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『ニール・コドリング』は喋れない

1 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/14(水) 23:40:23 ID:XaELvotc0
※トーナメントで御馴染みの加賀さんをイジるためのSSです。
  長編になる予定ですが、長編というほどの長さにはならないかも知れないです。
  また、加賀さん及び、その他の既存キャラに関する独自設定や若干キャラ崩壊、
  もしくは、筆者がキャラを掴みきれていないことに起因するミスがあるかも知れません。
  ご容赦下さい。
  おそらく、稚拙な文章になると思いますが、お付き合い頂ければ幸いです。

2 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/14(水) 23:42:25 ID:XaELvotc0
『前書き』

まず、今回の一連の騒動の内容に触れる前に、
この文章が、どこで、誰によって、何の為に、
そして、何について書かれているのか、を説明せねばならない。

まず、どこで執筆されているか、というと、羽田空港から
ロンドン・ヒースロー空港を目指す、DA869便の機内の、
トレー・テーブルの上で、である。

そのトレー・テーブルの上に乗せられた3冊の大学ノート、
その上でこの文章は書かれている。

では、誰に、何のためにという部分だが、それを説明するためには、
この飛行機が羽田空港を出発し、水平飛行に移った時点に話を戻すべきだろう。

3 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/14(水) 23:43:55 ID:XaELvotc0
機内に機長のアナウンスが流れる。

シートベルトの着用を指示するランプが消える。

加賀御守道はそれを確認すると、手元にあった
リュックサックの中をごそごそとイジり始めた。

リュックの中は、乱雑としていた。

いや、もともと机などと違い、物を適当に詰め込む
仕様になっているのだから、乱雑というのはおかしい気もするが、
だからといって、くしゃくしゃに丸まったチラシだとか、コンビニおにぎりの
包装プラスチックが詰め込まれたビニール袋だとか、明らかにゴミと
呼ぶべきものが適当に詰め込まれている様は、乱雑というほかにないだろう。

加賀は、そんなリュックの中から、3冊の大学ノートとアイマスクを取り出した。

すぐにアイマスクをまるで額あてのように頭に装着すると、
トレー・テーブルを引っ張りだし、そこにノートを放り投げる。

そして、着ていたスーツの胸元から万年筆を引っ張りだすと、
それをノートの上に置いた。

「あのね、ちょっとお願いがあるんだけど……」

加賀の隣に座っていた中年の男性が、ふと加賀のほうを見る。

「何か?」

「あ? ああ、別にあなたに様があるわけじゃなんだけど」

「え?」

とは言っても、窓際に座る加賀の隣には、彼以外に人はいない。

「いいから! 気にしないで! あんたに話しかけてるわけじゃないんだから!」

「あ、ああ、はい」

中年男性は、加賀から急いで目をそらした。

独り言の危険な女だ、と思ったに違いない。

4 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/14(水) 23:46:30 ID:XaELvotc0
「ねぇ……、『ニール・コドリング』?」

「何ダヨ、ウルセェナ……オッサンもビビってるジャアネェカ」

「お願いが、あるんだけど」

「……何?」

「あんた、インクを操れるんだから、自動筆記くらいできるでしょ?」

「出来ネェ事はネェ」

「だったら、この飛行機がロンドンに到着するまでの間に、
そのノートに今回の件の報告書を書いといてくれない?
本部長に出すやつなんだから、客観的に、ね。
私は疲れているから、到着までゆっくり寝るわ、
死ぬほど疲れているの」

そういうと、加賀は、アイマスクを下げて、目を覆ったと、思ったのも束の間……。

「……グゥ」

驚きの寝つきの速さで、ぐっすりと眠り込んでしまった。


さて、困ったのは『ニール・コドリング』だ。

彼(彼ト言ウベキか、彼女と言ウベキか、分ラネェンダケド……)は、
本体に従順な彼女のスタンドである。加賀の命令には絶対服従、
逆らうことは許されない。

だから、ロンドン到着までの5時間弱の間に報告書を書けと言われれば、
書く以外ない。(ツマリ、コノ文章ノ執筆者ハ、『ニール・コドリング』様ッテ訳サ)

が、『ニール・コドリング』は困惑すると同時に、イラッとした。
(『本体』のお前が疲れてるってことは、『スタンド』の俺も疲れてるってことなんだぜ……)。

それでも、本体の指示には逆らえない。
なぜなら彼は、彼女に従順で素直な、彼女のスタンドだからだ。

5 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/14(水) 23:47:58 ID:XaELvotc0
しかし、『ニール・コドリング』は、すぐに執筆を開始はできなかった。

なぜならば、加賀が彼に下した指令には、『ニール・コドリング』にとっては、
不明瞭な、曖昧な部分が含まれていたからである。

まずは、「報告書」という部分。

『何』の「報告書」が具体的ではなく、曖昧になっている、と『ニール・コドリング』は感じた。
文脈から察するに、今回、加賀が携わった事件の内容と顛末を書いて欲しいのかも知れないが、
いまいち確信が得られなかった。

ひょっとすると今回、日本で彼女が食べた料理に関する報告かも知れないし、
日本のトイレのビデ機能の報告かも知れない。

『ニール・コドリング』は今一度、加賀に確認を取りたかったが、
彼女はアイマスクをして眠り込んでいる。

そんな彼女を叩き起こすというのは、彼女に従順な彼女のスタンドとして、
あり得ないことである。

仕方が無い。ならば、今回の騒動のおおよそ大事に見える部分を大方書くしかないな、
と『ニール・コドリング』は思った。

その結果、加賀が人に知られたくないと思っていたり、それこそ『ニール・コドリング』しか知らない様な、
彼女の恥ずかしい秘密が含まれてしまう可能性はある。

しかし、加賀本人からそれを書くな、という指示を受けていないのもまた、事実である。
(別ニ、イラッとシタカラ腹いせに無茶苦茶な文章ヲ書イテヤロウって訳ジャアナインダゼ?)

6 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/14(水) 23:49:21 ID:XaELvotc0
指示の中に不明瞭な部分がもう一個あったな、と『ニール・コドリング』は思った。

それは、「客観的」という言葉だ。

何を持って、客観的と、彼女は言っていたのだろう。

そもそも、この世に完璧な客観などない。世界は誰かに観測されて初めてその姿を
成すのであり、そうなれば、大なり小なり人間の主観が含まれる。

人間が思う客観は、人間以外の動物や全く別の存在から見たら、全くもって、
客観的ではなく、『人間の主観』に過ぎないに違いない(哲学ダナァ)。

つまり、『ニール・コドリング』が何を考えたか、というと、客観的と言われたって
どうすればいいのか、わからないという事だ。

そこで『ニール・コドリング』は考えた。

客観的とは何か、この問いに、答えはない。

ならば、ここは自分で答えを作りだす他ない。

そして、『ニール・コドリング』は考える。

そうだな、なら、ここは一つ、主観を一人称と考えよう。ということは客観的に文章を
書くってことは、三人称視点で話を書くってことだな、ナルホド!
(ってイッテモ、コンナ感ジで茶々はイレサセテ貰ウガネ)

そして、加賀からの指示を今一度、まとめなおした。

『今回の騒動の一部始終(加賀の極めて個人的な内容も含めて)を、
 三人称であること以外は特に規制のない文章形態で、ロンドン到着までに纏めよ』

7 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/14(水) 23:50:16 ID:XaELvotc0
そう言う事ならお任せだ!と『ニール・コドリング』は万年筆から、
インクを大学ノートに染み混ませた。

ここまで来て、『ニール・コドリング』は少し可笑しくなった。

この文章をあと数時間の内に書き上げ、ロンドンの空港で加賀が
これを読んだら、きっと怒るだろう。

そして、『ニール・コドリング』の事を罵りながら、必死に本当の
「報告書」を書き上げるだろう。

やっぱり、喋れるってのは、良いもんだな、と『ニール・コドリング』は思う。

そうなのだ、実は、ここにこれから記す物語の大半の部分において、
『ニール・コドリング』は、とある理由から喋ることが出来なかったのだ。

喋れるように回復したのは、飛行機に搭乗する寸前のことなのだ。

……ここで章を変えよう。

次の章からは、『ニール・コドリング』が喋れなくなった、
とある理由から、記すことにしよう。

8 名無しのスタンド使い :2016/09/15(木) 04:43:13 ID:j3v5e1hk0
うお!なんかはじまた!

9 名無しのスタンド使い :2016/09/15(木) 11:54:56 ID:mZGJmJz.0
wktk

10 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/15(木) 22:52:57 ID:DnVbRJyU0
第一話 『ニール・コドリングはまだ喋れた その①』

シティ・オブ・ロンドンに、異様の影が立ち込め始めたのは、5か月前のことだ。

5か月前の満月の夜、セント・ポール大聖堂の庭に一体の遺体が遺棄された。
それが全ての始まりだった。

それを発端として、ロンドン橋、ムーア・ゲート、マンション・ハウス、ポストマンズ・パーク……
シティ・オブ・ロンドンの各所に、女性の遺体が遺棄されるという怪事件。
それも、必ず満月の夜に……。

ロンドン市警の本部長、ベネディクト・バトラーは、ここにきて、一連の事件を連続殺人事件と断定。

この事件の犯人にコードネーム『満月の狂気(インサニティ・オブ・フルムーン)』と名前をつけた。

なぜ、5名もの犠牲者を出しながら、ここまで『満月の狂気』に対しての本格的捜査は行われなかったのか。

それは、まず第一に、発見された5名の被害者に何の関連性もなかったこと。

学生も含まれれば娼婦も含まれる。

唐突かつほぼ無作為に、女性であることのみを条件とし誘拐されていたために、事件の関連性を確信できなかったのである。
そして理由はもう一つ。この五名の遺体、どれもが司法解剖の結果、他殺と断定できなかったことにある。

むしろ、遺体には多くの外傷が見られたが、そのほとんどが死ぬ直前に、傷の方向や深さから見て、
被害者自身の手によって付けられたものであり、また、その傷が死因だった。

つまり、解剖の結果、自殺と考えられたからだ。

被害者たちは、あるものは自分で自分をめった刺しにし、あるものは自分で自分の首を絞め、
あるものは鈍器で自分の頭を叩きつけ……死んでいたのだ。

満月の夜に、遺棄される女性の自殺体。

これが、何者かが被害者たちを誘拐し、何らかの方法で精神錯乱状態に陥らせ、
自傷行為の末、自殺させるという、あまりに残忍な殺人事件だ、と警察が判断するのに、5か月が要されてしまったのだ。

11 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/15(木) 22:53:50 ID:DnVbRJyU0
そして、その日、バトラー本部長は、ウッド・ストリート警察署の本部長室に二人の捜査官を招集した。

「忙しいところ、すまない。まぁかけてくれ」

バトラーに進められるがままに、捜査官の一人、ヘンリー・ヤングはソファーに礼儀よく腰かける。

その隣に、加賀御守道がドサッと座った。

「ご用件はなんでしょうか!」

ヘンリーが大声をあげる。

加賀はその声に、うるさそうに眉をしかめた。

「『満月の狂気』……話は聞いているだろう?」

「はい! あの連続殺じ……」

「連続遺体遺棄事件のことね? 知ってるわ」

加賀に言葉を遮られたヘンリーが、加賀のほうを見る。

睨む、というわけではないが、その眼差しには、明らかに不満を抱えていた。

「まだ、殺人事件と断定されたわけじゃないんでしょ?」

「その通りだ。加賀君。だが、あれを自殺と考えるのは難しい、と私は考えている」

それを聞いて、ヘンリーはフフンと鼻を鳴らした。それを聞いた加賀は、ため息をついた。

「で、バトラー? どうして、わざわざ私たちを呼びだしたの?」

「……今回、遺棄された5件の遺体だが、全て、激しい自傷行為の上で、死亡していたのは知っているな?」

ヘンリーと加賀は無言でうなずく。

「だが、死因が、自殺だということを除けば、これは何も異常なことはない……
いや、殺人という時点ですでに異常だが、何の奇異的なことはない「連続殺人」なんだ」

「満月の夜に、それもシティ・オブ・ロンドン内で誘拐し、遺体を遺棄。秩序型のシリアルキラーね」

12 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/15(木) 22:54:22 ID:DnVbRJyU0
「そうだ。そこで、これを殺人事件だと考え、殺害方法は何だと思う?」

ヘンリーがまるで小学生かのように、手をあげた。

「薬物か何かの投与による精神錯乱では?」

「うむ、可能性がないとは言えない、しかし、どの遺体からも薬品を飲まされた痕跡は見つかっていない」

「じゃあ、催眠術とか?」

「それもまた、可能性としてはあり得る……そして、こういう可能性もある。
犯人は、対象を狂わせて「自殺」させる『スタンド能力者』という可能性だ」

ヘンリーと加賀は、バトラーのその発言で身構えた。

「まぁ、あくまでも、可能性だ。」

「で、ですよねぇ」

「犯人がなんらかの『スタンド能力』を持っているという根拠はない。しかし、用心にこしたことはない」

「つまり、私たちに、『念のため』の保険になってほしいってことね」

「そうだ、実をいうと、犯人は数名に絞り込まれているのだ。
そして、犯人は次の満月の夜、必ず行動を起こす。
そこで、犯人の候補すべてに、私服警官の尾行をつける。これで、犯人検挙はまず間違いない」

「……ふぅーん、まさにシリアルキラーの捕まえ方としてはスタンダードね」

「基本を抑えているのが一番効果的なのだ。しかし……もし犯人が『スタンド使い』なら……」

「……警官が犯人を検挙することはまず不可能」

「そこで君たちには、各警官から連絡を受けながら、待機していてほしい。
もし、何か異常があった時、君たちの出番というわけだ」

「わかりました、やりましょう!」

ヘンリーはまた大声を張り上げた。

加賀は、その声に眉をしかめつつ、静かに頷いた。

13 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/15(木) 22:55:41 ID:DnVbRJyU0
現在、ロンドン市警には、バトラーが把握している限りではあるが、『2人のスタンド使い』が所属している。

一人は、インクのスタンド『ニール・コドリング』を持つ加賀御守道。

日本生まれの彼女が如何にしてイギリスの永住権を手にし、如何にしてロンドン市警に採用されたか、
は敢えて語らないことにしよう。

(コイツヲ話スト、ソレハソレハ長イ上に特に必要ノネェ話ニナッチマウからなぁ!)

そして、もう一人は、『ラウジカ』を持つヘンリー・ヤング。

彼は現在、加賀の部下として、彼女に振り回される日々を送っている。

それに対し、彼らを纏めるベネディクト・バトラー、彼自身はスタンド使いではない。

しかし、スタンド使いに関する多くの知識を持っており、それを駆使して
シティ・オブ・ロンドンにおけるスタンド使いによる凶行から市民を守ろうと、
この信頼できる二人のスタンド使いを時たま、今回の件の様に、直々に呼び出すのである。

加賀とヘンリーの前に、バトラーは、一枚の写真を差し出した。

「これは何? 車?」

「車以外の何にも見えないだろう?」

加賀は、また少し眉をしかめる。

写真は、おそらく、どこかの防犯カメラが捉えたものだろう、非常に不鮮明でピンボケしていたし、
写真もほぼ白黒で色の判別はつきそうになかった。

しかし、そこに映っている一台の車の、特徴的はフォルムは、その特徴的な外見故に、はっきりと見て取ることが出来た。

まるで、頭にたん瘤でも乗っけたような車体。

「なんていうか……お世辞にもかっこいいって感じじゃあありませんね」

ヘンリーが、率直な感想を述べる。

14 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/15(木) 22:56:11 ID:DnVbRJyU0
「この車は、イタリアの自動車メーカーが販売していたプルティモラという車だ。
今、ヘンリーが言った通り、あまり、多くの人に好かれる形とは言えないな。
こうも言われていたくらいだ。『この車は実際に乗るべきだ。なぜなら、酷い外見を見なくて済むから』と」

「わざわざ、そんな蘊蓄を聞かせるために、写真を見せたんですか〜?」

ヘンリーが、口をぼけーっと開きながら、そう言う。

「ヤング捜査官、あんた、この流れで出て来た写真なら、これが『犯人の車の写真』だってことくらいわからない?」

加賀が、ため息混りにそう言った。

「それくらいわかってますよ! 犯行現場付近で撮られた写真なんでしょう? 
でも、それと、そのなんとかって車が人気がないってことがどう関係するのかって……」

「だから、人気がない車なら、それだけ珍しいってことじゃない。
だから、所有者からある程度、犯人を絞り込める。そういうことよね、バトラー」

「加賀捜査官、全くその通りだよ、目撃証言から照らし合わせても、
これが犯人の車であることは間違いない。そしてこれが、ロンドン周辺のプルティモラの所有者のリストだ」

バトラーが机から、一枚の紙を取り出した。

「意外といるのね」

加賀が、そこに記された十数名の名前と住所を眺めてそう言う。

「それに、結構、広範囲に散らばっていますね」

「それが問題なんだ。次の満月の夜……来週だが、その日にはこのリストの者すべてに尾行をつける。
何か異常があった場合、警官はすぐに君たちに連絡する。
それはいいとして、問題は、何かあったとしても、君たちが全ての捜査地の中間地点にいては、
すぐに現場に駆けつけられないという点だ」

「つまり、私たちは二手に分かれて、それぞれに担当エリアを分けるということね」

「一人というのは不安かもしれないが、お願いしたい」

その言葉に、待ってましたとばかりにヘンリーは飛びあがった。

「任せて下さい!」

「まぁ、犯人も次の満月までは行動を起こすまい。それまでは、体調を崩さないよう、気をつけてくれ」

15 名無しのスタンド使い :2016/09/16(金) 05:00:00 ID:9qoMga5E0
新連載乙!
加賀さん職場編?は自分も昔妄想していたので、今回のスピンオフSS化はかなり嬉しいです!

16 名無しのスタンド使い :2016/09/17(土) 00:40:19 ID:2C3Ve/lE0
デザイン時からラウジカの登場に期待していました
すごく興味をひく書き出し、続きが早く見たい!

17 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/17(土) 20:49:10 ID:JsRCnedI0
第二話 『ニール・コドリングはまだ喋れた その②』


――そして、次の満月の夜はやって来た。

加賀は、テムズ川の畔に停めた自動車の中で声を潜めていた。

夜も更けて来ているが、空はそこまで暗くはない。
先進国の空は、その街の明るさゆえに、微妙に明るさを残しているのだ。
そんな空をバックに、4本の煙突がシルエットとなって聳え立っている。

バターシ―発電所……1982年に閉鎖されてから現在まで、そのままに形を残している。
ピンク・フロイドの「アニマルズ」のジャケット写真としても有名な建造物。

加賀は、それを見て、ふと昔の事を思い出した。

――子供の頃、住んでいた町にも、こんな大きな煙突があったな。発電所なんかじゃあなくて、銭湯だったけど。

「オイ、仕事中ダゼ、ボケェっとシテルんジャあネェゼ!」

『ニール・コドリング』が加賀の頭をどついた。

「……うるさい。わかってるってば」
「ナラ、チットは集中シナヨ」
「わかってるわよ」

加賀はそういうと、カーナビのマップに目を移す。

18 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/17(土) 20:50:06 ID:JsRCnedI0
ヘンリーと加賀は、捜査範囲をテムズ川を境に南北にわけて担当していた。
遺体の発見場所は、シティ・オブ・ロンドンだが、犯人がそこに住んでいるとは限らない。
そういう意味では、シティ・オブ・ロンドン内で遺体遺棄現場を抑えるのが一番いいのだろうが、
それでは見す見す被害者を増やすことになってしまう。
ということで、今回は、ロンドン市警とスコットランドヤードの共同捜査、ということになっていた。

午後11時、加賀が担当するテムズ川以南に配置された捜査官たちから定時連絡が入る。

「異常なし」
「異常ありません」
「動きはありません」

誰も動かない。何も起きない。

まぁ、まだ夜は長い、もうちょっと辛抱よ、と加賀は思った。

「ソレニシテもよォ、変な犯人ダヨナ」
「今回の事件は変な事ばかりよ」
「ソウダケドヨ、犯人の手がかり、アノ写真ダケナンダロ?」
「そうね」
「あり得なくネェカ? アレだけ目立ツ事ヲシテルのに、写真一枚、
ソレモ白黒でナンバーも見エネぇ写真一枚シカ、手がかりを残サナイナンテよ」

「それは、そうね」

そして、時計は午後12時を回った……。
12時の定時連絡が終了し、数分が過ぎた時、先ほど、異常なしと言ってきた警官が、再び電話をかけてきた。

「加賀……けぃ、部ぅふふふ……あぬ……られ、うわぁ、はははががははさがははさだがはははかっかかかあはは!」

声にもならぬ、笑い声かそれとも嗚咽か叫びか、とにかくわけのわからない声が電話口に響く。

そして、一発の銃声。それで声は止まった。

19 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/17(土) 20:50:57 ID:JsRCnedI0
「ちょっと、もしもし! どうしたの!!」

電話の相手は何も答えない。
撃たれた? いや、銃声は電話のすぐそばで響いていた。
これは――自分で頭を打ちぬいた。自殺した?

加賀の頭の中に『満月の狂気』の名がちらついた。

「この警官の配置は……」

電話をかけてきた警官の配置をリストで確認する。

ジェームズ・ビーン……。
配置場所はリッチモンド。
そこでフィル・グリーンライエンという男を見張っていた。

「リッチモンド……かっ飛ばすわよ!『ニール・コドリング』!」
「俺ノ分のシートベルトハ!?」
「スタンドにシートベルトが必要なわけないでしょ!」

加賀は、アクセルを踏み込んだ。


リッチモンドにいる警官の配置場所までは、通常、車で30分……。
しかし、加賀はそれを15分もかからずに付き添うな速度でかっ飛ばす。

この時点、加賀は確信していた。根拠があるわけではない。証拠があるわけではない。

でも、だとしても、『満月の狂気』は、『スタンド使い』だ。
そんな予感が胸を駆け巡っていた。

「オイ! 飛ばし過ギダゼ! 警察ニ捕マッチマウンジャアネーノカ!?」
「私が! その警察よ! 交通違反上等! ついでに携帯電話もかけてやるわ!」
「オイオイ……」

加賀は、型落ちの二つ折り携帯を取り出し、電話をかける。

「……はい、こちらはヤング捜査官、どうしました? 加賀さん」
「今すぐ、リッチモンドに急行して頂戴!」
「え? 僕の担当エリアはそっちじゃありませんよ」
「緊急事態よ! 警官の一人が電話口で拳銃自殺したの!」
「え……でも、バトラーさんからは、持ち場を離れるなと……」
「あんな、うすらボケの言う事聞いてんじゃあないわよ! いいから! いますぐに! 来て!」
「わ、わかりましたよ、リッチモンドに向かえばいいんですね……」

加賀は電話を切り、すぐにポケットに突っ込んだ。

「運転中の通話は危険ダゼ、ッテイウカ、今時、ブルートゥスってのが……」
「私の携帯はそんなのついてないんですー」

20 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/17(土) 20:52:08 ID:JsRCnedI0
そんなことを言っている内に、車はリッチモンドグリーンの横を抜け、高級住宅街に入り込んでいた。
加賀は速度を落とす。パトランプは点灯させない。
ひょっとすると、この周辺に、『スタンド使い』の殺人鬼がいるかもしれない。
警察が近くに来たとは、知らせたくなかった……が、住宅街の一角にある人だかりを見て、そんな必要はないと悟った。

加賀が車を路上に止めて、人だかりに近寄ると、そこには凄惨たる光景が広がっていた。
飛び散る脳髄、当たり一面の血の海。
見たところ、遺体の傷は頭だけではない。
足、胸、肩、あちこちに、丸い穴が開いている。
おそらく、頭を撃つ前に、体のあちこちに弾を撃ちこんだのだ。

拳銃を片手に、事切れた捜査官、ジェームズ・ビーン。
加賀にとって、直接会ったことはなかったけれど、数回電話で短い会話をしただけだけれど、
それでも、一緒に街の平和を守っていた、仲間だった人。

加賀は静かに目を閉じ、胸で十時を切る。

そして、次の瞬間には、そこから見える一件の住宅を睨み付けていた。
煉瓦造りの一軒家。見た目は古そうだが、インターホンや玄関の明かりなどは、非常に現代的なものになっている。
おそらくは、古い家を何度も改装している者と思われる。
それに、窓がない。窓らしいものはあるが、中にはガラスではなく鏡が埋め込まれている。
あれは、窓に見せかけた装飾にすぎない。
見た目にだまされてはいけない。内部がどうなっているのかは、外からでは予測できない。

そして、屋根だけの簡単な駐車場に泊められた、一台の車。
お世辞にもかっこいいとは言えない。それでもどことなく愛嬌のあるフォルム。
頭にたん瘤でも乗っけたような車体……プルティモラだ。

いや、止まっているのはそれだけではない。家の敷地内には、もう一台の車が止まっている。
そっちは別に特別なことはない普通の乗用車だが……車を2台持っているのか、それとも、誰か来ているのか……。

加賀は、遠目から家の様子をうかがう。
……セキュリティは万全のようだ。防犯カメラ数台、家の扉も内部から出ないと
開けられない電子ロックがかけられているだろう。

だが、加賀にはこれを無力化できる手段がある。

「『ニール・コドリング』……監視カメラの死角を縫って、あの家の電気系統を破壊して」

それは、液体状になり、変幻自在な『ニール・コドリング』にしかできない技だ。
仮に人型の遠隔操作スタンドでは、カメラの死角を抜けることは出来ない。
そして、その家をピンポイントで停電になるような工作を出来たとしても、敵がスタンド使いだった場合、スタンドを見られてしまう。
しかし、自由に形を変えられる『ニール・コドリング』なら話は別だ。

21 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/17(土) 20:52:46 ID:JsRCnedI0
確実に、カメラに映らないように移動し、電線を切断した。

インターホンとカメラ、玄関の明かりが突如として消える。
それと同時に、扉の電子ロックも解除された。

加賀は遠目でそれを確認すると、玄関の前まで移動する。
スーツの中のガンベルトから、拳銃を取り出し、滑るように家の中に潜り込んだ。
なるべく音を立ててはいけない。急に電気が消えたことで、中にいる人物は、警戒しているに違いない。
そして、もしかすると来るかも知れない侵入者を待ち構えているかもしれない。
中にいるのが、殺人犯なら尚更だ。

「ヘンリーはマタなくてイイノカヨ」
「静かにして、あんな奴、来ても役に立たないわよ」
「全く、お前ッテ奴ハ……モウちょっと人を信用シロヨナ」
「静かにしてっていってるでしょ」


家の中は真っ暗だった。加賀は全神経を耳に集中する。

……意外なことに、その『音』は、地下に向かう階段から聞こえてきた。
嗚咽ような声……と、それだけではない、狂ったようなピアノの音色。
これがわずかな人間の声をほとんど掻き消している。
加賀は、意を決して、その階段を降りる。

一段降りるたびに、音ははっきりと聞こえてくる。
ピアノの曲だ。それも一台の音色ではない。

ラフマニノフ、2台のピアノのための組曲「タランテラ」
これを、誰かと誰かが弾いている。
だが、お世辞にも、半分はうまいとは言えない演奏だった。
半分は、というのは、片方が、ということだ。
「タランテラ」は二台のピアノで二人が弾く曲だ。
この演奏は、気妙だが、片方は流れるような旋律を、そして、もう片方は、
鍵盤を叩きつけているかのような、狂ったような音を鳴らしていた。
ハーモニーもくそもない。

間違いなく、息も絶え絶えな人の嗚咽。

加賀は、階段を降りきって、扉の前に立つ。
音は扉の向こうから聞こえてくる。
加賀の銃を持つ手に緊張が走る。

そして、扉を蹴破って中に飛び込んだ!

22 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/17(土) 20:54:25 ID:JsRCnedI0
「フリーズ!」

ピアノの、美しい音色だったほうが、ピタッと止まる。

部屋の中は、無数の蝋燭の燭台の明かりでぼんやりと照らされていた。
2台あるのピアノの片方には、顎鬚を携えた男が座っている。
そして、もう片方は、誰もいないにも関わらず、無茶苦茶な演奏を続けていた。
自動で動く電気仕掛けのピアノ……というわけではないようだ。
この家の今、電気は通っていないはずである。
加賀は、そこにいる男がスタンド使いであると確信する。

「なんだ、君は……」
「フリーズ!」

加賀はそう言って、銃を男に向ける。
こいつが『満月の狂気』であることは間違いない。

なぜなら、ピアノの前で――もうほとんど死んでいる女性がいるからだ。
片手にナイフを持ち、おそらくはそれで自分の胸をめった刺しにしたのだろう。
ついさっきまで聞こえていた嗚咽ももうない。――死んでいる。

男――フィル・グリーンライエンは、少し驚いた顔をしている。
家の電気系統が破壊されたことには気がついたいないようだ。
おそらく部屋の電気を消し、蝋燭だけを灯していたのだろう。


「君は、フリーズ、しか言えないのかい? あ、わかった、警察だね、
君。外にいた奴の仲間かい?」
「ビーン捜査官はあなたが……」
「ビーンっていうんだ、あいつ。あいつの所為で、
今日は外に獲物を捕まえにいけなかった。
 だから、この娘を呼んだんだけどね」

そう言って、フィルは立ち上がり、足元の女性の遺体をつま先でつつく。

「僕の……あ、僕、ピアニストなんだけどね、知ってる? 結構有名なんだけど」
「知らないわ、音楽に興味ないの」
「……そう、別にいいけど。でね、これは僕のマネージャーなの、
いや、だったっていうべきかな」
「……」
「毎月、満月の日は、こうやってピアノを弾きながら、傷つける人を見るのが、
僕の趣味だったんだ。だから、毎月、いろんな人をここに攫ってきてたんだけど、
今日は外に警官がいたせいでそれができなかった。奴は始末させてもらったけど、
我慢できなくて、マネージャーを呼んじゃった」
「……」
「知り合いをやっちゃったから、そろそろ捕まるだろーなぁとは思ってたけど、今とはねぇ」

加賀の指に力が入る。

「この外道!」

数発の銃声、加賀の拳銃が火を噴いた!

「そんなもの!!!」

フィルがスタンドを出す。
ピエロの様な装飾を顔に描いた、禍々しいスタンド。
そいつが弾丸を全てハジキ飛ばす。

23 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/17(土) 20:55:59 ID:JsRCnedI0
勝手に動いていたピアノが、全ての鍵盤を同時に叩いたような爆音を立てて――沈黙した。

「君も、始末させてもらうよ」

今まで、ゆったりと動いていたフィルが急に加賀に向かってダッシュした。

こいつ、近距離パワータイプのスタンド。だから、本体ごと接近してくる、
すぐに距離を取ることも出来るけれど、こいつは今、私が『スタンド使い』だって
気が付居ていない、なら、逃げるよりもガードするべき!

と加賀は思った。

彼女は気がついていなかった

――その選択が、彼女の運命を大きく狂わせるということに。


フィル・グリーンライエンのスタンドが放った拳は、正確無比なスピードとパワーで加賀に直進した。
破壊力、スピードともにランクAであろうと思われる突きを普通の人間が喰らえば、
肉を抉られ、内臓を破壊され、体にぽっかりと穴が開いてしまうだろう。

はたして、その強力な攻撃を『ニール・コドリング』は防げるのか、はっきりと言おう、

今の状態ならば「防げる」。

理由の一つは、敵が、加賀がスタンド使いだということに気がついていないという事。
故に、攻撃は単調、一直線に急所を狙うだけの攻撃。

そして、理由のもう一つは、『ニール・コドリング』が物質同化型、
そして液体と同化した不定形であるという事。
つまり、敵スタンドに吹き飛ばされたり、千切られたりしても、
加賀にはダメージのフィードバックが無い。

ならば、加賀はこうやって、この攻撃を防ぐ。

『滑らせる』

『ニール・コドリング』を瞬時に展開、加賀の身体と敵スタンドの間に
インクの膜を作り、敵の攻撃を起動をずらした。

「……お前!? 『スタンド使い』か!!」

「そうよ。驚いた? 驚いた油断が命取りよ!」

加賀は、この敵を一瞬の驚き、油断を利用して攻撃するつもりだった。
この隙に、『ニール・コドリング』の拳を、敵に叩き込む。

――そのつもりだった。

しかし――そうはならなかった。

24 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/20(火) 22:25:28 ID:pGN4Uc5M0
「『ニール・コドリング』!!」

加賀は威勢よく叫ぶが、『ニール・コドリング』が敵に攻撃を繰り出さない。

え? 何事? と言った感じで、『ニール・コドリング』の方を見ると……。
そこには、インクがぶよぶよと終結し、一つの玉となって、
所々脈打つ、君の悪い何かが、転がっていた。


「これは……」

困惑する加賀を見て、グリーンライエンが口を開く。

「驚いたのは君だったよーだなぁ、それは、君の『スタンド』だよ」
「!?」

「教えてあげよう。私のスタンド、『サーカス・ギャロップ』の能力は、殴ったものを『発狂させる』こと。
 君のスタンドは、私の能力で、狂っている。狂っているから君の命令を聞かないし、
 君がいくらスタンドを動かそうとしても、ただ膨張するだけだ。」

加賀は部屋を見渡す。

狂って自殺した女、狂ったように勝手に鳴っていたピアノ……。
そうか、『満月の狂気』が防犯カメラは町中のセンサーに引っかからなかったのも、
この能力か。

――油断した。

そう思った。敵が、加賀がスタンド使いだと気が付居ていないという
アドバンテージにかまけて、敵の能力の考察を怠っていた。

「さぁ、どうするね? スタンド使いのお嬢さん。もうさっきに見たいに防御はできないぞ?」

「お嬢さんってのは嬉しいけど……防御は、確かにできないわね」

「そうだ、君は、もう死ぬしかない」

グリーンライエンのスタンドが拳を振り上げる。

25 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/20(火) 22:28:26 ID:LPfv9uCU0
「やれ!『サーカス・ギャロップ』」

「防御は出来ない……でも、逃げることなら出来る! 『ニール・コドリング』!!」

瞬間、『ニール・コドリング』が無茶苦茶に膨張する。

まるで、空気がいっぱいに詰まった風船の様に……。

「ただ、膨張するだけというなら……限界まで膨張させる!」

「『サーカス・ギャロップ』!!!」

『アリャーリャリャリャリャ!!!』

『サーカス・ギャロップ』のラッシュが、『ニール・コドリング』を打つが、
それよりも膨張の勢いのほうが上回っていた。

そして、膨張は一瞬で限界を迎え、『ニール・コドリング』のインクが部屋中に散らばった。

「ぐぅっ!」

インクにグリーンライエンの身体が弾き飛ばされる。

そして、部屋中におかれ、唯一の明かりであった蝋燭の火が――消えた。

部屋が、完全な暗闇に、包まれた。

26 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/20(火) 22:29:43 ID:LPfv9uCU0
視覚を封じられたグリーンライエンは、全神経を耳に集中する。

ピアニストという職業柄、聴覚には自信があった。

――ドアを閉める音。

加賀が部屋を脱出したことを、グリーンライエンは理解する。

と同時に、グリーンライエンは、ドアの音がした方向から部屋の形を理解した。

本来、自分の家の地下室なのだから、どこに何があるかは理解しているつもりだったが、
一回吹き飛ばされたために、今、自分がその部屋のどの辺りにいるのかがわからなかった。

しかし、ドアが閉まる音から、自分の位置を割り出すことができた。

それさえわかれば、グリーンライエンは別のものの場所を想像することが出来る。

そして、それがあるであろう場所に手を伸ばした。

あった、蝋燭に火をつけるのに使用したライター。

グリーンライエンが、火をつけると、部屋中がインクで真っ黒に染まっていた。

――掃除をしなくちゃあな、とグリーンライエンは思ったが、それは後回しだ。

まずは、あの女――おそらく刑事だろうが、あいつをなんとかしなくてはならない。

この家から出すわけにはいかない。

とりあえず、グリーンライエンは、蝋燭を弾き飛ばし、その下にあった、
受話器とモニターがついている機械に『サーカス・ギャロップ』を叩き込んだ。

インターホンと連動して、扉の開閉を操作する機能を持つ電話。
それを殴ることで、『セキュリティ・ロック』を発狂させる。

暴走したセキュリティは、もはや電気の供給無しでも動く。
受話器に来訪者を告げるランプと呼び出し音が鳴り響く。

グリーンライエンは、受話器にあるセキュリティロック作動の
ランプがついていることを確認する。

どうなるか、わからなかったが、うまく行ってくれたようだ。

狂ったセキュリティロックは家の扉を完全に封鎖してくれた。

運が良ければ――加賀を、この家に閉じ込めることができた。

27 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/20(火) 22:30:37 ID:LPfv9uCU0
いや――加賀は確実にこの家に閉じ込められている――
とグリーンライエンは確信していた。

自分が、加賀よりもスタンドでの戦闘に慣れていないことは、理解している。
液体を使い、パンチの軌道をずらし、その隙を突く――
その動きを、グリーンライエンは想像していなかった。

『狂わせる』能力、これがなければ、あの時に敗北していた、それは間違いない。

しかし、そんな彼でも、スタンドのルールは重々理解しているつもりだ。

スタンドと本体のダメージは同期している。

スタンドに能力を喰らわせた、ということは、それはすなわち、
本体に能力をかけたことを意味している。

つまり、さきほどは表面化しなかっただけであり、
加賀の精神は今、大きなダメージを受けているのだ。

そして、グリーンライエンは経験上知っている。

今まで、この家で何人もの人間を狂わせ、殺して来た。
だから、自分の能力を喰らった人間がどうなるのか、それは知っている。

――この家の単純な構造、そして、逃げ出せるだけの十分な時間があったとしても、脱出できた人間はだれ一人としていなかった。



そのグリーンライエンの考えは、当たっていた。

そのころ、加賀は廊下の隅にひっそりと身を潜めていた。

28 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/20(火) 22:32:21 ID:LPfv9uCU0
――おかしい、脱出しなくてはならないのに、
   その方法が思いつかない。まるで思考にノイズがかかったみたいに、
   体が勝手に家から出ることを拒んでしまう。

   これが、奴の『能力』か。

と加賀は思う。

ついさっき、『ニール・コドリング』を膨張させた時は残っていた思考能力が、
次第に揺れていくのを加賀は感じていた。

じわじわと身体を蝕む毒のように、『サーカス・ギャロップ』は加賀を犯していた。

廊下の先に、明かりが見えた。

ライターの火だ。
グリーンライエンが加賀を探している。

「お嬢さん……君がこの館にまだ残っていることはわかっている。
 そろそろ完全におかしくなってくる頃だろう?
 わかっているんだ、出ておいで、痛くはしないから」

――出ていけない。出ていけるわけがない。

加賀は理解している。

――でも、どうして出ていけないんだろう。

それがわからない。

――そう言えば、子供のころ、あの映画のタイトルってなんだっけ。

そんなことを考えている場合ではない。

――ああ、昔、恋をしたこともあったよーな、なかったよーな。

今はどーでもいいだろ! そんなこと!

――なんか、気持ちいいな、鼻歌でも歌いたい気分だ。

一曲歌っちゃおうかな……。



「その棚の裏に隠れているな……『サーカス・ギャロップ』!!」

『ウリャーウリャリャリャリャリャ!!!』

『サーカス・ギャロップ』のラッシュが、棚ごと、その後ろのものを吹き飛ばした。



加賀は――棚の裏には隠れていなかった。

――なんだっけ、さっき、何か仕掛けておいた気がするんだ。覚えてないけど。

加賀自身ははっきりとそれを思い出せていなかったが、
加賀はとあるものを棚の後ろに隠しておいたのだ。
加賀を追跡してきたグリーンライエンが、加賀と間違えて、
それを攻撃するように、加賀の服を着せたそれを――置いておいたのだ。

「こ……これは!!!」

「グ……グルルルリャアアアアアア!!!」

それは、死体だった! グリーンライエンが殺した、彼のマネージャー女性の死体!!

「思えば、さっき、地下室の中には、なかった! 持ち出していたのか!」

『サーカス・ギャロップ』が殴ったものは発狂し、暴走する!

『セキュリティ・ロック』は監獄を作りだし、生者は自ら命をむしり取る!
ピアノは勝手に滅茶苦茶に音楽を奏でる!

ならば、死体を殴ったらどうなるか。

暴走して勝手に動く死体――それは、ゾンビに他ならない!!

――思い出した、子供のころ、見た映画……
   『バタリアン』……笑えたけど、怖かったな。

それだけを考えて、加賀の意識は、途絶えた。

29 ◆Wf0eUCE.vg :2016/09/20(火) 22:33:20 ID:pGN4Uc5M0
簡単にその後、起こったことを説明しよう。

加賀からの連絡を受けていたヘンリー・ヤングが急行した時には、
館の『セキュリティ・ロック』は解除されていた。

正確には、『サーカス・ギャロップ』の能力が解除されたため、
それによって起動していた防犯機能も停止したと言うことになる。

館内に飛び込んだヘンリーが見たのは、顔いっぱいに鮮血をあびた女の死体、
肉を食いちぎられ意識を失った男、
そして、虚ろな目をして、口から泡を吐いた加賀の姿だった。

駆けつけた救護班により、加賀とグリーンライエンは、警察病院へと移送された。

グリーンライエンは、数時間後に奇跡的に意識を吹き返したが、

ここはどこだ、と近くにいたナースに質問をして、

警察病院です、という答えを聞くやいなや、
『サーカス・ギャロップ』で自分の胸を貫き自害した。


一方、加賀は――それから言葉を発することが出来るようになるのに、一週間を要した。

30 名無しのスタンド使い :2016/09/25(日) 02:26:13 ID:vVC92vk20
これは後味の悪い事件ですね……
更新おつでした


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