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女性刑務所(過去ログから)

1名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:44:43 ID:tPxOzVD60
過去ログからとってきました。
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/otaku/12949/1452103228/-100
皆さんで続き書いてければと思ってます。

3名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:45:43 ID:tPxOzVD60
彼女は半年ほど前にここに収監された。
夫のDVに耐え切れなくなり、ついに逆上して刺し殺してしまったのだ。

DVによる情状酌量が認められ刑期は5年、出産のノルマは二人である。

罪を犯した女性たちはまず徹底的に健康診断を受ける。若く健康であり妊娠が可能な女性は通常の刑務所である第五刑務所に収監され、妊娠が成立するまで通常の刑期に服する。
そして妊娠した受刑者が第七刑務所に移されるのだ。
ちなみに第六刑務所は高齢や身体的問題で妊娠が見込めない女性たちが通常の刑期を過ごす。


なぜここまで選別するのかと言うと、犯罪に手を染めるからにはやはり問題のある人間もいる。
妊娠した受刑者を妬み、野蛮な方法で意図的に流産させる事件が度々あった。
それゆえ隔離をする必要があった。


なお、ごく希に第八刑務所に移送される者も居るらしいが、真相は分かっていない。

「あら起きたのね。大変だけどそのうち慣れるわ」
カオリに優しげな声をかけたのはこの階層の囚人達のボスともいえる女性、ユミ(29)。
彼女は、夫の浮気が原因で流産させられ、報復として夫と浮気相手の家族を皆殺しにしたという、恐るべき大量殺人者であった。
そのため懲役年数もノルマも膨大なものとなっているが、理由が理由だからなのか、とても模範的で積極的に妊娠し、流産死産の経験は0という模範囚であった。
事実、今の彼女は三つ子の7ヶ月目である。


慣れるんですか…?この船酔いみたいな気持ち悪さ…」
「私も初めての時は苦しかったわよ〜。まぁ、あまり酷いと独房に移してもらえるから安心しなさい」

部屋は基本的に二人一組で使用するが、つわりの症状(特に吐き悪阻)に応じて独房が与えられる。
そこで安定期まで過ごすことができる。

4名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:46:30 ID:tPxOzVD60
そうこうしていると刑務官がやって来た。
点呼をとる時間だ。
『囚人番号147!』
「はいっ」
ユミが返事をする。
続いてカオリが呼ばれる
『囚人番号520!』
「はいっ」
『10号室よし!』
声高らかに確認を終えると、刑務官は次の部屋に向かっていった。

6:30には朝食の時間を迎え、決められた部屋に皆が集まる。
カオリのような妊娠初期の受刑者たちは悪阻や偏食があるためにバイキング形式になっている。
そしてユミのように症状が治まる安定期〜後期の受刑者は、栄養の管理された食事が出される。

カオリはバイキングの部屋に行き列に並ぶ。
大半の妊婦が酸っぱいものを好むため、やはり酸味の利いた料理が多い。
普通の料理も多少は並べられているが―――
「うっ…!」
ある受刑者が口をおさえ、刑務官に付き添われながらトイレの方を駆けていった。
(あの人もつわりが……)
当然匂いで吐き気を催す者もいた。


さらに数名が付き添われ、退出していく。
余りに悪阻が重い場合は、刑務官付き添いの元医療房に移管され、そこでしばらく点滴による栄養補給がなされることになっている。
カオリは、それだけはイヤだなと思いながら、少しずつ朝食を食べた。

刑務所といっても妊婦ばかりのここでは、無理のある労働などは少ない。
健康に害のあるものを除き、それなりに自由な行動が保証されていたりする。
カオリは、悪阻がきついのもあって他の先輩受刑者と話しているのが好きだった。


食事を終えたカオリはレクリエーション室に向かった。この部屋は囚人の気晴らしや運動不足を解消するためにつくられたもので、中には一般的なジムのような設備がある。

「おーい、カオリちゃーん!」

5名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:46:53 ID:tPxOzVD60
レクリエーション室に入ったカオリはいきなり水着の若い妊婦に声をかけられた。彼女はサヤ。16歳だが臨月の妊婦だ。
中学生のころから非行に走り何度か警察のお世話になっていたらしいが、卒業してフリーターとして過ごしていた時に仲間と万引きを繰り返し逮捕された。
昔なら未成年の軽犯罪なので補導や少年院に送られるところだが今の時代に少年法はなく、何度も万引きを繰り返した事が悪質と判断され子供を一人産むように裁判で言い渡された。
ところが彼女は刑務所に入れられて働かなくても子供を産むだけでご飯が食べられると今の生活に不満はないようだ。
明るく人懐っこい性格で年上のカオリをちゃんづけで呼ぶが、ここでは囚人としても妊婦としてもカオリより先輩で今までにも何度かお世話になってきた。
どうやら彼女は今からレクリエーション室にある室内プールに泳ぎに行くつもりらしい。ワンピースタイプの水着に大きなおなかを押し込んでカオリのそばまで寄ってきた。


「ごめんちょっと泳げそうにない……多分カルキの臭いでもだめかも」
「えー、残念……じゃあまた後でね!」
あまりに悪阻が重たいし、医務官に相談しよう。
そう考えてサヤと別れると、そのまま医務室への道を歩いて行く。
そのさなか、ストレッチャーとすれ違った。
ピクリとも動かない妊婦が、乗せられている。
そういえば、出産に失敗して危険が及んだ場合、胎児だけ助けられるんだったか。
そんなことを思い出して、カオリはもう一回、嘔吐した。

「ゔっ…う゛ぇぇぇぇっ…げぼっ…うっ…」
朝食をすべて戻してしまった。
口をゆすぎ、フラフラと医療棟へと向かった。

医療棟の入り口には刑務官が立っており、用件を伝えそれに応じた医務室(診察室)へと案内される。
「520番です。悪阻が酷くて……」
カオリも刑務官に今の状態を伝えた。
「産婦人科へ」
刑務官に案内され、診察室へ案内される。
医療棟に足を踏み入れると十字路に別れており、向かって左右手前は診察室。
正面には鉄格子の門。
この門の奥が医療房、通常の病院なら入院病棟と言ったところか。

受刑者は皆妊婦とあり産婦人科がメインだ。
左側の3つの診察室が産婦人科、右はそれぞれ内科、心療内科、総合診療科になっている。
刑務官に連れられカオリも産婦人科の待合所に腰を下ろす。
皆顔色が悪く、同じような悩みを抱えているようだ。
中には袋を手に持ちタオルで口を覆っている女性もいる。
余程酷いのだろう。

6名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:47:26 ID:tPxOzVD60
しばらくするとカオリの順番が回ってきた。
診察室に入り、ドクターの問診を受ける。
「朝は必ずと言っていいほど吐いてしまいます…食事は取れますが、そのあと吐くことも度々あります…」
「なるほど」
ドクターはカルテを書きながら返答する。
「血液検査と食道カメラで見てみましょう」
中には独房に移りたい、作業を免れたいがために仮病で悪阻を持ち出す者もいるため、こういった検査は必ず行う。
カオリは奥の検査室へ通され、まず看護師が採血を行う。
その後ベッドに横になり、ドクターが食道にカメラを挿入する。
医療も進歩し、消化官カメラもずいぶん細くなった。
高輝度の光源も組み込まれていて、食道くらいなら奥までグイグイ突っ込まなくても綺麗にモニタに映る。
「あぁ〜これは…少し爛れてますね」
そう言うとドクターはカメラを抜き診察を終えた。
カオリは軽いマロリーワイス症候群(嘔吐の繰返しによる胃散刺激、熱いものを飲み込んだときなどに見られる食道のただれ)になっていた。
血液検査の結果もよくなかった。
ケトン体の数値が通常より少し高かった。
ケトン体とは脂肪の代謝産物であり、糖が不足すると体が脂肪をエネルギー源にする。
食べても嘔吐してしまえば体は糖不足になる。
「とりあえず明日から独房に移りましょう」
「はいっ…ありがとうございます」
ドクターは診断書を書いてくれた。


その頃、ユミは妊娠後期の妊婦たちとグラウンドにいた。

イチ、ニ、サン、シー――、―
ゴー、ロク、シチ、ハチ―――
ピアノの音と共に聞きなれた掛け声が響き渡る。

彼女たちは体重管理のため、午前中にラジオ体操と30分ほどのウォーキングが義務付けられている。
無理のない範囲だが、後期になると食欲も戻り、血圧も高くなりがちなため、適度な運動が必要になる。
刑務官が監視のもと、決められたメニューをこなす。
やる気のない者、体重管理が思わしくない者は午後の自由時間がこれに充てられる。

7名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:47:55 ID:tPxOzVD60
12:00になると昼食の時間だ。
朝食同様の形式で、皆が決められた部屋に集まる。
食事の際の私語は禁止である。
昼食の後は30分時間ほどの昼休みが与えられる。

午後は労役の時間になる。
懲役が課せられてる者、出産のノルマをクリアして残りの10ヶ月を過ごす者達は、労役が義務になっている。
妊婦はもちろん体調を考慮して働くことができる。
働いた分は時間給にして数十円と僅かではあるが、出所の際に給与として受けとれるのだ。
労役は社会復帰も目的としているため、余程のことがない限りはきちんと
働かされる。
作業中は刑務官が目を光らせていた。

作業は主に洋裁や細かな部品作り、印刷といった内職である。
中にはパソコンを使った入力、経理的な仕事もあるが、こちらは学歴や職歴で選別されるので誰でもできるわけではない。


ユミはなんとこの経理の労役に就いていた。
殺人を犯す前は高学歴のエリートだったらしい。

カオリは洋裁の労役に就き、ミシンを操っている。
ちゃんと社会復帰がしたいため、なるべく休まないようにしていた。
座ってできる作業なのでさほど辛くはなかった。

作業をしていると近くに居た受刑者が手をあげる。
私語は厳禁なため、何かあれば手をあげ刑務官を呼ぶ決まりになっている。
彼女のもとに刑務官がやって来て用件を聞く。
「……トイレに…行かせてください…」
口を手で覆っていて、声を出すのもやっとの様子。
彼女も吐き悪阻のようだ。
「いいだろう」
背中を丸め、刑務官が付き添い外へ出て行った。
このような光景は日常茶飯事だ。

また眠気悪阻で作業中にウトウトしてる者がいるが、刑務官が肩を叩いて起こすのみで決して責められる事はない。

8名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:48:25 ID:tPxOzVD60
労役の後は一時間ほど自由時間が与えられている。
前述した追加で運動を課せられた者たちは、この時間に再びグラウンドに集められる。

カオリは独房に移るために荷物をまとめていた。
そこへユミが戻ってきて声をかける。
「あら、お引っ越し?」
「はい。悪阻が酷くて…明日から独房に移ることになったんです」
「そう、大変ね。しばらく寂しくなるけど、これを期にしっかり体調を整えた方がいいわ」
「はい、ありがとうございます」
ユミと離れるのはカオリも寂しかったが、体調が回復すればまた同じ部屋に戻ってくることができる。


18:30には夕食の時間だ。カオリは梅干しのはいったお粥とマリネ、焼き魚にレモンを絞って食べた。
普段よりは食べられた方だ。

夕食の後は入浴だ。
初期の妊婦は一日置きに、後期の妊婦は汗をかきやすいため毎日入ることができる。
ただし、一人20分と持ち時間が決められており、刑務官の監視のもとであるためゆっくりもしていられない。
その後は就寝時間まで自由時間である。


カオリは部屋に戻り残りの荷物をまとめ、軽く部屋の掃除をした。
本来部屋の清掃は起床後に行うのだが、翌日から独房に移るため自分の役割は済ませていこうとしたのだ。
三つ子で大きなお腹のユミにすべてをさせるわけにはいかない。
「気にしなくていいのに。でも、ありがとうカオリちゃん」
「いえいえ、これくらいの事!」
「カオリちゃんが戻ってくるまでちゃんと待ってないとねー!」
ユミは腹を撫でながら胎児に話しかけた。
カオリが安定期に入るまで少なくとも2ヶ月。
その頃ユミは9ヶ月〜臨月に入っているだろう。 予定通り生まれてくることを願っていた。
「ふふふっ………うっぐぅ!」
ユミを見て微笑んだのも束の間、カオリは突然強烈な吐き気に襲われた。
「お゙ぇ゙え〜〜っ…うっく…げっ…うげぇっ」
洗面台に突っ伏し嘔吐した。
「カオリちゃん!大丈夫!?」
ユミは慌ててカオリの背中を擦る。
「げほっ…げぇっ…ゔぉえぇっ…」
カオリはみぞおちを押さえ、まるで胃がひっくり返ったかのように激しく嘔吐し続けた。

9名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:48:51 ID:tPxOzVD60
ようやく治まるとユミに支えられ、布団になだれ込んだ。
「うぅ…スミマセン…」
「いいのよ!気にしないで!それにしても酷いわね…」
ユミは自分の経験上、点滴処置に至るのではと思った。
「今日はもう休みなさい。掃除くらい私だってできるから、心配しないで」
「はい…ありがとうございます…」
カオリはそのまま落ちるように眠りについた。

―――翌朝。
今日も起床のチャイムが鳴り響く。
カオリとユミは同時に目を覚ました。
「うっ…」
カオリは例のごとく吐き気に襲われる。
しかし昨晩、激しい嘔吐でユミに余計な心配をかけてしまったため、ここはどうにか堪えた。
「カオリちゃん、大丈夫?」
「はい。今日は大丈夫そうです」
ユミはほっとした顔をした。
起きあがり布団を片付けていると、毎朝の点呼の時間がやって来た。
刑務官の呼び掛けに返事をする。
「10号室よし!そして520番、本日より独房へ移動となる。準備ができ次第、声をかけるように」
「わかりました」
それだけ言うと刑務官は次の部屋へ向かった。


支度を済ませ、10分後にカオリは刑務官に声をかけた。
刑務官がカオリの荷物を持ち誘導する。
部屋を出る際にユミが声をかけた。
「まってるわね!」
「はいっちゃんと元気になってきます!」
そして互いに手をふった。

刑務官に案内され、独房エリアにはいった。
このエリア担当の刑務官に引き継ぎがされる。
そのときに昨日書いてもらった医師の診断書も渡した。
独房に入るにはこの診断書が不可欠だ。

26号室の札がつけられた部屋に案内された。
通常の部屋より少し狭いくらいの空間だが、一人ならこれで十分だ。

すると刑務官がやって来た。
トントンとドアをノックする。
「520番!入りますよ」
「はい」

10名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:49:13 ID:tPxOzVD60
扉を明け、刑務官が入ってくる。
その手にはスポーツドリンクが入った袋を持っていた。
「医師の指示です。嘔吐による脱水と低血糖を防ぐために飲むようにと。また必要になったら声をかけなさい」
「あ…ありがとうございます」
独房ではこういった配慮もうけられる。


しかし独房に移ったものの、カオリの悪阻は次第に悪化していった。
ここへ来てから2週間ほどが経ったが、吐き気で動けずに床に伏してる日が度々あった。
食事もまともに取れず、そういったときに刑務官が医師の指示でゼリー飲料やお粥を持ってきてくれるが、それさえ戻してしまう。
「ゔぅ〜……気持ち悪いっ…」
枕元に置いてある洗面器に手を伸ばす。
「うぷっ…げぇぇっ…」
体を起こすのも辛く、近くに洗面器を常備してそこに嘔吐するほど。

あまりにも酷いため、刑務官の判断で点滴を行うことになった。
カオリはあれほど点滴だけは嫌だと思っていたのに、死活問題とあらば仕方がない…。
刑務官と医療棟に勤務する看護師が迎えに来た。 「520番、歩けますか?無理とあらば車イスを用意しますが」
カオリは首を横にふる。 「いいえ、大丈夫です。歩けます」
そう言うとゆっくりと体を起こした。
タオルを口に当て、看護師に支えられながら医療棟へとやって来た。


鉄格子の前まで来ると、先導してきた刑務官と門番をしている刑務官とで確認を取り合った
「520番です。重度の悪阻のため点滴処置を行います」
「520番。了解」
門番が鉄格子の鍵を開け、ガラガラと扉が開く。
門を潜るとすぐ近くにある更衣室に通され、身体検査も兼ねた着替えを行う。
「こちらではこれを来てください」
看護師と医療棟の刑務官と二人で囚人用の衣服を脱がし、替わりにガウンを着させる。
そして患者の取り違えを防ぐため手首にタグを着けられた。
その間にもカオリは何度も吐きそうになりながら必死でこらえていた。

11名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:49:46 ID:tPxOzVD60
身支度が整うと医療房へと案内される。

この医療棟は通常の出産と、妊婦の様々な症状の治療を行う。
医療房への途中にいくつかの部屋があり、表札には陣痛室とあった。
中から女性の唸り声が漏れていて、陣痛に耐えてるのが伺える。

すると大きなお腹を抱え、手摺を掴み唸っている幼い妊婦がいた。
それはなんとサヤだった。
「痛い〜痛いよぉ〜!生まれちゃう〜〜っ」
「はいはい、分娩室はもうちょっとだから我慢してくださーい」
今正に出産の時を迎えていたのだ。
分娩室に向かう途中で付き添いの看護師になだめられていた。
「サヤちゃん!?」
カオリが呼びかけると、痛みに顔を歪めながらもこちらを振り向く。
しかし…
「520番!」
「はっ…スミマセン…」
刑務官から注意される。
医療棟も当然、刑務官の監視下は私語禁止なのだ。
サヤの方には刑務官は付いていない。
「カオリちゃんっ…お先に…頑張ってくるよ…!はぁ…」
カオリは振り返り、「頑張って」の気持ちを込めてガッツポーズをつくって見せた。


少し歩くと医療房のエリアに入る。
ここではカオリのような重度の悪阻や切迫流産、切迫早産、妊娠高血圧症などの治療、管理を行う。
その他にも精神疾患を抱え、医師や看護師の監視下におく必要のある妊婦がいる。
ここで対処ができない場合は医療刑務所に搬送される。

部屋の一室に通されると、刑務官は共に付き添ってきた看護師に「あとはよろしく頼みます」と言い部屋を出ていった。

4人部屋のようだが人が使っているのは1つ。
カオリが入室すると二人だ。
「こちらのベッドを使ってください」
窓際のベッドに案内された。
先住の妊婦と向い合わせだ。
カーテンで姿は見えないが、咽く声が聞こえる。
彼女も酷いつわりで点滴を受けてるのだろうか……

12名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:50:07 ID:tPxOzVD60
ベッドに座ると看護師から説明が始まる。
「点滴をしながら今日一日、こちらで安静にしていただきますね。トイレは自由に行っても大丈夫ですから」
ベッドの隣に輸液のセットがすでに用意されていた。
看護師はカオリの腕に針を刺し、点滴のパックにチューブを繋げる。
そして輸液ポンプにチューブを挟み、時間や流量の設定を完了させた。
一つ一つ確認を済ませると、
「何かあったらこちらのナースコールで呼んでください」
そう言い残し看護師は出ていった。


「……もう大丈夫?」
カーテンの向こうから、付き添いの看護師と思われる声がした。
しばらくするとカーテンが少し開き、洗面器を持った看護師が出ていった。
「あ…」
目に入ってきたのはまだ幼さが残る少女の姿だった。
サヤと同じくらいと思われる。
色白で細く、伏し目がちで儚げな美少女だ。
お腹が目立ってないところを見るとまだ妊娠初期であることがわかる。
そして腕には多数の切り傷の痕があった。
「あの…私、カオリって言います。よろしく…」
カオリの方から挨拶をした。
「…レイナです…」
思いがけず返事が帰ってきた。

彼女はレイナ(18)
カオリと同じようにここへ来て半年ほどだ。
レイナは放火と殺人未遂という、その姿からは想像もつかない罪を犯していた。
なぜそんな事をしたのかというと、彼女の両親は非常に教育熱心で、彼女の姉と共に幼い頃より厳しく指導していた。
両親の期待も大きく、その期待に答えようと必死に勉強していた。
しかし高校受験に失敗して精神を病み、リストカットを繰り返すようになった。
いつしか負の感情が両親への憎しみに変わってしまい、それが爆発したのだろう。
精神向上薬を大量に飲み、トランス状態で自宅に放火してしまったのだ。
幸い両親と姉は無事であったが、レイナは両親への殺意があったことを証言した。
心神耗弱が認められ彼女に下された判決は懲役8年、出産ノルマは4人だ。

13名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:50:29 ID:tPxOzVD60
現在は少年法と同様に法律が改正され、刑法から心神喪失者を罰しないという項目は撤廃された。
同じような心神耗弱者の罪は軽減されるという項目は残ってはいるものの、よほどの事がない限りは適応されない。

レイナは現在、妊娠4ヶ月でカオリのように悪阻に苦しんでいた。
彼女は精神疾患を抱えていて医師の監視下におく必要があるため、当初からずっと医療棟に収監されている。
普段は独房にいるが、この日は点滴を行うために大部屋に来たのだ。


カオリはレイナの腕を見て胸が締め付けられるような想いに駆られた。
(どんなに辛い想いをしてきたことだろう……)
すると思いがけずレイナの方から話しかけてきた。
「あの…カオリさんはどうして医療棟に…?」
「つわりがひどくて…この通り!」
カオリは苦笑いをしながら点滴のルートを繋がれた腕を見せた。
「私と一緒だ。私も吐いてばかりで…しんどいですよね…」
「うんうん!」
互いに苦しみを分かち合った。


その頃―――

分娩室ではサヤの出産が終盤に差し迫っていた。
「ゔぅぅ〜〜んっ!ゔぅぅあ゙ぁぁっ!!」
ベッドの手すりを握り締め必死にいきんだ。
膣からは胎児の頭が見え隠れする発露の状態だ。
すでに破水もしている。
「はぁっはぁっ…あ゙あ゙あ゙痛いぃぃ!!」
「はいっ頭見えてるからねー!」
「あ゙ぁんっ…あ゙ぁぁうぅぅぅ〜〜!!んんぅぅぅ!!はぁっ…はぁっ…」
サヤは助産師の声に従い息み続けた。
「んんんーーっ……くぅぅあぁぁっ!!」
「上手ですよーっその調子!」
しばらくするとまだ未熟な会陰を広げ、胎児の頭部が徐々に姿を現した。

14名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:50:58 ID:tPxOzVD60
サヤの陰部は裂けてしまいそうなほど、ギチギチに押し広げられ真っ赤になっている。
胎児の頭は会陰にかっちりと嵌まり、分泌液を滴らせながら露になってきた。
もう排臨まで至っている。
「いっ…んぁぁぁ!!!痛い痛いっ!痛ぁーいぃぃ!!ああああっ!!」
「いきまないでー!もう出てくるよーっ」
「はぁっ…早く出してぇー!!ぁあああっ!!!」

ズボッ…プシャッ…

頭と共に羊水が噴出した。
「頭出たよ!あとひといき!」
「ぜぇ…はぁっ…うぅんんっ……んぐぅぅぅぅ!!」
サヤは最後の力を振り絞りいきむ。

ズルリっ――ジョバァッ……

……ふぁ…ふぎゃあっ…んぎゃあぁ…

分娩室に産声が響き渡る――

「はーい。産まれたよ!」
助産師は赤ん坊に付いている血液や胎脂を拭き取ると、サヤの胸元に渡してくれた。
「産まれた…私…ちゃんと産めた…っ」
サヤは赤ん坊を抱き締め、瞳からは涙が溢れ出た。
出産の疲労を一瞬で吹き飛ばしてしまう程の感動に包まれた。

しかしその喜びは長くは続かない。
助産師や医療スタッフ達も決して「おめでとう」とは言わない。
冒頭で述べたように、受刑者の産んだ子供は政府が引き取るのだ―――

15名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:51:27 ID:tPxOzVD60
午後――
カオリは昼食で出されたお粥を食べ終わり、ベッドでうとうとしていた。
点滴もかなり消費し、そろそろ終わる頃になっていた。
レイナのところには担当の看護師が来ている。
数種類の薬を持ってきてた 。
ここでは薬の乱用や故意に飲まない事を防ぐために、看護師が決まった時間に決まった量を持ってくる。
「レイナちゃん、ご飯は食べられた?」
「はい。今日は食べられました」
「そう、よかった。じゃあこれ飲みましょう」
レイナは素直に渡された薬を飲み、看護師がしっかり確認をとる。
「全部飲んだね!それじゃあ検診に行こうか」
そう言うと看護師はレイナの手を引き部屋を出ていった。
どうやら定期検診のようだ。
医療スタッフの出入りがなくなると刑務官が病室の鍵をかけ、外で監視を行う。
医療棟といえども厳重な管理体制になっている。

1時間ほど経つと、レイナが看護師と共に戻ってきた。
自分のベッドに入ると、看護師は点滴の準備をしに部屋から出ていった。

するとレイナはカオリに話しかけてきた。
「カオリさん…今検診にいってきたんですけど、赤ちゃん双子なんですって」
レイナは特に多胎を望んだわけではなく、自然に双子を妊娠していたそうだ。
「へぇーっスゴいね!自然に双子だなんて!」
「スゴいんですかね……?」
レイナは少し複雑そうな顔をした。
(嬉しくないのかな…?)
確かにここでの妊娠、出産は喜ばしいものではない。
しかしノルマを達成すればその分早く出所できるのだが―――

16名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:51:52 ID:tPxOzVD60
カオリが点滴治療をはじめてから二週間程が経った。
時折レイナと同室になることもあり、顔を会わせれば他愛もない会話をした。

ある日カオリは点滴もなく体調もよかったので、午前中の自由時間に久しぶりにプレイルームに行くことにした。
カオリは部屋に入ると、
「……あっ!」
真っ先に目に入ってきたのはサヤの姿だった。
プレイルームの片隅で浮かない顔をしながら胸を揉んでいた。
カオリはサヤの元に近付く。
するとサヤもそれに気付いて顔をあげた。
「あっ!カオリちゃん!」
「久しぶりだねサヤちゃん!」
出産してすっかり引っ込んだお腹とは逆に、胸は二倍はあろうかという大きさに膨らんでいた。
カオリはサヤの隣に座る。
テーブルにはサヤの番号が符られた搾乳器が置いてあり、カオリはサヤが無事に出産したことを悟った。
「あの後無事に生まれたんだね!」
「うん!なんとかねー。カオリちゃんは何であそこにいたの?」
「ああ、私は悪阻が酷くて点滴だったんだよ」
カオリは苦笑いをした。
「それは大変だったねぇ!」
そう言うとサヤは手を止め、パンパンになった胸を露にする。
そして搾乳を始めた。


「赤ちゃんにあげるの?」
「うん…」
サヤは再び浮かない顔をした。

聞けば出産後、母体の回復も兼ね一週間ほど医療房で新生児と共に過ごすのだが、我が子に直接母乳を与えられるのはこの間だけと言うのだ。

それ以降は子供は医療棟の新生児センターでスタッフにより手厚く管理され、受刑者は産後の肥立ち応じて通常の部屋に戻される。

新生児に母乳は必須なのだが、別々になってからは母親が搾乳をした母乳を医療棟に届ける仕組みになっている。
それが最低でも一ヶ月は続くのだ。
「自分で生んだ赤ちゃんにおっぱいもあげられないなんて…」
サヤはそう呟きながら搾乳を続ける。

17名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:52:20 ID:tPxOzVD60
「サヤちゃん…」
「私ね、赤ちゃんが生まれた瞬間は本当に嬉しかったんだ。おっぱいあげてる間も。普通に暮らしてたらずっと嬉しいままだったんじゃないかなって思う」

以前のチャラチャラしていたサヤとは違い、はすっかり母親になっていた。
カオリは何となく自分のお腹に手を当てる。
今は悪阻も酷く、何より刑罰で子供を宿している。
喜びなんて微塵もない。
しかしいざ生んでみると
サヤのような気持ちを味わうのだろうか―――

そうこうしているうちに哺乳瓶がいっぱいになった。

「よしっ赤ちゃんのところに行ってくるね!」

サヤは乳房をしまうと哺乳瓶をもって手を振りながら部屋を出ていった。

カオリはふとユミのことを思い出した。
(ユミさんはどんな気持ちをなんだろう…)


思い切って、ユミを見つけたカオリはその疑問をぶつけてみることにした。
たまたまだが、おいてあった育児書を読んでいるようだ。
「私がこんなところにいる理由が理由だから、ね……私は、私の産んだ子が幸せになってくれればそれでいいの。たとえお母さんだって名乗れなくても、それでいいの」
どこか狂気を、それでありながら寂しさと優しさを併せ持った目でユミは語った。
この人は、もう心をその時においてきたままなのだと。
流産した子を、いつまでもいつまでも生みなおそうとしているのだと。
カオリは、これ以上は自分の聞けることではないと思って、礼を言い立ち去った。


ここで生まれた子供たちはと言うと、生後3ヶ月を迎えた頃に政府が運営する保育施設に移さる。
その後は成長段階に応じ更に上の施設で生活をするのだ。
子供の管理を行うのも選りすぐりの人材で、何不自由ない生活を送れる。
教育機関に入ってからは英才教育を受け、様々な方面で活躍している。

カオリはオリエンテーションで説明されたことを思い出した。

もしそれが本当ならば、自分が育てるよりかはずっといい。

ユミの“自分が生んだ子達が幸せなら”という言葉がなんとなくわかった。

18名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:52:44 ID:tPxOzVD60
翌日、カオリは昨晩から再び嘔吐を繰り返すようになったので、点滴を受けるために医療棟のベッドに横たわっていた。 すると隣のベッドにレイナが連れてこられた。
彼女も点滴を受けるようだ。

「カオリさん、いらっしゃったんですね」
「あ、レイナちゃん。今日も一緒だね」
知った顔がいると安心する。

レイナを担当する看護師が道具をもって現れる。
すると点滴を始める前にレイナに問いかけた。
「レイナちゃん、お父さんとお母さんが面会に来てるそうなんだけど…どうする?」
「お父さん、お母さん…!?」
するとみるみる内にレイナの表情が険しくなってきた。
「何しに来たの!?ふざけないで!会うわけないでしょう!?」
突然人が変わったかのように叫んだ。
そして別途から立ち上がり枕を床に投げつける。
「会いたくない!帰って!!!帰ってよぉぉ!!!」
頭をかきむしり泣き叫ぶ。
担当の看護師と、声を聞き付けた他のスタッフが宥めようとレイナに近づく。
「うぐぅっ……げぇぇぇぇぇっ、ゔぉえ゙ぇぇぇっ、げぇっ…」
元々悪阻が酷いのに興奮しすぎたのか、突然激しく嘔吐した。
看護師達が背中をさすり、レイナをどうにか落ち着かせる。 レイナは泣きながらゲェゲェと嘔吐し続けた。


「レイナちゃ…」
カオリもレイナをなだめようと体を起こすも、看護師に制止された。
「あなたは安静にしててください」
「あ…」
そして騒ぎを聞きつけたドクターと刑務官が現れた。

「うぅ…うえ゙ぇぇ……ゲホッ…ゲホッ…」
ようやく落ち着くと、 看護師や刑務官に支えられ別室につれていかれた。

(レイナちゃん…)

レイナの負の一面を目の当たりにし、両親への憎しみが相当なものだと感じた。
カオリは切ない気持ちになった。

19名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:53:33 ID:tPxOzVD60
それから数日間、やはり安静でいることが多いカオリは、経験を元に考え込む事が増えた。
(同じ刑務所にいても、家族に対する考え方ってこんなに違うんだ……)
そう深く考えているうちは、自分のつわりも多少治まっているような、そんな気分になったからだ。
それを知ってか知らずか、つわりが収まったのは平均的な時期より少し遅い、妊娠24週ごろになっていた。

つわりが治まったにも関わらず、彼女はまだ医療房にいた。
酷いつわりで食事を摂りづらく、点滴などでも限界があったからだろうか。
彼女は、貧血に悩まされ鉄剤の点滴を受ける生活が続いていたのだ。
そんな彼女のベッドの横に、一人の囚人が入ってきたのは3日前のこと。
ユミよりも大きなお腹に監視用らしき機械をぐるぐる巻きにされ、両手足は拘束されており、拘束バンドからは更に何本も点滴の管が伸びている。
医療刑務所に行かないのが不思議なぐらいの、ハイリスク状態なのが見て取れた。


彼女はサエコ(46)
彼女もユミと同じ三つ子を妊娠しており、もうすぐ臨月に入るため大きなお腹をしていた。
年齢から見てとれるようにかなりの高齢出産だ。
医療が発達した現代とはいえ人間の本質は変わっていない。
彼女くらいの年齢になると、とんでもないリスクが伴う。
しかしサエコには他にも理由が有るようだった。

彼女がここに収監されたのは6年ほど前の事だった。
彼女は当時シングルマザーで、中学生になったばかりの娘と二人で暮らしており、そして交際していた男性がいた。
段々と仲が深まるにつれ、男性が部屋に出入りすることも多くなっていった。
娘もその男性のことを受け入れてくれた。
しかしそれが間違いだった―――

ある日、仕事が遅くなり早足でアパートに帰ると男性の靴があった。
当然ながら娘の靴もある。
なのに家の電気は付いていなかった。
サエコはここで初めて不信感を抱く。
奥の寝室から物音を感じ、ガラリと引き戸を明け電気を付けた。
サエコは目に飛び込んできた光景に絶句した。
ガムテープで口を塞がれ、涙で顔がぐちゃぐちゃになった娘

その娘に覆い被さる男性。
乱れた娘の衣服に無造作に投げられていた下着…。
―――そう、男性は娘をレイプしていたのだ。

20名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:54:11 ID:tPxOzVD60
サエコは一心不乱に男性を薙ぎ払い娘を抱き起こす。
貼られたガムテープを剥がすと、娘の目からは更に涙が溢れる。
「お…母さん…ごめ…」
娘は震えながら声にならない声で謝ろうとした。
するとこの男はニヤニヤしながらこの母娘に卑猥な言葉を投げつける。
サエコはもう我慢ならなかった。
自分への裏切り、娘の陵辱…その怒りが一気に爆発し、台所から包丁を持ち出した。
そして母親の本能だろうか、娘に見せないよう部屋から放り出し、男を滅多刺しにし殺害したのだ。
男は幾度となく娘をレイプしていたが、娘はサエコに言えずにいた。
この男からの金銭的な援助もあり、そして母が知ったら悲しむだろうと押し殺していたのだ。
サエコは男を殺害した後、自らも命を絶とうとしたが娘に必死に止められ、そこでやっと冷静になった。
そして自分から110番通報したのだった。

裁判では男性の極悪非道さと、娘の「母が自分を守ろうとした結果だ」と涙ながらの訴え、そして自ら出頭したことが認められ、懲役は9年・出産ノルマは6人の刑が課せられた。


年齢を考えれば、どちらも危険きわまりない。
だが彼女は、それでも妊娠を選んだ。
6人出産できれば、それで刑期は満了。
回復さえすれば帰れるからだ。
その結果がこの状態で、医療房から出られる可能性はまずないだろう。
実際、医療刑務所から戻ってきたばかりなのだ。
拘束されているのも、体を動かすことさえ危険があるから。
そんな状態なのに、サエコの心は折れていなかった。


サエコはカオリに娘の話をした。
「娘は今、5年一貫校で看護師を目指しているんです」
サエコの娘は看護コースのある全寮制の高校に進学した。
もともと看護師志望ではあったが、一刻も早く母と暮らしたいとこの高校を選んだ。
学校が休みになると
サエコと面会をしにあしげく顔を出していた。
「こんな事にならなければ普通の高校にいって、友達と楽しい学校生活が送れたんでしょうけど…私には勿体ないほどの娘ですよ」

21名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:54:41 ID:tPxOzVD60
サエコはここに収監されてから過去に1人、その後双子を出産している。
現在妊娠している三つ子を無事に産めば、その後の10ヶ月の懲役をこなすだけ。
その頃には娘も卒業を迎える。
その希望を胸に今回は三つ子を出産することにしたのだ。

双子を出産して以降、高齢と言うこともありなかなか妊娠せず、医師は年齢を考慮して1人ずつの人工受精を行ってきた。
しかしサエコの強い希望で三つ子に切り替えたら、天の恵みか見事に妊娠が成立した。

今でも双子を含め多胎妊娠に安定期は無いと言われている。
長く辛い悪阻にも耐え、後期は常にモニターやら点滴やらに繋がれ不自由な毎日を送っていた。
その上できるだけお金を貯めようと、体調のいい日はきちんと労役に服した。
全ては娘のため…。

カオリはサエコ母娘に感服した。
守りたいものがあるとこんなにも強くなれるのだ。


ベッドが隣同士ということもあり、会話することも多い二人は、あっという間に仲良くなっていった。
そして、ある日の深夜。
カオリはふと目を覚ますと、なんとなくサエコの方をみた。
「うう……!」
呻き声が聞こえ、もしやとカオリは声をかける。
「サエコさん!?」
深夜故、見回りの看守はいない。
決心して、カオリはサエコのナースコールをならした。

「325番に陣痛あり、とのことできました」
深夜、医療房が慌ただしくなる。
「搬送は難しそうだな……」
カオリが状況を話す中、隣では準備が進められている。
「やるしかない、ようです」
そしてなんと
サエコは今ここで出産する事になってしまったのだった。

22名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:55:06 ID:tPxOzVD60
すぐさまサエコに陣痛測定器が付けられ、助産師が胎児の心音を確認し出した。
カオリは医師から別室に移るよう指示があった。
通常の陣痛室から分娩室への移動ができないため、この部屋に様々な器材が運び込まれる。
サエコは高齢出産の上に妊娠高血圧症を合併しており、高い確率で帝王切開になるだろう。
スムーズにオペ室に運び出せるよう、邪魔になるものは全て他の部屋に移す。
カオリもベッドごと隣の部屋に移動させられた。
「サエコさん…!」
後ろ髪引かれる思いでサエコの方を見た。

「ふぅうぅぅーんっ……あああぁっ…」
大きな腹をさすり、苦悶の表情を浮かべていた。

隣の部屋に移されてからもサエコの事が気になって仕方がなかった。
かすかではあるが、サエコの部屋からスタッフの声と、サエコの苦痛に耐える悲鳴混じりの声が聞こえる。
「ああぁっ…痛い痛い……」
しばらくすると、隣の部屋が慌ただしくなった。

「先生……血圧が……心拍数○×…」
「……だ…カイザーに…!!…至急オペ室に……」

サエコに何かがあったのは素人でもわかった。
(サエコさん…!!)
カオリは体を起こし隣の部屋の様子をうかがう。
心臓がバクバクと鼓動する。
「…う…うぷっ…」
突然強烈な吐き気に襲われ、そばにある膿盆に手を伸ばす。
「うっえ゙ぇ…おええぇっ…おえ゙えぇっ」
極度の緊張からか嘔吐してしまった。

その間にもバタバタと隣の部屋からはスタッフのざわつく音が響く。
数分するとすっかり静まり返ってしまった。

おそらくサエコは帝王切開になりオペ室に運ばれたのだろう。
カオリはサエコの無事を祈るしかなかった。

結局一睡もできず翌朝を迎えた―――

23名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:55:31 ID:tPxOzVD60
それからサエコの姿を見ることはない。
どのようになったにせよ、出産した以上は身柄を医療刑務所におくられるのだ。
分からないのは、当然だった。

それが不安でたまらないカオリにとって助けになったのは、またしてもユミであった。
いよいよ臨月となった彼女だが、まだ生まれそうにない。
本人が落ち着いているのもあり、不安がる香りをなだめ、落ち着かせるかのようにいろんな話をしていたのだった。


カオリは数日前から通常の部屋に戻っていた。
以前と同じユミと同室だ。
カオリも5ヶ月が経ち大分お腹も目立ってきた。

午前中の自由時間、ユミは妊娠後期に課せられているラジオ体操とウォーキングに出掛けていく。
「あなたもそろそろ参加させられると思うわ」
そう言って呼びに来た刑務官に連れられ部屋を出ていった。

カオリは安定気に入ったとはいえ、独房から戻ってきたばかりなのであと数日は自由な時間だ。

プレイルームでぼんやりしていると、
「カオリちゃん!」
振り向くとサヤが立っていた。


「サヤちゃん!」
「よかった!会えて!」
そう言うと隣に座り、搾乳を始める。
「どうかしたの?」
「私ね、明日出所するんだ!だからここに来るのは今日が最後なの」
「そっかぁ!」
サヤは2ヶ月ほど前に1人出産し、ノルマが終わっている。
軽犯罪で懲役が課せられていないため、赤子に母乳を与える期間が終われば晴れて自由の身なのだ。
「おめでとうサヤちゃん!」
「ありがとう!赤ちゃんにおっぱいあげるのも今日で最後だ…」

24名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:56:01 ID:tPxOzVD60
サヤの顔は笑顔ではあるものの、やはり子供と離れてしまう寂しさが滲んでいる。
「私もう悪いことはしない。ちゃんとバイトして彼氏つくって…。好きな人と結婚して、赤ちゃんができたら今度はちゃんと育てたいんだ」
カオリはうんうんと相槌をうつ。
サヤの目はしっかりと前を見ていた。
そうこうしていると哺乳瓶がいっぱいになった。
すっと立ち上がりカオリの方を向く。
「カオリちゃん、またどこかで会えたら仲良くしてね!」
「こちらこそ!元気でね!」
互いに手を振り、サヤは医療棟へ向かった。

(なんだか寂しくなるなぁ…でも良かった)
そして翌日、何事もなくサヤは出所していった。
ここで出産をし、務めを全うして出所していった女性たちは
、ほとんど戻ってくることはない。
母親の本能であろうか…子供を手放さなければならない辛さがあるためだと思われる。
この政策は再犯率の低下と言う効果も生み出したのだ。


それから数日後……
ある日の晩の事。
「うーん…気配がないなぁ」
ユミは大きな腹を撫でながらぼやいた。
「どうしたんですか?」
どうやら予定日を過ぎているのだが、生まれる気配がないらしいのだ。
「今日で一週間経ってるから、明日の朝になっても陣痛が来なかったら促進剤ね」
「促進剤…ですか」
ユミのような多胎の場合、胎児が大きくなりすぎると母体、胎児共にリスクが高くなるために、予定日を一週間ほど過ぎると促進剤を使い出産させるのだ。

翌日―――
案の定ユミに陣痛が来ず、促進剤を使い誘発することになった。
朝食後、刑務官が迎えに来た。
「ユミさん、がんばってください!」
「ええ!」

(三つ子だなんて大変なんだろうなぁ…)

ユミが出ていったあと、プレイルームで本を読みながら考えた。

25名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:56:28 ID:tPxOzVD60
その頃ユミはバイタルチェックを終え、医療房に通された。
お腹には測定器がつけられ、陣痛促進剤の投与が始まる。
「15分感覚になったら陣痛室に移りますので」
「わかりました」
陣痛がある程度進行するまでは通常のベッドで過ごす。
看護師がモニター等のチェックを終えると、何かあったら呼んでくれと言い残しカーテンを閉めていった。
「ふぅ…」

(いよいよか…)

ユミはため息をつく。
彼女は過去に1人を3回、双子を一回の4回の出産を経験し今回が5回目。
毎度のことながら産みの苦しみとは慣れないものだ。


促進剤が投与されてから一時間ほどが経った頃…。
「んっ…」
ユミは腹に鈍い痛みを感じ手を当てる。

(来たわね…)

ついに陣痛が始まった。
じわじわと生理痛のような痛みが来ては治まりを繰り返す。
「んぁっ…ふぅぅ〜〜…」
ユミはモニターの時間表示を見るが、感覚はまだ大きい。
経験上、痛みも全然序ノ口だ。

しかし促進剤の効果は徐々に現れ、どんどん痛みが増していく。
「いっ…痛たたたっ…ふぅぅっ、ふぅぅぅ〜っ」
やはり通常のお産より進行が早い。
さすがのユミもこれには驚く。
「はぁっ…んああぁ…ふぅっ!ふうぅぅっ!はぁっふうぅっ!」
呼吸が荒くなり、痛みを紛らわせるため枕を抱き込んだ。
すると助産師が様子を見にやって来た。
モニターはナースステーションで連動しており常にチェックできる。
「147番、いかがですか?」
「もう…結構痛いです…!」
それではと助産師は子宮口の開きを確かめる。
まだ3cm程ではあるが、陣痛の感覚は順調に縮んでいる。
「少し早いですが陣痛室に移りましょうか」
「はい…っ」
ユミは助産師に促され陣痛室へと歩き出す。

26名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:56:55 ID:tPxOzVD60
健康な妊婦であるため、移動は基本的に自力で歩くのだ。
「んぐっ…うぅぅ〜っ…」
波が来るたびに立ち止まり腹を抱える。
助産師はゆっくりでいいからとユミに付き添った。
陣痛室に入ると、一般の部屋と同様にモニターが付けられた。
波形は10分間隔にまで進行している。
陣痛室は基本的に個室なので自由に動ける。
ユミは痛みを紛らわすために、壁にもたれ掛かり腰を揺らした。
陣痛が始まってから3時間程が経ったであろうか。
間隔はあっと言う間に5分まで縮まっていた。
ユミはベッドに四つん這いになり枕に顔を埋める。
痛みは腰にまで及び、じわじわと骨盤付近に胎児が降りてきてるのが分かる。
「ふうぅ〜〜っふぅ〜〜っ!はあぁぁぁっ」
額には汗が浮かび、眉間にシワが寄る。
「ひっひっふぅぅ〜〜っ、ひっひっふぅぅ〜〜!いったぁ〜いぃぃ!はぁっ…はぁっ…」
助産師が腰をさすりながらユミに呼吸を促した。
そして再び子宮口の触診をすると、6cm程まで開いていた。
「いいペースで進んでますよ」
「ほ…本当ですか…ううぅんっ…あああぁ…」
返事をするのもやっとだ。

27名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:57:29 ID:tPxOzVD60

そしてすぐに陣痛の間隔はなくなり、痛みも最高潮だ。
必死に腰を動かすが気休めにもならない。
子宮壁は三つ子の入った狭い空間を容赦なく圧迫する。
「ああぁんっ…ふうぅぅぅぁぁっ!はぁっ、はあぁ!」
ユミは喘ぎながら下腹をさする。
助産師が腹をさわり確認すると、下腹が大分固くなっていた。
痛みの場所もだんだんと下に移ってきたようだ。

陣痛が始まってから4時間、痛みに変化が現れた。
「うっ…うあぁっ…ああ゙あ゙あ゙あっ!」
自然と下半身に力が入る---。
いきみの衝動だ。
「あ゙あ゙あ゙っ!痛いぃぃ!」
ユミは腹を抱え尻をつき出す。
すると…

バシャシャッ--

ユミの股からは液体が流れ出た。
「あ、破水しましたね!」
すかさず助産師が子宮口を触診する。
8cmまで開いていた。
胎児も子宮口のすぐ傍まで降りてきているようだ。
するとユミは耐えきれず声をあげる。
「いっ…いきみたいぃぃっ!」
そして腹に力を入れようとする。
「いきむのはまだ我慢してください!少し早いですが分娩室に移りましょう」
助産師はユミが経産婦であることと、促進剤の効果を考慮して早めの行動に出た。

分娩室はすぐ近くなのだが、いきみに耐えながら歩くために牛の歩みだ。
「はぁっ…はぁ…んあぁぁっ…うぅぅぅ〜〜んっ…!」
「147番、いきみを逃がしましょう。ふっふっふっ…」
「ふっふっ…ふっふぅっ!ふぅぅっ!」
陣痛の波が来る度にいきみたくなり立ち止まる。
助産師がいきみ逃しの呼吸を促しながらユミを誘導する。

ようやく分娩室に入り、どうにか分娩台に上がる。
すると安心したのか猛烈にいきみたくなった。
「あああぁっ…いっ…い゙きみたい゙ぃぃっ!」
「もう少し我慢してくださいねー」
ユミに我慢させてる間に、他のスタッフが胎児の心音の確認や機材の準備などを行った。
そして助産師が子宮口を確認すると全開になっており、胎児もすぐそこまで来ている。
早めの判断が功を奏した。

28名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:57:54 ID:tPxOzVD60
「147番、もういきんでいいですよ。次に痛みが来たらいきんでください」
「は…はいっ…」
ようやく許可が出た。
そして陣痛の波がやってきた。
「うぅっ…うぅぅ〜〜んんんんんっ!!!ふぅぅぅ〜んんっ!」
ベッドの手すりを握りしめ力一杯いきむ。
それに合わせ、産道もじわりじわりと胎児を外へと押し出す。
何度かいきんでいると、早々と陰部が盛り上がり、頭が見え隠れする発露に至った。
経産婦であることと、三つ子であるため一人当たりがそれほど大きくないため、かなりスムーズなお産だ。
「ふぅぅ〜うんっ!!ふぅぅ〜〜〜うんんんんっ!!あああぁっ!」
「その調子ですよ!赤ちゃんもう見えてますからねー。」
助産師はユミに声をかける。
そしてもう頭は引っ込まなくなり会陰にかっちりと嵌まった。
そのまま徐々に胎児の頭が露になっていく。
完全な排臨状態だ。
「はぁっ…痛っ…あああ痛たいぃぃっ!んぐぅぅぅぅっ!!」
陰部が押し広げられ、裂けてしまいそうな痛みにユミは叫んだ。
「力抜いてください!もう頭出ますよ!」
ユミは一瞬、下半身の力を抜いた。
その瞬間―――
「はぁっ!ぅあ゙あ゙あ゙あぁぁっ!」
ヌルリと胎児の頭が出て羊水が吹き出した。
「頭が出ましたよ!もう一息!」
助産師が胎児の頭を下方に傾け、体幹の娩出を補助する。
ユミは次の陣痛に会わせていきんだ。
「はぁ…はぁ…んぐっ…ふあぁぁあっ!」
(あぁっ…出るっ!)

ズルッ…バシャァ…

ついに一人目が生まれた。
助産師が羊水や胎脂を拭き取り、ユミの胸元に渡した。
「はーいお疲れ様です!まずは一人目!」
「はぁ…はぁっ…よかった…」
ユミは赤ん坊を抱き締める。
一息つくと再び腹部に痛みが来た。
「うぅっ…」
子宮は二人目を押し出そうと収縮を始める。

29名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:58:36 ID:tPxOzVD60
母乳をちゃんと第一子に与えていることもあり、多胎で懸念されるような陣痛の弱まりも起きていないようだ。
「よーし、よし、二人目ももうすぐ出てきますよ!」
今度は、しっかりと声を殺して息む。
さっきよりもスムーズに、大きな苦痛もなく二人目が生まれ出た。
少しからだはちいさいが、産声を元気に上げている。
「お疲れ様です。ちょっと休憩しましょうか」
多胎の場合、途中で一度「休憩」を挟むこともある。
子宮筋が疲労し、微弱陣痛になるのを避けるための措置であり、束の間の休息といえる。


少し時間を開けて 助産師が再び
「147番、 いきんでいいですよ」
そう 声を掛けられた。

2人も生んでいることもあり、
3人目のお産は、今までに無いほどスムーズに進んだ。
「ふんんんっっっ、んっっっ!!」
数回ほどいきむと

ズルっっ

残りの羊水とともに3人目が生まれた。


「147番、胎児全員生存、所見に問題なし」
流石に何度も出産しているとなるとスタッフも慣れているのか、どこか淡々とした対応だ。
こうしてユミの5度目の出産は終わったが、彼女のノルマはまだまだ残っているのだ……。

その数日後。
カオリたちのところに、新たな囚人が入ってくることになった。
ここに入ってくる時点で、もう妊娠6ヶ月行こうというように見える、大きなお腹の妊婦だった。

30名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:59:03 ID:tPxOzVD60
カオリは労役のあとの自由時間にプレイルームで本を読んでいると…
「ここの本て自由に読んでいいんですか?」
一人の見慣れない女性受刑者が話しかけてきた。

彼女の名はヒトミ(24)
細身で髪を明るく染めていて、器量も良く華やかな女性だ。
来たばかりだと言うのにすでにお腹はふっくらとしている。
しかし4ヶ月に入ったばかりでまだまだ悪阻が酷く、青白い顔をしてハンカチを口に当てていた。
なんと5つ子を妊娠していたのだ。
ヒトミは昨日、カオリたちの隣の部屋に収監されたのだった。


彼女は悪い男に引っかかってしまい、覚醒剤や麻薬などの運び屋をやらされていたのだ。
別れることもできたはずなのだが、脅迫されていたことや、彼女なりに男を更正させたいという想いがあり、離れられなかったのだ。
そして男が捕まり、彼女も芋づる式に逮捕されたのだった。
薬の使用はしていなかったものの、現在の日本は覚醒剤に関する取り締まりが更に厳しくなっており厳罰が下される。
初犯であり彼女の意思ではないこと、そして深く反省していることなどが認められ懲役は10年、出産ノルマは7人だ。


話を聞くと彼女は3年ほど水商売をしていて、そのなかで知り合った男だったらしい。
「私って本当にバカだったと思いますよ。大切な彼女だったら、運び屋なんかさせないですよね。でも…良いところもあったんです」
カオリはうんうんと頷く。
「わかるなぁ…。私が殺しちゃった旦那もDV男だったけど、良いところもあったから離れられなかったんだよね。ダメな奴だってわかってたんだけど」
カオリも自分の経緯を話し、二人は意気投合する。
「本当にそうですよ。……うっ…!」
ヒトミは腹を押さえ口をハンカチで覆う。
「ヒトミちゃん!?」
「ごめんなさい…吐きそうっ…」
カオリはヒトミを支えると、近くの手洗い場に連れて行き背中をさすった。
「うっ…げぇ〜っげほっ…ぅげぇ〜〜っ…はぁっ」
苦しさに目に涙を浮かべる。

ようやく治まると、うがいをしてプレイルームに戻った。
「4ヶ月だと悪阻はピークだね」
「はい、一日中気持ち悪くて吐いてばかりで…多胎だと安定期が無いらしくて、ずっと悪阻の人もいるんですって」
ヒトミはその事が気がかりでならなかった。

31名無しのごんべへ:2022/07/24(日) 15:59:26 ID:tPxOzVD60
不安ということもあり、ヒトミはカウンセリングを受けることが増えた。
つわりのひどさには、本人の精神面もたまに影響するからだそうだ。
カオリのように別室とまではならなかったものの、頻繁に対応される日々が続いた。

5ヶ月目をすぎ、6ヶ月になるころには、幸運にもヒトミの悪阻は治まっていた。
だが、それでも彼女の食は細い。
今度は、成長著しい子宮が胃を圧迫し始めたからであった。
7ヶ月目半のカオリと比べても、ヒトミのお腹は遥かに大きいのだ。
そりゃあ、胃だって圧迫されるだろうとカオリは感じた。


流石に、つわりの頃に比べれば食べる量は少しだけ戻っているようだ。
ゆっくりと、マイペースながらも彼女は少しずつ、そしてよく噛んで食べていた。
勿論、ヒトミのお腹にいる5つ子の為だと思って。

32名無しのごんべへ:2022/07/28(木) 21:23:06 ID:17Lj0PnY0
ある日のことだ。
カオリは廊下を歩いていると見覚えのある女性がいることに気づく。
なんとサエコだった。


「サエコさん!?」

名前を呼ばれてカオリの方に顔を向ける。
サエコもカオリに気づいたようだ。
カオリは小走りでサエコの元へ駆け寄る。

「カオリさん、久しぶり…!」

医療棟にいた頃とは別人と言っても過言ではないほどスッキリとした表情をしている。
どうやらあの後、帝王切開で無事に出産し、医療刑務所で産後を過ごしたらしい。
そもそも妊娠高血圧症は妊娠を終了させる、つまりは出産をすれば自然と治るものだ。
サエコは見事にリスクを乗り越え、帝王切開の予後もよく第七刑務所に戻って来たのだ。

「あの日は本当にどうなるかと…」
「心配かけてごめんなさいね…」

カオリはサエコの無事を喜んだ。

33名無しのごんべへ:2022/08/03(水) 06:40:42 ID:sUdqhEfs0
「ありがたいことに体調も戻って、来週一般刑務所に移ることになったんです」
先日の出産でノルマを達成し、後は10ヶ月の懲役に服せば出所だ。
サエコは穏やかな顔で話した。

34名無しのごんべへ:2022/08/12(金) 18:45:16 ID:fTyBuVC.0
「本当によかった…!」
一時は命まで危ぶまれたが、めでたくココを出ることになった。
サエコには娘との平穏な生活が見えているのだろう。

翌週、笑顔でサエコは一般刑務所へと移送されていった。


数日後、カオリは安定期に入り体調も戻ったため、その日から運動に参加することとなった。
初めてということもあり、たまたま隣にいた女性にどういうものかを尋ねた。
彼女はミナ(31)
黒髪で控えめな真面目そうな女性だ。
大きなお腹でもうすぐ臨月だそうだ。

カオリとは気があったのか自身の話もしてくれた。
彼女は4年前、巨額の横領でここにきたそうだ。
以前は銀行員として働いていたのだが、交際相手が企業するからと協力を持ちかけられた。
真面目な彼女は男を支えようと貯金から出資した。
成功したら結婚しようという言葉を信じていた。
しかしいつまでも軌道に乗らず、ミナに銀行の金を都合してくれないかと懇願してきた。
成功したら必ず返すからと…
ミナは彼のために力になりたい…イケないと思いつつも、銀行の金に手を出したのだ。
頭の良かった彼女はうまい具合に着服を繰り返した。
しかし金額が5000万を超えた頃、他にも女がいることが判明したのだ。
当然ミナは絶望し、死ぬことも考えた。
しかし調べたところ、その女からも金を引っ張っていることがわかったのだ。

ミナは冷静になった。
この男のために死ぬのなんて馬鹿げてる。
せめて逃げられる前に一矢報いたいと思い、自首をしたのだ。

35名無しのごんべへ:2022/08/13(土) 01:35:43 ID:rL3rohJc0
ミナは自首をし、男も逮捕された。
横領の金額が大きいが自首をしていることと、本来が真面目な性格のため心から反省してることが考慮され、情状酌量が認められた。
懲役は6年、出産ノルマは2人だ。
「今思うと結婚詐欺だったのかなって。でも起業したのは本当みたいだから…まあ今更どっちでもいいんですけどね」
ミナは苦笑いをしながら話した。
カオリも自身のことを話し、感じたことがあって。
「いろんな人の話を聞いたけど、私も含めここに来る人たちって男運ないのかなぁ」
「そうかもしれないですね」
ミナも同感のようだ。
彼女は今回が2回目の出産で、今妊娠している子供を産めばノルマは終了だそうだ。

そうこうしているうちにラジオ体操が始まった。

36名無しのごんべへ:2022/08/14(日) 17:02:18 ID:L.Jt8T3s0
ラジオ体操が終わるとウォーキングだ。
軽い運動とはいえ、後期の妊婦はあせをかきやすいのでなかなかの汗をかく。
お腹の大きな受刑者たちはタオルで汗を拭きながら歩いている。
ようやく30分が経った。

ピピィィィィー!

刑務官が終了の笛を鳴らす。

「ハァ〜〜終わったー!」

カオリは大きく息を吐いた。
これから出産まで毎日続く。

夕方、風呂の時間になると刑務官が妊娠後期の受刑者用の風呂へと案内してくれた。
妊娠初期と後期の者とで浴場が分かれている。
後期になると毎日入れると聞いていたが、持ち時間は1人20分ほどで初期と変わらない。
そして結構広い浴場に驚いた。
湯船の浸かり、洗い場でシャンプーと体を洗い終わり、ふと当たりを見回す。
少し離れた洗い場で、蛇口を掴んだまま動かない者がいた。
顔を見ると苦悶の表情を浮かべている。
監視の刑務官もそれに気付き、受刑者の元へ近づく。

「具合が悪いのか?」

刑務官が尋ねる。

「お…お腹が…痛い…!」

どうやら陣痛が始まったようだ。
刑務官はすぐに無線で何処かに指示を出す。
すると看護師が2人やってきてその受刑者を連れて行った。

妊娠後期の施設内では、当然臨月の者も多数いるのでこういった光景は珍しくない。

37名無しのごんべへ:2022/08/15(月) 12:02:40 ID:YK.FAZPE0
次の日の体操の時間、ミナに昨日風呂であったことを話した。

「よくありますよ。お風呂で生まれちゃうことも珍しくないですから」

経産婦であると尚のこと生まれやすいそうだ。
そしてミナはふぅとため息をつく。
カオリはミナが昨日と比べてため息が多いことに気づく。

「ミナさん体調でも悪いの?」
「うーん、なんだかお腹が張ってて…」

そう言いながら大きな腹をさする。
朝から張りが気になるらしい。

「まあ私ももう臨月ですから張るのは仕方ないです。あまりにも張るようなら刑務官に言うから、心配しないでください」
「そっか、それならいいけど…」

そしてラジオ体操が始まる。
カオリはミナの様子をチラチラ伺う。
腹の張りが辛いのか、動きがぎこちない。
時折り顔を顰めることもあり、相当耐えているのだろう。
しかし私語は禁止のため声をかけることもできない。
ウォーキングが始まっても刑務官を呼ぶ様子がなかった。

しかし15分ほど経つとミナは列から外れて手を挙げた---

38名無しのごんべへ:2022/08/19(金) 05:27:55 ID:JUtPXdic0
前かがみになり腹を抑えている。
すかさず刑務官がミナに駆け寄る。
「どうした?」
「お腹が…痛いですっ…」
腹の違和感は張りではなく陣痛だったのだ。
ここへきて急に進んだのか、ミナは痛みに耐えきれなくなった。
昨日、風呂で見た様に刑務官は無線で連絡をしている。
看護師を呼ぶのだろう。
他の受刑者もミナの様子が気になる様だ。
「他の者たちは余所見をしない!歩行を続けろ!」
別の刑務官が注意をする。
カオリたちは後ろ髪引かれる思いだが、刑務官の指示は絶対だ。

数分後、看護師数名がグラウンドに駆けつけた。

39名無しのごんべへ:2022/08/21(日) 10:04:02 ID:qnqHHYaA0
ミナさんは担架に乗せられ連れて行った。
(ミナさんの出産が上手く行きますように。)
私はそう願いながらランニングを続けた。

その頃…
分娩室に入ったミナは既に全開であった。
「618番、いいですよ。次に痛みが来たらいきんでください。」
「は…はいっ…」
そして陣痛の波がやってきた。
「うぅっ…うぅぅ〜〜んんんんんっ!!!ふぅぅぅ〜んんっ!」
ベッドの手すりを握りしめ力一杯いきむ。
それに合わせ、産道もじわりじわりと胎児を外へと押し出す。
何度かいきんでいると、早々と陰部が盛り上がり、頭が見え隠れする発露に至った。
経産婦であるためか、かなりスムーズなお産だ。
「ゔぅぅ〜〜んっ!ゔぅぅあ゙ぁぁっ!!」

40名無しのごんべへ:2023/01/11(水) 15:03:11 ID:SFgRMaSE0
「もう頭が出てきますよー!」
助産師が声をかけた瞬間…

ズポっ-
胎児の頭が出た。
そして間髪入れずにスルリと体幹も娩出した。
んぎゃぁ…ふぎゃあぁ…
無事に産声を上げる。
超が付くほどの安産だった。

「はいお疲れ様でしたー」
助産師が皆の胸元に赤ん坊を渡す。
「はぁ…はぁ…ありがとうございます…!」
(これでノルマ達成か…)


それから1週間後、ミナは産後の肥立も良く医療棟から戻ってきた。
カオリがプレイルームに来たらちょうど搾乳をしているところだったのだ。
「ミナさん!」
「あ、カオリさん。この前は心配かけちゃってスミマセン…あんなとこで陣痛が来るなんて…」
「ううん!誰にだってあり得ることだから大丈夫!」
2人で話しているとある女性から声をかけられた。
「カオリちゃん!…あ、ミナちゃんも!」
声のする方へ振り向くと、なんとユミだった。
「ユミさん!」
2人は声をそろえる。
「2人とも仲良しだったの?」
由美が尋ねる。
「私が初めて体操に参加した時、色々と教えてもらったんです!」
「そうだったんだ!ミナちゃんは久しぶりねぇ。搾乳してるとこ見ると2人目!?」
「そうなんです。先週無事に出産しまして」
聞けばユミの前々回の出産と、ミナの前回の出産が同時期で、共に過ごしていたそうだ。
「そういえばユミさん、結構長く医療棟にいたんじゃないですか?」
ユミが3つ子を出産してから1ヶ月近く経とうとしていた。

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42名無しのごんべへ:2023/02/03(金) 12:56:49 ID:Y.9MpOoo0
「そうなの!促進剤も使ったし、3つ子を産むとなると結構消耗するのね。なかなか体力が戻らなくて」
母乳をあげるのも一苦労だったらしい。
3人同時になど無理な話で、粉ミルクと併用でなんとかやっていたそうだ。
「まあお陰で向こうで母乳が必要な期間が過ごせたから、搾乳して持っていく必要もないし。もう少しでまた一般刑務所に戻ることになりそうよ」
「そっかぁ…それは寂しいです」
カオリはため息をつく。
「大丈夫!また戻ってくるからきっと会えるわよ笑」
ユミには途方もないノルマがあるのだ。
そしてカオリも刑期は始まったばかりだ。

それから数週間後ー
「カオリさん、ありがとうございました。もう男の人はコリゴリです」
「そうね、変なのに捕まるくらいなら1人の方がいいよね!」
ミナは残りわずかな刑期を務めるため一般刑務所へ移送されていった。

数日後にはユミも新たに妊娠するため、一般刑務所へ移送されていった。
「無事に産まれることを祈ってるわ!」
「はい!ありがとうございます!」

(産まれる時にユミさんはいないのかぁ…)
頼れる先輩の不在に不安が募る。

そしてカオリは9ヶ月を迎え、検診のため医療棟に来ていた。
産婦人科で待っていると見覚えのある顔が-
「レイナちゃん!?」
レイナもその声にカオリの方を見る。
「カオリさん!お久しぶりです」
悪阻での点滴治療中、取り乱して以来会っていなかったのだ。
双子を妊娠していたレイナのお腹もずいぶんと大きくなっていた。

43名無しのごんべへ:2023/09/12(火) 12:19:11 ID:F90f9I4o0
「さすが双子!大きいねぇ!」
「そうなんです。もう重くて…」
レイナはため息をつく。
1人でも重いのに双子は相当だろう。
それ以上を妊娠してる人はどうしてるのかと思うほどだ。
(ユミさんは三子だったけど難なく動いてたみたいだなぁ)
「レイナちゃんも検診?」
「いえ、ワタシは持病の受診です。さっき終わったんですけど、付き添いの看護師さんが申し送り終わるのを待ってたんです」
「そうなんだね!」
そうこうしているうちにカオリの順番が来た。
「それじゃあまた!」
「はい、またお会いできたら嬉しいです!」
そう言って手を振りわかれた。

51名無しのごんべへ:2024/01/20(土) 13:43:40 ID:ESAf7T5g0
検査の結果、子どもはやや大きめらしいが正常範囲内で血圧等も問題ないらしい。
再来週には臨月になるため、それまで今まで通り無理のない範囲で運動・就労をするようにとの事。
その後、何事もなく2週間が経ちもういつ産まれてもおかしくない状況になった。

52名無しのごんべへ:2024/03/18(月) 10:10:07 ID:nBTEUcZY0
「ん?、今日はいつもよりも張りが強い気がする…」
朝、起き掛けからそんな感覚があった。
刑務官にそれを伝えると、今日の朝の運動は中止することになった。
単胎ではあるが、臨月となればそれらにの大きさがあるし多少の動きづらさもある。
重し腰をゆっくりと上げ、食堂へと向かった。


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