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変身ロワイアルその6
844
:
80 YEARS AFTER(4)
◆gry038wOvE
:2018/02/20(火) 02:45:16 ID:gooP8PFs0
【『探偵』/異世界移動】
花華が躊躇なくそのオーロラの向こうに突き進んだ時、おれはまったく躊躇せずにその後を追っていた。
一応、一番傍にいた保護者としての責任だと思ったのだ。知り合いでもあるし、元々依頼ではなく「私的手伝い」とした理由も「鳴海探偵事務所の存続にとって不可欠な家系の人間だったから」だとするのなら、彼女がおれの視界で危うい目に遭っているのを見過ごさないのも筋だろう。
自分の力でオーロラを出せる人間は珍しく、あまりに怪しい物であったが、それが異世界を渡る際の化学反応のひとつなのは中学校の理科の授業で習っている。あまり詳しく勉強する事などなかったが、今や異世界移動の際には一瞬のオーロラを目にするのは珍しい事ではない。
しかし、よく言われるように綺麗な反応には思わなかった。
おれはむしろ、その狭間に見える世界が谷底のように恐ろしく見えた。誰も知らない場所にいざなわれるような気がしてならなかったからだ。
今回の場合も、オーロラの中に来てしまっていた事を既に後悔している。
この先に何があるのか、おれはわからないままに異世界に来てしまった。
少女の正体もわからない。
そのうえ、黒猫に変身しているときた。
「もう一度訊くが……きみの名は? どこに行くつもりなんだ」
黒猫に聞いてしまった。
猫に話しかけるのは、ちょっとばかり異常だ。……と思ったが、振り返れば、おれは普段からよくやっていた。
尤も、返事を期待するのは初めてだが。
すっかり謎の少女は、黒猫の姿としてオーロラの中を歩いている。彼女は、まったくこちらを見ようともしない。
こんな奴についていくのは不安だが、花華は妙に肝の据わった様子で前を歩いていく。
猫と話していても仕方がない。おれは、人間である彼女の方に意識を向ける事にした。
「なあ、花華、きみは気にならないのか? 人間が猫になったんだぞ」
「……そういえば、探偵さんはあまりその辺りの文化が入ってきてない世界の人でしたね。別世界だとこういった変身魔法はそんなに珍しくないですよ」
「――ああ、そうだったな、それはわかってる、確かに人間から猫になれる奴はいるな。だが、猫に変身できる人間がいるとして、きみの名前を知って植物園に追いかけてくる事もなければ、オーロラを出す事もないし、正体を明かさずに因果律の話をして異世界に誘いに来る事もない。もっと言えば、管理反応のない異世界に行く事もできないだろうな。きみならどうする、この状況でついていくか?」
もはや彼女の性格は常識がないと割り切っている。
直前まで泣きそうだった彼女は、あまりにも毅然とした顔つきになっており、逆におれの方が泣きそうな気持ちになっていた。まだヤクザとの戦いの方がわかりやすい暴力だから自分の身を守れる確率がある。
彼女はヤクザどころか、この状況でも物怖じしないというのなら、それはおれよりはるかに心が強い事と云えるだろう。
今、万が一、少女が何かのおれたちに不利益な目的を持っていたなら、このままどこかの世界で神隠しだ。
「……確かに怪しいですけど、こういう事象を解決するのが、私たちの仕事です」
「中学生のアルバイトだろう」
「でも、今の世界を支えるうえでは、私みたいに超常的な力を持つ人間の行動が必要なんです。今の状況下、彼女が時空犯罪者ならば撃退に踏み切るべきです」
「それなら、時空管理局に所属する組織人として、向こうにきっちり許可をもらってから行動しろ。許可されないだろうがな」
「だから、今こうして勝手に進んだんです」
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