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SRPGバトルロワイヤル8

1 ◆j893VYBPfU:2011/02/16(水) 00:57:31 ID:TzbLndQo
ルールなどは>>2-
詳しくはまとめwikiをどうぞ。


【まとめwiki】
ttp://www36.atwiki.jp/srpgbr/
【したらば】(作品の修正スレ・仮投下スレ・死者スレなどはこちら)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14091/

【過去スレ】
SRPGバトルロワイアル企画スレ
ttp://game12.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1164191107/
SRPGバトルロワイヤル1
ttp://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1178981646/
SRPGバトルロワイヤル2
ttp://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1193849696/
SRPGバトルロワイヤル3
ttp://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1205662859/
SRPGバトルロワイヤル4
ttp://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamesrpg/1224581120/
SRPGバトルロワイヤル5
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1248313700/
SRPGバトルロワイヤル6
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1262002256/
SRPGバトルロワイヤル7
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281581561

2源罪な名無しさん:2011/02/16(水) 00:58:24 ID:TzbLndQo
ルール

■重要項目
・死んだキャラを生き返らせるのは禁止
・原則的に主催者を動かすのは禁止
・いきなり自殺させる等、それまでのストーリーを無視した行動をとらせるのは禁止
・致命的な矛盾があるものはNG

■マップ
ttp://www36.atwiki.jp/srpgbr/?plugin=ref&serial=1で固定。
マップは8*8の64エリア。

■支給品
参加者の武器防具は没収。
共通の支給品
〔地図、食料(二日分)、飲料水(ペットボトル二本)、時計、方位磁石、参加者名簿〕
と、アイテムがランダムに二つ支給される。

【ランダムアイテム関連】
武器とアイテムが一つずつ支給される。 著しくバランスを崩すようなものは禁止。
各キャラの最初の作者が支給品の説明を書くのが望ましい。

・意志を持つ武器について
自発的な行動は喋ることしかできない。
自力での行動、攻撃は不可。
装備することによる所持者への能力付加は、特に制限されない。

・生物について
単体攻撃のみで、『制限』に反さなければ良い。

■制限
特殊能力は全般的に消耗が激しくなる。弱い魔法も連発は相当消耗。
蘇生・即死・時間移動・遠距離瞬間移動・地形が変化するほどの大規模魔法(天変地異)は不可。
状態異常系魔法や技は効果、成功率の低下。

【首輪関連】
ゲーム開始前からプレイヤーは首輪が装着されている。
外そうとすると爆発。会場から一定以上はなれても爆発する。
二四時間の間に死亡キャラがいない場合、全員の首輪が爆発する。

【召喚関連】
一度に一体しか出せない。
一度能力を使ったら消える。
一度出したらしばらくは召喚できない。

【回復関連】
浅い傷・打撲→傷は直せるが血は戻らないし痛みもそう消えない
深い傷・骨折→回復魔法が得意ならなんとか塞いだり接合したりできるが完治はしない
千切れる・複雑骨折→直せない
状態異常回復魔法は制限なし。

【ゾンビ生成】
生成には数時間必要な上、一度に作って操れるのは一体だけ。
作ったゾンビが消滅するまで次のゾンビを生成できない。
ゾンビは、頭を潰すか聖なる能力で浄化すれば倒せる。

3源罪な名無しさん:2011/02/16(水) 00:58:54 ID:TzbLndQo
■初期装備
服(普段着)のみ。小道具無し。
義手など身体と一体化している物は可。
ただし、内蔵武器・能力などは全て没収&使用禁止。

■放送
放送内容は死亡者、禁止エリアの発表。
放送は一日二回、6:00、18:00に行う。

【禁止エリア】
侵入すると首輪が爆発して死亡する。
定時放送で連絡し、三箇所を指定する。指定されたエリアは放送の一時間後に禁止エリアとなる。


■作品投下
一度ID有りトリップ有りの状態で投下を宣言。その後、宣言時のトリップを用い、必ずsageで投稿。
トリップのないもの、宣言のない作品は無効となる。
また、SSの最後に以下のテンプレを書くこと。

【エリア/現在地/何日目・時刻】
【○○○@○○○○○】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考]:


【E-2/城内/一日目・未明】
【ビラク@紋章の謎】
[状態]:左腕に切り傷(処置済み)頭部に軽い打撲、永久ヘイスト、バサークの杖による混乱
[装備]:エクスカリバー@FFT
[道具]:拡声器、支給品一式
[思考]1:うほっ!いいおとこ
    2:殺 ら な い か?

【ギュスタヴ@FFT 死亡】
【残り50人】


時間表記
未明:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
 朝:6〜8
午前:8〜10
 昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
 夜:18〜20
夜中:20〜22
深夜:22〜24

ゲーム開始時刻は06:00

4源罪な名無しさん:2011/02/16(水) 00:59:32 ID:TzbLndQo
■参加者リスト

6/6【ファイアーエムブレム 暁の女神】 
 ○アイク/○ミカヤ/○サナキ/○漆黒の騎士/○シノン/○ネサラ
6/6【ファイアーエムブレム 紋章の謎】 
 ○マルス/○チキ/○シーダ/○オグマ/○ハーディン/○ナバール
6/6【サモンナイト3】 
 ○アティ/○ベルフラウ/○アズリア/○ソノラ/○イスラ/○ビジュ
6/6【サモンナイト2】 
 ○マグナ/○レシィ/○パッフェル/○ネスティ/○ルヴァイド/○アメル
7/7【ファイナルファンタジータクティクス】 
 ○ラムザ/○アグリアス/○アルガス/○ムスタディオ/○ガフガリオン/○アルマ/○ウィーグラフ
6/6【魔界戦記ディスガイア】 
 ○ラハール/○フロン/○中ボス/○エトナ/○ゴードン/○カーチス
7/7【ティアリングサーガ】 
 ○リュナン/○ホームズ/○レンツェンハイマー/○ティーエ/○リチャード/○カトリ/○オイゲン
7/7【タクティクスオウガ】 
 ○デニム/○カチュア/○タルタロス/○ヴァイス/○ハミルトン/○オリビア/○ニバス

【51名】


現在の参加者の状況は>1のwikiをご参照ください。


■あらすじサイト
【ファイアーエムブレム 暁の女神】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/827.html

【ファイアーエムブレム 紋章の謎】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/290.html

【サモンナイト2】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/277.html

【サモンナイト3】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/132.html

【FINAL FANTASY TACTICS】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/514.html

【魔界戦記ディスガイア】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/652.html

【ティアリングサーガ】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/474.html

【タクティクスオウガ】
ttp://www8.atwiki.jp/storyteller/pages/125.html

ゲリラ投下は原則認めません。
とはいえ、トリップ付きで予約して即投下なら可という形で。
予約の期間は二週間までで、延長を申請すれば一週間延長可能。
ただし、二回までしか延長は出来ないという形とします。
それ以降の同じ予約は無効ですが、他に予約が入っていなかった場合のみ、
ゲリラ投下を特別に認めます。

5 ◆imaTwclStk:2011/02/23(水) 12:48:34 ID:???
アイクで予約します。

6源罪な名無しさん:2011/02/23(水) 16:24:19 ID:???
キター!

7 ◆j893VYBPfU:2011/03/07(月) 09:55:40 ID:???
アルマで予約します。

8 ◆imaTwclStk:2011/03/07(月) 23:20:13 ID:???
すいません、アイク延長しますorz

9源罪な名無しさん:2011/03/14(月) 12:32:05 ID:???
執筆どころかロワ楽しむ以前の状況なんで、生存報告入っていいですか?
とりあえず、いーち。

10源罪な名無しさん:2011/03/15(火) 22:52:06 ID:???
読み手だけど乗っておこうか


11源罪な名無しさん:2011/03/16(水) 22:02:01 ID:???
サーン!

12 ◆j893VYBPfU:2011/03/21(月) 23:56:07 ID:???
アルマを延長します。申し訳ない。

13源罪な名無しさん:2011/03/22(火) 00:30:17 ID:ONin1zj2
よーん

14源罪な名無しさん:2011/03/23(水) 11:42:53 ID:???
ひさびさにビーニャが更新されているな。

15源罪な名無しさん:2011/03/24(木) 19:59:37 ID:???
そういやビーニャもそうだけど、パッフェルさんの茨の君時代の事後描写のSSとか、
結構生々しいの扱う事多いよな?お花畑なようでいて、脇道はどす黒い。
ネスやミニス関連も育ての親がまっとうだったからもったようなものだし。

アティてんてーの「はじめてのさつじん」とか、SSでやらないかな?

16源罪な名無しさん:2011/03/26(土) 13:51:02 ID:???
「血みどろ地獄の上に咲いてるお花畑の上でキャッキャウフフ」だったっけ?
シナリオが大団円大好きな露悪趣味だからそうなった

17源罪な名無しさん:2011/03/26(土) 15:10:55 ID:???
大団円好きの露悪趣味…。

シティムーンの事か…。
シティムーンの事かあぁー!!

18 ◆imaTwclStk:2011/03/26(土) 15:36:14 ID:???
すいません、暫く執筆出来る状況ではないので
アイク破棄します。
何とか生きてました。

19源罪な名無しさん:2011/03/26(土) 17:18:45 ID:???
ご無事でなによりです!
作品は、また時間が出来たときにでも。

20 ◆j893VYBPfU:2011/03/28(月) 12:04:17 ID:???
アルマをもう一週延長します。
間に合うかな?

21源罪な名無しさん:2011/04/01(金) 14:08:50 ID:???
4月1日か…。
折角のエイプリルフールなのにネタがないな。
ついにあの暗黒騎士団ロスローリアンの面々がロワに主催側として参戦!

違うな、なんか違う。

22 ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:31:49 ID:???
では、お待たせしました。アルマを投下します。

23 ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:32:46 ID:???
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。
速く、逃げなきゃ。


私はがくがくと震えが止まらない膝に鞭打って、平原を南へと駆け続けていた。
口が、肺が意識とは別に動いて空気を求め続け、そのまま胸が潰れそうになる。

息が苦しい。
両脚も重い。
でも、逃げなきゃならない。
――絶対に。

そうしなけりゃ、あのタルタロスっておじさんが追って来るだろうから。
今の非力な私なんかじゃ、誰にも太刀撃ちなんて出来やしないから。

従えた竜達は、もういない。
飛び道具もなくなっちゃった。
手元に残っているのは、頼りない手斧と折れ曲がった細身の剣だけ。
でも、こんなんじゃたとえ丸腰でも、カトリの良い人にすら勝てないだろう。

私はかよわい女の子でしかないのだから。体力なんて、元々ない。
それに、私は戦う為の訓練なんて、何一つ受けていない素人なんだから。
そして、周囲は敵だらけで利用出来そうな人なんかも全然見当たらない。

このままじゃ、私はラムザ兄さんの役になんて立てない。
むしろあのおじさんみたいなのに捕まれば、足手纏いにすらなってしまう。

24 ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:33:21 ID:???
どうすればいい?
どうすればいいの、アルマ?

力が、
力が欲しい。

ラムザ兄さんを守ってあげられるだけの力が。
そして、邪魔者達をみんな殺せるだけの力が。

邪な暴力だって構わない。
私を捧げたって構わない。
聖天使の力だって、むしろ望むところ。

私は、ラムザ兄さんの為にこうしているのだから。
私自身の犠牲だなんて、どうって事ないんだから。

――私はただ、その一念だけを想い。
度重なる全力疾走に悲鳴を上げる身体を無視して。
ただひたすらに、南へと駆け続けていた。


          ◇          ◇          ◇


私はよたよたと、ただひたすらに歩き続け。
――ふと、気が付けば。

前方の視界に、舗装された街道が見え始め。
避難場所になりそうなE−2の城に向かうには、
少々南へ行き過ぎてしまっている事に気付いた。

25Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:34:34 ID:???
行き過ぎちゃった。また、戻らなきゃ…。
でも、それって更に走らなきゃいけないよね?
もっと、疲れちゃうな…。

…そう考えてしまったのが、一つの切っ掛けとなり。
忘却していた疲労を、一気に思い出してしまった為に。
これまでツケにし続けていた、休息という名の疲労の返済を、
その身体に一度に請求されてしまい。

私の身体が、ついに意志に反して。
唐突にその脚が崩れ、お尻が地に吸いつき。
ただこの肺と口が荒々しく空気を貪り続け。
それ以外の一切の行動を、身体が拒絶した。

指一本、動かない。
煌々と夜空を照らす月の光に、街道沿いの開けた視界。
私は今、あまりにも発見され易い位置にいる上に。
指一本動かす事はおろか、
口一つ利く事もできない。

今、誰かに捕まればひとたまりもないだろう。

 ――もしかして、私…。こんなところで終わっちゃうのかな?

一度はこの世界(ころしあい)のルールすら動かし、
あのヴォルマルフすら手玉に取り、ディエルゴすら動かしたというのに。
彼の手下に「誰よりも多く人を殺したと貢献者」と褒められた程なのに。

26Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:35:28 ID:???
 
 ――これが、この程度が…。私の限界だって、そう言うの?

そう考えると、酷く悲しく、情けなく。
私は、はあはあと荒い息ばかり吐くひ弱な身体をもどかしく思い。
ただ一つ自由になる意識のみで、悔し涙を流した。

私が皆と同じ位置に立てるのは、ただひとつ。
ラムザ兄さんを生かしたいという、この想いの強さだけ。
私は、全然大したことはない。そんな事は、誰よりもよく知っている。
恐らくこのゲームの参加者の中で言えば、多分私は最も弱いのだろう。
そして、それは最も私自身の事で許せなかった事であり。
今もなお、許し難いものでもある。

そんなのは、ラムザ兄さんの足手纏いにしかならないのだから。
弱くなければ、あの時ヴォルマルフに捕まる事も決してなかったのだから。

弱いという事は、足手纏いという事は。厄介者だという言う事なんだ。
あのヴォルマルフの息子のように扱われても、仕方がないことなんだ。
ダイスダーグ兄さんだってそう。家族だからって、許される事はない。
ただ殺されるだけなら構わない。
この生命、捧げたって構わない。

でも、兄さん虫ケラのように扱われ、忘れ去られてしまうのだけは嫌。
私は兄さんに愛され、必要とされる人間でありたい。

 ――だからこそ、私は強くなりたかった。

そして、ラムザ兄さんの役に立ちたかった。
でも、ここまでが女である私の限界…。

27Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:37:24 ID:???
いっそ、体力のある男に生まれたかった。
せめて、アグリアスさんみたいに騎士の訓練さえ受けておきたかった。
そうだったら…。

 ――ラムザ兄さんを、最後まで守ってあげられるのに…。

溢れる涙で、視界がぼやけ始める。
滲む私の目にかろうじて映るものは、
天上と地平にキラキラと輝く星ぐらいのもの。
普段ならその綺麗さに感動するだろうけど、
今はそんな余裕は――。

地平の、『星』?

私は手の甲で涙を拭い、それを確認する為に前方をしっかりと見据える。
よおく目を凝らして見れば。その輝きには、覚えがあるような気がする。


そう、例えるなら。
切ないような。
悲しいような。
何かを泣いて訴えかけてくるような。
そんな小さく儚げな、蛍灯のような。
これから消えゆく、仄かな輝き。


 ――これは…、まさかッ?!

もし、“アレ”がそうだったとしたら?
もう、ぐずぐずなんてしていられない!
私の求めているものは、もしかすればすぐ傍にあるのかもしれないのだから!

28Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:38:44 ID:???
そう思うと、力にほんの少しだけ力が漲り。
未だにがたがたと笑い続ける膝を踏ん張り、
私はよろめきながら再び前へと駆け始めた。


          ◇          ◇          ◇

そして。
想像通りのものは、目の前にあった。
二つの死体と共に。

一つは見覚えのある綺麗な女騎士の死体。
一つは見知らぬ羽根付きの女の子の死体。

女騎士――。アグリアスさんは、背後から首の骨が折られあらぬ方向を向き。
女の子――。聖天使の出来そこないに見えるそれは、胸の辺りを刺し貫かれ。

二人はもつれ合うように、抱き合うようにして倒れていた。

流石に、支給品なんかは持ち去られているようだ。
女の子の死体の傍にある、変な小振りの鉄の杖なんかを除いて。
見た所、二人が争って決着が付いた所に後ろから不意討ちを受けて、
アグリアスさんも倒されたように見えるけど…。

まあ、それについてはどうでもいいかな?
重要なのは、二つだけ。

アグリアスさんが死に、その魂の欠片がクリスタルに宿ったままだという事。
そして、二人の死体には首輪がまだ付いたままだという事。

29Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:39:49 ID:???
つまり、私は。
二人を活用して、私はまだラムザ兄さんの役に立てるんだ…。

私は、この『天の恵み』としか言いようのない幸運を理解すると。
私はただ、嬉しくなって。胸に喩えようがない喜びが込み上げて。
喜びの余り、涙を流した。

私は、頬を拭うと喜び勇んでクリスタルを毟り取り――。

「クリスタルよ、私にラムザ兄さんを守るだけの力を!力をちょうだい!!」

たった一つの強い願いを、私はクリスタルにかけ。
アグリアスさんの魂の欠片は、祈りに応えて力を託し、消えた。
私が彼女にどうするつもりでいたか、それを理解する事もなく。
条件反射的に、ただラムザ兄さんの妹とその思いを信じて。

そして、私に力と記憶が宿る。
アグリアスさんの鍛えた技が。
アグリアスさんが、最後に見た光景が。
私は彼女達の不用心さに、ついつい哂ってしまう。

 ――なんだ、あの黒騎士のおじさんが二人を殺しちゃったのね?

その事だけは感謝してあげる。
そのおかげでクリスタルが得られ、参加者が二人も減った訳だから。
でも、アグリアスさんにはこのまま汚名を着てもらおうかな?
その方が、「ゲームに乗った人間の方が多い」と思わせる事が出来るわけだし。
ラムザ兄さんはそんなアグリアスさんを見て、悲しむのかもしれないけど…。

30Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:41:03 ID:???
ま、別にいいわよね?
以前から少々仲が良すぎたから、ちょうど良い薬になるかも。
ラムザ兄さんは、アグリアスさんよりも私を見て欲しいから。

ラムザ兄さんにも「信頼出来る仲間だなんて何処にもいないんだ」って
思ってくれた方が都合がいいし。兄さんの同行者は、殺し辛くなるから。

私は、兄さんの事から気持ちを切り替えると。
ごく『自然な動作』で、折れ曲がったレイピアの腹を手で摘まみ、
力任せに逆方向に曲げ戻してから。
細身の剣を、ゆらりと大上段に構え――。

「天の願いを胸に刻んで心頭減却! 聖光爆裂破!」

頭に浮かんだ言葉を紡ぎ出し、体が覚えた感覚を模倣して。
その心身の奥底に“先程”染み付いた聖剣技を、試し撃つ。
二人の首筋へに、剣閃が駆け抜け。
まとめて、その首が転がり落ちる。

そこには何の手応えもなく、それが当然と言わんばかりに。
私が強くなったという事実を、世界がそれを認めた。

腕力は上がってないが、身体に無駄な力が入らなくなった。
身体の使い方が良くなったので、疲れにくくもなるだろう。

 ――そう、私は強くなったのだ。今、ここで。

これで、もう私は弱さを嘆く必要なんてない。
ただ、その心身に起こった事実を認めてしまうと…。

31Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:41:46 ID:???

「はは、はははははっ…。」

知らずに、可笑しさが込み上げる。
笑いの声が、勝手に口から洩れる。

なんだ、こんなにあっさり身に付いちゃうものだなんて。
なんだ、こんなにあっさり強くなれちゃうものだなんて。

 ――死者の魂が宿ったクリスタルの力を継承すれば、強くなる。

そんな当たり前の事。ずっと前から知ってはいたんだけれど。
――何よ、なんなのよ、それ?

「アハハハハハ!!!!アハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

今まで無力さを涙が出るほど嘆いてた私自身が、
ホント、馬鹿みたいじゃないのよ?

そう考えるとただ可笑しくて、可笑しくて。
私は息を吸うのが難しくなるまで。
ただ自分の弱さと愚かさを、ひたすらに哂い続けた。

私、アグリアスさんの強さには憧れていたんだけど、
こんな事なら、もっと早く殺しとくべきだったかな?

そうすれば、彼女の代わりにラムザ兄さんの役に立って見せたのに…。
ラムザ兄さんの信用を、アグリアスさん以上に受け取る事が出来たのに…。

 ――ホント、残念…。

私は気を取り直すと、眼の前にある邪魔な生首達をまとめて蹴飛ばし。
二人の胴体から落ちた首輪を拾う。

32Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:42:26 ID:???
とっくに死んでいた為か、血が噴き出すような事はなかった。
私は漏れ出して首輪と剣に付着した血を、アグリアスさんの裾で拭き。
念の為に傍に落ちてある妙な小振りの杖と共に、デイバックにしまう。

輝きを失ったクリスタルは、ブーツの踵で踏み砕いた。
こんなものは、今更持っていてももう役には立たないのだから。
彼女はもうラムザ兄さんの思い出にすら、残ってほしくなんかない。
死人はもう厄介者であり、邪魔者でしかないのだから。

そうして、私は手に入れたものを確かめ終えると。
効果の切れたマバリアを、もう一度かけ直してから。
茶色い棒付きの飴を一つ噛み砕いて疲れを癒し、急ぎその場を後にした。
こんな所で休息していると、誰に発見されるか知れたものじゃないから。


          ◇          ◇          ◇


収穫はあった。これ以上ないものが。
強さも手に入った。邪魔者達を片づけちゃうだけのものが。
私はまだまだ、ラムザ兄さんの役に立てるんだ。
そう考えると、嬉しくて嬉しくて。

私は知らずに、スキップを踏むようにその場を駆けていた。
軽やかに、舞うように。心より喜びながら。
あのヴォルマルフをやりこめ、ディエルゴを動かした時以上に。
私の心は弾んでいた。

33Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:43:41 ID:???
でも、過信なんて出来ない。
私はアグリアスさんの技能を、部分的に受け継いだだけ。
つまりは、元より彼女より強そうな二人の黒騎士だったり、
カトリが変身した竜なんかには、流石に太刀撃ちなんて出来ない。
そういった相手には、上手く敵同士をぶつけ合せる必要があるだろう。
色々、考えなきゃいけないのは同じって事ね?

それに、すぐには他の人を殺して回れない。
首輪と道具の交換だって先にやっておきたいし、まだ大分疲れているから。
疲れた時にはさっきの飴がすごく利くみたいだけど、
それでも流石に全快とまではいかない。
今は、ゆっくりと休める場所が欲しい。


だとしたら、向かうとすればやはり西のE−2のお城かな?
あの黒騎士のおじさんは、ラムザに会ったと言っていた。
もし近くにラムザ兄さんがいれば、出会うまでに首輪も交換しなきゃね。
…私、おかしな所とか別にないわよね?
それに、綺麗におめかしもしておきたいな…。
折角の、ラムザ兄さんとの再会なんだから。

私は今手鏡がない事を、とても残念に思いつつ。
この後の事を色々と考えながら、西の城へと駆け続けた。

34Harvest Dance ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 21:45:14 ID:???
【F-3/平原/初日・未明】
【アルマ@FFT】
[状態]:健康、身体の疲労(中)、常軌を逸する狂気と信念
    マバリア効果中(リレイズ&リジェネ&プロテス&シェル&ヘイスト)。
[装備]:手斧@紋章の謎 死霊の指輪@TO
    希望のローブ@サモンナイト2
[道具]:支給品一式、食料一式×4、水×3人分
    曲げ直したレイピア@紋章の謎、マイク型ハンディカラオケ(スピーカー付き)
    アメルの首輪、筆記用具、ヒーリングプラス @タクティクスオウガ
    キャンディ詰め合わせ(袋つき)@サモンナイトシリーズ
    (メロンキャンディ×1、パインキャンディ×1 ミルクキャンディ×1)
[思考]0:ラムザ兄さん、もしくは自身の優勝。
    1:利用できるものは全て利用する(自他の犠牲は一切問わない)。
    2:ラムザ兄さんが生きていることを確認したい。
    3:ラムザ兄さんと再会前に首輪の交換もしたい。
    4:取り敢えずは、落ち付いた場所(E−2の城)で休息を優先する事にする。
    5:アルガスやウィーグラフを発見すれば、殺害してクリスタルを回収したい。
    
[備考]:アグリアスの魂から彼女に関する記憶と技能を継承しました。
   (どの程度継承出来たかについては、次の書き手様にお任せいたします。
    少なくとも、聖剣技については全て継承済です。)
    モカキャンディ×1を消費しましたが、これまでの蓄積した身体的疲労と、
    マバリアによる精神消費による疲労が相殺されて、現在の状態となります。

[共通備考]:アルマが「聖剣技」を使用する為にレイピアを応急措置的に曲げ直しましたが、
     その為耐久性が下がっています。強い衝撃があれば、破損する恐れがあります。

35 ◆j893VYBPfU:2011/04/02(土) 22:48:35 ID:???
投下終了です。

36源罪な名無しさん:2011/04/02(土) 23:14:19 ID:???
投下乙です!
アル魔の進化は続くよ、何処までもw
もう本当にこいつは今すぐ聖天使化しても
「あぁ、やっぱりな」としか思えないなw

あくまでも分は弁えてる分、化なり質の悪さが増している……
以外と重要な位置に自分を置いて来てるなぁw

37 ◆j893VYBPfU:2011/04/03(日) 12:08:38 ID:???
すいません。アルマの状態表に「アグリアスの首輪」「フロンの首輪」を書き忘れましたので、wiki掲載時に追加します。

あと、共通備考欄にアグリアスのクリスタルが踏み砕かれているのと、二人の首輪が回収された事と、
アルマの状態にクリスタル継承がなされた事も追加で。

38源罪な名無しさん:2011/04/03(日) 13:30:19 ID:???
激しく乙です
継承したクリスタルが吉と出るか凶と出るか・・・(展開的に)

39 ◆j893VYBPfU:2011/04/06(水) 01:07:06 ID:???
カーチス、中ボス、ウィーグラフで予約します。

40源罪な名無しさん:2011/04/09(土) 12:19:14 ID:kF4a.Qxc
もうアルマははらいところ死んでくれないかなぁ。
堕ちるところまで堕ちちゃってるもんこいつ。

41源罪な名無しさん:2011/04/09(土) 12:39:25 ID:???
人間としてやっていることは吐き気を催す最低の屑だからなあ。

マーダーなんて憎まれてなんぼだから、むしろそれは褒め言葉だぜぃ?

42源罪な名無しさん:2011/04/15(金) 19:24:39 ID:???
必要悪。どんなロワもマーダーが居ないと成立しない。
むしろ非道であるほど話が盛り上がるんだからいいじゃなーい。

43源罪な名無しさん:2011/04/16(土) 00:02:50 ID:???
>>42
ホラーゲームバトルロワイヤルじゃあマーダーがいなくても成り立っているけどね。
マーダーはいるにはいるが、参加者を無差別に襲うクリーチャーの性でマーダーの影が非常に薄い。
そのためか、禁止エリアも首輪も無い。

44源罪な名無しさん:2011/04/17(日) 16:30:11 ID:???
必要悪ねぇ・・・。
個人的には精神がいかれてることとマーダー補正を免罪符に、
書き手がアルマを使って他キャラをディスってるようにしか思えないんだが。
わざわざ頭を蹴り飛ばすとか死体に鞭打たせる必要ないと思う。
某所の邪悪の塊な王様ですらしなかったんだから、異常としか思えないわ。
仮にディスってるわけじゃないとしても、彼女が屍姦されるレベルの悲惨な結末がないと
この所業は許されないだろ。

45源罪な名無しさん:2011/04/17(日) 18:12:15 ID:???
所業自体は人間として許しちゃいかんだろ、うん。だからと言って屍姦すりゃ同レベルでは?

人間鈍器とかゾンビの素体とかトラップの餌とか死体の扱いは元々酷いな、このロワ。

46源罪な名無しさん:2011/04/18(月) 10:17:10 ID:???
>>45
いや、屍姦はあくまで例えであって、それくらいの報いを受けるべきってこと。
今まで散々優遇されまくって、他人を必要以上に壊した奴が
勝ち逃げしたり安楽死したら、殺されたキャラが報われなさすぎる。
それと、同レベルの仕打ちじゃなきゃ意味ないと思うぞ?

47源罪な名無しさん:2011/04/18(月) 10:23:05 ID:???
そういやGR2は散々に食人やら死体損壊やらやらかした奴に限って安楽死して、
まっとうな人格の持ち主に限って惨死した挙句死体まで弄ばれてたな。

48源罪な名無しさん:2011/04/18(月) 12:55:36 ID:???
因果応報とかどうでもいいよ

49源罪な名無しさん:2011/04/18(月) 22:27:22 ID:???
アルマに限らず、ヤンデレとかキチガイ系マーダーって
感情移入ができないから読んでて不快感に近い何かしか感じない。
心理描写ばかり書かれた日にゃ何がなんだかわからなくなるし・・・。
ここの住人は、こういうタイプのSSとかキャラってイケるのか?

50源罪な名無しさん:2011/04/18(月) 22:36:49 ID:???
異常者に共感が出来たら、それこそ危ない人の仲間入りだよ。
ああいう狂人に不快感や反発を感じてこそ正常な神経では?
反面、狂気や陰鬱が絶えず付いて回るロワで書き手やるには
向いてないかもしれないが。

まあ、少なくとも俺は大好物かな。

51源罪な名無しさん:2011/04/18(月) 23:30:04 ID:???
その不快感や理不尽さを楽しむのがロワなんじゃないの?

52 ◆j893VYBPfU:2011/04/20(水) 11:12:26 ID:???
すいません、予約延長します。

53源罪な名無しさん:2011/04/21(木) 15:27:07 ID:???
そもそも、今正常な思考のマーダーっていた?
ヤンデレ、嫉妬、戦闘狂、ハイエナ、人間獣、悪魔、マッドサイエンティストか。

人間として、皆終わっとる。

54 ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:53:01 ID:???
カーチス、中ボス、ウィーグラフを投下

55 ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:53:57 ID:???
『その“救いの手”を受け入れるか、あくまでも拒絶するかについては、
 貴方達の自由意思に委ねましょう。これは強制ではありませんからね。
 このゲームでは、なにより自由意思による選択こそが尊重されるのです。
 貴方達のご健闘に期待しておりますよ…。』

 …クソッタレが。何が救いの手だ、ふざけるな!
 どう考えてもそれは殺し合いの後押しだろうが!
 
オレは数少ない生身の腸が煮えくり返るような思いを堪えながら、
『悪鬼使いキュラー』と名乗るヴォルマルフの代理の放送内容を
残らず脳内に叩きこんでいた。

憤りはある。憎悪もある。
頭に血が上り、数少ない生身部分が怒りで滾る。

――心が、熱く燃えるのは良い。
この絶望的な状況下での、何より行動力の源となる。
だが、湧き上がる感情に振り回され、正常な判断が出来なくなるようでは本末転倒だ。
それが原因でこのオレが失敗すれば、周囲に『絶望』という結果しか生み出さない。
まさに奴等の思う壺だ。

心は熱く。されど、頭は冷たく。
科学者ならずとも、当然の心の持ち様だ。
それが一つの道に通じる者であるならば。

ましてや、オレが今から為そうとしている事は。
ゲームの根幹となる首輪というシステムの破壊。
この会場にいる誰よりも、クールでなければならない。

56Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:55:09 ID:???
立ち向かうはヴォルマルフと名乗る騎士の面汚しと、
その後ろに控えるディエルゴという不気味な超越者。

奴等をオレの頭脳で出し抜かなければならないという事だ。
これはゴードンには任せられるものではない。オレの領分だ。
あいつが、何の憂いもなく奴らをブチのめせる環境を作り出す為にも。
このオレが、必ずこの首輪を解除する方法を知らねばならない。

 ――だが、そのためには?

奴等の思考や目的をより詳細に、より正確に把握する必要性がある。
果たして、首輪の構造や解除に奴等の思考が関係するのか?

 ――大アリだ。 

手掛けた『作品』には、必ず作者の人間性というものがそこに滲み出る。
オレが過去に生み出した『作品』が、そうであったように。
制作者の癖や嗜好といういうものが、如実にそれに現れる。

ならばこそ、奴らの理解は首輪解析の一歩にも近づける。
知識がなくとも、ある程度の傾向を類推するならば可能。
そこから誰かと協力し、知識を共有し合えばよい。
何より、これから倒す者の知識があって困ることはない。
要は、そういう事だ。

――状況を整理する。
臨時放送が企図するものは明らかだ。考えるまでもない。
貢献者と主催側との内通についても、多少思う所はある。
それについてはどうでもよくはないが、今第一に考えるべきことではない。

57Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:55:41 ID:???
今ここで真っ先に問題にすべき点は、唯一つ。
奴らが支給品を餌にしてまで、首輪自体を回収したがっているという点だ。

首輪が参加者の手により解除される可能性を恐れての事だろうか?
解除されない事に絶対の自信があれば、そうする理由などそもそもない。
だが、果たしてそれだけの理由なのだろうか?
――あまりにも、陳腐に過ぎる。

分析や解除を恐れるだけなら、参加者が死んだその瞬間に
自動的に首輪が爆破される仕様にでもしてしまえばいい。

元より、参加者がサイボーグだろうがゾンビもどきになろうが、
体温や脈拍等一切の関係なく、正確に生死を判別できるのだ。
その探知機能さえあれば、実に容易い仕掛けだろう。

そうすれば、確実に解析も一切不可能となる。
もし、オレが主催側にいれば間違いなくそうする。
数式を除けば、世に絶対など存在しないのだから。

だが、奴らはそれを一切やらない。やろうともしない。
非常事態ともなれば、超魔王相手だろうが爆破自体は行うようだが。
ならば、奴らにはそれを「出来る限りしたくない」ような事情があると見るべきである。

先程見せつけたあの過剰なまでの堅牢性からも考えるに、
「奴等はできれば首輪を破壊せずに、回収したがっている」
何らかの目的があっての事だと考えた方がより自然である。

――ここで、主催側の目的に戻る。
主催者が目的とするのは「参加者同士で殺し合いをさせる事」であり。
決してオレ達参加者の皆殺しを企図したものではないということだ。

58Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:56:15 ID:???
そうなら最初の時点で始末しているし、わざわざこのオレのようにゲームに反抗し、
首輪の分解を試みる事が分かりきっているような「厄介な死人」まで蘇らせる必要性がない。
オレをよく理解する者であれば、万一の事も考えればなおさら参加などさせやしない。
――だが、キュラーと名乗る野郎はこうも言っていた。


「このゲームにあくまでも逆らう反逆者達。
 このゲームに乗り、優勝を狙う貢献者達。
 効率を重んじ、団体行動を取り続ける者達。
 あくまで人を寄せ付けず、孤高を気取る者達。
 全てが我々にとってなくてはならぬものであるが故に。 」


オレのような厄介者すら、奴等には利用価値があると認めてすらいるのだ。
そして、その多様な世界・思考の参加者の組み合わせから得られるもの、
あるいは生み出されているものは一体何か?

物質的な利益ではない事は確かだ。コストパフォーマンスが悪すぎる。
怨恨という線も考えたが、アティはともかくこのオレとディエルゴに一切の接点はない。
報復というならば、ディエルゴがもし本物ならばゲームの参加者は
アティとその知人のみで構成するだろう。
私怨を晴らすにしても、効率が悪過ぎる。

だが、今回は少なくともオレのような科学者がいて、異世界の存在が入り混じっている。
魔界からもラハール達が呼ばれている事から、復讐だけという理由はまずありえない。

進行役のヴォルマルフとかいう騎士も、因縁がありそうなラムザには無関心だった。
奴の目も、憎悪に猛ったというよりはモルモットの内一匹を見るようなものだった。
そして奴も「ラムザもこのゲームに参加する資格がある」という事を口にしている。
ならば、ゲームの趣旨から考えるに「参加者には一定の選定基準があり」、
「参加者同士で殺し合う過程こそが必要」なのだと考えるべきだろう。

59Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:57:24 ID:???
 ――異世界の存在同士を喰い合わせて、首輪を通じて得た実践データでも集積する?

ディエルゴがどこかの死の商人なら、確かにそういった可能性もある。
だが、そう考えるにはあまりにも疑問点が多すぎる。
様々な環境における実践データの収集が目的だとしても、あまりにもこの会場は広すぎる。
その上、参加者間の強さの基準も酷く大雑把かつ狂っている。

アティから聞いた話だと、彼女の弟子は素質こそあれど、所詮は一般人に手が生えた程度。
そして、オレと同じ死人だったビジュという男も、軍人としてはそこそこのレベル程度との事。
さらに、同じく魔剣の所持者だったイスラという男は、アティとほぼ実力を等価とするという。
…あまりにも、参加者の間に実力差があり過ぎる。

イスラは兎も角、ベルフラウやビジュが悪魔相手に太刀打ちなど出来る筈がない。
ぶつかれば確実に虐殺となる。まさに、二人はそうなって倒れたのかもしれない。
これでは、正確なデータ収集など夢のまた夢だ。
第一、そうなら参加者全員がこのゲームに“乗る”強者のみで構成するだろう。
ならばこの線もペケだ。

 ――あるいは本当は何も意味はなく、首輪回収もゲーム要素としての一環?

イカれたサイコ野郎が有り余る金と時間を湯水のように使い、
極上のスナッフ・フィルムをライブで楽しみたいとか?

確かに、奴等はこの殺し合いを“ゲーム”だと抜かしてやがった。
これなら動機として一番単純かつ分かり易いが、これにも矛盾がある。

だったら、この殺し合いを徹底的なショーとして娯楽性を入れるはず。
もう少し狭い…たとえば闘技場等に全参加者を閉じ込めてしまえば、
主催側の目で直に見て極上の殺人劇場を満喫できただろう。
…だが、奴等は決してそれをしなかった。

60Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:58:29 ID:???
首輪には、監視カメラの存在は確認できなかった。
工具等で継ぎ目から首輪本体を分解される可能性を恐れての措置なのだろうが。
(そもそも、首輪の高さにあるカメラの視界を使っても、非常にブレるので実用性に乏しい。)

人工衛星か何かで監視している可能性もあるが、これでは見応えも何もないだろう。
なにより屋内等の死角で殺戮を行われると、奴等はショータイムを楽しめないのだ。

 ――これも、違うな。

となれば、オレでは理解できないような利益がディエルゴ側にはあり、
それに首輪が絡んでくると考えるべきなのだろう。
この広すぎる会場にも、なんらかの理由や意味があるのかもしれない。

だが、こんな非生産性も極まる殺し合いでオレ達が生み出すものと言えば、
精々が憎悪の連鎖と、希望に見せかけた更なる絶望、そして悲嘆と殺意。
吐き気を催すような、マイナスの感情のオンパレードのみだ。
こんなもので喜べるのは、ラハール達ですら引くような極めつけに性悪の悪魔ぐらいなもの。
それに、そんなものたとえ首輪ごと回収出来たとしても何の得に…。


悪魔ぐらい?
何の得に?


 ――今、 一つの閃きが脳内を駆け巡る。

「サプレスの悪魔」

オレは、昼間にアティから聞いていた「サプレスの悪魔」の情報を思い出した。
ラハールと同じく悪魔と呼ばれても、その在り方があまりにも違っていたので、
興味が湧いて根掘り葉掘り聞き出したものだ。

61Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 10:59:36 ID:???
アティの世界の悪魔は血肉を備えた実体を持たず、言うなれば精神生命体に近いらしい。
そして、その食事もやはり肉や野菜のような実体を備えたものでなく、精神を糧とする。
悪魔の食事とするものは、やはりと言うべきか『怒り』や『悲しみ』のような負の感情。

 ――もし、このディエルゴを名乗る者がこの悪魔に限りなく近い存在だったとすれば?

ならば、この殺し合いはまさにディナーを得るにはうってつけだろう。
そして、オレ達は知らずにその餌の給仕係までやらされ、奴は際限なく肥え太る。
それなら「首輪が破壊できない」「首輪を回収したがる」理由にも辻褄があう。
さしずめ、オレ達全員がシェフをも兼用し、この会場はビュッフェと言った所か。

実に嫌味が効いてやがる。
反抗しようがゲームに乗ろうが、生き残ろうと足掻くほど。
参加者全員が残らずディエルゴに奉仕する事になるとはな。

だが、決してそれだけでもないだろう。
それなら、完全に無作為に選んでしまってもいいはずなのだ。
自分が万が一にも再び倒される可能性を持つものがいる以上、
ゲームの成功を期すなら己(ディエルゴ)を知らない者のみで
参加者を構成してしまうほうがより確実だ。
意趣返しなど、充分に力を付けた後でも構わないはず?

 ――つまり、まだ何かあるはずなのだ。

力を蓄えると『同時に』、アティを使ってやらなければならない何かが。
そして、それは彼女本人が死んでも修正が効く程度のものでなければならない。
この場では、いつ、誰が、どのように死んでも不思議ではないのだから。

あるいは、彼女の死自体が奴等の目的であるか。
ならば、彼女が優勝してしまったとしても何ら問題はない。
ディエルゴ本人が、最後に始末すれば良いだけの事だから。

62Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:02:01 ID:???
だが、彼女に与えられた目的については、本人に問い質してみたほうがよいだろう。
余計な先入観は、誤った結論を招く。

そして、周囲に与える絶望をより深いものにする為にも。
偽りの希望の光を与え、そこから絶望の奈落へと突き落とす為の要員として。
絶対に反抗するであろうこのオレを参加者として選んだのだろう。
それが、奴等の与えたオレの役割(ロール)という事か。

最初から過酷に過ぎる状況のみを与えてしまえば、人は無気力になる。
そうなれば己の死にすら諦観を抱くようになり、負の感情など湧こう筈がない。
ある意味それも「絶望」の一つの形と言えるだろうが、
植物のような枯れたゼロの感情など、奴等は求めない。

悪魔が好むのは、憤怒による殺意や、気も狂う程の悲哀などの、
渦を巻く激しいマイナスのエネルギーに他ならないだろうから。

ならば、最初に人を持ち上げ、最後に突き落とす方がより効果的ではある。
『参加者の間に狂おしい程の負の感情を与える』という観点でものを考えれば。
出鱈目かつ無駄が多いようにみえて、その実合理的かつ計算高い。

己を道化に見せかけておいて、その実徹底的な合理主義者。
裏表が激しく、酷く緻密で、かつ人間臭い思考が伺える。
何もかもが乱暴で大雑把な、悪魔のような超越的存在に出来る発想ではない。
これは、あのヴォルマルフと名乗る騎士の入れ知恵も含まれているのだろう。

 ――やれやれ、とんだロール・プレイング・ゲームだ。…反吐が出る。

さて、主催者の思考と目的については、イヤになるほどに理解は出来た。
首輪の内部構造も、恐らくは『負の感情を集める』事に特化した作りなのだろう。
あとはどのようにして、こいつの蓋をこじ開けるかって話しに戻るのだが。

63Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:02:36 ID:???
そうして、オレが首輪についての考察をメモに纏めている間に。
奴らは、何の前触れもなく。凄まじい瘴気を放ちながらオレに近づいてきた。


          ◇          ◇          ◇


「…臭いが取れんぞ。」
「仕方がないじゃないですかぁ〜。うっぷ…」

殺し合いの渦中にいるにしては、あまりにも呑気に過ぎる口調で。
黄金の甲冑を着た騎士と優男の二人組は暗闇の森林を歩いていた。

「…だから言っておいたのだ。もう捨てておけ、と!」
「いえ、それは私の美学に反します!
 うら若き乙女達が手塩にかけて作った手作り弁当!そして、見知らぬ海の珍味!
 これらを捨てるのは、作られた方々の愛情をも打ち捨てるも同然!
 断じてそのような真似などできませーん!!
 でも上品な塩辛みたいでイケましたねこれ…」

ガフガリオン達と二手に分かれた後。
中ボスとウィ―グラフの二人組は西進して塔を目指していたのだが。
彼らと出会う前にするつもりだった食事の件で意見の対立があった。

ウィーグラフは「もうそういう空気ではない」という事で食事の中断を提案。
実際は発酵したニシンが弁当の上に盛大に乗っかり、この絶望的な臭気混じりでは
到底食べられたものではないというのが本音だったのだが。
…食べ物に意地汚い中ボスは、その弁当を見逃す事はできなかった。

64Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:03:18 ID:???
故に、中ボスはウィーグラフからその弁当を有り難く頂戴し。
だが、ウィーグラフは食べるのを待つ時間が惜しいという事で。

中ボスは二人分の弁当を食べ歩きながら西進し、周囲に異臭を撒き散らしていた。
だが、それは胃の消化に悪い事夥しく。
弁当を食べ終えた後には、中ボスは塩分の取り過ぎと満腹のあまり胃痛に陥り。
それを見かねたウィーグラフが、臭い消しも兼ねて中ボスに水を与えるに至る。
(ちなみに、中ボスは自らの水を全部飲みほしてしまった)

「おかげでこちらはいい迷惑だがな。もう少し水でも飲んでおけ」
「フッ、お心遣い感謝いたします」

優雅な仕草でペットボトルを受け取る中ボス。
気障に前髪をかき上げるが、その臭いと頬に付いたご飯粒の為、まるで決まらない。
むしろ、見事三枚目である事を強調するアクセントとして立派に機能している。

「臭いを消すためだ、勘違いするな」

中ボスの口から漂う、鼻にねじ込むかごとき腐乱臭を我慢しつつ、
ウィーグラフは実におぞましいものを見るような顔で中ボスを眺めていた。
臭い臭いと言いながらも、しっかりと完食している辺り、あの醸した鰊には
中毒成分でも含まれているのだろうかと、つい下らない疑問を抱いてしまう。
――そうこうしている内に。

前方に僅かな焚き木の明かりと、その傍に佇む人影を見つけ。

「…姿を隠せ。様子を確かめる」

そう警告するウィーグラフの言葉を綺麗に無視して。

65Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:04:13 ID:???
「おや、あれはカーチスさんじゃあないですか?
 おーい!今からそっち行きますんで、少し待って下さーい!!」

森林に響き渡る大声で、中ボスは無防備にカーチスに呼び掛け。
怒りのウィーグラフに、鉄拳制裁を後頭部に叩き込まれる。

ぐったりした中ボスは口を塞がれながら木々の影に連行されるが、時既に遅し。
絶望的な瘴気まがいの悪臭を周囲に撒き散らす彼を、隠し切れる筈もなく。
二人の様子に呆れ果てたカーチスに呼び止められ、三人は会合に至る事になる。


          ◇          ◇          ◇


――警戒は、ほんの数瞬。


このゲームに乗っている者どもなら、徒党を組む可能性は低いのと。
なによりその内一人があまりにも馬鹿馬鹿しいコントを演じている事もあり。
(それどころか警戒心ゼロのような気がしてならないが、それは捨て置く。
 あの臨時放送直後だっていうのに、まったく良い身分なものだ…。)
オレはその有様に警戒を解くと、近づいて来た二人に簡単な自己紹介を済ませ。
これまでに起こった出来事について、情報交換を行った。

首輪関連についての会話は筆談で済ませ、念の為首輪についての考察メモを二人に手渡す。
これで、万一オレに何かあったとしても、誰かが遺志を引き継ぐ事は出来るだろう。
(筆の擦過音は、念の為焚き木の音とオレ達の会話でカモフラージュ済みだ。
 残念ながら、彼らも首輪に付与された魔法の類については、
 二人に思い当たる節はないとの事だった。)

66Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:04:57 ID:???
その間、優男はオレに思うものでもあるのか。
しばらくオレの顔をしげしげと眺めていたが。
視線から察するに敵対的なものとは程遠い、むしろ生温かい類のものだったので、
気付かぬふりをする事にする。万一、こいつがその手の趣味ならお断りなのだが。
「プリニーの姿ではないのですね…。」と、訳の分からない事を口にはしていたが。

ただ、一つ驚いた事に。
どうやら、優男の方はあのラハール達と知り合いで、
あのゴードンとも顔見知りの間柄だったらしい。
自称ラハールの「宿命のライバル」との事だが、
どうみても名前の通りの「中ボス」臭しかしない。
頬についたご飯粒といい、口から漂う溝川のような腐乱臭といい、
あまりにも威厳というものがなさすぎる。
とはいえ、この男も一応は悪魔。
決して、まともな人間の手に負える存在ではないのだろうが。

対抗するには、オレのように人間を辞めるか。
あるいは、ゴードンのように人間を超えるか。

そうでもしなければ、人間は悪魔に太刀撃ち出来ないのだ。
態度は兎も角、決して侮る事だけは出来ないだろう。
事実、オレはラハール達には勝てなかったのだから。
中身はともかく、その戦闘力のみは警戒すべきだろう。

情報交換ついでに、これからの予定を聞いてみれば。
ビューティー男爵「中ボス」はラハール達三人を。
ウィーグラフと名乗る騎士はラムザという青年を。
それぞれを探している所らしい。

ただし、ウィーグラフはラムザに対して含む所でもあるのか。
その青年の事を話す時は微妙に顔をしかめてはいたが。

67Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:07:47 ID:???
一方で中ボスは「宿命のライバル」というよりは、
まるで父親が不肖の息子と娘達を思いやるような。
どこか遠い眼差しでラハール達の事を語っていた。

ただし、中ボスはつい先程自分の元を離れたエトナを気に掛けており。
彼女を引き戻しに、ガフガリオンという名の騎士がレシィという少年を
引き連れてC−3の村へと向かっているらしい。
ただし、その老騎士に対する見方で、二人の見識に若干のずれがあるようだが。

「私とて、あの方が日の下を歩いた人間ではない事ぐらいは感じております。
 ですが、ウィーグラフさん。それはあまりにも敵意を抱き過ぎではないですか?
 彼とて昔は家族もいたであろう、一介の人間です」
「お前こそ、あいつを見くびりすぎだ。黒騎士(ダークナイト)の名は伊達ではない。
 戦場を共にした事こそないが、奴のいた戦場跡は、見飽きる程に見て理解している。
 放置しておけば、取り返しのつかん事になるかもしれんぞ?」

中ボスの言を信じるのであれば、失った家族を思うどこか寂しげな老騎士であり。
ウィーグラフの言を信じるのであれば、冷徹無比なる邪悪な軍人という事になる。

ただし、オレの感じた事を言えば。
どちらも本当の事を言っているようには聞こえ、
どちらも全ては知ってはいないようにも聞こえる。

両者が抱く老騎士に感情に、温度差が有り過ぎだ。
とはいえ、オレもガフガリオンの行き先が気にならない訳ではない。
エトナ達相手に、老騎士一人がどうにか出来るとは思えないのだが…。

ただし、あちらにはアティもいる。もし、ウィーグラフの言う事が真実なら?
遭遇すれば、彼女にとっても取り返しが付かない事になりかねない。

68Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:08:49 ID:???
それ以前に、たとえ彼が危険人物でなかろうとも。
夜と深くなれば、村で暖を取ろうとする他の参加者達の遭遇率も跳ね上がる。
そして、それはたとえ主催側に反目する立場の人種であったとしても。
彼女が役立たずと見做されれば、早々に始末される可能性がある。
――全ては、制限時間と支給品の獲得の為に。

オレは、唐突にぞわりと脳の根幹を撫でられたような錯覚を感じ。
――酷く、嫌な予感がする。

そう言えば、随分と長い間。
オレは彼女の声を聞いてはいない。
連絡がないのは無事の証とも言えるが、あまりにも無さ過ぎる。
それに、アティからは色々と聞き出しておきたい事もある。
――ならば。

「…わかった。エトナ達の様子なら、このオレが見に行ってやる。
 代わりに、北の塔にいるゴードンとミカヤを頼む。いずれ後を追う。
 他に聞きたい事でもあれば、代わりにあいつにでも聞いてくれ。」

オレはメモに視線を送り、その内容がメモに関する事だと示唆すると。
オレは話しを手短かに切り、二人にゴードン達の身柄を任せ。
足早にC−3の村へと駆け出した。

これ以上は、消費する時間が惜しい。
たとえ一秒でも、たとえ一瞬でも。

胸騒ぎは、一向に収まりはしない。
駆けながら、オレは体内の機能を使いアティに呼び掛ける。
だが、当の彼女の無線からは――。

69Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:09:32 ID:???
声はおろか、一切の反応も示しはしない。
主催者側の通信妨害も疑ってはみたのだが、それでもノイズ程度は入るはず。
――だとすれば?


まさか
まさかとは思うが。


彼女は窮地に連絡を入れる暇さえないままに、すでに――。
取り返しのつかない、最悪の未来を想像し。
オレの視界が、その衝撃に暗くなりかける。

 ――クソッタレが!何が多くを救うだ!何が地球勇者だ!
   参加者はおろか、女一人助けられないのか、このオレは!!

激しい焦りと自分への怒りで、脳内が掻き乱され。
人工の心臓が激しく脈打ち、動悸で息も荒くなる。

あのどこか儚げな、顔こそ違えど今は亡き妻子の連想させる、あの笑顔が。
唐突に、理不尽に。圧倒的な暴力によって“再び”蹂躙される様を連想し。
今にも自分が内部から引き裂かれそうな、そんな錯覚さえ感じる。

それも、状況を甘く見て彼女を置き去りにしたオレのミスに他ならない。
後悔の余り、今にも気が違えそうになる。
だが、落ち着け。落ち着くんだ。

70Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:10:56 ID:???
 

 ――オレは第三十八代、地球勇者なのだから。


オレは考えうる最悪の可能性を頭から振り払り、無理矢理心を奮い立たせる。
アティが無線が取れなかったのは、単に何らかの偶然という事もある。
あるいは、無線の故障という可能性も。

それに、本人にもし何かあったのだとしても?
本人は未だ生存し、助けを求めているという可能性もある。
ならば、一刻も早く駆け付けるべきであろう。
それが、今のこのオレに出来る最善の行為だ。

本人の死体を発見するまでは、悲嘆にくれるのは早計に過ぎる。
状況は決して楽観はすべきものではないだろうが、
最初から諦めては、救えるものすら救えないのだ。
 
オレは胸の内にじわじわと侵食を始める、どす黒いものを振り払うように。
駆動系が熱を持つ事すら無視して、限界を超える勢いで村へと駆け続けた。


【C-2/森/一日目・夜中】
【カーチス@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:背中及び数箇所に切傷(軽症)、左足に異常(要修理)、若干の性能劣化、
    激しい焦燥と後悔
[装備]:オウガブレード@タクティクスオウガ
[道具]:支給品一式
    鍵@不明、オリビアの首輪
[思考]1:手に入れた首輪を解析する為に、異世界の(特に魔法に詳しい)参加者を探す。
   2:アティにいち早く接触し、他の参加者達やディエルゴについての情報を再確認。
   3:ガフガリオンを警戒。
   4:アティの身柄の確保と同時に、エトナ達を探してみる。

71Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:11:56 ID:???
[備考]:首輪が魔法的な防護により異常なまでの硬度を帯びており、
    物理的手段だけでは分解不能である事を理解しました。
    分解と解除には魔法と科学に通じたものが必要であると推測を立てています。
   :ウィーグラフ達とこれまでの情報交換を行いました。
    状況が落ち着けば、後ほどアティとともにB−2の塔にて合流する約束をしました。
   :カーチスは自分を含めた全ての参加者には、主催者側の選定基準があり、
    其々に彼らが望む一定の役割を与えられていると推測を立ててます。

【ウィーグラフ@FFT】
[状態]:健康 、ガフガリオンへの不信感
[装備]:キルソード@紋章の謎
[道具]:いただきハンド@魔界戦記ディスガイア、
    ゾディアックストーン・アリエス、支給品一式(ペットボトルのみ無し)
[思考]:1:ゲームの打破(ヴォルマルフを倒す)
    2:仲間を集める。
    3:ラムザとラハールの捜索
    4:ガフガリオンを警戒(不審な行動を見せれば斬る)
    5:アティとエトナ達はカーチスに任せる。
    6:合流予定のB−2の塔で、同時にゴードン達を探してみる。
[備考]:ジョブはホワイトナイト、アビリティには現在、拳術・カウンター・攻撃力UP、
    HP回復移動をセットしています。
   :カーチスと情報交換をしました。首輪に関する話題は筆談にて済ませています。
    但しカーチスの考察以上の事は発展が有りませんでした。

【中ボス】
[状態]:顔面と後頭部に軽症(行動に一切の支障なし)、軽い胃痛、酷い口臭、頬にご飯粒
[装備]:にぎりがくさい剣@タクティクスオウガ、ペットボトルの水(半分消費)
[道具]:支給品一式 (水は全て消費済)、ウィーグラフのクリスタル、カーチスのメモ
[思考]:1:ゲームの打破
    2:自分が犠牲になってでもラハール達の帰還
    3:エトナも早く戻ってくればよいのですが…。
    4:メモの内容…。とても気になりますね。これは。
    5:赤毛の麗しきマドモワゼル(アティ)。フム、意外と近くにいましたか…。
      って、これは浮気じゃないですよ皆さぁーん!!

72Box of Sentiment ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:12:53 ID:???
[共通備考]:
 カーチスの首輪に関する考察には、以下のような事が書かれています。
【カーチスの首輪に関する考察メモ】
 
・首輪は異常なまでの堅牢性が与えられている。当然のごとく、防水性。
 その原因は物理的なものではなく、極めて強力な魔法に類する力であり、
 その力を特定し、無効化することがまずは先決である。
・視認した限りにおいては、分解防止の為か監視カメラの存在はない。
・死亡者の有無を確認出来ることから、生体反応を感知できる何かがあると推測される。
 ただし、参加者がアンデッドと化した事やカーチスのようなサイボーグであっても
 生死を正確に認知できることから、体温や脈拍等で感知しているわけではない。
・主催側の目的やこの殺し合いで得られるものから考えるに、装着者の絶望や憎悪等の
 どす黒い感情を効率良く集積する機能が付加されている可能性が高い。
・今回のゲームの首輪については、サプレスの悪魔(ディエルゴと名乗る者)の求めに応じて、
 進行役の人間(ヴォルマルフ)が入れ知恵をして制作されたと推測される。

:C−3からC−2への通り道の間に、中ボスが食べ終えた空の弁当箱と
 シュールストレミングの缶詰が捨てられています。

73 ◆j893VYBPfU:2011/04/28(木) 11:13:42 ID:???
以上で投下終了です。
感想、ご指摘等ありましたら遠慮なくお願いいたします。

74源罪な名無しさん:2011/05/01(日) 18:27:28 ID:???
臨時放送を未だに突破してないのはアイク、ミカヤ、ゴードン、アティ、ネスティ、アルガス、サナキの
以上七名で良かったっけ?
書くとしたら彼ら優先だよな…。

75源罪な名無しさん:2011/05/02(月) 09:44:17 ID:???
特に問題なさそうなのでwikiに収録します

76 ◆j893VYBPfU:2011/05/08(日) 20:34:07 ID:???
アルガス、サナキで予約します。

77源罪な名無しさん:2011/05/13(金) 17:19:07 ID:???
今状況的に危険なのは区分けすると概ねこんな感じ?

危険度
極度 マグナ、パッフェルホームズ、カトリ
高度 アティ、ネスティ
中度 カチュア、ミカヤ、カーチス、ヴァイス
低度 ラムザ、レンツェン、チキ、ニバス

負傷状態も込みで考えればだけど。?

78源罪な名無しさん:2011/05/16(月) 09:53:05 ID:???
アルガスも状況次第じゃ、
放置プレイで爆死するんだよねw

79源罪な名無しさん:2011/05/16(月) 10:26:02 ID:???
爆死というか、ラハールに首刈られますな。
しかもラムザやサナキには止める理由がほとんどない。

80 ◆j893VYBPfU:2011/05/22(日) 08:35:50 ID:???
サナキ・アルガスを延長します。

81 ◆jEaHSufpKg:2011/05/24(火) 21:42:08 ID:???
初参加の者です。
アイクで予約します。

82源罪な名無しさん:2011/05/24(火) 21:43:29 ID:???
アイクキター!

83源罪な名無しさん:2011/05/25(水) 00:40:20 ID:???
うぉぉ、来たー!

84 ◆imaTwclStk:2011/05/26(木) 21:15:17 ID:???
ソノラ・二バス予約します

85open your eyes ◆imaTwclStk:2011/05/27(金) 14:03:55 ID:???
ソノラ・二バス投下します。

86open your eyes ◆imaTwclStk:2011/05/27(金) 14:04:31 ID:???
意識の覚醒は突然にだが速やかに行われた。
火の爆ぜる音が耳に聴こえる。
だが、何かが足りない。
考えるまでもなく理由は分かっていた。
二バスはゆっくりと目を開ける。
傍では焚き火の温もりが体を温め、
そして、その近くに亡者の騎士がその鎧の色のように
闇夜の漆黒と同化し、物言わず控えている。
身体を起こし、周囲をぐるりと見回す。

(やはり……姿が見えませんね)

何かが足りないと感じた理由。
自分をまるで保護者の如く慕う、
騒がしい少女の姿が今は見えない。

(薪を集めに行った様でもないですし、これは……)

闇夜の中、焚き火の心許ない明かりの中で
幽鬼の如く映る老人は静かに考える。
可能性は二つ。
何がしかの用で外しているか。
若しくは逃げたか。
前者の可能性も万に一つはあるのかもしれないが、
二バスは即座にそれを否定する。

(離れすぎている……これは有り得ませんね)

守ると言った少女が危険を察知出来ぬほどに
その対象から離れては意味がない。
愚かな事に変わりはないが、
それ程までに愚かでもないだろう。

ならば可能性は一つだが、疑問がある。

(あれ程までに私を信頼していたのに、突然逃げる訳は?)

突然、恐怖に駆られたわけでもないだろう。
為らば、何故?

そこで二バスはふと小さな違和感を覚える。
そして自分の持っていたクリスタルに目を向ける。

87open yor eyes ◆imaTwclStk:2011/05/27(金) 14:05:36 ID:???
「……これはッ!?」

この老人にしては珍しく、小さく驚嘆の声を上げる。
二バスが眠りに落ちるまでは微かな魔力を感じていた
クリスタルからは今は何も感じられない。
今では、露天などで容易に手に入るただの石と同様の物と化している。

「魔力を取られた……いや、引き継いだという事ですか?」

研究者としての探究心が鎌首を上げる。
純粋な興味が今の置かれている現実を凌駕していく。

「成る程、流石は異界の術法ですね。
 一体、如何いった類のものだったのか…
 非常に興味深いですね」

自身の知らない現象、術、知識の類を種類を問わず、貪欲に貪る。
それこそが自身の究極目的への到達には欠かせないのであるのだから。

「しかし、残念ですね。
 今はその効力を知る術はありませんか」

だが、その冷酷にして底無き頭脳は大方の予想は導いている。

突然の少女の失踪。
クリスタルの魔力の消失。
そして、クリスタルの『本来』の持ち主。

この三つの現象を重ね合わせる。

「記憶…若しくは知識の引継ぎ……」

ぶつぶつと呟きながら二バスは真相へと意図もあっさりと到達する。
その考えの対象である少女でさえ半信半疑だというのにである。
それも当然かもしれない、
何しろ、それの元凶たる者は他ならぬ自分自身なのであるのだから
悩む要素など無いのだ。

「ふむ、どの程度離されたのか…これが問題ですね」

あくまで冷静に二バスは現状を突き詰めていく。
自分が眠っていた時間、少女が何らかの理由で
クリスタルの『何か』を引き継ぐまでの経緯。
天を見上げて経過時間におおよその目安を立てる。

88open yor eyes ◆imaTwclStk:2011/05/27(金) 14:06:33 ID:???
(二刻から三刻、大体そんな所ですか)

天に日が射す気配なく、周囲の闇はより深みを増している。
それ程深く眠った訳でもないようである。

「……困りましたねぇ、ただ逃げただけじゃなく
 研究材料を持ち逃げされるのは」

それは怒りではない、純粋にこの老人は困っているのだ、
『研究材料を取られた』という事に。
ニバスにとってソノラという少女は
最初から“その程度の”認識でしかないのだ。
居れば利用するだけだし、居ないのなら別にそれでいい。
余計な事をするつもりなら後で始末するだけの事。
自分というものすらこの老人の中ではヒエラルキーの頂点ではなく、
頂点に座するのはただ知識のみ。
自分自身ですら、その為の材料の一つに過ぎないニバスにとって
ソノラという少女の存在は既に如何でもいいモノの一つと化している。

「おや? …継承であるのなら、
 それの条件とどこまで適用されるのか気になりますね」

似た様なものは知っている。
高位の魔術師のみが行使できる転生術。
我が身を捨て去り、魂のみを新たな肉体へと引き継ぐ。
だが、これすらも肉体をその都度、捨てなければ
死から逃れられない以上、
ニバスの目的の到達点とはいえない。
だが、それの簡易版ともいえる代物ならば
やはり興味深い素材である。

「試してみる価値はあるかもしれませンね」

クリスタルは本来の持ち主であるムスタディオの
肉体の消滅に反応した。

「継承者もまた対象となる…
 可能性としては捨てがたい……」

ゆっくりと立ち上がり身体に付いた土ほこりを払う。
身体の感触を確かめるように身体を少しずつ動かして確認する。

「多少のふらつきは否めませんが、
 そこはさほど問題ではありませんね。
 問題は魔力ですが……」

こちらは思っていたよりも深刻である。
回復術法に費やした精神力は並大抵のものではない。
いや、本来ならこうして平然と立ち上がっていること
それ自体が尋常ではないのだ。

「魔法を行使できるのは精々数えるほど…
 と、なれば……」

そこでニバスはただじっと立ち尽くす騎士へと目を向ける。
それを合図としてか、亡騎士はヴォルケイトスの柄を振るい
焚き火をかき消す。
明かりが消え、闇と化した景色の中で
声だけを屍術師は響かせる。

「……さて、不本意ではありますが動くとしますか」

89open yor eyes ◆imaTwclStk:2011/05/27(金) 14:07:23 ID:???
【G-6/森/一日目/深夜】
【ニバス@タクティクスオウガ】
[状態]:肋骨骨折(魔法により応急措置済、行動には支障なし)、精神的疲労(重度)
   ※背中の打撲傷は完全に治療済です。
[装備]:ビーストキラー@暁の女神、ムスタディオのクリスタル@FFT
[道具]:支給品一式×2、拡声機、光の結界@暁の女神
[思考]1:保身を最優先、実験材料(死体)の予備を確保。
   2:最終的に優勝を狙い、この島を屍術の実験施設として貰い受ける。
   3:研究の手掛かりになるかもしれない為、とりあえずはこの世界の召喚術について詳しく調べてみる。
   4:ソノラを追跡し、始末する。
   5:ソノラの殺害でクリスタルは作用するのかを確かめる。

【リチャード@TS】
[状態]:デスナイト
[装備]:折れたヴォルケイトスの先端、柄@TO
   :女神の祝福を受けた鎧@FE蒼炎の軌跡
[道具]:空のザック
[思考]:ニバスを守り、他の参加者を殺す


「あいたっ!!」

暗い暗い森の中を少女は一人で歩き、
闇に見えぬ視界で思いっきり鼻を伸びていた枝にぶつける。

「〜〜〜〜〜ッ! あぁ、もう明かりくらい持って来れば良かった!」

リチャードに気づかれないようにするために敢えて
明かりの類は全部置いてきていた。
それを今更になってソノラは後悔する。

「でもいいもんね、もうすぐここから出られるし」

一人の筈の少女はまるで誰かと一緒に居るように
明るく振舞う。
いや、少女にしてみれば最早“いつでも”一緒なのだ。

そろそろ森の出口に差し掛かる、さっさと抜け出そうとして
咄嗟にソノラは身を隠す。

(……やっばぁ〜、あれ帝国の軍人じゃん)

町の方から街道に沿って歩く集団の姿を木の陰から覗き見る。
集団側からしてみればソノラは警戒どころか歓迎の対象なのであるが、
それを知る由も無いソノラにとって見れば日頃の天敵である
軍人は避けて通るべき相手なのである。

(あいつって、しかもアズリアじゃん。
 くわばらくわばらっと……)

帝国でも名の轟く剣姫をまともに相手になんてしてられない。
しかも屈強そうな男と弱そうな細っこいののオマケ付である。
隠れるようにしてこそこそと、
ソノラは向こうに気づかれないように移動する。
集団が移動して行ったのもあって気づかれずに済んだようである。

「どうしよっかな? 少しここに隠れてよっかな?」

少し思案し、ふと置いてきたニバスの事が気になった。

(本当にニバスさんは……)

感慨に耽りながらニバス達が居た方を仰ぎ見る。
森の奥に薄っすらと見える焚き火の明かりがその時、ふっと消えた。

(……気づいた!?)

意味も無く焦燥感が全身を襲う。
このまま此処にいては拙いと思考の片隅が警告する。
そんな本能の警告に少女は意を決する。

(行こう!!)

少女は地を蹴り、まだ形すら見えぬ向こう側へと駆け出した。

【G-6/森/一日目/深夜】
【ソノラ@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:リムファイアー(7発消費・残り29発(確認済))
[道具]:支給品一式、石化銃の弾丸(24/24、他の銃に利用可能かどうかは不明)
[思考]:1:クリスタル継承したムスタディオの記憶の真実を確かめに、G−5の住宅街に向かう。
    2:ニバスについてどうするかについては保留。個人的には殺したくない。
    3:ムスタディオさんの記憶と遺志に従い、ラムザとアルマ、アグリアスを守りゲームを破壊する。
    4:どんな時でも、あたしは独りじゃない!

90 ◆imaTwclStk:2011/05/27(金) 14:08:23 ID:???
投下を終わります。
矛盾等ありましたら指摘をお願いします。

91源罪な名無しさん:2011/05/27(金) 21:27:33 ID:???
確かにその考察、可能性あるちゃあ有るだろうけど…。
ニバス、相変わらず彼らしい「全ての生命は虫けら同然」の酷い発想しか思い浮かばんなw
しかもここに「自分の生命」を例外視しない辺り、単なる小物で終わらせないものになっている。

なんて嫌なマーダーなんだ…。
ともあれ投下乙でした!

特に矛盾もなかったのでそれでいいかと。

92 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 09:04:35 ID:???
サナキ・アルガスを延長します。
ただし、今夜中に投下します。

93 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:51:47 ID:???
サナキ・アルガスで投下します。

94騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:52:44 ID:???
アルガスからの情報に、目を引くような重要なものはなかった。
元よりそう多くを期待していなかった分、失望には至らなかったが。
だが、残念と言えば残念ではある。

折れた角を頭に持つ緑髪の少年。
ホームズの親友であるリュナン。
そして獰猛な印象を与える黒髪の男に、
エトナという赤毛の悪魔。

彼の話しによれば、以上四名の危険人物ばかりに遭遇し、
そのいずれにも酷い目に合わされたという。
そして、わたしはそれが敵意と偏見に満ちた主観入りという事に注意しながら、
脳内でアルガスの情報を整理してゆく。

おそらく、遭遇した人物全員が危険という訳ではないだろう。
わたしの勘で言えば、アルガスの傲慢な態度が巡って周囲にそう返礼されたか、
あるいは本人の脇の甘さが招いた結果なのだろう。
他人を見下す事に夢中になるものは、どうしても視野が狭窄する。
己もまた、他人に内心で見下され返すという事に気付かないのだ。

 ――馬鹿というか、甘いというか。

わたしは物心付く頃に祭り上げられ、最初から飾りである天上人だった。
「神使」と言う地位は名ばかりで、自らは何の奇跡も起こす事も出来ず。
ただ、そこに鎮座してある事のみが価値とされたわが身としては。

出会う者全てがこちらにおもねり、へつらう態度の奥底で。
絶えずわたしを利用しようと隙を伺い、
あるいは所詮傀儡に過ぎぬと侮蔑してかかる
有像無像に囲まれて育ったわが身としては。
絶えず他人の内心を用心深く推し量りながら、
自らは決して弱みを見せぬ事などもはや常識。

95騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:53:19 ID:???
貴族の見せる優雅さとは、決して見栄の為のみではない。
他者に弱みを見せぬ為の偽装であり、用心の心得なのだ。

かつては名門貴族でありながら、その程度の作法すら理解出来ないアルガスの無防備さに。
わたしは大きな羨望と失望の入り混じる、大きな溜息を漏らした。

 ――ある意味、羨ましい育ちじゃったのかもしれんの。
   昔ちやほやされてたのが突然に没落し、周りの態度が豹変して人間でも歪んだか。

だが、わたしの溜息を境遇への憐憫とでも見誤ったのか?
アルガスは下手に出て、わたしに媚び諂う。

「なあ、こんなオレを哀れだと思ってくれてるのなら。
 今度こそ、仲間として受け入れてはくれないか?
 …絶対に、皇帝陛下の役に立ってみせる。必ずだッ!」

熱っぽい眼差しで、奴はわたしに視線を送る。
わたしを出世の足がかりにでもするつもりなのだろう。
その事については、別にわたしも不快には思っていない。
「相互扶助」という名の「相互利用」。
人間関係とは、良くも悪くもそれで成り立つ。
利用するなら大いに結構。それはお互い様というものだから。

だが、目の前の男に利用価値があるかと言えばそれはないだろう。
むしろアルガスを連れ歩く事は足手纏いにすらなりえる。

気に入らない相手と見れば所構わず吠え続け、侮蔑を隠そうともしない。
周囲の空気を著しく悪化させて、一切悪びれる事もなく。
その貴族主義を、ことさらに周囲に押し付ける。
アルガスを駆り立てるのは己の野心と憎悪のみ。
それ以外の事象に価値など見出せないのだろう。

96騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:53:58 ID:???
わたしはこれまでのアルガスとのやり取りから、
あえて危険を冒してまで仲間にするメリットはないと判断していた。
そして、吐き出させるべき情報も全て吐き出させた。
もはや用済みか、と考えた所で。


「――初めまして、皆様方。
 私は悪鬼使いキュラーと申す者。以後、お見知り置きを」


本来はあり得ないはずの、放送が。
アルガスの運命を嘲笑うかのように、城内に響き渡った。


          ◇          ◇          ◇


「その“救いの手”を受け入れるか、あくまでも拒絶するかについては、
 貴方達の自由意思に委ねましょう。これは強制ではありませんからね。
 このゲームでは、なにより自由意思による選択こそが尊重されるのです。
 貴方達のご健闘に期待しておりますよ…」


わたしは苦々しい思いでその放送を聞き入っていた。
――その狙いは、あまりにもあからさまに過ぎる。

そして、この状況はアルガスの運命を決定付けるものであった。
アルガスが見る見る蒼褪め、混乱のあまり大騒ぎを始め出す。
そのみっともなさはともかく、心情だけは同情するに余りある。
そう、誰とてこの臨時放送がもたらすものは理解できる。
――理解できるのだ。

97騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:54:33 ID:???
ラハールは暴れたがっており、そしてその相手と武器を見境なく探している。
そして、ラムザはアルガスとの仲はお世辞にも良いとは言えない。
アルガスとて、それらの状況は充分に理解している。
――そして、何よりも。

残りの制限時間が、この先どの程度であるかがわたし達には分からない。
第一回放送で呼ばれた最後の死者は、果たして午前中に死んだのか?
それとも、放送直前に死んでしまったのか?
今のわたし達にとってはそれすら不明なのだ。
それらを早急に確かめる事も必要である。

そして、それらの人間関係を始めとする全ての問題点を解決できる手段が。
――たった今、わたしの目の前にある。

殺しても誰一人として良心が痛まない者がおり。
殺した方が明らかに今ある状況を優位に立て。
殺す事により確実な安全を保障出来る。

そんな都合の良い「生贄の羊」が、たった今無力な状態で拘束されている。
それに、たとえこちらが放置して手を下さなくとも、
発見され次第誰もが彼を始末しようとするだろう。
貴重な時間と、身を守る武器を得るために。
「殺す」という行為に、義務のみでなく利益を得てしまったが為に。

そして今、同時にこのわたしの立場も危ういものとなってしまった。
無論、ラムザという男が如何なる場合であれ、
無抵抗な女子供を手にかける者ではない事は、
これまでの僅かなやり取りの中で充分に理解している。
――だが、だからこそ。

98騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:55:13 ID:???
アルガスのみを目の前で殺めて、首輪を奪うという事は充分にあり得る。
いつ「不用」として首を狩られるか不安の中にいる、このわたしを安心させる為に。
アルガスという男。ラムザとの因縁やこれまでの態度から察するに、
あまり良質な人間だとは言えないのだとも理解していた。

そして、ラムザはアルガスを殺す事に躊躇いはないだろう。
あの男は優しくはあるが、決して甘くはないのだ。
それは身に纏う空気やその目からも理解は出来ていた。
あのヴォルマルフという騎士相手に一度は勝利した強者に、
決して隙や甘さなどあろうはずがない。
――だが、だからといって。

アルガスを見捨ててしまってもよいものだろうか?
下愚としか言いようのない、人間の失敗作であっとしても。
窮地にある者を見殺しにして自らは手を汚さず保身を図る、
かつての元老院まがいの浅ましい行為を。
人の上に立つ者が取って良いものなのだろうか?

 ――否、断じて否。

もし、アルガスを見殺しにしてしまうのであれば。
わたしは、かつてヘッツェルを断罪した時のように。
わたし自身をも断罪しなければならなくなる。

元老院議員へッツェルもまた、己の身の可愛さ余りに
「高貴なる者の責務(ノブレス・オブリージュ)」を忘れ、
全ての悪事について見て見ぬ振りを続けていたのだから。
それは、国家の命運を担う者が、守るべきものの荒廃を
座視したも同然の行為であるが故に。

99騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:55:49 ID:???
 
 ――わたしは自ら手を汚し、ヘッツェルをその罪ごと焼き滅ぼした。

たとえ、己自身が悪事に手を染める事がなかろうとも。
それはすべからく貴族の義務の放棄を意味したが故に。
庶民ならいざ知らず、貴族の取るべき態度ではない。

ましてや、わたしは人の頂点に立つ皇帝。
そのような罪を背負うものに、皇帝を名乗る資格はない。
他者にはその手を汚させ、自らは安穏とするなど言語道断。
率先して己が手を汚して、自らも危険を背負ってこそ皇帝。
無力は罪の言い訳にはならぬ。
――ならば。

わたしは怯え喚き続けるアルガスを無視すると、小部屋を飛び出した。


          ◇          ◇          ◇


「さあて、戻って来てやったぞ。待ちくたびれたかのぅ?」

わたしはにんまりと笑うと、城中を捜し回りようやく見つけた鋸を手に。
大股で、ゆっくりとアルガスの所へと近づいた。

アルガスの顔が恐怖へと歪む。迫り来る運命を悟り。
わたしは勝ち誇るように笑う。運命を己が握るが故に。

100騎士の誕生 ◆j893VYBPfU:2011/05/28(土) 23:56:35 ID:???
「やめろーッ! オレを放せーッ!頼むーッ、殺さないでくれーッ!!
 ふざけるなーッ! どうして、オレが殺されなきゃいけないんだッ!
 オレは貴女様の役に立つから、ラムザなんかよりも役に立って見せるからッ!
 だからサナキ様ッ!皇帝陛下様ッ!考え直してくれよッ!なッ!なッ!」

先程の、ラムザへの威勢の良さはどこへやら。
アルガスは尻もちを付いた姿勢のまま、ずるすると退がり続け。
やがて後ろの壁に当たり、その退路すらも断たれた。

年下の少女相手にカタカタと歯を打ち鳴らす様はむしろ滑稽ですらある。
その怯えぶりは、もはや貴族というよりは道化と呼ぶ方が相応しい程に。

「残念じゃが、おぬしはラムザほど役には立てんよ」
「覚悟を決めるのじゃな。さあ、女神に祈るがよい」

わたしは残念そうにゆっくりと首を左右に振り、アルガスを押さえ込む。
右手には握られた鋸。真新しいそれは、獲物を求めて鈍い光りを放ち。
絶叫を上げるアルガス。それは屠殺される寸前の家畜を連想させるも。

「頼むよ…、やめてくれーッ!!
 いやだーッ、死にたくないーッ!やめてくれーッ!」

現実を拒絶して、眼を瞑るアルガス。
わたしはその命乞いを無視して――。
あてがった鋸を、一気に引く。

「助けてくれッ、かあさんッ!! 」


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