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アニメキャラ・バトルロワイアル3rd Part21

1 管理人◆4Ma8s9VAx2 :2015/03/15(日) 20:21:03 ID:???
アニメキャラ・バトルロワイアル3rdの本スレです。
企画の性質上、残酷な内容を含みますので、閲覧の際には十分ご注意ください。

前スレ
アニロワ3rd 本スレ Part20
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13481/1336833730/

まとめwiki
ttp://www29.atwiki.jp/animerowa-3rd/

2 名無しさんなんだじぇ :2015/03/15(日) 23:56:48 ID:2HVLqQX6
テスト

3 ◆ANI3oprwOY :2015/03/15(日) 23:58:23 ID:2HVLqQX6
これより投下を開始します

4 ◆ANI3oprwOY :2015/03/15(日) 23:59:43 ID:2HVLqQX6
アニロワ3rd

最終章『3rd』と
最終回の連続投下になります。

5 ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:05:05 ID:fxNQ5zpc
どうか物語の終わりまで、『投下終了』の宣言まで。

お付き合いくださいませ。

6 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:08:44 ID:fxNQ5zpc

/境界色






――――ひとりの少女が、そこにいた。



真っ白で、真っ黒で、真っ赤で、真っ青で、思ったとおりに変わる世界がある。
形を定めぬ不定形。何でもあって、何にもない。
ここはそういう、ガランドウの場所だった。

境界に染みる色。
不在なる空間は変遷する。

ごく短い時間、あるいは常しえの追憶を費やして、その場所は少しずつ変わりつつあった。
伽藍の洞は、接続されたとある空間に通じている。
共鳴するように、相反するように、引き合い、離れ合い、分離しながら融合する。
それは天の杯の通した道が、根源に近づいている証拠であり、『 』が確かに存在する証左だった。

アーカーシャの剣と、かつて呼ばれたモノの保存されていた場所。
ガランドウと対を為す、集合無意識を内包した黄昏の神殿。
黄金の、夕焼け。

もうすでに境界線の曖昧になった二つの世界。
接合し、混在し、再編される空間の最果て。

一人の少女が、そこにいた。

永遠に広がる、黄昏の空の下で、たった一人。
広がる水源に足を付け、ぽつりと立っている。
じっと、じっと、暮れゆく茜色を見つめたままで。

そよぐ黒い髪。
たなびく白い着物。
たたえられる淡い微笑み。

静止した時の中、彼女は永遠にそこにいる。
そこにいる彼女は、そこにしか居られない彼女は、ずっと、ずっと、ただ、そこにいる。

足を付ける水面に、映る陽光の線。
それはもしかしたら、境界なのかもしれなかった。
あちら側とこちら側。
遥かと彼方。
その、境界線の真ん中で、あちらでもこちらでもない中間で。

何をするでもなく。
誰を待つでもなく。
彼女はただ、そこに在り続けた。
在り続けたまま、暮れゆく過程の空を見上げていた。


何もしない彼女の傍らを、誰かの影が通り過ぎていった。
陽光に照らされたその誰かの表情はよく見えない。
視えないまま、去っていく。ちゃぷりと、水面を揺らしながら、あちら側から、こちら側。
或は、その逆なのだろうか。

いずれ、一線を越えた誰かは、彼女の隣を通り過ぎ、ガランドウの反対へと。
神殿の最奥、扉のように開かれた光の中へと消えていく。
その背を、静かに、見つめて。


「――――――」


もう幾度目かしれぬ、去りゆく誰かの背中を、見送った少女は再び、茜色の陽光へと向き直る。
ふと流れた、うろこ雲。
ゆっくりと動き出した空模様。
止まっていた筈の永遠が、留まっていた筈の永久が、静かに変わり始めている。
暮れの来ないように思えた陽光に、僅か、影が差した。

黄昏に、ほんの少しの夜が滲む。
近づいてくる世界の終わりを、物語の終わりを、示すように。
この世界の何もかもが消えて無くなる刻限を、告げるように。

ここはなんでも在って、なんにも無い場所、そうしてもうすぐ終わる場所。

少女は、そこにいた。
特段の悲しみもなく、別段の喜びもなく、強いて言えば、なにもなく。
俯瞰するガランドウの少女は淡い微笑みを讃えたまま一人、いつまでも、いつまでも――――

7 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:10:51 ID:fxNQ5zpc

◇                                        ◆



       ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇






              3rd / 天使にふれたよ






                     ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇       



◆                                        ◇

8 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:13:34 ID:fxNQ5zpc


/クオリア





神を殺す剣がある。
神威を貫く魔弾がある。
ただの一撃、人が創り出した破壊の結晶。

星のきらめきに装飾された空を、一筋の軌跡が昇っていく。
フレイヤ。
人知が至る科学の兵器。
超常の要素は何一つ含まれていない。
魔法も、魔術も、超能力も、そこに入る余地はない。

特別があるとすれば、一つだけ。
一人の少女の祈り。秋山澪という存在の願い。
何の変哲もない、普遍的な日常を願ったちっぽけな人間の、ありふれた思い。
神がとるに足らないと切り捨てた純粋な切望のみを乗せ、破滅の兵器は飛翔する。

―――閃光。
弾頭の炸裂は呆気なく。
しかし威力は圧巻だった。

瞬時に広がる淡い桃色の閃光は範囲内のすべて抹消する。
それも、一撃で終わりはしない。
殺し合いの各地から射出されたフレイヤは各地で一斉に炸裂を開始する。

もとは全てが終わった後、このかりそめの世界を終わらせるために作られた装置だ。
システムは『ON』になった瞬間から、滞りなく役目を実行する。

世界が、閃光に包まれていく。
世界が、終わっていく。

「―――――――?」

破滅の光景。
それを、世界の神を名乗る存在は、しばらくの間、理解することは出来なかった。

墜落して行くエピオンへの追撃を忘却したように、
『これはなんだろう?』
などと、のんきに考えていた。

フレイヤは確かに、神に『それ以外の存在』が抗しえる数少ない手段だ。
しかし、それが使われることはあり得ないと考えていた。
なぜなら、それは誰にとっても、『どうしようもない破滅』だからだ。

一度起動したフレイヤは止められない。
地上を破壊しつくすまで炸裂を止めない、文字通りのリセットボタン。
そうするために作ったのだから当然だ。
帝愛の連中は緊急時の切り札などと考えていたようだが、そんな甘いものではない。

遠藤の死後、フレイヤの起動権が言峰の手に渡ったことも知っていた。
だから『一応』言峰を始末しようとしたことは、それも理由の一つだ。
仕留めきれず、言峰は逃げ遂せ、フレイヤの危険性は残り、しかし、しかし、それでも、それでもだ。

あくまで使われることは無いと考えていた。
フレイヤの起動は言峰の目的すら壊してしまう。
現にいま、言峰の計画の要であったバースディすら、フレイヤによって砕かれた。
まして、参加者に至っては、それこそ破滅を意味し―――


「――――」


思考が途切れる。
言峰が黒聖杯を起動したとすれば、その場から動くことは出来なくなる。
地下深くの起動場所に赴く事は不可能だ。
となると、今、フレイヤを起動した人物は別人、すなわち参加者ということになる。

ならば動機は? 目的は?

いまイリヤ・スフィールの器を壊してしまえば、大規模な魔法の行使は不可能になる。
結果として、地上に降りるのは、せいぜい一握りのカケラだけ。
回収したところで永遠の平和は訪れない。
出来る事と言えば、たとえば数人を生き返らせて、数人を戻す程度の、たったそれだけの、
それだけの、それだけが、これを為したモノの目的だったとするならば―――

9 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:14:38 ID:fxNQ5zpc

「そうか」

リボンズは、やっと状況を理解する。

「そうか、そうか、なるほど、人間にはそういった感情があったね。忘れていたよ」

そうして彼はようやく、

「嗚呼、どこまで―――どこまで愚かなんだッ!! 人間ッッ!!」

怒気が爆発するに至ったのだ。

「己が願望の追及だと? そんなもので僕を落とすだと!?
 世界の救済を止めるだと!?
 ふざけるなよ愚かさの極みだ。やはり人間は救えない。ああまったく救えないなぁ。悲しくなるほどにッ!!」

抹消の球体が迫る。
空を揺るがし、塗りつぶすように。
今、遂に、難攻不落のダモクレスに到達した。

無敵を誇っていたブレイズルミナスを呆気なく砕き散らし、城に住まう女神へと切っ先は前進する。
出自の世界を同じくする二つの兵器の衝突。
確かに、些か荒すぎるとはいえ、城壁を打ち破るにはこれ以上ない選択と言えただろう。

「だけど、それでも、僕が救ってあげよう!!
 救えない君たちを!! 不可能を可能にするのが聖杯の、神の、役割なのだから!!」


女神の住まう城塞を目前にして、停止した爆壁。
しかし既に、更なるフレイヤ弾頭が数発、ダモクレスに到達していた。
炸裂は一瞬の後に。

ノイズの走る空(うちゅう)。
揺らぎ始めていたリボンズの世界。


「ヴェーダ!!」


統制を失いつつあったモノが、号令と共に落ち着きを取り戻す。
フレイヤの破壊範囲は機械で統制されたモノだ。
ならばより上位の権限を持つシステムの支配下に置いてしまえば―――


「静まれ!! くだらない人の玩具がッ!!」


自然、その被害範囲はコントロールされる。
及ぼされる破壊のすべてはイリヤ(せいはい)に届かない。
次々と炸裂を止められ、落ちていく。


「無意味だよ。何度も言わせるな、人間風情の力で僕に届くことは無い」


そう、無意味。
リボンズの言葉通り無意味だった。

フレイヤ弾頭。
最強の破壊兵器。
その威力をもってしても、神には届かない。
秋山澪の抵抗は、リボンズ・アルマークに傷一つ付ける事かなわぬまま、終わった。

出来たことと言えば、ブレイズルミナスの破壊と。
ほんの一瞬、神から『余裕』を奪った、ただそれだけ。
心に、衝撃を与えた。
人の愚かさを、救えない愚かさを知らしめた。
それだけだ。




―――それだけで、全てが、変わったのだ。





◇ ◇ ◇

10 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:19:31 ID:fxNQ5zpc




空に憧れていた。
澄み渡る蒼天。
大切な物は何かと問われたとき、グラハムの脳裏で真っ先に浮かび上がる物はそれだった。
泣いたような曇り空ではない。
見上げる者の心すら澄み渡るほどの、鮮やかな青空が理想だった。

だから今、自分は空を守る職務に就いているのだと、彼は思う。
青い空と、それが見下ろす尊き市民を守る職。
例え、何度戦火が地を襲い、天が赤く染められようとも。
全力で戦い、守り、取り返す為に。


「そうだ。私は信じていた」


暗闇の中、たゆたう。
ここはどこなのか。
自分はどこにいるのか。
なにも分からない。

分かる事実は一つだけ、グラハム・エーカーは神の前に敗北したという事実のみ。
閉じたまぶたの裏には、いつ見たのかも思い出せない青空が広がっている。

海の青、空の青、混ざりあい、境界すら分からなくなる程の蒼。
それはきっとこの世のどこにもない。
グラハムの内側のみにある、心象風景とでも言うのだろうか。

「そんなものに意味はない」

何を見たところで、何を考えたところで、勝利は得られない。
理想は理想のまま、グラハムごと朽ち果てる。
今のグラハムに力をもたらすのは、断じてこんなものではないと振り払う。

目を開いた。個人の理想よりも、現実を見るために。
勝つことの出来ない敵を、見るために。
それなのに―――


「まったく、この期に及んで……」

開いた目に移した景色も、また、理想に過ぎなかった。

「恥を知らないのだな、私も」

腰掛けるのは簡素な椅子。
目前には、表面に緑色の広がる机。
卓上には乱雑に置かれた麻雀牌。
そして、対面の席には一人の少女。
当然、このシチュエーションで出会う存在など、1人しか居ない。

「死に瀕した者が見る走馬灯の一種か。
 それともゼロシステムが見せているのか」

「さあ、どちらだろうな。グラハム」

長く煌めく金髪と、赤いカチューシャが、少女の動きに合わせてひょこりと跳ねる。

「どちらでもあるし、どちらでもないかもしれない。
 それは、衣にも分からん」

生前の彼女が再現されたようなその動きに、グラハムは苦笑いとともに目を伏せた。

「なんにせよ困ったな。
 私は今、君に会わせる顔を持ち合わせていないのだが」

「言うな。衣が哀しくなってしまう」

その声に、呆気なく顔を上げ、少女を視界に入れてしまう自分の愚かさが恨めしい。
これは弱さだ。
屍の為には戦わないと決めたはず。
今、生きている者、泣いているものの為に戦い抜くと誓ったばかりだというのに。
ここに来て、彼女の姿を幻視するなど、それは結局のところ、グラハム自身の未練。

11 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:20:48 ID:fxNQ5zpc

失ってしまった者への哀切。
後ろを振り返る愚鈍の発露に他ならない。
即刻断ち切って、戻らねばならない。

己に念じる。
さあ戻れ戦場へ。
たとえ1%の勝ち目すら無い状況だとしても。

それすら叶わないなら、目の前の少女が死に際に見る『許し』なのだとしたら。
せめて疾く死すべきだ。
誰一人守れずに倒れる男に、死に際の救済など不相応だから。

「……い」

なのに、

「すま……ない……」

彼女を目にしてしまえば、自然と、謝罪の言葉を口にしてしまっていた。
堪えることも、迷うことも、出来はしなかった。
それが、許しを求める滑稽な縋りであると分かっていて尚、口にしてしまった。

「すまない私は、君を、守ることが出来なかった」

ああ、なんて愚か。
なんて弱さだと、自らを詰り、それでも言葉は止まらない。

「あまつさえ今、二度目の敗北を喫した。また、勝てなかった」

せきを切ったように、喉から、心から、弱さは流れ続けて終わらない。

「エピオンの性能を最大まで引き出しても、ゼロシステムを使いこなしても、それでも届かなかった。
 所詮、神が与えた力で、神に敵う道理がなかったのだ。
 私は……弱い。『全力』を振り絞っても、届かなかったッ!!」

生き恥だ。
こんな弱さを曝すなど。
何より、己が弱いと自覚するのは、分かっているからだ。

グラハムは彼女が許してくれると分かっている。
もういい、十分よくやった、もう眠ってもいいのだと。
彼女はきっと言うだろう。
優しく労い、眠らせてくれるだろう。
それを知っていて、だからこそ、だからこそ、グラハムは、


「―――なあ、グラハム。それは本当に全力か?」


彼女の一言に、声を失った。

「エピオンの性能。ゼロシステム。
 そんなものが、グラハム・エーカーの『全力』だったのか?」

正鵠を射る言葉に。

「衣の知っているグラハムの強さは、そんな後付の物じゃあなかったぞ」

何もかもを見通した視線に。

「神から授かった力で神に勝てない? なる程それは道理だな。
 だったら簡単だ。神に貰った覚えの無い、元々持っていたグラハム自身の、グラハムだけの、力で戦えばいい」

グラハムの『弱さ』そのものを、粉々に打ち砕かれていた。


「さすれば、グラハム・エーカーが、ただの神様如きに負ける筈が無い」


そう、少女は花のような笑顔で、当然のように言い切った。


「だから、ほら、そろそろ目を覚ませ。分かっただろう?
 今でも衣とグラハムは―――」







◇ ◇ ◇

12 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:23:08 ID:fxNQ5zpc

眩い閃光に灼かれ、痛む目を開く。
すると、そこには空があった。
憧れたもの、好きだった筈の、しかしそこにあるのは、違っていた。

炸裂するフレイヤの輝きに照らされた空は、様々な色で染められている。
黒き背景に、偽りの天体で飾り付けられたプラネタリウム。
敷かれた星座方陣の中心で、白き燐光を散らす聖杯の光。
弄られた天上。まるで神の遊び場だ。

ああ、これは違う。

違うな、と。
一瞬の微睡みから覚めたグラハムは、落下の渦中、思う。
これではない、これは己の好む空ではない。
断じて、彼女に見せたかった、誇りたかったあの空では、ない。

「……そうか、そこにいるのだな」

陳腐な話だ。
ありふれた物語だ。
特段、珍しくもない。
だけど、それだけに、胸が高鳴る。
約束は、一つだけ、確かに果たされていた。

「そう、我々は今も、一心同体だ」

生涯。忘れることは無いだろう。
二度と、彼女を失うことは無いだろう。
なぜならここに、確かに、いるのだから。


「では、凌駕するとしようか」


―――いつ?

これから。

―――誰を?

無論、ただの神様如きを。

―――誰のために?

かつて失った者の為、これから守る者の為、そして何より『自分』の為に。

―――では何のために?

決まっている。


「このグラハム・エーカーの鬱積を晴らすためだ」

13 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:24:04 ID:fxNQ5zpc



空を睨み、満身創痍の全身を起こす。
機体ごと持ち上げていく。


「はあああああああああッ!!」


そうだ、最初から気に入らなかったのだ。
あの空、あの要塞、あの機体。
頭上に浮かぶ余計な何もかも。

今、我が物顔で空を支配する神を。
蒼を余計な色で塗り潰す聖杯を、グラハム・エーカーは絶対に認めない。

聖杯? 人の救済? 幸せな結末?。
不要だ、まずはどけ、お前達はそもそもが邪魔なのだ。
神だろうがなんであろうが、そこに胡坐をかくことは許さない。
無粋な装飾を、今すぐ剥がさねば気が済まない。

さあ、今一度、取り返しに行くぞ。
返してもらおうか、私の愛した『空』を。

これがグラハム・エーカーの理由。グラハム・エーカーの矜持。
誰の為でない、己だけの戦意。
最初から、立ち向かう力の源は、ここにあったのだ。

そうして最後に、黒き天上の奥の奥。
夜に囚われたような円形の光を見上げる。

―――煌く、黄金の満月。


「共に、飛ぼう」


報いる。
守る。
そして取り戻す為。
何度でも、グラハム・エーカーは空へ舞い戻る。









◇ ◇ ◇

14 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:25:29 ID:fxNQ5zpc

―――フレイヤの輝きは収束していく。


世界の神に唯一、反撃できる威力を秘めていた暴力の光が、呆気なく消されていく。
消えた後には何も、残らない。
それが在った痕跡すら残されない。

静寂が戻る。
きらびやかに装飾された空の下。
在るのは未だ、聖杯の白一つ。

けれど今ここに、入れ替わるように更なる輝きが新生する。
空へと、昇る光がある。
ガンダム・エピオンを駆り、神を名乗る存在へと、天で高みする者達へと、邁進する者。
それは何度地に堕ちようとも、再び光を纏い、空を目指す光。
愚直な、人の生(ひかり)だった。

「度し難いな」

見下ろすリボンズ・アルマークは、目を細めていた。
何度でも立ち上がる人の意志。
だから、何だというのだろう。

今生き残る全ての個の、願い。
望み、希望、叶えんとする祈り。
全てが、愚かしい。

全人類を救う儀と、個々人の願望。
如何なる天秤にかけようと、どちらが軽いかは瞭然で、
こんなにも簡単に『死ぬ理由』を用意したにも関わらず、何故未だに彼らは生きているのだろう。

―――ご都合主義が見たいのだろう?

それを用意したと言っているのだ。
お前たちの悲劇は悲劇でなくなる。
救済の物語がもうすぐ完成しようとしている。
なのになぜ?

「消えろ」

無意味な思考に、一瞬だけ顔を顰め、リボンズは考えを打ち切った。
満身創痍のまま向かってくるグラハムへと、銃口を向け、トドメの一撃を放つ。

この攻撃は躱せない。
躱せるはずが無い。
黄金の目から、逃れることは出来ない。
未来を見通す千里眼。
変革の力。
ヴェーダとそして聖杯に直結した未来視はこれまで、リボンズを裏切った事など無かった。

そう、人は愚かだった。
どこまでも愚かだった。
現実を拒否したまま、自ら盲目となって向かってくる事もあるだろう。
度し難いが、それが弱い人間の自衛策だ。

最初から『参加者』に、リボンズを傷つける術などありはしない。
そんな力は、与えていないのだから当然だ。

ここでこの人間を排除すれば、もう儀式は終わったようなもの。
ファングの掃射によって、下方の泥の勢いは減衰している。
フレイヤを止めた今、後は矮小な黒聖杯さえ消してしまえば、
リボンズ・アルマークを脅かすものは、彼の女神の脅威に値するものは全て排除されたも同然。

グラハム・エーカーを処刑した後、下界の展示場に内包された存在を黒聖杯ごと打ち抜けば、それで全て収束する。
黄金の眼は見通す。
聖杯に直結したヴェーダから平行世界中の脳量子波を読み取り、描き出した恒久的世界平和の形。
人に与えられるべき理想の未来を。

穢れの払われた展示場跡地に、イリヤ・スフィールは降臨し、彼女を手に入れたリボンズ・アルマークは己が願いを成就させる。
最初から決められていたシナリオ。
今もゆるぎないストーリー。
何もかも予定調和。
何一つ、計画を脅かすものは無い。

なのになぜ、今になって心がざわめく。
あの光を、フレイヤの輝きを見てからだ。
なんなのだろう、この感情は、分からない。


―――そして何故、今、放った銃撃は躱されたのか。

15 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:28:04 ID:fxNQ5zpc

完全に、予測して放った弾道。
ガンダム・エピオンの動きを予測、否、決定して放つ。
それは確定された未来に向けた銃撃であり、覆せない絶殺だった。
にも拘らず、ガンダム・エピオンは、グラハム・エーカーは回避した。
当然のように、神の決定を覆した。

再起動したエピオン。
神への突貫を仕掛けていく閃光。
 
何が変わったわけではない。
先程までと同じ、愚直な突貫だ。
愚直な、そう、『先ほどよりも尚、愚直すぎる突貫』だ。

ゼロの予測、エピオンの性能を活かした立ち回り、すべてを捨てた単純な操縦技術のみの飛翔。
余計なものを取り払った『グラハム自身の力』でもって、弾幕を踏破する。

当たらずは通り。
神は、グラハムが頼ると思っているのだから。
ゼロに、エピオンに、グラハムは、グラハムより強い全てに縋るしかないのだ。
神に勝つためには、そうするしか無いのだからと。
断じて撃つから当たらない。



「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッ!!!!!!!」



自然、下がる性能。
されど雄叫びのみが、上回る。
先ほどまでの彼を、一秒前のグラハムを凌駕する。
エピオンも、ゼロシステムさえも、越えて。
もっと大きく、もっと鮮烈に、知らしめよと吠えるのだ。

―――人の愚かさを。
底知れぬ愚かさを知れ。

感覚のズレが引き起こした回避劇も長くは続かない。
リボーンズ・ガンダムの隣に、幾つもの銃口が並んでいく。
黒聖杯が沈静化したことによって呼び戻された、大量のファングだった。

千里眼の予測を上回ろうが、今度は単純な性能差に押しつぶされる。
幾重ものビームがエピオンを貫く。
強制的な幕引きをここに、圧倒的な暴力でもって茶番劇を終わらせる。
その、寸前に。
遥か下方から放たれた銃撃が、並ぶファングを薙ぎ払っていた。


「嗚呼、本当に、本当に、愚かだな」

レーダーに捉えたその姿へと、リボンズは言葉を贈った。
遥か下方、展示場付近に陣取ったジングウと、一機の射手。


「君には『僕の声』が聞こえているのだろう?
 ならば尚更だ」



そう、聞こえていた。
今、天上の神を照準に捉える彼には。

ヴォルケイン。
ヨロイを纏った枢木スザクは今確かに、『声』を聞いていた。

己へと語りかけるリボンズの声。
人の愚かさを憐れみ、無意味な抵抗を続けるグラハムとスザクを、どこまでも脅威とは見做さない言葉。
人を救おうとする神の声を。

「ああ、聞こえているよ。リボンズ・アルマーク」

だが、それだけではなかった。
スザクに聞こえる声は、人を憐れみ救おうとする神様の声だけではなかった。

―――今、鮮烈に戦う者達が居る。

空へ手を伸ばすグラハム・エーカーを初め、戦い続ける全ての者達の声。
脳量子波。
人の想い、世界へと放たれる感情の音。

16 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:29:39 ID:fxNQ5zpc

なぜ聞こえるのか、枢木スザクには分からない。
ルイス・ハレヴィの薬剤。
かつて死に瀕した際、ユーフェミア・リ・ブリタニアが彼に飲ませた薬剤が元来の要因であり、
リボンズの放った強力な脳量子波によって、僅かながらもその『副作用』が発露させられたこと。
そのような理は知る由も無く、また彼にとってどうでもいい事柄だった。

ただ、聞こえている。
今を戦い続ける全ての声が。
絶望的な状況の、絶望的な世界でも、一人ではない。
たとえ理由すらバラバラでも、『救われまい』とするのは一人ではない。
ならば今、抗う事に厭は無く。

「リボンズ・アルマーク。
 お前には、聞こえていないのか」

そしてスザクに聞こえる音は、それだけではない。

「聞こえるのに、耳に入らないのか」

音がする。
遠い、遠すぎる音がする。
それは失われた声。
いつかどこかで失われた、けれど確かに在った幾つもの言葉。
頭の中で響くその音色の一つを、スザクは放つ銃撃と共に口にする。


「―――削除(デリート)」


空へと伸びる狙撃はグラハムを追い越し、先にある障害(ファング)を撃ち落していく。
熱が伝わる。
いつかこの機体に乗っていた誰かの熱。


『―――二度と取り戻せないもののために、傍から見れば馬鹿げた真似に命を賭ける。
 もうそれしかできないからだ。亡くした者のために、どう足掻こうがそれしかできないからやるんだ。
 それを悪と呼ぶなら、間違いと呼ぶなら俺はそれでも十分だ…………!!』


復讐。
何も生み出さない、誰も幸せに出来ない願い。
哀しい、切ない、どうしようもない。
それでもそれは、彼にとっては残された唯一無二の『夢』、だったのだろう。

其れしかないからと彼は言った。
彼とは違う道を、スザクは選んだ。
大切なモノを失っても、『殺したものを殺すこと』をスザクは夢としなかった。
だけど同じだとも思う。

ゼロ・レクイエム。
鎮魂を歌う事。
結局のところスザクも、失くした物の為にどう足掻こうが、それしかできないから。
やり方は違えど、それはきっと、ある意味では復讐なのだ。
失った者の為に、自分の為に、出来ること、やると決めたこと。
彼と同じであり、また違う、『生きた夢』。

ならばそれを殺すことを、許しはしない。
例え、誰かに間違いだと言われようと、愚かだ、悪だと断じられようと、それでも十分だ。
この場の全員の死が、全世界の救済となり、正しい道理なのだと神が定めようとも。
スザクは生きることを選択する。生かすことを選択する。
未だここに、残る夢を。

17 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:31:27 ID:fxNQ5zpc

天性のセンスと、微かに聞こえる声に従うようにして、
スザクはヴォルケインを辛うじて固定砲台として駆動させている現状だった。
けれどそれでいい、出来ることがある。
確かに今、天に手を伸ばしている。
空の戦場に、スザクは帰還を果たしていた。


土壇場で発現した力は、まだまだ弱い。
一方的に『受信』できるだけで、『発信』することも出来はしない。
だから、代わりに、一撃に込めて届けようと思う。

天上の存在が、聞かないなら、聞かせてやる。
この引き金に乗せて。
今、聞こえる、失われた声(ユメ)の残滓を全て、撃ち込もう。
それが、この世界における鎮魂歌(レクイエム)になるのなら。


『―――――生きろ』


そして、また一つ。
色濃く残された誰かの言葉。
過去、どこかで消えた、知らない誰かの想いを今、スザクは受け取っていた。



『――世界を……変えろ。頼んだ、ぞ――』



空を睨み据える二つの眼。
左は契約の紅。
そして、右は、変革の黄金。

過去と未来。
自己と他者。
幾つもの想いを乗せて、騎士はトリガーを引き続ける。


天上から放たれる迎撃に晒されながらも、只管に狙い撃つ。
空と地を結ぶ閃光。
幾つも想いが交差した、色めく世界にて。





―――最後の、戦いが開始された。




◇ ◇ ◇

18 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:35:19 ID:fxNQ5zpc



そうして、目指し続ける少女は、見上げていた。



いま、たどり着こうとしている場所。
黒き塔、変わり果てた展示場、その麓に彼女は、平沢憂はいた。
脱出した紅蓮のコックピットからここまで、それほどの距離は無く。
歩いてたった数分で到達できた。

幾多の光が空に舞い上がる。
彩られる宇宙の下。
ゆらゆらと、黒き泥に支配された建造物は揺れている。

身体の震えが抑えられない。

憂は思う。怖い、と。
この先に何が待っているか分からない。
死ぬかもしれない、何かを失うことになるのかもしれない。
やっと見つけられた物すら、消えてしまうかもしれない。

からっぽのままならば、ここまで怖いとは思わなかった。
何かを得てしまったからこそ、死ぬのは、失うのは、こんなにも恐ろしい。

それでも、ここには、彼がいる。
いま、会いたい人が、居る。
求めたモノが、この先にきっと在ると信じている。

夢を、抱いた。
破りたくない、約束をした。
嘘にしたくない、想いを抱いた。

そしてもう一つ、彼女は決めたことがある。

だから―――

少女は一歩、踏み込んだ。
黒き塔の内側へと。

他の誰でもない、平沢憂を待っていてくれる、誰かもとへ。
いま、ふれたいと願うから。



少女は前に、進んでいった。








◇ ◇ ◇

19 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:38:25 ID:fxNQ5zpc




/jellyfish




黒い、雨が降っていた。
そこは室内であるにもかかわらず。

足元には炎。天上には煙。
目の前には、蠢く肉でできた道。

魔界と化した展示場の内部を、一人の少女が歩んでいた。
少女は今や、この世界で最弱と言って憚り無いほどに弱く。
それでも未だ、生きていた。
生きて、戦いを続けていた。
秋山澪は今も、戦う為に歩んでいた。

ぱたぱた、ぱたぱた、と。
廊下に響く雨の音。
天上から滴る黒い汚泥の鳴らす音が、少女の耳に突き刺さる。

鈍い動作で右手を持ち上げ、顔についた泥を拭う。
利き腕の左は使えない。
手首を襲う激痛を紛らわすため、きつく拳銃を掴むので精一杯だったから。

先の起動兵器戦で痛めたらしき左手首は、銃を撃つごとにその痛みを増していた。
今や真っ青になるまで鬱血したその腕で、澪は今も銃を握り続けている。

『あの場所』から、どのようにして逃れてきたのか、瞭然としていない。
澪にとって最後の切り札たるフレイヤ。それを起動した事は憶えている。
辛くも勝利した、阿良々木暦との戦いも。

そして発射時間の到達とほぼ同時に、巻き起こった施設全体の異変。
崩れ始めたシェルター、いや正確には、この展示場という施設そのものに起こった怪奇。
ぐずぐずに歪む床と壁が及ぼした危機感に任せ、ワケも分からずあの場を離脱した事は、何となく憶えていた。

しかし、どのようにしてここまで逃れてきたのかは、果たして瞭然としなかった。
阿良々木暦はどうなったのか。
展示場に何が起こって、ここは展示場の何処なのか。
状況は今、どうなっているのか。
上手く思考が纏まらない。

そして、もう一つ、憶えていることがあった。
地下シェルターから逃避する際、振り返り際に見たモニターの表示。

フレイヤは、止められていた。
何もかもを消し去る筈の破壊は、神の居城(ダモクレス)まで届かなかった。

絶対不滅の要塞たるブレイズルミナスを砕いたものの、ダモクレスを崩せず、ガンダムを落とせなかったなら、無意味に等しい。
澪の放つことが出来る唯一のカードが凌がれたのだから。
実際もうこれ以上、打つ手は無いのだから。
澪にとっては、何もかも終わったも同然であり、

「―――ッ」

それでも体は動いている。
少女は終わりを否定する。
己が体は動くから、何一つ終わっていないのだと、少女は断じて止まらない。

耳には黒い雨の音。
ぼやけた視界の奥底には、焼け落ちた、いつかの風景(ぶしつ)。
朽ちた安息の残滓たち。
今も見つづける、ありふれた幸せの記憶(ユメ)。

それを心に灯すたび。
強く求める事が出来た。
思い出を、今に回帰させる事を、心から願えた。

いつのまにか、目前には長い長い螺旋階段。
蠢く壁に、折れた刀を突き刺して、全身を引きずるように上へ。

20 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:41:10 ID:fxNQ5zpc

手持ちの武器はあと、二つきり。
左手に握る銃と、右手に握る折れた刀が戦力の全て。

多くの物を失った中、
未だ手に残る東横桃子の残した銃と、福路美穂子の残した剣に、奇妙な縁を感じながら。
澪は階段を昇り続けた。

きっと上では状況が動き続けている。
何かが変わるかもしれない。
希望はある。
自分は生きている、だったら―――

「もう……すぐ……」

長い、本当に長く感じた道の終わり。
ようやっと、澪は登り終える。


「―――――っ」


そうして、第一声。
少女は小さく、息をのんだ。

展示場一階。
そこはまさに魔界その物と言える程の異常空間と化していた。

漆黒でありながら半透明の壁は内臓のように胎動し続け、ますます怪物の体内然とした混沌を生んでいる。
コールタールのような汚泥があちこちの床で洪水のように溢れ出している。
施設全体で降りしきる黒雨は激しさを増し、酷い場所では天井が完全に泥と化して『落ちて』すらいる。

怪物は動きを止めず、その腸たる施設の形は一秒たりとも固定されていない。
自分が今居る場所が在り続ける保証など無い。
ふとした一瞬に両側の壁と壁に挟まれ、押しつぶされる可能性すらある。

絵にかいたような危険地帯。
未だ建物としての体裁を保っているのが奇妙ですらあった。
外縁部の廊下でこれなのだから、中央の展示空間は如何なる光景が広がっているのか。

けれど、少女が反応したのは、そんな目先の危険などという『今さらなこと』ではなかった。
少女が見ていたのは、気味悪く動く廊下の壁でなく、天井でなく、床でなく、一秒後に自らを飲み込むかもしれない泥の胎動ですらなく。
傍ら、すぐそばに倒れているモノ。
既に気配すら無い、かつて人だった何かの残骸だった。

たった数メートル先の泥沼。
そこに浸かるようにして、一つの死体が浮いていた。

真っ黒な全身に微かに人の形を残す男。
朽ち果てたような神父の姿。
かつて秋山澪に一つの力を与えたその存在、言峰綺礼は今や、いやとっくに、それは死体だった。

瞳は開いていながら閉ざされたように何もうつさず、身体は両断され上半身しか残っていない。
残された半身すら端から真っ黒に埋められピクリともしない、明らかに死体となっている男。

「――秋山澪、か」

それが、少女の名を呼んでいた。
死体の姿を見つけた時に息をもらした一方、そこから声がしたことに、澪は驚かなかった。
感覚がマヒしているのだろうか、あるいは直感的に理解していたのかもしれない。
出会ってしまった以上、この男はきっと去り際に、そばに在る者へと何かを残すだろう、と。

21 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:43:40 ID:fxNQ5zpc

「……ああ」


ちからなく答えた澪に、黒き神父は口元を歪めた。
顔をひきつらせているようにしか見えなかったが、恐らくそれは、今の彼にとっての『笑み』なのだと。
彼は今、喜んでいるのだと、澪は思った。

「……やはり、貴様も仕損じていたようだな」
「やはり……?」

嬉しそうで、かつ引っ掛かりのある言い方だった。
フレイヤによる神殺し。それが初めから失敗する事を知っていたような。
彼が澪に譲渡した兵器による計画であるにもかかわらず。
いや、譲渡したからこそ知っていたのかと、澪は理解する。

「そうだ、秋山澪。
 例えこの世界を消滅させるほどのフレイヤを投入しようとも、
 それが機械で制御されている以上は、恐らく妨害が入るだろうことは予想できていた」

「…………!」

「ヴェーダの制御をリボンズに抑えられている以上、不意は突けても、素直に破壊させてはくれんだろう。
 予想……などと勿体をつけるまでも無い。必然、だな」

「なんで……じゃあどうして、私に、フレイヤのことを教えたんだよ……!」

失敗すると分かっていながら。
上手く行くわけないと知っていながら。
何故、言峰綺礼は秋山澪にそれを伝えたのか。

「お前は、フレイヤを使った時、いったい何を感じていた?」

「……え?」

「フレイヤが最終的に破壊する範囲内には、両儀式が、平沢憂が、居たはずだ。
 お前に、関係の深いそれらの者を纏めて抹消すると決めたとき。……お前は、どう思ったのだ」

「……私、は」

「罪悪感を覚えたか? 達成感を感じたか? 優越感で満ちたか?」

「……………」

「そして、それらが失敗したとわかったとき。……どう感じた?」

「……………っ!」

「……安堵、してしまったのではないか? 人を殺せなかったことを、喜んでしまったでのはないか。
 ――――なるほど、自覚していたか。ならば理解できよう。それがお前の弱さだ。秋山澪」


どれほど覚悟を決めようとも。
どれほど逃げ場をなくしても。
どれほど誤魔化そうとも。
どうしようもないほどの、それは本質。

全く以て殺し合いには向いていない。
秋山澪の、どうしようもない結論。

「では、どうする? 己の心が拒否する現実を認識して。
 このまま心を偽り続けるのは、それこそ『逃げる』、という事ではないのかな?」
「……………」




暫くの間、沈黙が続いた。

やがて少女は一度、深呼吸をして、ゆっくりと口を開き。





「…………逃げるとか、さ。向き合うとか、さ」


二人が再び遭遇してから初めて、澪はまともに答えた。
死した男に、答えなくてもいい筈の言葉を渡す。
律儀に。愚かに。真剣に。

「そういうのは、言葉遊びなんだって」

22 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:45:22 ID:fxNQ5zpc

どこか自虐的な笑みすら浮かべ、澪は倒れた男から目を逸らす。
言峰と向き合うのが辛くなったわけでも、怖くなったわけでもない。
どこかの、誰か。
それを、思い出している。

「たしかに、私は逃げてたって言えるのかも知れない。
 私自身の感情から……。
 でも、それが正しいとか、間違ってるとか……きっとそんなことでさえ、本当に大切な事じゃなかったんだ」


正誤など、最初から関係なく。


「苦しくて、辛くて、痛くて。……溢れるほどの弱さだったのかも知れない。……ほんの少しの強さだったのかも知れない。
 でも、それでも……きっと、私が選んだって、それだけが大切な事だったんだ。私が決めて、私がやってきた。
 ……ねえ、それだけはさ、本当のことだって、私はそう思うんだ」


少女にとっての真実は最初から、その一つだけだった。


「だから……最後まで、やるよ。私は……諦めないことにする。人を殺すのはやっぱり怖いけど」


―――それでも私は、皆にまた会いたいんだ。


そう、秋山澪は言い切った。
迷いがない、などと言うことは、もう出来ないだろう。
彼女の心はいつだって迷いばかりだ。不安で、押しつぶされそうで。
自分の出した答えは間違いで、逃げているだけなのかもしれないと、自覚している。

それでも、決めたのだ。震える心で選んだのだ、と。
少女は神父に告白した。

「―――――――」

黒い神父はそれに答えない。
歪めた口元をわずかにも動かさず、見開いた目をそのままに、泥濘に埋まっている。

「……死んだんだ」

確認するように、口にする。
どれほど意味があるのかわからないその言葉を、吐き出す。

ため息が、もれる。
きらいな人だったのに。
どうしようもない悪人だったと、分かっているのに。

それでも、それは『人の死』なのだと、澪には感じられたから。
目に滲みそうになったものをこらえて、首を振る。

――――行こう。

そう思って歩き出そうとして、少しだけ振り向き、言葉を掛けた。





「さよなら」




進んでいく少女の背中に、返答の声は無く。
ただ、黒い水たまりに、最後の波紋が広がっていた。







【言峰綺礼@Fate/stay night   死亡】




◇ ◇ ◇

23 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:47:09 ID:fxNQ5zpc

さて、とりあえず、目を開けるのが怖かった。



今、泥の中に倒れ伏す僕の目の前には、いったい何が在るのだろう。
死後の世界だろうか。
誰かの死体だろうか。
どちらも在りそうで、そして見たくない物だった。

だけど、どちらも見なくちゃいけない物でもあったから。
目の前に何があっても、見なきゃ、なにも始まらないから。
僕は、阿良々木暦はゆっくりと、目を開ける。

「おはようございます」

目を覚ました時、最初に認識できたのは、少女の顔。
インデックスと呼ばれる女の子の、いつもの無表情だった。
倒れた僕の顔を覗き込むように屈んでいた彼女の銀髪が、頬にさらさらと触れている。

どうやら、死体を見るハメにはならなかったらしい。
だとしたら僕の方が……。

「痛、ッ!!」

「死んでもねーよ」と訴えるように、肉体は痛みを取り戻す。
インデックスの無表情と同じくらい『いつも通り』の、僕の身体はボロボロだった。
うーん、なんというか、安心、する。

いつも通りのボロボロ感は、いつも通りの最悪で、いつも通りの、生きているのだと示す証拠だから。
断じてマゾっけは無いけれど、今は『何もない』よりマシなのだから。

「ここ、どこだよ」

しかも幸いなことに、動けない程ひどい状態じゃないらしい。
僕も、そして周囲も。
泥溜まりがそこら中にみられるものの、まだ展示場内部としての原型を留めている場所だった。
辺りには相変わらず気味悪く変色した廊下の壁と床と、電力が途切れ動きを止めたエレベーターの扉、そしてやはり黒く変色した、階段室に続く扉。
ここはエレベーターホール、だろうか。
痛む上半身をゆっくりと起こしながら、インデックスに向き合った。

「展示場の地下1階です」

ぼそりと彼女は現在地を告げる。
展示場、地下『1階』、恐らくここより地下のフロアは全て泥の海に水没している。

全身を包む痛みに同期して、頭に戻ってくる映像がある。
地下深くに隠されていたシェルター内。
秋山澪との戦いに負けた後、襲い来る泥の波に万策尽きかけた僕を、ここまで連れてきてくれたのは他でもないインデックスだった。

「あなたが案内しろと、そう言った筈ですが?」
「そっか。ああそういや……そうだったな」

ああ、そうだ、確かにそうだ。
黒い迷宮と化した地下通路を逃げ惑う最中、彼女と合流できていなければ、いまごろ飲み込まれていたに違いない。

「希望された、『泥のない場所』は、この建物内に存在しませんでしたが、
 比較的希望に近い、『泥の少ない場所』なら、ここです」

「ありがとう、助かったよ」

淡々と告げる少女に、僕は笑顔を作って礼を告げようとして、見事に失敗した。
痛みに表情筋が固まり、不気味な表情にしかならなかっただろう。

「……はい」

素直に御礼を受け受け止める。
そんなインデックスの確かな変化を見て、僕は、まあ、特に何もしない。
良い兆候なら、それはそのまま伸ばしていって欲しいものだから。

「さて、じゃあどうしようかな、これから」

常時痛み続ける全身を、痛みに慣らしつつ、僕は思案する。
秋山との勝負には負けてしまったけれど、どうやら彼女の策もまた成就しなかったらしい。
世界の終わりは来ていない。
どうやら未だに、戦いは続いているようだから。

「ま、どうするも、こうするも、ないよな」

ならば、向かうべきところなど、今更一つしかないだろう。
忍野との邂逅は終わった。
秋山澪との対峙も終えた。
僕に飛ぶ力は無いから、空の戦いには参加できない。
じゃあ、ここから辿り着ける場所なんて、最初から一つしかないだろう。

24 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:49:08 ID:fxNQ5zpc

黒き泥が流れ出す中心。
必ず、戦いがあるだろう。
僕の二本の足で駆けつけられる場所で、きっと誰かが戦っている。

そこには、居るはずだ。
今の僕と違う理由で、だけど同じ思いで、戦っている誰かが。

僕に何ができるか、そんな事は分からない。
いや、含みを持たせる言い方はやめよう。
出来る事なんて、きっとないだろう。
秋山澪という一人の少女を相手に、結局なにも出来なかったように。

まして、この先に待つモノはきっと、魔法、魔術、超能力。
そういう形の企画外だ。
中途半端な半怪奇の人間じゃあ、殺されに行くようなもの。

ロクな戦力になりゃしない。
というか僕がこの場所で出来た事なんて、そもそも在るのかわからない。
僕はどうしようもなく弱い存在であって、この先もそれは変わらない事実だろう。
『できること』は、無い。

だからまあ、向かう先は間違いなく死地であって。
だけどまあ、『やれること』くらいは、残っているかもしれないから。



―――全員、生きて、また会おう。


そういう約束をした。
また出会うと。
『偶々残った、数人の他人』を相手に。


「……」


目指すは『終わり』。
その終わりがいったい何を指すのか。
きっと、もうとっくに示されている。

身体を完全に起し、階段へと歩む。
向かう先は展示場一階、全ての中心、展示ホールだ。

「じゃあ僕は、そろそろ行くから。インデックス、お前は今のうちにここから逃げ……」

「また、置いて行くんですか?」

その時、あり得ない感触が、背中に在った。

「え?」

引っ張られる様な、しがみつかれる様な。
いや、まて、これは違う。
背中だけじゃない……頭に何かとがっ……。






――――がぶ。



「あだだだだだだだだだっだだだだっッ!!!!!!」


ぼんやりとした思考は一瞬にして真っ赤に染まり。
頭頂部で痛みに一斉変換された感触に、僕は飛び上りながら何とも情けない悲鳴を上げていた。



――――がぶがぶがぶがぶ。



「うおおおおおおおおおッッ!!!」

いやいやいやいやいや、なんだこれ!
ついさっきまでそれなりにカッコつけて覚悟完了をキメてさあいくぞってノリノリだったのに!
結構決まってるような気がしてたのに!!
なんで唐突に女の子に、インデックスに!!
頭に噛みつかれ悲鳴を上げる男子高校生に堕とされてるんだ僕は!?


―――――がぶがぶがぶがぶがぶがぶ。


「マジ噛みッ! マジ噛みは勘弁ッ!」


抵抗の声虚しく、足元の泥溜まりに映るインデックスは無表情のままで僕の脳みそをかじり続けている。
かくして、シリアスムードはぶっ壊れた。
「あーもう、そういうのは聞き飽きたわい」と言わんばかりに、
インデックスは僕の脳内かっこつけモノローグを咀嚼粉砕し、
吐き出してくれた時には、もう全身の痛みが気にならないくらい、ただただ頭が痛かった。

25 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:51:19 ID:fxNQ5zpc

「……お前……そういうキャラだったっけ?」

「そう……だったのかも、知れませんね」

僕の頭から降りた後も、インデックスは表情を変えぬままだった。

「ですが、なんとなく、『そうしたい』、と」

そっか。

「私も、行きます」

じゃあ今の彼女も、僕と同じなのだろう。
説得は無駄という事だ。

「だったら、仕方ないか」

並んで、行く。
彼女は間違いなく主催の一人、事の発端のうち一人で、
けれどいつか天江衣が、友達になりたいと願った一人だった。

「お前、天江の友達なんだよな?」
「……いえ、考慮するとは伝えましたが」
「じゃあ結局どうしたいんだよ。今、アイツの友達になりたいと思うか?」
「……、…………ですが、彼女はもう」
「なりたいんだな。じゃあ、天江とお前は友達だ。天江は生きてるうちにお前と友達になりたいって言ったんだ。
 お前が承諾するなら、それで大丈夫だ」

僕たちは黒い展示場の中を進む。
ゆっくりと、ゆっくりと。
痛む全身とディパックを引きずり、握り続けていた紅い槍を杖にして、階段を昇り続けた。

「いいんでしょうか?」
「いいんだよ。だからさ、僕とも友達だ」
「……それはなぜ?」
「友達の友達は、友達ってことだ」

インデックスの表情は変わらない。
だけど、その瞳から、赤い血の涙を絶やさず。
その意味を、僕は問わない。

「それで、本当にいいのでしょうか?」

短い時間で、彼女はとても変化した。
要因も、過程も、何も詳しく知らないけれど、変化したのだと、僕は思う。
だけど、変わったのは彼女だけじゃない。

「じゃあ、しかたないな」

今、生き残る全て。世界に残る全て。
最初と同じで在れたモノなんて、一つも無い。
ここは何もかも、変えてしまう場所。
何故ならここは、何もかも失ってしまう場所だから。
だからこそ―――


「僕と、友達になってください」


ここに残る物は、こんなにも尊い。
何かが変わってしまっても、何かが変わらず、在り続けるものたち。
今でも手に届く、『僅か』が。


「これでどうだ」

26 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:52:42 ID:fxNQ5zpc



いつか僕は、何も持たない事が『強さ』だと信じていた。
失うもののない、傷つくことのない。
一切の痛みの無き場所こそ、優しい世界なのだと。
そんなふうに、思い込もうとしていた。

いつか傷を受けたことがあった。
それはまだ塞がらず、ここに来て、傷はまたたくさん増えた。
沢山のものを失った。

いつか何かを得た事があった。
ほんの少しの偶然と、ほんの少しの勇気と言葉で。
ちっぽけなモノを、手にすることが出来た。


「貴方の事を………みたいだと言っていた人がいました」
「……え?」
「耳が悪いところは、確かに似ていますね」


それは最高の出来事だったから。
こんな失うばかりの場所ですら、何かを得ることが出来ればと、強く思う。
新しい、『何か』を。

「着きましたね」

階段を上り終え、インデックスの指す方を見れば、目前には展示場ホールに繋がる扉。
それは本質的な意味で、何処に繋がっているのか。
地獄に近いどこかの戦場で在ることは確実で、紛れもない死地で、それでも僕はそれを開く。

訪れる終わりの形。
神の救済。
幸せな結末。
そのままで、終わらないために。

開け放つ扉の先。
ホールの奥から、溜めこまれた空気が吐き出され、突風と化して僕を襲った。
口の中、喉を圧力が蓋をして、一瞬息が出来なくなる。
咄嗟に目を覆って、顔を逸らして、呼吸を整えて、ゆっくりと前を向く。


目の前には、最後の戦場。
背後に飛び去っていく黒い風が明るく、僕へと告げた気がした。











―――それでは、また、失え。







◇ ◇ ◇

27 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:54:04 ID:fxNQ5zpc


泥の器が崩れていく。
まるで主の死に引きずられていくように。

悪を渇望する聖杯(こんげん)は潰え、ここに残るのは煉獄から続くような燃える炎。
未だ残留する無数の泥肉の群れ。

そして、一方通行と両儀式の二者のみだった。

二人は今、向き合っている。
先程まで、半ば協力関係に在ったと言っていい状況だったが、決して労いの握手を始めようという雰囲気ではなく。

ただ、次を始めようとしているに過ぎない。
共通の敵が消えたことで、両者は再び対峙する。

「で、だ。
 邪魔な汚物はこれで永久退場と相成ったワケなンだが……」

血走った目。黒く変色した血管の浮き出た白い肌。
過去最高潮の状態にあって、一方通行の肉体は今、異様を発現させていた。
まるで先ほどまで対峙していた存在の穢れを、まとめて喰らい尽くしてしまったように。

「待たせたな。ようやっと、『オマエの順番』がやってきたぜ」
「……別に、待ってた憶えはないけど……というか、まだやる気なんだ、おまえ」

対する式は、気怠く。
眼に怯みこそ見られないが、全身は疲労困憊であり、負担を隠せてはいなかった。

「なンだ、もう降参か?
 いィぜ命乞いのひとつやふたつ見せてみな、少しはキレイに死なせてやるよ。
 まァ俺の場合何したってェ? ペースト状にしかならねェけどさァ!」

言峰綺礼にトドメを刺したのはどちらだったのか。
それがそのまま、現在の差を表しているかのようだった。
かたや疲労をそのままに、かたや新たなる異常を全身に。

「まったく……元気だな……」

一方通行は最高のコンディションを維持したまま笑う。
笑う。狂ったように。
それは実に分かりやすい、異常者の振る舞いだった。

「けど、そんな下手な芝居はやめとけよ、似合ってないぞ」
 別におまえ、狂ってもいないのに」
「あァ?」

だが、式の言葉は一瞬にしてその虚飾を払っていた。
どこか痛々しいものでも見るかのように目を細め、指摘する。
この世全ての悪(アンリマユ)に精神を犯され続け、間違いなく狂気に侵されている目前の悪鬼は、
両儀式の視点ではそうおかしくはないものだと言うように。

「……やっぱ、眼がイカれてやがンだな。なンにも見えてねェンだろ?」
「ちゃんと視えてるよ。だから言ってる。
 そんなになっても、おまえは初めて会った時から変わってない。まだ、最後の線を越えちゃいない。
 何かの為に誰かを殺そうとしている。殺人鬼にも怪物にもなりきれていない、ただの殺人者だ」
 きっとオレよりも、さっきの奴よりも―――おまえのほうが、まだ全然人間だ」

そう、両儀式は今も断言する。
理由のある殺人は化物ではなく、ありきたりな人間の在り方だと。

その言葉は刃だ。
どれほど肉体をヨロイで覆っても、一切の障壁を無視して精神に触れてくる。

28 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 00:57:20 ID:fxNQ5zpc

「――――は?」


だが、それでも尚、

「ヒャハハハハハハハハハハハ!!」

一方通行は嗤った。
式の言葉を、蹴り飛ばすように。

「……オマエ……笑わせてくれるじゃねェか!
 俺がまだ人間だァ? 狂ってない? だから、なンんなンだよクソッタレが!
 どうでもいいンだよそンなモン。俺がどこの誰だろォが、正気だ狂気だ正義だ悪だ、全部意味ねェンだよ!!
 俺は、俺は、俺は――――――!」

守護(ころ)すモノだ。
アイツを泣かせるもの、アイツを苦しめるもの。
アイツにどうしても人並みの幸せってものをくれてやらない世界を。
こんなやり方しか知らないから。こんなやり方しか出来ないから。
だから、この世の狂気罪科刑罰全て、身に集めてでも絶対に―――――――


「あァ……クソ、ちくしょうが。何言ってンだよ、俺は。どうせ今すぐ殺す奴相手によォ……!」
「同感だ。オレも多分、どうでもいいことを言ってる。
 しかもそれでも構わないとすら思っている。まったくさ、どうしようもないよな」


その時、一瞬だけ、何かが緩んだのだろうか。
空気は緊迫としているのに、互いにどこか穏やかな口調で言葉を交わし合う。
だがそれも、きっと最後。

「……さっき、ああは言ったけどさ、その力はやっぱり化物じみてるよ。
 確かに、こいつは魔的だ。なら―――」

魔眼が、耀る。
灰色の痩躯に浮き上がる死線。
今は限りなく人離れしたその肉体にも、薄らと、確かな死は存在している。
そこに終わりを齎す亀裂を、突き入れる様を幻視して。

「オマエが言えたクチかよバケモノ女が。
 ……けど、あァ全くだ。こんな縁(モン)は、ここで潔く――――」

一つの世界の頂点に君臨する超能が、再び起動する。
解き放たれた能力を全開していく。
殺害方法は無限に徹底。
眼から五体に至るまで、対峙する存在を欠片も残さず粉砕するために。

「きっちり殺しておかないとなぁ―――!」
「キレイサッパリ、殺してやらくっちゃなァ―――!」

衝突する魔と魔。
和装の殺人鬼がナイフを片手に駆け走る。
旋風となり迫る影を、白髪の鬼は無形で立ち待ち受ける。





崩落していく泥の舞台。
灼熱の漆黒が埋める淵の底で、彼ら『人』の、最後の戦いが始まった。

29 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:00:22 ID:fxNQ5zpc

◇ ◇ ◇




颶風と化した一閃は一直線に、一方通行に向かって疾走する。
当然である。今の両儀式(かのじょ)にとって、対敵への攻撃手段はそれしかない。
そしてそれは今、どんな策にも勝る単純にして最強の一手である。
踏み込み、斬撃。
ただそれだけ、それのみで、両儀式は最強の超能力者を圧倒する。

それを当然に理解していた一方通行の取った行動とは、極めてシンプルだった。
正面に迫っていた式の上を征服するが如く飛翔し、彼我の距離が縦に大きく引き離された。
真下の式を睨みつけ、おもむろにポケットから数本のコーヒー缶を取り出す。
握り締める手から放された飲料水の容器は、重力だけでなく周囲の力の方向を巻き込み、星に落ちる隕石と化す。
人体が浴びればたやすく肉と骨を貫通する死の雨に、気後れすることなく式は身を翻してみせた。

「なンだァ、その目はァ?
 お行儀良くヨーイドンで正面から殴り合いするとでも思ってたのかよォ?」

展示場の吹き抜け空間にそびえる柱のひとつ、
既に根元は崩れ役目を果たしていない支柱を足場に、眼下の女を睥睨する。

「相手の土俵で踊るバカがどこにいやがる。  
 ましてやオマエみてェなバケモノ相手に」

最初から、勝負の形は見えていた。

「俺は近づかねェ。オマエは近づけねェ。
 ナマクラ振り回してせいぜいみっともなく逃げ回ってろ」

それは一方通行にしてみれば当然の選択だ。

「さァて―――どこまでもちますかねェ!」

一方通行の立つ柱が、踏みつけた衝撃に同調して激震。
根が折れ特大の砲と化して顕現する。
距離計測。
式との間合いを計算し―――

「に・げ・ン・な・よォ。
 そンなにバリエーション豊富に殺されてェのかァ!?」

俊敏に回避行動を続ける式を捉えるべく、一方通行が選択したものは線よりも面を重視した包囲攻撃。
柱一本を砕いて創る規格外の散弾だ。
延焼を続ける炎を巻き込み風を集め、飛び散った黒聖杯の成り損ないを掴んで投げ飛ばす、
この世の全てを武器に変え、たった独りを殺そうと火力を投入し続ける。

凌ぐ式に選択肢は二つしかない。
一つ、かわす。
単純明快だ。
軽やかに舞い、瓦礫の礫を避けていく。

だがそれにはいずれ限界がやってくる。
初対面の時とは違う、ここは閉鎖された屋内だ。
逃げる場所は限られて居る。
また一方通行は今や式の能力をある程度把握している。
その間合い、力の及ぼせる限界。計測して動く戦術眼が今は在る。

そして何より疲労。
先の戦いで大きく消耗している式は、動くが鈍くなっていた。
それは僅かな差異でしかない。微々たる違いだ。
しかしこの敵の前では、その差こそが命取りになる。

躱し切れない一撃が必ず来る。
それは分かっていた。
分かっていたからこそ、遂に回避不能の一撃を予感した時、迷わず行動に移れた。

30 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:03:41 ID:fxNQ5zpc

全身を穿ち貫く瓦礫の嵐。
空間的に、左右どちらも逃げ場無し。
上に飛んでも後退しても死期を早めるだけだ。

故に、握る刀(ゆいせん)に力を込める。
長大なる刃渡りを秒を数えず抜刀し、刀身を視認させぬまま納刀に達する。
『聖人』の一撃を再現する断割は、式の全身を引き裂くはずだった散弾全てを、窮地ごと薙ぎ払っていた。

それも、たったの一振りで。
明らかに斬撃の範疇を超える挙動であったが、それでも本来の聖人の動きを模倣(トレース)仕切れてはいない。
そんな事をすれば式自身の身体が持たず崩壊するだろう。
これはあくまで、唯閃に残されていた使い手の残り香、その更に残滓に過ぎない。

そして残滓の一撃ですら、式の身体に及ぼす負担は尋常ではなかった。
一振り毎に、皮膚に亀裂が走り、肉が潰れ、骨が砕ける。
それでも、目前で展開される絶死の弾幕を踏破するには、斬撃を放つ他無い故に、式は刀を振るい続ける。

命を繋いではいるが、式の肉体には次々と傷が刻まれていく、事実として詰めに入られていることは明らかだった。
間合いに近づけず、逃げ回るか切払うしかない。
時に遮蔽物に逃げ込むが、それも長くもつことは無い。

対し、一方通行は仕留めきれぬ得物を追う。
額から滴る血は、前の戦いでの傷であると無視する。
ぐずぐずと煮え立つような自らの身体の異常を黙殺して。

今はただ、冴えわたる計算と制限の取り払われた能力をフル回転させ疾駆する。
時間制限は最早ない。
代わりに、肉体が現在進行形で崩壊を続けているとしても。

能力を解放するために用いたのは、黒聖杯の魔力。
超能力者に対し、魔の力は猛毒だ。
まして呑み込んだのは呪詛の塊。

アンリマユを受け入れたと言っても、体質的な拒絶反応は消せるものではなかった。
一方通行はそれに気づかない、あるいは気づかぬフリをしているのか。
能力の行使に一切の躊躇は無かった。
まるで、それは罰の顕れなのだと受け止めるかのように。

二人、相手を傷つけながら、自らを傷つけていく。
お互い、相手を殺すために自らを削り続ける行為を続けている。
死に落ちる螺旋を描く、それはまるで円舞だった。


「――――ッ―――――――は―――」


倒れた柱の陰に、身を隠したまま、式は思う。
早くも、限界が近い。
全身の感覚が薄れつつある。

馬鹿な事を、無駄な事をしているな、と思った。
相手は遠からず崩壊する兆しを見せている。
自分を殺したとて、それは変わらない既定事実だろう。
簡単に逃げられるわけもないけれど、それでもマトモに立ち向かっているのは、何故なのか。

31 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:10:51 ID:fxNQ5zpc

同情か、親近感か、どれも違うと思う。
特に、似ているものがあるでもない。

比べるものがあるとすれば。
二度と手に入らなくなっても、残ったモノを守りたいから生きると決めた式。
常に脅かされる大切なヒトを守るため、永遠に離れることを固く刻んだ一方通行。

そこにあるのは羨望なのか。
まだ壊れていないなにかの為に懸命に抗う一方通行に、思うところが在ったのか。
その答えさえきっと、無駄なもの。
どうしようも、ないものだ。

感じるのはただ、残骸を握り締める痛みだけ。
痛みが生きる実感をくれる。かつてそう語った少女がいた。
少しだけ、分かるような気が、した。

「……それでも、ここにいるから」

生きる為に殺すという思考に疑問はない。
殺人衝動は波を引いていた。彼の命を欲しいとも思わない。
今、両儀式は紛れもない「人間」を殺す。その罰の重さを耐え切れないと知った上で。
それは生きる為というより、罪を受け入れるのに似た決意だった。


「――そろそろ、行くかな」


柱の影から出れば、待ち構えていたように浴びせられる炎風。
今度は逃げるつもりも無かった。
何故ならもう、見えているから。
両手に握り締めた七天七刀を振るうだけで、それらは簡単に掻き消えてしまうから。
続いて襲い来る雷電も竜巻も、同様の末路を辿る。
万物に内包された死に切先を通すだけで、全ては死に、還っていく。

「おまえの能力は、形も色もその時によってバラバラだけど、常におまえの周りを囲んで走っているんだ。
 規則性がないっていう規則に基づいて動いている。まるで、星の系図みたいでさ。
 なんて言うのかな、まるで宇宙そのものを見てるようで―――本当に、綺麗だよ」

忌憚のない感想と共に、微笑して、進み続ける。
直死の魔眼、その本領を発揮する舞台が今目の前に在る。
重力や大気といった見えない要素も、超能力という加工を受けたカタチなら見切る事は可能。


飛来する砲撃を、一振りで切払う。
落下してくる圧力を一足で躱し切る。
純粋なる量に訴えて来ようが、打撃、斬撃、銃撃、全て神速の斬撃が斬り払う。
炎刃、風刃、雷刃、如何なる手段によってか、迫りくるそれらを纏めて殺す。
床や天井に罅入れる崩落すら、式は地面に刀を突き立てて、流されていたベクトルごと、全て殺す。
殺す、殺す、何もかも殺して先に行く。

空間上の、一方通行に操作された『ベクトルの線』を、片っ端から殺していく。
そう、対敵がこの世の全てを悪意に変えて殺しに来るならば、両儀式はその『全て』を殺し尽くす。


「―――!?」


瞠目する敵へと、式は確かに距離を詰めていく。
どこかの喫茶店からくすねてきたナイフを二投。
一方通行の逃げ場を塞ぐように投げ放ったのを合図にして、縮地如きの足運びで、彼我の間合いを詰めていく。
浴びせられる殺意を、殺して、殺して、殺し尽くしながら迫り行く。


「オマエ――――!」


飛来するナイフが、離脱を許さない。
一方通行は予感した。
オマエはコイツに殺される、と。
持てる全火力。
全攻撃手段を浴びせかけて尚、近づていて来る敵の姿に。

考え付く殺害手段全てを投下しても止められない相手。
いつか、己を倒した誰かのように。
最強の攻撃を悉く凌ぎ、眼前にたどり着き、拳を届かせた者のように。

32 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:13:30 ID:fxNQ5zpc


「―――――ふざけンじゃ、ねェぞ?」


認めない。全てを出し切れ。
敵は一瞬にして己を上回った。
ならば、そんなふざけた結果など、再度、書き換えろと猛り吠える。


「おおおおおおおおおおおおおおおおォォォォオォォォ」



質量の雨、プラズマ、火炎、地盤沈下、天井崩落。
何一つ通じやしない。
何をやっても、運動の根源(ベクトル)を殺される。

ならば次の手を撃て。
何でもいい、こいつを殺すための手段を探せ。
片っ端から撃ちまくれ。

そうだ、あるだろう。
まだ対敵に為にしていない殺害手段が、一つだけ。



「――――――gapwzg殺aekseh――――!!」


咆哮に顕れたのは黒翼だった。
その本質は未だ正体不明なれど、破壊力だけは疑いようがない。
何より敵は、まだこの力を解析できては居ない。
振りかざす二枚羽。
消え失せろと叫ぶと同時、漆黒を振り下ろす。


「――――!!」


目の前に迫る極撃。それでも式は怯む事無く突き進む。
黒き翅が視界を埋め尽くそうとするも、するべき事は分かっていた。
打倒すべき奔流は式とは出自の異なる物なのだろうか。
未だにハッキリとした死線を捉えることが出来ない。
一方通行の能力を見るに時間が掛かったように、この交差が終わるまでに捉え切るのは不可能だ。

ならば、出来ることは一つ。
両者ともに、最大の破壊力でもって相手を打ち砕く。
唯閃、その開放。奇しくもそれは一方通行の世界と出自を同じくし、同時に対立する世界の極点。

一方通行の翼を見切る時間は無くとも、今握る刃を理解する事ならもう十分に済んでいる。

読み取る情報(かんかく)は多岐。
之の使い手は、天草式十字凄教、それを土台にした剣術を主体とする。
が、それだけでなく、どこか式の生きてきた世界と根本的に異なる種類の魔が絡んでいる。

仏教術式・神道術式・十字教術式。
知らぬ理(ことわり)が渦を巻き、使いこなす事はやはり不可能だと訴えかける。
だが十分だ、やりかたを『参考』にできればそれでいい。

再現できなくとも編み出そう。
特殊な呼吸、自己暗示による身体組み換え強化、『聖人』。
式に馴染まない異界の魔術。
しかし、それによく似た技法なら馴染みがある。

特殊な呼吸―――この程度なら可能だ。
自己暗示――――よくやっている。
聖人――――――己は違うが比べるべくもない、何故なら己は――――――

走るノイズすらどうでもいい。
重要な技能はただ一つ。

如何なる対魔防御も異なる教義にてすり抜け『迂回して傷つける』対神格。
天使の翼を刈り取る斬撃。
その概念を創作できれば、それでいい。




「唯―――」


―――抜刀。


「―――閃」


黒と銀の閃光が通り抜ける。
落ちてくる巨大な漆黒の一翼を、両儀式は両断した。
切り落とされた羽が展示場の床に落下し、地を抉り壁を吹き飛ばす。

刹那の間断すらなく、降ろされる二枚目。
その時点で既に納刀されいてた唯閃の二撃目が、引き抜かれ迎撃する。
切断された二枚目が宙を舞い、そして、その向こうで。


三枚目と、四枚目が、既に控えていた。

33 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:22:42 ID:fxNQ5zpc

「――――gph割akn!」

否、それだけでは終わらない、五枚目、六枚目が発現する。
まるで熾天使。
この世全ての悪を喰らった体は、異界の魔術と魔術が交差した力は、ここに最大の変貌を遂げていた。

「―――――!!」

式は、死を、視る。
その無敵の翼に走る死を。
脳回路が焼き切れるほどに凝視して。
飛来する四枚の翼へと、全くの同時に、四つの斬撃を叩きこんだ。


「―――――く―――そ―――!」


それはどちらが発した言葉だったのか。
耐えきれず砕け散った唯閃の柄を握る式か。
三枚の翼を同時に殺されるのを感じた一方通行か。

ラスト一枚。
死を捉え切れず、殺し切れなかった翼が落ちてくる。
身体の限界を振り切って斬撃を行使した反動か、唯閃を振りぬいた式の右腕は動かない。
だから代わりに、懐に差し入れていた左手を抜き放つ。
落ちてくる翼へと、握るルールブレイカーを突き刺して、その時、両者の動きが同時に止まった。

「オ……マエ……!」

唯閃を囮にして、最初から、これを狙っていたのか。
ピシと、ルールブレイカーと、この世全ての悪との契約に罅が入る。
故に一方通行は刃の触れた翼を、破棄せざるを得なかった。
彼はは驚愕しながら一歩を踏み出す。
最後の翼と、短刀が同時に砕ける。

一方通行はこの世全ての悪(アンリマユ)との契約破棄こそ免れたものの、全ての翼を破壊された。
両儀式は最大の武器である七天七刀を失った。

故にここからが両者にとって、本当の正念場。
お互い間合いに入ったうえでの、両者武装解除。
開始される、クロスレンジでの殺り合い。

一瞬一瞬が生死を分ける。
一歩でも先を行ったモノが、勝者となる。

刀を失った式に対し、翼が無くとも攻撃に移れる一方通行の有利、かに見えた。
一方通行は足元に転がっていた無数の小石を蹴り上げ、右手で触れることによって射出しようとし、
そのさらに先に、一体いつ持ち替えていたのか、式の右手のナイフが一閃された。
切先が小石の弾丸を払い、空間に走るベクトルの能力を殺害する。
能力の封じられた一方通行の五体へと切り返すように、式がナイフを突き入れようとする最中、彼女の頭に突きつけられていたのは銃口だった。

それは、一方通行の左手が握り締めていたモノ。
ベクトル操作によるものではなく、懐に隠し持っていた、何の変哲もない拳銃。
能力を盛大にブラフとした、能力殺しへの切り札だった。

34 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:25:14 ID:fxNQ5zpc


血が、飛び散る。
首を傾け、急所を避けた式の動きは驚嘆に値する物であり、だがその間隔は、隙以外のなにものでもない。

間髪入れずに腕が伸びる。
破壊の魔手。
能力を取り戻した一方通行が放つ、殺人接触。

伸びる手が胴体に触れる前に、式はその腕を自らの手で受け止めていた。
一方通行は勝利を確信する。
触れる場所は何処でもいい、これで詰みだ。
血流を逆転させ、腕から全身を破砕せんとし――

「―――――あァ?」

次の瞬間、困惑に支配される。
破壊が胸にまで届かず、腕の部分だけに留まっていた事実に。


"―――義手、だと!?"


機能が停止してただのモノに戻った義手は肉体との接続を失い、結果的にベクトルの流れを途中で断ち切っている。
身代わりにした左腕のパーツに混じって、地面へと零れ落ちるペーパーナイフ。
それを式は、ブーツの爪先で蹴り上げた。


「――――がっ!!」


防御の反射は当然の如く無視し、切っ先は身を捩った一方通行の左肩に突き刺さる。
一方通行は肩に熱を感じるよりも早く、いましがた己の細い胸板へと接触していた、式のたおやかな指に底冷えしていた。
指は蠱惑的にさえ思える動きで、泥に浸すようにずぶりと、肉の内側に沈み込み。


「終わり……だ……!」


―――死ぬ。


死を、直に味わう。
今まで受けたどんな感覚よりも冷たく、深く、昏く。
抵抗の力さえ奪われていく中、全身で死の手触りを知る。
そうして指先が、己が心臓に、達しようとした刹那―――――


「オマエが、なァ」


あらん限りのベクトルを、式の腹に蹴り入れた。


「――――――ッ!!!!」


声を上げる事すら許されず。
式は叩き込まれた衝撃によって、遥か後方に吹き飛んでいた。

35 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:26:59 ID:fxNQ5zpc

一方通行に血液を逆流させる余裕が無かった故に、即死は免れたものの。
それは事実上、勝負を決める一撃だった。

先程まで身を隠していた柱に全身を叩き付けられ、両義式は沈黙する。
左腕を失い、肋骨は数本折れ、立ち上がれたところで満足に動けるかも怪しい。
少なくともこれ以上、一方通行との戦闘に耐えることは出来ないだろう。



「……まァ……なンだ。つまり、そういうこった」



死を実感し、一方通行はここに至り、直死の魔眼の本質を悟る。
確かに強力な能力だ。生者も死者も、幻想すらも殺す能力。
事実として、最強の超能力者を敗死させる寸前だった。

喉笛に刃を押し付けられる、あるいは心臓を直に掴まれた程の瀬戸際。
ほんの僅かな差で、結果は逆転していたと言えるほどの僅差。
だが。だからこそ。自分は負けず、対する敵は勝てなかった。

『全てを殺す』、ほどの規格外。

目の前の彼女はかつて一方通行を倒した彼より強く。
けれど彼とは違う。違うと、断言できる。
何故ならば、



゛ふざけた幻想だけを殺し、それ以外の全てを守ってきたアイツだからこそ、己は負けたのだから゛



結局ところ、彼女の敗因とは、ただ一つ。



「最弱(さいきょう)のアイツ以外が、俺に勝てるワケねェンだよ」



そして己の勝因を告げ、終わりの一撃を放とうとして、




「―――――ァ?」



一方通行の視界の隅に、何か、些末なものが、映っていた。







◇ ◇ ◇

36 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:28:51 ID:fxNQ5zpc





―――――そこで私は、観測を停止した。



「オマエ、何だ?」


そこに立つものに、一方通行は問いかける。


「……なァ? 頼むぜおィ。
 今更、弱い者イジメさせられンのは気分悪ィンだよ」


一方通行の目前に立つ者。
膝をつき敗北寸前の両儀式の、更に背後。

一人の男が、立っていた。
阿良々木暦という、一人の人間が。
一人の弱者が、そこには立っていた。

「……なぜわざわざ、殺されにやってくるンだよ?」

どうして、死ぬと分かっていながら、姿を現したのか。
そう、一方通行は問うている。

一方通行の目の前に立つ彼に。
同時に、彼の後ろに居る存在、インデックスの目の前に、守るように立つ彼へと。

殺すものは問いかける。
なのになぜ、一方通行の前に姿を現した。
注意を引き付ける為だけに、前に出たのだと誰の目にも明らかだ。
両儀式の死を、数秒間遅らせることしか出来ない無能。
障害として機能しないレベルの性能差。


にも、拘らず―――――


彼は、前に出た。
両儀式の死を、数秒間遅らせる為、本当に、ただ、それだけの為に。

泥だらけの学生服。
傷だらけの皮膚。
何度くじかれたか知れない心。

敵は強い。
己は弱い。
勝ち目は無い。
どうしようもない。

それでも立ち続ける者を。
立ち向かえる者を。
誰かが死ぬのを、傷つくのを、見ていられないから行ける、そんな者を。
さて、物語では何といったろうか。

37 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:32:56 ID:fxNQ5zpc

「悪い、ちょっと待っててくれ」


彼は背後に守るインデックスへと、そう言って、また一歩、踏み出す。


「すぐに戻ってくる」


がくがくと震える足で。


「大丈夫、僕は死なないし、誰も殺させない」


紅の槍を両腕に構え。



「なんて、ね。似合わないよな。
 でも、一生に、一度だけ、
 言ってみてもいいだろ。こういう―――」


目に、敵を映し。


「主人公っぽい、セリフを、さ」



この場、この一瞬だけの主役は、駆け出した。




彼の、絶対的な死を前に。


背後にいた者が、無意識に伸ばしていた手は、届かない。
すり抜ける。掴めない。
いつかのように。いつものように。

―――いつも?
――――いつもとは、いつのことなのだろう?

分からない。
だけど、分かる、今なら理解できる。

そうだ、いつもすり抜けてきた。
いつも止められなかった、何も出来なかった。
いつも私は、何も、知らなかった。知る事さえ、出来なかった。

38 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:34:13 ID:fxNQ5zpc



『――何を、望みますか?
 自己の消滅を前にして、あなたは』


どこかで流れたノイズ。
記録に残る誰かの言葉が、再生される。


『……せめて、戦いたいな、衣も。
 それは無理だって、止められるだろうって、分っているけれど
 終わる前に、衣も最後に……力になれたなら』


最後に死ぬ前に戦いたいと彼女は言った。
戦って、彼女は死んだ。

誰かの為に、生きたいと、彼女は最後まで願っていた。
ああ、その願いは、果たして、いつの、誰の、願いだったのか。


―――傍にいたい、私はあなたと共にいたい。
貴方の抱える物を代わりに背負う事が出来なくても、せめて隣で戦いたい。


「―――」


あなたは私に何も話してくれず、私を置いて行ってしまう。
私は守られていることしかできなくて、何もできなくて、傷つくあなたを知ることすらできなくて。


「―――」


だからいつも、ボロボロになって帰ってきたあなたに、微笑しか渡せない自分が悔しい。
わたしだって本当は、あなたを守ってあげたいのに、戦いたいのに――――


「―――」


そんな苦くて淡い思いは、いったい誰のものだったのか。



「――――――――――」



悲鳴すら、上がることは無かった。
彼が血を流したのは、僅かな思考の、一瞬の後。
一方通行が投射した質量が彼の右腕をばっさりと切断し。
紅い、紅い、飛沫が散る。

39 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:35:32 ID:fxNQ5zpc

インデックスの足元の床に、千切られた腕が落ちてくる。
そして遅れて、血の雨が降ってきた。
紅い血が、『歩く教会』を滑り落ちて、インデックスの頬をぬらした。

「………ぉ……がぁ……ぎ……」

彼が何を言っているのかは分からない。
それはただのうめき声だ。
痛みに咽び、弱さに打ち震える、潰されたカエルのような鳴き声でしかない。
意味をなさない、ノイズ以下の音だ。

そんなものを吐き出しながら、阿良々木暦は、未だ立っていた。
先の途切れた右腕から、鮮血が迸る。
ショート寸前の痛覚に耐える為に噛み締めた下唇から、どろどろと血が流れ出す。
そうして、もう一度、足を、踏み出す。


―――て。


踏み出して、いく。


―――って。

彼が一歩を踏み出す度に。
重なるように見える何かに。



―――まって。

脳が、粉々になっていく。
思考が、意志が、インデックスという装置を、構成するものが破壊されていく。

それは今に始まった事ではなく。
最初から加えられていた一つの機能。
ゲームの終了と同時に、破棄される予定に在った禁書目録。
その自壊装置が、駆動し続けている証。

誰かの喪失を目にする度に、ほんの少しずつ。
時をかけて、少しずつ、少しずつ、罅割れていたガラス、噛み合わなくなっていた歯車。
エラーの蓄積は遂に、致命的な狂いとなり。
砕けた機能の内側から、秘せられていた『感情』が滲み、滲み、溢れ出し―――


「―――告」


このからっぽな心に、意志を、表す。







「――――警告」

40 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:38:45 ID:fxNQ5zpc

耳に聞こえるそれは誰の声か。
この施設に在る全ての存在を、インデックスは知覚していた。

阿良々木を一撃で殺せなかったことに表情を歪めた一方通行。

自らの血に足を滑らせ、インデックスの目の前で床に倒れ伏していく阿良々木暦。

僅かに肩を震わせた、両儀式。

インデックスのさらに背後に立っていた、秋山澪。

外周廊下を駆け抜けて、ホールへと近づてくる平沢憂。

どれでもない、と断定する。


「―――――警告、第三章、第一節。
 『その行動』は自身の生命活動を著しく脅かします。即時の停止を推奨」


これは、自らが発する警鐘だ。
いま新たに一歩を踏み出し、阿良々木暦の千切れた右腕を拾い上げた存在。

一方通行の注目を集める、のみに留まらず。
阿良々木暦の右腕が掴んでいた槍を、手に取った者の口から、己自身へと発せられる。
自動書記(ヨハネのペン)という、機能のエラー音声に他ならない。

「対面する存在の敵意を確認。一方通行。学園都市最強の超能力者。
 危険度はバトルロワイアル全参加者中最大域を計測。10万3000冊の書庫の保護の為、迎撃を開始します」

壊れていく、機械の音。

「――――警告、第十四章、第十三節。
 現在の行動に意味は皆無。ヨハネのペンは残り一時間と二十三分と十八秒をもって内在する意識ごと自壊破棄され■■■■■―――警告、第十二章、第十節。
 迎撃対象に最も有効なローカルウェポンを組み上げ開■■■即刻の中止を推奨、現在の行動は禁書目録の存在理由に■■■接触した聖遺物の解析を開始。
 ■■■自動書記の機能不全、魔術の不正使用を確認、暴走状態に在ると断定、これより予定(シナリオ)を繰り上げ禁書目録の完全消去を実行しま■■■■」


ざあ、ざあ、と。
聞こえるノイズは強まっていく。

ばきん、ばきん、と。
脳裏では破砕の音が響き続ける。

全身の細胞が次々と弾け、高温の血液が沸騰し、己が存在よ速やかに終われと自動書記は筆を速める。
瞳からは血の涙がこぼれ続け、視界(がめん)は、壊れたテレビのように砂嵐が覆っていく。
ここに来て、加速度的に進んでいく全身の崩壊。

魔術の行使。
そんな事は許されない。
本来、インデックス自身からその機能は排除されている。

インデックスという、ヨハネのペンという、存在を破棄された後でなく、しかし正常でもない。
『崩壊の過程』で在ったからこそ起こり得た、これは『現象』だ。

41 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:41:13 ID:fxNQ5zpc




そう、とっくに、禁書目録は、ゲームを円滑に動かすための装置は、壊れて始めていた。
自らの機能によって、そして観測してきた『彼ら』によって、関わってしまった『彼女』らによって。
彼女もまた、例外ではなく、『変えられて』いたのだから。






「――――警告、第二十三章、第三節。
 接触聖遺物の解析―――失敗。
 禁書目録とは異なる世界の聖遺物と断定。
 内臓された■■の完全再現は不可能。
 実行可能な類似奇跡の■■警告、禁書目録の消去進行■■■■検索を開始―――成功。
 ―――迎撃対象個人に対して■■■警告、術式の発動停止を即時推奨■■■■最も有効な魔術の組み合わせに成功しました」
 






観測する端末は壊れ、消えようとしている。
『完全な機能』は崩壊した。
僅かに灯された何かの指令(コマンド)に、ブレーキすら失ったそれが暴走しているに過ぎない。
ならば、今この肉体を暴走(うご)かすものとは―――





「――警告、第■■章第■節。■の解析に成功しま■■■■。
 『ケルト神話』より英雄の記録を抜粋■■■警告、禁書目録の消去を更に加速■■■警告、聖遺物の攻勢術式再現開始■■■■。
 ■■特性により■■警告■■■■如何なる障壁も迂回無視■■運命■転■■■警告■■概念武装を■■■警告■■■■構築し■■警告■。 
 術式を固定■■■警告■■■組み込み開始■■■警告■……第一式、■■警告■■第二式、第三式■■警告警告■■■■警告警告警告警告警告――――」





『私』の、意志。
そう、これは、この時だけは、私の――――






「命名、『刺し穿つ死棘の槍』完全発動まで十五秒――――」






私の、物語だ。

42 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:44:17 ID:fxNQ5zpc



「オマエ―――――――!!」






突如、展開された術式。
紅き槍を構えた存在から発せられた異質な空気。
本能的に危機を感じ取ったのか、一方通行がすぐさま攻勢に移ろうと地を蹴った。
そこに、刃を構える銀色が、割り込む。

「鬱陶しい!!」

投擲される鉛の散弾を、両儀式は断絶させた。
ほぼ全身が機能不全陥った状況下、唯一動く右腕を振り上げ、旋回させるナイフによって断ち切る。
限界に達した肉体で、一挙動ごとに血を吐き出しながらも。

残り十五秒。
之より背後。
絶対に進ませぬと阻んでいる。



「残り、十三秒」
一撃。


銀の鉛が舞う。
威力は相変わらず一撃必殺。
対する一振りも一撃相殺。


「残り十秒」
二撃。


銀のナイフが翻る。
限界は初めから見えていた。


「八秒」
三撃。


銀と銀が衝突し、散る火花。
一振りする毎に、吐き出される鮮血と、遅くなる腕の動き。


「七秒」
四撃。


地を踏みつけた一方通行の足元から、両儀式の蹲る地面を吹き飛ばすべく衝撃が飛来する。
式はすぐさま、床へとナイフを振り下ろし、ベクトルを殺害し―――


「五秒」
五撃。


そこで詰んだ。
空中に飛び上っていた一方通行は展示場の支柱の破片を投げつける。
未だ床に突き刺さったナイフを振り上げる。
ナイフ一本を、持ち上げる為の筋力が、既に、両儀式には残っていなかった。


「残り――――」


その時、強く紅槍を握り締めた私の、更に背後から。



「――――式!」
「――――阿良々木さん!」


ホールに響き渡った、二人の少女達の声に。

43 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:46:11 ID:fxNQ5zpc




「これが本当に、最後のッ!!」
「立って――――――――!!」


―――両儀式は無意識の内に、ナイフを手放していた。
―――倒れ伏した阿良々木暦の指先が、ぴくりと動いた。


「最後の一本だからッ!!」
「約束を破らないでッ!!」


声が、届く。
空手で天に翳した式の掌へ、煌く刀身が飛来する。
刀身が中程で折れた、その刀。
殺すもの、守るもの、幾人もの手を渡ってきたその刀。
戦国より受け継がれた刀身に、一瞬だけの紫電が煌いて。

もう、振り上げは済んでいる。
だから力は要らない。
ただ、振り下ろすのみ。
過たず、死の点を貫かれた砲撃は四散し―――



「――――完全発動まで残り■秒――――」


展開されていた魔法陣に、亀裂が走る。
僅か十五秒の経過を待つまでも無く、私の思考が分断される。
視界は罅割れ位相がズレ、敵の姿を、もう捉える事すらできない。


「――――――――警告、■■■■■。
 ―――――――――――――――――――――――――
 ――――――――――――――――――――――――――
 ――――――――――――――――――――――――――――」


身体の感覚が掴めない。
腕の神経などとうに失せ、槍を握り締める実感すら最早ない。
敵の名、己の名、目的、全て砕け散って戻らない。
例え発動までこぎ着けたところで、穂先を何処に向ければいいか、定まらない。


定まらない狙いは乱れ、感覚の失せた腕は槍を、取り落とす。
最早、数メートル先も見えなくなった視界で、私は最後に見た。



「―――――頑張れ」


血を流しながら立ち上がる、阿良々木暦(しょうねん)の姿。
何度でも立ち上がる、主人公の姿。
『彼』が、その穂先を掴み、放つべき敵へ、狙いを定める。


「―――まだ、終わってないだろ?」


ただ、それだけ。
彼に出来た事はそれだけで、それだけが、いま必要な全てだった。

44 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:48:41 ID:fxNQ5zpc



「―――ねえ」


私は、告げる。
目の前の背中に。
立ち上がる少年に。
先を行く、いつか先に行ってしまった、もう届かない誰かに向けて。


「―――ねえ、とーま。私も」


彼に重ねる、いつかの主人公に。



「――――私も一緒にッ!!」



私自身の想いを。
ずっとため込んでいた想いを、壊れた声帯で告げていた。




「――――私も一緒に、連れて行ってッ!!」

「――――ああ、一緒に勝とうぜ、インデックス!!」



もう存在しない筈の右手が、最後に私を抱き寄せる。
振り向いた『彼』の姿は、声は、果たして幻だったのだろうか。
何もわからない。
けれど、ああ、どうしてだろう。
壊れていく私は、全ての思考が粉砕される直前に、ただ一つだけを思っていた。





神様、どうか、どうかこの幻想だけは―――――





「「―――刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)」」






壊れないで、永遠に。











◇ ◇ ◇

45 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:50:11 ID:fxNQ5zpc

「あ?」


一方通行は、放たれた穂先を簡単に弾く。
飛来する槍のベクトルを『反射』させ逆方向に撃ち返す。

「……なンだァ?」

すると槍は妙な挙動をした。
反射に触れる寸前か、瞬間か、或は直後か、それは逆方向すなわち後ろに進んだのだ。
枢木スザクが示したものと同じ、反射の攻略法。
『遠ざかる槍撃』は一方通行自身へと反射され、心臓を貫きに来る。

「なンだよ?」

その程度なら予測していた。
通常の攻撃でないことは見るに明らかであったし、一方通行は既にスザクの動きを観ているのだ。
万が一の対策はしてあった。元より反射はオートではなくリモートにしてある。
増幅された計算能力を総動員し、すぐさま設定を切り替える。

「なンなンだよおィ」

斜め方向に向きを変える屈折現象は無意味だった。
一度だけあべこべな位置に飛んでいった槍は、すぐさま穂先を此方に向け直し再度飛来。
以降、同じ手は通じなかった。

「おィおィ」

槍の運動エネルギーを奪い地面に流し込む転換も大して効果が見られなかった。
一瞬止まったかに思われた槍は、すぐさま自力で運動力を取り戻し再度推進。
以降はどれだけエネルギーを奪っても無駄だった。

「おィおィおィ」

向かってくるエネルギーを利用し、動きに合わせて一方通行自身の位置を変え続けることすら。
その槍撃には意味を成さなかった。
何故かほんの少しずつ、少しずつ、穂先が、一方通行の胸元へと、迫ってくる。

「おィおィおィおィおォォォォォォォォィ!!!!!!」

それは一方通行の思考を上回るがごとき計算起動。
正しく一方通行の能力を開発した科学者の動き、ですらない。

「くそがァ!! いったい――――何を――――仕掛けやがった?」

そうであれば、今の一方通行ならば、凌ぎ切れるはずなのだ。
『この世全ての悪(アンリマユ)』を取り込んだ影響か、過去最大に回転する思考回路は刹那の間隙すら見逃さない。
万物の動きを捉え切り、理論的な攻略方法ならば、数値の勝負ならば、その悉くを上回ろう。
今の彼を傷つけられる物は、両儀式の眼や、上条当麻の腕のような、基礎数にゼロを掛けるが如き反則のみ。

しかし今ここに、また違う形の反則が存在する。
基本的な反射による防壁を初め、屈折、転換、あらゆる迎撃設定を多重に張り巡らせようと、
その悉くを次々と方法を変え踏み込んでくる。
何度弾いても、何度上回っても、どれだけ運動ベクトルを操られようと、違った角度から違ったアプローチで迫る一突き。
抗するべく一方通行は無限に己を更新し、それを更に槍撃が上回り続ける。

穂先が、一方通行に触れる。
ベクトルが操られ、離れていく。
ならばと言わんばかりに穂先は逆方向に動き、迫り、また一方通行の設定が切り替わり、
すると合わせるように槍も動きを変えるのだ。

それは既に、槍撃の挙動をしていなかった。
槍と言う形状では説明のつかない軌道だった。

一方通行の全身を嵐のように埋め尽くす刺突。
多重に屈折した紅き軌跡はまるで人一人を囲む檻の如き情景だったが、あくまで『一突き』だ。
右へ左へ後ろへ前へ、一方通行の周囲数ミリを縦横無尽駆け巡る動作は実のところ後付でしかない。

46 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:52:17 ID:fxNQ5zpc

因果逆転。
心臓を穿つという結果を確定した上で放つ、必中必殺のそれは正に宝具。
放たれたのはそういう特性の術式であり、故に回避も防御も不可能だ。

槍は今、一方通行の心臓を狙っているのではなく。
『一方通行の心臓を穿つ結果』に向かって疾駆する。
最初から当たると決まっている『運命』を相手にに、ベクトル操作も、計算能力も何の意味もありはしない。



「―――――――――は」



にも拘わらず、一方通行は抵抗する。
常に己の能力を更新し、設定を変え続け、穂先の到達を一秒でも遠ざけんとする。
決して逃れられぬ運命は刻一刻と心臓に近づいてくるが、諦める気配は微塵も無い。

「―――――――――はは」

理屈を超える奇跡の具現。
唯一要求されるのは、因果逆転の呪いを逸らすほどの幸運。
『幸運』、そんなもの、己は決して持ち得ないと知っていて。
だからこそ、



「はははははははっ、やっとかよ」



何故未だに、己が抵抗を止めないのか、彼は本当に不思議だった。



「ははははははははははははははははははははははっ、やっと俺を!!」



怒るでもない。
嘆くでもない。
滑稽だったから。

何度もあった死地と同じく。
やはり彼は笑う。

そうだ。
これでいい。
これでいいんだと分かってる。
全力の抵抗は及ばず、今度こそ完敗だ、己はもうすぐ殺される。

それでいいじゃないか。
こんな悪は、殺さなきゃいけない。
間違いは、誰かに、正しい何かに、殺されなきゃいけない。

悪を殺した、正義を殺した、ただの弱者すら殺しつくした。
ただ、守る為に。正義じゃなく、『誰かの味方』になるために。

それは願われたわけでも、命じられたわけでもない。
己自身の意志で選んだのだ。
誰か手によってではなく、己が守りたいという、くだらない我欲(エゴ)の為に。


「ははははははははははははははははははははははっ!!」

47 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:54:43 ID:fxNQ5zpc



だからそう、本当に、ああ本当に、ここに『彼女』が居なくてよかったと、心から思った。
こんな悪党の居る世界に、彼女が連れて来られなくてよかった。
悪に穢れた姿を、見せずに済んでよかった。
それだけが今の一方通行にとって、紛れもない『幸運』だったから。
ならば、これ以上なにを望むことがある。


終わる『チャンス』は何度もあった。
何度も、何度も、それを掴めず、誰かを殺して生き延びた。
俺が守る。なんて願望がそうさせた。


「――――――――は」


こんな悪は、やっぱり許しちゃだめだろう。
まして彼女の居る世界に、戻したりなんかしちゃあ、絶対に駄目だろう。
ここできっちり殺して、死なせて、終わらせて、さあ今こそ――――――――




















「―――会いてェ……」





台無しだった。


「は……なンだァ……そりゃァ……笑えねェだろ……」


まったくもって嗤えないくらい、ぶち壊しだった。
ぞぶり、と。
遂に胸をえぐった穂先が、心臓を貫くその刹那。

鮮血と共に口から漏れ出したのは、自分でも驚愕するほどに腐った泣き言で、
今までの全部を無意味にするダサい弱音で、
そしてこれまで、絶死の運命に抗い続けた本当の本当の本当の理由(ワケ)で――――



「クソ……あァ……ちくしょォ………………会いてェ……なァ…………」



彼にとって、本物の願いだった。










◇ ◇ ◇

48 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:56:47 ID:fxNQ5zpc





/夢物語








――――そうして、少女はたどり着いた。






雫が、落ちる。
ゆっくりと、天井から床へ。

時が止まったような静寂に包まれた、展示場ホール。
床に点在する黒き水たまりに、吹き抜けから差し込む月の光が映っている。
その水面は穏やかだ。
胎動していた泥の勢いは既に収まり、湿り気だけが残されたそこは、まるで雨上がりのようだった。

人の声は、ない。
一つの戦いが終わった後。
残されたものは、朽ち果てた廃墟と、力を失くした汚泥の残骸と―――


―――かつり。
と、小さく。
踏み込む音があった。
静寂の空間に、立ち入る足音が、あった。

決して力強い歩みではない。
自身のある歩みではない。
ここで舞い続けた者達に比べれば、どれだけ頼りない者だろう。
だが、迷いもまた、そこには無かった。

その歩みを奏でる者は、少女は、平沢憂は、迷いなく進む。
廃墟と化したホールの中を、真っ直ぐに。
目指したものに向かって、歩き続けて。



―――かつり、かつり……っ。


そうして、ゆっくりと、歩みは―――走りへと。
堰を切るようにして、少女は駆け出した。
目指した場所、目指した人の居る所へ。
腕を振り、真っ黒な地面を蹴り飛ばし、自分に可能な最短を実現して。

「……っ……今度は……っ!」

展示場ホールの中央に倒れ伏した、幾つかの人型。
そのうちの一つに、再会を願う人の元に。

「……今度は、間に合って……!」

少女はたどり着く。
駆け寄って、確かめて、そして、

「……っ…………」

まだ、消えてない。
死んで、ない。
彼に、真っ黒い床に横たわる阿良々木暦に、確かに息はあった。

「よかった、まだ。生きてる」

とても微弱な、力の無い生命活動であったけれど。
それでも生きていた。
僅かな呼吸。
小さな鼓動。
それらが、彼がまだ、『続いている』ことを、示していたから。

49 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 01:58:18 ID:fxNQ5zpc


「あなたを、死なせませんよ……絶対。
 約束は……まだ生きてるんだから……っ!」

また会うと誓った。
「君の手を引く」と、彼は言った。
それを嘘には、させない。

憂にとっての約束は、決して『看取る』ことではなく。
生きて、言葉を交わさなければ、認められはしないものだ。
そして何より今、憂自身の中に、彼に伝えたい言葉が在るのだから。

腕の切断された肩口を縛り、これ以上の失血を阻止する。
加えて、近くに転がっていた腕を断面に合わせ、ガムテープと添え木で固定した。
即席かつ乱暴であったが、今できる限界であり―――

「……お願い、阿良々木さん……頑張って」

どれだけ傷つけられても、再生した。
手首を落とされても、時間を掛ければ接合できた。
そんな彼の身体の強さに、賭けるしかなかった。

阿良々木暦の再生能力には限界がある。
まず即死級の怪我は直せず、血を流す度に弱まり、時間が経つほどに消耗する。
しかしまだ、今も阿良々木暦の身体は微弱ではあるが、再生を続けていた。
常人であれば憂の応急処置を受けるまでもたず、限界を迎えていただろう。

阿良々木暦は今も、生きようとしている。
例え、尽きかけた蝋燭の如き再生力だったとしても。
だから憂も、彼の命を諦めるつもりは無く。

「死なせない……絶対」

その時、ぴちゃりと、一際大きな雫の音がした。

「――――!?」

無意識に任せて腕を動かす。
素早く銃を抜き、ホールの一角に向けた。

直感が、危険を告げている。
そこでようやく、憂は改めて、周囲の状況を理解した。

阿良々木の傍には、真っ白なシスター。インデックスが倒れていた。
仰向けに倒れた彼女は、息をしていたけれど、見開かれたままの眼は何もうつしていないように虚ろで。
おそらく、もう、何もうつすことは無いのだろうと、憂は思う。
理屈ではない直感で、彼女はもう、終わってしまったのだと。

少し離れたところでは、両儀式が、蹲っている。
胸を僅かに上下させていることから、生きてはいるようだが、
疲労の為か、一言も発する余裕はないようだ

そして、更に奥には、一つの死体があった。
一方通行と呼ばれた、超能力者の屍。
胸に赤い槍の直撃を受け、黒い泥の中に、うつ伏せに沈んでいる。

50 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:00:09 ID:fxNQ5zpc




憂の銃は、そのいずれにも向けられていなかった。


「また……こうなっちゃたな。私たち」

「…………」

聞こえた声。
今、危険を感じ、反射的に銃を向けた方向を、なぜだか見たくなかった。


「なあ、まだ、こっちを向いてくれないのか。 憂ちゃん」


せめて、死を見てくれないか。
大切な人の死を、見ないふりしないでくれと。
いつか彼女から投げかけられた言葉だった。

「いいえ」

だから今、応えなければならなかった。
見なければならなかった。
例えそこに、どれだけ見たくないものが在ったとしても。

「私はもう、向き合うことにしたんです。澪さん」

顔を上げて正面から見つめる。
憂以外に、この場で唯一、動くことが出来る者。


「生きてて……よかった」


―――こちらに銃を向けて立っていた、秋山澪を。




「その男から、離れてくれ」




短く、澪はそう告げた。
銃口を憂でなく、いま憂が抱きかかえる少年、阿良々木暦へと向けながら。




「殺すつもり、なんですね」

51 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:02:48 ID:fxNQ5zpc

質問に澪は沈黙でもって肯定した。
彼を殺す。
今、その為だけに、彼女はこの危険地帯に留まっている。


「憂ちゃん。私は、まだ諦めてないんだよ」


彼に向けられた銃口は、震えていなかった。
瞳は、決意していた。

「もうすぐ、チャンスが来る。全部、取り戻せるんだよ。
 これ以上何も失うことなく。
 もしかしたら、憂ちゃん達を―――殺すこともなく」

全てを取り戻す。
そして、これ以上、何も失う事は無い。
その範疇に、憂もまた含まれている。
願望でも妄想でもなく、彼女は希望を叶えると確信していて。

素直に、憂は嬉しく思った。
あなたが大事なのだと、言ってくれたことを。

「時間が無い。急いでここを脱出しなきゃいけない」

けれど同時に、秋山澪は、こうも言っている。


「だけどね。……その前に、その男だけは、ここで殺しておかなきゃいけないんだ。
 理由を話してる時間は無い。
 けど、その男だけが『例外』なんだ。今の私にとって、唯一、殺さなきゃいけない敵なんだ」


願望を成就させる為の前提として、阿良々木暦を殺す、と。


「今からでもいい。一緒に来てくれないか、憂ちゃん。
 もう、向き合ってくれたんだろう? 悲しんでくれたんだろう?
 だったら……わかるだろう……」


ああ、分かる。
分かると思う。
決して秋山澪と同じ深度とは言わない。
けれど、失った者に向き合う悲しみ、痛み、重さに、平沢憂は向き合った。


「……わかりますよ。わからないわけ……ないじゃないですか……」


失った者に向き合う。
何の意味も無いのに、何も帰ることは無いのに、なのに心が、そうしようと叫ぶ背反。
ひたすら辛くて、痛くて、重くて。
結果、死は、帰らない過去は、乗り越える物ですらなく。
どうしようもない傷を受けて『それで終わり』の物語だ。

52 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:04:28 ID:fxNQ5zpc

だからその運命を、『どうしようもないおしまい』を、認めず抗う、彼女の気持ちが。
痛いほど、わかる。分かってしまう。
共に行く、そんな選択肢もあると思う。平沢憂は秋山澪を、絶対に否定しない。
少し前、何もなかった憂なら、そういう選択をしただろう。
この世界に来て、大切な人を失って、『それだけ』だったなら。

「だけど、私は……この人を、死なせません」

それは切迫した状況でありながら、静かな言葉の交わしあいだった。
憂は不思議に思う。
自分は誰よりも、彼を、殺そうとしていた筈なのに。

今は、こんなにも必死に、守ろうとしている。
守りたいと、思える。
まったくもって、変な運命だなあ、と。


「………」


秋山澪は、一度、悲しそうに、憂から目線を切った。
明らかな隙であり、どちらも承知していたが、なにもしなかった。
憂は静かに、澪の言葉を待っていた。


「……なんで、だよ」


改めて憂を見つめた澪がこぼした声は、悔しさに塗れていた。


「……そいつが、憂ちゃんに何をしたんだよ」


なぜ庇う。
なぜ守ろうとする。

「助けてくれたのか?
 救ってくれたのか?
 私たちの、誰か一人でも、そいつは拾い上げてくれたのかよ。
 居ただけ、じゃないか……偶々……そこに、いただけで。
 そいつは……何も出来ちゃ……いなかったじゃないか……」

そんなにも大切なのか。
ヒーローなんかじゃあり得ない。
何もしてくれなかった、出来なかった、ただの他人が。

「ここで失った誰よりも、いなくなった人よりも、大切だって言うのか?」

悲痛な叫びだった。
胸を抉る言葉だった。
静かに、静かに、憂は、口を開く。
いま、『あなたを助けたい』と言ってくれた、秋山澪へと、想いを返すために。

「澪さん……この人は……」

命を救ってくれたことが在るだろうか。
大切な人を助けてくれただろうか。
憂の心を襲った迷い、不安、絶望、それらを、取り除いてくれただろうか。

「たしかに、なにも、してくれませんでしたよ」

そう、阿良々木暦は何もしていない。
阿良々木暦は、平沢憂を助けてなどくれなかった。

53 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:07:58 ID:fxNQ5zpc

助けてくれたから、また会いたいと思ったわけじゃない。
守ろうとしているわけじゃない。

秋山澪の言う通り。
彼はヒーローじゃなかった。
無力な彼は、ただそこにいただけのようなものだった。
そこに居て、誰も助けられず、一人でひた向きに頑張って、傷ついていただけ。

「いた、だけなんです」

偶々そこに。
他の誰でもない、彼は。
平沢憂の傍に。

「いたんです」

憂が一番つらかったとき。
誰かに、そばにいて欲しかったとき。
一人じゃきっと、耐えられなかったその時に。
彼は、そこにいた。

「いてくれたんですよ……」


平沢憂は、それに何より救われたのだから。
他に、何が必要だったと言うのだろう。

憂は、澪の眼を真正面から見つめ、告げる。
まっすぐに、まっすぐに、偽りない気持ちを伝える為に。

「ねえ、澪さん。私、お姉ちゃんが死んで……死んだんだって、やっと実感したとき。
 本当の重さで、分かったとき。
 とても、とても、悲しかったんです。
 言葉に出来ないくらい、死んでしまいたいくらい、痛かったんです」

その痛みは、今も無くならない。
平沢憂が死するその時まで、痛み続ける『傷』なのだろう。

「それは、『お姉ちゃんが私を助けてくれたから』、じゃないんです。
 私を庇って死んだからでも、血が繋がっていたからでもなくて。
 私はあの人からたくさんのものを貰っていたから、それを返してあげたかった。
 ずっと、一緒にいたかった。
 ……私は、あの人の事が、すきでした」


だからもう、それが叶わない事が悲しい。
あの人と同じくらい大好きになれる人が、この先、現れるだろうか。
太陽のように輝いていた笑顔。
私の星。
私のサンタクロース。
あったかい、素敵な魔法をたくさん教えてくれた人。


「お姉ちゃんが、大好きでした」


ああ、きっと、もう、現れることはない。
何故なら彼女は、世界に一人しかいないのだから。



「だい……だい……だいっっっすき。だったんです」

「ああ、知ってるよ」



あなたの為に、何でもしてあげたいと思っていた。
何でも出来るって思っていた。
それはきっと、私の為でもあったから。
私の、夢だったから。


「もう一度、あの夢が見れるなら、それは、きっと―――」

54 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:20:29 ID:fxNQ5zpc

いつか平沢憂の胸を締め付けた、一つのユメ。
もう死んでしまった、終わってしまった夢。
続きを観れるというのなら、それはどれだけ魅力的なのだろうかと思う。
もしも憂の胸が『がらんどう』のままだったらなら、迷わず澪の手を取っていただろう。


「だけど、ここに……。
 ここにはもう……在るから。
 叶えたいって、願ってしまったから……」


しかし今、痛みと共に掴む、平沢憂の胸には、確かに在る。
『がらんどう』を、埋め尽くしたもの。
新しいユメ。
それは今までの夢とは全然違うものだ。

あの人が、戻ることは永遠に無い。
『あの人と同じ大好き』を、二度と想う事は無い。
当たり前だ、同じ『すき』は、二つとないのだから。


「ごめんなさい。澪さん」


けれどこの世界に、いちばんは、いっぱいある。
人は欲張りな生き物だ。
何かを永遠に失っても、また違う何かを得ることができる。
得たいと、想える。


「私は、あなたと一緒には行けません」


同じじゃない、代わりじゃない、唯一無二の。


「この夢を、譲りたくはないから」


それを得られた事こそを、何よりもの奇跡だと信じている。
きっかけをくれた彼に、傍にいてくれた彼に、心から感謝している。
だから、伝えなければならない言葉がある。

愛だろうか、恋だろうか、ただ大切だという、それだけだろうか。
なんて、複雑に考えるまでもない。

ただ、死んでほしくないと、居なくなってほしくないと。
いつか大切だった『彼女』や、『彼』と同じように、そして違うように。
想うことが出来れば、それだけで簡単に言えること。


「彼を、殺さないでください。私の、好きな人だから」


今、この胸の中にある、夢は。
たくさんの『彼』、そして『彼女』との関わりの中で、新たに芽生えた夢は。
抱いてしまった、平沢憂の、ユメは。

そっちには、ない。
この先、にしかない。
だからあなたと、一緒の道を歩むことは出来ないのだと。

「……それに……約束とか、しちゃいましたし」

そこでやっと、憂が澪から目を逸らし、照れたように。
付け加えるように言って、けれど次の瞬間には、もう一度、澪の眼を見つめて言った。


「私は、守ります。今度こそ」

55 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:23:47 ID:fxNQ5zpc

両者共に、今相対する者を殺すつもりなど無く。
平沢憂の手にする銃は、澪ではなく、彼女が構える凶器に向いている。
秋山澪の銃口は、憂ではなく、彼女が守る阿良々木暦に向いている。


―――S&W M10 “ミリタリー&ポリス”。
元は誰の手に在ったものなのか。
彼女の友人を初め、幾人もの手に渡ったそれを、平沢憂は握り締める。

―――FN ブローニング・ハイパワー。
元は誰の手に在ったものなのか。
彼女がこの場所で唯一、本当の意味で仲間とした少女から受け継いだそれを、秋山澪は握り締める。

違う歴史を掴む。
それは彼女らが、今まで異なる道を歩んできた証明であり、
違うユメを持つに至る理由だった。
手放せないモノの為に、これから二人、違う道を歩んでいくために。

「……そっか」
「……はい」

澪が、憂が、そうして、覚悟を決めた時だった。


「―――――」


引き金が引かれることは無かった。
憂は、あり得ない音がしたことを認識する。
澪は、時間が来たことを意識する。

「――――――――a」

声を上げたのは死体だった。
いや、それは産声だったのかもしれない。
泥の中で倒れ伏したままの、一方通行の亡骸の口が、何か音を奏でている。

「――――――――――――a.a.a.a.a」

意味を成さない音の羅列を。

「―――――――――――――――l」

少女二人の語らいに、呼応するかのごとく。
心臓を貫かれた死体は。



「―――――――last――――――――――order」


一方通行は、立ち上がっていた。




◇ ◇ ◇

56 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:25:24 ID:fxNQ5zpc

世界が、逆転している。


「―――」


上は下になり、左は右と化した。
喜悦は哀切に堕ち、枯渇は飽和し、光は闇となった。
光が視界を埋め尽くしている。
意識は無意識となり、思考を埋め尽くす感情の方向性が定まらぬまま形にならなず。

―――呆然と、空を見ていた。
仰向けに倒れたまま、展示場の吹き抜け、その更に先を。
黒き嶺上は枯れ落ち、伽藍の洞の底の底から、装飾された夜空に浮かぶ、光を見つめている。

光を見続ける彼は、何を思うのか。
きっと何も思わない。何も、思えない。
既に、彼の意識は停止しているのだから。


「――――――a」


雑音が鳴っている。


「――――a―――――a」


心臓を破壊されて生きていられる命など無い。
ならば今、彼を稼働させるものは何か。
彼の燃料として駆け巡るモノは―――

―――ドクン、ドクン、と。
在り得ぬ鼓動の音が鳴る。
真っ赤な槍に刺し穿たれたはずの左胸。

不可思議な光景だった。
仰向けに倒れたままの彼の、一方通行の右胸に突き刺さっている槍が、ゆっくりとその色を変えていく。
鮮やかな紅が、塗りつぶされていく。

おぞましく、穢れた黒へ。
とっくに変調していた一方通行の心臓に侵食されるが如く、穂先から駆け上がるように染め上がる。

一方通行の鼓動とシンクロするように、展示場内で力を失っていた汚泥が、再び胎動を始めた。
黒聖杯。
言峰綺礼、そして宮永咲という依代を失ったそれは消滅の危機を前に、縋るモノを求めた。
この世全ての悪。
悪性の聖杯。叶える願いを寄越せ。
その意味を、その価値を、生まれてきた理由を寄越せと。

過去幾度、拒否されたか知れない殺戮の器。
此度も無為に消えていく運命を告げられた有象無象の汚れ達が、縋るように群がる。
沈静化し徐々に消えゆく定めだった汚泥のすべてが、彼へ寄り集まっていた。
言峰綺礼が最後に勝者と定めた存在へ。死して尚、何かを諦められない器へと。

57 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:26:14 ID:fxNQ5zpc

しかし彼の精神は既に動きを止めている。
肝心の意思が止まっているのだから、駆動させるべき方向性が定まらない。
このままではやはり、黒き聖杯の存在意義は果たせぬまま、すべてが朽ちる、筈だった。


「―――夢を、譲りたくはないから」


そんな言葉が、彼の耳に届いた。
直ぐ傍らで続けられていた、二人の少女の会話。
純粋で、まっすぐな思いのカケラ。


「………ユ……メ……」

うわ言のように口にする。
それは、なんだ。
死して止まっていた心に、染み入る響き。
死んでも忘れられない何かを、思い出してしまいそうになるほどの懐かしさが、からっぽの心に色を与えた。


「………」


眼を、開く。
ただ直上、空に在るモノを見る。

忘れない。
忘れられない。

嗚呼、いつか、遠い、いつか。
叶わない夢を見た。
決して届かない希望を、抱いてしまった。


守りたかった。
助けたかった。
共に生きていきたかった。

大切に思う彼女と。
同じ場所にいられたら、だなんて。
それはなんて、なんて分不相応な夢だったのだろう。

他人を守る方法なんて分からなかった。
助け方なんて理解できなかった。
昔から、最初から、己に出来たことなんて、一つだけ。

壊すことだけ。
ぶち壊して、ぶち壊して、ぶち壊して、何もかもぶち壊して台無しにしてしまう。
そんな最悪の方法しか知らなかったから。
なんて、愚か。そんな奴が、誰かを守ろうだなんて夢を持つこと自体が間違っていた。


「―――last――――order」


身体をゆっくりと、起こす。
すると目の前に、



アイツの、



姿が在った。

58 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:27:41 ID:fxNQ5zpc

「―――――オ―――マ――エ」


一方通行の前に立っている。
誰もが待ち続けていた彼が、もしかすると誰よりも一方通行が、希求していたかもしれない主人公(アイツ)の姿が。
幻想を殺し、幻想を守る彼が、そこに立っている、前だけを見て立っている。
一歩通行の目の前で、前を、天を見上げて、元凶の神を見据えて、彼は断ち続けている。
そうして、彼は振り向きもしないまま、一言だけ、告げた。



―――――後は任せろよ。



そうだ、ヒーローなら、既にいた。
ここにいて、そういうだろう。
幻想のみをぶち壊し、現実のすべてを守り抜く右手。
憧れて、同時に、決して己には至れないと、知っていたその在り方。
だから一方通行は、そんな幻想に心からの安堵を抱いて―――


「―――は、くだらねェ幻想だ。死にやがれ」


幻想ごとごと殺害して、踏み込んだ。
穂先を、掴む。
僅かに外していた、心臓までほんの数センチ届いていなかった紅槍を、握り締める。


「オマエの出番なンざ、もうねェンだよ」


憧れた正義の味方。幻想殺しの主人公。
それすら、己は殺して、殺しつくした果てに、ここに居る。
絶死の運命すら超え、ここに最強を張り続ける。

「どけよ、ここからは俺のハナシだ。
 死んだオマエは、あの世で悔しがりながら見てやがれ」

正義の味方には、なれなかった。
最後まで、一方通行には壊すことしか出来ない。
最悪の方法しか選べない。
だとしたらいま、この胸を埋め尽くす殺意を、全部を黒く染め上げるほどの悪意を、最後は何処に向けようか。


「じゃァな」


並び立ち、そして越えていく
霧散する幻想の背中を追い抜いて。

悪を背負う。悪を引き受ける。
結局、彼に出来ることはそれだけで、それだけが、貫ける信念だったから。

この世全ての悪。
上等だ。是非も無い。
クソッタレの悪党にはお似合いだ。
これ以上の道連れが在るものか。

「行くぜ。クソッタレどもが」

背負ってやろう。
受け入れてやろう。
そして連れて行ってやろうとも。

59 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:30:30 ID:fxNQ5zpc


左胸に突き刺さる紅き槍の、その柄を握り締め、今度こそ心臓へと、突き刺した。
足りない、もっとだ、もっと深くまで味わいやがれ、と。
自らの腕で槍を押し込み、完全に心臓を貫通させた。

「がっ……ァ……は……喜び……やがれ……俺が、オマエらに生まれてきた意味をくれてやる」

この世全てのクソッタレの悪(くろ)を、ぶつけるに足るクソッタレの善(しろ)の元へ。
届けてやるから、さあ、生まれてきた意味を果たせ。


「――――――」


見上げた空から、落ちてくるモノがあった。
白き燐光。
遂に放たれた、それは展示場という施設を跡形もなく消し飛ばす神の鉄槌だった。
再生の名を持つ神が放つ一撃が、その場全ての者の視界を埋め尽くす。

誰もが思った。
終わった、と。
最後だ、と。

そう、最後だ。
最後まで、一方通行は己らしく在ろうと思う。
壊すことしか知らないなら、何もかも台無しにすることしか、出来ないなら。
だったら最後に、最後まで―――


「――――――」


見上げた空に映る極光。
神様が願う、この世全ての善を布く、崇高なユメとやらを。
ああ、クソッタレの悪党らしく、ぶち壊して、ぶち壊して、台無しにしてやろうじゃないか。

黒き竜巻が発生する。
周囲に存在する有象無象を吹き飛ばしつつ、
泥と同化した展示場ホールの吹き抜け天井、壁を引きはがし、取り込んでいく。

実に悪党らしい哄笑と共に、最後の飛翔を実現させる。
背中に展開する翼をより黒く染め。
展示場に存在する汚泥の全てを施設ごと喰らい尽し、言葉通り、この世全ての悪を引き連れて。
一方通行は地を蹴った。




◇ ◇ ◇

60 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:32:15 ID:fxNQ5zpc


生命が、燃えていた。
鮮烈に、鮮烈に、鮮烈に。
ここは舞台、女神の御前、奇跡の下に踊れ踊れと鳴り響く。

広がる夜天の下、刃は舞う。
終わりなき舞踏を繰り広げる。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!」

咆哮。
擦り切れた喉で、ただひたすらに咆哮。
紅の機装(エピオン)、グラハム・エーカーの放つ剣閃は色褪せず、対敵する存在を追って駆けていく。

「愚かだな」

神を斬る。
などと、果たせぬ暴挙を為すべく、空を往く彼を、
リボンズ・アルマークは未だ、あしらいながら慈悲をもって見下していた。

「哀れだな」

金緑色のサーベルは届かない。
幾何億と振るおうとも、上空に立つリボーンズ・ガンダムに触れる事すら叶わない。
全て片手で払われ、その度に罰の如き両断を返され、地へと落とされ続ける。
絶対的彼我の差を、覆す未来は存在しない。

「そして何より滑稽だ。ここまで来て、まだ足掻くのかい?」

「ああそうだとも。
 確かに君は強い。百度戦おうと、千度戦おうと、敵わない神様なのだと知っている。
 ――だが、生憎だったな、私はしつこくてあきらめも悪い、俗に言う人に嫌われるタイプなのだからなッ!」

閃光が奔る。


「それに、『しつこくてあきらめも悪い』のは、私だけではないぞ」


エピオンの背後から放たれたそれはリボーンズ・ガンダムの傍らを抜け、そこに在ったファングを撃ち落した。



「そうだろう!? 枢木スザク!!」
「――援護を続けます。
 あなたはただ、前を見て戦いに専念してください。僕が、道を開きます」
「承知ッ!!」


直下からの、狙撃だった。
ヴォルケインという銘のヨロイ。
搭乗している枢木スザクにとっては操縦体系の異なる機体だった。

しかし一時的に得た、金色の片眼に視えるもの。
脳に響く微かな残留思考が、スザクを導く。
ごく短い間、共に戦った人の、いつかの思念。
移動すらまま成らいザマだが、それでも砲台に徹することで戦況に一石を投じる。
そもそもヴォルケインには飛行機能が無いのだから是非もない。

かつて夢を失い、夢を過ぎて、それでも歩き続けていた抜け殻のような誰かの思い。
彼が、世界に刻み向けた僅かな感情に沿うように。
スザクは狙い、トリガーを引く。

撃つたびに、思考に交じる量子は過ぎゆき、入れ替わる。
だから、スザクは一射ごとに、それを込めて、放った。

だってそれしか出来ないから。
だけどそれなら出来るから。
今はただ、脳裏を掠める感情(おもい)を送る。
天上に立つ存在へと。

―――誰も知れぬ。
その機体が、地上に齎された中でただ一つ、天上に立つ神の与えた力でないという事実。

61 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:33:41 ID:fxNQ5zpc


「で、だから、どうしたのかな」


そしてそんな彼らの最後の抵抗を、リボンズ・アルマークは見下していた。
下に、下に、彼らが何度立ち上がろうと、天上の目線で測り、憐れむ。
何故なら己は上位種だから。
眼下で蠢く有象無象とは違う次元に立っているから。
弱者の足掻きに余裕と慈しみを持って接するのは、上に立つ存在の義務ですらあるだろう。

断言しよう。
決して、神と同じ高度に立つことは許されない。
自信に、罅を入れる事すら為し得ない。

戦う理由の変遷など、心の持ちようなど、関係がない。
純粋に力の差で、彼らは勝つことが出来ないのだから。

背にするダモクレスに合わせ、リボーンズ・ガンダムはゆっくりと降下を続けていく。
彼の降下に合わせて、突貫を続けるグラハム・エーカーは叩き伏せられ落とされる。
幾度挑もうと、対等に並ぶ事はあり得ない。

ヴォルケインもまた同じだ。
スザクが込め、放つ弾丸は、ファングを落とすのが関の山だ。
如何なる意味においてもリボンズにまで届かないし、伝わらない。

造物主の思考は常に先を見る。
現在を生きる命(だれか)、これから作られる命(なにか)、その幸福のみを追求すればい。
死者の思い。世界を救うために犠牲になった誰か。
既に終わったモノを鑑みるなど、神はすまい。それは人間することだから――――

まったくもって詰まらぬ茶番。
くだらぬ児戯。
彼らは必死になって食い下がろうとしているが、その実、リボンズ・アルマークを肉体的に殺す事にすら、意味は無いのだ。
会場に降りたリボンズの肉体は彼本人の物であるが、同時に代わりの効く端末でしかない。

肉体を滅ぼしたところで、幾度でも作り出すことができる。
無論、多少の時間は掛かるだろうが、ヴェーダと聖杯の在る限り何度でも再生は可能だ。
だから、リボンズを殺す事すら意味は無い。
最初から、全部が無意味でしかないというのに―――

今をもって、リボンズ・アルマークが本気になる気配すら見えず。
と、そこでようやくリボンズは自分が今、自分が余裕を保っていると気が付いた。
まるで今まで、全く別の勝負をしていたような、馬鹿げた時間の浪費をしていたような感覚を。

「くだらないな」

一笑に付し。
彼は終わらせる事を決める。
それは何とも軽い決定だった。
もっと簡単に終わらせる方法に気づいてしまったから、では終わらせようというだけのこと。


「―――トランザム」


アクセス・ヴェーダ。
情報の海と、聖杯に接続された黄金の眼が、完全に予測された未来を視る。
その先は、語るまでも無い蹂躙だ。


「―――ッッッ!!」


振るわれるサーベルはエピオンの片腕を切り落とし、


「――――ぐっ!!」

撃ち漏らしたファングがヴォルケインの装甲を削り切る。


「さようなら」


数十秒先の未来、グラハム・エーカーは機体を真っ二つに裂かれ、敗死。
遅れて数秒、枢木スザクも集中砲火を浴び、死亡した。

62 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:35:18 ID:fxNQ5zpc




そんな、単純な未来が、すぐそこに視えていた。



―――さあ、いよいよだ。


地上への到達は目前。夜空に広がる純白の方陣は世界を覆い尽くし、全ての並行世界へと影響を及ぼすべく扉を開く。
極大の光が地を照らし昼と夜が逆転する。
門が、開いて行く。

白き聖杯、ここに降臨。
女神の身体を借りて、現世に、遍く世界に救済を齎す。
不完全な世界を、救おう。

その為に、聖杯(かのじょ)は作られた。
その為に、神様(ぼく)は生み出された。

信じている。
己以外の何も、信じようとしなかった神は唯一、信じていた。
彼女の価値を、彼女が瞳に映した己の価値を。

自分だけが、世界を救える、救う事が出来るのだ。
何でも出来て何もしない、そんな神はもう、いらない。

己は違う。
いつの時代も人が切に望み続け、得られなかった物をくれてやろう。

真なる、永久の世界平和を授けよう。
その形とは、何度壊れても再生する『恒久の生命』と『もう一つ』―――



「欲しかったんだろう? 幸せな結末が」



人類から、『遍く全ての悲劇を取り除く』。
潰えぬ命で、永遠のハッピーエンドを繰り返せ。


「君たちはその為に戦ったんだ。良かったじゃないか」


救われただろう。
歓喜し、感涙せよ。
お前たちの永劫求め続けたモノが、漸く、世界に満ちるのだ。


「そう、これにてハッピーエンドさ。
 君たちの死をもって、それは終わり、永遠に始まる。
 ―――嬉しいだろう?」



高速で振るわれるサーベルが、エピオンを解体していく。
ファングの集中砲火に晒されたヴォルケインも、
幾ら機体に光学兵器への耐性があるとは言え、数秒と持つまい。
だが、それより尚早く潰すべき処刑対象が、眼下に居た。


「なんだ、まだあったのか」


展示場を喰らい、蠢く黒聖杯。
発生時は山のようだった巨体はファングの斉射に押され沈静化し、既に死にかけの蟲の如き有様になっている。
だが、まだ僅かに動いていた。
漆黒の手を浅ましく、白き洗練な聖杯へと伸ばしている、つまり生きている。
数少ない、リボンズが憎悪を向ける対象が、まだ『在る』のだ。

63 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:36:41 ID:fxNQ5zpc


看過できる筈が無い。許せるはずが無いだろう。
奇跡の糧となる参加者は憐れみ慈しむべき者だが、アレは屑だ。
リボンズと聖杯の儀式を文字通り汚しかねない、唯一と言っていい障害だった。

現世界に設定した、第三の霊脈。
第一、第二を避けてまで降ろすと決めたのは、同じくここに発生するだろう汚泥を完全に潰すと、最初から決定していたからだ。
実質のところ土地の質など、リボンズの信じる完全な聖杯には関係がない。
素体が完全なのだから、地脈など第三で十分である。
奇跡をかすめ取り穢す可能性のある、無粋な汚濁があるならば、上から洗浄し消し去るのみ。

そして理由はどうであれ、リボンズはここに降ろすと決めたのだ。
ならばここが、彼女の花道。
彼女の物語を終わらせ、そして始める極点だ。

だからまず、場所を開けろ、疾く消え去れよ贋作が。
そこは我が女神の降りる地だ。


「リボーンズ・キャノン」

変形と共に、全てのファングが、砲火が、展示場に向けられる。
もはや空前の灯火となったそれにトドメを刺すべく。
放たれる燐光は、蠢く汚泥、『この世全ての悪』へと引導を渡す、紛れもない決着の閃光となった。


「――――」


決着へと、確かに繋がっていた。
いざ、この世全てに善を齎さん。
絶対の幸福が支配する、純白の世界へと―――



「――――■■gyxeq■■■gase止ggee」



異を、唱える漆黒が、ここに在る。




「■■■■laaaaa■■■■■■aaaaaaaast■■■■■ooooooooooo■■■■■■■■oooooooorder■■■■■―――――――――!!!」





燐光を放たれた展示場の『土地』が、ぐにゃりと盛り上がり、弾けた。
否、違う。
これは展示場という施設を飲み込み一体化していた、巨大なる黒の汚濁その物に他ならない。
悍ましい泥は、誰もが疎む死の具現は、こう言っていた。


――わたしは生まれてきた。
――ここに居る。確かに居る。
――その、意味が欲しい。
――意味のないまま消えたくない。
――だからねえ、使ってください。




どうかわたしたちに、生まれてきた意味を教えて―――




「―――あァ、いま連れてってやるからよォ!!」



哄笑が響き渡る。
施設ごと、形状を変化させていく。
天へと伸ばしていた手が崩れ、黒塔が砕け散り、再形成されていくそれは左右に在った周辺施設を喰らい付くし、無限に増えていく。
残っていた全ての汚濁が、死が、悪が、黒が、一つの存在に寄り集まって新たな形を成す。
その依代が今、地を蹴り、飛翔を開始していた。

64 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:40:05 ID:fxNQ5zpc


無限に滴り落ちる泥が寄り集まり、縋りつくのは一人の人間の背。
一つ一つでは弱すぎる、有象無象の具現達。
地下深くから、どれだけ手を伸ばしても届かなかった清廉。
遠すぎる天空へと、憧れた白へと、到達するべく形成するモノ。

大地を覆うほどの巨大な漆黒。
左右へと二枚展開される。
それはきっと、翼と呼ばれる形をしていた。


「ひァははははははははははははははァ!!
 おォォ待ァたせしましたねェ!! カミサマさンよォォォォォォォ!!」


響き渡る狂声。
胸を串刺しにされたまま、血だらけの天使は飛翔する。
地上に放たれた砲火の全てを貫いて。
『この世全ての悪』を引き連れて、クソッタレの悪党は空を往く。


「何だ、何だよ、何ですかァ? このザマはァ! 俺が来るまでに終われなかったンですかァ!?
 仕事が遅いぜ全知全能!! それじゃァ何もかもがご破算だ!!」


中核を失った聖杯は自己を存続させようと、繋がっていた超能力者へと群がり形を成した。
もはや彼らは切り離すことの出来ない同一個体。
最後の乱入者、一方通行が神へと、滅びを届けるべく翼を羽ばたかせる。

曲がりなりにも汚れた願望器を受け取ったモノとして。
そして駆動させ、願いを成就させる者として。
己が願望を、届かせる為に。


「愚かだな……本当に……ッ」


下方から這い出して来るようなその姿に、


「本当に、どこまで君は……」


告げるリボンズは感じ取っていた。
微かな、苛立ちを。

だってそうだろう。
誰もかれも、いい加減、『愚か』がすぎる。
そして殊更に、リボンズにとって、目の前の存在は余りにも醜悪だった。

狂声を上げながら、実際に狂い果てながら、悪を翼と背負い踊り昇ってくる、『弱者』。
決して脅威ではあり得ない。負ける気など欠片もしないモノ。
死にかけの、半分以上生きてすらいない生命の残りカス。見るに堪えぬから一秒以内に消して、それで仕舞いの塵芥。
だが、醜悪さだけは、眩暈を憶えるくらい特上の代物だったから。

見た目においてだけでない、脳量子によって伝わってくる内側はそれ以上にグチャグチャで。
余りにもみっともなくて、汚過ぎて、おぞましくて、リボンズをして一瞬、見入る程に、気持ちの悪いモノだったから。
そしてそれは、紛れない『人間』だったから。


「どこまで、君らは……」


思ってしまったのだ。
一瞬の気の迷い。
あり得ない夢想、些末な錯覚であると同時に、ともすれば彼の根底を覆してしまいかねない感想を。









『こんな愚かな人間(モノ)、本当に救えるのか?』

65 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:42:28 ID:fxNQ5zpc

それは全人類を救う神として、敗北宣言に等しいワードではなかったか。
莫迦なとすぐに吐き捨てる。
くだらないと切り捨てる。
聖杯に不可能はなく、遍くすべてを己は救うのだと、コンマ一秒も断たずにリボンズは取り直し。
その僅かな間隙こそ、全てを分けたのだと気付けない。





「■■■■cb■■■■■■■■gfx■■h■■■asf壊ghj■■■■■■■■■jhfwr■■■■■■■oas輯ue■■―――――――――!!!」



極大のGNの粒子が一方通行を焼き尽くす。
その寸前、胸の刃を、掴ませてしまった。
だからもう遅いと、ソレは嗤って。




「さいっっっこォの悪夢をデリバリーしてやるよォォォォォ!! クッソ野郎ォがァァァァァァァァァァ!!!!!」




大量の血飛沫が宙に舞う。
展開していた黒翼が再び体内へと収束し、体の中心で渦を巻く。
突き刺した呪いの紅槍へと、破壊された全身の血管を通じて、血液と一体化した汚濁を芯まで染み込ませる。
それは世界間を超えた、魔術と科学の合一だった。

柄まで染まった様はもはや黒槍であり、
槍本来の呪いなど及びもつかないほど汚らわしく歪まされた媒介を、一方通行は己の魂(しんぞう)ごと引き抜いた。


「……なァ、おィ、選ンでみろよ?」


夢か、命か。
放たれた燐光が、五体を撃ち抜かんとする寸前。
目の前の怪物(にんげん)が、リボンズへとそう問うていた。


「―――は」

握るは、この世全て悪そのもの。
放つ己は、ただの悪党。
それでいい。さあ、届け。
全部台無しにしてこいよ、と呼びかけて。


投じられる。


黒槍の刃は、明らかにリボンズ・アルマークを『外して』いた。
見当違いの方向を飛んでいく。
狙い損じたのか、否、違う。


「―――何をした、つもりだ? 人間」


それはこの世で最も、彼の憤怒を煽る行いと言っていい。
全身を焼き尽くされてなお高らかに爆笑を上げながら墜落していく一方通行など、もはや眼中には無い。
放たれた槍の一撃の描く軌跡が網膜に焼き付く。

66 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:44:50 ID:fxNQ5zpc

漆黒の穂先は、ダモクレスを指している。
一方通行の身体を離れ、尚飛翔を続け、白き聖杯を目指している。
先のフレイヤの一撃でブレイズルミナスを失ったダモクレスに防ぐ機能は残っていない。
それが何を意味するのか。

参加者にとって、唯一の勝利条件とは何だったろうか。
そう、己が願いを、意志を、天上の聖杯に届かせる。
リボンズ・アルマークの聖杯を奪う、己が願望で、白き少女を染めることだ。

清廉なる不浄の白に、あの黒が触れた時、何が起こるのか。
純白に漆黒の願いが到達すれば、どうなるのか。
言うまでもないことだ。

全部、台無しになる。
全てが、水の泡になるに決まっている。
完全なる器が、黒き穢れによって歪められ―――――



「ざまァみろよ……は……はは……はひゃはははははははははははははっ!! ぎゃはははははははははははははっ!!」



リボンズ・アルマークの夢を、粉々に、破壊する。



「―――ふざけるなよッッ!! 人間ッッ!!」


リボンズの身体はとっくに、そして勝手に動いていた。
ふざけるな。
ふざけるな。
ふざけるんじゃないと、今まで感じた事の無い程の嚇怒に支配された。

何をしたつもりだ。
天上の奇跡に何をしようとしている。
あれはお前のような穢れが触れていい物じゃない。
いや、誰も触れていいものではないのだ。
リボンズ・アルマークだけが使っていい、手にしていい物なのだから。



――そうだ、彼女は、僕の物だ。





「―――――ぐ―――おおおおおぉぉぉッ―――」


気が付けば、リボーンズ・ガンダムは機体のモードを切り替え、
トランザムの全推力でもって、ダモクレスの正面に到達していた。
槍の軌道に割って入る。
モニターに映る画面が一瞬にして黒く染まる。
庇うようにして自らが、穢れた槍撃を浴びたのだと知って。

直後、全身に襲い掛かる不快な感触に視界が明滅した。
ぐちゃぐちゃに溶けた内面の渦。
受け止めたそれは、愚かだと見下した人間の、全身全霊の『愚かさ』そのものだった。

67 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:46:27 ID:fxNQ5zpc


「―――ねえ、リボンズ」





混濁する意識の中で。
耳元に、ヴェーダを通じて彼女の声が聞こえていた。
状況がまるで見えていないような、静かで落ち着いた、いつもの声だった。

「どうするのかしら?」
「―――黙れ! 切断するッ!!」

告げたそれは、言葉通りの意味だ。
ただちにヴェーダと、そして聖杯とのリンクを完全にシャットアウトする。

食らった一撃の正体は触媒を選ばず伝染する、言わばウイルスだ。
即座に接続を断たねば、泥の影響は機体を通じて彼女にまで及んでしまうだろう。

だが、それは同時に、
リボンズ自ら、ヴェーダと聖杯の加護を断ち切ったに等しかった。
彼女の声が、途切れてしまう。
後は、極大の呪いを叩き付けられた不快感のみが、絶えず頭に流れ込み続け。


「―――がッ」



それでも、



「それが、どうしたッ!!」


神はここに健在だ。
呪いの槍撃を機体の左肘に受け、まさにこの戦い始まって以来初めての傷を、受けた直後であっても。
ツインドライブの片方が砕け散っていたとしても。
シングルドライブになって、だから何だ、負ける要素など無い、趨勢は覆っていない。

リボーンズ・ガンダムが、神が、落されることはあり得ない。
敗北など、未だ1%たりとて、あり得ない、あり得ない―――


「―――?」


あり得ない、ことが一つだけ、目の前に在る。
あり得ない、視線を、あり得ない方向に感じ取る。
この世全ての悪を叩き付けられ、初のダメージを受け、僅かに、ほんの少しだけ僅かに、降下、後退していたリボーンズ・ガンダムよりも、上空から。

四肢の半分をもがれたガンダム・エピオン。
満身創痍のグラハムエーカーが、此方を―――


「なにを―――」


体内で炎が湧き上がる。
リボンズがリボンズで在るがゆえに、無視できない、流せない感情に。


「見下ろしているうううううう!」

68 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:48:55 ID:fxNQ5zpc



爆裂する怒りに任せて上昇する。


「なぜそうまで蒙昧なんだ、君らは!!
 これ以上、子供の駄々には付き合えんッ!!」


サーベルは翻る。
燐光は舞う。
リボーンズ・ガンダムの持てる機能を全開にしてエピオンを追い詰める。

大幅に性能が落ちたとはいえ、敵は満身創痍の雑魚一人。
一瞬で排除できると踏んでいる。
あと、一閃、一突き、一射の下に―――

「そうだな。駄々のようなモノかもしれん。
 このグラハム・エーカー、少し子供っぽいところは自覚している。
 愚かだと、そう繰り返す気持ちも分からなくはないさ」

なぜ、沈まない。
そもそもどうして、この敵はまだ生きているのか。
生き足掻こうとし続けるのか。

「私だけではない、我々全員が『愚か』なのかもしれないな。
 まったくもってどうしようもない。
 何の価値も無い、得る物のない戦いだ。
 我々の中の誰が勝者になろうと、きっと世界はそう変わるまい。
 所詮、我々は今も捨てられないモノの為に、戦う。
 利己の為、『拘り』に引きずられているだけの、それを愚かと呼ばず何と呼ぶ」

絶対に勝てないのに。
勝ったところで、意味など無いのに。

リボーンズ・ガンダムとガンダム・エピオンは苛烈な接近戦を繰り広げながら、上昇を続けていく。
グラハム・エーカーが、決して『上』を譲らないから。
リボンズ・アルマークが、決して『下』に位置することを看過できないから。
だからどこまでも昇っていく。二機は、星のように舞い上がる。

「リボンズ・アルマーク。お前が勝つことが、正しいのかもしれない。
 本当に、人の救われる結末なのかもしれない。
 だが、きっと我々全員にとって、そんな事はどうでもいいのさ」

カミサマに抵抗してきた理由は、全員がバラバラだった。
一つとして協調はない。
だけど全員別々の理由で、別々の方法で、救いを跳ね退ける事を選んでいた。
共通していたことは唯一点、譲れないモノがあったから。

恒久的世界平和だなんて崇高な願いに比べたらまるで見劣りする、他の誰かにとってはどうでもいい、思い。
ちっぽけなこだわり。くだらない希望。
だけど、彼らにとっては、絶対に譲れない。世界平和すら霞む願望だった。

「何故なら君自身、何度も言っていただろう、我々は、『愚か』なのだよ。
 救いようのない愚か者たち。『馬鹿』の集まりさ!! ああまったく救えないなッ!!
 そうとも!! 君に救われてたまるものかッ!!
 神様如きでは、到底救えたものではないッ、我々は最ッ高に!! 馬鹿で愚かな人間風情なのだから!!」

69 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:54:54 ID:fxNQ5zpc

天上に広がる大聖杯の門を目前にして、遂にリボンズの振るう剣がエピオンの頭部を貫く。
位置関係は再び逆転し、神はもう一度制空権を取り戻した。
エピオンは視界と攻撃手段をほぼ喪失し、それでも動きを止めなかった。
体当たりを仕掛けながら更なる上昇を続けていく。

「さあ出番だ!! ここで撃てなければ男子ではないぞ!!」

自爆装置を起動させながら、発破をかける相手は勿論。
背後で時を待っている、白騎士に他ならない。

「――――――ああ、最後だ」

炎上するヴォルケインの内側で、スザクは最後の一射を装填する。
ファングに撃たれ続けた機体は既に限界。
けたたましくなるサイレンは、今すぐ脱出しろと促してくる。
だが、まだ、一発残っている。
これを撃つまで終われない故に、もう一度トリガーを握り締める。

「救えない愚かさ!?
 何を言っている、そんな馬鹿げた理由で、人類救済を阻むなど!!」

リボンズはすぐさまグラハムにトドメを刺すべく、残されたファングを呼び戻し、ガンダムの左腕に握るサーベルを振り上げようとした。


「あまり、人間の愚かさをなめるなよ? 我々の馬鹿さ加減は君の信じる未来をどこまでも上回るぞ!! 神様風情が!!」


その、完全なるタイミングで、このチェス盤に、失われた筈のキングの駒が置かれたのだ。
不意に中空で炸裂した爆風により、戻されるはずだったファングが阻まれ、次々と落とされていく。

数瞬前、枢木スザクが、スイッチを押したその瞬間。
地上、誰もが忘却していたその砲門が開いていた。
自動航行で島の広範囲へ狙いを付けられるポジションへと位置を変えた、
人知れずセットされていたその、『揚陸艇の砲』から、ミサイルが発射されて。

騎士の手によって、失われた王の遺産が空に舞い上がる。
死後にまで、彼の言葉を伝えるように。

さあ、いまこそ知れ。



――――撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ。



「な―――――」



それだけなら、良かったのだ。
リボンズの勝利は揺るがなかった。
全くの同時に、狙いすましたように、とある爆弾が起動していなければ。



『そォら、アフターサービスだぜ。受け取れよ、クソッタレ』


落ちていく堕天使が、指先で作った銃で、天を撃つ。



「―――――な――に?」


振り下ろそうとしていた、左腕が動かない。
左肘に突き刺さる黒槍が、内包していた極大の魔力に耐えきれず壊れる。
一宝具の、内部からの自壊、加えて内包されていた魔力の量は規格外だ。
よって当然、齎される爆力は生半可なものではない。

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。
リボーンズ・ガンダムの左腕を、内側から破壊しつくす火力が巻き起こる。
機を待ち続けていたような、内側からの一撃、偶然ではあるまい。


仕掛けたモノは学園都市最高の計算能力を所持する第一位なのだから。


「―――――?」


ファングが戻らず、突如として左腕が消失した。
迅速にグラハムを引きはがせぬまま、ヴォルケインの狙撃が迫っている。
右手に握るビームライフルしか、すぐさま振るえる武器が無い。
もしかすると、それは窮地と呼ばれる状況だったのかもしれない。

なのに茫然と、リボンズは考えていた。
はて何故なのだろう。
何かが違う。何かがおかしい。
ようやく、それを自覚している。
それはフレイヤの光を見た時から、頭にチラつく感覚だった。

70 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 02:57:51 ID:fxNQ5zpc

こんな展開はシナリオには無かった。
ただの蹂躙劇に終わる筈だった。
どこでズレたのだろう。
兆候は、きっかけは、いったいどこに。因果はどこで狂ってしまった。

一方通行が悪を背負うと決意し飛翔した時だろうか。
ならばその要因は?

インデックスが一方通行に槍を放った時だろうか。
ならばその要因は?

秋山澪が一番最初にリボンズへと人の愚かさを叩き付けた時か。
ならばそこに至った過程とは?

それはもしかすると、もっと前から少しずつ、変わっていたのかもしれない。
変わり続けていたのかもしれない。
機械に過ぎなかったインデックスを変えたのは誰だ。
臆病な女子高生に過ぎなかった秋山澪を変えたのは誰だ。

リボンズの願望を、人類救済というユメに亀裂を入れたのは。
世界を救うシナリオを変えたのは、いったい誰なのだ。

誰もが変わっていた。
誰もが少しずつ変わり、そして身近な他人という、身近な世界を変え続けた結果が。
ここに、絶対のシナリオを変遷させる。
――――世界が、変わる。


「―――そんな、ことが」


黄金の目に移る未来を台無しにする。

「あって、たまるかぁッ!!」

その時、神様の、リボンズ・アルマークの吐き出したセリフは何処までも熱烈で。
神様を名乗るには、少し人間味に溢れすぎていて。

右手に握るライフルが、炎上するヴォルケインを捉えている。
ヴォルケインもまた、リボーンズ・ガンダムを照準に収める。
両者同時に、引き金を引いた。

「―――――ぁ」

クロスする弾道はお互いの機体を焼き尽くし、直後、エピオンの自爆装置が作動する。


「―――――ぁぁぁ!!」


大聖杯を巻き込む爆発が天に広がって。
リボンズ・アルマークは、無意識に手を伸ばす。
遥かな下界、今まさに地に降り立とうとしている軌跡の聖杯。
器となった、少女の姿。
怒りとプライドに囚われて、置いてきてしまっていた大事なモノに。

「ま……て……」

待て、行くんじゃない。
戻ってきてくれ。
駄目なんだ、このままでは、僕以外のモノが触れてしまいかねないだろう―――


「君は……君は……ッ!!」


―――君は僕のモノなのに。


最後に、本当に欲しかったモノへと手を伸ばしながら。
神を名乗る存在は、実に人間らしい拘りを胸に、その全身を消滅させられていた。









◇ ◇ ◇

71 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:00:10 ID:fxNQ5zpc




――そうして少女は舞い降りた。





「Ich weis nicht, was soll es bedeuten」





ゆっくりと、ゆっくりと、城の庭園から抜け出して。
もう誰も、立つ者の居ない滅びた大地へと。





「Das ich so traurig bin」





滅びた展示場跡地。
瓦礫絨毯の中心へと、静かに、白く細い両足を付けた。




「Ein Marchen aus alten Zeiten」





そこに、動くものは居ない。
静寂が全てを支配していた。





「Das kommt mir nicht aus dem Sinn」





かつて少女は告げた、如何なる形であれ、私を奪うものが勝者だと。




「Die Luft ist kuhl und es dunkelt」




だから今も、少女は待っている、誰かに奪われるその時を。




「Und ruhig fliest der Rhein」



誰も立ち上がる者の居ない、滅びた世界の真ん中で。
願望器の降臨はここに、歌い続ける少女に、辿り着く者へ。

72 3rd / 天使にふれたよ ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:01:23 ID:fxNQ5zpc





「Der Gipfel des Berges funkelt」





最後の踏破。
それが、この殺し合いの、ラストだった。





「Im Abend sonnen schein」






少女は目を閉じて歌い続ける。
遠くに聞こえる、誰かの小さな足音を待ち続ける。







「Die Lorelei getan」







今はただ、口ずさむ、ローレライの詩と共に。
















【 3rd / 天使にふれたよ  -END- 】

73 ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:05:06 ID:fxNQ5zpc

『 3rd / 天使にふれたよ』

投下終了。

74 ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:05:31 ID:fxNQ5zpc
最終回、投下開始。

75 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:08:21 ID:fxNQ5zpc









――――Der Gipfel des Berges funkelt.






待っている。






――――Im Abend sonnen schein.






私はここで、待っている。






――――Die Lorelei getan.






いつか私を奪い取る、誰かの願いを、待っている。

76 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:11:20 ID:fxNQ5zpc









 














  



                       / ALL LAST 


























77 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:14:37 ID:fxNQ5zpc





雪が降っていた。


ひらひらと。
瓦礫に埋め尽くされた一面の荒野に、白き結晶が降り積もる。
それは奇跡のひとカケラ、乗せて吹き抜ける風と共に、届けられる儚いモノ。

純なる大聖杯は狭く窮屈な世界全土を覆い尽くし、空はまるで白い絵の具で染められているかのよう。
そこからぽろぽろと、剥がれ落ちたカケラの粒が雪となり、地表へと舞い落ちる。
ひっそりと、死んだように静まり返った大地へと、降り積もる。

雑音(ノイズ)の無い、静謐な世界。

その、中心に立つ少女の歌だけが、ここに響いていた。
雪と共に瓦礫の絨毯の真ん中に降り立ち、陶器のような白き裸足を地につけた少女。
降り積もるモノと同じくらい純白のドレスを着た彼女は、瞳を閉じたまま、歌い続ける。

静けさを際立たせる透明な歌声。
ローレライ。
私のもとにおいでと誘う。
もはや何も無いかのような、空虚なる世界の真ん中で、水底の魔女は誰を呼んでいるのか。

答える者は、いない。
誰も、立つ者は、いない。
全てが死に絶えたように、止まった世界には何も、いない。

少女は告げた。
私を奪うものが勝者だ、と。
ならば、ここに、願望器に、至る者こそ。

刻限は定められている。
永遠は過ぎ去っていく。
空に散った神様が、己の身体を作り直す、その時まで。
生きているなら、誰にでも、確かにその権利があるけれど。

声も、気配も、未だ、ない。

それでも、少女は瞳を閉じたまま、歌い続ける。
空虚なる世界の真ん中で、何かを、誰かを。
夢見るように、待ち続けていた。

いつか彼女を奪いに来る、誰かの願い。
遠く、遠く、果てしなく遠く。
小さく耳に聞こえてくる、誰かの足音。





――――極点は此処に、奇跡の杯は完成する。




後はそこに、注ぐ切望を示すのみ。
人の願いという名の、永遠に続く物語。



これはその終点を目指す者達の軌跡――――






◇ ◇ ◇

78 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:17:00 ID:fxNQ5zpc



/一方通行





骸の上を、歌声は通過する。




超能力者は動かない。




胸の真ん中の孔は塞がらず、血も流れぬ体は既に朽ちていた。
けれど、さくりと、傍らで小さな音が鳴ったとき。



――――は。




その死体の口元は歪んでいた。
泣いているのか、笑っているのか、狂していたのか。
もう誰にも、分からない。確認する術は無い。



――――さっさと終わらせて来い。クソッタレが。




残されたように吊り上げた口元が、ただ、告げている。
サラサラと体が少しずつ、灰になって消えていく過程で見せた、幻のような変化。


それでも、彼は笑っていた。





「………………」





歌はもう、彼のもとまで届かない。
物言わぬ骸の傍を、誰かの靴音が通り過ぎていった。






◇ ◇ ◇

79 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:18:23 ID:fxNQ5zpc



/枢木スザク




鉄くずの山に、崩れ落ちた鎧が混じっていた。
長い時間砲火に晒され、大破炎上したその機体は既に原型を留めていない。

ヴォルケインという名の、砕かれたヨロイ。
その足元で、動くモノがあった。

瓦礫の海を這いずり進む。
身体の下に敷き詰められた小石、ガラス片が擦れ、その度に血を流す。
進む為に、土を掴む指、引き寄せる五体。
枢木スザクは、目指していた。

前へ往く。

僅かでも、前進するために、地を這い続ける。
立ち上がる体力は最早ない。
ほんの少しだけ腕に残った力を使い、ほんの少しずつ近づくことしか、出来はしない。
遠く、耳に聞こえる歌の、響く方へ。

何の為に往くのだろう。
枢木スザクはもう一度、己自身に問いかける。



――――生きろ。


分かり切っている。
声が、聞こえているから。
歌に混じって、スザクにしか聞こえない声がするから。


――――生きて。


誰かの命。
誰かの願い。
誰かの―――想い。


何の為に往くのだろう。
それは、何のために生きるのかという問いの答え。


――――生きろ。
――――生きて。


願われたから。
大切だった人に。
大事だった全てに。
そう、願われていたから。
けれど、嗚呼、それは本当の、答えじゃなくて。



―――――行きたい。



誰でもない、己の想い。




――――――生きたい。

80 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:19:24 ID:fxNQ5zpc



今、歌声の響く場所へ、行きたいと思っている
確かに、生きたいと願っている。
枢木スザクの感情こそが、身体を前進させている。
他の誰でのない、枢木スザクの思いが、響く歌へと向かって行く。


「―――――――そうか」


なんだ今の僕は、俺は、こんなにも生きたかったのか。
そんな、気づいてしまえば吹き出したくなるような単純な事実に、腕の力が抜けていく。

いつか、死にたいと思ったのは本心だった。
存在ごと己を消してしまいたいと願ったのは事実だった。
それがいつ、どこで、誰によって、変えられてしまったのだろう。

ルルーシュ。
ユフィ。
そして、此処に来るまで、交錯した全ての思い。

受け取った全ての想い。
返信した自らの感情。


――――生きろ。


――――生きて。


「ああ、僕も――――」


生きて、いたい。
生きて願いを、伝えたい。
枢木スザクの想いを、願いを、受け取るべき者へと。

「行かなくちゃ……いけない……のに……」

身体はもう、動かない。
這いずる力すら、もはやない。

そうして、停止する前進。
向かう方角を知るための歌声すら、今や聞こえぬ程に減じた聴覚で―――

「………………」

聞こえた、小さな音。

「…………………そう、か」


スザクの傍らを過ぎ去る、誰かの願い。



「――――まだ、そこに在るのか」



それは前に進んでいく、誰かの足音。







◇ ◇ ◇

81 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:20:24 ID:fxNQ5zpc




/グラハム・エーカー





踏みしめる一歩は砂利を砕き、その度に口から血が漏れ出す。
全身の感覚を失くして尚、彼の身には歩み続けられる機能が備わっている。

痛みを押し殺し、一歩。
うめきながら、二歩。
響く歌声をめざし、三歩。

男は進む。
彼は、グラハム・エーカーは歩んでいた。



――――前へ。



神を名乗る者と刃を交わした時も。
空中でエピオンからの脱出を試みた時も。
パラシュート降下により大地を踏みしめた時も。
今、全身がバラバラになりそうな痛みの中でも、常に唱え続けていた言葉を想起して。

――――前へ。

男は進む。
霞む視界で、ガクガクと震える足で、ふらふらと覚束ない動きで。
はたから見れば滑稽なほど緩慢に、それでも前進を続けていた。

限界は近い。
いや、限界など、とうの昔に振り切っている。
動いているだけでもあり得ない状態なのだから、立って歩むなど無茶の範囲を超えている。
この瞬間、唐突に心臓が止まっても、決しておかしくはない。

一歩、一歩、罅割れた地面を踏み壊すように、一歩ずつ進む。
可能としているのが、彼の精神力。
常人を超えた心の在り方は、燃え尽きようとしている命を更に燃焼させる。
最後の炎をもってして、踏破を敢行する。


「――――――」


願望器の待つ場所へと。
何もかもを忘却し、阿修羅と化し、そうしてたどり着く。
願いを忘却したまま、何も無く、ただ。たどり着く。
そこに、何の意味があるのだろう。


「――――――ぁ」


過る空虚さに気づいたとき。
止まる筈のない前進が止まっていた。
歩み続けていた彼の目の前に、何かが転がっている。

それは、気づかないまま進み続けていれば、踏んでしまいそうになる程の小さなモノだった。
小さな身体。
壊れたように動かない、修道服の少女。

82 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:21:21 ID:fxNQ5zpc


修道服の少女は、どうしようもなく終わってしまっている。
閉じられた瞳は動かない。彼女の、砕け散った心は戻らない。

それでも、まだ、息をしていたから。
まだ、生きて、いたから。
足が、止まる。
そしてもう、動かない。

その時、グラハム。エーカーは理解した。
己は、ここまでなのだと。

絶対に、グラハム・エーカーに、彼女を跨ぐことは出来ないから。
置いて行くことが、出来ないから。
なのに、それでいいと、思えたのは何故なのか。


「―――――――」


命の燃焼が止められたことで、奇跡的に残っていた推力が霧散する。
そっと近づいて屈みこみ、少女の頬を撫で、そこに残る涙を拭った。

もう歌は聞こえない。
抱え上げたとき、今度こそ、全身の力が消えてなくなるのを感じながら。
彼は、告げた。




「―――――――行け」



傍らを通り過ぎていく、誰かの足音に。




「―――――――君に、託す」





◇ ◇ ◇

83 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:22:03 ID:fxNQ5zpc



/アリー・アル・サーシェス






罅割れた眼球が俯瞰する。



窓ガラスの全て割れたオフィスビルの屋上の柵に、その肉体は引っかかっていた。
色々な部分の欠けた体で、動いているのは眼球のみ。
視線の先には、歌い続ける小さな女神があった。




―――あーあ、もう終わっちまう。




そんな諦観と少しの落胆を滲ませながら、それでも彼は愉快気に。
既に上半身しか残っておらず、もうじき死する定めとしても。





―――だが、まだ、終わってねえ。




踊り明かした戦いの最後を見つめていた。





―――ああクソ、なんかよく視えねえな。




血が零れる。
意識が抜けていく。
歌声なんて、とっくに聞こえなくなっている。


それでも、もう少しだけ見せてくれよと。
彼は楽しそうに、声をかけた。


「なあ、おい、テメエもこっち来て観てみろよ」




傍らに近づく、誰かの足音へと。




「今回最後の戦争だ。フィナーレだぜ、切ないねぇ………」











◇ ◇ ◇

84 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:23:52 ID:fxNQ5zpc


/両義式



僅か、聞こえる歌声に、目を覚ます。


体の感覚がほとんど死んでいた。
視力と聴力以外、何も残っていないくらいに。

仰向けに寝転がったまま、見上げた空は泣いていた。
まったく、空が泣いている、だなんて、
陳腐な表現がこれほど当てはまる場面もそうそうない。

ただし泣き方は、よく言われているものと違っていたけれど。
哀しさを振り絞るような悲哀(あめ)じゃなく。
ぽろり、ぽろりと、懐かしむような、あるいは別れを惜しむような、哀切(ゆき)の空。

天頂を中心に、私に視える『線』は広がって、空を覆う。
真っ白を引き裂くように、黒い亀裂が広がっていく。
まるで、世界そのものが死に往くように、際限なく。

それがなんだか、少し嫌で。
黒線のない、純白の空が見てみたくて。

そこで私はふと思う。
私は今までどうやって、この黒い線を視界から消していたのだろうか。

分からない。
分からなくなっていることに、今更になって私は気づいた。

今までの私は、いったい何を、観ていたのだろうか。
一体何を、達観していたのだろうか。
此処まで来て、今更、見失って、しまった。

視る事も叶わなかったアイツの死。
視る事になった、誰かの死。

ずっと、この場所で感じてきた、やけに重い死のように。
天頂に広がる死線はハッキリと感じられて。

なんだ、ばかばかしいくらい簡単なコトだった。
ああ、死はこんなにも、重く切ない。
いつの間にか、無視できない程に、私はそう捉えてしまっていた。


「―――お前は、いくのか」


私は眼を閉じて、傍らへと声をかける。
いましがた、立ち上がったばかりの誰かに。


「――――そう、か」


閉じた視界に映るのは誰の死でもない、微睡。
耳に入るのは返答の声と、遠ざかっていく足音だけ。

もう、空の死は視えない。
響く歌は、聞こえない。








◇ ◇ ◇

85 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:27:05 ID:fxNQ5zpc



/阿良々木暦




―――歌が、聞こえた。



雪と共に、風に乗って届られる。
それは悲しい歌だった。

外国の、それなりに有名な、僕ですらきっとどこかで聴いたことのある曲。
日本語じゃない歌詞の意味は、良く分からなかったけれど。
少なくともいま聞こえるこの歌は、なんだか哀しくて、切なくて。
胸を締め付けられるような切望の込められた、そんな歌だと、僕は思った。

分からない言の葉の、意味、だけど分かることが一つだけ。

この歌は、呼んでいる。
僕を、僕たちを、この世界に未だに残る、生きた者達を。
生きるモノ達が運んできた、願いの訪れを待っている。
だから、行かないといけない。

幸い歌声はそう遠くない筈だ、ほんの少しの距離を歩いて、たどり着くだけ。
特別な力なんて要らない誰にだって出来る簡単な、
たったそれだけのこと、なのに……どうして……それが、こんなにも難しいんだろうか。

「――――――」

視界いっぱいに広がる、漂白されたような空から、雪が降りてくる。
言葉すら、もう発することが出来なかった。
痛みを感じることも無い。
あり得ない程の寒気が、体を覆い尽くしている。
僕はいま、いったいどんな状態になっているのだろう。

身体が動かない。
砂利の下に埋まっている両足の感覚が、酷く鈍い。
投げ出したような右腕はもう、ピクリとも動かない。
だから唯一動いた左の方で、

「―――――――」

ひ、ひ、と。
勝手に喉が鳴っていた。
自分の身体なのに、一瞬あまりの重さに気が遠のいた。
何度も何度も、左手を地面に叩き付けるようにして、無理やり上半身を押し上げる。
口から勝手に、涎なのか血なのか良く分からないモノがダラダラと流れ出てみっともない、けどそのままにする。

「………ぎ……ぅ」

ひゅーひゅーと。
過剰なまでに息を吸い、嘔吐するように吐き出す。

まだ、だ。意識を、手放すな。
まだ僕は、立ち上がってすらいないのだから。


歌は、今も聞こえている。
聞こえている。
だから、聞こえなくなってしまう前に――――

「お……ォ……おおおお……アァ……………っ」

漸く、悲鳴以下の呻き声を混じらせて、僕は重たい全身を持ち上げる。
砂利に埋まった二本脚を引き抜き、自分の足で、地面を踏みしめ。
ついでに辺り一面に、血反吐をぶちまけながら。

――――嗚呼、よかった、まだ、下半身、付いてたんだ。
なんて、迂闊にも安堵したのが、どうやら失敗だったらしい。

「――――――――――ぁ――――――れ?」

ゆっくりと全身を回っていた血が、急激な運動によって薄れる。
すっと意識が遠のいて、脳味噌がカラになったような錯覚を知る。
ああ不味い、これは駄目だ、なんて思った時には遅かった。

86 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:29:43 ID:fxNQ5zpc


身体のコントロールを失って操縦不能、前後不覚に陥る。
ふわりと気持ちが軽くなり、抱きしめられるような優しい微睡に引き込まれる。

明滅する視界の中で、僕は理解した。
このまま倒れてしまえば、二度と立つことは出来ないだろう。
分かっていた。
けれどもう、どうしようもなかった。既に傾いた体は、倒れるまで止まらない。

最後の瞬間。
僕の頬に、雪が落ち、溶けて消える。
同じくらい簡単に、意識は溶けていく。
耳に響く歌声が、願いを呼ぶ声が、ゆっくりと遠のいて――――




「――――約束」



こつん、と。
今にも倒れそうな重たい体が、誰かに支えられるのを、感じた。


「……約束、しましたよね」


寄りかかる、柔らかなもの。
血まみれの手を握る、暖かさ。
漂白された視界の中で、誰かが、傍にいるのを、感じていた。


「――――ぁ」

意識が帰ってくる。
視界が戻ってくる。
感覚すら思い出す。

真っ白い空の色。
降り積もる雪の感触。
瓦礫の絨毯の硬さ。
視界を流れ過ぎていく、亜麻色の髪。

「……手を……引いて、くださいよ……」

そして、ほほえみ。
抱きしめるように、僕の肩を支える少女が、そこにはいた。

87 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:31:11 ID:fxNQ5zpc

僕に負けないくらい、ボロボロの有様で。
やっぱり、立ってるのが精一杯な状態で。
それでも尚、彼女は微笑んでいた。

微笑んで、言った。
ほら、約束を果たして、と。
待ち望んだ時に、心を弾ませるように。

「人は、誰も救えない。助けられない。
 自分で助かるしかない……ですよね……」

「……ああ、そうだ…………」

僕たちはどうしようもない他人で、別々の物語だ。
救う事も、救われることも出来はしない。

「だけど」

そう言った彼女の手は、僕の手を握っていた。
今だけは、隣り合う僕らは、同じ物語の中にいた。


「『助け合う』ことなら、出来ませんか?」


彼女の肩が、僕を。
僕の肩が、彼女を。


「私にも、引かせてください。あなたの手」


互いの身体を、支えている。


「私の重さを少し、預けます。
 だから私にも、あなたの重さを、少しだけ、分けて……」



支え合っている。



―――Come with Me.



魔女の歌響く空の下。


「約束です」


自分の歌を誇らしく唄うように、平沢憂は囁いた。



「ああ……一緒に、行こう」


今こそ、約束を果たそう。
僕もまた、握り返す。彼女の手を。
すると感覚の鈍い足に少しずつ、血液が巡る、力が籠る。

僕たちはどうしようもない他人で、救えない愚か者で。
お互いの思いを背負う事なんて、結局最後まで出来はしなくて。
だから出来た事は、重さに倒れそうな互いの身体を、支え合う事だけだった。

血だらけの手を握り合う、熱が。
隣にいる誰かの存在が、その小さな一歩を可能にする。

耳に聞こえる歌を頼りに、終わる世界を歩んでいく。
重い体、一人じゃ立てない足。一人じゃ進めない道。
それでも、誰か、隣に居てくれたなら。
まだ、頑張れる。重さを分けあって、足はまた動き出す。


そう遠くない、むこう側。
目の前に、辿り着くべき場所が、在った。
瓦礫の上で、一人、瞳を閉じたまま、歌う女神の姿。

「……行こう、か」

きっと、その時、僕は初めて口に出していた。
僕の思う、この物語の結末。
僕の望む、どうしようもなく、救えない最後のカタチを。


「バッドエンド、目指して―――」


数十メートル先、雪降る世界の中心に立つ者。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
白き聖杯。真なる奇跡。懸ける願い。


―――――その終点の、目前。

88 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:32:56 ID:fxNQ5zpc







銃声が鳴った。





「………………が……っ!?」



腹部に直撃した圧力に、体が崩れ落ちる。
僕という支えを失った事で、平沢もまた倒れていくのが見えた。

熱が、全身を支配する。
平沢が与えてくれた物とは違って優しいモノじゃない。
これは忘れかけていた『痛み』、生命の危険信号。
数発の鉛弾が体内を抉り、抜けていくのを感じる。

全身が痛すぎて、何処を何発撃たれたのかも分からない。
だけど、いずれにせよ、既に血液は流し切った。
半吸血鬼の再生能力は、今やまるで働いていない。

全身からドクドクと血が、流れ続けている。
確信する。僕は、殺される。
今度こそ、今度こそ、死は、避けられない。


「……………お……まえ……」


大量の血を吐き出しながら、崩れ落ちていく僕は、見た。
あと残り、たった数十メートル先にあった到達点。

歌う女神。白き聖杯。真なる奇跡。
その終点の、目前にて。


一人の少女が、立っていた。
身に纏うスクールブレザー、揺れるスカート、胸元には青いリボン。
そして、風に靡く、長い黒髪。

聖杯の前に、立ちはだかるように。
自らの願いを、守るように。
僕の、阿良々木暦の、最後の敵として。



――――そこに、秋山澪が立っていた。










◇ ◇ ◇

89 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:35:59 ID:fxNQ5zpc



/秋山澪






歌が、聞こえている。



『僕の願いは――――』



認めない。
絶対に、認めるわけにはいかない。
そう思った。

銃弾は、目の前の少年の胸を確かに貫いたように見えた。
まだ生きているのは不可解だけど、どっちにしても結末は変わらない。
彼は満身創痍、既に死に体に近い。もうじき、ぜんぶ終わる。

もう目の前に、奇跡はある。
あと、一歩なんだ。
あと、ほんの少しなんだ。
あと少しで、あと少しだけ頑張れば、全て戻るんだ。

全部を、取り返す事が出来るんだ。
奪われた全部を、失くした全部を、求め続けた日常を、もう一度手にとることが出来るのに。

なのに、なのに、なのに―――

「なんで……動かないんだよぉ……!?」

ようやく立ち上がった足は、ピクリとも動かない。
間隔がマヒしたように、進めない。
痛みに支配されて、思うように身体を運べない。

だったら地を這ってでも、あとほんの少しの距離をゼロにする。
泥だらけになるなんて、なんてことない。
だけどそれじゃあ遅いんだ。それじゃ、追いつかれてしまう。
挫いた足じゃ、追い抜かれてしまうと思ったから。

私の背後、近づいてくる人に。
目の前の奇跡を、私の願いを、壊されてしまうと確信していたから。
銃を向けるしかなかった。

「あ……ぎ……やまぁ……!」

彼の血液がポタポタと、地に落ちる。
雪に染み込んで、溶けて混じる。

「そんなになって……まだ……進むっていうのか……?」
「お互い……さまだろ……?」

ボロボロの身体を撃ち抜かれて尚、立ち上がり、進もうとする少年が、私を追ってくる。
血を流しながら、聖杯を目指して、進もうとしている。
どれだけ傷ついても、辿り着けるなら構わないと言うように。

「やめろよ……来るなよ……」

だから私はもう一度だけ、銃を構えた。

「どうして……?
 いいじゃないか……なあ、叶えさせてよ……」


――――阿良々木暦。


「嫌だね。僕は、この先に行く」


私は、彼の願望を知っている。

90 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:38:33 ID:fxNQ5zpc




聖杯に告げる祈りを知っている。
フレイヤを巡る戦いの中で、彼が私に告げたコト。


『僕の願いは――――――』

『だったら、私たちは……』

『ああ、宿敵って、ことかもな』


それは私にとって、最悪の願い事だった。
そして今、再度告げられたその、終わりのカタチは、


『行こう。
 バッドエンド、目指して―――』


―――私の願いを、破壊する。


握り締める、東横桃子が残した銃。
痛めて尚、酷使し続けていた左手首は、もう感覚すら残っていなかった。
それでも弾丸はあと一発だけ残っている。あと一発だけなら、撃てる。
例えこの先、一生、左手が使えなくなってもいい。

膝をつきながら進み続ける彼の頭部に、銃口を向ける。
彼を止める。例え殺すことになったとしても。

取り戻す、私は、此処で失った全部を。
それは絶対に失くしてはいけないモノなんだと、信じているから。
この願いだけはどうしても、誰にも譲ることが出来ないから。


だから―――




「私は認めない、そんな結末……!!」



放つ銃声。
最後の一射は私の左手を代償にして、阿良々木暦の眉間を、確かに捉えていた。













◇ ◇ ◇

91 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:41:05 ID:fxNQ5zpc




/平沢憂





歌が、聞こえる。


ふと、眼を開ければ、真っ白い空が一面に広がっていた。
はらり、はらりと、頬に降る粉雪。
なんとなく、いつかの、誰かの言葉を、思い出す。


『じゃじゃーん、ホワイトクリスマスだよ――――』


ああ、綺麗だなあ。
なんて、単純で、純粋なコトを、私は思った。
現実の景色も、連想される思い出も、こんなにも鮮明で、輝いて見えて。


「綺麗……ですね……」


隣にいる誰かも、同じ思いを抱えてくれていれば、もっと素敵だ。
違う誰か、違いすぎる他人、だけどこの一瞬でも、同じ気持ちで在れたなら。
それはどんなにも、幸せだろうか、と。

「ねえ、阿良々木さんも、そう、思いませんか……?」

「ばか……やろ……」

涙が、落ちてくる。
ぽたりぽたりと、胸元に雫が零れ、そこに在る紅いものと混じり合って、雪の上に落ちていく。
それは私を抱え上げたまま、必死に止血を施そうとしている、少年の嗚咽だった。

「ああ……そっか……私……」

やっちゃったなあ。
なんて、軽い感想を抱いた。

澪さんが、引き金を引く、瞬間。
手を伸ばしたのは、咄嗟に彼を突き飛ばしたのは、何故なのだろう。
それが何を意味するのか、分かっていた筈なのに。
だけど、いま、分かることがあった。

―――私は、また選んだのだ。

示された選択肢。
『夢』か、『命』か。
いつかは選べなかった、もう一つの選択を。

「どう……して……だよ……」

その声は、愕然とする澪さんが、発していた。

「どうして……どうして……なんでだよ! なんでだよ! なんで……ッ!」

僅かに首を動かして、彼女の方を見る。
涙を溢れさせながら、絶叫する、大切な人。
とても、とても、悲しい姿だった。

「ごめんなさい……澪さん」

あなたの願いは、決して間違いなんかじゃない。
失くしてしまったモノを、永遠に去った幸せな過去を、取り戻す。
取り戻したいと願うことを、誰が否定できるだろう。

「あなたは間違って、ないんです、だけど―――」

私の願いが正しいのかも、本当は分からないけど。
だけど、知っていて欲しい思いがある。
あなたの願いは、あなたの大切だった場所は、あなたの帰りたかった『過去(きのう)』は、きっと。


「それは、あなたにしか、見る事の出来ない夢だから」

92 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:47:10 ID:fxNQ5zpc



私は、違うモノを願ってしまった。
哀しい結末の、その向こうに。
それがどれだけ怖くて、永遠に消せない傷を抱えた日々だとしても。


何かが終わってしまっても、私達が続く限り、きっとまた始まりはやってくる。
私がここにいる限り、あなたがそこにいる限り、物語は始まり続けていく。
それを、教えてくれた人達がいた。



『俺はただ――が欲しかった。
 時を止めたくはなかった。
 そこに、その先に、続くものがあると信じたから』




―――ねえ、ルルーシュさん、私の王さま。
貴方の言葉が、今なら分かる気がするんです。


ふと昔の夢を見て切なくなる日があったとしても。
私たちが続く限り、何度でも、何度でも、違う願いを、新しい夢を、また見る事が出来る。
今ならそう信じられるから。


私はもう、昨日には戻れない。今日に留まることを選べない。
この先の、知らない景色を見てみたい。
大好きな人たちと一緒に。


たとえば、ほら、いま私の為に泣いてくれる人がいる。
隣にいてくれる人がいる。
この人を守れてよかった、この人を守れる『重さ』が私の中にあって良かった。
なんて、思える。そんな、新しく出会えた、大切な人と、一緒に。


もう一度、無我夢中に、一生懸命に、なれるものを見つけたい。
新しい景色、新しい大切、新しい胸満たすユメを探し続けたい。
それはまだ、ほんのささやかで、不完全な、だけど私の見つけた、私だけの夢だから。



ねえ、お願い、私も――――





「……私も……明日が、欲しいよ……」






◇ ◇ ◇

93 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:50:25 ID:fxNQ5zpc


/ALL LAST





それが最後だった。


「ばか…………それじゃあ……お前が死んだら、意味ないだろ……」


僕の握る手の平から、ゆっくりと力が抜けていく。
抱えた身体から熱が抜けていく。
最早、それは覆せない絶対だった。

「そう……ですよね……間違えちゃいました。……ごめんなさい」
「僕に謝ってどうすんだよ」
「ああ、そっか、私が謝らなきゃいけないのは……きっと、私に願ってくれた人たち……」

平沢憂は胸元を真っ赤に染めて、僕の手を弱々しく握っていた。
僕には、どうしても理解できなかった。

「なあ……平沢」
「はい」
「なんでお前……笑ってるんだよ……」

平沢の微笑み続けるそのワケが。
さっき言ってたことが本当なら、悔しくて悔しくて、堪らない筈なのに。
痛くて、怖くて、寂しくて、泣きだしたい筈なのに。
なのになぜ、こいつは僕に笑いかけるのか。

「だって、私が泣いたら、阿良々木さん、笑えないじゃないですか……」

彼女は言った。
笑っていてほしい人の前だから、私は笑顔でいます、と。

「……………」

「阿良々木さん、寒いんですか?」

「……ん、ああ、雪が降ってるからな」

「じゃあ、こうすれば――――」


―――それはいつか、大好きだった人が教えてくれた『魔法』です。
そう、少女は耳元で囁いて。

「あったか、あったか」

未だに残る彼女の熱を、抱きしめる腕に感じた。
ああ、全く、お前は、どこまで……。
本当に寒いのはお前の方だろうに。

「ああ、暖かいな」

「えへへ……」

密着した彼女の表情は、もう見えない。
耳元で聞こえる涙の音も、聞こえないふりをする。

「ああ、最後にこれだけは、伝えなくちゃ……」

だからその声も、本当は聞こえないふりをしたかった。
何処に通じているか、分かり切っているから。

94 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:51:53 ID:fxNQ5zpc


「阿良々木さん」

光の粒子が舞い上がる。島の各地から、それは発せられていた。
この小さな世界の中で、訪れた全ての死が、天に昇る。
空に広がる白き輪の内側へと消えていく。


「ありがとう……」


彼女の身体もまた、少しずつ、少しずつ、光の粒へと変わり―――


「怖いよ……」

「ああ」

「嫌だよ……」

「うん」

「それでも、あなたが生きてて、良かった」

「…………」

僕は叫びだしくなった。


「ありがとう。此処に、いてくれて」


何もかも滅茶苦茶に壊してやりたかった。
だけど壊すものなんて、この世界にはもう、ロクに残っちゃいなかった。
何もかも、とっくに、壊れていた。

「なん、でも……」

ああ、畜生。
馬鹿だ。
僕は、僕が一番の、大馬鹿だ。


「なんでも言えよ!! 何でもいいから、望みを言えよ!!
 僕が絶対に叶えてやる。どんな不可能な事でもカタチにしてやる、だから、だから――――」

「――――ああ、そうだ、ねぇ……阿良々木さん」

だけど、もう僕の声すら聞こえていない彼女は、最後に。
夢見るように呟いた。


「私……いま、新しい夢……見つかったんです。聞いて……くれますか……?」


小さく頷いた僕に、彼女は頬を寄せて。
言葉と、吐息と、握り締めた手のひら。
抱いていた熱が、同時に、霧散する。
ふわりと、少女は光の泡となって、空へと昇っていく。




――――それが、この世界における、最後の『死』、だった。













【平沢憂@けいおん!  死亡】







◇ ◇ ◇

95 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 03:59:03 ID:fxNQ5zpc



歌が、聞こえている。




僕は進んで行く。
たった一人で、足を引きずりながら。
這いずるように、みっともなく、恥をしらずに進み続ける。

身体はもう、滅茶苦茶に擦り切れていたけれど。
どうしてだろう、心がヤケに冷たくて、意識が鮮明過ぎるほどにハッキリしていて。
歩くことが、出来た。

「やめろ」

誰かの、声がする。

「やめろ、行くな」

追いすがる、声がする。
知らない。僕は、何も聞こえない。

何も拾えない。
何も、何も、救えやしないから。

「いかないで……」

何も出来ない僕は、誰も救えない僕は、だけど一つだけ、決めたから。
今だけは、今だけは、選択をしようと、主人公になろう、と。
そう、決めたから。



一歩ずつ、一歩ずつ。
誰かの切望を振り切って、僕は、たどり着く。
瞳を閉じたまま、歌い続ける少女のもとに。






白き聖杯。
世界の女神。
イリヤスフィール。
彼女の、肩に、そっと、血に濡れた左手を、置いた。


「―――――」


歌が、終わる。
ゆっくりと、少女は瞼を開き、目の前に立つ僕の姿を認識する。
そうして、一つだけを、問いかけた。






「それじゃあ、問うわ。
 ―――あなたの、願いを」

96 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:04:10 ID:fxNQ5zpc


その一瞬だけは全ての雑音が消去された。
僕の頭の内側を色々なものが物凄い勢いで駆け巡る。
ここで、在った。ここに、在った。それは全てだった。

愛していた人が居た。
大切だった人が居た。
ずっと、一緒にいたい人達が居た。

失くしたモノ、消えたモノ、悲しいモノ、痛いモノ、辛いモノ。

どれもこれも、取り返しがつかない存在ばかりで。
それでも取り戻したい、返してほしいと切に思えて。
もう、会えないなんて、耐えられなくて。

叫びたかった、喚きたかった。
全部、返してくれよと。
全部、元通りにしてくれよと。
だから、ああ、僕は、僕は、僕は――――


「僕の……願いは……」


僕の、阿良々木暦の願える思いは、ただ一つ。


「10億、足りる限り全部使う。
 ここでまだ、生きている全員、元の世界に戻せ。
 余りが出ても僕はいらない。それで終わりだ」


いつかの春休みと同じ、万人に平等なバッドエンド。


「――――――」


絶叫が、僕の背中を突き刺す。

「やめろ!」

それは少女の哀切で。

「やめてくれ!」

全く以て正当な怒りで。

「そんな結末は嫌だ!」

誰にも否定できない純粋な感情だった。

「嫌だ……嫌だ……そんな終わりは……認めない!!」


女神もまた、僕に告げた。


「あなたが望むなら、なんだって出来るわ。
 死者の蘇生もできる。たとえ根源に至れなくとも、使い切れない程の魔力がある。
 ――――なのにあなたは、何も望まないというの?」

そんな、優しい、言葉を。
優しい物語を。
だから僕はもう一度だけ、後ろを振り返る。
背後に立つ、誰よりも奇跡を切望する少女と向き合った。


「なんで……そんな……こと、願えるんだよ……」


秋山澪は、弾の切れた銃のトリガーを引き続ける。
何度も、何度も。
僕を、僕の願いを、止めるように、撃ち抜くように。

「ふざけるなよ……使わないなんて……そんなの……ッ!
 私にはある、願いが在るんだ!! 死んだって叶えたい願いが在るんだ!! だから……!」

ああ、なんて、彼女は正しいんだろう。
だけど、さ。
僕にはそれを願えない。

叫びたかった、喚きたかった。
全部、返してくれよと。
全部、元通りにしてくれよと言いたかった、けどさ。

この場所には、確かに在ったんだ。
ほんの僅かでも、ここに来たから、得られた掛け替えのないモノが。

ここで見つけられた物、ここで手に入れた何かを、僕は、どうしたって嘘に出来ないんだ。
たとえそれが、いずれ消えてしまう、泡沫の感情だったとしても。
絶対に後悔すると分かっていたとしても。僕は何度でも、この願いを、選ぶだろう。

死んでしまった人に、生きてほしいと思うこと。
それは、どこまでいっても、生きている僕らの、勝手な我儘でしかない。
失われた彼ら彼女らの願いは、本当の気持ちは、僕たちには永遠に知ることが出来なくて。
だけど、それでも一つだけ、僕には信じていたい事があるんだ。

97 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:08:25 ID:fxNQ5zpc



泣き崩れる秋山の背後、薄く積もった雪に付けられた二人分の足跡。
それは誰かがそこに居た証。
僕と彼女が、目指した夢の軌跡だった。
二人で一緒に支え合って歩いた、あの時、確かに僕と彼女は、同じものを、目指していた。

そう、信じているから。

だから僕は、その夢を、最後まで、守ろう。
他の誰でもない、僕の傍にいてくれた、彼女の願いを。
ひたむきに明日を目指した、少女のユメを。

泣き叫びながら僕を糾弾する秋山と、眠りについた誰かの足跡を、最後に、目に焼き付けて。
再び、聖杯の少女と向かい合う。
そして瞳を閉じて、僕は告げた。




「僕は、誰も救わない。ただこの物語を――――」


この物語のあるがままに。


「終わらせるよ」


告げられた少女はどこか、諦めたような笑顔で、ゆっくりと告げた。



「……そう、じゃあ―――願いを、受諾した。

 


 優勝者、阿良々木暦。




 ここに、バトルロワイアルの終了を宣言するわ」
























【 バトルロワイアル  -ゲーム終了-  優勝者:阿良々木暦@化物語 】












◇ ◇ ◇

98 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:10:52 ID:fxNQ5zpc


◇ ◇ ◇














/送界式















◇ ◇ ◇

99 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:12:24 ID:fxNQ5zpc


グラハム・エーカーは自らの存在が薄まっていくのを感じていた。
身体の感覚が希薄になり、触れた物の感触が上手く指先に伝わらない。

「終わるのか……」

世界から消滅していく、というよりは元の居場所に少しずつ引っ張られている。
還っていくのだと、彼は自覚出来ていた。

「辿り……着いたのか……阿良々木暦……」

終点に至った彼の選択を、此処に残る全員が見ていた。
物語の最後、消えてしまった一人の少女だけを除いて。

「……願ったというのか。
 誰の返還でもなく、誰の希求でもなく、ただ、残るものを残すことだけを……」

修道服の少女を抱きかかえたまま、先へ行った少年の背に声は届かない。
少年の言葉もまた、おそらくグラハムが聞く事はないだろう。
運命に身を委ねるならば、もう二度と、彼らの運命が交わることは無い。

グラハムには分かっていた。
此処に残る全員が知っていた。
少年が何を願ったのか。
還っていく自らの身体が、証明していたから。


「……何処に行くのだろうな、我々は」

還る場所は、元の居場所の他にない。
けれどそこは今、自らにとって、居場所と呼べる場所なのだろうか。
変えられてしまった彼らは、元の場所まで帰り着けるのだろうか。

分からなかった。
確信を持てなかった。
それでも手のひらは、残されたものを離せない。

触れている感覚の絶えた両腕の中で、修道服の少女は薄れていた。
返還されていく兆候、阿良々木暦の願いに、彼女もまた含まれていた。


「……誓う」

壊れた少女。
だけどまだ、生きているのなら。


「必ず君達を、見つけ出す」

100 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:14:05 ID:fxNQ5zpc


例え世界が別れても。
それを新たな、グラハム・エーカーの願望とする。


「君達を、救って見せる」


悲しみの終点で選んだ、阿良々木暦の願いを知っている。
終点へとたどり着き、思いを届けてくれた者が居る。
それを無駄にしないと決めた。


「いつか私はたどり着く」


この胸に、生きる理由の在る限り。
少年の選択。
哀しい物語を、悲しいままに。

その決定を覆す。
それがグラハム・エーカーなりの、彼への礼だ。


「君らのもとに」


いつか、また。
今度はグラハム・エーカーの好きな空の下で。


「――――また会おう」


残された男は、再会を誓った。






【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダム00  生還】


【インデックス@とある魔術の禁書目録 送還】





◇ ◇ ◇

101 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:15:37 ID:fxNQ5zpc



「やだ……」


その少女はいつまでも泣いていた。


「いやだ……!」


天に昇る光にむかって、弾丸の尽きた銃を握り締め、引き金を引き続ける。
待ってくれよと、納得できない結末に泣き叫ぶ。
終わらないで、終わらせないで、まだ終わらないでくれと。

だって、許せないから。
どうしても、失くせないから。

「まって……まってよ……私は……まだ……!」

薄れていく身体の感覚が、秋山澪を引き戻す。

「嫌だ……私はまだ……なにも、出来てないのにっ!」

意志を斟酌せず、送り返そうとする。
それに涙ながらに抵抗しても、無意味であることは誰が見ても明らかなのに。

挫いた足で、それでも消えていく光を追おうとする。
手を伸ばして、少しでも近づこうとして。
つまずいた彼女は、雪のなかに倒れこんだ。

「取り戻さなきゃいけないんだ……帰さなきゃいけないんだ……このまま消えちゃ……駄目なんだよ……!」

その隣に彼女はいた。

「なあ……秋山」

広がる雪原に、仰向けになって、両儀式は舞い上がる光を眺めていた。

「もう、いいよ。
 お前やっぱり、ちっとも向いてなかったじゃないか」

「…………し、き」

いつも通りの突き放すようでありながら。
それは彼女を知る者からすれば、あり得ないほど優しい声で。

「終わりだ」

澪ですら、その意味が理解できてしまった。

「お……わり?」

「ああ、終わったんだよ、もう」

他の誰の言葉でも、納得できなかったそれが。
なぜだか雪のように胸の澪の内側に染みていった。

「ああ、終わりだ、秋山、これで全部、全部おしまいなんだ。
 だからいいだろ、これ以上泣かなくて。煩くて……寝れない」

力が抜ける。
それは優しい、微睡だった。

「……終わり……おわ……り……そ……っか……ほんとに……終わりなんだ、これで……」

二人の少女は仰向けに、雪の中で横たわる。
昇っていく光を、一緒に見つめて。

「……やっと……終われるんだ……」

少しずつ薄れていく、互いの存在を近くに感じながら。
身体の感覚が消え去るその時まで、彼女たちは同じ風景を見つめていた。






【秋山澪@けいおん! 生還】

【両儀式@空の境界 生還】






◇ ◇ ◇

102 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:19:20 ID:fxNQ5zpc


聖杯の器は昇る光と成って、空へと姿を消した。

奇跡の過ぎ去った跡。
最も中心に近い場所に、彼らは居た。
何もかもを終わらせた少年は雪のなかで膝をつく。
放心したように、何も語らぬままで。

「君は―――」

枢木スザクは、目の前の彼に、問いかけた。
それが無粋であると知っていて、それでも。

「よかったのか? これで」

願いの是非を。
彼らしい、彼にしか選べなかった終わりの意味を。

「ああ、ははっ、もちろん……これで……」

問いかけに少年は虚空を見つめたまま。

「いい……わけ……ねえ……だろうが……」

血を吐くような悔しさを。
殺意にすら近い激情を、己自身に向けていた。


「間違ってる……間違えてるんだ! 正しいワケないだろッ!」

心からの後悔を叫ぶ。
こんな結末しか選べない己自身を、殺したいと本気で思う。


「もっと上手くやれる奴がいたんだ!! きっと、どこかに、もっとマシな、結末に出来る奴がいたんだよ!!」


己のような下手糞じゃない、偽物じゃない主人公が、どこかにいた筈だ。
全部を救ってくれるような、何もかもを取り戻してくれるような、完全無欠の希望が。

明日を望んだ少女を死なせることなく。
昨日を希求した少女を泣かせることなく。
今日を留めようとした神様すら救い上げて。

全部、笑顔で終わらせられる。
最高のハッピーエンドを描けた主人公が、どこかに、きっと――――


「―――いいや、そんな者は、何処にもいなかった。
 だから君が残った。君がたどり着いた。君が、君だけが、選ぶことが出来たんだ。
 君が正しいと信じて、選んだ。だったらそれが真実だ」

枢木スザクは否定する、阿良々木暦の後悔を。
そして肯定する、阿良々木暦の願いを。

「辿り着いたのは、君なんだ。
 僕も、誰も、君の言う完全無欠な希望が在ったとしても、此処に至ることは出来なかった。
 だからそんな仮定に意味はない。
 君がいなければ、選ぶ事すらできなかった、僕たちの思いは、届く事すら無かったから」

103 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:21:03 ID:fxNQ5zpc






「それ……でも……」

僕がもっと、上手くやれていれば―――
そう痛む思いは、阿良々木暦にしか分からない。
枢木スザクに理解することはできない。

「たどり着けなかった僕たちに、君を責める事はできないけれど。
 君はこれから、選択の責任を背負うんだと思う」

そして、その意味を、価値を、決められるのは一人だけ。

「ただ、君が君を否定する事は、君に纏わる全てを否定する事になる。
 君の選択を信じた誰かの思いを無意味にする、君の選択を糾弾した誰かを蔑ろにする。
 それだけ、分かっているならそれでいい」

明日を願った少女を笑わせたのも。
昨日を願った少女を泣かせたのも。
全部、傷として、阿良々木暦がこれから連れていく。

その傷を、間違いだったと悔やめるのも。
正しかったと胸をはれるのも。
阿良々木暦だけなのだ。


「この世界における戦いは終わった」


消えていく全て、失くして行く何もかも。
薄れる二人の身体。

「僕はこれから、僕の世界に還る。僕のやるべき事をなす為に」

終わっていく物語の中で、枢木スザクは宣言した。
今度は、己の物語を始めると。

新しく始めるストーリー。
それはやはり悲しい結末を辿るのかもしれない。


「君はどうする?」


けれど、その形は、まだ、誰にも分からない。


「君は、これからどこに行く?
 これから、どうしたい?」


「ぼく……は……」


とても、とても、哀しい物語が在った。
それは失うばかりの痛物語(いたみものがたり)。
誰もが等しく傷を受けて終わる、バッドエンドのお話だった。
けれど、それだけでは、無かったのだから。



「また、始めたいよ……もう、一度」



そして、もうすぐ、終わるのだとすれば。


「僕は見たい……あいつらが……見たかった物語(ゆめ)の続きを……」


まだ、見つづけたいと思う。
願い続ける事を、止めらなれないから。


「なら行ってくればいい」
 

さあ、次の物語を始めよう。
今はまだ先が視えなくて。
また、悲しい物語が始まるだけなのかもしないけれど。

少なくともまだ見ぬ物語が、そこに在る。
ならばせいぜい期待して。
今度は救済の、誰もが笑顔で終われるような、そんなお話を思い描きながら。

104 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:23:03 ID:fxNQ5zpc




「――――そうだ、枢木。約束、憶えてるか?」

「僕ら『全員』また同じ場所で、出会う。……だろう?」

「ああ、良かった。じゃあ、僕は楽しみにしてるから」

既に姿を消した枢木スザクは応えない。
けれど、阿良々木暦は期待することにした。
決してあり得ない物語を、自らの新しい夢として見ることにした。




いつか、どこかで。
少女が願った明日のむこうに――――




「僕は、その日をずっと、待っている」




そんな、優しい物語を描いていた。





【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュR2 生還】


【阿良々木暦@化物語 生還】









◇ ◇ ◇

105 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:24:12 ID:fxNQ5zpc


痛みなど、とうの昔に残ってはいなかった。
だから彼は、彼女は、ソレは、最後に話すことを楽しみとした。

「おーおー。もう何にも視えねえよ。すげえな、視界が割れまくって万華鏡みてえさ」

廃れたビルの屋上で、傭兵は消えていく。
光の粒子としてではなく、薄れゆく存在として。

「綺麗だねぇ……なあ?
 アンタにはどう見えてんだよ、傍観者」

アリー・アル・サーシェスは、最後に。
偶々いま自分の隣にいた者と話すことにした。

「どうもなにも、おしまいだよ。『ただのおしまい』ってやつさ。
 沢山ある終わっていく物語の、これも一つに過ぎないってことだね。
 どれだけ長く続こうと、終わってしまえば誰もがやがて忘れ去る。
 それもまた、物語の命題だ」

サーシェスが引っかかっていたフェンスにもたれかかる、火のついていないタバコを加えたアロハシャツの男。
忍野メメ。
彼と話すことが、アリー・アル・サーシェスの、最後の時間の使い方だった。

「は、違いねえな。だが俺は楽しませてもらうぜ?
 俺こそは、他でもねぇ終わりの当事者なんだからよ」

雇い主と呼ばれた忍野は否定する事なく。
戦いが始まる前における、傭兵とのやりとりを思い出す。
暗い路地裏で彼に持ち掛けた、契約のお話を。


『君に頼みたい事があるんだ――――両生類ならぬ傭兵類ちゃん?』


やりたい放題やらせてやる。
のみを条件に依頼した、たった一つの干渉ごと。


「べーつに、大したことじゃないよ。
 君こそ、まったくもって滅茶苦茶に動いていたけどね、手順を決めた意味がなかったよ。
 誰が『枢木スザクを墜落させろ』、だなんて依頼を出したんだい?」

「細けえなあ、最終的なところは一緒だったんだからいいじゃねえよ。
 ぜんぶぜんぶ、ぶっ壊れるようにする。そういうオーダーだったろ?
 任務完了だ。報酬をくれってな」

「報酬ならもう渡した。ヴォルケイン一機、前払いだったろ?」

「ああ、そういや、そうだっけか。いけねえなあ、ついつい、あげちまったよ」

サーシェスは何一つ、忍野メメの狙った通りに動かなかった。
枢木スザクに仕掛けた事、そのスザクにヴォルケインという切り札をあっさりと渡したこと。
神様にも、雇主にも、彼は縛られることなく。
まさしく『己が楽しいから』という理由のみで、動き続けた。
最後の戦いの場所で、唯一どんな思いにも縛らず。

一見して滅茶苦茶だったけれど、彼がいなければ状況がこうなっていなかった事もまた事実。
もしかすると、と忍野は思う。
間接的にであるが、彼の存在なくして、この結末は無かった。
誰も予想できなかった彼の行動こそ最も、神のシナリオを狂わせた要因だったのかもしれない。

106 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:29:51 ID:fxNQ5zpc


己のプリミティブな感情に従い続けた故の結末。
なるほど確かに、彼は救済の物語を台無しにする戦火だった。
戦争屋を名乗るにふさわしい。
恒久的に世界平和を阻み続ける、人という種の悪意がここに在る。


「なあ、俺はどうなる?」


なので敬意を払う、でもなく、蔑ろにするでもなく。
ごく普通に。
忍野メメは傭兵からの最後の質問に、正しく答える事にした。


「死ぬね。阿良々木暦が願ったのはただ『還す』ことだ。
 ここで得た『傷』を、直すことを選ばなかった。
 そして君がこれから戻る元居た世界に、いまの君を治す技術は無い」

「じゃなんだ? 俺は適当なところに落っこちて、そのまま死ぬのがオチってことかよ?」

忍野メメは開いた手のひらに落ちてきた雪を消え去るのを感じながら、己もまた送り返されていくのを感じていた。
阿良々木暦の願いが、己を含んだものなのだと理解して。

「そうだろうね」

「つまんねえなぁ……」

既に笑う余力は残っていないのか、傭兵は喉を鳴らし始めた。
くつ、くつ、と。
いや、もしかしたらそれは、泣いていたのかもしれない。
これ以上、続けられないという事実に。

「死にたくねえ……なあ……」

悲しそうに、なのに楽しそうに、サーシェスは泣き笑っている。
逃れられぬ死が、すぐそばに迫っていて尚、紛れもない悪性の熱に支配されながら、絶望するでもなく、狂うでもなく。
喉を鳴らして笑い続ける。

ドロドロのコールタールを結晶にして磨き上げるような、不思議な感情の発露だった。
だから、忍野は、別れ際に聞いてみる事にする。いつものように。


「それにしても君は元気が良いね。何かいいことでもあったのかい?」


すると傭兵は、よくぞ聞いてくれたとばかりに破顔一笑し。


「……ああ……あったさ……面白いこと尽くしだったぜ……」


泥の底でも、悪意の権化になり果てても、人は純粋に笑える生き物なのだと証明してみせた。


「楽しかった、か」

「ああ、今から……次が……楽しみで……楽しみで……たまらねえよ……」

「もうすぐ死ぬのに?」

「おっと、へっ……そうだっけ……か、……楽し……すぎて、つい、また、忘れちま……」

声が消える。
悪も、善も、中庸の傍観者も、等しく巻き込んで。
残る生命の全てが、この世界から消えていく。


何もかもが、戻されていった。








【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダム00  送還】


【忍野メメ@化物語 生還】








◇ ◇ ◇

107 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:32:46 ID:fxNQ5zpc


最後に、殺さなければならないモノがいた。
だから彼は目を覚ました。

「―――――ォ」

目覚めなければ、痛みを感じる事は無かった。
眠り続けていれば、それは静かで、安らかな幕引きだったことだろう。
散々に感じてきた悲しみも、嘆きも、これ以上与えられることは無かった筈なのに。



「――――ぎィ―――――がああああああァァァァ!!」


べしゃり、べしゃり、と。
全身から吐き出す夥しい量の血液が、狭苦しい路地裏にぶちまけられる。
一体ここがどこか、なにがどうなったのか。

痛みに咽び続ける彼には、何もわからなかった。
ただ、全身を苛み続ける痛みと、後悔と、絶望に、悲鳴を上げ続ける。
既に思考する事すらままならない意識の中で、地獄を知る。



「ァ――――――wgn――――アアアアアア――――おォォォォォ―――!!」


存在が薄れていく現象と並行して、身体が内側から爆ぜていく。
それは取り込んだ■■の拒絶反応か、能力の過剰消費化、単なる外傷によるものなのか。
原因さえも瞭然としないままで、加熱され暴発する傷の痛みを感じていた。
痛みだけが、今の彼の全てだった。

視界は捻じ曲がり前後も左右も理解できない。
聴覚はとっくにイカれて役に立たない。
嗅覚は己の吐き出す血の匂いしか嗅ぎ取れない。

狭い路地裏を、身もだえながら、さ迷い歩く。
何処に向かっているのかも知れないままで。
何処にいるのかも分からないままで。
己が動いていることすら、認知できずにそれでも。

「ぎォ……ァ………ァ…………」

歩き続けた。
罰を求めるように。
痛みを感じることを良しとして。

「――――」

その姿はまるでバーサーカー。
既に傷つけるものがいないから、残る己を痛めつけようとしているだけの壊れ者だった。
足取りは弱々しく、コンクリートの床につまずき、壁にぶつかり、
道端の屑籠をひっくり返し、水溜りに身体を突っ込みながら、泥だらけで進み続ける。

向かう座標は一切瞭然としない。
周囲の様相すら思考に入れられない。
最強を名乗るなど到底おこがましい。
簡単な視覚情報すら演算出来ない彼は、今やどんな無能力者(レベルゼロ)よりも最弱だった

「――――ァ?」

硬いモノが、両手に触れたのを感じた。
既に目の前の物を壊す力など残っておらず、軽く、力を込めて、押す。

108 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:35:22 ID:fxNQ5zpc


動かない。
目の前の壁はびくともしない。
扉の開き方すら、もうわからない。

「ご……ォ………」

リミットは近い。
終わりの瞬間はすぐそこに。
その前に果たさなければならない事がある。
やらなきゃならない責務がある。

この力の代償を、払わなければならない。
沢山のヒトを■すために振るった力は、結んだ契約の履行を求める。

だから最後に、最後に、■さなければ。
この世界を創った■■を。
働かない思考回路を独占する声にしたがって。

覚束な足取りで。
目の前に在った扉を開く。

その瞬間、足を滑らせて、床に倒れこんだ。
狭い廊下を、虫のように這って進む。
目的は、ただ一つ。もう二度と、こんなふざけた催しが起こらないように。


敵を■さなければ、
■さなければ、■さなければ、■さなければ、■さなければ、■さなければ、■さなければ、
■さなければ、■さなければ、■さなければ、■さなければ、■さなければ、■さなければ、

奴を。
奴を。
奴を。
原因のアイツだけは―――――必ず―――――必ず――――


「か――――は――――っ」


また、行き止まりだった。
硬いモノが、這い進んだ手に触れる。

このまま何も映さない瞳を閉じ、灰になって消えるのは救いだろう。
けれど許せない。
落とし前をつけろ、■し続けろ、あまりに多くのモノを■し過ぎたお前は、最後までそうやって醜く■ねと己自身が掻き立てる。
だから身体を僅かに持ち上げて、そこにあったドアノブに、行き止まりの先に、手をかけて、ゆっくりと回した。

かちゃりと、扉が、静かに、開く。
這いずる体が、そうして、たどり着いた。

「ォ―――ア――――klg――――」

震える両腕で立ち上がり、血まみれの身体を起し、一歩、その部屋に、踏み込んで―――

「――――?」

そこが、己の目指していた場所と違っていたことに、気が付いた。

「―――――――」

109 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:36:35 ID:fxNQ5zpc



思考が空白で塗り潰される。
体中から湧き上がっていた声が、止む。
この時、この瞬間だけ、彼は痛みすら忘れた。
あれほど体を支配していた絶望も、悲壮も、憤怒すらも、崩れていく身体の灰に乗って、後ろ側に流れていく。

よろよろと、弱々しい、赤子のような歩みだった。
それはこじんまりとした部屋の隅に置かれた、ベッドに向かっていく。
決して高価ではない、小さなベッドの上。
ゆっくり、規則的に上下する布の内側、そこに眠る小さなもの。
ずっとたどり着きたくて、なのにずっと離れようとしていた、ちっぽけで、かけがえのない存在がいた。

帰り着いていた、その場所。
誰かと共に過ごしていた家の寝室、一方通行の、還るべき場所で。

ふかふかの羽毛布団にくるまって、穏やかな寝息をたてる少女がいた。
幸せな夢を見ているのか、口角を緩く上げて、微笑みながら眠り続けている。

その微笑みを見た瞬間。
彼は、心が、決壊するのを、感じた。


「――――――」


ため込んでいた疲れが、どっと襲ってくる。
そして急にバカバカしくなり、脱力感に任せて床に腰を下ろす。
様々な悪態が、思考が、やっと頭の中で形になった。


―――ったく、クソがきが。
人の苦労もしらねェで、なにをアホ面で寝てやがる。
まったく、まったく、ほンっとに、オマエってやつは、畜生、あァ――――




「あァ――――安心した」



―――君を守れてよかった。
生きていてくれてよかった。
笑ってくれるだけで、それだけで、嬉しかった。

血と泥で汚れた指先では、彼女に触れる事は、もう出来ないけれど。
その寝顔を見る事が出来ただけで、十分だった。

心から、救われた。
そんな馬鹿みたいに単純な己を自覚して、それでも自然と頬が緩むのを抑え切れない。

彼は少女の見る幸せなユメを夢想しながら。
守り抜いた幻想に抱かれるように、ようやく訪れた微睡に瞳を閉じた。










【一方通行@とある魔術の禁書目録 帰還】










◇ ◇ ◇

110 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:38:55 ID:fxNQ5zpc





終わる物語。



役割を終えて、消えていく世界。
残されたフレイヤが大地も空も抹消し、宇宙すら閉じていく。
誰一人残らない、捨てられた場所に、未だ残る者達がいた。

始まりの二人。
電子の世界で再会を果たす、発端である『彼』と『彼女』。


「――ふざけているッ!」


それは、彼にとって、リボンズ・アルマークにとって、絶望以外の何物でもなかった。
本来なら、再び彼女と、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと出会う場所は、こんな終わり切った電子空間では無かったのに。

「馬鹿げてるだろうッ!! こんなものは茶番に過ぎないッ!!」

現実の空の下、現実の大地を踏みしめて。
己は神として、人類を救済する確固たる願いを、彼女に届けるはずだったのに。


「救われたんだ。救えたんだ、僕になら、人を永遠の幸せを実現できたのに。
 世界を……変える事が出来たのに……」

あと一歩だったのに。
既に聖杯は使用されてしまった。
根源に届くはずの魔力は流れ出してしまった。

これではもう駄目だ。
リボンズの希求する世界のルールの改竄、その実現には至れない。
目の前にあった世界平和はただの理想に逆戻り。
いったい何処で間違えたのか、何が原因だったのか。


「あんな……あんな……馬鹿げた願いに……僕の……この僕の、聖杯が……ッ!」


ヴェーダの内側で、肉体を失った二人は向かい合う。
怒りに身を任せ叫ぶリボンズを、イリヤは静かに俯瞰し続けていた。
電子の海ですら、残り数分も持たないだろう。
肉体を失っている彼らは、元の世界に戻るすべは無い。
だからここで、二人は抹消を待つのみだ。

特にイリヤはその存在の役割を終えている。
今動いていることが奇跡に等しい。
いつ、停止してもおかしくない。
泡沫のような時間の中で、リボンズは咽び続けている。

111 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:41:25 ID:fxNQ5zpc


「人は……愚かだ……!」

「そうね」

イリヤスフィールは、リボンズの怒りを肯定する。

「こんな結末は間違っている」

「そうね……だからやっぱり、救えないのよ。最初から、きっとそうだった」

リボンズに触れようとはせず、近づこうともせず。
ただ静かに、怒りに震える彼を見つめるだけだった。

「ねえ、リボンズ」

そうして、ふと思いついたように、話し始めた。

「私はね、私の物語が欲しかったの」

以前に話したこと。
イリヤの願い、イリヤの祈り、それはどんな形をしていたのか。
無価値に消えたくなかった。
誰かに求められたかった。

――結局、私はただ、誰かから必要とされたいだけだったの。

戦いの直前、彼女は彼に、そう語っていた。



「ああ、聞いたよ。だから僕は、僕は君に―――」

「でもね、それって、すっごく簡単なコトだって気づいたのよ。
 私の……いいえ、多分『私たち』の本当の願いはね。
 ええ気づいてたのよ、本当は、もうずうっと前に……」

「君は……何を言ってるんだ?」

そう、イリヤスフィールはずっと前から気づいていた。
あの時、彼女の願いを聞いたリボンズが、答えたその時に。


―――だけどね、イリヤスフィール。僕には君が必要だ。


遅すぎる答えを得てしまった。


「うん、分かってたのよ」

「分からない……なぜ笑っている……何を納得しているんだ、イリヤスフィール……?」

この人も、同じなんじゃないか、と。
イノベイド、それは人を救うために作られた劣等種。消費される運命だった道具。
産まれながら定められていたならば、己を人と、対等だと思えるわけがない。
そして劣っているから使いつぶされる、その運命に抗うなら。

――――そうか、僕は神か。

己は上位種だと、考えるしかないのは自明だろう。
全人類を見上げていた低い視点を、見下ろせるほど高くする他に、どう落としどころを見つけられるという。
そして、そうなってしまえば、誰を己と対等だと感じられるのか。

112 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:44:53 ID:fxNQ5zpc


果てしない孤独だったはずだ。
どうしようもない孤立だったはずで、
なのに人を救う為に生み出された彼は、人を救おうとしなければ、生きてさえいけなかったのだ。
だとしたら結局のところ、唯一無二の自分を、世界に必要とされているのだと、他に認めさせる行為でしかなくて。
それは聖杯としての役割を全うすることで己の価値を得ようとした愚かな誰かと、酷く似ているように思えた。

「ねぇ、リボンズ。私の願いはね、実はもうとっくに叶っていたのかもしれないの」

「何を言っている? なにも叶えていない、僕たちは何も出来ていない、このままじゃあ、これで終わりだ。
 価値無く終わって、終わったままだ……」

リボンズ・アルマークにとって唯一、対等だと、信じられるものが在ったとすれば、それは何だろう。
彼の瞳の中に、イリヤはそれを見てしまったような気がした。
だとすれば自分たちは酷く滑稽で、そしてどこまでも救えない。

「そうね、やっぱり、叶わなかったんだと思う。
 永遠に叶わない、そういう願いもあるんだと思う。
 それがたとえどれだけ簡単でも、方法に気づけなかった私たちには……。
 あなたは最後まで、気づけないのね……リボンズらしいといえば、らしいのかしら」

自分の価値なんて自分で決めるしか無くて、だけど自分の気持ちなんてあやふやで、自信が持てないから。
人は他人の瞳の中に、鏡を作る。
そこに映る自分の価値ならば、信じられる気がするから。

ならば世界には、最初から、二人いれば十分だった。
誰の死も、永遠の命も、世界の平和も、必要は無かった。お互いが映し鏡になれるなら。
だけどそんな事は、

「気づいたところで、いまさら何の意味も無いけれど」

とっくの昔に、この物語は完結するまで止まれない所に来ていた。
イリヤが簡単な事に気づいたときには、何もかもが遅かった。
だからイリヤは目の前の彼に伝えたのだ。

いいよ。
あなたが勝っていいよ。
私を、奪い取っても、いいんだよ、と。

破綻した二人の願いを自覚していながら。
誰よりも、己を求めている人が居るという、甘美な現実を優先して。

「僕には……君が何を言っているのか分からない……君は、正しいっていうのか?
 この結末を、この終わりを!?」

「正しい終わり、間違った終わり、区別なんてきっと無いのよ。
 あるのは折り合いを付けれるかどうか。
 私は……そうね、しかたない……かな、そんなふうに思うわ」


何もかもを知って、微笑みながら最後の時を待つ少女に対して。
リボンズ・アルマークは最後まで気づけない。
己が何を願っていたのか、何を、望んでいたのか。
目の前の少女に対する、愛にすら満たないの幼稚な感情の、意味にさえ気づけず。

「いま、全員を戻した。全部で7名。参加者以外も含めれば9名か。
 ……一億円分、余っちゃったわね。じゃあこれは、私の好きに使っちゃおうかな」

イリヤ・スフィールは寂しそうに微笑みながら、最後にささやかな願い事をした。
それはありきたりな承認欲求。

「最後のわがままよ、良いでしょ? リボンズ」

113 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:48:18 ID:fxNQ5zpc


知ってほしい、認められたい、ここに居る実感を得たい。
そんな、彼女と、そしておそらく彼が願い続けた、人として当たり前な感情だった。


「何の意味があるんだ……そんな事をして……」


いよいよ、残された電脳世界に崩壊が訪れる。
全てが光の中に消えていく。
彼らに訪れるのは死ですらない、世界ごと虚無に消えて、魂さえ残らない。

「ただの失敗の記録じゃないか……! そんなものを残してどうする? なぜ、君は怒らない? 悲しみもしないんだ?」

リボンズ・アルマークは怒りと悲哀を滲ませて、少女に問いかける。
少女は応えない。
微笑んだまま、彼を見返すだけだ。

「願いが叶わないんだぞ? 許せるのか? ここまで来て、あと一歩だったのに!!」

リボンズ・アルマークは怒りと悲哀を滲ませて、少女に問いかける。
少女は応えない。
微笑んだまま、彼を見返すだけだ。

「君は良いのか? 本当にこれで!?」

リボンズ・アルマークは怒りと悲哀を滲ませて、少女に問いかける。
少女は応えない。
微笑んだまま、彼を見返すだけだ。

「分かっているのか……イリヤスフィール……。
 このままじゃ君の願いも、存在も、何もかも無価値なまま消えるんだぞ……?」

リボンズ・アルマークは力無く、絶望を込めて少女に問いかける。
少女は応えない。
当然だ、彼女はもうとっくに、その機能を停止していたのだから。



「僕は……」


光が、全てを覆い尽くす。



「僕は……嫌だ……」



閃光は遍く事象を消し去り、そして世界に、終わりが訪れた。





【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night 消滅】



【リボンズ・アルマーク@機動戦士ガンダム00  消滅】







◇ ◇ ◇

114 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:57:09 ID:fxNQ5zpc

星が、煌く。
仮初の世界が掻き消える、その間際。

最後の魔力が行使された。
聖杯という願望器それ自身が願っていた、末期の願い。
少女の、ほんの少しだけの、我儘だった。

散っていく魂の流れに乗せて、ヴェーダが記録していた情報が飛び立っていく。
終わりかけのこの場所に接続された並行世界へと。
誰も知らない物語が、流れ込んでいく。

それは記憶という形で、何処かの世界の誰かのもとに届けられる。
拡散していくストーリーだった。

それは哀しく、切なく、残酷な、けれど確かに存在したお話。

誰かと誰かが、出会ったこと。
誰かと誰かが、殺しあったこと。
誰かと誰かが、触れあったこと。
誰かと誰かが、別れたこと。


泣いたこと。
怒ったこと。
殺しあったこと。
笑いあったこと。


死んだこと。
生きたこと。



そして、夢見たこと。

鮮烈な、生と死の、戦いの、記憶。

いくつもの物語(いのち)の記録。


誰かに、知ってほしい。
そして出来れば、分かってほしい。
どうか手に取って読んでみてほしい。

それは悲しい物語、けれど明日に繋がる物語だ。

彼ら彼女らの死にざまと、生きざまに、何かを感じてほしい。
何かを、想ってほしい。
そういう形の拙い、けれど純粋な祈りの煌き。

―――駆け抜けた命の、その輝き。

願いのかけらは飛んでいく。
流れ星のように散っていく。
やがて、全部の光が飛び去った後、ゆっくりと、狭い宇宙が閉じ切って。








―――――ここに、一つの物語が、終わりを迎えていた。















【アニメキャラ・バトルロワイアル3rd  -完- 】






◇ ◇ ◇

115 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 04:59:21 ID:fxNQ5zpc



――――ひとりの少女が、そこにいた。


真っ白で、真っ黒で、真っ赤で、真っ青で、思ったとおりに変わる世界がある。
形を定めぬ不定形。何でもあって、何にもない。
ここはそういう場所だった。

天の杯が作り上げる道。
ごく短い時間、あるいは常しえの追憶を費やして、変遷し続けた伽藍の洞。
『 』が確かに存在する証左だった。

そこから繋がり、対を為す、集合無意識を内包した黄昏の神殿。
黄金の、夕焼け。
境界線の曖昧になった二つの世界。
接合し、混在し、再編される空間の最果て。

彼女はずっと、そこにいた。

永遠に広がる、黄昏の空の下で、たった一人。
足元に広がる水面の上に、ぽつりと立ったまま、暮れゆく茜色を見つめていた。

少女の黒髪と、身に着けた着物の袖が、吹き抜ける潮風に揺れている。
だからと言って何をするでも、考えるでもない。
何処にいようと、何が在ろうと、彼女は何もするつもりはない。

制止した時の中、永遠にここにいる。
ここにいる彼女は、ここにしか居られない彼女は、ずっと、ずっと、ただ、ここにいた。

足を付ける水面に映る境界線の真ん中で、あちらでもこちらでもない中間で。
何をするでもなく。誰を待つでもなく。
強いて言うなら、世界の終わりを待ちながら。
ただ、そこに在り続けた。

時に、誰かがここを通る事もあった。
あちら側から、こちら側へと通過する。
或はその逆か。

いずれにせよ、彼女の足元に在る境界を越えて、隣を通り過ぎ、光の先へと消えていく。
その度に、その背中を見送っていた。それが永遠に続くかのようだった。
とても、とても、つまない、退屈な時間だった。


けれど、この世界にも、漸く終わりが来たらしい。


日が急速に暮れていく。
陽光が無くなり、薄ぼんやりした群青が空に差し込んで来る。
一つの世界の終焉。
ならばここに留まり続ける少女も、世界と共に消えて行くのだろう。

すると繋がっていたモノがどうなるのか。
確かめる気も、彼女には起らなかった。
自己が消えるなら、消えればいい、と。少女はただ、気怠く、その時を待っていた。

しかし、その時、ちゃぷり、と。
背後から水の跳ねる音がした。

振り向く。
もう何度も見てきた光景へと振り向いて、そこに現れた誰かの姿を見る。





「――――あなたが、最後よ」

116 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 05:10:07 ID:fxNQ5zpc


事実を言葉にしたのは、きっと気まぐれに過ぎない。
本当の、本当に、最後の通過者だったから、そんな理由でしかなかった。
この世界で、ここを通った幾人もの人達。その最後に現れたのは、一人の少女だった。
どこかの高校の制服を身に纏い、亜麻色の髪をポニーテールにしている。

どうやら彼女は戸惑っているようだった。
その反応自体は珍しくない、此処に来る人は大抵そういう反応をする。
けれど彼女は、こちらの『姿』を見て、少し驚いたようだ。その理由も分かっている。

「あっちよ」

だから、違いを示すように、彼女が向かうべき先を、声に出して、指先で示した。
すると『別人である』と理解したように、少女の戸惑いの色が薄まった。

「行きなさい。みんなが待っているから」

この場所で、最初に他者へ話しかけた時と同じように、そう告げる。
いつか、目の前の少女によく似た姿をした誰かへと、示した道。


「でも少し……遅すぎたみたいね……」


けれど、今回の言葉は嘘になってしまうかもしれない。
指し示す方向、神殿の奥には、もう誰も待ってはいなかった。

最後の通過者たる少女は、来るのが遅すぎた。
既にそこに居た者達は、行ってしまった後だった。

そしていま、世界の崩壊が、天の杯が作る道を歪めている。
もう陽の日は沈んでしまった。
光の扉はくすんでいる。
今からむかったところで、先に行ってしまった者達と同じ場所に行けるとは限らない。

むしろ、たどり着ける可能性は低いだろう。
闇色に歪んだ扉の先に在るのは、混沌の道。

何処かの並行世界に連結させられるかもしれない。
全く別の宇宙に飛ばされるかもしれない。
何処にも通じていないかもしれない。
或は入った瞬間に魂を細切れにされる事さえありうる。

間に合う可能性もゼロではない、しかし、既にあの扉は異界へ続く孔と言って差し支えない。
端的に言って、何処に繋がっているのか、何が起こるのか分からないのだ。


―――この本物の『神様』の知覚をもってしても。
別世界に通じている捻じれた扉の向こうを、もうすぐ滅びゆく世界の、気だるげな全知は知り得ない。

この先、何が待っているか分からない、と。
告げられたポニーテールの少女は一人、緊張した面持ちで、ぎゅっと袖を握りしめて。

それでも一歩を踏み出した。
水面を揺らしながら、隣に立つ。
そして、さらに一歩、境界線の向こう側へ踏み越えた。

「行くのね」

指さす先で、光の扉は時が経つほどに歪んでいく。
ゆっくりと歩き出そうとする少女の背中を、もう何度目かの、旅立つ者の背中を、彼女は見送る。
最後の背中を、最後まで、見送ろうとして―――

117 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 05:16:16 ID:fxNQ5zpc


「それじゃあ、あなたは―――?」


不意に、振り返った少女と、再び目が合った。

「あなたは、どうするんですか?」

真っ直ぐに、眼を見て、発せられたその言葉。
『寂しくないの?』、と問うような。

同じことを、少女とよく似た誰かからも、聞かれていた。
だからまた同じことを、告げることにする。


―――私はここにいるわ。ここにしか、いれないもの。


例え崩壊する世界の渦中だったとしても、そのまま消える定めだとしても。
それは真実だった。普遍の理ですらあった。

言えばそれだけで、目の前の少女も理解できるだろうから。
ゆっくりと、言葉にしようとしたとき、だった。




「良ければ、一緒に―――」



「―――――――?」


ぱし、と。
掴まれていた。

「一緒に、行きませんか?」

小首を傾げながら、己の指先を見る。
扉を指していた指先、いましがた降ろそうとしていた手のひら。
それを、目の前の少女の手が、掴み取っていた。
手と、手が、繋がれている。


――――これは、なんだろう?


と、そう思った時には、遅かった。


「行きましょう」


くい、と。
軽く引っ張られる、一人の神様が、何とも間の抜けた形で、体が傾き、思わず一歩前に出てしまう。
驚くほどあっさりと、境界から出てしまっていた。
あちら側、或はこちら側か。いずれにせよ、少女の側に、引っ張り込まれていた。


「その方がきっと、一人より、寂しくないから」


そうして、手を握ったまま、ポニーテールの少女は走り出していた。


「きっと、たのしいから」


何処へ通じているかもわからない扉を目指して。
自分が今、何をしでかしたのか自覚もせずに。

「あなたの手を、引かせてください」

彼女は駆けていく。
自然、手を握られたままの存在も、引っ張られるようにして走らされていく。

着物の少女は、あまりにも簡単に起こってしまった事態に、呆然としたあと。
ちょっとだけ、どうしようか、と考えて。
まあいいか、と結論付ける。

118 ALL LAST ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 05:24:04 ID:fxNQ5zpc


この事態、今後、何処かの世界で。
ちょとした大ごとになったり、するかもしれないけれど。
まあ、だとしても、それはまた別の物語だ。

そして彼女に、もとよりそういった危機意識は存在しない。
無気力な彼女はここを動くつもりも無かったけれど。
同じように、この手を無理やり振り払う気も無いのだから。

世界なんて、いつでも握りつぶせるけれど、しないのと同じ。
やる気のない神様は、一人の少女の手に引っ張られるがまま、ガランドウから連れ出されていく。


「ねえ、あなた、どこに行くつもり?」


最後に一つだけ問いかけた、その声に。
前を往く少女は、笑顔で振り返りながら答えていた。
行先の分からない扉のむこう、この先に待つ何かに、少しの恐れと、少しの期待を胸に抱いて。




「明日へ―――」



黄昏の終わり。
願いが瞬く、満天の星空の下。




二人の少女が進んでいく。
ぱしゃぱしゃと足元の水を跳ねさせて。



繋いだ手を引く少女は、神様一人を道連れに、駆けていく。


駆けていく。


どこまでも、どこまでも。





―――――遠い、夢の続きへ駆けていく。































【 ALL LAST -To the next story!- 】

119 ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 05:25:54 ID:fxNQ5zpc
投下終了です。

120 名無しさんなんだじぇ :2015/03/16(月) 05:26:34 ID:EucFNrE6
投下おつでした!
文字通り全てを出し切った最終章でガンソやWもガンガン絡んでいて嬉しかった
神を挫くのが馬鹿で愚かな人間とは
ロワならではのお前たちが望んだハッピーエンドをくれてやるという救済者に救いようがないと思わせるってのがすごく好きだ

最終話は誰かが行く、誰かが来るという構図が感慨深かった
群像劇していて誰んだろと思わせてドキドキしつつも少し寂しいすべての終わりへと近づいていく物語
白降る世界に響く歌声の中聖杯に向かって誰かが歩いて行く光景が本当に綺麗で静かだった
そして至る、いつかの春休みと同じ、万人に平等なバッドエンド。ただのおしまい
明日へと続くバッドエンド。スザクじゃないけどこの結末は阿良々木さん以上にすとんとくる人はそうはいないと思う
しかしまさかサーシェス、最後の最後まで出てくるとはw
言われてみればなるほどな戦争屋だったわ。恒久平和を望んだリボンズは彼を雇った時点で終わってたのか
それぞれの表記の差もずるい。帰還にはぐっと来た
男と女の最後は、これ、リボンズの「君は良いのか? 本当にこれで!?」って自分が嫌だよくないじゃなくてイリヤに訴えかけてるのがほんと、
イリヤを対等に見ているってことなんだよな……
そして完の後にまさかの続いてそうか、お前もいたんだと思ったらすげえ
まさにしでかし。憂すごいことをしでかしてしまったwww
すげえ、ほんとすごかったです! 面白かった!

121 僕は…そのレスを…ぶっ壊す!! :僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

122 名無しさんなんだじぇ :2015/03/16(月) 05:27:25 ID:EucFNrE6
と、いい忘れ
完結おめでとうございます!

123 名無しさんなんだじぇ :2015/03/16(月) 05:56:38 ID:tkVTtCrY
完結おめ乙

124 ◆MQZCGutBfo :2015/03/16(月) 07:47:38 ID:nQIVkWks
最終回投下お疲れ様でした!

阿良々木君の願い。非常に彼らしかったです。
ハッピーエンドでは決してないけれど。
しっかりと着地する、納得のいく結末でした。

そして、満月を背に、空を駆けるグラハムが本当に本当にかっこよかったです!(そればっかりか

>―――では何のために?

>決まっている。


>「このグラハム・エーカーの鬱積を晴らすためだ」

ああもう最っ高、最高でした!
グラコロ最高です。
ヴォルケインを辛うじて動かすスザクの狙撃するさまも、絵で想像できる程でした。


道中ちょこちょこした繋ぎしか書けませんでしたが、
だいたい一回は書いたことのあるキャラクター達を、物語の最後まで見守れたのは幸いでした。

アニロワ3完結、おめでとうございます!
そして、最後まで諦めず、完結まで続けた合作書き手さん方。本当にお疲れ様でした!!

125 名無しさんなんだじぇ :2015/03/16(月) 09:10:28 ID:aaKeeg.6
長い長い物語、完結おめでとうございます。
総ての書き手さん、管理人さん、関係者の方々、そして読み手の皆さん
お疲れさまでした。
とても楽しかったです。またどこかで。

126 名無しさんなんだじぇ :2015/03/16(月) 11:21:01 ID:PEjCVrpA
ああ、アニロワ3の完結おめでとうございます
最後まで、結末まで読めてよかったああ

127 僕は…そのレスを…ぶっ壊す!! :僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

128 名無しさんなんだじぇ :2015/03/16(月) 20:16:22 ID:fe2kRrDU
投下乙
面白かったです
ただ15日に投下するって言ってたけど今日は16日だぞ
15日にしたのは投下宣言だけ
それでお付き合いくださいって…付き合えないだろ
16日じゃん
普通は投下するのは何時になりそうですとか遅くなりましたとかありそうなもんだが
それも無いってどうなってるのさ

129 ◆ANI3oprwOY :2015/03/16(月) 23:25:17 ID:lgBKVqEM

多くの感想ありがとうございます。
そろそろ一日が終わろうとしておりますので、
簡単ではありますが諸連絡を伴う挨拶をさせていただきます。

最後まで読んでくださった方々。
ここまで待っていてくださった方々。
本当にありがとうございました。
この物語に触れて頂いたこと、心から嬉しく思っています。

次に諸連絡です。
今後、エピローグの投下を予定しております。
具体的な日程は近日中に本スレに記します。


そして、もう一つ。
こちらは、まだまだ具体的な事柄が決まっていないのですが、
座談会のような物を企画する予定です。
最終回に関する事か、あるいは一話から振り返ってみたりするか。

予定は未定ですが、チャットを解放して参加したいただく形になると思います。
日程等は、追って報告いたします。



そして、もう一度。
ありがとうございました。
今はただ、それだけしか、言葉になりません。


では、今日のところは、これで失礼いたします。

130 僕は…そのレスを…ぶっ壊す!! :僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

131 名無しさんなんだじぇ :2015/03/16(月) 23:46:41 ID:2SchPBaE
まさか生き残ってた参加者で一番戦力が乏しくみえたアララギくんが優勝者になるとは
書き手のみなさん、長い間お疲れ様でした。

132 僕は…そのレスを…ぶっ壊す!! :僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

133 僕は…そのレスを…ぶっ壊す!! :僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

134 名無しさんなんだじぇ :2015/03/17(火) 00:47:05 ID:s2io5MuA
バトロワ物はROM専だったし感想を書き込む気も一切なかったけど
今回ばかりは書かせてくれ

ハッキリ言って、完結するとは思わなかった
これはもうエターナるなと数年間決めつけ続けてきたわ
そんで久々に来たらなんか更新されてんの 自分の浅はかさを思い知ったよ
しかも偶然最終話の 投下に立ち会う事ができた それだけでも感無量だわ
お疲れ様でした

135 名無しさんなんだじぇ :2015/03/17(火) 09:35:23 ID:OzASgXRY
最終回投下乙でした。
ガンダムの力を捨てたグラハムが好きだ。
レイの声と共にヴォルケインを駆るスザクが好きだ。
言峰に決意を語る澪が好きだ。
どこまでも【殺し】合う式と一方通行が好きだ。
主人公をやる阿良々木さんが好きだ。
壊れながらゲイボルグをぶちかますインデックスが好きだ。
土壇場で普通の女子高生が唯の拳銃で殺し合うのが好きだ。
一方通行が幻想を夢見て、更に踏み砕くのが好きだ。
聖杯でなく、彼女は僕のものだと言うリボンズが好きだ。
生きたいと願うようになってしまったスザクが好きだ。
インデックスを見捨てられないグラハムが好きだ。
世界の終わりで最後まで笑うサーシェスが好きだ。
新しい夢を見つけた憂が好きだ。
終わることでやっと休めると安堵する澪が好きだ。
最高のハッピーエンドを選べない阿良々木さんが好きだ。
変わらず背負い続けるスザクが好きだ。
最後の最後に、セイギノミカタと同じ場所に辿り着いた悪党が好きだ。
つまり最高だってことだ。

136 名無しさんなんだじぇ :2015/03/17(火) 22:05:01 ID:lIbgHscA
完結おめでとうございます!

グラハムとリボンズの戦い、ガンダムVSやってたのが懐かしいですw
衣が死んで腐りかけてたけど立ち直って、人間の強さと諦めの悪さを見せつけてくれました。
主催といえば遠藤が復活したのは驚きでした。「金で魔法を買った」の衝撃は今でも覚えています。

首輪ちゃんサーシェスが戦争屋として場を乱しに、相手がスザクで乗機はヴォルゲイン。
サクライズとの再戦が熱い、状況的には違うかもしれないですが因縁は燃えます。
最後まで生きて、戦って、樂しんで。個人的にはサーシェスが最後までよく生き残ったと思います。

合同でやることになってから長い間お疲れ様でした。
完結の瞬間(今日ではないですが)を見れて大変嬉しかったし興奮しました。

憂と澪の邂逅、式と一方通行の戦い、阿良々木さんの選択……。
信長との戦いとルルーシュの死を乗り越えたことを考えると……けいおん組

まとめたり書くのが下手で申し訳ないです。
個人的には一方通行が大好きです!
上条さんの死、瘴気と壁や外部因子に阻まれた悪党の最後は言葉に表せません。

投下お疲れ様です、完結おめでとうございます!

137 名無しさんなんだじぇ :2015/03/17(火) 22:21:20 ID:oThcjxfY
最終話遅れて読み終わりました
一方通行どうなるんだろうとロワ中盤からずっと思ってただけに、くあーーーくあーーーって感じです
説明するのは難しいが、くあーーーって感じなんだ。うむ、くあー
あららぎくんもね、いいワケないけど選んだのが、な


わかりづらい感想になったけどよかった。おもしろかった。とにかく乙と言いたい
いいワケなくても選びたくなったぜ

138 僕は…そのレスを…ぶっ壊す!! :僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

139 僕は…そのレスを…ぶっ壊す!! :僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

140 僕は…そのレスを…ぶっ壊す!! :僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

141 僕は…そのレスを…ぶっ壊す!! :僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!
僕は…そのレスを…ぶっ壊す!!

142 管理人◆4Ma8s9VAx2 :2015/03/18(水) 23:54:36 ID:???
お願い

〇毒を吐くなら毒吐きスレへ
本スレはもちろんですが、無関係の人に迷惑をかけないよう
外部サイトへの書き込みも控えていただきたく思います

〇荒らしはスルー
荒らし、煽りと思われる書き込みにいちいち反応しないでください

〇本企画以外の話題は雑談スレや該当の場所で
詳細については管理人スレをご確認ください

143 名無しさんなんだじぇ :2015/03/19(木) 06:14:40 ID:xsQumKLU
最終話投下乙です!
ほんと、よくぞ完走してくださいました。
今までこのアニロワ3rdに関わってきたあらゆる人々にあらん限りの感謝をこめて!

144 名無しさんなんだじぇ :2015/03/21(土) 21:30:48 ID:U5mlaYTw
投下乙〜
最終回なのに削除されすぎw

145 名無しさんなんだじぇ :2015/03/22(日) 20:05:09 ID:LDrKkZsA
やっと読み終わったよ、書き手の皆さんと管理人さん本当にお疲れ様でした

全キャラが活き活きと描かれてて、お腹一杯の最終回でした
阿良々木さんもうちょっと欲張ってもよかったんじゃないの、思わないでもないけどw

完結おめでとう!エピローグも楽しみにしてますよー

146 名無しさんなんだじぇ :2015/03/28(土) 02:00:56 ID:ZUmZlxkA
素晴らしい最終回でした。
書きたいことがたくさんありますが、とてもではないですが書ききれません。
本当にお疲れ様でした。
エピローグと座談会楽しみにしています。

147 ◆ANI3oprwOY :2015/04/20(月) 23:47:09 ID:3hFQUrec
テスト

148 ◆ANI3oprwOY :2015/04/20(月) 23:58:58 ID:3hFQUrec

今週からエピローグの投下を開始していきます。
では、さっそくですが1話、投下します。

149 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:02:55 ID:GnBVTppo










追ってくる。
果てのない『くらやみ』の向こうから、何かが私を追ってくる。
逃げなければならない、今すぐ動かなければならないのに。

身体が、重い。
足に、力が入らない。


それはもう、すぐそこまで来ている、私のすぐ後ろまで。
早く逃げなくちゃ。
逃げなくちゃ。
逃げて、逃げて、どこまでも逃げて、たどり着かなきゃ、いけない、のに―――


挫いた足が、動かない。
身体が重くて進めない。
振り向けば目の前に、後ろから追ってくる怖いもの。



それを、私は――――



「……………っ!!」



そこで、いつも目が覚める。





◇ ◇ ◇

150 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:05:42 ID:GnBVTppo






「うぅ……寒いな……」




寒空の下、通いなれた道を私は一人で歩いていた。
とうに秋が過ぎ新年を迎えても、住み慣れたこの町の冬はもう暫く続く。
冷え切ったアスファルトを踏みしめつつ、いつもより厚着して家を出たのは正解だったと確信した。

少し早い朝の通学路、生徒の姿はいつもより少ない。
こう寒いと、みんな家を出たくなくなるのだろうか。

なんて言う私も、今日は、いつもより家を出るのが遅れている。
別に、私の目覚めの悪さは、寒さのせいじゃないけれど。

目が醒めたとき、目覚ましのアラームは既に1回鳴っていたし、朝食を食べているときも何だか気怠い感覚が取れず。
トーストを喉の奥に押し込み、制服に着替え、やっと意識を晴らして家を出た時には、何時もの出発時間から15分近くズレていた。
遅刻が危ぶまれるほど遅れたわけじゃない。けれど、気持ち早足で歩くとする。

もう何夜も連続で見ている悪夢。
削れていく睡眠時間。
私にとって、目下最大の悩みだった。

「おっす、みーおっ!」

そのとき後ろから、声が聞こえた。
と、同時、背中に衝撃。
誰かに叩かれたのだと、すぐに分かった、そこに誰が居るのかも。


「うわっ! って……なんだ、律か」
「なんだとは失礼なー」


勢いのあるハキハキとした喋り方。トレードマークのカチューシャ。
私の幼馴染であり、今に至るも友達である。
田井中律が、そこに居た。

「珍しいじゃん、澪がこの時間帯に登校なんてさー。どういう風の吹き回しなんだよ〜?
 ひっさしぶりに私と登校したくなったのかこのこのー!!」

いつもと変わらない。
明るく賑やかで、ちょっとうるさい。
私の、親友だった。


「別に……」

「素直になれよぅー、最近の澪ぜんぜん一緒に登校してくれなくなったじゃん。
 そろそろ私が恋しくなったてことなんだろー?」

律は満面の笑顔で、背中をバシバシ叩いてくる。
恋しくなったのはお前だろ。
なんて、軽口を言いかけて、止めた。

「……今日は……夢見が悪かったんだよ」

すると律はすぐに吹き出して。
『なになに怖い夢でもみたのかー? 澪はいつまで経っても怖がりだなー!』。
なんて茶化してくると、思っていたんだけど。
違った。

「……あ、ごめん」

気まずそうに、気遣うように、そして……心配そうな、顔をした。

「前生徒会長から聞いたんだよ、最近、ほんとに良く見るんだってな……嫌な夢」

151 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:07:42 ID:GnBVTppo


ああ、なんだ、和が話していたのか。しかも、その深刻さまで添えて。
そして私は、律に話していなかったのか。
思えば久しぶりだった。律と一緒に歩くのは、こんなにゆっくり、話すのは……。

「そ、そういえばさぁ、楽器店について来てくれるって話。あれいつになったら行くんだよー」

律は話題を変えようとする。
少し、無理のある笑顔で。

「こんど、な」
「こんど、こんど、って、澪最近付き合い悪いぞー?」
「……ごめん」
「うーん……ま……いいんだけど、さ」

律はすぐに引いてしまう。
実際、付き合いが悪くなったのは事実なのに。
心なしか、先ほどまでの元気が、私の大好きだった彼女の明るさに、影が差してしまったような気がした。
罪悪感に駆られる。
だから私は、大きめの声で、色々な事を誤魔化すことにする。

「行こう、ゆっくり歩いてたら遅刻するぞ」
「……うん」

そこからは二人、とりとめのない会話を続けながら歩いた。
学校を目指して。


「……あ、澪。見ろよ、空」
「………降ってきたのか」


ちらちらと、粉雪の残る。
3年生の3学期。




私にとっての高校生活、最後の冬だった。












◇ ◇ ◇

152 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:09:17 ID:GnBVTppo




いつも通りの日常が過ぎていく。


窓際の席は少し寒いけど気に入っていた。
授業は私なりに真面目に受け、休み時間はボンヤリと窓の外を見る。
昼休み中には律、唯、ムギ、梓がやってきて、和も交えて雑談する。
そんな、いつも通りの平和な一日だった。




「ねえ」

放課後、隣の席から声がかかる。

「ねえ、元副会長」

「なんだよ、元会長」

「あなた最近、ずっと外ばかり見てるわね」

「窓際の席だからな」

ぶっきらぼうな言い方に、和が苦笑するのが分かった。
軽音部のメンバーとは、終ぞ同じクラスになることはなく。
けれど彼女とは2年、3年と連続して一緒だった。

『生徒会に入りたい』

なんて突然言った時、和は驚きながらも快く相談に乗ってくれた。
結果として、私は生徒副会長になって、彼女との付き合いは長く。
色々な事があったけれど。
もしかしたら今の私にとって、彼女こそが一番の理解者なのかもしれない。


「先生がよんでるわ」

「私を?」

「そう」


気怠く前を見れば、教壇の隣で、さわちゃん先生が私を見ていた。







◇ ◇ ◇

153 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:10:25 ID:GnBVTppo





「……と、言うわけなのだけど」


「そうですか」


「まずは、おめでとう、秋山さん。担任として嬉しいわ」


「ありがとうございます」


「でも、秋山さん……」


「なんでしょうか?」


「ごめんなさい、いまさら変な事を聞くんだけどね。
 あなたが2年の頃から、大変な努力をしていたのは分かっているの。
 恥かしがりのあなたが副生徒会長にまでなって。
 でも、本当に……これで、よかったの? あなたは―――」


「いいんです。両親も納得してますし。なにより私が、自分で決めたことですから」







◇ ◇ ◇

154 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:12:36 ID:GnBVTppo


「澪先輩」

背後から声をかけられたのは、職員室を出て、廊下を歩いていた時だった。
振り向けば、そこには後輩である中野梓が立っていた。
ギターケースを抱えて、私を見つめている。

「今日は、部活来られますか?」
「ごめん。引き継いだばかりの生徒会の様子を見にいきたいし、それに勉強もしなきゃ……いけないからな」
「そっか、そう、ですよね。先輩たちもうすぐ卒業、ですもんね」

何かをはぐらかす様に、梓は私から目を逸らす。
おかしなものだと私は思う。
はぐらかしているのは私なのに、どうして梓の方が気まずい顔をしているのだろう。

「梓は、これから部活?」
「あ、はい。唯先輩達、今日はちゃんと練習するのかなぁ……卒業ライブしたい、卒業旅行いきたい、って言ってるくせにだらけてばっかりで……」
「大丈夫だよ。あいつら受験終わったんだし、梓がビシッと言ってやればちゃんとやるさ」
「ほんとでしょうか……。でも先輩がいないとみんなの気が締まりませんから、大変なのはわかりますけど、たまには部活、来てくださいね」
「……うん」




梓と別れ、夕暮れの廊下を一人で歩く。
窓から流れ込むオレンジ色の光が、教室のドアや窓をぼんやりと照らしていた。
誰も居ない廊下、何処からか、楽器の音が聞こえてくる。
その音を聴きながら私は歩き続ける。穏やかな時間だった。

何も変わらない毎日。
何も変わらない日常。
だけど一つだけ以前と変わったことが確かにあった。

最近、部活をサボりがちだという事だ。


『でも、本当に……これで、よかったの? あなたは、みんなと同じ大学に行きたかったんじゃないの?』


さわちゃん先生は、きっとそう言いたかったんだろう。
勉強するから家に帰る、なんて嘘だ。
私の受験なら、今日、ついさっき終わったばかりだというのに。




推薦による、海外(ロンドン)の大学への留学試験―――無事合格だった。

155 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:14:12 ID:GnBVTppo


「……ああ、そうか、じゃあ、もう引き上げないと、いけないのか」

ふと、忘れ物を思い出す。
ずっと隠していたもの。
気まずいかもしれないけれど、今日、取りに行かなければならないモノだと思った。

階段を上ってすぐの音楽室に、それはある。
夕焼けの部室。
ここに来るのはいつ以来だろうか。
一年と少し前、ちょうど私が悪夢に悩まされるようになった時のこと。

徐々に部活に顔を出さなくなって。
最初はみんな心配していた。
けれど、理由を察したのか、すぐに何も言わなくなった。
友人としての関係は変わらなかったけど、気を使っているような雰囲気は感じていた。

部室のドアをゆっくりと開く。
楽器の音は無く、人の声もしない。
夕暮れ時の、空っぽの部室がそこにあった。
ちょうど今朝、観た悪夢の再現のような――――

「……………」

幸い、今はなぜか、誰もいないようだった。
みんなして梓の説得を振り切り、梓を巻き込んで練習をサボっているのだろうか。
その様子を想像するだけで、ほほえましい気持ちになる。

残念なような、ほっとしたような、おかしな感覚の中。
私は、早急に忘れ物を、置きっぱなしにしていた楽器と私物を、右手で拾い上げる。
今日持って帰らなければ駄目だと思った。
じき、出立の準備を始めなければならない。そしてここに来ることは、おそらくもう無いだろうから。


そうして、荷物を担ぎ上げた私は、こっそり部室を出ようとして―――




「あれ、澪ちゃん。帰ったんじゃなかったの?」




気がつけば、部室の入り口に、一人の少女が立っていた。

156 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:16:26 ID:GnBVTppo


「………ぁ」


平沢唯。
夕焼けに照らされた彼女に、私は絶句する
赤く染まった唯の姿に、私は、何を、連想したのだろう。


「あ、ああ……えっ……と、忘れ物、したんだよ。でもすぐ帰るから、ごめん、また明日っ……!」


言い訳できない大荷物で何を言ってるんだろう、私は。
早足で、唯の隣を通り抜ける。
通り抜けて、去ろうとした。その直前に、唯はぽつりと、呟いた。

「澪ちゃん……なんだか最近変わったね……」

足が、縫い付けられたように止まる。
ボンヤリとしているようで、その実、
誰よりも勘の鋭い唯は、もしかしたら見抜いていたのだろうか。

「私達と距離置いてるって言うのかな。ううん、もうちょっと曖昧な感触。
 壁って言うより、膜があるっていうのかな。あんまし上手く言えないんだけど……。
 なんか澪ちゃんの心が、遠くに行っちゃったみたいで……さわれなくなっちゃったみたいで……」

「な、なに言ってるんだよ唯。
 私はいつもどおりだ。そうだよ、これ以上の『いつどおり』が……他にあるもんか」

「そっか、うんそうだよね。でも……もし悩みがあるなら何でも言ってね。
 私達はいつでも相談に乗るから、だって最近の澪ちゃんはまるで――」

私は一歩後ずさる。
唯は優しく触れ合おうとしてくる。
指が、私の頬に伸びてくる。私の頬に、在る『傷』に―――

「『無理して澪ちゃんを演じてるみたい』だよ」

やめろ。
聞きたくない。
触れられたくない。



違う、私は――――触れたくないんだ。

157 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:18:03 ID:GnBVTppo


「私、行くから」


逃げるように、俯いて、顔を隠して、唯を押しのけるようにして、部室を出る。
逃げるように、逃げた、廊下の先に。

「み、澪……じゃん、どうしたんだよ……」


―――律が、いた。
―――律だけじゃない、ムギも、梓も、そこに居た。


「帰るんだ……」

もう誰の顔も見たくない。
律も押しのけて、今度こそ家路に着こうと。


「―――なあ澪。私も、みたんだよ、悪夢」


ああ、やっぱり、今の会話、聞かれちゃってたんだ。


「私たち全員が同じ夢を見てる。
 それは澪が、頑張る夢なんだ。唯、ムギ、梓、それに私の……為に、軽音部の為に、一生懸命になって。
 傷ついて、ボロボロになって、死にそうになって、それでも戦う、そんな夢なんだ。
 あれさ、本当は夢なんかじゃなくて……」

「――ッッ!!」

「……まってよ、澪ッ!」




もう、限界だった。

振り切るようにみんなを置き去りにして、私はそこから逃げ出した。





◇ ◇ ◇

158 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:19:38 ID:GnBVTppo




振り返らずに走る。

逃げる。

逃げている。

なにから?

私はなにから逃げている?

日常から逃げている。

仲間から逃げている。

あれほど取り戻したかった、全てから逃げている。

何故?

どうして、どうして私は―――


「……っ……っ……な………ん……でだよぉ……」


何も分らないまま走り続けて、気がつけば、小高い丘の上にいた。
走りつかれ、丘の上で蹲るように。
たった一人で、泣いていた。


「………なん……で」


夕暮れの空を見渡せる丘。

私の町を見下ろせる丘。

全てがここにあった。

全てが元通りになっていた。

あれほどに取り返したかった日常が、全て、ここにあるのに。



「なんで、私は…………?」


だけど、どうしても、日常に帰れない。
心のどこかにある、異物感が拭えない。

どうしてなのだろう。
何も変わっていないはずなのに。
なのに辛い。
苦しい。
日常を生きることが、仲間と接することが。

どうしても引っ掛かりを感じてしまう。
噛み合わない感触に耐えられない。
あれほど望んだ事のはずなのに。
やっとの思いで、地獄から抜け出したのに。
やっと、やっと、還ってこれたのに。

159 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:22:02 ID:GnBVTppo

殺し合いに生き残り、日常に帰還する事が出来たのに。
どうして私は、この安息に苦しみを感じているのだろう。
いったい何が変わってしまったのだろう。
私とみんなとの、ズレは、何処に在るのだろう。

ずっと、ずっと分らなかった。
だけど今日、やっと分ったような、気がした。

日常に異物感があるんじゃない。
この自分こそが、日常に紛れた異物なのだと、知った。
変わったのは世界じゃなくて、私自身だったんだ。

怖い。
怖いんだ。
何も知らない彼女達の無垢な瞳が。

単純に、純粋に、心配してくれる、その心が怖い。
こんな私を見つめる、その綺麗な目が怖い。

私のなかじゃ、何も消えていない。
何も、何も、無かった事には出来ない。

殺し合い。

あの地獄の痕跡は、確かにある。
左手首は今も満足に動かせず、ベースを弾くことは二度とできないかもしれない。
毎晩、見続ける悪夢。
そして何より、この頬に残る刀傷が、鏡を見るたびに思い出させる。

地獄の、殺し合いの、記憶を。
恐怖。
痛み。
絶望。
そして、罪。

傷は、消せない。
化粧で隠せても、消す事だけは出来ない。

憶えているし、分かっている。
私は、ただの人殺しなんだと。
自分の為に他人を傷つけた。
そのくせ、何の報いも受けていない。

地獄から解放された後。
戻る世界には、失った筈の全てが残っていた。

馬鹿げている。
殺したくせに、殺したくせに。一人で幸せな世界に戻ってきた。
こんなことは許されない。許せ、ない。

―――本当は誰一人救えなかったくせに。

私は、彼女達に案じてもらえる立場に無い。
両手は血で汚れきっている。
こんな手で彼女達に触れたくない。

私の好きだった平穏に、私が泥を付けてしまう。
関わるだけでみんなを汚してまう、そんな気がして。
何も知らない彼女達の純粋な心が怖くて、堪えられないんだ。

確信する。私はもう一生涯、あの陽だまりの中には戻れないんだろう。
気がつけば、そこからとてもとても、遠い場所に来てしまっていた。
日常を取り戻す為に、日常から遠く遠く離れて。
そしてもう、帰ることは出来ない。

たとえ目の前にあるように見えても、もう二度と、手に入れる事は出来ないんだ。
そう、悟った。
だって私はこれを、何よりも大切なモノを、気づかぬうちに、自分で捨ててしまっていたんだから。

160 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:23:56 ID:GnBVTppo

きっと、これが相応の罰なのだろう。
自分の為だけに、命を奪ったことへの報い。
結果を笑って迎えるほど、潔くはないけれど。
仕方の無いことなのかな。とは思う。


それに私は、なんでだろう、不思議と――――


「なんだ、じゃあ、やっぱり救えない……」


記憶を消してしまいたいとだけは、どうしても思えなかったから。
あの場所で、あの世界で、私が出会い、そして守ろうとしたモノ。
その正体を知っても、後悔できないのだから、本当に救いようがない。

命を懸けた。
人を殺した。
取り戻したいと本気で願った。

全力で、戦った。
あの地獄の中で、私は、何を失ったのだろう。
そして何を、得てしまったのだろう。

「痛いな……」

何処かに残る、傷が痛む。

「痛い……」

たとえば、片頬に残るモノ。
この傷を、残すと選んだのは私自身だ。

私が決めた。
私が、選んだ。

それだけが重要なことだったんだ、と。
定めたのも、私自身だった。

「…………っ」

両の手を、強く握り締める。
なんて馬鹿げた選択肢。
なんて、愚かな生き方なんだろう。

忘れてしまえばいいのに。
記憶を消して、それでふわふわと、帰還した緩やかな日常に身を任せればいいのに。

なのに私はまた、選んでいた。
罪を、思いを、あの場所で背負ったモノを、未だ持ち続ける事を。

「そっか。まだ、在るんだ。ここに……」

―――そう、私は、まだ背負ってる。
背負うと決めた、重い、思いの全て。
失った誰かへの気持ち。
殺した誰かに対する罪科。
共に戦った誰かの孤独。
約束した誰かへの憧れ。

あの場所で出会って、そして失った彼女達の思いを。
そして、私自身の、選択を。

ぜんぶ、ぜんぶ、背負ってる。
きっとそれだけが、私があの地獄のなかで最後まで守り通した、たった一つのちっぽけな意地だから。

161 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:24:44 ID:GnBVTppo



いま、歌いたいと思った
遠く離れた世界まで響くように。

声は風に乗って、天に届け。
空を越えて、世界を超えて、どこまでも、どこまでも、どこまでも響き渡ればいい。

そしたら、また、歩き出せる気がするんだ。
どこかに行ける気がする。
この、重い体を引きずって、どこかへと。
どこかへと、どこまでも、私は、行きたいんだ。



『じゃあ、せいぜい頑張って――――』



不意に、世界に溶けた彼女の声が、私の背中を押した気がした。
私は、肺がいっぱいになるまで、息を吸い込む。
どこにも届きはしない、小さな声。
だけど、たとえ届かなくったって。




「――――――――――――」




今の私に出来る全力で、歌う為に――――















◇ ◇ ◇

162 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:27:03 ID:GnBVTppo








―――――遠い異国の風が、私の頬を撫でていく。












潮の匂いを感じながら、広大な野原を歩いて行く。
振り返ってもそこに、誰もいない。

一人きりの旅路。
もうどこにもいない4人分の幻影を引き連れながら、進む。

向かい風は強く、からだは重く感じるけれど。
希望を捨てられない私は、この重さとともに歩くだけ。


―――私はどこに行くのかな。


きっと永遠に届かない希望(おもい)を抱えたまま、飛ぶ事なんて出来はしないけど。
私は今も、背負ってる、それを誇りに。


―――私はどこまで行けるのかな。


どこまででも行いける。どこまででも行く。
翼を失って、飛べない私は、この二本の足でどこまでも。


想いを引き連れてどこまでも。

163 ep.00 -Singing!-  ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:31:42 ID:GnBVTppo


「道なき道でも進もうよ」



どこまでも、行きたいと、願う。



「一緒に、踏み出すそこが道だよ」



音はもう私一人しかいなくて、だから標(しるべ)すら無くて、それでも。



「ビートで胸に刻む、誓い」


この想いだけは、消せないから。


「いつまでもずっと―――」


足は未だ、止まらない。




「――――Yes,We are Singing NOW」




「へえ、日本語の歌なんて、こっちに来てから久々に生で聞いたわ」




声を出し切った充足へと。
不意に、誰も居ない筈の背後から、誰かの呼びかけ、小さな拍手。



「上手いわね」


少し、嬉しくなる。
きっと此処から始まるモノもある、此処から変っていくモノがある。
そう信じられるから今は、予感と共に足を止め。
私はもう一度、私の後ろへと。

誰かの声に、まだ見ぬ何かに、振り返る。
きっと、そこに確かに在る、何かが。



「ありがと、あなたは――――」





私の、夢の続きだ。
























【アニメキャラ・バトルロワイアル3rd / 秋山澪 -To the next story!- 】

164 ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 00:32:51 ID:GnBVTppo
投下終了です

165 名無しさんなんだじぇ :2015/04/21(火) 01:45:38 ID:fdVrQGkc
投下乙〜!
多分どういうことか全然分かってないのだけれど。
それでも、澪がまた歌を歌おうと思って歌ったことになんかじわりときた。

166 ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 23:33:46 ID:AGARX4jY
test

167 ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 23:35:03 ID:AGARX4jY
お待たせしました。エピローグ2話目投下します

168 ep.00 -幻視光景- ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 23:37:58 ID:AGARX4jY



いつも通りの服を着て、街を一人で歩く。
外は寒く、空気が痛いくらいに張り付く。
まるで小さな針で刺されてるみたいで目が痺れる。
まだ冬が終わる日にはなりそうにもない。
雨が降ってないのは幸いだ。もし降っていたら骨まで響いていただろう。
病院生活はとっくに終わっているが、病み上がりの体に違いはない。
傷は完治してもも古傷のようなものは残っているらしく、こういう寒い日には体の節々が疼く。
切り傷の類はあまりなかった筈だった記憶だけれど、おかしな話だ。


世界の移動なんて大それた行為の実感もなく。
当たり前のように帰ってきた私は、その場ですぐに倒れた。
帰る前に治療をしておくなんて気前のいいこともなく、瀕死手前の状態のまま放り出されてだ。当然といえる。
まず止血した方がいいと思ったが、既に気力も体力ももう限界でとにかく休みたかったのだ。
家に帰る気、というのもしない。その時思い浮かべたのが、両儀の屋敷でもなく、自分の何もない部屋でもなかったからなのだろう。
先のことは考えず眠るように瞳を閉じたところ、暫くして慌ただしく近づいてくる足音が聞こえ、
現れた人にそのまま救急車に運び込まれて入院することになった。
容体は重症だったが命に関わるものはなく、時間を置けばどれも自然に治癒するものだった。
退院届はとうに出し終わり、こうして自由に出歩くこともできる。

……後で聞いたところによると、病院に連絡を入れたのはトウコだった。
どういういきさつがあったのか、私が遭った事態についてあっちはおおよそを把握していたらしく、
私が帰った時より少し前から根回しをしていたということだ。




『どうもこうもない。私に宛てられた役は最初から画面越しの観客だったということさ。
 元の世界との橋渡しの一要素に使うには、あの状態の私は適役だ。
 器が壊れればあそこの記憶は部外の私に流れる。箱の中の猫は自動的に観測された結果となる。
 劇を見聞きすることは出来るが、それ以外の行動干渉は一切受け付けない視聴者視点。
 世界を重ね合わせ過ぎた狭間の中で起きた物語が『在った』ということを確定させるための実数。
 生還者が鏡面界に囚われることのないための配慮とはいえ随分な念の入れようだよ、あの便利屋は。
 ……なのにその後始末を私に放り投げるとは、アフターサービスがなっちゃいないんじゃないかね。
 世界との癒着の綻びを剥がすのにどれだけ手間が要ると思ってるんだ。下手をしなくても私が見つかりかねんぞ。
 よしやはり二、三ほどは残しておくか。電話線程度の繋がりを維持すれば逆探知して引き摺り込めるんだがな……』

169 ep.00 -幻視光景- ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 23:39:08 ID:AGARX4jY




何度も理由を本人に問い詰めているが、口に煙草を咥えて文字通り煙に巻かれている。
結局大半が分けのわからない上私情が混じり始めていたので、諦めて聞き流すことにした。

その中の報告で留まった一点。
私達、と言う通り、失踪したのは私だけではない。
礼園女学院から女生徒と、既に一人しかいない男性教師、関連性のない二人が姿を消している。
世界の矛盾を抑止するため働いた辻褄合わせなどとトウコが言っていた。
連れ去られた時間がそれぞれ異なっていたとしても、帰ってこれなかった時点で彼らの死は確定し現時点から消失したと。

分かっていたことだ。仮にここに生きた幹也が私を迎えにでも来ていたら、本当にどうしていたか想像できない。
ただ同時に、私を捜してくれたのがあいつでなくトウコだったということに、
何か期待していたものを裏切られたと感じてしまったのが無性に腹立たしい。
矛盾した在り方。相反する感情。
どちらも本当のことで、陰と陽はどちかも曖昧なのに、溶け合うことなく綺麗な境界線を敷いている。


街は変わり映えすることもなく、平穏そのものだ。
昔巷を震わせた殺人鬼の再来とか、少年少女が同時失踪したとか、物騒な話はまるで浮かばず。
道行く人や物にまとわりつく無数の線も、カタチを変えずそこにある。
その傷痕が、かつてないほど私の何かを急き立てる。

……早いとこ、目的のものを貰おう。足早にトウコの事務所へ向かった。



   





事務所の扉を開くと、机に座っていた黒桐鮮花と目が合った。
私を見るなり紙に紋様を記していた手を止めて、言葉もなく目つきを険しいものに変える。

「――――――」

無言で、ただ視線に意思を乗せて睨み付ける。
今すぐ飛びかかって喉笛を噛み千切らんとする激情を理性で抑えつけそれでも止められず漏れ出した、悪魔じみた表情。
これまでを遥かに超えるこの態度が、ここ最近私が見る鮮花の平常だった。

「何しに来たのよ、式」

きちんとした言葉を出せるぐらいに落ち着いたのか、割合そっけなく声をかけられる。
隠すまでもなく、声には黒々とした感情が乗せられてるが。

「用があるのはトウコの方だ。頼んでたのを貰いにきただけ……って、いないじゃないかあいつ」
「橙子師は外出中です。昨日また新しい綻びが発見されたとかで、その後始末に向かっています」

あくまで事務的に伝える鮮花。その態度よりも伝えられた内容の方に私は顔をしかめた。
日がなデスクに腰かけ煙草を指に挟んでいる眼鏡をかけた女所長は、この時ばかりは不在だという。

「なんだあいつ。自分から取りにこいって言ったくせに」
「それについては私から預かっているわ。はいこれ」

約束をすっぽかされ待ちぼうけかを食らうかとと思っていたところに、鮮花は座っていた机の隅に置かれていた小物入れを手に取った。
刀の柄より少し太い、特に変わり映えのしない眼鏡入れのケースだった。
そうか、と差し出されたそれを持ってこの場を立ち去ろうとする。
トウコの顔が見たいでもなし、留まる理由がなくなったから長居する理由もない。

170 ep.00 -幻視光景- ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 23:40:52 ID:AGARX4jY


「……」
「……」


それが結局出来ないでいるのは。
私が握るケースの逆を掴んだ鮮花が、いつまでも手を離さないからだ。

早く離せ、と目で訴えてる。
嫌よ、と同じく目で返される。

「ケンカ売ってるつもりなの、あんた?」
「いや、それはオレの台詞だぞ」

引っ張る力を強めるが、鮮花の手は吸盤でもくっついてるかのようにぴったりと箱に張り付いて離れない。

「橙子さんも橙子さんよ、なんだって私にこんなものを渡して、よりにもよってこいつ宛てなんて任せるのよ……」

珍しいトウコへ苦々しい不満を口に出す鮮花の言葉の中で、流せない台詞が聞こえた。
今度は、私の琴線が触れて揺れた。

「まさか、見たのか」
「見てないわよ。けど眼鏡ケースに入ってるのが眼鏡以外だなんて普通想像しないでしょ。
 あんたに譲らない理由なんて、それだけでお釣りが出るくらいだわ」

手の力は段々と増していっており、箱がミシミシと軋むのを振動で感じた。
互いに譲らず、このままでは先に目的の品の方がおしゃかになってしまいそうな境になって。


「なんで、守れなかったのよ」


ぽつりと呟いたのは、安全装置を外して暴走しないようにするスイッチだった。
迸るほどの感情を、なるべく理路整然とした意味ある言葉へ変えて、正統に訴えるための準備。

「幹也も藤乃も死なせたのに、あんたはそんな風にしていられるのよ。
 結局あんたにとっては替えが効く相手でしかなかったってこと?
 あれだけ私から幹也を奪っておきながら返しもせず捨てていくなんて、そんなの卑怯にもほどがあるでしょう」

私が帰ってきて、トウコからその際の顛末―――黒桐幹也と浅上藤乃の死を伝えられた時、鮮花はそれこそ世界の終わりに直面したような顔になっていたという。
実際世界が滅ぼうが相変わらず泰然としていそうな性根の鮮花には、幹也の死は正しくこの世の崩壊に等しい災事だっただろう。
そこからは泣きもせず、嘆きもせず、元々刺々しかった私への態度を剣の鋭利さまで研ぎ澄まして、見た目は淡々と普段通りの生活を送っていた。


幹也達の死の責任を私に押し付けられるのが、八つ当たりだとは思わない。
だって私は、あいつの死体を見た。
体の硬直度や残っていた生乾きの鮮血から、直接斬りつけられてから数時間程しか経っていないと判断がついた。
つまり、決して間に合わない時間の差は無かった。いやそもそもあの島のどこかにいるのは確実なんだから捜そうとすればもっと早く気づけた筈なのだ。
たとえ後付けの結果論だとしても、死なせた事実には言い訳が利かない。

だから鮮花の怒りはもっともで、その矛先を私に向けるのはまったく正統だ。
……どれだけそれが恐ろしいことか知っていても、受け入れるしかない。

171 ep.00 -幻視光景- ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 23:42:47 ID:AGARX4jY

「橙子師に頼んで修行の段階を上げる許可を貰ったわ。実戦だって礼園で経験済みだしいつまでも油断しないことね。
 門戸を叩きに来るのを覚悟しておきなさい」

本人の性格が表れてるような、堂々の宣戦布告。鮮花の目は、名前通りの鮮やかな翠(いろ)の中に煌々と烈火が宿っている。
しかも門戸を叩く、ときた。



本物の殺し合いを、あの場所では数知れず経験した。
快楽のため。狂気のため。野望のため。願いのため。誰かのため。
多くの動機が、他者が私を殺そうとする理由だった。


けどこの意思を向けられたことは、一度もない。
最後に戦った相手さえ、本質的には私に対しての殺意ではなかった。
あれは互いに、道にいた邪魔を払おうとしただけに過ぎない。
あの世界では私もただの参加者の一人。異常性なんて埋もれて消えるぐらい濃い場所にいたただの人。


ああ。なんだろう、これは。
本気で憎まれてるのに、恨まれてるのに。
それがとても新鮮な気持ちに感じられているのは。


「誰が何と言おうが、幹也を見殺しにしたあんたを絶対に許したりなんかしない。
 いつか必ず―――私が殺してやるんだからっ!」


ねじれのないあまりにも正面的過ぎる殺意。
届く叫びは、胸に空いていた穴に向かって見事に直撃した。


そんなことを言える奴なんて、あいつしかいないと思っていたのに。
ひょっとしたらだけど。それは私にとって初めての体験だったのかもしれない。



「―――ああ。おまえなら、いいかもな」



気づけば、素直な感謝を口にしていた。
私の台詞に呆気にとられた鮮花はぽかんと口を開けて黙っている。
握力が緩んだのを感じ取って、その隙をついてケースを素早く指の間から引き抜いた。

「……あっちょっと!どういう意味よ、それ!ふざけてるの!?」
「言葉通りの意味だよ。その時が来たならよろしく頼むぜ。
 もちろん、オレだって黙って殺される気はないけど」

後ろで続けて文句を言う鮮花を放って事務所を出て行く。
頬が僅かに緩んだ安心した顔を今見せでもしたら、それこそこの場で殺し合いが勃発するかもしれなかったからだ。





172 ep.00 -幻視光景- ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 23:44:21 ID:AGARX4jY




空にはぶ厚い雲がかかっていて、蒼い景色は隠れている。
今にも雪が降りそうな天気だったが、急ぎもせずゆっくりと帰り道を歩く。
その途中、無事回収したケースを開き、その中身に流石に顔をしかめた。

「……本気でケンカを売っているのはあいつなのかもな」

確かにデザインについて注文をつけてはいなかったが。これは、流石にないだろう。
文句を言いつつも、地味な黒色に縁どられた眼鏡をかけて、空を見た。

「―――――――――ぁ」

―――レンズ越しの世界は、とても綺麗に見えた。
昏睡から目覚めて以降見慣れた街並みが、まったく別の景色みたい。

万物の綻び、死を司る線はレンズにはまった視界の中だけ消えてしまった。
まだ式と識がひとつだった頃のような、ありのままの姿。
欠けるものもない代わりに、何も満たされることもない空虚な日々。

けれど、視えなくとも死はすぐそこにある。
眼鏡を外せば元通りの、両儀式の世界に引き戻される。
だからこんなのは、ただの気休めでしかないものだ。
今までにないお節介たちのせいで、以前よりずっと弱くなってしまった私。
この先の未来を生きていくのに必要な枷。

だっていうのに。喪われたかつての幸福な視界(せかい)を幻視できたことが、泣いてしまうくらい嬉しくて。
そんな頼りない繋がりに、私は寄りかかれてしまっている。



鮮花に真正面から怒りを突き付けられた時、本当は自分がどうなるか不安だった。
幹也を喪った虚しさと衛宮を殺した責に、押し潰されてしまわないか。

『―――精一杯生き続けなさい』

頑張れ、だなんて最後に残した声が、頭に留まって離れない。

『――そういう、特別を願うよ』

普通のやつが失ったものを取り戻そうと懸命に走る顔が、いつまでも忘れられない。

173 ep.00 -幻視光景- ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 23:46:01 ID:AGARX4jY


埋まらない胸の孔には幾重にも糸が張り巡らせて、バラバラになってしまいそうな体を縛り付けている。
それらの縁が、どうにか私に前を向かせている。

これから先、夢の終わりに気付かされるときが何度か来る。
またおかしな出会いに巻き込まれるのはまっぴらだけど。
どうやら……あの最後について、まだ未練が残っているようだ。

死んだ人間が見えることなんてない。
遠くから自分を呼ぶ声なんて聞こえてこない。
でもこのまま忘れて放りっぱなしにするには、後味が悪くなるものが。
せめて"その日"が来るまでは――――――ことなのだろう。

生と死が螺旋する世界を俯瞰しながら、人を殺して残る喪失の痛みを忘却せず。
がらんどうの胸に僅かに生まれた、これから続く未来に思いを馳せる。

言い訳しようのない。なんて、無様。
けれど、それも受け入れる。
ほんの少しだけ癒えた孤独を背負って、私は日常を過ごしていく。
いつも隣にあった熱をもう感じることが出来ないことを、やはり寂しく感じながら……。






















【アニメキャラ・バトルロワイアル3rd / 両儀式 -To the next story!- 】

174 ◆ANI3oprwOY :2015/04/21(火) 23:46:51 ID:AGARX4jY
投下終了です

175 名無しさんなんだじぇ :2015/04/22(水) 01:24:59 ID:k6Sp75vc
すげー、空の境界だ、これ。
お前なら、いいかもな、でもガツンと来たのに。
死の線のない空を見上げてからの喪われた〜寄りかかってしまっているにもってかれた。
言い回しやこういうの思ってしまう式が本当にかつて俺らが読んでどっぷりはまった空の境界だ。
ちょっと泣いた。

176 名無しさんなんだじぇ :2015/04/22(水) 07:19:56 ID:U9r6XbPc
乙でした。
空いた胸の穴には誰かの思い出が詰まって、そしてまた生きていく。
式らしくない普通の人生にしてバッドエンド。
個人的に生還が一番意外だったのがこいつだ。

177 ◆ANI3oprwOY :2015/04/22(水) 23:49:42 ID:KPWgiLGY
test

178 ◆ANI3oprwOY :2015/04/22(水) 23:53:11 ID:KPWgiLGY
お待たせしました。エピローグ3話目投下します

179 ep.00 -Re;quiem- ◆ANI3oprwOY :2015/04/22(水) 23:54:01 ID:KPWgiLGY


戦いの日々が続く。
トリガーを引き、連動して愛機(ランスロット)の持つ左手の剣が敵機の胴体を泣き別れにする。
右手に持つライフルから射出される熱線が風穴を空ける。
世界に争いは絶えない。
次元が違ったところでありようはそう違うわけでもなく、当たり前のように戦いが始まる。

数えきれない屍を重ね、夥しい量の血を流す。
戦争の在り方は人ではなく機械同士のものへと姿を変え、今や王の握るスイッチひとつで戦局が確定する。
死を見ることなく人を殺すそれは、直接殺し合ったあの場所よりもある意味で残酷な所業だ。

ナイトオブゼロの役割。ゼロレクエイム成就のための露払い。
即ちは、皇帝ルルーシュの剣として在ること。
ブリタニア領で倒れていたのを発見され現在の状況を把握出来るまでに回復してからの、枢木スザクの日常が続く。

刃向う者、逆らう者は全て消す。
人の意識を捻じ曲げる呪いで隷属させ、圧倒的な武力によって処刑する。
向かってくる数がいなくならない限り何度でも、何度でも繰り返す。

誰もが憎しみを込めて指さす。悪逆皇帝、歴代で最も暴虐で傲慢な独裁者と。
身を変えては権力者に尾を振る売国奴、裏切りの騎士と。



「それでいい。僕らは証のために罪を犯した。
 多くの戦いを起こし、多くの命を奪った。その怨嗟の声は当然のものだ」



この世の誰からも憎まれて。誰よりも惨たらしく死ぬよう望まれる。
そうなるように振る舞い、その通りに成るべく行動してきた。
人々の願い/怒りがひとつに集まり、頂点に達した瞬間。
悪逆皇帝は正義の反逆者の刃に倒れ、全ての膿を引き連れて血に沈む。
そこに―――礎になることを喜べと、傲岸に生贄を強いる神と、違いがあるといえるだろうか。



人の救世を豪語したリボンズ・アルマークにも、そこには大義はあった。
それによって救われる人も、あるいは本当にいたのかもしれない。
他者との軋轢はなくなり争いは地上から永遠に消え。
死すべき運命だった人と共にいつまでも生きられる。
世界の平和。どれだけ年月が経っても色褪せない完成された絵画。
根底の理念はどうあれ、目指した地平は同じだった。

全てを救えるとは言わない。
報われぬ人は出てくる。これは完全なる救済とは程遠い、目指す未来には遥かに遠い一歩に過ぎない。
平和が訪れても、死んでいった人の怨嗟、涙は無にならない。
過去の蟠りを消し去っても、人が変わらない限りいずれまた憎しみは芽吹く。
結果がどんなに美しく、過程の犠牲に見合うのだとしても、犠牲そのものを忘れていいはずがない。

ゼロレクイエムの役割の意味は贖罪であり、清算だ。
苦しみ、悲しみ、間違い続けながらも考え抜いた答え。
人の愚かさを知り、醜さを味わい尽くして、それでも人は明日を進めると信じた。
その一歩を踏み出すために、これまでの罪科の全てをゼロにする手段。

数えきれない過ちがある。
その時は最善と思った選択が誤っていて、望まない被害を生み出していった。
今度こそはと志しても、残る現実は後悔と絶望の連続だった。
もっと上手くやれたのかもしれない。そう思わなかった時などなかった。

180 ep.00 -Re;quiem- ◆ANI3oprwOY :2015/04/22(水) 23:54:46 ID:KPWgiLGY



だけど、忘れてはならないこともある。
その失敗が、苦渋が、涙が、怒りがあったからこその、ゼロレクイエムなのだと。

悲劇を知った者がだけが、その重さを本当に知ることが出来る。
撃たれなければ、真の痛みは分からない。

……神との決定的な違いはそこだ。
遍く救済は同時に一方的な、安易な幸せの強制になる。
自分達はそれを良しとしなかった。罪も痛みも愚かさも、人類が未来を築くのに必要な枷。
傷ついて這ってでも進んでみせろと、突き放すように信頼を込めて後を押す。
その思いが、続く世界をここまで形作って来たことを無駄にはしたくないと、総ての意識が帰る場所で誓った。



「そうだ。だから、嘘にはしない。
 あそこにいたルルーシュが辿り着いた最期を、ただのあり得た未来に変えるわけにはいかない」



バトルロワイアルの真実。
平行世界も聖杯も、そこにあった出会いも、別れも。
そんな痕跡は、この世界の何処にも残してはならない。
残されていたメッセージには、ルルーシュの死―――ゼロレクイエムが完遂されたことしかなかった。
未来の情報、現在のルルーシュに伝えればより理想的な結果に導けるだろうものも、何も。
本人が一番分かっているのだろう。見えぬ明日を明確に知ってしまえば、自分は同じ道には進めなくなると。
同時に、この筋書きでいいとそう肯定している。この道で間違いはないと声なき後押しを聞いた己に送ったのだ。


だから全てに蓋をする。
ゼロレクイエムに協力する者、ルルーシュ本人にすらも約二日の失踪の理由を明かすことはしなかった。
どれだけ追及を受けようとも口を噤み、ただ計画に支障はないとだけ答えた。
最終的には行動で示すことで皆に納得をもらい、療養期間を除いて作戦の大幅修正もなく進行に移っていった。

変わるのは、独り知る己の心だけ。
歴史がつつがなく流れる裏で、禁忌の真実を隠し通す。
そうでもしなければ釣り合わない。地獄を生き残った枢木スザクが背負うべき責任。
体は鋼に。心は鉄に。
戦いにも似た激しさで、己を殺していく。

フレイヤを載せたダモクレスを持つ、シュナイゼル卿と黒の騎士団の連合軍にも。
そこにトウキョウ租界で死んだと思われたナナリーが生きて対立したことにも。
戦友だったジノも、射出されたフレイヤの相殺も、最後に戦うカレンの紅蓮にも。

不意に溢れそうになる思いを封殺し切って、ナイトオブゼロの役割を果たし抜いた。
最期の交錯。大破したランスロットの爆炎と共に、枢木スザクの人生は闇に消える。
死者になり、新たな仮面(ペルソナ)を被り表舞台に立つ頃には、自分の存在は世間に認知されなくなる。
全てを捨ててこそこの役割を果たすことが出来る。
身を隠し、名を無くし、身分も失せ、生者の資格さえ捨て去って。
何もかも削ぎ落としても、生きている自分に残るものがあるだろうか。

……時が来た。
託された、最後の命を果たそう。

181 ep.00 -Re;quiem- ◆ANI3oprwOY :2015/04/22(水) 23:55:26 ID:KPWgiLGY











約束の日の空は、晴れやかな晴天だった。
世界を統一した皇帝の記念式典。
引き連れた反逆者を処刑する壮大なパレードの下で、英雄は復活する。
黒衣と仮面、個人としての記号を排除した無貌の出で立ち。
虐げられる無辜の人々の願いを背負って立ち上がる、名無し(ゼロ)の反逆主。

貫通した切っ先が艶やかに濡れ光る。
肉の感触を確かめるように、剣の柄を強く握り締める。
剣は確実に胸の中心、心臓を穿っていた。死を避けようのない、致命傷だ。
自らの血に濡れ、力なく倒れて寄りかかる皇帝。

ここに、鎮魂歌(レクイエム)は真に完遂した。



「これは、お前にとっても罰だ。
 お前は正義の味方として、仮面を被り続ける……」



外す意図を浮かべることも、感情の揺れが手元を狂わせることもなく、始めから決めた通りに滑らかに事を成した。
当然だ。
異界に連れ去られるよりも、ずっと前からこの結末を決めていた。
変えようなどと思ったことはなく、この手で今度こそ命を奪えることに安堵すらした。
ただ、事前に決める覚悟が二重になっていただけ。



「枢木スザクとして生きることは、もう無い。
 人並みの幸せも、全て世界に捧げてもらう……永遠に―――」



背中から剣を生やして、息も絶え絶えで紡ぐ声を聞く。
レンズ越しで横目に入る顔は血を失って蒼白になっている。
血の脈動も止まり、あと僅かの逡巡で死が訪れるのだと握った剣で感じ取れる。

この世界における、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの死。
枢木スザクにとって、二度目の光景を目の当たりにする。

同じ人間の死を二度経験しても、心は摩耗せず同じ感情を抱いている。
悲しみも、憎しみも、どちらも消えていない。
自分はやはりこれからもルルーシュを憎み、そして死を悼むだろう。
君が行ってきたこと。
君が目指したもの。
間違いも正しさも全て、空になった胸に留める。



「そのギアス……確かに受け取った」



これより先、永遠に縛り続ける命。
願いにも似た呪いを受け取る。
その時頬を熱いものが流れ落ちる。
ああそうか。
俺はまだ、ここに。

182 ep.00 -Re;quiem- ◆ANI3oprwOY :2015/04/22(水) 23:56:20 ID:KPWgiLGY



「――――――ありがとう、ルルーシュ。
 僕に生きろと、願ってくれて」


剣を引き抜く。
敵であり、友であった男との別れが済まされる。
血飛沫がこぼれ、ルルーシュの体が崩れ落ちる。





『――――――ああ、ありがとう、スザク。
 これでようやく、俺も明日に向かえる』





吹いた一陣の風。
それに混じって、遠い遠いの空から、声が聞こえた。




「―――、■■■■■……?」

呟いた自分の声は言葉に成りきらず、湧き上がる歓声に飲み込まれた。
見上げてもそこには何もない。
無限の彼方まで広がる、宇宙(そら)の先まで続いてそうな蒼い空があるだけだ。

血溜まりだけがある地面を眺める。
その下から聞こえるのは、少女のむせび泣く声。
ルルーシュの落ちた先、玉座の置かれた場所の真下に誰がいるのかを知っている。
刺した後の所作までは決めていないのだから、祭壇からずり落ちてそこに辿り着いたのは偶然でしかない。
けどその偶然が、あのルルーシュにも起きていたのなら―――ふたつ重なれば、それは運命と呼んでいいだろうか。
彼が戦うことを志した理由の起源。
永遠に悪名を背負うことになる男への最後にかける声が彼女であること。
世界を騙しおおせた嘘吐きに等しく同じ餞(はなむけ)があってくれるように。
そう、願った。










―――日は昇った。
さあ、次の道を歩き始めよう。


誰にも先が分からない、未知の明日が待っている。

183 ep.00 -Re;quiem- ◆ANI3oprwOY :2015/04/22(水) 23:57:08 ID:KPWgiLGY

















ひとつ、訂正しなければならないことがあった。


ダモクレス攻略に向かう直前の日。
義手は生身と変わりない性能の腕だが定期的なメンテナンスは必要になる。
ジェレミア卿改造の際のマテリアルのお陰でさほど苦労なく調整が出来るようになったのは幸いだった。
調整にメディカルルームへ向かう通路の途中。


「……C.C.?」

翠の長髪をたなびかせて、C.C.が立っていた。
まるで、自分が来るのを待っていたかのように。

僅かに、心臓の鼓動が早まる。
帰ってから二人だけで話す機会は無く、そもそも以前からそんな関係でもない。
それが逆に、ルルーシュとは違って彼女への反応は曖昧になりがちになってしまうから。

「化け物扱いは慣れてるが、死人を見るような目で見られるのはさすがにそう多くないな。
 そんなにも、むこうの私は酷い死にざまだったのか?」



開口一番。
心臓を穿つような、握り締めるような一言。
開口一番にこの奔放な魔女は、特大の爆弾を放ってきた。
衝撃を顔に出さないよう必死になるあまり、体の中で鼓動の早さに対応できていない。

「安心しろ。周りには誰もいないし聞かせる気もない。
 私も、自分の死んだ体験談なぞ頼まれても語りたくはないしな。一生胸にしまっておくつもりだよ」

語る内容の意味お大きさを他所に、C.C.はいつも通りだ。
彼女にとって死の経験など慣れている……というのもあるだろうが。
どうあれ、C.C.はあの事実を知っている。殺し合いについての記憶がある。
そして今スザクに芽生えた疑念はC.C.に対してのものではなかった。


「ルルーシュは……知っているのだろうか」

最も恐れていること。
ここのルルーシュにも、バトルロワイアルの記憶が継がれているようなことはないだろうかと。

「知らない。この世界であそこの記憶を受けられたのはアーカーシャの剣とアクセスできた私―――つまりコードを持つ者だけだ。
 まあCの世界に接触したルルーシュもある意味資格があったが、私がカットしておいた。"余計なお世話だ"とな」
「……そうか。安心した。ありがとう、C.C.」

妨げになる可能性があった不安要素を除いてくれたことに、感謝の念を口にする。
するとC.C.は、苦い顔をして変な不満を垂れだした。

「……お前に感謝を言われるのは慣れんな。第一これはお前の為ではなくて―――ああくそ、調子が狂う。
 あっちの自分がやった事を思い出させるんじゃなかった。恥ずかしいったらない」

顔を手で覆い天に仰ぐ。
……普段見ない様子に少し驚く。本当に忘れたいぐらいの不覚があったようだ。
あそこで出会ったC.C.がどんな道を辿り、誰と関わってきたかはあまり知らない。
一人と妙に馬が合った会話をしていたが、それ以外にも彼女に変化をもたらす出来事があったのかもしれない。
死を望んでいた頃の魔女が、命を投げ出して庇い立てたくなるような。

184 ep.00 -Re;quiem- ◆ANI3oprwOY :2015/04/22(水) 23:59:11 ID:KPWgiLGY



「しかしなぜ、今頃僕に?機会は他にもあったし、そもそも言う必要もなかったと思うけど」
「これが最後になるからな。お前は死者として扱われ新たなゼロになり、私は元の放浪者に戻る。互いの接点は消えてなくなる。
 ……言うかどうかは悩んだが、やはりお前だけでも知っておくべきだと思った。その責任があると、思ったから。
 ―――ああ、そうだ。最後に伝えたいことがあったんだ。
 私の言葉ではない、どこぞの坊やみたいな思考だけど」


言って、一端口を止め瞳を閉じる。
虚空に散った泡を拾い上げるような繊細な優しげな口調で、C.C.はその言葉を口にした。



「『ずっと、待っている』」



それは簡潔な、他愛ない再会の約束。
誰からの言葉かなど、聞くまでもない事だった。

「―――――――――――――――――――あぁ」

答えを返しはしない。第一言うべき当の本人はここにはいない。
出すべきでない言葉をぐっと堪え、面と向かって言い出すまで溜め込んでおく。
抱えた嘘が増えてしまったが、同じく消える僕が持っているぶんには構いはしないだろう。
いなくなる人間が存在しない出来事を憶えたところで、世の中に変わりはないのだから。
ゼロがゼロを抱えるだなんて、酷い矛盾だと思うけど。






それからはもったいぶった挨拶もなく、脇を通り過ぎてあっさりと別れる。
歴史に何も残らない会話は終えた。この内容が何かに記録されることは、永劫ない。
憶えているのは、二人の男と女。世界から"ない"ものとして認知される異端者。
死ぬことで人の社会から消え失せ。死なないが故に人の社会に混じれない。
そんな二人だけが識っている、この世界に一つもない物語。
失うだけ失って、新しく得るものがない人生に与えられたそれが―――最後の報酬だった。




















【アニメキャラ・バトルロワイアル3rd / 枢木スザク -To the next story!- 】

185 ◆ANI3oprwOY :2015/04/22(水) 23:59:46 ID:KPWgiLGY
以上投下終了です。

186 名無しさんなんだじぇ :2015/04/23(木) 01:47:19 ID:pjIxORp.
投下乙!
スザクは二重の意味で仮面を被って演じ続けることになったんだな、ルルの最後の言葉はよもやと思ってたら……。
やはりそういうことだったか>アーカーシャ
思わぬ報酬を得て、思わぬ行き先ができて。
彼らもまた世界からは消える異端者たちだけど、明日へと向かうんだな

187 ◆ANI3oprwOY :2015/04/23(木) 23:46:55 ID:iqjnDWS.
test

188 ◆ANI3oprwOY :2015/04/23(木) 23:48:11 ID:iqjnDWS.
エピローグ4話目、投下します

189 ep.00 -アゲイン- ◆ANI3oprwOY :2015/04/23(木) 23:50:34 ID:iqjnDWS.


蛍光灯で白色化した無機質な部屋。
息苦しいほどに滅菌された室内。
その外側で、グラハム・エーカーはただ中を眺めている。
治療。研究。探究。検査。隔離。無駄な要素は全て捌けられて、ここは機能するのに必要な単語だけで構成されている。
ただただ機能的に、効率的なためだけの建造物。
窓もなく密閉された空間は清潔すぎて、どこを眺めても変わりばえがなくて。
色とりどりの華も飾りもなく。空の蒼も、遥かな月の光も、ここまでは届かない。
稀な症例の患者の治療と研究を目的とした特別病棟。
最先端の科学によって切り分けられた場所は、まさに異界だった。

そんな現代の結界の中で、なお厳重に隔離された部屋がある。
ガラス張りの四方系に閉じ込められた患者の少女は、外傷もなく置かれたベッドの上で安らかな顔で目を閉じている。
しかし―――小さな体中には、繋がれた大小さまざまなケーブル類。その先に接続している無数の機械装置。
少女の脳波や容体を観測する量子演算型のスーパーコンピューター。
最早少女を生かすために繋いでいるのか、計器同士の繋ぎに少女が使われているのか分からないほどに絡んだ病室。
危篤の老人でも、死病憑きでもこうはなるまいというほどの姿が、少女の状態がどれだけ「手遅れ」なのかを物語っている。

人工呼吸器をつけられた口は規則正しく息を吸って胸を上下させる。
近隣の医療施設に連れ込まれるまでに少女が負っていた傷はほぼ完治している。
体内の全箇所の激しい損傷。傷ついてない部分を探す方が困難な全損。
重傷と呼ぶのも生温い状態から、少女は回復を遂げた結果は発達した医療技術が脳死に至るまでの猶予を引き延ばしたのもあるが、
そもそもここまでの損壊を負ってもまだ、まがりなりにも生きていたこと自体が既に奇跡といえた。
連絡を受けて搬入された患者を診た医者の誰もが、まだ救命の見込みがあると信じられなかったのだ。

信じていたのは、ただひとり。
血に濡れた修道服に身を包んだ患者を抱えてきた、同じく血だらけのパイロットスーツを着た男のみだけだった。
その男も生きていることが不思議なら、這って動いたと聞けば冗談と笑いたくなるような傷だった。
ユニオン所属の軍人だと後に確認が取れるまでの間、二人を亡霊か何かと目を疑わなかった関係者はいない。
予定していた療養期間を大幅に前倒ししてパイロットとしての行動が承認されるまで回復して退院した様は、それこそ冗談のように映っただろう。

……悪夢のような奇跡は、そこで打ち止めだ。
ユニオン最新鋭の医療技術は少女の一命を取りとめさせたまでで、その意識を取り戻すだけには満たなかった。
筋肉や血管の再生は間に合った。各臓器も壊死になる事態までにはならなかった。
ただ人の意識を司る脳の機能だけは、著しい傷を残したままになっていた。
脳科学とて他部門に劣ってるわけでもないのに、脳細胞の再生だけが遅々として進められない。
何よりも医者達を震撼させたのは、その決定的な破滅の要因が過去観測されたことのない未知の因子によるものだと判明したことだ。
ここまで技術が進み過ぎていなければ分からなかったことだろう。
ウイルスや細菌ですらない、脳を破壊させる毒素以外なにも分からない事実が彼らをさらに恐怖させた。
施設内は軽いパニック状態まで陥るところだったが結局感染性はないものと結論づけられ、
より大きな専門的な治療研究が行われている施設へと搬入されて、俄かに街を騒がせた一件として幕を閉じた。

190 ep.00 -アゲイン- ◆ANI3oprwOY :2015/04/23(木) 23:52:12 ID:iqjnDWS.



そしてグラハムは今、生命活動を維持しているだけの亡骸(しょうじょ)をガラス越しに見つめている。
彼女に触れることは禁じられている。
面会するにも、このガラスの膜を隔てでしか許されていない。
それがいち軍人でしかない身分の男には破格ともいえる扱いであることも、本人は知っている。
某かの目論見が絡んでいるのか、それは彼にとってはどうでもいいことだ。

身元も家族も一切不明の孤児。貴重なサンプル。破界の因子。あるいは天界の落とし子(エンジェル)。
そんな名称が、少女のこの世界での扱い。
誰もその存在を知らず、思いを馳せることもない。
元の世界にいたであろう、彼女を真に思ってくれている人を置き去りにしたまま、修道女は今も眠りについている。
唯一の関係者たるグラハムですら、彼女の素性の全てを知っているわけではない。
初めて会った時から少女は人形のような振る舞いで、自分を見せることがなかった。

何を好みとして。
何を嫌に感じて。
何を願っていたのか。
男は何も知らない。

故に、名前を呼んだ。
扉の前につけられた名札と同じ言葉。
それは数少ない、唯一といっていい少女の素性の欠片だ。
本名であるかもあやふやだが、確かに彼女を示す言葉。
聞こえもしない壁に向かって、そう呼んだ。




「―――インデックス」




「やっぱりここかい。四年経っても行動に変わりがないのは生真面目というか、武骨というべきかな」

返らない声の代わりに背中からかかったのは、聞き馴染みのある親友の声。白衣に長髪の格好。
新部隊のモビルスーツ開発主任の座にまで上がったビリー・カタギリの姿がそこにあった。

「……ああ、そうか。もうあれからそんなに過ぎていたのか」
「ボケるのには早いよ、グラハム」

グラハムは微笑で友の邂逅を迎えた。
先の戦乱で多くを喪った身では、気心知れる人間はそれだけで安らぎをもたらしてくれる。
あの事情を打ち明けないでいる今でも、頼れる隣人として在るのは心から感謝の念を抱いてきた。

「カタギリ、どうしてここにいると?」
「そりゃあ、君が非番時に向かう場所といったらお姫様の元だとみんな知ってるからね。
 有名だよ?事故で昏睡状態に陥った少女に毎週必ず見舞いに来るナイトの噂はね」
「みな勝手にそう呼ぶ。迷惑千万だ」
「まあまあ。箔付けとでも思っておきなよ」
「それが間違いなのだがな―――」


"騎士の叙勲を受ける資格など、私にはありはしない―――"


「それでカタギリ、私に用か?」

思いは口に出さず封殺して、話題を別に向ける。
するとビリーは、待っていたとばかりの満足げな表情で、白衣のポケットから一枚のディスクを見せびらかした。
それが何であるかを即座に察して、流石のグラハムも目を見開いた。

191 ep.00 -アゲイン- ◆ANI3oprwOY :2015/04/23(木) 23:52:59 ID:iqjnDWS.

「……まさか、出来たのか。こんなにも早くに?一年と経っていないだろう」
「最近開発された学習装置の効きがすごくてね。指と頭が乗りに乗ってたんでつい、はりきってしまったんだ。
 実を言うと二日ぐらい徹夜続きでね。まだ脳が覚醒を保ってる間に君に渡したくて赴いた、というわけさ」

ああ、異邦な薬物なんかは使ってないよ、とばつが悪そうに笑う。
眼鏡で隠れていて気づくのが遅れたが、その目元には深い隈が作られている。

「無理を言ったのは私だというのに。君が倒れては元も子もあるまい。
 それとその装置を使うのは今後止めておけ。癖になるとそれこそ抜け出せなくなるぞ」
「言うなよ。僕よりもずっと無茶な立ち位置にいるのは君だろうに。
 それを思えば、これぐらいの無理は僕なりの道理で押し通すさ」

見開かれた目が謝意に閉ざされる。これは確かに己の失態といえるだろう。
自分の置かれた事情が、彼の友に開発の情熱の炎に油を注ぐ真似をしてしまったというのだから。


瀕死のインデックスを体を引きずって病院に預け、自らも緊急搬送され治療を受けて数日後。
軍の上層部……恐らくは、更に上の権限を持つ裏の組織との面会で、
グラハムはその異邦者(インデックス)に関するある条件を結んだ。
インデックスを施設に入れる条件、ではない。
頼まずとも向こうは無理にでも生かそうとするだろう。あちら側は、どうやら彼女の価値を知っているらしい。
どんな経緯でそれに至ったかは知れないが、その理由もどうせろくなものではあるまい。
そしてそれはグラハムにとっても在り難い。
如何に姑息な目的があるにせよ、少女の命を保たせるには最も優れた技術が揃う施設にいるのが一番だ。

呑んだのは、治療行為以外での彼女への過度の干渉の禁止の条件。
再生の名の許に少女の中身を玩弄する真似など、グラハムには断固として見過ごせない。
当然代償は存在する。
僅かに解析できた、彼女の脳内で見つかった紙片(データ)。
既存の科学者の手に余る、無数の未開技術の箱(ブラックボックス)。
その技術を利用した次世代機のテストパイロットにグラハム、機体開発にビリーが任命された。

「―――苦労をかける」
「お互い様さ」

正体も真実も知るグラハムは覚悟もできるが、ビリーにとっては完全に被害者の立場だ。
己の帰還が彼を、世界を歪めてしまっている。
世界に存在しないイレギュラー。文明の違う異人を引き込んだ結果が、徐々に顕れ出していた。


「けど―――そうだ、四年だ。四年費やした。
 最新鋭の設備、最先端を担うメンバー。それだけ揃ってもなお彼女が目を覚ますことはない。
 なぜ、あの娘がここまで厚い待遇で迎えられているのか。それは僕が近づける案件じゃない。
 それに君が深く関わっている事情も……打ち明けてくれないのは残念だけど、それは受け入れる気だよ」
「カタギリ?」
「大きな紛争は終わった。混乱の根源たるソレスタルビーイングの武力介入もここ数年めっきりない。
 例の新連邦の独立治安部隊だって、当初考えていたよりもずっと対策は穏健だ。
 ……けど、正直僕は不安だよグラハム。
 世界はゆっくりとだが平和に向かってる。そう思うべきなのに……なぜだか、不安が拭えないんだ。
 脈絡のない新技術の導入。唐突に発見された新物質。小規模だが原因不明の、怪異としか言いようのない事件の頻発」

何かが、進行しようとしている。それも相当に危険な段階にまで。
ビリーに限ったことではない。世界中の誰もが同じ、漠然とした不安を抱いている。
明瞭としない、霧の中を歩いているような恐怖に覆われていた。

「僕らは、何かを間違えたのかもしれない。
 本当なら『こうだった』という道を、いつの間にか踏み外してしまったじゃないか。
 船出の行き先を、どこか途方もない方角に向けてしまっているのではないか。
 科学者として情けない話だが―――そう思えてならないんだ」

地表の見えない海原。
光の届かない森林。
幽世へと繋がる、後戻りのきかない一本道。
足元も見えない闇に迷い歩き続けるうちに、その洞に足を入れる時が来る。
真綿で首を絞められるような、緩慢な絶望が世界を包んでいる。
愚痴をこぼす仲であっても、本気の弱音を吐くことはなかった友が吐露してしているほどに。
無論ビリーはグラハムを非難してなどいない。
彼なりに友の事情を汲み、こうして協力に尽くすのに嘘は混じっていない。
しかし変異が決定的になった時期は"そこ"なのだ。ガンダム掃討作戦から二日後に同行者を連れて発見された時から。
才能に溢れた技術者は気づいてしまったのだ。

192 ep.00 -アゲイン- ◆ANI3oprwOY :2015/04/23(木) 23:54:30 ID:iqjnDWS.


男が案じたのは友の精神(こころ)だ。
自分では及びもつかない深い闇に触れてしまった、グラハムの身こそを第一に慮った。
部外者に気づけた事実を当事者が知らないはずはなく。
世界を揺るがした責任を抱えていくこれからの人生が、どれだけの苦境になるのかと―――




「そうか。ならば私が次の道を見つけて来るとしよう」

怪異の欠片を掴んで帰ってきてしまった男は。
靄のない、堂々とした声でそう言った。


「グラハム―――」
「確かに我々は間違えたかもしれん。あるべき世界は消え、未来には予想だにしない展開が待っている。
 だが世界とはそういうものだぞカタギリ。世は常に変わり、何があるかわからない。
 人間(われわれ)が戸惑うばかりの事でも、この世界では何度も起きた、有り触れた変化に過ぎない。
 四年前がそうだったように」

ソレスタルビーイングとて人の歴史が積み重なって生まれたものだ。
過去、歴史にその理想を初めて掲げた者から連綿と紡がれ編まれていった織物が、あの時完成しただけのこと。

「不安があるのは先が見えないというのなら、その先を手に持つ灯で照らしに行くまでだ。
 いつ闇に落ちるかも知れない愚かな真似だとしても回り道はない。私達にできるのはこれだけだ。これだけで十分さ」

永遠の夜はない。
空に暗雲が浮かぼうとも、雷鳴が鳴り止まなくとも。
いつか雨は止む。見上げた方向のまま突き抜ければ、空はいつでもそこにある。

何度倒れ折れ曲がろうと、空の月に手を伸ばした人類(ひと)の夢が叶ったように。
ただ己を信じて進み続ければ、道は自ずと見えてくる。
そこが目指す場所に続いていると、確信がある。

何故ならきっと、そこは誰もが生きる先に行き着く未来だから。
別々の夢を持ち、各々の思いがあり、そんなバラバラの人達が共に集えた時があの日にはあった。



―――それが星を開拓するような、人類史に挑む難行だというのなら。



「未来への水先案内人は、このグラハム・エーカーが引き受けよう」

宣誓をここに。
軍人はあり得なくなった結末と同様、宇宙(そら)を先駆ける流星になると決めた。


「……困った。本当に変わらないんだな、君は」

ビリーの表情には元の柔らかさに戻っていた。

「誤解だカタギリ。私は変わったさ。人が変われないわけはないんだ。生きて世界と向き合い続ける限りは、決してな」
「それもそうだね。これは昔に戻ったというべきなのかな。
 さてそれじゃあ、ここいらでお暇しよう。僕も僕の役目を果たすとするよ。
 ああ、そのデータはコピーだから持って行ってくれて構わないよ」
「それは情報漏洩ではないか?」
「ご安心を。二時間経ったら自動的にデータを削除するようプログラムしてあるさ」

いつもより物騒な台詞を残してビリーは去っていった。
やはり、あのシステムを使うのは戒めておくべきだろう。今度寄った際にはよく注視しておくとしよう。

「……流石カタギリ。仕事は完璧だな」

193 ep.00 -アゲイン- ◆ANI3oprwOY :2015/04/23(木) 23:55:32 ID:iqjnDWS.








一時間経って、施設をあとにする。
真昼前に来たから空は今も青い。雲も少なく風も柔らかい、実に航空日和だ。
安いゼンマイ音が聞こえない本物の青空。
この空を、眠る彼女に見せてやれたらと切に思う。

首輪はかけられて体は縛られているが、なに、羽が折れたわけでもない。
背負う荷物の重さで比翼の羽ばたきは終わらない。人もモビルスーツも違いなく。
なにせこの体には二つ分の心が収まっている。そんな自分がここまで進めている。


「さあ。今日も、共に飛ぼう」

……ひとつの奇跡があった夜。
繋がる部分など何もなかった、砂粒程の可能性から生まれた心の通い。
奇跡を希望に。ただの不幸な偶然で終わらせないために。
その出会いを忘れない。その運命を離さない。

望む光景は遠く、星を超えても届くか分かなずとも、足は止めない。
男の誓いに二言はない。いつものように無理でこじ開けてでも、そこに辿り着くと既に決めた。
不安などない。日が落ちようとも、輝く月が道しるべになってくれる事を知っている。

いつか必ず、再会の日が来ると信じて。
闇の中にある未来に至る道を、男は進んでいく。























その、帰り道に。



見たことのある塊が、軍事寮の錆びついたフェンスに引っかかっているのを見つけた。

194 ep.00 -アゲイン- ◆ANI3oprwOY :2015/04/23(木) 23:57:54 ID:iqjnDWS.







「――――――――――――――――――――」

袖の長い、ゆったりとした白色のローブ。
被った頭巾から覗く水色の髪。
外に干された毛布のような形をしたものが、目の前に吊り下がっている。

「――――――――――――は」

予想外の衝撃に声が漏れる。
記憶と一致する外見に眩暈がする。
都合のいい奇跡は起きないと真っ先に捨てていた。
そう考えていた光景が目の前にあることに、言葉が続かない。

「――――――――――――――」

なにせ本当に準備も覚悟もなかったのだ。
こんな喜劇の始まりのような現実を、どうして予思う浮かべてられようか。


―――世界は、何があるかわからない。


一時間前。
そう言った自分の言葉すら思い出せない。




「―――シス」
「お」

もぞりと動く小さな体。
聞こえた声に、身を震わせる。
歓喜なのか恐れなのか、どちらにしても今までの決意が残らず吹き飛んでしまいそうな感覚だけが事実だった。

起き上がる貌と目が合わさる。
瞳に映るのは、見たこともない表情でこちらを見る、あどけない少女。
飢えた目つきの修道女は、新たな奇跡の一言を口にした。

195 ep.00 -アゲイン- ◆ANI3oprwOY :2015/04/23(木) 23:59:08 ID:iqjnDWS.










「………………………………おなか、へった」




















科学と魔術が交差する時―――――――――。









物語は、再び動き始める。

























【アニメキャラ・バトルロワイアル3rd / グラハム・エーカー -To the next story!- 】

196 ◆ANI3oprwOY :2015/04/23(木) 23:59:59 ID:iqjnDWS.
投下を終了です

197 ◆ANI3oprwOY :2015/04/25(土) 00:44:20 ID:0MANPVwo
エピローグ投下を開始します

198 ep.00 -masterpiece- ◆ANI3oprwOY :2015/04/25(土) 00:50:20 ID:0MANPVwo




どこかで、誰かの息遣いが聞こえた。





「――――こうも頻繁に起こる異常(イレギュラー)の定義とは、いったい何処に在るのだろうね」




そこは氷点下まで冷え切った水槽(ビーカー)の中だった。
内部を満たす液体に漬されて、それは目覚める。
靄を裂くように薄く開けた風景は、依然、オレンジ色のおぼろげ模様。
こぽこぽと、浮き上がる泡が視界を過ぎていく。

規則的に聞こえてくる、空気の抜けるような音。
薄いオレンジ色の向こう側には、ガラス張りの壁。
窮屈なビーカーを満たす、弱アルカリ性の培養液。


「――――――」


どこかで、誰かの、気配を感じた。


「例えばそれは、『神の気まぐれ』と表現される現象だ」


浸されて、揺蕩う水槽の、その向こう。
オレンジ色のおぼろげの、ガラス張りの壁の、更にその向こう側。
鑑合わせになるかのように、もう一つ、水槽が置かれていた。

その先を、明確に認識することが出来ない。
未だ、明確な意識を持てない。
痛みは無い。
知識も無い。
個我は薄い、が―――――


「―――――――」


どこかで、誰かの、疼きに触れていた。

199 ep.00 -masterpiece- ◆ANI3oprwOY :2015/04/25(土) 00:51:43 ID:0MANPVwo



「神様は大雑把な性格をしているいう。ふむ、なるほど、ここに証明されているな」


向かい合う水槽、設置されたもう一つの生命維持槽の向こうに、それはいた。
一人の存在。その形を定義することは困難だ。
男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える、それは『人間』だった。


「君を送り返す『宛先』を間違えている。魂のラベルではなく肉体のラベルを『宛名』としたか。
 魂は、精神だけでなく肉体にも宿るという、その思想のもとであれば、決して間違った形では無かったのかもしれないが」


逆さに浮いた、その人間は問うている。


「たかが並行世界の厄介ごとで、プランに誤差を発生させられては困る」


アレイスター=クロウリー。
学園都市の最大権力者、学園都市総括理事長。
一つの世界の頂点にある者が、その『個』に、問うているのだ。


「私の街から好き勝手に持ち出して、返さぬまま自滅したのは看過できない事実だが。
 誤差は修正可能の範囲だ。
 そして君は差し詰め、今回の数少ない拾いモノという事だろう」




――――仕事を受けるか、と。




「『私の観測する世界において』欠けたのは超能力者が数人。
 幻想殺しを奪われた世界に比べれば軽度の損失だが、重大な誤差には違いない。
 その誤差を、君は修正するに足る働きを見せるか。
 あるいは、プランの短縮すら為して見せるか。
 だとすれば、今回の異変(イレギュラー)にも、価値は在ったと示せるかもしれない」

200 ep.00 -masterpiece- ◆ANI3oprwOY :2015/04/25(土) 00:52:04 ID:0MANPVwo





どこかで、誰かが、熱を発した。



「答えを聞こう、来訪者(マーセナリー)」


ごぼり、ごぼり、と。
沸騰する水槽の内側で、熱が昇る。
泡立ち昇るモノに紛れるようにして、ゆっくりと、それの口元がつり上がる。

目の前の存在に、新たなる雇主に、向かい合うようにして。
水槽のなかを揺蕩う茶髪の少女―――傭兵は、次なる始まりへと凄絶に微笑みかける。


「はッ――――俺は、高いぜ?」


どこかで、誰かが、願っていた。
もう一度、始めろと。
終わらせるなと、呼んでいた。

ああ、また願われてしまった。
ならば仕方ない。
是非もない。
もう一度始めようじゃないか、仰せのままに、己のままに。

さあ、火を起こせ。
赤く染めろ。
地獄の中心で踊り狂え。
異なる世界と世界が交わる時、物語は始まる、ならば――――







「さあ、次の物語(せんそう)を始めようぜ」
















【アニメキャラ・バトルロワイアル3rd / アリー・アル・サーシェス -To the next story!- 】

201 ◆ANI3oprwOY :2015/04/25(土) 00:52:31 ID:0MANPVwo
投下終了です。

202 ◆ANI3oprwOY :2015/04/25(土) 00:55:07 ID:0MANPVwo
次回のエピローグが最後の投下になります。

203 名無しさんなんだじぇ :2015/04/25(土) 00:55:37 ID:1Pg.X4/Y
了解です。

204 名無しさんなんだじぇ :2015/04/25(土) 02:56:17 ID:2qzElevs
投下乙です
まさか、あそこから生存するとは思わなかった
グラハムの世界のインデックスと同じくそれぞれの世界に異物が混じったわけだがこっちからは悪い予感しかしないw

205 名無しさんなんだじぇ :2015/04/25(土) 15:56:27 ID:kp2Uwn.k
投下乙です

言われてみれば主人公もラスボスも欠いてOO世界はかなりの変節を遂げたんだよな……。
人は変われるがOOのテーマだっただけにグラハムの言は感慨深い。
最後のインデックスはまさに始まりだけど、記憶はどうなってるんだろ。
流れ的に一巻みたいにまっさら状態なのかもな―

そしてトレードするかのようにまさかのサーシェス
お前生きとったんかい!
しかもまずいのが雇い主になっちまったしwww
物語始まりすぎだろ!w

206 ◆ANI3oprwOY :2015/04/26(日) 01:05:23 ID:GiCCKhws
テスト

207 ◆ANI3oprwOY :2015/04/26(日) 01:06:35 ID:GiCCKhws
エピローグを投下します。
今回で最後のエピローグになります。

208 ep.00 -続物語- ◆ANI3oprwOY :2015/04/26(日) 01:10:24 ID:GiCCKhws


後日談。
と言うよりは、これからの話。

今日、二人の妹、火憐と月火に叩き起こされ、僕は家を出た。
そして再開した日常に沿って学校を目指す……ではなく、学習塾跡に向かう……でもなく、駅への道を歩いている。
この町の外へ、出る為に。


あの地獄のような体験のあと。
怪我が完全に治るまでは学習塾跡に身を寄せる事になった。後で聞いた話だけど、結果的にに僕は一週間の失踪状態にあったらしい。
ボロ雑巾のような服装になって帰ってきた僕を、今回も家族は何も言わずに迎え入れた。
春休み自分探しの旅の時に比べればまだ短い期間だったし、それ自体は不思議なことじゃなかったけれど。

でも、僕の感覚的には、そんなふうには思えない。
数年くらい、ずっとあの場所に居たような気がした。
長い長い無間地獄から、漸く解放されたような気持ちになった。
もっとも、その解放が、晴れやかな気分になる事とは、限らないけれど。


「――――」
「――――」


近くで話す妹達の声を耳にしながら、僕は目を閉じて眠ったふりをする。
暗い視界で、列車の揺れを感じる。
僕と、僕の家族を乗せた車両が、街を離れていく。
遠い場所へと、連れていく。

別に引っ越す予定とかは、今のところない。
だけどそんな話は家族内で挙がっているらしい。
原因は両親の都合と、そしてもう一つ……。

今日は今後の事を考える機会として設けられた、家族全員の小旅行だ。
こんな時間はいつ以来だろうか。
遠い、行った事の無い土地の、行った事の無い場所へ。
僕の大事な人達と一緒に出かけていく。

大事な人達。
僕に残された人達。
そう、まだ、こんなにも、僕には大事なものが残っていた。
あんなにたくさんのモノが奪われて、取り落として、失って、それでも僕には、残っていた。


『あの場所で、君が見て、聞いたことはすべて真実だ。なんて、今さら僕がいう事じゃあないね』

元の世界に戻った後。
学習塾跡で傷を治しながら身もだえる僕に、忍野メメはそう言った。
完治は絶望的だった。
傷を受けすぎた僕は、血を流し過ぎた吸血鬼の身体は、まさに満身創痍で、そのままでは間違いなく死んでいただろう。

『だけど君が今から、この帰還した世界で目にするものは、あの場所における結果と食い違うかもしれない』

痛みと絶望で絶叫していた僕には、忍野が何を言っているのかまるで理解できなかった。

『幾重にも重なり合う並行世界からの強制召喚。それは一つの世界観を、全て一つの世界から抽出していたわけではない』

でも、いまなら、まあ、分からないでもない。

『時系列も、設定も、微妙にバラバラだった。それは僕らの間ですら、そうだった』

動けるようになった僕が家へ帰った後。
次の日、学校へ行き、街の様子を見回った時だ。
僕はようやく気付いた。僕の記憶と、僕の認識と、確かにこの街は食い違っている。

209 ep.00 -続物語- ◆ANI3oprwOY :2015/04/26(日) 01:12:15 ID:GiCCKhws


例えば、生きている筈のない人が、生きていたりした。
それが誰かを、僕はここでは語らない。
けれど、一方で、記憶の通り、死んでいる人もいた。
いや、死んでいるという表現は適当ではないのだろう。

『歴史の修正。アラヤはなんと言っていたかな。ともあれ、世界そのものが矛盾を消そうとするんだよ。
 だから彼ら彼女らは、最初から居ない事になった』

結果として、僕の世界は都合よく組み替えられた。
その更に、結果として、僕の町は『おかしく』なった。
明らかに今までと違う怪奇が、頻繁にみられるようになった。

『なあ、忍野……』

激痛に白む思考の中で、僕は忍野に、一つだけ聞いたのを憶えている。

『お前……は……どっちなんだ……?』

目の前に立つ忍野は、はたしてどちらなのかと。
あの場所で、あの世界で、出会った忍野なのか、あるいは、と。

『ん? さあね、どっちであろうと、僕にはそれを証明する術は無い。そっちで勝手に定義すればいいだろ』

僕のこだわりを忍野は突き放す。
そして彼は言った。

『ところでさ、阿良々木君、このままじゃ死んじゃうと思うんだけど、生きたい?』

僕はそれに何と答えたのか。

『そっか、じゃあ頼むのは僕じゃないよね?
 君を何とかできるのは、ここじゃ一人だけだ。君はそれを分かっていたから、ここに来たんだろ?』

朽ちた学習机に腰かけた忍野の背後、穴のあいた壁際、膝を抱えて座り込む、金髪の少女。
彼女へと僕は―――

『たす……けて…………忍』



以降、街の怪奇は日に日におかしくなっていく。
人に被害が及ぶことも多々見られるようになった。
それは事件のようであったり、事故のようであったりする。
家族の中で、引っ越しの話が出たのも、無関係ではないだろう。

『最後に、一人の男の話をしよう。彼はとてつもなく自尊心の高い男でね、自分の事を神様だと思っていた。
 そして本当に神様になろうとした。神様になって、人間を救おうとした。
 邪魔をする馬鹿な人間どもを滅ぼしてね』

忍に血を吸われ、抱きしめられた僕が、彼女の肩越しに聞いた。

『神様は強かった。己こそが神であり、そして人を救う存在なのだと信じていた。
 だから、負けるはずが無いと。
 己に対する信仰こそが、彼の強さだった。それは無敵の強さだった』

忍野の最後の語りだった。

『でもね、彼が信じていたのはたぶん自分じゃなくて、鏡に映った自分だったらしい。
 だから鏡が割られそうになったとき、彼はいとも簡単に無敵の自分を見失って、失敗した』

薄れていく意識の中で、僕は思った


『まるで、普通の人間みたいだな』


強さも、弱さも、何もかも。
自分の目にする誰かの、瞳(かがみ)の中に。

だからそれを壊されることを、どうしても恐れてしまう。
それはなんて、人間らしい感情なのだろう。

目覚めると、忍野メメも、忍野忍も、そこにはいなかった。
壁の孔から差し込む朝日だけが、あの日、倒れた僕を迎えていた。

210 ep.00 -続物語- ◆ANI3oprwOY :2015/04/26(日) 01:13:03 ID:GiCCKhws






「って……げ、不味いぞ」



なんて、考え事というか、回想をしながら動いていたからか。
いつの間にか僕は家族とはぐれてしまっていたようだ。
なれない旅行なんかするから、そりゃあトラブルも多発する。

僕らの街からもう随分と離れた、都会の駅。
先程までは乗り換えを待ちつつお土産コーナーを見たりなんかして、はしゃぐ妹達を眺めていた……筈なのだけど。
こっそり黙ってトイレに行って戻って来てみれば、見事に置いて行かれていた。

「ケータイも通じない……か」

目前のコンコースは人でごった返していた。
あたりまえだけど、僕の知る街の風景はそこにない。
僕の知らない街の、知らない人達がたくさんいて、まるで違う世界に来たかのようだった。

なんだか、妙に落ち着かない。
ごく最近まで違う世界に拉致られていただけに、どんな些細な変化にも敏感になってしまうのだろうか。
それを差し引いても心配になる。
妹達は、家族は、僕に残された、数少ない、大切な者、なのだから。

それに、もう間もなく、乗り換えの列車が来るだろうし。
早いところ合流して安心したい。
そう思って、僕が駆け出そうとした、その時だった。

「……………っ!?」

ありえないモノが、僕の視界の隅を流れていった、気がした。


「……」


雑踏の中に、見覚えのある亜麻色の髪を、見たような気がした。
いつか、どこかの世界で、僕の隣を歩んでくれた少女の―――

「……馬鹿か、僕は」


すぐさま、目を凝らすも、亜麻色の髪はもう見えない。
雑踏の中に消えていた。
最初から無かったように、いや、本当に最初から無かったのだろう。


白昼夢。


何を都合の良い幻想を見ているんだろう。
未練、なのだろうか。
女々しいにもほどがある。

『時系列も、設定も、微妙にバラバラだった。それは僕らの間ですら、そうだった』

忍野の言葉を思い出す。
だとすれば、『いま僕のいる世界における彼女』が、何処かに存在するのかもしれない。
なんて、想像したことは、否定できない。それはきっと僕の後悔の確たる証拠であって。
だけど実際に会えることを期待するなんて、おめでたいにも程がある。




自分自身に呆れながら、溜息と共に歩き出す。
もう、少女の姿は何処にも見えない。
幻想は消えてしまった。
その事実にどこか安心して、僕もまた雑踏の中に踏み込んでいった。

211 ep.00 -続物語- ◆ANI3oprwOY :2015/04/26(日) 01:14:01 ID:GiCCKhws



















「お姉ちゃ〜ん」



その、踏み出す足が、止まった。


「お姉ちゃ〜ん! 次の電車行っちゃうよ〜!」


背後から聞こえた声に、堪らず、僕は振り返る。


「うーん、どこに行っちゃったんだろう……?」


数メートル離れたところに、途方にくれる少女がいた。
亜麻色の髪を頭の後ろで束ね、ポニーテールにした、一人の女の子。
僕は、彼女の名前を知っていた。

「ひら……さ……」

目が合う。
咄嗟に、逸らす。

思い描いていた、幻想が目の前に在った。
確かに、そこに、彼女はいる。
でも、だから、何だっていうんだ。

分かっていた、彼女は僕の知る彼女じゃない。
僕があの場所で出会った彼女とは、別の女の子だ。
僕は彼女の事を知っているけれど、彼女は僕の事を知らないのだ。
何も、何も、彼女はしらない。
だから僕も、気づかなかったふりをして。


「あの、すいません」

「……っ!」

いつの間にか、少女は目の前に居た。
僕の辛気臭い顔を覗き込むようにして、立っていた。

212 ep.00 -続物語- ◆ANI3oprwOY :2015/04/26(日) 01:18:39 ID:GiCCKhws


「な、……なん……だ?」

裏返った声で、僕はなんとか言葉にする。

「人を探してるんです……ええっと……」

そう言って、少女は両手を頭の後ろに回し、髪の毛を降ろそうとした。

「あ……ああ」

僕は、彼女が何を言いたいのか、分かっていた。
だから続きを待つでもなく。

「あっち、だと思う」

先程、雑踏の中に見かけた、とある方角を指さした。

「どうして……分かったんですか?」

「さっき、君にとても似ている人を、あっちで見かけたから」

そういう事にした。嘘はついてない筈だ。
今目の前に居る彼女が幻想でないのなら、先ほど見たものも、きっとそうだろう。

「お姉さん、か……?」

「はい。家族旅行、なんです」

「そっか、奇遇だな。僕も家族旅行でさ……妹達と離れちゃって、いま探してるとこなんだ」

会話、していた。してしまっていた。
もう話すことは無いと、二度と会う事は無いと、思っていた人と。


「そう……なんですか、えと……それなら」

「じゃあ、僕は行くよ」


そのまま喋り続けていたら、馬鹿な事を口走ってしまいそうだったので。
早々に切り上げてしまうとする。

あり得ない奇跡だった、幻想だった。
だからもう、十分なのだ。
今度こそ、余計な未練を感じてしまう前に、少女に背を向けて、歩き出す。

「あの……」

何かまだ、言いたい事でもあるのだろうか。

「あ……」

僕は聞こえないフリをする。
感傷に耐えきれなくなる前に。
聞こえないことにして、歩き続ける。

「あ………………」

そして一気に、駆け出そうと足に力を込めて。

「あ……ら…………」

……気のせいか、何かが、近づいているような。

「あ……ら……ら……ぎ、さん」


………嘘だろう。
流石に、振り返ってしまっていた。
ずるい。それは反則だった。
そんな事されたら、言われたら、僕は振り向くしかないじゃないか。

213 ep.00 -続物語- ◆ANI3oprwOY :2015/04/26(日) 01:20:18 ID:GiCCKhws


「なん……で、だよ……」

乾いた笑いすら浮かべながら、僕は、平沢憂と向き合っていた。


「わたし……あなたの……物語(ユメ)を見ました……」


僕の知らない人だらけの、駅の雑踏の中で。
初めて出会う彼女は、切なく、微笑みながら言った。

「だから、伝えなきゃって、思ったんです。私じゃない、『誰か』の代わりに」

そのとき、たぶん、僕は、彼女の瞳の中に、確かに見た。
あの戦いの中から戻った、僕自身の、今の姿を。



「阿良々木さん、ありがとう」



その、意味を、価値を。


「そう、伝えます。あなたに伝えたかった、『誰か』の代わりに」


やっと、知る事が、出来ていたんだ。


「君の…………」


だから僕は、もう少し、欲張ることにした。
ありえない約束をしたと、それを憶えている。
あの場所に残してきた、たった一つの誓い。
最後の戦いの前、出会った掛け替えのない人達と。


『――――ここにいる全員、生きて、また会おう』


そんな、今はもう、決して叶わない約束すら、いつか果たせるって。
信じられる気が、したから。


「君の夢……聞かせてくれないか……?」


その言葉に、少女は満面の笑みで。



「私は――――」



幸せを抱きしめるように、答えてくれた。




「いつか、私だけのユメを見つけたい。それが、いまの私の夢です」

214 ep.00 -続物語- ◆ANI3oprwOY :2015/04/26(日) 01:21:59 ID:GiCCKhws




やがて、違う雑踏に消えていく僕たち。



「また明日」

一瞬の交差の後、異なる道を歩みだす。
背を向け合って、別々の場所へ。

「さて、と……」

少女と別れ、妹達を探す道へと戻りながら。
僕は胸元のペンダントを引っ張り出した。

「僕も、いつか、お前の礼を、しなきゃいけないな」

ペンダントの先に、不満顔でぶら下がっている、僕の命の恩ガメ。
何処かの世界で、誰かが、いつの間にか僕の胸元に潜ませていたもの。

最後の時、僕の心臓を穿つはずだった致命傷をおし留めていた存在。
そして、僕にとっては数少ない、あの世界から持ち帰った、生きた証明だった。

「これからよろしく。とりあえず一緒に、旅行をたのしもうか」

案外、この旅行は、単なる家族旅行では終わらないのかもしれない。
旅行先で起こる一波乱。また違う物語。亀物語。

それが終わったら、また次の物語が待っている。
やがて戻るいつもの街。そこで僕はまた、何かに出会うんだろう。
変わってしまった街と、人と、新たな怪奇。もう一度、向き合ってみようと思う。

逃げずに、もう一度。僕は、次の物語を始め、そして終わらせ続けよう。
それはきっと、言葉遊びの続きでしかないけれど、僕はこの――――


青春を、終わり失くして続けよう。


「また明日」


そんなことに思いを馳せながら、僕は妹達を探しに走る。
焦ることは無い。
何処かで、また彼ら彼女らの物語と、交差することもあるだろう。

たとえ違う世界に別れていたって、僕らは一度出会えた。
だったらまた、その道が重なることも、ある筈だろう。


「また明日、だ」


その明日がいつになるかは分からない。
だけど『明日』は、誰にでもやってくる。

今日を、一つ、一つ、越える限り。
だから僕は、ひとまず今を生きる事にする。



――――そうして、次の物語が始まる。

誰かがそこにいる限り。
始まり、終わり、また始まり、そして続いていく物語。




僕はそれを、いつか誰かに語り継ぐ。











【アニメキャラ・バトルロワイアル3rd / 阿良々木暦 -To the next story!- 】

215 ◆ANI3oprwOY :2015/04/26(日) 01:24:08 ID:GiCCKhws
投下終了です。

216 ◆ANI3oprwOY :2015/04/26(日) 01:34:39 ID:Q370ZayY
挨拶諸連絡は後日お伝えします。本日はありがとうございました。

217 名無しさんなんだじぇ :2015/04/26(日) 20:29:09 ID:Bshxk30g
おー。
エピローグ投下最後ってことはこれが最終投下でいいんですよね?
お疲れ様でした。
そっか、今度こそ本当に終わっちゃったか。
いや、この話的には終わり失くしたと言うべきか。
終わり失くす、けど終わりがなく続いていく。いい言葉遊びなエピでした

218 名無しさんなんだじぇ :2015/05/01(金) 00:00:26 ID:kir8mSF6
あ、投下来てた

投下乙です
みんな濃いなあ

219 名無しさんなんだじぇ :2015/05/01(金) 00:19:26 ID:tCUAIon2
これでアニロワ3rdも本当に完結か・・・

220 名無しさんなんだじぇ :2015/05/04(月) 21:38:51 ID:SgGKNfo2
投下乙〜
なんか中途半端ですな

221 ◆ANI3oprwOY :2015/05/07(木) 00:42:44 ID:NRxdg.Dw

アニメキャラ・バトルロワイアル3rd 全ての投下が終了いたしました。
長い間の応援ご愛読、誠にありがとうございます。
その全てが我々の励みとなりました。

以前告知した、アニ3書き手座談会の日程等が決定しましたので、ここに報告致します。

日時:5月16日(土) 21時〜1時くらいまでを想定しています。

また、『書き手限定でのチャット』になりますので、入室の際はトリップが必要になります。
ご了承くださいませ。

チャットの場所等の詳細はまた後日に連絡します。

222 名無しさんなんだじぇ :2015/05/08(金) 00:38:10 ID:cdcs/1tQ
ご報告有り難うございます。
書き手によるチャットとのことですが、このロワで一話二話書いたけどトリ忘れたという場合、他のロワでのトリ使ってもいいですか?
また読み手はしていたけれど、このロワでは書いていない書き手の場合は自ロワのトリで参加できるのでしょうか?

223 名無しさんなんだじぇ :2015/05/09(土) 20:48:54 ID:OUQWwuW2
チャットのアドレスどこでしょうか

224 ◆ANI3oprwOY :2015/05/12(火) 00:21:31 ID:0Xt0OdeA

アニ3書き手座談会に関して詳細の告知です。

日時は変わらず、


5月16日(土) 21時〜1時くらいまで。


【参加される場合は、必ず以下の説明を読んで頂くようお願いいたします。】

書き手チャットになりますので、参加される場合『必ずトリップを付けて頂く』ようお願いします。
基本、アニ3で書いたことのある方向けになるので、アニ3のトリップを付けて頂くことになりますが、
初期のみ書かれていた方など、トリップを忘れている方もいると想定されるので、

『他ロワ企画のトリップによる参加でも可』とします。

アニ3で書いたことが無くとも、他企画でのきちんとしたトリップを付けて頂ければ、問題なしとします。
勿論、アニ3で書いたことのある方であれば、入室後にどの話を書いた方なのか教えて頂けると幸いです。

ただし、『過去にトリバレしているトリップ』や『初出のトリップ』は当然ですが不可とします。

これらに則らない場合は、まことに勝手ながら入室をお断りする事となります。
また迷惑行為、荒し行為等が在った場合は、ご退出願うこともありますので、ご了承ください。


チャットのURLは当日にお知らせします。


質問等あれば気軽にどうぞ。
では、今夜はこれにて失礼します。

225 ◆ANI3oprwOY :2015/05/12(火) 00:27:40 ID:0Xt0OdeA
>>222


質問

『書き手によるチャットとのことですが、このロワで一話二話書いたけどトリ忘れたという場合、他のロワでのトリ使ってもいいですか?
また読み手はしていたけれど、このロワでは書いていない書き手の場合は自ロワのトリで参加できるのでしょうか?』

について。


告知>>224の通り、2点とも可となります。
ただしいずれの場合でもトリバレしたトリは不可とします。

226 ◆ANI3oprwOY :2015/05/12(火) 00:28:25 ID:0Xt0OdeA
>>223


告知>>224の通り、当日お知らせします。

227 名無しさんなんだじぇ :2015/05/13(水) 03:17:15 ID:udAClT46
このロワをずっと読んできた読み手は参加できないのに
このロワで一度も書いてない書き手は参加できるって
もはやアニロワ3rd関係ないじゃん

企画に無関係なイベントの宣伝は他所でどうぞ

228 名無しさんなんだじぇ :2015/05/13(水) 10:49:15 ID:crOx.KcA
書き手側はこのロワをずっと読んできた(苦笑)読み手に向けてずっと書いてきたわけじゃねーから
何の貢献もしない企画の寄生虫向けのイベントじゃないからすっこんでろや

229 名無しさんなんだじぇ :2015/05/16(土) 20:56:00 ID:2SuMSlX.
単純に身元証明できるかどうかということかと
文句があるなら読み手はトリ無しでないと信用出来ないような環境にするべきではなかった

230 期限切れです :期限切れです
期限切れです

231 名無しさんなんだじぇ :2015/05/17(日) 14:14:01 ID:/qXOLxRE
>>228
最後まで読んでくださった方々。
ここまで待っていてくださった方々。
本当にありがとうございました。
この物語に触れて頂いたこと、心から嬉しく思っています。
(書き手側はこのロワをずっと読んできた(苦笑)読み手に向けてずっと書いてきたとは言ってない)

座談会のような物を企画する予定です。
(何の貢献もしない企画の寄生虫向けのイベントとは言ってない)

こういうことですか?分かりません><

232 名無しさんなんだじぇ :2015/05/17(日) 15:03:21 ID:u67NBMNM
自分の態度を客観的に見てみたらウジ虫かどうか判断できるんじゃない?
まともに思考できる頭があればだけど

233 名無しさんなんだじぇ :2015/05/17(日) 18:04:15 ID:/qXOLxRE
怖いな〜
アニロワ3ピリピリしてますわw

234 名無しさんなんだじぇ :2015/05/17(日) 19:59:50 ID:Co1FykrU
入室不可はともかくROMさえさせてもらえないほど
切り捨てられてたんだという事実を最後の最後に教えられたわけだが
終わったことだからもうどうでもいいや

235 名無しさんなんだじぇ :2015/05/17(日) 22:05:40 ID:nA9w6Ruc
書き手さんからするとうじ虫扱いですかw
待ってて感想書いた結果が読み手締め出しとか笑えるな
他ロワの書き手を太鼓持ちにして読み手への不満でも語ってたんですか

236 ◆ANI3oprwOY :2015/05/18(月) 00:34:54 ID:rOdr8dug
昨夜のチャットには、たくさんの書き手方にご参加頂きありがとうございました。
アニメキャラ・バトルロワイアル3rd、ひとまずこれで企画終了となります。


WIKI制作者様、地図製作者様、したらば管理人様、MAD並びにイラスト各種支援を下さった多くの方々、
合作に加わって下さった方も含め、この企画でssを一度でも書いて下さった全ての書き手、
この企画のssを一度でも読んで下さった全ての住人、


数多くの声がここまで辿り着く助けとなりました。
その全てにこの上ない感謝を。



これまで本当にありがとうございました。



アニメキャラ・バトルロワイアル3rd 書き手一同

237 名無しさんなんだじぇ :2015/05/18(月) 01:20:19 ID:MELi5RSc
合作に加わって下さった方も含め、この企画でssを一度でも書いて下さった全ての書き手

ここだけで良かったんじゃねw
座談会で書き手しか呼ばなかったんだからw

238 名無しさんなんだじぇ :2015/05/18(月) 01:26:19 ID:sABhUNFM
私みたいな寄生虫向けに書いていただきありがとうございましたー

239 名無しさんなんだじぇ :2015/05/18(月) 01:29:40 ID:sABhUNFM
私みたいな寄生虫向けに書いていただきありがとうございましたー
さようならー

240 名無しさんなんだじぇ :2015/05/18(月) 11:59:28 ID:OBYl4oLk
>>236
お疲れ様、楽しかったよ

241 名無しさんなんだじぇ :2015/05/19(火) 00:15:51 ID:j1EK6Qzc
数年ぶりに覗いたらちょうど完結しててビックリした〜。
未読了だけども、無事終わったようで良かった。お疲れ様でした。

242 名無しさんなんだじぇ :2016/03/09(水) 04:14:18 ID:8nXA3wZU
最終回が投下されてから、そろそろ一年になるんだなあ、と思い懐かしくなって今更ながら感想? のようなものを。
アニロワ3っていうのは、本当にすごい、奇跡的な作品だ。
何度も何度も崩壊の危機を乗り越えて、それでも例えゆっくりでも歩みを止めること無く完結を果たした。
単純なリレーを放棄して合作に移行したことは賛否あるかもしれないけれど、だからこそ完成度が高く、テーマ性が強く、そして最後まで辿り着くことが出来たんだと思っている。

他と比べてどう、とは言うべきではないのかもしれないけれど、アニロワ1や2に比べると、書き手にとって非常に辛い立場だった。
その空気に耐えきられずに途中で書き手をやめた自分には、それでも書き続けた書き手の方々が眩しかった。
内容だけではなく、そういった外部的な批判にも負けない姿には、見ていてとても勇気をもらえた。
完結まで辿り着くことが出来た時には、我がことのように嬉しくなってしまった。
それぐらい、自分にとっては思い入れのある企画だ。

アニロワ3というロワは、企画としては成功とは言えないのかもしれない。
途中から見ていただけだった自分にとっても痛々しいことがたくさん起こり、完結まで時間がかかったことも読み手が離れる原因になったのだと思う。
けれど、それを差し引いても、アニロワ3という物語は、数多くのロワの中でも随一と言っていいテーマ性と完成度の高さを持っていると思っている。個人的には。
ここで言うことに意味は無いかもしれないけれど、途中で読むことをやめてしまった人にも改めて、
完結して時間も経った今だからこそ、企画ではない純粋な物語としてアニロワ3を読んで欲しいな、と願っている。

唐突な自分語りと長文感想失礼しました。

243 名無しさんなんだじぇ :2016/04/13(水) 13:58:09 ID:AE0TNem.
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244 名無しさんなんだじぇ :2016/04/22(金) 21:04:39 ID:gZ3FBTQ6
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