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臨時なのはクロススレ15

1名無しの魔導師:2010/05/27(木) 22:39:07 ID:Z0jDheY60
ここは種死&リリカルなのはクロスオーバー作品を取り扱う所です

シンが八神家やフェイトに餌付けされたり
レイがリリカルな魔法少年になったり
なのはさんが種死世界に行き、世直しをしたり
デバイス達がMS化したりその逆もあったり
キラがフルバーストでガジェットを一掃したり
アスランは相変わらず凸ていたり
他様々なIFが用意されています

・職人様はコテとトリ必須。
・職人様は荒れているときこそ投下強行。全裸wktkに勝る流れ変えなし。
・次スレ立ては950を踏んだ人が立てる事
・1000に達する前に容量オーバーになりそうな時は気づいた人が立ててください
・各作品の考察は該当スレにて宜しく頼みます
・煽り、荒らしは無視しましょう、反応した貴方も荒らしだ。

まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫
http://arte.wikiwiki.jp/

2名無しの魔導師:2010/06/14(月) 11:04:17 ID:hIeJhjnM0
>>1

3名無しの魔導師:2010/09/03(金) 20:59:38 ID:nSXdXYYEO
>>1乙です
早く皆こないかな

4ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/09/14(火) 14:20:33 ID:ArIi/EZ.0
シンとアスランの魔法成長日記の作者です。
更新が長らく滞っていて、大変申し訳ありません。
今も執筆は続けておりますが、どうしても良い出来にならない状態にあります。
ですが、作品を投げ出すつもりは毛頭ありません。
楽しみにしてくださっていた皆様に、謝罪を申し上げに参りました。
よんでくださっていた方々、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

5名無しの魔導師:2010/09/17(金) 21:16:42 ID:kjf9fPMI0
エタらなきゃいいよ

6逸騎刀閃 ◆AGSD/MBwB6:2010/09/19(日) 00:27:01 ID:JAnbPaNs0
じゃ、エタってる俺の消しておいてください
仮に投下しても多分、違う物か単発になるんで

7名無しの魔導師:2010/09/22(水) 00:21:04 ID:yhdhGtjcO
age

8j:2010/09/26(日) 17:19:09 ID:6Au5f/Ik0
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9名無しの魔導師:2010/09/29(水) 01:55:30 ID:rnuX0E960
ぶっちゃけここの存在意義ってあるの?

10名無しの魔導師:2010/09/29(水) 02:40:56 ID:XeYO1.vc0
作品の投下がないことについてですかい?

11名無しの魔導師:2010/09/29(水) 03:27:31 ID:mjJiuJrs0
大人しく待ってろよ、いい子だから

12名無しの魔導師:2010/09/29(水) 18:05:56 ID:Fh16yYBU0
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132:2010/09/30(木) 23:58:04 ID:dYHqe4Rg0
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14名無しの魔導師:2010/10/02(土) 00:26:39 ID:9.gLfSCk0
もう全てエタったようなものだから、ここがある理由はないだろう。
惨めに残すより、スッキリ消した方がマシじゃない?

15名無しの魔導師:2010/10/02(土) 00:34:59 ID:Gahh54MYO
いやその理屈はおかしい。
ん? 投稿スレと雑談スレを一つにまとめようって意味か?

16名無しの魔導師:2010/10/02(土) 01:22:37 ID:WlOKSbT.0
なんで一々問題起こすような事するのか理解に苦しむ

17ナンバーズPLUS♯ダブルオー:2010/10/02(土) 02:55:58 ID:DkkCvSuA0
読んでらっしゃる方が少ないかも
知れませんが、まだ書いていますので
宜しくお願いします。

執筆ペースが遅くて申し訳ない

18名無しの魔導師:2010/10/02(土) 08:02:04 ID:KvNFlh3o0
>>17
トリ見えてる、トリ見えてる

19名無しの魔導師:2010/10/02(土) 09:05:29 ID:jNwDxQzcO
>>17
俺は好きです

20名無しの魔導師:2010/10/15(金) 11:56:55 ID:B/3oD8cU0
のんびりまってますよ〜〜

21保守1/2:2010/10/15(金) 17:30:39 ID:4fwxCpPYO
「……いいのかな」
「何が?」
7月18日の15時、ハラオウン家。うだるような熱気が居間を支配している。
「もしC.E.にいたままならさ、俺はもう20歳になってるんだよな?」
「うん。僕は22だね」
今、ここに二人の少年。因みにクーラーは故障中。
「そんな大の大人がさ、中学二年の女子達と一緒に海へ遊びに行くってのはどうなんだよ」
4年前のとある事件以降、ハラオウン家に保護されている少年、シン・アスカは同じ事件以降、八神家に居候しているもう一人の少年、キラ・ヤマトに近い未来への不安を言い訳という形でぶつけていた。
「……そうは言ってもね。今、僕達の身分は…年齢的にも体格的にも中学二年生なわけだし、別にいいんじゃないかな。健全だと思うよ?」
「そうだけどさぁ……、なんか犯罪臭がするっていうか」

C.E.74、二人の青年、シン・アスカとキラ・ヤマトはメサイアの爆発に巻き込まれて、その世から消えた。
同刻、凄まじい魔力反応を第97管理外世界にて計測。11歳の三人の少女、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやてとアースラ・スタッフがこれに対応、二人の少年を発見、護送した。
これが4年前の事件の開幕である。

「なに言ってんのさ、君は」呆れ顔で、キラ
「肉体が若いからって、勢いに任せちゃ駄目だよ。……それにちゃんと大人達が少数といえども付いてきてくれるんだし。大体……」
「はやての提案だから逆らっても無駄、だろ?わかっちゃいるんだけどさ」
実際、文句を垂れつつも皆の水着姿が楽しみなシンである。

『7月20日、皆で海に行かへん?』
聖祥中学の終業式。さぁこれから夏休みだーという時に、はやてのこの言葉。
勿論となのはは即快諾。フェイトも乗り気で、そこにアリサとすずかが加わり、古典の成績ゲンナリとしていたキラとシンを呑み込み、更にアースラ・スタッフをも巻き込んで、その提案は一つの「計画」となっていた。

22保守2/2:2010/10/15(金) 17:33:10 ID:4fwxCpPYO
現在、女性陣はデパートへ買い出し中。クロノ、ユーノは本局に出張。結果、シンは一人ハラオウン家で留守番をすることになり、そこへキラが遊びにきて、今に至る。
「喰らえぇ!必っ殺!バースト・タックル!!」
「やめてよね、」
ヴァーティカル・エアレイド発動!

K.O.!!

「ぐぁあぁぁ!?」
「ゲームで僕に敵うはずないだろ。はい、コーラ買ってきてね」
「ちっくしょぉぉー!」
流石、えげつない。賭けはキラの勝ち。しかしシンは粘る。が、
「くぅっ、模擬戦を申し込む!」
「フリーダムもデスティニーもないのに?」
二人のデバイスは現在メンテナンス中である。
「……」
シン、撃沈


……
…………
「まぁ、どうせなら楽しい思い出にしたいよな(嫌な予感するけど)」
「楽しんだ者勝ちだよ(はやての提案だし、それは仕方ないよ)」
はやての提案はいつもトラブルつきだ。シンが渋っていた理由でもある。
例えば闇鍋、豆まき、野球観戦、市内野球大会参加、胆試し(これは少し役得)。極め付けに、先のゴールデンウィークのキャンプ。
あれは凄かった。それはもう凄かった。まさかS・L・Bを喰らうことになるとは思わなかった。正に災難。

災難だったが、充実した時間でもあった。そう、充実とした――

「守りたいね。この今を」かつて討ってしまった者達の為にも
「ああ。今度、こそ」かつて救えなかった者達の為にも
次は二人で、皆で――

「ところでシン」
「あん?」
「さっさとコーラを……、ついでにアイスとポテチを買ってきてよ」
「……」
鬼め


惨劇まで、あと2日。二人の中学生ひ耐えられるのか――

23名無しの魔導師:2010/10/15(金) 17:41:19 ID:4fwxCpPYO
ただの保守です。それ以上でもそれ以下でもありません。いくつか誤字脱字がありましたが……

ヒロインはあえて出しませんでした

24名無しの魔導師:2010/10/15(金) 21:20:52 ID:plxkGNTs0
保守乙です
長いストーリーではない、一場面だけ投下なんてのでも別に禁止されてるわけじゃないんだよね
短いの書いて見るかって気になった
ところで新シャアのほうはどうしたらいいんだろう?

25保守2 1/4:2010/10/20(水) 00:04:39 ID:NMwuCujQO
弾ける緋、迸る蒼、互いにもつれ輝き、その身を喰い合う
「弁当は俺が貰うんだ!今日っ!ここでぇ!!」
『アスカロン』
「やめてよねーーっ!」
『カリドゥス』
大出力の砲撃同士がぶつかりあい、大爆発を引き起こす。それは、開戦の狼煙


文化レベル0、砂漠の世界。ここでキラとシンはただ一つの弁当を賭け、闘っていた。その理由は……『空腹』である。

とある秋の水曜日のこと。
シンとキラは二人揃って昼食の弁当を忘れてしまったのだ。購買のパンも売り切れ残念。
それをみかねた心優しい三人の少女、なのは・フェイト・はやてはそれぞれの弁当を少しずつ、憐れな二人にあげることにした。少年達は泣いて喜んだ。
だがしかし、所詮は14の少女の量×3。男一人分が限界である。勿論、譲る気はお互い毛頭もない。
そこで、別世界を舞台にして模擬戦をする事にしたのである。
なんとも無茶苦茶な話であるが、少年達の顔は真剣そのものだった。
 
こうしている間にも、既に昼休みが終わっている事に二人は気付かない――
 
 
迫る蒼い斬撃。フリーダムからの縦一閃、それをアロンダイトで左にいなす。その流れで身体を左に捻り、更に廻し、加速した右脚でキラの側頭部を狙う――が、
(外れた…!……っ!?)
キラは空振った縦一閃の勢いそのまま空中で鋭く前転、シンの回し蹴りを回避したのだ。その隙を狙い、踵落としがカウンターとしてシンを襲う。
「障壁ぃ!」
波状魔力防壁『ソリドゥス・フルゴール』を展開、受け流し、飛行魔法を操作、大袈裟なほど思いっ切り後退し、回避距離をとる。
 
『ハイマット・フルバースト』
 
(きたっ!)
一つ一つの威力は大したことはないが、その範囲、密度、連射力、精密度が厄介なキラの十八番。
しかも牽制や誘導、本命を織り交ぜて放ってくるのだから、余計に質が悪い。
シンは今までの経験から、これを冷静に対処、確実に回避する。
(予備動作を見てなかったら、危なかった)
「突撃する!デスティニー!」
【了解、ミラージュコロイド散布】
アロンダイトの鍔が重々しく可動、薬莢を二つ排出。魔力が全身を巡る。
「はぁぁぁーー!」
アロンダイトを真っ正面に構え、背の魔力翼を大きく展開、溢れる緋の魔力がシンを包む。
 
意識がクリアーになる。理性が本能を凌駕する。

26保守2 2/4:2010/10/20(水) 00:06:44 ID:NMwuCujQO
 
「いっつもそうやって、やれると思うなぁー!」
絶叫とともに、シンが突撃してくる。その瞳に光は、無い。
(SEEDを発現させたの……ならばっ!)
キラは後退、両のフリーダムから魔力弾『ルプス・ライフル』を連射する。そして一つの行動への布石を創る。
『ミラージュコロイド』を纏ったシンはこれに構わず、圧倒的な速度でキラに接近、
(よし、来い)「フリーダム、サーベルを」
アロンダイトを振り上げる。――失敗は出来ない。
(これは)【カートリッジロード】
 
意識が弾ける。空間を掌握する。
 
(トラップだ!)「はぁっ!」『ドラグーン』射出、『ヴォワチュール・リュミエール』起動。
一息でアロンダイトを掻い潜り、ロングコートを靡かせシンの背後へ抜ける。
「くぅ!?」
案の定足を止めたシン、すかさず先ほど射出した『ドラグーン』で取り囲む。狙い通り!
「当たれぇー!」
一斉掃射!更に後詰めとしてサーベルでシンに躍り掛かる。
だが、ここでシンは恐るべき瞬発力を発揮した。
瞬時に身体を振り回し、『フラッシュ・エッジ』、アロンダイトで迫る魔力弾を切り裂き『パルマ・フィオキーナ』で相殺、背の魔力翼で駆翔し『アスカロン』で『ドラグーン』を凪ぎ払う。
そして『ヴォワチュール・リュミエール』で神速に達したキラの居合いを、アロンダイトで弾き飛ばしたのだ。
それは、鬼神の動き。
「っ……流石だね、シン!」やはり、強い――
 
『エクストリーム・ブラスト』
『ミーティア』
 
一瞬の静寂。緋と蒼の欠片が砂漠に吹雪く。それは、ただただ美しい
 
 
 
「フェイトちゃん」
「あ……なのは、はやて」
夕闇に浮かぶ聖祥中学、その校門。
「もう、帰ろか?」
「そう…だね、そうしようか」
三人の少女は、二人の少年の帰りを待っていた、
「これは流石に罰を考えんとなぁ」
「ちょっと、待ち疲れたかな…」
三時間も。これ以上は無理だ。もう帰宅しなければならない。
「シン君もキラ君も、今夜はバイトなのにな〜」
 
シンの保護者の娘、フェイトと
キラの家主である少女、はやてと
二人の雇い先の家の娘、なのはは、
「ハァ……」
同時に溜め息をついた

27保守2 3/4:2010/10/20(水) 00:09:17 ID:NMwuCujQO
 
 
『パルマ・フィオキーナ』
右の掌に集まり圧縮され、輝きを増していく魔力。
アロンダイトを袈裟懸けに振り抜き、かわされた隙を埋めるべく突き出したそれは、キラの宙返りによってあっさりと無効にされてしまった。
「逃がすかっ!」
『フラッシュ・エッジ』
アロンダイトの逆袈裟斬りと同時に射出される魔力刃二つ。
更にアロンダイトを左脇に抱え込み、カートリッジを一つ消費、突撃。必殺の突きを繰り出す。
「やらせないっ!」
キラは魔力刃を狙い『バラエーナ』を発射、左のサーベルでアロンダイトを右方向にいなし、時計回りに回転。右のサーベルでシンに回転斬りを見舞った。
この背後からの強襲を、魔力翼を用い急上昇することでシンは対応する。
すかさずキラは左のライフルを跳ね上げ、シンを狙おうとするが、
(やられる!?)
シンの左脇に展開される魔法陣を確認し、急降下。頭から地面に向け突っ込んでいく。
「いっけぇ!」
特大の『アスカロン』がシンの魔法陣から放出された。
(今、だ!)
地面にぶつかる瞬間、緋い濁流に呑み込まれる瞬間に背の『ヴォワチュール・リュミエール』を最大噴射、一気に地面と平行する体勢へ移行。
『アスカロン』が砂漠に着弾、莫大な量の砂塵が巻き上げられた。
「カートリッジ!」
その砂のカーテンと『アスカロン』の奔流を隠れ蓑にして、キラは『クスィフィアス』を発射。
紫電を纏い、恐ろしいほどの速さでシンに迫る蒼の弾丸は、
【Warning!『ソリドゥス・フルゴール』】
デスティニーの出力した障壁に着弾、シンを無理矢理に弾き飛ばした。

28保守2 4/4:2010/10/20(水) 00:12:51 ID:NMwuCujQO
現在、シンとキラの距離はおよそ100M。
加速魔法『ヴォワチュール・リュミエール』を発動している両者にとって、ほんの一瞬でしかないこの距離。
 
(7秒、7秒だけもてばいい!)「ドラグーン再構築、シングルモード、左手に盾を!」
【了解。シングルモードへ移行。ラミネート・シールドを召喚します】
距離を保つ、それにキラは全てを賭ける。
此方の思惑を看破したシンが連射する魔力弾を、盾に変換した左のフリーダムで防御。余計な魔力を使う余裕は無い。
「エリナケウス!」カートリッジを全消費。
巨大な魔法陣が、キラの足元に顕れる。
 
「ミーティア・フルバーストは使わせない!」
『ドラグーン』、『エリナケウス』に翻弄されながらも、シンは攻撃の手を休めない。
(砲撃は使えない――だったら!)
【突撃しますか?】
距離を詰める、それにシンは全てを賭ける。
「自動障壁カット!射撃も砲撃もいらない、全て速度に回せ!『ミラージュコロイド』最大散布、『ハイパーブースト』起動!!」
【もって13秒です】
「上等!」カートリッジを全消費。
巨大な魔法陣が、シンの背中に顕れる。
 
 
「エビも竹輪もハンバーグも、全部俺が食べる!」
「恐いのは、食べられない事。こうなのだと、諦めてしまう事!」
お互い最後の攻撃。これを逃せば後はない。
「デスティニーの全てを叩き込む!」
「僕と、フリーダムなら!」
遂に、終焉の刻――
「でぇいやぁァァァァァァァ!!!」
「はぁぁぁァァァァァァァ!!」
正真正銘全力全開、己の全存在を懸けたその攻撃は――
 
 
 
 
ぐきゅるるるぅ〜〜
 
 
 
 
不発に終わった。
 

……
…………
 
「どうして、僕達は……」「…………」
海鳴市の公園。
ブランコに座る二人の少年の顔を、
皮肉なまでに美しい朝日が燦々と元気に、照らしていた――

bad end

29名無しの魔導師:2010/10/20(水) 00:15:54 ID:NMwuCujQO
只の保守、パート2
職人さんが再び降臨されるまでの繋ぎになれれば幸いです

>>24
どうするんだろうね、アレ

30名無しの魔導師:2010/10/20(水) 00:21:08 ID:NMwuCujQO
因みに、『アスカロン』とはデスティニーの名無し砲の事です。捏造です

31名無しの魔導師:2010/10/20(水) 04:31:47 ID:EjZPrXyA0
乙っす!俺も何か考えてみるか…

32名無しの魔導師:2010/10/24(日) 02:26:37 ID:T2NqddEs0
乙です
やっぱこういう感じのシンとキラはいいなあ

33名無しの魔導師:2010/10/24(日) 14:45:11 ID:u7djtL260
よし、じゃあ新シャアのほうはあっちに投下するという人を待つとして
俺も練習文行ってみよう。日本語おかしくないといいんだが

34妄想一場面:2010/10/24(日) 14:46:26 ID:u7djtL260
「そいつならもういねえよ。別のところに行った」
「……ふぅん? 本当かそれ?」
「あ?」
「いや、ちょっとな」

 口元に指を当てて考える。ジャンク屋が飯の種、もしくは餌場をわざわざ他人に譲る事情というものが、想像できない。嘘をついている? 可能性は高いが、ならどうしたものか。
 唸るシンの様子から何を思ったのか、男はいきなり懐から拳銃を取り出すと、シンの顔面に突きつけてきた。唐突かつ剣呑な動作に対して、シンは眉を顰めて鼻息ひとつ。

「何だよ、いきなり」
「お前、何が狙いだ。『どこ』から来やがった」
「はあ?」
「答えろ! 鼻の穴増やされてえのか!?」

――何でいきなりキレてんだよ、こいつ?

 これまでのやりとりを思い返すが、警告的な言葉もなしにいきなり銃を突きつけるなどという段階に至るのはわけがわからない。
 その声を聞きつけたのだろう。少し離れたところで歩哨のように立っていた男まで近寄ってきて、シンはいよいよ面倒だなと顔をしかめた。見せびらかすようにアサルトライフルを腹の前に下げている様子や目の前の男の銃の扱いは、技量はないながらも荒事に慣れている雰囲気をまとっていたからだ。慣れているということはそれだけ『そういった状況』でも行動力を発揮できるということで、また会話での主導権も握りにくい。
 思考を切り替える。荒事かどうかではなく、どう荒事を収めるかに。
 手の出し方を考えていると、ふと背後で押さえられた足音がした。目の前の男の顔を見ると、微妙に目の焦点が外れている。方向はシンの肩あたり、距離からすれば――背後。

35妄想一場面:2010/10/24(日) 14:47:09 ID:u7djtL260
「っ」

 後頭部に絞った布を押し付けられるような感覚。見る間に迫ってくる温度と、その中に混じる硬質な冷たさ。間違いなく武器――拳銃かナイフ、でなければ警棒あたりだろう――を持った人間だ。
 人を置いて勝手に盛り上がった挙句、問答無用ということか。

「ふん」

 ぱちん、とシンの中でスイッチが切り替わる。感情は停止。余計な思考をカット。いつも通りに『戦うために、不要なモノを切り落とす』。
 思考が、視界が加速を始めた。先ほどまでわからなかったことが、皮膚、耳、目といった感覚器官全てを通して伝わってくる。
 背後の相手の歩幅と距離を測る。これならあと二歩といったところか。足音の芯が右にぶれた――なら、重量のある物を振り上げたのだろう。小さく鳴った風の音から長さを考えれば、警棒でなく鉄パイプか。

「――」

 目の前の拳銃は無視。背後に味方がいる以上、とっさには撃てない。右肩をこころもち前に出し、上半身を少しだけ傾ける。
 それだけで、背後からの打撃は回避できた。気圧の塊が右耳を撫で、同時に風切音が鼓膜を叩いた。

「んなっ!?」

 近距離でいきなり鉄パイプが振り下ろされたせいだろう、目の前で拳銃を突きつけていた男がびくりと仰け反る。銃口がぶれ、引き金にかかっていた指の筋肉が弛緩と緊張の間で硬直するのが『見えた』。
 がつん、と鉄パイプの先端が床に当たった瞬間、シンは右手を伸ばした。正面で拳銃を持つ手をスライドごと握りこみ、そのまま手首を内側に引き倒す。
 ぱぁん、と乾いた銃声が耳を打った。足元の床が小さく火花を上げてへこみ、少し離れたところで兆弾の衝突音が甲高く鳴り響く。
 スライドを掴んだ掌が摩擦で焼けたが、構っている場合でもない。スライドを掴んだ状態で発砲させた以上、排莢不良の可能性も期待できるはずだ。ぎんぎんと痛む耳は無視。
 こちらに背中を見せるような格好でつんのめる正面の男の軸足を外から足の裏で押し、ついでにその足で鉄パイプを踏みつけた。

36妄想一場面:2010/10/24(日) 14:47:41 ID:u7djtL260
 倒れこんだ拳銃の男はこれで数秒間無力化できる。視線を左から背後へ。鉄パイプのほうは武器を取り戻そうと、両手で力を込める様子を見せた――予想通り。まったく抵抗せず足をどかしてやると、虚をつかれた男は力の安定を失って尻餅をついた。
 腰の後ろにいつも収めているナイフに左手を伸ばしながら、シンは体勢を下げて更に左へ回転する。
 元の右手方向、腹の前にアサルトライフルを下げていた男へ、引き抜きざまにナイフの柄を叩きつけた。ろくに構えることもなく突っ立っていた男の顎を、狙い通りに揺らす事に成功する。
 腕に遅れてスライドする視界の端で、傾いた男の顔が映る。眼球が左右にぶれ、無精ひげの生えた顎からかくりと力が抜けた。更に駄目押しとして、振り向く勢いを乗せた拳をこめかみに打ち下ろす。垂直落下するように崩れるアサルトライフルの男を通り過ぎ、視線は一回転して拳銃の男の背中に戻る。
 打撃を加えたわけでもない為、拳銃の男は手を突いた程度だ。既に気を取り直し、拳銃をこちらに向けようとしていた。しかし。
 小さく眼球を動かして、拳銃の状態を確認。排莢口には特に異常はない。少なくとも深刻な排莢不良は起こせなかったようだ。仕方ない。
 男はそのまま銃口をこちらに向けて引き金を引こうとしたが、やはり遅い。男の動作のを後押しするように左手で銃口を跳ね上げ、同時に逆手に握ったナイフの刃を男の首に押し付けた。

――このまま行くか? ……いや。

「ひっ」

 息を詰めた男の手から拳銃をもぎ取り、鼻っ面に頭突きを叩き込む。げぶ、とつぶれた息を漏らし、男は顔面を押さえて仰け反った。無防備な腹に前蹴りを入れて突き飛ばすと、吹き飛んだ男は手すりに背中を打ち付けて転がった。
 一発目を無理な姿勢で撃たせた事を考えれば、二発目の弾をそのままにするのは危険だろう。ナイフを手に握りこんだまま、奪い取った拳銃のスライドを引く。弾頭がついたままの二発目の弾がイジェクタに弾かれ、くるくると回りながら放物線を描いた。初弾が押し出された後に弾倉から次弾が押し上げられてくるところまでを目で確認し、ぬめつく空気を引きずりながら銃口を振る。
 本当に撃てるか? 暴発はしないのか? 弾は何発入っている? 脳の片隅で信用できない武器への不安感を反芻しながら、シンはようやく起き上がって鉄パイプを振りかぶった男にぴたりと狙い向けた。

「っ――ぐ」

37妄想一場面:2010/10/24(日) 14:48:45 ID:u7djtL260
 左手にナイフ、右手に拳銃。何度も訓練した近接戦闘の構えだ。正対する男は両手で鉄パイプを振り上げたまま、どうにも動けずに固まっている。振り上げていなければ動きようももう少しあっただろうが、シンが拳銃を突きつけたこの状態ではどう動こうとも遅すぎる。

「――で? 何だってんだ、お前ら」
「…………」

 鉄パイプの男は顔に汗をにじませたまま、一言も発することなく固まっている。どこか意地になっている様子に再びシンが首をかしげた時、唐突な拍手が聞こえてきた。

「?」

 左右に視線を走らせ、音の出所を探る。

「へーぇ、やるもんだ。流石はシン・アスカ。『負け犬』になっても染み付いた技は衰えてないってわけだ」
「何だよアンタ」

 さえないようで隙がない。拍手をしていた男の第一印象は、そんなものだった。

38名無しの魔導師:2010/10/24(日) 14:50:46 ID:u7djtL260
というわけで場つなぎになればいいなと思いつつ一場面。
超人じゃない兵士の格闘っぽく書けてるかな?
伝えたいイメージとしてはMGSの蛇が使うCQCみたいな。

39名無しの魔導師:2010/10/24(日) 16:11:04 ID:ytvWEnu.0
Gj続きを書いても良いのよ?

40保守3 1/2:2010/10/29(金) 23:03:37 ID:mGTRJ11gO
第97管理外世界
海鳴市の一角にある喫茶店。
冬の午後5時、来店した少女に
「いらっしゃいませー。……おっ、フェイトか」
ここ、翠屋で勤務している少年、シン・アスカが応じた。
長く、艶やかな金の髪を後ろに流し、少し大きめな漆黒のダッフルコートを身に纏った来客者、フェイト・テスタロッサは、ほっとした顔で注文を一つ。
「……ホットココア一つ、欲しいな」
 
コト、とフェイトの前にホットココアとラズベリーソースがかかったチーズケーキが置かれる。
そしてシンも自分用のコーヒーをテーブルに置き、フェイトの対面に座った。
勿論、このチーズケーキはシンの奢りである。
二人とも今は聖祥大附属中学の制服姿だ。
「あれ?シン、仕事は?」
「ん、今日はもう終わったんだよ。……それより、冷えたろ?早く飲んじまえ」
 
外は相変わらず、身も心も凍らせるような風が吹いている。寒いというよりは冷たい感じだ。
天気予報によると、今夜は雪も降るらしい。
(明日にはやんでくれよな〜)
雪の通学路を想像するだけでゲンナリする。そんな現実(思い出)はコーヒーを飲んでさっさと忘れてしまおう。
シンはカップを手にとり翠屋特製のコーヒーを一口、啜った。
(……美味い)
疲労した身体に熱く苦い液体が染み渡る。香りも味も素晴らしい。
砂漠の虎だったら、どんなリアクションをするのだろうか――
「――なのは達は、」
「……ん?」
フェイトが話しかけてきたので、思考を中断、いつの間にか閉じていた目を開ける。
と、其処には
 
両手でカップを包み、少し上気した顔で此方を見つめているフェイトがいた。
その姿はシンの心にストライク。
 
(――!?……!!)
いやまて、なんだこれは。可愛いすぎるだろ。いやいつも可愛いケドじゃなくてえーとなんで急にこんな……?
「? どうしたの?」
急に固まったシンに不審を覚えたフェイトは、シンの顔を覗きこんだ。
 
必然的に、上目遣い。
これを無意識にやっているのだから堪らない。
 
(反則だろっ!?)
顔が熱くなるのを感じる。
なんだって今日はこんなに可愛いんだ!?
ツボに入ったのか、今ならどんな姿でも可愛く――あら、怪訝な顔をしていらっしゃる。
「イ、イヤ。ナンデモアリマセンヨ?」
なんとか動揺を隠そうとする少年シン。
しかし声は裏返り、言葉はヘンな敬語になってしまっている。しかも目は泳いでいた。が、
「……えと、なのは達ね、帰りが予定より遅くなるみたいなんだ」
そこはフェイトさん、華麗にスルーした。
「……ァあー、あいつら今ミッドだっけか。なんかあったのか?」
「ちょっと、事件に巻き込まれたって」
 
どうもデバイスの点検帰りに、集団犯罪者と遭遇したらしい。
 
「まぁ、あいつらなら平気だろ。キラとなのはのバ火力コンビもいるし」
「うん。今日はこの事を報告に来たんだ」
完全に信頼しているのだろう。フェイトの顔に心配という字はない。
ラズベリーソースならついているが。
「っと、動くなよ?ちょっと、とってやるから」
おもむろにポケットからハンカチを取り出し、フェイトの口元を拭ってやる。
可愛い奴め。何処からともなく「やめてよね―」と聴こえてきそうなシチュエーション。
なんとなく、優しい気持ちになる。何故だろう?
今日はどこかおかしい。
 
 
「やめてよねーーっ!?」
 
ミッドチルダ上空。
いきなり戦場に響き渡ったその声に、敵も味方も関係なく全員が固まった。
「ど、どうしたのキラ君!?」
なのはは驚きながらも『フライヤー・フィン』を繰り、空中で静止したキラの横につく。
ついでに『アクセルシューター』で敵を牽制するのも忘れない。
と、何故か遠い目をしたキラが呟いた。
「いやね、なんかとても羨ましいシチュエーションがね、こう、ピロリロリーンって入ってきて……」
「へ?」
「うん、何でもないよ。気にしないで……」
「や、気にしないでって……」
なのははつい絶句した。キラの瞳から生気が消えたから。
「さぁ、もう終わりにしようか……」
幽鬼の如く、落ち武者の如くゆらりと動くキラ。
【『ドラグーン・フルバースト』】
 
蹂躙が、始まる――

41保守3 2/2:2010/10/29(金) 23:05:45 ID:mGTRJ11gO
「今日はリンディさん達、帰ってこないんだよな?」
「うん、クロノと一緒に本局」
午後6時30分の海鳴市。
桃子さんに『なのはの帰宅時刻の件』報告したシンとフェイトは今、商店街を歩いていた。
風は依然として強く、冷たい。心が痛む。
シンはマフラーに顔を埋めた。
「飯はどうする」
自分達で作るか、弁当を買うか、ファミレスに行くか。
自分はどれでもいいが、フェイトはどうなのだろうか?
再び漆黒のダッフルコートにその身を隠したフェイトは、一瞬の思案の後、
「今日は、二人で作りたいかな」
と答えた。
「りょーかい。じゃあスーパー行くか」
さてさて、何を作るか――となんだかウキウキする。
ここ数年、はやてや桃子さん、リンディさん、キラに料理を教わったおかげで、シンの料理スキルはかなりのモノになっているのだ。
(気分としては親子丼かな)
なんて事を徒然と思考していると、
 
鼻先に一つ、冷たい白
 
「うげ……マジで降ってきやがった」
昨年の恥辱が蘇る。アカデミーでは雪上訓練なんてなかったんだよ。
思わず空を仰ぐと、結構な数の白が確認できた。
本降りだな、早めに帰らないと――
 
 
「シンは雪、嫌いなの?」
 
 
「え……」
「悲しい瞳を、してるから……」
フェイトが佇み、此方を見つめている。
自分とお揃いの、その紅い瞳はまるで鏡のようで。
「……、…」
過去を見ろ、と言われているようだった。
 
オーブにもプラントにも、雪は無い。C.E.での雪の記憶は――
――あぁ、なるほど、『悲しい瞳』ね。俺はこんなにも弱いのか。
 
それでも、
「いや、何でもないさ。それより、急がないとアルフが可哀想だぜ?」
とん、とシンは走りだす。
逃げる為じゃなく、進む為に。
「え、あ!ちょっと待って、シンっ!?」
そんなシンを追い、フェイトも走る。そんな様子も、何故か今日は無性に愛らしい。
(ゴメンな)
今日の、この天候がシンをセンチメンタルにしているのだろうか?
それだけじゃない気がするが、わからない。
 
ただ、わかることは、今ここにフェイトがいること。
そして
(今ここに、俺はいるんだ)
そんな、小さな確信が生まれたこと。
 
 
 
翌朝
未だに雪の降る通学路。
気候は冷たいというよりは寒い感じ。風は止んだのだ。
 
また転ばぬよう慎重に歩くシンの背に、いやに明るい声がかかった。
「やぁ、おはようシン」
振り向くとそこにはスーパーコーディネーター、キラ・ヤマトの姿が。
何故か目の下にクマがある。
「んだよ、アンタか、ーーッ!?」
突如、シンを幾重にも拘束する蒼いバインド。
緻密な計算と精密な魔力制御で構成されたそれらは、とてつもなく固い。
訳がわからず、シンは吠えるが、
「おい!なんの真似――」
「昨日はお楽しみだったね、シン?」
その言葉で勢いを殺されてしまった。
「え……んな!?」
「いや、スーパーコーディネーターなんてなるもんじゃないね。昨日からなんか電波を受信し始めちゃってさ」
キラの報告が始まる。
 
「スーパーの帰りに足を滑らせたフェイトちゃんが君に抱きついたり」
「フェイトちゃんが君に『あーん』ってやったり」
「君が不注意でフェイトちゃんの裸身を目撃したり」
「寝ぼけた君がフェイトちゃんの布団に入っちゃったり」
「そんな君をフェイトちゃんは笑って許したりとかさ、なんか羨ま……赦せないじゃない?」
なんで知ってるんだろう……。
シンは恐怖を感じた。ついでに命の危機も。
「今日は雪……リベンジマッチにはもってこい?」
薄ら笑いを顔に貼り付け、キラはただ確認の言葉をシンに投げかける。
 
俺は、死ぬのか?でも、最後までは抵抗したい。フェイトの為、俺の為。
これは、意地だ!
 
「君はいい友人だったんだけどね……君の行動がいけないんだよ」
「羨ましいか!羨ましいか、キラァァァーーー!?」
【『ミーティア・フルバースト』】
「アッーーーーー!!」
規格外の魔力。
眩いばかりの蒼が身体を呑み込み、
シンは星の人になった。
 
第97管理外世界、海鳴市は今日も平和です

42名無しの魔導師:2010/10/29(金) 23:08:30 ID:mGTRJ11gO
降雪記念保守

いや、やっぱりSSは難しいね。
皆も職人さんも頑張ってー!

43D.StrikerS ◆1QVaIgitMY:2010/10/30(土) 00:18:58 ID:fHkKB15M0
皆様どうもお久しぶりでございます。
エタってはなかったんだ、エタっては。
って事でいささかゲリラ的ではありますが12時半を目安に、投下でもしようかと思います。
最近、研究とかに終われててあんまり進められてないのですが、誰かいらっしゃったら読んでやってください。

44名無しの魔導師:2010/10/30(土) 00:26:25 ID:HgYq0nkM0
おおお、お久しぶりです待ってますぜ

45名無しの魔導師:2010/10/30(土) 00:28:53 ID:9rIkc97IO
いやっほーう!
待ってたぜ!

46D.StrikerS ◆1QVaIgitMY:2010/10/30(土) 00:29:24 ID:fHkKB15M0
つうわけでいきます。

魔法少女リリカルなのはD.StrikerS
第24話「はじまりのおわり、おわりのはじまりなの後編・1」

「このォっ!」

 怒号と共に右の手で振りかぶったエクスカリバーを眼前の敵へと叩きつける。ぐしゃりとひしゃげた部分から大剣を抜き出すと同時に、左手に持ったライフルを突き入れ、トリガーを引く。
 ガチリ。敵――――ガジェットⅢ型――――の内部で、魔力が暴れるのがわかる。
 ガチリ。装甲の一部が歪に膨れ上がり、そこから赤光が溢れ出す。
 ガチリ。三度目にしてようやく装甲を貫通。確かな手応えとを感じ、ライフルを引き抜く。
 爆発の余波に巻き込まれない辺りまで、一度下がる。視線を下へ向けると、地面には今しがた自分が破壊したガジェット数体分の残骸が目に映った。
 シンは叫ぶ。

「こちらFaith、シン・アスカ! 機動六課本部、応答を!」

 が、通信機も兼ねているインパルスが、機動六課からの返事を伝える事は無かった。

「グリフィス副部隊長! シャーリーさん! 誰か、誰か答えろよ!!」 
『マスター。無理です。通信用のサーバに接続が出来ません。』
「……くそっ。念話も通じない上に通常通信まで出来ないのかよ!」

 毒づく。機動六課に向かう途中の事だった。数機のガジェットと接敵。まるでこちらの足留めを狙うかのようなタイミングでの襲撃を振り切ることも叶わず、ようやく殲滅出来たところであった。
 その際、何度も繰り返し繰り返し、念話や通信をハイネや機動六課の本部へと行ったのだが、それに対する応答は無かった。

『念話は魔力に意思を乗せて送り届ける技術です。』
「だから、AMFがあると意味を持たせた魔力が霧散して届かないっていうんだろ!?」

 手に持っていたエクスカリバーを一旦戻し、今一度機動六課へと飛翔しながらシンは叫ぶ。

『続けて言うならば、恐らく通信が繋がらないのは本部にあるサーバを抑えられたからだと考えられます。』
「……ハイネの勘が大当たりって事だよな。くそったれが!」

 AMFに遮られて念話が届かない。つまり対象の付近にそれを発生させる何かがある、ということだ。そしてインパルスが言うとおりだとすれば、本部への敵の侵入を許した事になる。
 そして――――
 ズン、と大が揺れた。
 自分の進む方向=機動六課の本部がある辺りから黒煙が上がるのが見えた。

「……っ。急ぐぞ、インパルス!」
『イエスマスター。』

 更に強く加速する。風圧で息をする事すら、困難であったが、構わずに速度を上げる。
 心中で思うのは仲間たちの安否。そして、己の家族の……無事。

47D.StrikerS ◆1QVaIgitMY:2010/10/30(土) 00:29:57 ID:fHkKB15M0
「状況は始まった、か。本部への襲撃も予定通り。機動六課に対するそれも同様、と。」

 眼前に展開されたモニターを眺めつつ、スカリエッティは呟いた。

「先行させたセッテによる通信施設の破壊も完了。次いで地下から進入したナンバーズも狙い通りプロト01――――ギンガ・ナカジマとの戦闘を開始。」

 確認するように現状を一つ一つ呟く。
 この作戦の目的は大きく二つ。ナンバーズ達に伝えてある目的とは違う、彼のゲームを行うにあたってどうしても必要な事柄があった。
 一つはギンガ・ナカジマの確保。これに関してはナンバーズ達には、彼女らとは違う技術で作られた戦闘機人の素体が欲しい、と伝えてある。

「機動六課の守りもヴォルケンリッターの2人さえ抑えられれば後は烏合の衆。
 ……あの子は。」

 ナンバーズの次女を思い、動き続けていた口が止まる。
 彼女には、先んじて好きにしていいと伝えてある。襲撃までに六課から離れたならば、連絡を取る手はずであったが。

「まあ、想定の範囲内だ。問題は無い。」

 そちらの方がどちらかと言えば都合がいい、と一人ごちる。そうなる様に仕向けた節すらあった。
 だから、笑う。問題無いと。それでいい、と。

「……おや。ようやく本部の方が結界を展開したか。」

 いくつもの場面が映し出されているモニターのうち一つに動きがあった。時空管理局地上本部。組織の要ともなるその施設に備えられた大出力の魔力結界が展開されたのだ。
 その威力はかなりのもので、恐らく化け物揃いと言われる機動六課の中でも、単体であれを抜く事が出来る者は居ないはずであった。

「ああ、いや。彼なら、彼とあのデバイスなら不可能では無いだろうが。」

 思い出したように口にする。その様に造ったのだから当然だ、と心中で確認してその思考は捨てる。今問題なのはそれではなくあの結界なのだから。

「手は打ってあるのだがね?」

 スカリエッティの呟きに合わせるように、地上本部の結界。その付近に次々とガジェットが顕れる。まるで始めからそこに在ったかの様に、違和感無く。
 ガジェット達の顕現は止まらない。次から次へと顕れ、まるで空を埋め尽くさんばかりの数となっていく。
 最終的には優に100体を超えるまでにもなった、ガジェット達が、それぞれAMFを展開させる。そうして、結界を包囲するように陣を組み、じわじわとAMFによる干渉を始めた。

「どれだけ大出力と言えど、その組成は魔力によるものだ。そしてそうである以上……」

 AMFを使えば、その繋がりは薄れ、終には消える。もちろんその為にはガジェット一体が展開できるAMFの出力ではとても足りない。

「そこは量産できる兵器の利点で解決できる。」

 笑う。時間こそかかる。だが、この調子であればものの十数分もあればあの厄介な結界は消し去れるはずであった。

「さてと。では私もそろそろ行こうか。転移装置は……」

 この前哨戦の勝利を確信する。次の行動に移ろうとして、しかしスカリエッティの表情は凍った。

48D.StrikerS ◆1QVaIgitMY:2010/10/30(土) 00:30:42 ID:fHkKB15M0

「はんっ、そう好きにさせてたまるかよ。」

 爆散する3体のガジェットをバックに、長く伸びたスレイヤーウィップを、もう一度振るう。
円を描く軌跡に併せて、その範囲に居たガジェットを切り裂き、ワンテンポ遅れて、轟音が辺りに響き渡る。

『結界が展開される前にその範囲外に出て正解だったな。』
「ま、あれ展開されるとこっちも閉じ込められちまうからなぁ。」

 胸元のデバイスの声に応えつつ、更に腕を振るわせる。こちらに気づいたガジェット達が放ってくるミサイル、レーザーの雨をあるいは避け、あるいは撃ち落とす

「にしても量が多いな。イグナイテッド、敵の数はわかるか!?」
『オーバー200。が、そのほとんどが結界に掛かりきりなのでこちらに攻撃してくるのは大した量ではない。』
「具体的には?」
『3〜40。』
「そりゃ、十分多いっての!」

 叫びつつ、飛来する数十のうち直撃しそうなミサイルをまとめてスレイヤーウィップで薙ぎ払う。そうして生まれた敵の攻撃の間隙を縫って飛翔。不規則機動を行いながら、両手の甲のドラウプニルを展開、構える。

「落ちろよっ。」

 結界を囲っているガジェットの内の数機に向かって斉射する。常であれば、それこそドラウプニル程度の魔力弾では、AMFを抜けはしない。

「結界に掛かりきりの今なら、こっちは防げんだろ。ハハッ、ビンゴ!」

 放たれた十数発の魔力弾が、抵抗する術を持たないガジェット達を削り、破砕し、残骸へと変えていく。
 それを最後まで見ることなく、反転。今度は背後から迫る、ガジェットが放ったミサイルにその照準を向け、迎撃。

「……ったく、一人だときっついな。」
 
 今頃、スバル達は中の護衛をしていた隊長陣にデバイスを渡すために合流しているはずであった。もしかしたら何人かは結界が張られる前にここを抜け出し、六課に向かっている可能性もあるが、その後は恐らく内部に侵入した敵の排除を行うだろう。
 既にギンガがその任を負っているが、彼女とも合流するはずである。

「あの馬鹿、無茶してねえだろうな。」
『そう思うならさっさとこの場を片せばいい。』
「そりゃ、そう、だけどなっ!」

 四方から伸びてきたベルトのような物を、急上昇で交わし、抜き放ったテンペストで切り裂く。直後、勘に任せ構えたシールドでレーザーを防ぐ。
 じゅっと、嫌な音と共に、シールドの一部が融解したのを確認し、ハイネは一つ舌打をうった。

「このままじゃ、ジリ賃、だなっ。」

 ぼやく。少なくとも一人で処理する量の数ではなかった。だが、今ここには彼一人しかない。

49D.StrikerS ◆1QVaIgitMY:2010/10/30(土) 00:31:28 ID:fHkKB15M0
「俺がやらにゃ誰がやる、ってかあ?」

 叫び、一度地面へと着地。すぅ……と一度息を整え、両手からスレイヤーウィップをだらりと伸ばす。同時にガコン、ガコン、ガコン、とイグナイテッドの盾に組み込まれたカートリッジシステムが三度震える。
 急速に充足する魔力を全身で感じながら、イメージを浮かべる。

 それは盾にして矛。それは荒れ狂う暴風。全てを薙ぎ払う稲妻の嵐。

「奥の手……」

 回転させる。ひゅんひゅんと風を切る音が、両の耳を振動させる。その音は段々と、鋭く、甲高くなっていき、触れた地面を抉る音が混ざりだす。
 殺人的な速度の回転を維持しながら、歩く。敵からの攻撃はまるで円形の盾のようになりつつあるそれで、その悉くを弾き、防ぐ。

 バチィ。

 魔力変換資質、ハイネが持つその属性は雷。それをスレイヤーウィップに纏わせて、更に回転速度を上げる。始めは僅かだったその変化は、次第に目に見える形として現れる。
 紫電が踊り、火花が散る。バリバリと耳に優しくない音が断続的に大気を震わした。
 放出される雷が、回転する鞭の円周を更に長大なものへと変貌させる。既にその半径はハイネの身長を遥かに上回るものとなっていた。

「いくぜぇ。」

 そして飛び上がり、敵へと突撃。

「本来こういう使い方する武器じゃないんだが……まあ、こういうのも、ありだろ!」

 縦横無尽に振り回されるそれは、触れたガジェットを切り裂き、抉り、粉砕する。また射程の範囲外にあるガジェットは、無差別に撒き散らされる電撃によってその機能を著しく低下、あるいは停止させた。
 近づくもの全てを薙ぎ払い、進む。降り注ぐ己を狙う攻撃を意にすら介さず、行うのは敵の殲滅のみであった。

 AMFは、つまり魔法である。

 始めこれを聞いた時ハイネは面食らった。曰く、ある意味では魔法の範囲を逸脱しているが、魔力を以って何かを為すのが魔法の定義だとするならば、あれはフィールド魔法の一種である、と。それはおかしい。AMFという魔法を構成する魔力は、自身の効果により分解されないのか。そう疑問に感じたのだが、その辺りは干渉しないような式になっているらしい。
 結局の所AMFとは何か。ガジェットと呼称される自律兵器の多くが保有している対魔導師用の兵装、というのが比較的一般的な解である。実際に始めてガジェットと接敵した当初、ハイネも何かしらの装置でこちらの魔力を消し去っているのだと考えていた。
 だが、正しくはそうではなかった。
 まず一つ。AMFというフィールドを作るのに必要なのは、魔力だという事だ。魔力の結合を崩す魔法。細かい理論は果たしてハイネには知れなかったが、つまりAMFの出力は他の一般的な魔法と同じく、魔力の量に比例するという事である。
 そしてもう一つ。魔力を消し去っているのでは無く、魔力同士の結合を解くのだ。その為、魔力の集合体である魔法という形を維持出来なくなり、まるで魔法が無効化された様に見える。但し、それは魔力の集合として形を成しているもののみを対象と取る。
 故に――――

「魔力で強化したものとォ!」
『魔力を元にしようとも、既に別のものには意味が無いという事。』
「よって、こいつらにはこの魔法は止められないよなァ!?」

 魔力で強化しつくし、魔力で生み出した雷を伴うこの嵐を止める事は出来ない。

「お お お お お お お お!!」

 叫ぶ。既に破壊したガジェットの数は、両の指が何セットあっても足りない程であった。まだ、魔力はもつ。足りなければ補えばいい。その為のカートリッジシステムである。

50D.StrikerS ◆1QVaIgitMY:2010/10/30(土) 00:32:18 ID:fHkKB15M0
「ああ、その通りだ。流石、流石と言おう。
 こちらの行動を読んでからの迅速な行動。単体でこれだけの量のガジェットを破壊した事。
 実に素晴らしい。ハイネ・ヴェステンフルス。確かにこのままではこちらの計画は瓦解する。」

 スカリエッティは転移装置の中で、彼自身でも驚くほど素直に、敬意の言葉を送った。
 表向きとはいえ、この計画を為すためには地上本部の無力化という条件があった。
 そうする事が可能である戦力を保持している、という事実を知らしめる為だ。
 それが今、たった一人の男が覆そうとしている。それが楽しくて楽しくて笑みが止まらなかった。

「本当に流石だよ。それでこそギルバート・デュランダルの腹心だ。
 だが、それ故にこの展開は……読んでいた。」

 その姿が余りに滑稽で、笑みが止まらなかった。


「……ッ!?」

 ぞくりと、背筋が粟立った。唐突に感じたその嫌な感じは、すぐさま現実へと変わる。

『ハイネ、転移反応が10! 本部直上!』

 イグナイテッドの声に空を仰ぐ。

「Ⅱ型ってことは……」

 上空遥か高く、ほぼ地面に対して直角の向きで現れた戦闘機型のガジェットが、猛スピードで落下してくる。それを確認し、目的を瞬時に理解する。

「特攻か!」

 維持こそ出来ていたが、本部を守る結界はその威力のかなりをAMFに蝕まれていた。
 そこにあれだけの速度と質量を持ったものが直撃すれば、更に脆くなり、最悪割れる事すら想像できた。そうでなくてもAMFによる魔力の霧散速度は跳ね上がるだろう。

「でもな! それ位、予想してないとでも思ったかよ!」

 スレイヤーウィップの回転を止め、構える。
 腰だめになり、魔力を込める。カートリッジシステムを駆動させ、更に魔力を貯める。そしてその全てを雷へと変換し、右腕のスレイヤーウィップへと送り込む。
 限界ギリギリ、制御できない電撃が辺りに撒き散らされ、ガジェットの残骸の上を跳ね踊る。
 目を細める。タイミングを計る時間は無かった。計る必要も無かった。魔力はなんとか足りた。いける。
 後は――――振りぬくのみ。

『Already』
「ッけぇええぇええええええええええええ!!」

 横薙ぎに振るわれたスレイヤーウィップ。それは言うなれば柄であった。では剣は。

 空を切り裂くその先端に魔力が集中/稲光が溢れ/収束/圧縮/凝縮>開放。
 それは空を逆上る一筋の流星のようであった。否、そのうねる様な軌道は星の流れに非ず。
 それは蛇だった。ぐねぐねと蛇行し、あるいは螺旋を描き、獲物を捜し求め天を這いずる蛇。
 光にすら追いつき喰らいつかんとする蛇は、まず一体のガジェットを貫き、更に次の獲物を求める。
 この蛇は、貪欲であった。ガジェットの、その鋼鉄の体躯を抉り、咀嚼し、貪る。
 一瞬の瞬きすら待たず、現れた10機のガジェットはその目的を果たす直前に、全て空に咲く炎の華と成り果てた。

51D.StrikerS ◆1QVaIgitMY:2010/10/30(土) 00:32:48 ID:fHkKB15M0
何も無いちょっとした広場に光が一瞬溢れ、それが掻き消えるのと同時に白衣の男が現れた。
 転移魔法である。管理局地上本部に程近いその場所は、普段ならこの様な反応があればすぐに感知され、武装局員がものの数分で集まるのだろうが、今この時に限ってはそうではなかった。既に、そういったシステムのほとんどは彼の娘が沈黙させた事を確認してある。だからこそ身一つでこんな場所に訪れるという愚行が実行できたのだ。
 男は、そう遠くない空に破壊されたガジェット達を眺めつつ、歩き出す。

「ふむ。これも防ぐか。どちらにせよ想定の範囲内だがね。」

 スカリエッティは声にする。恐らくはあの男を絶望に叩き込むであろう、一言。
 通信を開き、彼が声にしたのは娘の名であった。

「頼むよ、ディエチ。ああ、それとそれが終わったらクアットロと一緒に帰投しなさい。いいね?」



「……は、はぁ。よしっ、これで……」

 肩で息をする。ハイネにとって、今のは一つの切り札であった。魔力のほとんどを持っていかれたし、無理なカートリッジの使い方をしてしまった為、体にもガタが来ている。
 まだ、危機が去ったとはとても言い辛いが、これだけ騒げば回りに待機している別部隊も動き出す筈であった。
 少しだけ、ほんの少しだけの安堵と共に吐き出した声は。
 超長距離から、何の前触れも放たれた砲撃が結界をぶち破る音――――まるで硝子が割れた様に軽い――――によってかき消された。

「しまッ――――」

 背後を振り仰ぐ。その砲撃は本部こそ直撃しなかったものの、見事に結界を打ち破っていた。
 周囲を確認。かなりの量のガジェットを破壊したが、それでもまだ半分以上残っている。これだけの量がいれば、無防備になったこの場は簡単に制圧されてしまう。それは自明の理であった。
 また自身も先ほどの無理がたたって既に魔力は枯渇しかけ、カートリッジも底をついている。この量の敵を同時に捌くなど、この身一つでは到底不可能。
 地に足をつけると眩暈がした。思わずよろけて倒れそうになるが、なんとか耐える。
 笑えるほどにどうしようもない状況であった。泣きたいとは思わなかった。
 だから、その表情に笑みを刻み、今一度テンペストを抜き放った。
 ついでに煙草でも吸おうかと思い胸をまさぐり、ギンガに没収されていた事を思い出す。

「ったく……あいつ、ちゃんと返してくれるんだろうな。」

 ぼやくハイネの周囲をふよふよとガジェット達が包囲を始める。数えるのも嫌になる。
 己のデバイスが何か言うかとも、ふと思ったが予想に反して黙っている。下手をすればここで命を落しかねないというのに、相棒のし甲斐の無いデバイスである。
 今使える魔力で出来る事を思い浮かべる。精々、剣を叩き込むと同時に電撃を流して、動きを止めるのが関の山といったところであった。

「……っ。」

 足元のコンクリートをレーザーが抉る。飛び散った破片がこめかみの辺りを掠った。その辺りにやった手がちょっとしたぬめりを感じるのと、彼が跳ねるように横っ飛びしたのは同時であった。
 爆発の衝撃で吹き飛ばされるが、なんとか受身を取りその勢いのまま立ち上がり駆け出す。先ほどまでハイネが立っていた場所はいくつものミサイルが殺到した為、もう見る影も無かった。
 先ほどのミサイルを皮切りに、数機のガジェットが逃げ回るように走るハイネに追いすがる。先ほどの爆発のせいだろうか、足が痛んだが泣き言を言っている暇すらなかった。

52D.StrikerS ◆1QVaIgitMY:2010/10/30(土) 00:33:24 ID:fHkKB15M0
 ふと、死という単語が脳裏に浮かぶ。意外とすんなりと心に染み渡ったのは、一度死んだようなものだからだろうか。
 だが。

「ここで、こんな所で死んだら! ただの犬死にじゃねえかっ!」

 まだ何も為していない。この拾った命を使い切れていない。
 ザフトを失い、一度生き方を見失った自分が見つけた生き方。
 自分に守って欲しいと、言おうとして言えなかったらしくなくいじらしかった姿が脳裏に浮かぶ。
 
「っせい!」

 触手のように迫るベルトをテンペストで受け流し、同時に思いっきり電撃を流してやる。
 バチイと、何かが弾ける様な音と共に自分を追うガジェットの内一機がその機能を停止させるが、

『焼け石に水だな。』
「うっせぇ!」

 叫び返した所で、更にミサイルが飛んでくる。とっさに前に転がり、難を逃れるが起き上がった時には完璧に囲まれてしまっていた。

「あー……くそっ。イグナイテッド、後何匹くらい潰せる?」
『魔力変換は出来てあと2回。少なくとも現状を突破する事は不可能に見える。』
「だよなぁ……ここまでか?」

 観念したような言葉を吐いてしまう。出来る事はまだあったが、それで現状の打破が出来るとは思えなかった。あの時無理にⅡ型を破壊しようとしなければ、と思ったが、恐らく自分がそうする事を踏まえてのあの奇襲だったのだと気づく。

 ――――読み違えたか……いや、あそこはああしなかったら結局結界は破られていた。

 嘆息する。どうも、自分の行動は全て敵の手の平から抜け出せていなかったようであった。
 その時である。じりじりと包囲の輪を狭めていたガジェット達の動きが急に止まった。攻撃をするでもなく、数秒その場に静止したかと思うと、何故か反転し飛び去っていった。

「なんなんだ、一体。……ん?」

 そこで彼は違和感に気づく。

 ――――なんだ、これは?
 
 なんの前触れもなく、自分の胸から赤い何か……線? が伸びていた。いや、正しくは伸びている、では無く当たっている、である。
 特別痛みを感じる事は無かった。それどころか何か当たっているという感触すらなかった。ただそれを認めた瞬間、それが何かと不思議に思った瞬間、途方もない悪寒と脱力に襲われた。

53D.StrikerS ◆1QVaIgitMY:2010/10/30(土) 00:34:33 ID:fHkKB15M0
「な……に……っ?」

 ぐらりと視界が揺れる。先ほど感じた眩暈よりも更に酷いそれに、今度は耐える事が出来ず地面に倒れ伏す。

「魔導師の体にとって、魔力というものが体内を巡っているのは常の事だ。そんな事を書いた本などもあるが、それは今はどうでもいいか。」

 声がした。誰かが、地面に横になったままのハイネのすぐ傍で言葉を紡ぐ。

「巡り、流れ、廻る。つまりそれは連続する魔力の繋がり。」

 どうやら、未だ自分の胸に繋がり、この身の何かを侵している赤い何かはこの声の主によるもののようであった。
 そして気づく。自分はこの悪寒の正体を知っている。ここまでの強烈さではないが、この吐き気を催す気分の悪さを知っている。

「まあ、何が言いたいかというとね。その流れを一部でも堰きとめてやれば、君の体を巡る魔力は変調をきたす。
 常でない状態になれば体の方にも異常が生まれるのは道理だろう?」

 AMFだ。今感じているこの得体の知れない気持ち悪さは、AMFに包まれているときに感じる違和感の様な物を何倍にもしたに通じるものがある。

「けっ……AMF、か。道理でっ、気持ち悪いわけだ。」
「それを収束して、体内に入れてやればそれだけで大抵の魔導師は無力化出来るのでね、重宝している。」
「ふざけた、技術だなぁ、おい! フィールド魔法の収束なんて、初めて、聞いたぞっ。」
「そう難しいものでもない。ちょっとした応用だよ。」
「でも……ってぇ……! こんな技術もってやがるって事は……」

 視線を上げる。にやにやといやらしい笑みを浮かべた白衣の男がそこに立っていた。その右腕にはなにやらクローの様な物が着けられており、このAMFで出来ているらしい線は、その指先から放たれていた。
 男はこの敵地のど真ん中において、堂々と、または悠然と宣言する。

「では、改めて自己紹介といこうじゃないか、ハイネ・ヴェステンフルス。私はジェイル・スカリエッティ。君とシン・アスカの”敵”だ。」



 炎が上がり、うねる。それに伴い黒煙が空へと昇り、また眼下をよく見回せば至る所に破壊の跡が刻まれていた。まだ人が使うようになって1年も経っていないこの施設は、見るも無残な状況と成り果てていた。
 シンは目に映る全てを否定したくて、夢だと思いたくて、しかし出来なかった。
 これは現実なのだ。否定できない現実。起きてしまった出来事。
 現実はこんなものなのだと、奪われる時には奪われ、破壊される時には破壊される。
 それを経験から彼は嫌というほど知っていた。知らしめられていた。そのはずであったのだ。

「なんなんだよ、これは……」

 喉がひりひりと痛み、ぐわんぐわんと頭が揺れ、激しい吐き気に襲われた。
 目を凝らす。燃え盛る炎の合間、蠢く何かがある。ああ、と理解する。

「お前らが……」

 昏い呟きと共に練り上げる魔力は、シンの体内で既に激しく猛っていた。それを抑える事もせずに、そのままに開放させる。ガジェット達がこちらに気づいたようだが、もう遅い。

「お前らがこんなぁあああ!!」

――――――――――――
――――――――
――――がらん、と音を立てて最後の1体が機能を停止し、崩れ落ちる。辺りにはガラクタに成り果てたガジェット数体の部品がばら撒かれていた。

「……念話、ザフィーラから?」

 周囲でAMFを展開していたガジェット達は既に破壊したからだろうか。それでも全てでは無いだろうから、頭に叩きつけられた意思にはかなりのノイズが混じっていた。
 そうなる事は向こうも理解していたのだろう。脳裏に閃いた言葉は二言だけ。

 ――――外は我々が。中は任せた。

 片手に持ったエクスカリバーを戻すのも忘れ、飛び出すように走りだす。
 こんな所で無駄な時間を消費している場合ではなかった。

54D.StrikerS ◆1QVaIgitMY:2010/10/30(土) 00:38:28 ID:fHkKB15M0
とりあえずこんな感じです。
いや、本当遅くなってしまって申し訳ないです。
8月中に投下しようと思えばこの内容は投下出来たんですが、もうちょい書いてこの話を終わらせようと欲張った結果がこれだよ!
つうわけで後編の1って形での投下となりました。
後編の2で原作で言う六課襲撃を恐らく終われると思います。

とりあえず卒業しないとなぁとかぼやきつつ今日はこの辺りで。
ではまた次の投下の時にでも。

55名無しの魔導師:2010/10/30(土) 00:49:16 ID:9rIkc97IO
いやっほーう!
GJだぜ!

56名無しの魔導師:2010/10/30(土) 12:34:14 ID:gGqRUkukO
GJ!
皆も続けー!

57ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 15:30:07 ID:TyX4dE5Y0
お久しぶりです・・・
自分も、ついさっきやっと書き終えることができたので投下しに参りました。
四時すぎを目処にして投下します。
今回はこの話の最も重要なところのひとつなので時間がかかりました。申し訳ありません。

58ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:08:50 ID:TyX4dE5Y0
そろそろいきます

59ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:18:15 ID:TyX4dE5Y0
――???――
「成功ですか・・・まぁ、当たり前と言えば当たり前の結果ですがね。僕があれだけ時間を費やしたんですから」
ククク、と笑いながら男がそう語る。
男のいる部屋は薄暗く、狭い。牢獄を思い出させるほど簡素な部屋だが、壁や天井、床の色は、迷彩を潰したような危険に満ちた暗い色をしていた。
そして、その男の反対側に立っていた別の男が口を開く。
「えぇ、見事でしたよ。あなたの考案した特殊魔法陣を組み込んで展開するだけであれほどの魔導師をも無力化できるなんて・・・
それにあんなに綺麗にかかってくれるとは思わなかったですとも」
「いやいや、あれの原案はすでにあったさ。AMFとはよく出来たものだ。僕はあれを設置型の大型魔法陣に組み込んだだけだ手こずったのはやはり魔法陣のカモフラージュかな。
あれだけのものを管理局に見つからないように細工するのは少々骨の折れる作業だった。でもなんにせよ、成功おめでとう。これでまた君の計画が進みやすくなったわけだ」
「そうなります」
「よかったよかった。僕は直接戦ったりはしないけど、陰ながら応援しているよ」
男は、微笑み、とは言い難いような気味悪い笑いをもらす。相手のことをまるで考えていない、そんな笑いかただった。
「対価は本当によろしいのですか?」
怪訝そうに訊ねると、その男は意外にも、満足した、と言わんばかりの表情で握手を求めた。
「いやいや、僕はこっちの技術に触れられるだけでとても楽しいんだ。これからもよろしく頼むよ、ジェイル・スカリエッティ」
「そうですか。こちらこそよろしく」
二人は握手を交わし、スカリエッティと呼ばれた方の男も満足気に部屋を出ていった。


――同時刻――
――Side Nanoha――
「ん・・・」
(あれ・・・ここは・・・?)
なのははゆっくりと目を開けると、辺りには見たことのない風景が広がっていた。
ゆっくりと体を起こすと、眼前に映ったのは果てしない海だった。それに、自分が今座っているのは、砂、すなわち浜辺ということになる。
(確か私・・・アラートが鳴ったからアスランくんとティアナと出撃して・・・それで・・・ティアナの悲鳴が聴こえて・・・あれ?)
何故かその後が思い出せない。強いショックでも受けたのか、意図的な工作で記憶が無いのかは分からなかった。
「そういえば、アスランくんは?ティアナは?」
心配になってなのはは辺りをキョロキョロ見渡す。すると、すぐそばにアスランのであろう赤服が畳まれていた。
「これ・・・アスランくんの・・・」
なのはがそれを手に取ると、その下の砂に何か書いてあるのが見えた。
「ん?"ここの探索に行ってくる。無闇に動かないでじっとしていてくれ。アスラン・ザラ"」
とりあえずアスランの無事を確認したなのはは安堵するが、すぐにティアナのことを思い出す。
「ティアナは?アスランくんと一緒かな?」
自分の首に掛けてある待機中のレイジングハートに声をかけた。
「レイジングハート、ティアナと通信繋げられる?」
いつもは即座に聞こえるはずの機械音がまったく聞こえない。それを不振に思ったなのはは、レイジングハートの起動を試みる。
「レイジングハート、セットアップ」
しかし、レイジングハートは何も言わなければ発光すらしない。
「デバイスが使えない?」
なのははその後も何度か色々試してみたが、やはりレイジングハートは無反応だった。
「どうして・・・もしかして、このへん一帯にAMFとか?」
しかしそれは、あり得ない話では無かった。第一、魔法を使えなくするにはそれ以外なのはには考えられなかった。
「だとすると厄介だね・・・」
「お目覚めみたいだな」
なのはが一人言を呟いていると、後ろからいきなり声がかかった。
「わ!!?あ、アスランくん?」
「目は醒めたな。何が起きたか、分かるか?」
「い、いまいち・・・それよりティアナは?」
なのはがアスランにそう問うと、アスランは少し難しい顔をした。
「そうか。そこからか・・・分かった。まずは説明しよう。何故俺たちがここにいるのか。まぁじきに思い出すとは思うがな」


――遡ること数時間前、ミッドチルダ洋上――
『残り三機です!』
『了解!!』
シャーリーからそう通信を受けたアスランは、ジャスティスのスラスターを目一杯ふかす。
「はぁあああぁあぁぁああぁ!!!」
ラケルタサーベルの横薙ぎがまた一機ガジェットを爆発させる。そして、その爆発に残る二機が反応する。
その時、自分から注意が逸れる瞬間を狙っていたなのはが二機にバインドをかけた。

60ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:18:55 ID:TyX4dE5Y0
「よし、これで!!」
レイジングハートをガジェットに向け、足元に大きな魔法陣を展開する。
「ディバイィイイィイィン・・・」
レイジングハートの切っ先に桜色の魔力が集結していく。
「バスタァアアアァァアアァ!!!!」
膨大な魔力が一気に発射され、ガジェットを飲み込んでいく。
『ガジェット全機破壊を確認』
『はい。こちらも確認しました。お疲れ様です』
シャーリーから任務終了の通告を受けた三人は、ヘリの待機地点へ向かおうとしたがしかし、途中でティアナが立ち止まる。
「待って・・・ください」
「ティアナ?」
「どうかしたの?」
ティアナは真剣そうに呟く。
「なにか・・・なにか来る・・・」
「は?」
アスランが首を傾げる。
「感じないですか?何か、魔力反応みたいな・・・」
ティアナが二人にそう言うが、なのはもアスランも首を横に振る。
「いや、ならいいんですけど・・・」
しかし、ティアナもアスランたちに続いて撤退しようとした瞬間、シャーリーから通信が入った。
『新たな魔力反応を確認!!数・・・不明!』
『不明?』
『はい、何か全体的にぼんやりとしたような・・・』
(ちっ・・・やはりこの程度で終わり、というわけにはいかないみたいだな・・・)
アスランは心の中でそう毒づいた後、シャーリーに通信を返す。
『了解だ』
三人は新たな魔力反応の報告を頼りにそちらへと向かった。
そしてしばらく飛行を続け、アスランがそれを視認出来る距離まで近づくと、中空に浮かぶ人が見えた。
『こちらアスラン・ザラ。魔力反応の根元を確認。人のようだ』
『魔導師ということですか?』
『おそらくな。心当たりがある』
アスランはそのままそれに近づいていく。そしてお互いの声が聞こえるくらいまで近づいてからこう呼び掛けた。
「お前、キラ・ヤマトの仲間だな?」
質問ではなく最早確認のような物言いで相手に言う。
「どうだろうな」
「なぜあいつらに加担する?あいつらのやり口は許されることじゃないぞ」
「んなこと俺が知ったことじゃない。やれ、って言われたからやるんだよ!!!」
相手はそのままアスランに突撃し、魔力刃を形成した鎌と膝から伸びたビームクローを携えた。
『アスランくん!ティアナ!!』
その一言で全員行動を開始する。
『ブリーフィング通り、アスランくん前でティアナは後ろで状況把握!私はセンターで援護にまわる!!!』
二人は返事こそしないが、なのはの言い付け通りに即座に動く。
「投降の意思はなしか・・・残念だ!」
受けに回っていたアスランは、ラケルタサーベルで一度敵を凪ぎ払い、距離をとる。
「スティングだったか?なぜ今戦う?ここらにレリック反応はないはずだ」
「お前たちには関係がない話だろ」
「まぁそうだろうがな」
アスランも、もとより返答があるなどとは思っていない。右手にラケルタサーベルを握り、左手にビームライフルを握る。
「悪いが、ここで大人しく捕まってもらうぞ」
「やれるものならな」
スティングは一気に後退してアスランと距離をとろうとする。しかし、その直後にスティングの周りに桜色の球体が現れ始めた。

61ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:20:34 ID:TyX4dE5Y0
――Side Sting――
「ちっ・・・」
(こっからが本番だな・・・)
男は舌打ちをしてから通信を入れる。
『白の介入を確認。任務を開始する』
『あぁ、一番後ろのは気にしなくていい。二人で十分だ』
『了解』
『誘導ポイントの座標は分かるな?』
『あぁ』
それを聞いた相手――ラウ・ル・クルーゼ――は悪質な微笑みを浮かべながら笑う。
『お前の任務はポイントへの誘導だ。そこからは私とイザークがやる』
『分かってる。だが、そんなに簡単にいくもんなのか?』
『スカリエッティによるとな。私もこれの仕組みを見せてもらったが、中々良くできてる。結果が楽しみだよ』
『そうか。じゃ、任務に戻る』
『うむ。健闘を祈るよ』
そう言うとクルーゼは通信を切る。
「さて・・・」
男は正面に向き直り、アスランとなのはを見る。
「いくか!」
カオスをMA形態にし、アスランに急速に迫る。アスランは迎撃のために身構えたが、男はアスランの横を通りすぎ、膝のビームクローでなのはを襲った。
「この程度・・・レイジングハート!!」
『Protection』
男の斬撃はなのはの障壁に阻まれて火花を散らす。その程度で倒せる相手ではないことは男自身わかっており、即座になのはから離れてアスランを狙う。
「ニーズヘグ!!」
男が叫ぶと同時に鎌の魔力刃が一回り大きくなった。MS形態でビームクローとニーズヘグでひたすら攻めていく。
アスランもビームライフルを止め、ラケルタサーベルを両手に持ってこれを捌く。
「ちっ!!!」
舌打ちと同時に男はアスランとも距離をおく。直後、男がいた場所には六個近くのアクセルシューターが密集した。
(ポイントまでの距離はあと八百ちょっと・・・感づかれたら負け・・・めんどくせぇ・・・)
男は、二人と戦う気など全く無い。男の任務は"指定されたポイントに二人を誘導する"こと。二人に自分をより印象付け、無意識に自分の方に寄せていくのが肝心なのだ。
サッカーを例に挙げてみると分かりやすい。
子供たちが集まってやるようなサッカーは、ボールのあるところにプレイヤーが集まりやすい。団子サッカー、と言ったりもするが、これは子供たちがサッカーという競技においてボールが一番印象強いと思うため無意識にそれに吸い寄せられるのだ。
つまり男は、自分がこの戦闘の中心にならなければならない。男がただポイントへ飛行するのでは頭の良いアスランたちは着いてこない。自分への印象付けが強ければ強いほど、二人の周りへの注意は削がれる。
つまり、いかに派手に、さらに相手からしてみれば手強く戦うかが鍵となる。
「っらぁ!!」
掛け声と共にアスランへと斬り込み、なのはにロックされる前にまた退き、今度はなのはへと飛び込む。そして数撃ガードされたらまた離れてアスランへ斬り込む。この繰り返しを延々続ける。
そして、十往復したころには残り百メートルを切っていた。
(よし・・・まだ魔力は保てる・・・単調過ぎるとバレるからな・・・ここらで畳み掛けるか)
男はビームクローとニーズヘグにさらなる魔力を流す。それにより、ビームクローとニーズヘグはさらに輝きを増した。
「決める!!」
言葉と同時にアスランにニーズヘグを降り下ろす。アスランはそれをラケルタサーベルで受けるが、男はそのままラケルタサーベルを支えにして下半身を動かし、ビームクローでアスランを狙う。
「墜ちろぉぉおおぉおぉ!!」
「くそっ!!」
障壁が使えないアスランにとって、片手でニーズヘグを受けながら反対の手で盾を持ってビームクローを防ぐというのはかなり厳しいものである。
しかし、後少しでアスランが根負けするような所でスティングは攻撃の中断を余儀なくされた。
(あの白いの・・・やっぱめんどくさいな)
スティングは止まることなくなのはに向けて飛翔する。
「らぁ!!」
アスランの時と同じように突撃をするが、今度は競り合いではなく、常に移動を繰り返しながらなんどもなのはの障壁にニーズヘグやビームクローをぶつける。
しかし、攻撃を十も数えないうちになのはの障壁にヒビが入った。
(攻撃が重い・・・ヴィータちゃんほどじゃないにしろ、いつまでもつかわからない・・・)
ここへ来てなのはも焦り始める。さきほどよりもその輝きを増したニーズヘグとビームクローの連撃に耐えきれなくなってきている。
「っつぁ!!」
スティングが思い切りニーズヘグを振りかぶり、障壁のヒビ目掛けて横一閃に振り抜く。
ガン、という手応えと共にスティングはその場を離れる。その直後にスティングがいた所に数個のアクセルシューターが通過する。
それによりスティングを見失ったなのはが姿を探そうと振り向くが、既にスティングはなのはの真上でニーズヘグを振りかぶっていた。

62ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:21:41 ID:TyX4dE5Y0
「高町!!」
アスランが横からビームライフルを射ちながら近づいてくるが、スティングは盾でビームをねじ曲げて片手で思い切りニーズヘグを降り下ろす。
その一撃でなのはの障壁のヒビは全体に広がり、ついに砕け散った。
「しまっ!!」
スティングはなのはにもう一撃与えようとしたが、アスランが目と鼻の先に来ていることを確認すると、直ぐにアスランを惹き付けるためにアスランとすれ違うように退避し、ポイント内に入った。
「おおぉぉおぉおおぉぉぉおぉ!!」
アスランは大分頭に血が上っているようで、ラケルタサーベルを持ってスティングに突っ込んでくる。
(あと一人・・・)
スティングはアスランの剣を捌き、距離をおいてなのはにカリドゥス改からビームを放つ。

本任務でスティングが指定された誘導ポイントは直径百メートルの円形をしている。
そして今スティングは円の中心付近にいて、アスランもスティングから十メートルほど離れたところにいる。さらになのははアスランから二十メートルほど離れている。
つまり二人ともポイント内にはいるのだが、クルーゼの命令でスティング自身はポイント内にいてはいけないため、クルーゼに合図することが出来ないのだ。
『よし、そろそろだ』
『了解だ。タイミングを逃すなよ?』
『あぁ』
それだけ言ってスティングは通信は切る。少し後退しながらアスランとなのは交互にビームを放ち、そのあとスティングはなのはに突撃した。自分の横を通り抜けたスティングをアスランが直ぐに追う。
いつもならまずはアスランに突っ込み、距離を置いてからなのはに向かっていった。しかし今度はアスランが直ぐ後ろに着いてくるのも厭わずになのはに向かっていった。
(お前の障壁はさっき壊したんだよ!!)
スティングがなのはにニーズヘグを降り下ろすと、案の定なのははアクセルシューターを操作せずに回避に徹した。先ほどまでスティングの攻撃を正面で受けてそこからアクセルシューターで反撃を狙っていたが、その狙いを捨てて今度は逃げながらアクセルシューターをばらまく。
しかし、敵に背を向けて放ったアクセルシューターに当たるほどスティングは弱くはない。次々に迫るそれらを巧みに交わし、アスランを牽制しながらなのはを追う。
(ここらへんだな・・・)
周りを確認したスティングは急減速してアスランに向き直り、突撃をしかけた。
この方向転換にはさすがのアスランもついていけず、スティングのニーズヘグを正面で受ける。
「ふん!!」
スティングがそのままニーズヘグを振り、アスランを吹き飛ばした。
(今!!)
スティングはアスランは追わずカオスをMA形態にして、左方向――ポイント外――にむけて急加速した。そしてそのままなのはとアスランにカリドゥス改からビームを放って牽制する。
(よし・・・三・・・ニ・・・一・・・)
加速中にスティングは通信モニターを開いた。そして、それとほぼ同時になのはとアスランの耳につんざくような悲鳴が聴こえた。
『今だ!!!』
『アスラン!なのはさん!!駄目!逃げて!!それは!』
「なっ!!?」
ティアナの言葉が終わる直前に、なのはとアスランの真下に巨大な魔法陣が広がった――

63ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:22:27 ID:TyX4dE5Y0
――その少し前、Side Tiana――
「・・・」
ティアナはなのはとアスランが戦っているのを遠巻きに眺め、何か異変がないか探っていた。
「でも、やっぱりおかしい・・・本当に敵があの一人ならシャーリーさんが間違えるわけがない」
ティアナは口元に手を当て、考え込む。
「それに、さっきから何か魔力反応があったり無かったりするし・・・」
言いながらティアナは右を見る。
アスランたちが戦っている前方から魔力反応があるのはもちろんだが、ティアナの右、今は関係ないはずの方向から時折微弱な何かを感じるのだ。
魔力反応、とまでは言わないが何か違和感のような、その程度のものだが。
「確かめてみるか・・・」
迷っていたティアナはそう決断を下し、体を右に向けて前進した。
(思い過ごしならそれでいいんだけど・・・)
胸中に言い知れぬ不安を抱えながらティアナが進むと、しばらくして前方に人影が見えた。
(あれは・・・?)
ティアナは訝しながらもそれに向かって前進し、声をかけた。
「あなたたち!!そこで何をしているの!!?」
「ん?」
ティアナの言葉に一人の男――ラウ・ル・クルーゼ――が振り向いた。
「お前は・・・管理局の人間だったな?機動六課の」
「そうよ」
クルーゼはそこで一度微笑する。
「よくここを突き止めたな。それは評価に値する。だが、少し遅かった」
「待って!!何を・・・」
「それより、仲間の心配をした方がいいぞ?」
クルーゼは余裕の笑みでそう言った。その言葉を聞いたティアナがアスランたちに通信を入れるのと、クルーゼに通信が入るのは、ほぼ同時だった。
『今!!』
『アスラン!なのはさん!!駄目!逃げて!!それは!!』
「さらばだ!!」
クルーゼの足元にも魔法陣が展開し、何らかの魔法を行使したであろうことはティアナからもわかった。
「やめなさい!!」
クロスミラージュの銃口をクルーゼに向けて魔力弾を放つが、それはその隣にいた男――イザーク――によって防がれた。
「しまっ!!」
「イザーク!退くぞ。任務は完了した」
「了解!!」
クルーゼもプロヴィデンスのドラグーンを発射してティアナを牽制する。
「くっ・・・」
慣れない空中戦のため、ティアナは思うように反撃できず、当たらないように回避するのが精一杯だった。
その隙にクルーゼはスティングに通信を入れ、撤退を始めた。
「待ちなさい!!」

ティアナは焦ってクルーゼに近づこうとするが、逆にドラグーンのビームのひとつがスラスターに当たってしまう。
(まず・・・)
ティアナは自分の魔法も用いてなんとか体勢を保つが、クルーゼたちを相手に出来るほど高度な飛行は出来ない。
(今はなのはさんとアスランを捜さないと・・・)
クルーゼが撤退してティアナの周りからドラグーンが消えた後、ティアナはそのままヴァイスに通信を入れる。
『ヴァイス曹長!!聞こえますか!!?』
ヴァイスに通信を入れると、彼も焦ったようにティアナに訊ねた。
『あぁ!!何があった!!!いきなり二人の魔力反応が消えたぞ!?』
『え?』
ヴァイスの返答にティアナは驚く。
クルーゼたちがなにかした、というのはティアナにも分かっていたが、"魔力反応が消えた"というのが引っ掛かる。
『消えたってどういうことですか!?』
ヴァイスもかなり焦った口調で言い放つー
『わかってたんじゃないのか!!?まぁいい!いきなり二人の魔力反応が消えたんだよ!海上でな!』
『消えた?強制的に転送されたっていうことですか?』
『いや、転送魔法の痕跡はない!』
『???』
『ただ、こんな海上でいきなり魔力反応が無くなる、つまり魔法がつかえなくなったのなら・・・それはかなりマズイだろ?』
『まさか・・・』
『あぁ・・・もし、敵の罠であの二人が魔法を封じられたなら・・・事態は最悪だ』
『・・・分かりました。私も二人を探します』
『了解だ』
ティアナは最悪の想像を頭から振り払いながら、海上を二人の名前を叫びだした――


――現在、詳細不明地にて Side Athurun――
「俺たちは最後のティアナからの通信の後、魔力が使えなくなってそのまま海上に墜落した。で、どうやらここに流されたみたいだな」
「そういえば・・・」
なのはも何が起こったのかを思いだし、表情を曇らせる。
「ここがどこなのかは・・・」
なのははそのままチラッとアスランを見るが、アスランは首を横に振る。
「だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。とりあえず雨風が凌げるところは見つけたから、そこへ行こう。一応携帯用の食料も持ってる」
「・・・うん、そうだね」
二人はそのまま自分たちが打ち上げられていたでだろう浜辺を離れた。

64ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:23:51 ID:TyX4dE5Y0
「にしても、大丈夫かなティアナ・・・」
「どうだろうな・・・ここの外のことは今の俺たちには分からない。ただ、ティアナの最後の通信を聞く限りティアナは敵と接触している。それも俺たちが会ったやつとは別のな」
「つまり・・・敵は複数だった」
「そうだな。もし戦闘になればティアナは慣れない空中戦だ。かなり不利になる」
「ティアナ・・・」
なのはが俯いて不安気な顔をすると、アスランは前を向いたままいう。
「でも、今は人の心配をしている暇はないぞ?俺たちだって万事休すなんだ」
「そう・・・だね」
それ以降二人は何も喋らなくなり、アスランが見つけた、という場所へ移動する。
そしてしばらくしてアスランが立ち止まるとなのはも立ち止まり、目の前を指差して言う。
「ここ?」
「あぁ。ここなら当分雨風を凌ぐには大丈夫だろ?」
アスランが見つけたのは、高さ七、八メートルはあろうかという崖にある洞穴だった。
「ここならしばらくは大丈夫だ。後は、どうやってここを気づいてもらうかだな」
「そうだね・・・」
アスランは考えこむ仕草をしながらウロウロ歩き回る。
「とりあえず、魔力は使えないんだ。だからとりあえず煙、が妥当だろうな」
アスランの提案は一般的と言えば一般的なもので、どこかで火を起こしてその煙をたち上らせることで気づいてもらうというものである。
「そう・・・だね」
「そのためには何か燃やせる、木みたいなものがいるな。とりあえず生活にも火は欠かせない。どこかで取ってこよう。高町はどうする?ここにいるか?」
「私?それなら私も行くよ。一人でいても良いことないし」
「そうか、なら行くぞ」
島の内部は鬱蒼と木々が茂っており、ジャングルを連想させるものだった。
「さすがに中は薄暗いね・・・」
「今はまだ昼間のはずだがな・・・大丈夫さ。ちょっと木を拝借するだけだ。行くぞ」
アスランはさらに中へと踏みいる。なのはもキョロキョロしながらそれに続いた。しばらく歩いて、アスランが目的の物を見つける。
「こんな感じだな。湿気ってもいないしサイズも十分だ」
「どのくらい集めるの?」
「そうだな・・・あるにこしたことはないが、何かあったときに身動き出来ないのは困る。せいぜい片方の脇に抱えられる程度だな」
「うん。了解」
なのはも辺りを探し始める。しかし、すぐにアスランが呼び止める。
「高町!あまり遠くへ行くな。こんなところで離ればなれになったら危険だ」
「わかってる。視界にアスランくんが入るようにするよ」
なのははそのままアスランのもとを離れる。アスランもそれを見て捜索を続ける。
(こんなことは、もうコリゴリなんだがな・・・)
はぁ、とため息をつきながら思い出す。
イージスが撃墜され、機体ごと無人島に漂流されたこと。偶然そこにいたカガリとその無人島で助けを待ったこと。
アスランにとってもう何年も前の思い出だった。そして今、また自分は同じような状況にいる。
(違うのは、イージスが無いから救援信号が出せないことか・・・)
だからこそこうして古典的な方法にでているのだ。
(頼むぞシン・・・)
内心でそう祈りながら黙々と木々の収集を進めた。
「・・・よし、こんなもんだな」
片脇に抱え直した木々を見下ろし、アスランはなのはを探す。すると、なのはの言ったとおり、アスランからそこまで離れていないところになのははいた。
「お〜い高町!!そろそろ戻るぞ!」
「あ、アスランくん!わかった!!今行くね〜!!」

65ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:24:23 ID:TyX4dE5Y0
なのはが草を掻き分けながらアスランの元へ向かう。
「ア、アスラン?」
その時だった――
なのはがアスランのもとへ向かい、二人がもと来た道を戻ろうとしたとき、彼らの後ろから声がかかったのは――


――機動六課舎内にて――
「アスランと高町が消えたぁ!!?なんで!?」
機動六課のオペレーションルームでシンのすっとんきょうな声がこだまする。
「わからないです!!でも、完全に二人の魔力反応は無いし、現地の二人も捜索はしていますが見つからないようです!!」
「あり得ないだろ!なんで!?強制転送か!!?」
シンはシャーリーの座る椅子から身をのりだし、モニターを見ながらそう言った。
「いえ!転移魔法のような魔法の痕跡はありません!」
「だったらなんで!!」
「今解析中です!おそらく、最後に現れたあの魔法陣が何か影響してるかもしれません」
「くっそ・・・」
シンはそれ以上の言い争いは無意味と察し、一歩退く。そこで、何か思い出したようにシャーリーに訊ねた。
「ティアナは?あいつは無事なのか?」
「はい。彼女は二人の捜索をしていますが、こちらから確認する限り大丈夫です。いざとなればヴァイスさんのヘリもいます」
それを聞いてシンはとりあえず安心する。
「こっちからも捜索部隊を出せないんですか?」
シンに代わるようにスバルが隣にいたはやてに提案した。
「そうしたいんはやまやまなんやけど・・・今こっちにいるFWはわたしにフェイト部隊長、スバル、エリオ、キャロ、シンだけや。こっからさらに捜索部隊に人手は割けへん。それに、まだ敵がはってる可能性もある。闇雲に出すことは出来ん」
「くそ・・・シグナムは!?」
「シグナムは外回りや。一応連絡はつけといてもらったから、こちらに向かっとるはずなんやけど・・・」
シンは何も言わずに自室へと走っていった。しかし、はやてがそれを引き留める。
「シン!!!」
「俺は行く!あんたがなんと言おうとな!!」
「待ちや!こっちから不用意に出るのは危険すぎる!!」
「何言ってんだよ!仲間の命がかかってるかもしれないんだぞ!?そんなこと言ってる場合じゃないだろ!!!」
「かといって今シンを出すわけにはいかへん!!もしまだ敵がいたら・・・」
「だったら俺だけ行けばいいさ!俺はあんな奴らには絶対に負けない!」
はやてがシンを説得するが、シンがそれを怒声でかきけした。
「ふっざけんな!!」
「黙りや!それに、先にやることもある!!そんなに自分勝手に行動したら隊が成り立たへん!!!」
同時に、ゴン、というシンの拳が壁を叩く鈍い音がした。
「くそ・・・あんたも・・・あんたもそうかよ・・・向こうの馬鹿みたいな上官たちと同じなんだな!!いざ、って時になにもしないんだ!危険だからって何かと後回しにして!仲間の事を何も考えない!!!仲間が居なくなったんだぞ!!?なんでそんな平然と突っ立ってられるんだよあんたたちは!!危険だ危険だって、何よりもまずは自分の命か!!?自分の地位か!?名誉な戦死!!?ふざけんな!俺は行く!例え命令違反だろうとかまわない!!こんなところでじっとしてあいつらがやられたりしたら!それこそ俺はもうなんて顔すればいいか分からない!!できることをやろうとしないやつの命令なんか俺は聞けない!!」
シンはそれだけ言うと、はやてに背を向けて駆け出した。
「シンくん!!」
フェイトがすぐにシンの背中を追いかける。そのすぐ後にはやてからフェイトに通信が入った。
『フェイトちゃん・・・シンは?』
『今・・・追いかけてるよ』

66ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:24:57 ID:TyX4dE5Y0
『・・・そか。そんなら、シンを捕まえたら二人で捜索に行ってくれるか?』
『え?』
はやてのその言葉に、フェイトは一瞬走るスピードを緩めてしまう。
『どういうこと?』
『そのままや。二人でなのはとアスランの捜索に出て欲しい。それに、ああなったシンはもう止まらへん。それを許してる私も駄目隊長やけど』
『はやて?』
はやての真意をはかり損ね、フェイトは当惑する。
『シンのやってることは部隊員としては無茶苦茶や。あんなじゃじゃ馬あり得へん。せやけど・・・人として言ってることは理解できる』
『・・・』
『でも、私は立場上そんなことは出来へん。まぁシンからしたら、それも下らない事かもしれんな。・・・でも人にはそれぞれ出来ることと出来へんことがある。それは立場によっても変わることもある。だから、シンに託そうと思ってな』
『・・・わかった』
フェイトは力強くそう返答した。
『フェイトちゃんかて行けるなら行きたかったやろ?』
『それは・・・まぁ』
『せやから、シンのサポートを頼むわ』
『了解』
フェイトはそれだけ言うと、もう通信モニターを見もせずにただシンを追いかけた。シンとフェイトはそのまま機動六課のエントランスから外に出る。
そこでシンはデスティニーを起動し、魔法陣を展開する。
「デスティニー!!最後にアスランの魔力反応があったところわかるか!?」
『・・・I'm sorry.I can't find』
「ちっ・・・」
シンは舌打ちしてから、打開策を練る。すると、真後ろから声が聞こえる。
「デスティニー、ティアナのいる座標はわかる?」
「・・・フェイト?」
『I'm searching・・・・・・I found』
唖然とするシンをよそにフェイトが命令する。
「そこでいいよ。転送して」
『Master.Do you follow it?』
「どういうつもりだよ、あんた」
シンが怪訝な表情でフェイトの顔を伺う。
「どうもこうも、行くんでしょ?」
「あぁ、そりゃ行くさ」
「私も行くから」
「は?」
フェイトの当然のような物言いにシンはさらに唖然とする。
「それに、八神隊長の許可も出たもの」
「そうなのか?」
「だから私はここにいるんだよ」
「・・・」
シンはしばらく黙ってからデスティニーに命じた。
「フェイトの言うとおりに転送してくれ」
『Alright』
シンの緋色の魔法陣が輝きを増し、次の瞬間には二人の姿は無かった――



――Side Kagari――
「くそ・・・アスランたちの安否の確認はまだなのかバルトフェルド!!」
「落ち着けよカガリ。これから客人が来るんだ。それに、安否なら俺が捜させてある。問題はない」
機動六課からアスラン、なのはの行方不明が知らされた時、聖王協会の一室でカガリ、バルトフェルド、ハイネは客人を迎えていた。
「・・・そうだったな・・・すまない・・・」
カガリが落ち着きを取り戻し、椅子に座るると、ドアの反対からノックの音がした。
「失礼します。御客人が到着なさいました」
それと同時にドアがゆっくりと開いていく。そのドアの奥にカガリが座っており、ドアの右手側にバルトフェルドとハイネが控えていた。
「こちらが、陸士108部隊からいらっしゃった、ギンガ・ナカジマとメイリン・ホークです」
二人のそばにいた使いが一人ずつ紹介し、それと同時にギンガ・ナカジマ、メイリン・ホークと名乗られた二人は一人ずつ丁重に頭をさげる。
「陸士108部隊所属、ギンガ・ナカジマです」
「同じく、メイリン・ホークです」
「私はカガリ・ユラ・アスハだ。こっちは手前がアンドリュー・バルトフェルド、奥がハイネ・ヴェステンフルス」
カガリも同じように自己紹介、二人の紹介をし、紹介された二人も頭をさげる。
「アンドリュー・バルトフェルドだ。バルトフェルドと呼んでくれ」
「ハイネ・ヴェステンフルス、ハイネでかまわない」

67ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:25:59 ID:TyX4dE5Y0
「君たちが機動六課のレリック事件に協力する、という二人だな?」
「はい」
カガリの言葉にギンガが短くそう返事をする。
「一応あなたたちの資料は見させてもらった。ギンガ・ナカジマ、あなたは機動六課所属のスバル・ナカジマの姉、という解釈でいいか?」
ギンガは、その言葉が少し気に障ったらしく、すぐに言い返した。
「はい。私はスバルの姉です。しかし、任務に私情を持ち込むつもりはありません。誰であろうと戦場では一人の戦士ですから」
ギンガの言葉にカガリは少し慌てた。
「いや、すまない。別にそんなつもりはなかったんだ。ただの確認だ。だが、そう言ってくれるのは頼もしい」
カガリが一度言葉を切り、今度はもう一人の方を見る。
「メイリン・ホークと言ったな?君は確か・・・私と同じ、"向こう"の出身だな?」
「・・・はい」
相手もカガリに見覚えがあり、深刻そうな顔をして頷く。
「アスランと同じ船に乗っていたオペレーターだな?」
「はい。元はザフト軍所属、ミネルバのオペレーターとして働いていました」
「ということは、今回のレリック事件の敵についても大体わかるな?」
「はい。キラ・ヤマト、ムゥ・ラ・フラガの二名とは最後に同じ船で戦いましたから・・・」
「そうか・・・まぁいい。この話はまた今度にしよう。それより、今日来てもらった理由を話そう」
カガリがそう仕切り直し、真剣な目付きで二人を見る。
「あなたたち二人の機動六課のレリック事件への着任期間は、たしか三日後からだったな?」
「はい。そうです」
カガリの確認にギンガが頷く。
「今日来てもらったのはその事なんだ」
カガリがそこで切ってからまた続ける。
「実は、前の戦闘で副隊長、ニアSクラスの魔導師が一名戦闘不能の重傷を負った。さらに、敵の数は私たちより若干少ないにしても、それぞれ強さが私たちを上回っている。もちろん、部隊長クラスや副隊長クラスの人間ならまともにやりあえる。しかし、一隊員、しかも機動六課に配属されたような新人には少し分が悪い。だから、今日や明日にでも着任してほしいんだ」
「なるほど・・・ようするに、人手不足ということですか?」
「まぁ、そういうことだ・・・」
ギンガの言葉にカガリが苦々しくそう答える。すると、横でメイリンが申し訳なさそうに発言した。
「あの〜、すみません。私はオペレート専門なのてで、戦闘はちょっと・・・」
しかし、カガリはまた慌てたように言う。
「あぁ、君は違う。君にやってほしいのはまた別だ」
「というと?」
メイリンはカガリの言いたいことがわからずに訝しむ。
「君は、MSの整備は出来るな?」
カガリの問いにメイリンは疑問に思いながらも答える。
「まぁ、はい」
カガリはそのまま質問を続ける。
「それに、こちらの世界のデバイスの整備も出来るらしいな」
「一応一通りは覚えました」
それを聞いたカガリは、やはり、と言った顔で続けた。
「君にやってほしいのはMS型デバイスの整備だ」
「MS型デバイス?」
「知らないか?コズミック・イラからの次元転移者が持つ、MSを模したデバイスのことだ」
「そんなものが?」
「そうだな・・・実際に見せた方が早いか」
そう言うとカガリは立ち上がり、ピンク色の宝玉を手につかんだ。
「ストライク!」
『Set up』
眩い光に包まれたカガリは、自分の機体であったピンク色のストライクの装甲に身を包む。もちろん、左胸にはオーブの紋章も印されている。
「こういうデバイスだ。こちらのものとはかなり違うだろう?」
メイリンは、驚きを隠しきれずカガリを凝視する。
「そう・・・ですね・・・」

68ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:26:58 ID:TyX4dE5Y0
「こちらのデバイスは武器は一つだが、私たちのもつMS型デバイスはこのバリアジャケットが主体となり、それぞれのMSの持つ武装を呼び出せる」
そう言いながらカガリは、ビームライフルとビームサーベルを呼び出した。
「しかしこれの難点は、デバイスの複雑さにある。MS型デバイスは、もちろん普通のデバイス同様の整備が必要となるが、同時にMSの構造も理解していなければならない」
「どうしてです?」
「このデバイスは基本的にMSと同じだが、動力源を魔力に委託している。そしてその魔力は、元々MSに蓄えてあるものではなく、デバイス使用者本人の中にあるものだ。つまり、そのデバイス使用がそれぞれのアクションに使用する魔力のコントロールも必要となる」
「なるほど。つまり魔力浪費なども問題も起こりうるというわけですか?」
「そうなる。まぁ、簡単に言えばMSの構造を知り、デバイスの構造も知っていなければデバイスの改良が不可能なんだ」
メイリンはやっと納得したような顔をした。
「分かりました」
それを聞いたカガリは再び視点をメイリンからギンガに移す。
「今言ったことが、本来の目的だ。しかし、今機動六課で緊急事態が発生している。君たち二人にはそれの対処もお願いしたいんだ」
「緊急事態、ですか?」
「あぁ。先ほど、行方不明者二名と言っただろう?その二名の捜索だ」
そしてカガリははやてに通信を入れた。
『はやて。はやて、聞こえるか?』
『あぁ、大丈夫や』
『状況はどうなっている?安否の確認は?』
カガリがそう言うと、はやては通信画面越しに苦々しい表情を作った。
『まだ分からへん。現地にいた二人はまだ捜索中で、こっちからも新しく二人送り出したとこや』
『そうか・・・』
『二人行方不明に一人重傷・・・ちょっと笑えへん状況や。向こうとしては絶好の状況かもしれへんけどな・・・』
『はやて、そのことで少し話がある』
『ん?なんや?』
『陸士108部隊から機動六課へ二人、レリック事件の解決まで仮加入させるという話を前にしたな?』
『相手の戦力が思いの外高かったから人員補強をする、っていうやつやったな』
『そうだ。今、その二人が私のとなりにいてな、今すぐにでも機動六課に加入してもらおうと思っているんだ』
『ほんまに!!?』
『あぁ、予想外の事態が起こったから来てもらったんだ。二人の実力は私が保証しよう』
『そか。そらこっちとしても願ったりかなったりや』
『後はそっちの受け入れの状況次第でいつでも大丈夫だが・・・どうだ?』
『ん、こっちはいつでも大丈夫や』
『そうか、忙しいところ済まなかった。何かあったら報告してくれ』
『了解』
カガリはそれで通信を切り、二人に向き直る。
「事は一刻を争う。行方不明になった二人は海上での戦闘中に姿を消した。辺りに転送魔法の痕跡が無い事から、最悪の場合海に落下した可能性もある」
カガリは一度下を向き、深く息を吐いてからこう言った。
「二人とも、この事態に協力してくれないか?」
メイリンとギンガは一度お互いの視線を交わしただけで、直ぐに返答した。
「元々協力する予定ですから、それくらい構いません。是非、いつでも協力させていただきます」
「ありがとう」
カガリはそう言うと、バルトフェルドに命令した。
「バルトフェルド、準備を開始してくれ」
「はいよ。そんじゃ、表で待ってる」
バルトフェルドはすでに承知してかのように立ち上がり、部屋を出ていった。
「さて、君たちも準備はいいな?彼の準備ができ次第、機動六課へ転送する」
カガリは確認するように二人に目を向ける。二人はその視線に首を縦にふって答えた。
「では、行こう」
カガリも立ち上がり、部屋の外へ向かう。それにハイネが続き、二人を手招きした。二人もハイネに続いて部屋を出ると、バルトフェルドからカガリに通信が入った。
『準備オーケーだ。いつでもいける』
『すまない。感謝する』
カガリが通信を切りバルトフェルドの待つ場所へ着くと、そこには転移魔法陣を展開するバルトフェルドとダコスタの姿があった。
「お二人さんご招待だ。気を付けていけよ!」
バルトフェルドがギンガとメイリンに向けてそう言うと、展開してあった転移魔法陣がいっそう輝きだす。二人はそれを見て魔法陣の中に足を踏み入れた。
「くれぐれも気をつけてな」
カガリが念を押すように言うと、二人は深く頷く。
「ギンガ・ナカジマ、メイリン・ホーク、レリック事件への協力のため、これより機動六課へ向かいます!!」
ギンガがそう宣言すると、カガリは頷いてその許可を出した。その隣でハイネが形式ながらも敬礼している。
そして次の瞬間、二人の姿は消えた――

69ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:28:47 ID:TyX4dE5Y0
――詳細不明の島にて――
――Side Athurun――
二人が島に漂流した日の夜、アスランとなのはは薪を集めて洞穴に入り火をつけて暖をとっていた。
「アスランくん・・・」
「ん?どうした?」
「私たち、どうなるのかな?」
なのはが体育座りのまま顔をうずくめる。
「不安なのは・・・俺も同じだ。だが、どうなるかは俺たちとシンたち次第だ」
「・・・」
アスランは、どうしたものか、とため息をつく。
「アスランくんは、すごいよね。こういうときも冷静になれるなんて」
なのはが半分なげやりにそういった。
「・・・初めてじゃないからな。こういうのは」
アスランのその返答にやっとなのはは顔を上げる。
「どういうこと?」
「こっちの世界に来る前にも一度あったんだ。こうやって無人島に漂流したことが」
「一人で?」
「いや、当時敵軍にいたやつと一緒だった。たまたま同じ島に墜ちたみたいでな」
「その時はどうしたの?」
「今と大差ないさ。こうやって生活出来る穴ぐらをみつけて、火を焚いて、なんとかやり過ごしながら救助を待った」
「そう・・・なんだ・・・」
「だからそう落胆するな。高町はいつも通りにしていればいいさ。やることをやったら、後は六課に任せるしかない。いざとなったら、お前だけでも助け出す」
「・・・」
しかしなのはは不安そうな顔を崩さない。
「そう難しい顔をするな。それより、腹減ってないか?携帯非常食を持っているんだ。これがあればしばらくはのりきれる」
アスランは話題を変えて側に置いておいた袋を手に取った。
「それでもう寝よう。後はまた明日考えればいいさ」
「うん・・・」
なのははアスランから袋を受け取り、中に入っていた栄養補給用の食糧を数個食べた。
「ありがとね、アスランくん」
「なに、気にすることじゃない」
アスランもなのはと同じものを口にいれ、咀嚼する。そのまましばらくお互いに話をしない状況が続いた。五分くらいの沈黙の後、アスランが不意に口を開いた。
「高町、ちょっといいか?」
「・・・」
「高町?」
「・・・」
なのははアスランの声にまったく答えない。それを疑問に思ったアスランがなのはの元に近づこうとした時、なのはからスー、スー、と規則正しい寝息が聞こえた。
「寝た、か」
仕方ない、とため息をついたアスランが上着をなのはにかけた。
「さてと・・・」
アスランは険しい面持ちで立ち上がり、腰に手を当てる。そしてその状態のままゆっくりと洞穴の外に出た。そして、腰から短剣を引き抜き正面に構える。
「さっきからこそこそと・・・誰だ・・・」
アスランは腰からもう一本短剣を引き抜き、目の前の森に投擲した。すると、キン、という樹に刺さるには少し変な音がした。
しばらくして、ある樹から一人飛び降りてアスランの目の前に立った。
「誰だ、って・・・忘れたの?私よ」
目の前に現れた人間にアスランは動揺を隠せなかった。そして、ゆっくり、その名前を呼ぶ。
「ル・・・ルナマリア・・・お前・・・」

70ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:29:38 ID:TyX4dE5Y0
――Side Shinn――
その頃、アスランに続きシンも、衝撃的な再開をしようとしていた。
「新隊員?こんな時に?」
「なんでも、レリック事件に関する敵の強さが予想を上回っていたから臨時の補強らしいよ」
隣を歩くフェイトがそう答える。
二人は夜が更けてきたのでアスランとなのはの捜索を中断し、隊舎に戻ってきた。そして、戻ったてからすぐはやてが通信が入り、ブリーフィングルームに来るよう言われ、今こうして二人でそこに向かっているのだ。
「で、補強ってのは何人なんだ?」
「私は二人、って聞いたけどな・・・」
「二人?補強だろ?それだけでいいのか?」
「分からない。それに、一人は戦闘要員じゃないって話だよ」
「はぁ?」
シンはフェイトの報告に疑問を顕にする。
「まぁ俺がどうこう言う問題じゃないし、隊長の決定なら何も言わないけどさ」
「あれ?珍しく素直だねシンくん」
フェイトが茶化すように笑いながらそう言った。
「なんだよそれ。俺が素直じゃないってこと?」
「だっていつもはやてやなのはの命令を無視してでも自分で行動するじゃない?」
「それは・・・仕方なかったんだよ」
シンが苦し紛れにそう答える。
「なにが?」
「いや・・・その・・・すみませんでした・・・」
根負けしたシンはついにため息をついて謝罪した。
「ふふ・・・でもシンくんのやってきたこと、間違いじゃないと思うよ?」
「どうも・・・」
二人はそのまま喋りながらブリーフィングルームに到着する。その扉を開けると、中にはアスランとなのはを除いたいつものメンバーと、見慣れないメンバーが二人いた。
はやてがシンとフェイトの入室に気付くと、手招きで側に招く。
「二人とも揃ったな?ほな、初顔合わせといこか」
はやての手招きに、フェイトは頷いて室内に入ったが、シンは入り口で硬直したまま動かなかった。
「な・・・お前・・・メイリン!なんで・・・」
その視線の先の人物は、シンに驚いた様子はあるものの、シンほど取り乱したりはせず、そのままシンに近寄った。
「シン!シンもこっちに来てたの?みんな心配してたよ?いきなり行方不明になっちゃうんだもん」
「みんな?」
「私も、お姉ちゃんも、みんなよ。ラクスさんも心配してたわ」
「そうか・・・わるいな・・・」
「行方不明と言えば、アスランやあのフリーダムのパイロット、キラ・ヤマト、合わせて十人以上行方不明の状態よ。オーブだって、代表のカガリさんが行方不明になってごった返してたわ」
「オーブの・・・あいつか・・・」
シンはメイリンの言葉に握り拳を作って怒りを顕にする。
「てことは、あいつもこっちに来ているのか?」
「もちろん。私がここに来る前に会ったの」
「・・・」
シンが黙り込むと、はやてが申し訳なさそうに横やりを入れた。
「二人とも?それは後でええか?」
「あ、すみません」

71ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:38:23 ID:TyX4dE5Y0
メイリンははやてたちの方に戻る。シンもそれに続く。
「よし、ほな紹介するわ。この二人が、今回のレリック事件が終わるまで臨時で機動六課に配属になった、ギンガ・ナカジマとメイリン・ホークや」
はやてから紹介を受けたギンガが一歩前に出て、自己紹介をする。
「今紹介を受けました、陸士108部隊のギンガ・ナカジマです。皆さん、よろしくお願いします」
「同じく、メイリン・ホークです。私は戦闘ではなく、サポートにまわることになっています。よろしくお願いします」
二人は自己紹介を終えて一歩下がる。
「今回は、人員補強の為に緊急でこの二人に来てもらった。皆もう分かっている通り、敵は予想以上に強い。だから、私たちの後見人である聖王協会に無理いって集めてもらったんや」
はやてがそう説明を付け加え、全員を見渡す。
「ギンガ・ナカジマには前線メンバーとしてFWと一緒に戦ってもらう。メイリン・ホークにはシャーリーたちと一緒にオペレーティングルームでFWメンバーのオペレートをしてもらう。それと、シンとアスランのデバイスの整備も頼んである」
はやての言葉にティアナが疑問を投げ掛ける。
「デバイスの整備って、シンとアスランだけですか?」
「ん?あぁ、もちろんメンバー全員のデバイスのチェックも頼んではある。ただ、シンとアスランのデバイスは私たちのと違って特殊や。私たちではその性能を存分に引き出せへんから彼女に頼んだんや」
はやては、デスティニーのデバイスのカスタム画面を見せながらそう言った。
「私は用事があるからこれで戻らなあかんけど、皆自己紹介を済ませておくようにな」
はやてはそう言ってシャーリーと共に部屋を出た。
「シン・アスカだ。よろしく」
シンはギンガに向けてそれだけ言うと、すぐに部屋を出ていった。
(オーブの代表がこっちに飛ばされてるって・・・どういうことだよ・・・プラントは、むこうはどうなってるんだ?)
シンはそのまま自室へと向かい、そのまま調べものを始める。
(他にも、あいつら以外にもいないのか?この世界に飛ばされたやつらは・・・)
しばらくシンがモニターと顔をあわせていると、誰かが扉をノックする音が聞こえた。
「シン?いる?」
「ん?誰だ?」
「私、メイリン・ホーク」
「何か用か?」
「うん。入ってもいい?」
「あぁ、いいぞ」
その後、ガチャ、っと部屋の扉が開き、メイリンが入室した。
「ここがシンの部屋ね。誰と相部屋なの?」
「八神からきいてないか?アスランだよ。今行方不明の」
「え?」
シンの言葉にメイリンは心底意外そうな顔をした。
「どういうこと?」
「そっか、きいてないのか。今日、俺たちの隊のやつが二人ガジェット掃討の任務に出たんだ。で、ガジェット自体はすぐに片付いた。でも、問題はその後だった」
そこからシンは唇を噛み、握りこぶしを作って悔しさを顕にした。
「ガジェットを破壊して、アスランと高町とティアナが帰還しようとした時、奴らが来た」
「ネオ・ロアノーク、いや、ラウ・ル・クルーゼ」
「知ってるのか?」
「資料で一応ね」
「そっか。まぁそいつとあと二人、いや、最初は一人だけ姿を表したんだ。そっからも聞いてないか?」
「いや、その内容は聞いたよ。個人名までは明かされなかったけど」
「そうか、ならその通りだよ」
メイリンはそれで全て納得し、自然に表情が陰った。部屋にはしばらくシンがキーボードを叩く音のみが響いていたが、ふと顔を上げてメイリンに訊いた。
「メイリン。お前はいつまで向こうの世界にいたんだ?」
「私?私は・・・えっと・・・シンたちが戦死って認定されてからニ年はいたかな。で、こっちに来たの」
「二年か・・・向こうのやつらは元気だったか?」
「うん。まぁいろんな事があったのは確かだけど、それはまた今度話すわ」
「そうだな、アスランも一緒に聞かせないとな」


シンとアスランの新たな出会いは、進む歯車にさらなる拍車をかける。
そしてアスランとなのはの撃墜はキラたちになにをもたらすのか―――


次回、シンとアスランの魔法成長日記第十話

72ロッペン ◆fgMrdXS3aI:2010/10/30(土) 16:43:49 ID:TyX4dE5Y0
以上、シンとアスランの魔法成長日記第9話「出会い」
お送りいたしました。
今回は、この物語のひとつの転換点でもあります。内容を意識しすぎたせいで文の体裁などの表面部分がよくないかもしれません。

8月から2ヶ月、待っていてくださった方、本当に申し訳ありませんでした。

では、よんでくださった方々に感謝しつつ、この辺で失礼させていただきます。

73名無しの魔導師:2010/10/30(土) 16:57:57 ID:y7ppvNm.0
お二人とも乙ですた
それにしてもやっぱ作品が投下されるとうれしいな

74名無しの魔導師:2010/10/31(日) 11:00:20 ID:kI320tMI0
全ての職人様方にGJ!
この調子で投下も増えてってくるといいな!

75名無しの魔導師:2010/10/31(日) 19:04:20 ID:MF8FqM2s0
叶わぬ夢だがな。
まあ、三下王のバカが好き勝手しても文句言わない住人にお前らがなってくれれば、
新規の奴が来やすいかもしれんがなw

76名無しの魔導師:2010/10/31(日) 23:39:13 ID:7Ii8bczg0
三下王って三振王さんの事? ナニコレ荒らし?

後職人さん方GJ

77名無しの魔導師:2010/11/01(月) 00:43:34 ID:NAqf7EmY0
GJ!GJ!

78名無しの魔導師:2010/11/01(月) 07:01:40 ID:mexiFW7wO
職人氏にとって
感想無し
GJだけってのも疲れるもんなんじゃね

79名無しの魔導師:2010/11/01(月) 18:57:22 ID:pkPIuAcA0
感想するものでも無いとか思ってるんじゃない?
長ったらしい癖に展開が進まないから苛立ってるとか。
どっちも久しぶりなんだから、簡単なあらすじくらいあってもいいかも。

80名無しの魔導師:2010/11/01(月) 19:53:31 ID:KqZ4vN/.0
そういう要らん事書き込むとか理解に苦しむ

81名無しの魔導師:2010/11/02(火) 00:53:09 ID:snh9pJIc0
>>75>>79
みたいな書き込みは管理人は削除したりアク禁にしたりしないのか?
いつも思うんだけど、何で管理人は荒らしを放っておくんだろ?

管理人が何もしないから、こいつ等みたいなのが図に乗る。
何のために避難所でやってると思ってるんだ。

82名無しの魔導師:2010/11/02(火) 01:04:35 ID:eeygOqqAO
>>81
そんな風に煽るのも駄目だぜ
スルーしてれば発火することもない

83名無しの魔導師:2010/11/04(木) 07:19:46 ID:oN5cdyuw0
いや、マンセーばっかするのもどうよ?
>>75は俺も煽ってる感じはするけど、>>79は普通に思ったことを言った(意見)じゃね

職人の方に希望したいことやけど、あらすじはちょっと欲しい最近忙しいから、全部を全部読み直す時間がないんだorz

84名無しの魔導師:2010/11/08(月) 00:37:32 ID:H.n52WHcO
また保守でも書こうかな……

85名無しの魔導師:2010/11/14(日) 16:57:33 ID:cEtcXQqs0
>>75の書き込み以降職人さん達の書き込みが無い件。

どうしてくれるんだよ……。

86名無しの魔導師:2010/11/14(日) 20:00:14 ID:iUgTFaOwO
>>85
あんまり言いたくないけどな
お前さんはもうちょっとネットとの付き合い方を学んだ方がよいんじゃないか?

87名無しの魔導師:2010/11/14(日) 20:56:21 ID:bOrKqk7k0
だな

常、職人はコテハンで書き込んでるわけじゃない

8881  ◆dRvFDbWwdQ:2010/11/14(日) 21:43:42 ID:RvBgEG6E0
ごめんねおじさん書くのに時間かかりまくっててごめんね(´・ω・
次投下するときは粗筋書いておくからね
量がぜんぜん+話の区切りがなかなかつかなくて…

89名無しの魔導師:2010/11/14(日) 21:47:45 ID:FuDX0JnM0
まさかの犬師匠の人w大丈夫ですぜ生存確認できただけでも安心です!

90名無しの魔導師:2010/11/15(月) 23:18:22 ID:vO67K3OI0
さて、今ここで一番問題に挙げるべき事柄は、
新掲示板のことはおろか、こちらで更新された作品がガンクロwikiに全くフィードバックされてないことだと思うんだ。

91名無しの魔導師:2010/11/16(火) 00:29:08 ID:BtvS0pH2O
>>90
解決するには、どうすれば?

92名無しの魔導師:2010/11/16(火) 07:30:52 ID:TV/foOtMO
更新依頼に書いても「全部が全部更新されると思うな!」とか言われるだけだしな、更新依頼の存在いわなくね?

93名無しの魔導師:2010/11/16(火) 07:44:45 ID:5DxVZhjcO
そこで
じゃあ俺がやっとくわと出ないのが悲しいな

94名無しの魔導師:2010/11/16(火) 09:27:40 ID:lfaoiiWE0
やり方がわからない

95名無しの魔導師:2010/11/16(火) 11:30:34 ID:BtvS0pH2O
同じくわからない

96名無しの魔導師:2010/11/16(火) 12:25:14 ID:5DxVZhjcO
数える程しかまとめサイトを編集したことない俺が言うのも偉そうなんだが
ネットが使える環境でやり方が分からないは登録できない理由にならんだろ

調べれば分かるのにやり方が分からないを繰り返すのは裏を返せばやる気はない、誰かやって俺はやだ、一手間惜しむのがめんどくさいだけになっちまうから職人氏から見ればあまりいい気分はしないんじゃないか?

97名無しの魔導師:2010/11/18(木) 08:52:24 ID:.zfBMnxM0
いやまあ、自分は投下した時になかなか更新されてなかったら自分で更新するかな
調べたらできんこともないよ。めんどくさいけどねw

職人の人に自分で更新してもらえるなら、各人に任すのも一つ。

(可能なら職人が更新)→更新依頼をやる→無理なら俺達が更新
はどうよ

98名無しの魔導師:2010/11/18(木) 14:30:20 ID:IO1hotmo0
パンチラ写真・ムネチラ写真見放題♪

過激な写真館もあるよ♪

無防備な女の子が多いからできるんです!

http://deai-cafe.jp/

99名無しの魔導師:2010/11/21(日) 17:26:09 ID:jyrOSHKQ0
age

100名無しの魔導師:2010/11/21(日) 17:38:21 ID:Qd/A/mK20
agaってないやんけ

101名無しの魔導師:2010/11/21(日) 17:43:39 ID:jyrOSHKQ0
OH…

102名無しの魔導師:2010/11/27(土) 23:47:19 ID:gq21OMag0
ちょっと保守短編を書いてみた。タイトルは「タリア艦長、フェイトのお母さんになる。」


設定はPT事件の終盤にフェイトだけ次元断層に落ちてしまい、CE世界に転移してミネルバに拾われたという設定


タリア「はぁ、最近ちょっと疲れが溜まってきたわね……。」
フェイト「大丈夫ですか? よかったら肩叩きますよ。」
タリア「あら、悪いわね。」


タリア「髪の毛はねてるわよ、とかしてあげるからちょっと来なさい。」
フェイト「あ、ありがとうございます。」


タリア「綺麗な髪しているわね……羨ましいわ。」←入浴中
フェイト「タリアさんだって綺麗なお肌してますよ。」



デュランダル「そうそう、クイーンはこう動かすんだ」←フェイトを膝に乗せてチェスを教えている最中
フェイト「へえー、チェスって面白いんですね。」



レイ「フェイト、口にケチャップ付いてるぞ。」
フェイト「ご、ごめんなさい……///」
レイ「謝らなくていい、拭いてやるから……。」



フェイト「あの……シンさん、クッキー作ってみたんでよかったら食べてください//////」

レイ「……。」ゴゴゴゴゴゴ
デュランダル「……。」ドドドドドド

シン(なんかレイと議長が俺に向かってどす黒いオーラ放ってる……)
タリア「やめなさいアンタ達!」



ルナ「…………」
ルナ「完全に家族だコレ!」

103名無しの魔導師:2010/11/28(日) 00:29:08 ID:03quiJxEO
>>102
哀れルナwww
いや、いっそのこと姉貴分になれば……

104名無しの魔導師:2010/11/28(日) 04:02:23 ID:wQWBWL/A0
ああ……
タリア→母
デュランダル→父
レイ→兄
みたいなノリか。いいんじゃないかな

105名無しの魔導師:2010/11/28(日) 11:34:59 ID:1GEemh4g0
GJ!
確かに家族でも違和感無いなw

106名無しの魔導師:2010/11/28(日) 20:22:26 ID:UG6jt17g0
2人の黒いオーラはあれだな…
娘or妹を取られた父or兄と同じか。

107102:2010/11/28(日) 23:27:40 ID:vaHp9.mE0

>>102の続き

フェイト「お母さ……じゃなかったタリアさん(間違えちゃった///)」
タリア「…………いいのよお母さんって呼んでも。」



デュランダル「ほーら、早いぞ三倍だぞー。」←肩車中
フェイト「すみません……皆の視線がすごく恥ずかしいです///」
ミーア「あら、可愛い子ですわねー、議長のお子さんですか?」



レイ「シン……妹とは素晴らしいものだな!」
シン「だろ?」



ハイネ「君可愛いねー! 俺彼氏に立候補しちゃうかな!」
フェイト「え、えっと……」
デュランダル「ハイネ君緑服に降格ね。」
レイ「異議なし」



メイリン「フェイトちゃんコレ着てみてー!」
フェイト「ど、どうですか……?」E:いぬみみメイド服
メイリン「きゃー! かわいいー!」
デュランダル「いいんじゃないか。」
レイ「後で写真とろっと」
タリア「二人とも話があります。」



プレシア「そんなところで何をしているのフェイト! はやくジュエルシードを集めなさい!」ベシベシ
フェイト「ご、ごめんなさい母さん……。」レイプ目

タリア「タンホイザー起動! 目標プレシア・テスタロッサ!!!」←ミネルバフル改造+必中、直撃、熱血済み
アーサー「艦長! 目が怖いです!」
レイ「祝福と応援もかけておきました、フェイトの養育費にあてましょう。」
デュランダル「いや、ここはネオジェネシスで時の庭園を消滅させてだね。」




ルナ「プレシア逃げ……なくていいか。」

108名無しの魔導師:2010/11/29(月) 02:42:38 ID:sZKYumx2O
>>107
時の庭園は再利用できると思うの

109名無しの魔導師:2010/11/29(月) 20:51:09 ID:/KD8N3Os0
いいなぁ〜
もうそのままプラントの歌姫になりそうだ

110名無しの魔導師:2010/11/29(月) 23:17:34 ID:7iskq13E0
>>102
>>107
シンは生き残れるだろうか(色々な意味で)

111名無しの魔導師:2010/12/01(水) 01:29:28 ID:HmB.NkBc0
むしろ、メサイア崩壊時に無印時代にまとめて転移→クローニング技術でレイの寿命延長→みんなで仲良く暮らしましたとさ

まあこのレイならこっちでも長生きしそうだけどなw

112名無しの魔導師:2010/12/01(水) 12:50:31 ID:G0WlOMpI0
そしてシンと組んでシスコン同盟組織するのか

113名無しの魔導師:2010/12/03(金) 22:10:15 ID:DNlRqRNk0
なのはtype見て思い付いた保守ネタ


シン「へぇー、ザフィーラに弟子ができたのかー、今度見せてくれよ。」
ザフィーラ「いいぞ」


ミウラ「アナタがシンさんですか! 僕ミウラって言います!」
シン(なんか昔のエリオみたいな子だな。)
ザフィーラ「ちょうどいい、シンに稽古付けてもらえ、こいつは昔軍人だったんだ。」
ミウラ「よろしくお願いします!」


なのは「こんばんわー、シン君も来てたんだ。」
ヴィータ「ZZzzz……」
シン「ようなのは、あれ? ヴィータ寝てんのか、しょうがねえな……俺が代わりにおぶって行くよ」←ヴィータをお姫様抱っこ中
なのは「にゃはは、ごめんねー。」


ヴィータ「(目を覚ました)!!!? 何してんだテメー!!?」
シン「み、耳が……!」キーン



ミウラ「……」
ミウラ「なんだかシンさんとヴィータさんって仲良しですね。」
ザフィーラ「ああそうだな。」





ホント読んだ人しか解らないネタですみません……。

114名無しの魔導師:2010/12/03(金) 22:19:26 ID:DNlRqRNk0
ごめんミウラって女の子だった……脳内変換しておいてください……。

115名無しの魔導師:2010/12/04(土) 00:39:15 ID:.IE7L9LAO
お金がない♪
お金がない♪
本当のコトさぁ〜♪

くそぅ、立ち読みすら出来ない……どうして、こんな……

116名無しの魔導師:2010/12/04(土) 23:18:19 ID:cufdGv6w0

なのはTYPE見て思い付いたパート2 テーマはたまには普段しないカップリングで楽しもう。



オルガ「やっぱ戦闘は砲撃が一番だよなー。」
ノーヴェ「バカ野郎、接近戦のほうがカッコイイだろうが。」
オルガ「ああん?」ドドドドド
ノーヴェ「は?」ゴゴゴゴゴ

チンク「あいつらまたやってる……。」
ギンガ「いつもの事でしょ、喧嘩するのはなんとかの証拠ってね。」



ノーヴェ「おらオルガ! ゴロゴロして本読んでねえでたまには運動しろ!」
オルガ「うっせえな……てめえはたまには活字読みやがれこの脳筋女!」
ノーヴェ「……で? 何読んでんだ?」
オルガ「時をかける少女。」
ノーヴェ「……後で読んでいいか?」
オルガ「しゃーねーなー。」



オルガ「テメー怪我してんじゃねえか。」
ノーヴェ「ああ、ヴィヴィオと訓練中に……。」
オルガ「おーいゲンヤのおっさーん、救急箱どこだー?」
ノーヴェ「おい!///別にいいよ!!///これぐらい唾つけとけば……!///」
オルガ「うっせえ! そのまんまで家ウロつかれたら目ざわりなんだよ!」



オルガ「おい、ノーヴェブッ飛ばしたガキってどいつだ。」
スバル「今ノーヴェと一緒に寝てるよー。」ニヤニヤ
ティアナ「ちょっと少し落ち着きなさい。」ニヤニヤ
オルガ「そ、そうか……」



ヴィヴィオ「オルガさんとノーヴェって付き合っているの?」
オルガ・ノーヴェ「「はぁーーーーーー!!!!?//////」」
アインハルト(完全にハモッた!)

117名無しの魔導師:2010/12/04(土) 23:55:47 ID:x1iKk97w0
>>116
いい奴だったな。・・・・オルガ
出番は少なかったけど、仲間思いで。
セリフも少なかったけど、人権の無い兵士の哀しさがあって。

SSでぐらい幸せになってほしいな

118名無しの魔導師:2010/12/12(日) 15:16:06 ID:XZJCFEPM0
age

119名無しの魔導師:2010/12/13(月) 23:09:31 ID:2cfUCAjM0
終わコンなのって種でもなのはでも無くここなんだって事に気づいた今日この頃。

120名無しの魔導師:2010/12/13(月) 23:17:09 ID:yXb78NZ2O
種はスパロボで元気だし、なのはも漫画や映画がある………
もうクロスオーバーSSはオワコンなのか……?
いや、まだ需要はあるハズだ

121名無しの魔導師:2010/12/13(月) 23:25:28 ID:qPIL7Qw20
やりたいけどネタが思い浮かばないんだ

122名無しの魔導師:2010/12/14(火) 00:42:27 ID:yMW./mEY0
別に弱気になることないと思うけどなー

123名無しの魔導師:2010/12/17(金) 01:42:51 ID:1c/23wpM0
>>121
じゃあ、ちょっとシンとトレーズ様をなのは世界にぶちこんでくれないか?

124名無しの魔導師:2010/12/17(金) 07:49:04 ID:KMlYOptQ0
>>123
ちょっとスレタイ読もうか兄弟

125名無しの魔導師:2010/12/17(金) 19:42:56 ID:8CA/rD7E0
その発想が衰退した要因の一つだと思う。

126名無しの魔導師:2010/12/17(金) 21:32:20 ID:kuEwJ0y.O
なら規制緩和の話し合いでもするか?
女難と被るけどさ

127名無しの魔導師:2010/12/17(金) 22:21:36 ID:ygeoSrvw0
前も00も合わせたいと言ってた人いたよな。
個人的にはガンダムシリーズならオールOKでもいいと思うけど……雑談までギチギチに規制されてウンザリして最近見ていなかったんだよ。
もっとここの皆で色んな話をしたいんだよ……。

12881 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/17(金) 22:25:26 ID:srVI5R2E0
えろすって時々無性に書きたくならなるね

129名無しの魔導師:2010/12/17(金) 23:46:00 ID:z1tK.lfY0
81氏の投下があるのか!?

130名無しの魔導師:2010/12/18(土) 00:56:59 ID:wm8RXGb.0
犬師匠投下ですか!?

131名無しの魔導師:2010/12/18(土) 08:42:29 ID:.tn/aT.IO
>>127
雑談まで規制されたことあったか?
もしかして某所とまぜこぜで考えてる住人が増えた?

13281 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/18(土) 09:02:01 ID:FUDpxGqs0
ああ勘違いさせてごめんね、じゃあえろっぽいの今からかくね
何時間かかかっちゃうけど夜までには

13381 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/18(土) 16:41:15 ID:FUDpxGqs0
18時に人が来ちゃうのでおそいじかんになっちゃうぽ
まっすぐなぼうをなのはちゃんがなめるだけのおはなしだからあんまりながくない

134名無しの魔導師:2010/12/18(土) 16:52:49 ID:aidKblUMO
エロスは偉大だから、短くても問題無しですぜ

13581 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/18(土) 22:29:08 ID:FUDpxGqs0
23:45ころ
みなおししたらとうかするあるよ

136名無しの魔導師:2010/12/18(土) 23:03:11 ID:4ktEaWFo0
待ってますぜw

137名無しの魔導師:2010/12/18(土) 23:14:02 ID:zqZWl6cc0
凌辱やリョナはノーサンキュー! 俺は純情な不純異性交遊が見たいんだぜ!

13881 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/18(土) 23:46:15 ID:FUDpxGqs0
まず最初に謝っておく。直接的なエロはない!
後短編も本編も書くのが進まない!ちらしの裏に書いてろ状態でごめんねおじさんごめんね

13981 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/18(土) 23:46:50 ID:FUDpxGqs0
<くっ……ぐぬぬぬ…っ!!>
「もう、シンちゃんてば普段は聞き分けいいのにどうしてお風呂は駄目なのかしら……ほーらっ!」

 必死に両前足で踏ん張り、無駄な抵抗を試みるシンの両後ろ足を掴んだ桃子が、声と共に再びそれを引っ張った。
 爪を立てればもう少し抵抗もできようが、シンは床を傷つけることを嫌ってそれをしない。結果小さな肉球の摩擦力のみを頼りに桃子の腕力へ対抗しなければならず、今のところシンは桃子を相手に連敗記録を更新中だった。

「ちゃんと洗わないと、駄目、です、よっ!!」

 あおん、と悲しげな声と共に、シンの身体がずるずると滑り始める。一度崩れた均衡を取り戻すことはかなわず、かくしてとても賢いとご近所にも評判のウルフドッグ(推定)は風呂場へと拉致されていった。

「いってらっしゃーいー……っと」

 何度も続く光景にもすっかり慣れたなのはは手を振ってシンを送り出すと、さてととベッドに座り込んだ。
 両足を引き上げ、窓のほうを向いてベッドの上にぺったりと座り込んだ形になる。
 なんとなく扉のほうを向いて静かであることを確認すると、こっそりと――誰がいるというわけでもないが――あくまでこっそりと、なのはは胸元からレイジングハートの端末、紅い宝玉を取り出した。
 シンがいないうちに、一度やってみたいことがあったのだ。
 きっかけは、先週見た『夢』だ。普通に見る夢との境界はあいまいだが、なのははシンとの接続のせいか望むと望まざるとに関わらずシンの記憶を夢で垣間見ることがある。ほとんどが不快な、あるいは胸を締め付けられるような記憶なのだが――その時は、違った。
 皺のよったシーツを背景に、視界いっぱいに広がるのは美由希と同じか少し上程度の年頃の、赤い髪を持った女性の顔。今まで見たことも、考えたことすらないような複雑な表情をしていた。
 痛いような、嬉しいような、悲しいような、そんな全てが入り混じった表情で涙を流し、叫び、歓喜の声を上げていた。
 暗い照明の中に、一つになった二人分の影が写る。密着する肌は露で、ベッドが軋むたびに汗が飛び散り、そして――

「〜〜〜っ」

 感触そのものは共有できず映像を見ているようなものだったが、アレが何だったかはなのはも知識として知っている。

――セ、セッ……セッ……セック…………え、えっちなことだよね、あれ。

14081 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/18(土) 23:47:28 ID:FUDpxGqs0

 えっちなこと。いけないこと。好きな人とすること。桃子から聞いた内容や授業の内容がぐるぐると脳内を駆け巡り、それを考えるたびに腰と尻の間くらいの位置に奇妙な空洞感が浮いてくる。
 それをどうにかしたい。どうにかしなければならない。よくわからない本能的なものに突き動かされ、なのはは考えをめぐらせた末に一つの結論に辿り着いた。

 似たようなことをしてみればいい。真似をしてみれば、何かわかるかも知れない。
 さりとて、これが『いけないこと』である以上、家族やシンの目がある場所でやってはいけない。それよりも、シンに見られでもしたら恥ずかしさで死んでしまいそうだ。
 故に、なのはは待っていた。いつもそばにいるシンが問答無用で桃子に拉致されるタイミングを。
 時は今だ。やるのは今だ。
 何度も宝玉を見つめ、踏ん切りがつかずに仕舞いなおし、また取り出しては見つめを繰り返し。時間を無駄にはできないと考えていたのに、どんどんと時間は過ぎていく。
 ふと目をやった時計の分針が驚くほど進んでいた事に気づき、なのははぎゅっと目を閉じた。

「……っ!!」

 幾度もの葛藤を乗り越えたになのはは大きく息を吸うと、いつものように宝玉に口付けてコマンドを口にした。

「――セット、アップ」

 瞬時に魔法陣が現れ、宝玉の周囲を取り囲む。1秒もしないうちに弾けた光から現れた杖、レイジングハートとしての外装を、なのはは危なげなく受け止めた。
 服まで変化させる必要はない。今欲しいのは、この外装だ。ただし今回の使用目的は、これの本体であるシンが想定しているものと大分異なるのだが。
 ごくりと唾を飲み込み、なのははシンの瞳に似ている宝玉を覗き込んだ。
 外装の赤い宝玉に自分の姿が写っている。正面をいびつに引き伸ばされ、自分がどんな表情をしているかはよくわからない。
 心音が耳の中で鳴り響く。勝手に皮膚が開いていくような感触と共に、暑くもないのに額に汗が浮かぶ。
 『これはいけないこと』という漠然としているくせに強固な枷を振り切るように、なのはは思い切って舌を伸ばした。

「――んっ」

14181 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/18(土) 23:48:15 ID:FUDpxGqs0

 ぴちゃ、と唾液の音が部屋に響く。思ったよりも大きく響いた気がして、なのはは慌てて周囲を見回した。

「…………」

 窓から見える青空、薄く陰のさした室内、シンの寝床として置いてある毛布。どれも、何の変化もない。いつもと変わらない、のどかな午後である。

「……ふぅ」

 誰かが見ていたりするはずはないのだが、何故か周囲を気にしてしまう。これがあまり褒められた行為ではないことを知っているだけに、ちょっとしたことでも気になって仕方がないのだ。
 ……しかし、それで止めようとは思わない。思えない。
 初めての行為への背徳感も勿論ある。夢で垣間見た、『本物』への好奇心も勿論ある。だがもっと根源的に、行為への欲求があった。シンに取り込まれた時かそれとももっと以前、血の臭いがするシンの背に顔を埋めていた時か。
 いつからなのかは覚えていないが、今の自身の中にどうしようもない欲求が芽生えていることを、なのはは今はっきりと自覚していた。

――もっと。

 ベッドの脇に置いてある毛布に手を伸ばすと、鼻を埋める。シンの特質からして体臭が残っているは思えないが、それでもどこか『シンの臭い』を感じられる、気がする。

「はふ」

 毛布を太ももの上に置き、外装を抱きしめた。もっと舐めたい。この形を覚えたい。臭いが欲しい。より明確に形を成してきた欲求――欲望に引きずられるように、なのはは再び外装を抱きしめ、宝玉に舌をつけた。

「ん、ふ」

14281 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/18(土) 23:49:13 ID:FUDpxGqs0

 三日月のような形をした部分に手をかけると、顔にくっつけるまで引っ張る。宝玉を半ばまで頬張ると、口の中でその丸い端を舌先でちろちろと擦った。
 もっと近くに、もっと深くに、この身体全てで。
 既に密着しているというのに、後から後から湧きあがる欲望は際限なくなのはの脳を侵していった。
 三日月に沿って舌を這わせながら、手をかけていた部分を肘まで抱え込む。
 垂直に立てていた外装を少し奥へ寝かせ、胸元の中央を当てるようにして擦り付ける。
 段々と上体を外装に預けていったなのはは、しまいには外装の石突近辺にほとんど乗りかかりながら両太ももの付け根で毛布と石突を強く挟み込んだ。
 あの時の、力強い硬さ。
 あの時の、暴力的な動き。
 あの時の、心まで染め上げられそうな赤さ。
 あの時の、深い深い血の味。
 耳も、口も、鼻も、目も、そして身体も、心すらも全て染め上げられていく、あのうねりが忘れられない。

「ふ、ぅ……くぅん」

 乾いた旅人がわずかな水の雫を求めるように、なのははますます行為に没頭していく。抱きしめた腕をも擦りつけ、自分の唾液にまみれた三日月に頬擦りし、もじもじと太ももを擦り合わせた。
 足りない。足りない。足りない。
 いつまで経っても、何度舐めてみても満たされない。『これでいい』と思えない。こんなものでは満たされない。棒の部分を抱きしめ、胸の間に外装の握り部分を擦り付ける。満たされない。もっと強く、密着するように太ももで外装を締め付ける。満たされない。
 もっと違うものがいい。本物が欲しい。もっと。もっと。もっと。
 虫の鳴き声のようにうずく腹の奥の何かが、早鐘のように心臓の音が鳴り響く頭の中が、自分のもっと奥に、もっと下にあるものが欲しいと言っている気がする。
 混濁した思考では、それがよくわからない。下――どこの? 自分の? それともこの外装の? 本物なのだから、シンの?
 混濁しているなりに今あるものへ思考を当てはめたなのはは舌でなぞる位置を少しずつ下へ、薄く唾液を引きながら――
 頭の位置をずらそうと、身体を前に折り曲げた瞬間。

14381 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/18(土) 23:51:13 ID:FUDpxGqs0

<あーくそ、酷い目に――>

 なのはの背後でがちゃりと部屋の扉が開き、前足で扉に寄りかかるようにしていたシンが入ってきた。

「ひゃわぁあぁぉああ!? っぐきゅ!!」
「っ何だァ!? 何やってんだお前!?」

 なのはは奇妙な体勢に身体を折ったまま飛び上がり、つぶれた悲鳴を上げる。前傾して外装に絡むようにしていたため、世にも珍しい『直線の棒にコブラツイストを受けている』ような状態で固まってしまった。
 部屋に戻ってくるなりそんなものを見せられたシンが思わず『声』でなく音としての声を出してしまっても、それは仕方ないことだろう。
 シンが慌てて近づいてくる足音を聞きながら、なのはは二種類の恥ずかしさで死にたい気分を味わっていた。



「――……ふがっ?」

 びくん、と身体が痙攣したのを感じ、なのはの意識はふわりと形を取り戻した。暗い。静かだ。少し寒い。はっきりしない頭のままで首を起こし、周囲を見回して、ああそうかと状況を理解する。
 夢、だ。
 カーテンの隙間から見える空は完全に夜、空気も暖房が切れていたせいか肌寒く、シンの寝床にしていた毛布も今はクローゼットの中に仕舞われている。抱きしめているのは、冬仕様のもこもことしたクッションだ。

 シンは、いない。枕元にいつも寝ていたあの黒い狼は、ここには――……どこにも、いない。

 口の端から垂れていたよだれを拭い、なのははごそりと毛布と布団を被りなおした。小さく身体を丸め、胸元の小さな宝玉を抱きしめる。
 胸の中で勝手に膨らんでいく感情をかみ締めながら、『あの時』のシンと約束した内容を思い出して呟く。

「…………帰ってくるって、言ったもん。私が強く呼べれば、帰ってくるって言ったもん」

 そういった後、更に自分に言い聞かせるように小さく小さく何事かを口の中で呟くと、なのはは暗闇の中で再び目を閉じた。

14481 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/18(土) 23:52:56 ID:FUDpxGqs0
以上、記憶のカケラの一つでごぜーました。
いや、たまに書くエロはいいね。疲れてるとたまに異常にビンビンになって困るよね
でも幼女を自分の思うように洗脳した挙句放置プレイかますこの時点の犬師匠ってきちk

145名無しの魔導師:2010/12/19(日) 00:30:06 ID:yWmFk4HgO
>>144
GJです、幼い頃から調教だなんて…シン…恐ろしい子!


やっぱりエロいのは文でも絵でも難しいですね。













http://imepita.jp/20101219/015220

146名無しの魔導師:2010/12/19(日) 00:51:02 ID:LVWapPvcO
これで俺はあと10年は戦えるな

14781 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/19(日) 01:01:06 ID:uPZij4Rg0
これはえろいそして早い素晴らしい


けど見た瞬間思い出したのがウホッな男性がケツに顔埋めてるあのAAだっ(ry

148名無しの魔導師:2010/12/19(日) 01:03:05 ID:LSQ2PAAs0
>>144GJですぜ!
犬師匠は・・・・ほれなんというか見た目だけは青年少年型だが実際はもうおっさんおじさんの類
だから自分でヤろうと思わないと手をつけない紳士なんですよ!

149名無しの魔導師:2010/12/19(日) 01:04:10 ID:LSQ2PAAs0
あれ・・・・・・・・・・・・・・そういえばもしかして犬師匠絶賛行方不明中?

15081 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/21(火) 01:17:28 ID:Nl3POORA0
ネタバレ:犬師匠は行方不明になる

やっぱ短すぎて文章も違和感で後から書き直したい感があとからひしひし

151名無しの魔導師:2010/12/21(火) 18:51:38 ID:etZJ0w1o0
書き直してもイイノヨ?

15281 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/21(火) 20:25:23 ID:Nl3POORA0
うーん、何かぐっと来るシチュエーションとかアイデアないかい?エロで。
正直やり方変えないとしぼむ一方なのでいっそ読者に聞いてみる
ただしダイレクトは無理という

153名無しの魔導師:2010/12/21(火) 20:38:11 ID:hbIPmw4k0
放置プレイもグッと来たけど「やっぱり愛だよね!」・・・・・と戯言を洩らしてみます

154名無しの魔導師:2010/12/21(火) 21:59:05 ID:Gzi5PAOk0
ある日敵によって撃墜され無人島で二人っきりになる→救援が来るのは明日→冷え切った体を温める為裸になって抱き合ううちにレェーッツ!!! コオオオオオオオンバイイイイイイイン!!!!  なんてどうです?

15581 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/22(水) 00:17:26 ID:xCN3zFzo0
>>153
離れ離れになっても相手を感じていられるって愛ですよね!

>>154
犬師匠は既に全裸な件について

156名無しの魔導師:2010/12/22(水) 01:32:10 ID:rWf0LFp2O
>>152
そろそろ12月24日、つまりはクリスマス・イブ
エッチなイベントも、えっちぃシチュエーションも何でもイケる素晴らしい日ですよ

157名無しの魔導師:2010/12/22(水) 18:12:17 ID:ckbSvwFM0
>>155
犬師匠って結構駄目な病気抱えててねちっこくねっとりみっちり攻めるタイプだと思うんですけどどうですか?

15881 ◆dRvFDbWwdQ:2010/12/23(木) 09:23:26 ID:89D2XvDA0
びょうきがなんのことかぼくわかりません!
犬師匠はねちっこいです。超絶年寄りだから。
物理的にみっちりです。触手だから。

レッツコンバインはダイレクトだからNGとして、もっと愛ある風味にどうにか書き直しますかねー…

159名無しの魔導師:2010/12/23(木) 17:51:40 ID:YU96bIAg0
犬師匠ってもう攻めるときはもう邪悪な笑いを浮かべながらドSに攻めるのが似合いそう

160名無しの魔導師:2010/12/24(金) 23:21:36 ID:TGrNH78g0
犬師匠との愛の結晶としてユニゾンデバイスじゃない妖精型生体支援デバイス組んでみるとか?
魔力とかは勿論精製出来無くて犬師匠となのは両者からの口腔接種とry

161牡羊座の男 ◆gG8DSBgs4A:2010/12/25(土) 01:45:22 ID:dZNQ/IdA0
雑談の>>409見てなんか電波が降りて来たんで投稿 R18注意
作者はエロ描写初挑戦&童貞なんであんまり期待しないで



タイトル「オペレーターはサンタクロース」


それはある年のクリスマス、はやて主催のクリスマスパーティーが終わった後の出来事、ジュースと間違ってお酒飲んで酔いつぶれてしまったフェイトを部屋に運んであげた時の出来事だった。

「うへへー、シンにお姫様抱っこされてるー。ひっく!」
「飲みすぎだぞフェイト……明日仕事なのに大丈夫なのか?」
「へーきだよへーきー。」

俺は完全に酔ってるフェイトをベッドに運び寝かせる。

「それじゃ俺部屋に戻るから、明日はちゃんと起きれよ……?」

ふと、フェイトは俺の服を掴んでくる。

「やーだ! シンと一緒にねるのー! 行かないでー!」
「おいおい無茶言うなよ……うわ!?」

有無も言わさずフェイトは俺を力ずくでベッドの中に引き込む。そしてあろうことか上着を脱がせ始めた。

「フェイト! いい加減に……うぅ!?」
「もー、乳首触っただけで反応しすぎだよー、でもそこが可愛いよねー。」

そう言ってフェイトは俺の乳首を指や舌で玩ぶ、そうされただけで俺は力が思うように出せなくなり体の芯が熱くなって行くのを感じていた。

「フェイ……! やめっ……!」
「シンの体って引き締まってていいよね、流石は元軍人さんだ。」

フェイトは完全に悪酔いして普段の規律正しい彼女とは全く別人になっていた、そしてフェイトは俺の下半身に狙いを定める。

「ば、バカ!チャックを開けひゃうん!?」
「うわわ……もうビンビンだね、それ!」

そして俺のビンビンにたっている息子を右手でがっちりつかむと、上下に動かしてしごき始めた。

「ぐおおおおお!!!?」
「そーれ! ぴゅーっといっちゃえー!」

俺は必死に息子から吹き出そうとする物を抑えようとするが、それも空しく宙に白濁とした物が息子から射出された。

「ああああ……なんて事を……。」
「いえーい! 私の勝ちだねー、シンって普段は生意気なのにこういう事は全然駄目なんだねー。」
「なんだと……!?」

俺はフェイトのその言葉にちょっとムッと来てしまった。

162牡羊座の男 ◆gG8DSBgs4A:2010/12/25(土) 01:50:31 ID:dZNQ/IdA0
「このやろう……酔っているから優しくしてあげれば調子乗りやがって……!」
「? どしたのシン?」

空気を読まずフェイトは馬鹿犬の如く可愛らしく首を傾げる。対して俺はすぐ近くに置かれていたバルディッシュに語りかけた。

「バルディッシュ……“M・Hプログラム”発動、フェイトにソニックフォームを着せた後両腕にバインドを掛けろ。」
『イエッサー。』
「え!? バルディッシュ!?」

その瞬間、フェイトははだけたワイシャツ姿から真ソニックフォームの格好に変わり、両腕には金色のバインドが掛けられていた。

「ど、どうしてシンがバルディッシュの制御を!?」

すっかり驚きで酔いが冷めたフェイトは訳が分からないといった様子で俺を見てくる。

「これは……ツインテールのサンタが俺にくれた力さ……!」


〜一週間前、ツインテールのサンタとの会話〜

『シンってさー、フェイトさんと付き合っているんだよね? それじゃはいコレ、このプログラムを今整備中のバルディッシュに使えば思うがままに制御できるよ。え? なんでこんなことするかって? だって……私のせいでシンとお姉ちゃんに辛い思いさせちゃったし……新しい恋はちゃんと成就してもらいたいんだ、よくわからない? んふふー、その時になればわかるよー。』

〜終〜

「ありがとうメイリ……サンタさん、こういう事だったんだな、というわけで覚悟しろ。」
「ちょちょちょちょっとまってシン……ひゃう!!?」

俺はフェイトをベッドに仰向けに寝かせると、彼女のたわわな胸の先に付いている乳首をバリアジャケット越しに玩ぶ。さっきのフェイトよりも多種多様な手段で。

「ふぁ! んんっ……!」
「さっきはよくもやってくれたな……3倍返しでいくぞ。」カプッ
「ああっ!? 歯を立てちゃ駄目!」

次に俺はフェイトの半身を起こすと後ろから彼女の胸を上下左右に揉み始めた。

「やあ……! もっとやさしく……!」
「いやらしい格好しやがって、まさか俺に犯されたいからこんなデザインにしたのか? とんだ変態だなお前は。」
「ち、違……あああんっ! 乳首抓っちゃやぁ!」

フェイトは顔を昂揚させ、口からはだらしなくよだれを垂らし 目からはうっすらと涙を浮かべながら、俺にされるがまま玩ばれ続けた。

163牡羊座の男 ◆gG8DSBgs4A:2010/12/25(土) 01:51:40 ID:dZNQ/IdA0

「ん……?」

ふと、俺はフェイトの股の部分を触ってみる、するとおれの指にはねっとりとした液体が付着していた。

「はははは……ちょっと玩んだだけなのに……そんなに俺とやりたいのか?」

俺はフェイトに指に付着した液体を見せる、するとフェイトはさらに顔を赤くして顔を逸らした。

「ち、ちがうよぉ……!」
「え? そうか違うのか……じゃあやめよう。」
「え!?」

俺の予想外の返答にフェイトは目を見開く、それを見て俺はにやりと笑った。

「ん? どうした? やってほしいのか? やめてほしいのか?」
「っ……!」

フェイトは体を小刻みに震わせながら俺の方を向き、自分から足を開いた。

「やって……ほしいです……。」
「よしよし、フェイトは素直でいい子だな、ご褒美に腕のバインドは取って……。」

するとフェイトは首をふるふると横に振った。

「……このままがいいです……。」
「はっはっは、やっぱフェイトは変態さんだな。」

そして俺はフェイトを再び仰向けに寝かせ足をM字開脚させる。そして……彼女の秘部を覆い隠す黒いバリアジャケットを横にずらす。

(うん、よく濡れてるな……これなら入りやすいだろ。)

そしてそのまま先程フェイトに玩ばれた自分の息子を彼女の秘部にヌヂュっと音を立てながらねじ入れる。

「んんんん!!!」
「大丈夫か? 痛くないか?」
「だ、大丈夫……! へいきだよ……!」

フェイトは縛られている手でシーツを力一杯握り締め自分の体の奥底から来る快楽を必死に抑え込んだ。

「動かすぞ。」
「んぁあ!! あぁん!」

俺が腰を動かす度、彼女は乳房をリズミカルに揺らしながらあえぎ声をあげる。そしてしばらくすると俺は体の中から何かが吹きだすような感覚に襲われた。

「ぐうっ……! やばい出るぞ!」
「い、いいよ! 中に出して……!」

フェイトは覚悟を決めてシーツを掴む手の力を強める。

「い、いくぞ! うおおおお!!!」
「んああああああ!!!!」

そして俺は彼女の中に何度も射精した。

「うお……! ぐぅ……!」
「んあ! やぁ! あちゅい!、赤ちゃんがれきちゃうよぉ!」

164牡羊座の男 ◆gG8DSBgs4A:2010/12/25(土) 01:52:39 ID:dZNQ/IdA0

それから一時間後、情事を終えた俺達は汗と精液にまみれたままベッドでぐったりと横たわっていた。

「あーやばい……こりゃ明日遅刻するな……。」
「そ、そうだね……。」

俺達は明日の朝の事を考えて憂鬱な気分に陥る。

「いっそこのまま朝までやっちゃう?」
「なにその“名案じゃない?”って顔、流石にそれは……んっ」

俺の言葉が言い終わるより早く、フェイトは俺の口を自分の唇で塞いだ。

「さっきはやられっぱなしだったけど……今度は負けないよ!」
「しょうがないな……。」

そして俺達は再び肌と肌を重ね合わせ、そのまま第二ラウンドに突入した……。



その後、調子にのって朝まで交わり続けた俺達は寝不足と疲れで殆どちゃんと仕事ができなかったあげく、六課のみんなからは「ゆうべはおたのしみでしたね。」と言われ恥ずかしい思いをするのだった……。

165牡羊座の男 ◆gG8DSBgs4A:2010/12/25(土) 01:53:23 ID:dZNQ/IdA0

はい、いかがだったでしょうか? エロゲもやった事のない男の文章は……リア充に対する怒りの勢いで書いちゃ駄目だね。

166名無しの魔導師:2010/12/25(土) 02:17:40 ID:Anhen2tgO
聖夜に性夜が舞い降りた。GJですな

しかし……シン君は早漏だったのかぁ……

167名無しの魔導師:2010/12/25(土) 11:30:32 ID:Dl998NTI0
GJ
まさに恋人同士の聖夜ですね
そして冒頭のだけどこの二人のお姫様だっこはとても様になりますね

168名無しの魔導師:2010/12/25(土) 19:28:24 ID:NDwWlvdkO
>>165
ソニックフォームを着せてプレイするなんてシン・・・・・・恐ろしい子。

169名無しの魔導師:2011/01/01(土) 19:34:31 ID:2fVTgnfg0
age

170名無しの魔導師:2011/01/04(火) 22:25:03 ID:n2Lbdwg.O
それよりもだ
何で誰もメイリンのスペックの高さに突っ込まん!?
下手すりゃ姉よりも優秀だぞ?

171名無しの魔導師:2011/01/04(火) 22:41:59 ID:wbtkx9yc0
何をしたいのかよくわからなかったし
GジェネでMSに乗せたら悪い意味でオペレーターとは思えん発言をしやがったので
俺としてはどうでもいい

172名無しの魔導師:2011/01/05(水) 05:52:09 ID:pqpWyjCo0
メイリンと聞くと未だにセーブ係のメイリンさんを思い浮かべる
あっちはステラの中の人だけど

173ロッベン ◆fgMrdXS3aI:2011/01/16(日) 17:03:56 ID:UCLetkMw0
お久しぶりです。
最近また創作意欲がだんだんと増してきたので、リハビリがてらに短編を書きました。
30分後くらいに投下しようと思います。

174ロッベン ◆fgMrdXS3aI:2011/01/16(日) 17:33:09 ID:UCLetkMw0
では、いきます

175ロッベン ◆fgMrdXS3aI:2011/01/16(日) 17:35:10 ID:UCLetkMw0
「ん・・・朝か・・・」
窓から差す光が俺の視界を眩く照らし出し、一日の始まりを告げていた。
「よっ、と」
俺は一度大きな伸びをした後、アスランと共同で使っている二段ベッドを出た。
ベッドを出た後、上の段を確認したけど相変わらずアスランはいなかった。
「よし、俺も行くかな」
俺は壁に掛けてあるいつものザフト軍制服に手をかけ、それに着替えた。

もうこれ着るのも何年目になるんだろうな。

そのまま洗面所で顔を洗って鏡を睨んで気合いをいれた。いつもの習慣だ。
俺はそのまま部屋を出て、アスランがいるであろう訓練場を目指した。
(本当に毎日毎日よくやるよなアスランも。俺にはあそこまで自主的に朝練をやろうとは思わないけど)
まぁ、楽しいからいいんだけど。
心の中でそんな事を愚痴り、すれ違う人に軽く挨拶しながらそこに着くと、いつものように盛大な音が聞こえた。
(またやってら、あの二人。)

『アスラ〜ン、高町〜、お前ら相変わらずやりすぎだろ。破壊音が外までまる聞こえだぞ』
どうせ直接言っても聞こえやしないだろうからわざわざ通信で直接呼び掛けた。
すると、一応二人は止まってくれた。
「シン。おはよう」
「あぁ、おはよ。フェイトは?」
「いるよ。そこ」
高町は、ほら、といいながら指をさした。
俺がそれにつられてその方向をみると、確かにフェイトが何か呟きながらバルディッシュを振り続けていた。

「やる気満々みたいだよ?」

(高町、そんなに嬉しそうに笑わないでくれよなぁ・・・)

フェイトは俺に気付いてないみたいだからこのまま無視してもいいけど、それじゃ俺が来た意味がない。
仕方ないか・・・

「フェイト」
「ん?シン」
フェイトは俺の姿を確認した瞬間に、やっと来たか、と言わんばかりの好機の目で見てきた。

「始めようぜ。デスティニー」
「遅いよ。負けるのがそんなに嫌?」
「言ってくれるね」
俺もスイッチが入り、フェイトに挑発的な視線を浴びせ、デスティニーを起動させた。

「バルディッシュ、出来るね?」
『Of course,sir』
フェイトは一度マントを羽ばたかせて足を広げ、腰を少し下げた。
「いつでもこいよ」
「・・・」
フェイトは微動だにせず、腰を下げたまま俺を睨んでいる。
(突っ込んでくる気か?
でも、それならこっちから行けばいいんだ。)
俺は足に力を込め、背面スラスターを目一杯ふかしてフェイトに急接近した。

「・・・」
しかしフェイトは全く動こうとしない。
それをみた俺はアロンダイトを抜こうとしていた手を放し、スピードに乗ってそのまま左手を突きだした。

「らぁあああぁぁあぁああぁぁ!!!」
左手に魔力を集め、その手が白く発光する。
俺は、そのままフェイトめがけてそれを爆発させようとした。

「・・・ちっ!!」

しかし、俺はフェイトに手が届いた瞬間、左手で何かを掴んだまま、すぐに右手でアロンダイトを抜き、体を捻って後方に振る。
すると俺の予想通り、ガン、という何かがぶつかる音がした。
「ちっ・・・速いな相変わらず」
「シンくんこそ」
フェイトはバルディッシュを俺のアロンダイトとつばぜり合いをさせながらそう言った。

「ほら、マントは返す!!」
俺は左手に掴んでいたフェイトのマントを目の前に広げで一瞬フェイトの視界を遮り、そのまま大きく後退した。

でもまぁそう一筋縄ではいかないんだろ・・・
そう思った瞬間、果たしてフェイトはマントを切り裂き、こっちに迫ってきた。

(自分のマントだろそれ・・・)
俺は腰のビームブーメランを二つ前方に投げ飛ばし、背面スラスターをふかして浮上した。

「よっ、らぁああぁぁああぁあぁ!!」
腰のケルベロスを持ち上げ、フェイト目掛けて高出力ビームを発射する。
もちろんフェイトがそんな攻撃に当たるとは思っていない。
俺はひたすらフェイトを追いかけて銃口を変えていく。

ちっ、当たらないか・・・

俺はケルベロスを下ろし、眼を閉じてアロンダイトを両手で正眼に構え、赤のウィングを広げた。その瞬間、ウィングから大量の緋色の魔力が翼を形成する。
その間にもフェイトはプラズマランサーを発射しながら近づいてくる

176ロッベン ◆fgMrdXS3aI:2011/01/16(日) 17:35:50 ID:UCLetkMw0
「・・・よし!!」

俺は眼を開け、迫り来るプラズマランサーを全て切り裂き、フェイトに肉薄した。

大丈夫だ・・・見える・・・

俺は、フェイトがバルディッシュを振りかぶるのを見て、ぎりぎりのタイミングと最小限の動きで回避し、そのままカウンターを合わせた。

「なっ!!?」

フェイトが小さく叫んだ時、アロンダイトは既にもうフェイトの懐に入っている、そういう確信があった。
バルディッシュがオートで障壁を張ったが、防御に集中して魔力を込めていないような障壁で俺の身長ほどの長さのある大剣は防げっこない。

バリン、という破裂音と共にフェイトは後方に吹き飛ばされた。

俺は常にフェイトを視界に捉える努力をしながら、訓練場に設置されたビルに激突したのを見て、直ぐにケルベロスを腰に担ぐ。

「まだまだぁああぁぁあぁあぁああああぁぁ!!!」

そのままフェイトがぶつかった場所にビームを放つが、俺の予想通りその場所には既にフェイトはいない。

どこ行った?
一番怪しいのはあのビルの中・・・
ん・・・?

フェイトを探そうとした瞬間、手足にいきなり違和感を感じた。

「これは・・・ちっ・・・しまった」

気づいた時には遅く、俺の腕、脚には四角い設置型のバインドがかかっていて、周囲には大量のプラズマランサーが展開されていた。

「くそ・・・あの時か・・・」

俺がフェイトの障壁を破った時、確かにフェイトにしては策がないとは思った。間に合うか?
俺がバインドを破る時間と、すべてのプラズマランサーが俺に当たるまでの時間は正直わからない。

しかし、俺の希望とは裏腹に、フェイトが目の前に現れる。

あれは、なんだ?

フェイトは右手を上に挙げ、その上には魔力が集まっている。そして、それはどんどん細長くなっていく。そう、まるで巨大な槍のように・・・

「まさか!!?くそっ!!くそっ!!!」

俺はバインドを破るのに躍起になるが、それはかなり綿密な魔力で練られていて、破るのは一筋縄ではいかない。
俺はこっちに接近するプラズマランサーを確認して、手の甲にあるシールドに魔力を大量に流し、魔力のシールドをかなり大規模に張った。

「くそ!!くそぉぉおぉ!!!」

プラズマランサーが残り半分を切ったとき、俺はかなりの数のプラズマランサーを喰らっていたが、バインドはほぼ破れていた。

あのでかいのには間に合うか・・・

177ロッベン ◆fgMrdXS3aI:2011/01/16(日) 17:36:26 ID:UCLetkMw0
俺は片腕でアロンダイトを振るい、いくつかプラズマランサーを切り裂いていく。

その時、無情にもフェイトの合図が聞こえた。

「スパークエンド!!!!」

フェイトの頭上に槍のように形成された魔力が高速で俺に迫ってくる。

「こんなところで、こんなところで!!!!」

俺はすべてのバインドをちぎり、アロンダイトを構え直す。

「あぁあああぁぁあぁああぁあぁあああぁあぁあぁあああぁぁ!!!!!」

回避の余裕は・・・無い!!!

俺はそれ両手で持ち、前方に突き出してそのまま体とアロンダイトを一直線にして突き進んだ。

スラスターが全開でふかされ、早く蒸気を排出しないと俺が火傷しそうな程の熱が篭っている。
俺はさらに自分の後方にケルベロスを持たずにそのままビームを発射する。
それも使って俺自身を支え、そのまま突き進み、ついにフェイトの槍状の魔力を切り裂き、そのままフェイトに肉薄した。

「おぉぉおぉちろぉぉおおぉおぉぉおおおぉおぉ!!!!」

フェイトは破られるとは思わなかったらしく、回避するには一瞬遅い。

今なら・・・今しかない!!!

俺はデスティニーの翼にさらに魔力を注ぎ、さらにスピードをあげる。

アロンダイトを思いっきりフェイトに突き立てるが、その前に障壁に阻まれる。

わかってんだよそんくらい!!!

俺はアロンダイトを握っていた左手を離し、その手をフェイトに伸ばす。

「まだまだぁああぁああぁああぁあぁぁあぁあぁ!!!」
「しまっ・・・」

フェイトが驚きの表情を見せるが、もう遅い。
俺は白く発光し始めた左手でそのままフェイトの障壁を一瞬で突き破る。
俺はスラスターとウィングの魔力を最大にして、トップスピードのままフェイトの頭を掴み、魔力を爆散させた。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

よし・・・勝った・・・

俺はそのままゆっくりと降下し、地面に着いた瞬間へたれこんだ。

しばらくしてパルマフィオキーナで吹き飛ばされたフェイト、高町、アスランがこっちに歩いてきたのが見えた。

「訓練前の早朝練にしては、ちょっとキツすぎないか?」

俺が三人を見上げながらそんな弱音を吐くと、なのはもさすがに苦笑していた。

「あれはね・・・さすがにやりすぎ。二人とも本気だった?」

「それはないさ」
「それはないよ」

語尾以外見事にハモった。

「まぁ・・・いいけどね。でもその様子だとシンくんは私とは無理かな?フェイトちゃんも、アスランくんともう一戦やる?」

「俺はいい。疲れた」
「私もさすがに止めておくよ」

高町はわかっていたかのように続けた。

「うん、じゃあ戻ろっか」
「よっ・・・と、そうだな。ちょっと疲れたわ」

俺はデスティニーを解除し、アスランと一緒に訓練場を出た。
しばらくお互い無言だったが、アスランが先に口を開いた。

「お前、相当真剣にやってたみたいだな」
「まぁな、でもあの感覚は来なかった」
「あれは、かなり偶発的に起こるものみたいだからな」
「ま、いざって時に使えればそれでいいよ」

俺はアスランとそんな言葉を交わしながらシャワールームに入る。

「ふぅ・・・」

最近、全力で戦ってる気がしない。もちろん、模擬戦だって手を抜いてるつもりはないし、フリーダムと戦ってる時はお互いこれ以上ないくらい真剣に戦ってるつもりだ。
でも、やっぱり死の恐怖があまりないからだろうか、なぜか全力で戦ってる、っていう実感がない。
命が懸かっている時の、火事場の馬鹿力、とでもいうような集中力がない。
フリーダムはいつも非殺傷設定で戦う。
普通に考えば、俺はここに来てすぐのフリーダムとの戦いで、あのミーティアとかいう武装の砲撃をモロに受けた時点で死んだはずだ。
なのに俺は、生きている、いや、生かされた、フリーダムに。

考えるだけで胸くそわるい話だった。
俺はやや乱暴にタオルを取ってシャワーの栓を閉めた。

178ロッベン ◆fgMrdXS3aI:2011/01/16(日) 17:36:58 ID:UCLetkMw0
俺は、フリーダムより弱いのか?
こっちの世界でも何度もむこうの世界でもなんどもぶつけた質問をまた自分に問うてみる。

レイと一緒にフリーダムの対策を練っていた時期を思い出す。
フリーダムを突き刺したあの感覚は、まぐれ当たりだとは思わない。確かにあの時はフリーダムは母艦を意識しながら戦ってた。だからといって手を抜いたとは思えない。自分だって死にたくないはずだ。
俺とレイはフリーダムの動きを研究し、二人で考え抜いて勝利したのだ。

くそ・・・わからない・・・
感情をぶつけるようにタオルで頭をぐしゃぐしゃに掻き乱してみた。

こっちに来て、機動六課に入ってすぐの時は完膚なきまでに叩きのめされ、特大の砲撃までもらった。
あの時は俺も完全に頭に血が上って、何も見えてなかった。

デバイスの性能差は、、、あるかもしれない。あのドラグーンっていう遠隔武器は戦闘を有利に持っていける。
それに、スピードも一流だ。あのデスティニーと似た蒼の魔力の翼、あれが相当なスピードを出してる。
さらに、武器の数も相当ある。
でも・・・
「それだけか?」
「ん?シン?」
(やば、声出てたか)
俺は何事もないように取り繕う。
「いや、別に」
アスランも特に気に留める様子はなかった。
「そうか、このまま朝食をとったらすぐに午前練だぞ」
「わかってるさ。行こうぜ」
俺はアスランと食堂に向かった。

そして食事のあと、身支度を整えまた練習場にいく。そこには俺以外の全員がいて、各々準備をしていた。
「あれ?俺最後?」
「シン、五分遅刻だ」
アスランが俺にそう耳打ちした。
「まじ?」
「あぁ」
俺はちらっとなのはを見るが別段怒ってる様子はなかった。
「うん、全員揃ったね。じゃあ今日も訓練を始めるよ」
なのはがそう言うとFWメンバー全員がなのはとシャーリーのもとへと集まる。
「今日もいつもと同じ、チームごとに別れて計十五体のガジェットを――」

そのまま午前はいつも通りのメニューを全員がこなした―――


――午後――
「さぁてと。行くか」
昼食を終えた俺は、よっ、と声と共に立ち上がりベッドで休んでいるアスランを尻目に部屋を出た。
俺たちは今日も、午後はスターズとライトニングだけで訓練をする、となのはに言われたので朝練の前に、早朝練、とでも呼ぶべき訓練をした。訓練といってもあれは模擬戦だけど。
ここ最近このケースは珍しくなく、理由は聞かされていない。
まぁ、察するにスバルあたりがもっと強くなりたいとなのはにせがんだのだろう。
そういうことで俺は午後に暇をもらった。
これと言って行くところもないが、部屋にいるのももったいないから町に出ようと思った。
「よっ、と」
俺はヴァイスに借りたバイクに跨がり、エンジンを噴かす。そのまま六課の隊舎を出た。
「出動以外で外出るのいつぶりだ?」
自問自答してみるが答えはでなかった。
「まぁいっか。さて、とりあえずどうするかだな」
俺はそれについて悶々と考えたが、町に出た時にもまだ答えは出ていなかった。
「まぁ、ふらついてればなんかあるだろ」
そうぼやいてヘルメットを外し、バイクから降りる。
さすがに都会とあって人の数は多く、突っ立っていては邪魔になるだけだ。
とりあえず、人の流れに逆らわずに皆が歩く方向に足を向けた。
「こんなにマジマジと町を見たのは、いつぶりになるかな」
そんな感慨にも浸りながら、しばらく俺はあたりをふらふらし、景色を楽しんでいた。

「お、公園」
しばらくして野球の試合ができそうなほどの自然公園にたどり着いた。
しばらく歩きっぱなしだったし、休むのも悪くない。
俺は公園に入って適当なベンチを見つけた。
ベンチは木々で上手く日陰になっており、時折ふくそよ風が肌をくすぐるように撫でる。俺はそのベンチに座ってしばらく風を感じながら和んでいた。
だがしばらくして、ザッザッ、と草を踏む音と共に姿を現した男により、一気に緊張が走った。
「やぁ、久しぶりだね。こうして直接、それも武器も持たずに会うのは、めったにないからね」
「あんた・・・」

179ロッベン ◆fgMrdXS3aI:2011/01/16(日) 17:38:06 ID:UCLetkMw0
俺は目の前に現れたその男、キラ・ヤマトを睨む。
「そんな眼をしないで。別に僕は戦いに来たわけじゃない。君だって好んで戦いなんてしたくないだろ?」
俺はその言葉に、キラ・ヤマトから視線を外す。
「・・・あぁ、こんな綺麗なところで、戦いたくなんかないさ」
「よかった。僕は、君と話をしに来た、それだけだ」
キラ・ヤマトの眼に確かに戦意は感じない。
(・・・どういう風の吹き回しだ?)
俺は警戒したまま、ぶっきらぼうに問うた。
「なんのだよ」
キラ・ヤマトは、一瞬迷うような素振りを見せたが、直ぐに俺の眼を見てこういった。
「君が、機動六課で戦う理由を、聞きたいんだ」
「俺が戦う理由?」
「そう。僕たちは、コズミック・イラ、向こうの世界に帰るためにレリックを集めている。それを君たちが阻止する。だから戦う」
「知ってるさ」
「じゃあ、君とアスランはどうして戦うの?」
「あんたたちだってわかってんだろ?レリックは、厳重に保管していないと危険な代物だ。誰かが勝手に使った場合、何が起こるかわからない。それこそこの町一つ消し飛ぶかもしれないんだ。そんな危険な物をあんたたちが集めようとしているから、俺たちはあんたたちと戦うんだ」
「君は、帰りたくないの?」
「・・・あっちの世界にか?」
「うん」
「・・・」
俺はそこで少し悩む。
(帰りたいか・・・)
「俺は・・・」
キラ・ヤマトも何も言わずに俺を見つめる。
そして俺はゆっくりとこう続けた。
「そこまでして帰ろうとは思わない」
「・・・どうして?」
「・・・俺は、あんたとは違うんだ」
「・・・?」
「確かに、あんたには向こうの世界で守るべきものがあるだろうさ。あのお姫様ってあんたの帰りを待ってるだろうよ。でもな」
俺はキラ・ヤマトを一瞥して続ける。
「誰もがあんたみたいに、大切な人を守れていると思うなよ」
「・・・」
俺は立ち上がり、キラ・ヤマトと相対する。
「あんたは、俺の大切な人たちを奪い続けた。もう向こうの世界で俺を待っているやつなんていやしないさ。俺は・・・あんたを許さない」
「・・・・・・」
キラ・ヤマトはバツの悪い顔をして俺から目を反らした。
「俺は向こうの世界に戻っても、しょせんは捕虜の兵士としてまたあんたたちにこき使われるだけだ。今までもそうされてきたように」
俺はまた続ける。
「アスランに墜とされた俺と、そこにいたルナマリアを捕らえたあんたたちが、俺たちをどう使ったか、知らないとは言わせない」
「それは・・・」
キラ・ヤマトは目を反らしたまま歯噛みする。
「メイリンとアスランのフォローが無ければ、俺はどうなっていたかあんたにはわかるか?」
「・・・アスランから聞いたことはあるよ。僕だって、もっと人道的な扱いを頼んださ」
「俺にはモビルスーツ以外何も残されなかった。守りたい人も、物も、何もかも、失ったんだよ、俺は。負けたから」
「・・・」
キラ・ヤマトは何も言わないが、俺は続ける。
「だからもう、負けるわけにはいかないんだ。絶対に。この世界で得た大切な物を守り抜くために」
「そう・・・」
「アスランはなんでかは知らない。元々よくわからないやつだしな。直接聞けばいいさ」
俺はキラ・ヤマトに背を向ける。
「別にあんたがどう思おうがかまわない。ただ」
俺はもう一度だけキラ・ヤマトの方を振り向く。
「俺の仲間に手を出すなら、容赦はしない。俺の仲間が守ろうとするものを奪うなら、容赦はしない」
「それが君の・・・戦う理由・・・」
「あぁ、そうだ」
「僕と君は、やっぱり相容れないみたいだね」
「・・・」
「ありがとう、話してくれて」
「じゃあな、次会うときは、敵だ」
俺はそのまま歩き出す。やつは追っては来なかった。

「あぁ〜あ、せっかくまどろんでたのにな」
しばらく歩いてから、ちぇっ、と誰にでもなくぼやいて、バイクを停めた場所を目指す。
「面白くねぇ、戻るか」
バイクを停めたところに戻って、ヘルメットを被りながら呟いてみるが、スッキリしない。もやもやした何かが残る。
(アスランが、戦う理由・・・)
分からない。俺には。
俺はバイクのエンジンを入れ、隊舎を目指す。

180ロッベン ◆fgMrdXS3aI:2011/01/16(日) 17:38:39 ID:UCLetkMw0
アスランが六課に味方する理由が分からなかった。アスランだって帰還を望んでいない訳がない。
だったらやつらの味方になれば良いだけ。考えても分からないが、そんなことをぼーっと考えているうち俺は機動六課の隊舎に戻った。
「ただいま」
「あぁ、シン。帰ってきたのか」
「今ね、アスラン一日中ここか?」
「ん?俺はまぁ、オフィスだよ。デスクワークを手伝ってきたんだ」
「休暇なのに殊勝なこって」
俺はなかば呆れながら肩を竦める。
「お前こそ何してたんだ?」
「俺?俺は・・・散歩のつもりだった」
「ん?」
アスランは怪訝な眼で俺を見る。
「公園でぼーっとしてたらな、やつに会ったよ。フリーダムの、パイロット」
「キラにか!?」
アスランはさすがに驚きを隠せずシンに詰め寄った。
「あぁ、俺と話がしたいって」
「何のだ?」
「俺とアスランが戦う理由が知りたいみたいでな」
「・・・そうか。キラらしい考えだな」
アスランはどこか遠い眼でそういった。
俺ささっきの疑問をそのままぶつけてみる。
「アスランはさ、なんで機動六課で戦うんだ?向こうの世界に帰りたいなら、やつらの味方をすればいいじゃないか」
アスランは少し驚いたような顔をし、それに答えた。
「・・・そうだな・・・でも俺は、今のあいつらの味方をしようとは思わない」
「どうして?」
「なんというか、やっぱり何か間違ってる」
「やり方がか?」
「あぁ、わかるだろ?」
「それは分かる」
「だったらそれだけだ。俺は、あいつらを止めなきゃならない。自分が帰るからって、関係のない大勢の人を危険に巻き込んでいい理由にはならない」
俺は相変わらずなやつだな、と思い、少し安心する。綺麗事を実現させようと向こうの世界でもフリーダムに味方したり俺たちに味方したりしていたやつだ。考えの根幹は変わらないらしい。
「・・・そうか、それを聞いて安心したよ」
「大丈夫だ。俺はお前を裏切らない」
「・・・」
「少し腹が減ったな。俺は食堂に行ってくるよ」
アスランはそのまま部屋を出ていく。
「はぁ」
俺は下のベッドに倒れ込む。
「俺たちには、戦うしか選択肢はないのかもな。どこに行っても」
俺はすぐに、そのまま深く眠り込んだ――――

181ロッベン ◆fgMrdXS3aI:2011/01/16(日) 17:43:16 ID:UCLetkMw0
以上、シンとアスランの魔法成長日記番外編『相容れない二人と一人』
お送りしました。

今回は本編よりも時間軸を少し離した物語です。
リハビリ中なため、文章力が不足しているかもしれません。


では、読んでくださった方々に感謝しつつこの辺で失礼させていただきます。

182名無しの魔導師:2011/01/16(日) 18:53:05 ID:OTv0CGm.0
乙!
久しぶりの投下だー、待ってたよ!

183名無しの魔導師:2011/01/16(日) 21:19:43 ID:cZid1WgMO
乙です
俺は違和感とかは感じませんでしたよ

184名無しの魔導師:2011/01/17(月) 22:38:34 ID:hBUuYbd.0
乙です。
やっぱり簡単には許せないよなぁ。

185名無しの魔導師:2011/01/30(日) 19:22:18 ID:qu/uaHPsO
まぁ……保守です。気が向いたら見てやってください

186vivid memory:11 裏:2011/01/30(日) 19:26:28 ID:qu/uaHPsO
「ふぅ……ようやく着いたね」
「あまりゆっくりは出来ないけどな。……つーか、なんだよこの施設は?」
「あ、ちょうど午後のトレーニングが終わったみたいだね……。とりあえずメガーヌさんに挨拶をしよう」
「りょーかい」


カルナージ
ミッド標準時差7時間の無人世界に訪れた夕闇の中、エリオ・モンディアル少年は一人、温泉に浸かっていた。
そう、ここはアルピーノ所有天然温泉の男湯。訓練合宿唯一の男性がエリオなので、当然この広い岩造りの男湯は完全貸し切り状態になっていた。泳いでも大丈夫。
嬉しいのやら寂しいのやら微妙なところだ。
「ていうか、男女比がおかしいよね……」
少し伸びた髪を弄りながら、そう一人呟く赤毛の少年。訓練で疲れた身体に熱いお湯が気持ちいい。
まぁ六課時代もこんな感じの男女比だったが……そういやヴァイスさんはどうしてのるだろう。
(ガリューも此方に来てくれてもいいのに)
やはり寂しいものは寂しいのだ。ガリューもフリードも女湯。手持ちぶさたこの上ない。
そして、
 
『あ〜すっごい良い湯加減〜』『ほんとです〜』
 
このお隣の女湯から聞こえるちょっぴりピンクな声。
ティアナさんとキャロだなっとあたりをつけ、エリオは目元まで湯に浸かる。なんなのさ、この羞恥プレイは。
14歳の少年の心には正直、クるものがある。この状況はまさに「妄想しろっ!」と言ってるようなものじゃないか。
そんなの、困る。どう対処すればいいのかわからない。
因みに、ここには地雷原もセントリーガンも、ましてや鉄板を仕込んだ壁もない。あるのは純情な少年の心のみで。
(もう、出たほうがいいか?とりあえず疲れはとれたし。あぁそうだ夕飯の手伝いをしよう女の子はお風呂長いからそうすべきなんだよあまり堪能してないけどいいよね決してこれは逃避ではな――)
その純情な心はこのあんまりなシチュエーションに耐えきれず、エリオの良心を破壊し始めていた。
ピンチ!ピンチ!
とりあえず頭を冷やそうと、エリオが立ち上がりかけたその時、
ガララッ
「うわぁ……メガーヌさんが言ったとおり、凄いね……」
「エリオー、いるかー?」
「――ぃあぁ!?」
珍妙な声を上げてエリオはコケた。そりゃそうだ、葛藤中に突然男性の声が聞こえたら誰だって驚く。
おもいっきり湯が入った鼻を抑えながらなんとか身を起こし、涙目のエリオは慌てて音源を特定する。
それは黒髪と茶髪の男二人組で――
「って!シンさん!?キラさん!?」
ここに来れないはずの人だった。

シン・アスカ二等空尉とキラ・ヤマト執務官。
4年前の六課解散以来の再会だ。勿論、定時連絡はとっていたけど。
しかし何故ここに?仕事があったんじゃ……?
とりあえず、エリオの頭が冷えたのは確かだが。

187vivid memory:11 裏:2011/01/30(日) 19:29:15 ID:qu/uaHPsO
 
 
「あー、うん。僕たちはちょっとした任務があったから、この合宿をパスしたわけだけど……」
「思いの外、早く片が付いてな。それでちょっと顔を見るかって、コイツがどうしてもと」
「やめてよね。君だってノリノリだったじゃないか」
全力疾走だったくせに。提案したら即答だったくせに。
というわけで、長くここには留まれない。すぐに本局へ報告に行くとエリオに説明しながら、湯を被る。
「残念だけどね。みんなへの顔見せはもっと後になりそう」
「レイやクロノの奴を待たせる訳にはいかないからな」
シンの特徴的な黒髪も、水分を吸えばぺしゃんこだ。僕の髪もだけど。
……そう、今は情勢は落ち着いているけど、相変わらず管理局は忙しいのだ。
だから、今ここにいる彼女達のためにも僕らが頑張らないと。
ついでにアスランの頭皮のためにも。アレはそろそろヤバいかもしれない。
「そうですか……」
少ししょぼくれちゃったエリオ。
悪いことしたな。
こんな時に仕事の話はするもんじゃないね。せっかくの温泉、楽しい話題にしようじゃないか。

“というわけで――シン、頼むよ”
“ちょっ、俺かよ!?”
“君なら大丈夫だ信じてる。エリオ君の為だよ。”
君はいつだって、どんな時だって僕の要望に応えてきたじゃないか。
そこ、丸投げとか言わない。

キラはシンに話題提供を依頼(無茶振り)し、改めて湯に浸かってみる。少しは楽しんでも罰は当たらないだろう。
……うん、良いお湯だ。あまり温泉には詳しくないけど、多分良いのだろう。身に沁みるな。環境設計もなかなか。
あの滝湯もオシャレだしね。
ここら一帯をあのルーテシアちゃんが設計したというのだから驚きだよ。というか、耳を疑った。
オーブでも、ここまで見事な温泉、ロッジはない。
空を仰げば満天の星で癒されるし。ホント、こういうのも久しぶりだなぁ。
エリオ君も大きく逞しくなって。男の子だね、やっぱり。
4年はデカイなぁ……。
……。
……。
「おぉ、そうだエリオ」
「はい、何ですか?」
どうやらシンが話題を思い付いたようだ。
さっきまで似合わない難しい顔をしてたからな……。
一体どんな話題を?
「キャロとはどこまで行った?」
「ブッ!?」
エリオ君が噎せた。この男も……相変わらずだね。
……でも確かに気になるな。だってエリオ君だよ?
「キスはしたのか?」
「……っ!?っ!」
シンの追撃にエリオ君がコケた。
うん、男が集まれば女の子の話題になるのは自然だよね。GJだよシン。上出来だ。
「な、なななっ…キャロとは、別にそんなんじゃ!?かっ家族みたいなもので!!」
赤面で、声が裏返ってちゃ説得力ないよ……。まだ自覚してないんだろうなぁ。
ほら見なよ、シンなんか必死で笑いをこらえてるじゃないか。あともう一押しで決壊するよ。コレは。
まぁ、どうやら脈アリのようだ。良かったねキャロちゃん。
よし。なら僕も参加するしかないじゃない……、……?なんだ?気が乱れてる?
「、ん?なんか女湯が騒がしいな?」
どうやらシンも気付いたようだ。流石はラッキースケベの称号を持つ男。
(はて、)
「あ、ど、動物でも出たんじゃ……?」
顔を更に赤くしたエリオ君。その赤は湯加減のせいだけではないんだろうなぁ。
(まさか……この感じは――)

――ズパァッー!!

(水斬り……コメディ臭溢れるこの音、間違いない。けど)
「ここには、セクハラ魔神はいないはずだけど……」
はやてはミッドにいる。
……!魔力反応?

『やーーーッ!!絶招炎雷炮!!!』
ドーンッ!!

なんだか凄まじい声と音がしたんだけど。
あ……人が飛んでる。あの人は、
「セインさんか」
「なるほど、奴ならば」
「なんで二人は冷静なんですか……」
僕とシンはすぐに納得し、エリオ君は呆れながら赤面するという器用な顔をした。うん、若いね。
第二のセクハラ魔神に、僕達は敬礼をした――

188vivid memory:11 裏:2011/01/30(日) 19:31:10 ID:qu/uaHPsO
 
 
「綺麗に割り振ってあるねぇ。同ポジション同士が接戦になりそう」
「ほんと」
双月照らすカルナージの夜。
高町なのはとフェイト・T・ハラオウンはロッジから少し離れた崖の上にいた。なにやら相談をしているらしい。
「フェイト!なのは!」
とりあえず声をかけよう。まずはそこからだ。
「え、あ!シン!?」
「僕もいるよ。二人とも久しぶりだね」
「キラ君も!任務はどうしたの?」
ほんと、久しぶりだ。直接会うのは解散以来だからな。……二人とも変わってないなぁ。驚いた顔も相変わらずで。
「楽勝だったからな。ついでだよ」
俺の台詞を補足する為に、キラがまたエリオにした話をする。説明役ごくろーさん。これからも頼むわ。

まぁ立ち話もなんだからねとキラの提案で、一同はベンチに移動することにした。
しかし、ホントに女だらけなんだな、ここ。こりゃエリオも大変だ。
話題は当然合宿について。それ以外ないだろうしな。
「へぇ、これが明日の陸戦試合の……おぉ、いい試合になりそうだな。流石はノーヴェ」
試合は録画してもらおう。
「……ん、この娘は?」
キラが指さした娘……オッドアイ?ヴィヴィオとは違うな……つか初めて見る顔だ。
説明してくれよ。
「ああ、この子はね、――」
 
「アインハルトちゃん……か」
なのはの説明を聞き、俺達は時代の移り変わりを実感した。
「あのヴィヴィオが強くなったもんだな!」
ホント驚いた。もうここまで成長したのか、アイツは。
「はぁー、あんな小さかったのに今じゃライバルまでいるのか」
前までは転んでも一人じゃ立てなかったのに。
キラの奴は違う感想を持ったのか、微笑みながらこう言った。
「まぁ、この二人がママなら納得だね」
……なんかムカつく。
そしてこのキラの言葉に、
「そうです!自慢の娘です!」
えっへんと胸を張るなのはとフェイト。俺は何故か置いてきぼりにされた気分になった。
前言撤退。やっぱり、変わったんだな……あの時とは違う。4年ってデカイんだ……。
それが少し悔しくて、眩しくて、目を逸らす。と、ロッジが見えた。晩飯の準備してるのか?
みんな楽しそうだ。
「……いい娘達だね。伝わってくるよ」
ロッジを視てないはずのキラが呟く。最近コイツも人間離れしてきてるんだよな。
「あー!くそー、なんだよ、会いに行きたくなるじゃないか!」
はたまた何故か、無性にあそこに行きたくなる。帰ったら絶対に休暇を申請してやると思えるほどに。訳がわからない。
とりあえず管理局の厄介事はコイツに押し付けよう。認めたくないが、仕事の腕は一流だ。
そして、俺は休暇をとって、会って――。
俺は会って、どうしたいんだ?突然現れたこの気持ちはなんなんだ?
「シン……もう、行かなきゃ。船に間に合わなくなる」
っと、もうそんな時間か。
今日はここまでのようだ。
「会えて嬉しかったよ。シン、キラ」
フェイト……。お、そうだ。
「今日会えたのはエリオだけだったけどな、アイツはいい男になりやがったぜ」
男の先輩の俺が言うんだから間違いないんだ。息子の成長を男に認められたら、フェイトも嬉しいに違いない。

……あ、そうか。そういう事か。
「待ってろよ。近いうちに全員に会ってやるからな!」
そうだ。――俺は追い付きたいんだ。お前達に。
俺も、子の成長を感じたいんだ。だから会いたいんだ。
「うん……またね、キラ君、シン君」
「なのはもね……ヴィヴィオによろしく言っといて。僕らが道を拓くから」
コイツはコイツで何か思うところがあったらしい。
やめとけ。真剣な顔は似合わないぞ。お前はヘラヘラしてればいいんだ。

「今度はゆっくり話をしたいな……じゃあ、また。試合頑張ってね」
「じゃあな!頑張れよ!」
俺達も頑張るから。
「うん!」
「任せて!」
だから今はお別れ。

――行こう、ミッドチルダへ。為すべき事を為そう。
そして俺達も変わるんだ。
変わるモノを見守るために

189名無しの魔導師:2011/01/30(日) 19:34:32 ID:qu/uaHPsO
以上です。
最後が駆け足なのは勘弁してください……。
最初はカルナージで一人ぼっちなエリオの為のつもりだったんですけど……どうしてこうなった。

190名無しの魔導師:2011/01/30(日) 20:18:47 ID:XOoEZBMc0
Gjっす!
語り手が少しづつ代わっていくっていうのはなかなか面白いです。
素直にもっと読んでみたいと思いました。

191名無しの魔導師:2011/02/22(火) 09:17:41 ID:RERB778U0
だーれもこないのな

192名無しの魔導師:2011/02/22(火) 13:30:24 ID:CNzvbjwwO
自分の創造力、文章力のなさを悔やむぜ……ちくしょう

193名無しの魔導師:2011/03/02(水) 21:27:59 ID:gsjGF.p.0
>>192

亀だけどやる前からあきらめるのはいくないZE。
自分も某所でSS書いているけどやってみると結構楽しいもんだよ。

194名無しの魔導師:2011/03/03(木) 02:36:40 ID:Mj1VB3PgO
>>193
やー、一応やってはみたんだけどね……
上にあるシンとキラが聖祥中学生設定のやつとvivid温泉話がそうなんだけど、やっぱり駄目だったよ……orz
オリジナル性と国語力が足りないわ

195名無しの魔導師:2011/03/03(木) 03:01:16 ID:Mj1VB3PgO
>>193
あと、発破かけてくれてありがとう。vivid3巻発売されたらもう一度頑張ってみる

連レス、愚痴でごめんなさい……

196名無しの魔導師:2011/03/03(木) 15:18:33 ID:6dSxtngcO
おk、楽しみにしてるぜ。

197名無しの魔導師:2011/03/03(木) 21:25:44 ID:zp/vcags0
>>195
おお、あの話の作者か、あれは個人的にはかなりの好みの内容だったよ。
投下楽しみにしてるよ。

19881 ◆dRvFDbWwdQ:2011/03/16(水) 00:28:24 ID:U.6tcXnk0
急だけど詰まりが長いんで、できるところまで放出。1万程度なんで短いッス
まあ立地のせいで仕事がヒャッハー状態だけどぼくはげんきです、おしりからちがでた

19981 ◆dRvFDbWwdQ:2011/03/16(水) 00:31:01 ID:U.6tcXnk0

 無駄な会話のない、統制された喧騒とも言うべき物音が満ちる戦艦アースラの艦橋。中央部に位置する艦長席で、鮮やかな緑色の髪を高く結った女性――リンディは無言で両手を組み合わせ、報告を待っていた。

「回収A班、B班に引継ぎ完了」
「はい、よろしい。そのまま続行」

 艦橋にオペレータの声が響き、リンディはそれに了承の声を返す。今のところ、事故現場の調査は順調だ。痕跡となるものは潮流で大部分が流されてしまったものの、それなりに大きな残骸や漂流物が残っていたのは僥倖だった。
 艦長席の正面に位置する巨大なモニタには、うねうねと色彩の変化を繰り返す奇妙な空間とそこに浮かぶいくつかの残骸、そしてその間を動き回る大小の――比較物がはっきりしないが、小さな方は2メートルもなく、大きなほうでもせいぜい10メートルほどであることをリンディは知っている――いくつかの影を映し出していた。
 物理構造的な限界を容易に越えうる魔力という力を持ち、それを自在に操る魔法という技術を専門にしている管理局所属の魔導師であっても、通常次元から外れた、いわば世界の隙間であるこの空間――次元空間――では活動することそれ自体に非常な困難を伴う。更に言えば、魔法を扱える人材は常に需要過多・供給過少だ。便利だからといって、あちらでもこちらでも魔導師を使うわけにもいかない。
 否応なしに魔法を使わない技術の必要性は存在するわけだ。
 今現在メインモニタの向こうで動き回るその影も、そういった技術の産物の一つである。
 いかにも作業用といった風情の箱型をした本体に、いくつかの先端形状を持つ機械腕。側面に突き出ているヒレ状の推進機関を揺らすそのボディは鎧というには大きいが、船というにも小さい。次元間航行を可能とするタイプの船には必ず搭載されている『船外活動殻』は、魔力を人工的に蓄積・励起し、機械的な動力と組み合わせることで次元空間での活動を可能とした作業用機械だ。
 その身ひとつで障壁を貼り、呼吸用のボンベくらいしか目だった装備がない魔導師と比べて、その動きはあまりにも固く重い。
 だが、仕方ないのだ。アースラ乗員の大半は魔導師ではなく、それは管理局のどの部署でも……いや、管理局の行政圏ならば組織を問わず、どこでも同じようなものである。
『魔法』を扱う素養の持ち主は少数派であり、そして素養の発生する原因・過程、いずれも今日に至っても――ここまで魔力というエネルギーが世界に浸透している時代になっても、不明なままだ。モラルという無形の盾をすら乗り越える需要に押されて人造魔導師計画というものも存在はしていたが、結局大した成果を挙げられずに消滅してしまった。
 出来なければ世の中が回らない類の仕事を実際に出来る存在が少ないのならば、出来ないものがどうにかして出来るようにするしかあるまい。
 この艦の主動力である魔力励起炉をはじめとする魔力とそれ以外のエネルギーとのハイブリッド技術や代替技術は、そうして発展してきた。その結晶が、作業殻に代表される魔導師以外の魔力活用技術だ。
 それでも、あの作業殻のオペレータの心境はいかばかりか。
 言うまでもなく、最新の機械というものは個人で運用し切れるものではない。製造からメンテナンスしかり操作しかり、専門の教育を受け、経験を積んだ人材やよく整備された機材がいくつも、何人も関わってようやく満足に機能を発揮する。
 そうした努力を背景にしてようやく、魔導師がほとんど個人の力で、当たり前のように――もちろん魔法を操る事にも大きなリスクや人並み以上の努力は必要だが、それでも『苦労の総和』を考えれば差は歴然――同じような結果を出してくるのだ。頭脳労働のようなものなら魔法のアドバンテージはないと言ってもいいだろうが、逆にこういった直接作業では差が顕著に出てしまう。
 魔導師とそれ以外の関係というのは、管理側からすれば、種族間・民族間の問題と同等以上に頭が痛い課題だった。更に魔導師のほうにも極端な個人への依存――致命的なレベルで代わりが効かない――という根本的な問題がある。
 そんな問題を抱えて、長ければ半年以上も閉鎖した空間を維持しなければならないのだ。管理局の艦長職達が軒並み頭髪の問題を抱えたり心因性の習慣病をわずらっているように思えるのも気のせいではないかも知れない。
 幸いにも自分や自分の息子は『持てる側』だったが、そうでなかったとしたら――
 そんな管理職の悩みを、オペレータの声が遮った。

20081 ◆dRvFDbWwdQ:2011/03/16(水) 00:31:34 ID:U.6tcXnk0

「艦長、回収A班の作業記録上がりました。転送します」
「ありがとう」

 笑顔で礼を言うと、リンディは艦長席のコンソールを撫でた。上下にずらずらずらずらと伸びるウィンドウを指でなぞり、スクロールさせていくうちにその表情が少しずつ険しくなっていく。

「……ふむ?」

 眉をひそめて鼻息を吐くと、リンディは胸元についている板に軽く触れた。水晶を叩いたような音がして、空間ウィンドウが顔のやや下に現れる。
 1秒そこそこで通信を始めとした艦内コミュニケーションソフトの画面が立ち上がると、リンディは空間観測課の主任を呼び出した。
 音声通話のみの表示ウィンドウが開いた瞬間、受け手であるはずの向こう側から言葉が押し出されてきた。

『ああ艦長、空間歪曲の解析結果なら――』

 またか、と思いつつもリンディはひとまず投げつけられる言葉に耳を傾ける。的外れであればその時に割り込めばいい、と少々横着な発想だった。もちろん規律の面で言えばよろしくはない。上意下達が基本だ。
 技能的には優秀なのだが、どうも会話にしろ何にしろ主導権を握りたがる。更に口調自体もせっかちなのがこの主任の欠点だった。

『――もう少々お待ちください。現在シミュレートと比較中でして――』
「時間としては?」
『15分ほど』

 時間と結果と情報を、脳の中でまとめて天秤にかける。左人差し指で二度顎のラインを叩くと同時、リンディは決断を下した。

「……わかりました。一番可能性の高いケースについて、チームで資料をまとめておいてください」
『他はよろしいのですね?』
「ええ」
『了解』

20181 ◆dRvFDbWwdQ:2011/03/16(水) 00:33:19 ID:U.6tcXnk0

 断定的な返答に同じく疑問を欠片も含まない了解の声を残して、男性の声は途切れた。閉じていくウィンドウをそのままに、リンディは艦長用コンソールで立ち上げていたウィンドウに目を落とす。
 そこに示された解析レポート、それに浮遊物を調査していた船外活動班長の報告書には、共通の内容――時間の余裕がないことを示す同一の内容が、同意異句で示されていた。
 即ち。

 <平常の潮流とは異なる現象、恐らく人為的な現象による構造物破壊・次元の歪曲跡を確認>

 つまりその『人』の種類によっては、直ちに最悪の状況が起きてもおかしくはないのだ。

――あの時、留まって調査していれば良かったかしらね?

 艦長となって、何度目かももはや覚えていない後悔が頭をもたげる。
 そしてそれを軽く頭を振って追い払うのも、同じくらい繰り返してきた行動だった。後悔などしても仕方ない。あの時の情報、今の情報。その時その時の手持ちのカードで判断を下し、勝負していくしかないのだ。
 とん、と操作盤を指先で叩いて気持ちを切り替え、喉奥を開く。

「回収班に通達、作業はあと3時間で切り上げ。それと、作戦部の各チーフに30分後に戦略モニタ室へ集合するよう伝えてください。今後の行動計画を立てましょう」

 凛と響いた声に、オペレータ達が口々に了解、と返した。

20281 ◆dRvFDbWwdQ:2011/03/16(水) 00:33:56 ID:U.6tcXnk0
 真っ白な球状であったり、緑色に長く伸びる線であったり。周囲を花火のように美しい光が踊りまわる。それらのほぼ全て――威力の大きなものは全て、フィールドに弾かれる程度の小さなものはたまに――は、なのはが座るヒトガタの頭上、翼の横、股下や腕の外といった上下左右あらゆる方向を通り抜けて暗い深遠へと消えていく。
 時折飛来するミサイルの噴射光や、光線に反応するフィールドの光に目をくらまされながら、なのははじっとヒトガタの肩辺り、装甲のへこみに座っていた。
 上へ向いた後1秒もせず反転して下へ、その次にはきりもみ運動を交えて。激しく動く視界に反して、その激しく動くヒトガタに腰掛けているなのは自身は高Gに首を振られることも尻が浮くこともない。そのような慣性を感じないとは言わないが、目に見える運動量とは雲泥の差があった。
 ばぎん、と正面から響き分かれて流れる金属音。
 両手で振り下ろされた刀が、飛来した銀色の戦闘機を真正面から断ち割った。きれいに視界の中央で分かれていく断面が滑り過ぎて行った先は、相変わらずの光の乱舞が戻ってくる。背後に流れていった残骸は爆発したのか、それとも大量の光弾やミサイルのどれかに衝突するか。いずれにせよ、すぐに粉々になってしまうだろう。
 簡単そうにやっているが、事は飛び回る鳥を刀でたたき切るようなものだ。古の剣豪が修練の末に果たしたという逸話の如き行為を至極あっさりと繰り返すその性能は、やはり周囲の兵器達とは一線を画している。

『…………!!』

 翼を持つヒトガタ――シンの姿のひとつが唸り声を上げ、また一段階加速した。視界は中央に向かって引き寄せられ、空間に浮かぶ星の光が長く伸びて線になっていく。
 途中、太い線が見えた瞬間にばぎんと破砕音がした――と思ったら、右の方向を何か――恐らく戦闘機の残骸――がくるくると通り過ぎていった。何があったかといえば、おそらく轢き逃げという奴だろう。
 ぐるん、と縦に回る視界。斧のように振り下ろされるヒトガタの角ばった踵。ぐっと押さえつけられる感触に続いて広がったのは、黒く広い地面、のように見える『船』の船体だった。
 ばぎん、と火花。ヒトガタが屈みこみながら真下に刃を突き立て、長大な刃があっという間に黒い装甲に潜り込む。更にそこからごりごりと音を立てて無理やりに振り切り、根元を支点に刃渡りを全て使った斬撃は、黒い『船』の船体をまたひとつ、装甲ごと切り裂いた。魚のような胴体の左右に突き出した肉厚の翼、その根元に当たる接続部に深い傷を負った『船』は、慣性に耐え切れず自壊を始める。

GI-OOOOOO...

 悲鳴のような金属の軋み――もしくはコエ――を挙げる『船』。その上に立った状態で見える他の『船』達が、遠ざかり始めた。正常な航行機能を失ったせいで、ヒトガタが足場にしているこの『船』が群れから外れ始めているのだ。
 その音だけで様子を把握したのだろう。小さな切れ目がどんどんと前後に裂けていく『船』を一顧だにせず、ヒトガタは再び脚をたわめて『船』を足場に跳び上がった。背後は翼に遮られて見えないが、もう10隻程は同じようにして破壊したはずだ。
 進路をわずかに傾け、手当たりしだいと言ってもいい勢いで黒い『船』を破壊しながら飛ぶ先にいるのは、艦隊の最奥に鎮座する巨大な白い『船』だ。
 他の『船』を航空機とするならば、それは空母――いや、小規模な基地そのものか。それほどのサイズ差があった。艦首と思しきあたりで揺れる櫂状の部品ひとつが、黒い『船』数隻分に匹敵する。
 群れを構成する無数の個体、それらのどれよりも大きく、強く、賢い、群れの全てをを統率する巨大な長――そんな想像に眉をしかめたなのはは、ふと気づいてその巨大な船体の一点を見上げた。
 船底の一箇所でばりばりと火花を散らしながら、球状の光が青白く膨れ上がっていく。
 サイズ比からして、ヒトガタどころか黒い『船』を飲み込んであまりある位の直径はある。当たればただでは済まないだろう――が、準備しているのが見え見えにも程がある。その兆候をヒトガタが見逃すはずもなく、轟音と共に放たれた光線はその速度にも関わらずあっさりと回避された。射線上にいた戦闘機達や黒い『船』を数隻消し飛ばしながらも、最大の目標であるヒトガタを見失った光線はあっという間に黒い空間に消えていく。
 それを見届けたヒトガタが白い『船』へと向き直った時、なのははふと気になって闇を見上げた。
 細めた視界に、ざらついた認識が割り込んでは弾き出されていく。ノイズだらけの中に見覚えのある翼――なのはと共にいる、このヒトガタの翼だ。それを遠くから見つめている――とその遥か後方へ飛んでいく意識の線を見つけて、なのはは眉をひそめた。
 いけない。何がとは言えないが、いけない。

「駄目」

20381 ◆dRvFDbWwdQ:2011/03/16(水) 00:34:30 ID:U.6tcXnk0

 ぺちん、と腰掛けている装甲を叩く。両断したミサイルの爆発音にも関わらず声が聞こえたのか装甲に触れたのがわかったのか、ヒトガタが小さく顔を傾けた。血色の左瞳がなのはに向けられ、無言の問いが投げかけられる。

「ここ、駄目! 避けて!」

 ヒトガタの血色の瞳が微かにちらついた。なのはの言葉を反芻するように軽く首をかしげたに見えた、その瞬間。

「――来た!!」
『!』

 なのはがそう口にした瞬間か、それともその直前か。素早く身を翻したヒトガタが強烈な光に照らされた。目がくらむと同時に襲ってきた衝撃に、なのはは小さく声を漏らす。
 明らかに物理的なレベルの力を持つ光の束は、だが芯からは外れていたらしい。ヒトガタのフィールドを焼き裂かれて膝付近の装甲を砕かれながらも、ヒトガタ本体となのははその直撃からは逃れることができていた。
 ぴりぴりと静電気のような感覚が全身を走る。初めてヒトガタのフィールドが貫かれた事に驚きながらも、なのはは存外冷静だった。

「まだ、来るよ」

 はたして予言通り、一度視界から消え去った光が再び戻ってくる。微妙に角度を変えてやってきたとはいえ、もはや奇襲とはなり得ずあっさり回避。あらかじめそうなるよう準備がされていたのだろうそれは数度繰り返され、そしていずれもヒトガタを捉えることはなかった。

――たぶん、反射。

 ヒトガタの顔を振り仰ぐと、わかっているというように小さな頷きが返された。その認識を半分飲み込みかけてはたと気づき、なのはは小さく息を呑む。

「――っ」

 簡単な仕草。しかし、初めての仕草。心があるのか、それとも残された機能に従っているだけなのかすら定かではなかったヒトガタが、初めて『自分に対して、はっきりとやり取りを返してきた』事を意識したからだ。

――ああ、もう。

 心が躍る。まだ自分に残されたものがある、そう思うだけで、どうしようもなく胸が浮き上がりそうになってしまう。
 そして、同時に。

――私なんか、こんなことをされても……ううん、こんなことしてもらったら、なおさら。

 しくりと、高揚の裏で痺れるような痛みが胸を刺す。
 頭をもたげるのは先ほど、ヒトガタの差し出した手に触れた時と同じ疑問だ。非があるのは自分。託された資格を裏切ったのは自分。その自分が――
 我知らず襟元を握る。胸骨の奥に隙間が開くような、そしてその隙間に心臓が引っ張られるような。そんな妙に心引かれる痛みを忘れられない。
 そして、それを欲しがりはまり込みたがる欲望が頭から離れない。甘くも美味でもないはずのその感覚が、何故か欲しくてたまらない。いけないことだと誰に言われたわけでもない、いや誰にも言われないからこそ、自分の中でソレが大きくなっていくのを止められなかった。

『――!!』

20481 ◆dRvFDbWwdQ:2011/03/16(水) 00:35:17 ID:U.6tcXnk0

 腹を震わせる低い咆哮に、また内側に潜り込みかけていた意識を引き戻された。いつの間にか包囲網は抜けていた。遮るものがなくなり広くなった空間をまっすぐに切り裂いて、ヒトガタは飛ぶ。その手に持つただ一つの武器――刀の切っ先がついと跳ね、ヒトガタが両手で刀を腰だめに構えた。
 彼我の距離――そもそも刀一振りで挑むこと自体がおかしいサイズ差だが――に、なのはは首をかしげた。黒い船の群れを抜けたとはいえ、未だ白い船にはだいぶ距離もあるし戦闘機達も飛び交っているのだが。
 そんな疑問をよそに突き出された切っ先で、激しい火花と衝撃音が散った。白い船の周囲には、不可視の障壁があったのだ。バリアジャケットと同じく選択性を持つのだろう、戦闘機達はそんなものがないように自在に出入りして攻撃をしかけてきていた。見た目にも無色透明では気づかないのも当然だが、よくよく見れば戦闘機が境界と思しき場所を通るたび、空間と戦闘機の周囲、両方が薄く光っているように見える。
 気づかなかっただけで、戦闘機も白い巨船も、恐らく黒い船にも障壁はあったのだろう。
 今現在火花を散らしている白い巨船の障壁の強度は、反応する間すら与えられなかった黒い船や戦闘機の障壁と比べれば、はるかに上と言えるだろう。

「でも」

 それでも、ヒトガタの刀を阻むには至らない。ビニールのように無理やりに引き伸ばされた障壁はちらちらと光ると、限界を越えた瞬間に弾力性を失ってばらけ砕けた。
 途端、ヒトガタの翼が打撃音に似た咆哮を上げる。蹴り飛ばされるように再び高速で動き出した視界についていこうと、なのはは目を細めた。
 巨船の障壁を突破する前の速度から更に輪をかけた勢いで突進するヒトガタに対して、戦闘機達だけでなく巨船そのものからもミサイルや光が殺到する。だがヒトガタが本気で加速する際にはフィールドは更に強化され、積極的な干渉まで起こすらしい。飛来するミサイルや威力の低そうな光弾はことごとく弾かれ光線は歪められて、戦闘機達は近づいただけで砕け、あるいは徐々にひしゃげた挙句火花に包まれて爆発する。
 届きもしない攻撃や近づいただけで機能を失って流れていく戦闘機達を一顧だにすることなく、ヒトガタは真っ直ぐに白い巨船を目指して突き進む。
 既に視界は端から端まで巨船に占領され、その表面、複雑に分割された装甲や砲台のような構造物などがようやくはっきりと見えてきた。
 巨大な物体の常として遠くから見るとのっぺりと感じていたが、近くではそうではない。それどころか結構な凹凸があるようだ。いびつな分割線が走る最外装、ところどころに開いた隙間から覗く多層構造は、どこか不恰好なウェハースのようだった。
 船体から真横に突き出す櫂状の部品――もちろんその『部品』ひとつで黒い船一隻より大きいのだが――の一つに、ヒトガタは激突するような勢いで着地した。
 滑らかに身体をたわめて衝撃を殺すヒトガタの肩で、なのは自身も不可視の膜に柔らかく押さえつけられるような、緩められた慣性力を感じる。至近距離から見る白い巨船の装甲は、金属というよりも殻とか甲羅とかいったほうが近い質感をしていた。
 母船であるというのに遠慮なく降り注ぐ戦闘機からの光線を意に介さずフィールドで弾きつつ、ヒトガタが起き上がりながら大上段に刀を振り上げる。
 
『…………!!』

20581 ◆dRvFDbWwdQ:2011/03/16(水) 00:35:51 ID:U.6tcXnk0

 頂点で一瞬停滞した刀は掻き消えるような速度で振り下ろされた。
 がぎん、と轟音。砕かれた装甲の欠片が舞い上がってなのは達を通り過ぎ、虚空へ消えていった。
 ずどん、と踏み出す一歩。どがん、と踏み切る二歩。ばりばりと装甲をかきわけて、ヒトガタは刀を突き立てたまま翼を開き、飛び、加速をはじめて加速し続けた。
 轟音を引きずって、船体の表面――いくらヒトガタの持つ刀が大きいとはいえ、小さな島と人間程のサイズ差からすれば表面を裂く、というか溝をつけるのがせいぜいだ――に切り跡が伸びていく。
 この部品を破壊するにも深さが足りないようにしか見えないが、ヒトガタ――シンはどうするつもりなのだろう。
 なのはの疑問への答えは、すぐに訪れた。刀の軌跡が部品の外周をほぼ一周したところで、ヒトガタが右足裏を巨船の船体に叩き付ける。火花を上げてスライドしながら刀を右の逆手に持ち替え、代わりのように半身になって左拳を振り上げた。
 ごりん、と巨船の装甲と装甲の間、細くできた隙間に左足を押し付けて止まったヒトガタが上半身を折り、真下に向かって挑みかかるような体勢で中腰にかがむ。
 姿勢を安定させる為なのだろうわずかな身じろぎの後、ヒトガタの背中にある赤い翼がおもむろに開いて唸りを上げだした。空に向けられた翼はごく薄い光を発しながら徐々に歪みを纏い、まるで地面――巨船の部品に向かって推進しているようだ。
 その腕と手に装着されていた鱗状の手甲も硬質な音を立ててスライドし、前に向かって収束するようにポジションを変える。手甲の中に動力源でも内蔵されているのか、鈍い振動音と共に赤い光が装甲の隙間を走り始めた。
 見る間に膨らんでいくのは魔力……ではない。似てはいるが、別の力。魔力になり切らないような、『魔力というには足りない』ような力。まだ知らない、教えてもらっていない力だ。
 翼と手甲、二つは共鳴しているかのように、どんどんとその『力』を高めていく。

「……お?」

 翼から伸びる歪みは刻一刻、幅と長さを増していった。歪みの近くを通った光線が不自然に曲がり、中に誘い込まれて蛍のような燐光と化す。ミサイルは見えない手に掴まれたように停止し、推進剤を使い切った途端に抵抗しきれず飲み込まれて爆発する。そういった色とりどりの光や爆光が、黒々とした空間に溶け込んでしまいそうな揺らめきの輪郭を部分的に浮かび上がらせていた。
 高く掲げられた拳がぎしりと軋み、ヒトガタの赤い瞳が強く輝いて――

「――!!」

20681 ◆dRvFDbWwdQ:2011/03/16(水) 00:36:33 ID:U.6tcXnk0

 轟く無色の衝撃。
 ヒトガタのボディを伝わる振動と圧力に、ぶわりとなのはの前髪が広がった。
 拳が激突した点から、まるで水面が波打つかのごとく白い船体がぐにゃりと『波紋を広げていく』。ヒトガタの体重など遥かに越えるであろうその一撃の反動を受け止め、翼は大きくたわみながらヒトガタの身体をその場に留めていた。
 周囲に裂け目をつけられた上で、強烈な打撃を受けた櫂状の部品がどうなるか。
 叩きつけられた威力からすれば当然というべきなのかそれともそんな破壊力を生み出したヒトガタの性能に驚くべきなのか、どちらにせよ結果は速やかに現れた。
 ごく短く、そして無数の、致命的な破壊の音。黒い艦隊を破壊していた時の、いわば自壊による破壊とは次元が違う。
 続いて聞こえてきたのは、至極単純な打撃により至極単純な破壊が起きたという、その結果をこの上なく認識させる低い軋みだった。かえって静けさや落ち着きすら感じさせるのは、先ほどの一撃で『壊れる部分が全て壊れた』せいなのだろうか。
 支えを失った向こう側の地面――ヒトガタがへし折った根元部分とは逆側、櫂の先端部分――が浮き上がるように脱落していく中、ヒトガタは再び飛び上がる。ある程度浮いたところでくるりと向きを変えて巨船へと正対するヒトガタの肩で、なのはは背後を振り返った。
 ふくらんだ葉のような曲線で出来ている先端部分と、巨船と細くつながっていた部分がばらばらに折れてどこかへ流されていく。いや、流れているのは自分たちであって、脱落した部品達は取り残されているだけなのか。
 こぉん、と翼が虚空を打つ。ばらけた部品を背にして巨船の船体へと突撃するヒトガタの肩の上で、なのはは羨ましさともどかしさの混じった、言葉にできない感情を転がしていた。
 ここがどこなのか。
 この艦隊は一体何なのか。
 シンはどこを目指しているのか。
 それらの疑問は解けないが、ただひとつだけ明らかな事がある。シンの『強さ』だ。

――ほんとは、こんな事できるはずなんだ。

 そう、圧倒的な力。あの金髪の少女など問題にならないような、『自分との力の差』を嫌でも実感する。この力があれば、彼女と対等に話をすることなど容易いだろう。
 どうしてシンはこの力を出してくれないのか、という理不尽な疑問は沸くが、その疑問は抱くと同時に既に解決してしまった。
 『魔法は心の力によって顕れる』。それが答えだ。
 心が弱いから。
 何故なのはがシンの力を振るえなかったのかといえば……何故シンが力を十全に発揮できないかといえば、そのせいだ。なのは自身の心が弱いから、力が足りないからシンの性能を引き出すことができない。
 そこまでは、あの花畑で何度も考えた。だが今は、そこで終わってはいけないとも思う。自分が望んでシンに助けてもらったのだから、力を振るえるように『ならなければいけない』。問題はそこからだ。そこからどうすれば――

――力、使えるようになるのかな? ……ううん、ならなきゃ駄目、だよ、ね。

 再び拳の一撃。大穴の開く船体。煙と共に舞い散る装甲の欠片の間をヒトガタと共にすり抜けながら、なのはは頬を撫でた。

20781 ◆dRvFDbWwdQ:2011/03/16(水) 00:37:18 ID:U.6tcXnk0

 ほとんど真っ暗闇と言ってもいいだろう、深夜の山道。うねうねと続く崖沿いの道路を、一台のワゴン車が下っていく。
 暗い車内で控えめに流しているラジオの音楽も聴き続けているうちに飽きを覚え始め、助手席の妻も後部座席の子供達も当然眠っていて、話し相手にはなってくれそうもない。
 右手は切り立ったというよりむしろ抉れた崖に落石防止用の金属ネットが張られており、左手はダム湖へ落ちる急斜面。ほとんど水平になって伸びる木々が枝を広げてはいるが、ワゴン車の落下に耐えられるほどの強度は期待できない。
 二重になったガードレール、つまりは『落ちたら死ぬ』場所であろうが、延々続く同じような山道の運転はなかなかに辛いものだ。これがマニュアルであったなら、ギアの操作もあってもう少しは気もまぎれたのだろうか。カーブを曲がるたびに下がり、直線のたびに上昇する速度メーターがまるで催眠術師の振り子のようだ。

「……ふぁ……あ」

 ハンドルとブレーキ、そしてアクセル。操作する部分が少ないのは楽だが、今はそれがいささか退屈だ。子供が生まれた事を期に買い換えたこのワゴンがオートマチックであったことを若干後悔しつつ、ワゴン車を運転する男性はあくびをかみ殺した。
 隣県との境にあるこの山地を越えれば、毎年家族で行っているキャンプ場まですぐだ。行楽シーズンの渋滞を避けるために今年は深夜に出発しようと提案したのは自分だが、それは少々失敗だったかも知れない。すやすやと眠っていられる家族には快適な旅を提供できている自信はあるのだが。
 妻の寝顔を横目で確認した男性は、ふと妻の向こう――サイドミラーに妙な光が映りこんでいるのに気づいた。
 血のように赤い、平たい光。
 単純に表現するならそんなような物体が、サイドミラーやバックミラーにちらちらと写っては消え、また写る。

――走り屋、って言う奴かね?

 暗闇な上に曲がりくねった道の為に『それ』そのものは見えないが、光は異常なほどのスムーズさで走り抜けているように見えた。この分ではすぐにこちらに追いついてくるだろう。
 夜間、一般車の途切れた時間を見計らって、山道を命知らずの速度で駆け下りる。そんな連中が存在することは、男性も話に聞く程度は知っていた。
 ここがそんな連中のコースになっているとしたら、事故の危険性は跳ね上がる。向こうも一般車が走っていないかを確認くらいはするだろうが、何事も完璧ではない。

――おいおい、もしかして……

 現に今も見えている赤い光は、まるで狂気に侵されているかのような速度で追走してきている。自動車一台分の障害物――このワゴン車が道路にいれば、まず間違いなく追突なり何なりを起こすだろう。向こうにこちらの存在を知らせる術は……思いつかない。
 男性は焦りつつも、道の向こうへ目を凝らした。こういった山道には、故障で減速ができなくなった自動車の為に退避領域が作られているはずだ。
 大抵はカーブにあるそれは直線状に元の道から分岐した形になっており、いくつも盛られた砂の山に突っ込ませ、安全に停止する事ができるようになっているのだ。
 そうでなくとも、もう少し下ればダムがある。周辺には公園や駐車場といった、自動車を留める場所もあるはずだ。
 静かに、冷たい汗が髪の間に少しずつにじむ。
 距離は……どんどん縮まっているようだ。つい先ほど越えたカーブを、光はするすると通り抜けてきている。カーブで減速する様子すらなく、ここまで来ると自動車などではないようにも思えた。
 家族を起こしてシートベルトをつけさせるべきだろうか? いや、この状況で説明してパニックを起こさない保障はない。妻はともかく、もしも子供達が強引に運転席や助手席へ入り込もうとしたら、それこそ予想もしたくない事態になってしまう。

20881 ◆dRvFDbWwdQ:2011/03/16(水) 00:37:56 ID:U.6tcXnk0

「…………!」

 そんな焦燥感にずっと背中を炙られていた男性には、ぎりぎりの速度で走った末にようやく開けた視界――開けた道と、ダムへの分岐点――が鮮烈な安心感を伴って見えた。
 かなり近づいてきた赤い光はバックミラーに何度も写り、人魂にでも追われているような状況だった。
 即座にブレーキを踏み、ハンドルを切って車体を寄せる。
 咳き込むように速度を落とす加速度に、妻が眠ったままで小さく呻いた。

「ふう」

 軽く額を拭い、いくつかもと来た方向、ほんの少し前に自分が通ってきたカーブから赤い光が飛び出して、またすぐに次のカーブに入ったのを確認する。走っている、というか心理的に追われている最中は気づかなかったが、自動車のヘッドライトにしてはやけに暗い。
 光源を直視したときによく見える、長く伸びる光帯はまったく見ることができない。こうして眺めても、暗闇の中で赤い光の皿が尾を引くだけだ。まるで絵の具で描かれてでもいるような、奇妙な光だった。
 300メートル程まで近づいても何の音も聞こえず、光はそのまま滑るように坂を駆け下りてくる。

――もしかして、変なものだったり――

 近づいてくる光の正体に、期待3分の1、恐れ3分の2程を交えて男性は目を凝らし。

「…………はぁ!?」

 『それ』を見た瞬間、男性の顎がかくんと落ちた。
 切り取られたように境目のくっきりとした赤い光をまとい、空恐ろしい程の速度で窓の外を通り過ぎていったのは――

「子供ぉ……!?」

 ――直立不動で道路を滑走する、パジャマ姿の女の子だった。

20981 ◆dRvFDbWwdQ:2011/03/16(水) 00:38:41 ID:U.6tcXnk0


 前触れもなく起き上がった意識が最初に認識したのは、身体が動かないということだった。
 身体の感覚はあるようでないようで、奇妙に薄い。声も出せず、目も動かない。呼吸もできない――いや、『呼吸する部分が自分の身体に存在しない』。視界には何かの機械のような、巨大な殻の中のような、奇妙に生物的な部分と機械的な部分の混じった空間が映り、すぐ目の前、広間の中心のような位置に黄金色の光球を捉えている。
 そんな身体が、勝手に動いて首を振り向けた。

――まぶしいね。

 振り向けた先で、見覚えのある顔――白い服を着ていた少女が正面を見たまま言葉を漏らした。奇妙なほど近くから声が聞こえる上に、少女の姿そのものも見えづらい。自分の肩程度の距離しかない場所に、これまたやけに小さな少女の顔があるのだ。
 身体の認識、少女の見え方。どちらも奇妙だ。
 困惑するまま、自分の手が勝手に動いて眼前の光球――黄金色の光を掴み寄せる。そこでようやく自分の身体がはっきり視界に入り、フェイトはぎょっとした。

――!?!?

 黄金色の光を包んでいるのは、黒く尖った鋼の手。そこから、灰色をした四角い腕が続いて視界からはみ出している。

――……!

 一瞬フェイトは混乱かけたが、すぐに似たような事があったことを思い出した。
 いつだったかは忘れてしまったが、アルフの記憶が夢という形で流れ込んできたことがあったのだ。
 本当にそういった類の接続なのかは判別がつかないものの、もしこれが脈絡なく脳が見る幻でないのなら、あの黒い狼というか黒い粘液の塊――シンの精神が見ている景色なのかも知れない。
 掴み寄せた光を、『身体』は少女のほうへと近寄せた。

――え、これ触るの?

 そう不安そうに言う少女に、『身体』は頷いてみせる。少女はしばらく迷っていたようだったが、意を決して目を閉じ、光球へ向かって手を伸ばした。

――ひゃ……!

21081 ◆dRvFDbWwdQ:2011/03/16(水) 00:39:39 ID:U.6tcXnk0

 少女が触れた途端に黄金色の光は弾け、無数の泡飛沫となって周囲を包む。それらには全て異なる映像が、異なる音が、異なる存在が異なる法則が事象が映し出されていく。
 探索型魔法の制御を失敗した時のような、膨大な量の情報。それら全てを強制的に認識させられ、フェイトは声にならない悲鳴を上げた。情報の渦は容易に認識の限界を越えて叩き込まれ、それに晒されたフェイトの意識は反射的に逃げ出す事を選択した。徐々に意識そのものが単純な一色の光に塗りつぶされていく。

――――!! ……! ??

 じりじりと何かが唸る中、聞き覚えがないはずなのに『聞いた記憶がある』声が聞こえてくる。

――Seint! 奴らはもう『変化』*;Capat!? いまさら何を‘@%&――

 声は左右からでたらめに聞こえてくる上、ところどころわけのわからない発音が混じっていた。気難しい天秤のように、聞き取れたかと思えばまた理解できない音に戻ってしまう。結果的に、理解できる部分はせいぜい半分ほどだった。

――Миссいですよ。どちらにせよVia.]!でください。

 それでも、少しずつ天秤は均衡を手に入れていく。外れ、戻り、また外れ。そのサイクルが少しずつ小さく、緩くなっていく。

――何故だ。君は何故、そこまで? 世界が終わ……и、Esseなるんだぞ? 全てが消え去るんだぞ?

――そうは言われても……ああ、そうだ。意地、ですかね。

――非論理的だ。奴らにはもう勝てん。

――非論理的で結構! 論理で詰めた連中の末路は『ああ』なったんですから! фантом болкаの起動処理終了、自立駆動開始確認、外部接続のソケット破棄を確認……! これでよし。さあ『シン・アスカ』、聞いてるんだろう? ここで出来ることはここまでだ。もう準備は済んでる、起きて――

 シン・アスカ。シン。その名前は、確か――

――いつかあのクソ共を残らずぶっ飛ばせ!

<――Verificati conexiunile...Com■・*;:...了。ソケット第4層、セキュリティレベル3の不正な接続を検知。カット……処理、実行>

 突然降ってきた無表情な『声』と共にばちん、と光――白い闇――が弾けて、フェイトの意識は落下した。

21181 ◆dRvFDbWwdQ:2011/03/16(水) 00:42:57 ID:U.6tcXnk0
変なところで切れてゴメンナサイ。とりあえずここまで…
さすがに前回からのスパン長すぎる+これ以上時間かけても日数に対して書き進められないと判断しました。


赤字垂れ流しだけど会社は走るぜヒャッハー…
被災地の方々の無事と一日も早い復興を願います。

212名無しの魔導師:2011/03/16(水) 01:54:33 ID:e3U/gTrY0
犬師匠の人来た!無事だったんですね!よかったぁ・・・・・

シン無双ですな!というかまた益々謎が深まって・・・・フェイトもシンの心を垣間見たようですね、次回も待ってますよ!

213名無しの魔導師:2011/03/16(水) 02:05:09 ID:e3U/gTrY0
fantom balka

ロシア語の部分ちょっときになって翻訳したら・・・・ファントムベルカ・・・・ベルカ!?

214名無しの魔導師:2011/03/16(水) 20:59:37 ID:o7.utEeA0
gjです!
本職の人でもこれだけの文章力を持っている人はそうそういませんよ。

215名無しの魔導師:2011/04/07(木) 15:25:17 ID:TL5z9YOMO
ちょい、というかかなり遅くなりましたが、一応保守を投下しますよ

216vivid memory:17 裏〜R:2011/04/07(木) 15:26:53 ID:TL5z9YOMO
「……あ、シン、セインさんから、昨日の陸戦試合の記録動画が届いたよ」
 
時空管理局のお膝元、ミッドチルダ首都クラナガンに存在する次元港。多元世界の中心とも言えるそこは常時かなりの賑わいを見している。
故郷に帰る者達、都会に来た者達、別世界へ行く者達、迎える者達、見送る者達、老若男女人種問わず行き交う人達。首都ならではの光景である。
その中に、二人はいた。

一人は普遍的なスニーカー、デニム、パーカージャケットで身をつつんだ青年シン・アスカ二等空尉。ボサボサでありながらも艶やかな黒髪と、燃え上がるような紅い瞳が特徴的な20歳だ。
そしてもう一人。
黒の上下の所々にベルトを巻きつけた、ミュージシャンのような服を身につけたキラ・ヤマト執務官。前方に流した褐色の髪と、静謐な雰囲気を漂わす紫の瞳を持つな22歳の青年だ。
二人は今、ショッピングモールを漂っていた。理由は、これから向かう予定の『カルナージ』に滞在している友人達へのお土産を買う為である。
そう、『カルナージ』だ。
先の任務から帰還したシンが真っ先に行った事は、現在『カルナージ』にて行っている合宿に飛び入り参加をする為に、四日間の休暇を申請した事だったのだ。
 
誰かに触発されたのか、又は己の立場を自覚したのか、今までとは異なるベクトルの熱意で今回のプランを押し進めたシンは、店先に置かれた蛇目傘を玩びながら冒頭のキラの言葉に答える。
「マジか!じゃあ機内に搭乗したら見せてもらうぜ」
「……とか言って、本当は今すぐ見たいんじゃないの?」
「まぁ、な」
その通りだ。正直いえば今すぐ見たい。あんなスペシャルな連中の模擬戦など滅多にみれるもんじゃないからな。……なんだよキラさん、その顔は。止めて下さいよ。
そうだ。物事には順序というのがあるのだ。今はあいつらの為のお土産を選ばないといけないのだ。
そう自分に言い聞かせたシンは玩んでた蛇目傘を籠にしまい、次にウナギサブレを手に取る。
そこでハタと気付いた。
(土産って、どんなのが良いんだ?)
悲しいかな、シンは今までお土産なんて物に縁がなかったので、どんな物が喜ばれるのかあまり解らないのだ。
「……シン、君って」
「うるさいよ!黙っててよ!」
くそぅ、そんな顔で俺を見るなよ!
勿論、俺だって元六課の連中の趣向は知っているからなんとかなるとは思う。スバルにはアイスを、エリオにはエロ本を渡せばいいんだ。だけど……
そう、一番『お土産』という存在が好きな子供達の特徴を、シンは知らない。
(食べ物?記念品?趣向品か?)
SEEDを覚醒せんとする勢いで考えてもよくわからない。自分が子供の頃は何が好きだっただろうか……。
他にもノーヴェとかメガーヌさんとか。
混乱する思考、白んでいく視界。俺は、俺は……!
「こんな事で……こんな事で俺はァ!」
こんな所で立ち止まってる場合じゃない!ヴィヴィオ達の笑顔を見るんだァ!!
SEED覚醒。あらゆる戦場を踏破してきた演算力が、直感力がシンの思考を支配する。
そして、シンは周囲の人を見渡す事にした。子供連れの中で一番人気の物にしようと思った故の行動だった。

結局、
(散々考えた挙げ句ウナギサブレかよ……)
サブレの箱が入った袋を両手に提げ、シンは溜め息をつく。その背中は煤けていた。
──因みにキラはシンより早く会計を済ませ、外で誰かと連絡をとっていた。
(いつもメイリンやアスハに土産を買ってるアスランなら、こういうのも得意なのか?)
仕事柄、アスランはよくコズミック・イラに帰る事が多い。聞いた話じゃデュランダル博士やレイにも土産を買う事が多いそうだ。
きっと経験豊富なのだろう。今度訊いてみようか。アスランならまだ抵抗無く──
「シン、聞いて。ラクスから緊急秘匿命令文がきた」

217vivid memory:17 裏〜R:2011/04/07(木) 15:28:47 ID:TL5z9YOMO
 
 
 
「はぁぁっ!!」
モニターに輝く光の雨。それに対しシンはブースト・スロットルを全開にすることで応えた。
紅いウイングユニットから莫大な光を吐き出し、ビームの弾幕を一瞬で突破したMS・デスティニーは同時に右手に長大な対艦刀『アロンダイト』保持、これを一閃した。圧倒的加速力に満足な反応も出来ぬエネミー・ウィンダムは勿論アロンダイトにも反応出来ず、真っ二つ。
そんな哀れなウィンダムに目もくれず、シンはただひたすらに操縦捍を操作、スクラップを量産し続けた。

『L7宙域に謎の艦隊と要塞が出現、現在地球に向け進行中』

左にマウントされたビームランチャーが火を吹き、宇宙を焼く。ダガーを三機撃破確認。次いで右のライフルで最後のアガメムノン級を破壊する。
(あと、10機!)
自分のデスティニーとストライクフリーダム、インフィニットジャスティスなら一瞬で片付けられる数だ。現にストライクフリーダムのフル・バーストで残りは5機。
シンは再びアロンダイトを構え、デスティニーに突撃の体勢をとらせた、
その瞬間。
(これで──背後に反応?長距離高エネルギービーム!?)

『キラ・ヤマト、アスラン・ザラ、シン・アスカの三名はアークエンジェルを母艦にこれを調査せよ』

「まだ、あんなものが……!」
“しかも、三機……!”
どうやらこれが謎の艦隊の切り札らしい。絶対的な火力と防御力を持ち、ベルリンを、ステラを焼いた悪魔のMS・デストロイ。
ラクス議長の判断は正解だったみたいだ。自分達でなければ返り討ちだっただろうから。
(また……)
地球へ進路をとった艦隊と要塞、大量のMSと三機の悪魔。これが意味するものは一つしかない。
「また戦争をしたいのか、アンタ達はッ!!」
絶対にやらせない──!

多分、今頃は艦に乗って模擬戦の動画を観ていたのだろう。スバル達の成長やヴィヴィオ達の活躍を見て目を丸くしてたに違いない。
そしてキラのコメントにツッコミを入れつつ、ポップコーンでも食べて笑っているのだ。
現在、俺達は命を守る為に戦っている。暖かみのない、もの悲しい漆黒の宇宙で。

あまりにも弱かった。
ミサイルはアクセル・シューターの様な軌道を描かず、胸部の三連高エネルギー砲に至っては、直径が小さいはずのディバイン・バスターのほうが脅威だった。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
フラッシュエッジを喰らい、体勢を崩したデストロイ。
この隙を逃す道理はない。シンはペダルとパネルを操作、拳の槍『パルマ・フィオキーナ』を起動する。これを直撃させれば!
(これで終わらせる!そして俺は!)

デストロイまであと5m。その時、それは起こった。
「な、なんだ!?」
(時空湾曲反応?なんで!?)
マズイ。シンの直感がそう叫んでいる。だが、シンの身体は驚きのあまりに硬直してしまっている!
“あ、あれは……!”
通信機から聞こえる、震えたアスランの声。見れば今まで対峙していたデストロイ達が眼前の時空湾曲──宇宙よりも黒い、全てを塗り潰すかのような球体に吸い込まれていく。
(俺も吸い込まれる!)
「くそっ!何なんだよ、これは!?」
何故こんな事に。ここにはロストロギア反応は──!
“シン!早く離脱を!”
「──ッ!」
キラからの通信でシンは我にかえった。そうだ、考えてる時間はない。
デスティニーを反転、ブーストを最大まで噴かす、が。
遅すぎた。もう個人転送すらする余裕も無い。
「くぅ!」
どんどん拡大する黒い球体。その引力がついにデスティニーを捕まえた。
振り切れない。どんなに頑張っても。大量の汗が身体を濡らす。
(死ぬのか?俺は!?まだ、まだ俺は何も……!)
「うわぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」
“シーーーン!!”
みんな──。

C.E.74。
キラ・ヤマト、アスラン・ザラ、シン・アスカの三名は再び、その世から消失した。

218名無しの魔導師:2011/04/07(木) 15:32:37 ID:TL5z9YOMO
以上です。

最初に「身体が軽い!こんな気持ちで書くの初めて!もう何も怖くない!」って考えてたのが敗因ですね。はい。

219名無しの魔導師:2011/04/08(金) 23:15:56 ID:2CSsz/OM0
これはもしかしてACERですか?
何はともあれ乙でした!

220名無しの魔導師:2011/04/09(土) 14:09:30 ID:q.s.K4Ek0
キラのあの服装ってちょっと派手すぎるよな…と思ったけど、人種入り乱れてたら服装も意外と埋没して目立たないのかな

221名無しの魔導師:2011/04/10(日) 23:23:54 ID:/B5r9H6M0
珍しくコズミック・イラと自由に行き来できる世界観なんだな。
そして地味にレイと議長が生存してるwww 乙でした

222保守:2011/04/22(金) 01:35:05 ID:aUaCiMeoO
「……まだ、血が足りないの?」
JS事件にマリアージュ事件。あんなに悲惨な事があったばかりなのに。
「まだ、犠牲が欲しいの?」
それでもまだ争う人達がいる。

──涙と悲鳴は新たなる争いの狼煙となる!人が数多持つ予言の日だ!

そんな事、させない。

──そして滅ぶ!人は滅ぶべくしてなぁ!!

止めてみせる。
人は力があれば、きっかけがあれば、理由があれば直ぐに争いを始める愚かな生物なのかもしれない。
過ぎ去った痛みを直ぐに忘れる哀れな生物なのかもしれない。
「それでも……」
それでも、守りたい。人はソレだけじゃない。人には想いがあるんだ。
「止めてみせる。これ以上好きにはさせない……!」
あの時ちゃんと言えなかった言葉を紡ぐ為に、あの人の言葉を否定する為に。
これ以上の犠牲者を出さない為に、一刻も早くこの騒動を終わらせる為に。
フッケバイン、貴方達は僕達が止める。


「出来た……此れなら彼等に対抗できる」
対<魔導殺し>の切り札『CW-AECシリーズ』。その基礎設計が今、完成した。
(後は、コレをカレドヴルフ社に転送して……。NジャマーとNジャマーキャンセラーのデータをマリエルさんに渡せば……)
『CW-AECシリーズ』──魔力結合解除領域に対抗する為の質量兵器。術者の魔力を変換し、超電磁砲や粒子砲等を発射する武装端末。
完全なる人殺しの道具。ソレを、僕は造った。この僕、キラ・ヤマトが。
(仕方ないじゃないか……)
パイロットであり魔導師。MS技術者でありデバイスマイスター。そんな人間、自分ぐらいしかいないじゃないか。

──知れば誰もが望むだろう。君のようになりたいと!君のようでありたいと!

「ッ!?切り替えろ……これで救える命もあるんだ……!」
ほっとける訳無いじゃないか、今泣いている人達を!だから僕は忌み嫌う自分の力を使ったんだ!
そうだ、考えるべきは救える命の事だ。
「……ッ……ふぅ。……それにしても質量兵器、か」
まさか魔法の世界でモビルスーツの技術を使う事になるとは思わなかった。
魔力変換技術にはデュートリオン・システムを応用してるし、武装理論もストライクフリーダムやデスティニーのモノを使って製作した。
「本当はフェイズ・シフトも載せたかったけど」
ただでさえ少ない駆動時間をこれ以上圧迫すると戦闘に支障をきたすので没にした。
そこで永久機関であるハイパーデュートリオンを搭載する案もあったが、技術が追い付いていない為にこれも没。
「まだ問題点が多過ぎる……」
バッテリー容量にサイズに強度、制御系統等。手持ちのデータでは解決出来ない事が多い。
(一度、プラントに戻って資料を集める必要があるかな)
質量兵器──モビルスーツの開発、研究をしたプラントなら自分が悩んでる問題も解決できるだろう。
あぁ、自分達のデバイスのようにモビルスーツをそのままデバイスに変換する事が可能ならどんなにいいか。
「暫くはこれで我慢するしかない……」
兎に角、これらを実戦で使用する以上、半端な仕事は赦されない。まして相手はあの魔法が効かない凶悪犯罪集団フッケバインだ。
引き継ぎ性能向上の道を模索しなければ。それが人殺しの道具であろうと。

──私には在るのだよ!この宇宙で唯一人!全ての人類を裁く権利がなぁ!!

「──……どんな理由があっても、殺しが正当化される事はないんだ……」
僕には、覚悟がある。全ての業を背負う覚悟が。
あの人も彼等も、僕も。血を流し犠牲を生み出した者。だから。
「データ転送、完了。これでCW-AECシリーズは開発され、第五世代端末の研究は軌道に乗る筈だ」
僕が、止める。
「先ずは、プラントへ行かないとね」
僕達が止める。

人は愚かで、争いばかりする生物だけど。
争いを止め、命を紡ぐのも人だから。
「覚悟はある。僕は闘う」今はただ、皆が無事に帰れるように己の能力を最大限使う。
それが僕の生きる道だ。

223名無しの魔導師:2011/04/22(金) 01:42:55 ID:aUaCiMeoO
また保守の皮を被った駄文ですわ。
いつもどこか駆け足気味になっちゃいますねぇ

224名無しの魔導師:2011/04/22(金) 23:12:31 ID:n7lSXG5s0
失礼ながら作者自らが駄文云々いうのはよろしくないと思います

225名無しの魔導師:2011/04/23(土) 00:00:50 ID:svlpqO8gO
>>224
すいません……

226名無しの魔導師:2011/04/23(土) 01:43:50 ID:WWmaVlLw0
>>225
あなたのSS結構好きですから、自信を持ってください、また書いてくだいね

227名無しの魔導師:2011/04/30(土) 00:11:39 ID:gl0kSL2E0
dstとかまだ来ねーのな

もうエタだよな。そうだよな?半年以上放置なんだから。

228名無しの魔導師:2011/04/30(土) 08:43:15 ID:Iwkjuk020
だとしてもすることは変わらないだろ
自分で書かないなら待つだけだ

229名無しの魔導師:2011/04/30(土) 10:47:21 ID:krtg51wEO
なんかネタが降りてきたようなんで、あと二、三日したら保守SSができると思うわ。
相変わらずの出来になると思うけど、生暖い視線でお願いしますね

230逸騎刀閃 ◆AGSD/MBwB6:2011/05/02(月) 02:51:31 ID:ioWmAa9k0
作品の削除依頼ってここで出せばいいの?
それとも保管されてる場所で出した方が良い?

231名無しの魔導師:2011/05/02(月) 03:08:54 ID:CpB9Afk60
>>230
クロスオーバー倉庫の掲示板に連絡すると良いです

232逸騎刀閃 ◆AGSD/MBwB6:2011/05/02(月) 03:13:49 ID:ioWmAa9k0
>>231
ありがとうございます

233名無しの魔導師:2011/05/02(月) 03:28:45 ID:CpB9Afk60
>>232
あ、連絡用BBSの方ですよ

234逸騎刀閃 ◆AGSD/MBwB6:2011/05/02(月) 15:33:13 ID:ioWmAa9k0
>>233
重ね重ね済みません

いやしかし、忙しくなると何もできないものですね

235名無しの魔導師:2011/05/02(月) 18:44:05 ID:SU.vxruoO
>>227
言えば貴方の気は楽になるだろうが職人氏の気分は確実に悪くなると思うが?

236名無しの魔導師:2011/05/02(月) 21:15:27 ID:HmjQcXDo0
>>235
ほっとけって、触ったらダメだ

237名無しの魔導師:2011/05/05(木) 13:21:50 ID:gY4/UneM0
ここってまだ職人さんたち投稿してくれてますかね?

238名無しの魔導師:2011/05/05(木) 17:56:09 ID:VExch06AO
今日か明日か明後日に投稿できると思う。思いたい。信じたい。

オチをつけられない……(゚Д゜)
あれ?俺って最初何書こうとしてたんだっけ?

239保守 1/3:2011/05/07(土) 10:04:18 ID:23jmxAbUO
そこは戦場だった。
燻る煙と、鉄と肉が焼ける臭い。乱れ行き交う人が造った道具と、茹だる様な熱気。
一瞬のミスが命取りであるそこは、戦場だった。
そんな場所に存在する者がいた。
譲れないモノの為に。信じる未来を掴み取る為に、あえて戦場に存在する者がいた。
それは戦士。
全てを今とし、この一瞬の為だけに戦い続ける。そして、そこから続く終わらない明日へ向かう。
様々は策謀を張り巡らし、己の身体を信じ得物を奮って戦場を駆ける強者。
それが戦士。
今、戦いは佳境を迎える。戦士達の希望と絶望を混在したこの戦場は、クライマックスへと突入したのだった。


熱気で霞む視界、白濁する思考。誰もが微動だにせずお互いを牽制しあうこの状況。異様なまでの緊張感に溢れたその一角で、誰かの汗が一滴、地面に落ちた。
その瞬間、動きだした誰かの──エリオの腕。
それとその動きを機敏に察知し、負けじと──釣られて動きだしたヴァイスの腕。
未来へ進むために動いたのだろう。だが、無情な事に今は《その刻》ではなかった。
(機を見誤ったなエリオ、ヴァイス!ならば!!)
これに対しクロノは冷静に事態を分析、近未来をシミュレートする。
普段は頼れる味方だが今は敵。だから容赦はしない。時空管理局提督としての判断力をフル回転させた。
おそらくエリオとヴァイスはあまりの緊張感に耐えられなくなったのだろう。つまり、焦ったのだ。だから二人は無防備に動いてしまった。
二人が狙うはただ一つのターゲット。故に、
(予想通り!)
二人の得物はターゲットを捕捉する前にぶつかりあった。動揺する男二人。
この状況は最大限に活かさせてもらう。
(勝機は今しかない……!迂闊なんだ!)
シンはまだ静観中。キラとユーノは現在席を離れている。だから。
遂にクロノが動く。得物を握って、獲物に向かって腕を伸ばす。あと少し。
(届け、)
更に伸ばす。そして、だからこそ、
(届けぇ!)
届いた。誰にも邪魔されることなく祈りは希望に届いた。
今、クロノの得物は獲物を確保したのだ。

「よっし!肉ゲットォーーー!!」

それはきっと、勝利の雄叫び。

240保守 3/3:2011/05/07(土) 10:05:56 ID:23jmxAbUO


戦場は一時間につき1500円、バイキング形式の焼き肉屋さん。
JS事件解決から数ヶ月。たまの休日、男だけで行こじゃないかとヴェロッサ査察官が誘ってくれた店だった。
因みに、ここは海鳴市である。
「あっ!提督殿ずるいッスよー!?」
「早い者勝ちだ」
狙っていた獲物『豚カルビ』を横から拐われた事に気付いたヴァイスが叫ぶが、軽く受け流されてしまった。悔しさに歯を噛み締める。
「次は負けませんよ!」
同じく悔しい思いをしたエリオが宣言。これを聞いてヴァイスは気をとりなおした。
(そうだ、肉はまだあるんだ。まだ終わってない!)
虎視眈々と狙っていたカルビを獲られたのは痛いが、まだ戦いは中盤。チャンスはもっとあるはずだ。
とりあえずと、次の獲物を探すヴァイス。その視線の先には熱々の金網の上で旨そうな匂いを立ち上らすお肉達。何時見ても涎が出てくる光景だ。
(うーん。あの牛ロース三枚はまだ生焼けだし……この鳥もも一個しかまだ焼けてないなー。今はアレで我慢するか)
牛タンもハラミも鳥ムネもまだ駄目そうだ。
ならば選択肢は一つ。
次に状況把握。クロノはまだ『カルビ』を食べている最中、エリオは別の肉を注視しているようだ。シンは全く動く気配がないので放置。
(状況クリア!狙い撃つぜ!)
スナイパー・ヴァイスは意を決し、ただ一つの『鳥もも』に手を伸ばした、その時。ヴァイスは驚くべき光景を目撃した。
なんとエリオが『生焼けロース三枚』に手を伸ばしたのだ。
思わず固まるヴァイス。その間に『鳥もも』はクロノの手に堕ちた。早業である。
「……え……っと、エリオ……さん?」
冷や汗を流し、エリオに問うヴァイス。
「ウェルダンだけが、全てじゃないって事ですよ」
ジーザス、なんということでしょう。エリオはレア主義だったのです。
ウェルダン主義のヴァイスは大きなショックを受けた。
(このままじゃ、負ける!?)
席についた時から感じる変なプレッシャーに当てられて、先程から満足な食物を取れていない。
「くっ……何か、何かないのか!?」
ヴァイスは再び辺りを見渡し……そして見つけた。
不動のシンの手前に、アルミホイルの塊を。
(アルミ……ホイル焼きか!これだけかっ)
ヴァイスは、他の肉と隔離されているようなこの『ホイル焼き』の配置に疑問を持つべきだったが。奇妙なプレッシャーと熱気に頭をやられた今の彼にそれは酷というモノだろう。
もう後がない。これを食べると決めた。ヴァイスは得物である箸を確と構え、香ばしい匂いを発するアルミホイルに手を伸ばし──

「ソイツは俺が喰うんだ!今っ!ここでぇっ!!」

「シンさん!?」
「今まで大人しいと思ったら!?」
「ずっとコレだけを狙ってたのかよ!?」
シンの怒りを買った。

241保守 3/3:2011/05/07(土) 10:07:37 ID:23jmxAbUO


「なにやってるのさ君達は……はい、追加の肉もってきたよ」
「……なんでヴァイス君は燃え尽きてるの?」
大量の肉を補給きたユーノとキラが帰ってきた時、ヴァイスは真っ白になっていた。

因みにもう一つのテーブルにヴェロッサとグリフィス、ザフィーラ、アスラン、レイがいる。
「アコースさん、海老が焼けました」
「あぁ、ありがとうね」
彼方は平和である。というか普通である。

「返事がない……只の屍のようだ」
「生きてますよ!?」
此方が異常なのだ。
「まだまだ沢山あるんだから、そんなに焦らなくても……一体何が君達を駆り立てているのさ?」
騒がしい仲間達を見て、キラがもっともな感想を呟いた。


敵は依然脅威的、されど援軍は現れない。
完全なる孤立無援だ。
(状況は最悪。ここを突破しなければ未来はない)
ヴァイスはビールジョッキ片手にじっくりと考える。
(だけど、それは誰にでも言える事だ。これはサバイバルなんだからな)
入店して既に90分。しかし満腹には程遠く、誰もが新たな肉を求めている。
「……ッ!?もらったァ!」
食べ頃に焼けた瞬間、肉に群がる箸という箸の隙間を潜り抜け、ヴァイスの箸がまた一つ獲物を確保した。
(……ふぃー、セーフ)
しかし意外な伏兵がいたものである。
当初は動体視力・反射・速さに優れるシンとキラ、優秀な判断力・冷静さを持つクロノを警戒していたヴァイスだったが、それは間違いだったのだ。
ユーノ。
その性格・風貌とは裏腹に、正確無比な箸捌きと『機』を絶対に逃さない探索能力を持った彼は今、誰よりも脅威だった。
(まずはコイツの動きを探さないと……ヤツのウィークポイントを探せ!)
ヴァイスはユーノの経歴を思い出すことにした。

「それでもっ、食べたいカルビがあるんだ!」
「キラさん!やらせませんよ!」
「皆、ちょっと頭冷そうよ……」
「せっせと沢山食べてるお前が言うなよ」

(見つけた)
今の言い争いの中にヒントを見つけたヴァイス。といってもそれはウィークポイントでもなんでもないのだが。
とにかく、ユーノの動きを止めるのだ。
「ユーノ殿っ」
その為には、奴の純情を利用させていただく。

「なのは教導官の唇はレモン味でしたかっ!?」

たしかまだ友達以上恋人未満だったはず。そう、恥ずかしがってる隙に──

「どっ、どこで見てたのさ!?」

──なに、このリアクションは?



「そうか、ユーノ君もようやく決心したんだねぇ」
「えっと、恥ずかしながら……」
「妻はいいぞ。お前もコッチ入りだなフェレットもどき」
「そういやルナは大丈夫かな……?」
街灯がきらびやかに照らす夜の海鳴市、その帰り道。
「グリフィスさんは最近ルキノさんとの噂が絶えませんね?」
「や、やだなぁキラさん……別に僕は……」
「でもこないだキャロが、事務室でグリフィスさんとルキ」
「わーー!?」
管理局の男共が女達の話をしている中に、
「カガリ……」
「ギル……」
「アルフ……」
再び真っ白に燃え尽きたヴァイス・グランセニック25歳独身がいた。


      終われ

242名無しの魔導師:2011/05/07(土) 10:09:30 ID:23jmxAbUO
>>240は 保守 2/3 です。間違いました

俺は……ガンダムになれない……

243名無しの魔導師:2011/05/09(月) 00:11:14 ID:RaVarj420

次の投下も楽しみにしてるよ。

244名無しの魔導師:2011/06/20(月) 00:59:14 ID:LGP4qI1Y0
うーん…久しぶりに投下しようか迷っているんですが
どうしたらいいでしょうか…?

245シンの嫁774人目:2011/06/20(月) 01:41:14 ID:nKnOWJm60
投下が可能ならしてほしい。
どうにも最近投下少ないから、少しずつでも・・・・・・みたいな。

246名無しの魔導師:2011/06/20(月) 07:09:10 ID:OBG1Efv2O
>>244
俺が投下をして時間を稼ぎます。
貴方はその勢いに乗るんです!

247保守1/2:2011/06/20(月) 07:10:53 ID:OBG1Efv2O
「最近、避けられてる気がするんだよ」
機動六課隊舎、浴場。
シャワーで身体の汚れを流しながら、苦虫を噛み砕いたような顔のシンがそう告白した。
「……どうして、そう思うの?」
その告白を聞いて、続きを促すキラ。浴槽に浸かりながら興味深そうな顔でシンの言葉に耳を傾ける。
「なんていうかさ、普段は普通に接してくれるんだよ。でも……戦闘になると何故か皆、俺から離れていくんだ」
一週間前からだ。模擬戦が始まると皆が皆、シンと顔をあわせなくなる。それどころか遠ざかる。
そうなると何か原因があると原因を探る所なのだが、シンには全く思い当たる節がないのだ。いつも通りティアナの指示に従って先頭を突っ切り、いつも通りSEEDを覚醒させ、いつも通り戦場を縦横無尽に駆け巡っていただけだ。
ナイーブなシンに、こんな状況が耐えられる訳がない。シンは恥を偲んで、自分に近しい人間であるキラに相談する事にしたのだった。
エリオが風呂から上がって、五分。シンの訴えを静聴したキラは重々しく、その口を開いた。
「多分、だけど……原因は君にあるよ、シン」
「なんで!?」
それはシンにとって信じがたい指摘。先に述べたとうり、シンには思い当たる節がないのだ。何故と思うのは当然のこと。
六課入隊当時ならまだわかる。あの時のシン・アスカという人間は何処までも不安定で、攻撃的で、独りで、『抜き身刀』という表現がよく似合う存在だったのだから。
だが今は違う。日常生活で、仲間と笑い合う事ができるようになれたのだ。
そんな自分が戦闘時のみだけとはいえ、仲間から避けられている。そして原因は己にあると、この男は言うのだ。
「俺が一体何したって……!」
キラには解るというのだろうか。この状況の、シンの原因が。それはあまりにも不愉快だ。
「そして、僕にも原因がある」
「……は?」
Why?一体どういう事なのか。シンが避けられているのに、この男にも原因があるというのか?まさか嫌がらせ?でもコイツと俺の確執にはもう決着がついたはずだ……。
先程の不愉快を忘れ、呆然とするシンに、キラはこの状況の根底を説明する。
「落ち着いて聞いてね。これは僕の推理でしかないから……」
「……あ、あぁ」
とりあえず、説明を聞くしかないシンであった。

248保守2/2:2011/06/20(月) 07:11:34 ID:OBG1Efv2O

「スバル、クロスシフトA!エリオとシンは左右から詰め、キャロはサポート!」
「了解!!」
「いくぞエリオ!!」
「はい、シンさん!」
「ケリュケイオン、シューティング・レイ!」
翌日の模擬戦。
圧倒的速度と一心同体の連携を武器に、此方に突撃を敢行するフォワード陣を確認して、
「うん、今までと違ってちゃんとシン君と連携が取れてる……。キラ君のおかげかな?」
「……僕は、なのはの言う通りにシンの相談に乗っただけだから。大した事はしてないよ」
「そう?」
なのはとキラは、ちゃんとシン達が一丸になっていると感じて胸を撫で下ろしていた。もし今までのままだったら、どうしようかと思っていたのだ。
「まぁ、だからといって負けたりはしてあげないけどね」
「突撃班と援護班……。典型的だけど、厄介だ。僕が掻き乱すよ」
「じゃあ、わたしがその隙に援護班を攻撃するね」
「……行くよ!」
相手が万全ならば、もう遠慮することは無い。
隊員陣が迎撃を開始した。

「一週間前さ、シンは特訓でSEEDを完全に制御出来るようになったじゃない」
「……おう」
風呂から上がって、脱衣室。キラはシンに解説をしていた。
「それでこの一週間、戦闘になると必ずSEEDを覚醒させてたでしょ?君は」
「…………まさかと思うけどさ」
SEEDを完全に制御下に置く。それはつまり、キラのようにSEEDを自由に発現出来るようになるという事。その特訓をシンはしていて、遂に完全に制御する術を得たのだ。それが一週間前。
「多分、そのまさかだよ」
タオルで髪の水分を取りながらキラはSEEDを発現、そのままシンに向かって微笑する。
「怖っ!」
シンは思わず顔を背けた。瞳から光が消えた状態での微笑。軽くホラーだ。
「……そういうこと。つまり君はこの一週間の戦闘は、ずっとホラーな感じだったんだよ」
そりゃ怖がって誰も目を合わせようとしないよ、と続けるキラを無視して、シンはこの一週間を再び思い返す。
いつも通りティアナの指示に従って先頭を突っ切って、調子に乗って毎回SEEDを覚醒させ、いつも通り雄叫びを上げ、いつも通り戦場を縦横無尽に駆け巡った。
(……ぐわぁ)
うん、十分怖いね。思い当たる節ばかりだ。
「あっ!そうだ、そもそもあの特訓って!」
「うん、僕の提案だ。……言ったでしょ、僕にも原因があるって」
「アンタって人はーーっ!」
つまりキラの提案とシンの不注意が原因だったのである。
勿論シンはキラに抗議するのだが、
「やめてよね。僕も通った道だよ。……ホラー者同士、仲良くしよう?」
「嫌すぎるわ!!」
それ以上は何も言えなくなってしまったのだった。

そうしてシンはSEEDを多用しない事を決意。フォワード陣の絆は元戻ったのだった。

end

249名無しの魔導師:2011/06/20(月) 07:16:43 ID:OBG1Efv2O
もっと女の子達の見せ場を書きたいんですけどね。何故かいつも男ばっかり……
困ったものです

250名無しの魔導師:2011/06/20(月) 08:18:49 ID:UfSjLFFI0
乙です。

251名無しの魔導師:2011/06/20(月) 10:07:18 ID:pZbLM0N20
結局嫌がらせだったんじゃないのかキラwww

252名無しの魔導師:2011/06/20(月) 10:53:56 ID:OBG1Efv2O
>>248
誤字発見
なんてこったい。なんだよ「隊員陣が迎撃を〜」って。「隊長陣が〜」だよ。

これはもう透明あぼーんするしか……

253 ◆nTZWuJL8Pc:2011/06/20(月) 11:22:52 ID:LGP4qI1Y0
246氏、ありがとうございます。
おかげで勢いに乗らせていただきます。
忘れられている方もいらっしゃるとは思いますが、ご容赦下さい
『魔法少女リリカルなのはクロスSEED』
第17話「さよならは、終わりじゃなくて……はじまりの言葉。なの」後編

254 ◆nTZWuJL8Pc:2011/06/20(月) 11:23:55 ID:LGP4qI1Y0
 膨大な魔力と魔力のぶつかり合い。
 飛散する互いの魔力の欠片が幾つもの色を彩り、眩くちらつかせる。
 一瞬も気が抜くことのできない絶対的な状況の中、キラはただひたすらに目の前の駆動炉へとスターライトブレイカーを撃ち続ける。
 均衡した競り合いの中、互いに引かない状況が続いていた――が、


ピ、キィッ!!!


「!!!?」

 それはキラの耳にも届くほどの不協和音。
 そのオトの原因――それは握りしめているデバイス、ストライクのシュベルトゲベールに亀裂が入ったオト。

「ストライク!!?」
『も、うしわけ……あり、ません』

 脳内に響く声も、いつものはっきりした声ではなく、途切れ途切れの音声。
 音声を発する事すらまともに出来ない程にストライクは消費していた。
 膨大な魔力量の需要−バースト−と供給−チャージ−。
 それはストライクの許容魔力の限界を遥かに超えていた。
 だが、それを知っていて尚、マスターであるキラに答えられるよう全力を尽くしていた。しかし――
 入った亀裂が徐々に広がり、シュベルトゲベールの原型が崩壊していく。

「ごめん……ストライク……」

 最初から無茶だとわかっていた。
 最初から無謀だとわかっていた。
 最初から分の悪い賭けに出ているとわかっていた。
 でも、最後の最後まで諦めたくなかった。
 それはあの子に、なのはに教えてもらったコト。
 でも、今度は本当にダメなのかな――――そう諦めかけていた。

255 ◆nTZWuJL8Pc:2011/06/20(月) 11:24:39 ID:LGP4qI1Y0
――アースラ・メインブリッジ


 アースラへと帰還した面々は、キラと駆動炉の一進一退極まる攻防を見つめていた。
 膨大な魔力同士のぶつかり合い、それをただモニターごしでしか見られないコトに歯がゆさを感じていた。
 そんな中、異変は起こる。
 キラの持つシュベルトゲベールに亀裂が入った。
 オトが艦内に響き渡り、管制官のディスプレイにも異変が起きた。

「ストライクのメインコアに異常!魔力値徐々に減少中!!」
『!!!!』

 オペレーターの発した声に一番に動き出したのがなのはだった。
 振り返り、ワープゲートへと走り出す。

「なのは!!」「待つんだ!!」

 同時に声を発したユーノとクロノ。だが、それでもなのはは走ることをやめなかった。

「時の庭園へ戻して下さい!!」
「許可できない!!」
「どうして!!?」
「危険すぎる!!ここにいる僕らも危険なんだぞ!!」
「でも!!キラ君が!!!」
「そんなことわかっている!!」
「だったら!!」
「わかっているさ!!!」

ダンッ!!!

 握り締めた拳を壁に叩きつけるクロノ、それにたじろぐなのは。
 
「わかって、いる…」

 あの時、キラを残す判断を下したのは自分だと。
 あの場で、全員を指揮する立場にあったのは自分自身だと。
 今の現状を作り出した責任が、自分自身にあると。
 クロノ・ハラオウン執務官が下した判断だと。

「クロノ、くん……」
「クロノ……」
 
 静まりかえる艦内。突然のクロノの行動に誰もが驚きを隠せないのだろう。
 いつもは冷静沈着な執務官殿が、そういった感情に任せた行動を見せたのだから。
 そんな中、フェイトだけはモニターのある異変に気がついた。

「あ…………!!!」

 口から零れたこの言葉に気づく者は誰もいなかった。
 そのモニターに映る一つの異変。彼女の瞳に映る"ソレ"は、ゆっくりと動き出した。
 

 
 ――――もう、ここまでなのかな

 ――――"まだ、だよ"

 ――――え?

 ――――"まだ、諦めるには早いよ”

 ――――でも、もう僕には

 ――――"だって、ほら"




 
「――――諦めるな」『Power sending.』





 ――――"僕は、一人じゃない。"

256 ◆nTZWuJL8Pc:2011/06/20(月) 11:25:12 ID:LGP4qI1Y0
 僕は、夢を見ているのだろうか。
 もうダメだ、もう限界だ、目の前の絶望に負けそうになった瞬間。
 崩れ落ちそうになった僕の身体を、一つの手が支えてくれた。
 ボロボロで、傷まみれで、でも、だけど、昔からよく知っている手だった。
 そして、声が聞こえた。

 彼の、アスラン・ザラの声が。
 
 『Recovery.』
 
 シュベルトゲベールを覆う紅と蒼の光が全身の亀裂を修復していく。
 そして、剣を持つ手がもう一つの手と重なる。

 「――ア、スラン」
 「――まだ、終わってない」 

 アスランの行動が理解できなかった。
 でも、それでもキラはただ、ただ嬉しさが込み上げていた。
 それは、絶望から這い上がった瞬間。
 手を差し伸べてくれたのは、かけがいのない親友。
 これほどまでに嬉しいことはない。

 「―――――うん!」

 声と共にキラの表情に笑みが浮かぶ。
 先程までの顔とはまるで別人のように輝いていた。
 手に込める力が増し――そして、


「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」


 二人の咆哮が反響する中、魔力の激流の均衡が崩れ、

 紅と蒼の奔流が、時の庭園を飲み込んでいった――。



 ――僕は、帰るんだ。

 ――そう、あの子と約束したんだ。

 ――もう、約束を破りたくないんだ

 ――だから、

 ――僕、は



 眩いばかりの輝きがブリッジのメインモニターを包みこみ、
 それを眺めていた全員が目をしかめる。
 そして輝きが収縮していき、映っているのは硝煙のみであった。


 ――――――……なら


「え……?」

 微かに、でも確かになのはの耳には聞こえた。
 それは、掠れそうな程小さな声だったけど、でも確かに聞こえた。
 あれは、あの声は……

「オペレーター! キラとアスランは!?」
「現在、魔力反応を散策中!」


 でも――だって


「散策、完りょ……」
「どうしたの!?」 


 約束――したのに


「散策……完了……キラ・ヤマト、アスラン・ザラ……」

 
 どうして、"さよなら"なの?


「魔力反応、完全にロストしました…………」


 ――――キラ、君……

257 ◆nTZWuJL8Pc:2011/06/20(月) 11:29:43 ID:LGP4qI1Y0
以上、17話後編の投下完了です
中途半端な終わり方ではありますが、
一応この後のエピローグも用意しております。
前回の投下から恐ろしいほどの年月が経ちました。
読者の皆様にはただただ頭を下げることしか出来ません。
では後日また改めてエピローグをお届けできると思います。
それでは、本日はありがとうございました。

258名無しの魔導師:2011/06/20(月) 11:32:18 ID:OBG1Efv2O
キターー(゚∀゜)ーー!!
保守してた甲斐があったぜ、職人の降臨だ!

さて、先ずは投下された作品の一話目を探さないとね

259名無しの魔導師:2011/06/20(月) 15:50:11 ID:Qu2sVwYw0
職人さんお帰りなさい
あなたの作品は全部読んでます
前回投下した後からかなり時間が空きましたが、完結させていただいて本当にありがとうございます
ずっと気になってた分すっとしました
エピローグも楽しみにしてます

260名無しの魔導師:2011/06/20(月) 15:53:32 ID:BpaFBGuQO
GJ、戦いを終えた二人は元の世界に帰れたのでしょうか?

エピローグも楽しみにしています。

261名無しの魔導師:2011/06/20(月) 18:50:20 ID:pZbLM0N20
おかえりなさい、GJ。でもこの後いったいどうなるんだ……!?

262名無しの魔導師:2011/06/21(火) 20:53:45 ID:NiPyNSeQ0
来た、帰ってきた!毎日覗いてた甲斐があったよ。
残りのエピローグも待ってます。

263名無しの魔導師:2011/06/26(日) 04:34:52 ID:rOivukaI0
そういや主人公組がスカ一党側でメインって話はないな。
まぁ、ナンバーズの存在理由が存在理由なだけに難しいって話だが…。

にしてもキラとアスランはバトル主体ってゆうのは想像できるんだがシンは家事
やら何やらで家庭的なサポートをしているという想像しかできないのは色んなとこの
二次創作関係の影響なんだろうか

264名無しの魔導師:2011/06/29(水) 00:17:25 ID:TB8cuix20
この流れに合わせて、
dst早く完結させろやボケ

出来なきゃとっととエタ宣言しろカス
何年待ってるとおもてんだ

265名無しの魔導師:2011/06/29(水) 12:53:23 ID:cFgx2YuoO
氏のやる気を削ぐ発言もそうだが、お前ここ初めてか?
力抜いて落ち着いてレスしようや

これは職人すべてに言えることだが仮にエタったとしてもそれをカミングアウトするのもしないのも職人の自由だ

誰に強制されることでもない

266名無しの魔導師:2011/06/29(水) 19:45:21 ID:KwqAtQ3Q0
ほっとけよ

267名無しの魔導師:2011/06/30(木) 20:22:17 ID:BJXQmbz20
>>265
何上からモノ見てんだよアホ
そうやって、そのうちまた書いてくれるだろうwww
みたいな日和った寝言ほざくから職人気取りのバカがつけ上がって書き捨てた中途半端なゴミを放ったらかしにしてるんだよ。
まとめwiki見てないだろお前、半端に最初だけ書かれて五年以上放置してあるのがどれだけあると思ってんだよ。
あんなオナニーのカキ染めのゴミ箱があのまとめWikiなんだよ。
あんなのが見たくてお前はここにいるのか?
きっちりケジメをつけて完結するかそれともエタるか、どっちかしかないだろうが。
ここの連中が書き手を必要以上にありがたがるから今の無投下放置の状況んじゃないの?

っていうか、いつもチャットに隠れてるアホどもはこっちに来いよ。
ここのチャットはお前らの遊び場になってんじゃねーかよ。
逃げてんじゃねーよ。 何とか言ってみろよ! ナメんな!

268名無しの魔導師:2011/06/30(木) 21:55:03 ID:PISn4W8c0
まあしょうがないんじゃね? ここに限らず長編のクロスSSは完結するほうが稀なんだし、そういうのに我慢できないなら君は見るのはやめたほうがいいよ。もしくは自分で書いてみるとか。

269名無しの魔導師:2011/06/30(木) 22:22:47 ID:RVQ6gsMk0
おいおい、反応するなって

270名無しの魔導師:2011/06/30(木) 22:46:26 ID:5KjUW1pk0
・煽り、荒らしは無視しましょう、反応した貴方も荒らしだ。

そういうことで話題変えよう
エピローグは帰ったことになるのか?
やっぱりキラはラクス、アスランはカガリのとこにいるあたりの話しかな?
楽しみに待ってますよ〜

271名無しの魔導師:2011/06/30(木) 23:20:40 ID:BJXQmbz20
せめて去り際の一言でも残してもらえると安心するんだがな

272名無しの魔導師:2011/06/30(木) 23:36:03 ID:BJXQmbz20
待つ待つ詐欺に騙され続けるここの人たち可哀想です

273名無しの魔導師:2011/07/01(金) 02:40:10 ID:Z2wlYDZkO
なんだ釣りか

274名無しの魔導師:2011/07/01(金) 23:42:22 ID:aVl68ezMO
馬鹿がいるな
つーかそんなに気に食わないなら読まなきゃいい
少なくともどの職人だって上から目線の読者様の為に書いてんじゃないと思うが

275 ◆nTZWuJL8Pc:2011/07/07(木) 13:35:09 ID:JxAl0us20
皆様こんにちわ。
以前お伝えした『魔法少女リリカルなのはクロスSEED』のエピローグを投下しようと思うのですがいかがでしょうか?

276 ◆nTZWuJL8Pc:2011/07/07(木) 13:54:37 ID:JxAl0us20
すみません、時間を書いていませんでした
もし宜しければ今夜の深夜1:00より投下したいと思います。

277名無しの魔導師:2011/07/07(木) 18:02:21 ID:TH9ZBZgA0
イィィヤッホオオオォウ!

278名無しの魔導師:2011/07/07(木) 21:50:13 ID:2ZPvTNFc0
いよっしゃ! 楽しみにしています!

279 ◆nTZWuJL8Pc:2011/07/08(金) 01:00:09 ID:KtopSYsY0
それでは時間ですので、投下開始したいと思います。

280 ◆nTZWuJL8Pc:2011/07/08(金) 01:00:48 ID:KtopSYsY0
プレシア・テスタロッサが引き起こした通称ジュエルシード事件はこうして終わりを迎えた。
暴走していた駆動炉は完全に機能を停止し、ジュエルシードも全て封印されていた。しかし、
時の庭園内を何度探しても、どれだけ捜しても、

キラ・ヤマトとアスラン・ザラの両名だけは発見される事はなかった――。



魔法少女リリカルなのはクロスSEED


エピローグ「そして……それぞれの始まる物語。なの」



――プラント。


「……う…………ん………」
混濁する意識の中、ゆっくりと重い瞼を開くキラ。
「気がつかれましたか?」
耳に聞こえる女性の声。声の方向へ顔を向けるとそこには、
桃色の長髪の女性――というにはまだ幼さが残るあどけない少女。
以前、宇宙で出逢ったプラントの歌姫――ラクス・クラインがそこにいた。
「こ、こ、は…………?」
「ここは、私の家ですわ」
なぜ自分がこんな所にいるのか、その答えを探そうと朧気な記憶を辿っていく。
そこに描かれたのは、親友との死闘。
互いの大事な友を、互いに奪われ、憎しみのままにただ戦ったあの記憶。
そして、そし、て――――?
「…………」
何だろう、この感覚は
まだ、何かあった筈なのに
思い、出せない。
「僕、は……」
込み上げてくる感情の波に流されて両の瞳から流れ出る涙。
「アスランと、戦って……」
戦って、それで……どう、したんだろう……
何度思い出そうとしても思い出せない。

何か、とても大事なことを忘れているような――。

281 ◆nTZWuJL8Pc:2011/07/08(金) 01:01:29 ID:KtopSYsY0
――同時刻、オーブ近海。


「キラを、知っているのか?」
オーブ艦隊に収容されたアスラン。
意識を取り戻し、目に映るのは少しばかりの馴染みのある人。
カガリ・ユラ・アスハはそんなアスラン・ザラに幾つかの質問を投げかけていた。
どうしてあんな処にいたのか。
ストライクを討ったのはおまえか。
キラを知らないか。
最後の質問に反応を返すアスランに投げかけた返答。
「ああ、よく知ってるよ……」
そうだ、俺はあいつの昔からの友達で
「泣き虫で甘ったれで、優秀なのにいい加減な奴で……」
それなのに、あいつは俺の……
「でも、次に逢った時は……敵だった」
何度も、戦って
「戦って、仲間を、ニコルを殺した!」
「だから、キラを殺したのか……」
「敵なんだ!今のあいつはもう……!」
"今"のあいつは……?
「俺の……て、き……」
俺の"敵"、あいつは……キラは……

敵、だったんだ――――。



――アースラ・艦内


事件から数日が経過――。
未だ捜索が続けられているが、一向に進展が見られず二人の捜索は絶望的なものになっていた。
事件が終わりを告げたが、全員の中に暗い影を残したまま時間だけが過ぎていく。
そんな中――

「今回の事件解決について大きな功績があったものとして、
 ここに略式ではありますがその功績を讃え表彰します」
緊張していますといわんばかりの顔で賞状を読むリンディを見るなのは。
「高町なのはさん、ユーノ・スクライア君……キラ・ヤマト君」
最後に呼ばれたのは、ここにはいない者の名前。
だが、それでもなのはは嬉しかった。
ちゃんと彼の事も自分達と同じようにしてくれた事が。
「ありがとう」
拍手の中、賞状を受け取るなのは。
その表情は、自然と笑みが浮かんでいた。

そして、アースラから自宅へ戻ることになったなのはとユーノ。
アースラの面々と別れを告げ、臨海公園へと転送された二人は帰路へついた。
だが、帰る足取りは決して軽くはなかった

282 ◆nTZWuJL8Pc:2011/07/08(金) 01:02:04 ID:KtopSYsY0
――高町家

(キラ君の事、どうやって説明しよう……)
玄関の前で入ることを躊躇っていたなのははずっと考えていた。
消えてしまった彼の事をどうやって家族に言うべきか、と
(……記憶が戻って、自分の家に帰ったって言えばいいんじゃないかな)
無難な返答を返すユーノ。
(うん、そうなんだけど……)
だが、その言葉をちゃんと言えるのか。
嘘だって気づかれないだろうか。
(……悩んでてても仕方ないよね)
まずは、笑顔で帰ろう。
そして、笑顔のまま伝えればいいんだ。
決心がついたなのはは扉を開け、笑顔を浮かべ

「ただいまー」

暖かく出迎えてくれる家族。
笑顔のまま自然に振舞おうとしてた中、
「そういえば、キラ君は?」
母・桃子の当然くるであろうと予測できた質問。
そして予習してきた通りに

「キラ君、記憶が戻って、自分の処へ帰っちゃったんだ」

その言語に驚く面々、だが彼は元々記憶喪失の居候。
記憶が戻って帰っていくは当然の事なのだから。
「それで、キラ君どこへ帰っていったの?」
「ふぇっ!?」
次の質問に驚いて声をあげたなのは。
「そ、それは……その……」
(ど、どうしようユーノ君……)
(う、うーん……)
まさかの質問にしどろもどろするなのは。

「まぁ、いいじゃないか。無事に記憶も戻ったんならそれで」

そんななのはの助け舟を出したのは意外にも父・士郎だった。
「それに、キラにはキラの帰るべき場所があるって事なんだよ」
それに続くのは兄・恭也。
二人の言葉を受け、桃子と姉・美由希は納得した様子だった。

(な、なんとかなったね……)
(そ、そうだね……)

ほっと胸を撫で下ろす二人であった。


――夜。

月明かりが照らす中、一人道場の中へと入っていくなのは。
そして扉の前に立ち、扉にかかってあったプレートを見る。
『キラくんのお部屋』
それはなのはがキラの為に作ってあげたものだった。

――はい、キラ君これ!
――これって……もしかして僕のために?
――うん!だってこれがないとキラ君の部屋だってちゃんとわかるようにしないとね!
――ありがとう、なのはちゃん。

ポケットの中から取り出したのは、一本の鍵。
それはこの部屋の合鍵、以前に士郎から預かったものだった。
掛かっていた鍵を開け、ゆっくりと扉を開く。

――なのはちゃん。

いつもなら、この部屋の住人がいて
いつもなら、扉をあけたなのはの名前をよんでくれるのに――
今は、そこにはもう誰もいなかった。
急激に襲ってくる感情に押しつぶされそうになるが、グッとこらえる。
(キラ、君……)
あの時、なのはには確かにキラの声が聞こえた。
「さよなら」と、
周りの皆に聞いてみても誰もそんな声は聞こえなかったという。
ならば、あれはやはり幻聴だったんだろうか。
もし、本当にキラがなのはに言ったんだとしたらどうして"さよなら"なんだろうか?
本当になのはが聞きたかった言葉は、そんな言葉じゃないのに……
「どう、して……」
彼は別れの言葉を残して消えてしまったのか。
思えば思うほどに切なくなり、いつの間にかなのはの目には涙で一杯になっていた。
そして溜まり続けた涙は許容量を超え、瞳から流れ出し――

「うっ、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん…………!!」

涙と共に溢れ出る感情。
それはずっと我慢してきた少女の悲しみ。
受け入れられなかった現実を受け止めた瞬間、
なのはは、涙を止めることが出来ず、ただ想いのままに泣いていた。
そして、なのはの後ろに着いてきていたユーノ。
彼もまたなのは同様に瞳に涙を浮かべていた。

『(なのはちゃんの事、頼んだよ!)』

時の庭園の中でキラがユーノに託した言葉。
脳裏に響くその願いが今のユーノに重くのしかかる。
(今の僕には、なのはの涙を止めることは出来ない……
 止められるのは、あなただけなんですよ……キラさん)
自分の無力さを歯痒く噛み締めるユーノはただ、自分も泣かないように必死にこらえていた。
目の前で泣く少女を、これ以上悲しませない為にも、今はただ――。

283 ◆nTZWuJL8Pc:2011/07/08(金) 01:02:52 ID:KtopSYsY0
――プラント・クライン邸。


「僕は、行くよ……」

それはラクス・クラインへ向けたキラ・ヤマトの言葉。
もう大分身体の傷は癒えたとはいえ、彼はまだ安静にしていなければならない人間だった。
降りしきる雨の中、庭で立つ彼はこちらを振り向くと涙を流し、そういった。
「どちらへ行かれますの?」
努めて冷静にラクスは聞いてくる。
そんなラクスを見据えて、キラは真っ直ぐに答える。

「地球へ……戻らなきゃ……」
「何故?貴方お一人戻ったところで、戦いは終わりませんわ」
確かにその通りだろう。
先程、クライン邸に入った連絡ではザフトは地球軍の本拠地であるアラスカを攻めるとの事だった。
キラがその連絡を受け気掛かりだったアークエンジェルの事を思い返した。
もし戦いが始まってしまってはもうどうしようも出来ない。
だけど、自分一人では何も出来ないことなど分かりきっていた筈、でも――
「でも、ここでただ見ていることも、もう出来ない」
確かにここに入れば少なくとも今は安全だろう。だけど、

「何も出来ないって言って、何もしなかったら、もっと何も出来ない。
 何も変わらない――何も終わらないから。それに、諦めたく、ないんだ……」

それは、このクライン邸の中でキラはずっと心に引っかかっていた事。
何度思い出そうとしても思い出せないが、たった一つだけ、朧気ではあるが、
心に残っているモノがあった。

『――――諦めないで』

それは誰の言葉だったのか。
まるで遠い記憶の様に言葉を発しているその人物の姿も名前も思い出せない。
だけど、その言葉だけは思い出せた。
はっきりとしたその言葉にまるで背中を後押しされたように、キラは決心した。
「また、ザフトと戦われるのですか?」
違う、僕は
「では地球軍と?」
"そういう"のと、戦うのじゃなくて――
「僕達は、何と戦わなきゃならないのか、少し、解った気がするから」
それが、キラ・ヤマトの出した答えだった。
その答えに驚いた顔をするラクスだったが、すぐに表情を戻し、

「……解りました。では私も、ラクス・クラインも平和の歌を歌いましょう――」

同時に、ラクス・クラインも"動く"ことを決意した――。

284 ◆nTZWuJL8Pc:2011/07/08(金) 01:03:52 ID:KtopSYsY0
――プラント・廃墟と化した劇場。


プラントに戻ったアスランを出迎えたのは信じられない報告だった。
オペレーション・スピットブレイクの失敗。
秘密裏に制作されていた新型モビルスーツの奪取。
そしてそれにラクス・クラインが関与していた事――。
父・ザラ議長閣下による新たなる任務、
奪取されたモビルスーツ・フリーダムの奪還とそれに関与する全ての破壊――。
その後、クライン邸を訪れたアスランが発見したのは、自らがプレゼントしたピンクハロだった。
それを追いかけた先にある花をヒントに、アスランは以前ラクスが語った劇場へと足を運んだ。
そして、その劇場からは紛れもない彼女の歌声が聞こえてきた――。

「……ラクス」
『(殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで本当に最後は平和になるのかよ!)』
脳裏に蘇るカガリの言葉。
わからなくなっていた。自分がどうすればいいのか。
何を信じ、何の為に戦っているのか――アスランは混迷の中をさまよい続けていた。
「マイド!マイド!」
抱えていたハロが飛び出し、跳ねていった先には――
「ラクス〜」
「あら〜ピンクちゃん!やはり貴方が連れてきて下さいましたわね、ありがとうございます」
反射的に銃口を向けるアスラン。
その先にはかつての婚約者――ラクス・クラインがいた。
「ラクス!」
「はい?」
「……どういうことですか、これは」
置かれている状況がわかっていないのか?
まるで普通に返答する彼女に真相を問いただしてみなければ――
「お聞きになったから、ここにいらしたのではないのですか?」
「では本当なのですか!?スパイを手引きしたというのは!何故そんなことを!?」
「スパイの手引きなどしてはおりません」
「!?」
なら、やはりラクスは無実――だが、一体どういう
「キラにお渡ししただけですわ。新しい剣を」
「キ、ラ……!?」
キラ……だって?
「今のキラに必要で、キラが持つのが相応しいものだから」
「キラ……?何を、言ってるんです!」
キラは……あいつは……

「貴方が殺しましたか?」

「!?」
そうだ、あいつは敵で、俺が……俺が……
「大丈夫です。キラは生きています」
あいつが……生きて……?
「う、嘘だ!一体どういう企みなんです!ラクス・クライン!
 そんなバカな話を……あいつは……あいつが生きてるはずがない!!」
ストライクに組み付いて、イージスを自爆させて……
「キラも貴方と戦ったと、言っていましたわ」
「!!」
キラ、が……
「言葉は信じませんか?ではご自分で御覧になったものは?
 戦場で、久しぶりにお戻りになったプラントで、何も御覧になりませんでしたか?」
「……」
自分で見てきたモノが、全てを物語る。そう言われているような言葉だった。

「アスランが信じて戦うものは何ですか?戴いた勲章ですか?お父様の命令ですか?」
「……お、れは……」

――あなたは、あなたの為に生きてください――アスラン。

「!!」
脳裏に流れる誰かの声。
何故だろう、声の主が誰かわからないのに、何故か――懐かしい。
母の言葉、ではない。母の声を忘れるわけはない。
無論、目の前の少女からでもない。
「……もしそうであるなら、キラは再び貴方の敵となるかもしれません。そして、私も」
「……」
「敵だというのなら、私を討ちますか?ザフトのアスラン・ザラ」
俺は……俺の為に……生きる……。
この手にある銃を撃つことが、俺の本当に願った事なのか……?
俺の、本当の願いは――。
「……では、私はそろそろ行きます」
「ラクス!」
「キラは地球です」
地球……シャトルからみたフリーダムの行き先は確かに地球だった。
ラクスの言った通り、フリーダムに乗っているのがキラなら間違いないだろう。
「お話してみてはいかがですか?」
「……」

……キラと、話……か…………。

285 ◆nTZWuJL8Pc:2011/07/08(金) 01:05:24 ID:KtopSYsY0
――海鳴臨海公園。


「フェイトちゃーん!!」

橋の上で待つ三人に向かっていくなのはとユーノ。
数日前の連絡で、フェイトは本局へと移動になり、その前にフェイト自身がなのはに逢いたいと。
そして、今日はその約束の日。
待ち合わせ場所は、幾度の思い出の場所になりつつある臨海公園。
晴れ渡る青空の下で、少女達は再会した。

「……なんだかいっぱい話したいことあったのに、変だね。フェイトちゃんの顔みたら、忘れちゃった」
「私は……そうだね。私もうまく言葉に出来ない……だけど嬉しかった」
「え?」
「まっすぐ向きあってくれて」
「うん、友達になれたらいいなって思ったの。
 でも……今日はもうこれから出かけちゃうんだよね」
悲しい表情を浮かべ、うつむく二人。
事件は解決しても、まだ終わりではないのだから。
「……そうだね、少し長い旅になる」
「また、逢えるんだよね?」
微笑みを浮かべ、フェイトが首を縦にふる
「少し悲しいけど、やっと本当の自分を始められるから……来てもらったのは、返事をする為」
「え?」
「……君が言ってくれた言葉、『友達になりたい』って」
「うん!うん!」
「私に出来るなら、私でいいならって、だけど私どうしていいかわからない……
 だから教えて欲しいんだ、どうしたら友達になれるのか……」
友達になる。ということがわからないフェイトにとってはどうすればいいのか。
ここに到るまでにずっと抱いていた疑問。
解決できそうにない問題を抱え、フェイトは不安な表情でなのはに問う。

「簡単だよ」「え?」
「友達になるの、すごく簡単」

「なまえをよんで」

「初めはそれだけでいいの、君とかあなたとかそういうのじゃなくって、
 ちゃんと相手の目をみて、はっきり相手の名前を呼ぶの」
「……」
「キラ君も、アスラン君もお互いにちゃんと名前で呼び合ってたでしょ?」
「……そう、だね」
思い返す記憶の中で、彼らは確かに互いの名前を呼び合っていた。
「私、高町なのは、なのはだよ!」
「なのは……」
「うんっ!そう!」
ぎこちない呼び方だけど、
「なの、は……」
「うんっ」
フェイトは精一杯なのはに答えようとし、
「なのは……!」
「うん……!!」
彼女の名前(なのは)を言葉に紡ぐ。
その一生懸命な気持ちが痛いほどに伝わったのか、
やっと、友達としての始まれたのが嬉しかったのか。
なのははフェイトの手を自分の両手で包み込むように握った。
「ありがとう、なのは」
「……うん」
「なのは……」
「……うんっ!」
「君の手は暖かいね、なのは……」
それはきっと、フェイトの感じたまっすぐな感情。
友達として、向きあって、ようやく掴んだ暖かいモノ。
「少しわかったことがある……友達が泣いていると、同じように自分も悲しいんだ……」
「……フェイトちゃぁんっ!!」
その言語が、ようやく始まった二人の友達として最初に得たもの。
衝動的になのはフェイトへと抱きついていった。
「……ありがとう、なのは……今は離れてしまうけど……きっとまた逢える……
 そうしたら、また君の名前を呼んでもいい……?」
「うん……うんっ……!」
止まらない涙を流しつつ、二人は互いを見据えて、言葉を紡いでいく。
「逢いたくなったら、きっと名前を呼ぶ……だから、なのはも私を呼んで……
 なのはに困ったことがあったら、今度はきっと私がなのはを助けるから……
 ……キラが、アスランを止めてくれた時みたいに……」
死して全てを取り戻そうしていたアスランを、友達を死なせたくないというキラの気持ちが
今のフェイトには痛いほどに伝わっているのだろう。
初めて出来た、かけがえのない、なのはという友達の大切さが――。

286 ◆nTZWuJL8Pc:2011/07/08(金) 01:06:41 ID:KtopSYsY0
「……時間だ、そろそろいいか」
クロノの言葉に首を縦にふるフェイト。
「フェイトちゃん……」
そして、なのはは自分のリボンをほどき、フェイトへと差し出した。
「思い出に出来る物……こんなものしかないけど……」
「じゃあ、私も……」
フェイトも同じように自分のリボンをほどき、互いに差し出した手を取り合う。
「ありがとう、なのは……」
「うん……フェイトちゃん……」
「きっとまた……」
「うん、きっとまた……!」
二人の手が解かれ、それぞれのリボンを交換し大切に握りしめた。
「……僕も最後に二人に渡しておきたい物がある」
「「……これ!?」」
そういってクロノがポケットから出したものは、二人にとっては思い出深い、大切な――

「ストライク……」「イージス……」

大切な人たちの相棒(デバイス)――待機モードのキラのストライクとアスランのイージスだった。
「……あれから、見つかったのがこの二つだけだったんだ……
 まだ、二人は見つかっていないけど……でも、まだ希望はある」
「うん、うんっ!!」
止まりかけていた涙はさらに流れ続けていた。
諦めかけていた二人の行方に新たなる希望が生まれた。
「本当は重要証拠物件なんだけど……これは君達の手にある方がいいと思ったんだ」
「……ありがとう、クロノ君」
「……ありがとう」
なのははストライクを、フェイトはイージスを受け取る。
「二人にも、きっとまた逢えるよね……」
「……うん、きっと……」

そして、彼女達は別れ、それぞれの道を歩んでいった。
いつかまた、出逢える日を夢見て、その手に希望を持ち、前へと進む――。

287 ◆nTZWuJL8Pc:2011/07/08(金) 01:07:17 ID:KtopSYsY0
――オーブ。


日が傾き、夕焼けの空の下。
相対するように降り立つ蒼と紅のモビルスーツ、フリーダムとジャスティス。
そして、同様にモビルスーツから降り立つ二人のパイロット。
キラ・ヤマトとアスラン・ザラ。
互いを見据え、一歩も動かない両者。
周りにいた皆もそれに対し、静止したように見つめる。
まるで役者と観客のように――。
そしてどちらからでもなく、あるいはほぼ同時に歩み始め、互いに距離を詰めていく二人。
それに伴い、アスランへと銃口を向けるオーブ兵達。
それに対し、アスランは気に止めることもなく歩み続ける。
だが、キラは歩み続けながら手を挙げ、

「彼は敵じゃない!」

互いを見据え、互いの瞳から視線を離すことなく歩み続ける二人。
思い返される二人の思い出は、幼少児の離別から突然の再会。
友なのに、戦争だから、戦って、そして互いに大事なものを奪われ、殺しあった。
そして、そして――――。
なぜだろうか、それで終わりな筈なのに、まだ今に至るまでの物語がまだ続いているような錯覚を、
二人は感じていた。
表情に出すこともなく、二人は互いに手の届くところまで接近し、歩みを止めた。

「やぁ……アスラン」

ぎこちないような、笑みを浮かべて名前を呼ぶキラ。
そして、拳を握るアスラン。だが――

「……キラ」

握られた拳は解かれ、同様に笑みを浮かべ、名前を呼ぶアスラン。
何を話すべきなのか、何を聞くべきなのか。
脳内で渦巻いていた疑問は、全て解かれた。
だが、二人の中ではすでに清々しい気持ちになっていたのだった。
まるでもう、話し合ったような、そんな感じがしていた――。



――夜。


テラスから夜の海を眺めていたアスランは思いふけっていた。
(何なんだろう……この不思議な感覚は……)
結局、あれからキラと話をしたといっても互いの状況等といったことぐらいだった。
というよりは言葉が出てこなかったのだ。
(……何か、大切な何かを忘れているような……)
だが、いくら思い出そうとしても思い出せない。
そんな中、後ろから物音が聞こえ、反射的に背後を振り向く。
「……アスラン?」
「……キラ」
物音の正体がわかったアスランは再度前を向き、その横にキラが並ぶように立つ。
「……どうしたの?こんな時間に」
「……お前こそ」
「……ちょっと、ね」
そういったキラの右手には小瓶が握られていた。
そしてその中には紙のようなモノが入っていた。
「……手紙、か?」
「……うん、まぁ、ね」
昔の本か何かで読んだことはある。
手紙をビンに入れて海の向こうの人へと贈るという昔話を。
だが、今の現代でそれをする意味がまったくわからない。
「……一体誰に送るんだ?」
「……わからない」
「は?」
思いも寄らないキラの返答に素で返すアスラン。
「この手紙を誰に出せばいいのか、本当にわからないんだ」
「……どういうことだ?」
手に握る小瓶を見つめ、ふとキラが微笑みを浮かべる。
「今の僕の背中を押してくれた言葉……それをくれた人に今の僕を伝えたくてこの手紙を書いたんだ……」
「……背中を押してくれた、か」
それについてはアスラン自身にとっても心当たりがあった。
脳内に響いてきた不思議な声、その声の主が誰なのか。
だから、自然とキラの言っていることを信じることが出来た。
「しかし、お前が手紙とはな……」
「あ、らしくないなって思ったでしょ?」
「ああ、お前がそんなマメな事今まで一度もしたことないだろ?」
「う……」
やっぱり、変わってないな。昔から……
「……でも」
「?」
「いいんじゃないか、そういうのも」
「……だね」
そして、持っていた小瓶を海へと振りかぶって投げる。
夜の海へと消えていった小瓶の姿はもう目視では確認出来ないほどに夜の闇へと溶けていった。

(……僕は、もう諦めない。諦めたくない。
 だから、きっとこんな戦争を、一日でも早く終わらせるんだ……)

「……そろそろ眠るか、明日もまた連合が攻めてくるだろうしな」
「……うん」

戦火の渦は未だ消えること無く燃え続けている。
けれども、少年たちは歩み続ける。
己が心に宿る不屈の心を持って、今はただ真っ直ぐに、前へ進んでいく――

288 ◆nTZWuJL8Pc:2011/07/08(金) 01:07:57 ID:KtopSYsY0
――海鳴臨海公園。


フェイト達との離別から数日。
なのはは学校の帰りに再びこの場所を訪れていた。
開かれた右の掌には、レイジングハートとストライク。
マスターであるキラがいない為、ストライクはあれから一度も会話が出来なかった。
クロノの話によると、修復はしたそうだが、ストライクのメインコア自体が反応しないそうだ。
きっと、主の帰りを待ち続けているのだろう。
そして、それはここにいる少女も同様に……

(キラ君……きっと、きっとまた……ううん、絶対に逢えるよね……)

水平線の遙か向こうへと視線を向け、思いを馳せるなのは。
そんななのはの視線の入った一つの光。
近くの砂浜に一つ輝く何かを発見したなのはは階段を降りてそれを確認しようとし、そして

一つの、小瓶を拾い上げる。

中には一枚の紙が入っているようだった。

蓋を開け、中の紙を広げてみる。



  ――――この世界のどこかにいる君へ、


  今もまだ続く戦争という行為は、世界中に広がり続ける一方です。

  終わりのないこの行為を止めるには……想いだけでも、力だけでも……駄目なんだって。

  僕達は……何と、どう戦っていけばいいのか……少しだけ、わかったような気がします。

  だから僕は、もう一度行こうと思います。

  この悲しみの連鎖を止める為に。

  こんな僕に、もう一度踏み出す勇気をくれたのは……君の言葉。


       「諦めないで」


  名前も、顔も、何も覚えていない僕の心にある君の一言が
 
  今の僕を支えてくれていて、新しい始まりの一歩を踏み出すきっかけになりました。

  きっとこの先、苦しい事や悲しい事がまだ沢山あると思います。

  でも、それでも僕は……諦めずに、前へ進もうと思います。

  いつか……この青い空の下で、もう一度君に出逢えたら……。

  その時は、君に伝えたい言葉があります。


  最後に……僕の名前を記しておきます。




  ――――――僕の、名前は――――――







                魔法少女リリカルなのはクロスSEED……Fin.

289 ◆nTZWuJL8Pc:2011/07/08(金) 01:08:39 ID:KtopSYsY0
以上で、投下完了です。
……ようやく、ようやく完結することが出来ました。
始まってからここまで来るのに本当に長い旅のようでした。
途中何度も筆を取るのをやめてしまいましたが、
今ここにこうやって完結出来たことが本当に嬉しく思います。
読者の皆様には本当に温かい目で見守って頂きまして、
同じ作家の皆様にも心強いアドバイスも頂きました。

皆様、本当に、ありがとうございました。

また、もし作品を書くことがございましたらその時は何卒宜しくお願いします。

それでは皆様、本当にありがとう、ございました。

290名無しの魔導師:2011/07/08(金) 01:12:02 ID:Qcugrw8U0
終わったぁぁぁ
そして良かったぁぁぁぁ
職人さんGJ
A'sへ続けるつもりはないのでしょうか?
次の作品がなんであろうと応援しますよ

本当にお疲れ様でした

291名無しの魔導師:2011/07/08(金) 06:12:19 ID:QmElg1ocO
……ふぅ

多くは語りません。GJ、そしてお疲れ様でした!

292名無しの魔導師:2011/07/08(金) 21:24:55 ID:D/ldfdQE0
乙、長い間お疲れ様でした、出来ることなら続きがみたいです。

293名無しの魔導師:2011/07/10(日) 02:49:26 ID:6UA/N4TY0
>>299
長くかかっても完結させた貴方は敬意に値します。
ご苦労様でした。

29481 ◆dRvFDbWwdQ:2011/08/02(火) 01:27:04 ID:PrSdICcs0
うひょひょひょひょ会社なくなって仕事ねーよあっはっは!
こっちは神経削って仕事してたのに!なあ!保険もいきなり国民にチェンジとかさあ
泣いていいかな

295名無しの魔導師:2011/08/02(火) 01:43:37 ID:BaoO0RlA0
だ、大丈夫ですか犬師匠の人、大丈夫じゃないでしょうけど・・・・・・

296名無しの魔導師:2011/08/02(火) 07:01:01 ID:akyOsPZ60
逆に考えるんだ、もっといい環境で働ける職場を探せると、もし見つからなかったらハローワークの職業訓練を受けるんだ、毎月10万貰える上に就職に有利な資格が取れまっせ。
というか失業保険はちゃんと貰ってます?

297名無しの魔導師:2011/08/02(火) 20:25:01 ID:FIMjXqrwO
>>294
私も似たような経験ありますが、もう開き直ってレッツパーリィな気分で構えた方が気が楽になりやすぜ
悲しいですがなるようにしかならないこの世の中ですんで割となんとかなります

298名無しの魔導師:2011/08/02(火) 20:54:34 ID:cbckzYbo0
>>294
自分以前似たような事ありましたけど、それほど深刻に構える必要無いですって、意外とあっさり仕事見つかりましたし

299ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/08/04(木) 22:08:22 ID:MXeNAxFQ0
すいません

少し早めて10:15分ごろに投下させていただく新人です

300名無しの魔導師:2011/08/13(土) 08:16:43 ID:oDDJ57jsO
あげ

301ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/08/18(木) 22:52:55 ID:P90IE10s0

「あんたは俺が討つんだ!今日、ここでっ!!」

インパルスから立て続けにビームが放たれる

「こんな・・・・・これは!?」

避けきれないのをシールドで受け止め、キラは驚愕の声を上げる
放たれたビームがフリーダムのライフルを貫き爆発する

「メイリン!ソードシルエットを」

ミネルバかなにか射出されたのが見える
アークエンジェルが潜航準備にはいったのを確認しキラはフリーダムで追う
しかしその後ろをインパルスが狙う
射出されたなにかからビームブーメランを投擲する
シールドで受け止めようと機体を振り向かせるが、無理な体勢で止めたせいか機体が大きく吹き飛ばされる
モニターにノイズが入る中ミネルバから陽電子砲がアークエンジェルに向け放たれる
インパルスがエクスカリバーを携え接近してくるのに一瞬反応が遅れる
体が勝手に反応した
止められもしないのにシールドを掲げサーベルを向ける
サーベルがインパルスの頭部に刺さったが勢いが乗った機体は止められない
エクスカリバーはそんなもの存在しないかのようにシールドを貫きフリーダムの下腹部に深々と突き刺さった

(僕はここで撃たれるのか・・・・・・ラクス・・・ごめん)

まるでコンピューターの電源を落とすかのようにキラの視界がブラックアウトする
その寸前に原子炉閉鎖ボタンに手をかける
押したかどうかわからぬままキラの意識は途絶え、C.Eの世界からまたいなくなった

短編の最初のほうです
需要があったら書き続けようと思います

302名無しの魔導師:2011/08/19(金) 02:53:26 ID:/Vyhd2wo0
前より読みやすくなったと思いますよ。
思えばフリーダム撃墜までが本編で筋が通っていた最後の場面だったな

303名無しの魔導師:2011/08/19(金) 17:17:40 ID:0xznDEro0
まぁ最後が覚悟はある(笑)僕は戦う(笑)や君は君だ(笑)や過去に囚われるのはやめろ(笑)
だったからなぁ

304名無しの魔導師:2011/08/20(土) 10:23:17 ID:6cnSbXQ2O
>>302
職人にまずはGJするの紳士の嗜みなんだぜ

305名無しの魔導師:2011/08/21(日) 07:59:44 ID:Nd4S2V4I0
GJ!!

306保守 ある日のシン 1/3:2011/08/26(金) 01:55:44 ID:uVn2f0fgO
とある秋の日の午後1時、ミッドチルダ首都クラナガン。
「つまり、俺はエリオの服を見繕えばいいんだな?」
「うん。わたしとフェイトちゃんと一緒にヴィヴィオとキャロの服を探すから、よろしくね」
「シン、ゴメンね。付き合わせちゃって」
「気にするなよ、どうせ予定ないんだ。任せろ」

正午12時のことだ。
キラに頼まれていたデスクワークを終えて、はたまたキラに頼まれていた郵送業務をエントランスで済ませ、これから何をしようか考えていた所でフェイトとなのは隊長に遭遇した。
珍しく私服姿だったので何処へ行くのかと聞いたら、子供達の私服を買いに出るとのこと。
暇になったのでそれに同行することにし、今に至るというわけだ。
……因みに、俺はキラに弱味なんて握られてないぞ。

「やっぱ男は背が伸びるのが急なんだよなー」
最近エリオの成長はどんどん伸びていて、その事で着る物がなくなってきたとエリオが先日に言っていた。キャロとも随分差がついてきた。
俺にも覚えがある。13歳の頃だったか、いままでマユの方が高かったのに急に俺の方が高くなって、ひどくビックリしたものだ。
「そうだね、クロノお兄ちゃんもユーノもあっという間に身長が伸びたし」
「ビックリしたよね〜。ホント、どこまで伸びるんだろうって……あっ、フェイトちゃんその信号を左に」
「ん、了解」
現在、俺達はフェイトの愛車でなのは隊長行きつけの服屋に向かっている最中だ。隊長曰く、マイナーだが品質とセンスは確かだとのこと。
それならば安心できる。いつかキラと服を買いに行った時は、悪い意味で凄かったからなぁ……あの自由人はいつか舞台に上がるつもりなのだろうか。
この際だから、俺も自分の服を買ってしまおうかな。C.E.から持ち込んだ服はだいぶ傷んでしまっし。うん、なんだか楽しみになってきた。
……なにか忘れてる気がするけどこの際だから気にしないでおこう。

307保守 ある日のシン 2/3:2011/08/26(金) 01:56:40 ID:uVn2f0fgO
オレハナンデコンナトコロニイルンダロウ……


ああ、完璧に忘れてたよ。女性がショッピングにかける情熱ってやつを。俺は能天気に同行を決めたことを後悔しかけていた。
これで3件目。クラナガンに来てもう3時間なのに、俺達はまだ服屋をハシゴしているってどういうことなんだ。
「なのは、これどう思う?」
「あ、可愛い!いいんじゃないかなぁ?ヴィヴィオにぴったりだよ」
白と青でストライプなショーツを手にとるフェイト、可愛らしい下着を物色中のなのは、両手いっぱいに紙袋を持った俺。
そう、ここは女性下着コーナー。つまりは男子禁制のサンクチュアリ。四方八方が麗しの女性下着で溢れたこの地に異物として紛れ込んだ俺は、ただただ木偶の坊のように突っ立っているしかなかった。
(今日は秋晴れだっていうのに……)
俺の心は曇天だ。
俺とエリオの服はとっくに買い終わっていて手持ちぶさたなわけだが、だからといってゆったり見学するわけにはいかなのも赦されないいこの現状。子供用売り場だからまだマシだが、婦人の視線が痛いです。
因みにエリオにはジーンズやスラックス、V字ネックシャツを中心に選んでやった。
「じゃあこれは?キャロに似合うと思うんだ」
「んー、わたしとしてはコッチの方が」
「そうだね、それもいいかもしれない。シンはどう思う?」
フェイトは真っ白なフリル付きキャミソールを、なのは隊長は桃色でシンプルなスポーツブラを手にお互い意見してくる。チョイスに性格が出ていると思う。
「迷ってるんだったら両方買えばいいんじゃないか……」
つーか、俺に聞くな。恥ずかし過ぎる。なんなんだ、俺を社会的に抹殺したいのか。
「それもそうだねー。あ、シン君このドロワーズどう?」
新たに薄い蒼色のカボチャパンツを手に取るなのは隊長。あー、マユがよく穿いてたっけ……ヴィヴィオに似合うんじゃないッスか?
「これもどうかな、シン?」
対するフェイトが手に取るは、レースやシルクをふんだんに使用した──所謂『ちょっと背伸びパンツ』だ。色は白。
うん、ここの店もセンスがいいからキャロに似合うと思うけど、俺はまだ早いと思います……
(そろそろ、帰りたいなぁ)
さすがに限界だ。健全たる男子にこの状況は過酷すぎる。まだウィンダム100機を相手にした方がマシだよ。
だけどここで、帰りませんか、とは言わない。こんな楽しそうな二人を見るのは初めてだし、何より邪魔をしたくない。たまの休日なんだからな。
俺だってミネルバ時代とは違い、空気を読むスキルぐらいは習得したつもりだ。
でも、心の中で叫ぶのは構わないだろう?
だから、
(モウヤメルンダ!!)
俺は叫んだ。中間管理職として今も忙殺されているアスランの想いも感じながら。
誰か助けてください。

308保守 ある日のシン 3/3:2011/08/26(金) 01:58:19 ID:uVn2f0fgO
午後7時、それからもう2件ほど服屋を巡り、漸くのことで六課隊舎に帰宅。
フェイトとなのは隊長は終始笑顔だった。それだけでも頑張って付き合った苦労が報われた気分になる。
ついでに、クラナガンから帰る際に車窓から、
『タルトだけでも、プリンだけでも……!食べたいクレープもあるんだ!!』
と叫んでた不審者を発見したが、見なかったことにしようと思う。
あの男の行動・発言にいちいちツッコンでいたらキリがないからな。
とにかく、長い長いショッピングは終わりを告げ、俺は自分の部屋に帰還できたわけだ。
ふぅ、もうマジ死ぬかと思った。あんな羞恥地獄と大荷物は金輪際お断りだな。
とりあえず夕飯を食って風呂入って寝よう──
「あれ、シン今帰ったの?」
「アンタ、なんで此処にいるんだよ……?」
──自室の扉を開いたら何故か、キラがいた。
おかしい、コイツはクラナガンにいたはずだ。そしてなんか食ってたはずなんだ。
「……?それは僕が此処に帰ってきたからじゃない?」
「それは確かにそうだけどっ……いや、いい」
「??」
だから車で先に帰路についていた俺より先に帰宅しているのはおかしいんだ。
いや、そんなことはどうでもいい。重要じゃない。なんたって自由人だから、それで説明がつく。
「……あ、そうだ、郵便ありがとうね。書類仕事も……どうしても手が放せなくて」
これは昼の話題か。
「別にいいですけど、アレくらい。でも忙しいってわりにはクラナガンで楽しくやってたみたいでしたけど?」
「ははは……あれは、自棄食いみたいなものかな……」
まぁ、元より俺に責める気はない。日頃からデバイス調整や戦闘でよく助けられているからな。
とにかく、俺は疲れたんだ。だからさっさと夕飯を食って風呂入って寝よう──
「……あ、そういえばシン。さっきティアナとスバルが水着がどうこうってぼやいてたんだ。次の休みに買い物に付き合ってあげたら?」
──なんでそうなるんだ。今日の事といい、もしかしてコイツはわざと俺に苦労を運んでるんじゃないだろうな。いや、まさかな。
何故、秋に水着なのか。何故、買い物に付き合わなくてはならんのか。何故、俺なのか。
突っ込み所は多いが、突っ込まない。意味がない。
「……考えとくよ」
恐らく、俺は結局二人の買い物に巻き込まれるという事は決定事項だ。空気が読める最近の俺はきっとこの男とあの二人に押しきられる。
これは諦観なのだろうか。俺は流されているのか。でも、不思議と悪い気はしない。
(とりあえず、羞恥的なイベントと大荷物はナシにしてほしいなぁ)
それで誰かが笑顔になるのなら、俺はそうしようと思う。

そんな事を漠然と考えながら俺は漸く食堂に歩き出したのだった。


終わり

309名無しの魔導師:2011/08/26(金) 02:01:47 ID:uVn2f0fgO
先日帰国したのでリハビリ(?)ついでに、久しぶりに投下してみました。
言葉不足になってなければいいんですけどね。

いつも通り、他とは繋がりがないショートショートです。

310名無しの魔導師:2011/08/26(金) 18:20:24 ID:ykp.xFIg0
GJ!
和やかさが良い

311名無しの魔導師:2011/08/27(土) 23:15:20 ID:Z2uOn.XY0
女性の下着選びに付き合わされるとか拷問だよね、シン乙。

312名無しの魔導師:2011/08/28(日) 18:21:32 ID:AIBif4Ik0
マユってシンより5歳年下のはずだから…
どんだけ小っさかったんだシン

313ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/08/30(火) 22:19:50 ID:lI9aY0nc0
11:00〜12:00の間にDESTINYvividの2話を投下したいと思います
読みにくいかもしれませんが何卒よろしくお願いします

314名無しの魔導師:2011/08/30(火) 22:26:33 ID:bXB3KfLQ0
把握

315名無しの魔導師:2011/08/30(火) 22:45:44 ID:cgarnqykO
その心意気、YESだね

316ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/08/30(火) 23:22:40 ID:lI9aY0nc0
リリカルなのはDESTINY
VIVID2〜昔と今とこれからと〜

街では連続傷害事件?が起こっていた(被害届は出てないので事件ではない)
容疑者は古代ベルカ聖王戦争時代の王様の名前、覇王イングヴァルトと名乗る者で
格闘系の実力者に街頭試合を申し込んで戦うとういものである



リビングではなのはとキラとヴィヴィオが正座をしていた

「二人の時間は優しく静かにやさしく流れていってるんだって思ってたのに、それがまた何でこんなことになってるの!?」

泣きそうやら怒っているやら感情表現豊かなフェイトである

「僕はしないほうがいいって言ったのに」

キラはばつの悪そうにあさっての方向を見ながら言う

「言う言わないの問題じゃない!できるのが問題なの!」

しかしフェイトに一喝されるのであった
するとヴィヴィオが身を乗り出し

「あのねフェイトママ。大人変化自体は別に聖王化とかじゃないんだよ?魔法や武術の練習もこっちのほうが便利だからきちんと変身できるように練習もしてたの。なのはママにも見てもらって今日キラパパにOKもらえれば大丈夫だねって」

「そうなんだよ」

「でも・・・・・・」

頷き合う二人にいまだ納得いかなそうな顔をするフェイト

「クリス?モードリリース」

ヴィヴィオの体が光に包まれ変身が解除され子供状態に戻る

「なにより変身したってヴィヴィオはちゃんとヴィヴィオのまま!ゆりかごもレリックももうないんだし。だから大丈夫。クリスもちゃんとサポートしてくれてるって」

「うん・・・」

えへんと胸を張るヴィヴィオにしぶしぶとと返事をするフェイト

「心配してくれてありがとうフェイトママ。でも、ヴィヴィオは大丈夫です」

そして次の言葉を発する前にヴィヴィオの目の色が変わる

「そもそもママたちだって今のヴィヴィオくらいの頃にはかなりやんちゃしてって聞いてるよ」

なのはとフェイトは赤くなりなにか言葉にならないものををごにょごにょと言っている

「これには言い訳できないね。初めて会ったときは小学3年生だったっけ?あのときの二人はホントに無茶をしてたからね」

「「キラ(君)だってでしょ!」」

楽しそうに返事をするキラに2人は声をそろえて反論した

「そんなわけでヴィヴィオはさっそく魔法の練習に行ってきたいと思います」

「じゃあ私もついていくよ」

ヴィヴィオと一緒に立ち上がり準備をするなのは

「暗いから気を付けてね」

「大丈夫だよキラパパ。フェイトママ、行ってくるね」

「はい、気を付けて」

行ってきまーすと外に出ていく2人を見送ったキラとフェイトはリビングに戻るのであった

317ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/08/30(火) 23:24:36 ID:lI9aY0nc0
「ってことになっててね、本当にびっくりしたんだけどキャロとエリオは聞いたりしてた?」

画面の中で苦笑いする二人

「大人モードって単語だけはたまに」

「でもまさか変身の制御とは・・・」

リビングではフェイト親子が通信で会話中だった

「やっぱりー?」

やはりここでも心配性のフェイトであった

「ヴィヴィオは魔法も戦技も勉強するのが好きですから。できる事は何でも試してみたいんですよ。」

「ヴィヴィオあれでしっかりしてますし、心配ないと思いますよ」

「・・・・うん。そうだね」

二人の笑顔でようやく納得する

「そっちはどう?お仕事の調子は?」

「今日もホント平和でしたよ」

「今やってる希少種観測ももうすぐ一段落ですから、来月にはフェイトさんのとこに帰れそうです。」

キャロとエリオの二人の表情から分かるように本当に平和なようだ
心配性のフェイトはまだ二人に危険なことをさせたくはないので六課入隊も最初は気乗りではなかったがいい経験もし今の転属先にも納得しているようだ

「そっか、私も休暇の日程楽しみにしてるね。」

「はい」

「お買いものとか一緒に行きたいです」

嬉しそうにいう語るキャロとエリオに手を振り通信を切る

「エリオとキャロ?」

読書をしている手を止め聞くキラ

「うん。来週の休暇には帰ってこれるって。キラも大丈夫?」

「え?来週ってなんかあったけ?」

不思議そうな顔をする

「え?なのはから聞いてない?来週のテスト明け休みにみんなで4日間ルーのいる世界に遊びに行くって」

「・・・・・・・・・・ちょっと待って、フリーダム?スケジュールを確認してくれる?」

《了解》
そしてだんだんと顔が青くなっていく

「ごめんフェイト。完全に忘れてた」

「今から合わせられるの?」

「頑張っても現地合流になりそう、とにかくなんとかしてみるよ」

かなりの速度で空中のパネルを高速でタイピングしていくキラ
無理やりスケジュールを詰め込め何とか合流するつもりなのだろう

「キラが来なかったら悲しむのはヴィヴィオなんだよ?」

「うん。僕としても行けないなんてことにはなりたくないから頑張ってみるよ」

「ほんとに大丈夫?なんならはやてに掛け合ってみれば?」

首を振りながらその提案を否定する

「それだとはやてに迷惑がかかるから駄目だよ。自分のことはしっかり自分でやるよ。僕は大丈夫だから」

そう言いスケジュール表を上へ上へと詰め、何とか4日間の空きを作り空中のパネルを閉じる

「そっか。ならキラを信じるからね」

その様子を見終えフェイトはもう大丈夫だろうという安心感が沸いてきた
そうこうしているうちになのはとヴィヴィオが帰ってきた

318ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/08/30(火) 23:25:55 ID:lI9aY0nc0
「「ただいま〜」」

「二人ともお帰り。なにか嬉しそうだね?」

キラはにこにこしているヴィヴィオとなのはを疑問に思い聞いてみた

「うん。ヴィヴィオにうれしいこと言われちゃったからね」

「え〜?なになに?私にも教えてよ」

心配性のフェイトは話に興味津々である

「秘密だよ〜、なのはママも言っちゃだめだからね」

「うん。わかってるよ」

「二人だけずるいよ。いいもん私もキラと楽しくおしゃべりしてたから」

かなり気になっているフェイトだったが、そちらがそういう手で出てくるならこっちも秘密があるように語りだす

「それは聞きたいな〜」

ヴィヴィオとなのはが食いつくがそれを払いのけるフェイト
さっきと立場が逆転している

「そっちが秘密ならこっちも秘密だもん」

そんな事いつしたっけと思いつつ楽しそうな3人をを見ながらキラは口には出さないことにした

319ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/08/30(火) 23:27:28 ID:lI9aY0nc0
「じゃあ僕はそろそろ帰ろうかな」

なのはがお風呂から出てきた頃にキラは帰り支度をしようとする
確かにもう9時を回っているの遅い時間だ

「え〜?明日お仕事ないんでしょ?なら泊まっていこうよ。いいでしょなのはママ?」

ヴィヴィオが残念そうに声を上げる

「えっとさすがにそれはちょっとね・・・・・」

「別に私はいいけどフェイトちゃんは?」

「私も全然かまわないけどキラは嫌なの?」

慌てるキラを傍らにフェイトとなのは、さもキラが泊まる事が当たり前かであるようには話を進める

「キラ君って今は聖王教会に海沿いの家借りてるんだったよね?」

「うんそうだよ」

キラは一度死亡扱いされ財産等は全部なのはとフェイト名義に代わってしまい貯金などがすべてなくなっていた
なのはとフェイトは一度返そうとしたのだがキラはかたくなに受け取ろうとせず、一緒に住むことも断り3年過ぎたのだった
3年もたてばそこそこのお金は貯まったのだが家を買うほどはなかった

「たまには泊って行ってもいいんじゃない?いつも一緒に住もうって言ってるじゃん」

「そうだよパパ。せっかくみんな揃ったのにキラパパだけ帰るのはずるいよ」

もはや逃げ道は残されていなかったキラだが、さらに追い打ちをかけるようにフェイトとヴィヴィオが襲ってくる

320ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/08/30(火) 23:28:03 ID:lI9aY0nc0

「あのさ、いろいろとまずいと思うんだよ。ほら世間体ってのもあるじゃない?きょう泊ってくといろいろ面倒になるからさ。ご近所さんとかの事情もあるし」

「大丈夫だよ。キラ君は基本この辺のみんなには面倒見のいいお父さんって思われてるし、この前買い物行ったときなんか夫婦に間違われたじゃない?」

「僕の着替えがないよ?今から取りに行くと時間かかるし、買いに行くわけにもいかないじゃない?」

考え付く限りの言い訳を言ってみたがその甲斐もなく簡単に玉砕してしまう
そうしていると部屋の奥からフェイトが男物の服を持ってきた

「キラと一緒に住むこと考えてたから、何着かは着替えが買ってあるよ」

絶句するキラを横に笑顔のフェイト
なぜこんなにも準備がいいのだろう?もう狙ってるようにしか思えない。いや実際狙っているのだろう

「だからって泊っていい理由にはならないんじゃない?とりあえず来週みんなで4泊するから今日はおいとまさせてもらうよ」

そして車のカギを手に取り出ようとするが、肝心のカギが見つからない
カバンの中を探す・・・・・・無い
上着のポケットを探す・・・・無い
ズボンのポケットを探す・・・無い
上着の内ポケットを探す・・・無い
カバンの隅から隅まで探す・・無い
周囲を見回す・・・・・・・・無い
ナイナイナイナイナイナイナイナイナ
ーーーーーーーナイーーーーーーーー

「あの〜なのは?僕の車のカギ知らない?」

顔からあふれんばかりの汗をかきながらなのはの方を向く
嫌な予感しかしないが、キラは改めて聞いてみる

「これの事?」

なのははにっこりと笑いながらキラの車のカギを手に持っている

「返してくれない?」

すでにキラは泣きそうだ

「じゃあ泊ってく?」

「そんなっ!?」

なのはは鍵をぶらぶらさせながら笑っているが笑顔が悪魔のほほえみにしか見えない

「じゃあ返さないよ」

「はぁ〜。わかった僕の負けだよ。今日はお邪魔させてもらうよ」

キラは今日一番の深いため息をつきなのはの条件を渋々飲むのであった

「わ〜い」

「「よかったねヴィヴィオ!」」

そんなキラを知らずに仲良し親子3人は楽しそうに跳ねていた

「じゃあお風呂借りるね」

着替えをフェイトから受け取りバスルームへ足を向ける
しかしキラの不幸はまだ始まったばかり
風呂上がりにキラはさらに地獄を見るのだった

321ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/08/30(火) 23:30:57 ID:lI9aY0nc0
これでおしまいです
まだほのぼのですね〜
次回はなんとノーヴェVSキラ!?
楽しみにお待ちください

こんなもんおもしろくねぇと思う方も感想だけはお願いします
表現のだめだしもお待ちしております
ストーリの文句は逃げますんで

322名無しの魔導師:2011/08/30(火) 23:51:43 ID:cgarnqykO
>>321
これ程レベルアップしているとは……。
まさか、この短期間で意識改革を成し遂げているとまでは正直予想していなかったよ。
だがしかぁし!まだ成長の余地は沢山ある!次のレベルへGO!!
オリジナリティな設定が出てきましたね。STS時代に何があったのか素直に興味がでましたよ。この調子で頑張ってください。

余計なお節介:自分のスタンスってものがあると思いますが、それに拘らずに、更に色々な文献を読まれてはいかがでしょうか。
いろんな本を読んで、経験して、勉強すれば選択肢と可能性が拡がりますので、表現がもっと自然になると思います。

323名無しの魔導師:2011/08/31(水) 05:33:16 ID:zEnOwDDo0
遅ればせながらGJ!

324古き者:2011/09/01(木) 16:28:37 ID:LwI2ruGM0
久しぶりにここを訪れて久しぶりにSSを投下しようと思い立ちました
なにぶんブランクがあるため昔書いていたSSの続きは未だに止まったままです
(今になると1から書き直したいやらこの伏線は消しておきたいとかで思うように書けません)

そのためリハビリのSSを投下していこうと思います

今日の20時頃を予定です。

325名無しの魔導師:2011/09/01(木) 16:43:44 ID:r92r5H/A0
>>324
ベテランさんが来ましたか
俺みたいな新参者との格の違いを見せていただきたいてすね
そこから学ばさせてもらいます

326名無しの魔導師:2011/09/01(木) 17:00:38 ID:cNN/LpHgO
了解! ソニックフォームで待機してる!

327古き者:2011/09/01(木) 20:15:46 ID:wcyQiIe20
ベテラン・・・・ただ昔書いていただけなんですけどね〜

とりあえず楽しめるものを書ければと思います

今回書いたものは完全なIFです。タイトル見ればどんな話か想像がつくかも?
それでは、投下します

328古き者:2011/09/01(木) 20:19:31 ID:wcyQiIe20
『もしフォワード陣がSEED勢だったら』略して「もしフォワSEED」

【僕らの日常】



「それじゃあ、今日の訓練はここまで」
「「「あ、ありがとうございました」」」
「・・・・・・・」

なのはさんの言葉に僕たちはどうにかそれを口にした。
レイなんか黙ったまま、声も出ないといった感じだ。大丈夫かな?
いや、それよりも撃墜・さ・れ・数が一番のシンのほうが重傷っぽいけど、タフだよね。

「シン、後半の連携はなんだ。突っ込みすぎだぞ」

アスラン、反省会もいいけど今はいいんじゃないかな?
というか、今は一刻も早くシャワーを浴びたいんだけどな。今はシンにアスランの意識が集中してるし・・・・。
ちらっとレイを見るとレイも僕と同じ気持ちなのか溜息をつくと念話を飛ばしてくる。

(キラさん、行きましょう。アスランもさきほどの撃墜で頭がおかしくなったんでしょう)
(・・・・・そうだね)

何気にひどいことを言っているレイに苦笑いをしながらも僕はその場を後にした。
ごめん、シン。君を生贄にさせてもらうよ。


「キラさん、レイ!何で置いていくんだよ、俺だけアスランの説教ってどんな罰ゲームだよ!」

レイと一緒にシャワーを浴びているとシンもシャワールームにやってきた。
どうやら僕たちが置いて行ったことにご立腹のようだ。

「おい、シン!話はまだ終わってないぞ!」

どうやらシンはアスランから逃亡を図ってたみたいだ。
でも、アスランって頑固でしつこいから逃げ切れるわけないと思うけどな。

「ん?キラにレイか。丁度いい、今回の連携についてなんだが・・・・」

あぁ、僕らもアスランに目を付けられちゃったじゃないか。

329古き者:2011/09/01(木) 20:20:24 ID:wcyQiIe20
というか、アスラン?ここはシャワールームなんだから服は脱ごうよ。

「アスラン、少しいいですか?」
「ん?なんだ、レイ」
「俺とキラさんはシャワーを浴び終わっているんですが、このままあなたの会話を聞いていても風邪をひきます」

そう言いながらレイは僕に視線を向けてくる。念話がなくても彼の言いたいことは分かる。

「だったら、もう少し浴びながら聞いてくれ」
「ごめん、アスラン。さっきまでレイと連携について話してたら結構時間経っちゃって少しのぼせ気味なんだ」

実際はそんなに時間経ってないんだけどね。

「むぅ、それなら上がったほうがいいな」
「大丈夫です。話ならシンが聞くそうです。というより追いかけてきたんでしょう?」
「なっ!?レイ!?」

相棒の二回目の裏切りにシンは驚かざるを得ないみたい。
でも、仕方ないよ。アスランの話って長いんだし、レイだって嫌になるよ。
アスランの視線がシャワールームから抜け出そうとしていたシンを捉えていた。

「そうだった!シン、今度という今度はな!って、待て!」
「「シン」」

僕とレイの呼びかけに抜け出そうとしているシンは視線を向ける。
そんなシンに僕とレイは笑顔で・・・・・・サムズアップ。

「あんたたちって人はーーーーーーーっ!!」
「シン!待てといっただろう!」

そう言って飛び出していくシンとアスランを僕たちはサムズアップしたまま見送っていった。
そんな、訓練終了後の僕たちのちょっとした時間。

330古き者:2011/09/01(木) 20:23:06 ID:wcyQiIe20
投下してみたら意外と短かった

なので、もう1話だけ投下させてもらいます

331古き者:2011/09/01(木) 20:25:04 ID:wcyQiIe20
【私たちの休憩時間】


訓練が終わった私はフェイトちゃんとはやてちゃんと一緒にお昼ご飯を食べていた。
隣のテーブルではキラ君たちも食べている。
午後の訓練に備えてなのかシンはたくさん食べてる。やっぱりたくさん食べる男の子はいいよね。
アスランは普通だけどキラやレイはあんまり食べていない。大丈夫なのかな?

「そういえばキラたちが入隊してもう1か月か〜。なのはちゃん、仕上がりはどんな感じ?」
「順調だよ。いつでも出動させられるよ」

前衛はシンの思い切った突撃とそれを近くでうまくカバーするアスラン。
後衛は前衛も出来て、中距離や遠距離からの攻撃を主体とするキラ。
最後衛には全体をカバーし、的確な指示が出せるレイ。
普段はシンとレイがスターズ。キラとアスランがライトニングと分かれているけど4人が揃った時の強さは舌を巻く。
このまま伸びれば管理局のエースになって私を追い抜くのも早いかもしれない。
まぁ、私も負けず嫌いだからそう簡単に抜かれる気はないけど。

「なるほどな〜、なのはちゃんにそこまで言わせるとはな」
「みんな頑張ってるよね」

はやてちゃんは素直に感心し、フェイトちゃんは自分のことのように嬉しいみたい。
ちらりと隣のテーブルを見ると4人とも話が聞こえているのか少し嬉しそう。

「しかし、あの4人はあと2,3年で化けるで」

確かにこのまま訓練を続けて、実戦を重ねれば化ける可能性は大きい。

「絶対あの容姿やから2,3年後には4人のファンクラブが出来るで」

はやてちゃんの言葉に私もフェイトちゃんもがっくりしてしまう。
そ、そっちなの?はやてちゃん。
隣では私たちみたいにテーブルに突っ伏しちゃってる4人が。

332古き者:2011/09/01(木) 20:26:04 ID:wcyQiIe20
「それで、なのはちゃんたちはだれが好みなん?」

はやてちゃんはニヤニヤと笑いながら聞いてくる。私とフェイトちゃん、そして隣のテーブルを見ながら。

「フェイトちゃんはやっぱりキラかレイなん?」
「そ、そんなんじゃないよ!?私は2人の後見人。か、家族なだけ、特別な感情なんて・・・・・〜〜〜〜〜っ」

フェイトちゃんは顔を真っ赤にして答えている。
はやてちゃんと一緒にいると毎回こういう話題出るけどフェイトちゃん免疫ないんだな〜。
そんなフェイトちゃんの言葉に隣のテーブルではキラ君がガッカリしてる、男の子だね。
レイは普通・・・・かな?まぁ、レイってフェイトちゃんを信仰してるって感じだからそういう感情ないのかな?
スーパーコーディネーターとして最強の魔導師として非合法で造られた、人造魔導師のキラ。
フェイトちゃんと同じプロジェクトFATEから生まれたレイ。
その2人を助けて温かくお世話をしたフェイトちゃん。

「そんな2人はフェイトちゃんが大好きなはずや!それはもう男と女として!」

はやてちゃん、私のモノローグに被せて話さないでくれるかな?
とりあえず、フェイトちゃんを助けてあげないと、このままじゃキラやレイとまともに話せなくなっちゃうよ。

「そういうはやてちゃんは誰が好きなの?」
「う〜ん、アスランかシンやな〜」

私の質問に慌てた様子もなくあっさり答えるはやてちゃんに私もフェイトちゃんも目を丸くした。

「だって、からかったら2人とも面白いんよ」

隣のテーブルでシンが豪快に転んでる。アスランはこめかみを抑えながらため息をついてる。可哀想に・・・・。

333古き者:2011/09/01(木) 20:26:58 ID:wcyQiIe20
「最後はなのはちゃんやね」
「ふぇっ!?」

しまった、自分に質問がくることまで予想してなかった。うまい答え考えてないよ。
っていうか、フェイトちゃんって答えてないよね!?

「アー、モウコンナジカン、ミンナゴゴノクンレンハジメルヨー」

そう言って私は隣のテーブルに声をかける。

「分かりました。行くぞ、シン」

私の声に反応して立ってくれたのはレイだけだった。

「チクショウ、少しでも期待した俺が馬鹿だった」

シンははやてちゃんの言葉がすしっショックだったのか立ち上がってこない。

「俺は真面目にやっているのにどうして俺の周りにはこうもズレた人ばかり」

アスランは何だかさっきのことから大きな悩みに発展してるみたい、悩みすぎると危ないのに主にごにょごにょが。

「そうだよね、フェイトさんは僕の後見人。大切な家族なんだ。そう、そうなんだ・・・・当たり前のことだ・・・・あれ?何だろう涙が出てきてる」

キラもまだ立ち直っていないみたい。モテモテだね、フェイトちゃん。

「ふっふっふ〜、新人君たちはまだ動けないみたいやね〜」

ま、まずい。はやてちゃんが笑顔でこっちに近づいてくる。
仕方ない。使いたくなかったけどこっちの切り札を使わせてもらうの!

「皆?早く訓練に行かないと・・・・・頭冷やしちゃうよ?」
「「「「イエス、マム!」」」」

キラたちはすぐに立ち上がると全速力で訓練場に向かっていった。
そんな光景をはやてちゃんは驚いてるみたい、今のうちかな?
私は4人の後を追いかけることにした。

「あかん、なのはちゃんもう1か月で4人を調教してもうた」
「ふ、2人が私のことを?で、でもでも、私は後見人だし・・・・・・でも、あれ?後見人って付き合っちゃいけなかったっけ?って、何考えてるの私!?」

そんな声が遠くから聞こえたけど私は気にしないことにした。

334古き者:2011/09/01(木) 20:32:13 ID:wcyQiIe20
以上です。

やっぱりSSって書くのは難しいですね。
昔は勢いで書きまくってたのに今では少しだけ書いて迷っちゃうし。

今回のSSは真面目なストーリー路線じゃなく完全にリハビリのための六課の日常SSになります
そこまで細かい設定はないので気楽に見ていただけたら幸いです

不定期ですが、このもしフォワSEEDの日常を書いていきたいと思います
これからよろしくお願いします

それでは、また次の投下の時に

335ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/01(木) 20:34:25 ID:r92r5H/A0
待ってください>>334
せめてお名前だけでも

336名無しの魔導師:2011/09/01(木) 23:27:00 ID:CUT.4OBw0
うむ、2828させていただきましたぁー!
なんか懐かしさを感じた。

337名無しの魔導師:2011/09/01(木) 23:52:09 ID:Bl8CKS.IO
>>334
短いのにちゃんと纏まっててオチがあって、状況を想像しやすくて……
自分もこんなSSを目指して頑張ります

338ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/04(日) 14:59:09 ID:zECMWEFE0
くっそ
短編書きすぎて収集つかねぇや
みんなごめん

339名無しの魔導師:2011/09/04(日) 20:11:13 ID:GM6suNBk0
二次創作とはそういうものだ、ワシにも覚えがある

無理せず本人が納得のいく作品も書ければそれでいいとおもいますよ

340名無しの魔導師:2011/09/10(土) 11:25:08 ID:FZl8b.XcO
>>335
かまわんがコテトリついたままになってるぞ

341名無しだった魔導士:2011/09/19(月) 06:25:23 ID:bkw1Lx7EO
どうも、まだまだ未熟者ですが、ちょっとした連載物をやろうかなーと考えています。
題材はvividで、緑のザフト服氏とはまた違ったアプローチをしようと思ってます。

どうでしょうか?

342名無しだった魔導士:2011/09/19(月) 06:29:40 ID:bkw1Lx7EO
連レスすいません。
>>341で『緑のザフト服氏』と書いてしまいました……間違ってごめんなさいザフトの緑服氏。

SSは今日中に投稿しようかなと考えてます

343名無しの魔導師:2011/09/19(月) 13:18:43 ID:..TnqOBo0
お好きなように、投下予告だけはしておいた方がいいですよ

344名無しだった魔導士:2011/09/19(月) 18:14:17 ID:bkw1Lx7EO
こんばんわ。>>343さん、ありがとうございます。
では今日の19時あたりにプロローグと一話を投稿します。

タイトルは『鮮烈に魅せられし者』で

345『鮮烈』に魅せられし者:2011/09/19(月) 19:02:26 ID:bkw1Lx7EO
「本当に、行くんですか?」
「……うん。あの人に誓ったんだ。戦い続けるって、信じ続けるって。だから、いつでもこの優しい世界にはいられない」

別れの記憶だ。僕は久しぶりに、夢をみているのか。

「そう、ですか……。でもっ、またいつかは!」
「そうだね。また、いつかは。……ほら、君は男の子なんだから、あの娘達の支えになってあげてね……」
「、はい!」

そうだ、これは5年前だ。この子達は今、元気なのかな。無性に気になるな……

「そろそろ限界だ。帰るなら、今しかないぞ」
「──わかった。みんな、じゃあね……!」

突然、景色が薄れ、白一色になる。意識が混濁し始める。どうやら夢から覚める時間みたい。
そろそろ、起きないとね──


『プロローグ 重なり始める道』


見たことのない天井だ。
溢れんばかりの白の部屋。見知らぬ場所。そこで僕、キラ・ヤマトは違和感と共に目覚めた。
「──……地球の重力がある?」
おかしいな、僕は木星圏の宇宙にいたはずなんだけど。
だけど身体中に感じるこの重さは正しく純粋な1G。この感覚は艦やコロニーでは感じられないものだ。という事は、ここは地球なのか?
違和感はこれか。
「ここは、病室なの?」
何故、どうして、という思いはとりあえず脇に置き、まずは状況を認識するのが先決と身体を起こし周囲を見てみれば。
白い天井、白い壁、白いカーテンに特徴的な白いベッド。そして無機質な机と扉を確認できた。ここはなんとも、TV等でよく見られる典型的な一人部屋の病室なようだ。
この状況にも違和感。
「僕、怪我なんてしてないんだけど……」
自分に痛む箇所なんてないし、精神を病んだ記憶もないのに。
とにかく真っ白で白一色なこの部屋で首をひねる。
いつの間に、寝てしまっていたのか。何故、地球にいるのか。何故、怪我もしてないのに個人用の病室に寝かされてたのか。わからない事だらけだ。何か知れば知るほど疑問が募る。
もしかして、ストライクフリーダムで木星圏を捜査中に寝ちゃって、そのまま地球圏に流されたとか?
──ありえないからさ。いくら僕でもそれはない。
これは、何かしら異常に巻き込まれたと見るべきかな。
「……まぁ、考えても仕方ないしね」
とりあえず疑問を解消する為に、ナースコールのスイッチでも押そうかな……


そのスイッチは、一つの物語の始まりのスイッチでもあったと、今の僕ならそう思える。

346『鮮烈』に魅せられし者:2011/09/19(月) 19:04:00 ID:bkw1Lx7EO
僕、キラ・ヤマトは軍人で、現役職は木星第一開拓コロニー警護隊隊長の23歳だ。因みに副隊長はシン・アスカ。
二度に渡って繰り広げられた悲しい大戦から5年が経過し、みんなの『力と想い』でなんとか平和が築き上げられて。
人々は次第に活気と笑顔を取り戻し、そして新天地として外宇宙に再び目を向けるまではさして時間はかからなかった。
コーディネイターが本来の使命に目覚め、人類の新たな足掛かりとして木星にコロニーを造り、完成させたこのC.E.78という年は、人類の大きなターニングポイントになったのだった。

そう、僕はあの人への誓いを、あの子達との約束を、守ることができたんだ。


『第一話 73と65、78と79』


ナースコールのスイッチを押した後、解った事は三つあった。
一つは、僕は先程まで木星にいた、キラ・ヤマト本人で間違いないという事。
二つ目は、ここが新暦79年の『ミッドチルダ』という、魔法が存在する世界であるという事。
そして三つ目。僕はこの世界の聖王教会という場所に突然顕れ、倒れていたという事。
つまり、僕は次元間転移をしたという事だ。これで三回目になる、のかな。
「僕って、こんなのばっかりだな……。気絶するたびに別の場所にいる気がするよ……」
普通ならパニックになる所だろうが、なんとか僕は冷静だ。何故ならば次元間転移は初めてではないし、魔法の存在も既知のものなのだから。

347『鮮烈』に魅せられし者:2011/09/19(月) 19:05:36 ID:bkw1Lx7EO
 
一夜が明け、麗らかな午後。具体的には15時あたり。僕は患者服のまま教会敷地内を散歩していた。ヨーロピアンな建造物に見惚れながら、僕は思考の海に没する。
考えるべき事は山程ある。
一つは帰還方法。
前回、海鳴市からC.E.73に帰還した際には、トリプルブレイカーとアルカンシェルと闇の書の『闇』の対消滅反応によって発生した時空の歪みを利用したが、アレは偶然の産物だし、また飛び込むのは遠慮したい。
医師の話では、C.E.なる世界は未だ未発見だとのこと。
「……どうしよう、かな……」
次にC.E.の事。
自分が突然消えて、パニックになってないか心配になる。
それに初めて次元間転移したキッカケは、メサイアの爆発なのだ。もしかしたらコロニーが爆発してしまったのではないかと思うと尚更だ。
「みんな、大丈夫かな……」
最後に、これからの事。
今の僕には肩書きどころか、個人データも金銭もない。
孤児院やこの教会でお世話になることはできるが、それではないのだ。僕は、帰らないと。動かないと。
知人がいれば話は変わるのだけど、海鳴市ではないここには自分の事を知っている人すらもいないだろう──。ん、……いない?
「いや、まって?……そうだ、クロノ君なら?」
いた。忘れてた。
『海鳴市』をキーワードに、どんどん頭に蘇る者達。その中にいたはずだ。小さい身体に使命と覚悟で満たしていた黒髪の少年、クロノ・ハラオウンの存在が。
確か彼は管理局員だ。そして、聞けばここは時空管理局のお膝元。上手くやれば接触できるかもしれない。5年ぶりの再会にもなる。
よし、そうと決まれば──っ!

思い付くまま、勢いのまま僕は走りだした。
そして、
突然の、腹部への衝撃。

「きゃっ!?」
「っ、な!?」
迂闊だった。思考に夢中で女の子にぶつかってしまうだなんて……!
「危ない!!」
ぶつかった反動で後ろに倒れそうになる金髪の少女。僕は咄嗟に右手を出して彼女の腰を支える。
……間に合った、か。シンに付き合って体を鍛えてて良かった。
「あいたたた……」
「ゴメンね。大丈夫?」
ほっと安堵しながら、謝罪する。鼻をぶつけていたら大変だ。
「だ、大丈夫です。ごめんなさい」
「いや、僕が悪いんだ。ホントにゴメンね……」
膝を屈め、正面から向き合う。
うん、見たところ、痛めてるとおぼしき箇所はない。大丈夫みたいだ。
お互いに謝罪合戦をし、少女の腰から手を離したところで、僕はようやく冷静に現在の状況を確認できる頭を取り戻した。
まずは位置確認。廊下。誰かの病室の扉の前。おそらくこの少女は、この病室の主のお見舞いに来たのだろう。そして走ってしまっていた僕とぶつかったんだ。……うん、一方的に僕が悪いね。
次に少女の容姿。これには僕は少し驚いた。
「あ、きみ……?」
「……えと、どうしたんですか?」
「っ、いや、なんでもないよ。ちょっと綺麗だなって驚いただけで……」
慌てて取り繕う。変に言及したら失礼だ。
この娘、オッドアイだ。右が翆で、左が紅。鮮やかな二種の宝石を持った人間。好奇以上に、素直に美しいと思える瞳だ。
そんな少女の髪は、少し変則的な金のツーサイドアップ。服装は白い半袖のブラウスに赤いリボン、黄のサマーセーターに茶のミニスカート。多分、スクールの制服だろう。
身長は僕の腰程度。歳は10といったところかな──

「ヴィヴィオ?誰かとぶつかったのかい?」

そんな事をつらつらと考えていた時、少し高めな男性の声が、すぐそばの病室の中から聞こえた。直後に扉が開く音。察するに、この少女の保護者さんだろう。……だけど、なんか聞いたことあるような?
「あの、ごめんなさい。僕の不注意のせいで……本当に──……、?」
疑念を脇に置き、勢いよく頭を下げる。とにかく謝罪をしなければとおもっての行動なの、だが。なにやら様子がおかしい。どうして黙っているんだ?
不審に思い、僕は下げていた頭を上げ、男の顏を見る。見て、身体が止まった。
「……」
「……」
「……?……?」
何故、この金髪の男性は茫然と、唖然と、僕の顏を見ているのだろう?
そして何故、どっかで見たことあるような顏をしているんだろう?
ていうか、この顏は間違いなくあの少年のものだよね……?
俄然、思い出すは小動物。いやまさか。
場を支配する沈黙。それを破ったのは彼だった。
クエスチョンマークが僕の頭を埋め尽くす寸前、彼は僕の疑念を確信に変える言葉を口にした。
「……キラ、さん?」
「…………もしかして、ユーノ君?」
頭がどうにかなりそうだよ。

348『鮮烈』に魅せられし者:2011/09/19(月) 19:07:44 ID:bkw1Lx7EO
 
 
ちょっとまってよ、おかしいでしょユーノ・スクライア14歳。なんで五年前は僕の腰ほどしかなかった少年が、僕と同じくらいになっているのさ。
そしてその大人びた外見はなんだ。まるで大人みたいじゃないか。
成長期なんてものを凌駕してるよ君。

こんなに混乱したのは初めてかもしれない。戦争中でもなかったよ。


「──……」
今、僕達は教会敷地内のカフェに腰を落ち着けている。予想外の再会だったが、まずは状況整理と彼が誘った。
とりあえずコーヒーを飲もう。いつまでも、こんな驚愕に染まった顏をしてるわけにもいかないからね。うん、美味しい。落ち着いた。
見れば、ユーノはストレートティーを、ヴィヴィオと呼ばれた少女はオレンジジュースを飲んでいて、彼女はジッと僕とユーノを交互に見ていた。まぁ仕方ないと思う。大人二人の会話には流石に入れないだろうから……。
「……君が、14年ぶりだと言ったって事は、つまり君は23歳で、僕と同い年って事でいいのかな?」
僕は、先程のユーノの驚愕発言を要約した結論を、口を必死に動かしながら述べた。だって、ずっと年下だと思ってた人物がいきなり同い年だなんて、驚愕しないわけがない。
「そう、ですね……。話を纏めれば、そうなります。つまり、C.E.と僕達の世界とでは時間の流れが違うという事ではないでしょうか」
「……なるほど、ね」
今日は疑問と驚愕だらけだ。モビルスーツ戦以上に疲れるって、どういうことなんだ……。
「そっ、か」
じゃあ、なのはもフェイトもはやても、みんな23歳になったわけか。クロノは30歳ぐらいかな。いつの間にか、追い越されたのか……。
僕の5年は、みんなにとっては14年の歳月で。それが何故か無性に、寂しい。
手を額に置き空を仰ぐ。傾き、空を真っ赤に彩る太陽が眩しい。
「……キラさん」
「────ゴメン、大丈夫だよ。……。ところで、ユーノ」
「はい?」
眩しいから、現実。夢じゃない。だから堪える。
今は話題を変えよう。まだ茫然となる時間じゃないから、再会を喜ぼう。
心配気なユーノに応えながら、
「フェイトちゃんと結婚したんだ?」
行儀良く座っているヴィヴィオちゃんを見て言葉を続ける。
さっきは10歳くらいかなと思ったけど、本当はもっと幼いのかも。
まぁ魔法の世界だし、些細なことかな。僕は思った事そのままに言葉を紡いだ。
「…………はぃ?」
「え、と……?」
ん?なんか反応が変だ。ユーノもヴィヴィオちゃんも固まってしまった。
でも、ユーノはこの娘の保護者みたいだし、何よりこの娘の瞳と髪が、だれの子かを雄弁に語っているじゃないか。おめでとう二人とも。
「え、だってユーノとフェイトちゃんの子供でしょ?その娘」
「違うよっ!!」
「ち、違いますよっ」
……え、違うの?

あれー?


この時は。僕はまだ、自分の心の燻りに気付いては、いなかった。

──────続く

349名無しだった魔導士:2011/09/19(月) 19:11:36 ID:bkw1Lx7EO
以上です。とりあえず勢いのままやってみましたが、どうでしょうか?どんどん指摘をお願いします

シンの出番はちゃんとあるので安心してください。アスランは不明ですが

350名無しの魔導師:2011/09/19(月) 20:07:36 ID:BLD4AgcE0
乙ー

351ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 21:21:57 ID:oKdpYW6w0
>>342
丁寧にありがとう
俺も投下しようかな

11:00頃に短編投げます
ちなみにやりたかっただけなんでお見苦しいかもしれません
本当に自己満足展開です

352ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 23:02:20 ID:oKdpYW6w0
短編

3人の猛攻でぼろぼろのキラ
レイのドラグーンかわしつつアスランに向けライフルとクスフィアスを同時に放つ
しかし、魔力シールドで容易く受け止められる
その隙にシンのデスティニーの翼からデュートリオンカートリッジの薬莢が吐き出され、ヴォワチュール・リュミレエールを展開させたのが見えた
急加速し猛追してくるデスティニーがアロンダイトを振りかぶる
何とかサーベルで受け止めたが、加速による突進で吹き飛ばされた
そのまま最加速し掌底をかかげパルマフィオキーナをキラの腹に叩き込んだ

「これで分かったでしょう?キラさん。あんたはこっちに来るんだ」

地上に落下し煙で見えない姿にむかって告げる

「キラ!お前、自分が何に所属しているのか分かっているのか?」

追いついたアスランが続く

「分かってる。でも・・・君たちのやり方じゃだめなんだ」

サーベルを支えにしてふらふらの状態で何とか立ち上がるキラ

353ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 23:02:57 ID:oKdpYW6w0
「あんたは俺達に教えてくれた。強すぎる力が何をもたらすか」

「そして『行きたいところに行くには道を間違えてはいけない』そう教えてくれたのもあなたです」

3人が地上に降り、キラのとこまで行こうとする

「管理局が正しい道とでもいうのか、お前は?聞こえはいいが裏が多すぎるのに気づかないのか?」

「道を間違えてもまだ戻れます。一緒に行きましょうキラさん」

そう言ってシンが手を差し伸べてくる
この手をとったらどんなに楽だろうか
かつての仲間達と一緒に戦える
その仲間達となら確実に道を間違えることはないだろう
しかし脳裏にあの3人の少女達の笑顔が浮かぶ
確かに間違ってる道かもしれないが、まだゴールは見えていないのだ
あの3人ならきっと正しい道へと変えられるかもしれない
そうだからこそこの手をとるわけにはいかないと、決意しシンを見据えた

「まだゴールは分からないよ・・・この道は正しい場所へと行くようにできるかもしれない。少なくとも僕はあの3人がその可能性を秘めていることを信じている」

アスランたちの顔が苦悩にゆがむ
かつての仲間を無理に連れて行きたくはなかったがこうなっては仕方ないのだろう

「残念ですキラさん。あまり気は進みませんが無理矢理にでもつれて行いきますよ」

そう言いシンはアロンダイトを掲げ振り下ろそうとした

「シン!飛べッ!!」

354ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 23:03:32 ID:oKdpYW6w0
アスランの声が聞こえるとともにデスティニーが警告を告げる
すぐさま飛び退る3人
刹那、桜色の魔力砲がアスラン達の居た場所を薙ぐ

「クソッ!いったいなんなんだよ?これは!?」

シンが苛立ちの声を上げ砲撃の方向を見ると何人かの人が居た

「時空管理局機動六課や。うちのエースを連れて行かんといてくれるかな?」

「キラ君は私達の友達だよ!」

「だから私達が守ってみせる!」

そう言い隊長陣とフォワードがアスラン達と剣を交えた

「シャマル、キラ君の治療お願い」

「分かりました」

そうシャマルに告げるとはやても戦列に加わった

355ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 23:04:33 ID:oKdpYW6w0
「どうしますアスラン?」

レイがドラグーンで全員を牽制しアスランの指示を仰いだ

「あいつらは見覚えがある。レイはあの子供達4人同時に相手できるか?」

「ええ、多分余裕でしょう。倒し次第援護に向かいます」

「シンは・・・・・・白いのと黒い羽のを頼む」

「アスラン、あんた大丈夫かよ?あの3人みんな接近戦だぜ?俺と替わったほうが」

言い終わる前にレイのドラグーンの牽制が破られ仕方なく交戦をはじめた

「どうなってもしらねぇぞ」

そう吐き捨てシンは敵に切り込んだ


レイがドラグーンを飛ばしスバル、エリオに向ける
接近できなければ彼らは戦力にならないとしサーベルを持ち、ティアナに向かい襲い掛かる
しかしダガーモード受け止められ、逆にシュートバレットを向けられる
それを回避しようと上に跳ぶと、ドラグーンの猛攻を掻い潜ったエリオがストラーダを掲げレイに向けサンダーレイジて放った
キャロがブースとアップをエリオにかけていたので避けるのが困難と判断し魔力シールドで防いだがそのせいで隙ができた

「うおぉぉぉぉぉ」

その隙を見逃さずにスバルがリボルバーナックルでディバインバスターを放ちレイを弾き飛ばす

「いまだよ!ティア、キャロ」

「分かってるわよ。クロスファイアー、シュート」

「フリード、ブレストレイ」

そして追い討つようにフリードのブラストレイとティアナが多数のクロスファイアーシュートをはなち、レイが爆炎と砂煙に包まれた

356ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 23:05:33 ID:oKdpYW6w0
シンはアクセルシュ−ターをかわしながらなのはに向かう

「一撃で叩き斬ってやる」

そう叫ぶと同時にアロンダイトを構え加速し、なのはの直前まで迫る

「はぁぁぁぁぁぁぁぁあ」

なのはがプロテクションパワードを発動させる

「そんなもん、効くかぁ」

そして一気に振り下ろした
容易く砕ける・・・そう思っていたが刃が振り切れずに止められた
いくらリミットをかけているとはいえ自身の最も強い武装が防がれた
その驚愕がシンの動きを止めた

「いまだよ!はやてちゃん」

「任せとき」

言うと同時にブラッディダガーがシンの周囲に展開される
反応が遅れたため目の前のはパルマフィオキーナですべて吹き飛ばしたが背中に数発被弾したが

「クソッ!?こんな・・・・」

シンが焦りの声を上げる
はやてが魔力弾を周りに放ち上手いこと動けない
気がつくとレイの方で爆炎が上がっていた

「レイッ!!何が余裕だよアイツ」

しかし自分もそうはいってられない
レイのほうに気をとられたせいで、なのは姿を見失った
そしていきなりバインドをかけられる

357ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 23:06:04 ID:oKdpYW6w0
「よそ見してたらだめだよ」

声のほうを向くとなのはがディバインバスターを放とうとしている
視界の隅ではやてもフレスヴェルグの詠唱を完了していた

「いくよはやてちゃん!ディバイーン、バスター!」

「了解フレスヴェルグ!」

必死にもがくシンだったがなのはのバインドは外れない
そして白と桜の魔力砲がシンを包み込んだ



「あんた一人で私ら3人押さえ込もうってのか?」

勝ち気にグラーフアイゼンをアスランに向け構える

「そういうことになるな」

「相当自身があるようだが、驕りは自分を殺すぞ?」

シグナムも気に入らないのか語気を強めレヴァンティンを構える

「自身があるわけじゃない。自分の力を自覚しているだけさ」

過去を思い出すようにはっきりと告げるアスラン

「君たちは自覚しているのか?戦士として、力を持つものとしての」

そしてフェイトたちを非難するように強い視線を向ける

「あなた、一体何を?」

「かんけぇねぇよフェイト隊長。アイツをぶっとばしゃ、終わる」

そしてグラーフアイゼンをかまえアスランに突っ込んだ
アスランはそれをシールドで受け止めそのままリフターの出力でヴィータを押しのけようとする
ヴィータもアイゼンのブースターで押し込もうとしたが出力負けしてしまう

「こいつ・・・・強い」

358ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 23:07:14 ID:oKdpYW6w0

ヴィータを押しのけたアスランだがシールドで弾いたせいか体が大きく開く

「悪いが正々堂々と言ってはいられない状況でな」

そしてシグナムがその隙を逃すまいとレヴァンティンで空いた体に切りかかる
しかしアスランは足のグリフォンブレイドでそれを受け止め、そのまままわし蹴りでシグナムも吹き飛ばした

「ヴィータ!?シグナム!?」

アスランがシュペールラケルタ・サーベルをアンビテクス・トラスハルバートフォームにしフェイトに襲い掛かる
それをバルディッシュで受け止める
バルディッシュとサーベルがぶつかり合い鍔迫り合いのような形になる
横目でシンとレイが派手に何かを食らったのが見えたが気にしている暇はなかった

「あなた達の目的は何なの?」

「世界を間違った方向へもって行きたくないだけだ」

「理由があるなら管理局が話を聞きます。」

「管理局のシステム自体おかしいと思わないのか?」

拮抗していたと思われたが徐々にフェイトが押され始める

「管理局でも完璧じゃない。といっても無くなったらもっと困る人たちがいる。だから私達が変えなければならないんです」

いきなりフェイトが力を抜き下に下がった
すると下からシグナムが躍り出てくる

「紫電・・・・・一閃!」

突如のことに反応が遅れるサーベルをクロスさせ何とか受け止めた

「ぶちやぶれぇぇぇぇ!」

しかし沈黙していたと思われたヴィータのギガントハンマーを上からモロに喰らいアスランが地面に叩き落された

359ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 23:08:05 ID:oKdpYW6w0

「まだよく分からん。周囲の警戒、怠らんといてや」

はやてがシュベルトクロイツを構えなおし皆に告げる
その言葉に全員が頷きデバイスを握る手に力をこめる
煙が晴れて姿が見え出してきた
皆たいしたダメージが入っていない
レイは目の前にドラグーンの射線をを網状に張り巡らせ被弾はゼロである
アスランは落下寸前にリフターに飛び乗っていた
シンはバインドを直前で破りカートリッジをロードしたソリドゥス・フルゴールを両手で展開し限界まで出力を高めた状態で何とか防いだのであった

「あれを喰らってほぼ無傷って・・・・どうするはやて?」

フェイトがはやての指示を仰ぐ

「布陣にぬかりはない。みんなもう一回や」

その声に全員がこたえた




後一歩でキラを仲間にすることができたのに邪魔が入り、そいつらにいいように押されてシンは内心で怒りの炎が猛っていた

「お前らふざけるなァァァァァァー」

言うと同時にSEEDを覚醒させる
シンの瞳から光が消え魔力が高まりすべてにおいて能力が飛躍する
これなら勝てる
シンは一気になのはたちの元へ飛翔した

「あいつまた無茶を・・・・。レイ!リミッター状態での本気を出せ。俺はシンの援護に行く」

「分かりました」

そうしてアスランの瞳からも光が消えSEEDの状態になった

360ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 23:09:03 ID:oKdpYW6w0
「皆さん2人の魔力量が飛躍的にあがりました。リミットブレイクかフルドライブです!」

シャーリが通信口から警告する
だがそれにかまってはいられない
猛加速で突撃してくるシンに向けなのははかなりの量のアクセルシューターを放った
それはシンを捕らえたかと思うと空を射抜く

「外れたッ!?なんで?」

そのことに驚愕するなのは
まるで残像でも出してるようにトリッキーな動きをするシン
その姿を捉えることができないまま接近を許してしまう

「これで終わりだァ!」

なのはをパルマフィオキーナで掴み連射しながらヴォワチュール・リュミエールの加速でゴリ押し、壁にたたきつける
大ダメージを食らったなのははそのまま沈黙する
それを確認せず、今度は詠唱に入ったはやての方に向く

「デスティニーに距離なんて関係ないッ!」

言うと同時にライフルをでたらめに連射する
あたらなくてもいい
次に両肩にマウントされているブーメランを放り投げ、背中の長距離砲を先ほど牽制したライフルにあわせ照射する
ライフルのでたらめな射線で足を止める
ブーメランで退路を断ち、長距離砲で捉える
アロンダイトを片手に持ち、そのまま一気に加速
またもパルマフィオキーナではやてを掴む
そして今度はそのままバーストさせ弾けとばす

「ケリをつけてやる!」

弾き飛ばされたはやてに一瞬で追いつきアロンダイトで一閃した
攻撃を終えたシンのデスティニーから十数個の薬莢が吐き出された

361ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 23:10:21 ID:oKdpYW6w0
レイは持てる空間把握能力を盛大に使用する
コーディネイターではないレイが持つ特殊能力である
これのおかげで並みのコーディネイターでは敵わない能力が発揮できる

「お前達では無理だ。怪我をしたくないなら下がれ」

その一言に怒りを覚えるティアナ達

「さっき私達にやられたのはあんたでしょうが。スバル!」

クロスファイヤーでレイを迎撃する
全部を捌ききれるわけがない
足を止めたとこにスバルのリボルバーナックルを叩き込む作戦だ
しかし不可能と思っていた回避をレイはやすやすとやってのけた

「そんな!?」

スバルは止まらないレイに突っ込みかけている
足を止めるどころかこのままではやられる

「エリオ!援護お願い」

しかし当のエリオはドラグーンの驟雨にさらされすでにキャロとフリードとともに撃墜されている
そのままレイのサーベルがすれ違いざまにスバルを切り裂く
そしてドラグーンがティアナを襲う
先ほどとは比べ物にならない速さで動きティアナをも撃墜した

362ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 23:11:42 ID:oKdpYW6w0
「あいつ・・・まじでやべぇぞ」

シグナムを見るヴィータ

「私が左から切り込む。お前は右からだ。テスタロッサはそのまま正面から行け。行くぞッ!」

3人がアスランを囲むように布陣する
するといきなりアスランがブーメランをフェイトに向け投げる
それを避けるためにフェイトの出が遅れる

「テスタロッサ!?仕方ない行くぞヴィータ」

「おうよ!」

そしてレヴァンティンとグラーフアイゼンを構え突撃する
しかしその二人に見向きもせずフェイトに突っ込むアスラン
だがいきなりシールドからグラップルスティンガーを射出する

「んなッ!?」

それは容易くヴィータを捕らえる
そのまま遠心力でシグナムに向かって放り投げた
構えを崩しヴィータを何とか受け止めるシグナム

「シグナム!!前だ」

受け止めたヴィータが声を上げた
気づくとそこにはファトゥム01がハイパーフォルティス砲を連射しながら飛来していた
反応できなかったがなんとか直前でヴィータが障壁を張り砲撃を防ぐ
しかし先端面の魔力刃が容易くそれを貫きそのままヴィータとシグナムを切り裂いた

「余所見をしている場合か?」

それに気をとられたフェイトにアスランが迫る
アスランのサーベルとフェイトのバルディッシュが激突する
またもつばぜり合いになるかと思われたが帰ってきたブーメランがフェイトに直撃する
そしてよろけた隙を狙い、鍔迫り合い状態からバルディッシュを弾きあげそのままサマーソルトを決めた
蹴り飛ばしたフェイトに向け戻ってきたリフターとともに一斉射撃を行い撃墜した

363ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 23:12:51 ID:oKdpYW6w0
回復中のキラは顔を上げた
皆撃墜されてしまった
それにアスランに魔力が集中していくのが見える

「シャマルさんもういいです」

「そんな!?まだ無理よ!!」

動こうとするキラをとめようとしたシャマルだがそれを手で制する

「大丈夫。皆を守って帰ってくるから、倒れた皆をお願い」

そしてキラは飛び立った




「何とかなりましたね、アスラン」

4人を撃墜したレイが戻ってくる

「ああ。このままミーティアで広域殲滅攻撃を行う。シンとともに後ろに退避してくれ」

「本気かよ?」

「その後にキラを確保だ。頼んだぞ」

アスランが準備を始め、シンとレイが後ろに下がった
マルチロック中のアスラン違和感に気づく
レーダーに動く反応が見えたからだ

「キラがなにかするつもりか?」

「俺が行きましょうか?」

シンがライフルを構える

「いやこのままミーティアで押し切る」




「いくよ、フリーダム。フルドライブ」

静かな声でフリーダムに告げる
そしてSEEDを覚醒させる

「だめぇ!!キラ君!!」

後ろで悲鳴のようななのはの叫びが聞こえたが振り向かない
そしてキラから魔力があふれ出す

「ミーティア、スタンバイ。アスランの発射口にマルチロック開始」

立体パネルが展開しアスランのミーティアの発射口にロックが開始される
ミーティアが出現しキラとドッキングした

「僕は皆を守ってみせる。フルバースト!!」

アスランからもフルバーストが放たれた
二つの発射点から多数の魔力の奔流が放たれる
二つの巨大な魔力がぶつかり合い爆風が起こる
アスランのそれはフォワード陣、隊長陣、キラを狙ったがそれをキラが寸分たがわずに叩き落した
フルドライブしてる分魔力はキラの方に分がある
火線もアスランの標準装備は3つしかないがキラには13ある

「これはまずいな。キラはフルドライブしている」

「マジかよ?レイ、できるだけシールド張るぞ」

焦った表情をするアスランを横にシンとレイはカートリッジをロードし防壁を張る
アスランのミーティアが討ち負け魔力の奔流が彼らを飲み込もうとしたき直前で何かが割り込んだ

364ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 23:14:05 ID:oKdpYW6w0
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

キラが撃ち終えたと同時に落下した
体力と精神力を使い果たしてしまったのだ
落ちる直前になのはがそれを受け止める

「キラ君、どうしてこんな無茶を・・・・」

「皆を守りたかったから」

意識を保っているのがやっとのキラになのはは泣きそうになる

「でもこれで彼らもダメージは大きいはずや。しっかりと捕らえるよ」

そして煙が晴れたときになのは達は自分達の目を疑った
金のバリアジャケットを纏った人がキラのミーティアを受けきっていたのだ

「ふぅ〜。坊主が威力削ってくれなかったさすがに俺でもやばかったぜ」

「フラガ・・・少佐?どうしてここに?」

アスラン達が目の前の人物に驚きの声をあげる

「あぁん?今は一佐だ。お前らが心配になったからに決まってたからだろうが。帰りはおせぇし来たら来たでミーティア打ってるし、管理局もいるし」

「すいません。キラさんだけだと思っていたのですが途中から邪魔が入りだしまして」

フラガの疑問意に丁寧に答えるレイ

「あのフラガさん、ありがとうございます」

そしてお礼を言うシン

「おう、気にすんな。とりあえず撤退だ。」

「なんで?今ならあいつらをやれるかもしれないのに」

「俺の魔力は魔核じゃない。さっきのを受け止めるのにかなりの量も消費した。それに派手に撃ち合ったせいで管理局の増援が来る。それにオーブはあまり管理局と派手ないざこざを起こしたくはない。嬢ちゃんがお怒りだ

なおも食い下がらないシンにフラガはやや怒りながら告げる
カガリが怒っているとなると帰るしかないようだ
そして撤退前にフラガはこうキラに告げた

「坊主、いい加減にしろ。何でそんなもん守って戦うんだ?」

かつてレクイエム防衛隊に向けた言葉
その言葉は意識が飛ぶ寸前のキラの心に深く突き刺さった

365ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/19(月) 23:17:53 ID:oKdpYW6w0
これで終わりです
続きとかは考えてないですね

気持ち悪いぐらいの量だ
こんな俺に駄目だし頼む
ちなみに超やわらかい絹ごし豆腐メンタルだから優しく頼む

366名無しの魔導師:2011/09/20(火) 09:50:30 ID:07f.b03E0
二人ともGJ

367名無しの魔導師:2011/09/20(火) 22:41:00 ID:rlJqxiTMO
続きがあるような終わり方をしてますけど、短編ならオチはつけた方がいいですよ

これだと良い悪い以前に書き手以外はなんのこっちゃ分からないと思いますよ

368ザフトの緑服 ◆xuQfCPbkz2:2011/09/20(火) 23:32:17 ID:Z8VuSm..0
>>367
すいません
本当にやりたかっただけだったので
多少世界観がわかるように設定だけでも投げときます

369名無しだった魔導師:2011/09/22(木) 21:46:01 ID:ELU3i5LIO
>>368
亀ですがGJです。
第二話ができたので23時頃に投下しようと思います。

370『鮮烈』に魅せられし者:2011/09/22(木) 23:00:25 ID:ELU3i5LIO
「この子は高町ヴィヴィオ。なのはとフェイトの娘ですよ」
「なん……だって……?」


『第二話 心を探して』


「……僕は、今、何をしたいのかな──」
尽きぬ疑問、思いがけない再会、そして新たに知り合った少女。
なかなかに刺激的だった今日という日が終りを告げようとしている22時。幻想的な3月の月光に照されたベッドの上で、僕はただ頭を悩ましていた。
原因は、あの少女で間違いないだろう。

高町ヴィヴィオ、Stビルデ魔法学院初等科3年生。高町なのはとフェイト・T・ハラオウンとの三人暮らしで、ユーノとは上司部下の関係。今日は二人で友人のお見舞いだった。
そう自己紹介した彼女の瞳が、僕の心を掴んで放さない。

(純粋で綺麗な、『生』に満ちた瞳だった……)
教会のカフェで色々な話をしてくれた少女から感じた『想い』は、今の僕には眩し過ぎた。それは僕が無意識に見て見ぬふりをしようとしていたモノを炙り出すには充分なぐらいで。

つまり、僕は本当にC.E.に帰還したいのか?という最大の疑問を。

今に思いかえせば、この世界に来た時からの自分の反応は異常だったとわかる。
そう、僕は冷静だった。
疑問ばかり抱き、それを静かに考えるだけで全く焦らない態度。
コロニーの皆や、これからの身の振りばかり考え、自分の職務や仲間を案じない思考回路。
「帰らなくちゃ」と考えつつも「帰りたい」とは感じなかった心。
(冷静であった事こそが異常なんだ)
いくら転移経験があるからといえど、普通ならパニックになるのではないか。「ここは何処だ、帰りたい」と。だけど僕は焦らなかった。
今、自覚した。考えられる理由は一つ。

僕は平和になり、あの人への誓いと、なのは達との約束を完遂したC.E.に未練が無い、次の『やりたい』事を見出だせなかったんだ。

とても贅沢で、傲慢だと思う。でも今の僕には『やるべき』事しかなくて。知らぬ間に心が『空っぽ』になってしまっていたんだ。
僕自身にも見えていなかった、その本心が、
あの『生』と『未来』に満ちた鮮烈な翆と紅の瞳によって暴かれた。暴かれて、しまった。
(あの人に申し訳がたたないな……)
そんな事を思いながら、僕は眠りの世界に堕ちていく。

371『鮮烈』に魅せられし者:2011/09/22(木) 23:01:51 ID:ELU3i5LIO
 
 
「……それより、問題はユーノだよ、ユーノ。あんな可愛い娘達に囲まれてて未だ独身ってどういうことなの?」
「そうだ、妻はいいぞ?さっさと漢を見せたらどうだフェレットもどき」
「なっ、そ、そんなの……僕は……その」
顏を赤く染め、ゴニョゴニョと呟くユーノ。なんだ、その気はあるんだ。本命は誰だろう?
翌日の13時。この世界に来て3日目の昼。
僕は、多忙の身の筈なのに来訪してくれたユーノに我儘を言い、一緒に時空管理局に来訪。無理やり時間をとってくれたクロノと会合していた。本当に、いくら感謝してもし足りないと思う。
彼、今は提督なんだって。すごいなぁ。
「そう、あの時のエイミィは凄かった。なんたって……」
「聞いてないからね」
強く逞しく育ったクロノ君。本当、人の可能性には驚かされるよ。
ちなみにヴィヴィオちゃんはスクールがあるみたいなので、ここにはいない。

僕は先ほどまで、過去14年の映像記録と最近の情報をクロノに閲覧させてもらっていた。何はともあれ情報はいると思ったから。
その映像は、なのはちゃんとフェイトちゃんの始まりである『PT事件』から始まり、僕も関わった『闇の書事件』。そして、衝撃の『なのは撃墜』があればと思えば、数多の悲劇と願望、出逢いが産まれた『JS事件』があって、奔走の『マリアージュ事件』を中心とした記録だった。
目まぐるしく変化する展開に驚きを隠せない。動乱の時代と言ってもいいぐらいの記録だ。
──みんな本当に大きく強く、美しくなったんだ。
思わずため息がでてしまう程の感嘆を覚える。
そして最後に、
「ストライクアーツ?」
意外な情報が。
「そう、このミッドチルダで最も競技人口が多い格闘技だ」
「……それをあの娘、ヴィヴィオちゃんが?」
あの小さい躰で?司書さんって聞いたんだけど……。
「ヴィヴィオはアスリートでもあるんだ。意外でしょ」
「ほら、子は親に似るっていうだろう」
「うん、まぁ。ずいぶんとアグレッシブなんだね……」
人は見かけによらない、か。まぁあの娘達のなら道理かな。人が戦艦の主砲並みの光線を撃つ世界だもの。

「……っと。すまないキラ、そろそろ時間だ。ユーノ、お前はどうするんだ?」
緑茶を飲みながら会談をしていれば、おもむろにクロノは時計を見ながら立ち上がった。
「僕はキラさんを教会に送ってから無限書庫に戻るよ」
「本当にありがとう二人とも。僕のために……」
それに応じて僕達も立ち上がる。
二人の好意のおかげで大体の情報を手に入れることはできた。これをどう使うかは僕しだいだ。
「気にするな。C.E.はもう一度こちらで調べてみる。時間のズレの事も含めてな」
「あ、そうだキラさん。コレが僕の連絡先。モニターを呼び出せば使えるから、困ったら連絡して。……魔法はまだちゃんと使えるんでしょ?」
「……そういえば、使えるんだっけ僕も。魔法」
これからだ。
このまま異世界に骨を埋めるか、己の役割の為に帰還を志すか。
僕の道を、見つけるんだ。


ユーノに魔法の基礎を軽く復習してもらいながら教会に帰れば、
「──あれは……」
「あ、シャンテちゃん?」
再びに緋に染まる世界の中に、トンファーを振り回す修道女姿の少女がいた。
……戦うシスターさん?
「ユーノ、あの娘は?」
「シスター・シャンテちゃん、ヴィヴィオの友達だよ。鍛練中みたいだね」
「……成る程、ね」
クルクルとトンファーを繰りながら鋭くステップを踏み抜く、橙の髪をもった少女。なかなかの機動だ。ヴィヴィオちゃんもアレ程の動きを出来るのだろうか?
この世界は予想以上に刺激が多いらしい。
「ユーノ」
「何ですか?」
気づけば僕は、いつの間にか同じ背丈、年齢になってしまっていた青年にまた一つ、我儘を言ってしまっていた。
「……みんなに、会いたい。今日じゃなくていいんだ。……駄目かな?」
「そう言うと思ってました。全然駄目じゃないですよ。……明日か明後日に、ここに集合で」
「……ありがとう、ユーノ」
頑張る人の姿が、僕のナニかに火をつける。まだまだ小さいその火は、無くしてしまった僕の大切なモノであると予感する。その正体を知りたくて。
みんなに会えば、わかるのではないかと感じたから。

僕は再会の時を待つ。自分の『やりたい』事を模索しながら。


──────続く

372名無しだった魔導師:2011/09/22(木) 23:04:34 ID:ELU3i5LIO
以上、ですね。相変わらずな感じです。
物語が本格的に動きだすのは4話からになると思います。需要がなくても供給しますとも

373名無しの魔導師:2011/09/22(木) 23:05:10 ID:9t1KyL.I0
需要なら・・・ここにあるっ!
GJ!!

374名無しだった魔導師:2011/09/27(火) 12:15:28 ID:pVbjRNhwO
第三話(前編)ができたので23時頃に投下しますわ。
今回は前後に別けますが、また近いうちに投下しようと考えてます

375名無しの魔導師:2011/09/27(火) 14:13:13 ID:tq95XbF60
OK、ネクタイのみ着用して待ってる。

376名無しだった魔導師:2011/09/27(火) 22:18:50 ID:pVbjRNhwO
眠くて眠くて堪りませんので、ちょっと早いですけど投下します

377『鮮烈』に魅せられし者:2011/09/27(火) 22:19:50 ID:pVbjRNhwO
「はっ、はっ、はっ、……っ」
ゆるりと流れる景色、一定のリズムで聞こえてくる足音と呼吸音、風を切る感触が僕に心地好い疲労を与えてくれる。
もうすぐ6時、目標が500m先まで迫ってきていた。
「……、ふっ!」
力の限り強く、大地を蹴りぬく。おもいっきり、腕を振りぬく。力を振り絞り、身体を限界まで加速させる。
その動作全てに、安定感。
やはり大気圏内は違う。この躰のやる事為す事を全て受けとめてくれるような感覚は宇宙では味わえ無い。人類の故郷は惑星である事が改めて認識出来る。
気付けばあと25m。そして、
「ゴール……!」
僕はそのまま目標──教会の門を駆け抜けた。


『第三話 霧が晴れる時・前編』


今まで僕が戦ってきた理由はなんなのだろうか。
戦争の時、ストライクの時は友達を守る為、生き残る為に。フリーダムに乗ってからは戦争を終わせる為に戦った。
この時の僕は目的の為に戦っていたんだ。
転機はブレイク・ザ・ワールド。あれから僕は、自分の心に従って戦い始めた。オーブを討たせたくないから、憎しみの連鎖を止めたいから、人間の可能性を守りたかったから。
海鳴市の時もそうだ。あの娘達を助けたかったから僕は魔法を使った。
それからC.E.に帰還して、僕は誓いと約束を果たす為に行動し始めた。多分この時に、僕の欲求は消失して、平和になってからは目的も無くなったんだ。
でも、やりたい事は無くとも為すべき事は山程あったんだっけ……。
「……僕は、今、何をしたいのか──」
今の僕には為すべき事もない。ただ流されるまま「必要だ」と思った事をやるだけで。

気付いてはいるんだ。僕が魔法を使う必要も義務もないんだって。もう無理に戦わなくてもよくなったんだって。

だけど。
悲劇を食い止めようと戦い続ける彼女達を見て、未来に羽ばたこうと輝くあの娘達を見て。
やっぱり僕は『守りたい』と思ってしまったんだ。
勿論、彼女達は僕に護られるまでもないとは解っているし、具体的にどうすればいいのかも分からないけれど。
それでも、僕は戦おうと思う。僕の戦いを。

378『鮮烈』に魅せられし者:2011/09/27(火) 22:22:05 ID:pVbjRNhwO
 
 
習慣である朝のロードワークを終わらせて、軽くストレッチをこなす。
この朝のロードワークは本来シンの習慣だった。僕は付き会いで始めただけだったのけど、いつしか自分の習慣にもなっていたんだっけ。
僕は元々理系なのになぁ。
「意外と、慣れるものだね……」持ってきていた缶コーヒーを開け一息で飲み干す。予想はしてたけど、春の早朝に飲むコーヒーは格別だと思う。バルトフェルトさんは味に文句をつけるだろうけどね。
僕は苦笑しながら空缶を置いて、
「ありがとうございます、ディードさん。わざわざ僕なんかの為に……」
「いえ、このような些事。どうということはありません」
今着ているトレーニングウェアのみならず、ランニングコースをも用意してくれた女性に感謝を伝えた。
ディードさん。茶のロングヘアーを赤のカチューシャで装飾したシスターさんで、『深窓の令嬢』という比喩が似合う雰囲気をもつ緋目の女性だ。これで意外や意外、戦闘のエキスパートだとか。
「……じゃあ、ディードさん。今日はお願いします」
「はい。陛下が御世話になっている、他ならぬユーノ様の頼みですから。問題ありません」
だからこそ僕はユーノに紹介してもらった時即に、相手をお願いさせてもらったのだけど。
「……よし。やるよ、ストライクフリーダム。システム起動!」
≪了解。5年ぶりでしょうか、マスター≫
そう、今日はここからが本番だ。
魔法と体術を使った戦闘機動、その再確認が今の僕には必要だと考えた結果がこれ。つまり、戦闘のエキスパートとの模擬戦。
僕はストライクフリーダムの翼を模したキーホルダー型のデバイスを起動、一瞬蒼の光に包まれる。気がつけば背に蒼の魔力翼を、手に蒼のサーベル〔シュペール‐ラケルタ〕を装備していた。
懐かしいな、『闇の書事件』以来だ。流石にC.E.では魔法は秘密の存在だから。
≪魔法の運用法にレクチャーは?≫
デバイス・ストライクフリーダムの言葉を聞き、軽くサーベルを振ってみる。……うん、いい感じだ。
「まだいらないよ。まずは試運転、飛翔は使わない。スペックを分析と防御に集中して。……早速ですが、行きますよ」
「いつでも。IS・ツインブレイド」
蒼の光刃二刀を構える僕と、緋の光刃二刀を構える彼女。
果たして僕は体捌きと剣術だけで、どこまで彼女に対抗できるのか……。
ディードさんの隙の無い構えに冷たいモノを感じながら、僕は重心を落とした。
(……とりあえず、10分はもたせるっ!)

勿論、勝てるなんて微塵も感じていない。今はこの躰がどこまで動けるのかを確かめたいだけだ。
この世界にいる以上は、この世界のやり方で身を守らなくちゃいけない。それを為す力があるのなら、尚更自分の力を知る事が大事なんだ。この力は、僕の未来を決めてしまうのかもしれないのだから。

「くぅ……!」
「甘いっ!」
迫る刺突を辛うじて左のサーベルで受け流すが、連続して繰り出されたディードさんの逆袈裟斬りに、左腕を大きく弾かれてしまった。左にずれる重心。
「まだ、だ!」
僕は弾かれた勢いそのまま、左足を軸に反時計回りに回転。腰を落として足払いを敢行する。
(……よし)
結果は目論見通り。ディードさんは瞬時に後ろに跳躍、距離をとる事に成功した。
が、
瞬間的に加速したディードさんに一気に背後に回り込まれ、鍔競り合いに持ち込まれてしまった。
「!?」
「意外と、粘りますね!正直10分で終わるのではと思っていましたが」
「、はぁ、っ。僕は、諦めが悪いんだ……。……せいっ!」
今度は此方の攻め。バネのように躰を爆発させ一気に懐に飛び込む。
そろそろ限界も近い。彼女のしなやかな体躯が実現させる鋭く、多角的な斬撃を防ぐのに手一杯で反撃の糸口を掴めない。
わかってはいたけどMS戦とはまるで勝手が違うな。イメージとリアルが隔離していて、その差に動作がギクシャクする。少しでも気を抜けば、空気椅子に座って空気レバーを引いてしまいそうだ。
それでも持ち前の反射神経と戦闘勘で強引に躰を酷使してなんとか拮抗しているのが現状だ。身体がダルい上に呼吸も辛い。
まだディードさんの表情には余裕がありそうだ。動きを阻害されそうな修道服姿なのに、流石は聖王の護衛といったところか。
よく知らないけどね。
「そこだっ!!」
「……!っですが!」
緋の横一閃を屈んで回避しながらサーベルで下から掬い上げるように斬りかかる、が、
(踏み込みが足りない。届かない……!)
≪警告≫
失敗。ロールターンで斬り返され、〔ラケルタ〕二刀で受け止めた。
(──まだだ。まだ身体が思うように動かない!でもっ!)
「フリーダム!!」
≪クスィフィアス≫

戦闘はそれから5分続いた。

379『鮮烈』に魅せられし者:2011/09/27(火) 22:23:45 ID:pVbjRNhwO
 
 
戦闘時間、16分26秒。僕が疲労で倒れた事で幕を閉じた。
「……っ、……」
大の字で倒れたまま動けない。指先を動かす事さえ億劫なほどに筋肉が悲鳴をあげている。こんな状態になったのって初めてかも。
でも、これで自分の大まかな限界を知る事が出来た。後は飛翔のテストを行い詳細を突き詰めればいい。
少しぎこちなかったのが残念だけど、これでやるべき事は為した。
「やり、ますね……。これ程とは思いませんでした」
少し息を切らせてくれたディードさんがタオルとドリンクを渡してくれた。助かるよ。
「あ、ありがとう……。ホント、強いんですね……」
「いえ、まだまだです。……先程の戦闘ですが」
「……はい」
戦闘内容は、僕の完敗だった。一撃の有効打も入れられなかったのはお互い様だけど、やっぱり僕は防戦一方だった。
本気の実戦だったら死んでいた。
もしかして、僕の欠点を教えてくれるのかな?
彼女は言葉を続ける。
「貴方にはやはり経験が足りないようです。攻撃や回避のセンスは高いようですが、生身の動かし方がまだ身に付いていないようですね」
──つまり。
「……慣れない動作に、戸惑いや焦りが出ているんだね?」
「はい。それが貴方を殺しています」
ペダルやレバー、スイッチを操作して戦うMS戦と、直接身体を動かして戦う魔法戦。その落差が僕の動作をぎこちなくしたんだ。
うん、ディードさんと戦って良かったな。こうやって相手の欠点を直に指摘してくれる人は、そうはいないと思うから。
「貴方に今必要なのは時間です。ゆっくり慣れるといいでしょう。……今日の朝食はトーストとベーコンエッグ、サラダ、オニオンスープです。遅れないように」
「……あ、ありがとう、ございましたっ!」
気づけば遠ざかる足音。その背に僕はなんとか、感謝を伝える事ができたのだった。
……疲れたなぁ。


「うわっ、ズタズタのボロボロですね。背中が煤けてますよ?」
「自分の未熟さを痛感してたところだから……。えと、たしかシャンテちゃん?」
「あれ、自己紹介しましたっけ?」
ようやく体力が回復し、そろそろ朝食に行こうかと立ち上がりかけたその時、背中に活発そうな声がふりかかった。
振り返ってみれば、そこには橙の髪をショートにした少女。今朝は修道服の替わりにトレーニングウェアを着ていた。朝練帰りかな?
「……昨日友人に教えてもらってね。ごめんね、勝手に」
「別にいいですけど。そういうアナタはキラ・ヤマトさんですよね?」
「そうだけど……」
なんで知ってるんだろう?
そして僕の肯定を聞いたとたん、得心したようにニンマリとするシャンテちゃん。
何だろうこの感じ。彼女はもしかしたら悪戯好きかもしれないと予感させるこの感じは。
「ははぁ、なるほど?アナタがズタボロな理由がわかった気がしますよ。まぁ気を落とさないで下さい?」
「……どうも」
うん、とりあえず食堂に行こうかな……。詮索しても仕方がないのだから。


──────後編に続く

380名無しだった魔導師:2011/09/27(火) 22:24:26 ID:pVbjRNhwO
以上です
そしておやすみなさい

381名無しの魔導師:2011/09/27(火) 23:30:53 ID:FMrvNCkk0
これだよこれ、MS戦闘と生身の戦闘の違い。
に○ファンにある、同じクロスものでキラがなのは世界に来る奴は、生身でカガリに負けるキラが
何故かなのはやフェイトを圧倒したり、意味不明なアンチしたりで、糞な作品がほとんどというか全て。

一応キラもCEで少しは鍛えてるみたいですし、これくらいの強さならある程度は納得できる。

続き楽しみにしてます。

382名無しの魔導師:2011/09/28(水) 03:56:52 ID:/bivm93Y0
そういう他のサイトの作品批判の様な物は止めろ、荒れるだろ、此処は此処向こうは向こうだ

383名無しの魔導師:2011/09/28(水) 09:50:50 ID:U82PStFU0
まぁキラの強さについては難しいんじゃないかな、努力嫌いだし

384名無しの魔導師:2011/09/28(水) 11:51:54 ID:KNrMe9AI0
>>381
え〜と・・・・・君は何を言ってんだ?
なのはの世界から否定してんのか?
1期のなのはなんて運動駄目なくせに魔法に触って1ヶ月もたたないうちに、昔から訓練してるフェイトに勝ったんだぞ?
半年後なんか、かなり古くからの古代ベルカの騎士と張り合ったし、そんな事を疑問に思う事自体おかしい
だからキラだって順応力っていうご都合主義だっていいんじゃないか?

385名無しの魔導師:2011/09/28(水) 12:10:58 ID:ayarVla.0
まあな
特にSTSやVividを見てると、なのはが如何に規格外の化物か分かる(主人公補正の塊とも言うが)

386名無しの魔導師:2011/09/28(水) 12:47:01 ID:rNhYdR6Q0
GJ、色々言われているけど続き楽しみにしています。

387名無しの魔導師:2011/09/28(水) 15:21:17 ID:6cI6e1PY0
>>385
そりゃ戦闘民族不破家の血引いてるからな

388名無しの魔導師:2011/09/28(水) 20:20:04 ID:fRxWE5Ms0
管理局アンチはわざわざ捏造されてたりするな

389名無しの魔導師:2011/09/28(水) 23:40:25 ID:CeWVOSFE0
>>384
あのな、なのはは才能の塊で1ヶ月間ちゃんと鍛えてる、俺が見たのは何の訓練もなしに圧倒してるからだよ。
なのはものに限らずISでもだけどな。

390名無しの魔導師:2011/09/29(木) 01:15:57 ID:epz5BTFs0
シン「主人公補正か・・・・ちょっと泣けてきた」

391名無しの魔導師:2011/09/29(木) 21:10:16 ID:GHvr7GxIO
レイ「種割れなんて主人公補正を持っているくせに…」

392名無しだった魔導師:2011/09/29(木) 21:50:00 ID:OIAI0twAO
>>391
ルナマリア「私には何も無いのよ?」

どうも。ちょっと荒れてる時ですけれど、23時頃に投下します

393『鮮烈』に魅せられし者:2011/09/29(木) 22:58:56 ID:OIAI0twAO
ピッピッ。

≪マスター。ユーノ様からメールが届きました≫
「ユーノから?なんだろう」
朝食を食べる前、聖王教会の食堂で今朝の模擬戦のデータをチェックしていた時にフリーダムから発せられた電子音は、メールの着信を報せるものだった。
≪開封しますか?≫
「お願いするよ」
≪了解。モニターに出力します≫
ユーノからのメールか。もしかして、なのは達の事かな?
……それにしてもデバイスって本当に便利だね。普通の携帯端末ではこうはいかない。是非とも解析したいな。
さて、内容は……。


『第三話 霧が晴れる時・後編』


『おはようございます、キラさん。突然ですいませんですけど、今日の夕方は空いていませんか?なのは達にキラさんの事を知らせたら「すぐに会いたい」ときたもので……。
もしよろしければ、今日の15時頃に教会で集合させたいのですが、どうでしょうか?
あ、僕は残念ですけど、これません……。

P.S.ちょっとしたサプライズもあります』

……いや、サプライズって。事前に言っちゃったら意味ないと思うんだけど……。
≪返信しますか?≫
「うん。了解、お願い致しますって」
返信をフリーダムに任せて、虚空に顕れたモニターが出力する文書を繰返し読む。その度に胸が暖かくなる。
──すぐに会いたい、か。
なんだか嬉しいな。僕なんかにそう言ってくれる人がいる、それが本当に嬉しい。
「あれ?今日皆さん来るんですか?じゃあ歓迎の準備をしないといけないですね〜」
「……シャンテちゃん、ヒトのメールを勝手に読むのは良くないと思うんだ……」
「ごめんなさーい。でも見えちゃったものは仕方ないじゃないですか。席が隣なんですから」
まぁ確かに、公共の場でモニターを出力しちゃった僕が悪いんだけれどさ。そんな意地悪そうな笑顔しないでよ。
この娘は先程中庭で遭遇し、そのまま流れで隣の席についた戦闘少女シャンテちゃん。感慨に耽っていた僕に話しかけてきた。
因みに彼女、修道服である。いつの間に着替えたんだろう……?
「皆さんって……。シャンテちゃんは皆の事知ってるの?」
とにかく話を逸らす為に、ちょっとした興味で聞いてみる。それに歓迎って言ってたし。
すると少女は少し得意げな顔で、
「もちろんですよ。陛下と私は友達ですから、陛下のお母様達の事は良く存じていますし。何より有名人ですし」
かくも当然とばかりに教えてくれた。コロコロとよく表情が変わる娘だなぁ。
……てか、やっぱり有名人なんだ?僕、そういうのには疎くて。
「そうなんだ……。凄いな」
いつのまにか、そんな大きな存在になってるなんて。月日の流れはこんなにも人を変えるのか……。
僕も他人の事は言えないけど。
(会うのが楽しみだ)
なんて、しみじみと感じていると、
「……それで突然でゴメンですけどねキラさん、正直なところ貴方は何者なんですか?」

ぞわりと。空気が、一瞬にして変わった。

「え……」
シャンテちゃんは唐突に真剣な顔になっていた。
「あのユーノ司書長やエース・オブ・エース達と関わりがある次元転移者の貴方は一体?」
静かな『圧』を感じ、言葉が詰まる。体感温度も下がった気がする。
「…………」
これは……興味本意な質問じゃない。多分これは警戒心。
中途半端に答えたら、駄目だ。
「……昔、14年前に知り合って。友達なんだ。その時に僕は次元転移に巻き込まれて……」
ひくつく喉を抑え、なんとかたどたどしく言葉を紡ぐ。
そうか。彼女もこの教会のシスターさんなんだ。だから僕のプロフィールを知っている。僕はこの世界に来た時、医者に嘘は言ってないからそのプロフィールは真実のはずだ。
つまり、僕は戦争ばかりしてた世界で、質量兵器を使って戦った軍人であるという事。
そんな男が専用デバイスを使い、いきなりディードさんと模擬戦をしたのみならず、有名人と知り合いなんだ。疑うなという方が無理か。

394『鮮烈』に魅せられし者:2011/09/29(木) 23:00:20 ID:OIAI0twAO
「……」
「それで……なんていうか……」
彼女は見定めようとしてるんだ。この怪しい僕という男が、彼女の知り合い達にどんな影響を与える人物なのかを。
これはきっと、純粋に大切な誰かを案じての行動だ。
それなら僕は誠意を持ってこの娘に──
「……クスッ」
「……っ?」
──え?
「ふっふっふっ、どうやら陛下やユーノ司書長に聞いた通りの人物みたいですねぇ」
「え。え?」
なんだ、いきなり『圧』が消えた?なんでそんな「イタズラ成功」みたいな顔してるの?
それに聞いた通りって?
「あー、ゴメンなさい。からかっちゃいましたっ」
またまた唐突な展開に、軽く混乱する。
──まさか。
「あ、いや……別にいいケド」
まさかこの娘、全部わかった上でやってた?
舌をだして可愛らしく謝る彼女を見て、急激な脱力感に襲われる。
僕、この娘には一生敵わないかも……。
「キラさん」
「は、はい!?」
そうやって落ち込んでいたからか。後ろから声をかけられ若干裏返った返事をしてしまった。
ああ、シャンテちゃんが笑いを堪えるのに必死になってる……。
「……なんですか?ディードさん」
なんとか混乱状態から脱して後ろに振り向いてみれば、ちょっと真剣気味なディードさんがいた。
「すいません。朝食の後、少しのお時間いただけますか?」
これは──。
ちょっと、気分を入れ替えないといけないかな。
「……はい、大丈夫です」


「キーラーくーん!!」
「……!っなのはちゃん!!」
14時32分。
教会の門下で待機していると、とてもとても懐かしい声が、風にのって届いてきた。
反応し、顔を上げれば。
「キラー!」
「キラ君!」
「フェイトちゃん……はやてちゃんも!」
映像でしか知らなかった、大人になったあの娘達がいた。14年という歳月が、いよいよ現実味を帯びてくる。
共にヴィヴィオちゃんの手を引いて歩いてくるのは、なのはちゃんとフェイトちゃん。そこから少し遅れて八神家こと、はやてちゃんと守護騎士の皆。そして──
「──……んん?」
なんだ、アレ。
この感動的な再会に水を差すような、あの黒髪はなんだろう?
まぁいいや。あの不本意ながら見知った物体はスルーしよう。
「みんな……本当に大きくなったんだね。見違えたよ」
「にゃはは……そうかな?」
「ユーノから連絡があった時は、本当に驚いたんだ。また会えるなんて、思わなかったから……。久しぶりです、キラ」
「なんや、随分と見る目があるなぁ。14年前とはダンチやね。会えて嬉しいよキラ君」
オトナの女性特有の、優しい丸みをもった肉体だけじゃない。貫禄や落ち着きを手に入れた彼女達はビックリするほど美しく、大きな存在になって僕の前に現れた。
初めて会った時は9歳で9つ年下の女の子が、今は23歳で同い年。
やっぱりこそばゆい。こうなると、もうちゃん付けは出来ないかな?
「こんにちは、ヴィヴィオちゃん。来てくれて、嬉しいよ」
「こんにちはキラさん!ちゃんとお話、してみたかったんです。……これからよろしくお願いしますっ」
三人娘と会話を交わした後、腰を屈めて相変わらず綺麗な瞳をもった少女と対面する。
思い起こせば、この娘と出逢ったから僕は自分を見つめ直せたんだ。今僕達が集う事ができたのは、この娘のおかげなのか。
「おいおい、あたし達は無視か?いい根性になったなコノヤロー」
「そんな、無視なんか。知ってはいたけど、そっちは変わってないんだねヴィータ」
そして、守護騎士達。
「アンタも変わってねーじゃねぇかよ」
それを言われると弱いな。僕は5年前から大して変わってないから。
「守護騎士のみんなも……なんか雰囲気が丸くなったね?」
「ええ、主と共に生きていくと決めましたから」
シグナムさん……こんな優しい顔ができるようになったんだ。僕には戦いの記憶しかなかったから新鮮だ。
感嘆を抱きつつ、次に小さな二人に挨拶。
「……そっか。こっちの二人は初めましてだね。キラ・ヤマトです、よろしくね」
「はい、リインフォースⅡですっ!リインとお呼びくださいー」
「アギトだ。まぁよろしく」
「うん、よろしく。みんな、こんな所で立ち話もなんだから……移動しよう?」
一通り挨拶を終えて僕達は揃って移動する。
みんな、笑顔だった。

395『鮮烈』に魅せられし者:2011/09/29(木) 23:01:58 ID:OIAI0twAO


「そういうわけで、だから当分はこの教会でお世話になるよ。ここの手伝いをしながら、職を探して。ディードさんやオットーさんも鍛練の相手になってくれるって」
「そうなんだ。じゃあたまには家に遊びにきたらどうかな?近いし、わたし達はいつでも歓迎だから」
「キラなら、うん。時間が合えば魔法の勉強も見てあげられるし、ヴィヴィオも喜ぶと思う」
「職かー。キラ君、管理局に入る気ないー?」
ディードさんの提案内容を伝えれば、すぐに喜ばしい反応をよこしてくれる三人。ここまでしてくれると逆に恐縮しちゃうよ。
「ありがとう……。考えとくよ」
再会を喜びあい、お互いの近況を報告しあい、ディードさん達が用意してくれた紅茶を飲んでクッキーを食べて談笑するは16時の食堂。
長い時を経ても、久方の邂逅を暖かく彩るこの素敵な繋がりが、目頭を熱くさせた。そして、一つの欲求が胸に芽生える。
(……そうか。僕は──)
その想いを強く噛みしめていた、その時。遂に『ソレ』が動いた。
「……なぁ、いつまで無視するんだよ?」
「やめてよね。今感動的なシーンなのに、どうして君がいるのさ?」
「知らねーよ!気付いたらここにいたんだよ!!」
ホント、なんでこんな所にいるんだろう。あまりにも不可解だから今までスルーしてたのに……。
「……シン、ここで君の顔を見る事になるとは思わなかったよ」
「アンタって人は。人の顔を見るなりそれかよ。こっちは1時間30分もスルーされてたってのに」
木星第一開拓コロニー警護隊副隊長シン・アスカ21歳。黒髪紅目の相棒が、何故か目の前にいる。
どういうことなの?
「あー、キラ君。彼な、ウチの前で倒れてたんよ。それでC.E.出身て言ってたし、キラ君の事も知ってるみたいだったから連れて来たわけや」
「……そういう事だ。今はこの人の家で世話になってる」
「なるほど、ね……。後で情報交換をしよう」
予想外の再会だけど、これは僕の転移の謎を紐解く手掛かりになるかもしれない。なにより、シンがいれば百人力だ。邪険に扱った事も謝らないと。
「そうだ。ディードさん達が、もしよければ夕御飯も作ってくれるって……。どうかな?」
でもまずは、祝杯を。
僕は新たに胸に宿った想いを確かめながら。皆に提案した。

これからの未来に希望を予感して、僕らは鮮烈の日々を歩き始める。


──────続く

396名無しだった魔導師:2011/09/29(木) 23:06:21 ID:OIAI0twAO
今回はここまでです。ここから漸くコミックに繋がります。

なんか自分のせいで変な空気にしてしまい、すいません。
とりあえずここで、自分のキラの純格闘技はモブキャラ並みだという事を明言しときます

397名無しの魔導師:2011/09/30(金) 11:51:04 ID:aixABr.M0
GJ、なかなか面白いですよ。

398名無しの魔導師:2011/09/30(金) 20:52:42 ID:BeWOgX0YO
すごいあっさり出てきたなぁ、シン
八神さんトコでどんな暮らししていたか知らんが、ようやく…ってほどでもないが巡り会えた同郷者に放置プレイかますキラさんは鬼畜だと思う

399名無しだった魔導師:2011/10/05(水) 09:20:40 ID:6duBnKj2O
どうもです。
なんとか今日中に第四話を投下できそうです。なかなかに面白いと言ってくださって、ありがとうございます。
22時頃に投下します

400『鮮烈』に魅せられし者:2011/10/05(水) 22:02:12 ID:6duBnKj2O
「ヴィヴィオちゃんは、どうしてストライクアーツを?」
イクスちゃんのお見舞いを終え、ヴィヴィオちゃんを見送るその途中。緋い世界に染まる背中に僕は問いかけていた。
君は、どうして戦うのかと。
「わたしは、……強くなりたいんです」
振り向いてくれた少女の瞳には、曇りない一つの決意だけが宿っていて。
「まだ自分が何をしたいのか、何をできるのかはよくわからないですけど──」
その純心は遂に、
「──大好きで、大切で。わたしを幸せにしてくれた、守りたい人の為に。約束を果たす為に。わたしは強くなるんです。だから……」
僕の未来を動かした。


『第四話 決意を形に』


木星第一開拓コロニー警護隊隊長・C.E.の聖剣、雑用係になる。
C.E.だったらそんな見出しの新聞が作られるんだろうなぁ。
「セインさん。花壇の整備、終わりました」
「おー、お疲れー……わぁお良い感じじゃん。じゃあ休憩時間入っていいよん」
「はい」
少しおちゃめな感じの半袖シスター、セインさんの確認を貰い、僕の午前の仕事は完遂。うん、我ながら良い仕事をしたと思う。
今、僕は聖王教会のお手伝いをしながら日々を過ごしている。窓を磨いたり給仕をしたり、クッキーを作ったりと。
「そういえばセインさん。今日からヴィヴィオちゃんは四年生でしたっけ?」
「うんそうだよ。なのはさん曰く、今日は特別な日になるんだってさ」
そうした中でディードさん達の指導を受け、時折に高町家や八神家へ訪問したり、ユーノやクロノからシンと一緒に次元世界のイロハを教わったり。そんな日常はまた新たな出逢いをもたらして。
新鮮で刺激的で平穏で、とても満たされた気持ち。なんだか今、凄く幸せなんだと感じる。
「じゃあ僕も、何か贈らないとね……」
罪悪感を覚える程に。


「シン。僕はやっぱり、管理局に入ろうと思う」
昼の定期連絡、僕は開口一番にそう告げた。
『そうかよ。……一応、理由を言えよ。隊長の活動内容を纏めるのは副隊長の仕事だし、もしもの時にアンタを止めるのは俺の役目なんだからな』
「うん、頼りにしてるよ」
シンは至極どうでもよさそうな調子で返してくる。何も気負った所の無いその台詞には、とっくの昔に形骸化した役割を盾に「何か」を隠しているような響きを持っていた。

指導者たる僕が、反逆の可能性があるシン・アスカを牽制する。
断罪者たる彼が、暴走の危険性があるキラ・ヤマトを監視する。
木星圏開拓計画指導者と木星圏開拓船団断罪者。それが新地球統合政府から押し付けられた、僕らの歪な関係だった。
神憑った実力と、偶像的な影響力、看過不可能な危険性を孕んだ二人を封じつつ、まとめて地球圏外に追放する。木星圏開拓計画には、そんな裏の目的もあったりする。

401『鮮烈』に魅せられし者:2011/10/05(水) 22:03:24 ID:6duBnKj2O

そんな事を懐かしく思いながら、僕は決意を語る。
「……僕が頑張れば彼女達の平穏を守る事ができる。その為なら、なんだってしたいと思うんだ」
『……』
シンは黙って先を促してくれる。
「それが僕が力を持った意味だと思うし、罪滅ぼしなんだとも思う。そうするべきで、そうしたいんだ」
だから最後まで淀みなく。力を持つ者としての責務を交えつつ。僕は相棒に己の欲求を伝えた。
彼女達に争いをさせない。それは咎人たる自分が引き受けると。
『……いいんじゃねーか。仕事から逃げまくってたアンタが進んで仕事をしようってんだ。止める理由がない』
「……ありがとう」
シンはどこか安心したような、予想通りだといったような貌をしていた。
……そっか。最初の台詞といい、今の貌といい、シンはわかってたんだね。流石だなぁ。
『俺も丁度、管理局に入ろうかと思ってたところだ。俺は帰還したいからな』
うん、シンは妻帯者だもの。僕はあの世界に未練は無いけど、シンは絶対に帰還しないと。
「君と一緒なら大丈夫だよ。きっと……いや、絶対帰してみせるから。……ところでシン?」
『あん?』
決意を新たに掲げたところで、僕は続けてシンに質問する。
モニターを開いた時からずっと気になってたんだよね。
「今日はいつも以上にボコボコだけど……、どうしたの?」
いつもは掠り傷だけだけど、今日はなんか凄い。かなり面白い──もとい、かなり心配になる顔をしていた。守護騎士達の訓練が厳しくなってきたのかな?
『……いや。朝に洗面所に行ったらな?その……ヴィータの奴が、な?』
「あぁ、なるほど」
サーっと貌を青くして律儀に教えてくれるシン。わかりやすいなぁ。
どうやらラッキースケベは健在のようだ。
「鉄槌でフルボッコにされたんだ?」
「……花畑が見えたんだ。ステラやレイ、マユ達が手を振っててさぁ」
「大丈夫。君、ちゃんと生きてるって。……それに、満更じゃなかったでしょ?女の子の裸」
きっとシンはお風呂上がりのヴィータと遭遇してしまったに違いない。もしヴィータが本気なら頭が無くなってたんだろうなぁ……。
「──……キラさん、決闘だ。久し振りに、白黒つけよーじゃないか」
急に無表情になって挑戦状を叩きつけてくるシン。
あ、言い過ぎたかな。怒らせちゃったようだ。こういう場合は……。
「よし、やろう。だけど、この間のMSボクシングもMS百人一首も僕の圧勝だったじゃない?次は何をするの?」
「、MSバレエだ。今度は絶対負けねー」
こうやって平穏なやり方に誘導すればいい。シンは繊細な神経なのに考え方が単純だから。だから一緒にいて楽しいんだけど。
でも、なんでバレエなんだろう……?


「……あ、ディードさんっ」
部屋を出て数歩。外出許可を貰おうと探していたら思いの外、すぐに見つけられた。
「キラさん。どうしましたか?」
「えと、ちょっと八百屋に行きたいんですけど……。いいですか?それと厨房も使いたいんです」
僕の行動に許可を出すのは、基本的にディードさんということになっている。戦闘法や仕事の指導をお願いしているうちに、いつのまにかそういう関係になっていた。
ディードさんは少し思案顔になり、それから僕の事をジッと見詰めた。……なんだろう?何かあったのか?
「……いいでしょう、許可します。ですが」
あ、やっぱり厨房は駄目なのかな。でもそうだと外出する意味もなくなっちゃうんだけど──
「デパートに行くことを私は推奨します」
「──……え?」
デパート?なんでだろう。食材を買うにしても少し大仰なんじゃ?厨房は使って大丈夫みたいだけど、不可解だ。
するとディードさんは少し困ったように笑いながら、
「服です。いつまでもユーノ様の物を使っているわけにはいかないでしょう」
「あ」
僕がすっかり失念していた事を指摘してくれた。

402『鮮烈』に魅せられし者:2011/10/05(水) 22:05:18 ID:6duBnKj2O

「いつもすいません。こんなに世話になってしまって……」
「気にしないでください。私も日用品を買いたかったところでしたから」
元々一人で出発するつもりだったのだけど、ディードさんがついてきてくれるとのことだったので、素直に彼女のエスコートを受けることにした。結果、シンプルで良質なデニムとシャツを数着と食材を幾つか購入することが出来た。本当に、お世話になりっぱなしだな。
幸いにも、ストライクフリーダムのコックピットに収納していた財布もこの世界に転移していたので、それを管理局で換金して今は結構な額を所持している。
というわけで、
「おまたせいたしました。アウフラウフと、シュニッツェルになります。ご注文の品は以上でよろしいですか?」
「はい、大丈夫です。……さぁ、食べましょう」
「ええ。では、いただきます」
ここは男らしく、感謝を込めて。昼食は僕の奢りだ。
ミッドチルダ北部のベルカ自治領。緑と山々が誘う春の陽気の中、僕達は帰り際にちょっとお洒落なオープンカフェに腰を落ち着けている。なかなかに盛況のよう。
因みにアウフラウフはグラタンみたいな物で、シュニッツェルはカツレツに似ていた。
(そうか、こういう味付けもあるんだ……)
新たな味覚を得て、頭のメモに追記していく。今後の参考になるだろう。
「キラさん」
「ん?……、……んく。なんですか?」
大体半分程食べたところで、ディードさんが僕に訊ねてきた。
「貴方の今日の行動は、やはり陛下の為ですか?」
「……やっぱり、わかるんだ?」「はい。……何故です?」
上品に扱っていた食器を静かに置き、純粋な疑問をぶつけてくる。
まぁ、それはそうだろうな。
まだ出逢って間もない少女の進級祝いの為に、わざわざ手料理を作るなんて。何か特別な思い入れがないと有り得ないだろう。
勿論、特別な思い入れがあるから、こうして行動しているんだ。だからその想いはここで打ち明けるべきなんだろうな。
「お礼をしたいんです。……あの娘と関われば関わるほど、僕の未来が拓けていくような気がして……。だから、です」
「……なるほど。陛下も喜ぶでしょう」
柔らかな笑顔と共に応えてくれるディードさん。
よかった。ちゃんと言えて、理解も、共感も得られた。想いはカタチにすれば人々に伝播するという事が、この世界で学んだ一つだ。
それが、とても嬉しく思う。
だから僕はこれからも決意を形にしていこう。ただ胸に秘めているだけじゃ駄目なんだ。
「……冷めてしまいますね。ごめんなさい、今訊く事ではありませんでしたね」
「いえ。訊いてくれて、よかったです」
笑顔も見れたし、まったく問題ない。
昼食を再開して、僕はまた料理に思いを馳せていく。
こういう香辛料があるのなら、いづれアレにも少しアレンジも加えてみようかな……。
まぁそれは未来の話。今日はヴィヴィオちゃんの為にいつもの材料、いつもの調理法で祝いの形を。

母さんの、僕の得意料理。ロールキャベツで。


──────続く

403名無しだった魔導師:2011/10/05(水) 22:09:11 ID:6duBnKj2O
ここまでです。そろそろ戦闘シーンがやりたいですね。

アウフラウフとシュニッツェルは実在するドイツ料理です。

404名無しの魔導師:2011/10/07(金) 01:35:25 ID:czqUR0CIO
GJ
キラの一人称視点はなかなか珍しいかな?
次も待ってます

405名無しだった魔導師:2011/10/11(火) 01:07:22 ID:O/G6S76kO
(゚Д゜)…………、\(^o^)/オワタ!


すいません。第五話がスターライトブレイカーとローエングリンの直撃を喰らって消し飛んじまいやがったです。
ですので、投下はまた一週間後くらいになっちゃいます……

406名無しの魔導師:2011/10/11(火) 10:55:59 ID:pmWnQ0ms0
どんマイケル

407名無しの魔導師:2011/10/13(木) 23:53:58 ID:UcKBjcU60
どんガバチョ

408名無しだった魔導師:2011/10/20(木) 11:36:56 ID:WJxWTm.2O
よーやく第5話が復旧できたので、22時あたりに投下します

409『鮮烈』に魅せられし者:2011/10/20(木) 21:57:58 ID:WJxWTm.2O
まず、僕達が使っているC.E.式の魔法について説明しようと思う。
C.E.式の魔力運用方式は、物質強化型のベルカ式と純魔力放出型のミッドチルダ式の中間といったような存在で、その最大の特徴は、魔力資質や魔力適性をデバイスを媒介に自在にセッティングできるという点にある。
例えば空戦適性がない魔導師でもフリーダムを使えばそれなりに翔べるし、グフの『スレイヤーウィップ』を使おうとすれば誰でも労せずに電気を使う事が出来る。さらに設定武装次第では砲撃戦も格闘戦もこなせられる、いわば『マルチレンジ・ファイター』の可能性を孕む術式だ。
これはデバイスが自身の能力・設定をマイスターにリンクさせるという、ある種のユニゾンデバイスに類似した機能の賜物でもあるらしいけど。
勿論、欠点でもある。
ずばり、使用可能魔法のほとんどがモデルとなったMSの武装を模したモノでしかないという点。
だから基本的で単純な『銃で撃つ』『剣を振る』『盾で防御』『空を飛ぶ』という程度の魔法しかない上に、それも他の魔法で代用できる様なモノばかり。
当たり前だ。MSには誘導弾も幻惑機能も全領域盾も普及しなかったのだから。
これは他の術式に比べて、特殊で特別で奇抜な戦法を持てないということを意味する。
だから僕達に求められる技術は、「いかにして応用性と多様性に乏しい魔法を目標に当てられるか」という実に身体能力頼りのモノになるのは当然とも言えるだろうね……。


『第五話 根源、再び』


≪接近警報。後方に熱源六。距離45≫
「チッ……!ストライク、『エールブースター』全開!!」
エールパックを模した一対の蒼翼の輝きが増したのを確認して、地面を蹴る。身体が魔力に導かれ、まだ大陽もない早朝の大気を切り裂いた。
ミッドチルダ北部、廃棄都市区画。元臨海第八空港に面したこの場所で、僕はただひたすらに迫り来る青い弾丸を回避していた。
【弾丸回避訓練──シュートイベーション】
オートスフィアを用いた対追尾弾の訓練。今回のクリア条件は、鍛練用デバイスである『ストライク』での1時間完全回避だ。
(くそっ、やっぱり振り切れないか。だったら……!)
残り時間は約22分。時間経過に比例して質を増していく弾丸は先程より速く、鋭く、正確に複雑有機的な軌道を描いてこちらを覆い尽くさんと殺到してくる。
エールの速度じゃもう足りなくなってきた。青い魔力弾はもう背後5Mまでに迫ってきている。
「……ランチャー・モードを!」
だから僕は最高速度状態から全力で制動をかけ、一気に運動量を0に──空中で急停止、更に急速後退。ビデオの逆再生のように流れる景色の中、砲撃形態に切り替える。
慣性の法則に逆らった動きは身体に強烈な負荷をかけるけど、それは無視。この程度には慣れているし、邪魔。
その僕のマニューバに戸惑い、些か単純な直線軌道になってしまった弾丸の隙間は、直感に従って手足を使った重心移動と躰の捻りを組み合わせたモーションで慎重にやり過ごしてみる。
全てがスローに感じる錯覚の中で、身体表面ギリギリを通過していく六つの弾丸に冷や汗を感じながら確認すれば距離は14。左手の魔方陣から放出する『アグニ』と右手のライフルで目標を見失った弾丸の殲滅に成功した。
だけど、
≪警告。包囲されました≫
「くぅっ!?」
また新たにスフィアから射出された青い弾丸が全方位に。たぶん数は六十越えてるかな。これはいよいよヤバイかも……?

410『鮮烈』に魅せられし者:2011/10/20(木) 21:59:53 ID:WJxWTm.2O
「……ならっ、サーベルを!『エールブースター』の限界時間は!?」
≪16秒です≫
「17秒後にソード・モードへ!」
もう射撃だけじゃ迎撃しきれない。
再びエール・モードに換装し、最高速度で飛翔を開始しつつ左手に蒼いサーベルを顕現。大袈裟な180度ループからの180度ロール──インメルマン・ターンを用いて大量の弾丸を引き付けながら、最も弾幕が薄い箇所に頭から突っ込む!
「はぁっ!」
≪五つ迎撃成功。包囲突破≫
「まだだ!!」
すれ違いざまにサーベルで五つ、『イーゲルシュテルン』で二つ叩き落とし、更に振り向きながらライフルを連射。ついで九つ破壊。
勿論これで終りじゃない。包囲網から脱出し、直ぐ様ヴァーティカル・ローリング・シザーズ──垂直上方向へのバレルロールと左右不規則の急旋回を組み合わせたマニューバ──で天地をぐるぐる廻しながら翻弄、追いかけてきた弾丸を密集させた所に再度『アグニ』を始めとした射撃魔法をありったけ撃ち込んだ。
≪飛行限界時間に突入。ソード・モードに移行しました≫
その瞬間、ストライクから無情な宣告が響き、蒼の翼は霧散した。
(……また、チャージしないと)換わりに右手に握られる、身の丈程の蒼い太刀。三度目の、地に脚をつけての迎撃戦──時間稼ぎが始まる。
討ち漏らしは、十三個。
新たに出現した弾丸、九十一、九十二──あっ、動かないでよ。
訓練終了まで、残り19分24秒。

「──……ハァっ!っ、はぁ!……っ!!つ、疲れた……」
≪状況終了。スフィアの機能停止を確認中≫
朝日が昇り、廃墟を明るく照らし始めた頃、僕は廃ビル屋上で大の字に転がっていた。これは、精神的にキツい。なんとか転がるように這い回ってクリアしたけど、二度とやりたくないなぁ……。
──……もし『ストライクフリーダム』だったら、どうなってたのだろう?下位互換ではなくて真の能力を発揮していたら?
「いや、やっぱり……体捌き次第だよね」
きっと、性能に頼っていても墜とされていただろう。一番重要で、求められているのは『センス』なんだから。
頭を切り替え、僕は先の訓練を反芻する。
一時間に渡る回避訓練は、久々の実践的空戦軌道や射撃精度、そして誘導弾の厄介さを再確認できた、とても有意義なものだったと思う。
特に生身の躰が可能にさせる体捌きを実感できたのが大きい。嵩張る装甲と限定的な関節を持ったMSでは到底避け切れなかっただろう攻撃を容易く回避出来た時は、状況も忘れて感動してしまったぐらいだ。みんなが教えてくれた事が実を結んだと。
「ああ、みんなと言えば……、今日はヴィヴィオちゃん達が午後に来るんだっけ」
自然と頬が緩む。
そうだ、ヴィヴィオちゃんとノーヴェさんがイクスちゃんのお見舞いに……。何かおもてなしの準備をしないとね。そういえばロールキャベツ、喜んでくれたのかな?
そうやって思考しながら真っ赤な朝日を眺めていた時、
≪マスター。クロノ様からメールが届きました≫
「クロノが?なんで……」
フリーダムが電子音でメールの着信を報せてくれた。
提督であるクロノからのメール。それはきっと、重要な事項か──。
ごめんね、ヴィヴィオちゃん。今日はたぶんお迎えできないかも。

411『鮮烈』に魅せられし者:2011/10/20(木) 22:01:41 ID:WJxWTm.2O


「コズミック・イラが見つかったの?クロノ」
呼び出された場所に到着し、開口一番にそう言ってみる。
思い当たる事はコレしかないからね。
「ああ、やっと、見つかったんだ。こういう事は直接告げた方がいいと思ったからな」
僕の発言を予測していたかのように淀みなく返してくれるクロノ。その顔は真剣そのもので。
ここにシンが呼び出されていない事に関係しているのか……?
「朝早くに、すまないと思う」
「いや……──」
僕が訪れたクロノの部屋は綺麗に片付いていて清潔な感じがするのに、重苦しい空気で満たされていた。
何か嫌な予感がする。それはクロノから未だに迷っているような雰囲気を感じるからだろう。
「──……なにか、問題があるんだね?ここにシンを呼ばない方がいいと君が判断するぐらいに」
「……ああ。俺はまだ、アイツにどう告げたらいいかわからないんだ。悪いとわかってはいるんだが……」
わかるよ、その気持ち。シンは良い意味でも悪い意味でも、何処までも純粋で、まっすぐだから。それを気遣ってるんでしょ?
「いいよ、言ってくれ。……全てを」
苦渋な顔で頷くクロノ。それは正しく僕の予感を体現していた。
ああ、もしかして。僕やシンがいなくなった事でまた戦争が始まってたとか?それともクーデター?僕達がいなくなってまだ二週間しかたってないけど、どうだろう。
咄嗟に思いつく限りの悪い状況を並べてみる。聴く覚悟があると思ったから──。でもやっぱり、なにか他人事の様に感じる。これは未練がないからとか、そんな程度の話じゃない。きっと、肥大した僕のエゴなんだ。
だけど真実は、クロノの言葉は、

「わかった……。単刀直入に言う。コズミック・イラという世界は今、詳細不明の魔力の殻に包まれている」

「……え?」
違った。
全くもって考えの及ばなかった処から彼の言葉が僕の胸に突き刺さる。
俄然、頭が真っ白になった。次元世界そのものが、包まれてるだって?
「どういう、こと……」
「貴方達の世界を発見できたのは、つい昨日のことだ。だが、その例の殻に覆われていて、内部の干渉どころか、観測もできなかったらしい」
「……」
魔法の世界の管理局でも、干渉できない魔力。そんなものが?
それに、今の言葉。引っ掛かる言い方だった。
「詳細不明?未知や未確認じゃなくて?」
そう、これだ。詳細不明じゃあまるで……。
「そうだ。管理局が今まで確認したなかで、同じような事例は一件。ユーノが探してくれた古代の文献も含めば三件あったんだ」
重々と。だけどどこかに焦りを感じているかように説明を続けるクロノ。それは、今に語る事が重大な案件であるということを如実に顕していた。
「過去形だね。……どうなったの」
対する僕は淡々と。ただクロノに説明を求める。それは頭が麻痺しているからだろうか?それともやっぱり他人事のように感じてるから?
そんな矮小な自問自答は、小さくかぶりを振ったクロノの宣言に、
「……、……その全てが『世界が魔力に変換され消失し、一つの生物が産まれる』……となっている」
今度こそ木っ端微塵に打ち砕かれた。
「──」
言葉がでない。現実がエゴを凌駕したと知る。
クロノが言ってる事は即ち、コズミック・イラは一種の卵になっている、ということか。そして霧散する運命だと
なんなの、それ。そんなの、認められない。
混乱し、足元が覚束ない。咄嗟に机に手をついて転倒から免れる。
しかし、追い撃ちの如く発せられたクロノの冷たい言葉で、

「ユーノが調べてくれたデータによれば……その生物は『エヴィデンス』。古代ベルカでは『羽付き鯨』と呼ばれていたそうだ」

遂に僕は、足場が消え失せたような感覚を覚えた。
うん、確かに、シンには聞かせない方がいいね──


──────続く

412名無しだった魔導師:2011/10/20(木) 22:38:42 ID:WJxWTm.2O
ここまでです。少し学校の方が忙しくなるので、次の投下は遅くやるやもしれません

413名無しの魔導師:2011/10/22(土) 00:00:17 ID:QBlWLSSU0
文章力はあると思うけど量がなあ、とりあえずGJ

414名無しの魔導師:2011/10/22(土) 00:08:30 ID:U/TB8.UE0
おつー

415名無しだった魔導師:2011/10/22(土) 00:45:35 ID:fwdoPcFcO
>>413
一応、自分は毎回8000バイトを目安にしてますが、平均はどれぐらいなんでしょうか?

416名無しの魔導師:2011/10/22(土) 01:40:09 ID:GCK4ijDs0
過去で一番多かったのは100kbだっけ?読み応えあって最高だったけど
まあこれは多すぎか?平均としちゃあ、だいたい20〜60kbくらいかなー

自分は多ければ多いほどいいけど、作者の自由でいいと思うよ
量をとるか速さをとるかはね

417名無しだった魔導師:2011/10/22(土) 02:04:22 ID:fwdoPcFcO
キ、キロバイト……
道は険しいなぁ……。精進します

418名無しだった魔導師:2011/11/07(月) 00:05:38 ID:ZGtxVGd2O
よーやく暇を作れたので、来週あたりから投下を再開します。m(__)m

419名無しの魔導師:2011/11/08(火) 19:58:26 ID:17kJOqNY0
>>418
おk、祖父を全裸にして待機している。

420名無しの魔導師:2011/11/15(火) 01:02:16 ID:BOe8JSG20
8000バイトなら大体8kなんじゃないの???

421名無しだった魔導師:2011/11/16(水) 23:48:07 ID:Se1zHoI6O
>>419
そ、祖父!?

こんばんわ。かなり微妙な時間ですけど、明日の22時あたりに6話を投下します。
よろしくお願いします

422『鮮烈』に魅せられし者:2011/11/17(木) 22:00:42 ID:YdqQgZ3oO
「起きたか?」
「……うん。ごめん、取り乱して」
「いや、仕方無いさ……。あんな結果を見て動じない人なんているものか」
時計を見れば、もう13時。つまり僕は約5時間も眠っていたのか。
「まったく、相変わらず無茶をする人だな、貴方は。あんな精神状態で、更に戦闘機動実験をするなんてな」
まだ頭が疼く。心の臓に穴が空いたかのような感覚が拭えない。それほどまでに、先の計測で得た結果は僕の存在そのものを揺さぶるには充分過ぎるもので。
「どうしても、知りたい事ができたから……。結局、僕の推測は大当たりだったし、ね」
最悪だ。
計測の結果は最悪だった。世界と人の業を改めて、まざまざと見せ付けられて。こんな事なら、知らなければよかったよ……。
「……キラ」
未だボヤける視界の中、なんとも表現しがたい貌でクロノは僕の肩を掴む。それだけで彼が言いたいことは伝わってきた。……本当に心配かけてばかりだな。
「ありがとう、でも大丈夫だよクロノ。……僕は大丈夫だから」
だから、これ以上心配させるわけにはいかない。


『第六話 Emotion make a motion』


「……ごちそうさまでした」
クロノと別れ、遅い昼食をとっている15時の僕は今、大手チェーン店のレストランにいる。
一度睡眠をとったおかげで朝と比べれば随分と体調が善くなったけれど、やっぱり気分は沈んだままだ。折角の機会なのに結局サラダしか食べられなかった。もったいないなぁ。
まぁ、我ながら無茶をしたと思う。重大で衝撃的な情報を聞いた後で、閃いた推測を確認せんと模擬魔法戦闘を行い、その結果に計測された最悪の事実を得るということをすれば、精神不安定になるのは当然の帰決だよね。
しかもあの時は全く無茶をしているという自覚もなかったのだから、かなり危険な状態だったのだろう。無理矢理に睡眠を促してくれたクロノには感謝しないといけない。
「さて、そろそろ帰らないと」
水を飲みほして席を離れる。
ここから聖王教会までは歩いて3時間程度だから、流石にもうヴィヴィオちゃん達には会えないけど。早く帰る事に越したことはないだろう。
「ありがとうございましたー」という元気な店員の声を背にふらふらと足取りも重く歩き、レストランを出るために今時珍しい木製のドアを開くと、
「さっ!?寒?」
突然凄まじい冷気が全身に襲ってきた。
膝まで漂う水煙と、大量の小豆を落としたかのような雨音。大粒の水滴が低く暗い空から降っていた。
「雨、かぁ」
そうだ、たしか今日は14時から17時まで雨って予報だったっけ。降水確率30%だったはずだけど。
呆然と激しく地面を叩く雨を眺めながら、僕は苦笑する。全然気づかなかった。大きい水溜まりが所々にできていることから察するに、随分前から降っていたのだろうに。常人より聴力が優れている僕が気づかなかったって事はつまり、それほどまでに沈んでいたって事か。我ながら情けないというかなんていうか。
(……これは、傘がいるかな)
オーブのスコールほどではないし、幸い風も穏やかだから傘をさしても大丈夫。まぁ生憎と傘なんて持ち歩いていないのだけど。

423『鮮烈』に魅せられし者:2011/11/17(木) 22:02:20 ID:YdqQgZ3oO
「フリーダム、傘を出して」
≪了解≫
こんな時は魔法技術の出番だ。
モビルスーツには必ず、そのコックピットにサバイバルキットや非常食、ドランクケースを収納できるスペースが完備されているもので、モビルスーツを模しているこのデバイス・フリーダムにも当然、収納機能は搭載している。
この機能のおかげで、どんな所どんな時もデバイスさえあれば持ち物に困らないんだ。まったく、便利なものだよ。

人気の少ない大通りを独り黙々と歩き続ければ、音は水だけになって。そうなると嫌が応にもある一つの事を考えてしまう。それは今朝に得た情報について。僕たちの躰から顕れた、今まで想像もしなかった新たな事実についてだ。
そう、『魔法生命体・エヴィデンス』。
ユーノが探してくれたらしい古代ベルカの書物では『次元の海を旅する者』とも、『羽付き鯨』とも呼ばれていたソレは、あらゆるモノを魔力に変換し己の糧とする能力を持っていて、次元の海を泳ぎ、己の子の苗床となる世界を探し、その果てに死んでいく。そして死に至った世界を魔力の殻で覆い、子供を創っていく生物。
そしてソレは、あの『ファーストコーディネイター』たるジョージ・グレンが木星で発見したモノ──クジラ石と同じ存在なんだ。
今の僕には確信がある。
何故なら、

僕が【SEED】を顕現させた時に発せられる魔力と、現在C.E.を覆っている魔力は、同じなのだから。

幾度となく僕の窮地を救った【SEED】は、『エヴィデンス』の遺伝子情報体だった。それが意味する事は、一つしかない。
信じられなかった。『エヴィデンス』の細胞か何かを子供に打ち込んだ大人も、そんなモノを躰に宿した自分たちの存在も、これら狂気に満ちた者達を孕んだ世界が結局、ただの物言わぬ魔力になってしまう事も、全て、何もかも。
でも今朝の計測から明らかになったこの事実はやっぱり事実で。
「僕達の世界は、なんだったんだろう……」
C.E.の全ては『エヴィデンス』の存在故でしかなかった。
あの男が持ち帰った『クジラ石』によって世界が加速し、戦争が始まって、大人の傲慢が世に放った【SEEDを持つ者】が闘い、そして最後は『エヴィデンス』によって無に還る。
なんだったんだ、あの闘いは。なんなんだ、この結末は。全てが、無断だったのか。
圧倒的な無力感が身を苛む。傘を持つ手が震える。膝が石になったように重い。視界がぶれて白濁する。心が凍る。
(あぁ、マズいなぁ)
あの時と同じだ。ラウ・ル・クルーゼによって僕の出生と人の業が明かされた時と同じ、呼吸をするだけで全身が堪らなく軋みをあげるこの感覚。せっかくクロノの好意である程度は気力を回復できたってのに、また僕は倒れそうになっている。
だけど、

(なんでこんな時でも、僕は“助けたい”と思っちゃうんだろう)

自身の存在の危機なのに。その光景はさほど危険だとは思えないのに。どうしても目に焼き付いて離れない。
妙な感覚だった。希薄化していく景色の中でただ一つ、鮮やかな色彩でもって存在する者がいる。
それは少女だった。
その少女を中心に景色が再び色と形を取り戻していく。
真っ白なワンピースドレスを着た、碧銀の髪を持つその見知らぬ娘は、本屋の軒下で雨宿りをしているようで。そして少女の直前には大きな水溜まり。そこに高速で突っ込んでいくバイク。
どうという事はない日常の不幸。でも僕は助けたい。僕が立っている内は、手の届く全てを守りたい。だからまだ倒れるわけにはいかない。
気がついた時には、走っていた。

424『鮮烈』に魅せられし者:2011/11/17(木) 22:04:18 ID:YdqQgZ3oO
(距離は136M。予測限界時間まであと12秒。この身体なら届く!)
冗談のように躰が軽い。閉じられていた全神経の覚醒を自覚。傘を放り投げて、宙を滑るように、冷たい大気の中を疾駆を開始する。軍で鍛えたスーパーコーディネイターとしての肉体と魔法を使っての全力だ。肌にあたる雨の事も無視できるほどに加速する。
春といってもまだ肌寒いのに、冷たい水なんて被ったらきっと風邪をひいてしまうから。それは防がないと。
不思議だ。何故あの少女だけが僕の精神に触れたのか、何故忌まわしいこの躰を全力で使ってまで助けたいと思ったのか。本当に不思議だ。
でも、嫌じゃない。
(あと14M、2秒!)
此方に気づいたのか、少女は瞳を見開いてその身をギクリと硬直させたが、構わない。
全ては僕の独り善がりな意志の為なのだから。
「──危、ない……!」
バシャァッと、遂にバイクが水溜まりに突っ込むのと同時に漸く僕は身体を少女の前に踊り出す事に成功した。よって、
「つっ!冷たぁ……!!」
バイクが跳ね上げた雨水を頭から被ってしまったわけだけど、取り敢えず無視。まずは女の子の無事を確かめないと。
「……えと、大丈夫かな?」
「え、あ……。は、はい」
ぱちくりとまばたきをする少女に努めて笑顔で問う。どうやらちゃんと守れたようだけど……、うん、よく考えたら僕の行動って凄く怪しいよね。いきなり遠くから走ってきて少女の身を庇う、見知らぬ男性。しかもびしょ濡れで微笑むだなんて怪しさ全開だよね。
(ど、どうしよう)
遮二無二に行動をしたから上手い言い訳も考えられるわけもなく、沈黙が空間を包みこんだ。
(──あ、この娘?)
そろそろ居心地が悪くなってきたなぁと思っていた時に、僕はとある事に気づいた。
(あぁ、なるほど。この娘、どこかヴィヴィオちゃんに似ているんだ)
碧銀の髪に赤いリボンと、宝石のような瑠璃と紫晶のオッドアイを持つこの少女とは、容姿も造型も雰囲気もなにもかもヴィヴィオちゃんとは違うけれど、言葉では現せない『何か』がヴィヴィオちゃんに通ずるモノがあると感じる。
きっと僕は『ソレ』に引き寄せられたんだ。あの娘の存在は今や僕の心の大半を占めているのだし、納得のいく話だ。
「フリーダム、傘をもう一つ」
≪了解しました≫
理解した瞬間に居心地の悪さは消え、硬くなっていた心がほどけていくのを感じた。あとは僕が思った通りのことをすればいい。
「あの、……あなたは?」
少しだけ身構えて問う少女に、僕は新たに出したビニール傘を遠慮がちに差し出す。
「君が、知り合いに似ていたから──、それじゃ駄目かな?……ついでだからコレもあげる。じゃあ、ね……」
ここは勢いで押しきってしまおう。口下手な僕では説明なんてできないからね。
それに、この広いミッドチルダ。きっともう会うこともないだろうし。
「あ、ありがとう、ございます……、……?」
得体の知れない此方の真意を測りかね、少女はじっと顔を見つめてきたけど応えずに離ようとする。が、

そこが限界だった。

「……あ?」
急に膝の感覚が消え、いつのまにか景色が90度傾いていた。いや、僕が倒れたのか。なんで?
(傘、取りに戻らないと)
濡れたタイルの上で茫然と横たわる。身体が動かない。
そんな状況下でも僕は呑気に、困惑しきりな少女ではなく、136M離れた場所に放置していた傘を意識していた。もうびしょ濡れだから傘なんて意味はないんだけどねぇ。でも、まさかそのまま棄てるわけにはいかないし……。
あ、突然目の前で倒れられて、この娘ビックリしてるだろうな。悪い事したなぁ──


そこで、僕の意識は暗転した。


──────続く

425名無しだった魔導師:2011/11/17(木) 22:10:30 ID:YdqQgZ3oO
以上です。どうやっても8000バイト程度に落ち着いてしまう……orz 精進しますぅ。

この話でオリ設定の4/5を説明できたので、以降からはそれなりにコメディでバトルな展開になっていくと思います。
さて、非常に身勝手ですが。次回の投下はRGフリーダム製作の為に遅れてしまうと思います……

426名無しの魔導師:2011/11/17(木) 22:55:17 ID:lLWO/u/U0
乙―。
設定はもう少し小出しにしてゆっくり展開してもいいと思うよ。それと改行後はスペース入れると読みやすくなるかも

427名無しの魔導師:2011/11/19(土) 09:22:15 ID:Oe3k.7PsO
一応だが人のアドバイスは参考程度で絶対じゃないんだぜ
改行後のスペース、三点リーダー、「ありがとう。」とか文章作法は自分が書きやすい読みやすいを基準にした方がいい

理○郷に影響受けたレスが増えすぎだ

428名無しの魔導師:2011/11/19(土) 12:50:56 ID:B2hQWfbsO
まあ、ガンクロWiki見ればわかるが、前は文章作法なんて気にしてないSSばっかりだったしね
理想郷とかなろうみたいに文章作法細かく言うよりは好きに書いてる方がいいんじゃない?
指摘書くよりは感想書いた方が盛り上がるのは確かなんだし

429名無しの魔導師:2011/11/19(土) 12:52:53 ID:24YNr.uIO
女の子が何者なのか気になるところ、次回も楽しみにしています。

それと文の基本的な技術を学びたいのなら「ライトノベル作法研究所」というところに行ってみるといいですよ。

430名無しの魔導師:2011/11/19(土) 15:12:37 ID:Oe3k.7PsO
文の基本的技術てなにさ

431名無しの魔導師:2011/11/19(土) 16:35:21 ID:24YNr.uIO
参考になればいいかなーって思って。

不快に思ったのならスミマセン

432名無しの魔導師:2011/11/19(土) 16:46:00 ID:Oe3k.7PsO
すまない
俺も噛みついたつもりはなかったんだ
純粋に文章の基本的技術ってなんだろと思っただけなんだ

気を悪くしたらすまんかった

433名無しだった魔導師:2011/11/20(日) 01:40:49 ID:YYAXcEz6O
なんか知らぬ間にたくさんレスがあってありがとうございます。

私はまだこういった文章を書いて半年、未だ自分の型の把握もできていない未熟者ですので指摘・アドバイス・批判・感想は絶賛募集中、思った事を正直にレスしてくれると大助かりです。
えと、これからもよろしくお願いいたします。m(__)m

434名無しの魔導師:2011/11/23(水) 02:42:12 ID:KQ5Y.xr60
ブンが横に長すぎて、非常に見難い
------------------------------------------------------------------------
大体これくらいの長さが個人的には丁度良い

435名無しの魔導師:2011/11/25(金) 02:56:12 ID:ECWdBn.w0
age

436名無しの魔導師:2011/11/26(土) 00:13:15 ID:dJBMvlrY0
>>435
スレの数少ないんだから態々ageんなks

437名無しの魔導師:2011/11/26(土) 18:57:28 ID:NVyoYUekO
>>436
ここは初めてか?
力ぬけよ

投下スレが一番上にあるのは慣例みたいなもんだ

438 ◆Dkqal/13NA:2011/11/27(日) 21:00:29 ID:FZrqIlzc0
ちょっと思うところがありまして、21:30から小ネタを投下します。

439 ◆Dkqal/13NA:2011/11/27(日) 21:30:21 ID:FZrqIlzc0
「アスランンン・ザラアアア!」
「シン・アスカアアア!」

 漆黒の宇宙、無音の空間に絶叫が木霊する。共通回線から漏れる雄叫びは、聞く者に怖気を喚起させ、
憎しみが決して絶える事の無い感情であると無意識に悟らせてくれる。
 ユニウスセブン落下を機に再燃したナチュラルとコーディネーターの確執は、地球圏に戦火を広げ数
多の命を散らす結果となった。
 ザフト、連合、ロゴス、オーブ。
 国家と個人の思惑が複雑怪奇に巡り合い、重なり合い、刻が経つにつれ、コップから水が零れるよう
に、一つ、一つと零れ落ち、やがて、第”三次”ヤキンドゥーエ戦へと雪崩込んで行く。
 漆黒の宇宙に荷電粒子の光彩が煌めき、その度に兵士の命が無慈悲に散っていく。怒号と悲しみが蔓
延する宇宙で、一つの戦いの決着がつこうとしていた。
 時に西暦"3125年"
 世界は深い悲しみに満ちていた。

機動戦士ガンダムSEED DESTINY
最終話「君は僕に似ているね」―前篇

「こんな馬鹿な真似はもう止めるんだ、シン!」
「ふざけるな!」

 ザフト最新鋭機MSデスティニーのコクピットの中で、シン・アスカは荒い息を吐いた。
“彼”の眼前に聳え立つのは、深紅の巨人、インフィニット・ジャスティス。
旧大戦時に製造された云わば旧世代のMSのはずが、ラクス・クラインを支持するターミナル技術者達に
よってカスタムされた機体は、新型機の性能と何ら遜色も無く、むしろ、格闘性能に特化している分、万
能機体である、デスティニーには近接戦闘では分が悪いと言える。
だが、ここで引く事は出来ない。
第三次ヤキンドゥーエ攻防戦は既に終盤に差し掛かっていると言って良い。オーブ軍を初めとする、反デ
ュランダル派の連合軍とザフト軍の彼我戦力差は三十二対一。
ザフト圧倒的とも言える戦力差だが、シン達ザフト軍は、劣勢に強いられる原因があった。

『引き続き訴えます。私の名前はラクス・クライン。ザフト全軍に告げます。この戦いに意味はないので
す。即時に戦闘を停止して下さい。繰り返します。即座に戦闘を停止して下さい』

 その一つが、共通チャンネルから流れる、ラクス・クラインの叫びだった。
戦場には、場違いとも言える澄んだ声色にシンは顔を歪め、行き場のない怒りが心臓を煮えたぎらせた。
 憂いと慈愛を込めた祈りにも似た叫びが耳朶を打つ度に、鬱屈した感情が心底から湧き上がるのを止め
られない。
 ラクスを勝手な奴と斬って捨てるのは容易い。
だが、ラクス・クラインは、きっと、世界中の誰よりも争いを嫌い、現状を嘆いている。
 人の命が無碍に散っていき、悲しみが留まる事を知らない世界に絶望し祈りを捧げている。
 それが、分かるからこそ、余計に腹立たしく、声を聞くだけで憎しみと違う、薄暗い感覚がシンの脳を
揺らし、操縦桿を握る手が負の感情に震えるのだ。

(戦いに意味は無い。俺もそう思うよ。でも、相手が撃って来るんだ。だから、俺は戦ってるんだ)

 シーゲル・クラインの忘れ形見、プラントの歌姫"ラクス・クライン"を諸手を上げて攻撃出来る人間は
少ない。
 ミーア・キャンベルの件と重なり、プラント市民の困惑は最高潮に達している。
 そんな中で本物のラクスが現れ「剣を収めろ」と祈り続けている中で、困惑し攻撃の手を止めてしまう
複雑な心境を、シンは理解こそしなかったが否定もしなかった。
 一部白服の反逆も報告されているが、シンにしてみて場、それは些細な問題だった。。
 戦闘停止を訴えるラクス・クラインの演説よりも現実問題として、もっと厄介な問題が目の前に立ち塞
がっているのだ。

440 ◆Dkqal/13NA:2011/11/27(日) 21:31:04 ID:FZrqIlzc0
「アスラン…ザラ」

 シンは、底冷えのする声で元上司の名前を呼ぶ。
 一時は一緒の釜の飯を食い、共通の敵と戦って来た。
 だが、今は互いの信念をぶつけ合い、剣を交え会う、まごう事の無い敵同士だ。
 アスランと剣を交える度に、シンの胸を苦々しい思いが甦り、胸に鈍い痛みが走る。
 正直に言えば、シン・アスカは、アスラン・ザラを尊敬していた。
モビルスーツの操縦には自信があった。インパルスのパイロットを実力で掴み取った実績も赤服の自負も
あった。
 伝説の戦士と肩を並べる高揚もあった。圧倒的なMS操縦技術に悔しさを覚える時もあった。追いつき、
追い越したい。
 アスラン・ザラに自分の存在を認めさせたい。
 憧憬にも似た稚拙な感情を持て余し、最悪の形で反故にされてしまった反動は大きく、怒りを抱く以外
の溜飲を下げる方法をシンは知らなかった。

「アンタさえ倒せば。ザフトは勝てるんだ!」

 シンの見解は、物量が物を言う戦場で珍奇な発言に聞こえるが、事実としてザフト軍は、二機のMSが放
つ驚異的な火力で最終防衛戦まで喰い込まれている。
逆に言えば敵の戦力は二機のモビルスーツ、キラ・ヤマトが乗るストライク・フリーダムとアスラン・ザ
ラが乗るインフィニット・ジャスティスだけと言っても構わない。
 彼ら二機を倒してしまえば、劣勢に追い込まれた戦局を立て直す事も可能だ。
 シンはアスランを、レイはキラを、倒すべき敵と見立て、一体一の決闘を挑んだ。
 レイが負けるとは思えないが、きっと、苦戦しているはずだ。アスランを倒し、レイの救援にすぐにで
も向かいたいが、相手はあのアスランである。
 やはり、一筋縄ではいかず、時間だけがただ流れて行く現状にシンは歯噛みする。

「クソっ!」
 
 毒づくシンを翻弄するかのように、ジャスティスの斬撃がデスティニーの胸部装甲を掠める。極太の荷
電粒子束がデスティニーの積層装甲を融解させ、黒ずんだナノマシンの死骸が宇宙に舞い散り、コクピッ
ト内を不快なイオン臭で充満させる。

「掠っただけで積層装甲を七層も削られた。サーベルの出力は向こうの方が上か!」

 インフィニット・ジャスティスから、繰り出される斬撃は苛烈で俊敏だ。手、足、肩、機体のありとあ
らゆる場所から、荷電粒子束が出現し、デスティニーの装甲を削っていく。
 その度にコクピット内に被弾を告げる警報が鳴り響き、シンの体に対Gスーツの限界を超えた極限の加
速が襲いかかる。
 高速機動と超近接格闘戦を交互に繰り返す度に、脳の血流が阻害され視界が黒く染まる。
 色調を失った世界の中でも、眼前でサーベルを繰り出す赤色を違わず、視野狭窄の中でも、聳え立つ機
体の姿を決して見失わなかった。
 そこにあるのは、恨みや辛みと言った薄暗い負の感情だけでは無かった。
 アスラン・ザラに対する地獄の業火にも等しい苛烈な怒りだけだ。
 
「何で裏切った!」
「俺はプラントを、ザフトを裏切っていない!俺は今でもザフトの兵士だ!」
「違う!そうじゃない!」
「じゃあ、なんだと言うんだ、シン!」

 高速機動戦闘による駆動系の過負荷による物か、はたまた、単純に目の錯覚なのだ。
 アスランの戸惑いを表現するように、インフィニット・ジャスティスのツインアイが寂しそうに明滅し、
悲しむように関節部位が軋みを上げる。

「プラントもザフトも関係無い!なんで、アンタは俺達…部下を、いや、仲間を裏切ったんだ!信じてた
のに!」
「シンっ!」
 
 思わず漏れだした本音にアスランの動きが一瞬鈍る。
 シンは、自分の放った言葉の意味に気が付かず、ただ、怒りのままに剣を振るい、デスティニーをイン
フィニット・ジャスティスに向け突撃させる。

441 ◆Dkqal/13NA:2011/11/27(日) 21:31:50 ID:FZrqIlzc0
(この反応速度!ナノデバイスの限界を超えているにも関わらず追随するのか!)

 瞬きの合間に、デスティニーがインフィニット・ジャスティスに肉薄し、弩級対艦刀アロンダイトのレ
ーザー刃を大上段に振りかぶるデスティニーの姿が網膜に焼きつく。
 反射的にフットペダルを踏み込み、機体を後方へ急速移動させる。
振り下ろされたアロンダイトの刃先が胸装甲、コクピットの表面を焼き切ると、装甲表面に滞留する自由
活性因子が瞬く間に死滅し、VPS装甲の相転移現象を妨害し機能停止に追い込まれている。
 通常ならば核動力によって供給される無限とも言える電力によって、機体ナノマシンが活性化し装甲の
復元が瞬時に始まるはずが、レーザー刃の高熱とアロンダイト本体の振動破壊により、分子結合が根元か
ら断たれているのだ。
 これでは幾ら電力を与えようにも、機体のナノマシンが活性化しない。
 ナノマシンによる積層装甲が搭載されていない量産機には、アロンダイトの特性は全く無用の長物だっ
たが、積層装甲搭載機には、文字通り切り札たる特性を秘めている。
 MSデスティニーの表の名を万能機体と呼ぶなら、裏の名は、まさに切り札殺し(エースキラー)と言っ
ても良い。

(やはり、強い…俺が居た頃よりも、ずっと強くなっている)
 
 デスティニーの切り札殺したる特性にも肝が冷えるが、それ以上にアスランの背筋を凍らせたのは、シ
ンの操縦技術だ。
 対エース機専用兵装を遺憾無く発揮するシンの戦闘センスは、一瞬でも気を抜けば、全身の装甲を切り
裂かれる始末だ。
 ターミナルの情報によれば、デスティニーもナノマシン搭載型の積層装甲を有している。
 ビーム攻撃は受けても相手の装甲は再生し、こちらは一度攻撃を受ければ装甲を無力化される。
 今でこそ、手数の多さでデスティニーを翻弄しているが、こちらの集中力が切れれば、アスランは瞬く
間に膾斬りにされてしまうだろう
 加えてシン達新世代と称されるコーディネーターは、皆、物性や特性は違えど、体内にナノデバイス
(ND)をインプラントされている。
 機体性能に加え、ナノデバイスをインプラントされたコーディネーターの力は、アスラン達旧世代の比
べ遥かに強い。
 体内にインプラントされた、NDの内の一つ、極小石英結晶体(Quartz Polycrystalline)は、人間の脳波
を機体制御中枢にダイレクトに伝える半導体だ。
 外部からの刺激により、人体が反応するまでの限界時間は0.2秒と言われている。肉体を強化されたコ
ーディネーターも、脳波信号と神経伝達の檻からは未だ逃れる術を知らず"第一次"ヤキンドゥーエ戦にお
いて、ハードウェア性能の向上とOS等のソフトウェアの実戦データ蓄積により、モビルスーツ戦闘におけ
るナチュラルに対するコーディネーターの既に優位性は崩れていた。
 国力で劣るプラントがナチュラルに勝つためには、技術力は勿論のこと、必要なのは有事の際の圧倒的
な戦闘能力である。より高性能化するモビルスーツと来るべき対ナチュラル戦闘に適応する為に用いられ
た手段は、外科手術によるインプラントだった。
 極小石英結晶体を肉体に付加する事により、神経を痛めずに人類の限界を超える事が出来る施術方式は、
連合の強化人間と手法は違っただけで、同じアプローチだったのは何の皮肉だろうか。

「アスラン!」

 シンは、飛散したデブリの破片を蹴り同時にバーニア出力を上げ一気に加速する。
 装備の特性上、手数で負けるならば、最速最大の一撃を相手に叩きこむ以外方法は無い。そして、それ
を可能にする術がデスティニーには備わっている。
 シンは、フットペダルを踏み込み、デスティニーが更に速度を上げた。
デスティニーのエンジン出力の特性は、従来のモビルスーツには無い、特殊性、いや、最早特異性と言っ
ても過言では無い性能を秘めている。
 通常MSのエンジン出力の直線性は、入力に対して出力が比例する。しかし、デスティニーのエンジン出
力は対数特性を備えている。つまり、一定入力に対してエンジン出力が"一定"増加”するのでは無く、一
瞬で最高出力まで増加し飽和し続けるのだ。
 つまり、それは、最高速度を維持したまま、高速機動戦闘し続ける事が出来る事に他ならない。

442 ◆Dkqal/13NA:2011/11/27(日) 21:32:25 ID:FZrqIlzc0
「終わりだ!」
 
 シンの雄叫びに呼応するように、背部推進機関中央に増設された受光素子が虹色の光彩を放ち、漆黒の
宇宙に散らばる光を吸収して行く。
 デスティニーの翼は、太陽光に限らず、ビーム兵器の荷電粒子束、戦艦の噴出光やガイドビーコンなど、
紫外線、赤外線、波長を問わず、ありとあらゆる光を貪欲に吸収し驚異的な電流を発生させ、戦艦にも匹
敵する莫大な電力を生み出した。
 デスティニーが身に秘めた核の"火"が咆哮を上げ、血のように赤い二対の翼部ユニットから虹色の巨大
な余剰エネルギーが立ち昇り、デスティニーの姿が文字通り残像を残して"消失"した。

「これは!」

 アスランの瞳が驚愕に歪む。
 アスランの眼前に無数のデスティニーが出現し、一様にアロンダイトを大上段に振り下そうとしている
のだ。
 速い、遅いの次元の問題では無い。
 目の前から瞬時に消失し、瞬きの合間に切り札殺しを振り被り、無数の姿を晒している。
 理性はその中の一体が本物だと理解していても、視界とセンサーが目の前のデスティニー達全てを本物
と告げている。

「ぐぅ!」

 コクピットが全壊しかねない衝撃に揺れ、視界の隅にデスティニーが遠ざかって行く中で、インフィニ
ット・ジャスティスの右腕が紫電を散らし、関節部から粉々に吹き飛ばされているのが分かった。
 恐らく剣で斬ったのでは無い。対艦刀であるアロンダイトで、でインフィニット・ジャスティスの腕を
叩き折ったのだ。

(無茶苦茶な奴だ)

 だが、機体性能を最大限に活かした最善の手でもある。
 手数に勝るインフィニット・ジャスティスにデスティニーで勝つならば、反撃すら許さない、手数に勝
る一撃を最大速力でぶつけるしかない。
 だが、この戦法は口で言う程容易く無い。
 最大速力で相手に斬りかかるという事は、攻撃機動はおのずと狭まってしまい、引き技、つまり、カウンターに酷く弱い側面を持つ。
 相手の反撃を恐れず、攻撃を敢行し成功させる。
 操縦技術以前に尋常では無い度胸が必要となる。
 どちらにしてもまともな神経では無い。

「アンタの実力はそんなもんじゃ無いはずだろ、隊長。何を考えてるのか知らないけど。全力で来いよ」

 顎の拘束具を引き千切り、機体内に溜まった熱を"強制的"に放熱し赤黒くツインアイを明滅させるデス
ティニーの姿は、まさに、悪魔と形容するに相応しい。
 そして、悪魔の主たるシンは、赤い瞳を煌々と滾らせ、アスランに向け、憤怒の感情を沸き上がらせて
いる。

「シン…聞くんだ。怒りで戦うな。そんな動機のままで戦ったら、いつか必ず後悔する。後悔してからじ
ゃ遅いんだ」
「いつまで、そんな世迷言を…言ってるんだ!」
「シン!やめるんだ!」

 シンの怒声が耳朶を打つと、アスランの前からデスティニーの姿が消失し、無数の分身が出現する。
 デスティニー最大駆動状態における、超高速移動の摩擦熱と新陳代謝増加によって、古いナノマシンは
即座に死滅し、大気中にまき散らされ、デスティニーと同型の影を形成させる。
 それがデスティニーが起こす残像現象の正体だ。
 ナノマシンの死骸は、センサーを御認識させる質量を持った残像となり、パイロット、コンピューター
の双方の目をくらませる。
 質量を持った残像には、目視も搭載されたセンサーも役には立たない。
 しかし、それだけならば、本物を捉える事は、アスランにとってさして難しい事では無い。
 いかに質量を持とうが、所詮、残像は残像。目を凝らせば、本体の挙動とおのずと差異は現れる。
 後は、その差異を捉えるだけで勝負は決まるはずだった。

443 ◆Dkqal/13NA:2011/11/27(日) 21:33:06 ID:FZrqIlzc0
「はああああ!」
「シンンン!」
 
 だが、そんな簡単な方法でシンを倒す事など出来るはずも無いと心の中で嘆息する。
 残像はデスティニーの高速機動の副産物に過ぎず、それがデスティニーの真価では無い。
 視界で捉えることすら困難な戦闘機動の前に残像との差異を見つけろと言っても無理な話だ。
 ただ、速い。
 故に強い。
 
 そして、そんな小回りの利かない機体を野生的な勘と天才的な操縦センスで制御し、インフィニットジ
ャスティの肉薄するシン・アスカこそ、アスランが今まで出会った中で最強の戦士であると断言出来た。
 アロンダイトとジャスティスのビームサーベルが拮抗し、互い鍔迫り合いの態勢に縺れ込む。

「こんな戦いが何になると言う。聞け、シン。確かに議長の言葉は心地よく聞こえる。だが、上っ面の耳
障りの良い言葉だけを聞いて何になる。遺伝子が全てを決める世界なんて馬鹿げてる!」

 眼前で互いのサーベルから伸びた荷電粒子束が干渉し合い、目も潰れんばかりの閃光を放つ。

「議長の計画に世界中の人々が賛成してるんだ。何が問題あるんだよ!」
「賛成しているわけじゃない。皆、静観しているだけにしか過ぎないんだ、シン。サイレント、ノイエマ
ジョリティの問題では無いんだ。世界に議長の言葉は届いていない。それが何故分からない」
「戦いが無くなれば、皆、良かったって思うはずだ!」
「その頃には世界は死んでいる。死んでいる事すら理解出来ない世界になってしまうんだぞ、シン!世界
を纏める実質的なリーダーが言い出した政策なんだ。最早、冗談でしたと槍を治める事は出来ないんだぞ!」
「アンタの理屈なんか聞いて無いんだよ!」

 デスティニーの蹴りをジャスティスは腹部に受け、機体がよろめく。
 だが、ここで距離を取っては、デスティニーに嬲り殺しにされるだけだ。
 スロットルを全開に開け、不退転の覚悟で臨む。
 左手一本でデスティニーの重撃を受けとめる。装甲と関節が軋み機体に異音が鳴り響く。
 左足に格納されたビームブレイドを展開し、苦し紛れに蹴りを放ち距離を取る。
 このままでは、押し切られるとの判断からだったが、アスランの思惑を見透かしたように、シンはデス
ティニーをジャスティスに向け疾駆させ距離を詰める。
 付かず離れず無残に破壊されたMSの破片を縫うように、二機の巨人が疾駆し、その度に虹色の光彩が
宇宙に爆ぜた。

「俺の言葉は、お前には届かないのか、シン」
「あんたに、俺の言葉が届いた事が一度だってあるのかよ…隊長」

 シンの言葉が弾丸のようにアスランの胸に突き刺さる。
 思い返せばシンの言うとおり、シンの言葉が自分に届いていただろうか。いや、確かに届いていたと信
じたい。
 だが、現実はシンにアスランの言葉は届かず、互いに剣を交え命を賭けて戦っている。
 我が事ながら、自分の不器用さに恨みすら抱いてしまう。
 きっと、今のシンには、上っ面をなぞっただけの言葉に意味は無い。
 己の魂と信念を賭けた"言葉"でしか、シンには届かない。
 そして、戦場において全てを賭けた言葉が届くと言う事は、どちらかの命が消えてしまう事に他なら無い。

444 ◆Dkqal/13NA:2011/11/27(日) 21:33:42 ID:FZrqIlzc0
「決着を付けよう…シン」

 共通回線から流れるアスランの声は、今まで聞いた事の無いような静かな声だった。
 まるで、全ての感情をこそぎ落したような心の籠らぬ平坦な声色。
 だが、平坦であるが故に、たった一つの信念が如実に浮かびあがり、ここに来て初めてシンの耳朶を打
った。
 シンは、突然動きを止めたジャスティスを油断無く見つめ、アスランの言葉を一言一句危機逃すまいと
必死に耳を傾けた。
 しかし、アスランは、それ以上話す事は無く、無言でシールドビームサーベルを構えたままだ。
 これ以上、言葉は必要無い。
 そう諭されているようで苦々しい思いが胸を襲うが、これまでに無くスムーズにアスランの言葉はシン
の心底に静かに着陸した。
 心臓が熱い。
 心が怒りで震える。
 耳が遠い。
 目が赤い機体を捉えて離さない。
 理性と本能がせめぎ合い、たった、一つの心の吐露を求め、全身を感情の濁流が駆け巡る。
 
「これが最後だ…隊長」

 最後の言葉は、酷くあっさり口から零れた。
 言ってしまって心が嘘のように落ち着いた。
 あれだけささくれだった心も台風が過ぎ去った後のように澄み渡り、今は何の感情も湧かない。
 怒りも悲しみも嘘のように霧散し、シンは初めて生身のアスランと言葉を交わし、自分の言葉が届いた
のだと自覚した。
 とどのつまり、シン・アスカにとってアスラン・ザラは憧憬の存在でも無く、仲間であっても友人では無い。
近くて最も遠い存在、同じ目的を共にした"信頼"すべき上司であったと言う事なのだろう。
 それが、シンの偽る事の出来ない心からの本音だったのだろう。

「分かっている。後悔の無い、一撃を期待している」

 恐らく次が互いにとって最後の一撃になる。
 泣いても笑ってもこれ終わり。勝者は次を掴み、敗者は今ここで全てが終わる。
 運命も確執も憧憬も、悲しみも怒りも絶望も、これまでの戦いと後悔の全てはこの一撃の為にあったと信じ、
シンはデスティニーをインフィニット・ジャスティス向けてアロンダイトを構えた。

「「雄雄雄雄雄!」」

 宇宙を震わせる咆哮が木霊し、眩いばかりの閃光が溢れた。

445 ◆Dkqal/13NA:2011/11/27(日) 21:35:38 ID:FZrqIlzc0
今回はここまです。
僕が考えた機動戦士ガンダムSEED DESTINY最終回です。
長くなったのでまずは前篇を投下します。

続きがあるなら、多分ここからなのは世界に転移したりする展開があるんじゃないかと思ってます。

446名無しの魔導師:2011/11/28(月) 00:40:53 ID:TKO7ncugO
独特な設定も言葉の進めかたも凄くイイっ!やっぱりアスランを理解して、活躍させてる人のSSは一味違いますな。
とってもGJです。続き待ってます。

447名無しの魔導師:2011/11/28(月) 21:40:05 ID:ye5F1I.6O
この無茶苦茶な感じは懐かしいと言えばいいのかねえ

448名無しだった魔導師:2011/12/08(木) 21:10:47 ID:5I8mB9wgO
大変遅れてしまって申し訳ありませぬ……
まだまだ相変わらずのクオリティーですが、23時頃に第7話を投下します

449名無しの魔導師:2011/12/08(木) 21:42:54 ID:0XoLciok0
OK、ソニックフォームで待機している。

450『鮮烈』に魅せられし者:2011/12/08(木) 23:03:18 ID:5I8mB9wgO
「──セァッ!」
出来うる限り縮めた躰を、これまた出来うる限りの力で伸ばし、バネの如く前方に跳躍。迫る斬撃二連をギリギリで回避すると同時に『敵』の懐に飛び込む。
右手に握った大剣で身を庇いながら、左手のナイフを瞬時に五回。人体の急所を狙った刺突を繰り出した。
「チィッ……」
本気の、確実に殺る為の軌跡。
しかしそのカウンターはことごとく、超至近距離にも関わらず長剣で弾き反されてしまった。
有り得ない。どれだけ化物めいた動きをするんだ、この人!?
「甘いな」
「このぉ!!」
だけど、この展開は予測通りでもある。あの程度の攻撃を防げないのでは、戦っている意味がない!
『敵』が上段に剣を構える。どっしりと腰を据え、一閃で斬り伏せる為の構え。
防御をしようにもこの距離はマズイ。大剣には近過ぎ、ナイフには遠過ぎる。一旦距離を取って仕切り直すしかない。
『敵』が剣を振り下ろす前に、後方にステップしながら右手の大剣を右から左に薙ぐ。が、
「甘いと言っているっ」
──呆気なく、柔らかく此方の大剣を受け流された。つまり先の構えは、ブラフ。
そう悟ったと同時に、『敵』は刹那の加速で此方の懐に詰めて、
「……ぐぅっ!?」
俺の脳天に重い衝撃が走った。


『第七話 紅の瞳が観る世界』


「なんやシン、どうしたん?風邪でもひいた?」
「昨日から、どうもお前らしくないな。シン・アスカ」
「……えっ?」
日課であるシグナムさんとの模擬戦を終えて、昼飯の時間。今日の八神家の献立はビーフカレーとシーザーサラダ。
食卓には俺、シン・アスカと家主はやてさん、シグナムさん、そしてリインが座っている。ヴィータとシャマルさん、アギト、ザフィーラは仕事でここにはいない。
まぁそれはおいといて。
あれ、なんでいきなり俺が風邪をひいているという話の流れになっているんだろ?俺はいつも通り健康なんだけど。
「だって普段はガツガツと御飯を食べてくれるのに、なんだかスローペースやし……」
眉根を寄せる家主に言われてカレーを頬張りながら辺りを見てみれば、もう全員が食べ終えていた。
おかしい。いつもはヴィータとトップ争いをしている俺が、一番遅いリインまでにも負けていただと?全然気づかなかったぞ。
「それに動きが鈍い。今日では珍しく直撃を打たせてくれたし、な」
ついでシグナムさんが続き、
「ランニング中に木にぶつかったりもしてましたし……。ミウラちゃん驚いてました」
「むぅ……」
リインが付け足した。
あぁそうだ。普段なら掠り傷程度で済んでいるのに、今日ばかりは俺の身体の所々には湿布が貼られているんだ。シグナムさんにボコられたのは久しぶりだ。
つまるところ、俺は絶賛不調なのである。
ナルホド。八神家の皆が心配そうに俺を視るわけだ。
「いや、俺は健康だって。心配するな。ただ──」
「──気になる事項があって集中できない、か?」
「……あー。まぁ、な」
先にシグナムさんに言われた。なんだ、俺ってそんな分かりやすいのかよ?
まぁ確かに気になる事があるけどさ。今日の不調もそのせいだってことも自覚してるさコンチクショー。
「……やっぱり心配?キラ君の事」
「……いや──」
そう。昨日、キラ・ヤマトが倒れた。雨の中、光彩異色な女の子の目前で。そこに偶然通りかかり、キラさんを教会まで運んだのは他ならなぬ俺だ。気がかりなのはソレで間違いない。
だが俺が気になっているのは断じて、キラさんの健康などではない。
「──、まぁそうなんだろうな。今日は区民センターに行った帰りに、ちょっと教会に顔だしてみるさ」
「そうですかぁ。きっとキラちゃんも喜ぶと思いますっ」
「……ああ」
ないが、取り敢えず様子見だけはしてやるかね。同郷者として。
……俺にとっての問題は、あのキラ・ヤマトがストレスで倒れたという事そのものだ。

451『鮮烈』に魅せられし者:2011/12/08(木) 23:06:59 ID:5I8mB9wgO


アイツはいつも何もかも悟ったような面をしていて、天然で、まどろっこしくて、自己中な顔を持っているようなヤツだ。
それでいて、あの悲惨極まる二度の戦争を最後まで闘い、『人の業』に間近で接してきた人でもある。
そういう人間は動じない。
もうどんな事があろうと、思い悩むことがあっても心の芯は揺るがないのだ。キラ・ヤマトとはそういった類の人間だ。
事実、俺は木星でなんどもアイツの異常なまでのマイペースさを経験している。まぁ逆にいえば、それだけ心が麻痺してるってことだけどさ。
(だけど、倒れた)
医師の診断によると、原因は重度のストレスらしい。
有り得ない、と思った。この平和な世界のどこにそんなストレスになるようなモノがあるのか、とも。
だがその時、一緒にいたセイン達から聞いた話で確信した。
昨日の朝、キラさんはクロノ提督に呼び出されたらしい。これはある意味異常だ。個人的親交があるとはいえ、『提督が民間人を呼び出した』のだから。これには特別な理由があると考えられる。
アイツとクロノ提督を結ぶ特別な理由、俺が呼ばれなかった理由、それはつまり、つまり──


「……なんだこりゃ」
16時43分。
ミッドチルダ中央区民センター・スポーツコート。普段俺が自己鍛練の為に通っている、男共の汗でむさ苦しい場所……なのだが。
今日は結構な『華』が咲き誇っていた。
「おーい、シーンっ!!」
「ノーヴェ!なんの集まりだよ、これ?」
その『華』の一人、赤髪短髪のノーヴェ・ナカジマが俺に気づいたようだ。此方に一人でやって来る。
てか、本当になんの集まりなんだろう。
ナカジマファミリー(長女と父除く)に教会の双子、ティアナ執務官、それと……昨日来た写真の小学生二人か。
この周囲だけ他人がいないってことは、この一面は貸切状態ってことだろうな。
「いやな、ちょいと『ワケアリ』でな。いまから親睦を兼ねたスパーをやるのさ」
スパーを?それにしてはコートが広すぎないか?
「……ふぅん。誰と誰が?」
「今着替えてるところだよ……っと、ちょうど来たようだな。ホレ」
ノーヴェが指を指す。
この面子で、ここにいないのが不自然な存在の事を考えれば、多分一人はヴィヴィオだな。じゃあもう一人は誰だ?
そう考えながら振り向いたそこには──
「……ヴィヴィオと、──あの娘は……」

Tシャツにスパッツ姿のヴィヴィオと、碧銀の長髪に青・紫の光彩異色をもった少女がいた。

(キラさんが目前で倒れられて、オロオロしてた娘じゃないか)
なんでこんな所に?
「おいノーヴェ。あの娘なんだよ?」
「ああ、昨日知り合ったアインハルト・ストラトスだ。強いぞ」
「いや……、まぁいいか」
てか知り合った直後にスパーって。
普通、女ってのは共通の趣味を見つけてキャーキャー姦しく話すもんじゃないのか?……あぁ、共通の趣味が格闘技なのか。こりゃダメだ。
「?……じゃあアイツらが準備体操中にやることやっとくかー……まずは自己紹介だな。リオ、コロナ!」
ニヤリと笑ったノーヴェが二人の名を呼んだ。あの女の子達か。
「ほれ、お前からだ」
二人が俺の前に集い、ノーヴェに肘でつつかれる。苦手なんだけどなぁこうゆーの。
「えーと、初めてまして。八神家に世話になってる、シン・アスカ……21歳だ。よろしく」
よし、噛まなかったぞ。
「リオ・ウェズリーです!シンさんの事は、ヴィヴィオからよく伺っています。よろしくお願いします!」
まず、紫の髪に黄色のリボンが印象的な元気っ娘、リオが。
「コロナ・ティミルです。ヴィヴィオと私たちはクラスメイトなんです。よろしくお願いします」
次に、亜麻色の髪をツインテールにした大人しそうな娘、コロナが名乗った。
「ん、よろしくな」
また女の子の知り合いが増えたな。何処からともなく「狙いは完璧よ!」という声が聞こえてきそうだ。

452『鮮烈』に魅せられし者:2011/12/08(木) 23:09:40 ID:5I8mB9wgO
さて、そろそろ準備体操も終わるか。視線をリオとコロナから外して、コート中央のヴィヴィオ達の方を注視する。
注目すべきは、あのアインハルトという少女だろう。ストライクアーツ有段者が、知り合っていきなり弟子とスパーをさせるのだから『何か』があるに違いない。
今日は帰るつもりだったけど、これは観る価値がありそうだな。
っと、どうやら俺の視線に気づいたようだ。碧銀少女は一瞬驚いた顔をして、何故かこっちにやって来た。
「……こんにちは」
「あ、……はい、こんにちは。……あの、昨日のあの人は?」
俺から先に挨拶された事で出鼻を挫かれながらも、アインハルトは俺に問うてきた。
十中八九、キラさんの事だろうな。
「ああ……、アイツはまだ寝てるよ。だけど心配しなくても、すぐに起きるから大丈夫だ」
「そうですか……。貴方も彼方の方達と知り合いなんですか?」
少し安堵したような瞳。まぁそれはそうだろう。目前で人に倒れられて気にしない奴はいない。
「つい最近に、な。俺はシン・アスカ、よろしくなアインハルト」
「はい。よろしくお願いします、シンさん」
努めて明るく接したのが功を成したのか、警戒させることなくアインハルトはコート中央に戻っていった。
(なるほど、『ワケアリ』か)
悔恨と期待、悲嘆と疑念。それらが彼の少女の瞳にあった。全て、ヴィヴィオと己に向けられた感情。
(このスパーリングで、何かが動く)
偶然居合わせただけだけど、これは何があっても見届けないといけないな。
「んじゃ、スパーリング4分、1ラウンド。射砲撃とバインドはナシの格闘オンリーな」
ノーヴェがヴィヴィオとアインハルトの間に立ち、ジャッジを勤める。
そういえばヴィヴィオの練習は見たことあるけど、戦闘は初めてだ。
さて、どうなるか。
「レディ──ゴー!」
ダンッ!
(速攻!?)
開始と同時に、一息でアインハルトの懐に飛び込むヴィヴィオ。そして勢いのまま、

ゴウンッ!

アインハルトにアッパーカットを撃ち込んだ。
「──な、」
なんつーアグレッシブな!
まったくもって容姿にそぐわない猛攻。ヴィヴィオはさらに前進して拳を振るう。アインハルトは防御一手だ。
「ヴィ……ヴィヴィオって変身前でもけっこう強い?」
「練習頑張ってるからねぇー」
スバルとティアナが暢気に評する。いや、結構ってレベルじゃないって。
素晴らしい伸びとキレで連撃を放つヴィヴィオ。10歳で、あの格闘技量、センス。そういやキラさん言ってたな。
「ここにいると本当に、ナチュラルやコーディネイターといった区切りが馬鹿馬鹿しくなるよ。シン」
ホント、その通りだな。
(……ん?)
アインハルトの動きが、微妙に変わった。受け止める防御から、払う防御に。
これはヴィヴィオの攻撃が浅くなっているのか?いや違う!
ヴィヴィオが深く強く踏み込んでハイキックを繰り出す。が、アインハルトは軽く仰け反っただけで回避した。
(アインハルトがヴィヴィオの間合いを見切ったんだ)
たかだか数号撃ち合っただけで分析したというのか。ということは……アインハルトは完全に格上の存在なんだ。
表情から察するに、ヴィヴィオは相手が格上とわかっていてなお心からスパーを楽しんでいる。だが。
(それはマズい──)
ヴィヴィオが躰を引き絞って右腕を溜めながら突進する。対するアインハルトは静かに佇み、受けの構えを。そして、
「──退け、ヴィヴィオっ!」
ヴィヴィオ渾身のアッパーカットは、残像を遺す勢いで躰を沈めたアインハルトの頭上を、虚しく空振り、

ズドンッ!!!

アインハルトの左掌底が、ヴィヴィオの胸部に直撃した──




『だからこそ、貴方が救ってくれたわたしが、貴方を守り、』
『貴方と共に歩んだ私が、貴方を解放し、』
『君が否定した私が、君の行く末を見届けようか』

やっぱり、君たちは其所にいるの?僕は、そっちにいけないのかな?

『そう。でも貴方は貴方のまま彼処にいてもいいのです』
『君もそろそろ、瞳を開けたらどうかね?』
『こんな所でぐずぐずしてる時じゃないわ、貴方は』

恐いんだ、外が。だけど──

『ほら、あの娘が待っていますわ。私達に、人間の未來を魅せてください』

──解ったよ。僕は、もう皆を哀しませないって、決めたから。


──────続く

453名無しだった魔導師:2011/12/08(木) 23:13:37 ID:5I8mB9wgO
以上です。
勉強すると言っておきながら、ほとんど文が変わっていないってどういう事なんですか……
なんとかしたいですね

454名無しの魔導師:2011/12/09(金) 11:02:28 ID:PuZWNlRI0
やはり文章量が少なく感じますね、内容はいい感じなんですが……
もうちょっと物語を先に進めてもいいんじゃないでしょうか? 30分ある番組の最初の十分しか見せてもらっていない感じです。

455名無しの魔導師:2011/12/12(月) 20:19:26 ID:.51Kn7go0
文章の質はいい感じです。
特にスパーリングなどの動きのある部分の描写は見習いたいぐらいです。
ただ>>454の方がおっしゃているようにいつものように小説を書く感覚ではなく、30分の番組を作るつもりで物語の流れを構成してみてはどうでしょうか?

456名無しの魔導師:2011/12/12(月) 21:37:23 ID:mXNgSF4kO
どこが面白かったかを書いてやれよ
なんだこの上から目線は

457名無しの魔導師:2011/12/13(火) 09:40:54 ID:XaPxbDz.C
私は量は今のままでも大丈夫かと。
きっちりとした文体を持っていて読みやすいですし、特にキラの内面描写が読んでいてなるほどなぁと思うことが多いです。
また、あまり好感の持てない書きかたをされるキラをきっちり迷う一人の人として書いてあるあたりが面白いなと思っています。

458名無しの魔導師:2011/12/20(火) 19:04:23 ID:3JhssHW6O
いろいろ感想意見ありがとうございます!
恐らく明日あたりに、今までの倍のボリュームで投下できるかと思います。
やれば出来るもんなんですね……!

ついでにクリスマスな短編も創ってみようかなと思ってます。できるかどうかは、わかりませんが

459名無しの魔導師:2011/12/20(火) 19:08:09 ID:WX02eUFE0
把握。楽しみにしてます

460名無しだった魔導師:2011/12/21(水) 21:35:00 ID:5CYs27sAO
こんばんわ
第八話を23時頃に投下します。
よろしくお願いします

461『鮮烈』に魅せられし者:2011/12/21(水) 23:00:43 ID:5CYs27sAO
『ほら、あの娘が待っていますわ。私達に、人間の未來を魅せてください』


「──やぁ、ヴィヴィオちゃん」
それは、重荷を総て取り払ったかのような解放感。羽根のように軽い瞼はかつてない程の、爽快な目覚め。
瞳を開ければ、そこには見慣れた白い天井。
そして、下半身に感じるかすかな重み。
「……ん、……すぅ……」
「……ごめんね、心配かけて。でも、もう大丈夫だから」
僕の太腿を枕にするようにして、ヴィヴィオちゃんが静かに寝息をたてていた。
ここは教会に貸してもらっている、僕の部屋らしい。らしいというのは僕──キラ・ヤマト──に此処に戻ったという記憶がないからだ。
だけど、そんな事はどうでもいいかな。
ベッドから上半身を起こして、柔らかい金髪の少女の頭を撫でる。
「……ん〜〜、……」
『生』に満ちたこの娘の傍にいるだけで、自然と心が落ち着いていく。存在が澄み切っていく。
何故かは解らないけど、それはきっと良い事だ。
(そっか、この娘がいたから『彼女達』は僕を目覚させたんだ)
なんか、女の子に助けてもらってばっかりだ。僕は。
だけど、だからこそ、僕は僕の『標』を見据える事が出来る。
「……さてと、どうするかな……」
やるべき事、やりたい事を成そう。


『第八話 響け、黎明の唄』


時計の短針と、窓から射す太陽光が、今はお昼頃であると告げている。
「これは……いったい……?」
ゆるりと流れる時間の中、僕はとある不可思議なモノと見つめ合っていた。
青リボンの付いたウサギのぬいぐるみが、空に浮いてる。赤くて円らな瞳でジッ、と僕を見てくる。
(なんだろう、やっぱり疲れてるのかな僕)
うん、見なかった事にしよう。幻覚だきっと。
意識してウサギを視界から除外し、次にヴィヴィオちゃんに注目する。
(ヴィヴィオちゃんが私服でここにいる……今日は休日なのかな?)
となると今は土曜か日曜か。僕は三日程眠っていたのか……。まったく、悲劇のヒーローなんて柄じゃないだろう僕は。
「あ……そういえば、あの娘はちゃんと帰れたのかな……?」
そして、ふと脳裏に過るは、不覚にも僕が倒れてしまう前に関わった少女。どこかヴィヴィオちゃんに通ずる処がある、あの碧銀の娘。
やはり、あの少女を筆頭に、沢山の人に心配をかけてしまったんだろうか。
やっぱり無事を伝えたほうがいいよね。モニター越しじゃなくて、直接会ってさ。
……まずはディードさん達に会って情報収集。それからシン達にも、なのは達にも会わないと。
よし、そうと決まれば行動だ。
ベッドから抜け出して、換わりにヴィヴィオちゃんをお姫様だっこ。手早くベッドに寝かせる。うん、我ながら完璧な手際。
それにしてもヴィヴィオちゃんがお昼寝するなんて珍しい。春の陽射しは絶好調だから仕方ないかもしれないけど。
まぁ、今日は存分に寝かせてあげよう。気持ち良さそうだし。
「ありがとう、傍にいてくれて」
もう一度髪を撫でてから、手早くいつかと同じ患者服から私服に着替え、靴を履き、最後にデバイス・フリーダムをポケットに入れた。
そしてそのまま部屋を出ようとして、
(……あぁ、そうだ。アレも持っていこう)
思い直し、反転。机に向かう。
パソコンと時計と照明灯以外は何も置いてない、質素なその机の引き出し奥深くに目的のモノはある。
ソレは、一年前に焔となった筈の髪飾り。
二つの三日月を重ねたような黄金のソレは今や、僕にとっての『悲しみ』の象徴。
だけどもう逃げない。彼女の意思を今こそ、僕は背負おう。
「……僕達が、未來を魅せてあげるよ。……ラクス」

462『鮮烈』に魅せられし者:2011/12/21(水) 23:04:12 ID:5CYs27sAO

ラクスの髪飾りを手に取り、胸に強く抱え込む。
僕は今まで無理矢理に彼女のことを考えないようにしてたけど、そろそろ向かい合わなきゃならない。
それは覚悟の為の儀式だと思うし、そうしなければ彼女にも顔向けができないだろう。
僕はもう、己の力でやり通すと決めたんだ。何故なら、

──ラクス・クラインは、逝ってしまったのだから。

一年と半年前。
あの日から、ラクスが木星圏に視察に来た日から、宇宙で僕と婚約を交わした日から、僕らが不思議な白昼夢を見た日から、彼女は衰弱し始めた。
その謎の衰弱現象は一向に原因の解明はできず、どんな高度な処置も徒労となって。
ラクスは日に日に痩せ細り、蒼白になっていく。そんな彼女を僕はただ介護し、見守るだけで。そんな焦燥と不安が募るだけの日々は、僅か半年で終わった。
責任者も、悪者も、仇もいない。あるのは疑念と悲痛。僕には後悔も憤怒も無かった。
死期を悟った彼女とは、やれる事はなんでもやったし、あらゆる事を語り合ったからだ。
だからこそ彼女の死は、僕の心に寂寥と悲哀だけを遺した。一年間、彼女の事を考えないようにするぐらいには。


コン、コン。
「……?」
髪飾りを抱きしめて、どれ程そうしていただろうか。
木製の扉から響いた控え目なノックが、僕の意識を現実に引き戻した。
誰だろ?いや、この感じは……
『ヴィヴィオー?いるー?』
ああ、なのはか。
大方、帰りが遅いヴィヴィオちゃんを探しにきたという感じかな。あれ、ヴィヴィオちゃんっていつから寝てるんだろう。
「なのは、開いてるよ──」
『っぅわぁ!?え、き、キラくんっ!?』
──だから入ってきたら……って、扉越しに発せられたのは素っ頓狂な声。なんでこんなに驚かれてるの?
「……あ」
そっか、僕って三日ぐらい寝てたんだっけ。それでいきなり声を掛けられたら、そりゃビックリするよね。
「あー、ごめん。……入って大丈夫だよ、なのは」
『あ、えと……お、おじゃまします……』

栗色の髪をツインテールからサイドポニーにシフトチェンジして、すっかり少女から母親になっていた高町なのはが、ベッドに腰掛けてヴィヴィオちゃんの髪を撫でる。
その慈愛の眼差しと仕草に少し見とれてしまった。
「えと、もう起きてて大丈夫なの、キラくん?」
「爽快な寝覚めだったからね。大丈夫だよ、僕は」
「や、そうじゃなくて…………あはは、やっぱり変わってないねぇ」
「?」
なんだろう。なのはは困った顔で、しかし何かを懐かしむように笑った。何か変な事言ったっけ?
「キラくんって、どこかズレてるんだよね。わたし達が初めて会った時もそうだったから、なんかおかしくて」
「……それ、よく言われたなぁ」
初めて会った時は鳴海の病室だったか。あの時も僕の返答はズレてるって指摘されたな。懐かしいや。
「僕からすれば5年も前の事だけど、そんなに変わってない?」
あれから色んな事があったから、僕も結構変わったつもりなんだけどな。隊長とかもやったし……
言いながら、今までずっと立ちっぱなしだったのに気付いて、近場にあった椅子に座る。
「うん、変わってない」
「……う」
が、危うく椅子からずり落ちそうになった。
そんな笑顔でバッサリと。ちょっぴり自信なくすよ、それ?
なのはは目を閉じて更に続けた。

463『鮮烈』に魅せられし者:2011/12/21(水) 23:06:29 ID:5CYs27sAO
「わたしからすれば14年前だけど、それでも鮮明に思い出せるぐらい変わってないんだもん。見た目も雰囲気も、ちょっと天然なトコロも……」
ヴィヴィオちゃんの手を握りながら、昨日の事を友達と話すかのように、実に楽しそうに語る。

だからこそ、彼女が突然見せた表情は、僕に一つの事を気付かせた。

「……なんでも独りで抱え込もうとするクセも」
「……」
ああ、なのは、怒ってるんだ。
もう僕らは友達なのに、出会って間もない、闇の書事件の頃と同じように僕がなんでも抱え込もうとした事を。
「なんで、みんなを頼ろうとしないの?もうみんな、他人じゃないのに……」
「……ごめん」
真剣な怒りの顔。できれば、あまり見たくなかったな。
そうだ。
確かにあの時、僕らの真実を知った時にもう少し、クロノの好意に甘えたり、遠慮なんかせずにシンを巻き込んで皆に相談していれば。
今回のように無様に倒れるなんて事もなかった筈だ。
きっと、彼女は僕に昔の自分を重ねているんだろう。独りで頑張り過ぎて、その果てに墜ちた自分を。
そこを怒ってくれてる女の子だったな、なのはって。
「やっぱり……、なのはも変わってないね」
相変わらずの優しさと洞察力、それを人に伝える意思力。
まったく、敵わない。
「む。ごまかすつもりー?」
「いやね、こうも立て続けに同じ箇所を指摘されるとね。ホントに僕の悪癖なんだって実感するよ」
「へ?立て続け……?」
キョトンとして、なのは。
まぁこれは仕方ないだろう。さっきまで僕は寝てたのは事実なんだからさ。だけど、
「うん、『夢』の中でね。なのはと同じように怒られたんだ。だから、これからはちゃんと、皆を頼るよ」
これも事実なんだ。だから僕は、この悪癖を改める必要がある。
改めなければならない。
「へぇ、夢でかぁ……不思議だね。誰からだったの?その、わたしと同じように怒った人って」
すっかり怒りを収めたなのはが興味を持ってしまったよう。しまったな、女の子には些かロマンティックだったか。
どうしようか、彼女には言っても大丈夫かな。
「──ラクスと、フレイと、あとクルーゼって人。……そういえば、あの時もだったな」
『死者』達との会話。それは別に初めてというわけでもない。
「あの時?」
「うん、闇の書に取り込まれた時。あの時は、ラクスはいなかったけど、フレイとクルーゼに逢ったんだっけ」
何故よりにもよって、こんな人選だったのか。その謎は今の僕にならなんとなく解る。
それはきっと──
「……すごいな。その人達って」
「──、……え?」
凄い?なんで?
「だってその人達ってキラくんの世界の人なんだよね?それで、こんな遠く離れたトコロでも、キラくんを想って、心配して。それが届いたなんて、素敵じゃない?」
なるほど、そういう解釈か。女の子らしい素敵な、夢のある解釈。
でも、その方がいいな。
「……うん、そうかもね」
──どんな悲しい現実でも、きっと彼女には敵うまい。
それが夢の特権だ。

464『鮮烈』に魅せられし者:2011/12/21(水) 23:09:34 ID:5CYs27sAO
「……」
「……」
何故か、なのはも僕も自然と黙り込んでしまう。
俄然、心地好い沈黙が空間を支配した。いいよね、こういう空気は好き。かつてのオーブを思い出すから、リラックスできる。
「……っ」
……ただね、リラックスするとどうしても気になるモノが気になるんだよね。
「……なのは」
「ん?どうしたの」
「アレは、なんなのかな……?」
どうしても我慢できずに指差したその先、そこには空飛ぶウサギ。不可思議極わりない。
幻覚かと思ったけど、別にそんなことなかったよ。
「ああ、クリスの事?」
「は、クリス?」
名前あるんだ。てか不思議に思わないんだ?
「そう、クリス。正式名称はセイクリッド・ハート。……ヴィヴィオのデバイスだよ」
「ヴィヴィオの、デバイス……。……デバイス、なんだよね?」
そういえばキラくんは初めましてだねー、という言葉がよく聞こえない。
本来ならもっと普通に驚いて感心して、ヴィヴィオちゃんにおめでとうって言うようなシーンなんだけど……。
フヨフヨと空を飛び、ビシッと右手を挙げて「やぁ!」と挨拶してくるウサギのぬいぐるみ──クリス──は、正直な所、コワい。
いや、勿論見た目は可愛いし、慣れれば普通に可愛いと思えるんだろうけど、ほら、僕って理系じゃない?
だから、今暫くクリスの事は放っておこうと思う。
「えーっと……うん、ステキだと思うヨ。そういえばさ、なのは」話題を切り換えよう。
「ヴィヴィオちゃん、なかなか起きないね。今日はいつから来てくれたの?」
なるべく自然にできた、かな?
未だぐっすり眠っているヴィヴィオちゃんに目を向けて質問した。
「えーと……わたし達が来たのがお昼前で、イクスの所に行って、オットー達と話して……」
人差し指を頬に当てて、なのは。前からよく見る仕草だけど、癖なのかな?
「うーん、多分……ヴィヴィオがここに来たのは一時間半ぐらい前だと思うよ?珍しいなぁ、ヴィヴィオがお昼寝なんて」
「僕もそう思う。……疲れてるのかな?」
いつも元気に飛んだり跳ねたりしてる姿を思い出す。それに真面目な性格たから、お昼寝は本当に珍しいと思うな。
もしかして、本当に疲れているのだろうか。少し心配になってきた。
「なんか知ってるかな、なのは?」
海の事は漁師に問え。愛娘の頬をプニプニつついている母親に訊いてみる。
その答えは、とっても単純明快で──


「あぁ。ヴィヴィオね、来週に新しくできた友達と練習試合をするんだって。……一昨日から夜遅くまで特訓してるの」


──今まさに身に染みて理解させられた。

ドゴンッ!!

凄まじく重い、その打撃音。
これが年端のいかない少女達の肉体が発した音だとは、俄には信じがたい。
碧銀と黄金が、瑠璃と紫晶、紅と翆が入り乱れ、鋭くも重い拳の応酬を演じていた。その拳一つ一つが、必殺級。
僕が目覚めて四日目の、アラル港湾埠頭・廃棄倉庫区画、13時31分。格闘限定の5分一本勝負。これが、
「……練習試合、ね」
ヴィヴィオちゃんが特訓で目指した舞台。
その御披露目というべきか。

465『鮮烈』に魅せられし者:2011/12/21(水) 23:14:39 ID:5CYs27sAO
「これ、どう見る。アンタなら」
「……僕としては、エンジェル・ダウンを思い出すな」
バリアジャケットを装備し、更に『大人モード』になったヴィヴィオちゃんとアインハルト・ストラトスちゃんの苛烈な試合。
それは、かつてのフリーダムとインパルスの闘いに似ていると思う。
それにしても。一週間前の、あの雨の日に出逢った不思議な少女が、まさかヴィヴィオちゃんの新しい友達だったなんて……。
全く世間とは狭いものだね。
「あん?どういう事だよ?」
僕の隣に立ち、同じく試合を見守っているシンからの疑問の声が上がる。
同時に、白の長衣と碧銀の長髪を靡かせたアインハルトちゃんの猛攻、その隙間を縫ったヴィヴィオちゃんの右拳が再び、アインハルトちゃんのボディに入った。
「……打撃のパワーもスピードも、アキュラシーも。あのアインハルトちゃんの方が上だ。だけど──」
しかし、それでも碧銀の少女は怯まずに拳の嵐を展開する。黄金の少女はそれを捌ききれずに、結構なダメージを蓄積させていく。
傷つき、どんどん後退していく躰。
「く……ぅっ!〜〜ッッ!!」
しかし、しかし。
ジャブを喰らってよろけてしまった一瞬を狙われたストレートを、ヴィヴィオちゃんは紙一重で回避して、アインハルトちゃんの顔面に、カウンターとしてのストレートを直撃させたのだ。
「やった!?」
重々しい打撃音が辺り一面に響く。
この刹那的な攻防にギャラリーが喝采を上げた。そして僕は確信した。
「──要所要所で、ヴィヴィオちゃんは確実な一撃を、当てられるんだ。つまり」
「つまり、もしかしたらヴィヴィオが一本取る事も出来るかもしれないってことか。確かにエンジェル・ダウンだな」
ヴィヴィオちゃんの体捌きは確かに見事だ。だけどアインハルトちゃんにはまだまだ届かない。が、つけいる隙は、ある。
それこそがヴィヴィオちゃんの戦闘スタイル。広い視野と果敢に前に出る勇気、カウンターヒッターだ。
格上相手にヴィヴィオちゃんが勝つには、短期決戦、一撃必殺の覚悟で向かうしかないという事だ。それは当人達が最も理解しているだろう。
「……ハッ!」
「はぁぁあっ!」
両者の瞳により大きな意志が宿り、攻撃の激しさを増していく。
そうやって、今を精一杯生きている二人の姿は、とても輝いてみえて。思わず目を細めた。
(頑張れ……頑張れ、二人共)
予感がする。もう少しでこの闘いが終わる予感が。何かが始まる予感が。

『──大好きで、大切で。わたしを幸せにしてくれた、守りたい人の為に。約束を果たす為に。わたしは強くなるんです。だから……』

ヴィヴィオちゃんが四年生になる数日前、緋色の空で聴いた言葉が、脳を過る。
そのストライクアーツに掛ける想いは、この僕の未来すら揺るがした程の、大きなモノだ。
そう信じているからこそ、
「ヴィヴィオ!」
「陛下!」
「避けろ!」
「……『覇王──」
ヴィヴィオちゃんの渾身の一撃が防がれ、アインハルトちゃんが腰を落とし、莫大なエネルギーを右拳に収集した時も、

「っ、左だ!ヴィヴィオちゃん!!」
「……ッ!!」
「──断空拳』!」
僕は最後まで彼女を信じる事ができる。

466『鮮烈』に魅せられし者:2011/12/21(水) 23:15:45 ID:5CYs27sAO

アインハルトちゃんの一撃をモロに喰らったヴィヴィオちゃんが、遠く離れた廃倉庫まで吹っ飛んで。
「……一本!そこまで!」
審判を務めたノーヴェさんの判定が響き、皆がヴィヴィオちゃんの下に駆け寄った。
「最後の。流石に無謀だったんじゃないか?」
「いや、そうとも思うけどね。あの娘を信じてるから。ほら」
ディートさんの膝枕で気絶している少女から少し離れた所で、シンと試合の評価をする。
「……!?」
「あらら」
バリアジャケットを解除して子供の姿に戻った瞬間。
クラっと、急に身体から力が抜けてティアナさんの控えめな胸を枕にしてしまったアインハルトちゃん。
それが僕の答だ。
「す、すみません……あれ!?」
「ああ、いいのよ。大丈夫」
謝り、体勢を立て直そうとするが上手くいかない。その事に少女は戸惑っているみたいだ。
仕方ないけどね、それは。
「最後の、左のアッパーだよアインハルトちゃん」
「一発カウンターがカスッてたろ。時間差で効いてきたか」
大抵の生物は、顎に強打を喰らうと脳が揺さぶられ、平衡感覚を失ってしまうものだからね。
「ま、賭けみたいなものだったけどな。無謀には違いないよ」
戦闘には厳しいシンが、やっぱり厳しめの評価を下した。と思いきや、
「だけど、かなり良い勝負だった。やっぱすげぇよ、お前達」
ニッと笑って労った。
あれ、シンってこんなキャラだったっけ?違和感が……。まぁいいか。
「本当に、二人共お疲れ様。……アインハルトちゃん、ジュース、いる?」
僕も労わない訳にはいかない。持参していた水筒の出番だね。
「あ、……はい、ありがとうございます。キラさん………シンさん」
疲れた時は糖分。なのは特製のフルーツジュースを紙コップに注いで渡す。
ヴィヴィオちゃんは……まだ気絶中か。やっぱり相当無理をしたのかなぁ。
二人共の為に、どこかゆっくり休められる場所に移動しないと。
「ディートさん。確かこの近くに公園がありましたよね」
「はい。……では、そこに移動を?」
「ええ。いきましょう」


高町家を中心に集った輪の中に、今の僕らがいる。
その輪はとても暖かくて、僕の心を埋めてくれる。『標』を与えてくれる。
「──僕はもう大丈夫だよ、ラクス……」
やるべき事、やりたい事を成す為に。彼女達に恩を返す為に。僕も新たな道を往こう。
この黎明と共に。


──────続く

467名無しだった魔導師:2011/12/21(水) 23:18:42 ID:5CYs27sAO
以上です。
ようやく一巻の内容が終わります。
次からは二巻の内容でいきますよ

468名無しの魔導師:2011/12/22(木) 02:49:59 ID:JFMwpO4o0
久しぶりにきたけど、ここの作品はまとめないの?

469名無しの魔導師:2011/12/22(木) 09:13:21 ID:Nna5m9bo0
物語りもとりあえず一段落ですね、今から二巻の露天風呂騒動が楽しみでなりませんwww

470名無しの魔導師:2011/12/24(土) 04:46:32 ID:F7hxxL4EO

なんだかキャラ崩壊が激しいなぁ

471名無しの魔導師:2011/12/31(土) 14:20:41 ID:HHS5quNc0
私ここで結構おいしいおもいしました。
詳細は書けないけど、やり方次第ですね(^O^)
ttp://bit.ly/rRzIgw

472名無しだった魔導師:2012/01/01(日) 00:22:49 ID:Ey/E125wO
あけましておめでとうございます。なるべくSSを完遂できるように頑張りたいと思いますわ

>>470
亀ですが、出来れば崩壊してるような箇所を指摘してくれれば非常に助かりますっ

473名無しの魔導師:2012/01/01(日) 18:22:54 ID:Hf8bS6lA0
褒め言葉だろう。二次で多少キャラ崩壊なんて定番だぜ
これからもがんばってください

474名無しだった魔導師:2012/01/09(月) 23:52:48 ID:iTOwWzmMO
こんばんは。
予定は未定ですが、今週中に投下できると思います

475名無しの魔導師:2012/01/10(火) 23:07:04 ID:vIiJO//s0
おk、近所の幼稚園の前で全裸で待機している。

476名無しの魔導師:2012/01/11(水) 01:41:34 ID:nu3xkAu2O
おまわりさーん、こいつでーす

477名無しだった魔導師:2012/01/15(日) 15:23:42 ID:MN4Nocy2O
こんにちは。
23時頃に第九話を投下します。
よろしくお願いします

478『鮮烈』に魅せられし者:2012/01/15(日) 22:57:45 ID:MN4Nocy2O
「では、部隊長。キラ・ヤマト研修生はこれより四日間の訓練合宿に行ってきます。……すいません、入隊一ヶ月で、いきなり」
「いや構わんよ。あのエース・オブ・エース主催の合宿なのだろう?ならば誰にとっても得になると、私は思うがね」
ミッドチルダ次元航空武装隊所属、対悪性魔法生物部機動八課。僕が研修生として所属している部署。
その隊舎オフィスで、僕は慣れない敬礼をしながら部隊長に出立報告しているところだ。
「観測課の予測では、これから五日間程は平穏だ。心置無く訓練に励んできたまえ。……ただ、一つ条件を付けさせてもらおうか」
新暦75年、魔法の魔の字もない世界から突然ミッドチルダに漂着。しかしJS事件を契機に魔導師として、戦術士として頭角を表し瞬く間に部隊長に就任したというこの黒髪の男性は、口元を組んだ両手で隠しながら厳かなオーラを醸し出す。
その余りにも様になっている仕草にとても嫌な予感がする。この人がこのポーズをした時は、決まってロクでもない事が──
「……水着女子の写真を幾つか、見繕ってくれないだろうか」
「──御断りします、デュランダルさん」
僕まだ死にたくない。


『第九話 大自然、それは新たなる始まり』


五月も下旬。
時が過ぎるのも早いもので、この世界に来て二ヶ月、管理局に入って一ヶ月が過ぎた。
爽やかで過ごしやすい風と陽射しもお別れの時期。梅雨と真夏と休暇が迫っていて。
そろそろこの聖王教会の庭にも立葵や紫陽花が咲く頃だろうな。
「なんで、こんな事に……」
「僕に言われても……。仕方ないよ、こればかりは」
St.ヒルデ魔法学院の前期試験期間も今日で終了。ヴィヴィオちゃん達はかなり優秀みたいだから、今頃は良い成績を持って凱旋してるところなんじゃないかな。
だから、あの計画もしっかり堂々実行できるね。
とっても楽しみだ。年甲斐もなく胸が躍る。
そう。これから僕とシンは、高町なのはとフェイト・T・ハラオウン引率の異世界旅行兼訓練合宿会に参加させてもらえる事になっている。
なんと、この日の為に水着まで買ったんだ。
出発時刻まではあと30分、今は自室で荷物を纏め終えて待機をしている所。
「うぅ、陛下達だけズルいですよーぅ。あたしもー」
「でも、そうしたら危ないのはシャンテちゃんでしょ?……あ、そこのXはここの数値で……、向こうで勉強なんてできる?」
「あー、ナルホド。じゃあこのZは、……できる訳ないじゃないですか、旅行先で勉強なんて」
「……そんな自信満々で言う事かな」
うん、まぁ。
この合宿にはあの覇王っ娘アインハルトちゃんも含めてかなりの多人数が参加するのだけど、
「……はぁ、なんでウチの学校はテスト来週なんですかねぇ」
聞いての通り、この橙髪の戦闘シスターなシャンテちゃんは参加できなかったりする。
シスターといえども、シャンテちゃんは学生でもあるわけで。
合宿の期間は今日である金曜から土、日、月なんだけど、シャンテちゃんの学校は来週の火、水、木、金がテストなんだよね。
本当に、なんてタイミングだろう。
いくら魔導師が同時並行思考能力や演算能力に優れているといっても、ちゃんと勉強しなければ良い成績は取れない。
ついでシャンテちゃん本人の口からも「旅行先で勉強はできない」ときたものだから、こうして今も時間ギリギリまでシャンテちゃんに数学だけでもと教えてる訳なんだけど。
「ここはシャンテさんの為に、向こうでも僕が勉強を教えてあげるよーってぐらい言ってくださいよ、キラさん?」
「そうは言っても……今僕も解るのは数学と物理だけで、その他は勉強中なんだから……」
僕はまだミッドチルダ語をマスターしてないし、こういっちゃアレだけど、なのはやフェイト達は中学卒業で社会人になったから、あまり勉学は期待できないんだよね。
この事情も合わせて、向こうで勉強を教えるというのは非現実的だ。
可哀想だけど単独で頑張ってもらうしかないね……
「甲斐性なしー」
「えぇー」
結局、シャンテちゃんはお留守番という事に変わりはなかった。

479『鮮烈』に魅せられし者:2012/01/15(日) 23:03:03 ID:MN4Nocy2O


異世界旅行兼訓練合宿会場、カルナージ。
ミッドチルダ首都クラナガン次元港から約4時間の無人世界で、僕らが宿泊する施設はミッド標準時差7時間の場所にある。
「ふわぁ……、あー、ねむ……」
「眠そうだね、シン?どうしたの?」
「デスティニーの調整に手間取ってな……。ずっとインパルスだったから、随分勘が鈍っててさ」

ミッドを出たのは15時だから、ここカルナージは10時ぐらい。となると、お昼御飯を二回食べる事になる。旅行の醍醐味だね。
「そういうアンタも結構眠そうじゃないか。人の事言えんのかよ」
「……新しいプログラム組んでたら熱中しちゃって。あ、今日完成するから後でデスティニー貸してね」

今僕らは、カルナージ次元港地下駐車場にいる。ここから目的地までは自動車でいくから、そのレンタルの手続きをしているところなんだ。
借りる車は中型車二台。フェイト曰く、ここには11人載れる車は配備されていないから、2グループに分ける必要があるんだって。
このグループ分けはジャンケン大会で決まった結果、

Aグループ
なのは・キラ・スバル・アインハルト・コロナ

Bグループ
フェイト・シン・ノーヴェ・ティアナ・ヴィヴィオ・リオ・

という、なかなか珍しい組合わせに相成った。
いつもヴィヴィオちゃんかノーヴェさんと行動していたアインハルトちゃんは、少し戸惑い気味だったけど。
「そういや」
なのはとフェイトの手続きをしている姿を遠巻きに眺めて待つ時間の中、シンは大きな欠伸をかましながら、
「たしか、現地合流が二人だったか?片方が男と聞いたんだけど」
「あ、うん。僕もよく知らないんだけどね。……安心した?」
一抹の不安と、ほんの少しの希望を言葉にした。
これには僕の気持ちも同じだ。だから今シンが考えている事は大体わかる。
これから現地合流する二人組は、フェイトの子供と言っても差し支えない存在らしい。その片割れ、エリオ・モンディアル君は14歳の男の子。
つまり、この合宿に参加する三人目の男性で。
「まぁな。……男女比がおかしいからな、此処。少しでも同類が欲しいってのが本音だ」
参加人数13人+宿主2人で、男女比1:4。うん、男少なすぎだよね。どうしてこうなった。
ところで僕達が参加していなかったら、男性はエリオ君だけだったのだろうか。
……考えないであげよう。
「ユーノも来れればよかったのにね」
「……同情するよ、あの人には」
次に、先日ヴィヴィオちゃんと共に無限書庫へ行った際に会った人物を思い出す。
それは参加する気満々で、だけど無理だった四人目の男性──たいそう悔しがっていたユーノ・スクライア。
あれは内心泣いていたに違いない。
だって彼、最近はヴィヴィオちゃんのパパというポジションを狙い始めたみたいだから、余計にねぇ。
旅行なんて一大イベントを欠席せざるを得ない理由が、ユーノ持ち前の大きな能力そのものだとは、なんて因果だろうか。
「……仕事って、非情だよね」
僕らは揃って、彼に最敬礼をした。
うん、彼には色々写真や動画を送ってあげよう。
「おーい、シン、キラっ」
「ん、ノーヴェ?」
っと、ユーノに想いを馳せていたらノーヴェさんに呼ばれてしまった。なんだろう?
「手続きが終わったって。車に乗りましょ」
ティアナさんにも呼ばれた。しまったな、みんなを待たせるわけにはいかない。
うん、じゃあいこうか。
「はーい、みんなシートベルトつけてね。出発するよー」
「スバルさんが運転するんだ?」
「えぇ、まぁ。……あっ、あたしの事はスバルって呼び捨てでいいですよ」
「ん、了解。帰りは僕が運転するよ、スバル」
指定された白いファミリーカーの運転席にスバル、助手席になのは、後部座席に僕、アインハルトちゃん、コロナちゃんが乗り込む。

480『鮮烈』に魅せられし者:2012/01/15(日) 23:04:46 ID:MN4Nocy2O
「結構、年代物の車なんですね……」
そう呟くのはコロナちゃん。言外に不安が見え隠れしてるな。
あぁ、ミッドは例外を除いた全てがAT車だから、MT車は珍しいのかもね。
「だいじょーぶですっ!大船に乗った感じに任せてね」
「大船……ドレッドノート級?」
「多分それ違うと思うよ、アインハルトちゃん」
その喩えにされると不安になるよ。彼の船は意外と脆いから……
「よろしくねスバル」
「はい、なのはさん。いきますよー」
ギアをドライブにシフト、ペダルを踏み入れて、エンジンが低く大きく唸りを上げた。少しびっくり。この車、化石燃料と電気のハイブリッドだ。
流石は無人世界。こんな骨董品まであるなんて。
(……いや、化石燃料って。骨董品どころじゃ……)
何十年前の代物だっけ……!?
だけど、そんな僕の不安も他所に、僕らの乗った車は化石燃料故の力強さで前進し、そして先行する黒いファミリーカーを追ってスロープを昇っていく。

そして──

「──……っ!……これは!」
見渡す限りの翆と蒼、咲き誇り萌える花々、舞い躍る蝶々、清々しくも猛々しい一陣の風。
そんなお伽噺のような光景が、目の前に広がって。
地下駐車場から脱したファミリーカーが、その中を突っ切って往く。
窓の外、その全てが広大で、澄んでいて、想像以上だった。
だからこそ全身が圧倒される。存在の全てを包んでくれるかのような感覚に細胞が震える。
ミッドの自然も凄いと思ったけど、これは桁違いだ。
これが、本物の自然というモノなのか……。
「生きててよかった……」
無意識に、そう呟いていた。
きっとシンも茫然と魅入っているに違いない。
だって、これは僕らが目指した理想郷、失われた未來そのものなんだから。
「……キラさんは、こういうのは初めてなんですか……?」
「……っ」
ちょっと大袈裟な発言に興味が湧いたのか、隣のアインハルトちゃんが訊ねてきて、ちょっとした自失状態から醒める。
彼女もこの大自然に感動しているような面持ちだけど、まぁ流石に「生きててよかった」なんて思わないよね、普通。
「……うん、僕は宇宙に住んでいたから。だからこういうのは絵本の中にしかね」
「え、宇宙、ですか……!?」
あ、アインハルトちゃん驚いてる。眼を丸くしちゃって、結構レアかもしれない。
視てみれば、なのはを除いた全員が同じ表情だった。
それもそうか。ミッドじゃ宇宙は一般的ではないもの。驚くのも無理はないよね。
「あぁ、コロニーっていってね……」
そういえば、僕って今23歳だけど、地球にいたのはたった3年だけだ。
その地球も温暖現象や土地開発、戦争のせいで自然は殆んど喪われてしまって、こんな景色は本当に絵本の世界だけだったんだよね。
まさか、生きている内に本物を目にできるなんて。……ラクス達にも見せてあげたかったな……
「──では、基本は回転運動による遠心力なんですね。という事は、コリオリ力はこの数値で変動するんですか?」
「うん、そうだよ。そこの数式にこの数値を当てはめて……、……やっぱり凄いよ、君たちは。ちょっとモニターと設計式を見せただけなのに」
「いえ、そんな……──アレでしょうか、宿泊先のホテルというのは」
少しだけ照れた様子のアインハルトちゃんが前方を指差してプチ講義は中断。
コロニーやプラントの仕組みを教えている内に、目的の施設に到着したみたいだ。
「ホテル・アルピーノ、か……」展開していた空間モニターを消して、その建物を注視する。
「あー……聞いてはいたけど、なんか色々増えてるねぇ」
「そうですね……あの建物も以前は無かったですし」
白壁の三階の建物と、木の板で組まれたロッジ。
あそこで僕らは四日間の生活をすることになる。

481『鮮烈』に魅せられし者:2012/01/15(日) 23:06:35 ID:MN4Nocy2O


「みんな、いらっしゃ〜い♪」
紫の髪の女の子、ルーテシア・アルピーノちゃんとその母親、メガーヌ・アルピーノさんの明るい出迎えに、
「こんにちはー」
「お世話になりまーすっ」
なのはとフェイトが率先して応えた。少し遅れて僕らも頭を下げる。
「……シン」
「……なんだよ」
「なんで、リオちゃんの顔が紅潮してるのかな……?」
「真っ先に俺を疑うのかよキラさん……」
そんなに信用ないのかよ……ってシンが呟いてるけど、とりあいず置いといてノーヴェさんに確認をとってみる。

Q 何があったんですか?
A 寝てたシンがカーブの際に倒れてさ、リオの腿を枕にしちゃったんだよ。

うん、そんな事だと思ってた。
車から出たリオちゃんは頬を染めてて、シンは気まずそうで、他の皆はニコニコしてたんだもん。
「ラッキースケベの異名は伊達じゃない、か」
一体、何人の女の子とフラグを建てれば気が済むんだろう。
還ったらルナマリアさんに報告……は、しないでいいか。そんな趣味はないし、シンも反省してるみたいだし。
「あまり怒らないであげてね。シンにはいつもの事だから……」
「あ、大丈夫ですよ、そんな……ちょっと恥ずかったですケド、気にしてませんからっ」
手をパタパタ振ったリオちゃんもシンを庇ってくれて、
「それにシンさん、はやてさん達の為に毎日遅くまで手伝ってくれてるみたいで……仕事も頑張ってくれてるから仕方ないと思います」
「そっか。……うん、そうだね」
コロナちゃんもシンのフォローに回る。
なんて良くできた娘なんだろう、この少女達は。
「ダメだよシン。アスランみたいにフラグ乱立させちゃ」
「わかってるよ……。だけど俺の心は既に嫁に奪われてるんだから、そこは安心してくれ」
「……言ってくれるじゃない」
しまった。まさか惚気で反撃されるなんて。
シンも丸くなったなぁ。以前なら顏真っ赤にして噛みついてきたのに。
「キラさん、シンさんっ。こっち、ちょっといいですか?」
「ん、どうしたのヴィヴィオちゃん」
金髪虹彩異色な少女が、トコトコといった感じでやってきた。

「えと、自己紹介です。全員揃ったので」
あぁ、それって現地合流の二人が来たって事か。じゃあ行くしかないね。
「ごめんな、遅れた」
「大丈夫です、待ってません」
集ったのは、ヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃん、先の紫髪の少女に赤髪の少年、桃髪の少女と……白い、ドラゴン。
もう驚かないからね。ここは魔法の世界なんだから。なんでもアリなんだから。
「じゃあまずは僕から。……初めまして、エリオ・モンディアルです」
「キャロ・ル・ルシエと、飛竜のフリードです」
「で、私がルーテシア・アルピーノです。一人ちびっこがいるけど、私達三人14歳で同い年」
「わたしも少し伸びましたよ!?1.5cm!」
……うん、なんだか愉快な三人組(+一匹)みたいだ。
キャロちゃん、ヴィヴィオちゃん達と同じぐらいの背丈みたいだし……気にしてるみたいだね。
っていうか、いつから比べて1.5cmなんだろう……
「じゃ、次は俺から。……シン・アスカ──21歳だ。よろしくな」
相方の簡潔な自己紹介に続く。
「キラ・ヤマトです。僕は23歳で……、よろしくね」
特にエリオ君。君とは是非とも友情を築きたい。
「シンさんに、キラさんですね。フェイトさんからお話しを伺っていますっ」
「よろしくお願いします!──……?……??」
歳上男性二人の視線を浴びて戸惑い気味の少年。大丈夫、捕って食いやしないからさ……
さ、次は君の番だよ。
「アインハルト・ストラトスです」
ちょっとだけ上擦った感じで、碧銀の覇王少女。
アインハルトちゃんて、意外と照れ屋さん……っていうか、奥手なのかも。あまり自己紹介という行為に慣れてない感じだ。
願わくは、この合宿を機に色々慣れていって欲しいな。
「うん」
「よろしくね、アインハルト」
そんな少女を朗らかに受け入れる二人。今、僕らは素晴らしい爽やかスマイルを見た。
納得のウェルカム感。流石はフェイトの家族という事だけある。

482『鮮烈』に魅せられし者:2012/01/15(日) 23:07:39 ID:MN4Nocy2O

「さて、お昼の前に大人のみんなはトレーニングでしょ。子供たちはどこに遊びに行く?」
その後にルーテシアちゃんの召還獣ガリューの件で一悶着あったけど、それも無事解決。
ここでは一番年長なメガーヌさんが僕達に選択肢を提示して、
「やっぱりまずは川遊びかなと。お嬢も来るだろ?」
「うん!」
ノーヴェさんが選び取る。
「アインハルトもこっち来いな」「はい──」
子供達は川遊びか。となると、僕ら大人組は……
「じゃ、着替えてアスレチック前に集合にしよう!」
「はいッ!」
「こっちも水着に着替えてロッジ裏に集合!」
「はーいっ!」
なのは教導官殿直々のトレーニングになるわけだ。
元軍人として、男として遅れをとるわけにはいかないね。二ヵ月間の鍛練の成果、今こそ発揮する時だ。
(……なんとか完走したいなぁ…………)

異世界旅行兼訓練合宿会、その幕が今、上がる。


──────続く

483名無しだった魔導師:2012/01/15(日) 23:11:27 ID:MN4Nocy2O
以上です。
もういっそのこと、キャラ崩壊させる方向で一つ。……というかキャラの個性を忘れかけているのが現状です。
SEEDリマスターと再放送のストライカーズで勉強し直さなければ……

484名無しの魔導師:2012/01/16(月) 00:32:11 ID:z0ea/cZI0
GJ! 次回は川遊び編ですか、温泉回も含めて楽しみです!

485名無しだった魔導師:2012/01/16(月) 02:01:09 ID:MmSaUte6O
>>484
残念!トレーニング編だよ!

486名無しの魔導師:2012/01/16(月) 02:12:44 ID:MmSaUte6O
連レスすいません。ちょっと調子に乗ってました……
>>484さん、gjをありがとうございます

487名無しの魔導師:2012/01/22(日) 22:28:22 ID:9oVsZHBcO
しかしまぁ努力嫌いのキラが指導とかするって凄い違和感だな

488名無しの魔導師:2012/01/24(火) 12:35:44 ID:k9lKWvfo0
どこの設定だよ

489名無しの魔導師:2012/01/24(火) 12:54:43 ID:P2L/qJwkO
公式にはないな。炒飯みたいな非公式ネタだ

490名無しの魔導師:2012/01/24(火) 15:23:21 ID:tZ5.rGSQ0
ここってまだ人いたんだな

491名無しの魔導師:2012/01/24(火) 16:17:27 ID:3iIqvty20
>>488
>>489
つ福田の発言(これは信用できないが)
 ドラマCD

492名無しの魔導師:2012/01/24(火) 18:50:36 ID:SlJKkhGIO
本編終了後で実際人の上に立って指示してたif世界から来てるんだから、別におかしくもない気がする

493名無しだった魔導師:2012/01/31(火) 00:16:03 ID:kwcE23mQO
こんばんは。
テスト週間が来週で終わってくれるので、投下はそれ以降となります。すいません……

494名無しだった魔導師:2012/02/15(水) 00:01:06 ID:6JEU/B4YO
「……どうだった?」
「はい。やっぱり黒みたいです。あと、自覚もしてないみたいでした」
「そう……こっちの事も含めて、大体予想通りだね」
「じゃあ……?」
「うん。……ミッション開始だ」


『恋と策謀とチョコレート』


「ユーノ、PKG24‐5区画とPKG24‐6区画の整理は終わったよ」
「こっちも終わりましたよー、司書長」
「うわぁ。ホントに早いね二人共。……ん、今チェックするよ」
無限書庫。
時空管理局本局の一画に存在する超巨大データベース。あらゆる次元世界の書籍やデータが収められているその様は、正に迷宮と比喩してもいいだろう。
気が遠くなるほどの巨大な規模と、円筒状に拡がる空間にぎっしりと本棚が並んでいる様に多くの人が慄き、故に近年まで完全未整理状態で放置されていたようだ。
「……うん、完璧だ。流石だよヴィヴィオ、キラさん」
このハニーブロンドの髪の青年、ユーノ・スクライアが整理を開始するまでは。
「ユーノには負けるけどね。これで今日のノルマは達成かな?」
「ふぇ〜、疲れた〜。……あ、ユーノ司書長はこれから予定はありますか?」
そう。僕、キラ・ヤマトと金髪でオッドアイな少女、高町ヴィヴィオがここにいるのは、この彼が目的なんだ。今日ばっかりは万年人気不足で人手不足な無限書庫に、ただ手伝いに来た訳ではないんだよ。
「え?予定かぁ……。うーん、特には無いかな?二人のおかげで随分と早く終わったから。それがどうしたの?」
よし、かかったね。状況は想定通り。ここからが本番だ。
「さっきユーノがトイレに行ってる時にね。タナカさんがユーノに渡してくれって、コレを」
「タナカさんが?そういえば姿が見えないけど、どうしたんだろ」
「えっとですね、『彼女』との約束に遅れちゃいけないからって、結構急いでる感じでした。今日こそ『決める』んだーって」
ヴィヴィオちゃんが打ち合わせ通りの台詞を、若干演技っぽさを演出しながら言い、
「一枚二名までのディナー券をプレゼントしてくれたんだ。間違って余分に買っちゃったんだって」
僕が胸のポケットから長方形の紙きれを取り出して、ユーノに差し出す。
「えぇ、悪いなぁ……。ホントに僕が貰っていいの?」
「それ、期限が今日までみたいなんです。この後に予定が無いのなら、誰かを誘って行ってみたらどうですか?」
そういう事ならと、ユーノが券を受け取った。だけどその表情は変わらず穏やかだ。
あと一押し。
「今日は確か『なのは』は休日だったね。まだ15時だし、今なら『間に合う』んじゃない?」
「……あ。……っ!?」
ふぅ、ようやく僕らが言わんとしてる事がわかったみたいだね。何を想像したか知らないけど、顏が少し赤いよ。
「あ、そういう事なら。なのはママも昨日ユーノ君に『渡すモノ』があるって言ってたから……丁度良いタイミングですねー」
「……!!」
ヴィヴィオちゃん、ナイスフォロー。ユーノのこの表情、今日がどんな日かも思い出したのかな。
「あ、で、でもホラ。僕は司書長だから色々と……」
おや、ここまできて抵抗するのか。でも無駄だよ、押し切るから。
「みんなはもう事情は知ってるし、ユーノは頑張り過ぎなんだから。みんな許してくれるよ。責任は僕とヴィヴィオ司書が持つし」
「み、みんなって……それにヴィヴィオは兎も角、キラさんは元々は部外者じゃ」
「いってらっしゃい」
「……」
「いってらっしゃい、ユーノ司書長」
「……いってきます」

495名無しだった魔導師:2012/02/15(水) 00:03:27 ID:6JEU/B4YO


「ふぅ、ユーノも鈍感なんだから。みんなヤキモチしてるの気づかないのかな」
「ある意味お似合いなんでしょうけど、周りは気が気でないっていうか」
ユーノが顏を真っ赤にして無限書庫を出てから3分。僕らは漸くと一息ついていた。
これでミッションは半分成功かな。あ、そうだ、作戦成功の報告しなくちゃ。
≪タナカさん≫
≪あぁ、ヤマトさん。どうです、上手くいきました?≫
≪おかげさまで。協力ありがとうございます≫
≪いえいえ、こっちも姿を眩まして口裏を合わせるだけで、今日の仕事を全部引き受けてくれるってんですから、美味しい取引ですよ。そっちの方は大丈夫で?≫
≪はい、もう終わらせました。今日はありがとうございました≫
≪はいな。じゃあ俺は帰って一杯やりますかね。……はぁー、俺も彼女欲しー≫
通信終了。さらばタナカさん、あなたの出番は多分もう無い。
さて、あとは……
「キラさん、こっちの引き継ぎは終わりました。いつでも行けますっ」
うん、仕事早いね、ホント。助かるよ。
「よし。なのはの様子は?」
「クロノ提督とシンさんが上手くやってくれたみたいです。今も家にいるって、アインハルトさんが」
「そう……あとはユーノのガッツだね」
準備は着々と完了していく。総てシミュレーション通りだ。
僕とヴィヴィオちゃんがユーノの仕事を引き受け、ついでに火をつける。クロノがなのはのスケジュールを操作し、フェイトとシンが足止めと火付け役を。そしてアインハルトちゃんが外部からオペレートをするというこの布陣。全てはこの日の為に。
「よし、尾行開始だ」

「それにしても、今日が2月14日だってことも忘れてたなんて」
「無限書庫はいつも多忙ですから、世間の事も忘れがちになっちゃうんですよねぇ……。クリス、見失わないでね」
街並みは今やすっかりヴァレンタインムード一色に染まっていて。そんな中を僕とヴィヴィオちゃんは、ユーノを200M離れた場所から尾行していた。彼の索敵能力は無意識状態でも凄いから……
第97管理外世界から輸入されたこの文化は、『管理局の麗しきエース達の出身世界の風習』という煽り文句もあり、瞬く間にミッドチルダに普及したようだ。チョコレートも安くなるし、甘党の僕としては嬉しい限り。後で少し買おう。
「ヴィヴィオちゃん。なのははどんな感じだったの?」
「一週間も前から準備してたみたいなんですけど、やっぱり他のと比べてもユーノ君のは『特別』って感じでした。画像見ます?」
「じゃあ、せっかくだから」
「クリス、お願いっ」
のィヴィオちゃんのうさぎ型デバイス、セイクリッド・ハート── クリスが出力する画像は、つい昨日撮ったものらしい。これは……
「──ねぇ、コレでなのは、『義理』だなんて言ってるの?」
「……一目瞭然で解るぐらいなのに、これで『自称義理』なんです、残念ながら」
なんてことだ。格が違う。
中身も外装も、ユーノ用のチョコレートだけがなんか凄い。確かに、黒で、自覚も無しみたいだね……。
正に『本命』そのものじゃないか。ユーノも浮かばれまい。

496名無しだった魔導師:2012/02/15(水) 00:05:08 ID:6JEU/B4YO
「あ、アインハルトさんから連絡来ました。ママの様子が変化したようです。喜ばしい方向に」
あぁ、成功したんだ。よかった、間に合った。
「ユーノもちゃんと高町宅に一直線だし。これで……」
ホッと胸を撫で下ろす。これで状況が進展するといいけど……
「……、……あ」
そういえば。
このミッションは僕やフェイト、クロノが発案して、ヴィヴィオちゃんの許可もとって決行したものだけど、
「……」
「……?どうしたんですかキラさん?」
今更だとは思うけど、
「……ねぇ、ヴィヴィオちゃん」
この娘の本当の気持ちは、どうなのか、訊いていない。
「もしかしたら……ユーノはヴィヴィオちゃんの『パパ』になるかもしれないんだけれど、ヴィヴィオちゃんは本当はどう思ってるのかなって……」
ヴィヴィオちゃんにとってユーノはずっと『ママ達の友達』で『仕事の上司』で。そんな人が『父親』になるのって、どんな気持ちなんだろう?
一瞬、ネガティブな想像が脳裏を過る。これは大人の勝手な都合なんじゃないかって。それが急に怖くなった。
だけど。
「やっとっていうか、ついにっていうか、そんな感じです」
「……」
ヴィヴィオちゃんは困ったように笑って言う。
「実は最初、ユーノ司書長がパパなんじゃないかって、思い違いしてた時期があったんです」
あとで真実を知ってビックリしたんですけどねー、と遠い目をして。
「だって付き合ってもいないのに、長年寄り添った夫婦みたいな雰囲気で。私もフェイトママも、ずっとヤキモチしてたんですよ?これで決着がつくのならスッキリです」
「……そっか」
一安心。ヴィヴィオちゃんも僕らと同じだったんだ。
お互い好きなのに、それを視ないフリをして、知らないフリをして偽って、だけどやっぱり気になって、好きで。
そんな女と男を視てきた周囲は焦れて焦れて。だから二人をくっつけようとしたのが今回のミッション。どうやら確認するまでもなく満場一致だったらしい。
「世話がかかるなぁ……だからこそなんだろうけど、さ」
「あー、だけどぉ。今から『ユーノパパ』って呼ぶのはなんか恥ずかしいなぁ……」
「えと、……頑張って」

これからどうなるかは二人しだい。
願わくは、誰もが笑顔な未来を。


───────終われ

497名無しだった魔導師:2012/02/15(水) 00:07:46 ID:6JEU/B4YO
一日遅れの保守です。ちくしょう、腹痛さえなければ……!

リア充爆発してください

498名無しの魔導師:2012/02/23(木) 09:50:31 ID:BxlMXvuo0
乙!!

499名無しだった魔導師:2012/03/06(火) 02:27:51 ID:4Vwl7RIgO
随分と間があいてしまいましたが、近い内に続きを投下しようと思います。

それにしても、人が少なくて寂しいですねぇ……

500名無しの魔導師:2012/03/11(日) 23:56:26 ID:UKpP7KeQC
投下楽しみにしています。

501名無しだった魔導師:2012/03/16(金) 19:13:03 ID:EpQwcND.O
23時頃に投下します

502『鮮烈』に魅せられし者:2012/03/16(金) 22:54:12 ID:EpQwcND.O
「──くそっ!?」
しくじった。
迫り来る桜色の閃光──ディバイン‐バスターを跳躍で回避、宙に浮かんだ俺を標的に、360度全方位から一斉に大量の誘導弾が殺到。それに追い立てられる様に慌てて飛翔魔法を展開、見事にスバル・ナカジマの目前まで誘導させられて、
「リボルバァー……」
「まずい、デスティニー!」
≪ソリドゥス‐フルゴール≫
「ナッックルゥ!!」
大地に向かって吹っ飛ばされているというのが、今の俺、シン・アスカの現状だ。
魔力防壁で受け流す事も、飛翔魔法で抗う事も出来ない、圧倒的な攻撃力に成す術なく地面に叩きつけられる身体。
「…………ッ!!?」
「シン!?──くぅ!」
激痛。
受身すらできず、背中から激突してしまった。
肺から空気が抜ける。筋肉が痙攣する。霞む視界の彼方に、追撃の構えを見せるフェイトと、未だ誘導弾から逃げ惑っているキラがいた。
「バルディッシュ、カートリッジロード!」
不味い。攻撃を受けるわけにはいかない。ここからどうすればあの脅威から逃れられるかは解る。だが身体が動かない。魔法を展開する余裕もない。
もう限界が近い。まだなのかキラさん、アレは──
「トライデント──」
黄金の魔法陣を展開、バルディッシュを突き出すフェイト。
脳が警鐘をガンガン鳴らす。やばい、やばい、やばい。防御は無謀、回避は、出来ない……!?
「……こんな事で、こんな事で俺はッ……!!」
絶体絶命、その時、
“OSアップデート完了!いけるよ、シン!”
「スマッシャーー!!」
フェイト・T・ハラオウンが発動した魔法、三股の金色の輝きが視界を埋め尽くしたその時、
「う、おおぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!」
何かが出来るようになったと、理解出来た。


『第十話 パワーアップ・イベント』


時は15分程前に遡る。
「はーい、そこまで!5分休憩していいよー!」
カルナージ訓練合宿、その宿泊施設の近郊にされているアルピーノ謹製アスレチックコースに響く声。それは今行っているトレーニングの終了を意味していた。
「ふぅ……」
「つ、疲れ、たぁ」
キラがその場に座り込み、俺は乱れた呼吸を整える為に深呼吸をする。ああ、空気が美味い。
(流石に、しんどい)
トレーニングの内容は、イタリア人配管工兄弟がトライしそうなアスレチックフィールドでの二時間全力走破。しかも魔力弾による妨害というオマケ付き。
誰だよこんな鬼畜コースを考えたのは。筋肉疲労と精神疲労がハンパじゃないぞ。
見れば、エリオやフェイトといった他の連中も俺達と似たようなモンで、ニコニコ笑顔でいるのはスバルぐらいだ。化け物かアイツは。
「おいキラさん。生きてるか?」
「や、やめてよね……このぐらいで僕が死ぬわけ……ゴフゥ!」
あ、ダメみたいだ。
まぁ俺でもキツかったし、デスクワークが主だったコイツが最後まで走りきったのは褒めてやるべきなんだろうが。
「シンさん。キラさんがなんか危なげな咳をしてるんですけど……大丈夫なんですか?」
咳き込んでいるキラを心配したのか、桃色の髪の少女──キャロがこちらにやって来た。自分も疲れているだろうに。
「ああ、大丈夫だ。コイツは回復力が凄いからな。すぐ復活するさ」
「そ、そうなんですか……?」
とりあえずキャロの頭を撫でて安心させてやる。絹みたいに柔らかいその髪も、今は汗でびっしりだ。うーん、青春だなぁ。
それにしても。
「なぁティアナ」
「ん、何かしら?」
さっきの、なのはの言葉が気になる。そこで、整理体操をしていたティアナ・ランスターに質問だ。
「なのは教導官、5分休憩って言ったよな。この後にトレーニングプログラムなんてあったか?」
そう。事前に配布されたプログラムには、今さっき終えたトレーニングの後は昼飯とあった筈だ。
それに時計を見てみれば、予定されていたトレーニング終了時刻までは20分以上も余っている。
どういう事だ?
「……さぁ。わからないけど、なのはさんの事だからナニかはあるハズよ」
「緊急での追加トレーニングでしょうか……?」
うーん、と三人で首を捻る。兎に角、ナニかがあるのは間違いないだろうが、元々の予定を削ってまでする程のモノという事なのか。これは休憩時間が終わるまではわからないな。
「ま、なるようになるさ」
その時はその時。何が来ようと善良を尽くすだけだ。

そして、その3分後、
「休憩終了ー!みんな集合してー!」
俺達の試練が始まった。

503『鮮烈』に魅せられし者:2012/03/16(金) 22:55:34 ID:EpQwcND.O


「どうして、どうしてこんな事に……」
「アンタが悪いんだ……。アンタが余計な事言うから……」
事態はキャロが予想した通り、緊急追加トレーニングの実施だった。しかし、その内容がオカシイ。故に、俺もキラさんもローテンション。
「元機動六課陣の総攻撃を、俺とキラさんの二人だけで20分凌げ……か」
いや、無理だろ、常識的に考えて。俺達は元軍人だとしても、魔法に関してはまだビギナークラスだ。対して、彼方は魔法戦のプロフェッショナルな集団。数でも質でも圧倒的に不利だ。
しかも此方側は迎撃以外の攻撃行動は禁止ときた。これは罰ゲームかなにかなのか……。
「それだけじゃないよシン。僕なんて新しい戦闘OSを組みながらやんないといけないんだよ……」
「それこそ自業自得だろ……」
そもそもの、このトレーニングの発端は、今朝にキラがなのはに持ち掛けた相談にある。
曰く、『今日デバイスの新しいサポートシステムが完成するんだけど、出来上がったらテストに付き合ってくれないかな』
恐らく、キラが徹夜で作業した新OSの事だろう。
その結果が、
『あ、じゃあ闇の書事件の時みたいに、戦場でデバイスを調整したのをもう一回観てみたいな。そのスキルが実戦で使えるモノなのかテストもしてみたいし』
『え゛?』
この結果だ。ホントはた迷惑な人だなキラさん。
兎に角、俺達はこの鬼畜訓練を生き延びなければならない。でないとまた厄介な事になりそうな予感がする。
(多分、これはテストだ)
つまり、俺達は試されてるって事なんだろうが、
(それだけじゃないな)
“あの”なのは教導官がただ無茶苦茶なトレーニングをやる訳がない。雑誌や映像記録を観たかぎりでは、地味で堅実なやり方を好む人物がこんな無理難題を押し付けるには意味がありそうだ。
それが何かはわからないけどな。まさか本当に罰ゲームだなんて事はないだろうし。
「……で?そのOSはどんぐらいまで出来てるんだ?」
考えてもしかたない。今に重要なのは現状の原因ともいえる新OSについてだ。
「……80%ってところかな。でもシナプス結合とかルーチン最適化とかもあるから、戦いながらとなるとインストールには10分かかる。その後はリアルタイムで調整できるけど」
インストールできれば此方にも勝機がある、とはキラの弁。
「随分と自信満々だな。……俺達専用のサポート・オペレーション・システム……、概要は訊いたけど、実際はどうなんだ?」
「そこは僕とデュランダルさんを信じて欲しいな。僕らなりに魔法を研究した成果なんだから。……スタート1分前、こっちも準備しよう。ストライクフリーダム、システム起動!」
「……了解。デスティニー、システム起動!」
こうなったら信じて待つしかないか。
此所から100M離れて待機をしている機動六課組が臨戦体勢に移項したのを確認して、キラがデバイスを起動し、それに呼応して、俺もMSデスティニーの翼を模したキーホルダーを掲げる。
ヴォルゲンリッターとの模擬戦とはまた違う、初めての大規模戦闘行動だ。気を引き締めて取り掛かろうじゃないか。
(その真意、確かめさせてもらいますよ、なのは教導官……!)


余談だが、俺達のバリアジャケットはザフトの軍服を模して……っていうか、そのままデザインを流用したモノを使っている。
つまり、俺がザフトレッドで、キラがザフトホワイトだ。
これにはいくつか逸話と理由がある。
俺達にデザインセンスが無かったという事実に気づいたり、もう二度と服はデザインしないとお互いに誓い合ったり。
はやて家長やフェイトといった豪華メンツにデザインを依頼したのだが、やっぱり23歳男性にリリカルでマジカルな服装は駄目なようで、皆で爆笑したり。
他にも色々あるが一番の理由はやはり、謂わば『楔』のような効果を期待したからだろう。「自分の所属、業、最終目標を忘れない」為に。
だからこそ、俺は今も赤服を着ている。

504『鮮烈』に魅せられし者:2012/03/16(金) 22:57:37 ID:EpQwcND.O


「さぁ、避けて防いで駆け抜けて!大和魂でいってみよう!!」
≪アクセル‐シューター≫
「容赦ないなコンチクショウ!悪魔かよ!?」
≪デリュージー‐リニアバレット≫
「ちょっ!?シンそれ禁句!!」
≪ピクウス‐バルカン≫
「悪魔でいーよ?悪魔らしいやり方でビシバシいくからっ!」
≪エクセリオン‐バスター≫
「…………!」
訓練開始から7分。限界は、あっさりと訪れた。
縦横無尽に飛び交うフェイトに退路を断たれ、なのはとティアナ、キャロの飽和射撃の対応に追われ、突撃してくるスバルとエリオに弾き飛ばされる。
この連携を突破できない。確実に神経と体力を削りとられている。
本来なら、全力で新OSを構築しているキラも護るように立ち回らければならないのだが、ぶっちゃけソレどころじゃない。今は自分の身を守るだけで精一杯だ。情けない!
「でぇい!」
「ッ!」
連結刀エクスカリバーでスバルの拳を受けとめ、衝撃を利用しながら後方にステップ。さらに迫るスバルの脚と、直上から放たれたアクセル‐シューターを回避する。
≪フラッシュ‐エッジ&ヴォアチュール‐リュミエール≫
「──プロテクション!」
「は、速!?」
着地と同時に急速退避。紅の魔力を撒き散らして、二人を牽制しつつ一気に距離を離しながら、
「デスティニー、ライフルモード!」
≪フォトン‐ライフル転送≫
なお追従してくる桜色の誘導弾をターゲティングする。
ターゲットは5。ならば相対速度と未来予測位置を計算に入れて……!
「撃ち落とす!」
地面スレスレを高速飛行しながら、右手に顕れたライフルを構え、9回トリガーを引く。
そして、射出された紅の弾丸は全て明後日の彼方まで飛んでいった。
「……な?」
変わらない状況。5つのアクセル‐シューターは健在で、複雑な軌道を描きながら俺を追っている。
つまり、外した。
俺が?狙いは完璧だった筈だ。ルナじゃあるまいし、何故……?
いや、そうか。
「……そうか、肉体の限界が……!」
ライフルを保持している腕が、痙攣していた。
分析してみれば、外した理由は単純だ。
過激な訓練による疲労、高速飛行による体勢の乱れ、不慣れな生身での戦闘。それら要因が積み重なった結果、照準がブレたんだ。
要するに、筋肉の限界。
≪接近警報≫
「しまっ!?」
「逃がさない!!」
≪サイズ‐フォーム≫
それを考えていたのが仇になったか。いつの間にかバルディッシュを振り上げていたフェイトに肉薄されていて。
金の魔力刃が既に大気を裂いていた。
ライフルを投げ捨て、両手に握った紅き光剣ヴァジュラ‐サーベルで対処する。
が、
(防御が間に合わない……)
吹き荒れるフェイトの連撃、目では追えるのに、躰がついていかない。次第に迎撃のリズムを崩されていく。
そして遂に、俺の胴を完璧に捉えた一閃をフェイトが繰り出した瞬間、間一髪で急降下。着地する事で逃れられた。
だが、その行動がマズかった。
「ディバイン……バスター!」
着地によって発生した一瞬の硬直を狙った攻撃。なのはの砲撃。それに対する俺の行動は、屈めた躰を思いっきり伸ばす事で発生する、上方への跳躍だった。

そして場面は冒頭に追いつく。

505『鮮烈』に魅せられし者:2012/03/16(金) 22:58:43 ID:EpQwcND.O

“OSアップデート完了!いけるよ、シン!”
≪受信完了。システムG.U.N.D.A.Mを機動します≫
デスティニーがキラから送られたデータを受信・開封したと同時に、違和感が全身を襲い、その全身が消失したかの様な感覚を得た。
「トライデント……スマッシャーー!!」
嫌悪感は無い。それどころか感覚が異様なまでに澄みきっていて、いっそ爽快感すら覚える。これはあれだ、SEEDを覚醒させた時のアレに似てる。
自己意識と現実空間だけが全てを構成する世界。これが、キラと議長が創りあげたOSの結果なのか。
そんな事を徒然と考えられるぐらいには、目の前まで迫る黄金の槍は遅く感じられた。
「う、おおぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!」
ここには疲労と痛覚に悲鳴を上げる肉体は存在しない。だからただイメージをする。キラに訊いた概要の通りなら、出来ると俺は理解しているのだから。
己の魔力を足裏に集中、小規模の爆発を起こしてロケットの如く跳躍、トライデント‐スマッシャーの範囲外へ逃れる。そのまま飛翔魔法を展開、再びアクセル‐シューターへライフルを向ける。奇しくも先程と同じ状況になるが、今度は外さないという確信があった。
網膜に直接表示されたレティクルとターゲットマーカーに従い、17つの誘導弾を照準する。それに伴い、ライフルを保持した右腕が自動的に動き、17回トリガーを引く。
全弾命中。誘導弾の殲滅を確認。──レーダーに感、6時方向、距離13、エリオ・モンディアル。反転し目前にエリオを捉え、横薙ぎに振るわれたストラーダの柄を踏み台にし、更に加速。六課陣の包囲網から脱出する。
「──、……無茶苦茶な仕様だな、コレ……デスティニー、システム参照」
今まで理想としつつも実践出来なかった動き。それがOSをインストールした瞬間から出来るようになった。
魔力をスラスターの様に使う事も、望んだデータが網膜に表示される事も、まるでMSを操縦してるみたいに正確に身体を動かず事も、ついさっきまでは不可能だった芸当だ。
一体どんなOSを?
≪了解、詳細情報を表示します。──

General
Unison
Neuro-Link
Device
Assault
Magician
    Weaponry Complex
総体融合型神経接続デバイスによる攻撃用魔導兵の武装複合体

これは私達『MSを模したデバイス』の特長である、自身の能力・設定をマイスターにリンクさせるという能力を強化したものです。
デバイスが記録している機能をマイスターの全神経と接続、魔力で包み込む事で、マスターのMS操縦イメージをそのまま身体に影響をさせる事が可能となりました。
言わば、ユニゾンに近い性質を得たという事になります≫
「要は、肉体の状況に関わらず、考えてる通りの精密動作が出来るって事か」
ならば納得できる。俺の筋肉も限界近いのに、精密射撃が出来たのもそういう理屈か。
まるで、頭だけでMSを操縦してる気分だ。

506『鮮烈』に魅せられし者:2012/03/16(金) 22:59:44 ID:EpQwcND.O
≪また、魔法運用における汎用性も上がりました≫
接近反応有り。フェイトが此方に追いついたようだ。再び両手にヴァジュラを装備して、今度はこっちから向かっていく。
通常の飛行魔法とは異なる、スラスターを使った鋭角な飛翔でフェイントをかけながら、新たな魔法のイメージを創造する。
「フラッシュ‐エッジ──クアドラ‐サテライト!」
今はフェイトとの打ち合いに集中したい。他の奴の妨害はいらない。
だから隔離する。
展開した4つの紅い回転刃が、衛星のようにして俺を中心に高速で公転、球を描く。あらゆる妨害を切り裂き、遮断するそれは正にイメージの通りだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺とフェイトの雄叫びが同期する。お互いが魔力刃を打ち合い続ける。今度は、遅れはとらない。黄金鎌を確実に迎撃していける。
目で追えるのならば、肉体は動いてくれるのだから。生身の柔軟さと機械の精密さで、二本の光剣を操っていく。
その急変した俺の剣捌きに焦りを感じたのか、フェイトの動きが少し鈍くなった。
「パルマ!」
≪フィオキーナ──マグナム‐バレット≫
「──なっ!?」
勝機。そう確信してバルディッシュの柄を掴み、魔力を炸裂させる。
その結果、強い衝撃を受けたバルディッシュもろともフェイトが空高く吹き飛んでいった。

──勝った!!

タイマンで、あのフェイトに満足のいく一撃を見舞う事が出来た。その事実に胸が高鳴っていく。
そして、
≪勿論、欠点もあります≫
その想いに水を差すように、

≪現状、システム最大稼働時間は5分です。……タイムリミット、システムを終了します≫

「……は?」
デスティニーが無慈悲に事実を告げた。
途端に崩れて、折れて、倒れそうになる身体。トンデもない程の痛みが全身を貫く。
──筋肉痛?マジでか。このタイミングで?
もう指先を動かす事すらもどかしい。今度こそ完璧に動けない。だけど、ここで諦めるわけにはいかないんだ。でないと今までの戦いの意味が……
「……ん?」
ふと、瞼に眩しい光が感じられた。なんだろう。このピンク色の光は……────────

そこで、俺の意識はディバイン‐バスターによって刈り取られた。訓練終了、その4分前の出来事だったらしい。


──────続く

507名無しだった魔導師:2012/03/16(金) 23:01:25 ID:EpQwcND.O
以上です。
だんだん投下するペースが遅くなって申し訳ないです

508名無しの魔導師:2012/03/17(土) 18:01:42 ID:A0rqxzqY0
投下乙
いやいや、遅くても投下してくれるだけでもありがたいっす。

509名無しの魔導師:2012/03/17(土) 21:58:30 ID:9sLHIzB.C
時間割制限つきモードとはまたロマンあふれるものをwwwwwww

510とある:2012/03/24(土) 23:47:42 ID:9oqS9h6w0
ちょっと試したいことがあるので借ります。

511とある:2012/03/25(日) 00:01:05 ID:JCTBz9tw0

           ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇ 



 身を切るような疾風をものともせず、茶髪を括ったツインテールを揺らしながら僅か10歳にも満たない少女が雲一つも無い大空を疾駆する。そして、その少女に追随するかのように中心部に英語の【target】の言語に似た語句が浮かび上がっている桜色の球体が滑空していた。その球体は縦横無尽に少女を追跡または前方で複数存在している。

 「福音たる輝き、この手に来たれ。導きのもと、鳴り響け!【ディバイン・シューター;Divine Shooter】シュート!!」

 『――Divine Shooter.――』

 少女・高町なのはの詠唱と共に周囲に桜色の球体が四つ出現する。なのはが出現させた球体は数秒ほどなのはの周囲を待機した後に、怒涛の勢いで【target】と表示された球体に肉薄する。すると、語句を表示している球体は軌道を変更し、追随していたなのはの周囲から逃げるように散開する。

 逃げる球体の方角を確認し、無手の右手を振りかぶり球体を指し示す。その後になのはの誘導指示のもと【ディバインシューター】と呼称された球体は逃走した球体を追跡する。逃走する球体は墜落されまいと、より一層速度を加速させるがなのはの射出した【ディバインシューター】は逃走する球体以上の速度を叩き出し、グングンと接近する。その様子を食い入る様に見つめ、撃墜出来ると思ったのかなのはに安堵の表情が垣間見られる。



 
 ――勢い良く迫る【ディバイン・シューター】が逃走する球体に着弾し、撃墜する……かのように見えたが、



 
 逃走していた球体が再び方角を90度変更し、見事なのはの射出した【ディバイン・シューター】から逃げおおせたのだ。その様を見て、なのはの表情に動揺が走る。しかし、闘いの場面でその様な隙は致命的である。逃走に成功した球体は、なのはに生じた一瞬の隙を見逃さなかった。注意力散漫となったなのはに今度は、一斉に逃走した球体が急接近する。急激に接近してくる球体になのはは気付いた。

 (だめ!今から操作したんじゃ【ディバイン・シューター】は間に合わない!)

 先程まで遠隔操作していた【ディバイン・シューター】から意識を切り替えて、今度は別の射撃魔法をなのはは準備した。




 ――迫り来る球体に悪あがきの射撃魔法をお見舞いするが、撃墜出来たのはたったの一つであり、残りの球体は全てなのはに着弾した。




 『――Mission Failed.(ミッション、失敗です。)――』 

 レイジングハートの機械音声が周囲に響き渡った。球体がなのはに着弾したことによって、辺り一面が煙に包まれていた。次第に煙が薄れていくと着弾したにもかかわらず、これといって被害も見当たらず防護服に破れた形跡も見られなかった。

 「くっ……失敗しちゃったね」

 『――Don't mind My master.(お気になさらず、マスター)――』

512とある:2012/03/25(日) 00:02:26 ID:JCTBz9tw0
なのははレイジングハートにフォローを貰った後に【誘導制御型】の射撃魔法のレクチャーを受けた。

 【誘導制御型】射撃魔法は射撃型魔法の中でも、機動・追尾能力にリソースを振った魔法となる。発射後に射出弾の方向制御・誘導が可能であり、熟練者にもなると多数の誘導弾を全く異なる軌道で放つ事が可能となる。高町なのはが使用した【ディバイン・シューター】はディバイン・スフィアと呼ばれる発射台を生成し、そこから誘導制御の魔法弾を発射する。

 ディバイン・スフィアという発射台をあらかじめ形成することによって、大掛かりな魔法陣制御やチャージを必要としないため、通常時における魔法陣を形成した状態での誘導弾と比べて弾速は遅いものの、発射速度は比較的速く連射も可能なのだ。更に付与能力としては自動追尾とバリア貫通の能力を保有している。

 複数の【ディバイン・シューター】を立体的に誘導操作し、高町なのは自身の射撃魔法の主力攻撃手段とすることで、防護服の防御性能の高さによって発生する弊害、機動力の低さをカバーするという目的があり、レイジングハートの実戦訓練メニューによって、なのははこの魔法を習得しようとしている。また、レイジングハートの想定している次段階のビジョンとしては、なのは自身が異なる種類の魔法を行使していても【ディバイン・シューター】の魔法弾操作が行えるようになって欲しいとも考えているのだ。

 ただレイジングハートが想定しているこのビジョンは、思念制御の中でも高等技術であり、魔法を習いたてのなのはには些か厳しいようにも見受けられるのだが、ある意味ではそれだけレイジングハートが高町なのはに対して期待しているのでは無いかとも予想できる。そもそもの話、なのはがこの【ディバイン・シューター】の習得をする事になった理由と言えば、黒衣の少女との戦闘がキッカケとなったと言える。

 黒衣の少女、金髪の少年との戦闘において特に高速機動戦闘を行う黒衣の少女によって、なのははその速度に翻弄されてしまい自分の持ち味と成り得る射撃・砲撃型の魔法戦を行う事が出来なかったのだ。レイジングハートの戦闘分析によって浮かび上がったその欠点を補う為に、自らの周囲を保護する誘導弾の習得は必須要素だったのだ。遠距離からの砲撃によって敵対勢力を撃ち落すことは、なのはの特性にを考慮しても理想的ではあるが、それ以外の局面、特に近・中距離戦闘においての自衛手段の取得はそれ以上に重要となってくるのだ。

 現段階では【ディバイン・シューター】を使用するには、詠唱を唱えなければ上手く制御出来ないのだが、後数週間も訓練を重ねれば詠唱を唱えずとも【ディバイン・シューター】の実戦使用が可能となる、とレイジングハートは予測している。何故このように予測しているかと言うと、術者である高町なのはにディバイン・スフィア形成のイメージが固まりつつあり、デバイスに魔力を流し込むだけで一通り完成しているからだ。

 正直な話、これほどまでに魔法習得が早ければ、単独で黒衣の少女を撃退する事も夢ではなく実現出来るのではないか、と思わせる程に高町なのはの魔法技術の習得速度が速いのだ。

 「あ、いけない。もうすぐ授業が終っちゃう」

 つい先程行った訓練内容をモニターし、反省点・改善点をチェックしようとした矢先に授業終了の時刻が迫っていることになのはは気付く。何を隠そう今は授業中なのだ。授業を受けているにも関わらず、何故なのはがレイジングハートと共に魔法の鍛錬を行っているのか?
授業を受けなくても良いのか?とお考えになる方もいるかもしれない。


 だが、ご心配に及ばずともなのははしっかりと授業を受けている。言い換えればこれもれっきとした魔法技術の修練なのだ。


 まだ詳しく語る事は出来ないのだが、なのはは【現実空間】つまり、我々が日常に過ごしているのと同じ時間の中では、きちんと聖祥大小学校3年1組で授業を受けている。では今なのはが訓練している場は何なのかと言うと、魔法によって形成・維持しているイメージトレーニングの空間、仮に【意識空間】とでも呼称する事にしよう。

 聡明な方は、現実と意識、二つの空間に神経を注ぐのは大変な労力なのではないかとお考えになるだろうが、魔法技術には複数の思考・行動を行う技法が存在し、魔導師はこの技法のトレーニングも行っている。より精錬した魔導師となるには必要な技法をなのは達は修練しようとしているのだ。

513とある:2012/03/25(日) 00:03:17 ID:JCTBz9tw0
「レイジングハート、お昼休みになっちゃうから午前の訓練はここまでにしておくね。モニターチェックは後でするよ」

 『――All light My master, Make yourself at home.(了解です、マスター。どうぞごゆっくり)――』

 レイジングハートに休憩を取る事を伝え、なのはは意識空間を主体にした意識から現実空間を主体とした意識に切り替えた。なのはの意識の切り替えと同時に授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。授業が終了したことに一安心し、なのはは複数行動によって書き写した自分のノートを確認した。いつも彼女が書き写しているノートの状態と寸分違わないので、上手に出来ていることにふと笑みがこぼれる。

 「なのは、お疲れ。お昼は何処で…って、随分嬉しそうだけど、何か良い事でもあったの?」

 授業が終了したので、友人のアリサがなのはの席に近付き昼食を摂る場所を何処にするか聞き出してくる。しかし、なのはの笑顔がこぼれる様子を疑問に思ったのか、アリサがその訳を尋ねた。

 「あ、アリサちゃん、いや、な…なんでもないよ。お、お昼は屋上で食べようよ。すずかちゃんやシン君も……って!?」

 アリサからの質問にタジタジとなってしまったなのはは、話題を逸らそうと昼食を摂る場所の相談を後方の席のすずかやシンに求めようとしたが…

 「あの…シン君?どうしたの?」

 「………」

 【心此処に在らず】といった状態、いやまるで能面のような表情で虚空を見つめるシンを心配したすずかの姿がなのはの目に映った。シンの様子に気付いたアリサがシンの席の隣に居るすずかに声を掛ける。

 「すずか〜、シンがどうかしたの?」

 「あ、アリサちゃん。シン君の様子がおかしかったから、呼びかけてみたんだけど反応が無くて…」

 「何よそれ?シン、具合でも悪いの?」

 なのはの席を後にしたアリサはシンの席に向かう。



 

   ―――――シン君!――シン君!!意識戻して!!――授業終わってるよ、シン君!!―――――





 なのはは咄嗟に念話で呼びかけるが、シンからのレスポンスが無く、舌を巻いてしまう。かなりトレーニングの方に意識が傾倒しているのでは無いかとなのはは気付き、必死にシンに対して念話で呼びかける。



   ――結局シンが意識を現実空間に引き戻したのは、なのはが念話で呼びかけ続けてから5分ほど経過した後であった――

514とある:2012/03/25(日) 00:05:01 ID:JCTBz9tw0
ちょっと字数制限がどれほどなのかを確認するために稚拙ではございますが、SSを投下させて頂きました。

それでは失礼します。

515名無しの魔導師:2012/03/25(日) 12:16:00 ID:jeqoy9cgO
これはまた、正確で想像もしやすい説明文章と作品展開。GJです。
近い内にSSを連載してくれると考えてもよいのですか?

516とある:2012/03/26(月) 13:46:02 ID:77QehKIkO
>>515
ちょっとスレの皆さんの反応が知りたくて投下させていただきました。

一応何話分かストックがあるので投下は可能です。

517名無しの魔導師:2012/03/26(月) 18:43:05 ID:yzWxdLAcO
続きあるのなら読んでみたいな。
なんか魔法と平行しつつほのぼのな学園物な雰囲気を感じる。

518名無しの魔導師:2012/03/26(月) 21:10:42 ID:jOp5OtjwO
なのは達とシンは幼なじみなんですかね?
何はともあれ自分も続きが気になります

519名無しの魔導師:2012/03/26(月) 22:06:30 ID:0Ybpbjh6O
オイラも見たい

520名無しの魔導師:2012/03/26(月) 22:42:28 ID:tafXo7mw0
おお新たな作品が投下されてた。
>>516今までにない設定なので楽しみです。

521とある:2012/03/26(月) 23:57:31 ID:77QehKIkO
興味を持ってくださる方が少しはいらっしゃるようなので投下をしようと思います。

但し準備に時間がかかるので4月から投下していく予定です。

522名無しの魔導師:2012/03/27(火) 16:43:46 ID:DaNgeZdk0
了解です

523とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 07:37:45 ID:S8IgLUc.0
四月になったので投下します。

524とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 07:46:30 ID:S8IgLUc.0

 ―春―、それは出会いの季節。

 社会という文化の枠組みからだと、入園式・入学式そして入社式などその場その場で異なる呼び方がされるであろう。

しかし、大事なのは呼び方などでは無くそれぞれのコミュニティー〈社会〉に存在〈あ〉る新たな出会いによって広がる人格の形成となるだろう。

 そして、この物語の主役〈ヒーロー・ヒロイン〉となる少年少女達もまた……

 これから紡がれていく物語の中で各々が、自身の回りで形成・変化していく、社会・世界の中で自身の役割を作り、確立していく事になるだろう。

 今、その《原初》の物語が幕を開く……

 ――――この《原初》の物語は桜が芽吹き、出会いの季節となる春から始まるのである――――




         魔導戦史リリカルSEED 1st〈Magical History Lylical SEED the first 〉「PHASE01」




 「……う…ん…」

 カーテンの僅かな隙間から漏れ出す陽光が齢僅かな黒髪の少年の肌を照らす。

春という季節に似合わない、まるで新雪のような肌色を持つ少年の意識は、その少しばかり漏れ出している陽光によって意識を覚醒させる。のそのそと上体を起こした少年は確認の為、備え付けてある目覚まし時計にて時刻を確認する。

 ―――現在、午前6時13分―――

 いつも起きる時刻より幾許かは早いが、こんなものだろうと少年が思考し、ベットから出ようとする。すると、自身の腹部に【ナニカガオカレテイル】違和感を感じた。だが思案し、内心溜息を吐きつつ自身に掛けている敷布を捲る。

 そこには暗い部屋でも把握出来るほどの栗色の髪をした少女が少年の隣ですやすやと寝息を立てていた。その彼女の華奢な腕が自分の腹部に当たっていたのだ。彼女の姿を把握するとまた一息、溜息を吐き彼女の腕部に手を置き揺する。
  
 「なのは、もう朝だぞ、起きろ」

 少年からかけられた声によって、少女―なのはの寝息が、起床を示すくぐもった声があがる。目を薄っすらと開き少年の姿を確認すると、花が咲いたようになのはは微笑み…

 「おはよう、シン君」

 と声を上げたのだった。しかし、

 「おはよう、じゃないだろ。一体いつになったら1人で寝てくれるんだ?」

 シンと呼ばれた少年からかかる言葉は少女の挨拶に対して辛辣な言葉だった。なのはからすればこの様に言葉掛けられる事は予想出来ていた。しかし、この言葉に対してなのはも負けじと抵抗する。無駄ではあるが。

 「だ…だって、1人で寝るのって凄く心細いし…それに春とは言っても朝はまだ寒いんだよ?」

 「心細いってのなら、近くにあるぬいぐるみでも抱き締めれば良いだろ?それに…」

 寒いのなら毛布を上から敷けば良いじゃないか。と返され、なのはが懸命に上げた抗議の声は大した成果は上がらなかった。そもそもなのは自身の主張として、4月とは言っても朝はまだまだ肌寒いのは事実であるし、ぬいぐるみを抱き締めろと言っても、人肌恋しくなるのも理由となる。

 人肌が恋しくなるのを解消の方法が無い事も無い、シンの他にも家族は当然いる。

 この少女の家の家族構成としては――父−高町士郎、母−高町桃子、長男−高町恭也、長女−高町美由紀、次女−高町なのは、そして養子として【1年前】から一緒に暮らしている、高町シン――という構成となっている。

 この家族構成の中で父母の間に割って入るのは正直勇気がいる、何故なら夫婦間は良好過ぎる位だし、食事の際でも時々呆れる程の仲のよさを見せ付けられる。年の離れた兄や姉を頼るのは正直気が引けるのものだ。更に、なのは自身【幼少時】に体験したある出来事が起因となり、「一緒に寝て」などと家族に申し出ることが出来ないのである。ここでは割愛することになるが。

525とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 07:48:39 ID:S8IgLUc.0

 黒髪の少年、シンと茶髪の少女、なのはとの間で日常茶飯事で行なわれている遣り取りをしていると、目覚し時計のアラームが鳴り響いた。何処にでもある時計だが、けたたましいアラーム音はユーザーを起床させる音声としては充分に機能するだろう。時計が指し示す時刻は現在午前6時15分。会話が中断したのをを皮切りにシンはベットから抜け出し、本日学校に持っていく荷物の準備をする。

 「まぁ、すぐには無理だろうけど、もう三年生なんだから1人で眠れるように努力しろよ?四年生になったら修学旅行なんていうのもあるみたいだからな。あ、それから…」

 洗面所は先に使っておいて良い、と矢継ぎ早に言いながらテキパキと学校に向かう準備を完了し、シンは自室を後にする。どうやら日課の早朝鍛錬を行っている兄−恭也と姉−美由紀を呼びに言くのだろう。部屋主が居なくなった部屋でなのははぽつんと呟いた。

 「……わかってるよ…」

 しかし、その顔には不貞腐れた感情がありありと表れていた。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 洗面所にて洗顔し、歯を磨き、髪を整え、それからリビングに入ったなのはの視界に映ったのは、キッチンにて朝ご飯の調理に勤しむ母親−桃子の姿であった。母親の姿を確認すると、なのはは元気よく声を出した。

 「おはよう、お母さん」

 かけられた声に反応した桃子は背後を振り返り、学校―私立聖祥大学付属小学校―の制服に身を包んだなのはを見やる。

 「おはよう、なのは」

 母性溢れる笑顔でなのはの挨拶に桃子は答えたのだった。

 それから、数分してなのはと同じ学校の男子制服に着替えたシンと家主の士郎、少し遅れて恭也と美由紀が入ってきた。どうやら、シンは恭也や美由紀を呼びに言っただけではなく、高町家の大黒柱の士郎の事も起こしに行っていたようだ。

 こうして高町家全員がリビングに揃い、テーブルに腰を掛けて朝食を摂るのであった。

 先程記した通り、高町家の家族仲は本当に良好である、取り分け夫婦間においては未だに(妻、高町桃子の見た目の若さも相まって)新婚夫婦と見間違うくらいの仲睦まじさである。食事の時でもそれは例外ではない、何故なら、子供が一緒に食事をしている最中でも食物を食べさせ合う行為が行われるのである。本当に仲の良い夫婦である。

 朝食を摂っている今でさえ、その行為は目の前で行われている。子供達の目からすればこの行為は慣れたものであり、長女の美由紀も真似して恭也に食べさせるのである。但し、恭也の表情には照れがあり、精神的なダメージが高い事が窺える。ここで考えて欲しいが、今現在高町家は養子のシンも含めて6人家族だ。しかもシンとなのは以外の4人は食べさせ合っている光景がある。この光景を見て、なのはにも思うところがある。つまり…


 (…シン君にも…あーんさせて食べさせてあげたい…!!)


 …というように考えている。しかし、このように考えていても今まで一度も成功した試しがない。毎朝のらりくらりと流されて、学校に向かう時間になってしまうのだ。だが、今朝はまだ時間に余裕もあるし、オカズの量も充分ある。食べさせる行為を行うなら今この瞬間しかチャンスは無いのである。

 「…シン君!」

 大きくは無いが意を決した声で、なのははシンに声を掛ける。

 「……何だよ」

 声を掛けてから数拍置いてシンからの返事が返ってくる。顔には出していないが、内心は面倒臭いと考えている事だろう。なのは自身が醸し出す様相にこの時ばかりは、他の父母も兄姉も食事を摂りながら、様子を窺っている。

526とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 07:50:18 ID:S8IgLUc.0

 (簡便して欲しいな…毎朝毎朝)

 正直な話シンには、なのは自身が回りの空気に当てられて自分もやってみたいというのが感じ取れる。そのような事に付き合わされるのは御免だからこそ、毎朝色々と誤魔化しているのに一向になのははそのことについて察してはくれない。まぁ、9歳児にそのような機微な反応をしろというのも無理なものであるが。

 (どう誤魔化してやろうかな……ん?)

 本日もどの様にして、なのはからの恥ずかしい行為を強要されるこの事態を回避しようかと考えていると、なのはの「口元」に着目した。
 これは,この事態を回避するにはうってつけだと。

 「なのは」

 突如、シンから声が上がり自身の口元を突いた。何故そのような行動を取ったのか分からないなのはは首を傾げた。その仕草に一種の愛玩動物に似た何かをシンは感じ取ったのだが、さっさとこの状況を打破したいシンには些細な事である。

 「御飯粒、付いてるぞ」
 
 「御飯粒って……ふぇぇぇっっ!!??」

 所謂、お弁当付けて何処行くの?というものだ、シンの指摘に顔を真っ赤にして慌てふためき、必死になって御飯粒を探し求める。そしてなのはの意識が「シンに食べ物を食べさせる」ことから「口元にある御飯粒を探す」ことにシフトしたのを見計らって、シンは残りの食事を片付け、それから使った食器をキッチン内のシンクに置いた。

 リビングを出ようとしたシンはなのは達がいるテーブルの方を振り返り…

 「なのは、バッグは俺が持ってくるからさっさと朝食済ませちゃえよ?早く出ないとバス行っちゃうからな」

そう言い残しシンは2階に上がる、言ったとおりにシンとなのは二人分の荷物を持って来る様だ。

 「うう…」

 なのはが唸る、今日も「シンにあーんして食べさせる行為」は失敗したようだ。因みになのはは父母、兄姉に迷惑が掛からないように一日一回というルールを自分に課し、行っているのである。

 「今日も駄目だったわね」

 母・桃子が慰めの声を掛けるが時既に遅し。なのはは残りの食事を残念そうに口に運ぶのであった。

 因みに、御飯粒はシンが指し示していた左頬側ではなく、右側に付いていたのだった。

527とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 07:51:25 ID:S8IgLUc.0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 「…シン君、さっき御飯粒付いてたって言ってたけど、指差してたところ違ってたよね?」

 仏頂面でなのははシンに抗議する、内容としては先程の頬についた御飯粒の件に関してである。

 「わかり易いように御飯粒付いてる位置を指差したんだけどな…」

 「あんな指の差し方じゃ勘違いするよ!左の方差してたから左にあるかと思ったのに!!」

 まいったな、とシンは言葉を呑み込んだ。恥ずかしい行為を回避する事には成功したのだが、なのはが癇癪を起こしてしまったのだ。このような状況に陥ってしまった場合のご機嫌直しのパターンとしては3通りあるのだ。

 一つは高町家で経営している喫茶「翠屋」の特製シュークリ―ムを奢らされる。二つ目になのはとシンのクラスメートの中でも特に親しい少女もとい、親友の二人に言いふらされる。最後は父・士郎がコーチ兼オーナーを行っている少年サッカーチーム「翠屋JFC」の助っ人をやらされる。

 一つ目と二つ目の解決パターンはなのは自身にメリットがある事はシンは理解しているのだが、三つ目においては何故助っ人をしなければならないのか高町家で1年ほど過ごしても、シンには未だに理解できない。だが一番楽なパターンではある。身体を動かすのは苦にはならないし、良い気分転換にはなる。

 次に楽なパターンは特製シュークリ―ムを奢る事だ。場合によってはなのはの親友の二人にも奢らないとならないが、金銭面での解決なので上手くやり繰りをすれば問題は無い。

 しかし、二つ目の解決パターンは一番好ましくない、主に精神的な面で。女性を敵に回すのは末恐ろしい事は重々承知しているのだ。なのはに対しての今後の対応について先程の3つの選択肢から即座に対応策を練り上げ、シンは発言を試みる。

 「…今度翠屋のシュークリーム奢るよ」

 「…アリサちゃんとすずかちゃんの分忘れないでね?」

 「分かった」

 真っ先になのはのご機嫌直しのためにシンが選択したのは、翠屋のシュークリームを奢る事だった。友人たちにも奢らなければならないが、3個程度であれば金銭的にもそこまで痛まないし、なのはの機嫌も良くなるので一番楽な方法だ。 

 「1人につき3個だからね」

 「な?!えっ!?…分かったよ…」

 合計9個もシュークリームを奢ることになるとは予想もしなかった、シンからすれば手痛い出費にはなるが、言いふらされて余計な事で気に病むこともなくなったのでそれで良しとして納得するしかないだろう。決して、なのはの気迫に気圧された訳ではないのだ。なのはとの会話【取引】をしている内に学校に向かうバスが来た為、シンはなのはと二人で乗り込んだ。そして、そこには…

528とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 07:52:19 ID:S8IgLUc.0

 「なのは!シン!こっちこっち!!」

 「なのはちゃん、シン君、おはよう」

 バスに入るシンとなのはに突然掛かる声、この特徴的な声はシンには覚えが在り過ぎる位なのだ。乗り込んだバスの最奥部…シンはそこに見知った二人の姿を確認した。

 腰元まで蓄えた長髪、茶髪がかった金髪、薄緑色の瞳が特徴の少女―アリサ・バニングス。

 濃紫色の長髪に一際目立つ白いカチューシャ、群青色の瞳が特徴の少女―月村すずか。

 二人ともなのはが小学一年生の頃から親しくしている少女達であり、現在小学三年生であるシンとなのはのクラスメートだ。

 この4人の中でのリーダー格はアリサであり、クラスでも何かと行事の際にはクラスの舵取りを行ってしまう程に真直ぐな心情をした子である。ただし、暴走しがちになる事も稀にある。そのような時はブレーキ役を務めるのがすずかである。おっとりして物静かで相手の心を汲むことが大変上手な出来た子である。

 意外に頑固ななのはと真直ぐなアリサが喧嘩した時など、すずかは良い緩衝役にもなる。

 (…何で今日に限ってバスに乗ってるんだよ)

 このようにシンが考えるのも無理は無い、普段アリサとすずかの二人はバニングス家に仕えている鮫島という執事に運転手を務めてもらって一緒に登校している。しかし、時々鮫島からの送迎を断って二人だけで登校することが極稀にある。そして、そのような日に限ってなのはと喧嘩していたり、シンとなのはのどちらかが癇癪を起こしている状況が重なるのである。言うまでもないが、今朝の朝食の一件でなのはは大分機嫌を損ねているため、今の状況はシンにとっては好ましくない状況となる。

 (まーた何かしでかしたわね。シンの奴)

 (本当に二人とも、良く飽きないね)

 車内に入ってきたなのはとシンの表情を見て、「ナニカ」があったと確信するアリサとすずか。なのはとシンの二人は何かがあると本当に表情に表れ易くなるのだ。今もそうである、シンは嫌なタイミングで出くわした、といった雰囲気が表情からありありと伝わって来るし、なのはは相当おかんむりな様相を呈している。

 大体この二人は根っこの部分でも似ているのだ、言い出したら絶対譲らない頑固なところ等が似通っている。そのため何かと衝突しがちなアリサは、どうしても解決しない時は譲歩するといった、大人な対処法を習得出来たといっても過言ではない。

 「二人ともそんな所でしかめっ面してないで、早くこっちに来なさいよ!」

 バスの入り口付近で固まっていても迷惑になるだけだと、アリサの一喝によってなのはとシンの二人はアリサ達の席付近に歩き出す。アリサとすずかが着席している座席の前まで来ると、突然…

 「二人とも朝っぱらから喧嘩してるみたいだけど、私もすずかもその事について聞き出したりしないわよ?」

 良いわね?と続けたアリサの言葉に、愚痴を聞いて貰えなくてショックを受けているなのはと助かったと言わんばかりに表情を明るくするシン。この二人は本当に分かり易い。

529とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 07:53:13 ID:S8IgLUc.0

 「そんなアリサちゃ「Be Quiet!」…はい」

 抗議の声を挙げようとしたなのはを無理やり黙らせるアリサ、有無を言わせる気は無いようだ。

 「私は児童相談所の職員じゃないから、あんたたちの喧嘩の原因なんて聞くつもりは無いわ。毎朝毎朝惚気話を聞かされる私やすずかの事を少しは考えなさい」

 溜息混じりにアリサからとんでもない言葉が吐き出された。

 「なっ!何言い出すんだよ!!」「の、惚気てなんかいないよ!!」

 「黙りなさい」

 「「…はい」」

 「ふふ、息ぴったりだね」

 突飛なアリサの物言いに今度はシンとなのはの二人で声を挙げようとしたが、それもまた無理やりアリサに黙らされる始末、シンとなのはの返事のタイミングがぴったりだった為、すずかに笑われてしまった。

 「大体何時もの事だから、何かしらのペナルティーを考えてあるんでしょう?それをさっさと言ってこの話題を終了」

 その方が良いでしょう?とアリサから提案された為なるほど、とシンは頷く。確かに蒸し返すにしても心地の良い話題ではないし、先程のなのはとの交渉でペナルティーの方は確りと決めてあるので、何の問題も無い。渡りに船とはこの事だろう。

 「あっ…ああ。翠屋のシュークリームを三人に三個ずつ奢る事になってる」

 アリサの提案に即答するシン、それに対してアリサは…

 「そう、でも一人で三個は多いわ。持ち帰ってママと食べるわ。パパは甘いのが苦手だから二個にして頂戴」

 とっととこの状況を終了したいが為に簡潔に個数まで提示するアリサ。その手際の良さには感服する。

 「私は後でお姉ちゃんやノエルとファリンと食べたいから四個必要になるかな…。あ、でもシン君に悪いから、私の分は良いからお姉ちゃんやノエルとファリンの三個分を貰おうかな」

 家族の分量を考慮して自分の分を遠慮するすずか。思いやり溢れる良い子である。

 「あ、それなら今私が差し引いた一個をすずかの分にすれば良いじゃない。そうすれば数も余らないし、すずかだけ遠慮するなんて必要もないでしょう?」

 すずかの発言に対して、アリサが合いの手を入れる。確かに今しがた、アリサは二個で充分と言っており、アリサは四個必要だと言っていた。本来なら二人合わせて六個分なので、その中で個数を調整するのならば無駄は省かれる。

530とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 07:53:50 ID:S8IgLUc.0

 (…そうだ、これなら…)

 ここでシンは、ペナルティーを軽減する打開策を思いついた。

 「なあ、なのは」

 「ふぇ?…なに?」

 やけに明るい口調で話し掛けるシン。それに対して若干困惑気味に反応するなのは。

 「アリサもすずかも家族の分を考えているなんて、偉いと思わないか?」
 
 「あ、そうだね」

 「…ところで、なのははなんで3個も必要なんだ?」

 「……あ」

 正直な話なのは自身もシュークリームは3個も必要ない。1個あれば充分なのだ。しかし、朝食の一件で怒っていたため、冷静に考えず勢いに任せて「3個」と言ってしまったのだ。

 それに実家で作っているシュークリームである。美味しい事は確かなのだが、多く食べたいかと言われるとそうでもない。その事を自覚した途端になのはは言葉に詰まってしまった。

 「…えっと」

 「どうなんだ?」

 真剣なお面持ちでなのはを見つめるシン、その顔は切羽詰まっている。それもそのはずである。ここで個数を減らせる可能性があるのはなのはだけであり、それによって支払う金額も変わってくる。だが、実際購入するのは高町家が経営している喫茶店の特性シュークリームである。お願いすれば、お金を払わずに貰う事も出来るであろう。

 しかし、シンとしては養子として御世話になっている身であるし、しかも私立学校に通わせて貰っているのだ。元々三人の息子娘を抱えているのに、一体何処にそんな余裕があるのだろうと思うこともある。だからこそ、如何に些細なことでも、高町家に負担を抱えさせる様なことはしたくないし、少しでも負担を減らせるように放課後、翠屋の手伝いをしているのである。

 だが、そんなシンの思いが届いていないのか、士郎や桃子は手伝ってくれた分としてお駄賃を与えてくれるのである。お駄賃目的として手伝っている訳では無いのにも関わらず。しかし、折角頂いたお駄賃を無駄にする訳にはいかないので、貰った分は全部貯金箱に貯めている。大体使用する手段としては「ペナルティー」において、なのは達三人に何かしらを奢る時に使用する程度であり、奢る頻度も多い訳ではないので問題は無いのだが、金額を少なくするに越した事はない。

 今、こうしてなのはを問い詰めているのは、そのような意味合いが込められているのである。

 「し…」

 「し?」

 「シン君の分?」

 返答に窮していたが疑問形で返されては反応のしようがない。現にアリサに至ってはこめかみを押えているし、すずかも半笑いである。

 「それなら、俺の分は要らない。で、なのはは2個も食うのか?」

 「……1個で充分です」

 交渉は成立した、証人としてもアリサとすずかがいる。当初の予定では9個の購入になる予定だった、アリサ達と思わぬ遭遇に会ったが特に主だったトラブルが無く、会話が順調に進んだのだ。その結果、交渉も常より早い段階で行う事が出来たため、当初9個購入になる予定だった翠屋のシュークリームが7個の購入予定に抑えることが出来たのである。

531とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 07:54:40 ID:S8IgLUc.0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 ――――私立聖祥大学付属小学校――――


 シンやなのは達が通う小学校で海鳴市にある私立学校の一つである。学校法人聖祥学園の一部であり、小学校から大学までエスカレーター式の私立学校となる。求められる学費や学力も他の私立学校と比べると、頭一つ抜き出ている事でも有名である。尚、ここの小学校の制服は白を基調としたものであり、学園特注の制服となる。この制服の人気も高いため、学費・学力にも関わらず、毎年多くの受験生が集まる。

 この付属校では小学校の内は共学なのだが、中学生以降大学に至るまでは男子校・女子高と別れるのも特徴だ。尚、送迎バス等もあるが、徒歩または自家用車で送って貰う生徒もいる。そのため、駐車場スペースが広く設けられている。また、公立の小学校と異なり校内の整備も整っており清掃に関しても、専門の清掃員と契約を結んで清掃に従事して貰っているため、目の届かないところでも隅々まで行われている。最も、生徒も教室等の清掃は行うため、清掃員の人々はその他の場所を入念に清掃する。しかも、清掃を行う時間帯は主に授業時間なので人目にも付きにくい。

 そんな清掃・整備の行き届いた聖祥大付属小学校の屋上で、シンとなのは、アリサやすずか達は昼食を摂るために弁当を広げていた。

 「普通、小学校三年で未来の夢なんて決まってる訳ないじゃない」

 アリサが弁当の中身を消費しながら、ふと呟いた。その内容については昼休み前に行われた授業の内容についてである。

 内容といっても単純明快であり、「将来の夢」について考えて用紙に記入する事である。確かにアリサの言うとおり小学三年生、十歳にも満たない子供のうちから、自身が今後の人生をどうしていくか?などということは考えつかないのがほとんどである。

 「うん…でも、アリサちゃんとすずかちゃんはもう決まってるでしょ?」

 アリサの言葉に対して、なのはが反応する。

 「でも、全然漠然としているわよ。パパとママの会社経営をあたしもやれたらいいなってくらいだし」

 齢9歳という年齢で自身の父や母の会社経営を手伝いたいという考え、その発想に至れるアリサ自身の器量は相当のものであるが、如何せん仕事の内容そのものを理解しかねるのでシンは首を傾げた。

 「わたしもだよ。ぼんやりと出来たらいいなって思ってる。機械系とか工学系とか好きだからそういうのが出来たら嬉しいなって」

 アリサに続き、すずかも自身の興味ある分野を挙げている。この若さで自身の方向性が理解出来ているのは中々のものであろう。
 
 「二人とも良く考えてるな」
 
 「そうだよねぇ」

 アリサとすずかが考えている事を実際に耳にして、シンとなのはは思わず唸る。タイミングも見事にピッタリである。

532とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 07:57:46 ID:S8IgLUc.0
 「大体あんたたちには翠屋継ぐって大事な未来が待っているじゃない!」

 唐突にアリサが物凄いことを言っている、高町家が経営している翠屋を継ぐ。しかも、御丁寧に【あんたたち】となのはとシンを一緒くたににしている。余りにもあっけらかんと言っているため、なのはもシンも硬直してしまっている。

 「なんでいきなりそんな結論になるんだよ…大体、人の将来を勝手に決めるな…」

 数十秒ほど固まっていたシンが漸く復帰し、弱々しくではあるが抗議の声を挙げる。正直何を言っているのか理解出来ない様子だ。

 「あんたなんて、なのはの家に御世話になってから欠かさずに翠屋手伝っているじゃない?それになのはってよく翠屋の価格表やPOPを作成したりするし、あんたたちが翠屋の二代目になって継いじゃえば、士郎さんも桃子さんも安心するんじゃないかと思ったんだけど?」

 アリサの言うとおり、確かにシンは養子として高町家に御世話になってからは欠かさず翠屋の手伝いに精を出している。だが、それは少しでも世話になっている恩を返したい一心であるし、自身の事で負担を掛けさせたくないから、という理由から来るものだ。いずれ自立出来る程に成長したら、御世話になった分の恩を返し、一人暮らしを行おうとも考えている。

 「あのな、今は御世話になっているけど自立出来る位の年齢になったら、一人暮らしして恩を返すって予定を立ててるんだ」

 だから勝手に人の人生プランを決めないでくれ、とシンは言い放つ。しかし、アリサから言わせれば具体性もなければ、それこそ計画性も無いのに突拍子も無い事を言うものだと思案している。

 「まぁ、シンも御大層なことを言っているけど計画性も具体性もないわね。それじゃ私たちと同じよ。私やすずかだって他にも色々興味津々なことはあるし、何にも決まってないのと同じよ」
 
 だから、なのはも気に病むことじゃないわよ。とアリサはなのはに言い切る。だが、当のなのはは心ここにあらずといった面持ちで返事を返した。しかし、すぐに立ち直り昨日視聴したテレビ番組の内容に話題を切り替えて、昼休み時間が終わるまでその話題で話し続けた。

533とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 07:59:05 ID:S8IgLUc.0

 ――――――――――――――――――――――――――――――高町なのはには現在深刻な悩みがある。



 なのはの心の中には漠然としたものではあるが、「何かをしたい・やらなければならない」という気持ちに支配されているのである。それは焦燥である。ここで高町なのは、という少女について語らせて頂く。


 なのはの家族は健在であり、シンという同い年の、非常に近しい存在がいる。

               
 学校生活においても、いじめに遭ってる訳でもない。友人にも恵まれており、充実した日々を送っている。


 そして、放浪者・家無き子などでもない。明日の寝食に気に病む事無く、すくすくと成長している。


 だからこそ【おかしい】のである。―――【自身の心の中、胸の奥を占める、何故か寂しくなるこの感情が】


 寂しい、というのも正しい言い方では無い。もっと複雑に絡みあった【ナニカ】が在[あ]るのだ。寂しくもあり、悲しくもあり、そして苦しくなるような、行き場の無い気持ちが自身の心[胸の奥]を支配する。だが、この心の中に蔓延る【ナニカ】を解消する唯一の方法があることをなのはは理解している。



 ここ数年間で唯一、シンと一緒に居る間【だけは】この心の奥を占める複雑な【ナニカ】が緩和されるのである。



 但しなのは自身、いつから自分の身体の奥に在る【ナニカ】を自覚したのかは覚えていない。ある日、突然気づき始めたのである。あまりにも苦しくなるこの【ナニカ】は、【シンだけ】が和らげてくれるのである。だからこそ執拗に、なのははシンとスキンシップを取りたがる。一緒に寝たり、食べ物を食べさせ合おうとするのも実はそのことが起因である。シンとの位置が近ければ近いほど、自身の胸の奥の苦しみが和らぐからだ。



 だが、悲しいことにシン自身はなのはが自分に固執するのを良しとしない、ことある事に自立を促して来るのである。先程シンが語っていたこと――いずれ自立し、高町家を出て行き恩を返す。それが真実であるのならば、この上なく恐ろしい事である。勿論なのはとて利口であるし、シンの言っていることは理解出来る。しかし、自身の身体がその事実を拒むのである。



 【ナニカ】に苦しめられる身体を、唯一癒してくれる存在が間近に居るのに、手を伸ばすなという方が無理なのである。例えれば、自身を満たしてくれる媚薬の様なものである。だが、シンは大切な家族であり自身に最も近しい存在である。だから嫌われるような事はしたくない。その想いにも心を揺れ動かしているのである。



 ならば、シンに変わる【ナニカ】を和らげてくれる様な存在や【ナニカ】を忘れさせてくれる様な自分にしか出来ない事を探すしか方法は無い。そう、高町なのはは焦っているのである。この自分の中にある【ナニカ】を忘れさせてくれるほど、自分が夢中になれる【何か】を探し続けているのである。

534とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 08:04:58 ID:S8IgLUc.0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 ――――海鳴臨海公園――――


 海に隣接している臨海公園であり、【自然と人工物の調和・融合を目的とした趣のある公園】というテーマの下、海鳴市が地元企業と提携した計画の下建設したものである。観光シーズンやクリスマスには夜間ライトアップされることで有名であり、市内随一のデートコースとして情報誌にも掲載されるほどである。広大な敷地の中には、様々な世代に利用出来るように宿泊施設が完備されており、他にも展望レストラン、水族園、球戯場やウォーキングコースにサイクリングコース、観察湖、人工池も設置されており、人工池ではレンタルボートの貸し出しも行われている。

 そんな広さを誇る公園のウォーキングコースをシン達は闊歩していた。始業式をつい先日終えたばかりで本格的に授業を開始するのが週明けになるため、早めの放課後をこの海鳴臨海公園を探策することで時間を潰していたのだ。

 「やっぱりあの屋台のたい焼きは美味しいわね」

 「うん。そうだね」

 先程屋台で購入したたい焼きを食べつつ、今は周囲の自然を堪能しながら歩いている。行儀作法としてはお世辞でも良いとは言えないが、この自然溢れる中で美味しい物を食べるのも中々楽しいものなのだろう。

 アリサ、なのは、すずかは雑談をしながらシンの一歩先を歩いている。話の内容としてはたい焼きの中身について語っているようだ。つぶあん派のアリサ、こしあん・クリーム派のなのは、すずかは割と好みの味が多いようだ。因みにシンが今食べているのはたい焼きとしてはかなり珍しい【カレー味】だ。このたい焼きを購入した屋台は味のレパートリーの豊富さでも有名であり、甘い物が苦手な人にも買い易いように中身の工夫がされているのだ。

 「それにしても、この先って何かあったか?」 

 ふと思いつきシンがなのは達に声をかけた。探策という名目で散歩をするのは結構な事だが、行く場所が解らなくなって迷子になってしまっては本末転倒だろう。

 「あ、ちょっと待ってね。…えっと」

 シンの言葉に反応し、すずかが海鳴臨海公園の広域詳細ロードマップを広げる。今まで通ってきた道筋や目印等の確認をした後に…

 「この先に行くと、人工池に着くみたいだよ。確かレンタルボートも借りれるみたい」

 「人工池…ああ、確かカップルばっかりのところか」

 シンの言ったとおり、人工池はカップルの利用者が多いのが特徴的なスポットだ。その要因としては、やれ特定の行動をすると永遠の愛が約束されるだとか、意中の人と結ばれるだの、正直背中がむず痒くなるような根拠の無い噂話の特集記事が原因だろう。

 大抵何処の出版会社も購買読者を募る為にありとあらゆる手を尽くす。海鳴臨海公園の特集記事が組まれた際に人工池の特集も少し組まれていた。しかし、内容としてはある成功の一例を上げてそれを皆その様に行動を取れば、同じ様に成功することを揶揄したものだったはずだ。但し、姉・美由紀が読んでいた雑誌の内容をシンは話半分に聞いていた程度なので詳細に覚えては居ないのだが。

 「あ、見えてきたよ。…あれ?」

 人工池が見えて来たためなのはが声を挙げたが、そこには違和感があった。レンタルボートの貸し出しを行う小屋はボロボロであるし、ボートも数十隻あるが、その中の半分ほどは船体の中腹部分から折れ曲がっているものもある。そしてそれらの状況を纏めている警察官の姿が確認出来る。ここで何かしらの[事件]が発生したのだろうか。


 (…この光景…確か…どこかで見たような気がする)


 シンは今自分達が見ているこの凄惨たる光景に見覚えがあった、だが同時に有り得ないとも思った。

535とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 08:05:42 ID:S8IgLUc.0


 ―――――――――――何故なら、この光景は自分が昨夜から今日の朝にかけてまで見た【夢】の光景にそっくりなのである。

 

 【夢】の内容としては以下のようなものである。



 ――――見上げる空が、不気味な深紅に染まり上がった世界、自分達の日常では在り得ない現実から隔絶した光景の中、一人の少年が疾走しているのだ。その容姿は日本人とは異なる。その少年の容姿は、茶髪がかった金髪に翡翠色の瞳をしている為、シンやなのはの友人のアリサに近いであろう。



 ――――その少年は異形な何かを追いかけていた…どのような【物/者/モノ】かは把握し辛いのである。一言で言うのであれば、【ずんぐりむっくりした黒い影】を追いかけているのである。勿論ふざけてこのような表現をしている訳ではない、紛れも無い事実なのだ。実際に黒い影が凄まじい速度で疾走しており、少年から逃走している様に見えるのである。少年は息を切らしているが、それでも黒い影を逃すまいと全力疾走している。

 

 ――――黒い影が一際高く飛び上がって森を抜けた。少年もそれに続いて森を抜け、舗装された道に躍り出る。その先には小屋と数隻のボートが浮かぶ池があった。そしてその池の水面の上には空を浮遊する黒い影が存在していたのだ。 


 
 ――――肩で息をしながら少年が黒い影を見据える。黒い影が少年の方を振り向く、黒いだけの影かと思われたが、両の目が付いており口の様な物も見受けられる。一方少年は、手に持っていた赤い球体の宝石を向けた。宝石が少年の手から離れ、重力に従って落ちる……事は無く、宝石は空中に浮かび上がった。



 ――――少年が聞き取れない程の音量で何かを呟くと、宙に浮いている宝石が輝き始める。輝きが強まると同時に前方に円形のカタチをした、紋様がビッシリ書かれた何かが出現した。少年の瞳と同じ翡翠色をしたその円陣が、強い輝きを放つ。その強い輝きを黒い影が浴びると突如、青い菱形の宝石が浮かび上がった。黒い影が翡翠色の輝きを受けると、苦しみ始める。呻き声を上げながら、その黒い影は両目を限界まで見開く。黒い影の赤い両目が少年を捉えると、少年の強い輝きに打ち負かされないために自身の身体を巨大化させた。



 ――――妙なる響き、光となれ。許されざる者を封印の輪に――――



 ――――Preparing to seal――――



 ――――黒い影が巨大化したことに警戒した少年が、まるでRPGに出てくる魔法使いが唱える呪文の様な言葉を発する。すると、空中に浮かんでいる宝石に文字が浮かび上がり、宝石から声が響く。すると、黒い影が突然雄叫びを上げ池面のギリギリを滑る様に滑空する。黒い影は水を巻き上げながら、少年に向かって猛スピードで突撃を敢行してくる。そして少年の前方に出現している円陣に黒い影が衝突する。



 ――――円陣と黒い影が衝突すると、辺り一面、落雷が発生したかのような轟音が響き始める。翡翠色の円陣と黒い影の間には、激しい光が発生し、青い稲光が放たれ木々や建物を破壊していく。



 ――――ジュエルシード、封印!!――――



 ――――翡翠色の円陣を発生させていた少年がその言葉を発すると、今まで放たれていた光の中でもより一層激しい光が放たれたのである。

536とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 08:08:13 ID:S8IgLUc.0

 ここまでが、シンが見た夢の内容である。しかし、朝はこの夢の内容を思い返すことは無かった。何故なら、なのはがシンのベットに潜り込んでいるというトラブルが発生していた為だ。夢の内容を思い返す事無く、なのはに注意したり、朝に自分が行う日課や役割――兄・恭也や姉・美由紀の鍛錬を中断させて学校に行く用意を手伝ったり、父・士郎を起こしに行ったりする等――を実行していたのである。


 だが実際にこの凄惨な光景を目の当たりにすると、鮮明にその夢の記憶を想起することが出来る。確かに、あの夢の中で発生した戦闘と目の前の光景は似通っている。但しある一点――紅い不気味な色をした空模様――は一体どういう原理であるのだろうか?実際にこの場所で、あの夢の内容と同じ事が行われていたとしたら、あの不気味な空の説明が付かない。

 「あの!ここで何かあったんですか!?」

 シンが思考しているとアリサが警察官に向かって、この惨状の理由を聞きに行っている。しかし、警察もこの惨状についての目撃者が居ない為、状況を写真に収めたり、書類に記入している。そのため、特に原因が判っている訳では無いとの事だ。

 アリサと警察官が話し込んでいる様子を窺っていたシンに突然…



 ―――――――――――――――――――――……タスケテ――――――――――――――――――――――



 (…!?な…何だ!?)

 まるでシン自身の意識に直接語り掛ける様に、言葉が走ったのである。余りに突然の事であった為、シンは驚愕し、周囲を見回した。

 しかし、周囲にはシンを除くと背後になのはやすずか、警察の話を聞いているアリサ、それと数人の警察官が居る程度であり、声の主――恐らく同年代の男の子の声――は見付からなかった。

 「な、なのはちゃん!?」

 声の主を探しているシンの耳に、驚いた声を上げたすずかの声が届いた。背後を振り返ると、なのはがウォーキングコースを外れた林道の方に向かって走って行くのが見えた。

 「なのは!?すずか、一体どうしたんだ!?」

 「わ、わからない。突然走って行って」

 すずかに問い詰めてみたが、どうやらすずかにも判らない様であった。埒が開かないため、なのはを追うしかない。そう判断するとシンも林道に駆けて行った。

 「え?…ちょっとシン!?」

 背後からアリサの声が掛かるが、振り向かずにシンは林道を疾駆していく。なのはが走って行った林道を10M程駆けると、しゃがみ込んでいるなのはが見付かった。
 
 「なのは…どうしたんだ?そんな所にしゃがみ込んで」

 「あ…シン君…この子…」

 なのはが振り返り、小動物を示した。どうやら怪我を負っているらしく、ぐったりと倒れている。

 「なんだ?その小動物…」

 近所では犬猫の類はよく見掛けるが、なのはが手元に抱き寄せている小動物をシンは今まで見た事が無かった。学校や市営の図書館であれば動物図鑑等で調べられるであろうが、今はこの動物の種類云々よりも動物病院に連れて行くのが最善だろう。そのようにシンが考え込んでいると、シンより数十秒遅れてアリサとすずかがなのはの元に辿り着いた。

 「あんたたち、いきなり突っ走って一体何事よ!」

 アリサから若干苛立ち混じりに問い詰められるが、なのはの抱いている小動物を確認するとその面持ちは成を潜めた。

 「それってフェレット…?」

 すずかの呟きによってこの小動物の種別が「フェレット」と云う事が判明した。しかし、今はそれどころでは無い。急いで獣医に診て貰う必要があるだろう。大分衰弱している様であり、これ以上この場に留まるのも得策ではない。

 「それより、早く獣医さんに診て貰った方が良いだろ?見た感じ結構拙いんじゃ無いのか?」
 
 「そ、それもそうね。此処からなら、確か槇原動物病院が一番近いはずよ!」

 「そうか、それなら其処に行こう。アリサ道案内頼めるか?」

 高町家自体が喫茶店を経営しているため、今まで動物・ペットの類を飼育した経験がシンやなのはには無い、だからこそこのような時は家でペットを飼っているアリサやすずかに道案内を頼むほか無い。二つ返事でアリサが了解すると、シンを含めた4人は槇原動物病院へと向かった。



 ―――――そのフェレットが昨夜の夢に出て来た少年と同じ様な宝石を首輪から下げている事にシンは終ぞ気付かなかった。

537とある支援の二次創作:2012/04/01(日) 08:17:09 ID:S8IgLUc.0
ひとまず第一話の前半部分だけでも投下してみました。

正直初めて投下するので文章力などは低レベルなのでご容赦ください。
本来絵を描くのが性分なのですが、何を血迷ったのかSSを書き連ねてしまっています。

ひょっとしたらエタッてしまう可能性も無きにしもあらずといった状態なのもご考慮ください。
そして挿絵といいますか久々に色付けした落書きもついでに載せます。

私の稚拙な表現力を少しでも補っていければと思い、今後も描く方針です。

http://download5.getuploader.com/g/seednanoha/65/PHASE01-1.jpg
http://download5.getuploader.com/g/seednanoha/66/PHASE01-2.jpg

何でパソで仕上げないんだと思う方もいらっしゃるとは思いますが、三重の方で働いている関係で描画ソフトを搭載したパソコンを持っていけず、仕上げることが出来ないという憂き目に遭っています。

538名無しの魔導師:2012/04/01(日) 12:38:44 ID:qYhs4RA6O
GJ
まさに投下キターーーって気分です
これまでに無い新しい雰囲気と文章も読みやすく続きが楽しみです

539名無しの魔導師:2012/04/01(日) 21:41:04 ID:aJqpGVgwO
乙です!続きが待ちきれないぜ

540名無しの魔導師:2012/04/01(日) 23:51:58 ID:Olw2vixI0
絵の方もとても上手で凄いとしか言いようがないっす

541名無しの魔導師:2012/04/05(木) 09:01:59 ID:6QZrG7q2O
亀ながらGJ
押絵のショタシン達も可愛くてこれからにも期待してます

542名無しの魔導師:2012/04/06(金) 23:25:32 ID:EprjBolgO
亀ながら乙です
文章が読みやすく続きが楽しみです

今まで新作が来ていることに気付かないとは
このダマラム一生の不覚

543名無しの魔導師:2012/04/07(土) 14:16:31 ID:c1Np6BgIO
乙、久々に来たら面白いのが来てた!

544名無しの魔導師:2012/04/07(土) 23:36:52 ID:pSDaM7a60
話も面白いし、絵も素晴らしいです! 普通にラノベでこんな感じの挿絵ありそうだし。

しかしアリサとすずかは頻繁に「あーんさせてくれない」だのそういう話を聞かされるのだから、
そりゃ惚気話以外の何物でもないなww

545とある:2012/04/12(木) 12:51:01 ID:5aXBcAZ.O
結構レスが書かれていて大変恐縮です。

個別のレス返答はひとまず後回しにさせていただきます。

絵の方を2枚ほど描き上げ、本文を調整してから投下しますので、数日ほどお待ちください。

546名無しの魔導師:2012/04/12(木) 19:56:32 ID:Zuc/hyFM0
全裸待機して待ってるよ

547名無しの魔導師:2012/04/13(金) 04:52:37 ID:vBjASfsUO
待機待機

548名無しだった魔導師:2012/04/14(土) 19:55:16 ID:Q9S9SntIO
新しいSSが投下されている……。じゃあGJするしかないじゃないか! GJ!!

流れを断ち切って申し訳ないのですが、自分も続きを投下しちゃいます。今日の22時頃に。
かかった時間のわりには低クオリティーで短いですが、そこは大目に見てください……

549名無しの魔導師:2012/04/14(土) 21:28:07 ID:iMyk6XUAO
さてそろそろ服を脱ぐか

550『鮮烈』に魅せられし者:2012/04/14(土) 21:59:22 ID:Q9S9SntIO
初めてその光景を目にした時、私は本当に驚愕し、そして疑問を持った。何故?何故こんな世界がある?と。
久しく忘れていた其の感情。視界が色付き、意識に音が溢れ、私の時間が動き出した。
だからこその思考。
だからこその考察。
これこそが、私。
全てが空虚である、この空間の中で、無意味に。


『第十一話 ──独白──』


憎しみの焔はやがて、闘争の渦となる。連鎖反応の如く世界を覆った激流は、いつしか人間の薄い理性を滅ぼし、本能を解放させるまでに至った。
嫉妬と羨望、傲慢と優越感、ナチュラルとコーディネーター、無知と無謀、その果ての戦火。他人を異物として排除せんと、己の求める未来を手にせんと、ただ己の知る事だけを信じて銃を撃つ。
全ては当然の帰結。だからこそ私は、そんな哀れで愚かな人類/世界の滅亡を願い求めたのだ。
だが、世界はそう簡単ではなかったらしい。
世界は人類に、更なる可能性を提示した。
泥沼の殺し合いの末、『彼』に討たれた私は『彼』の中で揺蕩う意識だけの存在となり、それにより私はソレを観察する機会に恵まれたのだ。
つまりは、コーディネーターとナチュラルの決着を。

ある意味で意外で、ある意味で想定内とも謂える結末だった。
それを説明するには、まずコーディネーターとは何かという処から説明をせねばなるまい。
ファースト‐コーディネーターたるジョージ・グレン曰く、コーディネーターとは「地球と宇宙の架け橋。今と未来を繋ぐ調整者」である。しかし彼の言葉は新たな混乱を呼び起こし、彼の存在は人々と時代を蹂躙した。何を得ようと変わらない人間を徒に刺激しただけでしかなかったのだ。
誰もがジョージ・グレンの真意を忘れ、ナチュラルとコーディネーターは最期まで滅ぼし合う宿命だと。
そう、思っていたのだがな。
だが彼の言葉を忘れずに、コーディネーターを研究し続けた酔狂なコーディネーターの集団がいたのだよ。
そしてC.E.75。遂に、とある研究結果が公表された事により、コーディネーターは本来の役割に就くこととなる。「調整者」としての役割に。
全てを変えたのは、一人の男──いや、ぼかす必要はないだろう。そう、キラ・ヤマト。我らが宿主の一派がキッカケだった。全くもって腹立だしい事であるが。
彼の「人類として最高峰の身体」を解析し、「実際のキラ・ヤマト及び其に近しい実力を持つ人物の能力」と比較する事によって得られた結果は、人類に衝撃を与えた。
彼らは、ナチュラルもコーディネーターでもなく、真の意味での『新人類』として進化を果たしていたのだ。
現在までで政府に確認された新人類は6人。
キラ・ヤマト
シン・アスカ
アスラン・ザラ
ラクス・クライン
カガリ・ユラ・アスハ
ムウ・ラ・フラガ
見て解る通り、彼らはナチュラルの者もいればコーディネーターの者もいる。では、新人類の定義とは何か。
それは『脳機能を完全に解放させ、真に宇宙に適応した人類』・『空間認識能力保持者』という事。新人類と旧人類との、決定的な差である。

551『鮮烈』に魅せられし者:2012/04/14(土) 22:01:56 ID:Q9S9SntIO
元来、人類とはその脳の半分程しか機能していないモノなのだ。そして、それでは宇宙では生きていけないと旧世紀前から解明されている。だから人類は、過酷すぎる宇宙環境に適応、開拓する為にコーディネーターを欲したのだ。
しかし新人類──ニュータイプ──ならば。
肉体の制約を受けずに宇宙を闊歩する事が出来る。覚醒すれば、ナチュラルでもコーディネーターと同等な能力を得る事が出来る。万人が、特殊な訓練さえ受ければ、血統も、才能の有無も関係無く。
コーディネーター達は宇宙という空間で、その優秀な頭脳により人の業を標本にしつ、この新事実を証明してみせたのだ。人類が一段階上のステージへ上がった瞬間だ。
これにより、コーディネーターのナチュラルに対するアドバンテージと確執を失う事となる。何故なら、これからの時代は「生まれながらにしてコーディネーターと同等の能力を持つナチュラル」が生まれる時代なのだから。コーディネーターとナチュラルが争う理由が消失したのだから。
コーディネーターは遂に「地球と宇宙の架け橋。今と未来を繋ぐ調整者」を体現する存在となり、更なる人類のニュータイプへの覚醒を促す為に、外宇宙を目指し始めたのだ。
これが、コーディネーターとナチュラルの決着。ある意味で意外で、ある意味で想定内とも謂える結末だった。そして、私の存在理由が消えた瞬間でもあった。
それから三年間、私の意識は眠りにつく事となる。あの日、我らが宿主が再び、あの世界に跳ばされるまで。

初めてその光景を目にした時、私は本当に驚愕し、そして疑問を持った。何故?何故こんな世界がある?
ミッドチルダ。
魔法が普及した世界。
別段私にとって、魔法はそれほど新鮮なモノではない。かつて我らが宿主が海鳴市に転移した時に目撃したし、なにより「そんなモノもあるだろう」としか感じなかったからな。
しかし、この世界は違う。この『魔導師と一般人が共存した世界』は、私にとって受け入れ難い存在だ。他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。それが人だと、そう私は悟ったのだが、ここではソレが稀薄でしかない。
先の通り、長年争い続けたコーディネーターとナチュラルがその矛を収めた理由は、誰もが平等な能力を手に入れられる未来を約束されたからだ。現金な事ではあるが、それこそが人類が永年望んだ事であるが故に。
しかし、魔法に関してはそうはいかない。
我らが宿主と私の友に調べてもらった研究結果によれば、魔法を操る魔導師の源は“リンカーコア”という器官であるという。
このリンカーコアは先天的なモノで後天的に生じることは極稀であり、遺伝で資質が受け継がれる器官なのだと。そして、生成プロセスにも謎が多く、リンカーコアの絶対数自体も少ないときた。

552『鮮烈』に魅せられし者:2012/04/14(土) 22:04:08 ID:Q9S9SntIO
これが顕すのは、絶対的な才覚の差。世襲の如く、多数の凡俗を小数の天才が牛耳る社会。更には、このミッドチルダ──時空管理局による管理世界では“質量兵器禁止”と義務付けられている。

つまり、非魔導師は絶対に魔導師に抗えないのだ。

普通なら、魔導師が世界を支配するような惨状になっていても、何らおかしくない。非魔導師を奴隷とし、魔法という名の才覚を振りかざし、世界を謳歌する。魔法というのはソレが出来る──許される──程の、強大な力なのだから。
あえて言い換えるのなら、非魔導師は人間、魔導師はMSに該当するだろうな。
其処にあるのは冷たい戦争だ。人間は、決して勝てない格上の存在を赦す事は出来ない。過激派ともなれば、魔導師を人間扱いしない者──ブルーコスモスのような──も出てくるだろう。しかし、反撃が出来ない環境なのだ。非魔導師は発狂し、魔導師はパトリック・ザラのように格下を見下す。歪みに歪んだ人間の末路。その先に滅びが確定した冷戦。
そうなっていなければ、おかしいのに、

ミッドチルダでは、両者が笑いあって生活していた。

お互いを人間と、友と認め、助け合って。犯罪はあれど、その何れもが普通というべきのレベル。
これは一体どういう事だ?
私の“同居人達”は此の光景を「理想」・「平和な日常」と評していたが、私はどうにも違和感が拭えなかった。
極稀に、質量兵器を密輸して「管理局は戦力を一極集中させ、世界征服をする気だ」と叫び、管理局に反撃する集団もいるらしいが、其れもやはり一般人にとっては“野蛮人”としか認知されないようだ。
ここまでくると、平和ボケという言葉も当てはまらない。数年間に魔法による大事件が発生したにも拘わらず、だ。
共に強く、共に先へ、共に上へ。そんな価値観があるとでもいうのか。
これは、もっと深くこの世界を知る必要がある。この状態は何なのか、解析しなければ私は私でなくなる。
そう、しなければなるまい。
我らが宿主が、あの小さき少女達に心を打たれたように、私も己を見直す時がきたのかもしれない……


時は流れる。
この世界に転移して二ヶ月。私達の意識は大自然の中にあった。
カルナージという名の世界で、我らが宿主──キラ・ヤマト──が蒼天を舞う。システムG.U.N.D.A.Mを起動させたその体捌きは見事としかいいようがなく、その覚悟が見てとれた。
躰を魔力で内部制御するそのシステムは、脳と身体に多大な負荷をかける。いかにスーパーコーディネーターでニュータイプといえども、乱用すれば廃人にもなりかねないだろう。メリット以上にリスクが大きいのだ。
そうしなければ目的は達成出来ないと言っていたが、それこそが不幸な事だ。目的が大き過ぎるが故に、こうやって終わらない戦いを続けるわけだ。
リスクに怯えながら、ここにいる彼女達を護り続け、エヴィデンスに侵食されつつあるC.E.も解放する。無茶無謀傲慢極まりないその目的。

553『鮮烈』に魅せられし者:2012/04/14(土) 22:04:47 ID:Q9S9SntIO
だが、だからこそ面白い。見届けたいとも思う。この私を否定した男が辿る、この先の結末をな。
その為に、この男に我が力を貸してやるのも一興というものだ。

──……ふむ、どうかね?私達の力、ここで使ってみるかな。こんな所で撃墜されたくはないだろう、君も?
──やめてよね。その手を使う意思はあるけど、それは切り札にするつもりなんだ。まだ、時じゃない。
──どうかな?君が護りたいと想う彼女は、君の限界を見たいと察するが。
──多分、その目的は達せられてると思う。時間の問題だよ。……てか、珍しいですね?貴方が僕にそう言ってくれるなんて。いつもはフレイやラクスなのに。
──なに、好奇心という奴さ。私自身も驚いているのだよ。この現状にね。……では、せいぜい足掻きたまえよ。
──言われなくても。

どうやら今回はフラれてしまったようだ。儘ならないものだ、人の心というモノは。全くもって儘ならない。
だが、それすらも面白いと感じる。
我ながら変わるものである。子供達に、彼女達に感化され、全てを呪った男がここまで様変わりするとはな。デュランダルが苦笑するわけだ。

さて、そろそろ私は眠りについてしまおうか。もうこの場面で得るモノはないだろう。何時までも起きている所以もないのだからな。
次に目覚めた時は、また興味深い事象が発生している時だろう。
その時には……

……また私を楽しませてもらうぞ、世界よ。




──────続く

554名無しだった魔導師:2012/04/14(土) 22:12:31 ID:Q9S9SntIO
以上です。

今回は全て過去の出来事に対する説明文という、ちょっとバカな事に挑戦してみました。
ええ、出来心なんです。許してください。次回からはいつも通り、キラ視点に戻します。
これは自分の中にある一つのSEED観ですね。

なお、今回でてきた“ニュータイプ”は所謂“冨野監督のニュータイプ”とは全く異なるモノです。名前だけを借りただけですので、混合されないようにお願いします

555名無しの魔導師:2012/04/14(土) 22:54:37 ID:zVZoVB0kO
おっつおつ!
これからどうなるか気になる展開ですね

556名無しの魔導師:2012/04/14(土) 23:00:32 ID:iMyk6XUAO
投下乙です!
CE側からしたらミッドチルダの魔導師と一般人の関係は信じられんわなw

557名無しの魔導師:2012/04/15(日) 02:11:54 ID:VroNM2BsO
レジアス「良い捏造だ、感動的だな、だが無意味だ」

558名無しの魔導師:2012/04/15(日) 02:34:07 ID:2hS7l0rQO
>>557
そこに気いてくれるとは……やはり天才か

559とある支援の二次創作:2012/04/16(月) 05:00:06 ID:AshImqLc0
こっそりと第一話後半部分を投下します。


小心者なのですいません。

560とある支援の二次創作:2012/04/16(月) 05:01:44 ID:AshImqLc0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 
 海鳴臨海公園にて「フェレット」という負傷している小動物を発見したシン達は、その後現地から一番近い槇原動物病院へと向かい「フェレット」を診察して貰った。幸いな事に衰弱はしているが、怪我自体は大した事は無いようだ。ほっと胸を撫で下ろしたと

ころで、診察料等が掛かるのでは無いかとシンは内心戦々恐々としていた。

 しかし、この槇原動物病院では負傷動物を発見・保護した人々の駆け込み先として、真っ先に名が上がる。何故かと言うと、駆け込んで来た人に対して診察料を取らないということで非常に高い評判を得ているからなのだ。

 何故そこまで急患の動物に対して破格の対応してくれるのかと、当然疑問にも思うであろう。様々な諸説があるが、一番有力な噂によると此処の動物病院の院長である槇原院長自身が相続者でありかなりの大地主のため、懐が広いのでは無いかと言われている。

 何はともあれ、ここからが問題なのである。飼い主不明なため、「フェレット」を拾ったシン達の内、いずれかの家で「フェレット」の面倒を見なければならないのは想像に難くない。アリサやすずかの家では既に犬や猫を飼っているため面倒を見れないとの事

である。また高町家では喫茶店経営(ただし、実際経営している喫茶店は海鳴駅駅前にある)をしているため衛生管理上、動物を飼うのは控えておかなければならない。非常に結論を出し難い状況となってしまったのである。

 しかし、その日は日が暮れてしまったため、今日の内で結論を出すことが出来ず、一先ずのところ槇原動物病院に預かって貰った。そして明日以降なのは達四人で話し合うということになり、なのは達はそれぞれ帰宅する運びとなったのである。

 なのはとシンは高町家に帰宅してから、本日「フェレット」を拾った出来事と動物病院に預けている事を家族全員に話した。それから飼い主不明なため面倒を見ても良いかということを両親に相談したが、返答はやはり予想通りのものであった。

 夕食後、シンは自室で寛いでいたが、思い悩んでいた。「フェレット」の件は言わずもがななのだが、それに付随して海鳴臨海公園の人工池の惨状や【謎の呼び声】の件についても考えていた。人工湖の惨状と今朝まで見ていた夢が重なる事、そして、その夢に

登場していた少年の声と自身に掛けられた【謎の呼び声】が似ている事についてである。夢という一般的には、あやふやなものとして片付けられてしまうものを覚えていられるものか、と思われるだろう。確かに確証はないし、証明出来る手段はない。

 そこまで思考すると、シンは思考を切り替えた。これ以上フェレットの件や人工湖の被害に付随した関連事項について考えていても仕方が無い。シンにもしなければならない事が沢山あるのだから。

 シンはおもむろに今まで腰掛けていたベットから立ち上がり、部屋のクローゼットを開けた。そこには、衣替えで仕舞い込んだ冬物用のジャンパーの類が何着か掛けられてある。しかし、それらに混じって他の衣類とは異彩な雰囲気を放つ服があった。


 
 ――――それは赤色を基調とし、肩部・腕部その他随所に黒色をあしらった非常に作りの良いジャケットが存在している。



 これはシンが【始めに着ていた服】だと聞いている。何故言伝で[聞いている]のかと言うと、正直な話シン自身が覚えていないからなのである。シンは【 記憶喪失 】という障害を患っているからである。

561とある支援の二次創作:2012/04/16(月) 05:02:23 ID:AshImqLc0
※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   



 高町シンは今から遡る事、【約2年前】に私立聖祥大学付属小学校で発見された。その当時の発見者は【アリサ・バニングス】【月村すずか】そして【高町なのは】なのであった。

 【高町なのは】と【アリサ・バニングス】の両名が校内で取っ組み合いの喧嘩している最中、【月村すずか】が仲裁に入った直後に、突如として付近に眩しくて目も開けられない程の発光が発生したのだ。その発光した現象について、一体何が発光したのかと、好

奇心に駆られたその三人は発光現象が起こった現場に向かった。すると、その現場には負傷した様子の黒髪の少年――後に【高町シン】と名乗る事になる――が発見されたのだ。これはシンを発見した当時のなのは達の証言であり、この時シンが【着用していた服

】が件の【始めに着ていた衣服】なのである。しかし、その服は見た目も奇抜ではあるが、発見された当時も違和感が満載だったのである。


 何しろ発見された少年の背丈にまるで合っていなかったのである。


 今現在【高町シン】は年齢不詳であるが、推定九歳児と見なされている。それが発見当時なら約七歳児の少年である。しかし、彼が着用していた【奇抜な服】は、サイズは彼の背丈に比べて遥かに大きいものであった。十代後半の青年が着る様なサイズだったの

だ。そのため当時の警察も何かしらの刑事事件に巻き込まれたのではないかと推察し、シンに対して事情を窺おうとしたのだ。


 しかし、発見当初のシンは事情はおろか、自分自身の名前すら覚えていない状況であったのだ。


 記憶も無い上身元の証明となるものを持ち合わせておらず、様々な情報媒体で呼びかけてもシンの保護者を発見する事が出来ず、いたずらに時間だけが過ぎていったのだ。更に状況は彼に対して不利な方向に転がるのだ。いくら子供といえど何時までも身寄りの

無い少年の面倒を見ることなど、病院に置いて置く訳にもいかないので、シンにしても警察にしても八方塞がりの状態だったのだ。そこで、彼に対して一時的な保護という形で名乗りを挙げる者が現われたのだった。


 発見者の少女達三人は、彼の見舞いにかなりの頻度で訪ねていた。高町家の末っ子のなのはは年齢の近い彼の今後をかなり気に駆けていたのだ。そこで、行く宛が無いシンに対して真っ先に保護を申し出たのが【高町なのは】の父親であり、高町家の世帯主の高

町士郎だったのだ。しかし、ここでまた問題が発生した。
 

 それは少年の名前なのだ、記憶喪失の為自身の名前が思い出せないのである。では、何故その少年は現在【シン】という名前を名乗っているかと言うと、これもまた【奇妙な服】が関連していた。【奇妙な服】の内側の内ポケット前に――――Shinn.A――――と

ネーム刺繍が施されていたのである。彼自身が自分の名前すら思い出せない当時の状況から、警察の人間が「自分の名前を思い出せるまで自身の事を【シン】と名乗ってはどうか」と提案したのである。勿論、刺繍の件をしっかりと説明をした上で。


 これについて彼は承諾し、自身の仮名としてシンを名乗る事としたのだ。そして、シン自身が発見されてから1年後の日に正式に【養子縁組】として高町家の住人となるのである。以上が黒髪の少年が【高町シン】と名乗っている理由となる。

562とある支援の二次創作:2012/04/16(月) 05:04:04 ID:AshImqLc0

※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   
 
   

 この奇抜なジャケットを見る度にシンは決意を新たにするのだ。「このままではいけない」と。

 保護をしてくれた上に養子縁組として、自分を迎え入れてくれた高町家の人々は本当に優しい。その事に対して感謝しても仕切れない位であるし、この恩を仇で返す様な真似は絶対にしたくは無い。だが、何時までも高町家の優しさに甘んじていたままではいけ

ない。何処の馬の骨かも判らないままでは駄目なのだ。だからこそシンは自分がある程度成長しても記憶がこのまま戻らないようであれば、高町家を離れ自分の過去を求め海鳴の地から離れて旅に出ようとも考えているのである。その事を常に思考し、シンは胸元

に吊り下げてある【白い装飾品】を握り締める。因みにこの【白い装飾品】も奇妙なジャケットの襟元に備え付けられていたものであった。



 ――――純白な羽根を想起させるデザインをしており、中央部には黄色の宝石が埋め込まれている。



 シン自身宝石等の装飾品類には疎い方であるが、この装飾品は高価な代物だと考えている。事実高価だという評価を宝石商からも貰っている。一応、シンが発見当時身に付けていた奇妙なジャケットも装飾品も一度は捜査のため、警察に預けていたのだが、警察

のその後の調査でも特に判明した事は何も無かった為、シン自身の記憶を蘇らせるキッカケになればという目的で警察から返還された。今では、シン自身の所有物となっている。

 「シン君…居る?」

 シンが自分を巡る現在の状況、今後の事について様々な思考を張り巡らせていると、ドアをノックする音となのはの声が届いた。

 「ああ、居るよ。」

 「…入ってもいい?」

 槇原動物病院に預けたフェレットについて相談でもあるのかとシンは予想を付け、入室を促そうとしたその矢先に…



 ――――――――――…聞こえますか!?―――…僕の声が、聞こえますか!?―――――――――――――――



 「何!?」「えっ!?」

 人工池に居た時と同じように、シンの意識に直接語り掛ける様な言葉が走った。



 ――――――――――――――――――…聞いてください!!―――――――――――――――――――――――



 シンは脳内に響く声に驚くのだが、響いてくる声は絶え間無くシンも意識に言葉を走らせる。



 ―――――…僕の声が聞こえる方、お願いです!!―――――――…力を貸して下さい!!――――――――――



 シンは確信した。昨夜の夢は夢ではなく現実に起こったことであり、あの現実の中に居た少年は今でもあの怪物と闘っているのだと。ならば、悠長に構えている暇は無い。なのはには悪いが、フェレットに関する話し合いは後回しにする他無い。自分が行って何

が出来るかは判らないが、誰かが助けを必要としている以上放って置く訳にはいかない。

563とある支援の二次創作:2012/04/16(月) 05:04:45 ID:AshImqLc0

 「なのは!!」「シン君!!」

 なのはがシンの自室に勢い良く入室し、それを皮切りに二人同時に声を上げた。だが、その行為に二人同時に驚いてしまい、暫し沈黙してしまった。しかし、シンが直ぐに落ち着きを取り戻し、なのはに扉を閉めるように薦めた。シンの指示に従いなのははゆっ

くりと扉を閉める。そして、一呼吸置いてシンはなのはに言い聞かせるように言葉を発した。

 「悪い、なのは。俺ちょっと外出しなきゃならないから、フェレットの件の話し合いについては後にしてくれ」 

 「…え?……シン君も?」

 シンはなのはがフェレットに関連した話し合いをするとばかり思っていた。しかし、救援を求める声を無視する訳にもいかない。口調を考慮すると相当切羽詰まっているように聞こえる。だからこそなのはとの話し合いを後回しにして、助けを求める夢の中で化

け物と闘っていた少年の力になろうと結論付けたのだ。そのため、声の出所を探りに外出しようと考えていたが、当のなのはもフェレット関連の相談を後回しにしたい様子だ。なのはの方も急遽決めた様に見受けられる。

 「…何?」

 「わ…私も外に出ないといけないから、フェレットさんの事については後でいいって言おうとしたんだけど…。」

 なのはも突如外出するため話し合いの件を先延ばしにするのは確かなようだ。何故なのだろうか?と、シンは考えたがすぐに結論に辿り着いた。

 「…ひょっとして、なのはにも聞こえたのか?助けてくれ、力を貸してくれって声が。」

 「そうだけど…って、シン君にも聞こえたの!?」

 どうやら二人して、夢の中の少年からの救助を求める声が届いていた様だ。ならば今朝方まで見ていた夢を見ているのか? また、人工池に居た時少年の声が届いたのか? その事実を確認したい所ではあるが、事は一刻を争う。少年の声の様子からしても、悠長

に構えていられる余裕は無いだろう。

 「と、とにかく俺が様子を見てくるから、なのはは部屋で待ってろ。良いな?」

 「な!?なんで!?私も一緒に行く!!」

 なのはに自室で待つように行ったが、なのははそれを拒否した。元々なのはは出会った当初から責任感がかなり強い子だという印象をシンは受けていた、その事に関してはなのはは大変良い人格が確立された子だとシンは考えている。しかし、今回に限っては一

緒に行かせる訳にはいかない。もし、あの夢の通りに少年が黒い影の怪物と対峙していて、苦戦を強いられている為助けを求めているのなら、なのはにそんな危ないところに行かせる訳にはいかない。

 「なのは、言う事を聞いてくれ。危ないかもしれないんだぞ。」

 「でも、私聞いたんだよ!?助けてって。放って置く事なんて出来ないよ!!それに…」

 シンにも危険が及ぶかもしれない、と反論された。このなのはの返答から、なのは自身も昨夜シンが見た夢と同じ内容の夢を見たのではないかと考える。確かに身の安全の保証が無いのはシンも同じだ。それになのはがこのように意固地な状態になっては、シン

がどんなに言って聞かせても意味は無いだろう。そう結論付けると、シンは思わず溜息を吐き出した。

 「…分かったよ。部屋で待ってろ、なんて言わない。でも、危なくなったら直ぐに逃げろよ?」

 シンの言葉になのはは緩慢な動作で顔を上下に動かして頷き、シンの部屋を後にした。どうやら外出するための服装に着替えるようだ。シンも椅子に掛けてあった上着を羽織り、一足先に玄関に赴きなのはを待った。やがてなのはが1階の玄関に到着すると、シン

はなのはと共に高町家をこっそりと抜け出し、救助を求める声の方角に向かって駆けて行った。

564とある支援の二次創作:2012/04/16(月) 05:07:02 ID:AshImqLc0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 ―――――――――暗闇に包まれた町を駆け抜ける影が二つ――――――シンとなのはである。


 自分達に響いた声の方角に向かって駆け抜けているが、未だに何の変哲も無い光景があるばかりである。もしや、既に手遅れなのか。それとも方角が間違っているのか?進めど進めど、変化は訪れない。シンがそのように考えていると、突如として自身の身に違

和感を感じた。


 ―――――――――まるで【自分やなのはだけがこの空間に侵入を許された】かの様な感覚を得たのだ。


 その様な感覚を得たシンがふと、空を見上げる。するとそこには、今朝見た夢と同じく空が【不気味な深紅に染まり上がった】色彩を彩っていたのだ。

 (夢の中で見たのと同じ空だ…じゃあこの先に…)

 昨日の夢の中と同じ光景が広がっているのだろうか?とシンは考え、走りながら後ろのなのはに目を向けた。いざという時には自分が、なのはを守らなければならないと。自分が怪物を食い止めてなのはを逃がさなければならないと。

 そう決意を新たにすると、シンはお守り代わりに持ち出した【奇妙な装飾品】を握り締めた。




 ―――――――――――――この【装飾品】が淡い光を自ら放っている事には気づかずに。




 シンとなのはが違和感を感じてから、暫く走っていると轟音が響いてきた。

 「なのは…」

 「うん…、シン君」

 あの黒い影の化け物が近づいてきている、とシンは感じた。あの少年はどうなったのだろうかとも考えていた。夢の中の少年が化け物の手に掛かり、死んでしまったのでは無いかという最悪のパターンも考えた。そう思考した矢先、突然目の前の壁が崩れた。シ

ンは咄嗟になのはの目の前に守るように立ち塞がった。




 「…まさか…来てくれたの?」




 なのはの前に立ち塞がったが、何故か下方から声がした。しかも、その声は何処と無く夢の中の少年や自分達の意識に話し掛けた声と似ている様な気がした。下に目を向けると、夕方槇原動物病院に預けていたフェレットがそこに居た。なのはもシンの肩口から

下を覗き込んでいる。

 「あれ?このフェレット抜け出してきたのか?」

 シンは何故この場にフェレットがいるのか、その理由が皆目検討が付かない。なので、病院から院長先生の目の届かない隙に逃げ出して来たのではないかと、考えた。これでは槇原院長に迷惑が掛かってしまうため、どうしたものかとなのはと相談しようとした

所で…

 「お願いです!!僕に力を貸して下さい!!お礼は何でもします!!」

 「何ぃ!?」「ふぇぇぇっ!?」

 シンとなのはが同時に驚愕し、大声を上げる。それもそのはず、普通動物という種族は人類の様に言語を発する事が出来ない。実際友人のアリサやすずかが飼っている動物を見ても、飼い主の躾くらいは理解出来るだろうが、言語を話す動物等居ないのである。

だからこそ、目の前のフェレットが言葉を話したのは、シンやなのはの常識というもの覆しかねない程に強力だった。

 「お願いします!!力を貸して下さい!!もう、直ぐ近くまで来て…」

565とある支援の二次創作:2012/04/16(月) 05:07:47 ID:AshImqLc0

 フェレットがシンとなのはが混乱しているにも関わらず、話を進め様としたところフェレットが表われた所とは別の場所の壁が崩れた。なのはとシンが崩れた壁の音がした方向に目を向けると、やはり居るべきモノ、恐ろしい存在がそこに顕われていた。そう、

夢の中で少年と戦闘していた黒い影の化け物だ。一夜の内に成長したのだろうか、黒い影の怪物は夢で垣間見た時よりも途轍もなく大きくなっている。その佇まいは常軌を逸した威圧感に溢れていた。

 (やっぱり表われたか…しかも、何か強くなってそうな感じがする)

 シンの顔から冷や汗が流れる、手は白くなるほどに握り拳を作っている。なのはも緊張した面持ちで黒い影を見据えている。

 「フェレット、お前力を貸してくれって言ってるけど何か打つ手があるのか?」

 目は黒い影の怪物に向けたまま、シンはフェレットに確認する。こうして、怪物の目の前まで来たのは良いものの正直生身で闘った所で返り討ちにされるのは目に見えている。人を頼るからにはあの黒い影の化け物への対抗策が無ければ、自分もなのはもこの化

け物の餌になって終わりだろう。

 「はい、対抗する手立てはあります。僕が所持しているデバイスを使って貰えば」

 デバイスという聞き慣れない言葉を耳にしシンは疑問を感じたが、対抗策があるのならばそれで良しと心中で結論付けた。

 「なら、俺が囮になってあの化け物を引き付けるからなのははフェレットを連れて行って、そのデバイスっていうのを使え」

 「シン君!?そんな、危ないよ!!」

 なのはの言う事は最もである。しかし、このままここに二人と一匹が化け物の眼前にいるだけでは、どれほどの手があっても打ち様が無いのは明白だ。デバイスとやらを使用するのには、使い方を知っているフェレットを頼るしか無い。喋る小動物に頼らなけれ

ばならないのは、大変滑稽に見えるが止むを得ない。それになのははかなりの運動音痴でもあるため、化け物に対しての囮役などやらせる訳にはいかない。最も、いざという時には自分がなのはを守らなければ、と先ほど決意したばかりでもある。

 「いいから早く行け!!」

 シンが叫ぶと同時に黒い影が咆哮し、シン達に向かって突進を敢行して来た。―――その速度は目視では動きを捉えられないほど速い。

 (…拙い…出遅れた。)

 自分やなのは二人合わせても余裕で取り込んでしまいそうな程、黒い影の化け物は巨体だった。にも関わらず、その巨体の敏捷性は自身の常識外の素早さだった。あのような猛スピードで突撃されたら、自身もなのはも無事では済まない筈だ。シンの脳裏に終焉

を意味する言葉――死――という言葉が過ぎった。



 (死ぬ? 後ろになのはが、守るべき家族が居るのに?)


 自身が黒い影の手に掛かって死ぬ光景をシンは幻視する。しかし、それは駄目だ。自分だけが死に果てるならまだしも、なのはだけは守らなくてはならない。大切な家族なのだ。


 (死ぬ?まだ、高町家に何の恩返しもしていないのに?)

 
 ここで化け物の手に掛かって死ぬ、それは出来ないとシンは断じた。それは常にこう思っているからだ。養子縁組として自身を高町家に迎え入れてくれた恩は必ず返すと、心に誓っているからだ。


 (死ぬ?自分が何者であるかも解からないまま?)


 ここで死ぬ事は絶対にあり得ない、とシンの瞳に決意が宿る。何故なら、自身が何者であるか記憶を取り戻すまでは死ねない。この決意こそがシンの身に宿っている根源たる【力】なのだから。




 ―――――――――死ねない。そう、絶対に死ねない―――――――― 




 ――――――――――――――だから…――――――――――――――




 「うおおおおおおおおおおおおっ!!!!」


 シンは思わず駆け出した。何かしらの策がある訳でも無いのに。だが、何の抵抗もせずに終わるわけには行かない。足が竦んだまま、なのはも守る事も出来ずに死ぬわけにはいかない。勿論自身の生存も考慮に入れなければならない。だからこそ、この怪物に真

っ向から挑むのである。


 そして、奇跡は起きるのだった。

566とある支援の二次創作:2012/04/16(月) 05:08:37 ID:AshImqLc0

 シンの【持つ奇妙な装飾品】が溢れんばかりの輝きを周囲に放った。


 『――――物理破壊型相当の魔力値を感知――――自動防壁を展開します――――』


 機械音声の声色が響き、突如としてシンの眼前に光の幕が展開された。黒い化け物はそれに阻まれ、青い稲光と劈く様な轟音が生じた。暫く拮抗したが、黒い化け物は光の幕に弾き出されたのだった。
 
 「な、何だ?何が起きた?」

 予想もしなかった突然の急展開にシン自身が情報の整理が出来ていないようだ。しかし、呆然としてはいられないのですぐさま視線を黒い化け物の方に向ける。しかし、その姿は光の幕によってかなり遠方に弾き出されたためなのか見当たらなかった。

 「まさか…そのアクセサリーはデバイスなのか…」

 先ほど日本語を話せるフェレットらしき声が響く、この装飾品がデバイスというらしい。それなら化け物に対抗出来るものなのか?と、シンが思考する。


 『――起動……起動……システム起動――デバイス・デスティニー初期起動を開始します――』

 
 シンが思考していると、再び機械音声が響く。自分の胸元を確認すると、確装飾品が神秘的な輝きを放っているのをシンはようやく気付いたのだ。
 
 『――デバイスの使用に伴い、マスターユーザーの認証、システム・武装の認証登録が必要になります――まず最初にマスター認証を開始してください――』
 
 このデバイスとやらを使用するには何らかの認証を行わなければならない様だ。だが悲しい事にシンには何をどうすれば良いのかさっぱり解らない。すると突然、シンの頭に鈍痛が走り、痛みに苦しみだした。目まぐるしく変貌する状況に困惑するなのはだった

が、シンが苦しみ出す事で気を持ち直し、シンに声を掛ける。

 「シン君大丈夫!?どこか痛いの!?」

 なのはの気遣いも届かないようで、痛みに苦しみ悶えるシンであった。少し苦しんでいると自分の意識とは別に、口が動き出し何らかの言葉を紡ごうとしているのをシンは感じ取った。



 「―――Mobile Suit Neo Operation system ver.1.62 rev.29―――」



 まるで【自身とは別の誰かが】自分の身体を使って、言葉を紡いでいるみたいだとシンは思った。自分の、高町シンとしての意識はハッキリとあるのに奇妙な感じだ。なのはも背後の方で、自分が妙な事を呟いているのを聞いて混乱している。


 『――マスターユーザー声紋認証確認――ユーザー名【シン・アスカ】と86.9%の確立で認定――続いてシステム・武装の登録を開始してください――』

 (シン…アスカ…?)

 今このデバイスという物体が自分の事をそう呼んだ。では、あの奇妙な衣服に刺繍されていた名前が自分の名前なのか?と疑問に思ったが、シンの唇は更に次の言葉を紡いでいた。


 「―――Gunnery United Non known energy―Device charged energy Advanced Maneuver System.―――」

 『――システム登録認証…――…承認――リンカーコアを主動力とする為――デバイス内滞留魔力は未使用に設定します――』

『――また、起動パスワード及びシステム認証の認証作業工程を同一に設定――二度目以降のデバイス起動時間を短縮化します――』


 自分の口から次々と、日々使用している日本語とは別の言語が発せられる感覚にシンは身を委ねる他無かった。黒い影の化け物は先ほどの光の幕に弾き飛ばされてしまったため、一向に戻ってくる気配が無い、自分が主体となれない意識の中でもそれは把握出来

た。そう思考していると、デバイスは次の手順を要求してきた。


 『――システム設定完了――短縮化作業終了――次に、武装の登録を開始してください――』

567とある支援の二次創作:2012/04/16(月) 05:09:07 ID:AshImqLc0

 武装など自分には知る由も無いのだが、またもや意識に反して言葉が紡がれる。どうやら武装の種類が豊富なようだ、【登録】とやらに時間を取られると化け物が戻ってきてしまうだろうが、この幕が在る内は安全なのだろうとシンは結論付けた。


 「―――Light and Left Arm――MX2351 《Solidus Fullgoll beam shield device》――《RQM60F Flash edge beam boomerang and bean sabel》――」


 発言している言語は難しい事には難しい。しかし、この言葉―恐らく英語であろう―の羅列をシンは理解していた。まるで心の中にすとんと落ちて、脳が把握しているような感覚に満たされている。本当に不可思議な感覚なのだが、何かしらの副作用があるよう

にも思えない。どちらにしろ今のシンにはこの感覚を享受する他無いのだが。



 「―――Light and Left Hands――MMI-X340 《Palma Fiocina beam cannon》――」

 「―――Back Pack Weapon Luc――Light―MMI-714《Aroundight anti battleship beam Sword》――Left―M2000GX 《High-enegy Long Out-Range beam ballet》―― 」  

 「―――Back Wing System――《Radiation Pressure-Powered Propulsion System》――《Voiture Lumiere system》――」

 「―――Etc.Weapon and Armer――MA-BAR73/S 《High-energy beam rifle》――《Variable Phase Shift Armor》――」 


 
 最後の武装まで言い切ったところで、意識が開放され【高町シン】を主体とした意識に切り替わったのをシンは感じた。思わず両手を閉じたり開いたりしてみたが、問題なく動くのを確認したところで顔に張り付いた冷や汗をシンは腕で拭った。


 『――全武装登録完了――デバイス・デスティニー起動準備完了――御唱和ください――《ZGMF-X42S DESTINY 起動開始》――』

 
 奇妙な装飾品がそのように言い切ると白い外装が罅割れた、その中には真紅色の機械の翼を模したアクセサリーが顕われた。更に、シンが周りを見渡すと自身を中心として光で満ち溢れている様相を確認した。そして確信することになる。

 (…これが…今あの化け物に対抗出来る【力】なんだ…)

 この【力】があればなのはをわざわざ危険な目に合わせずに済むかもしれない。ならば迷っている暇は無いはずだ。現にタイミングを見計らったかの様に、弾き飛ばされた黒い影の化け物が戻ってきた。


 「やるしかないのなら、やってやるさ!!《ZGMF-X42S DESTINY 起動開始》!!」


 シンが【デスティニー】に促されるままに最後の起動メッセージを言い切ると、シンを中心に満ち溢れていた淡い光が一気にシンに集約し始めた。その目を焼かんばかりの光景になのはもフェレットも、堪らず目を背けるしか無かった…。



 ――こうしてこの世界は高町シンの魔導への覚醒によって、物語が始まる。今ここに《原初》の物語の火蓋が切って降ろされた――

568とある支援の二次創作:2012/04/16(月) 05:23:01 ID:AshImqLc0
魔導戦史リリカルSEED 1st〈Magical History Lylical SEED the first 〉「PHASE01」

いかがだったでしょうか?今回後半部分を投下させて頂いたのですが、前半部分と比べると少しばかり短くなってしまい大変恐縮です。
前回の投下で初めて投下する作品なので若干の不安がありましたが、皆様から本文および絵に対して、ご好評の声を頂き嬉しい限りで御座います。


しかし、今回の終わりの部分がようやくデバイスの起動が完了したという状態でまったく戦闘を行えていないのが心苦しい限りです。

次回の投下では戦闘まで持ち込めるように調整してみます。

それでは今回の挿絵?で御座います。

http://download2.getuploader.com/g/seednanoha/67/PHASE01-3.jpg

ジュエルシード異相体と向き合うシン&なのは&ユーノ(フェレット)です。本当は2枚ほど描きたかったのですが、どうにも構図で苦戦してしまって1枚のみ表示させて頂きます。

それでは今回はこのあたりで失礼させて頂きます。

569名無しの魔導師:2012/04/16(月) 09:31:33 ID:kGgbxMNAO
GJですよー。読みやすいし、英語もカッコいいし、やっぱり良いモノですね。デバイス初回起動シーンは。

今までの法則なら、シンは馬鹿野郎キックされて転移したってのが常ですけども、ともかく今後の展開が楽しみですね。

まったく、小学生は最高だぜ!

570名無しの魔導師:2012/04/16(月) 19:17:37 ID:Dae7WhXw0
乙です
自分はてっきり両親&マユが亡くなったシンを士郎さんが引き取ってくれたのかと思ってました
あと押絵のなのはを守ろうと身を前に出してるシンが可愛らしくもカッコイイです

571名無しの魔導師:2012/04/16(月) 23:59:17 ID:G6Guwu7kO
GJ
なのはがヒロインしてて私的には嬉しい

572名無しの魔導師:2012/04/17(火) 00:57:33 ID:Z2MF/5JkO
乙です!
パイロット版でシンとなのはが魔法訓練していたから
ユーノがデバイスを二つ持ていたのかと考えていたんだが
シンが一つ持っていたのか

573名無しの魔導師:2012/04/17(火) 21:02:46 ID:EBHVXnno0
なのはさんは小学生の時がかわいい

574とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:24:36 ID:UvwcbKI20
夜遅いけどゲリラ投下します。

575とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:27:46 ID:UvwcbKI20


 「《ZGMF-X42S DESTINY 起動開始》!!」

 シンの言葉を皮切りに周囲に溢れていた光が渦を巻いて集約し、光の柱を作りだした。

 『――防護服を装備します。外観等はどうなされますか?――』

 デバイスから質問が投げ掛けられる。その事について少しだけシンは考えたが、一体どんな武器がこのデバイスに隠されているのかは正直な所シンには分からない。それもそのはずだろう。武装の登録を行った時には、高町シンとしての意識は確りと

あったもののナリを潜めてしまい、まるで【他の誰か】が【高町シン】に代わって言葉を紡いだ様な感覚なのだ。その上でどんな武器があるかも解らないのに、外観等は決められるはずも無い。なのでシンは動きに支障をきたさない程度に動けるものでデ

バイスに頼み込んだ。


 『――了解です。防護服、装着( Barrier Jacket Equip )――』





       魔導戦史リリカルSEED 1st〈Magical History Lylical SEED the first 〉「PHASE02」





 ――防護服(バリアジャケット)――

 魔力によって生成された強化服のことであり、魔法攻撃・衝撃や温度変化などから生成者を保護してくれる防御術式の一種である。防護服と呼ぶ事もある。通常はデバイスの起動と同時にデバイスによって自動詠唱で行われるが、何かしらの外的要因

によって着用が行われなかった際には、後から別個に着用可能である。またデバイスを保持していない場合でもバリアジャケットの着用は可能である。

 何故、デバイス無しの場合でも着用可能かと言うと、防護服の存在そのものが【フィールドタイプ】の防御魔法に分類される魔法だからである。魔力で構成された衣服はその衣服だけに留まらず、衣服に覆われていない部分やデバイス本体も防御フィー

ルドを生成して身を守ったり、空気抵抗を無効化している。また魔力で出来ているため、防護服を身に付けている間は常に生成者の魔力を消費し続ける。このため、基本的には必要時にしか装備をしない【術式】なのである。また、この防護服の魔力消費

量には個体差があり、防護服そのものの防御力の度合いに比例している。


 そして、シンの申告によってデバイス・デスティニーが防護服を生成するかに見えたが…

 『―― Error!!Error!!Error Code−Magic Shortage.(魔力不足)――』

 「え?な、何だって?魔力不足??何だよそれ!?」

 いきなり、此方が理解出来ない単語を出されても困りものである。だが、単語から察するにどうやら自分に何かしらの原因が在るのでは無いかと、シンは当たりを付けた。

 『――マスターに内在する総魔力量では、登録した武装を使用する事が出来ません。登録を一部削除するか。武装を一部制限する必要があります――』

 デバイス・デスティニーから説明が入るが、理解が追い付かない現状では、どんなに言葉を費やしても徒労に終わるのは明白であろう。それにそんなに悠長に構えても居られないのである。何故なら、先ほど光の幕によって弾き飛ばされた黒い影の化

け物が、今度は御返しとばかりに光の幕を破ろうとしているのである。正直なところ、猶予は無いだろう。

576とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:28:58 ID:UvwcbKI20

 「【デスティニー】説明は良いから今出来る最善の手段で対処してくれ!!」

 予断を許さないこの状況で、今はこれが最善策とシンは判断した。どうやらこのデバイス・デスティニーは、高度な知性を備えているのだと会話の端々から読み取れたためだ。そしてデスティニーはシンの指示通りに実行に移った。

 『――了解です。では最善の対処法として、マスターの総魔力量で使用出来る範囲の武装のみを残し、それ以外の武装を削除します――』

 武装を削除するというデバイスの判断に対し、少しばかり勿体無いのでは無いのか?とシンは考えたが、その猶予も無い上デバイスに対しての知識等持ち合わせてもいない。それに当のデバイスが【最善】と判断を下したのだから自分が口を挟んでも

詮無きものだろう。

 『――…検索終了しました。結果、総魔力量AAクラス相当を稼動最低限とする武装、飛行システムを削除します。該当武装は《アロンダイト》《高エネルギー長射程ビーム砲》《ヴォワチューレ・リュミエールシステム》これらの武装を削除します――』

 先程のデバイスの了承から数秒も経たずに、削除する武装に検討を付けた様である。

 「解った、【デスティニー】最後に確認するが、武装は削除する方が早く済むんだよな?」

 これだけは確認する方が良いとシンは判断した。武装を削除するのが最善だとデバイスから判断は下されているが、実は武装を制限する上で速さという一点で大差が無いのであれば、武装を残しておいた方が後々こちらの有利になるのでは無いかとシンは考えたからだ。

 『――その通りです、マスター。武装に削除処理を施すのは数秒と掛かりませんが、武装の制限には武装の個別毎に制限処理を施さねばならないため、数十分御時間が掛かります――』

 「制限ってかなり時間掛かるな…よし【デスティニー】武装を一刻も早く削除してくれ。この光の幕ももたないだろう?」

 【デスティニー】から確認を取ると直ちに削除処理を促した。先程、堅牢な守りを誇っていた光の幕も黒い影の化け物の手によって、罅が入って来てしまっている。


 『――了解です、削除処理開始します。――Back Pack Weapon Luc――Light―MMI-714《Aroundight anti battleship beam Sword》……DELETE……――Left―M2000GX 《High-enegy Long Out-Range beam ballet》……DELETE……――』


 『――And,Back Wing System――《Radiation Pressure-Powered Propulsion System》――《Voiture Lumiere system》……DELETE……――削除処理完了しました――』


 【デスティニー】の言うとおり、数秒も掛からずに武装の削除が完了した。実際に自分が削除をした訳では無いので何とも言えないのだが、これで化け物と闘う準備は整ったのだろう。これで問題ないのか?とシンは確認を取った。その問いにデスティニ

ーは問題なく防護服を装備出来る、と返事が返って来た。


 「OK。それなら…【デスティニー】防護服を装備してくれ!!」

 『――All Right.Barrier Jacket Equip.――』
 

 【デスティニー】の掛け声によって、シンの足元に光り輝く円形の方陣が出現し始めた。その方陣は不可思議な言語が四方八方に書かれており、更に、その円形の中心部にはアルファベットの【Z】の文字に似た一際大きな文字が描かれている。その後

、シンの私服が光り輝き、そのカタチを変えて行った。


 初めに、両腕にダークブルーを基調とし甲冑が出現した。その甲冑は機械じみた外見をしており、まるでどこぞのロボットアニメに出て来そうなものだった。両手の部分にもダークブルーの手甲が出現し、手の甲の中央部分には黄色いクリスタルが施さ

れている。


 次に左右腰部、脚部にはダークグレーを基調とした装甲が現われた。この装甲も何処と無く、機械のような形容をしている。この出現した装甲を見て、非常に頑丈そうな印象を受けたため、シンとしてはこちらが殴打・蹴撃する分には非常に有利に持ち込

めるのではないかと、少々物騒なことを考えていた。

 
 腕部・左右腰部・脚部に装甲が出現し終えると、次に黒いアンダーシャツとジーンズに似たダークブルーのズボンが形成された。アンダーシャツは首元から下に掛けて、紅色の十字架のようなデザインしており、その中心部を上下左右の部分を黒で埋め

て紅の部分を僅か程残したものをあしらっている。ズボンはジーンズに似ているのだが、材質は異なるようでかなり丈夫な材質のように思えた。

577とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:29:53 ID:UvwcbKI20


 最後に上半身にはシンが所有している奇妙なジャケット――赤を基調として、肩部分を黒色の色彩を放つ――に似たジャケットを羽織った。そこまで防護服を生成した事で光の輝きが収まった。此処までの変化は、防護服が形成される瞬間は非常に緩

慢だったのだが、時間にしてみればほとんど一瞬のようだったとシンは思い出す。   
 
 「ふぇぇ……シン君凄い…」

 なのはから声を掛けられた事によってシンがなのはの方に振り向くが、なのはは正に【目が点】といった様子であった。それも無理は無いであろう。何しろ、家族であるシンが突然光輝いて服装が変化してしまえば、対応に追い付かないのも仕方の無い

ものだ。

 「はは…結構派手だな…。取り敢えず、なのはは何処かに隠れてくれ。後は俺が何とかするから」

 全身を確認することが出来ないものの自分の姿を一通り確認しシンは呟く、その口ぶりから自信に溢れた印象を感じさせる。現在、シンには根拠の無い自信で満ち溢れていた。何故なら、まるで漫画やゲームの世界の中に存在する特撮ヒーローのよう

に自分が変身(ただし、服装のみなのだが)したのだ、興奮するなと言う方が無理というものだろう。それに先程化け物を弾き飛ばしたような光の幕が自分にも使えるのであれば、この場を凌ぐことも可能だろう。幸先は明るいとシンは考えたのだが…

 『――マスター、残念ですが私には封印魔法(Sealing)は登録されておりません――』

 「「……は?」」「な…なんだって!?」

 突然のデスティニーの告白にシンとなのはは揃って訳が分からないという類の反応を示し、一方のフェレットはと言うと大慌てといった様子である。

 「なぁ、デスティニー。その封印魔法って無いと不味いのか…?」

 『――その通りです。そもそも、あの黒い影は強力な魔力の影響で駆動体と変質しております。このような場合、大本の魔力の源を弱らせるか封印魔法によって暴走を止める他ありません。因みにマスターの魔力量では、その魔力の源を弱らせるのも

一苦労でしょう――』

 更に追い討ちを掛ける様にデスティニーからシンに対しての駄目だしを喰らい、シンは唸った。と、同時に一点疑問に思った。

 (そう言えば、さっきから魔力って言葉を耳にするけど、この力って【魔法】の力…?)

 シンは今までの会話や実際にデバイスを起動した今となって、ふと思いついた。確かに先程からデスティニーによって、魔法だの魔力だのと発言を耳にしている。そのため【魔法】という力なのは明確だろう。だが、どうにも腑に落ちない。何故かと言うと、

よくなのはが好んで見る少女アニメの類に【魔法少女】等と題目を打っているアニメがある。しかし、この【魔法少女】のアニメの特徴としては魔法のステッキを使用して、困っている人を助けるために【魔法】を使用するのであり、そのような内容がクラスの

女子の間では流行っているはずだ。

 だが、今自分が実際に手にしている【魔法】の力はどちらかと言うと、【兵器】の意味合いが強く感じ取れる。この力が実際の【魔法】の力と言うのであれば、クラスメイトの女子達の憧れを軽く吹き飛ばしてしまうだろうな、とシンは他愛も無い事を考えてい

た。

 「…そうなんですか。それなら僕が所持しているデバイスを使うしかありませんね。それなら封印魔法は登録してありますので、この場を凌ぐことが可能です」

 フェレットがデスティニーの説明を受けて、対抗策を説明する。シン自身は既にデバイスを起動しているため、消去法でなのはがフェレットの所有しているデバイスを使うしか無いだろう。なのはを危険な目に合わせなくて済むかとシンは考えていたが、そ

うそう上手くはいかないようだとシンは落胆の色を示すのだった。

 「…分かったよ。じゃあ、さっきの通り俺があの化け物の囮役をやるから、なのははフェレットの持ってるデバイスを使って封印魔法とやらを使ってくれ」

 シンが言い終わると、光の幕が黒い化け物の手によって破壊された。光の幕が破壊された音を聞くのと同時にシンは駆け出し、右腕を振りかぶって勢い良く黒い影を殴り飛ばした。助走によって勢いが付いたからなのか、それとも防護服の力なのか黒い

影は3m程吹き飛んだのだった。

 「何か勢い良く吹き飛んだんだけど…これも防護服ってヤツの力なのか?」

 シンは判別の付き辛い、先程の状況についてデスティニーに問い質してみた。

578とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:31:02 ID:UvwcbKI20

 『――いいえ、それは違います。あの黒い影は生命体を媒体とせずに、恐らくは無機物を媒体として駆動体と化しております。その為見た目に反して体積はかなり軽量のものかと思われます――』

 但し、駆動体の元となっている魔力源は桁違いな魔力総量のため、魔力ダメージには充分注意するようにとデスティニーからの指摘を受け取り、黒い影の挙動に対して油断する事の無いように注意深く観察し始めた。

 「彼が異相体を引き付けてくれてる内に、こちらもデバイス起動の準備を」

 「なのは!!なるべくこいつの目に届かない所で起動してくれ!!起動する所を狙われると厄介だ!!」

 フェレットがなのはに進言した後で、シンが言葉を付け足す。夢の内容とデスティニーの解析を考慮すれば、この黒い影は体積が軽い為易々とシンの手の届かない位置まで飛び上がる事が可能なのではと、シンは予測した。もし、そのような事を実行し

てデバイスを起動する途中のなのはを襲撃されてはたまったものではない。そのため、シンは簡潔になのはに忠告をしたのだった。

 「わ…解ったよ、シン君も無理しないでね!!直ぐに戻るから!!」

 そうなのはが言い切ると、フェレットを随伴して駆けて行った。足音が消えるまで黒い影を見張り、やがて足音が途絶えるとシンは黒い影を見つめたまま不敵に笑った。

 「…ああ、まかせろ」

 防護服というものを纏い、【魔法】という未知の力を行使して化け物に闘いを挑むのだ。緊張は勿論ある、だがそれ以上に今のシンには言い様の無い昂揚感に溢れているのだ。この様な経験は今までの【日常】では有り得ないものだった。

 今の高町家での生活に恩義に思うこと気持ちは確かだ、おまけに養子であるにも関わらず良い学校にも通わせて貰っている。

 だが、シンには【充足感】というものが何処かしら足りなかった。

 学校の授業では教科に多少の理解の違いはあるが、大抵のことは把握出来てしまう。クラスメイトの中には塾に通ってまで、先んじて勉強するような生徒もいるが、不可解な事にシンは聖祥学園に通ってから成績を落とした事など一度も無いのだ。
 
 活発な男子が唯一楽しみにする様な体育の授業でさえ、シンにとっては物足りない。何故なら、シン自身の体力や運動神経のレベルが他の生徒達に比べて抜きん出ているためだ。様々な球技・身体測定も周囲の生徒に合わせて、手抜きをしている有

様だ。体力や運動神経が抜きん出ている生徒も一人、居る事にはいるのだが、異性故に遠慮してしまいがちなため、どうにも張り合いが無い。

 更に、放課後は高町家経営の喫茶店の手伝いのために遊ぶ暇はほとんど無い。シン自身で手伝うことを選んだ事なので仕方の無い事だが、息抜きを行うような環境がほぼ存在しないのである。そして、これといった趣味も持ち合わせていないので、フ

ラストレーションは溜まる一方だろう。


 では、今シンの目の前にある光景はどうだろうか。


 自分にとって全く未知の光景である。先程デスティニーという心強い味方を付ける前までは、死の恐怖や家族を守れないかもしれないという恐怖に苛まれていたが、実際デバイスを起動し、脅威に対抗出来る力を手に入れたのだ。自分だけでは対処が

難しい為、なのはの手も借りなければならないが、死ぬ確立というものは格段に減っただろう。ならば、今目の前に広がる【非日常】に対して自分がどの程度対抗出来るか、という好奇心を持ち合わせてしまうのは無理も無いはずである。昂揚感に溢れる

のは仕方の無い事なのだ。子供というのは得てして、自分の未体験の事象に関して心躍ってしまうのだから。

 だからこそ、全くの無意識でシンは笑ってしまったのである。

 「行くぞ!!この化け物!!」

 そう言い切ると黒い影に打撃を浴びせる為シンは駆け出した。

579とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:32:31 ID:UvwcbKI20
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 なのはがフェレットを引き連れてから、数分程走ってきた所で立ち止まった。

 「…離れすぎちゃったかな」

 「そうですね。一先ず異相体から離れることは出来たので、ここでデバイスを起動しましょう」

 なのはの呟きにフェレットが応じる。そして自身の首輪に備え付けられてある紅の宝石を器用に口に咥える。それから、紅の宝石をなのはに差し出した。差し出された宝石を戸惑いながらなのはは受け取る。

 「…これがデバイスなんですか?」

 「はい!この【レイジングハート】に登録されている封印魔法を使って異相体を封印して欲しいんです」

 【異相体】という聞き慣れない言葉に首を傾げるなのはであったが、この綺麗な宝石を使って自分もシンの様に未知の力を行使出来るのかと思うと、身体が強張った。何しろ化け物を阻む透明な壁を作り出したり、怪物に対抗出来る力を得てしまうのであ

る。強張ってしまうのも、僅か十代にも満たないか弱い女の子だから仕方が無いというものだ。だが、ある意味今までの自分を変える絶好のチャンスなのかもしれない、となのはは考えた。【高町なのは】という少女にはある思いがある。――自分が夢中に

なれる【何か】を求め続けているのだ。それは【シンからの自立】という目的だけでは無い。【何も出来ない無力な自分】を変える目的でもある。

580とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:33:07 ID:UvwcbKI20
   ※   ※   ※   ※   ※   ※ 


 何故、高町なのはという少女が自分の事を無力な少女だと考えているかと言うと、なのはが幼稚園に入園する以前に起きたある出来事が原因であった。



 それは、高町家の大黒柱―高町士郎―の突然の事故により入院したことから端を発したのだった。しかもタイミング悪く、高町夫婦の夢であった喫茶店【翠屋】を開くこと、その経営をし始めた矢先に起きた出来事だったのだ。

 その事故が発生してから、高町家の生活を支えるために経営し始めの喫茶店の切り盛りと家事を勤め上げる母―桃子、喫茶店・家事の手伝いをするため剣術の稽古も中断して桃子を支えた兄―恭也と姉―美由紀、そして幼少であるため、家事や喫

茶店の手伝いを任せられないなのはという構図が出来上がってしまった。

 家に誰も居らず、なのは一人で過ごす時間が大半であった為、幼少のみぎりではあるがなのはが様々なマイナス思考に陥ってしまうのは想像に難くは無いだろう。しかし、そんな生活が続いていく中でも家族の愛情は確かに存在したのだ。なのははそ

の当時本当に無力な存在であった為、家族としてはどれほど生活に苦しくてもなのはの事を心配するのは当然の事だろう。子を心配しない親・家族など居ないのだから。



 だが、そのことが余計に幼少のなのはの心にしこりとして残ってしまうのだった。



 高町なのはは気付いてしまうのだ。ただ守られて、心配されることしか出来ない自分に。何の手伝いも出来ずに一人家族の帰りを待つことしか出来ない自分に。愛する家族が悲しみ、苦しんでいるのを目撃しても何も出来ない、あまりにも無力な自分に

。だからこそなのはは一人泣き続けることしか出来無かったのだ。何も出来ない無力な自分が悔しくても、家族の前では無用な心配をさせないために笑顔を貼り付けたのだ。そして夜にはひっそりと涙で枕を濡らしていたのだ。

 数ヶ月の苦しい生活の甲斐もあって、高町士郎は無事回復した。家族が元の笑顔・生活を取り戻したのだ。だが、なのはの心中のしこりが消え去るという事は無かった。無論なのはとしても家族から愛されている、という自覚はある。なのは自身が家族

に不満を持つなど在る訳が無い。だが、何よりもなのはが恐れるのは【何も出来ない無力な自分】だと、幼いころから自らに刷り込まれたのだった。



 しかし、聖祥学園に入学する事によって自身を変える出会いがなのはに起こった。



 【アリサ・バニングス】、【月村すずか】との出会いが、なのはをほんの少しだけ成長させるキッカケとなったのだ。アリサとすずかと友人関係となっていく過程において、言葉で自身の主義主張を伝えること、それが伝わらない場合には身体でぶつかりあ

ってでも伝えることの大切さをなのはは知ったのである。だが、なのはがその大切な経験を思い起こすのには今しばらく時間を要してしまう。今現在のなのはは、その大切な経験があったのにも関わらず【何も出来ない無力な自分】のままであると思い込

んでしまっているのだ。



 だが、【魔法】という未知の力の邂逅によって【高町なのは】という少女のこれからの日常は劇的に変化していく事になる。


 
 それは、【何も出来ない無力な自分】からの脱却と【新たなる出会い】を意味するものとなるのだ。


※   ※   ※   ※   ※   ※   ※

581とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:33:41 ID:UvwcbKI20

 「あの…この宝石を持ってどうすればいいですか」

 実際に宝石を持っただけでは何も解らないので、フェレットに何を行えば良いのかなのはは確認するのであった。

 「その宝石を両手で抱えて、目を閉じて心を澄ませて下さい」

 フェレットの言うとおりに紅の宝石を両手で抱えるようにして持ち、目を閉じる。遠くの方では、恐らくシンと化け物が争っているであろう喧騒が響いている。やがてその音も途絶え、まるで暗闇に自分一人だけ存在しているかの様な感覚をなのはは感じ取

った。途轍も無く無音の世界がなのはの周囲に広がる感覚の最中、なのはの両の手にある宝石がトクンと脈を打つ気配を感じた。
 
 「管理権限、新規使用者設定機能。フルオープン」

 フェレットがその様に述べると、その言葉に呼応するようにフェレットとなのはの足元に桜色をした円形の方陣が出現した。手中にある宝石の脈打つ気配が更に強まるのをなのはは感じた。

 「僕が今から言う言葉を繰り返して、我、使命を受けし者なり」

 「…我、使命を受けし者なり」


 ――宝石の脈打つ鼓動が高まった。


 「契約のもと、その力を解き放て」

 「契約のもと、その力を解き放て」


 ――宝石の脈打つ間隔が早まる。 


 「風は空に、星は天に」

 「風は空に、星は天に」


 ――言葉を紡ぐ度、宝石の脈打つ鼓動・間隔が次第に早まり、高まっていく。


 「不屈の魂(こころ)は、この胸に」

 「不屈の魂(こころ)は、この胸に」


 ――宝石から放たれる光、円形の方陣の輝きがより一層強まる。


 「この手に魔法を!」

 「この手に魔法を!」


 何処からともなく、風が吹き上げなのはの髪を揺らす。それがデバイスの影響だと感じ取ると、なのはは双方の目を開いた。手中に収めていた宝石を両手ごと、上半身の前にかざし手を開く。すると、宝石が独りでに空中に浮かびその体勢を維持してい

る。そして、宝石が放つ光の輝きが最高潮に達するとなのはとフェレットの紡がれる言葉が重なった。


 「「レイジングハート、セーット、アーップ!!」」

 『――Stand by Ready.Setup.――』

582とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:34:12 ID:UvwcbKI20

 妙齢の女性の様な、落ち着きを含んだ口調の機械音声が紅の宝石から響いた。空中に浮かんだ紅の宝石から放たれる光の輝きが、なのはを中心に周囲に広がり桜色の光を形成すると、その光は数秒の内に一気に天空まで伸びた。地面から天へと

一直線に伸びたその光は、まるでなのはの内に溢れる力そのものを体現するかのように、一本の柱となって眩い光を発している。

 フェレットは間近でなのはが形成した光の柱を目の当たりして、驚きを隠せないでいた。それも仕方の無い事である。何しろ自分が降り立った【魔法】の概念がほとんど知れ渡っていないこの辺境の地で、まさか自身の魔力総量を軽く凌駕する程の魔力

の持ち主に出会ってしまえば、呆然となってしまうのは自明の理というものであろう。

 「…なんて魔力量なんだ」

 フェレットは無意識の内に感嘆の言葉を呟いた。

 光の柱の形成者であるなのはは、柱の中心で自身が生み出したこの予期せぬ光景に驚きを隠せず、周囲を忙しなく見回していた。そんななのはに声を掛けたのは、なのはの両手から離れ単独で宙に浮いている紅の宝石――レイジングハート――で

あった。

 『――Welcome, New User.――(初めまして、新たな使用者さん)』

 「ふぇ!?あ…は、初めまして!!」

 突然声を掛けられて驚くなのは。そして紅の宝石から紡がれた言葉がなのは自身にとっては、学校でも教えて貰っていない言語であるにも関わらず、自分の心にストンと落ちて理解出来る事にも驚きつつ、挨拶を返す。

 『――Your Magic Level qualifies you to use me. ――May I select the optimum configuration for the Barrier Jacket and the Device.――(貴女の魔法資質を確認しました。デバイス・防護服ともに、最適な形状を自動選択しますが、よろしいでしょう

か?)』

 「えっと……。取り敢えず、はい!!」

 紅の宝石――レイジングハートから質問が掛けられた。内容としてもなのは自身では、どうにも判断出来ない為、なのははこの紅の宝石の提案に従う他無かった。

 『――All right.――』

 【レイジングハート】がそう言い終えると、なのはの体が光に包まれる。なのはの衣服が桜色の輝きを放ちながら、その様相を変化させる。上半身は黒のインナージャケットと腰回りに頑丈な材質で作られた黒の固定ベルト、胸部には金色の頑丈な金属

があしらわれている。


 下半身には、全体的に白を基調としたデザインで纏め上げられたスカートが出現し、随所に青と赤の色彩で整えている。シューズには、中央部にレイジングハートと同じ様な紅の宝石を装飾しており、頑丈な材質で形成される。


 最後に、黒のインナーシャツの上にジャケットが羽織われる。このデザインも全体的に白を基調としており、肩部分を突起状に形成している、手元部分は青い金属カバーが装着され手甲の様な光沢を放っている。胸元には、金色の金属が形成され中央

部には紅の宝石が装飾されている。全体的な様相としては、なのはが通う聖祥学園指定の制服をそこら中に機械のようなアレンジを施したかの様に見えるデザインである。


 変化を見せたのはなのはの服装だけでなく、デバイス・レイジングハートにも変化が現われた。紅の宝石が宝石自体の形状を拡大させ、その周辺を金色の金属が包み込むデザインを施し、白と青と桜色の装飾で彩った。その形状は杖の様でありなが

ら、何処かしら兵器の印象を感じさせるような形状であった。


 こうして【レイジングハート】が齎した、一連の変化を終えると桜色の極大の柱は次第に周囲に胡散していき、収まった。




 ―――自身を無力な存在だとかつて悟った少女は、【魔法】という未知の力を得た。




 ―――この力によって導かれる自身の運命を、この少女はまだ知る由もないのだ。

583とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:35:06 ID:UvwcbKI20

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 ――高町なのはが【レイジングハート】を起動させる数分前――

 「行くぞ!!この化け物!!」

 シンが気合を込める様に言葉を放ち、黒い化け物に全速力で迫っていく。しかし、シンが折角込めた気合を嘲笑うかのように黒い化け物は自身の身体から、長い蔦の様な触手を形成し伸ばしてきた。

 「何ぃ!?」

 予想もしなかった黒い化け物の反撃に驚いたが、間一髪で横に跳んで回避した。

 「くそ!何だよあれ!?ずっこいな!!」

 『――恐らく自身の身体を利用した遠隔攻撃でしょう。魔力によって強化されているため、物理・魔力ダメージはそれなりに在るでしょうから油断は禁物です――』 

 【デスティニー】から先程の黒い化け物の攻撃を分析し、シンに解説する。そして【魔法】という力は、使い方によっては自身の肉体を強化することで物理・魔力ダメージを強化することや、逆に物理・魔力ダメージを軽減する事が出来る使用方法もあると

シンは【デスティニー】から説明を受ける。尚、黒い化け物が使用している強化魔法についてなのだが、高度な強化魔法を使っている訳ではない。何故かと言うと、強化魔法に限らず、高度な効果を齎す【魔法】を使用するには、より複雑な【魔法陣・詠唱】

を用いて構築することが必要となる。
 
 その【魔法陣・詠唱】を構築するとなると、高度な思考能力・魔法処理能力が要求される。しかし、黒い化け物自身は元々無機物な存在が高魔力の影響下によって駆動体と変質し、周囲への無差別な攻撃性を見せているだけであり、高度な知能を持ち

合わせている訳ではないからである。そのため、強化魔法を使っていると言っても【魔法】という力の使い方を把握している【魔導師】からすれば、黒い化け物の強化魔法は焼け石に水程度の効果なのである。だが、魔力というものに耐性の無い、ごく一般

の人々からすれば脅威であることには変わりない。そして、デバイスを持ち合わせたとは言え、先程までは一般人であったシンにも同様の事が言えるであろう。

 迫り来る触手を持ち前の運動能力で器用に避けながら、デスティニーから化け物の使用している魔法の概要や忠告を聞いて、シンは愚痴を吐く。 

 「だが、油断するなって言っても、あんな戦い方されたら手の出し様が無いぞ」

 黒い化け物は触手という遠距離攻撃でシンに対して優位である。それに対してシンはと言うと、取り敢えず拳で殴り掛かるという単純極まりない手段で対抗しようとしたため、不利に陥っている。今は触手を避けれる余裕があるが、疲労が蓄積されて来た

ら触手を避け切れずに触手の餌食になってしまうだろう。

 『――ならば、対抗出来る武装を使用することにしましょう。――…MA-BAR73/S 《High-energy beam rifle》 realize.――』

 デスティニーそうが言い切ると、シンの腕一本分以上の全長を有する小銃が一瞬で右手に形成された。その物々しい外観と重量からまるで本物の銃なのでは無いかと勘違いをしそうだ、とシンは考えた。

584とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:35:42 ID:UvwcbKI20

 「…く…結構重いな…これって銃だよな?」

 『――そうです、正式な呼称としてはビーム・ライフルと言います。撃鉄≪Trigger≫を引く事によって、魔力弾を撃ち込みます――』

 【ビーム・ライフル】について簡単な説明が行われると、早速銃口を黒い化け物に向ける。すると銃口に警戒しているのか、黒い化け物が唸り声を上げながら此方の出方を窺っている。


 『――マスター、片手では狙いが付き難いでしょうから…――』

 ビーム・ライフルを持った右手を黒い化け物に向けて、狙いを付け様とした所でデスティニ―から声が掛かる。ビーム・ライフルの重量に耐えながら狙いを付けるという難関な行為をしている所で、水を差されてシンは眉を釣り上げてしまう。しかし、ある変

化がビーム・ライフルに起こった。それは銃口に近いグリップ部分が重低音を上げて、シンから見て左手の方向に90度程折曲がったのである。

 『――…両手で狙いを付けるべきです――』


 デスティニーの気遣いに礼を言いつつ、折れ曲がったグリップ部分を左手で握り締める。これでライフル自体の重量に辟易することは解消されたので、シンは狙いを付け、黒い化け物に対して撃鉄≪Trigger≫を引く。


 一言で例えるなら、≪  熱線  ≫
   

 そう形容すべき青白い魔力弾が高音を響かせ、ライフルから放たれた。更に発射された魔力弾の反動でシンの身体は後方に大きく仰け反ってしまい、尻餅を付いてしまう。発射された魔力弾は一瞬にして、黒い化け物に辿り着き着弾するように思えた

が、黒い化け物は間一髪の所で回避した。標的を失った熱線はコンクリートで舗装された地面に着弾し、その箇所に大穴を穿った。

 撃った反動がこんなにも強いようでは、使い物にならないのでは無いかとシンは些か語気を強めて、デスティニーに抗議をした。その問いに対してデスティニーは、『――後でライフルの出力調整を行います。――』と返答した。遠距離に対抗出来る武器

としてビーム・ライフルを提案して来たのに、これでは振り出し、元の木阿弥では無いかとシンは続けて抗議をした。
 
 その遣り取りデスティニーとしていると好機とばかりに黒い化け物が突撃を敢行、一気にシンに肉薄してくるのであった。

 尻餅を付いた体勢から不平不満を言っていた為咄嗟の対応に遅れが生じ、立ち上がるだけで精一杯であった。黒い化け物の突撃による損傷を覚悟した矢先、シンの左手甲から桜色の魔力光が突如として形成され、黒い化け物からの突撃を遮った。

 武装名―MX2351 《Solidus Fullgoll beam shield device》―ソリドゥス・フルゴール ビームシールド発生装置―というこの武装は防御魔法を展開する武装であり、デスティニーが自動展開したものだとシンはデスティニーから説明を受けた。因みにこの

防御魔法は【シールドタイプ】の防御魔法に分類されるものである。

 【シールドタイプ】の防御魔法とは、術者による能動的な防御で使われる。(最も、今シンを守護している防御魔法はデスティニ―が自動展開したものであるが)防御範囲は狭いが、その分強固な防御を誇れるのが特徴の防御魔法である。またソリドゥス

・フルゴールは本来であれば【シールドタイプ】と分類するには発動方法がかなり異なるものではあるが、防御範囲が狭いため(シンの上半身程度)この種類に分類する。シンを防御している桜色のシールドと突撃してきた黒い化け物の間に落雷が発生し

たかのような轟音が響き始める。激しい光が発生し、青い稲光が放たれる。その光景をもしシンが第三者の視点から見れば「昨日見た夢の光景にそっくりだ」と発言していた事だろう。

585とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:36:33 ID:UvwcbKI20

 黒い化け物の突撃から防御魔法で応戦していると、デスティニーから突然『ビーム・ライフルから手を離し、右手を黒い化け物に翳す』ように言われた為、その通りに実行した。すると、

 『――Palma Fiocina Shoot Ballet.――』

 右手から青白い光輪が形成され、前方に玉の様な魔力光を作り上げる。そして、その玉が拳一個分程の大きさに集束されていく。

 『――Shoot.――』

 デスティニーの発音と共に弾丸の如く発射された拳一個分の球体は、先程形成したシールドを突き抜けて黒い化け物に激突し、その身体を大きく吹き飛ばした。自身の機械に包まれた右手から硝煙の様に煙が出ている事に対して、戸惑うシン。そして、

デスティニーから初歩の射撃魔法【シュートバレット】についての説明が入る。

 【シュートバレット(Shoot Ballet)】とは、初歩中の初歩にあたる射撃魔法であり、自身の魔力光を手の先に集めて打ち出すことで対象を攻撃する魔法のことである。シンプルな術式なため、術者の魔力量がダイレクトに出る魔法でもある。因みに射撃魔

法とは、中・近距離で使用される様々な属性を付与した魔力弾を放つ魔法の事である。少量の魔力を圧縮し加速させる事で威力を上げ易く、同時複数射撃・誘導による曲射・連射といったバリエーションが豊富に取れる便利な魔法である。

 先程のビーム・ライフルも射撃魔法に相当するもので、直射型に分類されるものである。直射型とは、魔力弾のスピードや貫通力・命中時の威力にリソース≪Resourse≫を振った射撃魔法である。誘導性には期待出来ないが、射撃速度は非常に高速

でもある。先程黒い化け物に避けられてしまったのは、シンが発射にもたついた事や銃口を向けっぱなしだった為、化け物の僅かばかりの生存本能が危険を察知し、射撃地点を容易に予測出来てしまったからなのだろう。

 黒い化け物と交戦している内に桜色の極大の魔力柱が聳え立った。なのはがデバイスを起動しているのだろう。だが、シンとしてはここまで目立つものとは予想もしていなかった。その光景にシンが目を見張っていると、先程の射撃魔法の衝撃から立ち

直った化け物が、その極大な魔力柱の方向を凝視し、まるでシンの事など見えていないとばかりに一目散に、咆哮を上げながら柱に向けて飛び上がっていった。

 「何!?どういうことだよ!?」

 突然の化け物の行動にシンは対応が遅れた。どうにもあの駆動体は単純な生存本能故に、より強力な魔力を求めているのでは無いかとデスティニーは解析していた。そして、交戦中にシン以上の【極上の餌】が上空に現われたので、そちらを優先して

いるのではとこの魔導器は語る。

 「クソッ!!あんな高い所に上がられたら打つ手無いだろ!!」

 現在黒い化け物は高く飛び上がり、屋根伝いに桜色の魔力柱に向かっている。シンは化け物の事を見上げながら追い掛けているが、化け物の方が体積が軽いからか、軽快な調子で次々に屋根を渡っていき、少しづつシンを引き離していく。

586とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:37:06 ID:UvwcbKI20

 『――マスター、このままでは異相体に追い着けないので飛行魔法の使用を提案します――』

 「飛行魔法?…ひょっとして【魔法】って空を飛ぶ事も出来るのか…?」 

 飛行魔法とは、移動魔法に分類される【魔法】である。因みに移動魔法とは、基本的には歩行・走行といった通常の移動手段以外の魔法による飛行、瞬間移動の事を指す魔法である。そして、飛行魔法というものは初級魔法の中では、一番最後に取得

するレベルの高い魔法でもある。

 飛行魔法とは文字通り空中を自由に飛行する魔法である。しかし、使用するにあたっては飛行魔法に適応する魔力適正を備えているかどうかが重視される。この適正が低ければ魔法に関連する世界における飛行魔法の使用は許可されない。また、防

護服の着用も必要となって来るのだ。

 飛行魔法を使用すると多かれ少なかれ必ず空気抵抗が発生する。仮に、防護服の着用無しに飛行魔法を使用すれば、空気圧や空気抵抗によって体内や対外に変調を来たす事も考えられる。肉体強化の【魔法】を行使するだけで良いのではないかと

考える方もいるだろうが、肉体の強化程度で飛行魔法を使用することは非常に危険なので、防護服はしっかりと装着する事がベストなのだ。

 繰り返しになるが、防護服の機能の一部として空気抵抗を無効化する。自動機能もデバイスには基本機能(必須機能と言い換えても良い)として備え付けられている。更に、万一の場合に備えてデバイス及びデバイスを仲介して生成した防護服にはセ

イフティ機能として、自動浮遊機能が備わっているものも存在する。但し、このセイフティ機能を行使する場合は術者に最低限の魔力が残っている事、デバイスや防護服の自動発動機能自体が破損していない事が条件となる。

 飛行魔法に必須な条件についてデスティニ―から説明を受け、飛行魔法の行使をシンはデスティニ―に頼み込む。

 『――了解です。では、腰部スラスター・脚部スラスター点火≪fire≫――』

 デスティニ―が発音すると、腰部と脚部に装着されている機械部分から、戦闘機が発進する際に響く様なジェット音が轟く。

 『――Dランクの飛行・高速移動魔法を使用します。《 Booster & Voiture Flier 》――』

 ジェット音が響いた後に、デスティニーの発音によってシンの後背部分(肩より若干下の部位)から桜色の光の羽根が発生した。この光の羽根は姿勢制御・方向制御のために備え付けられているものであり、腰部・脚部の機械部分から噴出している魔

力は自身の身体を空中に浮かび上がらせる為のものであるとシンは説明を受ける。

 「うわぁ…本当に…本当に空を飛んでる!!」

 デスティニ―の説明が頭に入っているのかが、疑わしい位にシンは興奮した。現代文明においては21世紀に入っても、人が独力で単独飛行する様な技術等確立されていない。飛行機等の人が操縦する必要があるものでしか、空を飛ぶ技術は無いの

である。どちらかと言えば空を飛ぶよりも乗り物に乗るような感覚になってしまうのだろう。だからこそ、シンの反応というものは当然であるし、誰にも責め立てられる権利等無いだろう。しかし、状況が状況なためデスティニ―からの叱咤が入り、シンは気持

ちを切り替え黒い化け物の追撃に入った。

587とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:37:40 ID:UvwcbKI20

 
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 「ふぇぇ…凄い格好……」

 桜色の光の柱が収まった後に自身の防護服姿に面を喰らったのか、なのはは呆然と自身の姿を見回していたのだ。

 「見惚れるのは後回しにして、取り敢えずジュエルシード異相体が此方に向って来ています。応戦の準備を」

 「あ、うん。そうだね。でもこれでどうすれば良いのかな?」

 フェレットからたしなめる様に忠告が入ると、なのはも気を引き締める。折角シンが頑張って時間を稼いで自身もデバイスを起動し、防護服も着用出来たのだ。何とかしてシンの助けにならなければと意気込むなのはなのだが、如何せん【魔法】等使った

事が無いのでどの様にすれば良いのか検討が付かないのである。

 『――How much do you know about magic?(魔法についてどれ位把握されてますか?)――』

 「全然…全くありません…」

 突然デバイスから質問が投げ掛けられ、なのはは暫し考えた。しかし、実際先程目にした【魔法】となのはが好んで視聴する少女アニメに出て来る様な魔法少女が使う【魔法】とのイメージが全く以って掛け離れているため、参考にもならないだろうと考

え全く把握していないと返答した。

 『――Then I shall teach you everything. Please do as I say.(では、全て教えます。私の指示通りに)――』

 「はっ、はい!!」

 レイジングハートの言葉に頷くなのはの元に、なのはの膨大な魔力量を感知した黒い化け物が屋根伝いに乱雑に降りてきた。それに数拍遅れて、シンが上空から桜色の魔力光を背中から煌かせて黒い化け物のやや後ろに降り立った。位置関係として

は化け物の前方になのはが、化け物の後方にシンが居るカタチとなっており、丁度化け物を挟み込むような位置取りをしている。

 「なのは!デバイスの起動は…って終わってたか」

 時間稼ぎは上手くいった様でシンの憂いが晴れた。なのはがフェレットの所有するデバイスを起動し終えたので、これでなのはが封印魔法を行使して、化け物の魔力源を抑える事が出来れば難を逃れる事が出来ると思ったからだ。しかし、シンの安堵し

た矢先に黒い化け物はなのはに向かって突貫を掛けた。化け物の奇襲に即座に対応したのは、シンやなのはでもフェレットでもなくレイジングハートであった。

 『――Flier fin.――』

 レイジングハートは冷静であった。迫り来る異相体に対応するには、狭い路地では魔力を使用した攻撃に若干支障を来たすと判断した。次にレイジングハートはなのはの魔力を自動消費し、なのはの足の左右に二対四枚の魔力による羽根を形成。そ

れをレイジングハートによる自動操作でなのはを上空に退避させ、異相体の突撃を回避した。

 「わっ、わわっ!?」

 突然、自分の身体が上空に舞い上がった事に対して驚きながらもレイジングハートの指示に従い、なのはは空中を華麗に舞う。異相体はなのは(実際にはレイジングハートであるが)の対応に対して、飛び上がりながら先程シンに行った様になのはに向

けて触手を伸ばし攻撃を敢行。

588とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:38:16 ID:UvwcbKI20
 異相体の攻撃の全てをレイジングハートの操作によって全てを避け切ったなのはは、一旦家屋の屋根の上に着地をする。異相体は続けて触手による攻撃を仕掛けるが、なのはは掠る事も無く回避していく。暫く飛ぶと慣れて来たのか、なのはは空中で

姿勢と呼吸を整えながらレイジングハートに質問を掛けた。

 「あの、あの黒い陰って何なんですか?生き物なんですか?」

 『――No. It is not a living being. It is an entity from 【Lostlogia】.(いいえ、あれは生き物ではありません。あれは【ロストロギア】の異相体です)――』

 【ロストロギア】という聞き慣れない言葉になのはは疑問符が浮かび上がった。しかし、何よりも印象に残ったのが、あの異相体と呼ばれているものは「生き物ではない」というレイジングハートの解析になのはは驚愕した。どう考えても生き物の様にしか

思えない行動を取っているのに「生き物ではない」と断言されたのだから無理もない。

 「こんのぉ!!」

 なのは、異相体に続いてシンも飛行魔法によって上空を滑空し、異相対に向けて射撃魔法【シュートバレット】を発射するが、動き回る巨躯に一度も命中する事無く魔力を消耗する。初めての魔力行使でもあり、尚且つ慣れない攻撃方法でもあるため苦

戦している様である。

 シンの命中しない射撃魔法に見切りを付けたのか、異相体は再度なのは目掛けて突撃を行った。先程の突撃とは打って変わってかなりの速度でなのはの方に進撃してくる。どうすれば良いのかとなのはからの問い掛けにレイジングハートは『杖を前方

に掲げる様に』と返事が返って来た。返答に対して、指示通りに杖を掲げると、

 『――Protection.――』

 桜色の障壁が前方に展開され、其処に異相体が衝突する。すると、強力な障壁に阻まれた異相体は大きく弾き飛ばされ、民家に激突してしまった。

 『――Your magical powers are impressive.(良い魔力をお持ちですね。)――』

 「…凄い、予想以上だ」

 なのはの魔力量にレイジングハートから賞賛の声が、フェレットからは先程よりも一層感嘆の声が上がる。本当に予想外な事態なのだろうという印象を受ける。しかし弾き飛ばされる異相体を眺めながら、シンは疑問に思った事をデスティニーに質問をし

てみる。

 「なぁ…なのはって、凄いのか?」

 『――そうですね。魔力量は桁違いですね。マスター等足元にも及ばないでしょう――』

 さり気無く毒舌な口調のデスティニーに苛立ちを覚えるが、シンは「自分となのはの魔力量にはどれほどの差があるのか」と聞いてみたが、『詳しい数値は機材が無いので計測出来ない』という返事が返って来た。また、推測ではあるが『なのはの総魔力

量の三分の一以下』がシンの魔力量なのでは無いかという答えがデスティニーから返って来て、シンは軽く落ち込んだ。


 ――貴女なら、アレを止められる!レイジングハートと一緒に封印を!!――

 
 空中に留まり異相体の様子を探るなのはに突如、フェレットの声が脳内に響いた。慌てるなのはにレイジングハートから魔力による【念話】だと説明を受けた。

 念話という【魔法】は魔法を使える者ならば、誰でも使える【基本の魔法】の事である。言い換えれば、魔力を持たない者には伝える事が出来ない為、魔導師を見極める簡単な手段でもある。自身が聞かせたいと思う受信者にのみ(複数可能)伝える、と

いう方法も取れる上に距離によるタイムラグも発生しない非常に優秀な伝達手段である。

589とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:38:47 ID:UvwcbKI20

 『――To seal, either get closer and invoke the Sealing Magic, or use more powerful magic.(封印のためには、接近による封印魔法の発動か、大威力魔法が必要です)――』

 フェレットが行った【念話】の説明と併行して、封印を行うための必要条件がレイジングハートから語られる。しかし、封印魔法の発動や大威力魔法と説明されても、今日始めて魔法という力に触れたなのはには見当のつかないものである。その為、なの

はは困惑を含めた言葉を口ずさむだけであった。

 『――Imagine you're about to strike.(あなたの思い描く強力な一撃をイメージしてください。)――』

 「そんな…急に言われても…」

 『強力な一撃をイメージしてください』と言われても、なのはには疑問符しか浮かばないのである。それも仕方の無い事だ。何せそんな物騒なワードに反応するのは、同年代では男の子位であろう。シンが適任なのではと思われるかもしれないが、普段

から翠屋や家事を率先して遊ぶ暇も無く手伝っているので、このワードに対して詳しい知識を得る機会があるのだろうか。なのはは疑問に思ってしまうのだった。

 「なのは、大丈夫か?何か考え込んでるみたいだけど…」

 予断を許さない状況の最中、考え込んだなのはを見かねたシンが声を掛ける。すると、丁度いいと思ったなのはから「強力な一撃」について、シンに尋ねてみた。なのはの質問に少し考えあることを思いついたのか、シンはデスティニーに頼み込み、先程

使用したビーム・ライフルを形成して貰った。

 なのはと合流する以前に、射撃武器として使用した際に反動で体勢を崩してしまう程に「強力な一撃」であり、コンクリートで舗装された地面に大穴を空けてしまった事をなのはに説明し、実際になのはに持たせてみた。その重量になのはは驚いたが、そ

れと同時にある事を思いついた。
 
 刑事ドラマのある一場面では、凶悪の犯罪者に対抗して拳銃を使用する様な場面があった事を、なのはは思い出していた。その先の場面を見せるのは刺激が強すぎると判断した父や母がチャンネルを回したりするのだが。「強力な一撃」として【銃】とい

うものは、確かに有効なものだろうとなのはは思い立った。但し、外見そのものを真似するのは大変物騒なので【銃口≪Muzzle≫】と【撃鉄≪Trigger≫】を用いて魔力を撃ち出す自分というイメージを固めるのに留まった。ライフルを貸してくれたシンになの

はは礼を告げライフルを返すと…

 『――申し遅れましたが初めまして、デスティニーと申します。以後お見知りおきを――』

 自分やレイジングハートに挨拶を掛けるデスティニーに、人間じみた印象をなのはは受けた。こう言ってしまうのも気の毒だが、レイジングハートは何処かしら機械的な反応をしていた為、少々寂しい印象を受けていたので、デバイスの反応も多種多様

なのだな、となのはは微笑んだ。

 挨拶を掛けてきたデスティニ―にレイジングハートも続けて挨拶を返した。そんな事をしている場合では無いのではないかとシンが言い返そうとした所で、民家に弾き飛ばされた異相体がまたもやなのはに対して突進をして来た。

 不意を突かれた一撃だったが、間一髪の所で先程異相体の触手攻撃防いだ防御魔法をなのはは展開し、異相体の突進を防いで見せた。しかし、シンやなのはに度々弾き飛ばされ耐性が付いたのか、学習したのかは判明し辛いが異相体の突進にな

のはは苦悶の声を上げた。そのなのはの苦悶する状況を打開しようとレイジングハートはなのはに指示を入れる。

 『――Hold out your strongest hand.(利き手を前に出して)――』

 「は、はいっ!」

 レイジングハートはシンが異相体に攻撃を仕掛けた際に使用した【シュートバレット】をなのはに使わせる事で、この状況を打開する事を考え付いた。幸い、自身の魔力を集めて攻撃する対象に撃ち出す簡単な魔法なので、これだけ接近していれば外す

事は無いだろう。そう予測を付けレイジングハートはなのはに指示を出したのだ。

590とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:40:13 ID:UvwcbKI20

 『――Shoot the Bullet. Shoot.――』

 レイジングハートの指示で撃ち出された魔力弾は、なのはの防御魔法を抜けると異相体の身体を吹き飛ばした。しかし、シンが【シュートバレット】を撃ち出した時と結果は異なった。異相体の身体を吹き飛ばすのと同時にその魔力弾は異相体の巨躯を

貫通し、化け物の身体を三つ程の大きさへと分散させたのである。

 自身が撃ち出した時とは異なる結果にシンは戸惑い、異相体の身体が分散された事になのはは驚いた。そして吹き飛ばされた異相体は、その身体を三つに分かれたままその一つ一つに目や口が出現し、それぞれが民家の屋根等に墜落した。なのは

の先程の一撃に恐怖を感じたのか、異相体の表情には脅えている様にも見えた。そして、それぞれの異相体が一目散に逃走を図ったのだった。

 「あっ、逃げた!?」

 「っ!!追いかけるぞ!!」

 シンの言葉になのはが頷きそれぞれに背中や足元に桜色の羽根を展開して、三体に分かれた異相体に対して追跡を掛ける。しかし、只でさえ軽量の異相体が三体に分かれてしまい、より一層軽くなった為か一方的に距離を離されるだけだった。

 (追い付けない。あんなのが、人前に出たら…)

 なのはの脳裏に、今まで受けて来た異相体の一撃に成す術無く蹂躙される無関係な人々や自分の身の回りに居る大切な人たちが映ってしまった。その想像を振り払うべく、なのはは頭を振った。そのような事は絶対に起こさせる訳にはいかない。今此

処で、絶対に、何が何でも喰い止めなければならない。なのはの目に決意を燈した輝き表われる。

 「さっきの光、遠くまで飛ばせない!?」

 今しがた使用した魔法、強力な一撃、銃口と撃鉄、自分の中で朧げながらも固まってきたイメージを現実に変えるためになのははレイジングハートに提言した。

 『――If that's what you desire.(あなたがそれを望むなら)――』

 必ず実現出来ますよ。とレイジングハートが語らなかった言葉の末をなのはは読み取った。願えば叶うという事なのだ、ならば異相体は此処で喰い止める。自分が想像≪ Image ≫した【強力な一撃】で。

 逃走し続ける異相体の姿は目視しながら、近くのビルの屋上へなのはは着地した。気持ちを落ち着かせる為に二、三度深呼吸をする。すると、自分の内側で心臓以外の【ナニカ】が脈打つ様に感じた。それに伴って、なのはの足元に桜色の円形の方陣

が出現する。更になのはの身体にも変化が起こった、方陣と同じ様な桜色に包まれたのだった。

591とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:40:44 ID:UvwcbKI20

 なのはの変化に対して反応は様々だった。シンは追跡を止めて、ビルに着地したなのはを問い詰めようとしたが、深呼吸の後に発光しだしたなのはを凝視した。フェレットは飛行して異相体を追跡する二人に地上から追随していたが、なのはの魔力の変

動に驚愕せざるを得なかった。そして、レイジングハートは自身が手取り足取り教える事無く魔法の【コツ】を掴んだなのはに感心しながら、自身の役割を果たすべく、なのはに指示を出した。

 『――That's right. Focus your internal spiritual heat through your arms.(そうです。胸の奥の熱い塊を両腕に集めて)――』

 レイジングハートの指示通り、自身の身体の奥で脈打つ【ナニカ】から溢れ出す【力】を両腕に集約し、留めるイメージをしながら両手でレイジングハートを握り、機械的な杖の先端部分―宝石部分―を異相体の方へと向けた。

 『――Mode change. Cannon Mode.――』

 その言葉を放つと、レイジングハートの先端部分に変化が訪れる。鋭利な槍の様な形態に変化し、杖の部分が伸びた。杖の上方にあった青い部分が下に下がると、その内側から黄金の撃鉄と青色のグリップが表われた。

 戦闘魔導師においては【砲撃型】というカテゴリが存在する。大魔力を誇り、自身の魔力を一撃で強く・遠方まで撃ち放つ事を得意とする魔導師のことである。レイジングハートはなのはの【砲撃型魔導師】としての素養を感知し、自らの機体機能を長距

離砲撃形態としての【カノンモード】に変更させる選択したのだった。

 出現したグリップを迷わずなのはは握り締めた。そして90度程回転させると杖から桜色の巨大な羽根が三枚、120度程の等間隔を開けた状態で同一円状に出現した。

 『――Shoot in Buster Mode.(直射砲形態で発射します)――』

 なのはの力や足元の方陣の余波を受け、周囲に風が巻き起こる。なのはの前髪を揺らすが、それを気にする事無く周囲の様々な位置情報が見える様に変化した自分の視界の中で一直線に三体の逃走を続ける異相体を確認する。

 『――Ignite fire when targets locked.(ロックオンの瞬間にトリガーを)――』

 レイジングハートの指示に従い撃鉄に指を掛けたまま、異相体の方を向き続ける。三体を一度に撃ち抜く、その瞬間を只ひたすらに待ち続ける。その様はまるで、獲物を狩るハンターのような雰囲気さえ醸し出していた。



 
 ―――やがて、照準スコープの内に三体の標的≪ Target ≫の異相体がロックされた。




 ―――心と身体、二つの撃鉄をなのはは引いた。




 ―――眩いほどの桜色の砲撃がレイジングハートから放出され、なのははその衝撃で後方に仰け反った。




 ―――放たれた桜色の極光が三条の光に別れ、それぞれの標的に直進する。




 ―――そして、異相体達の逃走速度以上の速さで直進する砲撃の光がやがて三体の異相体を包み込んだ。

592とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:41:45 ID:UvwcbKI20

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 ―遠見市―

 海鳴市近燐に位置する市であり、海鳴駅駅内にある「United・Railways(ユナイテッド・レールウェイズ、以後URと称す)」を30分程利用する事で辿り着く市である。周辺を海や自然に囲まれている海鳴市とは異なり、市内はビル街やオフィス街で殆ど埋め

尽くされており、県内有数の商業都市として栄えている事で有名でもある。因みに、遠見市でも走行している「UR」は元々海鳴市市営の鉄道会社であり、海鳴市近隣を移動するだけでなく、遠出をする際の重要な交通手段としても利用されている。観光客

の利用も多いが、海鳴市在住の市民の足代わりに利用されても居る。


 そんな、遠見市のビル街の灯りが煌く夜景の中、あるビルの屋上の一角に一つの人影があった。


 【 端正な顔立ちの高級で幻想的な西洋風の人形 】


 この人影を一言で形容するなら、この様に表現する他ないだろう。勿論のこと人形ではなく、人間であり少女である。その少女は黒衣のキャミソールを着用し、春先とは言え未だ冷たい夜風をその身に受けている。宝石の様な赤い瞳の視線の先には何

も無く、ここでは無いどこかを見つめていた。美しく長い金髪をツインテールに纏めた髪をゆらゆらと夜風に揺らしながら。

 「第97管理外世界、現地名称「地球」国名「日本」母さんの探し物、【ジュエルシード】は、ここにある」

 『――Yes,sir.――』

 確認するかのように言葉を紡いだ金髪の少女に、一つの返事が返って来た。その口調から威厳の風格さを感じ取れるのだが、何処と無く機械音声の様な発声をしている風に捉えられる。少女が握り締めていた右手を胸元まで手繰り寄せおもむろに開く

と、そこには三角形の形をした黄色のアクセサリーが置かれていた。

 「【バルディッシュ】この世界での【探し物】は数が多いから、時間掛かるかも知れないけど宜しくね」

 『――No problem.(問題ありません)――』

 先程から少女の言葉に対して言葉を返していたのはこの黄色いアクセサリー、いやデバイス・バルディッシュであった。金髪の少女とデバイスが会話をしていると、屋上の出入口となる扉が重低音を上げて開いた。

593とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:42:20 ID:UvwcbKI20
 「随分待たせちゃったね。取り敢えず寝床の確保はして来たよ」

 屋上の出口から入ってきたのは、この国特有の黒髪を長髪に蓄えた小柄な日本人女性だった。白を基調とした大人しい服装とは裏腹に、その口から発せられる言葉は活発そのものであり、外見に似合わずチグハグとした印象を受ける。


 しかし、次の瞬間その小柄の女性は橙色の魔力光に包まれる。

 
 その橙色の魔力光が収まると、魔力光と同じく鮮やかな橙色の豊かな長髪に、頭から足元までのボディバランスが見事に整った活発そうな印象の女性が姿を表した。その服装も黒のシャツ、更には所々にアクセサリーを施しジーンズ姿のものと変化し

ており、より一層活動的なものを感じさせる。

 「うん、ありがとうアルフ」

 金髪の少女が橙色の髪をした女性に振り返り、【アルフ】と呼ぶ。恐らく二人は旧知の仲なのだろう。この二人の間に流れる空気というものがその様に結論を付けさせる。

 「探索は明日から行うとして…今日の所は休む事にしようよ。慣れない事したからアタシは結構疲れちゃったよ」

 アルフが如何にも疲れました、と両手をダラリとぶら下げる。随分とオーバーリアクションだと見えなくも無いが、金髪の少女の物静かな印象を考えると、以外とバランスが取れているのかもしれないだろう。現にアルフのおどけた様子に金髪の少女はク

スリと微笑み、先程の緊張した面持ちも少し成りを潜めているのだから。

 「そうだね。アルフは慣れない変身魔法で頑張ってくれたしね。本格的な探索は明日からにしようか」

 アルフの提案に金髪の少女は肯定の返事を返す。すると…



 ――そんなに悠長に構える余裕は無いかも知れないぞ――

  
 
 金髪の少女とアルフの元に【念話】が届く。更に次の瞬間、金髪の少女とアルフの間に金色の円形の方陣が形成される。すると、その方陣から金色の魔力の粒子が発生し、光が溢れ出す。その光はやがて、金髪の少女と同年代と見て取れる少年を形

成した。

 この少年の容姿も金髪の少女と同様に非常に恵まれた顔立ちをしている。肩口まで生やしたセミロングの金髪は、まるで何処ぞの絵本の登場人物の容姿端麗な王子様を体現しているかのようである。瞳の方は少女と異なり、水色の綺麗な色彩で彩ら

れている。しかし、金髪の少女と並ぶと双子の家族と言われても違和感が存在しない印象を与える。

594とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:42:52 ID:UvwcbKI20
 「レイ、今言った事はどういう意味だい?」

 アルフは自身がレイと呼んだ少年に対して、疑問を投げ掛ける。しかし、その語感には会話を中断された事を咎める様な非難の色は無く、単純に疑問に感じた為質問をしている様だ。

 「この世界で、恐らくは2回、魔法による戦闘が行われた」

 レイと呼ばれた少年の発言に、金髪の少女とアルフの表情に緊張が走る。それもそのはずである。この世界では魔法の存在が認知されていないはずなのだ。にも関わらず【魔法】による戦闘が行われた、という事象が発生したのだ。この事を意味する

ものに対して、金髪の少女は現状を確り認識するために言葉を紡いだ。

 「私たち以外にもジュエルシードの探索者が居て、その人達がジュエルシードを巡って闘った…」

 「もしくは、ジュエルシードそのものの魔力を沈静化させるための戦闘か…といった所だな」

 金髪の少女の言葉に付け足す様に、レイは続け様に発言した。但し、現場に居合わせた訳では無いので、予測をする位しか取れる手段は無いのが現実でもあるのだが。

 「まぁ、いいじゃないのさ。いざって時にはこっちから出向いて分捕っちゃえば良いんだし。そこまで深刻に考えることじゃないよ」

 緊迫した空気を払拭するために、アルフが調子良く発言をする。実際、夜が深まったこの時間から探索に乗り出すのも余り得策とは言えないので、この話題の転換は必要とも言える。

 「そうだな。今言った事は、俺達以外にも探索者がいるという認識をする程度のものだ。誤解をさせてすまないな。フェイトも大丈夫だとは思うが、一応警戒はしておいてくれ」

 アルフの発言の意図を察してか、レイが先程の自分の発言に訂正を入れ、謝罪をする。更に金髪の少女―フェイト―にも気を引き締める様に言い含めておく。少女の実力というものをレイは把握しているが、万が一の場合も考えて忠告をしているのだ。

 「ふふ…私は大丈夫だよ。レイは心配症だね」

 レイの気遣いを嬉しく感じつつ、自分は大丈夫だとフェイトは言葉を返す。その発言には、魔法戦になれば自分は誰にも遅れなど取らない、という自信が垣間見える。そこで、ふと思いついた事をフェイトはレイに対して問い質す。

 「レイ、その戦闘があった場所ってどんな所か分からない?もしかしたら、その近辺にジュエルシードが散らばってるかもしれない」

 自分達はこの近くに【ジュエルシード】が散乱していることは分かるのだが、正確な位置等は実際には【ジュエルシード】そのものの魔力が高まった時にしか把握出来ない。これでは探索の際に、時間のロスが発生してしまうので、出来れば無意味に時

間が消耗することは避けたい。なので、フェイトは過去の戦闘が何処で発生したのかを把握しておきたいと考えたのだ。その戦闘が発生した箇所や周辺地域を探索すれば、ジュエルシードの探索も捗るかもしれないのだから。

 「ああ、戦闘が発生した箇所は把握している、二回の戦闘もさほど距離は離れていない」




 フェイトの質問に相槌を打ち、レイは自身の広域探索魔法によって調べ上げた情報を二人に知らせる。




 海と山々に囲まれた町【海鳴市】において、その魔法戦は行われた、と。

595とある支援の二次創作:2012/05/05(土) 02:54:26 ID:UvwcbKI20
という訳で、突然のゲリラ訪問かつ第二話をさくっと終わらせに来ました。

いやこうでもそないと連載終了予定の7月に間に合わないと思ったんですよ、正直な話。
これを終わらせたらAsの準備に取り掛かるというコトを考えたとき、もうさくさくと進めるぞ。
と言う風に意気込んだわけですしおすし。

そんな感じで今回遅くなったのは、絵の構図に苦戦したのと第二話を区切る部分が思いつかなかったので、まとめたのです。

毎度の事ながらくそ重い絵なんざ簡便だぜ、とお考えになる方もいらっしゃるでしょうが、絵も付けちゃいます。

http://download4.getuploader.com/g/seednanoha/68/PHASE02-1.jpg
http://download2.getuploader.com/g/seednanoha/69/PHASE02-2.jpg
http://download2.getuploader.com/g/seednanoha/70/PHASE02-3.jpg

シン変身後、なのは変身中、なのは砲撃前なイメージイラストです。

それでは夜分遅くに失礼しました、それではまた。

596名無しの魔導師:2012/05/05(土) 22:50:37 ID:Cij1EJaEO
おおGJ!
GWなのに仕事で疲れて帰ってきたら投下されていた
こんなに嬉しいことはない

しかしなのはさんは強いですなぁ

597名無しの魔導師:2012/05/06(日) 01:50:07 ID:N0bU0B2cO
GJっす!

そううや劇場番なのはを題材にしたssってこれが初めてなのかな?

598名無しの魔導師:2012/05/06(日) 20:55:32 ID:lOTUO5Ow0
投下乙です
文章もですが絵もハイクオリティで凄いとしか言えません
あと1枚目のなのはが妙に色っぽく感じてしまう

599名無しだった魔導師:2012/05/26(土) 21:35:32 ID:Pgls1r/gO
5月病……それは人類最強の敵。

投下しますね

600『鮮烈』に魅せられし者:2012/05/26(土) 21:52:29 ID:Pgls1r/gO
「今到着したんですか、セインさん」
「やーキラっち。お疲れさん」
カルナージ訓練合宿一日目、その午後の部。
水分を補給しにロッジに戻る途中、そこに見慣れた頭を発見した。少しウェーブのかかった水色ショートヘアーな聖王教会所属シスター、セイン先輩。
「予定よりちょっと遅れちゃったけどね。これからメガーヌさんとこに挨拶行くんだ」
ディードさんやオットーさん、ノーヴェさんの姉にあたるこの人は仕事の一環として、時折ここの住民(アルピーノ一家)に食料品の差し入れをやっている。
今日も、本当は一緒の船に乗る予定だったのだけど、仕事の都合で別行動になってしまったんだ。
「そうなんですか……あ、ソレ持ちますよ」
「お、ありがとさんっ。紳士だねぇ……──あぁそうだ」
彩り豊かな、沢山の野菜が入ったバスケットを代わりに背負った僕は、同じく沢山の卵が入った籠を持つセインさんの歩調に合わせて歩き始める。
「キラっちが育てた野菜も持ってきたんだ、今日は」
「僕の育てたのって……大丈夫だったんですか?」
「色も形もバッチリ、初めてにしちゃ上出来だよ。食べなきゃ損だって感じ」
「へぇ……なんか嬉しいモノなんですね、こういうの」
茜色に染まる世界で、胸にぬくもりを抱きながら。


『第十二話 忍び寄る魔手』


「あ〜〜〜〜」
夜がきた。
どこまでも高く大きく広がっている濃紺の天に映える、鮮やかな双月と散りばめられた星屑。彼方に臨む雄大な山脈と黒に染まった深林。
そして、第97管理外世界日本国の書物を参考に造ったと公言された、岩石と檜で彩られた原泉掛け流し火山性温泉と冷たい大気の親和性がもたらす極楽。
いやなんていうか、昔の人が温泉を聖地と崇めた理由が分かる気がする。
「いいお湯だねぇ……ジュースのおかわり、いる?」
「あ、ありがとうございます。……ほんとうに気持ちいいですね」
ここはホテル・アルピーノ名物天然温泉大浴場。
今日の訓練過程は総て終了して、僕らは今日一日の汗と泥にまみれた身体を清め、癒すべく露天風呂につかっている。
意匠に凝った造りのこの温泉は、お湯も外見に負けず劣らずに優秀な具合だった。
特にこの、ちょっと温めなのに躰の芯から暖まるような滝湯の湯加減と風情といったら、素晴らしい事この上ない。
こんな温泉をお遊び感覚で造ってしまうとはルーテシアちゃん、恐ろしい子……!
「それにしても」
今隣にシンがいない心細さを誤魔化すように、僕は右手に持った焼酎を一気に飲み干してから一人呟く。
こんな夢のような空間は、一つの不可解な状況で構築されていたりする。
いったいどうしてこんな事に……いや、判ってはいるんだ。その原因は。だけど、何故と問わずにはいられない。
それは誰にとっても不幸な事なのだから。
「≪偶然≫って、怖いなぁ……」
僕は改めて、周辺を見渡しての状況認識をした。

601『鮮烈』に魅せられし者:2012/05/26(土) 21:53:41 ID:Pgls1r/gO

僕らの正面にはエリオ君がいて、その右隣にはキャロちゃんが、左隣にはルーテシアちゃんがいる。
僕の右側12M先にはスバルとティアナ、ノーヴェさんがいて。
僕の左隣にはアインハルトちゃんが、その7M先にヴィヴィオちゃんとリオちゃん、コロナちゃん、ついでにガリューとフリードが温泉で寛いでいた。

うん、まさかの『男女混浴温泉』なんだよね。
ビックリだよね?僕は盛大にビックリした。だって混浴だよ。初めてだよそんなの。
いや、別に、嫌だという訳じゃないんだ。
それこそモデル雑誌でトップを飾れそうなナイスバディや、将来有望そうな美しい流麗なラインを有する女性達と一緒に湯あみをするのは、やぶさかではないし、役得だとは思うんだけど……
(居たたまれないです、正直)
居場所がありません。
勿論みんなちゃんとタオルで大事なトコロを隠してるし、温泉自体が大きいから男女間の距離はそれなりに遠い(エリオ達を除く)。
僕はチェリーじゃないんだから興奮なんてしないし、倫理的問題もないんだけど……ねぇ?
でっかい浴槽の隅っこで体育座りしているのが現状なんです。
因みになのはとフェイトは練習の最後の仕上げの為に、シンはお手洗いに行っている為に、今ここにはいない。
シーン……早く戻ってきてー……
「キラさん。もしよろしければ、注ぎます」
「あ、ごめんね、わざわざありがとう……」
左隣から発せられたウィスパーヴォイス。
碧銀の長髪をツインテールに纏めたアインハルトちゃんが、空になっていた杯にお酒を注いでくれた。
そういえば何で僕の隣にいるんだろう、この娘は。僕も一応男なんだけどな……今でも湯上がり姿はカガリに似てるって言われてるけど。
……鬱になってきた。
「あの、あまり自分を責めないでください。事故なんですから……」
「……!うん、ありがとう」
なるほど。僕がよっぽど情けない顔をしていたからか、きっと彼女なりの気遣いなんだろう。
こうして僕にかまってくれるのは。
(だけど、責任を感じずにはいられないよ)
たとえこの状況が≪偶然≫による事故だとしても。

訓練終了後。夕飯前にまずお風呂という事で、男湯の暖簾をくぐって、脱衣所で身支度してから屋外に出てきた時に≪バッタリ≫と男女が鉢合わせになった時はそりゃもう場を諌めるのに苦労したものだ。
それからなんとか冷静になってから、男女を区切る為の絶対境界線防護壁(木製)が木端微塵に吹き飛んでいるのを認識したんだよね。
で、原因を調べてみると〔僕──キラ・ヤマトの魔力残滓〕が検出されたんだ。うん、どうやら訓練中にぶっ放した最大出力の『カリドゥス』が≪偶然≫命中したみたいなんだ……
そして僕が土下座してからは「今から男女別でというのも追い出したみたいで気分が悪い」という感じで、現在に至る。
要約すれば、僕の魔法が≪偶然≫壁を壊したせいで混浴になった、という事だね。

アインハルトちゃんの、意外と手慣れた手腕でお酌を取るその姿に、僕はそこはかとない熟練の技を見た。美麗だ。
「アインハルトちゃんは、その……いや、クラウス陛下は。お酒はよく飲むほうだったの?」
「はい、オリヴィエと一緒に──どうしてですか?」
「えっと、ちょっとした好奇心かな。やっぱり、得意だった?」
少し気になっただけだ。
クラウス・G・S・イングヴァルトと、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。
アインハルトちゃんの御先祖様と、ヴィヴィオちゃんのオリジナルが、戦乱の時代にどのような杯を交わしたのか。少し気になっただけ。

602『鮮烈』に魅せられし者:2012/05/26(土) 21:55:42 ID:Pgls1r/gO
「……彼は、さして得意でもないようです。むしろ得意なのはオリヴィエの方で、すぐに酔うんですけどそこから潰れなくて──」
在りし日のクラウス陛下は酔いやすく潰れやすい体質だったと、少女は遠い瞳で語る。
それを聞いたら、ある一つの情景が脳裏を過って思わず噴き出してしまった。
「?」
「ごめん、なんでもない」
それは未来の聖王少女と覇王少女。
潰れてグダグダになったアインハルトちゃんを、酔った勢いで振り回すヴィヴィオちゃんといった、なんとも微笑ましい姿だった。
観てみたいなぁ。
……ん?あれは──
「あの……キャロ?ルー?なんでどんどん近づいてくるのかな……?」
「エリオ顔真っ赤にしちゃって可愛いー。ねぇ抱きついていい?」
「ル、ルーちゃんには負けないんだからぁっ!」
「わぁ!?ふ、二人共ちょっ、まぁぁぁっ!?」
……おお、なんかいきなり正面で修羅場が始まったんだけど。
やっぱり年頃の少年少女には刺激が強かったかな、混浴は。
キャロちゃんとルーテシアちゃんはすっかり錯乱していて、純情少年エリオ君は身動きがとれないみたいだ。
「モテモテだねぇ……」
「あんな、ことまでっ……」
そんな大胆で破廉恥な男女の戯れに頬を紅潮させて、両手で顔を覆うアインハルトちゃん。可愛いなぁ……じゃなくて。
うーん、僕の隣に座るわりには、こういうのには免疫がないのか。ちょっと不思議だ。
【キ、キラさーんっ!助けてくださーい!!】
っと、エリオ君から念話が飛んできた。救助要請……でも僕にはどうにもならないな。
【エリオ君……残念だけど、男にそこを逃れる術はないんだ。気の毒だけど…………だけどエリオ君!無駄死にじゃないよ!!】
貴重な経験と思い出を、ありがとう。キミの死に様は忘れない。
なんちゃって。
「あー……うー……」
あ、もう完全にのぼせてるね、うん。14歳男児には酷な仕打ちだったよね。
でも安心して。
「あ、やばっ……ちょっと、しっかり!」
「エ、エリオくん!?大丈夫っ!?」
正気に還ったキャロちゃんとルーテシアちゃんが君を助けてくれるから。
「うぅ……へ、へいき……でも、少し休ませて……」
とはいっても、温泉で美少女二人に言い寄られちゃうなんて稀有な事されちゃあね。少年はもう顔だけじゃなくて全身が真っ赤になって、今にも倒れてしまいそうになっていた。
ん、倒れる?
「そういえばまだ謝ってなかったね。……ごめんね、あの時は」
「あの時……あ、大丈夫です、気にしてませんから」
アインハルトちゃんは首を振って応える。
あの時、僕らが初めて出逢った雨の日。
真実を知って混乱してたんだっけ、僕は。それから紆余曲折あってアインハルトちゃんに傘を(有無を言わさず)あげて、そのまま気絶してしまったんだ。
目の前で人が倒れて大丈夫じゃない人はいない。うん、悪い事をした。
「でも吃驚したでしょ?」
「……はい、それは驚きましたし、焦ったりもしましたけれど……それに正直なところ──変な人だとも思いました。でも助けてもらったのは事実ですし、今もこうして接していて善い人だとわかりましたから……大丈夫ですよ」
そこまで言って貰えると、こっちも心の荷が降りた気分になるな。やっぱり、どんな世界でも女性は強いね。

603『鮮烈』に魅せられし者:2012/05/26(土) 21:58:18 ID:Pgls1r/gO
「……あの時は、どうして助けてくれたんですか?あんなに距離があったのに」
「今でもよく解らないんだ。どうして『あんな時』に君の存在を見つけられたのかは……なんとなく君にヴィヴィオちゃんに通ずる『何か』を感じて、それに引っ張られたって感じかな」
「……??」
これは不確定情報なんだけれど、どうにも僕とシンの躰──の中に在るSEED──がヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃん、イクスちゃんに通ずる『何か』を感じて反応してるみたいなんだよね。
これは研究して解析すれば、僕らの目標を達成する為の手掛かりになるかもしれないな。
「……それにしても、シン遅いね。どうしたんだろ?」
「夕刻にキラさんが食べさせたキノコが原因では……?あれから顔色が優れてなかったように思えますし」
あれ、やっぱり当たっちゃったのかな……?タマゴタケみたいだから大丈夫だと思ったけどなぁ。
なんか心配になってきた。
「僕ちょっと見てくるよ。ほら、キミはそろそろヴィヴィオちゃん達の処に行ってあげて。待ってるみたいだから……話し相手になってくれて、ありがとう」
しかしこの二人も随分と仲良しになったよねぇ。なんとなく感慨深い。
さて、僕もシンを探しに……、──?
「……なんだ?」
突然の違和感。
腰を上げかけたその時に、
(……?何か、近づいてくる)
拡大化した僕の脳意識が、接近してくる何かを捉えた。

密かに此方へ忍び込む気配。無邪気で子供っぽい、だけど大人な計画性を秘めた女性。この気配は……
「ふぇっ!?」
「?なに?」
「キャロ、どうしたの?」
僕が感覚を特定する寸前に、突如正面で──キャロちゃんが突然奇声を上げた。
いきなり顔を真っ赤にして不思議そうに辺りを見渡す桃色の少女が、怪訝な表情のルーテシアちゃんに訊ねる。
「何かこう、柔らかいものが“もにょっ”と……ルーちゃん、湯船の中で何か飼ってたりしてない?」
「えー?飼ってないよ。それに温泉に棲むような珍しい生き物なら……あんっ!?」
「ひゃぁ!!」
「ッ!……!!!」
今度はピンク色な嬌声が二重奏となって温泉をこだました。
ついでにエリオ君が前屈体勢にシフト。
そして間を置かず、
「っ!!!──なに、何かいるッッ!?」
「うはぁ!?なんかぬるって!!」
「……なんだお前ら、どうした──のわぁ!」
少し離れた場所でティアナとスバル、ノーヴェが似た様な感じになって、ちょっとしたパニック状態に。
そしてエリオ君の目が虚ろになった。
なんなの、これは?どういう事だ。今彼女達の周囲には特に異常はないのに、みんな胸やお尻を押さえてて……まさか……!
【セインさん!セインさんなんでしょ!?】
【見つかった!?……さすがっ!】
感じたままに、半ば賭けで念話をしてみたら思いの外アッサリと繋がった。
やっぱり、この人か!
戦闘機人が6番目、セインさんと彼女の固有能力『IS・ディープダイバー』──あらゆる無機物の内部に潜って移動出来る力──なら、この状況にも納得できる。
(……あの人、能力を使ってセクハラを!?)
なんという力の無駄遣い。だけど“鬼に金棒”でもある。
でも、なんでここにいるんだ?もう教会に帰ったと思ってたのに。
「ぁっ……んぅ?」
「や、また!?」
「……ッ、……ッッ!!」
まずい、セインさんの真意はどうあれ、早く彼女のセクハラを止めないと。
横目で茹で蛸になることを強いられたエリオ君を確認しながら焦る。

604『鮮烈』に魅せられし者:2012/05/26(土) 22:00:41 ID:Pgls1r/gO
相手はあのお茶目なシスター。一つ断言出来るのは、このイタズラは全員に被害が及ぶという事だ。
そんな事は!
【なんでこんな事を!?これじゃエリオ君が興奮して鼻血を出して、ショックで倒れる。血の海になるよ!】
【他人から視えないなら、このチャンスを逃す理由はないっ!だから、その女体を楽しむと宣言した!!】
【……こんな時に、こんな場所で、そんなの!】
【私、シスター・セインがボディタッチしようとしてるんだ、キラっち!】
【エロだよそれは!!】
説得は無理か。
こうなったら本気でセインさんを捕まえないといけない。じゃないと本気でここが血の海になる。
もうちょっと堪えてね、エリオ君!
(今セインさんを感じられるのは僕だけ……でも感じるだけだ。何処にいるかは察知できない)
広々とした空間に温泉という足場。地の利は彼方にある。
だったら、
「えと、手伝ってくれるかな、アインハルトちゃん」
「はい。大体事情は察知しました。手短に仕留めましょう」
「頼りにしてるよ」
連係プレイでやろう。
(セインさん……もしかして今日に野菜を届けに来たのはコレが目的で?)
「はわわっ!」
「きゃあっ!」
(……くそ、速い!)
考え事をしていたのが仇となった。
何事かと首を傾げていたヴィヴィオちゃんとコロナちゃんが次の犠牲者になってしまった。
なんというスピード……だけどっ!
(あの人の第一の狙いは女子全員に触る事……だったらそれぞれの位置関係から推測される次の目標は)
アインハルトちゃんと背中合わせになって周囲を警戒、意識を集中させる。
まだ被害に遭っていないのはアインハルトちゃんとリオちゃんだけ。そして今しがた触られたヴィヴィオちゃん達とリオちゃんの中間地点に僕らがいる。
……セインさんは多分、こういう時は迂回なんかしないで真っ向から出し抜く算段をとる。ならば。
「──」
背後に気配!!
「そこっ!」
予測通りにアインハルトちゃんを狙ってきたか。
「!!」
脚と腰のバネを活用し、鋭く独楽のように身体を反転。先に飛び掛かった覇王少女と時間差で掴み掛かって、
「ほいハズレっ!!」
「しまっ……うわぁ!?」
「っ!?」
あっさりと惨敗した。
そのリーチ差を活かしてアインハルトちゃんをいなしたセインさん相手に、僕は空振って、足払いされて、顔面から湯に突っ込んだ。
「そりぁっ!」
「っーーーーー!!!?」
むにゅ。
そして、まんまと、アインハルトちゃんの胸が、セインさんに、揉まれてしまったのだった。
……揉まれるほどには胸があったんだね──って、そうじゃなくて!
勿論、このままでは終わらない。終わらせられない。
「〜〜〜〜!!」
反撃だ。

ズパァッッン!!!

アインハルトちゃんが胸を庇いながら突き出した掌、それに伴い発生した水斬り──静止状態から加速と炸裂点を調整する打法──により鋭い破砕音を撒き散らしながら、温泉の湯が文字通り綺麗に割れる。
「うおッ!!」
それに捲き込まれない為に、遂にセインさんが水上に姿を現した。今その躰は宙にある。
(チャンスだ)
だけど流石と言うべきか、そんな状態でもリオちゃんの方へ向かって跳んでいるのは執念のなせる業か。
今なら捕まえられる!
「僕を投げて!!」
「!──はい!!」
鼻が痛いのを我慢して、右腕を突き出す。それを羞恥に頬を紅く染めたアインハルトちゃんが掴んで、魔力強化をした怪力で僕を思いっきり、投げた。
同時に僕も魔力を足裏に集中、指向性を持たして爆破する事で加速する。

605『鮮烈』に魅せられし者:2012/05/26(土) 22:02:35 ID:Pgls1r/gO
(間に合え!)
この機を逃せば、また皆がセクハラされる可能性があるんだ。
だから──


果たして、


僕がセインさんの足首を掴むのと、セインさんがリオちゃんの両胸を背後から強襲したのは、ほぼ同時だった。
「……」
「……」
「……」
沈黙する三人のショートヘアー。
そして大爆発。
「ええっ!?」
「ちょっ!?」
大規模魔力反応と共に激しく水飛沫と稲妻、焔が舞い踊って、リオちゃんの小柄な身体が発光する。
「なに、なに!?」
「これって……」
これってまさか、ヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんと同じ、『大人モード』?
光の中から顕れたリオちゃんの、腰まで伸びた紫紺の髪が印象的だった。
身長も少し伸びていて、脚力を重視したのか妙に発達した下半身と、幼さを残す上半身のアンバランスさが一種の魅力を醸し出していて、躑躅(つつじ)色と深緋色を主体とした中華風バリアジャケットを纏ったその姿は中・高校生をイメージされる。
全体的なバランス向上を求めて18歳前後のナイスバディに変身するヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんの『大人モード』とは違った方式なのか?
「いいっ?」
そんな事を呆然と考えている間にも事態は進行する。
瞳に涙を浮かべたリオちゃんがセクハラ魔神Ⅱセインさんの腕を無造作に掴み、
「やーーーーーーッ!!」
純情な乙女心を叫びながら、とんでめないパワーで真上へと放り投げて、
「絶招・炎雷炮!!!」
その無防備な腹に、八極拳のような型で炎と稲妻を纏った蹴撃を喰らわせて、大空高く吹っ飛ばした。
僕も巻き添えにして。
「なんでーー!?」
うん、ずっとセインさんの足首を捕まえてたのが悪いね。
だけど、凄いな。大人二人をこうまで高く打ち上げる一撃なんて──


「おまえら楽しそうなのに、あたしだけ差し入れ渡したらすぐ帰るとか切なすぎるじゃんかよ〜〜!!」
「……何やってるんだよアンタ達は」
「あ、おかえりシン」
リオちゃんに吹っ飛ばされて、温泉に墜落したセインさん(と僕)に対する尋問、その途中にシンが御手洗いから帰ってきた。
「自慢じゃねーが!あたしはお前らほど精神的に大人じゃーないんだからな!?」
あ、開き直った。でもこういう時でも明るく振る舞えるのはこの人の長所だと思う。
なんていうか、生粋のムードメーカーって感じなのかな。
「えーと、セインさんが僕らを楽しませようとしたサプライズ(セクハラ)をしたんだけどね、ちょっとやり過ぎで」
「ふーん……」
少し目元を赤く腫らしたシンが少し興味深そうに僕の身体を眺める。
正確には水面にマトモに突っ込んだせいで赤く腫れた胸と腹を。
そして次には、
「大丈夫?止まりそう?」
「へ、平気。なんとか止まる、と思う」
「ごめんねエリオくん……」
真っ赤に染まったティッシュを鼻に詰めたエリオ君と、彼に付き添う二人の少女を眺めて。
そして最後にもう一度セインさんを一瞥して怪訝な表情を。
「いや、マジで何があったんだよ……」
「は、ははは……」
色々あったんだよ、色々ね。
そういうキミこそ、何があったの。その泣き腫らした目は?
……それについてはシンが話すのを待つかな。話題を変えよう。

606『鮮烈』に魅せられし者:2012/05/26(土) 22:03:51 ID:Pgls1r/gO
「シンは明日の陸戦試合はどうするの?」
「どうって、どういう事だよ」
「僕達が持ってる『力』、どこまで使うかって事だよ」
訓練合宿二日目恒例行事らしいチームバトル。それについての相談だ。
僕らが有する能力・システムをどの段階までテストをするか。それが問題だ。
「愚問だな。全力全開に決まってるだろ。アンタだって最初からそのつもりのクセに」
ああ、やっぱり見透かされてるか。
でも、それをやるには大きな覚悟が必要だ。僕らの全力全開は、制御を失敗すれば廃人になりかねない、綱渡りなのだから。
それでも、きっとやるんだろうな、僕らは。
「……そうだ、その事でアンタに話がある。──後で丘の方に来てくれ」
「それって……アレの事?」
「ああ」
「……わかった」
そうしないと往けない、目指した場所があるから。




──────続く

607名無しだった魔導師:2012/05/26(土) 22:05:00 ID:Pgls1r/gO
以上です。

まぁ私は年中5月病なんですけどね!

608名無しの魔導師:2012/05/26(土) 23:57:40 ID:UTQAvUGI0
作者様gjです

ただちょっとだけ作品内で地の文とセリフの間がなくて読みにくいです
いつも楽しみに読ましていただいているのでそれだけ指摘させていただきたいです
続きお待ちしています

609とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:52:40 ID:xik2zMnM0
借ります

610とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:53:14 ID:xik2zMnM0

 コツコツと黒板と白いチョークの擦れる音が室内に響き渡る。

 ごく一般的に見られる学校の授業時における有り触れた光景である。教師が黒板に教科書の内容を黒板に書き記したり、口頭で説明を加えたりすることもある。授業の受け手である生徒は、その授業内容を自身が所持しているノート等に書き写す事で自身の脳内に授業内容をインプット≪in put≫し、来たるべき試験に向けてアウトプット≪out put≫出来る様に備えているのだ。

 私立聖祥大学附属小学校3年1組においても、授業時間である現在は当然、その授業の光景に包まれているものである。しかし、数人を除いて、授業内容と余り関係の無い事に悩まされている、という事は付け加えておく。
 
 ――レイジングハート、聞こえる?――

 ――Yes, I can hear you.(聞こえていますよ)――

 授業中であることを考慮して、なのはは思念通話によって首からぶら下げている紅玉のデバイス―レイジングハートに向けて会話を試みている。何故このような事を態々授業中に行うのかと言うと、なのはには如何しても疑問に思うことがあり、それに対してレイジングハートに質問を敢行して疑問を解消したいと考えているからなのだ。


 ここでなのはは昨夜の事の顛末を思い起こした…





       魔導戦史リリカルSEED 1st〈Magical History Lylical SEED the first 〉「PHASE03」





 昨夜、【ロストロギア】の異相体との戦闘における事の顛末は、なのはが放った直射型砲撃魔法によって事無きを得た。結論から論じてしまうと、たった数十文字で終わってしまうのだが、重要なのはここからなのである。


 異相体に直撃した砲撃魔法の斜線上に存在していたのは、三つの綺麗な青い宝石だったのである。


 なのはとシンは飛行魔法によって、異相体を射抜いた地点まで辿り着くと何とも言えない表情になったのだ。何しろ空中に浮かぶ不思議な宝石なのだ。レイジングハートと同じ様なデバイスなのかと勘繰ったりしたものだが、そこでなのはやシンを思念通話で呼び出した張本人―フェレットが二人に追い付いた。

 「凄いですね…まさか、魔法に触れて数十分も経たないうちに異相体を自力で封印するなんて」

 フェレットから賞賛の言葉が漏れるが、今はその様な事を聞いている場合ではないと考えたシンが口を挟んだ。

 「なぁ…そんな事より、この青い宝石は何なんだ?デバイスなのか?」

 「あ、すみません、えっとですね。それはジュエルシードと言います。先程の黒い怪物の元になった代物です」
 
 シンからの質問に謝罪いれつつ、返答をするフェレット。この綺麗な宝石が、先程まで暴れ回った化け物の根源だと知ると、信じられないと言った表情をシンは浮かべるのだった。更にフェレットはなのはに対して「レイジングハートで宝石に触れる」ように進言する。その言葉どおりになのはは左手で持ったレイジングハートで、青い宝石の一つにコツンと触れた。

 すると、三つの青い宝石とレイジングハートがそれぞれ輝き出し、青い宝石が、レイジングハートの紅い宝石の部分に吸収されて行ったのである。

 『――Internalize No.18,20,21.――』

 レイジングハートが自身の内部に収納された青い宝石のシリアルナンバーを告げる。

 『――物理破壊型相当の魔力値沈静を感知、防護服を解除します――』
 
 デスティニ―からの発言を皮切りにシンの防護服が光に包まれ、なのはの防護服も続いて発光し始めた。少しだけ宙に浮いた二人の防護服が上半身部分から光の帯が発生し、元の服装に戻っていく。其処から段々と光の帯が下降していき、上半身と同じ様に元の服装に変化する。一通りの変化が終わると、杖の状態であったレイジングハートは元の紅玉の宝石に、デスティニ―は先程の真紅色の機械の翼を模したアクセサリーに戻ったのだった。

 その後、フェレット自身が張り出した【封時結界】という魔法を解除すると、ジュエルシードを取り込んだ異相体との戦闘によって発生した惨状が、まるで時を巻き戻したかのように修復されていったのだ。その光景になのはもシンも驚かされた。しかし、ジュエルシードの異相体が始めに襲撃した槙村動物病院の惨状は修復する事が出来なかった。何故なら、異相体が襲撃して来た時点では封時結界が間に合わなかったため修復の対象に出来なかったのだと、フェレットからの説明をなのは達は受けた。

 そんな槙村動物病院で発生した惨状を誰かが目撃したからだろうか、遠くからサイレンが鳴り響いた。このままこの場所に留まっていても、仕方無いので一度フェレットと共に高町家に帰宅しようとシンは提案し、なのはとフェレットはその事を承諾した。

611とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:53:55 ID:xik2zMnM0
この昨夜発生した魔法戦闘の顛末を一通り思い返した後、なのははレイジングハートに対して質問を掛けた。

 ――昨日のあれこれは、やっぱりレイジングハートのおかげ?――

 ――Yes,mostly.(そうですね、大半は)――

 自身が疑問に思っていた事に対し、一切合切飾らずに返答してくれたレイジングハート。昨日、自身の身の内に起こった服装の変化、空を飛ぶ、魔法を行使する事や災厄の根源を抑止出来たこと、この出来事の大半がレイジングハートがあったからこそ成し得た事だと再認識して、なのはは感心で一杯になった。

 ――やっぱり高性能なんだ――

 なのははレイジングハートに対して、純粋且つ率直に考えた事をこの様に評した。しかし、その評に対してレイジングハートは異を唱えた。曰く、自分自身は【乗り物】だと言っている。自動車・自転車など例を挙げるときりが無いが、単体そのものでは効力を発揮する事が出来ず、人間が持つ思考能力を駆使してようやくその性能を発揮出来る物だとレイジングハートは表現をしているのだ。

 そもそも、レイジングハートを始めとした【デバイス】が担う主な役割としては、【魔法術式】を詰め込んでおく記憶媒体としての役割が一般的である。術者が戦況に応じて、使用する魔法を逐一決定してデバイスに魔力を注ぎ込み、魔法を行使するのである。そして【デバイス】そのものにも複数の種類が存在するのだが、ここではレイジングハートやデスティニーの分類となる【インテリジェントデバイス】について言及する。

 【インテリジェントデバイス】とは、ミッドチルダ式魔導師の一部が扱う【意志】を持ったデバイスのことだ。魔法術式を詰め込む記憶媒体としての役割の他に、魔法の発動の手助けとなる処理装置や状況判断を行える人工知能≪ Artificial Intelligence ≫も保有している。意志を持つ為、その場の状況判断をして魔法を自動起動させたり、使用者の魔法性質を把握して自身の機能を調整することも可能だ。

 高度な人工知能を有している所以もあって、インテリジェントデバイスは会話・質疑応答もこなせる。この点が最大の特徴となるだろう。デバイスとの意思疎通を図る事によって、魔法の威力・無詠唱による魔法の発動・使用魔導師との同時魔法行使など、実用性を凌駕する高いパフォーマンスが期待できるというものなのである。例えるなら1+1=2という固定観念な図式に当て嵌まらず、=5ともなったり=10にもなったりするポテンシャルを【インテリジェントデバイス】は秘めているのである。

612とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:54:32 ID:xik2zMnM0
 しかし、その一方【インテリジェントデバイス】の扱いは基本的に難易度の高いのも特徴だ。使用者の魔力総量が弱かったり、デバイスを扱う能力自体が無ければ、デバイスに一方的に振り回されて闇雲に魔力を浪費するだけの情けない魔導師となってしまうのである。

 故にレイジングハートは自身がインテリジェントデバイスという性質そのものを危惧していたため、誰にも使用者登録を受け付けなかったのである。所有者であったフェレットでさえ【外部使用者;guest】扱いであり、一部機能(探索魔法・封印魔法)以外休眠状態での使用を許可された程度であったのだ。

 そんな折に昨日のジュエルシード異相体との戦闘によって、レイジングハートは【高町なのは】という少女と出会う。その少女が保有する魔力総量・魔法戦闘のセンスを感知し、自身を扱い切れる可能性を見出したのだ。そしてレイジングハートは今まで誰にも、許可を与えなかった使用者登録を受け付け、高町なのは専用のデバイスとなったのだ。

 だが、その様な事をなのは本人に告げる訳にもいかない。如何に自分が登録者として高町なのはを受け入れたとしても、結局の所レイジングハートを扱いたいというなのは自身の判断が無ければ、レイジングハートからの一方的な押し付けとなってしまう。だからこそ、レイジングハートは自身の事を簡潔に【乗り物】と安易ではあるが、分かり易い表現で自身の事を評したのだ。高町なのはに必要以上に警戒されない為に。

 ――私はレイジングハートの乗り手になれる可能性、ある?――

 この高町なのはのこの質問に、レイジングハートは『あなた自身の努力次第』と簡単に返答した。しかしその胸中には一先ずの安心感が漂っていた、ということにはレイジングハート自身は気付いていない。いや、気付かない振りをしているのだろう。拒絶されないで済んだのだから安心感があっても、誰にも攻められる訳ではないのだが、意外と奥手なこのデバイスは自分を誤魔化すということに関してはは器用に立ち振る舞っていた。

613とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:55:21 ID:xik2zMnM0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 昨夜ジュエルシード異相体との戦闘の後、高町家に戻ったのだが夜遅くに外出していた事が完全にばれていた為、玄関に待機していた兄―恭也や姉―美由紀にこっ酷く叱られたのは言うまでも無いだろう。そして夕食時に話題に上げていたフェレットを病院から持ち帰ってきた旨を家族に報告したのだ。夜遅くに抜け出した理由を正直に言う訳にもいかない為、咄嗟に「病院に預けたフェレットが心配になって様子を見に行っていた」となのはとシンは言い訳をしたのである。

 実家が喫茶店を経営している為、ペットの飼育は極力控えたいところではあるのだが、今後もジュエルシードの異相体が出現しても可笑しくは無い。町の住人が被害に会うのを防ぐ為にもフェレットの協力は必須だとなのはもシンも考えていたのだ。

 夕食時に一度はやんわりと断りを入れた父―士郎と母―桃子は、なのはとシンの眼差しに決意の表れを感じ取り、またフェレットの賢く、知能の高い様子を見て翠屋の中―特に厨房内には立ち入らせないことや、フェレットの世話を学校以外ではしっかりと見る事を条件にフェレットの飼育を許可されたのであった。

 そんな昨日から明けて、今日の授業時間中に高町なのはとレイジングハートが念話によって会話している頃、高町シンはデバイス・デスティニ―と昨日から飼う事を許可されたフェレット基いユーノと、これまた念話によって情報の整理を行っていた。

 昨夜回収した青い宝石、【ジュエルシード】は管理世界ではロストロギアと総称されている。因みに【ロストロギア;Lost logia】とは過去に滅んだ超高度文明から流出する、特に発達した技術や魔法のことを総称している。そのロストロギアの大半は危険な効果を及ぼす物も存在し、これらの物体・技術を管理・保管しているのが【時空管理局】なのである。

614とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:56:08 ID:xik2zMnM0
 ここで話に上がった【時空管理局;Adoministrative bureau】を簡潔に説明すると、次元世界における司法機関のことである。第1世界ミッドチルダを始めとする複数の次元世界が連盟して運営をしている。司法機関と言えども、各世界の文化管理や災害救助を積極的に行う部署も存在するとのこと。次元世界の崩壊を起こしかねないロストロギアについては、最優先で対処を行う部署も存在する。

 このユーノの弁に対して、デスティニーは昨日のジュエルシードが人を襲う怪物に変異させてしまう様な能力を備わっているのに危険ではないのか?何故、時空管理局は回収に人員を出さないのかと質問した。その質問に対してユーノは【時空管理局】の管理の及ばない世界【管理外世界】においてロストロギア絡みで捜索任務を行うには、その【ロストロギア】がその管理外世界に存在すると言う確実な証拠が無いか、もしくはロストロギアの危険性が証明されなければ管理局からの人員は基本的に割けないものだ、と返されたのであった。
 
そもそも異相体という怪物の魔力源となっていた【ジュエルシード】とは古代の文献等によると「願いを叶える」宝石と記されていただけであり、攻撃性の高い異相体に変異させてしまう等という事は発掘した段階では判らなかったと、ユーノは弁解している。全部で21個存在するこのジュエルシードは遺跡探索を生業とする【スクライア一族】によって発掘されたものであり、この発掘作業の総指揮を行っていたのが昨日救い出したフェレットこと【スクライア一族のユーノ】であった。件の代物は発掘後の輸送時に原因不明の事故によって「第97管理外世界・地球」の海鳴市近辺に散らばってしまった、と事故が発生した直後では推測の域でしかなかったのだ。

 輸送時の管理にはユーノ自身が直接関わっている訳ではなかった。だが、ユーノは自身がジュエルシードの発掘を指揮した事で責任を感じてしまったのだ。その為、独力でジュエルシードを回収しようと海鳴市に渡航し、探索を開始した。そして、一昨日に異相体と化したジュエルシードの捕獲に掛かるが、思いの他苦戦を強いられた。更に都合が悪い事にユーノは地球に存在する【魔力素】と魔力素を溜め込む器官【リンカーコア】が適合不良を引き起こし、行動不能状態になってしまったのだ。

615とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:57:54 ID:xik2zMnM0
 そんな状態に陥ってしまったユーノを救出したのが高町なのはと高町シンであった、しかもこの二人には管理外世界では珍しく【魔力資質】を持つ者と判明したのだ。行動不能に陥ったユーノ自身は再度ジュエルシードの異相体と戦闘になった場合、成す術が無いため藁にも縋る思いで【広域念話】を活用し、なのはやシンもしくはこの二人の他に管理外世界に存在するかもしれない魔力資質を保有する人に救援を要請した、とのことである。


 ユーノから簡潔に説明を受けたシンやデスティニ―の反応は寸分違わぬものだった。無理が過ぎる、と。


 フェレットとしての見た目からは判別し辛いが、年齢の程はなのは達と同年代との事である。同い年であるにも関わらず、一族で生計を立てている第一線の発掘作業で指揮を任されるというのは、ユーノ自身がそのスクライア一族の中でも非常に優秀なのでは無いかと思えても来るし、実際にそうなのだろう。だが【若さ】というものはそれだけ経験がありとあらゆる場面で欠如して来るものでもある。今回の輸送事故から端を発するトラブルについては、少々の冷静さがユーノに足りなかっただろう。

 何故なら、不慮の事故によって散らばってしまったジュエルシードを回収するという責任は無いはずである。如何に発掘に携わった者と言えども、発掘し終わってもしも報酬を受け取っていたら、その時点でスクライア一族としての仕事は完了しているだろうし、責任の追及や事故の検証も運搬にあたった者達にされるべき事でもある。

 仮にユーノに責任が及んだとしても、たった一人で未知の世界に足を運ぶのは避けるべきだったはずだ。赴くとしても不測の事態が発生する事を予測し、出来る限り頼れる大人に救援を要請したり、探索にあたる人数を増やしてから臨んだ方が最良だっただろう。現に【リンカーコア】の器官が適合不良を起こし、自分自身で対処する事が出来なくなり、挙句の果てには現地人であるなのは達に頼らざるを得なくなる状況に陥っているのだから。

 この事をデスティニーから指摘された事によって、思念通話によって会話していたユーノの声は段々と小さくなってしまったのである。落ち込んでしまった様子のユーノにシンは謝罪をいれつつ、またこのまま揚げ足を取っていても埒が開かない為、シンは早々に話題を切り替える事にして、自分が今最も気に掛けているデスティニーへの質問を行った。


 ――デスティニー一つ聞きたいんだが、俺は管理世界の出身なのか?――


 シンがこの様に質問をするのも当然と言えるだろう。デスティニーやユーノには昨日の段階で、シン自身が2年前に発見された段階で記憶喪失という状態であり、1年前からは高町家で養子縁組としてここ海鳴市で生活している、という事情は説明している。また、昨日の戦闘によってシンが2年前から所持していた奇妙なアクセサリーがデバイスの中でも扱いが難しい【インテリジェントデバイス】で在る事がユーノの説明で判明したのである。

616とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:58:27 ID:xik2zMnM0
 通常、管理外世界では魔導端末をお目に掛かる事など在り得ない。開発するにおいても、管理世界の魔導技術や専用の設備も無ければ作成する事など在り得る訳が無いのである。ならば導き出される答えは只一つ、高町シン基いシンが実は管理世界出身の人間であり、何らかの外的要因によって管理外世界に転移してしまい、尚且つ転移のショック等で記憶に障害が齎されてしまったのでは無いかという事である。因みにこの内容についてはユーノの推測によるものである。


 ――マスター申し訳ありません、私にも判りません――


 デスティニーの返答は何とも期待外れなものであった。曰く、デスティニーが自身の魔導端末としての機能が覚醒し、シン専用の【インテリジェントデバイス】として認識したのも、昨夜のジュエルシード異相体による物理破壊型の魔力に反応したからであり、言い得て妙だが今のデスティニーは生まれたての赤ん坊と余り変わらないのである。デスティニーのその告白にシンもユーノも黙る他無くなってしまい、会話が途切れてしまったのだった。

 何らかの情報が得られるかも知れないと、意を決して質問をしたが徒労に終わってしまった為、シンは内心溜息吐いた。シンの落ち込む様子にデスティニーが謝罪をするが、気にするなとシンはフォローを入れた。というのも、元々自分が記憶喪失なのも自分に落ち度が会ったからかも知れないし、易々と手掛かりが見付かると考えた事が浅はかでもあったとシンは反省したのだ。

 それに全くの手掛かりが無い訳では無い。管理世界にしか存在し得ない魔導端末を自身が所有しているということは、即ち自分の存在を知り得る手掛かりが管理世界の何処かに在るかもしれないという希望が見付かったのだ。確証は無いため、希望的観測と言ってしまえばそれまでなのだが、何も進展の無かったこの2年間よりは、この2日間は自分にとって大きな飛躍となるだろう。

 ここでユーノも、もし管理局の巡航艦がジュエルシードの危険性を察知し、自分に接触を図ってきたらそれと無く管理局の人達にシンの出身世界の捜索を掛け合ってみると言ってくれたためシンは是非、とお願いしたのであった。

 
 ――シン君、ちょっと良い?――

 
 ユーノやデスティニ―との情報の整理が一段落した頃になのはからの念話が入った。その内容については今後のジュエルシードの回収についてどう行動するか、というものだった。正直な所、放課後以外に探索の余裕は無いと結論は出ているのであるが、なのはにもシンにもそれぞれ都合というものが在った。なのはには放課後は塾の時間に取られる事があり、シンも喫茶「翠屋」の手伝いもあるのだ。だが、町に危険が及ぶのに暢気にしている訳にも行かないだろう。翠屋の手伝いについては、シンが進んで手伝っている事もあって幸い都合が着くから大半はシンがユーノと一緒に探索に赴く事になるのだろう。


 その事をなのはと確認し合っていると、終業のチャイムが聖祥学園に鳴り響き、授業が終了したのであった。


 今後の事については一先ずの所後回しにし、今日の放課後はなのはもシンも予定は入れていないので、ジュエルシードの探索を二人にユーノを加えて行う結論に達したのであった。

617とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:59:24 ID:xik2zMnM0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 


 「それにしても本当に驚いたわ」

 放課後のHR直後、なのはとシンは毎日の如くアリサ・バニングス、月村すずかと他愛も無い話しでお茶を濁していたが、唐突にアリサが呟いた。その【驚いた】事の対象としては今朝のニュースであり、昨夜のジュエルシード異相体との戦闘において被害に合った槙村動物病院の件だろう。

 昨夜、ジュエルシード異相体との戦闘を終えた直後、なのは達はサイレンの音を聞き出して早々に帰宅したから判らなかったのだが、現場には目撃者らしい目撃者も居らず、犯人らしい痕跡も全く見当たらなかったため警察は事故として処理する事となり、報道においても地域局の報道ニュースでその様に放送されたのである。そのニュースを見た為か、今朝登校して来たアリサとすずかは槙村動物病院での事故の件をなのは達に朝一で伝えてきたのだ。

 病院に預けたフェレット―ユーノ―を心配しての事だろう。気遣わしげな目をしていたが、フェレットを高町家で保護している事を素直にシンとなのはは話した。その事でアリサから説明を要求された。それもそうだろう、昨日の段階で父や母からペットの飼育をやんわりと断られた事はメールでアリサ達には伝えていたのだから。
 
 フェレットの様子が心配になって、夜の内にこっそりと槙村動物病院に向かったのだが事故によってビックリして病院から逃げてきたフェレットを二人が偶然保護した、と家族に対して行った言い訳をリピートするようにシンとなのはは説明した。何とか魔法の事を話さずに済むように説明をするにはこの様にするしか無いとシンはなのはと念話で伝え確認し合った。

 その説明をした時のアリサやすずかの様子と言ったら、本当に驚き、また心配もしていた為か心底安心をした様だった。だからこそ、放課後の今となってもこの様に会話の種として話題に出すのであろう。フェレットを病院に送ったのは自分達であるため、心配をするのは当然の反応と言える。

 「…でも、その事についてはちゃんと槙村先生に伝えないといけないね。心配してるだろうし」

 すずかは当の被害者でもある槙村動物病院の院長、槙村先生の事について事情を説明する事を提案した。いくらフェレットが無事だからと言って呑気に喜んでいる訳にもいかない。預けたのは自分達なのだから、ちゃんと説明をしなければとおっとりとした口調ながらも言い放った。

 「…それもそうね、ちょうど今日は私とすずかはバイオリンの稽古で病院の近くに寄るから、事情を説明して来るわよ」

 アリサはすずかの意見に頷き、説明役の任を請負う。今日はジュエルシードの探索のついでに槙村動物病院に立ち寄ろうとしていたなのはとシンは同席しようとするが「フェレットを預かっているなのは達はきちんと面倒を見なさい」と返された為、アリサの気遣いに礼を言いつつ、念話で海鳴市を巡回する箇所をシンはなのはと相談し合った。会話も一段落したところ、アリサやすずかがバイオリン教室に向かう岐路に差し掛かったため、なのはとシンはアリサとすずかに別れの挨拶を返し合い、高町家に帰る方角を迂回する様にジュエルシード探索に赴こうとした。

618とある支援の二次創作:2012/05/27(日) 23:59:59 ID:xik2zMnM0


 ――――その瞬間、なのはとシンに戦慄が走った。



 ――――ゾクッという悪寒を感じ取り【ナニカ】が共鳴するかの様な魔力の高まりを二人は感じた。この魔力が高まる感じを二人は知っている。



 ――――そう、昨夜ジュエルシード異相体との戦闘になった際に感じた魔力の波長めいたモノそのものに感じ取れたのだ。



 ――――二人がその事を思い出す寸前に、二人に対して遠方からの思念通話が届いた。



 ――なのは!シン!大変だ!!ジュエルシードが発動した!!――



 ユーノからの念話によって予感は確信に変わった。なのはは急いでその発動した場所に向かおうとした所でシンに止められた。何故止めるのかと言おうとしたなのはに対して、シンは「場所が判らないのに闇雲に探そうとするな」と言い伝えた。確かにその通りだ、ジュエルシードが発動した大まかな方角位は判るのだが、明確な位置はなのはは判らない。恐らくはシンも同じなのだろう。無闇に動き回って異相体との戦闘の前に疲労してしまっては本末転倒だ。

 しかし、それでもなのはの気持ちは焦りで一杯であった。昨日の様な怪物が人を襲いうかもしれない。幸い自分達には魔法の力で脅威を払う事が出来たが、そうそう都合良く未知の脅威を撃退出来る能力を普通の営みを送っている人々は兼ね備えている訳では無いのだ。だからこそ、自分やシンでこの脅威に対抗しなければならない、となのはは幼いながらも魔法という力を持ったことに対して自分なりの責任感や覚悟を持とうとしているのだ。

 二人の会話を念話越しで聞いていたユーノは不調の身で在りながらも探査魔法の術式を展開した。翡翠色の魔力が周囲に展開し、海鳴市の高町家を中心とした地図がユーノ自身の魔力光によって作り上げられ、空中に浮かび上がる。なのは達の魔力反応を魔力光で形成した地図で確認し、それからジュエルシードの発動した際の魔力変動の高まりを確認して、二人に念話で知らせた。


 ――二人とも、今探査魔法を使ってジュエルシードの場所を特定したよ!場所は桜台登山道・林道中腹だ!!急激な魔力変動が発生したから、恐らくジュエルシードが物体か生命体を取り込んで異相体に変異しているから戦闘になるよ、注意して!!――

 
 ユーノから続けて念話が入り二人は驚愕した。何故なら、その内容は二人にとっては今最も欲していた情報だった。どうやって調べ上げたのかとシンは目的地に駆けながらユーノに訊ねた。ユーノは地球に赴いた際に、なのは達と出会う以前に海鳴市近辺の地形を調べ上げ、何時でも自動的に、現在地と魔力の高まりを観測出来る様な術式を構築し、それを地図の様な形で探査魔法に組み込んでいたのだ。

 この術式を作り上げた目的としてはジュエルシードの発動を感知したら直ぐ現場に迎える様にする為である。調べ上げた手段をユーノから聞いた事で【魔法】という力の利便性と、それを匠に使いこなすユーノの技量にシンは感心するばかりだった。ユーノ自身も現場に向かう旨をなのは達に念話で言い伝えると、探査魔法を解除して高町家の住人に気付かれない様にこっそりと抜け出した。




 ――しかし、もしこの時ユーノが探査魔法を解除するのが数秒でも遅れていたら【ある異変】にユーノは気付いた事だろう。




 ――ジュエルシードの魔力変動を観測した地点に向けて【なのは達以外】の魔力反応が二つ、その現場に近づいている事を。

619とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:00:50 ID:NgBM/41o0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 



 ――桜台登山道・林道中腹――

 この場所を遊び場所として数匹の子猫がじゃれ合っていた、大変微笑ましい光景である。もしもこの子猫たちが野良猫であれば、家で保護したいと申し出る少女が居ても可笑しくは無いだろう。それほどまでに、其処に在る光景は日常的でありながらも、心穏やかになる様な光景だったのだ。


 ――しかし、その穏やかな光景は一つの事象によって呆気なく終わりを迎えるのであった。


 一匹の黒い子猫があるものに目が付きその場所まで近づく、まだ幼いから好奇心が旺盛なのだろう。其処には菱形の青い綺麗な宝石があったのだ。子猫は「これは一体何だろう」といった面持ちでソレを小突こうと、宝石に触れた。すると、その宝石は周囲を光で満たす様に輝きを放った。そして、その光の中に黒い子猫を取り込んでしまったのだ。周囲の子猫がその様相に気付いたのか、光眩い輝きに目を眩ませながらも見つめた。

 やがて、その光が収まると其処には異形の生き物が存在していた。

 全長3M程の巨大で頑強な黒い体躯、所々に彫り込まれた白い刺青、巨大で在りながらもその俊敏性を誇る様な逞しい四肢、その四肢に備え付けられた鋭利な爪、骨を繋ぎ合わせた様な巨大な白い尾、外見的な特徴を上げればこの様になるだろう。どの動物の種族にも該当しない様な化け物は悠然と佇んでおり、咆哮を上げた。そう、この化け物もジュエルシードが内包する強力な魔力によって、愛くるしい子猫が変貌した異相体なのであった。

 周囲の子猫は、凶暴な外見の異相体にその細身の身体を震え上がらせた。あの怪物の見た目のおぞましさ、正気を失ったかのような紅い両の瞳、その全てが生存本能に警鐘を響かせているのだろう。そんな異常な光景に包まれた桜台登山道の様子を二つの影が見つめていた。

 「ジュエルシードが発動していたか…一歩間に合わなかったみたいだな」

 金色の髪を肩口まで生やした少年―レイ―が呟く。その様子には焦りというものが全く表われず、何処か余裕があるようにも見える。その少年の胸元には灰色の奇妙な形をしたアクセサリーが光沢を放っていた。

 「二人掛りは可哀想だから、私があの子を抑えるね。レイは其処で見ていて」

 金髪の少年から一歩手前に金髪の少女―フェイト―が前に立つ。何故か異相体を気遣うかの様な口調で話しており、その様子には脅えが全く見られない。しかし、その様子には緊迫感が変わりとなって表われていた。

 「判った、だが油断はするな。足元を掬われるぞ?」

 様子見に徹するのだろうか、木の幹に身体を預けたレイはフェイトに万が一の事を考えて念を押す。その言葉に対して、フェイトは振り向きざまに微笑みながら頷く。すると、二人の獲物の匂いに反応したのか子猫を取り込んだジュエルシード異相体は少年少女に気付いており、様子を窺っていた。更にタイミング良く、フェイトがレイに向かって振り返っているその様子を見て好機と判断したのか、咆哮を上げながら飛び掛ったのであった。

620とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:01:47 ID:NgBM/41o0
 その異相体の体躯が繰り出した速度は尋常では考えられない速度だった。まるで拳銃に込められた弾丸が発射されるかのような速度を繰り出したのだ、その速度は正に瞬きの間にフェイトの命を呆気なく葬り去る事が出来るだろう。



 ――もし、フェイトが何の力も持たない無力な少女であったなら、という仮定が前提ではあるが…



 獲物に飛び掛った異相体とフェイトの間に、金色の術式方陣―魔法陣―が展開された。その時の異相体の表情としては、獲物まで後数cmといった所で防御魔法で邪魔をされたという苛立ちよりも、何が起こったのか判らないといった唖然とした様子をしているのだろう。

 この防御魔法は【ディフェンサー;Defensor】と呼ばれるDランク相当の防御魔法。薄い防御膜を発生させ、魔法効率が高く高速発動が可能なのが特徴である。

 その魔法の特徴によって、異相体の攻撃を防ぐ事はフェイトの考えでは予定調和であった。だからこそ余裕を持ってレイの方へと振り返っていたのだ、もし、他の魔導師が居れば、この場面を見ただけでもこのフェイトの魔法技術の卓越さを推し量る事は容易だろう。そしてフェイトは防御だけには留まらず、続け様に右手に魔法陣を出現させて魔力を放出し、その形状を刃の様に変化させた。手足もしくは何らかの武器に魔力を付与して攻撃を行うミッドチルダ式近接攻撃魔法をフェイトは展開しているのだ。

 フェイトは展開した魔力刃を防御魔法の内側から、異相体に斬り付けた。斬撃による衝撃と共に斬り付けられた箇所から、電気ショックを与えられたかの様な【痺れ】の感覚を異相体は感じた。この現象はフェイトの持つ【魔力変換資質】によって、魔力刃に雷撃の属性を付与していた為、斬り付ける衝撃と電撃の双方のダメージを異相体に与えたからこそ発生した痛覚である。フェイトから与えられた損傷によって異相体は苦悶し、フェイトから距離を置いた。

 「バルディッシュ!!」

 異相体が距離を開けると同時に、フェイトは自身が所有するデバイス・バルディッシュに防護服着用の指示を出した。

 『――Get set. Barrier Jacket, set up.――』


 バルディッシュの発声と同時にフェイトの周囲は黄金の魔力陣が展開し、輝きを開放した。その輝きは、夕焼けの黄昏時の色に見間違う程の輝きを放っていた。その光に包まれたフェイトの衣服に変化が起こった。着用しているキャミソールが消滅し、防護服を形成し出した。

 始めに、少女の身体のラインに合わせた黒いレオタードが出現した。所々には赤と黄のアクセントを施している。もし、その様相だけを見てしまえばフェイトに露出癖があるのかと勘違いしてしまいそうだが、これはフェイト自身の戦闘スタイルに合わせて防護服の設定しているからこそのものである。

 脚部には動きを阻害しない様に、身軽な黒いニーソックスとブーツが同時に出現。腰部には焦げ茶色の頑強なベルトに、薄桜色のスカートが形成される。そして全身を覆う様な黒い外套を最後にフェイトの防護服の形成は終了した。

 金色の魔導端末―バルディッシュにも変化が起こる。正三角形のアクセサリーはその形状を変化させ、何処からとも無く漆黒の金属を出現させ、柄や斧の形状を形作っていく。斧部分の中央には【バルディッシュ】の本体部分と見受けられる金色の宝玉が埋め込まれている、更にその全長はフェイトの身長以上の長さを誇る。正に【戦斧】と言い切っても過言ではない程の存在感を生み出す武器へと【バルディッシュ】は変化を終えた。

621とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:02:18 ID:NgBM/41o0
 
 防護服・武装の形成を終えて、飛行魔法を使用してフェイトは空を舞う。レイはその光景を眺めながら周囲に人が紛れていないか確認する為に、【エリアサーチ;Area Search】中距離探索魔法に使用する情報端末を複数展開した。【サーチャー;Searcher】と呼ばれるこの情報端末は、術者が放ったこの端末の届いた範囲全ての視覚情報を術者に視認探索を可能とするものである。複数端末を展開する事によって広範囲とはいかないものの周囲の状況を隈なく探索する事が出来るのだ。

 サーチャーを周囲に飛ばし、周囲の視覚情報を魔力で生成したモニターで確認しているとその直後に二人の少年少女が映った。その二人は空を見上げて驚いている様子だ。異相体と交戦する為に空に飛翔したフェイトを目撃したのだろう。

 拙い事になった、とレイは思案した。レイ自身ある程度の補助魔法を使役出来るとは言っても、高度な結界魔法は未だ習得出来て居らず、結界魔法を使っていなかったのだ。更に言えば、人影も見当たらない山中であり、日も暮れてきたので誰かしらに出くわす事も無いと安易に考えていたのが裏目に出てしまったのだ。

 レイが己の失態を悔やんでいると、そのモニターの情報はレイにとって別の意味合いを持つものとなったのだ。

 
 「――レイジングハート、これから努力して経験積んでいくよ!だから教えて、どうすればいいか!――」

 『――I will do everything in my power.(全力で承ります)――』

 
 ―魔導師と魔導端末―という言葉がレイの脳裏に過ぎった。そして、その光景は昨夜自分の言葉を確信させるものだったのだ。しかし、他のジュエルシードの探索者が、自分やフェイトと同世代とは思いも寄らなかった。更に腑に落ちない点が存在する、どう見てもモニター内の少年少女達はこの管理外世界の住人の服装を着こなしており、その服装には違和感が一切無い様子が見て取れる。

 管理世界の住人が、如何に外見を管理外世界の住人に似せていても違和感が存在するのは当然なのだ、住んでいる環境基い世界が違うのだから。判り易く言い換えるならば、日本に在住する外国人が和服を着用しているといった感じの違和感なのである。しかし、モニター内の少年少女には、その類の違和感が見て取れない。どう見てもこの世界に長く在住している住人だとレイは考えた。

 ならばサーチャーのモニター内に移るこの二人の少年少女に在り得る可能性としては、管理外世界の住人が何かしらの事態によって魔導端末を入手し、ジュエルシードを回収している。もしくは、管理世界の住人が諸事情によって管理外世界で生活しており、偶然ロストロギアの危険性に勘付いて対処に当たっている、とレイは予想した。可能性としては前者が最も高いとレイは考えていた。

 レイがそのように結論付けた理由としては、対応が早過ぎるという一点に尽きる。この付近に居を構えてでも居なければ、魔導師と言えどこんな迅速な対応等出来る訳が無い。更に言えば、管理世界に縁のある人間が理由あって管理外世界に在住していても、その生活している場所近くに運良く(悪くと言ってもいい)ロストロギアが迷い込むとは考え難い。だからこそ、前者―管理外世界の住人が魔導端末を入手してジュエルシードの対応にあたっているという可能性が一番高いのである。

 モニター内の少女が我先にと、防護服の展開を終えて空を駆ける。傍らに居た黒髪の少年は先に空へと舞い上がった少女に静止の言葉を掛けるが、時既に遅し、と言った状況だった。愚痴を言いつつ数拍遅れて少年が魔導端末を起動するため、起動パスワードを言葉にした。


 「―――Gunnery United Non known energy―Device charged energy Advanced Maneuver System―――」


 その言葉をモニター越しで耳にした瞬間、冷静な面持ちを崩さないレイの表情は驚愕に染まり、その心境は計り知れない思考に苛まれただろう。それほどまでに今この黒髪の少年が言葉にした起動パスワードは意味が在るものなのだ。何故なら、自分の所有している魔導端末も少年が言葉にしたのと同じ起動パスワードを言葉にする事で、その機能を行使出来るからだ。モニター内の少年が防護服の形成を終了し、少女の跡を追って空を飛翔する。遠目から見た事とモニターを使用した映像から、一つの確信を持ってレイは自身の愛機である魔導端末に告げる。
 
 「…レジェンド、行くぞ」

 『――Yes. My master.――』

 自身の魔導端末の灰色のアクセサリーを握り締め、レイは身体を預けていた木の幹から身体を離し、フェイトと少年少女が邂逅するであろう場所まで脚を運んだ。

622とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:03:19 ID:NgBM/41o0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


 手加減無しの全速力の飛行魔法、そしてその勢いの侭に高町なのははジュエルシード異相体に衝突した。その結果、轟音を鳴り響かせながら地面に激突した。なのはと虎に似た異相体の周囲には土煙が朦々と立ち上がった。なのははうつ伏せで倒れ付している異相体に跨る様に乗っかっていた。件の異相体はと言うと、なのはの全速力の衝突の被害に合った為、その全身は満身創痍であった。

 何故なら、上半身は無事なのだが下半身等骨だけの状態となっており、見る者を不快な気分にしてしまうほどグロテスクな様相となっているのだ。この異相体の満身創痍な状態をなのはは好機と見たのか、昨日の封印直射砲の要領でジュエルシード異相体に封印魔法を施そうと試みる。なのはがレイジングハートを突き付けた瞬間、異相体は雄叫びを上げ、封印されまいと自身の身体に乗り上げているなのはから逃げ出そうとした。

 まさか抵抗されるとは思いもしなかったなのはは、その異相体の抵抗に成す術も無く、乗り上がっていた異相体の身体から振り落とされてしまった。年齢相応の体重しかないなのはでは、自分の倍以上の体重を有しているであろう異相体に体積という面で敵わないのは致し方ない事だろう。


 なのはから這い出した異相体は体勢を立て直そうと、逃走を図ろうとしたが、それは無意味に終わるのであった。

 
 空へと逃げ出したジュエルシード異相体の目の前には何時の間にか、目と鼻の先まで接近してきた黒衣の少女が居た。その少女は自身のデバイスを黒い大きな鎌に変化させ、それを大上段に振り被り、異相体に向けて振り下ろした。この異相体にとってはその黒衣の少女が武器を振り下ろすその姿は、自身の命を、まるで花を摘むかの様にいともた易く刈り取る【死神】に見えた事だろう。

 「ジュエルシード、封印!!」

 デバイスから斬撃魔法を展開した大鎌を真直ぐに振り下ろし、異相体を真っ二つに切り裂いた。その直後に、切り裂いた地点から小規模の爆発が発生した。ほんの数秒だけ発生した黒煙が、周囲に吹き込む風によって胡散する。すると、その場所には高町なのはが昨夜封印したのと同じカタチの青い菱形の宝石―ジュエルシード―が浮かんでいた。名も知らない黒衣の少女の洗練された魔法戦闘になのはは目を奪われていた。自分の様な、行き当たりばったりな闘いとは別次元なモノだと思い知らされたからだ。

 なのはの事など眼中に無いのか、黒衣の少女は封印処理を終えた背後のジュエルシードへと振り返り、自身が持っているデバイスで触れようとしている。


 「ま、待っ「待て!!」」


 慣れない飛行魔法でようやく目標地点へと辿り着いたシンの静止の言葉がなのはの言葉をかき消した。自分が言おうとした言葉を先に言われ、憮然とした表情になったなのはは飛行魔法を使ってシンの近くまで飛翔した。なのは達に顔を向ける気は黒衣の少女には更々無いのだろうと判断したシンは金髪の少女に続けて言葉を投げ掛ける。

623とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:03:56 ID:NgBM/41o0

 「それを、ジュエルシードを如何するつもりだ!?」

 投げ掛けたシンの言葉に何も返さず、此れが返事だと言わんばかりに黒衣の少女は自身の回りに魔力弾を形成した。つまり、話をする気など毛頭無い上、自分の邪魔をするなら二人を攻撃する事も厭わないといった所か。この少女の行動を見てシンは、溜息を吐きたくなった。それもそうだろう、怒鳴りながら問い質した此方に不手際があるとしても、攻撃の下準備をする様な面倒臭い少女が相手なのだから。恐らくこの様子では話し合い等徒労に終わるだろう。

 シンが黒衣の少女の態度に辟易し押し黙っている所を見たなのはは、それを好機とばかりに、少女との距離を縮めようと近づきながらなのはは言葉を搾り出す。

 「あの、あなたもそれ……ジュエルシードを探してるの?」

 なのははシンの飛翔している地点よりも数cm、身を乗り出して黒衣の少女に自分が感じた素朴な疑問を投げ掛けた。しかし、なのはの純粋な疑問に対しての少女の返答は身体全体をジュエルシード側に向けたままこれ以上近づくなという、氷の様に冷たい拒絶の言葉が紡がれるだけであった。黒衣の少女の冷たい返答に負けじと、なのはは此方に交戦の意志が無く話をしたいだけという意図を少女に伝え様とするが、聞く意志が少女に無い為なのはの口に出す言葉は虚しくも大気中に消えていくばかりだった。

 ――少し、話をしたいが良いか?――

 一向に状況が変化しないだろうと、予測していたシンに念話が届いた。そしてその念話は何もシンだけでは無く、黒衣の少女やなのはにも届いていたようだ。念話の送信者に向けて黒衣の少女が、同じく念話によって会話をしている。念話の送信者と会話が終わったのか、黒衣の少女はなのは達の方へ振り返り、二人―特にシンの方に―に目を向けた。すると、黒衣の少女の表情は先程までの冷静な態度とは異なり、驚きに包まれたのだ。

 「…っ!本当だ…レイの防護服とそっくりだ」

 黒衣の少女はゆっくりとなのは達の方へ振り返り、シンの防護服を見て驚きながら小声で言葉を発した。少女が呟いた言葉が聞き取れなかった為、シンは思い返そうとしたが、再び発せられた念話によってその思考は遮られた。
 
 ―― 一つ聞きたい事がある。そこの黒い髪、その魔導端末を何処で手に入れた?――

 黒い髪と言われると、該当するのはシン以外にはこの場には存在しない。だが、幾ら此方が初対面であり、更に名乗りを上げていないとは言っても、余りにも失礼な物言いに先ほどの黒衣の少女の態度に苛立っていたシンは内心腸が煮えくり返っていた。念話を発した張本人を何としても見つけようとシンは周囲を探したが、直ぐに見付かった。シンとなのは、そして黒衣の少女が飛んでいる地点から見て下方に位置する場所に、念話の張本人であると推測出来る人物が居た。

624とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:04:27 ID:NgBM/41o0
 その人物は自分達や黒衣の少女と同年代程だと見て取れた。その外見は黒衣の少女と同じ様に金髪なのが目を引いた、黒衣の少女と家族なのかとシンは予想をしたが、それを一時中断して金髪の少年の質問に対して返答を行った。

 「手に入れたも何もこの端末は始めから持っていたんだ!!俺が何で持っているか何てこっちが知りたい位だ!!」

 念話では無く、言葉を発してシンは少年の質問に応えた。その言葉に先程発生した怒りを追い出す為に大声を挙げて回答した、その御蔭で少しは怒りが晴れすっきりとする様な気分に包まれた。突然の大声に隣のなのはは驚いた様子を見せるが、此ればかりは簡便して貰いたいと心の中でシンは謝罪した。こうでもしないと突発的に湧き上がった怒りを静めて、自分の心の切り替えなどシンには出来なかったのだから。

 自身が発した言葉を聞いて期待した返答では無い為か、その金髪の少年は少しだけ落胆した表情を見せたが、直ぐに冷静な面持ちに戻した。何故、唐突に自分に質問したのかとシンは考えたが一つの【可能性】が浮かび上がった。今度は此方から逆に金髪の少年に質問しようとした所で、なのはの問答によって遮られてしまった。

 「あ、あのお話聞かせてください!あなた達も魔法使いなの?とか、何でジュエルシードを持って行こうとするの?とか」
 
 自身が今現在感じている疑問を言葉に紡ぎ出し、なのはは黒衣の少女と金髪の少年を交互に見つめる。少女は応える気は無いのか、一切油断の無い状態を保ったまま、周囲に魔力弾の形成を維持している。自分が始めに会話を提案したからか、金髪の少年は律儀に返答の為に念話を行使した。

 ――魔法使い?魔導師の事か?その様に質問されても、魔導師として教育や訓練をして来たから魔法に精通しているのは当然だ、としか答え様が無いな。ああ、それと二つ目の質問についてだが悪いが黙秘させて貰う――
 
 納得の行く答えが、得られなかったなのはは金髪の少年の方へと身を乗り出そうとした所でシンに遮られた。何故遮るのかとなのはは念話によってシンに抗議した。なのはの抗議に対してシンは、目線を黒衣の少女に向ける事で応えた。此方が妙な動きをすればあの少女は何の躊躇いも無く魔力弾を撃ち出すだろうとシンは小声で応えた。

 ――もう話は終わりにしよう、これ以上は時間の無駄だ。そのジュエルシードは俺たちが貰い受けるぞ――

 このまま睨み合いの状態が続くことを良しとしないのか、金髪の少年は自分達に念話で宣言した。これで話しは御終いという意味で言い放ったのだろう。それを体現する様に金髪の少年は右手に握り締めていた灰色のアクセサリーを構えた。あのアクセサリーが少年の魔導端末―デバイスなのだろうと確信に近い予測をシンは立てた。あの少年も黒衣の少女に加勢して、邪魔者である自分達という障害を排除しようという魂胆なのだろう。

625とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:04:58 ID:NgBM/41o0


 「―――Starting Password.――Gunnery United Non known energy―Device charged energy Advanced Maneuver System.―――」

 『―――起動パスワード承認――マスターユーザー声紋認証確認――ユーザー名【レイ・ザ・バレル】と90.0%の確立で認定―』 


 金髪の少年が発した【起動パスワード】にシンは自分の耳が幻聴を聞いたのでは無いかと疑い、少年の方を凝視した。しかし、続け様に少年が紡ぐ言葉に紛れも無い真実だと認識を改めさせられた。そして、あの少年が自分と同じ魔導端末を所有している事で、シンは先程自らの脳裏に浮かんだ【可能性】を確認したいという欲求が強くなった。


 「――Arms Limited Open.(武装、限定展開)――」

 『―――武装使用の制限を確認…認証します。―――』


 だが、自分のその欲求を果たせる時期はとうに既に過ぎてしまった。更に思い返せば、金髪の少年は自分が所持している魔導端末の入手経路を聞いて来ただけなので、自分の思い浮かんだ【可能性】に必ずしも合致するとは限らない。ならば、今自分達が最もしなければならない事は、魔法の技量や魔力量において、恐らく自分達二人を遥かに凌駕しているであろう二人の少年少女から五体満足で居られる様に必死に抵抗する事だけだろう。


 「――≪ZGMF-X666S LEGEND≫ 起動――」

 『――Yes. My master. Barrier Jacket Equip.(了解です、マスター。防護服を装着します。)――』


 金髪の少年の周囲に魔力陣と黄金の魔力光が発生した。数秒間の展開で魔力光は終息し、その後に悠然と佇んでいるその少年の防護服姿は、自身の防護服姿と異なる箇所は幾つかあるけれど、根本的な部分でそっくりだとシンは思考した。特に少年の左右の手甲部分、あれはどう考えてもシンの着用する防護服に備え付けられている【ソリドゥス・フルゴール】というシールドタイプの防御魔法を展開する発生装置だ。

 金髪の少年の防護服が形成したのを確認すると、黒衣の少女は自身の周囲に待機させていた魔力弾をなのは達に撃ち出した。なのはは上空に飛翔、シンは真横に避ける回避行動を取った。なのはは自分達に向けられた魔力弾を避け終えた後、黒衣の少女が居た地点に目を向けた。しかし既にその地点に少女は居らず、シンは上空に回避したなのはに目を向けた。

 「…っ!なのはっ!!後ろだ!!」
 
 何時の間にかなのはの背後に回りこんでいた黒衣の少女は両手で振り上げた大鎌をなのはへと振り下ろそうとしていた。シンの助言が早かったのか、なのは自身の勘が鋭かったのか、そのどちらかは判別が付き辛いがなのはは現在地から更に上空に飛び上がる事でギリギリで難を逃れた。だが、避けられる事を見越していたのか、黒衣の少女は下方から一気になのはとの距離を詰めた。


 ――速過ぎる、となのはとシンは同時に思い至った。


 黒衣の少女の振り下ろす大鎌に今度は避けられないと感じたなのはは咄嗟にレイジングハートを盾にして少女の大鎌を喰い止めた。なのはと少女の魔力光が鬩ぎ合っているのか、両者のデバイスが克ちあっている部分では火花が散っている様にシンは見えた。このままでは拙い、とシンは考えなのはに加勢しようと試みたが…

 「――他人の心配をしている暇は無いぞ?黒髪」

 此方の方に急速に接近して来た金髪の少年がシンの瞳に映った。シンは防御魔法を展開しようとするが、一歩遅かったのか自身が行動するよりも早く、金髪の少年の繰り出す蹴撃がシンの腹部を襲い、上空から木々が覆い茂る下方まで軽々と吹き飛ばされてしまった。腹部を蹴られたと同時に迫り来る尋常ならざる痛みに、シンは意識を手放しそうになったが、歯をぎりぎりと食い縛って持ち応えた。

 しかし、体勢を立て直す事は間に合わずシンは地面に激突した。魔導端末のセイフティ機能が働いたので、何とかシン自身の身体は無事で済んだのだが、金髪の少年の不意を突いた一撃が身体に響いたのか、シンは立ち上がろうとするも思い通りに身体が動かせなかった。恐らく金髪の少年はデスティニーの機能を考慮し計算に入れつつも、シンが戦線に復帰不可能なほどの一撃を入れて来たのだろう。

626とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:06:41 ID:NgBM/41o0

 「シン君!!…っあ!ま、待って!!私達は戦うつもりなんてないっ!!」

 なのはは自分達の考えを言葉にしようと試みるが、目の前の魔力が鬩ぎ合う圧力の前に上手く言葉が紡げないで居た。黒衣の少女と近くで見詰め合う状態になったなのはは相手の顔を見た。




 ――ほぼ黒一色に統一された身体に張り付く様な防護服と表面が黒・身体側の裏面が赤の外套。



 
 ――魔力の余波を受けて綺麗に靡く長い金髪。




 ――整った、可愛い顔。そして透き通った、何処か吸い込まれてしまいそうな紅い瞳。




 ――そして、その奥にあるもの――それは…




 「だったら、私やレイとジュエルシードには関わらないで」

 黒衣の少女から発せられた声になのはは目前の事象に意識を戻す。その内容に異を唱えなければならない、何故ならこのジュエルシードはユーノが責任を持って回収しに、一人でこの地に赴いたのだから。

 「だから、そのジュエルシードはユーノ君が……」

 反論しようと紡ぎ出された言葉が意味不明なものとなってしまった、それは仕方の無い事なのだ。黒衣の少女からの魔力に抵抗しながら会話をする事等、魔法に触れて二日目のなのはには些か無謀な試みなのであろう。それでも、言葉を発しようとするが最早、この黒衣の少女からの魔力に耐えるだけで精一杯になってしまっている事にはなのはは気付いていない。

 「くっ!!」

 なのは自身の頑強さに押し切れず、黒衣の少女となのははほぼ同時に弾き飛ばされてしまった。だが、なのはは必死に抵抗して後退を食い止めた。今シンが再起不能の状態な為、この場で自分が抵抗を見せないとこの二人はジュエルシードを封印し持ち去ってしまうだろう。なのはの抵抗の様子を見学していた金髪の少年は対して純粋に感心している。

 「苦戦している様だな、手伝うか?」

 金髪の少年が黒衣の少女へ援護行動の要不要の確認を取った。その言葉を聞いて、なのはは青褪めた。唯でさえ自分よりも技量の高い少女と対峙しており、それに対処するだけでも精一杯なのが現状である。それに加えて、シンを一撃で再起不能にした金髪の少年が加わってしまっては抵抗のしようが無いからだ。

 「大丈夫、次で終わらせる」

 金髪の少年の申し出に黒衣の少女は拒否の言動を呟いた。その内容としては、黒衣の少女が自身の勝利を信じて疑わないものだった。黒衣の少女の言葉を聞いてなのはは【負けられない】と決意し、自身の魔力を行使して防御魔法【Protection:プロテクション】を構築する。この【プロテクション】という防御魔法はバリアタイプのに分類される魔法だ、防御力そのものはシールドタイプの防御魔法に劣るものの、触れたものに反応して対象を弾き飛ばす効力を持つ、物理攻撃に対する耐性も高い。

 この魔法の特性をレイジングハートから説明を受けていたなのはは、黒衣の少女への対抗策として真っ先にこの防御魔法を構築したのだ。この防御魔法ならば、例え、黒衣の少女が斬り掛かって来てもバリアの性質で弾き飛ばす事が可能になる。先程の魔力弾を使った一撃も魔力をありったけ注ぎ込めば、ある程度の射撃魔法なら耐えられるとなのはは思いついたのだ。

 『――Arc Saber.――』

 妙齢の男性を模した機械音声がなのはの耳に届いた、そして黒衣の少女は機械音声を発したと見受けられる漆黒のデバイスを水平に振り切った。その行動と同時に刃の形となった魔力がなのはに向かって飛来して来たのだ。黒衣の少女が魔力弾もしくは直接攻撃を仕掛けてくるものと考えていたなのはは面を喰らったが、直ぐに落ち着き、防御魔法に魔力を込める。

 突き出したレイジングハートの先から出現する桜色の防御魔法と金色の刃が激突した。先程の接近時の鬩ぎ合いと同様に、二つの魔力は拮抗し始めた。なのはは金色の刃に押し負けないように魔力を込めようとした。

627とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:12:47 ID:NgBM/41o0


 ―――しかし、次の瞬間…



 『――Saber Explode.――』

 防御魔法を展開していたなのはの目の前で金色の刃が爆ぜた。そして、金色の刃に込められていた魔力の全てが周囲に拡散し、衝撃となってなのはを襲う。爆発と魔力衝撃の余波によってなのはは吹き飛ばされ、防御魔法も消滅してしまった。その様子をシンは地上から見上げるしか無かった、魔力量が膨大ななのはでさえも魔法技術に習熟している黒衣の少女には太刀打ち出来なかったのだと理解させられたのだ。そこで、ふとなのはを打ち負かした少女の方へとシンは視線を移した。
 
 シンは目を見開いた、瞳孔さえも開いているのではないかと感じてしまうほどに、黒衣の少女を凝視したのだ。あの少女は、爆発と魔力衝撃によって意識を失いかけているなのはに対して、追撃を行うために魔力弾を形成しているのだ。シンはその光景を見てしまったのだ。「止めろ」と声に出そうとするも腹部に走る激痛の為、上手く話せない。

 (…ヤ、ヤ…メ…ロ…)

 シンは有りっ丈の魔力を込めて飛行魔法を形成し、なのはの元へ飛翔する。しかし、身体のダメージが抜けていない為か常日頃の健康な状態での歩行よりも遅い。デスティニ―が念話でこれ以上速度を上げるのは危険だと警告を掛けるが、無視を決め込みシンは飛翔し続ける。シンは満身創痍で少女を確認した、魔力弾を形成し終えたのか、少女は手を振りかざしている。恐らくその行為が終わる事で魔力弾がなのはを襲うのであろう。



 (もう充分な筈だ!なのははもう闘えない。なのに追い討ちを掛けるな!!)



 ――シンの背後に展開される桜色の羽根が輝きを増し、速度を引き上げる。 



 (遅い!これじゃ遅い!!こんな【速度】じゃなのはを庇ってやれない!!)



 ――シンの腰部・脚部に存在するスラスターの出力が上昇し、速度が倍増する。だが、その増加と同時に黒衣の少女は金色の魔力弾を射出してしまった。



 (速く!もっと、もっと速く!!間に合わない!!)



 ――このままでは追いつけない、なのはに迫る二つの魔力弾の方が早く着弾してしまう。
 
  

 
 (…間に合え間に合え間に合え………間に合えええええええ!!!!!)


 

 「――――――――――ッ!!!」




 声に成らない叫び、辺りに響かない声を発しながらシン自身の身体全体に桜色の魔力が伝達、魔力の奔流が勢いを増した。その直後からシンが弾き出した速度は、それまでシンが無意識で作り上げた速度強化の魔法とは比べ物にならないものとなった。桜色の弾丸となったシンは、その速度でなのはへと急速に接近し、金色の魔力弾が着弾する寸前になのはを全身で抱き締めた。それと同時に桜色の羽根が消滅し、シンを覆った桜色の魔力も掻き消えた。そして、なのはを庇ったシンの背中には黒衣の少女が放った金色の魔力弾が二つ着弾し、シンの背中部分にあたる防護服に穴を空けたのだった。

628とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:13:42 ID:NgBM/41o0

 「…嘘……」

 シンがなのはを庇う行為を黒衣の少女は呆ける様にシンを見ていた、予想外の出来事だったので仕方無いだろう。だが、その一瞬に出来た隙を使って、なのはを抱きかかえたシンは最後の抵抗とばかりに自身の右手に簡易射撃魔法を形成し、黒衣の少女に放った。

 特に魔力が籠められている射撃魔法では無いのだが、唯でさえダメージを患った身体で自身の限界以上の強化魔法を行使した上での反撃で在ったため、シンの意識は意識喪失【Black Out;ブラックアウト】を引き起こした。

 シンの意識を手放してまでの反撃に黒衣の少女は対応が遅れた。自身の意識が、シンの予想外の行動のによって、フリーズしてしまった為だ。そして、シンの反撃に対応したのは黒衣の少女の様子を見守っていた金髪の少年だった。シンの簡易射撃魔法を右手、防御魔法など必要も無いかと云う様に素手(防護服に包まれてはいるが)で受け止める。数秒も持たずに、シンの最後の反撃は金髪の右手によって握り潰された。

 「最後の最後まで油断はするな、あの黒髪の足掻きに足元を掬われるところだったぞ」

 少年の手厳しい発言に黒衣の少女は気落ちした。しかし、少年の忠告を素直に受け止め、黒衣の少女は次の行動に移った。自身の漆黒のデバイスを菱形の宝石―ジュエルシード―に向けた、すると漆黒のデバイスが宝石を吸収した。昨夜レイジングハートがジュエルシードを吸収したのと同じ様に、漆黒のデバイスに格納されたのだ。それをデバイスのセイフティ機能によってゆっくり下降し、意識を失っても尚、自身を抱えるシンに支えられながら、なのはは黒衣の少女の一挙手一投足を見つめていた。

 なのはに見られている事に気付いた黒衣の少女は下降していくなのは達を見下ろしながら、警告の言葉を投げ掛けた。

 「今度は手加減出来ないかもしれない、ジュエルシードは諦めて…」

 その呟きを最後に黒衣の少女と金髪に少年は夕闇の彼方へと飛翔し消えていった。なのはは彼方へと消えて行くまで二人、特に黒衣の少女の方に視線を向け続けた。





 ――こうして、少年少女達の初めての邂逅は終了した。だが、この物語はまだ始まりであり、序章でしかない。――





 ――同じ空に、同じ目的を望むのであればぶつかり合うのは必然【キッカケ】はジュエルシードなのだ。――





 ――そう、子供達の【闘いと相互理解の物語】はまだ始まったばかりだ。――

629とある支援の二次創作:2012/05/28(月) 00:24:57 ID:NgBM/41o0
鮮烈さん、お疲れ様です。

そして皆さんこんばんは、唐突に第三話投下しました。そろそろストックがヤバイ。
限りなく適当かつ雑すぎる誰得戦闘シーンを入れ込んでいるわけですが、反省しますので許してください。

今回絵二つしかないのも許してください。猫獣書けばよかった…。

http://download2.getuploader.com/g/seednanoha/71/PHASE03-1.jpg
http://download2.getuploader.com/g/seednanoha/72/PHASE03-2.jpg

レイとフェイトの二人とフェイトお着替えシーンです。
使いまわしでホントすいません。

それでは本日はこれにて。

630名無しの魔導師:2012/05/28(月) 00:59:29 ID:J3C.immYO
ならばっ!GJという言葉を贈らせて貰う!!

ショタVerレイキタ───(゚∀゚)───!!
これでかつる!!!

>>608
なるです。では次回からソコらへん意識してやってみます。
期待に応えられるよう頑張ります。

631名無しの魔導師:2012/05/28(月) 23:37:09 ID:G/Efk70w0
投下乙です
幼少期レイってCV桑島さんってのも相まって女の子にも見えましたなぁ

632KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:15:48 ID:kIP1vZVs0
投下予約 1時半

633KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:31:01 ID:kIP1vZVs0
「前回から2年も空いちゃったのでざっくりとしたあらすじを」
「アスラン達がStSの世界にやってきたお話です」
「訓練校(漫画参照)でティアナ達とPHASE12までドタバタして、今はstsの話に追いついて進行中」
「今のところ本編で名前が上がってるSEEDの主要キャラといえば、アスラン、イザーク、ディアッカ、ニコル。ほかにも出る人はいますけど」
「以上。では、投下いきます」

634KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:31:42 ID:kIP1vZVs0
 初めてみんながチームとしての臨んだ実戦は、ピンチの連続だったと思う。
 それでも、どんなピンチが訪れても、仲間を/愛機を信じて前へと駆け抜ける。そんな風に思えてしまった実践だった。
 どんな迷いも胸の奥にしまってみせて、みんなは戦っていく。
 一人が後ろを振り向いても、きっと誰かが前を向かせてくれる。みんななら。
 それぞれの場所で。
 それぞれの戦いが。
 ようやく始まった。

grow&glow PHASE 19 「進展」始まります

 
 
 初任務成功から一夜が明けて。
 ストライカー達は、成功の喜びを胸に秘めたが故に/自分たちの戦うべき相手を知ったが故に、より明確な強くなる――という意思を持って訓練に望んでいた。
 スバル、イザーク/前衛として、生存能力向上のために防御力(打たれ強さ)を。
 エリオ、キャロ/基礎を固める延長として、回避能力向上を。
 ティアナ、ディアッカ/射撃型として、あらゆる相手に正確な弾丸の選択/命中させる判断速度と命中精度を。
 
 まずは、己のポジション/役割としての力をつける。
 それが、現段階でなのはが考えた訓練の方向性だった。
 
 演習場/森の中に伝播するホイッスル=午前の訓練の終了合図。
「はい、お疲れ。個別スキルに入るとちょっときついでしょ」
 いたわるように/ねぎらいの言葉をかける高町なのは/優しい笑顔。
「ちょっとというか」
「かなりと……いいますか」
 俯き、息を荒げ、地面に座り込んだ教え子6人。
 
 個別スキル/新しい訓練の始まりは、自分たちがその訓練に見合う練度=成長しているということだが、6人の表情に笑みはない。
 なのはを見上げるために首をあげることも。
 姿勢を正し、終わりの挨拶を教受けることも。
 なのはの言葉に明確な返答を返すことも。
 体力の尽きた6人には、ただのひとつも割くことのできる体力が存在していなかった。
「ディアッカとイザークはみんなより少しデバイスの負荷をあげてるけど大丈夫だよね?」
「少しじゃねーだろ、これは」
 先日の任務達成後に、技術部に拉致されたディアッカとイザークのデバイス。
 一日で戻ってきたと安堵するも、使ってみればBランク試験を受けた時よりも、体感で2倍は消費しているのではないかと思うほど負荷は高い。
「けど、ディアッカは特にAMFの影響を受けるからやっぱり必要だと思うな」
「わーってるけど……」
「大丈夫。なれたらちゃんと砲撃も撃てるようになるから」
 ちょっと借りるよ――と、ディアッカのデバイスを手に取ると、なのははバスターを起動させる。
「少しだけキミを借りてもいいかな」『あんな奴より何倍もいいわ』「ありがとう」
 承認を済ませ、なのはは告げる。膨大な魔力を空へと解き放つ言霊を。
「ディバイーーーーーンバスターーーーーーーー」
 桜色の奔流が蒼穹に向かって駆け抜ける。
 カートリッジを消費することも、特段にいつもより魔力を込めた素振りも見せずにぶっぱなす。
「ディアッカくんも魔力量を含めて鍛えればどんどん伸びるから頑張ろうね」ディアッカに微笑みとともに、なのはは宣告。これから死ぬほど訓練しちゃうぞ(ハート)と、教えて(命令して)あげる。
「フェイトは忙しいけど、あたしも当分お前たちに付き合ってやれるからな」白い歯を見せながら、にやりと笑うヴィータ。
「あ、ありがとうございます」引き攣るスバル。主に頬が。他の5人もまた同様に。そして、冷や汗も。
 鬼教官からの訓練の日々が始まることを教えられ、変えることのできない現実に、6人は自然と空を見上げてしまう。
 涼しい風が流れゆく空を。
 涼しげな青に染まる空を。
 重力に気兼ねしない空を。
「じゃあ、お昼にしようか……それから、また午後から頑張ろうね」
 それでも、どんなに力が入らなくとも、なのはの言葉は耳に届くのだった。

635KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:32:32 ID:kIP1vZVs0
 
 
 ゆったりとできる昼食から、再びの地獄へと6人が演習場に向けて旅立った頃。
 陸士108部隊を訪れる機動六課の者達がいた。
 
 そのうちの一人。同行者として訪れたアスランは、感慨深げに懐かしの隊舎内を散策中。
 と、廊下を歩くアスランの背後に一つの影が迫っていた。
「お久しぶりですね、アスラン」桔梗色のなめらかな長髪を揺らし、駆け寄っていくのは陸士108部隊所属、ギンガ・ナカジマだ。彼女は走り寄った勢いのままアスランの肩を軽く叩こうとして、「ギンガも相変わらずだな」――しかし、彼女の左手は空を斬る。
 勢いを殺しきれずにアスランを数歩追い抜いて停止。
 
 ギンガにとっては、実に面白くない結果だった。
 
 不満げに口を尖らせ、文句のひとつも言ってやろうとして――再び停止する。
「……大丈夫ですか? そんなにボロボロになって」
 本来ならば、アイロンが効いてピシッと決まっていたはずの制服。しかし、襟も裾も制服全体にシワが溢れていた、
 
 瞬間、思考。
 
「もしかして、機動六課でもアスランは散々いいように使われてしまっているんですね。なんて不憫な。いつも真面目で通してきたアスランが制服にアイロンを掛けられないくらい仕事まみれにされているなんて……このままだとアスランのお凸がもっと酷いことになるというのに……いいでしょう。私から父さんに頼んでみる。アスランをこっちに引きずり込もうって」
 私はひどく悲しい――と全身で訴えるかのように顔を多い、ギンガはその場にしゃがみ込み、
「……本当に変わらないな、君は」表情を変えることなく、真顔でギンガを見下ろしながらアスランは二言目を告げていた。
 
「酷いですねアスランは。たったそれだけの言葉で済ませるなんて」頬を膨らませながら、ギンガは立ち上がる。無論、両手で覆っていた瞳に濡れた痕跡はゼロ。
「……相変わらずと答えるべきだったか?」
「それも却下です」
「……わかった。そもそも、俺がこうなったのも」「こんなにボロボロになったのは此処のみんなおかげ。そりゃあ、服もお凸もあれだけ挨拶で叩かれたらそうなります。それと、アスランが今封筒を持っているのは、ギンガにでも会ったら渡してくれと無理やり頼まれたから。あと、ここ最近は酷くなってない。あ、アスランに頼りすぎていた自覚はもちろんありますよ。だからアスランの残業で残っていた時は、お菓子の差し入れをしていたじゃないですか」
 拳を握り締め、プルプルと震えるアスランをギンガは楽しそうに見つめるのだった。
「ギンガ……」
「はい?」
「たしかに差し入れをしてもらった日は、ギンガも俺の仕事を手伝ってもくれた。感謝もしている」
「そりゃあ、アスランはあの時は後輩でしたから先輩として当然です」ギンガは得意げに胸を張り、
「夕飯を食べに行ったよな。時間が遅くなるから。後輩の俺のおごりで」そして、目を逸らす。
「語弊です。アスランは男として私の御飯をおごって、私は先輩としてアスランの御飯をおごる問題ありません」
 左右の人差し指の先をつつきあわせるギンガに向けてアスランは息をつく。
「わかった。ギンガの食事の量についてとやかく言う気はないさ」
「言う気がなくても、それだけ口に出していたら同じですよ」

636KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:35:02 ID:kIP1vZVs0
「で、これからギンガはどこに行くんだ?」
 アスランにとっては、かつての仕事場。
 だからこそわかる、給湯室へと向かうギンガに付いて行きながらアスランは問いかける。
「せっかく八神二佐もいらっしゃったから、お茶でも入れようと思っただけですよ」
「そういえば、はやては、昔この部隊にいた事もあったと言っていたな」
 ポットから急須に湯を注ぐギンガを見つめながら、ふと、今日ここへと共に訪れた彼女のことを思い出す。
 密輸物のルート捜査依頼が今日ここにやってきた大きな理由だ。
 密輸物/ロストロギアの捜索。
 他の機動部隊にも依頼を出してはいるが、そこだけに頼るということは疎い。どの機動部隊とも、名のある人間の後ろ盾があるものの、逆にそれだけ動きの制限が大きくなるということだ。その点、政治的にも影響力の弱い・及びにくい地上部隊の方が自由度も高く動かしやすい。あくまでも、目的はロストロギアの捜索。ガジェットという危険因子はあるものの、捜索を行うだけならば、部隊の練度は関係しない。
 地上のことは地上部隊がよくわかってる、て言うたらナカジマ三佐も納得してくれるよ――と、はやてはVサインをアスランに向け、陸士108部隊の部隊長に会いに行った。それが、20分ほど前のことだ。
 
「アスランは一緒に父さんと話をしなくていいんですか」
 湯呑を盆に載せながら、ギンガは問うた。
「はやてから暇をもらったからな」
「つまり、こっちに戻ってくるんですね」
「暇といっても、はやてがゲンヤさんと話している間だ。古巣のみんなに挨拶してきたらってことだろうな」
 盆を持ってあげようとし、怒られ、アスランはギンガに続いて部隊長室への廊下を歩く。
「いい隊長さんじゃないですか」
「そうだな。また、気を使ってもらったよ」
「だったら、何かドドーンと八神二佐に返してあげたらいいんですよ。あ、何かはちゃんと自分で考えてくださいね」
 額を指で小突かれ/己の言わんとすることを先に言われ、苦笑するしかないアスランだった。
 そして、
 
 ……シュイーン
「失礼します」
「ギンガ!」
「八神二佐、お久しぶりです」
 ……シュイーン
 
 気付けば、ギンガの姿はいつの間にか到着していた部隊長室の中に消え、一人廊下に取り残されたアスランだった。 

 
 捜査部――ギンガのデスクに集う二人。
「その……さっきはごめんね」
「あそこで入りそこねたのは、俺がボーっとしていたからだ。」
 額に影を落とすアスランと謝るギンガ。
 自分のすぐ後ろにいたはずのアスランが消え/しかし、ドアの前まで一緒に来たアスランが入ってこなかった理由を咄嗟に言えることもできず、ギンガはひとりで来たように振舞ったのだった。
 表情には笑顔を/背中に汗を浮かべながら、過ぎること数分。
 そして、部隊長室からギンガのデスクまで数十秒。
 それが、「今」を作り出したのだった。
「そうだ。仕事の話をしてくれませんか? 私たちに依頼するっていう仕事の」
 「今」を切り替えるために。
 ギンガは仕事の話をアスランに持ちかける、
 瞬時。
「そうだな。捜査主任はカルタスで副官としてギンガというのは聞いているよな」アスランの表情は切り替わる。
「六課は、テスタロッサ・ハラオウン執務官が捜査主任になるからギンガもやりやすいと思う」
「そうですか。フェイトさんが主任なんですね。ということは」ギンガ――見上げる視線/アスランの瞳に向けて。
「二人で一緒に捜査にあたることもあるだろうな」アスラン――表情を優しく崩しながら首肯/即座の肯定。左手で小さくガッツポーズを作ったギンガを見つめながら、もう一つギンガの喜びそうな/少し遠慮してしまいそうな六課からの提案を投げかける。
「それと、捜査協力にあたって六課からギンガにデバイスをプレゼントすることが決まったんだ」
「ちょっと、いいんですかアスラン? 凄く嬉しいのは嬉しいけど……」
 アスランが展開したモニターから見せられたモノに、思わずギンガは聞き返す。
 給料何ヶ月分だろうかと思わざるをえない代物だ。二つ返事に貰っていいモノだろうが、悲しいかな、安月給の陸士として働いてきたギンガの心の一部が、プレゼントの受け取りに抵抗を考える。
「閃光の執務官と一緒に走り回るなら必要だろ」
「だったら……受け取ります」
 だが、結局のところ理由ができればそれでいい。
 こんなに良いモノを貰っていいものか――フェイトさんと「一緒に」捜査を行うためには必要だという大きな理由が、だ。

637KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:36:28 ID:kIP1vZVs0
 
 両手でガッツポーズを作って喜ぶギンガに釣られ、アスランの顔にも笑みが浮かんだちょうどその時、
 コール音。
 数瞬後、「ギンガ、今から時間はあるか?」陸士側の捜査主任となったラッド・カルタスの顔がモニターに展開されていた。
「もしかして今回の依頼された外部協力任務の打ち合わせ?」
「ああ。第3会議室に今から10分後に来てくれないか」
「はーい」
「と、そこにアスランもいるよな?」
「はい。どうかしましたか」アスランにとっては元上司。懐かしさを胸にアスランはモニターへと顔を近づける。
「相変わらずのデ」「回線、切りますよ」「冗談だ」
 変わらぬ元部下に/変わらぬ反応に満足できたのか、
「俺にも説明を頼む。データもお前が持ってきたようだしな」次いで、遠慮なく頼る。
「なぜですか?」
「おいおい、二尉の俺が佐官……しかも隊長よりもえらい二佐に聞けないだろ。というより、お前の説明はわかりやすい。褒め言葉だ。だから説明しろ」
 頼みごとというより、むしろ命令。他部隊の人間に。
 だが、
「たしかに、はやて……うちの部隊長がするべき仕事じゃありませんね」
 理由としては間違ってはいないのだ。己の階級を鑑みれば予想できること。
 と、モニター/カルタスの頬がクイと持ち上がる。
「部隊長を名前呼びか……どこまで手を出した」
「どうして手を出すんですか。そもそも、これって仕事用の回線ですよ」
「ついだよ、つい。機動六課といったら悪魔から天使。ツルペタからビッグバンまで選り取りみどり。俺たちの隊の乱暴連中と違って、いい女のパラダイスじゃねーかよ」


 瞬間。
「……ギンガも可愛いだろ」背中が寒くなる。寒くなりすぎて熱い。痛いぐらいの殺気。故に、アスランの本能が自然と言葉を告げていた。
 酒が入ったり、訓練に付き合わされたり、仕事を押し付けられたりと酷い目に合うことはあるが、それがギンガのすべてというわけでもない。
「あんな大食らいで、しかもグーで殴ってくる奴なんか女じゃない。女がグーだぞ。この部隊で最強のグーで」それでも全否定。ありえないとカルタスは首を振る。
「ヤサシイトキモアルシ、イイスギダロ。」
 視線でアスランはカルタスに訴える。カルタスの話相手/己の隣に誰がいるのかを。
「……あ」
「どうしたんですか? カルタス二尉」
 笑顔で/百獣の王すら逃げ出しそうな微笑みで/ギンガは問いかける。
「後、30秒ほどで第三会議室に着きますよ」
 
 アスランは気づく。視界の端、世界が前へと消え去っていくことを。
 アスランは気づく。己の襟首を掴まれ、ギンガに引きずられていることを。
 
 
「アスランは少し待っていてください」
 会議室前。アスランはギンガに告げられる。
 拒否権は――ない。
 だが、
「ああ、凶暴なとこをアスランに見せたく無いってのは、女の子らしいじゃねーか」ターゲット――カルタスは笑ったままだ。これより降りかかる拳に臆することのないのか、余裕を持ってモニター先から語りかけている。
「黙ってくれませんか」狩人――ギンガの目は座り、ドアをぶち破ろうと左拳をきつく握り、「え?」目を見開いた。
 頭に血が上っていたからこそ見落としていた、ドアに光る「open」の言葉。
 一歩。ギンガはドアへと歩み寄る。
 開くドア。
 その先。会議室の中には誰もいない。
 メキッ――破壊音。ギンガの右足の床がわずかに沈んでいた。

638KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:37:04 ID:kIP1vZVs0
 同時、笑い声が木霊する。
「居場所バレてちゃやらないだろ」さも当然と言い放つカルタス。
「打ち合わせをするんじゃないですか?」背後でアスランが数歩後ずさったことも気にせず問いかけるギンガ。
「モニター越しでもわかるって。データもアスランがプログラムとかセキュリティ組んでるからいけるな。まず漏れない。というわけで」「ナカジマ陸曹、いつものところです。時々私たちが使う穴場のお店」モニターに一人の女性が入り込む。
「ちょ、お前!」
「仲間はずれはかわいそうだろー」「二尉は調子に乗りすぎですよ」「諦めろ」
 さらに、数人の声がギンガたちに届くのだった。
「カルタス二尉」にこやかに。
「はい」殊勝に。上官でありながら直立/敬礼の姿勢。
「今日は、仕事の話もありますし、もういいです」穏やかに。
「はい」真面目に。姿勢を崩さず、直立/敬礼の姿勢。
「実は、ちょっと嬉しいことがあったんですよ。私、六課から新しいデバイスを頂いたんです。新しいローラーに変わるんですよ。フェイトさんと一緒に走り回れる足に」
 目で告げる。これ以上話す必要があるのかと。
 笑いかける。わかっていますよね、と。
「今日の飯は俺持ちだ」
「今日だけですか?」
「明日もおごらさせていただきます」
「よろしい」
 満足気に頷き、アスランへとギンガは向き直る。
「それじゃあ、行きますよ」
 
 
 隊長室。そこから覗ける隊舎の玄関先。
 意気揚々と隊舎から歩いていくギンガと引っ張られていくアスランを見送りながら、
「すいません。気を使ってもらって」はやては苦笑する。
ギンガに引っ張られながらも、最後は車の運転を勝手出るアスランに、だ。
「気にするな。それに、カルタスも分かってやったことだろう」ゲンヤ/顎に手を当て、しみじみと。
「何がですか?」はやて/唐突に陸士側の捜査主任の名前を出され、聞き返す。
「俺たちが空とは違って動きやすいからといって、上とは関係ないということはない。出向してくる奴もいれば、家族、親類が上にいる奴もいる。ここは、機動課よりも都合がいいだろうが、あくまでも程度が違うだけだ。完全に自由ともいかねえさ」
「お見通しですか」
「今回の依頼は建前上問題はないからいいんだよ。上のやつは下を上手く使わんとな」ゲンヤははやての頭を軽く叩き、「今回捜査に当たらせるメンバーは俺が隊の中でも特に信頼しているやつらだ。だから、心配するな」告げる。
「まあ、この隊だからああ言ったのかもしれんが、俺が部隊長をしている間だけだぞ」
「肝に命じときます。師匠」返すは敬礼。
「ほんとにタヌキみたいになりやがって」
 再び、はやての頭に拳がゆっくり落とされた。
「さて、仕事の話もここまでとして俺たちも飯でも食うか。ここまで出てきたんだ。お前さんも久々に行きたい店くらいあるだろう?」
「はい。ご一緒します」
「こ洒落たレストランとはいかんが、そこは大目に見てくれや」
「そのほうが気楽に食べられるから大歓迎です」

639KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:37:41 ID:kIP1vZVs0
 男が歩いていた。惜しげもなく浮かぶ笑顔をそのままに。一人の青年を引き連れ、男は歩む。
 その男の名は、ジェイル・スカリエッティ。 ロストロギア事件を始めとして、数え切れないほどの罪状で超高域指名手配をされている一級捜索指定の次元犯罪者。
 男は笑みを浮ばせながら。
 理由――そろそろ己の存在が気づかれるということを予測し、これから起きるであろう未来を想像し、興奮。
 前回レールウェイ内部にて撃破されたガジェットから発見されるであろう、己の名前。見落とすほど相手もまた甘くはあるまい。
 
 それは、挑発だった。
 高町なのはに。
 フェイト・テスタロッサ・ハラオウンに。
 最強ともいえる機動六課に向けてのいわば挑戦状。
 生命操作・生体改造に関して異常な情熱と技術を持っている己がガジェットを大量に作ってまでレリックを探し求めているのだ。
 六課もまた、全力で対抗してくるであろう。
 だからこそ、彼は楽しい。
 己がどれだけの作品を/娘たちを生み出せたのかを正確に測ることができるのだから。
 
「ゼストとルーテシア。活動を再開しました」伝わる言葉。長姉、ウーノより。
「ふむ。クライアントからの指示は?」確認せねばならないこと。スポンサーの要望だ。
「彼らに無断での支援や協力はなるべく控えるようにとメッセージが届いています」
 くだらない伝言にスカリエッティは鼻で笑う。
 自立行動を開始させたガジェットドローンがレリックの下に集まることは自明の理。わざわざ、メッセージとして伝えるべき内容ではない。
 多めに見てもらえるというあてが外れ、スカリエッティは大きく息を吐きだした。
 と、ようやくスカリエッティの背後についていた青年が口を開く。
「ドクター。ガジェットのプログラムなら、半日あれば改造できます」
 提案。だが、首を振る。
「君にそんな無駄な時間を使わせるわけにはいかないよ。それに見つかったところで彼らは強い。第一、彼らもまた、大切なレリックウエポンの実験体なのだからね。データを集める上でも構わないさ」
「わかりました」
 肩を落とし、気落ちする青年。そんな彼を眺め、ちょうど今、思いついたかのようにスカリエッティは告げた。
「心配というなら……近いうちにホテルで行われるオークションに参加してみるかい? 彼らが今動いたということは……わかるだろう?」青年の顔を覗き込み、男は瞳を怪しく光らせながら答えを促した。
「はい」是――スカリエッティの望むべき言葉が返される。
「護衛として、当然機動六課も動いているだろうが、君の頑張りで彼も彼女も無事にレリックを集めることができるんだ。運がよければ、彼女の目標も達成される。君にはしばらく休みを上げよう。ここ最近の君の頑張りで私にも余裕がある」
 
 ホテル・アグスタ。
 再びの激突へのカウントダウンが始まった。

640KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/09(土) 01:38:59 ID:kIP1vZVs0
ご静読ありがとうございました。
お久しぶりです。二年ぶりですね(殴
覚えてくれている方は……いるのだろうか(汗

前回ふと思い出したはやての誕生日。覗いた雑談・・・当日はスルーに全俺が泣いた。
というわけで、はやてだってかわいいだろーーーがーーーーーーと思い、頑張れはやてと思い、気がついたら書いていた。

しかし、昔の自分の書き方を見るといろいろと修正したくなる不思議。
あの時はあれで良かったけど今読むとorz
もしかしたら、一気に修正するかもしれません。
あ、この続きは、また書きたいなーとは、思ってます。不定期は変わらずですが、期待せずにお待ちください ノシ

641名無しの魔導師:2012/06/09(土) 09:28:25 ID:hgtooIE6O
おかえりなさいっス!
kikiさんが帰ってきて嬉しいですよ。文体の違和感というのは……まぁ時の流れが解決してくれるかと

642名無しの魔導師:2012/06/09(土) 12:49:41 ID:pU1w5yvgO
うわーすげー久々w
乙です!

643名無しの魔導師:2012/06/13(水) 12:36:08 ID:TBh.t6v.0
久しぶり見たら懐かしい方の復活!

644KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:18:46 ID:CBPuUKZA0
どもです。2時半に投下予定 ノシ

645KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:30:17 ID:CBPuUKZA0
 繰り返すのは自責。今ある己に自信を持てなくて。
 湧き上がるのは疑念。日々の成果を実感できなくて。
 胸を焦がすのは羨望。互いの落差を痛感させられて。
 
 少女は問うていた。
 今、己がここにいることの存在意義を。選ばれた理由を。己に向けて。
 
 卑屈に考える。卑屈に決め付ける。
 
 本当の答えを/それが、己の望まぬ答えであるのではないかと恐れ、誰に問うこともなく、答えが見つからないように――
 
 ――少女は己に向けて問いかける。
 
 
grow&glow PHASE 20 「ホテル・アグスタ」始まります
 
 
 ミッドチルダ首都南東地区
 都心部から離れた緑地帯。その緑と穏やかな湖面に囲まれるように存在する白亜の建物――ホテル・アグスタ。
 都心部とは離れてはいるが、交通の便が悪いわけではない。
 近くを走る道路はすぐに高速と繋がり、またホテルからの直行便の利用度も上々。
 故に、観光・慰安を目的とする客でシーズンは賑わい、時には(違法物も取り扱う)オークションでもまた、人の波が押し寄せるのだった。
 
 
 ホテルから林道/ハイキングコースへ繋がる人気のない道ばたに直立する一人の少女。
 少女/ティアナ――制服ではなく既にバリアジャケットを着用=任務中(仮)/警戒中(仮)。
 不審者が通りかかれば仕事は生まれるが、周囲の人間――ゼロ。
 シーズンオフにホテルに滞在する+訪れる一般人の目的はオークション。
 
 綺麗な空。気持ちの良い空気/風。
 そんなものより、珍しいブツにしか人々の興味/関心は向いていない。
 
 開店休業――やることが生まれない=暇。
 と、脳裏に相棒からのリンクが繋がった。
『そっちはどう? ティア』もう一人の暇人=スバルからの念話だ。
「なーんにも。あんたのとこは?」
『こっちも平和だよ。凄く平和』
 
 オークション開始まで、残る時間は3時間と少し。
 各々の持ち場についた彼女達――六課のメンバーたちはオークション会場の外を固めながら、「その時」を待つ。
 だが、常に気を張り詰めていた結果、有事に全力で対処できなければ意味はない。
 故に、敵の発見を担うロングアーチとは異なる分隊であるティアナ達が言葉を交わすことに/緊張をほぐそうとすることにお咎めはない。
 
 
 会場内の警備は厳重。一般的なトラブルには十分対処可能。入口に備えられた防災用の非常シャッターはつい先日、PS装甲の技術を転用したものに変更され万全の体制をとっている。
 油断はできないけど、少し安心かな。
 
 それが、分隊長から告げられた言葉だった。
 
『あ、あたし中だから隊長達見かけたんだけど……凄くドレス似合っていたよ。受付の人が鼻の下伸ばすくらい』スバル――楽しげに言葉を弾ませる。
「そりゃあ……何かの公報か! ってくらいに隊長達は全員綺麗よね。シャマルさんがお仕事着なんて言ってたけど……そういえば、シャマルさんが現場に出るなんて思わなかったわ」ティアナ――感慨深げに言葉を淡々と。
『そういえば、今日は八神部隊長の守護騎士団全員集合かー』
「言われてみれば、そうよね」
『だったら、今回もサクッと終わりそうだね』
「……あの人たちが居るんだし、そうかもね」
 訓練校の卒業後もアスランやイザーク達と連絡を取り合っていたおかげか、ティアナにとっては、知人以上友人未満という程の仲にはなっている。
 親兄弟のいない独り身というティアナの境遇を誰かがはやてに話したおかげか、時には食事に誘われ、近況を聞かれ――と気にかけてもらっていることもあり、八神家の面々を知らないわけでもない。

646KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:30:54 ID:CBPuUKZA0
『6人揃えば無敵の戦力な守護騎士団も揃って、なのはさん達もいるんだし、ティアも、もっと気楽にしたら?』
「しょうがないじゃない。訓練とは違って実戦――それも、5人の指揮をするかもしれないんだから緊張くらいするわよ。あんたがお気楽お花畑なだけ」
『ひどいよティア』
「うっさい」
 気負いを見抜かれ、気遣われ、ティアナは念話を切り上げる。
 嘆息。焦りを吐き出すために/余裕を取り戻すために。
 冷静さを取り戻し、ティアナは思案する。
 六課の戦力の異常さ――それは、ティアナはとうの昔に知っていたことだ。
 部隊毎に保有できる魔力ランクの総計規模の問題をクリアするため、常に出力リミッターが掛けられているオーバーSの隊長格とニアSランクの副隊長。
 そして、他の隊員達もまた、未来のエリートが勢ぞろい。
 隊長達から指導を受けている新人もまた、自分より年下ながらBランク持ちのエリオとレアで強力な龍召喚士のキャロはフェイト・テスタロッサ・ハラオウンの秘蔵っ子。危なさはあっても、潜在能力と可能性の塊+優しい家族のバックアップもあるスバル。コーディネーターとしての素養の高さを持ったイザークにディアッカ。
 己を外せば、並みの人間が見つからない。
 
 気落ちすることだが、事実は事実。
 気持ちを切り替えたくて、
「やっぱりあたしの部隊で凡人はあたしだけか」俯き、吐き捨てるように言葉を漏らすが、
「今更、何を言っている。貴様は」一人の男に拾われる。
「なんであんたがここにいるのよ?」思わず、半眼+仏頂面。
 それでも、男――イザークは気にする素振りも見せずに歩み寄る。
 冷笑。「巡回で動き回っていることも想像できんのか」
「うっさいわね。タイミングが悪いってことぐらい読み取りなさいよ」視線を逸らす。イザークが警備担当のエリアを持っていないことを今更ながらに思い出す。
「タイミング? ……ああ、ティアナが自分を凡人だとようやく理解したことか」
「改めて誰かに言われるとムカつくわね」
「それがどうした。貴様がそんなことを気にするたまか?」再び嗤う。
 愉快だと言わんばかりに腹を抱え、肩を小刻みに揺らされ――しかし、ティアナは押し黙る。
 
 ――だけど、そんなの関係ない。あたしは立ち止まるわけにはいかないんだ。
 
 飲み込んだ――イザークに声を掛けられていなければ、続いて口から飛び出していたはずの宣告。
 視線をイザークへ/どう言い返して来るのかを楽しみにしているかのようなほほ笑み=今の己に無い余裕。
 ムカついた。
 それでも、己が考えていたこととイザークの言葉に違いはない。
「そうよ。他がなんであってもあたしには関係ない」
 イザークに/自分に言い聞かせるように。
 ティアナに100%の自信はない。
 が、イザークは満足したのか、背を向け、再びの歩哨を行な――行おうとして、止める。
 
 
 世界がざわめいた/警告音が脳内を駆け抜ける。

647KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:31:36 ID:CBPuUKZA0
 
「ティアナ!」呼び声。瞬間、イザークの口が次の言葉を紡ぐ前に答える。「わかってるわよ」
 アラームの瞬間。走り出していたイザークを追いながらティアナは通信に耳を傾ける。
 観測されたモノはガジェット・ドローン陸戦Ⅰ型、陸戦Ⅲ型。
 先日、リニアレール内で出会った敵と同一種。
『ティアナ、打ち合わせ通り、お前がスターズ・ライトニング03以下の指揮を取れ。防衛ラインをホテル前に設置だ』
「はい」簡潔に。ヴィータの命令をティアナは即座に受領する。
『ラインを維持することが最優先だかんな』
 新人だけとはいえ、初の実戦での部隊指揮。
 凡人の自分が――ふと湧き上がる劣情を振り払い、ティアナは新たに通信を繋ぐ。『前線各員へ、状況は広域防御戦です。ロングアーチ1の総合管制と合わせて、私シャマルが現場指揮を行います』全体通信の送り主へ。
「シャマル先生。あたしも状況を見たいんです。前線のモニターもらえませんか」
『了解。クロスミラージュに直結するわ。クラールヴィント、お願いね』
 シャマルの変身が終わると同時、ティアナの眼前に展開されるモニター/情報。
 映されるのはシグナム、ヴィータ。そしてザフィーラだ。
 
 
 デバイスロックを解除され、レベル2での起動承認を得た2人は既に変身済み。翔けるは空の上。
「新人たちの防衛ラインには一機たりとも通さねえ。速攻でぶっつぶす」
「お前も案外過保護だな」
「うるせーよ」
 主催者からは、オークションの中止は考えていないと告げられている。
 それは、六課の実力を信じてのことか/自分たちの益を考えてのことか――おそらく後者だが、依頼主がオークションの実行をやめない/客の避難を行わない以上、敵を断固阻止せねばならない。
 視認――小物にデカ物。
 決断――瞬時にシグナムは割り振った。
「私が大型を潰す。お前は細かいのを叩いてくれ」
「おうよ」異論ナシとヴィータはシグナムを見送ると、次いで浮かべる、8つの鉄の球。
「まとめてぶちぬけえぇええええええ」
 敵を/獲物をぶち抜くためにヴィータは放つ――シュヴァルベフリーゲン。
 
 シグナムへの、一機たりとも通さないという宣言を実現するために。
 数には数を。
 抗魔法には実弾を。
 
 空を切り裂き飛翔するツバメたちは、ガジェットの体を食い破る。
 
 
 
「副隊長とザフィーラすごーい」歓声。
 単純に副隊長たちの力に感激するスバルから/副隊長たちが映るモニターから目を逸らすように、ティアナは俯いた。
 知っていたことでも、現実に見せつけられれば嫌でも教えられる。
 力の差を/凡人である己とニアSランクの者の差をまざまざと。
 
 副隊長たちは屠ってみせるのだ。いとも容易く一撃で。
 言ってみせるのだ。一機たりとも通さないと。
 
 今の自分に同じことができるのか――否。
 同じ高みに立つことができるのか――自信がない。

648KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:32:07 ID:CBPuUKZA0
 と、
「おいおいしっかりしろよ。副隊長が凄くても数が多いんだから俺たちにも仕事はくるって」呆れ返った調子のディアッカに小突かれる。
むっとなる。「わかってるわよ。あんたもちゃんとフォーメーションの確認とかしたの?」
苦笑。「前衛はスバルとイザーク。中衛がティアナ。後衛は俺とキャロ。エリオは臨機応変に前と真ん中。今の俺たちに他のフォーメーションが組めるのかよ」
 肩をすくめられ、ようやくティアナは、己の余裕のなさを自覚する。
 今まで何度も繰り返してきた訓練内容を思い出せば、他に組むべき選択肢はない。
 「できないこと」を「できるようにする」訓練ではなく、「できること」を「もっとできるようにする」訓練だったのだから。
「頑張れ隊長さん」ディアッカ――からかうように。
「隊長、ファイト!」スバル――励ますように。
 二人はティアナの背中を/心を押してやるのだった。
 
「あ」反応/キャロの両手に備わるデバイスが明滅。
「キャロ?」
「近くで誰かが召喚を使ってる」
 まるで準備が整うことを待っていたかのように、戦況に変化が訪れる。
『クラールヴィントのセンサーに反応。けど、この魔力反応って』驚愕の声を上げたシャマル――指揮を取る者として褒められない行為。だが、シャマルを始め、情報を解析していたロングアーチの者たち皆は、集まるデータに驚嘆を発していた。
 
 モニターに浮かぶ光点に変化が現れる。
 多数のガジェットが、アグスタとの距離を詰めるのだった。
「ヴィータとザフィーラの漏らしが来そうだな」
「Ⅰ型は数が多い。やむ終えまい」
 呆然と立ちすくむ/実戦経験の少ない4人に向けてイザークとディアッカは言った。
「わざわざ向こうから来てくれたんだ」「歓迎してやらないとな」
 
 瞬間。目の前の大地が光りだす。
 
「遠隔召喚きます」
 浮かぶ紋様――桔梗色に輝くミッド式の魔法陣。
「ほんとお早いことで」驚愕するエリオとキャロの傍ら、ディアッカの表情に凶暴な笑みが宿る。
 スバルの驚嘆。「召喚ってこんなこともできるの」
「優れた召喚士は転送魔法のエキスパートでもあるんです」
 ティアナの叱咤。「なんでもいいわ。迎撃いくわよ」仲間に向けて/息をのんでしまった己に向けて。鼓舞するように
 心に刻む。また証明すればいいのだと/自分の能力と勇気を証明して、いつだってやってきたんだと。
 イザーク=敢然と。「いくぞ、スバル」
 スバル=即応。「おう!」
 確実に前回の敵よりも強いと理解しながらも、笑顔を浮かべ、突撃を開始する。
 強い相手だからこそ心が踊る。
 どんな相手にもひるまず/恐れずブチ抜いてみせる。
 分隊長である高町なのはと同じ、突撃思考/一撃必殺。
「無茶しないでよね」そんな二人にティアナは釘を刺す。
 気持ちは同じでも実力差は明確――Bランク相当の前衛が突撃すれば、文字通り「当たって砕ける」結果が待っている――無論、そんなことは許されない。
「わかっている」「だいじょーぶ!」初撃をかわされながらも、惑うことなく即座に離脱。
 より前で敵を引きつけ、少しでも後ろの余裕を生み出すために。
 撃墜されず、戦い続けることを優先しながら、二人は敵の中を乱舞する。

649KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:32:40 ID:CBPuUKZA0
 
「ちょ、当たんねー」
「集中しなさいよ」
「……て、言われても」
 射撃/砲撃型の2人は挫けそうになる心を励まし勇気付け――何度も避けてみせる敵を目掛け、銃撃を継続。
 放つ/命中ゼロ。
 放つ/回避される。
 放つ/ようやく掠める。
「前よりも動きが段違い」
 レールウェイの時は屋内だったとはいえ、運動能力の向上が身をもって知らされる。
「迎撃」改造されたⅠ型をから放たれる12のミサイル。
「わかってるわよ」撃ち落とす。
 
 刹那。
「ティアさん」キャロの警告。
 振り返り、気づく。青い光/回り込んで己に狙いを向けるⅠ型数機。
 放たれた熱線は跳躍して回避。即座に撃ち返すもののⅠ型の防御を貫けない。
「落ち着けって」
「うるさいッ」
 脳裏を過ぎる、なのはの教え。
《ティアナみたいな精密射撃型はいちいち避けていたりしたら仕事ができないからね》
 事実だった。
《ほら、そうやって動いちゃうと後が続かない》
 回避し、思考もままならないままに撃った光弾は目標を貫けず、落ち着いて/正確な弾丸をセレクトして狙ったであろうディアッカの弾丸は敵を貫いて爆散させる。
 
 視野を広くするために足は止めていた。
 それでも、強くなった的に不安を感じ、冷静な思考が鈍り、いつのまにか狭くなっていた己の視界。
 狭い視野での棒立ち――優先して狙って欲しいと告げているようなものだ。
 判断速度と命中精度。どれもが、なのはの期待する域には達していない。
 
 個人としての戦果と同様、チームとしての戦果にも目立ったものはない。
 防衛ラインの突破――ゼロ。
 が、それだけだと己を責める。
 敵の撃破もままならず――それは、前衛であるスバルとイザークが、敵の撃破ではなく、自身が生き残ることに/時間を稼ぐことに重点を置いていることもあるのだが――有利な展開に状況をもたらすことができない己に憤る。
 
 焦燥がティアナの胸を焦がしだす。
 
「エリオ! 後ろでぼさっとするな。これ以上指揮官を狙わせてどうする」
「すいません」
「わかったら行動で示せ!」
 イザークのエリオへの叱責が、まるでティアナに向けて/視野が狭いという叱責のように耳へと届く。
『防衛ライン。もう少し持ちこたえていてね』
「はい」
『ヴィータ副隊長がすぐに戻ってくるから』
 シャマルとスバルのやり取りが、自然と「ティアナにこの防衛ラインを任せていられない」に頭の中で変換されてしまう。
 
 証明できない。このままでは。
 失敗に終わるのではないか――湧き上がる切迫感が思考を塗りつぶす。
 この後、慰められたところで。慰めの言葉の最後に「凡人だから」というフレーズが入るのではないか。
 勝手に口が意見を唱えていた。
 シャマルへの反論。「守ってばっかじゃ行き詰まります。ちゃんと全機落とします」――焦燥の爆発だった。
『ティアナ大丈夫? 無茶しないで』
「大丈夫です。毎日、朝晩練習してきてんですから」
 今の上官ともいえるシャマルに向かい、否定はさせないとばかりの剣幕で言い募りながら、ティアナは決断を下す。
「エリオ、センターに下がって。あたしとスバルのツートップで行く」
「は、はい」
 威圧され、後ろへ下がるエリオを見送ることなくティアナは相棒へと作戦を告げた。
「スバル、クロスシフトA行くわよ」
「おう!」元気を取り戻したティアナに喜び勇み、スバルは即座に了承。
 熱線にひるむことなくウイングロードを展開/ガジェットの間を駆け抜けた。

650KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:33:35 ID:CBPuUKZA0
 
「落ち着け。今の貴様は指揮官だぞ。エリオを後ろに下げて遊ばせるなんてどういうつもりだ! 貴様の頭は飾りか!」
「うっさい。あたしという人間が他に術を知らないのよ!」
「イザークが言う言葉じゃねーけど、冷静になれよ。普通じゃないぜ」
「それでも……いける!」助言を跳ね除け、カートリッジを連続で叩き込む。
 無茶は百も承知。
 それでも魔力量を強制的に跳ね上げる。
 ――証明するんだ。特別な才能やすごい魔力がなくたって一流の隊長達の部隊でたって、どんな危険な戦いだって、あたしは、ランスターの弾丸はちゃんと敵を撃ち抜けるんだって。
 暗示のように己に向けて言葉を刻み込む。
 視野の広さも、冷静な判断力もそこには存在しない。
 なのはの教えではなく、原点――自分とスバルと敵に立ち向かうことをティアナは選択するのだった。
『ティアナ、4発ロードなんて無茶だよ。それじゃ、ティアナもクロスミラージュも』
 シャマルの叫び――聞き流す。
「もう、勝手にしろ」
 イザークの嘆息――聞き流す。
 16発の橙色の弾丸が周囲に浮かべ/統制から漏れた魔力を放電のように周囲に飛び散らせながら、自身の証明のために
「クロスファイアアアアアア」
 チームの為ではなく、己自身の為にティアナは魔力を解き放つ。
「シューーート」
 
 すべての敵を撃ち抜かんと。
 すべての決着を自分だけで決めようと。
 ティアナはランスターの弾丸を放ち続けるのだった。
 
 己の領分を超えた射撃を繰り返したのだった。
 
 
 故に、それは偶然ではなく必然。
 
 
 ガジェットに避けられた一発の光弾。
 その進む先にあるのは、無防備な仲間/スバルの背中。
 
 軌跡を逸らそうと――制御を外れた光弾がティアナの意思に従うことはなく。
 呆然と、ティアナは否定したい/否定できない「味方の撃墜」という未来をただ見つめることしかできなくて。
 
 が、視線の先/表情を引きつらせるスバルとランスターの弾丸の間に赤い影が滑り込む。
 
「ヴィータ副隊長!」
 息を荒げながらも、駆けつけ、瞬時に弾丸を叩き落とした紅の守護騎士が一人――ヴィータがそこにいた。
「ティアナ、この馬鹿! 無茶やった上に味方を撃ってどうすんだ」怒号。
 己の引き起こした未来に虚脱し、棒立ちになったままのティアナに向けて。
 己の行いがどれだけの結果を――それも最悪なモノだったかを思い知らされたとはいえ、ヴィータは叫ばずにはいられない。上官として、叱らずにはいられない。
 
 ティアナが本来の優先すべき結果は、防衛ラインの維持。
 ガジェットを全て落とせなくとも、ラインの後ろに抜かれなければそれでいいのだから。
 
「あの、ヴィータ副隊長。今のも、その……コンビネーションのうちで」
「ふざけろ、タコ。直撃コースだよ。今のは」
「違うんです。今のはあたしが避けて」
「うるさい馬鹿ども」
 必死に弁解を行おうとするスバルをヴィータは一睨みで黙らせる。
 六課でも/それ以前でも接してきたからこそ、スバルの純粋さ/優しさも知っている。
 だからこそ、その行為を/ティアナを庇う行為をそのまま許すことなどできはしない。
「もういい。後はあたしがやる。二人まとめてすっこんでろ」
 だが、二人に説教を行うのは今ではない/ヴィータではない。
 結果的にティアナの射撃のおかげで周囲に展開するガジェットも減ったとはいえ、数機は健在――未だ戦闘中だ。
 戦闘で使い物にならないと下し、頭を冷やさせる意味でも、ヴィータは二人を戦線から切り捨てた。

651KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:34:16 ID:CBPuUKZA0

 戦闘は継続する。
 ヴィータが参加したことで前衛から中衛にシフトしたエリオがディアッカの脇で立ち止まる。
「僕のせいですよね。やっぱり」
「なにが?」
「僕がちゃんと前で抑えていられたら。ティアナさんがガジェットを気にしないくらいにできていたら……」
 イザークの一喝が心に残っていたのか、答えを欲するようにディアッカはエリオに見つめられたのだった。
 実戦2度目の子どもに的確な状況判断を行えるはずもなく――むしろその役割はティアナだったのだが、イザークは戦場にでた相手には、年齢性別問わずに不満があればぶちまける。
 経験が少ないといえばティアナの指揮官役もそうそうないことを思い出しながら、
「エリオ、戦いに『たら』とか『れば』はねーよ。もし思ったんなら、次に挽回すりゃいいんじゃね? ……五体満足で今も生きてるんだからよ」諭す。
「はい……」
「同い年のキャロも心配かもしれないけど、キャロはフルバック。基本は俺とティアナの後ろ。そうそう狙われねーし、狙わせねーよ。だから、次は……後ろを信じて前に突撃だ」元気づけるようにエリオの肩を軽く叩く。そして、
「それに、女は男が守るってもんだろ? ああ、子どもも対象にすべきか?」意地悪く見下ろしてみせた。
 
「ひとりでも大丈夫です」
「無茶はするなよー」
 むっとしながらも、己の役割を発揮しようと前へと走り出したエリオを見送りながら、ディアッカは戦場の先。今は自分よりはるか遠く/最前線でデュエルを振るうイザークの気持ちを推し量る――相変わらずの不器用さ。
 この後の戦闘報告で、「勝手にしろ」という言葉を拡大させて責任の一部を取ろうと仲間思いのあいつはするだろうと推察。
 階級がティアナよりも一つ上である以上、それらしい意見になるのかもしれないが、わかりづらすぎる親友の不器用さがどうにかならないかと――ため息が漏れだした。
 真っ直ぐだからこその不器用さ。それは、スターズ分隊の3人全員が持つものだ。
 だが、外から3人を眺めていることも/3本の直線を結びつけることもディアッカにとっては面白く、刺激的な日々を過ごさせてくれることもまた事実。
「なるようになれってね」笑顔を浮かべながら砲撃をぶっ放す。
 首の骨を鳴らしながら、使い終わったカートリッジを廃莢。装填。
 
 今持つティアナの不安も、3人がまたぶつかり合えば、解決する。
 どこかそんな想いを胸に、ディアッカは終幕が近づく戦場を眺めているのだった。

652KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/06/21(木) 02:35:27 ID:CBPuUKZA0
ご静読ありがとうございました。

最近イザークの台詞書いてると、とある金ピカの台詞にしか聞こえないというKIKIですorz
今日の話は追加エピいれようかとも悩んだんですが、時間かかりそうなのでボツにして投下。
ストック作らないのはデフォですが、次の話は珍しく構想なんとなくできたりしています。
その結果が満足してもらえるかはわかりませんが、頑張ってみます。
ではでは。今回みたいに2、3週間後になるのかはるかそれ以上かはわかりませんがまたいずれ。

追記――望氏、完結お疲れ様でした(遅ッ!)

653名無しの魔導師:2012/06/23(土) 08:08:39 ID:T4gcmrLgC
更新お疲れ様です。

654名無しの魔導師:2012/06/23(土) 17:10:41 ID:rw0BD5tI0
>653 ありがとうございます。

あげ
名前消すの忘れてたorz

655名無しの魔導師:2012/06/26(火) 13:24:39 ID:ztbFqT4sO
出遅れたか……!
だがあえて、乙と言わせてもらおう!

656KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/07/03(火) 04:00:21 ID:d/GgKmSI0
>>655
サンクス ノシ

昔投稿した話の編集してるので次の話書くの休憩中。
職人様カムバアアアアアアアアアアック!

657名無しだった魔導師:2012/07/23(月) 03:45:05 ID:RW.bLOSYO
ククク、まさかこんな時間に投下する奴がいるとは思うまいて。

一ヶ月とちょっとぶりに、ゲリラ的に投下しちゃいますね。

658鮮烈に魅せられし者:2012/07/23(月) 03:46:48 ID:RW.bLOSYO
シンは、強くなった。
僕なんかよりもずっと確かな、本当の強さを手に入れた。それが何よりも嬉しくて、なんとなく悔しい。

「そう……“逢えた”んだね?」
「……ああ、夕方にSEEDを使った時にな。──結局、アンタの予測通りだった」

あのメサイア攻防戦以降、勝者として、敗者として、被害者として、加害者としてさまざまな角度から戦後を眺めたシンは、正にキラ・ヤマトと同等で対極な存在となってくれたんだ。

「誰、だったの?」
「……、……」

だからこそ、背中を預けられる。一緒に歩いていける。
そして今、僕らは同じ道を往く権利を得た。
運命に歯向かう、遠く険しい道を。


『第十三話 戦闘準備』


「さぁ! セインさん特製超究極的モーニングセットの調理開始だぁ!! 御飯作ると元気になるねっ」
「朝から妙に上機嫌ですね……どうしたんですか?」
「いやー、これだけ上等で新鮮な食材があるとね、シェフとしての血が騒ぐものなのだよう」
「……そうですか」

得意気に人差し指を立て、純白のエプロンを翻し、満面の笑みを浮かべるは水色ショートヘアの女性。
昨夜の温泉騒動の責任をとる形で急遽、昨夜の晩ごはん及び今日の朝ごはん制作担当者となった、聖王教会所属のシスター・セインさんだ。
僕はそんな彼女にちょっと引き気味。なんでそんなテンション高いんですか。まだ朝の5時なのに。
そう、僕らは今、アルピーノ家のキッチンにいる。
聖王教会での調理係は当番制で、セインさんとはいつもコンビを組んでいるの。だから、今日この時も一緒に料理をするのが当然というわけで此処に来たんだだけど……
いきなりついていけない……

「よっこいしょ、と……ふぃ〜。どうだいキラっち、この食材は初めて見るだろ?」
「……、……え?」

…………なんだろ、アレ。手足と顔がある大根……?
セインさんが重そうに籠から取りだし、まな板の上に置いた野菜らしきナニか。ミッドチルダで収穫されるお馴染みの野菜達とは一線を画すオーラを放つアレは、本当に食物なのだろうか。
あれが上機嫌の原因なの?

「これはマンドレイク! レア物なんだよ〜。やっぱり現地調達はいいね。で、こっちはユニコーンの腿肉、この粉末はリントヴルムドラゴンの爪だよ」
「……はぁ、そうですか」

流石は異世界、いや魔法世界というべきなのだろうか。あんなのどうやって料理するんだ……ってか、マンドレイクって確か激毒物だった気が……世界が違うから別物、なのか?
セインさんの料理の腕は本物だから、そんな彼女が朝日よりも眩しい得意顔で作るご飯はきっと素晴らしいモノに違いないんだろうけどさ。
ちょっと不安だよね。

「じゃあキラっちはいつも通りのお願い。量は多めでね。あ、それと……たしか6時半に赤組のミーティングだよね。時間に近くなったら上がっていいからー」
「はい、了解です」

まぁ、取り合えず作業に取り掛かろう。お気に入りのエプロンとバンダナを装着して、包丁を握る。

659鮮烈に魅せられし者:2012/07/23(月) 03:48:34 ID:RW.bLOSYO
時間までに仕上げないとね。
時間、すなわち赤組のミーティング開始時刻までに。
それは、本日の一大イベントに関わる大事なことだから。

(今日は一段と気合いを入れないと)

訓練合宿二日目恒例イベント、大人も子供もみんな混ざっての朝から晩まで三連続陸戦試合。僕とシンが初めて経験する大規模チームバトル。
だから胃に優しく、それでいてカロリーが高い物を。

(みんなに振る舞うんだ。全力で、おいしくするんだ)

さて、昨夜の発表の結果で、僕は赤組所属という事になった。
この試合の仕様は、赤組と青組7人ずつに分かれたライフポイント制のフィールドマッチ。ライフは各々のポジション毎に設定されていて、残りポイント100未満で『活動不能』、0で『撃墜』扱いになるらしい。
細かい事項としては、

1:転送魔法禁止(召喚は可)
2:広域結界魔法禁止
3:通信妨害・盗聴禁止
4:その他自由

と規定されていて、ワリと大雑把なルールようだったね。狙いは“それなりに実戦に近い試合”といったところか。
それで、肝心の第一回戦でのチーム分けとポジションだけど……

  赤組     青組
FA:アインハルト ヴィヴィオ
  ノーヴェ   スバル
GW:フェイト   エリオ
  キラ     リオ
CG:ティアナ   なのは
WB:コロナ    シン
FB:キャロ    ルーテシア

Front-Attacker
    HP:3000 役割:前衛
Guard-Wing
    HP:2800 役割:遊撃
Center-Guard
    HP:2500 役割:司令
Wing-Back
    HP:2500 役割:後衛
Full-Back
    HP:2200 役割:支援

こんな感じになった。
うん、大方予想通りではあったんだけど、なのはが敵側なんだよね。これは厄介な事になりそう……
それに、シンもシンで不気味で心配だ。
マルチレンジファイターのデスティニーを装備するといえどもインファイトを好むシンが、WB──後衛──に入るなんて想定外だったよ。
一体何故……いや、これは“何かある”と覚悟してかからないと……
それに、あの懸念事項についても検討しとかないと。考えることはいっぱいだ。


「おはよう、みんな」
「あ、キラ。おはよう」
「うっす」
「おはようございますっキラさん」

そんなこんなで6時15分、赤組集合場所である宿泊ロッジ正面の丘へ。輝く大陽と霞む双月の下で、みんなに笑顔で挨拶……っと、まだ揃ってないのか。

「アインハルトちゃんと、コロナちゃんは?」

年少組がいないな。

「コロナは新しいデバイスの試運転で裏山に行ったから……でもすぐ戻ってくると思う。だけど……」
「アインハルトはまだ見てないわね。どうしたんだろう」
「アイツ、あー見えて緊張しやすそうな性質っぽいからなー。もしかしたらソレが祟って寝坊助かもしれねーなぁ」
「それかジョギング中って線か……僕、ちょっと中を見てきますよ」
「あ、宜しくお願いします。私達は外の方を」

660鮮烈に魅せられし者:2012/07/23(月) 03:50:09 ID:RW.bLOSYO

フェイトとティアナとノーヴェさんとキャロちゃんとで緊急会議。緊急といっても和やかなモノだけどね。
兎に角、アインハルトちゃんを探そうか。

「……ッ」

額あたりに、微かな疼きのような感触を得る。ムウさんやラウと同じ、空間認識能力の発動だ。
脳意識領域を意図的に拡大させ、その力でヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんにだけ感じる『何か』の尾を探して、掴む。
──建物、部屋の中。二人一緒にいて、ついでもう一人もいる、か。
これはノーヴェさんの寝坊説が濃厚かな?

「……それにしても」

……それにしても、何故あの二人だけに特別な『モノ』を感じるのだろうか。
いや、正確には三人──教会で眠っているイクスちゃんを含めて──なんだけど。
何故なんだろう。他の人には特別なのは感じないのに。
これも、僕の体内に在るSEEDの仕業なのかな……


◇◇◇


昨夜。
温泉から上がって、シンと共に宿泊ロッジ正面の丘に来て。彼は告白した。
真実に触れたと。
あの日、アインハルトちゃんと出逢った雨の日に、僕が知った真実の一端に。
それでも気丈に振る舞えているのは、やはり彼の強さなのだろう。
ただ、僕らが温泉に入っている時に独り隠れて泣いていたみたい。だからシンの瞳は何時にも増して真っ赤だ。
やっぱり、コレばかりはね……

「誰、だったの?」
「……、……」

それ程までに、事は大きい。
心が麻痺している僕さえ三日も気を失った原因たる情報に、彼もまた溺れそうだったんだ。

「……ステラと、レイと、……マユ……──みんな、穏やかな顔をしててさ、俺……俺は……」
「……そう」

僕らの中には、自分のモノだけでなく、幾つもの魂が存在している。
それはきっとC.E.にかけられた呪いだ。

「悲しいね、シン……」
「…………っ」

全てはエヴィデンス01の掌の上で踊らされた、破滅へと向かう終曲。
ジョージ・グレンが地球に持ち帰った羽鯨の化石によって人類は暴走し、狂喜の果てに鯨の細胞を埋め込まれて産まれた僕ら──SEEDを持つ者──が狂気の時代を戦い生き抜いて。
そんな世界が今やエヴィデンスの苗床として、次元世界から消え去ろうとしている現状。
その実感をシンは得たんだ。
今日の夕方に、SEEDを使った事をきっかけに。

(こんな事をわざわざ再認識させる……悪趣味な通過儀礼だよ、本当に)

僕らの体内に注入されたエヴィデンスの細胞──SEED──はその特性から、『保有者と近しい存在であり、リンカーコア所持者であった死者の存在を吸収する』という機能もある。
エヴィデンスの持つ『あらゆるモノを魔力に変換し己の糧とする能力』、その名残なのだろう。
つまり、
僕の中には“ラクス”と“フレイ”と“ラウ”がいて、
シンの中には“ステラ”と“レイ”と“マユ”がいる。
だから僕らは涙を流した。

661鮮烈に魅せられし者:2012/07/23(月) 03:52:47 ID:RW.bLOSYO
確かに、また逢えて言葉を交わせるのは嬉しい。だけどそれ以上に、
僕らから死別すら奪われ、彼女らが未だこの世に縛られている現状が、どうしようもなく悲しかったから。
戦争だから仕方無い、生命はいつか死ぬ。そんな言葉で片付けられるほど命は軽くない。
そんな命が、僕らの戦争で死んだ命が、ココに在る。
悲しい現実。

(あの人は、これも知っていたのかな)

何故、昔の学者はこんな巫山戯たモノにSEED──種子──と名付けたのか、今となってはわからない。
もしかしたら一時期学会で発表され議論されたSEED理論──

Superior
Evolutionary
Element
Destined-factor
優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子

──に当て嵌めただけなのかもしれない。
だけど、こんなモノが花咲く未来なんて、こんなモノで進化する人類なんて、僕は認めない。
絶対に。
だから僕は……

「だからアンタは、全部壊そうとしてるんだろ。コレさえも利用して」
「……うん。悪いとは思うんだけどね、ラクス達には協力してもらうよ」

こんな運命を破壊してみせる。

「目標の為なら死者も利用する……やっぱアンタは異常だよ、キラさん」
「今さらだよ、シン……、……一緒に来てくれるかい?」
「当然」

これからの全ては実験であり、ウォーミングアップだ。
だから、もう退路はない。
僕らは全力で生きて闘って研鑽して、目標を達して世界に対し贖罪しなければならない。
あんな世界にも愛着はあるし、何より大切な人達がいるのだから。
前に進まなくちゃいけない。
きっと僕らはその為に、此処に来たんだ。

そう誓った、昨夜の想い。


◇◇◇


謎は謎のまま、ただ疑問だけが積み重なって、答えはちっとも見当たらない。
それをそのままブッ壊そうというのだから、僕も随分と大雑把になったものだ。彼の影響かな?
昔ならずっと悩んでいただろうに。

「部屋の前についたよ」

注)周りに誰もいない…………って、そうじゃなくて。
宿泊ロッジの、子供達の寝室前についた。ここを使っているのはヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃん、コロナちゃん、リオちゃん、ルーテシアちゃんにキャロちゃんだ。
その他には男性用と女性用と寝室は計三つあるんだけど、男性用寝室の寂しさといったら……
まぁ、とりあえず中にいるかどうか確認しないと。時間も押してるから、少し急がないといけないな。

「……」

じゃあ早速とばかりに扉を開こうとドアノブに手をかけて、
そしたら、

──いけませんわキラ。女の子の部屋に無断で入っては。
──ノックぐらいしなさいよ。アンタって本当デリカシーがないんだから。

ラクスとフレイに怒られてしまった。うん、ごめんね、気がまわらなくて。
確かに彼女達は年頃の少女なんだから、こういう時は気をつけないと。
この頭に響く声は、僕の中に在る彼女達の意識そのものだ。

662鮮烈に魅せられし者:2012/07/23(月) 03:54:21 ID:RW.bLOSYO
人は慣れるもので、この事実を知ってから最初の内は夢の中でしか会話できなかったけど、最近は何時どんな時でも会話できるようになった。
それ以来はこうして助けてもらう事も結構あったりする。
……よし、ノックを。

「アインハルトちゃん、ヴィヴィオちゃん? いる?」
「……」
「……」

返事がない。でも気配を感じるのはこの部屋の中だから……
しょうがない、強硬突破だ。

「入るよ、いいね?」

いいよね? 入っちゃうよ?

──ふむ、仕方ないのではないかね、こういう時は?

貴方がそういうなら、そういう事にしておきます。
よし、じゃあ、お邪魔しまーす……
慎重に扉を開けて、いざ禁断の女子領域へ。

「……うん、こうだろうと思ってはいたけどさ」

寝ていらっしゃいました。
気持ち良さそうに、スヤスヤと。ヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんとリオちゃんが。
なんとも微笑ましい光景だ。写真に収めておきたい程に可愛らしい。
大きなベッドの上で。リオちゃんは豪快にお腹を露出して、ヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんはお互いに寄り添うように。
まぁ仕方ないのかな。
この三人は昨日で特にはしゃいでいたから、疲れていたのだろう。
それに、彼女達の足下に散らばっている沢山の書物。これから推察するに、少し夜更かししてしまった可能性もある。
それか緊張で眠れなかったか、かな。
子供らしいというか、なんというか。
……ん、この本は……
古代ベルカ時代のエッセイ本かな?
まだミッド語やベルカ語は勉強中だから自信はないけど、多分そうだろう。この二人の出生絡みの事を調べていたのか。

(古代ベルカ、ね)

僕も聖王教会に関わる者として、古代ベルカについては勉強している。だから、この二人のご先祖様の事も大体は知っている。詳細は諸説あるから一概には言えないけど。
だから今こうして二人が仲良く一緒にいるのには感慨深いものを感じるな。

(そういえばイクスちゃんも古代ベルカの王様だし、書物にはエヴィデンスの事が書いてあったし、……ひょっとしてベルカって羽クジラと深い関係があるのか?)

うんまぁ、そんな事を考えるのは後にしよう。
最優先事項として、この三人を起こさなきゃ。

「ほら、朝だよっ。起きて!」

一緒に遅刻して怒られるのはイヤだからねぇ。ちょっとかわいそうだけど、強引にやらしてもらうからね。




「ヴィヴィオ、そこの醤油とってくれる?」
「はいフェイトママ。なのはママも?」
「うん。ありがとヴィヴィオ」

「醤油か……目玉焼きには胡椒だな、俺は」
「私はウスターソースね」
「そういやこの前にアイスを載けってみたんだけど、なかなかイケたよー」
「え……」

「ニンジン、いらないよ」
「駄目だよリオ、好き嫌いしちゃ」
「野菜がそんなに好きかーっ!」
「えぇ!?」

「ほれアインハルト、遠慮してないでもっと食っとけ」
「あ、ありがとうございます……」

663鮮烈に魅せられし者:2012/07/23(月) 03:55:53 ID:RW.bLOSYO
「あの、ノーヴェさんは食べ過ぎでは……?」
「んー、何時もこんな量だった気がするけど、ノーヴェは」
「そうなのルーちゃん?」

7時15分、朝食が始まった。
ミーティングは滞りなく開始され、滞りなく終了。リビングに集まって、みんなで「いただきます」を合唱して。
うん、実に平和で賑やかな食事風景だ。懐かしいな、孤児院で過ごした時間を思い出す。
あの時も確か、子供達がこんな風に……
あの孤児院は第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦の後、功罪相殺の末に住民登録を抹消されたアーク・エンジェル‐クルーとエターナル‐クルーの為に、カガリが用意してくれた院だったっけ。
あれからもう5年。僕は異世界にいるよ。

「へぇ……ユニコーンってこんな味なんだ……」

それでもって伝説の幻獸の肉(薫製)を食べてるよ。そう言ったらアスラン達は驚くかな? 僕は自分に驚いてるよ。
ちなみに、ユニコーンはよく分かんないけど、なんか神聖っぽい味がした。

「ねぇシン、その野菜サラダにかかってる赤い粉末、なんだか知ってる?」
「いや知らないな……少し辛いから唐辛子の類いか?」
「リントヴルムドラゴンの爪だって」
「……マジ?」
「マジマジ」
「流石は異世界」
「流石だよね」

そんな不思議な食卓で、シンと軽口をたたきながら、さりげなく彼を観察する。
やっぱり僕は、この右隣に座る男のポジションが気になってどうしようもない。
横目で見ても特に気負った雰囲気を出していないのが、更に僕の疑念を掻き立てる。

(だって、シンが後衛なんだよ?)

オーソドックスな射砲撃魔法しか使えないのに、どうやってこなすつもりなんだ?
そもそも、僕達は根本的に後衛に向いてないってのに……

そう、検討中の懸念事項。

それは僕達自身の特性についてだ。
たしかに僕、キラ・ヤマトとシン・アスカには他の人にはないモノを持っている。
長年の従軍経験、
優れたコーディネイターとしての身体、
ハイパーデュートリオン・VPSシステム登載型デバイス、
新人類の能力、
SEED因子、
そしてシステムG.U.N.D.A.M.。
あらゆるユニークスキルを備えた、一見反則級とも取れる僕達にも、一つの、しかし最大の欠点がある。
それは、

圧倒的な魔力不足。

これは仕方ない事だ。基本的に魔力の源たるリンカーコアは、筋肉と同じように幼少の頃から鍛えれば鍛えた分だけ成長する物だ。
大人になってから魔法を使い始めた僕らの魔力が少ないのも当然のこと。
それが仇になった。
僕らの保有魔力はたったCランク相当の量しかなくて。
そして本来使用する魔法のランクはB〜Aが中心なわけで。
だから、実戦の際には、Cランク程度まで落とした省エネモードでしか魔法を使えない事になる。
十全の体勢で戦いに望めないんだ。
いかにハイパーデュートリオンによる自動魔力回復があるといっても、もともとの容量が少ないんじゃ意味がないからね。
つまり、後衛が使うような大魔法はおいそれと使えないんだよ。

(これが、僕達が根本的に後衛に向いてない理由。シンも承知している筈なのに)

664鮮烈に魅せられし者:2012/07/23(月) 03:57:09 ID:RW.bLOSYO

もちろん、策はある。
SEEDを解放して総魔力量を増やしたり、状況毎に魔力リソースを振り分けたりすれば、短時間だけなら本来のパワーの魔法を使う事が可能だ。
他には多数のデバイスを同時使用したりとか。
根本的解決ではない、その場しのぎの策だけどね。
この懸念事項をどうするかが、僕達の今後に大きく関わっていく事になる。

(やっぱり、シンは警戒しとかないと。絶対、『何か』がある)

僕とシンが、お互い実験の為に全力でと誓ったこの試合。
一波乱ありそうな予感が、僕の背を汗という形で撫でていった。

「キラさん、食欲ないんですか?」
「あ、と、ごめん。大丈夫。食べるよ」

試合開始まで、あと一時間。






──────続く

665名無しだった魔導師:2012/07/23(月) 04:01:15 ID:RW.bLOSYO
最近は、
コーディネイターみたいな学習能力や、
魔導師みたいな同時並列思考能力とかが欲しいと割と真剣に考えていたりします。
つまり何が言いたいかと言うと、
「時間が足りない……」

ですねー。いやマジで投下が送れまくってすいません

666とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:33:44 ID:ejePPM6k0
私も少しお借りします。

667とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:34:43 ID:ejePPM6k0

 鬱蒼と木々が茂る森の中を一匹のフェレット―ユーノが駆ける。何故、彼はこの小さな身体で懸命に疾駆しているのだろうか?それは、恐らく自身の失態により巻き込んでしまった二人の少年少女の安否を想っての事だろう。もしくは、自身の発掘した遺失物を自らの手で処理したいからだろうか?だが、彼の心の中にある真相は彼しか知り得ない。

 桜台の森林地帯に入ってから、大分時間が経過したがジュエルシードやなのは達の気配は一向に表われない。細身の身体で駆け続けるには、高町家から些か距離が離れ過ぎていただろう。しかし、今のユーノ・スクライアには魔法を行使し続ける程、リンカーコアの機能が回復していない。それにジュエルシードの場所を特定する為に、探索魔法の術式を展開した事も影響しているので自身の身体で駆ける他無い。そんな疲労困憊な状態ながらも、森林を疾駆するユーノの神経に魔力反応が感知された。



 ――なのは達二人やジュエルシード異相体の魔力反応とも異なる魔力反応だ。



 ――その気配は上空から此方に接近―いや、此方に気付かずに通り過ぎるだろう。


 
 ユーノは首を上空に向け、その気配の出所を見ようとした。ユーノが黄昏時に染まった紅の空を見上げた先に二人の魔導師が空を翔けていた。一人は黒衣のバリアジャケットと金色の髪を二対のツインテールに纏めた髪が特徴の少女、もう一人が、シンの機械的な造りをした防護服に形状が酷似している金髪の少年、この二人がユーノの上空を通り過ぎようとしていた。

 ユーノは近づいて来る二人の魔導師、その挙動を観察した。恐らく二人は洗練された魔法技術を取得している管理世界の人間なのだと、ユーノは結論付けた。何故自分以外の人間がこんな辺境の管理外世界に、と呟いたユーノの脳裏に一つの解答が導き出された。

 「……まさかっ!?なのは!!シン!!」

 ユーノは真相を確かめようと、この先に居るであろうなのは達の元へとその脚を速めた。


 


       魔導戦史リリカルSEED 1st〈Magical History Lylical SEED the first 〉「PHASE04」





 黒衣の少女達が去っていった空を見上げたまま、なのはは呆然としていた。既に地上への着陸は済んでおり、気を失ってしまったシンは両腕をなのはの背中に回したまま身体を預けている状態が現在の状況というところだ。なのは自身もシンの背中に両腕を回し、黒衣の少女からの射撃魔法が直撃したシンの背中を擦る。すると、不思議な事に防護服は破れているのだが、特に目立った外傷が出来ている様には感じられない。何度も何度もシンの背中を擦ってみるが、見事なまでに触り心地の良い、きめ細やかな柔肌の感触しか伝わってこない。


 ――そう、あの黒衣の少女は手加減してくれたのだ。


 この森林一帯を去る直前に黒衣の少女が口にした言葉―手加減―その言葉通りに自分達に目立った外傷を与えずに彼女達は去って行ったのだ。最もシンに至っては金髪の少年からかなり強力な一撃を腹部に与えられていたので、シンにしてみれば踏んだり蹴ったりである。

668とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:35:26 ID:ejePPM6k0
なのははつい先日、魔法という未知の力に遭遇した。ジュエルシードという高魔力によって変貌した化け物を自身が撃ち出した魔法によって撃退したのだ。実際にはレイジングハートという魔導端末による恩恵が強いのだが、心の底では自分が強くなれたのでは無いかと、ほんの少し【思い違い】をしていた。

 要は、有頂天になっていたのだ。ジュエルシードの魔力反応を感知した時に気持ちが急いていたのは、それの表れでもあったのだ。だが、先程の戦闘によって自分が強くなったという【思い違い】は打ち砕かれた。

 黒衣の少女、金髪の少年―この二人との魔法戦闘において、魔法技術を行使して戦闘に応用する手法、実力の違いをなのは達は見せ付けられた。更に完膚無きまで叩きのめされてから、なのはは純粋にこう思った。


 ――凄い、と。


 そして、なのはは自分が本気で魔力の扱い方を覚えなければレイジングハートの【乗り手】になることは出来ないだろう、と結論付ける事も出来た。 

 「なのは!!シン!!大丈夫!?」

 ユーノの声がなのはの耳に入った。先程念話によってジュエルシードの位置を教えて貰って以来だ。しかし、そうは言っても場所を教えて貰ってから精々30分程度しか経っていない。にも関わらず、ユーノは魔法を行使せずその小さな身体で、家から2km程離れたこの桜台の丘までやって来たのだろう。

 そう想うと、なのはは途端に申し訳ない気持ちに包まれた。ジュエルシードの収集に協力する事を自分から言い出したのに、この体たらくである。しかも、技量が自身より優れているとは言え、同年代の少年少女達に奪われたのだ。彼に何と謝罪を言って言いか?その解が見出せずに、なのはは気落ちした表情で顔を曇らせた。

 「ユーノ君、私は大丈夫だよ。特に傷付いてる訳じゃないから」

 なのはの言葉にユーノは彼女の様子を観察する、特に身体に異常が在る様には見受けられないので一安心した。防護服も所々で煤けているが、デバイスが破損している訳でも無いので大丈夫だろう。しかし、問題なのは…

 「…シンは大丈夫なの?」

 そう、問題なのはシンである。防護服は背中部分が破けており、気を失ってる様にユーノには見受けられた。

 「…うん、大丈夫だよ。防護服は破けてるけど身体に傷付いて無いし、呼吸もちゃんとしてるよ」

 ほら、と言いつつなのははシンの背中に回した腕を離し、シンの防護服が破けた背中部分をユーノに見せる。なのはの言うとおり、シンにも特に目立った外傷は見当たらないのでユーノはホッとした。しかし、傷付いている訳では無いのに何故シンが気を失ったのかと、ユーノは疑問が浮かんだ。

 「じゃあ、シンは如何して気絶しているんだろう?なのはは何か分からない?」

 ユーノの疑問に対して、どう答えて良いのかなのはは分からなかった為、シンが意識を手放す前に行った最後の行動、「簡易射撃魔法を使ったら気絶した」となのはは解答した。だが、その程度で気絶するものなのか、となのはは言ってから考え付いた。昨日の時点では、シンは簡易射撃魔法で異相体に応戦していた為、急に気絶するのはどう考えてもおかしいのである。

669とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:38:11 ID:ejePPM6k0
 
 なのはやユーノが解決しない疑問に頭を悩ませた、そしてその疑問に解答したのは、シンのデバイスであるデスティニ―であった。

 『――なのはお嬢様、ユーノさん、マスターが気絶した原因は魔力使用過多によるブラックアウトが要因です――』

 【ブラックアウト;Black Out】という単語に目を丸くするなのは、疑問が晴れたのか1人頷き納得するユーノ、反応はそれぞれだった。

 【ブラックアウト;Black Out】とは、魔力使用過多によって対象者自身の魔力が枯渇、もしくは純粋な魔力ダメージが原因で自身に内包される魔力総量が急速に枯渇する事によって引き起こされる意識喪失の症状を表す言葉である。単に魔力を使い過ぎた事によってその症状が引き起こされる程度ならば問題は無いのだが、魔力過負荷を瞬間的に掛けた場合などには魔力だけではなく肉体にも損傷が及ぶ場合があり、この損傷を【ブラックアウトダメージ;Black Out Damage】と呼称している。

 先程の黒衣の少女と金髪の少年両名との魔法戦闘の際に、シンは金髪の少年から魔力が伴った蹴撃を腹部に受けた。金髪の少年によって魔力量はかなり削がれてしまったのだ。更に黒衣の少女から発射された射撃魔法をなのはから庇う為に無意識ながらも強化魔法を行使した。魔力の分配も曖昧な上、出鱈目に強化魔法を構成したのだ。そして極め付けには黒衣の少女達に対して、反撃の射撃魔法を放った。

 以上の経緯から、魔力ダメージによる急激な魔力減少に加えて、構成が滅茶苦茶な強化魔法使用による魔力使用過多によって、シンがブラックアウト現象に陥ったのではないかとデスティニ―は推測したのだ。

 魔法技術に触れて二日しか経っていないのに、無茶苦茶な魔力運用を行うシンにユーノは内心溜息を吐いた。此れでは、昼間の授業時間中に自分の事を「無理が過ぎる」と自分の事を評したシンに対して異を唱えなければいけない。


 ――つまり、無理が過ぎるのは御互い様では無いのかと。


 なのはが傷つく事に対して我慢が出来なかったのだろうか、とユーノは予測を立てたが当の本人が気絶していては事実を確認出来ようも無い。どちらにせよ金髪の魔導師達は大分手加減をしてくれたのは、なのはの様子を見れば明らかである。シンが予想外の損傷を受けた事は、言ってしまえば自業自得だ。だが、彼は純粋な善意自分の事を助けてくれている、これほどありがたい事は無いだろう。

670とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:38:41 ID:ejePPM6k0
 ならば、リンカーコアが正常に機能を取り戻すまで自分に出来ることは、シンに対して揚げ足を取るよりも、魔法技術における魔力運用の基礎をレクチャーする事になるだろう。序でに、インテリジェントデバイスとして機能したばかりのデスティニーやシンと同じ状況のなのはも一緒に教えた方が、異相対との戦闘が発生しても二人が危機に陥る確立は低下するだろう。

 自分の思慮の至らなさや、二人を巻き込んでしまったことに対する贖罪は、今はその様にしていく事でしか返せるものが無い。既に発生してしまったトラブルなど、取り返しようが無いのだから。なのは達が魔力運用を学びたいと言い出す事が前提になるのだが、ユーノは自分が今出来得るこの二人への貢献に対して、このような結論に辿り着いた。

 「なのは、取り敢えず僕が回復魔法を使用出来るようになるまで、暫くはここで待機しよう。後の事はそれからだね」

 ユーノは現在、魔力の消耗を軽減させる為に敢えて変身魔法を使ってフェレットに擬態している。元々スクライア一族はこの様に変身魔法で動物に擬態する事によって、発掘が困難な狭い場所にも潜り込んでいけるのである。更にこの形態ならば、消費した魔力の回復も早いのも長所である。

 地球の魔力素がユーノの体内にあるリンカーコアとの適合不良を起こしている為、魔力の回復値も心許無い。だが、僅かばかりしか魔力量が回復出来なくても、このフェレットの姿に擬態する事で平常時に自らが使用する魔法を行使出来るのだ。封時結界や探索魔法を滞り無く行使出来るのも、この変身魔法が使えるからこその恩恵なのである。但し、魔力が多少程度回復した矢先に、封時結界や広域探索魔法等の高等魔法を行使するので、中々ユーノの安定基準値まで魔力量が回復して来ないのが現状でもある。

 「うん、分かったよ。ユーノ君」

 ユーノの提案になのはは首をコクンと頷かせて、了承の形をとった。

 魔法戦闘で手も足も出ず、撃墜されたことにショックを受けているのではないかとユーノには印象に残った。しかし、話題を振って気を紛らわす様な高等手段をユーノは持ち合わせていなかった。しかし、真実はユーノの印象とは異なっていた。一見落ち込んだような表情に見えるのだが、ユーノの意見に了承したなのはは何かを決意した様な表情を作り上げ、夕闇に染まりつつある紅の空、黒衣の少女達が去って行った空を眺め続けていたのだった。

671とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:39:44 ID:ejePPM6k0



◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 ――海鳴臨海公園 噴水広場――

 海鳴臨海公園の一角に存在する大きな噴水広場がある。夜になれば、其処は幻想的な美しさを演出する一つのアートに変わり映えするという話題で格好の評判となる。噴水広場へと続く階段は四方にシンメトリ調に施工されており、その凝った創りは施工者・設計者の拘りが垣間見えて来る。

 そんな噴水広場へと続く階段に二つの影があった。一人は階段に腰を掛けて座っており、空中に浮遊するモニターに見つめていた。もう一人はモニターを見つめている人物の隣に座り、手に持つ書物に目を滑らせて読み進めていた。暫くすると、空中に浮かび上がっているモニターに変化が起こった。最初は映りの悪いテレビの様にノイズを走らせたのだが、次第にその現象が収まった。次にモニターが映し出したのは、鮮やかな橙色の長髪を持ち、狼の様な耳を生やした女性―アルフであった。まるで高画質のテレビを見ているかのように鮮明な画像で映し出されたのだった。

 「アルフ、お疲れ様」

 輝く様な金髪の髪に深紅の瞳の少女―フェイト・テスタロッサ―は目の前に浮かぶモニターに映るアルフに労いの言葉を掛けた。フェイトに言葉を掛けられたアルフは、見た目不相応に感じられる程の無邪気な笑顔を浮かべた。

 「フェイト、今第四区画の広域サーチが終わった所だよ。それで発動前のジュエルシードも一つ見つけたよ」

 フェイトと、その隣に座る金髪の少年―レイ―がジュエルシードを目視、又は中距離程度の探査魔法によって海鳴市を中心にジュエルシードを探索する一方で、橙色の髪色の女性―アルフ―が市内を広域探査魔法によってジュエルシードを探索していた。昨夜の内に役割を割り振って、それぞれの行動方針にそってジュエルシードの探索に当たっていたのだ。

 「ありがとう、遅くまでごめんね。私達の方は夕方に封印した一つだけ」

 アルフの喜びと安堵が混じった声に対して、フェイトの声には労わりと同時に申し訳無さが含まれていた。広域探査魔法は術式の維持に非常に集中力を必要とする魔法なのだ。その魔法を長時間行使し、広域探索の役割を買って出てくれたアルフに対して、フェイトとレイ二人掛りで探索した結果、アルフと同じ成果だという事実を情けなく感じているのだろう。

 フェイトの心中を察してか、アルフはジュエルシードの報告を切り上げ別の話題をモニター越しの二人に振った。

 「……それにしてもフェイトとレイがぶつかったこの二人。まさか…管理局じゃないよね?」

 アルフが発したその声には【敵意】というよりも【疑念】の色が強かった。バルディッシュを通じて送信された戦闘場面をモニターして、アルフは腑に落ちない表情を顔に張り付けた。アルフの魔法戦闘及び訓練の経験上、どう考えてもこの二人は魔法に関して慣れていない印象を受ける。

672とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:41:37 ID:ejePPM6k0


 何故なら、身体の使い方・魔力運用どれをとっても「まだ魔法を使い始めたばかりです」と言わんばかりの拙さなのだ。時空管理局の戦力となる局員でも、此処まで酷い動き方はしないだろうとアルフは考えている。実際に言えば、確かにモニターに映るなのは達は魔法に関して全くの素人なのである。

 「それは違うと思うよ。魔法もちゃんと使えて無かったし」

 フェイトもアルフと同意見なようで、今し方アルフがぼやいた言葉に対しての解答を送る。

 「…恐らくは、この世界の現地住人だろう」

 今まで無言を保ち、読書に耽っていたレイが二人の会話に加わった。レイが導き出した答えに対して、アルフは疑問の声を強めた。それは彼らが所有していた魔導端末にも疑問に感じる一端がある。白い魔導師が所有していたデバイスは、フェイトの所有するデバイス・バルディッシュと同様に、インテリジェントタイプのデバイスのように見受けられる。扱いが非常に難しいデバイスな上、管理外世界では絶対にお目に掛かれない代物である。

 そして一番重要なのが、もう一人の紅の瞳の色をした黒髪の子供が所有していたデバイスだ。何しろ、レイが所有するデバイス・レジェンドと殆どの機能に似通っている部分が在る事をモニターの映像から識別出来るのだ。

 「この黒髪のガキンチョ、レイと同じタイプの魔導端末持ってる様だけど【何か分かった事】はあったのかい?」

 アルフが発した言葉、実はレイという少年にとっては非常に重要な事項なのである。何を隠そうレイ…レイ・ザ・バレルという少年は記憶喪失を患っているからである。レイとフェイト、そしてアルフとの邂逅は何れ詳しく語るとして、ここではレイが今までに辿った経緯を【さわり】だけ御伝えする事とする。



 約2年前のある日、フェイトは第1管理世界ミッドチルダ南部森林地帯・アルトセイム山岳近隣にて魔法技術の修練を、魔法技術の【教育者】と一緒に行っていた。フェイトには、魔法技術の修練は日常の一部でもある行為だったのだが、あるトラブルが発生して中止したのだった。

 突如として付近の森林で轟音とともに発光現象が巻き起こったのだ。当時フェイトの教育担当を行っていた者は、訓練を中止し様子見の為に轟音が鳴り響いた森林の方角へと脚を踏み入れて行った。轟音に驚いて、フェイトは涙ぐみながらも、その教育者が帰還するまでその場で待機していたのだ。

 暫くしてからその教育者は、一人の少年をその背に背負いながら帰還して来たのだった。この少年こそが、レイ・ザ・バレルである。レイは発見当時にはサイズの合ってない奇妙な服を着用しており、更に魔導端末―レジェンドを所持していたのだ。


 その日の訓練を中断し、教育者は負傷していたレイの治療に専念してくれた。 


 レイの傷が癒えてからは、フェイトの母親の薦めもあって、フェイトと共にレイも魔導師としての訓練や学問を学んだのだった。何故か、レイは一度説明した事や教わった事に関して非常に物覚えが良かった。早い期間から魔導師としての英才教育を行っているフェイトでさえも舌を巻くほどだったのだ。教育者に褒められるレイにフェイトが嫉妬する事も度々あり、幾度もフェイトはレイに対抗し競い合っていったのだった。その過程にアルフも加わりつつ月日は過ぎるのだが、レイは一つの大きな問題を抱えていたのだ。

673とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:42:12 ID:ejePPM6k0
 そう、それは自分自身に記憶が存在しないことだ。レイが今現在まで使用している名前も、自らが着用していた奇妙な服に刺繍されていた名前をそっくりそのまま使っているだけに過ぎない。本当の名前・記憶も分からぬまま、およそ2年の月日が経過したのだが、一向に記憶が蘇る気配が無いのだ。


 教育者がフェイトやレイに対しての教育が完了し、フェイトがインテリジェントデバイスを教育者から授かった後は、フェイトの母親の探し物をフェイトやアルフと協力して探索している。フェイトの母親曰く、他の世界を渡り歩けば何かしらの情報が入手出来るかもしれないとも言われ、拾って貰った恩を返す一環で行っているのだ。

 この地球におけるジュエルシードの探索も恩返しの一環であるのだが、変化は不意に訪れたのだ。それが、自分と同系等の魔導端末を所有している黒髪の少年の存在なのだ。自分の記憶に関する手掛かりが得られるかもしれないと、逸る気持ちを抑えつつ少年に問答を行ったのだが、結果はシロだったのだ。魔導端末の出所を皮切りに話を聞いてみようとしたが、黒髪の少年の発言から推測すると【何も分からない】という事が明確になっただけであったのだ。

 何かしらの進展が在るかもしれないと期待しただけに落胆する気持ちも大きかったが、即座に思考を切り替え目的のジュエルシードの確保を優先したのだ。障害となる白い魔導師と黒髪の少年を行動不能にした後に、単独で行動していたアルフと情報交換をしている現在に至っているのだ。


 繰り返しになるが、今語らせて頂いた事は【さわり】程度のものなのでレイ達の邂逅については別の機会で詳しく語る事にさせて頂く。


 
 「…映像を見れば分かると思うが、特に判明した事は無い」

 アルフからの問答に表情を変えずにレイは返答した。その口ぶりから、もう黒髪の少年事など気に止めてもいないのだろう、とアルフは予想を付けた。レイの心中を察して、アルフは一言謝罪を申し上げモニターの視聴を再開した。夜間という事もあり、アルフは音声機能をオフにした状態で送信されて来るモニターを視聴し続けている。それから程無くして、夕方に発生した魔法戦闘の映像を視聴し終えたアルフは一息吐いた。

 「…一通り目を通して見たけど、レイの言う通り確かにこの世界の住人みたいだね。何から何まで素人もいい所だね」

 アルフは戦闘場面の映像から、白い魔導師達をこの様に評価した。特に黒髪の少年に至っては、魔力に自分自身が振り回されており、挙句の果てにはブラックアウトの症状を引き起こしている。こんな様で魔法戦闘に秀でているフェイト達と競り合うなど無謀にも程がある。そう結論付けると、アルフは魔法戦闘を映していたモニターを消して、フェイト達を映しているモニターへ顔を向ける。

 「夕方起きた戦闘はこれで終わりだよ、それでねアルフ。レイと話し合って、これからはアルフと二人一緒でジュエルシードを探さないかって話しになったんだけど、どうかな?」

 フェイトからの提案にアルフは少々唸りながら思考した。三人で探す事になると【ジュエルシードの捜索】という点で、効率が多少落ちてしまうかもしれない。しかし、白い魔導師達に他にも味方の魔導師が居ると想定した場合、正確な人数が判明していない。フェイトとレイのコンビネーションならば、凡庸の魔導師相手に手数で遅れを取るヘマ等しないと信頼出来るのだが、最悪な展開も想定しなければならない以上アルフもフェイト達に加勢した方が、捜索における危険度はより少なくなるだろう。

674とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:43:00 ID:ejePPM6k0

 「そうだねぇ、フェイト達を守るのもアタシの役目だからね。二人に合流する事にするよ」

 アルフからの気の良い返事にフェイトは顔を綻ばせ、合流地点を言い伝えた。アルフの了承の返事と共に空中に浮遊するように映っていたモニターは消失した。それからフェイトは自身が腰を掛けていた階段から立ち上がり、スカートに付いた埃を丁寧な仕草で確りと払う。レイも読んでいた本に栞を挟んで閉じて立ち上がり、フェイトの隣に立ち並んだ。

 フェイトはレイが隣に並んだ事を確認すると、両手を顔の前に組み、目を閉じて何かを呟いた。次に発生したのはフェイトの魔力光の色をした魔法陣であり、フェイトとレイの周囲に金色の輝きを放っている。周囲の金色の魔力が眩い程の輝きを放った後に、魔力光と共にフェイトとレイの姿が消え去ったのだ。




 ――消え去った二人の後に残されたのは、金色の魔力光の残滓と大きな噴水と照明が織り成す幻想的な風景だった。



◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 



 身を切るような疾風をものともせず、茶髪を括ったツインテールを揺らしながら僅か10歳にも満たない少女が雲一つも無い大空を疾駆する。そして、その少女に追随するかのように中心部に英語の【target】の言語に似た語句が浮かび上がっている桜色の球体が滑空していた。その球体は縦横無尽に少女を追跡または前方で複数存在している。

 「福音たる輝き、この手に来たれ。導きのもと、鳴り響け!【ディバイン・シューター;Divine Shooter】シュート!!」

 『――Divine Shooter.――』

 少女・高町なのはの詠唱と共に周囲に桜色の球体が四つ出現する。なのはが出現させた球体は数秒ほどなのはの周囲を待機した後に、怒涛の勢いで【target】と表示された球体に肉薄する。すると、語句を表示している球体は軌道を変更し、追随していたなのはの周囲から逃げるように散開する。

 逃げる球体の方角を確認し、無手の右手を振りかぶり球体を指し示す。その後になのはの誘導指示のもと【ディバインシューター】と呼称された球体は逃走した球体を追跡する。逃走する球体は墜落されまいと、より一層速度を加速させるがなのはの射出した【ディバインシューター】は逃走する球体以上の速度を叩き出し、グングンと接近する。その様子を食い入る様に見つめ、撃墜出来ると思ったのかなのはに安堵の表情が垣間見られる。



 
 ――勢い良く迫る【ディバイン・シューター】が逃走する球体に着弾し、撃墜する……かのように見えたが、



 
 逃走していた球体が再び方角を90度変更し、見事なのはの射出した【ディバイン・シューター】から逃げおおせたのだ。その様を見て、なのはの表情に動揺が走る。しかし、闘いの場面でその様な隙は致命的である。逃走に成功した球体は、なのはに生じた一瞬の隙を見逃さなかった。注意力散漫となったなのはに今度は、一斉に逃走した球体が急接近する。急激に接近してくる球体になのはは気付いた。

 (だめ!今から操作したんじゃ【ディバイン・シューター】は間に合わない!)

 先程まで遠隔操作していた【ディバイン・シューター】から意識を切り替えて、今度は別の射撃魔法をなのはは準備した。

675とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:43:42 ID:ejePPM6k0




 ――迫り来る球体に悪あがきの射撃魔法をお見舞いするが、撃墜出来たのはたったの一つであり、残りの球体は全てなのはに着弾した。




 『――Mission Failed.(ミッション、失敗です。)――』 

 レイジングハートの機械音声が周囲に響き渡った。球体がなのはに着弾したことによって、辺り一面が煙に包まれていた。次第に煙が薄れていくと着弾したにもかかわらず、これといって被害も見当たらず防護服に破れた形跡も見られなかった。

 「くっ……失敗しちゃったね」

 『――Don't mind My master.(お気になさらず、マスター)――』

 なのははレイジングハートにフォローを貰った後に【誘導制御型】の射撃魔法のレクチャーを受けた。

 【誘導制御型】射撃魔法は射撃型魔法の中でも、機動・追尾能力にリソースを振った魔法となる。発射後に射出弾の方向制御・誘導が可能であり、熟練者にもなると多数の誘導弾を全く異なる軌道で放つ事が可能となる。高町なのはが使用した【ディバイン・シューター】はディバイン・スフィアと呼ばれる発射台を生成し、そこから誘導制御の魔法弾を発射する。

 ディバイン・スフィアという発射台をあらかじめ形成することによって、大掛かりな魔法陣制御やチャージを必要としないため、通常時における魔法陣を形成した状態での誘導弾と比べて弾速は遅いものの、発射速度は比較的速く連射も可能なのだ。更に付与能力としては自動追尾とバリア貫通の能力を保有している。

 複数の【ディバイン・シューター】を立体的に誘導操作し、高町なのは自身の射撃魔法の主力攻撃手段とすることで、防護服の防御性能の高さによって発生する弊害、機動力の低さをカバーするという目的があり、レイジングハートの実戦訓練メニューによって、なのははこの魔法を習得しようとしている。また、レイジングハートの想定している次段階のビジョンとしては、なのは自身が異なる種類の魔法を行使していても【ディバイン・シューター】の魔法弾操作が行えるようになって欲しいとも考えているのだ。

 ただレイジングハートが想定しているこのビジョンは、思念制御の中でも高等技術であり、魔法を習いたてのなのはには些か厳しいようにも見受けられるのだが、ある意味ではそれだけレイジングハートが高町なのはに対して期待しているのでは無いかとも予想できる。そもそもの話、なのはがこの【ディバイン・シューター】の習得をする事になった理由と言えば、黒衣の少女との戦闘がキッカケとなったと言える。

 黒衣の少女、金髪の少年との戦闘において特に高速機動戦闘を行う黒衣の少女によって、なのははその速度に翻弄されてしまい自分の持ち味と成り得る射撃・砲撃型の魔法戦を行う事が出来なかったのだ。レイジングハートの戦闘分析によって浮かび上がったその欠点を補う為に、自らの周囲を保護する誘導弾の習得は必須要素だったのだ。遠距離からの砲撃によって敵対勢力を撃ち落すことは、なのはの特性にを考慮しても理想的ではあるが、それ以外の局面、特に近・中距離戦闘においての自衛手段の取得はそれ以上に重要となってくるのだ。

 現段階では【ディバイン・シューター】を使用するには、詠唱を唱えなければ上手く制御出来ないのだが、後数週間も訓練を重ねれば詠唱を唱えずとも【ディバイン・シューター】の実戦使用が可能となる、とレイジングハートは予測している。何故このように予測しているかと言うと、術者である高町なのはにディバイン・スフィア形成のイメージが固まりつつあり、デバイスに魔力を流し込むだけで一通り完成しているからだ。

 正直な話、これほどまでに魔法習得が早ければ、単独で黒衣の少女を撃退する事も夢ではなく実現出来るのではないか、と思わせる程に高町なのはの魔法技術の習得速度が速いのだ。

 「あ、いけない。もうすぐ授業が終っちゃう」

 つい先程行った訓練内容をモニターし、反省点・改善点をチェックしようとした矢先に授業終了の時刻が迫っていることになのはは気付く。何を隠そう今は授業中なのだ。授業を受けているにも関わらず、何故なのはがレイジングハートと共に魔法の鍛錬を行っているのか?授業を受けなくても良いのか?と疑問符が浮かび上がるかもしれない。

676とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:44:13 ID:ejePPM6k0


 だが、心配に及ばずとも高町なのははしっかりと授業を受けている。言い換えればこれもれっきとした魔法技術の修練なのだ。


 まだ詳しく語る事は出来ないのだが、なのはは【現実空間】つまり、我々が日常に過ごしているのと同じ時間の中では、きちんと聖祥大小学校3年1組で授業を受けている。では今なのはが訓練している場は何なのかと言うと、魔法によって形成・維持しているイメージトレーニングの空間、仮に【意識空間】とでも呼称する事にしよう。

 聡明な方は、現実と意識、二つの空間に神経を注ぐのは大変な労力なのではないかとお考えになるだろうが、魔法技術には複数の思考・行動を行う技法が存在し、魔導師はこの技法のトレーニングも行っている。より精錬した魔導師となるには必要な技法をなのは達は修練しようとしているのだ。

 「レイジングハート、お昼休みになっちゃうから午前の訓練はここまでにしておくね。モニターチェックは後でするよ」

 『――All light My master, Make yourself at home.(了解です、マスター。どうぞごゆっくり)――』

 レイジングハートに休憩を取る事を伝え、なのはは意識空間を主体にした意識から現実空間を主体とした意識に切り替えた。なのはの意識の切り替えと同時に授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。授業が終了したことに一安心し、なのはは複数行動によって書き写した自分のノートを確認した。いつも彼女が書き写しているノートの状態と寸分違わないので、上手に出来ていることにふと笑みがこぼれる。

 「なのは、お疲れ。お昼は何処で…って、随分嬉しそうだけど、何か良い事でもあったの?」

 授業が終了したので、友人のアリサがなのはの席に近付き昼食を摂る場所を何処にするか聞き出してくる。しかし、なのはの笑顔がこぼれる様子を疑問に思ったのか、アリサがその訳を尋ねた。

 「あ、アリサちゃん、いや、な…なんでもないよ。お、お昼は屋上で食べようよ。すずかちゃんやシン君も……って!?」

 アリサからの質問にタジタジとなってしまったなのはは、話題を逸らそうと昼食を摂る場所の相談を後方の席のすずかやシンに求めようとしたが…

 「あの…シン君?どうしたの?」

 「………」

 【心此処に在らず】といった状態、いやまるで能面のような表情で虚空を見つめるシンを心配したすずかの姿がなのはの目に映った。シンの様子に気付いたアリサがシンの席の隣に居るすずかに声を掛ける。

 「すずか〜、シンがどうかしたの?」

 「あ、アリサちゃん。シン君の様子がおかしかったから、呼びかけてみたんだけど反応が無くて…」

 「何よそれ?シン、具合でも悪いの?」

 なのはの席を後にしたアリサはシンの席に向かう。



 

   ―――――シン君!――シン君!!意識戻して!!――授業終わってるよ、シン君!!―――――





 なのはは咄嗟に念話で呼びかけるが、シンからのレスポンスが無く、舌を巻いてしまう。かなりトレーニングの方に意識が傾倒しているのでは無いかとなのはは気付き、必死にシンに対して念話で呼びかける。



   ――結局シンが意識を現実空間に引き戻したのは、なのはが念話で呼びかけ続けてから5分ほど経過した後であった――

677とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:44:56 ID:ejePPM6k0


 
 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 見渡す限りの青、藍、蒼…上を見ても下を見ても青空ばかりが広がる空間に一人の少年―高町シン―が居た。いや、正しく言えば一人ではなく、ここ最近この少年の話し相手の一人に加わった魔導端末―デスティニー―も含めて一人と一機が存在している。

 『――では、始めてくださいマスター ――』

 デスティニーから開始を促され、シンは返事と共にコクンと頷き両手を前面に差し出す。差し出した両手の間に桜色の魔力光が発生する、それを元に自分の全身に行き渡る様にリンカーコアという器官から魔力を放出し調節していく。

 その感覚をシンが把握すると、魔法術式を展開する為の【トリガー・アクション;Trriger Action】を言葉にする。

 「――我は求める、頑強なる守護。幼き我が身に鋼の護身を……【エンチャント・ディフェンス・ゲイン;Enchant Defence Gain】!!――」

 シンが言い終えると、シンの全身が桜色に激しく輝き、炎が燃え上がる様に魔力光が勢いを持ち始める。その様子を一見すると、辺り一面広がる青空と相まって非常に映える光景にも思える。しかし、暫くしてシンの口から苦悶の声が上がり始めた。炎の様な勢いを持った魔力光は収まるどころか、より一層その勢いを増そうとしている。堪らずシンは術式を解除する為の解除ワードを発声した。

 その言葉を発する事によって、シンを覆っていた荒れ狂う炎の様な桜色の魔力光は急激に大気中に散って行った。肝心のシンはと言うと、長距離マラソンを走った後のように、息を荒げて足りなくなった酸素を肺に取り込んでいた。

 『――マスター、今の魔力の流れは防護服を中心としたフィールドを強化しようとして、危うくフィールドの外まで魔力を流出する所でした。自身の身を強化したいのであれば、正しいイメージで御自身の身と防護服を中心としたフィールド内に魔力を流すべきです――』

 デスティニーから情け無用の指摘が入っているが、勢い良く魔力が駄々漏れし、呼吸することすら困難だった所為か、シンはデスティニーの忠告に応じることすら出来ずにいた。

 今し方シンが発現させ様とした魔法はミッドチルダ式の補助魔法であり、発動者もしくは対象者の能力強化を主眼においた【Increace Type;インクリースタイプ】つまり、対象者に能力強化の効果を齎す【ブースト魔法】である。シンがこのミッドチルダ式の補助魔法を使用しているのは、単にユーノに教えて貰っただけではなく、シン自身の魔力の特性が関連するからである。

 そもそも【魔法】という技術は大気中に存在する魔力素を特定の技法で操作して【 作用 】を発生させる技術体系である。術者の魔力を使用して、【変化】【移動】【幻惑】 原則的にはこのいずれかの【 作用 】を起こす事象なのだ。この引き起こされる【 作用 】を術者が望む効果が得られるように調節もしくは組み合わせた内容を、魔導師は術式詠唱などのトリガー・アクションによって発動する。

 この原則的な【 作用 】を軸にして、枝分かれする様に【圧縮】や【放出】など様々な魔法技術が存在するのだが、この魔法技術の種類の得手不得手は個々人によって差異が生じる。この様な個々人が持つ魔力的特徴を【魔力資質】と称している。魔法技術の様々な場面で顕著に現れるものだ。

 先日発生した黒衣の少女達との魔法戦闘においてシンが発現させた強化魔法をデスティニーは解析した。解析の結果、シンの魔力資質は【変化】を起点において、【自分自身もしくは他人の能力に強化を齎す魔法】に特性が在るのでは無いかという結論に至ったのだ。そこで一度、単純に魔力を込めて自分自身を対象に施す能力強化【自己ブースト】の訓練をデスティニーを主体とした教導の下にシンは訓練を敢行した。

 しかし、シン自身の加減が下手なのか要領が悪いのかイメージが不出来なのか定かではないが、シンは毎回毎回制御困難な事態に陥り一気に魔力量を消耗し疲弊してしまうのだ。ここで【自己ブースト】の利点を説明すると、一度行った魔力による能力強化は無意識でも維持できる事に利点がある。但しシンの場合、何故か魔力量が底を尽きてしまう程に【自己ブースト】が掛かってしまうのだ。桜台での魔法戦闘においてシンがブラックアウトを引き起こしたのも、この事が原因であると、デスティニー達は結論付けている。

678とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:45:47 ID:ejePPM6k0
 一応ここ数日の間シンが訓練する際には、なのはやレイジングハートそしてユーノも手伝っている為、訓練の後はなのははシンの介抱、レイジングハートはまだ魔導端末として幼いデスティニーへの助言、ユーノは介抱された後のシンとデスティニー対して魔法技術の講釈を行うのが、ここ数日の日課となっていた。

 だが、シンよりも魔法技術の修得が早いなのはとレイジングハートのコンビの足手纏いになる訳にもいかない。自己ブーストをシン自身が扱いきれない事を問題に思ったデスティニーはシン共々ユーノに解決策が無いか教えて貰ったのだった。その結果として、ミッドチルダ式の【ブースト魔法】をユーノから教えて貰ったのだ。【ブースト魔法】は一定の魔力付与の元に能力強化を行うのが特徴だ。発動のプロセスとしては…


 ①消費する魔力量を術者が調整し、どの種類の能力(防御や攻撃、速度強化など)に強化を施すのか詠唱によって設定する

 ②詠唱の段階で能力強化の対象者を設定する(例;術者自身の場合、我が〜等)

 ③最後に魔法術式を展開し、魔法効果を発動する為にトリガーアクションを詠唱する


 以上、この三点が【ブースト魔法】の発動プロセスとなる。最後にトリガーアクションの詠唱と説明しているが、最もポピュラーなのは効果を齎す術式名を唱える事になるだろう。一応、この【ブースト魔法】と呼ばれる補助魔法は魔力ランクCレベル相当にあたる困難さであり、飛行魔法よりも修得は困難でもある。飛行魔法をデスティニーの補助が在る事前提で行使出来るシンには些か苦難するレベルの魔法なのだ。

 「…ハァ…ハッ…ちっ…くしょ…う…分かってるよ…」

 『――いいえ、マスターは理解しておりません。…ですが一度の訓練で魔力が底を突かなくなったのは大きな進歩なのでしょうが――』

 今デスティニーが洩らした愚痴の通り【ブースト魔法】を教えて貰ってからのシンやデスティニーの訓練における利点はこの一点に尽きるのだ。今までは訓練と呼べる程の内容をシンは全くこなせなかったのだ。

 デスティニーとしては、射撃魔法の誘導制御といった実践的な訓練に移行しても良かったのだが、現在なのは達を含めて海鳴市に確認される四人の魔導師の内、魔法戦闘においてシンだけが持ち得る優位性を確立する事が先決だと考えた為に、【ブースト魔法】や自身の能力強化を主体とした訓練を積んで来たのである。未だ予測段階ではあるのだが、デスティニーが想定しているビジョンとしては【ブースト魔法】を修得していく内に、シン自身が魔力の制御や加減も身に付くようになるだろうと考えているのだ。そして【ブースト魔法】を使役出来るようになれば、現在海鳴市で確認されている魔導師の中で魔力量が四人の中で最も劣っていても撃墜され難い術を身に付けられるのでは無いかと予測しているのだ。

 ここで一番重要なのは、シン達が魔法戦闘で対峙する事になる黒衣の少女と金髪の少年を撃墜する事ではなく、最終的にジュエルシードを封印し確保する事が重要になるのである。その為には、封印魔法を登録しているレイジングハートを使用出来るなのはを守護出来るようになるのが、理想的な形なのだ。シン自身もその事には納得しており、その為に魔力を消耗して気絶する様な目にあっても【自己ブースト】ないし【魔法ブースト】を修得しようとしているのである。 

 「………なぁデスティニー、防護服の性能って変更出来ないのか?」

 魔力を消耗した状態から回復したシンが、デスティニーに対して問い掛けた。何故そのような事を訊ねてくるのかデスティニーはシンに説明を要求した。
 
 シン曰く、自身が【ブースト魔法】を展開する際に、全身から防護服まで魔力を浸透させようとすると腰部、脚部そして腕部の防護服の部分で【魔力の流れが重くなるような】感覚に陥り、無理矢理に魔力を流そうとするのだ。そして、無理矢理に魔力を流した後は、制御が困難な状態に陥り【自己ブースト】を行う時と同様な結果となってしまうらしい。シンは自分が掴んだ【この魔力の感覚】から、自分自身が【ブースト魔法】または【自己ブースト】を使用する際に制御困難な状態に陥るのは防護服に何かしらの原因が存在するのでは無いかと考えたのだ。だからこそ、シンはデスティニーに防護服の性能を変更出来ないかと提案したのだ。

679とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:46:18 ID:ejePPM6k0

 どうやらデスティニ―の思惑通りにシンも魔力の感覚を掴んできているようであり、デスティニ―は自らに存在するかも分からない歓喜に包まれて来るような感覚で満たされたのだ。

 『――了解しましたマスター、そういうことでしたら防護服とマスターの魔力波長を計算しておきます。御時間が掛かるかも知れませんので、防護服の設定の変更については今しばらくお待ちください――』

 「ああ、頼むよ」

 シンが魔力の感覚を掴んで来ている事に喜ぶ反面、防護服の性能面での問題点が浮き上がってしまった為デスティニーは問題解決を洗い出すのに時間が掛かる旨をシンに伝え、了承を貰った。魔導端末であり使用者をサポートする自分に問題があるのであれば早急に原因を調べ上げなければならないのでデスティニ―は必死になる。自分が使用者であるシンに負担を掛けるなど問題外にも程がある、とまだ幼いインテリジェントデバイスは思考しながらもモニターを展開し、情報を整理し出した。冷静を装いながらも慌ただしく状況確認をしているデスティニーのその様子をもしもレイジングハートが観測していたら【まるで目に涙を溜め込みながら必死にモニターを見ていますね】と評された事だろう。



   ―――――――――シン君!!!!――――――――



 「!?な…何だよ!?なのは!?イキナリ大声で念話するなよ、びっくりするだろ!?」

 突然なのはから思念通話が入ったことで、シンは驚愕してなのはに苦言を呈した。しかし、先程から何度も何度もなのははシンに対して念話で呼び掛けていたのだ。その事実についてデスティニ―は感知していたのだが、シンからの指示が無かったので応答しないでいたのだ。実際の所、シン自身はなのはからの念話を無視していたという訳ではなく本当に耳に入っていなかった様だ。それだけ【ブースト魔法】の魔力流と自身の魔力の感覚を掴む事に必死だった様だ。しかし、デスティニーはその事を指摘する余裕は最早片鱗を見せて居らず、待機状態のアクセサリーのままモニターを凝視している。



   ―――――シン君、やっと念話が繋がった…早く意識を戻して!!もう授業終わっちゃってるよ!!―――――

 

 「はあ!?嘘だろ…全く気付かなかった…」

 シンは自意識をイメージトレーニングを行う意識空間に傾倒するあまり、現実空間において授業を受けていることに全く意識を割けなかったことにまたしても驚愕するのだった。だが、今は思考しても、意識を現実空間に向けられなかった自分を責めても仕方ない。すぐさまシンはモニターを見つめている待機状態のデスティニーに向き直った。

 「デスティニー、ごめんな。授業終わったから意識を切り替えるよ」

 『――了解しました。どちらにしても解析には時間が掛かりますので、良い区切りになります。しばし休息を取って下さい――』

 シンの謝罪の意図とその理由を知っているからか、デスティニーはシンの謝罪に対して了承の言葉と気遣いの言葉を同時に掛けた。デスティニーからの返答を受け取ったシンは自身の眼前に右手を差し出し、魔力を込める。そして、シンの右手前方に魔法陣を展開し自らの周囲に魔力光を纏わせる。すると、シンの身体が下半身から消失する現象が発生し始めた、その消失は次第に上半身にまで表われて来る。やがてシンの身体全体が消失し、意識空間には待機状態のデスティニーだけが残された。

 『――まだまだ問題は山積みですね。私がしっかりマスターを導いて行かなければなりませんね――』





 ――シンが現実空間へと戻った事を確認してから、デスティニーは前方に展開していたモニターを増大させた。





 ――最初は一つ、二つと増えていただけなのだが、次第にその数は勢いを増して行った。





 ――前方に展開するだけでは足りなくなったのか、デスティニーの左右後方上方下方周囲360度にモニターが展開されて行った。





 ――デスティニーを取り囲むモニターから漏れ出す輝きで、青一色の意識空間は色取り取りの輝きを周囲に放つ。





 ――何処か不気味さを感じ取れる様なその空間の中で、一機の魔導端末はモニターを見つめ続けるのであった。

680とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:47:03 ID:ejePPM6k0




◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇
 



 海鳴市にある市街地、高層ビルが立ち並び大勢の人々の出入りの多い場所だ。人の出入りが多いとなると、当然交通区画も整備されていなければ、安全に行き交う事も出来なくなる。なので、この市街地ではあちらこちらに十字路交差点などが見受けられ、都心に似通った風景が感じとれる。歩行者と自動車の交通を分離する役割を持った信号機が、歩行者に対して『止まれ』つまり『赤』色の表示を行っている。そして、その表示が『進め』つまり『青』色の表示になるのを待ち構えている人々の群れの中に一際目立つ一組―レイとフェイト―が居た。

 この国の人々に見受けられる黒髪や茶髪系統の髪ではなく、透き通るような金色の髪は人々の注目を集める。しかし、そのような様子を特に気にする訳でも無く、平然としていた。「平然としている」この様子は、当人以外の人々から見た印象であり、実際のところはいちいち気に掛けていられる程の余裕が無かったりするからなのだ。レイに関しては、フェイトとレイ、二人から少し離れてジュエルシードの探索を行っているアルフと連絡を取り合っているのだ。

 では、フェイトはどうなのかと言うと、横断歩道の向こう側、彼女自身の正面にいる親子に目を向けていた。

 この表現をすると「フェイトがサボタージュをしているのでは無いか」と勘違いをされるかもしれないので弁明するがアルフとの連絡の取り合いはレイとフェイトが交代交代で行っており、今の時間帯はレイが担当をしているのだ。それで手持ち無沙汰になってしまったフェイトが何か無いかと考えて視線を回した結果、今視線を向けている親子に目が止まってしまったのだ。

 「今日のお昼ご飯、なに?」

 「ん〜そうねぇ。何にしよっか?」

 数メートル離れていても、子供の元気溢れる声と母親の微笑みの様子から、会話の端々を読み取れる。時間帯から考えて、昼食のメニューについて相談しているのだろう、とフェイトは予想していた。ごく平凡な、どこにでもあるような普通の家庭の光景。





   ――その光景は彼女自身にかつての自分と母との記憶を想起させるのには充分過ぎる光景だった。



 

   ――どれほど小さい時だったかも覚えていない頃の幼いときの記憶、いや、記憶と言うほどでもないありふれたものだった。



 

   ――記憶の中の彼女が描く母の似顔絵、食事の準備が出来た事を伝える母の柔らく優しい声。





   ――食事のメニューは自分の好物か確認を取る無邪気な彼女、そんな彼女に対して【優しい笑み】を浮かべて応える母。



 

 記憶の中の母の笑顔は、今現在フェイトに向けられる表情とはあまりにも違う事にフェイトの胸は張り裂けそうな程に痛んだ。一体何時の頃から母は変わってしまったのか?とフェイトは自問自答した。しかし、どんなに思考を巡らせても結論など出てこない。だからこそ、フェイトは彼女の母親が突き付けて来る無理難題に答え続けなければならないのだ。

 因みにフェイトの母親が突き付けて来る無理難題とは「フェイトの母親が指定する世界で、指定した物体を持って来ること」である。その指定された物体の中には、ロストロギア級の物も含まれているのだ。優秀な魔導師として教育を施されて来たフェイトとレイ、アルフが一緒であれば、困難な事などそうそう存在する物ではない。しかし、フェイトの母親はそれを理解しており、度々困難な要求を突き付けて来る。それでも、フェイトは記憶の中の母親が幼い時に見せてくれた様な笑顔を再び自分に向けてくれる様に自分が頑張らなければならないのだ、と自分に言い聞かせ続けているのだ。それが彼女の心を縛り続ける呪詛になるとは把握できずに。

681とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:47:34 ID:ejePPM6k0

 「……イト、………フェイト」

 「…!?…っえ!?」

 数歩先を進むレイに声を掛けられ、フェイトはふと我に返った。周囲を確認すると、信号機は何時の間にか『青』色の表示に変わっている。立ち止まっていた人々も既に動き出していた。フェイトが立ち止まったままで居た為に、彼女の後ろに居た人たちは彼女を避けながら、横断歩道を渡っていた。フェイトが動き出さない事をその背に察したレイは、見かねて彼女に声を掛けたのだ。

 思考の海に沈みこんでいたフェイトはすぐさまその状況を把握すると、頬を赤らめながら早歩きでレイに近付いた。すると、先程自分が記憶を思い返す原因となった対面にいた親子とすれ違った。親子は仲良く会話を続けている。それをフェイトは横目で眺めて、すぐさま目を逸らす。

 「ごめんね、レイ。ボーっとしてて」

 「いや…気にするな、対した事じゃない」


 レイ達は『青』色の表示が点滅し、『赤』色に変わる前に横断歩道を渡りきった。


 レイは横断歩道を渡りきる直前、フェイトが横目で見ていた親子を見た。仲の良い親子の様子にフェイト自身がかつての彼女と母親の関係を思い返していたのだろう、と予測したのだ。フェイトと彼女の母親の関係は今よりもずっと幼い頃良好だったという事は、レイはフェイトから聞き及んではいた。しかし、だからこそどうしたら最善なのか対応が出来ないでいるのが現状でもある。

 レイにとって、テスタロッサ親子とフェイトの教育者は命の恩人でもある。だから、彼女達の力になれることならば可能な限り応えたい。しかし、一番の命の恩人であるフェイトの教育者は既にレイやフェイトの下から去ってしまっている。その上フェイトの母親は「フェイトが向かう世界の先々で彼女の手助けをしてくれればいい」と言うだけだ。

 では、最後にフェイトに対して支援出来ているのかと言うと、彼女は自分で出来る事は大抵自分で行おうとするし、向かう世界において魔法戦闘などが発生するにしても、彼女が自ら先導して事無きを得てしまうのだ。それほどまでにフェイトは魔導師として教育を完璧に施されているのだ。レイが手助け出来る事といえば、複数人の魔導師が束になって此方に戦闘を仕掛けてくるような事態になった時などはサポートに徹している。

 普段の生活においてはフェイトの教育者から教わった炊事洗濯などの健康面でフェイト達をレイはカバーしている。フェイト自身もまだ10歳にも満たないので、日常で必要となって来る生活スキルが乏しいのは仕方の無いことだし、アルフは元々フェイト達にに出会う以前は【普通の生活】を行って来ていないため、生活スキルを備えてなどいないのだ。結局、今のレイに出来ること戦闘面においては、実を言うとそれ程多くは無い。その為常にフェイト達に対してあらゆる面でサポートを行っている。今回の第97管理外世界でのジュエルシード捜索も例外ではないのだ。

 「…フェイト」

 「レイ…何…?」

 横断歩道を過ぎ去ってある程度歩いてきた所で、レイはフェイトに振り向き声を掛けた。突然呼び掛けられた事に驚きながらフェイトはレイの呼びかけに応える。

 「そろそろこのエリアの捜索も終わる…時間も丁度良いから、捜索が終わったら食事にしよう」

 「え?…でも…」

 突然のレイの申し出にフェイトが異を唱える。それもその筈だ、フェイトとしては一刻も早くジュエルシードを揃えて母親に渡したい気持ちで一杯一杯なのだ。その為にはこのエリアの捜索が終了したら、すぐさま次のエリアを徘徊したいとも考えているのだ。

 そう、休んでいる暇など無いのだ、自分の母親が満足する代物を見つけ出すまでは休息する事をフェイト自身が許しはしない。行動の果てに優しかったかつての母親の笑顔を取り戻し、記憶の中にある柔らかくも優しい思い出を実現させたいという行動原理が彼女にあるからだ。どんなに辛く厳しい事態にも耐えなければならない、愛しさに肩を震わせても、為し遂げなければならない。何故なら、彼女には譲れない【願い】があるのだから…

682とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:48:05 ID:ejePPM6k0

 「フェイト、どんなに気が急いていても休息を取らない人間に成功など有り得ないぞ」

 「……え?何で?」

 自分の考えを見透かされている事にフェイトは驚く。

 「…やはり、直ぐにエリアを移して捜索する事を考えていたか」

 「…!!」

 レイが発した言葉からカマを掛けられていた事に気付き、フェイトの眉根が吊り上る。

 「フェイト、根を詰めることは悪い事だとは言わない…だが、それは度が過ぎれば自身の身を滅ぼす事にもなる」

 フェイトの表情にいかにも「不機嫌です」という感情が表われていても、レイは自身の考えを言葉に出すのを止めない。レイの持論としては以下の通りとなる。

 人間にとって何かしらの活動を行うに至って継続するということは確かに大事なことである。ただ、人間という生き物は活動を行い【成功】を収めるためには【集中力】が重要な要素となって来る。例えるならば、学業・仕事・スポーツなどありとあらゆる場面で【集中力】の有無が成否を左右することが多々あるのだ。そして、この集中力というものは、日々の食事に気を使い充分な栄養も摂取すること、休息を取ることも大事なのだ。そして、これを疎かにすると良い事態どころか最悪な事態すら起こしかねない。それほどまでに人間にとって集中力というものは重要なのだ。

 「でも、この間の戦闘からジュエルシードの発動が感知されていないし…あんまり長引かせて母さんを待たせたくない……」

 レイの説得を聞かされても尚フェイトは引き下がらない。彼女にとって一番に優先する事項とは、とっくに自分の心の中で決定しているからだ。例え、幼い頃から切磋琢磨している仲で家族同様の存在であるレイの言葉でも揺るぎはしなかった。

 「…まぁ、そう言うとは思っていたさ、だから賭けをしよう」

 「賭け……?」

 レイからの思わぬ提案にフェイトは宝石の様な瞳を丸くして、呟いた。

 「ああ、このエリアの捜索が終った後に次のエリアに移る。但し、そのエリアで、きっかり1時間捜索してジュエルシードの反応、発動が無い様だったら大人しく、アルフも交えて三人で休憩を取る。これならシンプルで分かり易いだろう?」

 「分かった。次のエリアで1時間以内に反応、発動が確認されたら……」

 「もちろん、ジュエルシードの確保に向かうさ。」

 レイが提案してきた賭けにフェイトは頷き、彼女は必ず次の1時間で見つけ出してみせると心中で決め込んだ。一方のレイもジュエルシードの発見の有無はともかくとして、捜索に対しての時間の区切りをフェイトと取り決めできた事に安堵した。フェイトは約束事に関しては必ず守るきちんとした人格を持ち合わせていることをレイは理解している。だからこそ、フェイトに対して先程の【賭け】を要求して来たのだ。

 「そうと決まればさっさとこのエリアの捜索を終えて、次のエリアに向かおう。時間というものは誰に対しても平等で、貴重なものだ」

 その言葉を最後にレイは再び歩き出し、フェイトもその後に続く。




 ――そして、レイ達が次のエリアに移動してから1時間後、レイの思惑通りフェイト達は3人で休憩を取る事となったのだ――

683とある支援の二次創作:2012/07/23(月) 05:53:30 ID:ejePPM6k0
スレの皆様方ご無沙汰しております。

挨拶も手短にして、何とか訓練編と絵を書いたので投下します。
鮮烈氏に追随する形での投下となってしまい大変申し訳ございません。


http://download5.getuploader.com/g/seednanoha/73/PHASE04-1.jpg.jpg
http://download5.getuploader.com/g/seednanoha/74/PHASE04-2.jpg.jpg

最後に絵を載せてお暇させていただきます。

684名無しの魔導師:2012/07/24(火) 04:26:28 ID:BalSYiAAO
投下キテター!!
お二人とも乙です!

685名無しの魔導師:2012/07/24(火) 16:35:55 ID:YJ/DguWc0
ここもちょっと活性化し始めてうれしい限り! 次も期待しています!

686名無しの魔導師:2012/07/30(月) 11:34:54 ID:SazHU7K.C
遅いですが、更新お疲れ様です。

687名無しの魔導師:2012/08/03(金) 12:45:23 ID:CDcCcLyg0
いつの間にか書き込めるようになってた
遅ればせながら投下乙です

688KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/15(水) 23:25:07 ID:53x5mokM0
昔の投下分の編集もしつつでペース遅いですが、ある程度にまとまったので
今日の24時(明日0時)に投下します

689KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:00:22 ID:DKrJiRFY0
では、投下開始します。

690KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:01:06 ID:DKrJiRFY0
 あたし達は、ずっと一緒にやってきた。
 辛いときも、苦しいときも、楽しいときも。
 支え合って、助け合って一緒に戦ってきた。
 大好きな友達って言うと怒るけど、あたしにとっては、夢への道を一緒に進む大切なパートナー。
 失敗も/つまずきも/後悔も一緒に背負う。
 だから、一緒に立ち上がろう? 
 それはきっとあたしだけの想いじゃない。
 ティアナを一人にしないみんながいるから、きっとできる。



grow&glow PHASE 21 「願い 二人と(前編)」始まります


 戦闘が終結して半刻ほど。
 ティアナはなのはと共にホテル・アグスタから少し離れた場所/林道の中にいた。
 二人は歩く/人気から離れるように林道を。
 先に進むなのはと後に続くティアナ。
 ドレスから制服姿に戻り、反省会を行った後になのはが設けた二人の時間。
 付いてきながらも、一度も顔を上げることのないティアナに振り返りながら、なのはは言った。
「失敗しちゃったみたいだね」
「すみません。一発逸れちゃって」
 返ってくるのは、消えそうな言葉――表情が見えなくとも伝わる反省に、「あたしは現場に居なかったし、ヴィータ副隊長に叱られて、もうちゃんと反省してると思うから、改めて叱ったりはしないけど……」諫める選択を辞めて、1つのことを指摘する。
「ティアナは時々、少し……一所懸命過ぎるんだよね」
 今日の結果/誤射だけではなく、日々の訓練姿勢をも合わせた問題点。
 その時々を/そうなる理由を思い出すうちに視線が上がり――故に、ティアナの視線がさらに下がった事を見逃した。
「……それでちょっと、やんちゃしちゃうんだ」なのはは、気遣うように優しく肩に手を置いて。
 無言。ティアナは、己の無茶――その理由を察してもらえなかったもどかしさに俯いて。 
 
 気づけなかった/伝えなかった。
 故にすれ違う。
 
「でもね。ティアナは一人で戦っているわけじゃあないんだよ――」
 なのはは指摘する。仲間の存在を。ティアナがどう戦うべきだったのかを。
 ティアナの今日の“やんちゃ”理由が、実戦の緊張から初めてのポジション/己の役割を怠ってしまったからだと考え、批評する。
「――ちゃんと考えて、同じミスを二度と繰り返さないって約束できる?」
「はい」故に、ティアナは肯定する。センターガードとしての己の不甲斐なさ理解できているからこそ。ポジション上、スバルと突出すべきではなかったと理解できるからこそ。
 なのはの言葉を否定しない。
 
 それでも、己の力を場違いだと考え――先日のエリオやキャロのように、力の証明を果たせなかったティアナには、すんなりと受け入れられるものではない。
 証明できなかった以上、仲間と共に立つべき存在にはなれないとティアナは結論づける。
 現状――仲間の中で、ただ一人足を引っ張る存在だと。
 右も左も仲間がいる。けれど、その仲間のなかで、唯一己が劣るのだと。
 そんな己が仲間に指示をして……たとえ、命令を聞いてくれても、ティアナ自身がソレを望まない。耐えられない。
 
 ティアナは戻る。なのはと共に、アグスタへ。
 行きと同じく、従順になのはの後ろをついて行く。
 終始無言だった為か、俯いたままだった為か。
 心配そうな視線を時折感じながら、ティアナは黙って歩き続けたのだった。

691KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:01:39 ID:DKrJiRFY0

 やがて、その先。
 なのはと別れたティアナを待ち受ける2人の仲間。
「ティア!」一人は息を切らせて駆け寄ってくる古くからの相棒。
 自分が誤射されて――それでも、何時もと変わらず息を切らせ、心配してくれるスバルに嬉しくて/余計に申し訳なくて、
「いろいろ、ごめん」自然と謝罪の言葉が漏れ出した。
「ぜーんぜん」笑顔で受け止め/気遣うように問いかける「……なのはさんに怒られた?」
「少しね」
「そう……」
 自分のことのように落ち込む姿を見せられ、思わずティアナは苦笑する。
 それだけでも、どこか心が軽くなってしまうかのような気持ちになるのだった。
「あんたが落ち込むこと無いでしょ。一緒に無茶したといっても、あんたを撃っちゃったあたしだけが怒られるのは当然よ」
「ほう……ちゃんとわかってるじゃないか」そして、もう一人。「ようやく戻ったか」イザークはいつもと変わらず、ゆっくりと歩み寄る。
「悪かったわね。あんたにも迷惑かけて」
「殊勝な心がけだな。それより、早く手伝え」
 バインダー/書類の数々をティアナの両手の上に落とすと背を向ける。
「けど、ティアは休んでたほうが……検証の手伝いはあたしが頑張るから」スバルの批難。
 一瞥。「それでウジウジされるとこっちがかなわん」イザークは鼻で笑う。
「わかっているわよ。凡ミスしておいて、サボりまでしたくないしね」
 今は身体を動かすことが賢明だとイザークに告げられ、ティアナは頷いた。
 身体を休めたところで、頭は休まらない。
 一人で休んだところで、やってしまうことは決まっている――自己嫌悪。
 だから今は、グルグルと考える時間をティアナは自分に与えない。
「やると決まったら、さっさと終わらせるわよ」
「うん」
 突き動かされるように、ティアナは検証に打ち込むのだった。



 ホテル・アグスタからの帰還。そして解散から数時間後。
 
 夕暮れから宵闇に沈んだ隊舎側の木々の中で、一人自主訓練に励む者がいた。
 愛機のクロスミラージュを両手に携え、ティアナは周囲に展開したスフィアが光る瞬間に銃口を向けながら、何度も何度も繰り返す。
 360度。全方位に浮かぶスフィアに意識を傾けて。
 大きな動きは無くとも、瞬間毎に全力で身体を動かして。
 蓄積する肉体と精神の疲労――息が上がってきているのを感じながら――それでもティアナは繰り返す。

 少しでも力を付けるために。
 少しでも仲間に追いつくために。

 額に滲む汗を拭いながら、ふらつきだした足に力を込める/握力の落ちた両手に力を込める。
 明らかなオーバーワークに身体中から悲鳴が上がろうが気にしない。
 ただひたすら繰り返す。
 一人で黙々と繰り返す。

692KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:02:41 ID:DKrJiRFY0

 踏み込みの足音と荒い息づかいだけが木霊する中、ふいに誰かの拍手が紛れ込んでいた。
「もう4時間も続けてるぜ。いい加減倒れるぞ」
「ヴァイス陸曹。見ていたんですか」
 昔なじみの来訪者。
 ティアナは訓練を中断し――膝に手を置きそうになるのを堪え、姿勢を正す。
「ヘリの整備中にチラチラとな」苦笑。
 階級を気にした応対で返され、そんなティアナの変わらぬ真面目さが、かつての戦友に重なった。
「ほれ」
「ありがとうございます」
 差し出したドリンクを口にし/喉の渇きか、一息に飲もうとして咽せるティアナを眺めながら、
「ミスショットが悔しいのはわかるけどよぉ、精密射撃なんかそうホイホイ上手くなるもんじゃねえし。無理な詰め込みで変な癖つけでもしたらよくねぇぞ――という、陸曹如きとはいっても、元はスナイパーだった先輩からの経験談だ」ヴァイスは己の経験と教えられた知識を告げていた。
 だが、ティアナは首を横に振る。
「詰め込んで練習しないと上手くならないんです。凡人なもので」
 優等生のままの訓練を続けたところで誰にも追いつけない。
 皆と同じように訓練に励むだけでは誰にも追いつけない。
 故に、一日の時間を誰よりも長く訓練に割り当てる。
 
 スフィアを展開。一息をつくことができたおかげか、足に身体を支える余裕が戻っていた。
 
「ま、邪魔する気はねえけどよ。お前等は体が資本なんだ。体調には気をつかえよ?」
 ヴァイスは“凡人”という言葉を否定しない。ティアナの周囲に存在する魔導師/知り合い達の実力を知っているからこそ、ティアナの自己評価が“凡人”になることは、仕方がないと理解はできている。
 己もオーバーSランクの人間と身近な存在になっていたからわかること――異常なまでに能力の高い/素養の高い仲間達に囲まれるが故の劣等感。
 ヴァイスは大人だ。自制/割り切ることも簡単にできる。
 だが、ティアナは子どもだ。それも負けん気の強い子どもであったことは、昔から知っている。
 そんな彼女が、今何を思って訓練に望んでいるのか、わからないはずも無い。
「ありがとうございます。だいじょうぶですから」
 予想していたティアナの解答にヴァイスは苦笑する――努力の否定はしたくもないが、無茶を見過ごして倒れさせる訳にもいかないとも思ってしまう自分に向けて。
「時間も時間だ。日付が変わるまで……は長いな。後、30分くらいにしとけよ」
 無言。
「わかったな」
「……はい」
 おざなりなティアナの返答/同意。
 言質を取った以上、ヴァイスのこれから行うことは決まっていた。

693KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:03:39 ID:DKrJiRFY0

 隊舎――スバルとティアナの自室。

 一人で自主練に向かい、夕飯の席にも現れなかったティアナを心配し、スバルはため息を吐き出していた。
 きっと無茶をしている。そうわかっていながらも、スバルにティアナは止められない。

 昔、聞かされたティアナの夢。執務官を志望する理由。
 全てを聞かされていた。
 一人でティアナを育ててくれたお兄さんのこと。
 ティアナが10歳の時に任務中に亡くなった後、上司から最後の仕事が無意味で役に立たなかったと言われて、すごく傷ついて悲しんだこと。
 お兄さんが教えてくれた魔法は役立たずじゃないことを証明するために、どんな場所でもどんな任務でもこなせる魔導師になってみせるということ。

 お兄さんが叶えられなかった執務官になる夢を叶えるために一生懸命に必死に訓練に望むティアナを/訓練校時代から一度も変わらない、強くなりたいというティアナの気持ちを、スバルは止められない。

 日付が変わるまで――1時間以上。
 まだまだティアナが帰ってこないであろうと予想できて――しかし、小さいながらも彼女の声が耳に届く。
 次第に大きくなりながら。
 それが、文句であり罵倒であるとわかった時には目の前の扉が開かれる。
「って、ヴァイス陸曹! どうしたんですか」
 視線の先――挨拶代わりに片手を挙げるヴァイス+その肩に担がれ、暴れるティアナ。
「無理にでも連れてかないと終わりそうも無かったからな。見逃して体調崩されたらなのはさんにどやされる」
 今はしがないヘリパイをしていようが元は陸士。
 頬に肘がめり込もうが。
 頭を強く押されようが。
 少女が暴れたところで動じない。
「ティア。肘、肘」
「気にするな。ティアナはお兄ちゃん子だったからな。“愛しのおにい”以外が担ぐとこうなるのは知ってるさ」
「何言ってるんですか! ヴァイス陸曹」
「大人しくしねえと、ティアナが“愛しのおにい”の職場に来たときの可愛い話をスバルに喋るぞ」
 真っ赤に染まっていっそう暴れ出したティアナを黙らせ大人しくさせると、ヴァイスは無造作にベッドの上へと放り捨てる。
 鈍い音。
 くぐもった悲鳴。
 共に無視しながら、感慨深げに口に出す。
「流石に鍛えた筋肉も付いてる分、重くはなるな」
 飛来してきた枕を受け止めながら、ヴァイスは笑う。
「まだ2度目の実戦だ。何を考えるかは自由だが、今日はしっかり休めよ」
「ヴァイス陸曹にそこまで言われる筋合いはありません」
「ちゃんと約束はしただろ、後30分って。ティーダは約束を守る男だったんだけどなあ……」
 右手で頭を押さえ、盛大に肩を落としてみせる。そんなわざとらしいヴァイスの行動だが、余計な一言がティアナの口を封じさせていた。
「わかりました。今日はもうしません。早く寝ることにします」
 ティアナは選択する。ヴァイスをここから追い出すことを。
 これ以上留まらせれば、その軽い口からどれだけのスバルに聞かせたくない歴史を語られる。
 故に、しおらしく頭を下げて目で訴える――早くどっか行け。
 そんな応対にヴァイスは愉快そうに笑みを浮かべると、踵を返してもう一言。
「そういえば、明日は5時にならないと玄関は開かないらしいぜ」
 目覚まし時計に伸びていたティアナの手が止まる。
「どういうことなんですか?」ティアナ――年上に向けるべきではない不機嫌そうな表情で。
「俺に言われてもな。アスランが言うには、隊舎の防犯システムを弄るかなにかで……詳しくはわかんねえけど、部隊長さんがオーケー出してるんだから、ちゃんとした理由はあるだろうさ」ヴァイス――小さく肩をすくめてドアの先へ。
 数秒後にはティアナが詰め寄ってくることを予想できたのか、廊下を出ると同時にヴァイスは走り出していた。

 一拍。

「ティア……もう、寝る?」
「寝るわよ! ちゃんと」
 訓練着を脱ぎ捨てると、ティアナはベッドの上に飛び込んでいた。

694KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:04:10 ID:DKrJiRFY0

 普段の耳障りな音とは僅かに異なる電子音が頭の中を木霊する。
 重い身体に辟易しながらも左腕を伸ばす。
 叩く。叩く。叩く。
 停止。
 首をひねって確認した時刻は午前5時の少し前。
 ある程度の睡眠をとれたおかげか、一度目が覚めれば眠気も皆無。
 身体が重いことは重々承知。痛みがないだけマシだ思いながら、少しでも早く自主訓練を開始しようと身体を起こそうとして――ティアナは気付く。
 視線の先――いつもより盛り上がる布団。全身ではなく、一部の身体のみが重かった。
 予想は一つ。嫌な答え。
 それでも、このままにしておくこともできず、布団をどける――ティアナの胸に顔を埋めるスバルがそこに居た。
 一拍。
 2つの柔らかい膨らみを堪能するかのようにモゾモゾと動かしていた顔がティアナに向けられる。
「あ、おはようティア」幸せ100%の笑顔。
 瞬間、ティアナの両手はスバルの頬に伸びていた。
「なーにが、『あ、おはようティア』よ。いったいどういうつもり? あんたのベッドは上でしょ」
 全力で右手は右に/左手は左に。
 スバルの頬を引き伸ばしながらティアナは問うていた。
「ひゃ、ひゃべれない」
「念話があるでしょ」
「ひぢょい」
「で?」
 ガンを飛ばされ+痛みに観念したのかスバルは答えを返す。
(「いつも寝るときってベッドがあるから別々だし、ティアは一緒に寝るのは嫌がるし……だから昨日はチャンスかなーって……ごめん」)
 殊勝に瞳を伏せられ、ティアナは嘆息する。
 スバルが甘えん坊なことは訓練校時代から知っている。
 片親がいない影響か。姉にべったりだった影響か。
 聞いたことは無くとも理由は察せられる。
 それに、本気で怒っていたというわけでもない。
「まったく……しょうがないわね」
 ティアナは両手を離すとスバルの頬を解放してあげる。
 朝の目覚めから、すでに余計な時間が過ぎている。これ以上はもったいない。
 ティアナは身体を起こし――もう一度スバルに問いかけた。
「で、アンタは何してるわけ?」
 見下ろした先――スバルが胸に顔を埋めていた。
 それも、落ちないようにティアナの背中にがっしりと両腕を回しながら。

 視線がぶつかる。
「だって、『しょうがないわね』ってことは……いいんじゃないの?」スバル――しおらしく小首を傾げてみせながら。
 瞬間。ティアナの両手はがっしりとスバルの頭を捕まえていた。
「へえ……アンタがそこまでお馬鹿なんて知らなかったわ。ほんと、しょうがないわね」
 満面の笑顔で語りかけながら。瞳は告げる――わかっているわよね、と。
「ごめんティア。冗談だからその手は――」
 朝の小鳥の鳴き声に混じって、一人の少女の絶叫が宿舎に木霊した。

695KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:04:40 ID:DKrJiRFY0

「なるほどねえ。だからスバルの頬がそこまで赤いのか」
「ひどいんだよ、ティア。ギューって千切れるくらいに引っ張るから」
「やれやれ。胸の中に顔を埋めるくらいで文句言うなんて、心が狭いぜ」
「そうだよね」
「うっさい、変態」
「俺だって女の子の胸に顔を埋めて眠りたいってのによぉ」
「八神はやてが部隊長とあっては、そうそう隊の女に手も出せんか」
「そうなんだよな。ほんとに警戒が堅くて」
「そろそろ話してもいい?」
 食堂――朝食にはままだ早く人気の少ないその場所で、4人の訓練生達が額を寄せ合っていた。

 起床時間と起きてからのやり取りのおかげで自主練を行う時間は残されておらず、できることと言えばミーティング。ティアナは朝食の時間も使って自主練の内容をスバルに伝えようと食堂に来たところ、どういうわけかそこにいたイザークとディアッカが合流した結果。
「けど……」
 ティアナは一同を見回しながらも遠慮がちに告げる。
「スバルもそうだけど、別に付き合わなくていいのよ」
「一人より二人」スバル――両手で作った拳を胸の前で掲げ。
「二人より三人」イザーク――口角を僅かに持ち上げて、
「増える分、練習のバリエーションも増えるよな」ディアッカ――自信を持って胸を張る。
「あたしに付き合っていたらまともに休めないわよ」
 即答。「知ってるでしょ。あたしは日常行動だけなら4、5日寝なくてもへいきだって」
 追随。「俺もスバルとはいかんが多少の無茶はできる」
 追従。「ま、俺は端から手伝える時しか参加しないつもりだし」
「日常生活じゃないのよ。スバル……アンタの訓練は特にきついんだから、ちゃんと寝なさいよ。イザークも前衛だし」
 否定。「やーだよ。あたしはティアと一緒のコンビなんだから」
 同調。「俺も貴様と同じストライカーズの一員だからな」
 だから一緒に頑張るのだとティアナは二人に告げられる。
「あ……」
 自然と頬に熱を感じ/自分の表情が予想できてしまい「勝手にすれば」視線を落とす/俯いた。
「おいおい、横向いたら離しできないじゃねーか」
「うっさい。ちゃんと話すわよ」断言。
 それでも十数秒。
 ティアナが面を上げるのを待っていたスバルが問いかける。
「で、ティアの考えてることって?」
「とりあえず、短期間で現状戦力をアップさせる方法。うまくいけば、アンタとのコンビネーションの幅もグッと広がるし、イザークとの連携強化とかエリオやキャロのフォローももっとできる」
「うん。それは、わくわくだね」
「たしかにレベル0上げる方が楽だよな。すぐに上がるし、トータルで考えたらそっちの方が早い」
 イザークも無言でうなずき、三人の同意を得たティアナはこれから行うことを具体的に話し出す。
 現状、ガジェットの能力向上及び新型機が出てくることは予見できるもの。
 そのために戦力を向上させることへの文句を言う者など、一人も居なかった。
 いつ、いかなる時に強敵ができるともわからない。そのためにも強くなるに越したことは無い。

 朝食の時間が終わるギリギリまで、4人の話し合いは続くのだった。

696KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/08/16(木) 00:05:58 ID:DKrJiRFY0

以上となります。ご静読ありがとうございました。

編集に意外と時間を取られてしまい、前回から間が開いてしまいました。
当初予定はなのはさんバトル後含めてでしたが、ここで7000字突入してきたので分割としました。
長さ的には妥当なのかがちょっと判断しかねてますが、もうちょい一話は長い方がいいでしょうかね?

ではでは、またいずれ  ノシ

697名無しの魔導師:2012/08/16(木) 11:48:20 ID:U9W5pLDk0
久々のGJ! 映画効果かここにどんどん人が戻ってきていてうれしい限り。
文章の形も独特でいいですね。

698名無しの魔導師:2012/08/19(日) 01:06:28 ID:0J4BSvTw0
この調子で途中で終わってる物語が再開してくれるといいな……

699名無しの魔導師:2012/09/03(月) 23:44:48 ID:vQdgoQQMO
D.StrikeSの続き読みたい

700名無しの魔導師:2012/09/04(火) 04:12:27 ID:U7bvYgzEO
座談会へGO!

701名無しの魔導師:2012/09/04(火) 19:57:13 ID:hJA56wMMO
>>699
自分もDストの続きが気になるなぁ
あのアフターでのvividはどうなるんだろうか想像してしまう

702Argusheuromor:2012/09/05(水) 09:49:14 ID:L6YZsfIg0
Ever due to the fact the public became mindful about the hazards of cigarette smoking several a long time in the past, many individuals have found quitting the tobacco addiction challenging. Companies are actually innovating and producing using tobacco cessation items for a few years now. From nicotine patches to gum, nicotine addicts are utilizing them to stop their behavior.

<a href=http://pic-n-save.com/mr~mid-261137~Vapor-Ultra.aspx&gt;electronic cigarette electronic cigarette </a> (often known as e-cigarettes and electric cigarettes)are the newest item around the marketplace. They are really created to look and feel like genuine cigarettes, even all the way down to emitting artificial smoke nonetheless they do not basically contain any tobacco. People inhale nicotine vapour which seems like smoke without having any from the carcinogens uncovered in tobacco smoke that are damaging on the smoker and other individuals approximately him.

The Ecigarette contains a nicotine cartridge containing liquid nicotine. Whenever a person inhales, a tiny battery driven atomizer turns a small volume of liquid nicotine into vapour. Inhaling nicotine vapour provides the person a nicotine strike in seconds rather than minutes with patches or gum. Once the person inhales, a small LED mild in the suggestion from the electronic cigarette glows orange to simulate a real cigarette.

The nicotine cartridges by themselves are available in numerous strengths. Most of the key manufacturers, including the Gamucci electronic cigarette have total power, 50 percent energy and minimum energy. It is designed for individuals who desire to stop smoking. Because they get used to making use of the e-cigarette, they could step by step decrease the power they use right until they give up.

The key rewards e-cigarettes have about nicotine patches or gum is to start with, users hold the nicotine strike considerably quicker and secondly, since a huge motive why smokers fall short to quit suing patches and gum is simply because they still pass up the act of inhaling smoke from a cylindrical object. The electric cigarette emulates that even down to the smoke.

The ecigarette is additionally helpful from the monetary point of view. A set of 5 nicotine cartridges fees approximately £8 and is also equal to 500 cigarettes. Although the first financial commitment of an e-cigarette package of £50 may appear to be steep at first, consumers spend less money in the long term.

As with quite a few popular products, there happen to be a large number of inexpensive Chinese imitations flooding the market. They are ordinarily fifty percent the price of a branded e-cigarette and appear like the actual detail at the same time. It is actually inadvisable to use these since they have not been topic for the exact same rigorous testing the official e-cigarettes have and can potentially be hugely harmful on the user's wellness.

As e cigs turn into increasingly more well-liked, they're more and more made use of to smoke in pubs and clubs with a smoking cigarettes ban. E cigs seem to be the next matter and may shortly change genuine cigarettes in clubs.

703名無しの魔導師:2012/09/06(木) 22:51:58 ID:9MyiGh760
自分はリリカルクロスSEEDが…

704名無しの魔導師:2012/09/08(土) 13:13:48 ID:/SVKl2ysO
望氏、また書かないかな……

705名無しの魔導師:2012/09/08(土) 20:08:18 ID:8..nbhK.0
同じくリリカルクロスSEED求む

あそこまで上手いことまとめて、これからstrikersってときに止まったからなぁ
ゼストやティアナの兄とキラになにがあったのかがすごい気になる

706名無しの魔導師:2012/09/09(日) 01:50:28 ID:YbIKjYPA0
遅筆でもいいから書いてほしいですよね。

707KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/09/12(水) 19:15:50 ID:ukwcCjCI0
こんばんはKIKIです。
前回の続きが完成したので今晩10時頃に投下させていただきます。

708KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/09/12(水) 21:59:57 ID:ukwcCjCI0
そろそろ時間となったので投下させていただきます。

709KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/09/12(水) 22:01:13 ID:ukwcCjCI0
訂正――前回の「願い 2人と(前編)」にて、前編をとりやめとして「願い 2人と」とさせていただきます。


grow&glow PHASE 21 「たいせつなこと」始まります


 秘密の自主訓練開始から2日目。
 機動六課宿舎――容易に誰かが入ってこない場所/スバルとティアナの自室に腰を下ろす3人の訓練生。
 時は夕刻。なのはの教導を終え、汗を流した彼女たちは、何かを話し合っているのか――額を寄せ合い、展開させたモニターを食い入るように見つめる時間はかれこれ数十分。
「この訓練時間だと貴様が保たん。減らせ」
「けど、これくらいしないと」
 きっとなって顔を上げる――それでも変わらない。
「減らせ」
「わかったわよ」
「しょうがないよティア。このメニューだと訓練に響くから」
 イザークが/ティアナが/スバルが思いの丈を正直に口に出しながら話は進む。
「しかし、貴様が格闘戦か……」
「あたしがダガーを使うなんてなのはさんも思わないから奇襲もできる。勝つためならこんな手札もある方がいいじゃない?」
「だが、格闘戦がそう簡単にできると思うなよ」忠告――おもしろさ半分。あきれ半分――そんな微妙な表情をイザークは浮かべてみせる。
「そこは……あたしと時々シューティングアーツやってるから、感覚はわかってると思う」
すかさずのフォローをスバルに入れられ、ティアナは左手人差し指をイザークの前に突き出した。
「だ・か・ら、最後の最後に使うって言ったじゃない。1回だけの奇襲だったらきっと使えるわよ」
 確かな根拠はない。
 誰かのお墨付きがあるわけでもない。
 それでも、できるかどうか不安だからやらないという消極的な選択肢は、今のティアナの中には存在しない――模擬戦だから/証明したいから。
 だが、返されたイザークの言葉に言葉が詰まる。
「貴様が格闘戦を覚えようとすることに反対などするか。執務官を目指す以上、格闘戦も必要だろう。初歩の初歩なら教えてやらんこともない」
 前向きな言葉に賛同したのか、ティアナにとっては予想外の提案。
 思わず呆け/瞬間、イザークの眼前に向けていた人差し指をはたき落とされる。
「おい、貴様……執務官には格闘戦ができた方がいいことくらい知っているよな」
「わ、わかってるわよ」
「なら……いい。それよりも、だ」
 憮然とした表情から真顔に戻ると、イザークは問い掛ける。
「貴様等は高町なのはにこのことは話さないのか?」
 なぜコソコソと隠れるように訓練するのかを敢えて問い掛ける。
「……なに言ってるのよ」
 視線を落としたことを気にするでもなく、イザークはティアナに問い掛ける。
「俺たちがやってることは隊にとっても必要な戦力向上だろ? 後ろめたいことでもあるのか?」
「それは……」
 ――わかってるんじゃないの? 結果がどうなるかくらい――とティアナは瞳で疑問を投げ返す。

710KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/09/12(水) 22:01:45 ID:ukwcCjCI0

 高町なのはの人間性。六課に配属されてから/教導を受けてから感じる高町なのはが安全に人一倍気を遣っていることを。
 だからこそ、今の自分たちを――無茶をしようとしている3人の行為を許してもらえるとは考えていない。
 だが、イザークは鼻で笑う。
「高町なのはの教えに不満がある。だからあたし達で考えたと言えばいい」
 オブラートの“オ”の字もないストレートな言いように目眩を覚えながら、ティアナは思い出す。イザークもスバルとは違う意味で馬鹿だたことを/曲がったことが嫌いな馬鹿正直な人間だということを。
 常に正々堂々。
融通のきかない男。
「次の模擬戦での勝負を申し込む。なのはが教えたこととは違うティアナが考えた戦い方で勝負させて欲しいと頼めばいいさ。自分の考えに自信があるのだろう?」
「そりゃあ、そうよ……って、あんたは本当にまっすぐね」
 すがすがしいまでの言いように感心してしまった自分をティアナは心の中で叱咤する。
 言いたいことは間違ってはいない。
 それでも、言い方がどうしようもない――無謀を嫌うなのはに喧嘩を売っているようなものだ。
 訓練校時代も、陸士部隊に配属になってからもスバルと共に叱られたことは何度もある=慣れている。だが、それ以前に――
「イザークの言うことも間違ってないけど、先に言ったら、なのはさんはきっと止めるんじゃないかな」スバルは断言する。無茶を見逃すはずがないと。許すはずがないと。
「間違っていると思ったら間違っていると言ってやればいい。コソコソとするくらいなら堂々とぶつかるべきだ。全力全開で、昔の俺たちのようにな。言い合いの時から負けるつもりか」

 一拍。

 二拍。

 返されない言葉を待てず、イザークは大きく息を吐き出した。
「ティアナ、スバル……スターズ分隊は何人で一つの分隊だ」
「あたしとスバルとイザーク。それと」「なのはさんにヴィータ副隊長」
「そうだ。俺たちは訓練生じゃない。魔導師として/機動六課の一員として/スターズ分隊の一員として今ここにいる。何か新しいことをするとしても、俺たち3人だけの問題にはならん」
 庇護される側だった訓練生時代とは違う。六課という場所で働く以上、自分の行為一つ一つに責任が付く。それは当たり前のこと。
「自分たちの問題だけで済んだ昔とは違う。俺たちが無茶をしようが何をしようが、敵は待ってはくれない。俺たちの事情など関係ない。自主練をするにしてもそうだ。機動六課のスターズ分隊の一員である以上、いつでもどんなときでも、任務に就ける状況になる必要がある」
「……それくらいわかってるわよ!」
 ティアナは反射的に言葉を口にして――しかし、次の言葉が続かない。
うっすらと気づいていた事実。
 イザークに気づかされた事実。
 ――わかっていても、見えないふりをしていたことに変わりない。
 啖呵を切って/即座に言葉を失ったティアナの理由を察したのか、ぽつりとイザークはつぶやいた。
「俺が……いや、俺たち“4人”が訓練校を卒業した後のことは知っているよな」
「あたしもティアもちゃんと覚えてるよ。ディアッカから教えてもらったこと」
「俺たちには、その時どうしても倒せなかった敵がいた。4人掛かりで挑んでいつも負けだった」
 うつむいていたティアナ/その視線の先――イザークの拳がきつく握られていた。
「周りが見えなくなっていた。俺たち“4人”以外にも仲間がいたが、何も聞かなかった……違うな。俺たちは何も聞こうとしなかった」
 自嘲と後悔の念を交えた語りは終わらない。
「悔しかった。だから無茶をした。無謀を繰り返した。俺たち4人は、それが間違っているとは思わなかった」

711KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/09/12(水) 22:03:29 ID:ukwcCjCI0

 数拍――無言。
 ぶつかった視線に告げられる。言いたいことはそれだけだと/これ以上、何かを話すつもりはないのだと。
 
 2人は考える/比較する/予想する。
 イザーク達の結果がどうなったのか――言われなくともティアナとスバルは知っている。イザークとディアッカ以外の2人がどうなったのかを知っている。
 1人は前から身を引いている。そして、もう1人は――。
「ねえ……あんたは、それもあったからあたし達に協力してくれるわけ?」
「そうだ。無論、貴様達が同じフォワードの/スターズ分隊の仲間だから。が、第一だがな」
 即答されて/仲間だからという理由を一番に告げられて、ティアナには「ありがとう」他の言葉は見つからなかった。
 同情だろうが――それでも大切な仲間として手伝ってくれることが嬉しかった。
 憐憫だろうが――肯定も否定もしてくれる/諭してくれることが嬉しかった。
「……気にするな」
 気恥ずかしくなったのか、視線を背けるイザークがどこか可愛く思いながら、ティアナは思う――ほんの少し先を歩むその肩に追いつきたいと。
 視線を横へ/そうするとわかっていたかのように、笑顔のスバルがそこにいた
「頑張ろう」
「そうね」
 何があっても自分を支えてくれる/力をくれるスバルの存在。だから思う――その信頼を裏切りたくないと。

「じゃあ、善は急げだね。なのはさんのところへ出発だー!」
「って、あんたはいつも急なのよ」
 腕をつかまれ+立たされて思わずティアナは狼狽える。
 教え子として/同じ分隊の一員として、自分たちがしようとすることを伝える気持ちにはなっている。
だが、足が竦んでいた。
「ティーア、頑張ろう。あたし達もついて行くから」スバル――目ざとく気づき、自分の胸の前でガッツポーズを組んでみせる+視線は下へ/イザークへ。
「……しょうがないか」イザーク――やれやれと首を振りながら/それでも立ち上がる。
「ということでレッツ・ゴー」
「だから、少しは気持ちの整理を」
 ドアを開けられ、ずるずるとスバルに引きずられ――ティアナは第三者と目があった。
「なにやってんだよ」爆笑するのを堪えて笑うディアッカとその後ろに続くエリオとキャロの計3人。

 数分――斯く斯く然々。Byスバル

「なら、俺たちもついて行くぜ。なっ」
「はい。僕も応援します」
「わたしも及ばずながら手伝います」
 仲間は増えていた。

712KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/09/12(水) 22:04:14 ID:ukwcCjCI0

機動六課隊舎屋上――演習場が見下ろせるその場所で向き合う2人=なのはとヴィータ。
「ったく、なのはもいい加減に飯食いに行こうぜ」
「もう少しで終わるから。ヴィータちゃんは先に食べててよ」
「今は、なのはと食べたい気分なんだよ」
「ありがとう」
 なのはは笑顔で答えながら/両手は展開させたモニター上を疾走中。
今日の訓練でのことを思い返しながらなのはが行うことは、明日以降の訓練メニューへの微調整。
 もう少し――後30分は掛かるであろうなのはの仕事を見つめながら、ヴィータはぼやく。
「ったく。なのはは自分をもっと大事にしろよな」
 一年間の教導期間。ずっと見ていられないからこそ、なのはができる限りのことを教えて上げようとして、休暇を削ることは予想できてしまう。
 嘆息。「教官っていうのも因果な役職だよな。面倒な時期に手ぇかけて育ててやっても、教導が終わったら皆勝手な道を……」
 ヴィータの言葉がふいに途切れ、なのはは振り返る。
 そして気付く。
 それが1人だけのモノなら気づかなかったかもしれない。
 だが、何人分もの階段を昇る足音がなのはの耳の中へと届いていた。

 瞳がとらえる6人の教え子達。

「どうしたのかな? こんな時間にわざわざ集まって」
 傍らに立っていたヴィータをその場で待たせ、なのはは歩み寄る。
 教導を始めてから、訓練後に教え子全員が会いに来ることは初めてのことだった。
 浮かべる疑問の表情に答えるべく、ティアナは前へと一歩を踏み出した。
 何かを覚悟した/決意した強い瞳を向けながら、
「なのはさん」
「どうしたの? ティアナ」
「なのはさんに言いたいことがあるんです」
 いつもとは違う空気を感じ取り、視線をティアナから外す/後方へ――誰もが、真剣な眼差しを向けていた。
「どうしたのかな? 改まって」
「実は……」
 言いよどむ/大きな決心をしたであろう教え子の言いそうなことをなのはは予想した。
躊躇うことなく、告げる。「わたしの訓練に、何か疑問とかあったりしたかな」
 瞬間。
 なのはの耳に、一つではない息を飲む音が舞い込んだ。
遅れて「……はい。そうです」ティアナの肯定。
「おいオメェーら!」
 思わず声を上げた/駆け寄ろうとするヴィータをなのはは手で制し、向けられた蒼の瞳に続きを促した。
「正直に言うと、なのはさんの練習方法には疑問があります。敵も新型が出てきてどんどん強くなっています。それは、きっとこれからも。だから少しでも早く戦力アップを図るべきではないでしょうか?」
 一息に淀みなく綴られる言葉――何度も考えたであろうティアナの想い。
「それで?」なおも問う。艶然なほほえみを浮かべ、なのはは次の言葉を待ち受ける。
「今のような成果の現われにくい反復練習を繰り返すよりも、新しい技を使えるようにすべきだと考えます」
 重いため息を1つ。
「そうなんだ……みんなもそう思うのかな? わたしの教導は間違っているって」
 重い眼差しは2つ。
 ここに居ることが/ティアナに賛同することが、軽い気持ち/興味本位でないかを確認するかのようになのはは6人へと視線を向けていく。

713KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/09/12(水) 22:06:57 ID:ukwcCjCI0

 一拍。

言葉を淡々と。「必要だと考えた」
熱い眼差しで。「やってみて損はないんじゃないかなって思います」
頷きながら。「ティアナの考えも悪くないと思うぜ」
元気よく。「僕も強くなりたいって気持ちわかります」
淀みなく。「わたしも、フリードのおかげで強くなれました」
 否定はないが、ティアナを支持する5人の答え。
「そっかあ」なのは――落ち込んだかのように視線を落とし、
「なのはさんにもなのはさんの考えがあると思います。だから」ティアナ――予想していたかのように言葉を紡ぐ。「今度の模擬戦であたし達に証明させてください」
「へえ……」なのは――思わず言葉が漏れていた。
 話だけではなく、模擬戦で決着をつけようというティアナの宣告。
 エース・オブ・エースとして明確な地位を築いて以降、特に教え子から面と向かって異を唱えられてことは数少ない。自らを証明するために模擬戦を挑まれたことなど、片手でも十分に余るほど。

 血が騒ぐ。
 心が躍る。
「ティアナ……それは本気だよね。わたしの教導がしんどくて辛いから嫌だ……なんてことじゃなくて」言葉を静かに差し込んでの確認。
「違います」
 明確に告げられて/一度も逸らされなかった蒼の瞳に向けて、なのはは宣告への答えを告げる。
「そっか……じゃあ、しょうがないね。ティアナ達も一生懸命考えて決めたことみたいだし」答えは――是。
「……ありがとうございます」
 一瞬間、意外そうな/驚きに染まった表情は、即座に笑みへと切り替わる。
「そのかわり、わたしの訓練はちゃんと手を抜かないですること。もちろんスバルとイザークも」
「「「はい」」」
「それと、無理はしないこと。6時間はちゃんと寝ること」
「「「はい」」」
「わかった。じゃあ、わたしからの話はもうないから帰っていいよ。時間も時間だしね」
「わかりました。よろしくお願いします」
 久しく見ていなかったティアナの笑顔。
 仲間から祝福されながら階段を降りていくティアナを見送りながら、
「いいのか。なのは?」
「いいんだよヴィータちゃん」
 振り返る/渋面のヴィータに向けて頷いた。
「なのはは甘いんだよ。どれだけなのはが頑張ってるのかも知らずにあいつら勝手に言いやがって」
「にゃはは……たしかに直接文句を言われたのはショックだったけど、ティアナ達も一生懸命考えたみたいだし」
「やっぱりあれは演技だったのか?」
「なにが?」
「なんでもねーよ」
「それに、少なくともヴィータちゃんが認めてくれたし頑張れるかな」
「な!」
「なーに?」
なのはに抱きしめられる未来を予知したのか、ヴィータは数歩後ずさる
「なんでもねーよ。だいたいなのはもいいのか? これからの予定もあるし、もしあいつらが頑張って……その」
 負けるとは思わなくとも、不安がないと言えば嘘になる。
 そんなヴィータの気持ちを察したのか、なのはは満面の笑みで言い切った。
「もちろん勝たせるつもりはないよ」
「手加減なしかよ」
「せっかく勇気をだしてぶつかってきてくれたんだし、だったらこっちも全力全開でいかないと悪いからね」
「はは……勇気を出してって自覚あるのか」
「なにが?」
「なんでもない」
 ヴィータとの語らいを楽しみながら、なのはの仕事はもう少しだけ続くのだった。

714KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/09/12(水) 22:07:50 ID:ukwcCjCI0

 どんなに心待ちにしていても/不安に取り憑かれそうになっていても時間は過ぎる。
 なのはへの宣告から数日後=模擬戦当日。
 午前の訓練前。
 朝起きてから=数時間の緊張を続けるティアナをなだめようと必死なフォワード陣がそこにいた。
「ティア、こうやって深呼吸」
「ありがとう。……って、これ出産の時のでしょ!」
「昔、手のひらに“人”って言う字を書いて飲み込んだらいいよってフェイトさんから聞いたことがあります」
「フェイトさんの故郷で“人”ってどう書くのよ」
「……どう書くんでしょう」
「……だめじゃない」
 ティアナの緊張が移ったスバルとエリオを楽しそうに見守りながら、ディアッカはもう1人のスターズ分隊の1人に声をかける。
「やっぱり、あのなのはさんと勝負するってのは大変なんだな」
「俺も、ロングアーチや事務職員からも『頑張れ』と声をかけられていたが……それの分もあるんだろう」
 どこまでも淡々と答えてみせるイザーク――しかし、硬い表情から緊張をひた隠しにする努力を感じ取り、ディアッカの頬は自然と緩む。
「そういや、さっきも部隊長直々に励ましの言葉をもらってたな」ディアッカ――からかうように。
「まあ、本人を前に言った以上しょうがあるまい」イザーク――うんざりしたかのように。
 瞬間。
「『本人を前に』って、あんたが言ったんでしょ」
 イザークの眼前にティアナは詰め寄っていた。
「はやてさんにも、『頑張ってなー』ってわざわざ声かけられたし」
「知っている」
「まあ、なのはさんが周りにどう言ったのかはわかんねーからな」
「普段から話もしない人からも応援されるのよ! プレッシャー感じるじゃない」
「見方によったら、白い悪魔に喧嘩売ったようなもんだからな。興味は出るって」
 1人納得し、頷いてみせるディアッカ・エルスマン――まさに他人事。
 ティアナの左拳を躱しながら楽しげに笑う足下で、何かの端末が音を立てて転がった。
「あ」浮かべた焦りと気まずさetc……。
 瞬時、ティアナの手中に包まれる。
「ティアナ、返せってソレ」「却下」
 躊躇うことなく端末を起動。
 最初に表示された表を見て数秒。
「で?」
 剣呑な空気を感じ取り、ディアッカは正直に告げていた。
 姿勢を正した敬礼姿にて。「なのはさんに賭けました」
 ティアナが見ることとなったデータ/今日の模擬戦の勝敗を賭けた酔狂な者達/十数人の記録だった。
 言葉の意味を理解した残る4人からも批難の眼差しがディアッカに突き刺さる。
「で?」
「そりゃあ……俺に祝われるよりも俺に損させるって方がティアナの気合いもはいるだろ? っていう粋な計らいってやつだ」
 仰角45度の宙を向きながら、数秒でそれらしい理由を作り上げてみせ――それでもティアナの冷たい眼差しは変わらない。
 助けを求めるように視線をイザークへ――馬鹿にしたようなため息で返される。(「隠していた以上、どうしようもない」)端的な回答が添えられた。
 ティアナに賭けについて何も言わなかった以上、瞬時にばれる嘘だと気付かされ血の気の引いた時にはもう遅い。
 ディアッカの眼前――数日前のなのはの笑みとデジャブした。
「じゃあ……今あんたが賭けてる10倍は出しなさいよ」
「10倍かよ!」
「1回のディナー分の損ならやる気にならないわよ。だから10倍」
 艶然な微笑みの中、時折見え隠れする冷然さ。
 ――よろしくね! と肩を叩くティアナから、いつの間にか緊張の陰は消えていた。

715KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/09/12(水) 22:09:00 ID:ukwcCjCI0
―――――――――――――――――――――


 暇な職員が総出で見学に訪れた模擬戦から半日。
 全力を出し切り、疲労と魔力ダメージからティアナは卒倒。目を覚ましたのは、日付の変わる頃だった。
 熟睡できたからか。
 目が完全に覚めてしまったからか。
 眠気はゼロ。
 隣で眠っているスバルとイザークを起こさないように静かにベッドを抜け出して、保健室を後にする。
 特に目的があったわけではない。
 強いてあげるとすれば、わずかな喉の渇きをなくすため。
 故に、ティアナの足は食堂への廊下を歩んでいく。

 夜番が使うことも考え、一部の電気が灯されたままの食堂/目的地。
 その場所への来訪者は、ティアナの他にもう1人。
「あ……」
「ティアナか。久しぶりだな」
 ティアナが食堂へと踏み込んだ先/眼前――職員としての制服に身を包むアスランがそこに居た。
 瞬間。脳裏によみがえる数日前のイザークの言葉――頭を振って追い出していた。
「どうしたんだ?」
「なんでもないわよ」
 誰が見ても奇行であることを自覚し――話を逸らそうとティアナは話題を考える。
「こんな時間まで仕事なんて大変ね」
「ちょっと頼まれごとができたからな」
ふと気づく。アスランの両手に握られたコップ/琥珀色のコーヒーだ。
「はやてさんも仕事中なの?」
「差し入れは正解だが、それは違うな。なのはにこれから会うからそのついでだ」

 一拍

 聞き流そうとして、一つの言葉に意識が留まる。
「なのはさん、まだ起きてるんだ」
「ここ最近は、今でもずっと起きてるよ」
「そう……なんだ」
 知らなかった事実を教えられ、ティアナは口ごもる。
 そして思い出すのは今日の模擬戦。なのはの消耗は少ない訳がないことを。
 砲撃も収束砲も誘導弾も遠慮なく使用。3対1という精神的にも肉体的にも負担となる模擬戦を終えてもいつもと同じよう仕事をしている/仕事をしなければならないなのはと自分を比べてしまっていた。
「ティアナもついてくるか?」
 それ故か、アスランの誘いにティアナは頷いていた。


 数分後。
 薄暗いオフィスの中で浮かぶ輝きが一つ/展開されたモニターの明かり/なのはの仕事机。
 アスランに続いて、ティアナは昼間は通り慣れた机の間を歩み寄りながら、
「あ」
 思わず声が漏れていた。
 ティアナの目の前/頬杖をついて、うつらうつらと船を漕いでいる高町なのは。
 見慣れたことなのか、アスランは気にすることなく近づくと、静かにコップを置いていた。
「今、少し話せるか?」アスラン――なのはの肩を軽く叩きながら
「ごめん。ありがとアスランくん」なのは――焦点の合っていない半開きの瞳をアスランに向けながら――。

 ――アスランの背後/ティアナの存在をなのはは自覚する。

 瞳は全開に。動きは盛大に。
「ふぇぇぇぇぇ! ティアナ!」なのはは取り乱す。
「お、お疲れ様です」
 初めて目にする慌てふためくなのはの姿+モニターの明かりが、なのはのよだれの跡を照らしてみせていた。
「こんな姿、ティアナに見せたくなかったのに……」よだれをぬぐいながら。
「すまない。ちょうど途中でティアナに会ったから」苦笑いを浮かべながら。
 ジト目と頭を下げる両者――ティアナにとっては知らない/初めて見た六課での姿だった。
 わずかな沈黙。
 念話でなにかのやりとりを行ったのか無言で頷き合う2人。
「ティアナ」
「なに?」
「ちょうどいい機会だから、少しなのはと話をしてみたらいいんじゃないか?」
 なのはの側にあっ椅子を引くと、アスランはコーヒーの入った紙コップをティアナに差し出した。
「あんたはいいの?」
「また今度のほうが良さそうだからな」
 ティアナには理解できない苦笑を浮かべ、アスランはこの場を離れるのだった。

716KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/09/12(水) 22:09:34 ID:ukwcCjCI0
 
 向かい合うこと数秒。
 言葉を探しあぐねるティアナに向けて、なのははにっこりと微笑んだ
「そういえば、ティアナとこうして2人で話すのって初めてだよね」
「そうですね。あの、仕事のほうは」
「今日の分はアスランくんに任せたから大丈夫。あ、アスランくんには貸しがあったからティアナは気にしなくていいよ」
「わかりました」
 エース・オブ・エース/高町なのはを相手に面と向かって話すこと=ティアナにとって緊張をはらむもの。
 そんな固さを察したのか、
「あ、そうだ。これ食べる?」
 なのはは引き出しの中からチョコレートの袋詰めを取り出した。
 一口サイズのチョコレート数十個入りの袋。
「ありがとうございます」
 スバルにとっては盛大な喜びにつながるモノも、ティアナにとっては普通のありがたいモノだった。
 スバルのような反応を期待していたのか、わずかにしょげるなのはにティアナは慌てて考える。
 一拍。
 二拍。
 なのはがチョコレートを口に入れたとき、ティアナはふと気付く。
「今……少しだけ、なのはさんがスバルに似てるって思いました」
「どこどこ」
「おいしそうに何かを食べるところです」
「甘い物だからね。“白い悪魔”なんて呼ばれることもあるけど、わたしだってちゃんと女の子なんだから」
 高町なのは19歳――女の子? /ティアナの心の中に湧いた疑問。
 そんな微妙な表情の変化を察したのか、なのはの表情は変わる。ムスッと変わる。
「ティアナは今、何を考えているのかな」なのは――いい笑顔に切り替えて。
「な、なんでもありません」ティアナ――取って付けたような苦笑いで対応。
 見つめ合うこと数秒間。
「さてと、冗談はこれくらいにして……」固まるティアナに満足したのか/それ以上話題が思い浮かばなかったのか、なのははコーヒーを一息で飲み干して一言。「お話、しよっか」本題へと舵を切る。

717KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/09/12(水) 22:10:30 ID:ukwcCjCI0

「ティアナは、今日の模擬戦で満足できた?」
「はい。悔しくないって言えば嘘になりますけど、それでも今のあたしができることは全部出しました」
 全力で挑んだ結果――なのはの勝利。
「あたし達がなんでそう思ったかの気持ちは伝わったと思います」
「なるほどね」
 全力で挑んだ過程――1対3とはいえ、模擬戦はなのはにとっては余裕のあまりないものだった。
「けど、びっくりしたかな。イザークくんはゼロ距離で格闘しながら撃ってくるし、ティアナは幻術を交えての砲撃に格闘戦だもんね。あれって、誰かにアドバイスでもされたのかな?」
 相手の取り得る戦術バリエーションの増加=考慮すべき対応の増加――コンマ数秒のロスとはいえ、必然的になのはを一時的にであろうが後手に回すことができていた。
「全部あたし達で考えました」
「そっかあ……けど、次は通じないけどね」
 所詮は付け焼き刃。練度/質を考えれば、実戦で何度も使える代物でもない――信頼できるレベルに達していない。
 見慣れない行為に戸惑わせることができようが、スバル達よりも遙かに落ちる技能。すぐに慣れる/攻略される程度のもの。
 だが、ティアナ達の目的は勝利ではなく――認めてもらえることができるのか、その一点。
「なのはさん、あたし達の考えってどう思いましたか」不安げに。
「そうだね……ティアナの考えてたことは、間違ってはいないんだよね」にっこりと。
 なのはは机の中からクロスミラージュを取り出すと、ティアナの両手にそっと置く。
「命令してみて、モード2って」
 確認の視線には静かに首肯で促して――ダガーモードに感嘆の声を上げるティアナに答えを告げる。
「ティアナは執務官志望だもんね。此所を出て、執務官を目指すようになったらどうしても個人戦が多くなるし、将来を考えて用意はしてたんだ。アスランくんが来たのもそれ絡みだったんだけどね。クロスもロングももう少ししたら教えようと思ってた」
 嬉しそうに瞳を輝かせるティアナを優しく見守りながら――すぐにでもそうしてあげたいと思う気持ちに蓋をして、教官としてのなのはは告げる。
「だけど、出動は今すぐにでもあるかもしれないでしょ。だから、もう使いこなせている武器をもっともっと確実なものにしてあげたかった。もちろん、今もその考えは変わらない。模擬戦で気付かなかったかな? ティアナの射撃魔法って、鍛え上げたらすごく避けにくいし、当たると痛いってこと」
 ティアナは思い出す。数々の被弾。とどめとなった収束砲の威力――正直な痛みの記憶。
「そう……ですね」身をもってなのはに教えられた/体に刻まれた自分の可能性だった。
「私は、ティアナのそんな一番魅力的なところをないがしろにしてほしくない。させたくない。……だけどあたしの教導地味だからあんまり効果がでていないように感じて苦しかったんだよね? ごめんね」
「あたしのほうこそ……ごめんなさい」
 ティアナは実感させられる。
 大切な教え子として、なのはが自分のことを本当に見てくれていた/想っていてくれたことに。
 視界がゆがみ――瞬間、なのはに抱き寄せられていた。
「ティアナは自分のことを凡人って思うには、まだまだずーっと早いよ。慌てなくていいんだよ。ティアナも他の皆も今はまだ、原石の状態。本当の価値も分かりづらいけど、磨いていくうちにどんどん輝く部分が見えてくる。私はティアナには、射撃と幻術で仲間を守って知恵と勇気でどんな状況でも切り抜けるチームの核として育ていきたいんだ」

718KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/09/12(水) 22:11:35 ID:ukwcCjCI0

 驚嘆。「初めて知りました。そこまで考えていてくれたなんて」
 苦笑。「だからなんだけど……やっぱりもう少しは、今まで通りの地味でしんどい教導を続けたい。それと、実戦で本当に必要のない無茶はしてほしくない。此所は学校じゃなくて、命がけの時もある場所だから。それで、ティアナはいいかな?」
 見下ろす瞳に向けて/ティアナの答えは――決まっていた。

 快い返事を受け取り、安堵の気持ちに押されたのか、なのはの口から気持ちが漏れ出した。
「けど、ちょっと心配してたから、ティアナが正直にあたしに言ってくれて嬉しかった」
「え?」冷めたコーヒーを啜るティアナの手は止まる。
「ティアナ、この間のミスの後から、悩みも全部抱え混んでるみたいで……けど私、うまく聞けなくて……」らしくない/普段見ることのない、なのはの弱さを見た気がして、ティアナもまた正直に告げていた。
「それは、あいつ……イザークのおかげです。自分たちだけで抱えるのは良くないって」
「イザークくんが?」
「はい」
「そっか……経験者だもんね。私と同じ」
 天井を/その先を見つめるかのように/過去を思い起こすような言いようにティアナは釣られて訊いていた。
「なのはさんも、昔何かあったんですか?」

 翌日。
 午前の訓練を中断して行われたミーティングにおいて、ひとりの魔導師の失敗の記録/昔話が語られた。

719KIKI ◆8OwaNc1pCE:2012/09/12(水) 22:13:28 ID:ukwcCjCI0
後書き

 ご精読ありがとうございます。
 初代ノートパソコンが前回の投下から3日ほどしてご臨終し、作品の一部データが(バックアップ忘れで)吹っ飛んでワタワタしてましたorz。
 とりあえず、大学入学から使ってたので3年半の付き合いでしたね。(ナム

今回の話について……
 ぶっちゃけ、ティアナよりイザークとかディアッカのほうが指揮官適正あるような気がするんですけ(ゲフン。
 イザークがいたらコソコソすることなさそうなんで、こうなるかなーと勝手に改ざんしてみました。模擬戦はあえて描写するところも思いつかずカットしました。ただ、最後にティアナがぶち抜かれたわけですけどね・・・。
 しかし、訓練校とstsの間の話も書かないとわかりづらいなと思う今日この頃。あったことは全部じゃないけどSEEDみたいな感じなんですけどね。とりあえず、アスランやらかしてニコルーーーな結果です(マテ。

 あとは……この最後のなのはさんとティアナの語りは、なのはさんにとっては緊急出動後のことだったりするんですよね…とかいう舞台裏(汗

 ではでは、次回投下まで ノシ

720名無しの魔導師:2012/09/18(火) 06:54:31 ID:NVGwjI4kO
おー、久し振りに来たら書き込まれてたか、乙です。

721名無しの魔導師:2012/09/23(日) 19:15:45 ID:cd4KLprgC
随分と遅い感想ですが乙です。いい感じにクロスオーバーのよさがなのはさんとティアナとの一連の出来事で出ていてよかったです。

722名無しの魔導師:2012/09/25(火) 00:59:05 ID:hwb3RNWs0
最近盛り上がってきたなぁって個人的に思ってたけどそうでもなかったみたいだね……
気を長くして待つか……

723名無しの魔導師:2012/09/25(火) 16:37:04 ID:4YYlDMIoO
短編的な感じで>>722も書いてみたらどうだい?

今は昔と比べると作者が少ないからね……

724名無しの魔導師:2012/09/25(火) 23:23:51 ID:hwb3RNWs0
前書いた事があったんですけど文章力のなさに唖然してそれ以降書いてないです……

やっぱり書く側より読む側みたいです(; ̄O ̄)

725バーバリー セーター:2012/11/01(木) 07:26:32 ID:5fpxanN20
お世話になります。とても良い記事ですね。
バーバリー セーター http://www.burberryfactory.com/バーバリー-セーター-c-19.html

726バーバリー ショルダーバッグ:2012/11/05(月) 11:24:15 ID:sN1UWOro0
今日は〜^^またブログ覗かせていただきました。よろしくお願いします。
バーバリー ショルダーバッグ http://burberry.suppa.jp/

727名無しだった魔導師:2012/11/21(水) 20:29:02 ID:1zkzo0YAO
こんばんは、かなり久しぶりです。
KIKIさんgjでした。楽しく読ませてもらいました

今夜23時に自分も投下をします。
その後に少し……いや、かなり身勝手な申請をしようと思います。その時まで付き合ってもらえれば幸いです

728『鮮烈』に魅せられし者:2012/11/21(水) 22:59:50 ID:1zkzo0YAO
≪ストライクフリーダム、戦闘ステータスで起動完了。システム‐オールグリーン。クロスミラージュとのリンク良好≫
「うん。……ティアナ、見えてる?」
「ええ、バッチリよ。レーダー、センサー共に感度良好。向こう側までハッキリ見えるわ」

視界を覆っていた蒼い光が消えて、僕はゆっくりと瞳を開く。
そこは空だった。
遠くに映える山々と雄大な自然がある穹に、ただその身一つで浮遊するというのはやっぱり素敵なことだと思う。
何度体験しても感動的な事に変わりはない。

(魔法、か……こういう体験ができるって、やっぱり魔法使いなんだな)

機械に頼らない浮遊は人の夢だった。それを成す力は今、僕の背に蒼翼という形で顕現している。
そう。
ザフトの白服をバリアジャケットとして纏い、腰にルプス‐ビームライフルを懸架させた今の僕は魔導師だ。
御守りとして左胸に飾ったラクスの髪飾りを撫でて、再び想う。
これから僕は戦場へ赴くんだと。
パイロットとしてじゃなく、魔導師としての、訓練じゃない初めての実戦をするんだって。
僕はゆっくりと降下し、レンガ造りのビルの屋上──バトル・フィールド──に降り立った。
緊張する。だけど、楽しみでもある。
戦争はキライだけど、こういうのはキライじゃない。競い、己を高める為の戦いは美しいとさえ思うから。
僕はその領域に踏み込む資格を失ってしまったけど、それでも。
だから僕はデバイス‐ストライクフリーダムを使役し、この7対7のチームバトルに臨む。

「……シン。君の本気、僕が受け止めるから」

僕達の未来の為に。だから君も、僕の本気を受け止めてほしいんだ。


『第十四話 試合開始!』


「大丈夫? アインハルトちゃん、緊張してない?」
「いえ、私は大丈夫れす。おかまい……、〜〜〜〜!?」

あ、噛んだ。
緊張のあまりか舌足らずになってしまい、恥ずかしさに顔を紅潮させて口元を押さえるは、碧銀の長髪と光彩異色の瞳が特徴的な【女性】。
つまり、戦闘形態──大人モード──の少女アインハルトちゃんに他ならなかった。

(可愛いなぁ……って、そうじゃなくて)

うん、いつもクールなこの娘がこうも取り乱すのは、絶賛緊張中って証拠だよね。やっぱり大丈夫じゃなさそうだ。
戦闘開始までまだ少し時間があるから、ちょっと表情と身体の硬さが気になって声をかけたらコレだもの。
結果はどうあれ、声をかけたのは正解だったな。

「す、すいません……情けないですね。緊張してるみたいです、やっぱり」
「いやそれは……仕方ないんじゃないかな。僕もそうだし……それに、こんな大人数で戦うのなんて初めてなんでしょ?」
「そう、ですね。いつも一対一か、一対多ばかりでしたから。……こんな事は本当に」
「……そう」

こうすぐさま平常運転に復帰する辺りは、やはり本人も自覚してたって事かな。
このアインハルトちゃんがここまで緊張をさせている理由は多分、彼女の今までの経験そのものなのだろうから。


◇◇◇


実はこの娘は少し前まで、中学生の小柄でスレンダーな身体を魔法──大人モード──でスラッとしたナイスバディに変装させて、『覇王イングヴァルト』を自称し有名格闘戦技者複数人を襲撃(早い話がストリートファイト)したりしてたんだよね。
一時期にはちょっとした噂にもなってた。

729『鮮烈』に魅せられし者:2012/11/21(水) 23:00:55 ID:1zkzo0YAO
そうしてまで己の危険も省みずに、夜の帳が落ちた街で一人、ただひたすらに強者を求め続けた。
そんな無茶苦茶をしたのには『覇王がどの古代ベルカの王達よりも強いことを証明したい』という悲願が前提として存在している。
古代ベルカにその名を馳せた覇王の記憶が、断片として直系の子孫であるアインハルトちゃんに存在しているからだ。
つまり、この碧銀の覇王少女アインハルトちゃんは常に「強くなりたい」という一心で行動していて。
だけど、いつまでも満たされなくて。
そうした日々の果てに彼女はノーヴェさんと、ヴィヴィオちゃんと、僕達と出逢った。

そして今、ここにいる。

管理局有数の実力者が集った戦場に赴いている。
彼女が心から望んでいた真の強者との大規模な戦闘だ。
緊張をしない道理がないんだ。


◇◇◇


「やっぱり、アインハルトちゃんとしてはヴィヴィオちゃんと一対一で?」
「……、はい。こんな状況で我が儘かもしれませんが」

今、彼女の中には「強くなりたい」という願いの他にもう一つ、「ありのままの自分を受けとめてくれるヴィヴィオと戦いたい」という欲求も存在している。

(僕たちはソレを知っている)

だから僕としては。
こうして出逢って、親しくなった以上は。
その緊張を取り除いて、思う存分に在れるように、全力を出せるように手伝ってあげたいと思う。
そしてついでに、この少女に闘い以外の道も教えてあげたいとも思う。
この娘がもっとも心を開いているあの娘達の隣で、普通に笑いあえる『少女アインハルト』としての顔も開放してあげたいんだ。
だから、

「わかった、僕達がしっかり援護するよ。君は一直線に行って」

今はヴィヴィオちゃんへの道を拓いてあげよう。
多少無理をしてでもね。それが大人の務めってものでしょ。

「え、でも……」
「大丈夫だよ、絶対。それに……」
「おう、あたしも前衛にいるんだ。なぁに心配するなアインハルト。バックアップはしっかりいるし、問題ねーからよ」
「ノーヴェさん」

この赤髪の頼れるアタッカーもいるんだし。

「まずはやりたいようにやってみろって。ティアナの指示に支障をきたさない程度なら誰も咎めたりしねー」
「……はい。わかりました」

ようやく、アインハルトちゃんの緊張が抜け始めた。
こういう時に姉御肌な人がいると助かるなぁ。アインハルトちゃんの無駄な固さが抜けて、戦闘者としての自然体に移行していく。
僕だけじゃこうはいかないな。
ノーヴェさんの「してやったり」なウインクに、僕は頭を軽く下げて応えた。

730『鮮烈』に魅せられし者:2012/11/21(水) 23:02:06 ID:1zkzo0YAO
 
「ま、そういう事よアインハルト。フリーダムの広域レーダーがあるし、このメンバーとポジション割なら序盤は乱戦にはならないはずよ。むこうの守備を突破して均衡を崩すまでは安定した戦局になるわ」

そうこうしている内にバリアジャケットを纏ったティアナがやって来て。

「キラと私がサイドから攻めるのが突破の合図、だったよねティアナ」
「はいフェイトさん。それまでは一対一でも問題ない。……突破してからは、まずは青組の要、なのはさんを潰すわ。全力で」
「それと、さっきキラが言ったけど、シンには警戒を怠らないように。何をするか解らないからって」

いつのまにか、赤組全員が集って事態はちょっとした最終作戦会議に。
みんなのテンションとモチベーションが上がっていって表情が引き締まる。みな一様に戦士の顔をしていた。

(いい感じだ。これならスタートダッシュで優位につけるかもしれない)

そろそろ時間だ。時計と作戦を確認。

「コロナちゃんも、平気?」
「はい、私もこの子も、いつでも全力でいけます!」
「うん、もしもの時は君が要だ。よろしくね」
「はいっ」

「赤組、臨戦態勢!」

ティアナの掛け声を受け、武器を構え、重心を落とし、魔力を練って、瞳を閉じて静かにその時を待つ。
そうして約12秒後。テンションが最高潮に達する寸前。

“はーい、準備はいい?”

それを見計らっていたかのように審判役のメガーヌ・アルピーノさんからの通信モニターが展開。
ウインクまでして、相変わらず若々しい親御さんだ。
その四角いウィンドウの中でシスター・セインさんがノリノリでドラムロールを披露──何やってるんですか──していて、

“それではみんな元気に……”

ルーテシアちゃんの召喚獣・ガリューが銅鑼(どら)を叩くためのスティックを振り上げる。
待ち焦がれた、妙に長い一瞬。
期待の空白。
そして、
遂に、


“戦闘開始〜〜!!!”


盛大な音と、ちょっとユルい声と共に、戦いの火蓋が切って落とされた。

「エアッ、ライナー!!」

先制行動!
ノーヴェさんが先天固有技能『エアライナー』を発動。展開された魔法陣状テンプレートから幾帯のも黄色い『道』が飛び出し、バトルフィールドを飾っていく。
同時にストライクフリーダムのセンサーが遠方に同種の魔力反応を捉えた。
やはり、スバルの『ウイングロード』。流石は姉妹。やる事も考える事も同じだ。

「GOッ!」
「よし、行こう」
「遅れんなよ!」
「はいっ!! ……コロナさん、リオさんの相手をお願いしても?」
「はい。お任せくださいッ!」

『エアライナー』を足掛かりに、ティアナとキャロを除いた赤組は全員進撃。ハーフラインの確保に急ぐ。
さて、ここで確認しておこう。
このフィールドは一辺5kmの正方形で、西部劇をイメージしたのかレンガ造りの建物でいっぱいだ。
つまり、広くも狭くもなく、障害物だらけということ。
こういったステージでは先にハーフラインを制し、拠点にした方が有利になる。地形を使ってどんどん追い込むことができるからね。

731『鮮烈』に魅せられし者:2012/11/21(水) 23:03:44 ID:1zkzo0YAO
そして敵である青組──シン、ヴィヴィオ、なのは、スバル、エリオ、ルーテシア、リオ──の前衛には特にスピードが厄介なタイプはいない。
だからこそのスタートダッシュ。

(ここで一気に差をつける!)

フェイトとアイコンタクトをとり、ストライクフリーダムの速度を上げる。
『エアライナー』の上を走るノーヴェさんとアインハルトちゃん、コロナちゃんを追い越し、一躍ツートップへ。
普通なら何かしらの可能性を見越して、いきなり全力で飛翔したりはしないんだけど、こっちには広範囲をカバーするMS用のセンサーがあるからね。
ある程度の事は簡単に察知可能だ。

(まぁ、センサー自体は向こうのデスティニーも搭載してるんだけど)

でもこっちは更に、指揮官ティアナのクロスミラージュにそのセンサーを同調させCIC──戦闘情報センター──としている。
これは多分、青組はやってない細工だ。シンはソフト関連は苦手だから……
だから、こっちはどんな事があってもすぐに指示・対応が可能で──

──嫌な、予感が背筋を駆け抜けた。

≪警報。前方に大規模魔法陣の展開を確認……魔力反応多数。識別、ディバインバスター‐フルバーストと断定。着弾まで43≫
「なっ……!?」
「うそ!? くっ、迎撃用意!!」

ディバインバスター‐フルバースト。
なのはが得意としてるディバインバスターのバリエーション、拡散性反応炸裂型砲撃。広域空間爆破を目的とした魔法だ。
確かに対複数に有効な魔法だけど──ありえない!
こんな遠距離であんな高威力なモノ。いくらなんでも消費魔力が大きすぎる筈だ。それをいきなり使うなんて、なのはらしくない!

「ちぃっ!」

魔力翼をめいいっぱい広げて急制動。フリーダムのセンサーとレーダーの感度を最大にした。

≪数53、着弾まで35≫
「考えてる時間はないか……ティアナ!」
「なに!?」
「ここは僕が抑える。みんなは魔力を温存して」
「……わかった。まかせるわ」

とにかく、ここは魔力を回復できるハイパーデュートリオンを所持している、僕の出番だ。
負担は大きいけど、みんなが各々に迎撃したらすぐに息切れになってしまうかもしれないから。

「よし……フリーダム、バーストモードにシフト。マルチロック‐エイム展開」

たしか、あの魔法に誘導性能はない。だったら、命中弾だけを撃ち落とせば!

≪展開。ターゲットマルチロック。ルプス‐ライフル、ピクウス、クスィフィアス、バラエーナ、カリドゥスを速射優先で展開……完了≫

着弾まで27。目視可能距離。
恐るべきスピードで迫る鮮やかな桜色の炸裂弾を視認。両手のライフル、両腰、両肩、腹部に蒼の環状魔法陣を展開する。
脚を大地に預けて、距離再算出。
此方の射程と、予測される炸裂弾の攻撃範囲から計算した迎撃に最適な距離を探索、連鎖反応による爆破も視野に入れて設定。慎重にロックしていく。
同時に後方を視て、赤組全員が僕の影に隠れている事を確認した。

732『鮮烈』に魅せられし者:2012/11/21(水) 23:05:07 ID:1zkzo0YAO
あとはトリガーを引く。それだけ。

「フルブラスト‐シュトゥルム……いけぇッ!」
≪斉射≫

発射、斉射、連射、乱射。
機動力と防御力を捨てて砲撃能力に特化した『バーストモード』での面制圧射撃。
九つの魔法陣から発射された五種類の蒼い弾丸は、穹を穿ち、寸分違わず桜色の弾丸に吸い込まれていって、

一つの空間が蒼と桜に染め上げられた。

「……よし!」

迎撃成功。
命中弾は全て相殺し、そうでないものは虚しく周辺の建物を破壊するに留まるはずだ。
赤組の損害はなし、僕が消費した魔力は直に回復する。
この攻防の結果が意味するものは、ただ青組のなのはが魔力を無駄に消費したということだけ──

「っ? ……! キラ、まだ来るわ!」
≪第二波、第三波の発射を確認。ディバインバスター‐フルバースト、着弾まで41及び46≫
「そんな……これは!?」

連続砲撃!?
どういう事なの? 今さっき迎撃されたばかりなのに……
それに、あの魔法を使っているのは高町なのはに違いないんだ。だから、こんな後先考えない攻撃を仕掛けてくるはずがないのに、どうして……?

「キラさん、これは……」
「わからないけど……やるしかないようだね」

とにかく迎撃を。
やらなくちゃ、こっちがやられる。
──さっきの『フルブラスト‐シュトゥルム』で消費した魔力は全体の1/6。ハイパーデュートリオンの回復速度は5分で1/5相当。
もし。
もしも、このまま状況が変わらなかったら。なのはの魔力に余裕がまだあって、このままどんどん砲撃してくるつもりなのなら。
非常に不味いことになる。

≪報告。接近するユニット反応4、クォーターラインを通過≫
「!」
「まずいね……こっちは動けないから、このままじゃどんどん追い込まれる……!」

くそ、この感覚……一人はヴィヴィオちゃんか。ということは、接近している四人は青組の前衛だ。
フェイトの言う通り、本格的に不味い状況になってきた。
第二波迎撃、第四波確認。これじゃ回復も迎撃も追い付かない。それに、相殺しなかった弾が周囲に降り注いでいるから、みんな動くことも儘ならない。
最悪の状況は、なのはの砲撃に乗じてヴィヴィオちゃんとスバル、エリオ君、リオちゃんが一方的に此処まで攻めてくることだ。
もしここにシンが混じっていたら──
……シン?

閃きが電撃のように脳を駆け抜けた。

まて、何か僕は大きな見落しを……? 考えろ。アインハルトちゃんと約束もした。その御大層な肩書きも想いも飾りじゃないだろ、頭を働かせろキラ・ヤマト!

「ティアナ! そっちでシンの位置を確認できる!?」
「シンの!? ……ええ、見つけた! なのはさんの近くに待機してるみたいだけど……妙に魔力反応が大きい」
「っ、それだ!!」

キャロちゃんの支援魔法を受けながら第三波を迎撃。それと同時に得た朗報に思わず笑みが溢れる。
現状を打破できる、唯一の手掛かりなんだから。

(ずっと疑問だったんだ)

何故、高速接近戦闘を得意とするシン・アスカが、青組の後衛という不自然なポジションだったのかが。
最初は砲撃支援でもするのかと思ったけど、それは違った。
青組の、シンの狙いは。

「この無茶な砲撃。シンの仕業かもしれない」
「……なるほど、そういう事。狙いはどっちも一緒ってことね、やっぱり」

どうやら向こうの方が一枚上手だったみたいだ。

733『鮮烈』に魅せられし者:2012/11/21(水) 23:06:44 ID:1zkzo0YAO
僕とフェイト、ノーヴェさんがいる赤組相手に対抗するべく、最高速度に劣る青組が採ったハーフラインを先取する為の作戦。
それは、なのはの圧倒的砲撃能力で青組を釘付けにすること。その原動力こそがシンとデスティニーの存在・特性だ。
ティアナもそれを一瞬で理解して、すぐに指示を出す。

「こういう時は焦った方が負ける……でも、このままじゃジリ貧ね。フェイトさんとキラは二人を引き離して。他は左右に散開。厳しいかもしれないけど……」
「待ってください」

と、アインハルトちゃんから待ったコールが。
どうしたんだ?

「このまま向こうの進軍を許せば、こちらの不利は確実です。せめて私が足止めだけでも……!」
「それは……」

ティアナが困ったように顔をしかめる。
確かにそうだ。
僕とフェイトは、今も襲いかかっている長距離砲撃を止める為に、なのはとシンを襲撃するつもりなんだけど、そうするにはどうしても青組前衛を無視しなくてはならない。
そうしたら確実にハーフラインは青組のものになる。
それをアインハルトちゃんが懸念しているんだ。
だけど、それも止めるには些か赤組の戦力が足りない。
僕とフェイトがいないんだから、アインハルトちゃんとノーヴェさんだけでやらなくちゃならなくなるんだ。
つまり、二対四。
あまりにも危険なシチュエーションに、むざむざ飛び込ましていいのか?

「ティアナさん……!」

チームを預かる指揮官としては、そんな無茶は承認できないんだろう。僕も賛成はできない。
でも、

「大丈夫だ。防戦に集中すれば、やられはしないからな。ちょっと支援があれば二人でも足止めぐらい楽勝さ。……それに、敵地に切り込むってのはコイツらも一緒なんだ」

このノーヴェさんの無謀ともとれる発言で、ティアナの天秤は傾いた。

「──はぁ、しかたないか……、……前衛・中衛は第四波を迎撃後、全速前進! 後衛は微速後退を!! 作戦終了後はプランBに移行。いいわね!?」
「「「応!!!」」」

意を決して、選択したのはアインハルトちゃんの案だった。

“……いいの?”
“伊達にスバルとコンビ組んでないわよ。こんな無茶、日常茶飯事だわ”
“あ、なるほど”

念話で本当にいいのか確認してみたら、予想よりもスッキリした答えが返ってきた。
スバルとノーヴェさんは姉妹だから、その扱い方も手慣れたものみたいだね。
……ん? 確かスバルが姉で、ノーヴェさんが妹だっけ。妹の方だけに「さん付け」をするのは正直どうなんだろうか。

「……まぁ、後で考えればいっか。──フリーダム、ハイマットモード&ディアアクティブモード」
≪ウイング展開、戦闘ステータスからの切換完了≫

ちょっと気が弛んだのか、どうでもいい事まで考えちゃった。
とにかく、ティアナからの指示を貰ったからには行動開始だ。襲撃と迎撃の用意を。

「ストライク、パーフェクトシフトでシステム起動。エールブースター&アグニ展開」
≪ストライク、戦闘ステータスで起動完了。システム‐オールグリーン。エールブースター&アグニ展開≫

なのはのディバインバスター‐フルバーストは着弾まで19。第五波も迫ってきている。
急がないと!

734『鮮烈』に魅せられし者:2012/11/21(水) 23:07:31 ID:1zkzo0YAO
ストライクフリーダムを待機状態にして、即時に予備のデバイス・ストライクを起動。背の魔力翼の形状が変化し、総合戦闘能力が低下する。

「これで、あとは……アインハルトちゃんっ、こっちに来て!」
「はい!」

戦闘力を落としてまでストライクを起動した理由は三つかある。
一つ目は、迎撃メンバーが増えて多くの火器を使う必要がなくなった為。
二つ目は、ストライクのバッテリーと、最大稼動したストライクフリーダムのハイパーデュートリオンで強引に魔力を回復する為。
そして、三つ目は。

「なんでしょうか、キラさん」

走って僕の傍に来てくれたアインハルトちゃんの腰に右手を回して、

「ちょっとごめんね」
「え。ぇ、あっ!?」

申し訳なさを感じるけど、こちらも強引に抱き抱えさせてもらった。お姫さま抱っこスタイルで。

「ごめん、こっちの方が速いからさ」

三つ目は、二人分の質量があっても充分な加速・飛翔ができるようにする為だ。
あ、別にアインハルトちゃんが重いってわけじゃないよ。むしろ軽いぐらいだけど。

「〜〜〜〜!?」

予想通りといえばその通りなんだけど、覇王少女は少し混乱気味の様子。
まぁいきなり男の人に抱き抱えられたら、仕方ないだろうけどさ。女の子として。
でもこの際なりふり構ってはいられない。4人で突撃するのならこれがベストなんだから。
提案の責任(?)はとってもらうよ。

「走るより、一緒に飛んだほうがいいでしょ?」
「あぅ……わ、わかりました……」

同じくフェイトがノーヴェさんを抱えているのを見て納得してくれたのか、すぐ大人しくなってくれた。
うん、いい子だ。

≪アグニ、ブースターのチャージ完了。着弾まで11≫
「こっちも準備できたよ、ティアナ! キラ!」
「OK! いくわよ、クロスミラージュ……──ってーー!!」

限界迎撃距離。ティアナから僕とフェイトに作戦開始のサインが来た。
ここから巻き返す!

「いくよ……! アグニ!!」
「プラズマバレット、ファイアッ!」
「クロスファイア──シュート!」

シン。君たちの策、破らせてもらうよ!
ありったけの砲撃を迫る桜色に叩きつけて、僕らは進撃を再会した。



──────続く

735名無しだった魔導師:2012/11/21(水) 23:21:20 ID:1zkzo0YAO
以上です。
しばらく投下をしなかった事については何も言い訳は出来ませんが、完結まではしっかりと続けていく所存ではありますて表明します。

さて、ここから身勝手な話になるのですが、
私は今まで投下をいた話(つまりプロローグから14話まで)を、もう一度投下し直そうと考えています。
勿論、ただそうするのではなく、誤字脱字の修正、
文体文量の統一、
設定の見直し等々をし、その上で作品倉庫に登録をしようと思っているのです。

本当に身勝手な話ですが、是非ともここの住民に御一考してもらい、レスをしてもらいたいと思います。

どうかよろしくお願いいたします

736名無しの魔導師:2012/11/22(木) 02:55:42 ID:q4qDmfigC
投稿お疲れ様です。改訂は途中で気力が尽きてしまうことが多いので、ほどほどに。個人的には構わないと思います。

737名無しの魔導師:2012/11/22(木) 16:26:32 ID:AN.6jT/EO
乙です。

738名無しの魔導師:2012/11/23(金) 23:31:18 ID:kUOTGLag0
改訂はだいぶ時間を食います(汗
なんで、本編が行き詰まった時に改訂(気分転換)くらいの気持ちでいいのではないでしょうか?

久方の投下乙でした! ありがとうございます ノシ

739名無しだった魔導師:2012/12/03(月) 19:30:48 ID:s0LSazY.O
こんばんは。
皆さんのレスで決心がつきました。再投下を決行します。

というわけで、明日の23時にリマスターしたプロローグと一話を、コテハンとタイトルを変えて投下します。
よろしくお願いいたします

740名無しの魔導師:2012/12/03(月) 22:25:44 ID:.dKAtqLw0
待ってる

741凡人な魔導師:2012/12/04(火) 23:03:55 ID:u8L1Gfx6O
こんばんは。元「名無しだった魔導師」です。

予告通り投下をします。新しいタイトルは、

魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED

と無難な感じで逝きます。
それでは。

742魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2012/12/04(火) 23:06:19 ID:u8L1Gfx6O


「本当に、行くんですか?」

少年の声が響く。

「……うん。あの人に誓ったんだ。戦い続けるって、信じ続けるって。
だから、いつでもこの優しい世界にはいられない」

それは別れの記憶。懐かしい記憶。
ああ。これは夢だ。
僕は久しぶりに、夢をみているのか。

「そう、ですか……でもっ、またいつかは!」
「そうだね。また、いつかは……──ほら、君は男の子なんだから、あの娘達の支えになってあげてね……」
「っ、はい!」

そうだ。これは4年前だ。
白い靄の中にある、藤黄色の少年と、栗色の少女。沢山の経験と幸せをくれた、子ども達。
ある者はちょっと泣いてて、ある者は毅然としてて、みんなが僕なんかの為に別れを惜しんでくれてて。

あれから4年の今。

この子達は今、元気なのかな。何をしているのかな。
もう会うことはできないのだけど何故か、今になって無性に気になって……

「そろそろ限界だ。帰るなら、今しかないぞ」
「──わかってます。……みんな、じゃあね……!」

突然、景色が薄れ、海と穹とが曖昧になり、全てが白一色になる。意識が混濁し始め、思考が覚束なくなる。
だけど、不快ではなく。
これは世界が別たれていく感覚だ。

どうやら夢の時間は終わりみたい。

寂しい気もするけど、なんだか元気を貰えたような気がした。
いつも輝いていた彼女らと、夢の中とはいえ久しぶりに会えたから?
なら、今日という一日は張り切っていってみようかな。そうすればきっと、あの子達も喜ぶだろうから。

じゃあ、そろそろ、起きないとね──



魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED

『プロローグ 夢が導いた場所』



知らない天井だ。

溢れんばかりの白の部屋。全てを拒絶するかのような、潔癖症のような見知らぬ場所。
まるで白い宇宙のようだと思って、
そこで僕の意識はどうしようもない──清々しい目覚めも崩壊するような──違和感と共に覚醒した。

「──……地球の重力がある?」

ぽつりと呟いてから、気付く。
おかしい。
記憶が正しければ、僕は木星圏の宙域に建設したコロニーに住んでいた筈なんだけど……
なのに。全身に感じるこの気だるい重さは、この一種の安心感は、正しく純粋な1G。
この感じは、絶対に宇宙船やスペースコロニーでの人工重力では造れないものだ。という事は、ここは地球なのか?
違和感はこれ……?

「ここは、病室なの?」

寝起きの緩い頭をコツンと叩く。
数秒の思考を獲て、脳が正常に回転しはじめてきた。
何故、どうして、という思いはとりあえず脇に置き、まずは状況認識が先決と布団をはね除け身体を起こし、周囲を見てみれば。

白い天井、白い壁、陽光を遮る灰色のカーテンに、フカフカな白いベッド。
有機的な木製の机とタンス、色とりどりの花々、陶器の花瓶。
電灯と光と影。
自身という人間の存在。
決して真っ白じゃない、人間の居住を前提にした施設。そこにもう拒絶は感じられなかった。

ここはなんとも、TVドラマ等でよく見られる典型的で普遍的な、個人用の病室なようだ。

743名無しの魔導師:2012/12/04(火) 23:07:15 ID:u8L1Gfx6O
ここを病室と判断できるファクターは、ベット脇にある点滴装置と心音図記録ユニットぐらいしかないけど。
そしてやっぱり、ここは知らない場所で。

この状況にも、違和感。

「僕、怪我なんてしてないんだけど……」

思考を言葉に変換して、自分の存在を確かめる。
身体を動かしても痛む箇所なんてないし、包帯とかも巻かれてない。
貧血で倒れた……なんて事はないだろうし、最近精神を病んだ記憶もない。
なのに、何故。
何故、僕はこんな所にいるんだろう。
いつの間に、こんな事になっているんだろう。
わからない。
わからない事だらけだ。何かを知れば知るほど疑問と不安が募り、孤独がそれを加速させる。
……あ。もしかして、木星宙域捜査ミッション中に寝ちゃって、そのまま地球圏に流されてきたとか? それで僕は地球の病室に──
──いや、ありえないからさ。いくらなんでもそれはない。ありえない。
冷静になれ。突飛な事を考えてる場合じゃないだろ。
……そうだよ。僕は昨晩、いつもの時間いつも通りに、宛がわれた自室で布団に潜ったじゃないか。
それが僕の日常なんだ。
昨夜に緊急ミッションが入ったなんて記憶はないから、それは確かな筈で。

だったら。

この不可解な状況……何かしら異常に巻き込まれたと見るべきなのかな。
拉致されたという可能性も、知らない内に事故に遭ってたという可能性も、ある。
「無い」と思い込むことはできても、断定はできない。
そうするだけの判断材料もまた、無いのだから。

「……まぁ、考えても仕方ないしね」

けど、まずは行動だ。
わからない事でいつまでも悩んでも仕方ない。
自然と身構えていた身体から力を抜いて、リラックスするように努める。
情報収集をしよう。

(ここが病室なら……あった)

ナースコールのスイッチ。
これを押せばきっと、誰かが来てくれるに違いない。だって、その為に造られた機械なんだから。
だから。

僕──キラ・ヤマト──は躊躇わずに、そのスイッチを押し込んだ。




ベタだけど、そのスイッチは一つの物語の始まりのスイッチでもあったんだ。




──────続く

744魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2012/12/04(火) 23:08:58 ID:u8L1Gfx6O

僕こと、キラ・ヤマトは軍人だ。

現役職は木星第一開拓コロニー警護隊隊長‐兼‐木星宙域探査隊隊長の23歳。
因みに副隊長であり懐刀はシン・アスカ。
彼とはもう長い付き合いで、私生活でも職場でも頼りにさせてもらってる……ってか、世話をやかせちゃってるんだけどね。
文句を言いながらも付き合ってくれる彼は本当に良い人だと思う。

さて。

何故C.E.74で敵対関係──殺し合った仲──だった僕と彼がこんな穏やかな関係なっていて、
更に言えば、つい近年まで只の一般人だった僕が何故こんな大それた役職についているのかというと、それは今がC.E.78だからに他ならない。
かつて、二度に渡って繰り広げられた悲しい大戦からは既に4年が経過した、戦争が過去の記憶となった時代なんだ。

みんなの『力と想いと努力』でなんとか世界に平和の種と歌を広げていった末に、無事に育て上げられ花咲いた集大成はC.E.75の冬。
人々は次第に活気と笑顔を取り戻し、新しい命が健全と芽吹いていって。
そして新天地としての外宇宙に再び目を向けるまでは、さして時間はかからなかった。
コーディネイターが本来の使命に目覚め、人類の新たな足掛かりとして木星圏に新型コロニーを建造・完成、僕ら『先大戦の英雄御一行様』が第一陣として、木星圏開拓責任者になったんだ。

それがこのC.E.78という年。
地球人類の大きなターニングポイントであり、全てが円満に成った年だ。

僕はあの人への誓いを、あの子達との約束を、守ることができたんだ。
そしてようやく、僕達の戦いは、終わりを告げたんだ──



『第一話 出逢いと再会と、ずれた時間』



見知らぬ病室で目覚めて、とりあえずと押したナースコールのスイッチは、四つの事実を僕に与えた。

一つ目は、僕は先程まで木星にいた、キラ・ヤマト本人で間違いないという事。
記憶改竄等といった処置はされていないと、ましてや記憶喪失等でもないと保証された。
完全な健康体だってさ。

二つ目は、ここが新暦79年の『第一管理世界‐ミッドチルダ』という、【魔法】が存在する別世界であるという事。

三つ目は、僕は昨夜、この世界に存在する『聖王教会』という場所に一人突然【顕れ】、倒れていたという事。

そして四つ目は、この個人病室は聖王教会内部の施設であるという事だ。

統合すると、僕は【次元間転移】をして、別の世界にいるという事で。

(僕って、こんなのばっかりだな……気絶するたびに別の場所にいる気がするよ……)

魔法の世界。
次元の海を超えて辿り着いた平行世界。C.E.ではない世界。
今まで自分がいなかった世界。

俄には信じられない話だ。いきなり異世界に跳ばされた、なんて。
突拍子のない夢物語と一笑に付すのがベターだろう。それこそ、出来の悪い魔法ファンタジー漫画のようだってね。
でも。
残念ながら事実みたいで。
だって、地球型惑星の大気の外にある、巨大な双月を見せられちゃ納得するしかないじゃない。

ここは、『ミッドチルダ』なんだ。

普通なら、パニックになる所だろうか。
ありえないと、帰してくれと、何故こうなったのだと。故郷を思って錯乱するのがきっと、普通のリアクションだと思う。
でも、なんとか僕は冷静でいられてる。全てを理解した上で、懐かしい想いと共にただただ静かに受け入れていた。

何故なら。

僕にとって次元間転移は初めてではなく、魔法の存在も既知のものなのだから。

745魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2012/12/04(火) 23:11:10 ID:u8L1Gfx6O
4年前に初めて体験して、これで通算三度目の転移になる。

──当時は滅茶苦茶焦ったんだっけ……右も左も分からなくて、茫然自失になって。
そしてその時に、僕は彼女らと出逢ったんだ。


◇◇◇


一夜が明け、麗らかな午後。具体的には15時あたり。ここで目覚めて27時間経過。
僕は薄青の患者服のまま、同行者もつけずに教会敷地内を散歩していた。
柔らかな陽光の中、ヨーロピアンで芸術的な建造物に見惚れながら──たったそれだけの感想を抱えながら──僕は思考の海に没する。
考えるべき事は何時だってある。

一つは帰還方法。
前回──4年前、二度目の転移時──鳴海市からC.E.74に帰還した際には、トリプル・ブレイカーとアルカンシェルと『闇の書の闇』との対消滅反応によって発生した、時空の歪みを利用した。
けど、アレは偶然の産物だし、そもそも再現できないだろうから同じ手で再転移はできない。
あと医師から訊いた話では、ミッドチルダでも『C.E.』なる暦の世界は未だ聞いたことがないんだって。
だから普通に施設を利用して転移することもできやしない。
ないない尽くしで、このままでは帰還不可能だ。
【魔法】といっても基礎は科学。万能じゃないんだよね。

「……どうしよう、かな……」

次にC.E.の事。
あまり実感はないけど、キラ・ヤマトの存在は現C.E.では最重要ファクターとなっている。
そんな自分が突然消えて、もう少なくともニ日は経っていて。向こうの人々はパニックになってないだろうか心配になる。
それに、初めて僕が次元間転移したキッカケは宇宙要塞メサイアの爆発なんだ。もしかしたら、あのコロニーが大規模な爆発をしてしまったのではないかと思うと尚更だ。
そんなことはないと、思いたいんだけど……

「大丈夫かな……」

最後に、これからの事。
今の僕には肩書きどころか、個人データも金銭もない。世界の異物・イレギュラーとして存在しているだけ。
要するに、行動が非常に制限されているんだ。
最悪ここでの生活を考えるのであれば、この教会なり孤児院なりにお世話になることもできる。
だけど、それじゃ駄目なんだ。
僕は、帰らないといけない。動かないといけない。そうしなければならない。
それもなるべく早急に。
じゃないと、沢山の人に迷惑がかかる。

ならば、今後どうするべきなのか?

次元の海を管理する組織、時空管理局を頼るのが正解なんだろうけど、ただの次元漂流者というパスだけじゃ特急便には乗れない。
身元不明者の地元を「早急に」探してもらう、なんて事を頼むにはパンチが足りないんだ。
知人が一人でもいれば話は変わるのだけど、あいにく鳴海市ではないここ『ミッドチルダ』には自分の事を知っている人すらもいないだろうし──ん、……いない?

「いや、まって? ……そうだ、クロノ君なら?」

いた。忘れてた。
『鳴海市』をキーワードに、どんどん頭に蘇る者達。その中にいたはずだ。
小さい身体に使命と覚悟で満たしていた黒髪の少年、クロノ・ハラオウン執務官の存在が。
彼は管理局員だ。そして聞けば、ここは管理局のお膝元。
上手くやれば接触できるかもしれない。血路を拓けるかもしれない。
4年ぶりの再会にもなる。良いことづくめだ。

よし、そうと決まれば──っ!

思い付くまま、勢いのまま僕は走りだした。全力で、無心で。

746魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2012/12/04(火) 23:12:34 ID:u8L1Gfx6O
そして、

突然の、腹部への衝撃と、

「きゃっ!?」
「っ、な!?」

可愛らしい悲鳴。

迂闊で当然の帰結。
周囲を確認しなかったせいで、思考に夢中になってたせいで、人にぶつかってしまっただなんて……!

「危ない!!」

一瞬の自失から醒めてまず目に入ったのは、ぶつかった衝撃で後ろに倒れそうになる金髪の少女だった。
その角度はいけない、このままでは後頭部を地面にぶつけてしまう。
つんのめった躰に鞭うって咄嗟に足を踏み出し、両手を伸ばして。なんとか少女を支えようとして──

「くっ!」
「はぅっ」

その右腕と腰をつかんで胸元にしっかり引寄せることで、なんとか事なきを得た。
……間に合った、か。
普段犯すはずもないミスの挽回はなんとか成功。シンに付き合って体を鍛えてて良かった。
いや自業自得なのはわかってるけどさ。

「あいたたた……」
「ゴメンね。大丈夫?」

熱に浮かされた頭を醒ます為に思考を切り換える。クロノ君の事は後で考えよう。
そうしてからやっと、謝罪をする。
結構な勢いでぶつかったから、どこか痛めていたりしたら大変だ。
そしたら謝罪なんかじゃ済まない。

「だ、大丈夫です。ごめんなさい」
「いや、僕が悪いんだ。ホントにゴメンね……」

膝を屈め、正面から向き合う。
うん。見たところ、痛めてるとおぼしき箇所はない。大丈夫みたいだ。よかった。
ほっと一息安堵して、少女の腰から手を離したところで僕はようやく、冷静に現在の状況を確認できる頭を取り戻した。
まずは位置情報。廊下。誰かの病室の扉の前。
おそらくこの少女は、この病室の主のお見舞いに来たのだろう。そして走ってしまっていた僕とぶつかったんだ。

……うん、一方的に僕が悪いね。

次に少女の容姿。これには僕は、少し驚いた。

「あ、きみ……?」
「……えと、どうしたんですか?」
「っ、いや、なんでもないよ。綺麗だなって驚いただけで……」

慌てて取り繕う。変に言及したら失礼だ──と勝手に思う。
この娘、【オッドアイ】だ。右が翆で、左が紅。鮮やかな二種の宝石を持った珍しい人間。
好奇以上に、素直に美しいと思える瞳だ。コーデネイターでもオッドアイにした(された)人はいるけど、ここまで澄んでいて綺麗な人はいなかった。

何故こんなにも綺麗なのかは、わからないのだけど。

そんな少女の髪は、少し変則的な黄金のツーサイドアップ。絹のようにサラサラでいて長く、これも一種の宝石のよう。
服装は白い半袖のブラウスに赤いリボン、黄のサマーセーターに茶のミニスカート。高級そうな素材で構成されていて、きっと、どこかのスクールの制服だろう。
そして身長は僕の腰程度。肢体はほっそりとしながらも、軟らかく質のいい筋肉がついている事が確認できた。
歳は10程といったところで、多分良いところのお嬢さんなのかな。ちょっと涙目になっているのがとても可愛らしく──

「ヴィヴィオ? 誰かとぶつかったのかい?」

そんな事を茫然とつらつら考えていた時、少し高めな、少女のものとも聞こえるハスキーで穏やかな男性の声が目前の病室の中から聞こえてきた。
直後に扉が開く音。
途端、緊張する僕の身体。
状況と言葉から察するに、この少女の保護者さんなんだろうけど……それ以上に、なんかどっかで聞いたことあるような声に──

「あの、ごめんなさい。僕の不注意のせいで……本当に──……、?」

まぁそれはそれ。疑念を脇に置き、勢いよく深々と頭を下げる。無事だったからよかったものの、この少女にぶつかったのは事実なんだ。

747魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2012/12/04(火) 23:16:17 ID:u8L1Gfx6O
とにかく謝罪をしなければと思っての行動なの、だが。

「……」
「……」

なにやら様子がおかしい。
頭を下げてから10秒は経った。なのにどうして黙っていて、なんの反応もないんだ? 普通こういうシチュエーションって、僕を責めたりするものじゃないか。
そんな気配すら無いなんて。
不審に思い、僕はそろそろと下げていた頭を上げていって、靴しか見えていなかった男の顔を見た。

見て、身体が、刻が、思考が止まった。
急速に喉がカラカラに干上がって、言葉が出せない。

「……」
「……」
「……? ……?」

何故、この金髪眼鏡の男性は茫然と、唖然と、僕の顔を見ているのだろう?
そして何故、どっかで見たことあるような顏をしているんだろう?
ていうか、この顔は、あの声は間違いなくあの少年のものだよね……?

俄然、思い出すは小動物。いやまさか。

理解したくない以前に有り得ない。だけどコーデネイターとしての頭脳は明確に答えを導き出していた。
だからこそ場を支配する沈黙。きっと頭脳明晰な彼も僕と同じ気持ちなのだろうから。

最終的に沈黙を破ったのは、僕と同程度の身長をもった彼だった。
疑問が僕の頭を埋め尽くす寸前、彼は僕の疑念を確信に変える言葉を口にしたんだ。

「……キラ、さん?」
「…………もしかしなくても、ユーノ君?」

頭がどうにかなりそうだった。


◇◇◇


いやいやいやちょっとまってよ、おかしいでしょユーノ・スクライア13歳。なんで4年前は僕の腰ほどしかなかった少年が、僕と同じくらいの身長になっているのさ。
そしてその大人びた外見はなんだい。まるで大人みたいじゃないか。
記憶の中の、僕との別れを惜しんでくれた君はもっと少年だった筈だよ。
成長期なんてものを凌駕してるよ君。魔法だなんて都合のいい言い訳は聞きたくないからね。
だって魔法はそこまで万能じゃないんだって君が言ったわけであって。
それに、たしかに僕はあの娘達を支えてあげてとは言ったよ? でも吃驚人間になれとはいってないんだから、此方にも心の準備ってものがあって──

うん。こんなに混乱したのは久しぶりだ。

登場するだけで僕をこんなにするんだから、一世一代の熱弁を奮ったラウ・ル・クルーゼも浮かばれないよね。

「──……」

今という時間は15時45分。
僕達──僕とユーノとヴィヴィオと呼ばれた少女──は教会敷地内に設営されているオープン・カフェに腰を落ち着けている。
予想外にすぎる再会だったけど、まずは「落ち着いて状況整理」と彼が誘ったからだ。

うん。とりあえずコーヒーを飲もう。いつまでも、こんな驚愕に染まった表情をしてるわけにもいかないからね。
あ、美味しい。無乳無糖のオトナのブラックで落ち着いた。

「──ふぅ」

ため息一つ。様々な想いを載せて吐き出す。

対面に座った、大人ユーノはセミショートだった藤黄の髪を一房に束ねた、腰まで届くロングに換えて。妙に似合う萌葱色のフォーマルスーツを着込んでストレートティーを啜っている。
なんともはや、紳士的な容姿に育ったものだ。
装着した眼鏡も含め、ソレが彼の言葉に説得力を持たせていた。
──可愛らしいフェレットだった君は何処にいってしまったのだろう……

「……14年ぶり、か。君達の中じゃ、そうなってるんだよね。だから、つまり、君は今23歳で、僕と同い年だって事でいいのかな?」

僕は、先程のユーノの驚愕発言とそれに対する解説を要約した結論を、口を必死に動かしながら述べた。

748魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2012/12/04(火) 23:20:15 ID:u8L1Gfx6O
だって、ずっと年下だと思ってた人物がいきなり同い年だなんて、驚愕しないわけがない。
それ以上に、

「でも、おかしいじゃない。時間がズレてるなんて……」
「そうですね……キラさんと僕の話を纏めれば、一見そうなります。つまり、C.E.と僕達の世界とでは時間の流れが違うという事で、だからこそ、ソレは有り得ないんです」
「それって……」
「キラさんだけが特殊な状況にある……というのが今の僕の見解です」

時空管理局本局『無限書庫』司書長‐兼‐ミッドチルダ考古学者の説明に嘘は無いだろう。
ミッドチルダ含む次元世界に流れる【時間】は同一なものだ。
恒星と惑星規模の関係よる「公転周期」や「自転周期」は各世界──の名称の元となったメイン・プラネット内──で当然異なるが、「時間が流れる速度」や「生物の成長速度」、つまり時間信号は全ての世界で必ず同一であり、持ち込んだ時計の速度が変化する事は有り得ない……らしい。

でも事実、ズレている。

僕が鳴海市から去って、僕の体感時間では約4年、ユーノ達の中では約14年。19歳と9歳が再会したら23歳の同い年になってる。
ユーノ先生曰く、考えられる可能性として、
指定空間内の時間信号をズラす魔法『封時結界』のようなモノでC.E.世界全体が包まれた説と、
僕自身に異常事態が起こってタイムワープをした説とがあり、前者は不可能、後者は考えられなくもない……んだって。

「なるほど、ね」

なんか、疲れた。
今日は疑問と驚愕だらけだ。
こんな短時間にイベントばかり続いて、脳が悲鳴を上げているような錯覚さえする。

「そっ、か」

じゃあ、なのはもフェイトもはやても、みんな23歳になったわけか。クロノは……30歳ぐらいかな。
いつの間にか、追い付かれて、追い越されたのか……
いや、その表現は違うな。僕は未だ確立されていないタイムワープで【未来】に来たみたいなのだから。
あれかな、『浦島太郎』ってやつ。じゃあ玉手箱的な何かもあるのかな……ってダメだダメだ。
色々な感情と思考が飛び交って、これ以上考えてたら制御不能になってしまう。

「みんなは、元気なの?」

頭の上で展開されている話題の内容が内容だからか、先程から沈黙を保ってオレンジジュースを飲んでいるヴィヴィオと呼ばれた少女の為にも、ここは明るい話題を出すべきか。
彼女ぐらいの歳ならまだまだ遊びたいざかりの筈なのに、しっかりした良い娘さんだよ本当。

「なのはやフェイト達……みんなの事。聴かせてほしいな。あの後どうなったのか……それに、この娘の事もね」

そうだ。昨日見た夢で感じた衝動を、ここで発散しとくのもいいかもしれない。
新しい距離感に戸惑って、淋しさを感じてギクシャクとするよりは。
記憶の中の子ども達と、目前の青年との齟齬にショックを受け続けるよりは、ずっといいだろうから。

手始めに、さっきから気になる少女の事から教えてもらおうかな、ユーノ?

「あ! えーと、この娘はヴィヴィオっていって、な」
「ユーノの子ども?」
「ぶふぅ!?」

すっかり失念していたのか、泡を食ったように慌てて少女の紹介をしようとしたユーノに、ちょっとした親心──元歳上の意地──で先を制したつもりなんだけど……なんで噴き出してるんだろう汚いなぁ。

749魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2012/12/04(火) 23:20:53 ID:u8L1Gfx6O

間違った事を言ったつもりはないんだけどな。

「てっきり、なのはを選ぶものかと思ってたけどさ」

行儀良く座って、でも瞼をパチパチとさせて見返してくる少女に微笑み返してから言葉を続ける。
さっきは10歳くらいかなーって思ったけど、本当はもっと幼いのかも。
まぁ魔法の世界だし、女の子の成長って早いし、8歳ぐらいと言われても不自然とは思わない。
それでも15歳で出産させた事になるけど、まぁ若いとね。そんな事もあるよ。些細なことだ。

「…………はぃ?」
「え、と……?」

ん? なんか反応が変だ。ユーノもヴィヴィオちゃんも固まってしまっていた。
なんだろう、こういう反応がミッドチルダのトレンドなのかな。流石に異世界の事情はわからないよ僕?
なにはともあれ、ユーノの先程からの反応からしてこの娘の保護者だって事は確実みたいだし。
何よりこの少女の瞳と髪が、よく聴けば似ている声の質が、誰と誰の子かを雄弁に語っているじゃないか。
おめでとう二人とも。祝福するよ。

「え、だってユーノとフェイトちゃんの子どもなんでしょ? その娘って」

フェイトちゃんの赤系の瞳、ユーノの緑系の瞳、二人の金髪。
これが意味するものは只の一つ。間違いない!

「違うよっ!!」
「ち、違いますよっ」

……え、違うの?

あれー?




この時は。僕はまだ、自分の心の燻りに気付いては、いなかった。



──────続く

750凡人な魔導師:2012/12/04(火) 23:23:25 ID:u8L1Gfx6O
以上です。
今後はこんな感じで展開していく予定です。
……まぁ基本以前投下したのと同じような文章を再び投下するだけなのですが

751名無しの魔導師:2012/12/06(木) 17:00:32 ID:03bxT796O
おお、面白そうなのが始まった。

752名無しの魔導師:2012/12/07(金) 00:22:47 ID:/xl46i.A0
新作ありがとうございます

753凡人な魔導師:2012/12/16(日) 23:33:55 ID:g83nPv4YO
明日の23時に2話を投下しますので、よろしくお願いします。

あと乙をありがとうございます

754凡人な魔導師:2012/12/17(月) 23:01:51 ID:KkNXZLX2O
投下します

755魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2012/12/17(月) 23:03:42 ID:KkNXZLX2O

「この子は高町ヴィヴィオ。なのはとフェイトの娘ですよ」
「なん……だって……?」

衝撃が、脳を貫いた。
娘。つまり子ども。
なのはとフェイトは女の子だったハズ。
え、ちょっ、それってつまり同性間で──

「あ、養子って意味ですよ?」
「よ、養子……うん養子ね。わかってるよ」

吃驚した。
吃驚したよいきなり何を言うのかと思えばユーノ君、そういうのはちゃんと言わないと。
てっきり本当にあの二人が産んだんだって……あれ?
それでも二人の娘ってことは……

「え、なにじゃあ、なのはとフェイトが結婚したの? ミッドってそういうのアリなの?」
「違いますよキラさん。正確には、なのはが引き取って、フェイトが後見人になったんです。それで今は三人で一緒に住んでいるんですよ」

……おや? うん、その説明で大体は解った。解ったけど、何かとても気になる事が増えたよ?

「……ユーノ」
「はい?」

ヴィヴィオという名の、オッドアイが特徴的な少女の肩に手を置いて喋る青年、ユーノ・スクライアに問い掛ける。
きっとこれは、言っちゃいけない事だと予感する。
だけど、言わずにはいられなかった。
だから、僕は言った。

「君のポジションって、なに?」
「…………」



『第二話 すべき事、できる事、したい事』



──僕は、今、何をしたいのか──

尽きぬ疑問、思いがけない再会、そして新たに知り合った少女。
波乱続きな僕の人生においてもなかなかない、とても刺激的だった今日という日が終りを告げようとしている23時。
青白い双月が演出する、幻想的な3月の夜光に照された病室のベッドの上で、僕はただ悶々と頭を悩ましていた。
原因は、あの少女で間違いないだろう。

高町ヴィヴィオ、St.ヒルデ魔法学院初等科3年生。4月に進級予定。
ユーノと同じく大人になった、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの『二人のママ』と三人で日々を暮らしていて、なんとユーノとは上司部下の関係らしい。
一体どうしてこんな幼い子が仕事なんてとも思ったけど、そういえば以前僕が鳴海市にいた時もなのはとフェイトとユーノは管理局の手伝いをしていたから、多分そういうモノなんだろう。
それで、今日はユーノと二人で、友人のお見舞いをしに教会に来ていて、そんな時に僕とぶつかったんだと。

そう自己紹介した彼女の瞳が、僕の心を掴んで放さず、今という時にも【鮮烈】に意識に焼きついていた。

(純粋で綺麗な、『生』に満ちた瞳だった……)

初めてコンタクトした時、とても、なによりもその瞳が美しいと感じた理由が判った気がする。

アレは少女の内面を映していた。

純粋で、利口で、繊細で、力強くて、今と未来を夢みている。教会のカフェで色々な話をしてくれた少女の端々から、僕はそれを確かに感じられた。
感じられたその『真っ直ぐな想い』は、今の僕には眩し過ぎた。だって、こんな人間に出逢えたのは初めてかもしれないから。
いや、もしかしたら、なのは達も似たような瞳をしていたのかもしれないけど、少なくとも当時はこんな衝撃は受けなかった。
きっと、僕が変わってしまったからだろう。僕にとって、世界は冷たすぎたから。真綿で首を締め付けられるような世界だったから。
だから視界が曇って、あの少女のような人間に気づけず、出逢えなかった。

そうした日々の果てにひょっこり異世界にやってきて。
視界がクリーンになった僕は『希望という名の光』の権化のような彼女と交わった。

756魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2012/12/17(月) 23:06:15 ID:KkNXZLX2O
その『光』は僕が無意識に見て見ぬふりをしようとしていたモノを炙り出すには充分なぐらいで。

つまり、今の僕に【希望】がない事を自覚させられた。

だからあんなにも綺麗だと思えたんだ。
不思議なくらいに魅せられて、戸惑うぐらいに。


◇◇◇


ユーノとヴィヴィオちゃんと別れて、ベッドに潜ってから。
「果たしてキラ・ヤマトは本当にC.E.に帰還したいのか?」という最大の疑問が、徐々に浮上してきた。

今に思いかえせば、この世界で目覚めた時の、自分の反応は異常だったんだとわかる。
あの時、僕は冷静だった。
冷静すぎるほどに。
状況に疑問ばかり抱き、それを静かに考えるだけで、全く焦らない態度。
知っているからと全て解った気になって、ただ分析を続ける姿勢。
コロニーの皆や、これからの身の振りばかり考え、自分の希望や仲間の身を真剣に案じない思考回路。
「帰らなくちゃ」と考えつつも、遂に「帰りたい」とは感じ得なかった心。

(そうであった事こそが異常なんだ)

少しの不安や混乱、責任感はあれど、そこに自身の【希望】は無かった。
どんな者でも、知らない場所で目覚めればパニックになって「ここは何処だ、家に帰りたい」と思うのが普通ではないか。自分は本当はどうしたいのかと、自覚する瞬間・機会ではないのか。
だけど僕はそうはならなかった。

今、自覚した。
考えられる理由は一つ。

僕は、平和になり、あの人への誓いと、なのは達との約束を完遂したC.E.には未練が無い、次の『やりたい』事を見出だせなかったんだ。

とても贅沢で、傲慢だと思う。
でも今までの僕には『やるべき』事しかなくて。知らぬ間に心が『凍り付いて』しまっていたんだ。
そして未知の世界にきて本来の『やるべき』事すら喪って。本当に『からっぽ』にならないように【帰還】を『やるべき』事に据えて。

だからきっと今の僕は、C.E.に帰りたいとは思ってない。
向こうでやりたい事なんて無いから。
向こうには親しい人だっている筈なのに。

僕自身にも見えていなかった、その本心が、
あの『生』と『未来』に満ちた鮮烈な翆と紅の瞳によって暴かれた。暴かれて、しまった。

(あの人に申し訳がたたないな……。──戦う覚悟はある……か)

そうなると、あの黒い長髪の男性に誓った言葉──他にも話したい事はあったけど、結局ソレが最期の言葉になってしまった──が、なんだか薄っぺらくなってしまったように感じて。
唯一の救いは、帰還の可能性を見出だした時に焦る事ができた、という事か。
そういう意味では、まだ僕は空っぽじゃない。

ただ、やりたい事が分からない……

そんな事を思いながら、僕は眠りの世界に堕ちていく。

夢は見なかった。


◇◇◇


「……それよりね、問題は君だよユーノ。あんな可愛い娘達に囲まれてて未だ独身って……どういうことなの?」
「そうだ、妻はいいぞ? さっさと漢を見せたらどうだフェレットもどき」
「なっ、そ、そんなの……僕は……その……僕なんかじゃ」
「そんな弱気でどうするんだよ! 人間いつ死ぬかわからないんだよ!?」

ちゃぶ台を思いっきり叩いて、ぽろぽろ泣き出したユーノを威圧。その情けなさを咎める。
衝撃でワイングラスや一升瓶が倒れ、中身が垂れ流れちゃってるけど気にしない。知ったことじゃない。
ただ感情のまま、思い付いたままに叫ぶ。

「それに、すれ違ったまま死に別れ、なんて事もあるかもしれないんだ……クロノとエイミィさんみたいに!」
「はっはっは、俺? いや俺はともかくアイツまで勝手に殺すんじゃない殺すぞコラ」

757魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2012/12/17(月) 23:07:41 ID:KkNXZLX2O
「あーもう、好き勝手言わないでよ! そりゃ僕だって恋愛とかそういうのは夢見てたさ男だから!! なのはとか正直可愛いし、最近なんかエロいし! だけど僕は──」
「フェレットだからか?」
「──そう、フェレットだから……って違うよクロノ!」
「何が違う、何故違う!?」
「キャラ変わってるぞキラ」

クロノ秘蔵の高級ウイスキーを割らずにがぶ飲みし、大振りなフライドチキンにかぶり付いて、クロノとユーノの杯をワインで勝手に満たしていく。
正直もうワケがわからない。
熱に浮かされて、なんだか夢心地。なにもかもがゴチャマゼになって融けていく。

「人格崩壊を気にして酒は飲めないよ。……覚悟はある、僕は飲む」
「仕事とか仕事とか仕事とか毎日やってられないよマジで! どっかの提督は勝手にどんどん仕事増やすし! まぁその分蓄積されてたお金で先週なのはをディナーに誘えたからいいんだけどねっ! どうも有り難う!!」
「そりゃどういたし──って待てユーノちょっと待てソイツはマズイ落ち着け……!」
「ユーノ、遂にヤるの? なら僕は君を討つ!」
「うぅああああぁああぁぁぁーー!!」


……
………

「まったく、酷い目にあった」
「ごめんなさい」
「返す言葉もないよ……」

15時。この世界に来て3日目の昼。
真っ昼間から酒に溺れた駄目な大人が三人もいた。
僕達だった。

約7時間前の午前8時。
えーと、今朝僕は、多忙の身の筈なのに宣言通りに来訪してくれたユーノの薦めで、一緒に時空管理局に参上して。
そしてユーノが事前にアポを取ってくれていたのか、今や『提督』という重役でありながらも無理やりに時間をとってくれたクロノ・ハラオウンと再会したんだよ。
見事にイイオトコになったクロノと熱い抱擁を交わして──年が近い同性という事で、当時は一番気の合う者同士だった──から、そうして……、……うん、ここまではちゃんと憶えてる。
このあとは……そう、クロノの応接室に案内されて、そこにちょっとした食べ物が用意されていて……そこからが不明だ。

気がつけば、この有様だったんだよ。

追加注文されたらしきファストフードの残骸の山。
、そこらじゅうに飛び散って水溜まりを形成してるアルコール。
派手に吹き飛んだソファー。
そんな部屋で寝転んで──気絶して──いた、ぐちゃぐちゃな僕とユーノとクロノ。

うーん、なんという惨状。きっと壮絶は酒乱がいたに違いない。
それにしても、お酒で記憶が飛ぶなんて初めてだなぁ。

「おい手を動かせ」
「う……や、やってるよ」

とにかく後始末をしないと。
現在みんなで片付け中だ。
さっさっと応接室の真の姿を取り戻さないと……クロノからの不機嫌オーラが半端ないんだもの。
状況からして、僕らと一緒に暴れてたくせにさ……って違う違う。それは言い訳にならないって。

(でも、それにしてもなんでこんな? 僕は今まで録に酔ったことはないし、訊けばユーノとクロノもお酒に強いらしいし)

こんなのは本当、初体験だ。
あ、そういえばアスランが愚痴ってたっけ。とある会談が失敗に終わった後のカガリの自棄酒が凄かったって……

(あー)

自棄酒か。
唐突に思い至った。
お酒の一滴で、今まで抑えてたモノが暴走しちゃったのかな、みんな。
曖昧な記憶だけど、言動が意味不明だった僕はともかくユーノは終始愚痴ばかりだった気がするし、クロノも似たり寄ったり(+惚気)だった気がする。

758魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2012/12/17(月) 23:10:00 ID:KkNXZLX2O
思わぬ再会でたがが外れちゃったのかもしれないね。

「手を動かせ、手を」
「頭を動かしちゃ、ダメかな?」
「ダメだ」


◇◇◇


「……これが……」
「ああ、こっちがここ15年の……なのは達が大きく関わった事件の報告書、及び映像資料だ」

片付けを終えて、少しみんなで頭を冷やし終えたのが16時半。
ようやく僕達は本来の目的を果たそうとしていた。
うん、わざわざ再会を喜ぶ会をやる為だけにここに来たわけじゃないんだよ。ユーノとクロノは多忙の身なんだから。
だからせっかくの休日を返上してまで僕なんかの希望に沿ってくれている彼らには、感謝してもしたりないんだよね。

(いつかちゃんとお礼をしないと)

まず、僕が求めたのは情報だった。
ミッドチルダ及び海鳴市の近状、情勢、世論。なのは達や管理局の今まで。その記録と情報の閲覧を、僕は第一の要望としてクロノに依頼したんだ。そうしてクロノに呈示されたのが、コレだ。

この映像資料と報告書。
その始まりは新暦65年春、なのはちゃんとフェイトちゃんの始まりの物語でもある、海鳴市を舞台にした遺失遺産の違法使用による次元災害未遂事件。通称『Plecia Tertarossa事件』から。

次に次元転移をした僕も関わり、八神家のヴォルケンリッター相手に奔走した、懐かしい同年冬の『闇の書事件』。

さらに67年の、衝撃の『なのは撃墜』があるかと思えば、71年の『ミッド臨海空港大規模火災事件』があって。

これら全てがらたった一つであり最大規模の事件へ集約される。

一人の狂人と管理局の闇が引き起こし、数多の悲劇と願望、出逢いと絆が生まれた75年の『Jail Scaglietti事件』へと。
ヴィヴィオちゃんはこの時になのは達機動六課に保護されたんだって。

それで最後に、「冥王」イクスヴェリアを巡り様々な思惑が交錯した78年の『マリアージュ事件』があって。

「……凄いな、これは」

正に激動の記録──いや、動乱と言ってもいいぐらい密度。なんて時代だ。
目まぐるしく変化していく展開に驚きを隠せない。
一番の驚きは、こんな短期間に連続して発生した事件に主に関わっていたのが未成年の子ども達であり、それでも健全に育っているという事だ。
精神も病まず、希望に満ちた終らない明日へ歩いていけるその姿。
悲しみばかりではなく、笑顔もちゃんとあるなんて。

「やっぱり強いよ、君たちは……」
「そんなこと……ただ全力だっただけですよ」

映像の中の子ども達は、よく知った幼い姿から、凛とした大人の姿へ。
小さな勇気は気高き強さへ。

──みんな本当に大きく強く、美しくなったんだ。

14年と5年という時の流れを実感する。
歩んだ時間そのもの──23年──は同じ筈なのに、この違いはなんだ。
僕はあの時から何も変わってない。容姿も、思考基準も。強いていうならば、つまらない人間になったという事ぐらいかな……
無性に、悔しかった。

「……」

それからも他に、色んな資料を読み解いていく。世界の歴史、経済の仕組みなど、ありとあらゆるものを。

「これが最後の資料。最新版だよ」
「ん、ストライク……アーツ?」

そして最後の最後で、意外な情報がきた。
明らかに今までとはベクトルが異なる、とある格闘技の資料。
どうやら総合格闘技みたいだけど。

「そう、このミッドチルダで最も競技人口が多い格闘技だ」

それを僕に教えて、どうなるんだ? 僕にやれとでも?

759魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2012/12/17(月) 23:11:21 ID:KkNXZLX2O
意図が読めない。なんでこんなものを……

「ソレをあのヴィヴィオがやってるんですよ」
「え?」

なんだって?
あの娘が、あの小さい躰で?
いやそれ以上に、司書さんって聞いたんだけど……
格闘技ってあれでしょ、世界共通でパンチやキックをするスポーツの総称でしょ。それを司書が?

「ヴィヴィオはアスリートでもあるんだ。意外だろう?」
「ほら、子は親に似るっていうし」
「うん、まぁ。……ずいぶんとアグレッシブっていうか、なんていうか……」

人は見かけによらないとは云うけどさ。
ちょっと想像してみる。
メガネと白衣と本を装備したモヤシが、マッスルマン相手に互角に殴りあう様を。

(うわぁ)

なんだろう、とんでもない世界観だ。
コーディネイターでもそんな事をこなせる人は少ない。
いやまぁ、あの娘達の娘なら道理……なのかな。人間が戦艦の主砲並みの光線を撃つ世界観だもの。
この魔法の世界はさ。
ならうん、そんなナチュラルにハイブリットな人がいたっておかしくはないよね。

「っと。すまないキラ、そろそろ時間だ。ユーノ、お前はどうする?」

緑茶を飲みながら会談をしていれば、おもむろにクロノは時計を見ながら立ち上がった。
休日といっても予定がないわけではない。これから人と会う約束をしているんだって。

「そうだね……僕はキラさんを教会に送ってから、一度無限書庫に行くよ」
「えと、本当にありがとう二人とも。僕のために……」

それに応じて僕達も立ち上がる。
二人の好意のおかげで大体の情報を手に入れることはできた。……まぁこの格闘技の資料はどう扱ったらいいのかわからないけどさ。
これらをどう使うかは僕しだいだ。

「気にするな。C.E.の事はもう一度こちらで調べてみる。時間のズレの事も含めて、見落としがあるかもわからないからな」
「あ、そうだキラさん。コレが僕の連絡先コード。モニターを呼び出せば使えるから、困ったら連絡してください。……使い方、覚えてますか?」
「使い方?」

何の?

「魔法のですよ。あとデバイスの」
「……そういえば、使えるんだっけ僕も。魔法とか」

これからだ。
このまま異世界に骨を埋めるか、己の役割の為に帰還を志すか。
新しい僕の道を、見つけるか。
全てはここから分岐する。


◇◇◇


ユーノに魔法の基礎を軽く教えてもらいながら教会に帰る途中、とある一つの、今更すぎる問いが僕の中で生まれた。

──今まで僕が戦ってきた理由は、なんだったのか──

そんな今更な、だけど重要な問いが、目の前にあった。

思い出す。

初めての戦争の時。
ストライクに搭乗していた時は友達を守る為、生き残る為に。フリーダムに乗ってからは戦争を終わせる為に、戦った。
この時の僕は、課せられた【目的】の為に戦っていた。

転機はブレイク・ザ・ワールド……二度目の戦争の時。

あの時から僕は、自分の心の【欲求】に従って戦い始めた。
オーブを討たせたくないから、憎しみの連鎖を止めたいから、人間の可能性を守りたかったから。
海鳴市の時もそう。
あの娘達を助けたいと思ったから、僕は魔法を使って天を翔た。

その果てに沢山の人の命を奪った事を知りながら。
知りながらも突き進んだ。

それから、海鳴市からC.E.に帰還してからは、僕は誓いと約束を果たす為に、行動し始めた。

760魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2012/12/17(月) 23:13:13 ID:KkNXZLX2O
そして僕の【欲求】と【目的】は消失した。
でも、やりたい事は無くとも、為すべき事は山程あって……

これが答えだ、キラ・ヤマト。

──僕は、今、何をしたいのか──

再び、問う。

今の僕には為すべき事もない。ただ流されるまま「必要だ」と思った事をやるだけで。
気付いているんだよ。
今まさにユーノに教えてもらっている『魔法』を僕が使う必要も義務もないんだって事ぐらい。
連絡を取り合いたいのなら、それ専用の通信端末を使えばいいだけのこと。

それでも。
それを分かっていながらも、僕はユーノに魔法の基礎を教えてくれと願った。
それこそが、答え。

僕はあの資料を、悲劇を食い止めようと必死に戦い続ける彼女達を見て、未来に羽ばたこうと輝くあの娘達を見て。
やっぱり僕は『守りたい』と思って──【希望】を持って──しまったのだから。
勿論、彼女達は僕に護られるまでもないとは解っているし、具体的にどうすればいいのかも分からないけれど。

だけど、僕は再び戦おうと決めた。
剣を取り、僕だけの戦いを。
僕の想いの為に、戦いたいんだ。
「──あれは……」
「あ、シャンテちゃん?」

教会についたのと、決意は同時で。僕達は紺に染まる世界の中に、華麗にトンファーを振り回す修道女姿の少女を見た。
……戦うシスターさん?
誰?

「ユーノ、あの娘は……」
「シスター・シャンテちゃん、ヴィヴィオの友達ですよ。鍛練中みたいだね」
「……成る程、ね」

クルクルと木製トンファーを繰りながら鋭くステップを踏み抜く、橙の髪をもった少女。
なかなかの機動だ。鋭角なショートステップからの一閃は見事と称賛するに値する。
……彼女も戦ったりするのかな?
ヴィヴィオちゃんも、アレ程の動きを出来るのかな?
この世界は予想以上に刺激が多いらしい。

「ユーノ」
「何ですか?」

気づけば僕は、いつの間にか同じ背丈、年齢になってしまっていた青年にまた一つ、我儘を言ってしまっていた。

「みんなに、会いたい。今日じゃなくていいんだ。……駄目かな?」
「そう言うと思ってました。全然駄目じゃないですよ。……実はさっきクロノと一緒に、みんなに連絡を回してたんです。だから明日か明後日に、ここに集合で」
「……ありがとう、ユーノ」

頑張る人の姿が、僕のナニかに火をつける。まだまだ小さいその火は、無くしてしまった僕の大切なモノであると予感する。その正体を明確にしたくて。
みんなに会えば、わかるのではないかと感じたから。

僕は再会の時を待つ。自分の決めた【道】を胸に抱きながら。




──────続く

761凡人な魔導師:2012/12/17(月) 23:15:36 ID:KkNXZLX2O
以上です。
ではお休みなさいー

762名無しの魔導師:2012/12/18(火) 01:59:49 ID:p6Q8SEzQ0


763凡人な魔導師:2012/12/25(火) 00:02:45 ID:ED9smTgMO
イヴには間に合わなかったですけど、短篇を投下します

764名無しの魔導師:2012/12/25(火) 00:05:17 ID:ED9smTgMO

12月25日。
第1管理世界‐ミッドチルダにも、クリスマスは存在する。

とはいってもソレは第97管理外世界‐地球のモノのような、過去に存在した【メシア】の誕生日を祝う日というわけではない。
世界的なイベントでもないし、そもそも知名度すらもない、ただただ普通の祝日だったのだ。ミッドチルダにとっての12月25日は。

そう、『だった』。過去形。
では現在は?

一大イベントである。

約10年ほど前。とある製菓会社は頭を悩ましていた。
何かしらの、一気に商品を売り捌く為の、都合のよい口実をでっち上げられないものかと。
今のところは安定して商品を世に出せてはいるが、世の不況の流れに逆らえず、徐々に利益が少なくなっていく現状。このままでは商業不振に突入してしまう。そこから脱出する為の、いわば【お祭り】が必要だったのだ。
全くもって、無理難題である。
そんな悩める冬のある日、なんとなく社員が手に取ったマイナー情報紙が、会社の運命を大きく変えた。半信半疑ながらもその情報を頼りに早速、社長をはじめとした重役達は、記されていた場所・日時──12月24日、第97管理外世界‐地球のジャパン──に視察へ行って。
そして視た。

彼等にとっての【メシア】を──

偶然にもミッドチルダの12月25日は『聖王の日』という祝日であった。それも、「昔々、当代聖王が紅き衣を纏い、子ども達にプレゼントを配って歩いた」……という信憑性のない逸話ぐらいしかない地味で、なんの意義もない祝日が。
しかし、その逸話こそが製菓会社にとって重要なものとなった。
そう、その会社は逸話を拡大する形で、地球の【クリスマス】とその【イヴ】をそっくりミッドチルダに導入しようとしたのだった。

そして試行錯誤の末に、それは商業的に成功して。
2年目は業界的に大成功。
4年目には人々が馴染み、決して外すことはできない一大イベントとまでになった。
華々しい光が街に躍り、ケーキ等が飛ぶように売れ、嬉しい悲鳴と穏やかな笑顔が入り乱れる。

以上が、今日のミッドのクリスマスのルーツである。

そして今日。新暦79年12月24日、第10回クリスマス・イヴの到来。
今宵の謳い文句は──



『THE‐クリスマス・ボンバー』



「で、あんたは一体なんなんだ!」
「なんだとはなんだ、ヒトの顔を見ていきなり!」

ミッドチルダ首都‐クラナガン最大のイルミネーションを誇る、中央区民公園。
クリスマス・カラーに彩られたその広場に、一組の男女がいた。

「約束した時間にも間に合ってるし、私の何がいけないんだ?」
「全部だよっ! なんでよりによってそんな……!」

真っ昼間から声を荒げているのは、黒髪の青年。
黒のレザージャンパーに灰のマフラー、ジーンズに黒のブーツという可もなく不可もなくな、普通のメンズファッション。
それこそが不思議と、病的なほどに真白な肌と爛々と輝く紅い瞳を際立たせていて、一種の妖しさを演出していた。

「なんだとぉ? こんな日にデートだっていうのに、いつも通りなカッコしてくるお前に言われる筋合いはない!」

それに食って掛かるのは、金髪の女性。
白いセーターに焦げ茶のロングカーディガン、黒いマフラーとプリーツスカートとオーバーニーソックス、茶のロングブーツ。それだけなら良いものを、要所をゴスロリチックなアクセサリーとベルトで飾って、無駄に独自性をアピールしていて。

765名無しの魔導師:2012/12/25(火) 00:06:17 ID:ED9smTgMO
セミショートの金髪とキリッとした金の瞳がソレを一つのファッションとして調和させていた。

「あー、色気ない可愛らしさない胸もない。粗暴だし。アンタの彼氏になる奴はきっと、変わった趣味の持ち主なんだろうな」
「今のお前がソレを言うのか? マイ・ダーリン」
「ダーリン言うな!」

さて、様子が変である。
繰り返すが、ここはクラナガン最大のイルミネーションを誇る中央区民公園。つまり、クリスマスシーズン最大のデートスポットでもあるわけで。
そんな場所に来る男女といえば、きょうだい家族以外ではカップルしか有り得ないのである。
それなのに、この二人は出会ったそばから大口論。痴話喧嘩ではないマジなベクトルの。
……まぁ、これにはそれ相応の理由があるのだが。

「くそっ、俺だってこんな任務じゃなきゃモガっ」
「それ以上は駄目だよ、シン。僕らがここに来た理由、忘れたわけじゃないでしょ?」
「……ムグ」

うん、まぁ。

「ぷはっ……でもアンタが悪いんですよ。よりにもよってアスハに変身するなんて」
「だって楽なんだもん。きょうだいだからか消費魔力も少なくて済むしさ」

そういうわけである。
黒髪はご存じシン・アスカで、
金髪はカガリ・ユラ・アスハ──に変身したキラ・ヤマトということで。
こんな日にも、二人は管理局のお仕事に追われているのだ。

……囮捜査員として。


◇◇◇


例年通り、今年の冬も管理局に一通の手紙……『犯罪予告』が届いた。
差出人、いや組織はAnti.Couple.Union.──アンチ・カップル・ ユニオン──通称AUC。
内容は、「今年も製菓会社の陰謀に浮かれるリア充共に、神の鉄槌を下して回るので応援ヨロシク」という、冗談なのか本気なのか判断しにくいモノだ。
まぁ先方は本気らしく、実際初めて手紙が届いた5年前は内容のあまりのバカバカしさに無視をしまった為に、数多くの被害者が出てしまったらしい。
とりあえず被害そのものは「ちょっとしたイタズラ」レベルだが、被害届が出た以上、再度予告が出た以上は警戒しなければならないのだ、管理局は。

そして今年の捜査員のメンバーとして選ばれたのが、シンとキラをはじめとする精鋭達──つまるところ、この日に他の任務が入ってない暇人達── なのだ。


◇◇◇


「はいよシン、あーん」
「あーん……うん、美味しいぜカガリ」
「そりゃ良かった」
≪7時方向、距離4に敵性反応≫
「バインド&転送」
「ん、何か言ったか?」
「いや何も」

ベンチに座ってイチャラブしてるカップルの後方で、ドサッと誰かが倒れる音が聞こえて少し蒼の光が瞬いたが、そこには誰もいなかった。

“疑似カップルを形成してACUメンバーを誘い出す……か。これでもう3人目を確保、作戦としては的はずれじゃないんだけど、キリがないよな”
“文句言うな”
“じゃ、シンが女装するか?”
“遠慮する。……はぁ、せめてルナがいればなー……っていうか、口調まで真似る必要ないだろ。中身キラさんのアスハが一時とはいえ彼女だなんて金輪際お断りだ”

表面上ではイチャイチャラブラブな彼氏彼女を演じる傍ら、念話で愚痴をこぼすという高度なマルチタスク。

“やめてよね、本気で女装なんかしたくなかったよ。できるものならラクスとかさぁ”
“それもお断りだ。くそっ、あと二人女子がいればこんな事には……”
“なのは達を巻き込むわけにはいかないしね、こんな任務。仕方ないよ……仕方ないのかぁ”

正直二人の目は死んでいた。

766名無しの魔導師:2012/12/25(火) 00:07:54 ID:ED9smTgMO
ここは異世界ミッドチルダ。キラとシンにとっては、ラクスとルナマリアがいない世界である。
なのに。
何故に恋人いない歴=人生な奴らに爆竹を投げられたり、スカートを捲られたりせにゃならんのか。
何故にマジもんの恋人同士と勘違いされにゃならんのか。
辛い、辛すぎる。

「あれ、シンさん。こんにちはー」

こんな苦境の時に、どこからともなく現れてくれるのがエンジェル・クオリティー。

「おう、ヴィ──」
「ヴィヴィオちゃーん!!」
「はわっ!?」

神速。
出現と同時に瞳を輝かせ、高町ヴィヴィオ(10)に抱きついた金髪の女。
女性でなけりゃ犯罪的だ。
ていうか中身は男だ。
つまり犯罪だ。

「ぇ、ちょっ、誰ですかー!?」
「会いたかった……! なんていうかやっぱり、君は天使だよね。今日はずっと一緒にいよう?」
「ふぇ!?」
「何してんだこのバカ!」
「あ痛ぁっ」

赤と翠の瞳をぱちくりさせた金髪ツーサイドアップ少女は混乱。
仕方ないだろう、見知らぬ女性にいきなりハグされては。しかも何故か名前まで知られてるっていう。
だから、シンがちょうど持っていたスチール缶でカガリの頭部を殴るのは正当なのである。
パカーンっと、良い音がした。

「やだな、冗談だよ」
「そうであって欲しいけどな!」
「だってこんな時にヴィヴィオちゃんだよ? 抱きつきにいかない方がおかしいよ」
「おかしいのはアンタの頭だ」

もしここにアインハルトまでいたらどうなっていたのか……と想像して身震いするシン。
キラは二人にお熱だから、きっと大変な事になっていただろう……

紺のダッフルコートに真白のファー、桃色のフレアスカート、白いサイハイソックス、蜂蜜色のブーツという出で立ちで微笑むヴィヴィオは正に天使。
キラがまた暴走する前にシンが牽制する。話を逸らして離脱させようという魂胆だ。

「悪いヴィヴィオ。この女はほっといてくれ」
「は、はい……、……あの、シンさんの彼女さんですか?」
「違う」
「違うよ」

同時に即答。ただし小声で。

「ちょっと事情が……つーか任務なんだ、この女といるのは。ここ最近は物騒だから……知ってるだろ?」
「例の、あの人達……ですか?」

合わして少女も小声になる。話のわかる子だ、相変わらず。
それだけで、周りに気付かれちゃいけない類いの内容と察してくれるのだ。

「そうだ。俺達はその警戒についてるんだよ。キラさんも別のとこでな」
「お、お疲れ様ですっ!」
「だから、ここでの事は内密に頼む」
「わかりました! えと、それじゃあシンさん、とそれと……」
「カガリだっ」
「カガリさん、私はこれで──」「あ、ちょっと待て」

ここで大人しく行かせないのがキラ・ヤマト。とはいっても真面目な案件故なのだが。

「訊いた話だと、これからアインハルトちゃん達と待ち合わせか? パーティーするとか言ってたよな」
「あっはい、そうなんです。今日はみんなでお店を観て回って、私の家でパーティーをする予定で」
「うん、楽しめよ。それでな──ルージュ、頼む」
≪了解、転送≫

懐から紅いクリスタルを取りだし、デバイスを繰るカガリ。その次の瞬間には、4つ蒼の光と共に紙袋が手に収まっていた。

「コレ、私とキラとそこのシンからお前ら4人へのプレゼント。みんなにメリークリスマス」

767名無しの魔導師:2012/12/25(火) 00:10:10 ID:ED9smTgMO
「わぁ、ありがとうございますっ!! カガリさん、魔導師だったんですね」
「まぁな」
「本当にありがとうございますシンさん、カガリさん。これ、みんなにちゃんと渡します、絶対に!」

こうしてヴィヴィオはぱたぱたと元気に可愛らしく去っていった。
二人はなんとなく和やかな気持ちになった。気力が10上がった。

「ふぅ、危なかった」
「危ないのはアンタだからな。何度も言うが」

コイツも女装でストレス溜まってたんだろうと内心では思うが、あえて突き放すのがキラに対するシンのスタンスだ。
プレゼントを渡す時はもう正気に戻っていたが、ちゃんと釘は刺さなければなるまい。

「あのな。いくらなんでもいきなり抱きつくのはナイぞ。アスハに変身中だったから良かったもの。……つかなんですか。キラさんロリコンですか?」
「違うよっ! ヴァイスさんじゃあるまいし」
「ん? 俺がなんだって?」
「!?」

ヴァイス・グランセニック出現。なんというタイミングだろう、この人は。

「ようシンっ……と、誰だか知らんが同業者か?」
「……、……キラです」
「ああキラか。いやぁ見事な変装だな」
「……どうも。ところで貴方がなんでこんなところに?」

なんか説明するのも疲れたからヴァイスの服装とかは省略。
とりあえず、このヘリパイロット兼狙撃手は同じ対ACUのメンバーだ。担当地区は別のはずだが。

「いやー、ここらの屋台はウチのとこよりクオリティー高くてな。買い出しだよ」
「へぇ。で、なんで三人分なんです?」

ホットコーヒーとクレープを三人分抱えたヴァイス陸曹長29歳。
任務は二人一組なのに。ついでにこの男のパートナーはティアナ・ランスター。10歳差であの親密さがヴァイス陸曹長ロリコン説の要因である。
あと1年すれば多分撤回されると思うが。それまでの辛抱だ。

「シグナムの姐さんが応援に来てくれてなー。いたせりつくせりだよマジで」
「それって」
「お前達が俺の翼だ! コースですか」
「なんだそりゃ」

二股か、この野郎二股か、ヴァイスのくせに。
キラとシンの気力が15下がった。


◇◇◇


虚しい。
すっかり夜になってしまって、公園は幸せそうなカップルだらけ。それを裏から襲おうとする不届き者を密かに取り押さえるエセカップル役。
あまりにも虚しすぎる。

「管理局に特別手当を要請しまくってやる……」
「いいねそれ。女装してるの僕だけだし、軽く見積もって5年分かな」

もう作業ゲーの様相を呈している任務。二人確保した容疑者は既に15人を超えていて、それも全体の3割であるという。
どんだけ巨大な組織なんだACU。もし目的と手段が違っていたら取り返しのつかない規模の事件を起こせるのではないだろうか。
もっとも、

「目的と手段がコレだから、これだけの人数なんだろうけど」
「違いないな」

シンに向かって飛んでくる市販ロケット花火をキラが投石で迎撃し、すぐさまバインドで捕獲、所定の場所に転送する。
ちょっとした尋問と注意をされて、すぐに解放されることだろう。

「リア充爆発しろ、か」

果たして今の自分達は充実しているのだろうか。彼女彼氏がいれば幸せなのだろうか。
彼らからすれば本気ではない、やっかみや嫉妬みたいなモノを、お祭り騒ぎに仕立てているだけなのだろう。事実ACUのメンバーは皆、一様に愉快な表情だ。

768名無しの魔導師:2012/12/25(火) 00:15:30 ID:ED9smTgMO
そこにマジになっている者はいない。むしろ自分達を楽しいイベントの一つとしている節もある。
それでも、彼らの言葉を真剣に考えざるをえないのが二人の性分で。
なまじ【幸せ】というジャンルを扱っているだけに。

「幸せとは、常に人類最大の謎でもあるのですよ、姫」

考えていたから、接近に気付かなかった。

「デュランダルぎ……指令。どうしてここに?」
「お疲れ様です。今日は飲み会とか言ってたと思うんですけど。……あと僕はキラです。こんななりですけど」

青いトレンチコートを羽織り、漆黒の長髪を風に靡かせたギルバート・デュランダルがそこにいた。
かつてのプラント議長であり、今のシンとキラの直属の上司でもある。

「いや、今宵ばかりは姫と呼ばして貰おう。キラ君もといカガリ・ユラ・アスハ。そして……シンはナイトかな? いや、ぜひそうして貰いたい」
「指令……酔ってるんですか?」
「酔ってなどいないさ。ただ」
≪警告。魔力反応増大≫

更に今日という日には、

「その方が今の私にとって都合がいいというだけなのだよ」
≪識別。封時結界発動≫

ACUメンバーという肩書きも追加されているらしい。


◇◇◇


「どうして貴方が、こんな事!」
≪コンバインシールド‐ガトリング≫
「戯れだよ。一度、君たちとは本気で戦ってみたかった」
≪リフレクター≫
「そーいうわけだ。なんであたしが助っ人に選ばれたかは知らんが、やるからには全力で、なぁ!!」
≪シュワルベフリーゲン≫
「ヴィータっ! ちぃ……!」
≪ケルベロス≫

人が宙を舞い、閃光が大気を焼く。
結界の中のイルミネーションが、木々が無惨に吹き飛ばされていく。
突然の魔法戦闘、2on2。
カガリ(キラ)&シン 対 デュランダル&ヴィータ。

「だめだ、ルージュじゃ抑えられない」
≪イーゲルシュテルン≫
「いきなり泣き言か、あぁ!? ラケーテンハンマー!!」
「がっ!?」

ブースターによる加速、回転による遠心力が加わった鉄槌の一撃が、カガリをシールドごとブッ飛ばし、地面にクレーターを形成させる。

「追撃だこんにゃろー!」
≪フランメ‐シュラーク≫
「うわぁ熱っ!」
≪115レールガン≫
「おわぁ痛っ! やりやがったな……!」

そんな逃げ惑う金髪女装野郎と、それを追う真っ赤な少女を眼下に、デュランダルは軽く溜め息を洩らした。

「ふむ、向こうは盛り上がっているようだな」
「そうでありますな、指令」

まるで目的が読めない。何故この人はこんな事をしているのだろう。このまま剣を突きつけていいのか?
シンは軽く迷った。
迷って、

「チェックメイトですよ、投降を」
「参ったな。やはり戦士には勝てないか」

エクスカリバーをデュランダルの喉元に突きつけた。
そもそも召喚士が高機動型魔導師に挑むことが無謀。1on1になれば、こうなるのは当然だった。

「なんでヴィータを巻き込んだんです」
「もちろん、私一人では君たちに対抗できないからだ。あと5秒ほどで、メサイアを召喚できたのだが……いやはや。
──……そうだな、私の趣味だ。赤くて重突撃型、最高じゃないか。だから高級レストランのディナー券8枚で手を打った」
「シスコン・ロリコン・マザコン三重苦という説は?」
「慎んで否定させてもらおう」

8。それは八神家の人数+1。ヴィータが張り切るわけだ。

「シン。君は今日一日、姫といてどうだったね?」

769名無しの魔導師:2012/12/25(火) 00:16:29 ID:ED9smTgMO
「最悪でした」
「だろうな。ならば、どうすれば幸せだった?」
「ルナがいれば、それで」

不思議なほど静まりかえった空間で、シンとデュランダルは問いを重ねていく。
あの時代では出来なかった、最もしなければならなかった事を。

「君は充実しているかな?」
「はい」
「でも幸せではない?」
「はい」
「私もだ。ここにはタリアもラウもレイもいない」

それは【幸せ】を論ずる事。
とある製菓会社が造ったこのイベントはACUという組織を産んだ。彼らの合言葉は、

「リア充爆発しろ」

その言葉は、かつてデスティニープランに関わった者として、深く考えなければならない事だった。
ミッドチルダは本当に平和で、優しい人に満たされていて。
だからシンやキラ、デュランダルのような人間も充実した日々を過ごす事ができた。
でも、それだけで。

「私はソレを訊きたかったのだ。今日、この時、この状況で君達に。だからACUとして君達を襲った。偽者とはいえカップルであった君達を」
「……」
「ただ女といるだけでは、幸せにはなれない。ただ満たされていても、幸せにはなれない。難しいな、人は」
「……はい」

【幸せ】とは何か?
ソレは人類最大の謎である。

「最後に、一つだけ言わせて貰おう」
「……」
「リア充爆発したまえ」
「ちょっ!? いい話ぽかったのに!」

恋人達の夜はふけていく。


◇◇◇


「疲れた……酷いよシン。援護してくれたっていいじゃない……」
「俺には俺の戦いがあったんだよ」
「なにそれ」

結局、キラはボコボコにされた。まぁヴィータも似たような損傷具合で、二人は健闘を讃えあって笑顔で別れた。
デュランダルはいつの間にか居なくなっていたが。神出鬼没なのである。

「あとキラさん。もう変身解除しろよ」

とにもかくにも、ミッション・コンプリート。
大小問わず騒ぎは無し、作戦は大成功だった。

「うわ、もうこんな時間なんだ……ケーキ売れ残ってるかな」
「乗るのかよ? 製菓会社の陰謀に」
「いいじゃない、だってさ……」

キラが変身魔法を解除。いつもの見慣れた男が現れた。
そして、


「彼女いなくても、甘いもの食べれば幸せって感じしない?」


至極なんでもない事のように、トンでもないことを宣った。

「くっ、ははははは!!」
「?」
「それ、言えてる」
「でしょ?」
「じゃ、高町家に突撃するか」
「いいね」

もしかしたら、そう。
大切なモノはいつだって単純なのかもしれない。
それを見失わなければとりあえず、人は幸せで充実していられるのかもしれない。


メリー・クリスマス

770凡人な魔導師:2012/12/25(火) 00:17:41 ID:ED9smTgMO
以上です。

独り身だっていいじゃない、人間だもの。

メリークリスマス

771名無しの魔導師:2012/12/25(火) 10:09:22 ID:ZEHH6K1w0
メリークリスマス乙!

772名無しの魔導師:2013/01/01(火) 05:50:44 ID:uUlLkoXYO
あけおめ!と言っておこう!

773とある支援の二次創作:2013/01/04(金) 23:46:56 ID:pjcTNO8Y0
スレの皆様こんばんは。

5か月余り投下してなくてすみません、区切りは良くないし分量も少ないですが
私が書いているssの投下をさせていただきます。

774とある支援の二次創作:2013/01/04(金) 23:49:43 ID:pjcTNO8Y0
 

 
 ――桜台における魔法戦闘から3週間が経過した。あの戦闘以来ジュエルシードの発動は感知されておらず、また、四人の魔導師達が遭遇する事も無く海鳴市には一時の平穏が舞い降りていた。

 しかし、その平穏の時でさえも四人の魔導師と四機の魔導端末は来るべき対峙の時まで、備えていた。

 不屈の心を持った幼き白い魔導師と血気盛んな幼き赤色の魔導師は、ジュエルシードを捜索する一方で、彼ら自身より格上の魔導師二名に対抗する術を得る為に、パートナーである魔導端末と共に日夜魔法技術の習得に励んでいた。

 紅き瞳に憂いを帯びた黒い魔導師と流麗さを持ち合わせた灰色の魔導師は、まだ未熟な魔導師達の動きを警戒しつつも、目的物であるジュエルシードを入手する為に戦力を分散させる事無く、捜索にあたっていた。



 しかし、その膠着した状況を嘲笑うかのように、ジュエルシードの発動はここ3週間の間成りを潜めるのであった。



 そして、この均衡が崩される事でジュエルシードが束の間の平穏を破り発動することとなる。その影響を受けて戦闘も激化していく。

 

 やがて、二つの陣営の戦闘によって発生する余波は次元世界の秩序を守護する【時空管理局】に把握されるところに至る。



 ――この【時空管理局】との接触が今後の少年少女達の環境を大きく変化させ、その人生における自身の役割を広げることになるのだ―





       魔導戦史リリカルSEED 1st〈Magical History Lylical SEED the first 〉「PHASE05」 





 ――――私立 聖祥大学付属小学校  校門前――――
 
 
 その日の内に行われる授業課程が全て終了したからか、大勢の生徒が校門の外へと足を進め、数人単位のグループで固まって帰宅している。また、子供を迎えに来る為に聖祥学園が保有している駐車場へと向かう車両もそこそこに見受けられる。そんな様々な生徒達が帰宅する光景の中にある一組があった。

 高町なのはを始めとする一組だ。いつものように、家族の高町シンや親友の二人、金髪緑眼の少女――アリサ・バニングス――と黒髪の少女――月村すずか――と一緒に帰宅しようとしている。この四人は同じクラスであり、アリサやすずかが習い事で道を別れる時やバニングス家に仕える執事が車で迎えに来る時以外は、帰宅の際も一緒であり、談笑しながら帰宅するのがいつもの光景である。



 …しかし、ここ最近は少しばかり様子が違っていた。



 「なのはちゃん、シン君、今日も来れないの?」

 すずかが、なのはとシンの二名に対して遊びのお誘いを行っている。しかし、その口調には【これから友達四人で遊べることに喜んでいる】といった様子は無く、発せられた言葉から察するに【二人と遊べない気がするが、何とか誘ってみる】というようなニュアンスが含まれている。この光景は【いつもの帰宅時の光景】からすれば、異常なものなのだが、【ここ数週間の光景】としては当たり前になってしまっているのだ。

775とある支援の二次創作:2013/01/04(金) 23:50:28 ID:pjcTNO8Y0

 「うん……ごめんね」

 「……悪い」

 なのはとシンの二人にもすずかの心境は漠然ながらも理解しているのだろう。しかし、詳しい事情を話してもきっと二人に理解されないと、心の奥底で考えている為に言い出せないのだ。なのはとシンがこのように思い込みで考えてしまうのも仕方の無い事なのだ。

 何故なら、御伽話やアニメの中でしか見たことの無い【魔法】という技術をなのはとシンの二人は行使する事が出来る、挙句の果てに、生命体や無機物を攻撃性の高い凶暴な異相体へと変質させる【ジュエルシード】という宝石を海鳴市を筆頭に回収・捜索して回っていることなど言い出せる筈が無い。そんな事を説明しても【頭のおかしい子】と思われてしまうのが、関の山だ。そもそもこの【魔法】技術はなのは達の住まう世界【管理外世界】ではその存在を出来る限り隠蔽しておかなければならないのだ。


 いくらなのはの親友と言っても、家族にさえ言い出せない事情を説明出来るわけも無い。

 
 事情を話せない様々な理由を脳内に留めつつ、沈んだ気持ちですずかのお誘いに対して【拒否】の返答をするしか二人には手段が無かったのだ。応える声も水中に沈む鉛の如く重いものだった。

 「……別に、良いわよ。大事な用事なんでしょう?」

 なのは、シン、すずかより数歩ほど先頭を歩むアリサが、悲しみのあまり二人の【拒否】の返答に応じれなかったすずかの代わりに応えた。その声には様々な負の感情――苛立ち、不満、悲しみ等――が今にも溢れ出るように受け取れる。

 実際のところ、アリサの不満は爆発寸前なのだ。四人で腹を割って話をしようと思って、なのはやシンを遊びに誘ってみても、この二人はことあるごとに謝罪を入れながら誘いを断り、その理由さえも説明してくれない。逆に学校内で話を聞いてみようと思っても、四人だけで話を出来る場所など学校の中にそんな都合の良い場所など、そうそうあるものでは無いのだ。

 何も相談してくれないなのはとシン、二人の親友なのに何も出来ない自分自身に苛立ち、不満が自身の心に蓄積させながらも今日までアリサは耐えて来たのだ。

 しかし……、


 「…ごめん」
 

 「――っ!!」


 様々な感情が今にも爆発しそうなアリサの後方で、親友の高町なのははこの期に及んでも謝罪をする事しか出来なかった。それが逆効果になるとは、考えもせずに…




 「謝るくらいなら、事情くらい聞かせて欲しいわよ!!」




 アリサは後方の三人に振り返り、在らんばかりの大声で、謝罪一辺倒のなのはに向けて自身の心の叫びを投げ掛けた。投げ掛けた言葉は今アリサが最も欲しているものなのだ。

 ここ数週間、なのはとシンが二人で海鳴市内の様々な場所でクラスメイトや教師達に目撃されている。しかも、アリサやすずかの誘いを断ってまで歩き回っているのは、なのはとシンが目撃された日にち・時間帯から確定している。これはあくまで噂だが、二人が【何か】を探して歩き回っているのではないかという噂がクラス内で流れているのだ。しかし、噂はあくまで噂であり、事実確認も本人たちに聞いても確認が取れないため、クラスメイト達もそこまで話題として挙げてはいない。

 だが、アリサやすずかはその噂が事実では無いかと勘繰っている。そうアリサとすずかが当たりを付けているのは、なのはとシンのここ数週間の不可解な態度・怪しい挙動に着目しているからだ。特にシンはそれが顕著に表われている。

776とある支援の二次創作:2013/01/04(金) 23:51:16 ID:pjcTNO8Y0
 シンは3年1組の中でも成績は上位に位置する、運動神経も同年代の男子よりも格上だ。本人は皆と違うこと・目立つ事を嫌うため手を抜いたりしている場面が垣間見られるのだが、基本的に授業は真面目に取り組む。最も、聖祥学園は教育に力を入れている進学校の為、不真面目な態度で授業を受ける生徒などそもそも居ないのだが。

 しかし、ここ最近のシンは【心此処に在らず】といった様相で授業を受けており、担任に注意される頻度も高くなってしまっている。アリサはそんなシンの様子をいぶかしんで、数日ほど前から、授業終了した際に真っ先にシンの授業用のノートを盗み見ることにしたのだ。すると、ノートには文字という形をしたものが存在しておらず、まるでミミズが所々に蠢いているような字面が並んでいるのだ。更にシンの様子を窺うと、意識が全く授業に向けられていないのだ。まるで能面の様な表情でノートを見ており、少し不気味に感じてしまうのだ。

 一方でなのはも、シン程では無いのだが【心此処に在らず】といった様相で授業を受けているようにアリサとすずかには見受けられた。しかし、なのはの様子を見る限り授業の際には確りとノートを書き写しているので、シンほど重症では無いのだろう。


――だが、親友として、アリサとすずかはどうして二人がそんな状態になっているか気になって仕方ないのだ。


 何故、海鳴市内を隈なく歩き回っているのか?何か探し物をしているのか?それは友達に相談すら出来ない事か?

 何故、授業中にも関わらず授業に意識を向けていないのか?体調が優れないのか?悩み事が在るのか?


 ――話をそれと無く聞いてみてもはぐらかされ、詳しく聞こうとあれこれ手を尽くして見ても、全てが空振りに終わる。


 知りたい。何をしているのか?二人の力にはなれないのか?自分やすずかでは何の手助けも出来ないのか?


 ――何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で――


 ――アリサの疑問は尽きる事無く湧き出てくる、それは最早湯水濁流の如く。


 だからこそ、今この場で大声でなのはに向けて言葉を投げ掛けたのだ、自分の本心を、心からの言葉を、事情を話してくれと。しかし、そんなアリサの心境を全く考慮に入っていないのか、なのはとシンからの返答は残酷なものだった。

777とある支援の二次創作:2013/01/04(金) 23:51:52 ID:pjcTNO8Y0

 「……ごめんね」「……悪い」

 二人の助けになりたい、悩みがあるなら聞かせて欲しい、ありったけの想いを込めた【質問】に対して、シンもなのはも【謝罪】で返して来たのだ。この時、シンとなのはが取った行動はコミュニケーションとしてはあまり良い手段とは言えない。一般的には【質問】に対しては、どんな言葉であれ【応答】の行動を取る事が好ましい手段である。しかも友人間のやり取りであるならば、尚更【応答】の重要性は高いものであろう。

 しかし、シンもなのはもアリサの【質問】に対して【謝罪】の行動を取ってしまったのだ。【謝罪】という行為を行う事によって、アリサからの【質問】を回避してしまったのだ。判り易く説明すると【話を逸らす】という状況だろう。なのはとシンが関わっている状況が特異な事情であるだけに、アリサやすずかに理由を説明出来ないのは仕方の無い事である。だが、それを差し引いても、今日という日まで会話をことごとく回避した挙句に、アリサが万感の想いを込めた【質問】でさえもなのはとシンは逃げの姿勢を取ってしまったのだ。これでは、アリサやすずかから友達として信頼されていないのではないかという疑惑さえも持たれてしまう危険性が高まる。


 ――実際、アリサのはらわたは煮えくり返る一方だった。


 「どうしたらいいのか?私たちは友達では無いのか?」などといった様々なマイナス思考がアリサの胸中に渦巻いていた。


 ――だが、アリサはそれでもシンやなのはから事情を聞き出す事を諦めていないのだ。 


 正直、こうなってしまったら取っ組み合いの喧嘩でもした方が手っ取り早いのではないかとさえ考えているのである。これは、アリサという少女の性格も起因している。要は負けず嫌いなのだ。だが、周囲を見回してみると人も多い上に先程のアリサの剣幕で注目もされてしまっている。状況はアリサに対して不利に回ってしまったのだ。

 しかし、悪い事ばかりではない。大声を出した事で少しは冷静にはなれた、とアリサは胸中で把握している。そして、今ここで自分に取れる手段など無いのだという事も理解出来ているのだ。

 「……じゃあね。行くわよ、すずか」
 
 「あ……アリサちゃん。ごめんね、なのはちゃん、シン君、また明日」
 
 なのはとシンに別れを告げ、アリサは早歩き、大股、駆け足へと順々に速度を上げて三人から離れていった。すずかもなのは達に謝罪と別れを告げ、先程駆けて行ったアリサを追い駆けるために早々と速度を上げて、なのは達から離れていった。駆け去って行く二人の背中を見詰めながら、なのははか細い声で応答する、その一方で…


 「ああ!!また、また明日!!」


 走り去って行った二人に届くようにと、シンは出せる限りの大声で二人に【応答】した。

778とある支援の二次創作:2013/01/04(金) 23:53:13 ID:pjcTNO8Y0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 



 雲一つも見当たらない晴天の空の下、聖祥学園の制服に身を包んでいるなのはとシンは海鳴市藤見町にある自宅へと帰宅する最中である。しかし、道中に会話は無く二人とも酷く落ち込んだ雰囲気を漂わせながらとぼとぼと歩んでいた。

 「……怒らせちまったな」

 「……うん」

 ふと、シンが先程の友人たちとの事の顛末を呟いた。道中の無言の空気に耐えられなかったのだろう。応えるなのはの声も、か細いままであった。事情を話せない事の辛さ、それが原因で友人を怒らせた事に二人は心を痛めていると推測できる。

 シンやなのはの予測では、自分達が現在直面している事態―ジュエルシードという菱形の青い宝石を捜している事―を話してしまえば、心優しい友人であるアリサもすずかも協力を申し立てるのでは無いかと危惧しているのだ。だが、なのは達、いや、ユーノが回収しようとしているジュエルシードは有機生命体や無機物を凶暴な異相体に変異させてしまう性質を内包する危険な代物である。魔法を使役する技術、魔導端末が無ければこの異相体には対抗出来ないのが現状でもある。

 それ故に、家族や友人を始めとした異相体に対抗出来る術を持たない人々に危険な目に合わせる訳にはいかない。友人のアリサ、すずかに対しても、興味本位で取り返しのつかない事態に陥ることは絶対に避けたい。そう考えているからこそ、絶対に誰にも事情を話すまいと決心しているのだ。これは、なのはとシンの二人で話し合った末に出した結論なのだ。

 「…判ってはいたけど……辛いな」

 「……うん」

 異相体という実力の測れない未知数の力を秘めた敵、ジュエルシードを探し求める格上の実力を持つ魔導師二名、なのはとシンはこれらに対抗する為に、ここ3週間は朝昼夜を問わずに魔法技術の鍛錬を行っている。二人は勉学に励まなければならない学生である為、普段平日においては学校で授業を受けている身であるのだが、その際においても魔導端末主導の鍛錬は欠かさずに行っているのだ。

 普段、学校で授業を受けているにも関わらず、魔法技術の鍛錬を可能にしているのが【マルチタスク;multi-task】というスキルである。魔導師の大半は複数の思考行動・魔法処理を並列で行う訓練を積んでいる。このマルチタスク処理は魔法の実践利用や高速化においては欠かせない要素である。シンもなのはも平日の授業時にはこのマルチタスクスキルの訓練を積む為に、意識空間を魔法で作り上げて、そこで実際に魔法の訓練を行っているのだ。


 ・自分自身が落ち着いてトレーニング出来る空間を彼らの意識内に、魔力を使役して形成しそれを維持する。

 ・その空間内で実際にシンならブースト魔法、なのはなら実戦形式のトレーニングに魔力を使用する。

 ・彼らの意識の外つまり現実空間では、実際に授業を受けて、ノートを書き写している。


 ここ数週間の内でシンとなのはが行っていたマルチタスクの訓練を判り易く纏めると、この3点が内容となる。しかし、現状ではこのマルチタスクが問題となっているのだ。

779とある支援の二次創作:2013/01/04(金) 23:53:54 ID:pjcTNO8Y0

 「ごめんな、なのは。俺がもうちょっとマルチタスクが上手く使えれば、アリサ達に勘付かれる様なヘマは無かったのに」

 「そんな!シン君が悪い訳じゃないよ!……私だって上手に出来なかった…から」
 
 二人がお互いに謝り合っている。このような状況となっているには訳がある、まだ魔法技術を習いたてであり不慣れななのはは、マルチタスクを上手く使いこなせないのだ。それが原因で勘の鋭い友人達、アリサ・バニングスや月村すずかには授業時にも関わらず【心ここにあらず】な状態を見抜かれてしまっているのだ。だが、なのははまだ差し支えの無いものである。

 そう、問題はシンなのだ。

 シンの現状として、ここ数週間の内マルチタスクスキル進展の兆候が見られない。意識空間の形成と魔法技術の鍛錬の二点しか満足に行えておらず、現実空間においてはノートを書き写す事すら充分に行えていないのだ。その内容は字という形すら、満足に形成出来ていない。更に悪い事に、その満足に文字が書けていない状態のノートをアリサやすずかに目撃されてしまっており、それが今回の騒ぎの一端になったのだ。

 しかし、実際騒ぎとなった原因についてはシンのマルチタスクの拙さだけが原因ではない。これに加えクラス内で口々に話されている【噂】も要因の一つとなっている。それは、シンとなのはが海鳴市内をジュエルシードを捜索して徘徊している様子を教師やクラスメイトに目撃されているために「高町なのはと高町シンが海鳴市内で何かを探して回っている」という内容の【噂】が囁かれているからだ。事実である事には間違いないのだが、その【噂】が出回っている事を本人達は全く把握していない。そして、その【噂】が出回っていた事を本人達が知るのも、かなり先の話となる。

 何はともあれ、友人を怒らせる原因を作り上げたのは自分だと、彼らは、頑なにお互いが主張している為に、謝り合う様な状態が数分程続いた。アリサ達との一幕がどれほど精神的に堪えたのかが、その様子から見て取れる。フォローを入れてくれる大人が一人でも彼らの味方についていてくれれば、彼らの心境も少しは楽になったのだろうが、無いものをねだってもどうしようもないのだ。


 ――そんなシチュエーションを打ち破ったのは、携帯の着信音だった。

 
 「もしもし、高町シンです。って美由紀姉さん?どうしたの?」

 なのはに断りを入れて、鞄から携帯電話を取り出してシンは応答する。電話の相手はなのはの姉の美由紀だった。

 『――あ、シン?もう学校終ってるよね?ちょっとおつかい頼んでいいかな?――』

 美由紀からの電話の内容は、高町家が経営している喫茶店で急遽足りなくなってしまった食材の購入であった。充分に下ごしらえをしていたのだが、本日の客足が予想以上に多く食材が不足してしまうのが確実なので、シンにおつかいを頼む運びとなったのだ。シンは購入してくる食材を聞き取り、メモ帳に記入した。

 「わかったよ、美由紀姉さん。買ってくるのはいつもの場所で良いんだよね?」 

 『――うん、大丈夫だよ。それじゃあ、お願いね――』

 美由紀からの通話を切り、シンは携帯電話を鞄に戻した。

 「お姉ちゃん…から?」

 「ああ、買出しを頼まれた。だからなのはは先にユーノとジュエルシードを探しててくれ。終ったらすぐに合流する」

 「うん、分かった…」

 シンはなのはへと向けていた身体を反転させ、買出しに利用している店舗がある駅前のアーケード街の方向へと向かう。シンが身体を反転させた際になのはとシンの視線が重なった。その間にお互いが念話でこう告げたのだ。





 『ごめん』と。
 

 


 ―――シンは念話と同時に駆け出した。その胸中にある自分を情けなく思う気持ちを払拭するかの如く、全速力で。

780とある支援の二次創作:2013/01/04(金) 23:55:04 ID:pjcTNO8Y0
◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 ――海鳴駅 駅前アーケード街――

 海鳴駅周辺にあるアーケード街の店舗、そこのスーパーマーケットでメモ帳に記した食材全てを買い揃えてシンは店外へとでた。今の時間帯では、安売りサービスを行うタイムセールに重なるのでは無いかという懸念をシンは抱いていたのだが、無事に買い揃える事が出来たので一安心といったところだ。販売価格も良心的なお値段で販売してくれる店舗なので、喫茶翠屋での主力商品のスイーツ以外の食材は大抵ここのスーパーで購入している。

 「シン!」

 店外に出た自分を呼びかける声にシンは気付き、その方向に振り向く。すると、今し方シンに電話を掛けてきた高町美由紀が私服姿で佇んでいたのだ。

 「あれ?姉さん?店の方は良いの?」

 「足りない食材を結構揃えるから私も荷物持ちに来たんだよ。母さんには伝えてあるから大丈夫だよ」

 シンに説明しつつも、シンが片側の手にぶら下げている食材を入れたビニール袋を美由紀は預かる。

 「ありがとう、姉さん。かなり重かったから助かったよ」

 「気にしない、気にしない」

 軽い調子でシンに労いの言葉を掛ける美由紀にシンは歩幅を合わせて歩き始める。春先とはいえ夕刻間際になって来ると冷え込むのだが、それにも関わらず美由紀はミニスカートを着用している。太股から膝下、足の踝に至るまで露出をしている。その様相には見る者の身心が寒さで震えてしまうような印象を与える。しかし、若さからか美由紀は平然とした有様である。

 なのは達の姉・美由紀は高町家がある藤見町から30分ほど離れた私立風芽丘学園に通う花の17歳である。彼女は日夜、長男・高町恭也とともに高町家に伝わる剣術『御神流』正式名称『永全不動八門一派・御神真刀流-小太刀二刀術』の修練に励んでいる。美由紀の可憐な外見に所々感じ取れる所為・挙動の熟練した様子は日頃の訓練の賜物でもある。薄着でも平然とした様子でいられるのは剣の術を嗜んでいるのも理由だろう。

 だからこそ、ここ数週間のなのはとシンの日常における行動の変化に対しても美由紀は鋭敏に感じ取れるのだ。

 なのは達の行動の変化としては、早朝に外出し朝食までに一時帰宅して学校に登校、その後放課後は市内の至る所に外出し、夕食までに帰宅する。なのはは塾の日程以外は必ず外出しており、シンは今まで欠かさずに行ってきた翠屋の手伝いを休んでまで行なっている。このような行動は数週間ほど続いており、今尚継続中だ。しかし、この件に関して父・士郎は静観に徹しており、母・桃子も心配している様子はあるものの子供たちの行動の変化を成長と感じているからか、言い咎める事は無い。

781とある支援の二次創作:2013/01/04(金) 23:56:58 ID:pjcTNO8Y0
 父や母、そして自分達の日常的な会話の受け答えに対して、応えられる範囲はしっかりと応えるのでなのは達が非行に走っている様子は垣間見られ無い。何か悪行を働いている訳では無いと美由紀は安心はしている。だが、正直な話10歳にも満たない小学生が夜道を闊歩するという行為は褒められたものではない、どんな危険が潜んでいるかは判らないのだ。出来ればまだ幼い二人には夜間の外出は控えて貰いたいと考えており、兄・恭也と共にどの様に二人に説得を行うか思考を巡らせているが、一向に解決策は見付からない。

 美由紀が食材の買出しにシンだけを呼び出したのも、それと無くここ最近の奇妙な行動について聞き出す絶好の機会だと考えたからだ。

 シンだけを呼び出し聞き込みを行うのは不自然に感じられるだろうが、もし仮になのはもしくはシンとなのはの二人に事情を聞きだそうとすれば、まだ肉体・精神的にも幼いなのはは情緒不安定に陥ってしまい、事情を聞くどころでは無くなってしまうのではないか、といった懸念を美由紀は感じているのだ。その点シンにおいては肉体的に幼いのはなのはと同様だが、精神面に関しては外見の年齢に対して不相応の落ち着きを備えている。話し相手としてはうってつけなのだ。

 しかし、シンを呼び出すことに成功したのは良いとしても一体どのタイミングで会話を切り出せば良いのか美由紀は悩んでいた。

 駅の反対側のアーケード街で買出しを済ませ、後は翠屋に食材を届けるだけというのが今の状況だ。現在歩いているアーケード街の位置からちょうど反対側に高町家は翠屋を営んでいる為、距離を時間で算出すると十分ほどで到着するのだ。つまり、十分も掛からない時間の中でシンに近況を聞き出さなければならない、もしくは食材を届けた後に少しシンと会話する時間を貰う、というなんとも間の抜けたことをする必要があるのだ。

 そして、美由紀には武の嗜みを備えていても、わずか十分でシンから事情をヒアリング出来る技能や話法など持ち合わせて居ない。故に一縷の望みを掛けて、食材を届けた後にシンと話す時間を貰える様にシンと交渉、桃子に提案するしか方法はないのだ。

 「美由紀姉さん?どうかしたの?考え込んでるみたいだけど」

 「えっ!?いや、ちょっとね。そうだ!シンこの後時間空いてる?ちょっとコーヒー入れるから味見して欲しいんだけど」 

 シンから質問を受けて美由紀は幾許か動揺したのだが、すぐに気を取り直しシンと話す時間を取る為にコーヒーの味見をダシにシンに対して提案して来た。

 「あ…いや、美由紀姉さん、ごめん。なのはと約束があるから食材届けたらすぐに出るよ」

 美由紀からの提案に戸惑ったものの、すぐにその提案を断るシン。

 「…あはは、そうだよねぇ。忙しい所ごめんね」

 シンから事情を聞き出す為に、思考の果てに導き出した提案をあっさりと断られてしまい、少しだけ落ち込む美由紀。美由紀の心中を把握出来ていないのかシンは【分かりません】といった風に顔を首傾げながらキョトンとするのだった。

 シンやなのはが一丸となって一つの目的に向かって日々精進勇猛邁進することは、二人にとってより良い成長を二人に齎し彼らの血肉となるだろう。しかし、一方で彼ら周囲の環境・人間関係について鈍感になり過ぎている、これについては良い事だとは言えないのだ。子供というものは回りに迷惑を掛けつつも、その事象から学び取ることでも成長する。魔法関係の事情もそうだが、二人とも視野が狭くなってしまうのだろう。それが原因で家族や友人に対して余計に心配を掛けてしまうのだ。

782とある支援の二次創作:2013/01/04(金) 23:57:56 ID:pjcTNO8Y0
 もう少し、この二人には頭頑なにならず柔軟性を持ち合わせた方が二人にとっても良い状況に転じるのだが、こればかりはマルチタスクスキルや魔導師として大成できたとしてもどうにもならない。シンとなのはの人となり、性質によるものなので致し方ないのだ。だが、それもまた経験となるのだろう、今の状況を後々に自分達で分析・理解し、糧とすることが出来るのも人間の持ち得る特権なのだ。逆を言えば、経験を全く活かせず同じ間違いを繰り返すのもまた人間であると言えるのだが。 

 翠屋で時間をつぶさせてシンから事情を聞き出すための提案を考えているうちに、翠屋の近くまで来ていた事に美由紀は気付いたが、最早今自分が繰り出せる手段が無くなったことに美由紀は肩を落としそうな心境だ。また時間を掛けて、事情を聞き出す算段と機会を見出せねばと思考した。

 シンは高町家が保護した養子なのだが、それとは全く関係なく美由紀は【弟】としてシンの事を扱い心配もしてくれる、10代後半でありながらも面倒見の良い善き姉代わりとも言えるだろう。

 

 ――突如として翠屋まで向けていた脚をシンは止めた。 



 一体どうしたのだろうか?と美由紀がシンの方を振り返ると、シンの表情には様々な感情の色が表われていた。怒り・驚き・焦りなどのマイナスの感情が見え隠れしている、と美由紀は心中で評した。しかし、このような表情をしたシンを美由紀は今まで見たことが無かった。翠屋の手伝いをする時の快活な表情、なのはと何かしらの遣り取りを行なう際に浮かぶ慈愛に満ち、兄・恭也と重なるような表情、友人たちと遊ぶ時に浮かべる楽しげな表情。

 しかし、今のシンの表情にはよく浮かべる感情―プラスの感情―が一切無く、マイナスの感情で一杯なのである。

 シンの表情を見兼ねた美由紀はシンに声を掛けようとしたが、シンは即座に走り出した。虚を突かれた美由紀は反応に遅れが生じ、慌ててシンを追い駆けた。だが、駆けた行き先は翠屋だったので美由紀としては拍子抜けだった。その事はともかくとして、美由紀も勢い良く店の中に入ったシンに続いて入店した。

 美由紀が入店すると翠屋の出入口のすぐそばで立ち往生しているシンが目に入った。 

 シンが見入っている方向に向けて美由紀は目線を向けた。そこには、シンと同年代な背格好でありながらも大変整った容姿をしており、尚且つ金髪が目を引く少年が翠屋のカウンター席に座っているのが目に入った。席のテーブルには注文したであろうコーヒーが一杯だけ鎮座していた。

 シンの友人だろうかと美由紀は思案したが、シンやなのはの友人・クラスメイト関係の子供達にはあのような端麗な容姿をした少年は見掛けたことは無かった。しかし、只ならぬ雰囲気を発しているシンを放って置く訳にもいかない。そのような結論を付けた美由紀はシンに声を掛けようとしたが、シンはすぐさま気を取り直したのか、厨房の奥に居るであろう父・士郎、母・桃子に買出しを終えた旨を報告しに向かった。

 シンのあのよう底冷えするような態度は一体何処で身に付けたのだろうかと美由紀は疑問に思ったが、美由紀は今しがたシンが苛烈な視線を向けたであろう少年が気になり、視線を移した。しかし少年は席を立ち、今にも店を出るために会計を済ませる様な様子である。

783とある支援の二次創作:2013/01/04(金) 23:58:46 ID:pjcTNO8Y0

 シンが強烈な視線を送ったことが原因で悪い印象を与えたかもしれないと考え、美由紀は弟代わりのシンの不躾な行いを謝罪するために金髪の少年に声を掛けた。

 「あ、あのごめんね。家の弟が変な目で君のこと見てたから、気分悪くしちゃったかな?」

 「……いえ、お気になさらず。美味しいコーヒーが頂けたので大変満足しております」

 声を掛けた美由紀に対して一瞬キョトンとした視線を送る金髪の少年だったが、気を取り直し翠屋が提供したコーヒーに対しての賛辞を送った。

 「そうなんだ、それなら良かった。ところで君は家の弟と知り合いなのかな?」

 金髪の少年の純粋な賛辞の声に対して美由紀は安堵し、純粋な疑問を少年に投げかけた。

 「いえ、少なくとも私は存じ上げません」

 シンの苛烈な視線など何処吹く風といった冷静な面持ちを金髪の少年は崩さず、会計に足を運ぼうとした。

 シンの変わり映えの早さと金髪の少年の冷静さは一体何なのだろうかと美由紀は双方に疑問が強くなった。普段から接しているシンは穏やかな印象を崩さず、高町家の一員として生活しているのだが、先ほどの変わり映えには日常から鍛錬を欠かさず行う美由紀ですら、背筋が寒くなるほどの威圧感を感じたのだ。だが、そんな美由紀ですら緊張せざるを得なかったシンの威圧感をあっさりと受け流し、冷静さを損なわないこの金髪の少年の普通とは一線を画したメンタル面にも常軌を逸した【ナニカ】を美由紀は僅かばかりに感じ取ったのだ。

 金髪の少年が会計を済ませ、店から出るところを呆然と見送った美由紀は店内を掃除していたアルバイト店員に声を掛けられシンに遅れること数分、購入した食材を父と母に届けることにした。

 「母さん、ただいま。買ってきた食材は冷蔵庫に入れとくよ」

 「おかえりなさい美由紀、ご苦労様」

 翠屋の厨房に入室した美由紀はシンと半分に分けた食材を業務用の容量の大きい冷蔵庫に用途別に仕分けした。その動作を終えてからある違和感に美由紀は気付いた。今し方自分より先に入室したシンが既に厨房から居なくなっているのだ。

 「ねえ母さん、シンは何処に入ったの?」

 シンの所在を確認するために母の桃子に確認を取ったのだが、どうやら翠屋の裏口から外出したことを美由紀は知った。父の士郎の一見では、随分と急いだ様子だったとも聞き及んだのだ。両親からシンの行動を聞いて、美由紀はその胸中にざわめくものを感じ取った。




 翠屋に到着する前のシンの突発的な行動と異様な表情、謎めいた雰囲気を纏った不思議な金髪の少年そして最後に両親から聞き及んだシンの外出までの経緯。





 剣士としてはまだ未熟である自身の感覚を頼りにするのは些か不安があるのだが、それでも美由紀は一連の出来事を偶然等と片付けることは出来なかった。




 あの容姿端麗な少年は先ほどのシンの変化に何かしら関わっているのでは無いのか?そして、シンとなのはのここ数週間の奇妙な行動パターンの原因でも無いのか?そう考えた美由紀は真相を確認するために両親に適当な言い訳を付けて、翠屋の手伝いを辞退してシンの追跡を行うため翠屋から出て行った。

784とある支援の二次創作:2013/01/05(土) 00:03:29 ID:NAckKDc20
投下終了。


…いや、短くて本当に申し訳ありません。
半月近く投下しなかった上にこの短さ…、いやあえて言い訳するならストック尽きました。

原作の劇場版からどんどん離れていってますが、この後の展開がさらにかけ離れて原作残らなくなるんじゃないかと危惧してます。
しかも久々の投下に関わらず絵の用意もしてないという死活問題。

出来る限りなんとかしていきたいと思ってます。
では今回はここらでお暇します。

本年度も宜しくお願い申し上げます。

785名無しの魔導師:2013/01/05(土) 00:45:15 ID:Yj.xU0mwO
投下乙 and 久しぶりです and あけましておめでとうございます and 2013投下第一号おめでとう and 今年もよろしくお願いいたします。

いやはや、短いなんてとんでもない。結構な情報量でしたよ。
投下ペースもマイペースでいらしても自分としては全く問題ありませんわ。

それにしても、やはり9歳の少年少女達には厳し過ぎるシリアスな状況ですよねぇ無印とAsは。よくこんなんで健全に育ったもんですな。

さて、次回のシンとレイ+αな修羅場が楽しみです

786名無しの魔導師:2013/01/06(日) 02:24:41 ID:aJe5KQYUO
投下乙です!
短いだなんて、結構な分量ですよ
今回も楽しめました

787凡人な魔導師:2013/01/20(日) 00:43:42 ID:nJHKBZzkO
こんばんは。そしてここにいる人全員に乙を。

今日の23時に投下する予定です

788魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/01/20(日) 23:01:32 ID:nJHKBZzkO

習慣であった早朝のロードワークを再開した3月初旬本日という日。このミッドで目覚めて4日目の今日という日は、いつになく好調だった。
身体はイイカンジに温まってるし、空気は美味しいし、自然豊かな景観も最高。志すらもバッチリときたら、一日の滑り出しからもう絶好調というしかないんじゃないかな。

「人間、慣れるものだよね」

タオルで汗を拭い、軽くストレッチをこなしながら呟く。
今しがた終わらせたこの習慣は、本来シン・アスカのモノだった。そこに僕が気紛れで付き会い始めたのが、走り始めるキッカケだったんだよな。
最初は本当ただ疲れるだけで、「安易にやりたいなんて言わなきゃよかった!」としか思わなかったのだけど……いつしか慣れて自発的にやるようになって、趣味に筋トレが加わったんだっけ。
僕は元々理系なのにね、今じゃすっかり体育会系。
体力もかなりのレベルだと自負している。

まぁ、故に、絶好調。
習慣を実行できるって素晴らしい。

そんな自分に苦笑しながら、僕は整理体操を終わらせて、

「本当に、ありがとうございますディードさん。わざわざ僕なんかの為に何から何まで……」
「いえ、このような些事。どうということはありません」

今着ているトレーニングウェアのみならず、ランニングコースをも用意してくれた女性に感謝の意を伝えた。



『第三話 未来への心構え』



ディードさん。
焦茶のロングヘアーを赤のカチューシャで装飾した聖王教会(僕が居候させてもらってる組織)所属のシスター。穏やかで礼儀正しい物腰、よく整った顔立ち、『深窓の令嬢』という比喩が似合う雰囲気をもつ、緋目の女性だ。
こんな、一見虫も殺さないような人なのに意外や意外、刀剣による近接戦闘のエキスパートでいらっしゃるんだって。

「じゃあ、今日はよろしくお願いします」
「はい……陛下が御世話になっている、他ならぬユーノ様の頼みですから。問題ありません」

だからこそ僕は、昨日ユーノに紹介してもらった時即座に、相手をお願いさせてもらったんだ。

「……よし。やるよ、ストライクフリーダム──システム起動!」
≪了解、マスター‐キラ・ヤマトを認証。起動します≫

そう、つまり、戦闘の相手を。

魔法と体術を使った戦闘機動、その再確認こそが今の僕には必要だと考えた結果こそが、これ。
戦闘のエキスパート──JS事件において、『ナンバーズ』と称された団体に所属していた戦闘機人──との模擬戦が、最も適切だと。
無礼と無理を承知で、お願いして。そしてそれを了承してくれたのだから、この機会は有効に使わないといけないな。
僕は気合い新たに、ストライクフリーダムの翼を模した【キーホルダー】を天に掲げ、魔法の呪文を唱えた。

≪起動、展開、完了≫

一瞬。
蒼の光。

「……ん。問題はない、ね」

光が霧散して気がつけば、僕は背に蒼二対の魔力翼を背負い、両手に蒼い魔力刃のサーベル『シュペール‐ラケルタ』を装備していて。

眠っていたもう一つの【力】が開放されている事を認識した。
懐かしいな、コレも。

『闇の書事件』以来……4年ぶり。流石にC.E.じゃ魔法は秘密の存在だし、使う機会もなかったから。だから魔法の事なんかすっかり失念してたんだよね。

789魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/01/20(日) 23:02:22 ID:nJHKBZzkO
そう。僕は、魔法機関リンカーコアをその身に宿した、『魔導師』でもあったんだ。
かつてこの【蒼翼】で天を翔け、なのは達と共に戦って。後に、自分には過ぎた力だと封印したモノ。
その力、今もう一度……!

≪システム‐オールグリーン。魔法運用法マニュアルを参照しますか?≫

先ほどから僕に語りかける機械音声は、僕の魔導師としての杖‐デバイス・ストライクフリーダムのもの。
モビルスーツとしての鋼鉄の存在を、僕と共に次元間転移をした際に魔法の万能ツール【デバイス】へと変換されたZGMF‐X20A‐LMそのものだ。

(習うより慣れろ、とはちょっと違うと思うけど。まぁ大丈夫だろう)

このデバイスの待機モードは前述の通り、翼型のキーホルダー。起動すると僕の魔力光である【蒼】を発して、銃や剣、翼を顕現させるようになる。
今はその『サーベルモード』を選択中。まるで西暦の映画にあった、銀河を護る騎士のようなカッコだ。服はトレーニングウェアのままだけど、これはこれで、なんかコスプレみたいで恥ずかしい。
でも、我慢しなきゃ。
なのはやフェイト達のド派手で魔法少女チックだった、アレに比べれば光の剣と翼ぐらい。
彼女達の場合はとっても似合ってて可愛かったけどね、僕みたいなのだと需要はどうなんだろう……

うん。これもきっと慣れる筈さ。

とりあえずと、軽くサーベルを振ってみる……うん、この感じ。重心とかは無いから、まともな剣術を知らない僕でもなんとか扱えるだろう。
あとはどれほどMS操縦テクを生身にトレースできるかだ。

「いや、いらないよ。まずは試運転、飛翔魔法は使わない。スペックを分析と防御に集中して……よし。早速ですけど、行きますよ」
「いつでも。IS・ツインブレイド」

蒼の光刃二刀を構える僕と、緋の光刃二刀を構える彼女。
果たして僕は体捌きと我流の剣術だけで、どこまで彼女に対抗できるのか……。ディードさんの隙の無い構えに、背中に冷たいモノを感じながら、僕は重心を落として腰を据えた。

(……とりあえず、5分はもたせるっ!)

勿論、勝てるなんて微塵も感じていない。今はこの躰がどこまで動けるのかを確かめたいだけだ。
この世界にいる以上は、この世界のやり方で身を守らなくちゃいけない。それを為す力があるのなら、尚更自分の力を知る事が大事なんだ。
この力は、僕の未来を決めてしまうモノなのだから。


◇◇◇


「くぁ……!」
「甘いっ!」

眼前に迫る、緋い刺突を辛うじて左のサーベルで受け流す。が、連続して繰り出されたディードさんの逆袈裟斬りに、左腕を大きく外に弾かれてしまった。
左にブレる体幹。

「まだ、だ!」

このままじゃ無防備。
だからこのままじゃ終わらない。
弾かれた勢いそのまま、左足を軸に反時計回りに回転。地面を抉りながら腰を落として、足払いを敢行する。

「っ」
(よし、いける)

結果は目論見通り。ディードさんは瞬時に後方へ跳躍、距離をとらせる事に成功した。
が。
着地と同時に、瞬間的に超加速したディードさんに一気に背後に回り込まれ、鍔競り合いに持ち込まれてしまった。
速すぎる!

「!?」
「意外と、粘りますね! 正直もって3分程と思っていましたがっ」
「僕は、諦めが悪いんだ……、……せい!」

いや、ソレだけじゃない。僕自身に、何か違和感が……?
でも、そんなのに怖じ気づいてなんかいられない。今度は此方の攻めだ。
バネのように躰を爆発させ、緋の光刃を弾き返す。続いて左右のコンビネーションで蒼の軌跡を描いて、更にフェイントで蹴りを入れていく。

790魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/01/20(日) 23:04:05 ID:nJHKBZzkO
だけど敵もさるもの、まだディードさんの表情には余裕がありそうだ。動きを阻害されそうな修道服姿なのに、華麗に的確に刃でいなして。

「シッ!」
「────っ」

更には、隙あらばと直ぐさまカウンターを繰り出してくる攻撃性も備えている。
彼女のしなやかな体躯が実現させる鋭く、多角的な斬撃を防ぐのに手一杯になりつつあり、反撃の糸口を掴めない。
違和感が拡大していく。
身体が思ったように動かない。僕の限界が近いのか? けど身体は絶好調で、相手の動きには確かに反応できてる。思考的に、どう動くべきかも解る。なのに……

(ヤバい)

そうした斬り合いの中で、遂に致命的な状況に陥った。

敵は攻撃体勢、此方の首筋を狙った横一閃と予測。対して僕は、重心が後方へ流れていて、剣は腰あたりの高さにある。
今までのように防御は出来ない。なら、回避だ。倒れこんでもいい、しゃがめ。

(しゃがめ)

……こんな時に、遂に違和感は明確なカタチとなって僕を襲った。
僕は無意識にフリーダムのコクピット・コンソールを幻視したのだ。
して、しまったんだ。

(しゃがめ!)

理性が叫ぶ。
でも──でも、そうだ。この程度の攻撃、カウンターしてしまえばいい。僕の操縦技術なら楽勝だ、こんなの。
その為のイメージは確固としている。経験がそう判断する。

重心を更に後ろへ。
左膝を立てながら躰を倒し、右のサーベルを思いっきり引いて構える。
そうすれば、回避してから、躰を強引に引き起こし、順当に刺突をお見舞いできる型になる。

そうする為の操作は。

スロットルを引き下げて、背面スラスターを全てカット。同時に姿勢制御パラメータを変更、バランサーと右脚のパワーも下げる。
その一連の作業を淀みなく終えてから右コントロールスティックを握り、サーベルを操作。回避してからの反撃動作に備えて、フットペダルとスロットルレバーを押し込む準備を──

(いいから、しゃがめぇ!!)

──衝撃が、背中から伝わった。

「……!?」
「これも、避けますか! しかし!」

地面に、仰向けに、無様に倒れていた。この僕が。
呆然と見上げた視線の先には、朝陽輝く蒼穹と、緋剣を振りかぶる女がいて。

(う、わ)
≪ピクウス≫

即座に牽制・離脱。頭部付近の魔法陣から魔力弾を撒き散らしながら横に転がる。
転がりながら、頭を整理。

(……そう、か。身体はちゃんとしゃがんで回避して、そのまま後ろに倒れたんだ)

MSと人間は違う。わかってはいた。生身は操縦できない。
わかってはいたけど、ここまで勝手が違うなんて。イメージとリアルが隔離していて、その差に動作がギクシャクする。

これが違和感の正体。

当たり前の結果。人型の動かし方そのものが根本的に違うんだから。それを失念してた、僕のミスだ。

「くそ……!」

立ち上がり、バックステップ。次に備える。
あの時……シグナムさんと戦った時も同じような状況になったのを思い出す。MSのコクピットを幻視して。
僕は進歩してないってのか!?

「このぉ!!」
「……! っですが!」

追撃の緋の横一閃を屈んで回避しながらサーベルで下から掬い上げるように斬りかかる。

(踏み込みが足りない。届かない……!)
≪警告≫

失敗。ロールターンで斬り返され、ラケルタ二刀で受け止めた。

791魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/01/20(日) 23:06:49 ID:nJHKBZzkO
──くっ、落ち着け。スポーツやケンカなら身体は思うように動いたんだ。ならっ!

「フリーダム!!」
≪クスィフィアス≫

そんな事で諦めてはいられない。
これじゃ終われない。
経験に頼れないなら、持ち前の反射神経と戦闘勘で強引に躰を酷使して、喰いついてやる。
こうやって戦う以上は、意地で義務なんだ。
せっかくの機会と好意、投げ出すわけにはいかない!


◇◇◇


戦闘時間9分26秒。僕が疲労で倒れた事で、幕を閉じた。

「……っ、……」

大の字で倒れたまま動けない。指先を動かす事さえ億劫なほどに筋肉が悲鳴をあげている。こんな状態になったのって久しぶり。
これが今の自分の、限界か。

「やり、ますね……。これ程とは思いませんでした」

少し息を切らせてくれたディードさんがタオルとドリンクを渡してくれた。助かるよ。

「あ、ありがとう……。ホント、強いんですね……」
「いえ、まだまだです私も。……先程の戦闘ですが」
「……はい」

完敗だった。
一撃の有効打も入れられなかったのはお互い様だけど、やっぱり僕は防戦一方だったし、なにより彼女は本気じゃなかった。

実戦だったら、死んでいた。

「貴方にはやはり経験が足りないようです。戦闘センス自体は高いようですが、生身の動かし方がまったく身に付いていないようですね」
「……現実の動作に、思考が追いついてない……いや、イメージだけが突出してる?」
「はい。それが貴方を殺しています」

ペダルやレバー、スイッチを操作して戦うMS戦と、直接身体を動かして戦う魔法戦。
その差を埋める事が、僕の今後の課題か。……MS操縦テクを生身にトレースするのは想像以上に大変みたいだ。
さっきも、少しでも気を抜けば、空気椅子に座って空気レバーを引いてしまいそうな感じだったもの。
うん、やっぱり彼女と戦って良かった。こうやって相手の欠点を直に指摘してくれる人は、そうはいないと思うから。

「貴方に今必要なのは時間と修練です。ゆっくり慣れるといいでしょう……。それと、そろそろ朝食の時間です。遅れないように」
「……あ、ありがとう、ございましたっ!」

気づけば遠ざかる足音。その背に僕はなんとか、感謝を伝える事ができたのだった。

(まだまだ未熟だな、僕も)

しばらく見送ってから、ため息。
まったく情けない。無駄に色んな肩書を持って、いつのまにか調子に乗って、傲ってたのか。
この僕ならきっと大丈夫だ、なんとかなるだろうって。
そんな無意識の思いに足下を掬われた結果だろう、この状況は。
もう少し冷静なら、あんな初歩的な認識ミスはしなかっただろうに。
まったく、情けない。

……悔しいなぁ……


◇◇◇


≪マスター。メール着信有り、ユーノからです≫
「ユーノから? それって」

朝食を食べる前、聖王教会大食堂にて模擬戦のデータをチェックしていた時に、フリーダムからのメッセージ。

≪開封しますか?≫
「お願いするよ」
≪了解。モニターに出力します≫

ユーノからか。もしかして、なのは達の事かな? みんなに会いたいって我が儘を言ったアレ。
随分と手が早いな。
……それにしてもデバイスって本当に便利な代物だ。高性能AI、無制限空間モニター、マルチメディア対応モジュールその他諸々。普通の携帯端末じゃこうはいかないし、是非とも解析してみたい。

792魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/01/20(日) 23:09:06 ID:nJHKBZzkO
それはさておき、メールの内容は……

『おはようございます、キラさん。突然ですいませんが、明日の夕方は空いていますか? 昨日の件、なのは達は「すぐに会いたい」ときたもので……僕の期待通りな反応なんですけどね。
それで、もしよろしければ明日15時頃に教会で集合させたいのですが、どうでしょうか?
あ、僕とクロノは残念ですけど、仕事があってこれません……


P.S.ちょっとしたサプライズもあります』

……いや、サプライズって。事前に言っちゃったら意味ないと思うんだけど……

≪返信しますか?≫
「うん。了解、お願い致しますって」

返信をフリーダムに任せて、虚空に現れたモニターが出力する文書を繰返し読む。その度に胸が暖かくなった。
──すぐに会いたい、か。
嬉しいな。僕なんかにそう言ってくれる人がいる、それが本当に嬉しい……

「あれ? 明日皆さん来るんですか? じゃあ歓迎の準備をしないといけないですね〜」
「……シャンテちゃん、ヒトのメールを勝手に読むのは良くないと思うんだ……」
「ごめんなさーいっ。でも見えちゃったものは仕方ないじゃないですか。席が隣なんですから──って、自己紹介しましたっけ?」

感慨に浸っていたら、明るい少女の声が、背後から聴こえた。
うんまぁ確かに、公共の場で可視モニターを出しちゃった僕が悪いんだけれどさ。そんな意地悪そうな顔しないでよ……
「んー?」と首を傾げてるこの娘は、トンファーを振り回す戦闘少女‐兼‐聖王教会シスターのシャンテちゃん。
フードから覗く橙のおさげがチャームポイントな女の子。

「……昨日友人に教えてもらってね。ごめんね、勝手に」
「そういうことなら別にいいですけど。そういうアナタはキラ・ヤマトさんですよね?」
「そうだけど……」

そっちこそ、なんで知ってるんだ?
そして僕の肯定を聞いたとたん、得心したようにニンマリとしてさ。何だろうこの感じ。彼女はもしかしたら悪戯好きかもしれないと予感させるこの感じは。
あまり弱味は見せられないかもしれないな。

「あ、そだ。さっき皆さんって……。君は皆の事知ってるの?」

とにかく話を逸らす為に、ちょっとした興味で聞いてみる。歓迎って言ってたよね、なのはやユーノの事をよく知っているみたいだ。
すると少女は少し得意げな顔で、

「もちろんですよ! 陛下と私は友達ですから、陛下のお母様達の事は良く存じていますし。何より超有名人ですしねー」

かくも当然とばかりに教えてくれた。コロコロとよく表情が変わる娘だなぁ。
……それにしても、『陛下』ってやっぱり、ヴィヴィオちゃんの事なのかな。ディードさんもそう呼んでたし。
あの金髪オッドアイの、僕にとってはある意味恩人のような女の子。何故恩人かというと、僕の本心を暴いてくれたから。あれから世界が鮮やかに色づいた訳だからね。
……うーん、陛下呼ばわりは何か理由でもあるのか? 後で訊いてみよう。

「そうなんだ……凄いな」

てか、やっぱ有名人なんだ、なのは達は。……そういや多くの雑誌とかで特集が組まれてるってクロノが言ってた。
いつのまにか、そんな大きな存在になってるなんて。月日の流れはこんなにも人を変えるのか……
僕も他人の事は言えないけど、感慨無量だ。あんな小さな、普通の少女達がねぇ。

(会うのが楽しみだな)

待ち遠しい。
会って、色んな話を直に聴きたいな。僕は何を話そうかな。

793魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/01/20(日) 23:09:59 ID:nJHKBZzkO
話題に困る事なんて有り得ない──

……なんて、しみじみと、悠長に感じていたら、

「……それで突然でゴメンですけどねキラさん。正直なところ、貴方は一体何者なんですか?」

ぞわりと。

空気が、一瞬にして変わった。
シャンテちゃんは唐突に真剣な貌になっていて。

「え……」
「あのユーノ司書長やエース・オブ・エース達と関わりがあり、武術の心得もある、次元遭難者の貴方は一体?」

静かな『圧力』を感じ、言葉が詰まる。体感温度も下がった気がする。
……殺気だ、これは。
僕ら二人だけの空間が構築され、周辺世界と隔絶された。雑音が消え、バインドで拘束され、喉元に凶器を突き付けられた気分。

(……迂闊だ)

実際、彼女の手は果物ナイフを弄んでいて。少女だからって油断してた。
僕は誰だ? 身元不明の漂流者だ。──だからこそか。
これは、彼女の警戒心の発露。
中途半端に答えたら、駄目だ。殺される。そう確信する。

「……昔、14年前に知り合って。友達なんだ。その時に僕は次元転移に巻き込まれて……」

ひくつく喉を抑え、なんとかたどたどしく言葉を紡ぐ。
そう。
彼女もこの教会のシスターなんだ。だから僕のプロフィールを把握している。この世界に来た時、医者に嘘は言ってないからそのプロフィールは真実のはずで。
つまり、僕は戦争ばかりしてた世界で、質量兵器を使って戦った軍人=人殺しであるという事を、彼女達は知っている。
そんな男が専用デバイスを使い、いきなりあのディードさんと模擬戦をしたのみならず、異次元の有名人と知り合いなんだ。
怪しいにも程がある。疑うなという方が無理だ。

「……」
「それで……なんていうか……」

戦場に立っていたのだから、殺気自体には慣れてる。でも、今までのソレとは種類が違う。
意図を悟る。彼女は見定めようとしてるんだ。
この怪しすぎる僕という男が、彼女の知り合い達にどんな影響を与える人物なのかを。
きっと、純粋に大切な誰かを案じての行動。いざとなれば自が手を汚す覚悟だろう。
彼女に非はない。
それなら僕は、誠意を持ってこの娘に──

「……クスッ」
「っ?」

──自分の全てを……え?

「ふっふっふっ、どうやら陛下やユーノ司書長に聞いた通りの人物みたいですねぇ」
「え。え?」

なんだ。
なんだ、いきなり殺気が消えた? つーか雰囲気がガラリと。
なんでそんな「イタズラ成功」みたいな顔してるのかな?
聞いた通りって?
なにどゆこと。

「あー、ゴメンなさい。からかっちゃいましたっ」

両手を合わして、明るく謝罪。またまた唐突な展開に、軽く混乱する。
でもすぐに、思考は真実を察知した。

──まさか。

「あ、いや……別にいいケド」

呆然。
まさかこの娘、全部わかった上でやってた?
僕の事を性格含めて昨日、ユーノ達から予め訊いた上で? 舌をだして可愛らしく謝る彼女を見て、急激な脱力感に襲われる。
やられた。

「……あのね、心臓に悪いよ? あんな迫真の演技されちゃ」
「いやまぁ、半分マジでしたけどね? そこはホントごめんですけど」

わかってはいたけど、本当に「半分マジでした」か。
僕、この娘には一生敵わないかも……

「それは……仕方ないと思うよ。僕も考えなしだったから、君がそうしたのは自然だよ」

オトナのヨユウを見せながら内心反省。

794魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/01/20(日) 23:10:39 ID:nJHKBZzkO
もう少し、自分の身の振りは考えないといけないか。どうして此処に存在しているのかは、忘れちゃいけない。
肩書がないって事は、これから造られるってこと。レッテルにしろなんにしろね。ユーノ達には頼れない部分だ。
さっきのも、僕の反応次第では沙汰になっていたに違いない。そう瞳が物語っていた。

「なんか、うん。……ありがとう」
「は、はい? ……どう、いたしまして? うーん、調子狂うな……やっぱり騙したのは悪いですからねぇ、こんど埋め合わせしますよシスターとして」
「えと、お手柔らかに──あっそうだ」

慣れという惰性ばかりで看過しちゃいけない、大切な事。
未知は鮮烈に受けとめて。新たな友人には相応の気持ちで。過去の知り合いにも同様に。
また小さい娘に教われちゃった。初心って大事だね。

「ちゃんと自己紹介をしたいけど、いいかな」

だから、本心から、素直な気持ちで、

「あー、そうですね、うん。──シャンテ・アピニオン14歳、聖王教会本部修道騎士団所属ですっ」
「キラ・ヤマト23歳、無職です。これからよろしくね、シャンテちゃん」

始めの一歩をもう一度。




──────続く

795凡人な魔導師:2013/01/20(日) 23:14:36 ID:nJHKBZzkO
以上です。表現や描写がワンパターンになっているのが目下の課題ですね。

春はBDにUXにRGにHGと色々大変そうな嬉しい予感

796名無しの魔導師:2013/01/21(月) 23:28:06 ID:d5I1rlZsO
遅ればせながら乙です!

BR、フィギュア、1月、2月は自分も出費が激しい有り様だ

797名無しの魔導師:2013/01/22(火) 21:42:53 ID:eSCcB5Qc0
今の作品クロスオーバー作品に載せてないですけどこれって投稿した本人が出さなければならないってことですかね?
今まで作品を載せて来た人達はどうしてたのだろうか……

798凡人な魔導師:2013/01/23(水) 00:03:54 ID:UK9H.zZIO
どうもこんばんわ

>>797
新規/更新依頼のとこにコメントはありますが、何故か反映されてませんね。
自分はWikiのやり方が今一つ分かってないので、編集してみようにも「???」って感じです。ついでに新参でもあるので昔の事も分かってません。
色々と力不足で申し訳ない気分です。誰かなんとかしてくれないかなっ(超他力本願)


とりあえず、来週か再来週にはまた投下できそうです。

799名無しの魔導師:2013/01/23(水) 00:22:26 ID:RHbk4ZnU0
昔は有志の方がやってくれてたけどいまはいないからなあ
でも、自分でまとめてた人もいるしwikiを色々弄くってみたらどうかな

800名無しの魔導師:2013/01/23(水) 00:35:45 ID:UK9H.zZIO
なるほど。
とりあえず、まずは知人にWiki編集に詳しい人がいないか当たってみて、いたら直接学んでみます。いないならいないで、恐る恐る独学で

801とある:2013/01/24(木) 01:05:06 ID:NRWctUPs0
ためしに一話だけWIKI編集したが、かなり面倒だ。

802名無しの魔導師:2013/01/24(木) 02:03:58 ID:I1ZFhKmwO
>>801
おお、GJです。
これを機に此処も活動してる事が広まればいいんですが。


登録は面倒なんですかー
でも、やり方さえわかれば機械音痴な自分でも頑張れるやもしれないですね。
もしよろしければ、手順等を教えてはもらえませんか?

803とある:2013/01/24(木) 22:45:47 ID:NRWctUPs0
>>802
手順…?
とりあえず作者のリンクを作る。
一話毎のリンク作ったら、そのまだ空白のページにコピペすれば一発だと思う。
後は段落ごとに「#br」を入れることで、空行に出来る。
これぐらいかな。

こっちも手探りでやってるからあまり分からないよ。

804とある:2013/01/25(金) 00:11:24 ID:5PIjbSX20
凡人な魔導師氏のリンクだけは作っといた。
まとめはどうすればいいかわからないので後はまかせた(超他力本願)

805名無しの魔導師:2013/01/25(金) 02:03:31 ID:YjHy0NrgO
おおおー
ここまでやって貰えるとは。
じゃあ後は暇な土曜日に自分でやってみて、可能ならKIKI氏のもまとめちゃってみますね

806とある:2013/01/26(土) 01:35:22 ID:gZPa.AyU0
やった、SSに画像貼り付けられた。実はこれが一番やりたかったんだよ。
これはちょっと頑張らざるを得ないんじゃないか?

燃え尽きそうだけど…。

807凡人な魔導師:2013/01/26(土) 02:06:44 ID:0BqplEuwO
とあるさん超乙です。絵が描けて挿絵できるとは贅沢なりぃ

自分も、自分のを登録・編集できました。色々教えてくれた人ありがとうございました。
その際に、文章表現をパソコンに合わして改竄(+追加)をしました。携帯で打った「……」がプレビューで見たら「......」になっていてなんか嫌だったので「・・・・」にしたりと。

これからも頑張ります

808名無しの魔導師:2013/01/26(土) 12:20:47 ID:0BqplEuwO
KIKIさん、登録編集の件ですが、21話をどう扱っていいものかわかりません。主に自分の頭が足りないせいで

旧21話(「前編」がついてる方)は完全に消去ですか? それとも新21話「たいせつなこと」を22話にしてしまいますか?

見てたら返事をお願いしたいのです

809名無しの魔導師:2013/02/01(金) 17:28:06 ID:fuUEDW9E0
次の臨時クロススレには投稿の手順をリストアップしたほうがいいかもしれませんね・・・・・・
そうすれば投稿者がどうすればいいかわかると思うのでいいと思います^^

810名無しの魔導師:2013/02/01(金) 23:58:20 ID:rI4WDY16O
じゃあまず「編集」でリンク作るところから文書化したらいいのかね

811KIKI ◆8OwaNc1pCE:2013/02/02(土) 17:44:36 ID:zhFxDWEkO
久々にくると、トリが不安だ(汗
前編とついてるほうは、題の「前編」という文字のみを消去していただければ有り難いです。(もともと前後編で書くつもりでしたが、次の話を後編とする必要がなくなったので。

登録編集していただき、ありがとうございます
m(__)m

812名無しの魔導師:2013/02/02(土) 23:01:32 ID:JL07UoO2O
>>811
どうもこんばんは。
じゃあ「たいせつなこと」は22話ということで登録しちゃいますね

813KIKI ◆8OwaNc1pCE:2013/02/02(土) 23:26:03 ID:WqUcNBqc0
お願いします。
あ、てことは…PHASE 21 「たいせつなこと」
ではなくPHASE 22 「たいせつなこと」
になりますね。「たいせつなこと」は22話としてお願いします

814凡人な魔導師:2013/02/03(日) 18:32:50 ID:Ta7pqZikO
23時頃に投下させていただきますね

815名無しの魔導師:2013/02/03(日) 20:45:54 ID:c4eUPHiM0
待ってます!いつもありがとうございます。

816魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/03(日) 23:03:32 ID:Ta7pqZikO

木星第一開拓コロニー警護隊隊長‐兼‐木星宙域探査隊隊長‐及び‐C.E.の聖剣、雑用係になる。

うん、C.E.だったらそんな見出しの記事が作られるに違いない。

「シャンテちゃーん。花壇の整備ってこんなでいいかな?」
「おー、良い感じじゃん。じゃあ後はわたしがやるからさ、休憩入っていいよん」
「うん」

働かざる者食うべからず。
生きる為には相応の対価……つまり労働が必要だ。お金も必要だ。
しかし、次元漂流者という身分じゃなかなか仕事にはありつけないもので。住民票もないんじゃ仕方ない……手続きだって大変だ。
まぁそういう訳で無職な居候は、居候先の雑用係として畑仕事や給仕、調理……つまりは教会のお手伝いをする事になったんだ。
今までMS隊隊長職として書類やマシンを相手にしていた華々しい仕事からは一変、執事への道が見えてきた。
やっぱり責任者とか隊長とかより、こういうのの方が好きかな、気楽で。

「……ふぅ」

額を拭って、土にまみれた軍手をポケットに入れる。我ながら良い仕事をしたと思う。
余計な草等を撤去し、煉瓦を磨いて。いろとりどりの春の花々が存分に魅力を発揮できるよう演出。
整然と咲き誇るチューリップ達に、僕は春を実感した。

春。出逢いと別れの季節。

今日、僕は、再会する。



『第四話 集い、踊る色達』



「そういえばさ」

昨日の朝食前に送られたきた、ユーノからのメール。
今日15時あたりに此処に、高町なのは達が来てくれる……って内容のそのメール。
現時刻は11時。僕は最高に浮き足だっていた。

「再来週あたりからヴィヴィオちゃん、四年生だっけ?」
「うんそうだよ、始業式。なのはさん曰く、その日は特別な日にするんだってさ」
「特別な日……」

楽しみで楽しみで堪らない、待ち遠しい。昨日なんて目が冴えて眠れなかったくらい。自分でも不思議なくらい昂って。
まるで、遠足を明日に控えた子どものように。

「じゃあ僕も、何か贈りたいな」

彼女らと一緒にいた時間はとても短かったけど、多分、今までの人生で一番満たされた日々だった冬。
16歳のあの日から、濁っていくばかりだった心が一時でも鮮やかになった、あの33日間。
それを共に過ごした者達が再び集うなんて、夢を見てる気分だ。

「得意料理を作ってあげるとか?」
「いいね。……よしっ」
「おぉ。気合い入ってますなぁ」
「おかげさまで」

うん、充実した一日になりそうで、期待に胸が高まる。

「ここにいましたか、キラさん」
「あ、オットーさん」

そうして意気込んでた中で、ディードさんの双子の片割れ、オットーさんに呼ばれた。
決して「お父さん」ではない。
女性、らしいんだけど、一人称といい髪型といい執事服といい、少年のようにも見えるヒトだ。
ってか、作為的なものも感じるくらい性別不詳なんだよね。容姿とかはディードさんと瓜二つなのにこうも印象が変わるというのは一つの魔法みたいだ。

「なんですか?」

ていうか、どうしたんだろ。何か僕に用事が? でもなんか如何にも「朗報もってきました」的な感じが。

「キラさんにお客様がおみえです」
「え」

……それって、もしかして?


◇◇◇


「死ね! 死んでしまえ!」
「はぁ!? ヒトの顔を見るなりなんだよ!!」

まず目に入ったのは、黒だった。

「いやまぁ分かってたよそんな都合の良い展開なんかないって!」

817魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/03(日) 23:04:47 ID:Ta7pqZikO
「おいコラ無視か」

しかも男だった。

「正直なんで彼女達が僕に好意的なのかわかんないし! ぶっちゃけ僕って足手纏いだったじゃない?」
「聞けや」

一瞬だけクロノかなって思ったけど、違った。残念なことに。

「でも期待したんだ。なのは達がもしかしたら時間前倒しで来てくれたんじゃないかなって。……でも、でもだからってこんな仕打ちはあんまりだ、こんなのってないよ!!」

それはほぼ毎日、見飽きる程に視てきた黒だった。


「聞けや!!」
「痛い!? ……殴ったね。父さんにもぶたれたことないのにっ」
「それが甘ったれなんだよ。殴られもせずに1人前になった奴が……って何言わせんだよアンタって人はーー!?」

木星第一開拓コロニー警護隊副隊長‐兼‐木星宙域探査隊副隊長‐及び‐C.E.の魔剣。
シン・アスカ男性21歳。黒髪紅目の相棒が、何故か目前にいた。



……
………


予定外の来客。
教会内部にある応接室にて、ディードさんが淹れてくれた紅茶に手をつけないまま、僕らはそこで対峙していた。

「……シン、ここで君の顔を見る事になるとは思わなかったよ」
「こっちのセリフだそれ。なんでこうなっちまったんだよ……!」
「知らないよ。気付いたらここにいた……そうでしょ? 僕も君も」
「……っ」

ホント、なんでこんな所にいるんだろう。なんでこんな事になっているんだろう。あまりにも不可解だ。
不可解すぎる。

「ねぇ憶えてる? ここに来る直前って」
「78年11月25日だよ。自室で寝てた。気づいたらこの世界にいた。わけが分からない」
「やっぱり」

何故【僕達】なんだ?
どっちか一人だけなら、まだ納得できた。次元漂流者はさして珍しくなくて、それが偶々、偶然、天文学的確率で僕だったんだって。
時間移動のイレギュラーも含めてさ。

「僕もそうだった」

でも、なんでシンまでもが?
【キラ・ヤマト】と【シン・アスカ】には共通点が多すぎるぐらいに多い。出身世界、境遇、経験、能力、職場、住所、その他諸々。
そんな二人が、同じ時間軸から、揃って未来の異世界‐ミッドチルダに転移しているなんて。
これは本当に、偶然なのか?

「……」
「……」

沈黙。
一切の音が消え、雰囲気が重くなる。喜べない、疑念が深まるだけの再会。前々から予定していた再会とは真逆なシチュエーション。
勿論、この異国の地で無二の相棒と会えたのは嬉しいし幸運だ。でも、こんな形で会いたくなかったよ。

(何かが、大きな何かが動いているのかもしれない)

楽しくお喋りをするにも、ただ思考に没頭するにも、状況は複雑すぎる。でも黙ってるだけじゃ進まない。
こういう空気苦手。何か話題は……、……あ、そうだ。

「僕が此処にいるって、なんで分かったの?」

まさか漫然と不思議センサーで僕を捉えたわけでもないだろう。キラがミッドの聖王教会にいるなんて普通想像もできない。
人脈がない中で、色々と知ってる人を捕まるなんて奇跡的な事をしないかぎり不可能だ。

「それは……、いやまず、そうだな。俺が目覚めたのは4日前、病院だった」
「うん」

シンもキッカケを欲していたのか、自分から話を始めた。ここに至るまでの経緯を。

「で、3日前の夜に、路上で倒れてた俺を見つけた八神はやてって人が……」
「はやてが?」

意外な名前が出た。同時に納得もする。

「やっぱ知り合いか。じゃ、話が早い」

八神はやて……あの車椅子の娘。夜天の書の主にして機動六課の部隊長、優しき一家の母。

818魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/03(日) 23:06:06 ID:Ta7pqZikO
彼女に拾われたのは運がいいよシン。器量が良さそうだからさ。

「とにかく、はやてがお見舞いに来てな。俺がC.E.出身って言ったらめっちゃ驚いて、じゃあキラ・ヤマトを知っているかって」

あー、なんとなく想像できる。3日前の夜って事は、ユーノから僕がいるって連絡を受けている筈だし。
多分シンはわけもわからないまま呆気にとられて肯定したんだろうな。で、落ち着いてから得意のキレ芸をやって、たしなめられて。
そっからはトントン拍子だろう。

「それでクロノ提督って人に会わされた。……色々訊いたし、聞いた。この世界とか、魔法とか、アンタの事とかな」

それで今に至る、か。
ユーノが言ってたサプライズってこれか。まったく、驚いたよ本当。この時間に来させたのは誰の差し金だろね。
けど、うん。これは僕達の転移の謎が深まると同時に、謎を紐解く手掛かりにもなるな。
1人より2人、シンがいれば百人力だ。さっきアスラン……じゃなくて錯乱してた時に、邪険に扱った事も謝らないと。

「びっくりでしょ、魔法とか」
「驚かないわけないだろ。人間が飛んでビーム撃ってワープしてんだぞ。全部夢だと思いたかった」

シンが憮然として答える。
わかるよ。一応僕が転移したのは並行世界の地球で、魔法が常識なミッドじゃなかったけどさ。魔法に対するショックはとんでもなかった記憶がある。
完全に常識と日常を覆されたんだもん。
……覆されたからこそ、僕は其処に憧れた。

「多分だけど、シンも魔導師だよ」
「そーらしいけど。デスティニーもキーホルダーになってるし、アロンダイトは出てくるし、とんだメルヘンワールドに来ちまったもんだ」

語るその表情は、おどけながらも苦々しい感情が見え隠れしていた。掌に乗せたデスティニーの翼を模したキーホルダーを、血が滲むほど握り締めて。

明らかに、苛立っていた。

いきなりこんな所に飛ばされて、帰路が見えない状況に踊らされて。シンには堪えられないに違いない。
……だって彼は、

「メルヘンワールド、ね。……シンはやっぱり、帰りたい?」
「あたり前だろ」

僕なんかとは違うから。

「ああ、確かにここは居心地がいいよ、童話の中みたいに。まだ4日しかいないけど分かる。永遠なんてない、こんな筈じゃない事ばかりの世界で、ここは楽園だ。……ここに俺達が居座るのは、罪悪だ」

予想はしてたけど、当然の如く即答。僕も感じていた罪悪感と真正面から向き合い、それでもいいじゃないかと逃げたキラとは真逆の答え。
此処をメルヘンワールドと言い切った、彼の心はC.E.にある。

「……だから、帰りたいの? 僕達を追放したあそこに」

僕達は地球圏から追放された身だ。

指導者たる僕が、反逆の可能性があるシン・アスカを牽制する。
断罪者たる彼が、暴走の危険性があるキラ・ヤマトを監視する。
それが新地球統合政府から押し付けられた、僕らの歪な関係。
神憑った実力と、偶像的な影響力、看過不可能な危険性を孕んだ二人を封じつつ、まとめて地球圏外に追放する。木星圏開拓計画には、そんな裏の目的もあったりする。

「あんなんでも故郷だしな。……アイツにも会いたいし、まだ抱きしめ足りないし、約束も果たしてないし」

シンにはまだC.E.に用があって、愛着もあり、愛する者もいる。あそこに彼の全てがある。
左薬指に在る指輪がソレを証明していた。
この世界には、ソレがないから。

「だから俺は……!」

僕なんかとは正反対。絶対に真似できない。

819魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/03(日) 23:08:51 ID:Ta7pqZikO
でも、だったら、だからこそ。

「わかった、君がそうしたいなら手伝うよ」
「……いいのかよ? アンタ、此処に居座る気まんまんなんだろ?」
「まぁ、そうでもあるんだけどね」

シンが帰りたいのなら、手伝わないわけにはいかない。そうしたいという気持ちも、僕の中にあるから。
そもそも立場上、残念ながら帰らないわけにはいかないし。

「ほっとけないよ。君は絶対に帰るべきだ」
「もとよりそのつもりだ。……まぁ、帰るには最低でも1年はかかるらしいけどな」
「クロノ曰くね。仕方ないよ」

シンの表情から怒気が失せ、力の抜けた顔になる。慌てたって、もうどうしようもないから……

「はぁ〜〜」

目的の未発見【世界】を、無限に広がる次元空間から特定するのは大変困難とのこと。
だから僕達が焦って喚いて暴れてもどうにもならないのが現実だ。問題は、帰還までにちゃんと様々な手続きを終えられて、生きていられるか。いつまでも無職の居候じゃいられない。

「その、帰るまでの期間さ……僕はやっぱり、管理局に入ろうと思う」

でも、できることが無いってわけじゃない。

「……一応聞いとくけど、どんな理由だよ?」
「うん。一つは、どうして僕達がここに来たのかを調べる為。もう一つは、C.E.発見の手伝いをする為」

手をこまねいて待機してるなんて、そんなのできないでしょ。
無限書庫の利用や情報の整理、実際にC.E.を探す等、積極的に動くのだったら管理局員の立場は便利だし必須だ。ついでに、クロノやユーノといった要人・知識人との接触も楽になる。

「うまくやれば半年ぐらいは短縮できる。あとは確実に身分とお金を得る為に」

これは切実な生命の問題に対処する手段。詳細は言わずもがな、それが手っ取り早く堅実だから。管理局には次元漂流者枠もあるしね。
この程度には、できる事はある。シンの希望に沿って動く事はできるんだ。

「なるほどな……それで全部か?」
「え?」
「違うだろ。天然ロクデナシのアンタがそんな殊勝な理由で動くかよ」
「……流石」

やっぱりシンに隠し事はできないか。最近なんか変なところで鋭い。普段は鈍くて他人の心情なんて気にもとめないクセにさ。
だいたい、シンのクセになんでもお見通しだっていう態度も気に入らない。

(スルーしてくれてもいいのに指摘してくるあたりは鈍感だけどさ)

確かに言うのが恥ずかしいから敢えて伏せた理由がある。察してほしかったケド……まぁ白状してしまおう。はぐらかしたら後が怖いし。

「うん、凄い独善的なんだけどさ」

自分でもわからない欲求を、吐き出してしまおう。
最大の理由を。

「……僕が頑張って、少しでも彼女達の平穏を守る事ができるのなら。その為なら、なんだってしたいと思うから、だよ」

彼女達……なのはやフェイト、ヴィヴィオちゃん、教会のみんな、この世界の人々。
暗部さえあれど、それが全てじゃないと完全に言いきれる世界。

「なんでここまで守りたいなんて思うのかはわからない。もしかしたら強迫観念なのかもしれないし、条件反射かもしれない。判断基準が間違っているのかも、わからない」

シンは黙って先を促してくれる。

「けど……でも、それが僕が力を持ってしまった意味だと思うし、罪滅ぼしなんだとも思う。そうするべきで、そうしたい」

彼女達に争いをさせない。それは咎人たる自分が引き受けると。
かつてシンは言った。普通に平和に暮らしている人達は守られるべきだと。そう、魔法の力があるとはいえ、僕からみればミッドの大半の人達は『そういう人』だ。

820魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/03(日) 23:10:05 ID:Ta7pqZikO
だから。

「彼女達をこの手で、今度こそ守りたい。そんな欲求がある」

だから最後まで淀みなく。力を持つ者としての責務を交えつつ。僕は相棒に己の欲求を伝えた。

「いいんじゃねーか。仕事から逃げまくってたアンタが進んで仕事をしようってんだ。止める理由がない」
「……ありがとう」
「そういう事なら、どのみち他にやる事ないし、勧誘されてたところだし……俺もやってやる」

欲求は通り、道が拓けた。
ぶっきらぼうにでもちゃんと支持を表してくれた相棒に、ただ頭が下がる思いだった。


◇◇◇


「キーラーくーん!!」
「……! っなのはちゃん!!」
16時57分。
シンと二人で教会正門で待機していると、とてもとても懐かしい声が風にのって届いてきた。
反応し、顔を上げれば。

「キラー!」
「キラ君!」
「フェイトちゃん……はやてちゃんも!」

映像記録でしか知らなかった、大人になったあの娘達がいた。
14年という歳月が、いよいよ現実味を帯びてくる。

「みんな……本当に大きくなったんだね。見違えたよ」
「にゃはは……そうかな?」
「ユーノから連絡があった時は、本当に驚いたんだ。また会えるなんて、思わなかったから……。久しぶりです、キラ」
「なんや随分と見る目があるなぁ。14年前とはダンチやね。会えて嬉しいよキラ君」

共にヴィヴィオちゃんの手を引いて歩いてくる、なのはちゃんとフェイトちゃん。そこから少し遅れて八神家こと、はやてちゃんと守護騎士の皆。
オトナの女性特有の、優しい丸みをもった肉体だけじゃない。貫禄や落ち着きを手に入れた彼女達はビックリするほど美しく、大きな存在になって僕の前に現れた。
初めて会った時は9歳で9つ年下の女の子、今は23歳で同い年。

「キラ君とはちゃんとお話しできた?」
「ええ、まぁおかげさまで」
「……やっぱり、はやてちゃんの差し金だったんだ?」
「なんや差し金って人聞きの悪いー」

僕が再会を願った人達。

「はやて。この人が?」
「そ、シン・アスカ君21歳。ほら挨拶っ」
「……よろしく。コイツの世話係です」
「ちょっとまって」
「んだよ事実だろ」
「どうしようフェイトちゃん否定しきれない」
「あ、あはは……」

やっぱりこそばゆい。想像以上に高陽していて止められない。
てかこうすっかりオトナになってると、ちゃん付けもなんか気恥ずかしいな。ユーノみたいに呼び捨てにするか?

「こんにちは、ヴィヴィオちゃん。来てくれて、嬉しいよ」
「こんにちはキラさん! ちゃんとお話、してみたかったんです。……これからよろしくお願いしますっ」
「うん、僕もそうだったよ。……よろしくね」

三人娘と会話を交わした後、腰を屈めて相変わらず綺麗な瞳をもった少女と対面する。
高町ヴィヴィオ。二種の宝石を持つ少女。
思い起こせば、この娘とぶつかったのが全てのキッカケだったんだ。今僕達が集う事ができたのは、この娘のおかげなのかな、やっぱり。

「おいおい、あたし達は無視か?いい根性になったなコノヤロー」
「そんな、無視なんか。知ってはいたけど、そっちは変わってないんだねヴィータ」

そして、守護騎士達。
その出自から、刻の流れに比例せず、姿形が変わらない誇り高き者達。

「アンタも変わってねーじゃねぇかよ」

……それを言われると弱いな。僕は4年前から大して変わってないから。髪の毛が伸びたぐらい?

「そっちは……なんか雰囲気が丸くなったね?」

821魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/03(日) 23:11:08 ID:Ta7pqZikO
「ま、いつまでも尖ってちゃいられないからな」
「はやてちゃんと共に生きていくと決めましたから」
「そういうことだ。……機会があれば、また手合わせを頼むがな」

シャマルさんにシグナムさん……こんな優しい顔ができる人だったんだ。僕には戦いの記憶しかなかったから新鮮だ。
感嘆を抱きつつ、シグナムさんの発言は華麗にスルー。次に小さな二人に挨拶。

「……そっか。こっちの二人は初めましてだね。よろしくね」
「はい、リインフォースⅡですっ! リインとお呼びくださいー」
「アギトだ。まぁよろしく」
「うん、よろしく。……ところでザフィーラは?」
「ここだ」
「……子犬?」
「守護獣だ」
「そう……」

一通り挨拶を終えて、僕達は揃って移動。教会内部……ディードさんやシャンテちゃん達が用意してくれたパーティー会場へ向かう。
みんな、笑顔だった。談笑して、笑いあって。
歓迎してくれてる。喜んでいる。長い時を経ても、久方の邂逅を暖かく彩るこの素敵な繋がりが、目頭を熱くさせる。

(やっぱり、僕を友達として認識してくれてるんだ)

さて。またも白状することになるけど、実はというと僕は、彼女達に対して一つの疑問を抱いていた。
それは、

──何故、こんなにも僕に笑顔を向けてくれるのか?

というシンプルなもの。
確かに僕は、戦ってる彼女達を視て護りたいと想ったし、一緒に空を翔けて魔法を使った。色んな人と友達になれたし、命を削りあったりもした。
『闇の書事件』に巻き込まれた僕の行動は、『クロノと共に仮面の男に立ち向かい、なのは達と共にヴォルケンリッターと剣を交え、最終的には和解し、闇の書の闇を討伐した』というもの。
でも、それはただの結果だ。

(僕がいてもいなくても、結局はあの結末になってたんじゃないか?)

その過程に、僕の意思は介在していなかった。
だってそうだろう。僕がいて歴史が変わったとしても、それは微細なレベルの変化でしかなくて、本筋は変革しなかったに違いない。
『クロノが仮面の男に立ち向かい、なのは達がヴォルケンリッターと剣を交え、最終的には和解し、闇の書の闇を討伐した』という本筋は。
あの時の僕は、ちっぽけだったから。
魔導師としても初心者で、役立つどころか足を引っ張る事のが多かった。僕自身としても、幼い彼女達に何もしてあげられなかった。
想いがあっても、力がなかった。
存在する事と、成した事でプラマイ0になるような。そんなのだったんだ。

──なんで彼女達が僕に好意的なのかわかんない。

そうするだけのファクターがないのに。
だから僕は正直、この再会は不安だった。ひょっとしたら何かの間違いじゃないかって。14年前の役立たずの事なんかスッキリ忘れてるんじゃないかって。

(そんなこと、なかった)

そんな自意識過剰な疑問は、彼女達の顔をみた瞬間に吹き飛んだ。遥か彼方、銀河の果てまで。
少しでも疑った自分が恥ずかしい。彼女達とふれ合って、クロノにデータを見せて貰って、そういう娘達じゃなかった事を知っていたのにね。

「じゃあシンくんは今、はやてちゃんの家にお世話になってるんだ?」
「成りゆきでそういう事になったんよー」

僕達は変わらず友達で、

「キラくんはこれからどうするの?」

822魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/03(日) 23:11:42 ID:Ta7pqZikO
「管理局に入るつもりだけど、当分はここでお世話になるのかな。手伝いしながら、ディードさん達が鍛練の相手になってくれるって」

一緒に歩んでいける輪の一つで、未知たる白いキャンバスを描いていける。

「そうなんだ。じゃあたまにはウチに遊びにきたらどうかな? 近いし、わたし達はいつでも歓迎だから」
「キラなら、うん。時間が合えば魔法の勉強も見てあげられるし、ヴィヴィオも喜ぶと思う」
「いいの?」
「ママ達も私も問題なしです!」
「ありがとう、みんな」

これからの未来に希望を予感して、僕らは鮮烈の日々を歩き始めた。




すぐ近くに、すぐ後ろに、致命的な破綻が待ち伏せているとも知らずに。




──────続く

823凡人な魔導師:2013/02/03(日) 23:12:14 ID:Ta7pqZikO
続けていきます

824魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/03(日) 23:13:19 ID:Ta7pqZikO

「ヴィヴィオちゃんは、どうしてストライクアーツを?」

教会のとある一室に眠れる少女、イクスヴェリアちゃんのお見舞いを終えたヴィヴィオちゃんを見送る、その途中。
緋い世界に染まる背中に僕は問いかけていた。
君は、どうして戦うのかと。

「わたしは、……強くなりたいんです」

振り向いてくれた少女の瞳には、曇りない一つの決意だけが宿っていて。
何故? 必然性はないはずだ。

「まだ自分が何をしたいのか、何をできるのかはよくわからないですけど──」

ないからこそ、それは個人の意思で、純粋だった。

「──大好きで、大切で。わたしを幸せにしてくれた、守りたい人の為に。約束を果たす為に。わたしは強くなるんです。だから……」

水彩画みたいな景観の中でただ一人、少女は鮮やかに輝いてみえて。
それに僕は再び、性懲りもなく圧倒された。



『第五話 力の在処、強さの在処』



まず、いやそろそろ、僕達が使っている【C.E.式】の魔法について説明しようと思う。
C.E.式の魔力運用方式は、物質強化型の【ベルカ式】と純魔力放出型の【ミッドチルダ式】の丁度中間といったような存在。魔法陣も円と三角を合わした感じ。
この術式の最大の特徴は、魔力資質や魔力適性をデバイスを媒介に『自在』にセッティングできるという点にある。やりようによっては誰でも飛翔できるし、誰でも電気変換を使う事が可能だ。設定武装次第では砲撃戦も格闘戦もこなせられる。
『高機動型砲撃魔導師ザフィーラさん』だって夢じゃない。

勿論、欠点もある。

ずばり、使用可能の魔法がモデルとなったMSの武装を模したモノ「でしかない」という点。
だから基本的でシンプルな──『直射型射砲撃』『剣撃』『狭範囲盾』『飛翔』──魔法くらいしか使えない上に、魔法の基本中の基本である『リングバインド』や『プロテクション』、『思念誘導弾』、『身体強化』をデバイスに登録できないんだ。
これは他の術式に比べて、特殊で特別で奇抜な戦法を持てないということを意味する。
だから僕達に求められる技術は、『いかにして応用性と多様性に乏しい魔法を目標に当てられるか』という実に身体能力頼りのモノになるのは当然とも言えるだろうね。


◇◇◇


≪接近警報。後方に反応6、距離45≫
「チッ……! ストライク、『エール‐ブースター』全開!!」

エール・ストライカーパックを模した一対の蒼翼。その輝きが増したのを確認して、大地を蹴る。
身体が魔力に導かれ、翼が疾り、まだ太陽も覗いていない早朝の大気を切り裂いた。

「レイジングハート、ディバイン‐シューター!」
≪シュート≫

ミッドチルダ北部、廃棄都市区画。
元臨海第八空港に面したゴーストタウンで、僕はただひたすらに迫り来る桜色の弾丸を回避していた。

弾丸回避訓練──シュート・イベーション

我が友人たる高町なのは教導官様が直々に提案・監督・実践してくれる、対魔法射撃の訓練。非電子戦の環境で育ったMSパイロットには重要な試練でもある。
思念誘導弾丸の脅威を、身体に叩き込もうといんだ。
今回のクリア条件は、鍛練用デバイスである『ストライク』を用いて、なのはに一撃を喰らわせるor15分の完全回避(迎撃有り・シールド使用不可)だ。

(くそっ、やっぱり振り切れない。だったら……!)

残り時間は丁度9分。まだ半分も立ってない、先は長い。

825魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/03(日) 23:14:39 ID:Ta7pqZikO
天地をぐるぐる廻しながらビルからビル、隙間から隙間、なのはの視界の外へ入るような機動を努める。
それでも時間経過に比例して質と数を増していく弾丸は先程より速く、鋭く、正確に、複雑有機的な軌道を描いてこちらを覆い尽くさんと殺到し、なのは本人もぴったり追随してきていて。
派手な空戦機動を屈指しても、もはや焼石に水状態だ。流石は『エース・オブ・エース』か。
これじゃダメだ。魔力節約の為になるべく攻撃行動をしたくないんだけど、迎撃の必要性がより高くなってきた。
桜色に輝く魔力弾は既に背後5Mまでに迫ってきている。
圧迫感。

「……換装、ランチャー・モード!」

決断。
最高速状態から全力で制動をかけ逆噴射、一気に運動量を0にし──空中で急停止。歯をくいしばって更に急速後退。ビデオの逆再生のように流れる景色の中、ストライクを砲撃形態に切り替える。
慣性の法則に思いっきり逆らった動きが、身体に強烈な負荷をかけるけどこの際無視。この程度で根を上げては先が思いやられるし、今はミッションクリアが優先だ。

「……っ」

そんな僕の無茶なマニューバに少しでも戸惑ってくれたのか、らしくもなく些か単純な直線軌道になってしまった思考制御型誘導弾丸達の隙間を、直感に従って手足を使った重心移動と躰の捻りを組み合わせたモーションで慎重にやり過ごす。
全てがスローに感じる錯覚の中で、身体表面ギリギリを通過していく6つの桜色に冷や汗を感じながら確認すれば弾丸は前方、距離14。
チャンス到来。

≪アグニ&フォトン‐ライフル≫
「ファイア!」

左手の魔法陣から発動する蒼の奔流『アグニ』と右手のライフルで、一瞬止まった桜色を狙い撃ち。全弾丸の破壊に成功した。

「やった!」

手加減されているとはいえ、完全に格上な彼女の意表を突けたような気がして、思わず胸が高鳴った。
だけど、

「そこで油断しちゃダメだよ!」
≪アクセル‐シューター≫
「うわっ!?」
≪警告。包囲されました≫

なのはとストライクから叱咤されてしまった。
彼女らが新たに精製した誘導弾が360゚全方位に。数は20越え。これは、ヤバイ。

「……ならっ、サーベルを! 『エール‐ブースター』の限界時間は!?」
≪26秒≫
「っ25秒後にソード!」

ただ回避するだけじゃ捕まる。
射撃魔法での迎撃も手数が足りない。
なのはに攻撃しようにも『アグニ』じゃ防御を抜けない。
ストライクにカートリッジ・システムは組み込んでない。
ならば。

「接近して、斬る!」

できることは、それだけだ。
飛行再開、一目散に全速逃走。
宣言とは裏腹に、なのはに背を向け一直線にすっ飛んだ。何にも邪魔されない限りなら、単純な直線飛行速度はエールのが速い。
まずは飛べる内にこのまま引き離す!

「はぁっ!」

追いかけ、回り込んでくる誘導弾は光剣と『イーゲルシュテルン』で排除。神経を磨り減らして、必要最低限の動きでの対処を心掛けて、どんどんなのはと距離をつけていく。
……これで、この状況なら、彼女は──

≪ロード‐カートリッジ。バスター・モード≫
「ディバイーン……」

──長距離砲撃を選ぶ。
今がチャンスっ!

「い、けぇ!」

反転、逆走、ついで上昇。
あの砲撃を運用する時は、術者は必ず停止しなくちゃいけない。そのチャージ時間を利用して今までとは逆に、魔法陣とレイジングハートを構えるなのはに向かって飛ぶ。

(間に合え!!)

更に並行して【とある座標】を目指し遥か高みへ。低い雲を突き抜け、時間の許す限りに全力で。

826魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/03(日) 23:15:48 ID:Ta7pqZikO
 
≪飛行魔法限界値まで5秒、3、2、1、0。エール‐ブースター強制解除、ソード・モードへ移行≫

リミット。
ストライクから無情な宣告が響き、大空翔ける蒼の翼が霧散した。自然、身体は重力に捕らえられて成す術なく落下を開始。

「……ッバスターー!!」

自由落下する僕を狙って、これ以上にない最高のタイミングで、彼女が代名詞たる主砲『ディバイン‐バスター』を発射する。
炸裂する桜の閃光、戦艦の主砲並の必殺パワー。全力全開情け無用の遠距離砲撃。
真っ直ぐに、僕を飲み込まんと突き進んでくる。
通常なら回避不可能だ。
でも、

「まだ!!」

勝算はある。
何故なら、僕は今、目的の座標。【なのはの直上】にいるのだから。
両手で力強く握った、ソードストライクの代名詞たる対艦刀‐身の丈程の蒼い太刀『シュベルトゲーベル』を前方につきだして、重力も味方に加速加速。
躱す必要なんてない!

「ストライク!」
≪魔力資質変更。同時平行運用から一点圧縮運用へ≫

アンチマジック・コーティングされた鋒を武器に、持ちうる限りの勇気を胸に。
僕は一つの弾丸となって、桜色の奔流に突っ込んでいった──



……
………


「──……うはぁ、……疲れた……」
≪状況終了。システムリリース≫
「はい、キラくんお疲れ様ー」
≪お疲れ様でした≫

朝日が昇り、穹と廃墟街を明るく照らし始めた頃、僕はビル屋上で大の字に転がっていた。これは、精神的にキツい。
結局特攻は失敗。あっさり避けられて、最後まで逃げ回るハメになったからなぁ……訓練自体は、なんとか転がるように這い回ってクリアはできたけど、できれば二度とやりたくない。
ピンクがしばらくトラウマになるくらい、散々に虐められてしまった。
……なのはの事だから、きっとこれも幾度となく繰り返してやるんだろうけどさ。

「……ん、なのはもお疲れ。レイジングハートも。……ごめんね、朝早くにさ」
≪気にすることはありません≫
「そうだよ。私から提案したんだし」

なのは達と再会して早2週間。
僕ことキラ・ヤマトがこの世界に来て20日。
あれから僕はこうして、時間が合えさえすればヴィヴィオちゃんのママとなっていた高町なのはに、魔法をレクチャーしてもらっている。
基礎知識から始まって理論に応用発展、まとめに実践、豆知識まで。流石は教官にモノを教える教導官だけあって、その手腕は超一流だ。
なのはの熱意に比例して、僕の腕前もぐんぐん上がっていき、今では電子戦闘仕様のAI制御型長距離高誘導ミサイル群相手に立ち向かえる自信すらあるぐらいだもの。
家事に仕事に忙しい筈なのに、いつもありがとう。

「それでも、だよ。──それで、どうかな。見た感じストライクは」
「上々だね。初めて組んだとは思えないくらい素直な子だし、前より性能上がってる。実戦用としても申し分無いくらい」
「マリエルさん達のお陰だよ」

デバイス‐ストライク。僕のもう一つの剣。
その名の通りGAT‐X105を模して製作されたデバイスで、基本は低性能でありながらも換装機能によってオールマイティーに強化できるのがウリだ。
なのはの「初心者の内から高性能特化機に頼ってちゃいけない」という切実な弁に従って、ストライクフリーダムの代わりとして僕と管理局御抱えデバイスマイスターと合同で組んだんだ。
なのはが上々と言うからには、僕が思ってる以上のポテンシャルがあるという事かな。

827魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/03(日) 23:17:53 ID:Ta7pqZikO
なんとなく嬉しくなった。

「やっぱり凄いねキラくん。ブランクあるのにあそこまで動けるなんて。……前にも思ったけど、回避能力ズバ抜けてるよね」
「えと、ありがとう……。教会でも鍛えてもらってるからね。他はまだからっきしだけど」

でも、あの弾幕をいなしきれた要因は性能ではなく、身体の動かし方そのものの方が大きい。

MSがいくら人間と同じように動けるといっても、それは甲冑を着けた人と比較しての話。嵩張る装甲と限定的な関節を持ったMSは、腕組みさえ満足にできない。
だから実際今回の訓練中で、MSでは到底避け切れなかっただろう攻撃・状況に多々直面した。
そんなちょっと前なら対応困難な弾丸でも、柔軟な人間の構造でなら対応できたんだ。

ソレを教え、鍛えてくれたディードさんを始めとする聖王教会修道騎士団のみんなには感謝だ。回避し続けていられたのは間違いなく、みんなが教えてくれた事が実を結んだおかげ。
ソレがなければ、ストライクフリーダムを用いてもクリアできなかったに違いない。ストライクでもクリアできたのは、そういう事だった。

「まぁ他は追々、かな。……それとね、観測データを見てたら、少し気になるポイントがあったんだけど」

なのはが少し真面目な貌に。

「なに?」
「レイジングハート、お願い」
≪はい、マスター≫

赤い宝玉に語りかけて、先の訓練中に観測していた僕の魔力データを表示した、空間モニターを展開した。
一体、どういうんだ?

「ここ、このポイント。急に魔力波長が変わったの。それと同時にキラ君の魔力総量も増加してて」
「これは……」

モニターは2つ、それぞれ魔力波長と魔力総量を記したモノだった。各々X軸が魔力関係、Y軸が時間を表した単純なグラフ。
因みに魔力波長とは、魔導師の根源たる『リンカーコア』が発する信号の様なモノだ。一人一人独特の波長を持っていて、それで個人を特定できたりできる。

「こんなの、普通は有り得ないんだけど……これってやっぱり、あの時の?」

なのはは神妙に、グラフのある一点を指差して。……なるほど、確かに奇妙だ。一人の魔導師として問題を理解した。


訓練終了残り3分というポイントで、魔力波長がまるで別の誰かに切り替わったかのように、紋様が変化して。右下がりだった魔力量もいきなり跳ね上がってうなぎ登りだ。


確かに、普通なら有り得ないな、コレは。
MSに例えるなら、バッテリー機のストライクが突如謎の機体に変化し、謎のエネルギー補給をしたのと同義。ゲームのバグかチートじゃあるまいし、現実には起こり得ない事だ。
でも、僕には心当たりがあった。

「そう、だね。きっと同じだよ。なんていうか、最後の切り札?」

誰が名付けたか、それは【SEEDの覚醒】と呼ばれている。

「確か、リインフォースさんと戦ってた時だよね。急に動きが良くなって……あの時はちゃんと観測されてなかったから、ずっと不思議だったの」

そっかー、切り札だったのかーと納得するなのはを傍目に、僕も内心驚いていた。
そりゃそうだ。訓練終了残り3分時点で【覚醒】させたのは自分自身だけど、アレにこんな副作用があるなんて僕も今初めて知った。

アレ……【SEEDの覚醒】は、制御こそできるものの未だ謎の、正体不明のチカラだ。
全てがクリアに鋭敏になり、掌握すらできるような、あの得体の知れない感覚。窮地に陥った時や、より多くの力を望んだ時に幾度となく発現した、僕らのオカルトじみた切り札、奥の手だ。

828魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/03(日) 23:19:21 ID:Ta7pqZikO
リインフォースさんと戦った時も我武者羅に一か八かで【使用】したというのが現実で、それで実際になんとかなってしまってからは一層そう思うようになって。
だから今日も実験のつもりでやってみたんだけど……

うーん、まさか魔力関係にも恩恵があるだなんて。乱発こそできないけど、これはいよいよ切り札だ。
思わぬ収穫だね。

「ブラスターみたいなものかな……念のために、このデータはシャマルさんに送っとくね」

これで今日の早朝訓練は終了かな。本日二番目に重用な予定を消化完了、ここまでは順調そのもの。

「さて、今日のところはこれで御仕舞い。私は仕事に行くけど、キラくんはクロノくんに呼ばれてるんだっけ?」
「うん、昨日メールでね」

次は今日の、一番の予定だ。
昨夜、管理局の提督であるクロノからの呼び出しメールがきた。内容は直接話したい、来てくれ……と。
それはきっと、とても重要な事項。
何かが始まる予感がした。

「じゃあ途中まで一緒に行こっか?」
「そうだね」

飛翔魔法を用いて廃棄都市区画から離脱、ミッド中央区方面へゆるりと空中散歩としゃれこむ。
その途中、先導する純白のバリアジャケットの背に、僕は語りかけた。

「なのははさ、強くなりたいって思ったことある?」
「あるよ、いっぱい。どうしたの?」
「ん……なんとなく」

強さ、力。求める心は数知れない。求める意味も、その先の結果も。
その在処はどこにある?

「キッカケは、やっぱりフェイトちゃん。明確に強くなりたい! って思うようになったのは」
「高町式交渉術ってやつ」
「もう、茶化さないでよー」

フェイトも守護騎士も、シンもアスランも、みんな力を望んだ覚えがあるという。
ヴィヴィオちゃんも、シャンテちゃんも。
どんな環境であろうと各々のやり方で、強くあろうと努力している。

「それで『エース・オブ・エース』まで上り詰めちゃったんだ。一部じゃ『管理局の白い悪魔』って呼ばれて……」
「キラくんっ!!」
「はは、ごめん」

つくづく正反対だなぁって思う。
特に聴いたところ、高町ヴィヴィオの性質は近接戦闘型じゃないらしいのに、総合格闘技‐ストライクアーツでがんばってる。
比較ばっかりする気はない(てか、そればっかしてた気がする)けど、そういう意味じゃ自身の設定が怨めしい。最初からいろんな適性・能力を持っていて、特に(表面上)できない事はない。
認めたくないけど僕はいわゆる、創作物における万能天才キャラだ。少年誌の主人公になれないタイプ。主人公ってのはもっとこう、努力とか過程とかを重視する奴だと思うから。
まぁ実際、あんまり強くなりたいって思ったことないし。

「でも実際問題、雑誌でそーいう紹介されてるのはどうなんだろ」
「うぅ……わたし、そんなに……? ヴィータちゃんに悪魔でいーよとか言っちゃったから……?」
「え、流石にないんじゃないかな。14年前のだよ?」
「パパラッチはどこに潜んでるかわかんないんだよ……」
「……なんか、ホントごめん」

強くなろう。主人公になろう。今までの自分とはサヨナラ。自身の設定はドブに棄てろ。
今度こそ守れるように、彼女達よりももっと強くなろう。
しょんぼりとしたなのはを慰めながら、僕はそう決意した。


背後から忍びよる何かを、振り切るように。


◇◇◇


「C.E.が見つかったの? クロノ」

呼び出され、指定された場所に到着しだい、開口一番にそう言ってみた。

829魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/03(日) 23:21:31 ID:Ta7pqZikO
当てずっぽうでもなんでもなく、思い当たる節はコレしかないからね。

「ああ、見つかったんだ、想定より速く……速すぎるほどに」

僕の発言を予測していたかのように、クロノ・ハラオウンは淀みなく返答。その顔は真剣で、緊張していて。暗い雰囲気を纏っていて。
部屋は綺麗に片付いていて清廉潔白な感じがするのに、重苦しい、後ろめたい空気で満たされていた。
それは確実に、ここにシンが呼び出されていない事に関係している。

「──……やっぱり、ダメな結果だったんだね? ここにシンを呼ばない方がいいと、君が判断するってことは」

事実確認。
僕らの故郷、C.E.がこんな短時間で発見される事は、実は僕とクロノにとっては問題だった。予定外といってもいい。
そしてクロノの態度から察するに、二つあった仮説のうちの『悪い方』が現実となってしまったということも確定。
この発見によって、懸念材料はオセロで挟まれた駒のように、害悪になった。

説明しよう。

僕達、キラ・ヤマトとシン・アスカは間違いなくC.E.78から、この新暦79年のミッドチルダにやってきた。
でも、それはおかしい事なのだと、再会した時にユーノ・スクライアは言った。次元世界に流れる【時間】は同一の速度であり、絶対の法則なのだからとも。
だから、初めて僕が次元転移をした時の『C.E.74と新暦65年』を基準とするならば、新暦79年の今ならC.E.は88、僕は33歳でなければならない。

それで僕らはこの状況に対し、

『今回の転移は異常で、C.E.78から10年未来の新暦79年へとタイムワープをした』という仮説Aと、
『実は前回のキラの次元転移こそが異常で、今回は正常。タイムワープはしてなかった』という仮説Bの二つを立てた。

どちらが真実かは不明だったが、今ハッキリした。選ばれたのは仮説A、悪い方なのだと。

現実として、管理局は確かにC.E.を発見したがそこはC.E.88であり、僕ら【過去人】はそう簡単に帰還する事はできず、解決すべき難題ばかり積み重なっているんだ。
未だ確立してない時間移動技術の事も踏まえて、改めてどう対処すべきか。

そこで問題となるのがシン・アスカの境遇と性格だ。

流石は管理局提督クロノ、初めてシンと会った時に彼の性格と危うさを感じとり、罪悪感がありながらも仮説Bだけを話したそうだ。
シンは短絡的で視野が狭い。人恋しいクセに不器用で意地っ張り。でも、何処までも純粋でまっすぐで、心優しい人。
そんな彼に、愛しい人と引き離されて、帰還を本心から希望していて、魔法にもまだ馴染みがなくて、苛立っている彼に「帰れない」と告げてしまったらどうなるだろう。

きっと良くない事が起こる。

だから僕とクロノとユーノは、もっとシンがこの世界に心を開いてくれてから、仮説Aについて話そうと考えていた。
C.E.が見つかる頃にはきっと大丈夫だろうと思って。
でも発見してしまった。あまりにも速すぎる。予定では(平均値から導いた結果から)、最短でも1年はかかる筈だったのに、たった3週間ぐらいで。
シンの心は未だ頑ななままなのに。
だから今ここに、シンはいないんだ。

「……、……いや。事態はこちらの想定以上に切迫している。今C.E.という世界は滅亡の危機に瀕しているといっても、過言ではない」
「え?」

それだけ。
……それだけの理由だと思っていたのに。

830魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/03(日) 23:22:11 ID:Ta7pqZikO
他に問題はないと思っていたのに。

「単刀直入に言う。……C.E.は──」

後はどうやってシンに伝えて説得して、帰還方法を模索するのかという事だけを考えていたのに。
なんでこうなるんだ。
クロノの、この世界で一番頼れる男の重く鋭い言葉は、



「──既に【世界】というカタチを成していなかった」



総てを破壊した。
僕の前提も、決意も、思考能力さえも。
全てを、停止させたのだった。




──────続く

831凡人な魔導師:2013/02/03(日) 23:27:42 ID:Ta7pqZikO
今回は以上です。
ここ数話は前に投下させていただいたのとは思いっきり異なっている(ハズ)なので、ちょっとは新鮮さがあればいいな〜と思いました。

さて、最近はSSが登録されまくっているのでここも少しは覗いてくれる人が増えてればいいんですが、 どうなんでしょうね

832名無しの魔導師:2013/02/03(日) 23:48:54 ID:9JY.LBq20
GJ!
コズミックイラにいったい何が……?

833名無しの魔導師:2013/02/10(日) 23:10:25 ID:TfG19U5M0
LCSのメモ帳(ブログ)が消えたかもしれない………

LCSもうやらないのかな?再開されるの楽しみにしてたのに

834名無しの魔導師:2013/02/11(月) 21:34:23 ID:Tg4C/2tY0
>>833
まだ残ってるぞ

835凡人な魔導師:2013/02/16(土) 19:29:51 ID:eNnSZKnkO
こんばんわ。スパロボUXのPV2で歓喜雀躍な私です。

明日の23時頃に投下をさせていただきます

836魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/17(日) 22:57:29 ID:Jg9EXIbIO

「──セァッ!」

突撃。
出来うる限り縮めた躰を、これまた出来うる限りの力で伸ばし、バネの如く前方へ跳躍。迫る斬撃二連をギリギリで回避すると同時に、『敵』の懐に飛び込んで。
速攻。
右手に握った大剣で身を庇いながら、左手のナイフを瞬時に5回。人体の急所を狙った刺突を繰り出した。

「チィッ……」

本気の、確実に殺る為の軌跡。
しかしその渾身のカウンターはことごとく、超至近距離であるにも関わらず容易く長剣で弾き反されてしまった。
有り得ない。どれだけ化物めいた動きをするんだ、この人!?

「甘いな」
「こんのぉ!!」

だけど、この展開は予測通りでもある。あの程度の攻撃を防げないのでは、戦っている意味がない!
『敵』が上段に剣を構える。どっしりと腰を据え、一閃で斬り伏せる為の構え。
くそ、なんてタイミングだ。防御をしようにもこの距離はマズイ。大剣には近過ぎ、ナイフには遠過ぎる。一旦距離を取って仕切り直すしかない。
選択。
『敵』が剣を振り下ろす前に、後方にステップしながら大剣を薙いだ。
が、

「甘いと言っているっ」

──呆気なく、柔らかく此方の大剣を受け流された。
受け流されて、無駄に加速させられて、身体が泳ぐ。最初からそうと狙っていなければ不可能な芸当。つまり先の構えはブラフ。
そう悟ったと同時に、『敵』は刹那の加速で此方の懐に詰めて、

「……ぐぅっ!?」

俺の脳天に重い衝撃が、走った。



『第六話 王の想いは少女と共に』



「なんやシン、どうしたん? 風邪でもひいた?」
「最近はどうも、お前らしくないな。シン・アスカ」
「……はっ?」

空白としていた頭が、心配気な言葉で揺さぶられて覚醒した。

(えーと、今の状況は、なんだ?)

そうだ。日課であるシグナムとの模擬戦を終え、今は昼飯の時間。本日の八神家の献立はビーフカレーとシーザーサラダ。
食卓には俺──シン・アスカ──と家主である八神はやて、シグナム、そしてリインが座っている。
ヴィータとシャマル、アギト、ザフィーラは仕事の都合でここにはいない。

よし、状況認識完了。

あれ、なんでいきなり俺が風邪をひいているという話の流れになっているんだろ? 俺はいつも通り健康だし、それが取り柄なんだが。

「だって。いつもガツガツ美味しそうに御飯を食べてくれるのに、なんだか最近スローペースやし……」

眉根を寄せる家主に言われて二度辺りを見てみれば、もう全員がキレイサッパリ食べ終えていた。未だスプーン握っているのは俺一人だけ。
おかしい。いつもヴィータとトップ争いをしているこの俺が、一番遅いリインまでにも負けていただと?
言われるまで全然気づかなかったぞ。

「それに動きが鈍い。今朝は珍しく直撃を打たせてくれたし、な」

ついでシグナムが続き、

「ランニング中に木にぶつかったりもしてましたし……。ミウラちゃん驚いてました」
「むぅ……」

リインが付け足した。
あぁそうか。普段なら掠り傷程度で済んでいるのに、最近俺の身体所々に湿布が貼られているのはそういう理由か。シグナムにボコられまくってるから。

「日に日に悪化しとるよ。やっぱ病院行った方がええと思うんよ」

そこまで言われたら認めざるをえまい。つまるところ、俺は絶賛不調なのである。
ナルホド。八神家の皆が心配そうに俺を視るわけだ。

「いや、俺は健康だって。熱とかダルいとかそういうの無いし」
「そうなん? じゃあ悩み事?」
「だったらリイン達が聞くですよー」

837魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/17(日) 22:58:44 ID:Jg9EXIbIO
「そんな大袈裟なもんでもない。大丈夫だって」

不調でも、身体的な意味における意味ではない。精神的に深刻なものでもない。
ただ。

「ただ──」
「……──気になる事項があるだけ、か?」
「……あー。まぁ、な」

先にシグナムに言われた。なんだ、俺ってそんな分かりやすいのかよ?
まぁ確かに気になる事があるだけだけど。そう、ただそれだけだ。些細な事だ。
けど、最近の不調はそのせいだってことは明白に事実であり、それも充分自覚してるさコンチクショー。

「……やっぱり心配? キラ君の事」
「……いや──」


キラ・ヤマトが倒れた。


3日前の昼頃、雨の中、光彩異色な女の子の目前で、前触れもなく。
そこに偶然通りかかり、雨に沈むアイツを聖王教会本部付属病院まで運んだのは他ならぬ俺だ。以降、アイツは病院の一室で昏々と眠り続けている。
気がかりなのはソレで間違いない。認めるのは癪だけど。

だが俺が気になっているのは断じて、決して、キラの健康状態などという糞つまらない事項ではない。

「──、まぁそうかな。今日はセンターに行った帰りに、ちょっと顔だしてみる」
「そうですかぁ。きっとキラちゃんも喜ぶと思いますっ」
「……ああ」

ないが、取り敢えず様子見だけはしてやるかね。同郷者として。
ほんと仕方ない奴だ。


◇◇◇


俺は『家族』が欲しかった。ただ護られ、共に歩んでくれる人がいれば、それでよかった。
それに気づいたのはメサイア戦役が終わった後の、デュランダル派として裁判を受けていた時。ルナマリア・ホークが懸命に俺を支えようとしていた時だった。彼女の存在そのものが、何よりも救いだったから。
だから気づいたんだ。俺の過剰なまでの「護る」という欲求は、「護られたい」の裏返しだったんだって。全てを失った果てに残った彼女こそが救いだったのは、そういうことだった。
そして俺達は次第に、本当の意味でお互いに惹かれ、傷の舐め合いの関係から『家族』になって。
ルナが今の俺の全てだった。

「……ここに、ルナはいない」

ミッドチルダ首都‐クラナガンの脇道を、レンタルしたスクーターをとろとろ走らせながら一人呟く。
俺の『家族』はこのミッドチルダにはない。
実際のところ、俺の居候先である八神家のみんなは本当に良くしてくれて、家族のように扱ってくれている。見ず知らずの俺を末っ子として、信頼してくれている。
それはそれで嬉しいし不満もないけど、やっぱり俺の『家族』はルナだけだから。
心にぽっかりと穴が開いている。だからC.E.への帰還を求めてるんだ俺は。

「アイツは、俺とは違うんだよ」

だからキラは、俺とは正反対だ。
アイツの心はC.E.に存在してないし、ここを心底気に入っていて充実してる。まぁそれも仕方ないとは思うけどな。あんな事があっちゃ、流石にな。

「でも、だったらなんで?」

赤信号。ブレーキを効かせてスクーターを停止させる。けど思考は止まらない。

気になる事は、あのキラ・ヤマトが『ストレス』で倒れたという事そのものだ。
アイツはいつも何もかも悟ったようなツラをしていて、天然・甘えたがり・自己中が服を着て歩いているようなヤツだ。それでいて、あの悲惨極まる二度の戦争を最後まで闘い、『人の業』に間近で接してきた人でもあり、二度も精神を壊してしまった人間でもある。
そういう人間は動じない。
もうどんな事があろうと、思い悩むことがあっても心の芯は揺るがないのだ。まぁ逆にいえば、それだけ心と価値観が麻痺してるってことだけどさ。

838魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/17(日) 22:59:57 ID:Jg9EXIbIO
キラ・ヤマトとは、そういった類の人間だ。

(だけど、倒れた)

医師の診断によると、原因は重度のストレスによる精神への負荷……らしい。
まず有り得ない、と思った。
この世界に来てからアイツは完全に復活した。てか寧ろ以前より活動的になったというのに。この平和な世界の何処に、そんなストレスになるようなモノがあるのか?
また、先日にセイン達から聞いた話によると、その日の前の晩、キラはメールでクロノ提督に呼び出されていたらしい。……何故?
提督が一局員(それも研修段階の)をメールで呼び出すのは、基本的に有り得ない。だったらそれはプライベートな事柄だと考えるのが普通だ。なら多分C.E.関連の事だろうが、それじゃ俺が呼ばれなかった理由がわからないし、そもそもストレスを感じるような話題でもないだろう。
管理局地上本部のログから調べたところ、キラが出た時間と倒れた時間がかなり近い事も判っているから、確実にストレスの原因はクロノ辺りにあると踏んでいるのに。何もかもがわからない。

(なんで、そうなったんだ?)

青信号。スクーターを発進させて、左折、大通りにて加速、思考は中断。
やっぱ考えてても埒があかない。
そもそもこれは気になるだけで、俺が深刻に考える事項なんかじゃあない。アスランだったら日がな一日中「キラァ……」とか呟いてて使い物にならなくなるんだろうが。
そんなことしてっから禿げんだよ。「髪が後退してるんじゃない。俺が前進しているんだ」とかカッコいいこと言ったって無駄だし。
ああはなりたくないよな。

どちらにしろ直接訊いてみないとどうしようもない。けど、タイミングの悪いことにクロノはなんか次元の海に飛び出したとかで会えない。
まぁいいさ。帰ってきやがったら思う存分に問い詰めるまで。

そして今この状況が運命だというのなら、俺は飛び越えて切り開いてやる。


◇◇◇


「……なんだこりゃ」

16時43分。
ミッドチルダ中央区民センター・スポーツコート。普段俺が自己鍛練の為に通っている、男共の汗でむさ苦しい筋肉の聖地……なのだが。
今日は結構な『華』が咲き誇っていた。

「おーい、シーンっ!!」
「ノーヴェ! なんの集まりだよこれ?」

その『華』の一人、赤い短髪・金の瞳の女性、ノーヴェ・ナカジマが俺に気づいたようだ。此方に一人でやって来る。
てか、本当になんの集まりなんだろう。
ナカジマファミリー(長女と父除く)に教会の双子、ティアナ執務官、それと一昨日ヴィヴィオからメールで送られて来た記念写真の小学生二人。計女子10人、男子皆無。
そういや一昨日がヴィヴィオ達が4年生に進級した日だったか。キラの奴「絶対にお祝いをしてあげるんだー」とか能天気に言ってたクセに、何やってるんだマジで。

「貸し切りかよ。大事か?」

普段は大勢の人で賑わってる施設だというのに、ここだけ他人がいないってことは、この一面は貸切状態ってことだ。
また豪勢にやりあうつもりなのかと、観客もちらほらと見受けられる。

「いやな、ちょいと『ワケアリ』でな。いまから親睦を兼ねたスパーをやるのさ」

スパーリングを? ただの実戦形式の練習にしちゃコート広く取りすぎないか?

「……ふぅん。誰と誰が?」
「今着替えてるところだよ……っと、ちょうど来たようだな。ホレ」

ノーヴェが後方を指差す。
この面子で、ここにいないのが不自然な存在の事を考えれば、一人は高町ヴィヴィオだな。じゃあもう一人は誰だ?

839魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/17(日) 23:02:52 ID:Jg9EXIbIO
そう考えながら振り向いたそこには──

「──アレは……」

Tシャツにスパッツ、格闘技用防具を装備した、金の長髪に紅・翆の虹彩異色娘ヴィヴィオと、同い年あたりに見える少女。
その隣に、
碧銀の長髪に赤いリボン、人形のように整った顔立ちに、瑠璃・紫晶の光彩異色をもった女の子がいた。

(キラが目の前で倒れられて、オロオロしてた娘じゃないか)

間違いない。同じ人物だ。
あの特徴的なツインテールに独特の瞳、雰囲気。なによりもヴィヴィオと同じように、何故か俺の中のナニかがざわめく感覚。
あの雨の日に、少しだけ言葉を交わした少女だ。
なんでこんな所に?

「おいノーヴェ。あの娘なんだよ?」
「ああ、昨日知り合ったアインハルト・ストラトスだ。ちょっと色々あってなー。……そうそう、かなり強いぞ」
「いや……、まぁいいか」

知り合った直後にスパーて。
おかしいですよノーヴェさん。普通、女ってのは共通の趣味を見つけてはキャーキャー姦しく話すもんじゃないのか? ショッピングしたりお茶したりさ。……あぁ、共通の趣味が格闘技なのか。こりゃダメだ。

「? ……じゃあアイツらが準備体操中にやることやっとくか。まずは自己紹介だな。リオ、コロナ!」

ニヤリとしたノーヴェが二人の名を呼んだ。あの女の子達か?ヴィヴィオと友達で同級生っていう。

「ほれ、お前からだ」

二人が集い、俺はコッソリ肘でつつかれた。急かすなよ。

「えー、初めてまして。シン・アスカ……21歳だ。よろしく」
「リオ・ウェズリーです! シンさんの事は、ヴィヴィオからよく伺っています。よろしくお願いします!」

まず、紫紺の短髪に黄色のリボンが印象的な元気っ娘、リオ。天真爛漫でいかにもな体育会系。

「コロナ・ティミルです。知っているとは思いますが、ヴィヴィオと私たちはクラスメイトなんです。よろしくお願いします」

次に、亜麻色の長髪をツインテールにした大人しそうな娘、コロナが名乗った。こっちはまんま文系だな。図書館が似合いそう。
二人とも小学4年生らしくミニマムで健康的、ベクトルの異なる愛らしさを持っていた。お兄ちゃんって呼ばれたい。

「ん、よろしくな。お兄ちゃんって呼んでくれ」

てか無意識にそう言っていた。
ワーオなんてこった爽やか風味に言葉に出してんじゃねーよ俺。

「わっかりましたお兄ちゃん!」
「え、えと……シンお兄ちゃん、でいいですか?」
「アー……ウン、イイデスヨ」

もはや後の祭り。訂正しようにも受け入れられてしまってはどうしようもない。
一人の溌剌と、一人は照れぎみに、なんの疑いも躊躇いもなく寧ろノリノリで俺をお兄ちゃんと呼んだ。なんて良い娘達なんだ。罪悪感が半端ない。

「シン、お前……」
「気にするな。俺は気にしない」

ノーヴェ、頼むからそんな目で俺を視るな。俺は拗らせてなんかないぞ。
誓って言うが俺の妹はマユ一人だけだからな。

「OK、じゃーあたし達もお兄ちゃんって呼ばせてもらおうか?」
「やめてくださいお願いします」

それにしても、また女の知り合いが増えたな。何処からともなく「狙いは完璧よ!」という声が聞こえてきそうだが、それも気にしないでおこう。

(気になるべきは向こうだ)

そろそろストレッチも終わる頃。意識・視線を小学生ズから外して、コート中央に位置するヴィヴィオ達の方を注視する。

注目すべきは、あの少女。ストライクアーツ有段者ノーヴェが、知り合っていきなり弟子とスパーをさせるのだから『何か』があるに違いない。

840魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/17(日) 23:05:18 ID:Jg9EXIbIO
 
っと、どうやら俺の視線に気づいたようだ。碧銀少女は一瞬驚いたような顔をして、こっちにやって来た。

「……こんにちは」
「あ、……はい、こんにちは。……あの、あの人は?」

俺から先に挨拶された事で出鼻を挫かれながらも、アインハルトは存外しっかりと俺に問うてきた。
あの人とは十中八九、キラの事だろうな。

「ああ、アイツはまだ寝てるよ。だけど心配しなくても、すぐに起きるから大丈夫だ」
「そうですか……。貴方も、彼方の方達と知り合いなんですか?」

少し安堵したような貌。それはそうだろう。目前で人に倒れられて気にしない奴はいない。

「つい最近に、な。俺はシン・アスカ、よろしくアインハルト」

この少女は言葉数少なく、あまり感情を表に出さないタイプのようだ。クールで、奥ゆかしくて、芯の通った娘。
そういう印象を受けた。
そしてやはり、ナニかがざわめく感じ。一体何なんだコレは?

「はい。よろしくお願いします、シンさん」

努めて明るく接したのが功を成したのか、警戒させることなくアインハルトは自然体でコート中央に戻っていった。
しかし、

(なるほど、『ワケアリ』か)

あまり「よろしく」という雰囲気じゃなかったな。まだ何かを決めあぐねているのか、どれほどの付き合いになるのか予測できていないのか。
悔恨と期待、悲嘆と疑念。それらがあの少女の瞳にあった。全て、ヴィヴィオと己に向けられた感情。何がそうさせる?

「んじゃ、スパーリング4分、1ラウンド。射砲撃とバインドはナシの格闘オンリーな」

みんなの姉貴分ノーヴェが、ヴィヴィオとアインハルトの間に立ちジャッジを勤める。
黄金は躰全体でリズムをとりながら、碧銀は静かに重心を落として、それぞれ構える。動と静、とても様になっていた。

「レディ──」

ノーヴェが右腕を振り上げた途端に場が張りつめ、静寂。一瞬の溜めの後にただ一つ、振り降ろされる腕が空気を裂く音のみ、聴こえぬ音として響く。
闘いの火蓋が、

「、ゴー!!」

ダンッ!!

(速攻!?)

切って落とされたと同時に、大気と床が震える。
爆発的加速で一息にアインハルトの懐に飛び込むヴィヴィオ。前傾姿勢、拳を引いて、勢いのまま、

ゴウンッ! と、アインハルトに砲弾の様なストレートパンチを撃ち込んだ。

ワッと観客が一斉に沸き立つ。

「──な、」

なんつーアグレッシブな!
まったくもって可憐な容姿にそぐわない猛攻。ヴィヴィオはさらに前進して拳を振るう。上段下段左右のコンビネーション、回し蹴り正拳突き。
コートを広く使った、機関銃もかくやと息もつかせぬ連撃に、アインハルトは防御一手だ。

「ヴィ……ヴィヴィオって変身前でもけっこう強い?」
「練習頑張ってるからねぇー」

スバルとティアナが暢気に評する。いや、結構ってレベルじゃないって。変身って意味はわからないけど。
素晴らしい伸びとキレで攻撃を放つ金髪少女と、それを完全にブロックしきる碧銀少女。わずか10歳前後であの格闘技量とセンスは賞賛に値する。
そういやキラが言ってたな。ここにいると本当に、ナチュラルやコーディネイターとかいった区切りが心底馬鹿馬鹿しくなるって。

(……ん?)

状況変化。
アインハルトの動きが、微妙に変わった。受け止める防御から、払う防御に。ヴィヴィオの攻撃が浅くなっているのか? いや違うな。

841魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/17(日) 23:06:31 ID:Jg9EXIbIO
ヴィヴィオが深く強く踏み込んでハイキックを繰り出すが、アインハルトは軽く仰け反っただけで回避した。

(間合いを見切ったのか)

たかだか数号撃ち合っただけで分析したか。踏み込み、リーチ、挙動の癖を。
ということは。アインハルト・ストラトスは完全に格上の存在であり、実戦経験も豊富なんだ。
ヴィヴィオの拳は全て、余裕をもって受け流されるようになる。

「やぁっ!」
「……」

表情から察するに、ヴィヴィオは相手が格上とわかっていてもなお、まっすぐ心からスパーを楽しんでいるよう。
スポーツマンとして良い心掛けだ。

(ソレはマズい)

良いのだが、違う。今ソレは望まれちゃいない──そう俺が得心した一瞬、アインハルトの顔から感情が「抜けた」……気がした。
ヴィヴィオが躰を引き絞って、右腕を溜めながら突進する。対するアインハルトは静かに佇み、受けの構えを。

「ッ退け、ヴィヴィオっ!」

ヴィヴィオ渾身のアッパーカットは、残像を遺す勢いで躰を沈めたアインハルトの頭上を、虚しく空振って、

ズドンッ!!!

アインハルトの左掌底が、そうなる運命なのだという風情に、無防備なヴィヴィオの胸部に直撃した──


◇◇◇


古代ベルカ、その乱世の時代。天地統一を目指した諸国王による果てない血と戦の歴史。

【『聖王女』オリヴィエ・ゼーゲブレヒト】と、【『覇王』クラウス・G・S・イングヴァルト】は、そんな遠い遠い昔の舞台に登場する、二人の王だ。

幾百年と続いた戦争を終結に導いた英雄の二人であり、武技魔導を極めた傑物の二人であり、共に笑い歩み競い生きた二人であり、短い生涯を散らせていった二人。
そんな人間だった二人の名が、新暦79年春という今に大きな意味を携えて再臨する。
先刻ノーヴェ達から訊いた話を元に整理した結論から言ってしまえば、

高町ヴィヴィオは【オリヴィエ】のクローンであり、
アインハルト・ストラトスは【クラウス】の直系の子孫なのだという。

「まとめると、こんなモンか?」
「だいたいそんな感じだね。ノーヴェが『ワケアリ』って言ったわけだよ」

17時46分。
時空管理局本局内にある、管理世界の書籍やデータが全て収められた「世界の記憶を収めた場所」の異名を持つ超巨大データベース『無限書庫』で俺は司書長ユーノ・スクライアと、歴史の勉強と情報整理をしていた。

「でもユーノ……さん。ご先祖の記憶があるなんて、ホントにあるもんなのか?」
「事例は少ないけど実際報告書は何件かあるし、覇王家の人間なら尚更不思議でもないよ。外見的特徴から見ても、彼女が覇王の純血統だってのも本当だと思う。あと呼び捨てでいいよ」

スポーツセンターにおけるスパー──見る人が見れば腰を抜かす因縁の対決──は、アインハルトの掌底が決め手となり一本勝ちで終わった。……が、圧倒的な実力差によるその一撃は、勝者にも精神的致命傷として牙を剥いた。
勝利の快感も笑顔もない。アインハルトの瞳には悔恨と悲嘆だけが残り、まるで迷子が泣き出す寸前のような雰囲気すら漂っていて。
痛ましかった。
アインハルトは、己を受け止めてくれるヒトを探し求めているように見えた。勝手な推測だけど、俺にとっての『家族』と同じ存在を。
そして彼女にとっての『その役』を担えるかもしれなかった存在こそが、ヴィヴィオだったのかもしれないんだ。
でも駄目だった。違った。あの一撃でアイツはそう判断した。
過去の記憶を持つが故に。

「酷しいよな、そりゃ」

842魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/02/17(日) 23:07:05 ID:Jg9EXIbIO
「シン?」

誰も言葉を発せられない空気の中ただ一人去ろうとする少女を引き留めたのは、ぶっ飛ばされた当の、何も知らないヴィヴィオ。
彼女にも思うところがあったのだろう。己の想いと友人達の助けにより、二人の少女は来週正式に練習試合をするという流れへ。

『聖王』の骸布に付着していた遺伝子情報体から造られた少女と、『聖王』と親しかった『覇王』の記憶と意思を受け継ぐ少女との決着は、次週へ持ち越しと相成ったのだった。

「これも運命ってヤツかよ。重すぎだろ」
「そうだね。もっとロマンチックに使うような言葉であってほしいのに、どうして、こんな」

運命の名を冠するチカラを扱う俺が言うのもなんだけど、運命ってのはいつも無駄に大きい。大きくて、色々なモノを振り回すのだ。
暴風雨の如く、誰かの事情なんてお構い無しに、都合によってハッピーエンドかバッドエンドかを勝手に選ぶ。そんな極端で気紛れで強大な矯正力。
振り回される方はいい迷惑だよマジで。

「練習試合は日曜だっけ」
「ああ、そこで全部決まる」

クソッタレな過去の戦争の遺産が、現代の子どもの未来に深く関わる、そんな運命。
現在試合に向けて特訓中であるヴィヴィオの想いと力が、どこまでアインハルトに響くかが、未来を大きく左右する分岐点。
二人の少女にとって正しく『運命の日』が、間近に設定されたのだった。


願わくは、少女らにハッピーエンドがあらんことを。




──────続く

843凡人な魔導師:2013/02/17(日) 23:10:42 ID:Jg9EXIbIO
以上になりますです。

ところで皆さんはバレンタインチョコは貰え(あげられ)ましたか?
私はリインから貰う夢を見ました

844名無しの魔導師:2013/02/18(月) 01:44:53 ID:.a1yglp.O
投下乙です!
次回決戦か!?


しっとの心は父心ですよ

845名無しの魔導師:2013/02/21(木) 16:13:04 ID:CzHIkCEwO
投下乙 ノ
盛り上がっていきましょー!

バレンタイン…まだ、学生なんで部活関係とかでもらえましたね……義理とかいうな( ゚д゚)
ただ、来年から社会人やから貰えるのかどうかorz

846Vixaxofehoani:2013/02/27(水) 08:10:12 ID:Ko6y36Vs0
What is <a href=http://www.innocentspouserelief.biz/2012/06/what-is-community-property/&gt;debt settlement tax form </a>

The ultimate installation of our tax refund mini-series appears to be in the tax deductions accessible to other staff in the nursing and healthcare sectors. Here, we look at simply how much you can claim back again if you're a Nurse, a Pharmacist or possibly a Pharmacy Technician on PAYE.

Nurses & Midwives
The majority of nurses working under PAYE can claim tax relief in excess of £300 using this service, but the figure rises to over £1,000 in the case of more specialist roles such as midwives. As with all claims of this type, claimants need to make sure that they're paying tax via the PAYE system rather than through Self Assessment. Should you be unsure which of these tax systems you fall under, speak to your manager or HR department to find out.

Pharmacists
Pharmacists attract special tax relief, with many able to assert over £1,000 in tax relief against General Pharmaceutical Council membership fees alone. New recruits won't be entitled to nearly this amount, but the declare should still cover in excess of £250 in tax relief.

Pharmacy Technicians
Pharmacy technicians can declare up to around £500 in tax relief provided they haven't claimed already in the last four years or so. The relief is somewhat lower than that available to fully-qualified pharmacists, and for the most part this reflects the lower subscription and membership costs incurred in joining the General Pharmaceutical Council.

How long does it take to claim tax relief?
It takes just a couple of minutes to complete an online tax refund application - then allow 10-12 working days for us to negotiate your refund with the tax office. Timescales tend to remain fairly static, but please do bear in mind that timescales tend to increase around January, when the tax office is particularly busy.

Claiming yours
If you are a nurse who pays tax through the PAYE system, and you wish to declare this tax relief, you should act fast because the deadline for claiming again to April 2008 is approaching. After 31 January 2013, you'll no longer be able to declare this far again - only to 2009.

Does this apply to other jobs professions too?
Absolutely, HM Revenue & Customs has put in place special flat-rate tax allowances for a number of other professions in addition to healthcare. All of the major roles within the healthcare professions are eligible to assert - not just nurses and pharmacy staff.

847Jivitatar:2013/02/27(水) 17:36:09 ID:Ko6y36Vs0
What is actually <a href=http://www.applesandcheeses.com/2008/12/12/holiday-concert&gt;antique pearl engagement rings </a>

There are several techniques consumers should buy cost-effective engagement rings; the trick it to grasp the distinctions that influence pricing of a ring. This information will just take readers as a result of a number of secret guidelines that just one should know, when purchasing for low cost engagement rings! Things like variety of gem, condition on the gem, metallic of one's ring environment, and choosing unfastened diamonds around a preset design and style, can all substantially lessen the cost of your ring! Continue reading and discover the insider secrets to buying an easily affordable ring your fiancé will really like!

They type of gem is normally one thing men and women will not give significantly thought; lots of people routinely assume a diamond is the gem they ought to choose. It is real that a diamond signifies custom and several think it being the symbol of love everlasting. Having said that, there are several people currently that are selecting extra present-day styles and gems. Emeralds, rubies, and sapphires are all getting to be an ever more popular modern option. Cheap rings usually employ the aesthetic magnificence of such colourful gems, set up of your common colorless diamond.

The form from the gem also can lessen the cost of your ring. There are plenty of shapes from which to choose, when checking out economical rings, among the them: oval, radiant, asscher, emerald, marquise, heart, princess trilliant, spherical, and pear. Deciding upon a shape which makes the gem show up larger than it's (including the marquis or emerald lower) makes it possible for individuals to buy a more compact diamond if they want. A smaller carat bodyweight will even decrease the expense of the ring. Affordable engagement rings also typically utilize white gold in excess of platinum for that ring band steel. Platinum is desired, but when cost is undoubtedly an matter white gold is often substituted; the bare eye can't tell the primary difference involving platinum and white gold.

Last of all, when thinking about inexpensive engagement rings, picking wholesale about retail is probably clever. Picking out to buy unfastened diamonds wholesale, instead of obtaining a preset ring, is an additional good way to reduce the cost of your engagement ring! Purchasing the diamonds or gems individually will allow the customer the creativity to design their unique ring, which may make the reward that a lot more customized! Pick the gem, condition, and metallic of one's ring correctly and do not neglect that wholesale is almost constantly the cheaper decision! Economical engagement rings can be obtained just observe these tips and you also are sure to discover the ideal ring, to the best cost!

848凡人な魔導師:2013/03/05(火) 12:51:21 ID:.vledF2EO
こんにちは。今夜23時頃に投下します。
決戦です。色々と

849名無しの魔導師:2013/03/05(火) 23:02:38 ID:/11aGgS6O
ワクワク

850魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/03/05(火) 23:03:09 ID:.vledF2EO

あれは僕らが地球圏外へ追放され、木星圏を開拓する仕事に就く少し前のことだったっけ。
ある冬の日、僕の理解者であり同士、一番大切なヒトであるラクス・クラインから、愛の告白をされた。「好きです」って、只の少女みたいに。
正直なところ僕は、ずっと彼女を「女性」ではなく「一人の人間」として認識してきたから、彼女は色恋沙汰とは無縁だと思ってたから、おおいに戸惑った。
思い出せば笑えるぐらい呆然として、慌てふためいて、逃げて、相棒に相談しにいっては怒られ。
けど、その告白と相棒の罵倒によって彼女を愛しく想う自分の気持ちに気づいたのも、また正直なところで。そう言ったら遠回りにも程があると更に怒られた。何を恐れているのかと尻を叩かれて、追い立てられた。
そして僕は勇気をだして彼女と向き合い、「僕も好きだ。ずっと好きだった」と興奮気味に、只の少年のように伝えたのだった。

以来、僕ら──キラ・ヤマトとラクス・クライン──は恋人同士になった。

でも。
だけど。
それから少しして。

ラクス・クラインは死んでしまった。

あの日、
ラクスが木星圏に視察に来たあの日、
宇宙で僕と婚約を交わしたあの日、
僕らが不思議な白昼夢を見たあの日から、彼女は突然に前触れもなく衰弱し始めた。
その謎の衰弱現象の原因は一向に解明できず、どんな高度な処置をしても徒労となって。ラクスは日に日に痩せ細り、蒼白になっていっていった。そんな躯でも優しげに微笑む彼女を僕はただ介護し、見守るだけ。
不安と焦燥が募るだけの日々は、僅か半年で終わった。呆気なく死んだ。
責任者も、悪者も、仇もない。
あるのは疑念と悲痛。僕には後悔も憤怒も無かった。死期を悟った彼女とは、やれる事はなんでもやったし、あらゆる事を語り合ったから。
だからこそ彼女の死は、僕の心に寂寥と悲哀だけを遺した。

約1年前の、出来事だった。



『第七話 もう一度この手にチャンスを』



「  ──、……」

重荷を総て取り払ったかのような解放感。羽根のように軽い瞼はかつてない程の、爽快な目覚め。
それでいて不快感しかない、最悪の目覚め。

「……生きてるのか、僕は」

少し掠れたそれが、第一声だった。
えらく芝居がかった台詞だなと、我ながら思う。でもそう呟かざるを得なかったのだから仕方ないよね。自分がこうして生きているのが意外だったんだし。
瞳を開ければ、そこには白い天井、白い壁、陽光を遮る灰色のカーテンに、フカフカな白いベッド。
有機的な木製の机とタンス、色とりどりの花々、陶器の花瓶。
電灯と光と影。
自身という人間の存在。
人間の居住を前提にした施設。TVドラマ等でよく見られる典型的で普遍的な、個人用の病室。点滴装置と心音図記録ユニット。

「ミッドチルダ北部ベルカ自治領聖王教会本部付属医療院……6号室」

いつかと同じ部屋、いつかと同じシチュエーション。
僕はいつ、ここに来たのだろう。どうして、こんなところに来てしまったのだろう。
数秒をそんな思考に用いてから、考える必要のない事柄だと気付く。どうやら無垢な目覚め故に、夢と現が区別なく情報として脳に居座っているらしい。
混乱。
整理。

≪おはようございます、マイ・マスター≫
「フリーダム、カレンダー出して」

自身と愛機の言葉は波として部屋中に反射して反射して僕の鼓膜を震わせ、展開された空間モニターが光情報として僕の視神経を刺激。
そんでもって今日の日付は……僕の保持する最も新しい記憶の日付から、あの雨の日から数えて6日目の正午が、今のようだった。

851魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/03/05(火) 23:05:17 ID:.vledF2EO
なるほど。どうやら僕はこの病室で一週間近く眠っていたらしい。どうりで身体が上手く動かないわけだよ。
うん、確認終了。
これら総てが物理現象。納得するしかない。
やはりここは五感が作用する現実で、キラ・ヤマトはここに生きている。

(ついに死んだかと思ったのにな)

溜息。
むしろ、死んでいればどれだけ楽になれたんだろ。僕もみんなのと同じ場所に、彼女と同じ場所に行けたんじゃないだろうか。
フワフワとした空間で、未来永劫ずっと一緒に、苦しむことも無く。

(すごく魅力的だ、それは)

柄にもなくそんな事を考えてしまうのは、きっとあんな夢を視たせいなのかな。
記憶と幻想が混在して構成された、けど確かに実在していたあの夢を。死者と生者が混在した空間の一幕、どこまでも無限であったあの夢を。

(きっと、すぐ近くにいたから)

染み一つない天井を仰ぎながら、僕は思考に浸る。
さて。今となっては夢の中、さっきまで僕は死人と会っていた。
トールやフレイ、ラクス、ラウ、その他諸々、かつて僕の目前で死んだ者達と。世界から拒絶された真白の空間で、永い刻を語り明かした実感がある。
そう、僕は死人と会っていたんだ。
曖昧ではなく明確に。内容もしっかり憶えてる。
だから、自分が死んで、死後の世界に来たんだとばかり思ってたのだけど。だからこそ死が魅力的に思える。
でも違ったようだね。
ユーノとクロノの情報が正しいとするのならば、アレは多分、心の世界。そうだ、感覚としてはそれが一番近いのかな。
だからこそ、夢は現実だ。

(現実。じゃあ、やっぱり【アレ】は現実だったんだ)

再度、溜息。
なにもかもが、彼らが提示し、彼らが出した結論を裏付けるような現実だった。
折角の出逢いも決意も台無しになる思い出ばかり。心が折れそう。これが現実ってんなら神様はよっぽど僕の事が嫌いらしい。【アレ】の事なんか知りたくなかったのに。

(死にたい。いやまだ死にたくないけど……ん?)

どうせなら、今までの全てが嘘で目覚めたらC.E.71のヘリオポリスでしたってオチにしても罰は当たらないと思うのに……と、そこまで考えたところで。
気付いた。漸く。
この病室が以前とは違う事に。

「──やぁ、ヴィヴィオちゃん」

下半身に感じる、かすかな重みに。
だけど何物にも代えられない、重過ぎる命の重みに。

「……ん、……すぅ……」

僕の太腿を枕にするようにして、高町ヴィヴィオが静かに寝息をたてていた。
平和的に、小動物的に、穏やかに、ウサギのヌイグルミを抱き締めながら。小さな女の子が、生きている存在がここにいた。
少し苦労しながらベッドから上半身を起こして、欲求のまま柔らかい金髪を撫でてみる。よく手入れされた絹のように光輝く髪、いつまでも触れていたい。

「……ん〜〜、……」
「……ごめんね。色々と」

気持ちよさそうに少女が喉を鳴らす。幸せそうに微笑んでいて。自然と心が落ち着いていく。暖かくなる。
誰にでも優しいこの少女がここに、自分なんかの所に来ているというだけで、なんとなく救われたような錯覚。錯覚でも気分は少しポジティブになって、笑みが零れた。
お見舞いにでも来てくれたのかなぁ。そうだったらとても嬉しいんだけど。そうだったらいいな。

(ああ、この娘によく似ていたあの娘は、大丈夫なのかな)

そうしていて思い出した事項が一つ。

852魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/03/05(火) 23:06:57 ID:.vledF2EO
僕の保持する最も新しい記憶、6日前の雨の日、クロノに呼び出された日、僕が無様に気絶したあの正午。

僕は一人の少女と出逢った。

俄にやってきた土砂降りの中、怪我をしている小さな黒猫を抱えて、傘もなく軒下でポツリと立ち尽くしていた女の子。
碧銀の長髪に赤いリボン、人形のように整った顔立ちに、瑠璃・紫晶の光彩異色をもった女の子。
全く似ていない筈なのに、何故かヴィヴィオちゃんによく似ていると感じたあの女の子の名は、なんといっただろうか。
……って、訊きそびれちゃったんだっけ。あの猫共々、無事に帰れたのかな? 目の前で倒れちゃってビックリさせちゃったんだろうなぁ……
今度見かけたらちゃんと謝って、それからお礼を言わないとね。

(もし会っていなかったらと思うと、寒気がするよ)

ハァ、まったく。悲劇のヒーローなんてキャラじゃないでしょ僕は。
嫌なコトを聞いて、ショック受けて、帰宅途中で女の子に会って、助けて助けられて、そして気絶して、一週間眠り続けてさ。どんな三文芝居の主人公だよ。あまりの出来の悪さに頭が痛くなる。

「ありがとう、傍にいてくれて」
「…………、はふ……」

そんなシナリオだった過去でも、僕にとっては間違いなくシリアスな展開だったのは事実で。だからもしここにヴィヴィオちゃんがいなかったらいつまでも、鬱々と落ち込んでいたに違いない。
つまり今こうして呑気に苦笑していられるのは、二人の少女のおかげなんだ。
なんか、女の子に助けてもらってばっかりだ。護られてしかいない。護ろうと誓って、まだ何も護れていないのに。僕は無力だ。

(無力……そうだ、認めるよ。僕は無力だよ)

閃く。思い至る。
この世界に来てから、護りたいとばかり思うようになったのはきっと、僕が恐れているからだ。これ以上何かを喪うのを、再び大切な何かが消えてしまう事を。だから、「護る」を最優先に考えるようになった。
無力感を自覚したくなかったんだ。もはや戦う事しかできないから。
それを今、このシチュエーションで自覚した。

(本当、悲劇のヒーロー気取りだ)

自虐しながらもう一度ヴィヴィオちゃんの頭を撫でてみようと手を伸ばして、

「……っと」
「んぅ、わふぅー……」

やめた。そろそろお姫様のお目覚めのようだ。犬っぽい可愛らしい寝言モドキを言いながらモゾモゾしてる。
あぁ、それにしてもヴィヴィオちゃんがお昼寝するなんて珍しいな。春の陽射しは絶好調だから仕方ないかもしれないけど、なのはとフェイトの娘らしくキッカリテキパキ行儀の良い真面目な子で、昼寝とは縁遠いタイプだから。
とにもかくにも気持ちを入れ換えよう。暗い貌してこの娘を迎えるわけにはいかない。笑顔だ。

「……ふぁ、──あ、れ。わたし……」
「おはよ、ヴィヴィオちゃん」
「っ、ぅわぁ!? え、き、キラさんっ!?」

目元を拭いながら小さくあくびをして目覚めたヴィヴィオちゃんに笑顔の挨拶を……って、素っ頓狂な声をいきなり。なに驚いてるの?

「……あ」

あぁそっか、僕って長いこと寝てたんだっけ。まさか僕が起きてるとは思わなかったんだね。それでいきなりオハヨウとか声を掛けられたら、そりゃビックリするよ。紅と翆の瞳をまんまるにして飛び上がるわけだ。
うん、珍しく昼寝してた君が悪いんだとコッソリ責任転嫁だ。

「ぁーごめん。……おはよう?」
「お、おはようございますっ! って、えと、もう起きて大丈夫なんですか……じゃなくていつ起きたんですか!?」
「ついさっき。それなりに爽快な寝覚めだったし大丈夫だよ、僕は」

853魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/03/05(火) 23:09:42 ID:.vledF2EO
「本当なんですか。本当の本当に?」

落ち着きを取り戻した途端、心配気な顔をして詰め寄ってきた。近い、顔が近いって。
気持ちはわかるけど……それほど心配させちゃったのか。くそっ、なんてことだ。

「だって、ずっと眠ったままで、お医者様もいつ起きるかわからないって言ってて……みんなとっても心配したんですよ……」

眉尻を下げて、瞳を伏せて、悲しげに訴えてきた。
そこには言外に、イクスヴェリアちゃんの存在を匂わせていた。とある事件でヴィヴィオちゃんと友達になり、今はいつ目覚めるとも知れない眠りについている少女と僕とが被ったのかもしれない。
そうだね。それは、辛いよね。でも、心配はいらないよ。

「大丈夫、ちょっと『夢』の中でね。ヴィヴィオちゃんと同じように心配してくれた人がいてさ。だから色々と吹っ切れたよ。……もう大丈夫。心配させてごめんね」

意識して笑みを造り、大丈夫アピールをする。謝って謝って謝みたおす。
まぁ彼女達と色々話して心の整理をしたのは本当だけど、吹っ切れたのは実は君のおかげなんだとは言わない。
流石に恥ずかしいからね。

「そうですか……良かったです」

アピールが功を成したのか、すっかり安心したヴィヴィオちゃんが笑顔になって、ホッと胸を撫で下ろす。
やっぱり女の子は笑顔が一番だね。こうでないと。

「あの、聞いてみてもいいですか? その夢って」

ついでに夢の話に興味を持ってしまったようだ。
しまったな、女の子には些かロマンティックな言い回しだったか。
一応、話しても問題ないからいいけど。

「──ラクスと、フレイと、あとクルーゼって人とか。僕の世界の人なんだけどね、こんなとこまで追いかけてきたみたい」

不思議だよねと笑いかける裏側で、思考する。
死者達との邂逅。実はというと、それは別に初めてというわけでもない。たしか、闇の書に取り込まれた時だったか。同じく取り込まれたフェイトはアリシアちゃんと出会ったらしい。
あの時はラクスはいなかったけど、フレイとクルーゼに逢ったんだ。何故よりにもよって、あんな人選だったのか。その謎は今の僕にならなんとなく解る。
それはきっとクロノ達が示した──

「……すごいですね。その人達って」
「──、……え?」

凄い? なんで?

「こんな遠く離れたトコロでも、、世界が違ってても。キラさんを想って、心配して、それが夢として届いたなんて、素敵だと思います」

なるほど、そういう解釈か。女の子らしい素敵な、夢のある解釈。
でも、その方がいいな。

「……うん、そうかもね」

どんな悲しい現実でも、きっとそれには敵うまい。
それが夢の特権だ。

「……」
「……」

何故か、ヴィヴィオちゃんも僕も自然と黙り込んでしまう。
俄然、心地好い沈黙が空間を支配した。いいよね、こういう空気は好き。かつてのオーブを思い出すから、リラックスできる。

「ところでさ」
「はい」
「なんか疲れてたりする? 君がお昼寝するなんて珍しいよね」

というわけで、なんとなく気になった事を訊いてみる。興味本位だ。
するとなんか困ったような、真剣な表情になって、次に思案顔に。これは話していいものか、どのように話していいものかって感じだ。
でもそれは一瞬。

「えーと、実はですね? 来週に、新しくできた友達と練習試合をするんです。それで一昨日から特訓を始めまして」
「へぇ。だからあんなにグッスリと……特訓しなきゃいけないぐらい強いんだ、その人?」

854魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/03/05(火) 23:12:01 ID:.vledF2EO
「そうなんです! 私よりちょっと年上な女の子なんですけど、とっても強くて。この前はすぐ一本とられちゃったんです」
「そんなに……」

その事が、心の大半を占めている話題だったんだろう。思った以上にスラスラと応えてくれた。
ってか、寝ている最中でそんな事があったとは。タイミング悪いなぁ僕は。

「でも次は負けません。だから、特訓です」
「何か、ワケアリみたいだね」
「えっ……」
「そっくりだもん、なのはと。何かを貫いて、伝えようとしてる瞳だ。……君にとってはただの練習試合じゃない。違う?」

何故わかったのかって貌だ。でもわかりやすいし、仕方ない。子は親に似るとはよく言ったものだ。良い処を良い感じに受け継いだらしいと一目でわかる。
この娘は本気だ。本気で何かをやろうとしている。

「……はい、ちょっとワケアリです」
「だったら、ヴィヴィオちゃん」

ウサギのヌイグルミをギュッと抱いて、今度こそ、という気概。
ああもう、こういうのを目の当たりにすると、堪らなくなる。悪い癖だ。無力なクセに。
でも、それでも。無力な僕でも、何かをしたいんだ。今度こそ。

「僕にもその特訓、手伝わせてくれないかな」


◇◇◇


──ド、ゴンッ!!

凄まじく重い、その打撃音。
これが年端のいかない少女達の肉体が発した音だとは、俄には信じがたい。
碧銀と黄金が、瑠璃と紫晶、紅と翆が入り乱れ、鋭く重く拳の応酬を演じていた。その拳一つ一つが、必殺級。
僕が目覚めて4日目の、アラル港湾埠頭・廃棄倉庫区画、13時31分。格闘限定の5分一本勝負。
これが、

「……練習試合、か」

ヴィヴィオちゃんが特訓で目指した舞台。その御披露目というべきか。
白きバリアジャケットを装備し、魔法の力で『大人モード』になったヴィヴィオちゃんの相手は、同じく白きバリアジャケットを装備し、『大人モード』になったアインハルト・ストラトスちゃん。
18歳相当の女性らしくスラッと延びた肢体が、遠慮容赦なく相手の肉体を打ち倒そうと疾る。
苛烈な試合だ。
まさかそれにしても。あの雨の日に出逢った黒猫の少女が、ヴィヴィオちゃんの新しい友達で、尚且つ試合相手だったなんて。
全く世間とは狭いものだね。

「これ、アンタならどう見る」
「そうだね……」

僕の隣に立って腕を組み、同じく試合を見守っているシン・アスカからの質問の声。
ほぼ同時に、白の長衣と碧銀の長髪を靡かせたアインハルトちゃんの猛攻、その隙間を縫ったヴィヴィオちゃんの右拳が再び、アインハルトちゃんのボディに入った。

「……打撃のパワーもスピードも、アキュラシーも。あのアインハルトちゃんの方が断然上だ。だけど──」

しかし、碧銀の少女は畏れず怯まず超然と拳の嵐を展開する。実力そのものはアインハルトちゃんのが圧倒的に上。黄金の少女はそれを捌ききれずに、結構なダメージを蓄積させていく。
傷つき、どんどん後退していく躰。

「く……ぅっ! 〜〜ッッ!!」

しかし、しかし。
ジャブを喰らってよろけてしまった一瞬を狙われたストレートを、ヴィヴィオちゃんは紙一重で回避して、アインハルトちゃんの顔面に、カウンターとしてのストレートを直撃させたのだ。

「やった!?」

痛々しい打撃音が辺り一面に響き、この刹那的な攻防にギャラリーが喝采を上げた。そして僕は確信する。

「──要所要所で、ヴィヴィオちゃんは確実な一撃を、当てられるんだ。つまり」

855魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/03/05(火) 23:13:32 ID:.vledF2EO
「つまり、もしかしたらヴィヴィオが一本取る事も出来るかもしれないってことか」

ヴィヴィオちゃんの体捌きは確かに見事だけどアインハルトちゃんにはまだまだ届かない。が、つけいる隙は、ある。
それこそがヴィヴィオちゃんの戦闘スタイル。カウンター狙い。
格上相手にヴィヴィオちゃんが勝つには、短期決戦、一撃必殺の覚悟で喰らいつくしかないという事だ。
尤も、アインハルトちゃんにも長期戦をしようとする気は毛頭もないみたいだけど。

「……ハッ!」
「はぁぁあっ!」

両者の瞳により大きな意志が宿り、攻撃の激しさを増していく。
殴って殴って蹴って蹴って殴って殴って殴って、それ以外は忘れましたと言われても頷くしかない打撃戦。
そうやって、今を精一杯生きている二人の姿は、とても輝いてみえて。思わず目を細めた。

(シンの言葉が本当なら……これは、運命の一戦だ)

シン曰く、これは過去の戦争の、その当事者と所縁がある者同士の、未来を左右する戦い。
シン曰く、アインハルトちゃんの存在は、過去に、運命に縛られているのだと。
シン曰く、ヴィヴィオちゃんが負ければ取り返しのつかない事態になるかもしれないと。
そして、そんな彼女に伝えたい想いがヴィヴィオちゃんにあるんだと、僕らは知っている。

『──大好きで、大切で。わたしを幸せにしてくれた、守りたい人の為に。約束を果たす為に。わたしは強くなるんです。だから……』

ヴィヴィオちゃんが4年生に進級する数日前、緋色の空で聴いた言葉が、脳を過る。
その想いは、この僕の凍った心すら揺るがした程の、大きなモノだ。
そう信じているからこそ、彼女の特訓に付き合ったからこそ、願う。
解き放ってくれ。彼女を縛る運命の楔から、少女を。その想いで。
雨の日に、黒猫を抱いて途方にくれていた女の子に傘を差し出すように、その力で。

「ヴィヴィオ!?」
「陛下!」
「避けろぉ!」
「……『覇王──」

そう願っているからこそ。
ヴィヴィオちゃんの渾身の一撃がギリギリ防がれ、アインハルトちゃんが腰を落とし、莫大なエネルギーを右拳に収集した時も、

「っ、今だ! ヴィヴィオちゃん!!」

僕は最後まで信じられる。
自己満足でも構わない。一度失ったチャンスを取り戻すように、今度こそ、迷える手を取れるように。
想いを集約した純然なるチカラが届くと。

「……ッ!!」
「──断空拳』!!!」

アインハルトちゃんの一撃をモロに喰らったヴィヴィオちゃんが、遠く離れた廃倉庫まで一直線に吹っ飛んで。
ヴィヴィオちゃんの一撃を掠めたたアインハルトちゃんが、膝を折る。

「……そこまで!」

審判を務めたノーヴェさんの判定が響き、皆が二人の少女の傍に駆け寄った。

「最後の。流石に無謀だったんじゃないか?」
「いや、そうとも思うけどね。あの娘を信じてるから」

気絶しているヴィヴィオちゃんを膝枕で介抱するディードさんから少し離れた所で、シンと試合の評価をする。

「……、……!?」
「ほら、大丈夫?」

バリアジャケットを解除して子供の姿に戻っても、なかなか立ち上がることができない碧銀の少女。
それでも無理に立ち上がったせいでクラっと、力が抜けて倒れかけてティアナさんの控えめな胸を枕にしてしまっていた。

856魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/03/05(火) 23:15:14 ID:.vledF2EO
それが僕の答。

「す、すみません……あれ!?」
「ああ、いいのよ。大丈夫」

謝り、体勢を立て直そうとするが上手くいかない。その事に少女は戸惑っているみたいだ。
仕方ないけどね、それは。

「最後の、左のアッパーだよアインハルトちゃん」
「一発カウンターがカスッてたろ。無理すんな。かなり効いてる」

大抵の生物は、顎に強打を喰らうと脳が揺さぶられ、平衡感覚を失ってしまうものだからね。
軽い脳震盪のようなものだ。少し安静にしとかないと。

「ま、賭けみたいなもんだったけどな。無謀には違いない」

戦闘には厳しいシンが、やっぱり厳しめの評価を下した。晴れやかな表情で、少し安堵したように。
シンにも少し色々と思うところがあったみたい。

「本当に、二人共お疲れ様。……どうアインハルトちゃん、ヴィヴィオちゃんは強かった?」

腰を屈めて、少女に問う。
ヴィヴィオちゃんの想いは、届いた?

「あ、……はい。強かったです、本当に。私は彼女に謝らないといけません」

こちらも少し晴れやかな顔で、今の戦いを振り返って評する。
まるで、何かを見つけたような。
まるで、何かを振り払ったような。
まるで、何かを決意したような。
これからの事はまだ誰にも解らないけどきっと、それはいい事だ。

(道は定まった)

僕はもう大丈夫だよ、ラクス。ここならきっと、彼女達の傍ならきっと、どんな事もできる気がするから。
だから、そっちに行くのはもうちょっと待っててね。

「……シン、話があるんだ。聞いてくれる?」
「……俺はずっと待ってたぞ、ったく。アンタって人は」

C.E.78、エヴィデンス、ジョージ・グレンのクジラ石、その特性、生態、魔力波長、超人計画、現状。
考えれば鬱になることばっかりだけど、それでもだ。

新たに生じたやるべき事、やりたい事を成す為に。彼女達に恩を返す為に。


さぁ、全てを棄てよう。




──────続く

857凡人な魔導師:2013/03/05(火) 23:18:41 ID:.vledF2EO
以上です。

この話はちょっと詰め込み過ぎようとした過去があり、出来が不安ですが、まぁなんとか通常通りにできた……と思います、と思いたいです

858g:2013/03/07(木) 17:41:06 ID:g9LNJ9TU0
ロリ画像掲示板

http://d4u88bqk.seesaa.net/

859名無しの魔導師:2013/03/07(木) 23:20:45 ID:QWInpjjY0
うーむ、GJです!

860凡人な魔導師:2013/03/15(金) 00:28:14 ID:DZExmlfwO
スパロボUX……キラのザフト白服が初めて採用されたゲームである。

というわけで、実に勝手ながら次回の投下はかなり遅れると思います。すいません

861名無しの魔導師:2013/03/21(木) 19:35:27 ID:gvR5AU7Q0
美少女エロ画像

http://tutlyuyhk.blog.fc2.com/

862とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:10:52 ID:2Jr5Nkuw0
借ります。

863とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:11:27 ID:2Jr5Nkuw0

 
 ――ある光景を見て、それを以前にも見たことがあると錯覚したことに身に覚えは無いだろうか?

 この感覚はデジャヴュ【―deja-vu―】とよばれ、【地球】においてこの言葉の語源はフランス語に由来している。この島国においての意味としては【既視感】に相当する。一般的に既視感とは、ある光景を「よく知っている」という感覚だけでなく「確かに見た覚えがあるが、いつ、どこでのことか思い出せない」というような違和感を伴う場合が多い。

 【過去の体験】は「夢」に属するものであると考えられるが、多くの場合、「既視感」は【過去に実際に体験した】という確固たる感覚を本人自身が持っており、夢やただの物忘れとは異なる。

 この感覚に陥った発症者の中には過去に同じ体験を夢で見たという【記憶】そのものを、体験と同時に作り上げる例も多く、その場合も確固たる感覚として夢を見たと感じるため、予知夢ではないか?と混同されることがたびたびあるが、実際にはそうした夢すら見ていない場合が多い。

 科学的な見方としては【既視感】は予知や予言等といったオカルト的なものではなく、記憶が呼び覚まされるような強い印象を与える記憶異常であると考えられている。

 何故、記憶異常などといった見方がされるかというと、既視感は発症者のほとんどのケースでは、その瞬間の記憶のみが強く、その記憶を体験した状況について明確にされないことが多いからだ。さらにいうと、時間の経過により既視感の経験事態が落ち着かない経験として、強く記憶に残り既視感を引き起こした事象、状況の記憶がほとんど残らないことが多いのだ。

 論理的な証明のなされない体験した「かもしれない」という記憶ではオカルトめいたものと結びつけることは到底適わないので、既視感という現象は記憶異常もしくは記憶の錯覚などと捉えるのが妥当といったところである。実際、既視感が発生するケースの大半は初めて訪れた場所の風景や会話の内容などにを持つ場合が多いのだから。





 ――――そして、この物語の中心人物である【高町シン】【レイ・ザ・バレル】の二人にもある【既視感】に見舞われる。





 しかし、この二人は記憶等といってもほんの数年間分の記憶しか持ち合わせていない記憶障害に陥っているため、既視感を引き起こすほどの記憶の蓄積があるとは考え難い。二人に共通して引き起こる【既視感―deja-vu―】の正体は一体何であろうか?もしくはそれは【既視感】などではないのであろうか?

864とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:12:09 ID:2Jr5Nkuw0


       魔導戦史リリカルSEED 1st〈Magical History Lylical SEED the first 〉「PHASE06」





 海鳴市内中心部にはいくつかの廃棄ビルが存在する。市内中心部がビル街として区画されているのだが、隣接する市内が商業都市として賑わっていることと海鳴市がそもそも海や山々など自然に囲まれた豊かな土地であることを前面に出している観光地的な側面を持つため、ビル建設の発注に着手したはいいものの、業績が振るわず倒産の憂き目に会い、建設中の状態のまま放棄されまったく使われない建築物も中には存在する。

 しかし、ビル自体の解体工事を行うにしても海鳴市の予算との兼ね合いで年間で競争入札に掛けられる工事にも限りがある。よって工事を行わなければならない廃墟ビルがあっても予算の目途が立っておらず、解体工事を行えない廃墟ビルが海鳴市には数点存在しているのだ。そしてそのような廃墟ビルには当然、人の出入りが容易に行われないようにバリケードなどが設けられていたりもする。だが、年月が幾ばくか経ってしまっていれば当然経年劣化によってバリケードにも綻びがあったりするものでもある。

 そんな海鳴市に存在する廃棄ビルの一つに拭いようの無い違和感を漂わせているものがある。何故なら、ある人影が存在しているからだ。輝いた金髪が特徴の少年、レイである。陽光がバリケードなどで遮断されているにも関わらず、その金髪は闇にも映えている。

 明かりが周囲を照らし出さ無くても彼の金髪が輝いて見えるのも無理は無い。

 それは彼の周囲に探索魔法で作り出した【サーチャー】が飛び交い、ビル周辺の視覚情報を常に送受信しており、彼の周囲がそのサーチャーから齎される光源によって照らされているからだ。

 「随分と湿気こんだ場所に閉じ籠っているな、金髪」

 レイに対して何処からともなく声が掛かる。しかし、不意に掛かったはずの声にレイが動じる筈もなく、鼻を鳴らすだけであった。それもそうであろう。レイは声が掛かるのを始めから知っていたからだ。【偶然】立ち寄った喫茶店でつい3週間前に叩きのめした貧弱過ぎる魔導師まがいの少年と再会していたのだから。

 「…わざわざ後を付けてくるとは、御苦労なことだな。黒髪」

 二人の会話には平穏とはかけ離れた雰囲気が漂っている。ふとした切っ掛けがあればすぐにでも爆発するほどに緊迫した様相が窺い知れる。凡そ普通の少年であるならば醸し出すことの出来ない圧迫感【プレッシャー】をこの二人の少年は作り上げているのだ。

 「いったい何のつもりだ、何で翠屋に居た!!」

 夕闇よりも暗い闇に閉ざされたビルの空間で、声を発した少年の輪郭が顕になった。少年の頭髪は管理外世界のこの小国に住まう人々の頭髪の色と似ているが、それに反して両目は鮮やかすぎる紅の色を蓄えており、暗闇を照らすサーチャーの光源の補助もあるためまるで作りの良い宝石で在るかのように錯覚させられる。しかし、掛ける声に反して少年の肌は透き通るような白く、まるで病人のようだ。そのため見る人によっては幽鬼の類では無いかと、レイは胸中で取り留めの無いことを思案していた。

865とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:12:56 ID:2Jr5Nkuw0

 「何か言えよ!!」

 何も言葉を発さないレイに痺れを切らし、黒髪の少年は声を荒げた。

 「…偶然見つけただけだ。良いコーヒーを入れる店だったな。最ももう利用することは無いだろうがな」

 語尾に「誰かさんのおかげでな」と付け加え、サーチャーの光源の先に居る少年をレイは睨み付けた。レイの眼光に臆さず黒髪の少年も眼を細める。

 「偶然入った割には随分と警戒しているんだな?普通に人が出入りする店でわざわざサーチャーを作り出すなんて」

 嘲笑気味に少年が顔を歪める。恐らくはこちらを挑発しているのであろう、とレイは考えた。しかし、そのような安い挑発に乗るわけが無いといった風にレイは答える。

 「常に気を張っているのは当然だろう?ロストロギアを捜索しているのだからな。しかし、気を張り詰めすぎても逆にこちらが滅入るだけなのでな。だから休憩をしたんだ、サーチャーを手繰りながらな。貴様を発見したのは偶然に過ぎない」

 予想外の返答に少年は気の抜けた声とともにキョトンとした表情をする。意図しない返答が返ってきたのは仕方ないにしてもいくらなんでも気が抜けすぎているとレイは眼を細めた。

 「やはりな…。お前たちはジュエルシードから手を引いた方が良い」

 黒髪の少年に対して興味を無くし、レイはサーチャーの操作を再開した。

 「…何?」

 心外だと言わんばかりに少年が聞き返すが、レイは意にも介さない。しかし、ただ見られたままというのも鬱陶しいことこの上無いため、サーチャー操作と並行して少年に対してレイは言葉を掛けた。

 「魔導技術に触れたばかりで実力不足は仕方ないにしても、貴様達はロストロギアに対して危機感が無さすぎる。世界一つを崩壊させてもおかしくない代物に対して対処はあまりにもずさんだ」

 「…っ!!!」

 レイはここ3週間のジュエルシードの探索、そして今までのロストロギアの探索を比較して、今回のロストロギアの探索が一筋縄ではいかないことはハッキリと分かっている。しかも、ジュエルシードが生物を変異させる特徴があるという懸念をフェイトやアルフに対して警戒させている。たった一度ジュエルシードと相対しただけであり、まだまだ情報としては不充分であるが、レイはジュエルシードの対処法はそれなりに確立させつつある。

 しかし、それに対して目の前の少年やフェイトと対峙した少女はどうであろうか?とレイは考えていた。

 管理外世界「地球」に3週間前に辿り着いた当初、レイはジュエルシードを探索している魔導師の派閥が少数規模であれ、いるのでは無いかと懸念していた。その理由としては魔法戦闘の数にある。管理外世界の中で魔法技術の欠片も見られない世界で魔法戦闘が行われているのはジュエルシードを狙った次元世界渡航者同士の小競り合いがあったと思ったからだ。時空管理局の魔導師は組織の広大さ故に対処は遅れるだろうと結論付けていたため、初めから選択肢からは除外していた。

 しかし、実際にジュエルシードの異相体と戦闘が発生した事例を目の当たりにして、二度ほど発生した魔法戦闘はこのような異相体と魔導師との間に発生した戦闘なのでは?とレイは推論したのだ。そして事実、その推論は的を得ていたのだ。たった一つの誤算があるとするならば、その魔導師が管理外世界の住人であり、あろうことか管理世界の技術の塊である魔導端末を所持していたのだ。しかもその内一人は自分と同型の魔導端末を所持している。

866とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:13:35 ID:2Jr5Nkuw0

 フェイトとともに難なく魔導師を撃退し、ジュエルシードを手に入れたまでは良かった。ただ対峙した魔導師が管理外世界の住人ということがレイにとっては最大の懸念であったのだ。魔導技術のリターンやリスクに対しての認識、ロストロギアに対しての警戒意識が軽薄である可能性を否定出来ない。そして、もしこのままあの二人とロストロギアを奪い合うために戦い続ければ、最悪の事態を想定すると次元世界を崩壊させてしまうのではないだろうか、と恐怖してしまうのだ。

 この懸念から、管理外世界の住人が自分達のロストロギアの対処している際に下手に引っ掻き回されては堪らない、とレイは結論付けている。実際に目の前で対面している少年と会話しているといらぬ対抗心を増幅させて、事態を悪い方向に引っ掻き回されるのでは無いか、とレイは考えずにはいられないのだ。

 そのため、多少強引でもジュエルシードから手を引かせたい。この考えからレイは敢えて強めに少年に言い放ったのだ。

 だが、その強めの発言は少年の対抗心に油を注ぐだけなのであった。

 「一回勝ったからって、随分と余裕じゃないか!!だがな、こっちだってそれなりに訓練しているんだ!!そう何度もやられるかよ!!」

 …どうやら今の発言は余計な手間を招いてしまったらしい、とレイは落胆した。そして同時に目の前の少年はジュエルシードを回収する目的が、自分たちに対抗するという目的にすり替わっているのでは?とさえ勘繰ってしまいそうになり、ふと思考するのに疲れた頭部を押さえレイは少年に聞こえないように溜息を吐いた。

 「半月程度の訓練、しかも師事する者もいない訓練で俺たちに通用すると思っているのか?」

 ありのままに思った本音をレイは漏らしたが、その問いに対して少年の返答は異なるものが返ってきた。

 「はっ!こっちにだって魔法の使い方を教えてくれる人が居るんだ!!そうそう遅れは取るかよ」

 少年は吐いて捨てるように言葉を紡いだ。少年の発言にレイは眉根を顰めざるを得なかった。

 「…何?ということは管理世界の人間が、魔導技術に精通している者が協力しているということか?」

 「ああ、そうだ!ジュエルシードはそいつが発掘したもので、事故で散らばったジュエルシードを回収しにこの世界に来た!自分じゃ手が足りないから俺たちが協力しているんだ!!」

 少年の激昂によってに齎された情報にレイは驚かざるを得なかった。ロストロギア―ジュエルシード発掘の張本人が探索のバックアップに付いていると言うのだ。その上管理世界の人間が非常事態とは言え管理外世界の人間に魔導技術の手解きを加えているのだ。驚くなという方が難しい。しかし、その発掘者の行為を咎めることなどレイ達には出来ない。この管理外世界の来訪に時空管理局の許可など貰っていない上、管理外世界で魔法を使用しているからだ。

867とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:14:09 ID:2Jr5Nkuw0

 「…そうか、だがどちらにせよ付け焼刃なことに変わりは無いはずだ。結果は変わりはしないさ」

 今し方判明した事実は驚くべきものであったが、それでもレイは平静を崩す事は無かった。それもその筈、眼前の少年との魔導に対する技能面・戦闘面においてはレイに一日の長がある。それに自分達の尊敬する師が教え込み、体得するに至ったこの魔導にレイは確固たる自信があるからだ。

 「…やってやるさ」

 圧倒的な実力不足という事実をレイに突き付けられても、少年は敵意剥き出しの瞳を止めることは無かった。その瞳には恐怖の色は無く、ギラギラと対峙の時を待ち構えている。

 「…分からない奴だな」

 これ以上は何を言っても無駄であるとレイは判断した。最早実力の差を再度見せ付けるしかこの少年を退ける手立ては無い。

 


  ならば…




  ――――レイと少年は自身の首元に飾っている各々の魔導端末をその手に収めた。




  「「―――Gunnery United Non known energy―Device charged energy Advanced Maneuver System.―――」」 




  ――――レイと黒髪の少年の声が重なる。同型の魔導端末であるこの二人であるからこそ起こりうる事象だ。




  「――Arms Limited Open.――」「――Arms full open.――」  




  ―――― しかし、武装の装備状態の設定からしてもレイは余力を残しているが、少年の方は一杯一杯といった様子だ。それは恐らく少年の魔力総量などが関係しているのだろう。この点からもレイの優位は揺るがない。




  「「――《ZGMF―X…》――」」




  ――――そして二人は最後の起動パスワードの詠唱を終える。 



  
   「――《…42S DESTINY 起動!!》――」「――《…666S LEGEND  起動!!》――」  



 
  ――――レイと少年の二度目の邂逅、そして二度目の闘いが始まった…。

868とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:14:55 ID:2Jr5Nkuw0


◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 「先手必勝だ!!デスティニー!!」

 『――了解です。マスター !!――』

 シンは自身のパートナーである魔導端末―デスティニーに指示を出す。その指示にデスティニーは合成音声の返答と共に防護服の右手甲の中央部【ソリドゥス・フルゴール】シールド発生装置のクリスタル部分をせり上がらせる。

 『――【RQM60F フラッシュ・エッジ ビームサーベル】展開します――』

 続けてデスティニーが発した音声と同時にせり上がったクリスタル部分から勢い良く、桜色の光が発生した。しかし、防御魔法として展開する【ソリドゥス・フルゴール】のような光の盾とは異なり、光の先端が鋭くなっておりその様相は【光の刃】と形容すべきだろう。この変化の要因は、デスティニーが調整を行なった防護服の機能の一部なのだ。両手手甲の【ソリドゥス・フルゴール】はシンの意思やデスティニーの状況判断によってその形態を変える。防御魔法を展開する【盾】と攻撃手段として光刃を発生する【矛】の役割を合わせ持っている。

 光刃を発生させたシンは前傾姿勢で駆け出し、目の前の金髪の少年に対し先制攻撃を仕掛けようとする。シンの急速接近に、金髪の少年は微動だにせず悠然と立ち構えていた。後2・3歩程で二人の距離が無くなり、手を伸ばせば身体に触れるほどに接近する。



 だが、その時点で先制攻撃を仕掛けたシンの動きに変化が表われた。



 左足を地面に付けた瞬間――右腕を力の限り振り上げ、その勢いを殺さぬようにそのまま重力に乗せて右肩から斜めに掛けて、桜色の光刃が金髪の少年に到達するように袈裟切りを繰り出す。



 金髪の少年に動きが表われたのはシンの袈裟切りの動作を見た直後だった。



 その動作には一切の動揺は見られず、欠片の淀みもなく右足を後方に追いやる。その動作に追随するように身体全体を右斜め後方に傾け、シンが繰り出した袈裟切りを回避する。金髪の少年の回避によってシンの身体がつんのめるかに見えたが回避された袈裟切りの勢いをそのまま利用し、即座に左手甲を握りこみ、シンの背後を取るカタチとなった金髪の少年に対してシンは裏拳を打ち込む。

 シンの咄嗟の切り返しも予測しているのか、金髪の少年は更に後方に飛び引いてシンの裏拳を回避。

 再び正対に向かい合うカタチとなった両者だが、すぐさまシンは接近を開始した。大きな動作が必要な攻撃では通用しないと判断したため光刃を作り出した右腕を前面に掲げ、左から右に掛けて水平方向に光刃で凪いだ。この攻撃に対しても金髪の少年は後方に下がる動作で簡単に避ける。しかし、それはシンも予想している。水平方向に簡単に凪ぐカタチで繰り出した光刃を再度反対方向へ繰り出し、細かな動作と手数で金髪の少年へと攻め込む。

 細かな動作による攻撃方法で相手を疲弊させようとシンは試みているのだ。

 シンの目論見として簡単に説明すると攻撃を当てる為に目の前の少年と我慢比べをする腹積もりなのだ。何故なら、シンは同年代の少年少女達と比べて、スタミナ関して滅法自信がある。目の前の少年は魔法戦闘技術に関しては手練れだろうが、それを考慮してもシンは自身の地力としてのスタミナやタフさ加減でそうそう遅れを取るつもりは無いのだ。しかし、見方を変えると、現在海鳴市に存在する魔導師の中で最も魔力量の低いシンが他の魔導師に対抗できる手段は自身のスタミナの高さを利用した近接戦闘―クロスレンジ―の強引なゴリ押ししか無いとも言える。

869とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:15:41 ID:2Jr5Nkuw0


 光刃を細かな動作で切り付けようとするシンと後方に回避することで避ける金髪の少年の一連の行動は数十回ほど繰り返された。




 だが、ふとした瞬間一連の行動に変化が訪れる、後方に下がり続けることでシンの攻撃を避けてきた少年が壁にぶつかったのだ。これではシンが繰り出す光刃を避けることは出来ない。




 「貰った!!」

 損傷を与える絶好の機会をシンは逃さなかった。右手に携える光刃を振り上げ縦一直線に振り落とそうとしている。

 「…ふん」

 今目の前で振り落とそうとされている光刃を見ること無く、金髪の少年は鼻を鳴らした。



 「調子に乗るな、黒髪…」



 光刃が少年の頭頂部に降りかかるその瞬間…



 一陣の疾風が駆け抜けたような感覚をシンは感じた。



 「……な…何!?」

 風が吹きすさんだ様な感覚をシンが感じた後、目の前に居た金髪の少年は何処かへ消えた。シンは光刃が少年を捉えた確信があったはずだった。それにも関わらず結果はこの通り、光刃は金髪の少年に損耗を与えることなく空振りとなってしまったのだ。思わぬ事態にうろたえたシンは左右を見回すが、少年の姿は見当たらない。

 するとその時…

 「…少しスピードを上げただけで付いて来れないとはな…そんな半端な実力で挑まれるのは心外だな」

 後方から声が掛かり振り返ったシンだったが、その光景は信じられるものではなかった。目の前で突如として消えた金髪の少年は在ろうことか、今現在シンがいる壁から見て反対方向の壁に寄り掛かっていたのだ。距離としては目算で20メートルほどであろうがシンには金髪の少年の動きが全く見えていなかった。

 「あいつのスピードには及ばないが、俺も移動魔法はそこそこには使える…。まぁ…及ばないとは言っても、お前程度の魔導師【まがい】の攻撃など捌くことも避けることも何の苦労も無いがな」

 まるでシンの狙いは初めからお見通しだったと言わんばかりに金髪の少年はシンを挑発した。【偽者の魔導師】呼ばわりされたシンはそれこそ最も痛い核心を指摘され、言い返す言葉など存在しなかった。だが、それでもシンは闘い続けることを諦めはしない。いや、諦めるわけにはいかないのだ。ここで闘いを辞めてしまったら、自分の中の【ナニカ】が終わってしまうような予感がしてならないからだ。

 「…くそ、あんな早く動けるなんて…」

 シンは金髪の少年と自分の魔法戦闘技術の地力の違いを改めて見せ付けられ、悪態を付いた。しかし、それは当然のものとして思考を切り替える。この実力の差はあって然るべきものだ、それはデスティニーやレイジングハートからも散々言い聞かされたことなのだから。

 「だが…それなら【動きだけ】は追い付いてやる!!」

 言い切ると同時にシンは両手を前面に差し出す。その両手に桜色の魔力光を迸らせ、それを元に自分の全身に行き渡る様にリンカーコア器官から魔力を放出していく。魔力光を全身に行き渡らせたシンは魔法術式発動のためにトリガーを言葉に乗せる。


 「――我は求める、迅速なる体躯。幼き我が身に疾駆する力を……【ブースト・アップ・アクセラレイション;Boost Up Acceleration】!!――」

870とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:16:47 ID:2Jr5Nkuw0

 シンのトリガーワードによって全身に行き渡った桜色の魔力光が一際激しく発光し、包み込む。半月前では発動に失敗し苦労していた【ブースト魔法】であったが、現在では発動可能までにシンは魔法技術を向上させていたのだ。これもマルチタスクスキルの向上が敵わない状態でもひたすらデスティニーと一連托生し、学校生活や私生活を犠牲にし続けて来た成果である。

 「…ほう【ブースト魔法】での機動力特化の強化か…」

 シンの魔法による強化に金髪の少年は少しばかりの興味を示す。しかし…

 「…発動前に詠唱を潰してやっても良かったが、まぁ良いだろう。強化でもしなければ、話にならない上に一方的な【弱いものいじめ】になってしまうだろうからな」

 金髪の少年はあくまでも自分が優位であることを確信している為、余裕の姿勢を崩さない。ならばここからは自分とデスティニー、1人と1機の魔導端末でその余裕を瓦解させてみせるとシンはデスティニーと決意を固めた。

 
 「言ってろ、この金髪!!ぶっ飛ばしてやる!!」

 
 シンは強化魔法による加速で先程とは比較し得ないほどの疾駆を実現させる、一方、金髪の少年もそれに応じる為か加速魔法でシンに急速接近に肉迫してきた。シンは両手甲に光刃を煌めかせ、両腕を交差しながら接近。金髪の少年に激突するのと同時に両腕で上から下に掛けて袈裟切りを繰り出す。相対する金髪の少年は右手甲にデスティニーの【ソリドゥス・フルゴール】と同種のシールド魔法を発生させて、シンの突撃を防いだ。

 シンと金髪の少年―この両者の激突と魔力光の衝突の余波によって、廃棄ビルの内部はつい数刻前とは打って変わった【闘い】の空気を生み出し始めた。

「おおおおおおっ!!!」

 気合を込めた咆哮を上げ、シンは飛行魔法【ヴォワチュール・フライヤー】を起動し、バック飛行で金髪の少年から急速離脱する。廃棄ビルとはいえ建物の内部のため高度を取る戦法は取れない。ならば、その狭さを逆に最大限に活用するほか無い。デスティニーの助言により、シンは壁に足を付けると同時に思い切り壁を蹴り付け、更に飛行魔法を活用する。強化魔法や重力を利用した加速に加えた上に飛行魔法の加速スピードを上乗せした速度を弾き出し、金髪の少年に肉薄する。

 シンの我武者羅な加速に不意を突かれた金髪の少年はギリギリの挙動でシンの斬撃を回避する。もう少し近い距離で斬り付けられていたら金髪の少年の防護服に僅かばかりの損傷を与えられたであろうが、そうそう痛手を与えられるほど気楽な相手では無い。それでもシンは通用するまで何度でも特攻を敢行するつもりだ。

 (あいつにダメージを与えるには、速度に乗せた一撃しかない!!何としてでもその一撃をくれてやる!!)

 流石にこのような体に負担の掛かる行動を繰り返していると、いくらスタミナに自信があるシンでも、自身の体力の消耗が激しくなってしまう。しかしそれでも、シンからすれば唯一の突破口である攻撃手段を辞めることは出来ない。だからこそシンは限られた戦闘空間を縦横無尽に駆け巡り、金髪の少年との接触間際に光刃で斬り付けていく。

871とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:18:19 ID:2Jr5Nkuw0


 シンが金髪の少年目掛け、迅速に斬り付ける。




 飛行魔法の加速を生かした一撃離脱。そして離脱するために加速した勢いを壁に激突して殺されてしまう前に身体全体を急速に反転。




 防護服の防御力を強引に利用し、脚で壁を蹴りまた急加速。金髪の少年の元へ奇襲を仕掛ける。




 光刃が煌く、今の一撃は手応えが在った。デスティニーの分析によると金髪の少年の防護服の対魔力値を減少させたようだ




 シンはこの一巡の動作を繰り返す。何度も何度も何度も…。




 既にどれ位の時間が経ったのかシンには見当も付かない。何度も何度も急加速を繰り返し、何十回も往復し続けて時間の感覚がマヒしているのだ。しかし、この攻撃は確実に成果が上がっている。金髪の少年が装着している防護服の武装部分にダメージを与えることは出来ないが、生身の肉体を覆っている防護服部分にはダメージが通っており、傍目から見ると衣服に裂け目が出来ているように見える。だが、実際には衣服が破けているのではない。

 防護服そのものが元々防御魔法の一種であり、魔力で構成された強化服である。そのため魔力ダメージが防護服に浸透し、一定数以下の魔力耐久値が減少すると防護服の対魔力そのものが減少してしまう。故に衣服が破けている様に見える現象が発生するのだ。

 (行ける!!このまま一気に防御の上から斬り付けて決着をつけてやる!!)




 数十回もの斬撃を繰り返す内に、光明が見えてきたのか。シンの表情は明るみが差したが、それは思わぬ失敗を呼び寄せてしまった。




 反転して壁を蹴りつけ加速しようとしたその瞬間、シンはタイミングを誤り脚を踏み外し、そのまま床に落下してしまったのだ。




 この状況に陥ったのは、シン自身の判断ミスでもあるが、そもそもこの行動自体がシンの身体に相当な負担を強いることを読み取れなかったデスティニーのミスでもあった。




 「……っ!!、が…!!」

 セイフティ機能が働いているとは言え、このようなミスを犯してしまったのは致命的なミスだった。シンはすぐさま立ち上がろうとするも顔を上げた瞬間、勝負は着いてしまった。

 「…無理が祟ったな。付け焼刃という言葉は偽りではなく真だったという事だ」




 ――――金髪の少年が突き付けた銃口がシンの眉間に当てられていたのだ。




 「…くっ!」

 突き付けられた銃口にシンは眼を見開く。それに対して眼前の少年は冷たい表情の顔に張り巡らせシンを見つめている。

 「そもそも…こんな稚拙な戦法が通用すると思っている時点で話にならない」

872とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:20:09 ID:2Jr5Nkuw0


 ――――しかし、事態を一変させる事象は今まさに訪れた。






 ――――――――――――――――――――ドクン…―――――――――――――――――――――――――





 「――――――っ!!この反応!?」

 金髪の少年が面を食らったように声を荒げ、シンから目を離す。しかし、一方のシンも動き出せないでいた。よりによって今この瞬間に一番起きて欲しくない変化が起きてしまったのだ。この感覚をシン自体が経験するのは三度目である。つまり、ジュエルシードが発動した魔力反応を感じ取ったのだ。

 「フェイト!フェイト!応答しろ!!」

 銃口を突き付けながらも金髪の少年が大声を出す。恐らく一緒に行動していた黒衣の少女に念話で状況確認を行なっているのだろう、しかもマルチタスクスキルによってこちらを警戒しながら。しかし、焦っているのだろうか、その表情には先程までシンに向けていた余裕の表情とは打って変わって、感情が顕になっている。しかし、この少年が焦っているとなると自分自身も悠長にこの金髪の少年を見つめている場合では無いはずとシンは思考している。




 自分もなのはに念話で確認をとるべきだ。




 だが、どうにも行動に移せずにいる。それは何故だろうか?




 デスティニーから念話が送られてくるが、耳に入らないのは何故か?




 何故こうも金髪の少年の顔をぼんやりと懐かしむように見つめているのだろうか?

 


 「魔力流だと!?馬鹿な真似を!!何故俺を待たなかった!?何故指示を仰がなかった!!?」

 


 ――――金髪の少年の表情――声――仕草――その全てがシンにとっては何故か………懐かしかった…………。

873とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:20:39 ID:2Jr5Nkuw0


※   ※   ※   ※   ※   ※   ※ 





 ある光景が目の前に広がっている。


 
 その光景は床も壁も天井もどこもかしこも機械的な質感で溢れており何処かSFチックな映画を見ているかのような光景だった。この光景を見た人がこの光景に対してどのようなイメージが浮かび上がるか?等と質疑されれば、万人がその光景を「冷たい」だの「堅い」などというイメージを持つだろう。しかし、シンはこの光景に対するイメージはその万人とは異なっていた。



 その光景を見て何故か「懐かしい」とシンは思えてしまうのだ。



 懐かしく感じる光景にシンが呆けていると、どこからともなく人影が現れた。シンは身を隠そうかと思ったが、そもそも隠れる場所が存在しないし、何より身体の身動きが取れないのだ。仕方が無いので、万が一声を掛けられてしまったら道に迷ったと言うしかないだろう。ひょっとしたら声が掛からないかも知れないが、今現在ではどちらとも言えない。なるようになるだけだろうとシンは開き直った。



 人影からそれを形作る身体全体がシンには見えて来た。だが、顔がぼんやりとおぼろげに見えだけなので首を傾げるシンであった。分かった事と言えば、この人影の正体は三人組であり、内訳としては男性が二人で女性が一人、年の位は背丈の程から見ると兄の恭也や姉の美由紀とは少しばかり年下だというのが判明したくらいだ。



 『――何故指示に従わなかった?結果、お前だけが二発も被弾している――』  



 シンが対峙している金髪の少年と同じ髪色の青年が黒髪の青年に話し掛けているのがシンには見て取れる。しかし、声色から察するに何やら穏やかな話題とは程遠そうな雰囲気を発している様子が見て取れる。ここは静観していたほうが良さそうだ、とシンは結論付けた。



 『――撃たれたけど戦闘不能にはなってないし、そのぶん数は墜としただろ!!――』



 どこかで聞いたことのあるような声音で黒髪の青年は言い返していた。負けず嫌いな性格なのだろう、返す言葉には自分の正当性を主張するかのように声を張っている。しかし、「被弾」だの「戦闘不能」だの「墜とした」だの随分と物騒な言葉が飛び交っているのが、シンには気がかりだった。彼らは自分たち魔導師のように魔法戦闘もしくは訓練でも行なっているのだろうか?とシンは疑問に思ったくらいだ。



 シンがそのようなことを考えている内に会話は進んでしまっているようだ。聞き漏らした会話があるかと思ったが、どうやら男性二人が言い合っているだけのようで、女性の方は呆れながらも静観してるだけのようだ。



 『――そうかよ、悪かったな。リーダー様がお望みの成績にならなくて!――』



 黒髪の青年が相対していた金髪の少年から身体ごと、顔を逸らし肩にヘルメットらしきものを担いでいる。どうやら青年は多少強引にでも今の会話を終了させたいようだとシンには予想がついた。続く会話に耳を傾けていたシンには何故か、黒髪の青年がこの後紡ぎ出す言葉がどのようなものか分かってしまった。しかし、その予想についてすんなりと自分が理解しているのだろうと疑問が浮かび上がったが、答えは出なかった。



 「『――でも、あんな風に怒鳴られるなんて驚いた。てっきりご褒美のために動くだけの人形かと……――』」



 黒髪の青年に続けるようにシンは口ずさんでみたが、その言葉は何故か青年の言葉に重なってしまう。だが、その言葉は不思議と最後まで続くことはなかった。



 シンには今見ている光景が急速に遠ざかっていくように感じ取られた…。





※   ※   ※   ※   ※   ※   ※

874とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:21:18 ID:2Jr5Nkuw0


 「人形…だと…?」

 レイはこちらをぼんやりと見つめながらも、瞳が虚ろで何処か遠くを見つめているような黒髪の少年を睨んだ。少年の表情から読み取れるものは全く存在しない。「人形」という発言に苛立ちが募るのをレイは感じ取ったが、その苛立ちの理由がわからず、また少年の様子の変わり様を不気味に感じ閉口してしまう。

 しかし、そのような不気味に思えるはずの存在を何故か郷愁に似た何かが込み上げて来るようにレイは感じ取った。厳密に言えば、レイ自身に記憶という確かなものは存在しないし、存在を証明するものと言えばレイ自身が着用していたとされるサイズが大きすぎるジャケットくらいだ。あのジャケットを見るときでも懐かしさが込み上げるような感覚を持ったが、今自分が目の前の黒髪の少年に感じているノスタルジックはその比ではない。

 (……このような感覚、何と言い表せばいいか?いや、今はそんな事を考えている場合では無いな)

 頭に浮かび上がる、解決しようの無い疑問に答えを出そうとするレイだったが、ジュエルシードが発動している今の状況で悠長に構えている場合ではないと思い出し、頭を振った。それに黒髪の少年が抵抗してくる様子も無い、これほど有利な状況を逃す機会は無いだろう。

 「レジェンド、ドラグーン射出」

 『――Yes,my Master. doragoon shooting.――』

 レイは魔導端末に指示を出す。すると、左右腰部に備え付けてある機械がレイの着用している防護服から切り離され、浮遊する。

 「ドラグーンバインド、展開」

 切り離された【ドラグーン】と呼称された機械から金色の魔力光が射出された、しかしその魔力光はシンを攻撃せずにシンの両腕に絡み付き、シンを縛りつけにしたのだ。この魔法は【捕獲魔法:バインドタイプ】に属するもので、目標の動きを止める特性を持った魔法で空間に固定するタイプのものである。魔力による縄や鎖、輪などで対象を捕縛し動きを封じる性質を持つ。一定空間に対して仕掛け、その範囲に入った者に対して発動する設置型と直接目標に対して仕掛けるタイプの魔法がある。中には攻撃魔法の中にバインドの効果を追加する手法をとる魔導師も存在する。

 レイが行なったこのバインド魔法は防護服の一部を切り離し、ドラグーンという端末から射出した魔法にバインドの特性を持たせたものである。そのため防護服の本体から切り離された状態でもバインドの拘束時間は他の捕縛魔法と比べても長いのである。射出されたドラグーン自体を破壊すれば同時にバインドも解けてしまうが、今の黒髪の少年の状態を考慮しても20分ほどは拘束出来るとレイは予測を立てたのだ。今のうちにフェイトと合流して、対抗してくるであろう白衣の少女をどちらかが受け持てば、早期段階でこちら側がジュエルシードを封印出来ると考えている。

 「急がなければな…。結界ぐらいは発動しているだろうが万が一、人が紛れていたら不味いことになる」

 レイは廃棄ビルを後にしようとしたが、その前に黒髪の少年を振り返る。しかし、その眼は未だ虚ろであった。一体何故黒髪の少年がこうなったのかレイ自身にも分からないのだが、たった一つだけ分かった事がある。それは自分が目の前の少年の身を案じている、という事だ。

 「何故…なんだろうな…、お前を見ていると不思議と心がざわつく…」

 その後に続く言葉を呑み込み、レイはその場を後にした。



 ――――レイが廃棄ビルから脱出し、路地裏に出ると既に海鳴市の市街地には夜の帳が降りていた。



 「レジェンド、ジュエルシード反応の予測地点は分かるか?」

 『――It is a point of here to 4-km southwest. (ここから南西4キロの地点です)――』


 今の今まで沈黙を通して、戦闘中も念話のみで済ませてきた魔導端末のレジェンドが主の質疑に対して応答を返した。その返答を聞いてからのレイの行動は早かった。自分自身に認識阻害の魔法を施した後に、レイは飛行魔法を使用して現地へと急行した。

875とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:22:01 ID:2Jr5Nkuw0


◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 『――マスター!しっかりしてください、マスター!一体どうしてしまったのですか!?マスター!!――』

 生気の抜けた表情のシンを残すのみとなった廃棄ビルの内部で魔導端末のデスティニーは念話による発声で、懸命に主に対して呼びかけを行っていた。にも関わらずシンの瞳は未だに虚ろで光が戻ってくる気配が無い。金髪の少年がこの廃棄ビルから脱出して、3分ほどが経過しており、ジュエルシードが発動してからは10分近く時間が経過している。デスティニーは念話でレイジングハートに確認を取り、現在なのはと黒衣の少女・体調が回復して来たユーノと黒衣の少女が連れて来た他の魔導師が交戦中であることの情報を入手した。

 このままでは非常に不味いというのは単純な計算である。今ジュエルシードが発動した地点では、こちら側の魔導師2名と黒衣の少女側の魔導師が2名、そえぞれが交戦中なのだ。未だこちらが取り逃がしてしまった金髪の少年の目撃情報は齎されていないが、マスターのシンには早く意識を取り戻してもらって追跡をしてもらわなければ3週間前と同じくジュエルシードがあちら側の手中に収まってしまう。もっと最悪の状況としては金髪の少年が交戦に加わり、なのはもしくはユーノ二人のどちらか、または両名に手痛い損害が与えられてしまう、ということだろう。

 予断を許さない状況で、こちらに接近する熱源反応があるのをデスティニーは感知した。接近してくる者の足音は次第に大きくなって来る。何者なのかはデスティニーには検討がつかないのだが、予想だにしない事態であり好ましくない状況だ。バインドによって張り付けにされているシンを目撃されてしまっては魔法技術の存在が露見してしまい、今後のジュエルシード探索の足枷となってしまう。

 迫りくる侵入者に対応策など無いまま、シンの姿が予期せぬ侵入者に目撃される事となった。

 侵入者の輪郭がハッキリするとデスティニーは言葉を失った。最も魔導端末が侵入者に話しかけても仕方の無いことなのでデスティニーは沈黙以外の選択肢など存在する訳も無いのだが。



 ――――突然の侵入者はシンの義姉(あね)、高町美由希だった。



 一体何故、シンやなのはの家族であり姉でもある美由希がこの場に居るのか、デスティニーにはその理由に見当が付かなかった。しかし、目撃されたのが寄りによって家族だったというのは一大事である。今、高町美由希の目には映るものありとあらゆるものが日常から逸脱した技術、代物ばかりのためこの事が高町家の他の人に知られてしまえば、まさしく先ほどの懸念通り、今後のジュエルシード探索の最大の障害になってしまう。だが、最早手遅れである。シンの意識は戻らぬままであるし、よしんば意識を取り戻したとしても金髪の魔導師が残したバインドのため、身を隠すこともままならないのだ。

 ある意味マスターの史上最大のピンチであるのだが、デスティニーはある違和感を感じていた。

 シンの防護服姿を見ても、金髪の魔導師が残したバインドを見てもその表情に変化らしい変化が見当たらないのをデスティニーは不思議に感じていた。人間という知的生命体は自身にとって未知の出来事や物体・技術などに遭遇すれば、程度の差は在れど驚愕するはずである。実際にシンやなのはも魔法技術についてユーノから教わった時には感情いっぱいに驚いたものだったことをデスティニーは思い出していた。ただ無闇やたらに騒がれて人を呼ばれたりでもすれば厄介であるし、今美由希がこうして沈黙しているのはある意味不幸中の幸いでもある。

 しかし、美由希の表情に何の変化を表さないのはデスティニーにとっては少々不気味に感じられた。

876とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:22:36 ID:2Jr5Nkuw0

 ゆっくりと美由希の行動に変化が表れた。シンに近づき、あろうことかバインドを射出している防護服の一部に手を掛けたのだ。しかし、バインドを射出している防護服は、この地点一帯の魔力素に反応し、空中で固定されているのでビクともしない。もしかしたら美由希はバインドを解除しようとしてくれているのか?と思考したが、デスティニーにとって高町美由希が取った行動は理解出来ない行動であった。防護服自体をどうにかする事が出来ないと知ると、美由希はバインドそのものに手を掛けたのだ。

 バインドに手を掛けた美由希の表情が一瞬崩れた、苦悶の声を上げ掛けたがそれを呑み込んだ。無理をするものだとデスティニーは思考した。防護服に損傷を与えないとは言っても、バインド自体にも攻撃性要素を持つ魔力や物理的干渉に対する耐久性があるのに、それを素手で掴んだのだ。バインドが発する魔力に抗えなかったのか、美由希は手を離した。

 バインドや防護服をどうする事も出来ないとなると残る手段としてはシンの意識を戻す以外に無い。しかし、それは先ほどからデスティニーが念話で必至に行っている。それでも尚意識を取り戻さないので、絶望的である。ここ半月以上の訓練の甲斐も無くなってしまうとなると、たとえ魔導端末であってもデスティニーには悲しみの気持ちで溢れてしまいそうだ。最も感情などというものが、魔導端末にあるのかと言われればぐうの音が出てしまうが。

 バインドから手を放した美由紀は、どうやら現在地の周辺を見回しているようだ。

 何かに目を付けたのか美由希はシンの傍から離れた。美由希が向かった先には、廃棄ビルで不要になった廃材などが乱雑に置かれていた。美由希はその廃材の中から手頃な鉄パイプを吟味し、2,3度ほど素振りをした。その突飛な行動にデスティニーは訝しんだ。まさかあの鉄パイプを振り下ろして強引にシンを起こそうとする気では無いかと、デスティニーは不安に陥った。

 美由希はおもむろに眼鏡に手を掛け、取り外した。その瞬間から普段の明るく優しい、高町家の長女として【高町美由希】としての顔は成りを潜めた。眼鏡を取り外したその眼光は平時では考えられないほどの鋭さを宿していたのだ。そして、美由希は鉄パイプを両手で正眼に構えた。

 「―――御神流 徹(とおし)―――」

 ぼそっとデスティニーに届かないほどの声音で発した次の瞬間――――美由希が繰り出した一撃はバインド魔法を射出している防護服に見舞われた。魔力の通っていない物理攻撃が防護服に通用するはずが無いと思考していたデスティニーであったが、その予想は覆された。美由希が十数ほど打撃を繰り返し続けることで、防護服の端末を一基破壊できたのだ。

 美由希の攻撃によって、シンの左腕を捕縛していた防護服が砕け散った。美由希は続いてシンの右腕を縛っている防護服をこれもまた何度も打撃を見舞う事で破壊したのであった。防護服が破壊された要因がなんだったのかデスティニーは解析を試みたが、美由希の発した攻撃には何の魔力的要素も発見することが出来なかった。純粋な打撃で、本体から切り離されたとは言え、魔力に覆われた防護服を破壊できるものかとデスティニーは戦慄した。しかし、驚愕に目を眩ませようと今目の前で起きた事実は覆しようも無い純然たるものだった。

 防護服が破壊されバインドの拘束が解けたシンはゆっくりと地面に倒れ伏せようとしたが、美由希はシンを優しく抱き止めた。

 美由希はシンの癖の柔らかい髪を撫で付け、取り外した眼鏡を掛け直した。平時の温和な高町家の長女の顔に戻ったようであり、柔和に微笑むのであった。そうしていると、意識を取り戻す寸前なのかシンからくぐもった声が出てくる。その声を美由希が耳にすると、すぐさまシンをビルの壁にそっと置き、鉄パイプを左手に保持したまま突如として音も無く消えたのだ。魔力を感じられなかったので、純粋な身体能力によって掻き消えたのか、とデスティニーは驚かされるばかりであった。だが、取り乱してばかりではいられない。




 ―――――シンが意識を取り戻したのだ。

877とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:23:20 ID:2Jr5Nkuw0

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇




 廃棄ビルの一画で高町美由希は身を隠していた。鉄パイプを握る力を緩めて、それを離し呼吸を整えた。

 シンを束縛から解放して良かったのだろうか?シンに事情を聞かなくて良かったのだろうか?高町美由希は自問自答した。しかし、その自らの問いに対して、美由希は解を出せなかった。それも仕方の無いことだ。美由希が未だかつて目撃した事の無い空中に浮遊する機械、そしてその機械によって拘束される義理の弟の姿を見て、動揺しないわけが無かったのだ。美由希の少ない人生経験から見ても五本の指に入るほどの驚愕の出来事だったのだ。

 しかし、家族が妙な代物に捕らわれているのに、年上の自分がうろたえる訳にはいかないと平静を取り繕い、シンの開放に努めた。シンを開放しようとしてつい【剣術】を使ってしまったが、恐らくそうでもしなければシンを束縛から助ける事など敵わなかっただろうと、美由希は結論付けようとした。

 「…あれは…一体なんだったのかな……? でも聞きたくても今更戻れない…」

 さめざめとした心象を独り言を呟くことで美由希は気を紛らわせた。

 シンが意識を手放していると判断した上で美由希は代々家で教えられている【剣術】を使用したのだ。普段の鍛錬では一振りの木剣や竹刀を用いて鍛錬に励んでいるのだが、その【剣術】の本来の手法とは少し異なるものなのだ。兄の恭也と違い、まだその【剣術】のいろはを美由希は教わっていないため、一振りの得物で扱える範疇の【剣術】と少々特殊な【歩法】を教えて貰っているだけに過ぎないが、それでもその【剣術】が齎す充分過ぎるほどの殺傷性は散々父や兄から教わっている。

 因みに、美由希がシンの束縛を開放するのに使用した【剣術】は、自らが所持している得物で表面的に衝撃を与えるのではなく、物体の内部に得物の威力を「徹す」打撃法なのである。素手や刃の付いていない得物でも、打ち所が悪ければ簡単に人を殺してしまうのだ。その【剣術】を意識を失っているとは言っても、何も知らない弟の目の前で使用したのだ。自らの剣技に自身が無い訳では無いが、美由希は身体が身震いしてしまうのだった。壊れたのが妙な機械で本当によかったと、肺から空気をこれでもかというくらい吐き出しては吸い込んで、美由希は何とか落ち着こうとしている。立ち上がる気力が回復するまでは蹲って体育座りをしているしかないだろう。

 落ち込んだ精神を平常に戻す為に、美由希は思考を再度シンの容姿や空中に浮遊する機械に対しての考察に移った。

 最初にシンを拘束している機械を見てしまったため、記憶に薄かったが、衣服が全くの別物だということを美由希は思い出した。聖祥の制服のままシンは翠屋を飛び出したはずであり、この付近に来るには着替える暇など無いはずであった。それに美由希はシンのあのような私服は見たことが無いし、突拍子かつ無計画に購入したとも考えられない。それにシンの奇妙な衣服には、シンを縛っていた機械とは用途は違うであろうが、これもまた機械が備えついていたのだ。あれもまた不可解さに拍車を掛けている。

 「…コスプレ…じゃないだろうし…本当になんなんだろう?」

 いくら思考を張り巡らせても、解答が存在しないし、立ち上がる事もままならないので情報を集めようも無い。それにシンのそんな奇妙な姿を目撃したから、不可解な行動の事情を説明しろなどと言って、弟を脅迫まがいな事をして無理矢理聞き出すような事はしたくない、という考えが美由希の中にあるのだ。だからこそ色々と妙な行動に対しての事情を段階ごとに聞き出せないかと美由希は計画を建てているのだ。買い出しのついでにシンを翠屋に呼び込んだのもそういった理由からだ。もし兄の恭也が事情を聞き出すとなると、シンとなのはの二人に対して無理矢理にでも事情を聞き出しかねないので美由希がストッパーを掛けているが、それでも兄の我慢がいつまで持ち応えられるか?といった状況でもある。

 このような逼迫した状況を変えるには、シンもしくはなのはから少しでも事情を聞きだして、兄に説明をすることで多少は持ち応えさせようと考えて美由希は行動に移った。

878とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:23:54 ID:2Jr5Nkuw0

 しかし、思わぬところでその行動に障害が発生した。先刻の翠屋におけるシンと奇妙な金髪の少年との奇妙な遣り取りである。この遣り取りにこれまでの奇妙な行動に何かしらの関連性があると思った美由希はシンを捜索し、人伝を頼ってようやくこの廃棄ビルまで辿り着いたのだ。だが、結果的に言えば判明したことなど何一つ無いので美由希の苦労は徒労に終わってしまったといっても間違いでは無い。

 美由希が思考していると、廃棄ビルの内部から駆けるような足音が響いてきた。しかも、自分が隠れている一画までやって来た方角から足音が聞こえる。まさか、と思い美由希は辺りを窺った。次第に足音は金属と金属同士が触れ合うような甲高い音を発しているのが美由希には聞き取れた。



 「くそっ!出遅れた!!間に合わせないと!!」



 ――――足音の正体は紛れもなくシンであった。



 金属同士が触れ合う音が遠ざかっていき、やがてそれは聞こえなくなった。だが、今はこれで良いのかもしれないと美由希は自己完結することにした。それに何より、シンの元気な声を聞いた瞬間に美由希の中の【剣術】を身内の目の前で使ってしまった緊張感や罪悪感が吹き飛んでしまい、後には安堵感が残ったからなのだ。

 「…はぁ…とりあえず良かったってことで良いかな?二人が何をやってるのか結局分からずじまいだけど…」

 シンが意識を取り戻し、駆け抜けていく光景を見て安堵感が強かった所為か、美由希は当初の目的であったシンとなのはの不可解な行動、その事情をシンもしくはなのはから聞き出すことを記憶の片隅において置くことにした。最終的にはシンやなのはが自分達の意思で家族に事情を話して欲しいという願いを美由希は持っているのだ。だからこそ、家族を信じて待つのも良いだろう。過保護になり過ぎるのも考えものだ。それが分かっているからこそ、敢えて両親は二人に言い含める事をしないのであろう。

 「私も【心配】ばかりしないで【信頼】してみよう…恭ちゃんはうるさく言いそうだけど…」

 お小言を自分に向ける兄・高町恭也の光景を思い浮かべながら、美由希はクスリと微笑む。だいぶ身体の緊張が解れた様なので、もう暫くすれば動いても問題無いだろう。身動きが取れるようになるまでに、兄をどのように言って説得すれば良いものかと美由希は思考を切り替えることにした。

879とある支援の二次創作:2013/03/23(土) 23:33:36 ID:2Jr5Nkuw0
終了ー、映像媒体発売記念に投下してみたがストック無くなったテヘペロ。

なんと美由希さん出してしまいました、原作崩壊ごめんなさい。
反省はしている後悔はしていない。

もう…こんな無茶苦茶な原作崩壊しないように頑張るから見逃してください。
いや、やっぱやるかもしれない。

前回の投下から2か月くらいたってるのは、ごめんなさい。
どうも1話毎に20000字書こうとしても文章が上手く纏まらなくて第7話も苦戦してます。

大体なぜ20000字かと言うと、20000字くらい書けれたらWikiにのせても大丈夫かなーと勝手に線引きしております。
あ、今回も絵を描いてない。

上手くイメージが浮かばないんでこればかりはしょうがない。
では今回はここまでで、またエタルかもしれないけど職人じゃないから仕方ない。保守人さ(真顔)

それでは皆様またの機会があれば。

880凡人な魔導師:2013/03/24(日) 00:53:03 ID:kKul4zn2O
とある氏GJです。THE EDGE Desireはいいものですよね。
まさかのイレギュラーの登場ですげど、彼女が戦闘民族高町家出身ってだけで生じるこの安心感はなんなんでしょう?

自分も明日の23時頃に投下します

881魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/03/24(日) 23:01:12 ID:kKul4zn2O

「では、部隊長。キラ・ヤマト研修生並びシン・アスカ研修生はこれより、4日間の訓練合宿に行ってきます。……すいません、入隊1ヶ月で、いきなり」
「いや構わんよ。あのエース・オブ・エース主催の合宿なのだろう? ならば、誰にとっても得になると私は思うがね」

ミッドチルダ次元航空武装隊所属、対悪性魔法生物部機動八課。僕とシンが研修生として所属している部署。その小さな隊舎オフィスで、僕は慣れない管理局式敬礼をしながら部隊長に出立報告しているところだ。
正直、僕達とこの人の仲なら「じゃ、いってきます」だけで済むんだけど、何事にも形式というのが必要なんだってさ。

「観測班の予測では、これから5日間程は平穏らしい。心置無く修練に励んできたまえ。……ただ、一つ条件を付けさせてもらうが」
「条件、でありますか?」

そう、この人。新暦68年に魔法の魔の字もない世界から突然ミッドチルダに漂着し、それから長いこと世捨て人をしていたケドしかしJS事件を契機に召喚魔導師として戦術士として頭角を表し、瞬く間に部隊長に就任したという経歴を持つこの黒色長髪の男性。
彼はおもむろに両手を組んで口元を隠し、眼光鋭く声色低く威風堂々大胆不敵に、厳かなオーラを醸し出す。
その余りにも様になっている仕草に、なんかとても嫌な予感がしないでもない。この人がこんな芝居がかったポーズをした時は、決まってロクでもない事が──

「……水着女子の生写真を幾つか、見繕ってくれないだろうか?」
「──御断りします、ギルバート・デュランダルさん」
「俺らまだ死にたくないんで」

立場と年齢考えろ中年。



『第八話 何をするにしても先ずは準備体操から』



5月も下旬。
時が過ぎるのも早いもので、僕らがこの世界に来て2ヶ月、管理局に就職して1ヶ月が過ぎた。
爽やかで過ごしやすい柔らかな風と陽射しもお別れの時期、自己主張の強い梅雨と真夏が迫っていて。
そろそろこの聖王教会の庭にも立葵や紫陽花が咲く頃だろう。

「なんで、こんな事に……」
「僕に言われても仕方ないよ、こればかりは」

ついでにこの時期、学生にとっては定期試験の時期でもある。
そんでもって、ヴィヴィオちゃんやアインハルトちゃん、コロナちゃんリオちゃんらが通う学舎‐St.ヒルデ魔法学院の前期試験期間終了日が今日だった。彼女達は頭脳もかなり優秀みたいでつい先程、良い成績を持って自宅に凱旋したとフェイトからメールが来た。
だから、あの計画もしっかり堂々実行できるわけだ。とっても楽しみで、年甲斐もなく胸が躍る。

「いいなーキラさん旅行いいなー」

うん。これから僕達は、高町なのはとフェイト・T・ハラオウン引率の「異世界旅行兼訓練合宿会」に参加させてもらえる事になっている。この日の為に有給を取った大人達と、赤点追試の恐怖から無事に逃れて試験休みを貰った子ども達が織り成す、4日間の素敵なイベントだ。
集合時刻まではあと1時間と30分。既に荷物を纏め終えた僕は今、シャンテちゃんの部屋にお邪魔している。

「うぅ、陛下達だけズルいですよーぅ。あたしもー」
「でも、そうしたら危ないのはシャンテちゃんでしょ? あ、そこのnはここの数値で……、向こうで勉強なんてできる?」
「あーナルホド。じゃあこのZは、…………できる訳ないじゃないですか、旅行先で勉強なんてこのシャンテさんが」
「そんな自信満々で言う事かな」

うん、まぁ。

882魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/03/24(日) 23:02:14 ID:kKul4zn2O
この合宿にはあの覇王っ娘アインハルト・ストラトスも含めてかなりの多人数が参加するのだけど、

「……ハァー、なんでウチのはテスト来週なんですかねぇ」

聞いての通り、この橙髪の少女シャンテ・アピニオンは参加できなかったりしまして。
シャンテちゃん自身は熱烈に参加を希望していたんだけどね、これにはちょっとしたワケがある。シスターで騎士といえども、シャンテちゃんは一人の学生であるということだ。
どんな運の廻り合わせか、合宿最終日とシャンテちゃんとこのテスト期間初日が被ってるんだよね。つまり参加するには、途中で一人虚しく旅行先から帰るしかなく、その直後にテストをするという残酷な未来を選ぶしかないんだ。
本当に、なんてタイミング。なんて運命だろう。いくら魔導師が同時並行思考能力や演算能力に優れているといっても、ちゃんと勉強しなければ勉学で良い成績は取れない。
ついでシャンテちゃん本人の口からも「旅行先で勉強なんかはできない」ときたものだから、せめてとこうして今時間ギリギリまでシャンテちゃんに数学だけでもと教えてる訳なんだけど。

「ここは、シャンテちゃんの為に向こうでも僕が勉強を教えてあげるよー、ってぐらい言ってくださいよキラさん?」
「声真似禁止。……そうは言っても今僕も解るのは数学と物理だけで、その他は勉強中だしな……」

そりゃ僕だってミッドに来てこっち、この机に突っ伏して愚痴を溢してる娘とずっと行動を共にしてきたのだから離れるのは寂しいし、恩返しをしたいのもやまやまなんだよ? でも僕まだミッドチルダ語をマスターしてないし、他の知識もテスト範囲とは全く関係無いものばかりだ。
それにこういっちゃアレだけど、なのはやフェイトといった他の大人達も中学卒業で社会人になったようなものだから、あまり勉学は期待できないんだよね。
この事情から、向こうで誰かが勉強を教えるというのは非現実的だ。

「甲斐性なし」
「えぇー」

可哀想だけど単独で頑張ってもらうしかない。
だから結局、シャンテちゃん緊急参戦! なんて事にはならなかったのだった。


◇◇◇


異世界旅行兼訓練合宿会場、その名を『カルナージ』という。
ミッドチルダ首都クラナガン次元港から出発して約4時間程のとこにある無人世界の名称で、僕らが宿泊する予定の施設はその惑星のミッド標準時差7時間な座標にある。
赤道に近く、それでいて春のような温暖な気候で大自然豊かな土地みたい。地球じゃあり得ないそのシチュエーションは異世界ならではの産物だ。

「ふぅ……あと、少しかな」
「あれ? やっぱりキラくん寝てなかったの?」
「やぁなのは。……OS設定が難航しててさ。あのプロジェクトに耐えられる代物となると流石に寝てる時間が勿体無くて」

僕達は現在、そのカルナージへ向かっている臨行の次元船──あらゆる次元世界を内包する次元空間、通称「海」を航行する中型の旅客機──の中にいる。
ビジネスクラスと分類されているこの客室では、大人の脚を存分に伸ばせるぐらい広々とした間隔で座席が設置されていて、快適な海の旅を演出していた。さっき覗いてみたところエコノミークラスもなかなか窮屈を感じない造りになっていたし、きっと揚力や浮力に縛られない次元船最大の特権なんだろうな。
宇宙船と違ってデブリと衝突する危険性もないし、万々歳だ。

「これってキラくんとシンくんが1ヶ月前からずっと取り組んでる奴だよね? C.E.の為の……でも、駄目だよ、こんな時ぐらいは休んどかないと。また倒れちゃう」
「なのはが言うなら、うん。わかった……フリーダム」

883魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/03/24(日) 23:03:23 ID:kKul4zn2O
≪データ保存、システム終了……完了≫

そんなこんなで乗船から3時間が経過。
問題なく順調に進行する船の中、乗客の大半が眠りこけたり読書をしていたりするなかで一人、一心不乱にプログラミングをしていた僕を高町なのはが発見・接近してきて今に至る。

「どこまで進んだの? それって」
「なのは達のおかげでだいぶカタチになってきてね。今日中には第一段階のが完成すると思うから、後で診てほしいかな」
「りょーかい。レイジングハートと一緒にばっちりチェックしちゃうね」
≪お任せください≫

笑顔で即決了承してくれる彼女とその愛機が、ただひたすらに頼もしく感じる。この娘の漢前クオリティーも変わらないなぁ。
こんなの見せられたら倒れるわけにはいかないじゃないか。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、なのはが空席だった僕の隣に座る。栗色の長髪をツインテールからサイドポニーにチェンジして、すっかり少女から母親になった横顔にちょっと感慨深いものも感じた。

「僕がいうのもなんだけど、なのはは寝てなくていいの? てか、なんでここに?」
「なんか目が覚めちゃって。それでみんなはどうかなのかなって見て回ってたの。キラくんだけ起きてるんだもん」
「そうなんだ」

なるほど。4時間の短い旅といっても、4時間だ。寝るなりなんなりしないと退屈だし、更に起きてるのが自分だけってのは存外キツいもんだ。
じゃあ、付き合ってあげようかな。とりとめない世間話も悪くない。

「そういやさ、ヴィヴィオちゃんどうだった? 直前までアインハルトちゃんが参加すること秘密にしてたじゃない」
「あぁ、うん。凄い喜びようだったよヴィヴィオ。ここ最近じゃ珍しいぐらいはしゃいで」
「見てみたかったな。それ」

ちらりと、左斜め後ろの席に座っている少女達を視認する。そこには今まさに話題の中心となっている高町ヴィヴィオとアインハルト・ストラトスが、身を寄せ合ってすやすやと眠っていた。実に微笑ましい光景。
約1ヶ月前に行われたアラル港湾埠頭・廃棄倉庫区画での運命的な激闘以降、ヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんが深めてきた親交の顕れだ。

「随分と仲良くなったみたいだよね。会う度にアインハルトさんと今日はどうのって話をしてくれるし」
「うーん。わたしとしては、そういう友達がいてくれて嬉しいんだけど、ちょっぴり妬けるというか複雑な気分というか」
「君にとってのフェイトみたいな存在なんじゃないかな」
「あぁ、そういう。お母さんも同じ気分だったのかなぁ」

同じ学校の生徒で格闘技者同士、古代ベルカ出身同士な二人の少女は何かと波長と相性が合うらしく、自然とお互いが気になる関係になっていくのは道理だったわけで。
聞いた話を分析したところ、明るく朗らかなヴィヴィオちゃんが積極的にアタックをし、クールで奥ゆかしいアインハルトちゃんがそれをきちんと受け止めパワーを貰っているというような関係が形成されているっぽい。……まぁ小学4年生と中学1年生という組み合わせで尚且つ出逢って間もないのだから、それ相応に控えめな感じみたいだけど。
うん。というわけでヴィヴィオちゃんは、サプライズとされてたアインハルトちゃんの合宿参加に舞い上がったんだ。毎日の登下校で会えるかどうかすらが楽しみだって人と突然4日間お泊まりが出来るとなりゃ、そりゃね。

「だと思うよ? 僕も桃子さんとアリサの、そういう愚痴を聞いたし」
「えぇ? いつ?」
「えーと、桃子さんのは翆屋を手伝ってる時に偶々。アリサのは……憶えてるかな。みんなで聖祥の冬季試験に向けて勉強会したの」

884魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/03/24(日) 23:05:20 ID:kKul4zn2O
「うん、もちろん。……懐かしいね。フェイトちゃんが国文苦手だからみんなで教えようって集まったのにいつのまにか、わたしとフェイトちゃんとキラくんが揃ってクロノくんに国文を教えられてたってのは流石にビックリだったよ」

あれは4年前……なのは達からすれば14年前か。守護騎士達とのファーストコンタクトから数日後って時すらも、当時小学3年生のなのは達はテストに追われてたんだ。学生とテストは切っても離せないものだから。
会場はアリサ・バニングスの邸宅で、僕とクロノとユーノ(人間形態)が特別講師として参加して、クロノが無双を誇った。僕とユーノは得意科目以外ダメダメだったから……

「クロノは何者なんだっていう。あれは凹んだなぁ」

会話してる内に色々と思い出してきた。
なにかとお互いにべったりだったな、なのはとフェイト。なのはは無意識無自覚に、フェイトはちょっぴり意識しながら照れながら。勉強会の時も当然の如く隣同士だったし、しかもそれで勉強が疎かになるわけでもなく寧ろかなり効率性と集中力が上がっていたのだからきっと天性のコンビなんだろうなぁ。
アリサ達が嫉妬するわけだ。

「あの時コッソリね、いつも二人の世界を創ってて羨ましいって言ってた。かなり遠回しに」
「あはは……よく注意されてたっけ。てか、今もされてる気がする」

こう比べてみると色々と似てる気がするな。いつも一緒に行動していた人が、ある日いきなり現れた人とかなり親密になって……そう、まるで運命の出逢いの前座にされたような。実際はそんな事はないケド、ちょっとした淋しさを覚えたんだろうね。桃子さんもアリサもなのはも、もしかしたらフェイトも。
まぁもっとも、その愚痴を言ってたアリサもすずかとべったりなんだから他人の事言えないと思うけど。みんな自分のそういうところには案外気づかないものなのかも。良くも悪くも、誰もが羨むコンビってのは。
人間関係って難しいから、断言なんてできないけど。

「そんなだから週刊誌にあんな事書かれるんだよ?」
「あ、それは言わない約束でしょ〜!」

けど一つ。確実と言える事は、あの少女二人がコンビと称される日もそう遠くないって事だ。


◇◇◇


23歳同士の、19歳と9歳と時じゃまったく想像もしなかった、対等でオトナっぽい内容の会話から1時間。僕らは安全無事にカルナージに到着した。
小さく、ほぼ無人な施設のロビーでの色々な手続きを完了させてぞろぞろと地下駐車場へ移動し、目的地まで行く為の小型車2台をレンタルした。フェイト曰く、ここには11人載れる車は配備されていないからだってさ。無人世界だから仕方ない。
というわけで、急遽開催されたグループ分けの為のジャンケン大会。約5分かけて決定したその結果を、合宿参加者の紹介も兼ねてここで表記する。

Aグループ
 高町なのは
 キラ・ヤマト
 スバル・ナカジマ
 アインハルト・ストラトス
 コロナ・ティミル

Bグループ
 フェイト・T・ハラオウン
 シン・アスカ
 ノーヴェ・ナカジマ
 ティアナ・ランスター
 高町ヴィヴィオ
 リオ・ウェズリー

天の意思かどうかはわからない……てか何か作為的なものを感じるケド、なかなか珍しい組合わせに相成ったね。コンビが見事にバラバラだ。
いつもヴィヴィオちゃんかノーヴェさんと行動していたアインハルトちゃんは少し戸惑い気味だったな。ここはなんとか僕がフォローしないと。

「はーい、みんなシートベルトつけてね。出発するよー」

885魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/03/24(日) 23:06:21 ID:kKul4zn2O
「スバルさんが運転するんだ?」
「えぇ、まぁ。……あっ、あたしの事はスバルって呼び捨てでいいですよ」
「ん、了解。帰りは僕が運転するよ」

とりあえず、Aグループ出発だ。
指定された白い軽自動車の助手席になのはが、後部座席に僕とアインハルトちゃん、コロナちゃんが乗り込んで、

「よろしくねスバル」
「はい、なのはさん。いきますよー」

スバルが手慣れた仕草でギアをドライブにシフト、ペダルを踏み入れた。年代物のエンジンが低く大きく唸りを上げ、車体が細かく震動し、タイヤが発生したエネルギーの大部分を地面へ伝達、力強く前進開始。
黒い軽自動車に先行する形で、暗く無機質で長い螺旋状のスロープを昇っていく。そのまま走ること数十秒、到着までどんな道のりなのかなと考えている最中、遠くに光が現れて、近づいては溢れ、

「……! ……これは」

見渡す限りの翆と蒼、咲き誇り萌える花々、遥かに映える山々、舞い躍る蝶々、清々しくも猛々しい一陣の風。そんなお伽噺のような光景が、目の前に広がった。

地下駐車場から脱した軽自動車2台が、その中を突っ切って往く。窓の外、その全てが広大で、澄んでいて、想像以上だった。全身が圧倒され、存在の全てを包んでくれるかのような感覚に細胞が震える。
唐突で突然で予想外。それは生物としての歓喜だった。いや、ホント凄い。ミッドの自然も凄いと思ったけど、これは桁違いで。これが、本物の自然というモノなのか……

「生きててよかった……」

無意識に、窓に顔を近づけながら、そう呟いていた。きっとシンも茫然と魅入っているに違いない。
だって、これは僕らが目指した理想郷、失われた未來そのものなんだから。

「……キラさんは、こういうのは初めてなんですか?」
「……っ」

かなり大袈裟な発言に興味が湧いたのか、隣のアインハルトちゃんが訊ねてきて、ちょっとした自失状態から醒める。
彼女もこの大自然に感動しているような面持ちだけど、まぁ流石に「生きててよかった」なんて思わないよね、普通。

「……えと、うん、僕は宇宙に住んでたから。こういうのは絵本の中にしかね」
「え、宇宙、ですか……!?」

あ、アインハルトちゃん驚いてる。眼を丸くしちゃって、結構レアかもしれない。てか視てみれば、なのはを除いた全員が同じ表情だった。
それもそうか。資源競争がないミッドじゃ宇宙は一般的じゃないもの。驚くのも無理はないね。

「あぁ、コロニーっていってね……」

そういえば、僕って23歳だけど、地球にいたのはたった3年だけだ。その地球も温暖現象や土地開発、戦争のせいで自然は殆んど喪われてしまって、こんな景色は本当に絵本の世界だけだった。
まさか、生きている内に本物を目にできるなんて。……ラクス達にも見せてあげたかったな……

「──では、基本はソーラーセイルによる反射なんですね。天体の重力を利用するという事は、この数値で変動するんですか?」
「うん、そうだよ。そこの数式にこの数値を当てはめて……そうするとここベクトルが変わって人工重力ができるんだ。……てかやっぱり凄いね、君たちは。ちょっと設計式を見せただけなのに」
「いえ、そんな……」
「教え方が丁寧でしたから……──あ。アレでしょうか、宿泊先のホテルというのは」

少しだけ照れた様子のコロナちゃんとアインハルトちゃんが前方を指差してプチ講義は中断。コロニーやプラントの仕組みを教えている内に、目的の施設に到着したみたいだ。

886魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/03/24(日) 23:07:42 ID:kKul4zn2O
はからずも、アインハルトちゃんのフォローに成功していたみたい。

「ホテル・アルピーノか……」

展開していた空間モニターを消して、その建物を注視する。

「あー……聞いてはいたけど、なんか色々増えてるねぇ」
「そうですね……あの建物も以前は無かったですし」

白壁三階の建物と、木の板で組まれたロッジ。なのはとスバルが言う増えたモノは僕には判断できないけど、なんか良さげな雰囲気は感じ取れた。
あそこで僕らは4日間の生活をすることになるんだね。



……
………


「みんな、いらっしゃ〜い♪」
「こんにちはー」
「お世話になりまーすっ」

紫の髪の女の子、ルーテシア・アルピーノちゃんとその母親、メガーヌ・アルピーノさんの明るい出迎えに、なのはとフェイトが率先して応える。それに少し遅れて僕らも頭を下げた。

“……ねぇシン”
“なんだよ”
“いい加減フラグ建てるの止めない?”
“俺だって好きでやってるわけじゃない……”

と、同時に念話でシンに釘を刺す。
そんなに信用ないのかよ……ってシンが呟いてるけど、ねぇ?
車から出たきたリオちゃんは頬を紅潮させてて、シンはどこか気まずそうで、他の皆はニコニコしてたんだもん。怪しむなってのが無理だよ。
とりあえずノーヴェさんに確認をとってみよう。

Q 何があったんですか?
A 寝てたシンがカーブの際に倒れてさ、リオの腿を枕にしちゃったんだよ。

ラッキースケベの異名は伊達じゃない。なんて羨ま……けしからん事を。一体、何人の女の子とフラグを建てれば気が済むんだろうか。

「あまり怒らないであげてね。シンにはいつもの事だから」
「あ、大丈夫ですよ、そんな……ちょっと恥ずかったですケド、気にしてませんからっ」

手をパタパタ振ったリオちゃんもシンを庇ってくれて、

「それにシンおに……さん、はやてさん達の為に毎日遅くまで手伝ってくれてるみたいで……仕事も頑張ってくれてるから仕方ないと思います」
「そっか。……うん、そうだね」

コロナちゃんもシンのフォローに回る。なんて良くできた娘なんだろう、この少女達は。……、……いやちょっとまて。今お兄ちゃんって言いかけてなかった?

「キラさん、シンさんっ。こっち、ちょっといいですか?」
「ん、どうしたのヴィヴィオちゃん」

そんなこんなしてたら、ヴィヴィオちゃんがトコトコといった感じでやってきた。

「えと、自己紹介です。全員揃ったので」

あぁ、それって現地合流の二人が来たって事ね。じゃあ行くしかない。

「リオは直接会うのは初めてだね」
「今までモニター越しだったもんね」
「うん、モニターで見るより可愛いねリオは」
「ほんとー? ルールーも可愛いよ」
「すまん、遅れた」
「大丈夫です、待ってません」

集ったのは僕とシンと、ヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんとリオちゃん、先の紫髪の少女に赤髪の少年、桃髪の少女と……白い、ドラゴン。
もう驚かないからね。ここは魔法の世界なんだから。なんでもアリなんだから。

「よし、まずは僕から。……初めまして、エリオ・モンディアルです」
「キャロ・ル・ルシエと、飛竜のフリードです」

この二人組はフェイトの養子で、実の子供と言っても差し支えない存在らしい。

「で、私がルーテシア・アルピーノ。ここの住民です。一人ちびっこがいるけど、私達三人14歳で同い年」
「もう、ルーちゃんっ! わたしも1.5cm伸びたんだから!」
「変わらないじゃない」

うん、なんだか愉快な三人組(+一匹)みたいだ。

887魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/03/24(日) 23:09:51 ID:kKul4zn2O
キャロちゃん、ヴィヴィオちゃん達と同じぐらいの背丈みたいだし……気にしてるみたいだね。っていうか、いつから比べて1.5cmなんだろう……

「じゃ、次は俺だ。……シン・アスカ21歳だ。よろしくな」

相方の簡潔な自己紹介に続く。

「キラ・ヤマトです。僕は23歳で……、よろしくね」

特にエリオ君。君とは是非とも友情を築きたい。
なんたってエリオ君は男の子。つまり、この合宿に参加する三人目の男性で。

“仲間が増えるよ。やったねシン”
“あぁ。……男女比がおかしいからな、此処。少しでも同類が欲しいってのが本音だ”

参加人数13人+宿主2人で、男女比1:4。うん、男少なすぎだよね。どうしてこうなった。
ところで僕達が参加していなかったら、男性はエリオ君だけだったのだろうか。……考えないであげよう。
せめてユーノがいればな。

「シンさんに、キラさんですね。フェイトさんからお話しを伺っていますっ」
「よろしくお願いします! ──……? ……??」

歳上男性二人の妖しい視線を浴びて戸惑い気味の少年。大丈夫、捕って食いやしないからさ……
さ、次は君の番だよ。

「アインハルト・ストラトスです……」

ちょっとだけ上擦った感じで、碧銀の覇王少女。アインハルトちゃんて、結構な照れ屋さんなのかも。基本クールだけど、時折こういう可愛らしさを見せてくれるあたりは年相応だ。

「うん」
「よろしくね、アインハルト」

そんな少女を朗らかに受け入れる二人の納得のウェルカム感は、流石フェイトの家族という事だけある。

「さて、お昼の前に大人のみんなはトレーニングでしょ。子供たちはどこに遊びに行く?」

さて。消化すべきイベントを全て終えると、ここでは一番年長なメガーヌさんが僕達に選択肢を提示、

「やっぱりまずは川遊びかなと。お嬢も来るだろ?」
「うん!」
「アインハルトもこっち来いな」「はい──」

ノーヴェさんが即座に選び取る。
子供達は川遊びか。となると僕ら大人組は、

「じゃ、着替えてアスレチック前に集合にしよう!」
「はいッ!」
「こっちは水着に着替えてロッジ裏に集合!」
「はーいっ!」

なのは教導官殿直々の地獄トレーニングになるわけだ。
元軍人として、男として遅れをとるわけにはいかないね。2ヵ月間の鍛練の成果、今こそ発揮する時。気合いを入れていこう!

(……なんとか完走はしたいなぁ…………)


異世界旅行兼訓練合宿会、その幕が今、上がる。




──────続く

888凡人な魔導師:2013/03/24(日) 23:16:29 ID:kKul4zn2O
以上になります。
こちらもそろそろストックがなくなりそうで心配です。一万字がやっとという己のスペックのなさ共々、戦々恐々な感じです

889名無しの魔導師:2013/03/28(木) 07:53:27 ID:.V078XnU0
投下乙

890名無しの魔導師:2013/03/31(日) 07:02:56 ID:7JGwcJyk0
投下されてたー
遅ればせながら乙です

891凡人な魔導師:2013/04/04(木) 21:55:56 ID:iRpLpUtsO
こんばんは。
明日の23時頃に投下をさせていただきます

892凡人な魔導師:2013/04/05(金) 21:01:58 ID:QFpeYZ9oO
こんばんは。23時からと言いましたが、今日はリマスターでしたね。
ですので22時に投下します

893魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/05(金) 22:01:40 ID:QFpeYZ9oO

「──くそっ!?」

しくじった。

あぁ、しくじったさ。迫り来るエリオ・モンデアル、檸檬色の噴進式突撃破砕槍『スピーア‐アングリフ』を跳躍で回避という選択をしちまったのがいけなかった。
それからというもの、宙に浮かんだ俺を標的に360度全方位から一斉に大量の誘導弾が殺到。それに追い立てられる様に慌てて飛翔魔法を展開したら、見事にスバル・ナカジマの目前まで誘導させられて、

「リボルバァー……」
「まずい、デスティニー!」
≪ソリドゥス‐フルゴール≫
「キャノンッ!!」

咄嗟に展開した魔力防壁もお構いなしな圧倒的攻撃力に、成す術なく大地へ向かって一直線に吹っ飛ばされているというのが、俺ことシン・アスカの現状だ。

「…………グガッ!!?」
[[シン!? ──くぅ!]]

激痛。
背中からもろに激突してしまった身体は派手に大地を砕き、およそ5cm程のクレーターを形成する。それでも肺から空気が抜け、肉体が硬直する程度で済んだのは不幸中の幸いと見るべきか。魔法がなけりゃ脊髄を損傷させてたかも……死んでたかもしれない。魔法って凄い。

「クロスミラージュ、カートリッジロード!」
≪ブレイズ‐モード。バレルフィールド展開≫

霞む視界の彼方に、俺に追撃の構えを見せるティアナ・ランスターと、未だ誘導弾から逃げ惑っているキラ・ヤマトがいた。
いや不味いだろコレは。
非常に不味いこの状態。あの攻撃を受けるわけにはいかないのに。ここからどうすればあの脅威から逃れられるかは解るのに。
だが意に反して身体は動かない。魔法を展開する余裕もない上に、キラの援護も期待できない。

「……こんな事で」

橙色のミッドチルダ式魔法陣を展開し、二挺の拳銃を俺に向けて突き出すティアナ。アレは、砲撃の構え。
脳が警鐘をガンガン鳴らす。やばい、やばい、やばい。防御も、回避も、迎撃も、不可能……!!

「こんな事で俺はッ……!!」
「ファントム‐ブレイザー、シュート!!」

できる事は、痛みで途切れそうになる意識を必死に繋ぎ止め、ただ目を見開き眺めるのみだった。
正真正銘絶体絶命。
まだなのかよキラ、アレは──


[[OSアップデート完了! いけるよ、シン!]]


その時。
ティアナが発動した直射型遠距離狙撃砲、極太の橙色の輝きが視界を埋め尽くさんとしたその時、
待ち望んでいた叫びが鼓膜を震わせたその時、

「う、おおぉぉぉぉぉぉぉおぁっ!!」

これ以上にないグッドタイミングで、何かが出来るようになったと、理解出来た。



『第九話 パワーアップ・イベント!』



時は冒頭より、20分程前に遡る。


「はーい、そこまで! 5分休憩していいよー!」

無人世界『カルナージ』の訓練合宿、その宿泊施設の近郊に設置されているアルピーノ謹製アスレチックコースに響く女性の声。それはある一つのトレーニングの終了を意味していた。

「ふぅ……」
「つ、疲れ、たぁ」
「やっと終わったよ〜」

直後、次々とその場に座り込み、倒れ込むトレーニング参加者達。それを尻目に俺も近場にあった手頃な岩石に腰掛けて、乱れた呼吸を整える為に深呼吸を繰り返した。
ああ、空気のなんと美味いことか。

(流石に、ハードだったな)

先のトレーニングの内容とはズバリ。魔法禁止の上で、某イタリア人配管工兄弟がトライしそうなアスレチックフィールドを二時間全力走破する、というものだった。しかも魔力弾による妨害のオマケ付き。高町なのは教導官曰く、基礎運動能力と判断能力の強化を目的とした大人気プログラムを流用・強化したものなのだという。

894魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/05(金) 22:03:47 ID:QFpeYZ9oO
くそっ、筋肉疲労と精神疲労がハンパじゃないぞコンチクショウ。
見れば、エリオやフェイトといった歴戦の猛者達も疲労困憊死屍累々といった様子で、ニコニコ笑顔でいるのはスバルぐらい。余裕綽々でなのは教導官と談笑してる。
化け物かアイツは。

「おいキラ。無事か?」
「それなりにかな……僕も一応」

大の字仰向けに倒れているこの男。俺の元宿敵であり、元上司であり、現同士であるこの男キラ・ヤマトは意外なことに、苦笑できる程度には体力が残っているようだ。
デスクワークばっかりしていても、流石に「最強最高」を謳い文句にされたり、クローン説や不死身説をまことしやかに囁かれたりされた男は伊達じゃないってか。知れば知る程その表現に疑問を覚えるのがコイツのクオリティーなんだがな。

「真っ先にアンタはリタイアすると思った」
「やめてよね。僕だってフェイト達に負けたく……ゴフゥ!」

あ、やっぱダメみたいだ。
まぁ俺でもキツかったし、仕方ないか。

「あの、シンさん。キラさんがなんか危なげな咳をしてるんですけど……大丈夫なんですか?」

涙目なキラを心配したのか、桃色髪のキャロ・ル・ルシエがこちらにやって来た。自分も疲れているだろうに。

「ああ、大丈夫だろ。コイツの回復力凄いから、すぐ復活するさ」
「そ、そうなんですか……?」

とりあえずキャロを安心させてやろうと頭を撫でてやる。絹みたいに柔らかそうだったその髪も、今は汗でびっしょり。

「なぁティアナ」
「ん、何かしら?」

その乱れた髪を梳くように撫でながら、隣で整理体操をしていたティアナにかねてより気になっていた事を訊ねる。

「次って模擬戦だよな。組み合わせってもう?」
「いや、まだね。なのはさんの事だからちゃんと決められてはいるでしょうけど……確かに気になるわね」
「珍しいですよね。こういう事で詳細を伏せたままにするなんて」

うーむ。ティアナ達も知らないのか。事前に配布されていたプログラム(旅の栞)にも載ってなかったし、じゃあ俺だけが聞き逃したって線は無さそうだな。

「まぁどちらにしろ、やるからには全力で当たらせてもらうわ」
「そうですね」
「同感」

模擬戦。そう、模擬戦だ。
俺達はこの後、このキャロやティアナといった元機動六課フォワード陣の連中と一緒に模擬戦をする予定になっている。
なんたって魔導師的訓練合宿だ。俺は人も魔法も知らない事ばかりで、それじゃあ色々と不便で面倒だろうということで、お互いの戦闘スタイルや特性を手早く把握できる手段として模擬戦という選択肢が選ばれたとかなんとか。
戦闘力を鍛える場所なんだから戦えば解るだろう、って。
んで、その内容が未だに発表されてない事に首を傾げているのが、今現在の状況というわけだ。できれば事前にチームや形式を知りたかったんだが……
まぁこればっかりはな。その時はその時、何が来ようと善良を尽くすだけだな。俺達はみな。
きっと、なんとかなるさ。



……
………


なんて、気楽に構えてた5分前の自分を殴ってやりたい。あぁ、助走をつけて全力で殴ってやりたいとも。
なーにが「なんとかなるさ」だ。こんな事になっちゃ口が裂けても言えない台詞だぞちくしょう。

「どうして、どうしてこんな事に……」
「アンタが悪いんだ……アンタが余計な事言うから……」

模擬戦である。
ただし、模擬戦と書いて「イジメ」と読むが。

895魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/05(金) 22:05:10 ID:QFpeYZ9oO
故に、俺もキラもローテンション。どうしてこうなった。

「元機動六課フォワード陣の総攻撃を、俺とアンタの二人だけで10分凌げ……とか、無茶ぶりにも程があるっての!」

いや無理だろ、常識的に考えて。よりにもよって4対2とか。
キラ、シンvsスバル、ティアナ、エリオ、キャロとかパワーバランス崩壊必至だろ。
元軍人で実戦経験豊富だとしても、魔法に関してはまだビギナークラスなんだぞ俺達は。対して奴等は魔法戦のプロフェッショナル集団。数でも質でも圧倒的に不利。
これなんて罰ゲーム?

「それだけじゃないよシン。僕なんて新しいOSを組みながらやんないといけないんだよ……」
「それこそ自業自得だろ」

そもそもの原因は、ここカルナージへ来る際に搭乗した次元船内でキラがなのはに持ち掛けた相談にある。それは、「今日完成予定のC.E.式デバイスの新OS、出来上がったら診てくれないかな」という他愛のない言葉だ。
十中八九、キラとデュランダルさんとユーノらが協同で開発している新OSの事だろう。まだまだ真の完成には程遠いが、思い返せば近日中に第一段階のが完成するとか言ってたし。そして、最終調整は実際に稼動データを取りながらやるのが一番効率が良いとも言ってた。
それをこの馬鹿が馬鹿正直に航空武装隊戦技教導官様へ伝えてしまった結果が、

「あ、じゃあ闇の書事件の時みたいなさ、戦いながらデバイスを調整したアレもう一回観てみたいな。あのスキルが実戦で使えるモノなのかテストもしてみたいし」
「え」

この結果だ。ホントはた迷惑な人だな。
まぁつまり纏めると、この追加プログラムは、

1‐キラのスキル再確認。
2‐シンの護衛能力の確認。
3‐新OSの起動実験。
4‐今後の為の、六課組とC.E.組の戦闘力の確認。

上記4つを目的として組まれたというわけだ。いや絶対ただの興味本意だろ。1から3は方便だろコレ。
ちなみにさっきフェイトに訊いたところ、あの高町なのはもなかなかのバトルマニアであるという。普段は地味で堅実なやり方を好む人物なのだが、強い人物と出会うと偶に無茶をやらかすらしい。目をつけられたんだろうなぁ。
まぁ兎に角、俺達はこの鬼畜訓練を生き延びなければならない。やるからには負けたくないし。

「……で? どんぐらいまで出来てるんだ?」

腹を括ろう。今に重要なのは現状の原因ともいえる新OSについてだ。

「……90%ってところかな。でもシナプス結合とかルーチン最適化とかもあるから、実戦中にともなるとインストールにはかなりかかる。一度やっちゃえばその後はリアルタイムで調整できるけど」

フルインストールできれば此方にも勝機がある、とはキラの弁。

「随分と自信満々だな。……俺達専用のそのシステム……概要は聞いたけど、実際はどうなんだ?」
「そこは僕達を信じて欲しいな。僕らなりに魔法を研究した成果なんだから。……スタート1分前だ。こっちも準備しよう」
「……了解。デスティニー、システム起動!」
「ストライクフリーダム、システム起動!」

こうなったらヤケクソに信じて待つしかないか。
遠く離れて待機をしていた機動六課組が臨戦体勢にシフトしたのを確認して、こっちもデバイスを起動。デスティニーの翼を模したキーホルダーを掲げ、紅の【力】を展開させた。

「しっかり僕を守ってよね」

896魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/05(金) 22:07:02 ID:QFpeYZ9oO
「努力はする」

いつものヴォルゲンリッターとの模擬戦とはまた違う、初めての大規模戦闘行動。気を引き締めて取り掛かろうじゃないか。


◇◇◇


余談だが、俺達のバリアジャケットはザフトの軍服を模して……っていうか、そのままデザインを流用したモノを使っている。つまり俺がザフトレッドで、キラがザフトホワイト。ちょっとばかしアレンジは入れてるけどな。
これにはいくつか逸話と理由があるがその中でも、この軍服に謂わば『楔』のような効果を期待したというのが一番の理由だ。
自分の所属、業、最終目標を忘れない為の、あまりにも分かりやすい楔を得たかったから。
だから、俺は今も赤を纏っている。


◇◇◇


[[さぁ、避けて防いで駆け抜けて! 大和魂でいってみよう!!]]
[[頑張ってね、みんな]]
「なのはさんとフェイトさんの手前、ミスはできない。……いくわよスバル、エリオ、キャロ!」
「「「応!!!」」」
≪クロスファイア‐シュート≫
「やってやるさ、こんちくしょー!」
≪デリュージー‐リニアバレット≫
「シン! 任せたよ!」
≪ピクウス‐バルカン≫

俺とキラの……守備側にとっての勝利条件は、とにかく生き延びればいい。OSが完成しようがしまいが、最悪直撃をもらわなければそれでいいんだ。そして俺とキラは空戦魔導師であり、アイツら4人は陸戦魔導師である。比較的やりやすいシチュエーションな筈。
だからなんとかなるだろうと踏んでいたのだが……正直甘く見てた。

ニコニコ笑顔のなのは教導官と、少し呆れ気味のフェイト執務官の掛け声によって始まった模擬戦は、戦闘開始から6分の頃にターニングポイントを迎えた。
限界は、あっさりと訪れる。

縦横無尽に飛び交う魔法の道『ウィング‐ロード』に退路を断たれ、ティアナとキャロの飽和射撃の対応に追われ、突撃してくるスバルとエリオに弾き飛ばされる。この連携攻撃により、着実に神経と体力を削りとられている。
手数も火力も戦術もなにもかもが足りなかった。

「でぇぇい!」
「チィッ!」

連結刀エクスカリバーでスバルの拳を受けとめ、衝撃を利用しながら後方にステップ。さらに迫る脚撃と、直上から放たれたキャロの桃色な思念誘導弾『シューティング‐レイ』を回避する。

「このっ……、調子に乗るなァ!!」
「やって、ケリュケイオン!」
≪チェーン‐バインド≫
「な、また!?」

が、直後。突如背後より出現した桃色の鎖で二重三重と雁字搦めに捕縛されてしまった。来ると判ってはいたのに、厄介極まりないな「魔法」ってのは!
つーか、マジでなんなんだよ。
瞬間移動したり分身したり、どこからともなくワイヤーが顕れたり、ビームが曲がって追いかけてきたり。複雑怪奇で荒唐無稽、厄介にも程がある代物……俺達唯一の取り柄であるところの基礎身体能力と戦闘経験を軽く上回るコレは明確な「脅威」そのものじゃないか。こっちは真っ直ぐ単純な攻撃しかできないのに。
故に、新OSを構築しているキラを護るように立ち回らければならないのに、ぶっちゃけ自分の身を守るのに精一杯になりつつある。
情けない!

「うぉらぁぁぁぁ!」
≪バインド強制解除。フラッシュ‐エッジ&パワー‐スラスター≫
「は、速!?」
「エリオ! そっち行った!」

もっと情けないのは、こんな時でもフルパフォーマンスの戦闘力を発揮できない自分自身だが。

897魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/05(金) 22:07:55 ID:QFpeYZ9oO
八神家のおかげで魔法には大分慣れたつもりだけど、未だ思った通りに動けないというのは想像以上に苛つく。【俺】はこんなもんじゃないのに!
ええい、こんなことでやられてたまるか。負けじと気合いを込めて、強引に急速退避。

「デスティニー、ライフルを! 全部撃ち落としてやる!」

紅の魔力を撒き散らし、二人を牽制しつつ一気に距離を離しながら尚もしつこく追従してくる誘導弾群を視認。数は6、なるだけ減らしてやる。相対速度と未来予測位置を計算に入れて……!

≪フォトン‐ライフル転送≫
「行けよ!」

地面スレスレを高速飛行しながら、右手に顕れたライフルを慎重に構え、狙って狙って、9回トリガーを引いた。

「……は?」

引いて、射出された紅の弾丸は全て明後日の彼方へ飛んでいったのだった。
変わらない状況。6つの誘導弾は健在で、複雑な軌道を描きながら追ってくる。
つまり、外した。
俺が? 狙いは完璧だった筈だ。ルナじゃあるまいし、これは……って、いや、考えてる場合じゃない!

「エリオ、させるかッ!」

ダッシュ。
アンチ・マジックコーティングが施された2本の大剣を振り回して『シューティング‐レイ』を排除しつつ、キラに肉薄しつつあったエリオへアタック。数号の打ち合いの後、無理矢理に鍔競り合いに持ち込んだ。
護衛対象をやらせてやるかよ。

「押し切ってやる!」
「ぐぅ……! ストラーダ!!」
≪ロード‐カートリッジ。スタール‐メッサー起動≫
「とりゃぁ!」
「ぬあっ!?」
≪エクスカリバー破損。修復不可≫

エリオの槍がガシャコンと薬莢を排出、檸檬色に輝くと同時に俺の大剣2本が揃ってスッパリ両断。ただの鉄屑と化した。
嘘だろ。こんな簡単に?
更にエリオは間髪入れず槍型デバイス‐ストラーダを振りかぶり、追撃の意思を見せる。

「なろ……!」
「シンしゃがんでっ!」
≪クスィフィアス&カリドゥス≫
「うわ、わっと!?」
「悪い、助かった……、まだかよ!?」
「ごめん、もう少し耐えて!」

それを妨害したのは護衛対象の威嚇射撃の嵐で、屈辱的だがなんとか当面のピンチは脱せられた。
とりあえず折れた大剣の代わりに紅き光剣『ヴァジュラ‐サーベル』を装備。ユニゾンしているコア‐ユニットさえ無事なら武器破損は大した問題じゃないが……
状況は最悪だ。

「肉体の限界か……ッ」

サーベルを保持している俺の腕が、細かく絶えず痙攣していた。
分析してみれば単純な理由だ。過激な訓練による疲労、不慣れな生身での戦闘、魔法に対する極限の警戒心。それら要因が積み重なった結果、筋肉に限界がきた。
バインドに呆気なく捕まったのも、照準がブレたのも、簡単に武器を折られたのも、必然といえば必然だったんだ。

≪接近警報≫
「しまっ!?」
「油断大敵! いくよ、マッハキャリバー!!」
≪ギア‐セカンド。やってやりましょう相棒≫

そんな事を今更考えていたのが仇になったか。いつの間にか、ゴツい歯車付き籠手を装着した右腕を構えた青髪ハチマチに肉薄されていて。

(防御……間に合うか!?)

咄嗟に両手のヴァジュラで対処しようとするが、吹き荒れるシューティングアーツの連撃に翻弄される。目では追えるのに、やはり躰がついていかない。

898魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/05(金) 22:09:10 ID:QFpeYZ9oO
次第に、迎撃のリズムを崩されていく。

「サーベルのパワーが負けてる!? えぇい!!」
「やぁられろぉぉッ!」
≪キャリバー‐ショット≫
「やられるかぁ!!」

そして遂に俺の頭部を完璧に捉えた一閃をスバルが繰り出そうとしたその瞬間、俺は咄嗟の判断で間一髪急降下。思いっきり地面に身を伏す事でなんとか逃れられた。

結果、その行動はマズかった。

「スピーアァ……アングリフ!」

着地によって発生した硬直を狙った攻撃。エリオの突撃。それに対する俺の選択、屈めた躰を思いっきり伸ばす事で発生する、上方への跳躍へと繋がっていたのだから──



……
………


そして、場面は冒頭へ追い付く。

[[OSアップデート完了! いけるよ、シン!]]
≪受信完了。システムG.U.N.D.A.Mを起動します≫

デバイス‐デスティニーが、キラから送られたデータを受信・開封したと同時に。

圧倒的違和感が全身を襲い、己の全身が消失したかの様な感覚を得た。

嫌悪感は無い。
それどころか全身の感覚が異様なまでに澄みきっていて、いっそ爽快感すら覚える。
これは、あれだ。
【SEED】を覚醒させた時のアレに似てる。
自己意識と現実空間だけが全てを構成する世界。

これが、【そう】なのか。

そんな事を徒然と考えられるぐらいには、目の前まで迫る橙色の槍は遅く感じられて。

「う、おおぉぉぉぉぉぉぉおぁっ!!」

気がついたら俺は、ファントム‐ブレイザーの範囲圏外へと逃れていた。さっきまで躰も魔法も動かなかったのに、けどこれが当然なのだと。
疑問は放置しそのまま飛翔魔法を展開、再び生成された誘導弾群へと悠々ライフルを向ける。奇しくも先程と同じ状況になるが、今度は外さないという絶対なる確信があった。
脳内に直接表示されたレティクルとターゲットマーカーに従い、17つの弾丸を照準する。それに伴いライフルを保持した右腕が自動的に動き、12回トリガーを引く。
全弾命中。誘導弾の殲滅を確認。……レーダーに感、6時方向、距離12、エリオ・モンディアル。

「──」

できる筈だ。やろうにも今までできなかった事が。ここには疲労と痛覚に悲鳴を上げる肉体は存在しない。だからただイメージをする。

キラに訊いた概要の通りなら、できると俺は理解しているのだから。
未熟な魔導師としてのシン‐アスカではなく、ZGMF‐X42S‐DMのパイロットとしてのシン‐アスカならば。

反転し目前にエリオを捉え、挙動を観察……状況確定、未来決定。横薙ぎに振るわれたストラーダの柄を踏み台に、人力のカタパルトとして使用。更に加速、キラとほぼ同時期にフォワード陣の包囲網から脱出した。

「──はァ……なんて仕様だよ、コレ。デスティニー、システム参照」

高揚から醒め、同時に今平然と行っていた行為の無茶苦茶さを改めて自覚した。
今まで理想としつつも実践できなかった動き。それが何故かOSがインストールされた瞬間から出来るようになった。まるでMSを操縦してるみたいに正確に身体を動かせるし、筋肉の痙攣も治まってる。

899魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/05(金) 22:12:30 ID:QFpeYZ9oO
一体、どんな手品だよ?

≪了解、詳細情報を表示します。……

General
Unison
Neuro-Link
Drive
Artificial-Brain
Medium
     Synthesis-SYSTEM
総体融合型神経接続によって駆動する人工脳媒体の統合システム

命名、システムG.U.N.D.A.M。
これは私達『MSを模したC.E.式デバイス』の特長である、自身の能力・設定をマイスターにリンクさせる能力の強化及び、コア‐ユニットをユニゾンさせる特性を利用したものです。
デバイスが記録している情報・機能を魔力化し人工脳として形成、マイスターの有機脳及び神経と接続・同期する事により量子領域を拡大、マイスターのイメージをそのまま身体にトレースさせる事が可能となりました。
言わば、マスターはMSに搭乗している状態に近い感覚を得たという事になります≫
「要は、身体がMSで、意識がパイロットってか。肉体の状況に関わらずに、考えてる通りの精密動作が可能……無茶苦茶だ」

なるほど。そういう理屈。
なんつーもんを造りやがったあの人達は。

≪また、登録魔法の汎用性も上昇しました≫
「……なら、こうだ!」

接近反応有り。エリオとスバルが此方に追いついたか……考えてても仕方ない。今はやるだけ。
両手に対艦刀『アロンダイト』を装備、『ヴォアチュール‐リュミエール』で慣性と負担を無視した鋭角に過ぎる飛翔でフェイントをかけながら、新たな魔法のイメージを創造。今度は俺のターンだ!
まずはエリオへのリベンジに集中したい。他の奴の妨害はいらない。だから、隔離させてもらう。

「フラッシュ‐エッジ──セーイル‐サテライト!」

その数、通常の3倍。
生成した6つの紅い回転魔力刃を、俺とエリオを中心に高速で球を描くように展開させる。それはあらゆる妨害を切り裂き遮断する、男二人のデスマッチ‐フィールドだ。
これも魔法運用における汎用性上昇の結果、システムG.U.N.D.A.Mの恩恵か。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「くぅらえぇぇぇぇぇぇ!!」

俺とエリオの雄叫びが同期。お互いがお互いの得物を高速で打ち合い続ける。今度は遅れはとらない。猛々しい槍撃を確実に迎撃していける。互角に戦える。
目で追えるのならば、肉体は動いてくれるのだから。生身の柔軟さと機械の精密さで、とんでもないスピードでアロンダイトを操っていく。急変した俺の剣捌きに焦りを感じたのか、エリオの動きが少し鈍くなった。
今しかない、

「パルマ!」
≪フィオキーナ──インパルス‐バレット≫
「えっ!? わぁ!」

勝機は。
そう確信しておもむろにストラーダの柄を掴み、衝撃特化の『パルマ‐フィオキーナ』──零距離必殺の魔法を炸裂させる。その結果、強い衝撃を受けた槍もろともエリオが空高く吹き飛んでいった。

……よし!!

タイマンで、漸く満足のいく一撃を見舞う事が出来た。その事実に少し胸が高鳴る。

そうだ、この動きこそが【俺】だ。

でもまだ、次はスバルがいる。距離は4、さっさと終わらせてやる。そして俺は──

≪勿論、欠点もあります≫
「──な?」

けど、
このヤル気に水を差すように、

≪現状、システム最大稼働時間は3分です。……タイムリミット、システムを終了します≫

「……な、──〜〜〜〜ィ!?」

デスティニーが無慈悲無情に事実を告げた。
途端に崩れて、折れて、倒れそうになる身体。トンでもない痛みが全身を貫く。……筋肉痛? マジでか。このタイミングで?

900魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/05(金) 22:14:50 ID:QFpeYZ9oO
指先を動かす事すらもどかしい。今度こそ完璧に動けない。いやいや、ここで諦めるわけにはいかない。こんな不意打ちな結末なんか認めない。
なんなんだこの肩透かしな結末は。

「ん?」

ふと、瞼に眩しい光が感じられた。なんだろう。この空色の光は……──────


そこで俺の意識はスバルのディバイン‐バスターによって刈り取られた。訓練終了、その1分前の出来事だったらしい。
とりあえず後で一発キラを殴っとこう。




──────続く

901凡人な魔導師:2013/04/05(金) 22:19:05 ID:QFpeYZ9oO
以上になります。
ところで昨日ふらりとBOOK・OFFに行ったら、手にいれ損ねた限定版VIVID3巻(ヴィヴィオのぷちねん付き)をGETできました。
いやぁ、運命は私の味方でしたね

902名無しの魔導師:2013/04/06(土) 02:05:40 ID:eL3uTRC6O
乙です!
3分間…やはりアスカ・シン

筋肉痛で転けかけたシンがスバルにパルマするんじゃないかと
ヒヤッとしたじぇ

903名無しの魔導師:2013/04/06(土) 20:17:06 ID:mwYIKVRU0
>>902
スバルの胸部にですね わかりますw

904名無しの魔導師:2013/04/06(土) 21:31:02 ID:uJYZwofI0
乙です
osのメリットデメリットくらい話しておいてやれよ、キラェ…

905名無しの魔導師:2013/04/09(火) 20:43:29 ID:ExL6WvCkO
思ったけど、このSSのMSの型式番号についてるLMとかDMとかはなんなんだろ

906凡人な魔導師:2013/04/23(火) 17:50:58 ID:EewVYPZIO
こんにちは。
明日の23時頃に投下をします。

ちなみに女の子の胸部にパルマはいつかやりたいと思ってます。二番煎じ三番煎じですが。

それと型番のLMとかDMは作中では特に意味はありません。設定的には、イタリア語の Liberta(自由)と Destino(運命)と Modifica(改変)をそれぞれ組み合わしたもので、つまり改修型って意味を表してます

907魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/24(水) 23:02:59 ID:hA2yv/WMO

──C.E.暦の世界は、【世界】というカタチを成していない──


鍵は、揃いつつある。
真実の扉を開く、とっておきの鍵。滅びか救いかは未だ誰にも判らず、これからも解らないであろう「可能性」という名の鍵。
それが揃いつつある。

故に、私はただ「面白い」と思った。時空管理局提督クロノ・ハラオウンの放った言葉、それこそが扉であるのだから。

「……例のアレ、第一段階のが完成したみたいッスね。視てました?」
「君か。ああ、勿論視ていたさ。……ふふふ、相変わらず健気な男だよ、彼は」
「そっちも相変わらずニヒルってますね……って、何やってんです?」
「なに、日誌みたいなモノだ。存外、ここは刺激的なのでな」

久しく忘れていた其の感情。
ただ眺め、記録だけをしていた私の視界が色付き、意識に音が溢れ、再び時間が動き出す。
だからこその思考。
だからこその考察。
これこそが、私。
全てが空虚である、この空間の中で、無意味と知りながらも。

「はぁナルホド、意外ッスね。でも確かに俺達にできることなんて、そんぐらいしか無いもんなー……あ、見ても?」
「構わんよ。大層なモノでもない……いわば、暇潰しの産物でしかないのだから」

鍵は、今も揃いつつある。
C.E.という【世界】を廻る、鍵は。



『第十話 揺蕩う者の独白』



≪File‐No.1 C.E.について≫

憎しみの焔はやがて、闘争の渦となる。
一つ一つの積み重ねが、連鎖反応の如く世界を覆う激流となり、それはいつしか人間の薄い理性を滅ぼし、本能を解放させるまでに至る。嫉妬と羨望、傲慢と優越感、ナチュラルとコーディネイター、無知と無謀、その果ての戦火。
他人を異物を排除せんと、己の求める未来を明日を手にせんと、ただ己の知る事だけを信じて銃を撃つ。形こそ違えどそれは人の世の常──知恵の実を口にした代価の一つ。
全ては当然の帰結。
C.E.70、2月。地球は4度目の世界大戦を経験する。人類の新天地と目されていた、宇宙までもを巻き込んで。
だからこそ私は、そんな哀れで愚かな人類/世界の滅亡を願い求め、実現させようとした。お互いに、もうあってはならない、先のない存在として。数多のモノを切り捨て、虚言で人を弄し、力で踏み潰し、時に運を天に預けて、殺して殺して殺して殺して殺して殺した。私を生み出した全てを道連れにせねばならないと。

だが、世界はそう簡単に終わるモノではなかったらしい。
世界は人類に、更なる可能性を提示した。

泥沼の殺し合いの末、紙一重で『彼』に討たれた私は『彼』の中で揺蕩う意識だけのモノとなり、それにより私はソレを観察・記録する機会に恵まれたのだ。


つまりは、コーディネイターとナチュラルの決着を。
ある意味で意外で、ある意味で想定内とも謂える結末を。


それを説明するには、まずコーディネイターとは何かという処から説明をせねばなるまい。
ファースト‐コーディネイターたるジョージ・グレン曰く、コーディネイターとは「地球と宇宙の架け橋。今と未来を繋ぐ調整者」である。

908魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/24(水) 23:06:13 ID:hA2yv/WMO
しかし彼の言葉は新たな混乱を呼び起こし、彼の存在は人々と時代を蹂躙した。何を得ようと変わらない人間を徒に刺激しただけでしかなかったのは、既にご存知の通りだろう。故に、誰もがジョージ・グレンの真意を忘れ、ナチュラルとコーディネイターは最期まで滅ぼし合う宿命なのだと。

そう、思っていたのだが。

だが彼の言葉を忘れずに、コーディネイターを研究し続けた酔狂なコーディネイターの集団が、確かにいたのだ。そしてC.E.76。遂に、とある研究結果が公表された事により、コーディネイターは本来の役割に就くこととなる。

『調整者』としての役割に。

全てを変えたのは、一人の男──いや、もうぼかす必要はないだろう。そう、キラ・ヤマト。我らが素晴らしき宿主の一派がキッカケだった。

全くもって腹立だしい事であるが。

彼の『人類として最高峰の身体』を解析し、『実際のキラ・ヤマト及び其に近しい実力を持つ人物の能力』と比較解析する事によって得られたその結果は、全人類に衝撃を与えた。


彼らは、ナチュラルもコーディネイターでもなく、真の意味での【新人類】として進化を果たしていたのだ。
C.E.76にて政府に確認・発表された【新人類】は6人。

キラ・ヤマト
シン・アスカ
アスラン・ザラ
ラクス・クライン
カガリ・ユラ・アスハ
ムウ・ラ・フラガ

見ても解る通り、彼らはナチュラルの者もいればコーディネイターの者もいる。血縁関係も性別も年齢もバラバラであり、とある因子の有無すら関係なく、人種という分類上では確とした共通点が存在していない。
つまり、既存の定義には収まらない存在なのだ。
では、【新人類】の定義とは何か?
それは、


『脳機能を完全に解放させ、真に宇宙に適応した人類』・『完全空間認識能力保持者』という事。


新人類と旧人類との、決定的な差である。
元来、人類とはその脳の半分程しか機能していないモノなのだ。地球の重力という「ゆりかご」に囚われ縛られていた証である。そして、それでは宇宙を生きていけない事は、旧世紀前から解明されていた事実だった。
だから人類は、過酷すぎる新天地‐宇宙環境に適応し、開拓する為にコーディネイターを欲したのだ。未成熟な脳を、外部から補強する為に。ジョージ・グレンの設計図の真髄はそこにある。


しかし、【新人類】──

──拡大し人の枠を超えた意識領域が、大気の流れを、粒子の動きを、存在の推移を、ありとあらゆる情報を有機脳/量子場に書き加えることで、周囲の状況全てを朧気ながらも知覚することが出来る『完全空間認識能力』。
世界の命運すら左右する「戦争」と、殺人空間「宇宙」が渦巻くプレッシャーの中ですら生きようと藻掻いた者達が掴んだ、生命のX領域に封印されていた『生きる力』の発現。あえて命名するのであれば、ニュータイプとでも称する存在──

──ならば。


肉体・頭脳の制約を受けずに、感覚のまま宇宙を闊歩する事が出来る。覚醒すれば、ナチュラルでもコーディネイターとほぼ同等の能力を得る事が出来る。

皮肉にも、この私と奴の存在がなによりの証明となり、しかもその定義に則ると、私までもが【新人類】に分類されてしまうというのは、最高の冗談だとは思わんかね……

そのような力を、将来は万人が、特殊な指導・訓練さえ受ければ、血統も、才能の有無も関係無く持てるようになるのだというのが、彼ら研究者の最終的な発表だった。

909魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/24(水) 23:07:35 ID:hA2yv/WMO
コーディネイター達は宇宙という空間で、その比較的優秀な頭脳により『人の業』を標本にし、この新事実を解明・証明してみせたのだ。
世界が沸き、人類が一段階上のステージへ上がった瞬間だ。
これにより、コーディネイターのナチュラルに対するアドバンテージと確執を失う事となる。
何故なら、これからの時代は【生まれながらにしてコーディネイターと同等の能力を持つナチュラル】が生まれる時代なのだから。
コーディネイターとナチュラルが争う理由が消失したのだから。
もっとも、そんな事で人類から争いは無くなりなどしないが、それは全人類の希望となった。


コーディネイターは遂に、ジョージ・グレンの唱えた「地球と宇宙の架け橋。今と未来を繋ぐ調整者」を体現する存在となり、当たり前の選べる明日の為に、更なる人類の覚醒を促す為に、外宇宙を目指し始めた。

これが、コーディネイターとナチュラルの決着。ある意味で意外で、ある意味で想定内とも謂える結末だった。そして、4年に渡り燻っていた私の存在理由が消えた瞬間でもあった。
それから約3年間、私の意識は眠りにつく事となる。

あの日、我らが宿主が再び、あの世界に跳ばされるまで。


◇◇◇


≪File‐No.2 異世界と、その住民について≫

初めてその光景を目にした時、私は本当に驚愕し、そして疑問を持った。

何故? 何故こんな世界がある?

第一管理世界‐『ミッドチルダ』。
【魔法】が普及し、魔導師が存在する世界。
別段私にとって、魔法はそれほど新鮮なモノではない。かつて我らが宿主が海鳴市に転移した時に目撃をした経験があり、なにより「そんなモノもあるだろう」としか感じなかったのだから。
所詮は科学の延長でしかないのだと。
人は変わらない。どんなチカラを手にしたところで、本質そのものは変わらない。環境と技術の差異程度では、揺るがない。
そう、本気で思っていた。

しかし、何故だ?

この世界は違う。この『魔導師と一般人が共存した世界』は、私にとって受け入れ難い存在だった。

他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。それが人だと、そう私は悟っていたのだが、ここでは何故か、ソレが稀薄でしかない。


先の通り、長年争い続けたコーディネイターとナチュラルがその矛を収めた理由は、誰もが平等な【能力】を手に入れられる未来を約束されたからだ。現に、C.E.78ではナチュラル・コーディネイター問わず、人類全体の1割が【新人類】に覚醒している。
現金な事ではあるが、それこそが人類が永年望んだ【夢】であるが故に。

しかし、『魔法』に関してはそうはいかない。
我らが宿主と、私の友に調べてもらった研究結果によれば、魔法を操る魔導師の源は『リンカーコア』という一種の器官であるという。この『リンカーコア』は先天的なモノで、後天的に生じることは極稀であり、遺伝で資質が受け継がれる器官なのだと。そして、生成プロセス自体にも謎が多く、リンカーコアの絶対数も少ないときた。
これが顕すのは【絶対的に不平等な能力と才覚】。世襲の如く、多数の凡俗を小数の天才が牛耳る社会。
更には、このミッドチルダの法──時空管理局による管理世界では“質量兵器禁止”と義務付けられている──の存在も含めれば。


つまりは、非魔導師は絶対に魔導師に逆らえず、抗えないのだ。


普通なら、魔導師が世界を支配・運営するような惨状になっていても、何らおかしくない。

910魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/24(水) 23:09:40 ID:hA2yv/WMO
非魔導師を奴隷とし、魔法という名のチカラを振りかざし、世界を謳歌する。魔法というのはソレが出来る──許される──程の、強大な力なのだから。あえて言い換えるのならば、非魔導師は人間、魔導師はMSに該当するだろうか。
其処にあるのは冷たい戦争。人間は、決して勝てない格上の存在を赦す事は出来ない。過激派ともなれば、魔導師を人間扱いしない者──ブルーコスモスのような狂信者──も出てくるだろう。
しかし、反撃が出来ない環境なのだ。いくら叫ぼうが力関係は覆らず、下手を打てば叫んだだけで殺されるかもしれないのだから。
非魔導師は発狂し、魔導師はかのパトリック・ザラのように格下を見下す。歪みに歪んだ人間の末路。その先に滅びが確定した冷戦。


そうなっていなければ、おかしいのに。
ミッドチルダでは、両者が笑いあって生活していた。


お互いを人間と、友と認め、助け合って。
犯罪や暴力、虐待、餓死。実験体にされる者やゴミ以下の扱いされる者も勿論存在してはいるが、その何れもが普通というべきの、生命の営みとして普遍的な出来事として処理できるレベル。
これは一体どういう事だ?
私の“同居人達”は此の光景を「理想」・「平和な日常」と評していたが、私はどうにも違和感が拭えなかった。

稀に、質量兵器を密輸し「管理局は戦力を一極集中させ、世界征服をする気だ」と叫び、管理局に敵対する集団(ある意味、普通の反応だ)の攻撃行動もあるが、其れもやはり一般人にとっては野蛮人としか認知されないようだ。
ここまでくると、平和ボケという言葉も当てはまらない。まるで闘争心をどこかに置き忘れてしまっているかのよう。

ここ数年の間に魔法による大事件が発生したにも拘わらず、日々魔獣の脅威に晒されているにも拘わらず、この日常は一体なんだというのだ?

共に強く、共に先へ、共に上へ。そんな価値観があるとでもいうのか。
これは、もっと深くこの世界を知る必要がある。この状態は何なのか、解析しなければ。
そう、しなければなるまい。


◇◇◇


≪File‐No.13 C.E.について‐2≫


私達の故郷となる、C.E.という暦を冠された地球を内包する【次元世界】そのものが現在、滅亡の危機に瀕しているという。それは言葉であり、情報であり、事実であり。
破滅だった。
あの日、キラ・ヤマトが高町なのはと弾丸回避訓練をした日に、我が宿主が最も信頼を寄せている男たる時空管理局提督クロノ・ハラオウンは言った。

「C.E.は既に、【世界】というカタチを成していない」

それは要約すると、

「C.E.が、【世界】ではない」
という文になる。
まことに興味深い言葉だ。ただ面白い。あの罪深い世界に、まだ秘密があったとは。
世界とは、至極単純に、人間を主観にして言ってしまえば『己が生きる場所そのものと定義した空間』である。だとしたら、あの男の言葉はおかしなことだと思うだろう。現在進行形で人が生きてる場所が【世界】ではないとは。
そう、つまりだ。それは一つのモノの見方に過ぎないのだ。正解ではあるが、この局面では不適当。ここでは次元世界における用語としての【世界】を使う。


次元世界において【世界】とは、
次元空間に内包されている、幾えにも重なるように入り交じるように存在している単一宇宙を構成している【量子的なモノ】として定義されている。【世界】に単純な明確な区切りや座標はないという事だ。

911魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/24(水) 23:10:51 ID:hA2yv/WMO
不変的不確定。泡のように波のように。「揺らぎ」こそが本質であるソレに、人は可能性を見出だす。


クロノ氏が「C.E.は既に【世界】というカタチを成していない」と言った真意は其処にある。

彼は語った。

「アレは普通じゃなかった。
無限に広がっている筈の次元境界線が、解析も干渉もできない『魔力の壁』に封じ込まれ、有限で実態的になって、まるで……そう、何もない筈の海に浮かぶ、【卵】のようだった」

そんなモノは、次元世界では【世界】と定義しないのだ。
要するに。

C.E.は、【世界】というカタチを成していない。代わりに、正真正銘正体不明の魔力という閉じた『カタチ』になっていた。
そういうことだ。
特筆すべきは、こと魔法関連においては次元世界一の技術を保持する時空管理局ですら、解析及び干渉ができないという特性か。厄介なことだな。


ならば、この現象の原因は一体何なのか?


一体何故こんな事に? どうしてこうなった? コレによって齎される未来はなんだ? 知れば誰もが思うことだろう。もっともな疑問だ。
紐解く鍵は、例の魔力の観測──解析・干渉はできなくとも、観測は可能だった──して得たデータを参照したクロノ氏と、考古学者‐兼‐無限書庫司書長たるユーノ・スクライアこそが知る。

「これは、未知ではない」

どうやら太古の時代から、極稀ではあるが認知されている現象らしく、それについて記載されていた古代ベルカの文献・書物・伝承が幾つか無限書庫に存在していた。
そこから得られたデータと、今回の事象を結びつければ、答えは一つへと集約する。
結論から言ってしまえば、一つの『生物』こそが原因であるのだ。


『魔法生命体・エヴィデンス』

古代ベルカでは『ベヴァイス』とも、『次元の海を旅する者』『羽付き鯨』とも呼ばれていたソレ。
あらゆるモノを魔力に変換、己の糧とする能力を持つ、次元空間の【外】に棲む『高次元存在』『量子的存在』と目されている存在なのだという。【外】の存在の証明。だから、エヴィデンス(証明)。

コイツは死期が近づくと、己の子の苗床となるに相応しい【世界】を探し出し、その世界の内部で朽ち果てる。死骸はやがて、その世界に存在する魔力素を媒介に、世界を魔力の『殻』で覆って徐々に魔力へ変換していく。
世界が純粋な魔力に変換されたその時、新たなエヴィデンスが創られる。
その『殼』こそ──クロノが卵と評したそれ──が、今C.E.を覆い、【世界】のカタチを崩している原因。即ち、C.E.は一種の【卵】になっている、ということだ。
そして最後は霧散する運命だと。
そう、ユーノ氏は断言した。

まったくもって馬鹿馬鹿しい。懐かしいエヴィデンスの名は兎も角、いかにも三流の阿呆が考えそうなフィクション的設定とは思わんかね。真面目に議論するのも時間の無駄。一笑にて吹き飛ばせられるようなファンタジー。
しかし、そうはできないのが現実が現実たる由縁。残念ながら事実のようだ。というのも、裏付けになるモノが確かに実在しているからである。
断言、確信には、相応の理由がある。

覚えているだろうか? キラ・ヤマトが倒れた日の朝に、高町なのは嬢が指摘していたモノを。
それは【SEED】と、その魔力波長について。それは一見すると只のグラフのようなモノ。
だが、ある情報を幾つか付随させていけば、最低最悪の結果を見出だせる、そんなモノだ。

912魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/24(水) 23:13:20 ID:hA2yv/WMO
つまりは。


【SEED】を顕現させた時に発せられる魔力波長と、管理局が観測した『殼』の発する魔力波長は、同一なモノだったのだ。


魔力波長とは、シグナルだ。一人一人独特の波長を持っており、同一であるのは一卵性双子以外には文字通り有り得ない。
ならば何故同一なのか。答えはシンプル、【SEED因子】そのものが『エヴィデンスの遺伝子情報体』なのだ。

かつてC.E.には、一つの都市伝説があった。その名を「超人計画」という。
曰く、地球外生命体の証明である『エヴィデンス01』の細胞から採れた遺伝子を、人間の遺伝子と掛け合わせて「超人」を造ろうとした研究者がいた。その研究者により世界には無数の「無自覚な被験体」がいる……という子ども騙しにもならない眉唾物。
実際、有り得ない話だ。
『エヴィデンス01』周辺の警備はどこよりも厳しく、そんな得体の知れない研究をしようとする人物は近づけない。そもそも遺伝子の型がまったく違うのだから拒絶反応が出て失敗するのが当然なのだから。
だから、都市伝説。
しかし、真実。
数えて百はいるだろう成功体が今もC.E.に生きている。人類の狂気の産物は、キラ・ヤマトやシン・アスカを始めとした者達は、デュランダルが捜し求めたキメラ達は、実在している。研究者達の思惑通り、規格外のスペックを発揮して。
もっとも、「優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子」には成り得なかったがな。真逆、破滅の因子。
因みに【SEED】の能力は『エヴィデンス』の能力に準じている。ならば“私”が今こうして存在し語っている理由は、もうお分かりのことだろう?


さぁ、ここまでを纏めよう。

【SEED】は『エヴィデンス01』の遺伝子情報体。
【SEED】と『エヴィデンス』の魔力波長は同一。
ジョージ・グレンのクジラ石『エヴィデンス01』は『エヴィデンス』の死骸そのもの。
だからC.E.は【卵】であると認定された。近い将来に消滅する。
証明完了。単純な構図だ。
これが、あの罪深い世界の新たな秘密。


この説が、彼らの総てを破壊した。彼らの前提も、決意も、思考能力さえも。
全てを、停止させ、亡くしかけた。
当然といえば当然だろうか。
私には全く理解できないが、やはり今までの自分を構成してきた総てが一瞬にして、成す術なく「無かったこと」にされるというのは。古代ギリシアの演劇におけるデウス・エクス・マキナか、または旧ジャパンの歌舞伎におけるどんでん返しか……そんな運命に「無駄だった」言われるというのは。
過去と現在と未来が地続きならば、過去を喪うことは当たり前の選べる明日を失うと同義であり、それはあの戦争を生き抜いた者にとっての「死」だ。彼らには耐え難いことだろう。故に、彼らは壊れかけた。
故郷に未練はないと粋がっていたキラ・ヤマトは発狂し、6日間の眠りについた。
故郷に帰るのだと決意していたシン・アスカは、キラからこの事実を聞き、一時塞ぎ込んだ。
私には全く理解できないが、そうなった。


今もC.E.は、他の霧散した【世界】と同じく、消滅の一途を辿っている。
何も知らない愚者共を、優しく擁しながら。


◇◇◇


≪File‐No.14 C.E.の救済方法について≫


情報習得中。
情報精査中。

913魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/24(水) 23:14:48 ID:hA2yv/WMO
ただ現段階で言える事は、


あんな世界でも、やはり彼らは救いたい、一度はまた帰りたい、散っていった想いを無駄にはすまいと願ったこと。

その願いに、我が友人たるギルバート・デュランダルも同調したこと。

多くの人間が、『C.E.救済プロジェクト』に参加。その為に、平和なミッドチルダを巻き込んでしまう可能性があること。

プロジェクトの中核が、現在構築中の「システムG.U.N.D.A.M」であること。

計画成功の確率は、現段階の計算上では8%であり、計画実行時のキラ・ヤマト及びシン・アスカの生存率は0%であること。


ただ、これだけである。



……
………


「……いや、これ誰に読ませるつもりで書いたんです?」

私の言葉を連ねただけの紙束から目を離すなり、久方ぶりに姿を顕した焦茶の髪をパーマ気味にした少年は、呆れたようにそう言った。
ぴらぴらと私の紙束振る仕草で、同時に「アンタもなかなかに暇人ですね可哀想に」とも語っている。私の“同居人”の一人たるこの少年との付き合いは7年ほどになるが、言うようになったものだ。

「ふむ。誰に、とは?」
「だってですよ。この日誌というかなんてというか、もっと淡々と事実だけが書いてあると思ったのに妙に凝ってるっつか……これじゃログってより誰かに読ませる為のリリカルなエッセイですって」

これは異なことを。この虚無の空間で、他人の為にエッセイを書く阿呆が何処にいるというのだ。私だとでも言いたいのかね?
そんな事は認めんぞ。

「言ったろうに。暇潰しの産物だと……私には君やお姫様達のように、悠久の時という魔物を討ち倒せる趣味を持ち合わせているわけではないのだからな」
「定年退職した仕事人間みたいな物言いしないでくださいよ」

ズバズバと言ってくれるではないか。

「バカは死んでも治らないという。私の言葉の使い方……本質も、また同じということだろう。君がエッセイと評したソレもまた同じく、変わらない私のとりとめない独白の塊なのだ」
「よくもポンポンとそんな芝居がかった台詞を……ってか、素面でッスか。軍人やるより作家やった方が良かったんじゃないですかね」
「ifになんの価値がある? ……まぁ、いい。エッセイでも構わん」
「年季を感じる流石の開き直り。キラが苦戦したわけだ……って、そうじゃなくて」

軽口の応酬を繰り返していく内に、どうやら当初の話題を思い出したようだ。彼的に脱線していた流れを強引に修正。ここら辺の迂闊さは変わっていないようだな。
それにしても、ふむ、エッセイか。意識して書いてやっても面白いかもしれん。

「アナタから視て、あのOS、どう思います?」
「システムG.U.N.D.A.M、といったか。なかなかに乙なネーミングだな」
「ガンダムって、ストライクとかのOSもそんなでしたよね?」
「狙ったのだろう。……どうかと問われれば、まず正気を疑う出来だと思うが。無茶無謀傲慢極まりない」
「やっぱ、そうですか……」

システムG.U.N.D.A.M
躰を魔力で内部制御するそのシステムは、脳と身体に多大な負荷をかける。乱用すれば廃人にもなりかねない、メリット以上にリスクが大きいのだ。

914魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/04/24(水) 23:16:54 ID:hA2yv/WMO

そうしなければ達成出来ない目的なのだが、それこそが不幸。

「ふっ……だが、今更どんな道を選ぼうが最終的な運命は変わらん。あの男達が何かを護りたいと思う事、それがどんな道を辿ろうがもはや運命的必然なのだから」
「運命……」

だが、だからこそ面白い。見届けたいとも思う。この私を否定した男が辿る、この先の結末をな。
その為に、我が力を貸してやるのも一興というものだ。

「そう悲観することではない。賭けてみてはどうかな?」
「賭け?」
「死者の上に立つ生者達が紡ぐ、可能性という名の未来に」
「なるほど。だったら俺は、俺の親友とその親友と、アイツらが信じる新しい仲間のハッピーエンドを信じますよ、クルーゼさん」
「君らしいな、トール・ケーニヒ」


世界は廻る。
様々な事象を組み合わせ繋ぎ合わせ、あるべき未来を構築しながら。世界から拒絶された真白の空間さえ、永劫を刻む夢さえ覆って世界はただただ廻る。
そして、真実の扉を造っていく。亡者をも取り込んだ、歪の鍵と共に。




──────続く

915凡人な魔導師:2013/04/24(水) 23:22:01 ID:hA2yv/WMO
以上です。
このSSででてくるニュータイプって単語は決して富野監督のニュータイプと同じもんじゃありません。むしろ下位互換的なものです。
ご了承ください

916名無しの魔導師:2013/04/24(水) 23:34:10 ID:ZaYclhkM0
投下おっつ〜
最後までトールだということが分からんかったwww

917名無しの魔導師:2013/04/25(木) 01:36:01 ID:mkYA2D6UO
投下乙!
トールお前だったのかwww
乱用すると廃人になるとか
リスキーなシステムだ
seed使いすぎるとCE世界は
どんどん稀薄になっちゃうのかな?

918マルベリー バッグ:2013/04/25(木) 15:40:50 ID:FOLrbaQc0
匿名なのに、私には誰だか分かる・・・(^_^;)ありがとう。。。 マルベリー バッグ http://www.mulberryoutletsonlines.com/

919凡人な魔導師:2013/05/10(金) 13:43:01 ID:Fc3wz.B6O
こんにちは。
明日の23時頃に投下をさせて頂きまする。

トールくんとクルーゼさんも今後登場する予定です。思いっきりキャラ崩壊してますが

920魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/05/11(土) 23:06:47 ID:wFZMuyG2O

「今到着ですか、セインさん」
「おや、キラっち。お疲れさん……って、ホント疲れてるねぇ」
「色々とありましたから」

カルナージ訓練合宿初日、午後、おやつ休憩の時間。
水分を補給しようと一人宿泊ロッジに戻る途中、そこに見慣れた頭を乗っけた背中を発見した。少しウェーブのかかった水色ショートヘアーな聖王教会所属シスター、セイン先輩。

「しごかれまくり?」
「まくりです」
「なるなる。んーまぁなんだ、偶然だけど出迎えごくろー。予定よりちょっと遅れちゃったけどセインさん現着ってね」
「メガーヌさんの所には、これから?」

ディードさんやオットーさん、ノーヴェさん達の姉にあたるこのノリノリな人は、仕事の一環として時折ここの住民(アルピーノ家)に食料品やらなんやらの配達をやっている。
今日も本当は一緒の船に乗る予定だったのだけど、仕事の都合で別行動になってしまったんだよね。

「うん、これから。ってかなんでここに? みんな今広場の方っしょ?」
「僕も丁度あっちに用があって……あ、ソレ持ちますよ」
「お、ありがとさんっ。紳士だねぇ」

彼女と共にミッドからやってきた彩り豊かな、沢山の謎野菜が入ったバスケットを背負った僕は、同じく沢山の卵が入った籠を持つセインさんの歩調に合わせてゆっくりのんびり歩き始める。
傾きかけた太陽の下で、本当にのんびりと、のんびりと。



『第十話 ポロリもあるよ』



「あ゛〜〜〜〜……」

夜がきた。
見上げればどこまでも高く深く広がっている濃紺の天に映える、鮮やかな双月と散りばめられた星屑。彼方に臨む雄大な山脈と黒に染まりし未開の大森林。異世界の地球型無人惑星『カルナージ』の、静謐な夜。
そんなヒトが存在することすら躊躇わせるような、自然あるがままの透明な空間に今、僕らはいる。

「いいお湯だねぇ……ジュースのおかわり、いる?」
「あ、ありがとうございます。……ほんとうに気持ちいいですね」

ホテル・アルピーノが名物(自称)、天然露天温泉大浴場。
第97管理外世界日本国の書物を参考に造ったと公言された、岩石と檜で造られた原泉掛け流し火山性温泉。未だ冷たい春の夜、その大気との親和性がもたらす人類最大の極楽の地なわけで。
自然と腹から変な声が出ちゃうのも不可抗力なんだよ。

「林檎と蜜柑しかもうないけど、どっちがいい?」
「じゃあ、林檎でお願いします」

本日の訓練過程を総て終了させた僕らは、今日1日の汗と涙と泥にまみれた身体を清め癒すべく、みんなでお風呂につかっているわけ。
匠の采配にて構築されたこの温泉は、お湯も外見に負けず劣らず優秀な具合。特にこの、ちょっと温めなのに躰の芯から暖まるような滝湯の湯加減と風情といったら、素晴らしい事この上ない。これが無料でだなんて。
こんな温泉をお遊び感覚で掘り当て造ってしまうとはルーテシア・アルピーノ14歳、恐ろしい子……!

「それにしても」

今隣にシン・アスカがいない心細さを誤魔化すように、僕は右手のグラスに在る蜜柑ジュースを一気に飲み干して、一人呟く。
実は、この夢のような空間、一つの不可解な状況で構築されていたりする。いったいどうしてこんな事に……いや、判ってはいるんだ、その原因は。だけど、何故と問わずにはいられない。
それは誰にとっても不幸な事なのだから。

「偶然って、怖いなぁ……」

僕は改めて、周辺を見渡しての状況認識をした。


僕らの正面に有る岩風呂にはエリオ君がいて、その右隣にはキャロちゃんが、左隣にはルーテシアちゃんがくっついている。

921魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/05/11(土) 23:07:42 ID:wFZMuyG2O

岩風呂の東側遠方の檜風呂にはスバルとティアナ、ノーヴェさんがいて。

滝湯にいる僕の左隣にはアインハルトちゃんが、そのまた更に左隣にヴィヴィオちゃんとリオちゃん、コロナちゃん、ついでに召喚獸ガリューと飛竜フリードが優雅に暢気に寛いでいた。


うん、まさかの男女混浴。

ビックリだよね? 僕は盛大にビックリした。だって混浴だよ。初めてだよそんなの。

どうしてこうなった。

別に嫌だという訳じゃないんだよね。それこそモデル雑誌でトップを飾れそうなナイスバディや、将来有望そうな美しい流麗なラインを有する女性達と一緒に湯あみをするのは、やぶさかではないし、一人の男性として役得だとは思うんだけど……

(居たたまれない、正直)

居場所ありません。背徳感と罪悪感ハンパない。
ここでどうだ羨ましいだろうと言える程、僕の度量は広くない。今は亡きトールあたりなら胸を張って大威張りするかもしれないケドさ。
まぁ勿論みんなちゃんと湯浴衣を着て大事なトコロを隠してるし、温泉自体大きいから男女間の距離はそれなりに遠い(エリオ達を除く)。僕はチェリーじゃないんだから興奮なんてしないし、倫理的問題もないんだけど……ねぇ?
出会って間もない男女──しかも僕は仲良しグループに混ぜてもらってる立場だ──が混浴とはこれいかに。
でっかい浴槽の隅っこで体育座りしているのが現状なんです。

(せめてフレイやラクスなら……いやいや)

因みに、なのはとフェイトはとある用事をこなしている最中の為に、シンは諸事情により、今ここにはいない。
シーン……早く戻ってきてー……

「キラさん。もしよろしければ、注ぎます」
「あ、ごめんね、わざわざ」

左隣から発せられたウィスパーヴォイスが、暗澹とした気分を少し吹き飛ばした。
碧銀の長髪をツインテールに纏めたアインハルトちゃんが、空になっていたグラスに残り少なかった蜜柑ジュース全部を注いでくれる。辿々しい手つきだ。そこはかとなく可愛らしい。

(女の子にこうされるの、初めてだ)

グラスに口つけながら、思う。
そういえば何で僕の隣にいるんだろう、この娘は。クールに見えてかなりの恥ずかしがり屋さんなのに、なんで?
僕も一応男なんだけどな……今でも湯上がり姿はカガリに似てるって言われてるけど。もしかして男と思われてないのかな。……鬱になってきた。

「あの、あまり自分を責めないでください。事故なんですから……」
「……あ。うん、ありがと」

なるほど。僕がよっぽど情けない顔をしていたからかな、きっと彼女なりの気遣いなんだろう。こうして僕にかまってくれるのは。

(だけど、責任を感じずにはいられないよ)

たとえこの混浴状態が偶然による事故だとしても、原因が僕にあるのは間違いないのだから。


◇◇◇


午後の訓練終了後、宿泊ロッジのロビーにてお茶休憩をしていた時のこと。
夕飯前にまずお風呂はどうか、とここの家主たるメガーヌ・アルピーノさんに奨められて、談笑もそこそこにみんな一直線に風呂場を目指したんだ。
そんで、僕とシンとエリオ君とで男湯の暖簾をくぐって、脱衣所で身支度してから屋外へ出て──バッタリって擬音がこれ以上相応しい場面は他にないってぐらいバッタリと、男女が鉢合わせになった。

目が点になった。流石に予想外だった。まさか壁がないなんて。

まず、先頭にいたシンが犠牲になった。ノーヴェさんの必殺パンチで星になり、次に僕に向けてティアナの『バインド‐バレット』が数発立て続けに迸る。

922魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/05/11(土) 23:09:23 ID:wFZMuyG2O
そのある意味致命的な橙の弾丸を必死の思いで回避した僕は即座に逃走を選択、エリオの手を取りこれまた必死に走った先に、ソレを見た。……木端微塵に吹き飛んだ、男女間を区切る為の絶対境界線防護壁(木製)の哀れな姿を。
そこでやっと放たれたルーテシアちゃんの「あぁ、そういえば、忘れてたわ」に続く台詞で、漸く騒動は収まったんだったね。
曰く、午後の訓練の最中にぶっ放された『魔砲』が防護壁に直撃、破壊されてたのを報告し忘れてたんだと。
で、冷静になって皆で原因を調べてみると、壁からキラ・ヤマトの魔力残滓が検出されたんだ。うん、どうやら最大出力の『カリドゥス』が偶然にも命中したみたいなんだ……

それから僕が全力で土下座してからは「今から男女別でというのも追い出したみたいで気分が悪い」という結論が出て、現在に至る。
勿論、そんな菩薩みたいな寛容さだけで済む筈なんてないのだけども。大方、敢えて一緒にいることで「ちょっとした居心地の悪さ」を満喫してもらい、ついで「ちょっとした監視」をする意趣返しもあるに違いない。
ともかく問答無用で警察に突き出されなかっただけでも御の字だ。

要約すれば、僕が偶然にも壁を壊してしまったせいでシンが犠牲となり、混浴になった、という事だ。

マジごめん、シン。


◇◇◇


マジごめん、エリオ君。

「あの……キャロ? ルー? 背中だけを洗うって言ってたよね……?」
「エリオ顔真っ赤にしちゃって可愛いー。ねぇ抱きついていい?」
「ル、ルーちゃんには負けないんだからぁっ!」
「わぁ!? ふ、二人共ちょっ、まぁぁぁっ!?」

そんな歳で修羅場なんて経験させちゃって。
やっぱり年頃の少年少女には刺激が強かったか、混浴という環境にキャロちゃんとルーテシアちゃんはすっかりアスラ……錯乱していて、純情少年エリオ君は身動きがとれない。哀れなり。

「流すよ。目、閉じてて」
「……ん……」

さて、温泉といえば湯槽で暖まった後に髪及び身体を洗うのが定石だ。
エリオ達が三人で洗いっこしているように、僕もなんか場の流れでアインハルトちゃんの髪を洗ってあげていたりする。

僕達も結構、錯乱してるみたい。ヒトの事言えないな。

でも思い返せば、こうやって1対1でゆっくり世間話をするのは初めてなんだよなぁこの娘とは。だから会話が弾んだ。
少女が今まで視てきたものや、ヴィヴィオちゃん達との交流。そんな今日一日で得たものを訊いたり聴いたりしてたら、自然と今のような状況になってたわけで。

(やるからには、ちゃんと綺麗にね)

病床についたラクスの桃色の髪を4ヶ月洗い続けた実績と手腕は伊達じゃない。
恐らく高級品であろうジャスミン薫るシャンプーによって形成された豪勢な泡々を少し熱めのシャワーで洗い流す。少女の顔にお湯がかからないよう、耳の穴に入らないよう、頭皮に油分が残らないよう丁寧に丹念にシャワーノズルを操って。

「……そっか。ご両親は、もう」
「はい。……だから、こうして髪を洗ってもらうのも、本当に久し振りなんです」
「……、……淋しくは、ないの?」

でもどうしてもそれが機械的な動作になってしまうのは、展開している話題故か。
恥ずかしがり屋のアインハルトちゃん。ちょっと前までお湯の熱さと羞恥心と高揚で紅く染まっていた頬も、今は元通り。

923魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/05/11(土) 23:11:30 ID:wFZMuyG2O
本当、わからないものだ。会話のベクトルって。明るい話をしていると思ってたら、何かをキッカケに暗い方向にシフトしてしまう。

「そう、ですね。淋しくないと言ったら嘘になるかもしれません。でも、もう慣れましたから」

少女の家庭の話題。想像以上にシリアスだった。
でも雰囲気が必要以上に重くならないのは、少女が淡々と話すからか。起伏に乏しい、女性として未成熟な躯をリラックスさせているからか。
彼女にとっては、それが普通なんだ。そうやって生きてきたんだ。ノープロブレム。

(けど)

あらかた泡を流し終えれば次、これまた高級品であろうコンディショナーのボトルを手繰り寄せ、たっぷりプッシュ3回、手早く踝まで伸びた碧銀の毛先に揉み込む。

(普通なら、なんでそんな瞳をするんだ)

正直なところ、この話題は続けるべきじゃないと思う。そう判断すべきだ。
だってそうでしょ。誰だって、そういう事情に探りを入れて欲しくないと思うから。当人の問題だから、僕みたいな他人が関わることでもない。

「駄目だよ」
「え……?」
「慣れてる、なんて言わないで。そんな貌で」

でも。
ほっとくなんてできない。

「言っちゃ駄目」

アインハルト・ストラトス13歳。
もし、僕が時間移動なんかせずに33歳だったら。もし、ラクスが生きてて無事に赤ちゃんを産んでいたら。丁度この歳ぐらいの子どもがいたかもしれない、そんな歳の女の子。そんな女の子が、幼い日に両親と死別し、誰もいない家で独り日々を過ごしている。目の前の、今すぐ抱き締められるぐらい近いところにいる女の子が。

そんなの容認できる筈がない。

なら、僕は何かをしたい。かつて、トールがヘリオポリスの工業カレッジに馴染めなかった僕にそうしてくれたように。

だって、いつもあまり表情を出さないアインハルトちゃんが、一瞬だけでも哀しげな寂しげな貌をしたんだから。
諦めたような瞳をしていたから。
そんなの見過ごせない。

「寂しい時は寂しいって、言っていいと思う」

辛いのに辛いと言えないのは、本当に辛いから。
ストライクに乗ってた頃を思い出しながら、在りし日のフレイ・アルスターを、思い出しながら。再度コンディショナー剤を手に取って髪の上部に馴染ませながら、言葉を選ぶ。
今度は労るように手を動かして。

「でも……、…………はい、確かに、少し寂しいのは確かです。でもだからって」
「言ってもどうにもならないかもしれない。けど、そうじゃないかもしれないでしょ?」

どうすれば、って戸惑いの表情。
運命に縛られ、強さだけを純粋に追い求めてきたこの娘には、余計な事なのかもしれない。そんな事に余力を割く発想もなかったかもしれない。確かに淋しい思いをしているのに。
なのに、諦めてる。躊躇ってる。
本当は温もりを求めてるのに。
なら、この娘に僕ができることはなんだ?

「例えばさ、教会とか高町家……ヴィヴィオちゃんのとことかにお世話になるとかさ、色々考えようよ。辛いって言えるなら、我慢してちゃ駄目だよ……」
「……」

それは選択肢を与えること。
この小さな頑張り屋に、未来を見せること。
かつての僕みたいに独りになっちゃ駄目だ。まだ間に合うかもしれないから。
余計なお世話と言われても構わない。無力なりに力になりたい、助けたいっていう我儘だから。

「……考えて、みます」
「うん。僕もなるだけ協力するから」

その想いがあるから、アインハルトちゃんの前向きな返事に胸を撫で下ろす気持ちになった。

924魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/05/11(土) 23:13:24 ID:wFZMuyG2O
よし。こうなったら、あとでなのは達の知恵を借りよう。



……
………


「そういえば、あの猫はどうなったの?」
「猫……あの後、私の家でお世話をしてたのですけど、その……」
「いなくなっちゃった?」

シリアスな話題を終えれば昔話。
髪と身体を洗い終えた僕らは再び二人して檜風呂に浸かって、僕らが初めて出逢った日って話題に移行。懐かしいなぁ。
あの時、真実を知って混乱してた僕はクロノと別れた後に、フラフラと俄にやってきた土砂降りの中を彷徨っていた。そして怪我をしている小さな黒猫を抱えて傘もなく軒下でポツリと立ち尽くしていたアインハルトちゃんを見つけたんだ。

「はい。怪我が治ったら何処かに消えてしまいました。猫らしい猫です」
「そうなの。とても可愛かったのに、残念だね」

安いジオラマみたいに薄っぺらに視えてた街並みで迷い、哭きそうだった僕に差し出された、暖かい光のようだったことを憶えてる。
見つけるべくして見つけたって感じ。

「多分、帰ったんだと思います。群れからはぐれてた子みたいでしたから。……家族といられるのが一番でしょう。ミッドも自然が多いですから」
「また、会えるといいね」
「……はい」

そこで僕は遮二無二に、所持していたリペアキット(一応軍人だから持ち歩いている)で黒猫に応急措置を施して、少女に傘を貸し与えて……あぁ、そこでぶっ倒れたんだった。
まだ自分にはやれる事があるんだと錯覚して、ありきたりな希望を見出だして、絶望の糸が切れて、壊れることなく倒れることが──生存本能が正常に働かせることが──できた。
でもいくらなんでも目の前で人が倒れて大丈夫じゃない人はいないよね。悪い事をした。
んで通りかかったシンに回収されたらしい。

「……あの時は、どうして助けてくれたんですか?」
「よくは解らないんだ。どうしてあんな時に君の存在を見つけられたのかは……なんとなく君にヴィヴィオちゃんに通ずる【何か】を感じて、それに引っ張られたって感じかな」
「……??」

これは不確定情報なんだけれど、どうにも僕とシンの躰──の中に在る【SEED】──がヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃん、イクスちゃんに通ずる【何か】を感じて反応してるみたいなんだよね。
それが良いのか悪いのかは判らないけど。
世の中不思議ばっかりだ。

(うーん。ちゃんと調べてみるか?)

もしかしたら役に立つかもと、そんな算段を立てた直後だった。


“キ、キラさーんっ! 助けてください! だ、脱出できません。キラさん助けてください!!”


エリオ君から念話が飛んできたのは。
救助要請……ってか、悲痛な叫び。
見てみれば、エリオ君は岩風呂にいてキャロちゃんとルーテシアちゃんに挟まれていた。傍目からは両手に華な少年がニコニコしているだけだが。
だが現実は非情。
少年は歪んだ顔で笑っていた。仮面の中は冷や汗と脂汗で溢れ、ふやけた仮面のまた上に仮面被っているような、そんな精一杯の笑顔。


それを見た僕が選んだ未来という選択肢は、諦めだった。即断即決、彼を助けることはできない。


いや無理だって。
何故なら、彼は、彼を巡る恋の鞘当てに巻き込まれているのだから。そんなのに僕がどうしようっていうんだ。流石に色恋沙汰にお節介はできないよなぁ。
なにより、あの女子2人の間に入る勇気は持ち合わせていないし。やめてよね。凄いオーラ醸し出してるゾーンに突貫できるわけないでしょ。
僕にはどうにもできない。

「はは、モテモテだ」

925魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/05/11(土) 23:16:03 ID:wFZMuyG2O
「あ、あんな、ことっ……!?」

僕の目線を追った末に目撃しちゃったのか、大胆で破廉恥な男女の戯れに頬を紅潮させ、両手で顔を覆うアインハルトちゃん。いちいち可愛いなぁ……じゃなくて。
うーん、僕の隣に座るわりには、こういうのには免疫がないのか。嬉しいやら悲しいやら。

“エリオ君。残念だけど、男にそこを逃れる術はないんだ。気の毒に。……けどエリオ君! 無駄死にじゃないよ。その経験が君を強くするんだ”

とりあえず説得してみよう。もうこうなったらいっそのこと存分に満喫するがいい、って。
幼い頃は『恋のトライアングラー』とか『青春』とかで呼称されるけど、大人になれば『不倫』とか『浮気』とか『二股』とかになっちゃうからね。貴重な経験だよ少年。

「あー……うー……」

ああ、駄目だ完全にのぼせちゃって。
温泉で美少女二人に言い寄られるなんて稀有な事され、長時間顎までお湯に浸かっていたら仕方ないか。14歳の健全な男児には酷な仕打ちだったと思う。
力になれなくてゴメン。
でも、安心していい。

「こーら二人とも。もういい加減にしなさい」
「これ以上は流石にやり過ぎよ」

ティアナとスバルが突っ込みを入れて助けてくれるから。僕なんかよりも、よっぽど頼りになるし適任な人だ。

「……あ、やばっ……ちょっと、しっかり!」
「エ、エリオくん!? 大丈夫っ!?」

叱責と軽いチョップにより正気に還ったキャロちゃんとルーテシアちゃんは、エリオ君を手早く引き揚げて岩盤上に横たわらせた。

「うぅ……へ、へいき……でも、少し休ませて……」

少し手遅れ気味だけど。
少年はもう顔だけじゃなくて全身が真っ赤になって、図鑑に載っても恥ずかしくないお手本のようにのぼせていた。
南無。

「僕、氷枕取ってくるよ」
「じゃあ、私は……」

さてさて、じゃあ僕はエリオ君の救助を他人任せにしちゃった償いをしようかな……とその前に。
何かアクションをしようとした少女を片手で制す。

「そろそろヴィヴィオちゃん達も痺れを切らしてると思うから、行ってあげて? 僕がいつまでも君を独占してると嫉妬されちゃう」
「え、えぇ?」

アインハルトちゃんが僕のとこに来たのは、ヴィヴィオちゃん達の差し金っぽい。此方を意味ありげにチラチラと窺ってるもんだから分かりやすいったらね。
きっと、この娘と僕がちゃんと話せるように計らってくれたんだろう。いい機会だからって。初対面が初対面だったから、お互いなんとなく話かけづらかったのに気づいてたんだな。
だけど、ヴィヴィオちゃんだってアインハルトちゃんと一緒にいたい筈だ。

「気づいてないかもしれないケド、君って結構人気者だから」
「人気者……私が?」

じゃあ今度こそ行動だ。
確か氷枕は脱衣室に……
……?

「……なんだ?」
「どうしたんですか?」


突然の、違和感。


(……何か、近づいてくる)

新人類として拡大化した僕の脳意識が、接近してくる何かを捉えた
密かに此方へ忍び込む気配。無邪気で子供っぽい、だけど大人な計画性を秘めた女性。この気配は……

「ふぇっ!?」
「? なに?」
「キャロ、どうしたの?」

僕が感覚を特定する寸前に、キャロちゃんが突然奇声を上げた。
いきなり顔を真っ赤にして不思議そうに辺りを見渡す桃色の少女が、怪訝な表情のルーテシアちゃんに訊ねる。

「何かこう、柔らかいものが“もにょっ”と……ルーちゃん、湯船の中で何か飼ってたりしてない?」
「えー? 飼ってないよ。それに温泉に棲むような珍しい生き物なら……あんっ!?」

926魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/05/11(土) 23:18:08 ID:wFZMuyG2O
「ひゃぁ!!」
「ッ! ……!!!」

今度はピンク色な嬌声が二重奏となって温泉をこだました。
ついでにエリオ君が前屈体勢にシフト。
ついで間を置かず、

「っ!!! ──なに、何かいるッッ!?」
「うはぁ!? なんかぬるって!!」
「……なんだお前ら、どうした──のわぁ!」

少し離れた場所でティアナとスバル、ノーヴェが似た様な感じになって、ちょっとしたパニック状態に。
そしてエリオ君の目が虚ろになった。
なんなの、これは? どういう事だ。今彼女達の周囲には特に異常はないのに、みんな胸やお尻を押さえてて……まさか、やっぱり……!


“セインさん! セインさんなの!?”
“見つかった!? ……さすがっ!”


感じたままに、半ば賭けで念話をしてみたら思いの外アッサリと繋がった。
やっぱり、この人か!
戦闘機人が6番目、セインさんと彼女の固有能力『IS・ディープダイバー』──あらゆる無機物の内部に潜って移動出来る力──なら、この状況にも納得できる。

(……あの人、能力を使ってセクハラを)

なんという力の無駄遣い。だけど鬼に金棒でもある。
お湯に溶け込んで、こっちが視認できないのをいいことにヤりたい放題だ。
でも、なんでここに? 配達も終えてもう教会に帰ったと思ってたのに。

「ぁっ……んぅ?」
「や、また!?」
「……ッ、……ッッ!!」

まずい、セインさんの真意はどうあれ、早く彼女のセクハラを止めないと。
横目で羞恥プレイを強いられた少年を確認しながら焦る。
相手はあのお茶目なシスター。一つ断言出来るのは、このイタズラは全員に被害が及ぶという事だ。
そんな事はさせない。

“なんでこんな事を? これじゃエリオ君が興奮して鼻血を出して、ショックで倒れる。血の海になるよ”
“他人から視えないなら、このチャンスを逃す理由はないっ。だから、その女体を楽しむと宣言した!”
“環境を考えてやってください!”
“あたし、シスター・セインがボディタッチしようと言うんだ、キラっち!!”
“エロだよそれは!”

説得は無理か。
てか、これが狙いで到着を遅らせたのか? 己の存在を悟らせない為に。
なんて用意周到で馬鹿な真似を。
こうなったら本気でセインさんを捕まえないといけない。じゃないと本気でここが血の海になる。
エリオ君は限界だ。

(今セインさんを感じられるのは僕だけ……でも感じるだけだ。正確に何処にいるかは)

広々とした空間に温泉という足場。地の利も彼方にある。
だったら、

「えと、手伝ってくれるかな、アインハルトちゃん」
「大体事情は察知しました。手短に仕留めましょう」
「頼りにしてるよ」

連係プレイで。

「はわわっ!」
「きゃあっ!」
(……くそ、速い!)

何事かと首を傾げていたヴィヴィオちゃんとコロナちゃんが次の犠牲者に。
なんてスピード……だけど。

(あの人の第一の狙いは女子全員に触る事……だったらそれぞれの位置関係から推測される次の目標は)

アインハルトちゃんと背中合わせになって周囲を警戒、意識を集中させる。
まだ被害に遭っていないのはアインハルトちゃんとリオちゃんだけ。そして今しがた触られたヴィヴィオちゃん達とリオちゃんの中間地点に僕らがいる。
……セインさんは多分、こういう時は迂回なんかしないで真っ向から出し抜く。なら。

「──後ろっ!」
「!!」
「見抜かれた!? しかァしっ!」

予測通りにアインハルトちゃんを狙ってきた。

927魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/05/11(土) 23:23:29 ID:wFZMuyG2O
狙いが判れば対処可能。脚と腰のバネを活用し、鋭く独楽のように身体を反転。先に飛び掛かっていた覇王少女との時間差で掴み掛かって、

「ほいハズレっ!!」
「しまっ……うわぁ!?」
「っ!?」


あっさりと、惨敗した。


腐っても戦闘機人。そのリーチ差を活かしてアインハルトちゃんをいなしたセインさん相手に、僕は空振って、足払いされて、顔面から湯に突っ込んだ。
鼻いたい。

「そぉりゃぁっ!」
「っーーーーー!!!?」

そして、息つく暇なく電光石火──多分この時ばかりのセインさんは管理局最速を謳われるフェイトよりも疾かったと思う──によって、


むにゅ。


まんまと、アインハルトちゃんの胸を、揉まれてしまったのだった。


直に。


不幸なことに無情なことに、湯浴衣はハラリと舞い降りて。

幼く美しい裸身が、双月の明かりの下に、惜し気もなく晒された。

ある種の幻想、神々しさすら感じる。なんだろう。なんていうか最強だ。

「あ」
「え」

むにゅむにゅ。

おお。
……揉まれるほどには胸があったんだね──って、そうじゃなくて! なに考えてんだ!

「ハッハァッ! 次ィ!!」
「何故そんなことを、平然とできる!?」

一瞬の自失から醒めて、犠牲者がまた1人増えてしまったことを悟った。護れなかった。
勿論、このままでは終わらない。終わらせられない。

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

反撃だ。弔い合戦だ。


──ズ、パァッッン!!!


まるでアンチマテリアルライフルを撃ったが如き破砕音。
茹で蛸みたいなアインハルトちゃんが胸を庇いながら突き出した掌、正真正銘乙女の怒り。それに伴い発生した水斬り──静止状態から加速と炸裂点を調整する打法による、水塊を真っ二つにする技──により鋭い破砕音を撒き散らしながら、浴槽の湯が文字通り綺麗に割れた。

「うおッ!!」

あんなの喰らったらひとたまりもない。捲き込まれない為に、遂にセインさんが水上に姿を現す。その躰は宙にある。
だけど流石と言うべきか、緊急回避であろうと次なるターゲットたるリオちゃんの方へ向かって跳んでいるのは、執念のなせる業か。
けど、宙なら能力は使えない。最初で最後、今なら捕まえられる!

「投げて!!」
「!」

鼻が痛いのを我慢して、今この瞬間に行使できる時間と魔力を使ってズボン型バリアジャケットを生成。同時に右手を突き出す。
それを涙目のアインハルトちゃんが掴んで、魔力強化による怪力で僕を思いっきり、投げた。

928魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/05/11(土) 23:25:30 ID:wFZMuyG2O
同時に僕も魔力を足裏に集中、指向性を持たして爆破する事で加速。

(間に合え!)

せめて、リオちゃんだけでも。
この機を逃せば、また皆がセクハラされる危険性がある。
だから──


果たして、


僕がセインさんの足首を掴むのと、セインさんがリオちゃんの小さなお尻を背後から強襲したのは、ほぼ同時だった。

「……」
「……」
「……」

各々の意味で沈黙する三人のショートヘアー。


前触れなく大爆発。


「ええっ!?」
「ちょっ!?」

大規模魔力反応と共に激しく水飛沫と稲妻、焔が舞い踊って、リオちゃんの小柄な身体が発光する。
僕とセインさんはひっくり返った。

「なに、なに!?」
「これって……」

この反応この光。これってまさか? ヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんと同じ、『大人モード』……外見は大人、中身は子どもを見事に体現するあのレアな術式?

(てか、魔力変換資質……炎と電気の2つ? 何気に凄い技能だよそれ)

光の中から顕れたのは、腰まで伸びた紫紺の髪が印象的な女性だった。
身長も少し伸びていて、脚力を重視したのか妙に発達した下半身と、幼さを残す上半身のアンバランスさが一種の魅力を醸し出している。
躑躅色と深緋色を主体とした、地球でいう中華風のバリアジャケットを纏ったその姿は中・高校生をイメージされる。
全体的なバランス向上を求めて18歳前後のナイスバディに変身するヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんの『大人モード』とは違った方式?

「いいっ?」
「へ?」

そんな事を呆然と考えている間にも事態は進行する。
双眸に涙を浮かべたリオちゃんがセクハラ魔神セインさんの腕を無造作に掴み、

「っぃやーーーーーーッ!!」

純情な乙女心を叫びと裏腹に、さっきのアインハルトちゃんの数倍はあるとんでもパワーで、真上へと高く高く放り投げ、


「 絶 招 ・ 炎 雷 炮 !!!」
「ごふッ!!」

落下してくるケダモノの無防備な腹に、八極拳のような型で、炎と稲妻を纏った蹴撃を喰らわせて、大空高く吹っ飛ばした。

僕も巻き添えにして。

「なんでーー!?」

うん、ずっとセインさんの足首を捕まえてたのが悪いね。
だけど、凄いなぁ。大人2人をこうまで高く打ち上げる一撃なんて──


因みに補足すると、絶招ってのは奥義って意味なんだとか。


◇◇◇


「おまえら楽しそうなのに、あたしだけ差し入れ渡したらすぐ帰るとか切なすぎるじゃんかよ〜〜!!」
「うんうん、寂しかったんだね」
「でもね、だからってやっていい事と悪い事がね。セクハラも犯罪だからね」
「うぐぅ……」
「……何やってるんだよアンタ達は」

リオちゃんに蹴っ飛ばされて吹っ飛ばされて、終いには温泉に墜落したセインさんに対する尋問の最中に、やっとシンが温泉場に帰ってきた。

「あ、おかえりシン。遅かったね?」
「熊と戦ってた」
「素手で?」
「ああ」
「へぇ」

どーりで疲労困憊気味なわけで。
相棒の実力を疑うわけじゃないけど、よく生きて戻ってこれたね。

「くっそぅ、自慢じゃねーが! あたしはお前らほど精神的に大人じゃーないんだからな!?」

あ、この人開き直った。でもこういう時でも明るく振る舞えるのはこの人の長所だと思う。
なんていうか、生粋のムードメーカーって感じなのかな。あんな一撃を受けたのに、スゴいな。

「説明してくれ」
「えーとね。セインさんがサプライズ目的で、ちょっとやらかしちゃって」
「ふーん……」

右頬を赤く腫らしたシンが少し興味深そうに僕の身体を眺める。

929魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/05/11(土) 23:26:09 ID:wFZMuyG2O
正確には水面にマトモに打ちつけたせいで赤く腫れた胸と腹を。
そして次には、

「大丈夫? 止まりそう?」
「へ、平気。なんとか止まる、と思う、多分」
「ごめんねエリオくん……」

真っ赤に染まったティッシュを鼻に詰めたエリオ君と、彼に付き添う二人の少女を眺めて。
そして最後にもう一度セインさんを一瞥して怪訝な表情を。

「いや、マジで何があったんだよ……」
「は、ははは……」

色々あったんだよ、色々ね。


そんなこんなで、カクカクシカジカで、異世界旅行兼訓練合宿初日の夜はふけていったのだった。




──────続く

930凡人な魔導師:2013/05/11(土) 23:30:52 ID:wFZMuyG2O
以上です。

残念ですが、話の都合上慈悲はなく少女の両親は犠牲になってしまいました。だって作中で明言されていないんですもの……
今後は高町家に参加させる予定です

931名無しの魔導師:2013/05/12(日) 00:18:06 ID:OxuCVlSYO
投下乙!
アインハルトとキラの会話がいい!

エリオ、無駄死ではないぞ

932凡人な魔導師:2013/05/31(金) 14:09:11 ID:vemxkYE.O
こんにちは。
明日の23時頃に投下させていただきます


そろそろKIKI氏やとある氏の続きが見たいですね(チラッ

933凡人な魔導師:2013/06/01(土) 22:39:18 ID:m9hW5wTIO
こんばんわ。

悲しいお知らせがあります。
今朝、手元が狂ってSSのデータを全部消し飛ばしてしまいました。復旧に暫くかかりますので、今日投下をすることはできません……

12話の投下は1週間後ぐらいになりそうです

934名無しの魔導師:2013/06/02(日) 17:50:39 ID:qI9q22LwO
バックアップはキチンと保管しとかないと、俺はUSBメモリごと無くしたことあるから気持ちは解る……。
ゆっくり待ってます

935名無しの魔導師:2013/06/03(月) 18:32:06 ID:9P6TJIac0
さっき、久しぶりにStsの公式ページ見てて、エリオのキャラ紹介のとこ行ったんだ
で、そういえば一部でエロオとかモンデヤルとか言われてたなぁ と思いながら見たら
揉まれ とあって、何かと思ったら
『機動六課で先輩や教官たちと任務に揉まれ』だったw

936名無しの魔導師:2013/06/03(月) 21:15:07 ID:KSWd6GdQO
どこを揉まれたんでしょうねぇ…


「エリオって揉まれたことあるの?」
「ぶふぅ!?」

ある日の夜、機動六課の食堂にて発せられたその言葉に、少年エリオ・モンディアルはむせた。危うくペペロンチーノスパゲッティを吐き出すところだった。
それは何かの聞き間違いだと信じたい、少年の純情が引き起こした抵抗だったのかもしれない。

「ス、スバルさん!? 一体何をッ!?」
「いやだからさ、エリオは揉まれたことあるのかなーって」
「ないですよ、そんなの!」
「? なんでそんな必死なの」

正確には、少年の後ろめたさが引き起こした反応だったのかもしれないが。
そもそも、エリオはさっきまでティアナとスバルとキャロとシンが展開していた話を上の空で聞いていたのだ。
日々の訓練での疲労もあるし、晩飯である山盛りパスタに夢中になっていたのもある。だが何よりも、思春期入りたての少年はキャロとフェイトのことばかりを考えていたのだ。それも下の方向で。……ここら辺の原因は、先日シンが面白半分でエリオに見せたエロ本(R17相当)にある。
ともかく、そういった下の事を考えていたせいで、エリオは会話の流れが分からなかったのだ。
そこで「揉まれる」などといったキーワードが飛び込んできたのならば、少年は動揺するしかなかった。

「そっかー、ないのかー。それはちょっと羨ましいかも」
「あれ結構キツいからなぁ」
「……え、スバルさんとシンさんは、揉まれたことあるんですか?」
「ああ、何度か」
「朝方にやられると困っちゃうよね。夜は比較的楽になるけど」

シンとスバルが答える横で、ティアナはうんうんと頷く。ついでにキャロも。
エリオ少年はショックを受けた。
自分以外全員が揉まれたことがあるなんて。てかキャロまでもが揉まれてたなんて。しかも極普通に話してらっしゃる。

(みんな……大人なんだな)

もしかして、揉まれるなんてのは世界の常識なのかもしれない。自分が間違っていたのかもしれない。
エリオは何故か悟ったような気分になった。ボクだけが子どもだったんだ。後でフェイトさんに揉んでもらおう。
少年はそう誓った。

「いやー、通勤ラッシュに巻き込まれるのはしばらく勘弁だよなー」
「人波に揉まれるってあのことよね。私はしばらくなんかじゃなくて、金輪際お断りだわ」
「でもあれ体幹を鍛える訓練になるよ?」
「わたしももう嫌かな、あれ」
「…………え」

誓って、誓ったそれを消し飛ばしたい衝動に駆られた。
なぜなら、筆者の杜撰な脳ミソではソレ以外の結末を瞬時に思い付かなかったからである。


おわれ

937名無しの魔導師:2013/06/04(火) 17:22:45 ID:YU/oygIYO
ヤザ○大尉が見ている

938凡人な魔導師:2013/06/18(火) 16:45:43 ID:faeQPVhkO
こんにちは。
やっと復旧し終えました。明日の23時に投下します

939名無しの魔導師:2013/06/18(火) 20:29:50 ID:WHyITQjQO
ようやくですか。お待ちしております。

940魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/06/19(水) 23:02:03 ID:vsMMJfQAO

なんでか、猛烈な喉の渇きと暑苦しさを感じて、自分が覚醒したことを知った。
夜の闇と月の光が支配する空間。自分はその中で、ふかふかベッドで仰向けになっている。そこから推測するに、どうも先程までの水を求めて砂漠を彷徨っていた情景は夢であったみたいで。

(喉、渇いたなぁ)

目覚め一番の感覚としては最悪の部類だと、寝惚け損なった頭で考えた。
水を飲みたい、と思うけど、それだけで行動するにはなんとも微妙な時間だね。起床予定より早く、二度寝をするには足りない中途半端な時間。
なんとなく損した気分です。早起きは三文の得と言いますけど、これは違いますよね。

(……どうしよ)

午前4時12分。5時30分頃に起床するつもりだったのに、他に予定はないのに……突然出来上がった空時間に困惑する。これじゃあ時間を無駄にしてしまいそう。
合宿という集団行動内で、それも今日という日で、無為に体力を消耗するのは避けたいところです。

(とにかく、水……)

生理的欲求には逆らえない。この、心地好い微睡みすら消し飛ばす不愉快な感覚を鎮めなくちゃ。


考えるのは後回しにして、迷わずわたし──高町ヴィヴィオ──はタオルケットを蹴飛ばして気だるい身体を起こしたのでした。




『第十二話 戦闘準備』




起こして早速、わたしは少し迷った。

「……どうしよ」

今度は口に出す。ついで少し微笑ましくなる。
アインハルト・ストラトスさんが、わたしの左腕を抱くようにして眠っていた。

(本当だったんだ。抱きつき癖があるって言ってたけど)

太古から、寝顔は生物の最も無防備な顔であると言われている。たしかにそうなんでしょうね。
同性のわたしでも可愛らしい美しいと思う寝顔の持ち主の腕を、振り払ってもいいのでしょうか? それはなんだか可哀想に思えて。
こんなに弛みきったアインハルトさんを観るのは初めてのことだから。月明かりが照らすジェイドグリーンの長髪も眩しくて、なんだか見てはイケないものを見てしまっているよう。

正直ドキドキものです。

いっそのこと、渇きを我慢してでもこのまま起床時間まで寝顔を眺めるべきでは。
それに、胸内に抱える使命のためにいつも張り詰めている年上なこの人に、無意識にでも頼られてるみたいな感じがしてどこか嬉しいですし。
でも、

「ごめんなさい、アインハルトさん」

繰り返しになるけど、やっぱり生理的欲求には逆らえなかった。
少し躊躇しながらもアインハルトさんの腕を外して次に、きっと渇きの主原因であろう、わたしのお腹に乗っかっていたリオをベッドに寝かせる。
どうりで暑苦しいわけだよー。
こんな時はコロナの寝相の良さがすごくありがたい。コロナにまで乗ってこられてたら身動きがとれなくなっていただろうから。
よし、動けるようになった。

「クリス、いくよ」
「!」

かしこまりました、とばかりに片手をピッと挙げて応えるそれは、浮遊するウサギのヌイグルミ……を外装として纏ったデバイス‐セイクリッドハート。愛称クリス。
4年生へと進級したお祝いにと、なのはママとフェイトママが贈ってくれた、可愛いと評判の大事な相棒です。……キラさんとシンさんは微妙な顔をしてたけど。なんででしょう?
わたしはクリスが周到に持ってきてくれた上着を羽織りながら、こっそりキングサイズのベッドから抜け出して、抜き足差し足忍び足。宛がわれた子ども部屋から脱出して、キッチンを目指し行動開始。

「ふわぁ……この時間は寒いね」
「!」

春の早朝。廊下の窓は朝露に濡れていて、空気はヒンヤリと沈んでいる。

941魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/06/19(水) 23:03:28 ID:vsMMJfQAO
アインハルトさんとリオさんの体温で、体内の水分が汗として変換されてしまった躰には少々堪えるな。自分を抱き抱えるように腕をさすっていると、クリスが同じようなジェスチャーをした。
同感ですって言いたいみたい。無口なのに、ジェスチャーとパントマイムを用いた情緒表現は豊かってギャップが面白い。

(みんな、まだ寝てるよね)

建物内は静まりかえっていて、わたしの吐息と足音だけしか聞こえないから、まだ他の誰もが活動していないことが伺える。起きてるのは多分わたしだけ。歩いてるのはわたしだけ。
わたしの人生じゃけっこー珍しいシチュエーションかも。

「♪」

なんかちょっと楽しい。
みんなから比較的に大人びてるとよく言われるけど、やっぱり自分だけが特別なことをしてるって感覚は面白いのです、10歳女児としては。
わたしは小さく笑いながら、キッチンに続く廊下を歩いていって──

「──って、あれ?」
「お、おぉ? おはようヴィヴィオ」
「えと、おはようございます、セイン」

その途中でわたしは、聖王教会所属シスターであるところのセインとバッタリと出会したのでした。

これはもしかして、ラッキーなのかも?


わたしの異世界旅行兼訓練合宿会2日目の朝は、早起きは三文の得という諺を体言しながら始まったのです。



……
………


「へぇ、アインハルトとリオがねぇ……。朝っぱらから災難だったなぁヴィヴィオ」
「笑いごとじゃないですよぅもう」
「はは、ごめんごめん」

セインと一緒にやってきたキッチンにて、今まさに目の前で。
縁に青の一本線というシンプルな装飾をされた白磁のティーカップに真っ白なミルクが、ついで明るい鮮紅色の液体が注がれていく。
ホットミルクティーだ。
昨夜の温泉騒動の責任をとる形で急遽、昨夜の晩ごはん及び今日の朝ごはん制作担当者となったセインの料理スキルは、完璧と評しても差し支えないもの。もちろん、それは紅茶だって例外じゃありません──てか、わたしの好物の1つだったりします。
だから、朝早く飲めてラッキーなんです。
わたしはセインが淹れてくれているソレの芳醇濃厚な香りに込み上げるてくるものを懸命に抑えながら、こんなに早起きをしてしまった理由を打ち明けてみると彼女はクスリと笑って応えてくれました。

「よしこれで……今日は砂糖どうする?」
「んー、無糖で」
「最近砂糖入れなくなったねー。はいどうぞ」

セインはどこか楽しそうに角砂糖入りのビンを棚に戻しながら、丁度飲み頃になったミルクティーを差し出してくれた。
その存在するだけで暴力的なまでに鼻腔を刺激する、魅力溢れる琥珀色の液体に、わたしは一言いただきますと呟きながら唇をつける。

「……不思議な味……。でも、おいしいです」

つけて、ちょっと驚きました。
いつものとは違う。わたしの知らない種類の茶葉を使っているようだ。
渋みがありながらも爽やかな香りと風味が、とろりとクリーミィで華やかな口当たりが、起き抜けの身体に染み渡るようで。思わずほうっと溜め息が漏れる。
初めてだけと、こういう味も好きかも。

「ミッドじゃ珍しい茶葉なんだよー。キラっちが地球から取り寄せてるものでさ、あたしも貰ったんだ」
「わざわざ、地球からですか?」
「うん。ラクスって人が好きだった味なんだって。気に入ってもらってよかった」

地球──第97管理外世界。なのはママとはやて司令の故郷で、キラさんとシンさんの故郷の直系の派生元かもしれない世界。

942魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/06/19(水) 23:05:54 ID:vsMMJfQAO
聞いた話によると、管理外世界から物を取り寄せるのは、それなりに複雑な手続きと大金が必要になるらしいですが……

(思い出の味、なのかな)

そこまでして手に入れた物。
キラさんは、一体何を想ってこれを飲んでたんだろうか。ラクスさんって人は名前しか知らないけど、キラさんにとって大切な人だというのは分かります。
忘れがちになりますが、キラさんとシンさんは次元漂流者なんですよね……

「いやぁ、それにしても緊張するねぇ今日は」
「え?」
「陸戦試合のことだよ。あたしは奥方と実況解説でもやろっかなーって考えてるんだけど」

彼らの事で暗くなりかけたわたしの顔を、セインはこれからの事に対する緊張と捉えたようです。
明るく溌剌とした声と笑顔で、わたしに語りかけてきました。

「う、うん。いいんじゃないの? ……てか、セインは今日帰らないの?」
「せっかくだからお昼も作って帰る。それまでは観戦モード!」

でもその雰囲気にあてられたおかげで、なんだか元気になったような気もします。流石は教会一のムードメーカー。見当違いでも人を明るくさせる才能はピカ一なんだね。
そう。今日のこれからには、とっても大変な行事が控えているのです。

「へぇ。じゃあお昼も楽しみにしてるね」
「御安いご用さっ。エネルギーも栄養も量もバッチリなやつ作ったげる。だから思いっきり暴れてきなって」
「うんっ」

セインが切り出した話題は、合宿の目玉イベントについて。
異世界旅行兼訓練合宿会二日目の恒例行事、大人も子供もみんな混ざっての朝から晩まで三連続の陸戦試合。青組と赤組に分かれてのチームバトル。

(これが目当てで合宿に参加している者も少なくないんですよね)

数えて3回目となる合宿における模擬試合の仕様は、赤組と青組7人ずつに分かれた上でのライフポイント制のフィールドマッチ。
ライフは各々のポジション毎に設定されていて、残りポイント100未満で『活動不能』、0で『撃墜』扱いになる。先に全滅させた方が勝ちってシンプルなもの。

他の細かい事項は、


1‐転送魔法禁止(回収は可)
2‐広域結界魔法禁止
3‐通信妨害・盗聴禁止
4‐非殺傷設定絶対厳守
5‐その他自由


と、ワリと大雑把なルールでして。“それなりに実戦に近い試合”を狙ってのことみたいです。

「当然もうチームは決まってるんでしょ、例のごとく」
「昨日発表されたの。クリス、データ出して」
「!」
「どれどれ……ほぅ、これはまた」

これから始まる、肝心要の第一回戦のチーム分けとポジションは昨夜、模擬戦のプロデューサーを務めるノーヴェから発表された。
その結果は……


  青組     赤組

FA:ヴィヴィオ  アインハルト
  スバル    ノーヴェ

GW:エリオ    フェイト
  リオ     キラ

CG:なのは    ティアナ

WB:シン     コロナ

FB:ルーテシア  キャロ


Front‐Attacker
    HP:3000 役割:前衛

Guard‐Wing
    HP:2800 役割:遊撃

Center‐Guard
    HP:2500 役割:司令

Wing‐Back
    HP:2500 役割:後衛

Full‐Back
    HP:2200 役割:支援


実況解説:セイン&メガーヌ ← New!


こんな感じになりました。
大方予想通り──てか覚悟していたことではあったんだけど、アインハルトさんやフェイトママ、キラさんが敵側なんだよね。これは大変な事になりそう……

943魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/06/19(水) 23:07:36 ID:vsMMJfQAO
青組と赤組は戦力比こそ互角だけど、参加人数が少ないですから結局は個人戦に移行するであろうことは容易に予測可能で、そうなると個人の実力や相性が浮き彫りになっちゃうわけです。
わたしも前衛としてどこまで持ち堪えられるか、望むところではありますがちょっぴり不安だったりもします。

「ありゃ、シンのすけ後衛? これなんかの間違いじゃないの?」
「合ってますよこれで。気持ちは分かるケド」
「なになに、ってことは隠し玉扱い?」
「それは秘密ですっ」

クリスが出力したチーム表を覗くセインがぽろりと溢した疑問に、わたしは不敵な笑みで応えてみた。
わたしとしては緊張の一瞬・迫真の演技だったつもりだけど、セインはナニか小動物を観るような顔をしたので、とっても恥ずかしい思いをしてしまった。
慣れないことはするもんじゃないですね。

「えぇ? そりゃないよ〜。教えてくれたっていいじゃないの」
「そう言われても……」
「ホントにダメ?」
「ダメですよ〜」

この陸戦試合、個人戦に偏重するのが予測できるからこそ、重要なのがチーム間のとっておきの作戦と機密保持でして。
それさえあれば、わたしが10人がかりになってでも敵わない人達を相手に勝利を収める事が可能になるんだ。
だからいかに普段お世話になってるセインといえども、アインハルトさんにだってフェイトママにだって教えられない。「しっかしね、やっぱり不自然だなぁ。シンのすけの魔力量ってキラっちレベルっしょ? あれで後衛は務まらんでしょ」

たしかに、その通りです。シン・アスカとキラ・ヤマトの両名は、度重なる修練とスキルによって取り戻した圧倒的な実力とアドバンテージを有している代わりに、致命的な欠点を抱えています。


それは、絶対的な魔力不足。


ユーノ司書長が言うには、これは仕方のない事らしいです。
基本的に、魔力の源たるリンカーコアは筋肉と同じように、鍛えれば鍛えた分だけ成長する物。またその成長期は幼少の頃なので、大人になってから魔法を使い始めた彼らの魔力が少ないのも、当然のことなんだって。
だから、彼らの保有魔力量はたったCランク相当の量しかないんです。そして本来使用する魔法のランクはB〜Aが中心みたいで。
つまり実戦の際には、キラさんとシンさんは少ない魔力で、Cランク程度まで制限した省エネモードの魔法をやりくりする事になります。


魔力量が戦闘力に直結する魔導師としての、超えられない壁。


こういう事情から、遠距離からの大魔法による制圧力が商売の後衛にすべきじゃないんだね。マルチレンジ‐ファイターのデスティニーとシンさんだって、例外じゃない。
実は昨夜まで、わたしもシンさんが後衛に入るなんて想定外だったわけだし。オーソドックスで威力の無い射砲撃魔法で、どうやってって。普通ならキラさんのように遊撃に回るべきだから。

「百も承知だよ。それはわたしも、なのはママも、シンさん自身も。だからこそ、わたし達はこうしたんだ」
「ふぅん? なら楽しみにさせてもらいますか。頑張れよー」
「うん、頑張るっ!」

策と切り札、知恵と仲間がいるからこその選択。相談して提案して決めた、青組の作戦。

(わたし達みんなで、赤組に勝つんだ)

もちろん、作戦だけじゃない。重要なのは間違いないけど、当然それがあれば勝てるわけでもないですから。
一人一人の力と想いが、みんなを繋いでみんなを羽ばたかせる。
そしてなによりも、みんな各々に、今の己の力がどこまで通じるのかを知りたいという欲求があるのだから。

944魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/06/19(水) 23:09:20 ID:vsMMJfQAO
わたしも、わたしのストライクアーツと魔法がどこまで通じるのか、知りたいから。

「やるよぉ、クリス!」
「!!」

いや、知りたいってだけじゃない。勝ちたい。
あの人に、勝ちたい。
作戦じゃなくて、単純な実力で。
お互いのホジション、バトルスタイルから確実にぶつかることになるであろう、アインハルトさんに。わたしの全力をぶつけて勝ちたいんです。

「お茶、ごちそうさま。美味しかった」
「お粗末様でしたっと。それは当人にも言ってあげな」
「うん」
「さーて。んじゃ張り切って朝ごはん作りますか! ヴィヴィオー、隣にセイン印のエプロンがあると思っから取ってきてくれない?」
「はーい」

試合に向けて気合いを入れたところで、セインからお手伝い要請が飛んできました。美味しいお茶を飲ませてくれたし、どうせ暇だしということで、断る理由は全くありません。
わたしは敬礼のまねごとをしてから軽快に、隣に続くドアに歩を進めた。

(隣は談話室だったよね)

たしか入って右にハンガーがあったなーって思い出しながら、わたしはゆっくりとドアを開いていって……


「え」


何故か。


談話室にて、ソファーに横たわっているキラ・ヤマトさんと、テーブルに突っ伏しているシン・アスカさんを発見してしまったのでした。


◇◇◇


「……えーと、どういうことなんでしょう?」
「うわぁ、これはヒドイ」

黒革張りソファーに、自分の腕を枕にするように横たわっているのは、ミッドチルダ北部ベルカ自治領に位置する聖王教会本部に執事見習いとして住んでいるキラ・ヤマトさん23歳。
おっとりとしたアメジストの瞳と、前方に流したギザギザな前髪ともみあげが特徴的なコーヒーブラウンの髪、肩甲骨まで伸ばした後ろ髪を束ねる三日月を二つ重ねたような髪飾りがトレードマーク。
普段はボーッとしてるか微笑んでるかの天然さんで、何を考えてるか読み取りにくい、女の子みたいな顔をしているというのがわたし達の専らの評判な男の人。……本人は気にしているみたいで、「男前とは何か」って週刊誌を購入している一面を持っています。
わたしとしては、イザとなると凄く男性っぽくなるのだから気にしなくてもいいんじゃないかって思ったりするのですが。

「なんていうか、これはアレだねアレ」
「アレ?」

そして木製のローテーブルに、グラスを握ったまま突っ伏しているのは、ミッドチルダ南部に住居を構える八神家に居候として住んでいるシン・アスカさん21歳。
精悍なカーマインレッドの瞳と、無秩序好き放題に跳ねている癖毛が特徴的なブラックの髪、左薬指に在るプラチナリングが目を奪う。
直情的でやんちゃで大雑把、でもふとした拍子に見せるナニかを押し殺しているような昏い、ナイーブな貌が激しいギャップとなって、わたし達にエキゾチックな印象を持たせる男の人。なんていうか、接しやすいんだけど関わりにくいという、とにかく不思議な感じなんです。
これでコロナとリオからはこっそり「お兄ちゃん」と呼ばれているのは、一体全体何があったというんでしょうね。

「早々リストラ宣言された新人社員達の図」
「洒落にならないから……」

そんな歳上の男の人達が、他人の気配に敏感な彼らが、わたしが近くにいてもピクリともしないで揃って熟睡しているんです。寝室ではなく談話室で。

945魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/06/19(水) 23:10:14 ID:vsMMJfQAO
テーブルの上にアルコール臭のする茶色の一升瓶を6つ(全てが空)と、大皿に盛られたスナック菓子を放置したまま。

(酒盛りの最中に寝てしまった──というところなんでしょうか)

わたしがドアを開けて、たっぷりきっちり10秒も絶句した理由です。
そして、思わず固まってしまったわたしに不思議に思って第二発見者となったセインが茶々を入れてきて、今に至る。
実に珍しく、また意外な光景。
見てみれば二人とも顔が赤くなってるし、服も少しはだけてるしで、シャンテの部屋のベッドの下から発掘した妙に薄い本(内容不明)の表紙に似てて……どことなく妖しい雰囲気が醸し出されている気がします。
出会って2ヶ月になりますが、こんなの初めてですよ。

「珍しいなー。シンのすけは兎も角キラっちが酔い潰れてるなんて」
「そう、だよね」

お酒はあんまり好きじゃないというキラさんとシンさんが、なんでこうなるまで……たった二人で6本も。これ、凄い量だよね。
まったく理由が解りません。
これがママ達やスバルさん達なら、ある程度事情を察せるのですが。

(あ。……わたし、この二人のこと何も知らないんだ)

こういう状況になって、初めて気づいた。この人達が普段、何を想って生きているのかを、わたしは知らないということに。
キラさん達は、極力自分の事を話そうとしない。思えば、訊いてもはぐらかされてばっかりで。哀しそうな感情を垣間見せるだけで。


だからわたしは知らない。何故、この二人がわたし達に優しく接してくれるのかすらも。


(今度は、ちゃんと訊いてみよう。……ん?)

セインと一緒に入口付近でアレコレ言い合いつつも内心そんな決意を固めていると、視界の隅に何か、変な物があるのに気づいた。

「なんだろ、あれ」
「ん? どしたヴィヴィオ」

キラさんの足元に落ちている、ぐしゃぐしゃに丸められた紙。なんてこともない、ただのゴミ。でもそれがどうしても、気になる。
妙に存在感があるように思えるから。
これこそが、この惨状の原因かもしれない……なんて根拠のない予感が、わたしを突き動かしました。

「……うわ、どこの言葉だこれ?」

後ろから覗いてきたセインが呻く。
拾って、破かないよう丁寧に広げてみたそれは、見慣れぬ異国の文字が綴られた4枚のB5コピー用紙だったのです。

「この言語……英語かな」
「おぉ、流石は無限書庫の司書資格持ちスーパー小学生」

うん。ちょっと訛りと癖が強いけど第97管理外世界の地球で「英国語」と呼称されているものに違いない。このぐらいだったら読めそうかな。

「これ、管理局の報告書ですよ」
「マジで? ってことはだよ」

1枚目には対悪性魔法生物部機動八課部隊長のギルバート・デュランダルさんの名前と印があることから推察するに、きっとキラさん達の世界C.E.の公共語なんだろう、この言語は。まだミッド語をマスターしていない二人の為に翻訳されたものを、郵送か何がで届けられたのでしょう。
……なんで紙媒体なんだろ? データ送信だけでよさそうなのに。

「勝手に見ちゃダメ、ですよね」

そう言いつつもどうしてか、内容がとても気になる。
普段なら絶対に見ようとはしないのに、見たくなる。
知りたい。
今日のわたし、変だ。

「いや、見ちゃおう」
「え、セイン?」
「だってコレを持ってきたの、何を隠そうこのセインさんなんだよ。次元港でデュラっさんに御使い頼まれてさ。丁度いいからついでにお願いって封筒を」

946魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/06/19(水) 23:11:38 ID:vsMMJfQAO
「そうだったんだ……」

それなのに、あんなぐしゃぐしゃに丸まってたなんてケシカラン! っとセインが力説したのが最後の一押しとなって、そしてわたしはソレを言い訳にして、わたし達は、その報告書を読むことになりました。


いけないことだと、解っていながら。けど、吸い込まれるように。


「ッ……これって……!?」
「えっ、なになに?」

翻訳に少し苦労しながら読んでみると、そのあまりの内容に、わたしは思わず声を上げてしまった。
そして、震えてしまった。


それは、わたし達がミッドを発ってから少しした頃、ミッド南部のとある学校が反管理局体制の武装集団に占拠されたという事件についての報告書。
つまり、テロについて纏めてあるもの。
幸いにも開校記念日だったので校内は無人だったこと、偶然近くにいた八神家一行が尽力してくれたことで、負傷者もなく無事に犯人達は逮捕。事件発生から1時間で終結したこと。
そして、この集団が斥候部隊であるということが、事細かに書かれていました。


「学校を活動拠点にしようとし……阻止。……本隊召喚用トランスポーターは、全て破壊成功……」

反復しながら読み進めていけば3頁目。現場で撮影されたらしき写真が8割を占めている資料で、わたしは更なる戦慄を覚えた。

「装備が、統一されて……大抵の武装組織は小規模で、装備も寄せ集めであることを鑑みると……」

管理局が押収したものでしょう。管理世界じゃ御法度な、黒光りする質量兵器……アサルトライフルや手榴弾が、数えるのも億劫になる程並べられていた。写真であってもどこか不気味で、悍ましい光景です。
兵器には詳しくないけど、これが意味するものは自然と解ってしまう。

「これ……すっごい力を持った組織ってことだよね、つまり」
「……うん。ママ達から聞いたことあるのを含めても多分、過去最大だと思う」

構成員、資金、能力などが他の組織以上に優れているからこその装備。そう結論付けられていた。
もしこんなのがまともに活動したら……

「……尋問官が獲た情報……組織名は──」

そして報告書の最後に、ソレはありました。


組織名は、何の変哲もない秋の季節花を冠したモノで、ここ最近じゃ聞いたことのないもの。
新興組織らしいです。


もし、もしも本隊到着がもっと早かったら……大変なことになっていたのは明白です。これは今後、わたし達も注意しないといけません。
わたし達が知らないところで、こんな事件が起きていたなんて……

「これが、キラさん達がこうなった原因……?」
「……いや、どうだろうな」

けど、最終的に行きつく疑問は、やはりソコでした。
確かに大変な事なのは間違いない。既に管理局も警戒レベルを上げているでしょう。
でも、だからといってこの二人がこんな状態になる理由になるとは思えません。何か見落としているか、それとも全く見当違いだったのか。
結局、それは分からずじまいで。

「ヴィヴィオ。これは一旦忘れよう」
「セイン?」
「あたしのせいだけどさ、そんな精神状態じゃ戦えないだろ?」
「……うん。ありがとう」

その言葉は、二人に対するセインの信頼でした。同時に、わたしに対する心遣いでもあって。

947魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/06/19(水) 23:12:11 ID:vsMMJfQAO
気にしても分からないものはしょうがない、あの二人ならきっと大丈夫だから、今は忘れてた方がいい──ってメッセージ。彼女の瞳には、大人に任せておけという意思が顕れていた。
たしかに、そうです。
せっかくの試合なのに、他の事に気をとられていたら失礼というもの。わたしはピシャリと両頬を叩いて、気合いを入れ直しました。
痛いけど、代わりになんか目が醒めた感じです。

「よし、大丈夫。わたしやれるよセイン」
「ああ。いや本当に悪かったよ……、……よし! 改めてごはん作るぞー!」
「おー!」

さっきまでのシリアスな雰囲気を吹き飛ばすような晴れやかな笑顔で、わたし達は右手を振り上げたのでした。
今はできること、やれることに集中するのみなのだと。


けど、それでも。あの報告書がもたらした正体不明の予感と、それに伴う悪寒は、間違いなく本物で。
間違いなく、わたしの背後にナニかを突き立てていったのでした。


試合開始まで、あと3時間。




──────続く

948凡人な魔導師:2013/06/19(水) 23:16:22 ID:vsMMJfQAO
以上です今回は。
もう少ししたらこの改訂作業も終了し、ようやく話を進めることができます

949名無しの魔導師:2013/06/21(金) 02:20:07 ID:PCvZTj4wO
GJです!

950名無しの魔導師:2013/06/21(金) 09:23:48 ID:tm2.SFooO
これは僕らの盟主王が出てくる日も近いな

スレ立ててきます

951名無しの魔導師:2013/06/21(金) 10:17:59 ID:GM93O2Ec0
スレ立て乙、次の職人さんが使い切るまでここを使おう

952Louis Vuittonマルチ:2013/07/24(水) 18:54:06 ID:/Dd7Aai.0
Some people Often Laugh at japan - But These Days I laugh at them Louis Vuittonマルチ http://www.bagseeru.biz/ルイ-ヴィトンlv-japan-99.html

953名無しの魔導師:2013/08/04(日) 11:47:28 ID:H04hQomc0
本日12:00にゲリラ投下宜しいでしょうか?

954名無しの魔導師:2013/08/04(日) 12:00:27 ID:H04hQomc0
では、失礼します。

955名無しの魔導師:2013/08/04(日) 12:01:41 ID:H04hQomc0
――さよなら。と、その言葉を残して消えてしまった少年。


――自らを犠牲にしてまで、少女の幸せを望んだ少年。


舞台の上から消えていった二人の少年は、元の場所へと還っていった。


歩むべき道を進み、違えていた道はやがて一つの道へと繋がった。


そして、残された少女達は少年達を待ち続ける。


いつか、必ず出逢える日が来ると信じて――――。





――宇宙、アークエンジェル。

「キラ!」

 自身名前を呼ばれ、少年は振り返る。
 そこには名前を呼んだ少女が―ラクス・クラインが不安な表情を浮かべていた。

「ラクス……」

 名前を呼ばれた少年、キラ・ヤマトは振り返り彼女の名前を呼ぶ。
 無重力空間の通路で彼女が近づき、懐から何かを取り出した。

「これを……」

 そういって差し出してきたのは、一つの指輪。
 それは以前、彼女が話してくれた母親との思い出の指輪。
 それを受け取り、微笑みを返す。

「ありがとう」

 これが、きっと最後の戦いになる。それを彼女も理解していたのだろう、
 だからこそ大事な母との思い出の品を渡したのだろう。
 そんな彼女の想いが本当に嬉しかった。

「それから、これを……」

 ラクスが自分のポケットの中から何かを握りしめ、キラのもう片方の手に"それ"を乗せた。

「……これは?」


それは、一本の"鍵"だった。

956名無しの魔導師:2013/08/04(日) 12:02:24 ID:H04hQomc0
「あなたが怪我をした時に唯一持っていたものだそうです、今の今まで返すことが出来ませんでした……ごめんなさい」
「僕が……?」

 でも、こんな鍵に見覚えはない。
 記憶の中を捜してもこんな鍵に心当たりはないのに――その鍵を見れば見るほどに、

 心が締め付けられるように、痛みを感じていた。

「キラ……!?」
「あ、れ……」

 自然とキラの瞳から流れ落ちる一滴の涙。

「な、何で、僕……」

 両の瞳からこぼれ落ちる雫が頬を伝う。
 手で拭うが、その涙は止まらない。

「……その鍵は、あなたにとってとても大切なものなのですね」
「……そう、なのかな……」

 手の平の鍵を握り締め、堪えるように気持ちを抑える。
 心が落ち着いていくと同時に、涙も止まっていく。

「……今でもあなたは諦めないのですね」
「え?」

 諦めない。
 それは、僕の心の奥底に刻まれたコトバ。


『――――――諦めないで』


 一体誰の言葉だったのか。
 こんなにもはっきりと言葉を覚えているのに、誰の言葉だったのかを思い出せない。
 とらえどころのない雲を掴むような感覚。


「覚えていらっしゃいますか、以前、私の家でおっしゃったこと」


 ――何も出来ないって言って、何もしなかったら、もっと何も出来ない。
   何も変わらない――何も終わらないから。それに、諦めたく、ないんだ……


 覚えている。
 忘れるはずもない、その言葉を発したのは他でもない僕自身なのだから。
 そして、その言葉で僕はここまで来たのだから。


「ついに、ここまで来ましたね……」
「……うん」
「還って来て、下さいね」
「え?」
「私の元へ……」

 表情を変えずに首を縦に振り、前を向く。

「キラ!」
「ラクスも、気をつけて……」

 そういって笑顔を浮かべ、振り返ること無く前へ。
 不屈の心を胸に抱き――少年は戦場へと赴く。

957名無しの魔導師:2013/08/04(日) 12:02:56 ID:H04hQomc0
「出るって、ストライクルージュ?」

 キラ達と別れた後通路でカガリから告げられた突然の出撃。
 さらっと大事な事を言うだけ言ってその場から立ち去ろうとする彼女の腕をアスランは掴む。

「なんだよ、モビルスーツの訓練は受けている。アストレイの連中よりも腕は上だぞ」
「いや、けど……」

 だからといって今から出撃するのは訓練場ではなく戦場――それもかつてない程の大規模の。
 そんな所にいきなり出撃させるなんて無謀すぎる。

「出来る事、望む事、すべき事、みんな同じだろ? アスランも、キラも、ラクスも、私もさ」
「カガリ……」

 けれどそんな杞憂を吹き飛ばす程の意志が今の言葉に詰まっていた。
 ここにいる少女も、軽い気持ちで戦場に赴くわけではないのだと。

「戦場をかけても駄目な事もある、だが今は必要だろ?それが。
 ……そんな顔するな、私よりお前の方が全然危なっかしいぞ?」
「えぇ?」
「死なせないから、お前……」
「カガリ……」


――あなたは、あなたの為に生きてください――アスラン。


 不意に脳裏に再生される言葉。
 それは誰の言葉だったのか、何度記憶を模索しても思い出せない。
 だけど、その言葉は確かにアスランの心に深く刻まれていた。

「……死なないさ」

 そう言葉にしたアスランの表情は穏やかだった。
 それを見たカガリもほっと胸を撫で下ろしたように微笑む。

「……なんか、変わったなお前」
「そうか?」
「ああ、前よりもずっといい」
「前って、俺は一体どんなだったんだ?」
「なんか、後ろ向きな奴かな」
「なんだそれ……」

 他愛のない、些細な会話。
 こんな平和な時間がずっと続けばいいのに、と誰もが願っている筈なのに、
 自分達が今から赴くのは、そんな平和とは相対的な戦場。
 だが、少しでも早くこの戦争を終わらせる為に、と
 そう願って皆が戦場へと行くのだから

「……行くか」
「ああ」

 だから、彼も迷わず歩み続ける。
 大事なものを護る為に、戦うと決めたのだから――。

958名無しの魔導師:2013/08/04(日) 12:05:03 ID:H04hQomc0
――――いつからだろうか


――――人と人が争い合うようになってしまったのは


――――否


――――人が人である以上、それは避けられぬ道ということか


――――ああ、今もまた一つ、また一つ


――――生命の息吹が、消えていく


「へへ……やっぱ俺って、不可能を可能に」


「撃てぇっ!!マリュー・ラミアスゥッ!!!」


「護るから……本当の私の想いが、あなたを護るから……」



――――ジェネシス内部


「……内部でジャスティスを核爆発させる」
「えぇっ!!?」

 ヤキン・ドゥーエ内部での父の死、そして自爆シークエンスとジェネシス発射の連動。
 コンソールを動かしても解除できなかったアスランの選択は、これしかなかった。
 ジェネシスを破壊するにしても、これほど大規模な構造物を破壊するのは容易いことではない。
 ましてやフェイズシフトの装甲、加えてラミネート装甲のように防御は鉄壁。
 例えフリーダムとジャスティスがミーティアを用いても発射までには破壊は不可能であろう。
 だがアスランの機体、ZGMF-X09A――ジャスティスにはニュートロンジャマーキャンセラーが搭載されている。
 通常の機体の自爆程度では意味が無くとも、内部からの核爆発なら――と
 短期的、且つ効率良い手段を選択せざるを得ない状況。
 それを言葉にしたら、隣の機体――ストライクルージュに乗っているカガリが驚愕の声を上げる。

「そんな事をしたらお前は……!」
「それしか方法はない!お前は戻れ!!」
「アスランッ!!」
「ダメだっ!!」

 口で言っても自分を止めようとするだろう、そう考えたアスランは先に動く。
 ジャスティスの背面の大型リフター――ファトゥム-00をパージし、ストライクルージュへとぶつける。

「アストレイ隊、カガリを頼む!!」
「アスランッ!!アスラァーーーーーーン!!!!」

 ペダルを踏み込み、スラスターを加速させジャスティスはジェネシス内部へと進んでいく。
 それをただ見ていることしかできないカガリの咆哮がコクピット内へと響く。

「カガリ様!!ここはもう危険です!!」
「早くここから離脱しないと!!」
「でもっ!アイツが!!」
「彼の意志を無駄になさるおつもりですか!!」
「うっ……くっ……」

 嗚咽が混じり涙がヘルメットへと零れ落ちる。
 ここから離れたくないという本能と離れなければという建前の心の葛藤。
 しかし、それを選ぶ暇もなくアストレイ隊はルージュを引き連れて行く。

「アス、ラン…………」

 呟いた声は、誰にも届かない――――。

959名無しの魔導師:2013/08/04(日) 12:07:46 ID:H04hQomc0
――――ジェネシス砲台前方


「それだけの業!重ねてきたのは誰だ!!」

 誰、そんな事言われるまでもない。
 人、人類の重ねてきた歴史の一つ一つの積み重ねである事。
 今この瞬間。それを作り上げてきたのは間違いなく、人だ。

「君とてその一つだろうが!!」

 人類の夢、人の未来。
 そんな大層な名目の上に作り上げられたコーディネイター。
 人の進化の先の答え。
 追求し続けた結末こそが、この戦争だと。
 ならば人が存在し続ける以上、争いはなくならない。
 ナチュラルとコーディネイター。
 同じ人間であるのにも関わらず、互いを異種と差別し、
 ここまで、きてしまった。
 
「……それでも!!」

 いつか、やがていつかはという甘い言葉の毒だとしても、
 憎しみと悲劇の連鎖は、ここで断ち切らなければならない。
 己の運命を嘆き、人の闇に飲まれたこの人を止めるのは、
 ――――同じ運命の一つである、僕の役目だ。と


「――護りたい世界があるんだ!!」


 ペダルを踏む足とグリップを握る手に力を込め、フリーダムはプロヴィデンスへと突き進む。
 無数のドラグーンから放たれるビームの雨。
 だが、それでもキラは力を緩めない。
 その心には決意が宿っていた。
 もう、誰も殺したくないと決めていたはずなのに、また手を汚すことを。
 大事な人を殺されたから。その憎悪がないとは言わない。
 だけど、それだけではない。
 今ここでこの人を討たないと、また新たなる連鎖が生まれる。
 そうなったら、また多くの悲劇と悲しみが世界を覆う。
 だったら、その業を背負うのは――僕だけでいい。
 人の可能性を、これからの未来を――諦めたくはない。

「ああああああああっ!!!!」


 だから僕は、もう一度人を殺す。


 フリーダムのビームサーベルが、プロヴィデンスのコクピットを貫く。
 静止する2つのモビルスーツ、 それは同時に戦いの終焉を意味していたように
 宇宙にも一瞬の静寂があったようにも感じられる。

(……これで、ようやく……)終わる、と思った瞬間。


 ――――眼前のジェネシスが輝きを増していた。

960名無しの魔導師:2013/08/04(日) 12:12:15 ID:H04hQomc0
――――ジェネシス内部


 スラスターを減速し、中央部へと辿り着くジャスティス。
 左側のテンキーを入力し眼前に現れるカウントダウンのディスプレイ。

「……これで、いいんだよな」

 それは一体誰に向けられた言葉なのだろうか。
 ふと漏れた言葉に自問自答を投げかけるアスランを尻目にカウントは進む。
 もうこれしかないと決断したのは自分だ。
 選択した事に迷いは無かった――筈なのに、

 身体は、震えていた。

「死ぬ、のか……」

 言葉にすることでより一層現実味を増していく。
 そして脳裏に蘇るあの言葉――


――あなたは、あなたの為に生きてください――アスラン。


「……すまない」

 言葉をくれた誰かに向ける謝罪の返答。
 正面のディスプレイを見ると命が尽きるまであと残り僅か、
 結局、誰が言ってくれたのかアスランは思い出せずにいた。
 死んでいった母、友、父……だったのだろうか。
 だが、それを確認することはもうできない。
 死人に口無、そして自分もそれの仲間入りなのだから。
 目を閉じると、思い返される過去の走馬灯。
 そして、ディスプレイのカウントダウンがゼロになった


 ――――――――刹那。


――あなたは、あなたの為に生きて。と私は申し上げましたよ


――アスラン。


 あの声が、もう一度聞こえた。

 それと同時に――ジャスティスの自爆プログラムが発動した。

961名無しの魔導師:2013/08/04(日) 12:14:54 ID:H04hQomc0
――――ジェネシス砲台前方


 輝きを増すジェネシスから距離を取ろうとペダルを踏み込み、
 スラスターを加速させるフリーダム。
 だが、灼熱の光源に包まれた機体は徐々にその原型を崩していく。
 加速の勢いも衰え、逃げ切れないとキラは本能的に悟り始めていた。

「……ここまで、か」

 思わず漏れた言葉。
 それは諦めを意味する本音。
 だが、不思議と心は落ち着いていた。
 多分、この時を持って戦争は終わるだろう。
 ラウ・ル・クルーゼは僕がこの手で討った。
 後方に起こる爆発、先に砕け散ったプロヴィデンスの爆破だろう。
 もうすぐ自分もそうなる、でも


「……嫌だ」


 死にたくない。

 こんなところで死にたくない。


 だってまだ僕は、


 "約束"を護っていない。


 あの子との、約束を。


「――帰るって、約束したんだ!!」


 それは誰との約束だったのか。
 あの子とは誰だったのか。
 今のキラの口から出た言葉に、返答出来る者はいない。
 だが、彼は覚えていた。
 約束を。


――――異世界で交わした少女との、たった一つの約束を。


 だが、そんな彼の思いを裏切るように――機体は光に包まれていった。



 ――終戦後。


 全軍が尽力し捜索しても、

 キラ・ヤマトのフリーダムとアスラン・ザラのジャスティスは

 パイロット、機体と共に見つかる事は無かった――。

962名無しの魔導師:2013/08/04(日) 12:16:15 ID:H04hQomc0
以上で、投下完了です。

久しぶりの拙い文章での投下、お許し下さい。

963名無しの魔導師:2013/08/05(月) 00:05:53 ID:7hMi2fMIO
GJ、以前ここに投下していた方? 短いながらも見入ってしまいました。

964sage:2013/08/05(月) 03:50:38 ID:Z4RgYulcO
ホント乙でGJです。これは続きがあると思っていいのかしら?

キラの「鍵」は高町家の合鍵だと予想妄想

965凡人な魔導師:2013/08/13(火) 20:12:14 ID:uN0lkduIO
こんばんは。
次回の投下ですが、私用の関係で9月以降となってしまうかもしれません。すいません


>>962
乙です。
こ、これで拙い文章とか言われたら僕の立つ瀬が…

966UGG ブーツ- アグ -【MENS OLSEN】メンズ ムートンモカシン★★:2013/11/04(月) 07:00:09 ID:rNSaK9.Q0
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968凡人な魔導師:2013/12/18(水) 21:26:40 ID:NIkK08KcO
月末に投下できる……かもしれません

969凡人な魔導師:2013/12/18(水) 21:28:37 ID:NIkK08KcO
月末に投下……できるかもしれません

970凡人な魔導師:2013/12/31(火) 23:13:12 ID:7P9/h/SsO
なんとか年内に間に合いました。これから投下します

971魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/12/31(火) 23:15:43 ID:7P9/h/SsO

押し倒されたのは、僕だった。


一瞬の間隙をつかれ、成す術なく身体の自由を奪われ、押し倒された。
華奢な見た目に似合わない握力で、僕の両腕を。乱れたシャツからチラリと覗く新雪のように白い大腿で、僕の腹を。
見開かれた紅の瞳で、瑞々しい唇で、ただただ熱い吐息で、僕の思考を拘束する。

「フェイ、ト」

未だ太陽の昇らないカルナージの早朝、ホテル・アルピーノの談話室、ふわふわカーペットの上。
押し倒し、覆い被さられている二人は、互いに半裸のまま赤ら顔で見つめ合ってキッカリ5秒。そこでようやく僕の脳が、止まってた時間を少しづつ、ギギギと音を立てながらも再起動してくれた。…………わかったことは、この状況は、僕にとってはちっとも嬉しくないということだった。

「…………」

だってね、僕を押し倒している人物ってばね、シン・アスカ21歳なんだからね。

「…………」

うん、事故なんだ。これは。
僕の名誉の為にも彼の名誉の為にも言うけど、これは事故なんだ。
ただちょっと、昨夜は談話室で酒盛りして寝落ちしちゃって、それでまぁ朝が来たもんだから二人して酔っぱらったまま着替えようとして、それでシンが足を縺れさせて僕を巻き添えにした。それだけなんだ。たったそれだけのこと、不幸な事故。
これは特段問題じゃない。
だから本当は、何事もなかったかのように着替えを続行できたはずなんだ。
それができなかったのは、僕とシンが状況に対して固まってしまったのは一重に、問題があるからだ。

「…………」
「…………」
「…………」


問題は。
この状態を、ちょうど通りかかったフェイト・T・ハラオウン23歳に絶賛目撃されちゃってるってことだよ。


これは誤解されるね? なんていうか、かつての銀髪オカッパみたいに同性愛者疑惑をウワサされちゃうパターンだよね?
なんたって半裸で赤ら顔な男二人が、人気のない場所で絡み合ってるんだよ? 端から見れば、マジでキスする五秒前って感じなんだよ?
いかんでしょ。
昨夜の酒盛りの原因であるところの、ブルーコスモスの復活とか、ラクスの本当の死因とか、そういうのよりずっと現実的で危機的なピンチ。窮地に立つ僕達。
あんまりな状況にフェイト含む三人は硬直し、空気が凍り、時間が永遠になったかのように錯覚する。──……えぇい、今のうちに考えるんだ。むしろチャンスは今しかない、誤解をとく術を考える時間は。……いや、そもそもフェイトが誤解するとは限らないじゃないか。僕達の関係も好みも知ってるし、そうだ、こんなことを考えること自体がフェイトに対して失礼じゃないか──

「あの、えーっと……」
「!」
「!」

──しかし、そんな楽観的で甘々な思考は、不細工な飴細工のように容易く粉々に打ち砕された。
だって頭の回転も足も速い高機動型魔導師なフェイトさんはよりにもよって、もじもじしながら、頬を少し赤らめながら、

「お、お邪魔しましたーーーー!!」
「まってフェイト!?」
「どういうつもりだそれはぁーー!!?」

なんてことを宣って、全力で走り去ってしまったのだから。
後悔先に立たず、後の祭り。
命を燃やす時がきた。




『第十四話 試合開始!』




[で結局、今の今まで説得してたんですかフェイトを?]
「うん。……ぁいや、誤解はすぐ解けたんだけどさ、精神的にクルものあるよ……」

972魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/12/31(火) 23:17:05 ID:7P9/h/SsO
[あはは、御愁傷様です]

異世界旅行兼訓練合宿会2日目の朝、陸戦試合開始まであと1時間といったところ。それは朝食を終えた頃で、無事にフェイトと和解して少しした頃でもあって。
自分達の運の無さを嘆く僕は、宿泊ロッジ二階のテラスで、木製ベンチに座って遥か彼方の異次元ミッドチルダにいるユーノと通信中だった。
ミッドはだいたい14時ぐらいかな。少し遅めのお昼ごはんを食べたばかりだというユーノの、妙に哀愁を醸し出している顔が随分と印象的だ。ど、同情なんていらないんだからっ。

[……司書長、そろそろ]
[ああわかった──っと、シュテルそれはこっちのだから。……じゃあ、僕は仕事に戻りますので]
「うん。クロノとレジアスさんにも宜しく。……データの方も」
[わかってます。8時間後に、また]
「じゃあね」

お互いにグッと親指を立てながら通信終了。後でまた連絡する算段をつけて、男同士の友情を確認して、僕は通信モニターを閉じた。
……無限書庫、今日はT-5969-35区画を探索予定だったな。シュテルがいれば心配はいらないけど、流石に負担が大きいか。一応こうして僕が休んでる分は後日休んでもらうケド、それはそれで別でちゃんとフォローした方がいいよね。

「さてと……」

それもそれで別として。
グイっと伸びをしながら、遠方に広がる霧の海を眺めながら、頭を切り換える。確認する。
やることはいつだって沢山。とりあえずはユーノの報告待ちだけど、こっちはこっちでレポート作っとかないといけない。うまくレジアス・ゲイズ二等陸佐も動けてればいいけど……そっちは望み薄か?
それならアレをこーして、あーして、なら接触してみるのも悪くない。でもそれは時期尚早だ。
うーん、よし。だったら今日のスケジュールはこうだ。完璧。

「キラ」
「フェイト。なのは、どうだって?」

そうした結論に至った直後に、ついさっきまで一人の人間としての名誉を賭けたデットヒートを繰り広げてた仲であるところのフェイトが、テラスにやってきた。
今日は随分色々とタイミングがいいなぁ彼女。ひょっとして狙ってたりするのかな。いやまさか。

「大丈夫だって、なのは。勿論ヴィヴィオも私も歓迎だ。部屋だって余ってるし」
「設計したのはフェイトだったっけ」
「土地が空いてたから欲張ってみたのが良かったね」

平常運転そのものの微笑でフェイトは言いながら、さも当たり前といった風情で僕の隣に腰掛けた。その時ふわっと舞った、朝の陽光を受けてキラキラ輝く黄金の長髪になんとなく、僕はくすぐったい気分になる。
今朝はお互い散々で不格好な鬼ごっこをしたクセに、今はもう素知らぬ顔で世間話に興じてる。もっと若かったらきっと二人とも、相手の顔も直視できなかったろうに。
そう思いながら僕は無意識に、今まさに僕とフェイトの話題の中心人物となっている少女を、カルナージの霧の中に求めていた。

「……なら、あとは当人同士の話し合いになりそう? なんか丸投げっぽくなってゴメンね」
「ううん。最初はちょっと驚いたけど、頼ってくれて嬉しかったから」

ホテル・アルピーノの正面に広がる平原には今、この合宿の参加者全員が──僕とフェイトを除く──集っている。皆一様にトレーニングウェアで、各々準備運動をしていたり、作戦を確認してたり、楽しそうに雑談してたり。それもこれも、これから始まるチームバトルに備えるためだ。
そこに僕の探す少女、アインハルト・ストラトスがいた。シンとヴィヴィオちゃんと何かを話しているみたい。

「ならいいんだけど」

973魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/12/31(火) 23:19:08 ID:7P9/h/SsO
「あの娘のことは、私達に任せて。きっと大丈夫だから」
「うん。僕もシンも色々、手伝えることがあればやるよ」

今日の僕のスケジュール。その自由時間には、昨夜の温泉で思いついた、アインハルトちゃん高町家下宿計画の立案実行も含まれている。


◇◇◇


ちょっと強引かなとは思うけどね。
年頃で多感な時期の子どもが家に一人というのはやっぱり、ダメだと思うから。だから、ソレを知ってる人間が側にいるのが、僕は良いと思うんだ。
僕にはやっぱり、【守りたい】という想いがあるからね。

その考えに従えば、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンが適任だということは、必然といってもいいんじゃないかな。

今この無人世界カルナージにいる者の9割が、家族との問題を抱える、または抱えていた人間なのだという。出自が特殊だとか、家族の誰かがいないとか、天涯孤独だとか、深い確執があったとか。少なくともここにいる大人は全員そういったものを経験しているんだって。
その中でも僕は、なのはとフェイトの二人は、肉親に振り向いてもらえない哀しさと淋しさを特に強く体験した人間だと思ってる。体験し理解していると確信している。


だってそれは、今の彼女たちの行動原理の一柱だから。


伊達に2ヵ月以上もなのはとフェイトと共に過ごしてはいないよ。なのはに魔法を、フェイトに法務を教えてもらって、ヴィヴィオちゃんの格闘技の練習に付き合っていれば解る。
哀しさと淋しさと弱さを知っているから、彼女らはかくも強く美しい。僕はそれを知っている。


そんな人間ならば。


古代ベルカに名を馳せた覇王家の末裔、『覇王イングヴァルト』の直系子孫であり、その記憶を断片として有しているアインハルト・ストラトスという人間。真正古流ベルカ格闘武術覇王流の後継者として、哀しさと淋しさと弱さに直面しながらも真っ直ぐに【強さ】を求める少女を、受け止められると思ったんだ。
彼女の望み、覇王流の強さの証明。【覇王がどの古代ベルカの王達よりも強いことを証明したい】という悲願に、正しく向き合えて手伝えるとも思うしね。
その上で、少女の少女たる部分を引き出してくれるんじゃないかって期待もある。闘い以外の道もあるんだよって。
そして今、彼女の中には【強くなりたい】という願いの他にもう一つ、【ありのままの自分を受けとめてくれるヴィヴィオと共に】という欲求があることも、僕は教えてもらった。

これらを総合して僕は、少女は高町家にいるのが一番良いと判断した。

これが【守る】というものだ。なにも外敵と戦うことだけが守るということじゃない。ミッドチルダ次元航空武装隊所属、デュランダル率いる対悪性魔法生物部機動八課は手段の一つにすぎない。
守るというのは、誰かの望む未来の為に、よかれと思う道の為にサポートをし、時に選択肢を与え、フォローすることだ。これが僕のよかれと思う道なんだから。


だからこうした事情を、ちょっと強引っぽいけど今朝の騒動の後にフェイトを通じて、高町家家主たるなのはに提案してみた。四人で会議もしてみた。そして今、なのはからOKを貰えたわけなのだった。
高町家はみんな凄いなぁ。


◇◇◇


≪ストライクフリーダム、戦闘ステータスで起動完了。システム‐オールグリーン。クロスミラージュとのリンク良好≫
「うん。……ティアナ、見えてる?」

974魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/12/31(火) 23:21:49 ID:7P9/h/SsO
「ええ、バッチリよ。レーダー、センサー共に感度良好。向こう側までハッキリ見えるわ」

僕が所属する、ティアナ率いる赤組のミーティングが終わって、僕はティアナとチームの頭としての最終確認をしている傍ら、心は別の方向に向いていた。
仕方ないじゃない?
だってさ、ミーティングの真っ最中から、もんの凄く身体を顔をカチコチに固めていく女性を見つけたら、ねぇ? 碧銀の長髪と光彩異色の瞳が特徴的な『女性』。つまりは大人モードに変身したアインハルトちゃんなんだけど。赤組の前衛は絶賛緊張中で、戦闘開始時間が迫るにつれて酷くなっていくんだよ。
あんなんじゃおちおち、昨夜なのは達に診てもらったOSの最終チェックもできやしない。
中学1年生の小柄でスレンダーな身体を魔法で18歳ぐらいなスラッとしたナイスバディにしたとしても、かっこよさが3割増になったとしても、中身が変わってないというのはちょっとした安心感を覚たけどね。

(身体は変わっても心は、か)

アインハルトちゃんをああまで緊張をさせた理由は多分、彼女の今までの経験そのものだから。あえて悪い言い方をすれば、閉じた世界ばかりに生きてたから。井の中の蛙っていうか。
それでいきなり、管理局有数の実力者が集った戦場に赴くとなると。彼女が心から望んでいた真の強者との大規模な戦闘、7対7のチームバトルに参加するとなると。

その緊張はいかほどのものか。

(こんな時に、僕もああできればいいんだけど)

そんな緊張しまくりのガチガチ少女のフォローを買って出たのが、同じく赤組の前衛を任された赤髪金瞳のノーヴェ・ナカジマさん。今や青組所属のスバルの妹分であるところの、頼れる姉御肌なアタッカー。
そもそも、アインハルトちゃんをここのメンバーに、ヴィヴィオちゃんに引き合わせたのがノーヴェさんなんだよね。その自負があるのか、彼女は誰よりも少女に気をかけてる。少女も一番頼りにしてるのが彼女だしね。

「大丈夫でしょうか、そんな我儘。それに……」
「あたしも前衛にいるんだ。心配するなアインハルト。バックアップはしっかりいるし、問題ねーからよ」
「ノーヴェさん……」
「まずはやりたいようにやってみろって。ティアナの指示に支障をきたさない程度なら誰も咎めたりしねー」
「……はい。わかりました」

ようやく、アインハルトちゃんの緊張が抜けたようだ。
うーん、流石。アインハルトちゃんの無駄な固さが抜けて、戦闘者としての自然体に移行していく。僕なんかじゃこうはいかない。
ノーヴェさんの「してやったり」なウインクに、僕は頭を軽く下げて応えた。

「……一件落着のようね」
「うん。ってか、やっぱティアナもだったんだ」
「当たり前じゃないの。さ、調整はこんなところかしら?」
「あぁ待って。最後にここ少し弄るから……」

赤組のコンディションが整えられていく。フェイトは言わずもがな、キャロちゃんもコロナちゃんも問題ないようだ。

そんなこんなで、着々と戦闘開始時間が迫ってくるのだった。


◇◇◇


[準備はいいかい皆の衆!]
[悔いは無いよう頑張って♪]
[じゃあ張り切っていってみよう!!]
[戦闘、開始〜〜!!!]

そんなこんなで遂に。
ゴワ〜〜ン!! って銅鑼の盛大な音と、実況解説役のセインさんとメガーヌ・アルピーノさんのちょっとユルい声と共に、戦いの火蓋が切って落とされた。

975魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/12/31(火) 23:24:04 ID:7P9/h/SsO
この合宿最大のイベントが始まる。

「エアッ、ライナー!!」

真っ先にノーヴェさんが先天固有技能『エア‐ライナー』を発動。展開された魔法陣状テンプレートから幾帯のも黄色い『道』が飛び出し、バトルフィールドを飾っていく。リボンのようなそれは、機動補助用の魔法だ。
同時にストライクフリーダムのセンサーが遠方に同種の魔力反応を捉える。やはりスバルの『ウイング‐ロード』で、流石は姉妹。やる事は同じだ。

「GOッ!」
「よし、行こう」
「遅れんなよ!」
「はいっ!! ……コロナさん、リオさんの相手をお願いしても?」
「はい。お任せくださいッ!」

空を飛べない陸戦魔導師は『エア‐ライナー』や『ウイング‐ロード』を足掛かりに、赤組は全員全力前進。エリア中央の確保に急ぐ。
デバイス・ストライクフリーダムを駈る僕も遅れず、ハイマット・モードで蒼空を蹴飛ばした。


さて、ここで確認しておこう。


これは、赤組と青組に分かれた、7対7のライフポイント制チームバトル。
バトルフィールドは一辺50kmの正方形で、西部劇をイメージしたのか二階建てレンガ造りの建造物が敷き詰められている。つまり魔導師の戦場としては広めで、障害物だらけということ。赤組は東側端から、青組は西側端からスタートする。
そして、フィールド中央部には三十階相当の建造物が、一種の要塞のように乱立している。隠れるもよし、盾にするもよしとデザインされたビル群だね。だからこのステージでは先に中央を制し、拠点にした方が有利になる。隠れる場所はある方がいい。
だからこそのスタートダッシュ。

(ここで一気に差をつける!)

敵である青組──シン、ヴィヴィオ、なのは、スバル、エリオ、ルーテシア、リオ──は総合的に、攻撃と防御には優れるけど、速度が厄介なタイプは少ない。赤組はその逆だ。

“フェイト!”
“うん。直射砲に気をつけて”
“わかってる……後衛のシンが不気味だ。そっちにも注意しないと”

フェイトと念話で通信、飛翔速度を上げる。足で走る赤組のみんな──アインハルト、ノーヴェ、ティアナ、キャロ、コロナ──を追い越し、とりあえず亜音速。一躍ツートップへ。
赤組も青組も拠点が欲しいのが解ってるからこそ、こっちはあえて素直に取りにいって、アドバンテージをチラつかせて、出方を診る。こっちに中央を制圧されないように青組も抵抗するだろうから、少しでも赤組の足を乱そうとする筈だ。
何が来る? なのはの『ディバイン‐バスター』か。シンの『ケロベロス』か。ただ高速で直進するだけの今の僕とフェイトは、あの二人からすれば狙い易い的でしかない。
誰が誰にどんな魔法を使ってくるのか、或いは使わないのか。それでおのずと青組の戦略が見えてくる。これはお互いの司令官による駆け引き。
さぁ、僕を狙ってこい!

「きた……!」
≪警報。前方に大規模魔法陣の展開を確認……魔力反応多数。識別中≫

遥か遠くでチカリと、光が瞬いた。この距離でも判る。間違いなくこのプレッシャー、なのはの砲撃。その感覚を補正するように、ストライクフリーダムとリンクしたティアナのデバイス・クロスミラージュが電子音声を奏でた。

「この反応は……」
「なのはさんね! よし、散開してシフトEに──」
≪識別、ストレイト‐バスター・クラスターモードと断定。着弾まで73。
続けて第二波、第三波の発射を確認。ストレイト‐バスター・クラスターモード、着弾まで81及び96≫

976魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/12/31(火) 23:25:03 ID:7P9/h/SsO
「──ぃ!?」
「……嘘、でしょ!?」

奏でられたものは、レクイエムと言っても過言じゃなかったのは、どういうことなんだろうね?


『ストレイト‐バスター・クラスターモード』。


なのはが保有する高威力の誘導制御型砲撃『エクセリオン‐バスター』を応用し、反応炸裂効果を更に高めた『ストレイト‐バスター』のバリエーション、拡散性反応炸裂型超長距離空間爆撃用砲撃。
広域空間の殲滅を目的とした高威力高性能の高位魔法だ。確かに対複数に有効な魔法だけど──ありえない!
戦略的価値から言えば、あの『スターライト‐ブレイカー』に匹敵するモノ。いくらなんでも消費魔力が大きすぎる筈。必殺技にも等しいそれをいきなり三連発なんて、なのはらしくない。

≪数53、着弾まで55≫
「考えてる時間はない……ティアナ!」
「なに!」
「予想外だけど、想定内な筈だ。ここは僕が抑える。みんなは魔力を温存して」
「……わかった。任せるわ」

出方を診たらまさかこんなのとは。向こうの思惑としては、こっちの足を完全に止めたいといったところでしょ。わかったところで迎撃しないと一網打尽にされるんだから、まんまと引っ掛かった形になる。

(でも、なのはは大丈夫なのか? まさか使い捨てになるワケじゃないよね)

あの魔力反応は、莫大な魔力保有量を誇る彼女でも、凄い負担になる筈だけど……
とにかくここは第二のリンカーコアとも呼ばれる、魔力を回復できるハイパーデュートリオンを所持してる僕の出番だ。キツいけど、みんなが各々に迎撃したらすぐに息切れになってしまうかもしれないから。

「よし……フリーダム、バースト・モードにシフト。魔力資質は同時平行運用で続行。マルチロック‐エイム展開」
≪展開。ターゲットマルチロック。ルプス‐ライフル、ピクウス、クスィフィアス、バラエーナ、カリドゥスを速射優先で展開……完了≫

着弾まで37。目視可能距離。
恐るべきスピードで迫る鮮やかな桜色の炸裂弾を視認。両手のライフル、両腰、両肩、腹部に蒼の環状魔法陣を展開する。
脚を大地に預けて、距離再算出。
此方の射程と、予測される炸裂弾の攻撃範囲から計算した迎撃に最適な距離を探索、連鎖反応による爆破も視野に入れて設定。慎重に高速にロックしていく。
同時に後方を視て、赤組全員が僕の影に隠れている事を確認した。
あとはトリガーを引くだけ。

「フルブラスト‐シュトゥルム……いけぇッ!」
≪斉射≫

発射、斉射、連射、乱射。
機動力と防御力を捨てて砲撃能力に特化したバースト・モードでの面制圧射撃。
九つの魔法陣から発射された五種類の蒼い弾丸は、穹を穿ち、寸分違わず桜色の弾丸に吸い込まれていって、

天が蒼と桜に染め上げられた。

「……次!」

迎撃成功。
命中弾は全て相殺し、そうでないものは虚しく周辺の建物を破壊するに留まるはずだ。
ちなみにこの『フルブラスト‐シュトゥルム』ってのは、シャンテちゃんが命名した魔法だ。やってる事はただの一斉射なんだけど。ついでに一斉射による一点制圧は『フルブラスト‐ファランクス』っていう。

≪第四波の発射を確認≫
「なんでそんなに魔力が持つんだ!?」

マズイな。さっきの『フルブラスト‐シュトゥルム』で消費した魔力量。僕の保有魔力量。ハイパーデュートリオンの回復速度。なのはの波状攻撃。
もし。
もしも、このまま状況が変わらなかったら。なのはの魔力に余裕がまだあって、このままどんどん砲撃してくるつもりなのなら。

977魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/12/31(火) 23:26:34 ID:7P9/h/SsO
第六波で、僕の魔力が尽きる。

≪報告。接近するユニット反応4、クォーターラインを通過≫
「な!?」
「速いね……こっちは動けないから、このままじゃどんどん追い込まれる……!」

くそ、この感覚……一人はヴィヴィオちゃんか。ということは、接近している四人は青組の前衛だ。
それにしても、なんでもう陸戦型がクォーターライン──12.5km──を? いくらなんでも速過ぎる。本格的に不味い状況になってきた。
第二波迎撃、第五波確認。これじゃ本当に迎撃が追い付かない。それに、相殺しなかった弾が周囲に降り注いでいるから、みんな動くことも儘ならない。
最悪の状況は、なのはの砲撃に乗じてヴィヴィオちゃんとスバル、エリオ君、リオちゃんが一方的に此処まで攻めてくることだ。
もしここにシンが混じっていたら──
……シン?


閃きが、電撃のように脳を駆け抜けた。


「ティアナ! そっちでシンの位置を確認できる!?」
「シンの!? ……ええ、見つけた! なのはさんの近くに待機してるみたいだけど……妙に魔力反応が大きい」
「っ、それだ!!」

キャロちゃんの支援魔法を受けながら第三波を迎撃。それと同時に得た朗報に思わず笑みが溢れる。
現状を打破できる、唯一の手掛かりなんだから。

(ずっと疑問だった)

何故、高速接近戦闘を得意とするシン・アスカが、青組の後衛という不自然なポジションだったのかが。最初は砲撃支援でもするのかと思ったけど、それは違った。
青組の、シンの狙いは。

「この無茶な砲撃、青組の速さ。シンの仕業かもしれない」
「……なるほど、そういう事。狙いはどっちも一緒ってことね、やっぱり」

どうやら向こうの方が一枚上手だったみたいだ。
スピード自慢の赤組相手に対抗するべく、パワー自慢の青組が採った拠点を先取する為の作戦。
なるほど、シンが後衛に回るわけだ。なのはの側にいないと意味が無いもの。
ティアナもそれを一瞬で理解して、すぐに指示を出す。

「こういう時は焦った方が負ける……でも、このままじゃジリ貧ね。フェイトさんとキラは先攻して二人を引き離して。他は左右に散開しつつ後退。厳しいかもしれないけど……」

消極的な指示だ。でもこの状況じゃ他にどうしようもない。今はとにかく──

「待ってください」

──と、今まで沈黙を保っていたアインハルトちゃんから待ったコールが。
どうしたんだ?

「私達に、考えがあります」



……
………


「……なるほど、いい考えね。それならあっちに一矢報いることができる」
「だが、リスクも大きい。そこは大丈夫なんだな、アインハルト、コロナ」
「はい!」
「承知の上です」
「なら行きましょう。時間がないよっ」

アインハルトちゃんとコロナちゃんの提案は、赤組のみんなに受け入れられた。
なら、僕も全力で応えたい。

「フリーダム、ディアクティブ・モードにシフト。ハイパーデュートリオン全開」
≪了解、……完了≫

978魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2013/12/31(火) 23:31:34 ID:7P9/h/SsO
「ストライク、パーフェクト・モードでシステム起動。エール‐ブースター展開」
≪ストライク、戦闘ステータスで起動完了。システム‐オールグリーン。エール‐ブースター展開≫

なのはの砲撃は既に第五波も迎撃した。第六波が来る前に行動開始しないとだ。
急げ急げ急げ。

「準備完了……アインハルトちゃん!」
「はい、お願いします!」

さぁ、彼女達の作戦でここから巻き返すよ。赤組の逆転劇を始めよう。


覚悟してね、シン、なのは!
そして、ヴィヴィオちゃん。これから君が一番待ってる人を、君のもとへ届けにいくから!




──────続く

979凡人な魔導師:2013/12/31(火) 23:33:28 ID:7P9/h/SsO
以上です。
しばらく放置してて、すいませんでした。これからはいつかのペースを保てると思います

980名無しの魔導師:2014/01/06(月) 19:03:53 ID:JZTOE5mA0
ヤバいところを見つけてしまったw
ここなら某所のMS3人娘(三大魔王)の設定を活かせる

実際に4期目で半分スパロボに出せるような形になってきてるし
MS少女化してもおかしくはない

981名無しの魔導師:2014/01/06(月) 19:54:04 ID:qcAVhjg.O
ようこそ、いらっしゃった

982名無しの魔導師:2014/01/08(水) 18:01:53 ID:cZvwyqoc0
3人娘のMS少女化動画妄想ネタ

なの hi-n(カラーリングが一致 足りないのは防御面だけ さすが管理局の白い悪魔)
フェ デスサイズC+α(MSではないけどラインヴァイスリッターみたいな射撃があってもいいと思う)
はや DX(いろいろと待遇が似ている こちらもカラーリングが一致)

あの動画を見て妄想を駆り立てられたのは自分だけではないと思う
問題は相手、大きさが10倍くらいある本来のMSと戦っても負ける気がしないw

983名無しの魔導師:2014/01/08(水) 21:33:30 ID:/rU4uk6MO
みっ○ぃさんのかな?
まぁ950超えとはいえココはSSを投下するスレだから、今度からは隣の雑談用スレでレスしておくれよ


遅れましたが凡人氏乙です。あけましておめでとうございます。
次回からは新しい領域ですね

984バレンタイン的小ネタ?:2014/02/14(金) 20:29:28 ID:0K9HlRQIO
「もう終電だね、ユーノ」
「……うん」
「結局雪は止まなかったね」
「……うん。むしろ強くなるってさ」
「……なのは、さっき仕事終わったんだって」
「大体予想はついてましたよキラさん。昨日から」
「……」
「……」
「まぁアレだよユーノ。明日には貰えるよチョコ」
「うわーん! なのはーー!」


ミッドにもこういうシチュはあるんだろうか

985凡人な魔導師:2014/02/18(火) 12:03:21 ID:H7cEY48wO
こんにちは
今日の23時に投下をしたいと思います

986名無しの魔導師:2014/02/18(火) 22:16:22 ID:aNiya.xg0
支援

987魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2014/02/18(火) 22:59:11 ID:H7cEY48wO

「よし、これで……。ストライク、ギガント‐ブースターのチャージは?」
≪完了しています≫
「うん。じゃあいいね二人とも、飛ぶからね?」
「は、はい!」
「大丈夫です、なんとか!」

現状、赤組VS青組のチームバトルを開始して6分経過した今。
僕ら赤組は開始早々に予想外な事態、つまり青組の超長距離制圧砲撃による波状攻撃に曝されて足止めされている。原因はシンとなのはの連携魔法だと特定してるけど、このままでは青組にこの戦い主導権を奪われてしまうばかりか、青組の前衛メンバーに一方的に攻め入られてしまう。
これに対抗する為に、アインハルトちゃんとコロナちゃんが提案した反攻作戦を始めようというのが、赤組の現状なんだね。


じゃあ、具体的にどうするのか?
それを実行するには、どんな準備が必要になるのか?


「舌を噛まないで、振り落とされないようにしっかりして……うん。ティアナ、こっちはいいよ」
「OK。こっちも仕込み終わったわ。カウント15で全員スタート、いくわよ!」
「うん」
「わかった」
「頑張ります!」

まずは。

(15秒後……かなりギリギリだ。たしかにベストタイミングではあるけど、先鋒の僕達がしっかりやらないと一気に全滅しかねない)


踝まで届くであろう麗しの碧銀の長髪を赤いリボンで独特なツインテールに纏めて、瑠璃と紫晶の瞳が眩しいSt.ヒルデ魔法学院中等科の1年生。
端整な面持ちを仄かに紅くして小さな体躯をもっとぎゅっと縮こませてる覇王な彼女、一時的に変身を解いて年相応の子ども姿に戻ってもらったアインハルト・ストラトスを肩車します。


次に。
お尻ぐらいまではある亜麻色の長髪をあめ玉を模した髪飾りでツーテールに纏めて、文系少女らしい大人しそうな雰囲気を体現するSt.ヒルデ魔法学院初等科の4年生。
年少組の中でも一番華奢であろう小さいその身体を、恥ずかしさを押し殺しながら男の胸板に預けるコロナ・ティミルをお姫さま抱っこします。

(なのはとシンに勝つには、それぐらいの博打が必要ってことか。なんとか、フェイトとノーヴェさんが行動できるように上手くやらなきゃ)

そうやって二人の可愛らしいお嬢様を独占して、ここらで一番背の高い建造物の屋上で、悠々と仁王立ちをします。


はい、これで準備完了。ね、簡単でしょ?


実に簡単で単純な動作。
まぁ、問題があるとすれば。

二人を抱えるこの僕、キラ・ヤマトの両腕と首筋に感じる、軽くて幼い女の子の柔らかさと暖かさ。風に靡く長髪からふわりと漂う甘い香り。そして、周囲の女性陣から突き刺さる生温かい視線。
そんな場違いなシチュエーションが、意外と苦しくってクセになりそうってことぐらいかな!




『第十四話 強行突破作戦』




いやね、勘違いしてもらっちゃ正直困ります。
そりゃあ実際問題、魔法の防護服たるバリアジャケット越しでもこの娘達の身体は触れてて本当にきもちいい。脚なんか良い感じに引き締まってて尚且つプニプニで、シャンプーと石鹸だけじゃない少女特有の良い香りもするし、ロリコン趣味の人の気持ちも解っちゃうぐらいクラクラくること請け合いだ。
そのぐらい、肩車&お姫さま抱っこのコンボは魅力的で破滅的で、それを顔に出した日にゃもう二度と御天道様を拝めなくなること確実だよね。
まぁ僕はロリコンじゃないし、クラクラくる云々の話はモノの喩えで言葉のアヤだから。そこんところ勘違いしないように。
そう、これは作戦に必要なスタイル──それ以上でもそれ以下でもない。決して、やましい気持ちなんか無いんだから。

988魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2014/02/18(火) 23:00:10 ID:H7cEY48wO
それに、このぐらいのことで平常心を失うキラ・ヤマトじゃない。かつてフレイと、ラクスといくところまでいった男こそが、ほかでもないこの僕なのだから。

「あ、あの、キラさん。髪の毛が、くすぐったいですっ……」
「え、あっごめん」
「ひゃう!?」
「わっ!? ホントごめん!」

前言撤回。少しゾクゾクしてます今。
僕が無意識の内にかぶりを振っていたせいで、どうも髪の毛がアインハルトちゃんの股間付近を刺激してしまったらしい。そのくすぐったさから少女は報告したんだろうけど、それに思わず振り向いてしまった僕のミスだ。
洩れ出た悲鳴は思いの外、思った以上に、可愛らしかった。そしてレアだった。しばらく頭は動かせないねこれは。

「おいそこー。イチャついてねーでサッサと位置につけー」
「イチャついてってそんなノーヴェさん、僕は……」

誤解だ。そんないいものじゃない……てか、内心恐々としてるんだからねこれでも。
だって、あんまり気分の良いものじゃないでしょう、この娘らにとってはさ。これは作戦の一環だから、仕方なく僕なんかに抱えられて。……昨夜に混浴しちゃった手前、僕が言うのも説得力ないんだけどやっぱり、年ごろな女の子には20代半ばの男ってなかなかにイロイロと難しい存在だと思うんだ。下手を打てば「近寄らないでください気持ち悪いです」なんて言われてしまう可能性も……
そんな事はないと願いつつ、見た感じはアインハルトちゃんもコロナちゃんも大して気にしてないみたいで胸を撫で下ろす気分。女心って難しくて、ひやひやモノだよいつも。
恐いのは、閉ざされること。こうなのだ、コイツはこんな奴なのだと、そこで信頼を喪うことだ。
まぁたぶん、最近のシンならこういうのも無自覚に上手くやるんじゃないかなぁ。そういうコミュニケーション能力は素直に羨ましい。

「うっせ。あと5秒、3──」
「うわちょまっ」

っていけないいけない、そんなこと考えてる場合じゃないんだった。
ノーヴェさんの言葉とティアナの無言の圧力に小突かれて、慌てて用意されてたスタート【位置】につく。少しでも遅れたら全滅するって、さっき確認したばかりじゃないか。真面目にやろう。

(気持ちを切り替えていかないと、やられる)

僕だってこんなことで、やられたくない。
その【位置】とは、大空に向けレールのように長々と二本平行に展開した先天固有技能『エア‐ライナー』の狭間、この作戦の起点となる座標だ。キーパーソン二人を携えたまま、【そこ】で僕はググッと急いで躰を沈めて魔力を蓄えて、感覚を研ぎ澄ませていく。少女達もキリッとした面持ちになって、より一層と強く僕にしがみついてきて。なんというか、一心同体って感じだ。
目指すは出来うる限りの、最大の跳躍、最大の飛翔。とにかく高く速く飛んで、与えられた任務をこなす。
ちなみにデバイス‐ストライクを起動した僕は今、青と紺で彩られた懐かしい旧地球連合軍の制服姿だ。……できればもう着たくなかったけど、この際仕方無い。ストライクといえばやっぱり連合の機体だから、そのイメージがバリアジャケットに如実に顕れちゃうんだから。

(ストライク……そういえば)

ふと、思い出す。
連合とザフトの戦争に巻き込まれ、GAT‐X105ストライクに初めて搭乗した時を。そして、連合のMSパイロットとして初めてエール・ストライカーを装備し、初めてアークエンジェルのリニアカタパルトから射出された時を。

「──2、1……作戦開始だ! ブチかましてこいお前らぁ!!」
≪エレクトロ‐インヴェスター≫

989魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2014/02/18(火) 23:01:41 ID:H7cEY48wO
「全速力で、ストライク!」
≪了解。エール‐ブースター点火≫


ああ、この加速感、懐かしい。


さて、ここで問題です。
二本平行に展開した魔法的レールに、その内部にいる僕に、一定の指向性を持った電撃を付与して一種の魔力的磁界を形成すれば、どうなるでしょう?
答えは簡単。擬似ローレンツ力を用いた即席電磁カタパルトの完成だね。つまり、『エア‐ライナー』と短射程直射型電撃付与砲撃『エレクトロ‐インヴェスター』との合体技によって、僕らはMSよろしく射出されるんだ。
ノーヴェさんとそのデバイス‐ジェットエッジの力強い掛け声と同時に、僕の身体は強い力場に引っ張られ、どんどん加速しながらレールに沿って突き進む。これに応じて蓄えてた力を、これ以上なく煌々と輝く一対の蒼き魔力翼の力を一挙に解放。更に魔力を足裏に集中、爆破してやることで推進力を増強。
順々に加速しながら、ストライクフリーダム以上の速度を叩きだしながら、数えて3年ぶりのカタパルトの感覚に浸りながら、僕らは蒼いレールガンの弾丸となる。

ここに、赤組の反攻作戦の狼煙が上げられた。
現象として結果として、僕とアインハルトちゃんとコロナちゃんは、

「いっ、けぇぇぇぇーーーー!!」


三人揃って、一つの流星となって、もう目と鼻の先まで接近していた莫大なエネルギーを擁する桜色の塊『ストレイト‐バスター・クラスターモード』の第六波に、無防備にも頭から突っ込んでいったのだった。


◇◇◇


ここでちょっと、もう一回復習しよう。

僕らは超長距離制圧砲撃、つまりこのバスターの連撃に曝されていて、これをなんとかする為に行動を開始した。じゃあ、その直後にバスターに突っ込んでいくのは何故?
青組の司令官である高町なのはが放った、この拡散性反応炸裂型超長距離空間爆撃用砲撃『ストレイト‐バスター・クラスターモード』は簡単に喩えちゃうと、何十とばら蒔かれた衝撃信管型の、敵対象を伝播して連鎖爆発を引き起こす高速ミサイル群。一定以上の質量のモノとちょっとでも接触すれば炸裂し、それだけで僕らのライフポイントを容易く消し飛ばしてくれる魔法だ。こっちの防御とか関係無しの破壊力で。
そんな物騒な代物が、酷く美しい桜の光が、みるみるうちに視界の大半を覆い尽くしていく。気分は生身で大気圏突入してる感じ……てのは言い過ぎなのかな。
肩車とお姫さま抱っこしながらグダグダと15秒も無駄にしていた内に、相殺されないまま遂に地上30m付近まで接近していたその爆弾達との接触までもう少し。回避も防御も迎撃も無意味な距離まで飛び込んでしかし、これは決してヤケクソでも射出ミスでもない。
僕は己の意思で、この状況を望んで、自分から加速して突っ込んだんだから。


それがアインハルト・ストラトスとコロナ・ティミルが提案し、ティアナ・ランスターとフェイト・T・ハラオウンが纏めた作戦の、第一段階目なのだから。


◇◇◇


「アインハルト、ちゃんッ!」
「いきます!! 覇王流──」

レールカタパルトで射出され、桜色との接触まであと1秒も無いというところで、僕は碧銀の長髪を翻す少女の名を叫ぶ。信頼と激励と叱咤を織り交ぜた、そんな声を。
今できることはそれだけ。あとは、ぎゅっと彼女の細い脚を確と固定してやることだけだ。情けないが、今の僕には本当にそれしかないのだから。

990魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2014/02/18(火) 23:04:08 ID:H7cEY48wO
でもそれに気合い裂帛、凛と応える声があった。気にするな、今は信じて頼ってほしいという想いが放たれたように感じて──


「 旋 衝 破 !!」


──高々と天に掲げられた少女の小さな手が、軽々と、桜の弾丸の一つを叩き落とした。


うん、ぺしんって。
触れれば爆発する魔法を、魔法を使わずに、アインハルトちゃんってば素手で払い除けた。

嘘でしょ!? ──って、なのはの……いや、ここにいる全員のそんな驚愕の声が聴こえた気がした、感じた気がした。全くの勘だけど、全く同感だよ。
そのまま続けてアインハルトちゃんは謎技術で命中弾を次々と処理していく。時には掴み、時には殴り、時には叩く。そしてベクトルを乱された桜の弾丸は全て、真下の建物だけを盛大に打ち砕くだけに留まった。


こうして何事もなく僕達三人は『ストレイト‐バスター・クラスターモード』第六波の弾幕を突破したのだった。
『エール‐ブースター』も解除されることなく、ノーダメージのまま僕達は当初の予定通り、バトルフィールド中央ビル群を目指して青空を翔る。
時間にしては一瞬だけど、魔法を知る者にとっては永遠ともとれる驚愕の現実だったと思う。

「凄いですっ、アインハルトさん!」
「いえ、そんな……褒めないでください。それよりコロナさん」
「はいっ、私も続きます! やろうブランセル!」
≪彼らに一泡吹かせてあげましょう。チェーン‐バインド起動≫

褒めて褒められて、興奮に少し頬を紅潮させる二人。
そんな少女達の健全なやりとりに挟まれて、僕も少しテンションが上がる。よきかなよきかな。

「このまま加速して第七波に突っ込む。突入は10秒後……ティアナ、そっちは?」
[問題無いわ。ギリッギリだったけどアインハルトのお陰でコッチも被害無し。さっき手筈通りにノーヴェを担いでフェイトさんが出たところよ]
「わかった──3秒前!」
「はい!」

ティアナとの短い通信を終え、速度そのままにバスターの第七波に突入する。
アインハルトちゃんの変わらぬ返事に頼もしさを感じつつ、僕は魔法についてユーノから習ったことを確認することにした。

「ハァ……ッ!」
「もう一回いきます! チェーン‐バインド!」

魔法は魔力を源にし、その魔力は世界に遍在する【魔力素】を、リンカーコアによって体内に取り込むことで精製される。ここで問題となるのがこの魔力素で、これは一種の【原初の粒子】だと考えられている。原初の粒子だけあって万能で、それを操ることが出来ればまさしく事象を自在に操ることができるんだ。
例えば、射撃魔法を撃つ場合。
呪文を唱え、魔力素で収束を司る術式を形成、それに沿って別の魔力素を圧縮・縮退・融合させて純魔力塊を造る。これに移動を司る術式を織り込んだ魔力で覆って指向性を持たせて、更に調えてやることで魔力素の集合体である弾丸が生成される(デバイスがある場合は、この一連の流れをデバイスが肩代わりしてくれる)。そして最後に目標を定めてトリガーを引けば、ミッドチルダ式魔法の初級直射型射撃『シュート‐バレット』となるわけ。
基本的に魔法はそうやって構成されるんだ。射撃も斬撃も捕縛も飛翔も通信も、大体その応用で。魔力塊と、魔力に一定の効果を与える術式と、それら総てを整形する術式という三層構造。科学の延長である魔法の基本だ。


重要なのは、魔法は魔力素と術式と術者で完結していること。

991魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2014/02/18(火) 23:07:10 ID:H7cEY48wO


もし魔法なしで『シュート‐バレット』を再現しようとすれば、莫大なエネルギーで励起させた荷電粒子やプラズマを、これまた莫大なエネルギーと機材で圧縮・縮退・融合して電磁場で指向性を与え、そして射出することになる。うん、ビーム兵器の原理だね。
見ての通り、様々な精密機械と高エネルギー、高い技術力が必要になるんだ。魔力素の万能性を説明するにはうってつけだよ。

[こちらフェイト、中央区に進入。キラが到着次第、ノーヴェを投下してシンを抑えにいくよ]
「こちらキラ、第七波突破。ギガント‐ブースターで一気に畳み掛ける」
[了解。第一段階はまずまずね……コロナ、パーツの収集率はどう?]
「75%です!」

わざと狙われ安いように高度を上げる僕が自ら弾幕に突っ込んで、アインハルトちゃんが『旋衝破』で弾丸を蹴散らし、巻き込まれ砕かれた建物の欠片をコロナちゃんが魔力捕縛鎖『チェーン‐バインド』でどんどん捕まえて牽引していくという現状は、なかなか順調に進んでいるようだ。
それを繰り返している内に、僕らの後方には幾十幾百の空飛ぶ岩塊が形成された。……これで75%なら、あと一回突っ込めば100%に達するか?
そして、僕らが攻撃を引き付けたおかげでノーマークだったフェイト&ノーヴェが無事に高層ビル並び立つ中央区に入ったようだ。もっとも進入しただけで、制圧はできないのだけど。

「……ッ! トラップ!」
「! 設置型バインドですかッ!」

フェイト達に続けとばかりに第八波突破後、ストライク最終最大の加速魔法『ギガント‐ブースター』(これもシャンテちゃん命名。元はMBF‐02ストライクルージュが使ったオプション装備、ストライクブースター)を使って中央区で一際高い、バトルフィールドど真ん中のビルの屋上に向かって加速した途端に、目の前に菖蒲色の巨大なネットが二重三重と顕れた。
これは、青組後衛のルーテシアちゃんの対高速飛翔物捕縛魔法か。弾幕を突破された事態を想定して、事前に設置して隠していたようだ。けど。

(これもやっぱり、魔法陣を……術式を使わないで、素手で干渉してる)

例によってアインハルトちゃんに網目を力ずくで抉じ開けられて、ネットは役目を果たさないまま崩壊してしまった。僕らの速度は微塵も落ちてはいない。

(術式で調えられた魔力に対抗するには、それに反発する術式と相応の魔力が必要になる……ってのが一般的な見解だけど)

魔法は魔力素と術式と術者で完結している。
魔力塊と、魔力に一定の効果を与える術式と、それら総てを整形する術式という三層構造が魔法の基本。
これらから導かれる、アインハルトちゃんの技術の正体ってもしかして──


シン、見てるなら君も気づいたでしょ? 僕達の間近にいたみたいだよ、最高の素材は。


「……ついた! コロナちゃん!」
「はい! いってきます!!」
「あとは、頼みますコロナさん」

思案しているうちに目的地、中央区で一際高いビルの屋上に到着。僕はお姫さま抱っこにしていたコロナちゃんをすれ違いざまに、そこへ投下した。……ん、上手く着地したね。魔力鎖で引き連れてた岩塊も規定値に達していて、少女を取り巻くようにフワフワ浮遊している。
ふぅ。軽かったけども、腕が楽になったなー。

「ではキラさん。私も参ります」
「4対3になる。頑張って」
「元より私が言いだした我儘、やり遂げてみせますっ……いきます!」

992魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2014/02/18(火) 23:08:18 ID:H7cEY48wO

続けて肩車にしていたアインハルトちゃんも、今にも中央区に進入しようかという青組の前衛達に向けて投下する。文字通り肩の荷が降りた。それに呼応して、先に中央区にいたフェイトもノーヴェさんを同じポイントに投下した。
これで、碧銀の魔力光を放ちながら大人モードに変身したアインハルトちゃんとノーヴェさんは、青組前衛達の真上から強襲する形となる。ヴィヴィオちゃん、リオちゃん、スバル、エリオが迎撃を開始した。
よし、ナイスなタイミングじゃないか。中央区に入る一歩手前なポイント、状況は混戦だ。このままなら中央区は青組に制圧されない。

「キラ。平気?」
「フェイト。……うん大丈夫。じゃあ抑えにいこう、二人を二人で」

フェイトが合流する。戦斧を手に金髪と白いマントを翻す彼女は一瞬笑みを浮かべて、右拳を差し出してきて。それに左拳をコツンと当ててから、前衛達の戦いを背後に、一緒に青組後衛に向けて飛翔を再開した。
こうして並んで飛ぶのも久し振りだね。

「作戦通りにね。でも気をつけて。なのは今、多分バスターライフル・モードだ」
「並大抵じゃ近づけないのは解ってる。フェイトもシンが相手なんだから……シンの爆発力に注意して」
「お互い様だ」

最後にもう一度拳を打ち合わせて、僕らは違う進路を取る。その次の瞬間には、さっきまで僕らがいた空間を桜色の光線が貫いていた。生身でありながら約20kmも離れていて尚且つ高速飛行している僕らを狙撃するなんて、流石なのは。
当たってはやれないけど! ……ん、シンが動いたな。先行したフェイトに向かって打って出たか。

[創主コロナと魔導器ブランセルの名のもとに、叩いて砕いて踏み潰せ! 我を護り、地を制するその身に大地の輝きを……!!]

っと、始まった。
コロナちゃんの魔法が、始まった。呪文を詠唱する流麗とした声が溢れる魔力にのって、意図せず全域に響き渡る。
殆どの人がコロナちゃんを注目している最中でも、続けざまに精密砲撃を繰り出すなのはに舌を巻きつつ後方を視てみれば、宙に浮かんだコロナちゃんが亜麻色の魔力光に包まれていた。もはや一個の球となったソレはみるみる大きくなっていって刹那、幾百の魔力鎖を一気に、己に向けて引寄せた。岩塊が、圧倒的質量が少女に殺到して──爆発。
爆発して、破裂して、崩壊して、轟音が鳴り響く。あまりの出来事に戦場が一瞬、静寂に包まれた。其れ程までの衝撃。

[ゴーレム・クリエイション! 来て、ゴライアスMK‐Ⅱ!!]
再び鳴り響く、コロナちゃんの声。しかし少女の姿はどこにもなく、岩に圧し潰されたわけでもなく、代わりに──


光の中から、岩と鋼鉄の巨人が顕れた。


高さは大体20mぐらいかな? 筋骨隆々でガッチリとした岩の体躯に、金のラインを入れた漆黒の騎士甲冑という出で立ちは鉄の城を連想させる。MSとは全く意匠が違う、ファンタスティックな番人。まるでスーパーロボットだ。
岩を連ねて造ったと思われる長大なモーニングスターを手に、巨人は悠々堂々と天に聳え立つ。

「……あれが、ゴライアスMK‐Ⅱ」

逆転の切り札の一つ。
正直カッコいい。
格闘技も魔法戦もそんなに得意じゃないコロナちゃんが唯一絶対とする得意魔法、端末を核に魔力を込めて練った物質を望む形に変えて自在に操る『ゴーレム創成』による所業。アレの内部、胸部付近にコロナちゃんはいる筈だ。

993魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2014/02/18(火) 23:12:54 ID:H7cEY48wO
もともとの『ゴライアス』は大体10mぐらいのもので、ゴーレムの構成するパーツもわざわざ集める必要も無いし、コロナちゃんも外部から操作するらしいんだけど。強化版の『ゴライアスMK‐Ⅱ』は強度や素早さ、創成難度、消費魔力が通常の三倍で、主に防衛戦を得意としているとか。

[ゴー! ゴライアス!!]

そんなゴーレムがコロナちゃんの操作のもと、ビルを蹴って赤組と青組の前衛が入り乱れる戦場に飛び込んだ。2対4で押されっぱなしだったアインハルトちゃんとノーヴェさんは冷静にスマートに、青組のみんなは大慌てで退避して、巨体は無遠慮に大胆に着地する。
盛大な土埃と破砕音をカルナージにプレゼントして、


赤組反攻作戦の第二段階目がスタートした。


≪警告。シエル‐ディストラクション、数64≫
「突っ切る!」

第一段階目は滞りなく成功だ。青組前衛と、アインハルトちゃんとノーヴェさんとコロナちゃんを、中央区ギリギリ手前で混戦に持ち込ませる。その為に僕とフェイトが運び屋になって、赤組後衛を護りつつ強引に進撃する。ティアナの采配通りだ。
続けて第二段階。前衛組はゴーレムを核に、中央区を制圧されないように防衛戦。赤組の制圧砲撃を封じる為にフェイトはシンを、僕はなのはを抑えにいく。そして後衛は第三段階に向けて準備を続ける、といった具合だ。……まぁ実際、事前に決められたのは誰が何処で何時にどうするかってだけで、具体的な方法は各人のアドリブ任せなんだケドね。
あ、そうそう。なんでフェイトがなのはを、僕がシンを相手にしないのか、結局シンは何をやったのかについてはまた後で説明しよう。
これからはちょっと自分の事に集中したいから。


「……見えた。やっぱりバスターライフル・モード……頑張ろうストライク」
≪可能な限りは。……ディバイン‐バスター、来ます≫

さて。予備機として携行していたデバイス‐ストライクをメインに据えて、ストライクフリーダムをディアクティブ・モード──所謂、省エネ形態に移行させた理由は二つある。

一つは、先のなのはとの魔砲の撃ち合いですっかり魔力をスッカラカンにしてしまった僕が、早急に魔力を回復する為。フリーダムには魔力回復機関ハイパーデュートリオンの稼働に全力を尽くしてもらって、その間は魔力貯蔵タンク(つまるところバッテリー)で駆動するストライク……それもエール、ソード、ランチャー全部乗せのパーフェクト・モードで補おうという算段だ。パーフェクトは大容量の追加魔力貯蔵タンクを持ってるから、繋ぎには丁度良い。
魔法のデバイスとしては貧弱な部類に入るストライクだけど、踏ん張りどころ。

二つ目は、ティアナのクロスミラージュとフリーダムが結んだ高速情報リンクシステムを継続する為。
フリーダムを完全に待機モードにさせると途切れちゃうからね。それは後々の行動に支障をきたしちゃうのでダメ。

そんなこんなで、ストライクで高町なのはと戦わなくちゃならない。パーフェクト・モードを選択したのはそれを見越してのことでもあって、弱いなら弱いなりに頑張らなくちゃ。

「ギガント‐ブースター解除、アグニ&ライフル!」
≪発射≫

対空拡散性直射型中距離制圧砲撃『シエル‐ディストラクション』をなんとか回避しきったところで、クォーターラインを通過したところで、視認する遥か彼方に霞む人影。身の丈以上の、アンチマテリアルライフルに類似した形状に変型させたレイジングハートを両手で構えた高町なのはが、主砲『ディバイン‐バスター』を発射する。

994魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED:2014/02/18(火) 23:14:08 ID:H7cEY48wO
使用魔力をとにかく射砲撃関係に特化させて、それ以外を完全に切り捨てた超々遠距離砲撃戦用形態バスターライフル・モード──射砲撃に限れば威力も速射性能も精密さも、彼女の全力全開限界突破形態であるエクシード・モード‐ブラスター3のそれを軽く凌駕して、それでいて負担や危険性が少ない完全後方支援用形態の一撃だ。
うん、絶対にそんなものに当たるわけにはいかない。減速してバレルロール一回、射線をずらしてこっちも砲撃と射撃で対抗、牽制。通常のものより太く速く眩しい光線をギリギリでかわして、再度加速。
あの形態の明確な弱点に、近接戦どころか飛行も砲撃もまるでダメダメなところが挙げられる。撃ち合いの距離に持ち込めさえすれば、今の彼女は体捌きで回避するしかないわけで。
ならその隙を狙って、『イーゲルシュテルン』と『ショルダーミサイル』を撃ちまくりながら身の丈程の蒼い太刀『シュベルトゲベール』を右手に、左手の大型実体シールドを掲げて、回避しながら防御しながらグルグルと強引に突撃するのが最善策だよね。
とにもかくにも滅茶苦茶に我武者羅に、今の僕とストライクは空戦も接近戦も射砲撃戦もできるんだとアピールする。

「この前より速くなった! レイジングハート、モードチェンジいくよ!」
≪はいマスター。根比べは望むところですね≫

と、風にのってそんな会話が聴こえてきた。砲撃だけじゃ止められないと、なのはとレイジングハートはどうやら形態を変更してくれるらしい。……これで、なのはの遠距離砲撃は事実上封じられた。
なら、僕は!

≪シュベルトゲベール、フルパワー≫
「せぇぇーーぁあ!!」

レイジングハートのモードチェンジを待たずに、一息になのはらの懐に飛び込む。
どんなトラップを仕掛けてあろうが防御魔法を使おうが関係ない。あらゆる魔法を切り裂くこの必殺の太刀を用いて、この作戦の全てを乗せて、ただ渾身の一撃を見舞ってやればいい。その他の可能性は微塵も考えなくていい。


僕はある種の確信を得て、『シュベルトゲベール』を両手で思いっきり振り上げて。
そして思うがまま、思いっきり振り下ろした。


だから、
ガ、ギンッ! と、甲高く硬質な激突音で。
蒼い太刀が、突如なのはの眼前に顕れた白亜の巨盾に阻まれて、急激に運動エネルギーを失っていく様子を視て僕は。

その盾の影から、動きを止めた僕の首を目掛けて疾る、二振りの黄金の刃の存在を確認して僕は。


「……来たよ、なのは」
「うん。……多分こうなるんじゃないかって、思ってた。待ってたよキラくん」


全てが上手くいったと、これからもとりあえずは上手くいくと、そう心から思えたんだ。




──────続く

995魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED……???:2014/02/18(火) 23:20:34 ID:H7cEY48wO
◇◇◇


「で、結局。あんなに息巻いて出ていった挙げ句? あの魔導師どもに瞬殺されちゃって尻尾巻いて逃げてきた、と」
『ぐ……!』

小さなノートパソコンのモニターに映る、趣味の悪い青紫のリップを好む白髪の男……有り体に言ってしまえばいかにも悪趣味な男が、これまた色白の顔面を蒼白にして歯噛みする。
正直、良い気味だ。清々すると思う。

「過去前例がない程に、あーんな沢山の武器と人員を揃えといて。アナタ一体なにをやってたんですかねェ? タダじゃないんですよ? この私に任せたまえと大口を叩いたのは──」
『わ、わかっている! そのような事は!』
「──ふーん?」

いつもは無駄に尊大な口調で我儘ほざいてる奴が、大失敗かまして怒りに打ち震える様は極上のワインに匹敵する。それでまた指摘してあげたら逆上するものだからオツマミにも事欠かない。
全く、なんでこんな奴が僕の後釜で、しかも今はコンビなんぞを組まなくてならないのか。姑息で卑怯なこの男が実動部隊を率い、この僕が後方でバックアップに回るという現状……どう考えても僕一人でやった方が効率的なんだからさぁ。
上の思惑は理解しかねる。

『……ふ、ふ。確かに私は貴方の言う通り、失敗はしました。ですが、しかしですね』
「?」

俯いてたと思ったらなんかいきなり得意気な顔になりやがった。声は震えているが、なんだコイツ気持ち悪い。
ですが? しかし? なにを寝言を。

『私の策は一つではないのですよ……! そう! 確かに私は失敗しました。大戦力を率いていながら、何もできず、無惨に敗退しました。……それも利用できると言ってるんです』
「……なに?」
『あの連中はどう思うでしょう? どんな手を尽くそうと、装備をかき集めようと、普通の人間によるテロ等恐れるに足らず。この私のあの部隊を労せず倒したことで、そんな認識が生まれたのです』

ふむ、コイツも少しは頭が回るらしいが……何をするつもりだ。調子が出てきたのか、いつものウザい演技がかった大仰な仕草で、妄想を根拠に説明を始めた。チッ、つまらん。
……だが、もうコイツが使える武装は少ない筈だぞ。奴の部隊の次に出撃する筈だった本隊の武器は全て、モニター越しのコイツがヘマした時点で上が回収したのだから。

『成功はしたかったが、失敗しても構わない……あの化物どもが相手なんですよ。その策は既に打ってある』
「ほう」
『明後日にグリューエンを攻める』
「ッ!? まて……!!」

コイツ、今なんて言いやがった!?

「バカが、時期尚早だ! それに装備も無いまま彼処を落とせるか!!」
『MSF発生装置は既に手配してありますし、兵器も此方のツテで用意しています。奴等が油断している今こそがチャンスなのですよ! そうそう、あの人形どもも使わせて戴きます』
「貴様ッ!」

……クソ、焦ってやがる。蒼白な顔にはいつになく熱を帯びていて、一つの狂気を惜しみ無く曝け出している。
駄目だ。コイツはもう止まらない。

『落ち着いてください。少し予定が繰り上がった、ただそれだけのこと。貴方も上も、望んでいたことでしょう?』
「……わかった。だが、これは勿論報告させてもらう。やるからには、もうイレギュラーがどうとかいった言い訳は使わせないからな」
『当然です。まぁ、そこで座って観ていてください。では』
「健闘を祈ってあげますよ」

仕方ない、今は様子見をするしか。だが見物ではある。
ならせいぜい楽しませてくれ。君の最後の悪足掻きをさ?


『「蒼き清浄なる世界の為に」』




──────To Be Continued

996凡人な魔導師:2014/02/18(火) 23:23:47 ID:H7cEY48wO
以上です今回は
予定以上に模擬戦パートが長くなってしまいそうです。まだまだ説明台詞が多すぎる戦闘は続きますー

997名無しの魔導師:2014/02/19(水) 22:03:35 ID:2hjUcM8Y0
GJ、いろいろと動き出していますねえ。
残りは埋めちゃいます?

998名無しの魔導師:2014/02/20(木) 12:59:36 ID:WSm4izPUO
じゃあ埋めちまいましょう

999名無しの魔導師:2014/02/20(木) 13:02:16 ID:WSm4izPUO
トゥ!

1000名無しの魔導師:2014/02/20(木) 13:03:11 ID:WSm4izPUO
ヘァー!




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