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新西尾維新バトルロワイアルpart6

1名無しさん:2013/06/10(月) 21:34:44 ID:r8aCgNWo0
このスレは、西尾維新の作品に登場するキャラクター達でバトルロワイアルパロディを行う企画スレです。
性質上、登場人物の死亡・暴力描写が多々含まれすので、苦手な方は注意してください。


【バトルロワイアルパロディについて】
小説『バトルロワイアル』に登場した生徒同士の殺し合い『プログラム』を、他作品の登場人物で行う企画です。
詳しくは下の『2chパロロワ事典@wiki』を参照。
ttp://www11.atwiki.jp/row/


【ルール】
不知火袴の特別施設で最後の一人になるまで殺し合いを行い、最後まで生き残った一人は願いが叶う。
参加者は全員首輪を填められ、主催者への反抗、禁止エリアへの侵入が認められた場合、首輪が爆発しその参加者は死亡する。
六時間毎に会場に放送が流れ、死亡者、残り人数、禁止エリアの発表が行われる。


【参加作品について】
参加作品は「戯言シリーズ」「零崎一賊シリーズ」「世界シリーズ」「新本格魔法少女りすか」
「物語シリーズ」「刀語」「真庭語」「めだかボックス」の八作品です。


【参加者について】

■戯言シリーズ(7/7)
 戯言遣い / 玖渚友 / 西東天 / 哀川潤 / 想影真心 / 西条玉藻 / 時宮時刻
■人間シリーズ(6/6)
 零崎人識 / 無桐伊織 / 匂宮出夢 / 零崎双識 / 零崎軋識 / 零崎曲識
■世界シリーズ(4/4)
 櫃内様刻 / 病院坂迷路 / 串中弔士 / 病院坂黒猫
■新本格魔法少女りすか(3/3)
 供犠創貴 / 水倉りすか / ツナギ
■刀語(11/11)
 鑢七花 / とがめ / 否定姫 / 左右田右衛門左衛門 / 真庭鳳凰 / 真庭喰鮫 / 鑢七実 / 真庭蝙蝠
真庭狂犬 / 宇練銀閣 / 浮義待秋
■〈物語〉シリーズ(6/6)
 阿良々木暦 / 戦場ヶ原ひたぎ / 羽川翼 / 阿良々木火憐 / 八九寺真宵 / 貝木泥舟
■めだかボックス(8/8)
 人吉善吉 / 黒神めだか / 球磨川禊 / 宗像形 / 阿久根高貴 / 江迎怒江 / 黒神真黒 / 日之影空洞

以上45名で確定です。

【支給品について】
参加者には、主催者から食糧や武器等の入っている、何でも入るディパックが支給されます。
ディパックの中身は、地図、名簿、食糧、水、筆記用具、懐中電灯、コンパス、時計、ランダム支給品1〜3個です。
名簿は開始直後は白紙、第一放送の際に参加者の名前が浮かび上がる仕様となっています。


【時間表記について】
このロワでの時間表記は、以下のようになっています。
 0-2:深夜  .....6-8:朝     .12-14:真昼  .....18-20:夜
 2-4:黎明  .....8-10:午前  ....14-16:午後  .....20-22:夜中
 4-6:早朝  .....10-12:昼   ...16-18:夕方  .....22-24:真夜中


【関連サイト】
 まとめwiki  ttp://www44.atwiki.jp/sinnisioisinrowa/
 避難所    ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14274/

2 ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:50:25 ID:uvaupV5I0
予約分投下します

3Let Loose(Red Loser) ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:51:24 ID:uvaupV5I0
 0


やり直しはできません


 4


何がいけなかったのだろうか。

どこで間違ってしまったのだろうか。

どうしてこうなってしまったのだろうか。

人類最悪と行動を共にしてしまったことだろうか。

山を登った先で人類最悪と出遭ってしまったことだろうか。

喫茶店で会った一人か二人に着いていかなかったことだろうか。

あの異常(アブノーマル)な彼女と接触してしまったことだろうか。

最初に出遭ってしまったのが過負荷(マイナス)な彼だったことだろうか。

そもそもこのバトルロワイアルに参加する羽目になってしまったことだろうか。

いや、どれも違う。

日常に嫌気が差し異常を願ったあのときも。

二段ベッドの上で眠りたいと思ったあのときも。

私立上総園学園の時計塔の分針を止めたあのときも。

奇人三人衆の間に割り入り少しずつ狂わせたあのときも。

ふや子さんが僕のことを好きになるよう仕向けたあのときも。

日々音楽室に通ってやがては迷路先輩と将棋を指したあのときも。

それらを積み重ねた結果としてこぐ姉を死なせてしまったあのときも。

その事件を「探偵ごっこ」を申し出た迷路先輩と共に調査したあのときも。

迷路先輩が死んで「犯人」だったふや子さんが崖村先輩に殺されたあのときも。

それら全てを突然僕のもとを訪れたくろね子さんに看破されてしまったあのときも。

きっと僕は間違っていたのだから。

おそらくはもっと前から僕は間違い続けていた。

それが間違いだとわかっていながら訂正しようともせず。

むしろそれを甘受してきた。

甘んじるどころか自ら進んで望んでいた。

異常に臨むために異常を望んだ。

4Let Loose(Red Loser) ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:51:48 ID:uvaupV5I0

結果得られた『非日常』は刹那的なものですぐに『日常』に戻り、『異常』に昇華することはなかった。

だから再び異常を望み、ついにこぐ姉を殺して獲た特大の『非日常』も一ヶ月足らずでまた元通り。

いつまで経っても、どんな手段を用いても囲われた世界から脱することはできなかった。

このバトルロワイアルだって、最初こそ戸惑ったけど実際に12時間以上を過ごしてしまえば異常も異常ではなくなる。

ああ、だからか。

端的に言えば油断していたのか、僕は。

最初こそ警戒していたのに、打ち解けてしまって。

隣にいることを許容してあまつさえ会話もしてしまって。

これは報いなのだろうか。

今までやり過ごしてきたことへの。

それとも罰なのだろうか。

これまで見過ごしてきたことへの。

もしかしたら救いなのかもしれない。

ただ、そうだとしたら随分と優しい救いなんだなと思う。

やっと、やっとだ。

本当は何が欲しいかほんの少しだけわかった気がする。

でも、気付くのが遅すぎた。

きっと早く気付いていたとしてもどうしようもなかったのかもしれないけれど。

やがて痛覚が認識を拒否する程の痛みに抱かれて僕の意識は薄れていく。

今まで出会った人の顔が浮かんでは消え、最後に浮かんだのはこぐ姉の笑顔だった。

――こぐ姉、これより不肖の弟が会いにいきますよ。


【串中弔士@世界シリーズ 死亡】


 1


竹取山を抜けると、そこは平原だった。
狐さんの持つ首輪探知機はエリアの境界線も表示してくれるようになっていたので、僕達が無事に禁止エリアを抜けられたことを確認できた。
……なんであのときも活用しなかったのだろうと思ったけど、時間まで5分しかなかったからそれどころではなかったし。
ポルシェが爆発したし。
山火事も発生したし。

「……ちっ、もたもたしているうちに見失ったか」

狐さんが探知機の画面を見ながら舌打ちする。
どうやら、下山している間に会おうと思ってた人達が探知機の範囲より外に行ってしまったようだ。

5Let Loose(Red Loser) ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:52:26 ID:uvaupV5I0
当然だが探知できる範囲には限界があって、それは探知機を中心とする1エリア分だけらしい。
つまり、エリアの中心にいればそのエリア全域を把握できるけど、例えば東に向かったらそのエリアの西は探知できなくなる。
裏を返せば隣のエリアの東側を探知できるわけだから、そう不便なものでもないけど。

「どうするんですか?せっかくE-7に入ったのに」
「『せっかくE-7に入ったのに』――ふん。俺が会おうと思っていた無桐伊織と櫃内様刻は今から見つけるのは少し骨が折れる。
 点が動く速度もそこまで早いものでもなかったし確かに今から追うことも不可能でもないだろう。
 だが、おそらくは俺とそいつらが近いうちに出会うことはない、そういう運命だ」
「そうですか……」

狐さんには聞こえないように溜め息をつく。
何度聞いても狐さんの話はわからないところがあるし、こうやって流す方が手っ取り早い。
また馬鹿にされたように笑われるよりは賛同するふりでもしておいた方がいいということをいつの間にか学んでいた。
もしくは、慣れていたと言った方が正しいのかもしれない。

「代わりと言ってはなんだが、貝木泥舟とかいうやつに会いに行くぞ」

僕のことも鳳凰さんのことも気にかけず勝手に次の方針を決めていた。
『近いうちに出会うことはない』ってそういうことか。
しかし、大丈夫なんだろうか。
もし、鳳凰さんとは違って見境なく襲ってくるような人だったらどうしようもないんじゃ……
あ、でも今は鳳凰さんがいるんだった。
危険なことには変わりないけど、他の人に狐さんを殺されるくらいなら、みたいな考えはしていてもおかしくないし。
……僕の安全が一切保障されていないんだけど。
うーん、これはまずいことになる前に逃げることも選択肢に入れておいた方がいい気がする。
とは言っても今の僕の装備は武器といったら包丁しかないしこの状況で逃げるなんて行動を取ったらそれこそ死亡フラグだ。
この近くだと不要湖ってとこが地図に載ってる場所だけどそこで何かの収穫があるとは到底思えないし。
それだったら狐さんの残り1つの支給品を――そうだ。

「そういえば鳳凰さんは使えるものはないんですか?」
「支給品のことか?言われてみれば我と虚刀流のものは確認していたが否定姫のものはまだであったな」
「え、3人分もあったんですか」
「おい、その虚刀流ってのはなんだ」

もしかしたらいらない武器を譲ってもらえるかもと思った矢先、狐さんが口を挟んできた。
こうやってすぐに食いつくあたり、狐さんは好奇心旺盛な性格をしているよな……
それに伴う行動力がとんでもないから厄介なんだけど。

「虚刀流を知らぬのか、狐面」
「『虚刀流を知らぬのか、狐面』――ふん。知らねえから聞いているんだろうが。お前の知っていることを教えろ、鳳凰」

……とても教えを乞う態度じゃあない。


 2


「刀を使わない剣士、か。そいつはおもしれえ。是非とも会ってみたいものだ」
「忠告しておくが、其奴は人間でありながら刀のような存在だ。我と違って懐柔できるなどと思わぬ方がいいぞ」
「『我と違って懐柔できるなどと思わぬ方がいいぞ』――ふん。懐柔なんざする必要はねえよ。それ以外の手段はごまんとある」

鳳凰さんから虚刀流について聞いた狐さんは満足げに漏らした。
剣士なのに刀を使わないなんて本末転倒な気もするけど、成り立っているというのなら部外者が口出しをするのは筋違いというものだ。
それよりも、大幅に話が逸れていってる方が僕にとっては問題なんだよなあ。
別に今すぐ支給品が欲しいってわけじゃないけど、また聞くのはがっつくようでやりにくいし。

「ああそうだ鳳凰、お前の持ち物見せてみろよ。お前には扱えなくとも俺なら使えるものがあるかもしれねえぞ」

と思ったら狐さんが聞いてくれた。
もちろん僕のことを察したわけじゃなく、さっきの会話で支給品のことに触れたのを思い出しただけだろうけど。

6Let Loose(Red Loser) ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:53:02 ID:uvaupV5I0

「確かに1つ使い方が不明瞭なものがあったな。それがお主にも使えるとは限らんが」
「ごちゃごちゃ御託並べてねえで出してみろよ、現物を見ねえとどうにもならん」
「む……」

狐さんの言い方に渋々というかやや投げやりな感じで鳳凰さんが取りだしたそれは僕でも普通に扱えるものだった。
そしてそれを見た狐さんは――

「だっはっはっはっは!ノートパソコンの使い方がわからねえたあ現代じゃあやってけねえぜ?弔士だってネットに繋ぐくらいはやってのけるだろうによ」

凄く小馬鹿にするような調子で笑ってのけた。
……鳳凰さんの顔面が心なしか引き攣ってる。
というかさりげなく僕まで巻き込まないで欲しい。
確かに今の時代パソコンを使えないような人なんて極少数の絶滅寸前危惧種だけども。

「ま、お前が持ってても使えないようなら俺が貰ってやるよ。宝の持ち腐れになるよりはマシだろう?」
「渡すこと自体に不満はないが、それでは我に利点がない。見返りがあるというのならばそれ次第では構わないが」
「そんなに言うなら俺の残りの支給品でどうだ?まずはお前のもんと被りがないか見てからだが」
「狐さん、まだ支給品あったんですか?」
「ねえと言った覚えはねえよ」

うわー。
なんでこの人とことん不快にさせるような言い方しかできないんだろう。
というかそうやって手放せるものなら僕にくれたってよかったじゃないか。

「弔士、お前には使えねえ代物だからいくら欲しがってもお前にはやらねえぞ。なんでも使い手を選ぶらしいからな、そういう意味じゃ鳳凰に持たせた方が適任だ」
「………………」

反論することを僕は諦めた。
その間に、鳳凰さんはデイパックから支給品を出していく。
出てきたのは銃が二丁にけん玉、一升瓶に入った日本酒、トランプ、農作業で使いそうな鎌、そして薙刀と真っ白なシュシュと鉄パイプだった。
それを見て鳳凰さんは「ふむ、虚刀流から貰った鎌よりかは薙刀の方が使いやすそうだな」と呟く。
うーん……この中じゃ銃と薙刀くらいしか使えるものはなさそうだけど、譲ってくれるとは思えないなあ。
鎌や鉄パイプも使えないことはないけどそれだったら包丁で十分という感じだし。
肝心の狐さんの最後の支給品ってなんだったんだろう。
それが鳳凰さんの持ってるものと被ってたらおこぼれを与れるかもしれない。

「ふん、被りはないみたいだな。ついでだからその日本酒、悪くはなさそうだしもらってもいいか?」

更にがっついていた……
まあ、狐さんの話しぶりじゃあ武器のようだしそれとパソコンにお酒の交換だったら鳳凰さんに損はないだろうけども。
というかこの人こんなところでお酒飲むつもりなのか。

「……いいだろう。このような場所で酒を飲むほど我は酔狂ではないのでな」
「じゃあ成立だな。物の価値の釣り合いが取れねえと思ったなら過剰分はボディガードの駄賃代わりとでも思え」

刀身は普通だけど、柄や鍔の装飾は日本刀よりも漫画で出てくるようなデザインに近い、そんな刀。
それが狐さんの最後の支給品、蛮勇の刀だった。
ノートパソコンと日本酒を受け取った狐さんはそれらをデイパックに入れると、抜き身のまま、

「ほれ」

とまるで野球のボールでも扱うかのように鳳凰さんに放り投げた。


 3


あ……ありのまま今起こった事を話そう。
狐さんが刀を鳳凰さんに向かって投げたと思ったらいつのまにかそれが狐さんに刺さっていた。

7Let Loose(Red Loser) ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:53:29 ID:uvaupV5I0
な……何を言っているのかわからないと思うけど僕も何があったのかわからなかった……

「え?」

空気を震わせたその音が僕の口から出た声だと気付くのに時間を要した。
狐さんの手から離れた刀は鳳凰さんに向かわず、まるで変な力がかかったようにくるりと回転して狐さんに向かっていった。
そしてそのまま左胸――何があるかは考えるまでもない、心臓だ――に突き刺さり、ゆっくりと狐さんの体が傾いて、どさり、と小さくもないが大きくもない音が響いた。
手が滑ったとか、手から離れる瞬間に変な力がかかったとかの可能性も考えられるには考えられたけど、なんというか、刀自身の意思で狐さんに向かっていったような――
『使い手を選ぶ』ってまさかこういうことだったのか?
確かに持つことすら拒絶するような刀じゃあ僕には到底扱えないものだし鳳凰さんに持たせようとしたのも納得だけども――
そういえば、鳳凰さんは……?
恐る恐る鳳凰さんの方を見ると僕と同じように茫然と――

「…………ふ」

していない。
感情は顔に表れていないけど、それは呆けてる表情じゃない。
なんというか、嵐の前触れのような無表情。

「あ、あの……鳳凰さん?」

堪えかねて思わず声をかけてしまう。
そして、真庭鳳凰は――

「はははははははははははははははははははははははは!」

力の限り、哄笑した。

「なるほどなるほど確かにお主の言う通りであったよ、狐面。こうして己で己を殺めてしまっては我にはどう足掻こうとも殺すことはできぬ。
 我でなくとも、この場にいる誰であろうとこれからお主を殺すことは逆立ちしてもできん。それこそ我がされたように一度生き返らせでもしない限りな――!」

え……?
『我がされたように一度生き返らせでも』?
まるで『死人を生き返らせる技術』が存在しているような言いぶりじゃあないか――
それが本当なら、名簿にいた迷路先輩は、放送で呼ばれた迷路先輩は、主催の仕掛けじゃなくて本物の……?

「どういうことですか……?生き返らせた、って、」
「お主らには話しておらなかったか。だがそれも気にすることはない、これから死ぬお主にはな」
「腕のことを忘れたわけじゃないでしょう……?」
「それがどうした。狐面の言う通りであったならば、今頃この右腕は主を喪ったことで怒り狂っているだろうに」
「ならパソコンはどうするんですか?あれはあなたには使えるものじゃなかったはず……」
「忍法記録辿りを用いれば不可能ではあるまい。残念だったな、これでお主の利用価値はなくなった」

懸念していた通りになった。
狐さんという抑止力がたった今いなくなった以上、僕を守るものは何もない。
かつて上総園学園にいたときとは違う。
出会って3時間経ってるかどうかという短い時間じゃあ『支配』するにはとても足りない。
頼みの綱だったパソコンを使った交渉は撥ね退けられたし、鳳凰さんが忍者である以上ここで容赦してくれるとは思えない。
もちろん、ここで背を向けて逃げ出したところですぐ追いつかれるに決まってるし打つ手なし、だ――

「さらばだ、少女よ」

そして、鳳凰さんは右腕を振りかぶる。
さっきのように突然暴れだすとは思えない。
疑いの余地なく、これから僕は死ぬのだろう。
なら、せめてもの負け惜しみだ。

「言ってませんでしたけど、僕って男だったんですよ」

言い終わった瞬間、右腕が僕の脇腹を文字通り『ぶち抜いて』いった。

8Let Loose(Red Loser) ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:54:15 ID:uvaupV5I0


 5


「言われてみれば腑に落ちるが、よもや少年であったとはな」

物言わぬ二つの死体の側で真庭鳳凰は嗤う。

「やはり戯言だったか。死霊など――どこにも存在せぬ」

西東天が死んでもなお、平静を保っている右腕に気付いた時点で自由に匂宮出夢の右腕を使えるのではないかという発想に至った。
そして実際に串中弔士を殺してのけたことで発想は確信に変わる。

「して、蛮勇の刀、だったか。……なるほど、これは我でも十全に扱えるものではないらしい」

真庭川獺の左腕で、西東天の胸に刺さったままの刀に触れる。
宇宙創世以前から存在する人外の精製した刀剣はかの真庭忍軍の頭領でも自在に振るえるものではないようだった。
かといって放置しておけないのも事実。
万が一使えるものの手に渡ってしまっては確実に障害になる。
口を開けたデイパックを足元に置くと左腕のみを用い、慎重に刀を引き抜き、デイパックに入れる。
その過程で血がどばっと噴き出たが些細なことだ。
他の支給品は精々包丁くらいしか武器になるものがなかったため置いていくか破壊していくか考えたが、いくら詰め込んでも重さが変わらないのも事実。
少しの間悩んだ末、全て持っていくことにした。
行き先はもう決まっている。
首輪探知機に表示された貝木泥舟の文字と共に表示される光点。
単独でいる以上狙いやすいのは言うまでもない。

「では、行くか。……しかし、結局我はあ奴に勝つことはできずじまいか」

こうして、危険な敗北者は狐の嘘より解き放たれた。


【西東天@戯言シリーズ 死亡】

【1日目/午後/E−7】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態]精神的疲労(小)、左腕負傷
[装備]炎刀『銃』(弾薬装填済み)、匂宮出夢の右腕(命結びにより)
[道具]支給品一式×4(うち一つは食料と水なし)、名簿、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、「骨董アパートと展望台で見つけた物」、
   首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、鎌@めだかボックス、
   薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、首輪探知機@不明、
   チョウシのメガネ@オリジナル×13、マンガ(複数)@不明、三徳包丁@現実、中華なべ@現実、虫よけスプレー@不明、小型なデジタルカメラ@不明、
   応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する
 1:貝木泥舟のもとへ行き、殺す
 2:本当に願いが叶えられるのかの迷い
 3:今後どうしていくかの迷い
 4:見付けたら虚刀流に名簿を渡す
 5:拡声器を使用する?
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません
 ※「」内の内容は後の書き手さんがたにお任せします。
 ※炎刀『銃』の残りの弾数は回転式:5発、自動式9発
 ※支給品の食料は乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※右腕に対する恐怖心を克服しました。が、今後、何かのきっかけで異常をきたす可能性は残ってます。
 ※ノートパソコンの中身、また記録辿りを用いて操作可能かどうかについては後の書き手さんにお任せします。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。

9Let Loose(Red Loser) ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:54:32 ID:uvaupV5I0
 ※探知機の範囲内に貝木泥舟がいるようです

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支給品紹介
【蛮勇の刀@めだかボックス】
西東天に支給。
安心院なじみがスキル見囮刀(ソードルックス)で精製したもの。
使い手を選ぶため、かつて須木奈佐木咲が使用した際はつまずいて球磨川禊の胸に刺してしまった。

【ノートパソコン@現実】
真庭鳳凰に支給。
中にどのようなデータが入っているかは不明。
掲示板にアクセスすることは可能。

【けん玉@人間シリーズ】
真庭鳳凰に支給。
零崎双識の人間試験漫画版に出てくるオリジナルキャラクター花撒小鹿が使用していたもの。
見た目にそぐわず、玉の部分で人間の顎を吹っ飛ばせる威力がある。

【日本酒@物語シリーズ】
鑢七花に支給。
貝木泥舟が北白蛇神社に参拝するときたまに持っていっていたもの。
一升瓶に入った地酒。

【トランプ@めだかボックス】
鑢七花に支給。
赤青黄が(おそらくは)常に持ち歩いている。

【鎌@めだかボックス】
鑢七花に支給。
黒神めだかの婚約者その5、叶野遂が使っていたもの。
夥しく増えることはない。

【薙刀@人間シリーズ】
否定姫に支給。
匂宮の分家、早蕨兄弟の次男、薙真が使用していたもの。

【シュシュ@物語シリーズ】
否定姫に支給。
クチナワさんが変化した姿……ではなく真っ白なただのシュシュ。

【アイアンステッキ@めだかボックス】
否定姫に支給。
与次郎次葉が持つ魔法のステッキ……ですがどう見てもただの鉄パイプです。

10 ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:55:36 ID:uvaupV5I0
投下終了です
これでやっと参加者半分までいきました

誤字脱字指摘感想その他あればお願いします

11名無しさん:2013/06/14(金) 01:05:29 ID:IJTLNUUEO
投下乙です!

鳳 凰 大 勝 利

やっちゃったよwwwやっちゃったよオイwwwwww
原作でも「二階に上げて梯子を外す性格」とか言われてた狐さんだったけど、ここでもご覧の有様だよ!!
あれだけ思わせぶりな台詞撒き散らしておきながらこの最期・・・・・・結局この人何がしたかったんだよwww
その上ついでみたいに殺される弔士くんが不憫でもう・・・・・・この子もわりとカリスマはあったはずなんだけどなぁw
しかし蛮勇の剣、小説でも大概だったけどやっぱりロクな武器じゃないなコレ・・・・・・ある意味安心院さんの責任やで、この惨状

12名無しさん:2013/06/14(金) 21:43:49 ID:.5/T5oD.0
投下乙です

こ れ は 酷 い
言いたい事は既に上で言われているが酷過ぎるぜ(褒め言葉)
ちなみに俺も安心院さんの責任だと思うがあの人は毛ほども気にしないだろうなw

13名無しさん:2013/06/19(水) 19:33:09 ID:LvEZ2Ddo0
投下乙です
リスタート前と言い今回と言い狐さんはうっかりの呪いにでもかかってんのかwww

14名無しさん:2013/07/15(月) 01:10:34 ID:CncfjVQ60
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
126話(+3) 23/45(-2) 51.1(-4.5)

15 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:27:49 ID:sQIyn4fw0
仮投下が問題なさそうだったので本投下します

16拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:28:29 ID:sQIyn4fw0
「七花、この、馬鹿者がっ!」

ふいに怒鳴られておれは我に返る。
ぼんやりとしていた意識を集中させると目の前にいたのはとがめだった。
いつもと変わらない十二単を二重に着たような豪華絢爛な服。
姉ちゃんに切られたことですっかり短くなってしまった白髪。
……ん、いつも?

「なんだ……とがめか。どうしたんだよ急に」
「そなたのその身なりはどういうことなのだ一体!そんなに傷だらけになってしまって……」
「どうしたもこうしたもないだろう」

また細かいところでいちゃもんをつけてくる。
慣れたものだが、やっぱり一々返すのはめんどうだ。

「わたしが最初にあれほど口を酸っぱくして言ったではないか!『そなた自身を守れ』と」
「それのことか……もう守る必要はなくなったじゃないか。だって、とがめが――」

死んじまったんだから――とは言えなかった。
そうだ。
とがめはもう死んでんだ。
右衛門左衛門に撃たれたときと唐突に巻き込まれた殺し合いとで二回。
この殺し合いで死んだのかどうかは本当のことか確かめる術はないけど、右衛門左衛門に撃たれたときは確実に死んだ。
おれが最期を看取ったんだ。
おれがとがめを埋めたんだ。
なら、おれの目の前にいるとがめは、これは『何』なんだ?

「――――全く、気付くのが遅いぜ、鑢七花くん」

にんまりと浮かべた笑いはいつも見ていたとがめの笑顔とは違っていて。

「僕は安心院なじみ。親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼んでくれたまえ」

目の前のとがめがとがめじゃないことをようやくおれは理解した。


  ■   ■


零崎双識が弟である零崎人識と別れてからの数時間、収穫はあったのかどうか――

横転し、更に扉を蹴破られた軽トラックだったが、動かすことはできた。
日本車の頑丈さに感心しつつ、未だ眠っている鑢七花を助手席に乗せる。
後ろ手で縛っているとはいえ、目覚めたときに暴れられては厄介とシートベルトで固定。
あまりいい体勢とは言えないが、双識には相手のことを考える義理はない。
右側がやけに涼しい状態でまずは喫茶店に向かい、要約してしまえば『黒神めだかは危険』と書かれた貼り紙を目撃。
店内もざっと見回したが、人がいた形跡こそあれど、気配は感じられなかった。
そのまま地図では最西に位置する施設である病院へ。
開始直後のテンションであったなら箱庭学園でそうしたようにナース服などを嬉々としながら集めまわったかもしれないが、今の双識にはそのような余裕はない。
ハンガーに掛かっていた『形梨』と名札のついた白衣をスルーし、治療器具などをかき集めつつ院内を捜索する。
こちらは人がいた形跡すら希薄だった。
それは病院に立ち寄ったのが元忍者だった左右田右衛門左衛門で、持ち去ったのがメスと瓶に入った血液のみだったからかもしれないが。
そして、悪刀のおかげで感覚が鋭敏になっている双識だからこそ気付けたのだろうが。
生理食塩水や栄養点滴、果てはピンセットなども収集しつつ、病室から事務所など全ての部屋を見て回ったが、潜んでいる者はいなかった。
七花と共に回収しておいた右衛門左衛門のデイパックの中にあった携帯食料を頬張りつつ一戸建てへ行ったがこちらも多くを語る必要はないだろう。
部屋の隅に寄せられた画鋲、洗面所のゴミ箱に入っていた髪の毛、点けっぱなしだった砂嵐の画面のテレビ――
痕跡だらけではあったが、やはり人間はいなかった。
ふと時計を見て気付く。
人識が連絡を入れると言っていた時間を大きくオーバーしていた。
車が動いたことで時間にゆとりがあると油断し探索に時間を割いた結果がこれだ。

17拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:28:53 ID:sQIyn4fw0
急いでクラッシュクラシックに戻ったが当然、もぬけの殻だった。
彼らが逃げ込むとすれば周囲から見えにくい場所――建物か山の中だろうと考え、施設が集中している西側が可能性が一番高いと双識は判断した。
確かに、彼らは建物に逃げ込んだがそれはクラッシュクラシックの南側に位置していた学習塾跡の廃墟だったことが一つ目の『不運』。
更に、山火事が広がっている現在、元いた場所には戻らないだろうと西東診療所を捜索の対象から外してしまったことが二つ目の『不運』。

――結果、真庭蝙蝠と水倉りすか、宇練銀閣(と名乗った供犠創貴)を捉えることはできず、家族と再会することも叶わず、収穫はなかったに等しい。

「本当に、何をやっているんだろうな、私は……」

ため息と同時に零れ落ちる言葉。
静まりかえった店内でそれを聞く者はいない。
七花は依然眠ったままなので車内に放置してある。
ピアノの鍵盤に挟まるように隠してあった人識からの書き置きを見つけ、それに伴い携帯電話も曲識の服のポケットから手に入れることはできた。
元々持っていたものとは違っていたため、どこかから入手したのだろうと窺えたが深く考えたところで意味はないと考えるのをやめる。
随分と前から理解するのをやめた弟のことだ、どのような経緯であっても持ち前の気まぐれさで対処したのだろう。
車に戻りながら携帯を開くとそこに表示されていたのは待ち受けではなくシンプルに掲示板とだけ書かれたウェブサイト。
普通に携帯を操作していただけでは気付きにくいだろうと考えた人識からの気遣いだった。
下にスクロールしていくと『零崎曲識』と表示された文字列を目にし、驚愕に目が見開かれる。
いつの間にか足は止まっていた。


  ■   ■


……あれ?いつの間に否定姫が目の前にいるぞ。
安心院なじみと名乗った人物から目を離したつもりはないんだけど。
不思議には思ったが、まあいいか。
よくよく考えてみれば彼我木という前例がいたんだし。

「本来このスキルは君の認識に干渉するから口調も本人のものにできるんだけど、君が混乱しそうだからわざと変えていないだけさ。
 それにしてもここにきてようやくうっすらと目的が見えてきたって感じかな。まあ、君に言ってもわからないだろうけどね」

その通りだ。
別にわからなくていいことはわからないままでいいと思っているし。

「まさか『アイツ』がいるとは思わなかったけども……ま、どっちの結末を迎えるにしても確かにこのバトルロワイアルは悪くない手段だ」

おれ、いる意味あるのか……?
もうそろそろ動きたいところなんだけどなあ。

「つれない顔するなよ、七花くん。さっきまでの独り言だって覚えておけば後々いいことあるかもしれないぜ?」

そう言われても返事に困る、としか言いようがない。
第一、刀であるおれに期待しても意味ないと思うんだけどな。

「そんなことはなかったりするんだよなあ。特に七花くんのような稀少な存在はね」

稀少?おれが?

「そりゃそうだろう。人間にして刀、のような存在がそう易々と見つかるとでも思ってるのかい?」

言われてみればそうか。
だからどうしたってのが正直な気持ちだが。

「感情のない大男と言われるだけはあるねえ。刀集めの旅路で獲得した君の人間らしさはどこへ行ってしまったんだい」

こういうときに一々驚いたりと反応を示すのが人間らしさだとでも言いたいのか?

「おっと、そんなつもりはなかったんだよ。干渉できる人間は限られているみたいだからついからかってみたくなってしまってね。
 他人が出張ってるとこにいけしゃあしゃあと出ていくほど野暮じゃないし、昏睡状態では夢なんか見れないし」

18拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:29:13 ID:sQIyn4fw0

……いい迷惑だ。

「まあまあ。ならお詫び代わりにちょっとサービスしておくからさ」

さーびす?
聞き慣れない単語だ。

「そういえば君達の世界じゃ外来語は通じないんだったっけ。わかりやすく言うなら贈り物ってところかな」

贈り物、ね。

「物質的なものじゃないから些か語弊があるけどね。少なくとも貰っておいて損はないはずだから安心していいぜ(安心院さんだけに)。」

はあ。
しかし、うまい話すぎやしないか?

「警戒するのもわからなくもないけどね。特に君は優勝狙いのマーダーなんだ、物語からすれば必要だけど終盤には邪魔になってしまうこともある存在だし。
 まあややこしい話はこの辺にして本題に移ろうか」

やっと本題なのか。
前置きが長すぎる。

「それは僕の管理不行届きだね、謝っておこう。さて、アドバイス――つまり助言だが、君が目を覚まして最初に会うことになる人間とは手を結んでおいた方がいい。
 君一人では知ることができない情報、特に君が最も欲しがっているであろう情報を彼は知ることができる」

おれが最も欲しがっている情報。
つまり……

「そう、とがめ君のことだ。彼女に何があったのかを彼は知ることができるのさ。そして君は彼が最も欲しがっている情報を持っている」

初耳なんだが、それは。

「君は元々持っていて、彼はここに来てから知ったのさ。それだけ言えば察しはつくだろう?」

……ああ、なるほど、そういうことか。

「ご理解いただけたところで僕はそろそろ失礼させてもらおうか。次がつかえてるし」

あ、いってくれるんだな。

「そりゃいつまでも他人の夢に居続けるってのはできないしね、もちろんサービスするのは忘れないけども。××××とはいえめだかちゃんが迷惑かけたようだし」

あれ?また姿が、声が、またとがめのものに変ってる。
おい、なんでおれに近づいてきてるんだ。

「ちゅっ」

……今、口、吸われた、のか?

「七花、わたしはそなたのことを愛していたぞ。――なんちゃってね」

一瞬だけ見せたそれは紛れもないとがめの姿で、声で、表情で、仕草で、本人と言っても問題ないもので。
――そのときおれはどんな顔をしていたのだろう。


  ■   ■


殺しておくべきだった。

19拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:29:32 ID:sQIyn4fw0
動画を再生し終わった双識は二度蝙蝠を逃がしてしまったとき以上に後悔した。
だが、殺さずにすんでよかったのかもしれないと安心感に浸っている自分もいる。
なぜ曲識ほどの男が抵抗の跡すらなく満足したように死んでいたのか、音声がない以上想像で補う余地はあったが理解できた。
『あれ』は人類最強にも匹敵するバケモノだ。
一度完膚なきまでに殺されたにもかかわらず、復活した少女。
音使いである曲識の技術が通用せず圧倒的なまでの蹂躙を見せた女性。
双識だって、対峙すればあっさり白旗を上げてしまうだろう。
だから。
だからこそ。

「どうして逃げなかったんだよ、トキ!」

怒鳴らずにはいられない。
激怒せずにはいられない。
敵対者は老若男女容赦なく皆殺し。
あるときはたまたま目標と同じマンションに住んでいたという理由だけでそこに住む人間どころかペットまで一切合切殲滅したことがあるほどだ。

「お前のかたき討ちをする俺達の身にもなってみろよ!
 あの哀川潤以上かもしれない存在にどうやって太刀打ちすればいいかわかってるのか!
 リルはいないしアスは死んじまったし残ってる家族は人識と俺はよく知らない妹だけなんだぞ!
 それなのにそんなに満たされた顔浮かべて……本当に大馬鹿野郎だ、お前はっ!」

周囲の状況を考慮せず思いの丈を吐き出し続ける。
クラッシュクラシックはピアノバーだから防音設備がしっかりしているので問題ない、といった理屈すら頭から抜けているだろう。
きっと周りが開けたどうぞ狙ってくださいと言わんばかりの場所だったとしても同じように声を上げていただろう。
故に、気付けなかった。

「はいはーい、そこまで。いくら君が『資格』持ちだと言ってもこっちに出るのは疲れるんだよね」
「い……一体どこから」
「僕は安心院なじみ。親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい」

突然現れた目の前の存在に。


  ■   ■


「本当は腑罪証明(アリバイブロック)が使えればよかったんだけど、それを使うとさすがに干渉しすぎってことで自重させてもらったよ
「夢の中なら次元を超えるスキルである次元喉果(ハスキーボイスディメンション)と夢のスキルである夢無実(ノットギルティ)
「更に夢を司るスキルである夢人(ビッグチームドリーマー)の重ねがけだけで済んだのにこっちに出たらそうもいかない
「身気楼はただのお遊びさ――なんて君には関係なかったね
「こっちじゃ幻を司るスキルである幻の幻覚(ファンタジーイリュージョン)だけじゃなく
「音を司るスキルである喉響曲不幸和音(グラウンドサウンド)も使わなきゃいけないなんて難儀な話だ
「それもこれも僕の存在を隠すためでもあるんだけどさ
「いや、僕は認知されることはないだろうけど、君の声から突き止められるかもしれないだけで
「戯言遣いくんはもう八九寺ちゃんに話してそうだからあんまり意味はないとは思うけど保険は欲しいからさ
「ついでに話をとっとと進めるために説得のスキルである無知に訴える論証(ジェネラルプロパガンダ)
「抵抗でもされたら面倒だから戦意喪失のスキルである競う本能(ホームシックハウス)も使わせてもらってるんだけど
「ほら、この異常事態をすんなり呑み込めているだろう?
「え?僕が何者かって?
「さっきちゃんと言って……ああ、名乗ったのは名前だけだったっけ
「平等なだけの人外だよ、といつもは言うんだけど今回はちょっと事情が違うから……
「『物語』を整理する存在、とでも言っておこうか
「理解できないならそれでもいいさ、本題に移らせてもらうよ
「正直な話、ここで君と七花くんがいがみ合ってもらうと困るんだよね
「君達を取り巻く人間関係は随分複雑なものになってしまっている
「ここでどちらか、あるいは両方が落ちることは望まれていないということだ
「もちろん、メリットは存分にあるよ
「七花くんは君が喉から手が出るほど欲しがっている情報を持っている、と言えば十分だろう?
「僕がデング熱による倦怠感は取り除いてあげたし七花くんももう目を醒ましているはずだからさ

20拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:30:39 ID:sQIyn4fw0
「まあ、いつまでも僕のことを覚えられていては後々困るかもしれないから記憶に残らないスキルである忘脚(レフトレッグス)を二人のときと同じく使わせてもらうけど
「すぐには忘れないから情報交換は滞りなく進むはずだろうし心配はいらないよ、尤もこれも忘れちゃうんだけどね
「それじゃあ、期待してるよ――家族愛を重んじる殺人鬼くん


  ■   ■


目が醒める。
心なしか体が軽い。
眠っただけの価値はあったようだな。
それにしてもあれは夢……でよかったのか。
夕日が見えたしかなり時間経っちまったようだな。
伸びをしようとして体が拘束されていることに気付いた。
あの夢が本当だとして、助言をするくらいならこうなってることくらい教えてくれてもよかったんじゃ……
そもそもここってどこなんだ?
首を動かして視界に入った建物を見て判断したところどうやらおれは元の場所に戻っていたらしい。
なんだか視点も高くなってるし、これはあのとき凄い速さで走ってたやつか?
つまり、おれをここに縛って運び込んだ人がいて、それがおそらく『手を結ぶ』方がいい相手ってことか。
そうでなくともこの状態で自由に動けなるわけないし、下手に抵抗しない方が賢明だってことくらいはわかる。
あ、建物から誰か出てきたみたいだ。
一人……なのか?
あのとき見たのは小柄なやつだったけど今はいないみたいだ。
まあ、いてもいなくても困らないけど。
あれ、あいつの胸に刺さってるのって――
……悪刀がなんでここに?


  ■   ■


現れたときと同様に忽然と安心院なじみが消えた後、双識は車へ戻りる。
無論、すんなり戻ったわけではない。
とはいえ、一度中断させられたことで昂った感情は落ち着き、曲識には再び来るときは水倉りすかの首と共に戻ると誓ってクラッシュクラシックを後にした。

「言ってた通り、目覚めていたか……」

ドアを開ける必要はなくなっていたため回り込んだだけで七花が起きていたことを確認できた。

「おれをこうしたのはあんたでいいんだよな?」

一方の七花も窓越しにクラッシュクラシックを出る双識を目撃していたので驚いた様子はない。

「理解が早くて助かるよ」
「見ての通りおれはこんなんだし、あんたをどうこうする気はない」
「一つ聞くが、安心院なじみという女に会ったか?」
「安心院さんと呼べと言ったあの女のことで合ってるなら」
「……なるほど」
「その口ぶりだとあんたも会ったようだな……おれはあんたと手を組んだ方がいいと言われたんだけど」
「こっちも似たようなことを言われたよ――なんでも私が喉から手が出るほど欲しい情報を持ってると聞いたが」
「……鑢七実、宇練銀閣、真庭蝙蝠、真庭鳳凰、左右田右衛門左衛門」
「ッ……!」
「まだ放送で呼ばれていない中でおれが知ってる人間だ。この中にいるんだろう?右衛門左衛門はおれがさっき殺しちまったけど」
「――その通りだ。それで、求める対価は?」
「三つ、かな。まずはとがめについて知っていることを教えて欲しい」

開始直後に箱庭学園で出会った蝙蝠が変態した姿を思い返すが、求めているのはそれではないだろう。
最初の放送で呼ばれていたはずと聞いていたし――と考え、思い至る。
掲示板で見た動画データの曲識の名前の下にそんな名前があったはずだ。

21拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:30:55 ID:sQIyn4fw0
「それは実はこちらも確認が終わっていない。後回しにさせてもらってもいいか」
「まあ…いいけど。二つ目はその胸に刺さってる悪刀をどこで手に入れたか、だな。最後は――」



「これ、ほどいてくれないか?」



双識の予想にしていなかった範囲からの要求が飛んできたことでしばし呆気にとられる。

「ああ、済まなかったな」

そして数時間ぶりに双識の頬が少しだけ弛んだ。


  ■   ■


夢のお告げ?の通りにしたのは正解、だったのかな。
おかげでおれは知りたかったことを知ることはできたんだし。
どうやらここは未来の技術が使われているようだな。
建物も木でできてないやたらしっかりとした造りのものだったんだよな、そういえば。
四季崎と会っていたことはおれの現状把握には役立ったらしい。
勝手に動き出す絵にはびっくりしたが。
それにしても……めんどうだ。
とがめを殺したのがおれが壊したはずの日和号だったし、変体刀もどういうわけか普通にあるみたいだし。
こうなってくると残り十本の変体刀もあると思っていいかもしれないな。
双識に欲しがってた真庭忍軍と銀閣、それと一瞬出会っただけの水倉りすかについて話したら黙りっきりだし、正直暇だ。
まあ、これといって困るわけじゃないんだけどな。
おれが一番欲しかった情報は手に入れられたんだし。
しっかし、不要湖に日和号がいるとなると、随分移動しなくちゃいけないんだよな。
話を聞いた限りじゃ、これから東に向かうらしいし、やっぱりここは一緒にいた方が得策みたいだ。
途中で人に会える可能性も上がるってんなら悪くはない手段なんだよな。
もちろん、鳳凰と同じで最後は刃を向けることになるんだろうけども。
なあ、とがめ。
こんなおれでもとがめはおれを愛してくれるのか?


  ■   ■


「してやられた、というわけか……」

双識が呟いた独り言は七花には届かない。
あのとき真庭蝙蝠と一緒にいた少年は宇練銀閣ではなかったという情報を得られただけでもかなりの収穫ではあった。
他の動画も全て見せ、阿良々木暦という参加者が殺された映像が判断する限りでは喫茶店の貼り紙と合わないことに疑問は覚えたが。
いずれにしても掲示板の情報と照らし合わせれば、黒神めだかという参加者が危険であることには変わりはない。
七花から聞いたことと、西東診療所に現れたりすかの発言から、あの少年が供犠創貴である可能性が高いと思われるが確証も持てない。
これ以上この場所に留まっても、人識との合流が遅れるだけとなるともたもたしてはいられない。

「ひとまずは私と共に行くということになるがいいか?」

完全に警戒心を取り除いたわけではないが隣に座る七花に問いかける。

「かまわねえよ。おれにとっても移動手段があるというのはありがたい」
「そうか。多少揺れるかもしれないがそれくらいは我慢してくれ……しかしいざ合流したときその格好では少し困るな」
「?――ああ、そういえばおれ血だらけだったんだっけ」
「タオルの持ち合わせはないが、これを使うといい」

22拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:31:18 ID:sQIyn4fw0
貴重な飲み水を消費するわけにはいかなかったので、代わりに生理食塩水で濡らした体操着を渡す。
それを受け取った七花が顔を拭い始めるのを確認すると車のアクセルを踏み込んだ。

(トキやアスの仇を討つためだ、利用できるものは全て利用させてもらう。昔からそうだったんだ、でなければ氏神と関係を持つこともなかっただろうしな)

これでいいのかと内から湧き上がる声を無理やり抑えつける。
家族のためだと理由をつけて。
隣で息を潜め、刃を研ぎ続ける刀に気づかないまま。

(おそらく携帯などの情報機器を持つ参加者は他にもいるはず。やつらは必ず殺すが、徒党を組まれては厄介だからな)

そして双識は爪痕を残していく。
参加者の半数以上が情報を得ることができる掲示板という場所に。

3:情報交換スレ
 3 名前:名無しさん 投稿日:1日目 夕方 ID:uvaupV5IG
 >>2
 阿良々木暦を殺したのは黒神めだか
 浮義待秋と阿久根高貴を殺したのは宇練銀閣
 零崎曲識を殺したのは水倉りすか
 とがめを殺したのは日和号だ

 不要湖にいる日和号は参加者を襲うロボットなので近付かなければおそらく被害には遭わないだろう

 また、水倉りすかに襲われ、逃げられたが、彼女は真庭蝙蝠と共にいる可能性が高い
 供犠創貴も彼女の仲間のようだ


【一日目/夕方/C-3 クラッシュクラシック前】
【零崎双識@人間シリーズ】
[状態]健康、腹八分目、悪刀・鐚の効果により活性化
[装備]箱庭学園指定のジャージ@めだかボックス、七七七@人間シリーズ、カッターナイフ@りすかシリーズ、軽トラック@現実、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×3(食料二人分、更に食糧の弁当6個、携帯食半分)、体操着他衣類多数、血の着いた着物、カッターの刃の一部、手榴弾×2@人間シリーズ、
   奇野既知の病毒@人間シリーズ、「病院で見つけたもの」
[思考]
基本:家族を守る。
 1:七花と共に診療所へ向かう。
 2:真庭蝙蝠、りすか、供犠創貴並びにその仲間を必ず殺す。
 3:他の零崎一賊を見つけて守る。
 4:蝙蝠と球磨川が組んだ可能性に注意する。
 5:黒神めだか、宇練銀閣には注意する。
[備考]
 ※他の零崎一賊の気配を感じ取っていますが、正確な位置や誰なのかまでははっきりとわかっていません。
 ※掲示板から動画を確認しました。
 ※真庭蝙蝠が零崎人識に変身できると思っています。
 ※鐚の制限は後の書き手さんにお任せします。
 ※軽トラックが横転しました。右側の扉はない状態です。
 ※遠目ですが、Bー6で発生した山火事を目撃しました。
 ※不幸になる血(真偽不明)が手や服に付きました。今後どうなるかは不明です。
 ※安心院さんから見聞きしたことは徐々に忘れていきます。

23拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:31:42 ID:sQIyn4fw0
【鑢七花@刀語】
[状態]疲労(中)、覚悟完了、全身に無数の細かい切り傷、刺し傷(致命傷にはなっていない)
[装備]なし
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える
 1:一先ずはは双識と共に行動する。
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る。
 3:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない。
 4:変体刀(特に日和号)は壊したい。
[備考]
 ※時系列は本編終了後です。
 ※りすかの血が手、服に付いています。
 ※りすかの血に魔力が残っているかは不明です。
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です。
 ※倦怠感がなくなりました(次で消して構いません)
 ※掲示板の動画を確認しました。
 ※夢の内容は徐々に忘れていきます。


  ■   ■


「さすがに怪我や体力の回復まではできないけど、これくらいはいいだろう?
「ん、なんだいその顔は
「あはは、恥ずかしがっちゃって
「君がそう思っていたことは間違いないんだろう?
「いくら君、いや、君達が××××だからってその想いは紛れもなく本物さ
「誇りに思っていいんだよ
「なに、そうじゃない?
「なーんだ、僕に先に伝えられちゃったってのがそんなに悔しいのか
「だったらちゃんと伝えなきゃあだめだよ
「後から負け惜しみのように言うのはいくらでもできるんだからさ
「さて、そろそろ僕も介入するのは難しくなってきたし潮時かな
「一応まだ何人か『資格』を持っている人はいるんだけど、しょうがない
「玖渚くんみたいに気付き始めてる人もいるみたいだしね
「目的は何か、だって?
「ふふ、僕みたいな平等なだけの人外に勝手に期待されても困るよ、全く

24 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:34:17 ID:sQIyn4fw0
投下終了です
安心院さんマジ便利
誤字脱字指摘感想その他あればお願いします

25名無しさん:2013/07/27(土) 11:02:39 ID:irwHYNok0
投下乙です

安心院さんはこの状況を楽しみながら何らかの狙いがあるみたいだが安心院さんらしいわw
対決の可能性もあったが安心院さんのテコ入れもあって今は行動を共にする事になったが…
二人とも情報交換して今後ごう動くかなあ

26名無しさん:2013/07/28(日) 00:59:26 ID:FbDHKeqUO
投下乙です!

この二人のコミュニケーションとか正直想像つかなかったけど、まさかこの人が間に入るとは・・・本当に何でもありだなこの人
戦闘力でいえば最大のコンビだけど互いに目的はまったく違うし、七花は優勝狙いのマーダーだから確実にどこかで亀裂は生じるわけで・・・うーん読めない

それはそうと、双識兄さんが全くふざけてない、だと・・・?

27 ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:12:25 ID:gkHsMIYk0
投下開始します

28かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:13:51 ID:gkHsMIYk0
 まったく、いったい何度俺を走らせれば気が済むのか。
 全国を放浪している身であるとはいえ、移動手段のほとんどが飛行機かタクシー、あるいは電車というこの俺が一日の間にこれほどの距離を自分の足で移動するというのは、実のところ生まれて初めての経験だった。
 いや、生まれて初めてというのは嘘だが。
 どっちにしても、長距離をわざわざ徒歩で移動するというのはどうにも性に合わない。そんなことを言うと俺がまるで虚弱体質のように聞こえるが、俺の場合は正確に言うと「金を使わず移動する」ことが性に合わないのだと思う。
 別に浪費癖があるわけではないが、金は貯めるものでなく使うものだという思想を貫いている俺にとって、金を払えば済むところをそれを惜しんで払わずに済ますというのは金を浪費する以上に無駄な行為であるように思えてしまう。
 節約しようとする意識自体を否定する気はないが、使うべき金を使わなかった結果として代わりに何を消費したのかお前は理解しているのかと、倹約家気取りの連中を見るたび俺は問い質したくなる。
 金は万能だが、至上のものではない。それを理解しない連中が多すぎる。
 まあ実際には俺はそんなこと全く思っていないのかもしれないし、徒歩で移動するのに抵抗があるのは単に疲れるからという理由かもしれないし、自分の足で移動するのも実はそれほど嫌いじゃないのかもしれない。
 そもそもここで金の話をするのが間違っている。いちおう江迎のやつと最初に出会ったときに預かっておいた所持金が今の俺の懐にはあるが、ここから脱出した後でもない限り使う機会はまずないだろう。
 つまりはただ言ってみただけだ。
 俺の言うことを真面目に聞くのは、それこそ時間の浪費でしかない。俺が一人称を務めるパートを読む際には、それを十分に心に留めておくことを強くお勧めする。

 「やれやれ……とでも言うべきところなのか、ここは」

 ランドセルランドを去ってからどれくらい経っただろうか。
 哀川潤と西条玉藻の二人組からまんまと逃げおおせた俺こと貝木泥舟は、ようやくちゃんとした道路がある場所へとたどり着く。
 地図の性質上、名前の付いている場所以外で道路から外れたところを移動していると、自分がどこを歩いているのかわからなくなって不安になる。コンパスを見ながら歩けばいいのだろうが、どうにも面倒だ。
 後ろを振り返ってあの散切り頭の少女が追ってきていないのを確認し、俺はようやく一息つく。近くの壁に背をもたれ、ペットボトルの水を一口飲む。
 一難去ってまた一難とは言うが、こうも立て続けに厄介そうな相手と遭遇していては心休まる暇もない。
 何事に対しても万難を排してから臨む主義の俺だが、今の調子では万難を排したところですぐに次の万難が怒涛のごとく押し寄せてきそうな気さえする。
 万難排してまた万難。嫌がらせのような言葉だ。
 まあ詐欺師という職を営んでいる以上、心休まる暇などあってないようなものだが。
 犯罪者には常に心の不安が付きまとう。俺も詐欺師として生きる道を選択した時点で一生を不安とともに生きる覚悟はしているし、いつでも死ぬ覚悟はできている。善良な市民を食い物にするような生き方をするからには、そのくらいの覚悟は当然のことだ。
 まあそれも嘘だが。

 「さて、次はどこへ向かおうか」

 俺は地図を開く。ランドセルランドから北東にまっすぐ進んできたはずだから、現在地はE-7とF-7の境界付近あたりだろう。道なりに進めば、南東なら図書館、西方向ならまたネットカフェに戻ることになる。
 ネットカフェに戻る意味は今のところないから図書館に向かうのが順当だろうが、俺の目はもうひとつの場所、図書館とは正反対の方向に位置する施設を捉えていた。
 斜道卿壱郎研究施設。
 ネットカフェでパソコン越しに会話を交わした、あの玖渚友とかいう奴がいると言っていた場所だ。
 すでにそこは禁止エリアに指定されている。とうに下山(「登山」の可能性もなくはないが)は終えているだろうが、問題は竹取山をどっち方向へと抜けていったかだ。
 もし玖渚が俺のいる方向へ下山していたとしたら、位置的に見てまだこの周辺をうろついている可能性は、高くはないがありえなくはない。
 一度は無視しておくことに決めたが、もしこちらから玖渚友を探すとしたら今が好機ではないか?

29かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:15:32 ID:gkHsMIYk0
 しかし会ってどうする? わざわざ会いに行くメリットがあるか?
 いや、一応メリットはある。パソコン越しに会話したとき、あいつはすでに普通では手に入らないような情報まで数多く収集している様子だった。あれからおよそ6時間、新たな情報を入手している可能性はかなり高い。
 情報を得るために会うだけでも有益と言える相手ではある。
 話を聞くだけなら掲示板の連絡フォームを使えばいいのだろうが、重要な情報を聞き出すのが目的である以上、相手の用意したフィールドでの会話は望ましくない。できればこちらから不意打ちで会いに行くというのが理想だ。
 俺から渡せる情報はほとんどないが、そこは俺、相手が喜びそうな情報くらい即興ででっちあげる自信はある。
 バレた時が怖いが、その時はまあその時だ。
 問題は、俺が玖渚友の人となりについてほとんど把握できていないということだ。相手を騙すには、相手について最低限の知識は得ておく必要がある。
 俺が言うのも何だが、玖渚という奴はかなりの食わせ者だ。向こうが設えた場での会話だったとはいえ、俺が騙しきれなかった相手なのだから。
 最終的に名乗っていた「玖渚友」という名前が本名だったのかどうかもまた、未だに明確であるとは言えない。さすがにそこまで疑っていたらキリがないだろうが。
 今更だが、ここの参加者には俺との相性が悪い奴が多すぎる。
 球磨川禊にしても、さっき出会った哀川潤にしても、俺が持つ詐欺師としてのテクがまるで役に立たない。どころか会話を交わす前から本能で「こいつは駄目だ」と直感できるような相手ばかりだというのだから空恐ろしい。
 西条玉藻に至っては会話すらろくに成り立たないという始末。マンション付近で追いかけられた時と比べるとある程度まともな様子ではあったが(哀川潤がそばにいたせいだろうか?)、それでも逃げたのは正解だったと思う。
 最初のときはナイフが役に立ったが、今度はメイド服が逃走の役に立ったというのだから、いやはや、人生何がどう役立つかわかったものではない。
 メイド服に救われる経験など、人生で一度あれば十分だろうが。
 唯一俺の手駒として機能していた参加者といえば江迎怒江だが、あれはあれで相性がいいとは言えない。
 球磨川や哀川潤が「騙しにくい」なら、江迎の奴は「一方的に信じてくる」だ。こっちが騙すより先に勝手に信じてくるというのだから、球磨川たちとは真逆の意味で騙すことが難しい。
 それどころか、たとえこちらから「信じるな」と言ってみたところでおそらく毫ほども意に介さない性格をしているというのだから、基本的に制御のしようがない。
 つまりどちらにせよ扱いにくいことに変わりはない。俺のために働いてくれるぶん、江迎のほうがどちらかといえば重宝するだろうが。
 ここには狂人しかいないのかと言いたくなる。
 そんなことを言うと、まるで俺自身がまともな人間であると言っているように聞こえてしまうかもしれないが、そのとおり、俺は自分のことをまともな人間だと思っている。
 詐欺師が何を言うか、などと言う輩がいたとしたら、それは詐欺師に対する誤解だと俺は言い返す。仮に詐欺師が狂人ばかりだったとしたら、そもそも詐欺という犯罪自体成り立っているはずがない。
 まともな思考ができるからこそ人を騙せる。まともな人間にこそ人は騙される。
 つまりはそういうことだ。
 ゆえに俺は、正常な人間らしくこのバトルロワイアルに臨む。狂人に混じって殺し合いを演じる気は始めからない。まともに人を騙し、まともにここから逃げる策略を練る。

 「そう、『騙す』――俺がやるべきことは、それに尽きるはずだ」

 壁から背を離し、道路に沿って歩き始める。
 足は自然と図書館のほうへ向いていた。今の時点で玖渚友と直接対峙するのは、やはりまだ準備が浅い気がする。
 今まではほとんど逃げに徹してきたが、それもいよいよ限界だ。禁止エリアの数が増え、参加者の数が減るごとに状況は煮詰まってくる。殺し合いに乗る人間もここから更に増えるかもしれない。
 そろそろ本格的に、ここから脱出するための策略を練らなければならない。
 すなわち、主催者側と接触を図るための策略。
 より直截的に言うなら、主催を騙すための策略。
 正味な話、俺が自力で生き残るにはそれしかないと思っている。出会う奴出会う奴すべてを騙し続けていったところで、結局のところその場しのぎにしかならない。

30かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:16:18 ID:gkHsMIYk0
 それにさっきも言ったが、ここには俺にとって鬼門となる奴が多すぎる。一切の謙遜を抜きにして、俺が今生き残っていること自体が奇跡以外の何物でもない。
 逃げ場のないこのフィールドの中にいては、遅かれ早かれ行き詰まることは確定している。ならば必然、外側に活路を求める以外にない。
 主催者側に属する人間が何人いるのかはわからない。ただ、そのうち一人でも接触することができたとしたら、その時こそ俺の詐欺師としての本領発揮だ。
 口八丁手八丁、なりふり構わず手段を選ばず、どんな手を使ってでも主催側に取り入ってみせる。
 この殺し合いを止めさせるだとか、別にそこまでやる必要はない。俺に付いているこの首輪、これの外し方さえ聞き出せたらそれでいい。
 この首輪さえ外すことができれば長居は無用だ。どうにか脱出の算段をつけてさっさとおさらばさせてもらう。
 他の参加者たちを置いて俺だけ逃げるというのは良心が痛むが、さすがに全員まとめて救い出すほどの余裕はあるまい。仮にできたとしても、抱えるリスクがでかすぎる。
 まあ当然、良心が痛むというのは嘘だが。そもそも俺に良心など残っていたか?
 俺は阿良々木暦やその妹のような正義の味方ごっこをするつもりは毛頭ない。俺が誰かを助けるとしたら、それに見合った対価を支払ってもらった時だけだ。支払ったとしても助けるとは限らないが。
 しかし実際のところ、主催者の影すらつかめていない現状においてはそいつらを騙して取り入ろうなどという戦略も机上の空論でしかないわけだが。
 どの道、協力者を得ないことにはどうにもならない。
 主催者にアプローチをかけるための協力者となると、また数が限られてきそうではあるが…………

 「……そういや、掲示板はどうなっているんだろうな」

 ポケットからスマートフォンを取り出し、掲示板のページを再び開いてみる。
 参加者の数ももう20人そこそこまで減ってきているというのに、意外に利用している奴が多いものだ。携帯電話を持っている奴が俺以外にも割といるのかもしれない。
 ……まさかすべて玖渚の自演とかいうオチではないよな?
 若干の不安を抱きながら、新しい書き込みがないかチェックしようとする。

 「――おっと」

 そのとき急に足の力が抜け、前のめりに倒れこんでしまう。スマートフォンが壊れないよう庇った形になったせいで、スーツの袖が泥まみれになってしまった。くそ、ここから脱出する前にクリーニング代を請求してやろうか。
 疲労がたまったせいで足がもつれたのだろうか、などと思いながら立ち上がろうとするが、どういうわけか両足ともにうまく力が入らない。それどころか腿のあたりにじわじわとした痛みを感じる。
 まさか肉離れでも起こしたか? だとしたら厄介だな――と右足にそっと触れる。途端、ぬるりとしたものが指先を濡らすのを感じ、反射的にそちらを見る。
 血だった。
 両の太腿と、そこに触れた指先がじっとりと血で湿っている。
 実は道路に血まみれの死体が倒れていて、それに躓いた際に血が付いてしまったのだった――などということはもちろんなく、正真正銘俺自身の血だった。
 その証拠に俺の脚には、直径3ミリほどの小さな穴が空いていた。左右それぞれに一箇所ずつ、後ろから前へ、何かが突き抜けていったかのように。
 ……銃創?

 「見たところさほど手練というわけでもなさそうだが、一度痛い目を見ているのでな――念のため下手な動きができないようにさせてもらった」

 声のするほうを振り返ると、そこには奇矯な衣服をまとった男が立っていた。
 どことなく怪鳥を思わせる風貌と、全身に巻かれた鎖。両手には一丁ずつ拳銃が握られている。
 それぞれの銃口から立ち上る硝煙が、まさに今発砲されたばかりだという事実を示していた。どこへと向けて発砲されたのかは考えるまでもないだろう。

 「貝木泥舟だな。おぬしに恨みはないが、死んでもらう」

 恐ろしく冷たい目をしたその男は、恐ろしく冷たい声でそう言った。

 「…………」

 やれやれ、どうやら早くも次の一難が大手を振ってご登場のようだ。
 しかも今度の一難は、そう簡単に去ってはくれそうにない。

31かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:17:02 ID:gkHsMIYk0
 
   ◆  ◆  ◆



 「足を潰されても取り乱す気配を見せぬというのはなかなかに意外だな。貝木泥舟。どうやら我が思うほど、凡庸な人間というわけでもないらしい」

 片方の拳銃をこちらに向けたまま、男は探るような目で俺を見てくる。
 俺は地面に突っ伏したまま、その視線を受け止める。最初に「死んでもらう」と豪語されているだけに今すぐ頭を撃ち抜かれてもおかしくない状態ではあるが、先んじて足を潰した余裕か、会話を交わす気はとりあえずあるらしい。
 こういう余裕は正直ありがたい。
 俺に取り乱す気配がないとこいつは言ったが、そんなもの混乱が表に出ないよう無理矢理取り繕っているだけに決まっている。心中では、あまりに唐突過ぎる展開と焼けつくような両足の痛みで脳がオーバーフローを起こしかねない勢いだった。
 まず、こいつはいったい誰だ?
 参加者の一人であることは当然として、なぜ俺の名前を知っている?
 いや――名前が知られていることに特段の不思議はないのかもしれない。俺のことを他の誰かに聞いた可能性は十分にあるし(又聞きでなければ江迎か球磨川、あるいは戦場ヶ原あたりか)、ランドセルランドで俺がやったように、名簿の名前から類推した可能性もある。
 いきなり初対面である俺を殺そうとしている理由もあえて考える必要はあるまい。「恨みはないが」と前置きしているところからしても、おおかた腕に自身ありで馬鹿正直に殺し合いに乗っている者のうちの一人だろう。
 あえて他の可能性を考えるとしたら、こいつは他の参加者の誰かから――例えば戦場ヶ原ひたぎあたりから俺のことを抹殺するよう依頼を受けていて、今まで俺のことを探し回っていた――という可能性はどうだろう。
 考えられなくはないが、さすがにそこまで愉快な展開を期待するのは贅沢がすぎるというものだろう。そもそもあの女は、殺意を抱くほど憎い相手なら自分の手で殺さないと気が済まなさそうなタイプだからな。
 …………ん?
 冷静に考えてみるとこの状況、不可解な点などひとつもないんじゃないか?
 たまたま行きがかった殺人者が、たまたまここにいた俺を射殺しようとしている状況。
 文章にしてみれば一行でこと足りる。
 なんだ、ならややこしくあれこれ考える必要などない。やはり足を撃たれたショックで混乱していたようだ。
 実のところ、こいつが何者なのかも服装を見た時点で予想できているしな。

 「……初対面の相手にいきなり銃弾とは、随分なご挨拶じゃないか」

 最大限平静を装いながら俺は言う。足の痛みで額には脂汗が浮かんでいることだろうし、地面に這いつくばった姿勢のままなので、どう取り繕ったところで無様にしか見えないだろうが。

 「いくら殺し合いの場とはいっても、礼儀や作法をおろそかにするのは感心しないぞ。まして俺のように人畜無害な、見てのとおり丸腰の人間に不意討ちでしかも銃とは、外道以下のやり方だな。
 何があったのかは知らんが、ここに来るまでによっぽど怖い目に会ったと見える。お前は素人相手にすら警戒心を抱きながらでないと向き合えない、ただの臆病者だな」

 心にもないことを俺はまくしたてる。精一杯挑発してやったつもりだったが、相手は眉ひとつ動かさず、瞬きひとつすることなく、虫けらでも見るように俺を見下すだけだった。それどころか、

 「ふむ――おぬしもこの刀が『銃』であることを知っているのか。あのときの青年が炎刀の名を口にしたときも少々驚いたが……どうやら我の認識以上に、変体刀に関する知識を持っている人間がこの場には存在しているらしい」

 などと意味不明なことを口走る。
 炎刀? 変体刀? 刀が銃ってどういうことだ。

 「それと貝木泥舟よ、我のやり方に対して外道などと難癖をつけるのは全くの見当違いだ。我らしのびは卑怯卑劣こそが売り。礼儀作法というのであれば手段を一切選ばないことこそが礼儀であり、不意討ち闇討ち騙し討ちこそが作法。それに異を唱えるなど笑止千万」

 俺の適当な挑発に対して真面目に受け答えてくれるのはありがたいが、残念ながら全く興味はなかった。ネットの掲示板にでも書き込んでいてくれ。
 しかしこの男、自分のことをしのびと言ったか? 妙な風体をしているとは思ったが、言われてみれば一風変わったしのび装束に見えないこともない。
 どうやら最近の忍者は平気で拳銃を使うらしい。ドーナツを食う吸血鬼よりはリアリティのある話かもしれないが、まったく末恐ろしい世の中だ。

32かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:17:49 ID:gkHsMIYk0
 
 「さて、死ぬ前にいくつか質問に答えてもらうぞ、貝木泥舟」
 「……さっきから俺のことを貝木と呼んでいるが、残念ながら人違いだ。俺の名前は鈴木と――」

 言いかけたところで、男が一切躊躇する様子なく拳銃の引き金を引く。弾丸は俺の脇腹あたりに命中し、両足の痛みが消し飛ぶほどの痛みを与える。

 「ぐ…………うっ!」

 うめきながら俺は、腹を抱えて上半身だけうずくまるような格好になる。急所は外しているようだが、おそらくわざとだろう。
 さすがは忍者、生かさず殺さずのテクニックにも長けているようだ。

 「我に虚言は通用しないものと思え。これ以上無駄ごとを口にするなら、次は素手で肉を抉り取るぞ」

 そう言ってしのびの男は地面から石をひとつ拾い上げると、それを右手の力だけで粉々に握り潰して見せた。
 ……なるほど、見た目からは想像もつかないが、どうやらとんでもない怪力の持ち主のようだ。俺の身体など、片手だけで易々と解体してしまえるに違いない。

 「ふむ……付け替えた当初と比べてだいぶなじんできたようだな。あのままでは炎刀を握ることすらままならぬ有様であったし、力の加減が利くようになったのはありがたい」

 また何かひとりごとを言っているようだが、こっちは痛みでそれどころじゃない。そのまま一人で喋っていてくれればいいのに。

 「我がおぬしの名を知っている理由を説明してやる気はない。おぬしがそれを知ったところで、我にとってもおぬしにとっても何の意味もないのだからな」

 そりゃそうだ。俺もそんなことを説明してほしいとは思っていない。
 しかしここで黙ってしまったら、こちらから口を挟む余地がいよいよなくなる。そうなればもう俺が助かる可能性はゼロだ。助からないにしても、このまま唯々諾々とこいつの言いなりになって死ぬというのは面白くない。
 ここは小悪党らしく、あがけるだけあがいてみようじゃないか。
 痛みをこらえながら、俺はなんとか口を開く。

 「そうだな、俺がお前の名前を知っていることに何の意味もないようにな、真庭鳳凰」

 ここでようやくしのびの男――真庭鳳凰の表情に、微細だが虚を突かれたような気配が見てとれた。よし、どうやら正解のようだ。間違えていたら最悪だったが。

 「…………どこで我の名を知った」

 自分では意味がないと言っておきながらそんなことを訊いてくる鳳凰。一方的に名前を知っていることで優位に立ったつもりでいたか、馬鹿め。

 「いや、少し前にお前の仲間にたまたま会ってな。そのときにお前のことも聞いた」

 言うまでもないが嘘だ。会ったことは会ったが、どっちもすでに死体だったからな。
 しかしその死体を見たことでこいつの正体を看過するに至ったのだから、全くの嘘とは言えないのかもしれない。
 ネットカフェとランドセルランドで見た「真庭」と同じく、残りの二人もあんな珍妙な格好をしているかどうかは正直微妙なところだと思っていたが、どうやらこいつらは全員が全員、こんな見た目から名前が推測可能であるような装束を身に着けているらしい。
 こいつら本当に忍者なんだろうな? いまひとつ説得力に欠ける。
 相手の顔色を窺いながら、俺はさらに嘘を重ねる。

 「名前は確か狂犬と喰鮫と言ったかな。殺し合いに関してかなり乗り気でいるようだったから、俺が相手をしてやった。ちなみに言うが、挑んできたのは向こうのほうからだぜ。俺は仕方なく応じただけだ」
 「ほう、それでその二人はどうした」
 「殺した。俺が両方ともな」

 ここでこいつが激昂して取り乱すような仲間思いの間抜けであったなら、俺が助かる可能性も0.01%くらいはあったかもしれない。しかし鳳凰は、俺の言葉に何ら動揺の気配を見せることなく、

 「嘘だな」

 と冷たく言い放った。

 「真庭のしのびを甘く見るな。多少度胸は据わっているようだが、おぬしがそこまで腕の立つ人間とは思えん。あの二人はもとより、真庭の里の誰を連れてきたところでおぬしごときが敵うはずがない」
 「は、偏見だな。人は見かけによらないものだぞ。こう見えて案外、武術の心得はある」

 余裕ぶって笑ってみせたが、確実に相手の言うほうが正しいだろう。
 実際の忍者がどんなものなのかなど知る由もないが、俺に勝てる要素があったとしたら精々逃げ足くらいのものだろうし。

33かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:18:37 ID:gkHsMIYk0
 
 「……とはいえ、俺の力だけで殺したわけじゃないのは事実だ。実を言うとその二人は、俺が会ったときにはすでに手負いの状態だったんだよ。他の参加者と戦闘した後だったのだろうな。
 そいつらから聞いた話だと、喰鮫のほうは黒神めだか、狂犬のほうは――江迎怒江とかいう奴とやりあった後だと言っていたな。おかげで俺でも楽に殺すことができたぜ。俺が言うのもなんだが、まあお気の毒さまだな」
 「…………」
 「その証拠に――と言えるほどのものじゃないが、俺の荷物を見てみるといい。お前の仲間から奪い取ったぶん、通常より支給品の数が多いのがわかるはずだ」

 そう言って、俺のすぐ傍に落ちている自分のデイパックを顎でしゃくってみせる。
 こいつの仲間を殺した証拠にはならないにしても、「戦利品」の多さを示してやることで俺の実力について誤解を与えてやることくらいはできるかもしれない。
 誤解は多ければ多いほどいい。

 「…………」

 鳳凰はしばらく疑わしそうな目でこちらを見ていたが、やがて「ふむ」とうなずき、

 「そうだな……おぬしの言うことはどうにもあてにならんようだから、先に『視て』おくとするか」

 などと言い、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
 そのままデイパックを拾うかと思ったそのとき、鳳凰は俺の脇腹あたり、つまり先ほど銃弾を撃ち込んだ部分を、右のかかとで思いきり踏みつけてきた。

 「ぐはぁ…………っ!!」

 せっかく麻痺しかけていた痛みが体内で爆発する。いや、本当に腹の中身が爆発したかと思った。内臓がすべて消し飛んだと言われても今なら信じてしまうかもしれない。
 傷口からさらに血が溢れ出る。頭の中では絶叫しながらのたうち回っているつもりなのだが、実際には完全に息が詰まり、指一本すらも動かせなかった。
 気を失わなかったのは見事だと言う外ない。俺でなく、こいつの技術がだ。

 「重ねて言うが、妙な動きはするな」

 念を押すように言って、鳳凰は左手の拳銃を懐にしまい、今度こそデイパックを拾い上げる。そして動けない俺をそれでも警戒するように、そのまま数歩ほど後ろに下がった。
 すぐに中身を改めるかと思いきやそうはせず、なぜか左手でデイパックをつかんだまま静かに瞑目する。何かを念じているようにも見えるが、いったい何をしている?
 隙だらけに見えるが、俺への警戒は解いていないのだろう。
 未だ呼吸すらできない俺は、それをただ見ていることしかできない。

 「――ほう、鑢七実と会ったか。あの化物と二度も顔を合わせて二度とも逃げおおせるとは大した健脚だな……七実の隣にいる刺青顔の少年は何者だ? まさかあの女に協力者がいるとでもいうのか? 随分な命知らずだな」

 今度は俺のほうが虚を突かれる番だった。
 さっき俺がやったような、断片的な情報から事実を推察するようなテクニックとは違う、事実そのものを知っていないとわからないはずの情報をこいつは今、口にした。

 「なるほど、狂犬と喰鮫の所有物を得たというのは真実のようだ。しかし殺したというのはやはり嘘か。死体の傍らに放置されていたのをいいことに拾っただけのことを、よくもまあ『奪い取った』などと。礼儀作法を学ぶべきは、どうやらおぬしの側のようだな」
 「…………」

 ぐうの音も出ないとはこのことだった。何だこれは? 俺の記憶でも読んでいるのか?
 いや、こいつがデイパックに触れたときから語り始めたことから察するに、俺の記憶というよりは「俺の所有物の記憶」を読み取るような能力をこいつは持っているのかもしれない。
 いわゆるサイコメトリーとかいうやつだ。
 この手の超能力や心霊術の類は、大半がトリックを用いているだけの偽者と相場が決まっているものだが(俺も似たようなものだが)、俺の目の前にいるこいつは、まさか本物だとでも言うのか?

 「……はっ、喰鮫や狂犬はおろか、まだ誰一人として殺してなどいないではないか。女子供にすら逃げの一辺倒とは大したものだ。武術の心得が聞いて呆れる」

 俺は死刑宣告を受けた気分だった。
 間接的にとはいえ俺のこれまでの行動をこれほど明確に読み取れるというのは、安易な嘘をついても逆効果にしかならないと宣告されたようなものだ。自分に虚言が通用しないというあれはハッタリでも何でもなく、ただの事実だったということか。
 俺の処世術である「騙し」は、この時点でほぼこいつに殺されたも同然だった。

34かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:19:15 ID:gkHsMIYk0
 
 「嘘と騙しはしのびの常道。しかし下手な嘘ほど己の首を絞めるものはない。相手を騙しぬいてこそ嘘は嘘として価値を持つ。おぬしのやったことは、己の寿命を無意味に縮めたのと同じこと」

 俺は言い返せない。

 「つい数刻前にも、我を嘘で縛ろうと試みた男がいたな。だがそいつの辿った末路といえば、己の得物で勝手に自滅した上に我にかけた嘘も自ら無に返すという、救いようもないほどに無様な最期だった。
 あの男がもう少し格調の高い嘘吐きであったなら、死した後でもなお、我に呪縛を遺すくらいのことはできたであろうに」

 なるほど、最初にこいつが言っていた「痛い目」というのは多分そのことだろう。
 こいつが他の誰かに騙されたばかりだった、というのも俺にとっては不運だったかもしれない。そうでなければこいつは俺に対してここまで警戒していなかっただろうし、いきなり発砲されるということも多分なかっただろう。
 誰かは知らんが余計なことをしてくれたものだ。どうせ騙すなら最後まで責任を持って騙しきれ。

 「どうやらこのまま尋問を続けても、おぬしの口からまともな真実は聞けぬようだな」

 ひと通り記憶を読み終えたのか、鳳凰はデイパックを放り捨てる。

 「しかし――この状況においてもなお虚言を吐き続けることのできるその精神だけは評価に値するといえよう。このまま殺しても構わんが、興が乗った。おぬしが口を開ける間に、少々試させてもらうとしよう」

 俺に見せ付けるように鳳凰が右腕を構える。ただの人間の腕なのに、俺はそれに肉食獣の牙のような凶々しさを感じた。

 「おぬしがこれ以上、嘘を吐くことを諦めて偽りなく我の質問に答えるというなら、これ以上苦痛を与えず、一思いに殺してやってもよい。
 しかしあくまで嘘を吐き続けることを選ぶというのであれば、我はこの右腕でおぬしを死なぬ程度に喰らい続ける。おぬしの命が尽きるのが先か、はたまた精神が尽きるのが先か、ここで試してみようではないか」

 「…………」

 よくわからんが勝手に何か始めやがった。
 何が「興が乗った」だ。今までの会話のどこに興が乗る要素があったというのか。そんなものに乗せた覚えはないぞ。
 やはりこいつも狂人か。
 しかしまあ、「嘘をつき続ける精神」とは随分と高く買われたものだ。こんなもの評価どころか非難するにも値しない、ただの悪癖だというのに。
 俺は嘘を吐くことに何のこだわりもない。皮膚呼吸をするように嘘を吐く俺だが、もしここで命が助かるというならその皮膚呼吸すら止めることも厭わないつもりだ。
 この男が本物のしのびだというなら、拷問の作法にも精通していることだろう。俺のちっぽけな精神など、ものの数分で崩壊してしまうに違いない。
 俺にはもう、この男を騙すことはできない。悔しいがこいつの言うとおり、騙しきれない嘘に価値などない。そもそも俺は、嘘に価値があるとも思っていないが。
 だから俺が今ここですべきことは、素直に許しを請うことだろう。恥も矜持もすべて捨て去って、質問には正直に答えるから命だけは助けてくれと、あるいは一思いに殺してくれと懇願する。それが俺にできる唯一にして最善のことであるはずだった。
 億にひとつでも助かる可能性があるのなら、俺は迷わずそうすることを選ぶ。
 足を潰され、嘘を封じられ、もはや一般人以下に成りさがった俺にできることは、それくらいしか残されていない。
 少なくとも、この期に及んでなお意固地になって無意味な嘘を重ねるなど、考えうる限り最悪の手段だろう。寿命が少し延びる代わりに、地獄の苦痛を味わわされるだけだ。
 俺が仕事で使うもうひとつの得意技である「偽者の怪異」も、ここではまず役に立たない。
 指で突く隙を与えてくれないのは当然のこと、怪異でこいつに打ち勝つためにはこいつにとって有効な怪異を選んで使用する必要がある。今からそれを即興で用意しろというのは無理な話だ。
 阿良々木暦の妹を刺すのに使った囲い火蜂も、こいつには通用するまい。相手は畏れ多くも、神獣の名を名乗っているような奴だ。
 蜂が鳳凰に効くものか。

 「…………」

 出血で意識が朦朧としてくる。痛みはぼんやりとしか感じないのに、地面の冷たさだけはやたらはっきりと感じることができた。

35かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:19:58 ID:gkHsMIYk0
 かすんだ視界の中、鳳凰が近づいてくるのが見える。一歩一歩、まるでスローモーションのようにゆっくりと。
 命乞いをするなら今のうちだ。ぼやぼやしていると、本当に口も開けない状態にされてしまうかもしれない。

 「……ああ、そういえば」

 繰り返すが、俺は嘘を吐くことに何のこだわりもない。矜持も、思想も、信念も、嘘に対して掲げられるものは何ひとつとして持ち合わせてはいない。
 しかし。
 それでも。
 だからこそ。
 俺はこいつの思惑通りになるのが嫌だった。撃たれたことも踏みつけられたこともどうでもいいし、これから殺されることも仕方がないと思っている。
 ただ、俺の嘘吐きとしての属性をこいつに完全破壊されるのが我慢ならなかった。
 「興が乗った」など、そんな思いつきの暇つぶし程度の理由で俺から嘘を奪おうとしているこいつの傲慢さが許せなかった。
 こいつにはせめて一矢報いてやらないと気が済まない。俺はそんな俺らしくもないことを思った。
 俺にも詐欺師としてのプライドというものが、もしかしたらあったのかもしれない。
 死が眼前にまで迫ってきているというのに、俺はそれが少しだけ愉快だった。

 「――鳳凰というと鳥の怪異として有名だが、元ネタである中国の伝承によると、キメラみたいに何種類かの動物の部位が繋ぎ合わさった姿をしているものらしいな……
 時代によって違ったりもするようだが、元々はたしか嘴が鶏で、顎は燕だったか? 他にも蛇やら亀やら混ざっていたような気がするが、よく覚えてねえな……」

 俺まであと三、四歩ほどの距離で、鳳凰の足がぴたりと止まる。

 「……何の話だ?」
 「いや、別にどうでもいい話さ……ただ、鳳凰ってのはたしかに神の鳥ではあるが、そう聞くと案外、普通のものの寄せ集めでしかないように思えてしまうものだな」

 あまりに脈絡のない俺の言葉に気がそれたのか、鳳凰の注意がほんの一瞬だけおろそかになる。
 その一瞬を俺は見逃さなかった。

 「だから鳳凰、お前に蜂は効かないだろうが――」

 かちり。
 脇腹を撃たれてからずっと身体の下で抱え込むようにしていた手で安全装置を外す。
 そして「それ」を握った右手を勢いよく腹の下から引き抜き、

 「――鶏よりも燕よりも強靭で獰猛な、鷲ならどうかという話だ」

 俺に残されていた唯一の武器、デザートイーグルを鳳凰めがけて発砲した。
 放たれた弾丸は、驚愕に目を見開く鳳凰の顔面、その眉間のど真ん中へと寸分狂わず命中し、そのまま頭部の上半分を木っ端微塵に吹き飛ばした。



   ◆  ◆  ◆



 というのはもちろん嘘で、俺の撃った弾丸は鳳凰にかすりもしなかった。油断はしていてもさすがは忍者、俺が拳銃を取り出した時にはすでに回避行動をとっていた。まあ避けなくとも当たらなかっただろうが。
 非力な者がデザートイーグルを撃つと反動で肩が外れるとか後ろへ吹き飛ばされるとか未だに言われることもあるようだが、実際には撃ち方さえ間違わなければ女子供でも撃つことはできるらしい。
 しかし今の俺の撃ち方は、うつ伏せのまま片手だけで、しかも無理に腕を伸ばした状態で発砲するという大口径拳銃の扱い方としてはおよそ最悪に近い形だったため、発砲の反動は覿面に俺の右腕へとダメージを与えていた。
 肩が外れたかどうかはわからないが、筋くらいは痛めたかもしれない。ついでに耳栓なしで撃ったせいで耳が痛い。
 俺が拳銃を持っていたことがよっぽど意外だったのか、鳳凰は反射的にといった感じで懐から拳銃を取り出し、俺に狙いを定める。
 引き金が引かれる前に俺はせめてもの抵抗にと、もう片方の手で握っていたスマートフォンに拳銃の台尻を思い切り叩き下ろし、粉々に破壊した。
 抵抗というにはあまりに子供じみているが、こいつに使われるくらいならこうしたほうがましだ。右腕に更なる激痛が走ったが、そんなことはもう気にならない。
 ついでにこのデザートイーグルを可能な限り遠くへ放り投げてやろうかと思ったが、さすがにそこまでの猶予を与えてはくれなかった。
 軽い発砲音とともに、鳳凰の拳銃が火を噴く。俺のときとは違って、弾丸は俺の方めがけてまっすぐに飛び、正確に頭部を撃ちぬいた。
 暗転していく意識の中で、俺は何かをやりきったかのような満足感に浸っていた。状況的に言えば悪あがきに失敗してとどめを刺されただけのことだろうが、鳳凰にとっては「思わず殺してしまった」形だろうから、俺としてはしてやったりな気分だった。

36かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:20:42 ID:gkHsMIYk0
 負け惜しみにしか聞こえないだろうが、俺の銃撃がこいつに命中しなかったことも良かったと思っている。
 他人の生き死にに何かを感じるような心が残っている俺ではないが、自分の手で直接誰かを殺すのはなんとなく嫌だった。
 殺人者の肩書きを得るのが。
 詐欺師という汚名を、殺人者というくだらない汚名で上書きするのが嫌だった。
 俺は俺のまま、詐欺師のままで死にたかった。だからこのバトルロワイアルで一人も殺さないまま死ねたことに、俺は誇りすら感じていた。
 こんなつまらないことに誇りを感じる自分の小ささに正直嫌気がさしたが、どうせ死の間際だ。何に誇りを感じてもいいじゃないか。
 やるべきことをやったと言い切ることはできないが、今やりたいことはすべてやった。
 安らかに死ぬにはそれで十分だ。
 最後に走馬燈でも見ようかと思ったが、今までに騙してきた相手の恨み顔しか見える気がしないのでやめた。見ようと思って見れるものでもないだろうが。
 だから代わりに戦場ヶ原ひたぎのことを思い浮かべる。
 あの女が今も無事どうかはわからない。だが、俺はあいつが最後まで生き残れると信じている。俺がいなくても、きっと立派にやっていけるだろう――と、口に出したら歯が浮きそうな嘘を考えている自分がいることに安堵し、俺の意識は今度こそ闇へと落ちる。
 地獄の沙汰も金次第と言う。貯金のない俺だから、江迎のやつから金をいくらかせしめておいて本当によかったと、あの頭のおかしい女に俺は少しだけ感謝した。


【貝木泥舟@物語シリーズ 死亡】


  ◇     ◇


 後日談にもオチにもまだまだ早いが、もう少しだけ俺の一人称を続けさせてもらう。実は生きていたというオチではないから安心していい。
 もう死んだのだからあとはナレーションにでもまかせてさっさと逝けと罵声が飛んできそうだが、残念ながらこの回では俺の行動に関する描写はすべて俺の視点から語ると決めている。たとえ神にもその役割を譲ってやる気はない。
 なに、ほんの少し補足を入れるだけだ。
 すぐに済むから、しばしご清聴願いたい。
 鳳凰に脇腹を撃たれた後、俺がずっと両手で腹を抱えるようにしていたのは言うまでもなくデザートイーグルを取り出すタイミングを窺っていたからだが、実はもうひとつ理由がある。
 俺が最後に銃の台尻で粉々に破壊したスマートフォン、あれを身体の下で操作するためだった。
 俺が動けないがゆえの油断だったのか、それとも俺のことを不必要に警戒しすぎていたからなのか、鳳凰が俺に対して身体検査を一切しようとしなかったのは、俺にとって最大の幸運だったと言える。
 もしされていたら、悪あがきの手段さえ完全に奪われていただろうからな。
 で、スマートフォンを使って何をしていたかというと、玖渚が作ったあの掲示板に書き込みをしようとしていた。
 ある意味ダイイングメッセージのようなものだ。ネット掲示板にダイイングメッセージ、なんとも現代的でいい感じじゃないか。
 ただし身体の下で操作していたわけだから、当然画面もボタンも見えない完全ブラインドタッチだったので、ちゃんと文字が打てていたかどうかわからないし、そもそも書き込みができていたのかどうかも確認できていない。
 これで投稿できていなかったら間抜けすぎる。
 誤字だらけなのは仕方ないとして、最低でも投稿できていると信じたい。
 まあ、あんな書き込みをしたところであいつにとって致命的となるわけでもないし、内容が信用されるとも限らない。むしろ無駄になる確率のほうが高いだろう。
 だからこれもただの悪あがきだ。自己満足と言い換えてもいい。
 何の意味も持たなくとも一向に構わない。
 さてさて、死人があまりでしゃばるのも問題なので、言うことも言ったし今度こそ退場させてもらうとしよう。
 これ以後は正真正銘、金輪際俺の出番が来ることはない――なんて俺がこんなことを言うと、ひょっとしたら嘘になるかもしれないけどな。


2:目撃情報スレ
 4 名前:名無しさん 投稿日:1日目 夕方 ID:IJTLNUUEO
 E7で真庭法王という男におそわれた拳銃を持ている。危険
 鳥のよな福をきている、ものの乃記憶を読めるやしい
 黒髪めだかと組んん出いる可能性あり
 付近にいるのは注意されたしい

37かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:21:36 ID:gkHsMIYk0
 
  ◇     ◇


 「…………不愉快だ」

 頭を撃ちぬかれた貝木泥舟の死体を見下ろしながら、鳳凰は憎々しげに呟いた。
 その死に顔がなぜか満足げなものだったことも、鳳凰の苛立ちに拍車をかける。

 「まさかこんな、口先だけの大法螺吹きにまたも一杯食わされるとは、例えようもなく不愉快だ……しかし、我のほうにも慢心があったことは認めざるを得まい。猛省せねばなるまいな」

 鳳凰としては、まさか相手も『銃』を持っているとは思わなかったのだろう。
 鳳凰の世界における『銃』が極めて特殊なものであるがゆえに、相手が同じ武器を所持しているという可能性を予想できなかった。
 さらにその武器がいかに強力なものかを知っているがゆえに冷静さを欠き、急所を外す余裕もなく、反射的に撃ち殺してしまった。
 あえて言うならもうひとつ、鳳凰が拳銃の存在を予想できなかった理由として、貝木の所有物に対する先入観が挙げられる。
 忍法記録辿りによる先入観。
 鳳凰の左手に宿る忍法、記録辿り。それは物に残された残留思念を読み取るものであり、当然のこととして読み取る対象物に関わりの深いものの記録しか読むことができない。
 例えば貝木のデイパックであるなら、それをずっと所有していた貝木自身の行動の記録。あるいは、デイパックから出し入れされた物の記録。
 もしデザートイーグルが貝木のデイパックに入っていた支給品だったとしたら、あるいは一度でもデイパックの中にしまわれていたとしたら、その記録を読み取った時点で十中八九、拳銃の存在には気付けていただろう。
 しかしデザートイーグルが取り出されたのは、真庭狂犬のデイパックの中からだった。
 加えて貝木はそれを自分のデイパックにしまうことなく、スーツの懐に入れて携行していた。
 つまり鳳凰にとって不運なことに、そして貝木にとって幸運なことに、デザートイーグルに関する記録は貝木のデイパックにとって対象外の記録だったのである。
 スマートフォンについても同様の理由だ。ただしこっちは、存在が読めていたところで何に使うものなのか鳳凰にはわからなかっただろうが。
 鳳凰が貝木に対し身体検査をしなかったのは、むしろそれが原因だったのかもしれない。
 なまじ記録を読むことができたことで、「貝木の所有物はすべてデイパックの中に入っている」という先入観を作ってしまったということ。
 そこは完全に、鳳凰の油断であり慢心だった。

 「……まあよい。生き残ったのが我であるという事実に変わりはない――それに、随分な収穫もあったことだしな」

 鳳凰は貝木の死体を足で仰向けに転がすと、右手に握られたままの拳銃を力任せにむしり取る。
 それを確認するようにしばらく眺めてから、近くの壁に向けておもむろに銃を構え、発砲した。
 強烈な銃声とともに、弾丸は決して薄くない壁を優々と貫通する。銃声の残響があたりにこだまする中、鳳凰は彼にしては珍しく感嘆したような声を出した。

 「素晴らしい……炎刀と比べて連射性こそやや劣るが、威力のほうは比べ物にならんな。これが手に入ったというだけで、わざわざこの不吉な男のもとを訪れた甲斐があったというものだ」

 炎刀・銃の上位互換に当たる武器、鳳凰はデザートイーグルをそんなふうに解釈し、それを炎刀とともに懐へしまう。
 その際、記録辿りでデザートイーグルの記録を読むことも忘れなかったが、先ほど貝木が撃った以外ではまだ一度も使われていない、という事実しかわからなかった。
 さらに傍らへ放り捨ててあった貝木のデイパックを改めて拾い上げ、その中身を検分する。
 基本の支給品以外では、日本刀、金槌、巨大な棍棒、予備の弾丸、金属で作られた諸々の道具、そして――

 「これが……誠刀・銓?」

 説明書きを読んだだけでは疑わしかったが、記録辿りでその鍔と柄しかない刀を読んだことで「それ」が「そう」であることを確信する。
 変体刀十二本がうち一振り、「誠実さ」に重きを置いて作られた日本刀、誠刀・銓。
 炎刀の類似品だけでなく、誠刀までここで手に入るとは……。

 「しかしこれは、戦闘に使える代物ではないな……当然、これが本物の完成形変体刀である以上、真庭の里の復興のため所有しておくことに変わりはないがな」

 そう言って、誠刀を自分のデイパックの中へ丁重に納める。
 さらにもうひとつ、鳳凰にとって不可解なものがあった。先端に針のついた透明の容器に入れられた、何かの薬品のような怪しい液体。

38かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:22:28 ID:gkHsMIYk0
 幸いそれも、記録辿りによって用途を確認することに成功した。ただしその内容は、投与しただけで「天才」を「凡人」に改変してしまうという、実に眉唾くさい代物だったが。
 貝木の持ち物のうち、不要と思しきもの(地図や名簿など)を除いたすべて支給品を自分のデイパックへ移し変え、さらに今更ながら貝木の死体を検分する。しかし見つかったのは懐の中に入っていた紙幣と硬貨くらいで、めぼしいものは発見できなかった。
 地面に散らばっているスマートフォンの残骸にも少し目を向けたが、それは無視しておくことに決めた。あの状況で優先して破壊するほどのものだったのかと少し気にはなったが。
 念のため、貝木の身に着けている衣服などに対しても記録辿りを行使してみたが、得られた情報はデイパックを読んだときと大差なかった。
 ただひとつ、少しだけ不可解に思うことがあった。
 あの橙色の怪物と対峙する前、破壊される直前の建物と、その付近にあった自動車の記録を読み取ったときにも感じた違和感。
 と言うよりは、この殺し合いの中において忍法記録辿りを行使するたびに必ず、その違和感はあった。
 この場に用意されている物からは、すべて「新しい記録」しか読み取ることができない。
 デイパックを含めすべての支給品、建物、さらに衣服の類ですら、その性質や用途はおおまかに読み取ることはできるものの、ここ数日以前の記録がまったく存在しない。
 たった今読み取った誠刀・銓にしてもそうだ。それが本物の完成形変体刀であるということは理解できるのに、戦国の時代を渡り歩いたはずのその刀から、何の歴史も辿ることができない。
 まるで。
 まるでここに存在しているすべてのものが、例外なくこの殺し合いのためだけに作り出されたものであるかのように。

 「…………やめておこう。これ以上、余計なことを考えるのは」

 鳳凰はデイパックを静かに地面に置くと、瞑想するかのように両の目を閉じる。

 「いらぬ雑念に囚われているから、こんな口先だけの輩につけこまれるのだ――我はもうこの先、誰の虚言にも踊らされぬ。迷いも油断も慢心も、この場ですべて消して失せよう」

 そう言うと鳳凰は、右腕を天へと向けて高々と振り上げる。
 そして竹取山で匂宮出夢の死体にしたのと同じように、その右腕を貝木の死体めがけて力の限り振りかざした。
 《一喰い》(イーティングワン)。
 破壊というよりは、それは爆砕。
 力の制御が利くようになったはずのその右腕は、しかし出夢の死体のときより荒々しく、そして圧倒的に貝木泥舟の死体を爆砕した。
 血も肉も骨も、すべてを霧散させんばかりの一撃。
 デザートイーグルの威力など、まるで霞んでしまうような人外の破壊力。
 地面深くまでめり込んだ右腕を引き抜き、血振りをするようにぶん、と振るう。
 先ほどまで貝木がいたはずの場所には、千々に弾け飛んだ肉片と、申し訳程度に破壊を免れた貝木の身体、そして重機で掘削されたかのようにざっくりと抉られたアスファルトが残されていた。

 「――これより我に迷いなし。ここに存在する全ての者を皆殺しにし、我の悲願を成就させる。それこそが我の進むべき唯一の道」

 そのためなら我は、奈落にでも堕ちよう。
 そう宣言した鳳凰の目には、もはやこの世のものとは思えないほどの深い覚悟が宿っていた。
 闇のように深く、底知れない覚悟が。

 「随分と時間を食ってしまったな……まあ急ぐ道理もあるまい。ゆっくりと確実に、一人ずつ消していけばよいだけのこと。派手に動いて周りに警戒されるのも好ましくない」

 言いながらデイパックの中に手を差し入れる。
 すでに所持品の数が尋常ではなくなってきているが、それがマイナスになるような真庭鳳凰ではない。もたつく様子もなく、すぐに目的のものを中から取り出す。
 数刻前に西東天から鳳凰の手に渡った支給品、首輪探知機。
 現在の区域であるE-7内に反応はないが、ここからF-7までは目と鼻の先だ。境界をまたげば、また誰かの名前を見つけることができるやも知れぬ。ついでに図書館とかいう場所を探索しておくのもよいか――
 そんなふうに行動の指針を決め、首輪探知機を片手に歩き出そうとする鳳凰。
 が、そこで何かを思い出したようにはたと足を止める。

39かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:24:56 ID:gkHsMIYk0
 
 「そういえば、これをまだ調べていなかったな」

 そう言って取り出したのは、鳳凰の元々の支給品であるノートパソコンだった。
 何に使うものかすら不明だったがゆえに調べることすらせず放置していたが、西東天がそれを見た際の発言からかなり利便性の高い道具であることは想像できた。
 使い方さえ把握できれば、これも強力な武器となるかもしれない。

 「どれ、読んでみるとするか……可能な限り、念入りにな」

 もはやルーチンワークのような動作で、鳳凰はノートパソコンを左手でつかみ瞑目する。
 それに残された記録を余すところなく掬い上げようと、左手に意識を集中させる。
 深く、深く、深く。
 記憶の残滓の中へ、己の意識を潜行させる。
 数十秒か、あるいは数分か。それなりに長い時間をかけて、鳳凰はそれの記録を読み取った。

 「…………なるほど」

 しばらくののち、記録を辿り終えた鳳凰は閉じていた目を開き、静かにそう呟く。
 そしてそのままノートパソコンを開くことも起動することもせず、それを自分のデイパックの中へそっとしまいこんだ。

 「さっぱり分からん」


【1日目/夕方/E−7】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態]身体的疲労(小)、精神的疲労(小)、左腕負傷
[装備]炎刀『銃』(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、匂宮出夢の右腕(命結びにより)
[道具]支給品一式×6(うち一つは食料と水なし)、名簿、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、
   首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、鎌@めだかボックス、
   薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、首輪探知機@不明、
   誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、
   マンガ(複数)@不明、三徳包丁@現実、中華なべ@現実、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する
 1:F-7へ移動し、他の参加者がいたら殺しに向かう
 2:虚刀流を見つけたら名簿を渡す
 3:余計な迷いは捨て、目的だけに専念する
 4:ノートパソコンや拡声器については保留
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません
 ※支給品の食料は乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※右腕に対する恐怖心を克服しました。が、今後、何かのきっかけで異常をきたす可能性は残ってます。
 ※記録辿りによって貝木の行動の記録を間接的に読み取りました。が、すべてを詳細に読み取れたわけではありません。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。

40 ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:26:18 ID:gkHsMIYk0
投下終了です
指摘などあればよろしくお願いします

41名無しさん:2013/07/31(水) 04:13:15 ID:1D6zbx.UO
投下乙です!
予約の時点であっ(察し)ってなって途中でえっ!?となったけど結局はあー…となった
しかし氏のキャラの再現性は本当に凄い
原作からそのまま抜け出て来たようなクオリティ
死後もdisられる狐さんは不憫という他ないがそれ以上に放送後の江迎ちゃんが怖い

42名無しさん:2013/08/01(木) 19:06:10 ID:b4GX7kSE0
投下乙です

確かに途中で驚いたわw これは凄い
よくここまで書けるなあ…
よかったです

43 ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:06:12 ID:03.Kayr.0
投下します

44×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:07:47 ID:03.Kayr.0


「……」
「……」

沈黙。
勿論、喋る必要もなければ、車を出さない理由もない。
されど双識は車を動かす気配を見せない(まあ七花にはこの鉄の機械がどのように動くか存じてもないが)のを、何と思ったか、問うた。

「……どうしたんだ?」
「ああいや、もしかしたら安心院ちゃんの美しい長髪にモフモフ出来るかと思っていたのだがね。
 ああ見えて意外と彼女は恥ずかしがり屋かな。
 いやあ、彼女の進言通りきみとタッグを組んだというのにご褒美一つないなんてがっかりだよ」

それは半分ぐらい彼の人となりを加味すれば本当なのだろうが、もう半分は違う。
――果たしてこのままでいいのだろうか。
心の中に、ふとした疑問が浮かんでいた。当然の疑問とも言えるが。
――あのまま安心院なじみの言うことに従順してしまっていいのか。
誰かの思い通りになる。という経験自体はないわけではない。竹取山の件なんかがいい例だ。
しかし誰かの計画通りに動くとして、零崎として、復讐行為を達成することが出来るのか。

まあ。
そんな感じにシリアスに考え巡らせていたのだが、とりあえず次の一言で全て吹き飛んだ。

「……髪に埋まる程度がご褒美なのか?」

彼としては昔を懐かしむわけでもなく、ただ昔にあった事実を言ったまでなのだが、
どうだろう、隣に佇む彼が途端こちらを凝視したのは何故だろう。
半端じゃないほどの羨望と嫉妬を含んだその視線の意味を、彼は計りかねる。

「……程度? それが程度だって?」

瞠った目が不気味だ。
確かに今まで言うところの変態、動物学的性的両方の変態を見てきた彼であったが、しかしここまで強烈な変態は初めてかもしれない。
彼は刀。
人間に対しての分別もまだ確かなものにはなっていないが、将来彼はこの男の事を忘れることはないだろう。
いや、忘れるかもしれないが。

「おいおいおいおい! 冗談はよしたまえ。強がりはいけないね。
 さあ、私が納得するようにその出来事について語りたまえ! 遠慮はいらない!」
「え……あ、ああ。別にいいが」

そう言って、如月よりはじめた『とがめと言う人間を認識するための鍛錬』についてよくわからないまま語る。
美しき白髪を首に巻いて噛むのは駄目だが舐めたりもして。
思い返せば大分前になる話を、良く覚えていたな、と珍しく自らの記憶力を褒める。
尤もそれだけ彼にとっては大変な修行だったということかもしれないが。

「……まあ、そんな感じだ」

褒めつつも軽く大雑把に説明を加えた後。
説明を唆した当の本人はと言うと、両手で頭を抱え、何だか嫉妬の念に駆られていた。

「……そんな……まさか……世の中そんなうまい話が……」

ぶつぶつと零す。
妹を欲す(とはいいつつ実はいるらしいが)双識にとっては中々に信じがたい話である。
しかもその姿なりが、蝙蝠の変身していたあの姿だという――これは興奮するなと言う方が、男性として土台無理な相談なのでは。
この時の双識は割合真剣にそう感じていた。

「……でももう、関係ないよ。とがめは死んだんだから」

一人盛り上がる中。
七花は冷水でもかけるかのようにぶっきらぼうに言い放つ。
効き目はそれなりにあったのか、これを境目に双識は静かになる。

「……そうだったね」

七花は双識の言葉が濁った事に対して多少気にかかったが、まあいい、と切り捨てる。
僅かな沈黙が車内を支配し、僅かな逡巡の後双識は口を開いた。

「人が死ぬときには――何らかの『悪』、もしくは類するものが必然だと、私はそのように思うんだ」

彼の弟曰く。
彼はこの言葉を口癖のように唱えるという。

45×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:08:33 ID:03.Kayr.0
そしてこの場、軽トラックの車内で長身な男二人が肩を並べるというなかなかシュールな状態の中、彼は隣の男に唱えた。
状況的な関連も今回あまりなかったが、会話に詰まったからには何か会話を切りださなければ。
別段会話をしなきゃいけないわけでもない。しかし男二人が肩を並べて静かにドライブと洒落こむのはあまりにわびしい。

「へえ、どうだっていいが」

ボサボサ髪の男は、投げ捨てるように返す。
双識の計らいも、七花には通じなかったらしい。
言った方とて、真面目な返答は期待していなかったのか、気にせず話を進める。

「どうだい、きみの中でとがめさんをはじめ、先ほど映像で見た『死』は『悪』いものだったかい?」

先ほどの映像、とは玖渚友が発信した参加者の死に様を撮った動画のことだ。
その説明の時点で、およそ露『悪』的で、『悪』趣味極まる「最『悪』」と断言できるであろう問いに対して

「別に。殺し合うんだから、当然とまでは言わずともしょうがないんじゃないか」
「そうか、きみはそう言う人間か」

興味のなさそうに答えるのを見て、何回か頷いた。
分かりきっていたことだが、七花は『普通』じゃない。
拾った時はただの間抜けだと感じたがとんでもない。
『当たり前』じゃなく、『幸せ』でない、はみ出し者。
そしてそんな自分を『当然』としている――まるで弟のような、そんな、人間。或いは、人間から外れた、人外。

「まあ――いい。ところできみの名は鑢七花でよかったかな」
「ああ、言ってなかったか?」
「安心院ちゃんが言っていたきりできみから直接聞いたことはなかったな。私は零崎双識だ。以後お見知りおきを」
「そうか、覚えれるよう尽力はするが」
「しかし七花、か。……ふーむ、ぱっと思い浮かぶ由来が寡聞にして存じ上げないが、立派な由来をもっているのだろうな」
「名前なんてなんだっていいだろ」
「いやいや。名前とは親から授かる大切なものだ。大事になさい。親は子供を愛しているのだから」
「ふーん」

それまでの興味なさげなものとは、僅かに声の調子が変わる。
なんというか、含みを感じる声だ。
家族内で諸事情が生じるのはしょうがないものだとして、こんな場所。
――殺し合いに参加させられて、なおも家族を恋しく思わないどころか、含みを見せるとならば下手につっつつかない方がいいだろう。
そこまでいくと、他者が何か言ったところで、逆鱗に触れるだろうことは容易に想像ついた。
現状協調的な姿勢は見せている人間の気を、わざわざ『悪』くすることもないだろう。しかもこいつは――かなり強い。
プレイヤーとしての直感が、告げている。
最強を目指す双識は人一倍その感覚が優れているからというのも勿論あるだろう。

「……あー」

と。
言葉を返さなかったのを自分の言葉不足としたのか、相槌から言葉を継ぐ。

「そりゃあ、ちゃんと育ててはくれたけどよ。
 あいつは少なくとも姉ちゃんを愛してなかったんだ。だからおれはそんなの言われたって分かんねえよ」
「子供を愛さない親――か。それは、正真正銘『不合格』だね」
「……?」
「ああいや、独り言だと思ってくれて構わないよ」

大袈裟に肩をすくめながら、彼は踏もうとしたアクセルを踏まず。
身体を前に向けたままに、七花に問うた。

「それで、きみは、親をどうしたのかな」
「殺したが、なんだ」

あまりの即答。
応えるのに迷いなど一欠片も匂わせない。
事実を伝えることは、決して間違っているとは言わないがしかしこの一言は――。

「……」
「……」

再度沈黙。
この二人――とにかく肌が合わないのだろう。
さもありなん、本来であれば仲間に慣れるような間柄ではなかった。
一つの異分子が介入さえしなければ、恐らくは自然と戦闘へと展化していただろう。
とある狐面はこう唱える。時間収斂(バックノズル)と。
過程はどうあれ、最終的には全てが同じ結末に収束していく理論だ。

「なら悪いが、即刻車から降りるか、私に殺されるか。――好きな方を選んだほうがいい」

この場合。
その理論が成立したと言っても過言ではないだろう。
結果的に、間もない間で二人の間に亀裂が生じた。致命的な穴である。
七花は不思議そうに首を傾げるも、双識の態度は一向に変わらない。

46×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:09:07 ID:03.Kayr.0
「私は家族と言うのを何よりも重んじていてね。家族を殺すような人間と行動するってのはどうにも気が進まない。
 ……どころか腸煮え繰り返って思わずバッサリと殺してしまいそうだ」

言われたならば七花とて付き合う理由もないだろう。
情報交換も既に済んでいるし、姿なりの印象で命令を素直に聞いたはいいが、第一安心院なじみはとがめではない。
彼の所有者ではないのだ。
あれこれ指図される義理も、元々ないのである。

「あ……そっ。なら降りてくよ。別にあの――なんだったかに従う必要なんてないしな」

言うが早いや、ドアを蹴破り、のろりと外へ出る。
そこに躊躇いはない。逆に彼に躊躇いを持てというのが酷な話なのかもしれないが。
と、そこで。

「ああ、そうだ」

そして、彼は何かを思い出したように振り返ると――拳を溜め。
車のアクセルが踏まれるよりも前に、拳を放つ。
それは、虚刀流四の奥義「柳緑花紅」。鎧や防具を通じてでさえ攻撃を届かす奥義の一つ。
ならば、車を――同じ金属の壁と見做せば車越しに攻撃するのもわけはない。
斬撃は車を無視し、運転席へと流れ着く。

「どうせ生きてるんだろうが、鳳凰との同盟も守らなきゃいけない。恨みを売った覚えもないが死んでもらう」
「……お前」

切り裂かれた男は、しかしそれでも生きている。
血飛沫を撒き散らしながら、ゆったりと車から降りて体勢を整えた。
車のガラス越しに彼の姿が見える。その目は、まるで命がないかのように――金属の様に冷たく、刃の様に鋭かった。
安心院なじみの目的は今でも計りかねないが、それでも彼との交渉の決裂がものの十分も満たない間に終わりを迎えたことは、
なるほど、『物語』を無理矢理にでも整理する、とはその通り。
どうあってもきっと彼と彼は相容れなかったのだろう。
だからこそ、鎖でしならせた竹が僅かな衝撃で元に戻ってしまうように、わずかな出来事で安心院の行為は無駄と化すに至ったのだ。
尤も、この結末さえも安心院なじみの想定の範囲内だったとしたら、ゾッとする話である。

「お前は何を目的としている……」
「さあな。おれは好きなように生きて朽ちるだけさ」
「そうか……」

なら――と。
ディバックから七七七(アンラッキーセブン)を取り出す。
つまりは戦闘態勢。
まもなく、『虚刀流』と『二十人目の地獄』の対決が、幕をあげようとしている。
安心院なじみの手配とはまったく異なる現実へと、姿を変えようとしていた。

「きみはいずれ家族の敵となるだろう。――だから手間のかかる弟のためにもこの長兄が一肌脱ごうじゃないか」

しゃきん、とシュレッダー鋏を鳴らす。
もう片方の手で眼鏡の位置を正しながら、いつものように宣戦布告。
これが零崎だと言わんばかりに。
さあ――――

「――それでは零崎を始めよう」

うふふ、と車を飛び越し、上空から鋏を突き出す。狙いは、喉元。
流れはまさしく一流のそれ。どこにも無駄のない華麗な動きは、零崎三天王の名に相応しい。
零崎きっての切り込み隊長の一撃に対し、彼は――

「……ただしその頃にはあんたは八つ裂きになっているだろうけどな」

決め台詞を気だるそうに呟いて、鋭き一撃をいなしながら、彼は『刀』で迎えうつ。


「虚刀流――『雛罌粟』から『珍丁花』まで、打撃技混成接続」


お決まりの様に。
そして、宣言通り、相手は八つ裂きと化した。

47×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:09:38 ID:03.Kayr.0



 ◆◇◆◇



零崎双識は敗走していた。
戦闘を仕掛けたはいいが、思わぬほど手痛いしっぺ返しを食らっていた。
全身は切り傷だらけで、『普通』の象徴であった特製スーツから着替え、
これまで一緒に戦った箱庭学園のジャージも無残な姿に先ほどまでなっていた。
とはいっても、替えは(何故だかたくさん)用意しているので、見た目に困ることこそなかったが――。

敗因としてはいくつか挙げられる。
一つに、虚刀流相手に曲がりなりにも『刃物』で立ち向かったことだろう。
二つに、ただでさえ『自殺志願』の時点で弱体化するというのに、より扱いに難がある『七七七』で立ち向かったこと。
三つに、悪刀『鐚』の効用を過信していたこと――よもや相手が既にその刀を完膚までなきまでに叩き折った相手とも知らず。
勿論のこと油断などせず全力で挑んでいったが、幾らか分が悪かったようである。
まだしも徒手空拳で挑んだ方がよかったのかもしれないが、しかしそれも後の祭り。

「……ふむ」

とはいいつつ。
結果彼はまだ生きている。
殺しきらなかった――いや、七花からしてみれば殺せなかったというのが適切だろう。

彼との戦闘の締めは、ずばり手榴弾。
彼は手持ちの手榴弾を相手に向かい投げた。
爆発、そして爆風を致命傷になるほど喰らったわけではなさそうだが、目晦まし程度にはなる。
曰く『不愉快爆弾』と称されるように、邪魔たらしい爆風であり、しかもその熱風も並々ならぬ殺傷力を秘めている。
その隙を狙って、逃げ出した。
軽トラックも惜しいが、つべこべ言ってはいられない。
それこそ悪刀『鐚』があるのだから体力に困ることはなかろうし。

ざっと数えて二百回ほど死んだ後、彼はようやく殺せないことを理解した。
殺すには状況が悪すぎた。
こいつを殺すには、もっと、もっと、軋識の『愚神礼賛(シームレスバイアス)』のようなより暴力的な手段か、
或いは呪い名一同や曲識の『音』のような近接戦をまったくと言っていいほど行わなくてよい戦法が必要だ。
奇しくも双識にはそのような技能などなく、零崎三天王の中では一番組み合わせの悪い相手だったと言えよう。

名誉ある戦略的撤退とはいえ、この敗走は本来あってはならない。
彼はきっと、人識であろうとも容赦なくその『刃』を剥けるだろう。
だが人識は――ナイフを専門とする人識ではきっと、いや確実に分が悪い。
それでも彼にはそうするしか他なかった。
彼が意識的にか無意識的にか、保持している『敵前逃亡をしない』という『誇り』をかなぐり捨てるまでに、その強さは――随一だった。
恐怖の度合いで言ったら、人類最強の彼女とも引けを取らないかもしれない。
だが彼は、『まだ』死ぬわけにはいかない。現状、死んだら彼の代わりは存在しえないのだから。
人識はそんな奴ではないし、伊織に至っては彼からしては、面識さえもない。――故に死ぬわけにはいかない。

「……まったく、あの赤い化物といい、七花くんといい――手間がかかる」

ぼやくは聞いている者は誰もいない。
誰かに聞いてほしくて彼もぼやいたわけではないのだが。

と。
歩を緩める。
というより、止まってしまったという方が適切だ。
歩みが止まって、思考が止まった。

「腐っ……!?」

前方一帯が、ぐじゅりと腐敗していた。
丁度今双識がいる辺りを境目にして、明らかに景色が違う。
街中がさながらゾンビ映画の様に退廃し、見るも無残に変わり果てている。

そしてここで一番異端なのは、『そのこと』自体では、ない。
無論のこと、この光景を単体として見せられても同じように驚愕の念に駆られるだろうが、だがしかし。
この腐敗的にして退廃的景色のなかに、ぽつんと一人――佇んでいるのは気味が悪い。


「……見ぃつぅけたぁ……」


その顔は、口が半分裂け、左目が辺りの肉諸共喪失している。
この光景をゾンビ映画と称したが――どうだろう、ホラー映画でも通用するな。
双識はふと、そんなことに思いを巡らせた。


 ◆◇◆◇

48×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:11:04 ID:03.Kayr.0


「愛を忘れてはならない、と私は思う」

双識は目の前の妖怪のような少女に説いた。
大袈裟に手振り羽振り加えて心底楽しそうに、少女・江迎に接近する。
江迎は驚愕の表情を浮かべて、臨戦態勢をとった。
針金細工のような男が場にそぐわない笑顔で接近してきたら女性としては誰だって警戒するだろうが、
この場合、江迎の警戒の意味は少し事情が違う。

「生きている限り人間は誰かを愛する。私は生きることは愛することだと考えているのだよ。
 その辺りきみはどうだろう。まだまだ未熟な可愛い弟なんかには否定されてしまうそうだけどね」

愛情のこもったその瞳が江迎にとって――拒絶の対象だった。
『愛』と無縁の彼女にとって、
そして信頼できると思った球磨川にさえ裏切られた彼女にとって、有体に言えば嫉妬の対象である。
めらり、と。
燃えるような、やきもち。
ぐじゅり、と。
心が腐っていくような――嫉妬。
負の感情がふつふつと煮えたぎり、燃えあがる。

「愛なくしては人間は語れない。うふふ、そうだね。
 きみは『週刊少年ジャンプ』を知ってるかな。あれが掲げるのは『友情・努力・勝利』の三本柱だ。
 そしてその三本とも――愛を起源に、愛を養分として少しずつ進歩していく」

双識は茜色の空をバックに悠長に歩く。
七七七は先の虚刀流との一戦において損失してしまったが、確かに彼は武器となりうるものを所有している。
だが、逆に言うなれば、それは『ただ武器を持っているだけ』という事実に過ぎない。
この異様な――目の前に映る下半分が腐敗物である光景を前に、
余裕綽々と構えていられるほど、彼はそれらしい凶器を持ち合わせていない。

「いやなに、安心したまえ。私は信頼と言う言葉の美しさをつい先ほど思い知ってね。
 如何にしてこの美しさを伝えようか、悩んで四苦八苦しているのさ」

ふむ、と零す。
構えている彼女――臨戦態勢、といっても肉弾戦も得意でない江迎にとってはただの心の準備の問題だが。
まあそれはさておき、そんな彼女を頭から爪の先まで凝視して、観察して、診察する。

江迎からしたら立場がない。
今更――いや最初から不思議としていたが、これほどまでに時間が経過して、改めて疑問へ昇華する。
何故こいつは、零崎双識は、腐りきらない!
そんな江迎の戸惑いの瞳を意に介さず、むしろ相反するように目を輝かせ――。

「さあ! ポツンと突っ立っているきみ! 自己紹介をしあおうじゃないか!
 私と愛をはぐくみあい、今生きていることを、主催陣どもに見せつけようじゃないか!」

江迎の警戒を無為に返すかのように、
何時の間にやら零崎双識は、江迎の間合いへと這入り込んでいる!

49×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:11:33 ID:03.Kayr.0

「――――っ!! ――『荒廃した』<ラフライフ――!>」

江迎はそれを排すように、わずかに遅れて過負荷の少女は意識を高め、
己の周囲にそれまで自制していた腐のテリトリーを展開し、『退化』させた。
つまり、ツナギと対峙した時と同レベルの負/腐がそこに顕現している。

「『過腐花』<ラフレシア>――!」

だが。

「ラフレシアか――。ふむ、ラフレシアと愛は少しばかり結びつかないが。
 この世で一番大きい花と言う。それほどまでに成長できる寵愛を、きっとまわりの自然から受けていたんだろう。
 成程、きみの観察眼は中々どうして侮れない。
 私も何度かラフレシアは拝見させてもらっているのだが、若い者の発想は捨てたものじゃない」

だが。
この男はどうしたことか。
まるで腐りきる気配が窺えない。
厳密に言うと、身体の表面はさながら石鹸で洗われたようにぬめりがある。
つまり、身体の表面にはしっかりと江迎の手から空気を媒介に『感染』して、腐ってはいるのだろう。
腐らせることは可能であれ、『感染』が身体の底にまで到達するに至っていないのだ。
『「魔法」使い』をも腐らせたその『過負荷』は確かなもののはずなのに!

「うふふ、しかしきみみたいな女の子から例えラフレシアであろうともお花を頂けるとは嬉しい限りだ。
 ラフレシアの花言葉は確か『夢現』だったかな……いや、ラフレシアは本来贈り物としては不適切だから決まっていなかったかな。
 ならばこの零崎双識。貰ったラフレシアから、きみからの気持ちをくみ取るのに努めるのも吝かじゃない!」

彼女、江迎怒江には知る由もない話だが、双識に差し込まれたくない――否、刀の名は悪刀『鐚』。
活性力に主眼を置いている四季崎記紀が作った完成形変態刀の一振り。
曰く十二本の中で最も凶悪とされるその刀は、刺した者を『活性化』させる。
効用として主に身体能力と治癒能力の向上。言い換えるならば、無理にでも刺した、差したものを生かし続けてしまう、まさに悪の刀!
この刀を差し込んでいる限り、双識の体は常に万全以上の身体に仕立て上げている!
ならば鑢七実の病魔をも抑え込んだように『感染』を打ち消したとておかしい話ではない!
現在双識の身体は腐敗と再生を幾度も繰り返しているのだ。
江迎の全身全霊はものの見事に打ち崩されたのである。

「――なんっ――っで」

苦悶の表情を浮かべ、唸る。
当然だ、絶対ものものと信じたそれが呆気なくも無力化されてしまった。
これほどまでに屈辱的で、敗北的で、絶望的ではないだろう。
過負荷の彼女にとっては、お似合いすぎる。その事実がまた江迎の精神を甚振る。
『貝木と幸せに暮らしたい』――ただ一心で生きて、傷ついて、それでも愛し続けて地面を這いつくばってでも命を紡いできたのに。
またしても邪魔が!
邪魔が! 障害が! 遮蔽が! 何故彼女の前に立ちはだかるのか!
あまりに理不尽なような気がしてならなくて、思わず涙ぐんでしまった。


そんな彼女の手を、双識は握り締めた。


「――えっ」
「私はきみが何故泣くのか、詳しい事情は生憎存じないが、それでもおおよそ察しれるよ。
 きみは愛されることを知らない――。だからきみの愛だって歪んでいる。愛の偉大さを、感じたことがないんだね?」

こうしている間にも、双識の掌は、腐敗と再生を繰り返す。
再生すると言っても痛みは感じるであろうが、それを素面で受け流し、彼は語りはじめる。

「確かに私は『鬼』だがね。きみみたいな『愛されてなかった子』を見ると昔の自分を見ているようでね。
 ついついおせっかいと、老婆心とわかっていながらつい言葉をかけてしまう。
 それもそれが女の子だとしたら声をかけない理由が逆にないね!」
「……っ!」

思い返せば。
双識の記憶は檻の中から始まる。
それ以前のことを彼も覚えていなかったし、周りも当てにならなかった。

50×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:12:10 ID:03.Kayr.0
そんな時に彼はこう思ったとのことだ。
――俺は孤独だ。――俺はどうしようもなく独りなのだと。
世界は自分だけのものだと錯覚した。この世に生きているのは自分だけ。
彼は『それまで』愛を知らずに育ってきた。
だからこそ彼は家族を大事にし、重んじ過ぎるのだが、それも無理のない話。

そんな彼が、愛を知らない江迎に同情――否、家族ではなかれ、仲間意識を多少なかれ抱くのもまたおかしな話でない。
彼は愛がないことの哀しさを知っている。故に、彼は江迎を放っておく真似はしなかった。

「もう一度自己紹介をさせていただこう。私の名前は零崎双識。――きみは?」
「……江迎、怒江……」

半分裂けたその口から、空気が漏れたように細々とした声が漏れた。
聞いて、双識は「わーい」と大人にあるまじきようなとぼけた声をあげ喜んだ。
女の子から名前を聞けたことがそんなに嬉しいことなのか、江迎にはわからないが、何故だかそれが『愛』であるような気がして。
江迎は欠けた口で、笑みを作った。
――こんな私でも生きていていいんだ。
――幸せになれるんだ。幸せにさせてあげられるんだ。
彼女の人生はやっとこれより始まった様な気がして、先ほどまでとは違う輝きを宿した涙が、右目から零れた。
双識はそんな彼女の髪をそっと撫でる。
江迎はただそれだけの行為でも、凄くうれしかった。
――泥舟さんにもこうしてもらいたいな。
僅かな温もりが、その身に宿り……彼女の過負荷は急激な弱体化を迎えたのだ。

「『愛に生きる過腐花』<ラブライブラフレシア>だったかな……うん、今のきみにはぴったしだ」

撫でながら、双識はそう呟いた。
無論のこと彼女の過負荷名は『荒廃した過腐花』<ラフライフラフレシア>なのだが、
しかし彼女は訂正を加えない。
そうなったらいいのにな、『幸せ』を願う彼女は極々普通に、そう願う。



 ◆◇◆◇



愛されている。
彼女は紛うことなく感じていた。
実際彼女は手を握られながら、座り込んだ双識にもたれる形で抱きしめられて、人肌に温められている。
双識は江迎の髪に頭をうずませ、何かを懸命に吟味していた。これが彼なりの愛し方なのだろうか?
それは今まで誰にも行われなかった行為だ。
人吉善吉も。
球磨川禊も。
貝木泥舟でさえも。
まるで父親から寵愛を受けているような、懸命な愛を訴えられて彼女はその愛に酔う。
初めての経験で、だけども不思議と安心できて。
愛を知らなかった彼女からしてみれば、至上の愛し方だったとも言えよう。
彼女は確かに貝木に忠誠を誓ったし、彼もまた(それが嘘であることを彼女は知らないが)誓っている。
二人は結ばれるべき運命なんだと、彼女は確信している。――妄信している。
だからこそ、仮に私が子供を産んだら、双識みたいなお兄ちゃんが欲しい。いや、そんな風に育てたい。
上の姉と下の妹に挟まれながら愛を説いているミニチュア双識を思い浮かべると、それはそれは和やかな一日だ。
夢見る景色は夢のままで、しかし彼と私なら不可能じゃないはずだと、江迎は抱かれながらに思う。

この温かさを是非とも子供に伝えたかった。
愛そうと思っても、触れたら腐ってしまう彼女だから、今まで碌に誰かを愛せなかった。愛してもらえなかった。
だけどそれは辛いことだから。
今の自分の心のぽかぽかさを知ってしまったから。
自分みたいな惨めな思いを子供にさせたくないな、と思うのはとても普遍的な思考回路。
誰かを愛して、報われることは彼女からしてみればとても難しいこと。なにせ彼女らは『過負荷(マイナス)』である故に。

51×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:12:48 ID:03.Kayr.0

でも。
でも、だ。
――そんなの諦めたく、ない!

「私……幸せになりたかったの」

一人、語り。
愛を知る双識には、何故だろう。
自分の身の内を話すのも悪くない気がした。
彼はとても真摯に――紳士に彼女の言葉を傾聴する。

「でもね、今まで色々な障害が合って、どれも失敗しちゃった」

彼の言う愛は簡単だった。
支え合うこと。ただそれだけ。
誰かが困っていたら、自分が助け。
自分が困っていたら、誰かに助けてもらい。
それだけにして、彼女には今の今までできなかったこと。
貝木泥舟のために彼女は尽力を果たしたつもりであったが――どれも空回りばかり。邪魔ばかり。

だけど、今は隣に双識がいる。
手を握ってくれて、抱きしめてくれた。
できるのだ。
彼女を助けることは、こうも容易くできるのだ。
双識は腐らない理由を「これが愛の成す業だ!」なんだの吠えていたが、しかしそんなの嘘だと分かっている。
どうみたって、彼女の傍で双識に突き刺さっているくないが原因であろう。
でも、いいのだ。
隣に居てくれる、手を握ってくれる――彼女にとって、こんなにぽかぽかなものはない。

「だけど……私、諦めたくない」

心からの叫び。
元より彼女は、過負荷にして、それでも幸せを願っていた少女であった。
球磨川禊とも、蝶ヶ崎蛾々丸とも、志布志飛沫、不知火半袖とも異なる過負荷。
それが彼女の生きる理由。
唯一にして至上の、絶対の! 彼女がいまここに、満身創痍の状態でも立ち続ける理由なのだから!
自分だけが不幸せだなんて――認めない!
それぐらいなら、周りをみんな陥れる。
それでも、彼女でも幸せになれるというのなら――我儘かもしれないが


「私は確かに『過負荷』だけど――幸せに! 貝木さんと幸せになりたい!」


幸せになりたかったのだ!


「そうだね……」

双識は頷く。
立派な目標だと思う。
家族から貰った命を大事にして、幸せを追い続ける姿は間違いなく『合格』だ。


「きみはきっと幸せになれるさ」
「……零崎……さん」


彼は断言する。
彼女の未来に幸せはある、と。
彼女の姿は実に好感が持てる。
拾われる前は――全てに諦めていた自分とは対照的に、彼女は独りでも、前を向く。
いや、彼女の言い分からして彼女は独りではないかもしれないが、しかし婚約を約束した女を捨てて立ち去るなど、『不合格』もいいところだ。


「私も手伝おう。――きみが幸せになれるのを」


双識は、決意する。


「きみを見ていると、私の奥底に眠る気持ちが疼いてしょうがない」
「……零崎……さんっ!」


江迎は、涙をほろほろと流し双識の腹の辺りを抱きしめるように縋る。
力強く、離さないように、もう二度とこんな素敵な人を手放さないように。
貝木泥舟との恋仲を初めて応援してくれた初めての人――




「だからそのまま、零崎一賊の為に死ね」

52×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:13:32 ID:03.Kayr.0

 ◆◇◆◇


首を絞める。
その針金細工のような腕で。
同じくか細い江迎の華奢な首を。

まったく金属製の首輪と言うのは邪魔くさい。
絞首と言う、殺害方法としては至極真っ当な行為だってやり辛い。
双識は独りごちながら、しかし逃さぬようにしっかりと、握りしめる。

「……っゔ、……あ゙、あ゙、……な゙、なんで……っ!」

元々出血多量の為か青白いかった江迎の顔が、より白へと染まりつつあった。
舞妓のような気品さは感じさせない、ただ死人のような顔へと。
首を絞める双識の腕を離そうと、腕を握り、力を込めるが、その腕は腐りもしないし離せもしない。
肝心な時に、使えない能力である。――改めて自分の人生を思い起こせば、ずっとそんな調子の人生だった。

「なんでもなにも、端から私はきみを殺そうとしていた。出遭った時から思ってたんだ。
 きみは――『負完全』球磨川禊と同じ存在だとね。尤も、今思えばきみの場合『奇野師団』だとも感じてきたが……。
 まあどちらにしたって、私たち零崎とこの場に居る以上対立するのは目に見えてるんだ。――抹殺をするのに、それ以上の理由はない」

いやあ、戦わないきみたちの領分に合わせるのも一苦労だ、と。
冷徹に、切り捨てる。
否、もとより繋がった覚えも、彼からしたらなかったかもしれない。
確かに彼は生粋の変態だが――最優先事項として家族に仇なすものには容赦をかけるつもりはない。
老若男女容赦なし、だ。
察しの通り、箱庭学園を巡る一件で球磨川禊をはじめとする『負』は、間違えなく家族の敵と見做されている

「―――――。―――――。―――――。」

対し江迎は、江迎怒江の心情は。
ただならぬ憎悪を、並々ならぬ憤怒を抱えて、行き場のなくなった感情を全力で吠える。


「ゔゔゔあ゙あ゙あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


辺り一帯が、先ほどよりも広範囲で腐敗が始まった。
腐る。腐る。腐る。腐る。腐る。腐る。腐る。腐る。腐る――――。
根こそぎに、根絶やしに、根も葉も残さず、地面だって形を保てないぐらいに、強制的に腐らせる。
それが、今の彼女の『負/腐』のパロメータ。
一旦心を許した分だけ突きつけられる、真っ黒に染まり上がる、絶望感。
――少しでも、心を預けることさえ、私には許されないのか!!
吠える。吠えて、吠えて、もう何が何だか分からなくなる内に、殺意が芽吹く。

――あいつは殺さなきゃ、殺すんだ、殺さなきゃいけない。殺す。殺してやる。殺して解して並べて揃えて腐らせて、踏みにじってやる。レッツキリング☆

そうしている内に、双識は腐る地面に足元を取られて江迎の首から手を離す。
しかし手を離したことに気を取られている場合でもなかった。
さながら地面が底なし沼の様に、柔らかくなる。足掻けば足掻くほど、身体が沈んでしまう。
地面に膝まで埋まる。このままでは不味いのは自明の理。

――ならば。下手な反抗は止め、固くなった泥を粉砕するほど力押しでいけばいい。
悪刀『鐚』の力を借り、彼は足を地面から脱出させて、江迎から距離を取り直し、体勢を整える。
気を抜けば、またも地面に足を取られてしまう。一瞬たりとも気は抜けない。

「――なんで、足掻くの。……大人しく死んでよ」
「やれやれ、全く一筋縄にはいかない連中ばかりでおっさんとしては肩身が狭い」

とぼけながら。
しかし、確実に、今度こそはと、首を狙いに行っている。
目が、そう訴えていた。
江迎は双識の瞳を拒絶するように、自らの過負荷を、今まで一緒に歩んできた過負荷の名前を、叫ぶ。

「っ――『荒廃した過腐花』<ラフライフラフレシア>――――!!」

茜色に染まる空の下。
しかし世界は黒に染まっている。
取返しがつかないほどドロドロに腐り果てた箱庭の中。
それでも歯止めを知らない『感染』の波は広がっていた。

53×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:14:10 ID:03.Kayr.0

「うふふ、そういや先ほどきみは『幸せになりたい』と言っていたね」

江迎の呻きに反するように、双識は腐りきる様子など一向に見せずに、足を飲まれないように江迎へ近づく。
楽しそうな口調の半面、実に耽々としたその歩調は、人のそれではなく、『鬼』の歩調だった。

「きみは宇野浩二の愛読者では――なさそうだね。
 見たところ本に触れたこともなさそうだが、彼の小説を見てみると、『幸せ』の在り方なんて簡単に見つかるものさ」

言っている間に、双識は江迎の間合いに這入り込んでいた。
江迎はだからといって成す術がない。武器は持っていない……持っていたとしても腐ってしまう。
肉弾戦で勝てるか……勝機は限りなく薄い。ならば、どうするべきなのか。

「『幸せ』とはね、『普通』なことだ。きみは確かに女の子だったが――如何せんその『過負荷(マイナス)』は障害他ならない」

再び、手を伸ばす。
首に向かって、絞め殺すために。

「きみが『幸せ』を願うのは、『普通』が少々役不足だね」

やはり彼女には、もう、どうすることもできないのか。


「いやだ!」


彼女はその手を払いのけ、残った右目で双識を睨む。
少しばかり驚いた様子で、双識は目を瞬かせる。
江迎の鬼よりも鬼気迫る気迫に幾許か圧されてしまったのは、不甲斐ないが事実であった。

「認めない……私はそんなの認めないっ! 『過負荷』だって『幸せ』を『掴む』ことはできるんだっ!!」
「できないから、今があるんだろう?」
「違う、違う、違う、違う、違う、違う!!」

ただ認めたくないだけ。
だけど、それが今までの生きる目的だったから。
否定されたく、なかった。
一瞬でも肯定してくれた人になら、尚更否定されたく、なかったのだ。
江迎の必死の叫びの後、しばしの沈黙を置いて、双識は口を開く。

「……我儘は言うものじゃない。私だって、『幸せ』には憧れるさ。
 だからこそ、私が死んで『零崎』が駆けつけてきてくれない、そんな愛のない死が私は嫌なんだ。
 そう、どうせ死ぬなら、自分の死を悲しんでほしい、私を殺した相手を恨んでほしい。そう思うのは、『普通』なことだろう?」

生憎、人識は敵討に彷徨う鬼じゃない。
胸の内にそっと言葉を閉じ込めて、未だ見ぬ妹に思いを馳せる。
存在の真偽はともかく近くに零崎特有の気配は匂わない。前々から思ってはいたが、どうも気配の読み取りがいつにもまして不明瞭だ。
仮にここで、江迎怒江に殺されたとして、駆けつけてくれる零崎はいない。寂しいこと、この上ない。
誰も零崎双識の遺志を継ぐことなく、命を尽くすなど――彼としては、あってはならない。

「お互い様さ。こんな場所に引き連れられた時点で、誰しも『不幸』なのさ。自分だけが『不幸』だなんて、思わない方がいい」

そこまで言葉を紡いで。
いよいよ彼は殺しにかかる。
何だかんだ言いつつも、七花の言う髪に埋まる行為を堪能させてもらった相手だ。
情が湧かないわけではない。
だが、零崎は殺すことが生き甲斐だ。
瑣末な情で殺さないことなど、あり得ないのである。

54×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:14:54 ID:03.Kayr.0

だから、彼は、江迎の首に手を掛けて。
握りつぶそうと、もうこの際悪刀『鐚』の力任せで握りつぶしてやろう――。


そこまで考えていた時。
ある音が、鳴った。



ぱきん



初めは何の音かと思った。
だけど直ぐに理解した。
砕けた。
双識の胸に差し込まれた刀が。
完成形変態刀が一振り。『活性化』に主眼を置いた悪刀『鐚』が。
双識の胸にぽっかりと一滴の血も流れず――そこは空洞になっていた。
まるで虚無のような。
まるで、暗黒のような。
理解した時、『ソレ』は始まっていた。
身が爛れるような苦痛。
身が捩れるような苦悶。
『感染』だった。
『荒廃した過腐花』<ラフライフラフレシア>
広がる。
広がる。
広がる。
あらん限りの負を詰め込んだ腐が。
江迎怒江が、裏切られた衝撃で放たれた禍々しき波が。
染める。
染める。
染める。
急速な勢いで、その身は腐っていった。
どうしようもなく、後戻りもできず、成す術がないままに、いつのまにか両手がポトリと落ちた。


「……あ、」


何を言おうとしたかは分からない。
何を伝えようとしたかは分からない。
だけどもう遅かった。
何もかもが遅かった。
服が。
肉が。
骨が。
皮が。
細胞の残滓に至るまで塵も残さず。
されどその身に巻いた首輪と背負った鞄だけを残して。
余韻もなく、彼は死んだ。
そこには何もない。
愛どころか、何もない。
江迎とて理解していなかった、呆気ない襲撃だった。
双識とて予期していなかった、束の間の終劇だった。


死んだ。
そして、死んだ。
二十人目の地獄は、二十一人目を待たずして、この世を去った。



【零崎双識@人間シリーズ 死亡】



 ◆◇◆◇

55×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:17:55 ID:03.Kayr.0



「はーはっはっはっ! ざまぁみろ! ざまぁみろ!!」


結局のところ、それは残量切れ。
悪刀『鐚』が刀内に保有した雷をすべて使い果たし、ただの搾り滓となって、役目を終えたのだ。
やはり悪刀『鐚』の役目がそうそうに終えてしまったのは、鑢七花の猛攻によるものだろう。
彼にざっと数えて二百回ほど殺された。
家鳴将軍家御側人十一人衆がひとり、胡乱が悪刀『鐚』を差し込んだ状態では、二百七十二回の攻撃でその役目を終えた。
忘れがちだが、この十一人衆。本来将軍の御守に就かされるほどの、異常とも言えるほどの力量を有している。
多少見積もったとして零崎双識が死ねる回数としては、三百五十回あたりがいいところだろう。

「裏切るから! ……裏切るから……っ!!」

止めに、江迎怒江の『荒廃した過腐花』<ラフライフラフレシア>。
あんなものに常時あたっていたら、本来であれば一分に一回は死んでいる。
残りの百五十回の死を経験するのも、造作もないことであった。
確かに悪刀『鐚』――『感染』の被害を最小限にとどめ、腐りきることはさせなかったが、彼の身体は常に再生を繰り返していた。
それだけでも、十分に電力を消費させてしまう。
零崎双識の此度の敗因は、純粋に悪刀『鐚』の知識不足にある。
もともとこれは彼の弟、零崎人識からあくまで譲れ受けたもの。
――彼自身が説明書を見てこの刀を使用したわけではない。
先ほどの鑢七花との凌ぎ合いのときもそうであったが、この事実は『悪』いように作用した。
仮に双識の死に対し、何が悪かったのかを論ずるとするならば、準備が『悪』かった。
言うまでもなく、虚刀流・鑢七花と過負荷・江迎怒江に出会ってしまった運も、『悪』かった。
もしかすると、零崎一賊の切り込み隊長、自殺志願・零崎双識は悪刀『鐚』と巡りあっていた時点で、
針金細工のようなその身体に、『悪』が必然的に付き添っていたのかもしれない。――悪刀だけに。


「…………ははっ! はははははは☆ ……ゴホッ」


残された彼女は、ただ笑い、嗤った。
それしかすることがないかのように、哄笑し、空を仰ぐ。
真っ赤な茜色。
終わりの刻。黄昏時というには丁度いい。
そういえば、本物の、花のラフレシアもあんな色をしている。
綺麗な、あるいは皮肉な偶然だと思う。
『自分の死に時』がまさかラフレシア色の空の下だなんて。

「…………はぁ、はぁ……」

江迎怒江は数歩進んで、小さく息を吸って大きく吐く。
尤も、口が半分以上避けている彼女にとって、それはそれで一苦労だった。
彼女の足は、また止まる。

「………………」

息が切れる。
理由としてはいくつか挙げられるが、一つに『空気の腐敗』が挙げられよう。
これまでだって、掌に触れてきた空気を腐らせてきたことはある。
しかしそれは、腐った空気は、あくまで風に流され彼女自身が吸うことなどまったくと言っていいほどなかった。

56×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:18:25 ID:03.Kayr.0
「なぜ彼女自身は腐敗の影響を受けないのか」という愚問に対する答が詰まる所「慣れ」や「限界へ到達した故」。
ならば慣れていない、限りなく無酸素に近い状態で活動を続けたならば。味わったこともない苦悶を噛みしめたならば。
明白である。
耐えられるわけがない。
顔が顔と呼べないほど心身共に崩落した彼女に、どこにそんな力があるのか。

彼女は新鮮な空気を吸えていない。
次から次へと、どれだけ多く吸ったところで『感染』した『空気』は彼女の周りに漂い続け、量産されていく。
考えるもの億劫になるほど、先が見通せない現状に、終に諦めるしかないのか――と命を投げ捨てた。
あれほどまでに死への拒絶。生を渇望していたにもかかわらず、諦観を帯びるのに時間はかからない。
彼女はそれほどまでに、精神を摩耗させている。

『荒廃する腐花』<ラフラフレシア>から『荒廃する過腐花』<ラフライフラフレシア>への退化は、結果的に本人にまで影響を及ぼした。
それも最悪の状態で。考え得る限り救いなどない状況へと。
強化でなく退化であるのならば、順当な結末とも言えよう。

彼女は納得する。
やはり私は過負荷だ――生きてちゃいけないんだ。
笑えないのに笑えてくる。少しでも幸せを追い求めた私が馬鹿だったんだと。
無意味で、無関係で、無価値で、何より無責任。それが元より彼女たちの教訓だった。

酸欠、及び流血による出血多量からともとれるが、現存する右目の視界さえも朧になっていく。
ピントが合っていない写真のような、そんな光景が目の前に広がる。
命の限界。
察するに難くない。
もっと言えば、顔の大部分が破損し、マトモな処置も受けていなかったのに生き続けた今までがおかしかったのかもしれない。
どちらであれ、彼女の限界は近い。
『感染』し腐ったゲル状の地面へ膝を付け、手をついた。
息をしても呼吸した感覚がない。してもしても解決へとは導かない。

「……あぁあ」

手をついたことで遠くの建物が『感染時』とは比較できないほど急速に成長し、瞬く間に腐る。
一気に開けた泥沼になった。
かっこうの的だが、しかし彼女へ攻撃を加えるのは難しいだろう。
例えそれが銃弾であったところで、排出された銃弾が彼女の元に届くころ、それでも銃弾が形を保てているかは定かでないからだ。
まあ。
仮定の正否はどうであれ、彼女がここから生き残ることさえも難しいのだから、或いは意味のない仮定なのかもしれない。

「…………幸せに、なりたか」

ぐじゅり、と。
とうとう彼女は身体を支えこむ力を喪い――そして飲み込まれるように地面に沈んでいく。
彼女に最期に触れた温かさは人肌とはまるで違う、無機質で、なんの愛もない。哀悼とはかけ離れた無残な死。
最期に球磨川禊、ならんで零崎双識に「このやろう」を。貝木泥舟に「ごめんなさい」を。
「ありがとう」とか、「あいしてる」とか、今まで散々口にした言葉も、もう口にすることはない。
夥しい怨恨も囁かな謝罪も、これ以上言葉にできないで、彼女は静かに息を引き取った。

安らかに、けれど誰よりも残酷に。
最期まで苦しみながら、悪に塗れ腐るように死んでいく。
その死体が腐るまでに、幾許の時間が必要なのだろうか。答えを知る者は誰もいない。


【江迎怒江@めだかボックス 死亡】




 ◆◇◆◇

57×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:18:55 ID:03.Kayr.0

「なんだか逃げられてばっかだな……」

七化はようやくその煙幕から視界を晴らし、辺りを見渡した。
そこには誰もいない。
零崎双識の姿は、置き去りにされた軽トラックの車内を見て回ってもどこにもない。
逃げたのだろう。
きっと罠を仕掛ける余裕もなく。
ただ、そんなことはどうでもいいし、考えるだけ無駄であり、面倒だ。
七花はつい先ほどまでものの数十分組んでいただけの相手を頭から切り捨てる。

「……家族……か」

言葉を洩らす。
先の会話からの影響か、ここのどこかにいよう姉の姿を思い浮かべる。
恐らく姉は、他の人間を何の興味もなく捻り潰しているのだろう。
七花が見てきたビデオの中には七実の犯行そのものは映されていなかったが、七花には弟としての感覚か、確信していた。
だとしたら、どうだ。
七花はまた姉を殺すのか。殺しきることができるのか。
確かに姉を探したい気持ちは高まっているが――それは。

「……いや」

首を振る。
考えても仕方がない。
考えたところで、しょうがないものはしょうがない。
悩むことは、苦手なのだ。
ならば『刀/人(おれ)』らしく――今を生きればいい。

「……」

言葉もなく、彼は進む。
さしあたって何処へ目指そうかなどは考慮していないが、なるようになるだろう。
それこそ安心院がまた出てきて何か指示さえすれば話は別だが――

「――あれ、そういやどうしてあいつと組んでたんだっけ?……あ、あ、じ……まあいいや。忘れた」

――とまあ安心院なじみのことは既に忘れ去っているようではあるが、
ここにはとがめのように指示する者もいなければ、作ろうとも思えない。
彼は好きなように生きるだけ。

「おれは好きなように生きるだけだ」

一先ず彼は、爆風によって被害を受けた火傷ばかりはどうしようもない、と。
とがめが死んだあとになってからは珍しく、まあ彼にとっては水でもぶっかけるか程度の考えしかないにしろ、一応は治療は施そう。
と、手持ちに水がないので目の前のクラッシュクラシックの扉を、開けて閉め、入室した。

見たところ、水と言う水は――あの緑色の瓶の液体か。
一般的に「ワイン」と呼ばれるそれを見つけ、物珍しそうにくるくると瓶を回す。
中に這入っているのは確かに液体だ。
なんとなく、周囲の香りからして水ではなく酒の類であることは理解できたが、如何せん嗅ぎ慣れない匂いであるため多少興味をそそられた。
あくまで興味がわいた程度で、特別酒を口に含みたい気分でもなかったために、躊躇いなく瓶の口を裂き、火傷を負った左手に直接かける。
尤も本来であれば冷水で冷やし続けるのが一番効率的だと世間一般的には言われているが、残念ながら、都合よく七花は蛇口の使い方を知った訳ではない。
そして部屋の片隅――人識が漁っていた冷蔵庫のことも、彼は知らない。
冷蔵庫を漁れば、もしかすると冷えた水の一つや二つ出てくるかもしれぬのに。
だが、それは彼が生きた時代が時代故に、仕方のないことであり、責めるべきことではない。
同時に口を挟んだところで、どうしようもないことである。

そんな時のことだった。

58×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:19:44 ID:03.Kayr.0

――ぐじゅり。

何かが溶けるような、音。
何処から――と七花は首を回し確認するが、厳密な場所が把握できない。
至る場所から、その音は聞こえてくるのだ。
まるで、建物が共鳴を起こしているかのように――――!!


「なっ……!!」


ようやく異変の正体に気付いた時。
『ソレ』は既に目に見える形で、顕現していた。
腐っている。
そんなまさか、とは思いはすれど、しかし確かにこのクラッシュクラシックは腐ろうとしている!
天井が崩れ落ち、半液状と化した天井が、七花の居る床へと降り注ぐ。
その泥の雨とも形容できなくないそれを、逃げ場の見当たらなかった七花は全身で浴びてしまう。
『感染』した、腐の飛礫。
それは、新たな腐の布石。
『荒廃した過腐花』<ラフライフラフレシア>の影響下に、クラッシュクラシックも侵されてしまった!
鑢七花は『不幸』にも――その『感染』の餌食、巻き添えとなってしまったのだ。

ただ、直ぐに腐るようなことはなかった。
強烈な腐敗臭の中、僅かな間に崩壊していくクラッシュクラシックの崩落の一部始終を目に収めることぐらいが出来るぐらいには、まだ七花は七花のままである。
しかし、どこにも心配していい要素などなかった。
以前のツナギがそうだったように、このような『感染』で、皮膚が、『感染』してしまっている。
皮膚が剥がされていくように、痛い。
同時に、胃が直接甚振られているかのように、吐き気を覚える
腐敗臭に晒されているから、だけでは到底理解できない――『何か』が前兆もなく襲来した。

クラッシュクラシックが崩れてしまったお陰と言っていいのか、今七花の視界は広い。だけどどこにも敵の姿は認知できない。
さもありなん、そもそも敵は今頃少し離れたところで裏切られた鬱憤を晴らしているに違いないのだから。
敵が近くに居ないと分かった以上、一度構えを解いて、素早くその場から避難した。
あそこにあのまま居続けるべきではないのは、馬鹿でも何でも、理解はできよう。

どうしたものかと考える。
火傷云々などと言っている場合ではなくなった。
これは非常に、不味い状態だ。
――唯一の幸運とも言うべきか、彼は直接過負荷の余波を受けたわけではない。
戸締りをきちんとしていたからだ。
風邪の防止策として、適度な換気さえしていれば、そもそも家から出ない方がいい、というものがあるように。
直接七花は、過負荷に触れたわけではない。クラッシュクラシックが崩れ、外気に触れた時には素早く移動を開始していた。
故に、即死級の『荒廃』を味わわずに凌ぎきることが可能となっている。

とはいえ、『感染』している事実に揺るぎはない。
ならばどうするべきが一番適切か――尤も、どうするもこうするも、現状彼には無視を決め込む以外に方法はないのだが。


「――――ああ、本当、面倒だ」


ここへ呼び出されてから、何度か口にしているその台詞だが、
その何れよりもこの言葉は苦々しく、辛さを惜しみなく前面に晒している。
感情に乏しい七花でさえも、そうせざるを得ないほどに、江迎怒江の残した置き土産は、傍迷惑(マイナス)なものであった。

一度思い切り、胃液を吐きだした。
口の中が酸いくなる。
黒神めだかと対峙した時に与えられた熱以上に、この『感染』は、彼の神経を貪りつくしていた。

しかし彼は休む暇もなく、再び走りだす。
後ろの方では、ゆっくりではあるが着実に確実に、市街地を浸食している。
彼は走る。
走って、走って、走って――――。

59×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:20:24 ID:03.Kayr.0
【一日目/夕方/C-3 クラッシュクラシック跡】
【鑢七花@刀語】
[状態]『感染』、疲労(中)、覚悟完了、全身に無数の細かい切り傷、
    刺し傷(致命傷にはなっていない)、血塗れ、左手火傷(荒療治済み)、吐き気
[装備]なし
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える
 1:放浪する。
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る。
 3:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない。
 4:変体刀(特に日和号)は壊したい。
[備考]
 ※時系列は本編終了後です。
 ※りすかの血が服に付いています。
 ※りすかの血に魔力が残っているかは不明です。
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です。
 ※掲示板の動画を確認しました。
 ※夢の内容は忘れました。次回以降この項は消していただいて構いません
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします



【死亡者付近の状況】

[放置]

B-3

・江迎怒江の死体
・零崎双識の首輪
・零崎双識のディバック
>支給品一式×3
>食料二人分、更に食糧の弁当6個、携帯食半分
>体操着他衣類多数
>血の着いた着物
>カッターの刃の一部
>手榴弾@人間シリーズ
>奇野既知の病毒@人間シリーズ
>「病院で見つけたもの」

[施設]
クラッシュクラシックが腐り、跡形も残っていません。
また、範囲の都合上、西東診療所、喫茶店も腐っている可能性が十分にあります。

【江迎怒江の『荒廃した過腐花』】
死ぬ直前の江迎怒江の精神状態に依存して、独立して腐敗を『感染』を広げています。
『感染』が広がる範囲は後続の書き手にお任せしますが、現状B-3から周囲一マスは腐っている可能性が高いようです。
なお、既に死んだ遺体に関しても腐敗をしていく可能性もあります。

60 ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:21:22 ID:03.Kayr.0
以上で投下終了です。
指摘感想等あればよろしくお願いします

61名無しさん:2013/08/06(火) 20:32:58 ID:QRDuf9320
投下乙です。
これは素晴らしいまでの大惨事。
そして台無し。
双識さんは良い所なしに江迎さんも悪しからず、安心院さんの思惑も何もかも。
ここにきての死者連発も今後の展開に大きな影響が出そうで。
お疲れ様でした

62名無しさん:2013/08/06(火) 20:59:49 ID:RgKn6NGA0
投下乙です!
読みながらずっとおもしろいおもしろいと口をついて出てしまってました
しかし不幸の血大活躍すぎるwwwww
安心院さんがちょっかいかけなければ即バトってもおかしくなかったし別れるのは残当だったんだよなぁ
双識さんは装備と相手が悪かったね…からの江迎ちゃんあっ(察し)からのまさかのデレ江迎ちゃん
あの最凶チート能力の対処法があったことにも目から鱗でしたが綺麗な上げて落とす展開
しかも1エリア近く離れているのに死んでなお残る過負荷が恐ろしすぎる
近くには多分(生きてる人間は)いないだろうけどこれはただじゃすまないこと必至
どうでもいいけど七花はすぐに忘れちゃったのに未だに安心院さんのことを覚えてるいーちゃん何気にすごくね?

63名無しさん:2013/08/06(火) 21:34:08 ID:i2vdkJ8w0
投下乙です
各キャラの心情も細かく書かれていてすごい
だが結果は双識は無残に敗北し
江迎ちゃんは幸せとは言えない幕切れ
七花にも戦いの痕が残った形となって
まさに惨劇と言えるような状態
しかもその惨劇の痕も拡がっていく……まさに絶望的
改めて投下乙でした、こうも上手く書ききるのは流石だと思います

64名無しさん:2013/08/06(火) 21:47:27 ID:tebkU9asO
投下乙です!
七花に呆気なく撃退されたときは「双識兄さんは今回ヘタレ要員か?」と思っていたら、最大級のチートマーダーに対しこの風格
江迎の過負荷を喰らってなお微塵も揺るがずに向かっていくところなんかは、もはや化物じみてすら見えた。悪刀の力を借りてるとはいえ、流石は兄さんやでぇ・・・
絶望的かと思われた江迎ちゃんも救われたし、今回は本当に双識兄さん大活躍の回でしたね!





・・・と途中まで思っていただけに、中盤の手のひら返しにはマジで戦慄しました
「過負荷」(マイナス)と「最悪」が出会った結果としてはある意味当然の帰結というべきなのかもしれないけど、まさかこれほどとは・・・救いはないんですか!?
最初は「意味深なタイトルだなぁ」としか思わなかった今回の題名も、読み終わってみればなんて切ない・・・
兎にも角にも、素晴らしい絶望回でした

65名無しさん:2013/08/07(水) 00:36:54 ID:BlYqKGdQ0
投下乙!
うお、おおう、おおおう
読んでいる時、ずっとそんな感じだった
巻き起こる何度もの衝撃的な手のひら返しに完全に呑まれてた
特に悪刀が切れてからの何も残さないあまりにもあっけない双識の死がすんげえ染みこんできたというか
西尾らしいというかでおおう……
最初ん時の双識と七花のあれそれにはそりゃそうだっていう顛末だったけど
そっからかっこいい変態モード来たかと思ってでもこいつ愛で殺すんだよなと思ったら愛ですらなくて
でもちゃっかり髪の毛に埋もれたり普通が役不足にぞくりときたり悪刀での相殺すげえと思ったらあれで
江迎ちゃんも江迎ちゃんで掌くるーされて過負荷で窒息してしかも死んだ後でさえそれが無関係の七花まで不幸にしてで、あー
過負荷は倖せにならないし誰も幸せにしない、それを思い知らされる話だった……

66名無しさん:2013/08/07(水) 07:36:31 ID:KpGvahXE0
投下乙です!
冒頭の「世の中そんなうまい話が」に噴出し、
「家族」というキーワードが出た瞬間に、ああこりゃ終わったなと確信し、
本気の七花相手に逃げ延びただけでもすげぇと、双識兄さんの無事に安堵し、
「腐るのを止められないならその都度回復すればいい」という悪刀対策に唸り
この江迎ちゃんを幸せにできる人がいたとは……とほっこりしていたら、

いや、違和感はあったんだ。「兄さんって変態だけど他人より家族優先じゃね?」とか……
結果は必然であり、自然。しかし、あっけなく、悲しい……。
そして最後のとどめが


>独立して腐敗を『感染』を広げています。

やだこわい

67 ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:09:10 ID:bpEoVhjI0
投下させて頂きます。

戯言遣い、八九寺真宵、球磨川禊、鑢七実、羽川翼、四季崎記紀
以上の六名

68みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:09:47 ID:bpEoVhjI0


ゆっくりと車は走っている。
別に速度を出し過ぎたら危険だからとかそんな殊勝な理由じゃない。
あんまり速度を出し過ぎて誰かを轢いてしまったら洒落にならないからだ。
それに速いと話に付き合えない。
多少機嫌を取って置かないと面倒臭くなりそうだから仕方なしに。
と言うのも。
ぼく達一行は結局の所決め切れず、しかし時間も無駄には出来ず。
球磨川禊こと人間未満の気まぐれと言う名の温情を甘受して、診療所へとひた走っている。
人間未満の言葉に、ぼくは思わずため息を付いた。

「…………それは前に結論が出ただろ?」
『そうだけどさ、改めて考えると二等辺三角形の方が良いんじゃないかって』

雑談。
むしろ独り言。
どうでも良いような会話を。
ゆらゆらと成しながら。

『正三角形はさ、裸エプロンの股の辺りのデルタゾーンがそうなりそうだなーって思ったからだったんだけど、今考えると二等辺三角形の方がエロいだろ? だから思うに美しい三角形は二等辺三角形の方なんじゃないかってね』
「自重しろ……って言うかそんな理由でぼくの意見を捻じ曲げやがったのか?」
『てへぺろ』
「黙れ。くそ、最終的にこんな奴の意見を採用したのかぼくは」
『おいおい、こんな奴なんて酷いんじゃないかい?』
「酷くないだろ。ぼくみたいな奴だぞ?」
『それもそうか』

へらへらと。
対照的に。
対極的に。
似ても似つかわしくないのに、何処までも似て見えるぼくと僕の会話。
戯言を交えながら。
虚言を混ぜながら。
如何でも良く、進んでいく。

「…………はぁ」

と、ため息が聞こえた。
会話を一旦止めてその主を見る。
今まで。
車に乗り込み走り続けていた間ずっと、沈黙を保っていた七実ちゃん。
憂鬱そうに、ため息を吐いていた。

『どうしたの七実ちゃん? ため息なんてしてたら幸せが逃げるよ?』
「今更一つ二つ逃げた所で変わりませんよ――それより、私はどうにも分からないです」

言いながら前を見続ける。
フロントミラー。
何となく気になって。
その瞬間、僅かに合った。
真っ黒な、全てを見透かしてしまっている風な目と。
目が合った。

「――なにがだい、七実ちゃん」
「なぜあなたがそんなに強いか、です」
「弱いよ?」
「弱いですね。今まで随分雑草を見てきたと自負していますけど、その中でもなかなか居ない位に」

69みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:10:22 ID:bpEoVhjI0
酷い言い様だ。
普通なら抗議の声が上がる筈だった。
しかしそうはしない。
沈黙を持って、諾としか答えない。
だがそれは別に七実ちゃんが恐ろしいからとかじゃない。
いや、恐ろしいは恐ろしいんだけど。
そうではなくぼくはぼく自身が、弱い、と言う事を分かっているからでしかない。
それこそが、彼女なのだろうが。

「なぜあなたはそんなに強いんですか?」
「強くないよ?」
「いいえ、強いです。毟って捨てた所で平然と捨てた場所にまた生えそうなぐらい」
「過剰評価だよ」
「かも知れません。しかし、強い、と言うのは確かです――なのに、それを見取れない」

はぁ、と陰鬱な溜息を吐いた。
合わせて頬に片手を当てる。
人形のような、と言う言葉がよく合う。
そう言えば誰だったかにその手の褒め言葉は褒め言葉じゃないみたいな事を言われたような。
なんだっけ。
えーっと、写真みたい、だっけ。
それとはまた別な気がするけど。
いやはや。
そろそろ思考を元に戻そう。
確か七実ちゃんがぼくの強さについてどうこう言ってた辺りか。

「――七実ちゃん、君は強いだろう。いや間違いなく強いと思う。だけどそれは同時に弱いって事でもある」
「わたしが弱い?」
「あぁ。強いけど弱い」
「どう言う理屈ですか?」
「理屈じゃないのさ。紙一重なんだよ、強いと言う事と弱いと言う事は」

ミラー越しに、黙って目を閉じたのが分かった。
強いと言う事は弱いと言う事。
七実ちゃんにはよく分かるのだろう。
彼女は途轍もなく強いのだから。
しかし、それも違う。
ぼくの言っている事はそれと何処か違う。
理屈ではないのだ。
沈黙している七実ちゃんに気付けば、言葉を紡いでいた。

「……名探偵と殺し屋がいた。
 彼女達はお互いにお互いの弱さを、強さを片方に詰め込まれていた。
 そう言う風に造られたとか言ってたっけ。
 言ってたっけ?
 とりあえず名探偵には弱さが、殺し屋には強さが。
 最弱に、最強に、近付かんばかりに詰め込まれた。
 だからどちらもどちらか片方しか持ち合わせていない、文字通り二人で一人の存在になっていた。
 出来上がっていた。
 だけど強いだけの筈の殺し屋には弱さがあった。
 例えば彼女は死ぬその時まで負けを認められないような往生際の悪さ。
 死ぬ時まで負けを認められない。
 これはどう足掻いたって弱さだろう?
 人間は死ぬために生きている訳じゃないんだから。
 対する名探偵はどうだったかと言うと、彼女は――うん、とんでもなく弱かった。
 小動物か何かかと思えるぐらい弱くて弱くて弱々しかった。
 それこそ人間未満と張り合えるんじゃないかって位。
 だと言うのに彼女は強かった。
 その弱い彼女を他人が殺そうにも殺せない。
 あまりにも無防備と言う弱さ。
 それが、強さに変わっていたんだ。
 殺そうにも殺せない存在。
 生き残るのにこれ以上なく特化した弱さ。
 まさしく彼女は強かった。
 ここまで言えば、何が言いたいか分かると思うけどつまり――――」

70みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:10:53 ID:bpEoVhjI0
不意に、黙っていた。
長々と語っていただけなのに、風を感じた。
窓が閉じられていた筈なのに。
ある筈のない風を。
不審に思う間もなく、気付けば外に引きずり出された。



少し時は戻る。
ある存在の鼻が異臭を感じ取ったその時まで。
その存在は鼻が優れていた。
一人の人間を追い掛けられる程度には。
だから異臭の正体を探るため、行く先を予想して観察する事を思い付いた。
木の中に入れば見付けられないだろうと安直に。
頭の中で響く声を聞き流しながら、少しだけ待った。
少し。
現れたのは車。
異臭の正体は排気ガス。
微かに面白い物じゃないかと期待していた反面、訪れた失望。
だがそれは、その車の運転手を見た瞬間には吹き飛んだ。

「いーさん」

言葉にしている間にも跳んだ。
拳が大きく振りかぶりながら。



ぼくが見た光景は、言葉で言い表せる物ではなかった。
二転三転する天地。
その中で一瞬前まで無事だった筈の車が紙か何かのように折れ曲がり、不意に止まる。

「ぐへぇ」

目が回る。
妙な声が出た。
地面に座っていても安定しない。
回る、廻る、世界だが認識出来た。
見覚えのある真っ白な長髪を。
今更になって鳴らされた警鐘を。

「くそっ、遅ぇよ……」

遅い。
綺麗に折った折り紙を、握り潰すような気軽さで。
車をひしゃげさせた存在。
ころころと表情を変えていた頃とうって変わって無表情。
車上からゆっくりと体を起こして、口が開く。

「いぃぃぃさぁぁあん! よくも騙したにゃぁあぁぁあ!」

金切り声。
共に、歪んだ顔面。
酷く、憎そうに。
酷く、楽しそうに。
酷く、恨めしそうに。
酷く、悲しそうに。
酷く、辛そうに。
全てを一緒にした結果、張り付き、反発し、混ざり合いながら現れたように。
様々な感情が、その顔に浮かんで消えてまた浮かぶ。
見ている間に、降り、走り迫る。
そこそこ空いていたつもりの距離が殆んど一瞬で詰まり、拳が目の前まで迫っていた。
呆気ない。
主人公に、なりたいと思ったのに。
儘ならない。
でも悔いはない。
だけど死にたくは、なかったなぁ。

71みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:11:23 ID:bpEoVhjI0
「!」

走馬灯だろうか。
迫っていた筈の拳が遠退き、羽川さんも遠ざかる。
いや、走馬灯とはどうも違う。
前を横切る五本の白線。

「……七実ちゃん?」
「何です?」
「まさか助けてくれるとは思わなかったよ」

横を向く。
七実ちゃんの右手の爪が異様な長さまで伸び、ぼくの目の前を横切っていたらしい。
軽く礼を言うと、小さく笑った。

「別に。もう少し話をしたいと思っただけです。話せなかったとしてもそれはそれで」

悪そうに。
どうも気まぐれ、と言う訳じゃないみたいだ。
ぼくを羽川さんが殺していれば、その瞬間、七実ちゃんが殺していた。
生き残るため向こうとしては殺さず逃げるしかなかった、と。
二分の一。
いやそれ以下か。
気付けば危ない橋だった。
そして運良く渡り切っていた訳だ。

「わたしとしてはどちらでも良かったのですが……いえ、悪かったのかしら?」

小さく首を傾げながら、右手を振った。
羽川さんが跳ぶ。
一瞬後、更に長大になった爪が走る。
何メートルあるんだよ。
軽く振ってるだけに見えて、どう言う訳か地面を易々と裂き、ひしゃげた車が横に四分割。
鋭いようだけど、だけではとても説明できない。
それにその鋭さ。
全ての方向に発揮してはないようだ。
更にもう一度振るわれた中、空中で回る羽川さんから放たれた踵落としに叩き割られた。
三本ほど地面に刺さる中、軽やかに着地する。

「うわぁ」

などと一応説明らしい事をしてみたものの、本当にそうだったか自信がない。
瞬きすれば見逃していた攻防。
二人とも人間だと思えない行動。
規格外。
この二人のための言葉じゃないだろうか。

「いや、もう二人いたか」

合わせて四人。
多過ぎる。
ぼくの方が規格外であって、彼女達が通常なんじゃないかと思う程。
いやそれこそ、戯言だけど。
更に戦局は、動かない。

「にゃに?」

呟くように何か言った。
それから自問自答しているのか、呟きながら首を数度振り、ため息を付いた。
なおも何かしら呟いていたみたいだけどそれもその内に止まった。
同時に、口だけが歪んだ。

72みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:11:52 ID:bpEoVhjI0
「――――よう、おれの娘」

ちらりと七実ちゃんを見る。
佇んだまま何も言わない。
ならばと気を失ったままの真宵ちゃんを見ようとして、止めた。
明らかに七実ちゃんに対して目が向いている。

「冷たい反応だな、おい」
「わたしの父親は一人しか居ません」

さらりと言いながら割れた爪を撫でる。
それだけで削がれ地面に落ちる。
元の長さにまで戻っていた。
長かった爪が普通の大きさに戻った。
その様を、羽川さんではない何かが笑った。

「そうだ、それでいい。刀が継ぎ足しの紛い物なんぞ使うもんじゃねぇ――使うのは己が身だけだ」
「分かっているような口を聞きますね」
「分かってるから言ってんだよ、おれの娘。随分と錆び付いちゃあいるみたいだがな」

その言葉の意味を、見定めるように目を細める。
時間にすれば十秒にも満たなかっただろう。
納得したように頷いた。
訳が分からない。
説明が欲しいんだけど。
そんな気持ちを込めて七実ちゃんを窺っても反応はない。
無視ですかそうですか。

「――ふむ、一応お名前を聞きたいのですがよろしいですか?」
「四季崎記紀」
「あぁ、やっぱりそうでしたか」
「そんな名前、名簿にあったっけ?」
「ないですよ?」
「ないぜ」
「何で部外者が居るんだよ!」

関係者かよ。
あ、だったら何かしら聞けたりするのか。
こうも堂々と姿晒してる訳だから。
いわゆるお助けキャラとか。

「さぁな。知ってても教える義理はねえよ」
「………………」

言う前に言われてしまった。
だから開けていた閉じる。
これでもポーカーフェイスには自信があったんだけど。
それとも未来が見えるとか。
いや、もちろん戯言だ。
未来が見えるなんてどこぞの島で引き籠ってたのだけで十分過ぎる。
ネタ被りにも程があるだろ。
読心術も、同上。
あの赤色に要素的に勝ってるのなんて猫耳だけだ。
深く突っ込んだら可哀そうだから黙る事にしよう。
だから何処となくホッとした顔つきになったのは気のせいだ。
だよね。

73みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:12:28 ID:bpEoVhjI0
「……閑話休題。おれの存在なんて大した意味はねぇ」
「………………はぁ」
「あ、ぼく? でしたら何故?」
「出て来たかって? 俺の娘」
「ではありません」
「が、居たからな。息子と比べてどうか、なんて思っただけだよ。悪くはなさそうだってだけだが」
「そうですか」

殆ど何となくって理由で出て来たんだ、この人。
そもそも人なのか、こいつ。
まあいいや。
そろそろあいつの出番を作ってやるべきだろう。
ご丁寧に今か今かと指を動かして待ち構えてるし。
時々目で合図してくるのを無視してるせいかすっごく機嫌悪そうになってきてるし。
目付き悪いなぁ。

「ところで、誰か忘れてませんか?」
「あ? ……ん!?」

視線を斜め上に。
前に出してた手を隣の七実ちゃんの眼にやって隠す。
子供の教育に悪い。
大人びた感はあるけど、見積もって身長150cm程度。
どんなに大きく見積もっても高校生が良い所だ。
そんな子に球磨川が、うん。
うん。
あれだよ。
両手で羽川さんの胸元の二つのスイカを云々してる姿を見せるのはちょっと。

「!? 、! っ?! んにゃ!! 死ね!」

強引に背後から組み付いて球磨川を引き剥がし、踵落としが炸裂。
転がって避ける。
あんまりな威力に片足が地面に嵌まり込んでる。
喰らったら挽肉じゃ済まないだろうなぁ。
なんて感想を抱いていると、そのまま転がりながら足元に来た球磨川が、

『くそっ!』

毒づきながら。
全身をどう駆動させればそんな風に起てるのか。
背中を浮かせ、頭だけでブリッジのような体制を取ってから、立ち上がった。
どんな筋肉だ。

『あと二十秒……いや、十秒揉めればサイズが分かったのに!』
「人が折角ぼかしてたのに何言ってやがる!」

人が折角ぼかしてたのに何言ってやがる。
台無しじゃねえか。
そうすると、口が裂けたような笑みを浮かべた。

『馬鹿だねぇ。実に馬鹿だね』
「なんでさ」
『エロの嫌い人なんていません。エロい人にしかそれが分からないんですよ』
「自分の言葉に矛盾を感じない?」
『おいおい、矛盾だらけの人生だ。今更一つ二つ増えて何か変わるかい?』
「それもそうだ」

74みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:13:06 ID:bpEoVhjI0
軽く会話を交わし、七実ちゃんの目元から手を離す。
離して、気付いた。
何やら手の形が可笑しい。
手首が半回転して身体の方を向いてるんですが。

「…………」
「…………」

いや無言で戻されても。
とりあえず手を握ったり開いたり。
全く違和感がない。
違和感がないのに違和感があるぐらい全く違和感がない。
最早幻覚でも見てたのかと疑うレヴェル。
一先ず。
ぼくが七実ちゃんの目を隠す目的は何時の間にか果たせていなかった。
地味にショック。
推定年齢やや強引に言って18歳ぐらいの今後が急激に心配。
あ、ならセーフか。
セーフと言う事にしよう。

「さてさて……」

どうした物か。
さっきまでなら何かしら口を挟んできておかしくない四季崎。
さっきまでならとりあえずぼくを殺しに来るはずの羽川さん
どちらも何もしてこないのはどう言う事だ。

ちらりと目を向ける。
果たして、口元を抑える羽川さんの姿があった。

「…………ッ……」

微かに震えて。
あぁ、そうだった。
球磨川禊。
ぼくは平気だけど。
こいつは、どうしようもなく駄目な奴だった。
それも見る人間によって変わるタイプの。
勝利を約束されているような優秀な人間からは果てしなく気持ち悪く見え。
底辺を這い蹲ってばかりいる駄目な人間ならば底知れず引き寄せるような。
弱い、人間だった。
《人間未満》。
果たして、どう見えているのか。
それは、簡単だ。

『羽川さん……いや、羽川ちゃんの方が親しみを持てていいかな?』
「ッ……く、く」
『おいおいそんなに怯えないでくれよ。傷付くじゃないか』
「か、か、く」
『初めて見た時から分かったんだ。君はどうしようもなく僕達側だって』
「来るにゃ、くるにゃ」
『どうもこんにちははじめましてこれから先も末永くよろしくね羽川ちゃん』
「くるにゃ、くるにゃくるにゃくるにゃっつってんだろ!」
『僕は球磨川禊。箱庭学園の三年生。−十三組でリーダー役を暫定的にだけど勤めてるんだ、親しみを込めてクマ―とでも呼んでくれて構わないよ?』
「くるにゃ! どっかいけ! わたしに寄るなぁ!」
『そんなに嫌がらないでくれよ。君はどう見ても『過負荷』なんだからさ』
「『過負荷』だかなんだか何も知らにゃい! 怪異にゃ! 違うにゃ! 私は! 私は違う!」
『違わないさ』

75みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:13:41 ID:bpEoVhjI0
ゆっくりと。
近付いていた《人間未満》の足が止まった。
既に羽川さんは腰を抜かしたように座り込んでいる。
ひたすら地面をずり下がるようにして逃げていた。
それも限界に近いのだろう。
遠目にも足が震えて言う事を聞かないのがよく分かる。
精々が二歩。
それだけ近付けば。
近付いてしまえば。
羽川さんに残された手段は限られてくる。
分かってるだろ《人間未満》。
それ以上は、『死線』だと。
踏み出せばどうなるかも。

『僕を見て分かるだろう?
 僕を見て安心してるんだろう?
 僕は駄目な奴だ。
 だから分かる。
 きっと君はどうしようもなく優秀な人間だ。
 いや違うか。
 そう自分に強いざるを得なかった人間だ。
 そうなんじゃないかな。
 可哀そうにね。
 だけど今は違う。
 甘えて良いんだよ?
 僕みたいな奴に。
 君は一人じゃない。
 一人にしないであげる。
 一人になんてしてあげない。
 だからこっちにおいで。
 踏み出しておいでよ――――さあ、こっちだ』

口に出さなくとも分かっている。
そう思っていた。
そうだと分かっていた。
だからこそぼくは止めなかった。
何処までも弱い者の味方である《人間未満》を。
止める事は出来なかった。

「来るにゃぁぁぁあぁあああああ!」
『こっちの水は、甘依存?』

一切躊躇う様子もなく。
踏み出した。
両手を広げ、抱きしめんばかりに。
その時、牙を剥く。
逃げる事が出来なければどうするか。
ストレスを与えてくる対象をどうするか。
簡単だ。
実に簡単な回答だった。

「      」

76みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:14:27 ID:bpEoVhjI0
音にもならない悲鳴を上げながら。
何にもならない歓喜を叫びながら。
片腕を振るった。
それだけで、吹き飛んだ。
両手を広げたまま。
迎え入れるようにしたままで。
人間未満の頭が、吹き飛んだ。

「…………」
「――――」

崩れ落ちる事もなく、血を吹き出し続けるだけの肉塊。
ああなってしまえば人間が何で構成されているか嫌と言うほど知れる。
それをぼくは傍観する。
その横で七実ちゃんは絶句した様子で佇んでいた。
本当に。
思った通り。
風が通り過ぎた。
瞬間移動のように動いた七実ちゃん。
浮いた体が回る。

「落花狼藉」

羽川さんを地面ごと、砕いた。
と言う訳には行かず、地面を砕いたのは本当だけど、羽川さんが跳ぶ。
更に数度跳ねるようにして距離を置く。
衝撃でようやく倒れた人間未満の身体を七実ちゃんは支え、ゆっくりと地面に横たえた。
遠目にその姿は、少し寂しそうに見えたのは。
ぼくの気のせいだろう。

「なぜ邪魔をするんですか――四季崎記紀」
「俺も少しばかり予想外なんだよ……まさかこうも簡単に現実逃避してくれると思ってなくてつい、な。乗っ取れたから乗っ取っちまった」
「でしたら」
「だが、関係ねえ」

身体の支配権を手に入れられた。
それも予想外に。
それだけ、思わず手が出た事で生じた結果が心に衝撃を与えたのか。
球磨川禊。
つくづく罪な奴だ。
いや、害悪な奴か。
当然、戯言だ。
害悪なんて一人で足りる。
細菌一匹で十分だ。
さて、四季崎。
今一時かどうか知らないが肉体の支配権を得た。
どう言う理屈でなっているかは知らないけれど。
何を考えているのか。
何を企んでいるのか。
七実ちゃんから距離を保ったままゆっくりと歩いている。

「……四季崎さん」
「なんだ?」
「ぼくを殺すつもりですか?」
「……今は、ない。今はな」

77みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:15:01 ID:bpEoVhjI0
至極如何でも良さそうにそれだけ呟いて、足を止めた。
ぼくと七実ちゃんと四季崎の位置がちょうど正三角形になる形で。
そして片手を地面に伸ばす。
その先にあるのは、爪だった。
まるで刀のように真っ直ぐに伸びた、爪を。
まさか。

「四季ざ」
「おれから! お前に対して掛ける情けはない」
「そうですか」
「そうだ、殺したきゃ殺せ。俺は全力で抵抗するからよ」

止めようとしたぼくの言葉を遮って。
四季崎は、地面に突き刺さっていた爪を拾い上げた。
見ていると、特に何するでもなく持った。
さながら刀でも持つように。
鋭い爪が手の平を傷付けたのだろう。
白い爪を血が流れるのをまるで無視して、構えを取る。

「これはこの時代から――っつうのも変な話だが、ま、未来の天才剣士が編み出した構えだ」
「構え――」
「あん?」
「――るのですか?」
「あぁ。分かってても、避けられねぇぜ? 見極められると思うなよ。見定める暇も与えねえ。だから、全力の切れ味で来い」
「では」

と、軽く言って佇む。
居るか居ないか分からないように。
構えているのかいないのか。
そんな構えを取りながら。
ゆっくりと相対する。

「――流派無視、無所属、鑢七」
「違うだろ鑢七実」

名乗りを四季崎が止める。
唐突に。
構えを解き、手に持った爪で肩を軽く叩く。
その顔は酷く、不機嫌そうに歪めて。

「違うだろ、そうじゃねえだろ? 鑢。鑢七実。鑢七実――お前がどう思っていようがそうじゃぁ、ねえだろ? そうじゃねえと、分かってんだろ?」

答えず、ただ目を閉じた。
構えていない。
構えているようで構えていたような気がする今までとは違って、構えてすらいない。
考え込むように目を閉じる。
しばらくして、薄っすらと開いた。

「わたしは」
「さあ来いよ、虚刀・鑢」
「はぁ――虚刀流、鑢家家長、鑢七実」

陰鬱そうな溜息と言葉を溢し、ぼくを見た。
四季崎も同様に見てくる。
合図でもしろと言うのか。
仕方なく、片手を上げる。
二人が確りと向き合ったのを確認してから、

78みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:15:31 ID:bpEoVhjI0
「――――いざ尋常に」

止めるでもなく流されるまま、

「始め」

下ろす。
下ろし切ったと思う前に、二人が既に肉薄していた。
七実ちゃんが腰を捻った状態で体を固定させ。
四季崎は爪の切先を真っ直ぐ向け腰を捻って。
そう見えた。
確信は持てない。
次の一瞬には、

「七花八裂――改」

七実ちゃんが動いていた。
七つの動作。
それだけが分かった。
しかしそれらを羽川さんが、いや四季崎が対応する。
さばく。
かわす。
うける。
さける。
はじく。
すかす。
からめとる。
一瞬で巻き起こった全てを、対応してみせた。
まるで全て知り抜いていたかのように。
完璧に防御し切って、

「――」

刹那、四季崎が。
構えた切先を。
笑いながら。
そうして。
胸元を。

「――――」
「――――」
「――――」

貫かれた。
痛いほどの沈黙。
終わった。
勝者、

79みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:16:18 ID:bpEoVhjI0
「――良いじゃねえか……」
「――――虚刀流、蒲公英」

鑢七実。



やや強引にやってしまいました。
もちろん殺して、と言う意味です。
爪合わせを使うのが面倒だったので、怪力で。
あ、鑢七実です。
一人語りと言うものは、と言うより独り言と言うのは、何となく気恥ずかしさがありますね。

――無視してんじゃねえ――
「はぁ」
「どうしたの?」
「少し考え事を」

そんなわたしの横にいるのはいっきーさん。
相変わらず素敵なまでに死んだ目をしておられます。
実に良い。
いえ、悪いのかしら。
ちなみに少し離れて八九寺さんが横たえられています。
しかし改めて『見れ』ば、実に見事なまでの散りっぷりですね。
球磨川さん。
ああもあっさりと殺されてしまうのは私としては予想外でした。
分かっていれば止めていたのに。
止めていた。

「あぁ、そう言うこと」
――どうした?――
「どうしました?」
「いえ、別に」

なるほど。
止めていた。
わたしは確実にそうしていた。
だからこそ、いっきーさんは言ってくれなかったのでしょう。
球磨川さんの優しさ。
底知れないまでの生温さ。
悍ましいまでの懐の底深さ。
それらはきっと、弱さだった。
その弱さを持って迎え入れようとした。
そして、わたしは止めようとしたはずだ。
私の強さを持って。
球磨川さんの弱さを持って、何もかも受け入れるその事を止めただろう。
例えそれが死ぬ事になっても。
だから、黙っていた。
その優しさは見ず知らずに他人の『弱さ』まで、許し、受け入れて。
結果がどうなると分かっていても。
死と言う結末が分かっていても、いっきーさんは黙っていた。

「いっきーさん。あなたは優しい人ですね」
「突然どうしたんだい?」
「思った事を言ったまでです」
――おーいおれの娘――反応ぐらいはしてくれ――

80みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:16:50 ID:bpEoVhjI0
《人間未満》。
他人の弱さを許容してしまう。
わたしは。
わたしのこの目は強さしか見取らない。
強さしか受け入れない。
だけれど。
何となく。

「何となく、分かっただけですから」

わたしの弱さは弱さを認められなかった。
紛れもない『弱さ』だった。
球磨川さんの弱さは弱さを受け入れられた。
紛れもなく『強さ』だった。
強いは、弱い。
弱いは、強い。
何となく分かった、気がする。
他人の強さを変換してわたしの弱さにしなければ長く生きていけない脆弱な肉体。
でも、弱さを受け入れられるようになれば何か、変わるかも知れない。

――おーい――
「……………………はぁ」

折角良い感じに終われそうだったのですが。
いえ悪い、なんてことはないでしょう。
良い感じだったのですが。
見なかった事にするのもそろそろ限界と言う事でしょうか。

「なんです?」

いっきーさんには聞こえないよう呟く。
ようやくの反応に嬉しかったのか、あからさまにその顔が綻びましたね。
半透明ですけど。
ようするに幽霊とか亡霊みたいですけど。

――おれは元々残留思念みてぇなもんだったからなぁ――お前の『目』もとい読み取った交霊術との相性が良かった訳だ――
「どうでもいいです」
――歴史の歪みが妙な奴等ばっか生んじまったがまさかこんな事になるとはよぉ――
「聞きなさい」
「ん?」
「いっきーさんには関係ありません」

うっかり声が大きくなっていたようです。
反省反省。
ついでにこの面倒臭いのを消してしまいましょうか。
ちらりと目を向ける。
合わせてその姿がいっきーさんの後ろに隠れてしまった。
さり気なく動くと、合わせて隠れる。
凄く、面倒臭い。

「はぁ」
――どうせそう長くねえんだ――決着位見せてくれよ――
「……はぁ」
――残留思念だぜ残留思念? ――しかも刀経由して怪異経由しての残留の残留の残留――
「…………はぁ」
――見てるだけだから頼むって――
「………………はぁ、仕方ありませんか」

81みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:17:32 ID:bpEoVhjI0
無視してればいいだけですし。
地面ぐらいのつもりで放って置きましょう。
それよりも、さて。
これからどうしましょうか。

――礼に助言の一つぐらいしてやるよ――
「はぁ」
――球磨川の死体から首輪を取っちまいな――

一先ず。
何事もなかったように球磨川さんだった物に近付いて。

――僕が死んでる間――七実ちゃんが心配だなぁ――

至極あっさりと。
首輪を取る。
取れてしまった。
見れば見るほど確りとした首輪のようで。
取ったは良いですけどどうしましょう。
どうすれば悪いんでしょうか。
何処かに投げましょうか。

「記念に持っておきましょうか」
「どうしたんだい?」
「あぁ、聞こえてしまいましたか」
「何度もため息を吐いてたら、嫌でも気になるからね」
「そうですか。いえ、これからどうしようかと」
「どうしたいの?」
「手っ取り早くお二人を引き抜く事から始めましょうか? それが一番いい案――いえ、悪い案なのかしら?」
「人間未満が後で怒るよ?」
「死んだ人間がどうやって怒るんです?」
「……流石に『大嘘憑き』でも死んだ事をなかった事には出来ないのか」
「いえ、出来ます」
「そうなんだ。じゃあ?」
「ばれてしまったので諦めます」
「助かるよ」
「いえいえ」

そう言えば蘇れるんでしたか、球磨川さんは。
つくづく出鱈目な物です。
おーるふぃくしょん。
なかった事にしてしまう過負荷。
もしも。
弱さも強さも見取れるようになれば。
もしも、おーるふぃくしょんが見取れれば。
もしもの話ですけど。
こう言う発想は、

「いいのかしら? それとも、悪いのかしら?」

どちらでもいいのだけど。
どちらでも悪いのだけど。
いっきーさん。
それに、八九寺さん。

「あなた達はどうするつもりなんですか?」
「? ぼくは今しばらくは此処に居るよ。出来れば人間未満に車の損傷をなかった事にしてもらいたいしね。出来るならだけど」
「そうですか」
「それに、真宵ちゃんの記憶をなかった事にして欲しいし」
「結局、そうするんですか?」
「うん。真宵ちゃんには悪いけど、それが一番良いんじゃないかなってね」
「そうですか」

82みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:18:09 ID:bpEoVhjI0
それで。
いっきーさんは八九寺さんの横に座ってしまいました。
残念。
言葉を掛ける機会がなくなって。
流石に聞こえてしまいますから。
今のいっきーさんの決断を聞いてどうするか。
聞いてみたかったのに。
一先ず八九寺さんを間に挟んで座りましょう。
ねえ。
八九寺さん。
いい加減。
寝たふりなんて辞めればいいのに。

「……ふふふ」



【球磨川禊@めだかボックス 死亡】
【羽川翼@化物語シリーズ 死亡】




【一日目/午後/G-5 スーパーマーケット前】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス(現地調達)、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 0:人間未満の復活を待つ
 1:復活したら真宵ちゃんの記憶を消してもらう
 2:待ってる間に掲示板を確認し、ツナギちゃんからの情報を書き込む
 3:それから零崎に連絡をとり、情報を伝える
 4:早く玖渚と合流する
 5:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 6:展望台付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です。
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました。
 ※夢は徐々に忘れてゆきます。完全に忘れました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です。
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません。
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識のものが登録されています(ツナギの持っていた携帯電話の番号を知りましたがまだ登録されてはいません)。
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました。


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]寝たふり、ストレスによる体調不良(発熱、意識混濁、体力低下)、動揺
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:生きて帰る
 1:戯言さんと行動
 2:なんでこの二人が
 3:記憶を消すとはどう言う事ですか
 4:こっそり聞きたいけど隣に居て聞けません……
 5:頭が上手く回りません……
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です。
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(大)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜6)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える。
 1:七花以外は、殺しておく。
 2:もう面倒ですから適当に過ごしていましょう。
 3:気が向いたら骨董アパートにでも。
 4:球磨川さんを待ちましょう。
 5:宇練さんは、次に会った時にはそれなりの対処をしましょう。
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました。
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました。
 ※弱さを見取れる可能性が生じています
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません

83みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:20:48 ID:bpEoVhjI0










「おお、球磨川禊よ。
 死んでしまうとは、情けない。
 なんて冗談は置いておこう。
 久し振りだね、安心院さんだよ。
 ……無視か、つれないなぁ。
 まぁ相変わらずだからどうでも良いけど。
 僕も僕で忙しいから手短に済ませたいしね」

「おいおい。
 おいおいおいおい。
 無視して出ていこうとするなよ。
 これから伝える事は割と大切な事なんだ。
 そう、まず君の『大嘘憑き』に関する事さ」

「興味は出してくれたみたいだね。
 ま、手っ取り早く言おう。
 制限が掛けられている。
 とっくに知ってるとは思うけどなかった事に出来る物の制限。
 どうせ首輪の存在をなかった事にしようとして失敗してるだろ?
 怪我や死をなかった事にするのにも制限が掛けられている。
 こっちは回数の制限だけどね」

「知っていたのかい?
 知らなかったのかい?
 どっちでも良いけど、具体的に言うよ。
 君自身の怪我や死をなかった事に出来るのはあと一回だ。
 そしてその一回はこれから使われる。
 蘇る事によってね」

「…………君以外に対しては残り二回。
 よく考えて使うんだね。
 さて、早いけど本題に入ろうか。
 君はどうしたいんだい?
 これから鑢七実と一緒に黒神めだかを叩き潰しに行くのかい?
 残念ながら今の君達じゃあ勝てないだろうね。
 分かっているとは思うけど彼女の『完成』と鑢七実の眼は似ているようで全く違う」

「『完成』は他人の異常を己の物にしてしまう異常だ。
 不完全な異常だろうが過負荷だろうが完全に。
 一層昇華させた形で。
 『完成』させた形でね。
 君の『大嘘憑き』すら例外ではない。
 例外になり得ない。
 下手したらぼく並みだぜ?」

「薄い反応だなぁ。
 ま、鑢七実の眼に移ろう。
 彼女の眼は一見すれば、一読すれば、『異常』だろうね。
 どんな強さも見ただけで次々と飲み込んで、更に上の物にする見稽古。
 一度見れば大体は。
 二度も見れば磐石に。
 しかし『完成』とは根本から違う。
 『完成』がより高みに登れる異常なら、鑢七実の眼は真逆。
 降りるための物なんだから」

84みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:21:28 ID:bpEoVhjI0
「やっぱり感付いてはいたみたいだね。
 確信は持てていなかったようだけど。
 鑢七実の弱点に。
 流石は弱さでは他の追随を許さないだけの事はある。
 そう、彼女の弱点は強過ぎる事。
 そしてその強さに体が付いていけない事だ。
 だからこそ生まれた生きるための術とでも言うのかな。
 強過ぎる身をより弱く。
 強過ぎる身をより柔く。
 一瞬一刻でも長く生きるために」

「過負荷だよ正しく。
 あるだけで、いや見るだけでマイナスを継ぎ足していく。
 それは過負荷としか言いようがない。
 だからこそ鑢七実は黒神めだかには勝てない。
 マイナスし続ける物とプラスし続ける物。
 どちらが、だなんて。
 いや、可能性はある。
 鑢七実が今まで大事に大事に積み重ねてきた他人の強さを捨てて純粋な強さをぶつければ。
 なにせ幼女の頃に当時最強と言われた人間と戦うこと半年。
 同時期に繰り広げられていた大戦以上の対戦を繰り広げていたんだ。
 黒神めだかでも五分か、もしかしたらそれ以上か」

「あぁ、もちろんそうなれば死ぬ。
 言った通り体が耐え切れずに。
 自滅だ。
 自壊だ。
 ここまで言えばおおよその予想が付くだろう。
 君が蘇れない状況でもしも先に死んだら。
 そして鑢七実が本当の本気を出してしまったら。
 実に君の願ってもいない展開になるだろうね」

「なんでそんなに鑢七実に肩入れするのか?
 おいおい。
 ぼくは誰にだって平等だぜ?
 もしなんだったらこれから先、平等院さんって呼んでもくれても良い。
 もちろん冗談だけど」

「誰が鳳凰堂さんだ。
 せめて院を付けなさい。
 誰かも分からないだろ」

「え?
 韻は踏んでる?
 …………こやつめ、

『戦踏開祭』『快踏二番』『二踏立て』『踏み立て伏せ』『踏切』『握戦苦踏』『鉄踏鉄火』『踏々到着』『秘踏発見』『踏みん症』
『白刃踏むべし』『踏傾学』『踏の難し』『踏まずの扉』『愛踏の衣』『踏み込み算盤』『踏一番論』『色系踏』『無踏』『爆発踏過』
『足踏の両輪』『不自然踏多』『それを踏まえて』『踏ん反り帰り』『勘を覆うて効踏定める』『雑踏椅子』『踏か不踏か』『浮き足踏む』『圧踏的存在』『十二月の踏蝋流し』
『自由による滑踏』『踏んだり踏んたり』『踏みつき症候群』『火踏み』『踏結砕き』『注文殺踏』『踏鞴吹き』『更刻踏』『病よりも高く踏よりも深い』『硬踏紙問』
『消踏時間・輝床時間』『三尺下がりて二の轍を踏まず』『地中電踏』『土気色の発煙踏』『一踏襲断』『第三勢力の対踏』『持ち持ち踏み』『鑑定家の値踏み』『第四秒踏』『踏み間奏』
『踏みは袋に立ちは鞘』『逆図を踏む』『煮え滾る踏踏』『三転八踏』『禁踏点』『深遠を除いて薄情を踏む思い』『一本道の踏み外し』『青だけ踏み』『幽体高踏』『休養地から身を踏じる』
『舞踏喰い』『唯我踏』『踏ん切りを続ける』『怒り脳震踏に発する』『踏み踏み』『踏々とお説教』『守身に没踏』『常踏苦』『悠々踏生』『思わぬ失踏』
『わずか1センチの踏ん張り』『哨戒乱踏』『雪隠這ったの大踏み回り』『八踏見』『百尺完踏一歩を進む』『踏破』『価格挫踏』『逆立ちしたって無理な芸踏』『踏みのしみじみ』『足し踏み程度』
『踏下の鬼となる』『踏み石を飛ばし』『散踏違い』『踏頂』『蹴踏な準備』『踏開封の封踏』『鬼にも悪魔にも踏まれず』『実行を綾踏む』『拝み倒し踏み倒し』『静踏派』
『足の踏み場もない』『手踏を脱す』『重踏理不尽』『天文地踏』『全人類未踏』『死一踏を滅ずる』『健踏を祈る』『恋踏』『完踏勝利』『揃い踏み』

 ははは。
 なんてねって、あれれー。
 ぼくがスキルを百個ばかり使っていただけなのに何時の間にか球磨川くんがぼくの足の下にいるぞー。
 なんでだろうなー。
 いや、『指折り確認』も含めてだから百一個か。
 まあぼくが使ったのは『踏』系スキルだけど関係ないだろうしなー。
 あ、きっと球磨川くんが変な事を言ったせいだろうなー。
 球磨川くんもそうは思わないかい?」

85みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:22:25 ID:bpEoVhjI0
「……ところで球磨川くん」

「今、君の上にぼくは右足で乗っている。
 右足だけで乗っている。
 当然まだ左足が残っている。
 五体満足だからね。
 別に真っ二つに分かれてる訳じゃないし。
 この意味が、分かるかい?」

「うんうん、分かってくれて嬉しいよ。
 さてと。
 いい加減話を戻そうか、このまま。
 なんで鑢七実に肩入れするのか、だったっけ。
 特にしているつもりはない。
 ないけど、理由があるとすれば彼女もぼくに近いからかな。
 完全に、ってわけじゃないけど。
 彼女はある意味では悪平等と言える。
 彼女の見えるものの大半は雑草ほどの価値しかない。
 価値しか持たない。
 弟や、もしかした球磨川くんは例外に入ってるかも知れないけど。
 大半は公平に、平等に、殺した所で雑草をむしった程度にしか思わない。
 ぼくに近い物がある。
 だから少しばかり気になってるのかもね。
 こんな回答で満足したかい?」

「そうかい。
 さて、随分と寄り道をしたけど聞かせてもらおう。
 きみはどうしたいんだ?
 黒神めだかを破る。
 今は亡き人吉善吉の無念を果たす。
 良いと思うよ?
 考えるだけなら。
 でもどうしてそうしたいんだ?
 勝てる見込みが遥かに小さいと知っていて。
 まして千年に一度いるかいないか位の、勝者であることを約束されているような彼女に対して。
 むしろきみの今までを省みて勝てると思う方がどうかしてる。
 あぁそう言えばきみは少年漫画が好きだったっけ?
 ならなおさらだ。
 あれが教えてくれるのなんて最後に勝つのは結局の所、能力のある奴だけだって知っているはずだ。
 それでもなお黒神めだかを相手取ろうとするのは、一体全体どう言うつもりだい?」

「あー、もしかして生粋の主人公である彼女を敵に回す。
 なら好敵手かい?
 好敵手になって温い友情でも育むつもりかい?」

「……いやいや球磨川くんの事だ。
 彼女が乗り越えるべき壁として志願しようと言うんだろうね。
 バトルロワイヤルと言う催しの中で。
 彼女が彼女であることを貫くための。
 なら正しく最後の敵になってやろうって感じなのかな?」

86みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:23:00 ID:bpEoVhjI0
「…………いい加減なにか言えよ。
 違うなら違うって。
 そんなんじゃないって。
 言ってみろよ。
 ここには今、ぼくときみしかいない。
 夢とも現とも知れない場所だ。
 遠慮する必要はない。
 恥ずかしがる必要もない。
 言えよ。
 言ってみろよ。
 もうぼくには一生会えないと思ってさ」

「きみの本心を」

「格好つけずに――括弧つけずに」





【一日目/午後/死者スレ】

87 ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:25:00 ID:bpEoVhjI0
以上です。


主人公のノリで好敵手をやってみようと思い至ったら、


◎ いける
孫悟空、コブラ、冴羽、ケンシロウ、桜木花道
越前リョーマ、大空翼、進藤ヒカル、武藤遊戯、前田太尊
剣桃太郎、空条承太郎、浦飯幽助、ダイ、キン肉マン
緋村剣心

△ 何とか
花中島マサル、前田太尊、太公望、星矢

× 無理
弄内洋太、前田慶次


でした。
下二人はどうしようもないね。
好敵手とは違うし。
って感じで途中であきらめましたはい。

何時も通りではありますが、感想や妙な所などがあればお願いします。
特に最後の部分。
続けちゃった方が良いという意見が多いようでしたらお時間頂きますが続けて書かせて頂きますので。

88 ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:27:45 ID:bpEoVhjI0
>>82 修正します




それで。
いっきーさんは八九寺さんの横に座ってしまいました。
残念。
言葉を掛ける機会がなくなって。
流石に聞こえてしまいますから。
今のいっきーさんの決断を聞いてどうするか。
聞いてみたかったのに。
一先ず八九寺さんを間に挟んで座りましょう。
ねえ。
八九寺さん。
いい加減。
寝たふりなんて辞めればいいのに。

「……ふふふ」



【球磨川禊@めだかボックス 死亡】
【羽川翼@化物語シリーズ 死亡】




【一日目/午後/F-4】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス(現地調達)、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 0:人間未満の復活を待つ
 1:復活したら真宵ちゃんの記憶を消してもらう
 2:待ってる間に掲示板を確認し、ツナギちゃんからの情報を書き込む
 3:それから零崎に連絡をとり、情報を伝える
 4:早く玖渚と合流する
 5:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 6:展望台付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です。
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました。
 ※夢は徐々に忘れてゆきます。完全に忘れました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です。
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません。
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識のものが登録されています(ツナギの持っていた携帯電話の番号を知りましたがまだ登録されてはいません)。
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました。


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]寝たふり、ストレスによる体調不良(発熱、意識混濁、体力低下)、動揺
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:生きて帰る
 1:戯言さんと行動
 2:なんでこの二人が
 3:記憶を消すとはどう言う事ですか
 4:こっそり聞きたいけど隣に居て聞けません……
 5:頭が上手く回りません……
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です。
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(大)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜6)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える。
 1:七花以外は、殺しておく。
 2:もう面倒ですから適当に過ごしていましょう。
 3:気が向いたら骨董アパートにでも。
 4:球磨川さんを待ちましょう。
 5:宇練さんは、次に会った時にはそれなりの対処をしましょう。
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました。
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました。
 ※弱さを見取れる可能性が生じています
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません

89名無しさん:2013/08/16(金) 19:29:18 ID:Wde5iXAc0
投下お疲れ様です!
いやーここに来てバンバン人が死んでいって放送後も楽しみですね!
予約に羽川がいた時点であまりいい気はしなかったが、クマーが見事にやらかしたなあ……w
そうだよなあ、ストレスを請け負うストレスの権化ってまんまぬるい友情とかその類なんだよね。
弱さを受け入れてしまう、弱さ。どこか似ているからこそ黒羽川も怖かっただろうに……。
今回の主役とも言えた七実もまた、そういう西尾的な強い弱いの感覚に悩まされて今後どう転んでいくかも楽しみなところ。
前回受けた問いに対する答えも決まり、いーちゃんはそちらに傾いたのかあ。
しかし八九寺が聞いてるし、素直に聞き入れるとも思えないし……あーもう次回が楽しみで仕方がない!w
そしてまあ安心院さんの暗躍が続くなあw
今回の場合は原作通りですが、彼女の立ち位置は一体何なんだろうなあ。


球磨川安心院パートの続きですが、
今回の話としてはこれで区切りとして、
例外的に球磨川と安心院に関しては自己リレーも有りと言う形で予約を受け付け、次話に回す。
なんていう体裁でいいんじゃないでしょうか。
もしかしたら繋ぎたいという人がいるかもしれませんし、
みんなが繋ぐの厳しそうだな、とmt氏が感じたならばその時に改めて氏が予約して繋いでいけばいいと思います。


改めて投下乙です。
全体的にキャラクターや強い弱いの概念の解釈が凄く面白く、ついつい「成程なあ」と呟きながら読んでました!
めだかちゃんと七実の違いは、そうだよなあ。そうなんだよな。似ているようで真逆なんだよなあ。

90名無しさん:2013/08/16(金) 22:02:21 ID:PhorsfBYO
投下乙です!
「曲者揃い」こういうものだと言わんばかりのこの面子で嵐が吹き荒れないはずもなく。とりあえず球磨川は毎度ながら自重しろ。
今回やったことといえばJKにセクハラして口説き落とそうとしたあげくに頭吹き飛ばされて死んだだけだというのに、この存在感の強さは流石というべきなのかどうか・・・
死者二名とはいえ、球磨川次第では両名とも次には生き返ってる可能性が十分にあるからなぁ・・・安心院さんから能力の制限について聞いたことがどう影響するのか。
そして球磨川および戯言遣いに対して確実にデレてきてる七実姉さん。
戯言遣いを「強い」と断言したのにはなるほどなぁと思いました。まあ原作のこいつは不死身みたいなものだから、生き損ないの姉さんが一目置くのも無理からぬ話ですが。
ていうかこれ、首輪解除成功しちゃった・・・?
「首輪が外せないなら、首ごと外せばいいじゃない」いやそれはそうだろうけどもwww
あと今回、カオスメンバーのせいで埋もれに埋もれた真宵ちゃん。彼女は自分の「記憶」に対してどういった解答を出すのでしょうか。
一段落ついたようで、いまだ嵐は去っていないという・・・次回こそ彼らは纏まるのか、それとも再び荒れ狂うのか、非常に楽しみです。

安心院さんのパートに関しては概ね>>89の方と同意見ですが、軽いネタ程度であればこの話に追加する形にしたほうがメリハリ的にはいいかと思います

91 ◆ARe2lZhvho:2013/08/17(土) 08:17:07 ID:RDKGzAoc0
あえてトリつきで

投下乙です!
予約の時点で嫌な予感しかしなかったけどこうくるとは…
いーちゃん見て羽川が怒り狂うってのは当然でしかなかったけど、球磨川に対してああいう反応するのはいざ見せられたら納得する他ありませんでした
善吉も原作であんなだったしそもそもクマーにまともな反応できる方がおかしいんだよなぁw
強さ弱さの対比は「本当にお前ら弱いのかよwwwww」ってやつらばっかりだからその観点は目から鱗でした
八九寺も起きちゃってるし続きもまた一波乱ありそうだなぁ…

安心院さんパートですが自分でも続きを書けないことはないと思うので>>89でいいと思いますが、蘇生の問題などもあるので個人的には氏が書いた方が揉めずに済むかとは思います

92 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:47:35 ID:e153NETs0
予約分投下します

93 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:48:56 ID:e153NETs0
<<<<<人生は
      ゼロゲーム
       なんです。>>>>>心当たりがあるかもしれません


どっきりもんだい編
1 図書館/一階受付付近

僕こと櫃内様刻は同行者である無桐伊織さんと共に図書館へ辿り着いた。
伊織さんが玖渚さんとの通話を終えてからはこれといった会話は特にしていない。
未だに繰想術の影響下にある僕を気遣ってくれたのか、あるいは――
不要湖を抜けた後は地面はなだらかになっていたし、見通しもよかったのでそれらしい建物を見つけるのは簡単だった。
もちろん、周囲や建物の中に危険かそうでないかは関係なく人間がいる可能性は十分にあったので警戒を怠ったつもりはないけれど。
それらしい気配は僕も伊織さんも感じなかったので中に入ったはいいが、

「様刻さん、ここって美術館ですかね?」
「いや、図書館だろう。地図の通り来たんだし」
「じゃあその地図が間違っていたんでしょうか」
「信用問題に関わるから間違った地図を配布するなんてことは主催はしないと思うが」
「ならちょっと質問の趣旨を変えますが、ぱっと見でここが図書館だとわかりますか?」
「正直……疑うかな」
「でしょう?」
「でもまあ、本いっぱいあるし閲覧スペースもあるししばらく見ればわかると思う」
「それもそうですね」

入って早々議論になったのも無理はない。
僕達が想像していた一般的な図書館とは随分と違う内装だったからだ。
例えるならば、某アニメ制作会社がデザインしたような。
本棚の配置は個性的だし螺旋階段が複数、しかもお互い近い位置にあるし(せめて場所を離せと思う)、胸像が置いてあるし……美術館と見紛うてもおかしくはない。
伊織さんも半分はネタで言ってたんだろう。
というかそうでないと引く。

「で、どうします?」
「どうすると言っても普通に探索するしかないんじゃ?」
「その通りなんですけど様刻さんはどこから探すのかなって」
「そりゃあ、DVDがあるだろう映像フロアからだけど……って『様刻さんは』?」
「なら私は普通に一階の開架から探しますかねえ……ってどうしたんですか?」
「あのさ、さっきの僕の話聞いてた?」
「ああ、DVDが自動的に記録されてるかもしれないって話でしたっけ」
「いや、その前なんだけど……」
「……あ、思い出しました思い出しました。誰か主催側の人間が潜伏してるかもって話でしたね」
「そこまで思い出したなら僕の言いたいこともわかってくれるよな?」
「確かに可能性が低いとはいえ手分けして探すのは愚策でしたね。伊織ちゃんうっかりしてました」
「ま、気付いてくれたらいいんだけどさ」

外観と中身のギャップに最初は驚きこそしたけれどやっぱり隠れられる場所はそこかしこにあるからな。
僕達以外の人間がいない可能性も決して高くはないだろうし用心しておくに越したことはない。
後ろに伊織さんがいることをちゃんと確認してから僕は映像フロアがある三階を目指して螺旋階段を登りだした。

94 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:49:26 ID:e153NETs0

2 エリアF-7/北部

ふらふらと、ぶらぶらと、ゆらゆらと、彷徨うように、遷ろうように、漂うように、存在した。
西条玉藻という名の『現象』は。
かの人間失格にもひけを取らない気まぐれさを持つ彼女であるが、人類最強の言に従うという気まぐれをおこしたらしい。
現象に気まぐれという単語をあてるのもふさわしくないかもしれないが。
そして、彼女から一定の距離を置いたある地点。
例えば、樹上。
例えば、塀の側。
例えば、屋根の上。
同じところには一分と佇むことなく、常に移動し続ける影があった。
影の正体は滅びかけた、否、滅んでしまった忍の里の十二頭領が一人。
更にその中でも実質的な束ね役を担い、二つ名に神を冠した男。
『神の鳳凰』真庭鳳凰の姿がそこにあった。
彼は首輪探知機に表示された光点をかなり前から発見し、尾けているが未だに手を出せないでいる。
一つ目の理由としては、彼女が真庭狂犬を葬ったからだと言えよう。
どういうわけか、毒刀はおろか武器らしい武器も持っていないようだが。
貝木泥舟から奪ったデイパックの中に入っていた江迎怒江のデイパックの更に中、真庭狂犬のデイパックから記録辿りで読み取った情報なのでまず間違いない。
また、貝木のデイパックにも彼女の情報が記録されていた。
二つ目の理由に繋がるが、見かけからは想像もできぬ速度で走る身体能力や察知能力を見て迂闊には手を出すべきではないと判断したのだ。
その二つ目の理由とは、

「……ふむ。やはりこの距離からでも感付かれるか」

懐から取り出しかけたデザートイーグルを戻す。
構えてすらいなかったのに彼女の首がぐるり、と回り鳳凰の方向を見据えたのだ。
目の焦点は定まっておらず、鳳凰の存在には気付いてないだろうが、それ故に恐ろしい。
彼女はおそらくは「なんとなく」で振り向いただろうことから戦闘能力の高さが窺える。

「我の目的は殺戮ではなく優勝。今無理をして殺す必要もないが……」

建物の陰へと移動しつつ探知機を取り出す。
移動したことで端に現れた光点を見て鳳凰の口角がつり上がった。

「あやつに協調性などあるとも思えぬし、仮に徒党を組まれても狙撃という手段もある。つぶし合いを期待するのも手か」

先程より少しだけ玉藻から距離をおきつつも鳳凰の尾行は続く。

95 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:51:25 ID:e153NETs0
3 図書館/三階映像フロア

特徴的な内装に多少は戸惑ったが見取り図はちゃんとしたものだったので迷うことはなかった。
うん、やはり建物というのはこうでなくっちゃな。
尤も、到着してからが問題なんだけども。
あのDVDは参加者でも発見できるとはいえ、そう易々と見つけられるとは思えなかったからだ。
だって、決して狭くない範囲にそのDVDだけがぽつんと置いてあったら警戒する。
逆に罠だと思って触れることすらしないかもしれない。
ただまあ、宗像さんの話だと見つけたのは火憐さんだったらしいし彼女はそんなこと気にする性格には思えなかったけど。
そしてここまで並べ立てておいてなんだが、僕の懸念は杞憂だったようで目的のDVDはあっさり見つかった。

「実物を見せてもらっておけばよかったとか思う暇もなかったな」
「あっさり見つかりましたもんね」
「これも火憐さんが事前に訪れていたおかげ、かな」

ぎっしり、とまではいかずともそれなりに並べられた棚の中、大きい隙間があれば嫌でも目につく。
それに、この棚だけ何故か最下部に映像資料は並んでおらず、真っ黒な板で覆われていたのだから尚更だ。

「でもこれ、放送ごとに追加されると思ってましたけどどうやらリアルタイムで作られてるようですねえ」
「みたいだな。確か第二放送で死んだのが7人、今ここにあるのが14本か……」
「相変わらず積極的な人はいるようで」
「僕達の近くにいないことを願うばかりだよ」
「私としては双識さんが人を殺して回ってないかも心配なんですけどね。人識くんや私と違って何かあったら容赦はしない人ですし」
「忘れかけてたけど殺人鬼だったんだっけ」

よくよく考えなくても恐ろしい状況だった。
殺人鬼とバトルロワイアルについて呑気に会話するって。
普通なら僕真っ先に殺されててもおかしくないぜ?

「で、持ち出すのは当然としまして内訳はどうします?」
「この本数なら半々にすればいいんじゃないのか?僕は番号が若い方にするけど」
「第二放送はそちら側でしょうしね。じゃあ残りを……」

言いかけた伊織さんの動きが言葉と共に止まるが無理はない。
前触れもなくDVDが下から『せり出て』きたのだ。
驚きだとか様々な感情や思考が僕の中で渦巻いてはいたが、とりあえず疑問の一つは氷解した。
なるほど、下の部分は編集機械とでも考えておけばいいのか。
DVDが置かれる場所に対して棚の覆われている部分が大きすぎるし、全て録画してあったとしてもおかしくはないかもしれない。
そう考えることを見越してカムフラージュされてるだけかもしれないが。
さすがに死んだかどうかの判断までは自動でできないと思うからそこについては人間が遠隔で操作してるとは思うけど。

「……ともかく、これで人間が手動で動かしてる可能性ってのは消えたかな」
「ですかねえ。あれ、何かおかしくありません?」

今しがた出てきた8本目のDVDをデイパックに放り込みながら伊織さんが何かに気付いたみたいだ。
僕には不審な点は見当たらないけど……

「そうか?そもそも言ってしまえばこんなDVDが存在するってことがおかしいんだし」
「いや、もうその辺のことには目を瞑っていただくとしまして、ほら、DVDが置いてあった場所に線が見えるじゃないですか」
「本当だ。さっきまでの僕達の立ち位置とDVDで影になって見えなかったのか」

少し考えればわかることだが、金属の板を通り抜けて物が出てくるわけがないのだ。
取り出し口のようなものがあって当たり前である。
そこを利用して下の部分を覗き見れるか試してみたがこちらからはどうにもできなさそうだった。

「それでですね、私気付いちゃったんですよ。左側がなーんか狭いなーって」
「言われてみれば確かに。えっと、一番新しい番号が25だったから……端に出るのは40本目?」
「でも参加者は全部で45人でしょう?最後に残る人は死なないとしても4本足りないじゃないですか」
「40本までしか作れない、なんて技術的な問題じゃあなさそうだし……つまり、何らかの目的があるってことか?」
「恐らくはそうでしょうね。ただ、残りが5人になったときに意味があるのか、あくまでも目安に過ぎないのかどうかすらわかりませんが」

96 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:52:31 ID:e153NETs0
「手がかりが少なすぎるんだよな……かと思えばネットワークは一般人からすれば不自由なく使えるし、主催からすれば意味のないだろうDVDは置いてあるし」
「案外答えがもう出ていたりして。そういえば最初の場所でお爺さんが言ってたじゃないですか『この『実験』で遂に悲願を果たせる』とかなんとか」
「『実験』――確かに言ってた。……待てよ、その直前にも何か言ってたはず。なんだったっけ……」
「あのときどうにも眠くなっていましたからねー。今無理して思い出さなくてもいいんじゃないですか?まだ探索してない場所はありますしそれが終わってからでも」
「その通りなんだけど、一度気になってしまうと、な」

このもやもやとした気分、くろね子さんの気持ちが少しだけわかった気がする。
さすがに自殺したくなったりはしないけれど。


4 図書館/一階閲覧スペース

開架、閉架問わず館内を隈無く探索した僕達だったけれど、DVD以外に成果は得られず、参加者に出会うこともなかった。
参加者が潜んでいたところで、危険人物の可能性は大いにあったんだしプラスマイナスは零ってとこだろう。
宗像さんの話から聞き及んでいた感じじゃあ図書館内でDVDの視聴はできなさそうだったけど、時間が経っていたしあるいは、と思ったが無駄だった。
全部で13台あったうち12台は電源すら入らず残りの一台はディスプレイが破壊されていたとかさあ……
宗像さんがやったとは思えないし火憐さんの仕業だろう、きっと。
どうせ僕達はこれから玖渚さんと再び合流するんだし今確認することの必要性は薄かったんだし、と自分に言い聞かせる。
これだけ時間が進み、死人も増えた現状時宮時刻を殺したやつが死んでいないとも限らない。
なんにせよ、今焦っても仕方がないのだ。
それに、今まで精神的なショックやら歩き詰めになっていて休息をほとんど取っていなかったこともある。
いざ座ってみれば疲労が一気に襲ってきたので伊織さんが休憩を提案してくれたのは素直に嬉しかった。

「食べ物って一人一人違ってたんだな」
「私はまだリハビリ中の身ですからお箸は十全に扱えませんからね、様刻さんが交換に応じてくださって助かりました」
「別にお礼を言われる程のものじゃないよ」

僕の食料がバランス栄養食品、いわゆるカ○リーメイトだったのに対し、伊織さんの食料はいかにもコンビニで売ってそうな弁当だった。
味気ない栄養食より様々な味が楽しめる弁当の方がよかったのでこの交換は僕にとっても利があるのだ。
口に出すことは憚られるけど。
しかし、咎める人がいないからと堂々と広げているがこれが結構気持ちいい。
禁忌を破るってこういう感覚なのだろうか。
いや、もちろん、殺人なんかと一緒くたにするつもりは全くない。
あんなもの、一度だって経験しなくていいものだ。
ああ、嫌なことを思い出してしまったよ、もう。
僕が背負うべきものなのだから忘れることは一生できないけれど。

「様刻さん、どうしました?顔色が優れないようですが」

それでも、今はちょっとだけ離れさせて欲しいんだ。

「そうか?考えてみればまともに休むのって今が初めてだったから」

でないと重みで潰れてしまいそうで。

「私が言うのもなんですけど、無理はしないでくださいよう」

逃げたくなってしまう。

「大丈夫だって。長居はできないしそろそろ出発しようか」
「あ、じゃあトイレ行ってからにしましょう。研究所出てからまだ行ってないですので」
「僕もそうしようか。どこにあったっけ」
「確か男子が三階、女子が二階ですね」
「一階にはないのか……」
「文句を言ってもしょうがありません。入口で待ち合わせましょうか」
「ま、別行動しても問題なさそうだしそれでいいよ」
「では」

97 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:52:54 ID:e153NETs0

空き箱や食べかすなどを綺麗に集めてデイパックに突っ込んで伊織さんは足早に離れていく。
我慢していたのだろうか、気づけなかったのが恥ずかしい。
それでいて、後始末を忘れないあたりはさすがと言う他ない。
誰かがいた痕跡を残すのはどう考えても得策ではないし。
僕も同じように片付けて席を後にする。
さっきとは違う螺旋階段を登りながらふと思い出したことがあった。
それはさっきまで必死に思い出そうと努力していたことではなく、ほんの少ししか会話をしなかった阿良々木火憐さんのことだった。


5 図書館/三階開架

『こう言っちゃなんだけどさ、あんたはあたしの兄ちゃんに似てるよ。そういう過保護なところとかさ』

彼女との口論は基本的に高圧的な物言いを僕がいかに受け流すかだったように思う。
その中で僕が強固に反応したときにムキになった火憐さんが返したのがこれだったはずだ。
僕が溺愛する妹である夜月とは性別くらいしか共通点がなさそうな彼女だったけど、彼女から見るにお兄さんと僕には共通点はあったらしい。
普通妹ってのは大事な存在なんだ、過保護にならない方がおかしい。
だからといって夜月をいじめっ子から助けるために骨を折って入院させたのはやりすぎだったと思うけど。
というかあれはさすがにやる前に気づけよ、僕。
翻って伊織さんはどうだろう。
彼女の本当の母親は死んだらしい。
彼女の本当の父親も死んだらしい。
彼女の本当の姉も死んだそうだし、彼女の本当の兄も死んだそうだ。
代わりにその直後に新しい家族ができて、兄も二人できたけれど上の方の兄はすぐ死んだらしい。
一緒に過ごした時間は一日にも満たなかったけれど、それでも大きなものを得ることができたと話していた。
ただ、年の近い兄である零崎人識についてはそれほど詳しく聞かせてくれなかったように思う。

――気まぐれで『兄貴以外を家族と思っちゃいない』とか言っておきながらちゃんと私のことを気にかけてくれる人なんですよう。

後は、精々『競争相手なんです』と言っていたくらいか。
何の競争相手なのかは聞かない方がいいと思ったので聞かなかった。
言われてみれば、僕のとっさの申し出にも付き合ってくれたいいやつだった反面、あのときあっさり僕から離れて行ってしまったっけ。
それについては僕に全面的に非があるので零崎の行動について非難するつもりはこれっぽっちもないが。
むしろ途中までとはいえついてきてくれたことにお礼を述べるべきなのだ。
話を戻すが、伊織さんと零崎の間には兄妹らしさはあまり感じられなかったように思う。
兄と妹、という関係ではなく弟同士妹同士とでも言えばいいのか。
一言で片付けてしまうならば『対等』な関係。
一般的な兄妹関係ではないのだから多少は複雑なのもうなずけるが、それでも本来あるべき姿からはかけ離れていたように感じた。
おそらくは伊織さんではなく零崎に起因するものだと思うが……
尤も、僅かな時間しか共に過ごしていない僕が邪推するのも身の程知らずというものだろう。
そこまで考えて、トイレからの帰り道で唐突にあることに気づく。

「ん、ここ通ることになるのか」

さっきは探索しながらですぐ奥に行っていたため気づかなかったが、トイレとの最短距離だとDVDを見つけた棚を通ることになるらしい。
それがどうしたという話だが、棚にぽつんとDVDが置いてあれば話は別だ。
やれやれ、僕達がここを後にした短い時間の間にもまた死人が出たらしい。
僕達の知る人じゃないことを祈りつつ慣れた手つきでデイパックに放り込むと伊織さんが待ってるだろう入口へ向かった。


『時宮時刻』が『時宮時刻』を殺していた。

98 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:53:25 ID:e153NETs0
6 図書館/一階入口付近

久しぶりに嗅ぐ匂い。
だけど嗅ぎ慣れた匂い。
なぜこの匂いを僕は知っているのだろう。
違う、なぜこの匂いに気づけなかったのだろう。
だってそれは僕がずっと放っていたじゃないか。

落ち着け。
落ち着け。
興奮するな。
昂奮するな。
静まれ。
鎮まれ。
あの二人は時宮時刻じゃない。
同じ人間が二人いるわけない。
時宮時刻は死んだはずだ。

「■■■■■■……?」

大鋏を銜えた『時宮時刻』が、僕に顔を向ける。
いや、『時宮時刻』じゃない。

あれは――無桐伊織さんだ。

これが、彼女の言っていたことだったのか……?
この溢れる殺気をずっと抑えてきていたのか……?
僕に向けられたわけでもないのに立ち竦んでしまう。
しかし、現状の把握が精一杯で思考が追いついていない僕に現実はそう待ってくれるわけがなかった。

伊織さんが跳ねる。
『時宮時刻』、いや、少女の死体がびくんと動く。
遅れて、ぱん、と音がする。
銃声だ。
大鋏を銜えたまま伊織さんが飛び出していく。
けたたましい音が響く。
防犯ゲートからだろう。

僕はそれらを呆然とただ見ることしかできなかった。


【1日目/夕方/F−7 図書館】
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]暴走
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ、バトルロワイアル死亡者DVD(18〜25)@不明
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:? ? ?
 1:曲識、軋識を殺した相手や人識君について情報を集める。
 2:そろそろ玖渚さん達と合流しましょうか。
 3:黒神めだかという方は危険な方みたいですねえ。
 4:宗像さんと玖渚さんがちょっと心配です。
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※黒神めだかについて阿良々木暦を殺したらしい以外のことは知りません。
 ※宗像形と一通りの情報交換を済ませました。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。

99 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:53:43 ID:e153NETs0
【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康 、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備] スマートフォン@現実
[道具]支給品一式、影谷蛇之のダーツ×10@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜17、26)@不明
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う。
 0:…………え?
 1:玖渚さん達と合流するためランドセルランドへ向かう。
 2:時宮時刻を殺したのが誰か知りたい。
 3:玖渚さんと宗像さんは大丈夫かな……。
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※黒神めだかについて詳しい情報を知りません。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※阿良々木火憐との会話については、次以降の書き手さんに任せます。

【1日目/夕方/F−7 図書館付近】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態]身体的疲労(小)、精神的疲労(小)、左腕負傷
[装備]炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、匂宮出夢の右腕(命結びにより)
[道具]支給品一式×6(うち一つは食料と水なし)、名簿、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、
   首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、鎌@めだかボックス、
   薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、首輪探知機@不明、
   誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、
   マンガ(複数)@不明、三徳包丁@現実、中華なべ@現実、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する
 1:逃げるか?迎え撃つか?
 2:虚刀流を見つけたら名簿を渡す
 3:余計な迷いは捨て、目的だけに専念する
 4:ノートパソコンや拡声器については保留
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません。
 ※支給品の食料は乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※右腕に対する恐怖心を克服しました。が、今後、何かのきっかけで異常をきたす可能性は残ってます。
 ※記録辿りによって貝木の行動の記録を間接的に読み取りました。が、すべてを詳細に読み取れたわけではありません。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。

 ※辺りに防犯ゲートのブザー音が鳴り響きました。
 ※西条玉藻の支給品一式は彼女の死体の側に放置してあります。

100 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:54:11 ID:e153NETs0
ねたばらし編
7 ???/???

なぜ僕が変わらず語り部をやっているかについては特に理由はない。
このあとあっさり死んでしまっていわゆる死後の世界から全てを知った、
運良く生き延びて事の顛末を聞いた、
いわゆる神が僕の口調を借りている、だとかそんなものでいい。
肝心なのは図書館で立ち尽くしている僕はその事実を知らないということさえわかっていてくれればいいということだ。
どうしてこんな曖昧な形になってしまうかというと、一部始終を全て見ていたとしてもそれらの事象を説明するにはどうしても推論が入ってしまわざるを得ないからだ。
それらに無理矢理にでも納得していただいたところで答え合わせにすらならないドッキリのねたばらしを始めよう。
始めたところで、終わりが来るとは思えないけれども。

そもそも、無桐伊織さんの殺人衝動は限界まではまだ余裕があったはずだった。
少なくとも、本来辿るべき未来から鑑みるにまだ2ヶ月は耐えられるだけの。
その閾値が下がった原因としては、まず第一にこのバトルロワイアルで間違いないだろう。
いくら会場が広くても閉鎖空間ということに変わりはなく、ましてや行われているのは殺し合い。
更には、僕という存在と6時間以上同行していたことも悪手だった。
正確に言うなら『病院坂黒猫の返り血をたっぷりと浴びた』僕という存在が、だ。
『血の匂い』というのは『死の匂い』に結びつく。
僕の側にいたことで彼女の殺人衝動は加速度的に溜まっていった。
そして不要湖での日和号との邂逅を経て、ついに限界を迎えてしまったのだろう。
おっと、これだけではまだ側面を語ったに過ぎない。
僕からすれば名前すら知らない二人――西条玉藻と真庭鳳凰――についても述べなければならないだろう。
ただ、真庭鳳凰については多くを述べる必要はない。
西条玉藻を尾行し、図書館の入口が見えるところで待ち構え、伊織さんが隙を見せた瞬間を狙って狙撃しただけのこと。
『殺気を感じ取る』という零崎一賊の特性からか、彼女に銃弾は当たることなくむしろ自身の居場所を教えてしまう結果に終わったが。
一方の西条玉藻、こちらは簡単に済ますわけにはいかない。
僕より早く席を立った伊織さんは当然ながら僕より早く入口に着いていた。
そこで訪れたのが一般人ならあの惨状にはならなかっただろう。
例え殺し合いに乗った者であったとしてもだ。
だが、伊織さんのコンディションを考えるなら現時点で生き残っている参加者の中ではほぼ最悪に近いカードを引いてしまっていた。
毒は抜けても狂戦士。
何もしていなくても溢れ出る狂気は伊織さんの精神を昂ぶらせるには十分だった。
加えて、彼女は武器を持っておらず身を守るすべが体術しかなかったというのもあるだろうが、それでも無抵抗で殺されるようなタマではない。
彼女は『動かなかった』のではなく『動けなかった』のだ。
例え狂戦士であれど格というものは存在する。
格上の狂戦士を相手にしたとき怯んでしまったように、伊織さんが放った圧倒的な殺気は彼女の動きを止めるのには十分だった。
後は説明する必要もないだろう。
硬直している彼女の頸動脈を自殺志願の刃が切り裂いただけのこと。
彼女が伊織さんを見た直後に呟いた『あなた、ひとしきくんの――』という響きは誰にも届くことはなく。


【西条玉藻@戯言シリーズ 死亡】

101 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:56:29 ID:e153NETs0
投下終了です
タイトルは「零崎舞織の暴走」で
ネタバレでしかないタイトルなので一応最後に

いつも通り誤字脱字指摘感想その他あればお願いします

102名無しさん:2013/08/30(金) 22:01:55 ID:/bQA81XE0
投下乙です
>例えるならば、某アニメ制作会社がデザインしたような。
>本棚の配置は個性的だし螺旋階段が複数、しかもお互い近い位置にあるし

うぉいwww

他にも伊織ちゃんが考察するって違和感というか不思議だなーとか、
様刻視点の火憐ちゃんになるほどーと思ってたりしたら、
出会いがしらにズガンが起こっていた……いや、これが西尾ロワの正常だよね
伊織ちゃん、人識が死んだりしない限りまぁ大丈夫だろうと思っていたら
伊織ちゃん自体も危険だが、これは哀川さんに出会ったら殺されるぞ伊織ちゃん

しかし死亡フラグの塊みたいな人識が最後のまともな零崎になるとは

103名無しさん:2013/08/30(金) 23:49:12 ID:UrzUTjfgO
投下乙です!
イィィィィィィィヤッッッッッッフウゥゥゥゥゥゥゥゥ舞織が舞い降りたあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
でも代わりに玉藻ちゃんが闇突かれて逝ったぁぁぁぁぁぁちっっっくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
タイトルないなーと思ってたらそういうことか・・・これはもう人識くん来てくれないとあかんのとちゃうかな。
鳳凰さんがバトるかスルーするかで互いの命運が大きく変わる局面だけど、どっちにしろ様刻くんは無事じゃ済みそうにないわけで・・・まあ、とりあえず、頑張れ。
そして新事実が明らかになりながらも新たな謎を残す死者DVD。
今回で大量回収されたけど、果たしてこれが爆弾となるのか突破口となり得るのか。これからの行く末が非常に気になるところです。
まあ所有者がどっちもアカンことになりかけてるんですけどね・・・

104名無しさん:2013/09/15(日) 00:42:29 ID:LD3LeznA0
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
131話(+5) 17/45(-6) 37.7(-13.4)
一人か二人蘇生するかもしれませんが、まあそのときはそのときで

105 ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:21:49 ID:Z1Ff1Hlk0
仮投下分を本投下しますが、その前にひとつ。
時系列がすでに夕方に移行していますが、今回の話は前半が午後、後半が夕方という構成になっています。
仮投下の段階で一応の了承は得られましたが、他の書き手の皆様に迷惑をかけてしまったことについて謝罪いたします。
今回は本当にすいませんでした。今後はこのようなことがないように気を付けます。

それでは改めて、投下開始します。

106Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:24:14 ID:Z1Ff1Hlk0
 空が見えた。
 青い空が、青々とした竹の葉の隙間からわずかに見えた。青々とした竹に青い空、というと青と青が混じっているように聞こえるけれど、「青々とした」は青色ではないはずなので意味的にも混じってはいない。多分。
 僕は今、竹取山の斜面の上で仰向けに寝転がっている。痛みと出血で視界がぐらぐらと歪んでいる上に、あたり一面が燻った煙で覆われているにもかかわらず、なぜかその空の青さがはっきりと見えていた。
 清々しいくらいの青。
 少し前の自分だったら、空を見ても「清々しい」なんて言葉は出てこなかっただろう。
 空が青い、だから殺す。
 そんなことしか思わなかったはずだ。
 身体を起こそうとするが、力が入らない。代わりに頭がずきずきと痛む。
 実際には頭だけでなく全身のいたるところに鈍重な痛みが蔓延していて、自分がどこを負傷しているのかすら忘れてしまいそうだった。
 なぜこんな傷を負っているのかも。
 なぜ自分がこんなところに寝転がっているのかも、今にも忘れてしまいそうになる。
 それは単に、自分が忘れたいから、というだけのことかもしれない。この負傷も、こんな状況にあるのも、すべて自分の失敗が原因なのだから。
 自分が弱かったことが、すべての原因なのだから。
 玖渚さんが近くにいるはずだけど、姿が見えない。
 玖渚さんに謝りたかった。謝ったからといって何が変わるわけでもないけれど、必ず守る、などと大口を叩いておいて、こんな結果しか残せなかった自分の不甲斐なさを、せめて一言謝りたかった。
 ざっ、と。
 僕の頭のすぐ脇で、小さな足音が鳴る。
 そこには幼い姿をした少女が一人、立っていた。
 橙色の髪と、橙色の瞳。
 その瞳は僕のほうを見ておらず、虚ろな表情で、誰かのことを思い出すように遠くのほうを見つめている。
 ぼんやりと開いた口から、少女は僕にとって初めて意味の理解できる言葉を発した。


 「――――いーちゃん」


 ひゅん。

 その言葉と同時に、少女の腕が無慈悲に僕へと振り下ろされる。
 結局のところ、その僕にとって会ったことすらない一人の青年の名前が、僕が橙色の少女の口から聞くことのできた唯一の、そして最後の言葉となった。



   ◆  ◆  ◆



 燃え盛る炎の中を、女の子を一人抱えて疾走するという映画さながらのシチュエーションを経験したことがあるだろうか。
 ちなみに僕はある。
 まさに今現在、そのシチュエーションの真っ只中だ。
 燃え盛る炎の中、というのは厳密には嘘だが。

 「いや、この場合は映画というよりは駄洒落として受け取られるかもしれないな――竹藪焼けた、とか」

 そんな一人ごとを言うくらいには余裕がある。
 ここは竹藪でなく、竹林だが。
 実際に僕たちを取り囲んでいるのは、炎ではなく煙だった。きな臭さの混じった煙が、あたり一面に漂っている。
 この状況なら実際に炎を見なくとも、この竹取山のどこかで火の手が上がっているだろうことは誰だって予測がつくだろう。
 火を見るより明らか、というやつだ。
 要するに。
 僕たちこと宗像形と玖渚友は、原因不明の山火事に巻き込まれた、ということである。

 「……まさかこんなタイミングでこんな災害に見舞われるなんて……何の因果だ」

 現在時刻は、およそ14時30分から15時までの間。つまりは今僕たちのいるエリアD-7が禁止エリアになるまであと30分を切っている、という状況。
 あの研究施設から外に出たとき、すぐにその異常を察した。周囲に漂う異臭と、離れたところから立ち上る煙。「火災」という単語がすぐ頭に浮かんだのは言うまでもない。
 山で発生する災害の中ではスタンダードと言えるものかもしれないけど、行きは何事もなかった道が、帰りでは火災に迫られているなんて誰が予測できるだろうか。
 上りの時点ですでに火災は発生していたのかもしれないけど、角度のせいか規模のせいか、僕はそれに気付くことなく山を上り始めてしまっていた。気付いてさえいれば、研究施設であんなに時間をとることはなかったのに。
 いや、正直それを差し引いても余裕を持ちすぎていたところはあった。
 上りにかかった時間と禁止エリアになるまでの時間を勘案して、急いで脱出する必要はないと高をくくっていたところはある。DVDの件も含めて、あの研究施設でできることはギリギリまでやっておいたほうがいいと思っていた。
 それが油断であり、失敗だった。結果論でしかないけど、禁止エリアまでの時間が迫っている以上、何をおいてでもそこから移動することを優先するべきだった。

107Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:25:00 ID:Z1Ff1Hlk0
 ここがもうすぐ禁止エリアになるという状況でさえなければ、炎が勢いを鎮めるまであの研究施設内に篭城するという選択もあったのだけれど(それはそれで危険な賭けだろうけど)、当然、その選択肢は奪われている。
 火災で死ぬ前に、首輪と一緒に僕たちの首が吹き飛ぶだけだ。
 だから僕たちは、山を下るしかなかった。
 どちらの方向へ下るかで一瞬迷ったが、結局は一番早く麓へ着けるであろう、上ってきた道をそのまま逆に辿るルートを選んだ。
 ふたつの危機が同時に迫っているのだから、下手に別ルートを模索するのはかえって危険だ。万が一それで道に迷ったりしたら目も当てられない。
 僕がそう言うと、玖渚さんもそれに同意した。
 「こんなことになるなんて予想外だったなあ。こんなに派手に燃えてるんだったら、誰か一人くらい掲示板で教えてくれればよかったのに」などとぼやいてもいたが。
 上りと比べて下りは比較的楽だったけど、当然のこと順調な道行きとはいかなかった。
 最初はきな臭いだけだった空気が次第に煙の濃度と熱気を増していき、段階的に視界の利きを悪くさせている。呼吸も自由にできなくなってきているし、煙に巻かれながらの下山は予想以上に困難だった。
 玖渚さんはさっきからずっと、僕の胸元に顔をうずめたままじっとしている。あんなに騒いでいた『いーちゃん』への連絡も後回しにしているところからすると、玖渚さんも余裕のない状況だということは理解しているらしい。
 これで理解していなかったら問題だが。
 むしろ体力のない玖渚さんのほうが、この山火事の中に居続けるのは辛いはずだ。本格的に火の手が迫る前に、早くこの山を脱出しないと。

 「…………それにしても」

 そもそも、何が原因でこんな火災が発生しているのだろう?
 この場合、「何が」原因でというよりは、「誰が」起こしたか、と考えるべきなのかもしれないけど。
 真っ先に思い浮かぶのは、やはりあの狐面の男たちだ。というか、今のところ竹取山の中で見たのがあの三人だけなのだから、他に候補を思い浮かべようがない。
 あの男。
 僕の異常性の喪失を、初見で見通したふうの言葉を吐いてみせたあの狐面の男。
 人間という生き物を見て、殺さないでいるほうが難しいと思い続けていた僕が、殺したいと思い続けていた僕が、その衝動を抑えるときとはまったく別の意味で「殺したくない」と思ってしまった、あの男。
 思い出すだけで悪寒が走る。
 あの男がこの竹取山に火を放ったのだとしたら、その理由は何なのだろう。理由のほうは犯人以上に想像に依るしかないのだけれど、まさか本当に僕と玖渚さんを狙ってやったわけではあるまい。
 ピンポイント過ぎる上に、実際にうまくいきすぎだ。
 大雑把に考えるとしたら、竹取山の中に隠れている可能性のある参加者をいぶりだそうとした、というのがまず思いつく。
 決して広いとはいえないこのフィールドの中で、竹取山が占める面積が多いということは地図を見れば一目瞭然。そのすべてを焼き尽くすほどの火災を意図的に起こすということは必然、竹取山全体に無差別的に攻撃を仕掛けるのと同じ結果をもたらす。
 実際に隠れ潜んでいる参加者が居たとしたらたまったものではないだろう。
 まさに今、僕と玖渚さんがたまったものではない。
 ただしそんな作戦を本当に実行するような奴がいたとしたら、それはもういかれていると言うしかない。思いついても普通はやらないだろう、そんなこと。
 あの男は、そんなことを思いつき、かつ実行するような人間だったのだろうか。
 正直なところ、わからない。常軌を逸した思考の持ち主ではあったかもしれないけど、それだけに底が見えず、危険の度合いすらもうまく測れない。
 やるかもしれないし、やらないかもしれない。その程度のことしか言えない。
 まあ何にせよ仮説でしかないのだけれど。もしかしたら何らかの事故で偶発的に発生しただけの火災かもしれないし。山火事とは本来、自然現象的に起こる災害なのだから。
 ……そういえば、玖渚さんはあの狐面の男たちのことは知らなかったのだろうか。
 訊くのを忘れていたが、あの連中が歩いてきた方向からして玖渚さんのいた研究施設に立ち寄った可能性は高いと思っていた。
 あの建物にはセキュリティが働いていたはずだから、施設には寄ったが中に入れず、遭遇はしなかったということも考えられるが。
 このエリアを抜けた後で、一応訊いておくか……

108Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:25:28 ID:Z1Ff1Hlk0
 
 「ねぇねぇ、形ちゃん」

 その時、ずっと黙っていた玖渚さんが急に話しかけてくる。考え事をしている最中だったので、少し驚いて足がもつれそうになった。

 「……玖渚さん、今喋ると煙を吸い込むから、山から下りるまではなるべく口を開かないほうが――」
 「形ちゃんってさ、人を殺したのをきっかけに殺人衝動を失っちゃったんだよね?」

 僕の返事を無視するように、玖渚さんはそう問いかけてくる。

 「阿良々木火憐って人を殺したときに人殺しの空しさとつまらなさに気付いて、それが形ちゃんにとって異常の所以でもある殺人衝動を消失させる原因になった。そうだったよね?」
 「そう――だね」

 そのあたりの事情は玖渚さんには直接話していないはずだったけど、おそらく伊織さんから電話で聞いたのだろう。
 特に隠す意図もないから、玖渚さんが知っていること自体は問題じゃない。
 ただ、なぜ今それを話題に出すのかがわからない。

 「でもさ、それって殺した相手が火憐ちゃんだったからじゃない?」
 「……え?」

 質問の意味が分からず、返答に詰まる。
 相手が火憐さんだったから……?

 「人殺しがつまらないものだったから殺す気が無くなった――っていうんなら、もし人殺しに悦楽とか達成感とかを感じていたとしたら、逆に形ちゃんの殺人衝動はそのままだったか、逆に強まってたかもしれないってことだよね。
 形ちゃんにとって火憐ちゃんがどういう存在だったのかは知らないけど、もし火憐ちゃんのことを大事に思ってたんだとしたら、その人は形ちゃんにとって『殺したくない』、『死んでほしくない』相手だったんじゃないの?」

 その死に空しさすら感じるくらいにはさ――と玖渚さんは言う。

 「しかも『殺した』とはいっても、放っておけば死ぬところを形ちゃんが止めを刺してあげたってだけのことだよね。そんな状況じゃ空しさこそ感じても、悦楽も達成感も感じる余地なくない?」
 「…………」

 それは――そうなのかもしれない。
 確かに僕にとって、火憐さんは「死んでほしくない」人ではあった。彼女の呆れるほどの正義感は少なからず僕の内面に影響を与えていたし、傍で見守っていたいとも思っていた。
 だけど、僕が火憐さんに対してずっと殺意を抱き続けていたことも事実だ。
 口に出すことも行動に出すことも抑えてはいたけど、「殺したい」という気持ちは幾度となく僕の中に湧き上がってきていた。
 火憐さんには死んでほしくない。だから殺す。
 そんなふうに、僕はずっと思い続けていたはずだ。

 「…………いや」

 本当にそうだったか?
 最初に出会ったときも、釘バットの殺人鬼と邂逅したときも、図書館で資料探しをしていたときも、確かにそう思っていた。
 ただ、あの不要湖で火憐さんの胸を貫いたとき。あの時はどうだった?
 あの時も僕は「殺したい」と思っていたか? 切り刻まれて瀕死の火憐さんを前に、僕の中では変わらず殺人衝動が湧き上がっていたか?
 思い出せない。
 「死なせたくない」と思った記憶はあるのに、「殺したい」と思っていたかどうかが思い出せない。

 「もしかして形ちゃんって、殺人衝動を失ったわけじゃなく、ただ無意識に抑え込んでるだけなんじゃないの? 一時的にさ」
 「な…………」

 いきなり何を言い出すんだ、この娘。
 どこからそんな考えが出てくる?

 「『異常』とか『過負荷』については僕様ちゃんは素人目でしか語れないけど、たった一人、たかが一人殺したくらいで失っちゃうほど『異常』ってのは脆弱なものなのかなって。
 たとえば零崎の人間なんかは、殺しがつまらなくなったから『零崎』じゃなくなるなんてことはないだろうし。それよりは、大事な人が死んだショックで一時的に錯乱してるだけっていうほうが、一般的にはわかりやすいんじゃないかな」
 「…………」

 たかが一人。
 その言い方に対して言いたいことはあったが、そこは僕と玖渚さんの価値観の問題だろうから、とりあえずそこは聞き流しておく。
 本筋は僕の殺人衝動の行方に関する話だけど――さすがにその意見は的外れだと思った。
 火憐さんの胸に刀を突き立てたときの、あの失望と喪失感。自分の中から殺人衝動が消滅していくあの感覚を体感している僕にとって、「一時的に抑え込んでいる」などという表現は、全くと言っていいほど得心のいくものではなかった。
 ただし。
 殺人衝動を失った理由が「殺人」そのものに対する失望でなく、火憐さんを失ったことに対する失望感に由来しているという可能性については、否定するだけの自信はなかった。

109Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:26:01 ID:Z1Ff1Hlk0
 だとしたら――だとしたらどういうことになる?
 殺したのが火憐さんだったから「そうなった」というのであれば、「そうならなかった」可能性もまた同時にあったと、つまりはそういうことなのだろうか。

 「うん、そういうことだと思うよ」

 ただの思いつきでしかないけどね――と、事なげに玖渚さんは言う。

 「まあ失ったのであれ抑え込んでるのであれ、よほどのことがない限りそれが元に戻るなんて事はないと思うけどね。
 でも今の形ちゃんって、形ちゃんの世界の言葉を借りれば『異常』を失って『普通(ノーマル)』になってる状態だから、普通の人と同じ程度には『殺したい』って思う機会もあるってことだよね? だとしたらさ――」

 だとしたら。
 その先を聞かない選択肢も僕にはあった。そもそもなぜ玖渚さんがこんな話をしているのか、その理由がまったく意味不明だったし、強引にでも話を打ち切ることはできた。
 だけど、僕はそうしなかった。
 玖渚さんが何を言うのか、僕の『異常』について玖渚さんがどんな見解を持っているのか、単純に興味を引かれたからだった。

 「もし形ちゃんがこの先、単なる衝動でなく確固たる理由をもって『殺したい』と思う人を殺したとして、それに達成感や愉悦を感じちゃったりしたら、その時こそ本当に、形ちゃんの中で本物の殺人衝動が目覚めちゃうのかもしれないね」


  ◇     ◇


 玖渚さんのその言葉を聞いて、心が揺れたことは否定できない。
 加えて僕たちはそのとき、ちょうど傾斜の緩い地形の場所にさしかかったところで、そのせいで気が緩んでいたということもある。
 ただ、そのふたつの油断がなくとも。
 僕が警戒を緩めず、周囲をよく注視しながら移動していたとしても、それに気付くのはたぶん、直前まで不可能だったと思う。
 そのくらい唐突に。
 神出鬼没に。
 僕と玖渚さんの目の前に、それは現れた。

 「――――え?」

 疑問符とともに足を止める。意識して止めたわけでなく、突然のことに身体が反射的に硬直しただけだった。

 僕の真正面、手を伸ばせば届くというくらいの、まさに目と鼻の先。
 そこに橙色の髪をした子供が一人、立っていた。


  ◇     ◇


 何が起きたのか、一瞬理解が追いつかなかった。
 気を緩めていたのは事実だけれど、余所見をしていたわけでも、目を閉じて走っていたわけでもない。煙が辺りに漂っているとはいえ、一寸先も見通せないほどに視界が悪くなっていたわけでもない。
 人影の有無くらいなら、割と遠くからでも判断することはできる。
 にもかかわらず、いた。
 まるで100年前からそこに立っていたかのような自然さで、その子供はそこにいた。
 注連縄のような太い三つ編みも、猫のようにつり上がった目元も、意思の強そうな太い眉も、はっきりと視認できるくらいの距離に。
 時間が停止したかのような錯覚に陥る。
 目の前の子供も、僕自身も、玖渚さんも、周囲に漂う白煙ですらも、そのすべてが動きを止め、一枚の静止画のようになっている光景を僕は幻視した。
 それらが動き出したのは同時だった。
 僕が急に足を止めたことに不審を抱いた玖渚さんが「うに?」と顔を上げようとし、その玖渚さんの頭を僕がとっさに両腕でがば、と抱えこみ、その僕に対して橙色の子供が腕を大きく振り上げる。
 ほとんど反射的に、僕は後ろへ跳んだ。
 直後に振り下ろされた子供の腕は空を切り、そのまま地面に叩き下ろされる。
 そのたった一撃で、地面が局地的に崩壊を起こす。爆発物でも使ったんじゃないかというくらいの勢いで、地面が大きくえぐり飛ばされた。

 「…………っ!!」

 風圧で、周囲の煙が一瞬消し飛ぶ。
 まるで重機で削り取ったかのような跡が、子供の足元にできあがっていた。
 人間の所業とは思えない。ましてやあんな小さな子供の、あんな細腕で。
 今の一撃の反動か、子供の身体がぐらりと大きく揺れる。そのまま倒れるかと思ったが、かろうじてバランスを整えて直立の状態に戻り、顔をこちらに向けてくる。
 煌々と燃えるような、橙色の瞳。
 何の感情も宿していないように見えて、その実、凶悪なまでの威圧感を与えてくる。
 デイパックは背負っていない。持ち物といえば、首に巻かれている首輪くらいのものだった。

 「…………君は、」

 何者だ、などと訊く必要はなかった。
 なぜなら僕はその瞳を、その橙色をすでに見て知っていたのだから。

 「想影、真心……!」

110Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:26:33 ID:Z1Ff1Hlk0
 
  ◇     ◇


 斜道卿壱郎研究施設でDVDを再生した後、僕と玖渚さんはこんな会話をした。

 「ねえ形ちゃん、形ちゃんが持ってきたこの参加者名簿って、なんで二つに分かれてるの?」
 「ああ、僕が分けたんだ。内容をざっと読んでみて、個人的に危険そうだと判断した人だけ別のファイルに綴じ直したんだよ。殺人鬼とか殺し屋とか、火憐さんが過剰反応しそうな肩書きが目に付いたからね」
 「こっちの形ちゃんが載ってるほうが危険人物ファイル? 自分まで危険人物扱いとか律儀だなあ」
 「元々は僕の異常を火憐さんに知られたくなかったからやったことだしね……火憐さんがいなくなったから、もう大して意味はないんだけれど」
 「ふうん、『殺し屋』匂宮に『殺人鬼』零崎に――真庭忍軍? ここらは僕様ちゃんの知らない人たちだなあ……あ、時宮がいない」
 「時宮? 時宮時刻のことかい? さっきのDVDにも少し映っていたけど」
 「うん、時宮は危険人物に入れておいたほうがいいと思うよ。一応だけどね」
 「だけど、時宮の名前は前の放送で呼ばれたはずだから、もういないはずじゃ――」
 「『暴力の世界』については僕様ちゃんはそれほど詳しくないけど、『時宮』が危険な集団だってことはさすがに知ってる。パーソナルについては不明だから、時宮時刻本人の危険性がどうとかは分からないけど」
 「すでに脱落してるのに、それでも危険人物たり得ると?」
 「時宮本人が死んでも、術者の影響は残り続けるからね。さっきのDVDとこの名簿に載ってる時宮時刻の記述を見たんなら、形ちゃんも大体の見当はついてるんじゃない?」
 「操想術――だっけ。催眠術の上位互換みたいなものなのかな。その術の影響が残っている参加者がいたとしたら、それこそが危険人物だっていうことかい?」
 「うん、さっきの映像だと橙なる種――想影真心が操想術にかけられてた感じだったね。放送ではまだ呼ばれてないけど、この子は生きてるのかなあ」
 「想影真心自体も危険だけど、それはあくまで操想術の影響によるものだってことを認識しておく必要がある、ってことかな。だから死亡者とはいえ、時宮時刻を危険人物から外すべきじゃない、と」
 「そういうこと。連中のは『呪い』だからね。死んだ後でもなお残るってのは、ある意味殺人鬼や殺し屋よりも厄介だよ」
 「『呪い名』――か。僕の通ってる学園も色物に関しては大概だけど、その『暴力の世界』に属する人たちも相当だね」
 「そっち側の情報については舞ちゃんのほうがまだ詳しいと思うよ。しーちゃんも、舞ちゃんには色々教えてあるって言ってたし」
 「ああ、伊織さんもその『暴力の世界』の住人なんだってね……そういえば、様刻くんが時宮時刻に会ったようなことを言っていたな。時宮のせいで大切な人を殺されたとか」
 「あ、そうなの? でもそれって運がいいほうだと思うよ。一般人が『呪い名』に関わって無事なままでいられるなんて奇跡みたいなものだし」
 「そう言っても様刻くんは納得しないだろうけど……ともかく、伊織さんたちが新しいDVDを入手できたら、想影真心以外に操想術の影響を受けてそうな人物がいないかチェックしてみるのもいいかもしれないな」
 「そうかもね――あ、この想影真心って、もしかしたらいーちゃんの知り合いかもしれない」
 「うん?」
 「いーちゃんってヒューストンでのことはあんまり話してくれないけど、ERプログラム時代に名前くらいは聞いてるはずだよね……もしかして向こうで死んだっていうお友達がこの子だったりして。橙なる種については、卿壱郎博士も随分と意識してたし――」
 「交友関係が広いんだね、その『いーちゃん』は」
 「因果関係が深いって言うべきかもね、いーちゃんの場合は」

 そう言って玖渚さんは、無邪気に笑っていた。


  ◇     ◇


 「あの名簿と、DVDに助けられた――かな」

 『橙なる種』、『人類最終』、人工的に『製造』された存在。
 それらの記述に、僕は嫌でもフラスコ計画のことを連想せざるを得なかった。想影真心を危険だと思った最初のきっかけがそれだ。
 加えるところ、あのDVD。「病院坂迷路」が記録されてあった死亡者DVDの映像。
 時宮時刻が目を合わせ、何事かを唱えるように口にした直後、人間とは思えないような怪力で両側の少女二人を破壊する橙色の少女。
 あの映像を見れば、誰であろうと想影真心は危険だと判断できる。たとえ時宮時刻による支配を受けていると分かっていても。

111Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:27:19 ID:Z1Ff1Hlk0
 前情報として想影真心の危険性を知っていなければ、おそらく今の一撃を避けることは不可能だっただろう。危機感が先に働いたからこそ、身体が反射的に回避行動をとっていた。
 まともに喰らっていたら、玖渚さんごと粉々に砕かれているところだった。
 《十三組の十三人》にさえ、ここまで飛び抜けた怪力の持ち主はいない。
 橙なる種、想影真心。
 あの映像だけでは、真心が本当に操想術の影響を受けているのかはっきりとは分からなかったが、実際に目の当たりにして確信した。そうでなければ、こんな状況でいきなり僕たちを襲うはずがない。
 ましてや、こんな満身創痍の状態で。
 真心の身体は、トラックにでも轢かれたのではというくらいボロボロだった。全身に打撲の痕や裂傷が溢れかえっているし、右腕は無残にも骨折している。他にもあちこち骨が折れていそうだ。
 さらに腰から下は、そういうデザインの服を着ているのかと一瞬思ってしまうくらい血まみれだった。血が流れ落ちた跡がくっきりと筋になって足元まで伸びていた。
 よく見ると、腰のあたりに大振りのナイフが一本、深々と突き刺さっている。素人目に見ても致命傷と分かるくらいの刺さり具合で、そこから絶え間なく血が流れ続けていた。
 突然がくん、と真心が体勢を崩し、前のめりに倒れそうになる。かろうじて踏みとどまったがまるで安定せず、右に左にふらふらと揺れている。
 それはそうだろう。常人ならとうに失血死レベルの出血だ。
 他の参加者との戦闘で致命傷を負わされ、この竹取山へ逃げ込んできたのだろうか?
 だとしたらこんな化け物じみた相手に、いったい誰がどうやって――

 「むー、むー!!」
 「え?」

 胸元から響く声に、僕は我に返る。
 見ると、さっき両腕で抱え込んだ玖渚さんが、頭をホールドされた状態のままじたばたと暴れていた。

 「あ……ごめん」

 両腕の力を緩めると、玖渚さんはバネ仕掛けのように僕の身体から顔を離して「ぷはぁ!」と息を吸う。しかし煙混じりの空気を吸い込んだせいか、げほごほと咳き込んでいた。

 「死んじゃうよ! 窒息死するとこだったよ! なるべく口を開かないようにってこういうことじゃないでしょ!」

 玖渚さんが突っ込みを入れてきた。よほど苦しかったらしい。

 「ごめん玖渚さん――悪いけど、もう少しだけ口を閉じて、じっとしててほしい」

 真心を見る。相変わらずふらふらしているけど、警戒を解く気にはまったくならない。
 このタイミングで他の参加者に襲撃されるというのは、正直予想外だった。
 禁止エリアまで残りわずかで、誰がどう考えても早く脱出すべきというこのエリアに向こうから飛び込んでくる奴がいるなど、誰が予想できるだろうか。
 いや――もしかしてここが禁止エリアになるということを分かっていないのか?
 なんにせよまずは、ここから離れることを優先しないと。

 「……僕は宗像形。念のために言うけど、殺し合いには乗っていない」

 橙色の少女へ向けて、僕は話しかける。

 「君とここで戦う気もない。もしかしたら放送を聞いてなかったのかもしれないけど、ここはもうすぐ禁止エリアになる。なぜ僕を攻撃したのかはひとまずおいておくとして、君も早くここから脱出したほうがいい」

 真心は何の反応も示さない。僕は続けて言う。

 「話があるんだったら、山を下りた後でいくらでも聞く――いや、それ以前にその怪我を治療するべきだ。簡単な応急処置くらいなら僕にもできる。そのままそうしていると死んでしまうよ」

 どう見ても「簡単な応急処置」で済む範囲を逸しているけど、とりあえずそう言っておく。何の処置も施さなければどの道死ぬのは確実だ。
 聞いているのかいないのか、真心はぼうっと虚ろな目をこちらへ向けてくるばかりだったが、ふいに折れていないほうの腕で、周囲に生えている竹のうちの一本をそっと掴む。
 そしてその竹を、片手の力だけでねじり切った。

 「な…………!?」

 ねじり切った?
 確かに竹は地下茎で周りの竹と連結しているから、引っこ抜くよりはああして切断したほうが地面から離すには楽――ってそういう話じゃない。
 僕が絶句している間に、真心はその竹を大きく振りかぶり、槍投げのようなフォームで放り投げる。
 いや、槍投げは普通、斜め上へ向けてスローイングするものだ。こんなふうに、地面と平行して飛ぶように投げたりはしない。
 ましてや、人に向けて投げるようなことはない。

 「くっ!!」

 弾丸のように飛んできた竹を、身を落としてぎりぎり回避する。後方から周囲の竹を薙ぎ払う音と、巨大な杭が地面に打ち込まれるような音が聞こえた。

112Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:27:56 ID:Z1Ff1Hlk0
 心臓が早鐘のように打つ。
 まずい。
 この子供、今まで会ったどの参加者よりも危険だ。
 禁止エリアを認識していないどころか、こちらの言語を認識している様子すらない。しかも僕たちのことを二度も、何の躊躇もなく殺しにかかってきている。
 どう考えても正気の沙汰ではない。
 ふいに、火憐さんに致命傷を与えたあの機械人形のことが思い浮かぶ。意思を持たず、近づいた者を自動的に斬殺するだけの、無機質な鉄の塊。
 この子供はあれと同じ――いや、それ以上に凶悪な存在だ。
 操想術。
 『呪い名』。
 玖渚さんも言っていたけれど、遺した影響だけでこんなにも厄介なものだとは。
 逃げなければ、と思う。しかし相手は、山を下りる方向に立ちはだかっている。退路を防がれている状態だ。
 それにこの少女に背を向けて逃げたところで、無事で済むとは思えない。

 「……どうやら君を突破しないと、ここから逃げられそうにはないみたいだね。でも今は時間もないし、なるべく荒事は避けたいところなんだ――」

 そう言って僕は、両腕を左右に広げる。
 そして制服の袖口から、無数の日本刀を出現させてみせた。


 「――だから殺す」


 殺さないけど。
 もはや馴染みの武器と化した日本刀、千刀・ツルギを、両手で立て続けに正面へ向けて投擲する。
 直撃させる意図はなく、相手をひるませることを目的とした攻撃。
 しかし相手は刀剣の弾幕を前にまったく動じることなく、むしろ飛んでくる無数の刀へ向けてまっすぐに突進してきた。
 一瞬捨て身の突貫かと思ったが、違った。
 橙色の影が、刀剣の中をすり抜ける。
 飛んでくる刀と刀の隙間を縫うようにして、最小限の動作だけですべての刀を回避していく真心。その異様なほどに滑らかな動きを、僕はかろうじて目で追う。
 速い。
 『十三組の十三人』のひとり、《棘毛布》、高千穂くん並みの回避技術。
 まったく牽制にすらならない。
 避けられた刀が、向こうの竹に次々と突き刺さっていく。最後の刀を避けると同時に、真心は大きく跳び上がって腕を大きく振りかぶる。

 「…………っ!!」

 振りかぶった腕と反対方向に大きく跳んで避ける。
 さっきと違うフォームで振り下ろされる真心の腕。空気を切り裂くような音が聞こえ、直後に近くにあった竹が鋭利な刃物で薙ぎ払われたかのように切断された。
 まるで真剣のような切れ味の手刀。
 着地の際にバランスを崩したようだったが、すぐさま立て直してこちらへ向き直り、ホーミング弾のように突進してくる。

 「刀程度じゃ殺せないか……じゃあ拳銃(これ)だ」

 そう言って両手に出現させた二丁の拳銃――コルト・パイソンを真心めがけて連射する。こんどは牽制でなく、命中させる目的で。
 しかしそれも、まるで銃弾の軌道を正確に読んでいるかのように回避される。竹を足場に空中を跳ね回りながら、次々に弾丸をかわしていく。
 煙で視界が利きづらいというのに、どんな動体視力をしているのか。
 でも、このくらいのことは予想している。銃で殺せるような相手だとは思っていない。
 殺せるとは思っていないけど、倒すことくらいはできる。

 「ッッ!!」

 うめき声のような声を漏らしたのは真心だった。弾丸を避けたはずの真心が、何かの攻撃を受けたように空中でぐらりと体勢を崩す。
 僕の撃った弾丸が、正確に言うなら周囲の竹に跳ね返って軌道を変えた弾丸が、真心の頭部に命中したのだった。

 「弾丸の軌道を読む技術は見事だけれど……跳弾のほうは見切れなかったようだね」

 通常の銃弾なら竹に当たった程度では跳ね返らないかもしれないが、このコルト・パイソンに装填されているのは実弾ではない。
 ゴム弾。言うなれば『殺意なき弾丸』といったところか。
 実弾と比べて貫通能力は大幅に劣る。当然、跳弾も起こりやすく、この竹が密集した地形ではなおさら軌道の変化が起きやすい。それを僕は狙っていた。ほとんど運任せのような策略だが。
 空中で動きを停止させた真心に、残りの弾丸を立て続けに撃ち込む。
 一発、二発、三発、四発。
 ゴム弾なので致命傷にはならないが、それでも威力は相応にある。いくら相手が規格外でも、ダメージは確実にあるはずだ。
 避けるすべなく弾丸を体で受け止めた真心は、それでも倒れることなく両足で地面に着地する。しかしその両足は目に見えてふらついていた。

113Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:28:24 ID:Z1Ff1Hlk0
 よし――効いている。
 その隙に僕は空になったコルト・パイソンを無造作に投げ捨て、動きの止まっている真心の脇をすり抜ける。そのまま真心を尻目に、また麓へと向けて逃げるように駆けだす。
 相手にダメージがある間に、少しでもエリア外に向かっておかないと。
 後ろを振り返ると、真心が追ってきているのが見えた。しかしさっきまでと比べてスピードは格段に落ちている。怪我に加えて銃弾を撃ち込まれた直後なのだから当然だ。
 よし、このままならエリア外まで、相手を誘導しながら抜けることができるかもしれない。
 いきなり襲われたとはいえ、あの少女を見殺しにするのは本意ではなかった。洗脳と催眠。言葉の違いはあれど、あの少女は黒神さんと同じ境遇にいる。他人の手によって不本意に操られているだけだ。
 とりあえず禁止エリアの外まで連れ出してしまえば、爆死から救うことはできる。
 問題はその後どうするかだ。あの人外並みのスペックを持つ相手を殺さずに止める術が、果たして僕にあるのか?
 いや、手段だけならある。
 「殺さない殺人鬼」としての僕は、相手を死に至らしめないための攻撃手段を熟知している。ゆえに、死なない程度に手足を削ぎ落とすことも、骨格や筋肉を二度と再起不能なレベルで破壊することもできる。
 正直、相手を生かすためとはいえそこまでしたくはない。でも、そこまでしないとこの少女は止まりそうにない。ここで止めなければ、本当に死ぬまで暴走しかねない。
 スペックの違いは歴然だが、勝機はある。正気を失っているせいか、相手の攻撃は直線的で精密さに欠ける。怪我のせいで動きも鈍っているようだし、何よりリーチの差がある。
 パワーもスピードも相手のほうが格段に上だが、体格の差だけはこちらに分がある。加えて相手は徒手空拳で、こちらは刀が500本からある。物量差でもこっちが上だ。
 相手は基本的に大振りでくるから、それさえ避けてしまえば生じる隙も大きい。そこを狙えば勝てる。
 狙うのは、やはり両足か。足首から先を削ぎ落としてしまえば、さすがに戦意を喪失するだろう。

 (それが本当に「救う」ことになるのかはわからない。だけど、僕にはそうすることしかできないな――)

 結論から言うと、この考えは甘かったと言わざるを得ない。
 甘々だったと言わざるを得ない。
 相手のスペックを人外級とみなしておきながら「救う」ことを優先事項に据えた時点で、すでに僕は大甘だった。まして「勝機がある」など、油断以外の何物でもない。
 自分がどれほどの脅威と対峙しているのか、理解していなかった。
 それこそ、黒神さんと同等の実力者を前にしていると、そのくらいの覚悟で臨むべきだった。

 真心の動きに注意しながら駆け下りていると、突然、真心が妙なモーションを取る。
 僕がそれにいぶかしんだ瞬間。
 真心が、二振りの日本刀を僕めがけて投擲してきた。

 「…………!!?」

 予想外の攻撃に、僕はただ驚く。
 刀!?
 いったいどこから!?
 確かに今まで、どころか刀を投げる瞬間まで、間違いなく真心は空手だったはず。それなのに、まるで見えない空間から出現させたように刀を取り出して見せた。
 あの手品のように武器を取り出す技術は、まさか――
 いや、まさかも何もない。
 どう見てもあれは、僕の暗器そのものじゃないか――!

 「うぉっ――――とっ!!」

 バランスを崩しながら、倒れこむようにしてそれを避ける。ちょうど頭すれすれのところを、刀が空を切りながら通過していった。
 倒れる際に玖渚さんを地面に叩き付けそうになったが、何とか身体の向きを変えて、肩で斜面を滑り落ちながら着地する。

 (僕の暗器を、模倣された……!?)

 いや、暗器だけじゃない。
 真心が投げつけてきた日本刀、あれは紛れもなく、僕が最初に投げた千刀・ツルギだった。
 ただ刀の間をすり抜けているように見えたが、まさかあの中で刀を二本、すれ違いざまに掠め取っていたとでも言うのか。
 しかも僕が刀を袖口から出現させるのを見て、たったそれだけで僕の暗器をものにした……?
 そんな――馬鹿な。
 操想術のせいで思考能力が欠如したバーサーカーかと思っていたが、まるで違う。
 学習している。
 自分自身が負っている怪我のことも含め、力任せに突進するだけでは避けられるということを、真心は学んでいる。そして僕がその隙を突こうとしていたことも、おそらく読んでいる!
 見切るだけでなく、見盗ることまでできるなんて、いったいどう対処すれば――

114Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:30:13 ID:Z1Ff1Hlk0
 
 「……? あれ?」

 視線を戻すと、真心が消えていた。
 さっきまで斜面の上のほうに立っていたはずなのに、忽然と姿を消している。
 しまった、目を離した隙に死角に回りこまれたのか?
 焦りながらも冷静に、周囲に視線を巡らせる。いつの間にかさらに煙が濃くなっていて、離れた場所の様子を窺いにくい。さすがに呼吸も苦しくなってくる。
 逃げたのか、それともこの視界の悪さに乗じて攻撃してくるつもりか。
 落ち着け、視界が利かないなら音を頼りにすればいい。相手は重傷のうえ、さっきの銃弾のダメージがまだ残っているはず。
 直接向かってくるにせよ、飛び道具を使うにせよ、必ず音や気配は生じる。それを察知できれば不意討ちを喰らうことはないはず。
 神経を集中させるが、どうしても焦りが出る。
 ここが禁止エリアになるまであとどのくらいなのか。いまこの瞬間に、首輪が爆発しないとも限らない。
 こちらに近づいてくるような音はない。
 ぱちぱちと竹が燃えて爆ぜる音。さわさわと竹の葉がこすれる音。ぎしぎしと竹が軋む音。玖渚さんと僕の呼吸音、そして心臓の鼓動音。
 まさか本当に逃げたのか?
 だったら僕も、急いでここから脱出したほうが――

 「…………え?」

 竹が軋む音?
 竹林なのだから、竹が音を発するのは不自然なことじゃない。
 だけど、何が原因でこんなにはっきり、耳に届くほどの音で竹が軋む?
 音のするほうへ目を向ける。
 煙の奥に、天を衝くように伸びた竹の影がいくつも見える。その中にひとつだけ、異様なまでに「しなっている」竹の影があった。
 弧を描くように、大きくひん曲がった形の竹。ぎしぎしという音は、その竹から発されている。
 その竹の先端に、小さな人影がいるのが見えた。
 人影。子供のように小さな人影。
 しなった竹は、当然の作用としてしなったぶんだけ元に戻る力が働いて――

 「く…………っ!!」

 その意味を理解した僕は、とっさにその場を離れようと全力で地面を蹴った。
 飛んでくる。
 竹の弾力を利用して、バネのように飛んでくる!


 ――ぶぅん。


 銃弾が耳元を通過するような音がして、人の形をした塊が僕のすぐそばを高速で突き抜ける。
 強烈な風圧。
 目の端に一瞬映る、たなびく橙色の髪。
 完全には回避しきれなかったようで、防御のために構えていた左腕に激しい衝撃を受け、身体ごと吹き飛ばされる。周囲の竹に全身をぶつけながら、派手に地面を転がる。
 数メートルほど転がったところで、ようやく停止する。
 直撃を免れたのは幸運以外の何物でもなかった。気付くのが一瞬遅かったら、玖渚さんもろとも確実に貫かれていた。
 だから、やはり運がよかったと言うべきなのだろう。
 僕の左腕の、肘から先が消し飛んだくらいで済んだことは。

 「ぐ……あ……あああぁ……っ!!」

 ちぎれた腕の先から血が噴き出す。右腕で傷口をおさえて、強引に出血を止める。
 痛みで立ち上がることすらできず、地面に転がったままただうめくことしかできない。
 すべてにおいて予想外だった。
 竹の力を利用するなんて……あまりに原始的すぎる。投石器か。
 竹が元に戻るタイミングに合わせて跳躍したのだろうが、それでもあの速度は常軌を逸している。脚力と瞬発力、そしてタイミングを計る精度があってこその技術。まさに人外の技だ。
 本当に人間なのか? あの橙色は。
 煙で霞んだ視界の奥、斜面の上のほうに真心は平然と着地していた。あれだけの速さで飛んだにもかかわらず、周囲の竹に激突することなく、むしろ竹を利用してうまく速度を殺して停止したようだ。
 そこから僕たちのことを、じっと観察するように見つめてくる。相変わらず、その瞳から感情の類は窺い知れない。
 駄目だ、殺される。
 僕の力じゃあ、まるで歯が立たない。相手が重傷を負っていてすらギリギリ戦えていた状態だというのに、今や僕のほうが片腕を失ってしまっている。もはや勝負にすらならない。
 そもそも正面から受けて立ってしまったのが間違いだったのかもしれない。後ろから仕止められるリスクを負ってでも、一目散に背を向けて逃げるべきだった。
 それ以外の選択肢はないものと思うべきだった。
 手負いの獣ほど危険なものはない。それを分かっていたはずなのに。
 痛い、意識が飛びそうだ。
 死ぬ、殺される。
 僕のせいで。
 僕の無謀な判断のせいで、玖渚さんまで巻き込むことに――

115Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:30:47 ID:Z1Ff1Hlk0
 
 「もういいよ、形ちゃん」

 急に声をかけられ、顔を上げる。
 目の前で玖渚さんが、普通に会話しているときとまったく変わらない、おっとりとした表情で僕を見ていた。

 「僕様ちゃんをおいて、形ちゃんだけ逃げなよ。片腕は失っても足は両方とも無事でしょ?」

 僕はつい呆気にとられる。何を言われたのかしっかりと把握できなかった。

 「な……何を、」
 「このまま一緒にいても二人とも殺されるだけだって。僕様ちゃん邪魔でしょ? さっきからめっちゃ動きにくそうにしてるし」
 「え?」

 動きにくそうにしていた? 僕が?
 確かにしがみつかれているぶん勝手は違うけど、小柄な玖渚さんは重さとしてはほとんど計算に入らないし、常に全身に暗器を仕込んでいる僕にとっては邪魔というほどじゃあ――

 「いやそうじゃなくてさ、僕様ちゃんを庇うようにして戦ってたせいでってこと。僕様ちゃんじゃなくても見てたら誰でも気付くよ。腕もってかれたのも、明らかに僕様ちゃんを庇うのを優先したせいだったし」

 だから僕様ちゃんを捨てて――と玖渚さんは言った。
 責任を感じてとか、僕のことを慮って言っているわけでなく、単にこの状況における最も効率の良い方法を説明しているだけのような、そんな言い方で。

 「形ちゃんはさ、やっぱり人を殺すことにしか才能が向いてないんだよ。守るとか助けるとか、そういうことに意識を向けてると他のことがちゃんとできなくなる。逃げるにしても、僕様ちゃんと一緒だと絶対に逃げ切れないと思うよ?」
 「…………」

 そんなことはない。そう否定したいのに、言葉が出てこない。
 玖渚さんの言うとおり、僕らアブノーマルは才能が一方向に集中してしまっている場合が多い。黒神さんのような例外を除いて、向いていない分野に対しての能力はノーマルにすら劣ることもある。

 「それにここで一緒に死んじゃったら、僕様ちゃんが調べたことも全部無駄になっちゃうしさぁ。それが嫌なんだよね。だから形ちゃん、僕様ちゃんのハードディスク持って一人で逃げてよ。あとは舞ちゃんたちと協力してうまくやって」

 できればいーちゃんにも協力してくれるとうれしいなあ――と、玖渚さんは無邪気に笑う。
 自分の生き死にに関わる話だというのに、そんなことには関心がないとでもいうかのように。

 「………………」

 それは――
 それは、正しい選択なのだろうか。
 玖渚さんの言うとおり、僕が玖渚さんを守ることに気を取られすぎているというなら、ここで完全に玖渚さんを見捨ててしまったほうが、僕が生き残れる可能性は高い。
 いまさら守ることに固執したところで、どうにかなるとも思えない。
 僕がここに残って真心を食い止め、玖渚さんだけ逃げるという選択もあるにはある。しかしそれは、山火事の件と禁止エリアの件を差し引いた上での選択肢だ。
 禁止エリアまでのタイムリミットが正確にあとどのくらいなのかはわからないが、もうかなり逼迫していることだけは間違いない。時間までに、この煙に包まれた山道を玖渚さんひとりで抜けられるかといったら、それはかなり厳しい。
 それに今の僕じゃあ、時間稼ぎすらできる状態じゃない。一瞬で殺されて、そのあと玖渚さんも殺されるのが目に見えている。
 だったら、ここで二人とも死ぬよりは。
 玖渚さんをこの橙色の怪物の前に置き去りにし、自分だけ助かる可能性に賭けたほうが。
 見捨てる――見殺しにする。
 玖渚さんを僕が、自分の意思で見殺しにする。それが正しい選択だというのならば――

 「…………ごめん、玖渚さん」

 しゅるり。
 玖渚さんと僕とを連結していたゴム紐を解く。
 しばらくぶりに僕から離れた玖渚さんを、地面にそっと横たえる。背負っていた自分のデイパックを下ろし、それも玖渚さんのそばに置いた。
 玖渚さんは、されるがままに何も言わない。僕の選択にすべて委ねているように見えた。

 「悪いけど、君を見捨てることはできない」

 右手と口で、解いたゴム紐を切断された左腕にきつく巻きつける。出血を抑えるのに、このゴム紐はうってつけだった。
 玖渚さんはきょとんとした表情をする。まるで人間らしい感情があるかのように。
 当たり前だ、人間に感情がないはずがない。
 玖渚さんは、生きている普通の人間だ。
 今もこうして、普通に生きている。

116Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:31:12 ID:Z1Ff1Hlk0
 
 「僕もね、少し前までは思っていたんだ。自分が、何を見ても、誰を相手にしても殺すことしか考えられない、生まれついての殺人鬼だって」

 殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい。
 だから殺す、だから殺す、だから殺す、だから殺す、だから殺す、だから殺す。
 すべての事象が、僕にとっては殺人の理由。
 そんな自分を受け入れているところもあった。この異常を隠さず、むしろ主張することによって、向こうから恐怖を抱いて退いてもらうために。
 人を殺さないために、殺人鬼のレッテルを己に貼ることを僕は選んだ。
 でも、そんな生き方は本当はしたくなかった。誰かと普通に語り合い、誰かと普通に触れ合い、誰かと普通に仲良く遊べるような、そんな日常を望んでいた。
 いくら望んでも、それは叶わないことだと思っていた。

 ――あんたと俺は命がけで戦ったんだぜ? つまり俺達はもう友達じゃねーかよ――――

 だけど、違った。

 ――あたしは何があっても、宗像さんの味方、だから――――

 僕のことを殺人鬼としてではなく、ただの宗像形として、どこまでもまっすぐに見てくれた人たちがいた。
 彼らはどちらも「守る人」だった。
 誰かを守る、誰かを救う、誰かを助ける。理由こそ違えど、彼らは常に何かを守るために生きているようだった。殺すために生まれてきたような僕とはまるで正反対に。
 そんな彼らの生き方が、僕にはとても眩しかった。当たり前のように誰かのために生きられることが羨ましかった。
 そんな人達が、僕のことを友達だと、味方だと言ってくれた。それを裏切るような真似だけは絶対にしたくない。
 殺す以外に何もできなくても、殺すために生まれてきたような人間でも。
 彼らの仲間として、その生き様に恥じない存在でありたい。誰かを助け、誰かを救い、誰かを守る。そんな存在に。

 ――『正義の味方』であるあたしが『味方』してるんだから――――
 ――宗像さんは、『正義そのもの』だ――――

 ……そうだね、火憐さん。

 僕は立ち上がり、身体の内側に力を込める。
 迷いはすでに消え去っていた。心からの決意を、ありったけの覚悟を、僕は叫ぶ。

 「僕は、『正義そのもの』になる――――!!!」

 割れんばかりの声で。
 なりたい、でも、なれたらいい、でもなく、なる、と。
 初めて僕は、そう宣言した。
 そんな僕の叫び声にも、真心はまるで反応せずにこちらをただ見ている。無機質に、機械的に、無感動に。
 止めるためには、殺すしかないのかもしれない。
 それでも、僕にできる限りのことはしようと決めた。玖渚さんだけでなくあの橙色の少女も、火憐さんなら救ってみせると言うだろう。

 「もう少しだけそこで待っててくれ、玖渚さん」

 そう言って僕は構えを取る。
 腕を上げて、拳を作り、腰を低く落とし、膝をやや曲げて。
 暗器を使うときとは違う、火憐さんから教えてもらった体術の構え。

 「君は必ず、僕が守るから」
 「…………無茶するなあ」

 そういうところ、ちょっといーちゃんに似てるんだよねえ――と、呆れたように、しかしどこか嬉しそうに、玖渚さんは呟いた。
 すると突然、何かに反応したかのように真心がこちらへ突っ込んでくる。一度は学習したかと思ったが、何に冷静さを欠いたのか、最初の暴走状態に戻っているようだった。
 好都合だ。
 動きが直線的であるほど、こちらは対処しやすい。

 「行くよ」

 今までは逃げの一辺倒だったが、今度は僕からも相手に向かって駆け出す。
 真正面からぶつかれば当然押し負ける。真心が手刀を繰り出すタイミングを見計らい、ぎりぎりのところで方向を変え、真横へと跳躍する。
 真心の手刀が僕の腹部をかすめる。皮膚が制服ごと切り裂かれ、血が吹き出すのがわかったが、致命傷には全然足らない。
 腐ってもアブノーマル、殺されない技術に関しては人一倍以上。人一倍異常だ。
 跳躍した先にあった太い竹を足場に、今度は斜め上へと身体を上下反転させながら大きく飛び跳ねる。ちょうど、真心が僕の真下へと来る位置まで。
 三角跳び。
 火憐さんから教わった基本技のひとつ。
 「人間にとって死角である真上を制するための技」みたいなことを火憐さんは言っていたけれど、はたしてどんな格闘技の流派にこんな技があるのか、それ以前に火憐さんが何の格闘技をやっていたのか、僕は知らない。
 そもそもこれは格ゲーの技ではなかったのか。

117Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:31:36 ID:Z1Ff1Hlk0
 もちろん、頭上を取ったからといって雌雄の決するような相手じゃない。むしろこのままだと、相手が待ち構えているところに無防備のまま落下するだけという自爆に近い状態。
 この高さからだと腕も足も真心に届かない。そしてこちらの攻撃が届く位置に来るまで悠長に待ってくれる相手ではないだろう。
 刀を投げる手は使えない。相手は僕の暗器を習得済みだ。また奪い取られて投げ返されたらこっちが死ぬ。
 無論、何も考えずに頭上に跳んだわけではない。

 「ふっ――っっ!!」

 空中で逆さまに浮いたまま、上半身を勢いよく捻ることで螺旋状に回転する。
 そして真下に立っている真心へ向けて、左腕を大きく振りかざした。
 足が届かない距離なのに、腕が届くはずがない。ましてや肘から先のとぎれた左腕、万が一にもかすることすらありえない。
 だけど、腕は届かなくとも。
 その左腕に、止血のために巻きつけておいたゴム紐はその限りじゃない。
 このゴム紐は、ロープ代わりに使えるくらい十分な強度と長さがある。腕に巻きつける際、片端の長さを余すようにしておけば、こうして中距離間の攻撃に応用することもできる。
 鞭のように放たれたゴム紐は、回転の遠心力を伴って真心のほうへ伸びていく。そして僕の狙い通りに、真心の華奢な首に一瞬にして絡みついた。
 捕まえた。

 「!!」

 それに気付いた真心が、紐を解こうと首に手をかけようとする。
 もちろん外す隙は与えない。僕は近くにあった竹に右手を引っ掛けて半ば無理矢理にしがみつき、そのまま渾身の力で真心の身体を引っ張りあげた。
 真心の両足が浮く。
 かはっ、と苦しげに息の漏れる音が聞こえる。それでも僕は力を緩めない。

 「絞殺――どんなに強くとも、呼吸を止められれば人間は、死ぬ――!」

 正確には絞めるのは、気管ではなく頚動脈。絞め方さえ間違わなければ、完全に息の根が止まる前に『絞め落とす』ことができる。
 殺さず落とすのに、絞めは最も適した殺人技。
 火憐さんも「何度殴り倒しても起き上がってくるしぶとい相手には絞め技が一番効果的」などと言っていた。火憐さんの体術で倒れない人間というのは、ちょっと想定し難いけれど。
 普通のロープやワイヤーなら、真心の腕力相手では引きちぎられる恐れがある。だけどこのゴム紐は、どんな素材を使っているのか相当に強度が高い。
 加えて相手は右腕を骨折している。両足の浮いた状態で、片腕の力だけでちぎれるような強度の紐じゃない。
 いける。
 このまま絞め上げ続ければ、真心を殺さずに無力化できる!

 ――と、僕が思ったそのとき。
 真心の左手が、すっとこちらのほうを向く。
 ゴム紐を掴むわけでも、闇雲に振り回すわけでもなく、ただこちらへ向けて片手を突き出してくる。
 突き出されたその手は、まるでライターを着火しようとしているかのような、奇妙な形で握られていて――

 「――――あ」

 その手に握られたものの正体に気付いたときには、真心はすでにそれを『発射』していた。
 さっき僕が真心へ向けて連射した、コルト・パイソンの『殺意なき弾丸』を。

 「が…………っ!!」

 指弾!
 指の力で弾かれたとは思えない勢いで飛んできた弾丸は、僕のこめかみあたりに直撃する。その衝撃に一瞬、手の力を緩めてしまう。
 再び力を込める暇もなく、真心の両足が地面に着く。
 足場を得た真心は、逆にゴム紐を思い切り引くことで竹にしがみついていた僕をそこから引き剥がす。そして勢いそのままに、ゴム紐をハンマー投げのように振りかぶって、僕を地面へと叩き落した。

 「……………………っっっ!!!」

 声も出ないほどの衝撃。
 地面で一度大きくバウンドし、背中からどさりと着地する。
 頭蓋骨が砕けたかと思うくらいの眩暈と痛みを全身で感じながら、僕は今度こそ自分の敗北を悟る。
 ……甘かった、学習していないのは僕のほうだった。
 真心が僕の暗器を習得していて、千刀・ツルギをいつの間にかその身に隠し持っていたという事実。それを知っておきながら、同様にコルト・パイソンの弾丸を隠し持っている可能性に思い至ることができなかった。
 暗器使いの僕が、暗器で完全に裏をかかれた。
 完膚なきまでに、僕の敗北だった。

118Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:32:02 ID:Z1Ff1Hlk0
 
 (……できる限りのことはやった――なんて言い訳できるような結果じゃないな、これは)

 逃げることも戦うことも、これ以上は無理のようだ。
 仰向けに倒れたまま、そっと目を開ける。
 空が見えた。
 青い空が、青々とした竹の葉の隙間からわずかに見えた。
 あたり一面が燻った煙で覆われているにも関わらず、なぜか僕にはその空の青さがはっきりと見えていた。
 身体を起こそうとするが、力が入らない。代わりに頭がずきずきと痛む。
 玖渚さんが近くにいるはずだけど、姿が見えない。
 玖渚さんに謝りたかった。謝ったからといって何が変わるわけでもないけれど、必ず守る、などと大口を叩いておいて、こんな結果しか残せなかった自分の不甲斐なさを、せめて一言謝りたかった。
 火憐さんにも、善吉くんにも、黒神さんにも、玖渚さんを僕に託してくれた伊織さんにも、謝罪の言葉を口にする力もない自分がどうしようもなく無力に思えた。
 ざっ、と。
 僕の頭のすぐ脇で、小さな足音が鳴る。
 真心がそこに立っていた。近くで見ると、その怪我の痛々しさがはっきりとわかる。僕の怪我よりずっと酷いだろう。
 その橙色の瞳は僕のほうを見ておらず、虚ろな表情で、誰かのことを思い出すように遠くのほうを見つめている。
 ぼんやりと開いた口から、少女は僕にとって初めて意味の理解できる言葉を発した。


 「――――いーちゃん」


 …………ああ、ここへ来てまたその名前か。
 真心が『いーちゃん』の知り合いかもしれないと玖渚さんは言っていたけれど、どうやら的を射ていたようだ。
 いまさらそれを知ったところで、何の意味もないのだけれど――

 ひゅん。

 真心の腕が、無慈悲に僕へと振り下ろされる。
 ああ、死ぬな。
 誰も、何も守れないままに僕は死ぬのか。
 『正義』の二文字は、どうやら僕には荷が重すぎたらしい。
 火憐さん、ごめん。
 最後まで信じてくれた君には、本当に申し訳ないと思うけど。
 やっぱり僕は、正義にはなれなかった――――







 「いや、お前は間違いなく正義だぜ、少年」







 そのとき何が起きたのか、はっきりと見えていたわけではない。
 ただ、赤が。
 視界の中に、赤色が飛び込んできた。
 空の青さも、漂う白煙も、すべてかき消してしまうくらいにまばゆい赤色が、僕の目の前に存在していた。
 何の前触れもなく、千年前からそこにいたかのような毅然さで。
 その赤色の人影は、橙色の人影をはじき飛ばす。
 あの想影真心を、橙なる種を、ただの体当たりでいとも簡単に遠くへと吹き飛ばす。
 いや、正確に言うなら吹き飛ばしたのは、その赤色がまたがっているふたつの――――車輪?

 「じ…………自転車?」

 真心を撥ね飛ばした自転車の車輪が、ざん、とふたつ同時に着地する。
 山道にそぐわない、籠と荷台のついた、俗に言うところのママチャリ。
 それに乗っていた赤色の人影が、なぜかサドルにまたがったままの姿勢で跳躍し、僕の目の前にふわりと降り立った。

 「確かにお前には、真心ちゃんの相手はちと荷が重かったかもしれねえ――だがな、少年」

 赤色の人影が僕のほうを振り返る。
 煌々と燃えるようなその赤い瞳が、呆然と見上げているだけの僕をまっすぐに見た。

 「お前はそんなボロボロになってまで、あたしがここに到着するギリギリまで、あたしの友達を命懸けで守ってみせたんだぜ。それが正義でなくてなんだっつーんだよ」

 その人は。
 炎のように赤いスーツに身を包んだ、炎のような存在感を纏ったその女性は。
 とても力強く、しかしどこか優しげに、この上なく楽しそうな表情で、僕に笑いかけた。

 「このあたしが誰かのことを、気も衒いもなく、一片の迷いもなく『正義』だと思ったんだ。少なくともそれは、誇ってもいい出来事だぜ」

119Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:32:27 ID:Z1Ff1Hlk0
 
  ◇     ◇


 燃え盛るような赤い髪。
 攻撃的な真紅のスーツ。
 射すくめるような、つり上がった三白眼。
 服はほとんどの部分が破れたりほつれたりしていて、惜しげもなく素肌を晒している。
 いや、ボロボロなのは服だけじゃない。むしろ素肌のほうが酷い様相を呈している。
 打撲、裂傷、骨折が全身に溢れかえっていて、痛々しいどころの話ではなかった。腕などは折れた骨が皮膚を突き破って露出してしまってさえいる。
 真心と同じ満身創痍。
 にもかかわらず、その全身から滲み出る活力は怪我どころか、疲労すら感じさせないそれで。

 「――――あ、」

 その人が誰なのか、僕は知っていた。
 詳細名簿に載っていた参加者のうち、顔写真だけでも存在感を放っていたのをよく覚えている。

 「哀川、潤…………?」

 《赤き征裁》、《死色の深紅》、《疾風怒濤》、《一騎当千》、《赤笑虎》、《仙人殺し》、《砂漠の鷲》、《嵐の前の暴風雨》。
 そして、《人類最強の請負人》。
 ものものしい肩書きの数々と、美形ではあるけどどことなく肉食動物を思わせる鋭い目つきから一度は危険人物に分類しかけたけど、結局は普通の名簿のほうに入れておいたように記憶している。
 あれはどういう理由で、危険じゃないと判断したのだったか――

 「潤ちゃん……」

 玖渚さんが声を漏らす。どこに行ったかと思ってたけど、案外近くにいたらしい。
 そういえば玖渚さんは、この哀川潤と知り合いであるようなことを研究施設で言っていたような気がする。
 伊織さんが「哀川のおねーさん」と親しげに呼んでいたのもこの人だろう。
 それぞれがどういう関係なのか、詳しく聞いてはいないが。

 「よう玖渚ちん、久しぶり」

 気さくな感じで、哀川さんは玖渚さんに声をかける。

 「悪いな、遊園地で逃げられてから真心ちゃん追ってたんだけど、途中で見失っちまってよ。竹取山のどこかに逃げ込んだってとこまでは見当ついてたんだが、山火事のせいで思うように捜索できなくてさ。
 逃げてる途中で真心が投げ捨てたデイパック漁ってみたらこの自転車が出てきたから、これで手当たり次第走り回ってたんだが、とりあえず間に合ってよかったぜ」

 そう言って哀川潤は、もう一度僕を見てニッと微笑んだ。

 「お前が大声で叫んでくれたおかげで、ここにいるってわかった。ありがとよ、少年――はは、『正義そのもの』なんて、いかした台詞聞かせてくれんじゃねえかよ」

 立てるか? と僕に手を差し伸べてくる哀川潤。そんなあからさまに複雑骨折している腕を差し伸べられても、こちらとしては対処に困るのだけれど。
 むしろあなたがそうして立っていられるのが不思議だ――と突っ込む余裕もなかったので、まだ痛む身体を無理矢理に稼動して立ち上がる。
 思っていたほど骨や筋肉に損傷はないようで、ふらつきながらも何とか両足で地面を踏むことに成功した。

 「少年、名前は?」
 「宗像、形……です」
 「そうか、じゃあ宗像くんよ」

 哀川さんは、すぐそこの地面に寝そべっていた玖渚さんを折れているはずの腕でひょいとつまみ上げ、乗ってきた自転車の籠に放り込んだ。
 玖渚さんは「うにゅっ」と声を上げながら、尻からすっぽりと籠におさまる。身体を折りたたむようにして、足だけを籠から出している。

 「こいつと一緒に、早いとここのエリアから脱出しろ。徒歩じゃもう間に合わねえ、このチャリで麓まで一気に駆け下れ。あとネットカフェにあたしの荷物が放り込んであるから、余裕があったら回収しておいてくれ」

 そう言って哀川さんは、後ろを振り返る。

 「あたしはここで、あいつの相手をする」

 そこには、怒りのこもった眼で哀川さんをにらみつける真心の姿があった。
 明らかに、僕たちと対峙していたときとは様子が違う。
 殺気や敵意、警戒心などが溢れかえっているように見える――二人の関係を知らない僕には、その理由が分からない。
 うまく状況が整理できず、僕はただ戸惑う。

 「落ち着け、真心。山に火を放ったのはこいつらじゃねえ」

 だよな? といった具合に僕のほうを見る哀川さん。反射的にうなずいてしまったが、どういう意味だ?
 山に火を放った? この山火事の話か?

 「いや、実はあいつ、昔のことで炎にトラウマがあるらしくてよ。火事とか見ると、あんなふうに理性を失って暴走しちまうんだわ。それでたまたま見つけたお前らを、この山火事を起こした張本人だと思って襲いかかったんだろうよ」
 「え」

120Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:32:55 ID:Z1Ff1Hlk0
 そんな理由で?
 そんなことで僕たちは、危うく殺されかけたのか? 嘘だろう?
 操想術とかの話はどこへ行ったんだ。

 「あたしは真心とは顔見知りだから、少しは話しが通じるかもしれねえ。だからこの場はあたしに任せろ。お前は早く自転車に乗れ」
 「いや、乗れって――」

 時間がないのは承知だけど、本当にこの山道を自転車で下れというのだろうか。 マウンテンバイクですらない、このママチャリで?
 それだけでも無茶なのに、今の僕は左手を失ってるからハンドルを握るのも十分にできないのだけれど。

 「贅沢言うな。見ろ、あたしなんて両腕ともバッキバキにへし折れてんのに、両足の力だけでここまで上ってこれたんだぞ。片腕使えて、しかもただ下るだけなら余裕でできるっつーの」

 無茶苦茶な理屈だった。
 ていうかこの人、マウンテンバイクでもそれなりに苦労するであろうこの斜面をただの自転車で駆け上がってきたうえに、体当たりまでかましてみせたのか?
 どんな脚力だ。
 古賀さんあたりならできそうな気もするけど、それも全快の状態での話だ。

 「いや、でも哀川さん――」

 自転車がどうこうとかいう、それ以前に。
 両腕すら使えないその満身創痍の体で、あの真心を相手にできるはずがない。よしんば足止めできたとしても、その後に禁止エリアになりかけているここから脱出するだけの余裕が残っているはずがない。
 ここに残るというのは、ここで死ぬと言っているも同義だ。
 僕がそう言おうとすると、哀川さんはそれを遮るように、

 「あたしのことを名字で呼ぶな。あたしのことを名字で呼ぶのは敵だけだ」

 と、言った。

 「あいつは、真心はそもそも、あたしがもっと前にどうにかすべきだったんだ。あたしがドジっちまったせいで、お前と玖渚ちんを危ない目に遭わせちまった。お前のその左腕も、あたしの責任だ」
 「…………」
 「言っておくが、その責任を取ってお前らの代わりにあいつの相手をするってわけじゃねえぞ。あいつを、真心ちゃんを止める責任が、もともとあたしにあるってだけの話だ。あいつを救うのは、あたしの役目だ」

 潤さんはそう言って、不敵に笑ってみせた。
 救う。
 その言葉をあたりまえのように口にする彼女は、とても生き生きとして見えた。
 こんな、今にも崩れてしまいそうな怪我なのに。
 この程度の逆境では、まるで足りないと言わんばかりに。

 「宗像くんよ。お前は『正義そのもの』なんだろ」

 赤い瞳が、ふっと優しげな光を帯びる。

 「だったらあたしは、正義の味方だ」

 「…………!!」

 正義の味方。
 その言葉に僕は、胸をつかまれたようになる。

 「正義を名乗るんだったら、正義の味方の言うことは信用しろ。大丈夫だ、あたしも真心ちゃんも、これしきでくたばるほどヤワな造りはしてねえよ。
 人類最強の請負人であるこのあたしが『味方』するってんだぜ。だからお前は安心して、大船に乗った気であたしにこの場を任せればいい。あたしは岡の黒船どころか、怖いもの知らずのドレッドノート級だからな」
 「潤……さん」
 「だからお前は、玖渚ちんを守ってやってくれ。どういう理由で玖渚ちんと一緒にいんのかは知らんが、それは別にいい。ひとつ言えるのは、真心を救えるのがあたししかいないように、宗像くん、この場で玖渚ちんを救えるのはお前しかいないってことだ」

 少しだけ、笑顔に寂しさを含ませて。
 潤さんは言う。

 「頼む。そいつ、あたしの大事な友達なんだよ――それに、玖渚ちんに出会っておいて守りきれなかったなんて言ったら、いーたんにぶっ殺されちまう」

 あいつ玖渚ちんのことになると見境いねえからなあ――と言って、どこか愛おしそうな表情をする潤さん。
 どうやらこの場で、『いーちゃん』を直接知らないのは僕だけのようだ。
 『いーちゃん』、君の知り合いの女性たちが今、修羅場の真っ只中にいるよ――思わずそんなことを言いたくなってしまう。別にその『いーちゃん』のせいでこの状況があるわけではないだろうけど。

 「…………潤さん」
 「おう」

 腕を振るい、ロープ代わりに使ったゴム紐の端をしゅるりと腕に巻き取る。
 そして自転車のサドルにまたがり、残った右手でハンドルを握る。

 「僕は、あなたを信じます」
 「おう、信じろ」
 「あなたを信じて、この場を任せます」
 「おう、任せろ」
 「だからどうか、あなたも生き残ってください」
 「…………」
 「生き残って、僕と一緒に戦ってください」

121Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:33:24 ID:Z1Ff1Hlk0
 この人のことを、僕はほとんど何も知らない。精々が名簿に載っている、事実かどうかもわからない情報だけだ。
 だけどひとつだけ、ここでこの人に会ってみてわかったことがある。
 この人は強い。最強という肩書きが不自然でないくらいに。
 この人が真実味方になってくれるなら、それはこの上なく心強い。

 「…………ああ、約束すんよ」

 僕の言葉に、潤さんは皮肉げに笑って返す。

 「お前も、あたしと再会するまで死ぬんじゃねえぞ、宗像くん」

 その言葉を聞いて、僕はペダルを一気に踏み込み、麓へと向けて一直線に駆け下る。
 自転車はぐんぐん加速し、潤さんたちの姿があっという間に遠ざかっていく。
 周囲の竹に激突しないようハンドルを操作しながら、僕はなぜ潤さんの名簿を見て危険人物と判断しなかったのかを思い出していた。
 あの自信に溢れた眼差しと、理屈では説明できない強さを象ったような雰囲気。
 すべてが似ているというわけではないけれど。
 あの人はどこか、黒神さんに似ているような気がした。



   ◆  ◆  ◆



 「はは、雰囲気に乗せられてつい『正義の味方』なんて言葉使っちまったぜ。そんなもんあたしの柄じゃねえっつうの――――さて、と」

 麓へと向けて走り去った宗像形たちを見送ったあと、哀川潤はようやく想影真心に向き直る。
 真心は相変わらず、その場から動かず敵意のこもった眼で哀川潤を睨みつけていた。

 「待たせたな、真心。さっそく第二ラウンドと洒落込もうぜ――と言いたいところだけど、その前にひとつ確認しておくか」

 山火事はすでに煙だけではなくなってきている。西のほうから徐々に火の手が迫ってきているのが、哀川潤たちのところからも視認することができた。
 それでも二人は、そんなことに興味はないとばかりにお互いの姿だけを視界に納めている。
 哀川潤は想影真心を。
 想影真心は哀川潤を。
 双方ともに、ただ見つめている。

 「真心、お前すでに操想術から解放されてるな?」

 哀川潤の問いかけに、真心は何も言わない。
 しかし、その太い眉が一瞬ぴくりと動いたのを哀川潤は見ていた。

 「やっぱりそうかよ……確信は持ててなかったけど、お前もう、あたしが来るより前に正気に戻ってたんだな」


  ◇     ◇


 「もしかしたら、って思ったのはランドセルランドでお前とやりあってる最中だったな――つっても、あの包帯女から真心にかけられてる操想術の仕組みを聞いてなけりゃ、気付くことさえなかっただろうけどな」

 真心にかけられている操想術の仕組み。
 心臓の鼓動を基調に操想術を施すという、想影真心の完全性を逆手に取った裏技。真心の心臓が動いている限り、その操想術は常時かかりっぱなしの状態を維持する。
 真心が死ぬまで、決して操想術が解けることはない。
 はずだったのだが。

 「あたしの知ってる、橙なる種として完成した想影真心だったら、それこそ心臓を止めでもしない限り術を解くことはできなかっただろうな。そんな死ぬほどの怪我を負った程度で、死ぬほどの血を流した程度で、お前の心臓は狂わないだろうからな――
 だけど、今のお前はそうじゃない。『制限』だか何だか知らんが、あたしもそれと同じものをかけられているからよくわかる。あたしは本来のあたしほど最強じゃないし、真心、お前は本来のお前ほど最終じゃない」

 制限。
 身体能力をはじめとするいくつかのスキルに、一定の弱体化、限定化を負荷する措置。
 ゲームの平等性を最低限維持するための措置のひとつだったが、真心の場合においては、それが少し違う方向に作用した。

 「今の真心ちゃんの身体で、そんな大量の血を流した状態で休みなく動き回ったら、さすがに脈拍も一定じゃなくなってるんじゃねえか? その操想術の拠り所は、あくまで心臓の鼓動一点のみのはずだ。それが狂えば必然、術は解けるか沈静化する」

 想影真心の完全性を前提にして施された操想術。
 制限によってその完全性に揺らぎが出たことで、術の完全性もまた否定された。
 時宮時刻にとっても、それは計算外の出来事だっただろう。

 「いつ、どのタイミングで解けたのかまではあたしにはわからんけどね……真心ちゃんの心臓の音でも聞けりゃ、もっと早く確信持てたんだけどな。『では、心臓の鼓動音は』――とか言ってなあ」
 「…………」

 地面に耳をつける真似をする哀川順に、真心はやはり何の反応も見せない。
 憎々しげに。
 背中の傷口からなおも血を流しながら、何も言わずに立っている。

122Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:33:52 ID:Z1Ff1Hlk0
 
 「……なあ真心。お前結局、何がしたかったんだ?」

 哀川潤は問いかける。一方的に。

 「骨董アパート破壊したのもお前だな? アパート壊して、あたしと喧嘩して、途中で逃げて、ようやく見つけたかと思ったら玖渚ちんたち襲ってて、それがお前のやりたかったことだったのかよ?」
 「…………」
 「あたしを襲ったとこまではわかる。時系列的にあたしのことを覚えてるかどうかは微妙だが、橙なる種の前身であるこのあたしに襲い掛かるってのはいわば本能だろうからな。だけどなんで、たまたま見つけたとはいえ、玖渚ちんたちまで殺そうとした?」
 「…………」
 「あたしがいーたんの声帯模写したってのも、とうに気がついてるよな。お前のスペックで、正気に戻ったんならなおのこと気付かないはずがねえ。その上でどうして、あたしを振り切って禁止エリアなんかに直行した?」
 「…………」
 「死にたかったのか? 何でもいいからぶっ壊したかったのか? それともいーたんに会いたかったのか? 何とか言いやがれ、真心!」


 「うるさい」


 初めて。
 赤色に対し、橙色が反応を示す。

 「お前のことは、何となく覚えてるぞ。あの狐野郎に連れてこられた体育館で、いーちゃんを見つける前にぶん殴った記憶がある。それに、さっき俺様と闘りあった赤色もお前だったな――お前があの、俺様の前身だっていう哀川潤か」
 「ああ、真心ちゃんやっぱり『そのへんから』来てんのな……あたしに関する記憶も、せいぜいその程度かよ。こちとらランドセルランドのときも含めて二回も命がけでバトってんのによ」
 「……『何がしたかった』? 俺様にやりたいことなんてない。やりたいことなんて、ただのひとつもなかった――俺様はただ、終わらせようとしてただけだ」

 その眼からすでに、狂気の色は消えていた。
 明確な声で、真心は言葉を紡ぐ。

 「ここにあるもの全部ぶっ壊して、このふざけた実験とかを終わらせようとしてただけだ。この殺し合いも、主催の連中も、俺様自身も、何もかも終わらせようと思った。それだけだ」

 《人類最終》。
 西東天が世界を終わらせる目的で作成した《赤き征裁》。その続きであり完成形でもある、唯一無二の存在。
 本能というならこれこそが本能。世界を、物語を終わらせることこそが、橙なる種にとっての役割であり存在理由。
 その存在理由に則って、真心はこの世界を終わらせようとしていた。
 終わらせようとしていただけで、真心は誰とも敵対していなかった。誰とも戦っていなかったし、誰とも殺し合いを演じてなどいなかった。真庭鳳凰も、鑢七実も、哀川潤でさえも、真心にとっては戦う相手ですらなかった。
 無戦無敗、ゆえに最終。
 だから相手というのであれば、この世界そのものが真心の相手だった。

 このバトルロワイアルという世界を。
 真心はずっと終わらせようとしていた。

 「あの操想術野郎のせいで暴走してる間は、確かに俺様自身も、自分が何をやってるのかよくわからなかった。だけど今、正気に戻ってみてはっきりとわかった。俺様が何を目的として暴れていたのか」
 「…………なるほどね」

 吐き棄てるような表情で哀川潤は言う。

 「時宮時刻が世界を終わらせる目的で真心に操想術をかけたってんなら、ここに限ってはその目論見は成功してたってわけだ――擬似的とはいえ、ひとつの世界っつーか、物語を形作ったような実験だからな。
 この空間が限定的過ぎたってのもまずかったな。元々の世界でだったら解放されたとしても、せいぜい自分の憎む対象を破壊しようとするくらいのことで終わっていただろうが、この世界なら十分、橙なる種の手に負える範囲だったってわけだ」

 40余名の参加者と、64マスで区切られた空間。
 それを世界と呼ぶなら、真心にとってはあまりに狭すぎる。

 「まあ、それに関しちゃ時宮時刻とこの実験企てたクソ主催者が原因みたいなもんだから別に責めやしないさ……いや、元はと言えば真心を拘束してたMS‐2の連中と、さらに遡ればあのクソ親父が元凶か。どっちにしろ真心、お前は悪くねえ。
 だがな、真心。せっかく操想術が解けかけたってのに、わざわざ自分から術が解けないように立ち回ったってのは少々いただけねえんじゃねえのか?」
 「…………」
 「そもそもお前が、なぜここまで長いこと操想術の支配下にあったのかが疑問だったんだ。お前なら、自力で術を解くくらいのことはしていても不思議じゃないからな。だけど真心、お前が自分から術を解かないようにしてたってんなら、話は別だ」

123Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:35:18 ID:Z1Ff1Hlk0
 操想術の狂気による殺戮がさらなる狂気を生むという悪循環。
 それこそが、制限により完全性を失った真心がそれでも操想術の影響を長く受け続けた理由。
 その悪循環を、真心自身が望んで作り上げていたとしたら。

 「紅蓮の炎にわざわざ自分から向かっていったり、正気を失った振りをして誰かに無差別に襲い掛かったりすることで、自ら狂気を演出してたんじゃねえのか? 自己暗示っつーか、真心ちゃんなりの操想術ってわけだ」

 まああたしが阻止してやったがね――と哀川潤は皮肉げに言う。
 燃え盛る山の中に迷い込んだのも、たまたま出会っただけの相手を殺戮しようとしたのも、すべてが欺瞞であり演出。
 自らを狂気に押し留めるための。
 自らを解放し続けるための苦肉の策。

 「玖渚ちんや宗像君にとっては単に運が悪かったってことか……ともかく真心、それに関しては操想術のせいじゃねえ、お前が自分で選択してやったことだ。お前が自分で、正気から狂気に逃げただけのことだ」
 「…………」
 「結局のところ、お前はただ逃げてただけなんじゃねえのかよ。正気に戻るのが怖くて、自分のやったことを冷静に見るのが怖くて、狂ったふりして暴れてたんじゃねえのか。操想術にかけられてやったこと、って言い訳してよ」
 「…………」
 「お前が玉藻ちゃんに刺されたのはあたしのせいだ。そのせいで正気に戻りかけたってんなら、お前のその選択の責任はあたしにあるのかもしれねえ――だけどな、あたしが許せねえのは、お前があたしからもいーたんからも逃げてたってことだよ」
 「…………」
 「なんであたしに助けを求めなかった? 正気に戻っておきながら、なんでいーたんを探すのを優先しなかった? お前にとって狂気ってのは、解放された自分ってのは、そこまで気持ちのいい逃げ場所だったのかよ、真心!」
 「…………そんなこと、もうどうでもいい」

 沈黙を続けていた真心が、おもむろに背中に刺さっていたナイフの柄をつかむ。
 かろうじて出血を止める詮代わりになっていたそのナイフを、そのまま無造作に引き抜く。空いた傷口から、真っ赤な血がどろりと流れ出た。
 さほど出血が多くないのは、もはや流れるべき血が身体の中に残っていないせいだろうか。

 「どうせ俺様は、もうすぐ死ぬ」

 血まみれのナイフを放り投げる真心。ナイフは宙を回転し、哀川潤の足元へからんと落下する。

 「……ああ、死ぬな。その怪我じゃ」
 「お前のせいだ」
 「そうだな、あたしのせいだ」
 「お前も死ぬぞ、ここにいたらもうすぐ」
 「そうだな、あたしも死ぬ」
 「…………だったら、なんで、」

 真心の表情に怒りの色が浮かぶ。
 憎しみでなく、怒りの感情を真心は顕わにする。

 「なんでお前は、ここから逃げないんだよ!! 俺様が正気に戻ってるってことに気付いてたんなら、さっきの奴らと一緒に逃げればよかっただろうが!! そうしてたらお前、ここで死ぬこともなかったんじゃないのかよ!!」
 「ああ、死ななかったかもな」
 「じゃあ逃げろよ! なんで俺様の邪魔ばっかりするんだよ! 俺様を置いて、さっさとここから消え失せちまえよ!」
 「いやだ」
 「だから、なんで――」
   . . . .
 「なんで?」

 今度は哀川潤のほうが怒りを顕わにする。
 低い声で、苛立ちを隠そうともせずに。

 「そんなもん、お前のことが大好きで大好きで仕方ねえからに決まってんじゃねえか。それ以外に何があるってんだ馬鹿野郎」
 「…………!!」
 「別に信じなくてもいいけどな、あたしは時系列的にお前より先の時間から来てんだよ。だからお前の悩みも本音も、全部ネタバレっちまってんだよクソガキが」

 生まれつき、完全な人間として創造された想影真心。
 真心にとって、生きるということは簡単すぎた。
 簡単すぎて、生きていることがわからなくなるほどに。
 世界が終わっているようなんだと。
 ずっと、助けてほしかったと。
 かつて真心は、戯言遣いにそう叫んでいた。

 「そんな真心ちゃんが、こともあろうにあたしのせいで死にかけてるってのに、それを見捨てて逃げられるわけがねえだろうが。すでに言ったはずだぜ。お前を救うのは、あたしの役目だ」

 ずっと直立不動のまま話していた哀川潤が、ここでようやく攻撃的な構えを見せる。
 血まみれの、傷だらけの身体で、それでも猛々しく。

124Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:36:24 ID:Z1Ff1Hlk0
 
 「来いよ真心――あたしにとっちゃ二度目だが、お前が生きてるってことを証明してやる。狂気に逃げる必要なんかないくらい、生きてるってことを実感させてやるよ」

 お前が死ぬ前にな――と。
 眼を見開き、身を震わせる真心に対し、哀川潤は手招きをする。

 「さっきみたいなただの殴り合いじゃねえ。今度こそ死ぬつもりで、殺すつもりでかかってこい。あたしも死ぬつもりで、殺すつもりで相手してやる。責任もって全身全霊、お前のすべてを受け止めてやんよ――」


 「――だから安心しろ。あたしは絶対に、お前のことを見捨てたりしないからさ」


 「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!」


 真心の咆哮を合図に。
 赤色と橙色が、互いに向けて同時に飛びかかる。
 空気が震え、地鳴りのような衝撃があたりに伝播する。ふたつの人影が激突し、そこに火花のような血しぶきが舞う。
 そこから先は、肉体と肉体のぶつかりあいだった。
 互いの拳が、脚が、胴体が、縦横無尽に竹林の中を駆け回り、交錯する。そのたびに破裂音と血しぶき、ときには肉片や骨片がはじけ飛び、乱舞する。
 折れた腕を振るい。
 裂けた脚で地面を駆け。
 痣だらけの胴体で攻撃を受け止め。
 瀕死の身体を、満身創痍の肉体を。
 それでも足りないとばかりに削り合う。

 「ぐうっ――!!」

 哀川潤の前蹴りが真心にヒットし、バランスを崩して地面に倒れる。
 それに追撃を加えることなく、哀川潤は大声で叫ぶ。

 「どうしたぁ真心! そんなんじゃこっちは全然ものたんねえぞこら! 死ぬつもりで、殺すつもりで来いっつっただろうが! 本気で、命がけで、全身全霊であたしを殺してみろ!!」
 「ぐっ……がああああああああああああああああああっ!!!!」

 真心が立ち上がり、再び乱打の応酬が始まる。
 周囲に密集する竹は、もはや障害物としての役割を果たしていない。赤い影が、橙色の影が通過するたび、その軌道上にある竹が軒並み踏み倒されていく。
 竜巻のように。
 ふたつの天災が、竹取山の一部を蹂躙していく。
 あたりを囲んでいる山火事すらも、災害と呼ぶにふさわしくないほどの勢いで。

 「らあっ!!」

 真心の足刀が哀川潤の頭部を揺さぶる。
 口から歯と血を吐き出しながら、それでも哀川潤は笑みを絶やさず、すぐさま反撃に打って出る。
 折れた腕をかばう様子もなく、カウンター気味に肩からぶつかって、宙に浮いていた真心を力任せに吹き飛ばす。
 真心は空中でくるりと回転し、こちらも腰の刺し傷を気遣う様子なく、乱雑に着地した。

 「ははっ……いい感じだぜ、真心!」

 お互い、とうに限界という言葉は超越しているように見えた。
 骨も肉も、筋肉も関節も致命傷レベルで損傷しているというのに、真心も哀川潤もまったく動きを衰えさせる様子を見せない。
 肉体に制限がかかっていると、哀川潤自らが言ったにもかかわらず。
 そんなものは、自力で解き放ったとでもいうかのように。
 全力で、渾身の力で。
 全身全霊で、最強と最終はぶつかりあう。

 「――――はは、」

 時間にすれば一分にも満たない間。しかし百を超える打撃が交されたころ。

 「はは、あはは――」

 それまで憎悪と憤怒の表情しか見せなかった真心が、にわかに笑みをこぼす。
 動きを止めず、打撃を繰り出しながら、笑う。

 「あはは、はははははは――」
 「くくっ、ひひひひ――」

 それにつられるように、哀川潤も笑い声を上げる。
 乱打の中で、血しぶきの中で、とても楽しそうに。
 そして――

125Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:37:17 ID:Z1Ff1Hlk0
 
 「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら!!」
 「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 二人同時に、笑みを爆発させた。
 ランドセルランドで響かせたのと同じくらいの、怒涛のような声量で。
 ただ違うのは、その哄笑からは殺気も狂気も感じられなかった。ただ純粋に、この状況を心底楽しんでいるだけように見えた。
 本当の意味で解放されたかのように。
 想影真心は、笑いながら拳を打ち合う。
 そして――――

 「お――――――――らあぁっっ!!」

 永遠に続くかのような乱打戦だったが、終わりは唐突に訪れた。
 真心の正拳突きが、哀川潤の腹部に炸裂する。
 拳は皮膚と肉をたやすく突き破り、背中のほうまで突き抜ける。その間の内臓を完全に破壊する形で、真心の左腕は哀川潤の身体を貫通した。
 ごぶ、と。
 哀川潤の口から、大量の血が溢れ出る。
 今まで流した血液の量から考えれば、それほどの血がまだ残っていたのが不思議だというくらいの吐血。
 どう見ても決定打。
 どう見ても致命的な一撃。

 「――――は、」

 しかし、それでも哀川潤は笑みを絶やさない。
 それどころか。

 「捕まえたぜ、真心」
 「…………っ!?」

 それどころか、笑みを凍りつかせたのは真心のほうだった。
 焦ったような、愕然とした表情で、自らの左腕を見る。
 哀川潤の胴体に深々と突き刺さり、その状態で『固定』された自らの左腕を。

 「驚いて声も出ねえかよ、真心……ここはな、『抜けない、筋肉で止めやがった』――とかモノローグで言うべきところなんだよ……」

 勉強が足りねえなあ――と、余裕の笑みを浮かべる哀川潤。
 真心は腕を引き抜こうとするが、その腕はまるで万力で押さえつけられているかのように、ピクリとも動かない。

 「な……なんで」
 「また、なんで、か? ははっ、だから言ったろうがよ、お前のすべてを受け止めてやるってよ……腹ァぶち破られる程度の拳くらい、余裕で受け止めてやるっつーの……」

 笑みは浮かべているが、しかしその声は明らかに掠れ、生気を失い始めていた。

 「……とか言いたいところだけど、実はこうでもしないと、お前を捕まえられそうになかったんでよ…………何せ、お前がどこにいるのか、音でしかよくわからないってんだからな」

 それを聞いて真心は、はっとしたように哀川潤の顔を見上げる。
 その顔を、正確にはその両目を。
 明らかに焦点のあっていない哀川潤の両目を見て、真心はさらに眼を見開く。

 「お前……目が」
 「そういうこった」

 ふっと、力ない吐息が血とともに漏れる。

 「さっきまではかろうじて見えてたんだけどな……ランドセルランドで頭部にもらったダメージが、思いのほか深刻だったらしくてよ……さっきの足刀蹴りが、どうやら止めだったみたいだな――まあ、それはともかくとして」

 ぐいい、と。
 腹部を貫かれたまま、哀川潤が上体を思い切り後ろに反らす。首ごと大きく、弓を引き絞るかのように。
 左腕を捕らえられている真心は、その場から動けない。右腕はすでにばらばらにへし折れており、打撃はおろかガードにも使えない状態。
 そしてこの距離ならば、外しようがない。
 目が見えなくとも、目の前にいるとわかっていれば、もはや関係ない。

 「歯ァ食いしばれ真心――約束どおり、殺す気でいくぜ。あたしはお前の一撃を、ちゃんと受け止めた。だからお前も、あたしの命がけの一撃、きっちりその身体で受け止めてみせやがれ――」

 そう宣言して。
 大きく反った上体を、バネのように解放する。
 上半身の体重すべてを乗せるようにして、自身の頭部を力の限り振り下ろす!



 「この――――馬鹿野郎がッッッッ!!!!!」



 哀川潤渾身の頭突きが。
 想影真心の額に、この上なく見事に炸裂した。

126Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:37:56 ID:Z1Ff1Hlk0
 
  ◇     ◇


 「あー、マジにもうこれ以上は動けねえ……」

 燃え盛る竹取山の中、哀川潤は一本の竹を背もたれにして地面に座っていた。
 数分前の時点で十分傷だらけだった身体は、今やさらに傷が増え、無事である部分を探すほうが難しかった。
 その膝の上に、抱きかかえられるようにして想影真心が腰掛けている。
 こちらも負けず劣らず傷だらけで、特に額からはどくどくと血が流れ、顔を真っ赤に染め上げていた。

 「今、かなり真剣に瞬間移動が使えたらいいとか思ってるわ……今だから思うけど、あの能力チート過ぎだろ……別の惑星まで一瞬で飛べるとかどんだけ便利なんだっての。こちとらもう、一ミリだって動けねえっつうのによ……なあ真心」
 「…………知るか、そんなこと」

 真心が拗ねたような顔で口を開く。
 息も絶え絶えの様子だったが、それでもかろうじて意識はあるようだった。

 「どうだ、真心。あたしと本気で殺しあって、少しは生きてるって実感できたかよ?」
 「そんなわけ、ないだろ……ただでさえ死にそうだったってのに、お前のせいで、より一層死にそうになっただけじゃないか……こんなので、いったい何が実感できるってんだよ……」
 「はは、何言ってんだ。死にそうだっていうならならお前、生きてるんじゃねえかよ――って、この台詞もあたしにとっちゃ二回目か……どうにも締まらねえな」
 「それにお前、『殺すつもりで』とか言っといて、最終的に手加減しただろ……あの頭突き、本気で喰らってたら俺様、絶対に死んでたぞ……結局死ぬどころか、気絶もしてないじゃないか……」
 「ばーか、買いかぶりすぎだっつーの……こっちは腹筋と背筋、両方ともぶっ貫かれてんだぞ。こんな状態で、本気の頭突きなんて出せるわけねえだろうが……」
 「……けっ」

 毒づき合ってはいるが、その表情はどちらも穏やかだった。
 仲の良い友達のように。
 満身創痍の二人は、紅蓮の炎に囲まれながら会話を交していた。

 「あーあ、色々中途半端なままで終わっちまったな……結局いーたんには会えずじまいだしよ。零崎くんとか、話したい奴もまだいたんだけどな。あのクソ親父も、もし会えたら一発ぶん殴ってやろうとか思ってたんだが――」

 哀川潤の体内時計は、このエリアが禁止エリアになるまでの時間をも正確に把握できている。
 だから仮に全快の状態だったとしても、時間までにこのエリアから脱出することはほぼ不可能だということも理解できていた。
 つまりは、あと数分足らずで死ぬということを。

 「いーちゃんに――」

 遠くを見つめながら、真心は言う。

 「いーちゃんに、会いたかったな……いーちゃんが無事かどうか、この目で確かめたかった……いーちゃんと一緒に、ここから帰りたかった――」
 「……そうか」
 「でも、同じくらい、いーちゃんに会うのが怖かった……いーちゃんに会ったら、もしかしたら俺様は、いーちゃんを殺すかもしれない。それに、俺様がやったことを知ったら、いーちゃんが俺様のことをどう思うか――」
 「まだそんなこと言ってやがんのか、お前は」

 こつん、と真心の頭頂部を顎で小突く。

 「いーたんがお前のことを嫌いになるはずがねーだろ。あいつ、真心が暴走して骨董アパート破壊したって聞いても、命張ってまでお前のために奔走してたんだぜ――あ、これはあたしの時系列での話な」

 こういうネタバレなら悪くねえ、と哀川潤は笑う。

 「それにお前、ランドセルランドであたしがいーたんの声真似して後ろから呼んだとき、玉藻ちゃんを攻撃せずにそのまま振り返ったよな? もしお前がいーたんのこと殺そうと思ってたんなら、玉藻ちゃんを殺してからあたしの方に向き直ってもよかったはずだろ。
 そうしなかったのは、お前がいーたんの声に反応して破壊衝動を反射的に抑え込んだからじゃねえのか? 声だけとはいえ、いーたんがお前のストッパーになったんだ。それこそお前に、いーたんを殺すつもりなんてなかったっていう何よりの証拠だろうよ」
 「…………」

127Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:38:36 ID:Z1Ff1Hlk0
 
 「まあ、それを予見できなかったあたしが言えた口じゃないけどな……とっさだったとはいえ、あそこでいーたんの声を使っちまったのは失敗だった。お前が玉藻ちゃんに刺されたのは、やっぱりあたしの責任だ」

 ごめんな真心――と、小さく呟いて。

 「だけど安心しろ。いーたんは必ず生き残るさ。あいつなら、この殺し合いを止めるくらいのことは余裕でしてみせんだろ――だから後は、いーたんとか玖渚ちんとか、さっきの宗像くんとかに任せて、あたしらはここでリタイアしとこうぜ」
 「必ず生き残るって……根拠でもあるのかよ」
 「ない。ていうか、しょぼい死に方でもしてやがったらあたしがぶっ殺す」
 「……無茶苦茶だな、あんた」
 「素敵だろ」

 そのとき。
 互いの首輪から『ピー』という耳障りな電子音が鳴り、それに重ねて無機質な合成音声が再生される。

 『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します。禁止エリアへの侵入を――』

 「…………は、こうやってちゃんと伝えてくれんのかよ。ったく、余計なところで親切な首輪だな。せっかく水入らずの会話だったってのに、無粋もいいとこだっつーの」

 30秒。
 必然、それは二人の余命を意味していた。脱出の術も、首輪を解除する術もない二人には、ただ坐して死を待つ以外になかった。

 「…………なあ、赤色」
 「あ? なんだ橙色」
 「最後にひとつ、お前に頼みたいことがあるんだけど……聞いてくれるか?」

 首輪からは、絶え間なく警告音が鳴り響いている。
 終わりが近いと急き立てるように。

 「頼みごとだあ? おいおい、もう一ミリも動けねえって言っただろうがよ……この期に及んで、まだあたしに何かやれってのか、お前」
 「うるさい。俺様が刺されたのはお前の責任なんだろ。だったら、俺様の最期の頼みくらい、黙って聞けよ」
 「ったく、可愛くねえ野郎だな。いいぜ、何でも聞いてやるよ。あと30、いや20秒で叶えてやれるお願い事だったらな」
 「俺様を殺してほしい」

 至極簡潔な、その願い事に。
 哀川潤は、それを半ば予想していたかのように目を伏せる。
 すでに機能を失っている、その両目を。

 「殺す気でやるって、約束しただろ……だから最後まで、責任もって俺様を殺せよな……せっかく今、少しだけお前のおかげで、『生きてる』って思えてるんだから」
 「…………」
 「誰かもわからん奴に刺されて失血死とか、勝手に決められたルール違反で爆死とか、そんな中途半端で意味不明な死に方、俺様は嫌だ。それよりもお前の手で、ちゃんと俺様に、止めを刺してほしい」
 「…………ああ、わかったよ」

 そう言って哀川潤は、後ろから真心の首に両腕を回す。
 完膚なきまでにへし折れて、使い物にならなくなっているはずの両腕で。
 そっと優しく、慈しむように、真心の頭部を包み込む。

 「……なあ」
 「うん?」
 「ありがとな、潤」
 「…………ああ」

 ぎゅっと、両手に力を込めて。
 最後の言葉を、真心に囁く。

 「愛してるぜ、真心」

 ぱきん、と。
 真心の華奢な首を、哀川潤の両腕が一息にへし折る。
 穏やかな、とても安らかな表情のまま、真心の全身から生命の感覚がふっと消失する。
 そしてその直後。
 小規模な爆発が、首輪とともに哀川潤の頭部を跡形もなく消し飛ばした。
 どさり。
 首を失った哀川潤の身体が、真心と折り重なるようにして崩れ落ちる。
 そのふたつの身体は、まるで抱き合っているように見えた。
 人類最強の赤色と、人類最終の橙色。
 哀川潤と想影真心は、燃え盛る炎と鮮血の海の中で、いつまでも抱きしめあっていた。


【哀川潤@戯言シリーズ 死亡】
【想影真心@戯言シリーズ 死亡】

128Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:40:08 ID:Z1Ff1Hlk0
 気がついたときには、時計の針は17時を回っていた。
 あのあと――竹取山で潤さんと別れたあと、僕は奇跡的に一度も転倒することなく、自転車で麓まで駆け下りることができた。火事場の何とかというのは、バランス感覚にも適応されるものなのだろうか。
 竹取山を抜けたあと、玖渚さんを抱えて一心不乱にネットカフェへと向けて走った。自転車は山道での無茶な走行のせいかどこかが不具合を起こしたようで、それにやはり片手での走行は難しいということもあり、途中で乗り捨てることにした、
 ネットカフェに向かったのは、とにかくどこか安全な場所に腰を落ち着けたいという気持ちがあったのと、ネットカフェに荷物を放り込んでおいた、という潤さんの言葉が頭にあったからだった。
 そこにいれば、潤さんがあとから追いついてきてくれるかもしれない。そんな期待もあった。
 いつの間にかネットカフェに着いていた、と言えるくらい途中のことは何も覚えていなかった。どんな道を通ってきたのかも、どのくらい時間がかかったのかも。
 中に入る前に、一度だけ振り返って竹取山を仰ぎ見た。
 空が燃えていた。
 そんな表現が大袈裟でないくらいの勢いで、上る前にはあざやかな緑色だった竹取山が真っ赤に燃え上がり、その向こうの空までも炎の色に染め上げていた。日が落ちた後だったなら、相当遠くからでもはっきり見えたことだろう。
 さっきまであの中にいたというのが嘘のようだ。
 店の中に入ると、確かにデイパックがふたつ、入り口のすぐ近くに放り込まれていた。ふたつあったことに一瞬いぶかしんだが、真心が捨てたデイパックを拾ったと潤さんが言っていたのを思い出し、納得した。
 通路に死体が転がっていたのにも少しぎょっとしかけたが、死亡者DVDにネットカフェ内の映像があったのをすぐに思い出した。真庭狂犬、という人の映像だったか。
 そのままにしておくのが何となく忍びなかったので、近くの個室に運びこんで安置しておいた。何の救いにもならないだろうけど。
 それからなるべく広い個室を探し、そこに回収したデイパックをまとめて置いておく。さらに玖渚さんを中に入れて、シートの上にそっと横たえた。
 玖渚さんは寝入っていた。
 自転車から降りたときにはすでに、籠の中ですやすやと眠っていた。ただ眠っているようにも見えたが、火事の煙による酸欠や中毒症状を一応懸念して、とりあえず安静にしておくことにした。
 もしかしたらジェットコースターさながらの自転車走行で気絶しただけかもしれなかったが。
 火傷などの外傷がないことを確認したのち、玖渚さんを個室に残していったん外に出る。
 ひどく喉が渇いていた。
 ドリンクコーナーを見つけ、そこでグラスにお茶を注いで一気に飲み干す。このときばかりは、ここにネットカフェを配置した主催者に感謝した。あるいはネットカフェという施設を考案した誰かに。
 玖渚さんも目を覚ましたら何か飲むだろうと思い、ジュースを自分のぶんも含めて二杯注ぎ、トレイに乗せて個室へと運ぶ。まだ起きてはいなかったので、とりあえずデスクの上にトレイごと置いておく。
 奥のほうにシャワールームを見つけたので、それも使わせてもらうことにした。身につけていた武器をすべて扉の外に置き、脱衣所で制服を脱ぐ。片腕を失った状態だったので少々難儀した。
 自転車に乗っているときにも思ったが、単に片手が使えないというだけでなく身体のバランスが取りづらい。慣れるまでは色々と苦労しそうだ。
 シャワー室は一室につき一畳ほどの広さだった。一人用にしては十分な広さだ。
 蛇口をひねり、温水を頭から浴びる。傷口を中心に、身体についた汚れや血を洗い落とした。
 血の混じった水が排水溝に流れていく。
 それを眺めながら、しばらくの間ぼうっとしていた。身体を洗い終わっても水を止めることなく、放心したように立ち尽くして頭に水を浴び続けていた。
 本当にこれでよかったのか、という思いが頭にはびこる。
 この場は任せる、なんて相手を信頼したような言葉を吐いて、結局は逃げただけなんじゃないだろうか。潤さんを、僕の身代わりにしてしまっただけのことなんじゃないだろうか。
 あそこで、潤さんと一緒に戦っていたら。あるいは一緒に逃げていたら。
 あの場で最善の選択とは何だったのか。いくら考えても答えは出なかった。

129Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:40:51 ID:Z1Ff1Hlk0
 
 「考えるだけ無駄、なのかな……」

 水を止め、備え付けのタオルで身体を拭く。
 下だけ衣服を身につけ、上半身は裸のままで脱衣所を出る。服を着る前に、怪我の処置を済ませないといけない。
 とはいえ、所有物の中に医療品などがあるわけじゃないから応急処置すら満足にできないのだけれど――

 「…………あ」

 そこではたと気付く。そういえば、自分のデイパックを竹取山に置いたまま忘れてきていた。真心と格闘する際に地面に下ろしてそのままにしておいたのだった。
 あの中に入っていたのは、食料などの基本支給品以外では図書館で見つけた資料の類だけだったはず。武器はすべて身につけていたし、スマートフォンは玖渚さんに電話したときにポケットに移しかえてあった。
 資料はすべて、ざっとではあるが目を通しているし、DVDと詳細名簿に関しては玖渚さんが全部暗記したと言っていた。なくなってもさほど支障はないだろう。
 地図などの支給品は玖渚さんから借りればいい。潤さんと真心のデイパックも手元にあるけど、あの二人の荷物を勝手に使うのは、今のところはばかられる。
 あの二人が生きている可能性を、僕はまだ捨てきれずにいる。
 次の放送が流れるまでは、せめて。
 感傷に浸っている場合じゃないというのは、百も承知なのだけれど。
 個室に戻る途中でスタッフルームの扉を見つけたので、都合よく手当てに使えるようなものがないかどうか探してみたところ、都合よく消毒用のアルコールと包帯が棚にしまってあるのを発見した。
 それらを使ってできる限りの処置をする。素人治療そのものだったが、何もしないよりはましだろう。
 傷口に包帯を巻き終えてから制服を身につけ、千刀を元の通りに収納し直す。ゴム紐をどうしようか迷ったが、これも元通り腕に巻いておくことにした。竹取山でやったように、いざというとき武器に使えないこともない。
 個室に戻ると、玖渚さんはまだ眠っていた。また喉が渇いてきたので自分のぶんのジュースを一口飲み、何となくパソコンの電源を入れる。図書館のときとは違い、普通に立ち上がった。

 「…………ふう」

 すべてを吐き出すように大きく息をつく。
 疲労感が全身に重くのしかかっていた。人心地ついたことで、麻痺していた疲れと痛みの感覚が徐々に戻ってきたらしい。ネットカフェまで移動してくる間にこの疲労を自覚していたら、途中で力尽きていたかもしれない。
 しばらくの間、何をするでもなくパソコンの画面を眺め続ける。
 そして気がついたときには、時計の針は17時を回っていた――というのが今に至るまでの経緯になる。
 竹取山を下っていたときはあれほど時間が長く感じたのに、ここに着いてからはあっという間だった。こういう効果を何というのだったか。
 潤さんは未だ姿を現さない。別にここで待ち合わせているわけではないけれど。
 やはりあの状況から脱出するのは無理だったのだろうか。あえて考えないようにはしていたけど、始めから命と引きかえに僕たちのことを助けるつもりだったのだろうか。
 火憐さんに続いて、またしても僕は――

 「…………いや、そんな場合じゃない」

 嘆いていても何も好転などしない。考えるべきことは他にある。
 さすがにこれ以上、何もせず時間を無駄にするわけにはいかない。ずっとここに留まっているわけにもいかないし、今はとにかく行動を起こさないといけない。
 でないと、それこそ潤さんや火憐さんに申し訳が立たない。
 後悔するのは後回しだ。これからの最善に向けて、僕にできることをやろう。

 「まずは――そうだ、掲示板をチェックしないと」

 考えてみれば、伊織さんに教えてもらってからずっと確認していなかった。玖渚さんがチェックしているだろうから、という思いがあったせいかもしれない。
 パソコンの画面に掲示板のページを表示させる。
 伊織さんに見せてもらったときには、玖渚さんの書き込み以外では黒神さんに関する情報しかなかったはずだけど……

 「これは……玖渚さんが電話で言ってた書き込みか?」

 ランドセルランドで待ちます、とだけある簡潔な文。
 研究施設で、掲示板の管理人あてに送られてきたメールの主との会話でそんな話題が出てきていたような記憶がある。委員長、というのが詳細名簿で見た羽川翼さんで、このメッセージをあてた相手が、電話の相手でもあった戦場ヶ原ひたぎさんという人か。

130Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:41:22 ID:Z1Ff1Hlk0
 電話での会話を傍らで聞いた限り、戦場ヶ原さんは玖渚さんとは協力関係を結んだようだけど、僕にとっては厄介な立ち位置の人物だ。黒神さんが殺した阿良々木暦、その知り合いというのが戦場ヶ原さんらしい。
 黒神さんを助けようとしている僕にとっては、障害となるかもしれない相手。
 できれば余計な敵を作りたくはないし、この戦場ヶ原さんにも殺し合いを止める目的で協力関係を結んでほしいのだけれど。
 あのDVDも、中身を知った今となっては誤解を解くどころか、真実を見せ付けることしかできないものだし――

 「ん? これは――」

 『情報交換スレ』という名前のスレッドに、玖渚さんの使用するトリップ「◆Dead/Blue」で書き込みがされているのを見つける。
 その内容を見て、僕は驚きを禁じえなかった。
 阿良々木暦、真庭喰鮫、と名前が縦に連なり、その後ろに動画を再生するためのリンクが貼られてある。
 その上にある文章を見れば内容を確認するまでもなかったけど、念のためリンクのひとつをクリックしてみる。やはりというか、僕にとっては一度観たはずの映像が画面に再生される。
 まぎれもなくそれは、あの死亡者DVDの映像だった。

 「やられた……」

 電話で話していた「新しく載せておいた情報」というのはこれのことか。
 玖渚さんが電話で会話しながらもキーボードを叩き続けていたのは見ていたけれど、まさか僕の目の前でこんなものを作成していたなんて……もはや感心すら覚える。
 どの程度の人がこの掲示板を見ているのかわからないけれど、もはや黒神さんが危険人物だという情報は周知のものになったと言っていい。黒神さんのことを知らなかったら、この映像を見れば僕でも危険だと判断するだろう。
 しかもその下には、別の誰かがご丁寧にも殺した人の名前を書き連ねてくれている。これからは黒神めだかという名前を出すことも迂闊にできそうにない。
 明らかに、僕の不用意さが原因だった。
 僕が不用意にあのDVDを見せてしまったせいで、その上あの映像の使い道について言い含めておかなかったせいで、黒神さんを助けるどころか、より窮地に追い込んでしまった。

 「どこまで失敗を繰り返すつもりなんだ、僕は……」

 10個あった映像のうち8個までしか載っていないのは、たぶん玖渚さんにとって都合の悪い映像だったからだろう。様刻くんの映像を載せていないのはありがたいけれど、そこから玖渚さんの恣意性を感じ取ってしまう。
 玖渚さんは、あくまで黒神さんを排除するつもりでいるのか。
 遅かれ早かれ僕がこの書き込みに気付くことは分かっているだろうに、それを顧みずにこんな書き込みをするあたり、僕のことをまったく警戒していないのがわかる。苦言を呈したとしても、おそらく聞く耳すら持ってはくれないだろう。
 黒神さんは、この掲示板を見ているのだろうか。
 もし見ていたら、何かリアクションがほしい。黒神さん自身が否定してももはや効果はないだろうけど、思えば僕はこれまで黒神さんの足跡すらも捉えることができていない。どこで何をしているのか、少しでも知ることができたなら。
 今の時点では、助けるにしても動きようがない。
 動いたところで何かできるかといったら、具体的な行動案があるわけではないのだけれど……玖渚さんが今の調子では、なおさらのこと動きづらい。
 だけどこれで、今後の目的のひとつが明確になった。
 誰のことかすらもまだ分かってはいないけど、『いーちゃん』が玖渚さんにとって重要な意味を持つ人物であることはこれまでのことでよくわかった。
 そもそも玖渚さんが黒神さんを目の敵にしているのは、『いーちゃん』を守るためのはずだ。なら逆に『いーちゃん』の安全さえ確保できれば、黒神さんを排除する理由はなくなるはず。
 玖渚さんを制御できる人物は、おそらくその『いーちゃん』以外にいない。『いーちゃん』を見つけ出して合流することができれば、玖渚さんの態度も少しは軟化するのではないだろうか。
 『いーちゃん』を探すことについては玖渚さんも反対はしないだろう。むしろそれが一番重要な目的という感じだったし。
 玖渚さんが目を覚ましたら提案してみよう。たぶん、起きたらすぐ電話をかけるつもりなのだろうけど。
 僕としてはもはや『いーちゃん』が常識人であることを祈るばかりだ。連続殺人犯を名乗っていた僕が言えたことじゃないが。

131Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:41:54 ID:Z1Ff1Hlk0
 
 「まあ、今のところは伊織さんたちと合流するのが先だろうけど――」

 時間からするともう、次の待ち合わせ場所であるランドセルランドに向かっていてもおかしくない。僕たちも急がないと、伊織さんたちを待たせることになる。
 あわよくば、同じくランドセルランドで待ち合わせているらしい羽川さんと戦場ヶ原さんとも合流できるかもしれない。名簿を見る限り危険人物の要素はなかったし、話せば同行してくれる可能性はある。
 戦場ヶ原さんのことは、伊織さんたちにも先に電話で伝えておいたほうがいいかな……

 「あと他の書き込みは……なんだこれは?」

 黒神さんのことが書かれている目撃情報スレにも、新たな書き込みがなされていた。
 だけど文章が明らかに変だ。誤変換と打ち間違いの連続といった感じの、まるで目をつぶって打ったかのような文章だった。
 解読できないほど意味不明というわけでもなかったので、脳内で補正する。おそらくこう書こうとしていたはずだ。


E-7で真庭鳳凰という男に襲われた。拳銃を持っている。危険。
鳥のような服を着ている。物の記憶を読めるらしい。
黒神めだかと組んでいる可能性あり。
付近にいるものは注意されたし。


 「また黒神さんの名前か……」

 ようは危険人物について示唆しているようだが、どうにもこの黒神さんと組んでいる、という一文については後付けの感が否めない。書き込みをするついでに黒神さんの評判を落とすような文を付け加えた、という印象がある。
 故意なのか偶然なのかはわからないけれど、これでまた黒神さんが追い込まれる要素がひとつ増えたことになる。
 真庭鳳凰というのは、詳細名簿によれば真庭忍軍とかいうしのびの一軍をまとめる頭領の立場にいる男、というふうに記されていたはずだ。通称「神の鳳凰」。DVDに映っていた真庭喰鮫と真庭狂犬と、立場的には同じ参加者。
 物の記憶を読める、というのはどういうことだろう?
 何となく『十三組の十三人』のひとりである行橋くんを連想するけど、あの子は記憶でなく思念を読むアブノーマルだから、厳密には違うはずだ。
 なんにせよ不可解であることには変わりない。
 それよりも、注目すべきは場所のほうだ。
 E-7といったら、少し前まで僕たちがいた場所だ。伊織さんたちが向かった図書館も付近にある。書き込みが行われた時間から見て、真庭鳳凰という男が図書館に向かった可能性は少なくない。
 この書き込みが本当だったとしたら、真庭鳳凰は確実に殺し合いに乗っている。伊織さんはまだしも、様刻くんに戦闘手段はほぼ皆無のはずだ。万が一にも鉢合わせたらまずい。
 スマートフォンをポケットから取り出し、様刻くんの携帯にかける。
 しかしどういうわけか、いくら待っても電話に出る気配がない。呼び出し音が空しくなり続けるだけだった。
 まさか、本当に何かあったのだろうか?
 電話に出られないくらいの出来事が発生したか、それとも様刻くん自身が、電話に出られない状態にあるのか――

 「……行かないと」

 パソコンの電源を落とし、立ち上がる。
 自分でも冷静さを欠いているのは自覚していた。だけどこれ以上、僕と一緒にいてくれるような人を失いたくはない。たった今危機にあるかもしれないとわかっているのに、何もせずじっとしているわけにはいかない。
 しかし立ち上がった瞬間、片腕を失っているのとは無関係に、身体が大きくバランスを崩す。踏みとどまることもできず、そのままシートの上に倒れこんでしまう。

 「あ、あれ――?」

 頭が重い。
 より直接的にいうなら、眠い。
 血を流しすぎたのか。ここに来るまでの間に、体力を使い果たしてしまっていたのだろうか。強烈な眠気が頭にのしかかってくる。
 まだ眠るわけにはいかない。そう思ってはいても、身体が金縛りにあったかのように動かない。そのまま意識が落ちていくのに身を任せるしかなかった。

 「くなぎさ、さん……」

 瞼が閉じるのを感じながら、目の前の玖渚さんに何を言おうとしたのか自分でもわからなかった。
 謝ろうとしたのか、それとも放送の時間になったら起こしてほしい、とでも言おうとしたのか。
 何を言おうとしたにせよ、玖渚さんも眠ってしまっている今の状況では何の意味もないことだった。

 「――休むべきときは、ちゃんと休まないと駄目だよ形ちゃん。これから先も、まだまだ私のことを守ってもらわないといけないんだから」

 意識を失う瞬間、なぜか玖渚さんのそんな声が聞こえたような気がした。

132Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:42:31 ID:Z1Ff1Hlk0
【1日目/夕方/D-6 ネットカフェ】
【宗像形@めだかボックス】
[状態]睡眠中、身体的疲労(大) 、精神的疲労(中)、殺人衝動喪失、左腕(肘から先)欠損、腹部に切り傷、各部に打撲と擦過傷(怪我はすべて処置済み)
[装備]千刀・鎩(ツルギ)×536@刀語、スマートフォン@現実、ゴム紐@人間シリーズ
[道具] 支給品一式×3(水一本消費)、ランダム支給品(1〜6)、首輪、薄刀・針@刀語、トランシーバー@現実、「包帯@現実、消毒用アルコール@現実(どちらも半分ほど消費済み)」(「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:阿良々木火憐と共にあるため『正義そのもの』になる。
 0:…………。
 1:主催と敵対し、この実験を阻止する。
 2:伊織さんと様刻くんを助けに行かないと……
 3:『いーちゃん』を見つけて合流したい。
 4:黒神さんを止める。
 5:殺し合いに関する裏の情報が欲しい。
[備考]
※生徒会視察以降から
※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを玖渚から聞いた限りで理解しました
※阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
※無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※携帯電話のアドレス帳には櫃内様刻、玖渚友が登録されています
※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。誰が誰にどうやって殺されたのかは把握しています



   ◆  ◆  ◆



 宗像形が眠りに落ちてしばらく経った後。
 別の個室で、ひとりパソコンに向かう玖渚友の姿があった。

 「形ちゃんがいない間に携帯で掲示板チェックしておいて正解だったね。あの書き込み見たら、後先考えず舞ちゃんたちのところに行こうとするって予想できたし」

 あんな怪我で休まず動けるわけないのにねえ――などと、暢気な調子で一人ごとを呟く。

 「どのくらい効果があるのかわからなかったけど、飲み物に混入する形でも使えるみたいだね、この麻酔スプレー」

 そばに置いてある自分のデイパックから、ハンドサイズのスプレーを取り出してみせる。
 玖渚の支給品のひとつ、麻酔スプレー。
 玖渚は知らないことだが、かつて戯言遣いがお目にかかったこともある凶器のひとつ。顔に吹き付けるだけで効果を発揮する、即効性の麻酔薬。
 宗像形がシャワー室に行っている間に、玖渚はこのスプレーの中身を飲み物の中に混入していたのだった。

 「入れた量はほんの少しだったから、そんなに長い時間眠ったままではいないだろうけど、まあ一時間くらいは起きないかな。その間にやることやっておかないと、ね」

 そう言ってまたキーボードに指を走らせる。
 パソコンには外付けのハードディスクが接続されており、画面には意味の分からない記号の羅列が所狭しと表示されていた。
 それは玖渚が、研究施設から持ち出してきたデータのひとつ。
 だたし、伊織が屋上で見つけたハードディスクに元から入っていたデータとは違う。玖渚がハッキングを試みた際に、標的としていたシステムの中枢とは別の、しかし同一のネットワーク上で手に入れたデータだった。
 ところどこと暗号化され、なおかつ欠けている部分の多いデータだったが、それを解読、復元するのにさほど時間はかからなかった。
 もちろん玖渚でなければ不可能だったろうが。
 むしろ、まるで玖渚のために用意されたかのようなそのデータを前に、玖渚はほくそ笑む。

 「もしかして、またさっちゃんが私のために働いてくれたのかな――ほんと、何も言わなくても手が回るよね、さっちゃんはさ」

 嬉しそうに、かつての仲間の名前を呼んで。
 ちらりと、自分のすぐ隣に「鎮座しているもの」に視線を寄越す。

 「主催が管理してるネットワークの中枢まで侵入するのは無理だったけど、役に立ちそうな情報が手に入っただけよかったかな。研究施設では、実践する時間も材料もなかったけど――」

133Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:49:32 ID:Z1Ff1Hlk0
 鎮座しているもの。
 別の個室で眠っている宗像形とはもちろん違う。
 その宗像形が、このネットカフェに到着してすぐ発見し、手近な個室に安置しておいた真庭狂犬の死体だった。

 「ようやく『現物』が手に入ったからね。自分のコレを弄るのは、今の段階ではちょっとリスクが高いし」

 ただし玖渚が見ているのは、狂犬の死体そのものではない。
 その死体の首に巻かれている、参加者の証とも言うべき首輪。
 玖渚が手に入れたデータとは、この首輪に関するデータだった。
 内部構造や解体の仕方について記されたようなものではなかったものの、首輪の特性や爆破の条件などについて、いくつかの事実を知ることはできた。
 たとえば首輪から発信されている信号の種類や、爆破の際に使われる信号の周波数。外周部がどんな素材で作られているかなど。

 「とりあえず、現時点で役に立ちそうな情報はこのあたりかな?」

 そう言ってキーボードに指を走らせ、首輪に関する情報を箇条書きにしていく。

・耐熱、耐水、耐衝撃などの防護機能が施されており、外からの刺激で故障、爆発することはまずない
・首輪から発信される信号によって主催はそれぞれの現在位置を知ることができる。禁止エリアに侵入した場合、30秒の警告ののち爆発する
・主催に反抗した場合、首輪は手動で爆破される(どんな行動が反抗と見なされるかは不明)
・一定の手順を踏めば解体することは可能。ただし生存している者が首輪をはずそうとした場合、自動的に爆発する
・装着している者が死亡した場合、爆破の機能は失われる。ただし信号の発信・受信機能は失われない

 「半分以上は予想したとおりだったけど……死んだら爆発しないってのは何なのかなぁ。死体をなるべく傷つけたくないとか? まあなんにせよ都合がいい特性だよね。死体の首輪なら、爆破の心配なく弄繰り回せるってことだから」

 かつて世界で猛威を振るったサイバーテロリスト軍団、《仲間》(チーム)の統率者にして、そのメンバーに『武器』を与えた電子工学のスペシャリスト、《死線の蒼》(デッドブルー)、玖渚友。
 その玖渚友が、この殺し合いの攻略手段として「首輪の解体」を目論まないはずがない。
 今まではリスクを懸念して手を出さないままでいたが、ここでようやく実践に移せるだけの条件が整った。

 「頑丈な素材で出来ているとはいっても、爆破が可能である以上、解体する方法はあるはず。すでにシステムを入れ替えてあるこのネットカフェ内でなら、監視カメラを気にする必要もない」

 玖渚の瞳が蒼く光る。
 自分のフィールドにいるという自信を表すかのように。

 「構造さえ把握できれば、生きたままで首輪を外す手段もきっと見つかる。道具が手元にないからどこまでやれるかはわからないけど、形ちゃんが目を覚ますまでに、やれるだけやってみようかな――あ、そうだ」

 思い出したように、制服のポケットから携帯電話を取り出す。
 11桁の電話番号をプッシュしかけて、思い直したというふうにその番号をいったん消す。

 「どうせだからいーちゃんのほうから電話してきてほしいよね。なるべく驚かせたいし」

 電話からメールに切り替え、すばやい手つきでアドレスと本文を入力する。


件名:無題
本文:あなたの知り合いだという顔面刺青の少年からこのアドレスを聞きました。
   携帯電話の番号を追記しておくので、このメールを見たら連絡をください。
   090-XXXX-XXXX


 「んで送信――っと。くふふ、いーちゃん驚くかなあ。早く話したいけど、電話してきてくれるまではこっちに集中集中、っと」

 そう言って、目の前の首輪に手を伸ばす。
 新しいゲームに挑戦する、好奇心旺盛な子供のように。
 その首輪が装着されている、真庭狂犬の死体になどまるで目もくれず。
 《死線の蒼》は、己の目的に向けて邁進する。

134Overkilled Red(Overkill Dread) ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:50:39 ID:Z1Ff1Hlk0
【1日目/夕方/D-6 ネットカフェ】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]身体的疲労(小)
[装備]携帯電話@現実
[道具]支給品一式、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ
[思考]
基本:いーちゃんに害なす者は許さない。
 1:首輪の構造を把握したい。
 2:貝木、伊織、様刻、戦場ヶ原に協力してもらって黒神めだかの悪評を広める。
 3:いーちゃんと早く連絡を取りたい。
 4:形ちゃんはなるべく管理しておきたい
[備考]
 ※『ネコソギラジカル』上巻からの参戦です。
 ※箱庭学園の生徒に関する情報は入手しましたが、バトルロワイアルについての情報はまだ捜索途中です。
 ※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを凡そ理解しました
 ※言った情報、聞いた情報の真偽(少なくとも吸血鬼、重し蟹、囲い火蜂については聞きました)、及びそれをどこまで理解したかは後の書き手さんにお任せします
 ※掲示板のIDはkJMK0dyjが管理用PC、MIZPL6Zmが玖渚の支給品の携帯です。「掲示板管理者へ連絡」からのメールは現在、玖渚の携帯に転送されるようになっています。
 ※携帯のアドレス帳には櫃内様刻、宗像形、無桐伊織、戦場ヶ原ひたぎ、戯言遣い(戯言遣いのみメールアドレス含む)が登録されています。
 ※ハードディスクを解析して以下の情報を入手しました。
  ・めだかボックス『不知火不知』編についての大まかな知識
  ・不知火袴の正体、および不知火の名字の意味
  ・主催側が時系列を超越する技術を持っている事実
 ※主催側に兎吊木垓輔、そして不知火袴が影武者を勤めている『黒幕』が存在する懸念を強めました。
 ※ハードディスクの空き部分に必要な情報を記録してあります。どんな情報を入手したのかは後の書き手様方にお任せします。
 ※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。内容は完全に記憶してあります。
 ※参加者全員の詳細な情報を把握しています。
 ※首輪に関する情報を一部ながら入手しました。



※D-6の竹取山付近に故障気味の自転車が乗り捨てられています。
※D-7に宗像形のデイパックが放置されています。内容は以下の通りです。
[道具]支給品一式×2、参加者詳細名簿×1、危険参加者詳細名簿×1、ハートアンダーブレード研究レポート×1、よくわかる現代怪異@不明、バトルロワイアル死亡者DVD(1〜10)@不明

※危険参加者詳細名簿には宗像形、零崎一賊、匂宮出夢、想影真心、時宮時刻、真庭忍軍のページが入っています
※死亡者DVDには「殺害時の映像」「死亡者の名前」「死亡した時間」がそれぞれ記録されています



支給品紹介
【自転車@めだかボックス】
想影真心に支給。
ごく一般的ないわゆるママチャリ。原作では国東歓楽の所有物。
武器に使ったり階段を高速で駆け上ったりと、使う人の側が普通じゃない。
結局自転車殺法ってなんなのさ。

【麻酔スプレー@戯言シリーズ】
玖渚友に支給。
顔面に吹き付けるだけで相手を眠らせることができる便利アイテム。
戯言遣い曰く「とびっきり強力な即効性のモノ」。無効化するなら指をへし折るくらいの覚悟が必要。
お目にかかる(物理)。

135 ◆wUZst.K6uE:2013/09/29(日) 10:52:47 ID:Z1Ff1Hlk0
投下終了です
ご指摘やご感想などあればよろしくお願いします

136名無しさん:2013/09/29(日) 22:17:00 ID:9FGojNzM0
投下乙です。
熱い、めっちゃ熱い、そして切ない!
火憐からもらった正義を昇華させた宗像君。
そして、『原作』という高いハードルがある哀川VS真心の決着を、
これぞ哀川さんと真心だというクオリティで描き切ってくれました!

原作でも母と娘と言われてたけど、最後のシーンは原作以上に親子みたいだなぁと思わされた…

しかし玖渚、なんて助けがいの無い女w
今の宗像君なら殺しはしないだろうが、こんなこと続けてたらそのうちキレるぞ

137名無しさん:2013/09/29(日) 22:59:54 ID:23Tnv5n20
投下乙です!
本人にその気はなくても周囲のせいで勝手に大事にされることってありますよね(遠い目)
まあその元凶の狐さんは死んじゃってるわけだけどとんでもないもの遺してくれやがって…とかそんなこと考えてたら甘かった…真心ぱねえ、さすが人類最終
真心相手に健闘したけど宗像君じゃあ力不足なとこあるよなぁ…となりかけてたとことにやってきた人類最強の圧倒的主人公臭
ママチャリを足だけでしかも斜面を駆け上がってきたというもはや慣れてきたけどよくよく考えたらおかしいことをさらっとやってくるあたりこの人はこの人だなぁ
操想術についてきっちり種明かしをした上で始まるガチバトルも本当に凄い
原作ではああいう終わり方だったけどここではそういうわけにはいかないもんなぁ…納得の最期でした
だけど玖渚は首輪の情報に近づいてはいるけどさあ…
あ、狂犬の死体という荷物が邪魔なら哀川さんのデイパックの中に首輪ありますよ(ゲス顔)

指摘としては、>>129
>個室に戻る途中でスタッフルームの扉を見つけたので、都合よく手当てに使えるようなものがないかどうか探してみたところ、都合よく消毒用のアルコールと包帯が棚にしまってあるのを発見した。
一文の中に二つ「都合よく」があるのは不自然かと

138 ◆wUZst.K6uE:2013/09/30(月) 21:21:57 ID:px1MMrkMO
感想&ご指摘ありがとうございます

>>137
「都合よく」はあの状況の都合の良さを強調するために重複させたつもりでしたが、読み返してみたら確かに変な感じだったのでwiki収録の際に修正させてもらいます

139 ◆ARe2lZhvho:2013/09/30(月) 23:54:46 ID:vIBmyJRE0
短いですが完成したので投下します

140「意外と楽でいいが」 ◆ARe2lZhvho:2013/09/30(月) 23:55:46 ID:vIBmyJRE0
『それ』を見つけたのは偶然ではなく当然だった。
彼女はこのバトルロワイアルを止めるため協力者、主催への手がかり、その他とにかく役に立つものがないかと観察し続けていたのだから。
故に彼女が気付かないわけがない。
『十字架に圧し潰された男の死体』に。
何一つ見落とすまいと決して速くないスピードで歩いていた彼女は足を止め、死体に近づく。
普通の女子高生ならば到底持ち上げられないだろう重さの十字架を軽々と持ち上げ、自身の横に突き立てると嫌悪感を示すことなく死体の検分を始めた。

「服は全部剥がされ、顔も特定できぬように潰されておるな……死後硬直の具合からして最近死んだ者ではなさそうだが運動直後だった可能性も否めん」

少なくとも体格からして私の知る者ではないな、と結論付けるといつの間にか手の長さの2倍近くまで伸びた爪で死体を『引っ掻いた』。
だが、然したる変化は起こらない。
彼女もこの結果を想定していたようで浮かぶ表情に変化は見られなかった。

「やはり病気を操るスキルでは完全に死んでしまった人間を生き返らせるのは不可能か……となるとあまり気は進まぬが、確認の意味も込めてやっておくか」

検分を終え、検証を始めた彼女は顔や肩など傷口に手を触れていく。
土で汚れ、虫もたかっていたが彼女はそれらを気にすることはない。
やがて全ての検証を終えたらしい彼女は立ち上がった。

「『大嘘憑き』はやはり無理か。根本を覆してしまうようなスキルではあるから半ばわかっていたようなものだが」

彼女が試みたことは死者の蘇生。
バトルロワイアルという舞台においては禁じ手とも言える手段。
もちろん主催側が何も対策を講じていないはずもなく、本来のスキルホルダーではない彼女が使うことを許されているはずもなかった。
蘇生が不可能ならせめて死体を誰か特定できるように外傷を『なかったこと』にしようとしたがそれも不可能だったらしい。

「名も知らぬ青年よ、今この場であなたに何もできぬことを許してくれ。代わりというわけではないがこのバトルロワイアルは私が必ず終わらせるから――」

結果を見れば死体を弄んだだけとなってしまい、彼女は死体に詫びる。
返事が返ってくるはずはないが。

「しかし、これくらいの障害があった方がこの黒神めだかもより熱くなれるというものよ。なあ、善吉――おっと」

そして、彼女――黒神めだかはかつてのように常に側にいた幼馴染に語りかけようとして気付かされる。

「そういえば、十三年前からいつも私の隣には貴様がいたのだったな。この春から高貴も共にいるようになったし、善吉と会う前は兄貴やくじ姉がいたし……」

そうか、と一人納得したように頷く。

「考えてみれば私は初めて一人を迎えてしまったわけか……なるほど、話には聞いていたが一人は――」


夕陽を背にし、めだかは目的地であるランドセルランドへ向かって再び歩みを進める。
少しばかりの感傷に浸るめだかはまだ何も知らない。
自身がしでかした行いが原因とはいえ、自分以外の全ての参加者がめだかの罪状を知ることができる状況にいることも、
彼女がこれから再会するつもりである供犠創貴が阿久根高貴が死ぬことになった遠因であることも、
創貴と同行している真庭蝙蝠が先ほどの死体の主である零崎軋識を殺した張本人であることも、
球磨川禊がめだかの知る球磨川禊ではなく、改心する前の状態であることも、


「――意外と楽でいいが……やはり寂しいものだな」


めだかが一人ではなく独りになろうとしていることも――何も知らない。

141「意外と楽でいいが」 ◆ARe2lZhvho:2013/09/30(月) 23:56:30 ID:vIBmyJRE0
【1日目/夕方/D-5】
【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]『不死身性(弱体化)』
[装備]『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語
[道具]支給品一式、否定姫の鉄扇@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:もう、狂わない
 0:ランドセルランドへ向かう
 1:戦場ヶ原ひたぎ上級生と再会し、更生させる
 2:話しても通じそうにない相手は動けない状態になってもらい、バトルロワイアルを止めることを優先
 3:哀しむのは後。まずはこの殺し合いを終わらせる
 4:再び供犠創貴と会ったら支給品を返す
 5:零崎一賊を警戒
 6:行橋未造を探す
[備考]
※参戦時期は、少なくとも善吉が『敵』である間からです。
※『完成』については制限が付いています。程度については後続の書き手さんにお任せします。
※『不死身性』は結構弱体化しました。(少なくとも、左右田右衛門左衛門から受けた攻撃に耐えられない程度には)
 ただあくまで不死身性での回復であり、素で骨折が九十秒前後で回復することはありません、少し強い一般人レベルです
※都城王土の『人心支配』は使えるようです。
※宗像形の暗器は不明です。
※黒神くじらの『凍る火柱』は、『炎や氷』が具現化しない程度には使えるようです。
※戦場ヶ原ひたぎの名前・容姿・声などほとんど記憶しています
※『五本の病爪』は症状と時間が反比例しています(詳細は後続の書き手さんにお任せします)。また、『五本の病爪』の制限についてめだかは気付いていません。
※軽傷ならば『五本の病爪』で治せるようです。
※左右田右衛門左衛門と戦場ヶ原ひたぎに繋がりがあると信じました
※供犠創貴とかなり詳しく情報交換をしましたが蝙蝠や魔法については全て聞いていません
※『大嘘憑き』は使えません

142 ◆ARe2lZhvho:2013/09/30(月) 23:58:00 ID:vIBmyJRE0
短いですが(2回目)投下終了です
いつも通り誤字脱字指摘感想その他何かありましたらお願いします

143名無しさん:2013/10/09(水) 19:51:59 ID:OlnVxSKY0
大嘘憑きめだかちゃんは使えないのに球磨川はありっていうのも何かわけあるのだろうか……
気になる

144 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 16:23:37 ID:WyfW4qFA0
投下させて頂きます。

戯言遣い、鑢七実、四季崎記紀、羽川翼、八九寺真宵、球磨川禊、安心院なじみ
以上の七名になります。

145『』 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 16:24:50 ID:WyfW4qFA0



踏み躙られていた球磨川が小さく、動いた。
気付いたのか、安心院が跳び、教卓に座った。
それが自然であるように、更には足まで組んで。
実際座り慣れているような調子で。

「…………」

球磨川がゆっくりと起き上がる。
安心院が悠々と見ている。
何時の間に持っていたのだろう。
握られていた大螺子が一個、飛ぶ。

「…………」

しかし頭の動きだけでそれを避けた。
知っていたようにもう片手に握られていた螺子がその顔面に、螺子込まれる。
刹那、安心院は笑った。
抱き寄せるように。
優しく。
抱き抱えるように。
柔らかく。

『過身様ごっこ』『飽くまで遊び』『模範記憶』『無様な背比べ』『現実がちな少女』『無人造』『冷や水で手を焼く』『明日の敵は今日の奴隷』『豪華地獄をご招待』『失態失敗』
『時感作用』『私のかわりはいくらでも』『蹴愚政治』『名乗るほどの者ではない』『名を名乗れ』『伊達の素足もないから起こる』『脅威の胸囲』『次元喉果』『弓矢に選ばれし経験者達』『巣喰いの雨』
『人間掃除機』『魔界予告』『帰路消失』『卵々と輝く瞳』『いつまでも幸せに暮らしました』『勿体無い資質』『有限実行』『眼の届く場所』『話は聞かせてもらった』『馬鹿めそれは偽物だ』
『存亡』『有数の美意識』『手書きの架空戦記』『忘脚』『生合成無視』『殺人協賛』『舌禍は衆に敵せず』『穴崩離』『選択の夜討ち』『収監は第二の転生なり』
『確率隔離食感』『自由自罪』『頓智開闢』『歴史的かなり違い』『禁断の錬金術』『若輩者の弱点』『溺愛を込めて』『思いやりなおせ』『即視』『時系列崩壊道中膝栗毛』
『全身全霊に転移』『真実八百』『鹵獲膜』『王の座標』『成功者の後継者』『死なない遺伝子』『美調生』『行進する死体』『数値黙殺』『生まれたての宇宙』
『軽い足取り』『目障りだ』『競争排除息』『お気の無垢まま』『死者会』『故人的な意見』『起立気を付け異例』『天罰敵面』『頂点衷死』『逃げ出した人達』
『死んでなお健在』『ぼやけた実体』『掌握する巨悪』『敵衷率』『懐が深海』『不思議の国の蟻の巣』『神の視点』『驚愕私兵』『影の影響力』『防衛爪』
『命令配達人』『全血全能』『晦冥住み』『寝室胎動』『頬規制』『不老所得』『控え目に書いた勿論』『座して勝利を待つ』『吸魂植物』『ためらい傷の宮殿』
『蘇生組織』『別想地』『光ある者は光ある者を敵とする』『質問を繰り返す』『最後の最後の手段』『人間強度』『不自由な体操』『心神操失』『目一杯』『実力勝負』

軽やかに。
蹴散らした。

「     !」
「――さて。またきみの負けだ」
「………………」
「それでも立ち上がる。それでも挑む。そんなきみの決意を、本心を、教えておくれ?」

座ったまま。
安心院なじみは問い掛ける。
立ったまま。
球磨川禊は口を開く。

146『』 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 16:26:32 ID:WyfW4qFA0

「あいつらに勝ちたい
 格好よくなくても
 強くなくても
 正しくなくても
 美しくなくとも
 可愛げがなくとも
 綺麗じゃなくとも
 格好よくて
 強くて正しくて
 美しくて可愛くて
 綺麗な連中に勝ちたい

 才能に恵まれなくっても
 頭が悪くても
 性格が悪くても
 おちこぼれでも
 はぐれものでも
 出来損ないでも
 才能あふれる
 頭と性格のいい
 上がり調子でつるんでいる
 できた連中に勝ちたい

 友達ができないまま
 友達ができる奴に勝ちたい
 努力できないまま
 努力できる連中に勝ちたい
 勝利できないまま
 勝利できる奴に勝ちたい
 不幸なままで
 幸せな奴に勝ちたい

 嫌われ者でも!
 憎まれっ子でも!
 やられ役でも!
 主役を張れるって証明したい!!」

そして。
そうして。
沈黙が下りる。
目を閉じていた安心院は。
ただ開き、変わらず黙って教卓から降り、球磨川は動かない。
そして一瞬の、

「ちゅ」

事だった。
重なって離れ、それでおしまい。
何事もなかったように安心院は教卓に戻り、唇に指を当てた。

「ふふふふ」
「…………」

無言で口を拭く球磨川を見て笑う。

「と言う訳で、返して上げたよ。よかったね」
「……ありがとう」
「どういたしまして。公平な僕だから、返しただけでそれ以外は何もしてないよ? 大嘘憑きも」

147『』 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 16:53:37 ID:WyfW4qFA0

その言葉に動きを止め、一度強く口を拭ってから、背中を向けた。
何事もなかったように。
安心院は変わらない様子で軽く手を振る。
刹那、思い出したようにまた口を開けた。

「ところで、やっぱり彼女を蘇らせる気かい?」

その問い掛けに、一瞬の間を置いてから球磨川は頷く。
予想外の事ではなかったのだろう。
むしろ予想通りの事なのか、安心院は何度か首を縦に振る。
しかし何も言わない。
その、奇妙と言えば奇妙な対応に不審を抱いたらしい球磨川が振り返る。
際に投げ付けたネジは軽く避けられた。

「…………」

小さく舌打ちし、それを見て首を傾げた。
それだけで、今度こそ歩き始めた。
教室の扉を開く。
そのまま慣れた様子で通り抜けながら呟く。

「オールフィクション」

言い終えた時には、その姿は消えていた



さて、そう言う訳で僕は蘇った。
晴れて禁断の過負荷を取り戻して。
しかもありがたいことに『大嘘憑き』はそのままだ。
予想した通り、妙な具合に改善されているらしいけど。
関係ない。
死んでも死にたくない。
だけどそれより、死んでも勝ちたい。
いや勝つ。
そのために言ったんだ。

「初めまして。欠陥製品、七実ちゃん」

少し騒がしい。
呟きながら身を起こす。
だから、死ぬ前に勝つ。
黒神めだかに勝ってみせる。

「僕が、球磨川禊です」

目を開けて、見た。
欠陥製品が吊り上げられていた。
七実ちゃんに。

「えっ」

思わぬ状況に声が漏れていた。
聞こえたのか七実ちゃんと、下ろされた、欠陥製品が僕を見る。
どう言う状況だよ。

148『』 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 16:55:45 ID:WyfW4qFA0

「おはようございます、球磨川さん。丁度良い所でした……いえ、悪いのかしら?」
「………………一先ずお早う」

何か言いたそうな顔をしながら、欠陥製品は近付いて、何も言わずに僕の後ろに回った。
え、何なの。

「任せる」
「そうですね。球磨川さんならもちろんご存じでしょう」
「?」

話が見えない。
とりあえずやたら背中を押してくる欠陥製品は何なんだ。
それに七実ちゃんは何を聞きたいんだろう。
可能な限り答えるけど。
僕が聞く前に、口を開けた。

「裸エプロンってなんですか?」
「………………」
「裸は分かるのですけど、そのえぷろんと言う言葉の意味を知らないものですから。聞いた事もない言葉ですので。いっきーさんたら聞いても話を逸らすばかり。今さっき強引に聞こうと思っていた所で」
「本当に蘇りやがったんだよ。そう言う訳だ人間未満。自分で撒いた種は自分で何とかしろ」
「…………」



『僕は、知らない。よく分からなかったけどとりあえず欠陥製品の話に合わせてただけだ。だから、僕は知らない』

場が完全に沈黙しました。
あ、どうもわたし、鑢七実です。
しかし球磨川さん。
その顔で知らないはないでしょう。
何と言いますか、わたしの目がなくとも一目で嘘だと分かります。
言いたくないようならどうしましょうか。
二人同時に問い詰めればその内に吐くでしょう。
けどどちらも無駄に口は固いでしょうし。

「さて……」

と、小首を傾げます。
一先ず見ているとしましょう。
それがいいし、悪い。
表情も変えずに呆然とした様子だったいっきーさんがまず復活されました。
意外とかかりましたね。

「人間未満」
『僕は悪くない』
「違う! 大嘘憑きで車は直せるか?」
『もちろん。だけどそうしてどうするんだい? むしろ密室で逃れないぜ?』

あ、確定しました。
お二人とも、裸えぷろんなるものをご存じのようです。
まずそこから吐かせる手間が省けました。
しかしどうもお二人、気が動転しているようで。
気付いてもよさそうな失敗を、悪そうな失敗に気付く様子もなく。
一応小声ですけど聞こえてますし。
珍しい。
そんなに慌てているなんて。
背中だけは向けて、目の前で今後の相談を始めました。
隠れるゆとりすらありませんか。

149『』 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 16:58:47 ID:WyfW4qFA0

「とりあえずこの場から離れる名目で車を走らせる。無駄話はなしって事を言い含めて」
『乗ってくれるかな?』
「何とかしろ。それからぼくが適当に車を走らせる」
『適当に?』
「そうだ。上手く人間失格に会えれば良し。会えなくても考える時間はある」
『よしきた。それじゃ何かの間違いで診療所に着かなければ幾らでも時間は稼げる訳だ』
「あぁ、そうなると怖いのは自分だけだ」
『……負け続けの人生だけど』
「失敗ばかりの人生だけど」
『今回ばかりは』
「勝つ」

妙に息の合った会話を終えて、お二人がわたしを見ます。

「裸えぷろんとはなんでしょう?」

試しに出鼻を挫いてみました。
口を開く前に突っ込みます。
口だけは上手いですから乗せられないようにしないと。
と言う事で。
あからさまに呻いて、狼狽える様は何と言いますか。
そんなに言いたくないのでしょうか、裸えぷろん。
ですがまあこうなれば意地でも聞かせて頂きますけど。

『はっ、羽川さんはどこか知らない? 直った車に乗せてあげないと!』
「あちらに。それと」
「おーいたい……おい、人間未満」
『なんだい欠陥製品』

目を向けず指差した先に急いで駆けたいっきーさんの足が止まりました。
横目で見て、ふと異変が目に入ります。
羽川。
まにわに風の装束を纏った、まあ装束の方はボロボロですが、白髪の女。
のはず。
だと言うのに。
何時の間にか、

『……黒髪?』

髪が全て黒に変わっています。
どう言う事でしょうか。
少なくとも殺してしばらくは白だったはず。
ちらりと視線を四季崎にやっても首を振るだけ。
四季崎は関係ないと。
早速役に立ちませんね。

「少し、失礼」

いっきーさんに退いて頂き、目をしっかりと開きます。
見る。
視る。
診る。
果たして異常はないかどうか。
見続けて理解しました。
結果は、

150『』 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 17:00:27 ID:WyfW4qFA0

「…………何の変化も見当たりません」

変わらない。
単に猫のような部位が消え、髪が黒に変わっているだけで。
何も見当たらない。
むしろ良い方向に変わった位でしょうか。
ええ、悪い方向ではなく。
そのまま目をお二人にまずは。
いっきーさんは少し顔をしかめているだけですか。
それだけでも珍しい気はしますけど。
ですが球磨川さんは、

『………………』

今まで見た事もないような、険しい表情を浮かべています。
さも何かに気付いたような。
何に気付かれたんでしょうか。

「球磨川さん」
『僕は、羽川さんをただ復活させただけでそれ以上の事はしてない。したとすれば……』

目を閉じて、開いた時には元の表情に戻っていました。
ですが動揺は隠し切れていませんね。
微かですが見て取れます。
しかしこれ以上突っ込むだけ無意味でしょう。
さてならば、

「………………」

未だ寝たフリを続けている彼女はどうか。
動揺に焦りに焦燥。
状況に焦っているだけでそれ以上の何物でもない。
何に焦っているかが少々気にはなりますが。
あ、球磨川さんが蘇られた事にでしょうか。
だとしたらやはり別の原因と言う事、か。

「人間未満」
『なんだい、欠陥製品?』
「お前の大嘘憑きで元には戻せないのか?」
『無いものは無くせない。それになかった事にした事をまたなかった事には出来ない』
「本当にお前のせいじゃないのか?」
『僕は弱い者の味方だ。弱い者を更に貶めるような真似はしない。強い者は幾らでも貶めるけどね』

それだけで、二人は押し黙りました。
沈黙。
ふざけあっているお二人にしては珍しく。
言葉に不自由のない二人にしては珍しく。
完全に押し黙ってしまいました。
はぁ、とため息を溢して考えてみます。
どうも訳の分からない事態が発生してしまったようですが、考えるだけ無駄と言う物でしょう。

「……見た所、気絶しているだけです。ですから何処かで休ませれば起きるのではないですか?」
「…………そうだね」
『じゃ、車に運ぼうか。七実ちゃんは真宵ちゃんを運んでくれる?』

そう言って、格好付けた球磨川さんが羽川を持ち上げようとして潰されました。
代わりにいっきーさんが背負って運んでいきます。
それを何やら羨ましそうに見ているのは何ででしょうか。
どうでもいいけど。
どうでも悪いけど。
お二人が何処にも異常の見当たらない車に乗るのを横目に、見下ろします。
あからさまに固まりました。
気にせず小脇に抱えあげます。

151『』 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 17:03:18 ID:WyfW4qFA0

「診療所までゆっくり考えるんですよ」

小声で。
呟くと体を震わせました。
思わず小さく笑いながら車に乗り込みました。
横には球磨川さんが。
羽川は助手席とやらに乗せられています。

「どうぞ」
『急ごう』
「えぇ。着いたらゆっくりお話しましょうか」

途端、体を固くした三人を尻目に。
動き始める外を眺めます。
あの橙色は見えないものかと。
思っていても残念ながら見えませんでした。



戯言さんだと思いましたか。
残念でした、八九寺ちゃんでした。
可愛い可愛い八九寺ちゃんでした。
ごめんなさい。
こんな冗談でも言わないと心臓が持ちません。
訳が分からないとはこの事です。
何なんですか一体。
何なんですか一体。
大事な事ですから何度でも言いますが何なんですか一体。
突っ込みどころが多過ぎます。
過多です。
過多過多です。

「…………はぁ」

なんてため息を吐いてるこの人。
目を閉じてても分かります。
この人、あの人を殺した人ですよね。
その人の膝枕を受けてる時点で心臓が危機的状況です。
ところがどっこいそれだけじゃありません。

『………………』

何やら視線を感じます。
多分、球磨川と言う人の物でしょう。
羨ましいですか。
そうですか。
でもあなた、頭ふっ飛んでましたよね。
見ましたからね私。
転がってる頭を見て悲鳴を上げそうになったんですから。
なのになんで生きてるんですか。
吸血鬼状態のらららぎさんでも多分死にますよ。
失礼噛みました。
よし、少し余裕が出来てきました。
餅つきましょう。
失礼かみまみた。。
とりあえず時々話題に上がっている例のオールフィクションなる物が絡んでいるんでしょう。
何かをなくせる怪異か何かでしょうか。

152『』 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 17:05:40 ID:WyfW4qFA0

「…………」

と言う訳で最後に来ましたよ戯言さん。
私の。
私の記憶を消すとはどう言う事ですか。
確かにどうしようもないです。
ですが、私に黙って勝手な結論を出すのは頂けませんね。
役立たずかも知れません。
足手まといかも知れません。
それでも。
あなたと一緒にいた時間を、思いを、勝手に消されては敵いません。
だから絶対、消させはしません。

「………………」

なんて、気軽に言えたらなんていいでしょう。
言える訳が、ありません。
私が足手まといなのは事実。
それに戯言さんと関係のない部分の記憶が負荷になっているのも事実です。
悔しいですけど。
今、一考して冷静に物を考えられているように感じられるのは奇跡に近い偶然でしょう。
混乱し過ぎて一周した感じに。
その内、また、何も考えられないような状態になるかも知れない。
そうなれば私は、負担でしかない。
戯言さんにとって邪魔でしかない。

「……………………私は」

私は。
いえ。
もう少し、考えましょう。
それからでも遅くないはずです。
無意味な先伸ばしでは、ないはずですから。
だから。
だからどうか。
もう少しだけ、考えさせて。

153『』 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 17:07:48 ID:WyfW4qFA0



【一日目/夕方/F-4】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康、車で移動中
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス(現地調達)、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 0:診療所で羽川さんを休ませる。
 1:それから真宵ちゃんの記憶を消してもらう
 2:掲示板を確認してツナギちゃんからの情報を書き込む
 3:零崎に連絡をとり、情報を伝える
 4:早く玖渚と合流する
 5:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 6:展望台付近には出来るだけ近付かない。
 7:裸エプロンに関しては戯言で何とか。無理なら人間未満に押し付ける。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です。
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました。
 ※夢は徐々に忘れてゆきます。完全に忘れました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です。
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません。
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識のものが登録されています(ツナギの持っていた携帯電話の番号を知りましたがまだ登録されてはいません)。
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました。


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]寝たふり、ストレスによる体調不良(発熱、意識混濁、体力低下)、動揺 、鑢七実から膝枕、一周回って一時的正気、車で移動中
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:生きて帰る
 1:戯言さんと行動
 2:なんでこの二人が
 3:記憶を消すとはどう言う事ですか
 4:こっそり聞きたいけど隣に居て聞けません……
 5:頭が上手く回りません……
 6:なに、この……なに?
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です。
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします

154『』 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 17:09:05 ID:WyfW4qFA0


【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ。お腹は満腹だ。それに車で移動中さ』
[装備]『大螺子が2個あるね』
[道具]『支給品一式が2つ分とランダム支給品が3個あるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
基本:「黒神めだかに勝つ」」『あと疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『1番は欠陥製品の返答を待つよ』
『2番はやっぱメンバー集めだよね』
『3番は七実ちゃんについていこう! 彼女は知らないことがいっぱいあるみたいだし僕がサポートしてあげないとね』
『4番は善吉ちゃんの無念をめだかちゃんにぶつけてあげよう』
『5番は宇練さんについてだけど、まあ保留かな』
『6番は裸エプロンに関しては欠陥製品に押し付けよう! それが良いよね!』
[備考]
※『大嘘憑き』に規制があります。
 存在、能力をなかった事には出来ない。
 自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません。
 他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り1回。
 怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用不可能)
 物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします。
※始まりの過負荷を返してもらっています。
※首輪は外れています


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(中)、交霊術発動中、八九寺真宵を膝枕中、車で移動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜6)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える。
 1:七花以外は、殺しておく。
 2:もう面倒ですから適当に過ごしていましょう。
 3:気が向いたら骨董アパートにでも。
 4:途中で裸えぷろんの事でも聞きましょうか。
 5:宇練さんは、次に会った時にはそれなりの対処をしましょう。
 6:四季崎は本当に役に立つんでしょうか?
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました。
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました。
 ※弱さを見取れる可能性が生じています
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません


【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、車で移動中
[装備]真庭忍軍の装束@刀語
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、タブレット型端末@めだかボックス、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス」
[思考]
基本:不明
 1:不明
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました。
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です。
 ※全身も道具も全て海水に浸かりましたが、水分はすべて乾きました。
 ※トランシーバーの相手は哀川潤ですが、使い方がわからない可能性があります。また、当然ですが相手が哀川潤だということを知りません。
 ※道具のうち「」で区切られたものは現地調達品です。他に現地調達品はありませんでした。

155『』 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 17:10:43 ID:WyfW4qFA0




教室らしき部屋の中。
その唯一無二の教卓の上。

「ニャオ」

と、鳥籠の中の真っ白な猫が鳴いた。
それを膝に置いた女は笑う。

「不安かい、ご主人様が?」
「ニャ」

何か不愉快に感じたのだろう。
猫は籠の隙間から、一心に女へと爪を伸ばす。
だが届かない。
近いはずの距離があたかも数千里以上あるかのように。
何れだけ腕を伸ばしても、ほんの僅かに届かない。
届きそうで届かない。
それを見て女は笑う。

「まったく――――下らねえ。誰も彼も有象無象も等しく平等なのに。何だってそんな執着するんだい? もし何だったらご主人になりそうな別の誰かくらい五万と紹介するぜ?」
「ニャオン!」

と声を張り上げなお爪で引っ掻こうとする様を見詰め、女はため息を吐いた。

「ま、これで多少動くだろうし、いいけどさ。それにそのご主人様が本当に君を必要とするなら、こんな鳥籠なんて意味ないぜ?」
「ナウ?」
「『無効脛』を適当に弄って作っただけの籠だ。設定的な話を言えば、『大嘘憑き』の効果と君の逃走の二つ防ぐ目的でした使ってない。どっちかって言うと過負荷寄りの君ならその内、抜け出せるかも知れないぜ?」
「ニャーン」
「かもだけどさ――しっかし今回の行動からして、わざわざする価値があったかどうか。良い結果になると良いなーと思ってやってるんだぜ、これでも。あ、いや違うか。こう言う時は」

猫を見る目はそのまま変わらず。
道端の石ころでも見ているように。
言った事すらもどうでもよさそうに。
何もかもどうでもよさそうに。
それでいて、

「悪い――んだったっけ? そう言えば良いか。いや、悪いか――それこそどっちも何も、変わらねえのになあ……」

悪そうに、笑った

156 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 17:13:26 ID:WyfW4qFA0


以上です。
特に問題ないと言う事なので所々増量して投下させて頂きました。
何時も通りにはなりますが、感想や妙な所などございましたらお願いします。

それと今回のこれは是非とも、新しく、と言う事でお願いします。
一旦区切った方が読み易い気がしますので。
お手数おかけします。

157名無しさん:2013/10/13(日) 00:19:29 ID:ISltf4YM0
投下乙です
括弧つけないクマー来た!と思ったらそんな理由で括弧つけるんですねw
とはいえ羽川は猫が消えたし八九寺は起きてるしでこれは一波乱ありそう
続きが楽しみです…と言いたいとこですがおいしく調理させていただきます
Wiki編集の件も了解しました

158名無しさん:2013/10/13(日) 15:38:35 ID:XDo7jMgE0
投下乙です

クマー、お前って奴はwww
さて、既に上で言われているが波乱が起きそうな予感がひしひしと

159 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:40:49 ID:6E.iE47s0
投下します

160 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:42:32 ID:6E.iE47s0



◆ 9 一日目/F8 市街地(夕方〜)  ◆


真庭鳳凰は焦りの色を浮かべていた。
否。直に浮かばせるほど、彼はしのびとしての素面を崩している訳ではないが
――それでも謂われのない焦燥感に駆られているのは事実である。

黄昏に煌く鋏状の『ソレ』を銜えた少女に銃口を向ける。
しかしそれまでと同様に、少女はその『殺意』を分かり切ったように身体の軸をずらす。
幾回か繰り返すうちに無駄だと悟った鳳凰は弾の節約、及び余計な銃声を鳴らさない意味合いを兼ねて、撃ちはしなかった。
それをいいことに、か。
少女は逃げる鳳凰を追いかける。
舌を打ちつつも、迎撃をしたりはせずに、大人しく鳳凰は退散に臨んだ。

「■■――■■■■■――……!!」

嘆きとも呻きともとれる叫びは、まさに『鬼』のようである。
塊のような殺意。誰がそう称したか。実に的確な殺気。
殺すためだけに存在し、殺すことだけを生業とする――零崎一賊の典型的な例。
無桐伊織、改め、零崎舞織はそれでも『鳥』を逃すまいと後を追う。
抑えつけていた反動。
殺し合いという絶好の舞台でなお、不殺を貫き通していた分の反動。
遺憾なく解放された――始まった『零崎』は止まる術を知らないかのように暴走を始める。

無桐伊織の暴走。
それは思いのほか長く続いた。
様々な要因が絡み合い、今なお暴走を抑えることが出来ないでいる。
――事の発端は西条玉藻の、惜しくも最期の言葉となってしまった『ひとしき』の四字だ。
この言葉により、――唯でさえ血の臭いで昂りつつあった伊織の衝動が、解放されてしまう。
そこまでが先の一連の流れ。
されど、本来であれば伊織の暴走とは一時的なものに過ぎなかった。
少なくとも西条玉藻を『殺した』ことで、正気に戻る可能性は十二分にあった。
――死色の真紅との約束を破ってしまったこと。
――対等でありたかった零崎人識との人間関係を崩してしまったこと。
それらによって、伊織の歯止めはつくはずである。

しかしそこに不幸なことに。
新たな魔の手が攻めの手を加えてきた。
この事によって、西条玉藻が零していた『ひとしき』の身に何かあったのでは? という疑念が引き続いてしまったのだ。
銃弾を撃ち放った人間はもしかしたらこの少女の味方なのかもしれない――。
零崎として、それを見過ごすわけにもいかなかった――それが零崎舞織の無意識下での思考回路。
故に今、彼女は鳳凰を追っている。
追うことで、何かがわかるのかもしれない。
分からずにいた人識の行方がつかめるかもしれない――。

鳳凰は、伊織の思いなどまるで知らず。
撒けるまで逃げ続ける。
彼はしのびとして、逃げることにはある程度の自負を抱いていた。
逃げに徹する。
そのことは決して恥ではない。
無茶かもしれないことに意味なく挑む奴の方が、よほど馬鹿だ。

こうして組まれた距離の縮まらない『鬼』ごっこ。
『鳳凰』と『鬼』。
仮想の生物を象った二人の、至極人間的でつまらない、駆けっこである。

161 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:42:54 ID:6E.iE47s0


◆ 11 一日目/F8 市街地(夕方〜)  ◆



真庭鳳凰が迎撃をしない理由は、突き詰めれば保身だ。
先の西条玉藻の時もそうであったが、強大な敵を無理して自分が倒す必要はない。
半ばそのために、実験開始当初、鑢七花と契約を結んだと言っても過言ではない。
七花がどれほど屠ってきたかは定かではないが、七花の確かな実力には、偽りなく一目置いている。
骨董アパートを倒壊させた橙色――想影真心にしろ、
スーパーマーケットで鮮魚コーナー貪りつくしていた口尽くしの少女――ツナギにしろ。
鳳凰では手を出せそうになかった輩だって、周りから勝手に滅んでいけば、それに越したことはない。
漁夫の利、まさしく彼が目指すものは、その通り。
尤も、生かすに値しない、他の者の手を煩わす必要もない――貝木泥舟のような非力な人間には、容赦なく鉄槌を下しにいくが。

実際、鳳凰からして手を出せずに詰まっていた西条玉藻だって呆気なく眼前で殺された。
望ましい結末である。そこまでは、何の批難も湧かなかった。

ただ、彼は一つ失敗を犯した。
西条玉藻が死に、『この隙に』、『こいつもついでに』程度に伊織に手を出したのは、些か軽率が過ぎる。
無論のこと、玉藻の力量、気迫とも言えようものを多いに越す伊織を、嘗めてかかった訳ではない。
警戒に警戒を重ね、ひっそりと影から討つように標準を定めた。

繰り返すが鳳凰は慢心をしていた訳ではない。
彼が彼女の正体を知っていたら、銃口の標準をむざむざと放しただろう。

殺意に目覚めて、殺気に目敏く、目を逸らしたくなるほどの気迫を有する、ニット帽の殺人鬼。
彼が手を加えようとしていたのは、まさにその人である。
ならば――銃口を向けた時の殺意に気付かないわけがない。
殺意ありきの弾丸、炎刀・『銃』なら尚更だ。

加えて言うのであれば、彼自身が仕組んだとはいえ、タイミングも悪かったのだろう。
図書館に着く前の彼女ならばいざしらず――暴走へ繰り出してしまった彼女には、手の施しようがない。
ベテランの殺し名だって、手を焼くに決まっている。
鳳凰は強い。
格段に強い。
『神』の名を欲しいままに頂戴するに値する人間だ。
しかしそうは言っても、相性というものは絶対にある。
僅かな殺意の機微を察知する『零崎』相手には、決め手になる攻撃が、まるで打てない。

「くぅ……!」

撒くに、撒き切れない。
中々に、しつこい。
そうは言っても始まらない――だからこそ、彼は飽くことなく逃げ続ける。
一瞬でも視界から外させることに成功すれば、しのびたるもの隠密に徹し、さながら影のように姿を眩ますことはできるのに!

だが。
唐突にその逃亡劇も終止符が打たれようとしていた。

メラメラ、と。
ゴウゴウ、と。
目の前の景色が真っ赤に染まる。

火事だった。
竹林が、音を立てて燃え盛っている。
火元が明らかでないほど広範囲にわたり燃えているようだ。
市街地から竹取山の境界は火を以て、これ以上なく厳格に引かれている。

どうするか、左右に逃げるか――そこまで考えて、改め直す。
迷っている時間は、もはやない。
背後を見ると、僅かに立ち止まったこの隙にも『鬼』は迫りくる。

――止むをえまい……か?

確かにこのまま逃げ続けたところで、堂々巡りには違いない。
彼は握っていた首輪探知機、及び銃の類を仕舞い、日本刀を取り出した。
使いなれた得物である。得物とするに不足はなかった。
構える。

見たところ、相手は口に銜えた鋏を得物としている。
間合いが極端に短い得物。
ならば、無防備に間合いに入れさせないようにすれば、問題はない。
短絡的な発想かもしれないが、正攻法。
卑怯卑劣を売りにしている忍者であろうとも、正攻法を取ってはならないという掟など存在しない。

162 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:43:52 ID:6E.iE47s0

「■■■■――■■■■■■■■■――――■■■■■■■■■■■■■――――!!!!!!!!」

立ち止まり、相手の動きを観察する。
文字にもならない叫びをあげている様子の通り、動きは直線的だ。
隙を突こう、或いは作ろうと思えば、近接武器であれば、決して不可能ではない。
禍々しいまでの気迫こそが気がかりであるが、見た限り唯一にして最大の気がかりに違いはないが、仕方あるまい、と呟いて。

「――――!」

無言のままに、薙ぐ。
その動作を分かり切ったように、伊織は避け、間合いに這入り込もうとする。
先ほどまでの動きとは比べものにならないほどの流動的な動きに、声を洩らさず驚嘆するが、しかしそれまで。

「はぁ!!」
「―――……■ ■■」

伊織を襲ったのは単純な膝蹴りだった。
鳳凰は予め、日本刀は避けられると想定し、
『一喰い(イーティングワン)』では間に合わないにせよ、蹴り易い体勢ならばを作ることは可能だった
ただ単にそれのこと、それだけに過ぎないが、思いのほか覿面に、攻撃は相手の懐に入る。

鳳凰にしてみれば偶然には違いないが、零崎とはあくまで対殺意に特化した殺し名だ。
『殺意なき弾丸』が『殺意なき弾丸』として零崎に通用する一因に、
『殺意なき弾丸』が直接的に相手を殺害する手段とはなりえないことが挙げられる
あれはあくまで、ゴム弾に過ぎない。何弾も当て続けたら、もしかすると内出血程度の傷を与えられるが、所詮その程度。
今回の鳳凰の蹴りとて、また同じ。この攻撃で相手を殺そうだなんて、端から思っていない。
まさか――虚刀流じゃあるまいし。
尤も、鳳凰からしてみれば、この蹴りだってまともに入るとは思ってもいなかったが。

「まあ、おぬしのように我を見失った輩を相手取るのは、初めてではないのでな」

一言零し。
吹き飛び地面に転がった伊織に追撃を喰らわそうと、駆ける。
斬、と刀を振り下げるも、どこに力を入れたらそうなるのか、腹から飛び跳ね、避けられた。
半ば予定調和とはいえ、しかしどうだ嘆息を禁じ得ない。
改めて、逃亡劇を続けていた頃から感じていたが――こいつはどうすれば『殺せる』のか。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――■■■■■■!!!!!!!!!!

先の蹴りのように『攻撃』を加えるのは正直に言って作業にも等しいことだ。
同じ暴走にしたところで、同じ意味不明な咆哮にしたところで、橙――想影真心と比べると劣るというもの。
慣れるというには、あの時は一方的に弄ばれてしまったが、
それでも暴走している伊織を前に立ちはだかることが出来るのは骨董アパートでの一件が何かしら功を奏している。

しかし、だ。
『死』に至らせるまでの『致命傷』を与えるには、どうしたものか。
『殺意』を持ち合わせた『攻めの手』は全て感知されて、何かしらの対処を取られてしまう。
――現状、鳳凰には一つの考えしか、思い浮かばない。


「かくなるうえは――!!」


拷問。
しのびお得意の痛めつけ。
最終手段は、立てなくなるまで、避けられなくなるまで、その身の力を搾りきる。


鳳凰はこちらに襲いかかる伊織に向きあい、忍法『断罪円』を繰り出した。

163 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:44:46 ID:6E.iE47s0


◆ 12 一日目/F8 火災現場(夕方〜)  ◆



結論から言うと。
真庭鳳凰の甚振りは、見事成功する。

しかし、彼にも痛めつけを行使したくない理由があった。
鳳凰が、そのじり貧とも言える耐久戦に持ち込みたくなかった理由は明快。
あまりこの場において体力を使いたくなかったからだ。
無論無桐伊織一人に固執して体力を使うという馬鹿らしさ、というのもあるが、今彼らが戦っている場所は、火事場の前だ。
単純に、純粋に、暑い。
暑さというのは、ただそれだけで体力を奪う。
過酷な運動をしようものなら、体内の水分も枯渇し、意識が朦朧とする可能性だってある。
彼はしのび。
火事の最中であろうが、ある程度の時間ならば満足に動けるだろう。
が、それもある程度の話だ。
度が過ぎれば、幾ら『神』を冠しようが彼も人間。悪条件が続けば一層疲労は溜まるに違いない。
彼はそれを危惧した。
なにしろ、『決定打』を打てない相手である。
少しずつ、少しずつ――搾りとるようにしか、相手の体力を奪えない。
幾度か交えて分かった事だが、『断罪円』も『一喰い』も殺意を伴うために易々とまではいかないが避けられてしまう。
――二十番目の地獄が最期に発掘した殺人鬼は伊達ではないということか。

それでも、徐々に優勢は鳳凰に傾き始めた。
例え肉を抉ることはできなくとも、皮を剥ぐことができなくても、息を止めさせることはできなくとも。
キャリアの差、ともいうべきか。
本来あった圧倒的実力差を迫力で誤魔化すには、いよいよ伊織の気迫では物足りなくなってきたということか。
想影真心の殺意、西東天のカリスマとも換言できる佇まい。
奇しくも彼の心を鍛え直すには、あまりにも適役である。

「……ぅぐ――っ!」
「――――」

蹴飛ばす。
蹴飛ばす。
蹴って、蹴って、蹴った。
それ以上のことは何もない。
リーチも長く、より威力の高い蹴りを優先して浴びせ続けた。

『殺意』を抜いた鳳凰相手に、伊織の技術は未熟すぎる。
暴走して我をなくし、『鬼』としての才覚に身を任せて、一般人ならざる動きを見せた伊織もそこまでくればただのボロ雑巾だ。
一度型に嵌れば、彼が想像していたよりも容易く使命を全うできそうである。
かといって、気を抜くことはせず、あくまで冷徹に淡々と。

こちらの体力の消耗とて馬鹿には出来ないほどだが、伊織も既に満身創痍だ。
倒れこむ伊織の脇腹を蹴りつけ、なおも動けないのを見て、――如何ようにするか、思考する。
ここで刀を取り出して、彼女はどのように反応するだろうか。
殺意に呼応するように、それこそ文字通りの火事場の馬鹿力と言わんばかりに再駆動し始めたら、それはもはや手に負えない。

さすがにここまで痛めつけたら――とも考えたが、撤回する。
そもそも脚を折れば、反撃なんて不可能なのではないか。
その上で、背後の焔の中へ捨て入れればいい。

臥せこんだ伊織の脛の上から、踵を振りおろした。
所詮は元女子高校生の、若木の枝のように細い脚は、ぽっくりと折れる。
片側だけでなく、もう片側も。
しのびに容赦も情けもない。この程度の所業、わけもない。
悲鳴を上げる伊織の腕を片手でもちあげ、背後の炎と向きあい、いざ投げ込もうとしたその時。


「――――そこにいるおぬし。顔を出せ」


鳳凰は、恐ろしく冷たい声を出す。
後方の物影に向かい、静かで、『鬼』よりも冷酷な『不死鳥』の声を。

鳳凰の声を受け。
ガサゴソと物音を立てて、学生服の少年が現れる。
鳳凰に振り返る隙すらも与えず――少年は言葉を発した。


「……やれやれ、伊織さんは何をやってんだ――――かっ!!」


言葉尻を待たず、少年は何かを投げたのがわかった。
咄嗟に警戒を高め、いざとなったら左手に握った伊織を盾にしようかと思ったが、その心配はいらぬ心配だったようである。
まず、鳳凰の身体まで届いていなかった。
鳳凰の『影』に刺さっただけで、彼の肉体には傷一つ付いていない。蚊にも劣る『攻撃』――。

ふん、手練ではなかったか――。
だとしたら殺すだけだ、と内心ほくそ笑むように、伊織を炎の中に投げ入れた。



そこで物語は進む―――――――――――――或いは、止まる。

164 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:45:22 ID:6E.iE47s0



◆ 13 一日目/F8 火災現場(夕方〜)  ◆



鳳凰が伊織を炎の中へ投げ込むことはなかった。
違う。
投げ入れることが『できなかった』。
動けない。
動かせない。
まるで『縛られたように』、身体の自由が、或いは不自由すらも操作できない。


「お、おぬし――――何をっ!」


ここに来て初めて、苦悶とも言える表情を浮かべた。
『身体を動かせない』、この事実は、身体的よりも精神的に抉られる。
率直に言うなら、真庭鳳凰は焦りの色を浮かべて、焦燥感に駆られているのだ。


「炎っていうのはつまりは光なんだよ。光があれば影が出来る――小学生でも習うことだ。
 ……いや、習うまでもなく、もっと幼いころに理解をしてもいいことか」


対して、先ほどまでの鳳凰がそうだったように冷酷に、少年――『破片拾い』は常識を説いた。
太古より火は光としても用いられてきた。
その事実は、今だって、『バトル・ロワイアル』の最中であれ、変わらない。
影あるところに光があるように、光あるところ影にはある――――!

背面に炎を燃やしていた鳳凰から前、つまり様刻が対峙していた方面には、鳳凰の影が伸びている。
その影には一本。
たった一本の矢が刺さっていた。
影谷蛇之の魔法《属性『光』/種類『物体操作』》の『影縫い』。
どうしようもなく決定的に炸裂し、決着はついた。


「まあ、このタイミングを見計るのに随分と待ち構えてみたもんだが――伊織さんは見るも無残になって」


耽々と語りながら、様刻は鳳凰の背後に迫ってくる。
――どくん。
胸が鳴る。
――どくんどくん。
胸が高鳴る。
殺される、――殺されるのか?
我が今ここで? こんなにも呆気なく、それもこんなわけのわからないトリックで?

そんなの、
そんなのは――

「御免こうむる――――!!」
「……悪いけど、きみの意見をそのまま貫くほど、僕もお人好しじゃない」


様刻は鳳凰の腰に据えてあった日本刀を抜く。
妖し、と輝く日本刀の煌きをかざしながら――躊躇いもなく様刻は鳳凰の左手首を断つ。
かつては愛する妹の為にと平気で妹の骨を折った男。
その辺りの容赦は、捨てる時には、それこそしのびのように切り捨てる。
落とされた左手に握られていた伊織を抱きかかえるように手にとって、静かに地面に横たえさせた。それでも刃を収めない。

次いで、右足を切り落とす。
『魔法』の効果で、身体が傾くことはない。
これから伊織を背負って逃亡する際、追いつかれないようにするための予防策だった。

どうせだから、鳳凰が背負っているディパックも頂戴するかと思ったが、
魔法で固定されているため中々うまく引き抜くことが出来ない。
仕方ないか、と呟くと両腕を斬り落とす。するとディバックもパタンと音を立てて地へ落ちた。

様刻は右足、両手を拾い上げ、炎の中へ投げ込む。
余程の無茶をしない限り取りに行くのは不可能に思える。
実際その光景を見つめる鳳凰は歯を軋らせた。
不愉快を隠しきれずに、何度も何度も、幾度も幾度も歯を軋らせる。――そしてそれしかできない自分を忌む。
何か言いたげな鳳凰を意に介すことなく、静かに語る。


「別に今回は推理小説をやりたいわけでも、得意顔で語る探偵役を担いたいわけじゃないからね。
 ネタバレ編とか言って、きみに語る予定なんてないけれど、しかし一つ言えることは」

一言。
間を溜めてから、言い放つ。


「残念だったね。鳳凰さん――」


まあ、僕は殺人犯になってビデオに映りたくはないから殺しはしないけれど。
と、伊織を背負い、鳳凰のディバックを奪ってすたすたと歩き出す。
ただそれだけの邂逅。
酷く決定的で、酷く簡素な――物語の移行。
まるでこの物語に欠けていた破片を、様刻はつなぎ合わせたかのように――。
『辻褄合わせ(ピースメーカー)』――――――――!


こうして、『鬼』と『神』の駆けっこは。
『人間』の登場によって、さながら御伽話のように、泡沫に消える。

165 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:47:00 ID:6E.iE47s0


◆ 8 一日目/図書館(夕方〜)  ◆


櫃内様刻は恐れの色を浮かべていた。
目の前に放置されたそれは、紛れもなく死体である。
見慣れたというには病院坂の二人に対する口惜しさが湧いて出るが、ひとまず置いておく。

目の前にあるのは、頸動脈を的確に裂かれた少女の死体。
少女の外見は、緑がかった短髪にまだまだ未発達な肢体を包むあちこちが切り裂かれた何処かの制服。
無桐伊織に襲われたにしては首以外の外傷が目立たないが、これより前に何かしらあったのだろうと推察する。
一応様式美として、脈を測るも当然ながら脈打つものはなく、刑事ドラマでやっているように瞳孔が開いた瞳を、瞼で閉ざさせた。
こうして見ると可愛らしい顔をしているな――と思ったが、同じ年頃の妹、夜月に比べるとまだまだだ、と様刻は内心で思う。
どちらにしたところで、少女・西条玉藻は既に死んでおり、可愛い可愛くないの話をしている場合ではないのだが。

思いのほか、冷たく身体は動く。
あれほどの殺気にあてられて――その上死体までも眼前に臥せられているのに。
『破片拾い(ピースメーカー)』・櫃内様刻の脳内はするべき作業を淡々とこなそうと命令を下している。
自分でも可笑しくなるほどの――実際可笑しくて、こんな状況の中でも自嘲を含んだ崩れた笑みが浮き上がった。
人の死に悼むことが出来たら、どれほど気持ちが楽になるだろうに。そんなことを思い起こしながらも、それでもやはり、作業は続く。
こうすることで、いつもの自分を保とうとする。
『破片拾い』――『能力を最大限に使い最良の選択肢を選ぶ』――いつもの彼を、演じる。
冷静に、人死にが起こっても動じることなく、落ち着きを以て対応していた。

しかし。
恐れの色を浮かべていたこと自体は嘘ではない――。
分かり易い伊織の変貌に戸惑って、どうにもできない死の予感を感じたのは確かだ。
件のことは幾度と伊織は言っていた。
それでもここまでのものだったか――。
図書館で味わった、鮮明な『殺意』を噛みしめる。

それに、何よりも。
『好きな人』を殺してなお、生への欲求がここまであった自分にも、僅かな苛立ちと恐れが募る。
帰って妹に会いたい様刻がいる。帰って恋人に会いたい様刻がいる。
――だけどどこか、病院坂黒猫が死んだ今、殺してしまった今、
死んでしまってもしょうがないと諦観を帯びた様刻がいるのも間違いなかった。
それが彼が犯した殺人の重さ。――――人の命の重さ。持ちきれないほどの罪悪感。

様刻らをこんな場所に誘った主催は許せない。
決意自体は本物だ。斜道卿一郎研究施設で刻まれた決意は、本当なのだろう。
病院坂の為に生き残るという気持ちもまた然り。
第一彼はかなりシンプルに生きている人間だ。やると決めたからには、必ずやる人間である。
決意に嘘偽りを上乗せできるほど、彼は複雑に作られていない。

けれどその決意は――病院坂が死んだことに混乱したまま、表明されたものである。
あの時。
研究所にて声をあげて泣いたあの時。
胸中が如何ほどのものだったかは、それほど察するに難くない。
術中にはまったとはいえ、『好きな子』を殺し、それで研究所に居た女の子に八つ当たり紛いの行動に出るもいとも簡単に返り討にされ。
弱さを知り、何もできない、何もできなかった、誰も幸福にすることのできなかった
――希望の破片を拾うことなく粉々に砕かれた様刻の、無力感に伴う投げやりなものだったとしたら。

今の彼に、言うほど生きた心地はしない。
さながら推理小説のように、憎さと言う感情一つで人をあっさり殺してしまった彼に、今を生きる余裕など果たしてあるのか。
それこそ我が物顔で得意げに道徳を説きはじめる探偵がいなかっただけ、彼にとっては大いに救いだったのだろうが、人殺しは人殺し。
手に残るこの感触を忘れない。
ナイフで滅多刺しにした、あの瞬間を。
思い返すたびに、彼は自己嫌悪に陥るのだ。

それでもその時までは、それを抑え込むことがまだ可能であった。――第二回放送までは。
時宮時刻を殺せば、それできっと二人も彼自身も満足する。
それが彼の生きる証であり、唯一の動機だった。
――その思い込みは、解消させられもせず、わだかまりを残したまま、彼の暗闇の中へと消える。

166 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:47:24 ID:6E.iE47s0
今では仇討ちさえも許されない。
時宮時刻は死んだ。櫃内様刻の与り知らぬ場所で、ばっさりと殺されたのだ。
――彼は何を目標に生きていけばいい。何を選択して生きればいい。何を選択肢として挙げればいい。
分からない分からない分からない分からない――――。
それこそ病院坂黒猫の言い分に近いが――今の櫃内様刻は、この『分からない』が無性に怖くて仕方がなかった。
自分は何を道標に生きている?
どうして、それすらも『分からない』?
計画通りに。最良に生きることこそが彼の数ある生き様だったはずなのに。


――――――――果たしてこれが、最良か? ――――――――果たしてこれが、最善か?


返事が出来ない。
答えを出せない。
自己同一性が揺らぎ始める。
思えばそれは、第二回放送が終わった直後から今に至るまで続いている。
伊織の「時宮時刻を殺した人を突き止めて、それからどうするつもりなんですか?」
という問いに答えられなかった辺り、彼としてはあるまじき姿の片鱗は見せていた。
さながら、考えることさえも億劫になり、生きることさえも辛くなったかのように。
今の彼が『時宮時刻を殺した者』を探し回っているのは、恐らくは――否、確実に先の伊織の発言からきている。
伊織が単純に「これからどうしますか?」――とだけ訊ねたならば、様刻は何もしなかっただろう。

例えば仮に、病院坂黒猫を自らの手で殺してなかったならば、ここまですり減らすことなかっただろう。
例えば仮に、時宮時刻を自らの手で殺していれば、ここまで疲弊することはなかっただろう。
しかしそれも――現実が「自分が最良と思った選択肢の末路」であることを省みれば、
甚だ意味がない仮定であることは誰よりも様刻が理解しているつもりだ。

最良も何も、今の彼には存在しなかった。
彼自身が愚の骨頂と蔑む『徒労』に費やしていただけだった彼に、これ以上何が出来る? 何を求める?
頑張れば出来ないことはない――彼はそう信じていた。
しかしどうだ。
蓋を開けてみれば、病院坂を守ることも、仇を討つことも、何一つ満足にできない非力な彼に、これ以上何が出来る?
これは数沢六人を痛めつけることとは違う。
或いはそれを契機に起こってしまった殺人事件とも違う。
舞台も、環境も、彼の立ち位置も何もかもが違う――そんな中で、どうすれば、どうすればいいんだろう。

今の彼には、『今まで通りの櫃内様刻』を演じることが手一杯だった。
そうすることで、強制的に自らを雁字搦めにする――僕にはやるべきことがあるんだ、と。死ぬわけにはいかない、と。
一種の呪いのようなものだ。
確かにそれは、心を落ち着かせるにも最適だった。
住み慣れた家に居るように、心が沈静化し、空いた空洞を見て見ぬ振りが可能である。
「今の自分って何なんだ?」そんな空洞を。

改めて。
目の前の少女の遺体を見下ろして。
嗤った。
自らを。
動じない『いつも通りの自分』を。


嗤った。

167 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:47:48 ID:6E.iE47s0


◆ 10 一日目/F7 図書館(夕方〜)  ◆


櫃内様刻が無桐伊織を追いかけようとした理由は、突き詰めれば何もない。
伊織その人が忠告した通り、逃げたっていい。逃げることが、一番状況に適している。
だけど彼には、逃げて何かをしたいという、『選択肢』そのものが見つからなかった。
時宮時刻を殺した人間を突きとめたって、薬にも毒にもならないのは、彼自身頭では理解しているのだ。
見つけて、警察に送りつけることはできない。そもそも彼自身もまた殺人犯である。二人仲好く監獄行きなんて笑えない冗談である。
ならば八つ当たりを込めて殺害するか? ――しかしその殺害に、何の意味はない。
ただその様をビデオに撮られて自分の立場をより一層怪しめるだけだ。
彼があくまで『時宮時刻』に固執するのは――そうすることで、何もできない自分を有耶無耶にさせる。たったそれだけの、意図。
確かにこの『操想術』がかかったままの瞳は不便に違いないが、
だからといって時宮時刻を殺した人間を突きとめたって、事態は好転しない。

そして。
今の彼から『時宮時刻』という要素を抜いたら何が残るだろう。
守るべき存在は死んだ。愛する者はここにはいない。生き残ろうと努力したところで、彼の選択は空回りを続ける。
そもそも、伊織や人識、時刻を例に挙げるまでもなく、ここに居る中で自分が最弱であろうことは、なんとなく察しがついていた。
戦闘能力はなくとも、玖渚友には頭脳がある。
宗像形には暗器があって、阿良々木火憐には並はずれた格闘センスがあったようだ。
様刻にはそんなものはない。
部活動をやっている人間には敵わないだろうと自負している人間だ。
正直なところ、生き残れと言われて生き残れると思えるほど、環境はよろしくなかった。

だから彼は、『選んだ』。
無桐伊織を追うことを。
心の中ではごちゃごちゃとお誂えな御託を並べて。
それがさながら最良の選択肢であるかのように幻視させて――。

もしかしたら伊織――或いは襲撃者に殺されるかもしれない。
一抹の懸念が頭をよぎる。
よぎったが、それでも様刻は意に介すことはなかった。
「死んでもいいや」――さながらツタヤのレンタル延滞でもするかのような気軽さで、命を捨てようとしていたのである。
生きる目的が見えないのなら、死んだって変わらないんじゃないか――?
『破片拾い(ピースメーカー)』――もしくは、『自殺志願(マインドレンデル)』。


やると決めたら。
後は早かった。
携帯電話を見る。
と、画面が真っ暗だった。

――そういえば、と。
様刻らは図書館に主催者に関与する第三者がいないか怪しんでいた。
下手に関わるつもりは毛頭なかったし、関わっても良さそうな相手だったとしても、ある程度の観察を踏まえてからである。
影から窺うようにしている最中、電話が鳴られたら大変傍迷惑な話だった。
そんな漫画みたいな奇跡的タイミングで電話が鳴るとは思ってもいなかったものの、万が一の可能性がある。
様刻と伊織ともども、図書館に留まる間は携帯の電源を切っておこうという話に収まった。
だからこそ宗像の発信は届いていなかったのだ。尤も、図書館に第三者など見当たらなかったので無意味な行為だったと言えるが。

さて改めて電源をオンに切り替える。
掲示板には幾つか更新があるが、彼が見たのは目撃情報スレだ。
別段、何かを期待して開いたわけではない。
あくまで玖渚友との連絡を取ろうとしたついでに開いただけだったが、何やら有用な情報が載っていた。

168 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:48:13 ID:6E.iE47s0


『 4 名前:名無しさん 投稿日:1日目 夕方 ID:IJTLNUUEO
  E7で真庭法王という男におそわれた拳銃を持ている。危険
  鳥のよな福をきている、ものの乃記憶を読めるやしい
  黒髪めだかと組んん出いる可能性あり
  付近にいるのは注意されたしい               』


何やら誤字脱字が多量に含まれているが、読めなくはない。
要するにE7にて真庭鳳凰(名簿から察することが出来る)という鳥のような服を着た者が、銃を持って徘徊しているそうだ。
生憎様刻は襲撃者の姿を見たわけではないが、銃と言う点と位置関係上、彼が襲撃を仕掛けた可能性が重々にある。
それがわかっただけで、実際彼には対策と言う対策を持ち合わせていない――強いて言うならこの『矢』ぐらいなもの。

だからこそ、話は元の鞘に収まるように、玖渚友に電話しようということになる。
様刻が持っていない情報を、玖渚友は何処かからか持ち出した、と言う可能性は中々否めない。
眼前で、あれほど自由に電子の中で踊り狂っていた玖渚のことだ。
鳳凰――或いは違う襲撃者のことを何か掴んでいるかもしれない。
掴んでいなかったとしても、様刻が会うより前に伊織と行動を共にしていた玖渚ならば、
伊織が暴走していた時の対処法を、もしかしたら教えてもらっているかもしれない。
どちらとも、聞くだけ無駄と思えるほど、可能性の低い話であったが、万が一のことも考えて様刻は電話する。

そもそも。
元より図書館に着き、DVDを回収した時点で電話をする予定はあった。
DVDが有ったことの報告と、玖渚友、及び宗像形が無事に斜道卿一郎の研究施設を離れることが出来たかの確認。
そこらへんの雑多な目的を兼ねての、電話でもある。

アドレス帳から玖渚友へ電話を発信する。
PiPiPi、と暫しの機械音を聞いた後、直ぐに玖渚は電話に応じた。
彼は今の自分におかれた立場を報告しながら、即刻使える情報を交換しあう。

169 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:48:39 ID:6E.iE47s0



◆ 14 一日目/F8 市街地(夕方〜)  ◆


結論から言うと。
玖渚友は先ほど櫃内様刻が欲していた情報をほぼ有していた。

真庭鳳凰の情報――どころか全参加者の詳らかな情報。
それに伴い、無桐伊織の暴走の止め方こそわからなかったものの、暴走の主因となる要素は把握できた。
尤も、その情報を駆使ことはなかったものの。
しかしそのお陰もあり、櫃内様刻は真庭鳳凰を出し抜く――とはいかずとも無桐伊織を救出させるだけの行動を組み立てることが出来た。
彼は確かに死んでもいいとは考えたものの、わざとらしく死に急ぐわけではない。
便宜的に立てた『時宮時刻を殺した人間』を探すという目的がある。
――鳳凰から難を逃れたからには、その命を続けてすり減らしていこうと思う。
その辺りの考え方はシンプルで、極論「生きれるなら生きるが、死んだら死んだ。とやかく言うつもりはない」。そう言うことだ。

「ひどいですよぅ……なんでもっと早く出てきてくれなかったんだすかぁ……」
「それはきみが邪魔で中々この『矢』を投げれなかったからだろう」

無桐伊織を背負いながら、櫃内様刻は前を見て歩く。
『今は無桐伊織を運ぶ』という目的がある。
目的を見つけたならば、彼は動かないわけにはいかない。
その考えは、その場限りのものでしかないことに目を瞑りながら。

疲弊した様子の伊織を労わるというわけでなく。
耽々と、変わらぬ調子で下山しながら様刻は歩く。

「ていうかきみこそ、いつから正気に戻ってたんだよ」
「あんだけ蹴られたら嫌でも正気に戻りますって……様刻くんは女の子の気持ちがわかってないですねえ……」
「んなもんわかるか」

――そう。
伊織は途中で暴走から意識を戻した。
甚振りからのあまりの苦しさに、戻らざるを得なかった。
だからこそ、鳳凰は一方的な拷問をするに至れたのだが、結果的にどちらであったところで、こうなる結末は変わらなかっただろう。

「しかしどうしましょうねえ、両足。これじゃあお嫁にいけませんよ」
「他に心配することはあるだろう」
「いやまあ、なんかすでに両手が義手ですから。今更と言われればそれまでなんですよね」
「……まあ、なんだ。帰ったらまた義足、作ってもらえよ。なんだっけ、罪口商会――だっけ」
「人識くんに合わせる顔がありませんよ……。双識さんと人識さんしか残ってないない現状でこの様じゃあ」
「手がなくても、足がなくても、顔ならあるだろ。会ってやれよ。――それに僕と零崎……人識は顔馴染だぜ。何とか言ってやる」

力ない笑いで伊織は返すと。
苦痛を顔に表しながらも、様刻に問う。

「そういえば、どうして逃げなかったんですか?」
「ん?」
「わたし言いましたよね、確か。――わたしが暴走したら、気にせず逃げてくださいね、って」
「ああ、言われたな。人だって殺していた。僕だって逃げようかと思った――けど」
「けど?」
「――玖渚さんに電話して、勝てる試合だと確信したから」
「へえ? 玖渚さんはなんて?」
「掲示板と僕達の位置関係上、それはきっと『法王』――真庭鳳凰って奴の可能性が高くてね。
 そして僕の持っている『矢』と鳳凰さんは、決して相性が悪いわけではない。……ってね」
「随分とざっくらばんとした確信もあったもんです」

まあ、助かりましたよ……、と。
伊織は一言つぶやくと、まどろみに浸りはじめた。
伊織は知らない。
様刻が『逃げてもやるべき選択肢』がないと、まるで相手を眼中に入れてない考えで挑んだことを。
実際のところ、玖渚友は『勝てない相手ではない』と伝えたわけではない――『負けないかもしれない相手』と伝えている。
似ているようで、意味合いとしてはかなり違ってくる。
玖渚は「挑んだら高確率で返り討に遭うけれど、それでもいいなら挑むのもありだよ」その様な意図で伝えたはずだ。
その意図は、結論から言うと様刻は察している。察していて――鳳凰と対峙した。

170 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:49:02 ID:6E.iE47s0

知らぬが仏――知らぬが鬼と言うべきか。
今に限りは様刻の胸中を察してやれるほど伊織は万全ではない。
両足を折られ、自分のことをただ考えるしか彼女には出来なかった。


「すいませんが、ちょっと疲れちゃいました。背中借りますね……」


そう言って、やがて様刻の返事を待つことなく、伊織は穏やかな寝息をたてはじめる。
『鬼』には思えぬ可愛らしい『人間』のもの。
それを聞いて、様刻は一人、聞いていないであろうことを分かっていながら答える。


「……じゃあ、僕は治療なんてたいそれたことはできないけど、診療所か薬局に送ってみるよ」



それが今の様刻の『最良の選択肢』だからと――――――――




「伊織さん、これが僕のやるべきことなのか?」




「――なんてね。おやすみなさい」




【1日目/夕方/F−8】
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]両足骨折、睡眠、様刻に背負われている
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ、バトルロワイアル死亡者DVD(18〜27)@不明
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:……。
 1:曲識、軋識を殺した相手や人識君について情報を集める。
 2:そろそろ玖渚さん達と合流しましょうか。
 3:黒神めだかという方は危険な方みたいですねえ。
 4:宗像さんと玖渚さんがちょっと心配です。
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※黒神めだかについて阿良々木暦を殺したらしい以外のことは知りません。
 ※宗像形と一通りの情報交換を済ませました。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。


【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康 、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考) 、伊織を背負っている
[装備] スマートフォン@現実
[道具]支給品一式、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜17、28)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス
[道具]支給品一式×6(うち一つは食料と水なし)、名簿、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、
   首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、鎌@めだかボックス、
   薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、首輪探知機@不明、
   誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、
   マンガ(複数)@不明、三徳包丁@現実、中華なべ@現実、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(瓦解寸前)
 0:伊織さんを診療所か薬局に連れていかせる
 1:玖渚さん達と合流するためランドセルランドへ向かう。
 2:時宮時刻を殺したのが誰か知りたい?
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※阿良々木火憐との会話については、次以降の書き手さんに任せます。
 ※支給品の食料は乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。

171 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:49:34 ID:6E.iE47s0



◆ 15 一日目/F8 火災現場(夕方〜)  ◆



「――――我が――――我が!」


五分後。
真庭鳳凰を縛りつけた魔法が解け、自然と鳳凰の体は崩れた。
右足がなく、左足だけで立ち続けるには、些か難しい。
というよりも、自然解除されるとは思っていなかったので、心の準備が足りなかったという具合である。


     「こんな場所でくたばるわけには―――――!!」


地面の味を口に噛みしめ。
様刻たちが消えていった方に視線を向ける。
この五分の間に、淡々と離れてしまったようだ。
少なくとも、片足の鳳凰が追い付くには、随分と離れてしまっている。
這うように、左足を蹴ることで、身体を動かす。
屈辱で、ならなかった。


   「―――――ぅぅぅぅぅぅぅぅううううううううううううゔゔゔ」


何をするにしても、足が必要だ。
とはいえ今までの足は、様刻が燃やしてしまった。
まだ肉が残っているかもしれないが、這って炎の中を拾いに行くのは無理だ。
だから彼は、ここに来るまでに殺し、そして身体を残している否定姫のいるレストランへと身体を進めている。
コンパスなど諸共奪われてしまったが、なんとなくの方向や地図の図面は覚えている。
――こんなことなら、貝木泥舟の身体を残しておくべきだったかと後悔するも、後の祭り。


       「――――我は!!」


忍法『命結び』。
匂宮出夢の『一喰い』、真庭川獺の忍法『記憶辿り』を失った今。
彼に残された技はそれしか残らない。
まあ、それにより手足欠損による流血も、痛みも、慣れたものではあったが、苦しいには違いない。


              「死なぬ!!!!」

それでも彼は諦めない。
生を。
願いを。
しのびを。
どれだけ今が恥さらしな格好だとしても、手足をもがれても。
彼は『不死鳥』――幾度だって地獄の底から舞い戻ってみせよう。
羽ばたいてみせよう。
まだまだ時間はかかるかもしれないが、それでも彼は諦めない。
否定されても。
屈辱を浴びても。
なお、屈しない。
もう二度と、屈してやるものか。
――彼は謳う。


          「真庭を滅びさせたりはせん!!」


――彼は呪う。


     「いずれ借りは返すぞ――――――――少年ッッ!!」



立つ鳥。
巣に戻らん、と。



【1日目/夕方/F−8 火事場付近】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態]身体的疲労(極大)、精神的疲労(極大)、左腕右腕右足欠損
[装備]矢@新本格魔法少女りすか
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する
 1:――――
 2:レストランまで這う。否定姫の身体を頂く
 2:虚刀流を見つけたら名簿を渡す
 3:余計な迷いは捨て、目的だけに専念する
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません。
 ※記録辿りによって貝木の行動の記録を間接的に読み取りました。が、すべてを詳細に読み取れたわけではありません。

172 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:51:40 ID:6E.iE47s0
以上、投下終了です。
このたびはご迷惑をおかけしたことを、最後にもう一度お詫び申し上げます。
それでは指摘感想等ありましたらよろしくお願いします。

173 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:11:39 ID:fnbUZSQ20
投下乙です
卑怯卑劣を売りにしている忍者であろうとも、正攻法を取ってはならないという掟など存在しないの一文に思わず納得
実際未熟な伊織ちゃんと鳳凰じゃあ鳳凰に分があるよなあ
このまま伊織ちゃん南無な流れかと思ったら登場した様刻がかっこよすぎる
図書館内での様刻の葛藤もすごくらしかったしやっと彼らしくなったというか
容赦なく手足切り落とすのはそれが必要なら躊躇いなくやる男だもんなあ、様刻
一方で鳳凰さんが大変なことになったけど…これレストランまで辿り着けるのかな

…ちなみに、氏の前回のSSでの腐敗と今回の山火事を現在地に反映させたらとんでもないことになりました(しろめ)
ということで自分も投下させていただきます

174君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:13:49 ID:fnbUZSQ20



真実は残酷だ。





折れず曲がらずよく切れる――それが虚刀流であり、おれであったはずだが今もそう胸を張って言えるかどうかとなると口ごもってしまう。
さっき被っちまった泥、否、ここははっきりと毒と言っちまった方がいいだろう。
それに侵されたおれはひたすら逃げた。
地図なんて見ていない、見る余裕なんて全くなかったが方向はこっちで間違いないはずだ。
あのとき否が応にも見えちまったからな。
周りの建物やら地面やら生えていた植物やらあらゆるものがどろどろになっていくのを。
それがおれに向かって押し寄せるように近づいてきたから背を向けて走った。
どろどろが広がるよりおれが走る方が速かったからなんとかなっているが全身に走る痛みはそうもいかない。
早い段階で水分を含んだ着物の大部分を脱ぎ捨てたことで身軽になれたのはよかったが、剥き出しだった手足は今もずきずきと痛む。
考えるのが苦手なおれでもわかる、こいつは致命的だ。
錆びるなんてものじゃない、腐食されているようなものだ。
草鞋や手甲――おれにとっての鞘があれば少しはましかもしれないがとうに脱ぎ捨てていたからな。
途中から固い地面がいつの間にか柔らかい土になり木々が生い茂っているのに気づいたおれは躊躇なく幹を駆け上った。
元々おれが島猿だってのもあるが、枝を飛び移っていった方が足にかかる負担は少ないだろうと思って。
とにかく『これ』をなんとかできる場所かものが欲しかった。
もちろん、『そこ』に人がいたときや『それ』を持つやつがいたら排除して奪い取るつもりで。
再びこみ上げてくるのを感じたおれは滑りそうになりながらも口の中のものを吐き出した。
全く、めんどうだ。

175君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:14:15 ID:fnbUZSQ20



忍者というものは強い。
つくづく実感させられた。
『魔法使い』にしろ『魔法』使いにしろ基本的には魔法の能力の尊大さにかまけているせいで肉体強度はそうでもないというパターンが多かった。
実際りすかも小学五年生という年齢であることを差し引いても体を鍛えているとは到底言えない。
僕が事件を持って行かなければ普段はコーヒーショップの二階に引き籠って魔導書の写しをしているようなやつだったしな。
探せば武闘派の魔法使いもいるかもしれないが。
そもそもどうして僕がこんなことを考えているかといえば。

「おい、今どの辺だ?」
「もうすぐ広い道に出るはずだから今はE-4とE-5の境目くらいだろう。半分は越えてるはずだ」
「お、その通りだな。見えてきたぞ」

こうやって忍者に担がれて移動しているからだ。
正確に言うなら、僕とりすかの二人を両肩に担いで、だ。
小柄な小学生二人と言ってもそれぞれ体重は30kgはある。
つまり、少なくとも60kgの荷物を持って移動している状態なのだ。
それも長時間担いだ状態でいて木々の間を走り抜けるのではなく跳び抜けているのだから。
忍者――真庭蝙蝠、全く、恐れ入る。

「僕たちを担いで疲れたりしてないのか?ランドセルランドに危険人物がいる可能性もゼロじゃないんだしここらで休んでもいいと思うが」
「きゃはきゃは、そんなんで疲れる程やわな作りはしてねえよ。それにこの身体はよくできてるようだしな」
「大したやつだよ。別に時間に余裕がないわけでもないし休んでも構わないんだが蝙蝠がそう言うなら――いや、少し止まる可能性が出てきた」

蝙蝠が小首をかしげるのも無理はない。
何故なら、僕のポケットに入れておいた携帯電話が振動を始めたからだ。
画面を開くが、表示されていたのは当然、僕の知らない番号だった。
左右に見通しの良い大通りで人影が見えないのを確認して僕は電話に出る。

「もしもし」
『もしもし』

知らない声だった。

176君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:14:31 ID:fnbUZSQ20



「情報を整理しておきたいのだけれど、零崎さんが目下探してるのは供犠創貴、水倉りすか、それに真庭忍軍の真庭蝙蝠、でいいのよね?」
「ああ、そうだが漢字が同じだからってさりげなく目下(もっか)を目下(めした)にしてんじゃねえ。何の意味があるんだよ」
「最近やっていなかった言葉遊びよ。そういえば私ったらシリアスモードに入っちゃったせいでこういう遊び全然やってなかったなって思い出して」
「今明らかにいらねえ場面だろ」
「でもやれるときにやっておかないと次がいつくるかわからないじゃない」
「少なくとも今はそういうことを求められる場面じゃねーと思うぞ」
「案外読者のニーズってわからないものよ」
「メタ発言が露骨すぎるぞ」

まあ、そんなわけでこの私、戦場ヶ原ひたぎの出番なのだけれど。
といってもできることなんて限られているし、今もっぱらやっているのは詳細な情報交換。
私のターゲットである黒神めだかの情報を仔細に伝えたり逆に零崎さんのターゲットが誰かを聞いたり。
また、放送で呼ばれていない知り合いの話をしたり。
正直な話、羽川さんが私の知ってる羽川さんならあんな書き込みをするとは思えなかったから、伝えるのに若干の抵抗があったのは事実だけれど。

「それにしても真庭忍軍って言いにくいわね、まにわにって呼んでもいいかしら」
「俺に聞くなよ……それにしてもなんだそのゆるキャラみたいな名前は」
「あら、案外こういう名前の方がウケがよかったりするのよ」
「さっきから思ってたんだがあんたはどこの業界人だ」
「しがない女子高生よ」
「俺の知ってる女子高生は……いや、小学生であんなんがいたからだめだな」
「ロリコンが」
「そんな趣味はねー」

阿良々木君ならもっとおもしろい返しをしてくれるんでしょうけれど、零崎さんに期待するのは酷というものね。
……なんて、何を期待しちゃっているんだか。
全く、私としたことが協力者を得たことで気が緩んでいたようね。
危ない危ない。
ああ、そういえば。

「零崎さんの携帯には誰の番号が登録されているんでしたっけ?」
「あんたからもらった電話がちゃんと兄貴のとこにいってるなら、兄貴と欠陥製品と伊織ちゃん、で終わりだな」
「……そう。ならそろそろ動き始めてもいい頃合いかもしれないわね」
「?何がだ?」

私は告げる。
有無を言わせぬようはっきりと。

「私がこれから電話で何を言っても決して声を出さないで。できれば物音も」

177君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:15:27 ID:fnbUZSQ20



「もしもし」
『もしもし』
「あなたは誰ですか?」
『そちらからは名乗らないのね』
「素性がわからない人に名前を明かすなんて愚の骨頂だとは思わないですか?」
『ええ、その通りよ。だからこそ私も名を明かしていないのだし』
「お互い懸命ですね」
『つまりは馬鹿ではないということがわかったわね』
「……何が言いたいんですか?」
『少なくとも組んで損をする相手ではなさそうということよ』
「なるほど、納得しましたよ」
『あら、協力してくれるのかしら?』
「馬鹿ではないとわかっただけで協力する価値があるかどうかは別ですよ。あなたがどちら側かすらわからないのに」
『まあ、それもそうね。少なくとも私は殺して回る側じゃあないわ』
「口ではなんとでも言えますからね。一応僕は第三回放送を目安にランドセルランドにいる予定ですが」
『そうやって堂々と居場所を言えるというからには簡単に死なない自信はあるようね。それに場所も好都合のようだし』
「好都合と言うと?」
『掲示板の書き込みを見ていただければわかるとは思うわ』
「掲示板とは?」
『あら、知らなかったの?携帯電話があるのなら誰でも接続できると思ったのだけれど』
「いや、事情があって接続する余裕がなくて……このままだと知らないでいたでしょうから助かりました」
『お礼を言われるほどのものじゃないわよ。そういえば私も2時間程チェックしていなかったし』
「ならばどうせ遅かれ早かれ知ることでしょうから、代わりと言ってはなんですが伝えておきますと僕はこの後黒神めだかという人と合流する手筈になっています」
『…………彼女、既に人を殺していたはずでは?』
「その情報は先程おっしゃっていた掲示板から?」
『ええ。誰かが第一回放送までに死んだ人の死に際の映像の一部をアップロードしてるみたいで』
「そうですか……ですが彼女は今はこの殺し合いを止めるために動いているはずです」
『……その口ぶり、確証はあるのかしら?』
「はい、僕は実際に彼女と会って話をしましたから」
『そういうことなら会っても大丈夫そうね。……ただ、時間はまだまだかかるかもしれないけれど』
「一応、この電話があるから連絡が取れないということはないでしょう。最後になりましたが名前を聞いても?」
『ここで拒否なんてできるわけがないでしょう。私の名前は羽川翼よ』
「僕は供犠創貴です。では後でお会いできるといいですね」
『供犠さんね、会えるのを楽しみにしていますわ』

通話終了。
友好的に見えて隙のない相手だったが……

「おい、今のはなんだったんだ?」
「電話だよ、見ればわかるだろ」
「その電話ってのが俺はよくわからねえんだが」
「離れたところにいる相手と話をする手段、ってなんでこんな常識未満のことすら知らないんだ」
「ああ、忍法音飛ばしと同じ原理か」
「こっちを無視するな」
「それで、さっき言ってた掲示板ってのは?」
「今から確認する。というかそれもお前が無駄な質問をしなければ確認し終わっていたことなんだが」

178君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:15:47 ID:fnbUZSQ20
まさか蝙蝠が電話を知らないとは思わなかったぞ……
戦術面では申し分ないのにどうしてこう知識が偏っているんだ。
ともかく、携帯電話からネットに繋げると件の掲示板のページが表示された。
こんな簡単に繋げられるならとっととやっておくべきだった……なんて暢気なことは言っていられなくなる。
羽川翼の書き込みは探し人・待ち合わせ総合スレのもので間違いないと見ていいが、そんなものは些細な問題に成り下がった。
よりにもよってりすかが零崎曲識を殺した映像が出回っているだなんてさすがに想定外だ。
しかもすぐ下のレス(零崎双識か零崎人識が書き込んだものだろう)でしっかりと僕と蝙蝠の名前まで入っている。
何も知らない者が見れば確実に僕たちが危険人物の集団に見られてしまうのは間違いない。
口ぶりからして映像しか見ていなかった羽川翼にも僕の名前を伝えてしまった以上合流するのは得策じゃないな……
使われているIDだけでも6つあったしそれぞれに同行者がいれば情報を見たものは二桁に及んでもおかしくはない。
更に性質が悪いのが、黒神めだかのことまで記載されていることだろう。
直接彼女から聞いた話から鑑みるに書き込んだのは戦場ヶ原ひたぎか?もうそれも些細な問題だが。
誤字だらけのレスの方は……

「なあ蝙蝠、真庭鳳凰について聞きたいんだが……」
「鳳凰?どうした藪から棒に」
「物の記憶が読めるらしいが本当か?」
「記憶が読める?そいつは川獺の野郎の忍法で鳳凰の忍法は断罪炎と命結び……ああ、ならできなくもないが……だとするとどういう状況で……」

一人で勝手に考え始めてしまった。
一応心当たりはあるみたいだが……実際物の記憶が読めるというのが本当ならかなり使える手段にはなるはずだ。
ただ、黒神めだかと組んでいるというのは十中八九ブラフだろう。
彼女には仲間がいないと言っていたし、場所がE-7となると遠すぎてあのあとにできた仲間だとは考えづらい。
それに何より、相手を襲うような人間と組むとも思えないしな。
彼女の手持ちは元々僕の手持ちだったから通信機器はないだろうし……

「キズタカ」
「どうした、りすか」

僕と蝙蝠のやり取りを終始見ていたりすかが突然黙り始めたことに怪訝に思ったのか僕に声をかけてきた。
いや違う。
視線は僕の後ろに向いている。
ぶつぶつと呟いていた蝙蝠もいつの間にか静かになりりすかと同じ方向を見据えている。
ようやく僕も気づく。
木々がざわめいていた。
それも不自然に。

179君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:16:06 ID:fnbUZSQ20



何か考えがあるんだろうからと言われた通り黙ってやった零崎人識クンだがさすがに最後のだけは聞き捨てならなかったぜ。

「おい、今の電話どういうことだ?」
「そう目くじらを立てないで頂戴。私も半分驚いているのよ」

驚いていてあの受け答えは咄嗟にできるもんじゃねーと思ったけどな。
肝の据わりっぷりは一般人の女子高生だっつーなら信じられないくらいだが。

「保険がてら聞いておくが、あいつらと繋がっていたわけじゃねーんだよな?」
「もちろんそんなわけないでしょう。あなたも最初に掛けなおしているところを見ていたじゃない」
「ならどうやってそいつらに繋がったのか聞きたいところなんだが」
「どうせこれからはできない方法だし、教えてあげるわよ」

しかしどうしてこう一々上から目線なんだか。
死んじまったらしい彼氏さんに同情したくもなるぜ。

「できれば電話番号教えてもらえると助かるんだがな」
「それくらい構わないわよ。で、種明かしをしてしまえば私の携帯にはランダムで繋がる番号が二つ登録されていただけの話よ」
「そのうちの一つが繋がったわけか」
「そういうこと。最初にかけた方はコール音すら鳴らなかったから電波が届かなかったか電源が切れていたか……」
「破壊されたって可能性もあるな」
「やはりそう考える?」
「こういうときは最悪の可能性を常に考えておくもんだろ」
「でしょうね」
「それで、話はまだ終わってないんだが」
「聞きたいことは大体想像できてるわよ。何から話せばいいのかしら」
「他は大体理由が想像できるから聞くのは一点だけだな」
「どうして羽川さんの名前を騙ったか、かしら?答えは簡単、彼らが黒神めだかと繋がっているかもしれないから。しかも彼女、今はどうやら正気に戻っているようなのよね」
「ああ、なるほどね……今は正気、ねえ……確かに映像のあれは正気じゃあなかったもんな」
「その彼女と繋がっているかもしれない彼らに私の名前なんて出したら一気に警戒されてしまったでしょうし。それに、目的地がちょうどランドセルランドのようだったから」
「そいつは確かに好都合だ。奴らを一網打尽にできるってことだからな」
「でしょう?できればこのままランドセルランドに向かいたいところなのだけれど……」
「そいつはちょっと俺の我儘を優先させてもらいたいね。診療所で待ち合わせてるやつは車持ちだから結果的には早く着けるだろーしよ」
「……なら診療所に向かいましょうか」
「それにしても大したもんだ、電話口でいきなり大胆な勝負に出られるなんてよ。他人の名前出したのだってとっさのことだったんだろ?」
「どちらともとれるようにあらかじめぼかしておいたから。それに、嘘をつくときはそれが嘘だとばれても貫き通せばいいだけの話よ」

ひたぎちゃん、師匠が詐欺師だって聞いても信じられるぞ……
おい、誰だ俺が名前呼びするのおかしいとか言ったやつは。
俺は基本的に名前呼びだぞ、原作参照してこい。
それにしても、と俺の考えていることを知ってか知らずか、いや知らねーんだろうけど、ひたぎちゃんは続ける。

――今更正気に戻ったところで許されるとでも思ってるのかしら

やれやれ、まだまだ油断はできそうにねーな。

180君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:17:37 ID:fnbUZSQ20



肩が軽いのは気のせいではないだろう、うん。
落ち着いて考えてみれば言いだしっぺはぼくではなく後部座席に座っている人間未満なのだったのだから。

――そういえば、裸えぷろんという単語を最初に出したのは禊さんでしたっけ

静まりかえった車内で七実ちゃんがぽつりと呟いたこの発言によりぼくには晴れて情状酌量の余地ができた。
推定有罪なことには変わりないけども。
一方で逃げ道を塞がれた人間未満はというと、

『………………………………』

顔面蒼白だった。
あーあ、かわいそうに。
こういうときはさっさと吐いてしまえばいいのに。
相手が哀川さんだったらとっくにボディブローを浴びてしまってるだろうからこんな考えができるのかもしれないが。
まあそういう状況じゃなければしぶといもんなあ、人間って。
しぶといというか往生際が悪いというか。

「禊さん、隠し通せるわけがないんですから今言ってしまった方が楽になれますよ」

うわー、七実ちゃんの言い方が完全に尋問だ。
真宵ちゃんを膝枕しているせいで七実ちゃんと球磨川はかなりつめて座っているけど、そのせいで余計に恐怖が増してるというか。
ぼくはそれをおくびにも出さないけど。
油断してガブリとかよくあるからね。
今は安全運転安全運転。

『……わかったよ』

お、ついに観念したか。

『僕がお手本を示せばいいんだね』
「ちょっと待て」

思わず言葉が漏れた。
お手本を示すってどういう意味だ。
お手本ってことは後々誰かにやらせるということであって……え?

「わかっているではないですか」

いや、七実ちゃんは何もわかっていない。
というかこんな狭い車内でやられても困る。
主にぼくが。
きっと七実ちゃんも。
そして真宵ちゃんが目を覚ましたら色んなショックで再び昏倒してしまう。
あと翼ちゃんに至っては目覚めた途端に見た光景がこれじゃ金切り声をあげてもおかしくない。
本人以外迷惑かかりまくりじゃねえか。
もしもぼくが運転ミスってそこらの木に激突でもしたらどうしてくれるんだ。
気づけ、人間未満。
って何エプロン取り出してるんだ。
支給されてたのかよ、それ。
普通なら外れ支給品とかいうやつになるんだろうけど、今のこの状況じゃ大外れもいいとこだぞ。
あ、まずい。
学ランのホックに手をかけてる。
このままじゃ誰得な光景の出来上がりだ。
やめろ。
やめてくれ。
やめてください。

181君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:18:23 ID:fnbUZSQ20

「禊さん、まずはえぷろんがどういうものかをまずは知りたいのですが」

服を脱ごうとしていいた球磨川を制止するかのように七実ちゃんが助け舟を出してくれた。
ぼくの考えなど知らない七実ちゃん本人は助け舟を出した自覚とかはないだろうけど。

『エプロンってのはね、料理をするときにつけるもので……』
「前掛けですね、見ればわかります。ですがその前に裸という文字をつけるだけでどうしてそう後ろめたいものになるのでしょうか」

甚だ尤もな疑問である。
この疑問にどう答えるか次第でぼくたちの命運が決まるわけだが、少しだけ寿命が延びたようだ。

「見えてきたよ、診療所だ」

今度は無事到着できたようだ。
車を近くにつける。

『よし、なら僕がまずは危険人物がいないか見てくるよ!』
「あからさますぎるぞ」
「いっきーさんも行っていいんですよ?もちろん彼女たちには何もしませんから」
『そう、ならよろしくね。さあ、行こうか欠陥製品』
「お、おい、勝手に決めるなよ」

もしもこのタイミングで真宵ちゃんが目を覚ましたら大変なことになるが、人間未満を一人でほっとくのも危ないし……
渋々、診療所に行くことに決めた。
できるだけ早く戻れば問題ないだろうと諦めて。

「どんな言い訳を考えてくるのか楽しみにしていますね」

車を降りるときに聞こえた声にぼくたちの背筋が震えたことは言うまでもない。





みなさんこんばんは。
みんなのヒロイン八九寺真宵です。
なんて言う余裕もなくなりました。
今私は大人のお姉さんに膝枕されています。
状況だけ聞けば羨ましいシチュエーションなのでしょうが、そうではないのです。
聡明な読者のみなさまならおわかりでしょうが、この方は既に二人の人間に手をかけていたのですから。
そんな方の着物(しかも返り血ついてるんですよ!)で膝枕とか心休まるわけがありません。
怖いです。
恐怖しか感じません。
しかも羽川さん(殺されてしまったはずなのに生き返ってます。わけがわかりません)が気絶しているようなので狭い車内で実質二人きりです。
密室で、二人きり。
……犯罪的な響きしかしません!
いえ、羽川さんもいるにはいますけども。
逃げられるものなら逃げたいです、というかとっくに逃げてます。
今こうやって膝枕に甘んじている以上、逃げられないのはお察しの通りなんですが。

「お二人もいなくなったことですし……真宵さん?」

急に呼びかけられました。
びっくりしましたけど我慢です。
悲鳴を上げそうにもなったし体が震えそうにもなりましたけど我慢です。
この方とお話ししてはいけないような気がしてならないのです。
私の一方的な思い込みかもしれませんが、とにかく怖いのには変わりありませんし。

「寝ているふりをしているのはわかってるんですよ。起きないと殺し……は駄目ですね、何もしないと言ってしまいましたし」

182君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:19:03 ID:fnbUZSQ20

今さらっと殺すって言いましたよ!
怖い怖い怖い怖い怖い!
幸か不幸かご自身の言ったことは守るつもりのようですので何かされるということはなさそうですけど。

「脅し……ても意味はなさそうですし、そうですね、こうしましょうか」

こちょこちょこちょこちょ。
言うが早いか私の太もも、スカートと靴下の間の地肌が露出している部分をくすぐってきました。
これには勝てるはずもなく。

「ひゃうっ!」
「あら、おはようございます」

……しまりました。
もう寝たふりはできません。
覚悟を決めました、腹を括ります。

「何もしないのではなかったのですか……?」
「言葉のあやですよ、現にわたしはあなたを傷つけてもいませんし殺してもいません。それに、話もちゃんと聞いてたようですしね」
「……あ」

括った矢先にほどかれました。
でも、何もしないというのが本当なら私にも立ち向かう余地があります。

「別にわたしはあなたが寝たふりをしていたことについては何も言うつもりはありませんから」
「なら、なんで私と話をしようと思ったんですか?」
「もちろん聞きたいことがあったからですよ。……裸えぷろんとは結局なんなのです?」
「それはさっき球磨川さんが取り出してたエプロン……七実さんは前掛けとおっしゃってましたっけ、それを他の衣服は着ないでエプロンだけをつけることですが」

身構えてたら拍子抜けです。
そんなに気になりますかね、裸エプロン。

「それだけですか?」
「それだけです」

裸体にエプロンをつけるだけでそれ以上の説明はしようがありません。
そもそもさっきからなんで裸エプロンで躍起になってるんでしょう、みなさん。
そして私の答えを聞いた七実さんはというと、

「…………はあ」

それはそれは物憂げでありながらとても彼女に似合いそうなため息をついていました。
それを見て私はどうしてでしょう、一瞬とはいえ美しいと思ってしまいました。

「たかがそれだけのものなのにどうしてお二人は必死に隠そうとしていたのでしょうか」

それはエロいものだからですよ、とはさすがに言えませんでした。
普通ならその答えを聞いた時点で察しがつくとは思うんですけどね。
まあ本人がそう思っているのならいいでしょう。
無理してイメージを植え付けるものではありません。
戯言さんのためにも。

「前置きはこれくらいにしておきまして」

そして七実さんは話を続けます。
やはり裸エプロンはワンクッション置くためのものだったんですね。
だって、たかが裸エプロンのために起こすのもおかしいではないですか。
あくまで私視点の考えですけども。

183君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:19:25 ID:fnbUZSQ20
「いっきーさんから聞きましたが真宵さん、あなたは幽霊だそうで」

……やはり本番はこれからのようです。





診療所の扉を開けた瞬間に襲ってきたのは異臭だった。
もっと突き詰めて言ってしまえば死臭だった。
少なくとも真宵ちゃんを連れてこなかったことだけは正解と言えるだろう。
もっともぼくは今更死体の一つや二つ見たところで動揺するようなことはないし、それはどうやら僕の方も同様らしかった。

「で、僕はこれをどう見るんだ?」
『別にどうも思わないね。人が死んだ、それだけの話だろう?僕にとってもぼくにとっても』
「全くもって同感だ。知り合いなら多少は話が違ってくるんだけどね」
『僕の知った顔でもないしねえ。というかこの人そこはかとなくモブの匂いしかしないんだけど』
「言っていいことと言ってはいけないことがあるぞ」

ぼくも考えていたけどそこは伏せておくべきところなんじゃないのか。
そもそもぼくらの目的は別にあるわけであって。

『……で、だ。僕たちはもう一蓮托生なわけだけど』
「割合でいえばきみの方が多いのは確実なんだ、諦めろ」
『そうはいかないよ。こうなったら君も道連れだ』
「させるか。そもそもなんで持ってたんだよ、エプロン」
『支給されていた理由を説明なんてできるわけないだろ』
「やっぱり支給されてたのか……他に何支給されたんだ、この後トラブルあったら困るから今のうちに出しておけ」
『他って言っても僕の趣味三点セットの残り二つを出すだなんて……』
「おいなんだその犯罪的な響きは」
『犯罪的だなんて失礼な。手ブラジーンズと全開パーカーは少年ジャンプの表紙だって狙えると思ってるんだぜ』
「みんなの少年ジャンプになんてものを載せるんだ貴様は。あがいても見開きカラーが限界だろ」
『ダメかな?』
「ダメだろ」

エプロンと違ってジーンズとパーカーそれ単体ならそこまで変じゃないというのが不幸中の幸いといったところか。
主催は何を思って支給したんだよ。
こんな場所で一人の性欲を満たしてどうするんだ。
ともかく、ぼくと僕による七実ちゃんへの対策議論がしばらく続いたがそこは割愛。
取っ組み合いにこそならなかったが不毛であったことだけは伝えておこう。
そして場面転換、死体があった場所とは違う部屋。
医療器具やら薬やらを調達しに来たぼくたちだったが、やっぱり同じことを考える人は当然いたわけで。

「根こそぎ持っていかれてないだけマシか……」

包帯や消毒薬の類は全て持ち去られていた。
危険人物が治療するのを阻止するためかはたまた逆か。
考えても仕方ないことではあるが。

『でも解熱剤はあったんだからよかったんじゃない。これから記憶を消すのに意味があるかはしらないけどさ』
「原因を消したところですぐ効果が出るかどうかは別だろう?持っておいて損はないと思うし」
『熱くらい僕がなかったことにしてあげるのにさ』
「やっぱりやってのけるのか、きみは」
『でもなかったことをなかったことにするのはできない、つまり消耗した体力とかは戻らない』
「……ならぼくは薬で済ませとくよ。疲れだけ残っててもかえってストレスを与えかねないし」

下手に熱があった方が風邪でもひいたのだろうと言い訳しやすいだろうという底の浅い考えもあったけれど。
一番はこれ以上こいつに借りを作りたくないから、だった。

184君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:20:48 ID:fnbUZSQ20
『あ、そうだ欠陥製品』
「なんだ人間未満」
『さっきから聞こうと思ってたんだけど、どうして君が僕の携帯を持ってるんだい?』
「え、これきみのなの?」
『僕の持ってるうちの一つなんだけど、それ』
「うち一つって……一応聞くが何台持ってるんだ?」
『全部』
「は?」
『だから全機種』
「キャリアも?」
『もちろん。全部揃えてないと気が済まなくてね』

おいおい。
全種類揃えるって酔狂な金持ちでもやらないぞ。
こいつ、過負荷過負荷言ってるけど背景が絶対恵まれてる側じゃねえか。
おかしいと思ってたんだよ、頭だって決して悪くないし身なりだって整ってないわけじゃないし。
……だからこその精神性の異常さ、否、過負荷さなのか。
ぼくと同じで。

「ああ、そういえば思い出した。ツナギちゃんに教えてもらった掲示板の存在」
『掲示板?』
「なんか参加者同士で情報交換できる掲示板を公開してる人がいるらしい……ぼくには心当たりしかないけど」
『ふーん』

そっけない態度とは裏腹に興味はあったようでネットに接続しようとポケットから取り出した携帯をぼくからひったくる。
自然な動きで。
くそっ、あまりにも自然すぎてしばらく取られたことに気づかなかったぞ。
まあ今となっては緊急性も低いし見たいというのなら先に見ても文句は言わないが。

『…………欠陥製品はまだ目を通してないんだっけ?』
「それがどうした」
『……なんていうか、さあ、本当に……どうしたらいいんだろうね』

ひと通り目を通したのか意味深なセリフと共に携帯をぼくに返してくる。
ぼくはそれを黙って受け取り、画面を見る。
トリップを見て、予想通り玖渚の仕業だったと息をついた。
博士のところというのは斜道郷壱郎研究施設のことだろうけど今あそこは禁止エリアになっているはず……
書き込みは朝だったし今頃は零崎の妹と共に避難しているはずだろう。
あいつのことだ、そうなった場合の対処法だって用意してるだろうし。
だが、人間未満があんな反応を示す理由はまだ見当たらない。
画面を下にスクロール。
……なるほど、おそらくはこれか。
操作していた時間からして動画を見る余裕まではなかったはずだから、読んだのは文字だけだろう。
となると……

「黒神めだか、彼女のことかい?」
「そうだよ。僕がずっと勝ちたいと思っている相手だ」
「思っている、ねえ」
「彼女ならこんなときでもどんなときでも僕とぶつかってくれると思ったのに、なんでこんなことしてるのさ」
「誤報の可能性……はないな。動画貼られてるし、全く玖渚もやってくれたな」
「別に事実なら遅かれ早かれ知られてたんだ、むしろ知れて助かったくらいだよ」
「それでどうするんだ?残念なことにぼくにはきみの気持ちはわからないからね。括弧をつけてもつけなくても。
 尤も、勝ち負けで言うなら既に殺してる彼女の方がきみよりは負けているように思えるけども」
「変わらないさ。僕は黒神めだかに勝つ。僕はいつも通りでめだかちゃんが変わってるだなんてがっかりだ。僕は認めないよ。
 こんなのでめだかちゃんに勝っただなんて言えるわけがない。めだかちゃんと直接対峙して初めて勝負になるんだ、今の段階で勝ち負けなんてつくわけない」
「ぼくも少なからず因縁できちゃったしなあ。会いに行くのならついていくぐらいはしてやってもいいけど」

暦君を殺してしまったとなるとぼくにも無関係とは言えなくなる。
どうやら、すっかり真宵ちゃんのことを他人とは思えなくなってしまったらしい、今更だけど。
しかしそうなると心配なのが真宵ちゃんと翼ちゃんなのだが。
……あれ?これぼく行かない方がいいんじゃないか?

『なら戻らないとね。いつまでも七実ちゃん待たせるのも悪いし』
「そうだな……覚悟決めないと」

とはいってもいつまでもここでぐだぐだと考えているわけにはいかない。
今この瞬間に真宵ちゃんが起きてたら大変なことになっているかもしれないし。
さすがに殺されはしないだろうけど、うん。
ただ、少しばかりの本音のやり取りでわかったことがある。
人間未満、球磨川禊。
彼は勝てないのではない。
価値を認めないし、勝ちを認められないのだ。
そこが、人類最弱でありながら勝つことはできるぼくとの最大の違いだろう。

185君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:21:42 ID:fnbUZSQ20



「最初に言っておきますが、話にちゃんと応じてくれる限りわたしはあなたを殺しませんし傷つけもしません。それが例えふざけた回答でもあなたの身の安全を保障します」

本人が真面目に答えたつもりでも傍から聞くとふざけているように聞こえるというのは古来からよくあることですからね。
わたしはそれについて怒るようなことはないですが。
どんな答えだろうとわたしにとっては同じでしょうから。
ですからわたしは真宵さんにあらかじめ説明しておきます。

「わたしにとって死も痛みも身近な友人です、とは前々から言っていることなんですが厳密には違います。
「痛みは常にわたしに付いて回ってますが、常に共にいますが、死は身近でしかありません。
「言ってしまえば、身近以上に近づくことができないのです。
「二度程死んだ身で言うのもなんですがね。
「この死にぞこないの体は、この生きぞこないの体は、常にわたしを死から一定の距離に置き続ける。
「近づこうと思っても死にぞこないの体が邪魔をし、
「遠ざかろうと思っても生きぞこないの体が妨げる。
「ですからわたしは弟に殺してもらうために島を出ました。
「国中を回り、あちこちを踏み躙り、虚刀流でありながら刀を手にしてまで、死のうとしました。
「結果どうなったか、ですか?
「死ねましたよ、ええ。
「一度目の死はそれによるものです。
「それで満足できたらよかったんですけどね。
「最期で噛んじゃったんですよ。
「心残りがよりにもよって最後の最期でできてしまって。
「それだけのことでと思うかもしれませんが、わたしにとっては重大な問題です。
「こうして生き返ったのもまたとない機会ですので再びわたしは弟探しを再開しました。
「もちろん再び殺してもらうためです。
「一度しかないはずの最期をやり直すためです。
「最初はそのつもりでした。
「今もそのつもりのはずです。
「ですがどうやらわたしは錆びされたようで。
「禊さんか、その前の人識さんか、はたまた最初の出夢さんか。
「あるいは三人全員か。
「そんなものは些細な問題ですがわたしはとにかくほだされました。
「ぬるい友情につかるのも悪くないと思ってしまっています。
「あら、話がずれてしまいましたね。
「長話はどうも苦手で。
「何を聞きたいのかわからない顔をされていますね。
「手っ取り早く言ってしまうなら、死んだ後とはどういう状況なのでしょうかということです。
「わたしがここに来る前も、ここに来て橙色に殺された後も、死んでいる間の記憶はありませんから。
「参考までに聞きたいのですよ。
「あなたは言ってしまえば死んだ後も死に続けているようなものですから。
「だってそうでしょう?
「死んで別の存在になったというわけではなく生き返ったわけでもないのなら死んでいるとしか言いようがないのですし。
「わからないというのでしたらそれで結構ですが、あなたから見た感想とか感触でいいから聞きたいのです。
「本来聞くのは専門分野ではないのですが、得られるものがあるなら得たいと思うのは当然です。
「今までも結局そうして得てしまいましたしね。
「もう一度言っておきますが、ちゃんと答えてくださるのならば、わたしはあなたに何もしません。
「ねえ、真宵さん。
「幽霊とはどういう心地ですか?」

186君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:22:33 ID:fnbUZSQ20

わたしは真宵さんに問いかけました。
真宵さんはわたしの言葉をゆっくりと咀嚼して、唸り、返します。

「始めに言っておきます。
「私は嘘をついています。
「どういう嘘かはわかってもいいしわからなくても構いません。
「その嘘だって今もつき続けている状態かどうかは怪しいですが。
「あなただから言うのではなく戯言さんには聞かれたくないから今話すのです。
「記憶を消されてしまっては話すことができなくなりますからね。
「もちろんあなたの質問に対しては真摯に答えますが。
「怖いですからね。
「まずは私の背景を説明させてもらいます。
「七実さん、あなたもしたのですから私もしてはいけない理由はないでしょう?
「と言ってもすぐ終わるとは思います。
「わからない単語もあるかもしれませんがあなたはそれを気にする人ではなさそうですし。
「ある年のこと、小学五年生、当時十歳だった八九寺真宵は母の日に離婚してしまった母親に会いに行こうと単身家を出ました。
「途中、ある交差点で青信号だったにも関わらずトラックに轢かれました。
「そして死にました。
「人間、八九寺真宵のお話はこれでおしまいです。
「それから、私は迷い牛という怪異となって彷徨い続けました。
「人を迷わせ、自分を迷わせ、いつまでも目的地に辿り着けませんでした。
「そんな日々も唐突に終わります。
「彷徨い始めてちょうど十一年後の母の日、とてもとてもお人よしな阿良々木暦という高校生のおかげで私はお母さんの家に辿り着くことができました。
「正確には戦場ヶ原ひたぎさんという立役者もいらっしゃいましたが阿良々木さんがいなければ解決することはありませんでした。
「その日を境に私は迷い牛という怪異ではなくなりました。
「幽霊であることには変わりませんが、人を迷わすことはなくなりましたし、また私も迷うことはなくなりました。
「阿良々木さんの家にお邪魔することだってできるようになりました。
「質問ですが、幽霊がどういう心地なのか、でしたっけ?
「はっきり言ってしまえば変わりませんよ。
「気づかれないことがほとんどですが、特定の何人かとお話するときはいつも通りです。
「喜びますし、怒りますし、哀しみますし、楽しみます。
「生きている人間となんら変わりありません。
「求めていた答えとは違うかもしれませんが、私にとってはこういうことです。
「幸せか不幸せか、ですか?
「間違いなく不幸せですよ。
「ただ、幽霊になったことで阿良々木さんに出会えたことは幸せです。
「同じようにこんな殺し合いの場に招かれたのは不幸せですね。
「その中であなたや球磨川さんのような方に出遭ってしまったことも不幸せです。
「ですが、最初に戯言さんに会えたことは幸せですし、その次にツナギさんに会えたことも幸せです。
「三人でいた間はとてもとても楽しかったですし。
「ですから、私の記憶を消させはしません、絶対に。
「以上が、私の結論です」

そう締めくくって真宵さんはまっすぐにわたしを見つめます。
当然ですが、聞いていますよね、記憶についても。

「……はあ」

わたしはため息をつきます。
真宵さんの話がつまらなかったからというわけではありません。
むしろ興味深く聞かせていただきましたよ。
役に立つ立たないは別として、ですがね。
原因はあれです、わたしの視界の中でちょこまかと動き回っている四季崎です。
わたしと真宵さんの話を聞いてそれに一喜一憂しているのがものすごく目障りです。
消そうとすると途端にかしこまるのにちょっとおもしろく思ってしまうのが癪ですが。

187君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:23:31 ID:fnbUZSQ20
「なるほどありがとうございました。記憶については当事者同士で話し合ってくださいな。わたしは誰の味方もしませんから」
「もちろんそのつもりです。きっと戯言さんは反対するでしょうが、私が決めたことですから」
「なら決断は早く済ませてしまいなさい。戻ってこられたようですし」

診療所の方を見れば二人とも凛々しいお顔。
そういえば裸えぷろんについて言い訳を期待してると言ってしまいましたね。
真宵さんから答えを聞いてしまったのですっかり忘れてしまっていました。
ここは再び出鼻を挫くとしましょうか。
おや、いっきーさんが慌てたように駆け寄ってきます。
ああ、真宵さんが起きてるからですね。
ですが、わたしは何も疚しいことはしていませんし真宵さんもそう証言してくれるでしょう。
それよりも問題は――

「真宵ちゃん!大丈夫!?」
「ぅうーーん……ここは……?」
「おいおいなんだ、こんな大所帯になってるなんて俺は聞いてなかったんだがよ、欠陥製品」

目を覚ました羽川さんと戻ってこられた人識さん(なぜか同行者がいるようですが)にどう対処するか、ですかね。


10


処理しなければいけない事態が一度に重なる中、ぼくが真っ先に選んだのは真宵ちゃんの容態の確認だった。
目が覚めてそこが七実ちゃんの膝の上でぼくがいないなんて状況じゃパニックを引き起こしてもおかしくない。
だからこそ、急いでドアを開けて呼びかけたのだけど、

「私は大丈夫ですよ、戯言さん」
「本当に……?」

真宵ちゃんは至極冷静だった。
今しがた起きたばかりとは思えないくらい。

「ええ、本当に大丈夫です。七実さんも私に何もしてませんから」

七実ちゃんを見ると目線で伝えてきた。
どうやら事実らしい。

「でも顔色は悪いままじゃないかっ……!」
「体調が優れないだけで思考は正常です」

はっきりと大丈夫だ、と意思表示してぼくを見つめてくる。
視線はしっかりとしているしているようだし、その思いは本物なのだろう。
だが、隠しきれていない焦燥が伝わってくる。
強がっているのがわかってしまう。
そもそも真宵ちゃんの態度だって起き抜けにしては異常すぎるのだ。
なんていうか、ある程度話、いや、状況を把握していたような……まさか――

「真宵ちゃん、いつから起きてたの……?」
「……やっぱりバレてしまいますか」
「まさかとは思うけど、最初から聞いていたなんてことは」
「さすがに最初からは無理ですよ。覚えてるのは球磨川さんの頭が吹き飛んだあたりから、ですかね」

そのあたりから、となると記憶云々についても聞いてしまってるわけで……

「あの、お取り込み中のところ悪いんですけれど、あなたがたは真宵ちゃんとはどういう関係で?」

考えを巡らせているうちにぼくが車のドアを開けた衝撃で目覚めたらしい翼ちゃんが話に割って入ってくる。
今の口ぶりからしてぼくのことを知らないみたいだけど……

188君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:24:06 ID:fnbUZSQ20
「真宵ちゃんとは知り合ったばかりで、そこまで説明できるような仲ではないですよ」

事実しか述べていない。
実際出会ってからまだ18時間も経過していないのだ。
それに、この関係を一言二言で説明できる間柄でもないし。

「わたしもつい先程知り合ったばかりですね。いっきーさんには及びませんが」

七実ちゃんも翼ちゃんの質問に答える。
そういえば、「あなたがたは」って聞いていたっけ。
質問の対象に七実ちゃんが含まれるのも当然か。
にしても、七実ちゃんが素直に答えるとは思わなかった。
さっきは文字通りの意味で殺し合いしてたのに。
ん、七実ちゃん、なんか迷惑そうにしてないか……?

「あ、ええと、申し遅れました。私、羽川翼と申します。初対面で不躾かとは思いますが、いくつか質問してもよろしいでしょうか?」

「初対面」
これはぼくの懸念は確定と見ていいだろう。
思わず真宵ちゃんと顔を見合わせるが、同じことを考えていたようだった。

「……別に構わないけど」
「ではお言葉に甘えさせていただきますね。まずはあなたがたの名前、次にここがどこか、最後に……私がどうしてこんな格好をしているのか」

尤もな質問だった。
ただ、この様子だとここが殺し合いの会場だということも認識していないらしいし、下着姿から装束に変わった理由だってぼくの与り知ることではない。
殺し合いのことを伝えるということは必然、思い人である暦君が死んでしまったことも伝えなくてはならないわけで……

「わたしは鑢七実といいます。ここがどこか、はわたしも知りません。服装……は元々の服が濡れてしまって中に入ってたそれを着たからだとか」

どうしたものかと考えている隙に七実ちゃんが答えていた。
おそらくは知り得ない情報を知っていることといい、やはりさっきから七実ちゃんの様子がおかしい。
ある種のうっとうしさみたいな感情が滲み出ているし。
例えるなら、周囲にまとわりつく小蝿を煙たがるような――

「鑢さんですね、ありがとうございます。それで、あなたは……?」
「名簿には戯言遣いの名で載っているけど、もちろん本名じゃない。まあ、気軽にいーさんとでも呼んでくれればいいよ」

「彼女」に呼ばせていた名を出すのに抵抗がなかったと言えば嘘になるけど、一番しっくり来るだろうとは思ったから提案させてもらった。
なに、実際にぼくのことをなんて呼ぶかは翼ちゃんの自由だ。
しかし、目のやり場に困る。
ただでさえサイズがでかいというのもあるが(何が、とは言わないでおこう。ぼく自身のために)、七実ちゃんが貫いた跡が生々しく残っているというのが……

「……そうだ。おーい、球磨が……わ?」

あいつの持っているジーンズとパーカーならまともな着替えにはなるだろうと今更のように思い出したぼくは振り返る。
振り返って、止まる。

「何やってんだよ、零崎」
「ただの八つ当たりだよ、かはは」

人間未満はのびていた。
位置関係からして、零崎に殴られたとみて間違いないが……
ぼくの知らないところで何かやってたんだろう、きっと。
十中八九人間未満の自業自得であるようなことを。
なら仕方ないな。

「とりあえずそいつの荷物もらっていいか」
「おうよ」

189君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:24:41 ID:fnbUZSQ20
零崎は仰向けの人間未満を乱暴にひっくり返して背中を出すと背負っていたデイパックを剥がし、ぼくに投げてよこした。
それをキャッチしてそのまま翼ちゃんに渡す。

「えーと、今は急ぎでもないし格好が気になるなら着替えてきたらどうかな?中にパーカーとジーンズはあるはずだし少なくともそれよりはマシだと思う」
「あ、はい。話は後で詳しくお伺いしますがよろしいですよね?」
「もちろん」

ぼくから返事とデイパックを受け取ると翼ちゃんは診療所へ一直線に向かって行った。
やはりあの格好は恥ずかしかったのだろう。
寝起きで周囲に気を配る余裕もなかったようだし、零崎たちよりも更に離れた距離から向かってくる視線にも気づいてないみたいだ。
さて。
診療所の扉が閉まる音を確認したぼくは一歩下がり、目線を車内から車の後ろへ飛ばす。

「きみが戦場ヶ原ひたぎさんだよね。違うかな」
「ええ、その通りよ。初めまして」

こっちは正真正銘の初対面だ。
……あ、診療所には死体があったの忘れてたけど翼ちゃん大丈夫かな。


11


とにかくわからないことが多すぎる。
建物の中に入ったはいいが、扉を閉めたあと座り込んでしまいそこから先へ進もうとは思えなかった。
私の記憶は阿良々木くんを公園に呼び出して学習塾跡に向かい、そこで忍野さんと共に教室に入ったところで途切れている。
あのとき頭に猫耳が生えていて……そうだった。
思わず頭に手をやる。
触れた頭の感触はさらさらとした髪の毛のものだけで鏡を見なくてもわかる。
どうやらひっこんでいるらしい。
いーさん(呼び名が妙にしっくりくる。なぜだろう)や鑢さんの反応がどうにもひっかかったので何か話していないかと扉に耳をつけてそばだててみる。
……距離があって音が聞こえてくるのもやっとのようだ。
確か扉の右側に窓があったはずだと思い出してすぐそばのドアを開けると記憶通り窓があった。
塀があったから外から簡単には見えないだろうとは思ったけど、用心してゆっくりと少しだけ窓を開ける。

『 去法    …………知り合いも  ……    ……零崎     ら敵………………    予想は    』

聞こえてきた音は集中すれば聞き取れる文章に昇華されていく。
今のは『消去法だよ。生憎ぼくの知り合いもここには結構いてね、零崎の態度から敵対してるわけじゃないと予想はついたし』といったところか。
ここがどこかわからないのに知り合いがいるとはどういうことだろうか?

『なる…………  ……    私……定でき    …………いはず 』

戦場ヶ原さんの声だ。
いつの間にいたのだろう。
いや、私が気付かなかっただけか。
『なるほどね、でもそれだけでは私を特定できる根拠にはならないはずよ』、そう言ったのかな?
耳が慣れてきたようで何を話しているかがわかるようになってきた。

『実際ヤマを張ったのは事実だよ。でも特徴がそうも被ることはないだろうと思ってね』
『そういえば彼女のことを真宵ちゃんと呼んでいたわね。つまりその子が八九寺真宵さんだと』
『おかしな言い方をするね。面識が一方的にしかないみたいだ』
『私にはあのとき見えなかったから……今はどうしてか見えるみたいだけれど』
『……ふうむ。話は変わるけど掲示板の書き込みはきみのものだよね?』
『ええ、そうよ。でもそれがどうかするのかしら?』
『別にどうもしないさ。ただ質問させてもらいたんだけどきみは黒神めだかをどうしたいんだい?』
『殺すのよ』

190君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:25:11 ID:fnbUZSQ20
「殺す」という単語を聞いて思わず体が強張る。
あの声色の戦場ヶ原さんは間違いなく本気だ。
しかし、何があったら戦場ヶ原さんをそこまで駆り立てるのだろう。

『それは暦君のためかい?それとも自分のためかい?』
『強いて言うなら両方かしら。阿良々木くんを殺した黒神めだかを――』

そこから先は聞き取れなかった。
腕が震えて持っていたデイパックを取り落す。
最初は何を話しているかさっぱりわからなかったけど、話を聞くにつれ理解した。
ただ一点、理解できてしまった。
阿良々木くんが死んでしまったことが。
殴られたような衝撃。
頭が真っ白になる。
呼吸が荒くなって再び壁を背に座り込んでしまう。
ふと右手と左手で触れた感覚が違うことに気づき見やると右手がデイパックから飛び出たタブレットに触れていた。
しかも電源スイッチを押してしまったようで、画面が光っている。
タブレットを持ち上げると掲示板という文字が飛び込んできた。
さっき聞こえたのはこれのことだろう。
恐る恐るスクロールしていくとどんどん情報が私の中に入ってくる。
その中で私にとって重要なのは、阿良々木くんが黒神めだかという人に殺されてしまったということ。
更に下のスレッドを見て息をのんでしまう。
脳が警鐘を鳴らしているのとは裏腹に私の指は阿良々木暦という文字列の隣にあるリンクに近づいていく。
指が画面に触れると同時に動画のダウンロードが始まり、10秒足らずで再生が始まった。





「――――はっ、はっ、はっ、はっ」

思わず息を止めていたらしく、今になって体が酸素を欲しがる。
阿良々木くんだけでない、忍ちゃんも殺されていただなんて。
あの姿が春休みに見たものと変わらない、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードであったことも私だからわかってしまう。
それを殺してしまうだなんて……彼女は一体どういう存在なのだ?
いや違う、今考えるべきはそれではない。
頭が混乱しているようで一度に襲い掛かってくる情報の波に対処しきれていない。

「……一度着替えよう」

今更のようにここに入った目的を思い出しタブレットが入っていなかった方、いーさんから渡された方のデイパックに手をつっこむ。
確かジーンズとパーカーはあると言っていたはずだから……
そう思った刹那、布の感触が伝わる。
取り出してみると手にはグレーのパーカーと無地のジーンズがあった。
ちゃんと着てみないことにはなんとも言えないが、サイズはなんとかなりそうだ。
暗い室内の中、部屋の電気も点けるのも忘れてタブレットの仄かな明かりだけを頼りに服を脱ぐ。
この行為は紛れもなく現実逃避であり。
それ以外の何物でもなかった。

191君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:26:28 ID:fnbUZSQ20
12


「うん、ぴーちゃんなら大丈夫だと思うから、舞ちゃんのこと頼むね。それから、後でメール送っておくよん」

ぴっ。
さてと。
潤ちゃんのデイパックの中に首輪も工具も入っていただなんてびっくりっていうかがっかりだったよ。
さすがに潤ちゃんに支給されたわけじゃないとは思うけどね。
だってそれじゃあ一発で終わっちゃうもん。
まあ何か道具を使わないと死体とはいえ首輪を外すのなんて僕様ちゃんの腕力じゃ不可能だしねえ。
もっと言っちゃえば首を切ろうとしても刀を持つのだって危ういし。
でも、サンプルが増えたことは助かったんだしポジティブに考えないとね。
いずれにしても外された状態の首輪があるだけでもかなり変わる。
やっぱりとは思ってたけど、この首輪は完全に閉じているわけじゃない。
ほんっとうに細くだけど線が入っている。
いくら素材が衝撃に強くてもその衝撃が首輪の内部だけで完結してしまっては意味がない。
そこで出口を一ヶ所だけ作ってしまえば生まれた衝撃は全てそこに集約される。
最初の場所で首が吹き飛んだのだって集まった衝撃の余波だと考えれば納得できるし。
水が入っても大丈夫なのは構造が二重になってるからかな?
衝撃には弱くても耐水はしっかりしている素材で爆薬や機械の部分を覆ってしまえば例え水中で爆発しても問題ないだろうしね。
むしろ入り込んだ水がカッターになって威力が上がりそう。
でもその場合電波の届かない水中でどうやって爆破するかなんだよなあ。
最初の放送で海があるエリアを禁止エリアに指定してきたってことは、海中でも爆破はできるってことなんだし。
それ以上の問題として、首輪のつなぎ目が見つからないってのがあるけどね。
通常じゃ見ることのできない内側から見てもそれらしいものは見当たらなかったし。
おかげで真庭狂犬の首輪を外すこともできなかったしさ。
巧妙にコーティングされている可能性もあるにはあるけどね。
使えそうな工具がマイナスドライバーとしかなかったから線に突っ込んでみたけど歪みもしないあたり僕様ちゃんにはこれ以上手出しはできなさそう。
ただ、わざと工具を支給してたりこうやってネット環境を整備してるあたり主催は僕様ちゃんたちが首輪を解除するのを当然と見ているのかな?
そうやって考えると案外どこかにそのまま首輪解除に繋がるような道具が支給されてるのかもね。
既に壊れてる可能性やマーダーが持ってる可能性は大いにあるから期待はするもんじゃないけど。
ぴーちゃんにしーちゃんの電話番号を書いたメールを送信っと。
あっ、いーちゃんから電話かかってきた!
もう、メールに気づくのが遅いんだよー。
いーちゃん僕様ちゃんの声聞いてどんな反応してくれるかなー。
通話ボタンをポチっとな。

『もしもし、友か?』
「ちぇー、いーちゃん驚いてくれると思ったのに」
『もっと早くメールを送ってくれれば驚いたかもな』
「それにしたっていーちゃん気づくのが遅いんだよ。ぶー」
『とりあえず教えて欲しいことはあるか?』
「んーっとね、まずはいーちゃんのいる場所、それからしーちゃんとひたぎちゃん以外に誰がいるか」
『診療所の前だよ。で、ここにいるのは零崎とひたぎちゃん以外だと八九寺真宵ちゃん、羽川翼ちゃん、鑢七実ちゃんと球磨川禊、以上四名だ』
「うわお。大所帯だねー、さすがはいーちゃん」
『零崎にも言われたよ。そもそもなんで零崎たちがいるってわかったんだ?』
「じゃないと開口一番僕様ちゃんの名前出さないでしょ。目の前に教えた本人がいるなら別だけど」
『……その通りだよ。零崎のにやにやした顔がすっごくむかついてたところだ』
「それで、今度はいーちゃんの番。僕様ちゃんに聞きたいことは?」
『まずはおまえと同じ質問にしておくよ』
「りょーかい。今僕様ちゃんがいるのはネットカフェで形ちゃん――宗像形と一緒にいるよ……って言っても形ちゃん頑張りすぎたみたいで今寝てるんだけどね」
『じゃあしばらく動けなさそうか?』
「そういうことになるねー、一応ランドセルランドでぴーちゃんや舞ちゃんと待ち合わせしてるんだけどさ。あ、しーちゃんに聞けば誰のことか教えてくれると思うよ」
『ランドセルランド……やっぱりぼくも向かった方がいいか』
「もちろんだよ。じゃないと僕様ちゃんいいかげん充電切れちゃうよ」
『車が小さいから詰め込んでも5人が限界なんだよ。そうでなくても翼ちゃんの様子がおかしいし――え、代われって?』
「何?どしたの?」
『ちょっと伝えるべき事柄ができたから代わっててもらったわ』
「あ、ひたぎちゃんか。それでその伝えるべき事柄って?」

192君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:27:17 ID:fnbUZSQ20
『信憑性は低いけれども、黒神めだかについて』
「……なるほどね。掲示板を経由しないで手に入れる手段があったのかな?」
『おそらくは特定の電話にしかない機能だとは思うけれど、無作為に繋がる機能があって』
「それで黒神めだかと繋がった――わけじゃなさそうだね」
『繋がったのは供犠創貴という人よ』
「ああ、『魔法使い』使いか」
『……?とにかく、偶然繋がった彼と話したのだけれど、これからランドセルランドで黒神めだかと合流する手筈になっているらしいわ』
「黒神めだかと合流?そんなことができるなんて本当?」
『どういうわけか正気に戻ってるらしいわ。――しかも抜け抜けと殺し合いを止めようとしているんだとか』
「それはどれくらい信用していいのかな?」
『半信半疑未満ね、身構えておくには損はないくらいの』
「まあそれが妥当だろうしねえ。あ、いーちゃんに聞くよりあなたに聞いた方がよさそうだから聞いておきたいんだけど、羽川翼さんについてなんだけど」
『羽川さん……?そういえばまだ着替えから戻って……あ、今出てきた――こっちの話よ。遠目からでしかわからなかったけれど、すごくおかしかったわ』
「もうちょっと具体的に言って欲しいんだけどね」
『警戒して接触を避けていたからね、いつもの彼女らしくなかったとでも言えばいいのかしら。……まああなたのいういーちゃんこと戯言さんに聞いた方が早そうね』
「いーちゃん翼ちゃんって呼んでたもんねえ。悪いけどもっかい代わってもらえる?」
『いいわよ。でもその前に一つ確認、あなたはランドセルランドに向かうつもりは?』
「あるよ、一応待ち合わせしてるしねー。形ちゃんに言えば連れてってくれるだろうし」
『了解したわ。それじゃあ代わるわね』
「ふふっ、ありがとうね」
『こちらこそ。……………………もしもし、代わったよ』
「それじゃさっきの続き、羽川さんはどこがおかしかったのかな?」
『一言で言うなら記憶喪失だ』
「それは全部?それともこの殺し合いが始まってから?」
『……多分後者だな。真宵ちゃんとは面識あったし』
「ふうむ。……ねえ、いーちゃん、白髪で猫耳の生えた羽川さんには会った?」
『なんで情報を持ってるかについてはもう聞かないでおくが……会ったよ、二回』
「それで戻るようなきっかけみたいなことってあった?」
『死んだよ』
「死んだ?」
『ああ、紛れもなく死んだ。胸を貫かれてたんだ、死んでない方がおかしい傷だった』
「で、生き返ったんだ」
『そこまでお見通しか』
「球磨川禊がいるってそういうことでしょ?」
『どこまで知ってるんだよ……』
「形ちゃん経由で詳細名簿見せてもらったからね。診療所の中で死体になってる浮義待秋のことまで全員」
『……恐れ入るよ。ところでわざわざ連絡するように仕向けたのも質問をしあうためじゃないだろう?』
「まあねー。いーちゃんはこれからどうするの?用がないならランドセルランドに来て欲しいんだけどさ」
『おまえに会えるなら向かうことに異論はないところなんだけどね。人間未満――球磨川も反対する理由はないだろうし……ただ』
「八九寺真宵と羽川翼が心配だ、と。阿良々木暦が死んじゃってるからね」
『そういうことだ』
「連れて来ちゃえば?」
『あっさり言うんだな』
「本当なら来ないでって言ってたくらいなんだけどね。正気に戻ってるんだっていうなら尚更」
『なら……』
「事情が変わったんだって。今のいーちゃんには味方かどうかは知らないけど敵に回らない人はいるでしょ?」
『いるにはいるが……敵に回らなくても十分迷惑なやつもいるんだが』
「いーちゃんだってそうじゃん」
『触れてほしくないことを』
「でも僕様ちゃんはそんないーちゃんが大好きなんだからねっ。それじゃランドセルランドで待ってるよん」

193君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:27:49 ID:fnbUZSQ20
ぴっ。
まさかひたぎちゃんから情報を貰えるとは思わなかったけどこれは大収穫かもね。
ぴーちゃんから聞いたDVDの本数が28だってことはその時点での生存者は17人。
うち7人がいーちゃんのとこにいて残り10人のうち5人が僕様ちゃん達と真庭鳳凰、そして供犠創貴、水倉りすか、真庭蝙蝠が行動を共にしていると考えていい。
そして所在が割れていない残り二人に黒神めだかが含まれていないなんて楽観的な考えはできないしねえ。
黒神めだかは生きていると仮定して、となると残り一人は誰でどこにいるのかなっと。
形ちゃんが起きたら連れてってもらわないとね。
黒神めだかに会えるよって焚きつければ大丈夫だろうし。
早くいーちゃんに会いたいなー。
……あ、そういえば形ちゃんから貰わなかったけどあのトランシーバーどこに繋がってたんだろ?


【1日目/夕方/D-6 ネットカフェ】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]身体的疲労(小)
[装備]携帯電話@現実
[道具]支給品一式、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット@現実、首輪、ランダム支給品(0〜5)
[思考]
基本:いーちゃんに害なす者は許さない。
 1:形ちゃんが起きるのを待ってランドセルランドに連れてってもらう。
 2:もう黒神めだかの悪評を広めなくても大丈夫かな?
 3:黒神めだかと『魔法使い』使いに繋がり?
 4:形ちゃんはなるべく管理しておきたい。
[備考]
 ※『ネコソギラジカル』上巻からの参戦です
 ※箱庭学園の生徒に関する情報は入手しましたが、バトルロワイアルについての情報はまだ捜索途中です
 ※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを凡そ理解しました
 ※言った情報、聞いた情報の真偽(少なくとも吸血鬼、重し蟹、囲い火蜂については聞きました)、及びそれをどこまで理解したかは後続の書き手さんにお任せします
 ※掲示板のIDはkJMK0dyjが管理用PC、MIZPL6Zmが玖渚の支給品の携帯です
 ※携帯のアドレス帳には櫃内様刻、宗像形、無桐伊織、戦場ヶ原ひたぎ、戯言遣い(戯言遣いのみメールアドレス含む)が登録されています
 ※ハードディスクを解析して以下の情報を入手しました
  ・めだかボックス『不知火不知』編についての大まかな知識
  ・不知火袴の正体、および不知火の名字の意味
  ・主催側が時系列を超越する技術を持っている事実
 ※主催側に兎吊木垓輔、そして不知火袴が影武者を勤めている『黒幕』が存在する懸念を強めました
 ※ハードディスクの空き部分に必要な情報を記録してあります。どんな情報を入手したのかは後続の書き手様方にお任せします
 ※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。内容は完全に記憶してあります
 ※参加者全員の詳細な情報を把握しています
 ※首輪に関する情報を一部ながら入手しました
 ※浮義待秋の首輪からおおよその構造を把握しました。真庭狂犬の首輪は外せてはいません
 ※櫃内様刻に零崎人識の電話番号以外に何を送信したのかは後続の書き手にお任せします

【宗像形@めだかボックス】
[状態]睡眠中、身体的疲労(中) 、精神的疲労(中)、殺人衝動喪失、左腕(肘から先)欠損、腹部に切り傷、各部に打撲と擦過傷(怪我はすべて処置済み)
[装備]千刀・鎩(ツルギ)×536@刀語、スマートフォン@現実、ゴム紐@人間シリーズ
[道具]支給品一式×3(水一本消費)、薄刀・針@刀語、トランシーバー@現実、「包帯@現実、消毒用アルコール@現実(どちらも半分ほど消費済み)」(「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:阿良々木火憐と共にあるため『正義そのもの』になる。
 0:…………。
 1:主催と敵対し、この実験を阻止する。
 2:伊織さんと様刻くんを助けに行かないと……
 3:『いーちゃん』を見つけて合流したい。
 4:黒神さんを止める。
 5:殺し合いに関する裏の情報が欲しい。
[備考]
※生徒会視察以降から
※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを玖渚から聞いた限りで理解しました
※阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
※無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※携帯電話のアドレス帳には櫃内様刻、玖渚友が登録されています
※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。誰が誰にどうやって殺されたのかは把握しています

194君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:28:21 ID:fnbUZSQ20
13


木々の間を掻き分けるようにして……ではなく、枝から飛び降りてその男は現れた。
僕には心当たりは一切なかったが、蝙蝠だけでなくりすかも反応したところを見ると相手が誰かは絞られる。
いや、一人に断定してしまってもいい。
鑢七花、で間違いないだろう。
だが、この身なりはなんだ?
男なのに女性ものの着物を着てる……のはまあいいが、泥水を全身に被ったかのように汚れているし漂う異臭が尋常ではない。
肩で息をしながらも放つ殺気とは別の理由で近づきがたいものがある。

「きゃはきゃは、やっと出会ったと思ったらそんななりになってるとはよお、虚刀流」
「誰かと思ったらその笑い方……真庭蝙蝠か。忍法骨肉細工でどこかの誰かに変態してるんだろ?」
「あ?なんでお前が俺の忍法を……」
「鳳凰との同盟におまえは入ってなかったし今ここで殺すのに理由はいらないんだよな。そこの女も血を出さないようにすればあんなことにはならないだろうし……」

まずい。
「あんなこと」が空間移動のことならまだいいが大人りすかのことを指してるならばこいつも掲示板の動画を見ている。
そして何気なく言った「殺す」という単語。
間違いなく殺して回っている側だ。
幸い手持ちの武器はそれなりにあるし、今ここで排除することになんら問題はないだろうとグロックに触れたそのときだった。

ぼたり、と鑢七花の背後の木の枝が折れた。

細い枝が折れるのならまだわかるが、それなりに太い枝だったし現れてから落ちるまでのタイムラグがありすぎる。
そもそも枝が落ちてぼたりだなんて音がするのもおかしい、と枝を見れば根本が溶けていた。
待て待て、枝が溶けるだなんてどうやったらそんなことになるんだ。
警戒が確信に変わる。

「逃げるぞ、蝙蝠!」
「キズタカ、逃げるのっ!」

そしてりすかも同じことを考えていたようで、声が重なった。
蝙蝠は少し逡巡したようだが、結局は僕とりすかを担いでくれた。

「理由は移動しながらでいいよな?」
「今でも構わねえぞ」
「その前にまずは確認だ。原因はあいつが被ってた泥、でいいよな?」
「だと、思うの」

逃げることを決めた理由を蝙蝠に説明するのと同時にりすかから確認を取る。
溶ける、ということは溶解か腐敗か。
なんであれ『分解』に類するものと見ていいだろう。
そうなるとりすかにとっては天敵だ。
この見立ては間違っていなかったらしく、付いていた血から魔力がなくなったとりすかが進言してくれた。
それでも蝙蝠はなぜ逃げるのかについては不服だったようだが。
時間が足りなかったのと被っていた泥のせいでうまく観察できず変態できなかったとぼやいていた。

「こっちには絶対に折れない曲がらない錆びないって刀があるんだから勝ち目はあったとは思うぜ?」
「確かにそうかもしれないが、それを使うお前は折れるし曲がるし錆びるだろう」
「……なんだ、俺を心配してくれてたのか?」
「そんなんじゃない」

195君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:29:02 ID:fnbUZSQ20
【1日目/夕方/E-5】
【供犠創貴@新本格魔法少女りすか】
[状態]健康
[装備]グロック@現実
[道具]支給品一式×3(名簿のみ2枚)、銃弾の予備多少、耳栓、書き掛けの紙×1枚、「診療所で見つけた物(0〜X)」、心渡@物語シリーズ、シャベル@現実、
   アンモニア一瓶@現実、携帯電話@現実、スーパーボール@めだかボックス、カスタネット@人間シリーズ、リコーダー@戯言シリーズ
[思考]
基本:みんなを幸せに。それを邪魔するなら容赦はしない
 0:今は鑢七花から逃げる
 1:ランドセルランドで黒神めだか、羽川翼と合流する、べきか……?
 2:ツナギ、行橋未造を探す
 3:このゲームを壊せるような情報を探す
 4:蝙蝠の目的をどう利用して駒として使おうか
 5:掲示板の情報にどう対処すべきか
[備考]
 ※九州ツアー中、地球木霙撃破後、水倉鍵と会う前からの参戦です
 ※蝙蝠と同盟を組んでいます
 ※診療所でなにか拾ったのかは後続の書き手様方にお任せします(少なくとも包帯や傷薬の類は全て持ち出しました)
 ※主催者の中に水倉神檎、もしくはそれに準ずる力の持ち主がいるかもしれないという可能性を考えています
 ※王刀の効果について半信半疑です
 ※黒神めだかと詳しく情報交換しましたが蝙蝠や魔法については全て話していません
 ※掲示板のレスは一通り読みましたが映像についてはりすかのものしか確認していません
 ※心渡がりすかに対し効果があるかどうかは後続の書き手にお任せします
 ※携帯電話に戦場ヶ原ひたぎの番号が入っていますが、相手を羽川翼だと思っています
 ※黒神めだかが掲示板を未だに見ていない可能性に気づいていません


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]出血(小)、零崎人識に対する恐怖
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:創貴に従う
 1:創貴と共にランドセルランドへ向かう
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです(現在使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかについての制限はこれ以降の書き手にお任せします

196君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:29:33 ID:fnbUZSQ20
【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]健康、零崎軋識に変身中
[装備]軋識の服全て、絶刀・鉋@刀語
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残る
 0:今は七花から逃げる
 1:創貴とりすかと行動、ランドセルランドへ向かう
 2:双識を殺して悪刀を奪う
 3:強者がいれば観察しておく
 4:完成形変体刀の他十一作を探す
 5:行橋未造も探す
 6:危なくならない限りは供犠の目的を手伝っておくがそろそろ裏切ってもいい頃かもしれない
 7:黒神めだかに興味
 8:鳳凰が記録辿りを……?
[備考]
 ※創貴と同盟を組んでいます
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、元の姿です
 ※都城王土の『異常』を使えるかは後の書き手の方にお任せします
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実の危険性について知りましたが、嘘の可能性も考えています
 ※絶刀は呑み込んでいます
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません


14


「ぅ……おぇっ」

顔を上げればそこには誰もいなかった。
遠くで枝が揺れる音だけが聞こえる。
あいつらが逃げようとしたところをすかさず追撃しようとしたおれだったが、運悪くと言うべきか、狙い澄ましたように吐き気が襲ってきた。
隙だらけになってたが襲われずに済んだのは逃げられたのとおあいこだろう。
蝙蝠が口を開けていたし、あれは呑み込んでいた絶刀を出そうとしてたんだろうから無防備なおれは餌食になっていたかもしれない。
まあ、今のおれでも絶刀を折るくらいは余裕だっただろうから逃げられた方が正直痛かったが。
……いや、この程度で痛いって言うもんじゃねえな。
その点では今のおれの体の方がよっぽど痛い。
とにかく、ここで止まるのだけは今やっちゃいけないことだ。
最後に倒れるにしてもこんな無意味な終わりだけはやっちゃいけねえ。
再び枝を跳び移りながらおれは毒づく。

「本当に、めんどうだ」

197君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:29:56 ID:fnbUZSQ20
【一日目/夕方/E-5】
【鑢七花@刀語】
[状態]『感染』、疲労(中)、覚悟完了、全身に無数の細かい切り傷、
    刺し傷(致命傷にはなっていない)、血塗れ、左手火傷(荒療治済み)、吐き気
[装備]なし
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える
 0:真庭蝙蝠達を追う
 1:放浪する
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る
 3:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない
 4:変体刀(特に日和号)は壊したい
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします


15


俺の悩みを聞いてくれねえか?
いっそ悩みっつーか愚痴って言っちまった方が清々しいのかもしんねーけどよ。
愚痴っつっても至極単純、どうして俺が、気まぐれの権化でもあるようなこの俺が、こうして語り部をやってるかっつーことなんだが。
今までところどころやってたのは他にやってくれるのが一人しかいなかったからだが、今は俺よりも適任がいるだろうが。
自分のことで精一杯?
かはは、言うようになったじゃねーかよ、欠陥製品が。
ただまあ、自分のことで精一杯と言いたくなるような状況であることだけは間違いねーしそう言いたい気持ちもあるのかもな。
俺には全くわからないが。
尤も、この状況をなんとかしろと言われたら確かに俺でも匙を投げたくなるね。
むしろ俺ならこんな状況に陥る前に匙を放り捨てて逃げ出すか。
そもそもどんな状況なのかって?
……そうだな、口喧嘩が二ヶ所で勃発ってか?
どちらも口喧嘩で済んでるからまだ遠巻きに見ていられるんだけどな。
あー、組み合わせとしては欠陥製品と八九寺真宵、ひたぎちゃんとどうやら記憶喪失だったらしい羽川翼の二組。
なんつーか、言い争いに発展するのも仕方ない組み合わせっちゃ組み合わせだな。
そりゃ欠陥製品も周囲まで気が回らねーわけだ。
で、俺以外のやつらがどうしてるかというと、

「起きませんね、禊さん」
「一発キメただけなんだがな……」

こうやって球磨川クンが気絶してる横で仲良くおしゃべりってわけだ。
兄貴の視力を奪いやがったせいで兄貴から本人かどうか疑われかけるわその後ギスギスしまくってやりにくかったわえらく迷惑被ったからな。
そのお礼ってことでアッパーキメてやったらこの通り未だに目を回してる、というわけなんだが。
まだまだぶん殴るつもりでいたのに一発目でこうじゃ気が失せちまう。
そうなると手持ち無沙汰同士で雑談すんのもやむなしな流れになるわな。

「……はぁ」

息をつく音がする。
本当にこういうときだけは美人なんだよな。

198君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:30:31 ID:fnbUZSQ20
「で、これからどうするんだ?一応俺はあんたの弟探すっつー目的を忘れたわけじゃねーんだが」
「今もそのつもりではいるんですけどね。ちょっと他にやりたいこともできてしまいまして」
「ま、こいつと一緒にいたいってんなら反対はしねーよ。人探しも平行してできないってわけでもねーしな」
「あら、珍しい」
「あ?何が珍しいってんだ」
「人識さんなら無理矢理にでも引き剥がして行くかもと思っていましたので」
「だったら朝あの学園で別れたりしねーよ。それに、その間結構いい感じにやってたみたいだし今更やってもな」
「出夢さんは人識さんにとっては大事な方のように見えましたから。それこそわたしと七花の関係みたいに」
「姉弟関係ってか?……当たらずといえども遠からず、だな」
「おかしなことを言うものです。深く聞くのは……やめておきましょうか」
「かはは、人の事情につっこむのはやめとくのが懸命ってもんだ。下手すりゃ鬼が出るからな」
『あ、七実ちゃんおはよう』

話の途中で前触れもなく起きやがった。
予備動作くらい見せろってんだ。

「あら、おはようございます。もう夕方ですがね」
「空気読まずに起きるんだなテメーは」
『僕が素直に空気を読んで起きるとでも思ってるのかい?』
「あーそうだな、すまんかった」
『全く誠意が感じられないね。僕を殴っておいてそれで済まそうというのかい君は?』

そんでもって起き抜けでこんなこと言われると抜かれた毒気が戻ってきやがる。
よし、殴るか。

「そうそう、禊さん。裸えぷろんのことなんですが」
『ぎくっ』

おい。
裸エプロンって何があったらそんな話題になるんだ。
「結構いい感じにやってたみたいだ」っつったの撤回した方がいいかもな……

「真宵さんから聞きましたよ」
『えっ』
「なぜその程度のことを隠そうとしていたのですか?」
『えっえっ』
「禊さんができるということは大して恥ずかしいことでもないのでしょう?余計に隠そうとする理由がわからなくて」

199君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:31:13 ID:fnbUZSQ20
うわ……こいつ実演しようとしてたの?
引くわ。
素で引くわ。

『そ……そう、でも七実ちゃんが気にしないのなら問題ないよね!』
「ですが、隠していたことはいただけません。それについてはしっかりと罰を与えないと」
『……え?』
「どのような罰にしましょうかね……」

あ、これなんて言うか俺知ってる。
自業自得っつーんだよな。
こんな短時間でこいつ顔面蒼白にさせるってすげーな、汗ダラダラじゃん。

「待たせたな、ぜろりん」
「お、終わったのか、いーたん」
「まあ、そういうことだ」
「その様子だと折れたのはお前みたいだな、かはは」
「うるさい」

一方で欠陥製品も議論は終わったようだし向こうも決着が着いているみてーだ。
折れたのはひたぎちゃんの方か。
しかしあの羽川翼って子も末恐ろしいね。
これだけの短時間で殺し合いがあることやら掲示板の存在やら把握した上であの精神状態だってんだから。
支給品に助けられたってのも大きいんだろうけど最初に集められた空間すっ飛ばしていきなり知らない場所で殺し合い始まっててしかも知り合いが死んでるときたもんだ。
あの様子じゃ友人以上の存在だったかもしれねえが。
まあ、それについては俺が深入りするもんじゃねーな。

「んで、向かうのか?ランドセルランドに」
「友もいるし行くよ。それに、真宵ちゃんが黒神めだかと話したいってさ」
「羽川翼の方も多分そうだろうな」
「断片的に聞こえたけど多分そうだと思うよ」
「目覚めたばっかでそこが殺し合いの場で知り合い殺されててあんな反応取れるだなんて正直俺は恐ろしいね」
「珍しく気が合うな。その点についてはぼくも同感だ」
「それで、どうやって移動するのかしら?私はあなたが車を持ってるとは聞いていたし実際その通りだったけれど7人も載せるのは不可能じゃなくって?」
「そうなんだよな……零崎に電話した時点じゃ真宵ちゃんしかいなかったしまさか3人増えるとは思わなかったしなあ」
「それでしたらいい方法がありますが」
「え、まさか七実ちゃんが車もう一台持ってるとか?」
「いえ、そうではなくて。わたしたちが座っていた場所より後ろに空間があったではないですか」
「トランクのこと?でもあれは荷物を入れるところであって……」

いつの間にか全員集まって会議の様相を呈しているが、残念なことに俺には先が読めちまった。
……祈っておくか。
事故らないようには気をつけとくからよ。

「禊さん共々裸えぷろんについて黙っていた罰です。二人仲良く入っていただきましょう」
「えっ?」

やっぱりな。

「いっきーさんには言っていませんでしたっけ。真宵さんから聞いているのですよ、裸えぷろんについては」
「えーと、それは……つまり?」
「内容自体は別になんとも思いませんが、わたしに黙っていたことは別です」
「まあ、そういうことだから諦めろ、欠陥製品」
「ちょ、何言ってんだ、人間失格」

引き際がよくない男は嫌われるぞ、ってな。

「せいぜい事故んねーように安全運転心がけてやるからよ。で、誰が助手席座るんだ?」

200君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:31:54 ID:fnbUZSQ20
残った女子四人で議論……になるかと思ったら全会一致で七実ちゃんに決定した。
一番危ないのは間違いねーし、残り3人が元から知り合いだったみてーだしな。
ま、このメンツで会話が弾むとも思えねーし案外トランクに放り込まれる男二人はそれはそれで悪くはないんじゃねーのか。
……運転する俺が一番気が重いってことか、おい。

「異論はないようですし、いっきーさんと禊さんにはそのとらんくの中に入ってもらいましょうか。あら、なんですかその顔は」

つっても納得はできねえよなあ。
一応人間が入れない広さじゃあねーが二人詰め込むとなると。

「自分から行かないのであればわたしが無理矢理にでもあなたがたを詰め込みますが」
「『わかりました』」

折れるのはえー。
『まあいいさ、この後めだかちゃんに会えるのなら少しは我慢するよ』、とトランクのある後部に向かいながら球磨川がごちる。

『ついでとはいえめだかちゃんに善吉ちゃんの無念をぶつけるのも悪くはないしね』

ん?今ひたぎちゃんが『善吉』って言葉に反応しなかったか?
……気のせいか。


【一日目/夕方/F-4 診療所前】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康、車(トランク)の中
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス(現地調達)、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実、解熱剤
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 0:トランク……狭い。
 1:ランドセルランドに向かって玖渚と合流。
 2:真宵ちゃんの記憶を消してもらう……のは無理そうだね。
 3:掲示板を確認してツナギちゃんからの情報を書き込みたいけど今できるかな。
 4:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 5:展望台付近には出来るだけ近付かない。
 6:裸エプロンに関しては戯言で何とかしたかったのに……
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※夢は完全に忘れました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします

201君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:32:27 ID:fnbUZSQ20
【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]ストレスによる体調不良(発熱、意識混濁、体力低下)、動揺 、一周回って一時的正気?、車で移動中
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:生きて帰る。
 1:戯言さんと行動……今はトランクの中ですけど。
 2:阿良々木さんを殺したらしい黒神めだかさんと話がしたい。
 3:記憶は消させません、絶対に。
 4:そういえば羽川さんの髪が長いのですが。
 5:戦場ヶ原さんが怖いです……
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします
 ※記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ。お腹は満腹だ。それにしてもトランクって狭いね』
[装備]『大螺子が2個あるね』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックスがあるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
基本:「黒神めだかに勝つ」『あと疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『0番は……僕は悪くない』
『1番はランドセルランドに向かうよ』
『2番はやっぱメンバー集めだよね』
『3番は七実ちゃんについていこう! 彼女は知らないことがいっぱいあるみたいだし僕がサポートしてあげないとね』
『4番は善吉ちゃんの無念をめだかちゃんにぶつけてあげよう』
『5番は宇練さんについてだけど、まあ保留かな』
『6番は裸エプロンに関しては欠陥製品に押し付けようと思ったのに……どうしてこうなったんだ!』
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り1回
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中、車で移動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜6)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える。
 1:七花以外は、殺しておく。
 2:もう面倒ですから適当に過ごしていましょう。
 3:気が向いたら骨董アパートにでも、と思っていましたが面倒になってきました。
 4:裸えぷろんについてどうしてひた隠しにしていたのでしょう?
 5:宇練さんは、次に会った時にはそれなりの対処をしましょう。
 6:四季崎は本当に役に立つんでしょうか?
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れる可能性が生じています
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします

202君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:32:57 ID:fnbUZSQ20


【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、混乱、車で移動中
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、タブレット型端末@めだかボックス、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、
   「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス」
[思考]
基本:? ? ?
 0:ランドセルランドへ。黒神めだかと話せるのなら話したい。
 1:阿良々木くんが死んでいるなんて……
 2:情報を集めたい。
 3:戦場ヶ原さん髪もそうだけど……いつもと違う?
 4:真宵ちゃんの様子もおかしい。
 5:どうして私がこんな物騒なものを。
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※全身も道具も全て海水に浸かりましたが、水分はすべて乾きました
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、当然ですが相手が玖渚友だということを知りません
 ※道具のうち「」で区切られたものは現地調達品です。他に現地調達品はありませんでした
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


【戦場ヶ原ひたぎ@物語シリーズ】
[状態]健康、強い罪悪感、しかし確かにある高揚感、車で移動中
[装備]
[道具]支給品一式×2、携帯電話@現実、文房具、包丁、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×6@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、斬刀・鈍@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:優勝する、願いが叶わないならこんなことを考えた主催を殺して自分も死ぬ。
 0:ランドセルランドへ。今は折れるふりをしておきましょう。
 1:本格的に動く。協力者も得られたし頭を使ってうまく立ち回る。
 2:阿良々木君の仇を取るまでは優勝狙いと悟られないようにする。
 3:黒神めだかは自分が絶対に殺す。そのために玖渚さんからの情報を待つつもりだったけれど逆に自分から提供することになるなんてね。
 4:貝木は状況次第では手を組む。無理そうなら殺す。
 5:掲示板はこまめに覗いておきましょう。
 6:羽川さんがどうしてここにいるのかしら……?
[備考]
 ※つばさキャット終了後からの参戦です
 ※名簿にある程度の疑問を抱いています
 ※善吉を殺した罪悪感を元に、優勝への思いをより強くしています
 ※髪を切りました。偽物語以降の髪型になっています
 ※携帯電話の電話帳には零崎人識、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています。また、登録はしていませんが供犠創貴の電話番号を入手しました。
 ※ランダム1は貝木泥舟、ランダム2は供犠創貴のものでした
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得されたか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします

203君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:33:24 ID:fnbUZSQ20
【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康、車で移動中
[装備]小柄な日本刀 、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×6(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)、医療用の糸@現実、千刀・鎩×2@刀語、
   手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、S&W M29(6/6)@めだかボックス、大型ハンマー@めだかボックス、デスサイズ@戯言シリーズ、
   彫刻刀@物語シリーズ
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:ランドセルランドへ行きゃ真庭蝙蝠達をボコれるかねえ。
 1:戦場ヶ原ひたぎ達と行動。ひたぎは危なっかしいので色んな意味で注意。
 2:伊織ちゃんと連絡を取る。合流するかどうかは後から決める。
 3:兄貴には携帯置いておいたから何とかなるだろ。
 4:真庭蝙蝠、水倉りすか、供犠創貴、宇練銀閣を捕まえる。
 5:西東天に注意。
 6:哀川潤が放送で呼ばれれば殺人をしないつもりはない。
 7:欠陥製品と球磨川クンは……自業自得だろ。
[備考]
 ※曲絃糸の射程距離は2mです
 ※曲絃糸の殺傷能力(切断・絞殺など)は後の書き手さんにおまかせします
 ※りすかが曲識を殺したと考えています
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話の電話帳には戯言遣い、ツナギ、戦場ヶ原ひたぎ、無桐伊織が登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします



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支給品紹介

【工具セット@現実】
浮義待秋に支給。
ドライバーやレンチなど所謂日曜大工で使うような工具が入っている。
一般のホームセンターで買えるようなものしかないため、専門的なものは少ない。

【エプロン@めだかボックス】
球磨川禊に支給。
球磨川禊の趣味その1、裸エプロンで使うためのもの。
ジャンプの表紙はもらえなかったが見開きセンターカラーをもらえた。

【ジーンズ@めだかボックス】
球磨川禊に支給。
球磨川禊の趣味その2、手ブラジーンズで使うためのもの。
同じくジャンプの表紙はもらえなかったが見開きセンターカラーをもらえた。

【パーカー@めだかボックス】
球磨川禊に支給。
球磨川禊の趣味その3、全開パーカーで使うためのもの。
センターカラーすらもらえなかったがコミックスで登場。

204君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:40:49 ID:fnbUZSQ20
投下終了です
仮投下から
・指摘された部分についての描写の追加
・首輪の構造の部分の追加
・玖渚が様刻にメールを送ったことについて備考に追加
・戦場ヶ原ひたぎの状態表の備考に追加
・羽川翼の基本スタンスの変更(この話で決めるのは尚早に思えたので)
などいくつか変更点があります
それ以外の点についても誤字脱字指摘感想等ありましたらお願いします

また、この話が通しになったら放送に進んでもいいと思うのですがどうでしょうか?

あとあれですね、終物語のバサ姉かわいすぎますね!

205 ◆wUZst.K6uE:2013/10/30(水) 23:33:24 ID:wACqEO/gO
投下乙です!

>ぼくときみのずれた世界
様刻がヤバい。ていうかエグい。そして格好良い
ダーツの矢が決まったときは「あ、これ鳳凰終わったな」と思ったのに、殺さず生かしたままあんな状態で放置するとか様刻さんマジ鬼畜。戦う前に玖渚から冷静に情報収集したり一切の躊躇なく手足切り落としたり、何のプロだこの高校生
このところ主人公枠の野郎どもがいまいちパッとしない感じだったので、主人公&一般人(?)枠の様刻が強マーダーである鳳凰に勝利するという展開は実に痛快でした。もう様刻の二つ名『辻褄合わせ』(ピースメーカー)でいいなこれ
「今まで楽しかったぜ」以来ようやくまた一歩二歩前進した感じの様刻だけど、伊織はほぼ戦闘不能状態になってるし、むしろ苦労は増えそうな予感。一般人枠としてどこまで生き残れるのか楽しみ
鳳凰は、まあ大丈夫なんじゃないかな・・・なんかもう球磨川の次くらいに死にそうにない気がしてきたし・・・
あの惨状に至ってなお復活する余地が普通にあるってのが恐ろしいわ

>君の知らない物語
相変わらずというかいつも以上にというか、会話のテンポの良さと話のまとめ方が絶妙に上手い。14名という大型投下にもかかわらず、まったく長さを感じさせずに読ませるというのは本当に凄いと思う
携帯と掲示板のおかげで情報交換も潤滑に進んだし、放送直前の収束話としても納得の一作でした
しかし通信デバイスが無双してるせいで七花の孤立具合がより顕著に・・・いっそ蝙蝠たちと組めたら良かったんだろうけど、あの状態じゃそれもできないわけで
もはや「いつまで死なずにいられるか」状態の七花だけど、この先助かる術は見つかるんだろうか
一方で大所帯と化したフィアット500チーム。表面上は和気藹々としてるのがなんか微笑ましかった。目的も思惑もてんでバラバラなのに・・・
前回で元の姿に戻った羽川だけど、一番混乱していい立場にもかかわらず状況を察して冷静にガハラさんを説得してみせるところが羽川クオリティ。曲者揃いのこのチームの中で、戦場ヶ原や危険人物たちのストッパーとして調和をもたらすことはできるか?
まあいーちゃんと球磨川がいる時点で「調和」なんぞ至難の業だろうけど。ガハラさんも上っ面はおとなしくしてるけど全くブレないし
玖渚組も含めれば総勢11人にもなるチームだし、その気になれば主催も蹴散らせるはずの戦力なんだけどなあ・・・むしろ放送を皮切りに更なる波乱が巻き起こる予感しかしないわけで。次の舞台、ランドセルランドで各陣営がどんなアクションを起こすのか大いに期待
しかし球磨川の支給品ロクなもんじゃねえな・・・さすが天性の引きの悪さを持つ男だけのことはある
球磨川の性癖を考えると、むしろ異常に引きが強いと言うべきなのか・・・

以上、感想でした。自分もこれで放送に進んでいいと思います。

206名無しさん:2013/10/31(木) 13:35:42 ID:jeFYVq8o0
投下乙です

ここはずっと見てるよ
ただ感想が付けにくいというか下手な感想しずらい空気があるから感想が書きずらい
でも作品とかみんな凄いと思ってるよw

207名無しさん:2013/11/15(金) 00:49:22 ID:HuV2/Kt20
月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
137話(+6) 17/45(-2+2) 37.7(-0.0)
生存者は二人死んで二人生き返ったのでこうさせてもらいました

208 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:29:03 ID:ngPsfOQk0
投下開始します

209第三回放送 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:30:26 ID:ngPsfOQk0
 「どうも皆さん。時間になりましたので、三回目の放送を始めさせていただきます。
 今回の放送を担当するのは、私不知火袴です。またこうして皆さんに声をお届けすることができるというのは、私に限らず主催一同、大変に喜ばしいことであると思っております。
 しかしながら。
 前回の放送から6時間、すでに私達の声を聞くことができない状態になってしまっている方、つまりは脱落者の数も、また新たに増えているご様子です。
 これは我々にとっては実験が滞りなく進行している証拠、すなわち喜ぶべき事実ではあるのですが、皆さんの中にはこれを悲しむべき事実、悼むべき現状として捉えられる方もいるかもしれません。
 ですが皆さん。改めて言いますが、この実験の内実は「殺し合い」であり、「最後の一人になるまで」続けられます。
 それ以外の終わりはありません。
 それ以外に終わらせる方法はありません。
 ゆえに皆さんがいくら悲哀に暮れようと、現状を嘆こうと、その事実を変えることはできません。皆さんのうち誰が、次の脱落者として名前を挙げられることになろうと何ら不思議なことではないのです。
 どんな気概を掲げようとも、どれほどの絶望を抱えようとも、最終的には殺す立場か殺される立場、どちらかに立つしか選択の余地は残されていないのです。
 それを自覚なさってください。
 前置きが過ぎましたかな? それでは本題、死者の発表に移りたいと思います。
 今回脱落したのは11名です。

 西東天。
 哀川潤。
 想影真心。
 西条玉藻。
 零崎双識。
 串中弔士。
 ツナギ。
 左右田右衛門左衛門。
 宇練銀閣。
 貝木泥舟。
 江迎怒江。

 以上です。
 11名、11名。この局面にしては悪くない数字ですね。皆さんの努力の賜物と言えましょう。
 続いて禁止エリアの発表です。毎度のことですが、くれぐれも聞き逃しのないように。
 よろしいですかな?

 一時間後の19時から、F-8。
 三時間後の21時から、E-3。
 五時間後の23時から、H-6。

 以上の三ヶ所です。
 本来ならば連絡事項はこれで終了なのですが、今回は少しばかり、会場内で通常ならぬ事態が発生しているため、加えて報告しておこうと思います。
 まずひとつ。
 すでにお気付きの方もいるかとは思いますが、会場北部、竹取山にて大規模な火災が発生しております。不用意に近づきさえしなければ危険はないかと思いますが、付近にいる方は念のため注意しておいてください。
 それからもうひとつ。
 会場西部、地図上におけるB-3を中心とし、禁止エリアとは別に、とある危険区域がその範囲を拡大させながら発生しております。
 誤解のないよう言っておきますが、これは我々の用意した舞台装置ではありません。
 どういった理由で危険であるかは言及を控えますが、ある意味では火災以上、禁止エリア以上の危険区域と捉えておいたほうが身のためです。生半可な気持ちでは近づかないことをお勧めします。
 実験にトラブルは付き物です。そのトラブルをいかに乗り越えるかというのも、皆さんの手腕が試されるところと言えましょう。
 もう一度言いますが、あなたがたが生き残れるか否かは、あなたがたの成す行動と決断に掛かっています。
 努々それをお忘れにならないよう。
 それではまた、次の放送でお会いしましょう。
 皆さんのご健闘を、心よりお祈りしています――」

210第三回放送 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:31:03 ID:ngPsfOQk0
 


 ――かちり。

 マイクの電源を切ると、それに向けて喋り続けていた和服の老人――不知火袴は大きく息をつき、椅子に深く背をもたれる。

 「今回は随分と煽ってみせたな、不知火理事長」

 その隣に座る白衣の老人――斜道卿壱郎は、モニターに映る参加者たちの様子を眺めながら不知火に話しかける。誰の映像に目を向けているのかはわからないが。
 薄暗い部屋に、周囲を囲むモニター、隣り合って座る二人の老人。
 一回目の放送とほぼ同じ光景が、その部屋にはあった。

 「ええまあ、そろそろ状況も行き詰ってくるころかと思いましてね。報酬を目の前にぶら下げるだけでなく、後ろから尻を叩いてやるのも必要ですからな」
 「飴と鞭か。教育者のお前らしいやり方だな」
 「私なりの優しさというものですよ。一刻も早く、皆さんが良い結果を出されるように」

 湯飲みを口元で傾けながら、不知火は周囲のモニターをちらりと見やる。

 「……しかし、江迎さんの件はさすがに予想外でしたね」

 会場内の動向をリアルタイムで監視し、記録するためのモニター。
 それらは会場の風景や参加者の行動を、それぞれ映像として流し続けている。しかしいくつかの画面はなぜか映像を映さず、スノーノイズの状態となってしまっていた。
 しかもそれらの画面は復旧するどころか、ひとつ、またひとつと、時間が経過するごとに同じような画面が、次々に増えていくのがわかる。
 まるで何かが『感染』するかのように。

 「暴走を抑えるために制限をかけたというのに、その制限すら飛び越えて、元々以上の能力を開花させてしまうとはね……その上、死した後にも能力だけを遺して逝かれるとは。手に負えないとはまさにこのことですな」
 「げに恐ろしきは天才よりも過負荷、といったところか。予想外といえば予想外だが、しかし問題はあるまい。首輪が腐敗を免れている以上、この施設に施されている防護を越えるということもないのだからな」
 「まあ我々は大丈夫でしょうが……しかしこのまま放置すれば最悪、参加者全員が腐敗に飲み込まれてしまいかねませんぞ。こんな形で実験が破綻してしまうというのは、あなたとしても不本意なのでは?」
 「またやり直せば良いだけの話だ。望む結果が出るまで何度もな。何しろ連中は全員――」
 「おっと、皆まで言うのは無粋というものですぞ、博士」

 そう言って、二人の老人は互いに顔を見合わせることもなく、不敵な笑みをただ浮かべる。
 何かを再確認するかのような、それは笑みだった。

 「俺達の本分はあくまで研究者だ。些細なトラブルの処理など、参加者自身にどうにかさせるか、あの小娘にでも任せておけばいい。違うか?」
 「まあ、あなたが良いと言うのであればこれ以上は何も言いませんがね……そういえば、その萩原さんはどちらへ行かれたのですかな? 先程から姿が見えないようですが」
 「所用で外すと言っていた。後輩がどうとか吐かしておったから、おおかた『選外』の連中の様子でも見に行っているのだろう」


   ◇      ◇


 不知火袴が放送を終えたころ、萩原子荻は檻の前にいた。
 数時間前、具体的には二回目の放送後、兎吊木垓輔と面会したときと同じように、彼女はどことも知れぬ幽閉施設を訪れ、固く閉ざされた鉄格子の前に立っていた。
 ただし、その格子の向こうにいるのは兎吊木垓輔ではない――そもそも檻の雰囲気からして、兎吊木の幽閉されていたそれとは違う。幾重にも念入りに鍵が取り付けられているということもないし、広さもこちらのほうが一目でわかるほどに広い。
 内装もまた、あからさまなほどに異なっている。床にはカーペットが敷かれ、天井にはきちんとした照明、さらに書籍類やテレビ、コーヒーメーカーなどの設備も整えられていて、見たところ普通の居住空間のようである。
 鉄格子で区切られているという点を除けば。
 中にいる人間が、自分の意思では外に出られないという点を除けば。
 それでも置かれているのが情報処理のための機器のみという兎吊木の檻と比べれば、格段に人間らしい空間と言えるだろうけれど。

 「ご機嫌よう、お二人とも」

 檻の中へと、子荻は声をかける。
 言葉通り、中には二人の人物がいた。
 ひとりは高校の制服を着た、ボーイッシュな短髪の少女。カーペット敷きの床にもかかわらずスニーカー履き、左腕は怪我でもしているように、肘の辺りまで包帯でぐるぐるに覆われている。
 もうひとりは、こちらも高校の制服――ただし短髪の少女と比べてスタンダードと言える、ごく普通のセーラー服を着た小柄な少女。髪を束ねている大きな黄色のリボンが、トレードマークのようによく目立っている。

211第三回放送 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:31:35 ID:ngPsfOQk0
 
 「……ご機嫌は別によろしくないがな、むしろはっきり悪い」

 二人のうち、子荻に近い位置に座っている短髪の少女が不快そうに返事をする。
 一見溌剌とした外見の少女ではあるが、その表情からは得も言えぬ疲労感が見て取れた。ストレスを和らげるために用意されたであろう設備が、まるで役に立っていないと主張するように。

 「何かご不満な点がございましたか? 神原駿河さん――相部屋がお気に召さないのでしたら、別途に部屋をご用意いたしますが」
 「いきなりどこかもわからないところに誘拐されて、檻の中に監禁されて、それで気分のいいはずがないだろう。それと別室など不要だ。むしろ可愛い女の子との相部屋でなかったら、問答無用で暴れているところだ」

 隠し切れないほどの疲労感を滲ませながらも、神原と呼ばれた少女は毅然とした態度で受け答える。
 子荻に対し、虚勢を張る。

 「待遇の悪さについては、やむを得ないこととはいえ非常に申し訳ないと思っております。私としては、できる限り要望にはお応えしたいと思っているのですけれど」
 「要望というなら、今すぐここから出して家に帰してもらいたいところだが」
 「残念ながらそれはできません」

 間髪入れず、子荻は言う。
 交渉の余地がないことを示す。

 「場合によってはそのままお帰りいただくことになるかもしれませんが、今はまだ実験の真っ最中ですから。それが終わるまでは、ご協力いただかなくてはなりません」
 「実験? ただの殺し合いだろう」
 「そうですね、そこについても否定はできません。あなたの先輩方も参加なさっている、殺し合いの実験です」
 「…………阿良々木先輩や、戦場ヶ原先輩は、無事なのだろうな」
 「それも残念ですが、実験の進捗状況を詳しくお教えするわけにはいきません。大事な先輩の生死に関わる情報とはいえ、極秘の実験ですから」

 ぎり、と、歯を食いしばる音が檻の中に小さく響く。

 「やはり、気が気ではありませんよね。親愛なる先輩たちが殺し合いの場に放り込まれ、命の危険に晒され、もしかしたら互いに殺しあう立場にいるかもしれないというのですから」
 「冗談は胸だけにしておけ。阿良々木先輩たちが、そんな愚かしい実験にそう諾々と乗せられるはずがない。おおかた今ごろ、皆で協力して誰も殺さずに終わらせる方法を画策しているに決まっている」
 「あらあら、信頼の厚い後輩をお持ちなのですね、その阿良々木というお方は」

 羨ましいです、と言って含み笑いをする子荻。
 その態度に気分を害したのか、神原はさらに表情を険しくする。

 「私もその実験――殺し合いに参加させるつもりなのか」
 「ええ、当初はその予定でした」
 「当初は?」
 「そもそもあなたには、あなたの言う先輩たちとともにこの実験に参加していただく予定だったんですよ。暫定というよりは、ほとんど決定済みのメンバーとしてね。
 しかしその後の調査において、あなたには『資格』がないことが判明しました。この実験に参加する上で最も重要な資格がね。そういった理由で、あなたたちには参加者の枠から外れていただくしかなかったのですよ。とても残念なことに」
 「『資格』……? いったい何の話だ」

 本当に残念です、と神原の問いを無視し、子荻はひとりごとのように呟く。

 「あなたたちほどの影響力を持つ者が『選外』というのは、非常に口惜しい事実です――しかしご安心ください。資格を持たないあなたたちも、別の形でこの実験に携わる機会を得られるよう、私が取り計らいました」
 「頼んだ覚えは一ミリもないが」
 「私はこの実験の結末を、大まかに分けて三つ、想定しています」

 もはや脈絡すら関係がない。
 演説でもするように、子荻は檻の前をゆっくりと歩き回りながら語り続ける。

212第三回放送 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:32:13 ID:ngPsfOQk0
 
 「一つ目は、参加者が一人残らず全滅してしまうというケース。
  二つ目は、順当に一人だけが生き残り、優勝を手にするケース。
  三つ目、実験そのものが続行不可能な状況に陥り、強制終了を余儀なくされてしまうというケース。
 イレギュラーの可能性まで含めれば他にも無数に想定できますけど、オッカムの剃刀に従ってこの三つだけを考えるとするなら、私たちが最も警戒すべきなのは言うまでもなく三つ目のケースです。
 実験が何によって続行不可能となるかはこれまた色々と想定が可能ですけど、特に警戒しておくべきは参加者の反抗という可能性でしょう。
 参加者の誰かが何らかの方法で主催者の掛けた束縛を解除し、この施設に革命軍よろしく突入してくる、という私たちにとっては最悪のケース。逆に参加者の皆さんにとっては起死回生のクーデター、一発逆転の打開策といったところですか。
 もっとも参加者の反抗に関しては十重二十重に対策を講じていますから、このケースが実際に起こる可能性はまずないでしょうけどね。というか私もただでは済まないでしょうから、起こってもらっちゃ困るんですけど」
 「はん、私はむしろそのケースしか想定してはいないがな。阿良々木先輩ならそのくらいのことはやってのける」
 「ええ、私も実のところはそう思っています」

 急に同意を示され、怪訝な顔をする神原。

 「この実験の参加者たちについて、私は軽く見ているつもりはありません。最も困難な可能性こそを可能にする、百万分の一の確率を最初に引き当てる、そんな空前絶後の才能の持ち主を相手に、十や二十の対策で安心するほど私は楽観主義者ではありません」

 そこであなたたちです――と、子荻は歩みを止めて神原に向き直る。

 「あなたたちにはぜひ、衛兵としての役割を担っていただきたいのです」
 「え――衛兵?」
 「衛兵というよりはボディーガードと言ったほうが据わりは良いでしょうか? ともかく何者かがこの施設に侵入してきた場合、それを排撃するための護衛役になってほしいと、つまりはそういうお願いを、私はここにしにきたのですけれど」
 「ば、馬鹿を言うな。そんなもの、協力するはずがないだろう」

 もはや理解が追いつかないという風だった。
 気丈な振る舞いも忘れ、ただ困惑だけを顔に浮かべている。

 「か、仮に私がその役割を承諾したとして、実際に阿良々木先輩がここに攻め込んできたらどうする。どう考えたって、その場で阿良々木先輩に味方するに決まってるだろう」
 「いえ、むしろ『顔見知り』が相手のときこそ、あなたたちの出番だと私は考えています。『身内』にこそ弱点を晒してしまうような、そんな仲間思いの方たちが揃っていますからね。『知り合い』であることこそが、ここでは重要なのですよ」
 「だから、協力などしないと――」
 「自発的に協力の意を示してもらう必要はありません。こちらには洗脳のスペシャリストがいますから」

 対して子荻は、まるで姿勢を崩さない。
 表情も、口調も、まるで一切ぶれる様子を見せない。

 「黒神めだかの『調整』には少々手間取ったようですけど、あなたたち程度であればそう時間は必要としないでしょう。念のため、都城さんには早めに準備してもらうようお願いしておきますが」
 「ふざけるな、洗脳だかなんだか知らないが、私はお前らの味方なんてしないぞ、絶対に」
 「ご安心ください。先ほども言いましたが、場合によってはそのままお帰りいただくこともあります。
 例えばあなたの場合、阿良々木暦を中心とする数名のメンバーに対するカウンターとして使用するつもりでいますので、あなたの言う『先輩たち』が全員脱落――まあつまりは死亡した場合ですが、その時点であなたはほぼお役御免ということに――」
 「いい加減にしろ!!」

 がしゃん、と鋭い金属音が室内にこだまする。
 両手で鉄格子を握り締め、しかし言うべき言葉が見つからないのか、激しい表情で子荻をただ睨みつける。
 子荻はその視線を、冷め切った表情で受け流す。まるで興味のないものを見るような目で。

213第三回放送 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:33:01 ID:ngPsfOQk0
 
 「……萩原さん、あなたはいったい、何を考えているんですか」

 そのとき、部屋の奥で二人のやりとりを黙って見ていた黄色いリボンの少女が恐る恐るといった感じに口を開く。
 スカートの端を握り締めるその両手は、目に見えて震えていた。

 「西条ちゃんはともかく、師匠や、あまつさえ潤さんまで巻き込むなんて――こんなのもう、どう転んだって普通じゃ済みませんよ。いくらあなたのやることでも、常軌を逸しすぎてます。
 あなたはいったい、何をやろうとしてるんですか。何のために、何の目的で、誰に何の得があって、こんなことをしているんですか」

 沈黙。
 神原は子荻を睨み続け、子荻は小柄な少女と視線を交錯させ続ける。
 檻の内と外で、三人の少女は沈黙のままに、ちぐはぐに向かい合っていた。

 「――この実験の真の目的は、私の知るところにはありません」

 ややあって、子荻が笑みを消した表情で誰ともなく言う。

 「私自身に目的があるとすれば、私が私であることを証明することでしょうね……今の私が、正真正銘の『萩原子荻』であること。それを証明するのは、おそらく不可能に近いのでしょうけど――」
 「……何の、話ですか」
 「他人に訊いてばかりいるというのは愚か者の証拠です。少しは自分の頭で考えなさい、紫木」

 そう言って、子荻は二人の少女に背を向ける。
 そのまま立ち去るかに見えたが、「ああ」と思い出したかのように足を止め、

 「先ほどの件ですが、護衛役といってもそう気負うものではありません。別に最後の砦というわけでもないですし、侵入者があった場合に限り、ほんの少しバリケードとして機能してくれればよいというだけの話です」

 それ以上の働きは期待していませんから。
 最後にそう言い捨てて、『策師』の少女は一度も振り返ることなくその場を後にする。
 がん、と鉄格子を殴りつける音だけが、檻の中に空しく響いた。


   ◇      ◇


 とぅるるるるるるる……

 ピッ。

 「もしもし、都城さん。偵察ご苦労様です。
 ――ええ、その『腐敗』を止めることは現時点では不可能ですから、巻き込まれないうちに一度こちらへ戻ってきていただけますか。こちらでひとつ、やっていただきたい仕事ができましたので。
 そうですね、例の『選外』の方たちについての――いえ、緊急にいうわけでもないのですが、その『腐敗』も含めて諸所で不穏な気配が見られるようなので、早めに準備していただこうかと。
 なにしろ、首輪の解除を補助しかねないような情報が一部とはいえ会場内に漏れ出てしまっているというのですからね……余裕を見せていられる状況ではありません。
 ――え? さあ、いったいどこから漏出したのでしょうね。私には皆目。
 都城さんも、道中は十分にお気をつけください。私の『策』の実行に、あなたはなくてはならない存在なのですから。
 ――あら失礼。それではまた、こちらでお会いしましょう」

 プツッ――ツーツーツー……

 「……この分だと、腐敗の波がこの施設を飲み込んでしまうのも時間の問題ですね。あの二人の言うとおり、ここの防護を越えることはまずないでしょうけど――」

 やれやれ、と通話を終えた子荻は困ったように首を振る。

 「いくら参加者の自主性を重んじるためとはいえ、あれほどの異常事態が発生しているのに放置したままでよいとは、あの二人は鷹揚と言うより、危機感が欠けているように見えますね……この施設内も、必ずしも安全という保証はないというのに」

 まあ一応、対策は考えていますけどね――言いながら、携帯電話を操作する子荻。
 画面に表示されているのは、電話帳に登録されている携帯電話の番号と、その持ち主の名前。
 『都城王土』をはじめとするいくつもの名前のうち、子荻はある人物の名前を確認する。
 一人の少女の名前を。
 主催者の一人である老人と同じ姓を持つ、その少女の名前を。

 「過負荷には過負荷――もしものときは、彼女に『喰い改めて』いただくのが得策ですか」

214 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:34:28 ID:ngPsfOQk0
投下終了です

215名無しさん:2013/11/19(火) 22:34:20 ID:dypK2a3g0
投下乙です

放送とその裏側
主催らが策動ロワに出てないと思ったら捕まってた子もいて…

216名無しさん:2013/11/19(火) 23:09:56 ID:iBpiO1Vs0
投下乙です
改めて見ると戯言勢落ちすぎぃ!
いーちゃんの反応が心配になるレベルだなこりゃ…
それに全陣営から落ちてるのも初めて?
江迎ちゃんが落ちたことでクマーも何かしら反応示すだろうし、波乱は必至でしょうな
さすがに腐敗は主催陣もほっとくことはできなかったかー
範囲見るに禁止エリア()な状態ではあったから仕方ないと言えば仕方ないがw
そして神原キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
姫ちゃんは自分でフラグ出してたけどまさか神原が来るとは思わなかったので歓喜
再現度凄くてみゆきちボイスで脳内再生余裕です、はい
子荻ちゃんもなんか生き生きしてるように見えるしこの子は何を考えているんだろうなぁ…w
さりげなく主催本部の場所もヒントが出てきたしあのキャラのフラグも立ったしで先が楽しみになる放送でした

217不問語〜四季崎記紀〜:2013/11/20(水) 17:24:08 ID:8mEXnFdk0
 どんな事にも目的はある。もちろん俺、四季崎記紀が変体刀を生み出したのにも理由はあった。
そして今回――こんな茶番に参加したのにも、理由がある。
そもそも俺が参加しようと思ったきっかけは「素材」にあった。
すべてを「完成」させる力を持った女――黒神めだか。
もしも、そんな「素材」で刀を、「完全形変体刀」をつくることができたなら。
さらに、その「素材」を鍛え上げるための「材料」もそろっていた。
例えば、人を殺さない殺人衝動を持った少年。
例えば、衝動もないのに殺す殺人鬼。
例えば、そんな殺人鬼の代用品。
例えば、努力をして「異常」についていくただの少年。
例えば、その才能ですべてを幸せにしようとする少年。
例えば、魔法少女。
例えば、破片を拾ってつなぎ合わせることのできる少年。
例えば、人類最強。人類最終。
例えば、勝ったことのない人間未満。
そして、「見稽古」を持つ俺の娘。
これ以上にない環境。参加しないわけにはいかないだろう。
人間最大の目標、「完全になること」をそのまま体現した女。
努力するのは完全になるため。
神に祈るのは完全なる神に近づくため。
何かを奪うのは足りないものを手に入れ、完全になるため。
他にもいろいろあるが、努力もせず祈ることもせず奪うこともせずに、ただ完全に近づく。
「変わりたいと思う気持ちは自殺なのか」なんて戯言使いは言っていたが、そんなことを思うまでもなく変わっていく。
俺は、完全な刀を、斬るも斬らぬも、生かすも殺すも、全てを体現できる、そんな刀を作りたい。
そのために、俺はこの場を利用しているし、俺自身も何かのために利用されているのだろう。
それが今回、この茶番に参加している理由だ。
以上、誰も聞いていないであろう独り言だった。

218他力本願:2013/11/20(水) 17:28:26 ID:8mEXnFdk0
217の者です。
すいませんどうしたらよいかわからなかったのでこのような形で書かせていただきました。
投稿ルール違反とかだったら消してください。
よろしくお願いします。

219 ◆ARe2lZhvho:2013/11/20(水) 17:56:10 ID:.gWDnkX2O
投下乙です
何分私がドラマCDを把握していないので対応については保留させていただきますがおもしろかったです
読んだ感じですと今までの話には全て目を通されている感じでしょうか?
もちろん今からでも書き手として参加されるなら歓迎しますし、チャットもありますので疑問等ございましたら気軽に質問してくださっても結構ですので

220 ◆xR8DbSLW.w:2013/11/21(木) 00:21:42 ID:oYQQgD5U0
投下乙ーと言いたいですが、
ひとまず、僕個人としては一度>>217の作品に関して破棄要請を出したいと思っています。
理由としてはこのロワの原則であるトリップと予約がないためです。
ルールなどを把握して再投下をしたい場合は、もう一度wikiなどでルールを確認して、
それでもわからなかった場合は>>219でおっしゃているように、誰かした入室している時にチャットなど訪れましたら、
教えてもらえると思いますのでご一考のほどを。
私としては以上です。


そして放送も乙でしたー。
うむうむ、役不足とのことらしいが、まだ他にもいるのかなー?
全貌はまだまだ分かりませんが、少しずつ主催者側も明らかになってきたなー
それはそうと主催者からも危険扱いされるラフライフラフレシア半端ない。やばい

221 ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:00:56 ID:ceqeL1pI0
投下します

222球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:03:37 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■



第−1槽『球磨川禊のままならない忘れ物』



  ■  ■  ■


結局ぼくは何がしたいのだろう。
それは人間未満・『球磨川禊』とスーパーマーケットで遭遇してから、なんだか歪み始めている気がする。
真宵ちゃんとの会話を経ることもなく、ぼくはそう考えた。

主人公になる。
と、あの狐面に対して宣言したはずだ。
かつてぼくがしたように。
正義の味方になると豪語した、あの時のように。
主人公談義、つまりは何が主人公なのかとは真宵ちゃんと散々話を詰めた。
まあ結局、これという定義付けをしたわけではないけれど、しかしどうだ。
今のぼくは主人公――誰かを守れる、何者かに成れているのだろうか。
ぼくは弱い。
七実ちゃんがどう言おうとも、ぼくは弱い。
伊達に人類最弱と謗られている訳でなく、正真正銘、碌でもない人間だ。
人間として成り立たない、欠けている製品としての存在。欠陥製品。

それでも、
そんなぼくでも、
人を守ることは出来るはずである。
誰がどう言おうとも、真宵ちゃんはそう言ってくれた。
ぼくはもう独りじゃない。
これまでたくさん殺してきた。
これまでたくさん壊してきた。
だけど、これからは生かす道を行く――そんな風に考えていた。

果たして。
真宵ちゃんの記憶を消すことは、本当に主人公、そうじゃなくとも彼女の為になるのだろうか。
七実ちゃんにはああ言ったけど。
ぼく自身、散々それでいいと言い聞かせてきたけれど。
未だ、ぼくは人間未満に話を持ちかけられずにいる。

――ずれている。
――揺れている。
ゆらりゆらりと。ぐらりぐらりと。
分からなかった。
何が最適な手段なのか。
ぼくは、――

223球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:04:27 ID:ceqeL1pI0


『そういえば欠陥製品』


不意に。
狭い、本当勘弁して欲しいぐらい狭いトランクの中で。
身を丸くした人間未満は、ぼくに話しかけた。
座席からは、特に雑談めいたものは感じない。
女三人寄れば姦しいとは言ったものの、それも各々旧知の仲だそうだが、そんなことはなかった。
ぼくの耳には零崎の話声と、相槌なのか溜息なのか判別しづらい七実ちゃんの短く息を吐く音が聞こえる。
そして今新しく、未満の声が届いたのだが。

「なんだ」
『いやさあ、僕も親友とじゃれあったら気絶してたり放送を聞いたり色々してたら、後へ後へと流しちゃったんだけどさ――』

未満は、特に感慨ぶったわけでもなく。
さながら今日の運勢でも述べるかのように適当な口調で。
問う。


『――結局、真宵ちゃんの記憶はどうしたいの?』


審判の時、とでもいうのか。
そこまで行くと明らかに大仰な事実には変わりないにしろ、ぼくは答えを返さなければならない。
今更、「もうちょっと待って」もないだろう。
真宵ちゃんは起きている。
引き返すことはできない。
引き戻ることはできない。
加えて、人間未満のこの質問も聞こえているのだろう。
だから。
ぼくは。
答える。
今、この場で。


「―― 」
「待ってください、球磨川さん」


そこで、ぼくが声を出す前に。
音が喉辺りまで迫っていたその時、座席から、声がした。
幼げな、この場に居る誰よりもロリィなボイスで。
八九寺真宵は、割り込んだ。
ぼくは何も言わなかった。

『ん?』
「わたしが起きる前に戯言さんに許可取って記憶を消すことは百歩譲って由としても、
 今、意識のあるわたしを差し置いて、わたしの記憶の行方を、わたしを介さずどのようにもして欲しくありません」

強い口調で。
拒絶するように、きっぱりと言い放つ。
ぼくは何も言わなかった。

「球磨川さん。もしかすると勘違いしているかもしれませんが、わたしが過ごしてきたこの一日は、決して辛いだけじゃないんです。
 少なくとも、わたしは戯言さんに良くしてもらいました。守って頂きました。
 それに身を呈して守ってくれた日之影さんを忘れたくなんてありません。最後まで心配してくれたツナギさんを忘れたくありません」

まるで反論させる隙をなくすかのように、埋め尽くすかのように。
言葉を垂れ流す。
切実で、真摯な、彼女の声。
ぼくは何も言わなかった。

「確かに辛いことも沢山ありました。なにより、阿良々木さんが死にました。
 きっと今後一生――なんて本来わたしが使う機会のない言葉ですが、それでも一生、代替の利かない人間でした」

トランクで同じく蹲っているぼくには、座席に居る三人の表情は窺えない。
けれどどこか、空気が張り詰めたのを肌で感じる。
何時の間にか、零崎の声も聞こえなくなっていた。
八九寺真宵はただ一人、車内で訴える。
ぼくは、何も言わなかった。

「だけど、それは戯言さんたちとの出会いだってそうなんです。代替のできない幸せなもので――」

ゴクン、と。
恐らく真宵ちゃんのものだろう。
唾を飲む音が聞こえる。
もしかしたらぼくが唾を飲んだのかもしれない。
ぼくは。
ぼくは、何も言わなかった。


「忘れさせてりなんか――記憶をなかったことになんか、させません!」

224球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:05:08 ID:ceqeL1pI0
一際強い声で。
喚くようで、訴えていて。
訴えるようで、喚いていた。
彼女の率直な思いである。
彼女の直情な気持ちである。
きっとそれは、ぼくがどれだけ戯言を並べても、揺るがない、彼女の本音。

ぼくは何も言わなかった。
僕が代わりに口を開く。


『うわぁ、格好いいなー』


真宵ちゃんとは対照的に。
極めて素っ気なく、どこか作り物めいた、嘘っぽい口調でそう言った。
その顔は、確かに感心してそうな表情を浮かべている。


『真黒ちゃんといい、そういう自分の罪って言うの? 一生懸命背負おうと刻苦するのって格好良くて憧れるんだよなー』


真宵ちゃんの言は、まあそういう罪の意識と言うのが少なからず混じっていて。
だからこそ日之影くんの話も出ていたし、だからこそぼくは、真宵ちゃんの記憶を消して欲しいと思っていた。
学習塾跡を去った辺りのこと、ぼくは彼女に現実を見つめろと言った。
あの時、彼女は現実逃避のあまり命の危機に晒された。故にぼくは注意を喚起した。
しかし結果として、現実を見つめすぎたあまり、彼女は体調不良へ陥ったのである。
紛れもなくぼくの観測不足であったことに変わりないが、彼女にこの現実は、あまりに重すぎた。

ぼくは何も言わなかった。
僕は引き続き括弧つけて、垂れ流す。




『けど、ごめーん。もうなくしちゃった』




「「「「「…………!」」」」」」


誰も。
何も。
言わなかった。
ただ再度、唾を飲む音が何処かから聞こえた。
これもまた、ぼくのものかもしれなかった。

彼は。
人間未満は。
特に何かをする素振りを見せず。
何時の間にか。
先ほどまで喋っていた人間の記憶を消した。
真宵ちゃんから、応答はない。

ぼくは何も言わなかった。
僕は続ける。


『思い入れとかー、心がけとか、誓いとかー。ごめーん、僕そう言うのよくわからないんだ―』


朗らかに。
何気なく。
悪げもなく。
乱す。
荒す。
壊す。
人間未満は、ただ言った。ただ――行使した。


『真宵ちゃん、大事なのは強がることじゃないんだぜ。弱さを受け入れることさ』


弱さを知り尽くした男は。


『不条理を』
 『理不尽を』
  『堕落を』
   『混雑を』
    『冤罪を』
     『流れ弾を』
      『見苦しさを』
       『みっともなさを』
        『嫉妬を』
         『格差を』
          『裏切りを』
           『虐待を』
           『嘘泣きを』
          『言い訳を』
         『偽善を』
        『偽悪を』
       『風評を』
      『密告を』
     『巻き添えを』
    『二次災害を』
   『いかがわしさを』
  『インチキを』
 『不幸せを』
『不都合を』


――『愛しい恋人のように受け入れることだ。』
坦々と。
嘘めいた言葉の羅列が続く。
ぼくはその言葉を聞き入れる。
まるでそれしか能がないみたいに。
黙って。
何も言わずに。


『結局答えを聞いてないけれど――これでよかった? 欠陥製品』
「…………」


ぼくは何も答えずに。
ぼくは何も頷かずに。
ただ、言葉として。


「――ああ、これで、よかったんだ」


知らない人が、ぼくの声で、用意された言葉を、呟いた。
ぼくは。
ぼくはぼくは、ぼくは。
ぼくは何も、言わなかった。

225球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:06:41 ID:ceqeL1pI0

  ■  ■  ■



「話しかけないでください、あなたのことが嫌いです」

記憶を失った彼女は。
しかし果たして、どうなったかと言うと、別にどうというわけではなかった。
この殺し合いの最中の記憶を失っただけだ。
そもそも。ぼくたちはこの殺し合いの会場まで何ら脈絡もなく連行されている。
記憶を失ったところで、別段ぼくたちと反応が異なるわけではない。
気が付いたら、ここにいた。
車の中に居た。
ただそれだけだ。
「……はて?」と。
間抜けな声が真っ先に上がったのも致し方ないことである。

ここはどこでしょう、と言いたげな雰囲気につられ、
ぼくは人間未満の身体を下敷きにしてトランクから顔を覘かせ、真宵ちゃんに話しかけた。
そして、先の一言だ。
リフレイン。
デジャブ。
まあ、なんだっていいのだけれど、およそ十八時間ぶりとなるのか、そんな真宵ちゃんの冷たい一蹴をぼくは浴びる。
さもありなん。
僕がやった事とはいえ、仕打ちとしては当然で。
ぼくは甘んじてその嫌悪を受け入れなければならない。
――そういった嫌悪は慣れている。

今は基本的に翼ちゃんが様々な質疑応答をしているが、彼女自身現状をよく把握していない。
あの白いネコミミ娘から通常モードへ、あるべき姿であろう彼女に戻った際に、記憶は吹き飛んでいる。
だからひたぎちゃんが時折、口を挿みながら、事情説明は進んでいく。
無論のこと、都合の悪い様々なことは隠蔽したままであるにしろ。

その際、翼ちゃんの思考回路がどのようなショートを起こしていたのかは定かではないが、
「――つまり、あなた方が私にとって不都合な記憶を消して下さったんですね?」と問うた。
彼女の気持ちが十全に伝わるわけではないが、確かに謂われない記憶喪失は恐怖を煽るものであろう。
だから何らかの理由づけ、理屈の継ぎ接ぎを欲したのかもしれない。
ぼくとしては好都合であり、そして翼ちゃんとしても好都合だったのだろう。
人間未満が何も言わなかったので、ぼくが代わりにそういうことにしておいた。

八九寺真宵の記憶喪失――もとい、記憶消失が行われて間もなく。
零崎曰く、中身は遊園地というランドセルランドにあと十分、十五分で到着するかと思われた。
まあ、言われてみればそれだけの距離を車を走らせている。
放送が有ったり、真宵ちゃんのことがあったりと、ぼくの胸中は終始落ち着きないものだったから、そうは感じなかったが。
どうであれ、これで予定通りいけば友とも合流できるな――と少しばかり安堵してしまった。

しかし。
忘れちゃいけなかった。
ぼくの辞書に――『予定通り』なんて都合のいい言葉が、あるはずもない。


「――っと、」

226球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:07:14 ID:ceqeL1pI0
運転席で、それまで比較的快適に車を走らせていた零崎が、唐突に急ブレーキをかける。
慣性の法則と言うものは殺し合いの場でも有用な模様で、ぼくや球磨川の体は後部座席に押し付けられた。
言いつつ、スローリィに走らせ、安全運転を心掛けていたからかそれほど痛くはない。
だとしても、あまりの急ブレーキに(急ブレーキとは大抵唐突なものであるにせよ)ぼくはその理由を問う。


「あー? そりゃあおめー」


どこか座りが悪そうに。
言葉を濁す様に、言葉尻を逃がす様に。
しかしその内諦めもついたのか、投げやりに――告げる。



「黒神めだか――お客様のご登場だぜ」



聞いたことある名前だ。
そう、阿良々木暦くんを殺した奴だ。
――だとしたら、だとしたら。
これから一体、どうすればいいのだろう?

ぼくが何らかの反応をする前に。
人間未満――過負荷――球磨川禊は、トランクを出て立ち上がる。
その瞳はとてもまっすぐだった。
その視線は彼女しか見ていない。
真新しい制服に身を包んだ黒神めだか。
球磨川禊の視線は、彼女にしか向いていない。


「――欠陥製品。とっとと車を出して」


球磨川禊はそう言った。
いつもみたいな口調でない、格好つけない、括弧付けない、揺るぎない言葉。
それがきっと彼の覚悟で。
それがきっと彼の思いだ。
診療所で言っていた。


――僕はずっと勝ちたいと思っていた。と


「彼女は人殺しだよ。早く逃げなきゃ殺されるぜ」


彼は言う。
早く何処かへ行け、と。
暗にそう告げている。
それを分からないぼくでは、なかった。


「ではわたしも、降りさせてもらいます」


七実ちゃんは車を降りた。
球磨川がいないのにいる意味なんてないと感じたのか――或いは。
何であれ、吸血鬼、不死身である阿良々木暦くんを殺したのは紛れもなく彼女、黒神めだかだ。
それだけのことが出来る人間である。
人間未満が死んで悲しむような間柄ではない気もするが、それでも強力な補佐がいるに越したことはない。
いざという時の為に付けておく。という意味では間違っちゃいないだろう。

――じゃあ零崎。引き続きランドセルランドへ
と、伝える。零崎はあっさりそれを承諾する。
七実ちゃんが出るのであれば、ぼくは空いた助手席に移動する。
少し急ぐように、ぼくは一度トランクから出て助手席に向かう、その際に一言だけ、呟いた。



「がんばれ」
「がんばる」



独り言だった。

227球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:07:43 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■



第−2槽『球磨川禊の負けてられない大勝負』



  ■  ■  ■




車が去っていく。
僕はそれを遠巻きに見送って、改めてめだかちゃんを見る。
箱庭学園の一般生徒用の学生服を着て、左腕には『庶務』の腕章をつけていた。
それは西東診療所で会った時善吉ちゃんがつけていたものと瓜二つ――というよりもそのものだろう。

「なんだ、めだかちゃんは善吉ちゃんにちゃんと会えたんだね」
「ああ。あやつには助けられたよ。善吉がいなければ、私は私でなかっただろう」
「なーんだ、会ってなかったら西東診療所で見かけたことを報告してあげようかと思ったけれど」

ははっ。
羨ましいことだ。
めだかちゃんにそう言ってもらえるのは善吉ちゃんぐらいだろうに。
少なくとも、僕には未来永劫掛けられる言葉じゃない。

「そういや善吉ちゃんも高貴ちゃんも真黒ちゃんも、そして江迎ちゃんもみぃーんな死んじゃったけどさ、誰が殺したか知らない?」
「善吉以外知らんよ」
「冷たいね。きみの大事な『仲間(チーム)』、だったんでしょ?」
「その通りだよ。私は自分の仲間さえも救えないのかと己の非力さを悔やんでおる――」

――だからこそ、と。
めだかちゃんは会話の流れを打ち切り、新たな話題を投げかけた。

「見たところ先の車には戦場ヶ原上級生がいたんだがな、
 私は少しばかり彼女に用事があるから、貴様に構っている暇は生憎今はないんだよ」
「つれないこと言うなよ。僕ときみの仲だろう。それに何だってさっきはスルーして見送ったんだい?」
「私と貴様の仲だからこそ――な気もするよ。
 そしてさっき見送った理由は簡単だ――そっちにいる貴様の連れが中々手強くてな」

彼女は顎で七実ちゃんを指す。
なるほど、彼女が車を守るようにしていたから、めだかちゃんも手が出せなかったのか。
七実ちゃんも律義なことだ。
刀だどうだと言っておきながら、僕の嘘泣きで戸惑うぐらいには、人間らしい。


「――まあ、そうだね。めだかちゃんは週刊少年ジャンプを読むかい?
 こういうとき、僕みたいな奴はこう言うのさ」


どうであったところで、
僕は今、彼女と戦う。
――過負荷として、僕として。
後回しだなんて、させやしない。



「ここを通りたければ、僕を倒してからにしろ――ってね」



だけど僕は勝つ。
きみに。
プラスに。
今まで負けだらけの人生だったけど。
これまで勝てなかった人生だったけど。
これから僕は勝つ。
めだかちゃんに――。


「成程――それは実にありがちだな」


彼女は腕を組みながら、うんうんと首を振る。
しばらくそうしている内に、彼女は徐々に歯を見せていく。
真っ白で、だけど好戦的な、素敵な笑みだった。


「面白いッ! この黒神めだか、貴様からの挑戦状――受けて立とうじゃないか!!」


――――ドガンッ!!


彼女が何か言っていたけれど。
受けて立つと言った以上、そこから交渉は成立している。
僕は彼女に先手必勝と言わんばかりに、相手の身体に大螺子を螺子込む。


「ありがとう、きみのそういうまっすぐな志が、一番嫌いだ」


彼女の体が吹き飛んで、コンクリートの外壁に激突する。
これで死ぬような魂じゃない。
それは誰よりも僕が知っている。


「まさかこれで終わりだなんて言わないよね」
「――勿論だ」

228球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:10:35 ID:ceqeL1pI0

コンクリートが崩れ、塵灰に包まれた向こうで声がする。
塵灰が晴れていくうちに、彼女の姿が鮮明になって行く。
僕の投げつけた螺子を受け止めていた。――そしてその顔は何処までも晴れやかな笑顔だった。


「……なんで奇襲をされたのに笑ってるのさ」
「いや、殺し合い中に――それも皆が死んでいっている中で不謹慎だとは思ってたんだが、
 しかしもう駄目だ。破顔せずにはいられない」

そして彼女は、僕の螺子を粉々に打ち砕き、
高らかに叫ぶ。




「こうしてまた貴様と戦える日を私は待っていた!!
 だからこそ、このような場でも戦いたいという私の性根共々、貴様の性根ももう一度叩いてやる!!」




いや。
さっきまでも笑っていたけれどね。
そう思いつつも、僕もまた、応える。


「江迎ちゃんはともかく、善吉ちゃんや高貴ちゃんが死んだというのに笑えるだなんて本当に変な子だ」


――そういうきみも、僕は嫌いだ。
僕は右手に螺子を持つ。
これまでのそれとは違う、マイナスの螺子。
安心院さんに返してもらった、過負荷。


「だから遠慮なく使わせてもらうぜ。僕の禁断(はじまり)の過負荷。――――『却本作り(ブックメーカー)』!!」




  ■  ■  ■



乱打戦だった。
僕はめだかちゃんに攻撃すると、めだかちゃんは仕返しとばかりに僕を殴る。
それを繰り返す。
泥臭い攻撃の応酬だった。

僕にこんな体力あっただろうか。
不思議だ。
ちょっと走れば疲れてしまうような体力なのに。
誰がそうさせているのだろうか。
めだかちゃんか。
或いはめだかちゃんと向きあいたいという僕自身か。
どちらであれ、僕らのドラクエみたいな単純な攻撃の繰り返しも、終わりを迎えそうだ。
僕の限界が近いからか。
多分、そうだ。
僕は既に限界なんて言うものを越している。
なのに彼女は、笑っている。
嬉しそうに。
幸せそうに。

僕は――今どんな表情を浮かべているのだろう。
分からないけれど、笑っているのかもしれない。
何に対してなのかも、分からないけれど。

229球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:11:13 ID:ceqeL1pI0
ああ。
ちくしょう。
やっぱり強いなあ、めだかちゃんは。

とことん強くて。
とにかく凄くて。
とりわけ気高く。
とびきり格好いい。
圧倒的に絶対的な、女の子だ。

せっかく返してもらった僕のはじまりの過負荷――『却本作り』を使う機会なんてまるでないでやんの。


「ははっ! 相変わらず楽しいなあ球磨川! 貴様と戦うのは楽しいなあ――さあ! もっともっと戦うぞ!!」


やれやれ。
こっちの気も知らずに嬉しそうに……。
本当に弱い奴の気持ちが、
がんばれない奴やできない奴の気持ちがわからない子だぜ。

彼女は笑顔だった。
僕は嘆息する。
やれやれ、勝負を吹っ掛けたのは僕だけれど、少しは弱い者の気持ちを分かってほしいところだ。



だから僕は、今も昔もそんなきみが大嫌いで、
だけど僕は、今も昔もそんなきみが大好きだったよ。



憧れた瞳先生より。
服うた安心院さんより。
お父さんより。
お母さんより。
大好きだ。

思えば初めてあったあの時から。
僕はきみの気を引くことに精一杯だったね。


「どうした、球磨川。まさか、もう負けを認めて通してくれる――というわけではあるまいな?」
「いやいや――ちょっと気付いたことがあっただけさ。わかんないもんだね、自分の気持ちなんて」


……だけどまあ。
気付いたからにはちゃんと伝えなきゃね。
その気持ちって奴を。
たとえ気持ち悪がられたりしても。


「めだかちゃん。僕からの相談を受けて欲しい」


めだかちゃんは面白そうに笑う。
僕は構わず話を進める。

「このまま戦い続けても、おそらく決着はつかないだろう。
 どれだけ叩き伏せられようと、僕は絶対に負けを認めないし、だけどそれはめだかちゃんだって同じことだと思う」
「そんなことはない。今回だって私は貴様に勝つために、最後まで全力でがんばるつもりだぞ」
「光栄な限りだけれど――まあ聞けよ。そこで相談だ」

僕は再度右手にマイナスの螺子を持つ。
その螺子の先端は伸びていく。
伸びて、伸びて、さながら刀剣の様な長さに成る。


「僕の始まりの過負荷、『却本作り』を避けずに受けてくれないか?」


これが僕の始まりの過負荷。
久々に使うわけだが、別に感慨深くもなんともない。


「『大嘘憑き(オールフィクション)』を現実(すべて)を虚構(なかったこと)にする過負荷だとするなら、
 『却本作り』は強さ(プラス)を弱さ(マイナス)にする過負荷だ。
 具体的には。
 この過負荷の被害を受けた者はみぃーんな! 不完全(ぼく)と完全に同じになる」


――あの安心院さんが封じぜらるを得なかった、曰くつきの過負荷だぜ。
そう言っても、彼女の表情が変わるわけではなかった。
ただ、真剣に僕のことを見つめている。

「肉体も精神も、技術も頭脳も才能も! ぜーんぶ僕と同じ弱さに落ちて、
 それでもきみの心が折れないのなら、そのときこそ僕は負けを認めるよ」

きっと彼女は分かっていない。
弱い者の気持ちがわからない彼女には、きっと分かりっこない。
僕たちの過負荷たる由縁の惨憺さを。
だからきっと、思わず彼女はこう言うだろう。
「『私の負けだ』『許してくれ』」――と。
そうなったら僕の勝ちだ。ひたぎちゃんをどうしようとも僕は構わないけれど、
律義な彼女のことだ、素直に退散していくのだろう。

まあ先のことはいい。
僕は、
僕は、言う。

230球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:11:53 ID:ceqeL1pI0



「さあ、決めてくれめだかちゃん。きみは僕の過負荷(きもち)を、受け止めてくれるかい?」



答えは決まっている。


「言うまでもない」


彼女はきっとこう宣言するだろう。



「24時間365日、私は誰からの相談でも受け付けるし、どのような気持ちでも受け止める!!」



凛ッ。
とでも漫画だったら擬音がつきそうなほど凛々しく。
彼女は僕の想像通りの言葉を吐きだした。
全く、やれやれ。
困ったものだ。
彼女はいつでも、まっすぐで、正しくて。
僕みたいな過負荷でも、受け入れて。
だからこそ僕は。


「…………愛してるぜ。めだかちゃん」
「そうか、もちろん私も、愛しておるぞ」


――ありがとう。
だけど。
だけど。『僕を』じゃなくて、『人を』、だろ?



そして僕は。
黒神めだかの胸に、マイナスの螺子を、螺子込んだ。

231球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:12:45 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■




「だったらあなたは、私の殺意(きもち)さえも受け止めてくれるのかしら」


唐突だった。
少なくとも僕からしたら唐突だった。
そこにはひたぎちゃんがいる。
刀を握り。
刀を翳し。
刀を振り。
めだかちゃんの――めだかちゃんだった遺体の傍に立っている。
彼女の首は、落とされた。
やけにスローモーションになって首輪が落ちていくのを、僕はただただ見つめるしかなかった。


「………………………………え?」


首輪が地面に落ちたその時。
めだかちゃんの首が落ちたその時。
僕は、知らず知らず、言葉を零していた。


「だとしたら――それはそれは嬉しいわ」


白髪に染まっためだかちゃんの髪が、再び元の色に染まっていく。
元通りに。
だけどそれはあまりに時遅く。
身体を貫いたマイナスの螺子もまた、めだかちゃんの心(いのち)が失われていくのと同調するように、崩れていく。

ひたぎちゃんが、膝をつく僕を見下しながら。
坦々と、まるで括弧付けるかのように――芝居がかった声で、僕に言う。


「よかったわね、神様モドキ。あなたの勝利よ。喜びなさい」


――違う。


「あなたの『却本作り(ブックメーカー)』のお陰で、黒神めだかは弱体化され――晴れて私に殺されるに至ったわ」


――違う。


『どれもこれもあなたのお陰――だからあなたの大勝利。ブイ』


――違う!
こんなの、勝利じゃない。
こんなの、何でもない。
こんな、台無し――僕は認めない。


「う、うう、うわああああああああああああああああっ!?」


叫んだ。
がむしゃらに。
わけのわからない、さっぱりわからない状態に。
叫ぶ。
叫んだ分だけ、喉が渇く。
それでも僕は叫ぶ。
頭を抱える。


僕は勝てなかったというのか。
僕はめだかちゃんに勝ち逃げされたのか?
違う。
違う。
――こんなの僕は認めない。
黒神めだかに僕はまだ勝っていない!
僕が勝つまで、黒神めだかに死と言う選択肢なんか与えない!
僕は、
僕は――黒神めだかの死を『なかったこと』にする!


「――……っ! 黒神めだかの『死』をなかったことにした!!」


と。
僕はそこで冷静さを欠かしていたことに、ようやく気付いた。
気付いた、というほど意識的じゃなく、多分それは無意識下のどこかで、僕は感じ取った。
駄目だ、今復活させても、生き返らせても――黒神めだかの傍にはひたぎちゃんが、いる。
きっと今復活させても、二の舞だ。
現に、彼女は今刀を振りかざしている。
いくらめだかちゃんでも、避けれないんじゃないか?
だとしたら――――僕は。


「何度だって殺してあげるわ、黒神めだか。あなたの気が晴れるまでね」


ざくりと、音がする。
ぐしゃりと、音がする。
僕の身体を、それは袈裟切する。
めだかちゃんの身体を押し飛ばし、僕は身代わりとなった。
だから僕は今、切り裂かれている。
だから僕は、死ぬ。
もう僕には命に関する『大嘘憑き(オールフィクション)』は使えない。
死ぬしかない。
これほどよく切れる刀――僕の身体を真っ二つに裂いた刀に斬られたのだ。
例え人吉先生の治療でも助かる見込むは薄いと言うより、皆無だろう。

今まで沢山死んできたけど。
なんだか。
なんていうんだろう。
今回の僕の死は、ほかならぬ僕のせいだったけれど。


めだかちゃんを守って死ねるだなんて、幸せだなあ!


奥で七実ちゃんが立ち尽くしているのが見えた。
あーあ、彼女とも仲良くなれたと思ったんだけど、これでお別れか。


辞世の句だなんて格好いいことを言いたい気分だけれど、
僕にそういうのは似つかわしくない。
だから最後は、極めてシンプルに、惨めたしく。
後悔の念を置いて、死んでいこうと思う。




――――勝ちたかったなあ。





『球磨川禊@めだかボックス 死亡』

232球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:13:16 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■



第−3槽『球磨川禊の愛した置き土産』



  ■  ■  ■




――おいおい、旧知の二人の決闘だぜ。まさか邪魔するだなんて言わねえよな――


そんな傍迷惑な、耳障りな、けれど真っ当なことを言われ、
わたしは車を降りたところまではよかったけれど、二人の決闘を傍から眺めることにした。
二人は楽しそうに、戦っている。
黒神めだかについてわたしが知っていることはほとんどないけれど、ただならぬ間柄であることは伝わってきた。
気持ちは分からないでもない。
わたしも七花と決闘をして死んだ身。
邪魔立てされるとなるならば、そんな雑草は早々に刈るべきだ。

だからわたしは静観していた。
静かに、
邪魔にならないようにひっそりと。
二人は泥臭く極めて乱暴な戦いを繰り広げている。


そもそもわたしはどうして車を降りたのでしょう。
分からない。
後ろの三人が煩わしかったというのはある。
確かにその通り。
わたしには雑草が群がっているようにしか見えない。
邪魔な雑草は刈り取りたくなる。
わたしの数少ない趣味の一つ。

しかしそれだけだろうか。
違う、と思う。
少なくとも、この一同と渡り歩くぐらいなら、と球磨川禊さんを選んだ。
まるで、わたしの心に何かが、『螺子込まれた』みたいに。
わたしと禊さんの人間関係――欠落関係。
未だ、よく分からない。
よく分からないが、付いてきている。
不思議だ。
――不思議よね。

七花はとがめさんと、日本中を練り歩いていた。
その結果、腑抜け、錆びていた。
だからわたしは七花の錆をふるい落としたのだけれど――今度はわたしが錆びているのかしら?
『ぬるい友情』で。
ぬるい水の入った、水槽の中で――。
それはとても可笑しいことだ。
くすくすと笑いだしてしまいそうだ。

七花はどうしてとがめさんと練り歩いていたのかしら――?
と、悩むまでもなく覚えている。
一目惚れと言っていた。
惚れっぽい子だ、と我が弟ながらに思うけれど、事実とがめさんと七花の相性は、そこそこによかったのでしょう。
だから一緒に居た。
所有者と刀、あるいは一組の男女として。
だとしたら。
だとしたら――わたしは、禊さんに惚れている?
いや、
考えておきながら、その理屈はおかしい。
七花は七花。
わたしはわたし。
同じ鑢家と言えども、そこまで同じと言うわけではない――とは思う。
思いたいのだけれど、どうなのかしら。

まあ。
どちらであれ、わたしが錆ついているのは不本意ながら――なのかしら、確実なのだろう。
球磨川さんが幸せそうに戦っている。
別にそのことはどうとも思わないけれど、仮にここで禊さんが殺されたら、わたしはどうするでしょう。
わたしが『見たところ』、殺人者扱いされておきながら、黒神めだかに殺意は窺えないけれど、
なんていうんでしたっけ? けーたい、そう、けーたいとやらで見させられた殺害映像に、確かに黒神めだかさんは映っていた。
だから、ここで禊さんが死んでもおかしくない。
その時、わたしはどういう行動を――どういう心情を、思い描く。

わたしの親は、死んでいる。
そのことに深い意味も、深い感慨も得られなかった。
他にわたしと近しい者は、今まで七花ぐらいなものだった。
だけど、本来わたしは七花よりも先に死んでいる。
七花が死んだ時の感情なんて知る由もない。
今もどこをほっつき歩いているのかは知らないけれど、ここでも死んでない様だし。(まあ簡単に死なれてもわたしだって困っちゃうわね)。

わたしは。
わたしは、死んでもらいたくない人間の死に立ち会った経験なんて、殊の外見てきていない。
分からない。
分からないけれど――うすら寒い。
この感情がもしも。
もしも、彼の言う『三つのモットー』の影響だとしたら、彼には責任を取ってもらわなきゃなりませんね――。


なんて考えていると。
車が去っていった方向から、人影が窺えた。
短く切りそろえた、ここに来て何度か見ているが相変わらず見慣れない構造の服をきた女――。
戦場ヶ原ひたぎさん、とおっしゃいましたか。
彼女が刀を持ち、駆けている。
――車の時でも感じていたけれど、必死で隠すよう努めていたらしいけれど。
めだかさんが現れてから、彼女の殺意が大きく肥大化したのは知っていました。

だから警戒した。
めだかさんが殺されて困ることは、生憎わたしにはありませんが
――ともあれ、決闘の邪魔立てをしてもらっちゃ、なんとなく困ります。
禊さんも楽しそうに戦っていますし。
外部からの干渉は出来る限り避けたいところ――

233球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:13:56 ID:ceqeL1pI0
と、動いた時。

――おれの娘――

また耳障りな声がする。
なんなんでしょうかこの人は。
肝心な時に役に立たない癖して――あなたに構っている場合ではないというのに。


――錆びるのは勝手だが――あまり支障をきたすようじゃあ――鑢の名が泣くぜ――


いきなり何を言い出すんでしょう。
あちらだって、今は動くべき場面であることは分かっていように。
ただ。
ここでわたしが失敗したというなら、四季崎の声に耳を傾けてしまったことに尽きるでしょう。
その尤もらしい、そして今しがたわたしが考えていたことに関することだったからといって、少し頭を働かせてしまったことだ。

その幾許か足を止めてしまった間に、ひたぎさんは――もう近くに居た。
禊さんは目を丸くしている。
何故彼女がここに居るんだろ言わんばかりに。
そして標的である黒神めだかさんの髪は、色素が抜け落ちたように真っ白で、胸には大きな螺子のが、貫かれている。

しまった。
なんて、思わなかったが四季崎の意図がなんとなく、見えてきた。
四季崎は、ひたぎさんの支援をしただけだ。
わたしが邪魔しないように――敢えて耳を傾けてしまうことを回りくどく婉曲に、もったいぶって、言ったのだろう。


――まあ一度は戦場ヶ原ひたぎも消えてほしいとは思っていたが――ここで登場するとは面白い――


不敵な声が。
耳障りな声が
またしてもわたしには聞こえる。


――完成(ジ・エンド)と完了――どちらに転んだとしてもおれにとっては興味深い――


あくまで四季崎記紀は刀鍛冶だ。
おそらくわたしのことも刀としか思っていないし、ひたぎさんやめだかさんも、実験道具の一部としか見ていないだろう。
それに憤慨をするわたしではないにせよ、四季崎の思惑通りに事が進んでしまったのは面白くなかった。

けど、思い上がらないでもらいたいわ。
この距離ならば、間に合わないことはない。
忍法足軽と虚刀流の足運びによる超接近。
もしくはとがめさんを切ったように、斬撃を飛ばして殺してしまいましょうか――どちらでもわたしは構いません。

だけど。
わたしには、一瞬何が起きたのか分からなかった。
正鵠を射るならば、『見えた』――『理解した』。
ひたぎさんはこちらを制するように、何かを投げる。――見たところ(といってもわたしの知るそれとは随分趣が異なりますが)火薬弾でしょう。
だから、地面に思い切りぶつけられた衝撃で、爆発した。
不承島で戦ったまにわに……蜜蜂さんでしたか、彼の使った忍法撒菱指弾に比べたら当然ですが精密性はない。
――でも、火薬弾にそこまでの精密性は問われない。
火薬弾で恐いのは、爆熱よりも爆風。
わたしの動きを止めるのには十分な爆風が、わたしを襲う。
肌が焼かれるようだ。
まあ、この程度の外傷ならば、放っておいてもすぐに治ってしまうんでしょうけれど。
この場合それは関係ないんです。
今、動きを止められたという事実が、大きいのです。

巻き起こされた爆風は、禊さん、めだかさん、めだかさんを襲わなかったらしい。
これが冷静な計算通りと言うのであれば、成程、とどのつまり雑草ごときとは言え、大したものです。
風が晴れて、わたしも顔を覆うようにしていた手を、降ろす。
視界が十全になった。
よく見える。――よく『見れる』。



目の前に広がる景色は、ますます面白くなかった。



わたしが何かを施せる時間もなく。
次々と物語は刻まれていき――――球磨川禊が、死んだ。

234球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:15:45 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■



「かはは――おお、人間未満よ死んでしまうとは情けねえ」


禊さんが死んだ直後というには間が空いたが、
ひたぎさんもめだかさんも、何も行動を起こさない硬直状態、膠着状態が続いた時。

――いきなり。

いきなり――いた。
戦場ヶ原ひたぎの目前に、黒神めだかの目前に――その奇妙な風体の少年は、零崎人識さんは、存在した。
何の予兆もなく、何の前兆もなく、唐突にとしか言いようのないタイミングで、
二人が同時に瞬きした瞬間を狙ったとしか説明のつかないようなタイミングで以もってして、人識さんは、存在した。


「いやはや全く、恐れ入るぜひたぎちゃん。
 てめーの殺意は確かに研ぎ澄まされていたけどよ、まさかこのバケモンばっかの魔窟ん中に飛び込むたあ、思わなかったぜ」


大して面白くはない状況ですけれど、人識さんは笑っております。
それを二人を見つめ、呆気に取られたように――少し、違いますね。
呆然と立ち尽くすしかないように、微動だにしません。
ひたぎさんは刀を握ったまま、黒神さんは蘇生されてから数分経ち体勢を整えつつあった状態から、ぴたりとも、微動だにしない。
ちなみにわたしはと言うと、本来の目的も達することが出来ず、今更動いてもしょうがない、
と禊さんとめだかさんとの戦いを観察していた場所に、座りなおしていました。
まあ、禊さんも程々になったら蘇生(かえって)こられるでしょう。


「まあ、一度寝とけよ」


そういって人識さんは、ひたぎさんの身体をしっかりと固定して、首筋に手刀を降ろす。
簡単に決まるものとは思えませんが――手口としては鮮やかなものでした。
ひたぎさんは、意識を失い、ぐったりし始めました。――身体が倒れることはなく。
まるで何かに支えられている……糸、ですかね。


「ふむ、雲仙二年生の鋼糸玉(スリリングボール)を思い出すが――原理は少し違うようだな」
「鋼糸玉ってのがわからねーが、しかし大方それとは別もんだと考えてもらえばいい。
 かはは――曲弦糸がそうそうある技術でたまるかってんだ」
「面白いな、今度私に教えて頂きたいものだ」
「生憎だが一子相伝門外不出なものでね」


戯言だけどよ――と、話を締めくくる。
見たところ、糸を使った拘束術、と言ったところでしょうか。
人識さんの言葉の正否はともかく、もう一度見ないと、完璧には真似できそうにありませんね。
難しそうです。

と人識さんが拘束を解いたのか、めだかさんは自由に身体を動かし始めた。
柔軟体操らしいです。
ふむ、距離として遠いというわけではありませんが、糸は近くで見ないと流石に分かり辛くはありますね。

「まあよ。ひたぎちゃんがこれじゃあ、おめーが幾ら呼びかけたって無駄だぜ。
 てめーら揃って一回落ち着けってんだ。正しいことやってりゃ許されるたぁ、思っちゃいけねーぜ」
「しかし後回しにしろ、いずれはしなくてはならんことだ。
 それに貴様零崎人識だろう? 聞いとるよ――勇あり少年・供犠創貴小学生から殺人鬼だから気をつけろとな」
「あぁ? なんだってまた――って供犠創貴ってあのやろーか……全く不都合っちゅーか不通っちゅーか」
「そんな輩にみすみす戦場ヶ原上級生の身体を貸すのは、私としては心苦しいばかりだ」
「   ――    」
「  ―――  ――」


まあ。
わたしにとってはどうでもいい会話の瑣末は置いておきましょう。
ひたぎさんがどうなろうとも、わたしの知る由ではありません――と。


――おれの娘よ――


またしても耳障りな、声がする。
四季崎記紀ですね。
……面倒臭い。

235球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:16:16 ID:ceqeL1pI0
「……はあ」
――ため息すると幸せが逃げるっていうぜ――ってのも今更かい――
「嫌味を言うためだけに喋ったのなら散りなさい、耳障りで目障りです」
――まあ、待てよ――これでもお得情報を持ちこんで来たつもりだぜ――

この方の言葉を鵜呑みするのも危うげですけれどまあ、一応聞いておきましょうか。

――人間未満――球磨川禊――どうしてあいつは、今になっても復活しないと思う?――
「さあ、先ほどだって随分と間を開けて復活なされましたけれど」
――じゃあ質問を変えようか――どうして球磨川禊は黒神めだかの盾になったんだと思う?――


それは。
そういえば、それはどうしてでしょう。
黒神めだかが何回殺されようと、その度に復活させればいい。
盾になってまで死ぬ必要が、どこにあるんでしょう?


――こういう考え方は出来ねえか――あいつはもう人の死を『なかったこと』には出来ない――もう蘇生は出来ない――と――


……。
…………。
………………。
それは、確かにそう言うことでしょう。


――第一、何回も何回も蘇生出来てちゃあ――バトルロワイアルの意味がまるでないだろうよ――


そう、だ。
改めて考えると、その通りです。
あまりに彼が何気なく使うものだから、そういったことを、一切考えていなかった。
けれど簡単なことです。
簡単すぎることです。
殺し合いで、ばんばんと蘇生されては――たまりません。



――だからよ――球磨川禊は――もう還って来ねえってことかもしれねえのさ――



どくん、と。
その時胸が鳴った。
大きく、
明確に。
どくん、どくん。
高鳴りが止まらない。
どうして、でしょう。

七花がとがめさんの死を知った時、どんな反応をとっていたんでしょう。
分からない。
けれど単純な七花のことです。
泣いたのでしょう。
声をあげて、
恥も外聞もなく、取り乱して。

わたしは、どうだ。
どうだ。
どうだ?


「戦場ヶ原――ひたぎ」


わたしは、ポツリと名前を零す。
彼を殺したのは、あの雑草だ。
殺してしまっても、いいだろう。
固よりわたしは全員を殺すつもりで、ここにいる。


む、と。
めだかさんがこちらを向く。
人を観察する様なその目は、わたしと似ているようで、正反対の様に思えます。
けれど、どうしてか、その顔が、徐々に滲んでいく。
……ん?


「どうした、貴様。泣いておるのか」


めだかさんに、そう言われる。
そう言われたら、そうなのかもしれない。
何故泣いているんだろう。
何故喚いているんだろう。
静かに――涙を流している。
気がつけば、わたしは駆けていた。
人識さんが背負った、その短髪の女に向かって。


「おい、人識殺人鬼。……一先ず戦場ヶ原上級生を何処かに避難させろ。貴様よりも、あやつの方が、危険そうだ」
「何処かって何処だよ」
「好きにするといい――!」


言いながら、わたしの貫手――虚刀流『蒲公英』を放ったその手を掴む。
その間に人識さんは、戦場ヶ原さんを背負って、人識さんは離脱する。
姿が見えなくなった頃、わたしの手首から、手を離す。


「退いていただけませんか?」
「断るよ。私もあやつにはまだ用が有るんでな」

それに。
と、めだかさんは言葉の末を継ぐ。

「貴様は球磨川と一緒に居たということはおよそ『過負荷』なのであろう――」

過負荷。
まいなす。
まいなす十三組。
禊さんは、そう言っていた。
三つのモットー『ぬるい友情』『無駄な努力』『むなしい勝利』。
――だとしたら、わたしは。


「そういうことかも、しれませんね」
「ふん、だとしたら。話は早い――貴様も週刊少年ジャンプは読むのであろう? こういうときは、こう言うものだ」


不敵な笑みを。
零す。
めだかさんは声高らかに。


「ここを通りたければ、私を倒してからしろっ!!」


声高らかに、そう言った。
――頭に乗らないでくださらないかしら。
雑草が。


「これこそまさに、めだ関門!!」
「五月蠅い」

236球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:16:47 ID:ceqeL1pI0
 ■  ■  ■



第−4槽『球磨川禊のもたらした歌詞が欠けている鎮魂歌』



  ■  ■  ■



戯言遣いくんたち一行から、戦場ヶ原ひたぎちゃんと零崎人識くんが抜け出している経緯について簡単に説明しよう。
それは球磨川くんたちが車を降りてから案外直ぐのことだった。

「車を止めなさい――さもないと、落とすわよ」

八九寺ちゃんの記憶をなかったことにしたのをまるで無碍にするように、
殺意を以て戦場ヶ原ちゃんは戯言遣いくんの首に、斬刀・鈍の刃を寄せたんだ。
まあ、戯言遣いくんに、勿論なす術はなかったし、人識くんは車を運転中だったから、その凶行を未然に防ぐことはできなかった。
そして成す術なく素直に戦場ヶ原ちゃんを降ろした。
羽川ちゃんも降りて話し合いをしたいと主張したけれど、戦場ヶ原ちゃんの気迫には屈せざるを得なかった。
そんでまあ、戦場ヶ原ちゃんは来た道引き戻り、いよいよもってめだかちゃんと球磨川くんを殺した訳だ。
最近の若者ってのは刃物をブンブンと振り回して危なかっしいねえ。

じゃあ次は人識くんに関してだが、察しの通りだろう。
気まぐれで戦場ヶ原ちゃんと行動を共にしていたが、彼は殺人鬼にして人が良すぎるみたいでね。
放っておくって選択肢をとれなかった。
まあ、彼の言葉を借りるとするなら――『傑作』というわけさ。
あるいは、『戯言』なのかもしれないね。

かくして男一人と女二人の三人旅。うち二人は記憶消失と言うおかしな事態になっているが。
その三人旅について、それでは焦点を当てていこうと思う。

といっても、特別語ることはない。
ランドセルランドに着いて、暇を弄ぶように迷子案内センターでくつろいでいる。
それだけだよ。
車はと言うと、勇気ある羽川翼ちゃんのお陰で仕舞えているぜ。
その時の戯言遣いの顔ときたら、確かに傑作だったにせよ、ここはさらなる蛇足だ。省かせてもらおうか。

真宵ちゃんと羽川ちゃんが遊んでいるのを、遠巻きに眺める戯言遣いくん。
記憶を消そうと嗾けたのは紛れもなく球磨川くんだが、それでも止めなかったのは戯言遣いくんだ。
思うところがあるんだろう、と僕は思っているよ。

第三回放送は、彼の心に疵をつけるのには十全だったというわけさ。
十分すぎて、十全すぎる。
人類最強・哀川潤。
人類最終・想影真心。
人類最悪・西東天。
――なるほど、彼を左右する重要人物がことごとく脱落したとなれば、彼の身に降り注ぐ心労も計り知れないというものだ。
死には慣れている。
関係人物が死んでいくのには慣れている。
そうはいっても、こうも同時に
――それに哀川潤ちゃんのような殺しても死なない様な人間が死んでしまったとなると、それはそれは厳しいものだぜ。

そう言う意味では球磨川くんも、江迎ちゃんと言う同じ過負荷の立場に立っていた人間を失った。
相当な苛立ちだったんだろうね。
彼はああ見えて人一倍他人に、身内に優しいからね。
実質、八九寺真宵ちゃんの記憶の件も、球磨川くんにとってはなんら無為となった八つ当たりなのかもしれない。
球磨川くんのメンタルと言うのは、外堀から攻めていくと、案外あっさり籠絡するもんだ。

そう言った話もさておいて。
いよいよ彼は青色サヴァンと合流を果たそうとしようとするわけなんだが――。

しかし分かんねえかなあ。
まあ分かんねえだろうけれど。
双識くんの視力が戻ったように――八九寺ちゃんの記憶が戻ってきてもおかしくないだなんて、どうして気付かねえかなあ。

237球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:17:14 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■


続いては人識くんと、戦場ヶ原ちゃんの二人に関してだけれど、
こちらに関してはよりシンプルだ。
戦場ヶ原ちゃんが人を殺し――人識くんは勝手に双識くんが死んだことにキレている。
尤もその怒りを表に出すほど、人識くんは腐っちゃいなかった。
というより、そっちも大事だけれど、彼の場合、もう一つ放送に関して話が湧く。

――人類最強が死んだってっことは俺は人を殺していいんかね。と

元々、基本的に人識くんが不殺を貫いていたのは、哀川ちゃん――潤ちゃんの約束があったからだ。
人を殺すなと言う、単純明快口約束。
彼女が死んだ今、彼にそれを守る義理はないんだろう。
守る義理はなく。
貫く意味もない。
だとするならば、彼はどうするだろう。
……いざとなったら、彼を再び零崎を始めるのかもしれないね。
殺して
解して
並べて
揃えて
晒してやる。
彼の前口上通りに、『零崎』として行動するのかもしれない。
どちらであれ、人類最強と言う、真っ赤な鎖はなくなって、彼は解き放たれた状態だ。
一歩間違えば、
一本踏み違えれば、
最後に残った零崎の片割れとしての才覚を――果たす。

まあ。
それも先の話だ。
先にもないかもしれない話だ。
――かもしれないなにかの話だ。

現に今、戦場ヶ原ちゃんを殺していない。
殺さず、運んでいる。
一旦戯言遣いたちがいるランドセルランドとは違う場所に。
こんな危険な、全身刃の様な危なっかしい女の子を、八九寺ちゃんたちの傍においておけないという風に感じたらしい。
大きなお世話だ。
少なからず殺人鬼がする心配じゃあない。
それでも、おそらくは戯言遣いくんたちにとっては、ありがたくはあるのだろう。
ガサツなようで細かい気配らせが出来る男の子ってのは魅力的だね。

今はまだ危険信号。
信号で言うなら黄色の状態。
それでも今はまだ、牙を剥かない。

238球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:17:41 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■



僕の予想通りと言うか。
まあ、大方の予想通り、鑢七実は大敗を喫した。
しょうがない話である。
彼女の主人公性――も勿論あるんだろうが、この場においては、このバトルロワイアルにおいてはいまいち説得力に欠けるだろう。
純粋に能力の、
単純に生様の、差。
プラスとマイナス。
プラスし続ける者と、マイナスし続ける者の差。
想影真心ちゃんに対してそうだったように、黒神めだかちゃんと鑢七実ちゃんの対戦カードでも、同じことが起こった。

そして鑢七実は最後まで、本気と言う本気を見せなかった。
さもありなん。
それはきっと、鑢七花に対してとっているのだから。
彼女はまだ鑢七花の現状を理解していないからね――そういうことを言える。
正直なところ、今の鑢七花は多少武芸に覚えがある人間ならば勝てるのではないかと言うほど、弱体化している――腐っている。
だから本来はそうした気遣いも無用なのだけれど、
無知と言うものは仕方がない。なんだかんだ、弟が好きなブラコンな姉には、
七花がここまでボロボロにされるヴィジョンが浮かばないのかもしれない。

話を戻そう。
鑢七実について。
というよりも、現在の彼女の身の回りについて。
現在からの近くには既に黒神めだかの姿はない。
めだかちゃんは一通りズタボロにしたあと、戦場ヶ原ちゃんを追いかけてった。
それをボロ雑巾のようになった七実ちゃんは、眺めるしかなかったみたいだね。

とはいえあんまりにも一方的だったかと言うと、そう言うわけではない。
七実ちゃんも幾度とめだかちゃんに、これまで習得してきた『強(よわ)さ』をぶつけていた。
めだかちゃんの姿も同じくボロボロだった。
そうは言っても両者とも、片や一億の病魔の副作用で、片や掠め取った吸血鬼性と持ち前の(制限されているとはいえ)再生力を活かして、
何事もなかったかのように完治させるんだろうけれど。
何とも末恐ろしい話だよ、まったく。

それでも、鑢七実ちゃんは負けた。
揺るぎようのないぐらいはっきりと、負けた。
詳細に関しては彼女の名誉のためにこの場では伏せさせてもらうが、激闘の末に彼女は負けた。
負けは負け。
それまでただ一度しか知らなかった敗北を、何処のものかもよく分からない通りすがりに負けた。

夢だった普通の敗北を知って、
念願だった苦汁をなめる行為をして、
それでも彼女、七実ちゃんは泣くしかなかった。
むせび泣いた。
七花くんがそうだったように、彼女もまた、近しい者の死が、純粋に悲しかった。
好きな相手と一緒に駄目になる。
愛する人と一緒に堕落する。
気に入った者と一緒に破滅を選ぶ。
――尽くしたい刀と、一緒に錆びていく。
これはめだかちゃんの球磨川くんに対する言のだが、結構じゃないか。

七実ちゃんは、球磨川くんの真っ二つにされた遺体に近寄って、
今か今かと還ってくるのを待っている――それは無駄だと分かっていながら。

第一、長く無人島生活をし、人慣れをしない――ロクな人間関係を作れなかった経緯(よわさ)をもつ七実ちゃんに対して、
人の弱さにつけこんで、螺子込んで、人心掌握をしてしまう球磨川くんのような人間に、人間未満に出遭ってしまっては、
こうなる結果も見えていようというのに。


と。
何やら七実ちゃんはひとりごちる。
違うなあ。
亡霊――四季崎記紀くんと対話をしているようだ。


「――弱さを、受け入れる」


生憎幽霊の声をなんのスキルもなしに聞くのは、流石の僕でも厳しいところがある。
だから、使わしてもらうとするぜ。


――そうだ――弱さを受け入れる――
「……」

239球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:18:03 ID:ceqeL1pI0

そういえば彼女は一度江迎ちゃんに会っているそうだが、
しかしその際、彼女は『荒廃した腐花(ラフラフレシア)』を習得することはなかった。
彼女はそれを、真似できないと判断した。
自らを制御するのに、負なるものは必要ないと判断した。

だがそれは、厳密に言うと違う。
彼女は真似できなかったのではない――真似をしなかった。
過負荷を習得することで、彼女の目指す『普通の生』は成しえないし、弱さを自らの長生きに繋げることはできないと考えた。
だから敢えて見なかった――江迎が施した目隠し、
つまりはドーム状に組み立てられた『柵(しがらみ)』を、彼女が立ち去るまで、かき消さなかった。
一度見れば大体は、二度見れば盤石に習得してします――だからこそ、一度だけで、七実ちゃんは済まそうとしたんだろうね。
僕から見たら、そう『見える』。


――球磨川の野郎も言っていただろう――


そう言えば、言っていたね。
こう。
相変わらず括弧つけた喋り方で。

『大事なのは強がることじゃないんだぜ。弱さを受け入れることさ』
『不条理を』
 『理不尽を』
  『堕落を』
   『混雑を』
    『冤罪を』
     『流れ弾を』
      『見苦しさを』
       『みっともなさを』
        『嫉妬を』
         『格差を』
          『裏切りを』
           『虐待を』
           『嘘泣きを』
          『言い訳を』
         『偽善を』
        『偽悪を』
       『風評を』
      『密告を』
     『巻き添えを』
    『二次災害を』
   『いかがわしさを』
  『インチキを』
 『不幸せを』
『不都合を』
『愛しい恋人のように受け入れることだ。』



――受け入れて――錆ついて――なにが悪い――
「………………」


七実ちゃんは、沈黙している。
考え込んでいる。
それは一本の錆びた刀として――過負荷の一人として


――固よりおれの完了形変態刀は最後の最期まで『錆』にしようか迷ってたんだ――
「………………」
――腐って――錆びて――あいつに勝てよ――おれの娘――鑢七実――


そこで。
七実ちゃんは立ち上がった。
その様は死人のようだ。
――死人と言うより、死体。
死体と言うより、物体のようだ。
人と言う気がしない。
虚ろにして、儚げ。

そんな僕の感じる彼女の雰囲気に、新たな項目が加わった。
そうだ。
これは。
これは球磨川くんたち、過負荷の――――



「受け入れて――錆ついて――なにが悪い――いえ、いいじゃないですか、それもまた」


七実ちゃんは。
零す。
過負荷として。
虚ろな刀の流れ――虚刀流としてではなく。
虚ろな構築の流れ――虚構流として。
虚刀『錆』として――正真正銘、弱さを受け入れて。



「おーるふぃくしょん――球磨川禊さんの死を、なかったことにした」





【球磨川禊@めだかボックス 復活】

240球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:18:38 ID:ceqeL1pI0
 ■  ■  ■








「禊さん。起きてもらって早々で悪いのですが――いいのですが」














「一つ言わせてもらわなければなりません」














「わたしはあなたに惚れることにしました」














「あなたの刀として、あなたの傍においてください」

241球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:19:07 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■





























「うん、任された。そういうことなら、僕も格好つけずには、括弧付けずにはいられないね。
 生き返らせてくれてありがとう――七実ちゃん。めだかちゃんに勝つことを僕はまだ、諦めない」











































  ■  ■  ■

242球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:20:39 ID:ceqeL1pI0






『また勝てなかった』





「――でも次は、勝つ」









  ■  ■  ■

243球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:21:34 ID:ceqeL1pI0
【一日目/夜/E-6 ランドセルランド】

【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス(現地調達)、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実、解熱剤、車
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 1:ランドセルランドで玖渚と合流。
 2:掲示板を確認してツナギちゃんからの情報を書き込みたいけど今できるかな。
 4:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 5:危険地域付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]ロワ中の記憶消失
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:? ? ?
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします
 ※記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします

【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、混乱、車で移動中
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、タブレット型端末@めだかボックス、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、
   「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス」
[思考]
基本:? ? ?
 0:ランドセルランドへ。黒神めだかと話せるのなら話したい。
 1:阿良々木くんが死んでいるなんて……
 2:情報を集めたい。
 3:戦場ヶ原さん髪もそうだけど……いつもと違う?
 4:真宵ちゃんの様子もおかしい。
 5:どうして私がこんな物騒なものを。
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※全身も道具も全て海水に浸かりましたが、水分はすべて乾きました
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、当然ですが相手が玖渚友だということを知りません
 ※道具のうち「」で区切られたものは現地調達品です。他に現地調達品はありませんでした
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします

244球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:23:07 ID:ceqeL1pI0
【一日目/夜/E-5】

【戦場ヶ原ひたぎ@物語シリーズ】
[状態]健康、強い罪悪感、しかし確かにある高揚感、気絶中
[装備]
[道具]支給品一式×2、携帯電話@現実、文房具、包丁、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、斬刀・鈍@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:優勝する、願いが叶わないならこんなことを考えた主催を殺して自分も死ぬ。
 1:阿良々木君の仇を取るまでは優勝狙いと悟られないようにする。
 2:黒神めだかは自分が絶対に殺す。そのために玖渚さんからの情報を待つつもりだったけれど逆に自分から提供することになるなんてね。
 3:掲示板はこまめに覗いておきましょう。
 4:羽川さんがどうしてここにいるのかしら……?
[備考]
 ※つばさキャット終了後からの参戦です
 ※名簿にある程度の疑問を抱いています
 ※善吉を殺した罪悪感を元に、優勝への思いをより強くしています
 ※髪を切りました。偽物語以降の髪型になっています
 ※携帯電話の電話帳には零崎人識、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています。また、登録はしていませんが供犠創貴の電話番号を入手しました。
 ※ランダム1は貝木泥舟、ランダム2は供犠創貴のものでした
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得されたか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康、戦場ヶ原ひたぎを背負っている
[装備]小柄な日本刀 、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×6(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)、医療用の糸@現実、千刀・?×2@刀語、
   手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、S&W M29(6/6)@めだかボックス、大型ハンマー@めだかボックス、デスサイズ@戯言シリーズ、
   彫刻刀@物語シリーズ
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:一先ずこいつをどうにかしてーな
 1:戦場ヶ原ひたぎ達と行動。ひたぎは危なっかしいので色んな意味で注意。
 2:伊織ちゃんと連絡を取る。合流するかどうかは後から決める。
 3:兄貴には携帯置いておいたから何とかなるだろ。
 4:真庭蝙蝠、水倉りすか、供犠創貴、宇練銀閣を捕まえる。
 6:哀川潤が放送で呼ばれれば殺人をしないつもりはない。
[備考]
 ※曲絃糸の射程距離は2mです
 ※曲絃糸の殺傷能力(切断・絞殺など)は後の書き手さんにおまかせします
 ※りすかが曲識を殺したと考えています
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話の電話帳には戯言遣い、ツナギ、戦場ヶ原ひたぎ、無桐伊織が登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします

245球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:23:28 ID:ceqeL1pI0
【一日目/夜/E-5】

【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ。お腹は満腹だ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックスがあるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
基本:「黒神めだかに勝つ」

今度こそ僕は、勝つ。
黒神めだかに、僕は勝つ。
――七実ちゃんもその気みたいだしさ

[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜6)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える。
 1:七花以外は、殺しておく。
 2:球磨川禊の刀として生きる。
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします


【1日目/夜/E-5】

【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]『不死身性(弱体化)』
[装備]『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語
[道具]支給品一式、否定姫の鉄扇@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:もう、狂わない
 1:戦場ヶ原ひたぎ上級生と再会し、更生させる
 2:話しても通じそうにない相手は動けない状態になってもらい、バトルロワイアルを止めることを優先
 3:哀しむのは後。まずはこの殺し合いを終わらせる
 4:再び供犠創貴と会ったら支給品を返す
 5:零崎一賊を警戒
 6:行橋未造を探す
[備考]
※参戦時期は、少なくとも善吉が『敵』である間からです。
※『完成』については制限が付いています。程度については後続の書き手さんにお任せします。
※『不死身性』は結構弱体化しました。(少なくとも、左右田右衛門左衛門から受けた攻撃に耐えられない程度には)
 ただあくまで不死身性での回復であり、素で骨折が九十秒前後で回復することはありません、少し強い一般人レベルです
※都城王土の『人心支配』は使えるようです。
※宗像形の暗器は不明です。
※黒神くじらの『凍る火柱』は、『炎や氷』が具現化しない程度には使えるようです。
※戦場ヶ原ひたぎの名前・容姿・声などほとんど記憶しています
※『五本の病爪』は症状と時間が反比例しています(詳細は後続の書き手さんにお任せします)。また、『五本の病爪』の制限についてめだかは気付いていません。
※軽傷ならば『五本の病爪』で治せるようです。
※左右田右衛門左衛門と戦場ヶ原ひたぎに繋がりがあると信じました
※供犠創貴とかなり詳しく情報交換をしましたが蝙蝠や魔法については全て聞いていません
※『大嘘憑き』は使えません

246球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:28:03 ID:ceqeL1pI0
投下終了です。

>>224の多重括弧の部分は前後で数が異なりますが、五個で統一です。
>>232でタイトルが「黒神めだかとの関係」になっておりますが、「鑢七実との関係」に訂正します。

以上のこと以外にも、指摘感想等がありましたらよろしくお願いします

247 ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:53:39 ID:ceqeL1pI0
追加で訂正。
状態表が全体的に修正出来ていない箇所があるのでwikiにて編集させていただきます。
重ね重ねお詫び申し上げます

248名無しさん:2013/11/29(金) 19:59:41 ID:7cJmfMyo0
投下乙です。
二転三転どころか、四転も五転もする展開にどっひぇー!ってなりました
球磨川とめだかの、参戦時期が大きく違うのに全く違和感のない
(球磨川が却本作りを手に入れたり色々あったからなんだけども)原作再現バトルに普通に見入っていたら
ヶ原さん乱入のタイミングに「そこか!!」と目からうろこが落ち、
人識の不殺の約束の破棄フラグやら、真宵の記憶やらと先が気になるフラグが次々に立って、
そして、『虚構流』には鳥肌たった。これぞまさに西尾×西尾だ。

球磨川はすげぇ腹の立つヤツだけど、七実との関係は本当に見ていたくなります

249名無しさん:2013/11/30(土) 22:26:59 ID:TfqMjiSA0
投下乙です
いきなりやらかしやがったよクマーwwwwwとか思ってたらそんなことで笑う余裕もないくらい状況がすんごいことになってた(しろめ)
クマーが味方側じゃないことに疑問を一切抱かず迎え撃つあたりさすがめだかちゃん!…と思ったのになぁ
ヶ原さんがターゲット目前にして我慢できるわけないのはわかってたことなのに
しかしまさか七実がこんなに墜ちる(輝く)のは予想外
過負荷まで見取っちゃったしどんどん強くなっちゃうよこの人
記憶喪失二人を抱えたいーちゃんもいーちゃんで大変そうだし、ヶ原さん抱え込んだ人識も一筋縄じゃいかなそうだしまだまだ大変そうだ…
ところで七実ねーちゃんの年齢は27歳とのことですがつまりそれはクマーと10歳近く離れてるということでそれは(削除されました)

250名無しさん:2013/11/30(土) 22:33:03 ID:Fl8Xq7dk0
アラサーか…

251名無しさん:2013/11/30(土) 23:01:15 ID:5./FWPLk0
投下乙です。

読んでる途中で三回くらい「ファッ!?」ってなった。ランドセルランドに着く前にこれほど波乱があるとは…
球磨川、七実、めだかのチートトリオの渦中で絶妙に隙を突くひたぎさんのアサシンっぷりとか、そのあとの球磨川の反応とか、
意表を突かれる割に「ああ、こういうのってこの人らしいな」としっくりくる感じがとにかく読んでいて気持ちよかった。
しかしまさか七実姉さんが(精神的にも能力的にも)ここまでの変遷を見せるとはなあ…
クマーのマイナス吸引力はいったいどこまで猛威を振るうのやら。

252 ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:33:29 ID:BCnupaGE0
投下します

253不死鳥(腐屍鳥) ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:36:09 ID:BCnupaGE0
 
 地面を蹴る。
 地面を蹴る。
 地面を蹴る。
 エリアG-8。地図における東端に程近いその場所で、真庭鳳凰はさらに東へと向かい、地面を蹴る。
 ひたすらに、がむしゃらに。
 さながら発条仕掛けの玩具のように、片足を曲げては蹴り、曲げては蹴りを延々と繰り返す。
 それ以外にすることがないというくらい、一心不乱に地面を蹴る――実際、今の鳳凰にとってそれ以外にやることはなかったし、それ以外にできることはなかった。
 四肢のうち三肢を奪われ、移動するのにも左足一本しか使用できない今の鳳凰にとっては。

 「はっ……はっ……」

 ざっ、ざっ、ざっ、と。
 鳳凰が地面を蹴るたび、身体と地面が擦れる音が不気味に響く。
 何百と地面に擦りつけられたであろう彼のしのび装束は、すでに襤褸切れ同然の状態だった。
 土にまみれ、泥にまみれ、彼自身の血にまみれ、汚れに汚れきったその装束にもはや頭領としての風格はない。
 這う這うの体、と言うにしてもあまりに凄惨な姿。
 最初のころは歯を軋ませ、悪罵混じりの雑言を独り吐き散らしていた鳳凰だったが、今は声を発する気力すら費えたのか、切れ切れに呼吸を漏らすのみである。
 当然といえば当然だろう。申し訳程度の止血を施されているとはいえ、両腕片足を切断された状態で長距離間を身体ひとつで移動するなど、狂気の沙汰以外の何物でもない。
 たとえ真庭忍軍の者だったとしても、他のしのびであれば確実に道中で力果てていたに違いない。
 真庭鳳凰だからこそ。
 こうして息も絶え絶えながら、動き続けることが可能なのだった。

 ――じゃり。

 顔が地面に擦れる際、土が口の中に入る。
 血混じりの唾液とともに、それを飲み下す。
 鉄の味と土の味を同時に噛みしめながら、ただ黙々と地面を蹴る。

 なぜ今、自分がこんな目に遭っているのか。
 鳳凰には、その一点がどうしても理解できなかった――決して油断をしていたわけでも、余裕を見せていたわけでもないはずなのに。
 なぜ自分があんな、手練でもなんでもない、人の殺し方すら知らぬようなただの子供に不覚を取ってしまったのか。
 不意討ちとはいえ、あの奇妙な『矢』による攻撃をみすみす喰らってしまったことも、鳳凰からすれば信じられないことだった。
 軌道が自分から外れていたことを見抜いていたにせよ、ああも堂々と放たれた武器に何か仕掛けがあるやもしれぬと、自分なら思い至ってしかるべしだったのに。
 ほんの少し、身体を半身にずらしていただけで、あの不可解な武器を回避できていたかもしれないというのに。
 不覚も不覚、一生の不覚である。

 ただ逆に考えれば、そんな一生の不覚を取ってなお九死に一生を得ることができたというのは、ある意味幸運だった。
 もしあの時、櫃内様刻が殺人者としての記録を残されることに頓着しなかったら、確実に鳳凰の命はあの場で終わりを迎えていたはずである。
 おそらく手足を切断すればいくらなんでも再起不能だと踏んでいたのだろうが、そこは様刻の見立てが甘かったと言うべきかもしれない。
 鳳凰の生命力と戦闘能力を正確に理解していたら、殺人者になるリスクを負ってでもあの場で止めを刺したほうがよいと、様刻なら判断しただろう。鳳凰が危険人物であることは、彼の所持するDVDを使えば容易に証明できるのだから。
 幸運といえばもうひとつ。手足以外の部位――たとえば両目や鼓膜といった主要な感覚器官を潰されなかったことも僥倖と言えた。
 片足と視覚が無事だからこそ、こうして無様ながらも這いずることができている。
 命あっての物種。
 しかし、だからといって、それを幸運と捉えられるほどに鳳凰は楽天家ではない。
 怨嗟、憤怒、悔恨、憎悪。
 さまざまな負の感情が、頭の中を目まぐるしく駆け巡る。

 いったい、自分に何が足りなかったというのか。
 あるいは、まだ何か余計なものを持ちすぎているとでもいうのだろうか。
 迷いはとうに捨てた。呪いも振り払ったし、この身を地に陥とす決意もした。
 いったいこれ以上、何を捨てればよいというのだろう?

 「――――畜生が」

 久方ぶりに発された言葉は、およそ鳳凰らしくもない、そんな意味のない罵言のみだった。
 その後はまた、一言も発しないままに同じ動作の繰り返し。
 坦々と、粛々と、目的の場所へと向けて。
 地面を蹴る。
 地面を蹴る。

254不死鳥(腐屍鳥) ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:39:05 ID:BCnupaGE0
 
   ◇     ◇



 鳳凰が地面を這いずり始めてから、およそ二時間。
 その間、一時たりとも休むことなく足を動かし続けた鳳凰はようやく無事に――と言えるほど満足な状態ではないが――目的地であるレストランにたどり着いた。
 暗澹とした雰囲気の建物は、陽が落ちて辺りが薄暗くなった今、より陰鬱な印象をかもしだしている。
 中も灯りは点いていないようで、窓からわずかに見える屋内もまた薄暗い。

 「はっ……はっ……はっ…………!」

 息を荒げてというより、呼吸する力すらもはや限界に達しているといった様子だった。
 それでも足の動きだけは、別の動力を使っているのかと思うくらいに一定の調子で動き続ける。
 機械か、あるいは人形のごとく。
 中に誰かが潜んでいるかもしれないと警戒することもなく、扉を蹴破るようにして開ける。涼しげな空気が外へと漏れ、頬をかすかに撫でた。
 建物内に入り、床の上をまっすぐに目的のものへと向けて這いよる。

 果たして、それは鳳凰が殺したときと同じ状態でそこに鎮座していた。
 鮮血に染まった豪華絢爛な衣装。
 テーブルの上に置かれた、穏やかな表情をした金髪の首。
 無惨に首を切り落とされた、否定姫の死体。
 それがあることを確認するや否や、鳳凰はそれを椅子ごと乱暴に蹴倒し、床の上へと転がす。
 自ら綺麗に整えたはずの遺体を、今度は不要物でも扱うかのように。

 「今だけは、おぬしが無抵抗で殺されたことに感謝するぞ――否定姫よ」

 心無い口調でそう言って。
 床に転がした死体のそばににじり寄ると、身にまとっている着物を口と足で無理矢理に剥ぎ取る。
 そして腹這いから仰向けの姿勢に転化し、残された左足を高々と振り上げ、
 否定姫の右腕、その肩口辺りに狙いを定め、踵から足を思いきり振り下ろす。

 ぶつん。

 あまり綺麗とは言えない音を立て、右腕が胴体から切り離される。
 続いて、左腕。
 同様に、右足と。
 順番に、否定姫の身体から腕と足をそれぞれ取り外していく。
 彼女に対する弔意など、微塵も感じさせない所作で。
 そして前置きも息つく間もなく、鳳凰は己の忍法を発動させた。



 「忍法、命結び――!」



 真庭忍法命結び。
 もはや説明は不要かもしれないが、他人の身体の部位と、そこに付随する能力を自らの身体に接合することができる技術。
 どれだけ肉体を失おうとも、命ある限りはいくらでも代用が効くという脅威の忍法。
 否定姫の身体から切り落とされた三つの手足は、瞬く間に鳳凰の身体へと「結合」される。
 糸で縫い合わせたかのように――否、それ以上にぴったりと、最初からそこに繋がっていたかのように。
 手足を失ってから、まだ三時間足らず。
 そのわずかな時間の間に鳳凰は、恐るべきことに己の力のみで、新たな手足を獲得してみせたのだった。

 しかし。

 目的を達成し、再び五体満足に立ち返れたはずの鳳凰の表情は、未だ晴れない。
 どころかようやく手に入れたはずのその四肢で立ち上がることすらせず、床の上に突っ伏したままの状態でいる。

 「ぐ…………くそ…………っ!」

 荒く息をつき、目を虚ろに泳がせる。その身体からは、血の気がほとんど感じられなかった。
 命結びがうまく効果を発揮しなかったのだろうか?
 それとも時間が経過したことで死体の劣化が進行し、手足としての機能を果たせなくなっていたのだろうか?
 あるいは鳳凰の傷口自体が、ここまで来るうちに感染症か何かに冒されていたのか?
 否、どれも違う。
 実際の問題はもっと単純明快で、しかし深刻と言えるものだった。

 空腹、である。
 極度の空腹が、鳳凰の身体の動きを阻害していたのだった。立ち上がることすら困難なほどに。
 ここへ来て最初、鑢七花と同盟を結んだ際に食料をすべて譲り渡したことからも分かるとおり、鳳凰にとって空腹はそれほど頻繁に訪れる危機ではない。
 二、三日は何も口にせずとも動ける程度の体力は、しのびとして当然に備わっている。
 しかしこのレストランにたどり着くまでに、さすがの鳳凰とて全身全霊を費やさなくてはならなかった。
 片足だけの匍匐前進という荒行に加え、傷口からの出血も少ないとは言えない。この数時間で、いったいどれほどのエネルギーが消費されたことだろう。
 空腹と言うよりは、燃料切れと言ったほうが正しいかもしれない。
 そもそも、生きてここまでたどり着いたこと自体が人間としてすでに無茶苦茶なのだ。いくら修行を積んだしのびとはいえ、身体が生物のそれである以上、燃料が尽きれば動けなくなるのは当然の道理である。

255不死鳥(腐屍鳥) ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:41:09 ID:BCnupaGE0
 奇しくも最初にこの場所を訪れたもうひとりの男、時宮時刻と同様の問題を、鳳凰は今抱えているのだった。
 もっとも時宮時刻が失っていたのは片腕だけだったし、疲労も出血の量も今の鳳凰とは比べ物にならなかっただろうが。

 「我は……死なぬ」

 生気の失せた身体で、鳳凰はそれでも生き残るために気力を絞る。
 何か――何か食べるものはないのか。
 以前に訪れた際、ここの貯蔵庫は調べてある。食料の備蓄はあったが、どれも凍りついていてすぐに食べられるようなものではなかった。
 このままでは、失血で意識を失うのも時間の問題かもしれない。
 せめて、失った血を元に戻さねば。
 この体に、血を補給できるようなものを何か。
 何でもいい、血肉にさえなれば。
 血肉になるようなものが、何かあれば――――


 血?

 肉?

 ...
 血肉。


 「――――ああ」




 ――あるではないか、目の前に。




 一刹那ほどの躊躇もなく。
 鳳凰は目の前に横たわる否定姫の亡骸に飛び付き、それに齧り付く。
 歯で皮膚を食い破り、その下の肉を貪るように啜り上げ。
 骨も臓物も一緒くたに咀嚼し、飲み下す。
 その姿はさながら、死肉を啄む禿鷹のようで。
 神の鳥、鳳凰の名にふさわしい振る舞いなど一切なく。
 ただ生きるために。
 喰らい尽くす。

 

   ◇     ◇



 「前に来たときには、わざわざ武器を調達する必要などないと思っていたのだがな――」

 『食事』を終えた鳳凰は、レストランの中で使えそうなものを探しながら思案する。
 思案の中身は、主催者による定時放送について。
 人心地つき冷静さを幾分取り戻したことで、移動の途中で聞いた放送の内容を反芻するだけの余裕を得ていた。
 移動中は放送に思いを巡らす余裕もなかったが、内容だけはしっかりと記憶している。
 当然、彼の知り合いである左右田右衛門左衛門の死についても認識している。

 「…………死んだか」

 短く感想を漏らす。余計な言葉は不要とでもいうかのように。
 実際、それ以外に何を思えばいいのかわからなかった。
 鳳凰にとって右衛門左衛門は、否定姫の腹心という点では危険視してはいたが、仇敵というわけではない。向こうにとってもそれは同じだろう。
 鑢七花やとがめがかつて刀を奪い合った間柄でしかないように、右衛門左衛門も、かつて親友だったというだけのこと。
 それ以外の何物でもない。
 ただ、誰があの男を殺したかのかは若干気になるところではある。
 知ったところで何をするというわけでもないし、何かをする理由もないのだが。

 ともあれ、今は感傷に浸っている場合でもない。
 考えるべきは、これから何を為すかだ。今後の動向について、鳳凰は思考を巡らせる。
 頭の中に地図を展開し、発表された禁止エリアの場所に印をつける。自分がさっきまでいたF-8は、すでに禁止エリアになっているのだろう。時間が少しずれていたら危ういところだった。
 それから、他の参加者にどう接していくかの問題。不本意ではあるが、これからはより慎重に、保身を優先して接触していく必要がある。

 まずひとつは、まだ生き残っている同胞のひとり、真庭蝙蝠を見つけ出して合流すること。
 単独行動を常とするのが真庭のしのびの特徴ではあるが、自分がここまで力を削がれてしまった以上、なりふり構ってはいられない。
 忍法記録辿りをもってしても、今までの道中で蝙蝠の痕跡すら発見できていない、杳として知れないのが現状ではあるが……
 逆に接触しないよう気を付けるべきは、右衛門左衛門亡き今では鑢七花が筆頭だろう。
 今は同盟を結んでいるが、それは互いの実力が拮抗していてこそ成り立っているようなものだ。鳳凰の現状が知れたら、同盟破棄はもとよりその場で斬り捨てられてもおかしくはない。
 頭の足りないように見える男だが、あの奇策士とおよそ一年間行動を共にした実績がある剣士。そのくらいの計算は働くはずだ。
 そして最後は言うまでもなく、あの少年の動向を捕捉すること。
 自分の両腕と片足を刈り取った、あの憎き少年。
 『櫃内様刻』――自ら名乗ってはいなかったが、図書館で首輪探知機に表示されていたあの名前が、おそらくあの少年の名前だろう。
 あの少年だけは、決して捨て置くことはできない。必ず見つけ出し、自分を生かしたまま去ったことを後悔させてやらねばならない。
 手足をもがれ、地を舐めさせられたこの屈辱は、万倍にして返してやらねばならない。
 自らの手をもってして、必ず。

256不死鳥(腐屍鳥) ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:45:48 ID:BCnupaGE0
 
 「……しかし、やはり弱いな」

 鳳凰は己の腕を動かしながら呟く。新しく取り付けた、その両腕を。
 もとから分かっていたことではあったが、否定姫から移し替えたこの手足はさほど身体能力に優れたものではない。
 というか、腕力も耐久力もはっきり言って凡百並だ。脆弱と言ってしまってもいい。
 ただ、腐敗などの死後損壊が思いのほか進行していないのは助かった。空調により店内が涼しく保たれていたのが幸いしたのだろうが、身体から血が抜けていたことも要因としてあるのかもしれない。
 そうは言ってもやはり、今までの両腕とは比べるべくもなく弱すぎる。
 岩をも砕く右腕と、忍法記録辿りを宿した左腕。今更ながらに、あの両腕を失ってしまったのは痛い。
 そう思うと、また怒りがふつふつと湧き上がってくる。
 冷静に考えねばならないということは、百も承知ではあるけれど。

 もちろん道行く途中で使えそうな身体が見つかればそちらに付け替えるつもりではいるが、そう都合よく死体が転がっている可能性を前提に動くなど愚行が過ぎる。
 もし今の身体で、あの少年と再び鉢合わせたとしたらどうする?
 無論、戦えないということはない。いくら手足が凡百の力しか持たないとはいえ、それを駆るのは真庭鳳凰。武器のひとつも持てば、相手が手練でもない限り十分に戦うことは可能。
 しかし一度不覚を取っている以上、どうしても余裕をもって挑むことができないのも事実。
 あの『矢』以外に、鳳凰にとって得体のしれない武器を所有している可能性も十分ありうるのだから。
 加えて、あの少年の仲間と思しき、もうひとりの少女。名前が確か無桐伊織と言ったか。
 警戒すべき対象というなら、あの少女こそ警戒すべき対象だった。両足をへし折っておいたから、すでに戦闘不能と考えるのが妥当なのだろうが――
 炎刀すら通用しないと思わせるあの反応、あの身のこなし。
 殺意に満ち溢れた――否、殺意そのものであるかのような、あの『鬼』の如き気迫。
 一度は撃退し、両足をへし折ってなお、警戒を解く気がしない。
 仮にあれともう一度戦う機会があったとして、自分は勝てるのだろうか?
 今の自分に、あの二人を正面から抹殺することなど可能なのだろうか?

 「…………」

 厨房からテーブルフロアへと戻り、調達した物をテーブルの上に並べる。
 ナイフ、フォーク、牛刀、出刃包丁、調理用のガスバーナーなど。
 他にも武器になりそうなものはあったが、デイパックを奪われてしまったため持ち運べる量には限りがある。ここからさらに厳選しなくてはならない。
 自らの身体を武器として使えない今、武装しなければいけないのは仕方のないことだが――この程度ではやはり、心許ない。
 何か、このありあわせの武装以外にひとつ。
 急場しのぎでも構わない。満足のいく身体を揃えられるまで、打っておける策は何かないものか――

 「……ん」

 こつん。

 足先に何かが当たり、床に視線を落とす。
 そこに転がっていたのは否定姫の首だった。おそらく死体を蹴倒した際、勢いでテーブルの上から転がり落ちたのだろう。
 相変わらず、綺麗な表情をしている。
 それだけを見れば、眠っているだけと見まごうような穏やかな死に顔。

 「顔――か」

 鳳凰は己の顔にそっと手をやる。
 この顔は、正確には鳳凰自身の顔ではない。彼のかつての親友であり否定姫の腹心、左右田右衛門左衛門から奪い取ったもの。
 その忍法と、人格を必要としたがゆえに。
 鳳凰は思う。
 この「顔」は、真庭忍軍の頭領としては必要なものだ――だが。
 今、この状況で必要とすべきは、この「顔」ではないのではないか?
 あの憎き少年にも、この顔はすでに割れている。あの二人にもしまだ仲間がいたとしたら、自分が危険人物であると他の参加者に広められている可能性がある。
 戦闘に向いた手足をほぼ失った今、この顔に固執するというのは利益よりも不利益のほうが多いのではないか?
 今必要なのは、この顔よりも。
 組織の長としての統率力、求心力を兼ね備えたこの人格よりも。
 周囲に蔑まれ貶められ孤立しようとも、すべてを踏み台にして何度でも這い上がる、そんな高慢で傲慢で狡猾で厚顔無恥な、不屈なる野心家の人格。
 たとえば。
 たとえばこの女のように。

 「……否定姫」

 尾張幕府に二人の鬼女あり。
 この否定姫が鬼女と呼ばれる所以を、鳳凰はよく知っている。
 奇策士とがめの下、この女を失墜させるのに一役買ったのも、そこからしぶとくも復権したことを奇策士に伝えたのも自分だった。

257不死鳥(腐屍鳥) ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:46:39 ID:BCnupaGE0
 潰しても潰しても這い上がって来よる――そんな言葉をあの奇策士に吐かせたというだけで、この女の質の悪さは知れようというものだ。
 自分がこの女を殺せたことも、実のところ偶然にすぎないと思っている。おそらく唐突にここへ連れてこられてから、協力者を得る間もなく自分に出会ってしまったのだろうが――
 逆にもし、この女を先に見つけていたのが左右田右衛門左衛門だったら。あるいは他の、この女に同調するような協力者を得ていたとしたら。
 その場合、この女がこの殺し合いにおいて何をしでかしていたか、想像するだに背筋が凍る。
 そう思えるくらい、この否定姫という女は底が知れない。

 この女のようになりたいなどとは、死んでも思わないが。
 もしそれが「必要」なのだとしたら。
 生き残り、目的を達するために、それが必要なことであるのなら。
 何を捨て、何を得るのか。
 この場で自分が捨てるべきものは、そして代わりに得るべきものは何か――

 「――――――――」

 おもむろに、鳳凰は否定姫の首を床から拾い上げ、さらにテーブルの上から牛刀を掴み取る。
 その切っ先を否定姫の首の顎下あたりにあてがうと、そのままずぶりと刃を皮膚の下に押し込み、輪郭をなぞるようにして顔の表面を切り取り始める。
 素早く、しかし丁寧に。
 顔面だけでなく、髪の毛も頭皮ごと剥ぎ取る。長い金髪を一本も落とすことなく皮膚に残したまま、それをずるん、と頭部から引き剥がした。
 そして間を置かず、今度は牛刀を自分の顎下にあてがい、躊躇なくそれを自分の顔面に突き入れる。
 ずぶずぶと、ざくざくと。
 切り取った否定姫の顔と全く同じ形に、己の顔面と頭部の皮膚を、肉ごとえぐるように剥ぎ取っていく。
 最後は半ば力任せに、ぶちぶちと嫌な音を立てながら顔の表皮を引っぺがす。ぼたぼたと、むき出しの顔の表面から鮮血と肉片が滴り落ち、床に赤黒い染みを作る。

 その顔を――かつての親友から奪ったその顔を、その場に放って。
 代わりに否定姫の顔を、面でもかぶるかのように己の顔へと運ぶ。


 ――忍法命結び。


 穏やかながらも、まごう事なき「死者の顔」だったはずのそれは。
 今再びゆっくりと、「生者の顔」として目を見開いたのだった。



   ◇     ◇



 「ふむ……こうしてみると、意外になかなか悪くない」

 店内にあった鏡に自分の姿を映しながら、鳳凰は新たな手足や顔の感覚を確かめるように動かしてみせる。
 白く透き通った肢体、長い金髪に、青い瞳。
 体幹の違いこそあるものの、それは紛れもなく否定姫の姿だった。

 「『変態』は蝙蝠の専門だが、『変装』程度であれば我でもこの通りよ。この女に変装する日が来ようなど、よもや夢にも思わなかったが――」

 そう言う声も、ほとんど否定姫の声そのものだった。命結びの効果というよりは、しのびとしての技術の一環であるらしい。
 ちなみに今、鳳凰が身にまとっているのはしのび装束でなく、きらびやかな女物の衣装である。言うまでもなく、否定姫から剥ぎ取った着物だった。
 鳳凰の体格で女物の着物を身につけるというのは少々難があったが、否定姫が女性としては長身だったこともあり、寸足らずになるということはなかった。
 どころかむしろ自然に、違和感なく着こなしている。
 帯の中や袖の下など、あちこちに仕込んであるナイフや出刃包丁の存在も気づかせないくらい、自然に。
 否定姫を知らない者が見たとしても、まず女性であると信じて疑わないだろう。
 血で汚れていることが難点といえば難点だったが、そこはまあどうとでも言いくるめられる。少なくとも、襤褸切れのようなしのび装束を着ているよりは幾分まとものはずだ。
 これなら右衛門左衛門を欺くことも可能だったか――などと今となっては無意味な思考が頭をよぎるも、さすがにその考えは即座に否定する。
 あの男相手では、欺くどころか声をかける前に看破されてしまうに違いない。蝙蝠の忍法でも騙し切れるかどうか。

 そもそもこの変装は、否定姫を装うことを目的としてはいない。
 自分が真庭鳳凰だと気づかせないこと。
 真庭鳳凰が危険人物だと知る者を欺くことこそ、この変装の目的。
 単純ではあるが、不意を打つのに「変装」は極めて有効な技術。特にあの少年――櫃内様刻に接触する際には存分に効果を発揮するだろう。
 言ってしまえば十全に戦える手足を得られるまでの苦肉の策ではあるのだが――しかし。

258不死鳥(腐屍鳥) ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:50:18 ID:BCnupaGE0
 
 「…………ふふふ」

 唐突に。
 冷徹な彼らしくもなく、愉快そうに鳳凰は笑いを漏らす。
 いや、それはもはや「彼らしく」と言ってしまっていいのかもしれない。元は他人のものであるとはいえ、その『顔』はすでに鳳凰のものとなっているのだから。
 否定姫の顔を――人格を手に入れた鳳凰は、どこか満足げな雰囲気をその表情に漂わせていた。
 この女のようになりたいとは思わないと、心の中では明言しておきながら。

 「不思議なものだな……顔を捨てたばかりだというのに、今こそおぬしの心中が真に理解できる気がするぞ――右衛門左衛門」

 否定姫の顔で、鳳凰はそんなことを言う。
 この世で唯一、否定姫が己の腹心として傍に置くことを選び、それに忠実に仕え続けた男、左右田右衛門左衛門。
 その心中を、彼はどう理解したというのだろうか。
 死んでも誰かの下につくことなどない誇り高き男――かつての親友を、鳳凰はそんなふうに評していた。
 その親友が、生涯をかけて忠誠を誓った相手。
 その「顔」を手に入れたことで、何かを汲み取ったということなのか。



 ――あなたの夢を否定する。
 ――現実しかないと否定する。
 ――否定して否定して否定する。
 ――何も叶いやしないと否定する。
 ――ただ無意味なだけだと否定する。
 ――ご都合主義なんてないと否定する。
 ――今のあなたの思考すべてを否定する。
 ――否定して――否定して否定して――否定して否定するわ。



 「否定する」


 殺した女の、今際の際の言葉を思い出して、
 鏡に映った自分の顔に向かい、鳳凰はその言葉を否定する。



 「おぬしの言葉を否定する。
  現実にとらわれる必要などないと否定する。
  否定して否定して否定して、否定する。
  叶うものもなくはないと否定する。
  無意味なものなどないと否定する。
  ご都合主義も虚構ではないと否定する。
  おぬしの否定すべてを否定する。
  否定して――否定して否定して――否定して否定して否定しよう」



 鳳凰らしくなく、しかし彼らしく。
 あるいは「彼女らしく」。
 否定的な口調で、否定的な笑顔で、鳳凰はすべてを否定する。

 「ふふふ――いずれはこの顔も捨てることにはなるだろうが……それまではこの女の真似事をしつつ殺し合いに臨むというのも、面白くなくもない」

 二重否定の言葉でそう言って。
 一度は打ち捨てたはずの右衛門左衛門の顔を、袂の中にそっとしまい込む。
 そうするのが自然というかのように。
 かつての親友と、今の自分の顔。そのふたつが共にあるのが当然とでも言うかのように。
 
 「そろそろ移動するか。急ぎたい心地ではあるが、体力を無駄にできる身体でもない。慎重に、ゆるりと動かねばならぬな」

 鏡の前を離れ、鳳凰はゆっくりとした足取りで歩みだす。
 慎重という割にははっきりとした目的地すら決めていないが、そんな矛盾すらも否定するように。
 左右ちぐはぐな両足で、レストランを後にする。

 否定姫の顔、否定姫の人格。
 この上なく否定的な、この世のすべてを否定するためにあるかのような人格。
 その対象に例外はない。己の腹心も、自分自身ですらもその人格は否定する。
 それがもともとの人格である、真庭忍軍の頭領としての「真庭鳳凰」をも否定しかねないという危険をはらんでいることに、鳳凰はまだ気づいていない。



【1日目/夜/G−8 レストラン付近】

【真庭鳳凰@刀語】
[状態]身体的疲労(中)、精神的疲労(小)
[装備]矢@新本格魔法少女りすか、否定姫の着物、顔・両腕・右足(命結びにより)、真庭鳳凰の顔(着物の中に収納)、「牛刀@現実、出刃包丁@現実、ナイフ×5@現実、フォーク×5@現実、ガスバーナー@現実」
    (「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する。
 1:真庭蝙蝠を捜し、合流する。
 2:櫃内様刻を見つけ出し、必ず復讐する。
 3:戦える身体が整うまでは鑢七花には接触しないよう注意する。
 4:否定する。
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません。
 ※記録辿りによって貝木の行動の記録を間接的に読み取りました。が、すべてを詳細に読み取れたわけではありません。


 ※レストラン内の否定姫の死体はほぼ食い荒らされました。
 ※鳳凰のしのび装束はレストラン内に放置してあります。

259 ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:54:22 ID:BCnupaGE0
投下終了です。
指摘または感想などあればよろしくお願いします。

260名無しさん:2013/12/08(日) 13:07:50 ID:OBwzY0d.0
投下乙です

これはまた力作キター
なんている人間カクテルw
否定姫がこうなるとは…

261名無しさん:2013/12/09(月) 09:21:14 ID:82d0KnIM0
投下乙です
ついに来ちゃったよ食人イベント!
タイトル見た瞬間に嫌な予感しかしなかったけど…
禁止エリアで首輪パーンも予想してただけにそれ乗り切るとは鳳凰さんさすがだわ
そういやこのロワ死体損壊結構あるな

262名無しさん:2013/12/11(水) 00:29:43 ID:zv.b.WDg0
告知

明日12日に交流所にて新西尾ロワ語りがあります
書き手読み手問わず質問・感想等いただけたら幸いです
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/8882/1385131196/

263 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/12(木) 23:49:54 ID:BjeSxi3Y0
日和号、都城王土の投下を始めます

264働物語 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/12(木) 23:51:18 ID:BjeSxi3Y0

「全く不本意な事だが仕方あるまい」

そう一人呟く。
ついでに携帯で時間を確認する。
間もなく放送が始まろうと言う時刻。
だが俺には関係ない。
既に何処が禁止エリアになるかは聞かされている。
そのついでとばかりに、わざわざこんな場所にまで足を運ばされた訳だが。
もう一度形態を見遣る。
どうせ連絡は来ないだろう。
だが、しかし、

「…………来たか」

微かに音が聞こえた。
巡回ルート上で待つ事、もはや三十分以上。
こんな風に待っているのは暇だったのだ。
だがそれも仕方ない。
未造のため。
音へと向く。
ゆっくりとやってくるそれは人型。
だが異形。
人は決して四本足でも四本腕でもないのだから。

「日和号……いや、微刀『釵』」
「――――――人間認識」

近付いて来ていた人形の動きが一度止まり、そして、目が開く。
どうすれば良いか分かっていても、普通なる俺だから、思わず身構えてしまう。

「即刻斬殺」

四本の手を己の前で合わせるようにして一瞬。

「人形殺法【旋風】」
『どうも皆さん。時間になりましたので』
「こんな時にか……」

高速回転。
風車のように。
回転させながら迫る。
ガラクタの悉くを刻みながら。
つくづく調子を外してくる。
仕方なく小さく首を振り、指差し呟く。

「…………止まれ」

一言。
聞こえるか聞こえないか。
その程度の言葉で、

「――」

日和号は、停止した。
全ての動きを完全に止め、勢いのまま転がり止まる。
無言のままその近くまで寄る。
微かに振動はしている
だがそれだけ。
動き一つ出来はしない。
簡単な事だ。
日和号もとい微刀『釵』。
その動力源が何か。
それは、太陽でありそれを元にした発電。
即ち、太陽電池である。
流石に百年単位で劣化しないと言うのは見事と言えよう。
四季崎の、と言うより未来の技術は侮り難い。
全く、忌々しい話だが。

265働物語 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/12(木) 23:53:27 ID:BjeSxi3Y0
「即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺」
「……放送が止んだか」

何時の間にか放送は終わっていた。
大した内容ではあるまい。
どうでも良い話だ。
それよりも今は、こいつに指示を出すのが先である。

「斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺」
「黙れ」
「即こ――――――」

軋むような音を立てただけで、動かなくなった。
電気を動力源にすると言う事。
微刀『釵』などと言う大層な名前を付けていても所詮、電子機器である。
ロボットと言い換えた方が正しいか。
まあ閑話休題。
ならば。
13万1313台のスーパーコンピューターを操る事。
たかだかキリングマシーン一つを完全に制御する事。
どちらが難しいなど知れていよう。

「……普通の俺がこんな事をする羽目になろうとは」

そう悔やんでみても今更だ。
もはや賽は投げられている。
それが例え四十人殺すとしても。
黒神めだかと敵対するとしても。
俺は最早止まれない。
曲がる事すら、許されない。
投げてしまったのだから。
今更引き返そうとも思わない。

「…………未造…………俺は…………」

とぅるるるるるるる。
と。
遮るように音がした。
半ば無意識的に手を動かし、耳に当てていた。

266働物語 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/12(木) 23:53:57 ID:BjeSxi3Y0

「――待っていたぞ、萩原。
 生憎『腐敗』の方は俺の手に負えそうにはなかった、とだけ言っておこう。

 ――止められないのも予想通りか。
 つくづく貴様の想定通り、掌の上と言う訳か。
 で、だ。
 その「やっていただきたい仕事」とやらは『選外』の?

 ――急ぎか?

 ――ほう?
 何か想定外の出来事でもあったのか?
 
 ――なるほどな。
 いったいどこから漏出したのやら。
 普通なる俺には皆目見当も付かないなぁ。
 そちらに心当たりはあるか?

 ――なければないでどうとでもするだろう、貴様は?
 だが一応、気を付けて置こう。
 貴様の言う、『策』の実行のためにな。
 気に入らぬが。

 ――――――ふん」

切れた連絡から耳を外す。
俺の悩みすら読んでいたようなタイミング。
悩む事すら掌の上とでも言うのか。
だとするなら気に入らん。
が、その掌の上から逃れられない。
孫悟空ではあるまいが。

「さて。早く斜道に任された仕事を果たすとしよう」

足元で動かない微刀を見据える。
ただ指差し、命ず。

「――立て」

奇妙な震えを伴いながら、立ち上がる。
俺の『言葉』がなければすぐさま襲い掛かってくるだろう。
最も、それを捻じ伏せるだけの準備はあったが。
取り越し苦労と言う奴だ。

「言葉を発する事を許す。命令を上書きする。内容を復唱せよ」
「――」

語らない。
動かない。
仕方ない。

「 上 書 き す る 」

「――上書きする」

267働物語 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/12(木) 23:55:01 ID:BjeSxi3Y0
微刀は。
僅かな間を置いて、口を開いた。
それに、微かに揺らいだ。
何を、と言われれば心だろう。
顔を顰めている俺に気付く。
機械であれば自在。
である筈なのに、一瞬であれ俺の命令を受け入れなかった。
その一事に、この微刀の内側の何かを感じる。

「――復唱せよ」
「復唱せよ」

何時ぞや未造が言っていた、機械の「痛み」や「眠さ」。
負の情報と言うべきか感情と言うべきか。
そう言う物を垣間見た気になる。
だが、気になっただけだ。
首を振り、払う。
俺に分かる筈もない。
どれだけそんな気になった所で。
俺に出来るのは「知る」事ではなく、「知らしめる」事だけなのだから。

「――不要湖より移動」
「不要湖より移動」
「行先、ランドセルランド」
「行先、ランドセルランド」
「内部巡回」
「内部巡回」
「それ以外変更なし」
「それ以外変更なし」
「即時行動」
「即時行動――即時行動。即時行動。即時行動」

繰り返し。
繰り返しながら、機械的に微刀は歩き始める。
安定している筈の四足で、揺れながら。
段々と遠ざかって行く。
気付けば口が開いている。
それを閉じ、目を背ける。
長き時を過ごせば道具に魂が宿るとか言う話を、無関係だとは思いながらも片隅に思い出しながら。
遠く、忌まわしい連中の居る場所。
皮肉な事にこのバトルロワイヤル最大の安全地帯を見て呟く。

「未造……」

答えはない。
当然の事と知っているが。




【1日目/夜/E-7不要湖】
【都城王土@めだかボックス】
[状態] 健康
[装備] 携帯電話@現実
[道具] なし
[思考]
基本:不知火の指示を聞く
 1:行橋未造の安全が確認が出来れば裏切る
 2:萩原子荻と協力
 3:萩原子荻の元に向かう
[備考]
 ※「十三組の十三人」編より後からの参加です。
 ※首輪は付いていません。
 ※行橋未造が人質に取られているため不知火に協力しています。
 ※行橋未造が何処にいるかは分かりません。
 ※どこに向かうかは後の書き手にお任せします。

268働物語 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/12(木) 23:56:30 ID:BjeSxi3Y0



かくして殺人人形は動き出す。
向かう先にどれだけの人間が居るか知らず。
また、どれだけの人間を殺す事になるかも知らず。
ただ機械的に。

「――即時、行動」


【1日目/黎明/E‐7不要湖】
【日和号@刀語シリーズ】
[状態]損傷なし、ランドセルランドに移動
[装備]刀×4@刀語シリーズ
[思考]
基本:人間・斬殺
 1:上書き。即時行動

[備考]
※不要湖からランドセルランドに移動しています

269 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/12(木) 23:57:14 ID:BjeSxi3Y0
以上です。
いつもどおり妙なところなどございましたらよろしくお願いいたします。
謎に急いだので粗い部分があると思いますので

270名無しさん:2013/12/13(金) 13:14:14 ID:515tShuY0
投下乙です
予約が入った時点でメンツからして予想はできたけど…w
まあ元々原作で灰賀欧がどうやって設定してたんだろうって感じではあるしむしろ原作よりも納得できるというか(ry
ランドセルランドが火種になってるというのにここで更に危険因子が
到着はしばらく先になりそうだけどそこにいるメンバー次第で惨事の予感
指摘としては>>264で携帯が形態になっているのと日和号の時間が黎明になっています

また、投下からかなり経って指摘するのもなんですが気づいてしまったので
>>257で否定姫の顔を剥がす描写がありますが、否定姫の参戦時期が原作終了後である以上長髪という表現を使うのは不自然に感じました

271 ◆wUZst.K6uE:2013/12/13(金) 23:39:57 ID:a.GnZ.JMO
投下乙です。
本当に速攻で爆弾落としに来よった・・・
今のとこランドセルランドに到着してるのは三人だけど・・・日和号に勝てそうな奴一人もいねえ!
これはもしかすると日和号が参加者を差し置いてトップマーダーに躍り出る可能性が微レ存? 微刀だけに(
王土さんは相変わらずいいように使われてるなぁ・・・ただこの人が今後どう動くかで結末が大きく変わってきそうな気はする。頑張れ普通さん。


>>270
おうふ、ラストで髪型が変わってたのを完全に失念してました・・・申し訳ない。
wiki収録時に「短く揃えられた金髪」に直させてもらいます。

272名無しさん:2013/12/14(土) 14:48:57 ID:FZs.s.ys0
投下乙です

273名無しさん:2013/12/15(日) 14:30:09 ID:6XN2X.AM0
投下乙です

すげえ、原作よりもらしいといえばらしいわあ
これはもう先がどうなるか…
ランドセルランドでの大参事は避けられるのか?

274 ◆mtws1YvfHQ:2013/12/15(日) 22:16:43 ID:wqbBMHxA0
>>270

気付きませんでした。
ありがとうございます。
訂正をこちらでやると面倒なので、申し訳ないのですがWiki収録時にていせいしておいていただけるとありがたいです。
お手数かけて申し訳ないですが、よろしくお願いします。

275 ◆ARe2lZhvho:2014/01/14(火) 13:55:56 ID:3RnAGsM.0
予約分投下します

276共犯者(教範者) ◆ARe2lZhvho:2014/01/14(火) 13:57:01 ID:3RnAGsM.0
東から昇る満月を左に、僕は伊織さんを背負って歩く。
デイパックで両手が塞がっているせいで地図を開くことはできなかったが、山火事のおかげで方向だけは間違っていないと確信できた。
地球温暖化がどうのこうのと叫ばれている現在、森林火災ともなればそれこそ温室効果ガスがなどと言われるのかもしれないががそんなもの命の前には二の次だ。
生憎というほどでもないが、文字通り自分に火の粉がかかりさえしなければ僕に関わる筋合いはない。
そもそも殺し合いが行われている場所で同行者のことならともかく、山火事を心配するくらいなら自分の身の心配をするに決まっている。
尤もなことを言ってしまえば、こんなことをやらせる主催がたかが山火事をどうにかできないとは思えないし。
僕のような平々凡々な高校生だけなら別として、玖渚さんのような人まで巻き込めるような奴らが。


――どうも皆さん。時間になりましたので……


……参ったな。
放送が始まってしまった。
できることなら放送が始まる前に辿り着いてからゆっくりメモをとりたかったのだが……
そうでなくとも、薄暗くなってきているし街灯が周囲にない今普通にメモを取るだけでも厳しいものがある。
……あ、そうだ。
伊織さんが起きないよう気を遣いながら、ポケットにつっこんでいたスマホを取り出す。
本題に入るまでの話が長いという老人にはよくある習性のおかげか、録音機能を起動させるまでの間に大事な情報が読み上げられることはなかった。
それでも聞いておいて損はないのと、余計な雑音は入れない方がいいだろうと思って、足は止めておいた。
よく見たらメールの着信を示すアイコンがあった――これがさっき玖渚さんが言ってたメールのことだろう。
後で確認しておこう。





「…………ま、処置はこんなものでいいか」

その後、薬局に到着した僕は店内にあったソファーに伊織さんを寝かせると、外に出て手頃な枝を二本、切り落としてきた。
もちろん添え木にするためだ。
普通に生活していれば中々身に付く機会はないであろう骨折の処置の知識を僕が持っているのは、一度妹である夜月の足を折ったことがあるからだ。
これだけ言えば、妹に虐待を強いる酷い兄としか思えないだろうがこれにはちゃんと事情があった。
あったのだが、今になって思い返してみると妹の骨を折る必要はどこにもなかったわけで……
しまったな、まったく弁解になっていない。
やはり機会があったら昔の僕をぶん殴っておこう。
まあ、それはそれとして。
僕は考える。
先の放送について。

西東天
哀川潤
想影真心
西条玉藻
零崎双識
串中弔士
ツナギ
左右田右衛門左衛門
宇練銀閣
貝木泥舟
江迎怒江

死者はこの順番で呼ばれていたが、順番の法則性がわからない。
五十音順でないのなら可能性としては死んだ順番だろうか?
だが、それもDVDを再生してみれば違うということがわかってしまった。
DVDのナンバリングは死んだ順番になっていたし。
ならば死んだ場所で区別しているのかと思えばそうでもない(ほぼ同じ場所で死んでいた人がいたし)。
となると、僕の凡庸な頭脳から導き出される答えは一つしかない。

――僕達が知らない何か独自の法則が存在する

277共犯者(教範者) ◆ARe2lZhvho:2014/01/14(火) 13:58:19 ID:3RnAGsM.0

もったいつけたが言ってしまえばわからないのと同義だ。
実は適当という可能性だってないとは言い切れないんだし。
これ以上考えても堂々巡りになるだけだと判断し、別のことを考える。
時宮時刻と、その前に日之影空洞という青年をもを殺していた和服の女と近くにいた学ランの男についてだとか。
ちなみに薄々予感はしていたのだが、時宮時刻が死ぬ瞬間を見ても何の感慨も湧かなかった、和服の女についても同様。
零崎軋識を殺した人物が最初は伊織さんのお兄さんである零崎双識と全く同じ外見をしていたのに白髪(とがめ、だったか)の女に変身していたことだとか。
ツナギと零崎双識が殺された映像と江迎怒江が死んだ(自滅した?)映像では途中から上空から撮影された映像に切り替わっていたのはどうしてなんだろうだとか。
串中弔士と貝木泥舟を殺した真庭鳳凰の右腕の威力に被害を受けることはなくてよかったと今更ながら安堵したりだとか。
禁止エリアの場所からして真庭鳳凰は逃げ遅れて今頃死んでしまったのだろうかだとか。
僕は考える。
今の僕にはそれくらいしかやれることがないから――





「ぅ……むぅ……ふわぁ、……ぉはようございます……」
「おはよう。と言ってももう夜だけどね」
「起きたときにはおはようと言うものでしょう。……えーと、今何時ですか?」
「七時はとっくに過ぎてるよ。それと事後承諾で悪いけど伊織さんの持ってたDVDも全部見させてもらった」
「それは別に構いませんが、どうやって見たんですか?」
「鳳凰さんからもらったデイパック、あの中にノートパソコンがあったから使わせてもらった。他にも役立つものはいっぱいあったし後で分けようと思うんだけど」
「異論はありませんが……」
「どうしたんだ?口ごもって」
「いや、本題には入らないんですねえと思って」

ようやく目覚めた伊織さんと他愛のない会話を交わすが、やはり躱すのは不可避のようだった。
ふう、と一息ついて、告げる。

「……いいニュースと悪いニュース、どちらから聞きたい?」
「こういうときはいいニュースから聞くものじゃないですかねえ」
「そうかい……いいニュースは玖渚さん達も人識もまだ生きてるってことだ」
「で、悪いニュースは双識さんはもういない、と」
「それと、哀川さんも、だったよ」

僕とは関わりのなかった人だけに正直に言うならなんの感情も持てないのだが、それなりに気まずそうな表情で言う。
そんな僕の心情を知ってか知らずか、伊織さんはきょとんとした表情で、

「はあ、そうですか」

と答えただけだった。
その顔面の裏表のなさに拍子抜けした僕はつい訝しんでしまい、聞く必要もないことを聞く。

「……反応はそれだけか?」
「こう見えても驚いてはいるんですよ?でもどこか納得してるだけで。いくら哀川のおねーさんでも死なない保障はどこにもなかったんですし……ただ」
「ただ?」
「約束、破ってしまいましたなあって。人識くんに怒られちゃいますよう……」

殺人を犯してしまったことより約束を破ってしまったことを気にする様は一般的に見れば滑稽に映るかもしれないが、僕はそうは思わなかった。
――僕も同類だし。
以前夜月から借りた推理小説を読んだときに『なぜ足し算や引き算をやるような感覚で人を殺すのか』考えたことがあったが今なら身に沁みてわかる。
ニュースなんかでよく見る『かっとなって殺してしまった』という理由の方がしっくりくるかもしれないが。
だからこそ、僕は未だに伊織さんと共にいるのだろう。
その道を先に行く教範者として――あるいは同じ道を逝く共犯者として。
かつて『世界対しに嘘をついた』から『世界から騙されている気がしている』ように、『殺す』ことを知ってしまったからこそ『殺される』ことを意識せざるを得ない。
りりすと箱彦もこんな気持ちだったのだろうかと今更のように思い知る。
もっと早く気づいていれば全てを間違えてきたようにはならなかったかもしれない――これも今となっては詮のない話だが。
だが、しかし。

278共犯者(教範者) ◆ARe2lZhvho:2014/01/14(火) 13:59:14 ID:3RnAGsM.0
「なんだ、それなら心配する必要はないさ」
「どういうことですか?」
「掲示板に貼られていた動画は8本しかなかっただろ?」
「一つが様刻さんのもので……つまり」
「まあ、そういうこと。先に破っていたのは人識の方だったからそこまで気に病むことはないよ」

人一人殺しておいて気に病むことはないとは大した言い種だが、正直な感想だしそう思ってしまうのも仕方がない。
彼女と親友が殺人を犯していたところで変わらず接し続けられるような人間なのだから――結局のところ僕というやつは。

「どっちにしたっていずれ死んでしまったらあの世で絶対に怒られちゃいますよう」
「いずれ死ぬとか人聞きの悪いことを言うなよ。……まあそのとき僕もいたら一緒に謝ってやるからさ」
「人間生きてればいつかは死ぬものですよ。たとえこの殺し合いをなんらかの形で乗り切ったとしてもいつかは死ぬときがやってきます。申し出はありがたいですけどね」
「……できれば普段から意識せずに過ごしたいものだけどね」
「そういえばどうして人識くんのこと知っていたんです?生きてたことじゃなくて、殺してたことの方ですけど」
「玖渚さんからメールが来てた。動画の方はおまけで宗像さんが目覚めるのがいつになるかはわからないからランドセルランドに到着するのが遅れるかもしれないってさ」

『おまけ』などと銘打っていたが、本来ならこっちも本題に匹敵するようなものだとは思うが。
というか、あえて僕がまだ伊織さんに伝えてない『本題』がなければ動画の方が本題になるのは間違いなかった。
罪を犯した映像を見せることで自戒させようだとか玖渚さんはこれっぽっちも考えちゃいないだろう。
僕がこういう人間であることを差し引いてもきっと微塵も思っちゃいない。
ただ、無いよりは有った方がいいから、伊織さんもいるから人識の情報を伝えるついで、程度で送ったんだろうなということくらいは十分予想できる範囲だった。
再確認するが、やっぱり玖渚さんは――異常だ。
人間なのか疑いたくなるくらいに。

「……遅くなるというのならもう少しここで休んでも大丈夫ですかね」
「できるだけ急いだ方がいいのは確かなんだけど……少しくらいならいいんじゃないか?」
「松葉杖や車イスはなかったんですよね?」
「薬局だからな、処方箋受付のコーナーにこうやってソファーがあっただけでも御の字だ」
「では交代しましょうか」
「交代?」
「様刻さんもお疲れでしょうし、ここで一度身を休めてみてはどうかと。具体的に言っちゃえば寝てしまえと」

休息は図書館でとったとはいえ、言われてみれば始まってからまともに睡眠はとっていなかったのを思い出す。
早朝に泣き疲れて研究所で少しだけ寝てしまっていたが、あれをまともな睡眠とは呼びがたい。
それに、いざ意識してしまうと途端に眠気が襲ってきた。

「……伊織さんがそういうならいいけど、何かあったらすぐ起こしてくれよ」
「わかっていますよう、でないと私もお陀仏ですし」
「ああ、それと、僕が寝てる間にDVDを見るなら別に反対はしないしスマホから動画を見たって構わない。放送も最初の部分は入っていないけど録音もしてある。
 一度に情報を出し過ぎるのも、と思ってさっきは言ってなかったけど玖渚さんからのメールは絶対見ておくべきだね。
 基本的に全部僕のデイパックの中に入っているし、首輪探知機もあったから周囲700メートルくらいは人が入ったらわかると思う。
 そしてこれは余計なおせっかいかもしれないけど、伊織さんが一番見たがってるであろうDVDは26番で僕個人としてはオススメしないのが28番だ。
 もちろん伊織さんが見たいというなら反対はしないけどね……他に質問は?」
「そこまで丁寧に言ってくださったのにあるわけありませんよう。まあ、何かあれば対応できる範囲でなんとかしますし無理そうなら起こしますから」
「うむ、ならよし」

そう言い残して僕は横になる。
膝枕などを狙うつもりは毛頭ないが粗相をしでかす事態を避けるために頭は伊織さんの方に向けておいた。

「おやすみなさい」
「おやすみなさい」

果たして、どちらが先に言ったのだったか。
どちらだったところで薄れる意識の中では些事にすぎないことだけど。





…………そういえば、昨日も満月じゃなかったっけ……?

279共犯者(教範者) ◆ARe2lZhvho:2014/01/14(火) 14:00:08 ID:3RnAGsM.0


【1日目/夜/G−6 薬局】
【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、睡眠、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン@現実
[道具]支給品一式×7(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜28)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、
   輪ゴム(箱一つ分)、首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
   鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、
   首輪探知機@不明、誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁@現実、
   中華なべ@現実、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(瓦解寸前)
 0:zzz……。
 1:休んだら玖渚さん達と合流するためランドセルランドへ向かう。
 2:時宮時刻を殺したのが誰かわかったが、さしたる感情はない。
 3:僕が伊織さんと共にいる理由は……?
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。また、登録はしてありませんが玖渚友からのメールに零崎人識の電話番号とアドレスがあります。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※DVDの映像は全て確認しています。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。

280共犯者(教範者) ◆ARe2lZhvho:2014/01/14(火) 14:00:28 ID:3RnAGsM.0

すうすうと寝息をたてる櫃内様刻の横で無桐伊織は食い入るようにスマートフォンの画面を見つめる。
放送の内容も一度聞けば十分だったし、既に本人から教えてもらっていることをわざわざ見る必要もないと『病院坂黒猫』のファイルは再生すらしていなかった。
人を殺すという行為は思ったより気持ちが悪いということを伊織は身を以て知っている。
故に消去法で彼女が何度も再生を繰り返すのは『匂宮出夢』とタイトルがつけられたファイルのみ。
最初は自身のよく知る顔面刺青の青年だけを見ていた。
12時間以上前のこととはいえ、彼女にとってはやっと確認できた姿であることは間違いない。
まずは健在を喜んだ。
続いて、今まで目にする機会がなかった彼の戦闘技術に感心した(以前に哀川潤と共闘したときは圧倒的すぎて手も足も出なかった)。
いつしか、焦点が相手の女性に移っていく。

「……人識くんがやたら言ってた出夢って人、こんな方だったんですねえ……」

感慨深げに呟き、思いを馳せる。
今まで知ることがなかった新たな一面を知ったことで思うことはあるのだろう。

「……キスまでしちゃって……電話して冷やかしてあげちゃいましょうか――なんちゃって」

玖渚からのメールには零崎人識の電話番号も添付されていた。
必要な情報が埋もれるのを避けるために最後に回したのは様刻の配慮だったらしい。

「そういえばランドセルランドの番号も持ってましたし、人識くんがいるかもしれないのならそっちに電話するのもありかもしれませんが……」

聞く者はいないとわかっていても口を動かすことはやめない。

「……それにしても、双識さん、半信半疑でしたがいたんですねえ……哀川のおねーさんだって人類最強じゃなかったんですか……なんで死んじゃったんですか……でも……」

独白する声が滲んでいく。

「……人識くん……本当に、本当にっ、無事でよかったですよぉ……っ」

思いが、溢れる。
が、その目から雫が零れ落ちることはない。
その選択肢を選んだとしても今はそれを見る者も咎める者も誰もいないというのに――


【1日目/夜/G−6 薬局】
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]両足骨折(添え木等の処置済み)
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:…………
 1:曲識、軋識を殺した相手や人識君について情報を集める。
 2:様刻さんが起きたら玖渚さん達と合流しましょうか。
 3:黒神めだかという方は危険な方みたいですねえ。
 4:宗像さんと玖渚さんがちょっと心配です。
 5:人識くんとランドセルランドへの電話は……
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※黒神めだかについて阿良々木暦を殺したらしい以外のことは知りません。
 ※宗像形と一通りの情報交換を済ませました。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※DVDの映像は匂宮出夢と零崎双識については確認しています。他の動画を確認したか、またこれから確認するかどうかは以降の書き手さんにお任せします。

281 ◆ARe2lZhvho:2014/01/14(火) 14:03:51 ID:3RnAGsM.0
投下終了です
伊織ちゃんが義手でスマホいじってますけど罪口製ならきっとタッチパネル対応もしてるよねってことで深くはつっこまないでください
他にも何かありましたら遠慮無くお願いします

また、最後になりましたが今年も新西尾ロワをよろしくお願いします

282名無しさん:2014/01/15(水) 10:16:03 ID:rKEVrxrwO
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
142話(+5) 17/45 (-0) 37.7(-0.0)

283 ◆mtws1YvfHQ:2014/01/17(金) 23:51:16 ID:SsUFqggk0
真庭鳳凰の投下を開始します。
短めです。

284一足一動 ◆mtws1YvfHQ:2014/01/17(金) 23:53:13 ID:SsUFqggk0

歩く。
同時に、最善の策を考えねばなるまい。
この場合の策は奇策などである必要はない。
純然たる、策だ。
生き残るための方策とも言える。
即ち、何処に行くか。
あるいは何処に行かないか。
これが問題だ。

「何せ」

見下ろせば。
脆弱な体を、三肢を使っている状態。
一撃必殺として元通りの足は出来るだけ温存するとしよう。
その場合、使うのは道具と限られる。

「否」

足を温存するなどと始めから考えるべきではない。
奇襲で殺す必要を感じれば。
そう言う時に温存するのは愚。
罷り間違って仕留め損なうなどと言う事があれば、

「否」

罷り間違う事など十二分に考えられるのだ。
事実、あの時、我は勝ち掛けていた。
そして今は万全でない以上。
なればこそ。
温存すると確定する必要はない。
必要に応じて考える。
それでよしとすべきだろう。
何はともあれ策だ。
行動をどうするか。
最も隙の少ないのは、動かない、と言う事だ。
動けばどうしても隙は生じる。
特に今。
この体で生じる隙は不味い。
何かあっても対処が遅れる可能性はかなりある。
幸いにして頭の中にある地図で言えば端。
寄ってこようなどと考える者はまず、

「否」

そうは、居ない、かも知れない。
それだけだ。
だからレストランに籠るのはありだ。
考えながら振り返る。

「だが」

同時に危険も付き纏う。
レストランまでは、這った跡がある。
決死で這ってきた。
痕跡など気にしていない。
つまり動かなければ何れ場所が割れる可能性がある。
来るならば罠を張って、とも行く。
しかし外から炙り出される事はなきにしも有らず。
炙り出されれば、

285一足一動 ◆mtws1YvfHQ:2014/01/17(金) 23:56:56 ID:SsUFqggk0

「簡単に」

まな板の上の鯉に同じ。
鯉と言えば魚。
そう言えば喰鮫はどう死んだのやら。
傍若無人が服を着たような物だが、実力は確かだった。

「否」

その実力の確かさに、付け入られたのだろう。
慢心。
それが怖い。
あの時の我もあるいは。

「……さて」

唇の端を噛み、頭を切り換える。
動くのならばどう動くかだ。
まず不要湖方向は論外。
這った跡がある。
だから図書館にあるはずの、あの少女の死体は後回しにせざるを得ない。
あの二人に会う可能性もあって、逸れる必要が不可欠だった。
仮に行くとしても、別方向から向かう方が良い。
次いで因幡砂漠は問題外。
砂漠ではあまりにも姿が目立つ。
それに、胴元もとい大元は我でも、否定姫の足が耐え切れると思えない。
つまり二ヶ所。
薬局か、骨董アパート。
そのどちらかを選ぶ。
二択と簡単に言えるが、難しい。
今、最も必要な物を選ぶべきか。
それとも、崩れた廃屋を見に行くか。
意味を求めるか無意味に行くか。

「だが」

一概には決め難い。
しかし、だ。
何もせずに終わると思えない。
動かなければなるまい。
水面に波紋を起こさねばなるまい。
蝙蝠にのみ頼らず。
ならば、我のみならず、経過と共に増えるであろう怪我人が欲する物は、

「……薬」

つまりは薬局。
薬があるはず。
誰かしら居る可能性もあるが、対処次第。
それに薬を幾らか持っていれば、近付き易い。
懐に潜り込みさえ出来れば、隙を突くのも容易い。
否。
こう言う考えがいかぬ。
窮鼠猫を噛む。
残った我の足まで奪われれば堪った物ではない。
なかなか思い通りに考えられないものよ。

「では」

卑怯卑劣も委細問わず。
油断間断抜からず断とう。
隙を空かさず余さず突こう。
強も弱も全て、食らい尽くしてくれようぞ。

「真庭鳳凰、いざ罷り通る――」

286一足一動 ◆mtws1YvfHQ:2014/01/17(金) 23:59:53 ID:SsUFqggk0



【1日目/夜/G−7】

【真庭鳳凰@刀語】
[状態]身体的疲労(中)、精神的疲労(小)
[装備]矢@新本格魔法少女りすか、否定姫の着物、顔・両腕・右足(命結びにより)、真庭鳳凰の顔(着物の中に収納)、「牛刀@現実、出刃包丁@現実、ナイフ×5@現実、フォーク×5@現実、ガスバーナー@現実」
    (「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する。
 1:真庭蝙蝠を捜し、合流する。
 2:櫃内様刻を見つけ出し、必ず復讐する。
 3:戦える身体が整うまでは鑢七花には接触しないよう注意する。
 4:まず薬局に行き、状況を見る。
 5:可能そうなら図書館に向かい、少女の体を頂く。
 6:否定する。
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません。
 ※記録辿りによって貝木の行動の記録を間接的に読み取りました。が、すべてを詳細に読み取れたわけではありません。

287 ◆mtws1YvfHQ:2014/01/18(土) 00:01:59 ID:V9uAxDac0
以上です。

速攻で遭遇はどうだろうと思い色々と考えましたが、まあ良いかと思いそのままにしました。
何時もの事ですが、妙な所などございましたらよろしくお願いいたします。

288名無しさん:2014/01/18(土) 01:50:54 ID:7N1DDBkwO
投下乙です
早速フラグが立ったよー!
様刻くん熟睡中だしこれはピンチ
否定しまくってるのに鳳凰らしさもあるのはさすが

…ところで結局近くにあっただろう阿良々木さんのマウンテンバイク見つけられなかったんだね
見つけたところで乗りこなせるかは別の話だが

289 ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:06:26 ID:OY0w9FPI0
投下します

290牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:07:56 ID:OY0w9FPI0
   ☆    ☆


手をつなぎ、どこまでも行こう。
君となら、どこまでも行ける。

だから、どこにも行かないでほしい。
僕の手を離さないでほしい。
君と僕はどこまでも一緒だから――――。


   ★    ★


元々ネットカフェに向かっていた理由はただ一つだった。

鑢七花による思わぬ妨害を受けて、ぼくたちはランドセルランドに向かうための方法を思索していた。
あるいは向かわないにせよ、これからどうするのかとかも話し合っていたが、その話はいいだろう。

鑢七花を対峙するためにぼくは改めて、箱庭学園で見た腐敗した扉についての考察をしたり、
りすかが彼と箱庭学園で対峙したと言うので、その時の状況を聞いてみたり、
蝙蝠と彼はもともと顔を合わせたことがあると言っていたので、詳細を聞いてみたり。
考え得る限りあらゆる策は練ってみたものの、いまいちぱっとする案もなく過ごしていた。
ぼくとりすかが考えている傍ら、蝙蝠に他の死亡者DVDを見せて手掛かりがないか探させたが特に収穫はなかった。
そんなところに放送が流れた。

大半の面々はまあ、知り合ってもないし、粗雑な言い方だがこの際どうでもいい。
零崎双識だって、確かに拍子抜けこそしたが、死んだ分には問題ないので、特別言うことはない。
ただ、ツナギ。
彼女に関しては流石のぼくでも無視するわけにはいかない。
属性『肉』・種類『分解』の魔法使い。
はっきり言っておくが、ぼくは彼女が死ぬとは全くもって想定していなかった。
彼女に敵うものがいるとすれば、それはずばり魔眼遣いぐらいなものだと、勝手に思い込んでいた。
現にぼくは彼女がこの場で死んだと思われる原因が二つしか思い浮かばない。
一つは廃病院で遭った時、ぼくがそうしたように彼女に許容量以上の魔力を取り込ませること。
そうすれば実質彼女は無力化したも同然である。(とは言ったものの単純な肉弾戦も彼女はこなせるが)
そしてもう一つは、鑢七花と同じ。
あの腐る『泥』を――あるいは同じ原理のものを目一杯に浴びた。
同じ『分解』同士、どっちに強弱が傾くかは生憎ぼくにはわからないが――ぼくにはそれしか考えられなかった。
魔法使いは魔法に頼りすぎてしまう、という一般的な弱点こそあるが、並大抵のものがそんな隙を突けるとは思えないしな。

少し耽る。
そして、二人を見た。

蝙蝠はいつも通り。
りすかは少し悲しそうだった。
ぼくはりすかの頭を撫でる。
りすかから呆けた声を聞けたところで、ぼくは蝙蝠に命令を下す。
――ネットカフェに行くことを、命ずる。

「あ?」
「理由を聞きたいのがわたしなの」

いや、そうは言われても、ぼくとしても不甲斐ない事にこれと言った論拠はない。
ただ携帯端末から掲示板を作れるとは思えないし、
恐らく掲示板を作った人間はそれなりにスペックの整ったコンピュータの置いてある施設に居るんじゃないかって踏んでいる。
ぼくたちが訪れる頃合いに当人がいるかは定かではないが、それだけのコンピュータがあれば何かできるんじゃないかって思う。

291牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:08:39 ID:OY0w9FPI0

「……」

蝙蝠は「意味分かんない」と言わんばかりの顔をして顔を伏せる。
代わりにりすかが「具体的に?」と問う。

具体的に――。
具体的には『ぼくたちの知らない死亡者のビデオ』が見れる、とか。
どういう意図で欠かしているかは知らないが、
今掲示板に貼られている動画だって『第一回放送までの死亡者』と考えても少し欠けている。
少し飛躍している発想かもしれないが、
相手が死亡者ビデオの情報を握っていると考えても決して考えすぎではないんじゃないか、とぼくは思う。
死亡者ビデオを自由に閲覧でき、選んだビデオだけを貼れる、と考えることもできなくはない。
だとすると、ぼくたちの立場云々もあるけれど、危険者を知れるという意味では大いにメリットになる。

結局、箱庭学園で遭った都城王土が告げた人間をぼくたちは把握できていない。
これは大変危険な状態だ。都城王土はああいったが、
むろん該当者が全滅しているって事態も起こり得る。
しかし裏を返せば、『それ以上』の実力者が君臨しているという事実になる。
それを知らないのは危険だ。
ツナギを殺すような人間の脅威を知らないのは、これ以上なく危険だ。
だから行く価値はあるんだと思う。
例え空振りだったとしても、どの道今は鑢七花が邪魔でランドセルランドには向かえないんだ。
時間潰しだと思えば、蝙蝠もいいだろう?

「……」

蝙蝠が黙りこむ。
ぼくは釘を刺す。
――裏切りを始めてぼくを殺すのは勝手だが、りすかはお前を許さないよ。と。
りすかの魔法を具体的には告げてない。
けれど、だからこそ、か。

「きゃはきゃは……まあいいぜ。付き合ってやんよ」

素直に応じた。
こうしてぼくらは無事にネットカフェに到着した。
そして蒼色と遭遇する。

292牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:09:12 ID:OY0w9FPI0


  ☆    ☆


雲仙冥利とは風紀委員長である。
実年齢十歳にして我が箱庭学園に通い、表に住まう『異常』の代表格とも言える存在だ。
尤もそれは一年前の話であり、今年は同じく『十三組』であり生徒会長――黒神めだかの方が日の目を浴びているにしろ、
しかし今でも、彼の『伝説』は学内ではそれなりに広まっている。
『モンスターチャイルド』と呼ばれる由縁である『やりすぎな正義』は、一年そこらで風化するものではなかった。
現に今年も吹奏楽部を壊滅状態に陥らせたというのだから、ぞっとする話だ。
(とはいえ保健室に連絡して、何やら極めて手際のいいらしい保険委員を手配するあたり決して非情と言うわけではないようだが)

今現在正義を標榜に掲げる僕としては、否応なしに存在を想起させる存在である。
『バトル・ロワイアル』に参戦してなく、状況が状況だった故に『正義』と聞いて黒神さんを安直に連想させたが、
改めて考え直すと、いやいや『正義』と聞いて彼女を連想するのは大いに間違いであることは明瞭だった。
曰く黒神さんは『聖者』――だったか。


いい機会なので、昔話をさせてもらおう。
あれはまだ雲仙くんが『フラスコ計画』に携わっていた時のことである。
偶然とでも言うべきか、『拒絶の門』の前にて彼と遭遇する機会があった。
普段は風紀委員長として活動していて顔を出さなかったり、
そうでなくとも例外的に時計塔のエレベーターを使える彼と遭遇する確率は極めて低いのだが、何かの『縁』だろう。
僕は偶然と思うことにして、特別気にかける素振りを見せず『拒絶の門』のパスワードを入力する。
出来るだけ人間と関わらないことにしていた僕にとっては、まあ、いつも通りの対応をしたまでだった。

「あ? テメーは確か『枯れた樹海(ラストカーペット)』の宗像くんとか言ったっけか」

最中、(僕からしたら)意外なことにの雲仙くんの方から絡んできた。
『拒絶の扉』は重たい音を立て開く。
丁度パスワードの入力を終えていたのだ。
無視(言い訳がましいが他人と接点を持つことは、当時の僕には避けるべきことだった)しても良かったのだが、
雲仙くんの『正義(やりすぎ)』を知っていた僕は火憐さんに対してそう思ったように、
いざとなったら彼が止めてくれるだろうと考え、彼の言葉に素直に応じる。

時間が経ち『拒絶の門』は閉まる。
これが僕の答えだと判断した雲仙くんは愉快そうに笑みを浮かべた。
小学生の浮かべる目じゃなかろうに。
さて、門番の目もあることだし場所を移そうか。
僕はそう提案して雲仙くんを地上まで誘う。
雲仙くんは異論を呈すこともなく、僕の誘いに乗った。

道中は静かなものだった。
彼にとって僕の立場は――有体に言ってしまえば処罰の対象である。
そりゃあそうだ、僕はこれでも世間では凶悪殺人鬼として名を広めている立場なのだから、風紀委員としては快いものではない。
緊張しないと言えば嘘になる。

「ケケケ! まあそんなに畏まるなよ」

地上に着いたところで彼はこちらを向き、一言。
……今はまだ処罰する気はないってことなのかな。あるいは、僕が凶悪殺人鬼でないと知っているのか。
どちらでも構わないが、攻撃の意思がないことは素直にありがたく受け取っておこう。

「テメーの『異常性(アブノーマル)』はイヤってぐれー知ってんだし、
 エレベーターも動かせねえテメー程度の『異常』に殺されるほどヤワじゃねーぜ。残念だったな」

その通り。
だからこそ、『いざとなった』時なんとかしてくれると信頼を置いて会話をしている。
『いざ』とならないことを願うばかりだ。ただ、一方的に降伏するほど僕も人が良いわけではないけどね。

293牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:11:53 ID:OY0w9FPI0

「『いざとなった』時は、オレの正義がオメーをぶっ潰してやるから、安心して悪ぃーことしてろよ」

なるほど、心強い限りだ。
僕が本気で挑んでも、確かに彼なら返り討にしてくれる。
確信するのに容易いほど、自信満々の返事であった。
しかし僕はその言葉に、ふとした疑問を感じる。
――『悪』は救うのではなく、裁くものなのか。

「はっ! テメーはあれかー? 最近名を馳せる黒神めだかの信者にでもなったんか?
 いけねーぜぇ。正義と聖者をいっしょくたにしちゃあ。オレとヤローは相容れねえよ」

『正義』、『聖者』――僕にはその違いが理解できなかった。
思えばこの時から玖渚さんの言う『正義を捨てるか』、『神を棄てるか』
その意図を理解できていなかったということになるんだろう。まるで成長していない。
ともあれ、不思議そうな顔をした僕を見かねたのか、雲仙くんはこんな話題を振ってくる。

「テメーはよ、日曜日にやってるような特撮ヒーローをなんとなくでも知ってるか?」

なんとなくならば。
古賀さん辺りは割と頻繁に仮面ライダーのポーズをとっていたりしていた。
連れ添う名瀬さんは何やら平成ライダーの方が好きだとかなんとか反論していたが、およそ関係ないことだろう。

「だったら話ははえー。宗像くんはよー、特撮ヒーローが町を襲う怪人をぶっ殺すのを咎めるか?」

どうだろう。
単純なようで、考え出したらキリがないような気がするけれど。

「難しく考えなくていーぜ」

ならば咎めやしない。
それで町に住む者、ひいては地球そのものを救ったんだから咎める必要はない。
そりゃあ相手を殺す結果になるとは言え――あ。

「そうだ、世間一般において『正義』とされる特撮ヒーローは決して相手を救ったりしない。『裁き』を下すんだ」

それが、彼の正義。
もう悪さが二度と起きないように、と。
母が悪戯をした子供を叱るのと、元を糺せば同一なのだ。
今となっては、彼の言う『正義(うんぜんくん)』と『聖者(くろかみさん)』の違いは明確に分かるけれど、
それを知らない、恐らく間の抜けた顔をしていたであろう当時の僕に対して、雲仙くんは語りかける。

「対して、黒神めだか(ヤロー)は違う。あいつは怪人さえも殺してはならねーっつってんだ。
 まあオレも未だ口づてでしか知らねーが、聞いた限りじゃあとんでもねー聖者だよ。
 ヤローは怪人にこう言うんだ。『これからは人を殺すのではなく人を活かす道を歩け』と」

そこだけを聞くと、黒神さんの人望の高さも頷ける思想なんだろう。
怪人をも更生させる。
実に真っ当な主義だとは感じる。
けれど雲仙くんの態度はまるで違った。
忌々しげに、吐き捨てるように。
紡ぐ。

「バカ言ってんじゃねーぜ! そいつは既に悪事を犯したんだ!
 ルールを破った奴が罰を受けるのは当然なんだ!
 それをなあなあでボカシて、贖罪さえすりゃあ許してもらえるって『悪』が図に乗るだけじゃねーか!」

……。
その通りだろう。
掌を返すつもりもないのだが、雲仙くんの訴えは至極尤もなものだった。
故に大半の国々では法律というルールが敷かれている。
別段黒神さんが間違っていると声を荒げて唱えるほど、黒神さんのやり方に賛同できないわけではないが……。

「っと……ケッ。感情的になっちまったぜ」

我に返った雲仙くんは当初のように愉快に挑戦的な笑みを浮かべた。
まったく。背丈が僕の腰ぐらいしかない相手とは言え敵に回したくない男だ。
しかし、どうして彼はこんな話をしたんだろうか。
最初から疑問には思っていたが、話がひと段落した今、改めて質す。

「あー? いやいやテメー自身も分かってんだろ。てゆーか、もう言いたいことの大半はもう済んでんだ。
 要するにだ、警告だよ、ケーコク。確かに今はテメーをぶっ潰すことはしねーが、テメーがオレのテリトリーで殺人を起こした日にゃあ」

瞬間、雲仙くんの眼が僕の眼を捕らえて、射る。

「覚悟しとけよ。オレは黒神のヤツと違って、テメーの異常(じじょう)なんざ省みねー」

恐ろしい子供だ。
僕が殺人を犯せない理由がまた一つ増えてしまった。
当時の僕はきっとここで、『だから殺す』と考えたのだろう。

「やりすぎなければ、正義じゃないんだよ」

彼が最後に呟いた一言は、やけに鮮烈な印象を残した。
だからこそ、今思い出すに至ったのだろう――。

294牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:12:39 ID:OY0w9FPI0


  ☆    ☆


空調の音が煩わしい。
背中を預けるソファーが固い。
不快感と共に、僕の意識は現実へと戻ってきた。

眩しい。
意識が徐々に、現を掴み始める。
なんだか夢を見ていた気がするな――。
どこか懐かしい、覚えておくべきようなこと――なんだっけ。
夢とは往々にしておぼろげなものではあるが、少し気になるな。
僕には予知夢なんて大それたことはできないにせよ。

瞼を閉じたまま、蛍光灯の光に目を慣らす。
そこまで長く寝ていたつもりもないのだが、体感とは反してそこそこの時間を睡眠に費やしたようだ。
片腕がもがれたことも相まって、身体がどことなく重く感じる。
……まあ、千刀なんてもんを携えながら寝たんだから重く感じるのも止むをえまい。

さて。
そろそろ起きようか。
ゆっくり身体を休めるのもいいかもしれないが、そんな猶予は残されていないんだ。
そもそもどうして僕は眠っていたんだっけ――?

しかし、そんな些細な疑問は次の瞬間には吹き飛んだ。
瞼を開き、身体を起こす。
そこはネットカフェのフロント。
奥には玖渚さんがいるであろう個室や、シャワールームに続く通路が見える。
僕はソファーの上で横たわり眠っておったようで、机を挟んで向かいのソファーには、

「――やあ、宗像先輩。おはようございます」

驚いた。
言葉にすれば、この一言に収斂してしまうが、
僕の身に降り注ぐ衝撃は並々ならぬものだった。

「やだなあ、そんな顔してどうしたんですか?」

今、僕はどんな顔をしているのだろう。
分からない。
状況が整理できない。
どうして僕の目の前に――というよりも、『今』、この場に!

「本気でどうしたんですか? 俺ですよ、俺。阿久根高貴、生徒会の阿久根です」

知っている。
だから僕の頭の中で強烈な混乱が生じているのだ。
彼はもう、死んでいるはずなのに!!

僕は幽霊でも見ているのか。
そんなわけあるか。――幾らなんでも非現実が過ぎる。
それはアブノーマルでもマイナスでもない、ただのオカルトだ。
……まあ、代々僕の家は『魔』を討つ家系故に「オカルトは信じられない!」なんて声を大にして叫ぶ真似こそしないが、
唐突に幽霊が現れて、受け入れられるほど、僕の器は大きくない。

「まあこんな場ですからね。気持ちが荒ぶるのも分かりますが、一回落ち着きましょう。
 ほら、これ。あそこにあったどりんくばーから注いできましたから。飲んでください」

彼の言葉に従うわけではないが、確かに落ち着くべきだ――少し落ち着くんだ。
……うん、大丈夫。大丈夫だ、頭は正常に働く。
僕は差し出された飲み物は飲まず、改めて注視する。

改めて見ると――まず間違いなくそこにいるのは『阿久根高貴』くんに違いない、
彼と会話を交えたことなど数えるほどしかないが、その点に関しては保証できる。

しかし、だからといって彼を阿久根高貴だ、と断言するわけにはいかないだろう。
繰り返すようだが彼はもう、この世に居ない。死んでいるのだ。
定時放送だけでなく、死亡した瞬間をとらえたビデオまで目を通した上で理解しているのだから、揺るがない事実だ。
すべて主催者からの虚偽だというのなら、彼がここにいる理由もギリギリ通じるが、そこまで懐疑的になる必要もないだろう。

スリーブレスの血染めの白シャツに、サイズのでかいだぼだぼのズボン。
首には同じく赤く染まったタオルが巻かれ、手には麦わら帽子が握られていた。
その血に塗れていること以外に関しては、牧歌的な服装でこそあれ、その風体はまるで似つかわしくない。
目まで垂れた男にしては長い金髪に、爽やかな顔。
牧歌的とはまるでかけ離れた今風な男の姿である。
僕は彼の名前を知っている。阿久根高貴くんだ。
箱庭学園現生徒会書記の、特別(スペシャル)――そしてプリンス、か。
彼に付けられるあだ名と言うのは生徒間でも多々あるが、しかしそれも過去の話だ。
今、彼に付けられる呼び名は唯一つ、『死人』、である。

295牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:13:45 ID:OY0w9FPI0
死んだ人間は、元に戻らない。
例外こそいるが――球磨川禊の様な埒外こそいるが、阿久根高貴にそんなスキルはない。

もしかすると後に球磨川禊が、阿久根高貴の蘇生を行ったのかもしれない。
それでも疑問は残る。
何故彼は、零崎軋識の服装をまとっているのか。
この服装は間違いなく、零崎軋識のものだ。今でも僕は、あの時の、本物の殺人鬼と邂逅した時のことは鮮明に覚えている。
圧倒的な実力差をもってして死ぬところだったのだ。忘れるわけがない。

まあ別に阿久根くんがそんな似合わない服装をしていることに疑問を抱いているわけでもなく、
『どうして死人の、それも血塗れである他人の服装をわざわざ着るような真似をしているのか』。
はっきりとは認識できなかったが、確かに阿久根くんの服装は、死ぬ間際斬られたこともあり血塗れだった(僕と同じ箱庭学園の制服だ)。
蘇生したとして、着替えたいという気持ちは分からなくもない。
けれど仮に球磨川禊が蘇生させたというのであれば、服装の傷や汚れを『なかったこと』にするのぐらい、容易いことだろう。
わざわざそんな血塗れの服を奪うことはない。
服装の傷や汚れをなかったことにできない事情があったにせよ、それでも他の施設をあたって工面すればいい話だ。

きっとこれは球磨川くんによる蘇生じゃない。
というよりも、蘇生と言うわけではないだろう。
蘇生であれば、こんな服装に関する違和感なんて生じないはずだ。
阿久根高貴くんは、特別だ――スペシャルだ。
ある意味では生徒会一の切れ者と言ってもいいだろう。
そんなヘマ、と言うよりも愚かな行為は絶対にしない。
必要もなく波風を立てる阿久根高貴くんではない
というのは実際に会った印象もあるにせよ、学校での評判や、先の詳細名簿からくるものだが。

ならばなんだ。
零崎軋識の服装を着ている理由はなんだ。
……僕はそれを知っている、と思う。
それらしい記述を、僕は『見た』覚えがある。
あれ――は。
確か。

「真庭、蝙蝠」

呟き、確かめる。
忍法・骨肉細工。
肉体変化のスキル。
真庭蝙蝠と言う参加者は、そんなスキルをもっていたはずだ。
だとすると――だとすると。
条件には、当てはまる。
彼が阿久根高貴と、零崎軋識に変態できるとするならば、この異様な組み合わせに、説明も付く。

「きゃは――」

阿久根くんの姿をした彼は。
そして。

「きゃはきゃはきゃはきゃは!!」

阿久根くんの声で、不愉快な甲高い哄笑をあげる。
ミスマッチ。
間違っても、阿久根くんならこんな声は出さないだろう。
こいつは、阿久根高貴じゃない。
今なら断定できるだろう。
こいつは――――。

「申し遅れたな。おれは真庭忍軍十二頭領が一人――真庭蝙蝠さまだ。おはようってところだぜ、宗像先輩」

真庭蝙蝠。
――真庭忍軍、か。
今の世になって、まさか忍者と遭遇するとは思っていなかった。
記述にも遭った通り、史実の忍者と言うよりは、週刊少年ジャンプにでも掲載されていそうな忍者なのだけれど。
まあそれでも忍者は忍者である。
油断ならないことこの上ない。

戦うつもりだろうか。
僕はこいつを払いのけることができるか。

296牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:14:20 ID:OY0w9FPI0


ぱんっぱんっ――――


と、興ざめ。
或いは救済の手拍子が鳴った。
蝙蝠の背後から手拍子は鳴る。
ソファーの裏に座っていたらしい。
まるで名探偵コナンのようなポジションにいるな、と考えていると『その子』は姿を現した。
そこには一人の子供がいる。
小学生ぐらいの背丈だが、それに似つかわしくないほどの意志の強さを、瞳の奥から感じ取れた。
そんな毅然とした小学生を、これまた僕は知っている。
供犠創貴。
『魔法使い』使い。
幸せの追求者。
小学生離れをした思考回路の持ち主である。
彼は僕から見て蝙蝠の右隣に座す。

にしても幸せの追求者、か……。
それは、僕――火憐さんの正義に通ずるものがある。
能動的か、受動的か――そんな差があるとはいえども。

「ふん」

ぱち、ぱち、ぱち。
一度鼻を鳴らし、供犠くんは手を打つ。
拍手、と見做していいんだろうか。

「すごいね、あんた。称えるに値するよ――宗像」

褒められて疑るていうのも何だか人が悪いようだ。
しかし僕の立場からしたら、今この場で褒められる、というのは甚く気持ち悪いものだった。
場違いにも程がある。
第一、どうして彼がここに。

「確かに阿久根高貴は死人――偽物だと断ずるには易いけれど、見事蝙蝠だと見破った」
「まあ阿久根高貴に変態してたのは、知り合いである宗像先輩への御心遣いっちゅーわけよ」

いらない気遣いだ。
余計なお世話も甚だしい、胸中で返しながら疑り深く供犠くんを見る。
――見たところ、懐に拳銃が仕舞いこんであるようだ。今、一度触った。
どういうつもりだ。
蝙蝠と同盟でも組んでいるのは別段構いはしないのだが、どうして今この場に現れた。

「暗器に加えその冷静な観察眼は実に有用だ。
 だがどうしてもその力を活かしきれてないんじゃないか――あんたならもっと凄いことが出来る」

回りくどく供犠くんは褒めたたえる。
もどかしい。言いたいことがあるなら、早く告げて欲しい。
僕としては『真庭蝙蝠』のスタンスが分からない以上気を抜けない。
名簿の記述通りの人間だとしたら、彼を倒すべきだ。
彼は『悪』――なのだから。
僕の杓子定規の判定とはいえ、人に命乞いをさせるのを愉しむ人間を善人とは言い難い。
今だって阿久根くんに変態して、まるで彼の死を侮辱しているかのような態度を取っている。
声には出さないが、どうしてそんな非道な真似が出来るんだか。僕にはとうてい理解が出来ない。

ふと窓から外を見る。
太陽は沈み切り、恐らくは月は未だ顔をのぞかせていないのだろう。
夕闇が窓の外で映えていた。
そういえば真庭と言えば様刻くんたちは大丈夫だろうか。
景色を見る限り放送の時刻は過ぎているようだが――難なくやり過ごせただろうか。どうにも心配だ。

いや。
今は様刻くんたちを信じよう。
僕は今、もっと心配すべき人間が他に居る。

「……ん? どうかしたのか」

供犠くんが問う。
そこで僕は改めて部屋一面を見渡す。
味気ない蛍光灯――粗末な備品の数々――虚しく照るドリンクバー――奥へとつながる通路――階段。
いない。
もしかしたら奥で作業をしているのかもしれないが、見当たらない。
青が。蒼が。
玖渚友が、いない。

「玖渚友……ああ、奥に居るよ」

297牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:15:03 ID:OY0w9FPI0

良かった。
ひとまず胸をなでおろす。

「水倉りすか。知ってるだろ? 彼女と一緒に作業をしている」

水倉りすか。
『赤き時の魔女』、『魔法狩り』。
小学五年生。僕にはその意味合いは分からないが、属性『水』、種類『時間』、顕現『操作』の運命干渉系の魔法使い。
曰く時を操る魔法使いとのことだが――。
まあ、いい。とりあえずは彼を信じるとしよう。
断って奥を見に行くのも構わないが、……蝙蝠に隙を見せるわけにもいかないしな。
如何せん、なまじ情報を得ているが故に警戒せざるを得ない。
そんな僕の態度を見破っているのか、先ほどから蝙蝠は愉快そうに笑っている。

息を大きく吐く。
ひとまず、リセットだ。
視点を供犠くんと蝙蝠に戻そう。
今一度姿勢を正す。

「さて、話が逸れたがここでぼくから一つ提案がある」

左人差し指を伸ばし、僕の目を強く見つめる。
吸い込まれるような瞳に僕は一瞬意識を持っていかれた。
……油断ならない子だ。雲仙くんといい、最近の子供は発育が良いようだ。
そして供犠くんは提案を告げる。

「ぼくの奴隷になれよ、宗像形」

……、……。
言葉が詰まる。
なんだかよく分からないが、今日はよく勧誘される日だ。
零崎軋識や無桐伊織さんからは殺人鬼と。
阿良々木火憐さんからは正義そのものと。
狐面の男、西東天からも勧誘を受けたし。
今度は供犠創貴くんから奴隷の勧告か。
降ろした左腕で銃に触れ、供犠くんは言葉を重ねる。

「あんたがぼくたちを知っているように、ぼくたちもあんたのことは知っていた。
 にしても、どうやらぼくは人を過小評価してしまう悪癖でもあるのかな。
 ただ大量の武具を仕舞えるという点以外に魅力を感じなかったが、大したもんだよ」

底知れなさ。
剛毅とした立ち振る舞いは人間離れしているかのよう。
そういう意味では、あの『最悪』とは表裏一体の存在である。
隙があるようで、隙のない。
毅然としているようで、飄々として。
この底知れなさは、相手を試すようなこの奥深さは、おぞましいものがある。
僕は答えなければいけない。
――お断りだと、狐面に対してそうしたように。
僕にはしなくちゃいけないことがあるんだ、と。

「安請け合いするつもりはないが、言ってみろよ。場合によっては手伝うぜ」

……。
うん、そう言ってもらえるのはありがたいけれど。
これは僕が成すべきことであって、僕にしか成しえないものだ。
『正義そのもの』になるだなんて他人に手伝わせることじゃないしね。

「……」

供犠くんの表情は変わらない。
試すような瞳からは何も窺えない。
そんな時だった。

298牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:15:36 ID:OY0w9FPI0


「――きゃは」


蝙蝠が笑った。
だが阿久根高貴の声ではなかった。
僕はこの声もまた知っている。
これは――これは! ――――零崎軋識の!
供犠くんに引っ張られていた意識を蝙蝠に移す。


「面白い事をいう奴だ。――青髪のあいつを守れなかった奴がそうもぬけぬけと、よく言えるぜ。
 ――きゃはきゃは、あー愉快ったらありゃしねー。抱腹絶倒もいいところだ」


そう言って、蝙蝠は口に手を突っ込む。
明らかに顎が外れたようにしか見えないその光景を見ながら、僕は押し黙っていた。
無論のこと蝙蝠の奇怪な身体の仕組みに驚いて絶句している訳ではない。
彼の発した言葉に、僕は黙らざるを得なかった。

玖渚さんが死んだ――。
僕は無意識のうちにその言葉を反芻していた。
口からスラリと直刀を取り出した蝙蝠は、さも当たり前と言わんばかりに、返す。

「いやいや、当ったりめーだろーが。おれさまはしのびだぜ?」

明瞭で明白。
これ以上ないほどの模範回答だった。
しのびが無力な人間をむざむざと野放しするわけがない。
そっか……。玖渚さんは逃げれなかったのか。
僕は守れなかった。
反芻する。
玖渚さんが死んだ。
守れなかった。
正義。
正しく義しい。
僕は。
僕。
宗像形。
正義そのもの。
守れない。
何一つ。
火憐さん。
玖渚さん。
様刻くん。
伊織さん。
何一つ。何一つ。何一つ。
何一つ。何一つ。何一つ。
伊織さん。
様刻くん。
玖渚さん。
火憐さん。
何一つ。
守れない。
正義そのもの。
宗像形。
僕。
僕は。
正しく義しい。
正義。
守れなかった。
玖渚さんが死んだ。
巡る。――思考が巡る。

299牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:16:35 ID:OY0w9FPI0


























――――――――――――――――ああ。

300牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:17:15 ID:OY0w9FPI0
そうか。
そうだったんだ。

供犠くんが溜息を吐く。
そして――拳銃を懐から抜き出し僕をめがけて撃つ。
事前に行動が読めていたので、このぐらいだったら避けるに容易い。

――そっか。
呟き、自覚する。
供犠くんが僕を攻撃するってことは、つまりはそういうことだ。
僕の中で、灯る。
『炎』が音を立てて。

なんで僕は凶悪犯罪者と騙り、閉じこもっていた?
それは人を殺したくないから。
人を殺したくない理由は、それは悪くて悲しいことだから。
僕は知っている。
かつて僕が僕を『悪』とみなし、閉じこもっていたように。
殺人鬼は悪であることを、殺人者は悪であることを、殺人犯は悪であることも。
だとしたら伊織さんも軋識さんも人識くんも様刻くん、勿論僕も黒神さんも、当然きみも、裁かれてしかるべきだ。

簡単だったんだ。
殺して思わず救われてしまったから、勘違いをするところだった。
殺すのは、何がどうであろうとも――『悪』だ。
『悪』は救うのではない、『悪』は裁くべきである。

真庭蝙蝠、供犠創貴。彼らは玖渚友を殺した。
この事実が示すものは極めて単純。
炎がめらりと揺らぎ立つ。
心にともる焔が僕へ命ずる。
正義を執行しろ――正しくなくとも義しくなくとも真っ当しろ――。
僕は神になるつもりはない。
ただただ、悪を裁けばいい。

炎が、僕を焼く。
これまでの戯言に翻弄される僕を抹消するように。
言葉を紡ぐ。


だから殺す――――と。


甘さを捨て、あまつさえ格好良くもないけれど。
僕はどこまでも行こう。
火憐さんが目指した、『悪』のない世界へと。
マシュマロを溶かす様に燃え盛る。
僕の正義が、油を注いだように燃え盛る。

ごめんね火憐さん。
僕はきみのような『正義の味方』でありながらも同時に『神の味方』であるような生き方は出来ない。
僕はきみの言う通り――――――『正義そのもの』になる。
神を棄てることを、僕は選択する。

なるほど、玖渚さんはすべてお見通しだったということか。
――僕がこれほどまでに人を殺さなくちゃいけないと思ったのは、初めてだ。

「おいおい、殺すってことはあんたの言うところの『悪』なんだろ?」
「きゃはきゃは――正義のために悪に染まるってのは本末転倒じゃねーか?」

供犠創貴が呆れたように僕を見下し、
真庭蝙蝠が極めて楽しそうに、僕を見下した。
なんだっていい。
きみらがどう言おうとも関係ない。

これまで忘れていた、雲仙くんの言葉を借用する。
きみたちは畑に住まう害虫を駆除するのを悪いことだと言うのか?
特撮ヒーローが敵を爆死させるのを悪だと言うのか? ――誰もそんな非難を浴びせない――なぜか?
なぜならそれらは正しいことを目的とし、正義を掲げて執行するからだ。断言する。

僕は、清く、正しく、
めだかさんのようにいかなくとも、潤さんのようにいかなくとも、火憐さんのようにいかなくとも、胸を張って正義を執り行う。
正しければどんな行為も『悪』じゃない。
友達のために――正義のために戦う僕が、火憐さんや潤さんが正義だと認めた僕が、『悪』であるはずがない。


人殺しは悪いことだ。
だけど、悪を裁くことに罪はない。

301牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:17:41 ID:OY0w9FPI0

供犠くん知ってるかい?
僕は投げかける。
極めてよく聞く、この世の摂理を。

なにを、と彼が返したので、僕は直ぐ様答えを返す。
正義は必ず勝つんだよ、って。

初めてあった時の凛とした火憐さんの顔が脳裏をよぎる。
そうだね。
決して驕るわけではないけれど、――間違ってるこいつらなんかに、僕は負けない。


「知ってるよ、だからあんたが負けるんだ」


そんな僕をつまらなそうに、
供犠創貴が言葉を返した。だから殺す。
――僕の名前は宗像形。唯一つの十字に基づき、これより『正義』を、死刑執行する。



【1日目/夜/D-6 ネットカフェ】

【宗像形@めだかボックス】
[状態]身体的疲労(小) 、精神的疲労(中)、殺人衝動喪失?、左腕(肘から先)欠損、腹部に切り傷、各部に打撲と擦過傷(怪我はすべて処置済み)
[装備]千刀・ツルギ×536@刀語、スマートフォン@現実、ゴム紐@人間シリーズ
[道具]支給品一式×3(水一本消費)、薄刀・針@刀語、トランシーバー@現実、「包帯@現実、消毒用アルコール@現実(どちらも半分ほど消費済み)」(「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:阿良々木火憐と共にあるため『正義そのもの』になる。
 0:『悪』を殺す。
 1:供犠創貴と真庭蝙蝠を殺す。
 2:伊織さんと様刻くんを殺す。
 3:『いーちゃん』を見つけて、判断する。
 4:黒神さんを殺す?
 5:殺し合いに関する裏の情報が欲しい。
[備考]
※生徒会視察以降から
※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを玖渚から聞いた限りで理解しました
※阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
※無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※携帯電話のアドレス帳には櫃内様刻、玖渚友が登録されています
※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。誰が誰にどうやって殺されたのかは把握しています

302牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:19:06 ID:OY0w9FPI0



   ★    ★


「あんたは大物になるよ」

そんなことをぼくに言った女がいる。
彼女の一言で、昔の愚かしいぼくは“更生”させられた。
この世のすべてを下らないと謗り、だからといって特別なにかを志している訳でもなかった、
それこそ下らない人間だった昔のぼくを更生した。

「あたしとあんたはいい親子になるよ」

彼女はぼくの母親になりたかったらしい。
今までの、そしてそれ以降の名義上の母とは違う、真の意味でぼくの母親になりたかった。
結局その言葉に意味がどれほどあったのかは定かでないが、
確かに――確かに『彼女』はぼくが今までで唯一『母』と呼んだ人間である。

『彼女』のことが頭をよぎる。
宗像形を見ていたら、ふと思い出した。
『彼女』の存在を。
『折口きずな』という母親の存在を。


宗像形は阿良々木火憐という女性の言葉で“更生”されたらしい。
立ち合わせたわけでもないし、聞き伝えであるため詳しいことはぼくも分からないが、
誰かの言葉を契機に“更生”した、という点において、ぼくと彼は極めて類似している。

宗像形は阿良々木火憐から『正義そのもの』と。
供犠創貴は折口きずなから『みんなを幸せにする人間』と。

そういった面では、比較的ぼくは彼に対して複雑な心境である。
加えぼくは目的に向かい邁進する人間は大好きだ。
支えて、援助して、使ってあげたくなる。
宗像形は聞いたところによると、『正義になりたい』とはっきりと目標に向かっているようだ。

好感が持てる。
普段だったら応援してやっても十分良かった。
けれど、今回ばかりは駄目だ。
それは彼女に対する謀叛となる。
曰く「余計なものは処分しておいていい」とのこと。
本来であれば彼女としては宗像形、彼をそのままコキ使うつもりだったらしいが……、
ぼくたちがネットカフェに訪れたことでおじゃんとなった。
まあ、むろんぼくの駒として宗像形を迎え入れるという選択もあったが、彼女は「それは無理だ」と返した。
実際あってみると、彼女の言い分はよくよく理解できる。
ぼくや彼女はともかく――蝙蝠やりすかは彼とは相容れないだろう。

蝙蝠だけならば、そろそろ向こうも裏切りを考えている頃合いだろうし、
ぼくも今後についてどうしようか悩んでいたところだから、別段困りはしない。
しかしりすかは別だ。りすかだけは手放すわけにはいかない。
ただでさえ――ただでさえツナギというぼくの愛すべき駒が死んで苛立っているのだ。
りすかさえも喪うわけにはいかない。

それでも――万が一に蝙蝠やりすかをも上回る逸材だって可能性だってある。
現実には叶わなかったにしろ、できるだけ多く彼女の情報を聞いておきたかった。
故にぼくは彼が起きるまで待っていた。
見計ろうと。
この行為は、ぼくがどこか心の奥底で、彼に対して感じたシンパシー故の温情だったんだろう。
甘いとは思う、思うが――どうしても重ねてしまう。

結果的には蝙蝠の嘘の所為でご破算になったが、ある意味では助かったとも言える。
これで和解の道はなくなった。
吹っ切れれる。

303牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:19:48 ID:OY0w9FPI0

ぼくは見方を変える。
宗像形は『ぼくの越えるべき壁』と。
あまりに在り方が似ているが故に。
同族嫌悪と言う言葉はある――あまりに似ているもの同士は相容れない。
そう思えば、ぼくは彼を容赦なく殺せる。
そうだね――、りすかと彼。どちらをとるかと言われたら天秤にかけるまでもなく、ぼくをりすかを選ぶ。

だからぼくは――表裏一体の存在、宗像形だって殺してみせる。

ぼくは、後悔なんて、しない。
後悔なんて、ありえない。
やり直すには、ぼくはあまりに手を汚しすぎた。
悔むことさえ偽善的に、独善的に成り下がる。
星空の下、りすかはそんなぼくを許してくれた――許してくれた、けれど。
血に染まったぼくの手が雪がれるわけではない。
今更遅い。
犠牲は犠牲。生贄は生贄。
踏み越えた者として、踏み越えた屍を、矜持を持って見下してやる。
だから必要となれば宗像形だって、ぼくは踏み越える。

この観察眼は、この頭脳は、この度胸は、この器用さは、ぼくの全ては――この世を幸せにするためにあるのだ。

――――ぼくは負けない。
こんなところで腐るつもりもない。
ぼくに似た存在を倒せないようでは、水倉神檎だって越えられない。
どころかぼくの目指すはその先だ。
水倉神檎だって過程の一つ。
向こうがどんな信念を持っていようとも、ぼくは負けない。
彼が己の『正義』のために闘うならば――ぼくは世の『幸福』のために。


【1日目/夜/D-6 ネットカフェ】

【供犠創貴@新本格魔法少女りすか】
[状態]健康
[装備]グロック@現実
[道具]支給品一式×3(名簿のみ2枚)、銃弾の予備多少、耳栓、書き掛けの紙×1枚、「診療所で見つけた物(0〜X)」、心渡@物語シリーズ、シャベル@現実、
   アンモニア一瓶@現実、携帯電話@現実、スーパーボール@めだかボックス、カスタネット@人間シリーズ、リコーダー@戯言シリーズ
[思考]
基本:みんなを幸せに。それを邪魔するなら容赦はしない
 0:宗像形を倒す。
 1:ランドセルランドで黒神めだか、羽川翼と合流する、べきか……?
 2:行橋未造を探す
 3:このゲームを壊せるような情報を探す
 4:蝙蝠の目的をどう利用して駒として使おうか
 5:掲示板の情報にどう対処すべきか
[備考]
 ※九州ツアー中、地球木霙撃破後、水倉鍵と会う前からの参戦です
 ※蝙蝠と同盟を組んでいます
 ※診療所でなにか拾ったのかは後続の書き手様方にお任せします(少なくとも包帯や傷薬の類は全て持ち出しました)
 ※主催者の中に水倉神檎、もしくはそれに準ずる力の持ち主がいるかもしれないという可能性を考えています
 ※王刀の効果について半信半疑です
 ※黒神めだかと詳しく情報交換しましたが蝙蝠や魔法については全て話していません
 ※掲示板のレスは一通り読みましたが映像についてはりすかのものしか確認していません
 ※心渡がりすかに対し効果があるかどうかは後続の書き手にお任せします
 ※携帯電話に戦場ヶ原ひたぎの番号が入っていますが、相手を羽川翼だと思っています
 ※黒神めだかが掲示板を未だに見ていない可能性に気づいていません

304牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:20:45 ID:OY0w9FPI0



   ★    ☆


到着。
玄関の死体に関しては何も言えないの。
もう、どうしようもなく死んでいるとしか、言えないの。

玄関からネットカフェ内に入ると、独り寝ていたの。
死んでるんじゃないみたい。
寝ている宗像さん(というのは後から知るの)を蝙蝠さんに見張らせ、
わたしとキズタカが奥の探索を始めたところに現れたのが――彼女・死線の蒼――玖渚友なの。
キズタカは拳銃を構える。
そこでクナギサさんは椅子を回し、こちらを向いたの。
その瞳は青く――蒼く――碧い。深い深い群青色。
まるでわたしと対を成すような青い少女だったの。

「きみは?」

キズタカが尋ねる。
わたしは何も言わない。
いつも通りなの。

「私? 私は玖渚友。きみのことは知ってるよ。『「魔法使い」使い』。後ろのあの子は『赤き時の魔女』、でしょう?」
「…………そうか。だったら話は早いね。ぼくの名前は供犠創貴。彼女の名前は水倉りすかだ」
「うん、知ってる。ランドセルランドで黒神めだかと合流するっていう手筈だったのも、私は知ってる」

キズタカもわたしとおんなじように押し黙る。
黙らざるを得ないっていう状況なのが今なの。
けれど引いているだけじゃ話は進まないのも、分かっているつもり。
キズタカが話し始める。

「そう、羽川翼さんと交流があるんですね」
「羽川翼……? ああ、うん。まあ交流はあるね。
 まあそんな話はいいんだよ。私がしたいのは、これからの話なんだからさ」
「……ご尤もで。じゃあ単刀直入に切り込むけどきみが掲示板の管理人、でいいのかな」
「ふうん、どうして?」
「いや、これといった理由はないよ。ただ情報をかき集める一環として『トリップ』の構造っていうのは知っているんだけど、
 『◆Dead/Blue/』なんて意味のとれる『トリップ』は滅多に作れない。
 偶然の産物と言われればそれまでだけど、きみの外見も合わさってあまりにこれは出来すぎている、と思わないのか?
 そんな都合のよさそうなトリップを瞬時に作成できるだなんて、地味だけど並大抵の人間にはできない。
 プログラムから隙にいじれる管理人だったら、あるいはそれぐらい容易なことじゃないかなって」

偶然と言うのはそれほど嫌いでもなかったが、先日大嫌いになったもんでね。と忌々しげに小声で呟く。
お兄ちゃんの『魔法』のせいかな。確かに、少なくても『今』のわたしとしてもあの魔法はおぞましいものなの。

「それに、管理人でもない人間がこんなところでネットを開いて何をしているのか、ぼくは逆に不思議に思う。
 確認してないけど、おそらく回線はロクに繋がらないだろう。これは試したけど警察だって呼べないし。
 『掲示板を作れるほどの技術』を有する人間でない限り、この場に限りはネットカフェにいる理由なんて取り立ててないだろう」
「うん――その通り。うーん、いーちゃんに分かればそれでいいって思ったけど、どうもあからさま過ぎたみたいだね。
 別に嘘をついてもしょうがないからばらすけど、私が管理人だよ」

思いのほかあっさり白状したことに、共々内心驚いたの。
キズタカの弁は確かにその通りなのかもしれないけれど、どれもこれといった決定的な論拠のない言葉。
返しようによってはどうにも覆せるのがキズタカの弁なの。

「だったら、どうしたいのかな? きみたちは」

そこでクナギサさんは切り込んできた。

「そうだね、知っている情報を吐いてもらう。さもないと撃つよ」
「私もまだ死にたくはないからね。別段それは構わない。
 ――ただ一つ。協定を契らない? きっときみたちにとっても有益になるだろうし」
「協定?」
「きみたちが口にした通り、『私がたくさんの情報を有している』からこそ接近してきたんだと思う。
 実際それは間違いじゃないし、私がきみたちに与えれる情報はきっといっぱいある」
「だから、それを無条件で教えろとぼくは言ったつもりだ」
「嫌だよって言ったらきみは私を殺すんだよね?」
「……そうだ」
「けどさあ、それってきみたちを不利にするってわからない?
 ――私を殺す姿は知っての通りビデオで撮られるんだよ?
 確かに参加者は残り半分以下――怪しまれても『優勝』するだけならあるいは可能かもしれないね」

305牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:23:44 ID:OY0w9FPI0

と。
クナギサさんに指を指されたのがわたしなの。
わたしを指さして、つまんなそうに続ける。

「それはりすかちゃんを殺すことに繋がるんだけどね。きみはそれでいいの?」
「――――」

キズタカは答えない。
わたしは何も思わない。

「あくまで主催者を打倒することを目的とするんならさ――。
 互いに平和的にいきたいと思わない? 思わないの? 『「魔法使い」使い』。
 それともきみには、周囲から孤立してもりすかちゃんと二人だけで主催者を打倒できる作戦でも練れているのかな?」

嫌味な言い方なの。
色合いも含めて仲良くできる気がしないの。

「……生憎ぼくには『誰』が『どうやって』死亡場面を映したDVDを添付しているのか、さっぱり分からない。
 今のところ有力な説はあんたが何処かから探り出して添付しているって説だ。
 つまりぼくはきみを殺せばそんな事態は起こり得ないって信じて疑わない。
 ――死にたくなければ、そのぐらいは教えておいた方がいいんじゃないのかな」
「自分の無知をそんな胸を張って言われても困るよ。ただまあ、その通りだね。――教えてあげる」

クナギサさんはそこで、図書館の役割なんかを話してくれたの。
確かに添付そのものはクナギサさんがやってたけれど、ビデオそのものは第三者が簡単に見れる。
真偽はともあれ、合理には叶っている話なの。
辻褄が合うのが第一回放送までの死者しか添付できない理由。
キズタカも同じように考えたみたい。

「できれば自分の目で確かめたいところだけど、一応信じるとするよ。
 それにそうだね。そのDVDを取りに行った人間がぼくたちの悪評を広めたら立ち回り辛い。
 なるほど――あんたの言い分はよく分かった。ただぼくからも一つ条件がある。とっても簡単なことだ」
「何かな?」
「あんたは情報をたくさんもっていると言った。無論一個の情報を出してネタ切れなんてわけがないだろう。
 だから協定の提案者として誠意を見せてほしいんだ――ぼくたちの知らない情報を一先ず一つでいい、教えてもらおう」
「……うーん」
「結局図書館にあるってことは、図書館で誰かがDVDを見つけなきゃいいって話だろう?
 確率的には決して高いわけではないんだ。『ビデオに撮られる=ぼくたちの悪評が出回る』でない以上、
 決してそれはぼくがあんたを殺してはならない理由には成りえないんだ」
「……この辺りが限界かな。いいよ一つ教えてあげる」

そう言って、クナギサさんはその細い指で――ハードディスクを――『ディスク』を!

「これはちょっとわけあって入手した――――」
「――――お父さんからの『ディスク』ッ!?」

……あ。
思わず叫んでしまったの。
思わず叫んでしまったのがわたしなの。
露骨に思わず分かり易くどうしようもなく叫んでしまったのがわたしなの。
隣でキズタカがやれやれ、呆れた表情で溜息をついて。
クナギサさんが――にんまりとした表情で。おぞましい表情で。

「――協定に則らない場合、データ消去して、これ真っ二つに折るから」


   ★    ☆


『デバイス』
一口に言ったらたくさんあるのがその言葉なんだけど、
この場合クナギサさんのもっていたハードディスクを指すの。
同時に、一致するのがわたしたちの探していた『ディスク』。
水倉神檎の残した『ディスク』。

分かれているのが、わたしは魔法的見解。
クナギサさんは科学的見解という『解析』の方法なの。
欲を言うなら、黒神真黒なる人が生きていたら楽だって聞いた。
けど、死んじゃった。
わたしが巻きこんだ――巻き込んだ。
影谷蛇之の戦いの時のように、多くの人間を巻き込んだのがわたしなのかもしれない。
ツナギ……さんも。
正直怖かったのが彼女だけど、それでも。それでも。
知り合いが死んだというのは辛いことなの。

306牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:25:14 ID:OY0w9FPI0
約束を守っているのがキズタカなの。
嘘を吐かないって。
わたしの気持ちを考える――って。
ツナギさんが死んだことをわたしが悲しんでいると慮って、わざわざネットカフェまで来てくれた。
キズタカはそれを言葉にしないけど、なんとなくわかる。
わたしの頭を撫でてくれたキズタカの手から、そんな思いが伝わったの。

だから、応えるべきなのが、わたし、水倉りすか。
キズタカの期待に応えたい。
わたしを必要としてくれたキズタカの気持ちに応えたい。
それに、お父さんが絡んでいるって言うのならば――なおさら。

「んー……。本当にこれ、水倉神檎の『ディスク』なの? 僕様ちゃんは未だに信じがたいんだけどなー」

クナギサさんが尋ねる。
ほんとう。と答える。
一人称が変わったのは蝙蝠さんに協定の話やら情報交換が済んでからなの。
詳細名簿やら――不知火やら。

「いやーうん。不知火袴が水倉神檎の影武者って言われれば、確かにそんな可能性はするんだよねー。
 『黒神』と『不知火』――『白縫』の対関係のように、『水倉』と『不知火』――『火を知らず』は関係性はありそう。
 勘ぐりすぎだと思うんだけど、判断するには難しいところだよ」

うんうん、と頷きを繰り返す。
ディスプレイから目を離すのがクナギサさんで、それを見つめるのがわたしなの。

「まあ僕様ちゃんは一度調べきったつもりでいたからね。
 元々新しい情報が見つかることに期待はしてなかったんだけど、その分だとあなたも同じようだね」

頷く。
『ちぃちゃん』が欲しいよ、とぼやいているの。
だれだろう。

「けどね、一つ分かったことは多分この『ディスク』一つで情報は『完結』してないみたい。
 改めて考えると、『不知火』の意味や『箱庭学園』の諸々を知ったところで、事態が好転するってわけでもないし。
 黙って見ていろとは言われたけれど、だからといって今回ばかりは静観してる場合じゃないよね。
 もっと違う――鍵となる『断片』は他にもきっとどこかに『落』とされてるよ」

まったく、『破片拾い(ピースメーカー)』の名は伊達じゃない、とか言ってみたいなあ。
と、どこかに向かって送られる期待の眼差し。……なんだか可哀相なの。

ここで転換するのは話題。

「それで、あなたは創貴ちゃんを助けに行くの?
 僕様ちゃんときみたちの協定はこう。
 1:創貴ちゃんたちが僕様ちゃんを殺さない、代わりに僕様ちゃんの持ってる情報のほとんどをあげる。
 2:ついでに僕様ちゃんをランドセルランドまで送って、『いーちゃん』に合わせてほしいこと。
 大雑把に言っちゃえばこんなもんだよね」

また頷く。
あれから結局立場対等に協定は組まれることになったの。

「だから、別に僕様ちゃんとしてはどっちが死のうが構わないわけ。
 形ちゃんが生き残ったらふつーにそのまま頼りにさせてもらうし、
 創貴ちゃんらが生き残ったら、協定通りにしてもらう。
 だけどさあ、起きたら困っちゃうことが一つあるんだよね。
 つまりは同士討ちってやつなんだけど、そうしたらいろいろと絶望的じゃん?」

また頷く。
加えて言うなら。
宗像形さんが起きる前に退散する案も無論あったの。
あったけれど――蝙蝠さんが断った。それにキズタカも同意した。
蝙蝠さんの理由は聞けなかったけど――キズタカは一度話がしてみたいって言ってたの。
ちなみに初めに宗像形を殺してもいいんじゃないのかって言いだしたのはクナギサさんなの。
『死ななくても支障はないとは言え――ぶっちゃけ形ちゃんを一人野放しにするぐらいなら殺した方がいいよ』って言ってた。
『殺人衝動がいつ爆発するか分からない代物を目の届かない場所に放置するのはよくない』って言ったのもクナギサさんなの

307牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:26:59 ID:OY0w9FPI0
「よーって僕様ちゃんは、どっちかに圧倒的に勝利して欲しいわけ。
 そーゆーわけでさっき創貴ちゃんには宗像くんの情報をたくさん与えたんだけど、
 蝙蝠ちゃんに関しては、僕様ちゃんも読めないんだよね。一応同盟は組んでるって言ってたけどいつまで持つか分からないし。
 場合によっては裏切られるって可能性もあるわけ。それぐらいだったらきみが舞台に立ってとっとと片付けたほうがいいんじゃないって」

その通りなの。
あの人の『暗器』にとって天敵なのが、わたしの『魔法』。
同じく蝙蝠さんの考えが読めないのがわたし。
だけど、キズタカは言ってくれた。
――お前の魔法は制限が課されている。下手に『殺されない』ほうがいい――って。
命じられたら、従わないわけにはいかない。
キズタカを信じるのがわたしの仕事だから。

だからわたしは。

「ん? 僕様ちゃんからもっと情報を引き出しとけって?
 ……うにー。信用されてないなあ僕様ちゃん。帰ってきたら教えてあげるのに。
 まあいいよ。じゃあ、創貴ちゃんと蝙蝠ちゃんと形ちゃんを信じて、水倉神檎の娘――私と一緒に考察しようか」

それがいいの。
それにキズタカがわたしを必要とするならわたしはそれが分かるから。


【1日目/夕方/D-6 ネットカフェ】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]身体的疲労(小)
[装備]携帯電話@現実
[道具]支給品一式、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット@現実、首輪、ランダム支給品(0〜5)
[思考]
基本:いーちゃんに害なす者は許さない。
 1:もう黒神めだかの悪評を広めなくても大丈夫かな?
 2:黒神めだかと『魔法使い』使いに繋がり?
[備考]
 ※『ネコソギラジカル』上巻からの参戦です
 ※箱庭学園の生徒に関する情報は入手しましたが、バトルロワイアルについての情報はまだ捜索途中です
 ※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを凡そ理解しました
 ※言った情報、聞いた情報の真偽(少なくとも吸血鬼、重し蟹、囲い火蜂については聞きました)、及びそれをどこまで理解したかは後続の書き手さんにお任せします
 ※掲示板のIDはkJMK0dyjが管理用PC、MIZPL6Zmが玖渚の支給品の携帯です
 ※携帯のアドレス帳には櫃内様刻、宗像形、無桐伊織、戦場ヶ原ひたぎ、戯言遣い(戯言遣いのみメールアドレス含む)が登録されています
 ※ハードディスクを解析して以下の情報を入手しました
  ・めだかボックス『不知火不知』編についての大まかな知識
  ・不知火袴の正体、および不知火の名字の意味
  ・主催側が時系列を超越する技術を持っている事実
 ※主催側に兎吊木垓輔、そして不知火袴が影武者を勤めている『黒幕』が存在する懸念を強めました
 ※ハードディスクの空き部分に必要な情報を記録してあります。どんな情報を入手したのかは後続の書き手様方にお任せします
 ※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。内容は完全に記憶してあります
 ※参加者全員の詳細な情報を把握しています
 ※首輪に関する情報を一部ながら入手しました
 ※浮義待秋の首輪からおおよその構造を把握しました。真庭狂犬の首輪は外せてはいません
 ※櫃内様刻に零崎人識の電話番号以外に何を送信したのかは後続の書き手にお任せします


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]零崎人識に対する恐怖
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:キズタカに従う
 1:クナギサさんと話す
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです(現在使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかについての制限はこれ以降の書き手にお任せします

308牲犠  ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:27:36 ID:OY0w9FPI0


   ■    ■



――――きゃは。
きゃは――――――きゃは―――。
斬りたい、この、刀で、人を、思い切り、ぶった切りたい。
おれさまが嘘をついた理由なんて簡単だ。
いつものような接待であり――――どうせ斬るなら、しょせんは餓鬼の供犠創貴じゃなく、腑抜けたスカスカの正義やろーでもなく、
おれに対して全力で歯向ってくる奴を倒した方が――――面白い。そんなおれの欲。

案の定キレやがったぜ。
それでいい。
それでこそ、『斬り甲斐』があるってもんよ。
今はまだ創貴の同盟には応じておこう。こいつを斬りてえ。

……きゃは。
刀の毒、ねえ。
子猫ちゃん。言い得て妙じゃねえか。
鉛の鈍器でも、まらかすっちゅー代物でもねえ……この刀で斬ってみてえ。


きゃは、きゃは――――きゃは。



【1日目/夜/D-6 ネットカフェ】

【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]健康、零崎軋識に変身中
[装備]軋識の服全て、絶刀・鉋@刀語
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残る
 0:宗像形を斬る
 1:創貴とりすかと行動、ランドセルランドへ向かう
 3:強者がいれば観察しておく
 4:完成形変体刀の他十一作を探す
 5:行橋未造も探す
 6:危なくならない限りは供犠の目的を手伝っておくがそろそろ裏切ってもいい頃かもしれない
 7:黒神めだかに興味
 8:鳳凰が記録辿りを……?
[備考]
 ※創貴と同盟を組んでいます
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、元の姿です
 ※都城王土の『異常』を使えるかは後の書き手の方にお任せします
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実の危険性について知りましたが、嘘の可能性も考えています
 ※絶刀は呑み込んでいます
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません

309 ◆xR8DbSLW.w:2014/02/23(日) 22:30:02 ID:OY0w9FPI0
以上で投下を終了します。
避難所スレにて指摘を貰いました蝙蝠ですが、
こちらからは言及することは致しません。
どちらにとってもらっても私個人としては構いません。
それでもやはり言及するべきという場合は、wikiにて追加させていただきます

310名無しさん:2014/02/24(月) 10:42:20 ID:HEJ1z3LQO
投下乙です
宗像君が正義こじらせちゃったよ!
さりげなく様刻と伊織も殺すってなってるあたり手遅れ感あるけどめだかちゃんについては疑問符がまだ残ってるから踏み留まれるといいなぁ…
まあ、回想の雲仙君との会話で嫌なフラグばっちりありますけどね(しろめ)
そして玖渚、お前悪女もいいとこいってるぞw
ちゃっかり勝った方にのっかります(意訳)宣言してるし…
人識が創貴たちと敵対してるのも玖渚はちゃんとわかってるはずだから創貴も創貴で蝙蝠以上に厄介な爆弾抱え込んでるしなあ
これどっちが勝っても玖渚には被害無いあたりタチ悪い

311名無しさん:2014/02/24(月) 15:17:56 ID:9v30r1RI0
投下乙です

想像以上に酷い状況だわw
宗像君が予想してたがそうなったかあ
玖渚は玖渚で…いや、これは平常運転か
でもタチが悪いわあw

312名無しさん:2014/03/15(土) 00:27:25 ID:satE6Pg20
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
144話(+2) 17/45 (-0) 37.7(-0.0)

313 ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:00:29 ID:GqeB6rDY0
投下します

314Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:01:28 ID:GqeB6rDY0



ほんとのことだけで生きてゆけるほど
僕らは強くないさ強くなくていい
――――いい?





『また勝てなかった』






「――でも次は、勝つ」






『……とは言ったもののどうしようか。めだかちゃん見失っちゃったし』
「さっきまでのお姿が台無しですよ」

いつものように、けれどどこか嬉しそうにため息をついてわたしは球磨川さんの返事を待ちます。
今のわたしは彼の刀。
従僕が主人に逆らわないようにわたしも所有者である球磨川さんの指示がないかぎり動けません。
七花もきっと――ああ、とがめさんがいなくなった後は自由に行動したのかしらね。
かつてのわたしのように。
そうでなければ錆ついた意味がないのですから。
……こうして思うと錆びるのも悪くはない――むしろいい。
七花に会ったら謝らなくてはいけませんね。
とは言ってもまだ会いたくない、会うとしてもそのときを引き延ばしたいと思っているわたしがいるのも事実。
七花に殺してしまってもらいたい。
球磨川さんに最期まで付き従いたい。
相反する二つの思い。
どちらを優先するかでこれからの行動にかなり響いてしまします。
…………………………さて。
こういうときにこそ四季崎が茶々を入れるかと思ったのに静かですね。

――なぁに、こいつは冗談抜きでおもしろそうなものが見れると思ったからな――おれが干渉して左右しちまうのはもったいねえ――

つまりこれからはもうちょっかいをかけられることもないと。

――まあそういうことだと思ってくれていい――おまえの機嫌を損ねてこの先が見れなくなっても困るしな――呼ばれない限りは出るつもりもねえよ――

それはありがたい、と素直に受け取っておきましょうか。

『どうしたの、七実ちゃん?さっきから黙っちゃって』

では迷うのもほどほどにして本題に戻りましょう。

「いえ、少し考え事を」
『ふうん……?まあ、いいけど。僕としてはめだかちゃんを探したいところなんだけどね』
「ではそうしましょうか」
『……七実ちゃんのしたいことがあるなら優先するよ?』

315Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:01:54 ID:GqeB6rDY0
「今のわたしはあなたの刀。あなたのすることに異論は唱えず、あなたの命令があれば誰が相手だろうと斬る、一本の刀です」
『そういう堅っ苦しいのは抜きにしていいって。あたりも暗くなってきたしとりあえず……』

途中で球磨川さんの口が止まった理由はわたしにもわかったので何も言いません。
視界を少し滑らせて林へ目線を向けるだけ。
草がかすれるような小さな音ではなく木が倒れた大きな音のした方向へ。

『めだかちゃんじゃないとは思うけど行ってみる?』
「禊さんがしたいのならそのように」

そして。
そして。
そして。
それは林に踏み入れてすぐ見つかった。
ところどころが溶けた倒木。
その側にうつぶせで倒れている男。
短くなったぼさぼさの髪。
見覚えのある泥だらけの着物。
わたしは男を――彼を知っている。

「…………七花?」

まだ会いたくはないと思っていたはずの弟の姿。
探していたうちは見つけることはできず、いざ逢いたくないと思ってしまった途端に遭ってしまうとはままならない。
本当に、ままならない。

「――おーるふぃくしょん」

球磨川さんが何かを言うよりも先に勝手に動いた。
動いてしまったと言った方が正しいのかもしれない。
ただ、七花が、弟が、無様に倒れているのを見ていられなかったのかもしれないしそうでなかったのかもしれない。
とにかく、結果としてわたしは『おーるふぃくしょん』を七花に使った。
その後のことを考えずに。
その前のことを『なかったこと』にした。

――幽霊の笑い声が背中を撫でたような気がした。





髪は戻った。
顔の傷も消えた。
けれど、泥は落ちていない。
おかしい。
わたしの見稽古が不完全だった?そんなはずはない。
ならばもう一度――

「おーる――
『やめた方がいい』

使おうとして球磨川さんに止められる。

『七実ちゃんらしくない反応だったけど、それが探していた弟くんだったのかな?』

今更ながらに気づいてはっと息を呑む。
刀になると決めたばかりなのに勝手な行動を――あまつさえ斬らずに治すとは。
だが、心の中では安心もあったのだろう。
ぬるい友情をモットーのひとつに掲げる球磨川さんなら、

316Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:02:46 ID:GqeB6rDY0
『うん、よかったじゃないか。ずっと探してたんだろう?会うことができてよかったね!』

きっとこうやって不問にするだろうと期待していたのだから。

「よかった――いえ、ここは素直に悪かったと言っておきますか。『まだ』会いたくはありませんでしたし」
『そういうものだよ、過負荷(ぼくら)はね。そして弟くんが被っている泥も過負荷だ』
「……どういう意味ですか?」
『過負荷を『大嘘憑き』で『なかったこと』にすることはできない。やっと気づいたことだけどね』
「ああ……それでわたしの病魔も消せなかったのですね」
『申し訳ないけどそういうこと。過負荷でこんなことをするとなると心当たりは江迎ちゃんしかないけど……』
「あら、江迎という名前だったのですか、彼女」
『ん?僕は学園で七実ちゃんと一緒になったときは江迎ちゃんはいなかったはずだよね?』
「その前に少しだけ会ったのですよ。彼女が桃の髪をした女で間違いないのならば、ですが」
『うんうん、江迎ちゃんに間違いないね』


『それで』


飄々とした声色が、


『一応確認しておくけど」


変わる。


「そのとき七実ちゃんは江迎ちゃんに何をしたのかな?」


有無を言わせないものへ。

「……毟ろうとしましたが逃げられました、というよりかは逃がしたと言った方が正しいですかね」

だから答える。
素直に。
正直に。
実際にそのときのわたしは彼女の『弱さ』を見取らないためにあえて戦闘を早めに切り上げさせた。
当初は連戦に向かないこの体で長期戦をするわけにはいかないという事情があったからこそのものだと思っていたのだけれど。
閑話休題。

『なら問題はないね!まあ、僕が江迎ちゃんと会ったときは泥舟ちゃんと仲良くやっていたし』

括弧をつけて球磨川さんはさっきまでのように話します。
ただ、動揺しているようにも見えたのは気のせいだったのでしょうか。
最初の放送の直後にも似たような反応を見た気がします。
あのときは、確か――阿久根とか言う方が呼ばれていましたっけ。
宇練さんと遭遇したときに話していたはず。



――ああ、なるほど



ぬるい友情だなんて自身で謳ってはいたけれど、実際は全然ぬるくなんかないのね。
むしろ熱い友情って言ってしまっていいくらいじゃない。
まあ、わたしにも同じことが言えるんだけど。

317Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:03:48 ID:GqeB6rDY0
「先程は勝手な真似をしてしまい、申し訳ありませんでした。弟が被ってるその泥について詳しく聞きたいのですが……」
『だからそんな堅苦しくなくていいのに……弟くんは、なんというか――感染してる、って感じかな』
「感染……ですか?」
『かなあ。僕も初めて見るからなんとも言えないけど……弱さが内からじゃなくて外に出てるとでもいうのか』
「弟本人には何の問題もなく、泥だけが問題だと?」
『だろうね。「大嘘憑き」で傷は消えたのに泥が落ちてないのがその証拠だ』
「木が倒れたのも、枝が所々不自然に落ちているのもそれによるものだと」
『そう思って間違いないだろう。やっぱり七実ちゃんとしては弟くんがこのままになってるのを見過ごすわけにはいかないよね?』
「……え?それはもちろんですが」

反射的に答えたわたしが球磨川さんを見ればその手には螺子が。


『だから』


この螺子は――黒神めだかとの戦いで使っていたもの。


『悪いけど』


それがどんどんと伸びていき――


『こうさせてもらうよ』


七花を背中から、貫いた。

――幽霊の声は聞こえない。





真庭蝙蝠を追っていたはずだが途中から記憶がない。
足を滑らしたのか頭をぶつけたのか猛烈な頭痛に襲われたのか――それすらもわからない。
ただ、気がついたら急速に意識がはっきりして、そして今まで全身に走っていた痛みが消えていた。
人の気配を感じて飛び起きる。
……おかしい。
体の感じがいつもと違う。
被った泥とは関係ない、奥底から出るような違和感。
けど、そんなものを気にする余裕はなかった。
なにせ、おれの胸の中央から『何か』が飛び出ているのだから。
痛みはないが、こんなものが刺さっていて平静にしていられるおれではない。
胸の中央ってどうしても悪刀のことを思い浮かべちまうし……

「七花」

なんてことを思っていたら呼び止められた。
ようやく視線を動かすと目の前に二人いた。
一人は知らない顔だ。
そしてもう一人は――

「姉ちゃん……?」
「ええ、そうよ」

本当に、いた。
死んだはずの姉ちゃんが。

318Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:04:21 ID:GqeB6rDY0
おれがこの手で殺したはずの姉ちゃんが。

「本物、なのか?」

知ってるやつで死人じゃない方が珍しかった。
名簿にとがめがいた、まにわにがいた、宇練銀閣がいた。
真庭鳳凰も、左右田右衛門左衛門も、真庭蝙蝠も、おれが殺したはずなのに実際にいた。
それでも生きているときから死人のようだった姉ちゃんが生きていることが信じられなくて。
だから、つい、馬鹿げたことまで訊いていた。
ここまで来て、本物じゃないはずがないというのに。
頭の悪いおれでもいいかげん気づくようなことなのに。
ただ、それでも。


「今更なことを訊くのね、気づいているくせに」


「でも、ひとつ言っておかないといけないことがあったわ」


「わたしは今、この人――禊さんの刀だから」


「命令とあらば七花を斬るし、今は七花に斬られるつもりもない」


「最初は七花に殺してもらうつもりだったんだけど……色々と事情が変わって」


「ごめんなさいね」


耳を疑った。
だって、姉ちゃんが、あの姉ちゃんが誰かの刀になるだなんて。
一度とがめの刀になるという話もあったけど、あれは本気じゃなかったはずだったし。
何が姉ちゃんをそこまで変えたかなんて……一つしかないじゃないか。


『せっかく姉弟で会えたところでそんな物騒なこと言うわけないじゃないか、七実ちゃん』


『おっと、自己紹介が遅れたね』


『僕は球磨川禊。箱庭学園の3年-13組生で今は七実ちゃんの持ち主ということになっている』


『それと、君の胸に刺さってるそれは僕のスキル「却本作り」によるものさ』


『君が被っていた泥は過負荷によるものだったから「大嘘憑き」じゃどうしようもできなくてね』


『仕方がないから「却本作り」で上書きさせてもらった』


『例えるなら消しゴムで消せない落書きがあったから修正液を使ったというところかな』


『副作用というか本来の効果で肉体も精神も技術も頭脳も才能も僕と同じになるけど』

319Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:04:45 ID:GqeB6rDY0


『そこはまあ、不可抗力として受け止めておいてくれ』


『あのままだと君は無残に腐っていくのみだったんだし僕はそれを助けたんだ』


『だから』


『僕は悪くない』


姉ちゃんを変えたのは姉ちゃんの持ち主に決まっている。
じゃなかったら姉ちゃんが持ち主――球磨川の刀になろうだなんて思わないはずだ。
かつておれがとがめの心意気に惚れたように。
それだから、なのか。
それなのに、なのか。
何の感情も湧いてこない。
驚き、だとか。
怒り、だとか。
悲しみ、でさえも。
昔のおれでさえも何かしらの反応はできたはずだろうに。
それもこれも胸に刺さったこいつのせいだというのだろうか。
だとしたらどうなのだろう。
ありがた迷惑なのか。
それともただ素直に感謝か文句のどちらかを述べればいいのかも――わからない。
ただひとつ言えたことは――


「物騒な音が聞こえたから何事かと思って来てみれば……球磨川、貴様らの仕業か?」


乱入者によって考える余裕などなくなったということだ。


「おや、鑢七花。なぜ貴様がここにいる?」


そして、おれにとっては絶好の雪辱を晴らす機会だというのに怒りは湧いてこない。
闘争心だけは膨れあがっていたが。





ん、また僕の出番かい?
やれやれ、語り部なんてそこにいる誰かに担当させればいいじゃないか。
そうもいかないから僕がやるはめになってるんだろうけどね。
確かにこの四人の中で誰かに語り部をやらせるというのはいい判断ではない。
彼らのこれまでの因縁を考えるなら第三者視点で語るというのが得策だ。
だからといって僕なんかにやらせず神様にでもやらせときゃあいいのに。
それとも、悪魔様にやらせるかい?――なんてね。
まあ色々と承知の上なんだろうけど、一応言っておくぜ。
これから先何が起ころうと――僕には一切関係ないし、僕は一切関係していない。



「ひたぎちゃんを追いかけていたんじゃなかったのかい?どうしてこんなとこにいるのさ」

320Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:05:19 ID:GqeB6rDY0

球磨川くんがめだかちゃんに尋ねる。
その疑問は至極尤もだが、ここは割愛して僕が答えておこうか。
一言で言えば見失ってしまったのさ。
闇雲に探し回ったけど足跡一つ見つけることはできず、七花くんが被った過負荷の影響で木が倒れた音を聞き駆けつけたわけだ。
いやはや、人識くんの逃げ足には感服するね。
40キロ後半強の女子高生を背負ってめだかちゃんから逃げおおせるとは。
かつて人類最強と鬼ごっこをやってたりもしたんだし殺し名の皮を被ってるだけあって伊達ではないということかな。
そういえば七花くんのこれまでも曖昧だったっけ。
なに、彼は途中で力尽きただけさ。
何重にも着ていた着物のおかげで体幹部は被害が薄くて済んだものの剥き出しの手足や頭はそうもいかなかった。
頭痛と吐き気に苛まれながら触れた木の枝を溶かして落として進んでいたものの、とうとう限界を迎えた――ということさ。
球磨川くんと七実ちゃんの発見が遅かったらそのまま死んでいてもおかしくなかっただろうね。
その後の対処も彼らの持ち得る手段としてはおよそ的確だったと思うよ。
まず『大嘘憑き』で損傷した肉体を回復させ、『却本作り』で上書きすることで過負荷がこれ以上感染することを防ぐ。
ほぼ最善の手法ではあったのだが、彼らは気づいてないだろうね。
気づく必要もないだろうけど。
それにあたって七花くんの色々が犠牲になってはいるが、そんなものは些事だろう?
じゃあ彼らの今の話に戻ろうか。
僕がここで話している間にまどろっこしいところは済ましてしまったようだし。
ふーん、球磨川くんは七実ちゃんに待機の命令を出したのか。

「私は貴様がここにいる理由を聞きたいのだがな、鑢七花。貴様にはまだ眠ってもらうはずだったが」

めだかちゃんにとっての目下の疑問は七花くんの存在だ。
彼女にとって彼はまだデング熱の影響下で高熱で動けなくなってるはずだったしね。
しかし『五本の病爪』は元々僕のスキルだったのに伝聞だけで完成させてしまうとはなあ。
病気を操るスキルとはいえ、基本的には相手を病気にすることの方が当然使い道は多い過負荷なんだが。
まあ、あのままあそこにいれば江迎ちゃんの過負荷の影響で骨の髄まで残らなかっただろうけどさ。

「あんたがいなくなってからしばらくしたらなんともなくなったよ。疲れとかは残っちまったけどな」

おかげで右衛門左衛門とやったときは苦労したよ、というぼやきはめだかちゃんには聞こえなかったようだ。
聞こえてたところで時間の問題だったんだろうけど。
だがそれでも七花くんの発言はめだかちゃんを動揺させたようだ。
言ってしまえば中途半端な対応をしてマーダーを自由にしてしまったんだから。

「そもそもめだかちゃんはなんでひたぎちゃんにこだわるんだい?やっぱり善吉ちゃんを殺されたから?」

そしてここにいるのはめだかちゃんの動揺が治まるまで素直に待つような人じゃない。
特に――球磨川くんはね。
それにしてもちゃんと見抜いていたんだなあ。
そこは弱さという弱さを全て知り尽くしている球磨川くんだからこそだろうけど。
案外カマをかけただけかもしれないけどね。
いずれにせよ、図星だったわけで。

「……っ、それもある、が、先程左右田右衛門左衛門の名が呼ばれてしまったからな。彼奴の主君である戦場ヶ原ひたぎ上級生になおのこと会わねばならん」
「ちょっと待て。右衛門左衛門の主君が誰だって?」
「戦場ヶ原ひたぎ、と聞いたがそれがどうした」
「おれはそんなやつ知らねえぞ。あいつの主君は否定姫だけだ」
「しかし、確かに……」
「あいつは最期まで否定姫の腹心だったよ。殺したおれが言うんだから間違いない」
「なっ、貴様……殺したとはどういうことだ!」
「もういいよ、めだかちゃん」

おやおや、一気に核心に触れてしまったみたいだね。
いよいよ種明かしの時間にでもなるのかな。

321Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:06:13 ID:GqeB6rDY0
「めだかちゃん、君は間違えていたんだよ。
「最初からね。
「君が阿良々木暦くんを殺さなければひたぎちゃんは善吉ちゃんを殺すことはなかった。
「ひたぎちゃんは君を殺そうと躍起になる必要はなかったし、僕も殺されずに済んだんだ。
「僕はまあ、こうして生き返ることができたけど、他の人はそうもいかない。
「左右田ちゃんの件だって君の対応は間違っていた。
「何があったのかは知らないけど、想像はできるよ。
「どうせ君のことだから馬鹿正直に言うことを信じたんだろう?
「実を言うと僕も左右田ちゃんには一度会っていてね。
「彼からは殺されかけたんだよ。
「敵前逃亡したからあえなく勝てずじまいの無様な姿を晒しただけだったけど。
「まあ僕がどんな姿を晒そうがそれは関係のない話だ。
「重要なのは彼が殺し合いに乗っていたことだよ。
「別に殺し合いに乗ったこと自体は重要じゃない。
「パニックになってなりふり構わず他人を襲うことだってないわけじゃない。
「まあ左右田ちゃんはわかってて乗ったみたいだったけど。
「おっと、こんなことは今はどうでもいいことだったね。
「肝心なことは一点。
「君はみすみす彼を見逃したことで他の人を危険に晒したんだ。
「しかもそれだけじゃなく同じことを弟――七花くんのときにもしたわけだ。
「順番が逆かもしれないけどそんなことは関係ないね。
「左右田ちゃんよりかは剣呑だったようだけど、いずれにしてもマーダーを野に放ったのには変わりない。
「しかも七花くんは左右田ちゃんを殺しちゃったわけだ。
「わからないかい?
「君が対処を間違えたからこうなったんだよ。
「何もしなくても人が人を殺すなんて明らかだ。
「現にもう28人死んでいるんだしね。
「だというのに君は何もしていないに等しい。
「人殺しを看過できないからと手元において監視することもせず。
「これ以上の被害を出さないために心を鬼にして殺すこともせず。
「一見安全策ともとれるようなことをしたつもりで放置したんだ。
「実際は安全でもなんでもなかったのが明らかだけどね。
「ああ、そういえばどうして君が暦くんを殺したことを僕が知っているかについて説明していなかったっけ。
「どこかで誰かが誰かを殺した瞬間の映像が手に入るようでね、それをまた別の誰かがネットに流してるんだよ。
「携帯電話とかパソコンとかがあれば誰でも簡単に見ることができる代物だ。
「つまり、大多数の人間に君の所業は知られているということだよ。
「生憎僕はそういった物は持ってなかったんだけど人脈はそれなりに築いていたからね。
「もちろんばっちり見させてもらったよ。
「そしてガッカリした。
「まさか君がいの一番に人殺しをするだなんてね。
「だからさっき会えたときは嬉しかったんだよ。
「君は僕の気持ちを受け入れてくれた。
「ま、ひたぎちゃんにすぐ邪魔されちゃったけど。
「今は邪魔の入らない状況でリベンジってところだというのに。
「なんだいその体たらくは。
「そういう意味では今のめだかちゃんの格好はとってもお似合いだと思うよ。
「その服、まるで『お前に生徒会長はふさわしくない』って言われてるようじゃないか」

たたみかけたねえ。
いつものめだかちゃんならそれこそ先程のように突っぱねて「こまけえこたぁいいんだよ」みたいなこと言って向かっていったんだろうけどタイミングが悪かった。
むしろよかったとでも言うのかな。
七花くんの存在、そして発言で動揺した隙を球磨川くんは見逃さなかったわけだ。
滅多に見られないめだかちゃんの弱さが垣間見えた瞬間ではあったわけだしねえ。
『却本作り』で七花くんは半分封印されているようなものだし七実ちゃんは球磨川くんの不利益になるような行動はしない。
御託はいいからめだかちゃんは実際にどうしたのか教えてくれって?
僕としても楽しみではあったんだが控えさせてもらうよ。
続きをお楽しみに、ってね。
だって、そこまで語ってしまうのは野暮というものだろう?

322Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:06:54 ID:GqeB6rDY0
【一日目/夜中/E-5】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックスがあるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
基本:「黒神めだかに勝つ」


今度こそ僕は、勝つ。
黒神めだかに、僕は勝つ。
――七実ちゃんもその気みたいだしさ


[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜6)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える?
 0:命令があるまで待機。
 1:七花以外は、殺しておく?
 2:球磨川禊の刀として生きる。
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします

323Velonica ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:07:15 ID:GqeB6rDY0

【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]『不死身性(弱体化)』
[装備]『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語
[道具]支給品一式、否定姫の鉄扇@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:もう、狂わない
 0:? ? ?
 1:戦場ヶ原ひたぎ上級生と再会し、更生させる
 2:話しても通じそうにない相手は動けない状態になってもらい、バトルロワイアルを止めることを優先?
 3:哀しむのは後。まずはこの殺し合いを終わらせる
 4:再び供犠創貴と会ったら支給品を返す
 5:零崎一賊を警戒
 6:行橋未造を探す
[備考]
 ※参戦時期は、少なくとも善吉が『敵』である間からです
 ※『完成』については制限が付いています。程度については後続の書き手さんにお任せします
 ※『不死身性』は結構弱体化しました。(少なくとも、左右田右衛門左衛門から受けた攻撃に耐えられない程度には)
  ただあくまで不死身性での回復であり、素で骨折が九十秒前後で回復することはありません、少し強い一般人レベルです
 ※都城王土の『人心支配』は使えるようです
 ※宗像形の暗器は不明です
 ※黒神くじらの『凍る火柱』は、『炎や氷』が具現化しない程度には使えるようです
 ※『五本の病爪』は症状と時間が反比例しています(詳細は後続の書き手さんにお任せします)
  また、『五本の病爪』の制限があることに気付きましたが詳細はわかっていません
 ※軽傷ならば『五本の病爪』で治せるようです
 ※左右田右衛門左衛門と戦場ヶ原ひたぎに繋がりがあると信じました
 ※供犠創貴とかなり詳しく情報交換をしましたが蝙蝠や魔法については全て聞いていません
 ※『大嘘憑き』は使えません
 ※鑢七実との戦いの詳細は後続にお任せします
 ※首輪が外れています


【鑢七花@刀語】
[状態]『却本作り』による封印『感染』?、覚悟完了?
[装備]なし
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える?
 0:? ? ?
 1:放浪する?
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る?
 3:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない?
 4:変体刀(特に日和号)は壊したい?
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※『却本作り』の影響をどれくらい受けるかは後続の書き手にお任せします

324 ◆ARe2lZhvho:2014/03/21(金) 00:09:25 ID:GqeB6rDY0
投下終了です
ひっどいぶん投げであることは自覚してるので何かあれば遠慮なく言ってください

325名無しさん:2014/03/21(金) 16:09:24 ID:6D.WYJYA0
投下乙です。
さあめだかちゃんツケ払いの始まりだ

持ち主を喪った七花のところに、持ち主を手に入れた七実が現れるというのが皮肉…

326名無しさん:2014/03/22(土) 12:17:50 ID:NKDZe7os0
投下乙です

327 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:18:23 ID:eR1uFKvU0
零崎人識と戦場ヶ原ひたぎの投下を開始します。

328冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:19:49 ID:eR1uFKvU0

「人間の死には、『悪』という概念が付き纏う。ってのが兄貴の持つ信念みたいなもんだった」
「……………………」

全く唐突に零崎人識は語り出す。
別に誰に聞かせるようでもなく。
別に誰に言ってるようでもなく。
別に誰にどうするようでもなく。
ただ思い付いた事を喋るように。
ただ思い出した事を呟くように。
ただ、懐かしむような顔をして。

「それを言ってた兄貴に何か言ったような気がする。
 逆になんにも言ってないような気もする。
 だが思ってるんだ。
 人間の死には、『悪』なんて概念は必要ないってな」
「……………………」
「聞いちゃいねーか」

かはは、と零崎さんは笑った。
言いたかったのはそれだけだったらしい。
黙々と歩き続ける。
静かに、手を伸ばす。
腕を、零崎さんの首に。

「よっと」

絡み付く直前、動いた。
零崎さんがどう動いたかまるで分からない。
しかし次の瞬間、わたしの体は地面に落ちていた。
何が。
そう思っても体が動く。
殆んど間髪を入れず体を起こして、包丁を抜く。
それを、軽く肩を竦めるだけで、零崎さんは何も言わなかった。
何も出さず、来るなら来いとでも言うように。
何かあるのかしら。
ゆっくりと時間が流れる。
でも、決心が付いた。
不意に踏み出す。
首へと包丁を突き出す。
対してただ一歩踏み出しただけに見えた。
次の瞬間には、わたしの手から包丁は消えていた。
零崎さんの手に包丁が握られ、肩が裂けた。
何が起きたのよ。

「くっ……!」
「で、さぁ」

向き直って肩を抑える。
何事もなかったような顔で。

「どう思う?」
「……何がよ」
「人間の死には一体何が必要か、さ」

329冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:22:13 ID:eR1uFKvU0
片手で包丁を弄び、零崎さんは笑った。
気圧されたように下がっていた。
下がって、しまった。
それを全く見もせずに。
指先で自在に包丁を弄ぶ。
答えなど求めてないような。
答えなど聞く気もないような。
答えなど元から知ってるような。
鼻っから期待してないような顔で。

「……………………知らないわ」
「そうか?」
「生きるのには一体何が必要かは知ってるけどね」
「……へぇ」

包丁が止まる。
笑ったままの人識が、わたしに向いた。
先を促すように顔を動かす。
それでも油断なく。
むしろ何時でも逆に殺せるように、でしょうね。
一本の刀を抜く。
片手で振り回すのは無理ね。
鞘を投げ捨てて、柄を両手で握り、その鋒を真っ直ぐ向けて。

「思いよ。思いさえあれば、生きていけるわ」
「俺は水と食い物だと思うけどな」
「そう言う事じゃないでしょ?」
「どう言う事なんだろうな」
「からかってるの?」
「さぁ? それで」
「何事もなかったように続けるつもりね」
「もちろん」
「呆れ果てた愚物ね」
「殺人鬼なんでな」
「あなたって最低のクズだわ」
「また妙な所から持ってきたな、おい」
「そうでもないわ。それよりあなたの所為で話が逸れたじゃない」
「俺の所為かよ!?」
「じゃあ誰の所為よ」
「お前の所為だろ」
「あなたって」
「それはもう良いから」
「ちっ」
「おい、今舌打ちしなかったか?」
「あぁ、ごめんなさい。次からは聞こえないようにするわ」
「そっちか!? 謝るのはそっちか?!」
「少しは落ち着きなさいよ。ハゲるわよ」
「ハゲるかよ」
「その歳で白髪なんだから分からないわよ?」
「あー。確かにな。もうすぐ二十歳だけどそれでこれはまずいかなー」
「え?」
「え?」
「……ごめんなさい。あなたって、幾つ?」
「え? 19」
「……うそ、あなたの身長、低過ぎ?」
「おい。おい! 失礼だなおい!」
「ご、ごめんなさい。真面目に話をするわ。それで、何の話だったかしら? 最近の投稿スピード? 死者数?」
「おい。おい……そんなあからさまに話題変えようとするなよ……」
「チビ」
「殺すぞ!」

330冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:23:39 ID:eR1uFKvU0
やれやれと。
どちらとも言わず首を振った。
それぞれの獲物の切っ先を向け合ったまま。

「復讐するわ。
 黒神めだかに。
 優勝するの。
 阿良々木くんのために。
 どんなに罪に塗れても良い。
 どんな罰でも甘んじて受ける。
 どんな重みを背負ったって良い。
 だからこそ、私は、絶対勝つのよ。
 あなたを殺して、黒神も殺して。
 彼がそんな事願ってなくても
 絶対に別けも渡しもしない。
 押し潰されたまま生きる。
 叶えるわ、彼の復活を。
 それだけ決意してる。
 それでも勝てるの? 勝てると、思う?」
「なぁ」

ただ呟く。
問い掛ける。
笑ったままで。
髪を軽く掻揚げ。
包丁の先をを向け。
どうでもよさそうに。
零崎さんは言ってくる。

「人間生物を殺すにはどうすれば良いと思う?」
「………………決まってるでしょ」
「お? どうするんだ?」
「こうすれば、いいのよ!」

一歩の踏み込み。
刀が振り下ろされる。
にやにやと笑ったまま。
零崎さんが包丁でそれを受け止め、

「は」

あっさりと斬れ、

「あああああ!?」

体を捻った。
早過ぎない、ちょっと。
刀はそのままの勢いで地面を斬って、止まった。
それも勢いがなくなって、と言う形で。
肩の痛みの所為で振り回し辛い。
慎重に刀を持ち上げる。
その頃には多分五歩くらい、人識が下がっていた。

「はああああ!? はあ? はあああ! はああああ?!」
「…………」

331冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:25:39 ID:eR1uFKvU0
うるさい。
やたら叫んでうるさい。
無言で踏み込み。
刀は横薙ぎに振る。
包丁の残った鉄の部分で受け止めた。
でも関係なく斬れる。
体に届く前にはしゃがんで逃げていた。
今度は十歩以上。
すばしっこいわね。

「ねーよ! ねーよ!! 幾らなんでも有り得ねーっての!」
「何がよ」
「馬鹿、そりゃ、包丁が斬られることがだよ!」
「なんでよ? こっちは刀、そっちは包丁。不思議でも何でもないわ」
「馬っ鹿! これだから素人が! 素人の素振りの威力なんてたかが知れてるわ! あーあ、そう言えば随分あっさりあいつの首を落としてると思ったわ!」
「そうでもないでしょ」
「あるわ! 首の骨の太さ考えてみろ! ナイフだったら何回かは受けれるぜ、普通! 包丁でも一回はいけるって」

話をしながら、向こうから距離を詰める。
自然な動作で。
むしろ私の方が身構えた。
何かあるのかしら。
しかし五歩ほどの所で止まり、服に手を入れながら目を細めた。
その目は私ではなく刀身に注がれている。
よく知らないけど、珍しいのかしら。

「…………何よ?」
「気にしてなかったが、珍しいモンだなそれ」
「私が知るわけ無いでしょ」
「もうちょいよく見てみたいな」
「近付いたら見れるわよ?」
「真っ二つになるくらいじっくり?」
「ご名答」
「そのついでに答えてくれよ」
「なにを」
「お前はさ、心ってどこにあると思う?」
「……頭の中じゃない?」
「そっか」
「もう良いかしら?」
「良いぜ」
「じゃぁ」

死になさい。
言いながら、踏み込んだ。
今度は逃がさない。
斜めに振り上げた刀。
真っ直ぐ、振り下ろす。
対して零崎さんは。
服の中を掻いていた手を出すと。
軽く横に一歩動いた。
だけ。
逃がさない。
強引にでも追おうと腕を動かす。

332冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:27:15 ID:eR1uFKvU0
「!」

空を、斬る。
斬った。
零崎さんが移動した場所はそのままだったのに。
そうして。
何もなかったみたいに。
私の横に。
立った。
にも関わらず、わたしは動かない。
否。
動けない。
腕も真っすぐにしか下ろせなかった。
顔もまるで、動かない。
違う。
指の一本も動かない。

「な、こここれれはは……!?」
「極限技」
「きょく?」
「もとい、曲芸糸。糸ってのは、イトだぜ? 思ったより強度があるだろ?」

そう言われれば、体の至る所に妙な喰い込みが見える。
糸。
細い食い込みが幾つも。
まさか急に体が動かなくなった時の。
そう、気付いた。
気付くのはあまりに遅過ぎた。
歯軋りをし、それでも無理矢理体を動かす。
動かそうとする。
動けない。
至る所が裂け、血が滲み、宙に赤い糸の存在を示す。
しかしそれだけ。
どれだけ血を流そうと、体がほとんど動かない。
指一本分すら動けていない。
むしろ動こうとすればするほど肉に食い込んで、骨が軋む。
それでも。
動こうとしている内に、手から、刀を奪うようにして取られた。
目と目が、合う。
今まで、見た事のない。
目が。
なによ、この目。
まるで、まるで。
思考が止まった。
一瞬の怯みだったと思う。
切っ掛けになったんでしょう。
見逃しては、くれなかった。

333冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:31:08 ID:eR1uFKvU0
「ちなみに人間生物をどうやって殺せばいいかだけどよ、俺は」
「まちなさ」
「こうすればいいと思う」

一歩。
前に進んできた。
切っ先を上げて。
さながら別れのために手でも振ろうとするように。
それだけだった。
それだけで、止んだ。
世界が、真っ赤に染まる。
喉から血が溢れていくのを感じる。
それで 、歯を剥く。
首 伸ばしてでも。
動かないなり でも。
動ける ら噛み付い でも殺す。
私は。
私 まだ。
何も出 ていな のよ。

「  、   」

引 抜かれた。
拍子に体から、何か 消え 。
嫌 。
待ちな いよ。
待ってよ。
胸を、刺さ た たい。
痛くは い。
痛み ない。
 だ、致命 な何 がされた。
それだ は分かっ 。
紛れ うのない致命 を。
与 ら た。

「   !」

 だよ。
ま 、生き る。
そ 声を張っ も、何 出な 。
なにか 流 出て くのだ を感じ 。
動き さい、体。
う きな い、腕。
首で いい。
口 も い。
 でもい 。
わたし ゆう ょう て、阿 々 くん 。
って、 ら。
あそ にい の 、

「      ?」

 良々  んじゃ い。
いつ らそ に。
 づかな った 。
いた らい  、いえ  い に。
もっ  や き  い 。
ばか。

334冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:33:02 ID:eR1uFKvU0





一分も経たず、戦場ヶ原ひたぎの動きは止まった。
片手を振る。
細い糸が手に集まった。
横に人識が動くのと、ゆっくりと、ひたぎの体が地面に倒れたのはほとんど同時。
血溜りに、沈んだ。
湿った音を立てて。
崩れ落ちていた。
それでも人識は刀を振る。
手始めに足を斬る。
次に脚を。
振り下ろされて腰が。
薙がれて胴を。
刺された胸を。
内蔵が解され。
肩を。
腕を。
手を。
指を。
首を。
喉を。
顎を、口を、歯を、鼻を、耳を、目を、脳を。
次々と解して。
丹念に並べて。
骨も揃えられ。
血溜りの中に、晒された。

「殺して解して並べて揃えて、晒してやった」

かはは。
と。
人識は血溜りの傍に腰を下ろす。
崩れ落ちた肉塊を眺め。
不意に、

「見当たらねえ、か」

首を振った。

「やっぱやるもんじゃねえわ、こんな事」

思い出したような顔で立ち上がり、伸びをする。
すぐ傍に落ちていた刀の鞘を拾い、刀を振る。
血が点々と跡を残す。
鞘に仕舞う。
ついで血溜りの中のデイパックを鞘に引っ掛けるように拾い上げ。
歩き始めた。
方向は、E-6。
戯言遣いとの合流地点。
そちらに向けて、歩き始めていた。

335冠善跳悪 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:34:31 ID:eR1uFKvU0



「あ、そーだ。どーせだから今は亡きおにーちゃんに合わせて言っとくか」



「それでは――零崎を始めよう」



「なんて――――かはは、そんな柄じゃねえな」



「そんな人間じゃなかったろ、俺。いやいや鬼だし人間失格だった」



「ったく、何勝手に死んでんだよ…………本当に、よ」



【戦場ヶ原ひたぎ@物語シリーズ 死亡】



【一日目/夜/D-5】
【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康
[装備]斬刀・鈍@刀語 、医療用の糸@現実、携帯電話その1@現実
[道具]支給品一式×8(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
   千刀・ツルギ×2@刀語、 手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
   大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
   携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:戦場ヶ原ひたぎ殺しちまったけどま、いっか。
 1:伊織ちゃんと連絡を取る。合流するかどうかは後から決める。
 2:真庭蝙蝠、水倉りすか、供犠創貴を捕まえるか殺す。
 3:零崎を始める。とりあえず戯言遣いと合流するまでは。
 4:哀川潤が生きてたら全力で謝る。そんで逃げる。
 5:この刀(斬刀・鈍)、ちょっと調べてみるか。
 6:黒神めだか? 会ったら過剰防衛したとでも言っときゃいいだろ。
[備考]
 ※曲絃糸の射程距離は2mです
 ※曲絃糸に殺傷能力はありません。拘束できる程度です
 ※りすかが曲識を殺したと考えています
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話その1の電話帳には戯言遣い、ツナギ、携帯電話その2、無桐伊織が登録されています
 ※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています。
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします



 ※D-5の戦場ヶ原ひたぎの死体は、特に頭の部分を念入りに解された状態で並べられています。

336 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:37:55 ID:eR1uFKvU0


以上です。
後半一部は読み難いけど割と読めるのを目指して書きました。
いやぁ、色々と展開を考えていましたけど比較的マシな終わり方になり一安心です。
何時も通りになりますが、感想や妙な所などございましたらよろしくお願いします。

337 ◆mtws1YvfHQ:2014/03/22(土) 23:44:33 ID:eR1uFKvU0
早速で失礼します。

>>332
21行目内の 曲芸糸 ではなく 曲絃糸 でした。
Wikiに記載する際に変更をよろしくお願いします。

338 ◆ARe2lZhvho:2014/03/23(日) 09:15:02 ID:6ztwDIJE0
投下乙です!
前話が前話だったから絶対穏やかじゃすまないだろうと思ってたら案の定というかでも衝撃的というか
シリアスで始まるのかと思ったらナチュラルにギャグにシフトしてそういや斬刀の威力に驚くよなあと納得しかけた矢先にこれは…!
ヶ原さんの断片的な最期もいいし、一人になったことでやっと零れ出た人識の本音がもうね
指摘としては、>>330
>包丁の先をを向け。
をが二つあります
状態表の携帯電話についての記述がおかしくなっているところがありますのでそこも修正が必要かと

また、拙作のVelonicaですが別所で指摘を受けたため修正してWikiに収録します
『泥』の対処の描写を増やすのみで本筋には影響はありませんが約一名状態表が大幅に変更になるかと思いますがよろしくお願いします

339名無しさん:2014/03/23(日) 11:39:50 ID:8V2l6yOA0
投下乙です

うわああああっ
凄い事になっちゃってるよおお
戦場ヶ原さん、お休み…

340 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:19:35 ID:HI3cDlfE0
お二方投下乙です!

>Velonica
前々からそういうフラグはたってましたがいよいよ始まりましたね。めだかちゃん。
ごめんなさい、今回書く話が書く話なものでめだかちゃんに関して上手い感想が言えませんが、
とりあえず七花さあ……真偽不明の血のせいなのかなあ……w
あと七実さんかわいいです。うーん、球磨川のカリスマやなあ……。
(修正は個人的にはOKだと思います)
というわけでこれから繋がせてもらいますね!

>冠善跳悪
あーあ、あーあ! 半分覚悟していたけどやっぱりえぐい。えぐいぞ。
悲鳴をあげながら読ませていただきました。やばいぐらい面白かった(語彙貧困)。
戦場ヶ原最期の声も甚く胸に刺さるし、
人識のぼやきも、そうだよなあ、ってしみじみしちゃう。
合間合間のとぼけた会話なんかも西尾らしいと同時に後半の悲壮感を誘うし。
改めてすごく面白かったです! とにかくそう思わせる傑作でした。
ひたぎさん、お疲れ様、南無南無

341 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:20:44 ID:HI3cDlfE0
そういうわけで投下を始めます

342 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:21:35 ID:HI3cDlfE0
少々遡り。
戦場ヶ原ひたぎは球磨川を神様モドキと呼んだが、
その実、球磨川はどうしてそのように呼ばれたのか、覚えがない。
さもありなん。
神様を知っている人間なんて限られている。
神様がいる理由を知る人間なんてごくわずか。
球磨川が知らないのも、当然の結論だ。

だが。
対して戦場ヶ原ひたぎは神様に遭ったことがある。
紆余曲折を経て。
あまりの辛さに。
あまりの悶えに。
あまりの、思いに。
神に願った。
神を頼った
決して悪いことではない。
神頼みなんて、大半の人間がすることだ。
ひたぎがどれほど本気で頼ったのかは関係ない。
事実、彼女は、神に遭った。
おもし蟹。
思いとしがらみの神。
思いを奪っていく。
否、思いを奪ってくれる神様。
神に遭ったことで、ひたぎは思うのを止めた。
重さをなくしたのだ。
等価交換。
実際に等価なのかもこの場には関係ない。
結論として。
戦場ヶ原ひたぎは重みを失って、思いを失って、辛さから、解放された。
悩みもなく、全てを捨てることが出来た。

その様と、辛さに苛まれ、闘っていたが、
結果として記憶を奪われた八九寺真宵が重ね合わさって見えた。

同時に。裏側として。
おもし蟹と球磨川禊が。
少しダブって見えたのだ。

とはいえあくまでモドキ。
神とはまるで違う。
全くと言っていいほど、性質は違う。
第一球磨川の記憶消去は本人の意思をまるで無碍にしていた。
あんなのが神であるものか。
戦場ヶ原ひたぎは理解していた。
故にひたぎの意識があくまでめだかから揺らぐことなく、今に至っている。

むろん球磨川禊は知らない。
知らないが。
後にこの世に神様がいることだけは認識する。
モドキならぬ、本物。
本物にして化物。
黒神めだかを中心にして化物の話を、知ることとなる。



  ■■■■

343 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:23:24 ID:HI3cDlfE0

「つまりは球磨川よ、私は脱げばいいのだな」


間髪いれずに脱ぐ。
一瞬の出来事に周囲三人(内一人はそれどころではなかったにしろ)は呆気にとられた。
どうして自らの胸倉を掴むようにして、そのまま空を切るように腕を振っただけで、下着姿になることが出来るのか、とか。
そういったツッコミはこの場には適さない。
たわわに実った胸元から取り出した鉄扇を扇ぐ彼女に対し、
対面する学ランの男・球磨川禊は間を置き、呆れたように訊ねる。

「きみは人の話を聞いていたのかい」
「年がら年中誰からの相談をも請け負うこの私に、愚問をするでないぞ球磨川」

澄ました顔を濁らすことなく、球磨川の瞳を睨みかえさんと。
以後も扇ぎ続け、静かに告げる。

「私は、出来ることから済ませただけだ。
 似合わないと言われて何食わぬ顔で着ていられるほど、私も図々しくない」

どうだろうね、と球磨川は肩をすくめ、
逃げず、格好つけず括弧つけず、めだかと向きあう。

「僕が言いたいのはそう言うことじゃないんだけどなあ」
「安心しろ、分かっておるよ。貴様の言わんとすることは」

そこで始めて、めだかは顔に陰を差し、
扇で口元を覆うようにして語る。

「言われるまでもなく、私は殺人を犯したよ。
 阿良々木暦、多くを知っている訳ではないが、戦場ヶ原ひたぎ先輩がああも心酔する人間だ。
 偉大なる人格者だったんだろうよ。おぼろげながらも私だって覚えておる」

悔いに満ちているんだろう。
語り口が僅かに震えているのを、球磨川は感じた。
めだか当人も気付いたのか、言葉をそこで切ると、大きく息を吸って、再度紡ぐ。

「きっと私の後悔なんて、意味ないんだろうよ。
 さっき戦場ヶ原先輩と対面してようやく理解した。
 私がどう思おうとも、私は実際に罪を犯した。
 その事実はどう足掻いても拭えない。そして許されることもないのでだろう」

球磨川禊が死んでいた頃。
黒神めだかと戦場ヶ原ひたぎは、無言で向かい合っていた。
正鵠を射るならば、動けなかったから、という言葉を脚注に加えるべきだろうが。
ともあれ、その時にめだかは察した。
ひたぎの瞳の色を見て。
憎悪に染まるその瞳を見て。
否応なしに伝わる。
自らの罪深さを。洗脳されていたからでは済まされないほどの、行いだと。

間を置き。
一つ息を付く。
扇を止める。
自然な風が周囲の木々を鳴らすのを聞き、
三度扇を扇ぐと瞳に輝きを灯し、しっかりとした口調で宣告す。

「しかしだ、球磨川。だからといって、人を信じない理由にはなりえないだろう?
 確かにそこの鑢七花は殺し合いに乗っていたのかもしれないよ。
 冷静になって考えてみれば、左右田右衛門左衛門に嘘を吐かれていたのかもしれない」

“凍る火柱”
頭を冷やす。
考えてみれば明瞭。
仮にも殺し合いに乗った人間の言葉だ。
信憑性があるとは言い切れない(それは七花にしたって同じだが)。
客観的に考えて、この場で七花が妙な嘘をついて食って掛かる理由がない以上、
そしてあの場、明らかにめだかに協同しようとは考えていなかった左右田を疑うべきなのは、やはり明らか。
明らかには違いない。
でも。

「それでも、人間を信じることが、人を殺してしまった私でも出来る、数少ないことだと信じておる。
 人間は分かりあえる。普通も、特別も、異常も、過負荷も、悪平等も関係なく。それは、貴様を通じて学んだことだぞ、球磨川」

めだかは左右田を信じたことを恥じていない。
恥じるべきことではないと考える。
人を信じることが肝要なのだ、と。
あまりに正しく、まっすぐに、異常だった。

「もう一度言おうか、球磨川」

仕切り直す様に。
黒神めだかは、扇を音を立て閉じ、球磨川を指す。
不敵に佇む球磨川に動じることなく言い張った。

344 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:24:43 ID:HI3cDlfE0

「私は誰からも気持ちも受け止めるつもりだよ。
 それは勿論、そこの鑢七花だって同じだ。少し後回しになってしまうが、彼とだっていつかは向きあうさ」

七花の胸に刺さる三本の“却本作り”に一瞥をくれ、
もう一度球磨川に向き直る。
扇で扇ぐ、その顔はどこまでも凛と澄んでいて、涼しげだ。

「今は殺し合いに乗っているのかもしれない。
 だが、かつては素朴純朴、人間として真っ当な人生を歩んでいたんだろう。
 理不尽にも殺し合いに巻き込まれやむを得ない事情や背景を抱え彼らは闘っているにすぎまい」

私と違ってな、と。
最後に彼女は付け加え。
謳い文句を、
彼女が彼女たるに相応しい言葉を以て。

「ならば、まだ取り返しがつくのならば、救わねばなるまい。手を差し伸べてやらねばなるまい。
 私は見知らぬ他人の役に立つために生まれてきた女だよ。そこに殺人鬼も過負荷もない。同じ、愛すべく人だ」

左手を胸の前で握る。
ここに心があるんだ、と言わんばかりに。

「球磨川よ、現に左右田右衛門左衛門は鑢七花に殺された。
 放置をしたことは、確かに判断を誤ったのかもしれん、それでも、私は決して人を殺さなかったことを後悔はしない。
 人殺しの罪深さを、私は知っているつもりだ。知ってるが故に、“殺す”なんて真似は絶対にしない。
 そしてその罪深さをこの鑢七花のような人間に悟らせるのが、今の私にできる最善だ」

これが今の私の答えだ、そう、締めくくる。
鉄扇をぱちん、と鳴らして閉じる。
流れるように鉄扇を胸元に仕舞い、下着姿のまま、威風堂々と仁王立ち。
球磨川禊は誇らしげな様子をしばし、黙視し、そして。

「そう」

極めて簡素に。
されど見定めるような視線は変わらず。

「じゃあいいよ、行こう。めだかちゃん。ならば試してみようじゃないか。
 きみのスタンスがどれだけ愚かで、どこまで馬鹿げてるか。きっとすぐに分かるさ」


  ■■■■

345 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:25:14 ID:HI3cDlfE0
却本作りの影響を受けてからと言うもの、鑢七花の熱量が急速に冷めていたのは、三人が共有する暗黙の事実だった。
めだかも多少戸惑ってはいたが、それまでそうしていたように、“五本の病爪”で無力化を図って、
戦場ヶ原ひたぎを追う旅路を続けた。球磨川もそれに続き、予定通り、七実が七花を連れる。ほどなくして七花は眠る。
忍法足軽もあって、手を引くには七実の虚弱さでも十分だった。

このような形で二人を追っていた鑢七実、
普段と比べては周囲に対する注意力も散漫になっていた、が。
“それ”がなんなのかは直ぐに分かる。
死霊山を壊滅させた末に、それとなく手に入れた“交霊術”を以て。
七実は感じる。
人が向こうに居るという旨を二人に伝えると、二人は進路を変えて、ほどなくして“そこ”に至った。

“なにか”がある。

肉のように見えた。
そんな曖昧な印象を抱かざるを得ないほど、ぐちゃぐちゃな“なにか”がある。
強烈な死の臭い。
血の臭いだ。もしかすると人間の肉の臭いなのかもしれない。
ともあれ生理的嫌悪を彷彿させるのに十分な異臭と塊が、そこにはあった。
“それ”を見て、七実は。

「ひたぎ、さん」

思わず声に出てしまう。
あまりの思いに。
重すぎる、思いに。
もしくは重さじゃ量れないほどの禍々しき思いに。
数刻前、球磨川禊を殺したことに関してさえもチャラにしてしまいそうなほどの思いの塊が集約されている。
決して穏やかなものではない。
少し気を抜けば圧倒されてしまいそうな“思い”。
募り募った怨念が顕現していた。

「“これ”が戦場ヶ原ひたぎ、だと」

ふと呟いた七実の言葉を聞き逃す黒神めだかではなかった。
呟くように、確かめるように、自問するように、小さな声で、だけどはっきりと反芻する。

「鑢七実。確かに今、そう言ったか?」
「ええ。“これ”は間違いなく戦場ヶ原ひたぎの肉塊でしょう」
『うん。頭がやけに徹底的に破壊されているから分かり辛いけれど、
 服装らしき布切れといいひたぎちゃんであるという可能性は十分あるね、これは』

商店街のくじ引きでも行うような気軽さと遠慮なさを前面に押し出して、肉塊に手を突っ込む。
弄り、確かに血濡れてこそいるが布切れであろうとそれを取り出して『大嘘憑き』と呟いた。
大嘘憑きで血が捌ける。
だからこそ、よくわかる。
“それ”は紛れもなく戦場ヶ原の着衣していた服であり。
肉塊はどうしようもなく戦場ヶ原ひたぎのものだと。
黒神めだかは認識せざるを得なかった。
震える足を、手で押さえながら、震える声で問う。

「ちなみにだ、鑢七実。貴様は推理だてて判断したわけじゃあるまい。どうして、“判った”んだ?」
『そういや僕も気になってたんだよね。どうしてなの?』
「“交霊術”っていう技です。会得した当初は大したものではないと思っていましたけれど。
 めだかさん、あなたなら、わたしから忍法爪合わせを会得したあなたならこれぐらい訳ないと思いますが」
「ああ、そうだな。みなまで言わんでもいい」

そう言って。
めだかは一度瞼を閉じた。

『めだかちゃん、わざわざ聞かなくてもいいんだぜ』
「止めるな球磨川、止めないでくれ」

私には聞かねばならない義務がある、と。
数秒後、彼女は大きく息を吸って。
今しがた七実の“姿”を見て“完成”させた“交霊術”を発動させる。
瞼を、ゆっくりと開けた。

「あ、」

最初は絞り出すような声だった。

「ああああああ、」

しかし次第に、声ははっきりとした絶叫として、張り上げられた。
普段から、親からさえも疎まれて育った鑢七実でさえ、あまりの“思い”に一度はたじろいだのだ。
人を幸せにすることだけが生きる目的だった黒神めだか。
そのためには幼馴染さえ見限った、蔑ろにした黒神めだか。
しかし、今、その幸せにするべき“人”から、溢れんばかりの飽和した“思い”が、めだかを裏切る。
純粋な悪意が襲い、害意が苛み、嫌悪が虐げる。
加えて言うなら、七実のそれを、さらに完成させた交霊術はより晴れやかに、思いを伝えているのだろう。
澄んで澄んで澄み渡った怨嗟の声が、めだかを直撃する。

黒神めだかに。
戦場ヶ原ひたぎの。
“思い”は。
“恨み”は。
“憎しみ”は。
重い、重い、オモイ。
志半ばに殺されてしまった彼女の“声”は。
実態をもたないまま、されど確実にめだかの心を凌辱する。

346 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:27:12 ID:HI3cDlfE0

「あ゙あ゙あ゙あ゙ああああああああああああああああああああああアあ!!」

発狂したように叫ぶ。
思い伝わるままに。
膝をつき。
頭を抱え。
喉を裂けんばかりにひっかき。
喉を潰さんばかりに吠える。
いつしか声が止んだ。
単に喉に限界が来ただけだろう。
胸を掻き毟る。
心を裂くかのように、何回も何回も。
ひたすら、なにかに憑かれたように、何回も何回も。
掻く、毟る。
いつしか手は自分の血で濡れたいた。
意識した、途端疲労が襲う。
這いつくばる。
今度はまだ乾き切っていないひたぎの血が、彼女の長い髪、肉をと染め上げた。
下着の色も、すっかり白から赤へと変色している。

球磨川はそんなめだかの姿を見て。
特に表情を変えたりはせず。
詰め寄り、労わるように肩を抱く。
あくまでいつものように、普段通りに、なじるように問い掛ける。

「分かるだろう、めだかちゃん。これがきみの犯した間違いだ。
 むろん、ひたぎちゃんが死んだのはきみの所為じゃない。ただその事実はそれだけでしかない。
 きみは人間失格にひたぎちゃんを任せてしまったんだってね。殺人鬼を無用に信じてしまったのは、どうしようもなくきみだ」

ぐちゃり、球磨川はひたぎの肉を掴みあげ、
めだかの前で弄ぶようにいじくりまわす。
ぐちゅり、ぐちゅり。
音は止まない。
めだかは動かず。
ただ、蹂躙される肉塊を虚ろ気な瞳で見つめた。

「左右田ちゃんを殺した七花くんを見逃したのもきみ。
 きみの異常なまでの甘さが、あるいは二つの死を招いたのかもしれないね」

「      ぁ  」

なおもめだかは立ち上がらず。
ぐちゅり、ぐちゅり、ぐちゅり。

「勘違いしないでほしいけど、僕はきみを責めたいわけじゃない。
 ただ、そろそろいい加減。きみも上じゃなくて前を向く時が来たんじゃないかな。ほら、前には現実が待ち構えてる。」

「ぅ、  ォえ 、げほっ 」

なおもめだかは物語らず。
ぐちゅり、ぐちゅり、ぐちゅり、ぐちゅり。

「なるほど、人を信じる。いい言葉だね。実にプラスな考えだ。
 きみは特上の異常(アブノーマル)で極上の正(プラス)だった、人間としてきみの行いは正しかった。正しすぎた。
 変な言い回しだけど、化物じみてるとしか言いようがないほどに。故に対処を間違えてしまった。」

「あ゙、ああ、  あ」

なおもめだかは凛とせず。
ぐちゅ、ぐしゃり。
肉が、崩れ落ちた。

「さあ、めだかちゃん、認めちゃえよ。そうすれば楽だぜ。
 “私は間違えるべきだった”って。正しいだけじゃいけないんだって。ほら、一緒に堕ちてこうよ。
 たまには先輩らしく、きみの手を引っ張ってやるのも、悪くないさ」

血に塗れた手を、自らの制服で拭う。
黒い制服が一部朱に染まる。
その時だった。

347めだかクラブ  ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:29:15 ID:HI3cDlfE0

「あ、ああああああっ!」

不意に、としか言いようがないほど唐突に。
黒神めだかが叫ぶ。
何事だと問う前に、黒神めだかの身体が浮いた。
球磨川禊も、鑢七実も何もしていない。
さも自然かのように、めだかの身体は誰の意思をも鑑みず、ぐんぐんと追いやられ、
壁に激突した。
激突し、張り付けられて、そのまま動かない。動けそうにない。
磔刑のごとく。
ともすれば強風に叩きつけられたようにも見える。
しかし、七実と球磨川、両者共々周囲に気を張るが何も感じることが出来ない。
当然だ。
周囲には人影一つない。
“そこ”にいるのは。
いや、“どこにでも”いるのは。

「か、 、 か、に?」
「蟹? 蟹なんて見えないけど、七実ちゃんはどう?」
「いえ、わたしには」

圧迫されているからか、喉が潰れるほど叫んでいたからか。
息も絶え絶えに、されど確かにそう言った。
今もなお、壁に身体がめり込んでいく。
彼女の名前は黒神めだか、潰されて死ぬほど軟に構成されてはいないだろうが、
罅割れていく壁が、力の強力さを物語っていた。
人間を超越する力。
怪物をも凌駕する力。
神の力。
神様の力。


かつて戦場ヶ原ひたぎが行き遭った怪異、神様。おもし蟹。
蟹は今、黒神めだかに恵みを施さんと、この場に君臨した。




―――――第×箱 めだかクラブ――――

348 ◆xR8DbSLW.w:2014/03/31(月) 21:33:00 ID:HI3cDlfE0
投下終了します。
演出上の都合上状態表はオールカットしました。
wiki収録の際には、時間帯は夜中、場所はD-5 ひたぎの死体の近くでお願いします。

同じくひっどいぶん投げを自覚しているので何かありましたら遠慮なく言ってください!

349名無しさん:2014/04/01(火) 00:50:22 ID:5iGXenO.0
投下乙です!
これはひどい(褒め言葉)
ヶ原さんが球磨川を神様モドキと言った理由に納得し、似合わないから脱ぐという思考回路に笑いが漏れたけど穏やかに済むはずもなく
えぐい、実にえぐいわあ…
普通なら死んだら終わりなんだけど終わりにさせない手段があるというのも考え物
発狂一歩手前まで行ってそこに現れた救世主
果たしてめだかちゃんはズルをするのかどうか

350名無しさん:2014/04/01(火) 21:13:11 ID:KXpboMtA0
投下乙です

ここはパロロワ、原作とは違う展開が当たり前
だからめだかちゃんとクマーの物語もまた原作と違う訳で…
俺もこれはひどい(褒め言葉)と思う
めだかちゃんがここでズルをするのかしないのか気になる

351名無しさん:2014/04/02(水) 23:42:32 ID:URg/f89E0
さすがマイナスと言わざるを得ない
誰一人として得してないもんな
このままじゃめだかちゃんもどうなるかわからないしめだかちゃんが球磨川を改心させなかったら球磨川はずっとそのままだし
その球磨川についていく七実と、この先どうなるかわからない七花も・・・
果たしてめだかちゃん、そして球磨川一行もどうなるんだろうか

352名無しさん:2014/04/04(金) 00:35:18 ID:WV.MwyOA0
投下乙です

冒頭でいきなり脱ぎ始めたのを見て、ああこれぞめだかちゃんだってなった
普段のめだかちゃんなら絶対にズルはしないんだろうけど、その「普段じゃない」状態に持っていくのが上手い

353 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:14:04 ID:UxVDJzFM0
◆mtws1YvfHQ だった者です。

櫃内様刻、無桐伊織、真庭鳳凰の投下を開始します

354狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:18:21 ID:UxVDJzFM0

音がした。
足音が聞こえてきた。
慌てて揺するのと、それと目が合ったのは同時だった。
殺気が膨れ上がる。
抑えようとしてなのか分からないけど。
何か覚えがあるような、ないような、そんな。
でもそれは有り得ない。
だって。

「あら……初めまして」

そう言う彼女とは、初めて会うんですから。



トリガーを落として向ける。
その相手。
見知らぬ相手だ。
金髪の女。
服装がまるで合っている。
時代錯誤の貴族と言われても納得出来るだろう。
牛刀を引き摺ってさえなければ。
それに何故か見覚えのある。
それが、口を開いた。

「あんた達ってまさかこの殺し合いに参加しちゃってたりする訳?」
「……さあね」
「ふーん、否定する」
「…………」
「そんな小さな物向けてきた所で威嚇にもなりはしないわよ?」

とりあえず無言で引き金を引いた。
その足元に向けて。
乾いた音が鳴って、床に穴が空く。
警告だ。
弾が入っていると証明するための。
不愉快そうに顔を歪めた。
だけだった。
距離を縮めてこようとしないが、
遠ざかろうともしない。

「…………ふーん。え、何よそれ? 初めて見るわね」
「銃だよ、銃。見て分からないのか?」
「はっ、否定する。銃ってのはもっと筒が長いのを言うのよ。まぁ例外はあるけど。それとも何かしら。変態刀の一つ、炎刀がそれだって言うのかしら?」
「……僕の質問に答えてもらう」
「否定する。義理がないわとね」
「義務はあるぞ」

もう一発。
弾がもったいないけどそうも言ってられない。
何か可笑しい。
銃を知らないだと。
テレビを見た事がある奴ならまず知ってる。
見た事がなくとも普通知識として知ってる。
歴史なり何なりの授業の教科書に載ってるような物だ。
なのに知らない。
有り得ない。
まして可笑しいのは、銃と言えば、筒が長い物、と言う言葉。
ライフルか。
それだったら拳銃を知って然るべき。
だとするなら、拳銃を知らない上で筒の長い銃を知っている。
火縄銃とかか。
まさか、と思わないでもない。

355狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:20:02 ID:UxVDJzFM0

「否定する」
「……立場が分かってるのか?」
「馬鹿らしいこと言うじゃない。だったらさっさと足をそれで何とかすれば良いじゃないの。それをしないのは出来ないから? いいえ、元からするつもりがないからでしょ?」
「出来るさ」

するつもりは確かにない。
仲間が一人でも欲しい状況なんだから。
足手まといを作るのは下の下。
敵対するようなら容赦はしない。

「交換条件と行きましょう」
「なに?」
「いや、わたしさ。ついさっきまで寝てたのよ。起きたら持ち物全部なくなっちゃってて困ってる訳」
「だから?」
「食べ物頂戴? そしたら話せるだけの事は話すわよ? あ、ついでにこれ上げるから」
「…………………………」

うん。
持っていた牛刀を捨てて。
出刃包丁とナイフが五本にフォークが五本。
懐から出して捨てた。
うん。
図太いってレベルじゃねぇぞ。
図太いってレベルじゃねぇぞおい。
殺し合いの最中で寝て。
起きたら持ち物がなくなってて。
挙げ句の果てに食べ物の要求。
図太いってレベルじゃねぇぞ。
今まで生きてるのが不思議なレベルじゃねぇか。
しかも持ち物がなくなってるって事を寝てる間に盗られたとすれば。
運が良すぎる。
具体的に言えば、怪しいってレベルじゃないぐらい怪しい。

「…………」
「で、どうなのよ。くれるの、くれないの?」
「どうこうする前に条件がある」
「何かしら?」
「服を脱げ」
「……は?」
「脱げ。そしたら渡す」

脱いだら怪しい。
よっぽど空腹なら分からないでもないけど、そんな様子じゃない。
もし脱いだら、油断させて近付くのが目的と考えて良いだろう。
これが今、考えうる最良の手だ。
どうくる。

「うわぁ」
「うわぁ」

そんな考えを巡らせてると、前後から声がした。
え。
あ。

356狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:21:21 ID:UxVDJzFM0

「……えーと、お嬢ちゃん? 早急にその人と別れるのをお勧めするわ」
「生憎ですけど足の骨が折れてるので……」
「そう……まぁ、服は剥がれないようにだけしなさいね? そ、それじゃ失礼するわ」
「待て待て待て待て待て! 冗談だって、冗談!」
「否定する。冗談で人に脱げとか人としてどうかと思うわ」
「武器を持ってないかの確認をしたかっただけなんだ!」
「否定する。だったら他に方法なんて幾らでもあるでしょ。数ある方法から脱げを選ぶとかもう終わってるんじゃない?」
「これに関しては私からフォローは出来ませんから頑張って下さい」

くそ。
四面楚歌か。
いや二人だから前門の虎に後門の狼。
何とか言い訳しないと僕の信用がマッハで底値だ。
くそ。
何でよりにもよって脱げなんて言った、僕。

「……近付いてグサリなんて嫌だからな。一番手っ取り早い方法を選んだんだよ」

どうだ。
完璧な言い訳だ。
なんか心なし向けられる視線に殺気やら何やらが混じってる気がするけど気のせいだろう。
そうだよね。

「………………まぁ、そう言う事にしましょうか」

長い沈黙の末に、その女はそう言った。
信用を取り戻せた。
伊織さんの視線に軽蔑のような何かが混じってる気がするけど気のせいだ。
気のせいだから。

「でさぁ。脱ぐのは論外として、どうすれば食べ物くれる訳?」
「いやもう良いよ、やるよ」

デイパックの中を探る。
ついでに、首輪探知機を取り出す。
えーと、名前は。

「…………」

思わず。
引き金を引いた。
当てなかったのは僕にまだ理性が残っていたからだ。
有り得ない、と。
あいつの四肢の三本をとうに斬った。
だけど今、目の前にいる相手はちゃんと全部ある。
顔も違う。
いや顔は変装するなり何なりと手は幾らでもある。
だけど手足はどうしようもない。
どうみても生きて動いてるそれはどうにも出来ない筈なんだ。
だからこそ、当てなかった。

「ちょっとちょっと! いきなり何よ!?」
「黙れ。今からする質問にすぐ答えろ。さもないと殺す」
「いや、だから食べ物さえ」
「答えろ」
「わ、分かったわよ。で、その質問ってのは?」
「名前は?」
「否定姫よ」

357狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:22:57 ID:UxVDJzFM0

有り得ない。
有り得るはずがない。
確か犠牲者の一人の名前だ。
思い違いのはずもない。
確かに死ぬ姿を見た。
鳳凰に殺される所を。
まさか変装か。

「顔を引っ張れ」
「え、誰の?」
「お前自身の顔をだ。今すぐ」
「嫌よ、痛いじゃない」
「殺すぞ」
「……あーもう! 何なのよ!」

そう言いながら腕を捲って、両頬を引っ張り始めた。
まるで破れる気配もない。
特殊メイクとかなら破れるか取れるかしてるはずだ。
まさか、本物なのか。
有り得ない。
だけど顔を真っ赤にして引っ張ってる姿はどう考えても血が通ったそれだ。
訳が、分からない。
放送が嘘なのか。
この首輪探知機が嘘なのか。
目の前のあの姿が嘘なのか。
一体何が嘘なのか。

「真庭鳳凰!」

叫んでいた。
否定姫の動きが止まった。
目が僕を見る。
疑わしそうに。

「真庭鳳凰? どうして今、その名前が出るのかしら?」
「騙されないぞ。真庭、鳳凰」
「だーかーら、何でその名前が、今、出るのよ!」

違うのか。
間違ってるのか。
真庭鳳凰じゃないのか。
否定姫なのか。
否定姫じゃないのか。
分からない。
分からない。
分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないワカラナイ。
ワケガワカラナイ。

「っ!」

視界が、一瞬、歪んだ。
そして気付けば、そこに、時宮時刻が、いた。

「ぅ!」



しがみ付いたのと、様刻くんが引き金を引いたのはほんの少しの差でした。
しがみ付いたお陰で弾は天井に当たっただけで済みましたが。
いやいや、そうも言ってる場合じゃないんですけどね。

358狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:25:12 ID:UxVDJzFM0

「落ち着いて下さい! 落ち着いて!」
「時宮っ!」
「死にました! 放送してたでしょう!」
「……そうだ。死んだんだ。あいつは、死んだ」
「死にました。えぇ、死にました」
「…………悪い。少し、混乱してて。ごめん。伊織さん……?」
「なんで疑問系なんですか。まぁ良いですけども」

いやぁ、危なかった。
あと一歩遅ければ彼女、死んでたでしょう。
一息付きながら目を向けます。
殺気の籠った目ですね。
いや、分からないでもないですけど。
脱げと言われた挙げ句に何発も射たれたら。
当たってはないですけど。
理由は分かります。
納得も出来ます。
しかしながら、違和感は拭えません。
それだったら脱げと言われてから出てくる物でしょう。
なのに、私達を見付けてから殺気が出ていた。
気がするんですけど。
何とも言えないんですよねぇ。
裏の世界にまだ足首まで入ってるか入ってないかって言うドの付く素人ですし。
様刻くんが落とした首輪探知機を覗いてみると、

「なるほど」

私と様刻くん。
それに真庭鳳凰の名前がキッチリ載っています。
でもどう見たって鳳凰には見えません。
特殊メイクの線も散々顔を引っ張ってる姿で消えました。
一応両腕片足が義手的な物の可能性を考えないではないですけども。

「……ないですよねぇ」

人識くんが拾ってきた物より違和感なく動いてるあれはどう見たってモノホンですからね。
別人としか考えられない訳で。
でもそうなると。
首輪探知機が間違っている。
あるいは首輪が間違っている。
その二択と言う至極面倒臭いどっちかになると言う事で。

「…………あ」

まだ映像を確認してませんでしたね。
確か否定姫が殺される映像があったはず。
それを確認すれば良いじゃないですか。
いえでもあれが嘘の可能性もなくはないし。
でもそうなると放送に嘘があった。
それこそ何のメリットがあってそんな事をするんでしょうか。
例えば、参加者側を混乱させる目的。
今更混乱させてどうなるんでしょうね。
次。
疑心暗鬼に陥らせる策。
既に散々人が死んでるんですから全く関係ない話です。
最早全員が全員疑心暗鬼でも可笑しくないんですから。
でも考えてみれば。
もっと早い段階で現れる事があったとすれば疑心暗鬼には持ち込めたかも。
ずっと寝ていたのが本当だとしたら、ですけど。

「ご開帳」

359狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:29:21 ID:UxVDJzFM0

まあ百聞は一見。
再生。



映像。
寝ている否定姫。
現れる真庭鳳凰。
起こしてしばらく何事かを話して。
倒れた。
いや寝直した。
少し経ち。
意を決したように鳳凰が腕を挙げ。
降ろされた。
当然の事のように首は転がり、辺りは、血に沈んでいく。
その頃には鳳凰の姿はなくなっていた。



「……と言う風に、映像では物の見事に死んでるんですけど、あなた」
「いやいやいやいやいやいや。待ちなさいって! え、じゃあ何かしら? わたしは亡霊か何かって訳?!」
「映像を信じるならそうなる訳です」
「その映像とやらよりもわたしを見なさいよ! 五体満足! 首だって付いてるわよ! どこをどう見たら転がるような首になってるのよ! と言う事で全身全霊を持って否定するわ! その映像とやらは間違ってると否定する!」

うーん。
顔真っ赤にして否定されました。
やっぱりどう見ても血の通った本物。
何だけどなぁ。

「……んもぅ!」

ついに何やら思い立ったようです。
足を鳴らして寄ってくる。
咄嗟に様刻くんが拳銃を構え直したけども遅く、近付いた所で手を伸ばした。
渡せと言う風に。

「貸しなさい」

実際言いました。
気圧された。
とでも言うんでしょうか。
渡してしまいました。
それに対して否定姫がした事と言えば、元の位置に戻って手のひらを付けたり叩いたり。
まるで赤ん坊のように適当極まりない行動をぶつけると言う事。
慌てた風の様刻くんが助け船を出さなければ壊す所でしょう。

360狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:31:28 ID:UxVDJzFM0

「…………」

その様子を少し離れたまま見ている訳ですが。
怪しい様子がない。
何処かに武器を隠してる感じでもない。
でもやっぱり殺気はある。
それでも、様刻くんなら大丈夫。
そう言う信頼感があった。
だから知らない。
様刻くんの中の、最早半分以上狂ってしまった願いも。
それを叶えようともがいてる内心も。
だからこそ生まれていた焦りも。
狂っている視覚も。
一回巧く行ったせいで、いざとなれば影を縫い止めて逃げれると思っている油断も。
分かってるようで何一つ分かってなかった。

「…………んー……一応分かったわ」
「じゃあ再生してみて」
「ここを……押して……うん、動いたわ」
「あぁ」
「寝てるわね」
「寝てるね」
「……あ、鳳凰ね」
「鳳凰だな」
「そう言えばあなたってこいつのこと、どの程度知ってるの?」
「そう言うそっちは?」
「殺人特化の忍者集団、その実質的な頭領でしょ。あいつがいなきゃ」
「あいつがいなきゃ?」
「あぁごめんごめん、気にしないでちょうだい」
「そう」
「って言うかまさか名前は知っててどう言う奴か知らなかったの? あ、起きた」
「知らないよ。でも……そうか、頭領か」
「何よ」
「殺人特化って言う割には意外とチョロいのかもなってね。半分はさっさと死んでる訳だしさ」
「……」
「どうした?」
「別に。ふーん、そう。もう六人死んだのね……寝直したわね、わたし」
「寝過ぎじゃないか? それと六人だと?」
「えぇ。十二頭領って言われてるの位は知ってるでしょ?」
「……いや、知らない。つまり鳳凰の奴は実質無力だとしても……まだあんなのが十人いるのかよ…………あ、死んだぞ」
「死んだわね。いや、でも否定する。この通りわたし、生きてるし。え? 生きてるわよね?」
「そうだな。主催の連中が首輪の銘を間違えた……のかな? 返して貰うぞ」
「ありがとね。そっか、ふーん。そう使うのねぇ、それ」
「そうだよ。あ、そうそう伊織ちゃん」
「あ、そうそう様刻くん」

その瞬間。
様刻くんが私に目を向けた中で。
初めて、違和感に遭った。
今まで奇妙な感覚はあっても違和感がなかった中で。
否定的な女性の言葉の中で。
初めての違和感だった。
何の。
そう聞かれれば今なら分かる。
名乗ってないのに、何で名前を知ってるのか。
私の名前は様刻くんが呼んだけど。
様刻くんの名前を私は呼んでない。
そう気付く前に。
様刻くんが私に何か言おうとしていた中で、

361狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:33:41 ID:UxVDJzFM0

「た…………ぇ……ぉ…………ぉえ?」
「ご苦労だった。死ね」

胸から、足を生やしていた。
気付いた。
その足が、散々わたしを痛め付けていた足と。
初めて気付いた。
向けられ続けていた殺気に、感覚が鈍ってしまったのだと。
初めて気付いた。
探知機に、間違いはなかったのだと。
初めて、思い出した。
この世には、訳の分からない何かが存在していた事を。
人を人形みたいにする技術があるのなら、

「あの厄介な技を使われては困るからな。嬲りたい所を否定し殺したが。さて鬼よ」

音を立てて、様刻くんが倒れた。
様刻くんだったモノが倒れた。
穴から別物のように、血が広がっている。
人の皮を被る技術があっても、人の肉を借りる技術があっても、

「おぬしはどうしてくれようか?」

可笑しく、ないのだと。
真っ赤な片足で。
否定的に。
鋭い目で笑う女の顔を。
嘲笑う目は。
猛禽のような目は紛れもない。
真庭鳳凰を見て、思い出した。



【櫃内様刻@世界シリーズ 死亡】

362狼少年少女 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:35:26 ID:UxVDJzFM0



【1日目/夜中/G−6 薬局】
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]両足骨折(添え木等の処置済み)、混乱(小)
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:…………はい? 鳳凰? え、どう言う事?
 1:曲識、軋識を殺した相手や人識君について情報を集める。
 2:玖渚さん達と合流しましょうか。
 3:黒神めだかという方は危険な方みたいですねえ。
 4:宗像さんと玖渚さんがちょっと心配です。
 5:人識くんとランドセルランドへの電話は……
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※黒神めだかについて阿良々木暦を殺したらしい以外のことは知りません。
 ※宗像形と一通りの情報交換を済ませました。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※DVDの映像は匂宮出夢と零崎双識については確認しています。他の動画を確認したか、またこれから確認するかどうかは以降の書き手さんにお任せします。



【真庭鳳凰@刀語】
[状態]身体的疲労(中)、精神的疲労(中)
[装備]矢@新本格魔法少女りすか、否定姫の着物、顔・両腕・右足(命結びにより)、真庭鳳凰の顔(着物の中に収納)、「ガスバーナー@現実」
    (「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する。
 1:真庭蝙蝠を捜し、合流する。
 2:こいつの反応を見て、殺せそうなら殺し無理そうなら退く。
 3:戦える身体が整うまでは鑢七花には接触しないよう注意する。
 4:可能そうなら図書館に向かい、少女の体を頂く。
 5:否定する。
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません。
 ※記録辿りによって貝木の行動の記録を間接的に読み取りました。が、すべてを詳細に読み取れたわけではありません。
 ※スマホの使い方は大まかに把握しました。しかしそれ以外は全く分かっていません。



 ※様刻の荷物が遺体の傍にあるのか伊織の傍にあるのかは、後の書き手様方にお任せします。なお荷物は以下の通りです。

遺体の傍確定
 スマートフォン@現実、デザートイーグル(3/8)@めだかボックス
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。

不明
 支給品一式×7(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜28)@不明
 炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、
 輪ゴム(箱一つ分)、首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
 鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、
 首輪探知機@不明、誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
 「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁@現実、
 中華なべ@現実、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、
 食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
 (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。

其処ら辺の床の上
 牛刀@現実、出刃包丁@現実、ナイフ×5@現実、フォーク×5@現実

363 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 00:37:10 ID:UxVDJzFM0
題名考えていなかったので若干間が空きまして申し訳ありません。

改めて考えて真庭鳳凰の命結びの反則性能に笑った。
アニメからしてどう見ても生物だからまず見破れないですし変装ってレベルじゃねえぞ。
欠点がないでもないですけども。
あと書いていて思いましたが私、鳳凰が十本指に入るくらい好きなのかも知れません。
予想外の発見と言う奴でしょうか。

何時も通りになりますが、感想や妙な所などございましたらよろしくお願いします。
直しは色々あってどなたかにお任せする可能性がありますけれど。

364 ◆2aduoTOeo2:2014/05/05(月) 01:42:44 ID:UxVDJzFM0
ジャーンジャーンジャーン(げえ、鳳凰!)

修正の協議をした結果、私の時間がない所為で修正した場合にはご都合主義感が否めない作品になる事が判明しました。
バトルロワイヤルに過剰なご都合主義は必要ないと言う私の考えの元、今回の作品は破棄とさせて頂く事にしました。
でももったいないのでおまけにでも突っ込んでおいて頂ければと幸いです。

一応感想など頂ければ次の反省などになるので是非にもお願いします。

365名無しさん:2014/05/05(月) 01:49:08 ID:IkIWy8EIO
投下乙です

あー、駄目だったかー、様刻駄目だったかー・・・
首輪探知機が出てきたときは確実にアウトかと思ったけど、DVDの映像すら余裕ですっとぼける鳳凰の度量にはもう感服するしかない
というか否定姫の演技が驚きの再現率すぎてもう・・・

366名無しさん:2014/05/05(月) 11:35:52 ID:uXomqaJQ0
投下乙です

言われてみればご都合主義感がなあ…
これが破棄になるとか残念
めげずにまた書いてください

367名無しさん:2014/05/07(水) 10:06:11 ID:LYzEwAys0
破棄は残念ですが確かに前話を読むと探知機を確認していないのは不自然になってしまいますね…
ですが否定姫な人格の鳳凰の描写は唸らざるをえないものがありましたし様刻くんの混乱やそれに対処する伊織ちゃんかわいい
また作品を読めるのを楽しみにしております
最後になりましたが投下乙でした

368名無しさん:2014/05/15(木) 13:27:56 ID:qB/H1W760
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
147話(+3) 16/45 (-1) 35.6(-2.1)

369 ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:11:52 ID:nwLFk3pc0
某所にて問題なしとの意見をいただけたので予約分、本投下します

370解決(怪傑) ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:12:44 ID:nwLFk3pc0
とある一室。
モニターもマイクもなく、ソファーとテーブルだけが置かれた簡素な部屋。
応接室と呼ぶには多少威厳が足りないその場所に『彼女』はいた。
ソファーの中央に腰掛け、何をするでもなく目を閉じたまま佇んでいる。
眠っていると呼称するには背筋がきちんとしすぎているし、考え事をしているというには彼女の醸し出す雰囲気に似付かなかった。
笑みを浮かべ、時折口元や眉が僅かに微動だにするが、それだけ。
どれくらいの時間そうしていただろうか。
不意にガチャリ、とドアノブを捻る音が響く。

「あひゃひゃ、こんなところにいたんですか。てっきりこのまま匂わすだけ匂わせといて登場しないものだと思ってたんですけどねえ、安心院さん?」

這入ってきた小柄な女は部屋の主となっていた女――安心院なじみに話しかける。
尊大な言葉を裏切らず、態度にも相手を敬うという姿勢は感じられない。

「正直気付かれずにいられるのもそろそろだと感じていたところだったし。ま、真っ先にここに来るのは君だと思ってたけどね、不知火ちゃん」

一方、それまでしていた行為を中断させられたはずなのに気にもとめず安心院なじみは表情を変えることなく目を開けると、女――不知火半袖に応えていた。
ぽきゅぽきゅと独特の擬音を鳴らして不知火半袖が対面に座るのを待つと続けて口を開く。

「君こそこんなとこにいていいのかい? 萩原ちゃんが用事があるんじゃなかったっけ」
「もちろん問題ありませんよ。というより、そこまで把握してるんなら説明するまでもないでしょう?」
「さあね。実は当てずっぽうの可能性だってないわけじゃないんだぜ?」
「当てずっぽうならもう少しぼかすでしょう。例えば、『西部の腐敗をほっといていいのかい?』とか」
「ああ、それはそうだ。僕としたことが迂闊だったかな」
「萩原さんの名前を出しておいて迂闊もなにもあったものじゃないでしょう」

あひゃひゃ、とこれまた独特の笑い声で返すと一拍置いたのち、向き直る。
御託はいい、本題に入ろうじゃないかと物語るように。
そして安心院なじみも逆らわない。

「お互い聞きたいこともあるだろうし、それじゃ、僕からでいいかい?」
「別にいいですけどせっかくですから公平性を出しましょうよ」
「『質問は交互にしよう』ってやつかい」
「さすが、理解が早くて助かります」
「言うまでもないとは思うけど正直に頼むよ」
「もちろんですよ。正喰に、ね」

お互い笑みを浮かべてはいたが、それは柔和とはほど遠かった。

371解決(怪傑) ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:14:28 ID:nwLFk3pc0





「最初の質問は……そうだな、どこで僕の存在に気付いたんだい?」
「きっかけはハードディスクの中身、ですよ。今になって思えば決定的過ぎましたね。
 それと詳細名簿と死亡者DVDですか。私でも把握してないことはありますから誰かがやったと言われても納得はできなくもないですがやっぱり不自然でした。
 まあ確信したのは零崎双識の様子ですが。あれ、カメラには映ってませんでしたけど双識さんの様子を見れば何かがあったのかくらいは察しがつきます」
「やっぱり出しゃばりすぎちゃったかねえ。まあいいや、次は不知火ちゃんの番だよ」
「どうやって、は聞くまでもないことでしたね。どうしてわざわざこの世界に来たんですか?」
「ちょっとした寄り道の途中さ。僕もあちこちの世界を渡り歩いてきたがこんなに捻くれた世界を見たのは初めてだったものでね」
「捻くれた、ですか。そりゃまあ五つも世界繋がっちゃいましたしねえ。せっかくですしどんな世界を見てきたのか教えてくださいよ」
「別に大したもんじゃないさ。
 隕石が東京のど真ん中に落ちたけど運よく全住人が避難していて怪我人が一人で済んだはいいが、一緒に堕ちてきた宇宙人を巡っててんやわんやする世界とか、
 地球によって全世界の人口の三分の一が減少させられ、魔法少女や人造兵器たちと奮闘する無感情な英雄のいる世界だとか、
 不思議な街に住み、十七番目の妹が死ぬたびに映画を見に行き熊の少女と交流を深めることになる男がいる世界だとか、
 就職活動中のはずだった女性がなぜか探偵と共に殺人事件の解決に付き合わされることになった世界だとか、
 苗字は違えど同じ名前を持つ者達が奇妙な本読みに遭遇しては価値観の違いについて考える世界だとか、
 ああ、そうそう。デスノートとかスタンド使いのいる世界にも行ったねえ」
「最初二つがスケール大きすぎません? というか実在したんですか、デスノートとスタンド使い」
「僕は傍観に徹しただけさ。基本的には次の世界に渡るための踏み台でしかなかったから無用な干渉は避けたかったし。
 でも、結末を知っていたとはいえ実際に見ると滾るよ、ああいうやつは。さすが名シーンと言われるだけはあったね」
「それについては私も興味がないではないですが、今はやめておきますか。それじゃ、安心院さんの番ですので二つどうぞ」
「さっきのまで含めなくてもいいのに、律儀だねえ」
「質問は質問でしたから」
「ならお言葉に甘えるとするよ」

そう言ってしばしの間黙りこむと、ふむ、と一人で勝手にうなずいて再び口を開いた。
悪そうな笑みを浮かべたまま。

「じゃあ、紫木ちゃんや神原ちゃんはいるのに行橋くんはいないくて都城くんにああ偽った理由、それと、不知火ちゃん、君は不知火ちゃん本人でいいのかな?」
「……………………」
「黙り込むなんて雄弁な不知火ちゃんにしては珍しいねえ? まさか理由を知らない、なんてわけがないだろう」
「……あひゃひゃ、本当に人が悪いですね。いや、この場合は人外が悪いというべきですか」
「なんなら洗いざらい話してしまってもいいんだぜ?」
「それはまだ早いのでご勘弁願いたいところですね。…………わかりました、わかりましたよ」
「やっぱり僕の想像通りなのかなあ」
「もったいぶらなくて結構ですって。ええ、その通りですよ。
 行橋未造なんて最初からここにいません。都城王土にはそういう理由をすり込んだだけです、その方が動かしやすいですからね。
 雪山や密室に閉じ込めて放置とかじゃ人質にすらなりませんし。万一何かあっては人質の意味がありません、マーダーと遭遇したら本末転倒もいいとこですよ」
「『ここ』に置いておくという手もなくはないと思ったけどね」
「やむにやまれぬ事情ってやつですよ。正直に言うなら必要性を感じなかった、というところですか。
 紫木一姫と神原駿河は最初は参加者にするつもりだったんですが『失敗』だったらしくて、見せしめにする手もなくはなかったんですが。
 せっかくなんであえて主催側においてみようかという話が持ち上がりましてああなった次第ですよ。
 二つ目の質問は証明する手立てはありませんがこうやってあなたの目の前にいること、情報の精度からご本人と思ってくださいとしか言いようがないですね」
「『証明する手立てはありませんが』――ねえ。どこぞの人類最悪じゃないがよく言ったものだよ」
「そう言われましてもね――おっと、失礼」

会話を中断させたのは無機質な電子音だった。
不知火半袖は音源――携帯電話をポケットから取り出すと、対面に一応の許可を得て応答ボタンを押す。

372解決(怪傑) ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:15:13 ID:nwLFk3pc0
「はいはーい、不知火ちゃんですよ。……終わった? それで現在位置は? ……なるほどねー。止められたのは元凶だけってこと? まあ仕方ないか。
 デイパックは回収してる? うんうん。その場所がセーフならあっち側も大丈夫でしょ、一応。ご苦労様、策士さんには報告しとくからそのまま戻ってちょーだい」

簡潔に通話を終えるとポケットに電話をしまい、向き直った。

「お待たせしました。んじゃ私の番ですけど今の電話の内容説明しときます?」
「その必要はないんじゃないかな。要するに江迎ちゃんが最期に残した過負荷がこれ以上拡がらないようにしてきたんだろう? 不知火ちゃんが、直接」
「あひゃひゃ、余計なお世話でしたか。首輪やらデイパックやら、それに地面や外壁などを腐らせないようにしたのが仇になった感じみたいでしたね」
「僕に言わせればそもそもそうやって能力に制限をかけるってのがおかしいとは思うんだけど、ね」
「『大嘘憑き』でバンバン生き返らせられては破綻しちゃうじゃないですか。『完成』も然りですよ」
「それなら殺し合わせなければいい話じゃないのかい。これも少し視点を変えれば仮説が浮かび上がるんだけど」


「完全な人間は参加者四十五人の中にはいない――とかね」


「どうかな? 僕の想定は」
「……質問は私の番のはすですよ。…………その質問に対しては沈黙をもって判断してくださいな」
「質問したつもりじゃなかったんだけどねえ。ま、沈黙をもらえただけ僥倖ってことにしておこう」
「言ってくれるじゃないですか、久しぶりに会ってもそのふてぶてしさは相変わらずですねえ。じゃ、質問に戻らせてもらいますか。
 どうして『平等なだけの悪平等』のあなたがここではこんなに介入するんですか? 他の世界を『踏み台』と言ってのけた、あなたが」
「ここがイレギュラー中のイレギュラーってのもあるけど、別世界とはいえ友達が巻き込まれてるのにほっとけないだろう」

返ってきた質問の答えに、きょとんとした表情を浮かべ、不知火半袖はそれまでどのような質問を投げかけられたときよりも長く沈黙し、


「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! あなたが!? 友達!? 聞き間違いじゃないですよね!? 一体全体実際問題何があったらそんな風になるんですか!
 封印が解けてる時点でおかしいとは思ってましたけど、あなたそんなキャラじゃなかったでしょう! 別世界だからキャラも別だなんてオチが待ってませんよね!?
 黒神めだか? 球磨川禊? それとも人吉善吉? あるいは彼ら全員? 更にそれ以外の生徒会の面々も含めて? 誰があなたをそこまで変えたんですか?
 というか正直誰でも構いませんけど、安心院さん、あなたそんなことする人だったんですか!? いやー、これはびっくりですよほんとにもう!
 無駄足踏んで無駄骨折ったとか今まで思っててごめんなさいね! それを聞いただけで来た甲斐ありましたよ! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


目尻に涙を浮かべ、腹を抱えてこれでもかと身を捩った。

「……いやはや、まさかここまでおもしろい反応を示してくれるとはね」
「からかったわけじゃないでしょうに。あー笑いすぎてお腹痛い」
「補足しておくと君も友達の範囲に入ってるんだぜ、不知火ちゃん」
「これ以上笑わせないでくださいよ。もっと話を聞きたいところですが時間が押してるのが残念で仕方がないですね。
 どうせ後々空き時間ができるでしょうしまた来ますよ。安心院さんも子猫の相手しなければいけないんでしょう?」
「なあんだ、知ってたのか」
「これでもリアルタイムで情報を把握できる身分にいるものでして」

ぴょこんとソファーから飛び降り不知火半袖は入ってきたドアへと向かう。
そのまま出ていくと思われたが、ドアが閉まる直前に顔を覗かせた。

「あ、そうそう。最後に一ついいですか?」
「言ってごらん。答えられるものなら答えてあげるさ」
「どうして真っ直ぐ帰らないんです? あなたならできないわけがないでしょうに」
「なあに、ちょっとした気まぐれだよ。土産話になるかもと思ってね」


※腐敗の拡大は止まりました。が、腐敗そのものはそのままなので範囲内に入れば『感染』します。

373 ◆ARe2lZhvho:2014/06/03(火) 11:19:52 ID:nwLFk3pc0
投下終了です
主催と部外者(でも介入はしてる)しかいない話なのでツッコミどころ満載かもしれませんがいつも通り誤字脱字指摘感想等あればお願いします

JDCトリビュートと蹴語未把握でメタネタにぶっこめなかったのがなあ…

374名無しさん:2014/06/03(火) 19:44:10 ID:G23IC3/I0
投下乙です

375名無しさん:2014/06/04(水) 12:32:33 ID:Au3ANND6O
投下乙です!
とうとう夢の中だけじゃ飽きたらずモノホンが出てきちまったか・・・
まあ人外さんに関しては基本的に中立を保つ様子だし、どっち陣営にしても大きな脅威にはならない・・・はず
というかどちらか一方に味方しだしたらこのロワ終わる

376 ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:08:44 ID:vWjUZsFU0
投下します

377My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:10:03 ID:vWjUZsFU0
ただ、立ち尽くす。
その異様な光景に。
神がおわす情景に。
その場の四人は動けないでいた。
うち一人は病魔による激痛と能力による症状で気絶しており、うち一人は神様直々に磔にされていたためだが。
残る二人の男女は状況の不明さに手出しできないでいる。
傍観者の男女の名は球磨川禊と鑢七実、倒れ臥す男は鑢七花。
そして、神に磔にされているのが何の皮肉か名字に神を宿す女、黒神めだか。
以上が、この話の登場人物だ。
あくまで存命の者に限るが。


   ■   ■


「これは、どういう、ことですか」

ようやく口を動かし、か細い声を出したのは七実だった。
問いかけの形をとっていることからわかるように、独り言ではなく訊ねる相手がいる。

――こいつは神様だな――
「神様? しかし、彼女は蟹と」

答えたのは隣に立つ球磨川ではなく、交霊術を使う彼女にしか見えない、幽霊と呼んでもよいのかすらわからない怪しい存在――刀鍛冶・四季崎記紀。
四季崎からもたらされた情報にすぐさま彼女は疑問を呈す。

――蟹の神様だよ――おもし蟹――重いし蟹、重石蟹、それに、おもいし神とも呼ばれたりするが――要は人から重みを失わせるのさ――
「重みを失わせる……仮にそうだとしても、この状況は」
――怒りを買っちまっただけなんじゃねえのか?――神様相手にゃ十分狼藉働いただろ――

狼藉という言葉に七実は思い返して納得する。
叫び。
自らを掻き毟り。
地面に這い蹲り。
過負荷でもなければ人間相手でも無礼な行いだ。
それがましてや、神様だったらば。

――それっぽいところに手をかけて、それっぽく手を引けば引きはがせるだろうぜ?――なんせ蟹だからひっくり返してしまえば何もできないしな――
「勝手にやるわけにもいかないでしょう。それにわたしまで神の怒りを買いたくはありません」
――見えてないなら大丈夫だろうさ――第一、おまえには失いたい思いはないだろう?――
「思い? 重みではなく?」
――おっと、言葉足らずだったか――おもし蟹は思いと一緒に重みを奪う神なのさ――奪うという言い方もなんだがな――

しばし、七実は思考する。
目の前の状況。
四季崎の言葉。
蟹。
神様。
おもし蟹。
重みを失わせる。
失いたい思い。
思いと重み。
奪うという言い方もなんだが……?

378My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:10:45 ID:vWjUZsFU0
「つまり――重みと引き換えに、思いを失わせてくれる神、とでも」
――ご名答――下手な行き遭い方をしてしまうと、存在感が希薄になるらしいが――まあこいつはなくてもいい情報だな――
「重みを失えば体が軽くなるのは予想がつきます。それこそ、常に忍法足軽を使うかのように。しかし、思いを失うというのは」
――忘れるのとは違うな――思うのをやめる、悩むのをやめる、そんなところか――失ったことを後悔しない保証はないが――
「どうしてそのようなことを知っているのかはこの際置いておきましょう。今更な話ですし」
――くくっ――元々は占い師の家系なんでな――なんて言っても、説得力の足しにもならないだろうがよ――
「ですが、今までの話が本当だとして、神は……おもし蟹は、一体何を奪おうと」
――さあな――さすがにそこまではこのおれにもわからねえよ――例えるなら、そうだな――刀であるおまえらが刀であることを捨てる、とか――
「わたしたちが刀でなくなるような……それに匹敵するような思いを失いたいと願っているとしたら――」

仮定につぐ仮定。
信憑性の欠片もない情報。
鵜呑みにするには無理がありすぎる。
七実は再度めだかを見遣るが何度目を凝らしても蟹がいるとは思えない。
強いて言うなら、彼女の両脇に4つずつ深い罅割れがあることだろうか。
言われてみれば蟹の足跡に見えなくもない。
視線をめだかから外し、足元に落とす。
そこには、自身も突き刺した螺子の影響もあってか頭髪を黒と白のまだらに染めたまま倒れる弟がいる。
気絶していてなお表情は苦しそうだったし、肌も青白い。
七実はため息を一つ零し、





「くだらないですね」





一笑に付した。


「そのようなことで悩むくらいなら最初から持たなければいいというのに。或いは、もっと早い段階で捨てるべきだったのですよ。
 少なくともここで神に頼るなどという、ずるい真似をするよりかは」


そして、





「ああ、全くもってくだらないよ」





追随する者がいる。


「七実ちゃんが誰と話してたのか僕にはわからないし、どうしてそんなことを知っているのかもどうでもいい。
 断片的な内容からじゃ推測するのも難しいし、正解しているという保証もない」


だが、

379My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:11:38 ID:vWjUZsFU0


「それでも確実に言えることは、」


「めだかちゃんはこんなところでズルをするような人じゃない」


「そんなめだかちゃんなんて僕は認めない」


「そして最初から持たない方がいい、もっと早く捨てていれば、なんて甘えるめだかちゃんも認めない」


後半部分。
見解の相違が生まれ、


「だから七実ちゃん、手出しは一切しないで」


それに七実は、


「……委細承知」


球磨川禊にそこまで言われてのける黒神めだかに少しだけ、嫉妬した。


   ■   ■


七実は交霊術を「ただの記憶」と称したし、事実それ以上のものを見ることはできなかったが、めだかが「完成」させた交霊術は本領を遺憾なく発揮している。
ゆえに。

――あなたにはわからないでしょう――私にとって阿良々木くんがどれほど大切な存在だったか――

――よくも、よくも阿良々木くんを殺してくれたわね――

――阿良々木くんがされたように、心臓を貫いて殺してやるわ――

――許さない――許さない――許さない――許さない――許さない――許さない――許さない――

現在進行形で戦場ヶ原ひたぎの怨嗟の声はめだかを苛み続ける。
武器はおろか、肉体すら持たないひたぎは唯一残った言葉でもって暴力を振るう。
行動にできるできないは関係なく、ただ思いの丈をぶつける。ぶつけ続ける。
反論の余裕は与えることなく。
言い訳の理由を求めることなく。
反省の意思すらも拒絶するように、たたみかける。

380My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:12:54 ID:vWjUZsFU0
――おもし蟹さまに願うのかしら――この重みを取り除いて欲しいと――

――願えば楽になれるわよ――その罪の意識から逃れられるわよ――

――いっそのことあの神様モドキの言うとおりに墜ちてしまうのもいいんじゃないかしら――

――正しいままでいるというのはとっても大変なことだものね――

――私の知っている本物は一度化物になったこともあったけれど――最初から化物のあなたはそんな逃げ道すらあるのかどうか――

――そう考えると、ほら、千載一遇のチャンスよ――化物をやめられるチャンス――

一転して優しい口調になるも、それもめだかを苦しめるため。
かつて自身が行き遭い、重さを失ってから後悔しなかった日がなかったように。
めだかもその選択をしたことを後悔して後悔して後悔して地獄に堕ちてしまえばいい、と。
残されたものが言葉しかないのならその言葉を最大限活用する。
交霊術を用いてからやっと訪れた沈黙に回答を求められたと判断しためだかは恐る恐る口を動かす。

「化物を、やめろ、と……見知らぬ他人の、役に立つ、ために、生まれた、という、私、の信念を捨てろ……と、そう言う、のか、戦場ヶ原、ひたぎ、上級生」

――信念、ね――言ってくれるじゃない――阿良々木くんを殺しておいてどの口がほざくのかしら――

「わかって、いるさ……拭えない罪、だということも、許されない罪悪、であろうことも……だが、償うことは、できる……!」

ぞわっ、と一段と迫力が増した。

――償う?――誰に償うというの?――私にはもう何をしようと贖えないわよ――
――本来ならこうして話をすることだってできないというのに――
――それとも見知らぬ他人に償うというのならとっても滑稽ね――
――私以外に償うというのならそれは償いとは言わない、ただの自己満足――
――そもそもあなたのその信念も随分と破綻しているわよね――
――見知らぬ他人の役に立つ――上辺だけ聞けばそれはそれは立派でしょうけれど――見知った知人はどうなのかしら――
――自分のことを顧みず、周囲も蔑ろにして――それで遠い他人の役に立とうだなんて、おこがましいにも程があるわ――
――ああ、そういえば――阿久根高貴――彼、あなたのために私を殺そうとしてたわね――
――もしかして、初耳だった?――人吉くんがいなければ死んでいたところだったのよ――
――彼もあなたに心酔してたようだったけれど――今の今までそのことに気づかなかったようじゃ、その信念は――

ただの戯言と呼んでも差し支えない言葉の羅列。
だが、その中に混ぜられた阿久根高貴の凶行という情報。
これまで見続けてしまった、聞き続けてしまった膨大な怨念。
おもし蟹の存在。
それらがめだかの精神を疲弊させ、正常な判断力を奪い去り、



――その信念は無理で、無茶で、無駄だったとしか、言い様がないわ――



戦場ヶ原ひたぎは、とどめを刺す。


「無理で、無茶で、無駄だった、と――私のしてきたことは、そういうことだったと、いうのか……?」


――ええ、その通りね――
――そんなことはねーぞ、めだかちゃん――


そこに、割り込む声があった。

381My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:13:32 ID:vWjUZsFU0


   ■   ■


「善、吉……?」

知っている。
めだかは知っている。
声の主をめだかは知っている。
だが、知っていたところですぐに理解できるかどうかは別の問題で。

「はは……ついに、気が触れでもしたか……」

いよいよ幻覚を見てしまったのかと錯覚してしまう。

――カッ――第一声がそれってのはさすがにないと思うぜ?――

――人吉、くん……――

――おっと、今は黙っててもらおうか、戦場ヶ原さん――散々しゃべったんだ、少しは休憩してろよ――

――そう言われてはいそうですかと引き下がるとでも?――

――俺に一個、貸しがあるはずだよな――それに、俺の目の前でめだかちゃんをどうにかできると思ってるなら――大間違いだ――

――…………、わかったわ――今だけはおとなしくしておいてあげる――でも、あなたこそ黒神めだかをどうにかできるだなんて思わないことね――

しかし、戦場ヶ原ひたぎまで反応を示すとなれば話は変わる。
人吉善吉が目の前にいる、と認めざるを得ない。

「本当に、善吉、なのか……? なら、どうして……」

――恥ずかしい話だけど、実はずっといたんだよな――めだかちゃんが俺を連れてってくれたっていう言い方もあれだけどよ――

「まさか……腕章、か?」

――正解――だから今までめだかちゃんが何をやってたかってのも全部見てた――小学生の目の前で着替えるとこまでな――

「なっ……」

――ただ、『敵』と言われる心当たりなんてなかったし――様子がおかしいところもあったから――正直言うと、心配してた――

「そうか……安心しろ、と言ったのに、このざまでは、な……」

――できれば俺だってこのまま引っ込んでいたかったさ――めだかちゃんならこの状況でも何とかすると信じてたし――でも――

「文字通り、化けて出られて、しまわれては……立つ瀬も、ない」

――それはめだかちゃんが交霊術なんてのを使ってるからだろ?――使わなきゃ……ってのは野暮な話か――

「当然、だろう……義務、がある」

――やっぱりそう言うよな――それでこそめだかちゃんだ――だけど、それでも言わせてもらう――

おもし蟹の圧迫は未だに続き、いいかげん痺れを切らしてもいい頃だが、めだかが肯定も否定もしない以上おもし蟹はこの場から消え去ることはない。
それをわかっていて、善吉はめだかに告げる。

382My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:14:29 ID:vWjUZsFU0





――めだかちゃん、お前は間違っている――





めだかが過去に聞いた、善吉が未来で言った言葉を。


   ■   ■


少々時間を遡り。

「ねえ、禊さん。立ち話でもよろしいでしょうか」

二人は端的に言うなら暇だった。
手出しをするなというのは、つまり見ていることしかできないということであり。
言われた七実はもちろん、球磨川もその例に漏れず。
かといってこの場を離れるなどもってのほかで。
七実が話を切り出すのも不自然ではないことではあった。

『うん? 構わないよ』

球磨川も時間を持て余していたことは事実だったので七実の提案に応じる。

「めだかさんが言っていたことについて、どうお考えですか?」
『別に、いつものめだかちゃんって感じじゃないの? 正論しか言わない、そしてそれを当然のように他人に強要している、ね』
「正論ですか」
『正論だよ。「国境をなくせば戦争はなくなる」みたいなことを平気で言うような、そういう正論さ』
「だとしたら、彼女は無知なのでしょうね」
『どうしてそう考えるんだい?』
「『かつては素朴純朴、人間として真っ当な人生を歩んでいたんだろう』、めだかさんが言っていたことです。
 そして、それをわたしたち姉弟にも当てはまると信じて疑っていない」
『まあ、めだかちゃんはそういう子だからねえ』
「私も七花も、とても人間として真っ当な人生など歩いでいないのに、そもそも人生と呼べたかどうかすら不明瞭だというのに……」
『勝手な話だね』
「ええ、勝手な話です」
『でもなんで今になって話すんだい? それこそさっき言ってもよかっただろうに』
「一応、対象は七花だったでしょうし、あの場で話す必要性をあまり感じなかったので」
『ふうん』

まだ思うところはあるようだったが、七実は会話を打ち切った。
打ち切る理由が生じてしまっていては球磨川も続きを促すことはない。

「あら、いつの間に起きていたのね、七花」
「……ついさっきから、だよ」
「それで、調子はどうかしら」
「相変わらず、最悪だ。……姉ちゃんはずっとこんな風に生きて、生き損なってたんだな」
「その程度でわかった気にならないで欲しいものだけど」
「う……ごめん。えっと、それで、何がどうなってるんだ?」
『そこら辺の説明は話すと長くなっちゃうからなあ……ところで君はそんな格好で大丈夫なのかい?』
「それだが、おれの服がどこに行ったか知らないか?」

383My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:15:21 ID:vWjUZsFU0
話し声がきっかけなのかはわからないが、目覚めた七花に二人は話しかける。
気を失ってから、そもそも森で倒れてからの経緯も当然把握していないため七花も現状を認識しようと問いかける。
それを聞いた球磨川は頬をぽりぽりと掻くと気まずそうに口を開いた。

『あー……、そういえばなかったことにしちゃったんだっけ。仕方ない、ここは僕の』
「禊さん、それでしたら」
『うん?』
「わたしの荷物の中に服があったのでそちらでいいかと。少なくとも、えぷろんよりかは」
『ここに来て? なんだか作為的なものを感じるなあ』
「いつまでも裸でいられては困るでしょう」
『まあ、この場合はご都合よりモラルを取るべきだよね』
「二人とも、何の話を」
『こっちの話さ』

とにかく、偶然にも七実の支給品の中に服、もっと言えば袴、更に細かく言うなら七花が昔着ていたものがあったため着替えについては事なきを得た。
男の裸エプロンとか誰得だよ、全裸の男を描写するの心情的に辛いんじゃという誰かの心の声は無視していただきたい。
その最中、他の支給品のゲームに出てくるような剣と服の中に紛れていた白い鍵に興味が移ったことで、登場人物が増えたことを示唆する呟きを耳にした者はいなかった。


   ■   ■


ここに来る前に自身が聞いた言葉だ。
同じことを聞かされたところでショックを受けることはない。
ない、はずなのに。
どうしてこうも響くのか。
響くということは暗に認めているからなのだろうか。
自身は間違っていた、と。
見知らぬ他人の役に立つために生まれてきたのではない、と。
戦場ヶ原ひたぎという『結果』を見せつけられては否定などできるはずもない。

「やはり、貴様も、そういう言う、のか……」

――早とちりしないでくれよ――めだかちゃんは『見知らぬ他人の役に立つために生まれてきた』って――俺が昔言ったことだ――

「……」

――実際にめだかちゃんはそれをやってのけた――ずっと見てた俺が疑問を抱かない程に――

「…………」

――だけど、死んでから初めて考えたんだ――それは正しかったのかって――死んでから考えるってのもおかしな話だけどな――

「………………」

――で、思ったんだよ――俺はなんて重荷を背負わせてしまったんだろうって、さ――

「……………………」

――たった二歳のときの口約束にも満たない言葉をずっと実行し続けるなんて――異常すぎるにも程があるぜ――

「…………………………」

――だから間違ってたのは、そんな無理難題をやってのけためだかちゃんで――そんな無茶苦茶を押しつけた俺で――それを止めようとしなかった誰もだ――

「………………………………」

――でも、その行いの結果を俺が見てたように――めだかちゃんも見たはずだろ?――決して無駄なんかじゃなかったって――

否定しつつもかけてくれる優しい言葉。
だが、それを易々と受け入れられるかというと、そんなことはなく。

384My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:16:19 ID:vWjUZsFU0

「それ、でも、だ……現に、私、は失敗して、いる……」

――人間なんだ、失敗しない方がおかしいぜ――大事なのはどう対処するかじゃないのか?――いっそのこと無視したっていいんだ――

「し、しかし!」

――そういうことに、してしまえ――これは罪悪感から見た幻覚だったとかでいいんだよ――最初に否定しておいてあれだけど、気が触れた、でいいんだよ――

「そんなこと、できる、わけが……!」

――なら、幽霊に唆された、でもいい――その都度一々対応するなんて馬鹿のやることだ――一旦後回しにしたって誰も責めやしない――

「そんなに、言う、なら、唆される、ついでに、教えてくれよ……なあ、私は、なんのため、に、生まれて、きたのだ?」

――………………そんなの――俺が知るかよ――それでも言わせてもらうなら――自分で、考えろ――

「ふふ……野暮、なことを、聞いて、しまった、か……」

――ただ、これだけは保証する――例え周りが全員敵でも――俺はめだかちゃんの味方だ――

「敵になる、と言った、ばかりで、手の平を、返す、か……つくづく、貴様、というやつ、は……」

――そこのところがよくわかんねえんだけど――今は些細な問題か――

「そう、だな……些細な、問題だ」

――最後にアドバイスっつーか景気付けっつーか――戯言とでも思ってくれていいんだけどよ――めだかちゃんは敵が強い程燃えるタイプなんだから――

だったら、と一拍置いて。



――敵だらけのこの状況を解決する、という難問に取り組まないわけないよな?――



その挑発ともとれる問いについ、めだかは破顔してしまう。

「本当に、貴様、は……! そう言われて、否定など、できる、はず、ない、だろうが……!」

――やっと笑ってくれたな、めだかちゃん――じゃあ、まずは二つ――やることやんなきゃな――

「ああ……最後、どころか、死後まで、迷惑を、かけた」

――カッ――気にするなよ――それじゃ、待たせちまったな――戦場ヶ原さん――後は好きにしな――できるならの話だけどよ――

――まさかこんな茶番で私が納得するとでも思ってるわけじゃないでしょうに――

「もちろん、だ、が……少し、待って、くれないか? この、ままでは、話しにくい、から、な……」

視線を落とす。
本来なら地面が見えるだろうところに世界最大ではないかと思う程の蟹がいる。
何も言わず。
どこを見ているかも曖昧。
耳があるかどうかも疑わしい。
それでも有無を言わせない迫力を出している。
これが神か。
得心する。
大きく息を吸って、吐いた。

385My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:17:24 ID:vWjUZsFU0

「長々と待たせてすまなかった。悪いが、後回しでも抱えると決めた以上こいつは持っていかれるわけにはいかないのだ。
 神に対して失礼な物言いなのは十分承知しているが、お引取り願いたい」

その答えを待っていたかのように蟹は消えた。
還ったとも言うべきか。
前触れもなくいなくなったことで支えを失い一気にその場にくずおれた。
胸部を圧迫する存在が消えたことで一気に肺に空気が流れ込む。
久方ぶりの感覚にげほげほと咳き込んだ。
立ち上がらず、足を直す。
そのまま、額を地面につけた。


「ごめんなさい」

――どういうつもり?――

「身勝手な振る舞いなのはわかっている。だが、最初にするべきだったのだ」

――そうされたところで今更――

「自己満足だということもわかっている。しかし、悪いことをしたら謝るものだろう」

――だから、なんだというの――

「傲慢だったよ。何が更生させる、だ。過ちを自覚しておきながら、赤の他人には『すまないと思っている』と言っておきながら、当の本人には何も言ってなかった」

――わかっているの――

「洗脳されていたという言い訳が通用しないということもわかっている」

――わかっているの?――

「重々承知している。だから何度でも言おう」

――わかっているの……!?――

「阿良々木暦を殺したのは私だ、本当に、ごめんなさい……!」

――それが火に油を注ぐだけでしかないというのをわかっているの!!――

「球磨川じゃないんだ、死人に対しできることなど、こうして謝ることくらいだ。本来ならこうして声を聞くことだってできん。憤怒とはいえ反応があるだけましだ」

――無駄よ――何を言われたところで納得なんて――

「ああ、そうさ。納得などしないことなどわかっている。思えば先ほど言った償いというのも馬鹿馬鹿しい話だ。できることなど結局自己満足に終わるのに、な」

――そんなに言うなら自己満足を貫けばいいわ――私には決して届かない自己満足を――

「貫くさ。せいぜいできることなど不知火理事長を問い詰めて優勝者を出さないまま願いを叶えさせる、くらいだがな。その暁には阿良々木上級生にもきちんと謝ろう」

――それが実現できたとして阿良々木くんはともかく私は絶対に許さないわ――

「承知の上だ。交霊術を使わなくなったところで私に憑いて回るのだろう? 私の自己満足を最後まで見ていけばいいさ」

――なるほど、確かに人吉くんの言うとおり今のあなたには何を言っても意味がないようね――だったら憑かず離れず失敗するように祈って――いや、呪ってあげるわ――

「それで結構。その方が私もやりがいがある」

――忘れないことね――あなたが死ぬのをずっと待っていることを――今すぐにでも殺してやりたいことを――

386My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:18:02 ID:vWjUZsFU0

「それだけのことをしたからな……済まなかった。


 …………これでいいんだろう?」

――ああ、上出来だぜ――それじゃあ、また、いつかだな――

「うむ」

戦場ヶ原ひたぎの霊も人吉善吉の霊も消える。
見えなくなっただけで近くにいるのだろう。
頭を上げると球磨川たちが何かやっている。
どうやら鑢七花が目覚めていたらしい。
立ち上がりながら、もう一度言うべきことがあったと思い出す。


「ありがとう、善吉」


誰にも聞こえないような大きさで、でも、届いてると確信して、口に出した。


   ■   ■


蟹がいなくなったらしいということは三人も気づいていた。
直後土下座しためだかの様子を見てまだ事態は終わっていないと静観していたが、それも終わったらしい。

「やあ、めだかちゃん。調子はどうだい?」
「万全、とは言えないがな。善吉のおかげだ」
「善吉ちゃん?」
「憑いてきてもらってたんだよ。……私が不甲斐ないばかりにな」
「いつまでも未練たらしく、かい」
「それに私は何度も助けられたのだ、そう言うな」
「これからどうするのさ」
「端的に言うなら、そうだな……自己満足に付き合ってもらえるか?」
「人間を信じるついでに幽霊も信じるなんて馬鹿なことを言わないよね」
「幽霊とて元は人間だろう? ちょっと唆されただけさ。そういうのも、悪くない」
「……ははっ、本当にきみはおもしろい。だったらさ、今ここで、邪魔の入らない状況で、再開といこうよ」
「ここで断っても無駄なんだろう? いいだろう、まずは貴様からだ」
「−13組代表、球磨川禊」
「なんだ、名乗るのか?」
「関係ないとわかってても、なんとなくね」
「正直な感想を述べるなら私は生徒会長失格なのだけどな……まあよい、それでも今だけはこう名乗らせてもらうよ」

387My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:18:46 ID:vWjUZsFU0




















「箱庭学園第九十九代生徒会長黒神めだか「ああ、関係ないな」だッ……!?」




















ごぽっ。
そんな音と共に口から大量の鮮血が吐き出される。
ぶんっ。
胸に陥没させた左手を引き抜くついでに腕を振るったことでいとも簡単に体は転がっていった。
うまくいくかは賭けだった。
痛くない場所などないし、思い通りに動く保証などどこにもない。
病弱で軟弱な体で虚刀流を放って耐えられるかもわからない。
だが、思い返す。
姉は凍空一族の怪力を見取っていて、それが体に弊害があったようなことは言っていなかった。
そもそも虚刀流の技だって使う分には全く問題はなかったはずだ。
そうと決まれば後は簡単だった。
球磨川禊も鑢七実も黒神めだかに対する闘争心は十全にある。
気持ちの問題は何もしなくても勝手に解決していた。
虚を突いて、一気に近づき、最速の奥義を、鏡花水月を繰り出す。
途中に鉄扇が落ちていたから防がれることもないのも確認済みだ。
そして、結果、うまくいった。
反動で全身が痛むが、関係ない。
相手が姉ちゃんであろうとも、関係ない。
おれは言う。

388My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:19:23 ID:vWjUZsFU0





「腐ろうが、錆びようが、朽ちようが、そのまま果てようが、関係ない」



「おれはおれらしくやるだけだ」



「だから悪いとは――思わない」





刀は斬る相手を選ばない。
例え相手が刀であろうとも。
例え相手が家族であろうとも。


【一日目/真夜中/D-5】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックスがあるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
基本:? ? ?
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています

389My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:20:02 ID:vWjUZsFU0
【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、ランダム支給品(1〜3)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える?
 0:? ? ?
 1:七花以外は、殺しておく?
 2:球磨川禊の刀として生きる。
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします



【鑢七花@刀語】
[状態]『却本作り』による封印×3(球磨川×2・七実)、病魔による激痛、『感染』?、覚悟完了?
[装備]袴@刀語
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える?
 0:二人を斬る
 1:放浪する?
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る?
 3:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない?
 4:変体刀(特に日和号)は壊したい?
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※着物は『大嘘憑き』で『なかったこと』になりました
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※『却本作り』の影響をどれくらい受けるかは後続の書き手にお任せします

390My Generation ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:20:33 ID:vWjUZsFU0





愉快ユカイと見えないダレカは笑う。










――ほら、言ったとおりになった――










【黒神めだか@めだかボックス 死亡】





※D-5に黒神めだかのデイパックが放置されています。内容は以下の通りです。
 支給品一式、『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
※D-5に否定姫の鉄扇@刀語が放置されています。
----
支給品紹介

【袴@刀語】
鑢七実に支給。
鑢七花が刀集めの旅の途中で穿いていたもの。
七花いわく、「動きやすいし、戦いやすい」

【勇者の剣@めだかボックス】
鑢七実に支給。
安心院なじみがスキル見囮刀(ソードルックス)で精製したもの。
蛮勇の刀同様、使い手を選ぶため球磨川禊がかつて持ったときは手を滑らせて自分の胸を刺したことも。

【白い鍵@不明】
鑢七実に支給。
小さい真っ白な鍵。
鍵には鍵穴がつきものだが…?

391 ◆ARe2lZhvho:2014/07/08(火) 19:23:25 ID:vWjUZsFU0
投下終了です
どうしても一ヶ所ご都合に頼らざるを得ない部分があったのですがそこだけはご容赦ください
視界に入っているので大嘘憑きで蘇生もできなくはないですがそこも空気を読んで欲しいなーって…
それ以外で指摘等あればお願いします

392名無しさん:2014/07/08(火) 23:37:39 ID:pMyNV9E.0
投下乙です

ちょ、おまああああっ!?
もしかしたら、めだかちゃんはズルをして…行ってもおかしくなかったがそこに来て善吉キター
クマーも本当にめだかちゃん想いだなあ。嫉妬するお姉さんが可愛いと思ったw
そしてめだかちゃんは…でも最後に…
うわあ、クマーの???が怖い

393名無しさん:2014/07/15(火) 01:01:55 ID:F0m5OQQU0
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
149話(+2) 15/45 (-1) 33.3(-2.3)

394名無しさん:2014/07/20(日) 02:07:00 ID:xLyoQkNI0
投下乙です

めだかちゃん・・・一撃必殺にやられたか・・・

395名無しさん:2014/07/30(水) 10:59:28 ID:m06tZOrE0
久々に来たらめだかちゃんが…
続きが気になる

396名無しさん:2014/08/01(金) 01:57:01 ID:UPksUqLk0
投下乙です。
衝撃の展開ばかりが注目されてるんだけど、これめだかちゃんとガハラさんの決着(?)もすごいわ
どっちかが下手に折れたらキャラ崩壊になりかねないところを、ギリギリのラインで互いを殺さずに結論を出している

397名無しさん:2014/08/06(水) 02:53:20 ID:8JhHwSUY0
おー、こうなったか
投下乙です
まさかここで最後に七花がもっていくとは
そこまで思いっきりめだかちゃんやっといて、これは憎い流れだった!

398 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:52:10 ID:DxJa6RA20
わぁい、供犠創貴、真庭蝙蝠、宗像形、零崎人識投下します

399変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:53:24 ID:DxJa6RA20



まず牽制に一発撃つ。
動いたように見えただけで、気付けば避けられた。
戦闘力も中々悪くない。
そう判断を下す中、何時の間にか手にしていた刀で突きを放ってくる。
避けられない。
分かっていたような調子で蝙蝠が絶刀で防いだ。
横振りをし、互いに距離を置く。
拳銃を構えるがこっちもしっかり目を向けてきている。
まだ冷静だ。
どう乱して隙を突くか。
考えていると、宗像の手が動いたのが見えた。
見えただけだ。
気付いてみれば刀を投げていたらしい。
音を立てて傍へ飛ぶ。
やはり蝙蝠に守られている。

「へぇ」

などと思わず感嘆の声を漏らす。
ぼくが、じゃない。
宗像が、だ。

「守るとは意外だ。だから殺す」

更に手が動いた。
絶刀が煌めき、二本の刀が左右に飛ぶ。
拳銃を構えるが隙があるとは思えない。
舌打ちしていると、僅かに前に出ている蝙蝠の言葉が聞こえた。

「三回だ」
「……三回?」
「おお、三回。あと三回だけ守ってやるからそれまでに逃げな。きゃはきゃは」
「邪魔か」
「邪魔だ」

もう一度舌打ちする。
とは言え動きの一つもまともに見取れてない現状だ。
邪魔なのは事実だろう。
一本の刀を払い落とし、蝙蝠が笑う。
「おれはどちらでも構わない」とでも言うように。
しかし。
しかし蝙蝠に任せる。
それだけが果てしなく心配だ。
どうにも妙な所がある。
裏切る可能性がある。
いや、裏切る可能性がないのはりすか位でそれ以外だったら誰にでもあるが。
だが。
そう思っている間に宗像と蝙蝠がぼくの前で鍔競り合っていた。
二回目。
考えてる時間もない。

400変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:54:37 ID:DxJa6RA20
「任せる」
「きゃはきゃは!」
「逃げるのかい? 良いよ、逃げても――――だから殺す」

走る。
りすか達のいる部屋に向かって。
宗像の言葉が聞こえ、金属音がした。
蝙蝠の気味の悪い声もする。
一発。
階段が近付いた所で振り返る。
それをまるで狙い澄ましていたかのような、実際狙い澄ましていたんだろう、宗像と、目が、合った。
咄嗟に拳銃を向けようとする。
それより向こうの動きが早いと知っていても。
手を持ち上げている途中、何もなかったはずの宗像の手に刀が握られていた。
やけに。
ゆっくりと時間が過ぎるように感じる。
りすかの魔法の影響か。
末期の集中で生じる思考か。
そんな考えが頭を過ぎる。
中。
その中で、最後に聞こえたのは、

「抱腹絶刀!」

蝙蝠の声だった。



刀が乱れ飛ぶ。
ある刀は窓を突き破り。
ある刀は壁に突き刺さり。
ある刀は本棚を崩壊させる。
宗像形の取った戦法は単純だった。
数打てば当たる。
否。
数投げれば当たる。
既に投擲した刀の数は四百と二十一本。
ネットカフェの内部至る所、刀が突き刺さっている状態だった。
それと同じだけの数の刀の鞘も転がっているような状況だった。
しかしなおも投げる。
苦汁を嘗めるように。
休まずに投げ続ける。
何故か。
簡単だ。
当たらないからだ。

401変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:56:01 ID:DxJa6RA20
「きゃはきゃはきゃはきゃはきゃは!」

決して広くなく、むしろ物が雑多に置かれている分だけ狭く感じる。
そんなネットカフェを、真庭蝙蝠は飛び回る。
蝙蝠が取ったのは逃げの戦法。
本棚の上を駆け。
テーブルを蹴り。
天井を跳ね回り。
そして隙を突く。

「しゃっ!」
「っ!」

突き。
ただの突きではない。
絶刀・鉋。
頑丈さに焦点を置かれた刀。
更に蝙蝠の、変態した殺人バット振りの愚神礼賛零崎軋識の、身体能力が合わさり受けに使われた刀を容易く砕く。
だが、駄目。
受けられた衝撃で蝙蝠の手元が止まった瞬間、既に宗像の手には別の刀。
別にして同一。
千刀・ツルギ。
全く同一の使い捨ての刀。
首へと振るわれそして宙を斬った。
既に蝙蝠の姿はテーブルの上にある。
再び、刀が投げられるに到った。

「きゃはきゃはきゃは」

完成形変態刀二本。
絶刀。
千刀。
一本で国一つと言われるだけ有りその戦いは地味であり、凄まじい。
もしこの現場に供犠創貴がいれば。
既に串刺しになってそこらの壁にでも磔られていただろう。
幸か不幸か。
逃げた最後の瞬間。
刀を投げ付けようとした刹那。
注意が逸れたその時。
蝙蝠がその隙を逃すまいと突きを放っていなければ。
宗像が蝙蝠の突きを防がなければ。
創貴は、磔になっていただろうが。
とにもかくにも戦いは続く。
延々と刀が投げ続けられ。
延々と鞘を投じては出し。
延々と様々な場所を駆け。
隙を見ては、突きを放ち。
見付けられては刀で防ぐ。
延々と。
延々と。
続くかに見えた。

402変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:56:47 ID:DxJa6RA20
「!」

異変は、宗像から起きた。
刀を取り出しはした。
しかし、別の刀。
薄刀・針。
薄過ぎる芸術品と言って差し支えのない刀。
その刀身を光が透ける。
笑ったのは蝙蝠だった。
簡単な話。
待っていたのだ。

「きゃはきゃは! やっとかよ!」

本棚は最早壊れた物しかないからか、蝙蝠が床を蹴る。
振るわれる絶刀を宗像は下がって避ける。
受けれないから、避けるしかない。
待っていたのだ。
蝙蝠は。
なるほど宗像の所有する暗器の技は驚くべき物だ。
何処からともなく刀が現れる。
しかし。
それは。
何もない所から現れる訳ではない。
あくまでもある物を出せる。
それだけなのだ。
故に。
千刀を使い切る瞬間を。
投げ終えるその時を。
蝙蝠は待っていた。
粘り強く。
辛抱強く。

「きゃはきゃはきゃはきゃはきゃは!」
「くそっ!」

殺しの技術。
殺さない技術。
宗像の有するそれは卓越した物である。
しかし果たしてそれは。
生粋の殺人鬼の体と生粋の殺人忍の経験。
その二つを併せ持つ相手に勝る物なのか。
それは、宗像が圧されていると言う状況が全てを物語っていた。

403変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:57:32 ID:DxJa6RA20
「おいおいどーしたっちゃ? だから殺すんじゃなかったっちゃぁあ?!」
「言われなくとも分かってる。だから、殺す!」

刺さっていた千刀を持って押し返す。
しかし一瞬。
数回打ち合えば強度の差が出る。
それだけではない。
と言うよりむしろこっちが大本命だ。
片手と両手。
生じる威力も自ずから出る。
その差はどう足掻いても埋め難い。
つまり簡単に言えば、宗像は全てに置いて蝙蝠に負けている。
それでもまだ負けていないのは、執念からだろう。
悪を裁く。
一念によって。
だが所詮、思いによって覆せる差などそう有りはしない。
千刀が折れる。
柄から手を離して次を取ろうと空を掻く中、

「抱腹、絶刀っ!」

宗像の肩に、刀が、突き刺さった。



貫かれたのは、左肩だった。
幸運にも。
いや、咄嗟に避けようとした結果、左肩に刺さった。
刺さった向き。
刃は体の外側に向けてだ。
良かった。
そう息を吐く。
蝙蝠の顔、今は軋識の顔だけど、が歪むのが間近に見える。
末期の息とでも勘違いしたんだろうか。
勘違いしてくれて良かった。
だから殺す。
刀一本もなく、身軽な体を横へとずらす。
ゴリッ。
とでも形容するような音が体を伝ってくる。
この先、最早左肩はまともに動かす事は出来ないだろう。
なんて考えながら、さっき取り損ねた刀を取った。
幸い蝙蝠は近い。

404変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:58:01 ID:DxJa6RA20
「んな、ぁ――」

僕の行動が予想外だったようだ。
単に、刀を取るために体をずらして、その所為で左肩が抉られただけなのに。
だから、

「殺す」

横に薙ぐ。
後ろに飛び退く事で避けられた。
でも幸いな事に、絶刀を落としていった。
それを、蝙蝠に向けて蹴り放つ。
宙を回転しながら飛んでいく刀。
蝙蝠なら平然と取れるのだろう。

「だけど」

殺す。
取ろうと手を伸ばし掛けた瞬間。
逃さず近付いて、今度はこっちが突きを放つ。
身を捩って避けられる。
でも絶刀がその胸元を裂いていった。

「ぐお」

怯んだ。
だったら殺す。
斬り殺す。
刀を振る。
跳んで避ける。
返す刀を投げて追撃。
それは蝙蝠が両手に挟んで止めた。
流石だ。
でも問題なく殺す。
次の刀は既に取ってある。
胴を斬り裂くつもりで振る。
でもそれは服を斬るに留まった。

「ちぃっ」

舌打ちした蝙蝠が、持っていた刀を振ってくる。
だけど数合。
打ち合っただけで折れた。
絶刀を一回二回受けていたのかもしれない。
だから殺す。
透かさず振り上げる。
とは言え流石に速い。
逃げに入っているその姿を認め、振り下ろしてた刀を離す。
生憎、頭の近くを掠めていっただけだった。
ついでに言えばとっくに割れていた窓から外に出て行った。
でも問題ない。
駆け寄り際に次の刀を取る。
偶然にも蝙蝠の近くに刀はない。
ただ逃げる。
その後を追う。
けども、壊れた本棚の一部を蹴り飛ばされやむなく足を止めた。
追おうにも、少し離れた所で既に立ち止まっている。
手には絶刀を握って。
ああ、やたら後ろに下がっていくと思ったらそう言う事か。

405変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:58:38 ID:DxJa6RA20
「……きゃはきゃは、なるほどなるほどちゃ。むやみやたらと投げてたのは、この準備を整えるためだった訳かっちゃ?」
「さぁ? でも名付けるならこの状況――」

見回しながらおどけてみせる。
あえて余裕を装う。
正直、左肩の痛さでまともに考える事もままならない。
ただの偶然だ。
到る場所に刺さった刀が、あたかも僕に味方するようにある。
ただの偶然。
投げようと。
折れようと。
砕けようと。
関係ない。
地形が。
千刀が。
味方している。

「――千刀巡り、とでも言うのかな。だから殺す」



消耗品としての刀。
そうは知ってても折るのにどうしても手心加えちまう。
何せ四季崎の作った完成形変態刀十二本が一つ。
千刀・ツルギ。
千本で国一つ買える刀な訳だ。
困った。
特に困るのは宗像だ。
まさか肩にぶっ刺しても平然と戦い続けるとは。
だが。
と、そのぶっ刺した肩を睨む。
血止めもせずに戦えばそりゃ血が出る。
出続ける。
何れは出血で死ぬだろう。
だからそれを待てば良い。

「きゃはっ!」

なんて甘い事考えるかよ。
ぶっ刺したい。
斬り殺したい。
絶刀・鉋で殺したい。
何度も何度も切って斬り付けて斬り裂いて斬り開いて斬り解いて殺して殺して殺して殺して殺して。
殺してやりたい。
だってのに。

406変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:59:13 ID:DxJa6RA20
「抱腹絶刀!」
「――だから? 殺す」

まるで。
まるで千刀が味方してるようじゃねえか。
いや実際問題偶然だ。
偶然折れてもすぐ近くに千刀の一本がある。
投げてもその傍に千刀が刺さったままある。
偶然だ。
偶然に過ぎないはずだ。
だってのにまるで。
そう、まるで千刀の持ち主みたいに。

「余裕で振る舞ってんじゃねえぜ! きゃは!」
「っく、う」

全力の横振りを叩き込む。
当然片手で受けれる訳がない。
刀は折れ、吹っ飛んでいった。
一気に距離を詰め絶刀を振り下ろす。
だが外れた。
逸らされた。
千刀で、だ。
偶然近くに刺さってた。
本格的に嫌な感じがしてきた。
条件で言えば全部が全部、俺の方が勝ってるはずだろ。
動き回って攻めてるのは俺の方だ。
だってのに何で、

「きゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃはきゃは」

こんなに、追い詰められてる気分になってんだ。
殺したい。
殺したい。
殺したい。
だからよ。
刀風情が。
邪魔するんじゃねえ。

「いい加減に」
「っぐ」
「死ねぇ!」

砕ける。
持ち変える。
堂々巡りが続く。
なんだってんだ。
なんだってんだ。
なんだってんだ。

407変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/04(木) 23:59:53 ID:DxJa6RA20
「っ?!」

袈裟切り。
避けるために下がった。
その脚が、何かを踏んだ。
少しだけ滑る。
そう。
致命的な少し。
振り上げられる千刀。
防ごうにも、絶刀の重量じゃ間に合わない。
分かった。
確信できた。
離せば逃げれる。
そう確かに思った。
だってのに、手を離せられない。

「あ」

なるほど。
こりゃ毒だ。
思い当たってみればどっかから可笑しかった。
絶刀で斬り殺したいと思う辺り可笑しかった。
卑怯。
卑劣。
それが売りなのに真っ向から斬りあってんだ。
全く笑えない。

「だから……裁く!」
「が、ぁああ!?!」

斜めに切り裂かれる。
着いた片足で後ろに跳んでなければ死んでいた。
幸いにして致命傷とまではいかないだろう。
だが、今、受けたのは拙過ぎる。
絶刀が手から落ちた。
いやそれはむしろ良い事かも知れない。
だが状況が一気に最悪にまで落ち込んだ。
体勢を立て直そうとするよりも、痛みでか足が滑って転ぶ方が早い。
それでも。
這うようにしてでも距離を置く。
置きながら確認する。
踏んだのは、千刀の折れた刀身。
つくづく敵らしい。
危機と相まって、手心を加える理由もいよいよなくなってきた。
この状況を脱せられれば、だが。

「………………」

冷めた目が俺を見る。
正義、ねえ。
正義のために殺す、ねえ。

408変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:01:08 ID:2PP8tqhg0
「きゃは、きゃは」

下らねえ。
喰鮫にでも聞かせてやりたい。
きっとあいつはこう言うだろう。
「そんな理由を作って殺すぐらいなら、そもそも殺さなければいい」と。
「殺すのならば一々、理由付けするのは下らないし、馬鹿馬鹿しい」と。
「楽しいですね楽しいですね楽しいですね……人殺し、楽しいですね」と。
笑って殺すだろう。
理由もなくたって殺す。
なんであいつが死んだんだか。
なんて。
軽い現実逃避をしてる間にも宗像の奴が近付いてくる。
余裕を持って。
警戒からか。
油断からか。
どちらにしろ、時間が足りない。
現状一番良いのは都城王土の体だ。
全てが最上位にくる体。
だが、そうなるために骨肉細工をする時間はない。
しかしまあ刀を振り下ろされれば、腕だろうが足だろうが今の筋力じゃ止めるには足りないだろう。
今の、軋識の体じゃ。
今しか機会がない。
試して、みるか。
そうして。
目を閉じた。
こいつが起きる前。
供犠創貴との会話を思い返す。

409変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:01:45 ID:2PP8tqhg0



「なあ蝙蝠」
「なんだ?」
「お前の魔法だが」
「忍法だ」
「どっちでも良い。とにかくそれは、全身しか変える事が出来ないのか?」
「どう言う意味だよ?」
「簡単な話だ。部分部分を別の人間のパーツに組み替える事が出来ないのかって言ってるんだ」
「パーツ?」
「……腕だけ別の人間の物にするとか、そんな感じだよ。あるいは、完全に別の形にするとか。このマンガみたいにさ」
「封神演義? きゃはきゃは、別の人間の体をねえ?」
「どうだ?」
「そりゃ出来ないな」
「……」
「きゃはきゃはきゃは。
 人間ってのは何だかんだ言って全部が全部合わさって統制が取れてんだよ。
 足、腰、腹、腕、首、頭、その全部で。
 声聞きゃあ分かるだろ?
 人それぞれってのが。
 重心の取り方だけでもそれぞれ違うんだ。
 それなのに一部だけ別の人間の物にするってのはつまり、その統制が崩れるってこった。
 例えばお前の足だけ別の人間の足だったらどうする?
 長さが違う。
 重さが違う。
 筋量が違う。
 それで十分な動きが出来る訳がねえ。
 あくまでその封神演義ってのに出てる奴が絵に過ぎないからってだけで、どうやったって」
「蝙蝠」
「ちっ……なんだ」
「つまり、「可能」って事だよな」
「………………」
「まあ聞けよ。
 今の話を聞く限りじゃあどうやってもその結論に行き着く。
 お前が言ってるのはあくまで出来ない事にするためのお理由付けだ。
 長さが違う?
 重さが違う?
 筋量が違う?
 それがどうした?
 それが出来ない理由になるのか?
 ならないよな。
 単にお前が、お前自身に限界を付けてるだけなんだから。
 骨肉細工。
 聞けば聞くほどよく出来てる。
 やろうと思えばお前自身の想像で、最強の肉体を作り上げる事だって出来るじゃないか」
「それは」
「出来ないのか? 本当に、出来ないのか?」
「精進が足りないんだよ」
「お前は今まで化けた人間の数を覚えてるのか?」
「…………」
「なあ蝙蝠」

410変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:02:24 ID:2PP8tqhg0



「一歩、踏み出せ」



真剣白刃取り。
情け容赦なく振り下ろされた刀を、蝙蝠は足で止めた。
足。
そこだけが、今までと異なった物に変わっていた。
宗像の表情が変わる。
余裕が、驚きに。
足で圧し折られた刀を見て、愕然に。
動きが止まったのはどれだけか。
十秒か。
三十秒か。
一分か。
とにかく、蝙蝠の腕が、抜き手が放たれるまで硬直が続いた。
飛び退いた宗像の、心臓があったであろう場所で蝙蝠の右手が握り締められ、解かれる。
当然のようにすぐ脇にあった刀を抜く宗像。
その視線の先で、両足で立つ蝙蝠の姿は、酷くチグハグだった。

「……きゃは」

両足が可笑しい。
右腕が左腕と違う。
別に人間の体を付けたように、奇妙な外見。
その蝙蝠が、自分の喉を左手で触れ、動かした。

「きゃはきゃ」「はきゃは」「きゃは」「きゃ」「は」「きゃは」「きゃはきゃは」「きゃ」「はきゃは」「きゃはき」「ゃはきゃ」「は」「きゃは」「きゃは!」

笑う声。
次々と声が変わっていく。
不気味さからか、宗像が一歩後ろに下がった。
そこで、笑い声は止まった。
声だけ止めて、蝙蝠が笑う。
口が裂けんばかりに。

「名付けるのが、忍法・骨肉小細工なの…………なんてな!」

子供の、小さな少女のような声で、言った。

411変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:03:14 ID:2PP8tqhg0

「部分だけ別の人間に変える。なるほど、やってみりゃ案外なんて事ねえし想ってたほど難しくねえが……出せる力は八割が良い所か?」
「…………」
「笑えよ、宗像。お前のお陰だぜ、こうなれたのは?」
「……その腕に、見覚えがある」
「そうかい。もう少ししたら教えてやるよ」
「必要ない。だから」
「冥土の土産によ!」
「裁いて、殺す!」

同時に、二人が間合いを詰める。
上段に振り上げられた刀が。
構えて繰り出される右腕が。
同時に、

「これは兄貴の言葉なんだが」

止まった。
その動きが止まった。
今まさに振り下ろされようとする刀が。
今まさに貫こうと構えられていた腕が。
おおよそ一メートルほどの距離を置いて、不自然に止まった。
その、二人の間に一人、居た。
唐突に、居た。
最初からその場に居たかのように極自然に。
にやにやと笑って。

「人間の死には『悪』って概念が付き纏うんだとよ」
「な、なななな」
「が、がががが」
「お? 何が言いたいかって? そうだな。派手に暴れ回ってた所為で、外にまで刀吹っ飛ばしてた所為で、出所探して歩き回ってた俺の耳にド派手な騒音が入った所為で、いやそもそも偶然俺がこっちの方に用があった所為で、俺が来ちまったって訳だ。えーっと宗像とか言ったっけ? あと、蝙蝠。まあ要するにだ」

どちらを向くでもなく、ゆっくりと刀を抜き、言い放つ。
奇しくも。
完成形変態刀十二本の内の二本。
千刀。
絶刀。
更に。
一本。
斬刀。
十二本の内の一本を持つその青年は、一言。

「二人ともこれ以上なく、運が『悪』かった――――ってこった」

と。
笑って言った。

412変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:05:23 ID:2PP8tqhg0





【1日目/夜中/D-6 ネットカフェ】

【供犠創貴@新本格魔法少女りすか】
[状態]健康、りすか達と合流済み
[装備]グロック@現実
[道具]支給品一式×3(名簿のみ2枚)、銃弾の予備多少、耳栓、書き掛けの紙×1枚、「診療所で見つけた物(0〜X)」、心渡@物語シリーズ、シャベル@現実、
   アンモニア一瓶@現実、携帯電話@現実、スーパーボール@めだかボックス、カスタネット@人間シリーズ、リコーダー@戯言シリーズ
[思考]
基本:みんなを幸せに。それを邪魔するなら容赦はしない
 0:宗像形を倒す。一先ず蝙蝠に任せておく
 1:ランドセルランドで黒神めだか、羽川翼と合流する、べきか……?
 2:行橋未造を探す
 3:このゲームを壊せるような情報を探す
 4:蝙蝠の目的をどう利用して駒として使おうか
 5:掲示板の情報にどう対処すべきか
[備考]
 ※九州ツアー中、地球木霙撃破後、水倉鍵と会う前からの参戦です
 ※蝙蝠と同盟を組んでいます
 ※診療所でなにか拾ったのかは後続の書き手様方にお任せします(少なくとも包帯や傷薬の類は全て持ち出しました)
 ※主催者の中に水倉神檎、もしくはそれに準ずる力の持ち主がいるかもしれないという可能性を考えています
 ※王刀の効果について半信半疑です
 ※黒神めだかと詳しく情報交換しましたが蝙蝠や魔法については全て話していません
 ※掲示板のレスは一通り読みましたが映像についてはりすかのものしか確認していません
 ※心渡がりすかに対し効果があるかどうかは後続の書き手にお任せします
 ※携帯電話に戦場ヶ原ひたぎの番号が入っていますが、相手を羽川翼だと思っています
 ※黒神めだかが掲示板を未だに見ていない可能性に気づいていません

413変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:08:43 ID:2PP8tqhg0


【1日目/夜中/D-6 ネットカフェ】

【宗像形@めだかボックス】
[状態]身体的疲労(大) 、精神的疲労(中)、殺人衝動喪失?、左腕(肘から先)欠損、腹部に切り傷、各部に打撲と擦過傷(怪我はすべて処置済み)、左肩欠損(処置せず)、出血(大)、曲絃糸による拘束
[装備]千刀・ツルギ×1@刀語、スマートフォン@現実、ゴム紐@人間シリーズ
[道具]支給品一式×3(水一本消費)、薄刀・針@刀語、トランシーバー@現実、「包帯@現実、消毒用アルコール@現実(どちらも半分ほど消費済み)」(「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:阿良々木火憐と共にあるため『正義そのもの』になる。
 0:『悪』を殺す。
 1:供犠創貴と真庭蝙蝠を殺す。
 2:伊織さんと様刻くんを殺す。
 3:『いーちゃん』を見つけて、判断する。
 4:黒神さんを殺す?
 5:殺し合いに関する裏の情報が欲しい。
 6:何が起きた?
[備考]
※生徒会視察以降から
※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを玖渚から聞いた限りで理解しました
※阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
※無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※携帯電話のアドレス帳には櫃内様刻、玖渚友が登録されています
※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。誰が誰にどうやって殺されたのかは把握しています
※千刀に持ち主と認められた可能性があります
※左肩の出血を止めなければ出血多量で死ぬ可能性があります

【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]身体的疲労(小)、零崎軋識(両足と右腕は都城王土、喉は水倉りすか)に変身中、曲絃糸による拘束
[装備]軋識の服全て
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残る
 0:宗像形を殺す
 1:創貴とりすかと行動、ランドセルランドへ向かう
 3:強者がいれば観察しておく
 4:完成形変体刀の他十一作を探す
 5:行橋未造も探す
 6:危なくならない限りは供犠の目的を手伝っておくがそろそろ裏切ってもいい頃かもしれない
 7:黒神めだかに興味
 8:鳳凰さまが記録辿りを……? まさか川獺が……?
 9:げえ零崎人識!
[備考]
 ※創貴と同盟を組んでいます
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、元の姿です
 ※都城王土の『異常』を使えるかは後の書き手の方にお任せします
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実の危険性について知りましたが、嘘の可能性も考えています
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません
 ※体の一部だけ別の人間の物に作り替える『忍法・骨肉小細工』を習得しました

414変態、変態、また変態 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:09:18 ID:2PP8tqhg0

【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康
[装備]斬刀・鈍@刀語 、医療用の糸@現実、携帯電話その1@現実
[道具]支給品一式×8(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
   千刀・ツルギ×2@刀語、 手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
   大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
   携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:蝙蝠と宗像捕まえたし、こいつらで斬刀調べてみるか?
 1:水倉りすか、供犠創貴を捕まえるか殺す。この辺りにはいるんだろうし。
 2:伊織ちゃんと連絡を取る。合流するかどうかは後から決める。
 3:零崎を始める。とりあえず戯言遣いと合流するまでは。
 4:哀川潤が生きてたら全力で謝る。そんで逃げる。
 5:黒神めだか? 会ったら過剰防衛したとでも言っときゃいいだろ。
[備考]
 ※曲絃糸の射程距離は2mです
 ※曲絃糸に殺傷能力はありません。拘束できる程度です
 ※りすかが曲識を殺したと考えています
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話その1の電話帳には携帯電話その2、戯言遣い、ツナギ、無桐伊織が登録されています
 ※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています。
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします

※蝙蝠達と創貴達のいる場所はネットカフェ内の別の場所です
※千刀・ツルギは折れた物含め500本近くと絶刀・鉋がネットカフェ中に突き刺さっています。また、一部の千刀は外にあります

415 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 00:14:40 ID:2PP8tqhg0

以上です。
ちょっと二人ばかり強化し過ぎたかも知れません。
久し振りに書いたので妙な部分が多いやも。
何時も通りになりますが、感想や妙な所などございましたらよろしくお願いします。

あとトリはこれで続行する予定です。

416 ◆mtws1YvfHQ:2014/09/05(金) 22:15:40 ID:2PP8tqhg0

>>402 を修正します


異変は、宗像から起きた。
刀を取り出しはした。
しかし、別の刀。
薄刀・針。
薄過ぎる芸術品と言って差し支えのない刀。
その刀身を光が透ける。
笑ったのは蝙蝠だった。
簡単な話。
待っていたのだ。

「きゃはきゃは! やっとかよ!」

本棚は最早壊れた物しかないからか、蝙蝠が床を蹴る。
振るわれる絶刀を宗像は下がって避ける。
受けれないから、避けるしかない。
待っていたのだ。
蝙蝠は。
なるほど宗像の所有する暗器の技は驚くべき物だ。
何処からともなく刀が現れる。
しかし。
それは。
何もない所から現れる訳ではない。
あくまでもある物を出せる。
それだけなのだ。
故に。
千刀を使い切る瞬間を。
投げ終えるその時を。
蝙蝠は待っていた。
粘り強く。
辛抱強く。

「きゃはきゃはきゃはきゃはきゃは!」
「くそっ!」

宗像が薄刀を引っ込め、刺さった千刀に手を伸ばした。
殺しの技術。
殺さない技術。
宗像の有するそれは卓越した物である。
しかし果たしてそれは。
生粋の殺人鬼の体と生粋の殺人忍の経験。
その二つを併せ持つ相手に勝る物なのか。
刀身が折れ吹き飛ぶ。
柄を投げ付け次に手を伸ばす。
それは、宗像が圧されていると言う状況が全てを物語っていた。

417名無しさん:2014/09/06(土) 11:22:45 ID:I2awvnWI0
投下乙です
短い一文一文から戦闘の緊迫さが伝わってきますね
千刀に選ばれた(かもしれない)宗像くんに骨肉小細工を習得した蝙蝠とどっちも強化されてるのに人識お前というやつは…w
改めて極絃糸ってチートだなあ

指摘というか気になった点ですが、
宗像くんは詳細名簿で零崎一賊を把握してるので人識に対してリアクションがあってもいいのと、蝙蝠の状態表に怪我の具合が書かれていないのはどうかなーと
どちらも状態表レベルでの修正で済むのでご一考いただければ

418名無しさん:2014/09/06(土) 14:20:21 ID:tXXbqhRk0
投下乙

419名無しさん:2014/09/09(火) 21:22:42 ID:V/QIFGYYO
投下乙です
キズタカ・・・そこに気付くとはやはり天才か・・・・・・
蝙蝠さんはもう「神の蝙蝠」の異名を誰かから受け継いでもいいと思う(誰とは言わない)
「両足で白刃取り」って発想が何気に凄いww でもこの人の足なら普通にできるんだよな・・・壁に立てるくらいだし

420名無しさん:2014/09/12(金) 07:55:52 ID:L3JHbNVI0

>>413 を修正します


【1日目/夜中/D-6 ネットカフェ】

【宗像形@めだかボックス】
[状態]身体的疲労(大) 、精神的疲労(中)、殺人衝動喪失?、左腕(肘から先)欠損、腹部に切り傷、各部に打撲と擦過傷(怪我はすべて処置済み)、左肩欠損(処置せず)、出血(大)、曲絃糸による拘束
[装備]千刀・ツルギ×1@刀語、スマートフォン@現実、ゴム紐@人間シリーズ
[道具]支給品一式×3(水一本消費)、薄刀・針@刀語、トランシーバー@現実、「包帯@現実、消毒用アルコール@現実(どちらも半分ほど消費済み)」(「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:阿良々木火憐と共にあるため『正義そのもの』になる。
 0:『悪』を殺す。
 1:供犠創貴と真庭蝙蝠を殺す。
 2:伊織さんと様刻くんを殺す。
 3:『いーちゃん』を見つけて、判断する。
 4:黒神さんを殺す?
 5:殺し合いに関する裏の情報が欲しい。
 6:殺人鬼だから零崎人識も殺す。いやそれより何が起きた?
[備考]
※生徒会視察以降から
※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを玖渚から聞いた限りで理解しました
※阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
※無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※携帯電話のアドレス帳には櫃内様刻、玖渚友が登録されています
※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。誰が誰にどうやって殺されたのかは把握しています
※千刀に持ち主と認められた可能性があります
※左肩の出血を止めなければ出血多量で死ぬ可能性があります

【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]身体的疲労(小)、零崎軋識(両足と右腕は都城王土、喉は水倉りすか)に変身中、胸部に切り傷、左肩から右腰にかけ切り傷、全身に裂傷、曲絃糸による拘束
[装備]軋識の服全て(切り目多数)
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残る
 0:宗像形を殺す
 1:創貴とりすかと行動、ランドセルランドへ向かう
 3:強者がいれば観察しておく
 4:完成形変体刀の他十一作を探す
 5:行橋未造も探す
 6:危なくならない限りは供犠の目的を手伝っておくがそろそろ裏切ってもいい頃かもしれない
 7:黒神めだかに興味
 8:鳳凰さまが記録辿りを……? まさか川獺が……?
 9:げえ零崎人識!
[備考]
 ※創貴と同盟を組んでいます
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、元の姿です
 ※都城王土の『異常』を使えるかは後の書き手の方にお任せします
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実の危険性について知りましたが、嘘の可能性も考えています
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません
 ※体の一部だけ別の人間の物に作り替える『忍法・骨肉小細工』を習得しました

421名無しさん:2014/09/15(月) 08:04:32 ID:.FujR4Wo0
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
150話(+1) 15/45 (-0) 33.3(-0.0)

422名無しさん:2014/09/15(月) 23:47:17 ID:SWpuXrpk0
投下乙
壁に建てるんだもの、白羽取りぐらい余裕だよね!(白目

423 ◆ARe2lZhvho:2014/10/02(木) 01:28:01 ID:w61TEtK60
お久しぶりです
予約分投下します

424残り風 ◆ARe2lZhvho:2014/10/02(木) 01:28:45 ID:w61TEtK60
殺し合い。
この場所で行われていることを一言で説明する単語を聞いたとき、私がまず思い浮かべたのは昔地元の図書館で読んだ本のことだ。
当時小学生だったにもかかわらずその本を読んでしまった理由は今となってはわからない。
その年齢に見合った本は粗方読破してしまっていて、たまには違う趣向のものを求めていたとか、大方そんな理由だろう。
小学生が見るような内容ではなかったのかもしれないが、『人が死ぬ』という点に限って言えば、ミステリーではいつものことだったしなんとも思わなかった、と思う。
司書さんに見つかったときにはもう読み終わった後で、「翼ちゃんが読むようなものじゃないんだけどね」と苦笑いしていたっけ。
掻い摘んで話すだけで友達を失っていった私の家庭事情も司書さんには話していなかったし、『そういうもの』に影響されるような子供ではないと思っていたのだろう。
思っていたのだろう。

人が人を殺さない保証などどこにもないというのに。





いーさんの運転する車に乗って辿り着いたランドセルランドという名の遊園地。
イルミネーションが煌々と輝く中私たち以外に人がいないというのはその静寂さもあいまってかなりの不気味さを醸し出している。
どうやら先程まで一緒にいた零崎さんや他にも待ち合わせている人がいるらしいが、こんなとこで待たずとも入り口にいればいいのに、と思わなくもない。
だが、わざわざ搬入車両用の出入口を探して入った理由を目撃してしまっては「場所を変えよう」なんて言うのは憚られる。
入場ゲートを越えた先に見えたのは赤黒い広がりと淵に転がっていた、何か──なんてぼかす必要もない、死体だ。
座っていた場所や身長の関係からか、真宵ちゃんがそれを目撃していなかったのがせめてもの救いだけれど。
いくら幽霊だからといって、死体に対して悪印象を抱かないかどうかは別の話だ。

「あの、羽川さん」
「どうしたのかな、真宵ちゃん」

その幽霊である真宵ちゃんはまだ現状を把握しきっていない。
私が多少の説明と周囲の会話で状況を判断したのに対し、真宵ちゃんには車の中で殺し合いのことはぼかしつつ必要最低限のことしか伝えていなかった。
戦場ヶ原さんが車を降りた後は気まずさで車内に会話はなかったし、おかげで真宵ちゃんは肝心なことは何も知らないままだ──阿良々木君が死んだことも。

「それがですね、先程からどうも調子が悪くて」
「珍しいね。てっきり幽霊はそういうものと無縁だと思っていいたんだけれど」

記憶を消失する前から真宵ちゃんは苦しそうにしていたけれど、今の方がマシに思えるのは私の気のせいではないと思う。
不調の原因が恐らくはストレスによるもので、それを強制的に取り払われたから快方に向かっているのだろうか。
それでも幽霊が体調不良というのはおかしな話だ。
迷い牛という怪異ではなくなった今、真宵ちゃんを視認する条件はわからないけれども、あの場で誰もが真宵ちゃんを認識できていたことと関係あるのかもしれない。

「こんなのは十一年ぶり、いえ、生前も結構健康でしたからそれ以上ぶりですかね。そのせいか噛みにくいです」
「それとこれとは関係ないと思うなあ……」

そもそもまだ一度も噛んでいないのに噛みにくいと言われても。
伝聞で聞いた限り、阿良々木君と話すときとは随分違うようだけれど。

「あちらの方は何を思って未成年略取に及ばれたのだと思います?」
「あからさまに噛まないの」

いくらなんでも言いすぎだ、色んな意味で。
どう考えてもいーさんは親切な部類の人間だろうに。
確かに誘拐犯は親切な人間を装って犯行に及ぶ傾向がある……って、いけない、何を考えているんだ、私は。
しかし……私たちの会話は聞こえているはずなのに一向に混ざる気配を見せないいーさんの態度が気になるのも確か。
私たちを見守る、と言うには優しくないし監視している、と言うにはきつくない。
だから、そう、ただ見ているだけとでも言えばいいのか。
真意がどこにあるのか全くわからないけれどそれを問いただせる勇気はない、当然真宵ちゃんもだ。

「失礼、噛みました」
「次からはもっと上手に噛んでね」
「いや、どうもあの方、阿良々木さんに似てる節があったものですから」
「阿良々木君と似てる……?」

425残り風 ◆ARe2lZhvho:2014/10/02(木) 01:29:19 ID:w61TEtK60
それは私にはなかった考えだ。
そうか、そういう考え方もあるのか。
今のところ私にはいーさんと阿良々木君との共通点は見つけられないけれど、真宵ちゃんには思うところがあるのだろう。

「そういえば聞くのが遅れてしまったというか、あからさますぎて聞くに聞けなかったのですが……」
「もったいぶるなあ。答えられることならちゃんと答えるから」
「では聞きますが、どうして髪が伸びておられるのですか?」
「…………え?」

予想外の方向から来た質問に答えることはできなかった。
私が知っているのはあくまで知っていることだけで知らないことは知らないのだから。
髪が伸びる、ということは前提として短い髪型をしていたということになるけれど、私はショートヘアにした覚えはない。
なにせ、幼稚園児の頃から三つ編みで通してきていたのだし、真宵ちゃんもそれを知っているはずなんだけど……

「聞き方が少し悪かったですかね。私がの知る羽川さんは髪型をショートにしておられたのです」
「私が……?」
「はい。私が昨日お会いしたときも普通にショートヘアのコンタクトレンズにしてましたよ。いめちぇん、されたのでしょう?」
「………………」

何がどうなったら私が『いめちぇん』するようなことになるのだろう。
髪もばっさり切って眼鏡も外したとなるともはや別人だ。
……いや、そもそもの前提が食い違っているのか。
真宵ちゃんにとっての『昨日』がいつなのかにもよってくる。
さっきから質問してばかりだなあ、私。

「ねえ、変なことを聞くようだけど、正直に答えて。『今日』って何月何日?」
「『今日』ですか? 8月22日、ですが」
「私の中では『今日』は6月14日、なんだよね」

突拍子もない仮定だったのだが、どうやらそれが間違っていないらしい。
参った……さすがにスケールが大きい。
……ちらりといーさんの方を見やったが動揺らしきものは見られない。
つまり、「ここにいる人たちの時間の認識が食い違っていること」は把握済み、ということか。

「ああ、どうりで。その頃でしたら髪を伸ばされてるのも納得です」
「そこで戸惑ったりしないんだ……」
「怪異がいるんだしタイムスリップやらがあってもおかしくはないんじゃないですかね。案外身近にいるかもしれませんよ」
「いやいやまさか」
「じゃあこういうのはどうでしょう、何か──例えば怪異の仕業で記憶が操作されてしまったとか。あくまでもたとえ話ですが」
「記憶を……」

タイムスリップを持ち出されるよりも(私にとっては)説得力のある仮定だが、今そのことについて言及するのはデリケートすぎる。
真宵ちゃんの記憶がなくなる瞬間に居合わせてしまったし、私もそうされたかもしれないとなるとつい考えるのをためらってしまっていたが……
だが、もしかするとこれはいいアプローチだったかもしれない、そういう旨のことを言おうとして口を開き、

「真宵ちゃん!? しっかりして!?」

思っていたこととは違う言葉を発していた。
顔色は蒼白、繰り返される浅い呼吸、痙攣するかのように震える体、明らかに体調が悪くなっている。
さっき私は真宵ちゃんの不調の原因をストレスによるものだと決めつけていたけれども、それがその通りだったとしたなら──

「真宵ちゃん!?」
「だ、大丈夫です……戯言、さん……」

なくなった記憶がフラッシュバックしたのではという私の予想を裏付けるように、駆け寄ってきた──さすがに異常事態だと察したらしい──いーさんへの呼称が戻っていた。

426残り風 ◆ARe2lZhvho:2014/10/02(木) 01:30:35 ID:w61TEtK60
「戯言さんはこちらが求めたとき以外口を挟まないでください」と体調が優れないながらもかなり憤慨した口調で念押した上で、私と真宵ちゃんの現状確認が始まった。
その気になれば断ることだってできただろうに、それを甘んじて受けるということはやはり私たちに負い目があるのか。
先程まで付かず離れずで私たちを見ていたのはいわゆる罪悪感によるものだったらしい。
一通りの情報共有も終えたことで私の身に何が起きていたのかも知るところとなったし。
とはいえ、私がブラック羽川になっていたことを他人の口から聞くのは堪えるものがあるなあ……
目覚めたときに着ていた装束も中々恥ずかしいものだったが、鑢さんの話を聞いた限り、それに着替える前の服装もあったはずなんだけれど。
あのときは余裕がなくて手持ちに何があったか把握するので精一杯だったけれど、今なら思い出せる──確か……あれ?
いやいや、待て待て、まだそうと決まったわけじゃない。
途中で捨てていた可能性もある、うん、きっとそうだ。

「いーさんはブラック羽川に遭ったんですよね? 覚えていないのに言うのもなんですが、その節はご迷惑をおかけしました」
「別に、こうして五体満足でいるんだし、翼ちゃんが謝ることじゃ……」
「怪異に遭ってしまった時点で迷惑をかけたのと同義です。それで、差し支えなけれえば、本当に差し支えなければ教えてほしいのですが、そのとき……どんな服装でした?」
「……………………上下とも黒の下着姿でした」
「大変ご迷惑をおかけしましたあっ!」

いやな予感が当たってしまった。
ゴールデンウィークにまさにその格好で往来を闊歩していたけれど……うわあ。
他の人に見られていない、と考えるのはいくらなんでも無理があるし……うわあ、としか感想が出てこない。
真宵ちゃんの目線も心なしか、なんて修飾する必要もないくらいに冷めている。
正直私が一番ドン引きだ。
ただ、これがきっかけになったのかぎくしゃくした空気が軽減されて多少は会話が弾むようになったのがせめてもの収穫だった。
……気まずい空気のままだったら報われなさすぎる。


【一日目/夜中/E-6 ランドセルランド】

【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]精神的疲労(小)
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実、解熱剤、フィアット500@戯言シリーズ
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 0:記憶が戻るだなんて聞いてないぞ……これもこれでまあ、悪くはないけど。
 1:玖渚を待つ。
 2:掲示板を確認しておこう。
 3:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 4:危険地域付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします

427残り風 ◆ARe2lZhvho:2014/10/02(木) 01:31:12 ID:w61TEtK60
【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]ロワ中の記憶復活、それに伴う体調不良(微熱と若干の体力低下)
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:変わらない。絶対に帰るんです。
 0:まったく、戯言さんは!
 1:羽川さんと共に戯言さんの待ち人を待ちましょう。
 2:黒神めだかさんと話ができればよいのですが。
 3:羽川さんの髪が長かったのはそういう事情でしたか。
 4:戦場ヶ原さんも無事だといいんですが……
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします


【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、大体の現状認識
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、毒刀・鍍@刀語、タブレット型端末@めだかボックス、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、
   「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス」
[思考]
基本:未確定。もちろん殺し合いに乗る気はないが……
 0:ああ……恥ずかしい。
 1:阿良々木くんが死んでいることにショック。理解はできても感情の整理はつかない。
 2:情報を集めたい。ブラック羽川でいた間に何をしていたのか……
 3:戦場ヶ原さんは大丈夫かなあ。
 4:真宵ちゃん無理しないでね。
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※全身も道具も全て海水に浸かりましたが、水分はすべて乾きました
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、相手が玖渚友だということを知りません
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


「到着、ランドセルランド」


ぎこちないながらも穏やかな時間が流れ始めたランドセルランドだったが、それを許さないかのように使者が訪れる。


「内部巡回、開始」


【一日目/夜中/E-6 ランドセルランド入口】

【日和号@刀語】
[状態]損傷なし
[装備]刀×4@刀語
[思考]
基本:人間・斬殺
 1:上書き。内部巡回
[備考]

428残り風 ◆ARe2lZhvho:2014/10/02(木) 01:31:35 ID:w61TEtK60
これでおしまい、じゃないんだよな。
ああ、安心してくれ。
僕は何もしないよ。
これはただの取り繕いさ。
僕としたことがちょっとしくじってしまったらしい。
切り離しが不完全だったようで、一部が君のご主人様に残ってしまったみたいでね。
君が一番不安定な状態だったということにも起因するが、それでも僕のせいだということに変わりはない。
何か埋め合わせをするわけじゃあないんだけどね。
それだと干渉しすぎてしまう。
ま、自身で気付く分には構わないからヒントをあげるとしようか。

君が入っているのはあくまでも籠だ。
閉じ込めるための檻とは違って、籠の役割は一時的な容れ物でしかない。
つまり。

外側からなら簡単に取り出せるってことさ。

忠告はしてあげたんだ、ちゃんと考えておくんだぜ?
何が一番ご主人様のためになるのかを。

429 ◆ARe2lZhvho:2014/10/02(木) 01:32:53 ID:w61TEtK60
投下終了です
短めながら今回もぶん投げた感がありますが何かあれば遠慮なく

430名無しさん:2014/10/02(木) 19:17:40 ID:tg6Q3zyk0
投下乙です

431名無しさん:2014/10/02(木) 23:23:51 ID:zBTfB3B.O
投下乙です

獲物がふえるよ! やったね日和ちゃん!
八九寺の記憶といい羽川の障り猫といい、平和に見えてここも火種だらけなんだよなあ

432名無しさん:2014/10/03(金) 22:01:56 ID:tVKuilU20
投下乙です。
そういえばブラック羽川って最初からあの格好だったっけ
下着姿の女性を拉致して会場に放り込むとか、主催者ひどい…

このメンツしかいない状態で日和号が来ると詰みにしか見えないけど
ブラック羽川再来フラグも立ってるしさらに別方向から波乱がありそう

433名無しさん:2014/10/03(金) 23:23:19 ID:En0LhEWM0
投下乙です

434名無しさん:2014/10/04(土) 12:58:28 ID:CI8TKaaw0
投下乙です!
ああ、ブラック羽川さんのあられもない姿を、いーくんは見ていたのですね……
ノーマルの方が知ったら、恥ずかしいってレベルじゃない……あと真宵ちゃん、いーくんは悪くないよ!

436<削除>:<削除>
<削除>

437 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:44:55 ID:GGNzVLNQ0
投下開始します

438球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:46:02 ID:GGNzVLNQ0
デジャヴ。
黒神めだかの死に様を目の当たりにして、それに既視感を覚えるのは自然であり必然とも言える――彼女の一度目の死、すなわち戦場ヶ原ひたぎによる殺害を見ている者ならば。
焼き直しであり、やり直し。
失敗のやり直し。
一度目の死は、球磨川禊の『却本作り(ブックメーカー)』を受けた直後の隙を突かれたことによる死。より正確に言うなら、『却本作り』を自ら受け入れ、自ら喰らうことを選んだゆえの死。
二度目の死は、やはり球磨川と、交霊術により会話を可能とした戦場ヶ原ひたぎと人吉善吉。この三人に意識を向けすぎていたため、七花に不意討ちを狙う隙を与えてしまったことによる死。
過程や相手は諸所違えど、めだかが命を落とした原因は根本のところで共通している。
「他人と向き合いすぎたため」、殺された。
誰かに対して真正面から真摯に向き合い、その言葉を、思いを、願いを、恨みを、憎しみを、すべてを受け入れ、受け止めたからこそ、背後にいた者に、または蚊帳の外にいた者に気付けなかった。
一度ならず二度までも。
真っ直ぐに向き合って、真裏から刺された。
ただし、黒神めだかはそれを失敗とは呼ばないかもしれない。迂闊と言えば迂闊だし、結果として命を落としている以上うまくやったとは言えないだろうが、それでも決して、生半可な覚悟で彼女は誰かに臨んだわけではない。
球磨川は彼女にとって、数年間戦うことを待ち焦がれていた因縁の相手だったし、善吉と戦場ヶ原のときなど、自分のせいで死んだ(とめだか自身は思っている)者の遺した思いとまで向き合っているのだ。
大げさでなく、命を懸けて。
そういう意味で、めだかは自分自身の信念に殉じたとも言える。自分の信じる道に従い、その結果として命を落としたとなれば、確かにそれを失敗と呼ぶのは無粋かもしれない。
誰かのために生きることを宿命とした彼女が、誰かのために死んだのだとしたら。
皮肉ではあれど、妥当とは言える結末だろう。
だからこの場合、失敗したと言うべきは球磨川のほうだった。球磨川こそ過去から学び、同じ失敗を繰り返さないよう心に留めておくべきだった。
二度もめだかの正面に立ちながら、二度もめだかへの不意討ちを看過し。
今なお、同じ失敗を繰り返そうとしている球磨川禊こそ。



   ◇     ◇



「う――うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

めだかが殺されたのを見て、球磨川は火のついたように絶叫した。
悲鳴とも怒号ともつかない金切り声を上げながら、地面に転がっためだかへと駆け寄り、

「『大嘘憑き(オールフィクション)』――!!」

間髪いれず、己の過負荷(マイナス)を発動させた。
“一度目”のときと寸分違わぬ様相で。

「黒神めだかの死を、なかったことにした――!!」

愚の骨頂と言うならこれがまさにそうだろう。
自分がなぜ一度、戦場ヶ原ひたぎによって殺されたのか、めだかを生き返らせたとき、なぜそれをかばう羽目になったのか、完全に忘却している。

439球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:46:49 ID:GGNzVLNQ0
“一度目”のとき、めだかのすぐそばに戦場ヶ原ひたぎがいたように、今回は鑢七花がいる。今の状況でめだかを復活させれば、また二の太刀が振るわれるかもしれないというのに。
デジャヴどころかパブロフの犬さながらの従順さで、過去と全く同じ行動をとった。
混乱のさなかにあったとはいえ、迂闊が過ぎる――しかし、真に愚かなのはそこではなかった。
一度目のときは「黒神めだかを生き返らせる」という目的自体は達していた。冷静に対処すればもっと少ない被害で済ませることはできただろうけど、結果から見れば成功したと言ってもいい。
今回はその目的すら果たせていない。
黒神めだかの死はなかったことになっていない。

「……!? お、『大嘘憑き』――!!」

めだかの死体に変化がないのを見て、もう一度能力を発動させる。
しかし何も起こらない。

「『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!! 『大嘘憑き』――!!」

何も起こらない。何も起こらない。何も起こらない。
何も起こらない。

「な……何で」

頭を抱え、めだかの傍らに膝を付く球磨川。
まさか忘れたわけでもないだろう――安心院なじみにそれを聞いてから、まださほど時間は経っていない。
いや、時間が経過したからと言って忘れるような内容でもあるまい。『大嘘憑き』による死者の復活という、この殺し合いにおいてある意味最強のカード。その手札がすでに尽きているという重要な事実を。
傍から見ていた七実でさえ気付いた事実だ(実際に気付いたのは四季崎記紀だが)。直接聞かされている球磨川にわからないはずがない。
わからないはずがないなら、わかりたくないのか。
事実を事実として認めたくないのか。

「何をするつもり? 七花」

と、七実がここで口を開く。
“球磨川と七花の間に割って入った”鑢七実が、である。

「どけよ姉ちゃん――そいつを殺せないだろ」
「……冗談には付き合わないわよ」

頭を抱えてしゃがみ込むところまで含め、球磨川の一連の行動はあまりに無防備なものだったが、実際危ないところではあった。
めだかの死体を放り捨てた後、返す刀で球磨川に斬りかかろうとしていた七花の前に、七実が球磨川をかばう形で立ちはだかっていなければ、球磨川もめだかと同じように斬り捨てられていたかもしれない。

「とうとう気でも触れたのかしら? 大人しくしてたと思ったら、いきなりめだかさんに斬りかかるなんて。まるでしのびか何かのようじゃない」

七実の言い草に、七花は不快そうな表情を見せる――剣士に対してしのびのようだなどと言えば、七花でなくとも良い気分にはならないだろうが。

440球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:47:34 ID:GGNzVLNQ0
 
「思い出しただけだよ。おれが何をするべきだったのか」

いつでも斬りかかれる姿勢の七花に対し、構えることなくただ立っているだけの七実。
それはつまり、互いに臨戦態勢であることを意味している。

「考えてみりゃ、おれはもともと誰彼構わず斬り捨てるつもりでいたんだ。姉ちゃんだろうと、姉ちゃんの持ち手だろうと関係ねえ。おれが最後の一人になるまで、ただの刀として戦い続ける。最初からからそのつもりで、今もそうするべきだった」

だからそうした。
刀としてやるべきことをやった。
斬るべきものを斬った。

「だいたいここは決闘場とかじゃなくて戦場だろ。いくさの場で不意を突くのが卑怯なんて、姉ちゃんは言うつもりかよ」
「言うようになったわね、あなたも」

その単純な回答に、七実はため息で応える。

「まあ、あなたの行動理由についてはそれでいいわ――いえ、悪いのだけれど。でも七花、あなたがどういう理由で動いていようと、禊さんまで斬ることは許さない。
 禊さんに刃を向けることは、わたしに刃を向けることと同義。それをちゃんとわかっているのかしら?」
「……姉ちゃんは、変わったな」

ふっと、軽く表情を歪ませる七花。
七実の病魔の影響を受けているせいか、顔色は目に見えて悪く、呼吸も荒い。

「姉ちゃんは、誰かの刀になんてなるはずないと思ってた。誰かのためにそんな真剣な物言いをするなんて、夢にも思わなかったよ――まして、そんな得体の知れない男のために」
「わたしのことを知った気にならないでと言ったはずよ。それと禊さんへの侮辱はやめて頂戴」

ちなみに当の球磨川はといえば、二人の会話に気付く様子もなく、未だめだかのそばで放心したままである。

「そもそも恩知らずだとは思わないのかしら。七花、瀕死の重傷を負っていたあなたを助けたのは、わたしと禊さんだったはずよ。言うなれば命の恩人である禊さんを手にかけることについて、あなたは何とも思わないの?」
「だから関係ないんだよ――それに命の恩人っていうなら、おれと姉ちゃんに関してはお互い様だろ」

彼らしからぬ、皮肉めいた表情を七花は浮かべ、

「姉ちゃんが殺されかけたとき、おれは親父を斬り殺してまで姉ちゃんを助けたんだぜ。今さら姉ちゃんに、恩知らずだとか言われる筋合いなんて――」

言い終わる前に、七実は動いていた。
七実の手が動くのに気付いてとっさに避けようとした七花だったが、反応しきれずにその攻撃をもろに喰らう。
胸へと向けて投げられた大螺子、都合四本目の『却本作り』を。

「…………っ、ぐぅっ!」

すでに突き刺さっている三本の螺子に並ぶように、新たな大螺子が真っ直ぐに突き刺さる。
球磨川の『却本作り』の上から、さらに上書きし直された七実の『却本作り』。その影響に耐え切れず、七花は勢いよく地面へと突っ伏した。気を失ったのか、ぴくりとも動く気配がない。

441球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:50:39 ID:GGNzVLNQ0
過去を紐解いても、おそらく初めてではないだろうか。
一本でも凶悪極まりない、球磨川自身曰くつきと称するほどの過負荷である『却本作り』を、同時に四本もその身に受けた“人間”は。

「……見損なったわ、七花」

倒れ伏した弟の姿を、冷え切った目で七実は見る。

「父さんを引き合いに出してまで自分を正当化するなんて、あなたも堕ちたものね。あとでお仕置きしてあげるから、しばらくそこで大人しくしていなさい」

吐き捨てるようなその言葉に、当然ながら返事はない。
堕ちたものもなにも、七花の今までの言動は『却本作り』あってのものなので、三分の一程度は七実の影響を受けていたからこそと言えるのだが。
そのうえ残り三分の二は、言うまでもなく球磨川の影響である。
堕ちるところまで堕ちないほうがおかしいという話だ。

「な、七実ちゃん!!」

大声で呼びかけられ、七実は振り返る。
ようやく現状を認識したらしき球磨川が、めだかの死体を両腕で抱き起こし、血走った眼で七実を見ていた。

「きみの、きみが見取った僕の『大嘘憑き』で! めだかちゃんの死をなかったことにしてくれ!!」

要求というより、それはもはや懇願だった。放っておけば土下座せんばかりの勢いで、球磨川は痛切に叫ぶ。
仲間のためでなく、同類のためでなく、敵対する者のために恥も外聞もなく取り乱し、何かを懇願する。
あの球磨川禊が、である。

「……めだかさんを」

請われた側の七実は、そんな球磨川の態度には特に反応せず。
めだかの死体を指さし、一言一句区切るようにして言う。

「わたしの『大嘘憑き』で、めだかさんを蘇生――もとい、“黒神めだかの死をなかったことにしろ”、と。そうおっしゃるのですね? 禊さん」
「そ、そうだよ、早く――」

通常の心肺蘇生法を施すわけでもあるまいに、「早くしないと手遅れになる」と言わんばかりの焦りようだった。
無意味に急かす球磨川とは対照的に、七実はあくまで冷静沈着な面持ちのまま、

「相わかりました」

と、一も二もなく了承する。
牛の歩みのようにゆっくりと、球磨川の抱えるめだかの死体に近づいてゆき、血まみれの地面に丁寧な所作で屈みこむ。
そして死体の胸のあたり、手のひらの形に陥没した傷の上にそっと手をかざし、

442球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:51:51 ID:GGNzVLNQ0
 
「『大嘘憑き(おーるふぃくしょん)』――」

そう唱えた次の瞬間には、すでに効果は表れていた。
球磨川の時とは違い、胸の傷も、あたりに撒き散らされた血も、すべてが“なかったこと”になっていた。
初めからなかったかのように、綺麗さっぱりと。










「――黒神めだかの『死体』を、なかったことにしました」










ただし、身体ごと。
黒神めだかの肉体ごと、それらは消えてなくなっていた。

「…………は?」

からっぽの腕の中を見て、空を抱いた姿勢のまま唖然とする球磨川。
今度こそ本当に、何が起こったかわからないといった表情で。

「ああ、“死体”は消せるようですね。“血”は消せるからいけるとは思っていたのですけれど、実際に試してみるまでは確証が持てなかったので、うまくいってよかったです」

やれやれと、一仕事終えた風に息をつく七実。

「黒神めだかそのものが消えてなくなったので、必然『黒神めだかの死』もまた、なかったことになったということになりますね。これにて一件落着です」
「…………」

絶句。
今の球磨川の心境を表すのなら、その二文字でこと足りるだろう。
確かに、なかったことにはなっているのかもしれない。少なくとも今、この場所において黒神めだかが死んだことを証明する手立てはない。
なにせ死体がないのだ。
かろうじて『大嘘憑き』の効果が及ばなかった首輪だけが申し訳程度に転がってはいるが、それが黒神めだかの首輪だとどうやって証明する?
仮に証明できたとして、「首輪が残っている」ことが「黒神めだかが死んだ」ことの証拠になるとどうして言える?
まさに悪魔の証明。
証拠隠滅ここに極まれりである。

「な、何やってんの、七実ちゃん――」

しかし、誰の目から見ても明らかだろう。
その行為が、球磨川の意に沿わないものであることくらいは。

443球磨川禊の非望録 ◆wUZst.K6uE:2014/11/02(日) 13:52:20 ID:GGNzVLNQ0
 
「落ち着いて聞いてください、禊さん」

そっと球磨川の肩に手を置き、優しくささやきかける。
安心させるように。

「わたしはあなたの刀であり所有物です。あなたが命じるならば、わたしは何をおいてもその通りに動く心構えではあります。
 しかし、わたしの意思、わたしの判断というのもまた、わたしの中には存在します。あなたの指示を最適の形で成し遂げるために、それは必要なものですから。
 失礼ですが、今の禊さんは少々混乱しているようです。その状態では正しい判断ができないものと見なしましたゆえ、差し出がましい真似とは知りつつ、今回はわたしの独断において行動を決めさせていただきました」

不備があったら申し訳ございません――と頭を下げる七実。
球磨川からすれば不備どころの話ではないのだが。

「禊さんには言うまでもないことかもしれませんが、この『大嘘憑き』、すべてにおいて無限に使用できるというわけではないようですね。
 何でもなかったことにできるわけではないし、こと“生命”を対象に取る場合、ある種の条件下でなければ使用することができない。
 その条件のひとつが、『一定の回数しか使用することができない』であると推察しますが、いかがでしょうか」

球磨川は答えない。
七実はそれに構わず続ける。

「断言は致しかねますが、禊さんから見取った能力である以上、わたしの『大嘘憑き』にも同等の制限がかけられているはず。
 つまりわたしも、一定の回数しか“死をなかったことにする”ことはできないのです。
 ですから、禊さん。
 この能力は、あなたが死んだ時にこそ使われるべきでしょう。
 あなたの死をなかったことにする。これこそを最優先の使い道とすべき。
 そのためには、無駄遣いなどもってのほか。
 そんなもののために、貴重な残り回数を浪費するわけにはまいりません。禊さんの命をお守りするために、これは必要な選択なのですよ」

きっぱりと、七実は言い切った。
めだかの首輪を指さして、「そんなもの」と。
球磨川の懇願を、「無駄遣い」と。
七実はいかにもあっさりと、めだかの死体を“なかったこと”にしてみせたが、それは七実にだからこそできたことかもしれない。
生きた人間ですら、雑草と呼ぶ七実に