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予約スレpart1

357 ◆xR8DbSLW.w:2023/06/27(火) 23:53:38


 ◆  クビトリサイクル


「因果より外れた《狐》は世界のありように二つの仮説を当てはめた」

 不意に現れた人影は、牢をはさんだ向こう側で話し始める。
かげに隠れて目元はうかがえないが、いかにも高慢な人間だった。
世界が自分中心で回っていることに疑いをもたない、図抜けた信条がただの一言で伝わるようだ。
ねじが外れている。
関わりあうべきではない。
本能は切実に訴えかけるものの、現実は非情である。
囚われの身である現状、如何ともしがたい。

「その二つを《時間収斂(バックノズル)》と《代替可能理論(ジェイルオルタナティブ)》――そう呼んでいるわけだが」

 彼奴は言葉を区切り、睨め付ける。
観察するように、鑑賞するように。
《予備》と呼ばれた人間に対して、語りかける。

「あえて訊ねよう。運命というものを信じるか?」


 ◆Ⅰ  一日目(n)
 

「《天才(アブノーマル)》とは、為るように為る才覚」
「《異常(アブノーマル)》とは、為るべきように成る才能」
「極端な進化にして」
「最短の進化である」

 まだ《実験》が始まって間もない頃。
二人の老爺がモニターを前にして語り合う。
《理事長》不知火袴と、《学者》斜道卿壱郎、ともに窮極を創らんとす学問の徒である。

「進化の極端――ごく一分に限りなく特出する才」
「最短の進化――ごく一瞬で限りなく特化していく才」
「短時間で」
「最小の努力で」
「当然のように」
「自然なように」
「相手を超越する」
「常識を超克する」

 たとえば、高千穂仕種の《反射神経》、人体動作の到達点。
たとえば、宗像形の《殺人衝動》、人類愛の深奥。
たとえば、都城王土の《人心掌握》、人間社会の最高位。
いずれも原理、成している事象自体は相似している。

 人間がいずれ辿るべき、到達するであろう神域に足早と闖入すること。
若き身のまま不可能であることを不可能であるまま達成してしまう。
過程の《省略》。進化の《省略》。
ここに《異常》の《異常》たる所以がある。
 時計台を守護する関門、《拒絶の扉》――あれこそまさに、《異常》を象徴する。
無作為な六桁の数字を打ち込むことで突破することができる関門。
試行回数をどれだけ短縮、すなわち《省略》が出来るかが試される。
《普通(ノーマル)》と《異常》のふるいわけにこれほど適した試練はない。

「しかるに、黒神めだかの《完成(ジ・エンド)》こそ」
「《異常》の根底(ベーシック)にして」
「《異常》の最果て(ハイエンド)」
「そのように考えて差支えないでしょう」

 《完成》。
箱庭学園99代生徒会長、黒神めだかが誇る異常性。
数ある《異常》の中でも稀代の才にして罪。
正も負も無関係に、己が血肉にしていく様は驚嘆するに値する。

「あれに不可能などあるのか?」
「さて、黒神めだかさんが無理だと思わない限り、あの方は成し遂げてしまうでしょう」
「俺の何十年にも渡る研究でさえもか」
「――ええ、実行するかはさておき、可否でいうなら出来ましょうとも」
「それもただ究めるだけでなく」
「極めてしまいましょう」

 《完成》の神髄は無限なる可能性にある。
人間であれば到達できると認知さえしてしまえば、黒神めだかは成し遂げてしまう。
自分――というよりも人間そのものの可能性を信じていなければ到底無理な所業。

「――」

 ぎり、と卿壱郎は奥歯を噛みしめる。
《青色サヴァン》といい、どうにも天才というのは胸糞悪い――気味が悪い。
それでも、黒神めだかが自分よりも勝る《天才》と認められるのは、彼の成長のためか、あるいは。
 卿壱郎の不快を感じ取ったか、袴は茶をすすとあおった後に改める。

「ともあれ、今は見守るほかにありますまい」
「はっ、そうだな。じっくり」

 《天才》に固執する二人の学者が取り仕切る祭典。
実験名――バトル・ロワイアル。採点するところが何であるか。
参加者一同には知る由もない話であり――どうでもよい与太話である。


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