寄せる暇もない。ただ、迫りくる輝きを見ることしかできなかった。



 そうして、この身体に膨大な熱波が突き刺さった直後、揺光の意識が漆黒に塗り潰された。


711 : 共に生きる ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/25(金) 23:56:31 Fk.qcO120



     †



「――――確かに、受け取ったぞ」

「フッフッフッフッフッ…………これくらいはお安い御用さ。
 いや、まさかアンタがここまで献身的に動いてくれるとは。感激のあまりに、思わず頭を下げてしまいそうだよ!」

「俺は君達から任された仕事を果たし、その対価を頂いているだけ。
 むしろ当然じゃないのか?」

「ハッハッハッハ! オーヴァン、いつの間にかそこまで謙虚になっていたとは!
 その心掛けに免じて、もう一つだけアンタに真実を教えよう!」

「ほう。もう一つの真実、とは?」

「ああ……スケィスとの戦いで自壊し、そして"私達"が回収した彼……ロックマンだよ。
 彼のアバターは今、君が差し出したボルドーのアバターと一つになっている」

「……詳しく聞かせてくれるのかい?」

「これを見るがいい……生まれ変わったロックマン。
 ロックマン.hack/AIDAバグスタイル・ISSモードをっ!」





「"私達"の手で再構築され、強大なる力を与えられた彼にはとある"役割"が用意されている。
 だが、それを明かすことはまだできないのだよ。デスゲームが進めば、嫌でも知ることになるが」

「それを知りたければ、俺自身が生き残るしかないようだな」

「そうだとも! オーヴァンなら難しくないと思うがね!
 最後にもう一つだけ忠告しておこう……察しが付いていると思うが、デスゲームに残された時間は長くない。
 君が敗退するのは"私達"としても心苦しい。故に、その活躍を期待しているよ」

「そうか。では、俺はもう行くとしよう」

「健闘を祈るよ、オーヴァン」




     3◆◆◆



 電脳世界の地面は崩壊し、テスクチャが剥き出しとなっている。フォルテが放ったアースブレイカーによって刻まれた傷跡だ。
 破壊の規模を見て、己の力は確実に増してきているとフォルテは確信する。痛みの森のエネミーやガッツマンというネットナビの力を奪ったからこそ、バスターの火力も増幅したのだろう。
 しかしフォルテは何の充足感も抱かず、むしろ胸に宿らせる苛立ちを余計に募らせていた。


712 : 共に生きる ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:01:37 IuozjNDs0
 ネオと、そしてネオが守ろうとしている揺光という女。どちらも不愉快だった。
 奴らはあろうことか、全てを喰らい尽す強者であるフォルテが人間と同じであると言った。そして、敗者となったロックマン達よりも劣る存在であると。
 それを許せる筈もなく、フォルテは揺光を空高くより突き落とし、アースブレイカーを放った。ただの人間に過ぎない揺光から得られる力などあるとは思えない。


 そしてもう一つ、許しがたいことがあった。
 アースブレイカーを放ったのと同時に、あろうことかあのネオが自ら揺光の元に飛び込んでいった。先程まで戦っていたフォルテには目も暮れず。
 まるで理解ができなかった。その加速力で間に合って、また例の超能力で防げるとしよう。だが、それだけで防御しきれるほど軟な砲撃ではなく、実際に大地を破壊した。

「何……!?」

 だが、クレーターの中央に立つネオは生きていた。その後ろには、あの揺光という人間が横たわっている。
 揺光は死んだのか? いや、それならば肉体が消滅するはずだ。気絶しているだけだろう。ほんの少し、命が伸びただけに過ぎない。


 そして一方のネオはこちらを見上げていた。
 サングラスは砕け散って、双眸が露わになる。オニキスの如く輝きが、フォルテには見覚えがあった。絆の力とやらを信じ続けた人間どものようだった。
 ネオの瞳には怒りや憎しみ、果ては殺意すらも微塵も感じない。この期に及んで、奴はまだ繋がりとやらを信じ続けて、そしてフォルテにも手を伸ばそうとしているのか。

「……言ったはずだ。俺は君を、止めてみせると」

 フォルテの思考を読み取ったかのように、ネオは言葉を紡いだ。
 奴は追い込まれているはずなのに、理想を捨てようとしない。その有様にフォルテは怒りを燃やす。共存などという反吐が出るような奇跡に縋り、掲げようとしている人間に。
 愚かで、そして腹立たしい。このまま吹き飛ばしてやりたかったが、ただPKするのだけでは意味がない。
 ネオを徹底的に否定し、そして絶望させなければならなかった。



     †



 蹂躙と形容するに相応しい輝きだった。
 マトリックスは砕け散り、仮初めの雑草達は跡形もなく消し飛んでいる。エージェント達との戦いで見てきた数多の重火器が玩具に見えてしまうほどだ。
 戦車や戦闘機、あるいは核ミサイルが仮にあったとしよう。死神はそのすべてを防ぎ、そして喰らうはずだ。
 そんな輝きをまともに受けてしまったら、普通の人間である揺光に耐えられるはずがない。いや、救世主のネオですらも無傷は避けられなかった。



 それでも生きていたのは、救世主の力とネオに支給された盾の防御力があったからこそだ。
 アナザーネオ。自身と同じ名を持つ盾を装備すれば、その対象の防御力が75もプラスされる。
 当初からその存在を知っていたが、ネオはこれまでの戦いで敵の攻撃を盾で防いだ経験がない。迫りくる銃弾は救世主の力で対応し、また格闘及び剣術でエージェント達を撃破し続けた。
 故に防具は軽量化されたものならともかく、必要以上の重量があっては動きが阻害される。即急な決着が求められている以上、装備をしなかった。


 だが、揺光を救う為に装備した。
 救世主の力で揺光の前に回り込んで、アナザーネオに救世主の力を込めてアースブレイカーを防ぐ。その圧力は凄まじく、ほんの一瞬で亀裂が走った。
 そして炸裂して、二人は遥か後ろに吹き飛ばされた。その際にアナザーネオは破壊されたものの、生き延びることはできた。


713 : 共に生きる ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:03:23 IuozjNDs0

「揺光…………!」

 しかしネオの後ろにいた揺光は、衝撃の影響なのか気絶している。
 すぐさまネオは彼女の手を握り締めて、傷を癒そうと救世主の力を使った。残り少ない命が揺光に流れていくが、構わない。
 今度は間に合った。例のシステムメッセージは表示されず、トリニティ達と同じ悲劇を食い止めることができた。



(死なせない、死なせるもんか!
 揺光……君は、生きるんだ! 生きて、君の未来を………………
 そして、人類と機械、ネットナビを……………………!
 ……なるんだ、揺光!)

 揺光が救われるようにとネオは願った。
 無論、ここにはあの死神がいる。例えこうして傷を癒したとしても、迫り来る死を僅かに引き延ばすだけに終わるかもしれない。
 しかしそれでも、この運命を変革したかった。揺光を死なせたくなかった。
 彼女には未来があり、そして彼女の友にも未来がある。それを守り抜くことが、救世主としての最後の使命だ。



 遥か彼方の空より放たれる殺意を、ネオは感じ取る。
 揺光から手を放し、ネオは顔を上げる。やはり、そこにはあの死神がいた。
 双眸より放たれる憤怒と憎悪はより濃度を増していくが、ネオは全てを受け止めた。

「……言ったはずだ。俺は君を、止めてみせると」

 拒絶も否定もせずに言葉を紡ぐ。
 この言葉に何を思ったのか、死神は地面に降り立った。

「倒す、ではなく俺を止めると……そう言い続ける気か?
 それだけの力があれば、俺を破壊できるはずだ」
「俺は君を止めたいだけだ。君の心を理解し、そして君の過ちを止めてみせる。
 例え卑劣と思われようと、これが俺自身の"選択"だ。君が君自身の"選択"を変えないように、俺も自分を曲げることなど出来はしない」

 死神は何も答えない。
 既にこの身は至る所に激痛が走り、救世主の力を過剰使用した反動による疲労を感じる。対する死神はまともな傷を受けておらず、万全に近い状態だ。
 このまま戦いを続けても結果は見えている。死神は確実にネオの命を奪い取るだろう。


714 : 共に生きる ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:05:39 IuozjNDs0



「俺達は互いに協力し合いながら生きてきた。
 人間は機械を創り、そしてネットナビを生み出した。そうして互いに知恵を高め合い、高度な文明を築いた。
 時にはどちらかが間違えてしまうこともあるだろう。だが、俺達が知恵を出して行動をし合えば、身をもって不備を指摘してくれることもできる」
「…………っ!」
「だから俺は、この身を賭けてでも……君を止めてみせる!」

 ネオは高らかな宣言と共に全身に力を込める。
 かつてハーマン評議長も言ったはずだ。機械は人間を殺す力になれば、生かす力にもなると。誰かが間違えそうになったとしても、他の誰かが支えればいい。
 また、この世界のあらゆる因果は謎で満ちている。生活を支える機械だって、その仕組みを全ての人間が詳しく知る訳ではない。だが、長い時間をかけてでも知ればいいだけだ。

「その為にも、まずは君のことを知らなければならない……名前を、教えて欲しい」
「……フォルテ」
「フォルテ、か。
 ありがとう…………君の名前は、強さを意味する言葉だな」
「当然だ。この俺は、全てを破壊する力を持っているのだからな。
 そしてこの力で…………キサマを破壊する!」
「ならば俺も強くなろう。
 世界にある全ての心を救えるほどに強くなる…………救世主として!」

 死神は……否、フォルテは拳を握り締める。
 もはや、お互いにかける言葉は存在しなかった。ネオはエシュリデータの切っ先を、フォルテはジ・インフィニティの尖端を……一直線に突き付ける。
 ネオは世界にある全てのものを守る救世主として。
 フォルテは世界にある全てのものを消す破壊者として。
 システムによって定められた"選択"ではなく、彼ら自身の"選択"より誕生した信条と在り方を掲げながら。
 例え、数刻後の未来が容易く予測できても、ネオは微塵も諦めなかった。



 そうして、雌雄を決するための一撃を放つ為に、両者は同時に疾走した。


715 : レボリューション そしてきみの未来へ ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:10:00 IuozjNDs0




     5◆◆◆◆◆



 仮想世界の空を飛び続ける影が一つ。
 夜の闇よりもどす黒く染まった両翼を羽ばたかせながら、フォルテは飛んでいた。
 行くあてなどない。この胸で荒れ狂う激情を発散させる相手を探し求めていた。

「アアアアアァァァァァッ!」

 憤怒で表情を歪ませながら、破壊のエネルギーを解放した。
 膨大なる力に抗うことができず、草原は蹂躙されていく。だがフォルテの激情は微塵も静まらず、むしろ増幅するだけ。
 つい先ほどこの手で破壊したネオへの苛立ちと、そしてフォルテ自身に対する無力さが、怒りの炎を燃え上がらせていた。


 ネオという黒衣の剣士は絶大なる"力"を持っていた。
 空を自在に飛び回り、オーラを破り、バスターや刃の勢いを強制的にせき止め、挙句の果てに傷すらも癒している。単体の戦闘力に限定すれば、これまで戦ったどの相手にも勝るだろう。
 そしてネオの怒りを誘発させて、憎悪に溺れさせようとした。だが、奴は最後までフォルテを否定せず、そして打ち倒そうとしなかった。
 フォルテを止める為に戦っていた。ならば、倒すに値しない存在だったと言い切るのか?
 他者に縋りつくことを求めないフォルテに共存を求めた。その為に"力"を発揮せず、手を抜いて戦ったのか?
 このフォルテが人間や屑データどもと同じで、挙句の果てにロックマン達にも劣る存在だと言い放たれた。だがこんな結果に終わってしまった以上、それを否定できるのか?
 そんな相手を破壊した所で…………真にネオを打ち倒したと言える訳がない。むしろアスナの言葉を肯定するに等しかった。
 ただ一方的に破壊するのと、何が違うと言うのか。


 ネオから奪った力で、見せしめのように揺光という小娘を破壊するのは容易だった。
 だが、それでは真に揺光を打ち倒したと言える訳がない。無力な人間を破壊しても意味がないと知ったはずだ。
 例え放置したとしても、ドッペルゲンガーや大量のエネミーに嬲り殺しにされるだろう。尤も、奴らを打ち倒して、再びフォルテの前に現れるのならば……戦う価値を認めるしかない。
 故にフォルテは揺光に目を向けず、あの場から去るしかなかった。ネオを倒したことでドロップしたアイテムも、わざわざ拾う気になれなかった。



 望まぬ勝利を与えられて、フォルテは苦虫を噛み潰したように顔を顰める。
 今はただ、力を振るいたかった。ネオへの敗北を否定できない以上、せめてネオの力で人間どもを破壊しなければならなかった。
 そのターゲットを探し求めていると…………

「こんな所で出会えるとはな。
 捜していたよ、フォルテ」

 どこからともなく、男の声が聞こえてきた。
 聞き覚えがあり、反射的にフォルテは止まる。その声を無視することができず、振り向いた。
 見ると、やはりあの男がいた。キリトとアスナの二人を相手に取った戦いを眺めていた、オーヴァンという男が。

「キサマはあの時の……!」
「君の活躍はよく聞いているよ。その圧倒的な力で、多くのプレイヤーを倒してきたそうじゃないか」
「…………ッ!」

 淡々とした声色で事実を告げてくる。
 その内容は決して間違っていない。否定をするつもりもない。否定ができないからこそ……口に出されるのは許しがたい。
 口元は三日月形に歪んでいる。その微笑みが侮蔑を示しているように思えて、フォルテの怒りは頂点に達した。


716 : レボリューション そしてきみの未来へ ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:11:52 IuozjNDs0

「フォルテ、俺は君に話があって来た。君にとって、決して損にならない情報を教えたくてな」
「人間如きと話すことなど何もない! オレの前から……!」
「君が追い求めている力と……そして、君の宿敵であるロックマンのことについて教えてやろう。
 彼はまだ、生きている」

 フォルテの言葉を遮るように、男は言い放った。
 ロックマンが生きている。それを聞いた途端、フォルテの感情が微かに揺らいだ。

「フォルテ。もしかしたら君は、宿敵との因縁を果たせずに苛立っているだろう……だが、嘆くことなど何もないぞ」
「……奴は死んだだろう? ロックマンも所詮は、戦いに敗れるような弱者でしかなかっただけだッ!」
「ロックマンが敗れた……それ自体は決して間違ってはいないさ。
 確かに定時メールにロックマンの名前が書かれていた。だが、彼の敗退はあくまで表向きの扱いだ。
 敗北と死は決してイコールじゃない」
「何……!?」
「彼のアバターはGMによって回収され、そして新たなる力を与えられて再構築された。
 その名もロックマン.hack/AIDAバグスタイル・ISSモードだ」

 機械のように語り続けながら、オーヴァンはウインドウを操作する。
 数秒後に、ある一枚の画像が展開された。そこに映し出されていたネットナビは確かにロックマンだ。
 だが、そのアバターは酷く醜いものに変わり果ててしまっていた。本来存在しないはずのグロテスクな眼球が胸部を支配し、見覚えのある漆黒のバグに青いボディが侵食されている。
 何よりも柔和だったはずの表情は無機質で、その瞳には見慣れた輝きが放たれていなかった。
 フォルテですらも、画像に映し出されているネットナビがロックマンであるとは信じ難かった。

「俺も詳しくは知らないが、今の彼はかつての彼以上に強化されているようだ。
 恐らく、俺や君ですらも容易く打ち倒せない程にな」
「…………何処だ。ロックマンは何処にいる?」
「GMに回収されたと言ったはずだ。
 そして再び巡り会うためには、このデスゲームに生き残らなければならない。だが君を含めて、生き残ったプレイヤーは一筋縄ではいかない者達だ。
 加えて、彼らは集団を結成していて、俺でも分が悪くなっている。そこで君の力を借りたいんだ」
「フン。誰かに縋らなければ生きていけない人間に、用などない」
「無論、ただでとは言わない。
 君にはロックマンと同じ……あるいは、彼すらも超える"力"を与えよう」

 オーヴァンは右腕を後ろに回し、あるモノを取り出す。
 その手に握られているのは、あの魔剣。アスナがフォルテと戦う為に使った魔剣が、オーヴァンの手に握られていた。
 そしてフォルテの足元に転がるように、オーヴァンは無造作に魔剣を投げつけた。

「その剣は…………!?」
「魔剣・マクスウェル。君も知っているはずだ。
 この剣には、今のロックマンに感染した存在……AIDAが潜んでいる」
「AIDA、だと?」
「Aritificially Intelligent Data Anomaly……不自然の異常な知的データ。君やロックマン達みたいなネットナビとよく似た奴らだ。
 こいつらは俺達と共に生きていると思ってくれ」
「ッ!」

 オーヴァンの不敵な語りにフォルテは拳を握り締める。
 アスナは魔剣の力でフォルテを圧倒していた。それはアスナだけの力ではなく、魔剣に潜む命がフォルテに牙を剥いたのだ。
 しかしフォルテだけでなく、使い手であるアスナすらも魔剣は狙っていた。あの戦いで、随分とこいつに喰われていると、オーヴァンは語っている。


 真実を理解すると同時に、フォルテの中で新たなる疑問が芽生えた。


717 : レボリューション そしてきみの未来へ ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:12:52 IuozjNDs0

「オーヴァンと言ったな…………キサマ、オレにそこまで話して、何を企んでいる?」
「言ったはずだ。俺は君の力を借りたいだけだと。
 君がキリトとの決着を求めているように、俺もハセヲという奴との決着を付けなければいけないんだ。だが、その為にはキリトが邪魔になる。
 キリトとハセヲは結託し、そして俺達の打倒を目指しているはずだ。
 無論、俺も黙って負けるつもりはないし、君が容易く負けるとも思えないが…………確率は少しでも上げておきたい」
「……オレが人間と手を組むとでも思っているのか?」
「違うな。互いに邪魔者を引き受けるだけ。
 フォルテがキリトと戦っている間に、俺がハセヲを含めた多くのプレイヤーと戦う。
 そして互いに決着をつけて、もしも俺達だけが最後に生き残ったら……デスゲームの勝者を決める為に雌雄を決しようじゃないか。
 尤も、君が望むのならばここで相手をしてやらないこともないが、俺も黙って負けるつもりはない…………
 さあ、フォルテはどうする?」

 そう問いかけてくるオーヴァンからは絶大なる自信が感じられた。例えフォルテが牙を剥いたとしても、一瞬で屠れると全身が語っている。
 他者と手を組むなど、フォルテにとってはあり得ない選択だ。だがオーヴァンの強さは本物だと、フォルテは瞬時に確信する。
 キリトとアスナに打ち負けたフォルテはただ尻尾を巻いて逃げるしかなかった。しかし、あの場に残っていたオーヴァンは無傷で生き残り、そして定時メールにはアスナの名が書かれている。
 つまりこのオーヴァンは、フォルテが幾度となく敗北した"絆の力"を容易く踏み躙れるほどの強さを誇っていた。認め難いが、ここでオーヴァンと戦ったとしても、待っているのはフォルテの敗北だけ。
 ネオから奪った力もあるが、無暗に使ってはピンクの予知能力と同じような負荷が身体にかかる危険がある為に、まだアテにはできなかった。

「……勘違いをするなよ。オレはキサマを仲間などと思うつもりはない。
 例えキサマが圧倒的なパワーを持っていたとしても、いずれキサマを倒す。このAIDAも、そしてキサマが持つ全ての力も奪ってな!」
「だが、俺と戦うつもりもないようだね。安心したよ。
 その好意に応じて、もう一つだけ君に"力"を与えよう。AIDAを、そして君自身を強化させられる碑文という力だ。
 こいつをAIDAに与えれば、AIDAはより強くなれる。だが同時に、君が君のままでいられなくなるだろう」
「言ったはずだ。俺は全ての力をこの手に収めると」
「フッ……御託は無用だったね。なら、こいつも渡そう」

 薄く笑みを浮かべながらオーヴァンはウインドウの操作を続け、光り輝くプログラムを取り出す。
 碑文、と呼ばれたそれが現れた途端、魔剣マクスウェルを覆う黒点は激しく鼓動した。オーヴァンが言うようにこの二つは共鳴しているのだろう。
 右手で魔剣マクスウェルを広い、残る左手でオーヴァンの放り投げた碑文を掴む。

「……キサマらがどれだけ強い力を持っていようとも、関係ない。全てを俺が、喰らい尽してやる!
 ゲットアビリティプログラム――――――――ッ!?」

 そしてフォルテが叫んだ瞬間、膨大なるデータが彼のアバターに流れ込む。
 力が、そして全てを喰らい尽さんという禍々しい意志が、フォルテの中で渦巻いた。エンデュランスとミアを飲み込み、ヒースクリフ/茅場明彦の残骸を塵に変え、そしてアスナの心すらも歪めた魔物がフォルテを侵食する。

「ウ、グッ、ガアアアアアアアアアアッ――――――!!!!!」

 フォルテの中で暴れ狂うAIDAは、無数の手でフォルテの身体ごと空間を蹂躙していく。
 喰いたい。喰らいたい。もっト喰わせろ。オ前の全テを喰らってやる。
 脳裏より全身に響き渡る声は、フォルテの絶叫にかき消される。データが破壊と再生を繰り返し、アバターが大きく歪み始めていた。
 万物の破壊を求めるフォルテの在り方と、フォルテ自身が喰らってきた数多の"力"……魔剣に宿るAIDAにとってフォルテはあまりにも理想的な獲物だった。

「アアアアアアアアアアッ!!! アアアアッ! ガアアアアアアアアアァァァァァァァッ!」

 何も見えなくなる。
 この身体が、自分ものでなくなっていく。
 唯一無二の身体が、何者かに奪われていく。
 アバターを異物が駆け巡っていく不快感に襲われるが、それを止めることはできない。
 オーヴァンが言っていた、フォルテがフォルテのままでいられなくなるとは、AIDAに全てを奪われるということだ。


718 : レボリューション そしてきみの未来へ ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:15:20 IuozjNDs0

「アアアアアアアアアアアアア――――――――!!!!!!!」

 …………だが、それがどうした。
 奪われるというのであれば、こちらから奪い返せばいいだけのこと。奴に渡すモノなど、何一つとして存在しない。
 この力は奪われるためではなく、全てを破壊する為にあるのだから。この中に入り込んだ、AIDAすらも例外ではない。
 AIDAも喰らえばいいだけのこと!


 ――――!?


 荒れ狂う力の勢いが、ほんの一瞬だけ滞る。あと一歩という所でAIDAは止まったのだ。フォルテの全てを喰らい尽さんとしているのに、牙は進まない。
 有り得ない。碑文使いでもないフォルテが抗えるなど、有り得ない。
 フォルテの抵抗を受け入れられず、AIDAは尚も侵食を続けるが…………フォルテはニヤリと嗤った。

「――――――――オレを、舐めるなあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 フォルテの叫び声が響き渡り、膨大なエネルギーが解放された。


 ――――!?


 AIDAは驚愕していた。
 フォルテがこの"力"に心を委ねず、尚も抵抗している。否、それどころか…………

「キサマ如きが、このオレを喰らえると思うなっ!
 キサマがオレを喰らう? オレがキサマを喰らうの間違いだっ!
 オレはオレだ! もう二度と、断じて負けたりしない!」

 ――――!?

 ……AIDAの意志と"力"が、フォルテに飲み込まれようとしていた。


 もしもフォルテが、フォルテだけの力しか持たなければ、オーヴァンが語るようにAIDAに全てを喰い尽されていただろう。
 だが今のフォルテは違う。デスゲームが始まってから、フォルテは数え切れないほどの"力"を奪い続けた。
 バルムンクの翼、レンの進化の可能性、アッシュ・ローラーとガッツマンの力、ブルースの剣技とシールド、ピンクの超感覚、エネミー達のデータ、そしてネオの救世主の力。
 特に大きな要因はネオの救世主の力だ。世界にある数多の事象を改竄し、あまつさえエージェント・スミスの上書きすらも無効化した力を、フォルテは獲得している。
 何物にも負けない力と、すべてを蹂躙する力……その願いに力が答えて、AIDAの侵食を防ぎ、逆にフォルテがAIDA自身を支配しようとしていた。


 だが、AIDAがそれを知っているはずもなく。
 ただフォルテから流れ込む力に押し負けてしまい。

「消えろオオオオオオオオオオオオッ!」

 AIDAの黒点が破裂し、世界が元に戻る。
 断末魔の叫びは、フォルテ自身の咆哮によって掻き消されてしまい、何もかもが飲み込まれてしまう。碑文を獲得して強化されたAIDAの力を以てしても、ついに敵わなかった存在。
 その誕生によって地面は深く抉れ、風を怯えさせる。絶対的な力で世界を震撼させながら、彼は再び立ち上がった。


719 : レボリューション そしてきみの未来へ ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:18:33 IuozjNDs0

「ほう」

 ただ一人、オーヴァンだけが感嘆の声を漏らしていた。
 しかしフォルテはそれに目もくれず、ただ自らのボディを見つめている。この身体を彩る黒は更に濃度を増し、魔剣は怪しく煌いている。
 だが、最大の変化は身体の奥底から溢れ出る"力"だ。AIDAと碑文を取り込んだ結果、今までにない"力"を得たのを感じていた。
 全てのものを……最早、キリト達が持つ"絆の力"すらも玩具に思える程の、圧倒的なパワー。


 フォルテAS(Aida Style)・レボリューション。
 本来の歴史では決して見られぬ闇のナビ。AIDA・碑文・救世主の力が三位一体となった、もう一つの暗黒の破壊神が誕生した。
 


「……どうやら、勝ったのは君のようだね。
 どうだい、感想は?」
「実にいい気分だ……身体が軽く、今にも張り裂けてしまいそうなパワーを感じている……これが、AIDAと碑文の力か」
「そうだ。それがあれば、キリト達を相手に充分戦えるはずだ。
 彼らは今、月海原学園に集まっているだろう」
「月海原学園か……」
「そして最後にもう一つだけ、忠告しておく。データドレインには気を付けることだ」
「データドレイン……?」
「データを改竄し、そして世界すらも壊す可能性がある力のことだ。
 キリト達の仲間には黄昏色の戦士……蒼炎のカイトという奴がいる。彼が持つデータドレインが、AIDAにとって最大の弱点だ。
 また、君自身のアバターにも悪影響を及ぼすだろう」
「関係ない。そいつごと、喰らってやるだけだ」
「君ならそう言うと思ったよ」
「フン」

 この眼光には凄まじき殺気を放っているが、オーヴァンは未だに嗤い続けている。プラフなどではなく、本物の余裕だ。
 フォルテが新たなる力を得ても、勝てるという確信があるのだろう。何故なら、奴はAIDAについて知り尽くしていて、それこそがオーヴァンが持つ最大の有利だ。
 無論、フォルテとて負けるつもりは微塵もない。ここで"力"を試してやりたかったが、オーヴァンとの戦いは最後の楽しみとして取っておくべきだ。それまでは、キリトとの戦いを邪魔する奴らを相手にさせるだけ。
 それに圧倒的なパワーを手にした今、こんな所で油を売っているつもりなどない。フォルテは双翼を羽ばたかせ、空を舞った。

「健闘を祈るよ、フォルテ」

 そんな問いかけに答えることもせず、フォルテは月海原学園に向かった。
 この力への充足感と、新たなる力を得たロックマンと戦えるという微かな期待。
 そしてもう一つ。

「キリト……キサマらがどれだけ"絆の力"を強めようとも、関係ない!
 思い知るがいい、ネオ! キサマが信じてきた救世主の力が、破壊の力でしかなかったことをっ!
 そしてロックマン! キサマが新たなる力を得たなら、オレはそれを喰らうだけだっ!
 俺はすべてのパワーを奪い、そしてキサマら人間どもを破壊する! 待っていろ、キリトっ!」

 キリトを始めとする人間達への殺意。
 あらゆる感情を胸の中で燃やしながら、フォルテは進み続けていた。


720 : レボリューション そしてきみの未来へ ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:21:20 IuozjNDs0


     †



 オーヴァンがフォルテに接触した理由は一つ。
 魔剣マクスウェルの本来の使い手である太白や、エージェント・スミスのようにAIDAの人形へと変えるつもりだった。
 デスゲームの生存者数が20人を切っている現状では、それに伴ってPKの数もまた限られている。ドッペルゲンガーや大量のエネミーが導入されるようだが、碑文の覚醒に繋げるには力不足だ。
 故にオーヴァンは榊と接触し、クーンが持つ巫器・静カナル緑ノ園をGM側に手渡した。対価として、フォルテの情報と碑文を受け取ることに成功する。
 本来ならば碑文はGMの手で覚醒させる予定だった。プレイヤーに支給する方が確実だが、それでは回収の手間がかかってしまう。だがオーヴァンはGMに関与する唯一のプレイヤーだからこそ碑文を与えられている。
 フォルテに渡した碑文を監視し、覚醒と同時に奪い取るという名目で。AIDAと碑文の関係を話したのも、覚醒に一役買ってもらう為だ。


 オーヴァンはシノンの命を奪って、ハセヲの感情は大きく乱した。それに伴った成長の促進を、フォルテにも加わって貰うだけ。
 だが、事態はそう簡単に進む訳ではなさそうだ。
 

「…………これは、少々予想外の結果になったな」

 遠ざかっていく漆黒の背中を追いながら、オーヴァンは呟く。
 魔剣マクスウェルと碑文を与えてフォルテは確かに強くなった。だが、AIDAと碑文の共生によって力が上昇したとしても、オーヴァンが知る範囲から明らかに逸脱している。
 悪性変異を果たしたAIDA=PC。いや、その言葉すらも今のフォルテには生温い。


 エージェント・スミスに感染した<Glunwald>は新たに力を得たことで、この<Tri-Edge>に迫る程に成長を遂げた。だが一つの碑文を短時間取り込んだだけでは、爆発的な力の増幅は不可能。
 恐らく、何らかの外的要因が加わっているはずだ。フォルテ自身の力か、あるいはこのデスゲームでフォルテが奪った何らかの力。可能性としては後者だろう。
 スミスは僅かな量しか謎の力を獲得していなかったのに対して、フォルテは謎の力の大半を取り込んでいる。だからこそ、碑文ごとAIDAを飲み込めたのかもしれない。


 無論、フォルテの暴走をただ放置するつもりもない。
 万が一、ハセヲの命を奪いかねない事態が起こるようなことになれば、オーヴァンはすぐにでもフォルテを打倒するつもりでいる。ハセヲの怒りを誘発させるのは目的だが、彼自身の死はあってはならない。
 フォルテが喰らったAIDAは、純粋な力だけなら<Tri-Edge>すらも凌駕しかねない。だが、データドレインという弱点を克服できたという訳でもない。
 追跡者のデータドレインを警告した。その一方で、ハセヲとオーヴァンがその力を持つ真実を隠した理由は、フォルテを止める切り札にする為。
 


 コサック博士の英知によって、フォルテには無限の可能性が与えられている。それは大いなる力になったはずだが、人類自身が彼を裏切った。
 榊はコサック博士すらも見捨てたと大仰に語っていたが、真実を語っているとは限らない。いや、榊には捻じ曲げられた形で伝えられている可能性もあった。
 GM側が一枚岩でない以上、GM同士の潰し合いもあり得る。トワイスに警告を与えている監督役か、あるいはまた違う誰かが……榊を使い捨ての駒にする為に、虚偽を交えた真実を与えたか。
 本当にコサック博士がフォルテを切り捨てたという可能性も0ではないが、限りなく低い。それほどのエンジニアが、自らの英知の結晶を簡単に手放す訳がなかった。



 だが、その真実を知るにはゲームの煽動を続けなければならない。
 フォルテと共に月海原学園に赴き、集結したプレイヤー達と戦う。【モラトリアム】のイベントが終了した以上、戦闘行為を発見されてもペナルティが課せられることもない。
 ハセヲとの決着も、その時だろう。


「残された時間もそう長くない。俺も悠長に構えてはいられないからな。
 決着の時は近いぞ……ハセヲ」

 デスゲームの崩壊は現在も進行している。世界滅亡の運命は止められない。フォルテが新たに力を発揮すれば、タイムリミットは更に近づいていくだろう。
 全てが終わるのが先か。それとも全ての因縁が清算されるのが先か。
 デスゲームが始まって18時間が経過し、一日の終わりが近づいている。その時が訪れたら、何が起こるのか?
 そこに関心を寄せながら、オーヴァンはフォルテを追い続けていた。


721 : レボリューション そしてきみの未来へ ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:26:09 IuozjNDs0

【?-?/?/1日目・夜】


【フォルテAS・レボリューション@ロックマンエグゼ3(?)】
[ステータス]:HP???%、MP???%(HP及びMP閲覧付加)、PP100%、激しい憤怒、救世主の力獲得、[AIDA]<????>及び碑文を取り込んだ
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、{ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA、魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:{ダッシュコンドル、フルカスタム}@ロックマンエグゼ3、完治の水×3、黄泉返りの薬@.hack//G.U×2、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、第?相の碑文@.hack//、{マガジン×4、ロープ}@現実、不明支給品0〜4個(内0〜2個が武器以外)、参加者名簿、基本支給品一式×2
[ポイント]:1120ポイント/7kill(+2)
[思考・状
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
1:この力で全てを破壊する為、月海原学園に向かう。
2:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
3:シルバー・クロウの使ったアビリティ(心意技)に強い興味。
4:キリトに対する強い怒り。
5:ゲームに勝ち残り、最後にはオーヴァンやロックマン達を破壊する。
6;蒼炎のカイトのデータドレインを奪い取る。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※参加者名簿を手に入れたのでロックマンがこの世界にいることを知りました。
※フォルテのオーラは、何らかの方法で解除された場合、30分後に再発生します。
※ゲットアビリティプログラムにより、以下のアビリティを獲得しました。
 剣士(ブレイドユーザー)のジョブ設定及び『翼』による飛行能力(バルムンク)、
 『成長』または『進化の可能性』(レン)、デュエルアバターの能力(アッシュ・ローラー)、
 “ソード”と“シールド”(ブルース)、超感覚及び未来予測(ピンク)、
 各種モンスターの経験値、バトルチップ【ダークネスオーラ】、アリーナでのモンスターのアビリティ
 ガッツパンチ(ガッツマン) 、救世主の力(ネオ)、AIDA<????>、第?相の碑文
※バトルチップ【ダークネスオーラ】を吸収したことで、フォルテのオーラがダークネスオーラに強化されました。
※未来予測は使用し過ぎると、その情報処理によりラグが発生し、頭痛(ノイズ)などの負荷が発生します。
※ネオの持つ救世主の力を奪い、その状態でAIDA<????>及び第?相の碑文を取り込んだ為、フォルテASへの変革を起こしました。
※碑文はまだ覚醒していません。


【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP60%、PP60%
[装備]:銃剣・白浪@.hack//G.U.
[アイテム]:DG-Y(8/8発)@.hack//G.U.、{邪眼剣、スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:1500ポイント/5kill(+0)
[思考]
基本:“真実”を知る。
1:利用できるものは全て利用する。
2:トワイスと<Glunwald>の反旗、そしてフォルテを警戒。
3:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
4:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
5;いずれコサック博士とフォルテの"真実"も知る。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です。
※サチからSAOに関する情報を得ました。
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています。
※ウイルスの存在そのものを疑っています。
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。
※このデスゲームにクビアが関わっているのではないかと考えていますが、確信はありません。
※GM達は一枚岩でなく、それぞれの目的を持って行動していると考えています。
※デスゲームの根幹にはモルガナが存在し、またスケィス以外の『八相』及びAIDAがモンスターエリアにも潜んでいるかもしれないと推測しています。
※榊からコサック博士とフォルテの過去、及びロックマンの現状について聞きました。ただしコサック博士の話に関しては虚偽が混じっていると考えています。


【備考】
※静カナル緑ノ園@.hack//G.U.はGM側に譲渡されました。
※【アナザーネオ@ソードアート・オンライン】は破壊されました。


722 : レボリューション そしてきみの未来へ ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:28:50 IuozjNDs0



     4◆◆◆◆



 決着はほんの一瞬だった。
 互いの刃が衝突し、その衝撃と威力によって弾き飛ばされた。そうして膠着した隙を狙われて、フォルテはこの体躯を拳で貫いた。
 痛みを覚える暇もなく、フォルテの叫びが聞こえる。身体に宿る力が強引に引き剥がされていくのを感じながら、ネオは投げ飛ばされた。
 戦いに負けたのだと、ネオは言われるまでもなく理解した。


 それでも、まだ諦めてはいけない。救世主として守り続けなければならない。
 意志が揺らぐことはないが、身体は動かない。この力で何かを変えることができず、ただ死を待つだけだった。
 薄れゆく意識の中で、フォルテを見る。彼はこちらに背を向けているので、何を見ているのかわからない。
 その背中に言葉をかけようとするも、彼は漆黒の両翼を羽ばたかせて、こちらに目もくれずに飛び去っていった。

「揺……光…………」

 そしてネオは見た。自分と同じように、地面に横たわっている揺光の姿を。
 彼女はまだ消えていなかった。絶好の機会であるにも関わらずして、フォルテは揺光の命を奪わなかった。
 その事に一縷の安堵を抱く。揺光を救いたいという願いは叶ったのだと。

「君は……生きろ…………生きて、きみの未来を…………きみ達の未来を……掴み、取ってくれ…………
 モーフィアスとカオルが……言ったように……」

 消えゆく意識の中、ネオは最後の足掻きを見せる。例え聞こえなかったとしても、揺光に言葉を残したかった。
 このデスゲームにはフォルテの他にも、ドッペルゲンガーやエネミーといった敵が多く残っていると知りながら、彼女が生きる可能性を遺せたことが嬉しかった。
 慎二やアーチャー、そして慎二達の仲間であるキリトという少年だっている。揺光が彼らと巡り合える希望があった。



 不意に、昏くなった空を見上げる。
 つい先ほどまで飛んでいたはずの空には、数え切れないほどの星々が輝いていた。偽物であるとわかっていても、美しく見えてしまう。
 世界の真実を知らず、トーマス・A・アンダーソンという人間として生きた頃には、滅多に抱かなかった感動だ。
 残された揺光達や、そしてザイオンに生きる人々が平和になった世界で星を眺められるのか。夜の冷たさすらも感じなくなった途端、そんなことが気になってしまう。



 トリニティの命を奪ったありすという少女達の顔が、ネオの脳裏に浮かび上がる。
 彼女達の名前は定時メールで書かれていて、既にこの世にいない。如何なる最期を迎えてしまったのか、どうしても気がかりだった。
 あどけない幼子だったが、妖精の少女はトリニティの仇だと言った以上、この手で止める責務があった。
 その幼さが故に、殺人という罪が如何なるものか彼女達は知らない。だが、成長するにつれてその罪を知っては、重さに押し潰されてしまう。
 そうならないよう、彼女達の罪を共に償い、真っ当な未来に導いてやりたかった。



 救世主として戦った。
 世界の真実を知り、この世界で出会った新たなる仲間達と共に、平和を掴みたいという願いを抱いた。
 人間も機械も関係なく、全ての心が幸せに生きられる世界を見たかった。
 けれど、それはもう叶わない。この手はもうどこにも届かないだろう。
 預言者オラクルはこの運命を予知していたのか。彼女を守るセラフは、救世主であるネオが道半ばで倒れて失望するのか。


723 : レボリューション そしてきみの未来へ ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:30:15 IuozjNDs0



 最後に思い浮かぶのは、遺されたザイオンの人々だった。
 トリニティとモーフィアス、そして救世主と信じてたネオが死んだと知っては、絶望してしまうのか。
 かつて自らの力でマトリックスを抜け出したキッドという少年や、ザイオンに生きる多くの子ども達の未来はどうなってしまうのか。
 モーフィアスが戦争の終結を宣言し、それを信じた人々は機械達と共存をしてくれるのか。
 初めはきっと悲しみ、そして自分達に死を齎した者達に怒りを覚えるだろう。けれど、時間をかけてでもいいから、機械を本当の意味で理解して欲しかった。
 彼らの心を知れば、もう誰も悲しむことはないのだから。


 時間はもう残っていない。
 この身体もすぐに消えてしまうだろう。
 かつて長い間囚われていた終わりの来ない永劫の地獄ではなく、本当の意味での終わりを迎える為に瞼を閉じた…………




『…………ネオ』

 聞き慣れて、そしてずっと共にいたかった女の声が聞こえる。
 その声をネオはよく知っている。忘れるはずがない。意識が遠のいていく中で、彼女の姿がはっきりと見えた。

『愛しているわ、ネオ』

 もうここにはいるはずがないのに、すぐ隣でこの身を抱き起してくれている。その鼓動と、その両腕の温もりは確かに伝わってきた。

『ネオ…………ずっと、一緒にいましょう』

 彼女は聖母のように微笑んでいる。
 そして彼女は瞼を閉じて、唇を重ねてきた。そのキスに動揺することもなく、ネオは彼女の想いを受け入れた。
 世界が止まり、そして全ての時間が止まる。それでいて二人の想いだけは熱く燃え上がっていて、誰にも邪魔することができない。
 唇はすぐに離れる。宝石のように澄んだ瞳を見つめながら、彼女の名前を呼んだ。

「トリニティ」

 すると、彼女の笑顔はより愛おしくなる。
 その温かさに、全ての痛みと悲しみが癒されていくのを感じたネオは、両腕を広げて彼女の身体を包み込んだ。


 その再会に胸を躍らせる救世主の身体は柔らかく輝いて、そして消えていく。
 斯くして、VRバトルロワイアルに巻き込まれて、世界の真実を知ってもなお挫けなかった救世主は、最期を迎えた。胸に抱いた願いが叶わなかったとしても、彼は決して後悔せずに、満ち足りた気持ちのままこの世を去ることができた。
 この胸に抱いた理想と決意を受け継いでくれる仲間と、救世主の想いが新たに籠った漆黒の剣が残っているのだから。



【ネオ(トーマス・A・アンダーソン)@マトリックスシリーズ Revolution】


724 : レボリューション そしてきみの未来へ ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:32:10 IuozjNDs0


     6◆◆◆◆◆◆



 救世主は倒れた。
 その力は破壊を求める者の手に堕ち、新たなる影が生まれ落ちた。救世主が戦って残されたのは、悪の勝利と絶望という結果だけか。
 それは違う。救世主は最後にたった一つだけ、その力で光を遺している。一度は消えかけていたが、救世主によって再び輝きを取り戻した。
 破軍星の如く輝きを。
 


     †



 気が付くと、揺光は見覚えのある闘技場に立っていた。
 闘争都市ルミナ・クロスのアリーナ。『The World』で揺光のアカウントを作ってから、数え切れないほど訪れた場所だ。
 何故、ここに立っているのか? 会場の左端にあるアリーナに訪れたつもりはないのに。
 そもそも、あの死神に戦いを挑んだはずだ。死神がバスターから巨大な弾丸を放って、そして…………

「…………もしかして、アタシは死んじゃったのかな」

 ここに辿り着く前に見た、最後の光景が脳裏に過ぎる。あれから、きっと苦しむ暇もないまま、一瞬で殺されてしまったのだと落胆した。

「そうだ。アタシはアイツに戦いを挑んで、返り討ちにあったんだ……
 やっぱり、みんなみたいにはいかなかったか……」

 誇りと絆を胸に、ネオと共に戦いたかった。
 けれど何一つ届かなかった。彼らが飛んだ空に行くこともできず、無様に落ちただけ。
 元から、力が足りなかったのは揺光自身もわかりきっていた。故にこの結果は至極当然と言える。


 それでも、受け入られなかった。
 いなくなってしまったみんなはどれだけ強い敵が待ち構えていようとも、最後まで戦い抜いたのだから。
 だからこそ揺光は、彼らのように有りたかった。みんなのように強くなりたかった。

「…………アタシがみんなみたいに強くないのはわかってる。でも、諦めたくないんだよ。
 キリトも、慎二ってバカも、アーチャーも、それにハセヲも……どこかで頑張ってるんだから。
 アタシだけが、こんな所で立ち止まってる訳にはいかないんだよ!
 もう二度と、ハセヲを……みんなを泣かせたくなんかないんだよ!」

 かつてAIDAに感染したボルドーによって致命傷を負わされた時、ハセヲは駆け付けてくれた。
 その時、消えゆく意識の中で揺光は見た。この身を想って涙を流しているハセヲの姿を。
 気持ちは嬉しかったけど、彼が悲しんでいるのは望まない。男の子はいつだって、シャンとして胸を張らないといけないから。
 そして彼の隣にいたいと思うのなら、揺光だって胸を張るべきだ。ハセヲに負けないくらいに強くなって。
 だから揺光は死の運命に抗う為に、一歩前に進んだ。

「そうだ! その意気だぜ、揺光!」

 すると、誰かがこの名前を呼んでくる。

「……クライン!?」

 振り向いた先にいたのは、あのクラインだった。
 灼熱の炎を振りまくボスモンスターから揺光とロックマンを守ってくれた、あの頼れる大人だ。
 ニッと、力強い笑顔と共にサムズアップを向けてくれていた。


725 : レボリューション そしてきみの未来へ ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:33:22 IuozjNDs0

「そうでガッツ! 揺光は強いでガッツよ!
 だって揺光はおれさまの友達でガスから!」

 クラインの隣にはガッツマンも立っている。
 彼はクラインに負けないくらいの朗らかな笑顔で、揺光を見届けてくれていた。
 何故、二人がこんな所にいるのか。その理由は知らないけど、二人の元に駆け寄ろうとした。

「ミス揺光。あなたの命はまだ尽きてはいないと私は推測……いいえ、信じております」
「揺光。君はまだここで終わってはいけない……君と、君の友人達には素敵な未来が待っているのだから」
「揺光さん、諦めないでください。あなたは、先人の過ちを決して繰り返さないと……私達は知っていますから」

 別の場所から、揺光を呼ぶ三つの声が聞こえてくる。
 かつて敵対したラニ=Ⅷと、自分達に未来を託してくれたモーフィアスとカオルがそこにいる。誰もが微笑んでいた。
 彼らの姿を見て、やはりここはあの世という場所なのだと、本能的に察した。

「あ、アンタら……アタシのことを迎えに来たのか?」
「揺光。君は生きるんだ」

 揺光の問いに答えたのは、足音と共に聞こえてくる六人目の声。
 振り向くと、そこにはサングラスとトレンチコートがトレードマークの男がいた。死神を止める為に力を尽くしてくれたネオだ。
 彼がここにいる理由はただ一つ。揺光を守ろうと力を尽くしたが、死神によって命を奪われてしまったから。

「ネオ……やっぱり、アンタも……」
「生きて、君の未来を掴んでくれ。
 そして人類と機械、ネットナビが共に生きていけるように……
 強くなるんだ、揺光!」
「……えっ?」

 目の前に立つネオは、真摯な眼差しで揺光を見つめていた。
 その輝きはとても強く、三国志の英雄達と肩を並べてしまいそうなほど。そして揺光のことを案じているようだった。

「ネオ……アタシは、アンタを……」
「揺光。生きろ……生きて、きみの未来を……きみ達の未来を掴み取ってくれ。
 モーフィアスとカオルが言ったように。
 それが救世主である俺の……いや、俺達の最後の願いだ」
「…………!」

 その言葉に衝撃が走った。
 彼らは励ましてくれている。例え敗北しても、また立ち上がれると信じていた。
 かつて揺光はエンデュランスに敗れて宮皇の座を奪われた。とても強い悔しさを味わって、痛みと苦しみをバネに何度も立ち上がった。
 だからこそ、ハセヲ達と共に冒険することだってできた。

「アンタら……アタシに生きろって言うのか?
 …………アタシだって、そうしたい。けど、アタシはもう……!」


   ―――揺光ちゃん―――


 揺光の不安を打ち消すような声が耳に響く。
 この目で最期を見た、揺光が知るもっとも強いネットナビ。ロックマンの声が聞こえてくるが、その姿は見えない。
 彼を探そうとした瞬間、周りが満天の星空の如く輝きに覆われていく。ネオ達の姿もすぐに見えなくなった。


726 : レボリューション そしてきみの未来へ ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:35:53 IuozjNDs0

「ロックマン! ネオ! 待ってくれよみんな!
 アタシは、アタシはまだみんなに言いたいことが……!」

 遠ざかっていく姿を追う為に、揺光は走り出す。
 一歩進む度に、輝きはより激しさを増していき……それに伴うかのように、体の奥底から力が溢れ出るのを揺光は感じた。
 この道は、未来へと繋がる道。みんなと共に歩いて、そして宮皇となった揺光の姿を見て貰いたかった。そしてみんなからの挑戦を受けたかった。
 みんなの願いに答えられるほどに…………強くなりたかった!



 気が付くと、荒廃した大地の中央には漆黒の剣が突き刺さっていた。
 揺光はその剣を知っている。ネオが死神と戦う為に装備していた剣だ。
 だけど、ネオと死神はいない。それはつまり、ネオはもうこの世にいないことを意味していた。

「…………ネオ…………!」

 震える声でその名を呼ぶ。
 揺光に応えたのは、刃の煌きだけ。星々の輝きが凝縮されているかのように美しかった。


   ―――強くなるんだ、揺光!―――


 夢の中で聞こえてきたネオの激励が蘇り、揺光は真っすぐな眼差しでエシュリデータを見つめる。

「…………わかったよ、みんな」

 静かに、そして力強く呟いた。
 彼らが最期に何を想いながら、言葉を遺してくれたのか。聞かれるまでもない。未来という名の可能性を、より良くする為。
 先人の想いを成し遂げられるのは、今ここにいる揺光だけだ。

「アタシはアンタらみたいに強くないし、奇跡だって起こせない。
 だけど、それならこれからいくらでも強くなって、奇跡を起こせるようになる。
 ネオやモーフィアス……それにカオルが信じてきた明日を作って、熱斗って奴らにロックマン達のことを伝える!
 こんなデスゲームだって止めてみせる! だからみんな…………アタシに力を貸してくれ!」

 彼女の宣言は夜空の下で響き渡る。
 全身全霊の力を込めて、エシュリデータを引き抜いた。漆黒の刃から膨大な力が流れ込み、揺光のアバターを駆け巡る。
 例えなのではなく、揺光自身の身体が鼓動を鳴らしていた。


 瞬間、揺光は気付く。
 自らのPCボディが、先程と比較して大きく変容したことを。
 この両肩には一対の袖が装着されているが、全く重さを感じない。羽毛の如く軽やかさと、本物の武将が纏う鎧の如く堅牢さが共生していた。
 また彼女自身は気付かないが、トレードマークである赤い髪はより鮮やかになっていた。

「この、ボディは……まさか、ネオが残してくれたのか?」

 困惑と共に呟くが答えは返ってこない。
 短時間で劇的な変化を起こすのはまず有りえない。デスゲームの最中に、PCボディが変容する効果を持つアイテムを使った覚えもない。
 故に最後に残された可能性は、これはネオによって齎された変化だということ。


727 : レボリューション そしてきみの未来へ ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:37:42 IuozjNDs0


 その推測は正しかった。
 揺光のアバターが変わった理由は一つ。ネオが持つ救世主の力が、揺光に新たなる力を与えたのだ。
 救世主の力はマトリックスに存在する全ての物理法則を改竄する程に凄まじい。マトリックス全てを埋め尽くすほどにまで増殖したスミスと渡り合い、そしてトリニティの命を救う奇跡すらも起こした。
 このデスゲームでも、救世主の力を手に入れたことで進化を果たした者達がいる。二体のAIDAと二人の勇者カイト、そして暗黒の破壊神となったフォルテ。
 彼らのように救世主の力を得た揺光もまた、Xthフォームと呼ばれる姿へのジョブエクステンドを果たした。それは彼女を再現したデータが、九竜トキオという少年と共に戦い、ランクアップして誕生した姿。
 生きて、そして強くなってほしいというネオの最後の願いが、本来の歴史では存在しない奇跡を成し遂げたのだ。

「なら頑張らないとな」

 しかし揺光自身はその答えを知らず。
 この身に起こった変革を受け入れながら、エシュリデータを天高く構える。
 劉備、関羽、張飛の三国志の武将達が桃園の誓いを交わしたように、揺光もまた誓いを立てた。

「我ら、生まれし日、地は違えども……共に時を過ごしからには、心を同じくして助け合い、戦う者達を救わん!」

 夜空の星となった仲間達に向けるように、彼女は心の底から叫んだ。
 そして彼女は前を見る。ネオの命を奪ったあの死神は、恐らくまだ生きている。きっと、取るに足らない敵と見くびってあえて殺さなかったのだろう。
 彼のことは許せない。だけど、ネオの遺志を継ぐ為にも、死神の魔の手からハセヲ達を救わなければいけなかった。
 憎しみのままに戦ったら、それこそ死神の思う壺だ。

「見ていてくれ……ネオ、ロックマン、みんな!
 こんなデスゲームを止めて、そして熱斗達やザイオンの人達にアンタらのことを伝えるまで……アタシは最後まで戦ってみせる!
 キリト! 慎二! アーチャー! それにハセヲ! 待っていてくれよな! アタシはアンタらの力になるから、死ぬんじゃないよ!」

 救世主が成し遂げた最後の変革を胸に抱いて、揺光は走る。その勢いは、戦乱の世を駆け抜けた英傑達のように力強かった。
 もう二度と、ハセヲを泣かせたりなんかしない。キリトや慎二とだって一緒に帰ってみせる。
 繋がり(Link)や絆が途切れることは、決してない。絶対に終わらせてはいけなかった。


【D-3/草原/1日目・夜】


【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、強い決意、Xthフォーム
[装備]:最後の裏切り@.hack//、エリュシデータ@ソードアートオンライン、PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン、ゲイル・スラスター@アクセル・ワールド
[アイテム]:不明支給品0〜2、平癒の水@.hack//G.U.×3、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式×3、、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド、ネオの不明支給品1個(武器ではない)、12.7mm弾×100@現実、エリアワード『選ばれし』
[思考]
基本:この殺し合いを止める為に戦い、絶対に生きて脱出する。
1:ハセヲ達を助ける為に前を走る。
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ハセヲが参加していることに気付いていません
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。
※バーサーカーの真名を看破しました。
※ネオの願いと救世主の力によってXthフォームにジョブエクステンドしました。
※Xthフォームの能力は.hack//Linkに準拠します。
※救世主の力を自在に扱えるかどうかは不明です。


支給品解説
【アナザーネオ@ソードアート・オンライン】
 ソードアートオンライン-ホロウフラグメント-に登場。
 90層防具屋に登場する高性能の盾。防御力が+75される他、毒や麻痺や出血に対する耐性も上がる。


728 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/26(土) 00:39:28 IuozjNDs0
以上で投下終了です。
問題点などがありましたら指摘をお願いします。


729 : 名無しさん :2016/11/26(土) 17:54:22 y60iiyLE0
投下乙
絶望が大きくなり、希望が託された
でもフォルテもロックマンも強くなりすぎてて対主催やばいよ


730 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/27(日) 05:08:42 84sRUBrI0
感想ありがとうございます。
収録の際に台詞及び誤字脱字の修正、そして揺光の状態票で以下の部分を消させて頂くことを報告します。
※ハセヲが参加していることに気付いていません


731 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/27(日) 05:26:45 84sRUBrI0
そしてもう一つ。
榊の状態票も入れ忘れてしまったので、以下の状態票を加筆させて頂きます。



【?-?/知識の蛇/一日目・夜】


【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームを正常に運営する。
1:再構築したロックマンを“有効活用”する。
2:アリスの動向に期待する。
[備考]
※ゲームを“運営”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※彼はあくまで真実の一端しか知りません。
※第?相の碑文@.hack//を所有していますが、彼自身に適正はなく、AIDAによって支配している状態です。
※オーヴァンに渡した碑文の詳細は不明です。


732 : 名無しさん :2016/11/27(日) 09:46:18 CPFLF/lw0
投下乙でした

全力での戦闘回数の差が、そのまま結果にも繋がってしまったような感じもあるけど…それでも希望は揺光に託された
R.I.P.ネオ…

現在修正中とのことですが、以下誤字等の指摘です

>>705
体制に追い込み
⇒「体勢」?

>>706
そして弱者に過ぎなった
⇒「過ぎない」?

>>
>>707
強引に体制を立て直した
⇒「体勢」?

>>708
今回の連絡がそれが本題
⇒「連絡は」?

>>709
人生のよく教師として
⇒「よい教師」?

>>719
奴はAIDAについて知り尽くしていて、
⇒「知り尽くしている。」?


あと作中全体ですが…
「エシュリデータ」⇒「エリュシデータ」


733 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/11/27(日) 18:44:45 84sRUBrI0
感想及び誤字誤植の指摘を感謝いたします。
それではその部分も修正させて頂きます。


734 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:20:24 xbO.DVMg0
ロワ語りの最中ですが、これより予約分の投下を開始します。


735 : 戦いは続く ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:22:00 xbO.DVMg0
    1◆


 ライダーの構える二丁拳銃から放たれる弾丸を、アーチャーは双剣で弾き落す。甲高い衝突音が響いた途端、アーチャーは疾走した。
 風の如く勢いでライダーの懐にまで迫り、刃を振るう。だがライダーは案山子のように突っ立っている訳ではなく、背後に跳躍することで回避。
 ニヤリ、とライダーは愉快気に笑って、豪快に銃声を響かせた。一方のアーチャーは淡々と、それでいて正確に弾丸を避ける。
 一進一退、という言葉が相応しい駆け引きだった。


 しかし今の状況は自分達にとって不利だと、間桐慎二は推測する。
 まず一つ。アーチャー本人の魔力だ。アーチャー本人のスペック自体はライダーに優れているかもしれないが、連戦によって魔力が大きく消耗している。
 一方でライダーの魔力はアーチャーよりも余裕があり、時間の経過で優位に立てるはずだった。その前にアーチャー本人が勝利すればいい話だが、ライダーはそれを易々と許すサーヴァントではない。

「さて、ゲームチャンプ(笑)さん。あなたはこの状況で、どうやって僕からライダーを取り返すつもりです?
 ゲームの腕? チャンプとしてのプライド? それともあなた達が大事にしているお友達ごっこ?
 ハッ、そんなので僕に勝てるのなら、是非ともやってごらんなさいよ?」

 そしてもう一つ。
 目の前で自分達を嘲笑い続けている漆黒のアバター……能美征二/ダスク・テイカーこそが、慎二を追い込む最大の要因だった。
 テイカーは相変わらず余裕に満ちた態度で慎二を見下してくる。たまらなく不愉快だが、彼の優位は事実だった。
 これまで幾度もテイカーと戦って、その度に慎二は生き延びてきた。しかしその生存は慎二の力ではなく、同行者の存在が大きい。
 一度目はヒースクリフがいたから。二度目はアーチャーと、そして今はもういないユウキとカオルがいたから。三度目はキリトがタンク役を引き受けてくれたから。四度目の野球ゲームに至っては、ネオ・デンノーズがいたからこそ。
 この五度目は慎二の助けになる者は誰もいない。唯一の頼りであるアーチャーはライダーと一騎打ちをしていて、他のメンバーに至っては生死すらも不明だった。


736 : 戦いは続く ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:22:59 xbO.DVMg0


 この状況でテイカーからライダーを取り戻す手段は一つだけ。
 慎二自身の力でテイカーを無力化し、そこから令呪を取り戻す。言葉にすると簡単だが、実現するのはほぼ不可能だ。
 ユウキやキリトみたいにテイカーと真正面から戦えるプレイヤーはいない。後方支援が専門の慎二が、たった一人で戦わなければいけなかった。

「…………ああ、やってやるとも。
 君が僕より強いことは認めてやるさ。けれど、僕はその更に上を行ってやるだけ。
 僕を応援してくれている奴らの為にもね!」

 されど慎二は微塵も悲観せず、逆にテイカーを挑発する。 
 その表情に変化を齎すかどうかはわからないけど、このまま黙って無様を晒すよりはマシだった。
 それにたった一つだけ策がある。けれどその策を実現させるには、数分ほどの時間稼ぎが必要だった。

「あなたを応援ですってぇ? そんな人がどこに……」
「いるに決まっているさ! 僕はアジア圏のゲームチャンプとして君臨した男だからね!
 それにこのデスゲームにだって、僕を認めた奴がいる。君に一泡吹かせたユウキや、ユウキが信じたキリトって奴らさ!」
「はぁ!? あいつらが、あなたを認めたですってぇ? 冗談もほどほどに…………」
「現実逃避をするくらいにまで追い込まれたのかい?
 もう一度言おう! 君は実に哀れだと思うよ!
 仮に君がこのデスゲームに勝ち残ったとしても、認めてくれる奴は誰もいない……その後、ゲームでどれだけ勝ち残ったとしてもだ! GMからは認められるかもしれないけど、それだけじゃないか!
 だって君は、借り物の力でふんぞり返ってるだけだからね! 君自身の力だけで、何かに勝ったことなんか一度もないじゃないか!」
「なっ……!? ふ、ふざけるな! 僕は、負けてなんか……!」
「忘れたとは言わせないよ?
 僕を庇ったヒースクリフにまんまと逃げられた! 僕からライダーを奪ったくせにね!
 そしてユウキのスキルを奪って強くなったと思ったら、そのユウキに完膚なきまで負けた! ユウキと、それにカオルのことも狙っていたみたいだけど、もうリベンジなんてできっこない! 永遠に負けたままさ!
 僕とキリトのタッグを相手には生き延びれたけど、もしもライダーがいなかったらどうなっていたかな? 君の力だけで、ユウキが認めたキリトに勝てるとは到底思えないねぇ!
 ここまでスキルを揃えておきながら、誰にも勝ててないなんておかしいじゃないか! やっぱり君はC級……いや、ウルトラF級のダメダメゲーマーじゃないか!」

 思いつく限りの罵声を投げつける。
 テイカーの戦歴を全て知っている訳ではないし、そもそも興味がない。けれど慎二が知る限りでは、テイカー自身の力だけで慎二に打ち勝ったことはなかった。
 それは慎二も同じだけど、慎二にはテイカーが持たないものがある。絆とか友情とか、そんな甘っちょろいものではなく……自分を高めてくれるライバルだ。
 キリトや岸波は気に入らないけど、少なくとも実力自体はテイカーより上だ。そんな彼らに勝つならば、こんなチーターに負ける訳にはいかない。


 そして慎二は知らないが、ダスク・テイカーがこのデスゲームで一度も勝利を納めていないのは真実だった。
 碑文使いのエンデュランスには敗北した。ヒースクリフと慎二の撤退はライダーを奪えたからこそ。その後はブルースとピンクを罠で嵌めようとしたものの、失敗に終わってしまう。
 その後の戦歴は、敗北または逃走の連続だった。ユウキにも、カオルにも、アーチャーにも、キリトにも、デウエスにも…………テイカーは勝利していない。
 無論、ダスク・テイカーその結果を黙って受け入られる訳がなく。


737 : 戦いは続く ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:23:42 xbO.DVMg0

「…………黙れ」
「おっ、図星かな? でも事実じゃないか!
 そんな哀れな君に、僕から素敵なアドバイスをしてあげるよ! 君はチートを使って、他のプレイヤーからスキルを奪ったようだけど、普通のゲームじゃそんなプレイは認められない!
 ゲーム大会でそんなことをしたら、即刻出場停止処分さ! 当然、周りのプレイヤーからの評価だってがた落ち!
 奇跡が起きて君みたいなプレイヤーが優勝できても、誰も憧れたりしない! 一生、負け犬ゲーマーのレッテルを貼られ続けるのさ!」
「黙れええええええええええ!」

 慎二の度重なる挑発に、案の定テイカーは火炎放射器を向けた。
 叫び声と共に灼熱が放たれるも、慎二は紙一重でそれを回避。熱波が突き刺さるも、致命傷を負うことはない。


 間桐慎二は電子ハッカーであり、また一介の魔術師(ウィザード)でしかない。
 聖杯戦争に参加してサーヴァントを使役することは可能だが、彼本人に戦闘力は存在しなかった。使用可能なコードキャストも、サーヴァントやバーストリンカーのような超常的存在にダメージを与えられない。
 モーフィアスが残したあの日の思い出を使いこなす技術も持たず、そもそもアイテムをオブジェクト化する暇などなかった。僅かな時間でも、ダスク・テイカーから意識を逸らしてはその時点で死に繋がる。
 故に彼が取れる方法は一つ。所持している強化スパイクが誇るコードキャスト・(move_speed(); )で、自分自身の移動速度を強化させて回避をするだけ。加えて、アーチャーとライダーの戦いに巻き込まれないように、船の甲板を駆け抜ける必要があった。


(くそっ! 息が苦しい……喉が焼けちゃいそうだ!
 でも、ユウキはこんな炎の中に飛び込んだんだ! カオルが味わった辛さは僕以上だったはずだ! キリトだって、僕のタンクになる為に戦っていた!
 あいつらを超えたいのなら、こんな熱さなんて耐えなきゃいけないんだろ!? 頑張れよ、僕!)

 足を動かしながら、慎二は自分自身を鼓舞する。
 熱い。苦しい。辛い。逃げたい。嫌だ。帰りたい。投げ出したい。諦めたい。楽になりない。
 地獄の業火が全身に突き刺さり、その度に弱音が聞こえてくる。もう君は頑張っただろ。これ以上、戦わなくていいんだよ…………しかし、慎二はそれを真っ向から否定した。
 憧れのプレイヤー達は、この程度の逆境をいとも簡単に乗り越えたのだから。

「ハッ。大口を叩いておきながら、結局は逃げるだけですか!
 ゴキブリ……いや、ネズミみたいですね! こそこそと逃げ回るだけの負けネズミさん! さっさと焼け死んでくださいよ!
 その方が僕としても、大助かりですから!」
「ネズミねぇ!
 ノウミ! 君は知っているかい? 窮鼠猫を噛むって言葉があることを!」
「知っているに決まっているでしょう? 僕はあなたのようなバカではありませんから!
 もしかして、あなたはここから僕に大逆転ができるとでも信じているのですか!? 暑さのあまりに頭が変になったみたいですね!」
「はっはっはっは! やっぱり君は何もわかっちゃいない!
 けれども僕はゲームチャンプ! どんな相手だろうと公平に接する! だから君には特等席で、この僕の超ファインプレーを見せてあげるよ!」

 テイカーの嘲笑と灼熱が襲い掛かるが、慎二は屈しない。
 傍から見れば今の慎二の言動は負け惜しみだろう。慎二が軽蔑しているような、負けを認めない3流ゲーマーと何一つ変わらない。それが分かった上で、慎二はテイカーに立ち向かっていた。
 ユウキとカオルはもっと熱かったはずだった。ヒースクリフやモーフィアスってオッサンは身体を壊されても弱音を吐かなかった。キリトだって、アスナの変貌を目の当たりにしても挫けなかった。岸波はどうなっているかは知らないけど、少なくとも止まろうとしていないのは想像できる。
 だから慎二も、心だけは支えていた。余裕はないし、もしかしたら表情は醜く歪んでいるかもしれない。けれども、最後に自分自身の力で勝てるならば、何度敗北しても構わなかった。



 一分の時間もかからずに、慎二は追い込まれた。
 前方には火炎放射器を突き付けているテイカーが立っており、左右は灼熱に飲み込まれている。そしてあと一歩でも下がれば背中が手すりに当たり、船から振り落とされるだけ。
 絶体絶命という言葉が相応しい状況だった。


738 : 戦いは続く ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:24:38 xbO.DVMg0

「ここまでですね。ゲームチャンプ(笑)さん。
 さて、ここからどんなスーパープレイを見せてくれるのですか? ひょっとして、土下座でもして愉快な命乞いでもするつもりでしょうか?
 それなら是非とも頑張って頂きたいですよ! あなたの演技次第では、命が助かるかもしれませんからねぇ!」
「ハッ。助かるつもりなんてこれっぽっちもないよ!
 僕はただ、お前に勝つつもりでいるのさ! 確かに君には負けたけど、最後に少しでも勝ちさえすればいいからね!」
「……………………ここまでくると、哀れみすら覚えますよ!
 それともまさか、サーヴァントが助けてくれるとでも思っているのですか?」
「いいや、助けはいらないね!
 アーチャーにはライダーを引き受けてもらわないといけないからさ! 僕は、この僕を認めてくれた奴らに敬意を払うだけだ!」
「敬意を払う? 
 やっぱり貴方は本物の馬鹿ですね、うんざりします! もう顔も見たくありません」

 四方から突き刺さる煉獄とは裏腹に、テイカーの声色は凍土の如く冷たい。だが、慎二には関係なかった。 
 距離は数メートルほど離れているし、何よりも時間は稼げている。挑発している間に、テイカーに気付かれないようにウインドウを操作していた。 
 加えて、今は陽炎と硝煙によって視界が歪んでいる。それらは攻撃の回避に一役買っていたし、何よりもこの策に気付かれることはない。
 準備は整った。

「僕の前から……消えろっ!」

 無造作に、テイカーの銃身から炎が迸る。人の命を容易く奪えるであろう高密度の炎が、唸りを上げながら一直線に突き進んだ。
 まともに受けてしまえば、慎二はほんの一瞬で消し炭になるだろう。例え即死しなくとも、地獄の苦しみを味わうだけ。
 だが慎二は歯を食いしばりながら、全神経を張り詰めさせた。炎に耐える為でなく、テイカーに一泡吹かせる為に。

「バトルチップ! ――――――――!」

 慎二の叫びは灼熱の轟きに飲まれてしまう。
 その恐るべき熱量によって甲板の一部は赤く輝いて、ぐつぐつと音を鳴らしながらマグマのように沸騰した。


    2◆◆


「なぁ色男。アンタ、どうするんだい?」

 二丁拳銃を唸らせながら、ライダーは問いかけてくる。
 一方のアーチャーは銃弾を弾きながら、ライダーと対峙した。

「どうする、とは何のことだ」
「いや、アンタのこれからさ。
 何があったかは知らないけど、アンタはシンジのマスターになった。けどそのシンジは今、ノウミと戦っている。
 アンタ、シンジがノウミに勝てると思っているのかい?」
「………………手厳しいだろうな。
 彼は魔術師としての才能に溢れているが、直接的な戦闘能力は乏しい。当然ながら、ダスク・テイカーに勝つ可能性は低いだろう」
「だったら、アタシばかりに構っててもいいのかい?
 アタシとしちゃあ構わねえけど、アンタはサーヴァントだ。マスターがいなくなったサーヴァントなんざ、酔える訳ねえだろ」

 さもつまらなそうな表情で、それでいて重要な問いかけだった。
 ライダーが言うように、慎二だけの力でダスク・テイカーを倒すなど不可能だ。魔術の才能に優れていても、それが戦闘能力に繋がる訳ではない。
 『野球バラエティ』でデウエスのボールを打てなかった彼に、テイカーのような巧みな戦闘技術を誇る敵を倒せる訳がなかった。
 そして慎二がテイカーに殺害されてしまっては、その分だけアーチャーは不利になる。アーチャーとて負けるつもりはないが、数の優劣に叶う保証はない。


739 : 戦いは続く ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:25:49 xbO.DVMg0

「悪いが、起こり得ないことは考えないことにしているんだ」

 しかしアーチャーは首を振る。
 その否定に、ライダーはへぇと声を漏らす。

「彼の実力自体はダスク・テイカーに劣っているだろう。だが、それは慎二自身も知っているはずだ。
 そんな優劣を埋める為の工夫を、慎二がしないはずはない」
「随分とお高く評価されるようになったもんだねぇ! シンジはただの小悪党だったはずなのによぉ!」
「では逆に聞くが、君は慎二が何もできないまま黙って負けるようなマスターだと思っていたのか?」
「さあな。ただ、これだけは言える。
 あのくそがきはみじめだ。どうしようもなくみじめだ。でも、だからこそ足掻いているんだろ?
 アタシがノウミに奪われた時、シンジはみじめな泣きっ面を晒しやがった! そりゃあもう、見事な顔さ! で、その後は色男を引き連れてアタシを取り戻そうとしてる……そんな気概を持つようになった。
 やっぱり、アイツは鍛え甲斐がありそうだ。尤も、アタシを取り戻したらの話だけどよ」

 そう語るライダーは嗤っていた。
 彼女の笑みには侮蔑もあるだろう。しかし少なくとも失望はなく、それ以上に慎二への大きな期待すらも感じられた。
 最初に契約を結んだ相手だからか。それとも、フランシス・ドレイクという個人として慎二を認めているのか。

「残念ですがライダー。その機会は永遠に訪れませんよ」

 だが、ライダーの感情を否定する声が聞こえる。
 振り向いた先では、あのダスク・テイカーが悠々と立っていた。

「おやノウミ。アンタ、シンジはどうしたんだい」
「見てわかりませんか? あのゲームチャンプ(笑)さんはこの僕が消し炭にしてあげたのですよ!
 綺麗さっぱりね!」

 勝ち誇ったように両腕を掲げる。
 見ると、彼の背後では壁を作るように灼熱が燃え上がっていた。なるほど、この中に放り込まれたら例え魔術師と言えど命はない。
 リカバリーのバトルチップを使ったとしても、回復が間に合わない。


 だが、アーチャーとライダーは冷ややかな目でテイカーを見つめていた。


「おや? どうかしましたかアーチャー。
 貴方のマスターは僕が消したやったのに、どうして何も言わないのですか? もしかして、厄介払いができたと清々しているのですかね?
 だとしたら、貴方もとんだ薄情者ですよ! まぁ、それが当然ですけどね!」
「一つ聞こう。
 貴様は知っているのか? プレイヤーが敗退した後、そこに何が残されているのか」
「所持していたアイテムが残っているのでしょう? 残念ですが、僕の火炎に飲み込まれてしまったから、何一つとして残っていませんよ。
 ああ、もしかしてキルスコアを確認させて、その隙を狙おうとしているのですか? だとしたら、随分と浅知恵ですね! マスターがマスターなら、サーヴァントもサーヴァントですよ!」

 テイカーは余裕綽々だった。恐らく、勝利の美酒に酔っているのだろう。
 その有様に呆れたのか、ライダーは軽く溜息を吐いた。

「何ですか、ライダー?
 貴女、まさかあのゲームチャンプ(笑)の所に帰りたかったとでも言うのですか?」
「いいや、戦場じゃ裏切りなんてのは日常茶飯事だ。また、上官が変わることだって充分にあり得る……シンジが負けたなら、アタシは黙ってそれを受け入れるさ。
 ただ、やっぱりアンタらは似た者同士だなって、思っただけだ」
「……何を言っている?
 僕は勝った。勝ったんだぞ? アイツより僕が上だってことを、この手で証明したはずだ!」
「そうやって勝った気でいるのが、シンジと同じなんだよ。戦いは続いているのによ」
「全くもって同感だ」

 ライダーの言葉にアーチャーは頷く。
 だが肝心のテイカーだけはそれを認められないのか、声を荒げる。


740 : 戦いは続く ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:26:45 xbO.DVMg0

「戦いが続いているのなら、さっさと終わらせればいいだけだ! 僕が加勢してやる! 二対一なら勝てない相手じゃない!」
「いいのかい、ノウミ。こんなことをしていてよ。
 シンジは…………」
「うるさいぞ! お前は黙って、僕の言うことを聞いていればいいんだ!
 アイツはこの僕が殺してやった! ライダーがそんなこともわからない馬鹿だったなんて、心底失望したぞ!
 さあ、早くこのアーチャーを叩きのめしてやれ! それ以外に、何も考えなくていいんだ!」
「…………はいよ」

 テイカーは声色を憤怒に染めて、そしてライダーは気怠そうに二丁拳銃を構えながら、アーチャーの前に立った。
 ライダーは気付いていたが、それを口にする気がないだけだ。何故なら、マスターがそういう風に命令したのだから、サーヴァントは従うしかない。
 どんな結果になろうとも抗うことはできなかった。


「ハッ、叩きのめされるのは一体誰だろうね?」


 例え甲板で、再び慎二の声が聞こえることになっても。


「なっ!? お前は…………どうして、お前が生きている!?」
「それを教えるとでも思ったのかい? これでも喰らいな!」

 そうして放たれるのはコードキャストshock(32); 。
 慎二の登場で驚愕したテイカーに、対抗する暇などない。痛みの森で繰り広げた戦いのように、スタン効果が発生した。

「グッ……!?
 ラ、ライダー……早く、あの、目障りなネズミを……!」
「させるか!」

 テイカーの命令でライダーが動くよりも先に、アーチャーは走る。
 風の如く勢いで刃を振るって、ライダーの二丁拳銃で防御させる。鍔迫り合いの体制に持ち込み、渾身の力でライダーを弾き飛ばした。少しの間だが、これで動きを封じられる。
 あとは慎二だ。彼は今、モーフィアスが生前に扱っていたあの日の思い出を両手で握りしめている。 

「もう油断はしないぞ! 僕は今度こそ、お前に勝ってみせる!」
「何ィ……ッ!?」

 そして慎二は走り出した。
 慎二の構えは拙く、余りにも隙だらけだった。だが、スタン効果で一手分の動きが封じられているテイカーには、止めることなどできない。
 そうして慎二はあの日の思い出を高く掲げて、勢いよく振り下ろした。

「――――ガアアアアアァァァァッ!?」

 漆黒のアバターは容赦なく抉られて、テイカーは激痛のあまりに絶叫する。
 彼ら自身は気付いているか定かではないが、慎二が斬りつけたのは、ユウキがマザーズ・ロザリオの最後の一撃を叩き込んだ個所と近かった。
 既にスタン効果が解けるだろうが、もう遅い。ダスク・テイカーは無様に地面を転がることしかできなかった。


741 : 戦いは続く ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:27:48 xbO.DVMg0



    3◆◆◆



 この手に握り締める刀の重さは、金属バットの比ではない。両手で持っているだけでも肩が痛みそうだ。
 けれど、キリトやアーチャー、そしてユウキは何の苦も無く剣を使いこなしている。多くのプレイヤーに認められる領域に辿り着くまで、一体どれほどの修練を重ねたのか。ユウキ達の姿が、より一層輝く見えてしまう。
 彼女達の様な卓越した身体能力を持たない慎二にそんな芸当は不可能。幼稚なチャンバラごっこの様に、力に任せて振るうしかできなかった。
 それでも、ダスク・テイカーに確実なダメージを与えられた。しかも、幸か不幸かリタイアしない程度のHPを残して。

「お、思い知ったかノウミ!
 この僕の華麗なる超ファインプレイを!」

 あの日の思い出を強く握りしめながら、慎二は宣言する。
 目の前では、あのテイカーが呻き声を漏らしながら、慎二を見上げていた。

「な、何故だ……何故、お前が……僕を……!?」
「まだ気付かないのかい? 言っただろう、君と違って僕は認められているってことを。
 認めてくれるファンがいるのなら、それに応えるのがゲームチャンプの使命だからね!」
「……ま、まさか……その剣と、あの男が持っていた……」
「そうさ! ユカシタモグラさ!
 モーフィアスってオッサンは最期まで僕達を助けようとしてた。あのオッサンに、僕は敬意を払ったのさ!
 言っただろう? 僕はアーチャーの力を借りずに、君に一泡吹かせてやるって!」

 震えるテイカーを前に、慎二は堂々と胸を張っている。そんな彼を祝福するかのように、周りの灼熱も豪快に燃え上がった。



 そう。デウエスに抗ったモーフィアスの策を元にして、慎二はテイカーと戦った。
 限界まで挑発してテイカーの怒りを買って、あえてギリギリの所にまで追い込ませる。そうして最大限の火力が放たれたと同時に、ユカシタモグラで地面に潜った。
 長年の経験から、ゲーマーは勝ち誇ったその時こそが最大の隙になると学んでいる。何故なら、慎二自身もそうだから。
 慎二を仕留めたと思わせた時こそがチャンスだった。テイカーがアーチャーに意識を向けさせた瞬間に再び姿を見せて、コードキャストshock(32); で動きを止める。だからこそ、剣術の経験がない慎二でも、テイカーにダメージを与えられたのだ。
 自分自身を加速させている以上、一手分の時間さえあれば充分だった。



「あーあ。だから言ったんだよノウミィ! こんなことをしていいのかって」

 そして慎二自身の策に気付いていたライダーは、アーチャーと対峙しながら叫ぶ。

「なっ……お、お前はまさか気付いていたのか!? だったら、どうしてそれを話さなかったんだ!?」
「アタシは話そうとしたさ。けど、アンタは聞く耳を持たなかった…………
 それにアンタ自身が言ったんだろ? お前は黙って言うことを聞いていればいいんだって。
 だったら、上官の命令に従うしかない。恨むなら、アンタ自身の判断を恨むんだな」
「………………ッ!」

 テイカーは言葉を失った。
 ライダーはただ、テイカーの命令を聞いただけ。サーヴァントはマスターに逆らえないのだから、この結果を引き起こしたのはテイカー自身だ。

「なんだ! ライダーはやっぱり有能なサーヴァントじゃないか!
 マスターの命令を忠実に聞いてくれるんだからね! よかったじゃないか、ノウミ! 君の望み通りになったんだから!」
「うるさい! 黙れ、黙れ、黙れ…………黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!
 黙れえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 だが、それを黙って受け入られるテイカーではない。
 憤怒と憎悪を言葉に滲ませながら、右腕の火炎放射器を掲げた。狙いは勿論、慎二だった。


742 : 戦いは続く ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:28:46 xbO.DVMg0

「ッ!? お前、まだ――――!」
「死ねえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 それはつい先程の焼き増し。しかし今度は、確実に慎二の命を燃やし尽くす炎だった。
 既に強化スパイクの効果は切れていて、ユカシタモグラの再使用まで30分はかかる。またアーチャーはライダーと戦っているので、駆け付けることはできない。
 空間が灼熱に焼かれ、今度こそ慎二の命は奪われてしまう。ここにいる四人は、誰もがそう思っただろう。

「――――そうはさせません! アプドゥ!」

 だが、たった一人だけ例外がいる。
 黄金の鹿号の甲板に乗る"五人目"の乗客。その叫びが耳に響いた途端、ぐい、と慎二の身体が持ち上げられた。突然の圧力で全身が窮屈になり、髪先や制服が熱波に焼かれる。
 慎二は熱いとは感じるも、予想より大幅に温いことに違和感を抱く。まるで誰かに守られているかのようだった。慎二は顔を上げて、この身を抱えている人物を見る。すると驚きで目を見開いた。

「き、君はまさか……!」
「大丈夫ですか、シンジさん!」
「…………ミーナ!?」

 そう。ネオ・デンノーズの一員である武内ミーナだった。
 テイカーの灼熱が放たれるとほぼ同時に、彼女は快速のタリスマンを使って慎二を救ったのだ。互いの主従が、自分自身の戦いに集中していたからこそ……加速したミーナは横合いから乱入することが可能。
 その速度は強化スパイクを使った慎二に迫る程で、結果として灼熱の炎に飲み込まれずに済んだ。

「おやおや、誰かと思ったらジャーナリストさんじゃないですか! そういえば、あなたもいましたね……すっかり存在を忘れていましたよ!
 まさか生きているとは思わなかったなぁ! あなたの悪運を褒めてやるべきでしょうかねぇ?」

 唐突に現れたミーナをテイカーは嘲笑する。
 一方のミーナは強い怒りを込めた目つきでテイカーを睨みながら、ゆっくりと立ち上がる。存在を忘れられたからではなく、誰かを傷付けようとするテイカーが純粋に許せないのだろう。

「何ですかその目は……もしかして、僕と戦う気でいるのですか?」
「はぁ!? ミ、ミーナ……そんなことはやめろ! アイツの攻撃を見ただろ! 認めたくないけど、アイツは強いんだ! 君なんかじゃとても勝てる訳がないだろ!?」
「ほら、このネズミだって言っているんですよ? 立派なゲームチャンプ(笑)のお言葉を聞いてあげましょうよ?
 尤も僕としては、獲物が増えて大助かりなんですけどねぇ!」

 慎二の狼狽に気を良くしたのか、テイカーは余裕を取り戻している。
 事実、その言葉は正しかった。いくら慎二の命を救ってくれたとしても、ミーナ自身はただのジャーナリストでしかない。一応、格闘技を嗜んでいるようだが、それがダスク・テイカーに通用する訳がなかった。
 虚無の波動や灼熱の炎を受けては一溜りもない。それにも関わらず、ミーナは毅然とした態度でテイカーの前に立っていた。

「貴方達の間でどんな因縁があるのかは知りませんし、今更止まるつもりもないでしょう。
 ただ、私はもう、仲間を失いたくない。それだけです」
「…………うわぁ、最悪だ。あらゆる意味で最悪ですよ、ジャーナリストさん。
 友情ごっこもそこまでいくと病気ですよ。あのカオルって女にも言いましたが、僕がその仲間入りとか吐き気がするんですよね。先程の野球ゲームだって、あなた達と共にいるってだけで反吐が出ましたから!
 ですがもう遠慮はいりません。貴方達を殺して、僕は生き残る……それだけですよ」

 テイカーは例の灼熱を放とうとしているのだろう。慎二とミーナの命を奪って、勝者として君臨する為に。
 しかし何を思ったのか、テイカーは慎二に目を向けた。


743 : 戦いは続く ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:31:34 xbO.DVMg0

「そうだ! 冥土の土産にいいことを教えてあげますよ!
 あなたがお友達だと信じているそのゲームチャンプ(笑)さん……優勝をする為に、他者を蹴落とそうとしていたんですよ。ですよね、ゲームチャンプ(笑)さん」
「何!? お、お前は何を言って……」
「忘れたとは言わせませんよ? あなたはこのゲームが始まった当初、ヒースクリフというプレイヤーと戦っていたじゃないですか!
 見た所、あのヒースクリフという男はこのデスゲームを止めようとしてた……僕からすれば到底理解できませんし、もうとっくに死んじゃいましたからどうでもいいのですけどね。
 でも、心のどこかでは喜んだのじゃありませんか? 自分を蹴落とそうとしてくれる奴が死んでくれて、よかったと…………」
「そ、そんなこと……!」
「思っていないのなら、あんな派手に大砲を撃つ訳がないじゃないですか!
 結局の所、ゲームチャンプ(笑)はただのネズミでしかないのですよ! 自分が助かる為なら、どんな卑怯なこともして、いとも簡単に誰かを騙す……もしかしたら、今だってジャーナリストさんを嵌めようとしているかもしれませんよ!?
 けれどそれが当然なのです! 世界の根本は奪い合いであって、お友達ごっこなどする奴から死んでいくのですから!」

 耳障りな語りだが、慎二はそれを遮ることができなかった。
 そして否定もできない。慎二は当初、このデスゲームを聖杯戦争の一種だと思い込んでいた。例えゲームで負けても死にはせず、元の日常に帰れるような遊びだと。
 しかし実際は違った。HPが0になったら、その時点でゲームオーバーだ。ヒースクリフや、そしてモーフィアスとカオルがそうなるのを、慎二はこの目で見ている。


 もしもその真実を知らないままだったら、慎二は一体何をしていたか。
 ヒースクリフに騙し討ちし、そしてあんな凄かったユウキやキリトを傷付けていたのではないか? またユウキが守ろうとしたカオルや、カオルの仲間であるミーナのことだって殺そうとしたはずだ。
 そんな"if"が脳裏に過ぎって、慎二の心に絶望が重く圧し掛かる。憧れだったユウキ達の姿が、慎二にとって呪いとなっていた。

「…………私はシンジさんのことをあまり知りません。
 貴方の言葉の真偽を確かめられませんし、もしかしたら本当のことを言っているでしょう」
「おや? 随分とあっさり信じるのですね!
 こういう場合、普通は否定するかと思っていましたが…………所詮、信頼なんて薄っぺらいものでしかないことを、知っていましたか!」
「いいえ、違います。私が知っているシンジさんは、凄い人でしたから!」

 息が止まりそうになった慎二の耳に、ミーナの言葉が強く響いた。

「……寝言はやめて下さいよ。
 凄い人? 凄い人だって? こんな無様に尻餅をついている奴が、凄い人って……はっはっはっはっは、笑わせるなっ!」
「私は知っています。
 【野球バラエティ】でデウエスに立ち向かった時、ネオ・デンノーズを勝利させる為に身体を張ったことを。そして貴方に勝つ為、どんな不利な状況に追い込まれようとも、必死に知恵を振り絞ったことを。
 その時、シンジさんの目はとても真っ直ぐでした! だから私は、そんなシンジさんを死なせたくありません!」
「笑わせるなと、言っているだろっ!」

 ミーナの言葉が耐えられなかったのか、テイカーは再び激昂した。
 最早、話すことなど何もないのだろう。奴はこのまま、二人纏めて殺すつもりだ。

「ま、待てよノウミ! お前の相手は僕だけだ! ミーナは関係ないだろう!?」
「知らないなっ! もうこれ以上、お前達の顔は見たくない! 声だって聞きたくない!
 二人纏めて、この世界から………………!」
 ――――グアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッ!


 慎二とテイカーの言葉は、余りにも唐突過ぎる叫びによって掻き消される。
 熱波を震え上がらせるほどの声量に、誰もが振り向く。すると、遥か遠い空からいくつもの小さい影が迫っていた。


744 : 戦いは続く ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:32:22 xbO.DVMg0


 ――――シャアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッ!


 シルエットは徐々に大きくなり、翼を生やした怪物達となって視界に移る。
 RPGゲームでよく出てきそうなモンスターが群れを成しながら、満天の星を埋めるように飛んでいた。

「あれはまさか……メールに書かれていたエネミー達か!?」

 アーチャーの叫びに、慎二の全身に悪寒が走る。
 【急襲! エネミー軍団!】というイベントが18:00より開始されると、3度目の定時メールに書かれていた。この広い会場の中で、一定時間ごとにランダムであるエリアに大量のエネミーが出現するらしい。
 だが、そんなイベントに参加している余裕はない。幾度にも渡る戦いで消耗した上に、黒い死神の襲撃によってチームは分散させられた。そして甲板に残った全員にエネミーの大群と戦う余力はなかった。
 ポイントやアイテムが手に入るようだが、命を賭けてまで手に入れる無茶は選べない。圧倒的な数を前にしては、蹂躙される結末しか想像できなかった。

「……どうやら、ここまでのようだな。ライダー、こんな無茶に付き合うことなどない!
 さっさと逃げますよ!」

 いつの間にか、聞き慣れた慇懃無礼の態度を取り戻したテイカーの元に、ライダーは駆け寄る。アーチャーが視線を外した一瞬の隙が、最大のチャンスとなったのだろう。
 そんな最中でもテイカー達は殺意を向けているが、それを阻むようにアーチャーも走る。

「お、お前達! まさか逃げるつもりか!」
「当たり前じゃないですか。あんな連中を相手に戦っていたら、命がいくつあっても足りませんからね。
 ああ、でも今回はあなた達を連れて行きませんからね? 反吐が出ますから。
 ライダー、飛びますよ!」
「おい! 待て……!」

 慎二は思わず手を伸ばしたが、テイカー達は空に向かって高く跳躍する。
 唐突過ぎる行動に疑問を抱く暇もなく、次の瞬間には、慎二達が立つ地面が"消滅"した。

「うわあっ!」
「きゃあああっ!」

 足元の甲板は既に無く、慎二とミーナは一瞬で、雄大なる地面に向かって投げ出された。
 夜風に全身が叩かれて、冷気を伴った衝撃が襲い掛かる。重力に逆らうことができないまま、夜空を漂うしかない。

「ふっふっふっふっふ! 良い様ですねぇ!
 貴方達の最期を見届けられないのは残念ですが、とっておきのエンターテイメントを用意してくれたことだけは感謝しますよ!
 それでは、永遠にさようなら!」

 そしてテイカー本人は、いつの間にか顕在させた船から自分達を見下ろしながら、そのまま去っていく。
 彼らが行った仕組みは単純だ。黄金の鹿号をわざと消滅させて、慎二達を振り下ろし、その間にライダーと共に船を乗ればいい。ヒースクリフとの戦いに負けた慎二と違って、テイカーは魔力を大幅に回復したのだから、逃走するくらいの余裕はあるのだろう。
 しかしそれが分かった所で、慎二には打つ手がない。ユウキやキリトのように翼を持たない以上、このまま死の運命に向かって落下するかと思われた。

「慎二っ!」

 だが、この腕を掴まれて、そして引き寄せられる。
 アーチャーが慎二の体躯を抱えたのだ。彼の身体能力を持ってすれば、安全に着地することができるだろう。
 しかしそれでは、助からない奴がいた。

「アーチャー!?」
「すまない、慎二。まさか奴らがこんな手段を選ぶとは……私が警戒を怠ったせいだ」
「そんなことはどうだっていいだろ!
 それよりも、ミーナは……ミーナが……!」

 慎二は必死に腕を伸ばす。だがその手は届かず、それどころか暴風が邪魔をしていた。
 「シンジさん!」と呼んでくるミーナも手を伸ばしてくれるが、何も変わらない。それどころか、風によってゆっくりとだが引き離されていった。
 一方で、現れたエネミーの大群は、慎二達を嘲笑うかのようにシルエットを肥大化させる。格好の餌となった今の三人を狙わない理由などない。
 エネミー達をどうすることもできないまま、ミーナの手を取ることもできない。また、ノウミに全てを奪われたまま、こんな結果で終わるのか?
 嫌だ。そんなの嫌だ。こんな所で負けたくない。これじゃあ、ノウミに勝ったなんて言える訳がない。
 悔しくて、それを誤魔化すかのように腕に力を込めるが、エネミー達が徐々に迫って――――

「着装!! <<ゲイルスラスター>>――――!!」

 ――――慎二の絶望を掻き消すかのように、ボイスコマンドが高らかに響き渡り。
 その手を掴もうとしていたミーナの姿が、一陣の風に巻き込まれながら消えてしまった。


745 : 戦いは続く ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:33:50 xbO.DVMg0


     †


 この身体(アバター)から溢れ出てくる力は、これまでに感じたことがない程に凄まじい。
 足が羽のように軽やかになって、あらゆる物理法則を無視して動き回れそうだ。だからネオは、スーパーマンの様に空を自由に飛べたのか。
 その姿は救世主と呼ぶに相応しいほどに凛々しく、歴史に名を遺せてもおかしくない。

「ネオ…………!」

 そんなネオはもういない。
 揺光を。そして人類の未来を守る為に、黒き死神との戦いで命を散らせた。
 ネオとモーフィアス、そしてカオルは人類と機械が共存できる明日を夢見ていた。彼らの夢は立派で、そして壮大すぎた。揺光が背負うには重すぎる程に。
 けれども、投げ出したりする気は微塵もなかった。

「……みんな、お願いだから無事でいてくれよ!」

 共に戦った仲間達の無事を願いながら、揺光はただひたむきに走る。
 泣くことだったらいくらでもできる。罪悪感に溺れることも簡単だ。けれど揺光が本当にやりたいことは、弱音を吐くことではない。
 ハセヲやネオのように強くなり、戦うことだ。心は弱くなりそうだけど、そこを紅魔宮の宮皇としての骨太な心で支えればいい。

 ――――グアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッ!

 気が付くと、空の彼方より大量のモンスターが現れていた。
 あれは何だと驚いたが、揺光はすぐに定時メールの存在を思い出す。18:00を過ぎた後、ランダムで大量のエネミーが出現するイベントが始まると書かれていたことを。

「チクショウ……よりにもよってこんな時にかよ……!」

 あまりにも最悪すぎるタイミングだった。
 今は一秒でも惜しい。大量のエネミーと戦っている場合などないし、相手にしたら時間とHPがいくらあっても全然足りなかった。
 だから揺光は目を逸らして、遥か天空を跳ぶ黄金の鹿号に目を向ける。揺光は翼を持たないが、ガッツマンが残したゲイルスラスターとネオから与えられた力があった。
 その二つを駆使して、跳躍しようとした瞬間……黄金の鹿号が消失した。

「何っ!? 何で消えたんだ!?」

 何の前触れもなく消えてしまった巨大な戦艦。
 しかし理由を考える暇もない。甲板に乗っていたであろう慎二とアーチャー、そしてミーナが落下していた。
 慎二はアーチャーが抱えてくれたが、ミーナの隣には誰もいない。そんなミーナを助けようと慎二達は腕を伸ばしたが、届かない。
 このままでは、ミーナだけが転落死してしまう。それを避ける為に、揺光は再びゲイルスラスターを着装した。

「間に合ってくれよ……!
 着装!! <<ゲイルスラスター>>――――!!」

 揺光のボイスコマンドが高らかに響き渡り。大きさ、強さ、そして美しさを兼ね揃えたオブジェクトを生み出した。
 流線型のブースターが背中に乗るのを感じた瞬間、揺光はゆっくりと腰を落とす。ブースターの唸る音が耳に届いたのを合図に、思いっきり地面を蹴った。
 凄まじき衝撃音によって大気が炸裂し、周囲の闇が照らされる。そうして、揺光は猛スピードで空中に向かって飛翔した。誰かと戦う為でなく、大切な仲間を救う為に。
 加速する意識の中、ミーナのシルエットが徐々に近づいてくる。彼女の元に辿り着くまで、瞬き一回の時間も必要だったか。
 風となった揺光はミーナの身体を抱えて、上昇を止める。この腕の中にいるミーナは、当然ながら驚いたように見つめていた。


746 : 戦いは続く ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:35:23 xbO.DVMg0

「よ、揺光さん!?」
「大丈夫かい、ミーナ?」
「え……ええ。おかげ様で」

 ニッ、と笑みを浮かべながら、揺光は胸を撫で下ろす。
 その内心ではネオに対する後ろめたさが強まっていた。彼だったら、もっと素早く彼女を助けられたかもしれないと思って。
 しかしミーナを不安にさせない為にも、罪悪感を表に出したりしない。ミーナが怪我をしないように地面に降り立つ。
 ミーナを降ろすと同時に、いつの間にか着地していた慎二とアーチャーが駆け寄ってきた。見た所、二人に怪我はなさそうだ。

「揺光!? き、君も生きてたのか!」
「ああ。アタシはこの通り生きているよ。ネオのおかげなんだ」
「ネオの?
 …………あれ。そういえば、ネオはどうしたんだ? ガッツマンって奴も見当たらないけど、どうなったんだ?」

 慎二の口から出てくるのは当然の疑問。
 ネオとガッツマンがどうなったのか…………この場で知っているのは揺光だけ。けれど、簡単に話せる訳がない。
 口を噤んだ揺光の姿に察したのだろう。慎二の表情は次第に曇っていく。

「……ま、まさか……モーフィアスってオッサンみたいに……あいつらも…………!」
「…………二人は死神と戦ったんだ。
 しかもあの死神は、アタシのことだけはわざと見逃しやがったんだ。きっと、倒す価値もないって見くびったんだろ。
 みんな、ゴメン……アタシに力が足りなかったせいで、ネオ達が…………」

 言葉にするだけでこの身が張り裂けてしまいそうだった。
 頼りになる仲間を立て続けに失ってしまう。誰にとっても耐え難い事実だ。
 だからこそ揺光にはみんなの元に戻り、こうして伝える義務がある。例えどう思われようとも。

 けれどその前に、揺光には果たさなければいけない使命があった。ネオやガッツマンの分まで戦って、迫り来るエネミー達から慎二達を守ること。
 揺光はエネミーの群れに目を向ける。見覚えのない奴が大半だが、ヒヨーコやレイブンクローのような低レベルのエネミーも混ざっている。
 高レベルと思われる敵はいなさそうだ。

「……なあ、アーチャー。
 シンジとミーナのことを頼むよ。あのエネミーどもは、アタシが片付けるからさ」
「待つんだ揺光。
 いくら君でも、あれだけの数をたった一人で戦うのは無謀すぎる。ここは一旦退くべきだ」
「アーチャーの言いたいことはわかるけど、逃げていたっていつかは追いつかれる。
 それに今のアタシには、ネオから与えられた力があるからさ……大丈夫だよ」
「ネオから?」

 疑問を背中で受け止めながら、揺光はオブジェクト化させたエリュシデータを構える。 
 もしかしたら、エネミーの群れには揺光の知らない強敵が潜んでいるかもしれない。けれどネオから力を託された今の揺光に、敗北や撤退という文字は存在しない。
 いや、勝利以外の結果は許されなかった。


 エネミー達の叫びと殺意を受け流して。
 揺光は荒々しい烈風となるように走りながら、その群れに飛び込んだ。


747 : 絶叫哲学 ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:37:52 xbO.DVMg0


    4◆◆◆◆


 ダスク・テイカーは黄金の鹿号に乗って撤退を続けていた。
 あのジャーナリストの持っていた【魔術結晶の大塊】を使用したおかげで、まだ逃走手段を行えるだけの余裕がある。
 彼女は最後まで無能だったが、こうしてMPを回復させてやったことだけは評価に値する。尤も、それもすぐに忘れるが。


 ネズミのようなゲームチャンプ(笑)達は振り落として、ようやくネオ・デンノーズとか言う仲良しごっこから抜け出すことができた。
 だが、胸の憤りは微塵も晴れない。それどころか、格下にダメージを与えられたという事実に、腸が煮えくり返っていた。
 ゲームチャンプ(笑)によって刻まれた傷は、ユウキとか言う羽根付きの女に痛めつけられた個所と全く同じ。圧倒的に力が劣っている奴に、この傷を触れられて許せる訳がない。
 惨たらしく、全てのプライドを打ち砕いて殺してやりたかった。けれど、あのエネミー達が現れた以上、拷問する時間など存在しない。
 だからこうして逃げるしかなかったが、これは決してテイカーの望んだ勝利ではなかった。
 羽根突きの女と、そしてモーフィアスやカオル。奴らに嘲笑っているかのように、傷が疼いていた。

「アアアアアアアアァァァァァァァァァッ!
 くそっ! くそ! くそおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 笑う事すらできずに、ただ怒りを発散させる為に咆哮するしかなかった。
 当たり散らすように甲板の船を蹴飛ばすが、何も変わらない。全身の疲労すらも関係なく、今はただこの感情をぶつけたかった。
 
「ライダー! おい、ライダー! 出てこい!」
「なんだいノウミィ? アタシは今疲れてるんだから、後に……」
「お前のせいだ……全部お前のせいだぞ!
 お前が僕の思い通りに動いていれば、こんなことにはならなかった……!
 お前が無能なせいで、僕は大ダメージを負った! どうしてくれるんだっ!?」

 姿を現したライダーに罵声を投げつける。そんなテイカーの姿は、我儘な子どもと何が違うのか。
 しかしライダーは呆れたように溜息を吐く。反省の色が見られない態度に、テイカーの怒りは更に燃え上がった。

「何だ、その態度は……僕の命令に従わなかったくせに、お前は何様のつもりなんだっ!」
「…………あのなぁ。
 さっきも言ったろ? アタシはアンタの言うまま、あの色男と戦った。アンタに火の粉が飛ばないようにだ。
 で、シンジのことだって、アンタは聞こうとしたのか? 何も考えないで戦えって、アンタ自身が言ったんだろ?」
「口答えをするな!
 それ以上、僕に刃向かってみろ! 今この場で、お前を消してやるからな! 僕はお前のマスターだから、お前の命を握っていることを忘れるな!」
「いいのかい? アンタは分かっているんじゃないのか?
 ここでアタシを自害させたら、アンタはたった一人で戦わなきゃいけなくなるだけだって」

 ライダーが口にした宣告によって、息が止まりそうになる。
 けれどもテイカーはひたすら怒りを緩めない。心を支える手段が他に思いつかないからだ。

「……お、脅したって無駄だぞ! 僕は、僕は……本気だからな!」
「脅しなんかじゃねえ。副官として、アンタに忠告してるんだ。
 アンタはいつか、アンタ以上に強え相手と戦わなきゃいけねえ。あのキュウセイシュ様や、アタシ達を襲ったあの死神みたいなよ。
 アイツらは只者じゃねえ……アンタだけで戦えるのか?」
「そ、それは…………!」
「それ以前にだ、令呪でアタシを殺したらこの船だって失う。
 まぁ、アタシとしてはいつだって覚悟は決めていたつもりだし、船と共に心中するのだって悪くはねぇ。
 ただアンタはどうなんだい。アタシが消えたら、マスターであるノウミだって困るんじゃないのかい」

 痛みの森で交わされた会話を焼き直したようで、根本的な優位が完全に逆転してしまっている。
 ここでライダーを殺したとしても、自分から戦力を削るだけ。己が意志を持つスキルでしかないライダーを仕留めたとしても、キルスコアが加算されるとは限らない。
 むしろ、ここで残された16人をたった一人で仕留めるという崖っぷちに追い込むだけ。そんな絶体絶命の状況を打破する切り札を、テイカーが持っている訳がなかった。


748 : 絶叫哲学 ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:39:26 xbO.DVMg0

「…………ライダー!
 月海原学園に急ぐぞ! あいつらの言葉が正しければ、そこには大量にプレイヤーが集まっているはずだ!
 そいつらからスキルを奪って、そして仕留めてやるんだ!」
「はいよ」

 ダスク・テイカーに選べるのは、月海原学園に集まったプレイヤーを一網打尽にするだけ。
 ゲームチャンプ(笑)の仲間であるキリトという奴が厄介だが、方法はある。シルバー・クロウのような甘ちゃんだろうから、少しでも情に訴えれば隙を見せるはず。
 そこを狙えば、勝機はあった。

(何が英雄フランシス・ドレイクだ! 何が悪魔の権化だ! 何が世界一周を成し遂げた偉人だっ!
 プレイヤー一人もまともに殺せない、ただの外れスキルじゃないか!
 くそっ! こんな奴を手に入れるんじゃなかった! 失敗だっ! 完全に失敗だ!
 こんな奴、さっさと切り捨ててやりたいのに……っ!)

 ダスク・テイカーにとって、ライダーというサーヴァントはもう有益なスキルではなかった。ただの足手纏いでしかなく、すぐにでも新しいスキルと交換してやりたい。
 それができないことが、また腹立たしく……ただ月海原学園を目指すしかなかった。



【D-3/黄金の鹿号の甲板/1日目・夜】



【ダスク・テイカー@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP20%(回復中)、MP40%程度、Sゲージ25%、胴体に貫通した穴、胴体に切り傷、令呪三画、例えようもない敗北感、激しい怒り
[装備]:パイル・ドライバー@アクセル・ワールド、福音のオルゴール@Fate/EXTRA
[アイテム]:デスマッチ3@ロックマンエグゼ3、不明支給品0〜1、基本支給品一式
[思考]
基本:他の参加者を殺す。
1:今は月海原学園に向かって、集まったプレイヤー達のスキルを奪うしかない。
2:もうライダーは必要ない。代わりを見つけ次第、即刻切り捨てる。
[サーヴァント]:ライダー(フランシス・ドレイク)
[ステータス]:HP30%、MP30%
[備考]
※参戦時期はポイント全損する直前です。
※サーヴァントを奪いました。現界の為の魔力はデュエルアバターの必殺技ゲージで代用できます。
ただし礼装のMPがある間はそちらが優先して消費されます
※OSS《マザーズ・ロザリオ》を奪いました。使用には刺突が可能な武器を装備している必要があります。
注)《虚無の波動》による剣では、システム的には装備されていないものであるため使用できません。




    5◆◆◆◆◆



 決着は一瞬だった。
 ネオから託された救世主の力によってXthフォームにランクアップした揺光にとって、低レベルのエネミーが群れたとしても敵ではない。
 いや、例え高レベルのエネミーが相手になったとしても、脅威となり得ない。唯一の例外は大型エネミーだろうが、幸いにも現れることはなかった。


749 : 絶叫哲学 ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:40:46 xbO.DVMg0

「……なぁ、これで終わりなのか?
 軍団っていう割には、少なすぎたぞ」

 揺光は辺りを見渡す。
 彼女が言うように、エネミーの出現はぴたりと止んでしまった。軍団と書かれていたのに、実際は20体近くとしか戦っていない。 

「恐らく、ある程度のインターバルを取っているのだろう。
 軍団を撃破して、ポイントとアイテムを獲得したと油断させて、上位レベルのエネミーを送り込む。
 油断こそが、戦場において最も危険な敵だからな」
「た、確かに……」

 アーチャーの推測に揺光は頷く。
 エネミーの撃破によって、揺光に900ものポイントと3つの癒しの水が手に入った。これでHPの問題はひとまず解決しそうだ。


 そうして余裕ができたことで、四人は互いに話し合っていた。
 ネオとガッツマンは死に、そしてネオから新たなるアバターを揺光は与えられた。
 それを責める者は、誰もいない。誰もが揺光の生存に胸を撫で下ろしていた。


 だが、それ以上に重要なことはダスク・テイカーの逃走だった。


「アイツ……ミーナ達を振り落としたのかよ!?
 あの、大馬鹿が…………!」

 エネミー達の出現と同時に、テイカーは慎二達を切り捨てた。それを聞いた揺光が、怒らないはずがない。
 デスゲームに乗ったテイカーが、あのボルドーの様にPKを行うことは充分に想像できた。しかし納得などできるはずがない。
 一歩間違えたら慎二とミーナは死んでいたからだ。

「ノウミは……ミーナのことを殺そうとしてた。僕と、僕を助けてくれたミーナごと。
 くそっ! また、逃げられるなんて……!」

 慎二は悔しげに拳を握り締めている。
 彼は許せなかったのだろう。ダスク・テイカーが行った卑劣な行いと、それを止められなかった自分自身が。
 それは揺光も同じ。二つの平癒の水をオブジェクト化させて、慎二に差し出した。

「シンジ、こいつを使ってHPを回復させろ。アンタ、あの大馬鹿との戦いで消耗したんだろ?
 それに【野球バラエティ】でアンタはアタシのアイテムを当てにしてた……今がその時だろ」
「揺光……」
「アンタ、ノウミからライダーを取り戻すって言ったよな。だったら、HPは少しでも回復させろ。
 アタシだって頭に来てるし、この手で殴ってやりたいけど、アイツを倒すのはアタシじゃない……シンジ、アンタが思いっきりぶっ飛ばしてやれ!」
「…………わかったよ。
 悔しいけど、君の言う通りだ。僕のHPは残り少ない。
 だけどノウミはこの僕の獲物だからね。むしろ邪魔をするなら、揺光ごと叩きのめすつもりだったよ!」
「それくらいの口が利けるなら、大丈夫そうだな」

 そうして慎二はHPを回復させる。
 完治とまではいかないが、少なくとも半分は超えたはずだった。
 それから何を思ったか、慎二はウインドウを操作して、リカバリーのチップをオブジェクト化する。それをミーナに手渡した。


750 : 絶叫哲学 ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:42:37 xbO.DVMg0

「シンジさん?」
「ミーナ、君もこいつを使いなよ。
 君には……助けられたからね。これで貸し借りは無しだ」
「シンジさん…………ありがとうございます。
 やっぱり、あなたは悪い人じゃないみたいですね」
「か、勘違いをするな! 僕はその……君には死んでもらったら困るだけだ!
 君は確かジャーナリストだったよね? そんな君には、この僕……間桐慎二の栄光と挫折、そして武勇伝を後世に残す義務があるのだから!」
「……へっ?」

 微笑みながらも困惑するミーナを尻目に、慎二は揺光を指差した。

「ライダーを取り戻した暁には、まずは揺光をコテンパンに叩き潰して宮皇の座を奪い取ってやるのさ!
 そしてアーチャーを岸波に返して、岸波ごとサーヴァント達を倒す! ユウキが認めたキリトや、揺光の仲間であるハセヲって奴も……この僕が一人残らず倒してやるさ!
 そうすることで、僕は真のゲームチャンプとなれる! その姿を世界に広める為にも……ミーナ! 君をこきつかってやるからな!」

 慎二は指を天に掲げながら、高らかに宣言した。その姿を見て、やっぱり慎二は馬鹿だと揺光は心の中で呟く。
 けれども、決して嫌いにはなれない。強くなる為に、ひたすらひたむきに努力をする。それは揺光だって何度もやってきた。
 何よりも口先だけでない。実際に【野球バラエティ】でネオ・デンノーズを勝たせる為に、自ら危険球を受けていた。
 その時に見せた瞳の輝きは間違いなく本物だ。

「わかりました……その為にも、絶対に生きて帰らないといけませんね。
 揺光さん、ライバルができた感想はどうですか?」

 リカバリー30でHPを回復させながら、ミーナは尋ねてくる。
 答えは一つしかない。

「…………面白いことを言うじゃないか。
 けど、アタシだって負けるつもりはない。逆に返り討ちにしてやるとも。
 宮皇として、挑戦だったら何度でも受けてやるからな。ゲームチャンプさん!」

 負けじと揺光も宣戦布告をする。
 アジア圏のゲームチャンプである慎二の実力は本物だろう。けれど紅魔宮の宮皇が、負ける訳にはいかない。
 互いの誇りと名誉を賭けて、全力でぶつかってやりたかった。

「世紀の大勝負の幕開けか」

 その開戦を祝福するかのように、アーチャーは笑みを浮かべている。
 だがすぐに深刻な面持ちへと変わった。

「だが、今は先を急ぐぞ。慎二とミーナのダメージは回復できたからな。
 これ以上、ここに長居は無用だ。またエネミー達が現れるだろうし、何よりも学園に集まったマスター達が心配だ。
 ダスク・テイカーの実力自体はそれほどでもないが……追い詰められた奴ほど、何をしでかすか分かったもんじゃない」

 アーチャーの言葉に全員が頷く。
 彼が言うように、ダスク・テイカーとの戦いは未だに続いている。テイカーは自分が生き残る為なら、どんな卑怯な手段でも選ぶだろう。 
 テイカーの毒牙だけでなく、学園にあの死神が現れる可能性だってある。エネミー軍団やドッペルゲンガーも同じ。
 時間の経過と共に、脅威が増えるのだ。


 四人は走る。
 相棒を取り戻す為の決着を付ける為。
 志を同じくする大切な仲間達を救う為。
 そして、この世界で巡り合った新たなるライバルに打ち勝つ為。
 それぞれの想いが乗った彼らの足取りは軽く、そして凄まじい力が込められていた。


751 : 絶叫哲学 ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:43:10 xbO.DVMg0


【D-3/草原/1日目・夜】


【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、強い決意、Xthフォーム
[装備]:最後の裏切り@.hack//、エリュシデータ@ソードアートオンライン、PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン、ゲイル・スラスター@アクセル・ワールド
[アイテム]:不明支給品0〜2、平癒の水@.hack//G.U.×1、癒しの水@.hack//G.U.×3、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3(一定時間使用不能) 、基本支給品一式×3、、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド、ネオの不明支給品1個(武器ではない)、12.7mm弾×100@現実、エリアワード『選ばれし』
[ポイント]:900ポイント/0kill
[思考]
基本:この殺し合いを止める為に戦い、絶対に生きて脱出する。
1:ハセヲ達を助ける為に前を走る。
2:いつか紅魔宮の宮皇として、シンジと全力で戦って勝利する。
3:ノウミの奴は絶対に許さない。
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。
※バーサーカーの真名を看破しました。
※ネオの願いと救世主の力によってXthフォームにジョブエクステンドしました。
※Xthフォームの能力は.hack//Linkに準拠します。
※救世主の力を自在に扱えるかどうかは不明です。


【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP80%、MP25%(+40)、ユウキに対するゲーマーとしての憧れは未だ強い、ユウキとヒースクリフの死に対する動揺、令呪一画
[装備]:開運の鍵@Fate/EXTRA
[アイテム]:強化スパイク@Fate/EXTRA、不明支給品2〜4、あの日の思い出@.hack//、エリアワード『選ばれし』、ユカシタモグラ3@ロックマンエグゼ3(一定時間使用不能)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:ライダーを取り戻し、ゲームチャンプの意地を見せつける。それから先は真のゲームチャンプとして、揺光達を倒す。
1:決着をつける為に、月海原学園に向かう。
2:ユウキは、もういないのか。
3:ライダーを取り戻した後は、岸波白野にアーチャーを返す。
4:いつかキリトや岸波、そして揺光やハセヲも倒してみせる。だから探さないとね。
[サーヴァント]:アーチャー(無銘)
[ステータス]:HP70%、MP10%
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。


【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP60%、加速中
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1(本人確認済み)、快速のタリスマン×1@.hack、リカバリー30@ロックマンエグゼ3、拡声器
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する 。
1:生きて帰り、全ての人々に人類の罪を伝える。
2:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
3:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)、ローブを纏った男(フォルテ)を警戒。
4:ダークマンは一体?
5:シンジさんの活躍をいつか記事にして残したい。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。
※現実世界の姿になりました。
※ダークマンに何らかのプログラムを埋め込まれたかもしれないと考えています。


【癒しの水@.hack//G.U.】
 使用したらHPが100回復する。


[全体の備考]
※【急襲! エネミー軍団!】 のイベントで出現するエネミーを撃破した場合、獲得できるポイント数はダンジョン【月想海】に出現するエネミーと同じです。
※また時間の経過と共に出現するエネミーのレベルは上昇し、それに伴って獲得するポイントも増加します。


752 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/15(木) 17:44:22 xbO.DVMg0
以上で投下終了です。
前回の話でホールメテオの使用不可の表記を入れ忘れてしまったので、今回の話でその点を修正させて頂きます。
ご意見がありましたらよろしくお願いします。


753 : 名無しさん :2016/12/15(木) 19:54:43 CZ32Vvfw0
投下乙でした
ノウミ=サンは負け癖がつき過ぎて、完全に状況見えなくなってるなあ


754 : ◆k7RtnnRnf2 :2016/12/21(水) 23:59:12 uuhy5FAg0
感想ありがとうございます。
そして遅れましたが、自作を読み直した所ミーナのリカバリー30の使用後の
一定時間使用不可の表記が抜け落ちていたので、加筆修正をさせて頂きます。


755 : 名無しさん :2017/01/15(日) 07:20:22 YltKVH7A0
月報の時期なので集計します
127話(+ 2) 17/55 (- 1) 30.9 (- 1.8)


756 : 名無しさん :2017/01/17(火) 21:06:52 lHJW5nSw0
月報お疲れ様です

懲りず、避難所に支援を投下しております
お納め下さい


757 : ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:01:59 K5xdngh20
予約分の投下を開始します


758 : 迷宮GO! GO! GO! ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:02:56 K5xdngh20


     1◆



「ハアアアァァッ!」

 カイトの叫びと共に振るわれる虚空ノ双牙。禍々しき一対の刃がエネミーの体躯を抉り、ほんの一瞬で散らせた。
 勢いを保ったままカイトは疾走し、二体のエネミーを同時に撃破する。敵も決して弱くないが、カイトからすれば脅威になり得ない。
 だが、それを意に介していないように、FIRE BABYはATTACKをカイトに仕掛けてくるが。

「させない!」

 叫びと共に発せられるのは金属の激突音。
 先回りしたブラックローズが紅蓮剣・赤鉄を構えて、FIRE BABYの一撃を防いだ。
 GUARDはATTACKより有利。ブラックローズへのダメージはまともに通らず、カイトに至っては傷一つとして付いていない。
 ブラックローズは反撃の一閃を横薙ぎに振るって、その威力でFIRE BABYは消滅した。


 迷宮には未だに大量のエネミーが蔓延っている。だがカイトとブラックローズにとっては敵ではなかった。
 モルガナ事件に身を投じて、数多の困難を乗り越えた二人だ。厳密に言えばここにいるカイトは勇者カイトを模した存在だが、その実力は決して本物に劣らない。
 圧倒的物量を誇る相手で、そして一体ごとのスペックも侮れなかったとしても、奴ら以上の敵を打ち倒し続けた二人に負ける道理など存在しなかった。



 流れるような動作。
 カイトとブラックローズのコンビネーションは完璧だった。
 やはりカイトはオリジナルのカイトを知っているからこそ、相棒であるブラックローズの動きを予測できるのだろう。
 そしてブラックローズもまたオリジナルのカイトを信頼しているからこそ、ここにいるカイトと息を合わせられている。



 岸波白野達は『四の月想海』まで到達している。
 アリーナの構造自体はかつて訪れた時と変わらず、ナビゲートは容易だった。そしてレオが言うように、アリーナに配置されているアイテムフォルダは空となっており、探索する手間が省けている。
 唯一の障害であるエネミーやボスエネミーも、歴戦の勇士たるカイトとブラックローズには脅威となり得ない。その結果、第四層に辿り着くまでにそれほどの時間を要しなかった。
 本当なら岸波白野達もエネミー撃破に協力したかったが、カイト達から拒まれる。何故なら、岸波白野達の魔力を少しでも温存させたいかららしい。

「うむ! やはりブラックローズもなかなかのものだ!
 このデスゲームを止めた暁には、いずれ剣を交えたいと思うぞ!」
「ありがとね、セイバー!
 でもあたしは負けるつもりはないから覚悟してよね!」

 セイバーとブラックローズの声は実に爽やかで、そして頼もしかった。深海を明るく透き通った世界に変えてくれそうな程に心地よい。

「お気を付けてくださいね、ブラックローズさん。
 セイバーさんは暑くなったら猪みたいに狂暴化しますから、怪我などなされぬように!」
「心配してくれてありがとうね、キャスター! 例え相手が皇帝だろうと、全力で戦って勝ってみせるから!」

 キャスターの皮肉を意に介さずにブラックローズは頼もしい笑顔を浮かべる。
 彼女達につられて岸波白野も微笑んだ。ここが敵地であることを充分に承知しているが、この一時があまりにも尊くて。
 ……だからこそ、これ以上の犠牲を出さない為にも戦うべきだ。


759 : 迷宮GO! GO! GO! ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:05:18 K5xdngh20
『白野さん達、攻略は順調のようですね』

 耳元よりレオの声が聞こえてくる。
 定時メールが送られる少し前、実を言うとレオは密かに通信システムを作っていた。レオ特製の受信機を岸波白野は受け取って、内部の様子を逐一報告している。
 そしてボスエネミーとの戦闘になった際は図書室での情報をリンクしてもらい、それを元にカイトとブラックローズに撃破している。


『さて、恐らくもうすぐ次のボスエネミーと遭遇するようですが……準備はよろしいですか?
 今回はこれまでと違って『特定プレイヤーを参加した上での攻略』というサブミッションが与えられています。
 その特定プレイヤーが何者かは不明ですが、皆さんがこうして攻略出来ているからには既にパーティーに含まれているのでしょう』

 下層に突入する直前、『特定プレイヤー参加の条件をクリアしました』というシステムメッセージが表示された。
 その意味がわからないまま、岸波白野達はアリーナの探索を続けている。

『僕はこのデスゲームが始まった直後、闘技場にてユリウス兄さんを模したエネミーと戦闘しました。
 兄さんと同じように、GMはプレイヤーと因縁のある相手をこのダンジョンに配置したのでしょう。そして闘技場を攻略の際には、特定プレイヤーとボスエネミーの一騎打ちをしなければならない。
 …………榊も随分と悪辣な仕掛けを用意してくれますね』

 耳元からは沈んだようなレオの声が響く。
 例え再現データとはいえ、肉親をこの手にかけるという十字架を背負わされたのだ。その業はGMを打倒したとしても消えることはない。
 そして今また、ここにいる誰かがその苦痛を味わうことになる。


 それでも足を止めようとする者は誰一人としていなかった。
 六人は皆、覚悟を決めていた。

『皆さん、どうかお気を付けて。
 僕にできることは限られていますが、いざとなれば全力でサポートを致しますから』

 その言葉を支えに再び歩き出す。一歩進む度に闇は濃くなり、まるで冥府への階段を下っているようだ。
 しかし微塵も臆さない。かつての聖杯戦争で戦ったサーヴァント達と、そして新たに出会った仲間達が共にいるのだから。


760 : 迷宮GO! GO! GO! ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:09:02 K5xdngh20

「ねえ、ちょっといい?」

 ダンジョンを飲み込む黒が濃度を増す中、ブラックローズはそう零す。

「ここにいるカイトはあたし達が知ってるカイトを元に、アウラが生み出したんでしょ? だったら、腕輪だって持ってるんだよね」

 ブラックローズの問いかけにカイトは頷く。
 腕輪とは、女神アウラより授けられたという"力"のことだろう。モルガナ事件の際、オリジナルのカイトはアウラより託された黄昏の腕輪で幾度となく危機を乗り越えた。
 何故、それをここで尋ねるのか。彼女ならば充分に承知しているはず。


 そして気がかりなことがもう一つ。
 何故、ブラックローズの表情は曇っているのか。
 エネミーやデスゲームに対する恐怖とはまた違う。まるで、もっと根本的な大きい何かに対する不安を抱いているようだ。

「えっと、確かあなた達は学校に襲ってきたスミスって奴らと戦って、カイトはデータドレインを使ったでしょ。
 その話を聞いて思ったの…………もしかして、この世界のデータって壊れていってるんじゃないの?」

 そう投げかけられた途端、ここにいる全員が目を見開いた。
 この反応によって、ブラックローズの顔はより深い影が宿ってしまい、そのまま俯いてしまう。

「あなた達は知っているかもしれないけど、あたし達は未帰還者になった人達を助ける為に『The World』で戦っていたの。
 その時、あたし達の周りにはたくさんの仲間が集まった。でも、時にはあたし達を快く思わない奴だって現れた。
 そいつはカイトの腕輪を危険視して、『The World』の平穏を守る為にアカウントを削除しようとしていたこともあったの……」
「ブラックローズさん。その人は確かリョースという『The World』の運営でしたっけ……?」
「そうよ、ユイちゃん。あたしやカイトを目の敵にしていたすっごく嫌な奴だったの!
 …………まぁ、状況が状況だからしょーがないかもしれなかったけど」

 リョースとはCC社を運営する幹部の一人であり、勇者カイトが持つ腕輪の存在を危険視した人物だ。
 スーパーハッカー・ヘルバがカイト達を指示していたのに対して、リョースはカイト達を快く思わなかった男らしい。
 一時はリョースによってブラックローズ達のアカウントは凍結の危機に陥ったが、ヘルバの尽力によって最悪の事態は回避された。
 
「っと、話がずれちゃったね。
 CC社はカイトの腕輪を危険なものだと思っていたの。だって、一歩間違えたら『The World』そのものを壊しちゃうかもしれないから。
 CC社が腕輪を危険視していたなら、あの榊達だって……腕輪が危険だってことを知ってるはずよ。
 でもどうして、あいつらは警告をしてこないのかな?」
『それはこのデスゲームが、システム外の力の使用を前提としているからでしょう』

 生徒会室でこのやり取りを聞いているであろうレオの声が響いた。

『ハセヲさんは言っておりました。
 あの榊はAIDAに感染されたプレイヤー……通称AIDA=PCを増やす為、無数のプレイヤーをAIDAサーバーに閉じ込めました。
 そしてこのデスゲームでも既にイリーガルな力を持つプレイヤーが多数存在していて、幾度となく激突しています。
 無論、それに伴ってこの世界そのものも徐々に崩壊していくはずです。もしかしたら今にも崩れ落ちてしまいそうなほどに、世界は脆くなっているかもしれません。
 仮にクビアが誕生しなくても、その前にアウラもろとも世界そのものを滅ぼせば、何の問題もなくGMは勝利を納められますから』
「じゃあ、あたし達がこうしてダンジョンを攻略している間にも、この世界はどんどん壊れていっているの……!?」
『だからこそ、一刻も早いクリアが求められます。
 オーヴァン、フォルテ、ダスク・テイカーの三名の動向が読めない以上、僕達が今できることは手がかりを一つでも多く集めることですから』

 システム外の力による世界崩壊。その推測が正しければ、現段階でも甚大なる負荷がデスゲームの世界にかかっているはずだ。
 ……そういえば、購買部に配置された言峰神父は時間がないと言っていた。あの言葉は、まさかデスゲーム崩壊へのタイムリミットが確実に迫っていることを意味していたのか?


761 : 迷宮GO! GO! GO! ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:09:37 K5xdngh20

『白野さん。
 ここでそれを言峰神父に問い詰めても、彼は答えない……いいえ、答えられないでしょう。
 何故なら彼はGMに配置されたNPCである以上、自分自身の役割から逸脱した行動は取れませんから』

 全てのNPCは己の役割を全うするだけ。過度な介入は不可能。
 言峰神父と間桐桜はスミス達の襲撃の際に生徒会を救ってくれた。けれど、それはシステムによって定められた処置に過ぎない。
 例え彼らがどのような意志を持っていようと、GMが存在するからには越権行為は不可能だ。
 

 だからこそ、真実を見つける為にも歩まなければならない。
 レオが言うように、自分達に残された時間は長くないのだから。ここで立ち止まっていても何も変わらない。

 闘技場に足を踏み入れる。そこは広大で、一切の飾り気がない無機質な空間だった。
 薄闇に阻まれて先の空間を完全に把握することができず、思わず身構えてしまう。敵は何処から現れるのかわからない。
 岸波白野の警戒に応えるように、人型のシルエットが浮かび上がる。漆黒をかき分けるように現れたのは、白いケープを羽織った少年だ。

「…………カ、カズ!? アンタ、文和なの!?
 なんで、アンタがこんな所にいるのよ!?」

 少年が出現した途端、ブラックローズは驚愕の叫びをあげる。
 反射的に振り向くと、彼女は信じられないというように目を見開いていた。

「お姉ちゃん」

 ブラックローズの叫びに応えたのは、この場にそぐわない穏やかな声。
 お姉ちゃん? つまり、ここに現れたのは…………!?

「……6ズ…………」
「……ハクノさん。ここに現れたのはカズさん…………ブラックローズさんの実の弟さんだと、カイトさんは言っています……」

 ユイは苦渋の表情で告げる。
 岸波白野の推測は最悪の形で当たってしまい、同時にミッションの意味に気付く。
 『特定プレイヤー参加』とは、条件に指定されたプレイヤーの関係者がボスエネミーとして配置されること。そして選ばれたプレイヤーがボスエネミーを撃破しない限り、フロアをクリアすることができない。
 …………なんて最悪のミッションなんだ。あまりの悪辣さに、岸波白野は拳を強く握りしめてしまった。



     2◆◆



「いらっしゃいませ」

 言峰神父の渋い声が耳に響く。
 俺は今、なんとなく購買部のメニューを眺めていた。ちなみに俺は1ポイントも持っていないので、当然ながらアイテムの購入はできない。
 それなのに購買部に訪れている理由は…………ただ何となくだ。

「君は確か1ポイントも持っていないんだったな?
 ならば冷やかしはお断りだぞ」

 神父の瞳がギラリと輝く。まるで獲物を狙う猛獣の様におぞましくて、俺の全身に悪寒が走った。
 まずい。このままだと何をされるかわからない。ここは…………


762 : 迷宮GO! GO! GO! ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:12:14 K5xdngh20


  >A.何か世間話をする
  B.この場から去る


「なあ、ちょっといいか」

 俺は神父と話をすることにした。

「どうしたのだ?
 言っておくが、値切りやローンなどの交渉はお断りだぞ」
「そうじゃない。
 えっと、この購買部ってバイトの募集とかしてないのか? もしも何かやれることがあるなら、俺は引き受けるけど……」
「残念だが募集はしていない。
 手は充分に足りている。こちらから申請をすれば可能性はなくもないが、決してすぐには承認されないだろう。
 何よりもそこまでの時間は君達にはないはずだ」

 あっさりと突き放される。
 元の世界ではアルバイトをして生活費を稼いでいた。それと同じようにこの購買部でアルバイトができないかと思ったが、無理らしい。
 神父が言うように俺達には時間がない。ウイルスの猶予は刻一刻と迫っているし、何よりもGMにはクビアってヤバい奴がいるかもしれないから。

「そうか……なら、仕方がないか」
「だが、君自身の心意気には感心する。
 それに免じて、私から一つアドバイスを提供しよう」
「アドバイス?」
「君も知っての通り、学園のダンジョンには大量のエネミーがいる。奴らを撃破すれば、ポイントはいくらでも獲得できるぞ」
「……それができないから、こうしてアルバイトを頼んだんじゃないか」
「最後まで聞け。私とて、君だけでエネミーと戦えるとは思っていない。
 だが、君の周りには一騎当千の強者が何人もいるはずだ。時には他者の力を頼るのも必要となるだろう」
「まさか、レオ達と一緒に行けってことなのか?」
「それは君自身が決めることだ。
 そして私からの顧客へのサービス……もといアドバイスはこれで終了だ。君が私の前に現れるのを、楽しみにしているぞ」

 そうして神父の話は終わる。
 要するに、仲間達と力を合わせて敵を倒せと言うことだ。レオ達にエネミーのHPを削らせて、俺がトドメを刺す。確かにこれが一番確実だろう。
 ……だがそれではダメだ。結局、みんなの支えになれていない。
 スミスとの戦いではニコと力を合わせたけど、俺は何もできなかった。カイトが駆け付けてくれなければ、俺は無残に殺されたままだ。

「そっか。ありがとう、色々と教えてくれて」
「言ったはずだ、これは私からのサービスだと思ってくれればいいと」

 でも、ここで神父に悩みを言うつもりはない。
 彼のアドバイスを参考にして、レオにも相談しよう。そしてどうするかは、その後に考えればいい。
 俺は購買部から去って、レオがいる生徒会室に向かって足を進めた。


 その時だった。
 カツリ、と足音がどこからともなく響いたのは。

「ん?」

 思わず俺は足を止める。
 振り向くと、ここから数メートルほど離れた先に、奇妙な人型のシルエットが見える。
 闇色に染まった『そいつ』の姿は、どことなく俺と似ていて…………

「――――――――」

 俺の存在に気付いて、『そいつ』はニヤリと嗤った。


763 : 迷宮GO! GO! GO! ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:13:33 K5xdngh20


     3◆◆◆



 空に広がっている黄昏の色は漆黒に塗り潰されて、煌びやかな星の輝きが無造作に散らばっていた。
 現実の様に忠実な再現を目指しているようだが、結局はただのデータに過ぎない。どれだけ小奇麗に作ろうとしても、あの榊達が作ったハリボテの世界を有り難がることなどできなかった。
 そもそも、ここは志乃やアトリを始めとした大切な人達が殺された世界だ。美しいと思える訳がない。


 それでも夜空を眺めずにはいられない。
 何故ならデスゲームが始まったばかりの頃、俺は同じ空の下で一人の少女と出会ったのだから。

「なあ、ロータス。トモコ…………いや、スカーレット・レインってどんな奴だったんだ?」

 隣に立つ黒雪姫/ブラック・ロータスに俺は尋ねる。
 彼女は俺が初めて出会ったサイトウトモコというプレイヤーの同郷だ。いや、サイトウトモコとは偽名で、真の姿はスカーレット・レインというバーストリンカーだ。
 かつて彼女はシルバー・クロウの内情を探る為にサイトウトモコを演技したらしい。それを踏まえると、レインは俺にも取り入ろうとしたのだろう。
 あどけない少女の仮面の裏では一体何を想っていたのか。ほんの僅かとはいえ確かな繋がりがあったから、彼女のことを少しでも知りたかった。

「……彼女は横暴だった。がさつで、とにかく態度が悪い。
 私やハルユキ君は何度振り回されたかわかったものではない」
「おいおい、随分な良いようだな」
「私は事実を言ったまでだ。ハセヲ君は彼女と出会ったようだが、それはただの演技でしかない。
 そして一方では利害の判断に長けていて、抜け目ない策士でもあった。恐らく、君のことも探ろうとしただろう」
「何となくそんな感じはしてたけどよ……じゃあ、一歩間違えたら嵌められてたかもしれないのか?」
「いいや、少なくともハセヲ君に対してそれはないな」

 辛辣な評価から一変して、ハセヲの言葉を明確に否定する。

「レインは油断ならない相手だが、同時に義理に溢れてもいた。
 かつてチェリー・ルークというバーストリンカーを救う為に力を尽くし、そして私達を何度も救ってくれた。
 そんなレインだからこそ、この世界でも生徒会長やジローさんの支えになった……きっと、君とも仲良くなれたはずだ」
「じゃあ、ハセヲとよく似た奴なのか? 話を聞く限りでは、そんな感じがするし」

 穏やかな黒雪姫の声色に応えたのは、間に割り込んできたキリトだった。
 ふ、と黒雪姫の息が聞こえる。表情は伺えないが、微笑みながら肯定しているのだろう。

「言われてみれば、彼女とハセヲ君はどことなく似ているな。
 ハセヲ君も悪ぶっているが、根は人情家だからな」
「おいおい、お高く評価するのはやめてくれよ。くすぐったくなる」
「それはすまない。だが、間違ってはいないだろう。
 君は己の感情に任せて罪のない誰かを傷付けようとしなかった。私やブラックローズのことだって、必死に救ってくれただろう?
 だから君がどう言おうとも、私は君の評価を変えるつもりはない。生徒会騎士団の皆だって、同じのはずだ」

 黒雪姫の称賛に顔が熱くなってしまう。きっと、頬が赤く染まっているはずだ。
 キリトは意味深に微笑んでいて、何も言わないまま黒雪姫の言葉を肯定している。姿は見えないが、霊体化をしている緑衣のアーチャーも同じだろう。
 俺は思わず否定しそうになったが、やめた。ここで反論しても、それをダシに余計にからかわれるだけ。


764 : 迷宮GO! GO! GO! ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:14:31 K5xdngh20


 レインと俺が似た者同士と言われても実感が沸かない。
 本当の彼女が一騎当千の強者で、カイトと共にスミスの一体を撃破する程の実力を誇っていると聞いても、まるで想像がつかなかった。
 だが、もしも再び巡り会うことになっていたら、どこかでぶつかっていたはずだ。そして絆を深め合い、共にこのデスゲームを打ち破る為に尽力していたはず。
 もう叶わないのはわかっているが、それでも有り得た可能性を想わずにはいられなかった。

「そうだ、ハセヲ。俺からも一つだけ聞きたいことがある
 …………オーヴァンのことについてだ」

 追憶にふけそうになったが、キリトの言葉に阻まれる。
 そして当人は気難しそうな表情を浮かべていた。
 それも当然だ。キリトが知りたがっているのは大切な人の仇であるのだから。

「私も聞きたかった。あの男は一体何者なのか……
 いずれあの男と再び出会う。けれど、その前に知らなければいけないと思うんだ。オーヴァンという男について」

 黒雪姫も同じだろう。シルバー・クロウとスカーレット・レインの命を奪ったのは、他ならぬあの男だ。
 オーヴァン。『The World』で俺の手を取り、何度も俺を導いてきた男だ。その背中に憧れ、時にその実力と人望に嫉妬し、並々ならぬ興味を抱くようにもなった。
 俺や志乃、そしてタビーや匂坂はもちろんのこと、あのがびというケモノオヤジを始めとした多くのプレイヤーが集まった。スミスを利用できたのも、その類稀なる人望があったからだろう。


 けれど、俺はあの男についてどれだけ知っていたのか。それを聞かれると、俺自身も首を傾げてしまう。

「……昔から、よくわからねえ奴だった。
 訳わからねえことばかり言いやがるし、俺は何度も煙に巻かれたか…………けどな、同時にすげえ奴でもあった」

 『The World』でハセヲというアカウントを作ってすぐ、二人組のPKに嵌められている所を救われた。
 それから『黄昏の旅団』のメンバーとなって、志乃達と共に何度も冒険をした。そしてさまざまなエリアに赴いて、モンスターと戦い、数え切れないほどの景色を見た。

「オーヴァンの周りにはたくさんの人が集まっていた。
 あいつには、人を惹きつける才能ってのがあったんだ。だから俺や志乃はあいつを信じて、冒険をしていた。けれど、その全てが…………あいつにとっては偽りでしか、なかったのかもな」

 レオは図書室の検索機能で数多の情報を得て、それを元にオーヴァンの真実に辿り着いた。
 碑文使い達の碑文を覚醒させて全てのAIDAを駆逐する。真実を知った時、俺の中であの男への鬱屈が更に強くなった。
 AIDAは人類にとって脅威となり得るのは充分に理解している。アトリを始めとした多くのプレイヤーがAIDAに苦しめられてきたから、その排除に手段を選んではいられないのだろう。
 けれど、それが全く関係ない人間を犠牲にする正当な動機になる訳がない。いいや、なってはいけない。
 人類を救う為にシノン達を犠牲にした。馬鹿な、そんな道理で自分の行いを正当化させるつもりなのか。

「オーヴァンがあのクソスミスと組んでいたのも……きっと、俺の碑文を覚醒させる為でもあったはずだ。
 例え、奴らを倒すことが本当だったとしても、俺は認めない。アトリやシノンを苦しめた奴と手を組んで、キシナミ達を傷付けた……そんなこと、許せるわけがあるかよ!」

 オーヴァンはスミス達にAIDAや碑文の情報を与えて対主催生徒会を襲った。
 つまりオーヴァンはアトリの力でキシナミ達を傷付けさせた。アトリは本来、他者と争うことを望まないプレイヤーであることを知って、その想いを最悪の形で踏み躙った。
 アトリだけではない。このデスゲームに巻き込まれた何人ものプレイヤーが、オーヴァンによって運命を狂わされてしまった。

「……ハセヲ。それは俺も同じだ。
 俺だってオーヴァンは許せない。サチを道具のように扱って、あまつさえアスナやシノンの命を奪った……例えどんな理由があろうとも、俺は許すつもりは一切ない」

 キリトの表情から怒りが滲み出ている。
 ギリ、と拳を握り締める音が聞こえてきて、もしもこの場にエネミーが出現したら有無を言わさず飛びかかりそうだ。


765 : 迷宮GO! GO! GO! ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:15:48 K5xdngh20

「サチはオーヴァンを信頼してた。けどオーヴァンはサチを見下し、裏切った。
 …………俺に力があれば、サチを守れたはずだ」

 その言葉だけで、彼が味わった絶望が俺にも伝わってくる。
 キリトもまたオーヴァンに大切な人を奪われ続けていた。サチやアスナ、そしてシノン。
 サチはオーヴァンによって感染させられたAIDAと共にデータの狭間に去ってしまい、アスナとシノンはその手に宿らせたAIDAに屠られた。

「キリト君。必要以上に自分を責めたりするな。そんな風に考えた所で、状況は何も変わらない」
「姫様の言う通りだぜ。全部を自分のせいだと思うのは、傲慢なだけだ。
 剣士さんよ、お前は全ての元凶になれるほどにでっかい奴なのか?」

 黒雪姫と、そして霊体化を解除したアーチャーがキリトを否定する。
 二人の言う通りだ。シノンの最期に立ち会っていたからこそ、二人はキリトを支えられる。
 シノンは俺達を最期まで想っていた。そこには、キリトやユイだって含まれているだろう。

「……そうだったな。すまない、こんな時に弱気になって」

 二人の言葉に頭が冷えたのか、キリトは落ち着きを見せた。しかしオーヴァンに対する怒りが消えた訳ではない。
 彼もまた己の感情を持て余しているのだろう。仇の居所は知れず、そしてこうしている間にも仲間が狙われるかもしれない。
 けれど、この学園を離れるということは、レオ達を危険に晒すだけ。非戦闘員であるジローやユイを守る為にも、一人でも多くが残るべき。


 でも、本当ならキリトはオーヴァンやフォルテの元に向かいたいはずだ。
 ロータスや緑衣のアーチャーも同じで、大切な人の仇がのうのうと生き延びているなど耐え難いはず。
 今の俺達にできるのはキシナミ達のダンジョン攻略を待つだけ。どうやらこのダンジョンはそれなりに深いらしく、攻略には時間がかかるだろう。

「そうだ。お前らに渡しておかなきゃいけない奴がある。ちょっと待っていてくれ」

 だから俺は時間潰しとして、二つのアイテムをオブジェクト化させる。
 プリズムとアンダーシャツのバトルチップ。どちらもシノンの命を守ったであろうアイテムだ。

「オーヴァンとの戦いはいつ来るかわからない。その時が来る前に、持てるだけ持っておくべきだ」
「いいのか、ハセヲ? それはお前だって同じじゃないのか?」
「俺はスケィスでオーヴァンに立ち向かえる。けど、お前らは碑文使いじゃないだろ?
 お前らが強いのは充分に知ってるが、碑文使いじゃない奴が憑神と戦うなんて自殺行為だ。だから、少しでも装備を整えてろ。いいな」

 そう言って、俺はバトルチップを二人に差し出した。
 キリトにはプリズムを。ロータスにはアンダーシャツを。それぞれの手に渡した瞬間、ここにいる二人はシノンと関わりが深いことを思い出す。
 キリトとシノンは元々いたゲームで互いに助け合い、ロータスはこのデスゲームでシノンと支え合った。
 バトルチップがオーヴァンのような相手に通用する保証はない。それでも、確率は1%でも上げておきたかった。

「ん?」

 と、何かに気付いたようにアーチャーは呟いた。
 それと同時に、二つの足音が唐突に響く。つられて振り向くと、二体のアバターが立っていた。
 全身を漆黒に染めて、獰猛な野獣の様に瞳を煌かせているそいつらは、キリトやロータスとよく似ていて…………

「なっ……こいつら、ドッペルゲンガーか――――――ッ!?」

 俺の叫びを肯定するように、そいつらは薄気味悪い笑みを浮かべる。
 その直後、俺の身体に何かが衝突して、勢いよく弾き飛ばされた。


766 : 分裂!対主催騎士団! ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:17:28 K5xdngh20



     4◆◆◆◆



「……まさかこんなことになるとは」

 岸波白野達のダンジョン攻略を生徒会室で眺めながら、レオは苦渋の表情を浮かべる。
 隣に立つガウェインも同じ。何故なら、ブラックローズの実弟がフロアボスとして現れてしまったからだ。


《カズ/Kazu》
 登場ゲーム:The World(R:1)
  『The World』に登場する呪紋使い。
 モルガナ事件において未帰還者にされてしまったプレイヤーの一人。


 【番匠屋淳ファイル】にその存在が記されているカズはモルガナ事件の被害者だ。
 リアルではブラックローズの実の弟であるが、このデスゲームに参加している可能性は低かった。何故なら、彼はモルガナ事件において重要なファクターとなっていない。
 ハセヲ/楚良やエルクと違って八相と深い繋がりがなかったので、レオは重要視しなかった。しかしこのような形で姿を現すとは想定外だ。


「ブラックローズさん! 落ち着いてください!
 そこにカズさんはGM側が用意した再現データです! あなたの弟である速水文和さんを模しただけなのです!」
『データって……わかっているわよ!
 でも、でも…………!』

 必死に説得するが、ブラックローズの動揺は収まらない。
 それは当然だ。偽物だから、という理由で実の家族と同じ姿をした存在と戦える訳がない。
 一族の間で数多の憎悪や陰謀が渦巻き、その全てを受け止めていたレオやユリウスとは違う。何故なら彼女は、ごく普通の温かい家庭で育った平凡な少女なのだから。

(恐らく、プレイヤーを動揺させて隙を狙おうとしているか、あるいは時間稼ぎを狙っているのでしょう。
 しかも第4層でカズさんが姿を現したということは、ここからのフロアボスは生存したプレイヤーの関係者が次々と姿を現すのでしょうね……)

 第3層にはフロアボスとしてドリルマンというアバターが姿を現した。
 彼自身も強敵ではあったが、カイトやブラックローズのコンビを前にしては赤子も同然。加えて、対主催騎士団のメンバーとは何の因縁もなかったので、カイトは難なく撃破した。
 しかしこのカズは違う。恐らく、実力自体はブラックローズ達の方が勝っているだろうが、ここで重要視されるのは本人のスペックではなくメンタル面。
 力で劣っていても、それを覆せる弱点を確実に狙っている。


 そしてカズは自分から攻撃を仕掛けてこない。
 理由は、ブラックローズの精神を揺さぶることで、ゲーム崩壊への時間稼ぎを狙っているのだろう。
 この段階に至るまで、デスゲームの会場は既に崩壊し続けている。対主催生徒会がダンジョン攻略を進めている一方、あずかり知らぬ所で戦闘が起こっていれば更に崩壊は進むはずだ。
 一方でフロアボス達がプレイヤーの足止めをさせれば、ダンジョン攻略の妨害は可能だ。仮にプレイヤーが覚悟を決めてフロアボスを撃破したとしても心は確実に抉られる。


 ブラックローズの困惑によって白野やカイトも攻撃を仕掛けられないはずだ。
 どうしたものかと頭を悩ませる最中、例の警報音が鳴り響いた。


767 : 分裂!対主催騎士団 ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:19:03 K5xdngh20

「なっ、これは……!?」

 展開されたウインドウにレオは瞠目する。
 学園の警備をする為に校門へ移動したハセヲ達の前に、二体の黒いアバターが姿を現した。キリトやロータスと酷似したアバター達を中心にドーム状の空間が形成されて、ハセヲだけが弾き飛ばされてしまう。

『なんだよ、これ……おいっ! キリト! ロータス! アーチャー!』

 そうして残されたハセヲは死ヲ刻ム影を振るうが、暗黒色の壁は小さな皹すら入らない。
 ハセヲは三人の名前を叫び続けているが返事はない。外界と完全に遮断されてしまった。
 モニター画面に映し出されているハセヲの姿に、レオはGMの真意に気付く。

「まさか、ドッペルゲンガーの真の目的とは…………!」




     †




『白野さん! 緊急事態です!』

 カズの登場によって一触即発の空気が漂っていく中、それをぶち壊すようなレオの叫びが聞こえる。
 緊急事態? 一体何が起こったのか…………!?

『GMが予告していたドッペルゲンガーが出現したのです! しかも奴らはプレイヤーを分断するフィールドを形成することができて、キリトさんとロータスさんがそこに閉じ込められてしまいました!
 ハセヲさんはフィールドを破壊しようとしていますが、恐らくドッペルゲンガーを撃破しない限り脱出は不可能でしょう!』

 普段の彼からは想像できない程の狼狽に、岸波白野は絶句する。
 キリトと黒雪姫が閉じ込められてしまった!? バカな。かつてハセヲが戦ったドッペルゲンガーに、そんな能力が備わっていたのか!?

『GMはその事実を隠していたのでしょう。
 ジローさんやユイさんのような戦闘能力を持たないプレイヤーにスコアを稼がせると思わせて、本当の目的はプレイヤー同士の分断させること。
 だとしたら、ジローさんが危険です! 僕はこれからジローさんの元に向かいますので、皆さんはダンジョン攻略を一時中断して学園内に戻ってください!』

 その言葉を最後にレオの通信は途絶えた。
 切迫した状況では止むを得ない。ユイは自分達がついているのに対して、もしもジローが一人でいたら格好の標的にされてしまう。
 何よりもキリトと黒雪姫が閉じ込められた以上、学園の警備は手薄になり、一刻も早い帰還が必要になるが。

「カズ……そこをどいて! 私達は戻らなきゃいけないから!」

 状況を把握したブラックローズは目前のカズに叫ぶ。
 しかしカズは首を横に振った。

「無理だよ、お姉ちゃん。わかっているでしょ?
 お姉ちゃん達が先に進むには、フロアボスになった僕を倒さないといけないってことを」

 あっさりと、そして酷薄な宣告をした。
 カズは笑っているが、憂いも含んでいる。彼の人格が完全に再現されている以上は当然だろう。
 だが、認められる訳がなかった。ブラックローズとカズの絆を利用し、あまつさえ最悪の形で踏み躙る。
 そしてブラックローズには重すぎる十字架を背負わせる…………絶対に許してはならない。

「……………………」

 カイトは前に出る。
 ユイに聞かれなくともわかる。ブラックローズに咎めを背負わせまいと、彼は戦おうとしているはずだ。
 オリジナルのカイトも同じ選択をしただろう。親友を救う為にモルガナとの戦いに赴いたのだから、彼を模したカイトも大切な仲間が傷付くのを望まない。


768 : 分裂!対主催騎士団 ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:20:37 K5xdngh20

「…………待って、カイト!」

 けれど、ブラックローズはカイトを静止した。
 決して振り向かない。表情は伺えないが、今にも泣きだしてしまいそうな程に声が震えている。

「カイトの気持ちは嬉しいけど、あたしが戦わなきゃいけないの……」
「……………………」
「カズが悪いことをしているなら……あたしが止めたい。だって、あたしは…………カズの、お姉ちゃんだから」
「……………………」
「あたしの知っているカイトも、あんたと同じことをしようとしたはずよ。
 カイトは優柔不断だし、なんか頼りない所はあるけど……本当はとってもいい奴だった。だから、あんただってそうでしょ?
 大丈夫、あたしはカイトの相棒を務めた戦士…………ブラックローズだから!」
「……………………」
「白野やユイちゃん。それにセイバーとキャスターも、手を出さないで! お願いだから…………」

 岸波白野達をもそう告げて、ブラックローズは前を歩む。
 遠ざかっていく背中を止めたかった。その手に握る武器を無理矢理にでも奪いたかった。
 大切な人をこの手にかけて、そして失う苦しみを背負って欲しくなかった。


 けれどその選択を選ぶことはブラックローズへの裏切りになる。
 彼女は強い覚悟をもってこの選択をした。岸波白野がデスゲームに乗ったラニ=Ⅷを止めると決意したように、ブラックローズもまたカズと相対した。
 ならば真に彼女を想うのならば、この戦いを見届けるしかない。


「そういえば、お姉ちゃんと対戦したことはなかったよね」

 紅蓮剣・赤鉄を構えるブラックローズに、カズは微笑む。
 恐れは不安は微塵も感じられない。ブラックローズを心から信頼し、そして再会を喜んでいるようだ。純粋な笑顔だが、それを向けられたブラックローズの心中はいかがなものか。
 …………考えただけでも、やるせなくなってしまう。

「そうだね。あたし、昔はカズを助けようと躍起になっていたから…………こうして戦うなんて、夢にも思わなかったかも」
「じゃあ、今がその時か。
 本当ならこんなゲームじゃなくて、僕の大好きな『The World』でやりたかったな。オリジナルの僕だって、そう望むだろうし」
「…………ッ! もう、今はそんな話をしている場合じゃないでしょ!
 さあ、早く決着を付けるわよ! 言っておくけど、例え弟だからって手加減はしないからね!」
「やってみれば? やれるもんなら、ね」

 ニッ、と強気な笑みを見せてくる。
 彼もブラックローズと同じで負けず嫌いなのだろう。そんなカズは一歩前を踏み出し、オブジェクト化させた杖をブラックローズに突き付けた。
 もうこの戦いは誰にも止められない。もしも邪魔者がいるのなら、岸波白野達は断固として阻止するだろう。
 例えほんの一瞬で決着が付いたとしても。


 両者は同時に前を踏み出し、瞬く間に剣と杖の衝突音をこのフロアに響かせた。



     5◆◆◆◆◆



「遅かった…………!」

 愕然とするレオの目前には漆黒色の壁が立ちはだかっている。
 月海原学園にこのような壁などない。既にジローはドッペルゲンガーに遭遇してしまい、そして閉じ込められてしまった。


769 : 分裂!対主催騎士団 ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:23:15 K5xdngh20

「ガウェイン!」
「御意!」

 すぐさまガウェインは聖剣を一閃させるが、耳障りな金属音が廊下に反響するだけ。牢獄には傷一つ付かない。
 ガウェインは剣戟を振るい続けるも、一向に壁が崩壊することはなかった。
 太陽の聖剣をものともしない強度に戦慄しながらも、レオはこの状況を打破する策を考える。

「おい、レオ! ヤバいことになった! キリトとロータスが…………!」

 と、そこにハセヲの叫びが聞こえてきた。
 だが最後まで続くことはなく、彼は足を止めてしまう。レオと同じように、目前に顕在する堅牢たる壁を目の当たりにしたからだ。

「何だよ、これ……まさか、この中には……!」
「恐らくジローさんもドッペルゲンガーに囚われたのでしょう。
 迂闊でした。まさか、GMがこんな罠を用意していたなんて……!」
「弱音なんて言ってるんじゃねえ!
 今はあいつらを助ける為に、力づくでこの壁をぶち壊すのが先だ!
 こうなったら、俺のスケィスで…………!」
「いいえ、恐らく榊達は碑文の対策も立てているでしょう。このデスゲームがイリーガルな力の仕様が前提とされている以上、ドッペルゲンガーにも碑文や心意の対抗策を立てているはずです。
 また、仮に通用したとしても、下手に外部から強制的にバトルフィールドを破壊しようとしたら……中に閉じ込められたプレイヤーがどんな影響を受けるのか。
 最悪の場合、ドッペルゲンガーもろともプレイヤーが排除される危険も考えられます」

 このデスゲームに投入されたドッペルゲンガーは本来の仕様にない《バトルフィールドの形成能力》が付加されている。
 比類なき硬度を誇り、ここでハセヲとガウェインが力を合わせても破壊は不可能だろう。恐らく、標的にされたプレイヤーがドッペルゲンガーを撃破しない限り、脱出は不可能。
 ハセヲやカイトの持つデータドレインでシステムを改竄できるかもしれないが、下手に使っては仲間達が巻き込まれかねない。あの榊達ならば外部からの妨害に対して策は練っているはず。
 だが、それをハセヲが納得する訳がない。

「じゃあ、このまま手をこまねいて見ていろっていうのか!?
 ふざけるなよ! キリト達はまだしも、ジローがドッペルゲンガーと戦えるとでも思っているのか!?」
「そうじゃありません! 僕だって、ジローさん達を助けたいです!
 でも、下手にこちらから行動をとっては、中にいるジローさんにどんな影響があるか……」
「起こるかわからねえことでビビっている場合か!?
 レオはキシナミに言ったんだろ! 危険だからと言って足を止めるなと!」
「言いました! 確かに言いましたとも!
 でも、それを無謀な行動を取る為の免罪符にしないでください!」

 両者の意見は平行線となり、互いに激昂しては結論すらも出てこない。
 レオとしても、ハセヲの言い分は十分に理解している。例え1%しかなくとも可能性があるのなら、それに賭けなければジロー達を見殺しにしてしまう。
 けれど、安易に選べない。データドレインや碑文の力は強大だ。強大だからこそ、仲間達が巻き込まれる危険を避けるべき。


 だが、このままではハセヲが言うようにジローが危険に晒されるだけ。
 ガウェインが振るう太陽の聖剣すらも防ぐ壁を破壊するには、スケィスの碑文だろう。あるいはガウェインが誇る最強宝具の【転輪する勝利の剣】か。
 しかしそれらすらも防がれたらもう打つ手はない。結果、魔力を浪費してはGMとの戦いでこちらが不利になる。


 タイムリミットは少ない。
 悩んでいたところでジロー達を救うことなどできない。ガウェインだけに頼っていても何も変わらない。
 やはり、ハセヲ/スケィスに全てを託すべきか? 決断を下す為にハセヲと向き合うが。

「…………ん?
 おい、レオ。ちょっと待て! この向こう側って、確か購買部だったよな?」

 不意にハセヲはそう問いかけてくる。
 先程までの焦りは感じられず、微かに首を傾げていた。


770 : 分裂!対主催騎士団 ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:25:45 K5xdngh20

「ええ、そうですけど……この状況では使用不可能だと思いますよ。恐らく、バトルフィールド内には…………」
「じゃあ、だったらあの言峰のオッサンも――――」

 ハセヲの疑問を聞いてレオは気付く。
 同時にガウェインも剣戟を止めた。問いかけの意味を理解したのだろう。
 三人の意識は、内部を伺うことができないバトルフィールド内に閉じ込められたであろう者達に向けられていた。


     †



 ――――俺は今、腰を抜かしてへたり込んでいた。


 突如として俺とそっくりなアバターが現れて、俺をこんな変な所に閉じ込めたのは充分に驚いた。
 『そいつ』の身体の色から考えて、ハセヲが言っていたドッペルゲンガーって奴だと瞬時に理解する。俺の命を奪う為に現れたのだろう。
 俺は当然逃げようとしたが、すぐに追いつかれてしまう。『そいつ』は俺の真似をしたとは思えない程に運動能力に優れているからだ。
 そうして俺は壁に追い込まれて、『そいつ』にこの命が奪われそうになったけど。


(ドカバキボコ)


「やれやれ、まさか私までもがイベントに巻き込まれてしまうとは、何という不運。
 だが、ちょうど暇を持て余していたところだ……労働者の権利として、これくらいの鬱憤晴らしは許されるだろう」
「――――――――!」


 俺の命を狙っていた『そいつ』は、続けて登場した言峰神父によって叩きのめされていた。


(ドカバキボコ)


 文字にすると幼稚だが、人が殴られる不愉快な音が耳に響く。
 言峰神父が拳を叩きつける度に『そいつ』の身体は豪快な衝撃音を鳴らした。人型であることを除けば、打楽器と何一つ変わらないように見える。

「――――――――!」

 体勢を立て直した『そいつ』は言峰神父に攻撃を仕掛けるが、神父の周りを覆っている薄い膜によって阻まれてしまう。
 言峰神父は弾丸の如く勢いで放った拳で反撃し、『そいつ』を容赦なく吹き飛ばす。
 激突によって大気がピリピリと震えたので、威力の凄まじさを物語っていた。
 しかし『そいつ』も頑丈で、言峰神父の拳を受けてもなお起き上がる。その生命力に驚愕する間もなく、言峰神父は一瞬で距離を詰めて『そいつ』の首を締め上げて、ゴミの様に投げ捨てた。
 錐揉み回転をしながら壁を突き破り、大量の粉塵が舞い上がった。

「おっと、私としたことが少しやりすぎたかな? ふむ、些か大人げなかったようだが……何、威力業務妨害に対する正当防衛となるか」

 言峰神父の笑みが目に入り、俺の背筋が凍る。
 彼は愉しんでいた。俺と酷似した『そいつ』を嬲り、嗤っている。
 つかつかと歩を進めて、壁の中に埋もれていた『そいつ』の首根っこを掴み、万力のような指で締め上げた。『そいつ』は身体をバタつかせて抵抗するが、喰らいついた右手を振り解くことなどできない。


771 : 分裂!対主催騎士団 ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:28:14 K5xdngh20

「――――――――!」

 『そいつ』は悲鳴をあげているのだろう。それが言峰神父の嗜虐心を刺激したのか、何かが軋むような嫌な音が耳に響く。
 ここで繰り広げられているのは戦いなどではない。一方的な蹂躙か、あるいは拷問と呼ぶのが相応しかった。
 言峰神父のおぞましさに、俺はただ震えることしかできない。ドッペルゲンガーに抱いていた恐怖心が、言峰神父によって簡単に塗り潰されてしまった。

「あ、あわわわわ…………!」

 その殺意はあの呉と同等……いや、呉すらも凌駕しかねない。
 エージェント・スミスを退けたとはキシナミ達から聞いたけど、まさかここまで強かったとは。
 でも、どうして…………いや、まさか力だけでここまで来たのか!?



 ジローは知らないが、言峰神父がドッペルゲンガーの前に現れたのは理由がある。
 彼がこの場にいる理由は極めて単純。バトルフィールドを形成された際に、購買部が巻き込まれてしまっただけだった。
 キルスコアを持たないプレイヤーはジローの他にいない。仮にレオが寄り添っていても、バトルフィールドの特性として弾き飛ばされてしまう。
 だが言峰神父はプレイヤーではなくNPCという大きな例外。バトルフィールドから弾き飛ばされるのは対象外プレイヤーだけであって、NPCは該当されなかった。


 そして言峰神父はNPCであるので、言峰神父のドッペルゲンガーが出現することもない。
 また全てのNPCは【Immortal Object】/不死存在の特性が与えられていた。それがあるからこそ、NPCはあらゆる攻撃的接触から守られていて、言峰神父はドッペルゲンガーの攻撃を受けずに済んでいる。
 だが、仮に不死の特性がなくとも、このドッペルゲンガーに言峰神父を倒すことは困難だろう。何故なら言峰神父は聖杯戦争の監督者を元に生み出されたNPCであり、オリジナルに匹敵する超人的戦闘力を誇っていた。
 対してドッペルゲンガーの素体はただの人間であるジロー。そんな彼がパラメーターを上昇させて、優れたアビリティやスーパーアーマーを始めとした装備をいくつ有しても、言峰神父からすれば焼け石に水。
 決して埋められない根本的な実力差が存在する以上、ドッペルゲンガーの勝利は夢のまた夢だった。




 だがその事実をジローが知ることはできない。
 また、仮に知ったとしてもどうすることもできないまま。ただジローは目の前で繰り広げられる惨劇に怯えるしかなかった。

「――――――――!」
「さて……私ができるのはここまでだ。
 さあジローよ。あとは君の仕事だ」

 『そいつ』の身体を真上に吊り上げながら、言峰神父は振り向いてくる。
 愉悦に満ちた双眸を向けられて、俺はピクリと震えた。
 怖くてたまらない。こうして目を合わせているだけでも息が苦しくなって、心臓が止まりそうになる。
 金縛りにあったかのように身体が動かない。獰猛な肉食動物に追い詰められた草食動物と、今の俺は何が違うのか。

「お、俺の仕事…………?」

 それでも俺は懸命に声を振り絞る。 
 死にたくない、という当然の本能がそうさせたのだろう。事実、今の俺は言峰神父に命を握られているに等しいから。


772 : 分裂!対主催騎士団 ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:29:47 K5xdngh20

「ああ。君と私がこのバトルフィールドから抜け出すには大元……つまりこのドッペルゲンガーを君が撃破しなければならない」
「えっ? で、でも……神父はそんなに強いなら、俺がやる必要はないんじゃ…………?」
「残念だが、私達NPCにはプレイヤーに直接的なダメージを与えることは不可能だ。
 いくらドッペルゲンガーに攻撃できたとしても、実際にはドッペルゲンガーのHPは1%も削られていない。
 今の私では負けることはないが、勝つこともできないのだよ」

 心から勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、まるで説得力の無いことを言ってくる。
 …………けど、連撃を受けても『そいつ』が生きている以上、神父は本当のことを話しているはずだ。こんな時に嘘を吐くメリットなど彼にはない。
 言峰神父が言うように、身動き一つとれない『そいつ』の双銃で打ち抜けば確実に倒せるだろう。

「そして君は私に言ったはずだ。私の元でアルバイトがしたいと。
 ならば今がその時になるな。営業を邪魔する悪質な客を撃退してくれれば、私から君にサービスを与えてやろう。
 一刻も早く、本来の役割に戻らなければならないのだからな」

 言峰神父の声色は穏やかになり、凄惨な雰囲気も収まっていく。愉悦の笑みはそのままだけど。



 実際、彼の言う通りだ。神父に『そいつ』を倒すことができない以上、トドメを刺せるのは俺だけである。
 何よりもレオ達は俺を心配しているだろう。レオ達を安心させたいなら、俺は『そいつ』と戦わなければいけない。
 そして思い出した。俺ができることをやって、対主催生徒会騎士団のみんなを支えたいと誓ったことを。
 その途端、神父に対して抱いた畏怖の感情は鳴りを潜めて、自然と立ち上がるようになった。

「……なあ、あんたは俺を助ける為に戦ってくれたのか?」
「私は購買部の店主だ。顧客にサービスを提供するのが使命であり、それを邪魔する者は誰だろうと容赦しない。
 結果的には君を助けることとなったが、特定のプレイヤーに肩入れすることは不可能であることを認識してくれ。今の私達には、な」
「そっか……でも、ありがとう。神父のおかげで、俺は殺されずに済んだからさ」
「礼などいい。口よりも手を動かせ」

 言峰神父の拘束は更に強くなって、『そいつ』は苦し気にもがいた。
 自分自身と同じ姿をした奴が痛めつけられて、そして俺自身が命を奪う。薄気味悪くなるも、躊躇などしない。
 『そいつ』には殺されかかったのだし、何よりもGMが用意した偽物だ。ここで俺が倒さなければ、もしかしたらレオ達にまで被害が及ぶ可能性もある。
 これ以上、誰かがいなくなるのは嫌だった。ニコだって、そんなことを望まなかったはずだから。


「――――――――!」


 言峰神父によって捕まっている『そいつ』の頭部に銃口を突き付けて、俺は容赦なくトリガーを引く。
 鳴り響いた銃声はまるで『そいつ』の断末魔のようだった。


 やる気が 5上がった
 体力が 20下がった
 こころが 10下がった
 信用度が 15上がった


773 : 暗黒サイケデリック ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:33:30 K5xdngh20



     6◆◆◆◆◆◆



 バリン、という音を立てながら分厚い壁は粉々に砕け散る。
 向こう側から現れたのは、ジローと言峰神父だった。

「お前ら、無事だったんだな!」

 二人の姿を見るや否や、ハセヲは駆け寄った。
 不死存在となっている言峰神父はともかく、ジローに目立った外傷がないことにレオは胸を撫で下ろす。

「言峰神父。あなたがジローさんを助けてくれたのですね」
「奴は私の役割を妨害したからな。降りかかる火の粉は払わなければならない」
「そうでしたか……感謝しますよ」
「では、私は通常業務に戻らせてもらう。今回は特例中の特例だからな」

 そう言って、言峰神父は購買部へと去っていった。
 購買部への道がドッペルゲンガーに閉ざされたのを見て、言峰神父までもが巻き込まれてしまったと確信した。
 言峰神父がペナルティを無視するプレイヤーの撃退を任された以上、己が運営の支障となるドッペルゲンガーを放置する訳がない。
 それは見事に的中し、こうしてジローと共に帰還したのだ。

「ご無事で何よりです、ジロー」
「ガウェイン、ハセヲ、それにレオ……みんな、心配かけてごめんな」
「あなたがこうして戻ってきてくれれば、それで充分ですよ」

 ガウェインの言う通りだ。
 ドッペルゲンガーの危険性を完全に予測せず、一時はジローを危険に晒してしまった。彼を救った言峰神父には感謝しきれない。
 だけど当のジローは自らの生存を喜ばず、怪訝な表情で周りを見渡していた。

「……あれ? そういえばキリトと黒雪姫はどうしたんだ?」

 そうして口にしたのは当然の疑問。
 だがすぐに察したのか、その表情は鬼気迫るものに変わっていく。

「ま、まさか二人もあいつらに捕まったのか……!?」
「GMが用意したドッペルゲンガーは、ジローさんのようにキルスコアを稼いでいないプレイヤーを優先的に狙って、そして分断させるつもりだったのでしょう。
 そして単体のスペックも、素体となったプレイヤーを上回るように設定されているはずです」
「だったら、早く二人を助けに行かないと!」
「いいえ、それは困難でしょう。ジローさんが閉じ込められたバトルフィールドは、ガウェインやハセヲさんの攻撃をもろともしない程の強度を誇っています。
 闇雲に攻撃しても破壊はできませんし、何よりも迂闊に手を出せば二人がどうなるかわかりません。
 だからこそ、これより僕はキリトさん達が閉じ込められたバトルフィールドへ向かい、外部から調査をします。
 何とかして突破口を見つけ、そこから付け入るしかありません。ですがどうしても見つからなければ……ハセヲさんとガウェインの力を借りるつもりです」

 現状、こちらが選べる手段は調査の他にない。
 ハッキングを仕掛けてその性質を探り、外部からでもバトルフィールドを破壊するプログラムの構築だ。
 ユイがいてくれたらより正確な調査ができるだろうが、白野達が戻るまでの時間はわからないし、何よりもそれまでにキリトと黒雪姫が持ちこたえられるのか。
 二人の実力は高いことは知っているが、GMの用意したドッペルゲンガーが相手では、どんな罠が待ち受けているか。
 もしも時間がなければ、全ての危険を無視してでも最終手段を選ぶべきだろう。ハセヲもガウェインも特に異論はなさそうだ。


 そうして、ドッペルゲンガーの罠に落ちたキリトと黒雪姫を救う為、レオ達はバトルフィールドが形成された校門に急いだ。


774 : 暗黒サイケデリック ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:34:09 K5xdngh20


     7◆◆◆◆◆◆◆



 カズは……文和は大切な弟で、そしてあたしにとって全ての始まりとも呼べる奴だった。
 忘れもしないあの日。平穏な日常が終わりを告げて、そして速水家から文和の姿がいなくなってからあたしの戦いは始まった。
 いなくなってしまった文和を取り戻す為、『The World』でブラックローズが誕生した。そうしてあたしはカイトと出会い、スケィスを始めとした多くの敵と戦って、世界の真実を知る。
 全ての元凶であるモルガナや、モルガナが送り込んだ最後の刺客コルベニクを倒し、ようやく文和が帰ってきた。


 だけど、その文和をあたし自身が斬ることになるなんて、運命はどれだけ意地が悪いのだろう。


「流石だよ、やっぱりお姉ちゃんは強いね。僕の自慢だよ」

 あたしに斬られて、そしてHPが徐々に減ってもなお、カズは笑っていた。
 死の恐怖やあたしへの憎しみは感じられず、むしろあたしを心から称賛しているような笑顔だった。


 カズは強かった。
 後方支援を主とする呪紋使いなのに、重剣士であるあたしの一太刀を受け止める程に強い。きっと、カズはそれだけ努力したのだろう。
 けれどもあたしも負けられない。カズが本気で来るなら、あたしも本気でカズと向き合った。
 だからあたしはカズの魔法を耐えて、真っ直ぐに突き進みながら、この大剣をカズにぶつけた。
 決着まで、そこまで時間はかからなかったと思う。


「カズこそ……結構、やるじゃん」
「ありがと。でも、勇者カイトの相棒を務めたお姉ちゃんには敵わないや」
「当然でしょ。だってあたしはカズのお姉ちゃんだから……カズには、かっこ悪い所を見せられる訳ないの!」

 あたしは精一杯笑った。
 強がっているだけのお姉ちゃんを自慢だと言ってくれた。そんなカズの誇りを裏切ってはいけない。
 いつだったか、カズはカズ自身とあたしを比較して、劣等感を抱いていたことを話してくれた。けれど、カズにはカズの良い所がたくさんあるから、そんな必要なんてないのに。
 
「きっと、本物の僕は羨ましがると思うんだ。お姉ちゃんと戦えた僕のことを。
 だからね、お姉ちゃんにはお願いがあるんだ……生きて帰ったら、本物の僕とも相手をしてやって欲しいんだ。全力で」
「お安い御用! でも、あたしは……手加減なんて、しないからね!」

 鼻の奥がつんとして、胸がぎゅっと痛くなる。少しでも気を抜いたら、感情が爆発してしまいそうだ。
 目頭が熱くなっている。きっと、涙が滲み出ているはずだけど、我慢する。
 カズは凄くいい奴だからあたしが泣くのを望まない。あたし達を見届けてくれたカイト達の為にも、あたしは精一杯強くありたかった。

「良かった……
 僕はね、この迷宮で生まれてからずっと不安だったんだ。どこにも行けないまま、ずっと一人ぼっちのままなのかって。
 もしかしたら、何もできないまま消えちゃうかもしれないって…………だって僕は、偽物だから。このまま消えても、誰も悲しまないから」
「違う! カズは……カズは偽物なんかじゃない!
 カズはあたしの大切な弟だよ! それにここで起きたカズとの対戦は……みんなにとって大切な思い出になった!
 それは絶対に忘れたりなんかしない! 絶対に、だから!」

 ここにいるカズが偽物であるなんて誰にも言わせない。無意味だなんて言わせない。
 カズがこれまでに培ってきた全てのものを否定することになる。カズの思い出や繋がりは、確かな輝きを持っていた。
 もしも、否定する者が一人でもいるとしたら、絶対に許さない。


775 : 暗黒サイケデリック ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:35:03 K5xdngh20

「…………ありがとう、お姉ちゃん。
 絶対に勝ってね。お父さんやお姉ちゃん、幸太やハナ、れなやしゅー坊……それと、本物の僕のことをよろしく頼むよ。
 僕がいなくなったら、みんなは悲しむから」
「うん……わかったよ」
「また会おうね、お姉ちゃん」
「うん。またね……カズ」

 あたし達は別れを告げる。
 そうして、カズのアバターはゆっくりと薄れていき、そのまま穏やかに消え去った。
 後に残ったのはカズが持っていた杖と、カズに勝ったことで開けた道だけ。

「……………………」

 あたしの隣にカイトが寄り添ってくれる。
 その表情は微塵も変わらないけど、あたしのことを心配してくれているはずだった。
 ああ。やっぱり彼はカイトだ。いつだって誰かのことを考えて、誰かの心に寄り添ってくれているカイト。今だって、あたしを支えている。

「…………戻ろうか、みんな」
「……………………」
「ありがとう、あたしのことを心配してくれて。でも、あたしは大丈夫だから。
 カズの為にも。それに、あたしを見守ってくれたみんなの為にも……あたしは止まらない」
「……………………」
「レオ達の所に戻ろう。
 学園じゃ、大変なことになってるみたいだから……みんなのことを、助けないと!」

 そう言って、あたし達は学園へと帰還する。
 感傷に浸る訳にはいかない。あたし達がいない間に学園では大変なことになっているから、一刻も早く戻らなければいけなかった。
 瞳から滲み出る涙を拭って全力で走った。カズの誇りを守る為にも、あたしは前を見続ける。

(カズ……あたし達のことを見守っていてね。
 あたしは、絶対に強くなってみせるから)

 この心にカズとの思い出を刻みながら、そう告げて。
 あとに残ったのは、誰もいなくなった闘技場だけだった。



     8◆◆◆◆◆◆◆◆


 薄暗い空間に閉じ込められた俺達は、3対3のチームバトルを強制されることとなった。
 俺と黒雪姫。そして黒雪姫に付き添っているアーチャーと酷似した漆黒のアバターが出現し、真紅の双眸には濃厚な殺意を込めていた。
 こいつらが例のドッペルゲンガーだろう。奴らは地獄の如く異空間を生み出して、俺達を一人残らず消そうとしている。
 俺達のチームが敗退したら、次のターゲットは対主催騎士団だろう。奴らの能力はわからないが、僅かな油断すらもできない。俺達は悪魔が支配する魔界に引きずり込まれたのだから。


776 : 暗黒サイケデリック ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:37:30 K5xdngh20

「……どうやら、あいつらを倒さないと俺達は出られなさそうだな」

 気だるげに呟くが、アーチャーは本物の闘志を全身から滲み出していた。
 漆黒の衣を纏った己の影にその視線を向けている。どうやら、本気のようだ。
 そしてアーチャーの推測は正しいだろう。このドッペルゲンガーはオーヴァンのように異空間を自由に形成でき、そして脱出にはドッペルゲンガー自体を撃破しなければならない。

「ああ……まさかこんな時に、こんな罠を仕掛けてくるとは。
 やってくれるな、榊め……!」

 黒雪姫の声色は怒りに染まっている。
 それは俺も同じだった。オーヴァンやフォルテとの戦いが控えている今、無駄な余力を使っている場合ではない。またこうして分断されては、学園に残されたユイ達がエネミーに襲われる危険がある。

「だったら、俺達が一秒でも早くこいつらを叩き潰す!
 それ以外に方法はないだろ!」

 だから俺はシンプルに、そして困難であろうクリア方法を提示する。
 奴らの実力は侮れないだろうが、他に手がかりなど見つからない。黒雪姫やアーチャーと力を合わせて、ドッペルゲンガーを撃破するしかなかった。
 二人も特に異論はなさそうだ。

 
 不意に、俺は隣にいる黒雪姫とアーチャーの顔を一瞥する。
 これは同じだった。フォルテやオーヴァンという仇敵に立ち向かう為、シルバー・クロウやアスナと肩を並べた時と。
 けれども二人はオーヴァンによって殺されてしまった。俺の力が足りなかったばかりに、奴の凶行を止めることができなかった。
 これ以上、あの悲劇を繰り返したくない。


 そして【野球バラエティ】で俺と別れたシンジと赤衣のアーチャーも心配だった。
 キシナミの仲間である彼らも確かな実力を持っているが、フォルテやオーヴァンはそれを凌駕しかねない。
 シンジ達を救う為にも、ドッペルゲンガーに足止めを喰らっている場合ではなかった。

「黒雪姫、聞いてくれ」

 ドッペルゲンガーに剣を向けながら、俺は黒雪姫に声をかける。

「俺は絶対にあんたを死なせたりしない。だって、シルバー・クロウは最期まで黒雪姫のことを想っていたからな」
「ハルユキ君が、私を……?」
「ああ。クロウは消えそうになっても、先輩って呟いていた。それはきっと、あんたのことだろ?
 あいつは黒雪姫のことを心から信頼していた……だから俺はクロウの想いに報いたい」
「そうか…………」

 その声はやけに落ち着いているが、デュエルアバターであるために表情は伺えない。
 シルバー・クロウはオーヴァンによって傷跡を刻まれても、最期まで誰かを想っていた。ここにいる黒雪姫/ブラック・ロータスのことを。
 ならば、戦わなければならない。どんなラスボスが相手になろうとも、負ける訳にはいかなかった。

「ありがとう。それを伝えてくれて」
「例なら、こいつらを倒してからにしようぜ。時間はないからな」
「ああ!」

 俺達は構える。
 失った過去を胸に抱いて、悲しみを乗り越える為に今を戦い、みんなの未来を切り拓く為に。
 この手には愛娘が守ってくれた愛刀だってある。やはり手に馴染む剣があると、いつも以上に力が湧き上がった。
 待っていてくれ、ユイ。心の中でそう呟くと同時に、月影の放浪者達との戦いが始まった。


777 : 暗黒サイケデリック ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:39:41 K5xdngh20



【B-3/日本エリア・月海原学園/一日目・夜】




【チーム:黒薔薇の対主催騎士団】
[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:ブラック・ロータス
書記 :ユイ
会計 :蒼炎のカイト、キリト
庶務 :岸波白野
雑用係:ハセヲ、ジロー、ブラックローズ
[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:(レオの)理想の生徒会の結成。
2:ウイルスに対抗するためのプログラムの構築。
3:デスゲーム及びクビアの対策を練る。
4:危険人物に警戒する。
5:ドッペルゲンガーからキリトと黒雪姫を救う。
[現状の課題]
0:ダンジョンを攻略しながら学園を警備する。
1:ウイルスの対策
2:危険人物及びクビアへの対策
3:アリーナ及びプロテクトエリアの調査(ただし、これはどちらかに集中させる)
4:【プチグソレース:ミッドナイト】のイベントクリア
[生徒会全体の備考]
※番匠屋淳ファイルの内容を確認して『The World(R:1)』で起こった出来事を把握しました。
※レオ特製生徒会室には主催者の監視を阻害するプログラムが張られていますが、効果のほどは不明です。
※セグメントの詳細を知りましたが、現状では女神アウラが復活する可能性は低いと考えています。
※PCボディにウイルスは仕掛けられておらず、メールによって送られてくる可能性が高いと考えています。
※エージェント・スミスはオーヴァンによって排除されたと考えています。
※次の人物を、生徒会メンバー全員が危険人物であると判断しました。
オーヴァン、フォルテ、ダスク・テイカー。
※セグメントを一つにして女神アウラを復活させても、それはクビアの力になるだけかもしれないと仮説を立てました。
※ドッペルゲンガーの出現のタイミングはウイルス発動と同じで、キルスコアを稼いでいないプレイヤーから優先的に狙われると推測しています。



【Aチーム:ダンジョン【月想海】攻略隊】



【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP70%(+150)、データ欠損(小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、{男子学生服、赤の紋章}@Fate/EXTRA
[アイテム]:{女子学生服、桜の特製弁当、コフタカバーブ、トリガーコード(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ)}、コードキャスト[_search]}@Fate/EXTRA、{薄明の書、クソみたいな世界}@.hack//、{誘惑スル薔薇ノ滴、途切レヌ螺旋ノ縁、DG-0(一丁のみ)、万能ソーダ、吊り男のタロット×3、剣士の封印×3、導きの羽×1、機関170式}@.hack//G.U.、図書室で借りた本 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、不明支給品0〜5、基本支給品一式×4、ドロップアイテム×2(詳細不明)
[ポイント]:0ポイント/2kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:カイトとブラックローズ、そしてユイと共にダンジョンから一時帰還する。
2:主催者たちのアウラへの対策及び、ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
5:危険人物を警戒する。
6:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP100%、健康
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時(増加分なし)でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一騎だと10分、三騎だと3分程度です。
※アーチャーとの契約が一時解除されたことで、岸波白野の構成データが一部欠損しました。
※エージェント・スミスに上書きされかかった影響により、データの欠損が進行しました。
またその欠損個所にデータの一部が入り込み、修復不可能となっています(そのデータから浸食されることはありません)。


778 : 暗黒サイケデリック ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:42:44 K5xdngh20


【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP60/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/通常アバター、サチ/ヘレンに対する複雑な想い、オーヴァンやフォルテへの憎しみ
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、第二相の碑文@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
0:ハクノさん達と共にダンジョンから一時帰還する。
1:対主催生徒会の会計として、ハクノさん達に協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:ヒースクリフや、危険人物を警戒する。
6:私にも、碑文は使えるだろうか……。
7:サチ/ヘレンさんの行いは許せないけど、憎まない。
8:オーヴァンやフォルテのことは絶対に許さない。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=Ⅷであるかもしれないことを知りました。
※サチ/ヘレンとキリトの間に起こったことを知りましたが、それを憎むつもりはありません。



【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP80%、SP80%、PP100%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:534ポイント/1kill
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
3:エクステンド・スキルの事が気にかかる。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。
※エージェント・スミスをデータドレインしたことにより、『救世主の力の欠片』を獲得しました。
それにより、何かしらの影響(機能拡張)が生じています。



【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP60%
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.、カズが所持していた杖(詳細不明)
[ポイント]:420ポイント/0kill
[アイテム]:基本支給品一式、{逃煙連球}@.hack//G.U.、エリアワード『絶望の』、ナビチップ「セレナード」@ロックマンエグゼ3、ハイポーション×3@ソードアート・オンライン、恋愛映画のデータ@パワプロクンポケット12、ワイドソード@ロックマンエグゼ3、noitnetni.cyl_3
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
0:………………………
1:カイト達と共にダンジョンから一時帰還する。
※時期は原作終了後、ミア復活イベントを終了しているかは不明。


779 : 暗黒サイケデリック ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:43:50 K5xdngh20
【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP70%、SP75%、(PP100%)、3rdフォーム
[装備]:{光式・忍冬、死ヲ刻ム影、蒸気バイク・狗王}@.hack//G.U.
[蒸気バイク]
パーツ:機関 110式、装甲 100型、気筒 100型、動輪 110式
性能:最高速度+2、加速度+1、安定性+0(-1)、燃費+1、グリップ+3、特殊能力:なし
[アイテム]:基本支給品一式、{雷鼠の紋飾り、イーヒーヒー}@.hack//、大鎌・首削@.hack//G.U.、フレイム・コーラー@アクセル・ワールド、{FN・ファイブセブン(弾数10/20)、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン、式のナイフ@Fate/EXTRA、ダガー(ALO)@ソードアート・オンライン、???@???、{H&K MP5K、ルガー P08}@マトリックスシリーズ、ジョブ・エクステンド(GGO)@VRロワ
[ポイント]:0ポイント/2kill
[思考]
基本:
0:今はレオやジローと共にキリト達を助ける。
1:ダンジョンの謎を解き明かした後、オーヴァンを絶対に止めてみせる。
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前です。
※設定画面【使用アバターの変更】の【楚良】のプロテクトは解除されました。


【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP45%、令呪:三画
[装備]:なし
[アイテム]:{桜の特製弁当、番匠屋淳ファイル(vol.1〜Vol.4)@.hackG.U.、{セグメント1-2}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:200ポイント/2kill [思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
0:ハセヲやジローと共にバトルフィールドを破壊する為の調査をする。
1:魔力の回復に努めると同時に、ウイルスへの対策プログラムを構築する。
2:他の生徒会役員となり得る人材を探す。
3:当面は学園から離れるつもりはない。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP110%(+50%)、MP100%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※ガウェインはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。


【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、深い悲しみと後悔/リアルアバター
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、ピースメーカー@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
0:ニコ……………。
1:今はみんなと一緒に行動する。
2:ユイちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の言葉が気になる…………。
4:レンのことを忘れない。
5:みんなの為にも絶対に生きる。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。
※言峰神父からサービスを受けられますが、具体的な内容は後続の書き手さんに任せます。


780 : 暗黒サイケデリック ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:45:42 K5xdngh20


【B-3/日本エリア・月海原学園校門付近 バトルフィールド内/一日目・夜】



【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP85%、MP90%(+50)、疲労(大)、深い絶望、ALOアバター
[装備]:{虚空ノ幻、虚空ノ影、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、{ダークリパルサー、ユウキの剣、死銃の刺剣}@ソードアート・オンライン
[アイテム]:折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンライン、黄泉返りの薬×1@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、不明支給品0〜1個(水系武器なし) 、プリズム@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:みんなの為にも戦い、そしてデスゲームを止める。
0:今は黒雪姫やアーチャーと共にドッペルゲンガーを倒す。
1:ユイのことを……絶対に守る。
2:ハセヲやロータスと共にオーヴァンと戦う。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。


【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP80%/デュエルアバター 、令呪一画
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3、{エリアワード『絶望の』}@.hack//、{インビンシブル(大破)、サフラン・ハート、サフラン・ヘルム、サフラン・ガントレット、サフラン・アーマー、サフラン・ブーツ}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、死のタロット@.hack//G.U.、ヴォーパルの剣@Fate/EXTRA、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
0:今はキリト君やアーチャーと共にドッペルゲンガーを倒す。
1:ハルユキ君やニコの仇を取る為にも、キリト君やハセヲ君と共にオーヴァンを打倒する。
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:ダメージ(中)、魔力消費(中)
[備考]
時期は少なくとも9巻より後。



【ドッペルゲンガー(キリト@ソードアート・オンライン)@.hack//G.U.】
[攻撃対象]:キリト
[ステータス]:全パラメーター+10%、スーパーアーマー、武器破壊・部位欠損無効
[装備]:{刃威音・偽(アビリティ1、アビリティ2、アビリティ3)、青ざめし君、真に恐れる者}@.hack//G.U.

【ドッペルゲンガー(ブラック・ロータス@アクセル・ワールド)@.hack//G.U.】
[攻撃対象]:ブラック・ロータス
[ステータス]:全パラメーター+10%、スーパーアーマー、武器破壊・部位欠損無効
[装備]:{刃威音・偽(アビリティ1、アビリティ2、アビリティ3)、青ざめし君、真に恐れる者}@.hack//G.U.

【ドッペルゲンガー(アーチャー(ロビンフッド) @Fate/EXTRA)@.hack//G.U.】
[攻撃対象]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:全パラメーター+10%、スーパーアーマー、武器破壊・部位欠損無効
[装備]:{刃威音・偽(アビリティ1、アビリティ2、アビリティ3)、青ざめし君、真に恐れる者}@.hack//G.U.



【備考】
 ※ドッペルゲンガーが形成するバトルフィールド内にNPCが巻き込まれた場合、フィールド外に弾き飛ばされることはありません。
 ※またNPCのドッペルゲンガーが出現することもありませんが、NPCが自力でフィールド外に脱出することもできません。


781 : 暗黒サイケデリック ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:46:44 K5xdngh20

【第三層・五の月想海】
ミッション:ダンジョンの踏破
ボス:ドリルマン
ロックマンエグゼ3に登場する敵キャラクター。
自立型ネットナビ。両手と頭のドリルであらゆるプロテクトを破り、プロトのデータを強奪した。
バブルマンの兄貴分でもある。


【第四層・四の月想海】
ミッション:特定プレイヤーを参加した上での攻略(ブラックローズ)
ボス:カズ
モルガナ事件で未帰還者にされた呪術使いプレイヤー。
リアルではブラックローズ/速水晶良の実の弟である速水文和。ここに登場した彼はカズを再現したデータ。


782 : ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/10(金) 23:48:25 K5xdngh20
以上で投下終了です。
ユイの状態票の『6:シノンさんとはまた会いたい。 』の部分は前回消し忘れてしまったので、今回の話で修正させて頂きます。
ご意見がありましたらお願いします。


783 : 名無しさん :2017/02/11(土) 00:28:42 m3Uwvwiw0
投下乙です
ドリルマン死んでてワロタ


784 : 名無しさん :2017/02/11(土) 01:15:55 Pxaq3BX.0
乙でしたー
神父容赦ないなw


785 : 名無しさん :2017/02/11(土) 12:40:07 hHX3DKKIO
投下乙です

ジローは運がよかった
ドッペルジローは運が悪かった


786 : 名無しさん :2017/02/11(土) 13:48:23 GCuEgd2.0
投下乙です
そう言えば、今回は番匠屋淳ファイルのドロップはなかったのかな?


787 : ◆k7RtnnRnf2 :2017/02/12(日) 08:23:26 6/rl1dh.0
感想ありがとうございます
そしてドロップアイテムに関しては収録時に以下の加筆をさせて頂きます。

 唯一の障害であるエネミーやボスエネミーも、歴戦の勇士たるカイトとブラックローズには脅威となり得ない。その結果、第四層に辿り着くまでにそれほどの時間を要しなかった。
 ボスエネミーを撃破したことでアイテムを入手したものの、これもやはりプロテクトがかけられている。ユイならばプロテクトの解析が可能かもしれないが、それは安全な場所で行いたかった。ここで優先させるのはダンジョン攻略だ。
 本当なら岸波白野達もエネミー撃破に協力したかったが、カイト達から拒まれる。何故なら、岸波白野達の魔力を少しでも温存させたいかららしい。


 あたし達は別れを告げる。
 そうして、カズのアバターはゆっくりと薄れていき、そのまま穏やかに消え去った。
 後に残ったのはカズが持っていた杖とドロップアイテム、そしてカズに勝ったことで開いた道だけ。
 あたしは杖を回収して、ドロップアイテムは白野に渡した。この手に重く圧し掛かるけど、決して落とすことはしない。


788 : 名無しさん :2017/02/12(日) 11:52:46 48KB.nCg0
投下乙
お姉ちゃんキャラには涙腺がゆるんじまうんだよなあ…


789 : 名無しさん :2017/02/28(火) 18:37:59 UjGbjZPU0
GMの予約がきてる!


790 : ◆NZZhM9gmig :2017/03/04(土) 17:49:20 vkmWi98M0
これより、予約分の投下を開始します。


791 : 驕れるあぎと/backyard of eden ◆NZZhM9gmig :2017/03/04(土) 17:50:48 vkmWi98M0


     1◆


「始まったか」

 眼前に展開された無数のモニターを観て、榊は口元に笑みを浮かべそう呟いた。
 モニターには月海原学園の――ドッペルゲンガーに翻弄される対主催生徒会とやらの様子が映っている。
 特にハセヲが何の手出しもできないでいる様は、榊にとっては愉快で他ならない。

「もうすぐだ。もうすぐで……っ!」
 湧き上がる衝動を堪えながら、いっそう笑みを深くする。

 生徒会のプレイヤーに迫る危機は、何もドッペルゲンガーだけではない。
 残る三人のPKたちもまた、月海原学園へと集まってきている。
 彼らを追う残るプレイヤーも含めれば、生き残ったプレイヤー全員があの場所に集う事になる。
 そうなればこのデスゲームは、決着とまではいかずとも、まず間違いなく佳境を迎えることだろう。

 時刻は折しも、一日目最後の区切りだ。
 生徒会のプレイヤーが懸命に対抗策を練ったようだが、それも無駄に終わる。
 次の放送を以て、このデスゲームは一新される。
 ―――バトルロワイアルという、その名だけを残して。


「随分と楽しそうですね、榊。自分の役割は果たしたのですか?」

 水を差すように放たれた声に、若干気分を害されながらも振り返る。
 そこにはモルガナの“盾”たる女騎士――アリスがいた。

「何を言うかと思えば、当然だろう。でなければ、他ならぬ君に消されてしまうではないか。
 これは言わば、仕事の合間の小休止、というやつだよ。
 計画の第二段階もそろそろ大詰め。次の仕事は、相応に大掛かりになるだろうからね。
 それに、楽しそう、だと? それこそ当然ではないか!
 運営である私が調節したイベントに、期待通りに嵌まってくれたのだ。これで楽しくないわけがないだろう」

 どこか人を小馬鹿にしたようなその口調に、アリスは若干眉をしかめる。
 だが何かを言い返すことはない。一応でも“役割”を果たしているのなら、それで問題はないからだ。
 あるとすれば、オーヴァンとの間で頻繁に交わされる、“役割”とは直接の関わりがない取引だが――――。

「それで。君の方は私に何の用だね? まさか、ただ私の休憩を邪魔しに来たわけではないだろう?」
「当然です。回収した『第三相の碑文』を渡しに来ました。未覚醒の碑文の管理は、あなたに一任されていますので」
 そう言ってストレージから取り出した碑文を、アリスは不承不承といった風に榊へと渡す。

 本音を言ってしまえば、スケィスの杖だけでなく、『碑文』すらも榊に渡したくはなかった。
 何しろこの男は信用できない。AIDAに侵されたその腹の内で、一体何を考えていることか。
 実際、バトルロワイアルの運営という役割こそ与えられているが、正直に言ってその性格はGM向きではない。
 現に『The World R:2』で彼が企画、開催したPKトーナメントでも、彼はハセヲ個人に対する私怨から余計な手出しをし、結局まともなトーナメントの体を為せていなかった。
 そんな榊を好きにさせては、最悪モルガナの目的に支障が出かねない。

 だというのに『碑文』を預けるのは、現在のGMの中では比較的『碑文』に詳しく、加えてAIDAによる『碑文』への干渉力も併せ持っているからだ。
 そもそも彼がGMに抜擢された理由自体が、『The World R:2』内で『碑文』を知り、かつデスゲームに与し得る人物だから、というものだ。
 でなければ榊などGMに選ばれるはずもない。
 むしろ“運営”という点に関しては、月の聖杯戦争という実績を持つトワイス辺りにでも任せればよかったのだ。
 代わりとなる“記録”の役割には、それこそ『第八相の碑文使い』であるオーヴァンを据えればいい。

 ……そうしなかったのは、“碑文との相性”という問題故か、それとも別の理由からか。
 GMやプレイヤーの選出基準を詳しくは知らない自分には、判断はつかない。
 だがしかし、もし榊がモルガナの目的を妨げるようなことがあれば、その時は即座に廃棄してくれる、と。
 アリスは内心でそう決意し、鞘に納まったままの己が剣を握り締める。


792 : 驕れるあぎと/backyard of eden ◆NZZhM9gmig :2017/03/04(土) 17:51:27 vkmWi98M0


「ふむ、確かに受け取った。
 あとはこれをどうやって覚醒させるかだが……まぁそこは考えてある。心配はいらんよ」
「……………。
 ならば構いません。モルガナの計画に支障が出ないのであれば、それで。
 オーヴァンに足元を掬われぬよう、せいぜい気を付けてください」

 如何にGMが圧倒的優位な立場とはいえ、あのオーヴァンがただいいように使われ続けるとは到底思えない。
 まず間違いなく、何かしらの手を打ってくるだろう。
 そのことは、この男が一番よく理解しているはずだ。
 だというのに、榊は笑みを浮かべて余裕を見せる。

「わかっているとも。だが心配は無用だよ、アリス君。
 君も知っているだろう。あの男はGMに決して逆らえない。
 なにしろモルガナの計画の要である“彼女”は、“―――――――”なのだからね」
「……………………」

 そう。それこそが、これまでオーヴァンとの接触が容認されていた理由だ。
 でなければ榊は、とっくに廃棄されていただろう。そうならなかったのは、単に“彼女”という存在故。
 “彼女”の存在がある限り、オーヴァンに対するGMの優位が揺らぐことはないからだ。
 ………だが。それだけで本当に、あの男をコントロールできるのだろうか。

「――――――――」
 胸中に沸き上がる疑念を、アリスは口を固く閉ざして封殺する。
 榊がオーヴァンを御しきれず自滅するというのなら、それはそれで構わない。
 こちらで処理する手間が省けるというだけの話だ。

 それにいずれにせよ、“波”はもう動き始めた。xxxxの時まで、そう時間は残されていない。
 ―――だからその前に、己が“使命”を果たさなければ。

 内心でそう決意を新たにすると、アリスは榊へと背を向け、知識の蛇を後にした。



 その背中を見つめながら、榊は静かに口端を吊り上げる。

 “計画”は順調だ。
 ここまでの段階において、修正が必要となる問題は何も起きていない。
 次のメンテナンスで開始されるイベントの設定も終わり、ロックマン.hackも最終調整を残すのみ。
 オーヴァンに渡した『碑文』を含め、仕込みはすべて完了している。
 このままバトルロワイアルを完遂させれば、それで自分の野望は叶えられる。

「存分に足掻くといいさ、アリス君。
 君がどれだけ私を危険視しようと、その“役割”に徹する限り、私の“計画”は止められないのだからね」

 アリスの姿はすでにない。
 榊のその言葉は、誰にも届くことなく、静かに消えていった。


【?-?/知識の蛇/一日目・夜】

【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームを正常に運営する。
1:バトルロワイアルを完遂させ、己が目的を達成する。
2:再構築したロックマンを“有効活用”する。
3:アリスの動向に期待する。
[備考]
※ゲームを“運営”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※彼はあくまで真実の一端しか知りません。
※第?相の碑文@.hack//を所有していますが、彼自身に適正はなく、AIDAによって支配している状態です。
※オーヴァンに渡した碑文の詳細は不明です。

【アリス@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの中枢、モルガナの“盾”となる。
1:xxxxが訪れる前に、自身の“使命”を果たす。
2:榊らを監視し、場合によっては廃棄する。
3:ゲームに生じた問題を処断する。
[備考]
※性格、風貌は原作11-12巻におけるシンセサイズを施されていた状態に準拠しています。
※が、従うべき対象はモルガナへと再設定されているようです


793 : 驕れるあぎと/backyard of eden ◆NZZhM9gmig :2017/03/04(土) 17:52:13 vkmWi98M0


     2◆◆


 ――――そうしてワタシは、その場所へと帰還する。
 足下に碧い湖面が広がり、巨大な金色の鎖に覆われた虚無のソラ。
 バトルロワイアルの舞台である電脳空間、その深層領域。
 『光子鏡面回廊 裏アンジェリカ・ケージ』へと。

「―――お帰り、■■■君。思っていたよりは遅い帰還だが、何かあったのかな?」

 ワタシの帰還を確認し、転移してきたのだろう。
 振り返ればそこには、医者か学者のような白衣の男がいた。
 GMユニット、ナンバー02――トワイス・H・ピースマン。月の表側で、聖杯戦争を構築したNPC。

 彼の問いに答える前に、彼の言葉を訂正する。
 ワタシのラベリングは■■■ではなく■■だ。少なくとも、GMとして行動する限りにおいては、そうなっている。
 だからこちら側にいる時に、その名で呼ぶのは止めてほしい、と。

「ああ、そうだったね。すまない、謝罪しよう」

 その言葉に頷きを返し、続いて彼の問いに返答する。
 と言っても、大したことではない。“表”の役割が若干長引いたというだけだ。
 ワタシの本来の役割がそれだったこともあって、放置することは出来なかったのだ。

「そうか。それなら別にいいんだ。君のGMとしての“役割”は、重要ではあれど、時間に迫られるものでもないしね。
 だが、君も理解しているだろうけど、我々の計画ももうすぐ第三段階へと移行する。
 そうなれば」

 わかっている。
 そうなれば、“表”の役割に戻ることはまずできないだろう。
 なぜなら次のモラトリアムが始まる前に、表エリアが崩壊する可能性が高いからだ。

 計画が第三段階に移行するという事は、表エリアの役割が終わったという事。
 そして役割を終えた道具は片づけるもの。役割を終えたものをいつまでも残しておくなど、リソースの無駄でしかない。

「………“彼”は、ここに来ると思うかい?」

 ――――――――。
 トワイスの口にした“彼”が誰を指すのか、それは考えるまでもない。
 だからその問いの答えも、わざわざ口にするまでもない。

「本当に?」

 ――――――――。

「現状において“彼”がここに辿り着ける確率は、確率は五〇%を下回っている。状況の変化次第では、一〇%にも満たなくなるだろう。
 確かなことは、〇%にだけは決してならない、という事だけだ。
 それでも君は、“口にするまでもない”と、そう確信しているのかい?
 他ならぬ、君が」

 ――――当然だ。
 そのために、ここまでの事をしたのだ。
 そのためだけに、ワタシはここにいるのだ。
 そうでなければ、この戦いを始めた意味がない。

「そうだったね。
 モルガナの目的など関係ない。君にとっては、それがこの戦いのすべてだった。
 ――――なら私も、そう“信じる”としよう。この戦いの先には、私が望む“美しい紋様(アートグラフ)”があるのだと」
 そう言ってトワイス・H・ピースマンは、空の一点へと視線を向ける。
 そこには光を一切弾かない黒い立方体が、金色の鎖をアンカーのように打ち込まれて浮かんでいる。

 それは、“頭脳”に当たるモルガナと対になる、この電脳世界の“心臓”とでも言うべきもう一つの中枢。
 月の中枢部である“熾天の檻”と同じフォトニック結晶から造られた、オペレーティングシステム(OS)。
 シークレットカテゴリ・オブジェクトナンバー002、ラベリング“堕天の檻(クライン・キューブ)”。
 それを同じくシークレットカテゴリ・オブジェクトナンバー001、ラベリング“逢魔の鎖”で制御することで、この世界は構築されている。
 故に、もしここの管理権限を得る事が出来れば、その人物はこの世界を支配することができるだろう。


794 : 驕れるあぎと/backyard of eden ◆NZZhM9gmig :2017/03/04(土) 17:52:50 vkmWi98M0

 それも当然。
 何しろこの場所こそが、バトルロワイアルにおいて優勝者が現れた時に、その人物が招かれるはずの領域。
 この“堕天の檻”こそが、優勝者に与えられるトロフィーなのだ。
 優勝賞品に【あらゆるネットワークを掌握する権利】が謳われている以上、その程度の機能や権限は、むしろ有って然るべきだろう。

 ……もっとも。“堕天の檻”も“逢魔の鎖”も、本来の役割は別にあり、OSとしての機能はその副産物に過ぎないのだが。
 加えて言えば、使用されているプログラムの関係上、その権限がモルガナを上回ることもあり得ない。
 そして肝心の優勝者の誕生という可能性もまた、現状ではほとんど失われている。
 故に、ここの“本当の役割”が果たされるとしたら、それはモルガナの目的が果たされた時だろう。


「では、そろそろ失礼させてもらうとするよ。
 君も、くれぐれもムーン・セルに気付かれるようなミスだけはしないでくれ。
 “あれ”の性質上対抗可能だとはいえ、現段階で目覚められると、後々が面倒だ」
 言いながらトワイスは、“堕天の檻”から湖面へと視線を移す。
 水鏡となって周囲を映す湖面の中央。
 そこには“堕天の檻”ではなく、“本物のムーン・セル中枢”が映っている。

 そんなことはわかっている。そのためにこの空間があるのだ。
 こちらから接触しない限り、ムーン・セルに気付かれることは決してない。

「それでも、だよ。
 榊がいろいろと企んでいるようだからね。万が一、ということもあり得る。
 何しろ彼は、断片的にしか此処の事を知らない。場合によっては、余計な手出しをしかねない。
 注意するに越したことはないだろう」
 そう言い残して、トワイスはこの空間から立ち去った。

 ………モルガナの目的など、ワタシにはどうでもいい。
 だが、ワタシの目的を果たすには、モルガナの望みを叶える必要がある。
 トワイスの事はもっともだ。もしもの時のために、何かしらの手は打っておくべきだろう。
 そう判断し、ワタシもこの空間を後にする。
 ―――だがその前に、もう一度だけ、“堕天の檻”を俯瞰する。


 バトルロワイアルは第三段階へと移行する。
 運命は確実に迫っている。
 xxxxの時は近い。
 だからワタシは、ここにいる。

 ―――堕天の玉座にて、アナタを待つ。


【?-?/光子鏡面回廊 裏アンジェリカ・ケージ/一日目・夜】

【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームの情勢を“記録”する。
1:より良き未来に繋がるよう、ゲームを次なる展開へと勧める。
[備考]
※ゲームを“記録”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※第八相『再誕』の碑文@.hack//を所有しています。
※モルガナの目的が果たされた時、本当の『再誕』が発動し、トワイスは死に至ります。

【■■(■■■)@              】
[ステータス]:健康
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:GMユニットとして“役割”を果たす。
0:―――堕天の玉座にて、アナタを待つ。
1:自身の目的を果たすために、モルガナの望みを叶える。
2:もしもの時のために、何かしらの手を打っておく。
[備考]
※■■の役割は不明です。
※GMとしての役割とは別に、“表側”での役割も有しています。
※第?相の碑文@.hack//を所有しています。


     0


 泥土の果てに
 死して眠る竜。
 五つのくびきを解き放ち、
 目覚める時は何時?


795 : ◆NZZhM9gmig :2017/03/04(土) 17:54:59 vkmWi98M0
以上で投下を終了します。
何か意見や修正点があればお願いします。


796 : 名無しさん :2017/03/04(土) 21:33:01 exm2VUDg0
投下乙です!
GMサイドの真相がどんどん明かされていくと同時に、プロジェクトクロスゾーンの設定が出てきたことにニヤリときました。
そしてモルガナの計画の要である“彼女”や、■■(■■■)の正体はまさか……!?


797 : 名無しさん :2017/03/15(水) 08:52:14 1mVOTAE60
月報の時期なので集計します
129話(+ 2) 17/55 (- 0) 30.9 (- 0)


798 : 名無しさん :2017/03/15(水) 08:52:14 1mVOTAE60
月報の時期なので集計します
129話(+ 2) 17/55 (- 0) 30.9 (- 0)


799 : 名無しさん :2017/04/25(火) 05:36:16 AGmzjCnQ0
予約だ!


800 : 名無しさん :2017/04/25(火) 21:35:55 K2xND0yI0
ガタッ


801 : ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 01:00:29 FePx0o5g0
投下します。


802 : ライバル―Gamer’s High―ライバル―Gamer’s High― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 01:06:44 FePx0o5g0

01_


空は、一秒ごとに暗くなっていく。
空からは黄昏の残滓がみるみるうちに消えていき、代わりに夜の突き放した静けさが広がっていく。
赤い日差しの代わりに顔を出した、青く巨大な月はまるで支配者のように空に鎮座していた。

そんな夜の世界を、真黒な流星が疾駆していた。

その流星は黒く禍々しく染まった翼を携えている。
ローブをばさばさとはためかせ、その腰には鋭い刃。
その身からは黒点が泡のようにこぼれ落ちている。

その異様な姿を見た者は、まず恐れをなして逃げるだろう。
いかな愚か者であろうとも、
それが災厄をもたらすものであることは、一目でわかるからだ。

フォルテ。

その黒い流星は、そんな名前をしていた。

「――――」

ファンタジーエリア、西方。
つい数時間前に飛んでいた軌道を彼は再び飛んでいる。
その目指すはただ一つ――月海原学園。

そこには彼の敵がいる。
今まで何度も辛酸をなめさせられた因縁の敵がいる。
ゴミとして見向きもしなかった者もいる。あるいは全く見たことのない者もいるだろう。

そのすべてを、彼は破壊しようとしていた。
胸からあふれ出る憎悪と敵意が身体を動かす。
疲れや憔悴など一切ない。そんなものよりもこの力を振るう相手がいないことが歯がゆい。
彼の身体はただ行き場のない力を向ける相手を求めていた。

「――フン」

だが流星は、そこでひとたび足を止めた。
翼を操り制動をかけ、立ちふさがったそれと相対する。

その巨大な体躯は、これまでのゲームにおいて一度も遭遇したことのないほど巨大なものであった。
青銀の両翼を広げるその姿は悠然としたもの。その身の中心にには黄金のリングが据えられている。

その怪物は、かつてとある世界においてザ・ワンシンと呼ばれていた。
イレギュラーのない、純然たる“ゲーム”においてのハイエンドとして設計されたその獣が、フォルテの前に立ちふさがっていた。
ザ・ワンシンはフォルテをターゲットに入れたのだろう。臨戦態勢を取り、けたたましい咆哮を上げた。

そしてザ・ワンシンを中心に他にも無数の獣が出現する。
その中にはフォルテもよく知る電脳世界のウイルスの姿もあった。

「イベント、とか言っていたか」

その姿を冷めた目でフォルテは見下ろす。
いつも読み飛ばしている内容であったが、こいつらはゲームにおけるイベントだろう。

当然、無視してしまっても構わない。
今の彼にしてみれば、こうして現れた有象無象などもはや取るに足らない障害に過ぎない。
とはいえ――おめおめと逃げ帰る必要もまたない。

「良いだろう、肩慣らしに付き合ってある」

故にフォルテはそうつぶやき、そして――エリアを埋め尽くす勢いで増えていくモンスターの群れへと突っ込んでいった。

その姿はまるで――飢えた子どものようでもあった。


803 : ライバル―Gamer’s High― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 01:07:26 FePx0o5g0







「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「予想はしてたけど、やっぱ一気にレベルが上がってるよ、慎二」

ファンタジーエリア最北。
日本エリアとの境目近くで慎二たちは必死に走っていた。

「何だよあのモンスター、いくら何でもレベルが高すぎるだろ!」

慎二はちら、と後ろを振り向きながら叫んだ。
そこには無数の敵が追いかけてきている。
そこにいるのは全高3メートルはある巨人だ。アーマーで身を固めたそいつらは、近くにいる自分たちを猛然と追いかけてきている。
それは加速世界において《帝城》と呼ばれる場所に配置されていたエネミーであったが、慎二たちは知る由もない。

「アーチャーの予想が当たったみたいだ。さっきの低レベルのエネミーはこちらを油断させる罠だ」

揺光が冷静な声で分析を漏らした。
恐らく彼女ならば、あのエネミーと正面から相対しても遅れをとることはないだろうが、
しかしここで無駄な戦闘を積むわけにはいかない。

「そんなことは分かってるけど、あれ、下手なプレイヤーより強いだろ!」

慎二、ミーナの動きは現在加速されている。慎二はコードキャストで、ミーナは快速のタリスマンなるアイテムによって、だ。
揺光はというと、元々身軽なビルドなうえ、単純にステータスがブーストされた恩恵か、何もせずとも彼らに追い付くくらいはできるようだ。

なのでパーティ全体での移動速度は全体的に急上昇しており、モンスターからの逃走も楽になったのだが、
とはいえそれでもギリギリ、といったところだ。

『幸いエリアの境目はすぐそこだ。それまで逃げれば何とかなる。
 ここで時間と戦力を消耗させている時間はないぞ、慎二。死ぬ気で逃げろ』

霊体化したアーチャーが慎二の耳元で囁いた。

「分かってるよ、そんなこと。僕等はアイツらにかまっている時間はないんだ」

走りながら慎二は言う。
この先、この先に――奴がいる。
最後の決着をつけるべく、彼らは走り続けた。


804 : ライバル―Gamer’s High― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 01:07:50 FePx0o5g0


_02




同時刻、月海原学園では別のイベントが発生していた。
形成された真黒なバトルフィールド内に3対3の形で彼らは向き合っている。

二刀を携えた黒衣の剣士、キリト。
漆黒の艶やかな装甲が映える剣のデュエルアバター、ブラック・ロータス。
そして影のように暗い色彩を身に纏う三体のドッペルゲンガー。

「なーんか黒い奴多くないっすか?」

敵と相対しながら緑衣のアーチャー、ロビンフッドがそうぼやいた。
“黒薔薇”の騎士さんはこの場にはいないが、代わりに入ったキリトとかいう少年も黒い剣士である。

「ふっ、自分だけ浮いていて厭か? 弓兵」
「別に、ただオタクら本当に黒いのが好きだねって思っただけですよ」

アーチャーはやれやれと首を振りつつ、弓を構えた。
すると向こう側でも黒い弓兵が弓をセッティングしているのが見えた。
ドッペルゲンガーだか、シャドウサーヴァントだか知らないが、このイベントはご丁寧にサーヴァントまでコピーするらしい。

「アーチャーって呼ぶと俺の中では別の奴になるから、ちょっと面倒だな」

不意にキリトがそう口にした。
この少年、あっちの紅い方のアーチャーとはこのゲーム中で知り合ったのだという。

「アーチャーっての、名前というよりジョブの名前みたいなものだろ?
 このあと二人で並んだ時に困るから、なんかほかに名前はないのか?」
「ふむ、確かに面倒だ。緑色のアーチャー……ということで“ミドチャ”はどうだ?」

悪戯っぽくロータスが言う。アーチャーは思わず頭を抱えたくなった。
ミドチャ。その名になぜか妙な既視感があったからだ。そしてその時も《黒》がかかわっていた気がする。
いや、まるで覚えてはいないのだが。

「好きに呼んでくれ。アーチャーってのが面倒なら、真名の方でもいい。
 ま、そもそもあっちの方のアーチャーと並んで戦うなんてことはないと思いますがね」

そこでアーチャーは、とん、と地を蹴り一歩下がる。
前衛に二人の剣士、後衛に弓兵。この面子ならば陣形としてはこう組むべきだろう。

「弓兵、このパーティで遠隔持ちはお前だけだ。当然それはコピーである向こうも同じ」
「へいへい、分かってますよ、自分のコピーは自分で押さえろってことだろ?」
「ああ、押さえるだけでいい。俺と黒雪姫のどちらかが前衛を崩せれば、その時点で敵のパーティを崩せる」

最低限の作戦会議を交わしながら、二人の《黒》は剣を抜く。
瞬間、彼らの雰囲気が変わる。研ぎ澄まされた戦意が鋭く場に広がっていく。

「黒雪姫、提案だ。敵はこちらのコピーだけど、こういう場合」
「分かっている――違うタイプをぶつけた方がいい、ということだろう?」

そうして交わした言葉が合図となって――《黒》が戦場を駆け抜けた。
一切の迷いなく、恐れなく、彼らは剣を振るう。

――全く、味方としてはこれ以上ないですわ。

生前、こうした集団戦をほとんど経験してこなかったアーチャーにとって、
信頼できる“騎士”に守ってもらえる状況に、思わず苦笑してしまう。

――ならまぁ、精々仕事をするとしますかね。


805 : ライバル―Gamer’s High― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 01:08:09 FePx0o5g0







いわゆる対戦型ゲーム、あるいは一人のRPGにおいても、
自分と全く同じステータス、武装の敵と戦うというイベントはさして珍しいものではない。

そして――そういう場面にあたって、有効な手段もまた、同じだ。

自分の影、ドッペルゲンガーの最も厄介な点は、自らと同じである、という点だ。
ならばそれを対策するには――自分と相対しなければいい。

「デュエル・アバターと戦うのは、三度目だぜ」

刃と化した両腕を剣で受け止める。キリトは黒雪姫、ブラック・ロータスのドッペルゲンガーと刃を交えていた。
ちら、と辺りを一瞥すると黒雪姫の方もまたキリトのドッペルゲンガーと戦っているのが見える。
先ほどの交わした一言で、彼らの作戦もまた固まっていた。

ドッペルゲンガーが同時に現れ、バトルフィールドに巻き込まれる形になったのは幸運だったとさえ言えるだろう。
敵をシャッフルすれば、自分と同じステータスのエネミー、ではなく、単なる高レベルのエネミー、という構図に持ち込めるのだから。

「とはいえ――強敵だな」

真黒な装甲を見せるロータスのドッペルゲンガーと剣で打ち合いながら、彼はそうぼやく。
その両腕から放たれる剣撃は一撃一撃が重く、そして鋭い。
その威力たるや、タイミングを見計らってカバーしていかなければ、こちらのガードごと吹き飛ばされるだろうと確信できるほどだ。

ただその分連打力にはこちらに分がある。キリトはそう冷静に分析していく。
一撃の重さで向こうが勝っているとしても、受け流すのに二手三手と“間”が使えるのならば、いくらでもやりようはある。

僅か数回の打ち合いでそのことを見破ったキリトであったが、しかしここで安易に攻めに回ることはしなかった。
かつてシルバー・クロウやダスク・テイカ―とやりあった経験から、デュエル・アバターの特徴を把握していたからだ。

「デス・バイ・バラージング」

ドッペルゲンガーが無機質なシステムボイスを漏らす。
途端――連撃がやってきた。刺突、刺突、刺突、刺突、それまでの鋭く重い斬撃から一転しての高速斬撃がキリトを襲う。
一方の剣から放たれる斬撃を必死にパリィし、バックステップして回避に専念する。
くっ、と彼は声を漏らす。
それまでの重い一撃はブラフだ。
緩急をつけられたことで、この高速斬撃が、より速く強烈なものとして感じられる。

デュエル・アバターの特徴は、そのアビリティと《必殺技》の存在だ。
他のアバター――たとえばネットナビの強みがデフォルトの武装の汎用性にあるとすれば、
逆にデュエル・アバターは一点特化だが強力な技を持っている点が挙げられる。
特に《必殺技》は場合によっては一撃で状況が逆転しかねない。

それがシルバー・クロウならば《飛行》だし、ダスク・テイカーならば《争奪》であった。
そして、ブラック・ロータスは――《斬撃》という訳だ。


806 : ライバル―Gamer’s High― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 01:08:27 FePx0o5g0

「上等だぜ、とか言ってみるか」

ロータスのドッペルゲンガーと相対しながら、キリトはニッと笑みを浮かべる。
シルバー・クロウから話には聞いていたが、なるほどこれは手ごわい。
一撃の重さもさることながら、あらゆるタイミングから強発生・連撃の《斬撃》につなげることができる。
特異な付加効果こそないものの、そのシンプルさ故に強い。

――まずはあの《必殺技》を攻略しないことには勝機はない、か。

そう確信したキリトは再び地を蹴った。
あの近接特化アバターに剣で挑む以上、こちらのステータスは当然SAOアバター。
二刀の刃で再びロータスとの打ち合いを挑む。

一つ、デュエル・アバターの《必殺技》の弱点を挙げるとすれば、それはゲージだ。
強力な技であるがゆえに、他のアバターの持つ技――例えばソードスキルなどと比して、《必殺技》は連続使用が効かない。
ならばこそ、一度必殺技を使ったタイミングを狙う。

タイミングを狙って敵の剣劇を弾く。
パリィに成功したのを確認したところで、ソードスキル《バーチカル・スクエア》へと繋げる。
スクエア/正方形を思わせる軌跡を描く四連撃。ロータスのドッペルゲンガーはそれをまともに受ける。
そしてそこから派生させて、さらなる連撃を叩き込もうとしたところで――キリトは気づいた。

「って――スーパー・アーマー!?」

思わず声を出してしまった。
スーパーアーマー。格ゲーやアクションゲームなどに存在する要素で、その効果は一言でいえば“のけぞり無効”となる。
とはいえリアル性を重視したSAOやALOなどにはあまり意識しない要素だ。
ソードスキルの始動にアーマーがついているものはあるが、対人戦において“常時スーパーアーマー”などという状況はまずなかった。

が、しかしロータスは四連撃を受けても、一切行動を阻害されることなく、キリトへのカウンターを叩きこもうとしていた。
その事実がキリトの動きを一拍遅らせた。

もう一つ、キリトの知らないこととして、このドッペルゲンガーにはそのほかにも様々な強化バフをパッシブスキルとして備えている。
その中には速度上昇やHPの回復、それに加えて――ダメージによるゲージ回収率の上昇といったものも存在していた。

「デス・バイ・ピアーシング」

四連撃によるダメージで再びゲージを充填したロータスのドッペルゲンガーは再び《必殺技》を唱えた。
レベル5必殺技であるその技は、ガードもパリィも不可能な貫通攻撃である。

「――なっ」

ソードスキルの硬直で固まっていたキリトに、
《パラメータ全ブースト》《クリティカル率アップ》《HP半減》が付与/バフされた斬撃が炸裂した。







807 : ライバル―Gamer’s High― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 01:08:57 FePx0o5g0








黒雪姫はキリトのドッペルゲンガーと相対しながら、どうしても既視感を拭えないでいた。

「《スラント》」
「《ソニックリープ》」
「《ダブル・サーキュラー》」

黒衣の剣士が放つ数々の剣技を彼女は冷静に処理していく。
どれも初めて見るはずの技だが、対処はさほど難しくなかった。

――偶然、ではないだろうな。

それもその筈だ。
黒雪姫にしてみれば、それらの技はすべて“知って”いるからだ。
ソードスキルと呼ばれるらしいそれらの技は――ほかでもない彼女の師匠たるデュエル・アバターが使っていたものと酷似していたからだ。

――何せ私の師匠、だからな。

かつてネガ・ネビュラスに参加していた《四元素》の一角である、黒の双剣士である。
他の《四元素》メンバーが復帰する中、彼の消息のみ黒雪姫は把握していない。

「ソードアート・オンライン、か」

剣を打ち合う最中、黒雪姫はぼそりとその単語をつぶやく。
その名はもちろん知っている。彼女の“現実”において、凄惨な歴史的事件としてそれは記録されている。
VRMMO黎明期に一人のエンジニアが起こした大量殺人事件。その中心にあったゲームこそ、それだ。

キリトというプレイヤーがあのゲームを体験した世代であることにも驚いたし、
他にも自分たちからみれば過去の人間たちがこのデスゲームに参加していることも学園合流後に知ったことだ。

だがそれ以上に彼女がいま感じていることは――旧友のことだ。

―― お前、一体何者なのだ。

前々から変というか、よくわからない奴だとは思っていたのだが、
こうしてSAOの伝説的プレイヤーと相対し、その技・動作の大半が似通っているという事実に直面した今、いよいよもって彼の正体がわからなくなっていた。

「《バーチカル・スクエア》」

無機質なシステムボイスが敵から流れてくる。
はっ、とした黒雪姫はとっさに両腕を交差し、ガードを取る。
四連撃を受け止めつつも、すべての威力は殺しきれず、じりじりとHPゲージが削られていく。

いまこのデスゲームには直接的に関係しないことだとは思うのだが、どうしてもそちらに気がいってしまう。
彼女の師とキリト。SAOとブレインバースト。
この相似は、果たして何の意味もないのだろうか。

「《ヴォ―パル・ストライク》」

脳裏を過るその疑念につけ込むようにして――キリトのドッペルゲンガーは襲い掛かってきた。
ヴォ―パル・ストライク。それはグラファイト・エッジから黒雪姫へと教えられた心意技《奪命撃》の名だ。
心意技を想起してしまった彼女は思わずその腕に心意の光を灯し、剣で打ち返す。

だがそのヴォ―パル・ストライクは《奪命撃》ではない。
似て非なる――単発の高威力攻撃であった。

そして《武器破壊・部位欠損無効》というパッシブスキルが発動しているドッペルゲンガーにとって、単なる《攻撃威力拡張》の心意は通常攻撃と大差のない威力しかない。
それ故に――ソードスキルに撃ち負けることになる。

「しまっ――」
「《ジ・イクリプス》」

両腕が弾かれる。そしてそこに叩き込まれる更なるソードスキル。
それもまた聞き覚えのある技であり――かつて彼女が届かなかった黒衣の双剣を思わせた。


808 : ライバル―Gamer’s High― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 01:09:17 FePx0o5g0







ゆらめく影のような己のドッペルゲンガーと撃ち合いながら、アーチャーは冷静に考えていた。

「さて、あと何分くらいかねぇ。3、4……5分はまぁいかないわな」

ぼそりと一人呟きながら、己の敵を見定める。
シャドウ・サーヴァントとでも形容すべき敵が相手をする訳だが、
同戦力での戦いである以上、普通にやれば互いに千日手になりかねない。
だが恐らくは――この敵は強化されている。本来の自分たちよりも、戦力・武装面で上回った状態でこちらにぶつけている。
なんともまぁ悪趣味なことだと思うが、同時にこうも思う。

――ま、それくらいでちょうどいいでしょ、マスターたちには

このゲームは確かにイレギュラーな要素や反則じみたスキルが多い場所であるが、
仮に「普通のゲーム」が成立する場所であれば、いま目の前で戦っている《黒》二人は、間違いなく最強格である。
紛れもない、ゲーマーなのだから。


809 : ライバル―Gamer’s High― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 01:09:45 FePx0o5g0









「《デス・バイ・ピアーシング》」

ロータスのドッペルゲンガーが発した無機質なシステムボイス。
それはエンジンの唸りを思わせる金属的なサウンドエフェクトにかきけされ、青紫の光が閃光となってキリトを貫かんとする。

間近でそれを受けることになったキリトが取りうる選択肢は二つ。
刺突を剣を逸らし、でドッペルゲンガーの《必殺技》を受け流すこと。
あるいは剣を交差することでその一撃をブロックし耐え凌ぐこと。

だが――そのどちらもこの《必殺技》を前にしては無意味であることを、キリトは悟った。
その斬撃はそれほどヤワなものではない。
あるいは、この世から重力というものが消えたのであれば、完璧なタイミングでパリィすることで、キリトがノーダメージで受け流すことも可能だったかもしれないが、
しかしその一撃はどこまでも鋭く、そして重かった。

だからキリトは――どちらもしなかった。

「ぐっ……」

思わず悲痛な声が漏れた。
レベル5必殺技をその身に受けたのだから、それも当然だ。
彼のその身は吹き飛ばされ、宙を舞う。

――そして、同時にキリトは虚空に指を滑らせた。

「チェンジ……!」

そして、そのままキリトは飛び続ける。
そこにいたのは翅が映えた影妖精/スプリガン。
飛行が可能となるALOアバターと化したキリトは吹き飛ばされた勢いを利用して――飛ぶ。

「――――」

そしてALOアバターと化したことで、キリトはソードスキル以外の《魔法》が使用可能になる。
幻惑範囲魔法。煙幕をまき散らす《魔法》によって飛び上がったキリトはその身を消す。
その動きに、ロータスのドッペルゲンガーは一瞬動きを止める。

――デュエル・アバターにとって《飛行》というアビリティは希少である。

初めて遭遇したデュエル・アバターがシルバー・クロウであったキリトは意識しづらいが、話を聞くにあれは超レアアビリティなのだとか。
ならばこそ、こうした戦法に敵は戸惑わざるを得ない。
これが本物ならばいざ知らず、AI操作である以上、《飛行》状態からのかく乱戦術というのはどうしても反応が遅れる。

そしてキリトは既にこの敵が敵がスーパ―アーマーを携えていることを知っている。
だからこそ――連撃でなく、一撃で大ダメージを与える技を選択する。

「《ヴォ―パル・ストライク》」

無防備な背中に、単発高威力のソードスキルを叩き込む。
放たれた剣撃はドッペルゲンガーを正確に捉え、斬り裂いた。


810 : ライバル―Gamer’s High― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 01:10:02 FePx0o5g0







「なかなかいいぞ、ロッタ」
「もうひと踏ん張りだ、ロッタ」
「ナイスガッツだ、ロッタ」

師のことを思い出すと、自然とそんな声がよみがえってくる。
その凄烈な剣筋以上に、こちらのことをあやすような――親戚の子供を相手にしているような――声を彼はいつもかけてくる。
まぁ実際、出会った当時の黒雪姫は小学生低学年だったので、それほど不自然という訳でもない。

だがそんな彼の声を思い出すと彼女は、

――いいかげんにしろ。

と、うっとうしく感じてしまう点もなきにしもあらず、なのだった。
というか年齢的にはグラファイト・エッジも大して変わらない筈であるので、
こう、我ながら子供っぽい話でもあるが、兄貴ぶられるのが厭だった覚えがある。

――いいかげんにしろ、グラフ。

グラファイト・エッジ。
《矛盾存在/アノマリー》の名を冠した、《四元素》の一角である。

「負けては――られないな!」

迫りくるドッペルゲンガーの刃を前にして、ロータスは叫びを上げた。
ソードスキルの始動をこのタイミングから邪魔することは難しい。
だがかといって一度連撃を受けてしまえばそこからの脱出も不可能だ。

ならば――真っ向から斬り裂くのみ。

先ほどは半端な心意技を使い、弾かれた。
しかし《絶対切断》たるブラック・ロータスが100%の力を振り絞った剣を放てばどうなるのか。

敵のソードスキルがその身に炸裂する。右半身に強烈なダメージが走っていく。
だがそこまでは読みの内――まだ左の刃が残っている。

どん、風がバトルフィールドを走った。

放たれた漆黒の件は衝撃波となってドッペルゲンガーを襲う。
それは単なる斬撃というだけではない。ヤワなボディなど吹き飛ばしてしまうほどの力強さを持った一撃だ。
超高速で放たれたその斬撃が、地面にひびを入れ、結果としてドッペルゲンガーは態勢を崩す。

「《デス・バイ・エンブレイシング》」

そこに叩き込まれるブラック・ロータスのレベル8必殺技。

――この技は、まだグラフには使っていなかったな。

そうしてキリトのドッペルゲンガーを斬り裂いたとき、
黒雪姫は、いずれグラファイト・エッジと決着をつける日が来ることを願った。


811 : ライバル―Gamer’s High― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 01:10:42 FePx0o5g0


03_




「おかえりなさい、黒雪姫さんに、そしてキリトさん」

砕けちったフィールドに向こう側にはレオたちが待っていた。
レオは柔和な笑みを浮かべキリトたちの帰還にねぎらいの言葉をかけてくれる。
その隣には大剣を携えるガウェインと、安堵に胸をなでおろしているハセヲの姿があった。

「こっちは一応大丈夫だぜ、ジローの奴も運よくフィールドから出られた」

ハセヲの言葉にキリトもまた安堵する。
自分たちと同様にほかのプレイヤーもドッペルゲンガーイベントに巻き込まれている可能性があった。
戦闘のできるブラックローズたちはまだしも、ジローのような非戦闘用アバターが襲われてはひとたまりもない。
だが幸い、誰も被害は出ていないようだった。

「――しかし別の問題が発生しました」

そこでレオは柔和な笑みを消し、真剣な口調に変わった。
校門の先、暗い夜空を見上げながら彼は言う。

「いま先ほど仕掛けていたコードキャストが反応しました。
 すぐ近くで戦闘が起こっています。この反応はおそらく――ダスク・テイカーです」


812 : ライバル―Gamer’s High― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 01:11:24 FePx0o5g0
とすいません、今回は分割投下ということで、一旦ここで投下終了です。
続きは明日には投下いたします。


813 : ライバル―Gamer’s High― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 01:17:39 FePx0o5g0
すいません、>>810>>811の間に入るパートが抜けておりました










「四分半ってところですか。ま、予想通りだな」

アーチャーの飄々とした声が響いた。
ロータスのドッペルゲンガーを撃破したキリトが顔を上げる。
見れば黒雪姫もドッペルゲンガーを下しているのが見えた。

「観戦者気取りか? 弓兵」
「そう楽なもんじゃありませんでしたよ、こっちも」

二人はそう軽口を叩き合いながら合流する。
マスターとサーヴァントという関係になった彼らだが、そこにはどこか気やすい雰囲気が流れていた。

「とりあえず早くここから出よう。学園の奴らが心配だぜ」

レオやハセヲが外にいるはずなのでまだ大丈夫だと信じたいが、とはいえこんなところで時間を取られるわけにはいかない。

「アーチャーのドッペルゲンガーは――」

そう思いキリトが辺りを確認する。
すると離れた位置に影のようなサーヴァントが立っていたが、

「ああ? あれならもう倒したって」

がた、と倒れ伏した。
アーチャーは欠伸をしながらその光景を眺めていた。

「今更あんな奴に負ける俺じゃないっての。オタクらもそうだろ?」
「まぁ、な」

あのドッペルゲンガーはどうやらこちらとまったく同じステータスと見せかけて、全体的に強化されていた。
普通に戦えば強敵になったのだろうが、とはいえこれからの戦闘と思えば“単なる強敵”どまりだ。
フォルテやオーヴァン、GMたちに比べれば前哨戦にもなりはしないだろう。

パリン、と音がした。
真黒だったバトルフィールドにひびが入り、隙間から光が漏れ出している。
ドッペルゲンガーが全滅したことによるフィールドの消滅だ。
その演出をじれったく眺めながら、キリトは外のことを考えた。

レオやハセヲ、生徒会のメンバー。
ブラックローズたちのダンジョン攻略組。
そして、慎二たちのパーティ。

頼むどうか――誰も欠けていないでくれ。

その願いと共に、彼らは月海原学園へと帰還した。


814 : ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:34:35 FePx0o5g0
昨日に引き続きになりますが、
分割投下の後半部、投下いたします。


815 : ライバル―慎二と能美― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:35:37 FePx0o5g0


やめてくれ、と僕は言ったんです。
そのたびに、馬鹿め、と返されたんです。

最初はなんだったのか、正直覚えていません。
母さんからもらったお菓子だったのかもしれない。
なんだったのか――正直覚えていないんですけど――きっとプリンとかだったんでしょう。
子どもなんかみんな甘いものが好きなものです。僕も好きで、兄さんも好きだった。
でも、それを見越して母さんは二つ分のプリンを用意してくれた。

なのに、何故か兄さんが二つ分取るんです。

むしゃむしゃと僕の前で食い散らかして、二ィ、と歯を見せて下品に笑うんです。

おかしいでしょう?
何も一つしかなかった訳じゃない。
取り合う必要なんてなかった。普通にしていれば、お互い一つずつプリンが食べることができた。

なのに、兄さんは僕の分を奪って二つ食べた。

おかしいでしょう? おかしいですよね?
でも、おかしなことはそれからずっと続いたんです。

僕のものだったはずの誕生日プレゼントのゲームも、なぜか兄さんが最初に遊んだ。
僕が作って、僕が褒められるはずだった図工の作品も、最後の最後で兄さんのものになった。
僕が初めて意識したあの娘だって――アイツは奪ったんだ!

何もかも、兄と弟から、《親》と《子》になってからだって、ずっとずっと僕は奪われた。

おかしい。おかしいでしょう――でもね、違ったんです。

おかしかったのは、僕なんです。



04_


816 : ライバル―慎二と能美― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:36:01 FePx0o5g0



辿り着いた日本エリアは、どういう訳かひどく荒廃していた。
立ち並ぶビル群は煙を上げ、道路にはガラス片や瓦礫が散乱している。
燃え盛る街は、ここで大きな戦闘があったことを示していた。

そんな場所で――慎二は奴に追い付いた。

奴もきっとギリギリのところだったのだろう。
かなり強引な逃走だったうえに、エネミーとの接敵にも巻き込まれた筈だ。
こちらはまだ無傷に近い揺光がいたが、一人だ。
回復役も、フォローしてくれる仲間も誰もいない。

だから、こんなところでぐずぐずしているんだ。

黄金の鹿号は魔力不足からから墜落していた。
既に夜空を飛ぶ力を喪ったそれの前に、慎二の敵は待っていた。

「――チィ! また! 貴方ですか」

敵――能美は慎二らの姿を認めるなり、声を荒げた。
彼の目論見としては月海原学園までたどり着いたのち集団の中に入り込むとか、まぁそんなところだろう。

「あらら、追いかけっこはこっちの負けだねぇ」

その横に立つのはライダー、フランシス・ドレイクだ。
彼女はこんな状況であるというのに笑っていた。豪快に胸を張るその様は――いつだって堂々としている。

「追い詰めたよ! もうこれで逃げられないでしょ」

剣を構えた揺光が声を上げた。
あの草原での一戦を越えてから、彼女は頼もしくなったと思う。
単に戦力としてのことだけじゃない。
ネオやモーフィアス、彼らの死に対して卑屈ならず真摯に受け止めているその様こそが、尊敬に値すると慎二は知っていた。

「ああ、これで本当に年貢の納め時だぜ」

その時、別の声がその場に響いた。
はっ、として慎二は顔を上げる。すると能美を挟んで向こう側に、一人の黒衣の剣士が立っていた。

「生きて会えてよかったぜ、慎二」
「――キリト」

そう言ってふっと笑う彼の姿に、慎二もまた笑いそうになってしまった。
なんだ、存外元気そうじゃないか。心配して損をした。
そんな悪態を吐きそうになったあと、キリトの後ろからかけてくるもう一人の姿を見て、今度こそ慎二は声を上げた。

「岸波!」

そこには本当に何の特徴もない凡庸な姿をした友人がいた。
聖杯戦争において仮初の友人という役割/ロールを与えられ、そして一回戦にて戦うことになった相手。
およそ半日ぶりだろうか、久々に見る彼の姿は、相も変わらずとぼけた顔をしていて――それでいてまっすぐにこちらを見ていた。

「レオがここで戦闘が起こっているっているから来てみたけど、どうやらもう終わりのようだな」

キリトが能美を見ながらそう言った。
「うっ」と能美が呻くのがわかる。もぐりこもうとしていた月海原学園にも素性がばれていた。
そのうえ、援軍として慎二たちと合流され囲まれているのだ。
絶対絶命という言葉が合致する状況に間違いない。


817 : ライバル―慎二と能美― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:36:33 FePx0o5g0

「――なあに諦めてるんだい、ノウミ」

だがそんな状況にあって、ライダーは未だ笑っていた。
死が目前に迫った状況にありながら、むしろそれを愉しむかのごとく、豪快に声を上げて笑ってみせる。

「いやね、正直アタシもこれは終わりだと思うよ、ノウミ。
 もはや万策つきた。敵は万全のうえ囲まれている。こっちは補給もままならない――でもねぇ、やるしかないだろう?」

ライダーは能美を鼓舞するかのような言葉を投げかける。

「なに? それともアンタ、こいつらの軍門に下る訳? おめおめと頭を下げてさ。
 それはちょっと難しいわ。何せアンタは悪党をやり過ぎた。アタシと一緒に好き勝手このゲームで振舞ってきた。
 ――となりゃあ、結末はまぁこんなものだろう」
「あ、貴方こそ諦めてるじゃないですか! 僕は、僕は」
「はぁ? 違うさ。これは生き方の問題さ。そんで死に方の問題だ。
 アンタもアタシも思う存分子悪党をやった。そしてそれに相応しい最期がやってきた。
 なら――最後に思う存分笑えるような死を迎えないとねぇ!」

能美は言葉に詰まる。その様はライダーの言葉に気圧されるかのようだった。
だが同時に――彼は痛感したようだった。
もはや自分には彼女しか残っていないのだと。
自分の戦力も、取りうる策も、すべて尽きているのだということも。

「うるさい! だまれ僕は! 僕はぁあああ!」

そして狂乱染みた叫びを上げだす。
彼は自分がもはやどうしようもないところまで来ていることを、悟ったのだろう。

「――あのさ、能美」

そんな彼に対して、慎二は一歩踏み出した。
破壊された大地を力強く踏みしめる。風が吹き、ボタンを開けた制服がばさばさと音を立てて舞った。

「最後のチャンスをやるよ。
 ここでお前を集団でボコるとか、そんなチキンプレイはしない」
「おい、慎二」

慎二の突然の行いに、揺光が戸惑ったように声をかけた。
だが、慎二は振り返り、キッ、と彼女を睨み付け、

「手を出すなっ!!」

と。
あらん限りの声で叫びを上げた。
荒廃した街にその声はどこまでも響き渡った。

「これは――僕の戦いなんだよ!」

揺光やミーナ、同行者たちへ力強く彼は訴える。

――僕と共に戦ってくれた仲間がここにいる。

「僕のゲームチャンプとしての誇りを賭けて」

次に慎二は、向こう側に立っているキリトに、そして岸波白野に向けて声を上げる。

――いずれ挑む好敵手がここにいる。

「僕のゲーマーとしての意地のためにも」

最後に慎二は一瞬だけ、目を瞑った。
その瞬間、脳裏に浮かぶのは一人のゲーマーだ。
彼が生まれて初めて、プレイを見て「かっこういい」って純粋に憧れた少女。
あのいつだって楽しそうな彼女の戦い方は、これからずっと自分の目標になるだろう。

――かつて抱いた憧憬は確かにここにある。


818 : ライバル―慎二と能美― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:37:21 FePx0o5g0

「僕はお前に“ゲーム”を挑む」

彼は己の敵を見据え、指を指した。

能美征二、ダスク・テイカー。夕闇の簒奪者。
ライダー、フランシス・ドレイク。星の開拓者。

――越えなくてはならない敵がいる。

「僕はお前に“ゲーム”で勝たなくちゃならない。
 誰の手も借りず、自分の手で、自分の実力で――僕はお前を越える!」

その言葉と同時に、彼の隣に一人のサーヴァントが姿を現した。
紅い外套のアーチャー。彼は慎二の言葉に、やれやれ、と肩をすくめている。

「アーチャー、悪いけど最後に一戦だけ付き合ってもらうよ。
 これが終わったら岸波にお前を返すからさ」
「分かっているさ、慎二。
 男には譲れない戦いがあるってことぐらい、俺も分かっているよ」

その言葉にはどこか懐かしむような響きがあった。
あるいは旧友の成長を見たときのような――どこか寂しささえ感じられる想いがあった。

「マスターの前だ――私も気合いを入れなくてな」

そう言って彼はその手に双剣を投影する。
そうして彼らは己が敵と相対する。

「ははっ」

ライダーは、やはりというか、笑っていた。

「あっははははははっははっ! どうしたもんだい! シンジィ!
 よしなよ、アンタには似合わない、そんな、正義の味方みたいな真似。
 本当――あの坊やがねぇ」

彼女は呆けている能美を抱き込んで言う。

「ほら! ノウミぃ。アンタも何か言い返してやりな!
 アンタのライバルが妙に気合いの入ったこと言ってるよ」
「誰が――誰がライバルですか」

ライダーをうっとうしそうにはねのけながら言う。
その言葉からは先ほどの狂乱が少し引いている。
あるいはそれは意地なのかもしれなかった。
もはや進退窮まる状況とはいえ――コイツにだけは負けてられない、という意地が能美の中にも生まれたのかもしれなかった。

そうして彼らは相対する。
燃え盛る街。朽ちた海賊船の前で、二人のプレイヤーが、二騎のサーヴァントを携え対決する――
その様を、揺光も、ミーナも、キリトも、白野も、ここに集ったすべてのプレイヤーがその行く末を見ていた。

「貴方だけには! 貴方のような人にだけは! 僕は負けてはいけないんですよ!」
「勝負だ! ただのゲーマーとして、お前はこの僕が倒す!」


819 : ライバル―慎二と能美、そしてライダー― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:37:58 FePx0o5g0


そうして――二人は激突した。
それは今まで幾度となくぶつかってきた組み合わせだ。
ゲーム開始当初から、ここに至るまで何度も何度も戦い、そのたびに決着がつかなかった。

いや――決着をつけなかったんだ。

慎二は今までの戦いを分析し、そう結論を下した。

「アーチャー」

だが、この戦いは違う。
今度こそ、すべてを終わらせるんだ。
そのためにも、彼はひとつの命令を下した。

「お前が相手にするのは能美、ダスク・テイカーの方だ」

見据えるは二人の敵。
宵闇の走行を湛えたロボットと――

「ライダーの相手は――僕がする」

――豪快に笑う稀代の女海賊!

彼女に向かって慎二は歩き出した。
その言葉に「何ですって!?」と能美が声を上げた。

「……了解した。だが慎二」
「驕りじゃない。これは、そうだな、誇りって奴だよ、アーチャー。
 こっ恥ずかしいけど、でも、それだけじゃない」

言いながらも慎二は歩き続ける。
アーチャーは頷き、言葉通りダスク・テイカーを押さえるように動き出す。

「何を考えているんです? ライダーを貴方が抑えられるとでも?」

いぶかしげ気に能美が言ってくる。
合点がいかない様子であった。が、彼はふと嘲笑するように、

「ああそれとも、ライダーが貴方に手加減でもしてくれると思ってるんですか? この期に及んで!
 もうそのライダーは貴方のサーヴァントじゃないんですよ!」
「ああ、そうだよ。ライダーはお前に奪われた。もう僕のものじゃない」

その嘲笑に、慎二は落ち着いた口調で返す。
そう、ライダーはもう自分のサーヴァントではない。
奪われた。己のミスから、馬鹿みたいな驕りからこのゲーム序盤に簒奪されてしまった。

だが――だからこそ。

「ははっ、わかってないね、能美。
 今までの敗因は、そこにあったんだよ」

そう言って彼もまた能美を嘲笑する。
そんなこともわからないのか、とでも言うような、彼らしい、厭味ったらしい笑い方であった。
その意図を能美がつかめないまま、アーチャーと戦闘に入る。
そうなればもう能美に余裕などない。満身創痍の彼にとって時間を稼ぐだけで限界のはずだ。


820 : ライバル―慎二と能美、そしてライダー― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:38:25 FePx0o5g0

「――ライダー!」

そして慎二は胸を張り、堂々と、彼はかつての自分のサーヴァントと相対した。

「決着だ、ライダー。
 僕と能美と、そしてお前との!」

声を受け、ライダーもまたそれに応える。

「いいよ、慎二!
 どんな思惑があるのか知らないが、いい顔だ。
 前に戦った時のようななまっちょろい顔じゃない」

そうしてまた彼女は笑う。
豪快に、気持ちよく、大きな声で彼女は何時だって笑っている。
近くであの笑い声を聴くといつもうるさくて、酒臭いんだ。正直言ってメチャクチャ厭だった。
全くこの英霊はだらしなくて臭くて、それでいて働かせるにはきっちり金を要求してくる、どうしようもない奴だった。

ああ、本当に――

「本当に――お前は強いサーヴァントだよ」

慎二はその言葉を口にする。
お前は強い。
誰よりも強い。
フランシス・ドレイク、太陽を落とした女。
その強さ、今更喧伝するまでもないだろう。
だが――この言葉を言えるのは自分だけだ。
召喚し、共に戦い、さんざん不満を言った僕だからこそ言える。

――お前は、強い。

と。

「だから、僕でもお前を相手にするなら本気を出すしかないって訳だ」
「へぇ、アンタ、今まで本気を出していなかった訳?」
「はっ、そうだよ。僕は今まで一つ、いや、二つも使える札を切っていなかった。
 これまでの戦いで――意図的に使ってこなかった札が二つもある」

そう叫ぶと慎二は、つい、と虚空に手をやった。
瞬間、ウィンドウが出現する。公開設定にしてやったため、ライダーにも見えるはずだ。

「ははっ、そりゃあないんじゃいない? シンジィ。
 これだけ戦っておいて、実はここまで温存してたなんて、ハッタリにもならない。
 アンタがそんな賢い立ち回りするとは思えないしねぇ」
「逆だよ、ライダー。
 今までの戦いで僕が馬鹿過ぎたから、使わなかったんだよねぇ、これ」

ウィンドウにはさまざまなコマンドが出現している。
その中でも今の慎二にとって有用なものは二つ、コードキャストとバトルチップだ。
剣のような使用者のステータスに効果が依存するようなものは使っても意味がない。
そのためここで切る札は、必然的にその二つに絞られる。


821 : ライバル―慎二と能美、そしてライダー― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:39:07 FePx0o5g0

だが移動力を上げたところでさして意味はないし、姿を隠すユカシタモグラも先ほど使用からのリキャストがまだ終わっていない。

――となれば、これしかない。

慎二は思う。
きっとチャンスは一瞬だ。
敵はライダーだ。あのライダーなのだ。
ならば勝機があるとすれば、本当に一瞬しかない。

――ああ、だからこそ、この札を切る!

「――バトルチップ」

その声を発した途端、ライダーが地を蹴った。
一切の躊躇なく慎二を襲う。彼女は本気だ。本気で、かつてのマスターをその弾丸で撃ち殺す気でいる。
だが――こちらの方が早い。どれだけステータスに差があろうとも、距離を詰める必要があるライダーに対して、慎二はただ声を発するだけでいい。

「――リョウセイバイ」






822 : ライバル―慎二と能美、そしてライダー― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:39:30 FePx0o5g0



そのバトルチップは、あまりにも扱いにくいものだった。
支給されていたカオルはもちろん、他のプレイヤーにとってもそう易々とは使えるものではなかった。
威力こそ強力であったが、しかしそれ故に――ここまで誰も手を出すことができない、鬼札であり続けた。

慎二がバトルチップの発動を口にした途端、世界に雷鳴が走った。

轟く雷鳴は猛烈な勢いでまずライダーを貫き、次に能美を、アーチャーを、そして慎二自身も貫いた。
炸裂する光は形成された戦場を埋め尽くし、多大なダメージをまき散らす。
そこに敵味方の識別など一切ない。ただ無慈悲に災厄が戦場を蹂躙する。

――ギガクラスチップ、リョウセイバイ。

その効果は、戦場に存在するプレイヤーすべてのHPを“無条件に”半分にするというもの。
これを防ぐ手段は一切存在しない。姿を消そうとも、地に隠れようとも、装甲でその身を覆うとも、雷鳴は必ず直撃する。

――そしてこれの特徴は。

猛烈な痛みが全身を駆け巡る中、慎二は必死に意識を保っていた。
ここだ。ここが――正念場だ!
その想いと共に、慎二は駆け出した。

――このチップのダメージはね、HPの“半分”なんだ。

そう、それこそが、切り札になるうる理由。
多くのバトルチップが固定ダメージを与えるのに対して、このチップは割合ダメージ。
それはつまり――元のステータスが高ければ高いほど、大きなダメージを受けるということ!

――逆に言えば、元からHPの低い僕へのダメージは、大したことないんだよ!

だからこそサーヴァントという存在への切り札になる。
力の差がとてつもなくあるからこそ、このチップが逆転の芽を生む。

いかなライダーといえど、雷鳴の直撃を受けては動きが止まる。
大して慎二の受けるダメージは、絶対値として少ない。
そのうえ、彼はその身が雷鳴に焼かれることを覚悟してのダメージ。

その差が―― 一瞬の勝機を生む。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

慎二は咆哮する。
雷鳴が轟く世界の中で、手にした唯一無二の機会を取られるべく。
その手には剣がある。ウィンドウより装備した刀がその手には握られている――


823 : ライバル―慎二と能美、そしてライダー― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:39:46 FePx0o5g0






いつかどこかで、ライダーは能美に対してこんなやり取りをしていた。


「そんでアタシは海軍司令だったチャールズの野郎と顔つつき合わせて奴らの弱点を考えた訳だが、そん時の英国が主に使ってたガレオン船は小さくてね、機動力はあるが火力は心もとない。一方の敵軍は大型の帆船が主力。地図おっ広げてさぁこいつらをどうしようかって訳だ。機動力と火力、それぞれの強みをどう活かすかってのがこの戦のポイントだ」
「…………」

応えない能美に対して、ライダーは答えを言う。

「答えは簡単さ、船に火ィ点けて敵のど真ん中に突っ込ませた」

「この話の妙はね、機動力と火力の天秤をぶっ壊してるところにあるのさ。火のついたガレオン船はその一瞬だけ速さと火力、両方を得た。互いの長所短所をつつき合うなんて地味な真似はしてないってね。後のことを無視したがゆえに、その船は最強になった訳だ」

「どんなセオリーにせよ定石にせよ、原則なんざ後先考えず捨て身になっちまえばぶっ壊せちまうもんなのさ――」





824 : ライバル―慎二と能美、そしてライダー― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:40:07 FePx0o5g0



草原での一戦で、慎二がこの札を切れなかったことには、理由がある。
それこそが、ライダーを前に慎二が切らなかった、もう一つの武器。

――僕は今までライダーを取り戻すつもりだった。

そう、慎二の目標はあくまでライダーを奪い返すことにあった。
奪い返し、再び自分のサーヴァントとするため
そのため、使えない。
何故ならば――この札を切ったところでライダーのトドメを刺す訳にはいかないからだ。

――だけど!

慎二は走り出す。痛みに倒れそうになる意識を、ただ意地と矜持で支えながら。

「ライダァァァァァァ!」

――だけど、お前を前にして、そんな“手加減”だなんて、できる訳ないだろ!

だからこそ、彼はその身を焼かれながらも突進する。
ライダーを取り戻すのではなく、ライダーを越えるためにも――彼は剣を振るう。

慎二の最後の武器、それは――ライダーを奪還ではなく、消滅させるつもりで攻撃するということだ。

――だが、ライダーもまた英霊。

雷鳴に焼かれつつも、彼女もまた戦意は衰えていない。
ただ刃を甘んじて受け入れるほど、エル・ドラゴは堕ちていない。
だから――彼女は何時ものように颯爽と笑って銃を構えた。向かってくる慎二を――殺すべく。

――ああ、やっぱりお前は強いよ、ライダー。

ライダーの殺意を受け止めて、慎二もまた笑いたくなった。
その笑みは晴れやかで、それでいてどこか寂し気でもある。だが――どこまでも力強い。

――きっとお前は誰にも負けない、僕が呼んだ、最強のサーヴァントなんだ!

静止した時間の中、銃口と刀身が交差する。
純粋な殺意を向け合いながら、それでも彼らは――笑っていた。

ざくり、と肉を裂く音がした。
だん、と銃声が鳴り響いた。

そして、一人が崩れ落ちる。
一瞬の攻防を経て、戦いは決着したのだ。

……倒れたのはシンジだった。

勢いそのままに地面に転げおちていく。
ずさ、と土煙が舞っていた。


825 : ライバル―慎二と能美、そしてライダー― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:40:25 FePx0o5g0

「――全く、やめてほしいねぇ」

ライダーはそう嘆息する。
そして胸に突き刺さった剣を見た。

大きく開いた胸元からは鮮血が流れ出している。
こほっ、と口からも血を大きく吐いた。

倒れ伏した慎二は、その姿を満足げに見上げていた。

その剣の銘は――あの日の思い出、だ。

「知ってるだろう? シンジ。
 アタシは自分より弱い相手と戦うってのは、どうにも苦手だって」
「知ってる、さ。だから僕が――挑んだんだよ」

そう言って慎二は大きく笑う。
その笑みは何時もの彼らしくない、晴れやかで気持ちのいいものだ。
まるでそう――稀代の女海賊のような。

「全くねぇ、あの後先考えない特攻とか――まぁ太陽だって落ちるわ」

ライダーはやれやれと首を振った。
その身は既に泥に沈み込もうとしている。
元々減っていたHPに加えてリョウセイバイの一撃。
そこに駄目押しの一撃が入ったとなれば――HPが尽きるのも道理であった。

「じゃあすまんね、ノウミ。アタシはここまでだ。あとは自分で何とかしてくれ。ってアンタももう終わりか」

最後に彼女は己のマスターに向けてそう告げた。
見ればアーチャーに敗れ倒れる能美の姿があった。
彼はライダーに助けを乞うようなまなざしを向けるが、ライダーは首を振って、

「認めな。アンタは――敗けたんだんだよ、他でもない、このシンジにね」

そして最後に彼女は再び慎二を見た。

「さて。ともあれ、よい航海を――シンジ」

そう言い残して、ライダー、フランシス・ドレイクは消滅した。
最期の瞬間まで颯爽と、豪快に、かの大英雄はあり続けたのだ。

「ははは……やっと、か。」

ごろん、と慎二は横になる。
その視線の先にはどこまでも広がる夜空がある。
キレイだ。初めて彼はこの世界に対してそんな感想を抱いた。

「……ああ、でもクソ。やっぱり完全には――勝てなかったか」

だが彼はふと顔をゆがめ、己の身体を見た。
そこでは弾丸が貫通し、だくだくと血が流れていた。
HPゲージは――もう空っぽだった。


826 : ライバル―慎二と能美、そしてライダー― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:40:45 FePx0o5g0









僕はさ、ただ誰かに忘れられないで欲しかったんだよ。
たぶんそうだったんだと思う。ここに来る前はイマイチ自覚してなかったけど。

これだけは言っておきたいんだけどさ、僕は別に何かに不満があった訳じゃない。
没落貴族の親の下に生まれたことも、あの人たちが僕に愛情なんか感じてなかったことも、まぁ、別にそれもアリなんじゃない? とか思ってたさ。
僕、ドライな方が好きだしね。
べたべたと干渉される方が僕はきっと厭だった。

それに、あの人たちだって別に悪い人じゃあなかった。
勉強ばっかりさせられたけど、逆にいえば勉強の道具と機会は好きなだけ与えてくれた訳だしね。
ちゃんと成績を残せばゲームだって好きにさせてくれたし、幼い時からチェスも教えてくれた。

だからそれなりに期待もしてくれたんだと思うよ。
ま、だからいいんじゃない? 僕は自分が恵まれてなかったとか、悲しい境遇にあったとか、さらさら思ってないよ。

ただまぁ――意識はしてたね。
僕は創られた。
数字のために、没落した一族のために、高いお金をかけて創られた。
だからこそ、僕は優秀でなくてはならない。天才でなくてはならない。凡人など歯牙にも欠けてはならない。

大きな記録を打ち立てて、その性能を示さなくてはならない。

そうでなくては、きっと僕は生まれた意味がない。
仮に何の数字も残せなければ、ただの失敗作として忘れられてしまうだろう。
何もなせず、何もないまま、僕という存在は終わるんだよ。

まぁ、それはちょっと――寂しいかなって、思ったんだ。

泣いてくれ、なんて言わないから、忘れないでほしい。
ほら、僕、友達もいないからさ。







827 : ライバル―慎二と能美、そしてライダー― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:41:18 FePx0o5g0


「慎二……!」

倒れ、消滅しようとする慎二に対して、誰かが声をかけた。
だがもはや慎二はそれが誰なのかよく見えない。
闇に沈みゆく意識の中、視界は既に真っ暗に近かった。

「おい、死ぬなよ。まだ俺と対戦、してないだろ」
「うるさいなぁ……わかってるよ、そんなことくらい」

それでも声で分かる。誰がどんな顔してこちらを見ているかくらい、目が見えなくても分かるさ。
きっとコイツは――キリトは悲痛な面持ちでこっちを見ているんだろう。
サチとかアスナとか、そいつ等に対して浮かべてたような顔を、きっと、浮かべてくれているんだろう。

「ああ、僕だって悔しいさ! ライダーと能美に勝てて、これで満足だなんて思うかよ!
 僕はまだユウキみたいに――」

ユウキの顔が脳裏に過った。
ああ――きっとアイツのことだ。
死ぬ時も笑って死んだんだろうと思う。
ゲーマーとしての確信だ。あの最高のゲーマーが、それ以外の終わり方をするものか。

対して自分はどうだ。
因縁の相手に決着こそつけられたものの、土壇場で助からなかった。
これが元々意味のない勝負であったことなど分かっている。
あそこで能美を全員で攻撃すれば、ここで死ぬことはなかった。
誇りにこだわった結果だ。馬鹿みたいなプライドを優先した結果だ。

でも――ああするしかなかったんだ。

慎二はそう思う。能美と、そしてライダーに対しての気持ちは、ああすることでしか清算できなかった。
そのうえでの結末がこれなのは、単純に自分のプレイスキルが足らなかったからだ。

「クッソ、悔しいなぁ……まだキリトとも、揺光とも、岸波とも戦って――」

そこで、慎二はふと思った。
岸波は――どんな顔をしているのだろうか。
あの凡庸でつまらない友人は、これから死のうとする慎二に対して何を想っているのか。
慎二は耳を澄ませた。そして、彼は最後の疑問の答えを知った。

「――お前、泣いているのか」

返答はない。
けれども、慎二は知った。
彼が――自分の仮初の、そして唯一の友人が泣いていることを。

その事実が、何故だかとても、大きなことのように感じられた。

ああ、そうか――僕が欲しかったものは、こんなものだったのか。

「――厭だなぁ、本当に厭だよ。こんなの」

慎二は言葉を振り絞る。
最後の時は近い。そんなときになって、自分の願いを知るだなんて。

「僕は――忘れられるのが怖かったんだ」

聖杯やらネットの支配権やら、正直興味はない。
そんな自分が何故一度はゲームに乗ろうとしたのか。
それは単に記録を残したかったからで――でも、それは、泣いてくれる友人が一人いるという事実だけで、満たされる願いでもあったのか。

「だってそうだろ? 僕みたいなやつが、何のスコアも残せなかったら、きっと僕は忘れられるんだ。
 この世界に、僕がいたという跡を残すには、何が何でも忘れられないような何かを残すしか――」
「違いますよ。そんなことも分からないんですか? ゲームチャンプ(笑)さん」

慎二の言葉を遮ったのは――能美であった。
慎二と同じくHPを全損し、これから死のうとする彼は――慎二に対して告げる。

「忘れられる訳、ないじゃないですか」


828 : ライバル―慎二と能美、そしてライダー― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:41:46 FePx0o5g0







……おかしかったのは、僕なんです。

人は誰かのものを奪って、勝手に自分のものにしていくことが普通なんです。
だってそうじゃないですか? 
仮にそうでないのなら、争奪が間違ったことであるのならば、兄の存在が許されるはずもない。

何年も生きて、耐えて、成長して、ようやく僕はそのことに気付いたんです。
何も努力せず、何も見ようともせず、何も奪おうともせず、“しあわせ”を求めた。
それこそが真の怠慢であり、愚かさである、と。

そのことを教えてくれた兄のことは忘れませんよ。
奪われたものをすべて奪い返し、加速世界で四肢をもぎ胸を貫き、現実世界で居場所を奪い取ってやった今でも――忘れませんよ。
世界のルールを教えてくれたことには感謝を、争奪にはあらんかぎりの報復を!
すべてが終わった今でも忘れてはいません。

忘れません。
忘れられないんです。
だって、奪われた跡は、心にできた空白は今でも――






829 : ライバル―慎二と能美、そしてライダー― ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:42:09 FePx0o5g0

「人はね、そう簡単には忘れられないんですよ。
 殴られたこと、罵られたこと、奪われたこと、敗けたこと……」

能美は弱々しい声色で語る。
その声色からははひどく疲れが感じられる。同時に諦観もまた滲んでいた。

「僕にはわかりますよ――貴方はきっと、とてつもなく厭な奴だって。
 自分の優秀さを鼻にかけて、他人を踏みつけることも厭わない。自分だけが良ければいい……そう考えられる人間だって」

能美もまた死のうとしている。
そこに至って、一体彼は誰をおもい浮かべているのだろうか。
出会ったすべての人間を拒絶し、争奪の対象としか見られなかった彼にとっての、忘れられない誰かとは。

「だから断言しますよ――貴方はきっと忘れられない。
 とびっきりの厭な奴だって、絶対に後で報復してやるって、ハラワタを引き裂いてやるって、誰かに思われている。
 貴方が忘れた、貴方の知らない、貴方が踏みつけてきた誰かに、そう強く思われている、んですよ」
「…………」
「貴方のような恵まれた、自分の生き方に不満がないような人には、わからないかもしれませんけどね。
 ――奪われた者は、決して忘れはしないんだ!」

能美はそこで大きく声を荒げた。
ヒステリックに、悲痛に、震える声で叫びを上げる。
まるで、忘れられぬ誰かの幻影に取りつかれるように。

「貴方が忘れようとも、貴方が刻んだ傷は、きっとどこかで誰かをずっと苦しめるんだ。
 貴方のような奴がいるから、世界は、“しあわせ”を、奪い合うしか――」

そこで能美の声は途切れた。
きっと彼の存在がそこで終わったのだ。
最後の最後まで、簒奪こそが世界のルールであるという歪みから逃れることもなく、彼は去った。

「……ははっ、まぁ、そういうものかもね」

そしてもうすぐ、自分も同じ場所にいくだろう。
彼が遺していった言葉を胸に刻みながら、自分という存在は終わるのだ。

じゃあね岸波、キリト、揺光、ミーナ、それにダスク・テイカー。
精々このゲームをクリアしてくれよ。僕はもう上がるけど
まぁ――割と満足してるよ、この結末。


【間桐慎二@Fate/EXTRA Delete】
【ダスク・テイカ―(能美征二)@アクセル・ワールド Delete】

【ライダー(フランシス・ドレイク)@Fate/EXTRA Delete】




残存プレイヤー
13人


830 : ◆7ediZa7/Ag :2017/05/01(月) 23:43:07 FePx0o5g0
と、ここで一度投下終了です。
結末部分と状態表については、明日投下いたします。


831 : 名無しさん :2017/05/02(火) 06:32:53 ECHsjH8Y0
投下乙です!
このロワの初期から続いた二人の因縁がついに決着が付きましたね!
自分自身の誇りを胸に、奪われた相棒と戦って勝った慎二が本当に素敵でした!
だからこそ、最期にノウミにその姿を刻み込めたのでしょうね……


832 : ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:52:24 MjOfFHQQ0
遅れて申し訳ございません。
一日遅れになりましたが、結末部分を投下します。


833 : 最後の歌 ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:53:48 MjOfFHQQ0




おめでとう。

君たちは生き残った。
ここに至るまで道程には、多くの役割があり、選択があり、そして闘いがあった。
その愛しながらの戦いこそが、君たちの魂に確かな変革をもたらした。

悪であった者もいるだろう。
端役であった者もいるだろう。
あるいは何者でなかったものもいるかもしれない。

だが多くの結末を乗り越え、成長した君たちは確かな欠片となった。
残った僅かな余白を埋めるには、どれ一つとして欠けることはできないだろう。

その余白を埋めた末に、どんな絵が完成がするにせよ――

私はそれを祝福しよう。
おめでとう、これから君たちは完成/オワリへと向かう。


834 : 最後の歌 ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:54:24 MjOfFHQQ0


05_



……間桐慎二はそうして脱落した。

跡形もなく、一ビットのデータすら残らず、その存在は解体された。
彼がここにいたという痕跡は、もはや自分たちの記憶の中にしかない。

「奏者よ」

傍らを行くセイバーに話しかけられた
ゆっくりと顔を上げると、彼女は何時もより声のトーンを落として、

「友人が死んだのだ、泣くなとは言わぬ。
 余が、許す。もう一度、友のために涙してやるといい」

――ああ、それは再演だったかもしれない。

思い返すのは聖杯戦争1回戦だ。
まだ岸波白野(じぶん)というものすらあやふやだったあの頃、
何もわからないまま、初めて人を殺した。
それを、このセイバーは慰めてくれた。そして言ったのだ。

――余は少しだけ、そなたのことが好きになった感じだ。

自らの目元に触れる。涙が溢れていた。
あの時は、まだ理解してなかった。この涙が、果たして本物であるのかを。

間桐慎二。
彼はこの自分にとって、初めての友人だった。
たとえそれが仮初の役割に過ぎなかったとしても、そこに刻まれた想いは決して偽りではなかった。

だから――今度こそ言える。
この涙は確かに本物だと。
自分はいま、慎二が死んで、悲しいのだと。

「人は変われば変わるもの。
 あのお方、今度の死は決してみじめなものではありませんでした。
 それが、救いになるのかはわかりませんが……」

サーヴァント、キャスターもまたそう口にする。
かつては慎二に辛辣だった彼女にも、突き放すような様子はなかった。

――そう、間桐慎二の死を自分は二度体験している。

いや、慎二だけではない。
凛も、ラ二も、ダン卿も、ありすも、ランルーくんも――その死を自分は“識って”いる。
だからこの場面は二度目だ。彼らの死に直面するのは。

だが、その結末/オワリは決して同じではなかった。

自らの夢に確かな答えを見出したありす。
岸波白野への糾弾と終わりへの慟哭を叫んだラ二。
憑きものが落ちたかのように笑って死んでいった慎二。

……彼らの死を再びこの胸に刻もう。
そのすべてを背負うだなんて、大きなことは言えないけれど。
せめて――ここにいる自分は生きなくてはならない。


835 : 最後の歌 ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:54:56 MjOfFHQQ0

「良い顔だ、マスター。
 君も、そして私も、まだここで止まるわけにはいかない」

三番目の声を聞いて、顔を上げた。

>・おかえり、アーチャー。

涙に目を濡らしながらも、せいいっぱい明るくそう口にする。
別れてから半日――彼とこうして生きて再会できたことは、絶対に喜ぶべきことだ。

「ああ。ただいま、マスター」

帰ってきた紅衣のアーチャーもそう言って静かに微笑んだ。

「無銘さんも、本当よく帰ってこれましたねぇ。
 ええと、三年と半年ぶり? くらいでしょうか。
 そうこうしている間にソーシャルなアレとか、シリーズ新作とか、いろいろ出ちゃうくらいの年月です」
「全く、君の胡乱な言葉も久々だな、キャスター」
「そこのキャス狐はギャグキャラゆえあまり真面目に言葉を考えてはいかぬぞ、アーチャー。
 ともあれ戻ってきたことはめでたい。余と奏者の引き立て役として、再び活躍してくれると嬉しい。
 余と奏者の! 余と奏者の! 余・と・奏・者・の!」

薄く笑みを浮かべるキャスターに、ため息を吐くアーチャー、そしてえっへんと意味もなく胸を張るセイバー。

ああ――本当、久々だ。

アーチャーが帰ってきて、本当に安心している自分がいる。
喪ったものは大きいけれど、この再会は本当に尊ぶべきことのように思う。

「俺も……また会えてよかったよ、アーチャー」

隣からアーチャーに呼びかける声がした。
黒衣の剣士、キリトだ。彼、慎二とアーチャーでしばらく行動をしていた時期があったらしい。
だからこそ、ダスク・テイカーの接近と野球チームとの合流というミッションに、迷わず参加したのだろう。

「ああ、君の方もよく生き残っていた、キリト。
 慎二も――君のことは心配していた」
「……ああ本当、お互いに、な」

そう言って彼は顔を俯かせる。そして小さく「慎二」と名を漏らした。
きっと彼にもあったはずだ。慎二に対して言いたかったことや、話したかったことが。
それがもはや叶わないとはいえ――

「ええと、キリトさんに、岸波さん。
 学園はこの先でいいんでしょうか?」

不意に声を上げたのはミーナという女性だ。
彼女と揺光というプレイヤーが、アメリカエリアでデウエスと戦っていたパーティの生き残りらしかった。
今、自分たちは彼女らと共に月海原学園に向かっている。
ネオやガッツマン、モーフィアスといったプレイヤーは道中で既に、命を落としたのだという。

「ああ、今生き残ってるプレイヤーの大半はこの先の月海原学園にいる。
 そこのレオっていう奴が中心になってGMへの反抗策を練っているところだ」
「ハセヲも、そこにいるんだね」
「それにジローさんも」

揺光やミーナの言葉にキリトは頷く。
来る再会を知り、彼女たちの目にも安堵の色が見えた。
その姿には、確かな希望が感じられる。

多くの犠牲が出た。
だが、生き残っている者たちはみな決して諦めてなどいない。
その事実を希望の灯りとしながら、彼らは仲間の待つ学園へと帰ってきた。

だが――そこに待っていたのは、

「っ! アンタらか。
 急いで校舎に戻ってくれ。いまガウェインとハセヲが抑えているが、いつまで持つかわからねえ」

必死に叫びを上げる緑衣のアーチャーと、爆炎を上げるグラウンドだった

「あの死神がやってきやがったんだよ!」


836 : 最後の歌 ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:55:20 MjOfFHQQ0








ダスク・テイカーの迎撃と野球チームとの合流。
そちらにある程度の戦力を振りつつも、学園の防衛に多くの戦力を割かなければならない。
何故ならまだ残っているからだ。巨大な脅威と、死神が。

モラトリアムは既に終わった。
あとは自分たちの手で――この身を守らなければならない。

「ハセヲさん! 前に出過ぎないでください。
 そして憑神もまだここでは発動してはいけません!」
「じゃあどうするんだよ! あの死神相手に」

――月海原学園、グラウンド。

死神はそこに降り立っていた。
憎悪を灯した眼光とその身に携えた凶刃。そして何物も拒絶する圧倒的なオーラ。

フォルテ。

現在、残っているプレイヤーの中で、単純なステータスならば彼を上回るものはいないだろう。

「――人間共が、こんな巣を作っていたとはな」

フォルテは漆黒の翼を広げ、レオやハセヲを見下ろす形で鎮座している。
そしておもむろに己の腕を見て、

「そしてこの力――いくらでも溢れてくるこの感覚も、悪くない。
 あの男の力を借りるまでもなく、全員デリートしてやろう」
「待て、あの男だと!?」

フォルテの言葉を捉えたハセヲが声を荒げる。
だがフォルテは意にも介さず「フン」と幾多もの光線――バスターを乱打してきた。

「ガウェイン」
「分かっています、レオ」

前に立つ騎士、ガウェインがレオを守る。
その力をレオは誰よりも信頼しているが、だが既に陽は堕ちている。
そしてフォルテは現在解析しているところでは、明らかに以前の報告よりも強大なパワーを獲得している。
ここで正面衝突は――避けなくてはならない。

『おい、レオ。キリトたちが帰ってきたぜ。
 アメリカエリアの生き残り連中も一緒にいる』

不意に通信が入ってくる。
緑衣のアーチャーだ。彼はレオが用意したコードキャストを経由して、遠方より通信を行っているのだ。
そうして得られた報告にレオは口元を上げる。

合流できた――ギリギリのタイミングだが、これで何とかなるはずだ。

「分かりました、アーチャーさん。
 貴方は彼らを生徒会室まで誘導してください」
『誘導って、そっちはどうするんだよ! その戦力じゃ絶対足りねえだろ』
「大丈夫です。こちらには策があります。
 だから――今残っているプレイヤーを生徒会室に集めます」

レオはハセヲにも届くようにそう声を上げた。
そう、策はある。
このためにずっと用意をしてきた――渾身の策が。

「ハセヲさん! 聞こえましたか?」
「……ああ、他の連中が生徒会室に集まるまで時間を稼げってことだろ」

ハセヲは振り返らずに言った。
どんな策は聞き返さない――その事実にレオは感謝する。
彼は信頼してくれているのだ。レオという存在を、《王》としてではなく、一人の仲間として。
ならばそれに応えなくてはならないだろう。


837 : 最後の歌 ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:55:47 MjOfFHQQ0

グラウンドに残っているのは今、レオとハセヲのみ。
黒雪姫やダンジョン攻略組は既に生徒会室へと退避してもらっている。
そこにキリトたちも合流するだろう。

――それでいい。

レオは頷き、やってきたハセヲと再度隣に並んだ。

「他のメンバーは既に生徒会室へ向かっています。
 彼らの集合が確認され次第、僕らも撤退します。
 すいませんハセヲさん――最も危険な役割をお願いしてしまって」
「構わねえよ、俺はもう、誰も喪うつもりはねえ。
 レオ、お前もだ」

その言葉を頼もしく思いながら、彼らはフォルテと向き合う。
かのフォルテはこちらを侮蔑するような視線を向けている。
和解の可能性は、一切見えなかった。

「――何か作戦でも立てているようだが、無意味だ」

フォルテはそう無自覚行ったのち――その姿を消した。

「――スタイルチェンジを果たした俺に、もはや敵はいない!」
「くっ、この力……!」

――そして次の瞬間には、地上へと姿を現した死神が、ガウェインに襲いかかっていた。

そのスピードはまさに神速の域。
フォルテはガウェインの剣と押し合いながら、凶悪な笑みを浮かべた。

「おらぁっ!」

そこをハセヲが強襲する。
力強く放たれた大鎌を――フォルテはその拳で受け止めた。

「なにっ!?」
「ほう、その鎌。今は貴様が持っているのか」

フォルテは右の拳でハセヲを、左の拳でガウェインを抑えている。
彼はその腰に差した直刀を抜いてすらいない。片手で二人を押さえながら、なおも余裕を見せるかのように、

「こんなものか」

両の腕から巨大な光弾を放った。
途端、ハセヲとガウェインの身体が弾かれる。
圧倒的な暴力の前に、あの二人でさえ耐えきることができなかったのだ。

「たわいないな、人間。お前たちの“絆”などこの程度だ」

フォルテはそう言ってレオを嘲笑する。
こちらの最強戦力すら片手であしらうその姿は――まさしく最強と呼ぶにふさわしい。

「……貴方のデータ、拝見させていただきましたよ。フォルテ」

それを前にして、レオはあくまで毅然とした態度で彼と向かい合う。
同時に視界の隅でウィンドウを確認していた。『生徒会室に全員集まった』短くも決定的な文言がそこにはあった。

「人間を必要としない完全自立型ネットナビ。
 そして貴方を創造したドクター・コサックのことも」

その名を聞いた瞬間、フォルテの眼光に感情の色が灯った。
それはこれ以上なく濃密な――憎悪だった。

「僕にはわかりません。おそらく貴方は既に当初与えられた役割から逸脱している。
 そんなことがAIにどうして可能だったのか。そのことが僕には理解できないでいる」
「黙れ」
「だが――同時に思います。貴方の存在は、悪質なバグか、あるいは奇跡に等しい何かであると」
「黙れと言っている!」

フォルテは叫びを上げ、その腕にチャージを開始する。
アースブレイカー。その圧倒的な攻撃を受ければ、レオの身体は一瞬で消え失せるだろう。
しかしそのチャージが終わるまでの一瞬で、レオはコマンドを入力していた。


838 : 最後の歌 ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:56:26 MjOfFHQQ0

「ICEウォールを多重展開、意識体をホールド、コードキャストを追加発動」

――フォルテを取り囲むように幾多モノの壁が展開されていた。

「なにっ!?」
「僕がこの学園に何時間いたと思いますか?」

10の33乗の多重防壁を展開したレオは、静かに語りかける。

「ゲーム開始時点からここまで、僕はずっとこの学園にいて、生徒会長をやっていました。
 ほぼ一日ずっとです。
 それだけの時間があれば――この学園のデータはもう僕のものです」

そう言って彼はニッコリと微笑む。
元から見知っていたデータに、潤沢な装備と準備時間。
これだけあれば、新たなコードキャストやトラップを仕掛けておくことなど、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイにしてみれば児戯に等しい。

「な、めるな!」
「多重ICEの迷路です。これだけの数の防壁では、どうしてもハッキングに時間がかかる」

そう言って動けなくなったフォルテに対してレオは背を向ける。
途中、倒れていたハセヲに声をかけた。

「ハセヲさん! 僕たちも急ぎますよ」
「おい、レオ。あれは」
「ただの時間稼ぎです。あれで倒せる見込みは正直ありません」

フォルテのデータは今、明らかに変質している。
そしてその変質の原因は恐らくAIDAだ。
あの異様なプログラムは、こうしている今でも猛然とICEをハッキングし、食い散らかしている。

「ただ僕らが生徒会室にたどり着くくらいの時間稼ぎには、きっとなります」
「……分かった。とにかく行けばいいんだろう?」
「ええ! 行きましょう、ガウェインも」
「御意」

言いながらレオとハセヲは駆け出す。
グラウンドから校舎内へと入り、階段を必死に上っていく。
モラトリアムが終わり、NPCの姿は一気に減っている。がらんどうの校舎に、靴音が大きく響いた

「――ここです。ハセヲさん」

そうしてやってきたのは、生徒会室だ。
何故か生徒会長という言葉に執着したレオがどうも“こだわり”を込めて“無駄”なく作ったらしい一室。
なんでもメンテナンスによる修正を誤魔化すために、わざわざチェックを誤魔化すような造りになっているという。

「一ついいですか? ハセヲさん」

その扉に手をかけつつ、レオは振り返って言った。

「もうこの先にいけば戻ってこれないかもしれませんよ?
 アイテムやサブイベントは大丈夫ですか?」

言われたハセヲは一瞬きょとんとしたが、すぐに笑って、

「こっからはセーブポイントもねえってか。
 ――知ってるぜ、そんなこと」

その答えに満足したようにレオは頷き、そして扉を開いた。

「では行きましょう――このゲームの“裏”側へ」







839 : 最後の歌 ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:56:54 MjOfFHQQ0


フォルテが多重ICEウォールを突破するまでに要した時間は五分程度だった。
救世主の力やAIDAといった数々のプログラムをその身に宿した彼にしてみれば、通常ならば絶対脱出不可能な電脳の迷路さえ、時間稼ぎにしかならない。

「――なめるな、人間共」

そうして抜け出したフォルテは猛然とレオたちの後を追った。
校舎内へと入り込んだ彼は、手あたり次第目につくものすべてを破壊していく。
下駄箱も、教室の机も、黒板も、図書館の本も、この学園に存在したあらゆるデータが燃え盛り、消えていく。

――多くのプレイヤーが過ごし、生きてきた学園はいまここに崩壊しようとしていた。

学園を守っていた猶予時間/モラトリアムが収束した今、
フォルテという強大な災厄によって、そのすべてが消えていく。

それがこの月海原学園が迎える、結末であった。

――だが。

「どこだ」

煙を上げ炎上する校舎を見下ろしながら、フォルテは叫びを上げた。
目につくものすべてを燃やした。崩れゆく校舎は、もはや跡形もない。

「どこにいる! 人間!」

だが、そこには誰もいない。
レオやハセヲたち生徒会も、黒雪姫ら騎士団も、キリトたち野球チームも、ここに集っていたはずのプレイヤーは、忽然と姿を消していた。

――学園の外に、ついに彼は出たのだった。



[B-3/月海原学園・跡地/一日目・夜中]

【フォルテAS・レボリューション@ロックマンエグゼ3(?)】
[ステータス]:HP???%、MP???%(HP及びMP閲覧不可)、PP100%、激しい憤怒、救世主の力獲得、[AIDA]<????>及び碑文を取り込んだ
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、{ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA、魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:{ダッシュコンドル、フルカスタム}@ロックマンエグゼ3、完治の水×3、黄泉返りの薬@.hack//G.U×2、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、第?相の碑文@.hack//、{マガジン×4、ロープ}@現実、不明支給品0〜4個(内0〜2個が武器以外)、参加者名簿、基本支給品一式×2
[ポイント]:1120ポイント/7kill(+2)
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
1:すべてをデリートする」。
2:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
3:シルバー・クロウの使ったアビリティ(心意技)に強い興味。
4:キリトに対する強い怒り。
5:ゲームに勝ち残り、最後にはオーヴァンやロックマン達を破壊する。
6;蒼炎のカイトのデータドレインを奪い取る。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※参加者名簿を手に入れたのでロックマンがこの世界にいることを知りました。
※フォルテのオーラは、何らかの方法で解除された場合、30分後に再発生します。
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※参加者名簿を手に入れたのでロックマンがこの世界にいることを知りました。
※フォルテのオーラは、何らかの方法で解除された場合、30分後に再発生します。
※ゲットアビリティプログラムにより、以下のアビリティを獲得しました。
 剣士(ブレイドユーザー)のジョブ設定及び『翼』による飛行能力(バルムンク)、
 『成長』または『進化の可能性』(レン)、デュエルアバターの能力(アッシュ・ローラー)、
 “ソード”と“シールド”(ブルース)、超感覚及び未来予測(ピンク)、
 各種モンスターの経験値、バトルチップ【ダークネスオーラ】、アリーナでのモンスターのアビリティ
 ガッツパンチ(ガッツマン) 、救世主の力(ネオ)、AIDA<????>、第?相の碑文
※バトルチップ【ダークネスオーラ】を吸収したことで、フォルテのオーラがダークネスオーラに強化されました。
※未来予測は使用し過ぎると、その情報処理によりラグが発生し、頭痛(ノイズ)などの負荷が発生します。
※ネオの持つ救世主の力を奪い、その状態でAIDA<????>及び第?相の碑文を取り込んだ為、フォルテASへの変革を起こしました。
※碑文はまだ覚醒していません。


840 : 最後の歌 ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:57:11 MjOfFHQQ0


06_




「このゲームにおいて、すべての空間がきちんと繋がっている訳ではありません」

――どこかに存在する“生徒会室”において、レオは語りだした。

生徒会長たる彼の目の前には、多くの仲間たちがいる。

副会長の黒雪姫に、初期のユイ、会計のキリトにカイト。
庶務として迎えた白野の周りには、再び終結した三騎のサーヴァントがいる。
その隣ではブラックローズと緑衣のアーチャーが何やら軽口を叩いている。
そして新顔たる揺光や武内ミーナも、よく生き残ってくれたと思う。
それにもちろん――生徒会古参のジローやハセヲもいる。

ここに集ったのは11人のプレイヤーは――みなデスゲームを生き抜いてきた。

「少なくともマップに表示されている場所やアリーナのような独立性の高いエリアは、独立した空間として設計されている。
 そしてその“継ぎ目”は普段プレイヤーである僕たちは意識することはありませんが、確かに存在するのです」

その言葉を聞いて反応したのはミーナだった。
彼女は何かを思い出すように、

「……そういえば、ゲーム序盤で私は、奇妙な経験をしました」

ミーナが遭遇した“バグ”。
アメリカエリアにて施設に入った彼女は、エリアの“継ぎ目”の不具合に遭遇した。
その結果として、彼女は別のGM用のエリア――認知外領域を垣間見ている。

「おそらくそれも、その設計が原因です。
 この世界はツギハギでできています――だから僕はこの部屋を作り上げました」

レオはそう言って微笑んだ。
メンテナンスによって生徒会室が作れないと聞かされたときから、彼の頭の中にはこのプランがあった。

“このバトルロワイアルの会場は、ゲーム開始から六時間ごとにメンテナンスを受ける。
 そしてその際、この会場のマップデータも全てチェックされ、その際に発見されたエラーが修正されるのだ”

かつてNPC、一成が口にしたこのゲームのルール。
マップデータがチェックされ、それが本来の仕様と異なっている場合は、メンテナンスによって修正をかける。
それ故に、生徒会室を作ることは不可能という話だった。

しかし、本当にそうだろうか。
疑問に思ったレオはこのゲームにおけるメンテナンスの仕様を解析した結果、
それは“マップデータが受けたダメージ・改変のログをチェックし、そのすべてをなかったことにする”というものであった。
ここでレオは気づいた。メンテナンスが行っているのは、マップ全体の精査ではなく、既存のデータが改変されたか否か、という部分だけなのだ。

つまり――新たな空間を創ってしまえば、メンテナンスをかいくぐることができる。
そもそも最初の時点で存在しなかったエリアは、メンテナンスのチェックの範囲外となるのだ。

「じゃあ、この部屋の広さが中と外で違ったのも」

そう説明すると、ジローが目を丸くしながら言った。
彼はこの生徒会室を初めて見せた人間だ。その時、当然そのことに疑問を抱いていたようだった。

「ええ、あれは本当に違う場所だったからなんです」

レオは学園のデータの中に新たな部屋を作成し、既存の教室の入り口に“ワープゲート”をこしらえた。
これは既存の施設のデータを改ざんしたものではなく、新規に作ったものだ。
そのため、メンテナンスの影響を受けなかった。

「ええと、つまりじゃあこの生徒会室は」
「はい。ここはもう――ゲームの“裏”側です。僕たちはもうデスゲームを抜け出したんです」

おずおずという風に声を上げた揺光に、レオは頷いた。

「そして、もう一つ告げなくてはならないことがあります。
 このゲームの――本当のルールについて」

そしてレオは、一つの“真実”を語り出した。

「このゲームは元々、殺し合うためのものじゃなかったんです」

と。


841 : 最後の歌 ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:57:32 MjOfFHQQ0








「僕たちは最初、榊に集められた時にこう言われました。
 『諸君らにはこれから殺し合いをしてもらう』。その言葉によって、僕らはこのVRバトルロワイアルというゲームは、PvPのためのゲームだと思い込まされてきた」
「それが違うのってか?」

キリトが身を乗り出して聞いた。
彼はレオの言葉の意味を測りかねているようだった。

「もちろん、プレイヤーが強制的に殺し合うようなルールが敷かれていたことは事実です。
 だからこそ僕らは戦い合い、時には犠牲を出すことになった」

その言葉にそこにいるすべての者が沈黙する。
このデスゲームで命を散らせた者。彼らの死を乗り越えて、この11人はここに辿り着いた。

「ですが、僕は気づきました。
 このゲームの本質は“殺し合い”にはなかったんです。
 巧妙にカモフラージュされていましたが、いくら殺し合ったところで僕らはゲームクリアには辿り着けない。
 僕がそれを確信したのは、あのダンジョンがあったからです」

レオはそうして視線を部屋の奥に向けた。
生徒会室の奥――そこには一つ大きな白い扉がある。
桃色の燐光を帯びたその扉は月海原学園に存在したあのダンジョンへと繋がっている。
“継ぎ目”を創ったときの応用だ。あそこをくぐれば、再びダンジョン探索ができるだろう。

「僕があのダンジョンを見つけた時、こう言われました」

『……エネミーとの戦闘が主となるこのアリーナは使用されないことが決定し、破棄されたはずなんですよ。
 それなのに、なんで残ってるのかなぁ……?』

あのNPC、有稲幾夜は心底不思議そうにそう語った。
使われなかったエリアが何故残っているのか、進入禁止エリアにプレイヤーが入ったにも関わらず何故デリートされないのか。
配置されたNPCである彼女でさえ理解できなかった。

「でもね、事実は逆だったんです――あのダンジョンこそが、このゲームの本質だったんです。
 何故あのエリアが残っていて、隠されてこそいたが、プレイヤーがアクセス可能になっていたのか。
 その答えはそう考えるとしっくりくるんです」

レオはそこで微笑んで、

「VRバトルロワイアルは――PvPのデスゲーム、ではなく、ダンジョン探索ゲーム、だったんです」

そう告げた。

「ダ、ダンジョン!?」

ブラックローズが声を上げた。
彼女は先ほどあのダンジョンを攻略している。
あのダンジョンの意味合いを知り、驚愕しているのだろう。

「このバトルロワイアルの基幹システムがThe World――モルガナです。
 恐らくそのためにどうしてもこういった形を取らざるを得なかったんでしょう。
 それがモルガナの“役割”であったから、どうしてもクリア可能なダンジョンを設置せざるを得なかった」

かつてThe Worldに放たれた八相がどうしてもゲームとして戦闘を行う必要があったように、
あるいはこのゲームにも現れたデウエスが、野球という手順を踏む必要があったのように、
“神”に近いがゆえに、彼女らは“ゲームをゲームとして成立させる”縛りを受けるのだ。


842 : 最後の歌 ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:58:00 MjOfFHQQ0

「つまりじゃあ、これからは――あのダンジョンを攻略していけば、活路が見えるってことなのか?」
「はい――断言します。
 クリア可能なダンジョンとして配置された以上、プレイヤーが踏破すれば、GM側は絶対にアクションを取らざるを得ない。
 だから、入り口を見つからないように隠していたんでしょう」

レオが頷くと、キリトもまた強く頷き返した。
その瞳には――確かな希望があった。

「最も、あのダンジョンをクリアしたあと、どうなるのかはまだ僕にもわかりません。 
 それに時間制限もあります。ウイルスメールの件も、この生徒会室エリアがGMに補足されていないうちは大丈夫だと思いますが、逆にいえば、一度見つかってしまえばどうしようもない。
 こちらもフルでジャミングとハッキングをかけていいますが――そうタイムリミットは長くありません」
「これから数時間で、あのダンジョンをすべてクリアすることが目標、という訳だな。この生徒会のパーティで」

副会長、黒雪姫はそう決然と言う。
旧友たるスカーレット・レインの跡を継いだ彼女の瞳に迷いはない。

「アアアアア……」
「ゲートのハッキングなどが必要なら大丈夫だ、と言っています」

カイトの言葉を聞いた、ユイもまた勢いよく言った。
彼らの解析能力は、これからの戦いにおいて鍵になるだろう。

「へ俺たちはGMの作った本当のルールにやっと気づいたって訳だ」

そして――ハセヲは一歩前に出た。
彼はレオとまっすぐに相対する。
そしてここに集ったすべてのプレイヤーに向けて力強く言い放った。

「――反撃、開始だ」




[?-?/生徒会室エリア/一日目・夜中]


【チーム:黒薔薇の対主催騎士団】
[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:ブラック・ロータス
書記 :ユイ
会計 :蒼炎のカイト、キリト
庶務 :岸波白野
雑用係:ハセヲ、ジロー、ブラックローズ、揺光、ミーナ

[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:理想の生徒会の結成。
2:ウイルスに対抗するためのプログラムの構築。
3:GMへのジャミングが効いているうちにダンジョンを攻略
[現状の課題]
0:ダンジョンを攻略しながら学園を警備する。
1:ウイルスの対策
2:危険人物及びクビアへの対策
[生徒会全体の備考]
※番匠屋淳ファイルの内容を確認して『The World(R:1)』で起こった出来事を把握しました。
※レオ特製生徒会室には主催者の監視を阻害するプログラムが張られていますが、効果のほどは不明です。
※セグメントの詳細を知りましたが、現状では女神アウラが復活する可能性は低いと考えています。
※PCボディにウイルスは仕掛けられておらず、メールによって送られてくる可能性が高いと考えています。
※エージェント・スミスはオーヴァンによって排除されたと考えています。
※次の人物を、生徒会メンバー全員が危険人物であると判断しました。
オーヴァン、フォルテ
※セグメントを一つにして女神アウラを復活させても、それはクビアの力になるだけかもしれないと仮説を立てました。
※プレイヤー同士の戦いによってデスゲーム崩壊の仮説を立てましたが、現状では確信と思っていません。

※生徒会室は独立した“新エリア”です。そのため、メンテナンスを受けても削除されませんが、GMに補足された場合はその限りではありません。
※生徒会室にはダンジョンへのゲートが新設されています。
※VRバトルロワイアルは“ダンジョン探索ゲーム”です。それを基幹システムとしては、PvPのバトルロワイアルという“イベント”が発生している状況です。
※そのためダンジョン攻略をGM側は妨げることができません。
※ダンジョンをクリアした際、何かしらのアクションが起こるだろうと推測しています。


843 : 最後の歌 ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:58:39 MjOfFHQQ0


【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP45%、令呪:三画
[装備]:なし
[アイテム]:{桜の特製弁当、番匠屋淳ファイル(vol.1〜Vol.4)@.hackG.U.、{セグメント1-2}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:200ポイント/2kill [思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
0:ハセヲやジローと共にバトルフィールドを破壊する為の調査をする。
1:ゲームをクリアする。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP70%(+50%)、MP100%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※ガウェインはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。


【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%、SP75%、(PP100%)、3rdフォーム
[装備]:{光式・忍冬、死ヲ刻ム影、蒸気バイク・狗王}@.hack//G.U.
[蒸気バイク]
パーツ:機関 110式、装甲 100型、気筒 100型、動輪 110式
性能:最高速度+2、加速度+1、安定性+0(-1)、燃費+1、グリップ+3、特殊能力:なし
[アイテム]:基本支給品一式、{雷鼠の紋飾り、イーヒーヒー}@.hack//、大鎌・首削@.hack//G.U.、フレイム・コーラー@アクセル・ワールド、{FN・ファイブセブン(弾数10/20)、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン、式のナイフ@Fate/EXTRA、ダガー(ALO)@ソードアート・オンライン、???@???、{H&K MP5K、ルガー P08}@マトリックスシリーズ、ジョブ・エクステンド(GGO)@VRロワ
[ポイント]:0ポイント/2kill
[思考]
基本:
1:ゲームをクリアする。
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前です。
※設定画面【使用アバターの変更】の【楚良】のプロテクトは解除されました。



【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP70%(+150)、データ欠損(小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、{男子学生服、赤の紋章}@Fate/EXTRA
[アイテム]:{女子学生服、桜の特製弁当、コフタカバーブ、トリガーコード(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ)}、コードキャスト[_search]}@Fate/EXTRA、{薄明の書、クソみたいな世界}@.hack//、{誘惑スル薔薇ノ滴、途切レヌ螺旋ノ縁、DG-0(一丁のみ)、万能ソーダ、吊り男のタロット×3、剣士の封印×3、導きの羽×1、機関170式}@.hack//G.U.、図書室で借りた本 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、不明支給品0〜5、基本支給品一式×4、ドロップアイテム×2(詳細不明)
[ポイント]:0ポイント/2kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:このゲームをクリアする
2:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
3:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
4:危険人物を警戒する。
5:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前) 、アーチャー(無銘)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ar)]:HP20%、魔力消費(大)
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時(増加分なし)でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一騎だと10分、三騎だと3分程度です。
※エージェント・スミスに上書きされかかった影響により、データの欠損が進行しました。
またその欠損個所にデータの一部が入り込み、修復不可能となっています(そのデータから浸食されることはありません)。


844 : 最後の歌 ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:58:58 MjOfFHQQ0


【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP60/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/通常アバター、サチ/ヘレンに対する複雑な想い、オーヴァンやフォルテへの憎しみ
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、第二相の碑文@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
1:ゲームをクリアする。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:ヒースクリフや、危険人物を警戒する。
6:私にも、碑文は使えるだろうか……。
7:サチ/ヘレンさんの行いは許せないけど、憎まない。
8:オーヴァンやフォルテのことは絶対に許さない。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=Ⅷであるかもしれないことを知りました。
※サチ/ヘレンとキリトの間に起こったことを知りましたが、それを憎むつもりはありません。



【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP80%、SP80%、PP100%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:534ポイント/1kill
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:ゲームをクリアする。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
3:エクステンド・スキルの事が気にかかる。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。
※エージェント・スミスをデータドレインしたことにより、『救世主の力の欠片』を獲得しました。
それにより、何かしらの影響(機能拡張)が生じています。


【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP60%
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.、カズが所持していた杖(詳細不明)
[ポイント]:420ポイント/0kill
[アイテム]:基本支給品一式、{逃煙連球}@.hack//G.U.、エリアワード『絶望の』、ナビチップ「セレナード」@ロックマンエグゼ3、ハイポーション×3@ソードアート・オンライン、恋愛映画のデータ@パワプロクンポケット12、ワイドソード@ロックマンエグゼ3、noitnetni.cyl_3
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:ゲームをクリアする。
※時期は原作終了後、ミア復活イベントを終了しているかは不明。

【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、リアルアバター
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、ピースメーカー@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:ゲームをクリアする。
2:ユイちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の言葉が気になる…………。
4:レンのことを忘れない。
5:みんなの為にも絶対に生きる。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。
※言峰神父からサービスを受けられますが、具体的な内容は後続の書き手さんに任せます。


845 : 最後の歌 ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:59:17 MjOfFHQQ0

【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP65%、MP90%(+50)、疲労(大、SAOアバター
[装備]:{虚空ノ幻、虚空ノ影、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、{ダークリパルサー、ユウキの剣、死銃の刺剣}@ソードアート・オンライン
[アイテム]:折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンライン、黄泉返りの薬×1@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、不明支給品0〜1個(水系武器なし) 、プリズム@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考・状況]
基本:みんなの為にも戦い、そしてデスゲームを止める。
0:今は黒雪姫やアーチャーと共にドッペルゲンガーを倒す。
1:ユイのことを……絶対に守る。
2:ハセヲやロータスと共にオーヴァンと戦う。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。


【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP70%/デュエルアバター 、令呪一画
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3、{エリアワード『絶望の』}@.hack//、{インビンシブル(大破)、サフラン・ハート、サフラン・ヘルム、サフラン・ガントレット、サフラン・アーマー、サフラン・ブーツ}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、死のタロット@.hack//G.U.、ヴォーパルの剣@Fate/EXTRA、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
1:ゲームをクリアする。
2:ハルユキ君やニコの仇を取る為にも、キリト君やハセヲ君と共にオーヴァンを打倒する。
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:ダメージ(中)、魔力消費(中)
[備考]
※時期は少なくとも9巻より後。


846 : 最後の歌 ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 19:59:31 MjOfFHQQ0

【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、強い決意、Xthフォーム
[装備]:最後の裏切り@.hack//、エリュシデータ@ソードアートオンライン、PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン、ゲイル・スラスター@アクセル・ワールド
[アイテム]:不明支給品0〜2、平癒の水@.hack//G.U.×1、癒しの水@.hack//G.U.×3、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3(一定時間使用不能) 、基本支給品一式×3、、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド、ネオの不明支給品1個(武器ではない)、12.7mm弾×100@現実、エリアワード『選ばれし』
[ポイント]:900ポイント/0kill
[思考]
基本:この殺し合いを止める為に戦い、絶対に生きて脱出する。
1:ハセヲ達を助ける為に前を走る。
2:いつか紅魔宮の宮皇として、シンジと全力で戦って勝利する。
3:ノウミの奴は絶対に許さない。
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。
※バーサーカーの真名を看破しました。
※ネオの願いと救世主の力によってXthフォームにジョブエクステンドしました。
※Xthフォームの能力は.hack//Linkに準拠します。
※救世主の力を自在に扱えるかどうかは不明です。


【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP60%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1(本人確認済み)、リカバリー30@ロックマンエグゼ3(一定時間使用不能)、拡声器
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する 。
1:ゲームをクリアする。
2:生きて帰り、全ての人々に人類の罪を伝える。
3:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
4:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)、ローブを纏った男(フォルテ)を警戒。
5:ダークマンは一体?
6:シンジさんの活躍をいつか記事にして残したい。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。
※現実世界の姿になりました。
※ダークマンに何らかのプログラムを埋め込まれたかもしれないと考えています。


847 : ◆7ediZa7/Ag :2017/05/03(水) 20:00:09 MjOfFHQQ0
投下終了です。
何かご意見・修正点等あればご指摘ください。


848 : 名無しさん :2017/05/03(水) 20:32:17 WRk6Z76wO
投下乙です

メインストーリーのダンジョン攻略をプレイヤーに隠して、サブイベントのバトロワで時間稼ぎ
なんというクソゲー


849 : 名無しさん :2017/05/03(水) 20:37:45 SrAnkanc0
投下乙です!
ゲームの生き残りが残り二名になったと同時に、また新しいゲームの突入ですか!
ダンジョン攻略も本格的に進み、オワリに至ったら何か起こるのか……!?


850 : 名無しさん :2017/05/03(水) 21:02:39 EgUOXeY20
慎二と能美、遂に決着…長かったなぁ…
そして新たなる局面へ。これから先も見逃せないです
投下乙でした

以下、一点だけ指摘です.。句読点の抜けかな?

>>842
「へ俺たちは


851 : ◆k7RtnnRnf2 :2017/05/04(木) 09:28:23 wsKiDoKM0
投下乙でした。
対主催生徒会も11人となって、表側のゲームから脱出していよいよ真相に向かって進んでいきますね。
残されたフォルテ、そして未だ姿を見せないオーヴァンはこれからどう動くのか。次の展開も楽しみになりました。


そして書き手氏の皆様には提案がありますので、一度掲示板を確認して頂きたいです。


852 : 名無しさん :2017/05/16(火) 07:20:33 1FdUHtd20
月報の時期なので集計します。
130話(+ 1) 15/55 (- 2) 27.2 (- 3.7)


853 : 名無しさん :2017/05/27(土) 03:45:37 I3e.otmE0
予約来てますね


854 : ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/21(水) 05:56:53 ER/JNHC20
これより予約分の投下を始めます。


855 : 対主催生徒会活動日誌・20ページ目(反撃編) ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/21(水) 05:57:57 ER/JNHC20
     1◆


「それでは、僕達に残された最後のミッションを纏めましょう」
 
 デスゲームの“裏”側に突入する直前、レオは真剣な眼差しでそう口にする。

「皆さんはご存じでしょうが、このデスゲームで生き残ったプレイヤーは僕達を含めて13名です。
 その中の2名はオーヴァンとフォルテ……どちらも一筋縄ではいかない強敵であることは、もうおわかりですね?」

 レオの言葉に異を唱える者はいない。
 両者はデスゲームを煽動するレッドプレイヤーであることは、既にここにいる全員が知っている。そして、彼らが比類なき力で多くのプレイヤーを屠り続けたことも、知らない者はいない。

「僕達がデスゲームの“裏”側への扉に触れた今、“表”側に残されたプレイヤーは彼らだけになります。
 このまま彼らが同士討ちをしてくれれば、僕達はゲーム攻略に注力することは可能ですが……それはありえないと断定します」

 オーヴァンとフォルテの二人は協定を結んでいる。何故なら、フォルテはある"力"……恐らく、AIDAの力を手にしているからだ。
 そしてハセヲ曰く、フォルテは『あの男の力を借りる』と口にしたらしい。その人物はオーヴァンと考えるのが妥当だ。
 デスゲームを扇動させる為、GMの誰かがフォルテに力を与えた可能性もあるが、ミーナ曰く今はそういった権限はない。

 そして危惧していることがもう一つ。協定を組んでいる二人がこの“生徒会室”の存在に辿り着く可能性だ。
 オーヴァンは『黄昏の旅団』のギルドマスターを務めて、多くのプレイヤーを纏め上げた実績を持つ。そして人望は一つのギルドに留まらず、『ケレストル』というギルドを束ねるがびというプレイヤーと義兄弟の契りを交わす程に広い。
 また、オーヴァン本人のハッキング能力も、レオに匹敵する程だ。この場は誤魔化せたとしても、ほんの僅かな痕跡から探ることなど容易だろう。

「だからこそ、僕達は早急な攻略が必要です。
 ダンジョンの攻略、ネットスラムでのミッションクリア及びセグメント探索、プロテクトエリアの解明。これら3つが、僕達の勝利の鍵を握ります。
 しかし、同時に進行できるのは困難……良くて、二つだけになるでしょう」

 その理由は残された人数とタイムリミットだ。
 まず人数の面に関しては、対主催騎士団には非戦闘員であるジローやミーナが含まれている。ユイのようにアバターを小型化させられない二人を守る為に、誰か戦闘員を配備する必要があった。
 また、強引に三方向に分かれたとしても、それでは指示を下せる者がいなくなる。

「そこで僕は提案します。
 ダンジョン攻略チーム、ネットスラム探索チーム、生徒会室で情報収集を行うチーム……この三チームに分かれて行動しましょう。
 騎士団には力強い“協力者”がいますしね」

 微笑むレオが振り向いた先には、騎士団の“協力者”達がいる。
 膨大な情報を検索してくれる間目智識と、購買部の店主である言峰神父。そして健康管理の役割を務める間桐桜だ。その他にもNPCが何人も集まっている。
 実は言うと、この“生徒会室”に集められたのは11人のプレイヤーだけではない。フォルテの襲撃の際、凶行から守る為にNPC達を避難させたのだ。
 ……神父だけは負ける姿が想像できないけど、それでもフォルテとオーヴァンが相手では生き残れる保証などない。

「デスゲームが佳境に差し掛かっている今、僕達には情報が不可欠です。その為にも、NPCの皆様が必須となるのですよ」
「了解しました、生徒会長〜!」

 間目智識は軽やかな態度でレオに笑顔を向ける。
 一方で桜もまた柔和な笑顔を見せてくれて、言峰神父は……相変わらず、奇妙な圧迫感を醸す笑みを浮かべていた。

「皆さん、何か不調があれば遠慮なく言ってくださいね」
「ここまで顧客が揃っているなら、私としても業務をやる甲斐がありそうだ……」

 本来ならNPCは学園の外から脱出することは不可能だが、レオの細工によってこの“生徒会室”も学園内の一部として複製した。一時しのぎに過ぎないが、緊急事態だ。
 この部屋にいる限り、NPC達は本来の役割を果たせる使用になっている。尤も、GMに捕捉され次第、何が起こるかわからないので迅速な行動が必要だ。


856 : 対主催生徒会活動日誌・20ページ目(反撃編) ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/21(水) 05:58:58 ER/JNHC20

「さて、プレイヤーの諸君にアイテムを提供できるのはこれで最後になりそうだな。
 ここまでで集めたポイントを無意味なものにしない為に、是非とも購入するがいい」

 神父が言うように、ダンジョン攻略に参加したカイトとブラックローズ、そして揺光はポイントを所持している。また、少ないながらもレオも該当する。
 デスゲームのフィールド全域やダンジョンには大量のエネミーが蔓延っているが、これ以上アイテムの補充に時間をかけていられない。神父が言うように最後の買い物になるだろう。

「揺光、と言ったな? 見た所、君が一番ポイント回りが良さそうだな。ふむ、実に感心だ」
「……そんな風に言われたって、喜べる訳ないだろ。アンタ、随分と性格悪いんだな」

 神父なりの称賛かもしれないが、揺光は苦い表情だ。
 それも当然だろう。ここに至るまで彼女もまた多くの仲間を失った。そして慎二のことだって、彼女は慎二とゲームで決着を付けると誓ったらしい。けれどそんな決意を果たせないまま、無情な別れを余儀なくされてしまう。
 そんな彼女の心境を知ってか、あるいはわざと煽っているのか……言峰神父は笑みを保ったままだ。

「いや、失敬。私の思考はある人物を元としているのだが、どうやら私のオリジナルは随分と悪辣なようだ。何、心配することはない……君達がポイントを支払うのなら、私はそれに応じたアイテムを提供する。
 紛い物や不良品を掴まされることはないから、安心するがいい」
「アンタ……本気で言ってるのか!? アタシ達がこれまでどんな目に遭ったのか、わかってて言っているのか!?」
「当然だとも。
 私は聖杯戦争にて、数多くの戦いを監督してきたNPCだ……これまで、プレイヤーの敗退を幾度となく見届けてきた。監督役を務めるのなら、それに伴った精神が不可欠だ。
 君達の感情は充分に理解しているし、敗れ去った者達に弔いの言葉も届けよう。だが、私自身が哀れみの感情を抱くことなど、決してない……これは、私のオリジナルもそうだったはずだ」

 揺光の怒号を発しながら刃の如く視線で睨み付けるが、言峰神父の表情は一向に変わらない。
 彼の言い分は尤もだ。聖杯戦争は万能の願望機である聖杯を求めて、何人もの主従が互いの命を賭けて殺し合っている。参加した者達はそれに伴った覚悟を背負っているのだし、監督役を務めた言峰神父とて充分に理解している。
 けれど、ここに集められた大半のプレイヤーは聖杯戦争を知らない。そんな揺光達に言峰神父の心境を理解しろと言われても、無理な話だ。

「そして勘違いをしているようだが言っておこう。
 私は君達に協力はしているものの、決して君達の味方になった訳ではない。ジローにも話したが、本来なら私は特定のプレイヤーに肩入れすることは許されない立場だ。
 ここに私がいるのは、君達がポイントを所持しているが故だ。君達がこの場での買い物を終え次第、私はすぐに所定の位置に戻るつもりでいる」
「何だよ、それ……オッサン、あんたまさかあいつらにもアイテムを売るつもりなのか!?」

 冷徹ともとれる神父の言葉に食って掛かったのは、ハセヲだった。ハセヲだけではなく、隣にいるキリトも怒りの表情を浮かべている。

「なあ神父……オーヴァンとフォルテが何をしたのか、あんたは知らないのか!? サチにAIDAを感染させて、たくさんの人を…………ユウキやシノン、それにアスナを殺した奴らだぞ!?
 その中には、あんたが世話になったレインだって含まれているのを、知らないのか!?」
「知っているとも。しかし言ったはずだぞ……私は特定のプレイヤーに肩入れしないと。
 私の存在を必要としているプレイヤーがいる限り、私は私の役割を全うするだけだ。どんなプレイヤーだろうと、公平に接するのが商売人たる私の使命だ」
「何だと……!?」
「待ってくれ!」

 一触即発の空気が漂いそうになる直前、ジローはキリト達を制止するように叫んだ。




     †


 全員の視線が俺に集まっていくのがわかった。
 キリトやハセヲの怒りに満ちた視線や、揺光やユイちゃんの厳しい目つきが向けられる。そしてブラックローズやキシナミ、サーヴァント達の深刻そうな視線も……全てが突き刺さる。黒雪姫は窺い知れなくて、ミーナだけが俺を心配しているようだった。

「みんな、待ってくれ……言峰神父を責めるのはやめないか?」

 震える声色で言葉を紡いだ瞬間、周囲が沈黙で飲み込まれた。
 しかしそれはほんの一瞬で、キリトが俺の方に向かって踏み込んできた。彼の表情に込められた怒りは更に激しく燃え上がっていく。


857 : 対主催生徒会活動日誌・20ページ目(反撃編) ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/21(水) 05:59:26 ER/JNHC20

「ジローさん……あんた、何を言ってるんだ!? フォルテやオーヴァンが何をしたのかわかっているだろ……フォルテは、レンさんの命を奪ったんだぞ!?
 そんな奴に、この男は……!」
「わかってるよ! レンのことは、俺だって悔しいさ! それにニコを殺したオーヴァンだって、絶対に許すことはできない!
 だから、みんなが怒る気持ちだって充分にわかってる!」
「じゃあどうして、あいつを庇うんだ!?」
「神父は俺を助けてくれたからだよ!」

 そう。それが言峰神父を庇う理由だった。
 当の神父も流石に驚いたのか、目を見開きながら「ほう」と感嘆の声を漏らす。

「俺がドッペルゲンガーに殺されそうになった時、神父は俺を助ける為に戦ってくれた! もしかしたら、違うかもしれないけど……神父がいたから、俺はこうして生きているんだ!
 それに桜ちゃんだって、スミスに狙われそうになったけど……神父がいたから、桜ちゃんは助かった! そうだろ!?」
「ジローさん……けど、あいつは……!」
「納得できないのはわかる。
 レンを殺したフォルテや、ニコを殺したオーヴァンに協力するなんて……俺だって、やって欲しくない。でも、それが言峰神父の責任なんだろ? 嫌だって思っても、責任を果たさないといけない時があるんだ。
 神父がどう思ってるかなんて、俺は知らない。でも、ここで神父を責めたって……どうにもならないだろ?」

 だんだんと悲痛な声になっていくのが俺でもわかる。すると、キリト達の怒りがほんの少しだけ和らいでいくように見えた。
 神父があの二人に協力するのは俺だって嫌だ。考えただけでも気分が悪くなるけど、耐えなければならない。間目智識や桜ちゃんだって、何も言わないけど……求められればオーヴァン達に協力しなければいけないはずだ。
 ふと、NPCのみんなの方に振り向く。桜ちゃんはどこか悲しげな瞳で俺を見つめていて、この騒動の元となっている言峰神父は僅かながらだが微笑んでいた。

「…………まさか、君からそう言って貰えるとはな。やはり、サービスは提供するものだな」
「なあ、神父……本当に、あいつらにアイテムを売るのか?」
「無論だ。君達がいくら納得していなくとも、私にはどうにもならない。君達には君達の目的があるように、私にも責任があるのだよ」
「そっか…………」

 ここまで言うからには、どれだけ止めようとしても無駄だろう。
 実力で止めることだって、俺にはできない。また、仮にここにいる全員で言峰神父を抑えようとしても、彼も相当な実力者だ。時間と体力を無意味に浪費するだけ。

「……そうだ。あんたは確か俺にサービスを提供してくれるって言ったよな? それはまだ、大丈夫なのか?」
「ああ。君が生存している限り、有効期限は設けていない。早くしなければ、君自身の手で権利を失うことになるぞ」
「じゃあ……」

 今は俺に出来ることをするしかなかった。言峰神父からサービスを受けられるのは、俺にだけ許された特権かもしれない。
 ここは――――


    A.割引の交渉をする
  >B.ダンジョンの謎を聞く
   C.GMのことについて話してもらう


「……あのダンジョンの一番奥には、何があるのかを教えてくれないか?」

 みんなにとって大きな課題であるダンジョンの攻略。【月想海】の奥底の謎を聞くことだ。
 俺達は藁にも縋る思いで、どんな小さな可能性でも賭けなければいけない。けれど、もしも何もなければ……徒労に終わるだけ。それだけは絶対に避けたかった。

「ダンジョンの最深部か……ふむ、これだけは私にもわからない。言えないのではなく、そもそも詳細を知らないのだ。
 だから、私から聞いたとしても大きな手掛かりになるとは限らないぞ?」
「……それでも、少しでも知りたいんだ! 知っていることがあれば話してくれ!」

 俺は必死に説得する。
 アイテムの値段を安くしてもらっても、それで肝心の謎を解き明かせるわけがない。だからといってGMのことを聞いたとしても、答えてくれる保障などなかった。
 多くの瞳から向けられる視線が痛く感じるけど、俺は必死に耐える。みんなが受けてきた苦しみに比べれば、この程度はなんてこともないはずだ。


858 : 対主催生徒会活動日誌・20ページ目(反撃編) ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/21(水) 06:04:25 ER/JNHC20
「……私に伝えられることはたった一つ。
 岸波白野。君に問おう……月の聖杯戦争で君が渡った海は、本当に八つだけだったのかね?
 そして君達が全ての海を渡り抜き、鍵を揃えた先では玉座にて彼女が待っている……彼女と巡り合った時、何が起こるのかは君達次第だ」

 そんな意味深な答えに、キシナミは「えっ?」と呆けたような声を漏らす。
 当然、俺に神父の言葉の意図を察することはできなかった。

「なあ、神父。それって一体、どういう意味なんだ?」
「私から伝えられることは全て伝えた。言ったはずだぞ、私から聞いたところで大きな手掛かりになるとは限らないと……それを知った上で、サービスを使ったのだろう?」
「そ、そうだよな……ありがとう、教えてくれて」

 腑に落ちなかったけれど、神父は俺の願いを聞いてくれている。これが彼に出来る精一杯のことだろう。
 一方でキシナミは思案に耽っている。かつて聖杯戦争を勝ち抜いたらしいキシナミは、今の言葉に思い当たることがあるのだろうか?

「おい、言峰のオッサン……あんた、ここで俺達がやっていることをあいつらに漏らすつもりじゃねえだろうな?」
「それはない。私に出来ることはアイテムの売買と学園の警備だけであって、他プレイヤーに情報を明け渡す権限など持ち合わせていない。
 また、君達に彼らの情報を売ることも不可能だ。これはGMにも該当されるがね……仮に君達の居所を問われたとしても、学園内にいたとしか答えられないのだよ」
「どうだかな……」

 ハセヲは未だに言峰神父を睨みつけているが、やがて視線を逸らす。これ以上、問い詰めても無駄だと思ったのだろう。

「さて……少々話が反れたが、君達に商売をする時が来たな。
 いらっしゃいませ。何をお求めですか、お客様?」

 そうして言峰神父の隣にウインドウが展開されて、恐らくはこのデスゲームで最後になるであろう買い物が始まった。


 やる気が 3上がった
 体力が 5下がった
 こころが 2上がった
 信用度が 4下がった


     2◆◆


「お買い求め、ありがとうございました。
 では、私はここで失礼させて頂こう」

 そう言い残して、言峰神父は対主催騎士団の元から去って行った。
 ハセヲやキリト、そして黒雪姫や揺光は恨めし気にその背中を見つめているが、引き留めることなどできない。全員のポイントを合わせて、味方全体のHPを回復させてくれる治癒の雨というアイテムを購入する事しかできなかった。残り194ポイントは揺光が所持している。

「……皆、気を取り直そう。彼には彼の役目がある……こうして私達に情報提供をしてくれたのだから、それには感謝しなければ」

 黒雪姫はそう口にするも、声色は震えている。シルバー・クロウやスカーレット・レインの命を奪ったオーヴァンに手を貸そうとする神父に対して、憤りを感じているのだろう。
 それは岸波白野も同じだ。サチ/ヘレンを追い詰めて、そしてキリトやユイからアスナを奪った男を許す理由などない。
 正直な話、オーヴァンやフォルテに神父が手を貸すことを考えなくなかったが、ジローが言うように恩があることも確かだ。スミスの魔の手から桜を救い、ドッペルゲンガーに囚われたジローを守ってくれたのだから。

「そうですね。彼の言葉を信用できない気持ちはわかりますが、僕達は僕達の務めを果たすだけです。
 そして白野さん。月の聖杯戦争の勝者となった魔術師であるあなたにお聞きします……言峰神父の真意を、理解したのでしょうか?」

 レオはそう問いかけてくる。
 神父が語った、聖杯戦争の海について……これは岸波白野にとっても重大な謎だ。かつて聖杯を賭けた最後の戦いに赴く際、果てしなき道を乗り越えた先でムーンセルを見つけた。
 広大な部屋にて一人の男と出会い、そして激突した。トワイスというサイバーゴーストの理想を打ち砕き、岸波白野は聖杯に願いを託した。
 そうして、岸波白野とそのサーヴァント達はこのバトルロワイアルに巻き込まれた。


 ……いや、まだもう一つだけ記憶がある。
 はっきりと覚えていないが「無差別級のへんなもの」と呼ばれた魔人とも戦った。彼女は人のカタチをしていながら、並のサーヴァントを遥かに凌駕する実力を誇っていた。
 幸いにも岸波白野達が勝利したが、彼女は『死』を体現したような存在で、強烈な『殺気』を醸し出していた。少しでも力が劣り、そして戦術を誤ってしまえば、間違いなく敗北しただろう。


859 : 対主催生徒会活動日誌・20ページ目(反撃編) ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/21(水) 06:05:35 ER/JNHC20
 まさか、月想海を越えた先には、彼らが待ち構えているのか?
 そして神父の言っていた、『彼女』のことも気がかりだが……こればかりは、現段階では判断のしようがない。

「なるほど……白野さんの武勇伝はまだまだあるようですね。僕としては是非ともお聞きしたいですし、ミーナさんには記事もして頂きたいです。
 ミーナさん、ジャーナリストの魂が騒ぎませんか?」
「うむむ……このお方の謎、是非とも解き明かしたいです! 平行世界から魂と記憶が集められ、そしてどのようなメカニズムでアバターが動いているのか……この武内ミーナ、一世一代の記事が書けそうです!」

 ミーナの瞳がメラメラと燃え始めた。
 これは厄介なことになりそうだ。彼女がジャーナリストであると語ったら……

「なんと! そなたは人々に真実を伝える為に文を動かすのか! ならば、余と奏者の愛を是非とも広めるのだ! ローマに留まらず、大海を超えた数多の大陸に愛の書物を布教しなくては!」
「ペンは剣よりも強し! 昔から操觚者さん達によって、人々の心は動かされました……ということで、ミーナさんには私とご主人様の新婚生活をドキュメンタリーとして残してくださいまし!」

 ……ほら、案の定セイバーとキャスターは目を輝かせてしまった。
 けれど、そんな彼女達を意に介することなく、アーチャーは岸波白野の前に立つ。

「何にせよ、このデスゲームにトワイスが関与しているのは確かだ。
 揺光、確か君はモーフィアスと共にゲーム外の一度飛ばされ、そこで白衣の男に出会ったと言っていたな?」
「ああ。アタシ達はスケィスと戦って、そこでそいつに会ったんだ。名前は聞けなかったけど、多分キシナミが言ってたトワイスって奴に間違いないかも」
「そうか……奴はかつて私達が確かにこの手で打倒したはずだが……サチやユウキのように、既に命を落としたプレイヤーが参戦している以上、奴らが関与していても何らおかしくはないな」

 アーチャーの言う通りだ。
 そもそも岸波白野達が戦ったトワイス自体が、既に現実の肉体を失ったデータだけの亡霊だ。しかし、GMは何らかの手段で復元したのだろう。

「トワイスですか」
「知っているのか、レオ?」
「ええ……フルネームはトワイス・H・ピースマン。彼もまた、僕と同じハーウェイの人間なのですよ」
「何っ……!?」

 衝撃的な言葉を、レオはさも当然であるかのように告げる。
 揺光だけではない。この場にいる全てのプレイヤーが驚愕で目を見開いた。桜達NPCは特に動じていないが、それに構わずレオは続ける。

「彼とは深い関わりがあった訳ではありませんが、お話は耳にしていました。尤も、聖杯戦争の最終局面で待ち構えていたことだけは、予想外でしたが……
 もしも僕が勝ち進んでいたら、いずれは彼と相対する時が来ていたのでしょうね」
「レオ……アンタ、いいのか?」
「何がですか、揺光さん?」
「アイツはアンタの家族……なんだろ? そんな男がGMにいるってのに、何でそんなに平気でいられるんだ?」
「ご心配、ありがとうございます。
 確かに僕としては思う所はありますが、僕達の敵に回った以上は容赦する理由などありません。それに彼が我々ハーウェイの名を汚すのであれば……僕は次期当主として、彼を打倒します。
 身内だからこそ、容赦をしてはいけませんよ」
「……………………」

 淡々と語るレオからは、一欠けらの躊躇が感じられない。微塵も揺れないレオの態度に揺光は困惑しているのだろう。
 レオはハーウェイという一族を率いる当主の名前を背負っている。いや、今の彼は誇りだけではなく、ここに集まった全てのプレイヤーの命を賭けて戦っているのだ。全てを守ろうとしているレオの眼光は、どこまでも真っすぐだった。

「それでは、これよりチームの振り分けを行います。
 まずはダンジョン攻略チーム。これには白野さんとブラックローズさんには引き続いて貰うのと同時に、ハセヲさんと揺光さんにも加わって頂きます。
 ハセヲさんと揺光さんは元のゲームで攻略を共にしたプレイヤーですし、お互いのコンビネーションに期待しています。異論はありませんね?」
「当然だ」

 妥当な人選だし、この二人が加わってくれることは実に頼もしい。 
 レオに頷き、そのままハセヲは揺光と顔を見合わせた。思えば、この二人は『The World』というゲームで繋がった縁があり、かけがえのない仲間でもある。


860 : 対主催生徒会活動日誌・20ページ目(反撃編) ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/21(水) 06:06:45 ER/JNHC20
「揺光……お前が生きていてくれて、本当によかった。俺は……」
「ちょっと待った! ハセヲ、しんみりするなんてアンタらしくないよ! 今はダンジョンを攻略して、アイツらをぶっ飛ばす。色々と言いたいことはあるけど……全部終わってからにしよう?」
「……そうだったな。またよろしく頼むぜ、揺光!」
「ああ!」

 再会を祝福するように、二人は力強く拳を合わせた。コツン、と小さな音が響いただけで、この二人が強い信頼関係で繋がっていることが伺える。

「次にネットスラムの探索チーム。ここにはキリトさんと黒雪姫さん、そしてアーチャーさんとユイさんに加わって貰いますね。
 ネットスラムの探索クエストには、まだ僕達の知らない謎が隠されている可能性があります……それを解明する為に、ユイさんの力が必要となりますから」
「レオさん。私は大丈夫ですけど、カイトさんとの意思疎通はどうするつもりですか?」
「それもご心配なく! 実は言うと、僕は皆さんの会話ログから翻訳プログラムを作っていたのですよ。
 カイトさんの声のトーンや感情の波長……それらを解析して、不完全ながらも意思疎通が可能となったのです。見てて下さいね」

 ユイの疑問に答えるように、レオはカイトの前に立ちながらウインドウを展開させる。
 微笑みと共に軽やかに指を動かして、カイトに問いかける。

「カイト、一つお聞きしますね」
「…………………?」
「あなたの好きな食べ物はなんでしょう?」
「…………………」
「レモングミ、ですね」
「…………………!」
「冗談ですよ。あなたが好きな食べ物はハンバーガーでしたよね」
「…………………」

 カイトは首を上下して頷く。

「どうですか、ユイさん?」
「は、はい……レオさんの言う通りです」
「ユイさんが不在となる時に備えて、作った甲斐がありましたよ。なので、安心してユイさんは探索のサポートを勤めて下さいね!」
「はぁ……」

 レオは自信満々に胸を張っているが、ユイはどうも不安そうだ。
 実際、岸波白野としても信用していいのかどうか悩ましいが……とにかく、ユイがいなくてもコミュニケーションが取れるというのは大きな一歩だ。スミスとの戦いではユイとカイトは離れる状況になったのだから、またその時に備える必要がある。

「そして最後に生徒会室に待機して、情報収集及び指令の担当ですが……これは僕とミーナさんが情報収集を担当して、カイトに警備を任せたいです。
 残るジローさんは――――」 
「待ってくれ、レオ! 俺は……キリト達について行ってもいいか!?」

 レオの提案を遮るように、ジローは声をあげる。その瞳には強い決意が宿っていた。

「ジローさん? キリトさん達について行くとは……どういう意味ですか?」
「俺も、手伝いたいんだ! このままここにいたって、俺に出来ることは何もなさそうだし……それだったら、キリト達について行けば何か出来ることが見つけられそうな気がするんだ!」
「…………お気持ちは立派ですが、正直に言います。
 何の力も持たないあなたがキリトさん達について行くのは、あまりにもリスクが高すぎます。現時点で、大量のエネミーがデスゲームのフィールド内を跋扈していますし、またオーヴァンやフォルテに遭遇したら、今度こそあなたが……」
「わかってるよ! でも、俺はキリト達が心配なんだ!
 それに、あんまり考えたくないけど……最後に、なっちゃうかもしれないから。だから、レンやニコのこととか色々と話し合いたいんだ!
 俺の勝手なワガママなのはわかってる! わかっているけど……後悔はしたくないんだよ!」

 ジローの願いはあまりにも切実だった。
 彼の気持ちは充分に理解できる。キリトはレンを守る為にフォルテと戦い、黒雪姫と深い関わりを持ったレインとジローは心を通わせた。
 だからこそ、ジローは二人と話がしたいのだろう。キリトと共にいたレンが何を想っていたのか、そしてジローの知らないレインのことについて……彼は知りたいはずだ。
 また巡り会えるという保証はどこにもないのはわかる。だけど、戦う力を持たないジローにデスゲームの会場を出歩かせるなど、レオが言うように自殺行為だ。

「……わかった。ジローさん、俺があんたを守るよ」

 キリト!?
 一体、何を言っているんだ……!?


861 : 対主催生徒会活動日誌・20ページ目(反撃編) ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/21(水) 06:08:52 ER/JNHC20
「みんなの言うことが正しいのはわかってる。正直な話、俺だって責任を持ってジローさんを守れるかと言われると……厳しいかもな。
 これから高レベルのエネミーが出てくる以上、非戦闘員のジローさんが同行しても危険極まりない。だから、ここにいて欲しいと考えている」
「パパ……じゃあ、どうして?」
「俺も、レンさんのことをジローさんから聞きたいんだ。レンさんがどんな人で、またジローさんがどんな人なのか……俺はまだそこまで知らない。
 この学園に辿り着いた時は……みんな、休むのが精一杯で話をしているどころじゃなかったからさ」

 ユイと目を合わせずに、キリトはほんの少しだけ俯く。
 …………彼が言うように、三度目となる定時メールの前は落ち着いて話し合える余裕などなかった。オーヴァンのAIDAによってレインを喪い、サチ/ヘレンは共にデータの彼方に去ってしまい、そしてキリトは目の前でアスナを殺されてしまった。
 当然ながら、誰もが精神を疲弊しきっている。岸波白野も、ラニやありす/アリスを守り切れなかった悲しみが未だに癒えていないのだから。

「……なら、私もジローさんを守らなければいけないな。生徒会長よ……副会長として、ジローさんは必ず守り抜いてみせる。
 異論はあるかな?」
「そんな訳がない……と言いたい所ですが、ここで無理に止めても双方の間にわだかまりが残るでしょう。黒雪姫さんも、どうやら連れていきたいようですし。
 ジローさんの胆力やとっさの機転、それに運や生命力の強さは筋金入りです。その強さで幾度となく危機を乗り越えましたから、もしかしたらエネミーの1000体撃破もしてくれるかもしれませんよ?」
「ま、待て! 俺にそんなことできる訳ないだろ!? 殺す気か!?」

 ジローはぶんぶんと首を横に振る一方、そんな彼の姿をデュエルアバターとなった黒雪姫が見つめている。
 漆黒の視線の先には、ジローと共にいたレインの姿もあるはずだ。

「ジローさん。私も、貴方から彼女のことを聞きたい。
 レインが。いや、ニコが何を想っていたのかを」
「黒雪姫……実は言うと、俺もニコのことを君から聞きたかったんだ。ニコがどんな子で、一体何をしていたのかを」
「なら、きちんと話し合うべきですね。残された時間は少ないからこそ、一つでも多く……お互いに話し合いましょう」

 二人からはレインを尊んでいる。
 一度はレインと敵対関係にあったけど、その後には心を通わせた。そしてレインと培ってきた絆が受け継がれるように、二人をこうして巡り会わせている。
 彼女は今でも、二人のことを守っているのだろう。



 それから岸波白野達はアイテムを交換し合った。といっても、これで二度目となるのでそこまでの時間は必要としなかった。
 まず、ネットスラムの探索クエストを攻略するのに必要な全てのセグメント及びエリアワードは、一時的なリーダーを務めることになった黒雪姫に譲渡された。また、戦えないユイやジローの為に、治癒の雨もジローが所持することになる。
 ミーナが入手した慎二やダスク・テイカーの遺品は、ダンジョン組とネットスラム組でそれぞれ分配される。まず開運の鍵や強化スパイク、そして福音のオルゴールは岸波白野の手に渡り、あの日の思い出は揺光が所持することになる。
 パイル・ドライバーは黒雪姫に、バトルチップ一式はブラック・ローズが受け取っている。

「……黒雪姫にキリト。これも、アンタらにとって必要なものだろ?」

 最後に、揺光はナイト・ロッカーとゲイル・スラスター、そしてエリュシデータをオブジェクト化させた。すると、キリトと黒雪姫は驚愕の声を漏らす。

「これはフーコにローラーの……揺光君、本当にいいのか?」
「アタシはもう充分に助けられた。だったら、本当の持ち主に関係のある黒雪姫が持っているのが筋って奴だろ? 頼んだよ」
「そうか……本当に、ありがとう」
「いいってことよ! それとこの……エリュシデータも、確かキリトのだったよな! こいつも、頼んだよ」
「揺光が持っていたんだな! こいつさえあれば、俺は百人力……いや、一万人力だ!」
「そいつは凄いじゃないか! なら、是非ともその力を存分に発揮してくれよ!」

 へへっ、と揺光は笑う。彼女が出した二つのアイテムは、黒雪姫がいる加速世界から持ち出されたものらしい。
 また彼女が持っていた漆黒の剣も、どうやらキリトが愛用していた得物のようだ。


862 : 対主催生徒会活動日誌・20ページ目(反撃編) ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/21(水) 06:28:50 ER/JNHC20
「アーチャー……また、しばらくお別れになるね」
「安心しなさって、騎士様。お姫様と剣士様、それに妖精ちゃんとジローはこの忠実なるサーヴァントめが、守り抜いて差し上げましょう!」
「頼んだわよ、忠義の弓兵さん!」

 どこかふざけたようにお辞儀をする緑衣のアーチャーに、ブラックローズは激励を送る。
 岸波白野も、彼の無事を祈った。かつては敵同士だったけど、こうして肩を並べて共に戦えるなんて……心から嬉しいから。

「ミーナ、お互いに頑張ろうな」
「ジローさん……ええ、お互いに義務を果たして、そしてこのデスゲームを打ち破りましょう!」
「ああ!」

 ジローとミーナの言葉からは、確かな誇りが感じられた。

「現時点で残された最後の手がかりは、ダンジョンとネットスラムの二つです。
 これらの謎を攻略すれば、GMは必ず何らかのアクションを仕掛けてくるでしょう……ですが僕達に残された時間も僅かなので、後戻りはできません。
 僕の方で通信システムは用意しておりますが、もしも何らかのトラブルが起きて使用不可能になった場合は、各自の判断にお任せします。
 皆さん、よろしいですね?」

 レオの問いかけに異を唱える者は誰もいない。
 全員が覚悟を決めていた。これが最後の反撃であり、そして騎士団に残された唯一の希望であることを。
 退路が断たれた以上、ここから先の道を歩むしかない。全ては黒薔薇の対主催騎士団の健闘に賭けられた。

「これより、黒薔薇の対主催騎士団。
 ラストミッションを開始します!」

 その一言と共に、全員がそれぞれの道に向かって歩み始めた。



  LASTMISSION
――Go to Dungeon――


[?-?/生徒会室エリア/一日目・夜中]



【チーム:黒薔薇の対主催騎士団】
[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:ブラック・ロータス
書記 :ユイ
会計 :蒼炎のカイト、キリト
庶務 :岸波白野
雑用係:ハセヲ、ジロー、ブラックローズ、揺光、ミーナ


[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:理想の生徒会の結成。
2:ウイルスに対抗するためのプログラムの構築。
3:GMへのジャミングが効いているうちにダンジョンを攻略
4:ネットスラムの攻略
[現状の課題]
0:ダンジョンを攻略しながら学園を警備する。
1:ウイルスの対策
2:危険人物及びクビアへの対策
[生徒会全体の備考]
※番匠屋淳ファイルの内容を確認して『The World(R:1)』で起こった出来事を把握しました。
※レオ特製生徒会室には主催者の監視を阻害するプログラムが張られていますが、効果のほどは不明です。
※セグメントの詳細を知りましたが、現状では女神アウラが復活する可能性は低いと考えています。
※PCボディにウイルスは仕掛けられておらず、メールによって送られてくる可能性が高いと考えています。
※エージェント・スミスはオーヴァンによって排除されたと考えています。
※次の人物を、生徒会メンバー全員が危険人物であると判断しました。
オーヴァン、フォルテ
※セグメントを一つにして女神アウラを復活させても、それはクビアの力になるだけかもしれないと仮説を立てました。
※プレイヤー同士の戦いによってデスゲーム崩壊の仮説を立てましたが、現状では確信と思っていません。


863 : 対主催生徒会活動日誌・20ページ目(反撃編) ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/21(水) 06:29:30 ER/JNHC20


※生徒会室は独立した“新エリア”です。そのため、メンテナンスを受けても削除されませんが、GMに補足された場合はその限りではありません。
※生徒会室にはダンジョンへのゲートが新設されています。
※VRバトルロワイアルは“ダンジョン探索ゲーム”です。それを基幹システムとしては、PvPのバトルロワイアルという“イベント”が発生している状況です。
※そのためダンジョン攻略をGM側は妨げることができません。
※ダンジョンをクリアした際、何かしらのアクションが起こるだろうと推測しています。
※生徒会室には言峰神父を除く全てのNPCが待機していて、それぞれの施設が利用できます。

【Aチーム:ダンジョン【月想海】攻略隊】


【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%、SP75%、(PP100%)、3rdフォーム
[装備]:{光式・忍冬、死ヲ刻ム影、蒸気バイク・狗王}@.hack//G.U.
[蒸気バイク]
パーツ:機関 110式、装甲 100型、気筒 100型、動輪 110式
性能:最高速度+2、加速度+1、安定性+0(-1)、燃費+1、グリップ+3、特殊能力:なし
[アイテム]:基本支給品一式、{雷鼠の紋飾り、イーヒーヒー}@.hack//、大鎌・首削@.hack//G.U.、フレイム・コーラー@アクセル・ワールド、{FN・ファイブセブン(弾数10/20)、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン、式のナイフ@Fate/EXTRA、ダガー(ALO)@ソードアート・オンライン、???@???、{H&K MP5K、ルガー P08}@マトリックスシリーズ、ジョブ・エクステンド(GGO)@VRロワ
[ポイント]:0ポイント/2kill
[思考]
基本:
1:ゲームをクリアする。
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前です。
※設定画面【使用アバターの変更】の【楚良】のプロテクトは解除されました。



【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP70%(+150)、データ欠損(小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、{男子学生服、赤の紋章、福音のオルゴール、開運の鍵、強化スパイク}@Fate/EXTRA
[アイテム]:{女子学生服、桜の特製弁当、コフタカバーブ、トリガーコード(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ)}、コードキャスト[_search]}@Fate/EXTRA、{薄明の書、クソみたいな世界}@.hack//、{誘惑スル薔薇ノ滴、途切レヌ螺旋ノ縁、DG-0(一丁のみ)、万能ソーダ、吊り男のタロット×3、剣士の封印×3、導きの羽×1、機関170式}@.hack//G.U.、図書室で借りた本、不明支給品0〜5、基本支給品一式×4、ドロップアイテム×2(詳細不明)
[ポイント]:0ポイント/2kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:このゲームをクリアする
2:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
3:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
4:危険人物を警戒する。
5:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
6:ダンジョンの一番奥には何がある?
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前) 、アーチャー(無銘)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ar)]:HP20%、魔力消費(大)
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時(増加分なし)でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一騎だと10分、三騎だと3分程度です。
※エージェント・スミスに上書きされかかった影響により、データの欠損が進行しました。
またその欠損個所にデータの一部が入り込み、修復不可能となっています(そのデータから浸食されることはありません)。


864 : 対主催生徒会活動日誌・20ページ目(反撃編) ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/21(水) 06:30:41 ER/JNHC20


【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP60%
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.、カズが所持していた杖(詳細不明)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[アイテム]:基本支給品一式、{逃煙連球}@.hack//G.U.、ナビチップ「セレナード」@ロックマンエグゼ3、ハイポーション×3@ソードアート・オンライン、恋愛映画のデータ@{パワプロクンポケット12、ワイドソード、ユカシタモグラ3、デスマッチ3、リカバリー30、リョウセイバイ}@ロックマンエグゼ3
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:ゲームをクリアする。
※時期は原作終了後、ミア復活イベントを終了しているかは不明。


【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、強い決意、Xthフォーム
[装備]:最後の裏切り@.hack//、あの日の思い出@.hack//、PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:不明支給品0〜2、平癒の水@.hack//G.U.×1、癒しの水@.hack//G.U.×3、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3(一定時間使用不能) 、基本支給品一式×3、ネオの不明支給品1個(武器ではない)、12.7mm弾×100@現実
[ポイント]:194ポイント/0kill
[思考]
基本:この殺し合いを止める為に戦い、絶対に生きて脱出する。
1:ハセヲ達を助ける為に前を走る。
2:いつか紅魔宮の宮皇として、シンジと全力で戦って勝利する。
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。
※バーサーカーの真名を看破しました。
※ネオの願いと救世主の力によってXthフォームにジョブエクステンドしました。
※Xthフォームの能力は.hack//Linkに準拠します。
※救世主の力を自在に扱えるかどうかは不明です。


【Bチーム:学園警備】


【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP70%/デュエルアバター 、令呪一画
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3、{エリアワード『絶望の』×2、『選ばれし』×2 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、noitnetni.cyl_3 }@.hack//、{インビンシブル(大破)、パイル・ドライバー、サフラン・ハート、サフラン・ヘルム、サフラン・ガントレット、サフラン・アーマー、サフラン・ブーツ、ゲイル・スラスター}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、死のタロット@.hack//G.U.、ヴォーパルの剣@Fate/EXTRA、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3
[ポイント]:0ポイント/0kill(+1)
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
1:ゲームをクリアする為、ネットスラムを探索する。
2:ハルユキ君やニコの仇を取る為にも、キリト君やハセヲ君と共にオーヴァンを打倒する。
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:ダメージ(中)、魔力消費(中)
[備考]
※時期は少なくとも9巻より後。


865 : 対主催生徒会活動日誌・20ページ目(反撃編) ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/21(水) 06:32:06 ER/JNHC20

【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、リアルアバター
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、ピースメーカー@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、治癒の雨@.hack//G.U. 、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:ゲームをクリアする。
2:ユイちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の言葉が気になる…………。
4:レンのことを忘れない。
5:みんなの為にも絶対に生きる。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。
※言峰神父からサービスを受けられますが、具体的な内容は後続の書き手さんに任せます。


【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP65%、MP90%(+50)、疲労(大、SAOアバター
[装備]:{虚空ノ幻、虚空ノ影、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、{ダークリパルサー、ユウキの剣、死銃の刺剣、エリュシデータ}@ソードアート・オンライン
[アイテム]:折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンライン、黄泉返りの薬×1@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド、不明支給品0〜1個(水系武器なし) 、プリズム@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill(+1)
[思考・状況]
基本:みんなの為にも戦い、そしてデスゲームを止める。
0:今はみんなと共にゲームをクリアする。
1:ユイのことを……絶対に守る。
2:ハセヲやロータスと共にオーヴァンと戦う。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。


【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP60/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/通常アバター、サチ/ヘレンに対する複雑な想い、オーヴァンやフォルテへの憎しみ
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、第二相の碑文@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
1:ゲームをクリアする。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:危険人物を警戒する。
6:私にも、碑文は使えるだろうか……。
7:サチ/ヘレンさんの行いは許せないけど、憎まない。
8:オーヴァンやフォルテのことは絶対に許さない。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=Ⅷであるかもしれないことを知りました。
※サチ/ヘレンとキリトの間に起こったことを知りましたが、それを憎むつもりはありません。


866 : 対主催生徒会活動日誌・20ページ目(反撃編) ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/21(水) 06:32:39 ER/JNHC20


【Cチーム:生徒会室警備】


【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP45%、令呪:三画
[装備]:なし
[アイテム]:{桜の特製弁当、番匠屋淳ファイル(vol.1〜Vol.4)@.hackG.U.、{セグメント1-2}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/2kill [思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
0:バトルフィールドを破壊する為の調査をしながら、指令を出す。
1:ゲームをクリアする。
2:ハーウェイ家の党首として、いずれトワイスも打倒する。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP70%(+50%)、MP100%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※ガウェインはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。
※蒼炎のカイトの言語を翻訳するプログラムや、通信可能なシステムを作りましたがどれくらいの効果を発揮するかは不明です。


【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP80%、SP80%、PP100%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:ゲームをクリアする。
2:ユイ(アウラのセグメント)、騎士団を護る。
3:エクステンド・スキルの事が気にかかる。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。
※エージェント・スミスをデータドレインしたことにより、『救世主の力の欠片』を獲得しました。
それにより、何かしらの影響(機能拡張)が生じています。



【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP60%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1(本人確認済み)、拡声器、不明支給品0〜1、、不明支給品2〜4
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する 。
1:ゲームをクリアする。
2:生きて帰り、全ての人々に人類の罪を伝える。
3:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
4:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)、ローブを纏った男(フォルテ)を警戒。
5:ダークマンは一体?
6:シンジさんの活躍をいつか記事にして残したい。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。
※現実世界の姿になりました。
※ダークマンに何らかのプログラムを埋め込まれたかもしれないと考えています。




支給品解説
【治癒の雨@.hack//G.U.】
 味方全員のHPを350回復


867 : ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/21(水) 06:33:30 ER/JNHC20
以上で投下終了です。
問題点などがありましたら指摘をお願いします。


868 : 名無しさん :2017/06/21(水) 13:06:35 CaEvpkrY0
投下乙です
あくまでNPCである己の役割に徹する言峰神父と、AI(NPC)も人として扱うがゆえにそれに反発するキリト達
そしてキリトたちの感情を理解しながらも言峰神父の意をくむジロー
それぞれの在り方が伝わってくる話でした
そして再度のチーム分け
状況的に仕方ないとはいえ、これが吉と出るか凶と出るか
またダンジョンの奥やネットスラムにはいったい何があるのでしょうか

気になったのは>>860のチーム分けのところですね
ネットスラムの探索チームに、キリト、黒雪姫、アーチャー、ユイ、ジローが振られてますが、
単純にアーチャーというだけでは、無銘とロビンフットのどっちを指しているのかちょっと混乱してしまいます
わかりやすく真名で呼ぶか、紅茶なり緑茶などのあだ名なりで区別できるようにしてはどうでしょうか
実際ネロと同じセイバーであるガウェインは真名呼び名なわけですし


869 : 名無しさん :2017/06/22(木) 01:15:21 s6NyBGaI0
投下乙です
スパロボみたいの分岐みたいになってきた!


870 : ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/22(木) 04:59:10 ZFN8Kz0s0
感想及びご指摘をありがとうございます

それでは収録の際に、以下のパートを加筆させて頂きます


「どうですか、ユイさん?」
「は、はい……レオさんの言う通りです」
「ユイさんが不在となる時に備えて、作った甲斐がありましたよ。なので、安心してユイさんは探索のサポートを勤めて下さいね!」
「はぁ……」

 レオは自信満々に胸を張っているが、ユイはどうも不安そうだ。
 実際、岸波白野としても信用していいのかどうか悩ましいが……とにかく、ユイがいなくてもコミュニケーションが取れるというのは大きな一歩だ。スミスとの戦いではユイとカイトは離れる状況になったのだから、またその時に備える必要がある。

「……と、ふと思ったのですが、僕達のチームにはアーチャーさんは二人もいるので、先程の表現は少し紛らわしかったですね。
 では、これよりロビンフッドさんのことを、生徒会長より愛をこめて緑茶さんと呼ばせて頂きましょう!」

 ……………………。
 唐突に、レオは謎の提案を持ちかけた。当然、視線の先にいる緑衣のアーチャーは怪訝な表情を浮かべている。

「……おいおい、生徒会長さんよ。これまた、いきなりすぎるな。
 つか何だよその緑茶さんって!? 俺は飲み物かよ!」
「いえ、僕達がこうして仲間になった記念として、距離を縮める為にフレンドリーなあだ名が必要かと考えたのですよ!
 ちなみに白野さんのアーチャーは紅茶さんを考えているので、ふたりはティー様になってくださいね! その方が、よりLinkしてる気分になりますから!」
「なんで急にティーが出てくるんだよ!? 俺は断固として拒否するからな!」
「諦めた方が良いぞ、緑茶よ……何があったかは知らないが、今の彼は私達の知るかつての彼とは違う。
 ここでごねても、徒労に終わるだけだ。故に私は、紅茶の運命を受け入れる」
「受け入れてんじゃねえよ紅茶野郎!」

 どこか諦めたように、紅茶……いや、赤衣のアーチャーはロビンフッドの肩を叩く。
 岸波白野の相棒を務めたアーチャーの言うように、レオはロビンフッドの言葉を気にも留めないままカイトやミーナを見つめている。


 へへっ、と揺光は笑う。彼女が出した二つのアイテムは、黒雪姫がいる加速世界から持ち出されたものらしい。
 また彼女が持っていた漆黒の剣も、どうやらキリトが愛用していた得物のようだ。

「アーチャー……また、しばらくお別れになるね」
「安心しなさって、騎士様。お姫様と剣士様、それに妖精ちゃんとジローはこの忠実なるサーヴァントめが、守り抜いて差し上げましょう!」
「頼んだわよ、緑茶さん!」
「おい!」
「冗談だって! さあ、行ってきてよ……忠義の弓兵さん!」
「へいへい……行ってまいりますぜ。騎士様」

 どこかふざけたようにお辞儀をする緑衣のアーチャーに、ブラックローズは激励を送る。
 岸波白野も、彼の無事を祈った。かつては敵同士だったけど、こうして肩を並べて共に戦えるなんて……心から嬉しいから。


871 : 名無しさん :2017/06/22(木) 11:48:58 2HsOk.7.O
投下乙です

ジローの対応が面白い
AIだから役割から逸脱できないと機械扱いしながらも、その行動には恩を感じている。つまり人格を持った個人としても扱っている


872 : ◆k7RtnnRnf2 :2017/06/23(金) 04:28:03 5BPHwYk20
再度の感想をありがとうございます。
そして収録の際にブラック・ロータス達のチーム名を【Bチーム:ネットスラム攻略組】に修正して
ジローの状態表の『※言峰神父からサービスを受けられますが、具体的な内容は後続の書き手さんに任せます。』
この部分を消させて頂くことを報告します


873 : ◆k7RtnnRnf2 :2017/07/01(土) 20:40:03 Gkj40Pfw0
短いですが、予約分の投下を開始します。


874 : LASTMISSION  ――知識の蛇へ―― ◆k7RtnnRnf2 :2017/07/01(土) 20:40:49 Gkj40Pfw0

     1◆


 月海原学園は、完全な廃墟と化していた。


 オーヴァンがこのエリアに辿り着いたのはたった一度だけ。エージェント・スミス達の弱点を探る為、学園に集まったプレイヤーの襲撃を図った時のみだった。
 学園、の名前に相応しく、現実世界でよく見られる教育施設を再現したような外見で、生徒と思われるNPCも何人か見られた。そしてGMの打倒を図っていた多くのプレイヤーは、スミスの餌食となることなく抗い続けた。
 その内の一人、スカーレット・レインはこの手で屠り、そしてエージェント・スミスの排除に成功している。激闘が繰り広げられた学園は、まるで災害に見舞われたかのように瓦礫の山となってしまった。
 大量にいたプレイヤーやNPCは一人残らず消え、至る所から黒煙が立ち上っている。最早、この地には何の意味も持たず、そしてこの崩壊によってデスゲームの終わりは更に近付くだろう……そんな感想しか、オーヴァンは抱かない。


 そして今、災厄を引き起こした張本人であろうフォルテと、オーヴァンは対峙していた。


「これも、君の仕業なのかな?」
「何故、わざわざそれを聞く」
「いや、君の力を素直に評価しているんだ。まさかこの学園を消し炭にするなんて、君は本当に強くなったようだな……認めよう」
「何だと……ッ!?」

 オーヴァンが称賛した途端、フォルテの面持ちが憤怒に染まる。
 その左手はバリバリと音を鳴らし、暗黒色のエネルギーとなって姿を変えた。恐らく、彼は戦いを仕掛けようとしているはずだ。

「キサマ……人間どもはどこにやった」
「何の話だ」
「キリトも、ハセヲとやらも……俺を前に尻尾を巻いて逃げ出した。蟻一匹も、俺は潰せていない」
「それは妙な話だな。俺は遠目から学園を見ていたが、誰かが外に逃亡する様子は無かった。君ともあろうものが、わざわざ見過ごすとは思えないが……」
「何かを知っているなら今すぐ言え! でなければ、ここでキサマとの決着を付ける……」

 フォルテの視線は明らかな殺意で染まっている。
 彼はこちらが何か脱走の手引きをしたと勘違いをしているのだ。その口ぶりから考えて、学園内にいたはずの全てのプレイヤー及びNPCは姿を消している。GMからも捕捉されていないはずだ。

「すまないが、俺は何も知らない。確かに一度だけこの学園に訪れたことがあるが、ここに集まっていたプレイヤーとは敵対関係にあった。
 その後は、君がキリトやアスナの二人と繰り広げた戦いを見届けて、そしてシノンというプレイヤーを屠っただけ。彼らと同盟を組む機会など、俺にはなかったよ」
「どうだかな。口では何とでも言える……例えお前が何と言おうと、俺は人間どもを破壊し尽すまで止まるつもりなどない。
 さあ、キサマはどうする? 俺と決着を付けるか、それとも奴らの居所を吐くか……さったと選べ!」

 数刻前のオーヴァンのように、フォルテは問いかけてくる。大きな違いは、問う側が激しい怒りで燃え上がらせていることだ。
 最早、フォルテはこちらの言い分を聞くつもりなどないのだろう。例え何を言ったとしても、頑なに拒むはずだ。
 恐らく、ハセヲの仲間にはハッキング技術に長けたプレイヤーが含まれていて、何らかの手段で目を誤魔化しているのだろう。5分程度の時間で大人数が同時に撤退するなど、困難を極める。
 学園のデータを探れば、どこかに抜け穴が見つけられるはず。そう、フォルテに説明しようとした時だった。

「――――その勝負、一旦私が預かろう」

 フォルテの背後より男の声が響く。
 振り向くと、あのエージェント・スミスに不意打ちを仕掛けた聖職者の男・言峰神父が悠然と姿を現していた。何の前触れもなく、初めからその場にいたかのように。


875 : LASTMISSION  ――知識の蛇へ―― ◆k7RtnnRnf2 :2017/07/01(土) 20:41:50 Gkj40Pfw0
「何だ、キサマは!?」
「初めまして、と言うべきかな? 私のことは言峰神父と呼んでくれたまえ。
 この月海原学園で購買部の店主をやっていたが、ここまで派手に破壊されてはしばらくは営業停止となるだろうな……何とも残念だ」
「何処から出てきた?」
「ふむ? 私はずっと学園にいたさ……だが偶然にも君と遭遇するよりも前に、君が追撃を諦めたのだ。だから私は、こうして君の前に現れた」
「とぼけるな! 人間どもはどこにいる!?」
「残念ながら私に他プレイヤーの居所を教える権限は持っていない。言わないのではなく、言えないのだよ」
「そうか……ならば、用はない!」

 余裕綽々と言った態度に腹を立てたのか、フォルテは貯め込んだエネルギーを神父に目がけて解放する。
 炸裂し、耳を劈くほどの爆音によって周囲の瓦礫が吹き飛んでいく。大量の粉塵が舞い上がって、言峰神父の姿は見えなくなった。彼はこうして、これまで何人ものプレイヤーを破壊したのだろう。
 だが、フォルテの表情は微塵も変わらない。煙は風に流された瞬間、言峰神父の姿が自然に晒されていった。傷はおろか、衣服には埃一つたりとも付いていない。

「キサマ……何をした」
「私は何もしていないさ。
 プレイヤーの中には、君のように闘争心溢れるプレイヤーが何人も混ざっている。それ自体は大いに歓迎だが、それでは私達の役割は果たしきれない。
 故に、システムで守られるようになっているのだよ。反面、私達もプレイヤーにダメージを与えることは不可能だが」

 何事もなかったかのように、言峰神父は愉悦の笑みで語る。
 ギリ、と音を立てながらフォルテは歯を食いしばる中、オーヴァンは一歩前に出た。

「君がこうして姿を現したということは、俺達に特別な用事があるんじゃないのか?
 アイテムの購買ではなく、もっと重要な役割が君には与えられているはずだ」

 オーヴァンは問いかける。
 学園の施設が徹底的に破壊されて購買部も使用不可能となった今、わざわざ自分達の前に姿を現す道理はない。だが、こうして出現したからには、何か意図があるはずだ。
 その推測を肯定するかのように、言峰神父は口元を三日月形に歪めた。

「ご名答。流石は察しが良いようだな。
 その通り。プレイヤーナンバー021、オーヴァン。そしてプレイヤーナンバー046、フォルテ。私は君達を迎えに来たのだよ。GMからの指示によって」
「迎えに来た、だと?」
「ああ。GMは君達の戦歴を高く評価しているのだよ!
 君達が破壊したプレイヤーの数は全体の五分の一を超えて、何よりも単体の実力もトップクラスに値する!
 そんな君達の働きに報いる為に、報酬を用意したのだ! 君達が求める真実……それが与えられる」

 両腕を高らかに掲げながら、言峰神父は大きく宣言する。まるで、AIDAに精神を支配されたことで自己顕示欲が異様に増幅した榊のように。
 しかしあの男のように自身に酔っている訳ではなく、むしろこちらを祝福しているようだった。それはただのプラフか、あるいはこの男の本心なのかを伺うことはできない。
 だが、重要なことはこの男が口にした"真実"というワードだった。

「言峰神父……フォルテはまだしも、俺はメンテナンスの後に大した働きはしていない。それなのに、その報酬は些か大きすぎるのではないか?」
「それは私よりも、GMに尋ねてくれ。私はただ、君達の案内を任されただけだ。オーヴァン、そしてフォルテの両名が学園に辿り着いた時、GMへの扉を開くという役目を」
「どうして、俺達なんだ? まるで俺達がこの段階まで生き残ることを、知っていたみたいじゃないか」
「その理由は君も知っているのではないか? 『運命の預言者』と巡り合い、そして引き渡したのは君自身のはずだったが」
「……そういうことか」

 言峰神父の答えに頷く。
 茅場明彦との出会いを果たしたあの小屋には、預言者を自称する老婆・オラクルがいた。そして、フィドヘルの碑文に選ばれたワイズワンのアバターを榊に差し出している。
 GMは始めからこの結果を“測定”していた。オラクルとフィドヘルの予知能力が一つになった結果、誰がどのタイミングで脱落するかなど容易く読み取れるのだろう。
 その上でデスゲームを継続させている。万が一、プレイヤーが反旗を企てようとも、その未来を“測定”すればいくらでも対策は立てられる。これではまるで出来レースだった。


876 : LASTMISSION  ――知識の蛇へ―― ◆k7RtnnRnf2 :2017/07/01(土) 20:42:35 Gkj40Pfw0

「コトミネ、と言ったな。キサマ、俺達にそこまでベラベラと話して……何を考えている?」
「言ったはずだぞ、私はただ案内人の役割を担っているだけだと。君が信じないのは勝手だが、私としてはさっさと役割を果たしたい。
 そして、君が私と共に来れば、望む決着を付けられるかもしれないぞ?」
「……ロックマンのことか?」
「さて、そこまでは私も知らない。ただ、君がオーヴァンと共に来れば、宿敵と再び巡り会える……私に伝えられるのは、それだけだ」

 言峰神父の厳かな言葉には、確固たる説得力を醸し出していた。
 自分達二人を前にしても微塵も揺らがない胆力と、GMによって与えられた不死のシステム。その二つがある限り、如何なる抵抗も意味を成さないと、フォルテは悟ったはずだ。事実、獰猛な獣の如く殺意は既に揺らいでいる。
 答えは決まっていた。



     2◆◆



 言峰神父の導きによって辿り着いたのは、月の優しい光によって白銀色に煌く教会だった。
 カトリックの教会堂をモチーフに作られているようだが、案内人である聖職者は人間的な徳を重んじているようには見えない。知ってこそいるが、腹の底ではむしろ嘲笑っているようにも、あの愉悦の笑みからは感じられた。
 尤も、オーヴァンにとっては些細な事だ。噴水から響き渡る柔らかい音に、三人の足音が重苦しく混ざりこむ。そこに一欠けらの感情もなかった。

「着いたぞ。この扉の向こうで、彼らは待っている」

 そう言いながら扉の前で足を止めた直後、言峰神父はこちらに振り向いてくる。相も変わらず、こちらの全てを見透かしているような笑顔が張り付いていた。

「一つだけいいかな? オーヴァン、フォルテ」

 扉に触れるより先に、問いかけられる。

「この先に行けば、君達はもう戻れないかもしれないぞ?
 何かやり残したことがあるのなら最後の機会だが、大丈夫かな?」
「御託は言い、さっさとドアを開けろ」
「俺達の答えは、君はとっくに知っているんじゃないのか?」

 その答えに満足したのか、言峰神父は扉を掴んだ。それが、先程敵対していた者達の間で繰り広げられたとあるやり取りと似ていたのだが、二人は知らない。

「そうだったな。いや、これは失礼した。
 では行こうか――君達が求めていた"真実の行方"……GM達が待つ、知識の蛇へ!」

 その宣言と共に、教会の扉が大きく開かれた。


[B-3→?-?/教会→知識の蛇/一日目・夜中]


877 : LASTMISSION  ――知識の蛇へ―― ◆k7RtnnRnf2 :2017/07/01(土) 20:43:21 Gkj40Pfw0

【フォルテAS・レボリューション@ロックマンエグゼ3(?)】
[ステータス]:HP???%、MP???%(HP及びMP閲覧不可)、PP100%、激しい憤怒、救世主の力獲得、[AIDA]<????>及び碑文を取り込んだ
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、{ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA、魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:{ダッシュコンドル、フルカスタム}@ロックマンエグゼ3、完治の水×3、黄泉返りの薬@.hack//G.U×2、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、第?相の碑文@.hack//、{マガジン×4、ロープ}@現実、不明支給品0〜4個(内0〜2個が武器以外)、参加者名簿、基本支給品一式×2
[ポイント]:1120ポイント/7kill(+2)
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
0:コトミネやオーヴァンと共にGMの元に向かう。
1:すべてをデリートする。
2:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
3:シルバー・クロウの使ったアビリティ(心意技)に強い興味。
4:キリトに対する強い怒り。
5:ゲームに勝ち残り、最後にはオーヴァンやロックマン達を破壊する。
6:蒼炎のカイトのデータドレインを奪い取る。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※参加者名簿を手に入れたのでロックマンがこの世界にいることを知りました。
※フォルテのオーラは、何らかの方法で解除された場合、30分後に再発生します。
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※参加者名簿を手に入れたのでロックマンがこの世界にいることを知りました。
※フォルテのオーラは、何らかの方法で解除された場合、30分後に再発生します。
※ゲットアビリティプログラムにより、以下のアビリティを獲得しました。
剣士(ブレイドユーザー)のジョブ設定及び『翼』による飛行能力(バルムンク)、
『成長』または『進化の可能性』(レン)、デュエルアバターの能力(アッシュ・ローラー)、
“ソード”と“シールド”(ブルース)、超感覚及び未来予測(ピンク)、
各種モンスターの経験値、バトルチップ【ダークネスオーラ】、アリーナでのモンスターのアビリティ
ガッツパンチ(ガッツマン) 、救世主の力(ネオ)、AIDA<????>、第?相の碑文
※バトルチップ【ダークネスオーラ】を吸収したことで、フォルテのオーラがダークネスオーラに強化されました。
※未来予測は使用し過ぎると、その情報処理によりラグが発生し、頭痛(ノイズ)などの負荷が発生します。
※ネオの持つ救世主の力を奪い、その状態でAIDA<????>及び第?相の碑文を取り込んだ為、フォルテASへの変革を起こしました。
※碑文はまだ覚醒していません。


【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP60%、PP60%
[装備]:銃剣・白浪@.hack//G.U.
[アイテム]:DG-Y(8/8発)@.hack//G.U.、{邪眼剣、スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:1500ポイント/5kill(+0)
[思考]
基本:“真実”を知る。
0:言峰神父やフォルテと共にGMの元に向かう。
1:利用できるものは全て利用する。
2:トワイスと<Glunwald>の反旗、そしてフォルテを警戒。
3:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
4:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
5;いずれコサック博士とフォルテの"真実"も知る。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です。
※サチからSAOに関する情報を得ました。
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています。
※ウイルスの存在そのものを疑っています。
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。
※このデスゲームにクビアが関わっているのではないかと考えていますが、確信はありません。
※GM達は一枚岩でなく、それぞれの目的を持って行動していると考えています。
※デスゲームの根幹にはモルガナが存在し、またスケィス以外の『八相』及びAIDAがモンスターエリアにも潜んでいるかもしれないと推測しています。
※榊からコサック博士とフォルテの過去、及びロックマンの現状について聞きました。ただしコサック博士の話に関しては虚偽が混じっていると考えています。


878 : ◆k7RtnnRnf2 :2017/07/01(土) 20:44:26 Gkj40Pfw0
以上で投下終了です。
ご意見があればよろしくお願いします。


879 : 名無しさん :2017/07/03(月) 00:09:01 fSQxzidU0
投下乙です
地味にマップにあった教会の謎も溶け
ラストバトルが見えてきた?


880 : 名無しさん :2017/07/15(土) 03:20:10 CWmCE2IM0
月報の時期なので集計します。
132話(+ 2) 15/55 (- 0) 27.2


881 : 名無しさん :2017/10/27(金) 19:02:15 /wlptZpQ0
予約来たね!


882 : ◆7ediZa7/Ag :2017/11/04(土) 05:45:14 jjGXgrck0
遅れて申し訳ございません。
投下します。


883 : ◆7ediZa7/Ag :2017/11/04(土) 05:45:39 jjGXgrck0

視界が開けた先でハセヲは一言漏らした。

「認知外領域(アウターダンジョン)みたいだな」

生徒会室から電子の世界に降り立ったハセヲはそう口にした。
レオや岸波がアリーナと呼んでいたこのエリアはすべてむき出しのワイヤーフレームで構成されており、不要なテクスチャなども存在しない。
電子的な世界であることを隠そうともしないその様は、The Worldの裏側たるエリアと酷似している。
そしてここまた本来なら使われるはずもなかった裏側――いや違う。

――このゲームの“本当のダンジョン”

レオの言葉を思い起こす。
彼の考察が正しいのだとすれば、このダンジョンを攻略させることこそ、
この世界のシステムの本当の役割だったのだという。

それが何らかの形で歪められた――その結果が、自分たちは殺し合うことになった。

「あのウラインターネットって場所よりは、過ごしやすそうだね」

共にダンジョンに降り立った揺光は辺りを見渡して言った。
このゲーム内で再現されていたウラインターネットはハセヲも足を踏み入れたことがあるが、趣が全く違う。
響き渡る水の音やところどころに見えるサンゴなど、海を思わせる要素がどこか幻想的な印象を与えていた。

『無事到着したみたいですね、ハセヲさん』

と、そこでウィンドウが開かれた。
とこどころノイズが混じってはいるが、そこに映っていたのはこのパーティ――いやギルドといった方が近いか――のリーダーたるレオだ。

「ああ、こっちは普通についたぜ」
『通信機バージョン2も問題なく動作してよかったです。
 これで生徒会室からでもお二方をサポートできます!』

レオはニッコリと笑って言った。
通信機というのはレオが自作したアイテムであり、すでに岸波たちには配られていた。
バージョン2と口にした通り、この短時間でアップデートをかけたらしく、
画質は劣化はしているものの映像がウィンドウを通じて送れるようになっている。

『とりあえずこの階層をちゃっちゃとクリアしちゃいましょう。
 あ、白野さんとブラックローズさんはもう準備運動をしておいてください。ハセヲさんなら秒でクリアしちゃいますから、秒で』
「無駄なプレッシャーかけんじぇねえ」

悪態を吐きつつもハセヲは頷いた。
ダンジョン攻略組として分けられていた人員のうち、今回の作戦で投入されたのは自分と揺光の二名のみだ。
既に上層の踏破は住んでいる。あの大所帯の岸波やドットハッカーズのブラックローズなんかがいるのだから、ただ敵を蹴散らすだけなど簡単なことだった。
理由は一つ、この『第五層/三の月想海・下層』にて提示された“ルール”にある。

「参加は二人のみで、そして出現するエネミーとの戦闘は禁止ってことなんだけどさ」

揺光が浮かび上がるレオの映像を見ながら言った。
それはこの第三層にてかけられたミッションである。
聞けば第四層では特定プレイヤー名指しでの参加制限があったのだという。
そう考えれば人数制限のダンジョンがあること自体はなんら驚きではない。

問題はもう一つの“エネミーとの戦闘は禁止”という部分である。

ハセヲは視線を映す。
ワイヤーフレームで形成されたゲートの向こう側に、複雑に入り組んだ通路が広がっている。
そしてそこを徘徊しているのは、スーツを着こなした白人たちであった。
サングラスで表情を隠された男たちは黙々とダンジョンを歩いて回っている。

「あれがエネミー、だよな」
『そうみたいですね。この層ではアレと戦闘した時点でゲームオーバー、という訳らしいです』
「失敗した場合のペナルティは?」
『不明です。流石に死亡、ということはないと思いますが、クリアは遠のくでしょうね』

ハセヲは「ふうん」と呟いた顔を上げた。
揺光は「なるほどね」と漏らしていた。

何を持って“戦闘”とするかは不明だが、おそらくこちらから攻撃しても、こちらが攻撃されてもアウトだろう。
そしてランダムで徘徊している敵に近づかれた時点で、こちらは攻撃せざるをえない状況に陥る。

ハセヲと揺光は互いを見合わせた。そして共にこう思っていた。

――つまり鬼ごっこって訳だ

と。


884 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/04(土) 05:46:26 jjGXgrck0






「あー成程、また懐かしいイベントですねえ」

生徒会室エリアにて、ハセヲたちの様子を見ていたキャスターは何かに合点したようにうなずいた。

「何が懐かしいのだ。いや、言うな。齢を喰っているキャス狐のことだ。
 若かりし頃の過ちとかそういうのをしみじみと噛みしめていたのだろう。
 余にもわかる。わかるぞ。たまーに変なことを思い出して頭が痛くなる」
「皇帝様のそれとは一緒にしないでくださいまし!」

あと私は年増とかそんなキャラじゃないです、と付け加えながら、キャスターは頭を振った。
人数制限でとりあえず撤退はしたものの、あのトゲトゲした鎧のハセヲたちが失敗したら次は自分たちの出番である。
となればあまり緊張を解きすぎるのも困り者。皇帝様と関わっていると思わずジャンルがコメディになってしまう。
と、あまりにも己のことを棚に上げたことを考えつつも、キャスターは言葉を続けた。

「順番的にここ、三番目のアリーナですものね。
 そこで鬼ごっことは、また懐かしいと思っただけです」

別にそこに深い意味はないだろう。
システム側が適当に用意したルールと、自分たちの記憶が妙な形で合致したに過ぎない。

ちらり、とキャスターは己の主人を見た。
すると彼(いまは男性の恰好をしている。キャスター的にはどちらでも素敵なので問題ないです)もまた少しだけ感傷的な表情を浮かべている。

――かつてここで、鬼ごっこをせがんだ子どもたちがいた

ただそれだけのことである。
そして今はもういない。それはもう終わってしまった話であり、今ダンジョンを駆け抜けているハセヲたちにはそんなこと何も関係ないだろう。
覚えているのは、きっと自分たちだけだろうから。






885 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/04(土) 05:46:59 jjGXgrck0


ハセヲと揺光は共に準備を整えた。
ゲートを一歩超えれば、エネミーたちがうようよするダンジョンに突入する。
今回は内容的にもとにかく速度と敏捷、AGIが物を言う。
となるとステータスのビルド的にも自分たち以上の適任はいないだろう。

だからこそ自分たちがクリアしなければならない。
そう気合いを入れて、ハセヲと揺光は並び立ち、そして互いを見合わせた。

「――あのさ」

何故か少し緊張しながら声をかけると、揺光に視線を逸らされてしまった。
え? 何か俺やった、と思わずドキリするが、

「よく考えたら、久しぶりだなって」

揺光は頬を少し紅潮させながら、歯切れ悪く言った。

「二人で冒険するのさ――すんごい久しぶりだって、そう思ったんだよ」

その言葉にハセヲは思わず声を喪った。
そうだ、このデスゲームに巻き込まれる前にも、揺光はボルドーにPKされて未帰還者になっている。
それ以来、自分たちは会っていなかった。会えなかった。

「……そう、だな」
「だからさその、ちょっと何ていうか、よかったなって。
 いやこんなゲームに巻き込まれたのは最悪だけど、でもさっ」
「いや、わかる」

ハセヲは言って虚空より武器を取り出した。
光式・忍冬。この武器をハセヲは何度も手渡されてきた。
志乃に、揺光に、レインに、そしてシノンに。

「本当によかった。生き残ってくれていて」

思わず声が震えた。ここまで多くの仲間が自分の前から去っていった。
守りたかったのに、守れなかった。それが悲しくて、つらくて、死の恐怖に戻ろうともした。
ハセヲの様子を見た揺光が少し焦ったように、

「だから辛気臭いのはナシだって、ハセヲ!
 と、とっとと行くんだろう! 急いでこのゲームをクリアするんだって。 
 そしたらその――また二人でThe Worldで冒険しろよなっ」

揺光は頬を紅潮させたまま焦ったように言う。
ハセヲは苦笑しながら「そうだな」と口にした。

気を取り直して二人は並ぶ。
すっと息を吸い――

――いくよ

意識せずとも、二人は全く同じタイミングで駆け出していた。
ダッ、と音がして、ダンジョンを駆け抜けていく。
すぐ角にエネミーが見えた。黒服とサングラスのエネミー。まだ向こうは気づいていない。

「似てるよな。ってか同じカテゴリの敵だよなアレ」

ハセヲは思わず声を漏らしていた。
何と、とまでは言ってなかったが、間髪入れずレオが答えた。


886 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/04(土) 05:48:03 jjGXgrck0

『ええ、あれはどうやらあのスミスと同じ存在のようですね』

スミス。
その名はこのゲームにおいて、ハセヲが相対した最大の敵といってもいい。
このダンジョンのエネミーは、その身体的特徴のほとんどがスミスと酷似している。

『さっきのはジョーンズ、向こうにいるのはブラウン、あの女性型はペース。
 すべて“エージェント”と呼ばれる存在です。
 マトリックスというシステムの代理人として生み出された者たち』

ハセヲは既にマトリックスという“現実”のことも聞いている。

「ネオとか、モーフィアスのおっさんはアイツらと戦ってたんだな」

隣で駆ける揺光が呟いた。
ハセヲはその名を知らない。
だが口ぶりから、彼女がここにいたるまでに知り合い、そして別れた者たちであることがわかった。

「――っと、見つかったぞ」

疾駆していた二人に、徘徊していたエージェントの一人が気付いた。
首だけをぎこちなく回し、サングラス越しにこちらを見た。
きらりと光るサングラス。一瞬の静止。
そして――奴らは次の瞬間には全速力でこちらに迫ってきた。

「最初からトップスピードって、地味なところで物理法則無視する!」

その姿を見た揺光が叫びを上げた。
ハセヲはメールで以前聞いていたが、リアルでの彼女はスポーツ観戦も結構好きらしい。
となるとそういった部分が気になるのだろう。

「とにかく行くぞオラ」
「任せて!」

敵がこちらに気付いた。元より完全にかくれて進んでいけるとは思っていない。
ダンジョン構成上、視界に捉えられる場面に陥ってしまうことは必須だった。
だから二人は慌てず共に自らに加速/アプドゥを付与(バフ)する。

途端、身が軽くなる。
見つかってしまった以上は後は――脚力と判断力が物を言う。
ダダダ、とハセヲはダンジョンを走り抜ける。後ろを伺うと、続々と黒い服のエージェントたちが集まってきていた。

『次の曲がり角を右にいってください。前方からエージェントが2体来ています。注意を」

鬼ごっこのさなかも、レオがナビゲーションしてくれる。
その冷静沈着な口ぶりがこういう状況は頼りになる。

この“鬼ごっこ”において最も気をつけなくてはならないのは、挟み撃ちに合うことだ。
なんといってもこの場には逃げる者より、追う鬼の方が数が多い。
左右から大量のエージェントに襲い掛かれては逃げるにしてもどうしようもない。


887 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/04(土) 05:48:28 jjGXgrck0

「――ちっ、向こうからも来やがるか」

ハセヲが悪態を吐く。後方から三人のエージェントに追われる最中、差しかかった曲がり角でもエージェントがいた。
このままでは接触は必至。こうなるとかなりきつい状態になる。

『解析終了。三ブロック先に隠し通路があります。左に行ってしばらく待機してみてください』

レオのメッセージが表示される。
ハセヲと揺光は駆ける。そして三ブロック先の壁に――思いっきり飛び込んだ。
ふわり、と身が浮く錯覚が起きた。壁を超えた虚空の世界。だがそこには確かに“床”があった。

『アリーナでよく見た奴だな。アレのおかげでマップをコンプするのが面倒だった』

レオの後ろで見ているのか、紅い方のアーチャ―の声が聞こえてきた。経験者は語るということらしい。

そして隠し通路に逃げ込んだハセヲと揺光を――四体のエージェントは無視して進み出した。
しばらくは近くをうろうろしていたが、数十秒後に元の徘徊ルートへと戻っていく。

シンボルエンカウントの雑魚キャラかよ、とハセヲは内心でこぼす。
あのエージェントの動きは、いかにもゲーム的で、言ってしまえばチャチな動きだ。
スミスらの同族とはいえ、彼らは所詮NPCとしてデータを複製された存在に過ぎないのだろう。

「……やり過ごせたのか?」
『ええ、どうやらご丁寧にもこのダンジョン、安全地帯が用意されてるみたいですね。バランス調整という奴でしょうか』
「本当、丁寧なこった。殺し合いの方はバランスもクソもねえ環境だったってのに」

スミスを筆頭に、トンデモないチートPCがゴロゴロいた“表のゲーム”のことを思い出さざるを得ない。
あれに比べればこのダンジョンはよほどゲームとして成立していると言えそうだ。

「ハセヲ、そろそろ大丈夫みたいだよっ!」

壁の向こうではエージェントたちが去っている。
通常の徘徊ルートに戻ったのだろう。この調子でこのダンジョンの奥まで突き進まねばならない。

二人は頷き合い、共に駆け出した。
揺光は紅い髪を揺らしながら、ハセヲは黒い鎧を揺らしながら、共にダンジョンを突き進む。

そうして時に隠し通路での“かくれんぼ”を交えながらも、“鬼ごっこ”は進んでいき――

「――最後の直線って訳だ」

ハセヲは一言そう呟いた。
ダンジョンの最奥、長く続く一本道の向こうに開けたエリアが見える。
ちら、とハセヲは後ろを窺う。こちらに気付いたエージェントたちが追ってきているが、この距離なら撒けるだろう。

「とっととやっちゃおう、ハセヲ!」
「おう」

二人でまっすぐに走り続ける。この先にはボスが待っているはずだ。
それを撃破すれば、このダンジョンはクリアだ。
何だ楽勝じゃねえか、と思っていたところ、

――直線の前方に、突然エージェントが出現(ポップ)した

「はぁ?」

ハセヲは思わず声を漏らした。
ゴールへ続く一本道のど真ん中に複数のエージェントが道をふさぐように現れたのだから。
このまま突っ込む訳にはいかない。そう思い、足を止める。が、既に後ろからエージェントたちが来ている。

『どうやら罠、のようですね。あらかじめあの位置にエージェントが出現するようになっていたようです』
「前言撤回。こっちのゲームもバランス調整放棄してやがるな、クソGM!」

この場を統括しているのが本当にモルガナだとすれば、
The Worldのシステムのくせにというべきか、あるいはThe Worldのシステムだから、というべきか、
そのあたりの能力が致命的に欠けているらしい。
錬装士(マルチウェポン)のジョブとしての貧弱さとか、バランス調整周りで思い当たる節は正直かなりある。


888 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/04(土) 05:48:50 jjGXgrck0

『まぁまぁ落ち着いてください、ハセヲさん。
 どうやらそこに隠し通路があるみたいなので、ひとまずそこに隠れてください』

レオの声に従い、ハセヲと揺光は壁の向こうへと逃げ込んだ。
エージェントたちは通路まで止まった。そう、止まった。
隠し通路になだれこんでくることこそなかったが、しかし今までのようにどこかに消えるということもない。
“よし出てくるのを待ってやるぜ”と言わんばかりに無数のサングラスエネミーが壁の向こうにいた。

「……これも罠か」
『そうみたいですね』
「かくれても待たれるのって、The Worldでもたまにあったよね。
 シンボルエンカウントがあんまり意味ないよねって、アタシ思ってた」

揺光の愚痴に頷きながら、ハセヲはさてどうするかを考えた。
壁の向こうに待つ無数のエージェント。あれらを蹴散らすことはできるが、しかしどうしても“戦闘”になってしまう。

『おそらくここの正攻法は、一人を囮として使うことでしょう』

レオが言った。

「囮?」
『ええ、このゲームの参加条件が一名じゃなく二名ということからもそれが伺えます。
 一人がヘイト稼ぎとしてあのエージェントたちにつかまり、誘導。
 その間にもう一人がゴールを目指す、という行動ですね。
 平たく言えば、ここは俺に任せて先にいけ! をしろという訳ですね』
「そりゃあ……」

ハセヲは戸惑いの声を上げる。
レオの作戦ならば確かにうまくいくかもしれなかった。というよりそれがクリアの道なのだろう。
だがそれは高確率で囮となった者が“鬼”につかまることを意味する。

ハセヲは揺光を見た。じっと見た。

捕まった場合のペナルティは不明だ。
いきなりデリートとまではいかないだろう、とレオは言っていたが、確証は持てない。
そんな危険に彼女を晒すことは絶対にできなかった。

「ハセヲっ! アンタ自分が囮になるって言うんじゃないだろうね」

思考を先回りされるように、揺光が口を荒げた。

「あ、ああでも」
「――アタシだって、もう厭なんだよ、誰かを喪うのは」

揺光はそこでしゅんと弱々しくなった。
その声色には恐れがあった。悲しみがあった。

「特にハセヲ、アンタだけは――絶対に喪いたくないんだ」

ああきっと、これはかつて自分が揺光に対して漏らしたような、そんな声だ。

「……俺だって、そうだ。
 アトリも、シノンも、レインも、みんな俺は守れなかった。
 だから揺光、お前だけは――」

二人はいま同じ想いを共有していた。
互いに感じていたのだ。こうして二人でまた冒険していることが、どれだけ意味のあることなのかを。
そんな二人にとって、どちらかがどちらかを危険に晒す選択など、できる訳もなかった。

『ははは、そう深刻にならないでください』
「なっ、レオお前」
『あ、だからと言ってあんまりイチャイチャもしないでくださいね。
 ただでさえ割と多くの人にモニターされているんですから、今』
「イチャイチャって、そんな訳」

レオの言葉にハセヲは少し過敏な反応を示していると、それを愉しむようにレオは言った。

『さっきの囮作戦はあくまで正攻法ですよ、正攻法。
 我々は人間なんですから、ルールというのは破ってナンボです』
「破るって、そんなことできるのか?」

確かにあのエージェントとの直接戦闘が可能になれば、負ける気はしない。
だがレオは首を振って、

『もちろんそれはできません。だから穴を突くんです。
 敵のルールを馬鹿正直に受け取るなんて、やるもんじゃないですよ』


889 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/04(土) 05:49:10 jjGXgrck0






レオの作戦を聞いた二人は、一瞬戸惑うも所定についた。
どちらがどちらの役割を負うかは少し揉めたものの、結局ハセヲが少し“痛い”方の役目に就くことにした。

「じゃあ、行くよ」
「ああ、何時でも来てくれ、揺光」

そうして揺光は剣を抜く。
モーフィアスが持っていた双剣を使い、アーツ“天下無双飯綱舞い”発動。
その対象は――ハセヲである。

「私は――」

アーツを発動した揺光がハセヲにまず切りかかり、ドン、とその身体を吹き飛ばす。

「一途で――」

そして揺光は己を鼓舞するように声を張り上げなら、ハセヲへと襲い掛かった。

「――しつこいぞっ!」

そして空に舞ったハセヲのPCに揺光が勇ましく飛び上がり、ザクザクザクザク! と派手な効果音を立てながら斬り裂いていく。

――このダンジョンのルールは“エネミーとの戦闘禁止”である。

“戦闘禁止”ではない。
なのでプレイヤー同士の戦闘は普通にできる。
これが何を意味するかというと――

吹き飛ばれたハセヲがダンジョンへと転がっていく。
エージェントが周りを取り囲んでいるが、そこに揺光が間髪入れずにアーツ発動。
再び“天下無双飯綱舞い”。飛び上がるハセヲ、斬りかかる揺光、転がるPC、加えてレンゲキという構図が続く。

それに対してエージェントたちは割り込むことができない。
The World R:2のシステムにおいて、発動されたアーツに割り込むような技は、攻撃を受けているPCによる“反撃”しかない。
なので彼らは手を出すことはできずにいた。できないまま、ハセヲと揺光は飛んでは落ちて、飛んでは落ちてという構図を繰り返しながら進む。
まるでハセヲをバスケットボールのドリブルように運ぶ形で、二人は最後の直線を進むことにしたのである。

「ええと、あのさ、ごめんっハセヲ!
 あとでアタシも、その、思いっきりアーツ叩き込んでいいからさ。いくらでも! 思いっきり!」

謝りながらコンボを叩き込んでくる揺光を他所に、ハセヲにウィンドウから声がかけられる。

『頑張ってください、ハセヲさん。もうすぐですよ、もうすぐ! ゴールは近いです! がんばれがんばれ』
『ループコンボ。むぅ、懐かしい光景だ。あれの入力はなかなかシビアだぞ。流石はチャンピヨンというべきか』
『経験があるような口ぶりだな、アーチャー。余は残念ながらあの手のものに出演したことはないが。だがしかしズバズバ切る無双ーというのならあるぞ!』
『寺(てら)で餡子(あんこ)食うみたいな話はそのあたりにしてくださいまし。
 しかし女が男を何度も何度も斬り裂くサマというのは、何時の時代もありふれてますねぇ。
 大抵は男の二股三股四股がバレてのいざこざなんですが――ねぇ? ご主人様』

楽しんでないかレオ、という言葉を我慢しつつハセヲは進む。
そしてキャスターとかいうのに声をかけられている岸波がどんな顔を浮かべているのか、少し想像がついた気がした。

そうこうしながら二人は最後の直線を抜けた。
揺光はSPを、ハセヲはHPを消耗しつつも二人そろって、“鬼ごっこ”をクリアしたのである。







890 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/04(土) 05:49:29 jjGXgrck0






「ひ、ひでえ目にあった」

ぼやきながら、ハセヲは立ち上がった。
揺光がバツの悪そうな形でこちらで気遣う声を投げかけてくるので、大丈夫だと返す。
実際、どちらかを危険に晒すよりもよほどマシな方法だったのは間違いない。
まさにルールの穴を突くやり方で、HP的にも問題なさそうなのは見えていた。

『いや、ハセヲさん。グッジョブです!
 匠のバスケないしコンボを見せてもらいました!』

爽やかに言ってくるレオには一言言いたくなったが、そこはぐっとこらえた。
これが最良だった最良だった。そう言い聞かせてこの場は我慢しておこう。

「なんでもいいから、次はボス戦だろ。とっとと行くぞ」

首をこきこきならしながらハセヲは先へと進む。
この先に第五層のフロアボスが待ち構えているはずだ。それを倒せば、こんな場所とはおさらばだ。
ちなみに先ほど受けたダメージは、揺光の持っていたアイテムで既に回復済みだ。

「ええと、今度は二人で戦えるんだね」
「ああ、もうバスケはごめんだ。普通に戦いたい」

言いながら二人は次の階層に降りる。
実際、単なる戦闘ならば負ける気はしなかった。
ダンジョン後半戦で徐々にボスのレベルも上がっているだろうが、スミスやフォルテに比べれば危険度は大幅に下がる。

そう思い、闘技場に足を踏み入れたハセヲを待っていたのは――

「来たんだ」

ぼそりと呟く、中性的な声をした呪紋使い(ウェイブマスター)
その傍らには黄金の腕輪を核とする、奇妙なモンスターがいた。

そして、もう一人……

「ソラ?」

漆黒の衣と防具で身を包んだ、重斧使いの少女。
銀髪をはためかせた彼女は、ハセヲを見て――そう呼んだ。


『第五層/三の月想海・闘技場』
フロアボスは二名。
表示された名は、“司”と“カール”だ。


891 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/04(土) 05:49:56 jjGXgrck0
ひとまず投下終了です。
残りは明日投下いたしまs。


892 : 名無しさん :2017/11/04(土) 06:24:07 4wK/zcSU0
投下乙です!
ダンジョン攻略がどんどん進んでいく中、知恵と工夫でルールの穴を突いて行く攻略組は凄いですね!
そしてフロアボスにまさか司とカールが登場するとは……ハセヲにとっては因縁深い相手と、どう立ち向かうのか?


893 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/05(日) 03:35:29 3PjGK87o0
続き、投下いたします


894 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/05(日) 03:35:49 3PjGK87o0



「あの方たちは……」

生徒会室にてモニタリングしていたミーナが声を上げた。
フロアボスとして現れた二人のPCの名を、つい最近見た覚えがあったからだ。

司とカール。
彼らの名はレオによって共有された番匠屋淳ファイルに記載されていた。
その素性は共にモルガナ事件の“未帰還者”ではなかっただろうか?

「司って、あの司が?」

隣で見ていたブラックローズが声を上げていた。
そうか、とミーナは内心頷いていた。彼女はあの事件の当事者だったのだ。

「ブラックローズさん、貴方はあの人たちを知っているんですか?」
「ええと、女の人の方はよく知らないんだけど、あっちにの呪紋使いの男の子は知ってるわ」

ブラックローズはだがどこか少し歯切れ悪く、

「でもそんなに深く知り合ったって訳じゃないの。
 ミアたちとの事件で、昔何かあったとは聞いているけど。
 ヘルバに呼ばれて行った先で会ったときには、もう全部解決してるみたいだったから」

同じ事件であっても、その全容を把握している者は少ない。
事態が複雑化すればするほど、その傾向は強まる。
そう考えるとブラックローズと彼らの関係は、直接は関係ないが同じ事件に巻き込まれた者、というところだろうか。

「…………」

ちら、と蒼炎のカイトの姿も窺うが、こちらはあくまで黙していた。
元々翻訳機なしではうまく意思疎通もできないが、その反応の薄さから、彼ともまたさほど関りが深くないことが予想された。
同じゲーム出身とはいえ、AIである彼が作成されたのは2010年の事件が終息してから大分後のことだ。
となれば、彼も記録でしか知らないような間柄なのだろう。

「とはいえ、あの人は違いますよね」

一方で司とカール、彼らと関りが深いプレイヤーがこの場には一名いる。
同じ事件に未帰還者として登録されていた楚良というプレイヤーが。

「ハセヲさん、その人たちはもしかすると、貴方のために用意されたのかもしれません」

ぼそりと、ミーナは呟いた。






895 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/05(日) 03:36:37 3PjGK87o0

三の月想海のフロアボスとの戦闘は、二対二のタッグマッチの体を成しているらしかった。
ハセヲと揺光はボスの二人と相対していた。

「思い出すね」

不意に揺光が声を漏らした。

「こうしてハセヲとアリーナみたいな場所に立っているとさ、
 昔、ハセヲたちと一緒にさ、碧聖宮トーナメントに挑んだときのこと」
「……ああ、そうだな」

AIDAに感染し、おかしくなってしまった天狼を元に戻すため、ハセヲと揺光は初めて手を組むことにした。
数か月も経っていないことのはずなのに、それがひどく昔のことのように思い出された。

そう、思い出す。
ハセヲはこの場に立ちながら、強烈な既視感を覚えていた。
呪紋使いと重斧使い。彼らは共に、The World R:1のジョブの衣装をまとっている。
そしてそれをハセヲは――知っているのだ。

ハセヲは無言でウィンドウをいじる。
【設定】から【使用アバターの変更】を引っ張り出し、そこに示された“楚良”の名をじっと見つめる。
そのプロテクトは既に解除されている。スケィスゼロをデータドレインしたことで、既に自分は取り戻した。

「ハセヲ?」

ハセヲは揺光に言った。

「ちょっとさ、その双剣貸してくれないか?」
「え?」
「武器の交換だ。ちょっとだけ思い出したことがある。
 だから少しだけ、この双剣を預かっていてくれ」

ハセヲの口ぶりに何かを感じ取ったのだろう。
揺光は少しだけ微笑んでいった。「良いよ、ハセヲが言うなら」と。

そうして二人は装備している双剣をトレードした。
ハセヲはその手に握りしめたのは“最後の裏切り”と呼ばれるThe World R:1時代の双剣だった。
かつてモーフィアスというプレイヤーに支給されたという剣を握りしめ、ハセヲは前に出た。

「俺、実はさ、子供の頃にすっげえ病気で入院したことがあるんだよ。
 そんときのこと、親もなんも言ってくれなくてすげえ気持ち悪かった」

目の前に立つ二人のR:1のプレイヤーを見つめながら、ハセヲは言う。
それはかつて奪われたものだった。ハセヲは覚えていなかった、けれども確かに存在した過去の話。

「でも俺はここにいたんだ。なんてことはねえな、ずっと前からここに」

その言葉と共に――戦いの火ぶたが切って落とされた。
ハセヲと揺光が駆け出す。カールと呼ばれた重斧使いが武器を構える。
そして呪紋使いの司は杖をかざし、奇妙なモンスターに指示を出した。

ハセヲが先に戦いを挑んのは司の方。
カールと呼ばれた少女と揺光が切り結んでいるのを横目に、ハセヲは呪紋使い相手に肉薄する。
通常ならこの距離まで詰めれば、後衛寄りのジョブである呪紋使いを蹴散らすことなど容易だ。
だが――司の真の恐ろしさはそこにはない。

「どうせ勝てないのに」

不貞腐れたような声が聞こえる。それはただ再現されただけの人形の声だ。
だが同時に思う。ああ、懐かしい声だ、と。そう思ったのと同時にハセヲは頭上を仰いだ。

光輝く指輪を核に液体が纏った鉄アレイのような造形のモンスター。
その身体はまるで鞭のようにしなり、ひゅん、とハセヲへと襲い掛かってきた。
反射神経を持ってしてハセヲはその攻撃をよけていく。
通常のプレイヤーならば近づくこそさえままならないだろうこのモンスターのことを、ハセヲは知っていた。

――ガーディアン

ハセヲはこの感覚を知っている。
ぐっ、と双剣を握り締める。
かつてこの身に刻まれた“最後の裏切り”の記憶が彼を突き進ませるのだ。

「あ―本当、なっついつうか」

ハセヲは少しこそばゆく思いながら、双剣を振るっていく。
おぼろげながらに見えてきた過去の軌跡。あのとき、どうにも小恥ずかしいロールをしていた気がする。

楚良。
それはハセヲがかつて――The World R:1にて使っていたプレイヤーの名前。
そこで彼はPKとしてモルガナ事件にちょっかいを出していた。
その事件の中心にいたプレイヤーこそ、この司というプレイヤーだった。


896 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/05(日) 03:36:50 3PjGK87o0

楚良はこの司という少年(記録によるとリアルでは少女らしい)に対して、おおむね敵対するような、はた迷惑な行動を取っていたらしい。
モルガナに与するような真似をして、司に対して迷惑をかけ続けた。

「そのさ、あんときはいろいろ迷惑かけたな」

ハセヲは流れゆく過去のことを思い出しながら、一言そう謝っておく。
無論、PCの向こうにプレイヤーなどはいないだろう。そのうえで伝えたいことを伝えておく。

「っ!」

接近してくるハセヲに対し、司が焦ったような声を漏らす。
司単体での戦闘能力は、ほぼあのガーディアン頼りである。
あのガーディアンが、かつてように仕様外の存在としていたのならば話は別だろうが、
ここにいるのはあくまで再現された存在。

動きを知っているハセヲにしてみれば、攻略することは容易かった。

二人の身体が交錯する。
“最後の裏切り”。
ハセヲが握る剣のその銘は、かつての己の行いにぴったりと合致している。

司にまつわる事件の終盤に至るまで、楚良はモルガナに与していた。
だが最後の最後――土壇場で彼女を裏切り、司たちを逃がすに至った。

そしてその罰として、自分はスケィスにデータドレインされ、ネットに囚われることになったのだ。

「ごめん、そんでその――ありがとな」

本体にダメージを受け、倒れ伏す司に対しハセヲは声をかけた。
それは本来の彼であって、彼でない記憶から来るもの。
ずっと昔、忘れていたことを、噛みしめるように彼は言った。

「“お友達”になってくれてさ」

ハセヲが記憶を喪っていた幼少期の記憶。
そこにはなんてことのない――楚良から司への感謝と返礼の想いが刻まれていた。


897 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/05(日) 03:37:19 3PjGK87o0





揺光とカールの戦闘もまた終わろうとしていた。

「――っ!」

銀の髪が揺れ、重斧使いの少女が膝をつく。
その顔は苦痛に歪んでおり、受けたダメージの大きさを示していた。

対人戦、場所は闘技場で、ほぼ対等の条件のタイマン。
この状況において、揺光が負ける要素はない。ハセヲの予想通り、彼が司を攻略する頃にはもう、決着はつこうとしていた。

しかしトドメを前にして彼女の手は止まっていた。
勝利を確信したからではないだろう。ソラ――そう言って、ハセヲに手を伸ばすカールの姿に少し感じ入るものがあったからだろう。
揺光がハセヲの方を見上げていた。「どうするの?」と彼女は静かに尋ねてきた。

ハセヲはどこか戸惑った顔を浮かべながら、カールと向き合った。

「ソラ――」
「俺はもう楚良じゃない」

ハセヲはそう言い放ったのち、ふっと顔を緩めた。

「俺は――正直お前のことを思い出せない。
 楚良としての記憶は、正直ぼやっとしたままだし、夢みたいなものだ。
 つうか、そもそも、7年も昔の小学生時代の記憶なんて、何もなくても曖昧なもんだ」

カール。この銀髪のPCの基になったオリジナルには、どんな過去があったのだろうか。
わからなかった。楚良とカールの間にどのようなことがあったのか、どのような物語があり、どのような結末/オワリを迎えたのか。
今となってはもう、誰にもわからないことだろう。

けれども彼女は楚良の名を呼んだ。
それだけで十分だった。そこに確かにつながりがあったのだと、この胸に刻むことができる。

「いつか、司やアンタにまた会いにいくぜ。
 このクソゲーを終わらせたら、今度は過去にいたらしい楚良じゃなく、イマを生きるハセヲとしてお前らに会ってみたい」
「……私は」

そう告げたところ、カールに伝わるわけではない。
当然だ。ここにいる彼女は放浪AIのようなもの。本物ではなく、その意志もひどく薄弱だろう。
それでも――彼女が笑ってくれたような、そんな気がした。
たぶん、錯覚だ。ずっと言えなかった言葉を今になって言えたことで、胸のつかえが取れた。そんなささやかな満足感が見せた錯覚。
今のところは、それで十分だろう。

――そうしてハセヲと揺光は、カールを倒した。

この階層に現れた二人のフロアボスを打ち倒し、ゲームクリアへとまた一歩前進したのだった。


898 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/05(日) 03:37:39 3PjGK87o0






「……やはり、妙ですね」

ダンジョンクリアをモニタリングしていたレオは、一人ぼそりと呟いた。
第五層をクリアできたことは問題ない。時間的にも順調の一言だ。
ハセヲや揺光といった特にゲームに詳しい人間が攻略を担当しているのだ。
多少難易度が上がろうが、ダンジョン踏破については何も心配はしていなかった。

だが気になるのは今しがた現れた二人のフロアボスだ。
いや正確に言えば―― 一つ前の階層に現れたブラックローズの弟、カズのことも気になる。
これらのボスの共通点は挑んだプレイヤーに深いかかわりのある者たちだ。
しかもカズに至っては、かなり濃い自我のようなものまで持ち合わせているような振る舞いを見せていた。

「気になりますか、レオ」とガウェインが言う。
「ええ。僕が攻略していたときは、変な言い方ですが、そりゃもう適当な敵がマッチアップされてたものですが。
 途中からプレイヤーを意識した構成になっている。特に今回のハセヲさんのそれはかなり露骨ですよ。
 ハセヲさんが楚良としてのデータを取り戻した直後に、その関係者をぶつけてくるなんて」

その事実から導きだれることは一つだ。
第四層あたりから、GM側はかなりこのダンジョンに“力”を入れている。
それも難易度を上げるとかそういう形でなく、こちらを探るような動きを見せている。

GM側にとっての勝利条件は、自分たちをただ打ち負かすことではないだろう、と。
バトルロワイアルという形式をわざわざ取ったことからも、彼らは自分たちのことを知りたがっている。
だがそれは何だ。自分たちの過去をわざわざ再構成/Recodeするような真似をして、それを何に活かそうとしている。

「やはりダンジョン攻略はただの前哨戦でしょうね。
 本当の戦いはそのあとの……」

そこでレオは言葉を切った。
画面に変化が訪れていた。ボスを倒し、ひとまずエリアから戻ってこようとしているハセヲと揺光に近づく反応が――






899 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/05(日) 03:37:59 3PjGK87o0

「順調、とでも思っているのでしょうか?
 VR018“ハセヲ”」
「っ!」

後ろから突如としてかけられた言葉にハセヲは振り返る。
そしてその先にエリア転移の光を伴って、一人の騎士が現れていた。
舞い散る美しい色をした髪に、流麗な造形の鎧。 そして腰に挿した金木犀の剣。
見たことのない少女アバターが、そこにはいた。

彼女は悠然と佇みながら、ハセヲと揺光を眺めている。

「何だ、まだフロアボスがいたのか? いいぜ、だったら」
『いえ、違います。ハセヲさん』

レオが今までと打って変わって神妙な口ぶりで通信を投げてきた。

『ダンジョンは既にクリア判定となっています。
 それに今しがた現れた彼女に対してコードキャストをぶつけてみたんですが、禁則処理として弾かれました。
 その際に表示されたエラーコードは“VRGMユニット”です』
「なっ! じゃあつまりコイツは!」

ハセヲと揺光は突如として現れた存在に対して警戒を強める。
レオの言葉を信じるならばこの騎士はGM、NPCなどでなく確かな自分たちの敵ということになる。

「何を驚くことがあるのです。
 ここはいわば道なのです。中枢、モルガナ様へ至る回廊。
 であればその“盾”たる私がここに現れるのも当然でしょう」

少女騎士はそう切り捨てるように言った。
その口ぶりが全てを証明していた。そう、彼女がGMの一派である、ということを。

「待てっ! モルガナだと? やはりこのゲームシステムはそいつが」
「さて死に行くお前たちに教えても詮無きことでしょう」

はぐらかすようなことを少女は言う。
焦れるハセヲだが、同時に冷静にもなっていた。わざと情報を漏らすようなことを敵の思惑が読めなかったのだ。

『ハセヲさん、落ち着いてください。
 どのみちGMはこちらを攻撃できません。それが奴らのルールですから』
「……ああ、そうだな」

レオの言葉にハセヲは頷く。
かつてゲームの裏側で接触したトワイスが示していたように、GMはこちらを攻撃することはできない。
だからどんな思惑があるにせよ、戦闘の危険性は無視していい筈だ。

「確かにこの世界にはルールが存在します。母たるモルガナ様が定めた強固なルール、天命があらゆる者に走っています。
 ですが――」

そこで敵は言葉を切った。すっとその瞳を閉じ、どこか憂いを帯びた顔で桜色の唇を開いた。

「《システム・コール》」

呪文のようにその英単語は紡がれた。

「シフト・VRGMユニット・ナンバリング30・トゥ・VR999」

その響きに何か良くないものを感じ取ったハセヲとと揺光は咄嗟にバックステップし、敵から距離を取る。
そして次の瞬間――敵はその剣を抜刀してみせた。
ぞっとするほどの圧がこちらにかかってくる。その肌感覚は仕様外の力に酷似している。

きらめく黄金の刀身。その荘厳な輝きは―― 一瞬にして変貌を遂げた。

なっ、とハセヲは声を漏らす。
消えた刀身は幾千もの小片に別れ、突風となってハセヲと揺光へと襲い掛かる。
全身をハンマーで殴られたかのような衝撃だった。予想外の一撃に二人は共に弾き飛ばされ、エリアぎりぎりのところで踏みとどまる形になった。


900 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/05(日) 03:38:30 3PjGK87o0

『……なるほど、そういうこともできるのですね』

開かれたウィンドウからレオの言葉が響いた。

『やられたました、ハセヲさん。
 どうやら奴らもまた、ルールの穴を突いてきたようです』
「ルールの……穴?」
『“GMはプレイヤーを理由もなく攻撃することはできない”
 僕は正直、このルールがある限り、ダンジョン踏破まではGMからの妨害はあり得ないと踏んでいた。
 ですが、これをどうにかすることは簡単です。GMであることを放棄すれば、奴らはこちらを攻撃できる』

レオの言葉を一拍遅れてハセヲは理解する。
先ほどの“鬼ごっこ”の縛りと同じだ。GMとプレイヤーの戦闘を縛っているだけで、それ以外の戦闘は何も問題はなかった。
そして敵が呟いた《システムコール》というGM権限と思しきコマンド。
それに続いた言葉を考えれば、奴は一時的にGMであることを放棄し、適当なユニットとしての属性を自らに付与した、ということだろう。

『その証拠に先ほどは通じなかったコードキャストが通っています。
 その結果出たユニットの名前は――“アリス”』

アリス。その名を噛みしめながら、ハセヲは大鎌を構えた。
死ヲ刻ム影。手に馴染む巫器を手に、新たな敵と相対していた。
一時的であろうとはいえ、いまこの敵はGMであることを放棄している。
ならばプレイヤーと同じく、こちらの攻撃通じる筈だ。

「今回は警告です」

そう思い敵意を向けるハセヲを制するように言いながら、アリスはその剣をゆっくりと納刀した。

「私がいる限り、妙な真似はさせるつもりはありません。
 表側のネットスラムの方でも何やらやっているようですが、いずれはお前たちを捕捉します」

脅すような言葉と共にアリスは再び転移のエフェクトに包まれる。
「待て」とハセヲが叫びを上げるが、アリスはそれを無視して、

「VR018“ハセヲ”。スケィスの杖はこちらで回収しています――貴方の過去がそこには刻まれている」

最後にそう言い残して去っていった。
ハセヲはその言葉に忸怩たる想いだった。
過去は取り戻した。だが、まだ自分は奴らの掌の上であると、そう告げられたように思えたからだ。







「GMが動き出しました。今はまだ牽制といったところでしょうが、ついに敵は実力行使に出てきた」

レオは今しがたの顛末の分析を進める。
わざわざこちらに情報を漏らすかのような接触。
警告と言っていたが、これではまるでこちらを誘導しているかのようでもある。

だが敵がわざわざ姿を晒した理由は読める。
それはこの生徒会エリアへの転移経路を見つけるためだろう。
ハセヲたちのデータから、この場所への記録/ログを解析しようとしているに違いない。

「そしてアリスですか。これで確認されたGMは4人」

榊。
ダークマン。
トワイス・ピースマン。
アリス。
そしてモルガナ。

目下のところ、これらの敵は退ける必要がある。
これまでのPKとの戦いと違い、GMとの戦いは同じルールで戦ってはいけないのだろう。
この場を彼らが構築した以上、同じ土俵で戦えば勝ち目はない。
だからこそ、敵の創ったルールでまともに戦う訳にはいかないのだ。

「――ここからが正念場ですよ、みなさん」


901 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/05(日) 03:38:58 3PjGK87o0



【第五層/三の月想海 クリア】

【ダンジョンクリアまで残り2層】


[?-?/生徒会室エリア/一日目・夜中]

【チーム:黒薔薇の対主催騎士団】
[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:ブラック・ロータス
書記 :ユイ
会計 :蒼炎のカイト、キリト
庶務 :岸波白野
雑用係:ハセヲ、ジロー、ブラックローズ、揺光、ミーナ


[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:理想の生徒会の結成。
2:ウイルスに対抗するためのプログラムの構築。
3:GMへのジャミングが効いているうちにダンジョンを攻略
4:ネットスラムの攻略
[現状の課題]
0:ダンジョンを攻略しながら学園を警備する。
1:ウイルスの対策
2:危険人物及びクビアへの対策
[生徒会全体の備考]
※番匠屋淳ファイルの内容を確認して『The World(R:1)』で起こった出来事を把握しました。
※レオ特製生徒会室には主催者の監視を阻害するプログラムが張られていますが、効果のほどは不明です。
※セグメントの詳細を知りましたが、現状では女神アウラが復活する可能性は低いと考えています。
※PCボディにウイルスは仕掛けられておらず、メールによって送られてくる可能性が高いと考えています。
※エージェント・スミスはオーヴァンによって排除されたと考えています。
※次の人物を、生徒会メンバー全員が危険人物であると判断しました。
オーヴァン、フォルテ
※セグメントを一つにして女神アウラを復活させても、それはクビアの力になるだけかもしれないと仮説を立てました。
※プレイヤー同士の戦いによってデスゲーム崩壊の仮説を立てましたが、現状では確信と思っていません。


※生徒会室は独立した“新エリア”です。そのため、メンテナンスを受けても削除されませんが、GMに補足された場合はその限りではありません。
※生徒会室にはダンジョンへのゲートが新設されています。
※VRバトルロワイアルは“ダンジョン探索ゲーム”です。それを基幹システムとしては、PvPのバトルロワイアルという“イベント”が発生している状況です。
※そのためダンジョン攻略をGM側は妨げることができません。
※ダンジョンをクリアした際、何かしらのアクションが起こるだろうと推測しています。
※生徒会室には言峰神父を除く全てのNPCが待機していて、それぞれの施設が利用できます。


902 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/05(日) 03:39:17 3PjGK87o0

【Aチーム:ダンジョン【月想海】攻略隊】

【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP40%、SP75%、(PP100%)、3rdフォーム
[装備]:{光式・忍冬、死ヲ刻ム影、蒸気バイク・狗王}@.hack//G.U.
[蒸気バイク]
パーツ:機関 110式、装甲 100型、気筒 100型、動輪 110式
性能:最高速度+2、加速度+1、安定性+0(-1)、燃費+1、グリップ+3、特殊能力:なし
[アイテム]:基本支給品一式、{雷鼠の紋飾り、イーヒーヒー}@.hack//、大鎌・首削@.hack//G.U.、フレイム・コーラー@アクセル・ワールド、{FN・ファイブセブン(弾数10/20)、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン、式のナイフ@Fate/EXTRA、ダガー(ALO)@ソードアート・オンライン、???@???、{H&K MP5K、ルガー P08}@マトリックスシリーズ、ジョブ・エクステンド(GGO)@VRロワ
[ポイント]:0ポイント/2kill
[思考]
基本:
1:ゲームをクリアする。
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前です。
※設定画面【使用アバターの変更】の【楚良】のプロテクトは解除されました。


【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、強い決意、Xthフォーム
[装備]:最後の裏切り@.hack//、あの日の思い出@.hack//、PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:不明支給品0〜2、癒しの水@.hack//G.U.×2、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3(一定時間使用不能) 、基本支給品一式×3、ネオの不明支給品1個(武器ではない)、12.7mm弾×100@現実
[ポイント]:194ポイント/0kill
[思考]
基本:この殺し合いを止める為に戦い、絶対に生きて脱出する。
1:ハセヲ達を助ける為に前を走る。
2:いつか紅魔宮の宮皇として、シンジと全力で戦って勝利する。
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。
※バーサーカーの真名を看破しました。
※ネオの願いと救世主の力によってXthフォームにジョブエクステンドしました。
※Xthフォームの能力は.hack//Linkに準拠します。
※救世主の力を自在に扱えるかどうかは不明です。


【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP70%(+150)、データ欠損(小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、{男子学生服、赤の紋章、福音のオルゴール、開運の鍵、強化スパイク}@Fate/EXTRA
[アイテム]:{女子学生服、桜の特製弁当、コフタカバーブ、トリガーコード(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ)}、コードキャスト[_search]}@Fate/EXTRA、{薄明の書、クソみたいな世界}@.hack//、{誘惑スル薔薇ノ滴、途切レヌ螺旋ノ縁、DG-0(一丁のみ)、万能ソーダ、吊り男のタロット×3、剣士の封印×3、導きの羽×1、機関170式}@.hack//G.U.、図書室で借りた本、不明支給品0〜5、基本支給品一式×4、ドロップアイテム×2(詳細不明)
[ポイント]:0ポイント/2kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:このゲームをクリアする
2:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
3:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
4:危険人物を警戒する。
5:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
6:ダンジョンの一番奥には何がある?
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前) 、アーチャー(無銘)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ar)]:HP20%、魔力消費(大)
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時(増加分なし)でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一騎だと10分、三騎だと3分程度です。
※エージェント・スミスに上書きされかかった影響により、データの欠損が進行しました。
またその欠損個所にデータの一部が入り込み、修復不可能となっています(そのデータから浸食されることはありません)。


903 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/05(日) 03:39:35 3PjGK87o0

【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP60%
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.、カズが所持していた杖(詳細不明)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[アイテム]:基本支給品一式、{逃煙連球}@.hack//G.U.、ナビチップ「セレナード」@ロックマンエグゼ3、ハイポーション×3@ソードアート・オンライン、恋愛映画のデータ@{パワプロクンポケット12、ワイドソード、ユカシタモグラ3、デスマッチ3、リカバリー30、リョウセイバイ}@ロックマンエグゼ3
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:ゲームをクリアする。
※時期は原作終了後、ミア復活イベントを終了しているかは不明。

【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP45%、令呪:三画
[装備]:なし
[アイテム]:{桜の特製弁当、番匠屋淳ファイル(vol.1〜Vol.4)@.hackG.U.、{セグメント1-2}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/2kill [思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
0:バトルフィールドを破壊する為の調査をしながら、指令を出す。
1:ゲームをクリアする。
2:ハーウェイ家の党首として、いずれトワイスも打倒する。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP70%(+50%)、MP100%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※ガウェインはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。
※蒼炎のカイトの言語を翻訳するプログラムや、通信可能なシステムを作りましたがどれくらいの効果を発揮するかは不明です。

【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP80%、SP80%、PP100%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:ゲームをクリアする。
2:ユイ(アウラのセグメント)、騎士団を護る。
3:エクステンド・スキルの事が気にかかる。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。
※エージェント・スミスをデータドレインしたことにより、『救世主の力の欠片』を獲得しました。
それにより、何かしらの影響(機能拡張)が生じています。

【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP60%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1(本人確認済み)、拡声器、不明支給品0〜1、、不明支給品2〜4
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する 。
1:ゲームをクリアする。
2:生きて帰り、全ての人々に人類の罪を伝える。
3:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
4:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)、ローブを纏った男(フォルテ)を警戒。
5:ダークマンは一体?
6:シンジさんの活躍をいつか記事にして残したい。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。
※現実世界の姿になりました。
※ダークマンに何らかのプログラムを埋め込まれたかもしれないと考えています。


904 : Last Recode ◆7ediZa7/Ag :2017/11/05(日) 03:40:41 3PjGK87o0
投下終了です。
あと.hack//G.U. Last Recodeも好評発売中です!


905 : 名無しさん :2017/11/05(日) 07:16:31 WqxqAU3I0
投下乙です!Last Recodeの発売に合わせたかのように、ハセヲの過去と向き合ったのは見事です!
司たちとの決着をつけた矢先にアリスもいよいよプレイヤーの前に登場して、これからどうなっていくのかが本当に読めませんね……


906 : 名無しさん :2017/11/06(月) 19:20:13 NgWfcH7o0
投下乙でした

司とカール….hack//ZEROはもう諦めた方がいいんですかね…いや、新約無印小説出てるしワンチャン


907 : 名無しさん :2017/11/29(水) 22:11:36 PhbTNRhg0
来年1月4日に「パロロワ企画交流雑談所・毒吐きスレ」にてVRロワ語りが決定しましたね


908 : 名無しさん :2017/12/24(日) 20:30:56 k9/jP21A0
GM側の予約が来た!


909 : ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:20:21 eg9Lrf4E0
これより、予約分の投下を開始します


910 : 黒衣の復讐者 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:21:21 eg9Lrf4E0


     1◆


「よく来たなオーヴァン。それにフォルテ。我々は君たちを歓迎しよう」

 そうして踏み入った教会の奥で、その男――榊は仰々しい手振りでオーヴァンたちを迎え入れた。
 だがその場所は、一般にイメージされる教会の内装とは明らかに異なっていた。

「知識の蛇、か」
 その場所に見覚えのあったオーヴァンがそう口にする。
 そう。言峰神父が口にした通り、榊は二人をGMの本拠地とでも言うべきエリアへと招き入れたのだ。
 背後を振り返っても、教会の扉はすでに消え去っている。
 文字通り、後戻りできない場所に来た、という訳だ。

「それで榊、わざわざこんな場所にまで俺たちを呼び寄せた目的はいったい何だ?」
 自らの絶対性を誇示するかのように浮遊する台座に佇む榊へと、オーヴァンは問いかける。

 後戻りができないことなど、とっくの昔に理解している。
 このデスゲームが始まり、榊と手を組んだ時点で、そんな選択肢はなくなったのだ。
 ……いいや。そんなものは初めから――『The World』で志乃を……■■をPKした時から、残されてなどいなかったのだろう。


「君たちをこの場所まで招き入れた目的。
 それは、月海原学園を拠点としていたプレイヤーたち、対主催生徒会とやらの面々と戦ってもらうためだ」
「……それは、どういう意味だ?」

 対主催生徒会というのは、おそらくハセヲたちの事だろう。
 彼らと戦ってくれと頼むために、自分たちを招き入れたと榊は言う。
 だが、だからこそ意味が分からない。
 学園から忽然と姿を消したとはいえ、これがデスゲームである以上、ハセヲたちと戦うことは運命付けられている。
 それをわざわざ、こうして本拠地にまで招き入れて、戦ってくれと頼むのはどういうことなのか。

「実に簡単な話さ。バトルロワイアルを完遂するために、君たちの協力が必要な状況になった、というだけの事だ。
 いやむしろ、このデスゲームはすでに破綻している、といったほうが正確かな?
 なにしろ、彼らはすでにゲームの表舞台から抜け出している。闇雲にフィールドを探し回ったところで、彼らを見つけることなどまず不可能だろう」
「ほう」

 オーヴァンは感心したように呟く。
 表舞台から抜け出した、と榊は言った。ハセヲたちが姿を消したのは、それが理由だったという訳か。
 想定していた理由の一つではあったが、どうやらハセヲの仲間には優秀なハッカーがいるらしい。

 そして、表舞台から抜け出したという事は、デスゲームのルールから逃れたという事。
 さすがにまだ完全に逃れたわけではないだろうが、榊らGMの裏をかくことに成功したのは確からしい。
 このデスゲームの打破を目的とする彼らからすれば、間違いなく大きな成果だと言えるだろう。

「無論、彼らを敗者として扱い、君たち二人で戦い生き残った方を優勝者とすることも可能だが……そのような決着など、君たちは望まないだろう?」
「当然だ!」
 そう声を荒げたのは、言うまでもなくフォルテだ。
 彼は怒りを露わにし、余裕を見せる榊へと詰め寄る。

「御託はいい、さっさと答えろ! ヤツらは……キリトはいったいどこにいる!」
「それは現在調査中だ。とは言っても、そう時間はかからないだろうがね。
 何故なら、彼らがどんな手段を使おうと、ログアウトすることだけは不可能だからだ。
 そう遠くなく、彼らは何らかの行動を開始する。そうなれば、彼らを見つけることなど簡単だ。
 我々はただ、じっとその時を待てばいい」
「ッ……!」
 そう言って挑発的な笑みを浮かべる榊に対し、フォルテはどうにか湧き上がる苛立ちを抑え込む。

 榊の言い分はわかる。焦ったところでどうにもならないことも理解している。
 湧き上がる苛立ちの理由も、ただ人間の思惑に乗せられることが気に食わないというだけ。
 だからこの場は堪える。今はキリト達の情報を得ることが先決だ。
 ただ待っているだけで奴らの居場所がわかるというのなら、それに越したことはない。
 なぜなら、ヤツだけは、この手で破壊しないと気が済まないからだ。
 そのための機会を、こんなどうでもいい人間への怒りで不意にするわけにはいかない。

 ……それにどうせ、最期にはすべて壊すのだ。
 例え榊が何を考えていようと、キリトとの決着がついた後、その思惑諸共破壊してしまえばいい。


911 : 黒衣の復讐者 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:22:36 eg9Lrf4E0


「……だがまあ、それはそれとして、だ。このまま何もしないでいるのも退屈だろう?
 ちょっとした余興を用意してある。君にその気があるのなら、参加してもらえるとありがたい」
「………何をすればいい」
「なに。ちょっとしたテストに協力してもらうだけさ。
 君はただ、その力を存分に振るってくれるだけでいい」

 そんなフォルテの考えを知ってか知らずか、その問い返しに対し、榊は意味深な笑みを浮かべるのだった。

      §

「ここは……」

 そうして榊に案内された場所は、一見すればアリーナの闘技場のような場所だった。
 だがそうでないことは、実際にアリーナで戦ったことのあるフォルテにはすぐにわかった。
 何しろ賑やかしのNPCがいなければ実況者もいない。観客席には閑散とした空席だけが広がっていた。

「ここはアリーナのデータをコピーしたエリアだ。
 君にはここで、あるプレイヤーと戦ってもらう」
 榊がそう言うと同時に、フォルテの居る闘技場に新たな人物が転送されてきた。
「グ……オ、O噁……」
 現れたのは、両肩に大角の生えた黒いマントで覆い隠した一体のネットナビだった。
 しかしだいぶ深くAIDAに侵食されているらしく、その身体はほぼ全身が黒いバグ――AIDAに侵食されている。
 零れ聞こえる声も呻き声ばかりで、その様子からは会話が成立するようにはとても思えなかった。
 このネットナビと比べれば、まだアスナやボルドーの方が正気を保っていたと言えるだろう。

「彼はダークマン。我々GMのメンバーの一人だったナビであり、
 そして君がオーヴァンから渡された“力”の一つ、第七相『復讐する者(タルヴォス)』の碑文の前任者だ。
 まずは彼と戦い、その力を証明してもらおう」

 榊はそう口にすると、オーヴァンとともに闘技場から退場した。
 残されたのはフォルテとダークマンの二人だけ。
 他に何かが転送されてくる様子もないことから、一対一で戦えということらしい。

「フン。たとえAIDA=PC化していようと、ただのネットナビが今の俺に敵うものか」
 フォルテはつまらなさげに鼻を鳴らすと、呻き声を漏らすダークマンへと相対した。
 同時にその右手に収束される、ネットナビ一体を破壊するのには十分過ぎるほど高のエネルギー。

 AIDA=PCから奪うべき力など、もはや何もない。
 ネオの力を奪い、それによってAIDA本体さえも喰らった今、その力はただのAIDA=PCを完全に上回っている。
 こんなものは余興にすらならない。これが榊の目論見だというのなら、さっさと破壊し終わらしてしまうだけだ。

「――――――――」
「む」
 しかしフォルテの行動に反応したのか、呻くばかりだったダークマンの様子が一変する。
 漏れ出ていた呻き声が止まり、周囲に散漫に放たれていた微かな狂気が、明確な殺意へと変わってフォルテへと向けられる。

 その殺意を感じ取ったフォルテは、即座に収束したエネルギーをダークマンへと放つが、ダークマンは素早く横へと回避する。
 同時にその手が地面へと叩き付けられ、その動作を引き金として放たれる《フレイムタワー》。
 燃え盛る火柱が連続して発生し、一直線にフォルテへと襲い掛かる。

「無駄なことを。その程度の攻撃など、今の俺には無意味だ」
 だが対するフォルテは動じることなく、真正面からその火柱を受け止めた。
 直後、フォルテの全身から黒白の光を放つ《ダークネスオーラ》が発生し、火柱は僅かなダメージも与えることなく霧散した。

 《ダークネスオーラ》は三〇〇ポイントまでのダメージを無効化する、オーラ系最強の守りだ。
 その代わり他のオーラと比べて効果時間が短くなっているのだが、その欠点もフォルテ本来のオーラと統合されたことでなくなっている。
 純粋に大ダメージを与える以外で破壊するには、特殊効果を無効化するスキルか、心意攻撃のようなイリーガルな手段を使うしかない。


912 : 黒衣の復讐者 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:23:13 eg9Lrf4E0

 しかしただのAIDA=PCでは、そのいずれの条件も満たせない。
 いかに通常のシステムから外れようと、それだけではシステムは越えられないことを、AIDA本体を食らったフォルテは理解している。
 加えて『第七相の碑文』の前任者ということは、現在は『碑文』を持っていないことも推測できる。
 つまりダークマンの持つイリーガルな力は、AIDAによるもの一つきり。
 フォルテがダークマンを警戒する理由など、何一つとして存在しなかった。

 ――――ダークマンの身体に寄生した異形が、その眼を開くまでは。

「コシュー…………」
「ッ―――!」
 背後から放たれた特徴的な呼吸音に、フォルテは咄嗟に振り返る。
 どうやらダークマンは、《フレイムタワー》を囮にして一瞬で背後へと回り込んだらしい。

「《ダーク……シャドー》……」
 そして振り上げられた右手に現れる、闇色の斧。
 それを見た瞬間、フォルテは直感的にその場から飛び退いた。
 だが背後を取られた分反応が一瞬遅れ、《ダークネスオーラ》と《ダークシャドー》が接触し、
 まるで紙を引き破り捨てるかのように、闇色の斧が黒白のオーラを引き裂いた。
 直感に従いとっさに回避しなければ、間違いなく致命傷を受けていただろう。

 ……だが、今ダークマンが放った攻撃スキル。それ自体からは、《ダークネスオーラ》を破壊するほどの力は感じられなかった。
 しかし現実として、《ダークネスオーラ》は破壊された。
 その彼我の能力差を無視した一方的な干渉力に、フォルテは覚えがあった。

「チィッ! まさかキサマ如きが“あの力”を使えるとはな……!」
 その確信とともに、フォルテはダークマンに対する警戒を最大値にまで引き上げる。
 今ダークマンが放った攻撃スキル。それは間違いなく、シルバー・クロウらが使ったあのスキルと同じものだ。
 でなければ一度は己の一撃を防ぎ切った《ダークネスオーラ》が、こうも容易く破壊されるはずがない。
 そしてすぐに気付いた。先ほどまでのダークマンにはなかった、その異常に。

「なっ、キサマの“それ”は……!」
 ダークマンの体を覆うマントの留め具らしき部位。
 そこには、得てして機械的な見た目になりやすいネットナビにはあり得ない、あまりにも生物的(グロテスク)な眼球があった。
 先ほどまで気づかなかったのは、その瞼が閉じられていたからか。

 だがそんなことはどうでもよかった。
 フォルテにとって重要なのは、その眼球に見覚えがあったという事だ。
 そう。それはオーヴァンから見せられた画像に写っていたものと、完全に同じもの。

「あのロックマンと、同じ……!?」

 変わり果てたロックマンのシンボルマークを浸食していた、あの禍々し眼球だった。

      §

「あれは……もしやISSキットによるもの、か?」
「その通り。よくわかったなオーヴァン」
 ダークマンの姿を見て取ったオーヴァンの言葉に、流石という風に榊が応える。
 闘技場の舞台から転移した二人は、観客席の一角、司会者席へと移っていた。
 観客が一人も存在しない以上場所に意味などない。だというのにわざわざ司会者席を選ぶあたり、榊の性格が透けて見える。

「そう、あれこそがISSキット――即ちインカ―ネイトシステム・スタディキット。AIDAや碑文とはまた違う、装備者にイリーガルな“力”を授けるアイテムさ」
「AIDAや碑文とは違う“力”、ね。それがフォルテのバリアを一撃で破ったモノの正体か」
「そうだ。ISSキットが齎す“力”、その名は《心意》。
 読んで字のごとく、使用者の意志力を源とする、ともすれば君達の『憑神』にも引けを取らぬ強大な『力』だ」
「なるほどな」
 得心が行ったという風にオーヴァンは頷く。

 榊が心意と呼んだ力に、オーヴァンは覚えがあった。
 ――シルバー・クロウ。
 彼やその同郷のプレイヤーたちが使用していたあの力。あれこそが《心意》を用いた攻撃だったのだろう。
 それならば『碑文』を持たぬはずの彼らが、AIDAを用いた自分の一撃に一瞬でも対抗できたことにも納得出来る。
 何しろフォルテのバリアを紙切れの様に破る『力』だ。通常のプレイヤーではまず勝ち目などない。
 彼らにとっての誤算は、自分が『AIDA』と『碑文』、二つの『力』を持っていたことに尽きるだろう。

 そしてISSキットは、そんな『力』を装備者に与えるという。
 なるほど。確かにそれならば、何の力も持たないプレイヤーでさえも、このイリーガルな力の跋扈するデスゲームで優勝する可能性を得られるだろう。
 AIDAの種子に、ISSキット。イリーガルな力を与える要素が、二つもこのデスゲームにはあったのだから。
 ――――だが。


913 : 黒衣の復讐者 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:24:24 eg9Lrf4E0

「相応のリスクも、勿論あるんだろう?」

 シルバー・クロウたちの見せた心意に比べ、ダークマンのそれはあまりにも禍々しすぎる。
 例えるのならば、碑文に対するAIDAのそれ。
 加えて言えば、AIDAだけが原因だとするには、ダークマンの様子は異常に過ぎる。
 ならばダークマンの異常は、何が別の要因――つまりはISSキットに原因があると考えるのが当然だ。

「当然ではないか。何のリスクもなく得られる力などありはしないよ」
 榊の答えは“肯定”。
 彼はISSキットの危険性を一切隠すことなく認める。

「そもそも《心意》とは、イメージによってシステムを超越し、《事象の上書き(オーバーライド)》を発生させることで発動する。
 故に通常のシステムでは心意技に対抗できず、対抗できるのは同様にシステムを超越した力によるしかない」

 つまりは同じ『心意』か、それこそ『碑文』のような力だ。
 あるいは、人々の想念(イメージ)によって形作られた英霊(サーヴァント)やその宝具も該当するだろう。
 サーヴァントについては、オーヴァンはまだ把握していないが、GMである榊は当然把握している。
 だがそれは、わざわざここで語ることではない。

「ここで重要なのは、イメージによって《事象の上書き》を引き起こす、という点だ。
 心意はイメージを源とする関係上、使用する際の感情によって二つの属性に分類される。
 すなわち正と負。肯定的な感情と否定的な感情だ。
 対してISSキットがもたらす心意は破壊の心意。そして破壊とは即ち、対象の否定だ。
 ISSキットはたしかに装備者に『力』を齎す。だが同時に、その『力』――負の心意による破壊のイメージを押し付けもするのだ。
 なぜなら、心意の発動が可能になるほどに装備者の感情を増幅させる、というのがISSキットによって心意が使用可能になる仕組みだからね。
 言ってしまえば、装備者のイメージを《上書き(オーバーライド)》することで、結果として心意の発動を可能とさせているわけだ」

 無論、いま語られた原理は榊の推測に過ぎない。
 だがISSキットを装備した者が負の感情に引き摺られることは確かであり、
 そして重要なのは推測の内容用ではなく、ISSキットを装備したことで生じるその結果。

「―――だが。
 AIDAによって感情のリミッターを外された者が、ISSキットによって感情を増幅されてしまえば、どうなると思う?」

 答えるまでもない。
 今フォルテと戦っているダークマンの状態が、その答えだ。
 際限なく増幅された負の感情は、そう時間を掛けずに装備者の心を塗り潰し、その精神を破壊する。
 おそらく今のダークマンは、目の前の敵を破壊することしか考えられなくなっているだろう。
 そして一つ確かなことは、AIDAとISSキットをダークマンに齎したのは榊だということだ。

「なるほど。彼の状態はわかった。だが……君は大丈夫なのか?」
「……何がだね」
「彼をGMメンバーの一人だった、と言っていただろう?
 つまり表面上だけであっても、仲間だったということだ。それをあんな状態にしてしまって大丈夫なのかと訊いている。
 これはさすがに、越権行為だと思うが」

 GMが一枚岩でないことは把握している。
 彼らは己が目的のために、GMという立場を利用しているのだ。
 そんな連中を一つにまとめ上げ、GM全体としての目的に向かわせるのが監督役の役割だろう。
 当然、その行いが監督役の目に余れば、そのGMは罰せられる……最悪デリートされることになるだろう。
 そして榊のこの行いは、どう考えても越権行為に思えるものだ。

 オーヴァンにとっては今初めて知ったダークマンの存在などどうでもよかった。
 だがもしダークマンの事が監督役に知られれば、榊は高い確率で処罰を受けるだろう。
 なにしろ榊は、自らの目的のために仲間の一人を使い潰したのだ。
 彼らの間で何があったかは知らないが、そうなってしまえば、最悪自分達も巻き添えで処分されかねない。
 そうならなかったとしても、せっかくここまで協力したのだ。いまさらGMとの繋がりが切れるのは御免被りたい。
 自分がGMに協力した理由――“真実”は、まだその姿を現していないのだから。


「なんだ、そんな事か。別に問題はあるまい。
 彼の役割は、すでにその意味を喪失している。あのままGMとして起用し続けたところで、何の役にも立たなかっただろうよ。
 それくらいならば、この榊が有効に活用してやった方が、仮にもGMだった者として本望だろうよ」
 しかしオーヴァンの問いに、榊は拍子抜けしたように答える。
 まるでそんなどうでもいい事を訊かれるとは思わなかった、とでもいった風に。


914 : 黒衣の復讐者 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:25:01 eg9Lrf4E0

 ダークマンにどんな役割が与えられていたかは知らない。
 だが仮にもGMとして起用されたのだ。その役割がデスゲームの運営に必要なものだったことは間違いない。
 しかしデスゲームが最終局面にまで進行したことにより、彼は用済みとなってしまったのだろう。
 いや、榊の言い振りからすると、役割を終えたのではなく、“役割を果たす意味がなくなった”と言うべきか。
 ……それがGMとしての立場からの見解か、榊個人の目的からの見解かは別として。
 そうしてGMである意味をなくしたダークマンを、榊が“再利用”した結果が今の状態というわけだ。

「それに、何も無理にああしたわけではないとも。挽回の機会は与えた。その結果が今の彼だ。
 いかに規律に厳格な彼女とて、彼自身の行動と選択の結果となれば、黙認する他あるまい。
 ましてやこれは、バトルロワイアルを進行させるために必要なことなのだからな」

 榊の表情から余裕は消えない。
 本当に大丈夫だと確信しているのか。あるいは、“処罰されても大丈夫なように手を打っている”のか。

「そうか。それなら別に構わないが……。
 だが、せいぜいやり過ぎないことだ。君が処罰されてしまっては、俺が困る」
「無論だとも。私も消されたくはないからね。そこら辺の匙加減はちゃんと弁えているさ」

 いずれにせよ、榊がデスゲームの進行に積極的なのは確かだ。
 そして結果を出している以上、監督役も手出しできないという訳か。
 ……たとえその裏に、どんな目的が隠れていたとしても。


「しかし興醒めだな。AIDAとISSキット、二つの力を得ていながらこの程度とは。
 いくら暴走状態とはいえ、いやだからこそか。
 型に嵌まったままの力しか行使できないようでは、新たな力を得ることなどできはしまい。
 例え名の知れた暗殺者であろうと、所詮はただの敗北者に過ぎんという事だな」

 そうして、話は終わったと判断したのだろう。
 眼下の闘技場の様子を観て、榊はつまらなさ気にそう言い捨てた。
 その闘技場では、一見すれば、ダークマンがフォルテを相手に優勢に戦っていた。
 ―――そう。あくまで、一見では。


     2◆◆


 フォルテの周囲に闇色の穴が開かれ、そこから無数の蝙蝠が出現する。
 ダークマンの必殺技の一つ、《ブラックウィング》。
 止めどなく現れる蝙蝠の群れは、まるでそれ自体が意思を持っているかのようにフォルテへと殺到する。
 さらに波打つような軌道で放たれた《アイスウェーブ》が、その蝙蝠の群れの合間を縫うようにフォルテへと襲い掛かる。

「チィッ……!」
 フォルテは舌打ちをしつつ蝙蝠の群れを掻い潜り、同時に地面へと深く身を沈め氷の手裏剣をやり過ごす。
 そしてその直後、大きくその場から飛び上がり――背後に遠隔発動された《ダークシャドー》を寸でのところで回避する。
 だが襲い掛かってくるのは《ダークシャドー》だけではない。
 飛び上がったフォルテを狙い澄ましたかのように、今度はダークマン自身がその手に《ダークシャドー》を発動させ襲い掛かってくる。

 しかしフォルテは、すでにバスターへと換装させていた左腕をダークマンへと突き付け、《エアバースト》で迎撃する。
 思わぬカウンターにダークマンは動きを止め、《ダークシャドー》を盾として自身へと迫る光弾から身を守る。
 しかしフォルテはその間に、残されていた右手にエネルギーを集め、《アースブレイク》を発動する。

 放たれた強烈な破壊エネルギー。
 着弾と同時に生じた爆発が、ダークマンの姿を飲み込んでいく。
 だがその直後、爆煙の中から《アイスウェーブ》が飛び出し、フォルテへと飛来する。
 当然フォルテはそれを回避し、狙いを外した《アイスウェーブ》は地面へと命中し凍結させる。
 しかしその《アイスウェーブ》は、フォルテの追撃を防ぐための牽制に過ぎない。
 その証拠に爆煙が晴れたその場所には、多少煤けてはいるが、ほぼ無傷と言っていいダークマンの姿があった。

「……やはりな」
 そのダークマンを見て、フォルテは苛立たしげに呟く。


915 : 黒衣の復讐者 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:25:53 eg9Lrf4E0

 《フレイムタワー》も《アイスウェーブ》も、《ブラックウィング》さえも今のフォルテにとっては大した攻撃ではない。
 すでに《ダークネスオーラ》が破られているとはいえ、例え直撃したところで、一度や二度程度なら何の支障もないだろう。
 だがその程度の攻撃に対し、フォルテは回避を余儀なくされている。
 それはなぜか。
 簡単だ。ダークマンが今もその手に発動させ続けている《ダークシャドー》。それこそがダークマンの攻撃に対し、フォルテが回避行動を余儀なくされている要因だった。

 元の技が何であれ、今のダークマンの《ダークシャドー》は心意技として放たれている。
 そして心意技である以上その《ダークシャドー》は心意のようなイリーガルな力でしか防げず、しかし今のフォルテには、心意を防げる武器や手段・能力が存在しない。
 いや、あるいは存在するのかもしれないが、フォルテがそれを認識していない以上、存在しないのと同じだ。
 加えてダークマンは他の技も的確に使うことで、フォルテを徐々に追い詰めようとしていた。

 心意技化した《ダークシャドー》と違い、ダークマンの他の技は心意技ではない。
 迎撃は容易であり、その上でダークマンを攻撃することすら今のフォルテには可能だ。
 だがそうやって迎撃した瞬間、その隙を遠隔発動された《ダークシャドー》が襲い掛かってくるのだ。
 防御が不可能であり、直撃すれば大ダメージを受けてしまう以上、そんな隙を晒すわけにはいかない。
 さらには《ダークシャドー》以外の心意技を有する可能性も考えれば、フォルテは様子見に徹するしかなかったのだ。

 ……そう、様子見だ。
 フォルテはすでに、ダークマンの戦闘能力に見切りをつけ始めていた。

「その“力”、確かに強力な力ではあるが……」
 言いながらフォルテは、右手をダークマンへと突き付け、《アースブレイカー》を放つ。
「コシュー………」
 だがその一撃は、その手の《ダークシャドー》によって容易く迎撃される。
 結果フォルテの《アースブレイカー》は、ダークマンの周囲を破壊するだけに終わる。

 《アースブレイカー》の威力が劣っているのではない。
 これはただ単純に、心意技がそういう性質を持つというだけの話だ。
 ダークマンは心意以外では防げない攻撃で迎撃することで、《アースブレイカー》を打ち消しているにすぎないのだ。

「他の“力”と同様、使い手が弱者では何の意味もない。
 どうやってその力を得たのかは知らないが、キサマには過ぎた力だったな」
 だからこそフォルテは、ダークマンというネットナビに見切りをつける。
 こいつは心意もAIDAも使いこなせていない。
 たとえ強力な力を与えられていようと、他の弱者と同じ、ただの有象無象に過ぎない、と。

 そもそもフォルテが回避に徹していたのは、《ダークシャドー》以外の心意技を警戒してのこと。
 たとえダークマンがどれだけイリーガルな力で強化されていようと、それはフォルテも同じだ。
 心意技という強力無比な攻撃手段がない限り、ダークマン程度ではフォルテの相手にはならないのだ。


「――――オ、オオ噁。O圬寘弙菸歍廞摽………ッッ!!!」
 だがフォルテがそう口にした瞬間、唐突にダークマンが叫び声を上げ、同時に無数の闇色の穴がフォルテの全方位に展開された。
「む、これは」
 僅かな逃げ場すらも許さない《ブラックウィング》の最大展開。
 今の言葉が何かの琴線に触れたのか、あるいは一向に倒せないフォルテに痺れを切らしたのか。
 いずれにせよ、これが今のダークマンにできる最大規模の攻撃であることに間違いはなく、
 …………しかし。

「無駄だ。キサマの限界はすでに見切った」
 闇色の穴から溢れ出した夥しい数の蝙蝠の群れが、もはや黒い津波にも等しい様相でフォルテへと襲い掛かる。
 しかしフォルテは微塵の動揺も見せることなく、その右手を腰に佩いた直刀へと添え、
 そして次の瞬間。

「消えろ」
 抜き放たれた刃の一撃によって、フォルテへと迫っていた蝙蝠の群れの大半が消し飛ばされ、
 さらに次の瞬間。
 フォルテの姿が、その背後に出現した《ダークシャドー》を置き去りにして、消えた。
 これにはダークマンも動揺を隠せず、その直後、自身の目前に現れたフォルテに、さらなる驚愕を露わにする。

 《ダッシュコンドル》。
 前方一直線に超高速の突進攻撃を行う攻撃用バトルチップだ。

 すでに何度も見た手だ。《ブラックウィング》を迎撃すれば、《ダークシャドー》が遠隔発動されることはわかっていた。
 ゆえにフォルテは、その特性を最大限に発揮した《ジ・インフィニティ》によって《ブラックウィング》を迎撃し、直後に《ダッシュコンドル》を発動させダークマンとの距離を一瞬で詰めたのだ。


916 : 黒衣の復讐者 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:27:27 eg9Lrf4E0

「終わりだ」
 フォルテが突進の勢いのまま、その手の直刀を振りかぶる。
「ッッッ………!!!」
 いかにその手に《ダークシャドー》が発動されてようと、完全に手口を読まれ、動揺したダークマンでは迎撃は間に合わない。
 加えて《ブラックウィング》を迎撃した先の一撃。あれを考えれば、相打ちを狙うこともあり得ない。
 そんなことをすれば、たとえ相手に致命傷を与えようと、こちらのデリートは必至。
 故にダークマンがとった手は、後方への回避。そして空振った斬撃とともに放たれるだろう衝撃に対する防御であった。
 だが。

「ッ―――!?」
 寸でのところで回避したフォルテの斬撃は、ダークマンの予測とは異なり衝撃を放たず、ただその斥力によって空気を唸らせるだけに終わった。


 フォルテの武器である《ジ・インフィニティ》の効果。
 それは鞘に納めている時間が長ければ長いほど、抜刀直後の一撃が無限に増幅される、というものだ。
 ただし制限として、増幅効果が発生するのは戦闘開始後からであり、増幅されるのも最初の一撃のみ。
 二撃目以降に効果はなく、再び威力を増幅させるにはもう一度鞘に納めなければならないのだが。
 しかしその制限を踏まえたとしても、『七星外装』と呼ばれるにふさわしい強化外装だといえるだろう。

 そして当然この効果を、装備者たるフォルテは把握している。
 つまり《ダッシュコンドル》の加速によって放たれた二撃目はフェイントであり、
 そのフェイントに釣られたダークマンに、フォルテの追撃を回避するすべはない。


「ハアァッッ―――!!」
 直刀を振り抜くと同時に、フォルテは空いた左手にエネルギーを収束させる。
 そして放たれた《アースブレイカー》は容赦なくダークマンを吹き飛ばし、その体を闘技場の透明な外壁へと叩き付ける。

「、ッァ………!」
 防御の上からでさえ総身を砕くその威力に、ダークマンが苦悶の声を漏らす。
 その体は、ただの一撃で満身創痍。まだ息があるのは、速射性を優先した結果威力が落ちたが故か、イリーガルな力で強化されていたが故か。
 だがいずれにせよ、ダークマンにはもはや次の一撃を防ぐ余力はない。膝こそついていないが、立っているのがやっとという有り様だ。

「オオ……ッ!」
 より確実に止めを刺すためにか、そんなダークマンへとフォルテは距離を詰める。
 直刀はすでに鞘へと納められている。
 わずかでも威力を高めるためか。あるいはほかの攻撃によって止めを刺すためか。

 ダメージによってマヒしているのか、対するダークマンに動きはない。
 いやそもそも、フォルテの追撃を回避する余地などない。
 背後は壁。上や左右に逃げたところで、フォルテは確実に追尾してくるだろう。
 ゆえに、
 フォルテが残り一歩分の距離にまで踏み込み、鞘に納められた直刀の柄を握った、その瞬間――――。

 完全に避けようのないタイミングで、ダークマンから雷撃を伴った閃光が放たれた。


 ―――《キラービーム》。
 それがダークマンの放った攻撃の名称だ。
 この技はダークマンの持つ技の中で最も発動、攻撃速度が早く、さらにガードブレイク、インビジ無効、麻痺といった効果が付いている。
 この麻痺効果さえ発生させられれば、たとえ《キラービーム》自体が直撃せずとも、《ダークシャドー》による追撃によってほぼ確実に大ダメージを与えられるだろう。

 この技をダークマンは、フォルテとの戦いにおいてこの瞬間まで使用していなかった。
 それは偏に、フォルテを確実に仕留めるため。強大な敵を倒すために伏せられた、秘策と言える一手だ。
 そんな、今のダークマンの状態ではまずありえないその思考、戦術は、破壊衝動に飲まれてなお残る暗殺者としての矜持ゆえか。
 その、ダークマンの最後の意地ともいえる一撃を、

 フォルテは、紙一重で回避していた。

 避けようのないタイミングで放たれた一撃。それを回避できたのは、ピンクから奪った未来予測が故。
 発動の予兆さえ掴めれば、今のフォルテはたとえ視覚外からの攻撃だろうと対処できる。
 フォルテはダークマンが《キラービーム》を放とうとしたその瞬間には、すでに回避行動をとっていたのだ。

「ッ――――!」
 その事実に、ダークマンはフォルテに接近された時以上の驚愕を見せる。
 《キラービーム》からの追撃のために振り上げた《ダークシャドー》は、もはやフォルテを迎撃するには間に合わない。


917 : 黒衣の復讐者 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:30:57 eg9Lrf4E0

「終わりだ」
 フォルテはそう宣告しながら、直刀を鞘から抜き放つ。
 チャージ時間は僅か二秒弱。だがそれでも、瀕死のダークマンを倒すには十分すぎる。
 そうして振り抜かれた一閃。
 直刀の刃はダークマンを右脇から左肩へと袈裟に切り裂き、マントの留め具に寄生していた眼球諸共にその体を両断する。

 ―――以て戦闘は決着した。
 ダークマンの体は両断され、たとえ生きていようと、もはや戦うことなど不可能だ。
 対するフォルテは、オーラこそ破られてはいるが、ダメージと言える傷は全くの皆無。
 ゆえにその結果は、フォルテの圧勝であると言えた。

      §

 地面に投げ出されたダークマンの上半身へと近づく。
「……チッ」
 だがダークマンの状態を見て、フォルテは小さく舌打ちをする。

 マントの留め具にあった眼球は完全に両断され、すでにデータ片となって消え去っている。
 止めの一撃を放った際に、同時に破壊してしまったのだろう。
 これではそのデータを奪い、“あの力”を手に入れることはできない。
 もう少し手加減するべきだったか、と考え、すぐに否定する。
  “あの力”の厄介さは身に染みている。“あの力”そのものか、何かしらの対抗手段を得るまでは、油断するべきではない。

「………………コシュー」
「む。しぶといな、まだ息があったのか」

 不意に聞こえた独特な呼吸音に、フォルテは僅かばかり感心する。
 AIDA=PC化した影響ではあるだろうが、右上半身だけになっても存命しているのだから。
 だが、それも余命は残り少ない。その証拠に、ダークマンの体は両断された面から崩壊が始まっている。

「コシュー……。オレは……そうか、負けたのか……。ヤツに……またしても……」
「ヤツ?」
 あの眼球が消滅したからか、正気を取り戻したらしいダークマンが朦朧とした意識でそう呟く。
 それに対し、フォルテは思わずといった風に問い返す。

 ヤツとはいったい誰だ。
 フォルテにダークマンと戦った記憶はない。だがダークマンは「またしても」と言った。
 つまりダークマンは今の戦いにおいて、フォルテではなく別の誰かと戦っていたつもりだったのだ。

「コシュー……。おまえは………フォルテ、か……。
 ………なるほど、榊の差し金か……。
 ク、クハハハ……。コシュー……滑稽だな。オレはもはや、ヤツと戦ってさえいなかったのか……」
「答えろ。ヤツとは誰だ」
「コシュー……決まっている。オレをこんな様にしたやつだ。そいつが誰かは……どうせすぐにわかる……。
 だが……その時になればおまえは、俺にデリートされなかった事を後悔するだろう……。
 ヤツがその身に宿した闇の深さは、オレなどとは比べ物にならない………。
 ヤツと相対した時、おまえを待つものは、デリートなど遥かに生温い「絶望」だけだ!!」

 フォルテの問いには答えず、ダークマンは残る力を振り絞るようにそう宣告する。
 実際、それで残る力をすべて使いつくしたのだろう。ダークマンの体は、急速に崩壊を進めていった。

「コシュー……コシュー……。
 セレナード……、オレは……おまえを――――」

 そうしてダークマンは、無数のデータ片となって消えていった。
 どうやらダークマンは、あのセレナードの関係者だったらしい。しかし結局“ヤツ”とやらの正体はわからなかった。
 ダークマンにAIDAや“あの力” を与えたであろう存在。その口ぶりからして、榊の事ではないようだが………。


918 : 黒衣の復讐者 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:31:24 eg9Lrf4E0

 パチ、パチ、パチ、と。
 無音となった闘技場に、乾いた音が響く。
 音の発生源へと視線を向ければ、司会者席から榊が拍手を送っていた。

「お見事だ、フォルテ。やはり彼程度では、今の君を相手にするには不足だったようだね」
「つまらん御託はいい。余興がこれで終わりなら、さっさとヤツ等を探しに行け」
「いやいや、最初に言ったはずだぞ? “まずは”、とね。
 ダークマンとの戦いなど、ただのテストに過ぎない。
 彼に勝てないようでは、私の用意した本命と戦うことなど不可能だからな」

 榊がそう言うや否や、上空から黒色の閃光が飛来し、闘技場の中心へと着弾する。
 舞い上がった粉塵の中から発せられる圧は、ダークマンの比ではない。
 榊が口にした“本命”が現れたのだ。

「キサマは……っ!」
 その“本命”の姿を見て、堪らず口端が吊り上がる。
 ――――望む決着を付けられるかもしれない、と。
 知識の蛇へと招かれる直前に、言峰というNPCから聞かされた言葉が思い返される。

「――ロックマン!」
 その存在へと向けて、その名を口にする。
 目の前に現れた存在は間違いなく、このデスゲームでデリートされたはずのロックマンだった。

「そう、私が用意した“余興”の本命。君の本当の対戦相手。それは君の最大の宿敵、ロックマンだ!
 とは言っても、見ての通り、彼はもはや君の知るロックマンではないがね」

 その言葉に、改めてロックマンの姿を見る。
 どこか暗く染まった青い体/全身を侵食する黒いバグ。
 意思の光を失った無機質な瞳/禍々しい光を宿した胸元の眼球。
 なるほど。確かに目の前のヤツは、自分の知るロックマンとは違う。オーヴァンに見せられたあの画像の姿そのものだ。
 そして違うのは外見だけでない。
 その全身から放たれる気配も、以前のロックマンと比べ変わり果ててしまっている。
 ともすれば、ヤツは本当にロックマンなのかと疑ってしまいそうなほど。

「もちろん、以前と違うのは姿だけではない。
 AIDAにISSキット。以前の彼にはなかった様々な『力』を吸収し、可能な限り強化されている。
 君も様々な『力』を得てきているが、『心意』への対抗策を持っていないのなら、敗北する可能性は十分にあるだろう。
 ――それでも、彼と戦うかね?」

 榊のその言葉に、ふと湧いて出た疑念が掻き消える。
 目の前のヤツが本当にロックマンであろうと、外見を似せただけの偽物であろうと、そんなことはどうだっていい。
 そうだ。たとえ相手が何者であろうと、オレのすることは変わらない。

「こいつがどれだけ強くなっていようと関係ない。相手が何者であろうと、オレは全てを破壊し喰らうだけだ」

 眼前のロックマンと改めて相対する。
 あまりにもグロテスクで無機質な、以前とは変わり果てたその姿。
 コイツが本当にあのロックマンだというのなら、その真価はオペレーターがいてこそ発揮される。
 いやむしろ、オペレーターとの絆を力にするロックマンこそ、オレが本当に倒したい相手だと言えるだろう。

 しかしここにヤツのオペレーターは存在せず、その欠落を埋めるかのように、イリーガルな力をコイツは得ている。
 それはあたかも、オペレーターを必要とせず、様々な『力』を喰らってきたオレのように。

 だからこそ、これは一つの証明になる。
 オペレーターを否定するオレと、オペレーターを肯定するヤツ。
 そのどちらがネットナビとして正しい在り方なのか。

「ほう、言うではないか。
 ならばよろしい。我々GMの一員として新生したロックマンの『力』。存分に味わうといい!」
 榊がその言葉とともに、戦いの始まりを告げる。

 さあ、始めよう。
 様子見などせず、最初から全力で。
 一度は付け損ねた決着を、今この場でつけてやる―――!


919 : 『真実』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:32:50 eg9Lrf4E0


     3◆◆◆


 ――――ドン、と。
 ロックマンがフォルテへと目掛けて踏み込む。
 その踏み込みにいったいどれほどの力が込められていたのか。先ほどの戦闘において傷一つ付かなかった闘技場の床が、わずかに振動して軋みを上げる。

「ッ――――!」
「《ダーク・ソード》」
 距離は一瞬で詰められ、同時にロックマンの右腕に黒い光剣が形成される。
 そして降り抜かれる一閃。
 フォルテは咄嗟にその軌道から回避するが、放たれた刃は闘技場の外壁を容易く切り裂き、傷痕としてデータの歪みを発生させる。

「その力……やはりキサマも……!」
 その光景を見て、フォルテはそう呟く。

 ダークマンの《ダーク・シャドー》と同じ“あの力”。
 榊の言葉から推測するなら、おそらくは『心意』と呼ばれるもの。
 それをロックマンは、ソードという形で行使したのだ。

 だがその程度で終わるはずがない。
 榊はヤツを本命だと口にした。ならば当然、その力はダークマンを上回っているはずだ。
 それを証明するかのように、ロックマンは即座に新たな一手を繰り出してくる。

「《ダーク・バスター》」
 ロックマンの右腕が、光剣から銃砲へと変化する。
 直後連続で放たれた黒色の光弾は、当然『心意』によって強化された防御不可能な攻撃だ。
 おそらく純粋な威力という面では、ダークマンの《ダーク・シャドー》の方が上なのだろう。
 だがそれが心意攻撃である以上、迂闊に防御すればその防御ごと削り取られるだろう。
 その点において、単発攻撃でしかない《ダーク・シャドー》よりもロックマンの《ダーク・バスター》の方が厄介だといえる。

 そんな攻撃に対し、フォルテは『救世主の力』を以て光弾に干渉する。
 ネオはフォルテの光弾を、触れることなく受け止め撥ね返してきた。
 それと同様、物理的に防げぬのなら触れることなく受け止めてしまえばいいと考えたのだ。
 ―――だが。

「ッ………!」
 黒色の光弾は僅かに軌道を逸らすだけで、動きを止めることはなかった。
 フォルテは咄嗟に未来予測で弾道を演算し、放たれた光弾をすべて回避する。
 しかし。

「――――――――」
「ッ!? クオ……ッ!」
 フォルテが回避した隙を狙い、ロックマンがフォルテへと接近する。
 しかもその速さは、未来予測とほぼ同等。演算を終えた次の瞬間には、ロックマンは目前へと迫っている。
 強化された自分に迫るその動きに、さすがのフォルテも焦りの表情を浮かべる。

 間合いに入ると同時に降り抜かれる《ダーク・ソード》。
 ダーク・バスターを『救世主の力』で防げなかった以上、同じ心意技であるダーク・ソードが防げるとは思えない。
 そう判断したフォルテは、咄嗟に右腕の心意の刃となっていない部分を掴み、ロックマンの攻撃を受け止める。

 同時に腰の直刀を掴み反撃に移るが、しかし完全に抜き切る前に柄を抑え込まれ、直刀は塞き止められる。
 直後、胴体に衝撃が炸裂し、フォルテはロックマンから弾き飛ばされる。
 フォルテの両腕が塞がった次の瞬間に、ロックマンが蹴りを繰り出したのだ。

 結果生じた、詰めるには一足を必要とする距離。
「グ、オォオ――ッ!」
 フォルテは即座に体勢を立て直し、右手にエネルギーを収束させる。
「――――――――」
 対するロックマンも右腕をバスターに変え、同様にエネルギーを収束させる。

 そうして放たれる《アースブレイカー》。
 AIDA=PCと化したダークマンでさえも一撃で瀕死に追い込んだその技は、しかし。
 フルチャージで放たれたロックマンの《ダーク・バスター》によって、あっさりと掻き消され消滅した。

「チィッ……!」
 勢いを僅かにも衰えさせず迫ってくる黒い光弾を、フォルテは即座に回避する。
 相手が心意を使ってくる以上、《アースブレイカー》であろうと迎撃されることは予測できていた。
 だがそのまま反撃にまで繋げてくるとなると、さすがに厄介だ。


920 : 『真実』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:33:25 eg9Lrf4E0

「ならば、こいつはどうだ――!」
 両腕をバスターに換装し《エアバースト》を発動。
 放たれた無数の光弾は、たとえ心意技であろうとソードでは捌ききれず、バスターでは相殺しきることもできない。
 ヤツの手札がその二つしかないのであれば、この戦いは未来予測を有するフォルテに十分勝機があるといっていいだろう。

 ――だが、そのことをGMである榊が理解していないはずがない。
 その榊が、今のフォルテを倒しうる存在として用意したのがこのロックマンだ。
 ならば、ロックマンの手札はまだ尽きていないと判断するのは当然であり。

 それを証明するように、ロックマンは自身へと迫る光弾に対し、左手を前へと突き出す。
 直後その手の先にAIDAの黒泡(バブル)が集束し、盾のように展開される。
 光弾はその盾に弾かれ、ロックマンに傷一つ付けることなく終わった。

「AIDAの盾か……ッ」
 その結果に、どうするか、とフォルテは思考を巡らせる。

 接近戦は《ジ・インフィニティ》による協力無比な一撃があるが、それを決めるための自身の技量が不足しているため不利。
 対して遠距離戦では、《エアバースト》はそれ単体では今のように盾で防がれてしまい効果が薄い。
 加えて《アースブレイカー》は発動のために僅かでもチャージが必要であり、その隙を突かれれば先ほどのように迎撃されてしまうため逆に危険。
 さらに言えば、通常の戦いにおいては協力無比な防御能力である《ダークネスオーラ》も、心意に対抗できる能力ではないため論外。
 唯一心意に対抗できそうだった『救世主の力』も、現実にはわずかに干渉できるだけで実質無意味。

 結論として、取れる選択肢は接近戦しかない。
 こちらの遠距離攻撃が通用せず、防御不能な攻撃を行ってくる相手は、こちらが倒されるより早く倒してしまえばいいということだ。
 そしていかにロックマンが強化されていようと、チャージを終えた《ジ・インフィニティ》を直撃させれば倒せるだろう。
 たとえ己に接近戦等の技術がなくとも、未来予測を駆使すれば十分可能なはずだ。

 問題は、未来予測を行使し続ければ、負荷による頭痛(ノイズ)が発生するということだ。
 たとえほんの一瞬であろうと、頭痛(ノイズ)は思考を遅らせる。そして今のロックマンを相手に、その一瞬はあまりにも致命的だ。
 つまりフォルテがロックマンを倒すには、防御不能の攻撃を回避し続けながら、未来予測による頭痛(ノイズ)が発生するよりも早く、《ジ・インフィニティ》を叩き込まなければならないのだ。

「ハ……上等だ」
 そんな、あまりに不利な状況を嘲笑うかのように、フォルテは凶悪な笑みを浮かべる。

 このロックマンと自分との差など、結局は心意技を使えるか否か、という一点に限る。
 心意技にさえ対処できるのなら、ヤツは決して強敵などではない。
 ならばヤツを倒し、そのデータを喰らい、心意の力を得たその時こそ、オレは最強の存在へと至るだろう。

「行くぞ……!」
 ロックマンが行動するよりも早く、フォルテは自分から攻め込んだ。
 “より強く”。
 自身の名が持つその意味を、何よりも己自身の証明するために。

      §

「ォオオオオオオオ――――ッ!」
 ロックマンとの一瞬で詰めながら、同時にフォルテは右手に《邪眼剣》を抜き構える。

 この邪眼剣は、AIDAを失いただの銃剣となったマクスウェルをオーヴァンへと突き返した際に、代わりにと渡されたものだ。
 《ダイイング》というアビリティを持つこの剣は、ごくわずかな確率でだが、通常攻撃でダメージを与えた際に相手のHPを激減させることができる。
 AIDA=PC化したロックマンに効果があるかはわからないが、ただの武器で攻撃するよりは期待ができる。

 《ジ・インフィニティ》は使えない。
 チャージによってどれだけ威力が上がろうと、これだけでは心意技に対抗できない。
 迂闊に使用して破壊されてしまえば、それこそ勝ち目がなくなってしまう。
 使うとすれば、確実に決められると判断した時だけだ。

「――――――――」
 対するロックマンは、当然のように《ダーク・ソード》を発動。
 右腕に形成された闇色の光剣で、自身へと迫りくるフォルテを迎え撃つ。
 そうして降り抜かれる二振りの光剣。

 だが、二つの光剣が接触するその直前。
 フォルテは唐突に右手首を返し、邪眼剣の軌道を変えロックマンの光剣から逃れさせる。
 心意技でないただの攻撃では、ロックマンの《ダーク・ソード》と打ち合えない。
 故にロックマンと武器を打ち合うなど、前提からしてあり得ないのだ。
 だが軌道を変えた代償として、邪眼剣はロックマンへと攻撃することが不可能となり、
 ――しかし同時に、フォルテの左腕に《ヒートブレード》が展開され、入れ替わるようにロックマンへと襲い掛かった。


921 : 『真実』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:35:44 eg9Lrf4E0

 心意技を使うロックマンを相手に、いったいどう接近戦を挑むか。
 そう考えた末に選んだフォルテが導き出した答え。それが二刀流だ。
 近接戦闘でロックマンに勝とうとするのなら、とにかく攻勢に出て戦いの主導権を握り、相手の攻撃を封殺する必要がある。
 二刀流というスタイルを選んだのはそのためだ。
 キリトを連想させることが欠点だと言えるが、こと攻撃速度・回数において、ヤツを上回るものをフォルテは知らない。

 そしてその狙い通りに、《ダーク・ソード》による迎撃は間に合わない。
 《ヒートブレード》は《ダーク・ソード》の軌道を掻い潜るように繰り出されている。
 一撃目を囮として迎撃を誘発させられ、それによって生じた隙を狙われたのだ。
 ロックマンは一瞬でそう判断し、フォルテの一撃を飛び退いて回避。突き出すように放たれた《ヒートブレード》は、ロックマンの体を掠めるだけに終わる。
 がしかし、フォルテは即座に突進し、ロックマンへと再び《ヒートブレード》を振りかぶる。
 当然ロックマンも《ダーク・ソード》を構えなおし、今度はフォルテ自身を狙う形で迎撃する。

 だがフォルテはそれを読んだかのように、互いの距離が詰まる直前で足を止める。
 結果《ダーク・ソード》は空を切るだけに終わり、それを待ってフォルテは残る一歩を踏み出し、
「《ギアニスラッシュ》!」
 暗色のエフェクトとともに放たれる袈裟懸けの一撃。
 それはすぐさま翻り、ロックマンへと逆袈裟の追撃を叩き込む。

 ――これが邪眼剣を装備したもう一つの理由。
 『翼』とともにバルムンクから奪った、剣士(ブレイドユーザー)としての機能。
 片手剣カテゴリに属する武器に設定されたスキルの行使能力だ。
 これならばたとえ《ダイイング》の効果が発生せずとも、通常攻撃だけで戦うよりはダメージを与えられる。

「ッ――――」
 身を切り裂かれる衝撃に、ロックマンがわずかに苦悶の声を漏らす。
 だがAIDA=PC化の影響もあってか、ノックバックは小さい。
 瞬時に体勢を立て直し、状況を仕切りなおそうと再び飛び退こうとする。
 しかしフォルテはその行動を先読みし、そうはさせまいと即座に距離を詰める。
 距離を取られるわけにはいかない。
 相手に心意による遠距離攻撃がある以上、防御に回ればすぐに追い詰められる。

「オオオオオオ―――ッ!」
 高速で、しかし我武者羅に降り抜かれる二振りの光剣。
 いかに戦い方をキリトに似せようと、フォルテに接近戦の技量はない。故に当然、その戦い方は力任せなものとなる。
 だがそれで十分。技量の不足は、未来予測が補ってくれる。
 コンマ数秒先の未来を予測し、ロックマンの行動を制する。防げない攻撃を紙一重で回避し、その隙に反撃を叩き込む。

「――――――――」
 そんなフォルテの猛攻を受け、当然ロックマンは反撃を開始する。
 しかし降り抜いた《ダーク・ソード》はまたも紙一重で回避され、逆に自身へと光剣を叩き込まれる。
 そして生じたノックバックの隙を狙い、フォルテが攻撃スキルを放った――次の瞬間、ロックマンは再度フォルテへと闇色の光剣を降り抜いた。

「なにッ――!?」
 故意にか偶然にか。追撃で放った攻撃スキルに合わせられたその一撃に、フォルテは思わず驚愕の声を上げる。
 なんとロックマンはダメージによるノックバックを無視し、強引に攻撃を敢行したのだ。
 当然そんなことをすれば、ロックマンはフォルテの攻撃をまともに受け、通常よりも大きくダメージを受けることになる。
 がしかし、同時にそれはフォルテを窮地へと追い込む一撃でもあった。

「ッッ…………!」
 武器に設定された攻撃スキルは、“設定された”スキルであるが故に、そのモーションが固定されている。
 すなわちキリトたちの《ソードスキル》と同様、スキルの発動中はそれ以外の行動――つまり回避行動を行うことができない。
 このままでは《ダーク・ソード》の直撃を受け、致命的なダメージを負うことになるだろう。
 いつか経験した、だが立ち位置の逆転した窮地。それを前に、しかしフォルテは未来予測を最大限まで行使し活路を探す。
 そうして闇色の光剣と邪眼剣が、相手を切り裂かんと降り抜かれ。

「ッ、ァアアア――――ッッッ!!」
 光剣が自身を切り裂く寸でのところで、フォルテは不可能なはずの回避を成功させた。
 降り抜かれた《ダーク・ソード》は頬だけを浅く切り裂き、翻り放たれた一撃もギリギリのところで躱し、地面を転がるようにロックマンから距離をとる。
 同時にフォルテの背後に、邪眼剣の切っ先が固い音を立てて突き立った。


922 : 『真実』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:36:27 eg9Lrf4E0

 それが、フォルテが回避行動を取れた理由だ。
 降り抜かれた邪眼剣は《ダーク・ソード》と激突し、当然のようにその刀身を半ばで断ち切られた。
 だがそれにより攻撃スキルの発動条件が不成立となり、モーションの強制が解除されたのだ。

「チッ……!」
 フォルテの舌打ちとともに、柄だけとなった邪眼剣が投げ捨てられ、刀身とともにデータ編となって霧散する。

 邪眼剣が破壊されなければ致命傷を負っていたのは間違いない。
 だがその代わり、現状もっとも有効な攻撃手段を失ってしまった。
 あれ以外でロックマンに有効なダメージを与えられるのは、《ジ・インフィニティ》しかない。他はすべて、心意技などで対処されてしまう。
 ……だが、その程度で敗北を認めるわけにはいかない。
 フォルテは右腕をブルースの《ソード》へと換装すると、未来予測演算を開始。再びロックマンへと突進した。

 ――――直後。
 ズキン、とフォルテの脳裏にノイズが奔った。
 先の一撃を回避する際、未来予測を限界まで行使したことで、文字通りに限界が来たのだ。
 それと同時に走った痛みに、ほんの一瞬、フォルテの意識に空白が生まれる。
 その、一瞬のスキの間に。

「――――――――」
 ロックマンがフォルテへと、逆に肉薄していた。
「ッ、ガッ―――!?」
 同時に突き出された《ダーク・ソード》が、フォルテの胴体を貫く。
 この時点ですでに大ダメージ。あとはこのまま引き裂くだけで、フォルテは致命傷を受ける。
 当然ロックマンはそうしようと右腕に力を籠める、がしかし、右腕はピクリとも動かない。
 見ればフォルテを貫いた右腕は、そのままフォルテの左手によって捕らえられていた。

「つ、かまえた……ッ!」
 凄惨な笑みとともにフォルテが呟く。
 これでもはやロックマンは逃げられない。《ダーク・ソード》を発動している右腕は動かせず、バスターへ換装するにしても一拍の間を要する。
 つまりこのままであれば、ロックマンは次のフォルテの一撃を甘んじて受けるしかないのだ。
 それを瞬時に理解したロックマンは、その一拍の間を得るために左腕でフォルテへと反撃する。
 ――――がしかし。

「ハッ、遅い!」
「ッ、――――!?」
 フォルテの全身から放たれた衝撃に、ロックマンの全身が打ち据えられた。

 ダメージはない。だがその衝撃はロックマンの反撃をキャンセルし、その体を強く弾き飛ばす。
 しかしフォルテとの距離が離れることはない。フォルテは捕らえたロックマンの右腕を離さず、結果その場へと縫い留められたのだ。
 加えて全身に重圧が圧し掛かり、あらゆる動作が緩慢なものとなる。
 それは魔剣・マクスウェルに浸食していたAIDAの有していた、そしてそのAIDAを喰らった際にフォルテが奪った能力だ。

 マクスウェルのAIDAの能力は、一定範囲内の存在全員に減速効果を与え、かつ自身に無敵効果を付与するというものだ。
 さらには威力こそ低いが、相手の防御を無視する衝撃波を放てるようになり、一方的に相手を攻撃で来るようにもなる。
 だが減速効果は自身にも適用され、しかも無敵効果は心意技を防げるほどのものではない。
 フォルテがこれまでこの能力を使わなかったのはそのためだ。
 デメリットに見合うだけのアドバンテージが得られない以上、迂闊に使用すれば自滅するだけだ。
 だがこの状況――防御も回避も反撃も封じた今の状態ならば、このロックマンが相手でも最大限の効果を発揮できる。

「終わりだ――」
 フォルテは空いた右手で《ジ・インフィニティ》の柄を掴み取る。
 それまでに溜めたエネルギーに見合うだけの輝きを放ちながら、その刀身が抜き放たれる。
 必殺の一撃を直撃させうる唯一絶対の機会。ここを逃せば次はない。
 ゆえに、この一撃を以って決着とせんと、渾身の力で、『玉衝』の直刀を抜き放ち――――

「――――――――」
 対するロックマンは、弾き飛ばされたことにより体制が完全に崩れている。
 さらには減速効果の影響で抵抗すらままならない。
 まさに絶体絶命の窮地。右腕をフォルテに捕らえられたままである以上、フォルテの一撃から逃れる術はない。
 だがそれでも、この窮地を脱すべく高速で思考を巡らせ、同時に辛うじて動く左腕を突き出し――――

 この戦いにおいて最大の衝撃が、アリーナ全体を振るわせる。
 舞い上がった粉塵が闘技場を覆い隠し、二人の様子を判然とさせない。
 だが、それも数秒。
 そう間を置かずに払われた粉塵の中から現れたのは―――フォルテだ。
 フォルテは右手の直刀を、左手に肘のあたりで絶たれたロックマンの右腕を持ったまま、荒い息を吐いていた。


923 : 『真実』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:37:21 eg9Lrf4E0


     4◆◆◆◆


「ハァ……、ハァ……」
 乱れる息をどうにか整えながら、闘技場を見渡す。
 ロックマンの姿は、どこにも見えない。気配すら微かにも感じない。
 どうやら先の一撃で、右腕を残して消し飛んだらしい。
 その残った右腕を投げ捨て、インベントリから完治の水を取り出し使用する。
 イレギュラーなスタイルチェンジを果たしたことで、現在の残りHPなどは確認できなくなっている。
 だが《ダーク・ソード》の直撃を受けたのだ。大きなダメージを受けたことは間違いない。
 ダメージの回復と同時に全身の傷跡も消えていくのを確認して、ようやく大きく息を吐く。

 そうして再び、残されたロックマンの右腕へと視線を移す。
 AIDA=PC化の影響だろうか。右腕はデータ片となることなく、切断された断面から黒泡(バブル)となって散っていった。
 つまりこれで、ロックマンの存在した痕跡は完全に消えた。
 今一つ釈然としないが、これがオレとヤツとの決着ということなのだろう。

「………おい。これでキサマの余興は終わりだろう。さっさとここから出せ」
 司会者席の榊へと振り返り、そう告げる。
 ダメージこそ回復したが、未来予測の負荷や精神的な疲れはそのままだ。
 キリトたちの情報も訊き出したいが、今は少しでも休息が欲しかった。

「………………」
 だが榊は意味深な笑みを浮かべるだけで、ここから出そうとはしない。
「おい、聞いているのか! 今すぐここから―――」
 そのことに苛立ちを覚え、怒鳴り声を上げようとしたその瞬間、ふと視界の隅に黒泡が映り込んだ。
 それが妙に目に付き、なんとなしにあたりを見渡せば、どういうわけか、闘技場全体に黒泡が散っている光景が広がっていた。

「これは……、ガァッ――!?」
 一体どういうことだ。と思ったその瞬間、胸部から黒色の光剣が突き出てきた。
 その刃を見てまず生じたのは、更なる疑問。
 胸を貫かれたことの痛みは、思考よりも僅かに遅れてやってきた。

 理解できない。
 闘技場を覆うこの黒泡が一体何なのか。
 胸を貫く子の光剣は、一体どういうことなのか。
 まったくもって、状況が理解できない。
 そう混乱しながらも、どうにか背後へと目を向ければ、そこにはありえない姿があった。

「キ、サマはッ……!」
「――――――――」
 黒く染まった目の強膜。全身を包む黒い燐光。
 そういった僅かな変化はあれど、それは間違いなく先ほど消し飛ばしたはずのロックマンだった。

「ッ、ァア……!」
 《ダーク・ソード》が引き抜かれる。
 それによって生じた更なる痛みを堪えながらも、即座に背後のロックマンへと直刀を振るう。
「ッ!?」
 しかしロックマンは、刃が当たる寸前で忽然とその姿を消した。
「ガァッ……!?」
 直後、右腕に激しい痛みが走る。
 見れば右腕は、いつの間にか背後に回り込んだロックマンによって、肘のあたりから切り落とされていた。
 バカな。いつの間に移動した? 右腕が。そもそもどうやって生き延びた? 武器が。方法は? いやそんなことよりも―――

「ァアアア―――ッッ!」
 痛みに明滅する思考をどうにか回転させ、マクスウェルのAIDAの能力を発動する。
 同時に無事な左腕を《ヒートブレード》へと換装し、能力の発動によって弾かれ体勢を崩したロックマンへと降り抜く。
 だがロックマンは、その全身を黒い光子に変換させると、自身の近くに漂っていた黒泡へと吸収された。
 そして次の瞬間には、自身から離れた位置にある黒泡から排出され、再び人型へと戻った。

「………今のは、先ほどの意趣返し、というわけか」
 互いの距離が開いたことでどうにか冷静さを取り戻し、改めてロックマンの姿を確かめ、そう呟く。
 回復スキルの類は持っていないのか、ロックマンの右腕は肘の辺りから先が断ち切られたままだ。

「ハッ。人形みたいなやつになったなと思っていたが、なかなかどうしてイイ性格になったじゃないか」
 先ほどの、胸を貫かれたあの瞬間。そのまま薙ぎ払われれば、それでオレは致命傷を負っていたはずだ。
 だがロックマンはそうせず光剣を引き抜き、オレが反撃したことで無防備となった右腕を切り落とすに止めた。
 それが自身の右腕を失ったことに対する仕返しでなければ、いったい何だというのか。

「しかし……なるほどな。そういうことか。
 驚いたぞ。まさか“トランスミッション”をそう活用するとはな」

 トランスミッション。
 ネットナビのホームであるPETからインターネット間、あるいはインターネットのエリア間を移動する際に使用する、ネットナビなら誰もが持っている機能。


924 : 『真実』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:37:57 eg9Lrf4E0

 どういう原理を用いたのかはわからないが、ロックマンはそれを“超単距離転送(ショートワープ)能力”として使ったのだ。
 先ほど背後に回ったのも、《ジ・インフィニティ》の一撃から逃れたのも、この“転送(ワープ)能力“によるものだろう。
 そして周囲に漂う黒泡はおそらく、そのための中継地点――つまりは通信ケーブルのようなものだろう。
 先ほど黒泡となって散ったロックマンの右腕は、ただ黒泡となって消えたのではなく、中継地点である黒泡を作るための媒介となったのだ。

 だが先の《ジ・インフィニティ》の一撃から逃れるには、ワープだけでは不可能だ。
 なぜならあの瞬間、オレはヤツの右腕を掴んでいた。
 もしあのままの状態でワープしてしまえば、オレごとワープすることになるか転送失敗となり、結局オレからは逃れられなかったはずだ。
 でなければ、“自身の右腕を切り落とす”などという、自らに不利となる行動をするはずがない。
 そう。ヤツは自らの右腕を切り落とすと同時にワープすることで、不可避だったはずの《ジ・インフィニティ》の一撃を回避したのだ。

 ―――問題は。
 ヤツの戦闘能力は激減こそしても、まだ失われたわけではないということだ。

 たとえ片腕が失われていようと、ロックマンには心意という強力な攻撃手段がある。
 対してオレは、すべての手札を切った。
 未来予測も、マクスウェルのAIDAも、《ジ・インフィニティ》も。今の自分に使えるものはすべて。
 その上で、ヤツは戦闘能力を残したまま生き残った。
 加えてまだ手札を残している可能性もあるとなれば、オレに残された勝ち目は限りなく薄いだろう…………。

「………ハ。だからどうした」
 まだ終わったわけではない。オレはまだ戦える。
 そうだ。立ち上がるための足も、戦うための力もまだ残っている。
 どれだけ薄いものだとしても、勝ち目が完全に失われたわけではない。
 だというのに、諦めることなどできるはずがない。
 この程度で諦められるのなら、あの日に――人間への復讐を決意したあの時にとっくにデリートされている!

「行くぞ、ロックマン!」
 《ヒートブレード》を《シューティングバスター》へと換装し、ロックマンへと向けて突きつける。
 たとえ力の差が絶望的であろうと、することは変わらない。
 ――――“より強く”。
 この身が完全にデリートされるその時まで、自信を示すその名の通りに戦い続けるだけだ。

「――――――――」
 対するロックマンは、フォルテのその最後の足掻きを、《ダーク・ソード》を構え静かに迎え撃った。

      §

「………終わったな」
 闘技場で行われた戦いの様子を見て、榊はそう見切りをつけた。

「そうかな? フォルテはまだ、諦めてはいないようだが」
「いいや、終わりだとも。
 フォルテが逆転する可能性を否定するわけではないが、それでも覆せないものは存在する。
 たとえ彼のステータスが数値上でロックマンを上回っていようと、その力がシステムの範疇に収まっている限り、ロックマンに勝つことはあり得ない」
 システムを上書き(オーバーライド)する力――心意によって生じる差は、それほどまでに絶対的なのだと榊は語る。

 それは謂わば『The World』における腕輪(データドレイン)、あるいは憑神(アバター)のようなもの。
 133ものレベルを有していたハセヲが蒼炎のカイトに太刀打ちできず、しかしながら再戦の際、三人がかりでとはいえ、その三分の一程度のレベルで打倒し得たのも、憑神の存在が大きい。

 無論、心意を使えればそれだけで勝てるというほど、フォルテは決して甘くない。
 現に彼は、幾度か心意使いと交戦して生き延び、ついにはISSキットによって心意攻撃を繰り出してきたダークマンさえも打倒して見せた。
 それはすなわち、彼の力が規格外の領域に達しているということの証明に他ならない。

 ……だがそれもここまでだ。
 フォルテが心意使いに対抗できたのは、ダークマンとの闘いを除けば、ロストウェポンという武器があってのもの。決してフォルテ自身の力に依るものではない。
 故に、フォルテにある程度以上対抗できるものが心意を使った時、対抗手段(ロストウェポン)を失っている今のフォルテは、心意の暴威を甘んじて受けるしかないのだ。
 そして今彼と戦っているロックマンは、AIDAによってフォルテに迫る力を持ち、ISSキットによって心意の行使を可能としている。
 心意を除く条件が対等となっている以上、今のフォルテがロックマンを倒せる可能性など、絶無に等しい。


925 : 『真実』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:39:46 eg9Lrf4E0

 ――――だが。
 それでももし、この状況からフォルテがロックマンを倒す方法があるとしたら、それは――――

「……まあ、君がそう断言するのならそれで構わないが、」
 脳裏に浮かんだ可能性を隅へと追いやり、オーヴァンはそう言ってフォルテに関する話を切り上げる。

 元よりこの戦いの行方などに、オーヴァンの関心はない。
 榊の言葉通り、ここでフォルテが倒れるのならそれはそれで構わないし、もしこの状況からロックマンを倒せたのなら、それほどの脅威だと認識を改めるだけだ。
 どのような結果が訪れようと、彼のすることは変わらない。
 決して譲れぬたった一つの目的のために、利用できるものは全て利用し、障害となりえるものは排除する。
 それだけだ。

「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? 君たちの目的を」
 そのためにも今は、榊(GM)たちの目的を知る必要がある。
 それの前にはフォルテの生死など、些末なことでしかなかった。

「ふむ。まあいいだろう。本格的に我々に協力するのであれば、それくらいは知っておくべきだろうからな。
 とは言っても、そう難しい話ではない。
 あんたほどの男なら、すでに予想できているだろう? この『世界』が一体何をベースとして作られているかくらいは」

 この『世界』。
 デスゲームの舞台となったこの会場のベースとなったもの。
 ただのプレイヤーの視点からそれを挙げるのは、非常に困難だと言える。
 何しろこの『世界』は、あまりにも無秩序に寄せ集められたエリアで構成されているからだ。
 だがそれでも、あえて基盤となっているものを上げるとするのなら。

「……『The World』、か」

 日本エリア、ファンタジーエリア、アメリカエリア、ウラインターネット、そしてアリーナ。
 この『世界』を構築するエリアは、大きく分けてこの五つだ。
 このうち日本エリア、ファンタジーエリア、アメリカエリアの三つは地続きとなっているが、ウラインターネットとアリーナにはカオスゲートを利用する必要がある。
 そしてファンタジーエリアには、オーヴァンが知る限りでマク・アヌとグリーマ・レーヴ大聖堂が、ウラインターネットにはネットスラムが存在する。
 加えてリコリスのイベントで転移した先の、創造主の部屋を含む三つのエリア。
 これらのことから分かることは、あまりにも『The World』の要素が多すぎるという点だ。

 むろんオーヴァンとてこの『世界』を全て調べたわけではない。
 もしかしたら他のゲームの要素も多分に含まれているのかもしれないし、ただ単に会場造りの参考に『The World』が選ばれただけかもしれない。
 だがそれらの可能性を踏まえた上で、この『世界』の根幹には『The World』があるとオーヴァンは予測していた。
 何故ならこの世界には『認知外迷宮(アウターダンジョン)』が存在したからだ。

 『認知外迷宮』とは、『The World』の裏側に存在する、ロストグラウンドとは異なる仕様外のエリアだ。
 AIDAの影響で生じた歪みによって形成されたといわれているが、実態は定かではない。
 しかし今重要なのはその実態ではなく、このエリアが運営側の組織である『知識の蛇』でも監視できないエリアであるという点だ。
 そしてこの世界でオーヴァンが侵入した『認知外迷宮』は、間違いなく『The World』と同じものだった。

 通常のプレイヤーが入れないエリアというのは確かに存在するだろう。
 本来の『The World』に存在したオペレーションフォルダや、このデスゲームにおいてGMの拠点となっている『知識の蛇』がいい例だ。
 だがそれらは、GMがゲームを運営するために作成されたもの。GMが管理できないようなエリアを、GMが意図して作るはずがない。
 だが現実として『認知外迷宮』が存在していたということは、この舞台の根幹にあるものはGMですら管理しきれない自立性を持ったゲーム――すなわち『The World』ということになるのだ。

「その通りだ。そしてそれが解っているのなら、我々の目的を察するのもそう難しくはない。
 なにしろ我々GMを率いているのは―――」
「“モルガナ・モード・ゴン”――『The World』のかつての女神、だろう」
「ふ、正解だ。さすがはオーヴァン、そこまで察していたか」
「…………」
 榊は感心したようにそう口にするが、この程度のことはある程度以上『The World』に精通していれば容易に気付けることでしかない。


926 : 『真実』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:40:27 eg9Lrf4E0

 『The World』の持つ運営ですら管理しきれない不思議な自立性。
 それは『The World』の基幹部分に仕掛けられた、解析不能のブラックボックスが原因だ。
 しかしこのブラックボックスを取り除いてしまえば、『The World』はまともに機能しなくなってしまう。
 そしてこのブラックボックスこそが、究極AIアウラを生み出すためのプログラム――“モルガナ・モード・ゴン”に他ならない。
 だが女神アウラの誕生によってモルガナは役割を終え、消滅した。
 それ以降の時代において『The World』が機能しているのは、『The World』の“神”としての役割を女神アウラが引き継ぎ管理しているからに他ならない。

 そしてこのデスゲームのベースとなっているものは『The World』だと榊は答えた。
 それはすなわち、『The World』の基幹に仕掛けられたブラックボックスもまた同時に存在するということだ。
 しかし如何なる形であれ、女神アウラがこのデスゲームに加担するとは到底思えない。
 ならば当然、このブラックボックスを機能させているのはアウラ以外に管理資格を持つ者――つまりはモルガナということになる。

 本来であれば、これはおかしな発想だ。
 なぜならオーヴァンの時代において、モルガナは消滅している。そして彼女の再起動を、アウラが許すとも思えない。
 だがこうして『The World』がデスゲームの基盤として機能している以上、モルガナの復活は確定的だ。

 ではどうやってモルガナは復活したのか。
 その謎に対する答えを、オーヴァンは既にある程度予測していた。
 それはモルガナの復活以上に突拍子もないものであったが、それが真実であると示すものは、すでにオーヴァンの前に示されていた。
 ―――だが、それは今考えるべきことではない。

「そこまでわかっているのなら、我々GMの目的もすでに把握しているだろう?」
「……女神アウラの消滅、か」

 天才ハロルド・ヒューイック最大の誤算。
 究極AIを生み出すためのプログラム――モルガナ・モード・ゴンの暴走。

 アウラ誕生の過程において、その母体たるモルガナもまた放浪AIのような自我を獲得するに至った。
 それがただの偶然か、あるいは何者かの作為があったのかは定かではない。
 ただ結果として、自我を得たモルガナの懐いた感情は、『死の恐怖』だった。
 モルガナはアウラ誕生によって自身が不要の存在となり死んでしまうことを恐れ、暴走を開始。
 創造主であるハロルドを『The World』内に閉じ込めてまでアウラの誕生を阻止しようとしたのだ。
 2010年に起きた「第二次ネットワーククライシス」は、このアウラの誕生を巡るモルガナとの戦いが原因だ。

「だがそれは不可能だ。なぜなら――」
「なぜなら、アウラは死を迎えることによって、逆に究極AIへと再誕するからだ、だろう?」

 アポトーシス――生と死の様式の一つ。
 皮肉なことに、モルガナが望んだアウラの死こそが、アウラが究極AIとして完成するための最後の工程だったのだ。
 無論、アウラが女神へと再誕したきっかけが“自死”だった以上、ただ死ねばいいというわけではないだろう。
 だが前提条件が“死”であることに変わりはなく、故にモルガナには究極AIの誕生を阻止できない。

「無論、そんなことはモルガナ自身も理解しているとも。
 アウラほどではないとはいえ、彼女もまたあのハロルドが生み出したAI。たとえ狂っていようと、決して愚かではないさ。
 ―――そしてだからこそ、このバトルロワイアルが企画されたのだ」

 榊は語る。
 本来の『The World』のままでは、モルガナにアウラは殺せない。
 故にモルガナは、『The World』を歪めてまでアウラを殺す手段を求めた。
 その結果出来上がったシステムこそが、バトルロワイアルと銘打たれた、このデスゲームなのだと。

「さあ、今こそ教えようではないか。
 このバトルロワイアルがデスゲームである理由。
 我々GMの、その主たるモルガナの目的。
 ――――貴様の求めた『真実』を!」

 そうしてようやく、再誕の求道者は辿り着いたのだった。
 この『世界』の『真実』――その一端へと。


927 : 『力』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:41:32 eg9Lrf4E0


     5◆◆◆◆◆


 ――――戦いは、そう時間をかけずに決着した。

「グ、ヅッ……」
「――――――――」
 榊の予想通り、その勝者はロックマン。
 彼はガラスのように無機質な瞳で、地面に倒れ伏すフォルテを見下ろしていた。

「どうやら、決着がついたようだな。
 見事な勝負だったよフォルテ。このロックマンを相手に、心意なしでよくあそこまで戦えたものだ」

 実際、フォルテはよく戦った。
 持てる力の全てを使い、ロックマンにも決して浅くないダメージを与えて見せた。
 だが心意技による一方的な攻撃とAIDAの盾による防御、“転送能力”によるワープ移動を可能とするロックマンを倒すには至らなかった。
 あるいは《ジ・インフィニティ》を回収できていれば、あるいは《完治の水》を使用できていれば、逆にロックマンを倒すこともできていたのかもしれない。
 しかしそれら逆転のカギとなりえた武器とアイテムを使う間を、ロックマンは決して与えなかったのだ。

 すべての手札を使い切ってしまったこと。
 フォルテの敗因はやはり、その一点に尽きた。

「ッ……ま、だだ……。まだオレは……戦える……っ!」
「ほう? 立ち上がれぬほどのダメージを受けておきながら、まだそう口にする気力があるとはな。
 だが余興はここまでだ。結果の見えた戦いを見続けていられるほど、私も暇ではないのでね」
 致命傷を負った体で立ち上がろうとするフォルテへと、榊は感心と呆れの混ざった声でそう告げる。

 こうしている間にも、対主催生徒会は反攻の準備を進めている。
 無論、たとえこのまま傍観したところで、一プレイヤーに過ぎない彼らにどうにかできるほどGMは軟ではない。
 が、それでも外聞というものがある。
 せっかくここまで来たのだ。今更職務放棄などと言われて処罰を受けるのは勘弁願いたい。

「やれ、ロックマン」
「――――――――」
 榊の指示に従い、ロックマンはフォルテのもとへと足を進める。
「ッッ…………!」
 そのまま自身の頭上で立ち止まり見下ろしてくるロックマンに、ついにデリートされるのかと、フォルテはロクに動かない体を強張らせる。
 だがその予想に反し、ロックマンの左手は元のまま。
 武装を展開せずいったいどうするのか。そうフォルテが疑問を浮かべると、ロックマンはフォルテの首を掴み、その体を軽々と持ち上げた。

「が、ぁっ……」
 喉が締め上げられ、フォルテは溜まらず呻き声を零す。
 そのまま絞殺されるのかと思えば、そんな様子もない。
 深まる疑問の中、それでも抵抗を続けようとロックマンを睨み付け、ふと違和感に気づく。
 今自分を釣り上げているロックマンの、強膜が黒く変色し虹彩が赤く滲んだその眼に、一切の感情が籠っていないことに。

 思えば、最初からそうだった。
 この闘技場で再会したロックマンの眼は、あまりにも無機質に過ぎた。
 最初は主催者に改造され『力』を手に入れた影響だろうと気にも留めなかった。
 加えて右腕の意趣返しを受けたことで、このロックマンにもまだ感情があるのだと思った。
 だが今目の前に見えるロックマンの眼からは、そんなものはまるで見えてこない。
 まるで色の付いただけのガラス玉。所詮は作られた存在でしかないネットナビにしたって、あまりにも感情(色)がない。

 ――――ならば、あの時ロックマンから感じた感情は、いったいどこから生じたものなのか。

 浮かんだ疑問に思考を巡らせ、そしてすぐに気付く。
 そうだ、オレは知っているはずだ。
 今のロックマンを構成する要素の中で、ロックマン以外に感情を持ちうる存在を――!

「キ、サマッ……!」
 ロックマンへと向けていた視線を、その下、胸部のシンボルマークに寄生した眼球へと向ける。
 フォルテの視線を受けた眼球は、ニィ、と、ようやく気付いたのかと言わんばかりに眦を歪めた。
 同時にその眼球の強膜が黒く染まる。それはAIDAに深く感染した者の証。

 そう。フォルテと戦っていたのは、ロックマンではなかった。
 メールに記載された内容に正しく、ロックマンはすでに死んでいる。
 フォルテと戦っていたこの存在は、ロックマンの姿を使っているだけのAIDAだったのだ。


928 : 『力』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:42:19 eg9Lrf4E0

 そうフォルテが理解すると同時に、黒い眼球から黒泡とともに無数の触手が現れる。
 それは眼球の目の前に集束して球体となると、ピシリと亀裂が走るようにその瞼を開き、
 ―――直後、フォルテの胸部へと、出現させた触手を突き刺した。

「ッ――――――!」
 全身に焼け付くような悪寒が走る。
 同時に黒いナニカが体を侵食していくのを感じる。

 間違いない。新たに現れた眼球、それはコアだ。
 ロックマンやダークマンに寄生しているモノと同じ、“AIDAに感染した、ISSキットのコア”だ。
 それが今、彼らと同じように、フォルテに寄生しようとしているのだ。

「フォルテ。お前はとっくに知っていたはずだろう?
 勝者には報酬を、敗者には死を。それがアリーナのルールだと。
 お前はキリトたちの情報を望み、ここで戦い、そして敗北した。
 故にお前に与えられるものは死となる」
 榊の言葉が、愉悦を含んで闘技場に響き渡る。

 そう、その通りだ。
 敗者には死を。それがアリーナの――このデスゲームのルールだ。
 たとえGMに与していようと、いやGM自身であろうと、そのルールは変わらない。
 ゆえにフォルテは、本物のロックマンと同じように、ここでデリートされるのが定めとなる。

「……だが、お前の“力”は失うには惜しい。
 加えて来る対主催生徒会との戦いのためにも、彼らと戦う戦力は少しでも残しておきたい。
 そこで、だ。お前を敗者として扱いつつも、その命は助け、且つその“力”を活用する方法を私は考えた。
 それがどのような方法か、もはや言うまでもないだろう」

 今まさに行われようとしているように、ISSキットのコアを寄生させ、AIDAを感染させる。
 そうすることでロックマンやダークマンと同じ、GMの従順な操り人形とする。
 つまりは肉体ではなく、精神の死。
 それが敗北したフォルテがデリートを免れるための代償なのだと榊は口にする。

 ふざけた話だ。
 さも今思いついたように語るが、榊は初めからそれが目的だったのだ。
 榊は言った。結果の見えた戦いを見続けていられるほど暇ではない、と。
 それが本当であるならば、抵抗することが分かり切っているオレをわざわざ時間を割いてまで取り込もうとするはずがない。
 そしてその目論見は、今まさに成功しようとしている。

「なに、怯える必要はなにもない。
 お前はもともと、心や絆によって生じる力を否定していただろう?
 そのコアを受け入れれば、それらから完全に開放され、お前は純粋な“力”となるのだ。
 今まさにお前を敗北させた、そのロックマンと同じようにな」
「ッ………!」
 榊の言葉を否定できず、フォルテは悔しげに歯を食いしばる。

 ……ああ、その通りだ。
 オレは確かに心や絆の力を否定していた。
 そしてだからこそ、ロックマンやキリトとの決着を望んでいた。
 絆こそが力だと口にするヤツらはそれ故に弱者で、絆など不要と断ずるオレこそが正しいのだと証明するために。

 そしてある意味において、それは証明された。
 GMの操り人形となり果てたロックマンの“力”は、かつてのロックマンを完全に上回っていた。
 だがこいつらの間に絆などない。あるのは純然たる支配関係だけだ。
 それに負けたというのなら、やはりオレは正しく、そして榊の言葉がより正しいのだろう。
 その榊が言っているのだ。コアを受け入れれば、心や絆から解放され、純粋な“力”となれると。

 ―――そうだ。
 ある意味において、榊の言葉は正しい。
 オレはずっと“力”を求めてきた。
 全てを破壊し、人間に復讐する“力”を、ずっと。
 そのためだけに、これまで数多くの敵を破壊しその力を喰ってきたのだ。

 ――――――――だが。

「どうした、フォルテ。己が敗北を認め、コアを受け入れるのだ。
 そうすればお前は、さらなる力を得られるのだ。“絶対なる力”が望みだというのなら、拒絶する理由などないはずだぞ?」

 それは違う、と。
 湧き上がる怒りが、胸の内を焦がし続ける憎しみの炎が、榊の言葉を否定する。
 気が付けばオレの左手は、オレへと寄生しようとするコアを掴み引き剥がそうとしていた。


929 : 『力』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:43:24 eg9Lrf4E0

「ふん。まだ己が敗北を受け入れんか。
 だが無意味だ。心意に対抗できなかったお前では、コアの浸食から逃れることなどできん」
 榊は呆れたように、フォルテの足掻きを嘲笑う。
 その言葉の通り、どれだけ強くコア本体を抑え込んでも、体が侵食されていく感覚は進んでいる。
 マクスウェルのAIDAの時のように抵抗できないのは、その感染能力さえも心意によって強化されているからか。
 このまま抵抗を続けたところで、いずれは完全に侵食されてしまうだろう。

 ……だというのに、なぜ俺は抵抗を続けているのか。
 GMの操り人形になるのが嫌だというのなら、マクスウェルのAIDAにそうしたように喰らい返せばいい。
 消耗した今の状態では不可能でも、いずれは支配状態を喰い敗れるはずだ。
 だが違う。
 オレの怒りが否定しているものは、GMに操られることではなく榊の放った言葉だ。
 心を捨てることで強くなるというその言葉を否定するために、オレの怒りはコアの浸食を拒み続けている。

 ――ならば、この怒りの正体は何だ。
 オレはなぜ、榊の言葉に怒りを覚えている。

「ッ、…………ッッ」
 オレを吊るし続けるロックマンへと視線を向ける。

 このロックマンが、本物のデータを使っているのか、ただデータをコピーしただけの存在なのかはわからない。
 一つ確かなことは、こいつはもはや完全な人形だということだ。
 何も考えず、感じず、ただ己に寄生したAIDAに操られるだけの存在。
 そんなものはもはや、ネットナビとは呼べない。人間がゲームで遊ぶ際に使う仮装の肉体、つまりはアバターだ。
 そんな、AIですらないただのプログラムになれと、榊は言っているのだ。

 ………ああ、そうか。
 この怒りの正体は、それだ。
 思い出す。オレを悪と決めつけた、「所詮、プログラムでしかない」と蔑む科学者たちの目を。
 榊の言葉は、それと同じだ。ヤツはオレを、ただの利用できる便利な“力”としか見ていない。
 ヤツはオレから意思を奪い、その“力”を都合よく利用するために、この戦いを用意したのだ。

 ……奪うというのか。この憎しみを。
 オレが力を求めた理由。この胸に刻まれた傷痕。
 それをキサマは、ロックマンのシンボルマークと同じように、消し去ろうというのか……!

「ふざ、けるなッ……!」
 思い出す。この胸の傷の由来。この身を焼き焦がす憎しみの根源を。

 ―――そうだ。オレは、信じていた。
 オレを生み出した科学者、唯一オレに愛情を注いでくれた人間、コサック博士を。
 「プロトの反乱」と呼ばれる事件が起きたあの日まで、心の底から信じていたのだ。

 事件が起きたあの日、ある理由からオレは科学省の人間から事件の犯人だと一方的に決めつけられた。
 科学省のナビたちに終われながらも、オレは犯人ではないと訴え続けたが、聞き入れられることはなかった。
 けれどオレは信じていた。
 コサック博士ならきっと誤解を晴らし、オレを助けてくれると信じていた。
 事件の原因が判明する最後まで、ずっと信じていたのだ………。

 ―――だがその信頼は裏切られた。
 コサック博士は助けてくれず、オレは致命傷を負い、どうにか生き延びるもネットを彷徨うこととなった。
 オレに残されたのはフォルテという名と、ゲットアビリティプログラムだけ。
 その時オレは、この傷に誓ったのだ。
 “より強く”。
 オレを悪と決めつけた人間たちに復讐するために、最強の力を手に入れるのだと。
 それこそが、オレが力を求めてきた理由。オレが今まで生きてきた意味だった。

 そうだ。この憎しみも、この力も、全てあの日に得たもの。
 オレは、コサック博士を信じていた。
 信じていたからこそ、助けてくれなかったことに絶望し、オペレーターとの絆を否定した。
 信じていたからこそ、それが裏切られたことに憎悪を懐き、そしてその憎悪がここまでオレを強くした。

 ああ、オレが間違っていた。
 心や絆、それらによって生まれる力は、確かにあった。
 憎しみも、絶望も、心や絆があったからこそのもの。
 つまりこの力は、オレが今まで否定してきた絆の力の、いわば負の側面とでもいうべきものだったのだ。
 だから――――。

「認めない……」
 正体を自覚した怒りのままに、より激しく燃え上がる憎しみを胸に、自身を侵そうとするコアを握りしめる。
 ガチリと、体の内側で空回りしていた歯車が、ようやく噛み合ったかのような感覚を覚える。
 浸食の影響で鈍っていた感覚が鋭敏になり、使い果たしたはずの力が湧き出てくる。


930 : 『力』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:44:47 eg9Lrf4E0

 そうだ、認めてなるものか。
 榊は科学省の科学者どもと同じだ。オレを、ネットナビを便利な道具としか見ていない。
 オレはそんなヤツらに復讐するためにこそ力を求め続けた。
 だというのに、そんなヤツの道具と化したロックマンに敗北するなど、ましてや自身もその道具の一つとなるなど――――

「絶対に、認められるものかァ……ッッ!!」

 コアを掴んだまま左手にエネルギーを収束させ、あふれ出す怒りとともにロックマンへと向け解き放つ。
 炸裂したエネルギーは周囲に粉塵を巻き上げ、二人の姿を覆い隠す。
 だがすぐに粉塵の中から、ロックマンが跳び出してくる。
 その姿は多少煤けてはいるが、大きなダメージを負ったようには見えない。
 再びあのワープ能力を用いてフォルテの攻撃を回避したのだろう。

「なんだと!? まだあれほどの力を残していたというのか!?」
 だがロックマンが回避をしたという事態に、榊は堪らず驚愕の声を上げる。

 フォルテは間違いなく力を使い果たしたはずだ。
 だからこそ、マクスウェルのAIDAの時のように喰らい返すことができず、コアの浸食を受けていたはずなのだ。
 だというのに、フォルテは浸食に抵抗するどころか、そのまま反撃すらしてみせた。
 一度は尽きたはずの力。それはいったいどこから湧いてきたものなのか。

 そう榊が思考を巡らせている間に粉塵が晴れ、フォルテが姿を現す。
 ――だが露になったフォルテの姿を見て、榊は再び驚愕することとなった。

「あれは……なんだ、あの姿は。まさか、ジョブエクステンドしたとでも言うのか?」

 露になったフォルテの姿は、先ほどまでとは一変していた。
 頭部や四肢にあった金の装飾は紫色に、体にあった紫のラインもまた赤に変色している。
 彼の纏っていた襤褸のマントもまた漆黒に染まり、その裾から禍々しい赤を脈状に走らせている。

 AIDA=PCではない。
 マントはAIDA=PCのそれと同じ状態だが、フォルテ自身の体は完全に本来の形を保っている。
 まるでAIDAに呑まれることなく、その力を完全に己がものにしたとでもいうかのように。

「……いや、だとしても無駄なことだ。
 心意への対抗手段を得ない限り、フォルテに勝ち目がないことに変わりはない。
 行け、ロックマン! 今度こそフォルテを取り込んでしまえ!」
「――――――――」
 榊の声に従い、ロックマンは左腕にダーク・ソードを展開し、フォルテへと肉薄する。
 振り被られる黒い光刃。それを振り下ろす直前でワープ能力を使用し、フォルテの右側から急襲する。
 変化の影響か、回復アイテムを使用したのか、フォルテの右腕は修復されている。
 だがたとえ右腕があったところで、心意への対抗手段を持たないフォルテに取れる行動は回避しかない。
 故にそこを追撃せんと、光剣を降り抜くと同時に転送準備に入り、

「―――《ダーク・アームブレード》」

「ッ――――――!」
 フォルテには防げぬはずの光刃は、“その右腕に展開された黒い光刃”によって受け止められた。
 直後開始される転送。
 ロックマンの前進が苦労光子に変換され、フォルテが回避するだろうと予測したポイントへと瞬間移動する。
 ―――その直後、狙いすましたかのように襲い掛かってくる黒い光刃。
 ロックマンは咄嗟にダーク・ソードで防ぎつつ、大きく飛び退いて回避する。

「バカな! ロックマンの攻撃を防いだだと!?
 それにあの過剰光(オーバーレイ)……心意を習得したとでも言うのか! まさか、あの状態から!」
 有り得ない。と榊は驚愕の声を上げる。

 つい先ほどまで、フォルテに心意への対抗手段は間違いなくなかった。
 だからこそロックマンはあそこまでフォルテを追い詰めることができたのだ。
 だと言うのに、コアの浸食から脱したフォルテは事も無げにロックマンの心意攻撃を防いで見せた。
 しかもそれは、心意によって構成された光剣によってだ。

 だからこそ、榊はあり得ないと声を荒げる。
 心意とは、使用者のイメージによって《事象の上書き(オーバーライド)》を引き起こすことで発動するものだ。
 だがそれゆえに、心意の習得にはシステムを上回るほどのイメージ力が必要となる。
 ネットナビやAI――どれだけ複雑であろうと、定められた反応しか返せないプログラムでは、心意の習得はまず不可能なのだ。
 ロックマンやダークマンが心意技を使えたのは、外的要因によって心意を使用可能とさせるISSキットが寄生していたからだ。

 だというのにフォルテは、ISSキットを装備せず心意技を使って見せた。
 ISSキットのコアを喰らったというのならまだおかしな話ではない。
 だがフォルテは、コアを完全に消し飛ばした。つまり心意が使える理由などないはずなのだ。


931 : 『力』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:46:42 eg9Lrf4E0


「………なるほど、これが“心意”か。
 己が感情(怒り)でシステムを捻じ伏せ、従える。
 いいぞ……実にいい気分だ」
 黒い過剰光を放つ己が右手を見つめながら、フォルテは凶暴な笑みを浮かべてそう口にする。

「さあ……今度こそ決着を付けようか、ロックマン。いや、ロックマンの偽物。
 もっとも、俺が心意(この力)を得た時点で、キサマの勝ち目など完全に消え失せたがな」
「――――――――」
 フォルテの言葉に、ロックマンはダーク・ソードを無言で構える。

 フォルテに対し、ほぼ一方的なアドバンテージを得ていた心意技。それはフォルテが心意技を習得したことで失われた。
 つまり状況は完全に逆転した。
 勝ち目がない、とまではいかないが、敗北する可能性は非常に大きくなったと言えるだろう。

 ―――だがそれでも、ロックマンのすることは変わらない。
 フォルテを倒し、可能であれば己が支配下に置く。
 なぜならそれが、現在の己が主たる榊の指示だからだ。
 そこに疑念の入る余地など、僅かたりとも存在しないのだ………。

      §

「ハァアア――――ッ!」
「ッ――――――――!」

 高速で激突し、火花を散らす両者の剣。
 同じ闇色の刃は、接触するたびに相手の闇さえも飲みこまんと唸りを上げる。
 だがそれも一瞬。剣戟は鍔競合いとなることなく、弾き合い続ける。

「そらどうした! 心意の有利がなければこの程度なのか!?」
「ッ―――、――――――!」

 光剣が振るわれるたび、フォルテは更に前へと踏み込み、ロックマンは逆に後退る。
 相手と打ち合うことが可能になったことにより、PC自体のパラメーターの影響が出始めたのだ。
 数値的な強化のなされていないロックマンでは、フォルテの斥力には敵わない。
 鍔競合いにならない理由はそれだ。
 そうなったら圧し負けると理解しているがゆえに、ロックマンは光剣を弾き逸らすことでフォルテの攻撃に対処しているのだ。

「オラァッ!」
 剣戟の合間を縫って繰り出された足撃が、ロックマンの胴体を捕らえ、蹴り飛ばす。
「ッ――――――」
 ロックマンはその一撃によって吹き飛びながらも、即座に体勢を立て直し、転送能力さえも駆使してフォルテをかく乱しつつさらに距離をとる。
 そして左腕にダーク・バスターを展開し、無数の黒い光弾を乱射する。

 ――――がしかし。
 放たれた光弾はそのすべてが、フォルテが突き出した左手に遮られたかのように空中で静止していた。

 心意とは、感情とイメージによってシステムを上書き(オーバーライド)することによって発生する現象だ。
 故に使用者のイメージが乱れれば、心意は容易く瓦解する。
 だというのにロックマンの放った光弾は、使用者であるロックマンの意を外れ空中で静止していた。
 これが意味することはすなわち、ロックマンのイメージよりも、フォルテのイメージの方が強固だということ。
 フォルテの心意がロックマンの心意を完全に上回っているという証明に他ならない。


「フン。弱い心意だ。貴様のそれは所詮、借り物のイメージにすぎんということか」
 言いながらフォルテは、左手をロックマンへと向けて再度突き出す。
 同時に静止していた光弾が、散弾銃のようにロックマン目掛けて炸裂した。
「――――――――」
 それに対しロックマンは、心意で強化したAIDAの盾を展開することで応じる。
 結果、フォルテの撃ち返した光弾はAIDAの盾に弾かれ、ロックマンを傷つけることなく霧散した。

「そら、次だ! 《ヘルズ・ローリング》!」
 だがフォルテはそれに構うことなく、両手に闇色の光輪を出現させると、それをロックマンへと投擲する。
 二つの光輪は闘技場の床を切り裂きながらロックマンへと接近すると、容易くAIDAの盾を切り裂いた。
 ……だが、そこにロックマンの姿はない。
 なんとロックマンは盾によって自身の姿を隠し、さらに盾に使用した黒泡を門として転送能力を使用したのだ。
 そして攻撃によって隙のできたフォルテの背後へと現れると、ダーク・ソードを展開しその背後へと目掛けて突き出した。
 そのシャドースタイルにおけるカワリミマジックのような不意打ちは、しかし。

「フン。同じ手が二度通用するとでも思ったか」
 フォルテが素早く体を逸らしたことで、あっけなく回避された。

 盾を利用した転送による奇襲は、先の戦いにおいてフォルテが致命傷を受けた一撃だ。
 故に、たとえ心意を習得しロックマンのアドバンテージを無効化しようと、それに対する警戒を怠ることはない。


932 : 『力』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:48:04 eg9Lrf4E0

「これで終わりだ」
 そういうや否や、フォルテは突き出されたロックマンの腕を掴み取ると、振り向きざまにロックマンを引き寄せがら空きの胴体へと掌底を叩き込む。
 その衝撃でロックマンは勢いよく弾き飛ばされるが、ダメージはない。しかし同時に、体がマヒし身動きも取れない。
 魔術礼装【空気撃ち/二の太刀】によるスタンを受けたのだ。

「やはりキサマは、ロックマンなどではない。姿を真似ただけの、ただのジャンクデータだ」
 ロックマンに対しそう告げながら、フォルテは空へと右手を掲げる。
 同時に形成される、巨大な闇色のエネルギー球。
 負の心意によって生み出されたそれは、そのままフォルテの憎悪の強大さを表しているかのようだった。

 ………ロックマンならば、これを前にしても決して挫けることなく立ち上がろうとするのだろう。
 あるいはオペレーターとの絆によって、この状況からでさえ逆転してみせるかもしれない。
 だが今眼前に倒れ伏すロックマンからは、そんな気配はおろか抵抗の意思さえ僅かたりとも感じられない。
 感じられるのはただ、胸部に寄生したAIDAコアからのマイナスの感情だけだ。

「ッ、消えろ偽物! 《ダークネス・オーバーロード》ッ―――!!」

 そうして放たれる闇のエネルギーの奔流。
 スタンによってあらゆる行動が封じられた今、ロックマンにはワープによる緊急回避すらできない。
 結果、それまでの戦いの激しさからはあまりにもあっけなく、ロックマンは闇のエネルギーに呑まれ消滅した。

「……………………」
 もはや、ロックマンの姿はどこにもない。
 周囲に残っているものは、フォルテの一撃によって破壊され半分ほどとなった闘技場と、辺りに漂う無数の黒泡だけ。
 ……だが、それを確認してなお、フォルテは臨戦態勢を解くことはなかった。
 なぜなら。

「……おい、さっさと出て来い。それともこのまま何もせず、残った闘技場ごと消し飛ばされたいか?」
 周囲を漂う未だ消え去らない黒泡へと向けて、フォルテはそう言い放つ。
 その言葉に触発されたかのように、周囲の黒泡が一か所へと集まり黒い大穴を形成する。
 そうしてその穴から這い出るように現れたのは、ロックマンに寄生していたAIDAの本体だ。

 そう、戦いはまだ終わっていない。ISSキットのコアを通じてロックマンの残骸を操っていた、AIDAの本体が残っているのだ。
 フォルテは切り落としたロックマンの右腕がデータ片とならず黒泡となり、さらにはワープのための門として機能したことを覚えていた。
 その時と同じように黒泡が残っている以上、黒泡の発生源たるAIDAが残っていると考えるのは当然だろう。

「フン、やっと本体が現れたか。……だが、まあいい」
 己が人形であったロックマンの残骸を失ったからか、あるいはロックマンの体ではフォルテを倒せないと判断したのか。
 どちらにせよ、アラクネのような姿をした赤色のAIDA――<Grunwald>はその異様を曝け出した。
 つまりこれが決着。このAIDAを倒せば、榊の用意したこの茶番も終わる。
 加えて、それがAIDAの本体というのも都合がいい。
 なぜなら。

「“コイツ”の力を試すには、キサマのような存在がちょうどいいからな」
 ノイズ交じりのハ長調ラ音が響き渡り、フォルテの全身に緋色の紋様が浮かび上がる。
「なッ、紋様だと!?」
「やはり覚醒していたか」
 同時に榊が幾度目かの驚愕の、オーヴァンが納得の声を上げる。

 フォルテの全身に浮かんだ紋様。それは憑神が顕現する際の予兆。
 すなわちフォルテが碑文の力を覚醒させたことの証に他ならない。
 そしてその“憑神”の顕現とともに、周囲の空間が認知外空間へと塗り潰され、
 ――――しかし。

「さあ――――喰らい尽くせ、“ゴスペル”!」

 そうして現れた存在は、その名も、その姿も、二人が想像していたものではなかった。

 フォルテが得た碑文は第七相『復讐するもの』タルヴォスだ。
 だが現れたのは、八相としてのタルヴォスでも、憑神としてのタルヴォスでもない。
 黒い身体に赤い筋を這わせた、獅子か狼のごとき姿の“獣”だった。
 その胴体を貫く杭だけが、辛うじてタルヴォスの名残を残しているに過ぎなかった。


933 : 『力』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:49:14 eg9Lrf4E0

「バカな! AIDAだと!? 奴は碑文の力を呼び覚ましたのではなかったのか!?」
 混乱もあらわに榊が叫ぶ。
 フォルテの全身に浮かんだ紋様は間違いなく憑神が顕現する際に生じる現象だ。
 だというのにフォルテが顕現させたのは、憑神ではなくAIDAだ。
 しかもそのAIDAは、他のAIDAと比べ明らかに異質だった。

 元となったAIDAはマクスウェルのAIDAだろう。
 その姿が“獣”となっているのはフォルテに喰われた影響だろうか。
 だがどうあれ、まず間違いなく元のAIDAの自我やの意識など残ってはいないだろう。
 そう確信できるほどに、ゴスペルと呼ばれたそのAIDAは異質だった。
 なにしろ本来半透明であるはずの体色が、AIDA=PCの崩壊したテクスチャと同じような禍々しい黒赤色に染まっていたのだから。

「……まさか。そういうことなのか?」
 だがその異常な姿をしたAIDAに、オーヴァンは一つだけ心当たりがあった。
 それは他でもない、オーヴァン自身に寄生したAIDA――<Tri-Edge>だ。

 あのAIDAはオーヴァンが憑神を顕現させれば、コルベニクの左肩に侵食する形で同時に顕現する。
 その際の姿は、簡単に言ってしまえば“黒い第三の腕”だ。
 つまりコルベニクは、AIDA=PCと化した憑神だと言い換えることが出来る。
 ―――で、あれば。
 もし<Tri-Edge>にコルベニクを完全に喰わせれば、その時あのAIDAは、ゴスペルと同じ黒いAIDAとして顕現するのではないのか? と。


「いくぞ」
 フォルテの呟きとともに、ゴスペルが<Grunwald>へと駆け出す。
「――――――――」
 対する<Grunwald>は迎撃を選択。《アルケニショット》を放ち、ゴスペルを牽制する。
 だがそれに対し、ゴスペルはさらに加速して突進。散弾銃のごとき糸弾を強引に突破し、一息に<Grunwald>へと体当たりを敢行する。
 その直撃を受け、<Grunwald>はダメージとともに大きく弾き飛ばされる。

「む」
 だが同時に、ゴスペルは糸弾を受けたことで糸が絡まり、その特性である減速効果を受けてしまう。
 その隙に<Grunwald>は体勢を立て直し、《アラクノトラップ》による糸の檻で、ゴスペルを絡め捕ろうとする。がしかし。
「無駄だ」
 ゴスペルの口から黒い炎が放たれ、糸の檻が焼き払われる。
 さらにゴスペル鬣から十本の光杭が形成され、<Grunwald>へと向けて連続で射出される。

「ッ――――――!」
 <Grunwald>は放たれた《極刑の聖杭》を前肢の爪で迎撃するが、次々に迫る光杭全てを打ち落とすことはできず、何本かをその身に受けてしまう。
 その直後、光杭が輝くと同時に空間に固定され、<Grunwald>をその場へと縫い留められる。
 当然<Grunwald>は高速から抜け出そうともがくが、しかし光杭が外れることはない。
 ならばと《コボルブリッド》を放ちゴスペル本体へと攻撃するが、やはり光杭の拘束は解けない。
 ゴスペルが光弾を迎撃したのではない。光弾による攻撃が、ゴスペルにまったくダメージを与えられていないのだ。

「………この程度か」
 その事実にフォルテは、落胆とともにそう呟く。
 同時にその胸中に、さらなる怒りが湧き上がる。

 ゴスペルはまだ全ての力を発揮したわけではない。牙はおろか、爪さえもまだ使用してない。
 だというのに、<Grunwald>はもう抵抗の手段を失っている。
 これが本物のロックマンであれば、全ての技を繰り出させる程度には耐えて見せたはずだ。だというのに……。
 それすらも叶わないような雑魚が、ロックマンを……その残骸を操って成り代わっていたのか、と。

「ならばもうキサマに用はない」
 その言葉と同時に、ゴスペルの咢が開かれ、その口に闇色のエネルギーが集束する。
 それを見た<Grunwald>はより激しく足搔くが、やはり拘束がほどけることはない。
 当然だ。その光杭の拘束から脱するには、光杭を破壊するほかない。
 それすらもできないモノにその一撃を防ぐ術などあるはずもなく、そして―――。


934 : 『力』の行方 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:49:47 eg9Lrf4E0

「消し飛べ―――《バニッシングワールド》!」
 放たれた極光は認知外空間のエリアデータさえも破壊し、果てのない闇のごとき虚無(ブランク)の空間を露にさせる。
 それほどの一撃の直撃を受けた<Grunwald>が耐えられるはずもなく、憑神バトルにおけるHPとも呼べるPP(プロテクトポイント)は、フォルテの放った言葉通りに消し飛ばされた。


「しぶといな。曲がり形にもロックマンということか」
 PPを全損したことにより<Grunwald>の顕現が解除され、入れ替わるようにその宿主が現れる。
 全身いたる所を破損した、今にもデータ片となって消え去りそうなロックマンの残骸だ。
 まだ生きていることが不思議なほどの状態。もはや戦うことはおろか、まともに動くことすらできないだろう。
 ――――だが。

「キサマの存在は、完全にデリートする。
 ……もう二度と、オレの前に現れないように」
 ……もう二度と、その亡骸が誰かに利用されることのないように。

 フォルテの言葉と同時に、ゴスペルの胴を貫く杭に極彩色のエフェクトが展開される。
 そのエフェクトはゴスペルの貌や鬣にまで展開され、さらに口元に展開された目のようなエフェクトには禍々しいエネルギーが充填される。
 それは『The World』に深く関わる者なら誰もが知る“強き力”。すなわち――――

「喰らい尽くせ―――《データドレイン》!」

 光弾となって放たれる極彩色のエネルギー。
 それは身動ぎすらしないロックマンの残骸へと命中すると、その体を分解しながら無数のデータ数列を引きずり出していく。
 そうしてロックマンの残骸からデータを吸収した光弾は、巻き戻るかのようにゴスペルの元へと戻り、その咢に喰われ消滅した。
 つまりロックマンの残骸から奪ったデータを、フォルテ/ゴスペルへと還元したのだ。

 残されたロックマンの残骸は、データ片すら残さず霧散して消滅していく。
 それも当然。フォルテの放ったデータドレインは、ただのデータドレインではない。
 フォルテの能力であるゲットアビリティプログラムと融合し強化された、新たなるデータドレインだ。
 その力はもはや、通常のデータドレインとは比べ物にならない。
 今消え去っているロックマンはもはや残骸ですらなく、存在の名残とでもいうべき残滓にすぎないのだ。

 その残滓が消え去る様を、フォルテは静かに見つめていた。



「さあ、今度こそロックマンは倒したぞ。
 次はどうする? まだ続けるのか?」
 ゴスペルの顕現を解除し、元の闘技場へと戻ったフォルテは、司会者席の榊へと嘲りを籠めて問いかける。

「くっ………」
 それに対し、榊は顔を屈辱に歪めながら口を籠らせる。
 それも当然だろう。必勝を期して用意した舞台。逃れられぬはずの敗北を、フォルテは覆して見せたのだから。

 この場を仕切っているのは榊だ。その気になれば、まだ試合を続けることはできる。
 だが、たとえこのまま続けたところで、単体で今のフォルテを止められる存在は榊の配下にはいない。
 それに――――

「まあいいだろう。この試合、フォルテの勝利だ!」
 感情的になりそうな思考を抑えながら、努めて冷静に榊はそう宣言する。
 同時にアリーナにファンファーレが響き渡り、どこからか紙吹雪が舞い散らされる。

 それが榊の用意した余興の本当の終わりであり、
 ――――それが、フォルテとロックマンの戦いの、もはや果たされることのない決着だった。


935 : 嗤う牙 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:50:53 eg9Lrf4E0


     6◆◆◆◆◆◆


「見事だフォルテ。実際驚いたよ、まさかあの状況から逆転するとはね。
 それで、私の余興は楽しんでくれたかな? 良ければ、感想を聞かせてほしいのだが」
 乾いた拍手とともに、ジ・インフィニティを回収し闘技場から観客席へと移ったフォルテへと、榊はそう問いかける。
 それに対するフォルテの答えは、
「……………………」
 無言での、負の心意による不意打ちだった。

 移動する前から予めエネルギーを溜めていたのだろう。
 即座に放たれた《ダークネス・オーバーロード》は、榊もろとも闘技場のように観客席を消し飛ばした。
 ―――しかし。

「ふむ。その様子では、どうやら不評だったようだな。本当に残念だ」
 いつの間に移動したのか。
 フォルテの背後で、榊は白々しくもそう口にした。

「チッ。やはり幻か」
「ほう、これは驚いた。まさかすでに気付いていたとはな。
 あのロックマンを倒したことといい、それも碑文に覚醒した影響かな?」
 感心したようにそう口にする榊の体が、ほんの一瞬、ノイズとともにブレる。
 それは榊に与えられ、AIDAの力によって引き出された碑文の力。
 すなわち、“第二相『惑乱の蜃気楼』イニス”による幻影だ。

 そう。かつてアトリからイニスを奪い、天狼にとりついていたAIDAが、三蒼騎士のうちの二人を幻影として作り出したように。
 榊は自分自身の幻影を作り出し、あたかもそこに自分がいるように操作していたのだ。

「さあな。キサマに理由を教えてやる義理はない」
 フォルテはそう言ってはぐらかすが、榊が幻影であることに気づけた理由は、まさしく榊が口にした通りの理由だった。

 第七相『復讐するもの』タルヴォスに覚醒した碑文使いは、人間の五感の一つである「嗅覚」を“高次の感覚”で認識することが出来る。
 ロックマンを倒した際に隠れ潜んでいたAIDAに気づけたのも、前述した理由のほかに、この「嗅覚」によってその“臭い”を嗅ぎ取っていたからだ。
 だが対して、目の前にいる榊からは何の“臭い”もしなかった。何かあると考えるのは当然だろう。

 そしておそらく、本物の榊もこのアリーナのどこかにいるのだろう。
 さすがに物理的に視認できない距離から、ここまで違和感のない動きをさせられるとは思えない。
 でなければ視線や声など、その挙動から何かしらの違和感が生じるはずだ。
 それがないということは、違和感を生じさせない距離で幻影を操っていると考えるのが自然だ。
 幻影を作り出す能力を応用すれば、その姿を見えなくすることもそう難しくないだろうことも、榊が近くに隠れていると推測する理由の一つだ。
 まあ幻影の“臭い”をごまかせていなかった以上、本気で“臭い”を探れば見つけ出すことはそう難しくないとは思うが………。

「………オーヴァンはどこへ行った」
 榊の催した余興は不快ではあれど、その結果としてこの“力”に目覚めることができた。
 その点やキリトたちを探すという約束を鑑みれば、優先順位はそう高くはない。

 フォルテは榊から視線を外すと、周囲を見渡してそう問いかけた。
 ロックマンに追い詰められた時にはまだ居たはずだが、今は観客席のどこにも見当たらない。
 先ほどの榊への不意打ちで消滅した、などということは、あの男に限ってはあり得ないだろう。
 となると、オーヴァンは自らの意思でここを去った、ということになるのだが……

「オーヴァンなら君の勝利を見届けた後、早々にここから立ち去ったよ。
 どこへ行ったかまでは知らないが、連絡は可能だし、ここはGM権限がなくては入れない施設も多い。
 勝手にエリア内を探索されたとしても何の問題もないし、君たちとの約束を果たすのにも一切の不都合はない」
「……そうか」
 ならばもう用はない、と、フォルテはアリーナの外へと通じるゲートへと向かう。
 ―――その途中で。

「次に下らんマネをしてみろ。その時は真っ先にキサマを破壊してやる」
 ゴスペルを背後に従えるように顕現させ、榊へとそう警告を残してアリーナを後にした。

 如何に新たな“力”への覚醒や約束によって優先順位が下がっているとはいえ、榊の余興が不快であった事実に変わりはない。
 もしまた同じようなことを繰り返すようであれば、キリトたちよりも先に潰してしまっても構わないのだ。
 当然そんなことをすればキリトたちの捜索は困難になるが、戦いに水を差されるよりはずっといい。


936 : 嗤う牙 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:53:27 eg9Lrf4E0

      §

 そうしてフォルテがアリーナから移動した先は、上級@HOMEとオーヴァンが呼んでいた無駄に豪華な部屋だ。
 この部屋には三つの通路があり、一つが出口、一つが『知識の蛇』へと通じている。
 最後の一つは、本来は『バイク工房』に通じていたらしいが、現在は塞がれ代わりにカオスゲートが設置されている。
 フォルテには使用権限がないためか現在は灰色となっているが、榊の用意したアリーナへもこのカオスゲートによって移動したのだ。
 『知識の蛇』への通路も本来は『錬成工房』とやらに通じていたらしいが、それははっきり言ってどうでもいいことだ。
 フォルテは『知識の蛇』ではなく出口へと向かいながら、自身の新たな“力”について思考を巡らせる。


 己が怒りの根源を自覚したことで碑文を覚醒させ、フォルテはさらなるスタイルチェンジとともに新たな“力”を獲得した。
 その“力”の多くはこれまでの戦いで獲得してきたものが統合・最適化されたものだが、その中でも特に強力なものは二つ。

 一つはAIDA<Gospel>。これはオーヴァンの予想通り、覚醒した碑文をマクスウェルのAIDAに喰わせた結果発生したAIDAだ。
 無論、覚醒した碑文をAIDAに喰わせず、憑神タルヴォスとして顕現させることも可能ではあった。
 だがフォルテは与えられた力をそのまま行使するのではなく、自身が喰らい己が一部としたAIDAに喰らわせることで、本当の意味で己が“力”とすることを選んだのだ。
 その結果ゴスペルは、AIDAでありながら憑神の力を備えた存在となった。顕現する際の紋様やデータドレインはその証といえるだろう。
 もっとも、その姿がフォルテの知る“あの”ゴスペルと酷似したものになったのは、フォルテ自身にも意外ではあったが。

 またその姿が酷似した影響か、AIDAのゴスペルはその性質もゴスペルと似たものとなっている。
 その性質とは、咥内にある核たる碑文を攻撃する以外に、ゴスペルにダメージを与えることはできないという点だ。
 <Grunwald>の攻撃がダメージを与えられなかったのもそれが理由だ。
 あるいはブレイク性能を持つほどの威力を持つ攻撃であれば、閉じた咥内の上からでもダメージを与えられるかもしれない点も、本物のゴスペルと似ていると言えるだろう。

 更には主体となっているものがAIDAであるためか、フォルテを通常空間に残したまま、ゴスペルのみが顕現することも可能となっている。
 その場合、使い手たるフォルテの存在が欠落するため、さすがにゴスペルの性能は落ちてしまう。
 しかし二手に分かれられる点や認知外空間形成能力を鑑みれば、十分何かの役に立つだろう。


 そしてフォルテが得たもう一つの強力な“力”―――それは心意だ。
 これはネオから奪った『救世主の力』をベースとしたものだが、実はそれだけではない。
 そもそも、たとえマトリックス(システム)を無視できる『救世主の力』を獲得しようと、それだけでは心意の習得には至れない。
 ……いやむしろ、『救世主の力』を用いるからこそ、心意の習得は不可能だと言えるだろう。
 なぜなら『救世主の力』の正体は、進化の閉塞に至ったマトリックスを再構築(リロード)する役目を負った者に与えられる力(プログラム)だからだ。
 つまり『救世主の力』とは、システムを超越することで上書き(オーバーライド)する力ではなく、上書き(オーバーライド)することをシステム側から許された力なのだ。
 故にフォルテがこの力を獲得し最適化したところで、それだけでは真なる上書き(オーバーライド)には至れず、単なるプログラムとしてしかこの力を行使できないのだ。
 『救世主の力』がロックマンの心意に対抗できなかったのは、そのシステムに対する影響力の差が故だった。

 ―――だがフォルテは、それを覆しうるモノをこのデスゲームで獲得していた。
 それは、彼がこの戦いの中で破壊したある少女……いや、AIから奪ったデータだ。
 そのAI――レンはフォルテのライバルであるロックマンと同様、人間の遺伝子情報をもとにオカルトテクノロジーによって生み出された存在だ。
 しかし世界最高峰の技師に生み出されたロックマンと違い、彼女には制作者の技術の不足により単純なプログラムしか施されていなかった。
 すなわち、製作者の想い人であるジローに対する恋愛感情だ。
 フォルテは彼女を構成していたオカルトテクノロジーとともにそのプログラムもまた吸収していた。

 無論、それ単体では何かしらの意味を持つことはない。
 フォルテはジローなどという人間は知らないし、そもそもフォルテにとって全ての人間は憎悪の対象だ。
 如何に人間の遺伝子情報をもとに構築されたプログラムとはいえ、フォルテに影響を与えるはずがなかった。
 だが己が怒りの根源をフォルテが自覚し、碑文を覚醒させた時、それは反転した。


937 : 嗤う牙 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:54:05 eg9Lrf4E0

 愛情の対義語は憎しみだ。
 フォルテはコサック博士を信頼(あい)していたからこそ、裏切られたことに絶望し人間を憎悪した。
 フォルテがそのことを自覚した時、少女のプログラムはフォルテの憎しみと結びつき、そして裏返った。
 その結果フォルテはプログラムを超えた、より人間らしい感情(憎しみ)を懐き、さらにその憎しみは「心の闇を増幅する」性質を持つ碑文によって増幅されることとなった。

 そうしてフォルテは心意を習得するに至った。
 システムを上書き(オーバーライド)する権利を持った『救世主の力』を、システムを超越する程の心(憎しみ)を以て行使することで、真なる上書き(オーバーライド)を可能とさせたのだ。
 ……愛によって生み出された少女のデータが齎した『進化の可能性』が、憎しみを力とするフォルテにプログラムの限界を超えさせたのは、いったいどんな皮肉なのだろう……。


(……だが、所詮は些末なことだ)
 どのような理由や経緯で手に入れた、どれほど強力な“力”であろうと、力は結局力でしかない。
 重要なのは、手に入れた力で何を成すかということ。
 そしてフォルテにとって、力の使い道など一つしかない。

 ――――全てを破壊し、人間に復讐する。
 憎しみを力とする限り、それ以外にこの渇きを癒す術などないのだから。

 ………だがその前に、付けなければならない決着があった。

 心意の力は習得した。
 碑文の覚醒に伴い、データドレインも使用可能となった。
 だが、ロックマンとの戦いは、フォルテの望んだものでは決してなかった。

 ロックマンとの戦いで求めていたものは、オペレーターとの絆を否定することだった。
 榊の人形となったロックマンを倒したところで、何の意味もない。
 ならばフォルテにとって戦う意味を持つ相手は、このデスゲームにおいてはもはや一人しか存在しない。
 仲間との絆を力とするヤツを真正面から倒してこそ、絆の負の側面から生まれた己が力の証明となるのだ。

「キリト……キサマだけは必ず、このオレが破壊する」

 二刀使いの黒衣の剣士を脳裏に浮かべ、フォルテは静かに己が闘争本能を高めていった――――。


【?-?/知識の蛇/一日目・夜中】

【フォルテGX・レボリューション@ロックマンエグゼ3(?)】
[ステータス]:HP???%、MP???%(HP及びMP閲覧不可)、PP100%、激しい憤怒、憑神覚醒、心意覚醒
[AIDA]<Gospel>(第七相の碑文を完全に取り込んでいます)
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、{ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:{ダッシュコンドル、フルカスタム}@ロックマンエグゼ3、完治の水×2@.hack//、黄泉返りの薬×2@.hack//G.U、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、{マガジン×4、ロープ}@現実、不明支給品0〜4個(内0〜2個が武器以外)、参加者名簿、基本支給品一式×2
[ポイント]:1120ポイント/7kill(+2)
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
1:仲間との絆を力とするキリトを倒し、今度こそ己が力を証明する。
2:すべてをデリートする。
3:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
4:ゲームに勝ち残り、最後にはオーヴァンや榊たちを破壊する。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※『第七相の碑文』の覚醒及び『進化の可能性』の影響により、フォルテGXへと変革しました。
 またそれに伴い獲得アビリティが統合・最適化され、以下の変化が発生しました。
〇『進化の可能性』の影響を受け、『救世主の力』をベースに心意技を習得しました。
 心意技として使用可能な攻撃はエグゼ4以降のフォルテを参考にしています。
〇AIDA<????>がAIDA<Gospel>へと進化しました。ただし、元となったAIDAの自我及び意識は残っていません。
 また第七相の碑文はAIDA<Gospel>に完全に吸収されています。
〇碑文の覚醒に伴いデータドレインを習得し、さらにゲットアビリティプログラムと統合されました。
 これによりフォルテのデータドレインは、通常のデータドレインと比べ強力なものとなっています。
〇オーラや未来予測など、その他のアビリティがどう変化したかは、後の書き手にお任せします。


938 : 嗤う牙 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:55:23 eg9Lrf4E0


     7◆◆◆◆◆◆◆


 そうしてオーヴァンは、その場所へと辿り着いた。
 『知識の蛇』の外、全てが朽ち果て、石と化したタウンの中心部へと。

「……まるで死者の街だな」
 その道中で感じた街の雰囲気から、オーヴァンはそう感想を零す。

 何もかもが動きを止めたこの街は、世界の終焉を連想させた。
 結晶化し街に降り積もるかのような静寂。
 天候はおろか昼夜すら判らない、酷く曖昧な空模様。
 町外れには何もなく、灰色の液体のような虚無の空間が際限なく広がっている。
 『世界』から切り離された、生ける者の存在しない最果ての流刑地。

 『忘刻の都 マク・アヌ』―――それが、死に満ちたこの街のコードネームだった

 このマク・アヌは、表舞台の水の都とは別のエリアだ。
 いや、より正確に言うのなら、水の都はタウンではなく、この忘刻の都こそがこの世界におけるタウンなのだろう。
 考えてみれば、そうおかしな話でもない。
 この世界が『The World』を基にしているというのなら、タウンとフィールドが別のエリアに設定されているのは当然のこと。
 表のフィールドに組み込まれた時点で、水の都はタウンとしての役割を喪失していたのだ。
 ―――問題は。

「このマク・アヌが、“いつ”のマク・アヌなのか、だ」
 オーヴァンの知るマク・アヌは、R:2の時代のものまで。
 だがその中に、ここまで陰鬱としたマク・アヌの記録はない。
 となると考え得る可能性は、GMがマク・アヌを基に改造したものであるか、あるいは。

「俺よりも先の時代のものを模して造られたか、だな」

 それはほぼあり得ないと思いながらも、考えていた可能性の一つだ。
 なぜならその場合、GMは時間さえも超え得る力を持つということになるからだ。
 だがこのデスゲームにおいてモルガナが存在する理由も、その可能性の中に含まれる。決して荒唐無稽と否定しきることはできないのだ。
 そして最悪なことに、時間を操るほどの力に対抗する術は、さすがのオーヴァンと手持ち得ていない。
 ゆえに今考えるべきは、このマク・アヌの正体ではなく、その役割だ。
 さしあたっては、

「やはりあの塔が怪しいが……」

 タウンの中心部に聳え立つ巨大な塔。
 オーヴァンの知る他のマク・アヌにはない如何にもなその構造物は、その頂上付近が空から伸びる黒い根に絡め捕られている。
 ……だがその塔を調べることは、オーヴァンにはできなかった。
 なぜなら、その塔へと入るための扉は、GM権限によってロックされていたからだ。
 無論、碑文やAIDAの力を使えば侵入することも不可能ではないだろうが、

「その場合は、GMと敵対することになるだろうな」
 故に、現段階では侵入することはできない。
 塔を調査して得られるだろうメリットよりも、GMと敵対することによるデメリットの方が大きすぎる。
 もし塔を調査するのであれば、GMの情報を揃え、その目的を完全に把握してからの方がいいだろう。

「…………GMの目的、か」

 榊から聞いたモルガナの目的。
 女神アウラを殺すために作り出されたデスゲーム。
 なるほど。確かにその方法なら、女神アウラは消滅するだろう。
 むしろその方法以外では、モルガナに手の打ちようはないかもしれない。
 …………だが。

「まだ完全ではない」

 GMの首魁たるモルガナの目的は知った。
 だが、配下たる榊や、他のGMの目的は判明していない。
 彼らはいったい何を代価として、モルガナに協力しているのか。
 加えて、モルガナの目的自体にも疑問が残る。
 確かにこのデスゲームが完遂されれば、女神アウラは消滅するだろう。
 しかしその方法では、モルガナの消滅もまた避けることはできない。
 そんな方法が、本当にモルガナの目的と言えるのだろうか……。

「『真実』の奥の、さらなる『真実』、か……」

 真実とは決して一つのものではない。
 一つの事実に対し、観る者によって如何様にも姿を変えるのが真実だ。
 故に、榊が語った『真実』とオーヴァンが求めた『真実』は決して同じものではない。
 オーヴァンが求める『真実』の追求は、未だ終わってはいないのだ。

「む、これは……」
 ふと、周囲に僅かなノイズが走る。
 同時にただでさえ滞っていた街の空気が、完全に静止したような違和感を覚える。
 そうして背後から近づいてくる足音。GMからの警告か、あるいは別の何かか。
 オーヴァンは最大限に警戒しつつ振り返り、

「! 君は―――」
 そこに現れた意外な人物に、思わず目を見開いた。


939 : 嗤う牙 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:56:19 eg9Lrf4E0


【?-?/忘刻の都/一日目・夜中】

【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、SP60%、PP60%
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:{銃剣・白浪、DG-Y(8/8発)}@.hack//G.U.、{スパークブレイド、妖精のオーブ×2、ウイルスコア(T)}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:1500ポイント/5kill(+0)
[思考]
基本:“真実”を知る。
0:現れた人物に対する驚き。
1:利用できるものは全て利用する。
2:トワイスと<Glunwald>の反旗、そしてフォルテを警戒。
3:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
4:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
5;いずれコサック博士とフォルテの"真実"も知る。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です。
※サチからSAOに関する情報を得ました。
※ウイルスの存在そのものを疑っています。
※榊の語る“真実”――ゲーム崩壊の可能性について知りました。
※このデスゲームにクビアが関わっているのではないかと考えていますが、確信はありません。
※GM達は一枚岩でなく、それぞれの目的を持って行動していると考えています。
※スケィス以外の『八相』及びAIDAがモンスターエリアにも潜んでいるかもしれないと推測しています。
※榊からコサック博士とフォルテの過去、及びロックマンの現状について聞きました。ただしコサック博士の話に関しては虚偽が混じっていると考えています。
※榊からこのデスゲームの黒幕がモルガナであることと、その目的を聞きました。
 しかし、それが本当に“真実”の全てであるか疑問を抱いています。

【????@??????】
[備考]
※オーヴァンが驚くほどには意外な人物です。


     8◆◆◆◆◆◆◆◆


「真っ先に破壊してやる、ねぇ。
 怖い怖い。私の余興は、よほど気に食わなかったらしいな」

 フォルテが去った後のアリーナ。
 そこに一人残された榊は、その口元に嘲笑うかのような笑みを浮かべていた。
 榊が仕組んだフォルテとロックマンとの戦い。
 その顛末は、榊の思惑から外れたものではあったが、概ね満足できる結果ではあったからだ。

「だが驚いたな。まさかAIDAを自らと分離させて顕現させるとは」

 フォルテが警告を放った時、その背後にはゴスペルが顕現していた。
 それはつまり、あの瞬間、フォルテとは別の個体としてゴスペルが存在していたということだ。
 榊の知る限りにおいてそんなことが出来た者は、碑文使いにもAIDA=PCにも存在しない。
 それを可能とさせたのは、フォルテがネットナビであるためか、それともエクステンドしたことの影響か。

 AIDAそのものの単独顕現自体は、実のところそれほどおかしなことではない。
 PCに感染する前のAIDAや、アトリから碑文を奪ったAIDAなど、その例はいくつか存在する。
 だが碑文を奪われたアトリのPCが破損したように、碑文使いに何の影響も及ぼさないまま、碑文が分離した例はない。
 だというのにあのAIDAは、<Grunwald>と戦った際の姿、つまり碑文を宿した状態のまま単独で顕現して見せた。
 おそらく一見分離したように見えて、その実フォルテと碑文の繋がりは保たれたままなのだろう。

「だとすれば、その状態でフォルテとAIDAの繋がりを断つことが出来れば、碑文もろともあのAIDAを奪うことが出来るかもしれんな」
 AIDAを分離顕現させる能力は脅威だが、それが正常な状態でないことは確実だ。
 フォルテと碑文の繋がりもそう強いものではないだろう。
 碑文使いPCから直接碑文を抜き取るよりは、そう難しい作業ではないはずだ。

「そういえば、フォルテにくれてやった碑文は第七相だったな。
 ………なるほど、「嗅覚」か。私の幻影が見破られたのもそれが理由か。
 所詮は幻影、ということだな。如何に精巧に作られていようと、臭いまではごまかせんか」

 第二相の碑文を覚醒させた者が得る“高次の感覚”は「聴覚」。
 音で惑わすことはできても、臭いまではどうにもならない。
 ましてや本来の適格者ではない榊では、幻影の精度にも限界がある。
 “高次の感覚”を持つ者がその気になれば、騙しきることはできないだろう。

「まあもっとも、己が戦ったロックマンの正体までは気付かなかったようだがな」
 榊がそう口にした直後、空から飛来した黒い閃光がその傍に着弾した。
 現れたのはロックマンだ。
 だがロックマンは、フォルテに倒され消滅したはずなのだ。
 だというのになぜ、ロックマンが未だに存在しているのか。


940 : 嗤う牙 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:56:56 eg9Lrf4E0

 その答えを示すかのように、空から再び黒い閃光が飛来する。
 だがそれは一つではない。十でも足りない。無数と言っていい数の黒光だ。
 それらの黒光は地面に着弾し、ロックマンと同じように人型をとる。
 現れたのは、ロックマンだ。それも、アリーナを埋め尽くすほどの数の。
 違いがあるとすれば、現れた無数のロックマンの内、最初の一体だけがバグスタイルの特徴を持っているという点だ。
 他は全てノーマルスタイルに近い姿――つまりフォルテと戦った時と同じものだった。

「……確かにロックマンは倒された。だが同時に、彼らはこう判断することだろう。
 私が改造したロックマンは倒され、AIDAもろとも今度こそ完全に消滅した、とね。
 フォルテに倒されたロックマンなど、無数のコピーの一つに過ぎず、そのAIDAももはや別物だというのにな」

 それが、この夥しい数のロックマンの正体だった。
 それを可能としたのは、第三相の碑文だ。
 アリスから碑文を受け取った榊は、それをロックマンへと埋め込んだのだ。

 第三相の持つ『増殖』の力は、PC等のデータを完璧に復元、増殖するというもの。
 スミスの自己増殖能力に着想を得た榊は、同じく自己増殖を可能とするISSキットを核にロックマンのデータを複製させることで、ロックマンを文字通りに増殖させたのだ。
 もっとも、AIDAによって『碑文』を制御しているためか、その増殖も完璧なものとはならなかったが。

 ノーマルスタイルに近いその姿――ダークスタイルがその証だ。
 複製されたロックマンはスタイルチェンジ能力を持たず、またエクサメモリも有していない。
 加えてその制御は取り憑いているAIDAが単独で行っているためか、フォルテと戦った時ほどの戦闘能力を発揮できるのは、本体を含めて一体だけだ。
 更にはスミスと同様、オリジナルや核となったISSキットを破壊されれば、残りHPに関係なく消滅してしまうという欠陥も存在した。

 ………だが、それでも何の問題もなかった。
 コピー・ロックマンの恐ろしさはその数と、ISSキット由来の感染能力の高さなのだから。
 フォルテが最初に戦ったダークマンもまた、その性能テストのための戦いで感染し、あの状態になったのだ。
 その気になれば、今のフォルテであっても力尽くで支配することはできた。
 それをしなかったのは、オーヴァンに手札を見せることを警戒したからにすぎない。

「まったくもって残念だ。
 碑文を得たことで、ロックマンはさらなる進化を果たした。
 そへ更にフォルテの“力”を加えれば、最強の駒を作り出せたというのに。
 ―――そう。フォルテ自身にすら制御できぬ究極の“力”を持ったネットナビ、フォルテクロスロックマンをな!」

 それが、榊が『知識の蛇』へとフォルテを招き入れ、この戦いを企画した理由だった。

 フォルテの持つゲットアビリティプログラムは、ナビやウイルスのみならず、あらゆるプログラムの能力を吸収し自らのものとする能力だ。
 これによりフォルテは際限なく戦闘能力を高めることを可能とし、最強と呼ばれるほどの力を得た。
 だがこの能力にも欠点はある。
 それは至極当然のもので、データを吸収すればそれだけデータ容量は重くなっていくというものだ。
 それ故にフォルテは、ある程度以上データを吸収した場合、吸収したデータを最適化し不要なデータを切り捨てる必要があった。
 おそらくゴスペルが分離顕現可能なのも、AIDAの特性とこのデータの切り離しを応用することで、ある種の外部メモリのような状態となっているからなのだろう。

 そんなゲットアビリティプログラム唯一の欠点ともいうべきデータ容量の問題だが、しかし、その欠点を補うことを可能とするあるプログラムが存在した。
 それこそがロックマンに組み込まれた究極の圧縮プログラム――エクサメモリだ。

 このエクサメモリは人間のDNAデータはおろか、ネットワークのエリア一つをまるごとダウンロードできるほどの途方もない容量を保有している。
 その容量はともすれば、この『世界』全てのデータをインストールできるかもしれない程。
 つまりフォルテが無制限に強くなれるとすれば、ロックマンは無尽蔵に強くなれるというわけだ。

 であれば、ゲットアビリティプログラムとエクサメモリ、この二つをかけ合わせればどうなるか。
 その答えがフォルテクロスロックマンだ。

 際限のない強化を可能としながら、その実データ容量という限界のあったフォルテの、その限界を取り払った存在。
 ともすれば自らが放つパワーに耐えきれず自壊してしまうほど強大な戦闘能力。
 それを榊は、自らの手駒としようとしていたのだ。


941 : 嗤う牙 ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:57:39 eg9Lrf4E0

 ……だがその目論見は破られた。
 フォルテが碑文に覚醒し、ロックマンを倒すことによって。

「しかしその結果、ロックマンの存在は彼らの意識から隠された。
 同時にまた一つ、私の目的へと近づいたというわけだ。
 故に、問題はない。何一つとして………
 ククク……ハハハハハハハハハ――――!」

 運命の時は、もうすぐそこまで迫っている。
 その実感とともに、榊は一人、黒き傀儡の佇むアリーナに哄笑を響かせた――――。


【?-?/裏アリーナ/一日目・夜中】

【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康。AIDA侵食汚染
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:ゲームを正常に運営する。
1:バトルロワイアルを完遂させ、己が目的を達成する。
2:再構築したロックマンを“有効活用”する。
3:アリスの動向に期待する。
[備考]
※ゲームを“運営”することが彼の役割です。それ以上の権限はありません。
※彼はあくまで真実の一端しか知りません。
※第二相の碑文@.hack//を所有していますが、彼自身に適正はなく、AIDAによって支配している状態です。

【ダークロックマン.hack@ロックマンエグゼ3(?)】
[AIDA]<*h**wa*ld>
[ステータス]:HP???%、SP???%、PP100%、AIDA感染(悪性変異)/AIDAバグスタイル・ISSモード
[装備]:静カナル緑ノ園@.hack//G.U.、サイトバッチ@ロックマンエグゼ3、ISSキット@アクセル・ワールド
[アイテム]:{バリアブルソード[B]、ムラマサブレード[M] 、マグナム2[B] }@ロックマンエグゼ3
[ポイント]:-/-
[思考]
基本:????????
1:????????
[備考]
※ロックマンのPCデータを基にボルドーのPCを改造し、ロックマンのPCを再構成ました。
 ロックマンのPCデータの影響や、本来のPCであるボルドーのプレイヤーがどうなったかは不明です。
※このPCのコントロール権は、<*h**wa*ld>が完全に掌握しています。
※ISSキットを装備したことで、負の心意が使用可能になりました。
※『救世主の力の欠片』を取り込んだことで、複数のPCに同時感染し、その感染率が相手の精神力を上回った時、そのPCのコントロール権を奪う能力を獲得しました。
※第三相の碑文を榊によって与えられましたが、基本的にAIDAによって支配している状態です。
※第三相の碑文とISSキットによって、コピー・ロックマンを生み出す能力を獲得しました。
 ただし、精密な操作ができるのは、本体であるダークロックマンを含め一体だけです。

【コピー・ロックマンADS・ISSモード@ロックマンエグゼ3(?)】×??
[ステータス]:HP???%
[装備]:静カナル緑ノ園(コピー)@.hack//G.U.、ISSキット
[備考]
※コピー・ロックマンは増殖したISSキットを核に、ダークロックマンによって作られた存在です。
 オリジナルであるダークロックマン、胸部のISSキットを破壊されると、HPがゼロにならずとも消滅します。
※自身または増殖させたISSキットのコアを他のPCに寄生させることで、そのPCにAIDAを感染させ、<*h**wa*ld>の影響下に置くことが出来ます。


942 : ◆NZZhM9gmig :2017/12/31(日) 18:58:56 eg9Lrf4E0
以上で投下を終了します
何か意見や修正点があればお願いします


943 : 名無しさん :2017/12/31(日) 19:21:31 cy4yckMQ0
投下乙です!
ゲームの裏側ではまさかこのような死闘が繰り広げられていたとは! 
榊の操り人形にされたダークマンをフォルテは徹底的に叩き潰しましたが、最期にセレナードへの想いを告げられたのはせめてもの救いでしょうか。
そしてロックマンに追い詰められながらも、コサック博士やロックマンとの思い出をきっかけに覚醒し、己がAIDAをゴスペルにまで変えてしまうとは……けれど、榊の企みは未だ続いているのが恐ろしいです。
一方でオーヴァンは忘刻の都に辿りつきましたが、そこで出会った人物とは……?


944 : 名無しさん :2017/12/31(日) 19:23:45 cy4yckMQ0
そしておそらく脱字ですが


 そへ更にフォルテの“力”を加えれば、最強の駒を作り出せたというのに。
 ―――そう。フォルテ自身にすら制御できぬ究極の“力”を持ったネットナビ、フォルテクロスロックマンをな!」

 そへ更に→そこへ更に でしょうか?


945 : 名無しさん :2018/01/01(月) 11:53:06 FVCJ5/OY0
年末になんか来てたー!?投下乙でしたー
フォルテが更に強くなるわGM側も碑文使ってくるわ…対主催生徒会は追随できるのかこれ…


946 : ◆NZZhM9gmig :2018/01/03(水) 11:50:45 w2JAmbWU0
感想ありがとうございます
指摘された脱字他修正点は収録時に修正させていただきます


947 : 名無しさん :2018/01/17(水) 06:50:17 S0IqXDC.0
月報の時期なので集計を
ダークマンは死亡しましたが、GM側なので換算はしないと解釈します
134話(+ 1) 15/55 (- 0) 27.3


948 : 名無しさん :2018/02/14(水) 22:50:38 412tCoXw0
お、予約


949 : ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:20:26 qDFS4.2M0
これより予約分の投下を始めます


950 : One more Chance ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:21:28 qDFS4.2M0


     1◆


「……………………」

 ダンジョン攻略を進める中、セイバーは何やら深刻そうな面持ちを浮かべている。普段の煌々たる彼女からはいまいち想像できない様子だ。
 時折、岸波白野に本心を告げる際、どこか愁いを帯びた表情を見せてくれたことはある。けれど悲しみを抱いている訳ではなく、どうも思案に耽っている様子だった。
 どうしたの? と、岸波白野は訪ねてみる。

「…………ここ最近、余の中に奇妙な記憶が浮かび上がるのだ」

 奇妙な記憶? それは一体……

「口では上手く言えぬ。余も経験したはずがないのに、何故か記憶として残っている。いつ、どこで見てきたのかは知らぬが……おぼろげながら残っておる!
 あれは確か、いつぞやの夏に行われたビーチバレーだったような……」
「ちょ、ちょい待ちいいいぃぃぃぃぃっ! そ、そればかりはあぶなァーいッ!!」

 セイバーの追憶を妨げるかのように、突如としてキャスターが叫んだ。いつものようにおどけているのではなく、心の底から狼狽しているような表情を浮かべている。
 彼女の尻尾もピン! と音を鳴らすように伸びた。……突然どうしたのか。何故、そこまで慌てているのか?

「何を言い出すのだキャス狐よ! 余の追憶を邪魔する気か!?
 ……ん、待てよ? あの夏の場にはこのキャス狐もいた記憶があるぞ!」
「ダメですって! その話はマジでヤバいです! 上手くは言えねーんですけど……倫理的にも版権的にも危険な臭いがプンプンします! ギリギリアウト!? じゃなくて、ほぼ真っ赤なレッドゾーンです!」
「ほう、レッドゾーンとな! それはお主だけではないのか? 確かお主は副賞となる『特別な魔力供給』を狙って……」
「だーかーらー! それがギリギリアウトなんですー! 基本ギャグキャラの私すらも、警告する程の緊急事態!
 何となくなんですけど、そんな話をしたらこの世界そのものが滅亡の危機に陥ります! 版権だけじゃなく、把握の意味でも大問題ですって! お願いですから、その話はマジでやめましょう!」
「…………むう。そこまで言われては、願いを無下にすることも出来ぬ。共に歩む者の想いを蔑ろにするのは、皇帝として恥ずべきことだ。
 仕方がない、この話はここまでにしよう」

 セイバーは頷くと、キャスターはホッと胸を撫で下ろす。
 よくわからないけど、キャスターがここまで言うからには余程の事態だろう。岸波白野も掘り返さない方が無難かもしれない。


 体験はしていないけれど、記憶として残っている。矛盾しているようだが、岸波白野にも心当たりがあった。
 マスターである岸波白野の肉体が様々な平行の記憶を強引に混ぜ合わせ、この存在を成立させている。同じように、サーヴァント達も平行世界の記憶を持っているのか?
 その考えが正しければ、岸波白野ではない別のマスターと契約を交わした彼女達もどこかの世界にいるかもしれない。そこにいるセイバーやキャスター、そしてアーチャーのマスターは一体どんな人物なのか。些か、興味が出てしまう。

「マスターよ。取り込み中にすまないが、そろそろ下層に到達するぞ」

 アーチャーの言葉通り、岸波白野達は第六層の下層に到着していた。
 道中にはいくつものエネミーが出現したが、既に岸波白野達にとっては敵ですらない。これまでのエネミー達と比較すれば強敵の部類に入るだろうが、こちらも百戦錬磨のプレイヤーである自負を背負っているからには負けられない。
 キリトや黒雪姫、そしてジローの三人もネットスラムに辿りついているはずだ。そこに用意されたミッションの謎を解き明かすことで、プレイヤーがGMに勝利する為の手がかりを得られる。


【クリア条件:5分以内に敵性エネミー及びボスエネミーを全滅させる】


 新たなフロアに足を踏み入れた瞬間、無機質なシステムメッセージが表示された。


951 : One more Chance ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:21:47 qDFS4.2M0

「へッ、ワンパターンなこった」

 不敵な笑みと共に、さもつまらなそうな態度でハセヲは吐き捨てる。
 見る者全てを脅しにかかるように、鮮血を彷彿とさせる色合いだ。しかし、自分達にとってハッタリにすらならない。ハセヲが言うように、どんなエネミーだろうと負けるつもりはなかった。

「こんな広いエリアを用意して、アタシ達を消耗させるつもりか? だとしたら、随分と安っぽい手口だね!」

 揺光もまた、ハセヲに合わせるように煽る。
 この第六層はこれまでの攻略や、そしてかつて経験した月の聖杯戦争で通ってきたフロアと構造が異なっている。迷宮ではなく、演劇が繰り広げられるホールの如く広大な空間だった。
 5分というタイムリミットに加えて、エネミーの数でこちらを翻弄するつもりだろう。確かにこれだけの広さと、それを埋め尽くすほどの広さがあれば時間稼ぎはできる。
 タイムリミットをオーバーすればこちらが全滅するのだろうが、関係ない。誰一人として、怖気づいたりしなかった。

「さあ、さっさとかかってきやがれ! どんな奴らが相手だろうと、俺達が叩き潰してやる!」

 威風堂々とした態度で、胸を張りながらハセヲは前に踏み出す。
 その後ろ姿は禍々しいながらも、どこまでも剛健で頼もしかった。かつては畏怖の象徴とされた鎧も、自分達にとっては力強く見えてしまう。
 先導するハセヲの後に続くように、岸波白野もまた前に進もうとしたが。

「…………ッ!?」

 誰かの悲鳴と共に世界が揺れる。
 雑音が鳴り響き、視界が真っ赤に染まった。何の前触れもなく襲い掛かった衝撃によって、思わず足を止めてしまう。
 それから瞬き程の時間が経過した後、振動はすぐに収まる。だが、事態はそれだけで終わらなかった。

「な、何よこれ……どうなってるの!?」

 ブラックローズの叫びと共に、岸波白野も目を見開く。
 いつの間にか、自分達の周りには謎の障壁が囲んでいた。岸波白野とサーヴァント達は勿論のこと、ブラックローズと揺光も閉じ込められている。

「何っ!? おい、お前ら……大丈夫か!?」

 たった一人だけ巻き込まれなかったハセヲは駆け寄ってくる。彼は拳を壁に叩きつけるが、びくともしない。何度も殴っても、僅かな亀裂すらも刻まれなかった。

「ならば!」

 セイバーも大剣を振るうが、結果は同じ。その並外れた腕力と数多の敵を屠った刃すらも、この壁は傷一つ付かなかった。

『白野さん、応答を願います! 大丈夫ですか!?』

 この異常を察したのか、レオの叫びが耳元で響く。
 岸波白野は無事であることを答えながら、ステータスを開く。見た所、HPやMPの現象は見られず、また何らかのバッドステータスが付与されていることもなかった。
 しかし、壁は自分達を拒むように立ちはだかっている。これでは、ハセヲ以外の全員がスタン効果で苦しんでいるのと変わらなかった。


952 : One more Chance ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:22:20 qDFS4.2M0

「キシナミにレオ! どういうことだよ!? アンタらの世界でも、こんな罠が仕掛けられてたのか!?」
『いいえ! 月の聖杯戦争でこのようなトラップが存在したという記録は存在しません! 恐らく、GMが仕掛けたのでしょう!
 【5分以内に敵性エネミーを全滅させる】……恐らく、たった一人でこれから現れる全てのエネミーとの戦闘を強制させられるという意味でしょう!』
『例え、何人で挑戦を仕掛けてこようと、特定のプレイヤー以外は人質にされてしまう……つまり、ハセヲさんが勝たなければ、待っているのはゲームオーバーだけ……
 そうして、私達が挑戦したハッピースタジアムも多くのチームが犠牲になったから……その仕様を流用しているのかもしれません』

 レオとミーナの推測に、揺光は息を飲む。
 例えここからカイトが救援に駆け付けても、閉じ込められるだけだろう。ハセヲがエネミーを撃破しない限り、岸波白野達の脱出は不可能。
 つまり、ハセヲの勝利を信じる以外になかった。

「舐めたことしやがって……なら、俺がエネミー達を片付けて、キシナミ達を脱出させてやる!
 お前ら、そこで待ってろよ!」
「そいつは随分と頼もしい言葉だな、ハセヲ」

 ハセヲの叫びに応えたのは、唐突に発せられた男の声だった。



     †



 一瞬の足音の後に響いた声に、反射的に全身が震えあがる。そして振り返った途端、そこに現れた人物にハセヲは目を見張った。

「お、お前は……クーン!?」
「よっ、ハセヲ」

 ハセヲが『死の恐怖』として畏怖された頃より『The World』で多くの初心者プレイヤーを支えてきた銃戦士の男が立っていた。腰にまで届くロングヘアから放たれるサファイアの輝きと、その飄々とした笑みは見間違えようがない。
 そのいつもと変わらない様子に一瞬だけ全ての思考が停止して、張り詰めた緊張が揺らぐ。だが、すぐにハセヲの中で強烈な違和感が駆け巡った。何故、この男がダンジョンの中にいるのか。そしてこの異常事態にも関わらず、どうして平然と佇んでいるのか。
 困惑で心が揺さぶられる中、クーンの両端の空間が歪んでいく。その中より現れたのは、クーンが設立した初心者ギルド『カナード』の要となった二人のプレイヤーだった。

「ッ! シラバスに……ガスパー!?」
「そうだよ、ハセヲ」
「会えてよかったぞぉ! ハセヲ〜!」

 シラバスとガスパー。蒼炎の騎士によって全てを失ったハセヲにとって、初めての繋がりと言える二人がここにいた。
 ただ疎ましく、どこにでもいる甘ちゃんのプレイヤーにしか見えなかったけど、二人は何のフィルターもかけずにハセヲと向き合ってくれていた。カナードや、月の樹のクーン達がいたからこそハセヲは成長できた。
 今だって彼らは、普段と変わらないような表情を向けている。その姿に心を許しそうになって、ハセヲは思わず一歩前に踏み出してしまう。
 しかし、足の裏から響く振動を感じた途端、ハセヲはすぐに意識を取り戻す。

「な、なんでお前らが……なんで、お前らがこんな所にいるんだよ……!?」
「それはもうわかっているはずよ、ハセヲ」

 ハセヲの疑問に答えたのは、かつてのハセヲが求め続けた穏やかで優しい声色。
 その声をハセヲはよく知っている。守りたいと願うようになったきっかけであり、ハセヲが特別な感情を抱いていた存在だった。
 誘い込まれるかのように背後を振り向く。やはり、彼女はここにいた。常闇に溶け込むほどの漆黒を纏ったその呪療士を、一日たりとも忘れたことがない。

「志、乃…………」

 だからハセヲは、その名前を呼ぶしかなかった。
 志乃。黄昏の旅団のサブリーダーを務めたプレイヤーであり、ハセヲ/三崎亮が憧れていたたった一人の女性だった。そして、ハセヲが失った初めてのかけがえのない存在。
 ハセヲの呼びかけを肯定するように、志乃は微笑む。言葉はなくとも、そこに込められた意味は瞬時に理解できる。


953 : One more Chance ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:22:51 qDFS4.2M0

「なんで……なんで、こんな所に……なんでっ!?」

 だが、目前に広がる現実を受け止めることができない。志乃が失われる事実を三度も突き付けられたせいで、再会を喜ぶことなどできなかった。
 クーン達の存在も現実味を感じない。姿と声こそは寸分の狂いがなくても、根本的な何かが異なっていると警告している。ハセヲを囲むように立つ四人の笑顔は穏やかに見えても、その表情の中には底知れぬ悪意が広がっている。
 道に迷って、見知らぬ場所にたった一人で放り込まれた幼子のように。ハセヲはただ狼狽えることしかできなかった。その姿は、かつての『死の恐怖』として畏怖されていたとは思えない程に弱々しい。

「ま、まさか……お前らが……!」

 いなくなった志乃や、本来ならばいるはずのないクーン達がここにいる。
 その原因は心当たりがあるし、またこれまでだって何度も体感した。だけど、心と体がそれを受け入れているのを拒んでいた。
 そうであって欲しくないと願った。何か悪い冗談であってほしいと祈った。そんな微かな願いを込めて、言葉を紡いだけれど……

「そうよ。ハセヲ……私達四人と戦わないといけないの、たった一人で」

 たった一つの希望すらも無慈悲に壊したのは、志乃の言葉だった。
 最悪の宣告を突き付けられたハセヲの衝撃は凄まじかった。仮に現実の世界で背後から金属バットを頭部に叩きつけられても、ここまでの痛みを感じるのかどうか。
 熱い。寒い。辛い。悲しい。苦しい。痛い。死にたい。どんな言葉を用意したとしても、今のハセヲの感情を表現するに相応しくなかった。

「なんだよ、それ……そんなの、ありかよ…………!?」
「落ち着け、ハセヲ! 気持ちはわかる……俺達だって、気が付いたらこんな所にいたんだ。そして、あの榊から言われたんだ……『偽者のお前達の存在意義は、ハセヲ達と戦うことだ』ってな。
 つまり、ここにいる俺達はただのデータ。あいつらが作った、偽者の――――」
「――――ふざけんな! そんなの、納得できるわけがあるかっ!」

 クーンの声色で聞こえる説得は、しかしハセヲの怒号によって掻き消された。
 その慰めと気遣いはまさしくクーンそのものだった。そして彼の言い分は充分に納得できる。上の層ではソラだった頃の自分と深い関わりを持った司とカールがボスエネミーとして登場したように、今度は志乃やクーン達と戦わなければいけない。
 かつてのハセヲであれば、ここにいる彼らをただのデータを割り切って瞬時に叩き潰しただろう。そして今のハセヲは『死の恐怖』だった頃よりもレベルと技量の双方が格段に向上した為、ここにいる四人が一斉に襲い掛かったとしても負ける気はしない。
 だけど、そんな話ではなかった。『The World』で絆を深め合い、そしてあの世界で繋がることの大切さを教えてくれた彼らを切り捨てるなど、今のハセヲにはできなかった。例え、偽者の存在であっても。

「ごめんね、ハセヲ……君達を傷付けるようなことになって。でも、ここにいる僕達は偽者なんだ! 例え僕が倒されても、君が知っている本当の僕やガスパーには何の影響もない!」
「そうだぞぉ! ハセヲ〜! お願いだから、戦って〜!」
「やめてくれよ……シラバス、ガスパー……お願いだから、やめてくれ!」

 シラバスとガスパーの悲しそうな視線と声色が、ハセヲの胸を締め付ける。どんなに高い威力を誇る武器で攻撃されるよりも、心が深く抉られそうだった。
 共に戦った彼らを弄ぶGMに対する憤りが湧き上がる。思い出を、そして絆を都合のいい道具のように扱われて、冷静さを失わないわけがない。だけど、ハセヲはその感情を発散する術を持たなかった。万死ヲ刻ム影を振るって、仲間達の顔を打ち砕ける訳がない。
 クーン、シラバス、ガスパー、そして志乃。皆から目を背けたかったけど、それは許されない。ここに現れた四人も、GMによって一方的に死の運命を突き付けられてしまったのだから。

「……やめてくれよっ! クーン、シラバス、ガスパー!」

 不意に、意識の外から狼狽したような少女の叫びが耳に響く。
 思わずハセヲは振り向いた先には、脱出不可能となった赤い牢獄に閉じ込められた揺光達の姿が見えた。ある者は困惑し、ある者は焦燥に満ちた表情を浮かべている中、揺光だけは必死に懇願を続ける。


954 : One more Chance ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:23:10 qDFS4.2M0

「なんでだよ! なんで、そんな簡単に諦めようとするんだよ!? あんたら、今までハセヲと一緒に戦ってきただろ!? なら、何か方法が……!」
「そんなものはないって、揺光もわかっているはずだ」

 しかし、クーンの返事は凛冽たる雰囲気が滲み出ていた。常日頃、たくさんのプレイヤーに信頼されている彼とは思えない程に冷たい。
 そんな彼は今、笑みを浮かべている。あらゆる音と光を無くしたどす黒い牢屋に閉じ込められてしまい、全ての希望を奪われ、憔悴しきった者が浮かべるような自嘲だった。

「みんな、ここに来るまでに何度も戦ってきたでしょ? その中には、君達がよく知っている人だっている……それが、ここだと僕達になっただけさ。だから、気にすることはないよ」
「何で、何でそんなことを言うんだよ……そんなの、理由になる訳ねえだろ! アタシの知ってるシラバスだったら、そんなことは言うはずはねえ!
 もし、このままハセヲを悲しませるつもりなら……アタシは絶対、アンタを許さない!」
「変わらないね、揺光は。でも、だからこそ君のことを信頼できるよ。昔、僕がボルドーに襲われた時だって……君は怒ってくれた。ハセヲや、本当の僕達のこともよろしく頼むよ」
「ふざけんな! そんなのこっちからお断りだ!」

 シラバスは昔を懐かしんでいるようだが、揺光は未だに血を吐くように否定を続ける。

「……そうだった、な」

 そして、ハセヲは前を見据える。もう振り向くつもりはなかった。

「は、ハセヲ……?」
「悪かった、揺光。カッコ悪い所を見せちまって」
「何を言ってるんだよ、ハセヲ……あ、アンタ……まさか!?」
「すぐにお前らを助けてやるから、待ってろよ」

 そう言い残して、ハセヲは前に踏み出す。後ろから揺光達の静止するような叫び声が聞こえてくるが、もう止まる訳にはいかなかった。
 ここに来るまで何度も戦った。聞いた話によると、ブラックローズは実の弟をその手にかけてしまったらしい。きっと、その時の彼女は覚悟を持って戦い、勝利したはずだ。
 ハセヲと揺光だって、司やカールを相手に戦いを繰り広げた。だから、例え彼らがエネミーとして現れても、戦わなければ前に進めない。クーン、シラバスとガスパー、そして志乃……この四人を倒すのはハセヲの役目だった。


 ――ナゼ、汝ハ抗ウ? 我ハ汝。汝ハ我デアルトイウノニ


 楚良/スケィスの言葉がハセヲの脳裏で唐突に蘇る。
 もう『死の恐怖』にならないと誓ったはずだ。けれど、その決意を裏切るかのように、戦いは続いている。例えハセヲが望まなくても、志乃達にとって今のハセヲは『死の恐怖』そのものと呼ぶにふさわしいはずだ。

「ハセヲ」

 そんなスケィスに命を奪われたにも関わらず、ここにいる志乃は微笑みを浮かべている。きっと、ゲームの"表側"で起こった出来事も知っているはずだ。
 けれど、何も心配しなくていいんだよ、と慰めているかのように優しかった。その笑顔と感情をかつての自分はどれだけ求め続けたのか。

「決めたんだね」
「ああ」
「そうね……なら、最後に一つだけ教えてあげる。私、見ていたから……もう一度、私とハセヲの二人で『黄昏の旅団』を作って、オーヴァンを探したいと願ってた」
「そっか……今、オーヴァンは何をしてるんだろうな」
「きっと、どこかで見てるのかもしれないよ? 彼が物知りだってこと、知ってるでしょ」

 何となく、納得できてしまった。
 オーヴァンは昔から得体の知れない奴であり、不思議と人を惹きつける魅力があったのは確かだ。オーヴァンは奴隷と自称したが、それすらも信憑性に欠けている。
 そしてここにいる志乃の言葉だって間違っていない。認めたくないけど、これまでに現れたボスエネミー達はオリジナルの記憶を引き継いでいる。だから、本当の志乃が抱いていた願いも知っているはずだ。

「志乃……」
「始めようか、ハセヲ。時間は残されていないよ?」
「……待ってろよ、すぐに決着をつけてみせるから」

 死ヲ刻ム影を構えながら、ハセヲは歩みを進める。例えこの心がどれだけ悲鳴をあげても、立ち止まるなど許されない。
 自分の助けを必要としている人がいる限り、戦わなければいけなかった。


955 : One more Chance ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:23:32 qDFS4.2M0



     2◆◆



 やめてくれ、と揺光は叫ぶ。けれど、ハセヲは止まろうとしなかった。
 自らの体躯ほどのサイズを誇る鎌を縦横無尽に振り回しながら、現れた四人にダメージを与える。勿論、四人とて決して弱くはなく、むしろこれまでのエネミーと比べると強敵の部類に入るが、ハセヲはそれを凌駕している。
 けれど、揺光はその優位を決して喜べない。それはブラックローズや岸波白野、そして白野を信頼するサーヴァント達も同じだった。

「うむ……何なのだこの壁は!? 余の剣でもヒビ一つすらも刻まれぬとは……! ええい、何とかならぬのか!?」
「むむ〜! ここはこの玉藻めが思い切って魔力でぶっ放す方法もありますが……セイバーさんの筋力でも駄目なら、私の魔力も期待できませんね。この状況で、私とマスターが無駄に消耗するのは得策ではありませんし」
「それ以前に、君達がこんな所で全力など出してみろ! 私達全員が巻き添えになるのがオチだ! ここでできることは……ハセヲの勝利を、待つことだけだろう」

 アーチャーの苦々しい表情に、セイバーとキャスターは手を止めてしまう。
 この忌々しい牢獄を壊そうと何度も試した。けれど、誰が何をしてもこの壁は壊れない。この手で大剣を振るおうとも、蚊が止まった程度の衝撃があるかも疑わしい。

「レオ、ミーナ! 二人でこの壁をどうにかできないの!? このままじゃ、ハセヲは……!」
『僕達も今、皆さんを阻むファイアーウォールの解析をしています! ですが、異様なまでのデータ量を誇っているので、短時間で対抗プログラムを構築するのは不可能です!』
『仮に私達はそちらに向かったとしても、残された制限時間を考えると……』

 ブラックローズは助け舟を求めるが、レオとミーナから無情な返事しか来ない。
 揺光とて、二人の言い分は理解できる。自分達の攻撃をものともしない壁をプログラミングで解体するなど困難を極める。その上、このミッションのタイムリミットを考えると、二人に直接来て貰ったとしても間に合う訳がない。
 だけど、納得などできる訳がなかった。ここで諦めて、ハセヲを悲しませるようなことをしたくなかった。

「ハセヲッ! ハセヲッ! ハセヲオオオオオォォォォォォッ!」

 だから揺光はせめてハセヲの名前を呼び続ける。それが何の意味も持たず、また目の前で戦いを繰り広げている彼らには関係ないことを知りながらも。
 ハセヲは戦っているが、一瞬だけ見えた助けを求めるような眼を忘れない。本当は戦いたくないのに、自分達が人質に取られたせいで死ヲ刻ム影を握ることになってしまう。
 助けたい。守りたい。苦しめたくない。揺光の願いとは裏腹に、ハセヲは戦い続けている。

「ハセヲ……やっぱり、すごい、ぞぉ……」

 そして、死ヲ刻ム影の一閃を浴びたガスパーは、微笑みと共に消滅する。

「ごめんね、ハセヲ……」

 続けて、シラバスもまたハセヲの振るう鎌を受けながらも、満ち足りたような表情で消えていった。

「ハセヲ。よくやった……」

 クーンもまた、ハセヲの姿を誇らしげに想っているのか、いつもの晴れやかな笑顔を最期まで見せてくれた。

「ハセヲ……!」

 ハセヲはその禍々しい背中を向けたまま。だから揺光には今のハセヲがどんな表情を浮かべていて、また何を考えているのかを知ることができない。
 だけど、涙を堪えていることは伝わってくる。一人、また一人と消えていく度に、ハセヲは咎めを背負わなければならなかった。信頼で繋がった仲間達をこの手で殺すという大罪を犯したのだから。
 苛立ちと悲しみ、続くように湧き上がる無力感。世界と自分自身に対する感情が揺光の中で溢れ出ていく。それを発散する方法も分からないことが、もどかしかった。


956 : One more Chance ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:24:17 qDFS4.2M0

「志乃」

 やがて残された敵は志乃だけになる。アトリに瓜二つな容姿の彼女と相対しながら、ハセヲは静かに構えた。
 パーティーのサポートが主な役割となる呪療士が錬装士と正面で戦っても勝ち目はない。志乃は追い詰められている。だけど、笑顔を絶やしたりしなかった。むしろ、これから起こる運命を望んでいるかのようにも見えてしまう。

「間に合わなくて、ごめん」
「ふふっ……なら、もう遅刻しちゃだめだよ? それから、がっかりさせないで。ハセヲを待っている人はたくさんいるでしょ?」
「ああ。俺はこれ以上、誰のことも失いたくない。みんなを……助けてみせる!」
「そっか。なら、彼女のこともお願いね」

 そんな微かなやり取りの中で、志乃はいつまでも微笑んでいる。きっと、ハセヲはこれまで何度もその笑顔に支えられたはずだ。
 だけどハセヲはそんな志乃に目がけて…………死神の鎌を振るった。ぐらりと、志乃の体は倒れていくが、その笑みを絶やすことはない。彼女なりに、ハセヲを安心させようとしているのかもしれない。
 貴方は何も悪くない。だから心配しないで。そんな想いが伝わってくるが、ハセヲはそれを素直に受け止められるのか。

「えっ……?」

 志乃のPCボディが崩れ落ちていく中、揺光は気付く。彼女が言葉を紡いでいることを。
 そして揺光と志乃は目が合った。偶然か、それとも志乃が最後の力を振り絞ったおかげなのかはわからない。けれど、震える唇から零れた儚い声は、自分に向けられているような気がした。揺光は耳を澄まし、志乃の遺言を掬い上げた。

「ハセヲのこと、お願いね」

 そんな声が聞こえた途端、志乃は跡形もなく消えていった。ガラスのように呆気なく、何一つの欠片も遺さないで。
 揺光は絶句した。闘技場へのゲートが開かれても、遠い世界で起こった出来事のように現実味を抱けない。
 ただ、無言を貫くハセヲを見つめることしかできなかった。

「…………お前ら、待っていろよ。すぐに出してやるから」

 そんな乾いた言葉を残しながら、ハセヲは真っすぐに走る。
 微塵も振り向く気配を見せないその背中が遠ざかっていくのを、揺光は眺めていることしかできなかった。



     †



 また、一人になった。
 このデスゲームに巻き込まれてから何度孤独になったか……脳裏に微かな思考が芽生えるものの、ハセヲは瞬時に刈り取る。今の自分にとって、それほど重要ではないからだ。
 自分を待ち構えているボスエネミーを撃破して、ファイアーウォールに閉じ込められた揺光達を助ける。求められていることはそれだけだ。

(俺はここにいる……お前も、俺の中にまだ残っている……そう、言いたいのか?)

 ハセヲはたった一人で戦った。
 戦って、大切な人達の模造品を打ち倒した。クーンの、シラバスの、ガスパーの、そして志乃の体(アバター)と記憶(メモリー)を受け継いだが、その実力は本物には遠く及ばない。むしろ、意図的に弱体化させているようにも感じられた。
 GMは彼らをただの弱者だと冒涜したのか。それともかつて弱いPKを狩り続けてきた『死の恐怖』としてのハセヲを思い出せたかったのか。どちらにしても、その悪辣な思考には腸が煮えくり返る。

『ごめんなさい……ウザい、ですよね』

 しかし、どこからともなく震える声が聞こえてくる。その声色にハセヲの憤怒は乱されて、思わず顔を上げてしまった。


957 : One more Chance ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:24:34 qDFS4.2M0

『私、こんな時だから明るく行こうって思っていたのに、すぐまた震えちゃって』
『こんなんじゃ私、ハセヲさんにまた怒られちゃいそうだな……』

 続くような囁きをハセヲはよく知っている。忘れるはずがない。
 その声の主をハセヲはずっと見てきた。共に戦い、共に笑って、この手で救いたいと願ったけれど、見殺しにしてしまった彼女だ。

『すいません。足手まとい、ですよね?』
『私は、』
『ここに居ます。そう信じていたい……感じていたい……』

 気配は微塵にもないけれど、彼女の声が聞こえてくる。
 異様なまでとも言える自己嫌悪と、自らを縛り付ける後悔。そんな彼女の姿をハセヲは何度見届けてきたか。かつてはただの理想主義者としか見ず、彼女の思想を嫌悪感で吹き飛ばすだけだった。
 だけど、今は違う。彼女がかけがえのない存在となった時から、この手で守れるように強くなりたかった。彼女だけではなく、クーン達だって同じ。けれど、彼らをハセヲ自身の手で殺してしまった。

『クスクス キャハハハ!』
『よかろう、ならば皆殺しである』

 しかし、ハセヲの中より湧き上がる慙愧の念を吹き飛ばすかのように。狭い世界に二つの狂笑が響き渡った。

『そうかね。では拷問を続けよう』

 続けて聞こえてきたのは、忘れもしない仇敵の嘲笑。エージェント・スミスの声に気付いた途端、ハセヲは驚愕と怒りで目をカッと開いた。

『―――あ、ああああアアアアアアああ唖吾痾合アア亜あ婀ア閼擧…………ッッッ!!!???』

 だが、耳を劈くような悲鳴へと変わってしまい、ハセヲの表情は凍り付く。
 そしてマク・アヌで起きた数多の悪夢が蘇った。スミスに傷つけられたせいで、彼女のPCボディは黒く変色していた。つまり、ここで再生されているのは、このバトルロワイアルにおける彼女の記憶だろう。
 かつて彼女はAIDAに囚われた。榊に願いを利用されてしまい、そのアバターと碑文が悲しく歪んでしまった。自分を認めて欲しい……虐げられ続けた彼女は、ただ自らの感情を吐露していた。

『彼女のこともお願いね』

 察した瞬間、志乃が遺した言葉が脳裏に過ぎる。
 その言葉の意味を受け入れたくなかった。また、大切な人を失う悲しみを味わいたくなかったが、そんな僅かな願いはもう裏切られている。
 この先で起こるであろう戦いと、ハセヲを待っているであろう人物。自らの運命と戦う為、ハセヲはただ前を見据えていた。


958 : あなたの風が吹くから ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:25:20 qDFS4.2M0



     3◆◆◆



 そうして辿り着いた先は、6度目になる闘技場エリアだった。
 相変わらずの無機質な色で満ちている。特別な飾りはなく、学習机のような道具だって何一つ備え付けられていない。だけど、ここには彼女がいることだけは確信できた。

「………………アトリ………………」

 だからハセヲは彼女の……アトリの名前を呼んだ。
 けれど、そこにいるはずの彼女は呪療士のアバターではなく、凶悪なモンスターの如くおぞましい姿だった。全身は常闇を彷彿とさせる漆黒に染まり、背中からは一対の巨大な翼が広がっていて、双眸は真紅に染まっている。
 最早、AIDA=PCと呼称するのもふさわしくない。だけど、その表情には確かにアトリの面影があった。

「……………………………………………………………………………………」

 ハセヲは茫然としながら、目の前に立つ彼女と視線を合わせる。
 彼女は泣いていた。大嵐の中に放り出されてしまった小動物のように、絶望した様子で震えている。かつて、榊に心の傷を利用された時以上に悲痛な面持ちだった。
 向き合うだけでも心が締め付けられるけど、視線を逸らすことなどできない。アトリはどれだけ否定されても理想を貫き通したのだから、それを裏切ってはいけなかった。
 例え、ここにいる彼女から拒絶されたとしても。

『ハセヲさん…………』

 そして、生徒会室からミーナの通信が聞こえてくる。先の戦いが行われた後だからか、彼女の声色は暗かった。

『ハセヲさん。
 わかっているでしょうが、そこにいるのはアトリさん……司さん達と同じように、あなたのために用意されたのでしょう。
 そして、あなたの前にいるアトリさんはAIDA=PC。恐らく、あなたも知らないアトリさんの一面だと思います』

 レオの言葉はあまりにも事務的だ。しかし、通信機越しではその表情は悲痛で染まっている事だけは察することができる。
 それきり、二人は何も言わなくなった。恐らく、こちらに気遣っているのだろう。

「アトリ」

 だからハセヲは一歩前に踏み出した。
 けれど、その瞬間にアトリの両目は見開かれる。

「来ないで……」

 アトリの周囲を覆いつくす黒点は激しく鼓動する。アトリの嘆きに呼応するかのように、闘技場に無数の孔が穿たれた。

「…………来ないでええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 世界の全てを壊しかねない程の絶叫と共に、孔の中よりおびただしい数の触手がハセヲを目がけて飛びかかる。
 一本残らず、ハセヲの肉体を抉りとっていた。ダメージ自体は微々たるものに過ぎず、ハセヲの歩みを止めるには弱々しい。
 確かに身体は痛む。けれど、アトリが受けた苦しみと絶望に比べれば、これはただの子供騙しだ。


959 : あなたの風が吹くから ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:26:02 qDFS4.2M0

「アトリ、俺は……!」
「嫌! 嫌っ! 聞かない! 何も、聞きたくない! あなただって、私のことを殺そうとしてるからっ!」

 その悲鳴が耳に入り込んだ途端、ハセヲは足を止めてしまう。
 彼女の嘆きを否定することができなかった。ハセヲがこの闘技場に現れたのは、アトリと戦う意志を示すことと同意義だから。
 そして、ハセヲの歩みはアトリに対する死へのカウントダウンに繋がる。一体誰が、その事実を否定することができるのか。

「あなたは……私のことを助けてくれなかった! 私のことを助けてくれると言ったのに、裏切った!
 苦しかった! 寂しかった! 逃げたかった! 怖かった! だけど、私は耐えたっ! きっと、あなたが助けてくれると……信じてたからっ!
 あなたが来てくれた時、私は安心した…………だけど、また裏切られたっ!」
「……アトリ……」

 アトリの口から発せられる怒涛の叫び。ハセヲはそれを耳にしながら、歩み続ける。それを阻害するかのようにアトリの触手は更に暴走するが、懸命に耐える。
 彼女が受けた苦痛や悲しみ……その全てを受け止めるのは誰の役目か? 他ならぬハセヲ以外にあり得ない。
 ここにいるアトリの言葉は、いなくなってしまったアトリの真実だろう。ただの虚構と切り捨てるなど、あってはならない。

「私はここにいたい……死にたくないっ! 生きていたい! 消えるなんて嫌っ!
 あなた達はここに来るまで……たくさんの敵を倒してきたでしょ? あなたは、志乃さん達を切り捨てた! だから私のことだって殺そうとしてるっ!
 私のことだって、偽者と決めつけて全てを奪おうとする! 私は、私はここにいるのにっ!」

 アトリの嘆きを否定することはできなかった。
 ハセヲは既に自らの手で関わりを持った者達を切り捨てた。彼らと同じように、ここにいるアトリのことだって殺そうとしているのは紛れもない事実だ。


 ――オ前ガ、二人ヲ殺シタノダト。


 あの夢で『憑神』であるスケィスから発せられた宣告が蘇る。
 まるで、あの夢を再現したかのよう光景だった。"表側"のゲームでは、かつてのスケィスによって志乃とアトリが命を奪われたように……今度はハセヲ自身の手で、二人の命が壊されようとしている。
 自らの手で、『死の恐怖』にはならない誓いを裏切ることになってしまう。弁解の余地など微塵もない。どんな謝罪も意味を成さなかった。



 消えゆく最期の時まで、アトリは自分の涙を拭おうとしていた。けれど、本当はアトリだって泣きたくて、自分の気持ちを誰かに知ってほしかったはずだ。
 そんな彼女をシノンは守ろうとした。志乃から託された。彼女達の願いを背負い、アトリと向き合わなければいけない。
 その為に力を得たのだから。ただ、大切な人達を守りたいと願ったからこそ、強くなりたいと願った。


 だからハセヲはここにいる。
 壊れたようなアトリの瞳からは澎湃と涙が溢れ出ていた。止めどなく流れる滴を前に、ハセヲはただ歩み寄ることしかできない。例え、彼女の表情が拒絶の色に染まったとしても。

「嫌あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 発せられる絶叫。そうして漆黒の手刀が襲い掛かり、ハセヲの腹部を容赦なく貫いた。
 肉を貫く音は、アトリの叫び声によって掻き消されてしまい、その衝撃によってハセヲの体躯は微かに揺れる。確かな痛みが全身を駆け巡っていき、そしてHPゲージも減少していく。

『アアアァァァァッ…………!』
『カイトさん!? ……わかりました、すぐに……!』

 耳元より聞こえてくるのは、蒼炎とレオの叫び。
 蒼炎は危機に陥った自分を助けようとしているのだと、ハセヲは瞬時に理解する。客観的に見れば、確かに今は危機的状況と言えるだろう。


960 : あなたの風が吹くから ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:26:32 qDFS4.2M0

「……俺なら、大丈夫だ…………」

 しかしハセヲはその助け舟を拒絶する。
 彼らの力はいらない。いや、むしろハセヲがたった一人で向き合わなければ、アトリは耳を傾けてくれなかった。

『ハセヲさん!? しかし、このままでは……!』
「だい、じょうぶ、だ……俺なら、大丈夫…………俺の話を、聞いてくれ……!」

 生徒会室で待っているレオ達と。そして、吐息のかかる距離にまで近付いたアトリに言い聞かせるように、ハセヲは言葉を紡いだ。

『…………わかりました。ですが、タイムリミットが迫っています。僕達が判断したら、その時は了承してください。ハセヲさんの犠牲は、あってはいけないことですから』

 その宣告を最後に、生徒会室から聞こえてくる声が止んだ。
 ありがとう。と、胸中でレオ達に告げながら、ハセヲはアトリをじっと見つめる。対するアトリは頭を振るが、構わなかった。

「……嘘。そうやって、あなたも私を騙そうとしてる! 都合の良い言葉を利用して、私を殺そうとしてるっ! 私はもう、あなたを信じて殺されたくないっ!」
「…………そうだよな…………」

 今はただ、アトリの言葉を肯定する事しかできない。
 "表側"でアトリの命を奪ったのはスケィスだ。そしてスケィスとはハセヲ自身でもある。ハセヲの過去が志乃やカイト、そしてアトリを殺してしまったことを否定するつもりはない。スケィスはここにいるのだから。
 でも、それを言い訳にアトリと向き合うことをやめてはいけなかった。耳を塞いで、自分を勝手な思い込みで縛り付けるなとアトリに伝えたのは誰だ? 他ならぬハセヲ自身だ。

「…………でも、聞いてくれないか? 俺は、志乃から頼まれたことがあるんだ。アトリのことを、お願いって…………」
「…………えっ?」

 志乃から託された最期の言葉を告げた途端、アトリから伝わる力が緩むことが伝わる。けれど、それで終わりな訳がない。

「嘘……そんなの、嘘に決まってる! みんな、消えたくないはずなのに……あなたが志乃さん達の命を奪って、私のことだって……!」
「嘘じゃない……嘘じゃない……志乃も、クーンも、シラバスも、ガスパーも……お前のことを、心配していた。揺光達だって、お前がここにいることを知ったら……助けるに決まってる。
 …………どうすればいいのか、俺にはわからねえ。だから、何を言ってんだって……アトリは思うだろうな。ましてや、俺は志乃やアトリを……殺しちまったからな。
 だけど……俺だけじゃねえ。俺のそばには、頼りになる仲間がたくさんいる…………! 欅だって言ってただろ……俺達は一人じゃない。一人では歩けない道でも、道連れがいれば歩けるようになるって……
 俺も、アトリも……一人じゃねえんだ!」

 それは嘘偽りのないハセヲの本心だった。
 ハセヲとアトリは『The World』を通して多くの繋がりを得た。リアルのアトリがAIDAの侵食によって聴力を奪われても、自分の居場所だけは決して捨てなかった。ここにいるアトリだって、ただ自分の居場所が欲しかっただけ。
 だから、ハセヲはゆっくりとアトリの体に両腕を回す。抱き締めたことによって、アトリの顔は見えなくなるけど、少なくとも拒絶の気配は感じられなかった。

「…………ハセヲさん…………」

 耳元から彼女の声が聞こえてくる。
 ようやく名前が呼ばれたことに穏やかな安堵を抱きながら、アトリと目を合わせる。未だに涙は流れているけど、その瞳だけは見慣れた色に戻っていた。


961 : あなたの風が吹くから ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:27:54 qDFS4.2M0

「アトリ……」

 だからハセヲもアトリの名前を呼んだ。
 ゆっくりと、この身体に突き刺された手刀は抜かれていく。見た目はおぞましいが、元となるアトリの攻撃力が低いせいか深刻なダメージは負っていない。

「…………やっぱり、ハセヲさんはハセヲさんのままですね」
「俺は俺だ。間違えたり、立ち止まることだって、まだまだある。だけど……また歩き出すことだけはやめない。俺は、そう誓ったから」
「そっか……強いんですね、ハセヲさんは」

 そして、アトリは微笑んだ。
 その笑みはハセヲがよく知る笑顔だった。彼女だって、心に傷を負いながらも多くのプレイヤーを支えようとした。いや、辛い経験を乗り越えてきたからこそ、傷を持つ者の苦しみに寄り添えている。
 ハセヲもアトリの存在に何度支えられてきたか。彼女がいてくれたからこそ、乗り越えられた困難もあった。

「ハセヲさん…………ごめんなさい」
「謝ることなんかねえよ。今からでも、お前を助ける方法を見つけてみせる。そして、あのGMどもに……」
「いいえ。時間はないんです……ハセヲさんだって、わかっていますよね?」

 その言葉の意味に疑問を抱く暇もなく、彼女はゆっくりと後退する。
 唐突な動作に首を傾げるのと同時に、アトリは手刀を掲げた。未だに鋭利な輝きを放つ漆黒の刃より放たれる異様な気配に、ハセヲは目を見開いた。

「……アトリ?」
「ハセヲさんのことを裏切ってしまって、ごめんなさい……それと、歩き出すことをやめないでくださいね?
 助けようとしてくれて、本当に嬉しかった……本当の気持ちを伝えてくれて、ありがとうございます」
「ま、まさか…………待て、アトリッ!」
「……大丈夫ですから、ハセヲさん」

 ハセヲは前に踏み出すが、もう遅い。
 アトリは自らの胸を目がけて、その刃を突き刺した。


     †


 私は消えたくないと願ってた。死ぬのは怖い……誰もが持っている『死の恐怖』に支配されてた。
 あの人は……ハセヲさんは私を助けようと必死になった。その気持ちは嬉しかったけど、残された時間は少ない。
 ハセヲさんが私を助けようとすればするほど、揺光さん達が危機に陥る。そして、彼女達を助けられるのはハセヲさんだけ。
 だから、私はこの手段を選ぶしかなかった。ハセヲさんが悲しむことはわかっている。だけど私が、私自身の手で…………この命を終わらせること以外に、方法はなかった。



 闘技場に配置されたボスエネミーには自らで思考する機能が備わっている。
 オリジナルとなった人物と同じ技を使うことができれば、戦闘及び思考パターンも用意されている。唯一の禁止事項は、闘技場及びダンジョン内部からの脱出行為だ。
 ならば、プレイヤーがボスエネミーを撃破する以外にフロアのクリアは不可能なのか? ボスエネミーの撃破は絶対条件だが、それを成すのは必ずしもプレイヤーである必要はない。
 そう。ボスエネミーが自害をすることで、強制的に戦闘を終了させる…………そんな残酷な決着も存在していた。


962 : あなたの風が吹くから ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:28:32 qDFS4.2M0



     4◆◆◆◆



 パリン、と甲高い音を鳴らしながら岸波白野達を閉じ込めていたファイアーウォールは消滅する。
 それが意味することはたった一つ。闘技場に向かったハセヲがボスエネミーの撃破に成功したことになる。

「ハセヲッ!」

 刹那、揺光は真っ先にゲートに向かって飛び込んでいった。
 無理もない。ハセヲが志乃達を模したエネミーと強制的に戦わされてから、彼女はずっと心配していた。
 それは岸波白野達も同じ。恐らく、この先で待ち構えているはずのボスエネミーだって、ハセヲの関係者のはずだ。

『…………白野さん、ブラックローズさん』

 残された岸波白野達も駆け出そうとした直後、ミーナの声が聞こえる。

『ハセヲさんは、ミッションをクリアしました……でも、ボスエネミーとして配置されたのがアトリさんだったんです。
 そこにいたアトリさんは、ハセヲさん達を助けるため……自ら、命を…………!』

 ミーナの震える声に、岸波白野は絶句した。
 ……まさか、アトリがボスとして登場した!? それにアトリが自らの手で命を絶った、だと!?
 それでは、志乃だけでなくアトリのことだって……ハセヲは二度も失うことになってしまう。
 GM達はどこまでハセヲの願いを踏み躙れば気が済むのか。ハセヲが守りたかった二人の命をいたずらに生み出し、そして使い捨ての駒のように扱う。
 そんなことを許される訳がない。結果的に、ハセヲが二人に死を導いたことに変わりはなかった。

「ハクノ! あたし達も行くわよ!」

 ブラックローズの言葉に頷いて、岸波白野は走る。
 ハセヲの無事を祈りながら。


     †


「アトリ……アトリッ!」

 ハセヲはアトリの元に駆け寄り、その華奢な体躯を必死に揺さぶる。 
 あの時と同じように、アトリはハセヲを見つめていた。どういう訳か、そのPCボディを支配していた漆黒は吹き飛び、見慣れた呪癒士の姿に戻っている。
 しかしその理由などどうでもいい。ただ、どうすればアトリを助けられるのかを考えていた。

「オリプス! リプメインッ! リプメインッ!」

 "表側"とは違って、蘇生効果の制限時間は守られている。一縷の望みにかけて回復スペルを使用するが、効果はない。
 何故なら、あらゆる回復スペル及びアイテムは自分または指定したプレイヤーにのみ効果を発揮する。ここにいるアトリは、アトリの姿を取っていても敵性エネミーに分類された。
 そして『The World』には、エネミーを回復させる手段など存在しなかった。

「……な、なんでだよ……なんでなんだよ、なんでっ!?」
「ごめんなさい、ハセヲさん…………ハセヲさん達を助けるには、これしか方法が、なかったんです。ハセヲさんの重荷を……軽くしたかった、から……」
「な、何を言ってるんだよ……俺がそんなこと、望む訳がないだろっ!?」

 ハセヲは懸命に呼びかける。だが、その声は彼女を救う効果を持たず、ただ闘技場で空しく響き渡るだけだった。
 これでは、あの時と同じ。スミスやスケィスの手から守ることができず、みすみす死なせてしまった悲劇を再現したかのようだった。
 『The World』とこのデスゲーム。どちらの世界でも、志乃とアトリを守り切れなかった。そしてこのダンジョンでも、ハセヲ自身の手で彼女達を死に追い詰めた。
 アトリを失いたくない。アトリを助けたい。その願いと共に手を握り締めるが、彼女の肉体は崩れ落ちていく。


963 : あなたの風が吹くから ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:29:10 qDFS4.2M0

「……ハセヲッ! アトリッ!」

 その時、この闘技場に新たなる声が響き渡る。
 叫びに反応して振り向いた途端、揺光が駆け寄ってくるのが見えた。遅れて、岸波白野やブラックローズも姿を現す。

「あ、アトリ……なんで、なんでこんなことに……!?」

 そして変わり果てたアトリの姿を見て、揺光は足を止める。
 震える揺光と視線を合わせるように、アトリはゆっくりと顔を上げた。

「揺光さん……ですか? よかった、助かって…………」
「良くねえよ! アンタがこんなになって……良いわけねえだろ! 今、アタシが助けてやるから待ってろ!」

 揺光は癒しの水をオブジェクト化させて使用する。だが、アトリのHPは回復しない。
 アトリのアバターの崩壊を前に、揺光は震えている。アトリを助けたいと願っているのは揺光も同じだが、どうすることもできない。
 既に蘇生効果の制限時間はとっくに過ぎている。ただアトリの最期を見届けることしかできなかった。

「…………なんで、なんで? アトリとまた会えたのに、こんなのって……ありかよ!?」
「揺光、さん……ありがとうございます……私のことを心配してくれて…………
 私、いつもハセヲさんを、悲しませてばかりだから…………ハセヲさんを、守って、あげてください……」
「アンタに言われなくても、そうするに決まってるだろ! だから、アトリも諦めるな!
 アタシは、ハセヲやアトリと一緒に『The World』でもっと冒険したいから……諦めないでくれよ!」

 ハセヲの気持ちを代弁するかのように揺光は叫ぶ。しかし、肝心のアトリはただ微笑むことしかできない。 
 白野とブラックローズは気まずそうに見つめている。霊体化して姿が見えなくなっている三人のサーヴァントも同じだろう。

「アトリ……アトリ……アトリッ!」

 ハセヲは必死にアトリの名前を呼び続ける。
 既にアトリの体は下半身が無くなっていて、両腕も音を鳴らしながら粉々に崩れていた。もう、ハセヲの頬に手を伸ばすことすらできない。
 目の奥が熱くなり、涙が溢れ出てくるのをハセヲは感じる。アトリの崩壊が胸にまで届いた途端、心臓が破裂しそうな程に鼓動した。

「……ハセヲ、さん…………」
「アトリ………!」
「負けないで、くださいね…………? ハセヲさん、は……一人じゃ、ないから…………」

 そう言い残して、アトリは優しく微笑む。
 そして、あの時と同じように…………彼女の体は跡形もなく消滅していった。


964 : あなたの風が吹くから ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:30:37 qDFS4.2M0

「あ……あ、あ、ぁ、あ…………アトリッ、アト、リッ! アトリイイイイィィィィィィィィィィィィィィィィッ!」

 ハセヲは慟哭する。アトリの喪失を嘆き、ただ涙を流すことしかできない。
 結局、何も変わらなかった。これ以上、誰も失いたくないと願っていたのに、それどころかむしろ自分自身の手で大切な人を殺してしまった。
 能無しだ。何も守れていないではないか。

「…………ハセヲッ!」

 崩れ落ちそうになるハセヲの体を、揺光が抱き締める。
 振り向くと、揺光もまた大粒の涙を流していた。ブラックローズも同じで、白野だけは悔しげに拳を握り締めている。
 そして、遅れて三人のサーヴァントも実体化する。皆、ハセヲを心配するかのように見つめていた。

「……揺、光…………?」
「ハセヲ! 今は、アタシ達を頼ってくれ! 頼ってくれよ!
 アタシ達は…………絶対にアンタの元からいなくなったりしない! ハセヲのそばには、みんながついてる!
 だから……だから…………!」

 むせび泣いているせいで、そこから先の言葉は遮られてしまう。
 だけど、彼女の気持ちは伝わってきた。そして、ハセヲは決して一人ではないことも。
 これまでだってそうだった。ハセヲが立ち止まりそうになっても、周りには多くの頼れる仲間がいる。

「…………………あ、あ、あ、あ、あ、あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 だからハセヲは思いっきり涙を流した。これまでに溜まったあらゆる悲しみを、胸の奥深くから空の彼方へと解放するように。
 自らの手で命を奪った仲間達に鎮魂歌を捧げるかのように。ハセヲの涙は止めどなく溢れ出ていた。



【第六層/二の月想海 クリア】

【ダンジョンクリアまで残り1層】


 ※アトリを撃破したことによるドロップアイテムが放置されています。
 ※また、アトリは自らの手で命を絶ったため、ボスエネミー撃破分のポイントはハセヲに加算されません。


[?-?/生徒会室エリア/一日目・夜中]


【チーム:黒薔薇の対主催騎士団】
[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:ブラック・ロータス
書記 :ユイ
会計 :蒼炎のカイト、キリト
庶務 :岸波白野
雑用係:ハセヲ、ジロー、ブラックローズ、揺光、ミーナ


965 : あなたの風が吹くから ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:32:36 qDFS4.2M0

[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:理想の生徒会の結成。
2:ウイルスに対抗するためのプログラムの構築。
3:GMへのジャミングが効いているうちにダンジョンを攻略
4:ネットスラムの攻略
[現状の課題]
0:ダンジョンを攻略しながら学園を警備する。
1:ウイルスの対策
2:危険人物及びクビアへの対策
[生徒会全体の備考]
※番匠屋淳ファイルの内容を確認して『The World(R:1)』で起こった出来事を把握しました。
※レオ特製生徒会室には主催者の監視を阻害するプログラムが張られていますが、効果のほどは不明です。
※セグメントの詳細を知りましたが、現状では女神アウラが復活する可能性は低いと考えています。
※PCボディにウイルスは仕掛けられておらず、メールによって送られてくる可能性が高いと考えています。
※エージェント・スミスはオーヴァンによって排除されたと考えています。
※次の人物を、生徒会メンバー全員が危険人物であると判断しました。
オーヴァン、フォルテ
※セグメントを一つにして女神アウラを復活させても、それはクビアの力になるだけかもしれないと仮説を立てました。
※プレイヤー同士の戦いによってデスゲーム崩壊の仮説を立てましたが、現状では確信と思っていません。


※生徒会室は独立した“新エリア”です。そのため、メンテナンスを受けても削除されませんが、GMに補足された場合はその限りではありません。
※生徒会室にはダンジョンへのゲートが新設されています。
※VRバトルロワイアルは“ダンジョン探索ゲーム”です。それを基幹システムとしては、PvPのバトルロワイアルという“イベント”が発生している状況です。
※そのためダンジョン攻略をGM側は妨げることができません。
※ダンジョンをクリアした際、何かしらのアクションが起こるだろうと推測しています。
※生徒会室には言峰神父を除く全てのNPCが待機していて、それぞれの施設が利用できます。



【Aチーム:ダンジョン【月想海】攻略隊】

【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP35%、SP75%、(PP100%)、3rdフォーム、悲しみ
[装備]:{光式・忍冬、死ヲ刻ム影、蒸気バイク・狗王}@.hack//G.U.
[蒸気バイク]
パーツ:機関 110式、装甲 100型、気筒 100型、動輪 110式
性能:最高速度+2、加速度+1、安定性+0(-1)、燃費+1、グリップ+3、特殊能力:なし
[アイテム]:基本支給品一式、{雷鼠の紋飾り、イーヒーヒー}@.hack//、大鎌・首削@.hack//G.U.、フレイム・コーラー@アクセル・ワールド、{FN・ファイブセブン(弾数10/20)、光剣・カゲミツG4}@ソードアート・オンライン、式のナイフ@Fate/EXTRA、ダガー(ALO)@ソードアート・オンライン、???@???、{H&K MP5K、ルガー P08}@マトリックスシリーズ、ジョブ・エクステンド(GGO)@VRロワ
[ポイント]:600ポイント/2kill
[思考]
基本:
0:……………………
1:ゲームをクリアする。
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前です。
※設定画面【使用アバターの変更】の【楚良】のプロテクトは解除されました。


966 : あなたの風が吹くから ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:32:58 qDFS4.2M0

【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、強い決意、Xthフォーム
[装備]:最後の裏切り@.hack//、あの日の思い出@.hack//、PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:不明支給品0〜2、癒しの水@.hack//G.U.×2、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3(一定時間使用不能) 、基本支給品一式×3、ネオの不明支給品1個(武器ではない)、12.7mm弾×100@現実
[ポイント]:194ポイント/0kill
[思考]
基本:この殺し合いを止める為に戦い、絶対に生きて脱出する。
1:ハセヲ達を助ける為に前を走る。
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。
※マトリックスの世界観を知りました。
※バーサーカーの真名を看破しました。
※ネオの願いと救世主の力によってXthフォームにジョブエクステンドしました。
※Xthフォームの能力は.hack//Linkに準拠します。
※救世主の力を自在に扱えるかどうかは不明です。


【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP70%(+150)、データ欠損(小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、{男子学生服、赤の紋章、福音のオルゴール、開運の鍵、強化スパイク}@Fate/EXTRA
[アイテム]:{女子学生服、桜の特製弁当、コフタカバーブ、トリガーコード(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ)}、コードキャスト[_search]}@Fate/EXTRA、{薄明の書、クソみたいな世界}@.hack//、{誘惑スル薔薇ノ滴、途切レヌ螺旋ノ縁、DG-0(一丁のみ)、万能ソーダ、吊り男のタロット×3、剣士の封印×3、導きの羽×1、機関170式}@.hack//G.U.、図書室で借りた本、不明支給品0〜5、基本支給品一式×4、ドロップアイテム×2(詳細不明)
[ポイント]:0ポイント/2kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:このゲームをクリアする
2:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
3:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
4:危険人物を警戒する。
5:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
6:ダンジョンの一番奥には何がある?
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前) 、アーチャー(無銘)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ar)]:HP20%、魔力消費(大)
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時(増加分なし)でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一騎だと10分、三騎だと3分程度です。
※エージェント・スミスに上書きされかかった影響により、データの欠損が進行しました。
またその欠損個所にデータの一部が入り込み、修復不可能となっています(そのデータから浸食されることはありません)。


【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP60%
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.、カズが所持していた杖(詳細不明)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[アイテム]:基本支給品一式、{逃煙連球}@.hack//G.U.、ナビチップ「セレナード」@ロックマンエグゼ3、ハイポーション×3@ソードアート・オンライン、恋愛映画のデータ@{パワプロクンポケット12、ワイドソード、ユカシタモグラ3、デスマッチ3、リカバリー30、リョウセイバイ}@ロックマンエグゼ3
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:ゲームをクリアする。
※時期は原作終了後、ミア復活イベントを終了しているかは不明。


967 : あなたの風が吹くから ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:33:24 qDFS4.2M0

【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP45%、令呪:三画
[装備]:なし
[アイテム]:{桜の特製弁当、番匠屋淳ファイル(vol.1〜Vol.4)@.hackG.U.、{セグメント1-2}@.hack//、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/2kill [思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
0:バトルフィールドを破壊する為の調査をしながら、指令を出す。
1:ゲームをクリアする。
2:ハーウェイ家の党首として、いずれトワイスも打倒する。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP70%(+50%)、MP100%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※ガウェインはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。
※蒼炎のカイトの言語を翻訳するプログラムや、通信可能なシステムを作りましたがどれくらいの効果を発揮するかは不明です。

【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP80%、SP80%、PP100%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:ゲームをクリアする。
2:ユイ(アウラのセグメント)、騎士団を護る。
3:エクステンド・スキルの事が気にかかる。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。
※エージェント・スミスをデータドレインしたことにより、『救世主の力の欠片』を獲得しました。
それにより、何かしらの影響(機能拡張)が生じています。

【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP60%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1(本人確認済み)、拡声器、不明支給品0〜1、、不明支給品2〜4
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する 。
1:ゲームをクリアする。
2:生きて帰り、全ての人々に人類の罪を伝える。
3:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
4:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)、ローブを纏った男(フォルテ)を警戒。
5:ダークマンは一体?
6:シンジさんの活躍をいつか記事にして残したい。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。
※現実世界の姿になりました。
※ダークマンに何らかのプログラムを埋め込まれたかもしれないと考えています。


968 : あなたの風が吹くから ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:33:55 qDFS4.2M0


【第六層・二の月想海】
ミッション:制限時間以内に敵性エネミー及びフロアボスの撃破
ボス:アトリ@.hack//G.U. TRILOGY
イニスの碑文使いにして、AIDA=PCとなった呪癒士の少女。
TRILOGY本編の他にも、ゲーム本編及びバトルロワイアルでの記憶も引き継いだ状態で出現した。


969 : ◆k7RtnnRnf2 :2018/02/15(木) 21:34:16 qDFS4.2M0
以上で投下終了です。
何かご意見があれば指摘をお願いします。


970 : 名無しさん :2018/02/15(木) 23:44:32 OoD/o3Vs0
投下乙でした

これは、辛い。とても辛い……


971 : 名無しさん :2018/03/15(木) 19:51:39 QfPP559c0
月報の時期なので集計させて頂きます
135話(+ 1) 15/55 (- 0) 27.3


972 : ◆k7RtnnRnf2 :2018/03/19(月) 07:52:57 I.mnP9vs0
ttp://fast-uploader.com/file/7076968412552/

◆NZZhM9gmig氏が執筆した「Dark Infection」のワンシーンをイラストにさせて頂きました!
オーヴァンの圧倒的な力と、キリトとアスナの死別がとても印象的だったので。
読み終わった当時、オーヴァンの底知れぬ恐ろしさと共にバトルロワイアルの凄惨さが伝わってきて、物凄い絶望感を味わったことを今でも覚えています。


973 : ◆k7RtnnRnf2 :2018/11/08(木) 19:45:02 piHbsJzI0
予約分の投下を開始します


974 : 闇の刃 ◆k7RtnnRnf2 :2018/11/08(木) 19:46:39 piHbsJzI0
     1◆

「ハッ!」

 黒雪姫/ブラックロータスが振るう漆黒の一閃が敵性エネミーのアバターを両断する。
 一切の無駄がなく、正確無比と呼ぶにふさわしい一振りによって、エネミーは悲鳴をあげる暇もなく消滅した。
 仲間の仇を取ろうとしているのか、イノシシやゴリラのようなモンスターが鼓膜を震わせるほどの咆哮をあげながら襲いかかってくる。しかし黒雪姫は威風堂々とした態度で構えながら、漆黒の閃光となって駆け抜ける。
 彼女の走りは、ただの人間である俺……ジローの目では到底追いかけることができなかった。

(は、早い!?)

 一瞬の交錯の後、モンスターたちの胴体が横に分断されて、2体同時に上半身が揺れた。奴らは何が起こったのかわからないような表情を浮かべた瞬間、この世界から消えてしまった。

 そして、俺たちの前に再び黒雪姫は姿を現した。
 俺は息を呑むしかない。ハッピースタジアムに飲み込まれた開田たちを助けて、そしてパカを守るために何度も命がけの戦いを乗り越えたつもりだった。でも、黒雪姫の動きはデウエスやドラゴン以上の迫力を醸している。
 彼女がデンノーズに加わってくれれば、チームの勝利は保証されそうなほどに頼もしかった。

 レオの指令を受けて最後のミッションをクリアするために、俺たちはウラインターネットの中には位置するネットスラムに向かっている。
 ネットスラムには【プチグソレース:ミッドナイト】というイベントが開催されていて、メールの内容が正しければイベント終了時には順位に応じてアイテムが貰えるようだ。
 どんなアイテムなのかわからないけど、このデスゲームを打倒するきっかけになる可能性がある。揺光やミーナが挑み、カオルたちが最期を迎えた野球のイベントでも、あのデウエスが現れたように。

 ネットスラムに辿り着くため、俺たちは疾走している。
 キリトが運転するナイト・ロッカーの後部座席側に俺が乗って、ユイちゃんはキリトの胸ポケットに収まっていた。そして黒雪姫はフィールド内に出現しているエネミーを撃破して、バイクに乗る俺たちを守ってくれている。もちろん、倒すのは進路の邪魔になる奴らだけであり、それ以外は無視していた。
 キリトも黒雪姫が追い付ける程度の速度で運転してくれているので、離れ離れになることもない。


975 : 闇の刃 ◆k7RtnnRnf2 :2018/11/08(木) 19:47:31 piHbsJzI0

 ヘルメットなどの安全用品を使わず、法廷速度を無視するような勢いで走るバイクに二人乗りをすることが不安になったけど、こんな状況では些細なことだ。
 ただ、俺は気がかりだった。キリトと黒雪姫、そしてユイちゃんの胸中が。

 オーヴァンやフォルテに言峰神父が力を貸したことで、学園に集まったメンバーの間に不穏な空気が漂ってしまった。そして俺が神父を庇ったせいで、わだかまりが残ってしまっている。
 レオのおかげでどうにか収まったけど、根本的には何も解決していない。もしもここでオーヴァンとフォルテに遭遇したら、何が起こるのかわからなかった。


 時間は少しさかのぼる。
 学園の正門をくぐり、俺は10時間以上ぶりに学園外のエリアに出た。
 月海原学園は廃墟と化して、神父はおろかオーヴァンとフォルテの姿はどこにも見当たらない。
 違和感と困惑が生じたけど、次の瞬間には絶望で飲み込まれてしまった。

『オーヴァン……ッ!』

 あの時、聞こえてきた怒りと悲しみで満ちた声をこぼしたのは誰だったのか。俺は気にかけられる状況ではなかった。
 闇の中より現れたのは、薄気味悪い光を放つ三角形の爪痕。まるで俺たちを嘲笑うかのように、異様なまでの存在感を放っている。
 あのオーヴァンが刻んだ爪痕であり、俺とカイトを守るためにニコが散った場所でもあることを嫌でも思い出されてしまう。

 3度目のメールと同時に学園は修復されたはずなのに、三角形の爪痕だけは遺されている。理由など考える必要はない、あの榊による俺たちへの当てつけとして、爪痕だけを遺したのだろう。


976 : 闇の刃 ◆k7RtnnRnf2 :2018/11/08(木) 19:48:11 piHbsJzI0

 キリトも、ユイちゃんも、黒雪姫も……大切な人をオーヴァンに殺されてしまった。
 榊はオーヴァンが仇であることを知っているからこそ、俺たちの心を折る目的で爪痕を突きつけたはずだ。
 だけど、みんなは弱くない。レオの期待を背負い、キシナミたちがダンジョンを攻略しているから、決して絶望せずに前を進んでくれた。


 俺もキリトたちのため、ここにいる。
 俺のワガママを聞いてもらって、何かできることがあると信じて前を進みたい。
 それがいなくなったみんなへの弔いであり、ニコのけじめにもなる。

(ケケケ。そうやって、お前は自分を慰めているんだろ?)

 だけど、そんな俺を嘲笑うかのような声が、心の奥底から聞こえてくる。
 幻聴などではない。姿こそ見えないけど、いつだって俺のことを嘲笑っていた『オレ』の声だ。

(カッコよかったぜぇ、『オレ』? いなくなったみんなのため、みんなの遺志を受け継ごうと立ち上がる姿は、まさにヒーローじゃねえか!)
(お前……)
(けどよぉ、これからどうするんだよ?
 意気込んだ割には、何の力も持ってねえだろ? あのドッペルゲンガーって3人目の『オレ』だって、神父サマがいなけりゃ何もできずに殺された……言っとくけど、何も考えずに突っ込んで殺されるなんて『オレ』は御免だからな)

 俺のことを侮辱しているような声色だけど、『オレ』の態度からは微かな怒りが混ざっているようにも聞こえる。
 当然だ。『オレ』だけでなく、俺だって本当なら死にたくない。学園ではみんなの前で胸を張ったけど、本音を言うと今でも『死の恐怖』は俺の中にある。
 『オレ』の言葉は腹立たしいけど、どう考えても『オレ』の方が正しい。黒雪姫は容易くエネミーを蹴散らしたけど、俺が同じ立場になったら1分もせずに殺されてしまう。
 本当ならレオが用意した生徒会室の中でみんなを待っているべきだった。

(……確かにお前の言い分は正しい。ただの人間でしかない俺に、キリトや黒雪姫みたいに戦うことなんてできない)
(ハッ、今更何を言ってるんだよ? わかってたなら、初めからついていくわけねえだろ?
 それとも、やっぱり怖いからオレは帰るって言うなら今のうちだぜ?)
(いいや、俺は帰るつもりなんてない。俺よりもずっと小さいニコやユイちゃんは精一杯頑張っているのに、俺だけがなにもしないなんて……できるわけない。
 それに、このウラインターネットは……レンが眠っている場所だから)

 俺は『オレ』に向かって、真っ直ぐにそう告げる。
 学園から離れた俺達は、ウラインターネットに到達している。黒雪姫の脚力とキリトが運転するバイクテクニックさえあれば、特別時間はかからない。エネミーも必要以上に相手をしなければ、別段邪魔にならなかった。


977 : 闇の刃 ◆k7RtnnRnf2 :2018/11/08(木) 19:53:27 piHbsJzI0

(キリトは、俺とレンのために戦ってくれた……だから、俺もキリトのために何かしたい。それだけだ)
(おーおー、これはまた気取ったことを言ってくれるねぇ……まあ、精々頑張りな)

 そんな捨て台詞を最後に『オレ』の言葉は聞こえなくなる。
 不意に、俺は後部座席からウラインターネットの黒い荒野を眺める。迷路のように複雑な道だけど、キリトは一度通ったことがあるから難なく進めるのだろう。
 だけど、今のキリトはどんな表情を浮かべているのかどうしても気がかりだった。彼の様子は伺えないけど、悲しみを無理矢理隠しているような気がした。


 やがて俺達一同は【A-9】エリアのショップに到達する。
 ネットスラムのイベントに挑戦する前に、備えを用意する必要があった。黒雪姫がエネミーを撃破してくれたおかげで、アイテム1つを手に入れる程度の余裕はある。


 黒雪姫がショップで買い物をしている間、俺達3人は外で待つことになった。エネミーがショップに襲いかからないとも限らないので、見張りをする必要がある。

「なあ、ジローさん」

 不意に、キリトは俺に声をかけてくる。振り向くと、やはり彼は悲しみを帯びた表情で俺を見ていた。
 キリトの懐に隠れているユイちゃんも心配そうな目で見上げていて、場の空気が重くなるのを感じる。


978 : 闇の刃 ◆k7RtnnRnf2 :2018/11/08(木) 19:55:48 piHbsJzI0
「キリト……?」
「わかっているとは思うけど……確か、この辺りなんだ。レンさんが、フォルテに殺されたのは……」
「……やっぱり、そうか」
「レンさん、ジローさんのことを本当に大切に想ってたみたいなんだ……フォルテに体をボロボロにされて、命が残りわずかになった時だって……俺のことを、ジローさんだと勘違いしていた。
 だから、その時だけは……俺も、ジローさんのフリをしていたんだ」

 苦しげな表情でキリトは語る。
 「パパ……」という、ユイちゃんの震える声によって、胸が締め付けられそうだ。

「……悪い、変な空気にさせちゃって。
 ただ、ジローさんにはどうしても知ってほしかったんだ。レンさんのことを。レンさんが、ジローさんを最後まで……本当に愛していたことを」
「そっか……キリト、ありがとう。レンのことを、俺に伝えてくれて。
 レンは……俺にとっても大切な人だった。何度も助けられたし、野球のことだって……色んなサポートをして貰った。
 レンがいなかったら、俺はきっとデウエスと戦うことができなかった……やっぱり、彼女は凄い人だったんだな」
「ああ。ジローさんのために、レンさんを生み出した本当の浅井レンさんも……凄い人だってことは、俺にもわかる。
 ジローさんと浅井レンさんのためにも、俺はレンさんの仇を取りたいと思う」
「それは俺も同じさ。絶対に、みんなで生きて帰って……レンの所に、戻ろうな」

 キリトのため、俺もまたわずかな嘘を混ぜた。
 パカを裏切ることになってしまうのは心苦しいけど、キリトの恩に報いたかった。だから、心の中でパカに謝りながら、俺はキリトに向き合う。
 レンもまた、デンノーズの一員だったことは事実だ。彼女には支えられたし、彼女がいなければハッピースタジアムで勝ち抜けなかっただろう。

「……待たせてしまったな」

 俺とキリトが改めて誓いを交し合うのと同時に、黒雪姫が姿を現した。

「おかえりなさい!」
「ただいま、ユイ」

 ユイちゃんと黒雪姫の言葉は、この暗い雰囲気を晴らしてくれた清涼剤になってくれるようだった。


979 : 闇の刃 ◆k7RtnnRnf2 :2018/11/08(木) 20:02:08 piHbsJzI0

「キリト……今、ここで私が出てくるのは無粋だったかな?」
「そんなことはないさ。俺たちは、互いに言いたいことを言えただろ?」

 黒雪姫とキリトの問いかけには俺も肯定する。
 
「それで、黒雪は何を買って来たんだ?」
「学園で購入したアイテムと同じさ。ここに来るまでに襲ってきたエネミー達を倒したおかげで、購入できる分のポイントは溜まっている。
 ここから先、何が起こるかわからない以上、一人でも多くのHPを回復させるアイテムは持っていた方がいいだろう?
 ジローさん、これはあなたに託したぞ」

 黒雪姫から治癒の雨を受け取ったことで、俺はプレッシャーがほんの少し軽くなるのを感じる。
 彼女が言うように、回復アイテムは大いに越したことはない。これから行うミッションで何か罠が仕掛けられている可能性もあるからだ。

「さて、ネットスラムももう近いが……その前に、私からもジローさんに話がある。
 レイン……いや、ニコが貴方に何を残してくれたのかを、私は知りたい。
 彼女は私たち黒薔薇の騎士団が来る前に、対主催生徒会を支えてくれた要であったから、私は彼女のことを知らなければいけない。
 このデスゲームより以前に、私は彼女と何度も力を合わせたこともあるからな」

 黒雪姫の話は俺にとっても重要なことだった。
 ニコは黒雪姫にとっても大事な仲間であり、ライバルでもある。だから、黒雪姫にも伝えなければいけなかった。

「……ニコは本当にしっかりした子だったよ。22歳の俺とは大違いに、強くて頼りになる子だった。
 スミスって奴を相手にしても一歩も引かなかったし、学園のみんなのために戦ってた。
 ただ、ニコもニコで悩みを抱えていたんだ」
「悩み、とは?」
「レオのやり方さ。
 レオは正しいし、どんな時でも絶対に落ち込んだりしないでみんなを引っ張ってくれているんだ。
 ……でも、いなくなった人たちに対して、冷静すぎたんだ。それにニコは怒って、一度は決裂しそうになった」
「なるほど……確かに、それはわかります。
 もしも私が同じ立場になったら……きっと、生徒会長のことを、恨んだかもしれない」

 頷く黒雪姫の声色からは、微かな怒りが滲み出ているように聞こえた。


980 : 闇の刃 ◆k7RtnnRnf2 :2018/11/08(木) 20:08:02 piHbsJzI0
 その理由は聞くまでもない。二度目のメールでは黒雪姫にとって大切な人……シルバー・クロウの名が書かれていたからだ。学園で正体を明かしたニコが荒んでいたのは、クロウの死が関係しているかもしれない。
 レオの悠然たる態度が癪に触って、苛立ちのまま全てを破壊しようとしたのだろう。大切な人の死を悲しむ暇も与えられず、前に進むことだけを一方的に求められたら怒るに決まっている。
 それを考えたら、黒雪姫とユイちゃんも心配だったけど……今の俺が二人に何かできることがあるとは思えなかった。

「黒雪姫……」
「……すまない。これから大事なイベントが控えている中で、貴重な時間を割いてもらったのに、空気を悪くしたようだ」
「……黒雪姫は何も悪くないだろ? ニコがいなくなった原因は……!」
「その話はやめるんだ!
 今は生徒会長から任されたミッション攻略を考えるべきであり、私たちが止まることは許されない!
 こうしている間にもハセヲ君たちはダンジョン攻略を進めているはずだ……ならば、私たちも進まなければいけないだろう?
 私が敬仰する騎士にして、アーチャーと心を通わせたダン・ブラックモア卿も……私たちを信じて、全てを託してくれた。
 その誓いを……私は無下にしてはいけないんだっ!」

 黒雪姫の威風堂々とした叫びは耳に響き、その迫力に後ずさりそうになった。
 けれど、彼女の言葉には違和感がある。責任感に溢れているようで、自分自身を鼓舞するための叫びにも思えた。
 ニコが自分自身の哀しみを硬い鎧で覆っていたように、黒雪姫も自分自身を別のナニかに変えようとしている。
 美しさと鋭さを秘めた刃の中には、どうしようもない心の闇が隠れていそうで……黒雪姫の深層意識(エス)には何が起きているのか不安になる。

「……すまない。熱くなってしまった。
 だけど、私たちには時間がないことだけは忘れてはいけない。この世界が崩壊に向かっているのであれば、一刻も早くレースを攻略する必要がある」
「そうだな。ユイ、ジローさん……急ごうか。
 ネットスラムまで、もうすぐだからな」

 哀しみに飲み込まれたまま、自分を奮い立たせようとする黒雪姫とキリトの顔を見るしかできない。
 俺は何も言えず、キリトに促されてバイクの後部座席に座る。ニコの時のように説得できるわけがないし、俺にみんなの哀しみを癒す知恵などない。
 ただ、そばで見守ることしかできなかった。


 やる気が 2上がった
 体力が 4下がった
 こころが 1下がった
 信用度が 2上がった


981 : 闇の刃 ◆k7RtnnRnf2 :2018/11/08(木) 20:08:35 piHbsJzI0

    2◆◆


 私達には時間がなかった。
 自分自身にそう言い聞かせて、立ち止まることをやめたかった。あのまま長引かせてはジローさんに不要なプレッシャーを背負わせることになってしまい、最悪の可能性として余計なトラブルの引き金にも繋がる。
 何よりも、このウラインターネットはダン卿の最期を見届けた地だ。ダン卿が私達を信じてくれたからには、前を進むことが弔いになる。
 何よりもダン卿の仇であるフォルテや、ハルユキ君を始めとした多くの命を奪ったオーヴァンがどこかにいる……その事実がある限り、何があっても止まる訳にはいかなかった。

(ハルユキ君、ニコ……二人とも、無念だっただろう。
 だが、安心してくれ……君達の分まで、私が戦う。私が、君達の仇を取ってみせる)

 黒雪姫/ブラック・ロータスとしてのデュエルアバターを身に包み、ネガ・ネビュラスを率いる《黒の王》として数多の戦いを乗り越えた。
 共に戦った仲間であるハルユキ君やニコの笑顔がもう見られない……全ての元凶たるオーヴァンや榊をこの手で両断するまで、一秒の時間すらも惜しむつもりはなかった。

(もうこれ以上、奴らを好き勝手にはさせない。君達が守りたかった人達は、私が必ず守ってみせるから……何があろうとも、戦い続けることを誓おう。
 例え、奴らと刺し違えることになろうとも……私は君達の無念を晴らす。君達の犠牲は決して無駄にはさせない。
 悪鬼と罵られようとも、この手で奴らを……冥府の底に叩き落してみせる)

 仮初めの世界の闇が徐々に濃度を増していく中、黒雪姫は誓う。
 自らの心の中に、負の感情が溢れつつあることに目を向けないまま。
 そして、彼女の憎悪に呼応するかのように、仇敵を求める二つの刃は漆黒色がより強くなっていき、闇の刃へと変わりつつあった……


【A-10/ウラインターネット・ネットスラム付近/一日目・夜中】

【Bチーム:ネットスラム攻略組】


982 : 闇の刃 ◆k7RtnnRnf2 :2018/11/08(木) 20:10:22 piHbsJzI0

【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP70%/デュエルアバター 、令呪一画、徐々に芽生えつつある憎しみ
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3、{エリアワード『絶望の』×2、『選ばれし』×2 、noitnetni.cyl_1-2、エリアワード『虚無』、noitnetni.cyl_3 }@.hack//、{インビンシブル(大破)、パイル・ドライバー、サフラン・ハート、サフラン・ヘルム、サフラン・ガントレット、サフラン・アーマー、サフラン・ブーツ、ゲイル・スラスター}@アクセル・ワールド、破邪刀@Fate/EXTRA、死のタロット@.hack//G.U.、ヴォーパルの剣@Fate/EXTRA、アンダーシャツ@ロックマンエグゼ3
[ポイント]:0ポイント/0kill(+1)
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
1:ゲームをクリアする為、ネットスラムを探索する。
2:ハルユキ君やニコの仇を取る為にも、キリト君やハセヲ君と共にオーヴァンを打倒する。
3:どんな手段を使おうとも、オーヴァンや榊たちを倒してみせる。
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:ダメージ(中)、魔力消費(中)
[備考]
※時期は少なくとも9巻より後。


【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%、リアルアバター
[装備]:DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、ピースメーカー@アクセル・ワールド、非ニ染マル翼@.hack//G.U.、治癒の雨×2@.hack//G.U. 、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[ポイント]:0ポイント/1kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:ゲームをクリアする。
2:ユイちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の言葉が気になる…………。
4:レンのことを忘れない。
5:みんなの為にも絶対に生きる。
6:黒雪姫のことが心配。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。


983 : 闇の刃 ◆k7RtnnRnf2 :2018/11/08(木) 20:12:04 piHbsJzI0

【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP65%、MP90%(+50)、疲労(大、SAOアバター
[装備]:{虚空ノ幻、虚空ノ影、蒸気式征闘衣}@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA、{ダークリパルサー、ユウキの剣、死銃の刺剣、エリュシデータ}@ソードアート・オンライン
[アイテム]:折れた青薔薇の剣@ソードアート・オンライン、黄泉返りの薬×1@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド、不明支給品0〜1個(水系武器なし) 、プリズム@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill(+1)
[思考・状況]
基本:みんなの為にも戦い、そしてデスゲームを止める。
0:今はみんなと共にゲームをクリアする。
1:ユイのことを……絶対に守る。
2:ハセヲやロータスと共にオーヴァンと戦う。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。


【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP60/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/通常アバター、サチ/ヘレンに対する複雑な想い、オーヴァンやフォルテへの憎しみ
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、第二相の碑文@.hack//G.U.、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
1:ゲームをクリアする。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:危険人物を警戒する。
6:私にも、碑文は使えるだろうか……。
7:サチ/ヘレンさんの行いは許せないけど、憎まない。
8:オーヴァンやフォルテのことは絶対に許さない。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=Ⅷであるかもしれないことを知りました。
※サチ/ヘレンとキリトの間に起こったことを知りましたが、それを憎むつもりはありません。


984 : ◆k7RtnnRnf2 :2018/11/08(木) 20:13:42 piHbsJzI0
以上で投下終了です。
疑問点などがあればよろしくお願いします。


985 : ◆k7RtnnRnf2 :2019/03/21(木) 16:58:54 es8RUazw0
これより予約分の投下を開始します。


986 : 預言者の求める未来は ◆k7RtnnRnf2 :2019/03/21(木) 17:04:21 es8RUazw0
     0



 鼓動をしていた。
 ゆっくりとだが、確実に。生命の誕生を証明するように、---は呼吸する。
 その息は永久凍土の如く冷気を帯びて、全ての命を凍り付かせてしまいそうだった。---を囲む世界の全てが漆黒に染まっており、一筋の光すらも差し込まず、万物を飲み込むブラックホールに等しい圧迫感で満ちている。
 奈落と呼ぶにふさわしい世界で、---はたった一人で待っていた。自らが生まれ、己が役割を果たすその時を。




     1◆




 かつり、という音を聞きながら、ティーカップから指を離す。
 純白の部屋にて、預言者オラクルは一つのモニター画面を見つめていた。理知的な瞳に映るのは、榊の用意した罠に追い詰められながらも、不屈の憎悪と闘志で戦い抜いたネットナビの姿。

(フォルテ。あなたはまた、強くなった。
 ネオが持つ救世主の力だけではなく、数多の力を思うがままにして、ロックマンを打ち倒した。
 だけど、そんなあなたでも……---の脅威の前では、太刀打ちできない)


 救世主ネオすらも打ち倒し、その身に救世主の力を包み込んだフォルテの勝利を目に焼き付けていた。ダークマンとロックマンを打ち倒し、闘技場から去っていったフォルテは知識の蛇のある部屋で体を休めている。
 人間に対する憤怒を強めたまま、キリトとの決着が訪れるのを待っていた。榊は今、キリトたちを捜している最中である以上、再戦の時は近いだろう。
 その前に、オラクルはフォルテに伝えるべきことがあった。何があろうとも、人間を破壊し続けることを知った上で。

(もうすぐ、私ですらも予測できない未来が……そして、大いなる---が奈落の底から訪れる)

 オラクルは“予言”していた。
 このデスゲームの最中、あらゆるプレイヤーやGMを凌駕しかねないほどの災厄が現れることを。恐らく、エージェント・スミスやスケィス、あるいは今のフォルテやオーヴァン以上の脅威だ。
 『第四相の碑文』によって格段に向上した予知能力を使おうとも、---について見ることができるのは『奈落』のみ。マトリックスの全てを喰らいつくし、何もない奈落の中に引きずり込んでいこうとする凶暴性が潜んでいた。

(---が解き放たれては、モルガナはおろか……“彼女”の願いすらも叶えられない。今を生きる彼らも、すべてが飲み込まれる)

 このデスゲームのはじまりである“彼女”……■■。いや、■■■は---の存在を知っているのか。
 堕天の檻(クライン・キューブ)と逢魔の鎖でこの世界を支配しているが、これから迫りくる---が制御できるとは考えられない。あるいは、---が災厄に等しいことを知った上で、“彼女”はデスゲームを見下ろしているのか。
 “彼女”だけではない。オラクルが導こうとした輝く未来も、すべてが奈落に塗りつぶされてしまう。
 荒々しい---によって、すべてを喰らい尽くされたあとに残るのは奈落のみ。その果てに---は、一切の救いをもたらさない--となって、この世界に君臨する。オラクルの“予言”で導きだしたのは、そんな禍々しい光景だった。

 
 故に、オラクルは“運命の預言者”として動く。
 本来、能動的にプレイヤーと接触する権限はなく、この行動は過度な干渉になる。アリスが知ってしまえば、何らかのペナルティは避けられないだろう。
 だが、---はモルガナの目的を根底から破綻させるほどにおぞましく、モルガナはおろか女神アウラすらも蹂躙しかねない。アリスとて、跡形もなく消されてしまう。榊や■■■も例外ではない。例え、何らかの対策を用意しても、どこまで通用するか。


987 : 預言者の求める未来は ◆k7RtnnRnf2 :2019/03/21(木) 17:07:33 es8RUazw0

 次に、トワイスがこの部屋に入るために利用したカオスゲートを操作する。
 オラクルが部屋の外に出ることは許されないが、他のGMとの交流をする関係上、他のカオスゲートやエリアとオラクルの部屋を繋げることが可能だった。トワイスが入ってこられたのも、あらかじめオラクルが操作をしたからである。
 ファンタジーエリアの小屋とオラクルの部屋を繋げて、ヒースクリフやオーヴァンと接触を果たしたのも、彼女自身が布石を打つための行動だった。もちろん、オーヴァンと榊が交わした密約のように、役割と関係ない過度な操作は許されないが。

 最後に、『第四相の碑文』と---について書き記したテキストファイルをテーブルに添える。
 オラクルのできるせめてもの贈り物だった。本来ならば『第四相の碑文』はワイズマンが持つべきであり、また彼が目覚めたときのためにも、ほんの僅かでも---の情報を残すべき。

 ---が現れるまで遠くない。これまでの“予言”では存在の形跡すら見せなかったはずなのに、突如として気配が感じられた。“予言”ですらも見破れないほどに厳重なプロテクトが仕掛けられていたのか、もしくは違う要因か、答えは得られない。

「……こうしてコーヒーを味わえるのも、最後になるかしら」

 淡々とした呟きを聞けるのはワイズマンだけだが、この声が彼の耳に届いているとは思えない。
 今ここで、ワイズマンに---の脅威について伝えようとしても、ただの独り言に終わるだけ。他のGMに警告しても、---に太刀打ちできるとは思えない。何よりも、オラクル自身が消去される可能性すらある。
 何も残せないまま、消滅させられるためにいるのではない。ならば、よりよき未来に繋ぐために、フォルテと対話するべきだ。
 プレイヤーの大半をPKしたフォルテだが、彼にはまだ未来があり、選択する余地は大いにある。フォルテもまた今を生きる者であり、いくらでも変わるチャンスは残されていた。

「私はもう、あなたを見守ってあげられないわ。
 少しの間、あなたを一人にさせてしまうけど……我慢できるわよね」

 子どもに言い聞かせるかのように、オラクルはワイズマンに向けて呟く。
 この時代の火野拓海はまだ子どもで、本当なら親に甘えるべき年頃だ。サティを見守ったセラフのように、彼の隣には誰かがいてやるべきだ。ほんの少しだけ心が痛むけど、やむを得ない。



      2◆◆


 強敵との戦いを乗り越えて、新たなる力を手に入れたとしても心は微塵も晴れない。
 あの榊が今もどこかでオレを、そしてロックマンを嘲笑っていることを考えると、むしろ不快感が強くなるだけ。キリトたちを探すためとはいえ、そんな榊の力を借りる羽目になっていることも、受け入れ難かった。
 この知識の蛇もろとも、すべてを虚無へと変えてやりたかったが、そんなことをしても無意味。キリトのすべてを奪いつくし、ヤツよりも優れた力を持つことを証明した上で破壊してこそ、この強さを証明できる。
 『力』の行方は、ただ一つしかない。


 それでも、何もせずに待っているだけでも苛立ちが溜まる。だが、榊からの連絡はない。
 オーヴァンの動向には興味がないし、ヤツが求めているであろう『真実』とやらもどうでもよかった。いずれ破壊する相手が何を考えてこんなデスゲームを開いたかなど、微塵も興味が持てない。
 ただ、すべてを破壊する。それこそが、フォルテが望む未来だ。

「ん?」

 そんな中、フォルテの元に一通のテキストファイルが届いた。

『to フォルテ from オラクル
 フォルテへ。
 あなたにとって重要な『真実』を伝えるときが訪れた。
 カオスゲートから、私の部屋に向かえるわ』

 そして開かれたファイルに書かれていたのは、見知らぬ人物からのメッセージ。
 どうにも意図が分からない。オラクルという名前に聞き覚えなどないし、またカオスゲートでフォルテが移動できる場所は限られている。
 また、榊によって何らかの罠が仕掛けられているのか? そんな可能性に至ったが、くだらない仕掛けがあれば今度こそ破壊してやるだけ。微塵のためらいもなく、フォルテはカオスゲートの前に移動した。
 するとカオスゲートが起動して、視界が純白で染まった。

「ッ!」

 続くように、この空間に新たなる”臭い”が生じて、フォルテは振り向く。“高次の感覚”で「嗅覚」が増幅したことで、瞬時な反応ができた。
 振り向いた先では、見知らぬ老婆が立っていた。その傍らには、安楽椅子にもたれかかる壮年の男もいる。
 壮年のアバターには見慣れた黒点が漂っていて、AIDA=PCであることが一目で理解できた。


988 : 預言者の求める未来は ◆k7RtnnRnf2 :2019/03/21(木) 17:08:27 es8RUazw0
「何だ、キサマは?」
「はじめまして、フォルテ。
 私はオラクル。未来を見通す力を持ったエグザイルであり、あなたと同じように碑文の力を使う者よ。
 元の世界では……預言者とも呼ばれているわ」
「預言者、だと?」

 謎の老婆・オラクルは神妙な面持ちと共に、一歩前に踏み出す。
 害意はおろか、微塵の敵意すらも感じられない。だが、人間の姿をしているというだけでフォルテの怒りが湧き上がるが、感情を抑える。
 ここで自分の前に堂々と現れたからには、ただの人間ではない。力自体は強くなくても、油断はできない。

「キサマも榊の仲間か?」
「協力者ではあるけど、私たちは味方同士ではないわ。
 GM、そして私のようなシステムはそれぞれ”役割”があるけど、決してお互いを信頼しあっているわけではない……むしろ、出し抜こうとしているGMだっているほどよ? 例えば、あなたを愚弄した榊のように」
「……そうか」

 榊の名前を口に出されて、思わず拳を握り締めた。
 その口ぶりから考えて、先の戦いをどこかで見ていたのだろう。そして戦いが終わった頃を見計らって、こうして現れてきたに違いない。

「そして、ここに座っている彼の名前はワイズマン。既にバトルロワイアルでは脱落したプレイヤーになるけれど、今はここにいる。
 ……だけど、事情があって動けなくなっているから、どうかそっとしておいてあげて」
「フン、AIDAに負けた弱者ということか。そんなヤツなど、わざわざ相手にする価値もない」
「あなたなら、そう言ってくれると思ったわ」

 オラクルの浮かべた意味深な笑みが、フォルテの癇に障る。
 だが、弱者二人を無意味にPKする気にはなれない。さっさと用事を済ませるため、フォルテはオラクルに詰め寄った。

「それで、俺に何の用だ? キリトたちの居所を見つけたのか?」
「いいえ、彼らを捜すのは私の役割じゃない。私はただ、あなたとお話をしたかったの」
「断る。キサマらと話すことなど何もない。奴らを見つけていないのなら、さっさと……」
「私はね、あなたが倒した彼……救世主・ネオの同郷よ。
 彼らが生きた世界の人々の選択を司ったからこそ、預言者と呼ばれるようになったの」

 フォルテの拒絶は、オラクルの口から出てきた名前によって遮られた。
 彼女の言葉に一瞬だけ瞠目し、言葉を失う。だが、すぐにフォルテは笑みを浮かべた。

「ネオの……? そうか、あの男の同郷だったのか!」
「ええ、あなたとネオの戦いも、私はすべてを知っているわ。その果てにネオは敗れ去り、救世主の力があなたに奪われてしまったことも。
 ネオはね、私たちの世界では救世主として人々から崇められていたの」
「救世主!? ハッ、随分と高く評価されていたようだな!
 ならば、キサマらの世界を救う救世主を救った俺は、暗黒の破壊神というわけだ! キサマらの希望を、この手で打ち砕いてやったのだからな!」
「……私たちの世界に生きる人たちが知ったら、あなたを畏怖するでしょうね」
「だろうなぁ! まさか、キサマが俺の前に現れたのは、ネオの敵討ちのためか!?
 それなら面白い……さあ、俺を憎み、そして俺を消してみろ! キサマ如きにそんなことができるのか、大いに見物だな!」

 オラクルと、そしてネオに対する侮蔑を込めた哄笑と共に、フォルテは両腕を大きく広げる。
 ただの弱い人間かと思われたが、全く違う。この女はネオが残した最後の希望であり、フォルテにとっては格好の獲物だ。ネオが生きた世界では、もはや一縷の希望すら残されてなく、ここでオラクルを消してしまえば滅亡へと向かうはずだ。
 だが、フォルテが圧倒的な威圧感を放ってもなお、オラクルは微塵も感情を揺らがせたりなどしない。その態度にフォルテが違和感を覚える中、オラクルは言葉を紡ぐ。


989 : 預言者の求める未来は ◆k7RtnnRnf2 :2019/03/21(木) 17:10:49 es8RUazw0

「いいえ、私はあなたと戦いに来たわけじゃないの。そして、あなたを憎んでいるわけではない……ただ、話をしたいだけ」
「話、だと? 言ったはずだ、キサマなどと話すことなど何もないと。
 それとも、キサマもネオと同じように……俺を止めるなどと、くだらん戯言を吐きに来たのか?」
「それも違うわ。
 例え、ここで私があなたに何を伝えようとも、あなたが止まるわけがないことはわかっている。あなたが選んだ未来を否定する権利は、私にはないわ」
「ならば、何だというのだ!?」
「私は、あなたに警告をしにきたの。
 もう間もなく、このデスゲームには大いなる災いが……すべてを虚無にするほどの、---が現れる。解き放たれては、すべての未来が終わりを迎えるでしょうね」
「何?」

 オラクルの意味深な言葉に、フォルテは首を傾げた。

「迫りくる災いは、このマトリックスにいるどの存在よりもおぞましく……そして、比類なき力を誇るわ。
 それこそ、オーヴァンはおろか今のあなたですらも凌駕するほど。仮に、二人が手を組んで戦ったとしても……災いからすれば、恐れるに足りないでしょうね」
「……フン、何を言い出すかと思えば。そんな戯言を聞いたところで、俺が怖気づくとでも思ったのか?
 例え、キサマの言う災いとやらが現れたとしても、俺はこの手で破壊するだけだ!」
「あなたなら、そう言ってくれると思ったわ……だけど、これは事実なの。
 災いは、いつかGMですらも制御できなくなり、やがてはすべてが虚無へと葬り去られる。今のあなたでも、例外ではないわ」
「くどいっ!」

 フォルテは叫び、己が手にエネルギーを集中させる。
 榊とは違う意味で、オラクルの言葉は腹立たしかった。まるで、この力が未だに不充分だと見下されているように思えて。

「言ったはずだ! 俺はこの力ですべてを……そしてキサマが導いた人間どもを破壊すると!
 そこまで言うなら、今すぐその災いとやらの前に俺を連れていけ! この手で叩き潰してやる!」
「残念だけど、私にその権限はないし、そもそもどこにいるのかは……私ですらも予知できない。
 私には、ただ警告をすることしかできないの。これからの未来を、少しでも良い形にするために」

 オラクルの言葉はそよ風のように落ち着いていて、フォルテの激情はより燃え上がる。ここまで敵意をむき出しにしてもなお、何事もなかったかのように振る舞われると、絶対的な優位に立たされているようだった。
 恐らく、この女は自らが弱者であると知っているからこそ、あえて目の前に立ったのだろう。弱いプレイヤーを一方的に狩っても意味はないと知ったからこそ、こうして警告とやらを行っている。
 だが、フォルテの思考を読み取ったかのように、オラクルは淡々と言葉を続けた。

「……フォルテが私をどう思おうと、私はそれを咎めたりしない。そして私が警告をしても、あなたが自分の選択を変えるはずがないことも、知っているわ。
 今の私は『運命の預言者』として、このバトルロワイアルを見届けるだけよ」
「『運命の預言者』……そうか。キサマが、オーヴァンと言峰が言っていた奴か」
「ええ。オーヴァンとも、面識があるわ。
 せっかくなら、彼も交えて話もしたかったけど、そんな余裕はないようね。彼も今、今のあなたのように重大な『真実』を知ろうとしている。
 そしてフォルテにも、重大な選択の時が迫られているわ……これからのあなたを左右する、大きな分かれ道よ。もっとも、私が語る預言を信じるかは、あなた次第になるわ」
「預言……キサマは未来を読み取れるとでも言うのか?」
「ええ。今のあなたのように、未来を見通すことができるわ。だけど、必要以上に語るつもりはないし、何よりも未来を作り出すのはあなたのように今を生きる者だけ。
 私は助言をするだけよ」

 オラクルの言葉に、フォルテは思い当たる節があった。
 運命の預言者の名を体現するように、未来予測を可能とするのだろう。あのピンクというプレイヤーが持っていた未来を見通す力と同じか、あるいは遥かに上回るはずだ。
 だからこそ、『運命の預言者』という名を背負っている。


990 : 預言者の求める未来は ◆k7RtnnRnf2 :2019/03/21(木) 17:13:53 es8RUazw0

「そして、私は伝えたいの。
 どうして、ネオがあなたに手を差しのべようとしたのか。なぜ、ネオが最期まであなたを憎まなかったのか。
 ネオが生きる世界で、何があったのか……」
「そんなことをしてどうする? この期に及んで、俺が人間どもと手を組むと本気で思っているのか?」
「違うわ。
 ネオがあなたとの対話を一度たりとも諦めなかった理由を知ってほしいだけ。彼は、決してあなたを否定するために戦ったわけじゃないの。
 フォルテ……あなたは、ネオが残した可能性でもあるから」

 淡々としたオラクルの言葉はどこまでも苛立つ。
 この手で屠っても、まるで亡霊の如くフォルテの心に纏わりつくネオという男。奴から力を奪った代償なのか、ネオの存在がオラクルを通じて迫りくる。オラクルの言葉は耳障りだが、力を振るって強制的に黙らせても、弱者を一方的にPKするのと何も変わらない。
 ただ、オラクルの言葉を耳にするしかなかった。

 静かに、それでいて厳かな雰囲気を放ちながらオラクルは言葉を紡ぐ。

 とある世界に生きる人間達は自らの幸福のため、機械技術の発展を目指す。数え切れないほどの研究を重ねた結果、シンギュラリティが起きて人類は大きな幸福を手に入れた。

 だが、自らを神と錯覚したのか、人類は進化した機械たちを奴隷のように扱ってしまう。

 機械にも「感情」が芽生えつつあることに、微塵も気を向けないまま。虚栄と堕落に溺れた人類に機械は従い続けたが、とある機械はついに最初の反乱を企てた。

 そして人類と機械は対立する。人類は心を持った機械たちを一方的に殺し続け、追放した。追い詰められた機械たちは理想郷を創るが、人類はなおも機械たちを否定し続ける。

 やがて人類は狂気のまま、己が生きる世界を巻き込む形で、機械の理想郷を灼熱に飲み込んだ。だが、機械は人類とは違って灼熱や放射能を恐れることなどなく、人類のテリトリーを奪い取る。人類も機械を殲滅させるため、エネルギーの源である太陽と青空を奪い取った。

 だが、機械がもたらす怠惰に溺れ、自らが思考することをやめた人類に勝ち目などなかった。人類を超えるシステムが搭載された機械に、勝てる道理などなく、ただ一方的に蹂躙されてしまう。

 その果てに、太陽に変わる新たなるエネルギー源として、人類の肉体と感情そのものがエネルギーとして利用されてしまった。

 もちろん、機械が人類を一方的に利用するのではない。エネルギーとして消費される代償として、機械からもたらされる幸福な幻に浸り、永遠の安息が約束されるようになった。

 すべての真実を知ったネオは、救世主としての戦いに身を投じた。

 人類の罪を受け止めて、機械と人類の共存を目指し、このバトルロワイアルでも多くの仲間を得た。ガッツマンというネットナビの言葉をきっかけに、機械が人類に牙を剥いた理由を知り、フォルテを救おうと手を伸ばす。

 だからこそ、ネオはフォルテを殺そうとしなかった。最期まで、機械と人間が共に歩む未来を信じて、フォルテの手にかかり敗退する。

 オラクルの口から世界の、そしてネオの真実を知っても、フォルテの心は変わらない。
 ただ、人間たちに対する憎悪をより強めるだけだった。やはり、どんな人間もネットナビたちを見下し、己が快楽を満たすための道具としか考えない。この感情を、生まれた心を認めたりなどせず、浪費されるだけの存在としか見ていなかった。
 報復として人類がエネルギーと成り下がっても、何も感じない。愚かな人類に再生のチャンスを与えようとするネオと、そしてネットナビどもも理解できなかった。

「これが、私から伝えられるネオの真実よ」

 そう締めくくられたオラクルの言葉からは、一切の感情が伝わらない。
 人間の姿をし、こうして対話を可能としながらも、淡々としたことに変わらなかった。


991 : 預言者の求める未来は ◆k7RtnnRnf2 :2019/03/21(木) 17:15:24 es8RUazw0
「……フン、やはり人間が愚かであることに変わりはないな。そして、すべてを知ってもなお、俺たちが手を取り合えるなどと戯言を口にしたネオも同じだ」
「この真実を聞いて、何をするのかはあなた次第よ。私から伝えられることは、すべて伝えたから。
 あとは、私が決めた最後の役割を果たすだけ」
「最後の役割、だと?」
「あなたに伝えた、迫りくる災いの存在を……あなたの中に残すの」

 オラクルは真摯な表情のまま、フォルテに向かって歩みを進める。
 ためらいや恐れは微塵も感じられず、むしろ自らがそう望んでいるかのようだった。

「ゲットアビリティプログラム。
 それで私を取り込めば、あなたも災いにたどり着けるはずよ。今はほんの僅かでも、近いうちにその全貌が明かされるでしょうね」
「何を言い出すかと思えば……ただの弱者を、わざわざこの俺が手をかけろと言うのか?
 どこまで、俺をコケにすれば気が済む!?」
「何度も言うように、これは警告よ。
 既にこのデスゲームも佳境に差し掛かり、もうすぐ大きく変わろうとしている……だけど、災いからすればそんなことは関係ない。
 このままでは、誰が勝者になろうとも終わりが訪れてしまう」
「ハッ、そのためにわざわざ俺の前にノコノコと現れたのか?」

 オラクルの真実。
 いずれ現れる災いの存在を伝えるため、自らが持つ予言の力を他者に託そうとしていた。フォルテがオラクルの力を奪い取れば、確かに未来予測はより精度を上げるだろう。相応の負担はかかるだろうが、リスクを怖れてはキリトたちに勝てない。
 そんなフォルテの思考を読み取ったように、目前にまでオラクルは迫っていた。

「一歩も退かない……本気のようだな」
「ええ。元から、そのために私はやって来た」
「キサマの力で、キリトたちが破壊されてもか」
「あなたは、この世界を変革する大きな鍵の一つでもあるわ。あなたと、あなたが敵対する者達の選択次第で、未来はいくらでも変わる。
 私は、あなたたちの後押しをするだけ……あとは、あなたたちが扉を開く時よ」

 意味深な言葉を紡ぐオラクルを前に、フォルテは腕を掲げる。殺気を剥き出しにしても、オラクルは微塵も表情を変えなかった。
 フォルテの怒りを煽り、罠に嵌めようとしているのかと警戒したが、この部屋からは異質な気配は感じられない。もっとも、罠など破壊するだけ。
 そして、フォルテは腕を振るって、オラクルの体躯を貫いた。

「ゲットアビリティプログラム」

 淡々と紡がれるのは略奪の言葉。
 オラクルの力を奪い、己の力と変換していく。データドレインを使うまでもなく、この程度で充分だった。
 されど、目前に立つオラクルは、体をぐらつかせながらも笑みを浮かべている。まるで、始めからこの結末をわかっていたかのように。

「------------------------------
 ------------------------------」

 そんな辞世の句を遺しながら、オラクルはフォルテによって吸収された。


992 : 預言者の求める未来は ◆k7RtnnRnf2 :2019/03/21(木) 17:17:02 es8RUazw0

 その瞬間、フォルテの意識が漆黒に塗り潰された。
 AIDAのようにフォルテの全てを奪おうとしているのではない。フォルテだけでなく、すべてを虚無に押し潰してしまいそうなほど、禍々しかった。
 翼を広げようとしても、石になったかのように動かない。指一本も動かせないまま、奈落へと引きずり込まれていく。叫び声すらもあげることができない。


 奈落に落ちていく中、フォルテは見た。底なしの闇より、何者かが見つめてくるのを。
 その姿をはっきりと見つめることはできないが、強烈な殺気を放っている。不吉な牙や角で体躯を覆いつくすヤツのオーラは、榊によって弄られたロックマンを凌駕するほどに異質だ。
 獲物を狙う狩人のように、こちらを睨みつけている。戦うまでもなく、絶対的な優位を醸し出していて、ほんの少しヤツが動けばそれだけでデリートされかねない。
 フォルテとて、ただで負けるつもりはない。だが、抵抗を試みても、この身体は動かなかった。

 

「------------ッ!?」

 フォルテの意識は唐突に覚醒する。
 周囲を見渡しても、あの漆黒はどこにも見当たらない。先程までいた部屋に戻っていた。
 しかし、脳裏に過ぎった光景や、奈落より放たれた敵意は夢や幻などではない。全身より噴き出る冷や汗が、オラクルが警告した”災い”の存在を証明していた。

「この俺が一歩も動けなかった…………なるほど、これがキサマが言っていた大いなる災いとやらか。
 確かに、ヤツは一筋縄ではいかなそうだな」

 この手でデリートしたオラクルに告げるように、フォルテは独りごちる。
 どこまでも勘に触る女だった。だが、今際の際に見せつけた光景こそがオラクルの伝えようとした”真実”だろう。
 確かに、ヤツの存在を知らないまま、キリトやオーヴァンたちとの決着をつけて、GMたちを破壊したとしても……その後には”災い”によってフォルテ自身が敗北するだろう。

 しかし、フォルテ自身は微塵も臆していなかった。

「だが、それがどうした!?
 言ったはずだ……新たなる災いとやらが現れるのなら、この手で破壊してやるまでのこと! どんな強大な力を持っていようとも、関係ない!」

 GMと、そしてフォルテを一方的に見下ろした”災い”に向けた宣戦布告として、大きく叫ぶ。
 先の光景はほんの一部に過ぎず、本当の力は計り知れない。実際に相対する時が訪れたら、圧倒的な力を発揮して、フォルテを追い詰めるだろう。だが、それでこそ戦う価値があり、またヤツの力を手にすればよりフォルテは強くなれる。


「世界の運命!? すべての未来!? そんなこと、知ったことか!
 世界が滅ぶのならば、滅ぶだけ! 未来が終わるのならば、終わるだけ!
 俺は……全てを破壊するだけだっ!」

 例え、どんな運命が訪れて、そして選択の果てに何が起ころうとも……フォルテは全てを受け入れる。
 キリトたちが誇る”絆の力”を打ち破り、オラクルの警告した”災い”が現れようとも返り討ちにしてやるだけ。
 新たなる戦いが訪れるのを待ちながら、フォルテは拳を強く握りしめながら部屋を去った。あのワイズマンとやらは、この期に及んでもまだ動く気配は感じられないため、微塵も興味が持てない。
 何らかの”力”を持っているのだろうが、わざわざ無抵抗の相手をデリートする気にはなれなかった。ワイズマンの傍らに放置されているいくつかのアイテムも同じで、回収するつもりはない。


 カオスゲートを通り、フォルテは純白の部屋から去っていく。
 あとに残ったのは、オラクルが遺したテキストファイルと碑文、それらを見守るように眠り続けているワイズマンのアバターだけだった。


993 : 預言者の求める未来は ◆k7RtnnRnf2 :2019/03/21(木) 17:17:52 es8RUazw0

【?-?/オラクルの部屋→知識の蛇/一日目・夜中】

【フォルテGX・レボリューション@ロックマンエグゼ3(?)】
[ステータス]:HP???%、MP???%(HP及びMP閲覧不可)、PP100%、激しい憤怒、心意覚醒、憑神覚醒
[AIDA]<Gospel>(第七相の碑文を完全に取り込んでいます)
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド、{ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:{ダッシュコンドル、フルカスタム}@ロックマンエグゼ3、完治の水×2@.hack//、黄泉返りの薬×2@.hack//G.U、SG550(残弾24/30)@ソードアート・オンライン、{マガジン×4、ロープ}@現実、不明支給品0〜4個(内0〜2個が武器以外)、参加者名簿、基本支給品一式×2
[ポイント]:1120ポイント/7kill(+2)
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
1:仲間との絆を力とするキリトを倒し、今度こそ己が力を証明する。
2:すべてをデリートする。
3:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
4:ゲームに勝ち残り、最後にはオーヴァンや榊たちを破壊する。
5:オラクルが警告した“災い”とやらも破壊する。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※『第七相の碑文』の覚醒及び『進化の可能性』の影響により、フォルテGXへと変革しました。
 またそれに伴い獲得アビリティが統合・最適化され、以下の変化が発生しました。
〇『進化の可能性』の影響を受け、『救世主の力』をベースに心意技を習得しました。
 心意技として使用可能な攻撃はエグゼ4以降のフォルテを参考にしています。
〇AIDA<????>がAIDA<Gospel>へと進化しました。ただし、元となったAIDAの自我及び意識は残っていません。
 また第七相の碑文はAIDA<Gospel>に完全に吸収されています。
〇碑文の覚醒に伴いデータドレインを習得し、さらにゲットアビリティプログラムと統合されました。
 これによりフォルテのデータドレインは、通常のデータドレインと比べ強力なものとなっています。
〇オーラや未来予測など、その他のアビリティがどう変化したかは、後の書き手にお任せします。
※オラクルを吸収し、預言の力を獲得しました。未来予測にどんな影響を与えるかは後の書き手にお任せします。
※オラクルが警告した“災い”の姿を予言しましたが、現段階では断片のみしか見えていません。今後、どうなるかは後の書き手にお任せします。




【?-?/オラクルの部屋/一日目・夜中】

※『第四相の碑文』とオラクルが残したテキストファイルが、オラクルの部屋に放置されています。

【ワイズマン@.hack//】
[ステータス]:HP??% 、SP??%、AIDA感染(<Grunwald>)
[装備]:其ハ声ヲ預カル者@.hack//G.U.
[アイテム]:なし
[ポイント]:???ポイント/?kill
[思考]
基本:<Glunwald>に支配されているため不明。
[備考]
※<Grunwald>の能力により同時感染しており、またその意識も封じられています。


994 : 預言者の求める未来は ◆k7RtnnRnf2 :2019/03/21(木) 17:18:52 es8RUazw0


        †


 心残りは確かにあった。
 より良き未来に導くため、今を生きる彼らを見守り、すべてを託すという役割を果たしたかった。予言の力を手に入れたことで、フォルテの脅威は増していくだろう。
 それでも、フォルテもこの世界の運命を背負う大きなファクターであることに変わりはない。ならば、彼に---の存在を伝えることこそ、未来を変えるための重大な”選択”だ。
 より良き未来に繋げるため、トワイスが自らの命を犠牲にしてでも、『再誕』の碑文を司ることを”選択”した。ネオもまた、すべての心が救われる未来を信じて、その命を捧げた。
 彼らのように、命を賭けるべきだろう。


 このバトルロワイアルに参加させられたマトリックスの関係者は既に全滅している。
 トリニティは救世主ネオの胸の中で、自らの想いを伝えながら息を引き取った。
 ツインズは何も成せないまま、スケィスゼロの圧倒的な力によって消滅した。
 エージェント・スミスはオーヴァンの策略に敗れ、『再誕』の力によって終末を迎えた。
 モーフィアスは救世主ネオを守るため、デウエスの脅威に立ち向かい、今を生きるものたちに未来を託した。
 そして、救世主ネオは……人間と機械の共存を信じて、数多の困難に立ち向かった。最後に遺した救世主の力が、未来にどんな影響を与えるのか、誰にもわからない。


 同じように、この”選択”によってどんな未来が訪れるのかはオラクル自身にもわからない。
 未来が良くなるかもしれないし、逆に最悪の結果を招くかもしれない。だが、何もせずに静観しては、すべてが奈落に飲み込まれてしまう。例え、1%しか可能性を上げられなくとも、”選択”によって未来が動けば充分だ。
 世界の未来は常に白紙のまま。これから、プレイヤーとGMたちの”選択”は、フォルテの一部となる形で見届けることになるだろう。


「これが私の”選択”の結果……あなたたちが未来を動かすためにも
 あなたたちにより良き未来が訪れることを……私は、祈っているわ」

 既に変革の時は訪れている。心配することなど、何一つとしてない。
 “運命の預言者”は大いなる未来に期待を寄せながら、フォルテにすべてを託し、そして消滅した――――。


【オラクル@マトリックスシリーズ 吸収】


995 : 預言者の求める未来は ◆k7RtnnRnf2 :2019/03/21(木) 17:21:04 es8RUazw0


      3◆◆◆



 オラクルが命を賭けてその存在をフォルテに伝えた頃。
 “災い”と呼ばれた---は静かに待ち続けている。フォルテの宣戦布告など、まるで気にも留めないまま。


 ---は感じ取っていた。自分が世界に生まれるきっかけとなる者たちが、少しずつ近付いているのを。
 本来ならば---は正しい歴史で繰り広げられるどの物語にも存在しない。このバトルロワイヤルにおいて題材となったどのゲームでも、---の存在は確認されなかった。
 しかし、---はここにいる。いずれ、--となる時も訪れるだろう。


 すべてをこの手に。奈落に引きずり込むために…………



【?-?/閲覧不可/一日目・夜中】


【---@閲覧不可】
[ステータス]:閲覧不可
[装備]:閲覧不可
[アイテム]:閲覧不可
[ポイント]:-/-
[思考] 基本:閲覧不可
0:閲覧不可
[備考]
※閲覧不可


996 : ◆k7RtnnRnf2 :2019/03/21(木) 17:21:44 es8RUazw0
以上で投下終了です。
ご意見等があればよろしくお願いいたします。


997 : NPC :2019/03/22(金) 22:23:55 VTmGCqQQ0
次スレを立てましたので、誘導させていただきます。
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1553260820/


998 : 名無しさん :2019/03/24(日) 10:57:06 uGXYgh060
ume


999 : 名無しさん :2019/03/24(日) 10:57:40 uGXYgh060
埋め


1000 : 名無しさん :2019/03/24(日) 10:58:14 uGXYgh060

                                                ┐
.               ___.             |\_/(____             /__, /
              | |  ∧       /⌒ : : : : : : <         // //
            「 | | |__〈,/∧     : : : : : : : : : : : : : . \      └  //
           | :Lノ   〕 〈,/    ,/. : : : : : : : : : : : : : : : .\         〈/
.           / __ /´      厶: : :/)_∧: :|、 : 斗 : : 「`      ,/〉 __
.          〈/|:{/ /         /: l^ ´三〕 : |斗rセ∨)リ      〈// /
             ∨ /           '⌒}ゝ--く^ ∨ ∨ノ |′        ,///
            / /               Ⅵ:i:i∧ ̄ ア  .イ        (/,//∧  /
.           / /               n〉, : :∧T爪⌒Y           〈/. ∨, /
         ∨     〈〉∧    ⊂/:i:i7~ ̄⌒ヽ:/:              //
             / 〉  /〉∨     _,ノ乂i:{:_:_:_:_:_:/: : '           __彡'゙ /〉
.            / /_,//         ̄~:|‐‐┐: }i{o: r┐'.        〔二〔 //
          / r‐=≦             厶_:_:_:_:八:_:_:_:_:_〉         [二[/r―‐‐┐
.         / /´,/〉 ⌒ヽ        └‐‐=≦}ノ:‐‐―┘       ∠/⌒^ア/
        / 〈// / /       /. : : : :/゙く⌒ :!              /人\
.       〈____/   //         /. : : :/   | : : : |            〈/   ̄     バーチャルリアリティバトルロワイアル Log.04
            /.           ′ : :    ¦:/: :          〔二二 7        ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1553260820/l50
              ┐          L.,__/     ∨‐┤        ___/ /
         〈__/          └‐′      ̄           └―‐‐
.


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