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百合キャラバトルロワイヤル

1 ◆8df.ES8h7.:2012/05/16(水) 18:22:22 ID:GUMbCQhg0
おいでませ百合ロワ!
こちら百合ロワはバトルロワイアルパロディのリレー企画でございます

当ロワは、
「二次創作界隈で百合カプがメイン、もしくは商業的な方針に女性キャラ同士のカップリングを意図する動きが見られる、とあなたが思う作品とあとガチレズ作品」
のキャラクターによるパロロワです

暴力、流血、キャラクターの死など人によりましては嫌悪が抱かれる内容も含まれます
スレ及びまとめサイトの閲覧の際はご注意ください

まとめwiki
ttp://www32.atwiki.jp/yurirowa/

したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15447/


参加者ノ心得

1.自分好みのカップリングでなくても「こういうのもアリだな」と新たな百合の境地と未来を切り開く、ぐらいの気概をもつこと

だけ!

264名無しさん:2012/11/08(木) 23:19:39 ID:j6dsuAG20
投下乙ですー!
このやりたい放題感、たまらねぇぜ!

265名無しさん:2012/11/09(金) 08:09:16 ID:JCtSfVHo0
ぶ、部長ーーーー!!
なんてことだ……静かに狂いはじめおった……
りっちゃんはどうなることやら……投下乙っした!

266名無しさん:2012/11/09(金) 18:25:44 ID:RGQpLD5c0
投下乙です

部長がそんな…
既に咲と和は死んでるしもう止めれる人間は一人だけの状態でこれは…
部長好きな俺としては部長ならこの展開になる可能性もあるが厳し過ぎるぜ…

ところで葦切詩乃の死体が消滅したのはなんでだ?

267名無しさん:2012/11/09(金) 20:18:36 ID:NbQgQtw6O
そこらへんを補完した話を投下したいんだけどズガン枠オンリーの投下になっちゃうからNGかな……

簡単に説明すると詩乃は童話の人魚姫をモチーフにしたキャラクターで、喋ると泡になって消えてしまうという設定があるんです
非超常作品に分類される少女セクトにおいて唯一といっていい不思議要素ですね
原作でも詩乃の最期は盟絵の名前を呼んで消滅する展開になっています
ロワでも詩乃が何か喋ってしまったため彼女が消えてしまったのだと思います

268名無しさん:2012/11/10(土) 16:54:10 ID:i6t8dPy60
了解
原作でそういう展開があったのならこれでいいです

269名無しさん:2013/01/30(水) 06:02:48 ID:Ub2J8jsU0
未予約ですが投下します

270HOLES:2013/01/30(水) 06:03:32 ID:Ub2J8jsU0
ざざん、ざざんと波が音を立てている。歩けばぎし、ぎしと音を立てそうな砂の浜が広がる海辺だった。
ほのかな月の光だけでは、そこにあるものを全て照らすにはまるで足りなかった。
倒れている影と、その傍で立ちすくむ影。二つの人影。二人の少女。

倒れているのは、真鍋和だったモノ。今はもう命も尽き、ただの肉の塊となってしまっていた。
幼馴染の少女に命を奪われ、十数年の短い人生を振り返る暇すらこの世から去ってしまった眼鏡をかけた少女。
だけど。何故か、その表情には悔しさや、悲しさなどは浮かんでいなくて。
どこかやり遂げたような達成感すら感じさせていた。

そんな和を、じっと見つめているもう一人の少女。
それが萩原雪歩だった。
彼女は自分がどうしてここにいるのか分かっていない。
ただふらふらと熱にうなされるようにさまよって、この砂浜へとたどり着いたのだ。
そして、出会ってしまった。
ここが――本当に、殺し合いをしなければならないところなんだと、そう雪歩に告げる、まだ温かさの残る死体に。
この少女を殺した犯人が、まだ近くにいるかもしれない。そんな当たり前の思考は、雪歩の頭の片隅に浮かんでいた。
だが、身体が動かなかった。頭のてっぺんからつまさきまで、身体の芯にぴしゃんと電撃が走ったように痺れていた。

頭のなかが真っ白になっていて、何から考えればいいのか分からなくなってしまっていた。
身体だけじゃなくて心まで痺れてしまっていて、何も感じてはいなかった。
急に身近になった死の恐怖に怯え、周りも気にせず泣き喚くという、萩原雪歩がいかにもやりそうな行動さえ取れないほどに、彼女は衝撃を受けていた。
死体を見てもなお――いや、死体を見たからこそ、雪歩は自分がいったい何をすればいいのか、分からなくなってしまっていた。

殺し合いが始まっているなら、自分もそれに乗る?
嫌だ。人を殺すことなんて、自分に出来るとは思えなかった。したくもなかった。
何より非力な自分が他の数十人を殺して生き残ることなど、到底出来そうにもなかった。
だったら、殺し合いをせずにみんなで生き残る方法を考える?
少し考えてみても、今の雪歩にはそんな方法など考えつきそうにもなかった。
自分の中に、そんな力があるなどとは思えなかった。

ざざん、ざざんと規則的に波の音は響く。
波の音以外はしぃんと静まり返った中で、雪歩は立っていることすら億劫になって、やがて和の死体の傍に座り込んだ。
ずっと、こうしていたいと思った。何もしたくなくなっていた。

ぼんやりと、ぼーっと死体の顔を眺める。
赤縁の眼鏡がよく似合う、ショートカットの女の子。
人目を引くような美貌こそ持ち合わせていないものの、その整った顔立ちならば知る人ぞ知る通好みの美人として通っていたのではないだろうか。
だけどその顔は今、ぺたりと貼り付けられた絵のようにまるで動かない。
彼女の時間は、死の瞬間に止まってしまっていた。

もし、私が死んだら――?
そんな想像がふと脳裏をよぎって、ぞっとする。その想像が具体的なものになる前に、無理やり頭から追いだそうとする。
でももう遅かった。頭のなかに浮かんでしまったイメージは、そのまま黒く大きくなって、ずるずると下へ降りてくる。
真っ黒で蠢くそれが雪歩の胸もとまで降りてきて、心を鷲掴みにする。
不安と恐怖でいっぱいだった。もう、限界まで達してしまいそうだった。

何かしないとそのまま自分の心が潰れてしまう予感があったから、雪歩は何かないのか、と手を動かす。
支給されていたデイパックの中を漁ると、手に、固い感触が返ってきた。
ぎゅ、とそれを握ると、すっと手に馴染んだ。
今まで何度も握ってきたもの。デイパックからそれを取り出す。
スコップ――だった。
鉄で出来た刃の部分。木で出来た握りの部分。何度も何度も使ってきた、雪歩にとっては馴染みの道具。

271HOLES:2013/01/30(水) 06:03:59 ID:Ub2J8jsU0
木の感触を確かめているうちに、ふと、閃いた。
どうして自分がこれを持たされたのか、その意味を。
自分がここで、何をするべきなのかを。

スコップを支えにして、立ち上がる。
少しだけ刃を地面に刺してみる。さらさらとした砂は、思っていたよりも軽い感触を雪歩に返した。
更にもう少し、力を込める。ぐ、と握り、深く差し込んだスコップを返し、穴を掘る。
ぐさり、ばさり。ぐさり、ばさり。
砂浜を掘って、掘って、掘る。
穴掘りは慣れたものだ。
昔から、嫌なことがあるたびに掘ってきた。
嫌な自分を埋めるために。
でも、今度は自分が埋まるためではなくて、他の誰かのために穴を掘る。

深さ1メートルほどの穴が出来た頃、雪歩はようやくその手を止めた。
穴掘りというのは、かなりの労働である。身体の芯から火照って、汗が額からつらつらと垂れる。
手の甲で流れる汗を軽く拭って、今度は目の前の死体を抱きかかえた。
血がどくどくと流れたときに、彼女の身体が持っていた熱も流れてしまったのだろう。
もう、彼女の身体は冷たくなってしまっていた。
既に死んでしまった――ただのモノだということを改めて実感する。
死体に忌避感はあった。正直なところ、触れたくなどなかった。

でもこの死体は、もしかしたら自分だったかもしれないものだ。
少し巡り合わせが違えば、ここで死んでいたのは雪歩だったかもしれない。
そんな彼女に対して、雪歩が出来る事は――せめて、彼女の分も懸命に生きること。
そして、彼女を弔うこと。

どさり、と穴の中に彼女の死体を置く。穴の大きさはちょうど良かったようだ。
彼女の顔から眼鏡だけを取って、身体に砂をかけていく。
どんどん彼女は埋まっていって、やがて見えているのは顔だけになった。

――あなたは、満足したんですか?
言葉にしたところで誰も何も返してはくれないことを知っていたから、雪歩は自分の心のなかだけで小さく呟いた。
埋める直前、もう一度まじまじと彼女の表情を見る。

いつのまにかあふれていた涙のせいで、彼女の顔はよく見えなかった。

そのまま、雪歩は彼女を埋める。少しだけこんもりとした砂の盛り上がりは、勘の良い人が見れば人が埋まっているものだと気づいてくれるだろう。
中に誰が入っているのか分かるように、雪歩は彼女の顔から取った眼鏡を、盛り上がった砂の上に置く。

両手を合わせて、名前も知らない彼女のために祈った。
自己満足なのかもしれない。死んだ彼女は、こんなことしてほしくなかったかもしれない。
だけど雪歩は、今の自分がやるべきことは、これなんだと思った。
自分のためではなく、死んだ誰かのために穴を掘る。
それが自分にこれが与えられた意味だと思うから――と、雪歩はスコップを握る力を、少し強めた。


【F-6/砂浜】

【萩原雪歩@THE IDOLM@STER】
【状態】憔悴、疲労
【装備】スコップ
【所持品】基本支給品
【思考・状況】
1.墓を掘る

272名無しさん:2013/01/30(水) 06:04:25 ID:Ub2J8jsU0
以上で投下終了です

273名無しさん:2013/02/07(木) 16:03:03 ID:4BfXDgac0
雪歩……(´;ω;`)
墓を掘るとはまた新しいスタンスだ……

274 ◆7VvSZc3DiQ:2013/02/09(土) 15:08:51 ID:O2pU/tH20
未予約ですが投下します
ズガン枠オンリーでの投下は禁止というルールに引っかかるので、没SS扱いということで

275この世の果てで恋を唄った少女 ◆7VvSZc3DiQ:2013/02/09(土) 15:10:59 ID:O2pU/tH20

――人魚姫に、足はあると思う?
これは、ただの蛇足。語られなくても良かったお話。言葉にしなければ泡になって消えてしまったはずの物語。
後に何も残らずに、誰一人として幸せにならずに、不幸な結末だけが提示されている、そんな話が、あなたは読みたい?
あなたはこの話を読んでもいいし、読まなくてもいい。読まずとも何の問題はなくて、読んだところですぐに忘れてしまうだろう。
それでもというのなら――ほんの少しの間だけ、語られなかった恋物語を、語ることにしよう。
人魚姫――葦切詩乃も、立つための二本の足を持つことを許されたのだから。
この少女たちの物語における少しばかりの蛇の足も、許されてしかるべきだろう。

 ◇

「よかったわ、元気そうで」

そう語りかけた盟絵の顔には、笑みが浮かんでいた。その内心を占めているのは安堵の感情だ。
誰よりも会いたかった相手に、真っ先に会うことが出来た。どん底の不幸の中で掴んだ一握りの幸運に彼女は感謝する。

盟絵の笑顔に対して、詩乃は憂いを含んだ微笑みを返した。
薄く緑の混じった黒髪が、月の明かりに照らされて、少し揺れた。
風もないのに揺れた前髪が詩乃の顔を半分だけ隠して、合間から見える焦げ茶色の瞳がその視線を盟絵の顔から少し下へ逸らした。
目を合わせて、それから逸らす。たったそれだけの動作が、今の二人の関係を表していた。
拒絶、というほどはっきりとしたものではない。
だが、どことなくよそよそしさというか、二人の間を阻む目には見えない透明な壁というかが、生まれていた。
その原因は――あらためて言うまでもないことだろうが、現在の二人が置かれた環境に起因していた。
目の前の相手と、殺しあえと言われているのだ。その絶対的命令が二人の態度に尖った硬さを作ったのだ。

――二人とも、相手を傷つけるつもりなど毛頭なかった。
相手を、愛しているのだ。傷つけることよりも、優しく触れることを選びたい。冷たさよりも、暖かさを求めたい。
初めて出会って、いつの間にか二人は一緒にいることを選んで、自然に手を繋ぎ、心を繋ぎ、身体を繋いだ。

この島に、連れてこられるまで。
始業の十分前までベッドシーツと人肌の温もりに包まれて惰眠を貪る心地よさは何物にも代えがたい快楽だった。
この時間がずっと続けばどれだけ幸せだろうと、そんな囁きが盟絵の唇から詩乃の耳元へと、殆どゼロ距離の移動をする。
詩乃の口から、ん、と漏れた吐息が盟絵の頬を撫でて、そのとき二人は身体だけでなく心まで一つになっていた。

自分たちがこの世界の中で異質な存在であるということは理解していた。
口さがない級友たちが彼女たちのことを陰でなんと呼んでいるのか、知っていた。
知っていながら知らないふりをして、あからさまに辱めの言葉をかけられても耳を塞いでいた。
聞こえていても、なんでもないようなふりをして強がっていた。
片手で愛おしい人の手を握りしめながら、もう片方の手で敵に手を上げるような。
そんな歪な生き方を、ずっと出来ると、しようと思っていた。

でも、それが――もう叶わない夢物語になってしまったということは、首に巻かれた鉄の爆弾が示している。
二人だけの世界に浸って生きていくことは、もう出来なくなってしまった。
いや、そもそも。
こんな悪趣味な催しに招かれようが招かれまいが、いずれにしたところで二人の世界はいずれ破綻を迎えていたのかもしれないけれども。

けれどもとにかく、二人が考えていたよりもずっと早く、決断の時は来てしまった。
二人はここで選ばなければならない。
これからのことを。二人のことを。自分と、相手のことを。

葦切詩乃は人魚姫だから、言葉を話せば消えてしまう身だから、彼女は意思を伝えるとき、言葉を用いない。
今までそうやってきたように、今もまた詩乃は身振り手振りと表情で、盟絵とコミュニケーションする。
言葉に出来ない思いは具体的な形を持たず、おおまかな、だいたいのニュアンスだけしか伝わらない。
甲斐盟絵は、そんな彼女を誰よりも理解出来ているんだと自負していた。
言葉にはならない想いは自分の中にもあるんだから、詩乃の思いも自分のそれと同じなのだと思っていた。
だけどそれは、自分の思い上がりだったのではないか――
この殺し合いの中で再会できて、笑った盟絵と目を伏せた詩乃の態度の違いが、盟絵にそう思わせた。

「詩乃は――これから、どうしたい?」

276この世の果てで恋を唄った少女 ◆7VvSZc3DiQ:2013/02/09(土) 15:11:42 ID:O2pU/tH20
盟絵の胸の中には、ちりちりとした違和感があった。
本当に――私達が見てきたものは、同じものだったのかしら。
二人、同じ方向を向いていながら、見ていたものはまったく違っていたんじゃないのか?
疑念をぐっと胸の中で押し殺して、盟絵は問う。あなたはいったいどうしたいの?

「私は、あなたと一緒にいたい」

一緒になりたい。

「だけどあなたは、どうしたい?」

詩乃は――当たり前のように、何も言葉を返さない。
少し前まで顔を見れば簡単に分かっていたはずの詩乃の本心が、今はまるでわからない。
言葉が――欲しかった。安心させてくれる言葉が欲しかった。
温もりだけでは足りなかった。柔らかさでも、足りなかった。
しっかりと盟絵を納得させてくれるだけの論理が欲しい。

だけど、その願望を口には出来なかった。
それをはっきりと口にしてしまうことがどれだけ残酷なことなのか、盟絵は知っていたからだ。

不安が連鎖して、積み重なって、思考を汚していく。
曇った眼から雫がこぼれてしまう。ささくれだった心を露わにしてしまう。
歪められた想いが、大きくなっていく。

ふるふると首を横に振って、逸る盟絵を落ち着かせようとする詩乃。
しかし今ではそれも、盟絵の神経を逆撫でする効果しか生まない。
癇癪を起こした盟絵が、乱暴に詩乃の手を払いのける。

嫌だ、だの、辛い、だの、そんな泣き言が盟絵の口から飛び出した。
だがそれは、行く先もなく宙に消える。それは決して、詩乃に向けられた言葉ではなかった。
どうしようもない世界に。どうしようもない現実に。どうしようもない自分自身に向けた言葉だった。

吐き出したかった。
強がりは、そのまま弱さだったんだってことを。
弱いから嫌なものに背を向けて、二人だけの世界を作ろうとしていたんだということを。
強ければ詩乃と一緒に世界と向き合えた。
それが出来なかった私は、やっぱり弱くて――だから詩乃に辛い思いをさせていたんだってことを、認めたくなくて。
辛いのは私のせいじゃなくて世界のせいなんだと言い訳をしてきた。

ふらふらと世界の端を彷徨い歩いて、どこまでも続く闇の中で詩乃と二人、手を握っていた。
薄氷の上を歩いて、通った端から足元が割れて崩れていくから、端へ端へと逃げ続けた。
その、どん詰まりが――ここだった。ここに行き着いた。
二人で向かっていた先とは違う。こんなところを目指して歩いてきたわけじゃない。
いつか昇る朝日へ向かって歩いていたはずなのに、気づいたら沈む夕陽を目にしていたような、そんな唐突で考えもしていなかった終点。
だけどここは、二人が目指していたところとは違っていても、やはり世界の端だった。

終わりが――見えてしまった。
終わることを知ってしまった。

277この世の果てで恋を唄った少女 ◆7VvSZc3DiQ:2013/02/09(土) 15:12:13 ID:O2pU/tH20
盟絵が抱えた絶望。それを知ってか知らずか、詩乃は自身に支給されたアイテムを取り出し、盟絵に渡す。
手のひらに収まるサイズの小さな天秤だった。鵬法璽(エンノモス・アエトスフラーギス)――絶対遵守の魔法具。
古めかしい細工が施されたそれは、女子高生が持つよりも怪しげな古道具屋の老主人が持つほうがよほど絵になりそうだ。
天秤と、それに付属する説明文。両方を熟読して――盟絵は、どうして詩乃がこれを自分に渡したのかを、考えた。
考えて、考えて、考えた末に――盟絵は一つの答えを見つける。それが合っているのか知りたくて、彼女はそれを口にする。

「これで――私を安心させたいの?」

絶対遵守を謳うこの魔法具が真実ならば。盟絵が契約を持ちかけ、詩乃がそれに頷くだけで、二人の結びつきは絶対のものになる。
盟絵が今感じている不安は、消える。詩乃に抱きかけていた不信と共に、綺麗さっぱり消えてしまう。
しかし――だけど。
そんな形でしか、二人は――
吐き出しかけたそれを、寸前で飲み込んだ。
言ってしまえば、それが決定的なものになってしまいそうだったから。
ほとんど終わりかけていることに気付きながら、それでもまだ――最後まで、信じていたかった。

「詩乃。……終わりにしよう」

ハッとした顔で、詩乃は盟絵と目を合わせた。
ああ、綺麗な目をしているな、と盟絵は思った。
今まで何度も目を合わせてきたけれど、もしかして今まで一番、純粋な気持ちで詩乃を見ることが出来ているかもしれない。

「詩乃……何も言わずに、私が言うことに頷いて」

ずるい。詩乃が何も言えないことを知っているのに。

「私を、この銃で殺しなさい」

278この世の果てで恋を唄った少女 ◆7VvSZc3DiQ:2013/02/09(土) 15:12:50 ID:O2pU/tH20
盟絵は自身に支給されていた拳銃を、詩乃にそっと手渡した。
詩乃は――頷かない。首を横に振るだけだ。
知っていた。詩乃は決して、頷いてくれない子だと。
手渡した銃を、もう一度詩乃から受け取る。

「詩乃が撃たないなら、私が自分で撃つわ」

生まれて初めて握った拳銃を、こめかみに当てた。
安全装置の外し方くらいは、女子高生でも持っている知識だ。
あとは引き金を引くだけで、一つの命が潰えてしまう。

「でも、私は――終わりにするなら、詩乃に終わらせて欲しいの」

つ、と雫が頬を伝わった。
私は今、終わろうとしている。だけどこの涙は、私という存在が終わってしまうから流れているのではない。
こんな卑怯な手を使ってまで詩乃を縛ろうとしている自分が、嫌で嫌でたまらないからだった。
自分が嫌いで――死んでしまいたくて――しかも、死ぬそのときまで詩乃を縛ろうとしているのが、尚更厭だ。

「頷いて。でないと、今すぐこの引き金を引くわ」

もはやただの脅迫だ。だがしかし、こうすれば詩乃は――頷いてくれる。
こくん、と震えながら詩乃が首を縦に振ったのを見て、盟絵は拳銃を再び手渡した。

詩乃にそんな気はないのだろう。その表情は、怯えに満ちていた。
しかしその手に握られた銃は、まっすぐに盟絵の頭へと向けられている。
あの天秤は、本当に魔法の道具だった。
だったら――もう少しいいことに使ってから死ねば良かったかなぁと、そんな気の抜けた考えが今更浮かんできて、盟絵は少し笑う。

詩乃の抵抗も虚しく、引き金は――引かれた。

ぱん、と乾いた音が周囲に響き、薬莢が地面に落ちてからんと音を立てる。
盟絵の頭を目掛けて放たれた銃弾は――しかし、盟絵の腹部を貫通するだけに終わった。
詩乃の抵抗が寸前の所で功を奏し、狙いが下に逸れたのだ。
だから盟絵は、まだ生きている。だが血は流れ、痛みと熱は銃創から溢れてくる。
耐え難い苦痛が盟絵を襲うが、叫びを上げるのを必死に堪え、もう一度撃つように詩乃に促した。

「……苦しいのは嫌だから、次はちゃんと頭を狙ってね」

今度こそ、終わりにしてもらおう。ここで、私と世界を、終わりにしよう。
静かにまぶたを閉じた。さようなら、詩乃。
私と一緒にいてくれて、ありがとう。あなたがいてくれて、たくさんの愛を感じられて、私は幸せだった。
あなたと一緒にいて、苦しいことや辛いこと、悲しいこともたくさんあったけれど――それでも、あなたに出会えてよかった。

「――盟絵」

279この世の果てで恋を唄った少女 ◆7VvSZc3DiQ:2013/02/09(土) 15:13:22 ID:O2pU/tH20

――最初は空耳かと思った。何故ならそれは、今まで何度も想像しながら、決して聞いたことがなかった声だったからだ。

「――今まで、名前呼んであげられなくて、ごめんね」

――間違いなかった。この声は――詩乃の声だ。

「もっと、いっぱい呼んであげたかった。盟絵が私の名前を呼んでくれるたびに、そう思ってた」

「……詩乃」

「盟絵、盟絵、盟絵。――何千回も、何万回も、ずっと心のなかで呼んでたよ。
 盟絵は知らなかっただろうけど――私が喋っちゃうと、魔法が解けちゃうから。
 一緒に、いられなくなっちゃうから。ずっと、ずっと我慢してた。
 ……でももう、我慢しなくてもいいよね? 何度だって呼んでも、いいよね?」

「……うた、の」

「盟絵……盟絵。盟絵。やめて。私に撃たせないで。嫌なの。もっと一緒に過ごしたかった。
 盟絵となら、世界に二人きりでも良かった。……よかったんだよ」

――二人とも、同じ想いを抱えていたのに。

詩乃の身体が、光に包まれていく。魔法が解ける時間が来たのだ。
つまさきから、だんだんと光に変わっていく。
――魔法は、最初からここに在ったのだ。それが盟絵と詩乃を結びつけていたことを、盟絵は知らなかった。

しかし既に――もう一つの魔法は、止まりはしなかった。絶対遵守の魔法具が、詩乃を縛り上げている。
銃口は震えていても、今度こそ盟絵の頭から狙いをそらしはしない。
詩乃の抵抗も、もう限界だった。少しでも気を緩めればすぐにでも銃弾が盟絵の頭を貫くだろう。

もう、時間はない。盟絵が撃たれるのが先か、詩乃が消えてしまうのが先か。
もう一分もしないうちに、全ての決着はついてしまう。


でも
その前に、やりたいことが出来てしまった。

一歩ずつ、詩乃を刺激しないようにそろりそろりと近づく。
あと四歩の距離。歩けばすぐだが、じりじりと近づいていくには遠く感じる。

――私が間違えなければ、もう少し一緒にいられたのかな?

そんな、今更考えたところでどうしようもないことが浮かんでくる。
本当に、どうしようもない。
そもそも、それを言うならば――もっと早い段階から、私は間違っていた。
私が間違えなければ、詩乃と世界に二人きりだなんて拗ねたことを言わずに、二人とみんなで一緒に歩いていけたのかもしれない。
そう。内藤さんと藩田さんのように、私たちに対して何も思わないような人もいたのだから。

さらに二歩分、距離を詰める。もう、手を伸ばせば触れられる距離だ。
だけど――私がやりたいことは、この距離でもまだ届かない。

もし、もう少しだけ素直になれていたのなら。
詩乃に悲しい顔をさせることもなく、笑えてたのかな。
分からない。もう血が抜けて、ぼうっとしてしまった頭では、そんなことも考えられない。
どくどくと血が流れているはずなのに、もうその感覚すらなくなっていた。
あれだけ感じていたはずの痛みも、熱さも、消えてしまっていた。

あと一歩。あと一歩だけ近づけたら。
――あ。詩乃の指が動いている。やけにスローモーションだ。
こちらを向いていた銃口が、光った。
どん、という衝撃。視界が勝手に上を向く。
私が最後に見た光景は、月も見えない真っ暗な空。

――あーあ、間に合わなかったか。

――最後に、キスをする時間くらい、あったっていいと思ったのに。

280この世の果てで恋を唄った少女 ◆7VvSZc3DiQ:2013/02/09(土) 15:13:42 ID:O2pU/tH20
 ◇

もう、誰もいない。
甲斐盟絵は己の間違いに気付きながら、未練を残しながら、逝った。
葦切詩乃は引き金を引いたあと、誰にも看取られることのないまま消えた。
残ったのは一つの銃と一つの天秤と、一つの死体。
他には何も、想いも言葉も、残りはしなかった。


【甲斐盟絵@少女セクト 死亡】
【葦切詩乃@少女セクト 消滅】

281 ◆7VvSZc3DiQ:2013/02/09(土) 15:15:09 ID:O2pU/tH20
以上で投下終了です
また、投下時にはトリップを付けてなかったのですが>>269-272も私なので、なにか問題がありましたら御指摘お願いします

282名無しさん:2013/02/09(土) 22:40:06 ID:lVoYdjtM0
投下乙です

ルール的には没にはなるがいい雰囲気出ててよかったです

283名無しさん:2013/02/09(土) 22:41:37 ID:rW0k/qQI0
うおおおおおお、投下乙です!
そうか、こんなストーリーがあったうえで、二人は死んだのか……
個人的には、補完話の類として、こーいうの全然ありなんだけどねえ。

284 ◆1TQQQ1RPaQ:2013/02/21(木) 06:01:17 ID:jP.b796U0
投下します

285だっていつも会うあの子はさ  ◆1TQQQ1RPaQ:2013/02/21(木) 06:03:05 ID:jP.b796U0

木が無造作に立ち並んでいた。森なんだから当たり前だ。
短時間でそれなりの距離を歩いてきた私は自分の脈拍を確かめる、異常なし。いつもの殺し屋。
私があいつと森に来たことは何度あったかな。
もう、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいだ。
足は動く、手だっていつも通り。
呼吸は? 殺し屋なんだ。こんなくらいで乱れるもんか。

木の葉が幾重にも重なって、月の灯を遮ってしまう。
それでも、問題ない。私は既に獲物を見つけた。
隠れる必要はない。銃を構えて、静かに、狙い定めて。
吐く息は音を伝えない。冷静な心は訓練された技術を簡単にレールに載せた。

地面に敷かれた落ち葉の絨毯。
くしゃりとくしゃりと踏み砕かれれば私の鼓膜が標的の情報を教えてくれる。
相手の顔は見えなくても、相手がどんな奴かわからなくても。
今、前を歩いている奴の背丈くらいは判断できる。
やすなじゃない。それだけは確かだ。じゃあ、もしもやすなだったら?
死者を蘇らせるかどうかなんてわからない。
でも、仮にそうだとすれば、私はやすなを殺す?

引き金を引けば発砲音が辺りを賑わせて、命の水が胸から吹き出てきた。
私の知らない誰かはそのまま、倒れ伏して二度と動かない。
気配を殺したまま、私は物言わぬ亡骸の側に落ちていた荷物を拾って。
薄く開かれたままの瞼を閉じてやるか少しだけ迷った。

私は死体に手を触れないまま、その場を後にした。
誰だって標的だ。標的に情けをかける殺し屋はいない。
尊厳だって保証してやることはない。
いつも、そうやってきた。だから、私はいつも通り殺せる。

やすなを殺せるかなんてわからない。
あんな奴、ただのうるさくて鬱陶しいだけのボンクラだ。
私との関係なんてただの同級生だ。

でも、ひとつだけ――

――ひとつだけ確かに言えることがある。
やすなは私のことを知っても絶対に離れようとしてくれない。
何べん殴ったって、何度馬鹿にしたって、明日には私の後ろにいるんだ。

ならさ、もういいだろ。やすなはそんな奴なんだ。
あいつが私の何だろうと、私がいくら汚れてもやすなはいるんだ。
私は傷一つ無い体で次の標的を探しに行った。


【知らない誰か 死亡確認】

286だっていつも会うあの子はさ  ◆1TQQQ1RPaQ:2013/02/21(木) 06:03:59 ID:jP.b796U0


【一日目・深夜】
【D−05】

【ソーニャ@キルミーベイベー】
【状態】おしりがいたい……
【装備】ドリルアーム@アイドルマスター、ドリルで砕いた土管の欠片
【所持品】基本支給品
【思考・状況】
1.たくさん殺して優勝する
2.私は、やすなを――――
【備考】
※ネギ@魔法先生ネギま!とぬるぬる君X@魔法先生ネギま!の空容器が明石裕奈と那波千鶴の死体の傍に放置されています
※死者が誰かは後続にお任せします

287 ◆1TQQQ1RPaQ:2013/02/21(木) 06:04:15 ID:jP.b796U0
短いですが投下終了

288名無しさん:2013/02/24(日) 19:24:12 ID:yGQnNMcY0
投下乙です

>――ひとつだけ確かに言えることがある。
>やすなは私のことを知っても絶対に離れようとしてくれない。
>何べん殴ったって、何度馬鹿にしたって、明日には私の後ろにいるんだ。

極端な方向に走っていく関係が多い中、「これ」なソーニャ
二人、会うことはあるのかなぁ……

289 ◆7VvSZc3DiQ:2014/01/14(火) 23:31:13 ID:.YchIbtk0
投下します

290 ◆7VvSZc3DiQ:2014/01/14(火) 23:31:39 ID:.YchIbtk0
ぶっちゃけ訳が分からなくて、何をすればいいのか考えるのも面倒だった。
だから欲求に任せて、湯船に飛び込んだのだった。ざっぱーん。

「あ〜、生き返るぅ……」

地図でいうところのB-1――島の西側に位置する温泉で、一人湯船に浸かっている少女の名は釘宮円。
麻帆良学園中等部3-A、出席番号11番。チアリーディング部に所属していて同じくチア部の椎名桜子や柿崎美砂と仲がいい。
これに和泉亜子も加えた四人で、でこぴんロケットという学生バンドを組んでいたりもする。
短く切り揃えられた黒髪とスレンダーな身体つきが相まって、中性的な外見をしていると評されることも多い。
デタラメな人物揃いな麻帆良学園の中では、至って普通の、一般的な生徒として日々を過ごしていた。

しかし、当たり前の日常というものは、あれよあれよという間に壊れてしまったようだった。
のんびり温泉に浸かっているために、イマイチ実感は湧いていないけれど。
真っ裸になった今でも、唯一外せず身に着けたままのそれが、円の不安を煽っていた。

「どこまで本気なんだろうね、これって」

コツン、と軽く表面を叩いてみる。
鈍色をした首輪は、装着者である円自身にはよく見えない。
思いっきり顎を引いて視線を下に向ければ、どうにか視界の隅に鉄の色が見えるといったくらいだ。

「まー、さっき脱衣所で飽きるほど見ちゃったんだけどさ」

しかしいくら見たところで、この首輪を外せそうな隙は見えなかった。
ぴったりと接合されたそれは、専用の工具なり何なりがないと外せそうにない。

「119番に電話したらレスキュー隊がどうにかしてくんないかな……」

無理。電話が繋がらないことは確認済みだった。
円は深くため息をついて、まぶたを閉じて、ゆっくりと肩まで湯に浸かった。
温かさが身体に染み渡る。あ、ダメだ。なんか泣きそう。
どうしてうら若き乙女が殺し合いなんかしなくちゃいけないんだバカヤローと思いっきり泣き叫びたかった。
でも一度泣きだしたら止まりそうになかったので、ぐっとまぶたに力を込めて、少しだけ漏れた涙もばちゃばちゃと大げさな動作で顔を濡らして誤魔化した。

「……あがろ」

円だって、風呂に入るのが一種の現実逃避だということには気付いている。
いつまでもここでのんびりしていられない。
何をすればいいのか分からないけれど、ぼんやり待ってたところで状況は好転しないということくらいは分かる。
どうにかして外部と連絡を取れれば、助けが来てくれるかもしれない。
まずは自分に出来ることをやる。泣き言を言うのはそれからだ。
ぱしんと頬を叩いて、気合を入れ直す。

――と、そこで円の耳に何かの音が聞こえてきた。

「……ん?」

思わず身体が固まる。胸の動悸が早まって、頭の中できーんとヘンな音が鳴り始めた。

(うわっ、もしかしてこれって他の人が来たってこと?
 どうしよ私素っ裸なんだけど……ハズレっぽいのしか入ってなかったからってリュック置いてきたの失敗?
 襲ってきたらどうしよう、ばばっと逃げて服掴んで裸のまんま逃げるしかないかなーあーほんとどうすりゃいいんだろこれ)

ばばばっと頭の中を色んな思考が駆け巡って、しかしどれもまとまらず、結果として円は温泉と脱衣所を隔つガラス戸の真ん前で硬直した。
そして、がらりと戸が開いた。

291 ◆7VvSZc3DiQ:2014/01/14(火) 23:32:26 ID:.YchIbtk0
相手の姿を見た円は、一拍置いて全身の力を抜いた。いや、勝手に抜けた。
多分殺し合いに乗った相手なんかじゃないだろう。なんせ、相手も全裸になっていたからだ。
殺し合いをしようっていうときに全裸になる人なんていないと思うし。
あとなんか、すっごい驚いてる。陸に揚げられた魚みたいに口をパクパクさせてる。

ファーストコンタクトさえ失敗しなければどうにかなるんじゃないかという確信があった。
ただまぁ、誰かと会うだろうことは予想してたけどこんなに早く出会うなんて思ってもなかったし、何話せばいいかなんてすぐには思いつかない。
なので、手短に、緊急を要する事柄だけをとりあえず伝える。

「あの……すみません、腰が抜けたみたいだから手を貸してくれません……?」

ぺたりと座り込んでしまっていた自分の手をすぐに取ってくれた彼女を見て、ああ、この子はきっといい子なんだろうなぁと、円はそう思った。

 ◇

「あー、なるほど。じゃあ春香さんも何が起きてるのかイマイチ分かってないんですね」

なんだかんだの流れで、円も再び湯船に浸かることになっていた。
湯船に浸かりながらお互いの話したいこと、聞きたいことを喋り尽くそうというよくわからない流れだったが、特に反対する理由もなくそのままお風呂にUターン。
天海春香と名乗った少女と、肩を並べていい湯を楽しんでいる。

話してみて、それで分かったことといえば、二人とも何も分かっていないということくらいだった。
ここがどこなのかも、いったいどうしてこんなことに巻き込まれてしまったのかも、全然分からない。

「うーん、私はドッキリか何かじゃないかなーって思ってるんだけど……円ちゃん、ホントに仕掛け役とかじゃないの?」
「残念ながら。ドッキリだったらいいんですけどねー……それにしては、春香さんと私の共通項がなさ過ぎて」
「……ホントに殺し合い……とまではいかなくても喧嘩や殴り合いが始まってしまったときに止めてくれるようなスタッフさんもいないし」
「それにいくらドッキリっていっても、事前に予定なんかの調整はありそうですしね」
「そうなんだよね……私はこの二三日はオフの予定だったんだけど。おかしいなぁ……」

そう言って首を傾げる春香は、アイドルとして活動中なのだという。
アイドルならドッキリ番組の可能性もあるんじゃないかと考えた円の意見を、春香は否定した。
ドッキリだとしても最低限の決まりごとは存在する。それすらもない今回の事態は、はっきり言って異常だという。

「じゃあ……本物だって言うんですか? この首輪も。……あの、爆発も」

そう言った円の声は震えていた。
教室で飛び散った血。そして生まれた死体。
もしもこの催しが何かの冗談じゃないとすれば……次に死体になるのが自分であっても、なんらおかしくはない。
春香を前にして和らいでいた円の中の恐怖心が、浮かんできた悪夢のような妄想に、再度騒ぎ始めた。

「落ち着いて、円ちゃん」

震えていた円の肩に、春香はそっと手を置いた。

「もしかしたら、本当に私たち、大変なことに巻き込まれてるのかもしれない。
 でも、だからこそ慌てたり怖がってたりしたらダメだと思うんだよね」

そう言って、春香は微笑んだ。

「なんで……春香さんは、笑えるんですか?」
「えーっと、それはね……アイドルだから、かな?」

春香は円をそっと抱き寄せて、言葉を続けた。

「アイドルってね、アイドル一人だけじゃアイドルじゃいられないの。
 ファンのみんなが喜んでくれるから、アイドルはアイドルになれる。
 だから私は笑うの。みんなに喜んでいてほしいから」

春香はにっこりと笑いながら、未だ震えの止まらない円に優しく言った。
春香の言葉を聞いた円は、少し下を向いたあと――そのままばちゃんと、湯船に顔を突っ込んだ。

292 ◆7VvSZc3DiQ:2014/01/14(火) 23:32:45 ID:.YchIbtk0
「あ、あれっ!? 円ちゃんいったいどうしたの!?」
「――ぷはぁっ!」

顔をあげて、大きく息を吸った円は開口一番こう告げた。

「……私、春香さんのファンになります!」
「えっ、いきなりっ!? あ、でも、ありがとうございますっ!」
「チア部だからっ! 応援っ! 得意なんでっ!」
「はい、ありがとうございますっ! 天海春香、アイドル活動がんばりますっ!」
「…………ぷ」
「……あはは」

なんだか急におかしくなってきて、二人揃って笑い始めてしまった。

 ◇

存分に温泉を堪能した二人は、ひとまず湯から出ることにした。
目下の目的は、他の人たちと合流することだ。最初に集められた教室では、少なくとも数十人の人間がいた。
多くの人間で徒党を組むことが出来ればその分危険もなくなるはずだ、というのが二人の共通した見解だった。

「それじゃ円ちゃん、行こうか」
「はい、春香さん」

先は見えない。自分たちの身に何が起こっているのかすらはっきりと分かっていない。
だけどせめて、みんなが笑っていられるように。
そう思いながら、二人は温泉を後にした。



【B-1/温泉】

【釘宮円@魔法先生ネギま!】
【状態】 健康
【装備】 なし
【所持品】 基本支給品、不明支給品1〜2
【思考・状況】
1.春香についていく

【天海春香@THE IDOLM@STER】
【状態】 健康
【装備】 なし
【所持品】 基本支給品、不明支給品1〜2
【思考・状況】
1.みんなを笑顔にする


 ◆

――釘宮円は、天海春香に対して秘密を隠していた。
まったくの心当たりがないわけでは、なかった。
この異常事態の鍵を握っている人物の片割れ――自分たちをここに送り込んだ二人のうち一人は、円のよく知っている人物だった。
超鈴音。同じクラスの、天才少女。
だが、どうして超が殺し合いなんか開くのか、その理由はさっぱり分からない。
どうして春香に対して黙っていたのかといえば――怖かったからだ。
自分が殺し合いに加担している人間だと思われたくなかったからだ。嫌われたく――なかったからだ。
秘密を隠して、円は春香の後ろを歩いていく。
いつでも笑顔を絶やさない春香を、唯一無二の親友と重ねあわせながら。

293 ◆7VvSZc3DiQ:2014/01/14(火) 23:33:06 ID:.YchIbtk0
投下終了です

294 ◆7VvSZc3DiQ:2014/02/11(火) 11:28:40 ID:/Oe0Jxa60
投下します

295 ◆7VvSZc3DiQ:2014/02/11(火) 11:29:31 ID:/Oe0Jxa60
虫の鳴き声一つしない、風が葉を揺らす音一つしない、静かな、何の音もしない夜だった。
闇の中、彼女――ゲルトルート・バルクホルンは、戦友の身体を――生と熱が失われつつあるそれを、抱きしめていた。
エーリカ・ハルトマンが生前持ち合わせていた少女らしさは、もう残ってはいなかった。
死に至るほどの暴行を受けながらも傷ひとつ負っていない美しい顔。
あまりにも整ったその造形は、まるで完成された彫刻のようにすら感じられて――
その美しさは逆に、ハルトマンはもう生きてはいないただのモノになってしまったのだという事実を、バルクホルンに突きつけた。

――隣にいる誰かがいつか死んでしまうことに対して、覚悟はしていたつもりだった。

バルクホルンは魔女だ。エーリカも魔女で、同じ部隊に所属する仲間たちもみんな魔女で、みんな魔法が使える。戦う力を持っている。
ストライカーユニットを履き、銃火器を背負い、魔力を纏いながら人類に対して攻撃と侵攻を繰り返す化け物であるネウロイと、戦い続けている。
それは、紛れも無く戦争だった。
ネウロイとの戦線は次第に拡大し、戦争に携わる人員は増え続け、同時に死傷者の数も激増した。
バルクホルンと同じ部隊にも、国を捨てざるを得なかった者や愛する人を失った者がいた。
……バルクホルン自身、故郷と、愛する妹の両方を、失いかけた。
幸いにして妹は回復し、故郷カールスラントも部分的に奪還しつつある。
だが、これ以上失わせてはいけない。そう思って、バルクホルンは戦場を、空を駆け続けてきた。
人々の笑顔を守るために。

……だというのに、何なのだこれは。
ネウロイとは何の関係もないままに。
何の力も持たない、ただの少女に。
バルクホルンたち魔女が命を懸けて守ってきた存在に。
エーリカ・ハルトマンは、殺された。

無茶苦茶だった。信じられなかった。
バルクホルンの中にあった大切なものが、一斉にがらがらと崩れていった。
こんな仕打ちを受けるだなんて、私たちが今までやってきたことは何だったんだと――神に向かって毒づいた。
どうしてエーリカ・ハルトマンが殺されなければいけなかったんだと、いくら疑問を口にしたところで答える者などどこにもいない。
今ここで生きているのはゲルトルート・バルクホルンただ一人なのだから。

ふらりと、バルクホルンは立ち上がった。
ハルトマンは、二人がかりで殺された。その内の一人は、ここで死んでいる。
だが、もう一人はどこかへ逃げ出した。
見つけなければいけないと、バルクホルンは思った。

見つけてどうするのか、バルクホルンは決めていない。
どうしてハルトマンを殺したのか問い質すのか? ハルトマンを殺した罪を償わさせるのか?
軍人として、少女を保護するのか? 親友を殺された一人の人間として、私怨を晴らすのか?
……決めていない。決めないことに決めた。
見つけたときの感情と理性に、任せることにしたのだ。

力なく垂れるハルトマンの身体を、バルクホルンは背負った。
ハルトマンの遺体をこのまま置いていくことは出来なかった。
小柄なハルトマンの身体なら、怪力の能力を持つバルクホルンにとっては大した負担にはならない。

「軽い……な……」

ただのモノとなってしまった死体は、生きていたときに比べて重く感じるものだ。
だが、ハルトマンの身体は、それでも軽かった。
思い出す。事あるごとに怠慢の気を出していた、ハルトマンのことを。

『え〜、トゥルーデ、おんぶしてよおんぶ〜』

思えばハルトマンの懇願を、叶えてやったことはなかったかもしれない。
カールスラント軍人の規範から大きく外れたハルトマンの態度に檄を飛ばすばかりの毎日だった。

「一度くらい……言うことを聞いてやってもよかったかもしれないな……」

ぽつりと漏れたバルクホルンの独り言を、聞いた者はいなかった。

296 ◆7VvSZc3DiQ:2014/02/11(火) 11:30:01 ID:/Oe0Jxa60
 ◇

『トゥルーデはさー』

『うん? なんだハルトマン』

『ほんっと姉バカだよねー』

『なっ、なななないきなりなにを言うんだ!? 私のどこが姉バカだとっ……!』

『あ、宮藤』

『なにッ!? ……って、いないじゃないか』

『あはは、こーんな見え見えの嘘に引っかかってくれるから、トゥルーデって面白いよね』

『ハールートーマーンー! まったく、お前はどうしていつもそうなんだ』

『お前にはカールスラント軍人としての心構えが足りん! でしょ? もう聞き飽きたよー』

『分かっているならそれらしくしろ! だいたいだな、お前がいつまでもしっかりしないから私がこうやって私生活まで面倒を見ることに……』

『いつもありがとね、お姉ちゃん♪』

『……そうやって誤魔化そうとしても無駄だぞ』

『うーん、宮藤がお姉ちゃんって呼んだらゼッタイそんな態度取らないだろうになぁ』

『当たり前だ。どうしてお前にお姉ちゃんと呼ばれなきゃならんのだ』

『そんなに私って妹っぽくない? 結構庇護欲唆ると思ってるんだけど』

『むしろお前こそ姉だろう』

『あー、ウルスラのこと? まー確かに私もお姉ちゃんなんだけどさ』

『まったく、少しは姉らしく妹の見本になるように心がけてみろ』

『あーあ、トゥルーデったらつまんないの。私のこと全然わかってくれないー』

『こっちこそお前の考えがこれっぽっちもわからない。いったい私にどうしろと言うんだ?』

『私のこと、妹だと思って甘やかしてよ』

『断固断る』

『えー、そんなー』

『いいかハルトマン。私はな、お前のことを妹だと思ったことは一度もない』

『えぇー……なんでそんなテンション下がることを……』

『いいから最後まで話を聞け。私にとってお前は、背中を預けられる戦友(とも)だ。
 階級こそ違うが、私とお前は対等な立場だと思っている。だからこそ妹扱いなど出来ないのだ。
 ……ん? どうしたハルトマン、なんでそんなに嬉しそうなんだ?』

『えへへ。だって嬉しいんだもん』

『まったく、変なやつだなお前も……』

『大好きだよ、トゥルーデ』

297 ◆7VvSZc3DiQ:2014/02/11(火) 11:30:20 ID:/Oe0Jxa60
 ◇

かつての会話を思い出しながら、バルクホルンはハルトマンを背負って歩き、そしてとある場所まで辿り着いて、その足を止めた。
崖の上だった。いったい何が原因でこんな地形が生まれたのだろうか。
舗装も手摺もない自然のままのそれは相当な高さを有していて、下には巨岩がごろごろしている。
もしも注意散漫なまま夜闇を歩いていたならば、足を滑らせて下まで真っ逆さまに落ちていた可能性も少なくはない。
実際、既に、そんな運命を辿ってしまった少女が、ぴくりとも動かずに、倒れていた。

――完敗だ、と思った。
『生きているやつだけが勝者で、死んだやつはみんな敗者だ』
戦火の中、幾度と無くこんな言葉が交わされた。だから何としてでも生き残れと、そんな意味を込めた言葉だった。
それは嘘だったと、たった今気付いた。
バルクホルンはまだ生きている。だけど、間違いなく――勝者ではなく、敗者だった。
どうしようもなく、負けていた。

下で倒れている少女の服に見覚えがあった。あれは――ハルトマンを襲った二人が着ていた制服だ。
顔こそここからでは見えないが、背格好や髪型も一致している。
しかし、手足がありえない方向に曲がっている。少女の身体からは、何か――そう、血のような何か――が溢れ、巨岩を濡らしている。
誰がどう見たところで、この状況はこのように判断されるだろう。
『少女はここから足を滑らせて落下し、岩に全身を強く叩きつけられてそのまま絶命した』のだと。

感情も理性も、一瞬で霧散してしまった。やり場がなくなったのだからしょうがない。
渇いた笑いすら漏れてきそうだった。
しかし実際には顔面の筋肉は一切機能せず、無表情のままだった。
全身から力が抜けていくのが分かる。少しでも気を緩めれば、その場に崩れ落ちていただろう。
だがバルクホルンは僅かに残った気力を以って、なんとか二つの足で己の身体を支えていた。
ここで膝を突けば、もう二度と立ち上がれない気がしたから。

じっと、少女の亡骸を見つめた。
バルクホルンは、どうしようもなく負けている――だったら、死んだ彼女は、勝ったと言えるのだろうか?
言えないだろう。死んだ人間に、その先はない。
エーリカも、バルクホルンが捻り殺した少女も、崖下で絶命している少女も、みんな等しく負けている。
こんな馬鹿げた殺し合いに巻き込まれた全員が、勝者のいない争いを強制されている。

 ◇

バルクホルンは、踵を返して崖に背を向けた。
これ以上少女の死体を見ていたところで、何も変わりはしない、始まりもしない。
何より、ずっと見つめていると――そのまま自分まで崖下へ吸い込まれるかのような錯覚に陥りそうだった。
それは、甘美な誘惑だった。
全てを投げ出してしまえば、どれだけ楽になれるだろうか。
苦しみも悲しみもないままに、永遠の平穏が手に入れられるような気がした。
だがバルクホルンは、自分がそんな選択肢を選べないということは重々承知していた。
魔女として目覚めたあの日から――故郷と妹を守ると決めたあの日から――バルクホルンは、戦い続けてきた。

今さら生き方は、変えられない。
だからここでも彼女は、戦い続けるだろう。
精神を擦り減らし、痛みを抱えながら、それでも守りたい人々が笑えるように、武器を手に取るだろう。
――衝動に身を任せて一人の無力な少女を捻り殺してしまったその手で、誰かを救おうと必死に足掻くのだろう。



【一日目・黎明】
【B-2/崖近辺】

【ゲルトルート・バルクホルン@ストライクウィッチーズ】
【状態】健康、精神疲労(大)、返り血で全身血塗れ
【装備】なし
【所持品】基本支給品、ランダム支給品0〜2
【思考・状況】
1.…………
2.501の皆に会いたい……あの瞳を見たい

298 ◆7VvSZc3DiQ:2014/02/11(火) 11:30:39 ID:/Oe0Jxa60
投下終了です

299名無しさん:2014/02/20(木) 14:18:33 ID:LIreA2Jg0

遅ればせながら投下乙です!!

>>293
私も春香さんのファンになります!!
湯船できっちりサービスシーンも提供する春香さんはアイドルの鑑。
そうだよね、アイドルってそうなんだよね。
その笑顔を見続けるのが耐えられないというのを引き金に堕ちていった蒼い鳥と、
ある意味で対比が成り立っていて大変興味深い話だったです。春香さん is IDOL
最後に落としたちょっとした後ろめたさがどう繋がっていくのか楽しみです。


>>298
おおう……もうこのトゥルーデのやるせなさがもう。
前作とは違う、文章からにじみ出る寂寥感すげーいい仕事して、
トゥルーデの、渇いた笑顔さえも浮かべられない無表情が頭に浮かんできて辛い。
断章の二人の会話からなる、もう叶わない日常や、大好きの言葉が胸にドンドン突き刺さってくる。
宮藤も死んじゃったし、よりにもよって最後の心のよりどころである501の一員・リーネが宮藤殺しちゃったってなってるし、
どこまでも行き止まりなトゥルーデの明日はどっちだー……。
>――衝動に身を任せて一人の無力な少女を捻り殺してしまったその手で、誰かを救おうと必死に足掻くのだろう。
この一文が最高に痺れました! 改めて投下乙です!!

300 ◆7VvSZc3DiQ:2016/06/30(木) 22:41:27 ID:noDR0xos0
投下します

301 ◆7VvSZc3DiQ:2016/06/30(木) 22:41:50 ID:noDR0xos0
「先生っ……! せんせいっ!」

灯り一つすら無い埠頭の、乱雑に積まれた段ボール箱の陰。
そこから内藤桃子がいくら名前を呼んでも、地面に倒れ込んだままぴくりとも動かない隼砥教子からの返事は帰ってこなかった。
諦めの悪い「もしかしたら」という願望のような何かが桃子の中にはしぶとく残っていたけれど、どうやらそれもそろそろ音を上げそうだ。
認めなければならない。隼砥教子は、内藤桃子の目の前で――何処からか飛来した銃弾を頭に受けて、死んだ。物言わぬ骸となったのだ。
夜目にうっすらと見える水たまりのようなものは、水道の蛇口を思い切りよくひねったときのように勢いづいて噴出した血の溜まりで。
そこに浮かんでいる半固形の塊は、彼女の脳髄や頭蓋骨や血管や膜なんかの、とにかく頭部を構成するものがぐちゃぐちゃに撹拌されてぼとりと落ちたものなんだろう。
今が夜中でよかった。なんとなくの輪郭しか見えなくて、ぼんやりとしたイメージでしかそれが見えなかったから。

先生――ともう一度呼ぼうとして、桃子は寸前でそれを止めた。いくら桃子が名前を呼んでも、桃子の声が死んだ彼女に届くことは、もうないのだから。
それでも、理屈では理解していても抑えられない感情が身体の奥、心の底から溢れそうになって、声にならない声が、ぐぅと喉を鳴らした。
漏れそうになった嗚咽が誰にも聞こえないように、息が出来なくなるくらいの勢いで口と鼻を覆った。それでも零れ落ちそうになった呻きを歯を食いしばって堪えた。

もう、私の声が先生に届くことはない。それは断絶だった。生きている者と死んだ者を隔てる、どうしようもなく深い溝だった。
かつて先生が桃子のそばから離れていったあのときのそれとは、まるで違っていた。確かにあの別れも、それっきりになってしまった別れだったけれど。
お互いが望んだ別れではなかったのに、また会いたいと思っていたはずなのに、先生が遠い場所へ旅立ってしまったあとに交わした連絡なんて、殆どなかった。
もしもこの場所で再び出会うことがなければ、血を吐いて倒れた先生の姿と、遠い地で療養するという簡素な手紙が桃子と教子の最後になっていたかもしれない。

でも、違う。また会えるかもしれないという希望を抱いての別れと、もう会えないという絶望しかない別れは、同じ別れという単語で括ってしまうのが許せないほどに別物だ。
先生の下手な運転で少しばかりの遠出をして、うっかりカーナビの指示を聞き逃して全然知らない場所に行き着いた挙句、山の上のお城みたいなホテルで一夜を明かすなんてことも。
先生がはりきって振る舞ってくれた手料理は美味しいけれど、健啖家の桃子には量が全然足りなくて先生の分まで食べてしまってそれでも足りなくて、結局深夜にお腹をすかせた二人でラーメン屋ののれんをくぐるなんてことも。
柔らかいシーツにくるまれながら、先生の体温を直に感じて抱きしめ合って、身も心も一つになるような交わりをすることだって、もう二度とできないのだから。

隼砥先生がいなくなって生まれた大きな欠落。そこになだれ込むように溢れ出した感情。
自分の中で隼砥教子という存在がこれほど多くを占めていただなんて思わなかった。あのまま忘れてしまえる、思春期にありがちな一時の気の迷いなのかと思っていた。
身も心も切り裂かれるようなこんな感情が自分の中に眠っていただなんて。そんなものは自分とは無縁のものだと思っていたのに。
止まらない。狂いそうになる。大声で叫んで、走り回って、全部吐きだしてしまいたい。欲求は桃子の中で無尽蔵に膨らんでいった。

302 ◆7VvSZc3DiQ:2016/06/30(木) 22:42:43 ID:noDR0xos0
そうやって、自分の中のどうしようもない感情と必死に闘う一方で。頭の何処かでは、ひどく俯瞰的に状況を眺めながら思考を巡らせている自分がいた。
……ここはやはり、殺し合いを強制される場所だったのだ。隼砥教子の頭蓋を撃ち抜いた弾丸は、きっと他の参加者の誰かが放ったものだったのだろう。
いったいそれは、誰だったのか。桃子がこの場所に来て出会った人物は隼砥教子しかいなかった。他の参加者について、姿さえ見ることはなかった。
きっとあの弾丸を撃った参加者は、桃子と教子の二人を遠巻きに見つけて、接触しようなどとまったく考えずに、ただ殺すためだけに銃を向けてきたのだ。

最初に浮かんだのは、「どうして」という疑問だった。どうして殺し合いに乗ろうだなんて考えたのか。どうして隼砥先生を殺したのか。どうして桃子は殺されなかったのか。
頭の中で多くの「どうして」が浮かんでは、満足できる答えをもらえないまま霧散していく。桃子がいくら考えたところで、殺人者が何を考えていたのかなんてさっぱり分からなかった。
幾つか浮かんできた候補もあった。たとえばそれは、「恐怖」だった。死への恐怖という生命すべてが生まれ持った本能が、名前も顔も知らない彼女を殺人なんていう禁忌へと駆り立てたのかもしれない。

だが桃子にとって、それは「分からない」思考だった。推察できないという意味ではなく、理解ができない。理解したくない。
恐怖に怯えて他者を殺すというなら、その人物は殺される恐怖を誰よりも知っている人間のはずだ。なのに他者には、それを押し付ける。
対話すら放棄して、ただ死という結果だけを突きつけてくる。どれだけ独善的な人間だったら、そんなことができるのか。

思考が巡るにつれて、身体のほうも落ち着いてくる。溢れ出しそうだった感情は、必死に押さえつけていた蓋の隙間からだぼだぼと流れ出たのか許容範囲内に戻っていた。
だから余裕が生まれて、思考も次の段階に進むことができるようになった。身体も、動くようになった。
桃子が次に思ったことは、「確かめたい」だった。「どうして」の、答えが欲しい。ここでその答えを聞かなければ、ずっとここに置き去りにしてしまいそうな気がしたから。
もたれかかっていた段ボール箱に手をついた。身を守ってくれる盾になればと思って身を隠したそれは存外柔らかくて、桃子の体重が少しかかっただけでくにゃりと折れ曲がった。

「……こんなものに命預けようとしてたんだ、私は」

呟いて、桃子は立ち上がった。何のために? 確かめるために。

――今の桃子の状態を一言で言ってしまえば、「キレている」になるだろう。後先を考えずに無茶なことをやってしまう性格は自覚していた。今がまさにその状態だった。
確かめたいという欲求を満たすためだけに。桃子は立ち上がり、そして銃弾が飛来してきた方向へと歩き始めるのだから、普通の精神であるとは口が裂けても言えないだろう。
問答無用で人を殺した狙撃手は、危険で理解できない人間だとあれほど考えていたはずなのに、桃子は撃たれることなど意にも介さぬ様子で歩を進める。
撃たれることを想定していないわけではない。撃たれたならばそのときはそのとき。それが殺人者の考えなのだと、「確かめた」上で死んでやる。
死んで向こう側に行っても、隼砥先生がいるならそう悪くもないはずだと無茶苦茶な理屈で自分の行いに理由をつけながら。
胸を張って、真っ直ぐに。視線を上げて、凛として。立てば芍薬座れば牡丹――歩く姿は百合の花。その諺の通り、怖いもの知らずの乙女は進む。

しかし――予想に反して、殺人者の銃弾はいつまで経っても桃子めがけて飛んでくることはなかった。
桃子の接近に気付いていないのだろうか? いや、銃弾はこの暗闇の中でも見事に隼砥教子の頭部を貫いた。暗視スコープの類いを使っていると考えるのが自然だ。
だったら、もうここからいなくなった? その可能性は高かった。不意打ちによる認識外からのヘッドショットを決めたのだ。戦果としては上出来もいいところ。
優勝に一歩近づいたことに満足して、この場を立ち去る――いや、しかし。重なる逆接で、桃子は思考を深めていく。その間も、その足取りは止まらない。

狙撃手には、あそこに桃子と教子の二人がいたことがわかっていたはずだ。もう一人をみすみす見逃すだろうか? 自分が殺人者の立場になって考えれば、答えはノー。
できることならば二人とも殺して、支給品まで根こそぎ奪っていく。それが殺人者にとっての最善であり、それを為すことが可能な、一方的に殺戮可能な支給品も(おそらくは)所持している。
だったらやらない理由はない。少なくとも、隼砥先生の分の支給品だけでも回収してから他の目標を探すことにするだろう。それすらしないのは非合理そのものだ。

303 ◆7VvSZc3DiQ:2016/06/30(木) 22:43:08 ID:noDR0xos0
そこまで考えて、ふと気付く。――きっと、殺人者が桃子を撃たない理由に、合理的な理由なんかないのだ。
いや、そもそも。名前も知らない彼女にとっては、人を殺すこと自体に合理的な理由なんてなかったのかもしれない。人を殺せるだけの理由を見つけられる人間なんて、そうそういないだろうし。
だったら何故、内藤桃子は「どうして」と理由を求めているのか。

「だって、もしも理由すらなかったら……先生が死んじゃったことに、理由がなかったら……!」

「理由」がないということは、「意味」がないということに近い。あやふやな理由。曖昧な意味。あってもなくても構わない。どちらでもよかったんだ、と。
そんなものに先生が巻き込まれて、あっけなく死んで。桃子が言えなかった言葉は永遠に先生に届かないままで。伝えられなかった気持ちは宙ぶらりのままで。

「……そんなの、絶対に許せないじゃない」

隼砥教子の死を尊ぶつもりなんてない。けれど、だからといって、その死を無意味なものにしてしまうようことは絶対に認めない。
だから、確かめてやる。いったい何を考えて照準を合わせたのか、いったい何を思って引き金を引いたのか、その一切合切を聞き出してやる。
再度言おう。内藤桃子は、「キレている」。

――昂ぶった神経が、自然のものではない人工的な音を捉えた。がさりと何かが擦れる音。次いで、誰かが息を呑んだような気配。そこか、と目処を立てて桃子は駆け出した。
音の主は隼砥を撃った殺人者だろうか。きっとそうだろうと、桃子は直感していた。女の勘というやつだ。それに、あの影が抱えているのは――長い、長い銃身のようなもの。
映画の中でしか見たことがないような、遠くのものまで撃ち抜けるスナイパーライフル。桃子の目にはそういうもののように見えて、いよいよ躊躇する理由はなくなった。

夜闇の中、足元がどうなっているのかも分からないままに走った。音がしたところまで全力で走って、おおよそ10秒前後はかかるだろうか。
今度こそ撃たれるだろうな、と桃子は思った。いくらなんでもこの状況で撃たないことはないだろう。まぁ、撃たれても当たるとは限らない。
相手が外してくれることを祈りながら必死に避けながら走って、どうにかして掴まえて取っ組み合いに持ち込めば銃を持ってようが持ってまいが関係なくなるはずだ。前提が楽観的すぎるけれど。
腕が飛ぼうが脚が千切れようが、掴まえて「どうして」さえ「確かめてやる」ことができれば、自分の勝ちのようなものだ。そう思って、桃子は走った。

――しかし。いつまでたっても弾丸は飛んでこなかった。それどころか、銃口を桃子の方へ向けることすらしていない。まるで怯えきった小動物のように、銃身を抱きすくめて背中を曲げている。
もしかしたら、とまたもや可能性を思いついた。……撃たない理由は、あるのかもしれない。はっきりとした理由が。隼砥教子は撃てて。内藤桃子は撃てないような。二人をはっきりと区別する。区別できる。
内藤桃子のことを、内藤桃子だと知っている。顔馴染みの誰かが。そこに――

いた。


すぐそばまで近づいても、その少女は顔を上げようとはしなかった。俯いたまま桃子からの視線をやり過ごそうとしている。
女性にしてはかなり大きな体躯が、今は縮こまっている。手入れが足りていない少しパーマのかかったようなくせっ毛が、少女の顔を隠すように揺れていた。
でも、桃子にはそれが誰だかすぐに分かった。同じ釜の飯を食べ、狭い風呂場に文句を言いながら一緒に入り、寮の庭ですくすくと育つ林檎を手渡ししてもらった思い出が、走馬灯のように駆け巡る。

「鳰、せんぱい……?」

――鳰旦蕗は、桃子の声を聞いてびくりと身体を震わせながらも、彼女とけっして目を合わせようとはしなかった。

304 ◆7VvSZc3DiQ:2016/06/30(木) 22:45:34 ID:noDR0xos0
【一日目・黎明】
【F-3/波止場・コンテナ群】
【内藤桃子@少女セクト】
【状態】健康、いわゆる「キレている」状態
【装備】なし
【所持品】基本支給品、ランダム支給品1〜2
【思考・状況】
1.「確かめる」

【鳰旦蕗@少女セクト】
【状態】健康、強い精神的ショック、パニック寸前
【装備】M-16スナイパーカスタム(暗視スコープ装備)@現実
【所持品】基本支給品、光学スコープ
【思考・状況】
1.何も考えられない




――――――
以上で投下終了です。
大掃除の期限に間に合わせるためにキリのいいところで切っての投下となりました。
後半にあたる部分は近日中に完成させて投下したいと思っています。

305名無しさん:2016/07/08(金) 15:12:53 ID:OhuzA2fg0
続きを投下します。

306名無しさん:2016/07/08(金) 15:13:25 ID:OhuzA2fg0
いざ隼砥教子を殺した狙撃手を見つけても、「どうして」と問いかけることはできなかった。代わりに口をついた言葉は、確認のそれだった。

「鳰先輩が……撃ったんですか?」

状況証拠は揃いすぎている。鳰旦蕗が抱きかかえているのは漫画や映画にしか出てきそうにない狙撃銃だ。御丁寧なことに、桃子の推測通りに暗視スコープのようなものまで装備されている。
つんと饐えた臭いが鼻についた。おそらくは旦蕗が吐きだしたものであろう吐瀉物が、周囲に散乱していた。旦蕗の衣類にも少し付着しているようだが、彼女はそれどころではない様子でうずくまっている。
胃の内容物をあらかた吐きだしてしまうような強いストレスは、何に起因したものだろうか。そう、たとえば――人を殺してしまった強い後悔と罪悪感に襲われて、たまらずにすべてを吐いてしまった。
青白い顔をして、涙と鼻水で顔面をくしゃくしゃにしながら、がたがたと震えが止まらない身体を必死に抑えようとしている鳰旦蕗を見て、内藤桃子がそんな連想をしてしまうのは邪推といえるだろうか。

「……答えてください。鳰先輩ですよね。鳰旦蕗さんですよね? 私です、内藤桃子です。ほら、桜木寮で一緒だった……」

桃子がいくら言葉を重ねても、旦蕗から返ってくる言葉はなかった。ただ身体を震わせるのみ。それは、旦蕗から桃子に対する消極的な拒絶といえた。
いや、そもそも今の旦蕗には他の誰かと会話をする余裕など皆無だった。相手が桃子ではなかったとしても、結果は変わらなかったことだろう。
誰を相手にしていたとしても今の旦蕗は海の底の貝のように口をつぐみ、雨に濡れる捨て猫のように身体を震わせるだけだったはずだ。

そんな旦蕗の様子を見て、桃子は自分が何をしようと思ってわざわざ危険を覚悟してまでここへ来たのか、忘れそうになってしまった。
桃子が想定していたような危険人物は、ここにはいなかった。もしもここに血も涙もない残虐非道な悪役がいて、桃子に銃を向けていてくれればどんなによかったことか。
当たり障りもなく耳障りがよい適当な正義論でも振り回して、正義と私怨を一緒くたにこねくり回した理屈を盾に復讐の真似事でもできればどれだけ爽快だったか。
ここにいたのは、隼砥教子を撃ち殺した罪を追及され、弾劾されるべき加害者である以前に。桃子や教子と同様に殺し合いに無理矢理参加させられた、被害者の一人だった。

それでも。

桃子の内でふつふつと湧き上がってくるこの感情は、どうしようもなかった。洗いざらいすべて吐きだして、どこかの誰かにぶつけてしまわなければ気が済まなかった。

「……質問の仕方を変えます。無理に答えなくてもいい。だけど、沈黙を続けるのならそれは肯定だと捉えます。いいですか?」

当然のように旦蕗の答えはない。だったらイエスだと判断して、桃子は質問を続けた。

「……あなたは、その銃で人を撃った」

桃子の言葉を聞いて、鳰旦蕗はようやくその顔を上げて桃子と目を合わせた。桃子が予想していたとおり、旦蕗の顔はひどいありさまだった。
双眸からは大粒の涙がこぼれ落ち、みっともなく垂れた鼻水は今にも口に届きそうで、口もとには吐瀉物の一部がこびりついたままだった。
乙女にあるまじき容貌を、しかし旦蕗は取り繕う素振りすら見せずに桃子にさらけ出した。それでも旦蕗の口から、彼女自身の言葉が出てくることはなかった。

(その惨状を見せたくなくて顔を隠してたわけじゃない――か。ま、鳰先輩ならね)

黙って俯いていたのは、ただ単にうしろぐらいと思う気持ちがあったからだろう。桃子はそう判断し、次の質問を投げかけた。

「あなたは、自分が撃ったのが誰か、知っていた?」
「ち、違……私は、相手が誰かなんて、知らなくて……!」

ここでようやく旦蕗は、桃子の質問に対して意味の通る言葉を返した。それは否定だった。
撃ったのは確かに自分だ。だけどそれは桃子を助けるためで、撃つまで相手が誰なのかは知らなかったんだと、旦蕗は懸命に訴える。

「――でも」

「それは、認めるっていうことですよね?」

307名無しさん:2016/07/08(金) 15:14:38 ID:OhuzA2fg0
人を撃ったのだという事実。そこに偽りはないということを、念を押すように確かめた桃子は、旦蕗を睨みつけた。
そこに殺意があったのかどうかは、この際関係がなかった。鳰旦蕗が隼砥教子を撃ち殺したのだというその事実だけで、桃子の中の激情を滾らせるには十分だった。

「違う……違うの、聞いて、内藤ちゃん……私は」
「鳰先輩、あなたが撃ち殺したのが誰なのか知らないなら教えてあげましょうか。隼砥教子先生ですよ。あなたもよく知ってる、あの隼砥先生です。
 ――知らないだなんて言わせませんよ。私が寮に帰らなかった日にどこに泊まってたか、寮生ならみんな知ってるはずですよね。私と隼砥先生がどういう関係か、知ってましたよね」

――隼砥教子と内藤桃子の二人が教師と生徒の枠組みを超えて恋人同士になっていたことは、学内においてはもはや一般常識の一つだった。
堅物の風紀委員とドジで抜けてる若手教員の恋は年頃の娘たちにとってこの上ない格好のゴシップで、一時期桃子たちに向けられていた好奇の目といえばそれはそれは大変なものだった。
乙女の好奇心はとどまるところを知らず、桃子と共同生活を送っている寮生のところにまで良質なネタを求める輩が近寄るようになっていった。
だからこそ、桃子と同じ寮に住んでいた旦蕗ならば、桃子と教子の関係を知らないはずがないのだ。知っている。二人が恋人だったことを知っている。
なのに桃子と目を合わせようともせず、煮え切らない態度を見せて、まるで自分も被害者かのように振る舞う旦蕗のことが、許せなかった。

「あなたが殺したのはね――私の、恋人なの!」

八つ当たりのようなものだと自覚していた。桃子が己の怒りと憎しみをぶつけるべき相手は、鳰旦蕗ではない。
こんな最悪の殺し合いを開催した主催者たちにぶつけるのが正しいと、桃子だって分かっている。それでも言わずにはいられない。伝えずにはいられない。
自分がどれだけ隼砥教子のことを愛していたのか。彼女がいなくなってしまったとき、何を思ったのか。再びここで出会えたとき、何を感じたのか。
それらすべてを突然奪われた自分に、何が残ったのか。

「ごめんなさい……ごめんなさい……私、隼砥先生だなんて知らなくて、ただ内藤ちゃんを助けようと思って、当てるつもりなんか全然なくて……」

激昂した桃子に言い訳の言葉を並べる旦蕗は、自分の言葉が桃子の神経を逆撫でしているということに気付いていなかった。
不器用だとか気が利かないといった形容では足りない。旦蕗を言い表すのに相応しいのは、愚鈍の二文字。愚かで鈍く、己の何が好かれているのか嫌われているのかすら分かっていない。
それが鳰旦蕗という少女の持つ性質だった。故に考え無しに放たれる言葉は、時として他者を突き刺す鋭利な刃にもなる。

桃子が求めていた、「どうして」の答え。唐突に旦蕗の口をついた台詞が、それを桃子に教えてくれた。

「私の、ため……?」

内藤桃子を守るために、鳰旦蕗は隼砥教子をそれとは知らずに撃ち殺した。そこに殺意はなかった。そこにあったのは不運だった。
それが桃子が己の身の安全をかなぐり捨ててまで確かめたかった「どうして」の答え。

「内藤ちゃんが誰かと会ってるのが見えて――私、もしも内藤ちゃんが、そいつにいきなり襲われたらどうしようって思って、だから、」
「……なんでですか。私が実際に襲われたわけでもない。助けてくれって叫んだわけでもない。もっと他に方法だってあったはずなのに、どうして……!」

それが旦蕗を追い詰める言葉だと気付いていながらも、桃子は言葉を続けずにはいられなかった。
桃子のためだなんて言われても、知ったことじゃない。誰も助けてなんて言っていない。そっちが勝手にやったことだ。
自分が理由に使われるのは、責任まで押し付けられるようで気持ちが悪かった。生理的に受け付けられなかった。

「どうして」を、今度は自分にぶつけた。「どうして」狙撃手に意図を確かめようとしたのか。「どうして」混乱する旦蕗を見て、落胆したのか。
答えは簡単だ。桃子も、楽になりたかったからだ。殺人者に正論をぶつけて、納得して溜飲を下げて、少しでも感情を処理したかったからだ。
だけどこれでは、何の気持ちも晴れはしない。理不尽に苛まされながら八つ当たりをぶちまけて、それで募るのはやり場のない感情ばかり。
愛する人を失って生まれた欠落を、何かで埋めたかった。「どうして」の答えが代替品になるんじゃないかと期待していた。
勝手に期待して、勝手に裏切られた気分になって、馬鹿みたいだ。

308名無しさん:2016/07/08(金) 15:15:03 ID:OhuzA2fg0
「内藤ちゃん……ごめんなさい、ごめんなさい」

壊れたスピーカーのようにありきたりな謝罪の言葉を繰り返す旦蕗の姿が、桃子をさらに逆上させる。
そんなもの、欲しくない。そんなものがいくらあったって、何にもならない。

「『だって』も『ごめん』も聞きたくない! 言い訳も謝罪もいらない! だから、先生を……先生を、返してよ……」

内藤桃子が求めるものと、鳰旦蕗が与えられるものは、決定的に食い違っていた。こんな殺し合いがあろうがなかろうが、彼女たちが交わることはあり得なかっただろう。
だからこそ、旦蕗は呟いてしまう。桃子が望んでなどいない、不用意な一言を。

「内藤ちゃん……私を、殺して。それであなたの気が済むなら。殺してほしいの、あなたの手で」
「…………は?」

桃子は思わず自分の耳を疑った。鳰旦蕗を殺す。それが、いったい何の解決になるというのだろうか?
隼砥教子の仇を取ったところで状況が好転するわけでもない。彼女が生き返るわけでもない。逆に人を殺したという罪悪感に身を苛まされるだけだろう。
だからこそ、容易にそんな提案をしてきた鳰旦蕗のことが信じられなかった。きっと、そこにあるのは桃子に対する謝意ではない。
旦蕗自身が楽になりたいのだ。断罪されて、すべて投げ出して、自己満足に浸りたいだけだ。故に桃子は、確かめずにはいられなかった。どうして、と。

「……どうして、そんなことが言えるんですか、鳰先輩」
「内藤ちゃんになら……殺されてもしかたないと思ったから。それに、内藤ちゃんになら殺されてもいいと思ったから。それじゃだめかな?」
「なんですか……なんですかいったい! 私を馬鹿にしてるんですか! 私になら殺されてもいいって……私のことをなんだって思ってるんですか!」
「内藤ちゃん。……私ね、あなたのことが好きだったの」

――ぷつんと、桃子の中で何かがキレた。目の前の、独善的で自分勝手で独りよがりの勘違い女を、全力でぶちのめしてやりたい激情に駆られた。
しかしそれを、すんでのところで思いとどまる。

「ねぇ、鳰先輩。『いなくなる』って、どういうことだか分かりますか? 隼砥先生は、私の前からいなくなりました。それも、二回もです。
 ……ねぇ、残された側の気持ちが、あなたに分かりますか? こっちはいくら会いたいと思っても、もう会えないんですよ! それが、生きてる限り、ずっと続くんです!
 ――殺してなんか、やるもんか! 私はあなたに何も与えたくない、愛情どころか、憎しみも、殺意さえも! 全部全部! この気持ちの一つたりとも! あなたには、あげない!」

ひとしきり叫んで、桃子は旦蕗に背を向けた。もう顔も見たくないという意思の表れだった。
振り返ることなく、進み始める。後ろで旦蕗が何か叫んでいる。何を叫んでいるのか理解することを拒絶して、旦蕗の声はただの雑音になって、夜の波止場に消えた。
行くあてもない。どうするのかも決めていない。今はただ、この場所から遠くに離れたかった。


【一日目・黎明】
【F-3/波止場・コンテナ群】
【内藤桃子@少女セクト】
【状態】強い徒労感
【装備】なし
【所持品】基本支給品、ランダム支給品1〜2
【思考・状況】
1.今はただ、どこか遠くに行きたい

【鳰旦蕗@少女セクト】
【状態】健康、強い精神的ショック、パニック寸前
【装備】M-16スナイパーカスタム(暗視スコープ装備)@現実
【所持品】基本支給品、光学スコープ
【思考・状況】
1.何も考えられない

309名無しさん:2016/07/08(金) 15:15:48 ID:OhuzA2fg0
以上で投下終了です。
誤字や脱字、矛盾点や疑問点などありましたらお気軽にご指摘いただければ幸いです。

310名無しさん:2016/07/13(水) 18:22:08 ID:QSX7Yp5g0
投下おつー。
うわー、あの後をこう繋いだか。
これはもうほんと最悪も通り越して何一つ噛み合ってなくて、本文中の求めるものと与えられるものの食い違い云々が全てだったんだろなあ

311名無しさん:2016/07/15(金) 22:55:10 ID:9lz1lrwE0
月報です

百合 26話(+2) 39/41(-0) 95.1

312名無しさん:2018/12/11(火) 18:13:01 ID:fhQae1C60
tes

313名無しさん:2019/01/04(金) 03:07:38 ID:sZ8U8vts0
test


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