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一時投下・試験投下専用スレッド

1 ◆rNn3lLuznA:2011/07/07(木) 01:09:30 ID:RxAqN9RE
「少し危険な要素を含んでいるので、一度皆に見て欲しい」
「誤字や脱字などの修正箇所があるかもしれないから、試しにこっちに投下してみよう」
「放送案が完成したので見てください」

以上のような理由で、本スレに投下する予定の作品を一時的、試験的に投下するためのスレッドです。

2 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 21:58:16 ID:o6mPU8Ew
ナナリー・ランペルージ、ロロ・ランペルージ仮投下します。

ちょっと制限等で気にかかる点があるので、まずは様子見です。

3「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 21:59:18 ID:o6mPU8Ew
足場が決して良いとはいえない、歩行に難がある山間部。
ましてや車椅子の身において、それはこれ以上ない障害といえるだろう。


「酷い……こんな事って……!!」


そんな過酷な状況下で、ナナリーは一人静かに涙を流していた。
盲目なれども、先程の広場で起きた惨劇はしかと聞いた。
アカギの無慈悲な声を、オルフェノクと名乗った男の悲痛な叫びを。
目の前で、一つの命が無残にも奪われたのだ。
その残酷な所業に、ナナリーは心の底から涙していた。

そして……悲劇は、再び起ころうとしている。
『殺し合い』という名の、罪無き命の奪い合いが。
その事実に、ナナリーは悲しみ……怒りを感じていた。


『……どうするつもりだ、ナナリー?』


嘆きの声を漏らすナナリーへと、傍らに立つ騎士―――ネモが問いかけた。
彼女は、ナナリーが持つ負の感情を共有する、つまり分身とも言える存在。
故に、その悲痛な気持ちは十分に理解していた。

その上で……その上で、敢えて彼女は問いかけたのだ。
これより多くの地に染まるであろうこの戦場で、ナナリーは何を望むのか。
己は、ナナリーの騎士として何を叶えればよいのかを。

その覚悟を、確かめるために。

4「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 21:59:55 ID:o6mPU8Ew
「……あなたはもう一人の私自身。
 答えなんて、分かっているんでしょう……?」


主催者達への、反逆の狼煙をあげる為に。


『ああ……お前の望みは、戦場に赴き全ての暴力を排除すること。
 その為に行使されるのが、ギアスの力だ……ならば』

「ええ……私は、この殺し合いを止めたい。
 だから、ネモ……力を貸して……!!」


ナナリー・ランペルージ……ナナリー・ヴィ・ブリタニアは、今ここに誓った。
この殺し合いを、必ずや止めてみせると。



◇◆◇



(分からない……一体、何がどうなっているんだ?)



微かな風と小川の流れる音が支配する、静かな山間部。
ロロ・ランペルージは、剥き出しとなった岩肌に背を預けながら、この奇異な現状について思案していた。
彼はつい先ほどまで、兄ルルーシュの命により政庁へと侵入を果たしている筈だった。
そして……兄の唯一である家族となるべく、ナナリーをその手で殺害しようとしていた筈だった。

だが……現実はご覧の有様だ。
気がつけば自身は見知らぬ闇の中に立たされ、そしてあのホールに身を移されていた。
殺し合いを強要する謎の男―――アカギが支配する、あの異様な空間にだ。


(……自分でも気がつかない間に移動させられていた。
まさか……ギアス能力か?)


この摩訶不思議な現状を説明できるものがあるとすれば、ギアス能力ぐらいしか思いつかない。
つまり……あのアカギという男が、何かしらのギアスを用いて招集をかけたのではないだろうか。
そう考えれば、いつの間にか見知らぬ場所に立たされていたというのも……一応の説明は着けられる。

5「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:00:23 ID:o6mPU8Ew
(でも……だったら、あの化け物は何だったんだ?)


しかし、ギアスの仕業として片付けるには、腑に落ちない点も幾らかあった。
その一つ目が、あのオルフェノクと言う異形だ。
あんな文字通りの『化け物』は、今までに見た事も聞いた事もない。
一応人にあらざる存在という意味であれば、C.C.やV.V.といった例もあるが……
少なくともロロには、オルフェノクはあの二人ともまた違う、もっと別の何かに見えていた。
そして、幾らギアスの力でも、あの様な姿に変身する事が出来るとも思えない。


(それに、あの男が言っていた言葉……)


そして、もう一つ。
アカギがホールで口にした、妙に意味深な言葉がある。



―――君たちはこれから行われる『儀式』を完遂するために、数多の時間、空間という可能性宇宙のひとつひとつから選び出された戦士たちなのだ。



(あれは……どういう意味なんだ?)


ロロには、あの言葉の意味がいまいち理解しきれていなかった。
己を大きく見せる為のハッタリ、虚飾だろうか……否。
それで片づけるには、あの男の言葉にはどこか凄味があった。
嘘は無いと、そう断言できるだけの何かが感じられたのだ。
そうなると、やはり何か……かなり大きな意味があるとしか思えない。
問題は、それがどういう事なのかだ。


(参ったな……こんな時、兄さんならパッと答えを出せるのだろうけど……)


ここに切れ者の兄がいてくれたなら、こんな難問もすぐに解いてくれるだろう。
いや、それどころかあのアカギという男の企みだって看破してくれるに違いない。
そう考え、ロロは思わず頬を緩めてしまうが……即座に、顔を引き締めた。
ある事実……自分以外の参加者という点に、気がついたからだ。

6「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:00:43 ID:o6mPU8Ew
(そうだ……兄さんは?
まさか、兄さんまでこの殺し合いに参加させられているんじゃ……!!)


もしもアカギが、ロロの予想通りにギアス能力者だったとしたら。
あの時、すぐ近くで戦闘指揮を執っていたルルーシュが巻き込まれていたとしても、不思議はない。
だとしたら……これはロロにとって、由々しき事態となる。

何としても、兄を救わなければならない。
大切な兄を守り抜かなければいけない。

そんな焦燥に駆られながら、ロロはデイパックを開く。
見たところ、中には銃をはじめとする幾らかの品があるが、彼はそれらに目もくれずある物へと手を伸ばした。
それは、全参加者が記されているという名簿だ。
ここにルルーシュの名前があるかどうか。
すぐさま確認の為、開こうとした……その瞬間だった。



「……え……?」



ふと、警戒の為に視線を向けた、その先に……



「まさか、あれは……?
 間違いない、ナナリー……!!」



これより殺害しようと目論んでいた標的―――ナナリーを見つけたのは。


◇◆◇



(……未来線が、読み取れないだと……?)

7「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:01:10 ID:o6mPU8Ew

殺し合いを止めると決意をした、その少し後。
ネモは、自身の……否。
ナナリーの身に起きているギアスの異常に、眉を細めていた。

彼女のギアスとは、あらゆる事象の世界線を積分することによって、未来に起きる出来事、その結果を知る能力。
そして彼女達は、それによって戦場を未然に察知し、争いへの介入を果たしてきた。
だが……今、そのギアスに異常が起きている。


「ネモ……どうしたの?」

『……ナナリー、由々しき事態だ。
 ギアスの力が、正常に行使できなくなっている……アカギの位置が見えない』


ネモはまずこの殺し合いを止める第一手段として、争いの源―――アカギの位置を探りにかかった。
クロヴィスの時と同じ様に、『戦場を支配する未来線の発生源』たる主催者の居場所をギアスで読もうとしたのだ。
しかし……試してみたところ、実に奇妙な現象が起きた。

まるで、ナナリーのギアスを拒絶するかのように……未来線が、一本たりとも現れなかったのである。


『それに、それだけじゃない……未来が鮮明に見えなくなっている。
 まるで靄がかかったかの様に、ビジョンがぼやけている……やられた。
 アカギめ……私達の力に何か細工をしたな……!!』


そして、未来の予知も正常な形で働かなくなっている。
見えることには見えるのだが、極めて断片的な、不鮮明な映像でしか見る事が出来なくなっているのだ。
これでは、一体未来に何が起ころうとするのかをはっきり把握することが不可能だ。


「ギアスに細工を……そんな事が出来るの?」

『現に、私達の力はこうして封じられているんだ。
 そう判断するしかない……この儀式とやらを円滑に進める為だろうな』


確かにアカギの立場からすれば、ナナリーの持つギアスは極めて危険だ。
殺し合いを打破する最大の切り札足りうる力なのだから……力の封印・制限は当然の事といえる。

8「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:01:42 ID:o6mPU8Ew
だが、だとしたら……アカギはとてつもなく恐るべき力を有する事になる。
ギアスとは即ち、万物の根源たるエデンバイタルへとアクセスし、世の持つ理を捻じ曲げる力だ。
それをこの様に、己が都合が良い様に制限できる……つまり。


(アカギは……エデンバイタルの力を自在に引き出せる。
世界の理すらも自在に操る力があると言うのか……?)


それはまさに、神の所業ではないか。
こんな馬鹿な話など、認めたくはないが……しかし、そう考えれば納得できる部分も多い。


―――自分達が僅か一瞬にしてあのホールに転移させられたことも。

―――オルフェノクという謎の化け物の存在も。

―――無限の可能性宇宙から、自分達を選び出したという言葉も。


(……だが……気がかりはまだ、もう一つある。
あの、オルフェノクという怪物が倒された瞬間……)


そして、アカギから感じる不気味さはそれだけではない。
あのオルフェノクという怪物が、吹き飛ばされた瞬間。
僅か一瞬、辛うじてというレベルだが……ネモは確かに見ていた。


(あの影……アレが、アカギの力の源か……?)


何か巨大な……『二つの影』が、アカギの背後にいたことを。


『…………』

「あの……ネモ?」


そんな考えを張り巡らせるネモに対し、ナナリーは思わず声をかけてしまった。
自分のすぐ横で、仏頂面でいきなり黙られたら、話すなという方が無理な話だから仕方ない。

9「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:02:09 ID:o6mPU8Ew
『ん、ああ……すまない。
 少し考え事をしていた……そうだ、ナナリー。
 先程見えた未来線の事を告げなければならなかったな』

ネモもナナリーの言葉からそれを察し、謝罪をする。
そして、気持ちを切り替え……彼女へと口を開く。

先程見えた、断片的な未来線について話す為に。


『……気をつけろ。
 どんな相手が来るか、どんな手段で来るかなど、はっきりとした形では見えなかったが……
 すぐ近くに、お前を狙っている奴がいるようだぞ』



◇◆◇



(ナナリー……まさか、君までここにいるなんてね……)


不幸中の幸いとでも言えばいいのだろうか。
ロロは、ナナリーの姿を見つけられた事を心から喜んでいた。
一番……一番殺したい相手が、目の前に現れたのだから。


(……ナナリー……兄さんの家族は、僕だけでいいんだ)


ロロはゆっくりと、支給品の銃―――デザートイーグルを構えた。
幸い、まだ向こうはこちらに気づいていない……狙撃するには十分。
もっとも気づかれたところで、相手は車椅子のナナリーだ。
ここが荒地という事も手伝って、銃弾から逃れられる訳がない。
時を止めるギアスを使うまでも無い……全て一発で形がつく。

10「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:02:36 ID:o6mPU8Ew


(兄さんと一緒にいられるのは……僕だけなんだ……!!)


その瞳に、強い殺意を漲らせて。
ロロは躊躇う事無く引き金を引いた。
銃弾は、ナナリー目掛けて真っ直ぐに突き進む。

そして、その脳天に風穴を……




――――――ゴオォォォォォッ……!!!




空けることは無かった。



「え……!?」


ロロは、我が目を疑った。
放たれた銃弾は、ナナリーへと命中するその寸前で……阻まれたのだ。

彼女を守るかのように、地より出現した……巨大な腕に。


『いたぞ、ナナリー……こいつだ。
 こいつが、お前の命を奪おうとした男だ』


否、現れたのは腕だけではない。
巨大な頭部、胴体、両脚……全身を構造する全て。

11「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:03:01 ID:o6mPU8Ew

「まさか、ナイトメアフレーム……!?」


異形の姿を持つ……ロロが知らぬ、謎のナイトメアだ。


「ッ!?
 ナナリーが、あのナイトメアフレームに……!!」


次の瞬間、ナナリーの肉体はナイトメアフレームの内部に取り込まれていた。
否、ナナリーが乗り込んだといった方が正しいだろう。
彼女専用の機体にして、エデンバイタルの魔神―――マークネモに。


「そんな……何がどうなっているんだ?
 どうしてナナリーが、ナイトメアフレームなんかに……!!」


ロロは、とにかく驚愕するしかなかった。
何も無い空間より、突如として異形のナイトメアフレームが出現したことに。
そのナイトメアに、ナナリーが乗り込んだことに。
何の力も無い、非力な筈のナナリーが……闘う力を手にしていることに。


『お前……殺し合いに乗ったのか?』


異形のナイトメアより、呼びかける声が聞こえてくる。
それは間違いなくナナリーの、しかし彼女とは思えぬ凛々しさが宿る声だった。
少なくとも、ロロにはそう感じられた。


(……いけない、落ち着くんだ。
想定外の事態だからこそ、慌てずに対処しないと……兄さんに怒られちゃう)

兎に角、ここは冷静に対処しなければならない。
慌てれば相手の思う壺ではないか。
少々失礼な言い方にはなるが、想定外の事態がどれだけ窮地を生むかは、兄を―――黒の騎士団を見てきて、分かっているのだから。
それこそ同じ失敗を繰り返してしまったら、兄にどやされてしまう。

12「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:03:34 ID:o6mPU8Ew

「……違うよ……僕は、あんな男の言いなりになるつもりはない」


小さく深呼吸をして、気持ちをやや落ち着かせた後。
ロロは相手の問いかけに、静かに答えた。
殺し合いには乗らない……と。
その理由はただ一つ、兄の存在があるから。

兄は黒の騎士団総帥として、弱き者を助ける正義を行ってきた。
だからこの場においても、きっとアカギを討つべく動いているに違いない。
そして、必ずアカギの野望を打ち砕くだろうと信じている。
だから自分も、それを横で支え助けていく……殺し合いには、絶対に乗らない。


『だったら、何故私を……ナナリーを狙った!』

「そんなの……決まってるじゃないか」


だから……兄の隣には。

ルルーシュ・ランペルージの隣には、自分がいなければいけないのだ。

ナナリー・ランペルージじゃなく……ロロ・ランペルージがいなければならないのだ。


「兄さんの側にいていいのは……君じゃない、僕なんだから!!」



◇◆◇



『姿が……消えた!?』


瞬きを一回する程の、本当に僅かな一瞬だった。
あの男はつい今しがたまで、確かにマークネモの前にいた。
それが、いつの間にか姿を消しているのだ。
しかもネモには、その気配を……行動の未来線を、まるで読めなかった。

13「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:04:04 ID:o6mPU8Ew


―――ズドンッ!!


直後、轟音と共にマークネモの全身を振動が駆け巡った。
発生源は、後方……右脚。


『後ろッ!?』


即座に視線を向け、状況を確認する。
するとそこには、右足の付け根―――装甲に覆われていない間接部に銃口をねじ込んでいるロロの姿があった。
如何に威力のある拳銃とはいえ、普通に撃ったのではナイトメア相手にダメージを与えることは出来ない。
しかし……防御の手薄な間接部ならば、可能性は見えてくる。
ロロはまさに、それを狙ったのだ。


『クソッ……舐めるな!!』


すぐさまマークネモは、足元目掛けてスラッシュハーケンを射出。
ロロを切り裂き貫かんと、刃の狙いを定め……そして。

刃は、空を切り地面に突き刺さった。


『こいつ、また……!?』


またしても、姿が消えている。
行動の未来線も、まるで見えなかった。


『まさかこいつ、河口湖の奴か……!?』


以前にも一度だけ、これとよく似た闘いを経験した事がある。
河口湖で遭遇した、ブリタニアのギアスユーザーとのナイトメアフレーム戦だ。
あの時の相手は、未来線を読むよりも更に速いスピードで攻撃を仕掛けるという離れ業を使い、マークネモを追い詰めてきた。
そして目の前にいる相手も、未来線を読む事もさせず、いつの間にか位置を移動している。
もしや、あのギアスユーザーは……この男ではないだろうか。

14「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:04:42 ID:o6mPU8Ew



―――ドゴォンッ!!


『ッ……!?』


刹那。
マークネモの右脚ランドスピナーより、炎が上がった。
地面は捲れ、煙が巻き起こっている……爆発物、それもかなり威力があるモノによる攻撃だ。
ランドスピナーが、一部吹き飛ばされている……!!


『こいつ、何を……ハッ!?』


直後、ネモは己に向かう攻撃の未来線を読んだ。
それはマークネモの右側より、放物線を描き向かってくる。


『流体サクラダイトだと!?』


正体は、ロロが放り投げた流体サクラダイト。
そして、その中心目掛けて放たれる一発の銃弾だ。


『クッ……!!』


とっさに、マークネモは地を蹴り左へと跳躍。
それに僅かに遅れて、強烈な爆発が起こった。
先程右足を襲ったのも、これと同じもの……流体サクラダイトの爆発だ。
同じサイズの手榴弾よりも、数倍の威力はあるだろう。
もしまともに直撃していたなら、右脚のランドスピナー同様大きなダメージを受けていたに違いない。


『クソッ……舐めるなぁぁっ!!』


ナイトメアフレーム―――それも通常のソレより遥かに強力なマークネモに対して、相手は生身。
まともに戦えるわけが無いと思い、油断していた。
だが、実際に押されているのは寧ろ自分達の方ではないか。

15「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:05:20 ID:o6mPU8Ew
その原因はひとえに、相性の悪さにある。
ナナリーとネモのギアスは、相手の未来線を読む力。
それにより、敵の次なる行動を予知して対処できる事こそが強みである。
しかし……ロロのギアスは、その未来線を彼女達に一切読ませる事無く、彼の行動を可能にするものなのだ。

ネモはロロこそが、河口湖でかつて戦ったギアスユーザー―――ザ・スピードのアリスと考えているが、それは違う。
ザ・スピードは、加重力により相対的に超加速を得る、まさしく名前通りのギアスだ。
しかしロロのギアスは、そもそも加速とは全く関係が無い別物である。
何故なら、彼のギアスは……


(もう一度……時を、奪う!!)


相手の体感時間を止める……時を奪うギアスなのだから。



◇◆◇



(いける……幾ら性能の高いナイトメアでも、乗ってるのは人間なんだ。
なら、僕のギアスで動きを止めて……攻撃を仕掛ける隙を作れば……!!)


ロロはここまで、マークネモに対し生身であるにも関わらず、優勢を保っていた。
ギアスを用い相手の時を奪う事で、翻弄し続ける事に成功しているからだ。
加えて、支給品が威力の高いデザートイーグルと、流体サクラダイトというのも大きかった。
ナイトメア相手でも、この二つならばダメージを与えることは可能だ。
そして彼自身は知らぬ事だが、このギアスはネモ達を相手取るには抜群に相性が良かった。
如何に未来線を読むギアスとはいえ、止められた時間の中ではそれも読めず、そこで起きた行動も察知できないのだから。


(……後は……間接部に攻撃を集中させて……流体サクラダイトの爆発で……ぐっ……!!)


しかし……ロロもまた、戦いの中で大きな負担を抱えていた。
時を奪うギアスが持つ欠陥……それは、ギアスの発動中にはロロ自身の心臓も停止するという代償だ。
その負担は、ギアスを広範囲で使ったり、長時間使う事によって度合いを増していく。
尤も、ここまでの使用頻度ならば、然程の負担にはならない筈なのだが……

16「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:05:51 ID:o6mPU8Ew

(……おかしい……いつもより、体にかかる負担が……大きい……!?)


今、ロロが感じている負担はその倍以上だった。
まるで、何度も連続して時を止め続けたかの様な……そんな辛さが、彼の身を襲っていたのだ。

その原因は、ナナリー達と同じくアカギの介入―――ギアスの能力制限だ。
ロロのギアスもまた、殺し合いを優位に進められすぎる能力に他ならない。
そこで、体にかかる負担の倍増という形で制限が設けられているのだ。


『クソッ……舐めるなぁぁっ!!』

(……考えている暇は、無いか……!!)


ネモの咆哮が耳を劈くと共に、その手の刀が横薙ぎに振るわれようとする。
まともに人間が直撃を受ければ、即死は免れない一撃だ。
だが、ロロは臆せず……すかさずギアスを発動させ、回避にかかる。


(もう一度……時を、奪う!!)


ロロの右目より放たれる、赤い光の領域。
それに捕らわれた瞬間、マークネモの動きがピタリと止まった。
操縦者であるナナリーとネモの時が奪われた証拠だ。
その隙を狙い、ロロは素早く前方の股下へと転がり込む。


(ギアス解除!!)


そして、銃口を再び右脚の間接部へねじ込むと共にギアスを解除。
更に引き金を連射し、銃弾を叩き込んでいく……!!


―――バキィッ!!


『しまった……!?』


右脚部より聞こえた音―――破損音に、ネモは狼狽して声を上げた。
ここまでロロは、全ての攻撃を右脚部へと集中させてきた。
理由は二つある……一つは、ナイトメアフレームの硬い防御を突破するには、一点集中攻撃しかないと判断したから。
そしてもう一つが、その機動力を奪うためだ。
ランドスピナーとハーケンスラッシュによる高速機動が売りのナイトメアにとって、脚部の破損はかなりの深手になる。
それを今、ロロは成功させたのだ。

17「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:07:00 ID:o6mPU8Ew


(これで、このナイトメアは自由に動けない……残っているサクラダイトの数は、後二つ。
狙いは左脚と、ナナリーが乗っているコックピットブロックだ……!!)


そして次の狙いは、残るもう一方の脚……そして、急所のコックピットブロックだ。
両脚を奪い完全に機動力を失わせたところに、流体サクラダイトの爆発を叩き込みナナリーを吹き飛ばす。
ここまで、状況は完全に思うがままに進んでいる。
もしもルルーシュがこの場にいたなら、確実にこう言っただろう。

条件は、クリアされた……と。


『この……!!』


負けじと、マークネモが刀を振り上げた。
しかし、大振りすぎる……隙だらけにも程がある攻撃態勢だ。
これでは「攻撃を避けてください」と言わんばかりのものではないか。

当然、ロロもそうする。
ギアスを発動させ、ネモの時を奪いマークネモの動きを停止させる。
そして、その隙に刃の外へと逃げ……


「無駄だよ。
 何度攻撃したって、このギアスがあるかぎ……り……!?」



ギアスを解除し、刀が打ち下ろされた瞬間。


ロロの視界は、茶色の波一色に染まった。



大振りの一撃が巻き起こした、土砂の波に。



◇◆◇



『……ふぅ……冷や冷やさせられたな……』

18「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:07:35 ID:o6mPU8Ew

マークネモの中で、ネモは小さくため息をついた。
悉く攻撃を回避してくるロロに対し、どうやったら攻撃を命中させられるのか。
そう考えた末にネモが出した結論とは、『回避しようの無い広範囲に攻撃をばらまく』というものだった。
そして実行したのが、大振りの一撃で土砂を巻き起こし、相手を襲うという策だ。
幸いにも、ロロはマークネモの攻撃を、焦りと怒りに任せたものだと錯覚してくれた。
そのおかげで真の狙いにも気づかれること無く、こうして攻撃を当てることに成功したのあった。


『しかし……悪運の強い奴だ。
 まさか、あんな手段で逃げるとはな……』


ネモは、視線を下―――流れる川へと向けた。
迫る土砂の波に、巻き込まれる寸前。
ロロはそれから逃れるべく、全力で後方へと駆けた。
しかし、それでもサイズ差が違いすぎた……飲み込まれるのは、誰の目から見ても確実だった。

だが……ロロはその窮地を、思わぬ手を使って脱出した。
それは、切り札である流体サクラダイト。
彼は迫り来る土砂から逃げられぬと判断した瞬間、それを土砂へ向かい投函し、爆発させたのだ。
結果、土砂は吹き飛び直撃は免れたが……代わりに、爆発の余波をまともに受ける形となってしまった。

そして、吹っ飛ばされた先こそが、今まさにネモが見つめる川である。
ロロは命こそ助かったものの、そのまま流されていってしまったのだ。


「ネモ……あの人、助けられなかったの?」
 
そんな彼を、マークネモは救わなかった。
もし、急ぎ手を伸ばしていれば間に合ったのではないだろうか。
その事に対し、ナナリーは静かに……悲痛な顔をして、ネモへと問いかける。


『ああ……あの状況では、手を伸ばしても間に合わなかった。
 もしもギアスの力が完全だったなら、事前に手を打てたかもしれないのにな』


流石のネモでも、あの状況でロロの落下を防ぐことは叶わなかった。
未来線を読むギアスが完全に発言されていたなら、或いは出来たかもしれないが……もはや意味の無い話だ。

19「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:08:01 ID:o6mPU8Ew

「そう……」


その返答に対し、ナナリーは意気を消沈させた。
どうやら彼女としては、襲ってきたギアスユーザーをどうにかしてでも救いたかったらしい。
自らの命が狙われたのにも、関わらず……だ。


『ナナリー……下手をしたら、私達がやられていたんだぞ。
 それでも、あいつを助けたかったって言うのか?』

「ええ、だってあの人は……」


ネモからすれば呆れるしかない話だ。
しかし、ナナリーは……どうしても、あの少年を見捨てることが出来なかった。
それは単に、人を殺したくないという優しさからだけではなかった。
彼女は、しかと聞いていたからだ。



――――――兄さんの側にいていいのは……君じゃない、僕なんだから!!



「大切な……お兄さんの為に、戦っているみたいなんだから……」



ロロが戦う理由を。

誰と間違えたのかは知らないが、事情こそまるで分からないが。

彼は、自分と同じく……兄を大切に思っているからこそ、こうして戦いに臨んだという事を。


『……あいつと自分とを重ねているのか。
 まったく……だが、言われてみればあのギアスユーザーの言動は妙だったな。
 この場に来た事で、軽く錯乱していたか……む……!?』


そこまで口にした、その瞬間だった。
突然、マークネモの全身より薄い光が放たれ始めたのだ。
特に変な操作はしていない筈……ならば、この現象は何か。
すぐさまネモは、マークネモの全身に目配らせ……それが何であるかを気づく。

20「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:08:26 ID:o6mPU8Ew
『馬鹿な、これは……量子シフト!?
 私やナナリーの意志とは別に、強制的に発動しているだと!?』


それは、彼女等の意思に反した量子シフトの反応。
マークネモが、搭乗者を無視してそれを行おうとしているのだ。
どうしてこんな事が起ころうとしているのか。
先程の戦闘で受けたダメージが原因か……いや、脚部の破損ではどう考えても原因に繋がらない。
しかし、他に理由があるとしたら……


『まさか……アカギの仕業か!!』


それは、アカギしか考えられない。
彼が制限したのは、ギアスだけではなかった。
このマークネモにも、殺し合いを公平とすべく仕掛けを施していたのだ。
出現させられる時間を定め、それが過ぎれば強制的に量子シフトが行われるように……!!


『クッ……!!』

「キャァッ!!」


そして、マークネモはその姿を完全に消し……残されたナナリーとネモは、外へ投げ出される形となった。
幸い、然程高くない位置からの落下なので、怪我はないようだ。

『大丈夫か、ナナリー?』

「ええ、何とか……」

『まさか、マークネモまで抑えられているとは思わなかった。
 稼動時間の制限か……だとしたら、恐らく連続して呼び出せないようにもしているだろう。
 これは、もしも奴の様な相手がまた出てきたら、厄介な事になるぞ』


ギアスだけなら兎も角、マークネモまで使えないとあれば、それはナナリーにとってかなりのハンデとなる。
もしも次に、好戦的な何者かと出会ったなら……最悪の事態をも覚悟しなければならない。

21「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:08:53 ID:o6mPU8Ew

『……何か、頼れるモノを探さなければならないな。
 マークネモまではいかなくても、身を守る力と……
 私達の考えに賛同し、共に戦ってくれる仲間を』

それを避ける為には、マークネモに頼らずとも身を守れる武器と。
そして、強い仲間が必要だ。
同じくこの殺し合いを止めるために動いてくれ、且つ強い戦闘力を持った存在。
理想的な例を挙げるなら、そう……枢木スザクの様な。


『そうだ……ナナリー、支給品と名簿を確認してみよう。
 もしかしたら、何かあるかもしれない』


ここでようやく、ネモは支給品と名簿の存在を思い出した。
先程の少年が持っていた拳銃や流体サクラダイトは、恐らく支給された武器だ。
ならば自分達のデイパックにも、同等か……或いはそれ以上の何かがあるかもしれない。
そして名簿を開ければ、参加者について把握できる事が出来る。
運がよければ―――殺し合いに参加させられている時点で、運が良いとは言えないが―――誰か、頼れる相手がいるかもしれない。
すぐさま、ナナリーに開けるよう指示を出すが……


「…………」


それに対し、ナナリーは言葉を発さなかった。
その代わり……実に神妙な面持ちで、何かを考えていた。
真剣に……ネモの言葉も、意に介さぬ程に。


『おい……ナナリー?』

「あ……ごめんなさい、ネモ。
 うん、すぐに開けてみるけど……何が入ってるか、教えてくれる?」


もう一度呼びかけられ、ナナリーはようやく気が付いた。
急いでデイパックを開き、中のものをネモに見せる。
彼女自身は残念ながら盲目の為、自分一人ではそれを確認する事が出来ないからだ。

22「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:09:16 ID:o6mPU8Ew

(……あの人……)


しかし、その作業の最中でもナナリーは続けて考えていた。
先程遭遇した、あの少年―――見知らぬギアスユーザーに。

自身と同じ……誰か、大切な兄を持つ存在に。


(……無事だといいな。
もし、また会えたら……今度は、ちゃんとお話してみたいな……)


【A−5/山間部/一日目 深夜】

【ナナリー・ランペルージ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:健康、マークネモ召還制限中
[装備]:ネモ(憑依中)
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める。
1:支給品と名簿を確認する
2:先程の少年(ロロ)ともう一度会って、出来たら話をしてみたい
[備考]
※参戦時期は、三巻のCODE13と14の間(マオ戦後、ナリタ攻防戦前です)
※ネモの姿と声はナナリーにしか認識できていません。
 ただし参加者の中には、マオの様に例外的に認識できる者もいるかもしれません。
※未来線を読むギアスには、以下の制限がかけられています
1:争いの元である未来線を読み、アカギの居場所を特定する事は不可能
2:予知できる未来のビジョンは断片的なものであり、何が起こるかははっきりとは分からない。
3:相手の攻撃を未来線で読むことについても、何かしらの制限がかかっている恐れがあります。
※マークネモには、召還できる時間に制限があります。
 一定時間を過ぎると強制的に量子シフトがかかりどこかへと転移します。
 また、再度呼び出すのにもある程度間を置く必要があります。
 (この時間の感覚については、次の書き手さんにお任せします)
※ロロ・ランペルージには、自分と同じで大切な兄がいると考えています。
 ただしロロの名前は知らず、その兄がルルーシュである事には気づいていません。

【ネモ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:健康、ナナリーに憑依中
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況]
基本:ナナリーの意思に従い、この殺し合いを止める。
1:支給品と名簿を確認する。
2:先程のギアスユーザー(ロロ)を警戒。
[備考]
※ロロ・ランペルージを、河口湖で遭遇したギアスユーザーではないかと認識しています。
 顔は覚えましたが、名前は知りません。
※アカギには、エデンバイタルへと自在にアクセスできる力があるのではないかと考えています。
※琢磨死亡時、アカギの後ろにいた『何か』の存在に気が付きました。
 その何かがアカギの力の源ではないかと推測しています。

23「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:10:51 ID:o6mPU8Ew



◇◆◇



(……僕は……)


川の流れに身を任せつつ、ロロはぼんやりと目を開けた。
マークネモとの戦闘後、彼はそのまま下流へと流されていた。
不幸中の幸いだったのは、目立った外傷を負わずにすんだ為、流血していない事にあった。
もし微かでも傷を負っていたなら、この川の中では最悪失血死していたかもしれない。


(そうだ……僕は、ナナリーを……殺せなかった……!!)


そして、自分が敗北した事実を思い出し、身を振るわせる。
ナナリーが操る謎のナイトメアに、全て阻まれてしまったのだ。
彼女を殺し、ルルーシュの唯一の家族になる筈だったのに。

彼女の戻るべき場所を、自分のものにする……その筈だったのに。


(……駄目だ……そんなの、駄目だ……!!)


ロロが、ナナリーを殺したいと思う理由……それは、恐れだった。
彼はルルーシュと出会うまで、ずっと教団の道具として生きてきた。
ただ命じられるままに……人間としてではなく、誰かの道具として生きてきた。

自分の意思で、何かを成そうとした事が無かった。


(僕は……兄さんのおかげで、人間になれたんだ……!!)


しかし……そんなロロを変えたのが、ルルーシュとの出会いだった。
短い期間とは言えども、彼には確かな思い出があった。
ルルーシュの弟として……ロロ・ランペルージとして彼と過ごした、楽しかった日々の思い出が。
もしかしたら、ルルーシュは自分もまた道具として扱っているのかもしれない。
そんな恐れはある……だが、それでも。
それでも……自分は、ルルーシュがいたからこそ人間になれたのだ。

24「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:11:14 ID:o6mPU8Ew
だが……もし、そこにナナリーが現れたらどうなるか。


自分がいた立ち位置に、ナナリーが戻ってきたら……自分はどうなるのか。


また、あの頃の……道具としての自分に、戻らなくてはいけないのか。


ルルーシュの弟という、人間としての自分を……ナナリーに奪われてしまうのではないか。


(嫌だ……僕は……兄さんの家族なんだ……!!
ナナリー……僕の居場所を、奪わないでよ……!!)



兄を失った悲しみで、多くを得た妹ナナリー。

兄を得られた喜びで、多くを得た弟ロロ。


二人の道が再び交わるときは、果たして……


【B−5/川/一日目 深夜】

【ロロ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:全身に軽度の打撲、全身ずぶ濡れ。
[装備]:デザートイーグル@現実、流体サクラダイト@コードギアス 反逆のルルーシュ(残り2個)
[道具]:基本支給品、デザートイーグルの弾、不明ランダム支給品1個
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める。
1:ナナリーを殺害し、自分の居場所を守る。
2:もしルルーシュが参加者にいるなら、真っ先に合流する。
[備考]
※相手の体感時間を止めるギアスには制限がかかっています。
 使用した場合、肉体に通常時よりも大きな負荷がかかる様になっており、その度合いは停止させる時間・範囲によって変わってきます。
※ナナリーが呼び出した謎のナイトメアを警戒しています。
※ナナリーに、自分の居場所を奪われるのではないかと恐怖しています。
※アカギはギアス能力者ではないかと考えています。
※まだ名簿を確認していません。

25「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:11:44 ID:o6mPU8Ew
【デザートイーグル@現実】
44マグナム弾を利用するオートマチック拳銃。
ハンドガンとしては大きいサイズと、非常に強力な威力を秘めている。

【流体サクラダイト@コードギアス 反逆のルルーシュ】
極めて引火性の強い液体状のサクラダイトが入った容器。
サイズは手のひらサイズで内部のサクラダイトもごく少量だが、爆発した際には強力な威力を発揮する。
ちなみにコードギアスの最終回では、拳サイズで且つ内容量も豊富なそれを爆発させた場合、
「島を一つ吹き飛ばせるほどの威力がある」とルルーシュの口から語られている程の危険物である。

26「弟/妹・得た者/失った者」 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/07(木) 22:12:11 ID:o6mPU8Ew
以上、仮投下終了です。
何か問題点等ありましたら、宜しくお願いいたします。

27名無しさん:2011/07/07(木) 22:24:35 ID:g7NkURSQ
投下乙です!

見た限り問題はないように思います
サクラダイトも続編を書く人のことを考えれば最小限だと思いますし

ただロロが流されてるのってひょっとして山の上の川?このまま滝壺真っ逆さま?w

28名無しさん:2011/07/07(木) 23:36:59 ID:Gx.DQTcg
投下乙です!
ナイトメア未読なので矛盾は指摘できませんが、ナイトメアVS生身の人間という一見無謀な面白かった。
相性の差でここまで一方的になるものなんだなぁ

そしてナイトメアの把握を始めたが、ルルーシュが1話で死んでて驚いた
そりゃ「兄さん=ルルーシュ」だと気付かんわw

29名無しさん:2011/07/07(木) 23:42:58 ID:LY66L49I
投下乙です
草加の話といいこのロワは、擦れ違いがテーマなんだな
個人的にはロロがナイトメア相手にギアスを連続で
使用した割にはあんまり消耗してないかなと思いましたが面白かったです

30 ◆zYiky9KVqk:2011/07/07(木) 23:52:17 ID:grlNI5ec
C.C.、ニャース仮投下します
ちょっとアニポケの把握がうろ覚えで不安な所があるので一旦ここで様子見を

31 ◆zYiky9KVqk:2011/07/07(木) 23:53:15 ID:grlNI5ec
「ギンガ団とは一体…」


深夜の暗闇の中、緑髪で拘束衣の少女は呟く。
もし本来であればそのような時間帯に歩いているのは危険なのだが彼女に限ってはそのような心配は不要だろう。
外見こそ20にも届きそうも無い少女だが、その実年齢は人間の寿命を遥かに超えた存在である。
ただの暴漢程度なら返り討ちにあうことだろう。


「完全なる消滅…、この私でも死ぬことができるとでもいうのか?」


体に刻まれた呪いの刻印に触れながら、少女、C.C.はかつて己が最も望んだ事象に近付くことができるであろう可能性を考える。
この不死の呪いすらも超えるほどの刻印。かつての彼女であればそれは願っても無いことだっただろう。


しかし、


「ああ、まだ死ぬわけにはいかないな。」


彼女の契約者、ルルーシュに己の本当の望みを諭されたから。
シャルルとマリアンヌの二人を拒絶したときからその気持ちも変わっていたのだ。


「だからといってどう動こうかとまでは思いつかないのだがな
 とりあえず他の参加者を探してみるか…」
「にゃ〜、ちょっとそこのおみゃ〜…」
「ん?」

32名無しさん:2011/07/07(木) 23:53:49 ID:QptBlmmY
投下乙でした。
パラロワのお手本のようなすれ違い…お見事です。
制限はこんなものでよろしいかと。ロロの消耗と制限の釣り合いをもう少しだけ取れたらいうことなしかな。
ところでこれってもう一度本投下するものなのかな。
ネモ無双かと思いきや意外にも善戦した反逆ロロ。ナイトメアの有無が決定的な、ってやつですね!
……ん?これってひょっとして平成ライダー伝統の「川に落ちたら生存確定」のジンクスにならっているのか?

33 ◆zYiky9KVqk:2011/07/07(木) 23:55:05 ID:grlNI5ec
ふと声を掛けられ、振り返る。
しかし誰もいない。

「にゃ〜!こっちだにゃー!!」

声が聞こえる位置は低い。
顔を下にやる。そこにいたのは、


「猫?」
「にゃーはニャースだにゃー!!」





「なるほど、お前はポケモンという生き物だというのか」
「そうだにゃ。ポケモンを知らないやつなんて初めてだにゃ」


その後はお互いに敵意がなかったのが幸いだったのか、スムーズに情報交換に入ることができた。
しかしそれは二人の会話が噛み合わないほど異なる世界観のためか、かなりの混乱を与えていた。


「だがそんな生き物聞いたこともないぞ」
「むむむ、おかしいにゃ…。にゃ!そういえばあの最初のところで灰になってた奴、にゃんだったかわかるかにゃ?」
「いや、知らんな。確かオルフェノクと言っていたが…」
「…もしかしたら、あの演説オヤジ凄い力を手に入れてしまったのかにゃ…?」


突如ニャースの呟いた主催者の名前にC.C.は食い付く。


「おいニャース、あの男を知っているのか?」
「にゃ。やつはギンガ団のボスでディアルガとパルキアの力を使って世界を作り変えようとした男なのにゃ
 我らロケット団の力で壊滅させたはずにゃのにゃら」
「世界を…、作り変える…?」

34 ◆zYiky9KVqk:2011/07/07(木) 23:56:09 ID:grlNI5ec

そしてC.C.は聞いた。
時間と空間を操るポケモンの存在を。
アカギの起こした静かな世界を創造する計画を。


「まるでシャルルの望む世界だな。………いや、まさか…」
「もしかしたらディアルガとパルキアの力を手に入れてしまったのかもしれないにゃ」
「それで私とお前のような別世界の者が集められたと?」
「可能性としてはありにゃ。
 ところでおみゃーの知り合いはここに連れてこられてるのかにゃ?」


そう言われてC.C.は名簿の存在を思い出す。


「ああ、今確かめるところだ」
「にゃーの知り合いというか知っているやつは結構いたにゃ」


ニャースの知り合いは彼(?)の宿敵ともいえる存在(らしい)サトシ、ヒカリ、タケシ。通称ジャリボーイとジャリガール。
シンオウ地方のチャンピオンを勤める凄腕のポケモントレーナー、シロナ。
ポケモン界の有名な研究者、オーキド博士。
そして、彼の所属するロケット団のボスであるサカキ。
ニャースは世界制服を目論む悪の秘密結社に所属するポケモンらしい。
…建前はともかくC.C.のいたギアス嚮団や黒の騎士団もあまり人のことを言えたものではなかったのであえてそこに深くは触れなかった。
よほど慕っているのかサカキの説明のときだけ妙に饒舌に話していた。


「この通り、サカキ様はすばらしいお方なのにゃ。あのお方の前ではにゃ「確認が終わった」おお、そうかにゃ」


さすがにうっとおしくなってきたC.Cはニャースの言葉に被せるように話を切り出した。


「知り合いはいたのかにゃ?」
「ああ、知り合いはいた。だがこれは…」
「にゃ?」

35 ◆zYiky9KVqk:2011/07/07(木) 23:57:54 ID:grlNI5ec



C.C.の情報交換中、ルルーシュ、スザク、篠崎咲世子のことはすんなりと話を進められた。
そして、彼女にとって説明しづらい参加者の話に入った。


「ナナリー・ランペルージ、マオ、ユーフェミア・リ・ブリタニア、ロロ・ランペルージ。
 こいつらは死んだはずの人間だ。
 いや、ナナリーに限っては死体が見つかってなかったから実は生きていたということもあるかもしれん。
 だが他の奴らは死んだことが確認された奴ばかりだ。この場にいるのはおかしい」
「にゃにゃあ…。おみゃーの知り合い、そんなに死んでるやつが多いのかにゃ?」
「私が生きてきた道自体屍だらけさ。」
「でもディアルガの力を使えばそれもできるんじゃないかにゃ?」
「過去から連れてきたとでもいうことか?
 だがそれだけでは説明できない名前もある。
 このゼロという名前だ。私とルルーシュがここに名前がある以上、こいつの存在は本来ならおかしい。
 だがゼロというコードネーム自体は珍しいものでもないだろう。
 全くの別人である可能性もある。いや、そうであって欲しい。
 だがこの名前の存在はあまりにも不可解だ」
「にゃ?」


C.C.が示した名前。それは、


「ロロ・ヴィ・ブリタニア。このような皇族が存在した覚えはない。
 それもルルーシュと同じ姓、しかも名はロロなどとは」
「隠し子でもいたんじゃないのかにゃ?」
「私はこいつらの親のことはよく知っている。あいつらに隠し子などあり得ない。いたとしても私が気付かないわけがない。
 どうやらあいつを見つけるまでの間にやっておかないといけないことができたようだ」


ロロ・ヴィ・ブリタニアだけではない。ユ−フェミア、ロロ・ランペルージ、そしてマオ。もしかしたらナナリーも。
彼らについては調べておく必要がありそうだ。


「で、お前はどうする?」
「にゃーはサカキ様を探すにゃ。
 邪魔じゃにゃければ一緒に行ってもいいかにゃ?」
「構わんぞ。こっちは武器が無くて困っていたところだ
 そういえばお前は戦えるのか?」
「にゃーはこう見えても強いのにゃ。この爪だけでたくさんのポケモンを地に伏せてきたのにゃ〜」

36 ◆zYiky9KVqk:2011/07/08(金) 00:01:33 ID:whzCtfQs
あまり頼れそうにもなかったが、今の彼女にはそんな力でもあってくれたほうがありがたかった。
C.C.に支給されていたのはグリーフシードというよく分からない石が二つだけ。
説明書を読んだところによればこれは魔女の卵らしく、魔法少女なるものが魔力回復に使う道具だとか。
無論二人、もとい一人と一匹には使えないものだ。

(そういえばあのアカギという男、魔女の口付けとか言っていたな
 しかし魔女の卵か…、この私にこんなものを支給するとは)

魔女の口付け、魔女、魔法少女。
暇があれば調べておくか。


「ところでお前、ピザは持っていないか?」
「ピザ?にゃーのカバンには入ってなかったにゃ」
「そうか」



【E-4/市街地/深夜】
【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード×2
[思考・状況]
基本:とりあえず生き残る
1:知り合いとの合流、ルルーシュ優先
2:ナナリーの保護、二人のロロ、マオ、ユーフェミアについて調べる
3:魔法少女とは…?

[備考]
※参戦時期は21話の皇帝との決戦以降です
※ポケモン世界の大まかな世界観を把握しました
※ディアルガ、パルキアというポケモンの存在を把握しました
※グリーフシード×2は支給品二つ扱いです


【ニャース@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:健康
[装備]: なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済)
[思考・状況]
基本:サカキ様と共にこの会場を脱出
1:サカキ様を探し、指示をいただく
2:しばらくはC.C.と行動する
3:ジャリボーイ、ジャリガールとはできれば会いたくない

[備考]
※参戦時期はギンガ団との決着以降のどこかです
※ディアルガ、パルキアへの考察はあくまで仮説レベルです
※アニメ版コードギアスの大まかな世界観を把握しました

37 ◆zYiky9KVqk:2011/07/08(金) 00:04:05 ID:whzCtfQs
投下終了です
タイトルは本投下までに考えておきます

他の人が色々と凄そうな話考えてるような中でこんな登場話しか書けない自分が嫌だ

38名無しさん:2011/07/08(金) 00:07:16 ID:2KymuQ0U
投下乙。
こういう話も嫌いじゃないですよ。
あまり自分を卑下なさらないで。

39名無しさん:2011/07/08(金) 00:07:27 ID:PBtNgXO2
途中割り込み失礼しました。
噛み合ってるようで、噛み合ってない……そうか、C.C.から随分刺が抜けてるからか。
C.C.も魔女だったか…変なこといってまどか勢に狙われなきゃいいけど。
サカキに会っても「知らん」と言われ涙目になるニャースが浮か…あれ、アニメのまんま?
投下乙でした。

40名無しさん:2011/07/08(金) 00:09:19 ID:kFhA5U4.
投下乙です!

あーそうか、この組み合せならおおよそ主催について把握できるのか
グリーフシードも入手したし、案外最も主催に近いペアかもしれないなww

これでニャースが黒猫だったらガチで魔女なんだけどなぁw

41 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/08(金) 00:25:18 ID:tSrgcbmE
投下乙です。
何と言うか、マイペース同士で意外と良いコンビだなぁこの二人w
しかも主催の情報について把握した上に、グリーフシードを持っているっていうのは大きい。
良い話だと思いますから、そんな卑下しないで下さいな。

42 ◆F3/75Tw8mw:2011/07/08(金) 00:32:28 ID:tSrgcbmE
さて、自分の仮投下についてレス返し。

>>27
地図で再度確認しましたが、よく見ると滝になってましたね……
一応下流に流されたという描写にはしましたが、ちょっとここについては加筆した方がいいみたいなんで、やってみます。

>>28
ナイトメアは設定上だと4m程度の大きさですから、生身でも立ち向かえなくはないと思いやらせていただきました。
特にロロの場合はギアスの能力が強力ですのでね。

>>29
一応は普段より負担がかかるとは書きましたが、実際には描写不足だったかもしれません。
もう少しばかり、つり合いが取れるように修正を行いたいと思います。

>>32
上述した通り、ギアスの負担について修正を行いたいと思います。
その上で、修正した完成品を本スレに投下するつもりです。
後、川ポチャは勿論狙ってやりましたw

43名無しさん:2011/07/08(金) 01:07:06 ID:e4kXcMtk
投下乙。
ニャース来たー!
動物ロワではポケモン勢唯一の生き残りになってしまったが、このロワではどうだろうな。
そういや、支給ポケモン含めたら動物ロワのポケモン勢全員出てきそうだな。
しかし、サカキがゲームに乗ってたらそれに従うつもりなのか…?

44 ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:35:48 ID:QvllRRbU
ゆま、メロ投下します

少々気になる部分もあったのでいったんこちらに

45オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:37:37 ID:QvllRRbU

――わかり易く言うならば、最後の一人になるまで殺し合いをしてほしいのだ。

とても冷たい目をしたおじさんは、ゆまたちにそう言った。

殺し合いというのは、つまり、お互いに相手を殺そうと戦うということで、
魔法少女と魔女が命がけで戦っているように、
あの広い場所にいた人たち全員で、命を奪いあえということで、

メガネをかけたお兄さんが、そのアカギというおじさんをやっつけようと向かっていった。

侮辱した者は殺すとかぶっそうなことを言っていたけれど、
つまりあのお兄さんは、『殺し合い』を許せないと思って、おじさんを止めようとしたのだ。

けど、あのお兄さんの手首には『魔女の口づけ』がつけられていた。

お兄さんは、助けて、と叫びながら燃えて死んでいった。


思い出して、ゆまの体が少しだけ震える。
キョーコと出会い、『魔法少女』のことを知ったあの日から、命がけの戦いに立ち会い、
父や母を含めた人間たちの無残な『死』だって見て来た。
それでも人の『死』を見ることは嫌だし、怖いと思う。
それが他人の『死』であっても、ゆま自身の『死』であっても。



つまり、あのおじさんはわるい人だ。



人間でも魔法少女でもない(男の人だし)、魔法を使えない人に見えたけれど、
人間に『魔女の口づけ(“ジュジュツシキ”とは何のことだろう)』を点けられるのだから、
人間なのに魔法が使えるのか、それともわるい魔法少女の一味なのか、そのどちらかだと思う。

46オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:38:35 ID:QvllRRbU
わるい魔法少女をやっつけるのも、魔法少女であるゆまのお仕事だ。
わるい魔法少女を探していたマミお姉ちゃんなら、あのおじさんだってきっと退治しようとするだろうし
キョーコもきっと、いつものように『オトシマエ』だと言って、あのおじさんと戦おうとするだろう。


(わるいことなんて、させないんだからね)


ゆまも、こんなところで死んでしまうのは嫌だ。
そして、キョーコが死んでしまうのも、同じくらいかそれ以上に恐ろしい。

それが、襲い来る『魔女』から逃げ出して、こうして生きている理由だから。
それが、ゆまが『魔法少女』として生きている理由だから。

だから、ゆまは殺し合いを止める為に、ゆまにできることをしたい。

幼いながらもしっかりと揺らがない心の強さで、小さなゆまは大きな決意を胸に抱いた。


しかし、



+   +   +

「むらうえ……うぅ〜……下の名前はなんて読むんだろう」

ゆまはまず、参加者の確認で早くもつまづいた。

配られた名簿の名前は漢字ばかりで、義務教育の三分の一も終えていないゆまには、半分近くの名前が読めなかったのだ。

しかし、カタカナの『マミ』という名前があるのは見つけた。
マミ、というのは、以前キョーコと公園で話していた黄色い魔法少女のお姉さんだろう。
キョーコのことを『怪しい』という目で見ていたからゆまも仕返しにスカートをめくってやったりしたけれど、
二人はそんなに仲が悪くなさそうだった。
あのお姉さんも魔法少女なら、きっと味方になってくれるだろう。

それに、ゆまとマミお姉ちゃんの二人の魔法少女が呼ばれているなら、きっとキョーコだって一緒に呼ばれていると思う。
あの暗い場所に飛ばされるまで、一緒にホテルのお布団でおやすみしていたのだ。
きっとキョーコも連れて来られているはずだ。

キョーコがいるとなれば、がぜんゆまの心は強くなった。

早くキョーコと会いたい。
会ってキョーコを助けたい。キョーコの役に立ちたい。

ゆまは決して一人では何もできない役立たずじゃないけれど、
でも、一人でいるのはさびしい。


だから、まずはキョーコを探そう。

47オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:39:18 ID:QvllRRbU
ゆまはそう決めたものの、しかし行くあてがあるわけではなかった。
魔法少女同士は離れた場所にいても頭の中でお話ができるのだけれど
(もっともゆまはいつもキョーコと一緒にいたからほとんど使ったことはない)
この場所に来てからその力が使えなくなっている。

これには魔法少女のゆまも、とほうにくれた。

とほうにくれたと言えば、ゆまの隣に置いてある『これ』もそうだ。
ゆまの飛ばされた場所に初めから落ちていた。
だからゆまが使っていいものだと思うけれど、しかしゆまには『これ』を使うことができない。

しょぼんとうなだれると『ぐぅ〜』とお腹が鳴った。

ゆまは顔を上げた。
ゆまの立っている大通りから建物二つほど離れた先に、夜中にも明るいコンビニエンスストアの看板が見えた。

万引き――もとい食料自給でよくお世話になる場所になじみを覚えて、
ゆまはそそくさと歩みを進め、自動ドアをくぐり、明るい店内に足を踏み入れる。

お店の中に人はいなかった。
好奇心が高じて、レジの裏から『関係者以外立ち入り禁止』の場所まで探索したけれど、本当に誰もいなかった。

いいことを思いついた。

さっきディパックを開けたところ、食べ物は給食に出て来るようなパンばかりだった。
別にパンは嫌いじゃないけれど、食生活に不自由していないゆまには、ちょっと飽きのくるメニューだ。

もちろんキョーコに教わったように、そのパンを粗末にするつもりはなかったけれど、それ以外のオカズやお菓子があればとても嬉しい。
いつもハンバーガーや菓子パンを食べているキョーコだって、きっと味気ない想いをしているはずだ。


そしてここは万引きをせよと言わんばかりにたくさんの食べ物があり、
にも関わらず店員は誰もいないのだ。


キョーコを探す前に、やることができた。

レジの裏からコンビニのレジ袋の中を持ちだすと、ゆまは目についた食料――特にキョーコの好きそうなジャンクフードやお菓子――を詰め込んで行く。

わるいひとを許さないことと、泥棒をすること。
この二つは、ゆまの中で何の矛盾もない行動だった。

(お菓子を持って行けば、きっと杏子も喜んでくれるよね……!)

板チョコを棚から何枚もつかみだしてディパックに入れながら、ゆまは杏子との再会を思って『にぱー』と笑った。

48オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:39:54 ID:QvllRRbU


+   +   +

メロは注意深く付近を観察しながら、深夜の大通りを闊歩していた。


何の前触れもなくあの広間に召喚され、
まず、彼の心に生まれたのは激しい怒り。


人生の全てを費やした“四年間”の決着を、妨害された怒り。
あと二日で、全てに決着がつくはずだった。最後の戦いが行われるはずだった。

ニアは、己の命と世界の命運を賭けて、夜神月の前に姿を現そうとしていた。

夜神月もまた、己の命と世界を支配する権利を賭けて、一対一でニアとの対決に臨もうとしていた。

そしてメロは、この二人の決闘を知り、双方の策略を推察し、覚悟を決め、
命を賭けて『ある状況』を作る為の『誘拐』を実行していたところだった。

そう、あともう少しで、二代目Lことキラと、ニアとメロ、この三者の対決に、全ての決着をつけられるところだった。
三人の宿敵が、それぞれの人生とプライドを賭けたひとつの決闘劇を、
いとも簡単に不条理に邪魔された。

その怒りは、激しやすいメロでさえ人生でそう何度も味わったことがないほどの、苦々しいものだった。
怒りで唇をかみしめて食い破った血の苦さの味だ。



そして、次に思い知らされたものは、驚愕と、納得。

そこで目にした、耳にした、常識を覆す数々の異様な光景と、謎のキーワード。

例えば、真っ先に反抗を試みて殺された青年の、異形の姿。そして『オルフェノク』という単語。
例えば、青年の体を突如として炎上させた、『魔女の口づけ』なる呪術式。
例えば、アカギが願い事として口にした『全ての時間軸から魔女を消し去る』、『人類の進化系が支配する世界』といった計画。

誰もが悪い夢を見たと思いかねないその異常な空間は、
しかし、受け入れなければ命に関わりかねないという現実だった。

『名前を描いただけで人を殺せるノート』が、実在したように。
持っていたノートが急に浮遊したと思ったら、死神と名乗るシドウが現れたように。
あまりに常識を覆すものを見た時は、逆にあっさりと受け入れた方が対応しやすいことをメロは経験から知っている。
ただ、今回ばかりは流石にファクターのバリエーション豊富さに、呆れかえりそうになったが。

49オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:40:28 ID:QvllRRbU
そして提示された命令は『殺し合い』。
その目的も、『儀式』というオカルトじみた領域の産物だった。


しかし、メロは『命令に従って殺し合いに乗る』という選択をするつもりはない。


あのアカギという男は、『最後の一人』を『勝者』として願いを叶えると言っていたが、
しかしあの主催者の命令に忠実に従って『儀式』を実行したとして、それは『勝者』ではない。
その場合の勝者は、アカギという男、ただ一人だ。
主催者に怒りを抱き、可能なら報復したいと思っているメロにとって、それは決して望ましい形ではなかった。

また、皆殺しを実行するということは、あの決闘劇の相手だったニアと夜神月を殺害、もしくは見殺しにするということになる。
別に、このような状況下でも助けたいと思うほど、深い友誼を抱いているなんてことは全くない。むしろその逆だ。
この世でもっとも忌々しいと思っている二人が、彼らだと言っていい。

もしこの儀式に呼ばれたのが三カ月前のメロだったら、ニアと二代目Lを出しぬき、二人に勝利し、場合によっては殺害した上での生還を前提として行動しただろう。
その為ならば、ニアの悪評を振りまき、対主催陣営にヒビを入れることも厭わなかったはずだ。
ニアを倒し、Lを越えて“一番”の高みにのぼる。その為には手段を選ばないし、どんな悪事も辞さない。
それがメロの長年の悲願であり、行動方針だったのだから。

しかし、今のメロは、そこまで強引なことをして、ニアと競争しようとは思わない。

今のメロは、命がけで『ニアを夜神月に勝利させる』為の計画を実行していた最中だったのだから。

50オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:41:07 ID:QvllRRbU
キラを止める為に命を捨てよう、などと正義感にかられたわけではなかった。
メロが生き残り、その上でニアと夜神月の二人を出しぬけるという勝算もあった暴走だった。
しかし『もし自分の誘拐計画が失敗しても、それが結果的にニアの勝率を挙げる行為になる』とまで見越して行動したことは、認めざるを得ない。

何より求め続けた“一番”の地位をニアに譲ることになったとしても、ニアに最後の最後の局面で
『メロのおかげです』とでも言わせることができれば、
『ニアの力だけでLを越えることはできないが、二人ならLを越えられる』と認めされることができれば、
そんな結末でも、まぁいいかと妥協して納得して、メロは『俺がやるしかない』と理解した。

だから、こんな運と不確定要素に大きく左右される殺し合いの場で、決着の形が違うものになってしまうことは、とてもではないが好ましくなかった。

『儀式』を中断させ、ニアや夜神月と共に決着の続きをつけられることができれば、それが最善。
しかし、夜神月は、殺し合いに乗る可能性があるだけでなく、メロの排除に動きかねない。
その場合は彼を打倒し、決着をニアとの一対一に持ち越す。それが次善。
そして、最悪の場合にせよ、主催者の思惑には乗りたくないので『勝者』を狙うつもりはない。

……まぁ、あくまで“ニアと積極的に争うつもりはない”というだけで、慣れ合うつもりはもうとうないが。
(第一、こちらに競争する意思がなくとも、向こうは未だにメロを警戒しているだろう)


一度、納得して捨てた命だ。
なら、最後に命がけの難題にチャレンジするのも悪くない。


死ぬ覚悟を決めた今のメロにとって、対主催行動を取るのは、それほど決断を要す事態でもなかった。

51オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:41:42 ID:QvllRRbU
さて、『ニア』と『夜神月』に対する対応はそれで良いとして、名簿には他にもいくつか、看過できない名前が存在する。

夜神月の部下、松田桃太。夜神月の恋人、弥海砂。この二人に関しては、夜神月との繋がりで呼ばれたと考えて良いだろう。
おせじにも使える人材とは言えないが、夜神月の派閥にいる以上はメロのことを警戒しているだろうし(それでなくともメロは犯罪者なのだ)悪評を振りまかれる可能性はある。
警戒ぐらいはしておくべきだろう。

しかし、『L』という名前が名簿上に存在するのはどういうことか。

これまでにLを名乗った人間は三人いる。

言わずと知れた、世界最高の探偵、メロとニアの目標、初代L.
そのLを殺害し、まんまと二代目Lの座に居座っている夜神月。
そして、メロが引き起こしたノート強奪事件に際して、偽証からLだと申告した松田桃太。

初代Lは、既に故人となっている。
夜神月と松田桃太の名前は、既に名簿上に存在する。

これだけなら、名簿の誤表記を疑っていたところだ。

他にも『あり得ない名前』が存在しなければ。

夜神総一郎。
南空ナオミ。

どちらも既に死んだ人間の名前だ。
といっても、南空ナオミに関しては伝聞でしか聞いたことがない。
過去に、初代Lが話して聞かせてくれた『ロサンゼルスBB殺人事件』でLの協力者となった元FBI警官の名前だ。
どうも婚約者であるレイ・ペンバーがキラ事件で殉職して以来、
行方不明になったそうだから、メロとしても本当に死んだのかどうかの確信は持てない。
(たまたま同性同名の人間が名簿に載っている可能性もある)

問題は、夜神総一郎だ。
彼に関しては間違いなく死んだと断言できる。

彼を殺したのは、他ならぬメロだから。

否、直接に手を下したのはマフィア時代の仲間であるホセだが、殺す決断はメロがくだしたようなものだ。

息を引き取るところまでを見たわけではないが、
撃たれた総一郎からノートを取り上げようとした時の、あの負傷は充分に致命傷だった。

主催者は、願いを叶える権利の具体例として、死者の蘇生をも可能にすると言っていた。
死神の存在を受け入れたメロでさえも、死者蘇生というのはにわかに信じがたい。
しかし、仮にも“オカルト”を受け入れると決めた以上、その可能性も念頭に置いた方がベターだろう。
もちろん、『死者蘇生』が可能と見せかける餌を撒く為に、名簿にわざと故人の名前を混ぜたという可能性もあるが。
しかし、仮に、故人が参加者になり得るとしたら……。



(初代Lも、蘇生している……?)

52オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:42:17 ID:QvllRRbU
その仮説は、流石のメロにも形容しがたい身震いを走らせる。
あの『L』だ。
ワイミーズハウスにいた者ならだれもが尊敬し、
そしてある者は叶うはずがないと諦め、
ある者はその『後継者』の座を得ようと夢見て研鑽を重ねて来た、あの『L』だ。

彼が蘇生しているかもしれないと言われ、動揺の走らぬはずがない。
胸が高鳴らないはずがない。


希望的観測に依りかかるのが危険だとは承知している。
しかし、仮にLが蘇生しているのだとすれば、名簿の表記に関する問題は解決する。

本当に死者が蘇生しているかはともかくとして、
名簿に故人の『夜神総一郎』が書かれているように、名簿の『L』が故人である『初代L』を指す可能性は大いにある。

どちらにせよ、今の段階で断定はできない。
だからこそ、今、何よりも必要なものは『情報』だ。

その為にこそ、メロは恐れることなく大通りの真ん中を歩いていた。

まずは何より、他の参加者との接触を――


黒いカラーリングの原付自転車が、路上に停車していた。


メロは駈けより、その車体を観察する。
鍵はささっているようだ。
特に故障も見当たらない。むしろその輝きは新車のそれだ。
アクティブさを強みとするメロにとって、そのバイクが利用できることは大きなアベレージになる。
しかし、こんな路上にぽつねんとバイクが駐車しているのも不自然な話だ。

もしや、これは誰かに支給品として配布された物ではないか。

だとすれば、この原付を支給された持ち主は、バイクの運転ができなかったか、
あるいはここに原付を停車させて、この近辺を徘徊しているか。

53オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:42:52 ID:QvllRRbU

――ウィィィィン


十数メートル先の建物――深夜でも明るいコンビニエンスストア――の、自動ドアが開かれた。

コンビニのビニール袋をその手にぶら下げた少女が現れ、
あどけなく大きな瞳がメロをきょとんと見上げた。



+   +   +

「お兄ちゃん……?」

ばっちりと目が合ってしまった。

襟もとと袖口を織り込んだぶかぶかのセーター。
鈴を模したような金色の髪飾りと、小さなふたつ結び。
年齢はおそらく、六歳前後。

こんな幼女まで殺し合いに放り込むとは。
子どもを巻き込むことに憤慨するほどメロは人道的ではなかったが、
しかしアカギ曰くの『選ばれた戦士たち』の基準を疑いたくはなってしまう。
まぁ、あのメガネの青年がそうだったように、一見して一般人だからといって、その正体もそうだとは限らないのだが。

しかし、

「なんだ、ガキか」

子どもという手ゴマは、正直なところ『微妙』だった。

使い道がないわけではない。
連れ歩くだけで他の参加者からの警戒を和らげるなど、メリットはある。
しかし、問答無用で『保護し守る義務』が発生する。

例えば、大人の参加者なら『仲たがいをして別れた』『相容れないから切り捨てた』だけの説明で済む要因でも、
その相手が子どもなら『子どもをこんな殺し合いで放置した血も涙もない男』という不和のタネになってしまう。
つまり、今後のことを思えば、見つけた時点で(道中の預け先を見つけない限り)ずっと連帯するしかなくなってしまう。

(まぁ、殺すという選択肢もあるな)

殺すという手段は、乱暴だが手っ取り早くもある。
ライダースーツの中に隠した支給品――ワルサーP38――をこっそりと確認した。
(もちろん、情報を聞きだしてからにはなるだろうが……しかし、一度協力関係を結んだら、切り捨てにくくはなる)

54オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:43:29 ID:QvllRRbU
メロは決して善人ではない。
出来る限りの努力を積み、それでも敵わない差を埋める為に、メロは“手段を選ばない”という選択をした。
何の罪もないSPKのメンバーを『ニアを出しぬきたいから』という理由だけで殺した。
使えない手ゴマをデスノートの実験台として使ったこともあった。


(しかし……こんな状況じゃ協力者は必要になるだろうな。)

しかし、そんなメロにも惜しみなく協力してくれた仲間はいた。

メロを信頼し、トップの座を実質的に譲り渡すばかりでなく、資金を惜しみなく提供したロッド・ロス。
ワイミーズハウスの同郷であり、マフィア壊滅事件以来のただ一人の協力者、マット。

無償の尽力というわけではなく、打算あっての協力関係だった。
しかしそこには確かに、裏社会で生きる者なりの信頼があった。
どちらも、メロのキラ打倒計画に加担したからこそ、メロより先に死んでいった。

彼らの犠牲の上にメロは生き延び、そして、メロは一人になった。

感傷を抱くほどやわな人生を送って来たわけではない。
己の決めた道に、失敗はあっても後悔をしたことはない。
しかし、誠意をつくしてくれた『仲間』を、己のツメの甘さから死なせてしまったことは
『申し訳ない』と心から思う。

よくも悪くも、『感情』というものを制御できないし、制御する気もないのがメロなのだ。

だからこそ、少女を殺すかどうかの判断で迷ってしまう。
例えばキラなら、どんな相手でも『利用する』の一択であり、まずは味方につけるだろう。
しかしメロには『信頼をする』と『利用する』の二択が存在しているだけに、かえって味方の選抜にはシビアになってしまう。

「ガキ、何してるんだ、こんなところで」

そんなメロの迷いも露知らず、
少女はメロの言葉に、頬をむっと膨らませた。

「ゆまはガキだけど強いんだよ! 役に立つんだよ!」

「ゆまはガキじゃないよ!」というテンプレートな反論を返さないところに、少し好印象を受けた。
だからどうだというわけでもないが。

55オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:44:01 ID:QvllRRbU
「そいつは悪かったな。それで何やってるんだ? コンビニなんかで」

「お店に人がいなかったから、食べ物と色んな道具をもらって来たの。あと、レジのお金も」

殺し合いに巻き込まれて最初にすることが食料調達とは……冷静だと見るべきか、事態を理解していないと見るべきか。
金品にまで気が回っていることから、メロは前者だと判断する・
こんな閉鎖環境で金がそこまで魅力を持つとも思えないが、しかしあって困るものではないだろう。何より、あまりかさばることがない。
こんな異常な状況下で、しかし即座に物資の調達を考えられる少女のことを、メロは少しだけ評価した。

「お前、親は……」
「え? 何?」
「いや、いい」

よくよく見ればぶかぶかのセーターには乱暴な補修の跡があり、ずいぶんと着古されている。
保護者が娘の身なりにさえ配慮しない環境にいたのか、あるいは保護者自体がいない環境にいたのか。
メロはその経歴がら、貧困街に住みつくストリート・チルドレンも見慣れて来たが、彼らは下手に甘やかされた大人よりよほど抜け目がなく、生きることに貪欲だ。
この少女も、その類の人種かもしれない。

少女は、臆することなくしげしげとメロの顔を見つめた。
「お兄ちゃん、けがしてるね……」
この顔を見ても全く怖がらないとは、あるいは大物かもしれないとメロは観察を続行し、


少女が、その手のひらに緑色の小さな宝石を取りだした。


宝石が発光し、少女の姿が一瞬にして変じた。

56オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:44:31 ID:QvllRRbU
(変身……した……?)

猫耳のような突起物をつけた白いヘアバンドに、ミドリと白のドレス。
関節部をリボンできゅっとしぼったひらひらのブーツと、てぶくろ。
その姿はまるで、ジャパニーズ・アニメーションに登場する子ども向けアニメのキャラクターのようだ。
ファンシーな格好に変じた少女は、首に着いた鈴のようなチョーカーをりんと揺らしてメロをにっこりと見上げる。


ぱぁぁ……


メロの視界の左半分で、鮮やかな光の粒子が光り、メロは慌てて原付のサイドミラーで己の顔を見た。

「火傷が……」

メロの左頬に残る大きな火傷のただれが、みごとに修復されつつあった。
医者が日本の捜査本部に抑えられている可能性を考慮して、正規の治療を受けられず、メロ自身も諦めていた傷だった。
その傷跡が、みるみると目立たない色に変わり、小さくなり、そして『近づかなければ分からない』程度にまで元の皮膚と同化する。

「あれ? いつもより治りが遅いの……おかしいなぁ」

変身した少女は、ちょっと困ったように小首をかしげている。

「この治療は、お前がやったのか……?」
「そうだよ! ゆまの治療魔法なんだよ」

見違える間に修復された傷と、『魔法』という言葉。
そして、主催者が言っていた『魔女』という言葉。

……どうやら、メロが逡巡している間に、少女は己の価値を証明してしまった。

57オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:45:02 ID:QvllRRbU
メロは片膝をついてすわり、ゆまと目線を合わせる。
大丈夫、メロはニアと違って、ワイミーズハウスでも社交性のある子どもだった。
だから、子どもの対応にだって慣れている、はずだ、おそらく。

「お前……ゆまと言ったな。ありがとう」
メロはヘアバンドの上から、ゆまの頭を撫でた。

ああ、ガラにもないことをしているな、と内心で苦笑。

「えへへ。どういたしまして」
「なぁ、ゆま。俺と一緒に来ないか?」
「お兄ちゃんと……?」
「『お兄ちゃん』じゃねえ……俺はメロだ。
俺の傷を治してくれたってことは、お前はこの殺し合いに乗るつもりはないんだろう。
俺も同じだ。あのアカギって奴の企みをぶっ潰したいと思ってる。
だからゆま、俺に力を貸してくれないか」
ゆまは驚いたように、そして、感動したように大きな瞳を見開いた。
「メロは、ゆまの力が必要なの?」
「あぁ、お前の治療魔法は頼りになることが分かった。それに『魔法』っていうのが何なのかも話して欲しい。
俺ばっかりが借りをつくるのも不公平なら、お前の知り合い探しぐらいは手伝っやるよ。
お前にだって知り合いはいるだろうし……」
「……うん! うんうん! じゃあ、メロお兄ちゃんはゆまの『仲間』だね」



こうして、“一番になりたかった男”と“必要とされたがった少女”は小さな同盟を結んだ。

58オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:46:17 ID:QvllRRbU

【G−5/大通り、コンビニ前/一日目 深夜】

【メロ@DEATH NOTE】
[状態]健康(顔の火傷が、目立たない程度に治療されました)
[装備]ワルサーP38(8/8)@現実
[道具]基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
1・ゆまから『魔女』についての情報を得る。
2・死者(特に初代L)が蘇生している可能性も視野に入れる。
3・必要に応じて他の参加者と手を組むが、慣れ合うつもりはない。(特に夜神月を始めとした日本捜査本部の面々とは協力したくない)

[備考]
※参戦時期は12巻、高田清美を誘拐してから、ノートの切れ端に名前を書かれるまでの間です。
※協力するのにやぶさかでない度合いは、初代L(いれば)>>ニア>>日本捜査本部の面々>>>夜神月>弥海砂

【千歳ゆま@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]健康、変身後、魔力消費(小)
[装備]ソウルジェム
[道具]支給品一式、不明支給品0〜2、コンビニ調達の食料(板チョコあり)
[思考]基本・わるいおじさんをやっつける
1・メロお兄さんとお話する。
2・メロお兄さんと一緒にキョーコ、マミお姉ちゃんを探す(キョーコを最優先)

[備考]
※参戦時期は、少なくとも3話以降。
※原動機付自転車@現実が、コンビニの数十メートル手前で停車しています。

59オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男  ◆8nn53GQqtY:2011/07/08(金) 23:49:13 ID:QvllRRbU
一時投下終了です
動きのない話なのにばか長くなってすみません;

現地調達ってどの程度大丈夫なの?とか気になるところあありますが、
個人的に意見が欲しいと思ったのは
「メロはLと面識があり、南空ナオミ(ロサンゼルスBB殺人事件)を知っている」という設定
これ、小説版(西尾先生が描いたやつ)の設定なんですよ……

原作者以外の人間が描いた外伝小説の設定を取り入れていいのか迷ったんですが
原作にこの設定を否定した部分がなかったので、一応反映させました
……突っ込みが来るようなら当該箇所の修正を考えています

60名無しさん:2011/07/09(土) 00:22:00 ID:vai3oVbQ
投下乙す。
小説設定は、まあどうしようもない矛盾でもないし。ナオミのことを知ってる左証程度であれば問題ないと言います。
むしろ気になるのは古傷(という程長くもなかろうが)の治療ですかね。ゆまの治癒力は一歩抜きん出てるから不思議でもないか。
…ていうか、メロさんなんかいい人っぽくね?

61 ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 02:56:45 ID:XQV58tEw
衛宮士郎、セイバーオルタ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンを投下します。

62ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 02:58:50 ID:XQV58tEw



 轟ッ、と奔る閃光を紙一重で避ける。
 そのまま立ち止まる事なく全力で駆け抜ける。

「きゃあああああ――――ッッッ!!!!」

 腹の底から全力で悲鳴を上げながら。


 と言うか、叫ばないとやってられなかった。

「なんでアレが居るのっていうかなんでいきなり遭遇してるのっていうかなんでこんな事に巻き込まれてるのよ――――――――!!!???」

 背後から漆黒の鎧――黒化英霊のセイバーが剣を構え迫る。
 顔はヘルムで覆われ、表情は見えない。だが、その固く閉じられた口元に、全身から放たれる威圧感が、対話という手段が通じない事を容易に理解させる。

 彼女は以前私が――というかクロが倒した筈なのに、なんでまた現れているのかさっぱり理解できない。
 もっとも、それを言ったらそもそも今の状況が理解できないのだが。


「――――」
「きゃあッ!」

 再び放たれた黒い斬撃を辛うじて避ける。
 今のは危なかった。今のはヤバかった。今のはギリギリだった。
 強力な障壁を張れるルビーが居ない今、セイバーの攻撃を受ける選択肢はあり得ない。

「どうでもいい時には呼ばなくても出てくるくせに、どうしてこんな肝心な時にいないのよあのバカ杖は――ッ!!」
 彼女さえいれば倒すとまではいかなくても、逃げ出す事くらいは出来たかも知れないのに。

63ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:00:39 ID:XQV58tEw
「ってそうだ、支給品!」
 主催者によって支給された道具。それによってはこの事態を好転させる事も出来るかもしれない。
 もしランサーのクラスカードがあれば、セイバーを倒すのも不可能ではないかもしれない。
 カレイドステッキ無しで限定展開(インクルード)が出来るかはわからないが、一度はステッキ無しでより上位の夢幻召喚(インストール)をした事もあるし。………やっぱりクロが、だけど。

 けれど、このまま逃げ続けるだけよりはずっとマシなはずだ。
 そう思って支給品を取り出しやすいよう、背負っていたデイバックを抱え直そうとして、

「あっ!」

 躓いた。
 走りながらだったのがまずかったのか。走りっぱなしで疲れが足に出たのか。とにかく躓いて転んだ。

「った……ッ!」

 その頭上すれすれを、黒い斬撃が通過した。
 右に避けても、左に避けてもダメだった。跳んで避けたらいい的だった。
 偶然にしろなんにしろ、転んでなければ斬られてた。
 つまりは殺されていた――死んでいた。

「うひゃああぁぁ――ッ!!」

 即座に立ち上がって駆け出す。
 支給品の確認なんて後回し。安全確実な状況じゃなきゃそんな隙は命取りだ。


        ◆

64ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:01:54 ID:XQV58tEw
 それから、十分ぐらいたっただろうか。
 どうにか直感と幸運だけで逃げ続けられたけど、それももう終わりらしい。
 息は荒く、脚は生まれたての小鹿みたいに震えていて、心臓の鼓動はバカみたいに早い。
 それに何より―――

「そ、そんな…………」

 逃げ場のない、袋小路に追い込まれた。
 全く気が付かなかった。
 カードの力で実体化した黒化英霊に理性はない筈なのに、いつの間にか追い詰められていた。


 ガシャン、と後ろから金属の擦れる音がした。
 恐る恐る振り返れば、そこにはやはり黒い騎士がいる。

「ぁ……う……」

 堪らず後ずさるも、すぐに背中が壁にぶつかる。
 右を向いても、左を向いても壁。もうどこにも逃げ場はなかった。

「……………………」

 セイバーは無言で近づいてくる。
 その右手に、鋼の刃を携えて。
 その距離は、もう十メートルもない。

「……ミユ……クロ……凛さん……ルヴィアさん」

 大切な人たちの名前が、口から零れていく。
 逃れようのない絶望を前に、恐怖が心を押し潰す。
 そして―――


 セイバーが剣を振り上げる。
 閃く剣には一切の慈悲も、容赦もない。
 ただひたすらに冷徹な無感情だけがそこに在った。

65ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:02:35 ID:XQV58tEw


「助けて…………おにいちゃあぁぁあああん――――!!!!!」

 そして気が付けば、誰よりも大好きな人の名前を呼んでいた。


「伏せろ! イリヤ!」

 直後、どこからかその人の声が聞こえた。
 それに従い咄嗟に伏せる。
 その直後。

「――――“偽・螺旋剣(カラドボルグ)”!!」

 その声と共に、壁を抉り飛ばしながらセイバーへと向かってくるモノがあった。

「ッ――――――――!!」

 セイバーはそれを咄嗟に弾くが、大きく体制が崩れる。
 そこに更に一対の剣が飛来するが、しかしそれは事もなげに躱された。
 だがセイバーは続く攻撃を警戒して後方へと飛び退き、イリヤとの距離を大きく開ける。
 それによって出来た間に、イリヤを庇うように一人の少年――衛宮士郎が立ちはだかった。


 その声を知っている。
 その後ろ姿も知っている。
 その赤毛の髪だって知っている。
 けれど―――

「……おにい、ちゃん?」

 知らない。
 その手には白と黒の短剣。
 纏う空気は戦う者のソレ。
 僅かに見えた目は鷹の様。
 こんな衛宮士郎を、私は知らない。

66ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:03:47 ID:XQV58tEw

「お兄ちゃん、だよね?」
「……………………」

 答えはない。
 答えるつもりが無いのか、それともそんな余裕がないのか。
 衛宮士郎はただ、眼前の黒い騎士だけを睨んでいた。

『大丈夫ですか、イリヤさん!!』
「ル……ルビー!」

 いつの間に現れたのか、カレイドステッキのルビーが声をかけてきた。
 たったそれだけの事に大きく安心した。

「ねえルビー。あの人って、お兄ちゃん……だよね」
『はい。彼は間違いなく、衛宮士郎その人です。ただ……』
「ただ?」
『ただ、あの士郎さんは恐らく、“平行世界”の衛宮士郎なのでしょう』
「平行世界の、お兄ちゃん?」
『“平行世界”とは、無限に広がる鏡合わせの世界。限り無き可能性の枝葉の事です。
 その可能性世界においては、“魔術師の衛宮士郎”がどこかにいたとしても、何も不思議じゃありません』
「うう……頭グルグルする」
『まあ確かにこの手の話は、イリヤさんにはまだ早すぎますからね』
「よく解んないけど、あのお兄ちゃんがお兄ちゃんであることには変わらないんだよね」
『はい。あらゆる可能性といっても、人の本質はそう変わるモノではありませんからね』

 それを聞いて、改めてお兄ちゃんを見る。
 つまりこのお兄ちゃんは私のお兄ちゃんとは別人だけど、同時にまったく同じ人という事なのだろう。

「けどお兄ちゃんが魔術師だったとして、あのセイバーに勝てるの?
 それに、さっきお兄ちゃんが使った魔術って………」

67ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:04:19 ID:XQV58tEw
 クロと同じ投影魔術だった。
 それに今衛宮士郎が握る双剣も、クロが使っていた物と同じだ。

『それはわたしにも判りません。
 士郎さんはアーチャーのクラスカードを夢幻召喚(インストール)していませんので、あれは間違いなく士郎さん本人の能力です。
 一体、あの士郎さんとクロさん――いえ、この場合はアーチャーのクラスカードに宿った英霊との間に、どのような関係があるのか………』

 ルビーはそう言って言葉尻を濁した。
 その様子は、衛宮士郎の能力に心当たりがあるようにも見えた。

『ですが、見た所あのセイバーはエクスカリバーを所有していませんし、士郎さんの能力が本当にアーチャーの能力と同一のモノであるのなら、或いは』

 イリヤが以前そうしたように、倒せるかもしれないと。
 だが、それでも心配は尽きないし、不安も拭えない。

「ねえルビー。私にも何か、出来るコトはない?」
『それは難しいですね。現在のイリヤさんの魔力出力は、前回のセイバー戦より遥かに落ちてます。今のイリヤさんでは、最悪、足手まといにしかなりません』
「うっ…………。それは、そうだけど…………。
 でも、お兄ちゃんにセイバーの相手をさせて、このままじっとしているなんて出来ない」
『イリヤさん………』
「お願いルビー。私に力を貸して」

 そう言ってイリヤは、まっすぐにルビーを見つめた。


        ◆


 そうしている間も、衛宮士郎とセイバーの睨み合いは続いていた。
 だがそれももう終わる。
 重たい沈黙を破ったのは衛宮士郎からだった。

68ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:05:00 ID:XQV58tEw
「…………セイバー、どうして……」
「……………………」

 剣士からは殺気も敵意も感じられない。
 漆黒の鎧に身を包み、ヘルムで顔を覆い隠している彼女からは、いかなる感情も読み取れない。
 それを信じられないと思い、同時に、悔しくて歯を噛んだ。

 ―――これは違う。
 これじゃあ別人だ。
 殺気と敵意だけじゃない。
 ……彼女には。
 以前あれほど感じられた気高ささえ、皆無だった。

「それを知ってどうなると言うのです、シロウ。
 既に気付いているのでしょう。貴方は既に私のマスターではなく、私はもう貴方のサーヴァントではない。貴方の質問に答える必要など、もうどこにもない」
「それ、は…………」
「―――この身は既に、貴方の剣ではないのです」
「ッ――――――――!」

 その言葉に息を飲む。
 後ろで「喋った!?」とか驚いている声も耳に入らない。
 貴方の剣ではないと、そう言われただけで、心臓が鷲塚みにされた様に痛んだ。
 それを堪えるために、ただ強く、唇を噛んだ。

「私は聖杯の器を必要としている。私の邪魔をするのであれば、誰であろうと容赦なく殺す。そこに話し合いの余地などありません」
「……………………」

 セイバーが俺へと剣の切っ先を突き付ける。

 セイバーも言ったように、対話の余地などどこにもない。
 彼女はたとえ誰であれ、邪魔する者は躊躇いなく殺すだろう。
 それでも……どうしてもセイバーを止めたければ、投影魔術を以ってセイバーを打ち負かすしかない。

69ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:05:38 ID:XQV58tEw


 ――――俺達はもう、どうしようもない程に敵同士だった。


「―――もっとも。この局面で、貴方が引き下がれる筈がない。
 私が何を言うまでもなく、貴方は身命を賭してイリヤスフィールを護ろうとするでしょう」

 セイバーの体が揺れる。
 彼女は、音もなく選定の魔剣の柄を握り、

「行きます。イリヤスフィールを護りたいのであれば、剣を執りなさい」

 静かに、今だ躊躇いを見せる俺へと肉薄した。


「……くそ。やるしかないのか」

 干将莫邪を構える。
 セイバーを止める。イリヤを助ける。
 そのどちらを成すにしても、まずは彼女を倒さなければならない。

 ……もっとも。
 衛宮士郎ではセイバーには敵わないと、とうに結論は出ているのだが。


 ―――振り抜かれる魔剣。

 彼我の距離はまだ遠い。
 だが剣に纏わせていた黒い魔力が、剣圧を伴って打ち出される。
 小手調べとばかりに迫るそれを防ぐのではなく受け流すことで対処する。
 背後のイリヤが気にはなるが、一人でここまで逃げて来れたのなら、自力で避ける事も出来るだろう。

 ―――再び同じ一撃が放たれる。

70ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:06:10 ID:XQV58tEw

 魔力放出による遠距離斬撃とはいえ、セイバーの一撃である事には変わりない。まともに受ければ防御を容易く崩される。
 故に防ぐなどと言う選択肢はあり得ない。先ほどと同様に受け流す。
 そこにその二撃を囮にしたセイバーが、視認さえさせず俺の喉を突きに来る――――!


 打ち合う鋼に火花が散る。

「っ……!?」
 驚きはセイバーのものだ。
 彼女の知る衛宮士郎では防げぬ一撃を俺は防ぎ、更には迎撃までして見せる。
 その驚きによって生じた隙に陽剣干将を薙ぎ払い、追従するように陰剣莫耶を叩き込む。
 しかし不発。
 セイバーはその二刀を完全に受け流し、魔剣を振り抜いて反撃してくる。

「は――――」

 防戦一方。
 攻め手が許されたのは一度のみ、後はひたすらセイバーの剣を防ぐだけ。
 セイバーの一撃は、それ単体で俺を確実に殺せる精度を持っている。

「は――――、ぁ、ぐっ――――」
 それを防ぐ。
 干将莫邪から経験を引きだし、アーチャーの戦闘技術を我が物とする。
 完全じゃないが、今の衛宮士郎(おれ)の技量はアーチャーのソレに近い。

「は――――、あ――――」
 だが、それだけではどうにもならない。
 いかなる理由からか、セイバーの動きは精彩を欠いている。
 それでもなお、セイバーは衛宮士郎より圧倒的に強い。

 届かない。
 このままではセイバーには勝てない。
 衛宮士郎では、セイバーには遠く及ばない。

 それでも勝とうと思うのなら、衛宮士郎の唯一の武器を最大限に活用しなければならない。

71ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:06:51 ID:XQV58tEw


「がぁ――――ッ!」

 砕かれた。
 今までセイバーの猛攻に耐えてきた夫婦剣が、遂に打ち砕かれた。
 これで無手。今の衛宮士郎には、いかなる攻撃も防ぐ事が出来ない。
 その絶対の隙に、セイバーが止めの一撃を叩き込んでくる。

 ―――それを防ぐ。

 その手に握られた、王者の剣と謳われる“絶世の名剣(デュランダル)”がセイバーの剣を受け止める。

「は―――、あ――――!」
 そこから返すようにセイバーに一撃を叩き込む。
 だが、決して折れないという逸話を持つ「不滅の聖剣」は、セイバーの反撃によって破砕した。

「っあ――――!」
 そこにセイバーが串刺しにせんと魔剣を突き出す。
 その一撃を捻じれた一角剣で同様に迎撃する。
 一角剣が砕かれる。

「このッ――――!」
 ならばと眼前の剣。龍殺しの特性を持つ太陽剣グラムを投影し。

「風よ……吼え上がれ!!」

 太陽の如き黒い極光を纏ったセイバーの一撃に、あっけなく粉砕された。

「あ――――」
 黒き太陽のフレアは未だ収まらず、再びその顎門を開く。
 干将莫邪ではだめだ。ディランダルでも足りない。カラドボルグは言うに及ばず。グラムの開放でやっと互角。
 だが、それも崩された体勢では受けきれない。

72ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:07:30 ID:XQV58tEw

「――――ッ!!」
 完全に体勢を崩されれば、その隙をセイバーに切り捨てられる。
 故に、地面を転がってでもどうにか回避する。
 だが。

「ふん……逃がさん!」
 三度放たれる黒い旭光。
 黒炎が地面を舐めるように焼き尽くす。
 その射程は広く、何をした所で逃れられない。

「く、そぉ―――ッ!」
 確約された敗北に、声を上げる。
 諦めはしない。諦めはしないが、どうする事も出来ない。
 せめてもの抵抗に、盾になる物を投影しようとするが、

「ッ――――――――!!」
 そんな余裕すら与えられず、黒竜の顎門は俺の体を飲みこんだ。


        ◆


 その光景を前に、セイバーは自らの勝利を理解した。
 地面は大きく抉られ、焦がされて白煙を上げている。
 ただの人間である衛宮士郎に、その膨大な魔力の炎を耐えられる道理はない。


 今度こそイリヤスフィールを捕らえようと背を向ける。
 抵抗しないのであればそれでいいが、そうでないなら四肢を切り落とす事も、あるいは殺す事も厭わない。
 セイバーにとって、イリヤスフィールの生死などどうでもいい。必要なのはその心臓――聖杯の器、その核なのだ。

73ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:08:13 ID:XQV58tEw
 周囲に目を巡らせ、標的を探す。
 衛宮白との戦闘中は完全に野放しになっていたが、少女を逃がさぬ程度には気を張っていた。
 イリヤスフィールがこの近辺にいるのは間違いない。

 そうして、イリヤスフィールの気配を捉え、その方向へと向きなおろうとした、その時――――

「なッ――――!」

 イリヤスフィールの気配を感じた場所。
 いまだ白煙の立ちこめる地面から、死んだはずの衛宮士郎が飛びだしてきた。

「オオオォォォオオ――――!!!!」

 どのような護りを敷いたのか、衛宮士郎に然したる怪我は見えない。
 そしてその奥にはファンシーな衣装を身に纏い、プラスチックで出来ているかのようなポップな杖を握るイリヤスフィールの姿があった。

「限界まで魔力を籠めた五重の障壁。最後の一枚まで破られると思わなかったけど、それでも防ぎきった!」
『実剣の方で斬られてたらアウトでしたけどね。魔力による斬撃の部分だけで助かりました』

 衛宮士郎が黒炎に飲まれたあの瞬間。多元転身(プリズムトランス)したイリヤは、全魔力を防御にまわし、衛宮士郎の盾となって彼を護ったのだ。


「投影、開始(トレース・オン)――――!!」

 その間に衛宮士郎が距離を詰め、その手に新たなる剣を投影する。
 魔力による光の筋が奔るその右手に、出来かけの剣が握られる。

「――――来るか、シロウ――――!」

 刃は横に。
 収束し、回転し、臨界に達する旭光の剣。
 黒色の太陽は、そのフレアを両手に携え。

74ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:08:50 ID:XQV58tEw

「――――!」

 セイバーの動きが止まる。
 剣を振るう事が出来ない。
 その両腕には、五芒星の魔力障壁が形成されている。
 イリヤの支援だ。
 彼女は物理保護壁をセイバーの両腕に展開することで拘束し、その動きを封じたのだ。

「この程度の足留めで……!」

 セイバーの全身に魔力が奔る。
 稲妻を帯びたセイバーは容易く障壁を粉砕する。

「――――卑王鉄鎚(ヴォーティガーン)!!!!!」
 振り抜かれるセイバーの剣。

 ――――荒れ狂う黒い光。

 風を巻いて、セイバーの剣が灼熱する。
 衛宮士郎の担う黄金の光を断ち切らんと、最強の一撃を叩き込む。

「セイバァァァアア…………!!!!!」
 黄金の剣を渾身の力で振り下ろす。
 限界以上の魔力に、剣が稲妻を帯びる。
 暴走する主を止める為か、剣の放つ光はより強く輝きを増す。


「あ…………」

 ――――瞬間。
 何か信じられない様な物を見た声と共に、黒い太陽はその輝きを鈍らせた。

75ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:09:20 ID:XQV58tEw
 一振りの剣が打ち上げられ、その手から弾き飛ばされる。
 その隙を返す一刀で斬り上げる。
 それを紙一重で避け、後方へと飛びずさりながら空中で剣を受け止める。

「私の……剣…………」

 剣戟に打ち負けたセイバーは、茫然と衛宮士郎の手に握られた剣――“勝利すべき黄金の剣(カリバーン)”を見つめていた。

 ヘルムが砕ける
 カリバーンの一撃が掠めていたのだろう。
 素顔を現した敵は、変わり果てていようと、紛れもなく彼女だった。


「……………………」

 役目を終えたカリバーンが砂の様に散っていく。
 それを見と溶けたセイバーは、表情を無に戻し、こちらへと向き直る。

「……………………」

 セイバーは剣を構えない。
 だが、いつ斬りかかられても応戦できるように、回路に設計図を流し込み、

「……いいでしょう。今回は貴方に免じて引きましょう」

 セイバーのその言葉に堰き止められた。
 その言葉に、思わず一歩、セイバーへと踏み出す。

「セイバー」
「ですが―――」

 だが、それもやはりすぐに止められる。
 セイバーは剣を納め、背を向ける。
 そこには未練など微塵も感じられない。

76ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:10:06 ID:XQV58tEw

「次に会った時は必ず、聖杯の器を貰い受けます。
 それまで、決してイリヤスフィールを死なせぬよう心しなさい」

 そう言ってセイバーは去っていった。
 後には何も残らなかった。
 ただ、自分を最後まで守ってくれた少女が、敵になったという事実だけがあった。



 周囲にはもう、セイバーの気配は感じない。
 張り詰めていた糸を緩め、意識を戦闘状態から通常へと戻す。

「大丈夫か、イリヤ」
「……うん。大丈夫」

 振り返り、イリヤに向かって手を伸ばすが、立ち上がる様子が無い。

「どうしたんだ? やっぱりどこか怪我したのか?」
「ううん……安心したら、腰が抜けちゃった」

 そう言ってイリヤは、恥ずかしそうに赤くなった頬を掻いた。


        ◇


 居間にイリヤを下ろし、台所でお茶を汲む。
 勝手知ったるなんとやらと言わんばかりに、台所を物色する。

 ここは【G-3】に在る和風建築の家。ぶっちゃけ衛宮邸(の模造品)だった。

 最初にここを見つけた時は驚いた。
 見ず知らずの町の中に、自分の家がどんと立っていたのだから。
 もっとも、生活感がなかったのですぐによく出来た偽物だと気付いたが。

77ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:10:34 ID:XQV58tEw
 ルビーには今、俺がこの会場に飛ばされてからイリヤを助けるまでのあらましを説明してもらってる。
 この家は本物同様侵入者避けの結界まで張られているので、休息を取るにはうってつけなのだ。


 俺はこの会場に飛ばされた後、支給品を確認してルビーと出会った。
 その後に戦闘音とイリヤの声を聞き付けて、駆け付けたのだ。
 話にすれば、これだけの事だ。

 ただ、第二魔法だの平行世界だのと、魔術的な説明に関してはルビーの方が適任だろうと(非常に不安だったが)彼女に任せる事にしたのだ。
 ちなみに俺はルビーとあった時点で説明を受けている。
 ……まあ、話の半分も理解できなかったわけだが。


 お茶の乗ったお盆をテーブルに置く。

「イリヤ。話は終わったか?」
「うん、終わったよ」
「そっか。じゃあお茶入れたから、よければ飲んでくれ」
「ありがとう、お兄ちゃん」

 その呼ばれ方が、どうもこそばゆく感じられる。
 同時に、どこか胸を締め付けられるような感じを覚える。
 それは、目の前の少女に自分が助けられなかった少女を重ねてしまっているからなのだろう。

「……なあイリヤ。そのお兄ちゃんって呼び方、出来れば変えてくれないか?」
「え? なんで?」
「いや、ちょっとな」
「……うん、わかった。じゃあ、シロウ、でいいかな?」
「ああ、それで構わない。
 ごめんな、我が侭言っちまって」
「ううん、いいの。よくわかんないけど、お兄……じゃなくて、シロウ泣きそうな顔をしてた。
 だから、いいの。理由も効かない」
「……ありがとう、イリヤ」

 ただの自分の我が侭で、イリヤに哀しそうな顔をさせてしまった事に、少し後悔する。

78ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:11:11 ID:XQV58tEw



「ねえシロウ。シロウはあのセイバーの事、知ってるの?」
「え? ………ああ、知っている」

 唐突な質問に驚いたが、隠す様な事でもないので答える。

「簡単に言うと、俺は聖杯戦争に参加したマスターで、セイバーは俺のサーヴァントだったんだ」
「聖杯……戦争……」
『……………………』

 イリヤはそう呟くと、そのまま黙り込んでしまった。
 その重い空気をどうにかしようと、気を取り直してイリヤにそう訊いてみる。

「取り合えず、イリヤはこれからどうしたい?」
「私は…………ミユたちに会いたい。
 殺し合いなんてしたくない」
「ああ……そうだな」

 こんな殺し合いは止める。
 正義の味方として当然の事だろう。
 たとえこの殺し合いで本当にどんな願いでも叶うのだとしても、誰かが犠牲とならなければならない時点で論外だ。

「取り合えず、当面の目標はみんなを探しだして、バトルロワイアルを止める事だな」
「それに、首の『術式』もどうにかしなきゃいけないしね」

 確かにそれは急務だ。
 このバトルロワイアルを止める上で、『術式』の解呪は絶対条件だ。
 だがまあ。

79ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:11:47 ID:XQV58tEw
「一応、術式の解除の充てはあるんだけどな」
「え、本当!?」
「ああ、ホントだ。
 既にルビーと確認した事なんだけど、一応イリヤにも見せておく」

 そう言って右手に歪な短剣を投影する。

「それって、“破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)”?」
「ああ。これには魔術で作られたモノや契約を初期化する効果があるからな」

 ルールブレイカーの刃先を首の術式に軽く突き刺し、その真名を解放すると、首にあった術式が薄くなり消えてなくなる。

「おお! これなら――!」
「いや。残念ながら、だ。
 言っただろ。既にルビーと確認したって」

 首から短剣を放せば、消えたはずの術式がまた刻まれていく。
 その様子を見ていたイリヤが、どういう事なのかと聞いてくる。
 それにはルビーが答えた。

『おそらく、この術式は端末みたいなものなんでしょう。
 どこかに『呪術式の核』があって、それが参加者に術式を刻んだり、術式を通じて制限とかを掛けているのだと思われます』
「術式の、核?」
『はい。おそらくこの会場のどこかにあると思いますよ?
 再び術式が刻まれる時間から推測して、人間業ではあり得ませんから』
「じゃあ、その『呪術式の核』を壊せば!」
「ああ、バトルロワイアルは止められる筈だ」

 その希望的観測に、イリヤは顔を明るくした。
 だが何故か怪訝そうな顔雄をする。

80ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:12:49 ID:XQV58tEw
「イリヤ?」
「そう言えば、いっつもボケ倒してるルビーが、今はとっても真面目なんだけど……なんで?」
『失礼な! 私はいつだって大真面目ですよ!』

 大真面目にボケ倒しているのか、と。
 イリヤがジト目でルビーを睨む。

『まあそれは置いといて。
 私は単にこのバトルロワイアルが気に食わないだけです。
 こんなシリアス一辺倒の、コメディーの欠片もない天界なんて認めません!』
「――――」
「…………」
『それに私は正義の魔法少女。
 私の根底に刻まれた命令は“愛と正義(ラブアンドパワー)”なんです!
 ああ、愛と正義(ラブアンドパワー)……なんと独善的な響きでしょう。
 我ながら素晴らしい存在意義だと思います!』
「――――」
「…………」
 ……ホンモノだな。
 そのルビの振り方は、封印指定クラスの危険物だ。

 こんなトンデモないモノと契約させられたイリヤを哀れに思いながらも、どこかそのままでいて欲しいと思う自分が居た。

「それじゃあ改めて確認するけど、今後の行動方針は、
 一、お互いの知り合いを探す。
 二、『呪術式の核』を探しだして破壊する。
 この二つでいいな」
 その言葉にイリヤが頷く。

「よし。それじゃあ休憩も兼ねて出発は三十分後だ。
 一応部屋に布団を敷いておいたから、仮眠を取ってもいいぞ」
「はい、わかりました。シロウ隊長!」
「うむ。では解散だ」

 そう言うとイリヤは布団のある部屋へと走っていった。
 まあ、あのセイバーに襲われて、命からがら逃げ延びたのだ。疲れもしているだろう。
 俺は台所で冷蔵庫をあさり、出発前の軽食用にサンドウィッチなど作ることにした。



『あれ? イリヤさん? 士郎さん?
 私の話、聞いてました?
 ……あのー。無視しないでくださぁい』

 ……………………。

『………ルビーちゃん、さみしい』

81ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:13:29 ID:XQV58tEw
        ◇


 廊下の縁側に座り、空に輝く月を眺める。

 参加者名簿に書かれていた、幾つか名前に想いを馳せる。
 イリヤ。遠坂。桜。藤ねえ。バーサーカー。そして、セイバー。

 右手を左肩に当てる。そこに刻まれた刻印は、遠坂との繋がりの証だった。
 だがそれは今、輝きを失っていて、何の力も感じられない。
 『術式』による制限からか、この会場に居る遠坂が“平行世界の遠坂凛”かもしれないからか、それは判らない。
 どっちの遠坂だろうと、優秀な魔術師だと言う事には変わりないが、やはり心配になる。

 桜や藤ねえの事も心配だ。
 一般人である彼女達が、このバトルロワイヤルを生き残れるとは思えない。
 今この瞬間にも、彼女達は命の危機に瀕しているかもしれないのだ。
 それを思えば、今すぐにでも彼女達を探しに、飛び出したくなる。
 だがそれは出来ない。

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
 俺が守る事の出来なかった少女。
 今ここにいるのは平行世界から来た別人だが、それでも同じ少女だ。
 彼女を二度も見殺しにするなんて事は、決してしたくなかった。
 だから俺の我がままで、彼女を危険にさらす事は出来ない。

82ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:14:04 ID:XQV58tEw

 バーサーカーもきっと、イリヤを護ろうとするだろう。
 だが、理性のないバーサーカーに出来る事は、破壊だけだ。
 きっとバーサーカーは、イリヤと出会うまでに何人もの人を殺していくんだろう。

 そしてセイバー。
 彼女が一体どんな理由でああなったのかは分からない。
 ただ解る事は、彼女はもう、俺の言葉では止まらないと言う事だけだ。
 セイバーがどんな理由で戦っているかは判らないが、優勝しようとしているのだとしたら、今の彼女はバーサーカー以上に人々を殺すだろう。


 いずれにしろ、セイバーやバーサーカーを止めるにしても、桜達を助けるにしても遠坂達の助けが居る。
 そのためにも、イリヤが回復し次第、行動を開始しなければ。


 立ち上がって庭を抜け、土蔵の扉を開ける。
 その光景は、今でも目に焼き付いている。

 月の光に濡れた金砂の髪と、聖緑の瞳。

   “―――問おう。貴方が、私のマスターか”

 あの時、セイバーが俺の剣になると誓ったように、
 同時に、俺も彼女の助けになると誓ったのだ。

 だから―――


「――――セイバー。
 俺は必ず、お前を止めてみせる」


【G-3/衛宮邸(和)/一日目-深夜】

【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:健康、疲労(小)、魔力消費(小)、遠坂凛とのライン(不通)
[装備]:
[道具]:基本支給品、お手製の軽食、不明支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める
1:今度こそイリヤを守る。
2:遠坂、桜、藤ねえ、イリヤの知り合いを探す
3:“呪術式の核”を探しだして、解呪または破壊する
4:セイバー…………
[備考]
※凛ルート(UBW)後より参戦(エピローグは迎えてない)。
※イリヤが、平行世界の人物であると認識しました。


【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康、疲労(大)
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める
1:シロウについていく
2:ミユたちを探す
3:聖杯戦争…………
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦。
※衛宮士郎が、平行世界の人物であると認識しました 。
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません。


[共通の備考(士郎、イリヤ)]
※『呪術式』はルールブレイカーで解呪可能。
 ただし、会場のどこかにあるだろう『呪術式の核』を解呪または破壊しない限り、完全な解呪は不可能(その場で再び呪われる)。


【カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
衛宮士郎に支給。
愉快型魔術礼装。マジカルルビーという名の人工天然精霊が宿っている。
機能は魔力を無制限に供給し、マスターの空想をもとに現実に奇跡を具現化させること。多元転身や障壁、治癒促進などのほか、魔力砲攻撃やクラスカードの限定展開なども可能。展開できる魔術障壁はランクA、規模は最大で半径2メートル程度。
制限により、カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられない。

83ディストレーションファンタズム ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:14:46 ID:XQV58tEw





        ◇


 冬木大橋と酷似した橋の前に立つ。

 当面の目的はマスターであるマトウサクラを探すことだ。
 魔術師として不安定な彼女は、いつ自滅するかも判らない。
 そうなる前に見つけ出して安全を確保し、一刻も早く彼女を優勝させなければならない。
 聖杯の器さえあれば、上手くすればある程度は安定するかもしれない。
 先ほどイリヤスフィールを襲ったのもそのためだ。

 次に、グラムに代わる剣を探しだす。
 グラムは剣としての性能は高く、魔剣としての格も自分の宝具に匹敵する。
 だが竜殺しの特性を持つため、竜の因子を持つ自分とは相性が悪いのだ。
 こうしている今も竜殺しの魔剣による「重圧」が圧し掛かり、ステータスがワンランクほどダウンしている。
 これではいざという時の行動が遅れてしまう。
 それを防ぐ為にも代わりの剣――出来れば“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”が欲しい。

 後はただ、サクラのサーヴァントとしてサクラを優勝させる為に、出会った参加者全てを殺していくだけだ。
 その過程で、遠坂凛や藤村大河など、衛宮士郎にとって親しい人物を殺すことになるだろう。

「……それまでに、貴方は私を止められますか。シロウ」

 そう呟くと、黒き暴君は戦場に挑む様に橋を渡り始めた。


【H-4/冬樹大橋前/一日目-深夜】

【セイバー・オルタ@Fate/stay night】
[状態]:健康、黒化、魔力消費(微小)、グラムによる「重圧」
[装備]:グラム@Fate/stay night
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(確認済み)
[思考・状況]
基本:間桐桜のサーヴァントとして、間桐桜を優勝させる
1:間桐桜を探して、安全を確保する
2:グラムに代わる剣、出来ればエクスカリバーを探す
3:間桐桜を除く参加者の殲滅
4:次に士郎たちに合った時は、聖杯の器(イリヤ)を貰い受ける(積極的には探さない)
[備考]
※間桐桜とのラインは途切れています。


【グラム@Fate/stay night】
セイバー・オルタに支給。
「最強の聖剣」に匹敵する「最強の魔剣」、太陽剣グラム。正確にはその原典の“原罪(メロダック)”。
北欧神話における選定の剣であり、北欧最大の英雄シグルドが所有した。
ドイツの叙事詩『ニーベルングの指輪』ではバルムンクの名で呼ばれる。
竜殺しの特性を備えており、竜の化身たる騎士王の天敵といえる武器。

84 ◆UOJEIq.Rys:2011/07/09(土) 03:16:29 ID:XQV58tEw
以上で投下を終了します。
何かご意見等がありましたら、よろしくお願いします。

85名無しさん:2011/07/09(土) 03:34:11 ID:bXCu5Uc6
>凛ルート後より参戦
残念!このロワは桜ルート限定なのです!

86 ◆4EDMfWv86Q:2011/07/09(土) 03:41:08 ID:vai3oVbQ
投下乙です……が、申し訳ないですが破棄提議をせざるを得ない内容です。

まず一つとして、士郎の、というよりFateキャラの参戦時期は桜ルート限定と予め決定されているので、凛ルート設定の士郎を出すことは認められません。
書き手用ルール欄にも記載されている事項です。
二つ目に、マップ上の衞宮邸はプリズマイリヤ仕様、即ち平凡な一軒家とされています。そのため衞宮邸の描写が根本から違っています。
上記に比べれば些細なものですが、グラムを持つことによる重圧などはオリジナルの設定ではないでしょうか。グラム自体も露出が少ない剣ですし。
二つ目はともかく、一つ目は話の根幹に大きく関わり、かつ代用不可で一からの書き直しとなるため、修正は困難と判断します。

ルール絶対至上とは言いませんが、前もって企画者達で決めた設定、ルールを真っ向から否定する内容ですので、こちら側としても厳正な処置をする必要性があると考えます。
時間を割いて執筆をしてくれた◆UOJEIq.Rysにとっては遺憾でしょうが、これらの理由から「ディストレーションファンタズム」については破棄の要求を提出します。

87 ◆rNn3lLuznA:2011/07/09(土) 03:43:07 ID:h9FRlpQU
投下乙
しかし、>>85さんもおっしゃってますが、原作ゲーム版のFate勢は桜ルート限定なんですよ


では、自身も一時投下します

88Night of Knights ◆rNn3lLuznA:2011/07/09(土) 03:44:23 ID:h9FRlpQU
「――どうなってんのよ、コレは?」

 海風が程良く吹きつける深夜の冬木大橋。
 その入り口で、一人の少女が支給された参加者名簿を手に驚愕の表情を浮かべていた。

 彼女の名はアリス。アッシュフォード学園中等部に通う一人の女子生徒――というのは仮の姿。
 その正体は、ブリタニア軍の『特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)』に所属する人造ギアスユーザーの一人、アリス・ザ・スピード。
 プロの軍人にして、ヒトの摂理から外れた能力を与えられた少女――

 そんなアリスが、先ほどのような表情を見せた原因は当然、彼女の手にある参加者名簿に載っていた名前にあった。


 ――『ナナリー・ランページ』。
 アリスのクラスメイトにして、たった一人の親友。
 そして、アリスが自らの力で、何としてでも守ると誓った存在――
 そんなナナリーの名前が、名簿の中にハッキリと載せられていた。


 ――だが、アリスを驚かせたのは、それだけではなかった。


 『ルルーシュ・ランペルージ』、『篠崎咲世子』、『枢木スザク』、『ユーフェミア・リ・ブリタニア』――
 そして、『ゼロ』、『C.C.』、『マオ』と、どういうわけか、参加者名簿にはナナリーや自身に関係する者の名前が多く載っていたのである。

 特に、マオの名を見た時は、アリスも己が目を疑った。
 なぜなら、彼女は――

「死んだ……」

 自分に言い聞かせるかのように、思わずそう呟くアリス。

89Night of Knights ◆rNn3lLuznA:2011/07/09(土) 03:44:57 ID:h9FRlpQU
 彼女の記憶の中では、マオはつい先日シンジュクで死んだ。
 いや、むしろアリス自身が彼女を殺したと言っても過言ではない。

 数年ぶりに再開したかつての同僚にして、アリスと同じく人造ギアスユーザーであったマオ。
 そんなのマオの目の前で、アリスは彼女の命そのものとも言える『C.C.細胞抑制剤』が入ったアタッシュケースを完膚なきまでに破壊した。
 結果、マオはその身に宿した『C.C.細胞』の反作用を止めることができなくなり、その肉体を消滅させた――


『忘れるなアリス、これが“ボクたち”イレギュラーズの末路だ……!』


 最期に自身に向けた呪詛ともとれるその言葉と、その際に見せた不気味な笑顔は、未だにアリスの脳裏から焼き付いて離れない。

 ――無論、同名の別人というケースも十分考えられる。
 だが、考えて見れば、アリスはマオが自身の目の前で消滅するまでギアスユーザーの最期というものを見たことがなかった。

 ギアスユーザーの力の根源とも言える『ブリタニアの魔女』ことC.C.は不老不死だ。
 ならば、いくら造られたまがいものとはいえ、その力の一片を授かっている人造ギアスユーザーも実は不死で、マオもあの後、知らずうちに蘇っていたという可能性は十分ありえる。

 ――あくまでも本当に可能性、それも0に限りなく近いほどの低確率の可能性の話だが。

「……でも、よく考えてみたら、あのマオの一件で私は改めてナナリーを守ろうって決心が――! そうよ、ナナリー!」

 はっと思い出したように、アリスは顔を上げる。


 アリスの知るナナリー・ランページという少女は、目が見えず、足も不自由なか弱い女の子である。
 そんな彼女が、自身と同じくこの『儀式』なるデスゲームの舞台に放りこまれている――
 それはつまり、殺し合いに乗った者たちからすれば、恰好の標的に他ならないではないか!

90Night of Knights ◆rNn3lLuznA:2011/07/09(土) 03:45:45 ID:h9FRlpQU
「くっ……! 本当に何やってんのよ、私は!
 ナナリーを守るって決心したのなら、名簿でナナリーの名前確認した時点で行動起こしなさいよッ!」

 自分をそう叱咤しながらアリスは大急ぎで名簿をデイパックに戻すと、代わりに長いヒモを中から取り出した。

 ――『あなぬけのヒモ』。それがアリスに与えられた支給品であった。
 付属していた説明書によると、『洞窟や建物などの内部で使うと、一瞬で外までワープできる道具』らしい。
 正直胡散臭かったが、何も無いよりはマシだと、アリスはそれを強引にスカートのポケットに突っ込んだ。


「しかし、あのアカギとかいう男、本当に殺し合いをさせる気があるのかしら?
 何も同じ道具を3つもよこすことないでしょうに……」

 そう愚痴をこぼしながら、アリスはデイパックの中をチラリと覗き込む。
 デイパックの中には、たった今アリスがポケットに突っ込んだものと同じ『あなぬけのヒモ』があと2つ入っていた。

「まぁ、ヒモだって使い方次第じゃ十分武器にもなるけど……」

 はぁ、と一度軽くため息をつくと、アリスはデイパックの口を閉める。
 それと同時に、『女子中学生としての自分』から、本来の姿とも言える『軍人としての自分』にスイッチを切り替えた。

「――待ってて、ナナリー。絶対に私が見つけ出して守ってあげるから!」

 言葉と共に、アリスの額に刻印のようなものが瞬時に浮かび上がった。
 アリスが自身の『本質』を形とした能力――ギアスを発現した証だ。

「ザ・スピード!」

 自身の能力であると同時に、自身の名前でもあるその言葉を叫んだ瞬間、アリスの姿はその場から消え去った。


 『ザ・スピード』――かつて最愛の妹を守りきれなかった少女が得た、加重力によって相対的に超高速を得る能力。
 それは、過去の悲劇より生じた重圧に無意識下に苦しめられ続けているアリスにとって、皮肉過ぎる彼女の本質であった。

91Night of Knights ◆rNn3lLuznA:2011/07/09(土) 03:46:37 ID:h9FRlpQU
 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「どうなっているのかしら、本当に――」

 輝き続ける星の下、老舗クリーニング店『西洋洗濯舗菊池』の屋根の上で、一人の少女が支給された参加者名簿を手に険しい表情を浮かべていた。

 彼女の名は暁美ほむら。見滝原中学校に通う一人の女子生徒――というのは仮の姿。
 その正体は、人知れず世界に災いの源である呪いをばら撒く存在『魔女』を狩る『魔法少女』。
 奇跡の体現者にして、ヒトの摂理から外れた存在とされてしまった少女――

 そんなほむらが、先ほどのような表情を見せた原因は当然、彼女の手にある参加者名簿に載っていた名前にあった。

 ――『鹿目まどか』。
 ほむらのクラスメイトにして、たった一人の親友。
 そして、ほむらが自らの力で、何としてでも守ると誓った存在――
 そんなまどかの名前が、名簿の中にハッキリと載せられていた。


 ――だが、名簿に載っていた名前は、それだけではなかった。


 『巴マミ』、『美樹さやか』、『佐倉杏子』――
 そして、『美国織莉子』、『呉キリカ』、『千歳ゆま』と、どういうわけか、参加者名簿にはまどかや自身に関係する者の名前が多く載っていたのである。

 特に、前者三名の名を見た時は、ほむらも己が目を疑った。
 なぜなら、彼女たちは――

「死んだはずよね……」

 自分に言い聞かせるかのように、思わずそう呟くほむら。

 彼女の記憶の中では、巴マミは『お菓子の魔女』に食われ、美樹さやかは魔女となり、佐倉杏子は“つい先ほど”魔女となった美樹さやか相手に捨て身の一撃を放って消滅したばかりだ。


「…………」

92Night of Knights ◆rNn3lLuznA:2011/07/09(土) 03:48:29 ID:h9FRlpQU
 あさっての方向に目を向けながら、黙って思考するほむら。
 佐倉杏子が消滅してから現在までに起きた出来事を振り返ってみる。


 ――まず、気を失っていたまどかを家まで送り届けた。

 そして、自宅へと戻る途中にあの一面黒い謎の空間に迷い込んだ。

 やがて、謎の空間から見知らぬ者たちが大勢いたホールへと場所は移り、アカギという男が自分たちの前に姿を現した。


『まずは、『おめでとう』と言わせてもらおう。君たちは選ばれたのだ』

『そうだ。君たちはこれから行われる『儀式』を完遂するために、数多の時間、空間という可能性宇宙のひとつひとつから選び出された戦士たちなのだ……!』

『これから君たちには、己が魂の存在を賭け、最後の一人になるまで戦ってもらいたい!』


 アカギが自己紹介の後に言った話の内容が脳内で再生される。

 ここでほむらは、ひとつ気になる言葉があったことを思い出した。


 ――『可能性宇宙』。

 合わせ鏡に映し出される光景のように、無限に存在すると言われるif――
 フィクションなどの世界においては、俗に『パラレルワールド』とも呼ばれるもの――

 あのアカギという男は、ほむらたちをそんなifのひとつひとつから選出した者だと言っていた。

 それはつまり――

「あの男は、時間軸と空間軸の両方に干渉できる力を――平行世界に干渉する能力を持っている?」

 それがほむらが最初に思い至った結論であった。
 というより、そうとしか考える他なかった。

93Night of Knights ◆rNn3lLuznA:2011/07/09(土) 03:49:52 ID:h9FRlpQU
 自分がいた時間軸においては既に死んでいる者たちの名前が名簿に載っている。
 最初のホールで、自らを『オルフェノク』と名乗り、灰色の異形に姿を変えた男の存在。
 これが何よりの証拠だ。
 特に、後者は明らかに自分の世界に存在した『魔法少女』や『魔女』とは性質が違って見えたし、何より変身したのが男だった。

 また、思い返してみると、アカギはこうも言っていたではないか。

 ――この『儀式』なる殺し合いの『勝者』となった者は、『どのような願いでもひとつだけ叶えることができる』、と。

 確かに、無限に存在する並行世界のひとつひとつに干渉することが可能ならば、その程度のことは造作も無いことだろう。


 ――だが、ひとつだけ気になることもある。

 それは、『何故アカギはこのようなことをするのか』という点だ。

 ただ己の力を知らしめたいだけならば、わざわざ別世界の者たちにまで干渉する意味は正直薄いとほむらは考える。
 それこそ、よくある正義のヒーローやヒロインもののアニメや漫画に登場する悪の親玉が掲げる『全世界・全宇宙の制服』並に無駄な行為だ。最終的に徒労に終わる。

 では、本当に何が目的なのか?


「……そういえば」

 あの時――あのホールでアカギが姿を現した時、誰かがアカギに対して「お前は!?」と言っていたのを思い出す。

 それはつまり、この場には『アカギのことを知っている者』か『アカギと同じ世界出身の者』が存在するということ。

 もし、上記のような者たちと接触できれば、アカギが何故この『儀式』を開催したのか理由がわかるかもしれない。


「……まず必要なのは情報ね」

 ほむらはそう決定づけると、名簿をデイパックに戻し、人がいないかと辺りを見回し始める。

94Night of Knights ◆rNn3lLuznA:2011/07/09(土) 03:50:53 ID:h9FRlpQU
 現時点において、ほむらが最優先でやるべきことと判断したのは、先ほど自身が口にしたとおり『情報(特にアカギに関するもの)を集めること』であった。

 無論、彼女が守りたい存在である鹿目まどかの早期発見も優先すべきことだが、アカギが言っていた『可能性宇宙のひとつひとつから選び出された』という点が、これを最優先とすべきか否かを左右することになった。

 ――要するに、ほむらは今この『儀式』の舞台に放りこまれている鹿目まどかが、『魔法少女である鹿目まどか』という可能性もあると考えているのである。
 暁美ほむらが守りたい『鹿目まどか』という少女は、あくまでも『人間である鹿目まどか』であり、『魔法少女である鹿目まどか』は守ったところで意味が無いからである。

 故に、ほむらの最終的な目的は、『自身のいた時間軸(もしくは世界)に帰還すること』となるのだが、かといって殺し合いに乗るつもりもない。

 先述したとおり、アカギがこの『儀式』を行う理由――目的が判明しておらず、かつ「『儀式』の『勝者』となったところで、本当に自身いた時間軸(世界)に帰ることができるのか?」という疑問もあるからだ。
 ――(いくら違う可能性宇宙の存在とはいえ)たった一人の親友を自らの手にかけたくないという思いもある。



 ――さて、何故、暁美ほむらがこうも慎重なのかというと、実は彼女も『可能性宇宙』『パラレルワールド』という概念に、ある程度関わりがある存在だからである。

 彼女は『時間遡行』――時間軸に干渉する能力を持った魔法少女であった。
 親友である鹿目まどかを守るために、未来から過去の世界へと戻り、失敗してはまた戻るというループを延々と繰り返しているのである。

 ――言ってしまえば、それは、親友を守るために願い得た力でありながら、逆に最期は親友を守れずに終わるという皮肉過ぎる力であった。


 最初は、親友でありと同時に、『魔法少女』として憧れの存在でもあったまどかを死なせないために行っていた行為であった。
 しかし、時間遡行によるリセットを何度も繰り返していくうちに、『魔法少女』という存在と、その裏に隠された真実を知ってしまったのである。


 ひとつ、『魔法少女』は厳密には人間ではなく、魂を『ソウルジェム』と呼ばれる宝石に変換され、それによって肉体を維持、操作されている一種のゾンビであること。
 (おまけに、ソウルジェムと肉体がおよそ100メートル以上離れると肉体は活動できなくなる。要は死ぬ)

 ひとつ、ソウルジェムが破壊されない限り、肉体はどのような損傷をしても(それこそ全ての血を失おうが、心臓を抉り取られようが)魔力を消費すれば修復できるということ。
 (ただし、本体であり命そのものであるソウルジェムが、攻撃を受けると簡単に破壊されてしまうため『無敵』『不死身』とは程遠い)

 そして、最後のひとつが、ソウルジェムが黒く濁り、浄化しきれなくなると、『グリーフシード』と呼ばれるものに姿を変え、『魔女』を生み出すということだ。

95Night of Knights ◆rNn3lLuznA:2011/07/09(土) 03:52:14 ID:h9FRlpQU
 ――そう。魔法少女が狩っていた『魔女』とは、かつては自分たちと同じ魔法少女だった者の成れの果てだったのである。


 何故こんな恐ろしい事実が隠されていたかというと、魔法少女を生み出す存在・キュゥべえことインキュベーターが『聞かれなかったから黙っていた』ことにある。

 彼(?)らは、人類よりも遥かに高度な文明を持つ地球外生命体が生み出した一種の生態端末兼プログラムであり、宇宙の寿命を延ばすために魔法少女が絶望して魔女になる際に生じる莫大な感情エネルギーを回収することが目的であった。
 要は、彼らにとって地球人の少女とは『魔法少女の素材』であると同時に『消耗品』であり、エネルギーを搾取すること以外に対する配慮などというものは基本的に持ち合わない。
 ――そもそも、彼らには『倫理感』や『価値感』というものはおろか、『感情』というもの自体を持っていないのだから。

 これは人間からすれば『騙す』という行為に当たるが、上記のとおり、彼らは感情を持たぬため、ソレを全く理解していないし、しようとも思わない。
 彼らからすれば『騙す』という行為は『認識の相違により生じた判断ミス』であり、それを一方的に憎悪する人間の方が理不尽な存在なのだ。


 ――キュゥべえに騙される前の馬鹿な私を助けてほしい。


 それが、ほむらが繰り返したある時間軸においてまどかから託された願いであり、決して忘れてはならない親友との約束であった。
 故に、暁美ほむらという存在は、『人間である鹿目まどか』を守り続けるのである。

 ――それが結果的に、守るべき対象から拒絶されることになったとしてもだ。



「……ん?」

 ほむらの左手の中指にはめられた指輪――形を変えたソウルジェムが僅かに反応した。

 ソウルジェムには魔法少女や魔女の持つ『魔力』を感知する、一種の探知機としての役割も持っている。
 それが反応したということは――

「近くに魔法少女がいる?」

96Night of Knights ◆rNn3lLuznA:2011/07/09(土) 03:55:58 ID:h9FRlpQU
 そう判断すると、ほむらは瞬時に見滝原中学校の制服姿から、白と紫を中心とした色合いの魔法少女のコスチュームへと姿を変えた。
 同時に、左腕に出現する円形の盾――
 盾であると同時に、ほむらの持つ『時間遡行』を発動するための装置であり、自身の持つ様々な武器の収納スペースであるソレの裏側へとほむらは手を伸ばす。

(――!? 武器がない!?)

 『儀式』の舞台に送り込まれてから初となる魔法少女への変身。
 いつもどおり、武器を取り出そうとしたほむらの顔が一瞬だけ驚愕の色に染る。

 ――盾の中に収納されていたはずの銃火器や爆弾といった武器が一切無くなっていたのだ。

「何故――!? まさか……あの男!?」

 瞬時に脳裏に浮かぶアカギの顔。
 おそらく、自身と似た力を持つほむらに対して、アカギが仕組んだ一種の嫌がらせだとほむらは判断した。

「……覚えておきなさい……!」

 ほむらは、今はこの場にいない『儀式』の主催者に対して、捨て台詞ともとれる言葉を呟くと、屋根の上から地上へと飛び降りた。
 只人ならば大怪我をしてもおかしくはない高さだが、魔法少女であるほむらにとっては地上数階建ての建物程度の高さから飛び降りるなどなど全く問題はない。

 そして、華麗にクリーニング屋の玄関前に着地すると、そこに駐車してあった一台のバイクへと目を向ける。

 黒と黄色を中心としたメタリックなカラーリング。
 バイク横に取り付けられた同色のサイドカー。
 そして、バイク、サイドカー双方の車体横にプリントされた『スマートブレインモーターズ』のロゴマーク――

 ――『サイドバッシャー』。
 スマートブレインモーターズ製の可変型バリアブルビークルにして、暁美ほむらに与えられた支給品のひとつである。

 当然、コレはデイパックに入った状態で支給されたものではない。
 ほむらがホールから彼女のスタート地点である、この『西洋洗濯舗菊池』の前に転移させられた際、彼女の横に説明書と共にでんと放置されていたのである。

 バイクを支給されるということ自体、驚きたくもなることであったが、ほむらを驚かせたのは付属の説明書に載っていたその機体スペックであった。

97Night of Knights ◆rNn3lLuznA:2011/07/09(土) 03:57:03 ID:h9FRlpQU
 『ビークルモード』と呼ばれる通常形態に加え、『バトルモード』と呼ばれる大型二足歩行型戦闘メカに変形――
 変形後は、左腕に6連装ミサイル砲『エクザップバスター』、右腕に4連装バルカン砲『フォトンバルカン』を搭載。おまけに、格闘戦も可能――

 これを支給されたのが、ほむらではなくまどかであったら――中学生にバイクを支給するということも含んで――「こんなの絶対おかしいよ!」と突っ込みを入れていたに違いないブッ飛んだ代物であった。

 ――ちなみに、支給されたほむらはというと、当初こそ驚きもしたが、「コレ、『ワルプルギスの夜』戦の切り札として私の世界に持って帰れないかしら?」などと気に入ったかのような反応をしていたと追記しておく。


 反応があった魔力の持ち主が、魔法少女――それも『魔法少女となってしまった鹿目まどか』だったらどうしようか、などと思いながら、ほむらはサイドバッシャーを夜の街へと走らせた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「ど、どうなっているの? 『ザ・スピード』が強制的に打ち切られるなんて……!?」

 肩で息をしながら、アリスは自身の身に起きた奇妙な事実に、頭を悩ませていた。

 話は数十秒ほど前に遡る。
 『ザ・スピード』を発動したアリスは、ナナリーを見つけ出すために夜の街を超高速で全力疾走していた。
 だが、発動していたギアスが突然ぷっつりとその効果を止めてしまったのである。

 何かの間違いだろうと思い、もう一度『ザ・スピード』を発動する。
 ――ギアスは問題なく発動した。

 気をとり直して、再びかけ出す。
 ――特に問題はない。

 だが、またしても、ある程度走ったところ――現実時間では10秒ほど経過したところ――で『ザ・スピード』の効果が強制的に止まってしまった。

 どうしたんだと、三度ギアスを発動。
 やはり、発動までは問題なかったが、結局は過去二回と同じ結果になった。

 そして、今に至る。

「な、なに? ギアスの不調? それとも、移植されたC.C.細胞がおかしくなった? いや、抑制剤なら、ちゃんと定期的に投与しているハズだし……」

 自身のギアスに起きた突然の異常――
 それが一部の参加者に科せられた『能力制限』であることに、アリスはまだ気がついていない。


 ――そんな彼女の耳に、バイクのエンジン音が聞こえてきたのは、それから間もなくのことであった。

98Night of Knights ◆rNn3lLuznA:2011/07/09(土) 03:58:03 ID:h9FRlpQU
 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「な、なによ、アンタ……?」

 突然、自身の目の前に飛び出してきたサイドカー付きバイク。
 それを操る、どこか可愛らしくもあり地味でもある装いをした長い黒髪の少女――肌の色や顔つきからして、おそらくは日本人だ――に対して、アリスは思わず声をかける。

 それに対して、相手側はというと――

「……誰?」

 と、投げかけられた質問と似た問いをアリスに返してきた。

「質問を質問で返すな!」

 思わずそう言い返してしまう。

「……それは失礼したわね」

 目の前の少女はそう言いながら、左手で自身の長い髪をふぁさりと一回掻き上げた。

「まぁ、いいケド……。それで、こんな夜中にそんなモノに乗って何やってんのよアンタ?」

「別に――貴女には関係ないわ」


 ――ちょっとカチンときた。


 ブリタニア帝国の属領出身の戦災孤児であるアリスは、その経緯からブリタニア貴族のように、上から目線で偉そうな物言いをする者を嫌う。
 特に、クラスメイトのエカテリーナのように、親の家柄や地位にすがり付く典型的な『貴族様』な輩が特に嫌いだった。

 ――目の前にいる少女の物言いからも、そういった者たちと似た『嫌な感じ』をアリスは感じ取った。

 だからだろうか、「エカテリーナたちのように、ギアスの力でちょっと目の前の生意気な奴を懲らしめてやろう」と思いたったのは――


(――『ザ・スピード』!)

 瞬時にギアスを発動させる。
 自身と少女との間の距離は僅か数メートル。
 先ほどから何故かギアスの調子が悪いが、これくらいの距離感での行動なら別に今までどおり、何の問題もないだろう。

 アリスはまず、超高速で少女の背後に回り込んだ。

99Night of Knights ◆rNn3lLuznA:2011/07/09(土) 03:59:10 ID:h9FRlpQU
 次に、両腕を少女のフリル付きのスカートへと伸ばす。

 ――ちなみに、ここまで現実で経過した時間はまだ一秒代の領域である。

(スカートひん剥いてやる!)

 さすがに現時点の『ザ・スピード』では、少女のタイツまでひん剥いてパンツ丸見えにさせてやるほどの余裕はない。
 それに、これはあくまでも驚かせるだけだ。
 アリスはSでもなければ、ソッチ系の趣味を持ち合わせてもいない。


 ――だが、アリスの手が少女のスカートに触れる直前、異変は起こった。


「えっ!?」


 ――一瞬にして、少女がアリスの目の前から文字どおり『姿を消した』のである。


「消えた――!?」

「後ろよ」

「!?」

 声がした方に振り返る。

 そこには――

「……ヒモが二本だけ? 貴女、ろくな物貰ってないわね」

「な――!?」

 『二つ』のデイパックを手にした少女が立っていた。
 しかも、その内のひとつ――彼女が今中を物色しているデイパックは、間違いなくアリスの物だった。

100Night of Knights ◆rNn3lLuznA:2011/07/09(土) 04:01:05 ID:h9FRlpQU
(そんなバカな……!? デイパックはついさっきまで確かに肩に提げていたのに……!?)

「返すわ。勝手に中を見て悪かったわね」

 そう言いながら、少女はアリスのデイパックを彼女に向かって放り投げた。


「――それと、貴女、『自身にかかる重力を操作する能力』を持っているわね?
 それを応用してとんでもないスピードを得たみたいだけど――」

「!?」

 少女の口から出た言葉に、思わずデイパックを落としてしまうアリス。
 デイパックの中身が少しだけ外に顔を出した。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 暁美ほむらには『時間遡行』の他に、そこから派生した、もうひとつの時間操作能力がある。

 それは『時間停止』。

 盾に内蔵された、現実の時間に換算すると一ヶ月分に相当する砂が入った砂時計。
 その砂の流れを遮断することによって、その名のとおり『世界の時間を止める』力だ。


「……少し凹んでいる」

 いつの間にか自身の後ろに回り込んでいた外国人の少女の肩からデイパックをひったくりながら、ほむらは先程まで少女が立っていた場所を見た。

 アスファルトにはっきりと残っている少女の足跡。
 そこを中心に、周囲が――本当に数ミリ程度であるが――若干凹んでいた。

(――『重力操作』。それがこの子の魔法……)

 少女から奪ったデイパックの口を開けながら、ほむらは少女の持つ『魔法』をそう予測する。

(でもおかしい。魔力は確かに感じるのに、ソウルジェムと思える宝石がどこにも見当たらない……。これは一体……)

 どういうことなの、と言いかけたところで、ほむらの左腕からカチリと何か仕掛けが動き出したかのような音がした。

(!?)

 これには、ほむら自身も驚いた。
 少女が自身の視界から消えた瞬間とほぼ同時に発動していた『時間停止』――それが勝手に解除されたのである。

(そんな……! まだ砂は全然残っているのに、どうして……!?)

 内心驚くほむらを前に、外国人の少女が驚きの声を上げた。
 まぁ、自身が超スピードで後ろをとったはずの相手が、向こうから見たらいきなり消えたのだから、そりゃあ驚くだろう。
 その様子から、スピードによっぽどの自信があったようだ。

「後ろよ」

 実際は自分も別の理由で驚いてはいるのだが、それを悟られぬよう、ほむらは目の前の少女に声をかけた。


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