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中学生バトルロワイアル part6

624 ◆7VvSZc3DiQ:2016/11/03(木) 22:57:59 ID:ju7RNNqk0
代わりに口をついたのは、初春がこの場所に来て初めて出会った人物の名前だった。桑原和真と名乗った、とても未成年には見えない老け顔の少年の名だ。
初春が初めて彼を見たとき、やけに慣れた手つきでホームセンターの品物を根こそぎバッグに詰め込もうとしていたことを思い出す。
強面でガサツで、非常事態なら多少の犯罪行為だって大目に見てもらえるだろうという適当な倫理観を持っていて、けっして善人だといえるような人物ではなかったけれど。
不安を隠せなかった初春にかけてくれた彼の言葉の端々には、いかつい外見には似合わない優しさが見え隠れしていた。勘違いされやすいだろうけれど、根は悪人じゃないだろうなと感じていた。

「桑原? もしかして、桑原和真のことか? ……そうか、お前が桑原を殺したのか」
「っ……!」

そうだ。初春飾利は、桑原和真を殺した。それも、もっとも苦痛に満ちた死に方の一つと言われる焼死によって。
初春に支給された火炎放射器から発射された炎は、一瞬で桑原の頭部にまとわりついた。彼がごろごろと転がって火を消そうとしても、炎の勢いは衰えることがなかった。
やがて激しく暴れ回っていた桑原の身体はびくんびくんと痙攣をし始めて、最後に一度だけ大きく跳ねて、それっきり動かなくなった。
炎に反応して作動したスプリンクラーがわずかに残っていた火を消し止めて、真っ黒になった桑原の頭部が露わになった。そこには、何の表情も浮かんではいなかった。

初春はあの陰惨な光景を忘れることができない。映像だけではない。肉が焦げるあの臭いも、耳をつんざくような桑原の叫びも、何一つとして忘れ去ることなどできやしなかった。
いや、忘れてはいけない。初春飾利は桑原和真を殺したという罪と共に、あの光景も一生背負っていかなければならないのだから。

「あなたは……桑原さんのお知り合いだったんですか?」

だから、訊かなければならない。もしも目の前の少年が桑原和真の知り合いだったとしたら、初春は彼に謝らなければならない。
今にも機能停止しそうな身体を奮い立たせて、初春は立ち上がった。痛い。痛すぎる。もしかしたら骨の一本や二本は折れているかもしれない。
だけど、寝転んだままでいるわけにはいかなかった。痛みを懸命に堪えながら、初春は毅然とした視線を御手洗へ向け、自らの罪を告白する。

「あなたの言うとおりです。――私が、桑原さんを殺しました」
「……お前が思っているとおり、僕は桑原のことをよく知っている」

初春の告白を聞いた御手洗は、やっぱりな、と吐き捨てた。その視線に込められていたのは軽蔑。
御手洗の目に射竦められたように感じて、初春は身体を強張らせた。続けなければいけないはずの言葉が浮かんでこなくなった。
初春がいくら言葉を重ねたところで、桑原和真を殺したという事実は覆らない。桑原和真が生き返るわけでもない。かえって御手洗の神経を逆撫でするだけかもしれない。
それでも、御手洗が桑原のことをよく知る人物であったというならば。言わなければならない言葉がある。

「……すみません。ごめんなさい。……こんな言葉じゃ足りないことは分かってます。でも――」
「謝る必要なんかないさ」

しかし、必死に紡ごうとした初春の言葉は、御手洗の声によって制止されることになった。
薄明かりに照らされた御手洗の表情に浮かんでいたのは、冷ややかで酷薄な笑みだった。

「アイツは、僕の標的(ターゲット)だった。お前が殺さなくても、いずれ僕が殺していただろうな。だから今は、あえてこう言わせてもらおうか。
 ――『ありがとう』。僕の手間を省いてくれて。この世界から人間を一人減らしてくれて。
 アイツを殺した気分はどうだった? やっぱりお前も、あのビデオに映ってたヤツらみたいに笑いながら桑原を殺したのか? なぁ?」

御手洗から初春へ贈られたのは、感謝。そして追及の言葉だった。


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