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Fate/Aeon

1 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:17:54 MViIKRoQ0

 いつか辿り着きたい未来へ。

【wiki】ttps://w.atwiki.jp/tamagrail/pages/1.html


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2 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:20:45 MViIKRoQ0
 血の匂いがした。
 既に骸と化した敵の傍らに座り込んで。
 安座の姿勢のまま血溜まりに手だけを浸す。
 港の向こうに広がる水平線を眺める眼差しに色はなく。
 吐き出す吐息は底知れない空ろさを孕んで空気に溶けていった。
 白地の特攻服に染み込んだ返り血を煩わしく思いつつ。
 自分でも不思議に思う程目前の骸に対する感傷はなく。
 冬に溶ける白い呼気を見送って少年は呟いた。

「令呪持ちは骨が折れるな」

 顔面の潰れた骸を傍目にそう呟く彼の右手にも刻印がある。
 三画揃った刻印は絡み合う胎児を思わす紋様を象っており。
 それを空いた左手で撫ぜる少年の仕草には何処か感傷の色があった。
 戻れない何かを想うようなそんな独特の色が、覗いていた。

「素手じゃ流石に手に余る。何分も掛かっちまった」

 喧嘩にこんなに掛けたことはない。
 無敵と呼ばれ畏れられた少年は紛うことなく素面だった。
 魔術も加護も何も受けていない。
 彼自身が拒んでいたからだ。
 そんな素面の人間に真っ向勝負で殴殺された魔術師は何を思うのか。
 彼の骸から抜け出た魂は今自己の尊厳と目前の現実のギャップに苦悶の声をあげているのかもしれない。
 しかしそれは下手人である彼にとっては至極どうでもいいことでしかなかった。
 人は死ねば終わり。
 死体のその後を思うことに意味はないと。
 少年は身を以ってそれを知っていたから。
 抱き留めた家族の亡骸が冷たくなっていく感触と。
 どれだけ言葉を掛けても変わらない沈黙を覚えているから。
 そしてそれ以前に彼の中で渦を巻く暗黒は、隣の相棒が教えてくれた人の道を失った彼にはもはや止めようもない。

 雪が落ちてきた。
 はらりはらりと夜空を裂いてこぼれる涙雪。
 あの日もこんな天気だったのを覚えている。
 最後までついぞ手は取り合えなかった血の繋がらない肉親の命の灯火が消える瞬間を。
 空の彼方に天竺はあったのか。
 確かめる術は当然のようになく。


3 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:21:42 MViIKRoQ0
 少年は一人全ての死を抱え渦巻かせながら、空を見上げて彼方の従者へ。
 あるいは女王へと念話のパスを繋いだ。

“素直になるよ。此処からはオマエも力を貸せ”

 これは戦争だ。
 聖杯戦争。
 ガキの喧嘩ではもはやない。
 賭けるのは矜持(プライド)でなく互いの命。
 そして互いの抱く願い事、その全て。
 最後に残る一人まで。
 ヴァルハラに。
 天竺に。
 根源という名の梵天に。
 辿り着くまであらゆる全てを薪にして。
 ただ永久に殺し合う。

“良いのですね。それで”
“ああ”

 それしかないんだろ?
 呟く声に肯定は返らず。
 返答を待つこともなく少年は続けた。

“それが一番手っ取り早いんならそうするべきだ”
 
 兵隊が要るなと思った。
 一人でやれることはたかが知れている。
 喧嘩も悪事(わるさ)もやっぱり大勢がいい。
 大勢が、都合いい。

“戦争のことはオマエに任せる。
 オレはオマエに従う。
 だからオマエはオレを勝たせろ”

 この世界に奴らは居るのかどうか。
 狂気、兄弟、暴力、最強、悪名、伝説、金脈。
 望みは薄いだろう。となれば一からの集め直しになる。
 だが、まぁ。何でもいい。
 最後に勝てるなら何でもいい。
 最後に立っていた奴だけが勝者だ。

 ――オレが後ろにいるかぎり、誰も負けねぇんだよ
 
 あの頃は良かったな。
 少年は思い馳せるように死体の隣で彼方を見つめた。
 ガキとして意地と意地だけをぶつけ合って生きていられた。
 誰かのために本気になれて、そのために皆が命を張れた時代。


4 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:23:17 MViIKRoQ0
 懐かしいと素直にそう思う。
 だが戻りたいとは思わない。
 何故ならもう戻れない。
 あの頃の自分はもうこの世界の何処にも居なくて。
 此処に居るのは只の伽藍洞。
 からっぽのガキが一人居るだけ。

“――行くぞバーサーカー。戦争だ。この東京をオマエの新しい郷(くに)にしろ”

 聖杯を手に入れよう。
 全ての願いをそれで叶えればいい。
 失ったものも新たに得なければならないものも。
 聖杯ならば全てが埋め合わせてくれるのだろう。
 ならそれでいい。分かりやすくていい。
 全員殺して、全部手に入れればいいんだから。

“良いのですね。それで”
“ああ”

 バーサーカーは。
 かつて一つの郷(くに)を作った女はもう一度、一言一句同じ問いを投げかけた。
 それに対する答えは決まっている。
 だから少年は即答した。
 此方も先刻と一言一句同じ回答だった。
 バーサーカーはそれ以上は問わなかった。

 ――何度だって、助けに行くよ…。君の為…なら…何度でも……。
 
 声がする。
 誰の声だ。
 蝿声のように鬱陶しい。
 黙れ。これ以上喋るな。
 此処は。もう。
 オマエの居る場所じゃないだろう。

 ――オレが…絶対…助けるから…
 ――何度でも…過去に戻って…何度でも…

 オマエの役目はもう終わった。
 此処は過去でも未来でもない。
 オマエの出る幕はないんだよ。
 なぁ。

 ――オマエを絶ッ対ェ助けてやる!!!

 …アイツのその言葉に。
 オレはなんて言ったんだったか。
 分からないまま少年は自分の手を見下ろした。
 どんな不良でも暴漢でも容赦なく殴り倒したその拳は小さく震えていた。
 その震えの意味すら。
 今の少年には分からないのだった。


【  聖杯  存在証明完了    】
【  聖杯戦争  前奏(プレリュード)  】

【残り XX組】


5 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:24:03 MViIKRoQ0
【ルール】
・版権キャラクターを用いて聖杯戦争を行うリレー小説企画です。
・主従の数は20組程度で考えていますが、厳密には未定です。増減する可能性大。
・公式に存在しないクラスを創作していただいても構いませんが、『ルーラー』『ビースト』のクラスについては投下をご遠慮いただきますようお願いします。


【舞台・設定】

・聖杯によって創造された異空間の東京都(厳密には東京二十三区)が舞台となります。
 この空間を「異界東京都」と呼称します。
 季節は冬とします。

・参加者は異界東京都に召喚された時点で令呪とサーヴァント、そして聖杯戦争に関する知識を与えられます。
 原則マスター達には何らかの形での社会的立場(ロール)が与えられます。
 しかし、例外もあるかもしれません。候補作ではどちらの設定を選んでいただいても構いません。

・異界東京都からの脱出は不可能です。外の世界は存在しません。

・現在聖杯戦争は「前奏段階(プレリュード)」です。招かれた参加者が互いに潰し合い、正式な聖杯戦争の参加者を選定している段階です。
 
・候補作の中で他の主従を倒してしまっても構いませんが、この場合犠牲になるキャラクターは特定の出典元が存在しないモブキャラのみとします。

・サーヴァントを失った場合もマスターは生存し続けます。

・令呪の移譲やサーヴァントの再契約は特別な手段を必要とせず、互いの合意によってのみ可能となります。


【候補作について】

・投下の際には必ずトリップを付けていただくようお願いします。

・「ネットミーム」「オリジナルキャラクター」「実在人物」「その他一般的に見て公序良俗に反するキャラクター」の投下は禁止とします。

・募集期限は八月末まで。前後する可能性もございますが、その際には本スレの方で連絡します。


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6 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:25:35 MViIKRoQ0
続いて候補作を投下します


7 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:27:03 MViIKRoQ0

 正義の女神は法の下の平等のために目を塞ぎ。
 人々は保身のためならあらゆることに目を瞑る。
 そんな中縋りついてきた手を振り払わない様に。

「私だけは」

 ああ。

「目を開けていたい」

 この夢は、いつのことだったろうか。

    ◆ ◆ ◆


8 : 日車寛見&アーチャー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:28:06 MViIKRoQ0

「アハハハハハハッ! おいおい何だよ、もう終わりかよ手応えねぇにも程があんだろ。
 私を殺すって吠えたよな? 私は雑魚の三下なんだよなァ? ならこんな簡単に負けちゃダメじゃんか。
 汎人類史のサーヴァントなんだろ? 万古不当の英雄サマなんじゃなかったのかよ。おい、お〜い? 答えろよ、手足もがれたくらいで狸寝入りか?」
 
 ケラケラと笑う声が響いていた。
 郊外にぽつねんと寂しく存在する廃墟の中は今凄惨な処刑場と化していた。
 汎人類史のサーヴァントと呼ばれた男は既に肉塊同然の姿に成りさらばえて久しい。
 手足は半ば程の所で寸断され、腹の皮膚と筋肉は取り除かれて五臓六腑を曝け出している。
 顔の皮を剥がされて両目を潰された顔で唯一自由の利く口も今は声にならない金切り声を撒き散らすばかりだった。
 惨めな姿だ。
 そして、哀れな姿だ。
 英雄の"え"の字もない憐れな被虐対象。
 肉屋の軒先に吊るされた豚の解体肉とそう変わらない姿になった英雄を、赤髪の女が口汚く嘲笑い罵り虐げていた。

「テメェの何処が英雄だよザコが。蛆涌き豚肉に改名しろよクソカス」

 上機嫌な高笑いが一転して冷たい殺意に変わる。
 手足の切断面から引きずり出した神経を弦に見立てて右手で弾いた。
 文字に起こしたなら濁点に塗れて大層読み辛いだろう絶叫が、かつて英雄と呼ばれた豚肉の口から迸る。
 弾(はじ)く。弾(ひ)く。
 雑にヒールの踵で擦る。踏み付ける。
 飽きたら乱雑に引き千切る。
 英雄は最早楽器だった。
 残忍極まりない振る舞いを恥も外聞もなく享楽のままに行い、残虐非道を地で行く悪趣味な「悲しみの子」。

「…あーあ。もう壊れちゃった。
 つまんねーなホント……弱いし根性も無いってさぁ。
 何のために英霊の座から出てきたんだよって話だよなぁ。お前もそう思うだろ?」

 彼女の拷問は英霊の耐久力でさえ耐え切れるものではない。
 彼女の嗜虐は英霊の忍耐力でさえ凌ぎ切れるものではない。
 英雄と呼ばれた男が達磨の格好のまま霧散して消滅する。
 辞世の句一つないその惨めな末路を見届けて、騎士を名乗る嗜虐家は退屈げに嘆息した。
 そして水を向ける。
 へたり込んで失禁し、歯をカチカチと鳴らしながら震える幼子に。
 英雄(サーヴァント)のマスターであった少女に。
 話の矛先を向けつつ彼女の方へと歩き始めた。

「可哀想になぁ。不甲斐ないサーヴァントのせいで」

 一歩また一歩とヒールの踵が音を鳴らす。
 少女は尻餅をついた格好のまま後ろに後退る。
 その姿を滑稽滑稽と嗤いながらまた一歩進む、女。
 少女の口からいや、いやと声が漏れた。
 それがあまりに愉快な音だったものだったから、女はまたケラケラと上機嫌そうに笑って。

「でも安心しろよ。私はこう見えて優しいんだ」

 ニィ、とその口を三日月を思わす形に吊り上げた。
 笑顔はほとんどの獣にとって最も攻撃的な表情であるという言説がある。
 この時その説はまさに正鵠を射ていたと言えよう。
 悪意と嗜虐心(サディズム)に塗れた殺意にあてられて、少女は声も出せずに涙を流した。


9 : 日車寛見&アーチャー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:28:49 MViIKRoQ0

「ちゃあんと、お前の大好きな英雄サマと同じ風に死なせてやるからさ」
「――っ」

 涙を濁流のように流して首をふるふると振る幼い娘。
 その哀れみを誘う仕草すらもが女にとっては佳い肴だった。
 ああ面白い。
 ああ愉快だ。
 取り掛かる前から既にこんなに面白いのなら、一体実際に事を始めたらどんなに笑えるんだろう?
 考えただけで気分が躍る。
 さあ試そういざ試そう。
 勝者にのみ許される悪辣な笑みを浮かべて、いざ幼気な少女を壊す悪意の手を動かさんとしたまさにその瞬間。
 騎士の上機嫌に冷水を浴びせる淡々とした声が響いた。


「バーヴァン・シー」


 その名を呼ぶ声が騎士の手を止めた。
 上機嫌だった顔が瞬間不機嫌に歪む。
 敵意露わの形相で声の主を睨む騎士。
 否、妖精。
 悪魔の如きバーヴァン・シー。
 その表情も態度もお世辞にも従僕のものとは思えない不遜さだった。
 しかしそれに気分を悪くするでもなく、マスターである男は被虐待児と化した少女に視線を向けた。

「君のサーヴァントは死んだ。それは分かるね」

 無言で頷く少女。
 男はそれを見て同じように頷きを返す。

「ならこれ以上追う理由はない。
 …逃げるといい。そうすれば、私は君を追いはしない」

 少女は男の言葉に戸惑いを見せた。
 迷いを見せた。
 その感情の意味が男には分かる。
 マスターとしての信念、願い。亡きサーヴァントへの義理。
 それが彼女の中に迷いと躊躇いを生み出したのだろう。
 男はそれを見てこう祈った。
 男は宣教師のように、迷える子羊への接し方に熟達した人間ではない。
 だから彼はその心を口に出した。

「逃げろ」

 少女の方を見ず。
 手元の安酒で満たされたグラスだけを見ながら言う。

「逃げてくれ」

 その言葉に背中を押されてか少女は走り去った。
 敗者の屈辱と散った英雄への罪悪感を抱えながら、それでも逃げることを選んだ。
 彼女は生きることをこそ回答として打ち出したのだ。
 その答えを男は笑わないし謗らない。
 むしろそうなって良かったと、心の底からそう思っていた。


10 : 日車寛見&アーチャー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:29:35 MViIKRoQ0
「おい」

 男のサーヴァントが不機嫌を露わに言う。
 男は目を瞑り酒を一口呷った。
 喉を焼くアルコールの濃さと、脳髄を蕩かす心地よい酩酊。
 駄目人間だなと内心自嘲しながら目を開ける。
 目に入るのは、眉根を寄せて顔を顰め、舌打ちをする己のサーヴァントの姿だった。

「邪魔しないでくれる? せっかくいいところだったのによ」
「…あの少女は戦うことを放棄した。
 "戦意なき善人"には刃を向けてはならない。そう命じていた筈だが」
「偽善者がもっともらしいこと言ってんじゃねぇよ。
 反吐が出るぜクソ野郎。既に死んだ奴を甚振るのは許せても、生きてるガキを弄ぶのは許せねぇってか?」
「死者の人権を保証する法はない。蘇った死者の処遇までは私の管轄外だ」
「ハッ、何だよその綺麗事は。弁護士ってのは詭弁だけ吐いてりゃ勤まる職業なのね、あぁ面白い」
「人間社会というのはそういうものだ。正しい者が泣きを見て狡い者が勝利に笑う。
 有史以前から現代に至るまで受け継がれてきた、由緒正しき弱肉強食の則(ルール)だ」

 空になったグラスを置いて。
 酒の滴る口を拭って男は言った。
 冴えない男だった。
 恐らく万人が一目見てその評価を下すだろう人相。
 その上彼が吐く言葉はどれもただの正論。
 それ以上でも以下でもなかった。
 
「それを覆すために私はこの手を汚した」

 長年の悪戦苦闘。
 その末に悟った。
 人生の全てを懸けて臨んでようやく気付いた。
 法(これ)では誰も救えない。
 法(これ)には限界がある。
 そう気付いたからこそ、男は悪徳弁護士の謗りをすら捨てて自らを殺人者にまで貶めた。
 道の内側で果たせない理想があるのなら。
 手の届かない領分があるのなら――道の外に出てそれを果たそう。
 ガベルから滴り落ちる血のしずく。
 既得権益と現世利益に魂を堕とした糞共の成れの果て。
 それが一滴また一滴としたたり落ちていく光景を、日車寛見は克明に記憶していた。
 そして今後一生忘れられる日は来ないのだろうとそう思う。

「その顛末がこれかよ。理想と一緒にタマまで落としたんじゃねぇの」
「自覚はあるさ。私には殺人者の才能はあっても、世界を変える英雄になる才能はなかったらしい」

 殺して、裁いて。
 正義の快音を鳴らすべきガベルで頭蓋を割って。
 血と屍を積み上げて入手した得点を全て譲り渡した。
 そんな矛盾した善悪螺旋の果てに日車は此処にいる。
 迷える人に手を差し伸べる弁護士としてでもなければ、気に入らない者全てを殺す度胸のある殺人者としてでもなくだ。
 何にもなれない癖して力ばかり一人前の流浪人。
 それが今の日車寛見だった。


11 : 日車寛見&アーチャー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:30:22 MViIKRoQ0
 全く以って玉無しだ。
 命を懸けて成し遂げたい理想は遠くに離れ。
 徒に死体の山を築いて笑う自傷行為に浸る気分でもない。
 ただ生きているだけ。
 ただ生きて、偽善まみれの高説を垂れて残忍な妖精の機嫌を損ねるばかりの置物だった。

「でしょうね。そうじゃなきゃ言わねぇよ、"戦意を失ったマスターは殺すな"なんて気障なセリフ。寒気がするわ」

 ハッと牙を見せて妖精は笑う。
 日車は彼女の残忍を許した。
 悪逆を認めた。
 ただし無益な殺戮に限ってはその限りでなかった。
 戦意なき者への虐待と殺人を日車は諌めた。
 断るのであれば令呪を使うと言われれば、さしものバーヴァン・シーも舌打ちと共に閉口するしかなかったようだ。
 この馬鹿なら本当に使いかねない。
 そう思った側面も恐らくあるのだろう。

「その癖サーヴァント相手なら先刻みたく好きに弄んでいいんだろ? なんだよその線引き。
 あぁいや嫌いじゃないわよ? むしろ好き。サイッコーに矛盾してて、愚かで…醜くてさ」
「霊体への加虐を取り締まる法律は無いからな。これ以上前科を重ねずに済む」

 安酒をまた一口呷る。
 喉の焼ける感覚と脳細胞が死ぬ感覚が厭に心地よかった。
 バーヴァン・シーがその姿をうんざりした様子で見ていたので少し考えて。
 氷も入っていない、すっかりぬるくなりつつある酒とグラスを彼女の方に差し出した。

「…君も呑むか?」
「死んでくれないかしら」
「断る。別段生きる理由もないが、死ぬ理由もまたないんだ」
 
 ごくり。
 残りの液体を飲み干してソファの背もたれに身を委ねた。
 元とはいえ弁護士が昼間から安酒で酔っ払っている光景は傍から見れば世も末だろう。
 酒臭い吐息を吐いた後で、廃屋の天井を見上げながら日車は言った。

「君のマスターという使命くらいは完遂しよう。その後は…追々考えるとするさ」

 聖杯の力があれば。
 日車が死滅回游で作ろうとしていた世界はきっと実現できる。
 真偽を争う議論も法律上のしち面倒臭い手続きも必要ない。
 総則(ルール)を犯した者は物理法則によって天罰宛らに罰せられる完全無欠の法治世界。
 死滅回游を通じて実現を狙うよりも遥かに完成度の高い理想郷がきっと創り上げられる。
 聖杯の力さえあれば。
 聖杯戦争に勝ちさえすれば。
 そう分かっているのに日車の体は、その足は重かった。

「バーヴァン・シー」
「何だよ」
「君は、気分がいいか」
「当たり前だろ」

 妖精は鼻で笑った。
 
「弱いクセにごちゃごちゃうるさい雑魚をグチャグチャにして、踏み潰して消してやれたんだぜ? 気分悪ぃワケねぇだろ」


12 : 日車寛見&アーチャー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:30:59 MViIKRoQ0
「…そうか」

 その質問に対して。
 自分はどんな答えを期待していたのだろう。
 日車は天を仰ぎながら思い出していた。
 呪わしき吸血妖精。
 悪魔の如きバーヴァン・シー。
 弱い者を弄び踏み躙ることを至上とし。
 彼らが苦しみ喚く声だけを娯楽とする悍ましい妖精。
 あぁ確かにそうだろう。
 自己であれ他己であれその評価に異議を唱える気は日車にはない。
 
「あーあ。お前と話してたらこっちまで陰気臭いバカになっちゃいそうだわ。
 息が詰まるから外の空気吸ってくる。止めんなよ、ダブスタ弁護士」
「さっきの娘は追うなよ」
「チッ、分かってるようっせえな。一言多いんだよお前は」

 そういうところが好かねぇんだ。
 言い残して消えるバーヴァン・シー。
 その気配と魔力が完全に室内から消えたのを確認してから、日車は静かにその目を覆った。


「罰のつもりか」

 日車寛見は、彼女が思っている以上にバーヴァン・シーという妖精のことを知っている。
 彼女が異聞帯という此処ではない異常な時空から召喚されたサーヴァントであること。
 妖精國ブリテンなる存在そのものが何かの冗談としか思えないような人類史の出身であること。
 そして彼女がまだ思い出していない記憶も。
 悪意と呪いと因果と応報に塗れた最期も。
 果たせなかった誓いのことも、全て。
 日車は知っている。
 夢を通じて垣間見た彼女の生涯は硫酸のように彼の脳裏を焼いていた。
 哀しい過去があるなら人を殺しても放免になる。
 情状酌量の末の減刑ならばまだしも、完全に罪が免罪されるというならそんな法律は糞以下だろう。
 殺人とは不可逆の業なのだ。
 一人の人間を、一つの命を永遠に社会から消し去る最大の罪なのだ。
 それほどまでに重い。
 バーヴァン・シーは有罪だ。
 その行いには罪がある。
 人間社会に妖精の殺傷を裁く法律はないものの、妖精を人間に置き換えれば彼女は誰もが軽蔑する大罪人以外の何物でもない。

 だが。
 罪を重ねる以外の方法で。
 悪魔の如く振る舞う以外の道で。
 彼女は、生きていけたのか?


13 : 日車寛見&アーチャー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:32:02 MViIKRoQ0

“この世の誰にも彼女は救えない。"いつか"を先延ばしにし続けるのが関の山だ”

 善良なままでは生きられなかった。
 純粋なままでは生きられなかった。
 そうあれば誰もに好かれる。
 誰もが笑顔で構ってくれて。
 彼女も笑顔で使い潰される。
 利用されて、絞られて、使われて。
 都合が悪ければ殴られて、壊されて、いつか死んで。
 その生涯を永遠に繰り返す呪われた生命。
 "みんな"に愛されるバーヴァン・シー。

「私に何をしろというんだ」

 バーヴァン・シーは救われない。
 それを救うと云った女がいた。
 女は悪逆を認めた。
 残忍を認めた。
 自分の夢さえも捧げて。
 女はバーヴァン・シーを壊した。
 そうして、彼女に楽を与えた。
 彼女に意味を与えた。
 価値を与えた。
 自由で、残酷で、冷酷、ブリテンの人気者。
 "みんな"に愛されたバーヴァン・シー。

 何も守れなかったバーヴァン・シー。
 体は腐り信じた愛は裏切られ。
 ゴミと断じた存在に嘲笑われ指差され。
 恨みと共に大穴の底。
 残ったのは呪いの厄災だけ。
 ただ一人を除いて誰も、彼女の一切を祝福などしなかった。

 罰のつもりか。
 私に何をしろと言う。
 救えというのか、これを。
 お前がやれというのか。
 癇癪紛いに道を踏み外した下らない男に。
 彼女へ次の"いつか"を与えろというのか。
 誰かの信頼を裏切るばかりの役立たず。
 社会が壊れて回游が始まって、誰かを呪うことが格段に上手いと分かった人殺しに。
 新たな呪い(すくい)を刻めというのか。

「…あなたは上手くやったな、冬の女王」

 酒を追加しようとして先刻飲み干したばかりなことを思い出した。
 人生とはままならないものだ。
 自首でもして罪を償おうと考えていたが、それしきでこの罪は贖い切れないらしい。
 冬の女王の背中を夢に見た。
 祝福と共に彼女を後継と定めた愚かな女。
 世界でただ一人、彼女を宝石と認めた救世主。
 娘は母(おや)の手を離れ今、こんなろくでなしの汚れた腕に手綱を引かれている。


14 : 日車寛見&アーチャー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:33:00 MViIKRoQ0

「…あぁ」

 重荷だと投げ捨てられれば楽だった。
 自棄になってさっさと自死できれば簡単だった。
 なのに日車寛見にはどうしても、それができなかった。
 あの憐れな妖精を見捨てられなかった。
 罪を犯すことでしか幸せになれなかった彼女を。
 幾度もの摩耗の末にようやく見つけた幸せさえ奪われた彼女を。
 いつか再びこの世の全てを呪うだろう彼女を。
 "法"でなど決して救うこと能わないだろう彼女を――。

「最悪の気分だ」

 送り届けてやりたいと想ってしまった。
 妖精國でも何処でもいい。
 誰の悪意も何の裁きも届かないところに行けばいい。
 "いつか"を永遠の彼方に追いやって。
 愛する誰かと。そして自分を愛してくれる誰かと、思う存分幸せになればいい。
 そう願ってしまったから日車はまだ生きている。
 彼はやっぱり損をしやすい性格だった。
 そういう性分なのだった。
 そんな男だからこそ。
 彼自身、自分はそういう人間なのだと分かっているからこそ。
 だからこそ弁護士を志したのだと今になってようやく思い出した。


【クラス】
アーチャー

【真名】
バーヴァン・シー@Fate/Grand Order

【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具E

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:EX
決して自分の流儀を曲げず、悔いず、悪びれない。
そんなバーヴァン・シーの対魔力は規格外の強さを発揮している。

【保有スキル】
祝福された後継:EX
女王モルガンの娘として認められた彼女には、モルガンと同じ『支配の王権』が具わっている。
汎人類史において『騎士王への諫言』をした騎士のように、モルガンに意見できるだけの空間支配力を有する。

グレイマルキン:A
イングランドに伝わる魔女の足跡、猫の妖精の名を冠したスキル。
妖精騎士ではなく、彼女自身が持つ本来の特性なのだが、なぜか他の妖精の名を冠している。

妖精吸血:A
バーヴァン・シーの性質の一つ。
妖精から血を啜り不幸を振り撒く、呪われた性。

騎乗:A
何かに乗るのではなく、自らの脚で大地を駆る妖精騎士トリスタンは騎乗スキルを有している。

陣地作成:A
妖精界における魔術師としても教育されている為、工房を作る術にも長けている。

【宝具】
『痛幻の哭奏(フェッチ・フェイルノート)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:無限 最大捕捉:1人
対象がどれほど遠く離れていようと関係なく、必ず呪い殺す魔の一撃(口づけ)。
相手の肉体の一部(髪の毛、爪等)から『相手の分身』を作り上げ、この分身を殺すことで本人を呪い殺す。ようは妖精版・丑の刻参りである。
また、フェッチとはスコットランドでいうドッペルゲンガーのこと。

【weapon】
フェイルノート。汎人類史のオリジナル、トリスタンが扱うものとは形状も性質も異なる。


15 : 日車寛見&アーチャー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:33:40 MViIKRoQ0

【人物背景】
バーヴァン・シー。
スコットランドに伝わる女性の妖精。
"みんな"に愛されたバーヴァン・シー。
誰かが救えず。
彼女は呪い。
妖精の國は消え。
そうして悠久の時を経て聖杯戦争に召喚された。
 
【サーヴァントとしての願い】
折角呼ばれたからには聖杯を手に入れたいと漠然とそう思っている。
その真の願いは未だ夢の中。


【マスター】
日車寛見@呪術廻戦

【マスターとしての願い】
法が物理法則の一つとして機能する社会の実現。
…その筈だったが今はやる気がない。

【weapon】
ガベル

【能力・技能】
抜きん出て高い呪術師としての才能。
過去の術師をして「頭抜けた強者」と形容する程にその実力は高い。

◆ジャッジマン
式神。両目を糸で縫い合わされた影法師のような姿をしている。
日車にも相手にも味方することのない完全な中立の存在。

◆領域展開"誅伏賜死(ちゅうぶくしし)"
結界術の極北、領域展開。
日車の場合は必中必殺の性質を持つ現代の領域ではなく、デフォルトで領域が搭載された生得術式と呼ぶのが正しい。
先述のジャッジマンを裁判官と据え裁判の形式で標的を裁き、罪に応じた罰を下す。

【人物背景】
岩手弁護士会所属の弁護士だった男。
何の分野であれそつなくこなし、果てには呪術師としての才覚まで持ち合わせているという作中公認の天才。
出世に拘ることなく自分の信念と強い正義感の元に生き、縋る者のない誰かの手を取ってきた男。
しかし今その手は血で汚れ背中には罪の重荷が乗り、そうまでして描いた理想への渇望すらも薄れてしまった。

【方針】
…私は、何をしたい?


16 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/27(月) 22:34:16 MViIKRoQ0
投下終了です。
これから色々とよろしくお願いします


17 : ◆2dNHP51a3Y :2022/06/27(月) 22:36:13 EQKSk7yA0
投下します


18 : 久世しずか&アルターエゴ ◆2dNHP51a3Y :2022/06/27(月) 22:36:39 EQKSk7yA0
―――女の話をしよう。
女はただ現実に在っただけだ。何も語らず、何も語らせず、さもありなんと在り続けた榲桲の花。
誰かが彼女を淫売の娘と侮蔑した、誰かが彼女を被害者と哀れんだ、誰かが彼女を加害者と考えた。
誰かが彼女を殺さなければならない毒婦と恐怖した、誰かが環境によって歪んだ被虐孤児と考察した。

然して、女の内面は女にしかわからない。女は何も変わらない。
然して、女の内面は女にしかわからない。女は何も変わらない。
視点が変われば世界は別物だと誰かが言った。
正しくその通り、女が見る世界と、女を見る世界は隔絶している。
観測者は周囲を俯瞰的に観察できるが、観察されている当人にそんな柔軟な思考は出来るはずなど無い。
要するに、女の心の内は彼女の中に締まったままであるのだ。モノローグを漏らさない誰かの思考や感情など、誰にも分かるわけがない。
彼の者がそう思うのならそうであろう、彼の者がそう考えるのであればそうであろう。

だから誰にも理解できない、誰にもわからない、誰も知ることは出来ない。
女の深層は、誰かにとっての写し鏡としか認識できないのだから。

何? 結局女は何者だって? その認識こそ、押し付けというものではないのかな?
かく言う語り手もまた、認識の押しつけという点では何ら変わらないのであるのだが。


19 : 久世しずか&アルターエゴ ◆2dNHP51a3Y :2022/06/27(月) 22:37:03 EQKSk7yA0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ありふれたマンション。街の外れに屹立する真っ白な壁に包まれて、テラスから清潔に干された布団が布団掛けにぶらさがり風に吹かれる。
外から見るだけで、パンパンパンと布団を叩く主婦の姿が疎らに見えるであろうし、今さっき洗濯物を干している主婦の姿も見える。
マンションと言いつつも都会等で見るマンションと、下町等で見かけるマンションとは天と地の差だ。
それは俗に言う子供たちの理想と言うなのフィルターで覆われた幼稚な幻想。薄汚い外壁と、小綺麗さと嫉妬のどちらかで構築されるご近所付き合いの関係。
そんな人間関係の縮図という名の箱庭の、そんな中の一室。開きっぱなしの扉と、扉の内に貼り付けられたであろう、落書きながらも家族愛に溢れた父と娘たちの一枚絵が冷たいコンクリートに横たわり、風に吹かれて向こう側に飛んでいく。

扉の向こうからは匂いが漂っている。血の匂い、腐臭が漂っている。それはまるで稚拙な強盗殺人犯が入り込んだような杜撰さのように、何の考えもなくただ何かをしたという幼稚な思考で。
部屋の中には血溜まりがあった。血溜まりの中心は大人一人のしたいと子供3人の死体。アジの開きの如く真っ二つに切り開かれて、誰かが何かを探していたのように中身はグチャグチャになっていた。
それは、飲み込まれた玩具を探していた子供が無造作に引っ剥がしたかのような、そんな無軌道な衝動で。

それを、何の感情もなく見つめているのは一人の少女。
薄汚い、と一般の誰彼ならそう言い表しても致し方ない程に見窄らしい少女である、泥と埃と塵塗れで黒く汚れたシューズに単ズボンに、白いシャツ。
その顔立ちも薄汚れていて、親の育て方が透けてみる細い顔立ち、その頭にはそんな汚らしさに反したドクダミの髪飾りがちょこんと乗っかっている。
その手は血で染まっている。それも触れただけではつかないような、中身を穿り返したような行為でないと染まらないであろうぐらいの血の量で。


「……チャッピー、いなかった。」


何の興味もないであろう声色で、少女はただ呟いた。飽きた玩具に目を向けるような、養豚場の豚を見るような表情で、動かなくなったものをただ見つめていた。例えそれが、少女の父親だった男と、その娘たちだったとしても。彼女はそれに眉一つすら動かさず、そう呟いていた。

「満足しましたか?」

「………。」

女の声が、部屋にこだました。
振り返り、死骸と少女以外居ないはずの世界に全く新しい誰かが、まるで魔法のように部屋の床に立っている。
少女にとっては見たことのない服装であった。白い頭巾のようなもの被り、体のラインが目立つ黒い服を着込み、淫靡さと悍ましい何かを兼ね備えた、女がそこにいた。

「……うん。」

少女の肯定が、静寂に流れてすぐに消える。
この惨劇を起こしたのは、信じられぬが紛れもなく女だ。少女はただ願っただけだ、ただ考えて、願って、女に命じて、こうなった。
ただこうなっただけだ、少女はただ『チャッピー』という存在の一つを優先しただけだった。
それ以外、どうでも良かった。

「しかしよろしかったのでしょうか?」

「……何が?」

「私は特に言うことはありませんが、一応、父親だったのでしょう?」

「いいよ。でも、チャッピーは居なかった。」

何の感情も籠もっていない言葉を、女は少女に向けて告げた。
少女もまた、何の感慨も抱かない言葉で、女に返した。

「もうお父さんはお父さんじゃなかったから。お父さんじゃなかったらどっちでもいいでしょ?」


20 : 久世しずか&アルターエゴ ◆2dNHP51a3Y :2022/06/27(月) 22:37:30 EQKSk7yA0
もし、この場にまともな論理感の人間が居たならばまともな怒号が飛んでいたであろう。
然して、ここにはまともな論理感を持ち得られなかった二人しかおらず、女は少女の言葉を聞いて興味なさげに言葉を発することにした。
なぜなら女は、サーヴァント・アルターエゴは己がマスターである少女の内情などまだわかっては居なかったのだから。

「……して、マスターはこの後如何様に?」

「'聖杯'を手に入れたら、チャッピーとまた会える?」

女の言葉に、少女はまた『チャッピー』の事を考えていた。
聖杯戦争、英霊、令呪、そして聖杯。究極の願望機。文字通りの『魔法』を知ってなお、少女の錆びついた感情から発せられる思考は固着してる

「ねぇ、アルターエゴ。私ね、魔法なんて信じなかったんだ。」

少女の言葉が続く。

「でもね、タコピーがまりなちゃんを殺してくれて、奇跡も魔法もあるんだねって、そう思ったの」

透き通った瞳の内に、濁った黒が埋めいて。

「でも、タコピーはもう私を助けてくれなくなった。」

少女の瞳から、涙が一滴こぼれ落ちていた。

「……ねぇ、アルターエゴは、私を助けてくれる?」

少女は願うように、言葉を振り絞って告げた。

「ええ、マスター。マスターがそう望むなら、私はマスターの願いを叶えましょう。」

女はその問い笑みを向けて少女に答えた。

「そっか。―――ありがとう、アルターエゴ。じゃあ聖杯とって、チャッピーに会いに行こう、アルターエゴ。」

少女はそれに、満面の笑みを浮かべ、女に言い返したのだ。
女はただ、誰も気付かない薄ら笑いを浮かべ、じっと見つめていた。


21 : 久世しずか&アルターエゴ ◆2dNHP51a3Y :2022/06/27(月) 22:38:00 EQKSk7yA0
【クラス】
アルターエゴ
【真名】
殺生院キアラ
【属性】
混沌・悪・獣
【ステータス】
筋力:D 耐久:A+ 敏捷:B+ 魔力:EX 幸運:E 宝具:EX
【クラススキル】
『獣の権能:D』
対人類とも呼ばれるスキル。ビーストからアルターエゴに変化したため大幅にランクダウン。通常の単独行動:Bほどに収まっている。

『単独権限:E』
アルターエゴに変化した事で自己封印している。自重、というヤツである。とはいえ、単独顕現がもつ「即死耐性」「魅了耐性」を備えている。

『ロゴスイーター:C』
快楽天としての特性。「万色悠滞」から派生した特殊スキル。どのような規模・どのような構造の知性体であれ、知性(快楽)を有するもの全てに強力なダメージ特攻を持っている。ただし、クラスチェンジに伴い大幅ランクダウンし、もはや"さわり"のようなものに。まさに前戯に等しい。ビーストⅢは人類愛なので、当然人類を愛している。ただしキアラにとって人間とは彼女だけ。キアラにとって自分以外のヒトは、自分という人間を満足させるための玩具でしかない。

『ネガ・セイヴァー:A』
救世主(セイヴァー)の資格を持ちながら、自身の世界のみを救世しようとした獣の末路。
かつて月に誕生した快楽天はその存在規模こそビーストⅢに勝るものの、このスキルを有していないため、救世主の前には撤退する他なかったという。

【保有スキル】
『千里眼(獣):D』
視力の良さ、より遠くを見通すスキル。Aランクに達すると相手の心理や思考、未来や過去さえ知ることが出来る。千里眼としてのランクは低く、"遠く"を見通せるものではないが、目の前の人間の欲望や真理を見抜き、暴きたてる。……それだけなら賢人としてのスキルなのだが、相手の獣性・真理を暴いた事でキアラ自身が高ぶり、随喜を得てしまう。獲物を前にして舌なめずりをする毒蛇のように。

『五停心観:A』
ごじょうしんかん。メンタルケアを目的として作られた電脳術式で、精神の淀み・乱れを測定し、これを物理的に摘出する事で精神を安定させる。もともとは患者の精神マップを作り、これを理解するためにキアラが開発した医療ソフトウェアの名である。


『女神変生:EX』
人の身から神に変生するスキル。強力なバフデパート状態。

『人理昇天式:A』
ゼパルを吸収し、体内で魔神柱を飼育することで、キアラは魔神柱を支配する魔人となった。キアラが扱うのは「七十二柱の魔神」ではなく「名も無い、無個性の魔神柱」。だがその数は無限とも言えるもので、キアラはこれを自在に操る。

わたしを みすてないで キアラさま

【宝具】
『快楽天・胎蔵曼荼羅(アミダアミデュラ・ヘブンズホール)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ: 最大補足:七騎
対人理、あるいは対冠宝具。
体内に無限とも言える無名の魔神柱を飼育するビーストⅢの専用宝具。
もはや彼女の体内は一つの宇宙であり、極楽浄土となっている。
その中に取り込まれたものは現実を消失し、自我を説き解(ほぐ)され、理性を蕩かされる。
どれほど屈強な肉体、防御装甲があろうとキアラの体内では意味を成さず、生まれたばかりの生命のように無力化し、解脱する。
ビーストⅢは現実に出来た『孔』そのものだが、
その孔に落ちた者は消滅の間際、最大の快楽を味わい、法悦の中キアラに取り込まれる。
苦界である現実から解放されるその末路は、見ようによっては済度と言えるだろう。

【Weapon】
会得した詠天流の武術や法術

【人物背景】
類い希なる救世主としての資質をすべて己の為に使い、人ならざるものに変生した者。

【サーヴァントとしての願い】
???


【マスター】
久世しずか@タコピーの原罪

【能力・技能】
なし、おそらくは。

【人物背景】
誰かにとってのファム・ファタル。
実際は、ただの少女。……そのはず。

【マスターとしての願い】
チャッピーに会う。


22 : ◆2dNHP51a3Y :2022/06/27(月) 22:38:49 EQKSk7yA0
投下終了します フリースレに投げたものを使わせてもらいました


23 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/06/27(月) 23:39:47 DWOIkP7c0
スレ立てお疲れ様です。
自分も投下させていただきます


24 : イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&バーサーカー ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/06/27(月) 23:40:36 DWOIkP7c0


全身を鎖で縛られ、宝具の豪雨を受けて。
沈黙する、私の最強の英雄(バーサーカー)
下劣に笑う黄金のサーヴァント。
…それが私が心臓を抉り出されるまでの、最後の記憶。
私は、何もできなかった。
私こそ、この聖杯戦争で最強のマスターだと、そう思っていたのに。
バーサーカーの援護もできず、彼を助けるための令呪は何の意味もなく。
ただ、彼が倒されるところを、指を咥えてみているだけしか、できなかった。
私は一体、何のために生まれてきたんだろう。
ただ、とても寒い。
それが死に行く私が抱いた、最期の想い。
無念と一緒に、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの聖杯戦争は終わった。
その筈、だった。


「……狭い部屋」


冬木のモノとは別の聖杯から与えられた部屋のベッドに横たわり、独り言ちる。
アインツベルンの城とは比べるべくもない、狭くて、魔術的措置の欠片もない。
ただの子供部屋だった。
それが、私に与えられえた、この世界での拠点。
でも、そこにいると、どうしようもなく心がささくれだった。
死んじゃった筈の私が、別の聖杯戦争に招かれたのは良い。
逃してしまったアインツベルンの悲願に、また手を伸ばす機会を得たのだから。
それはいい。だが、許せないのは、そこから先だ。
私がこんな何の変哲もない子供部屋にいる事になった元凶。
ガチャリと、ベッドに横たわる私の背後で、部屋のドアが開く。
入ってきた私のサーヴァントをギロリと睨んで、そして言った。


「他のサーヴァントは倒してきたの、バーサーカー」


他のサーヴァントを従えるつもりなんて無かった。
私にとって、使い魔(サーヴァント)はヘラクレスただ一騎。
それ以外の英雄なんて必要ない。
彼だって、私以外のマスターに従う事は無いだろう。
だから。
きっと、もう一度聖杯戦争に参加して、召還を行ったなら。
また彼は、私の呼びかけに応えてくれる。
そう、信じていた。
そして、それは正しかった。
目の前のサーヴァントからは、確かにあのバーサーカーの気配を感じる。
なのに。それなのに、どうして。


25 : イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&バーサーカー ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/06/27(月) 23:41:33 DWOIkP7c0

「…ううん。一騎も」



───どうして、私と同じ姿なんだろう。


「やる気があるのかしら?」


そう、目の前に立つ私のサーヴァント、バーサーカーは───
私(イリヤスフィール・フォン・アインツベルン)の姿をしていた。


「私は言ったはずだけど。聖杯が欲しいって」


ベッドから体を起こして、さっきよりも冷たい眼差しでバーサーカーを睨む。
目の前のバーサーカーは、髪の毛一本まで私にそっくりだった。
お母さま譲りの白い髪も、真紅の瞳も、顔立ちも。
でも、私よりも体つきはずっと良かった。
聖杯としての機能を放棄した、ただの人間の、健康的な子供の肢体。
未来のない私が、本当は欲しかった身体。
彼女が持ってるのはそれだけじゃない。
もう一人の私は、私の欲していた物全てを持っていた。
召喚されてすぐに彼女の夢を見たから識っている。
切嗣(おとうさん)もお母さまも、シロウも、リズも、セラも、みんな揃っていて。
魔術回路と聖杯としての機能の調整の為に毎日体を切り開かれる事もなく。
友達に囲まれて、ありふれた日々を送っていた。


そんなイフの自分がいるだなんて、知りたくなかった。


魔術師として、アインツベルンとして。
正しい道を歩いているのは間違いなく私の筈なのに。
バーサーカーを見ていると、どうしようもなく。
私は何処で間違えてしまったのだろうと、考えずにはいられなかった。
更に、聖杯は当てつけの様に。
私に、アインツベルン城ではなく、もう一人の私の生前の環境を再現し、私に与えた様だった。
冬木から離れ、少しの間用意された自宅で一人暮らしの小学五年生。
それが私、それがこの世界でのイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
独り、なのは私にとってきっと良かったと思う。
もし、この世界で何から何までバーサーカーの生前の環境が再現されていたら。
私はきっと、まともじゃいられなかっただろう。
だけど、それと同時に。


26 : イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&バーサーカー ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/06/27(月) 23:42:09 DWOIkP7c0
やっぱり、魔術師としての私(イリヤ)に居場所なんて無いんだと。
そう言われているような気がした。
腹が立った。ムカムカした。イライラした。
私はそのいら立ちのはけ口を、バーサーカーに求めた。


「私は聖杯を手に入れて、アインツベルンの千年の悲願を達成する。
それが私の使命。私の生まれてきた意味。
貴女は私の使い魔(サーヴァント)で、私なのに、それを否定するの?」
「…………」


皮肉たっぷりに笑って、バーサーカーを詰める。
彼女は言い返すこともできず、哀し気に目を伏せるばかりだった。
それを見ると、とてもスッとして、でも同時に心の中から黒い物が溢れてくる。
ずるい。ずるいずるいずるいずるいずるい。
貴女は、私なのに。
貴女と私、何が違うというの。
何で、私の欲しかったもの全部を持っているあなたが。
よりによって貴女が、その姿をしているの。
私の、バーサーカーの姿を。
全部持ってるくせに。
私から、バーサーカーまで盗らないで。


「……本当は、それも考えてたんだ」


…え?と
思わず、呆けた声が漏れた。
さっきまで、顔を下げて、項垂れる事しかできなかった筈のバーサーカーは、顔を上げて。真っすぐ私の瞳を見て、言葉を紡ぎ始める。


「マスターがそれで幸せになれるなら、それもいいのかもしれないって。
でも、やっぱり駄目だよ」
「な…何よそれ…私は戦えって言ってるの!それが使い魔(サーヴァント)でしょう!」
「だって」


声を荒げる。
不意に、冬木でバーサーカーに初めて出会った日を思い出した。
あの日も、こんな風に声を荒げて言う事聞かせようとしたっけ。
でも、目の前のサーヴァントは、バーサーカーよりもずっと生意気だった。


「それじゃ───貴女が幸せになれない」


27 : イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&バーサーカー ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/06/27(月) 23:42:40 DWOIkP7c0


その言葉を聞いた瞬間、感情が抑えきれなくなった。
手を振り上げて、自分と同じ顔の横っ面を引っぱたく。
一度じゃない、二度も、三度も。
叩いた頬が赤く腫れあがって、私の息が切れるまで張り続けた。
疲れて、手が止まったところで私は残った感情を吐き出すように怒鳴った。


「貴女に…ッ!!何が分かるっていうの!!」


皆に囲まれて幸せに生きてきた私が。
身体を切り開かれる痛みも知らない私が。
千年の悲願なんて責任も背負わず、溢れる未来を歩んだ私が。
分かるわけもない。分かってほしくも無い。
あぁ、それなのに。


「確かにそう。貴女の苦しみは、私が簡単に理解した気になっていい事じゃない。
でも、分かる事だってある。貴女は───私だから。
少なくともそれを叶えても、貴女が望む未来にはならない気がするから」
「────っ!!」


どうして、甘いだけの日常を歩んできたはずこの子はこんなにも。
真っすぐ、怖がることも、嫌がることもなく。
こんなに辛く当たる私の瞳を真っすぐ見つめてくるんだろう。
私は、その目を見れなかった。


「……そう、じゃあこうしてげる」


告げるその声は震えていた。
どうにも格好がつかないな、と私の事ながら呆れつつ。
それでも精一杯悪意を籠めて、彼女の前に腕を突き出す。
令呪が刻まれた腕を。


「今から令呪で命令してあげる───みんな殺せって。サーヴァントも、マスターも」


幾ら意地を張ったところで、サーヴァントである限り令呪には逆らえない。
私がこのまま一言命じれば、それで終わり。
もう一人の私の意思なんて捻じ曲げて、台無しにしてあげるんだ。
汚してやる。穢してやる。
これが魔術師の世界だって、教えてやるの。
きっと、今の私の顔は。
アインツベルンの城で幾度となく見た、黒いお母さまとよく似た顔をしている気がした。
でも。それでも。


28 : イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&バーサーカー ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/06/27(月) 23:43:11 DWOIkP7c0


「───いいよ」
「……は?」


私の目の前に立つ私(イリヤ)はそれでも、俯かなかった。


「でも、私は諦めない」


その声は、私なんかよりもずっとはっきりしていて。
瞳は、変わらず真っすぐに、私を捉えていた。


「私は、何も諦めない」


彼女の、その言葉に。
私は思わずバッと顔を上げて、彼女の顔を見てしまった。
お互いの、紅い瞳が交わる。


「貴女を見たときから決めたんだ
貴女が納得できる…ううん、幸せになれる結末を探すんだって」


あぁ、本当に。
イフの私、魔術師として歩まなかった、普通の子供の貴女。
何故、どうして。平凡な道を歩んでいた貴女が。
無理やり戦わせようとする酷い主を前にして、瞳を逸らさずにいられるんだろう。
どうして、貴女の瞳の中に、彼(ヘラクレス)の姿を見てしまうんだろう。


「……はぁ、もういいわ。やーめた」


それが分からなくて、彼女に対する妬みとか憎悪は気づけば散り散りになってしまった。
令呪の紅い紋様は光を放つことを辞めて、翳した手を降ろす。
そうして一呼吸おいてから、私は尋ねた。


「───どうして、辛く当たる私に、そこまでしようとするのかしら」


ふて寝するようにベッドに横になって。
顔を見せないまま、バーサーカーに聞いてみる。
サーヴァントだから、という答えが直ぐに浮かんだけれど、違う気もした。
後ろで、少し考える様な気配を感じて。
返事が返ってきたのは、それから少し経ってからだった。


29 : イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&バーサーカー ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/06/27(月) 23:43:53 DWOIkP7c0


「貴女、お姉ちゃんに似てるんだ。だから、ほっとけないの」


それに、と、バーサーカーはそのまま続ける。


「私だって、この聖杯戦争で見ず知らずの人でも構わず助けられる
そんな“正義の味方“でいられるかは自信無いけど…
自分(わたし)のためだったら、きっと最後まで戦える気がするの。それだけ」
「何それ、バカみたい…貴女のどこが私なのか全然分かんないわ
それに、奇跡でも起きなきゃ…そんな未来は絶対、来ない」
「……そうかもね。でも、奇跡は起きるよ、マスター」


背後で、バーサーカーが立ち上がる。
絶対に、振り向かない。
振り向いたら、笑っているあの子の顔を見るだろうから。
今、あの子を見たら、頭の中がぐちゃぐちゃになって、おかしくなる。
そんな私にそのまま部屋のドアへと手をかけて、扉を開きながらあの子は言った。


「起こしてみせる」


きっと、この子は。
私の為に、奇跡を得るのではなく、奇跡に辿り着こうとしている。
妬ましくて、羨ましくて、憎らしくて。
そんなサーヴァントだけど、その事だけは確信が持てた。


「私に力を貸してくれてる、優しい英雄も、そう言ってるから」


本当に、本当に、大嫌いなサーヴァント。
いう事は聞かないし、強さも彼のできそこないで。
そのくせ分かったような口ばかり利く。
本当は、話もしたくないけど、でも。


「……これだけは言っておくわ」


それでも、これだけは伝えなきゃいけない。


「───負ける事だけは許さない。貴女の中にいる英雄は…最強なんだから」


30 : イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&バーサーカー ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/06/27(月) 23:44:15 DWOIkP7c0
「……うん、分かってる」


その言葉だけ残して。
パタン、と扉は音を立てて閉まった。


「───まったく、最低最悪のサーヴァントだわ」


気も話も合わないくせに、余計なお節介ばかりで。
夢みたいなことばかり語って。
なのに、どうして。
あの子と話しているときは、さむくないんだろう。
どうしてあの子の瞳はあんなにも───、


「…ほんと、大嫌い」


それだけ呟いて、寝返りを打つ。
仰向けになった体には、窓から夜空がよく見えた。
そこに月は無かったけれど、闇もまた、そこにはなかった。
例え月の見えない夜でも───星はそこにあった。


31 : イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&バーサーカー ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/06/27(月) 23:44:37 DWOIkP7c0

【クラス】
バーサーカー

【真名】
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ

【ステータス】
筋力:B+ 耐久:B 敏捷:B 魔力:B 幸運:A 宝具:C

【属性】
中立・善

【クラススキル】
狂化:E-〜B
理性を失う代わりに能力値が上昇する。
非戦闘時、このスキルは機能せずステータス上の恩恵はない。
戦闘時、戦闘開始から十数分経過の後バーサーカーは理性を加速度的に失っていく。

【保有スキル】
カレイドライナー:B
英霊の力が内包されたクラスカードをその身に宿し戦う者。
夢幻召喚(インストール)という技術に熟達したもののみに与えられる。
非戦闘時、バーサーカーはサーヴァントとしての気配を発さない。
戦闘時においては、その身はカードの基となった英霊の肉体の性能へと置換され、該当する英霊の能力を得る。
本来であればカードさえあれば七クラス全ての英霊の能力を得るが、今回はバーサーカーとして霊基が固定されているため、基本的に狂戦士以外の能力を発揮するのは不可能。
また、英霊の能力全てを発揮できる訳でもなく、どれだけ相性が良くとも一部ステータスやスキル、宝具は本人が扱う者よりも劣化する。
ただし、サーヴァントとなったことによって許容値を越えた攻撃を受けてもカードは強制排出されず、消滅までその身に宿した英霊の能力は解除されない。

不撓不屈:B
バーサーカーがその身に宿す英霊の生き様と逸話が具象化したスキル。
Bランク相当の戦闘続行、心眼(偽)、Cランク相当の勇猛を内包した複合スキル。

神性:B
本来であれば最高ランクの神性を有しているが、劣化してしまっている。

痛みも涙も運命さえも超えて:EX
内包する英霊ではなく、願望器であったバーサーカー自身の在り方が昇華されたスキル。
発動時、バーサーカーはあらゆる難行が『不可能なまま可能』となり、
その為に必要な事象を過程を飛ばして導き出すことができる。
可能性が乏しければ乏しいほど、逆境が激しければ激しいほど、このスキルの効果は青天井に跳ね上がる。
非常に強力なスキルだが、このスキルはバーサーカー単体では決して発動しない。
発動には、マスターとバーサーカーの精神状態が非常に高いレベルで同調している必要がある。
つまり、マスターとの信頼値・絆レベルが一時的にでも最高ランクまで達していなければこのスキルは決して効果を発動しない。
奇跡は、バーサーカー一人では起こせない。

この世全ての贈り物:-
永遠の孤独を定められた少女に全てを捨てて寄り添ったバーサーカーの生き様を体現したスキル。
二人の少女しか知らない幻想譚(フェアリーテイル)。六千年の時を超えた尊き祈り。
想いを届ける事に特化した効果を有するが、現在使用不能。


32 : イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&バーサーカー ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/06/27(月) 23:44:58 DWOIkP7c0

【宝具】
『十二の試練(ゴッド・ハンド)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
バーサーカーがその身に宿す英霊が有していた宝具。
Bランクまでの攻撃の一切を無効化し、それ以上の攻撃を受け死亡した際でも11度の蘇生と耐性の獲得を行う概念防御。
しかしバーサーカーはこの効果を本来の担い手より劣化した形でしか再現できない。
無効化できるランクは1ランクダウンしており、Cランク を超えるBランク相当の攻撃は軽減、最大でも半減することしかできず、それ以上の攻撃は素通りする。
蘇生時の耐性獲得も最大で半減程度に留まり、蘇生回数すら本来の回数の半分である六度に留まる。
またこの六度という数値も彼女が内包する英雄と最高レベルの相性である現マスターだからこそ発揮できるスペックであり、マスターが変わった場合更に蘇生回数は半減する。
ただし性能がデチューンされた分、消費したストックの回復燃費は向上している。

『継承召喚・騎兵(オーバーライドインストール・ゴルゴーン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
今回の召喚では狂戦士(ヘラクレス)の能力しか扱えないバーサーカー唯一の例外。
この第二宝具を発動することによってギリシャ神話の反英雄メドゥーサ/ゴルゴーンの能力を得ることができる。
要はフォームチェンジ。
しかし得られると言ってもベースとなるのはあくまでバーサーカーのクラスのため、
騎乗スキルは失われ、メドゥーサの宝具である『騎兵の手綱』は発動できず、
一時的に完全な怪物と化す必要のあるゴルゴーンの宝具『強制封印・万魔神殿』も人の身であるバーサーカーには扱えない。
その代わり発動中にはA+ランク相当の怪力と石化の魔眼のスキルを獲得し、筋力敏捷耐久がワンランクアップする。
特に怪力スキルによって筋力値の上昇は目覚ましく、身体能力のみで宝具に匹敵する性能を発揮する。

【Weapon】
無銘・斧剣

【人物背景】
イリヤスフィール・フォンアインツベルンのイフの姿。
魔術師としての道を歩まなかった、強くて優しい普通の少女。

【サーヴァントとしての願い】
ただ、私(マスター)が笑っていられる未来を


33 : イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&バーサーカー ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/06/27(月) 23:45:24 DWOIkP7c0

【マスター】イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
【出典】Fate/stey night

【マスターとしての願い】
聖杯を取る。

【weapon】
○『天使の詩(エンゲルリート)』『コウノトリの騎士(シュトルヒリッター)』
イリヤの髪を媒介にして造られる小鳥サイズの使い魔。自立浮遊砲台。
銃身と本体の2パーツで構成されており、光弾を放つ他銃身そのものを剣の弾丸と化し放つこともできる。
しかしそうした場合、この使い魔は銃身を失うこととなるので攻撃の後に自壊する。
光弾を『ツェーレ(涙)』、剣部分を打ち出す光弾を『デーゲン(剣)』という。

【能力・技能】
非常に高い魔術の技能。

【人物背景】
魔術師としての生を歩み、そして死んだ雪の少女。
今回はUBWルートにて、死亡後より参戦。
そのため、本来の彼女より荒んでいる。

【方針】
聖杯狙い。


34 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/06/27(月) 23:45:45 DWOIkP7c0
投下終了です


35 : ◆As6lpa2ikE :2022/06/28(火) 19:41:04 .fJCzkCY0
投下します


36 : 開戦前 Imagine_Breaker_and_Fate_Breaker. ◆As6lpa2ikE :2022/06/28(火) 19:43:54 .fJCzkCY0
学園都市とはずいぶん違うな、というのが率直な感想だった。
ツンツン頭の高校生、上条当麻はハンバーガーショップの二階席に座り、一番安いハンバーガーのセットをつまみながら、外の景色を見下ろす。窓ガラス越しに見えるのは駅前の雑踏だ。世界水準から十年二十年は進んだ科学技術を持つ学園都市なら、人混みにちょっと目を向けるだけで清掃ロボットのひとつやふたつは見つかるが、今現在の上条の視界にそんなものはひとつたりとも映らない。空に視線を上げてみても、そこにあるのはただの夕暮れだ。側面にニュース番組を映している飛行船なんて飛んじゃいない。
この街と学園都市。世間の一般的な価値観に合わせて考えてみると、まともな現実味があるのは前者だろう。
しかし上条当麻は、どこまでも現実的であるはずのこの街に、居心地の悪さを感じていた。
その理由は『今の』彼が生まれも育ちも学園都市であるが故に、外の世界に慣れていないからか。
それとも。

「聖杯で造られた仮初の世界に違和を感じずにはいられないかね」

 むにゅっ、と。
 上条の隣に並ぶようにして座っていた銀髪の少女が、トレイのポテトに伸びていた少年の右手を掴み、自分の胸へと強引に押し当てていた。
 薄い青を基調としたダブルのブレザー型制服に包まれている小さな、されど自身の柔らかさをはっきりと主張している感触が、右手を通じて上条の神経に流れ込む。
その瞬間、先ほどまで窓の外の光景に注がれていたツンツン頭の意識が右手ひとつに総動員、更に一瞬後、爆発した。

「ぶへばがァッ⁉︎ 急に何しやがるんだアレイスター⁉︎」

「そうあからさまに挙動不審なのは良くないな、マスター。自分がこの街に紛れ込んだ異物だと喧伝しているようなものだぞ」

「いま俺が挙動不審なのは主にお前の所為なんだけど⁉︎ あとマスターって呼ぶのやめない? 中身がオッサンだと知ってても、そのツラとその声でそう呼ばれるのは、なんだかイケないことをしている気分に……」
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「聖杯戦争の参加者になった瞬間に自分の右手に宿った令呪を、同じく自分の右手に宿っていた『幻想殺し』で破壊してしまった君は、誰が見てもマスター失格かもしれないが、それでも現在の君と私が主従関係にあるのは確かな事実だろう。それともここはクールジャパンらしく、語尾に甘ったるいハートマークを付けて「ご主人様」と呼んだほうが良いのかね? 御所望とあらば、霊衣をちょっと開放(いじく)ってメイド服に着替えることも可能だが」

「中身スケベオヤジの子持ち銀髪魔法少女って時点で属性過多なのを自覚してくれませんかねえッ⁉︎ それ以上属性を盛られたら俺の手に負えなくなるんだよ!」

「そもそも呼称に拘泥して変更を求めるなら、優先権があるのはこちらだろう。人前で私を呼ぶ時は、真名ではなくキャスターと言いたまえ」

かの歴史的な魔術師にして変人にして変態であるアレイスター=クロウリーと同じ名前で呼ばれた美少女は、上条の右手を自身の薄い胸元に押し付ける力を、より一層強めた。もにもにふにふにとかいう、聞くだけで癒しと興奮の促進作用がありそうなオノマトペの音量が上がる。
 銀髪少女の中身が変態趣味のオッサンであることを知らなければ、上条の思春期が色々と限界を迎えていそうなシチュエーションだったが、揉まれている側であるアレイスターは、いっそ生体実験の経過観察でもするような目付きで自分の胸元、およびそれに触れている少年の右手……『幻想殺し』を見つめていた。


37 : 開戦前 Imagine_Breaker_and_Fate_Breaker. ◆As6lpa2ikE :2022/06/28(火) 19:44:54 .fJCzkCY0
「簡単な実験さ」

 今更ながらに上条からの「急に何しやがるんだ」という疑問に答えるアレイスター。

「『ブライスロードの秘宝』……君にとって先代にあたる幻想殺しは、魔術的な儀式によって異世界から召喚された者を元の世界へと追い返す為に使われていたこともある究極の追儺礼装だ。クラス・キャスターのサーヴァントという超常的な存在として召喚された私がそんなものに触れたら、いったい何が起きると思うかね? 好奇心がすっげえ刺激される実験じゃないか?」

「馬鹿じゃねえのッ⁉︎ 勝手に人の右手を使って自殺みたいな実験をするんじゃないよ!」

「時には自分の身を危険に晒す必要さえあるのが魔術師の本分というものだよ。……とはいえ、こうしてしっかりと揉みくちゃにされているのに何の変化も見られないということは、どうやら私の考察は外れたらしい。召喚直後ならともかく、一体のサーヴァントとしてこの世界に存り方を固定されているからか? それともかつて『クロウリーズ・ハザード』で顕現した私に君の右手が通じなかったのと同じ理屈かな? まだ試していないが、霊基の最奥にある霊核に触れられた場合はいったいどうなるのやら──」

 いつのまにか上条の右手を軽く手放すと、アレイスターは入店した時に注文していた、やけに鮮やかな色をしているフルーツシェイクに口をつけた。可愛いガワに寄ったチョイスをしているのが、なんだかあざとい。
 聖杯戦争についての知識なら、上条だってこの異界東京都に呼ばれた瞬間に聖杯から与えられているけども、体育の授業の初回に一度だけ、それまでやったことがないスポーツのルール説明を受けた時のような理解度だ。この競技ではこの道具を使う、これをしたら勝ち、これをしたら反則、みたいな。
しかしアレイスターの場合、彼はそれを十全に理解した上で、『幻想殺し』を用いた更なる考証を試みていた。この辺りは流石、実験好きの大魔術師といったところか。

「『幻想殺し』がサーヴァントの存在そのものに有効だったら、今後の聖杯戦争における我々の立ち振る舞いが大きく変わっていたんだが、どうやらそういうご都合主義と縁がないのが、君と私らしい」

 知った風な口を聞きながら、薄い青のブレザー少女は肩を竦めた。
 今後の聖杯戦争、と彼は言った。
 それはこれからどう過ごし、どう生き残り……、そして。
どう戦うか、ということだ。
 その現実に上条は無縁ではない。

「…………、」

 無縁でなんか、いられない。
 
「予め言っておく」

 少年は言った。
 
「一刻も早く聖杯を掴むぞ。だけどそれは、いつも通りの日常が送れればそれだけで満足しちまうような、ちっぽけな俺なんかの願いを叶えるためじゃない。沢山の人間を巻き込んで殺し合いを強制するクソッタレの『聖杯(げんそう)』に、この『幻想殺し(みぎて)』をぶつけるためだ」

 ギリ、と音がした。
 少年が右手を握りしめた音だった。圧力を加えることで硬度が上がる人工ダイヤモンドのように、拳が持つ熱と固さは増していく。
 聖杯戦争の参加者が殺し合うのは、その末に万能の願望器を名乗る聖杯が待ち構えているからだ。ならば、上条がその右手で聖杯を破壊してしまえば、それ以上争う理由は無くなり、戦争の激化にある程度の歯止めをかけられるだろう。
 もちろん、これが最善策ではないということは理解している。
 異界東京都には訳も分からないまま呼び出されて聖杯戦争に参加させられた者だけでなく、確固たる意志の元に戦っている参加者もいるはずだ。上条がやろうとしているのは、そういう者たちが血みどろになってまで求めている景品を破壊することに他ならない。ともすれば、普通に戦争に参加して他者を蹴落とす以上に周囲からの反感を買う可能性だってある。
 更に、以上の計画を完遂するには、ゴール地点である聖杯を誰よりも先んじて見つけ出すことが大前提だ。
加えて言うなら、聖杯は上条が今いる異界東京都の創造主。その力は、新しい位相を差し込むことで世界を変えた魔神オティヌスと同等、あるいはそれ以上と見て間違いない。「そんな存在に『幻想殺し』をぶつけたところで、はたして通用するのだろうか?」という疑問を無視することなんて、不可能だ。
 なんという無理難題。
 ついでに言うと、そもそもこの計画は上条ひとりでは実現できない。
 この異界東京都における上条のパートナー。サーヴァント・キャスター。アレイスター=クロウリー。
知己であり、かつての宿敵であり、共に戦場を駆け抜けた仲間であり、そして魔術と科学の分野において上条の遥か先を行く先達である彼の助力なくては、元からゼロに近い計画の実現性が完全にゼロになってしまう。こればかりは、日ごろから何かとひとりで抱えて突っ走りがちな上条であっても、認めざるを得ない。


38 : 開戦前 Imagine_Breaker_and_Fate_Breaker. ◆As6lpa2ikE :2022/06/28(火) 19:46:38 .fJCzkCY0
もっとも、アレイスターが聖杯になんらかの願いを託すべく召喚に応じていた場合、上条たちの主従は、ここで致命的な決裂を迎えてしまうのだが……、
 
「聖杯にかける願い? あるはずがないだろう、そんなもの」

アレイスターはあっさりと答えた。

「この姿のイメージソースになったベイバロンが聖杯と縁のある神格なのは確かだが、十字教嫌いで名の知れた私が、かのカリスと同じ名を持つ願望器に頼るなんて、矛盾まみれのキャラ崩壊も甚だしいじゃないか。……まったく。そもそもなにが聖杯だ。くだらない。特に、たったひとつの限られた勝者の枠に収まるために殺し合いを強制されるというのが気に食わないな。時に儀式は犠牲や生贄を伴うものだが、このやり方はいくらなんでも雑すぎるだろう」

 銀髪の少女の形をしたアレイスターは、学生が提出したレポートの不備を指摘する大学教授のような口調で言った。

「万能の願望器を名乗るなら、まずはその不完全を是正すべきではないかね?」

「……ああ、そうだな。そういえば、お前はそういう奴だったよ、アレイスター」

 上条は安心したような、あるいは納得したような口調で言った。
 ブライスロードの戦いを、そしてイギリスにおけるコロンゾンとの戦いを経験した少年は知っている。
 アレイスター=クロウリーはたしかにクソ野郎で、ロクデナシで、下ネタ中毒の変態で、悪評を積み上げていくだけでK2の山頂を簡単に上回ってしまうほどの異常者だけども。
 それでも。
彼は不完全や理不尽によって起こされる悲劇を許せない、甘い人間なのだ。

「というわけで他の霊基ならともかく、キャスタークラスの霊基で召喚された私にとって、聖杯は不要どころか破壊すべき対象になるのさ」

「他の霊基……?」

「手段を選ばない獣ではなく叡智の聖母を呼べた自分の幸運に感謝したまえ、ということだ」

「?」

 アレイスターの曖昧な台詞にいまいちピンと来ていない様子の上条だったが、銀髪少女はそれ以上の言葉を語らなかった。説明好きの多弁家なくせに、他者の理解を得ようとしないのは、彼の悪癖である。

「ところでマスター。この度めでたく一致した我々の方針を成就させる為に、ひとつ頼みごとがあるんだが」

「頼みごと?」

「現在、君と私の間にあるべき魔力のパスは、令呪の破壊と共に失われているだろう? それに関する話だ」

「あー……、それってマズいんだよな? たしか、サーヴァントって魔力がないと存在できないって聖杯から聞いた気が」

「まあパスが残っていたところで、それを通じた君からの魔力供給なんて期待できるはずもないのだし、却って好都合だよ。現界と戦闘に用いる程度の魔力なら、自前で十分用意できるからな。しかし、それはそうとリソースを得られる手段があるのなら、実行しない理由はない。その協力を君に頼みたいんだが」

「そんな方法があるのか?」

「魔力の大元となるエネルギー、つまり生命力の物理的な摂取。今の君はガソリンの精製工場がない油田のようなものだ。そこから原油を頂戴し、私の体内に流し込んで、魔力へと変換すればいい。通常の魔力供給には及ばないだろうが、やらないよりはマシだ」

「なるほど! そんな便利な方法があるならやるしかないな! で、具体的になにをすればいいんだ?」

「生命力を含有する体液の供与。つまりセック

「シリアスな話からド下ネタに繋げるんじゃねえよ! 馬鹿野郎ッッ!」

 上条は頭を抱えて小刻みでプルプルと震えた。
 対する銀髪美少女アレイスターちゃん(最後まで変態オヤジたっぷり)は小首を傾げ、可愛らしい上目遣いで上条を見る。

「えー、駄目か? 割と真剣に名案なんだが」

「思いついたそばからとりあえず計画を実行してはポンコツに終わってる超近視眼が言う『名案』なんて乗れねえよッ! 少なくともその案は絶対に無理!」

「チッ、仕方ない。また別のタイミング……「このピンチを打破するにはこの手段しか残されていない」みたいなタイミングが来るまで待つとするか」

「なんてこった。こりゃ絶対に気の抜けない戦争が始まりそうだぜ……!」

令呪も無い身でこのド級の変態の射程距離内にいるという事実に、改めて恐怖を感じる上条当麻だった。
いざという時は殴ってでも止めよう。そんなことを考えながら、全部平らげたトレイを手に取り、席を立つ。


39 : 開戦前 Imagine_Breaker_and_Fate_Breaker. ◆As6lpa2ikE :2022/06/28(火) 19:47:27 .fJCzkCY0
ちなみに異界東京都における上条の懐事情は、元の世界のものとおおむね同等だ。その再現度には驚かされたし、財布の残高を確認して更に驚かされた。というか、悲鳴をあげた。
そんなわけで本来、上条当麻はたとえ一番安いハンバーガーセットであろうと、外食なんて気軽にできるはずがなく、家で質素にもやし炒めを食べるという『腹が減っては戦はできぬ』とは真逆の食生活を送る必要があった。しかし外を歩いていた時にアレイスターから「ちょっと休憩だ」と半ば無理矢理店内に引き摺り込まれた結果、現在に至るというわけである。望まない外食でおっさんの下ネタトークに付き合わされる以上の不幸って中々ないんじゃないか?
店員からの「またのご来店をお待ちしております」という定型文を背中に浴びながら、自動ドアをくぐる。びゅう、と音を立てて冬の寒気を含んだ風が出迎えた。さっきまでツッコミやらアレイスターからのセクハラやらで火照っていた体が一気に冷やされる。暖を求めて自分を抱きしめるような格好で腕を擦りながら、上条は更に一歩、外に出ようとした。
その時だった。 
とてつもない大きさのタコが、眼前を通過したのは。

「おおおおおおおおおおおおァアッ!?」

大質量の移動に伴って発生した突風。それに吹き飛ばされた上条は、絶叫しながら地面を転がる。被害はそれだけに留まらず、タコが通過したコンクリートの地面はディッシャーを通したアイスクリームのように抉れており、路上に停まっていた大型トラックは蹴飛ばされ、ティッシュの空箱のように軽々と宙を舞っていた。人間があんな速度で動く大質量の直撃を受ければひとたまりも無さそうだが、タコは通行人の隙間を縫うようにして器用に走っていたため、人的被害は奇跡的にゼロだった。
路上を爆速で走行するタコなんて、明らかに非現実的であり、聖杯戦争に関係する異物であることは間違い。
だというのに上条は、その異形に見覚えがあった。

「クロウリーズ……ハザード?」

季節は真冬だというのに頬に生ぬるい嫌な汗を滴らせながら、先程ハンバーガーショップの店内でアレイスターが呟いていた単語と同じものを口にする。
クロウリーズ・ハザード。
かつてアレイスター=クロウリーが起こした、地球規模の大災害。
彼が持つ10億8309万2867通りの『可能性』が分身の形で世界各地に顕現して暴れ回るという終末系パニックホラー映画みたいな現象だ。
そして今し方、上条が見たタコは間違いなく、かつてイギリスの海岸で目にしたアレイスターの可能性のひとつだった。
ギギギ、と油の切れたゼンマイのように首を動かす上条。視線の先には銀髪少女のアレイスターが立っていた。

「えーと……、我らの頼れる先生アレイスたん? この状況に説明を求めても?」

「……私としてもこの状況には不可解な部分が多いが、いくつか仮説を挙げることは可能だ」

 講義をする教師のような振る舞いで、アレイスターは言った。

「まず私がサーヴァント化したことで、生前の逸話である『クロウリーズ・ハザード』が宝具として再現されたという仮説。……いや。この私にそんな宝具は登録されていないから、違うか。だいたい、地球全土を埋め尽くす勢いだったあの『クロウリーズ・ハザード』が完璧に再現されたとなれば、たかだか東京二十三区程度の面積なんて、今頃10億8309万2867通りの分身で埋め尽くされているはずだ。そうなっていないということは、あくまで『クロウリーズ・ハザード』に似ているだけの、分身数が大幅に減った劣化版のような現象か? そう、たとえば、私という極彩に輝く魂を持つ英霊がサーヴァントというひとつの器に収まろうとした際、収まりきらずに溢れた魂によって起こされた現象と考えると納得がいくな。もっとも、たとえ劣化版であろうと、数多の私が顕現すれば、それは充分立派な脅威になるというのは、今し方君が目にした通りだがね」

「……ええと、つまり?」

「このままだとこの街、めちゃくちゃになっちゃうかも☆」

「ふざッッ、けんなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアァッ!!」

少年の咆哮が冬の空に木霊した。


40 : 開戦前 Imagine_Breaker_and_Fate_Breaker. ◆As6lpa2ikE :2022/06/28(火) 19:48:22 .fJCzkCY0
【クラス】
キャスター

【真名】
アレイスター=クロウリー@とある魔術の禁書目録シリーズ

【属性】
混沌・悪・星

【ステータス】
筋力E 敏捷E 耐久E 魔力A++ 幸運E 宝具C(召喚時)

【クラススキル】
道具作成:A+++
下記の『人間の智慧』スキルと合わせて発動すれば、宝具級の兵器・霊装を作成することすら可能。

陣地作成:EX
工房となる陣地を作成する能力。
科学サイドの総本山である学園都市を作り上げたのは勿論のこと、そもそも本来ならば統一された理論で説明可能だった世界を人間の普遍的な共通認識を操作する技術である『原型制御(アーキタイプコントローラ)』によって科学と魔術のふたつに切り分けたアレイスターは、このスキルを規格外のランクで所有している。
このランクになると、作成されるのは『陣地』を超えた『時代』となる。

【保有スキル】
人間の智慧:A+
世界最高の科学者と名高く、科学力が外部から数十年は進んでいると言われている学園都市の統括理事長を務めていたアレイスターは最先端の科学を知り尽くし、自在に行使する。
また彼は魔術の道でも天才と評されており、その実力は魔術を極めた先にある神の領域に足を踏み込んでいてもおかしくないほど。
一部の例外を除き、科学や魔術に関連する知識・技術を高ランクのスキルとして発動できる。

霊的蹴たぐり:EX
キャスターが得意とする魔術の一種。
卓越したパントマイムによって対象の脳とリンクし、アレイスターがジェスチャーした武器の威力を対象だけに叩き込む。
例えばキャスターが剣を握って振るパントマイムをすれば、標的は彼の手に剣が現れて斬られたように感じ、体が勝手に切り傷を開いてしまうし、キャスターが銃を発砲するパントマイムをすれば、標的は彼の手に銃が現れて撃たれたように感じ、体が勝手に銃創を作ってしまう。
リンクした標的の想像力を利用する攻撃なので、リンクから外れている第三者は、この魔術で出現した武器を認識することもないし、それによる影響を受けることもない。つまり、このスキルによってどれだけ大規模・高火力な攻撃を行ったとしても、その威力を叩き込む対象に含めてない第三者や周辺環境に被害が及ぶことはない。
あくまで極まったパントマイムによって相手が自分から傷ついていくプラシーボ効果のすごい版のようなものなので、消費される魔力量は型月世界における投影(魔力によって武器を物質化する魔術)と比べると格段に少ない。
ちなみに生前のキャスターはこの魔術を用いて、クレイモアやフリントロック銃、航空支援式ビッグバン爆弾などを再現していた。

黄金の呪詛:A
魔術結社『黄金』を破滅へと導き、最終的にキャスター自身にも牙を剥いた呪い。
このスキルによってキャスターの行動には常に失敗が付き纏い、何事も想定通りには進まない。しかし彼は「成功も失敗も問わず、前に進み続ける」という思想で自身の目的を達成しようとする。

【宝具】
『衝撃の杖(ブラスティングロッド)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1

ねじくれた銀の杖。
……のように『霊的蹴たぐり』でイメージを再現した補助術式。
その効果は『魔術の効果(威力、射程、大きさなど)を標的が想像する10倍に増幅する』というもの。
対象は術式のみならず、魔術的な儀式によって召喚・使役した存在にも適用される。
一度この術式で10倍に増幅した魔術的攻撃を受けた標的が、それに対応しようとした場合、次にこの宝具で増幅される術式は、当然ながらその想像を基準として更に10倍、つまり元の100倍の効果となる。

『我が掌上にて運る学園都市(サイエンスワーシップ・スマートサイズ)』
ランク:E 種別:対人〜対都市宝具 レンジ:4000000 最大捕捉:1

カードサイズのスマートフォン。もしくはそれと接続されている人工衛星。
アレイスターが学園都市の統括理事長だったことの証。
この宝具には彼が生前に築き上げた科学の街、学園都市の全権限・全機能が内包されている。
これを用いることで、指先ひとつで学園都市製の様々な兵器を大気圏外を旋回する人工衛星から地表へと送り込み、取り扱うことが可能。
衛星から射出される最先端の科学兵器は落雷のような電子ビームや人間を細胞レベルで分解するミクロ兵器など、どれも強力だが、最先端の科学の産物であるが故に神秘的なランクは低い。


41 : 開戦前 Imagine_Breaker_and_Fate_Breaker. ◆As6lpa2ikE :2022/06/28(火) 19:49:05 .fJCzkCY0
『10億8309万2867通りの可能性(クロウリーズ・ハザード)』
ランク:- 種別:- レンジ:4000000 最大捕捉:1083092867

アレイスター=クロウリーが召喚されると同時に、彼の『ありえた可能性』である分身が聖杯戦争の会場内各地に顕現する。

アレイスターという極彩に輝く魂を持ち、数多の可能性を保有する人間が『キャスター』というひとつの霊基で召喚された結果、ひとつかぎりの器に収まりきらなかった魂がサーヴァント未満の霊基をもって外部に溢れ出した結果起きた現象。
発生経緯こそ違えど、彼が生前に起こした『クロウリーズ・ハザード』と同じようなもの。

キャスターが生前に起こした『クロウリーズ・ハザード』とは違い、10億8309万2867通りのクロウリーが一気に召喚されて聖杯戦争の会場が埋め尽くされることはないものの、それでも膨大に過ぎる数の分身が広範囲かつ継続的に顕現する。
クロウリー達は男性、女性、子供、老人、聖人、囚人、魔術を極めたクロウリー、魔術をすっぱり諦めたクロウリーなどといった人間に近い形を持つ可能性から、恐竜やタコのようななにか、もはやイキモノの形を保っていないものまで様々な姿をしている。
クロウリーズ・ハザードが殺されるたび、彼らと並列の存在であるキャスターのクロウリーは『血の供儀』によって『分岐先』を失って効率化・最適化され、その結果キャスタークラスでありながら三騎士クラスのトップサーヴァントと近距離戦をおこなえるほどにまでステータスが上昇していく。
なので、キャスター本人からすれば、クロウリーズ・ハザードはガンガン殺してもらった方が好都合だったりする。

正確に言えば、これはキャスターの召喚時に起きた不具合であって、正式な宝具ではない。
また、キャスターが本来有しているはずの『単独顕現』スキルはこの現象に吸収されており、効力を失っている。

【weapon】
・宝具
・人間として積み上げてきた科学と魔術

【人物背景】
学園都市統括理事長。
もしくはかつて魔術結社『黄金』に所属していた至高の魔術師。
『運命』だとか『どうしようもない現実』によってもたらされる『理不尽な悲劇』を一掃して『誰もが当たり前に泣いて当たり前に笑える世界』を作るために、世界中を巻き込んだ壮大な計画を企んでいたひとりの『人間』。
原作の歴史において、アレイスター=クロウリーはれっきとした男性であり、此度の召喚で現界した銀髪少女は、あくまでクロウリーズ・ハザードの際に出現した、アレイスターが持つ数多の可能性のひとつにすぎないのだが、マスターである上条当麻が、イギリスにおける大悪魔との戦いでこの姿のアレイスターと背中を任せ合いながら戦ったという縁から、この姿での召喚となった。

【方針】
聖杯の破壊

【マスター】
上条当麻@とある魔術の禁書目録シリーズ

【weapon】
・幻想殺し(イマジンブレイカー)
上条の右手に宿る力。
異能に触れるとそれを破壊する能力を持つ。対峙する異能の威力や量があまりに膨大だった場合、完全に打ち消すのは不可能だが、それでも右手で干渉したり掴んだりすることが可能。

【人物背景】
どこにでもいる普通の高校生。
強いヒーロー気質を持っており、その為なにかとトラブルに乗り込みがち。

【方針】
聖杯戦争を止めるために、聖杯を破壊する。

【備考】
異界東京都内各地において『クロウリーズ・ハザード』が発生しています。
あらゆる可能性のアレイスター=クロウリーが現れるという性質、そして原作において世間がいつの間にか『クロウリーズ・ハザード』という現象名を認知していたというエピソードから、そう遠くない内にアレイスターの真名が広まるかと思われます。


42 : ◆As6lpa2ikE :2022/06/28(火) 19:49:24 .fJCzkCY0
投下終了です


43 : ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:08:06 i06VU1qI0
投下します


44 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:09:20 i06VU1qI0



───それは、変革が訪れようとする歴史の黎明でのこと。

───それは、時に1879年の英国でのこと。


夜闇で構成された暗がりだけがそこにある。
都市の各所を同時多発的に襲った悪意の炎は既に鎮火され、喧騒に満ちたロンドンは元の静けさを取り戻しつつあった。手を取り合った市民と貴族の目は、最早消え去った火の名残になど向いてはいない。
人々の視線は高く、高く、遥か高みにある一点へと注がれていた。
テムズ川を繋ぐ架け橋足らんと作られた、建設途中のタワーブリッジにか。いいや違う。
その上に立つ、たった二人の男に向けて。

共に黒の衣を身に纏う男であった。
共に人々の想いを背負う男であった。
一方は人々の怒りと憎悪を、一方は期待と憧憬を。
犯罪卿と呼ばれた"彼"は市民の正当なる怒りを向けられ、名探偵と呼ばれる"彼"は眼前の悪魔を誅する役目を期待と共に背負わされている。
すなわち、その名をウィリアム・ジェームズ・モリアーティ、並びにシャーロック・ホームズ。
何もかもが対照的な彼らは、あるいはその心さえも罅割れた鏡写しのままに向かい合う。

「お前の計画は見事だよ」

口火を切ったのはシャーロックであり、その静謐な口ぶりと表情とは裏腹に、激情にも似た巨大な感情のうねりを言外に込めた、言い知れぬ圧のようなものを滲ませていた。
それは怒りにも似て、しかし悔恨にも似ていた。それでいて期待や夢が叶ったような晴れやかさのようなものも覗かせて、同時に「させてはならぬ」という不安と焦燥に駆り立てられるようにも見えた。
あらゆる感情がそこにはあって、決して一つの面では表出しない。それを的確な言葉で表現することは、最早シャーロックにさえ不可能なことなのだろう。

「貴族と市民、大火から自分達の街を共に守らせることで階級の垣根を取っ払う……そして今、ロンドン中の憎しみが全て犯罪卿に集約した。
 ……悪魔。人々にとってお前は悪魔だ」

シェイクスピアに曰く、「全世界は一つの舞台であって、全ての男女はその役者に過ぎない」。
その言葉に則れば、なるほど確かに、この光景は舞台演劇に例えて相違ないのだろう。
舞台はロンドン、観客は総ての市民。主演は二人、犯罪卿と名探偵。
全ては蜘蛛糸を手繰る犯罪卿によって企てられ、名探偵は主演たれと仕組まれた。英国を覆う闇を切り裂き光をもたらす、人々の憧憬を担う英雄になれと祈りを込めて。
その果てに、地上の悪魔たる己を殺してくれと願いを託して。

だが、もしも仮に。
今や狡知の悪魔と化したウィリアムの誤算を、敢えて挙げるとするならば。


45 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:10:10 i06VU1qI0


「───だが、まだ間に合う……!
 この世で取り返しのつかねえことなんて、一つもねえんだよ!」


それはきっと、彼の存在こそが全てなのだろう。

"全世界は一つの舞台"、なるほど。確かにその通りだ。
少なくとも、ウィリアム・ジェームズ・モリアーティにとって、生まれてからの人生は全て、命を懸けた芝居で相違なかった。

───もし困っている人がいて僕なんかがお役に立てるのなら、何でもしたいなって思うんです。

嘘偽りのない言葉だった。紛うことなき善心だった。己はそれを偽善と欺瞞で塗り固めた。最初から致命的に間違えたのだという自覚だけを胸に。
持てる才の全てを賭して、彼は演じた。若き天才数学者、清廉な伯爵家次男、報われぬ人々を救う犯罪相談役、悪を殺す悪党。あらゆる仮面を使い分け、彼は全力で世界を騙した。
迷いも後悔もありはしなかった。その資格は失われていた。最初からそんなものなかったのだ。
舞台の上に生きた男は、やがて望む舞台を整えた。
世界の歪みたる貴族、民衆がその境遇に賛同できる犯人、貴族の腐敗を世に暴く探偵。
幕が上がる度に悪徳極めし貴族が斃れ、悲鳴が上がる度に暴かれぬはずの不正義は世に暴かれた。
罪深き我よ、悪を喰らう悪となれ。罪を抱いて堕天せよ。
緋色に染まる両手を見つめ、最早その行いに感慨さえ抱くこともなくなったその時に。

彼を、シャーロック・ホームズを見出した。


「……残念だよ。そうやって君は、僕を"生"にしがみ付けようと誘惑するんだね」


"生きたい"などと、思っていいはずがなかった。
地上の悪魔は全て滅ぼさねばならない。それはこの計画を始めた時から……アルバートの家族を殺した幼き日から決まっていたことだ。
そうであるはずなのに。


46 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:10:46 i06VU1qI0

「君の手は取らない」

君と共にいたかった。

「僕は間違ってなどいない」

君を見出したのは間違いじゃなかった。

「悪魔は貴様だ、シャーロック!」

けれど、僕は悪魔だから。

翳される刃に去来する数多の想い。記憶、尊く輝くもの。
白刃が夜闇に煌めく度、脳裏を駆けるかつての景色。忘れるはずがない。例え幾星霜経ようとも、永遠に。
シャーロック。君との出会いは僕にとって、罪深い計画を一瞬忘れてしまうほどに楽しいものだった。
唯一の理解者を得られた気がしたんだ。
互いの立場がなければずっと語り合っていたかった。全てを投げ出して君とずっと謎解きに興じていたいとさえ思った。
探偵の君にこんな感情を抱くのはおかしなことだけど、初めて会った時からずっと、年来の友人のように感じていたんだ。

だから。
だから、もし違う世界に生まれ変わることができたなら。
こんな薄汚れたところじゃない、誰も苦しまない美しい世界に生まれることができたなら。
今度こそ、本当の友達に───

「生まれ変わったらだぁ? まだ間に合うだろうが!」

幕を下ろそうとする腕を、阻むものが一つ。
犯罪卿と探偵の対決は十分なほど観客に見せつけた。だからもう、僕が生きる必要など何処にもなかったのに。
彼にその刃を突き立てて欲しかったのに。


47 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:11:37 i06VU1qI0


「……死ぬことがお前の考える贖罪だってのか。笑わせんなよリアム、死を逃げ道にするんじゃねえ!」


"全世界は一つの舞台"、なるほど。反吐が出る言葉だ。
少なくとも、シャーロック・ホームズにとって生まれてから今に至るまで、何かを演じたつもりなどただの一度も存在しない。

───まあ俺は奴の謎を暴いてとっ捕まえることが出来んなら、この命を捨てたって全然構わないんだがな。

その言葉に偽りはない。俺は俺の望む形で、ずっとお前をつかまえたかった。
犯罪卿がお前で良かった。お前と出会えてよかった。
俺はお前じゃなきゃ嫌だった。お前であって欲しかったしお前でなきゃ駄目だった。
何せ、お前は俺の友達(ダチ)なんだからな。
ここまで追い求めたのは犯罪卿が初めてだったし、ここまで共にいたいと思えたのはお前が初めてだった。
だから、犯罪卿はお前であって欲しかったんだ。俺が追い求めた誰かは、お前という唯一無二でなければならなかった。
けれど、なあ。

「そんなもん只お前が苦しみから逃れてぇだけだろ!」

お前を失うなど考えたくもないから。

「本当に罪を償いたいなら苦しみから逃げるな!」

他ならぬ俺自身が、お前に死んで欲しくないと願っているから。

「お前にとって一番辛い道を選択しろ!」

それこそが、お前を救うただ一つの道だと信じている。
だって、そうだろ?

「……俺はミルヴァートンをこの手にかけた。お前と同じ罪人だ。だから一緒に償っていこうぜ」

お前にだけ背負わせることはしない。
こっちはとっくにそう決めてるんだ。


48 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:12:21 i06VU1qI0

「やり方はいくらだってある。そうだろ?」

全ての迷いを振り切った、晴れやかな顔で告げる。
それは今まで刃を向けられた者の表情ではなかった。命を懸けることなど些末事だと言う、純然たる友愛の言葉であった。

だからこそ。
ウィリアムが、死すべき最後の悪魔が返すべき言葉は決まっていた。



「───サヨナラだ、シャーロック」



言葉と同時に爆ぜる光。
熱と爆音、砕ける鉄橋。
全てがスローモーションに引き延ばされる視界の中、シャーロックは確かに見た。
ウィリアムは……

───笑っていた。

憑き物が落ちたかのように、年若い子供であるかのように。
それは「安心した」とでも言いたげに、あいつは笑っていたから。

「ッ、馬鹿野郎!」

きっとそれは考えての行動ではなく、だから手を掴めたのは奇跡にも等しかった。
腕一本。それが爆発によって空中に身を投げ出したウィリアムの命を支える、最後の命綱だった。

「何故、そこまで僕を……」

「ハッ、何度も言わせんな。お前は俺の友達(ダチ)だからな、理由としちゃそれで十分だろ……ッ!」

それはきっと、たった一つの真実。
ただそれだけで、命を懸けるに値する答えだった。

「手紙は読んだ。お前は俺のことを単に計画に必要な駒だとは考えていなかった……ッ!
 それと同じように、俺もお前のことを只の解き明かしたい謎だなんて最初から思っちゃいねぇんだよッ!
 俺達は最初からずっと同じ気持ちだったんだ……なら! 同じ未来を見ることだって出来るはずだろ!」

溢れる言葉は止め処なく、堰を切ったように流れ出す。
それは彼に向けた想いと同じくして。
死が救いになるとは口が裂けても言わないが、しかし生きていればそれだけで救いが訪れるほど世界は優しくない。
その壮絶な半生に大きすぎる罪の意識、息をするのもやっとの重圧の中孤独に戦い続けた悪の旅路。これで終わりにしたいのだと、嘯くお前の気持ちを痛感する。
それでも、俺は何度だってこう叫ぶのだ。


49 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:13:01 i06VU1qI0

「……生きろ! 生きろ、ウィリアム!
 生きんのは辛いことばっかりかも知んねえ……だがお前の変えた世界はこれから生きるに値する世界になる。きっとなる!
 俺もこの世界を守っていく! だからお前も……っ!」

「……君は探偵としてではなく、友達としてここまで来てくれたんだね」

溢れるものがあった。
それは涙の代わりに、言葉の代わりに、何よりも雄弁に彼の心を物語る。
笑み。
死を前にしたものではなく、ただ愛する友を目の前にした嬉しさに、口元が綻ぶのを止められない。

「だが運命は僕を許してはくれない。その足場は重さを支えきれない」

「良いから剣を捨てろ! 両手で俺の手を掴め!」

「君だけは、生きて帰ってほしい」

振るわれる一閃。

最後の力。

舞う血飛沫に離れる手。

投げ出された体は一瞬の浮遊感と共に。

呆けた彼の顔。

涼やかな心。

迷いは晴れた。未練はない。

そうして、ウィリアム・ジェームズ・モリアーティは落ちていく。
末期に得た救いと共に。望外の喜びと共に。友と交わした友誼と共に。
それこそが犯罪卿に定められた当然の末路。
悪を喰らう悪とは、すなわち最も許しがたい悪党であるのだから。その最期は無惨な死と決まっている。
ウィリアムは今度こそ、全ての終局にその瞼を閉じて。


50 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:13:29 i06VU1qI0


「───お前ひとり、死なせてたまるかよっ……!」


……ウィリアムの誤算は二つ。
一つは、シャーロックという男を本気で好いてしまったこと。
そしてもう一つは、シャーロックはウィリアムの書いた筋書など"知ったことか"とぶち壊す、型に嵌らない男だったということ。

遠く離れ行くはずの彼が、同じように宙へ踊り出す様を見た。
信じられぬものを見たかのように、ウィリアムの目が見開かれる。

遠く離れ行く彼を、行かせるものかと飛び込む。
大切なものを掴むように、シャーロックの腕が伸ばされた。

「やっと、掴まえたぜ」

墜落が犯罪卿に定められた末路だとしたら。
これはきっと、名探偵にこそ定められた末路なのだろう。
星を掴んだ男は誇りと共に、胸を張って空を墜ちる。
地平線の彼方、黎明の朝焼けが人々の目を欺くその最中。二人は一つの星となって墜ちていく。
その眩さを前に、しかしそうではない確たる理由によって、ウィリアムは目を細めた。



───悪魔が消え去れば人の心は澄み渡り呪いが解ける。この国はきっと美しい───



「リアム、生きよう。生きて俺達は……」

言葉の先を聞くことはなかった。
ウィリアムは胸の内に去来する何某かの感情と共に、静かに目を閉じる。
緋色に染まった手も、迫りくる漆黒の水面も、最早恐れをもたらすには足りなかった。



ただ。
夜明けの光に照らされる街並みと、
自らを抱く友の姿が、あまりにも綺麗だったから───


51 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:14:06 i06VU1qI0





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





この日、犯罪卿ウィリアム・ジェームズ・モリアーティは死んだ。
名探偵シャーロック・ホームズの存在こそ、彼が生きた証となるだろう。



───そして世界は輝きを取り戻す。

───あの子供はもう、泣いていない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




それを正しく形容できる人間は、恐らくこの場には存在すまい。
近未来モデル都市、違う。石塔の街、違う。法則さえ異なる別世界、違う。
西欧はロンドンの東南地域でさえここには遠く及ぶまい。空を衝くがごとし巨大な石塔めいたビルディングの群れ、群れ、群れ。響き渡るガーニーの駆動音。雲のない夜空であるというのに星の見えない漆黒の空。
世界───かの遠きカダスを含まぬ地球圏においては、この時代最も繁栄した都市の一つであるところの巨大経済流通都市。
東京。その名を知る者は、やはりこの場には存在しなかった。

───夜の闇を駆ける男がいた。
───痩身長躯の男だった。

彼の名を知る者は多い。
彼の武勇伝は今や、新聞や伝記的小説によって幅広く伝えられている。

それは仕立ての良いブラックスーツに身を包んだ男だ。
知識の深淵で全てを見通すとさえ言われた男だ。

英国は愚か西欧諸国全土、果ては時を超えた未来にまで偉大な功績の知れ渡った、世界有数の諮問探偵がひとり。
欧州全土の謎を解き明かすという彼。
その名も高き犯罪卿の企みを暴き英国に光をもたらした彼。
碩学ならぬ身で"天才"と呼ばれる彼。
この世における叡智が示す人間の一角を担うに足るところであろう彼は、しかし聡明さの欠片も見せぬ様相でただひたすらに走っていた。まるで逃げるように。
何から逃げているのか。その顔に浮かぶものは恐怖にも似て、英国の闇を払拭せしめた勇壮なる彼が、まさか恐怖などと!


52 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:14:47 i06VU1qI0

「逃がさん」

背後から聞こえた無慈悲な追跡者の声が届くと同時、半ば本能的に屈めた頭上数センチの距離を、鋭い何かが通り過ぎる。
首筋に文字通り刃のような冷やかさを感じる暇もなく、もんどりうって転がってしまう。視界の端でけたたましい音と共にズレ落ちるものが一つ。街灯である。鉄で出来ているはずの柱が、まるでゼラチン質であるかのように容易く切断されて倒れたのだ。そしてその暴威が、本来ならば己の首に飛来しているはずだった事実を、地面を揺らす振動と共に彼は正確に認識していた。
尻もちをついて見上げる先には、今まさに剣を振り抜いた姿勢で立つ男の姿があった。"彼"が知る時代の戦争においても帯剣の習慣はあったが、しかしこれは明らかに趣を異としたものだった。
その男の装いは古代オリエントの風格を帯びて、手にする剣もまた同じように古代の装飾が為された古式のものであった。銃砲火器が戦場を席巻する現代において場違いな装備。最早競技や式典にしか意味を見出せないカビの生えたそれは、しかし今しがた見せたように現代の武装兵士さえ歯牙にかけない圧倒的な武力をその身に宿しているのだった。
彼は、シャーロック・ホームズは多才である。その明晰な頭脳と豊富な知識のみならず、銃火器の扱いや拳闘の心得、果ては医学に則った人体の破壊に至るまで様々な技術を習得している。喧嘩なぞ数えきれないほどしてきたし、拳銃片手に命の取り合いをした経験も片手の指では足りない程度にはある。
しかし、眼前のこの男にはまるで勝てる気がしなかった。仮にこいつが無防備な姿を晒し、その脳天に銃撃をぶちかまそうが自分では決してこいつを殺せないという確信がある。

それは物理を無視し、質量保存則を無視し、既存概念を超越した個体───サーヴァント。
人道、条理、常識など一切意味を為さぬ魔道の真髄として顕現せし狂気の御業だ。
ならばこそ、シャーロックに抗する手段などありはしない。
物理を弾く神秘と加護された肉体は熱も刃も銃弾さえも通しはしない。この時代における既知科学最強たる核の炎を使ったとて傷つけ得るかどうか。

「……大した挨拶だな。何が気に入らなかったか知らねぇが、随分と血気盛んじゃないか?」

「その魔力に刻まれた令呪。貴様がこの地に招かれたマスターであることは瞭然である。丸腰の相手を嬲るのは気持ちの良いことではないが、恨むならば己の不運と軽率をこそ恨むがいい」

だから、何言ってんのか意味わかんねぇんだよ……っ!
魔力、令呪、マスター。この場違い仮装野郎が一体何を言っているのか、まるで見当もつきやしない。
俺はただ、一緒に落ちたはずの"あいつ"を探したいってだけなんだ。
気付いた時には明らかロンドンじゃねえ場所で目が覚めて、現状も分からないうちに襲撃を受けた。一目で勝てないと分かったから逃げの一手で、癪だが無能の警察(ヤード)に問題丸投げしてトンズラ決めようと走ってはみても、馬車も人影も何も見つかりはしない。
そして追いつかれてこのザマだ。仮装男は長剣を構え、こちらに鋭い視線を送ってくる。
言われずとも分かる。殺すつもりなのだ、俺を。
何の逡巡もなく、何の理由もなく。

「……っざけんな」

胸の内に湧きあがるもの。それは怒りか、分からない。
自分が何を考えているのかさえ分からない。ただ、混乱する意識の濁流の中で意志だけが奔る。
それは、直感であったのかもしれない。
または、恐怖で麻痺した脳が産む狂気か。


53 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:15:27 i06VU1qI0



『あなたはどうしたい?』



「いきなり死ねと言われて、はいそーですかと頷く馬鹿がどこにいるんだよっ!」

手近にあった拳大の投石、それは違わず男の右目に迫るが、それだけだ。
ガン、と人体に衝突したとは思えない硬質の音を響かせて、勢いの失った石が落ちる。男は不動、剣や手で振り払うことすらしない。攻撃どころか目くらましにすら成りはしない。
返答と言わんばかりに閃く一撃は、たまさか奇跡の産物か直感の為せる業なのか、一瞬早く飛び退ったおかげで本来の狙いである胴体を裂くことは叶わなかった。代わりに太ももを斬られてしまったが。
舞い散る血飛沫に奔る激痛、思わず痛みに呻き蹲るも、睨みつけるような視線だけは決して男から外さない。



『あなたは何を願う?』



「貴様に願うものなど、何もないではないか」

「……なに?」

「未だ以てサーヴァントを連れぬことがその証だ。願い持つマスターならば当の昔に目覚めている。
 にも関わらず、命の危険に晒されようと従僕を呼び出せぬその姿、願いすら持たぬ落伍者であると断じて相違はあるまい。
 そのまま蹲っているがいい。動かぬならば楽に首を落としてやる。所詮貴様には、立ち上がるべき理由などないのだから」

それは事実、なのかもしれない。
既に自分がやるべきことはなくなった。
時代の変革は訪れ、人民の心は確かに動いた。計画の遂行は残された人間だけで可能ではあるし、ジョンの創作活動は俺がいなくたって続くだろう。
すべき義務も、使命も、既にない。
それは事実、だろうけど。
けど、なぁ。



『あなたが望むものは、なに?』



「ざけんな、つったんだよ俺は……!」

意識が途切れそうなほどの激痛を堪え、立ち上がる。
それで何ができるわけでもない。それでも立つ。諦めない。


54 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:16:27 i06VU1qI0

「ああそうさ、てめぇの言う通りだ。俺には立ち上がらなきゃならねぇ理由なんざねぇ! だがな───!」

「立ち上がりたい理由なら───譲れない気持ちだけは、俺には抱えきれないほどあるんだよ!」

きっとそれは、シャーロック・ホームズにとっての真実。
時代でもなく、国でもなく、使命でもなければ義務でもない。
ただひとりへの友情のためという、たったそれだけの答え。
他者から見ればどれほど下らないものであっても、光は今もこの胸に在る。熱も炎も消えてはいない。
岐路に迷って間違って、血に濡れようと沈もうと―――

「あいつと一緒に生きたいと叫んだ言葉は、嘘なんかじゃねぇんだ……っ!」

シャーロックは叫ぶ。眼前にまで迫る言葉なき刃を視界に収めながら、叫んだ。



『それなら』

『あなたの魂が、本当は諦めていないのなら』



聞こえるものがあった。
それは決して声ではなく、それは決して音ではない。
周囲には誰もいない。自分と剣持つ男以外は。
だからこれは、決して耳に届く音響としての声ではなかったけれど。
確かに聞こえた。
聞こえたから。
俺は、お前を───



『呼んで。私は───』



「来い、フォーリナー!」

それは喉ではなく、魂の奥底から絞り出された絶叫だった。
理由は分からず、理屈も分からず。しかし根拠のない確信だけが胸にある。
これは力だ。呼び声に応え、喚起する力の奔流。
だから、きっと───


55 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:17:05 i06VU1qI0



「万象破断する告死の魔剣。けれどこのあたしの影は砕けない」



静かに告げる、揺るぎない意思ひとつ。
静かに頷く、揺らめき始める周囲の影。

湧きあがるものがあった。
夜の闇に覆われたはずのシャーロックの影が、不気味に伸びあがっていく。
言葉に応じるかのように。意志に応じるかのように。それは影だ。暗がりだ。
決して形持たぬもの。
決して質量持たぬもの。
それが壁のようにせり上がって、細首刈り取るはずの剣閃を阻む。
絡め取られたように剣の動きが止まる。驚愕、信じられぬものを見たと言いたげな表情を男はして。

「あなたの声を聞き届けたわ。だからこそ、あたしはここに来た」

───それは、白銀色をした少女だった。

何時の間に現れたのだろう。泡立ち蠢く影の奔流の中にあって、ふわりと降り立つ少女は漆黒の闇の只中に浮かぶ白い光のように映えていた。
白銀色の少女。それは月の光を人の形に押し込めたような姿をして。
白き髪、白き肌。しかし何より目立つのは、その瞳だ。
黄金の瞳。白銀の少女は、夜空に浮かぶ月そのものの瞳を見開いて。

「───退きなさい」

右手に持つ剣を一払いするや、屈強であるはずの男を弾き飛ばした。
いや違う、吹き飛ばしたのではない。シャーロックの目にはそう見えただけで、実際には男の体に何の衝撃も運動エネルギーもぶつけられてはいない。少女の剣は男でなく、空間を切り裂いたのだ。その結果として、斬られた分の距離を延長された空間が、男の体をより遠くへ飛ばしたのだ。

「黒の剣能では剣の英霊に打ち勝てない。方程式の使用には行動を消費する。だからお願い、クロ。一瞬でいい、私に時間をちょうだい」

〈灰葬に踊れ水底の幻精(オールド・ディープワン)〉

宣誓と共に新たな影が迸る。
それは水だ。影と同じく漆黒の、しかし影ではなく黒き水の奔流が男を襲う。
それは決して傷つけず、それは決して命を奪わず、しかして動きを、思考を、精神を硬直させる幻惑の水。
まるで意思を持ったかのように動く水に絡め取られた男は、雄叫びと共に振り払おうと足掻くが、遅い。


56 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:17:41 i06VU1qI0

「さあ、マスター。打ち勝ちたいなら宝具開帳の許可をちょうだい」

「……あ? 宝具?」

問われ、未だ意味を理解できないままの男は、しかし。
理解はできずとも察することにより状況を把握する。

「ああいいぜ、思いっきりぶちかましてやれ!」

「イエス、マスター。あなたに勝利を」

そして少女は黄金に輝く右目を覆うように、その右手で顔を覆って───
告げるのだ。世界の果ての何かへと。





「───城よりこぼれたかけらのひとつ」

「クルーシュチャの名を以て」

「方程式は導き出す」

「我が姿と我が権能」

「失われたもの」

「食らう牙」

「足掻くすべてを一とするもの」





───少女の周囲が。

───ざわめき、沸き立って、うねる。

見えているのは幻か、それとも夢か。
少女を取り巻き蠢くものが見える。それは、何かを思わせる。
それは今までの影と似て、今までの水と似て。
しかし違うのは、黒い粘液に似た不定形の群れが、少女の周囲に浮かんで"かたち"となること。


57 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:18:21 i06VU1qI0

───黒い文字。

───古代の碑文を思わせる。

ぐるりと取り巻く黒い文字のような塊は、少女の影から吐き出され、周囲を蠢き回転し、不規則な幾何学模様を描き出す。
古代史はシャーロックの本業ではなかったが、類似する文字列を彼は知っていた。いや、それは厳密には言葉ではない。近いものは数列、それも恐ろしく複雑な。
関数、違う。これは何かの方程式だ。長く複雑すぎて、シャーロックには読めなかった。式が、そもそも何を意味しているのかさえ。
黒い群れを少女は呑みこんでいく。黒の布地と白のフリルが付いた茶会用ドレスの下に、あるいは口で、足元の影で。

───ひとのかたちをしたものが、怪物の成り損ないを食べている。

その印象に間違いはない。今まさに、彼女は捕食を行っているのだ。
文字の羅列を少女は呑みこんでいく。それは通常の生物が行う食事とは大きく次元の離れた行為ではあれど、他我を自我に取り込むという同化捕食の行いであった。
未だ多くの群れを残したままで、少女は告げた。

「食べるわ」

───そして、少女の姿が変わる。

金に輝く彼女の右目が、朱く、朱く、輝いて。
闇が充ちた夜のように、影のように、彼女の姿が変わる。
黄金の瞳から溢れる赤い光は、奇妙な紋様を描き出して、揺れる。
そして───次に、右の腕が歪む。
服を、肉を食い破り。肩口を食い破るのは黒い刃。確かな硬度を持つそれらは、互いに擦り合わさって軋む。金属音を掻き鳴らす。
右腕の末端にまでその変化は及んでいた。服を破り、肉と骨を砕いて、幾つもの刃が五指に至るまで生え揃う。震える。軋む。掻き鳴らす。

───そして、最後に。
体に赤い亀裂が走る。右肩から左下腹部までを、斜めに引き裂く赤の亀裂。
少女の右半身が歪んでいた。鋭い肋骨にも乱杭歯にも見える黒色の刃が幾つも宙に突き出され、歪む。歪む。歪む。
右目と右腕に浮かぶのと同じ赤色をした亀裂は、少女の胴体を引き裂きながらも体を砕かず、人型を保って蠢く。
脈動しているのだ。まるで、巨大な生き物の血管であるかのように。
人体が歪んでいく。壊れていく。美しくも儚い白銀色の少女が、深淵の黒く名状しがたい何かによって浸食されていく。

「なんなのだ、何だというのだ貴様は……!」

蠢く水に囚われた男は、セイバーは、恐慌の声を上げる他になかった。
意味が分からない。理屈が通らない。寸前までシャーロックに不条理と恐怖を与えていたはずの彼は、今や己自身が不条理と恐怖に見舞われていた。
このサーヴァントはなんだ、キャスターか? いいや違う、このような見た者の正気を奪うような代物が、まさか尋常なる魔術式であってたまるものか。
あの男はフォーリナーと呼んでいた。降誕者、聞いたこともない。それが事実だとすれば、奴は一体何を、この世に降り立たせてしまったというのか。


58 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:19:06 i06VU1qI0

「簒奪者を僭称する哀れな人よ、貴方の声は何処にも届かない。だから……」

少女の声が。
あらゆる闇を、引き裂いて。

「闇の如く、噛み砕け」

───────────────!

幻惑の水に囚われた剣士が、砕かれる。瞬時に。
砕いたのは奇妙な黒い腕だった。少女の胴体部の亀裂からするりと伸ばされて、巻きつくように剣士の体を取り込み、圧し潰す。
砕く。元の形が何だったのかさえ認識できない、ばらばらの破片に至るまで。刹那の間に。
悲鳴も懇願も上げる暇なく、剣士が、サーヴァントが破壊される。
男の声はかき消される。少女の黒い巨腕は、異様なまでに巨大な"口"を、押し開いて。痙攣する男を、呑みこむ。喰らい尽くす。

後には何も残らない。
ただ、戦いも喧騒も怪物も存在しなかったように振る舞う夜闇の帳が、張りつめたような静寂を保つのみであった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「ありがとう、助かったわクロ」

剣士も巨腕も影も消え失せて、後には白銀色の少女が、駆け寄ってくる小さな黒い子犬を抱き上げる光景が映るばかりである。
やたら人懐っこく見えるその子犬に、頬を舐められながら困ったように笑う少女は、今しがた名状しがたい異常な風景を生み出したとは思えないほど、ありふれて牧歌的なものに見えた。

「それで、えっと……大丈夫かしらマスター?」

「ああ、俺も助かったぜ、作家志望のお嬢ちゃん?」

どっ、と疲れが押し寄せる体を地に横たえて、深く息を吐いて脱力しながらシャーロックが答える。
同時に頭に流れ込んでくる数多の情報───聖杯、令呪、サーヴァント、魔力、契約……他にも他にも、聖杯戦争とやらに必要な知識が湯水のように頭に染み渡る。
あー、さっきの奴が言ってたのはつまりそういうことか……などとひとり納得しながら、ふと少女のほうを見やるとそこには驚いたような表情の彼女。
ああ? どういうことだ?


59 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:19:44 i06VU1qI0

「……ミスター、どうして私が作家だと」

「あ? そんなん明らかじゃん。まずさっきの嬢ちゃんの動きだが、鮮やかではあったが心情的には手馴れてなかった。
 つまり境遇としては今の俺と同じで、力の使い方だけを与えられた立場だってのは推察できる。この時点で魔道なりを修めた裏側の人間じゃねえってな。
 そんで次に、剣を振るうにはアンタの体は出来上がってない。手もまあ綺麗なもんだ、荒事を生業にした人間じゃねえのは明白。で、指の端々にはペンダコの痕があり、右手の爪にだけインクが僅かに詰まってる。
 その服装を見りゃ俺の同郷ってのは分かるし、文化的にも大して差がないだろうことを鑑みれば、嬢ちゃんほどの歳でそうなるのは学業か文芸かの二択になるわけだが、フォーリナーの適性である感受性により適したのはどちらか、って考えれば当たりはつく」

ま、今しがた流れ込んだ付け焼刃の知識ありきだけどな、と締めくくるシャーロックであった。
こんなもん推理でも何でもねえ、とひらひら手を振り、あーマジ疲れたわぁ……と寝そべる彼であったが。

「め……」

「うん?」

「名推理だわ! 確かにあたしは絵本作家で、本当はこんな気色悪い力なんて持ってなかったの!
 いきなりサーヴァントだなんて言われてジェイムズからは無茶振りされて、本当に困ってたのよ……」

「お、おう、そうか……」

ぐわっと顔を近づけて「驚いた、本当に凄いわ!」と言ってくる彼女に、ちょっとだけ引きながら答える。なあ、抱いてる犬っころビビってるけどいいのかアンタ? というかこの反応はジョンの奴を思い出すなぁ、つーかジェイムズ? やっぱ同郷の人間だったんだなとか思っていたところで。

「それでマスター、あなたはどうするつもりなの?」

「……と、言うと?」

「あなたならもう分かっているのでしょう?」

そう、此処で行われるは聖杯戦争。たった一つの奇跡を求めて椅子を取り合う殺人ゲーム。
そして彼は、シャーロック・ホームズは聖杯に託して然るべき大きな願いを持っていた。

「……ひとり殺すもふたり殺すも同じこと、ってな」

「えっ?」

「人殺しはいけないことです、なんてそこらのガキでも知ってることだ。けど、一度でも手を汚せば次からは当然みたいな顔して選択肢に入ってきやがる」


60 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:20:25 i06VU1qI0

シャーロックは罪人だ。
犯罪卿が罪人だと言うなら、シャーロックも同じくしてやはり罪人なのだ。
確かにシャーロックが殺した男、ミルヴァートンは屑であったし、死んだほうがマシどころか率先して殺さなければ人の世に害しかもたらさない肥溜めの糞のような男ではあった。
しかし、死んだほうがいい人間はいても、殺していい人間なんてどこにもいない。
それでもシャーロックは殺した。己の手で、明確な殺意と共に引き金を引いた。
その責を忘れはしないし、ごまかしもしない。ならばこそ、一度殺人という手段を用いた彼には次なる選択肢としてもやはり殺人というワードが紛れ込んでしまう。
"もういいや、面倒くさいしぶっ殺したほうが手っ取り早いからやっちまおうぜ。ひとりもふたりも変わらねえだろ"と。
その罪深さと愚かさを誰より承知であるはずなのに、常に頭の隅に浮かび上がる選択肢。人殺しが罪だというならば、法的な罪刑とは全く別の話として、これが正当な罰ということなのだろう。
だからシャーロックには、聖杯を手にして所在不明のあいつを保護するという道も存在したし、そもそも元の場所に帰るには聖杯を取る以外に道はない。
考えるまでもないリスクの多寡。選ぶべきは明白ではあるのだが。



───その心持ちでいるならば、きっとこの先どんな選択をしようともお前は道を誤らない。



「……あー! やめだやめだ! こんな辛気臭ぇ話してもしょーがねぇだろ!」

「わっ」

がばっ、と飛び起きて叫ぶ。傍らの少女は驚いた表情で、何してんだこいつみたいな顔を向けてくる。
うっせえ、俺はもう決めたぞ。俺は友達としてリアムを諦めないのと同じように、友達として二度とジョンを裏切らない。

「聖杯は求めねえ。俺は人間を誰も殺さずに生きて帰る。最後までその道は諦めない。
 こんな俺にも信じてくれる友達がいるからな。俺自身はともかく、そいつのことは裏切れねえんだわ」

選んだのは最も困難な道。誰も殺さず、死ぬこともなく、この巨大で全容もしれない前代未聞の「大量殺人教唆事件」を解決してみせる。
そんな男の解答を聞いて、少女は柔らかく微笑んだ。

「本当に、それでいいのね」

「あぁ? 俺に二言はねえよ。つーか、嬢ちゃんも明らかに場馴れしてねぇのは明白じゃん?
 さっきのは緊急避難ってことでノーカンにしても、一般人に手を汚せなんて言わねっつーの」

不遜に笑みを浮かべながら、シャーロックは努めて不敵に言い放つ。
そうだ、それでいい。悪を追い詰める正義のヒーローってのは、これくらい傲慢なのがちょうどいいんだ。

「つーわけで、いい加減互いの名前くらい知っておこうぜ」

「ええ、もちろん。これから長い付き合いになるのだから」

そうして二人は笑い合って、告げるのだ。

「俺はシャーロック・ホームズ。諮問探偵なんかをやってる……まあ、ヒーローってことになるらしい」
「あたしはメアリ・クラリッサ・クリスティ。しがない絵本作家だけど、それなりに戦う術は与えられてるわ。どうぞよろしく」

差し伸ばされた手を取り、ゆっくりと起き上がる。
その目には既に迷いも、恐怖も、ありはしなかった。


61 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:20:55 i06VU1qI0




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「我ら役者は影法師!」

「皆様方のお目がもし」

「お気に召さずばただ夢を」

「見たと思ってお許しを」

「───真夏の夜の夢」





【クラス】
フォーリナー

【真名】
メアリ・クラリッサ・クリスティ(黒の王)@漆黒のシャルノス

【ステータス】
筋力E 耐久A 敏捷C 魔力EX 幸運A+ 宝具EX

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
領域外の生命:EX
外なる宇宙、虚空からの降臨者。 邪神に魅入られ、その権能の片鱗を身に宿して揮うもの。

神性:EX
外宇宙に潜む高次生命の巫女となり、強い神性を帯びる。

狂気:-
周囲精神の世界観にまで影響を及ぼす異質な思考。
……のはずだが、彼女の場合何故かこのスキルは封じられている。下記黄金瞳による影響か、あるいは彼女を憑代とした神性の判断であるのかは定かでない。


62 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:21:33 i06VU1qI0
【保有スキル】
黄金瞳:A+
夜に光る猫の目。真実を見通す瞳。あるいは、虚空に浮かぶ大いなる月の一欠片。
あらゆる隠蔽、虚偽の概念を無効化し、判定次第によっては当人すら知り得ない秘密の類すら見破ってしまう。有体に言ってしまえばアイデアロール確定成功。
また、これ自体が強大な魔力炉として稼働しており、事実上このサーヴァントに魔力切れは起こりえない。

黒の剣能:A
黒色なる茨の剣、人の心が持つ拒絶の形。
タタールの門を開く「銀の鍵」であり、同時に空間さえも断ち切る刃でもある。
人が互いを駆逐し合うための愚かなる自滅の道具。
この剣のような争いの道具を捨てられないがために、人はシャルノスを求める。

無貌の月:EX
人類種を観測するとある神格の残り香。別名をサードアイ、黒王赫眼。
虚数空間の境界面をより確かなものとし、周囲を狭間の世界へと落とす固有結界にも酷似した何か。
世界が異界の影に覆われた時、すべての時間は凍結する。

【宝具】
『城より零れた欠片のひとつ(Kruschtya Equation)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000
人類とは相容れない異質な世界に通じる“門”を開き、大いなる歪そのものである黒の王の腕を限定的に顕現させる。
効果対象は人間として在るメアリの認識に即する。故の対人宝具であり、本来の種別は対界宝具とも言うべき果てのない性質を持つ。


63 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:22:07 i06VU1qI0

『灰葬に踊れ水底の幻精(オールド・ディープワン)
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:10
太古の時代、人が文明の光を手にしたのと同じくして姿を消した、儚き〈ふるきもの〉。文明華やかなりし人類にとって幼き日に夢見た水の幻想。
その名をダゴン。深い深い海の底を揺蕩う暗がりの大いなる水の神性。
普段は黒い小さな子犬の姿でメアリの傍を付いて回る。主な役割は優れた嗅覚による魔力探知。クロという名前で呼ばれる、意外と臆病な性格。
その矮小な姿の通り現在はすっかり零落してしまっているが、真名解放と共に本来の姿を取り戻し大いなる幻惑の水を操る。

『漆黒のシャルノス(What a beautiful tomorrow)』
ランク:- 種別:- レンジ:∞ 最大捕捉:∞
心が望むままにかたちを変える、何もかもがあり、そして何もない世界。
死と断絶の明日を拒絶し永遠の今日をもたらす力そのもの。
誰しもの内に在り、そして誰をも映さぬ漆黒の境界。誰かがひとり諦めるたび、世界がひとつ終焉を迎える。

厳密には宝具ではない。宝具として形容することはできない。
スキル:無貌の月はこの存在に由来するものであるため、定義上宝具欄に記述されるに留まる。

【weapon】
黒の剣能:柄を持つ手を荊で苛む漆黒の剣。ただしフォーリナー自身に剣の才覚はない。

【人物背景】
1890年前後の英国に生を受けた女流作家。《史実の世界》におけるアガサ・クリスティであり、こちらでは女性の絵本作家として知られる。
彼女自身、作家としての知名度はさほどでもなく、何かしらの特殊な出自や由来、生得的な才能や隔絶した精神性等も持たないため、本来ならば英霊として登録されるはずのない人物なのだが、とある異質な神格の憑代として疑似的なサーヴァントとなり現界する。

西暦1904年の12月に黄金瞳を発現したことに端を発し、1905年のゾシーク計画、シャルノス計画にほぼ中核に近い場所で巻き込まれ、世界を剪定事象と確定させてしまうシャルノス降臨を未然に阻止するという、人理の防人としての偉業を成し遂げる。
その後は惑星カダス・水上都市セレニアンにおいて、ただ一柱生き残っていた水のふるきものであるダゴンに手を差し伸べ、黒犬となったダゴンと共に諮問探偵にして幻想殺したるシャーロック・ホームズの下で助手を務める毎日を送る。

前述の通り彼女自身は特殊な出自・来歴を持たない一般人に過ぎないため、サーヴァントとしての戦闘能力は〈黒の王〉と呼ばれる神格の力に依存している。
サーヴァントとしての彼女は黒の王に見初められた時期、すなわち1905年当時の少女の姿で現界しており、精神性もそれに準ずる。


64 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:23:12 i06VU1qI0



【マスター】
シャーロック・ホームズ@憂国のモリアーティ

【マスターとしての願い】
ウィリアムを犯罪卿としてではなくただひとりの友として今度こそ掴まえる。

【weapon】

【能力・技能】
諮問探偵として破格の推理能力を持ち、人間観察や洞察力にも長ける。拳銃や拳闘の扱いにも優れ、変装・鍵開け・靴跡や指紋等の証拠隠滅改竄、果ては新薬調合などその能力は多岐に渡る。

【人物背景】
その名も高き諮問探偵。民衆にとっての英雄であり、「彼」にとってはただひとりのヒーロー。星を掴んだ男。
名探偵として犯罪卿を追い詰め、一人の人間として友の手を取った。名探偵と犯罪卿、今やその肩書きに意味などない。

【方針】
この下らない事件を解決に導く


65 : 「簡単なことだ、友よ」 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/28(火) 20:23:27 i06VU1qI0
投下を終了します


66 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/28(火) 20:50:35 yllbvt3w0
早速の投下ありがとうございます。
のんびりとやっていきます。

久世しずか&アルターエゴ
しずかという昏い情念を渦巻かせた少女が召喚したのがまさかの殺生院、最悪の巡り合わせとしか言い様がないですね…。
愛を与えるという事にかけてはしずかに足りないものを満たすパーツであることは間違いないのが何ともまた。
ハッピー道具の比ではない力を持ってしまった彼女の行き先は……十中八九碌なものではないだろうなぁ。

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&バーサーカー
同一人物同士の主従というコンセプトを彼女で行う発想にまず驚いた後、参戦ルートを知って成程なと頷かされました。
イリヤが明確に敗死したルートから呼ばれているからこそ、幸福なIFのプリヤの存在は最悪の皮肉ですね。
しかしながら当のイリヤはもうひとりの自分の中に入っている英霊を無碍に出来ない。巧い構成だなと思いました。

開戦前 Imagine_Breaker_and_Fate_Breaker.
クロウリーズ・ハザード強制発動で爆笑してしまった。いや、実際は笑い事ではない大問題なのですが。
それはさておき原作節の効いた文体から再現されたやり取りやギャグが再現度高くて凄いな…と思わされつつ。
"聖杯を掴む"という表現を、恐らく唯一破壊という意味で聖杯を掴める上条という人物に言わせるのが憎いなぁと膝を打った次第です。

「簡単なことだ、友よ」
憂モリ原作で彼らの辿った結末を克明に描写してから聖杯戦争の舞台へ視点がシフトする流れがソリッドで好きですね。
作品の色が切り替わる瞬間の、スチパンならではの幻想小説めいた美しい描写がとても素敵でした。
舞台のノリが変わってもやるべき事は変わらないし迷う事すらないシャーロックがらしくて好き。


自分も候補作を投下します


67 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/28(火) 20:51:18 yllbvt3w0

 生きるという事に嘘や真があるというのなら、それは間違いだと何度だって言い返せる。

 少年はそのように生きた。
 たとえ自分の辿り着く結末が何であったとしても。
 それがどれほど避け得ない絶対の運命だったとしても。
 諦めずにもがいて、もがいて、もがいて、もがいて…。
 八方塞がりの中にあっても諦めず。諦められず。
 気付いた時少年――千翼は泥に塗れながら見知った、けれど見知らぬ街へ流れ着いていた。
 街の中には城があった。
 只の豪邸と呼べばそれまで。
 だがその威容を前にした千翼はそれを"城"だと認識した。
 疲弊した体を引きずりながら中へと入り進んだ。
 招かれている。
 根拠など無かったがそう分かった。
 ずるずると頼りない音を立てながら玉座の間に辿り着く。
 扉を、押し開ける――そして。
 千翼は開かれたその扉の先に…"王"を見た。

「問おう」

 目を奪われた。
 畏れという感情を初めて知った。
 噎せ返るような死と肉の臭気が漂う部屋の中心で玉座に腰掛けるその体躯はひどく小柄だ。
 だがそこには確かな荘厳さがあった。
 対面したあらゆる生きとし生けるものを畏怖させ平伏させる、底のない大穴を思わすカリスマ。
 王を畏れると共に千翼はもう一つ理解した。
 彼は、己と同じモノであると。
 王に先んじて彼我の巡り合ったその意味を悟った。

「貴様が、余を眠りから揺り起こした不遜の輩か?」

 王は激していた。
 静かなる怒りがその双眸で昏く煮えていた。
 その理由は彼自身が今しがた口にした通りである。
 王は眠っていたのだ。
 己の生と物語を終え眠りに就いた。
 心地好い、他の何物にも代えられない無二の眠りに。
 しかしどうしたことか。
 己を微睡みから揺り起こした者がある。
 この事実は王の不興を買うには充分すぎた。

「…そうだ。俺が……お前のマスターだ。キャスター」


68 : 千翼&キャスター ◆Lap.xxnSU. :2022/06/28(火) 20:52:18 yllbvt3w0
「痴れ者が」
「…が、はッ!」

 千翼の脳には既に自らの置かれている状況に関する知識がインストールされている。
 更にマスターとサーヴァントの間を結ぶパスの存在もある。
 目前でふんぞり返るこれが自らのサーヴァントである事は分かっていた。
 だからそれを踏まえて答えたのだったが。
 眉間に皺を寄せた王の尾が伸びて撓り、千翼の脇腹を打ち据え吹き飛ばした。
 彼が人間であったなら内臓損傷で命を落としていても不思議ではない威力だった。

「一度は許す。だが二度は許さぬ。王たる余を前に主人と名乗るなど、刎頸にも値する不敬だと心得よ」

 フンと鼻を鳴らして不興を示す王。
 だがその眼差しは何処か興味深げでもあった。
 床に転がった体をどうにか起こして立ち上がる千翼の姿を見て、王は言う。

「…人間ならば挫滅で死に至るよう調整をして打ち据えたのだがな。
 砕けた骨や潰れた筋肉、臓腑が既に自己修復を開始している。
 妙な匂いがした故もしやとは思っていたが、貴様――人間の皮を被っているのか」

 早鐘を打つ心臓が止まった錯覚を、千翼は覚えた。
 そうだ。
 王の見立ては間違っていない。
 彼が生きる事を許されなかった理由。
 死を望まれ害獣のように追い立てられた理由。
 それは――

「何故に飢えを善しとする?」

 彼の存在は人類に害を成すからだ。
 ただ生きているだけで。
 ただ存在しているだけで罪をばら撒く。
 溶原性細胞。
 この世に生を受けた瞬間から刻まれていたその呪いがあまりに罪深すぎるから。
 だから千翼はこう求められた。
 死んでくれ、と。

「喰らい生き延びる事が罪であるものか。腹が膨れるまで喰らえばよい。
 美味を求めて貪るもよい。喰らい肥え太る事を恥じるは愚か者の論理ぞ」

 王の眼力は千翼の全てを詳らかに見抜いていた。
 彼が人を喰らう存在である事。
 そしてにも関わらず意図的に人肉を拒んできた事も。
 看破したからこそ王は訝った。
 そのように生まれてきたならば、そのようにすればよいだろうと。
 減った腹を満たす事が罪であるならば。
 果たしてこの世に生まれた意義とは何なりやと。
 問う王に千翼は答えた。

「それをしたら…俺は、本当に怪物になってしまうから」


69 : 千翼&キャスター ◆Lap.xxnSU. :2022/06/28(火) 20:54:35 yllbvt3w0
「笑わせる。貴様が怪物でなくて何だという。
 人は腹が減ったら同族が喰いたくなるのか? 奴らがそうも容易い種族であったなら、余は此処に居らん」
「…分かってるッ! そんな事、お前に言われるまでもなく分かってるんだ!」

 以前の千翼ならば。
 人に非じと指摘された時点で激昂していただろう。
 人喰いの怪物を――アマゾンを強く忌み嫌い続けてきた彼だから。
 だが現実は嘲笑うような非情さで彼を取り囲んだ。
 この世界は千翼の人生の最果てだ。
 行き止まりのその向こう、ある筈のなかった"先"。
 此処には千翼を追い立てる者は居ない。
 此処では全ての暴力が正当化される。
 人を腹一杯喰らって本能のままに生きながら、自分の夢を叶えるなんて夢物語も…当然罷り通るだろう。
 なのにまだその欲を抑える意味とは何か。
 王にはそれがとんと理解できなかった。

「俺は…生きたいんだ」
「それが貴様の願いか?」

 王の放つ殺気が桁を増した。
 千翼の肌がその鑢めいた殺気に掻き乱される。
 言葉を一つでも間違えば死ぬのだと本能的な部分でそう理解させられた。
 生きたい。
 まさにそれこそが千翼の願い。
 元の世界ではどれだけ望んでも叶わなかった願望。
 しかし王に言わせればそれは何ともつまらない望みだった。
 
「生きる事は生物として当然の本能だ。虫螻にも劣る微生物であろうと誰しも生きる為に日々を過ごしている。
 不遜にも余を従える主(マスター)などと名乗った貴様は、よもやそのようなつまらぬ事の為に余を起こしたのではあるまいな」

 同族であるならばいざ知らず。
 何処の馬の骨とも知らないケダモノの明日の為に身を粉にしてやるつもりは王には毛頭なかった。
 只でさえ眠りを邪魔され怒り心頭の王の前でそんな戯言を吐いたというならば。
 当然、相応の罰が下る事になる。

「そうだ。俺は…生きたいんだ。生きたいんだよ、王様。
 だから俺は此処に居て……此処でこうしてお前と繋がってるんだ」
「ならば時間をやる。今此処で自らの首を落とせ」

 王の宣告に背く事はより惨たらしい死を招く。
 自死を命じたのはせめてもの王からの慈悲だ。
 生きたいと願う少年に死ねと命じた、王。
 しかし彼の命令を無視して少年は重ねた。

「俺は…イユと。俺の大切なヒトと……生きていきたい。
 誰に文句を言われる事もなく、追い回されて殺されそうになる事もなく。
 贅沢なんて要らない。ずっと飢えたままでだって、いい。
 ただ――生きていられればそれでいいんだ。イユが居て、俺が居る。それだけで……ッ」


70 : 千翼&キャスター ◆Lap.xxnSU. :2022/06/28(火) 20:55:14 yllbvt3w0
「――そうか」

 その言葉を聞いた王は、沈黙。
 千翼の死を待つ沈黙ではない。
 人間のそれより遥かに発達した知能で思考に耽る為の沈黙だった。
 時間にして数秒程の静寂。
 しかし王は納得の行く答えを導き出せたらしい。

「…そういう事か。聖杯め、無機物如きが諧謔を弄んだつもりか」

 小さな嘆息は苛立ちを含んだものであったが。
 しかしそれとは真逆に、王が放っていた殺気は見る間に萎んでいった。
 一秒の瞑目。王は何かを思い出すように目を伏せ。
 次に瞼が開いた時、王の口から正式な千翼に対する判決が言い渡された。

「貴様、名は何という」
「…千翼。千翼だ」
「そうか。ならば千翼――貴様に力を貸してやる」
「…どういう風の吹き回しだ、一体。先刻まではつまらない事を言うなって怒ってたのに」
「貴様の願いはつまらん。余を動かそうと思うならば、嘘でももっと大口を叩くべきだった」

 もっとも仮に千翼が心情を偽っていたなら、王は躊躇なく彼の首を刎ねていただろう。
 令呪を使う余地など与えず手ずから無礼者を処刑していた筈だ。
 だがそれでも千翼の"生きたい"という願いは王にとって酷く退屈なものである事に違いはない。
 ならば何故、この尊大な王は自らの前言を翻すに至ったのか?
 その答えは――

「…だが」

 王の脳裏に去来する今際の際の追憶だった。
 人を喰って数を増やし版図の拡大を目論む蟻の王。
 力に恵まれ、知恵に恵まれ、部下にも恵まれた最強の王。
 そんな彼がとうとう最後の最後まで勝てなかった少女が居る。
 冴えない娘だった。
 王がその気になれば指の一本で跡形も残さず消し飛ばしてしまえるような、非力な女だった。
 キメラアントの王が執心するには全く不似合いな彼女だけが、王を真っ向勝負で打ち破り続けた。
 娘の存在は貪食と支配の為のみにあるべき王の心を掻き乱して狂わせた。
 王は、その無力な少女に夢中になっていた。

「あまりに見窄らしい願いだったのでな。応えてやらぬのも王として狭量だと、そう思ったまでだ」

 体の内側を薔薇の猛毒で冒されながら。
 余命幾ばくもない肉体で駒を打つ時間が楽しかった。
 娘の打った手をどう凌ぐか知恵を振り絞るのが楽しかった。
 自分でも驚くような妙手を繰り出した後、苦もなくそれを返される驚愕が愉快だった。
 そんな、死の間際とは思えない豊かな幸福の中で王は眠りに就いた。


71 : 千翼&キャスター ◆Lap.xxnSU. :2022/06/28(火) 20:56:05 yllbvt3w0

 ――おやすみなさい…メルエム…

 もう一度だなどと王は願わない。
 それはあの結末の侮辱になる。
 己の生涯には一片の悔いもない。
 だが、それもまた己が王であるからこそ割り切れる事なのだろう。
 尊き者に非ぬならば、見苦しく生きたいと喚き足掻くのも仕方のない事。
 一時なれど臣下となった者の惨めさに付き合ってやらぬのは…王の名を穢す無粋かと。

 王(メルエム)はそう自分を納得させた。
 この話はそれで終わりだ。
 深く問い質せば例外なく彼の怒りを買う。
 蟻の王は慈悲など示さない。
 怪物として生まれ落ちながら"誰か"に心を注いでしまう愚かしさに、かつての己の姿を重ねたなどとは。
 命が惜しければ、口にしない方がいい。

【クラス】
キャスター

【真名】
メルエム@HUNTER×HUNTER

【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷A 魔力A 幸運D 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。
"工房"を上回る"神殿"を形成することが可能。

【保有スキル】
蟻の王:EX
第一級隔離指定種、キメラアントの王。
肉体の頑健性及び各種能力値が他の同族と比べても非常に高く突出している。
恐らくはキメラアントという種が誕生して以降例のない境地へまで達したメルエムのランクは規格外。
単なる優秀さの上下ではなく彼という王の特異性を指しての評価。

人外のカリスマ:A
大軍団を指揮する天性の才能。
メルエムの場合は人ならざる者に対して一際強く作用する。
逆に言えば彼のカリスマは人類とは決して相容れない。
その例外は過去、ただ一人だけである。

高速思考:A
物事の筋道を順序立てて追う思考の速度。
卓越した思考能力により、弁論や策略や戦術などにおいて大きな効果を発揮する。

【宝具】
『貪食なる蟻の王は、薔薇の咲く亡國にて微笑み果てた(オール・フォー・ワン)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜1000 最大捕捉:制限無し
他者を喰らえば喰らう程に強くなる王の念能力。
性質としては捕食による吸収と呼ぶよりかは"同化"に近い。
既に備わっている能力としては、数キロ範囲を即座に覆い尽くし敵を把握する"円"の展開が挙げられる。
この円には光子状の物質を拡散する特性が備わっており、円の内部に居る生物は姿形ひいては感情までもをメルエムに把握される。
その上件の光子は円の展開が終わっても対象に付着し続ける。
従って何らかの手段で光子を取り払わない限り、メルエムに捕捉された存在は永遠に彼に追跡され続けることになる。


72 : 千翼&キャスター ◆Lap.xxnSU. :2022/06/28(火) 20:56:47 yllbvt3w0

【人物背景】
キメラ=アント。
非常に貪欲で凶暴な蟻。
その頂点に君臨する絶対の"王"。
生物統一と種の更なる進化を目論見たが果たせなかった。
その代わり彼は、種族の垣根をすら超えた"愛"を得た。

【願い】
存在しない。
余の幕切れに茶々を入れる全ての行動は無粋であり死に値する。


【マスター】
千翼@仮面ライダーアマゾンズ

【マスターとしての願い】
ただ…生きたい。
彼の願いはそれだけである。

【weapon】
ネオアマゾンズドライバー。
アマゾンネオに変身するためのベルト。
これにアマゾンズインジェクターを投与することで千翼のアマゾン細胞は変容し、彼は力を得る。

【能力・技能】
オリジナルアマゾン。
千翼の見た目は人間のそれにしか見えないものの、彼はあくまでも人工生命体に過ぎない。
彼がヒトと異なる点は一言食人の本能。
非常に激しく抗い難い食人衝動に苛まれる。
その代わりに千翼は極めて高い身体能力と、生半な手傷なら即座に再生させる再生能力を併せ持つ。
彼にとってはこんなもの…何の幸いでもなかったろうが。

【人物背景】
生まれた事実そのものを罪とされた少年。
生きることを許されなかったちっぽけな命。
彼の存在が人間社会に受け入れられることは決してない。
奇跡が起きて、怪物(ちひろ)が怪物(ちひろ)でなくなりでもしない限りは。

【方針】
生きたい、他には何も要らない。
ただ――生きていたい。


73 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/28(火) 20:57:08 yllbvt3w0
投下終了です


74 : ◆2dNHP51a3Y :2022/06/28(火) 21:08:48 n9sO8oZ60
投下します


75 : 『悪魔』達の舞踏会 ◆2dNHP51a3Y :2022/06/28(火) 21:09:37 n9sO8oZ60
スクランブル交差点を取り仕切る歩行者信号が青を灯す
青を合図に、白と灰のコントラストの上を人混みが埋め尽くす
その多くがスマホ片手にその画面を見つめ、指先でアイコンに触れページを開く
ましてやその光景を天空より睥睨すれば、まるで人が軍隊アリの行列のようだ
スマホを弄る理由はソーシャルゲーム、動画視聴、SNSへの投稿………理由は人それぞれであるが、その彼ら彼女らが注目しているのはとある一つのニュース記事

『〇〇市連続殺人事件、犯人は☓☓歳の女子学生』
『現代の異能力者!? 凶器無く殺す謎の殺人鬼の正体!』

能く在る殺人事件、能く在る大手新聞社からのゴシップ記事。新聞では一面記事として大っぴらに紹介され、聳え立つ巨大建造物に貼り付けられたモニターに映し出されたニュース番組のアナウンサーが業務的にその事件に関する事柄を読み上げる
横断歩道を渡る群衆の大半は、そんなニュースキャスターの声を流し聞きしながら、何時もの如く行き交っていく

伝えられるニュース、凄惨な事実と知れ渡る犯人の素性
SNS上で『#拡散希望』のハッシュタグと共にアップされる少女の写真
裏サイトにて違法にアップされる少女の個人情報
被害者会の遺族による情報提供、義憤に駆られた若き学生による独自の行動

人は情報に踊り、一喜一憂する生き物だ
判断材料が例え虚偽であっても、それを前提に思考し、行動する他無い
その結末が正しかったのか間違っているのかは結局の所個人の認識次第
だが、連続殺人鬼という明確な『大衆の敵』が齎したのは、大衆にとって何の理由もなく『叩く』事が出来る的を提供したことだ

ヘイトと言う名の弓矢を番える相手が出来たという事実は、暇を持て余した大衆にとっては格好の鬱憤晴らしでしかない
行き過ぎた正義は時に理不尽で無秩序な暴力となりうる、人間は己が正義や信念の為ならば、何処までも残酷になれるのだから


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

323:以上、名無しがお送りします
例の殺人鬼、現在〇〇区のマンションの近くにいるとのこと

324:以上、名無しがお送りします
それマジ?

325:以上、名無しがお送りします
警察はもう動いてる?

326:以上、名無しがお送りします
既に包囲網が敷かれているらしい、近くの住民に聞いたんだけど

327:以上、名無しがお送りします
こっちの話だとYoutuberも配信に来てて一種のお祭り状態らしい
勿論警察に強制退去させられてるけど

328:以上、名無しがお送りします
でもその女子高生むっちゃ可愛いけど本当に件の犯人なわけ?

329:以上、名無しがお送りします
状況証拠出揃ってるからって理由でクロ確定らしい
あと例の異能力者の噂もあってアサルトライフル持ち込んでるぐらいガチっぽい

330:以上、名無しがお送りします
やり過ぎな気もするけどそんだけ危ない奴なん?

331:黒のカリスマ
ある犯行だとある一家が赤ちゃんもろとも殺されてた
ほんっと人のやることじゃないよね
詳細知りたい方用に後でリンク貼っとくね、ちなみに閲覧注意

332:モチツケ
モチツケ

333:以上、名無しがお送りします
>>332
荒らし乙

334:以上、名無しがお送りします
>>331
黒のカリスマキターーーッ!
情報サンクス、いつも頼りにしてます
……マジで人の心ねえんだなその犯人
家族の方にはご冥福をお祈りします

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76 : 『悪魔』達の舞踏会 ◆2dNHP51a3Y :2022/06/28(火) 21:09:58 n9sO8oZ60
○●○●○●○●○●○●○

夜闇に包まれたマンションの周囲に、パトカーのけたたましいサイレンが鳴り響いている
恐怖に震える老婆や、子供を下がらせる主婦、珍しいもの目当てでスマホのカメラを向けるスーツ姿で仕事帰りのサラリーマンがガヤガヤと騒いでいる
彼らを抑え、立ち並ぶ警官と黄色と黒の縞模様の規制線の向こう側に映し出されているのは血痕だ
ポタポタと、誰かが逃げたであろう血の痕跡

警官の一人が真っ黒なトランシーバーから声を受け取り、忙しなく動いている
別の場所には装甲車が何台か駐車しており、その中には機動隊の隊員が待機しているのだ

『こちら○○ 目標発見、抵抗あり。至急応援頼む』

警官の一人が受け取った情報から、隊員を載せた装甲車のランプが点灯し、目標のいる地点へと動き出す



場所は代わり、どこかの薄暗い路地
ポタポタと赤い液体を垂らしながら、腕を抑えながらも歩く黒髪の少女が一人
その右手には赤い刻印が――マスターの証たる令呪が刻まれている

「……どうして……こんな、事に……」

彼女はこの聖杯戦争に巻き込まれたマスターであり、そう珍しくはない巻き込まれた一般人である
だが、今彼女の隣にはいるべきはずの英霊の姿はない

「……ごめん、ごめんね……セイバー……!」

何故ならば、既に彼女が使役していた、セイバーのサーヴァントは既にこの世にはいない

何故そうなったかの経緯を話せば長くなる
巻き込まれる形で聖杯戦争に巻き込まれ、当初こそ召喚したセイバーに助けられながらも死にたくないという一心で生き延びてきた彼女
幾多の困難、ぶつかり合いの果てに新しく出来た友人との出会いを得て、少女は聖杯戦争を止めるという選択肢を選んだ
何故ならば彼女が抱く願望がありふれた物であり、誰かの屍を積み上げてでも叶えたいものではなく、どんな苦難があろうとも自分の力で叶える決意を抱いて
だが、この物語(Fate)に於いて彼女は主人公ではなく、ただの端役の一人でしかない。なので彼女の物語は唐突に終わりへと加速すた
正体不明のサーヴァントとの戦闘中、やむを得ず宝具を解放し、結果として街に被害を出してしまったのを切欠に、憶えのない被害に憶えのない凄惨な殺人の冤罪を着せられていた
彼女がこの世界で与えられた役割(ロール)は一人暮らしの学生である。殺人事件が続く中、偽物の証拠から少女の身元は割れ、学校ではストレスのはけ口として同級生のNPCによってイジメを受けることも多々あった
一介の少女には例え具合がどうであれ精神が追い詰められる事には変わりはない、犯人による犯行が過激なものへと変遷する毎に周囲からの視線は厳しくなり、果てに唯一の友人以外の理解者はいなくなってしまった
結果、彼女はついに指名手配され、このように機動部隊まで引き連れた警察の集団に追われる事となったのだ
勿論狙うのは彼らだけではない、敵を減らそうと合理的に行動する他のマスターやサーヴァントも挙って襲いかかってくる
度重なる襲撃にマスターの魔力は尽きかけ、セイバーもまたマスターに迷惑はかけたくないと、別のサーヴァントから致命傷を受けた際に最後に宝具を放ち、己が身を引き換えにマスターを逃し、少女は今に至るのだ


77 : 『悪魔』達の舞踏会 ◆2dNHP51a3Y :2022/06/28(火) 21:10:22 n9sO8oZ60
「いたぞ、追えっ!」
「相手は不思議な力を使ってくる! 不用意に近づかず離れて攻撃しろ!」
「どこ行きやがったサイコパス女! よくもおれの娘を殺しやがったな!」

機動隊員から身を隠しながら、少女は夜の住宅街に紛れて逃げる
滴り流れる負傷は服の一部を破いて包帯代わりにして応急処置。だがそれでも痛いものは痛いのだ
歴戦の戦士ではなく、今迄セイバーに助けられて人並みに頑張ってきただけの、ほんの少し勇気がある一般人に過ぎない

「……はぁっ……はぁっ……!」

人影も気配もいなくなったタイミングを見計らい、すぐさま次の物陰まで駆け出す
未だ少女は包囲網に囲まれたまま、このまま捕まってしまえばどうなるか等予測がつかない、最悪の結末が待っているのだけは嫌でも理解できる

「………」

それでも身柄の無事という点で言うならばこのまま警察に捕まった方がまだマシなのでは?と頭に過る
サーヴァントを失った以上、他の参加者も脱落者として殆ど見向きもしないだろうし、態々殺しに行くメリットも皆無

「……ううん、違う」

咄嗟に首を振って雑念を払う。確かにその選択は生存のみを優先するなら最悪だが最良の手だ
だけどそれ以上に、自分たちの偽物を使って罪のない人たちを、例えNPCだとしても巻き込むような下劣な存在を野放しにしたままなんて出来ない
無駄足だったが、自身の冤罪を晴らすために集めた証拠が手元には有る
セイバーは最後に言ってくれた。「自分の信じた道を進んでほしい」と
だから、最後まで立ち向かう。自分が出来ることを、自分が信じた道を往くために

「……あれ?」

幸か不幸か、周囲が静まり返っている。頑張って隠れていたのが報われたのか
だが、少女はそれをただ運が良いとだけという安易な考えは持たなかった
仮にも聖杯戦争を生き延びてきた身、流石にこの空気は慣れたものだ

「……人払の結界……っ! まずい――――」

気付いた時には既に遅く、シュッ! という風切り音が聞こえれば、少女の胸元には鏃が刺さっていた
熱さが込み上げると同時に全身に激痛が走り、口から赤黒い血を吐き出して仰向けに倒れる

「……あ゛………」

ドクドクと心臓から血液が溢れ出して、意識が朦朧となり視界が歪む
歪む視界の向こう側には見覚えのある男の姿。あの友人のサーヴァントであったアーチャーの姿

「……どう゛、じで?」

どうしてなのか、まさかあの子も自分を裏切ったのか?
それはあり得ない。ありえないと信じたかった、信じたくて、でも今の状態ではまともな思考すら出来ず

「――すまない。これも、マスターを救うためなんだ」

アーチャーは、そんな哀しそうな目で、少女へと呟いていた
少女から見たアーチャーは、自分のマスターに対して恋心を持っていたらしいことを聞く
そうだったんだ、と少女は口にしたかったが、声は出せなかった。そして

「……な、に?」

アーチャーもまた、『鏃を自らの霊核に突き刺した』己が行為に理解が追いつかないまま
少女が最後に見た景色と共に、その命を夜空の下にて儚く散らしたのであった
結界が解除され、機動部隊が少女の死体を発見し、それを回収して撤収したのは、この直後であった


78 : 『悪魔』達の舞踏会 ◆2dNHP51a3Y :2022/06/28(火) 21:11:11 n9sO8oZ60
○●○●○●○●○●○●○

《次のニュースです。本日未明、****さん(17)が死体で発見され――――》

オフィスに設置されたTVから、ニュースキャスターの台詞がオフィス中に鳴り響く
それを遮るように、机に置かれた電話が騒がしく鳴り響いては、担当者が受話器を手に取り対応する
編集長の騒がしい大声が部屋中を駆け抜け、それを聞いた社員たちがけたたましく動き回る
ここはとある新聞社のオフィス内、手に入れたてのスクープの記事を誰よりも先に作り上げようとしている最前線の一つ

顎に手のひらを当て悩みこむ編集長の前に、ここの社員である青年が出来上がった新聞記事の仮のレイアウトをテーブルに乗せた

「編集長、如何でしょうか?」

青年の未だ緊張が解れぬ顔には目遅れず、編集長は記事を見渡している
紙面の内容は先日の案件、件の連続殺人鬼が死体で発見された事件である
死因は何者かによる刺殺痕、凶器も犯人も行方知れず
一人暮らし故に親元の確認が来るまで死体は警察の霊安室に保管されることとなった

「紙面の構成としては、売れそうな文面を心掛けましたが……」

『現代の異能力者、死す』
『真実は闇の中? 未だ疑念残る少女の犯行』

青年としては、この事件には何かしらの疑いを抱いていた
確かに警察から提示された証拠写真や防犯カメラの映像を見る限りは明らかに少女が犯人であるというのは確実。だが、それでも青年の中に居残り続けている疑いという名の心の凝りが、このような文面を書くように掻き立てたのだ
あまり自己主張せず、あくまでこういう考察云々という内容で、ある程度ウケも重視して書かれていた
文面が載せられたレイアウトを、編集長は手にとって眺め、ため息をついて机に放り投げた

「ダメだ。全部書き直せ」
「……!?」

編集長の呆れたような言葉に青年は少しばかり吃驚しながらも顔を傾げるも、それを見て編集長は怠そうな表情で言葉を続ける

「この内容じゃ、三葉会長やクライアントは納得しない。疑う気持ちはわからんではないが、あの女は世間を騒がせた大量殺人鬼だ。下手に擁護する内容は検閲がはいる。今後売れる売れないに関係なくは気にするな、分かったな!」
「は、はいっ!」

編集長の言葉に、少々納得がいかないながらも青年は持ち場に戻る
小さくあくびをして、TVで流れるニュース番組を編集長は退屈そうな表情で眺める
此度の内容は倉庫内で暴力を振るわれて殺された女子高生の事件であり、警察も犯人探しに難航しているとのこと
だが、それに同情や憐憫こそ持てど、切り替えが早い新聞者の重役は次なるスクープじゃ記事のレイアウトが提示されるまで待ち続けるのである


79 : 『悪魔』達の舞踏会 ◆2dNHP51a3Y :2022/06/28(火) 21:11:36 n9sO8oZ60
○●○●○●○●○●○●○


「――報告は以上です」
「そうか。下っても良いぞラスキン」

ラスキンと呼ばれた青年が、男の言葉を聞いて部屋から立ち去っていく
アンティーク感溢れる部屋の内装は、この場所だけ現代から切り離された、一昔前の富裕層のような意匠が施された椅子や本棚がずらりと配置されている
古めかしい椅子に座り、男の眼鏡越しのトパーズ色に輝く瞳が、新聞を眺めている

『――倉庫での凄惨な殺人事件、件の大量殺人鬼が関与か』
『恐るべき女子高生、その悍ましい犯行の経緯』

記事の内容にそれなりに満足したのか、新聞を丸めテーブル下の棚へ片付ける
椅子から立ち上がり、本棚へ近づく。心理学、現代医学、経済学――様々なジャンルの本が置かれているが
彼が手に取ったのは古ぼけた一冊の赤表紙の本――聖書だ
別段読むことが目的ではない。聖書の中に挟まれている栞。栞の中に隠すように入り込んだ一本のキーを取り出す
ちょうど聖書を取り出した場所から隠れて見える鍵穴がある。男がそこに鍵を差し込み回し、本棚から距離を取る
ギギギ……という擦音と何かが稼働する金属音が鳴り響き、本棚が床へと沈んでゆく
本棚で隠れていた壁には、ポツンと配置されているレンズと、無機質な色違いのタイルが配置されていた
男は指の一本をタイルに触れ、レンズを見つめる
数秒の沈黙の後、『ピンポーン』という軽快な音声が鳴り響き、男は壁から離れる
するとなにもない筈の壁に切り込みが入り、それを中心線として分かたれ奥へと扉の如く開く
扉の向こう側には薄暗い空間と階段、男は階段へ向かって進み、男の姿が見えなくなった所で壁の扉も、本棚もまるで何事もなかったかのように元に戻っていた


薄暗い空間に申し訳程度にランプが等間隔で置かれた階段を降り、歩いて数分程の場所にある鉄製の扉
ドアノブに手を掛け開いてみれば、客人を迎え入れたのは大量のモニターの輝きだ
モニターに映っているのはSNSの類にジャンルを問わない掲示板にまとめサイトの数々、そして各社各国のニュースサイトに動画配信サイト
ここはまるで世界の縮図だ、世界全ての情報が集っていると言わんばかりの、動力源も何もかも不明なパーソナルコンピューターやその他機器の稼働音が部屋の中に反響している
そんなモニターに映るサイトのコメント欄に打ち込み始めるのは椅子に座っている人物がいた
金の装飾が施された黒い仮面に黒いマント。まるで役者のような、演劇の舞台から飛び出してきたようなその奇っ怪な風貌。ただの一般人であるならばその胡散臭さと不気味さの方が目につくだろう

「……どうやら順調のようだな、アサシン」
「キミの方も楽しんでるようじゃないか、マスター」

アサシンと呼ばえた黒仮面は、椅子を回して男の方へ振り向く。仮面越しながらも男の事はちゃんと見えている
久方振りの対人での声を黒仮面は発しながら片手間にマウスを動かし、画面の一つにニュース記事を映し出す。ニュースの記事自体は森の中で顔がわからない程にぐちゃぐちゃにされた男性の死体が発見されたという内容だ


80 : 『悪魔』達の舞踏会 ◆2dNHP51a3Y :2022/06/28(火) 21:12:20 n9sO8oZ60
「……まだ仕留めたようだな。働き者で何よりだ」
「何言ってるんだいマスター? ボクはただ書き込んだり、ネットのみんなに情報を提供しただけの話だよ」

男のお世辞に、黒仮面は皮肉を交えて言葉を返す。事実、ネットで報道された男性は聖杯戦争の参加者であり、山奥に工房を作り万全状態で戦いに望んだ人物である
が、万全であったはずの男の居場所は何故か他の主従にバレ、挙げ句工房を周囲もろとも爆破されるという予想外の攻撃により、最終的に別のサーヴァントに殺されたのだ
勿論、この事実を知りうるのは一部の聖杯戦争参加者であるのだが

「……進化したものだな、この世界は」

憂うように、羨ましがるように男は声を漏らす
男が本来居た時代にはソーシャルネットワークというものは存在せず、果てや電波なる概念すら存在しなかった
この時代は、情報が伝わる速度が段違いに速いのだ。速い上に、だからこそ目の前の情報に多くの人民は踊らされるのだ。例えどんな内容であれ、メディアがそう伝えれば嘘であろうと聴衆にとっては真実と成

「……だからこそ、楽しいじゃないか。自分の知らない事ばかりってのも、存外新鮮な体験だと思うよ」

仮面の裏で、アサシンは薄ら笑う。聖杯戦争、英霊とそれを使役する者達での殺し合い、そして万能の願望器たる聖杯。彼にとって聖杯戦争とは未知そのものであり、愉快で心揺さぶられるおもちゃ箱なのだ
数多の暗躍の果て、因果地平の彼方へと追放された混沌の王は、この聖杯戦争に暗殺者のクラスとして招待された

「それには同意ではあるな。何せ、私が生きた時代より未来よりも、メディアは大いに発展していたのだからね。やり甲斐はある」

それに対し、アサシンのマスターである男もまた嗤う
男の本質は、人を人生の大事な局面で'破滅'してゆく様を見て楽しむ、悪魔のような人間なのだから
この聖杯戦争にマスターとして呼ばれたとしても、それは変わらない
与えられた役割(ロール)もまた、彼にとって自らの愉悦を満たすのに最適なものである

「……それに、聖杯という代物に特段求めるものは無い。この第二の生でこの様に好きに出来るだけでも価値はあるのだからな」
「それってつまり、聖杯はボクにくれるって遠回しで言ってる事で良いんだよね?」

マスターの発言は事実上、もし聖杯を手に入れたならアサシンの自由にしていいと言う宣言に等しいものだ
男に聖杯が掲げる万能の願望器など何ら興味はない。人を堕落させ貶める悪魔にとって、それは無用の長物であるのだから

「ああ。それに―――」

男は一泊置いて、アサシンに対し満面の邪悪さを、悪魔のような笑みで

「……君が望んだカオスな世界でこそ、私が見たかったものが、もっと多くの人の'破滅'が見れるのだろうからな」

そう、アサシンに対し言い切った。それがさも当然のごとく。男にとってはその邪悪の価値が、大いなる愉悦こそが、男の――"脅迫王"チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートンにとっての根幹なのだから


81 : 『悪魔』達の舞踏会 ◆2dNHP51a3Y :2022/06/28(火) 21:13:40 n9sO8oZ60
「……くく、くふふ――くはははははっ! あーはっはっはっはっはっ!!!」

仮面の奥底から、心の奥底から、アサシンは高らかに喝采して笑っていた
まるでお目当てのおもちゃを手に入れた幼稚な子供のように
まるで宝くじを当てて喜びの余り唖然としているサラリーマンのように

「いやぁ、ごめんごめん。まさかボクの望みを聞いた上でそう言い切れる人間は中々いないよ!」

笑い声が魅せたのはアサシンの本質だ。これがアサシンの'地'だ
混沌を望み、混沌を愉しみ、混沌のままに振る舞い、ただ快楽のままに世界を、全てを嘲笑し弄ぶ
「善悪」という観念に囚われず、行動に一切悪びれる事はない
今の世界が抱える民衆たちの本音の集合体、無自覚なる悪意の塊だ

「だったら少しばかり張り切ることとしようか、キミは兎も角、ボクの方は聖杯は欲しいからね」
「そうか。ならば私も、マスターの手助けになるよう、手回ししておこうか、趣味と実益を兼ねて、な」

上機嫌なアサシンに言葉を返し、ミルヴァートンは身を翻し地上へ戻るための階段を登る
それに目もくれず、アサシンは新たなる混沌の為、掲示板にコメントを打ち込んで、エンターキーを押した

(……だったらお望み通りボクがカオスを見せたげるよ、マスター)
(このボク――ジ・エーデル・ベルナルがね!!!)

混沌と言う名の台風の目の最奥にて、黒き仮面のカリスマは笑う
――ジ・エーデル・ベルナル。かつて次元振動弾にて多元世界を作り上げ、全てを混沌に巻き込んだ男は、この小さな混沌の中で、大いに喜んでいた




【クラス】
アサシン
【真名】
ジ・エーデル・ベルナル
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力D 耐久B 敏捷B 魔力EX 幸運A 宝具A++
【クラススキル】
『気配遮断:B+〜A++』
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。自らが攻撃行動に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

『陣地作成:A』
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。

『道具作成:A』
魔力を帯びた器具を作成できる。科学者・技術者としての面において天才的な頭脳を持つアサシンは、様々な機動兵器を作り出すことが出来る

【保有スキル】
『二重召喚(ダブルサモン):B』
極一部のサーヴァントのみが持つ希少特性
彼の場合はアサシンとキャスター、両方のクラス別スキルを獲得して現界している

『次元力:A』
またの名をオリジン・ロー。宇宙の全てに存在する意志「霊子(エーテル)」に対する強制力。アサシンのいた世界の存在全ては霊子によって成り立っており、次元力はこれに対して働きかけ、霊子の定義する事象を書き換えるエネルギーである
次元力を引き出す方法は主に2つ、意志の力か、機械的なものかであり、アサシンの場合は後者によるものである
アサシンの場合、並行存在の召喚、自身の肉体を並行存在と置換、破壊された機体の再生が可能であるが、後述の宝具を解禁しない限りはこの力に大きな制限が掛かっている
現状はバインド・スペルによる暗示や、1体のみの並行存在の召喚のみが可能

『煽動:EX』
大衆・市民を導く言葉と身振り。個人に対して使用した場合には、ある種の精神攻撃として働く極めて強力な代物
アサシンは元の世界において、ありとあらゆる情報インフラ・メディアを手中に収め、自らデマを流すことでとある特殊部隊に仲間割れを引き起こした逸話から、ネットへのコメントでほぼ全ての人間を騙し信じ込ませる事が可能


82 : 『悪魔』達の舞踏会 ◆2dNHP51a3Y :2022/06/28(火) 21:22:07 n9sO8oZ60
【宝具】
『黒のカリスマ』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大射程:-
情報サイトの類に様々な怪情報を垂れ流し、大衆を踊らせ続けるアサシンのもう一つの姿
この宝具の発動中のアサシンは気配遮断のランクがA++まで上昇し、『単独行動:A』のスキルを獲得する
黒のカリスマの本質は、彼が垂れ流す怪情報にあらず、大衆の集団無意識を体現し立ち回るその在り方にある
アサシンが生きていた時代における情報共有の根本にて、自分を名乗り会場を流す匿名者は数多くおり、直接的に世界を混乱させたのはアサシン自信であるが、その混乱を一層増幅させたのは、『黒のカリスマ』という器を与えられて形を為した、市民達自身の流言飛語なのだ
情報社会に出没する黒のカリスマの実態を掴むのは困難極まる。嘘を嘘であることを見抜けない限り、ネットを使うことは難しいと発言した某掲示板の元管理人の言葉の通りに
この宝具の存在により、『黒のカリスマ』を名乗る一般市民は捉えられても、アサシン本体を捉えることは事実上不可能

『創世の芸術家(ジ・エーデル・ベルナル)』
ランク:A++(EX) 種別:対人宝具 レンジ:- 最大射程:-
世界に混沌を振り撒いたアサシン自身の存在を体現した宝具。宝具発動時には真名情報の強制公開及びマスターに対する多大な魔力消費のデメリットを背負う代わりに、アサシンの本来の力である次元力の制限を解除する。この際、アサシンの霊器はキャスターのものへと完全に変化する
召喚されたクラスの都合上本来の搭乗機の呼び出しは使用不可となっているものの、機体の力による次元力の行使は可能
……と言いながらも、この宝具が発動に成功した以上、別の平行世界の自分に搭乗機を持ってこさせることでその縛りすらも無視することが出来る
発動の成功にさえ持ってこれれば、サーヴァントとしての縛りから解き放たれ、混沌を齎す創世の芸術家としての、その悪魔の如き理不尽さを体現させるアサシンにとっての切り札

弱点は勿論、前述のマスターへの魔力消費の膨大さであり、基本的にこの第二宝具は発動不可に近い
だが一度でも発動してしまえば、並行存在何人でももってこいの数の暴力である

【Weapon】
なし。ただし次元力による本人の直接戦闘力は未知数

【人物背景】
次元振動弾であらゆる世界が混じり合った多元世界において暗躍した『悪魔』
ある時は特殊部隊お抱えの老科学者として
ある時は様々な人物や勢力と接触し、時には情報・技術の交換を行い、意味ありげな言葉で各組織の長を煙に巻くトリックスター
その実態は全てが『ジ・エーデル・ベルナル』という特定の個人、全てが並行世界の同一人物
究極の享楽家たる高二病、あとついでに妙なマゾヒズム癖あり
その真の目的こそ『太極』の屈服、及び御使いの打倒ではあったが、既に神を騙る愚者は倒されていた。
故に、今や彼を縛るものは無く、だからこそ彼は自由気ままに混沌を振りまくのだ

【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争を思いっきり楽しむ





【マスター】
チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン@憂国のモリアーティ

【マスターとしての願い】
特に聖杯に願うことなど無い、『悪魔』として己が愉悦を満たすのみ

【能力・技能】
『脅迫』の定義を知り尽しており、そのために相手を調べ上げる手段に長けている

【人物背景】
大英帝国最盛期においてメディア王として名を馳せた、人を破滅へと導く『悪魔』そのものになろうとした男
そんな男の最後は、名探偵と犯罪卿、決して交わらぬはずの男たちの親愛の絆によるものであった

【備考】
死亡後からの参戦


83 : ◆2dNHP51a3Y :2022/06/28(火) 21:22:20 n9sO8oZ60
投下終了します


84 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/29(水) 23:19:33 7dxKkBA.0
『悪魔』達の舞踏会
現代社会の歪な悪性をサーヴァントの所業に落とし込んだ構成が印象的でした。
脅迫王ミルヴァートンがこの悪辣なサーヴァントのマスターであるというのが何ともまぁ最悪すぎる。
…とは言いつつもミルヴァートンに彼を制御できる気があまりしないのは此処だけの話。

投下ありがとうございました。
それでは私も候補作を投下させていただきます


85 : イリヤスフィール&セイバー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/29(水) 23:20:50 7dxKkBA.0
 最初にあったのは焦りだった。
 自分はどうしてこんな所に居るのか。
 その答えはしかし誰に問いかけるまでもなく少女――イリヤの頭の中に既にある。
 聖杯戦争。
 時と世界の枝葉を超えた選定。
 一ヶ月のモラトリアム。
 篩にかけられる願いと器。
 だがその知識は少女の動揺を何一つ解決してはくれなかった。
 彼女は別に命を賭けた戦いに突然放り込まれたことに動揺している訳ではないからだ。

「ミユ…!」

 こんな所で。
 こんな事をしてる場合じゃない。
 イリヤの感情はそれに尽きた。
 並行世界、エインズワースとの戦い。
 助けたい親友。
 それら全てを無理やり放り出させられてイリヤは此処に居る。

“早く…早く帰らないと。
 じゃないと、みんなが……ミユが……っ!” 

 焦燥感に突き動かされるが、ではどうすればいいのかと思考を進めた先は暗雲の中。
 聖杯戦争とは勝者を選定するための儀式。
 途中退場の手段等用意されてはおらず、元の世界に帰るためには聖杯戦争に勝利する事が絶対条件となる。
 それがこの世界を抜け出るための正攻法だ。
 だが逆に言えばそれは、己以外のマスター全てを犠牲にして生還者の席を確保するという事でもあり。
 なまじそう分かってしまったからこそイリヤは混乱を余計深めてしまう。
 何故ならその道は。
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンという少女には決して選ぶことのできない道であったから。

「できないよ、そんなの…っ」

 できるわけがない、そんなこと。
 友達を助ける為に見知らぬ誰かを蹴落とし見捨てるなんて。
 なら聖杯を手に入れて全部無かった事にする?
 …違う。
 そういう話じゃない。
 ぐるぐる、ぐるぐるとイリヤの中で逡巡と葛藤が堂々巡りを繰り返す。
 そんな不毛な円環を断ち切ってくれたのは、彼女のものではない鋭く凛とした声音だった。

「落ち着くといい。動揺はいつだとて短慮の呼び水だ。
 君の気持ちは理解できるが、こんな時だからこそ自分を制御するんだ」
「――あなた、は…?」

 …イリヤスフィールの前に現れたその男は、鬣のような金髪を靡かせて微笑んだ。


86 : イリヤスフィール&セイバー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/29(水) 23:22:07 7dxKkBA.0
 見ている人間を不思議と安心させるような。
 もう大丈夫なんだと感じてしまうような…そんな頼もしさがその佇まいにはあった。
 威風堂々にして泰然自若。
 年嵩にはとても見えないのに老境に入った達人のような完成度の漂う男。
 彼は己を呼び出したマスターが歳幼い童女であることに一瞬驚いたようだったが、しかして侮り軽んじることはしなかった。
 臣下の礼を尽くすが如くに片膝を突いて。
 男は恭しく己が名を告げた。

「カンタベリー聖教皇国が総代聖騎士。セイバー、グレンファルト・フォン・ヴェラチュール。召喚に応じ現界した」

 ヴェラチュール。
 それが絶対の神を意味する名であることなど少女は知る由もない。

「あ、えと、あ…い、イリヤです! イリヤスフィール・フォン・アインツベルンっていいます。
 いろいろと頼りないマスターだとは思うんですけど……その、よろしくお願いしますっ!」
「勿論だとも、マスター。こうして縁が繋がれた以上、私は君を守護する神剣だ。存分に扱き使ってくれ」

 イリヤスフィールはサーヴァントという存在のことを知っている。
 その身に宿したこともあれば、宿す相手と戦ったこともある。
 しかしこうして自分自身がマスターとなり英霊を使役するのは初めてのことだった。
 本来であれば"この"イリヤスフィールが聖杯戦争に参加することはあり得ない。
 だが、そのあり得ない事態が起こった結果こそがこの現状だった。
 イリヤスフィールが人界の神(ヴェラチュール)を名乗るセイバーを召喚して使役する。
 そんな異常事態が起こるに至った要因は、言わずもがな万能の願望器…聖杯の仕業であった。
 聖杯――イリヤスフィール・フォン・アインツベルンはそれによって選定され、この閉鎖空間へと送り込まれた。
 一切の事情を斟酌することなく。
 有無を言わさずに呼び出され、願いを叶えるか死ぬかの択一を迫られたのだ。

「…セイバーさん、その――わたしは」
「言わずともいい。君の目を見れば伝わってくる」

 意を決して、ぎゅっと噛み締めていた唇を開くイリヤスフィールだったが。
 その言葉は他でもないセイバーの声で遮られた。
 皆まで言うなとそう言って、神を名乗る男はそれこそ神通力でも使ったかのようにイリヤスフィールの言わんとすることを読んでのけたのだ。

「君には帰らねばならない理由がある。そうだろう」
「──はい。わたしは、絶対帰らなきゃいけないんです。わたしを待ってる友達がいるから」

 その瞳は焦燥と動揺が綯い交ぜになった、酷く不安定なものに見える。
 しかし注視すれば、その奥底に煌々と輝くものがあることに気付ける筈だ。
 それこそがイリヤスフィールという少女の源泉にして最大の美点。
 とにかく未熟で何度も躓く彼女だが…その足が止まったことだけはない。
 正しくは止まり続けたことはない、と言うべきか。
 イリヤスフィールは立ち上がるのだ。
 何度でも、何度でも。
 辿り着くと決めたハッピーエンドを掴むまで、彼女はどんな現実に直面しても諦めない。

「君のような目をする人間のことは何度も見てきた。
 良ければ聞かせてくれないか、マスター……イリヤ。君がもう一度会いたい、そして救いたい友人とやらの話を」


87 : イリヤスフィール&セイバー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/29(水) 23:22:42 7dxKkBA.0

 心の内を言い当てられたことに対する驚きはもうなかった。
 そう、その通りだ。
 イリヤスフィールの焦燥の理由は、単に大事な友人を元の世界に残してきてしまったからというだけではない。
 彼女が文字通り身命の懸かった危機的状況に置かれているからこそ焦っているのだ。
 自分が早く戻らなければ、戻った時にはもう何もかも取り返しのつかない形に滅んでいるかもしれない。
 必ず救うのだと誓ったあの子が――永遠に失われてしまうかもしれない。
 そう思えば自然と呼吸は早まり、心臓は早鐘を打ち。
 脳は割れそうなほどに痛んだ。
 …そしてその点。
 彼女がグレンファルトという英霊を引き当てられたことは間違いなく幸運だったと言える。
 怖じず惑わず、全てを見通しながらも居丈高になることなく対等に向き合ってくれるその姿は。
 予想外の事態に乱れたイリヤスフィールの心をごく速やかに落ち着かせてくれた。
 そして気付けばイリヤスフィールは、己が剣となった英傑へ滔々と語り始めていた。
 彼女の大切な友とそれを取り巻く陰謀。
 そして、ある滅び逝く世界の話を。



「――なるほど。大変だったのだな、君も」

 黙ってイリヤの話を聞いていたセイバーはそう呟いて頷いた。
 当のイリヤはと言えばもう何を話したのかはよく覚えていなかった。
 上手く話せていたかどうかも疑わしい。
 今まで溜め込んできた感情を全てさらけ出してしまったような。
 何もかもを目前の英霊にぶちまけてしまったような、そんな爽快感にも似た後味だけが残っていた。

「ご、ごめんなさい…。わたし、なんかぶわーって話しちゃって……」
「謝ることはない。確かに要領は得なかったが、そこの所は此方で勝手に補完しながら聞いていたからな」
「要領は得てなかったんですね…」

 兎角。
 セイバー…グレンファルトはイリヤの見てきた世界の事情を知るに至った。
 滅びを間近に控えた世界。
 それを抑止する為に編まれる陰謀と戦い。
 イリヤが全てを救うと決意した経緯のその全てをグレンファルトは知り、理解した。
 その上で彼が抱いた感想は実に率直。
 絶対神らしからず思わず口から零したそれが全てだった。

「…やはり、世界というものは脆すぎる」


88 : イリヤスフィール&セイバー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/29(水) 23:23:24 7dxKkBA.0
「え?」
「おっと…すまない、声に出てしまっていたか。
 だが君もそう思わないか? 我がマスター、イリヤスフィールよ」

 それは疑いのない彼の本心。
 傲岸不遜にも神を名乗る男の心情だ。

「たかだか寿命、たかだか限界。
 その程度の事で責務を放棄してしまう世界などに何の価値がある。
 不甲斐ない。実に無責任だ。世界さえ…宇宙さえまともであったなら君のような子女が身を粉にする必要もなかっただろうに」
「え…っと。セイバーさん……?」
「森羅(セカイ)には進化が必要だ。
 人の可能性に、時の流れに…時代の変遷に。
 耐えられない宇宙など不要だろう。いずれは誰かが責を果たさねばならない。
 さもなくば君の見たような、不当に燃え尽きる宇宙が量産される結果ばかりが積み重なっていくに違いない。
 問おう我がマスター。君は……それを善しとできるか?」

 立て板に水を流したように淀みなく語るグレンファルト。
 そんな彼に困惑しながらも、イリヤは考える。
 考えるが――やはりと言うべきか。
 答えは出ない。
 眉根を寄せて考えに耽る姿勢は良いが、この命題は今の彼女へ投げかけるには少々大きすぎた。
 それに。
 イリヤが答えを出せずとも…彼女の逡巡する姿勢から読み取れたものはあったようで。

「すまない。少々ヒートアップしてしまったようだ」
「い、いえいえ! わたしの方こそその、ごめんなさい。
 わたしなりに考えてみたつもりなんですけど…難しくて」
「考えを巡らせてくれただけでも嬉しいさ。
 こう見えても見た目以上に年寄りでな。気を抜くとついつい喋り過ぎてしまう」

 肩を竦めるグレンファルトの姿にイリヤも多少気が抜けたらしい。
 あははと苦笑する少女の姿は、話好きな老人に付き合ってやる年相応の小学生そのものに見えた。
 イリヤがそうしている間も金色の瞳は少女の小さな体をじっと見据えている。
 そして満を持して放たれた言葉は、彼女の心の内を正確無比に言い当てていた。

「時にだマスター。思うに君は…聖杯を手に入れようとは考えていないんじゃないか?」
「…え」

 イリヤは驚いたような顔をした。
 どうして分かったんですか。
 そんな言葉がその表情から伝わってくるようだ。
 グレンファルトは苦笑し、彼女の続く言葉を待たずに重ねた。

「滅び逝く世界を救いたいと願うような奇特な人間が"それしか手段がない"からといって素直に志を曲げるとは思えない。
 何しろ今回の聖杯戦争では、敗北はそれ即ち元の世界に帰る手段の喪失…この世界との心中を意味する。
 世界を救うなどと覇を吐く理想家が素直に享受するには、あまりに悲惨すぎる運命だろう」
「…あはは。セイバーさんには敵わないなぁ……」


89 : イリヤスフィール&セイバー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/29(水) 23:24:15 7dxKkBA.0
「マスター。君の優しさは素晴らしいものだ。
 誰がどう誹り嗤ったとしても、俺はいつだとて君の志は正しいものだと称賛し肯定しよう。
 だが」

 そう、彼の言う通りだ。
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは聖杯を望んでいない。
 聖杯を手に入れれば確かにあの"滅び逝く世界"を救うことは可能だろう。
 だが少女は、その大願成就までの過程で発生する数多の犠牲を認められない。
 だからイリヤは聖杯の獲得ではなくそれ以外のアプローチでの生還を目論んでいた。
 …それを最初にグレンファルトへ伝えられなかったのは。
 彼女もまた、サーヴァントが聖杯戦争の場へ召喚されることの意味を理解しているからに他ならなかった。
 サーヴァントは聖杯に託す願いを抱いて現界する。
 それは生前の未練であり。
 受肉して再度人生を楽しみたいという欲望であり。
 そうした打算ありきで現界したサーヴァントに対して無遠慮に自分の夢見がちな理想を伝えればどうなるか。
 その想像が付かない程イリヤは馬鹿ではなかった。

「――警告しよう。その先は地獄だぞ」

 グレンファルトも当然己が主の葛藤は想像できた。
 されど千年を生きた神祖である彼は容易くその本心を見抜き言い当ててしまう。
 更にその上で投げかけた。
 おまえが目指そうとする道は、艱難辛苦に溢れた文字通りの地獄道であると。

「誰も彼もを救うなど夢物語だ。
 誰もがそれを目指しそして敗れ去っていく。
 現実と折り合いを付けていく、それが普通だ。何故か分かるか?」
「……」
「辛いし、苦しいからさ。
 自分の選んだ道にそぐわなかった結果生まれた犠牲を"仕方なかった"と目を瞑って進む方が圧倒的に楽なのだよ。
 誰も彼もが話せば分かってくれる善人ならばまた話も違うだろうが現実はそうではない。
 他人の不幸を第一とする人間や、自らの獣性の全肯定を臆面もなく願える人間。
 そんな連中を相手に何を説いた所で結局は馬の耳に念仏だ。どれだけの想いを載せて訴えたとて、最終的にはほぼほぼ意味を成さない。
 そんな徒労を経るくらいならば最初から一定数の犠牲を良しとし、自分の理想にそぐうお題目を用意して護身し進んだ方が話は遥かに早い」

 …先刻グレンファルトは自らを老人と自虐したが。
 それは自虐ではあっても大袈裟ではなかった。
 彼は自らを総代騎士と名乗ったが、その称号は表の顔に過ぎない。
 彼は英霊になる前に既に人間を超克した存在。
 人の肉体と離別し、久遠の時を生きる超越者と化した生命。
 即ち――神祖(カミ)と。
 グレンファルトはそう呼ばれた存在であった。


90 : イリヤスフィール&セイバー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/29(水) 23:25:08 7dxKkBA.0

「それでも君は目を開けるのか? イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
 滅び逝く世界の手を握り続ける救いの御子よ」

 秩序とは我慢であり。
 近道とは妥協である。
 長生きをすればする程それが分かってくる。
 どんな御大層な理論の末に生み出される真理よりも明確にこの世の理を射止めた処世術だ。
 十年、二十年…あるいは百年青い理想を抱え続けることができても。
 次の百年、二百年。
 五百年は凌げない。
 千年と経つ頃には理想の若木はすっかり老木と化し、我慢と妥協の末に導き出される合理的なハッピーエンドをこそ是とするようになる。
 人間誰しも老いることには逆らえない。
 肉体のみでなく魂さえその例外ではなかった。

「わたしは…正直、セイバーさんの言うことは……わかりません!
 わたしまだ小学生だし、クラスカードとかそういう話が出てくるまでは本当に普通の子供でしたし。
 時間を重ねて大人になったらもしかしたら、セイバーさんの言う通りにしておけばよかった〜って……。
 そう思う日が来ないとはちょっと言い切れません。でも――」
「でも?」
「…未来のわたしがどう思うかはわかりませんけど。
 今のわたしは、そうしたいと思ってます。
 わたしはこの心に嘘をつきたくない」
「…茨道だと知ったその上で。それでも、進むと?」
「――はい。だからわたしに力を貸してください、セイバーさん」
 
 しかしイリヤはまだ若い。
 幼いと言ってもいいだろう。
 彼女の眼には光が灯っていた。
 全てを焼き尽くす光ではない。
 全てを照らし、人々の心の標となるような光。
 他人に勇気を与える有意義な足跡になり得る輝き。
 光の奴隷と呼ばれる人種とは明確に異なるヒカリだった。

「わたしには救いたい世界があって…助けたい友達が居るんです。
 けどだからってこの聖杯戦争を仕方のないことなんて諦めたくない。
 わたしの無茶を……わたしと一緒に叶えてほしい」
「覚悟は…あるのだな?」
「…あります。怖いし不安だし、上手くできるかなんてわからないけど、それでも――」

 自分の進む道が艱難辛苦に溢れた剣ヶ峰であることは百も承知。
 その上でイリヤは"それでも"と意思の光を輝かせた。
 
「わたしは戦います。バカで向こう見ずなわたしのわがままを通すために」

 見上げたものだとグレンファルトはそう思う。
 彼女こそは紛れもない正しき光を胸に歩める人間。
 その佇む姿一つで万人に勇気を与え心に巣食う闇を照らす太陽。
 挫けず諦めず前を向いて手を伸ばし続ける勇者(ブレイバー)。
 彼女ならば、あぁともすれば。
 世界の一つや二つは本当に救ってのけるかもしれない。
 千年を歩み人間という生き物の何たるかを知り尽くした神をしてそう思わせる暖かな光。
 それが虚飾や驕りに依るものでないのだと分かったならば…是非もなし。


91 : イリヤスフィール&セイバー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/29(水) 23:25:51 7dxKkBA.0

「だから力を貸して下さい、セイバーさん」
「…そうまで言われて断る訳には行くまいさ。
 それに土台、俺は君を勝利に導く為にこの現世へまろび出た禍魂だ。
 今の問答はひとえに老婆心の賜物だ。君のように眩く優しい心を持った人間が挫折し慟哭する光景を何度となく見てきたものでな。
 あまりに大人げない意地悪をしたという自覚はあるが、寛大な心で赦してくれると助かる」

 グレンファルトが彼女の申し出に返す言葉は一つだった。

「この剣、そしてこの魂。総てを君に相応しい…より良き世界の為に使うと誓おう。
 これより君へ降り注ぐ艱難辛苦のその総て、このグレンファルト・フォン・ヴェラチュールが打ち払う」

 此処に改めて主従関係は成立する。
 グレンファルトはイリヤの望みを叶える為に全身全霊を尽くすだろう。
 イリヤもそれを理解したのかほっと胸を撫で下ろす。
 彼女にも自覚はあった。
 自分の願いは、普通のサーヴァントには決して受け入れられないだろうと。
 聖杯戦争の勝利は目指さず、より多くの人を連れての平和的な生還を目指す。
 …だから協力しろなどと言おうものならまず間違いなく剣呑な目線が返ってくるに違いない。
 しかしグレンファルトはそうではなかった。
 
「この戦いの弥終まで。どうぞ末永くよろしく頼もう…我がマスター」 

 彼はイリヤの夢のような理想を受け入れてくれた。
 その上で君の味方をすると誓ってくれた。
 だからイリヤは微笑んで感謝を告げた。
 安堵と今後に向けて兜の緒を締め直す。
 理想を押し通す決意を新たにする。
 そこでふと、イリヤは思った。
 いつもは喧しく喋り倒す魔術礼装。
 マジカルルビーの声がしない。
 目を落とせばルビーの輝きは見慣れない翠色のそれに変わっており、イリヤが「ルビー?」と呼びかけても一つたりとて物を言うことはなかった。

“…どうしたんだろう。違う世界に来たから、少し不具合でも起きてるのかな……?”

 その疑問にイリヤが強く執着することもまたなかった。
 彼女は強く頼もしい相棒の協力を得られた達成感で胸を一杯にしている。
 彼に対する不信など一抹たりとてない。
 何故なら彼は、疑いの目を向ける相手としてはあまりにも…完成されすぎていたから。
 威風堂々と自分の前に立ち親愛の眼を向ける彼を疑うなど、イリヤには不可能だった。
 こうしてイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは最初で最後の岐路を間違え。
 過去千年山の様に居たあらゆる民草と同じように、神祖(かれ)の掌で踊る身へと落魄れたのであった。

    ◆ ◆ ◆


92 : イリヤスフィール&セイバー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/29(水) 23:26:19 7dxKkBA.0

「何たる僥倖、何たる運命だ。よもや再び神天地を目指し邁進できる機会が巡って来るとは」

 男の名前はグレンファルト。
 グレンファルト・フォン・ヴェラチュール。
 人間としての真名は…九条榛士。
 文明滅亡の引き金を引いた日本人の一人にして、最優なる神天地(アースガルド)への到達を掲げて歩む絶対神である。
 千年を歩んだ不死身の神祖にも年貢の納め時は訪れた。
 抱え温め続けた理想の成就を阻むように現れた邪竜の手で。
 否――もう一人の九条榛士の手で。
 勝利の対価に滅びを与えられ、神祖グレンファルトは神天地の成就を遂げる事なく安息の眠りに沈んだ。

「あの結末に悔いも怨みもありはしない。邪竜の応報を甘んじて受け止め、納得のままに眠るつもりだったが…」

 筈だった。
 だが現にグレンファルトは此処に居る。
 世界と友を天秤にかけた命題に、両方救ってみせると答えた幼い星光少女(カレイドライナー)の神剣として。
 邪竜と相対したその時と僅かたりとも変わらない威風堂々たる佇まいのまま古の故郷、東京の大地を踏んでいる。
 その意味する所を理解できるのは彼を滅ぼした邪竜かその運命か。
 もしくは彼と共に千年を共に歩んだ仲間の神祖三柱のみであろう。
 何故ならこの男は疑いの眼で見るにはあまりにも誠実すぎるから。
 語る言葉は頼もしく、見据える瞳に嘘はなく。
 肩を並べれば勇気が湧き、背を見つめれば心が安らぐ。
 現にイリヤも彼を疑う心など欠片たりとて持ってはいなかった。
 
「やはり俺も人間だな。手が届くと分かると途端にまた欲しくなる」

 しかしそれが一番の落とし穴。
 グレンファルトは聖なる騎士などではない。
 ましてや善良な神などでは断じてない。
 千年の時を経て育まれた機械の如き超越者。
 人の心などとうに失い、悲しい程破綻した万能を振り翳しながら突き進む者。
 彼の他の神祖達は人奏の手により救われた。
 安息の眠りに沈み、最早身の丈に余る野望を目指す事はない。
 が――その中で唯一このグレンファルトは違う。
 彼だけは神祖の中でも異端。
 手の付けようもない大馬鹿者の大神素戔王(ヴェラチュール)は死の一つ、納得の一つでは休まらない。
 死を越えたその先に次の機会なんてものがあるならば…是非もなし。

「感謝しよう、マスター。君の願いがあったからこそ俺はこうしてもう一度理想への歩みを始められた。
 君が私に全てを打ち明けてくれたからこそ…決意を新たにすることもできた。
 あぁそうだ。何を躊躇っていたのだ嘆かわしい――見目麗しい幕切れの一つ二つで欺かれるなよ大神素戔王。
 簡単に滅ぶ世界などそうなる可能性があるという時点で悪なのだ。イリヤスフィールは俺にそれを思い出させてくれたッ」


93 : イリヤスフィール&セイバー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/29(水) 23:27:06 7dxKkBA.0

 当然のように生前の結末と訣別する。
 得た筈の安息を蹴り捨てて歩みを再開する。
 英霊の座とこれ程までに相性の良い英霊は恐らく少ないだろう。
 斯くして大神素戔王は再び自分の理想を叶えるべく進軍を開始した。
 この世界には自分の思うままに動かせる聖教皇国も同胞達も存在しないが…だから何だという。
 
「イリヤスフィール。君の勇気と輝きに敬意を示し、俺も改めてこう宣言しよう――やはり必要なのは神天地だ」

 全ての人類が森羅の限界などという下らぬ事柄に縛られず思い思いに生き、そして救われる為に。
 神天地が必要だ。
 全ての人類の可能性と未来を受け入れ許容できる優しい宇宙が。
 邪竜が齎した滅びなど何のその。
 英霊の座を足場に、聖杯戦争を梯子にしてグレンファルトは再びその境地を目指す。
 世界を救うならばその手段は最も端的であるべきだから。
 最も端的に、簡潔に、完全無欠の宇宙を作り上げてみせると神は挑戦者の目に戻る。
 
「俺は君に必ずや勝利を届ける。そしてその暁には、君の世界をも俺が救ってみせよう。
 それこそが、俺の魂を再び常世へ呼び起こしてくれた君にできる唯一の返礼だ。
 生きろイリヤスフィール。君の輝きはあまりに尊く美しい。故に今、神祖グレンファルトの名の許に言祝ごう」
 
 翠光を放ち沈黙を保つマジカルルビー。
 彼女の無言が神祖の工作に依るものだとイリヤが気付く時は遥かに遠いだろう。
 グレンファルトは現界するなり即座に処置を施した。
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンという幼子に客観的視点を与える余地のある魔術礼装を翠星晶鋼(アキシオン)で上書きした。
 何のために? 決まっている。
 計画に不確定要素が入り込むことを避けるため。
 イリヤが神祖の掌を離れることを避けるため。
 グレンファルトはイリヤに悪感情を抱いていないし、彼女の生き様やその輝きは尊いものだと心の底からそう思っている。
 だが結局。
 それはそれ、これはこれ――なのだ。

「喜ぶがいい若人よ。君の願いは必ず叶う」

 彼は人を超越した現人神。
 あらゆる事態に慣れているからその心は何をしたとて揺るがない。
 良心の呵責も後顧の憂いも彼の中には微塵たりとて存在しない。
 だからこんなことも簡単にできる。
 自らが尊いと、守ってみせると誓った相手の信頼に背くような行為ですら…彼にとっては何ということもない。
 全ては目的を遂げるため。
 最後に勝って今度こそ笑顔でかの天地を迎え入れてやるために。
 神の指先が、聖杯を目指す。

【クラス】
セイバー

【真名】
グレンファルト・フォン・ヴェラチュール@シルヴァリオラグナロク

【ステータス】
筋力B 耐久EX 敏捷B 魔力A+ 幸運A 宝具A

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:B
大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせる。
幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。

【保有スキル】
神祖:A+
自立活動型極晃現象とでも言うべき超常生命。
自己の根幹を担う魂が三次元上に存在しない関係上、物理的な破壊で殺害することができない。
頭蓋や心臓の破壊のみならず、細胞ひとつ残さぬように消し飛ばしても数秒で結晶から復活を遂げてしまう完全無欠の不老不死。
一方で高次元との接続を断ち切る術や結晶化そのものを阻害する能力。聖杯戦争で言うならば"不死殺し"の類にも弱い。
極論。グレンファルトはマスターの存在すら本質的には必要としていない。

千年の智慧:A
千年を生き現人神として君臨し続けたことにより得た超越者の智慧。
英雄が独自に所有するものを除いたほぼ全てのスキルをB〜Aランクの習熟度で発揮可能。
精神性がヒトからかけ離れ過ぎてしまっている為、精神に干渉するスキルに対しても同ランクの耐性を持つ。

使徒洗礼:A
神祖としての力を分譲し、神の眷属を作り出す能力。
使徒となった人間は身体能力の向上と異能"星辰光(アステリズム)"の獲得、そして高度の不死性を獲得する。
主同様肉体が消し飛ぶほどの衝撃からでも数秒で再生。
神祖との接続を破断しなければ殺害不可能の魔人を作り出すことが可能。
しかし不死のランクでは太源たる神祖に劣るため、厳密には主のような"完全な不死身"ではない。
サーヴァントの身に堕ちている事もあり、現在のグレンファルトでは使徒にできるのは一人が限度。


94 : イリヤスフィール&セイバー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/29(水) 23:27:42 7dxKkBA.0

【宝具】
『戴冠王器・九天十種星神宝、人界統べるは大神素戔王(Heaven-Regalia Veratyr)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:500
星辰体結晶化能力・万能型。
翠星晶鋼(アキシオン)と呼ばれる物質化した星辰体を生み出しながらそれを基点にあらゆる破壊現象を顕現させる。
"何事もあればあるほどいい"を地で行くようにすべての性質が押し並べて突出しており、更に出力も高いことから弱点と呼べる点は一切ない。
万能型の名に恥じず応用性が非常に高く攻撃方法も実に多彩。
攻撃、防御、果てには回避や救援、自己強化まであらゆる全てが思いのまま。
グレンファルトが積んだ研鑽の全てを強さに直結させたような宝具であり、空前絶後の経験値を以って繰り出される神威の星に限りはない。

【人物背景】
革新と破壊に長けた絶対神──西暦に終止符を打った未曾有の人災、大破壊(カタストロフ)を生き延びた正真正銘の日本人。
人類種族の完全上位、あるいは成れの果てとでも呼ぶべき超越者。
刻まれた喪失を覚悟に変えて膨大な時を歩んできた。
果てなく成長を遂げ続けた結果として、グレンファルトの精神に人間らしい弱さや脆さは欠片も残っていない。

人知の及ばぬ在り方はまさしく人外──神の在り様である。

【願い】
聖杯の掌握と確保。
神天地(アースガルド)創造のための糧とする。
一度や二度の死と納得で俺の理想が折れるとでも?


【マスター】
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ

【願い】
元の世界への帰還。
美遊を助ける。

【能力】
カレイドの魔法少女。
キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが作り上げた第二魔法応用謹製による一級品の魔術礼装、カレイドステッキにより魔法少女(カレイドライナー)に転身することができる。
変身後は常時魔術障壁による防御や身体能力強化など様々な効果を受け続けることが可能。
更にイリヤは複数のサーヴァントカード…通称"クラスカード"を所持してもおり、これを用いて英霊の力を借り受けることも可能となっている。

【人物背景】
数奇な出会いと運命を経て日常から戦いの中に歩み出た少女。
終わり逝く世界を救う決意(ユメ)を胸に戦う。
そんな彼女が世界の行く末を憂いた絶対神を引き寄せたのは必然だった。

【方針】
誰かを殺すことはしたくない。
セイバーさんと一緒に戦って元の世界に帰り、美遊を必ず助けてみせる。


95 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/29(水) 23:27:59 7dxKkBA.0
投下終了です


96 : ◆ruUfluZk5M :2022/06/30(木) 01:20:56 ZBJogy6Q0
投下します。


97 : 重み無き理の刃 ◆ruUfluZk5M :2022/06/30(木) 01:23:48 ZBJogy6Q0
「聖杯戦争――なるほど実に愉快な催しだ。神たるこの私を参加者として巻き込む不遜な事実さえなければ……ですがね」
 ソードオブロゴスの長であった男、マスターロゴス。彼はこの戦いを面白がっている一方で、不快がってもいた。
 自分が主催として巻き起こすのならともかく、いち参加者として呼び込むという事実に。
 与えられた役割は無い。彼自身の我かあるいは能力が拒絶したから、とも言える。あるいはただの役割を持たぬ一般市民とも、浮浪者とも言えた。
 このように尊大かつ優雅に日常を過ごす浮浪者がいるとすればだが。
 彼の力をもってすれば、人を操ることも生活圏を構築することも容易い。少なくとも、マスターロゴスは好き勝手に居場所を変え気ままに動き回っていた。
 なにやら怪しげなものがあれば、斬るのみだった。

「滾っておるのう、マスター」
 ある時、そう言って唐突に。脈絡もなく出現したのは、彼にあてがわれたサーヴァントだ。

 ビキニの水着のような、露出度の高い服を纏った女性。胸は大きく、長い髪に長い睫毛、牙のように尖った歯。長く伸びた手足は、意のままに刃として万物を切り刻む。
 見目麗しき容姿をしているにも関わらず眼光鋭く舌なめずりする様は、煽情的と言うより「輩」じみたギラついた雰囲気があった。
 冬場だと言うのにその姿で寒がっている様子は、ない。
 マスターロゴスのサーヴァント、セイバー。

「ほう。貴方がこの聖杯戦争における私の配下……ということですか」
「うむ。ワシは刃竜のキリア」

 真名を端的に言ったセイバーは、何を思ったか初見で主たるマスターへとその腕を振るった。


98 : 重み無き理の刃 ◆ruUfluZk5M :2022/06/30(木) 01:26:53 ZBJogy6Q0
 常人どころか凡庸なサーヴァントならばそれだけで首を跳ねられるだろうその美しき手刀の刃を、あろうことかこのマスターもまたどこからか出した黄金の大剣で平然と受け止める。
 肉と大剣が出す音ではない。あるいはサーヴァントとただの物質が出す音でもない。同格の土俵にある、互いに互いを傷つけ、また耐え得る「剣と剣」がぶつかり合うような、キィンッと響く音がした。
 うっとりと、その音と感触によってキリアは恍惚に浸る。マスターロゴスは、己の現状を確かめるように剣を構える。
「この場で使えるのは持っているカラドボルグだけですか……他の聖剣は無し、と。ふん――まあいいでしょう。充分だ。私の剣と切り結ぶとは雑魚ではないようですね」
 マスターの見定めるような言葉に、サーヴァントはトリップした意識を戻すと、悪戯っぽく礼をした。

「お褒めに預かり光栄じゃの。だが――これならどうかの?」
 軽く斬撃の蹴りを放ちカラドボルグから離れると、キリアは手刀をマスターロゴスへと向け叩き込む。
 だが、その殺気が無い軽い一撃にマスターロゴスはむしろ拍子抜けする。なんのつもりかと思うが、何も起こっていない。
「どういうつもりですか、我がサーヴァントよ」
 キリアはここにきて驚愕を隠せず、初めて狼狽の表情を見せた。
「ワシの強さ切りが通じぬ――!?」
 元々本気で殺すと言うより悪ふざけと腕試しのつもりで斬りかかったのだが、一切の手応えが無い。相手の心の「強さ」を斬る強さ切り。それが全く効果を発揮していない。
 だが、それは当然の帰結だった。

 かつて、マスターロゴスたるイザクと戦った神山飛羽真いわく。
『お前の剣は軽い』『お前の剣からは何の想いも感じられない』

 物質的なものではなく人間的強さを斬って弱くしてしまう――その本質がある種の「催眠術」である強さ切りは、マスターロゴスには全く意味が無い物だった。
 マスターロゴスはエゴの塊だ。異常な剣技と恐ろしい戦闘力を持った怪物。
 しかし、人間的強さとは無縁の存在でもある。
「強さを斬る――ね。人の強さなど私は否定する。そのようなもの神である私には無意味!! 想いなどに縛られはしないのですよ!」
 マスターロゴスはそう、断言した。キリアはその傲慢な答えに一瞬ぽかん、として。
「はは……ははは! たまらんのう!! すさまじいのう!」
 ぞくぞくと興奮するように我が身を抱き始めた。大いなる剣の刃とのふれあいに。強さ斬りが通用せぬその歪さに。それでいて、争いを好むその人間性にも。

 元よりただちょっかいを出す程度の攻撃だったせいか、あっさりとキリアは矛を収めた。


99 : 重み無き理の刃 ◆ruUfluZk5M :2022/06/30(木) 01:29:59 ZBJogy6Q0
「それで? お主はどうするつもりかの、マスター」
「マスターですか……いえ、イザクで結構。私もセイバーなどとクラスで呼ぶのはややこしいので真名で呼びますよキリア」
「構わん、確かに面倒じゃからの。イザク」
 逆らう者に対して容赦のないマスターロゴス、イザクには珍しく刃を向けられてもなおキリアに対して終始寛容だった。
 これは本気でやり合わずまだ互いに余裕のやり取りだったのもあるが――マスターロゴスからしてもまた、彼女の刃になんの信念も感じられなかったのもある。
 何よりマスターロゴスはその事実に対し、新鮮な驚きに満ちていた。

 自分の周囲の「強者」には全くいなかったタイプの存在。メギドの幹部も、剣士も。マスターロゴスの周囲に居たのは信念や過去をバックボーンとして宿した存在ばかり。
 つまらぬ掟、信念、それらに未練がましく突き動かされた者ども。私に世界を守れとしつこく数百年も縛りつけてくるソードオブロゴスの連中。

 だが、このサーヴァントにはそういったものが無い。

 ただ暴力的に斬り合い暴れるだけのある種小物じみたところさえある存在。表裏無き矮小さと、残酷さ。底の浅さ。
 それが、イザクにとっては非常に心地よかった。共感ができた。

「どいつもこいつも貴方のように物分かりがいい存在ばかりなら助かるのですがね……」
「そうかの? いやあ照れるの」
 と言ってキリアは褒められて頬を染めていた。実に素直である。
 争いを勝ち抜き、逆らうものを叩きのめし、いたぶり、強者と争う。だが、どのような目論見に従うこともなく破壊する。概ねイザクとキリアはこの見解でそろった。
 キリアからしても特にマスターの大意には逆らわぬし、その範疇で好きに暴れさせてもらうと言ったことで決着はついた。
 始まりが剣のぶつけ合いであったにもかかわらず、2人のやり取りは実にわだかまりの無いコミカルで朗らかなものに終わったと言っていいだろう。

 ●

 そして、キリアは霊体化しながら遠巻きにイザクを見、先ほどのやり取りを想い返し、何度も浸る。
「ああ、本当にたまらんのう。危うく濡れるところじゃった」
 できれば一生共に刃を切り結んでいたいほどのうっとりとする剣捌き。永い間剣士として研がれた無秩序な暴力性と強さ切りすら無効にするデタラメさもむしろ好ましく。極上の獲物がマスターとして間近に居る。
 そして主従の繋がりとしてチラリと見えたイザクの過去は、実にキリアからすると甘美なものだった。

 剣士、剣士、剣士。見たこともない斬り合いたくなる刃の群れ。
 
 そしてあの世界にも竜が居たのだ。とびきりのドラゴンが。
 イザクを勝者にしてあの世界の全ての聖剣を与えれば、全知全能の書にてイザクは更なる存在へと進化するだろう。
 その中にはあの記憶で見たブレイブドラゴンやプリミティブドラゴンとやらの力も含まれるに違いない。つまりはドラゴンイーターである自分の獲物として成立する存在にもなるだろう。
 更なる超存在に進化し、竜の力を帯びたイザクと斬り合い、喰らう。そうすれば自分は限界を超えた高みへと到達できる。地上最強の滅竜魔導士に到達するのも夢ではない。

(問題は現状のイザクにも本気を出されたら勝てぬであろう上、全知全能の書などと言うどう見てもヤバい魔導アイテムを完全に掌握されたらなおさら勝ち目が消えることだが)

 まあそれで敵わぬのならそれもよい。元々彼は主従としてはとっつきやすい人間性をしている。非常に気が合うのだ。従僕として動くのもやぶさかではなく、快感でもあった。
 絶対的強者の庇護の下で暴虐を尽くすのもそれはそれで望むところである。
 この身はサーヴァントである以上、恐らく元の世界に戻っても生者としての本当の自分が居る。ならば、マスター側の世界の方に付き合って攻め入るのも悪くはない。

「元々小難しい策略なんぞワシには向いておらん。イザクにはワシの素敵な主として、精々強く暴れてもらうだけのことよ……」

 特にどう転んでもキリアからすると損はないのであった。
 彼女が振るう刃には、マスターと同じく事情も重みも無いのだから。


100 : 重み無き理の刃 ◆ruUfluZk5M :2022/06/30(木) 01:32:22 ZBJogy6Q0
【クラス】
 セイバー
【真名】
 キリア@FAIRY TAIL 100 YEARS QUEST
【パラメータ】
筋力B 耐久A++ 敏捷B 魔力A 幸運B 宝具A
【クラス別スキル】
対魔力:A
 Aランク以下の魔術をキャンセル。セイバーの場合は純粋なものでなく「魔力を喰らう存在」としての要素が混ざっているためそれを加味してAとなる。
【保有スキル】
 滅竜:A+
 竜の要素を持った存在に対して捕食能力と優位性を持つ滅竜魔導士の特性の一種。セイバーは竜を喰らっている特殊性のためA+となる。
 また、セイバーは刃竜の属性のため「刃」に対しても同様。
 強さ切り:C
 手刀で相手を切りつけ、人間性を斬って弱くしてしまう。
 ある種の視覚的錯覚を使った暗示の魔術の一種であり、種がバレると効果が落ちる、相手の精神性次第で無効化されるなどの複数制約を持つ。
【宝具】
『刃竜のキリア(ドラゴンスレイヤー・オブ・セイバー)』
 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
 自分自身の肉体を媒介とした常時発動している宝具。四肢や存在を刃のように扱い、斬撃を飛ばしあらゆる対象物を切断可能とする。
『滅竜奥義・刃竜剣舞』
ランク:B 種別:対竜宝具 レンジ:10 最大補足:50
腕から発せられる刃で周囲を切り刻む。竜の要素を持つ相手にさらなるダメージを追加。

【人物背景】
 ドラゴンを狩る滅竜魔導士のみが所属する魔導士ギルドのメンバーにして、竜を喰らい力を得たドラゴンイーターの一人。
 相手を切り刻み支配することを望むサディストだが、上の存在や仲間まで襲わぬ程度の分別や作戦に従う協調性は存在する。
 強者を精神的に斬っては調教し、飽きたら切り捨てるなど酷薄なところもあれば、強さ切りが通じぬ相手に惚れ込んだりして獲物として狙うなど好き勝手な存在。
【サーヴァントとしての願い】
 竜がいれば喰らい、刃があれば切り結ぶ。弱者が居れば蹂躙し、強者がいれば叩き斬る。

【マスター】
 マスターロゴス(イザク)
【マスターとしての願い】
 退屈な世界の破壊。逆らう者を叩きのめす。
【能力・技能】
 常人では持つこともかなわない重量の聖剣を片手で振り回し、圧倒的な剣技を誇る。
 また必要とあらば防衛組織などの運営能力や外面のいい言動を取り繕うことにも長じている。
 地球の裏側の結界を破壊する弓矢を創り出して射るなど術も得意。
 全知全能の書と呼ばれるある種のアカシックレコードの一部の力を宿しているため常人より遥かに長命。
【Weapon】
 カラドボルグ
 全知全能の書を用いてイザクが創り出した大いなる剣。世界を崩壊に導く力を秘めている。
 仮面ライダーソロモンとして変身後も扱い、連動して動く巨大剣を顕現させたり、多種多様な斬撃や能力を発動させることが可能。
 巨大剣は複数呼び出し巨人型の『キングオブソロモン』として遠隔使役もできる。

 オムニフォースワンダーライドブック
 聖剣と本の力を纏めて作りだされた「全知全能の書」の一部から作られた本型アイテム。
 イザクの持つこれは不完全であるが、それでも仮面ライダーソロモンへの変身やカラドボルグの生成などを可能とする。
【人物背景】
 本の魔人メギドから世界を裏で守護する剣士の団体、ソードオブロゴスの長。騎士団の長、マスターロゴスとしてそれまで何も問題なくソードオブロゴスを運営してきたが、しかし長命だからこそ使命に飽き、フラストレーションを溜め狂っていった。
 やがて全知全能の書を使い世界を刺激のある騒乱へ巻き込もうと画策。最高幹部の四賢神を殺害し反乱を起こす。
 しかしソードオブロゴスの構成員、仮面ライダーセイバーに敗北。戦闘不能に近くなっていたところをそのまま利用し合っていたメギドの一人、ストリウスに始末された。
【方針】
 戦いを煽り、介入し、不埒な神に逆らう輩を殲滅する。


101 : ◆ruUfluZk5M :2022/06/30(木) 01:32:53 ZBJogy6Q0
投下終了です。


102 : ◆ylcjBnZZno :2022/06/30(木) 02:25:29 llo1y90c0
投下します


103 : 佐藤&バーサーカー ◆ylcjBnZZno :2022/06/30(木) 02:26:22 llo1y90c0
「なるほど」

声が駐車場に反響する。
昼でも薄暗いその場所は夜間にあってはなお暗く、蛍光灯が明滅するたび、そこに立つ男の姿を隠してしまっていた。

「亜人の再生はサーヴァントの宝具にも有効。
ただ今回みたく、宝具を見れば一目で真名が分かるような相手ならともかく『知らないサーヴァントに殺されてみたら不死殺しの特性を持っていた』という事態は避けたいから、リセットはなるべく自分で行うようにしよう」

たった今、聖杯を争う別の主従を下したその男は喜色露わに笑う。
そんな男の言葉に応えるようにどこから声が響く。

「魔術師でもIBMを視認できなかった」
何もない、誰もいない空間に顔を向けて男は答える。
まるでそこに、見えない誰かがいるかのように。

「そうだね。
セイバーの彼には見えていたようだけど、逸話的に千里眼あたりのスキルを持っていた可能性があるし、そこらへんは要検証かな」
「俺の攻撃はサーヴァントに通用しなかった」
「まあ『黒い幽霊』なんてのは僕らがつけた呼び名でしかないし、神秘でも何でもない単なる物理攻撃だ。残念だが想定の範囲内さ」

『いるかのよう』ではない。
実際にそこにいるのだ。
『彼ら』にしか見えない、何かが。


104 : 佐藤&バーサーカー ◆ylcjBnZZno :2022/06/30(木) 02:26:58 llo1y90c0

「満足か?」
『何か』の問いに男がうなずく。
「まあね。
 それに魔術師という生物の生態とか魔術の威力とかマスターが死んでからサーヴァントが消えるまでの時間とかその他諸々。
 これだけの情報をシャツ1枚と銃弾4発を対価に得られたと思えば、まあまあお得な買い物だろう」

ニューナンブを弄びながら男は笑う。
いくつもの戦場を潜り抜け、いくつもの修羅場を乗り越え、そして自ら戦いを作り出しもしたこの男にとっても、聖杯戦争は未知の戦い。
攻略のためには情報を得ることは必要不可欠。
それを競合相手を蹴落としながら達成できたのだからいうことはない。

戦いの総括を終えたその男は腕時計をちらりと見る。
時計の針は22時58分を指していた。
(あと2分)

「行こうか」

ハンチング帽を被ったその男が立ち去って、その場には夥しい血痕と物言わぬ骸だけが残された。


◆◆◆


時計が23時を指す。

それと同時に――異界東京都内のどこかに聳える宮殿で。

狂王が吼えた。


◆◆◆


105 : 佐藤&バーサーカー ◆ylcjBnZZno :2022/06/30(木) 02:28:02 llo1y90c0


椎野大智は腕の中で眠る恋人の髪を撫でる。
「弘子」

名前を呼ぶと、閉じられていた恋人の瞼が開く。

「どうしたの?大智」
「呼びたくなっただけだよ」
「何それ」

口づけを交わし、愛を囁く。

蜜月。
それ以外に表現する言葉が存在しない、甘い甘いひと時。
椎野大智は、そして恋人である佐藤弘子もまた、それが恒久的に続くものと無条件に信じていた。

「……?」
「どうした?」

突如。
柔らかく微笑んでいた弘子が怪訝そうに眉をしかめる

「外で何か鳴ってない?」
「何かって?」
「こう…警報とかサイレンみたいな。結構遠いけど」

言われて大智も耳を澄ませると微かに、だが確かに低い音が聞こえる。

「避難訓練とか?」
弘子の予想を大智は一蹴する。

「あと一時間で日付変わるんだぞ? 時間的にあり得なくね?」
「じゃあ本物の火事とか? もしそうなら逃げないとかな?」
「バカ。メチャクチャ遠いじゃんか。気にするだけ無駄だよ」
「そうかなあ」
屋内にいるとはいえ耳を澄まさなければ聞こえないほど遠くで鳴っているサイレンに緊急性があるとは大智にはとても思えなかった。
尚も不安げな表情を浮かべる弘子にスマホの画面を見せつけてやる。

「ほら。何も警報とか出てないだろ」
「本当だ」

ここまでしてようやく安心したのか、弘子が大智の胸に顔を埋めてきた。
そして上目遣いで甘えたように――いや実際に甘えているのだろう――こちらを見上げる。

「もう一回?」
「うん」

求めに応じた大地の唇が弘子のそれに重なろうとした瞬間―――

ウィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!

甲高い音が耳に突き刺さり、二人の心臓が跳ね上がる。
今度は近かった。
「なんだっつーんだよ!」


106 : 佐藤&バーサーカー ◆ylcjBnZZno :2022/06/30(木) 02:29:02 llo1y90c0

声を荒げて体を起こす。
一度ならず二度までも、恋人との逢瀬を邪魔された怒りが腹の底から頭に昇る。
とはいえ冷静さまで失ったわけではなかった。何かが起きているならばすぐに対応しなければならない。そう考え、ベッドから立ち上がった大智は外を見ようとガラス張の壁に一歩踏み出した。
それとほぼ同時。
けたたましい音と共にガラスが割られ、何者かが部屋に侵入してきた。

それは異様な風体の、二人の男だった。
帽子を被り、迷彩服を着た体格のいい男達。
その表情は奇妙なゴーグルで隠され窺うことができない。

男達はうろたえる大智を無視し、真っすぐ歩いていく。
そして部屋の中央にあるベッドの傍で足を止め、横たわる弘子を羽交い締めにした。

「テメエら!」
驚愕と動揺で金縛りになっていた大智の身体が、今度は弾かれたように飛び出す。
不審者何するものぞ。危害を加えんとする輩から愛する女を守れなくて何が男か。
侵入者を排除せんと飛び出した大智だったが、乾いた音と共に腹が熱を帯び、その膝から力が抜けて崩れ落ちる。
遅れてやってきた激痛に耐えながら見上げると、男の手に握られた拳銃が煙を吐いているのが見えた。

「嫌だ! 嘘! 助けて! 大智!」
弘子の助けを求める悲鳴が耳に突き刺さる。
動かなければと思うが、混乱と激痛がそれを許してくれない。
動けなくなった大智を路傍の石のように無視し、男たちは弘子を引きずり部屋の外に出る。

佐藤弘子の声が遠のいて行くのを、命がこぼれる感覚と共に感じながら、椎野大智は死んだ。


◆◆◆

少し時間を遡り、時計が23時を指すのと同時。

異界東京都内において、
全ての“佐藤”抹殺を目的としたゲーム―――『リアル鬼ごっこ』の開始を告げるサイレンが鳴り響いた。


◆◆◆


107 : 佐藤&バーサーカー ◆ylcjBnZZno :2022/06/30(木) 02:29:56 llo1y90c0


「ふう」
やれやれ危なかった。そう独り言ちながら男は立ち上がった。
地面に落ちたハンチング帽を拾い上げて被り直し、地上を見下ろす。

「今のが魔力切れか。
いや、リセットが間に合ってよかった。亜人の体質に感謝だね」
そう言ってポケットから弾丸を取り出し、ニューナンブに装填しながら笑った。

男は不死の新生物「亜人」だ。死に至る傷を負うと即座に肉体が再生し、蘇生する。
その際、欠損部位があればその部位も再生し、フラットな状態に戻してしまう。
そして仮に栄養失調で死亡した場合、復活する際に不足していた栄養素を自ら生成しながら蘇生する。
男は「魔力」とやらも、この法則に則って回復するのではないかと考えていた。
そしてその推測は的を射ていた。

男の召喚したバーサーカーの宝具は決められた時間に自動的に発動する。
異界東京中に影響を及ぼすその宝具が行使されれば、魔力が枯渇し、大きなディスアドバンテージを負うことは目に見えていた。
そこで男は、魔力切れで昏倒する直前に自殺することで魔力を回復させることを思いつき、見事成功したのだ。

回復を目的とした自殺(リセット)。
男はそこにもう一つの狙いがあった。
それは『バーサーカーの宝具の発動時間中は、なるべく体調は万全にしておきたい』というもの。

バーサーカーの宝具―――『リアル鬼ごっこ(デストロイ・オール・サトウ)』は異界東京都内の全ての“佐藤”に対し、鬼ごっこを強制するもの。
捕まれば待っているのは絶対的な死だ。

そして男の名はサミュエル・T・オーウェン。
日本で活動する際に名乗っていた名は―――『佐藤』
バーサーカーの宝具の抹殺対象である可能性がある。

(もちろん、本名じゃないからセーフ……という可能性も十分ある。
 けれどそれじゃあつまらない。)

せっかく『佐藤』を名乗ったのに、祭りから爪弾きにされるのは、あまり気分のいいものじゃあない。

そんな佐藤の期待に応えるかのように甲高い音が響く。
音のした方向を振り返ると、奇妙なゴーグルを着けた迷彩服の男が、猛然とこちらに走り寄って来ていた。
『リアル鬼ごっこ』の、鬼だった。


「そうこなくっちゃ!」


呵々と笑う佐藤。
彼はこの新しいゲームを楽しむことに決めた。


108 : 佐藤&バーサーカー ◆ylcjBnZZno :2022/06/30(木) 02:30:32 llo1y90c0



【クラス】
バーサーカー

【真名】
王様@リアル鬼ごっこ

筋力E 耐久E 敏捷E 魔力D 幸運C 宝具C

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
狂化:C
言語能力、思考能力を有さず「サトウ」を名乗る者の鏖殺のみを行動原理とする。

陣地作成:B
サーヴァントとして召喚される際、生前住んでいた宮殿が一緒に召喚される。
内部に侵入する方法は鬼ごっこをクリアする以外になく、王様自身は宮殿から出ることはない。

【保有スキル】
恐怖政治:A
カリスマの派生スキル。
苛烈な粛清により兵の士気を無理矢理向上させる。

暗君:A
無能な君主という逸話から生まれたスキル。
国家運営を行う際、常識では考えられないほどに愚かな政治を行う。
集団を率いて戦う際、兵の士気が大きく下がる。

【宝具】
『リアル鬼ごっこ(デストロイ・オール・サトウ)』
ランク:C 種別:対国宝具 レンジ:3500 最大捕捉5013223
召喚されてから7日間、23時〜24時にかけて鬼ごっこを開催する。
鬼ごっこが開催されている時間中は異界東京都内に100万人の鬼が召喚され、捕獲対象を追いかける。
鬼が捕獲対象とするのは『サトウ』を名乗る全てのマスター、サーヴァント、NPCであり、捕まると王様の宮殿に連行され安楽死させられる。
7日間の鬼ごっこを生き延びると王様と面会することができる。

『鬼』
『鬼ごっこ』において『サトウ』を追う鬼。帽子と迷彩服を着用し、佐藤探知機ゴーグルを装着している。
『サトウ』の捜索及び捕獲を行う他、捕獲を妨害する者や徒歩以外の移動手段を用いている者を問答無用で殺害しようとする。
その正体は王国兵士を再現したものに過ぎず、身体能力は常人の域を出ない。倒せば消滅し、その日中は復活しないが翌日にはまた100万人の鬼が召喚される。

【weapon】
『鬼』

【人物背景】 
西暦3000年。絶対君主制の日本王国に於いて、「佐藤」姓はついに五百万人を突破した。
第百五十代目の国王として即位した王様は自分と同じ「佐藤」姓の者が多数存在することに怒りを覚え、彼らを効率的に抹殺すべく『リアル鬼ごっこ』の開催を宣言した。

【サーヴァントとしての願い】
自分以外の「佐藤」の抹殺



【マスター】
佐藤@亜人

【マスターとしての願い】
不明

【weapon】
なし

【能力・技能】
死なない新生物「亜人」であるため不死身。麻酔弾が命中した腕を即座に切り落としたり、ウッドチッパーを用いた「転送」を行うなどその特性を活かした戦い方をする。
元海兵隊。除隊後はマフィアとして働いた過去があり、近接格闘や銃器の扱いに長じている。
「黒い幽霊」ことIBMを出現させることができ、特に佐藤のIBMは自立行動が可能。本体である佐藤が意識を失っても高い戦闘能力と判断力を持って行動できる。

【参戦時期】
「棺桶」に収容された後

【人物背景】
亜人。テロリスト。
様々な手段で社会に隠れ潜む亜人を扇動してチームを作り、ゲーム感覚で人間社会の転覆を目論んだ。
精神に問題を抱えており、他者に対する共感力が決定的に欠けている。また、非常に飽きっぽい性格をしており、テロの最中に飽きて放り出すという行動を作中でも度々行っている。
最後は永井圭に仕掛けられた大博打に乗って水面に叩きつけられて気絶。「棺桶」に収容された。


109 : ◆ylcjBnZZno :2022/06/30(木) 02:30:52 llo1y90c0
投下終了です


110 : ◆zzpohGTsas :2022/06/30(木) 04:07:35 RVXqO2QU0
投下します


111 : 000 ◆zzpohGTsas :2022/06/30(木) 04:07:55 RVXqO2QU0








     テレビで見かける知識人気取りは毒を吐いて人気を取り、サブカル気取って陰謀論と終末思想ばかりだ

     周りを見渡す度に俺は血の涙を流す、俺が奴らをぶちのめして這い蹲らせたらこいつらは何を思うのだろうか

     この際だから言ってやる、俺は酷い地獄を歩いて来た。誰もついてこれない場所を独りでこれからも歩き続けてやると

     愚にも付かない事を喋る奴らを見ているとうんざりする。奴らの言っている事を理解出来た事は一度もない

     奴らの言う事成す事は何一つとして理解は出来ないが――多分全部ぶっ壊してやれば良いんだろう?

     この際だから言ってやる、俺は酷い地獄を歩いて来た。千年もの間、この怒りを飲み干し続けて来た

                                               ――サライヴァ、I Walk Alone







.


112 : 000 ◆zzpohGTsas :2022/06/30(木) 04:08:19 RVXqO2QU0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 畜生、畜生、畜生、畜生!!
都内は某所の路地を、必死になって走る女性の頭の中に、そのたった一つの言葉がリフレーンし続ける。
誰も姿もない、静かな路地だった。だがそれにしても、静か過ぎる。人の足音、車の駆動音、自転車の走る音。まるで音が、其処に存在しないのである。
過疎集落の畦道とは訳が違う。個々は世界有数のメガロポリス、天下の東京なのである。
如何に今の時間が深夜のそれであったとしても、人の目が届かない所自体が、絶無に近い程の大都市であるのに、女性が走るそのルート上には、人っ子一人の気配がないのである。
なくて、当たり前だった。彼らは今回の作戦に備え、入念な下準備をし、その準備の結果として、今の無人の状態がある。彼らは、大規模な人払いの術を展開していた。

 彼ら、とは言ったが、そのメンバーは今や彼女一人である。単純な話だ。彼女を除いて、全員が、恐るべき速度で殺され尽くしたからである。
手練の魔術師数人、ステータスの上で言えば平均値より上のサーヴァント数体。それが、ある男を迎え撃つ為に組まれたメンバーであった。
迎え撃つ、と言っても、その人物一人だけを狙い撃つ為に組まれた同盟ではない。彼らは各々、腹に一物隠した、油断のならない魔術師達であった。
それぞれが、何かに長じていて、しかもそれを駆使して敵に回られれば、苦戦は必至。いや、苦戦で済めば良い方で、共倒れにしかならない。そんな、曲者達なのだ。そんなメンバーが、4人。一時に、バッタリと出会ってしまったのが数日前の事であった。

 その時、大規模な戦いが勃発……と言う事には至らなかった。
幸運だったのは、彼ら全員が聖杯の獲得に意欲的な面々でありながら、高いリスクマネジメント能力を持っていた事である。
この場で戦う事は簡単だ。だが、その帰趨としての勝敗の行方と、この時負った傷で聖杯まで至れるのか、と言う点については彼らですら解らない。
だからこの場で、彼らは手を組む事にした。いやいや、今この場で我々のような熟達の徒が戦う事もなかろう。そうだ、これも何かの縁。手を結んで、聖杯戦争を乗り越えましょう。
そんな具合に、同盟が結ばれた訳であるが、勿論、こんなものは建前も建前。確かに、結託して聖杯戦争を楽に進めようと言う意思は本当の所であった。
だが本音は、戦いが進むにつれて自分以外の主従が疲弊して、傷ついて、最終的に同盟相手どうしで戦う事態になった時、自分の勝率が上がって欲しいと。そんな所なのである。
そんな事は同盟を結ぶ事を決めたマスター達は元より、彼らがそれぞれ従えるサーヴァントですら理解していた。
何れ彼らは、何処かのタイミング何処かの場所で、鎬を削り合い、骨肉の死闘を繰り広げる関係に変貌してしまう事だろう。
解っていても、同盟を結ぶメリットの方が勝った。一人一人が熟達の魔術師でかつ、従えるサーヴァントも、その来歴に偽りなし、とくれば、この強固な同盟を崩す事は先ず叶わないだろう。
そうして彼らは、多少のリスクを受け入れてでも、聖杯戦争を無傷でやり過ごせると言う計り知れないメリットを、取ったのである。

 ――その堅固な同盟は、結束から2日で完膚なきまでに崩壊した。
全ての発端は、腹に一物を隠した状態のまま、今後の展望を4人が話し合っていた時に、その中の1人が従えるアーチャーが、
明白な意思を以てこの場にやって来るサーヴァントとマスターの存在を、認識した事を告げた事に由来する。
確認したところ、やって来たのは、たったの一組である事を確認した時、4人の意思は、一つの意見の下に一致を見た。


113 : 000 ◆zzpohGTsas :2022/06/30(木) 04:08:39 RVXqO2QU0
 ――丁度良い、準備運動がてらに、蛮勇を誇るらしいその参加者に我らの力を誇示して見せますかな――

 そうして、4人の内、結界術の達者が即座に人払いを展開。
彼の使う人払いの術は、結界の枠を超え、一つの異界としてカウントされる程の完成度を誇り、ここ、と設定した範囲内を予め設定。
そうした後に術を発動すると、その基底となる現実とは異なる位相に、現実世界での情景と全く同じ風景の異空間を創造するのである。
家一軒、階段の段一段、窓ガラス一枠、全て寸分の狂いはなく、経年劣化による微細な傷すら完全に完コピするのである。
現実世界との違いを上げるとするならば、人が、その空間の中にはいない事。今この世界には、人の気配がないのは至極単純な理由で、本当に結界内には人が存在しないのである。
骨身に染みた、神秘を人に露出させてはならない、と言うその思想。戦う時は、誰も見ていない場所で戦う、と言う習性が筋繊維の1本、魂の内奥にまで刷り込まれているのだ。
この場所でなら、互いに本気も出せる。そう思い、4人は此方に向かってくる一組の主従に、一斉に向かって行ったのである。クラスは、セイバー。最優秀のクラスを引き当てて舞い上がっているであろう初心者に、格の違いと力の差を、死を以て教えてやろうと。そんな腹であった訳だ。

 ――対等に渡り合えていた時間は、最初の5秒だけだった。
音に限りなく近い速度で突貫して来たランサーは、セイバーが握っていた黄金色の剣身が美しいサーベル。
その一振りで、根野菜のように宝具ごと割断され即死した。その一振りの余波で、セイバーの周辺の家屋が纏めて七軒、切断されて崩れ落ちた。
三百m程セイバーから離れた所で矢を番えていたアーチャーが放った、光を纏った矢の雨霰。
セイバーがそれを睨んだ瞬間、弾数にして数百を超えるその弾幕は一つと残らず焼け落ち消え失せてしまっていた。如何なる力学、力場の類が作用したのかは誰も解らない。
確かなのは、セイバーの視界に収められていたそのアーチャーと、その隣で構えていたマスターが、燃える棒のような有様となって炎上していて、二秒立つ頃には灰の堆積になっていた事だけである。
翼の生えた白馬に跨り、背後から時速989㎞で空中から突貫して来たライダーは、空を裂いて現れた一筋の光条に貫かれ、着こんでいた全身鎧と白馬ごと、原子レベルに分解されて消え失せた。
同じような光の条糸を、セイバーは開いた掌から照射。余りにも一方的なワンサイドゲームを認識し、恐れ戦いていた同盟側のセイバーと、
余りの事態に現状を正しく認識していなかったそのマスターは、その光に貫かれ、苦悶一つ上げる事無く蒸発してしまった。

 これ以上、瞬殺、と言う言葉を使うに相応しい展開があろうか。
勝負にすら最早なっていない。ただの、虐殺。人間が、アリの巣を蹴散らし、踏み潰すのと何ら変わりはない。
これと同じ感覚で、神話や御伽噺、叙事詩の中で燦然と活躍した英雄の類を、セイバーは鎧袖一触して見せたのだ。
事態を認識し、自らが従えていたライダーが殺されたのを事実として受け入れたその時、彼女は一目散にその場から逃げ出した。

 ――そして話は、冒頭に移る。

 女は今、恥も外聞もなく必死にこの場から逃げおおせようとした。
ハイヒールのヒール部分を圧し折って多少走りやすくし、化粧が崩れ、流れる汗と涙でアイシャドーが溶けて流れて無惨な様子になっている事すら気付かず、走り続ける。
その必死さを形容する言葉は、無様、の一言で足りる。余裕綽々に屠り去れると思っていた相手に、逆に皆殺しにされ、しかも相手には傷一つ負わせられておらず。
これでは、2日前に話し合っていた、「これぞ無敵の同盟」、「何が来ても敵なしですな」、等と言った会話が、滑稽なだけではないか。張りぼてよりも、なお酷い。

 畜生と、罵りたくもなる。
時計塔を主席で卒業し、実家に戻ってからは魔術の面でも、魔術の研究の為に必要な表世界での経済活動の面でも、辣腕を振るい、天才と持て囃され、その称号を欲しいままにしていた自分が。
このまま、死ぬと言うのか? ふざけるな、断じて許されない。自分には夢がある、成すべき事がまだ残っている。

 まだ、生きて――――――――――――――――




 刹那、女の身体は走っている最中のポーズをそのままに停止、横に倒れだし、地面に身体がぶつかった瞬間粉々に身体が砕け散ったのだった。



.


114 : 000 ◆zzpohGTsas :2022/06/30(木) 04:08:55 RVXqO2QU0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ふむ」

 値踏みするような目で、その男は、その手に握った得物を見ていた。この武器を創造した男は、それを杖だと説明した。
だが、その外観を見て、これが杖であると判断する者は、恐らくいなかろう。驚く程厳めしく、鋭角的で、杖と言うよりは、戦国武将や猛将が握っているような、
十文字槍の一種であると説明された方が、まだ多くの者は納得するであろう。勢いよく振るえば、打擲の痛みよりも、肉が裂かれる痛みの方が強い事であろう。

 だがきっと、殆ど全ての者は、これを見て杖ではなかろうと判断するのと同じように。彼が握るそれが、桁外れて禍々しく、不吉で、凶悪な物だと認識する事であろう。
それは、杖のフォルムが、見る者の恐ろしさを喚起させるからだとか言うだけではない。
もっと、太極的な所だ。万物の根源が水であるとは古代ギリシャの哲学者であるタレスが説いたところであるが、では人間の根源とは、何か。
脳か、精神か。それとも動物としての本能か。スピリチュアル的な言葉になろうが、魂、というのも間違いではなかろう。
そう言ったモノ、全てに訴えかけてくる威力が、その杖には在った。振るわれれば、死ぬ。それを事実として、否応なしに受け止めさせてくる、圧倒的な何か。それをこの杖は、確かに宿していた。

 そして、その宿されている神威を、杖は、発揮していた。
『絶対否定の杖』と名付けられたその杖はまさしく、この場から脱兎の如くに逃走を図ろうとしていた女魔術師の人生を、死と言う形で以て否定して見せた。
杖から放たれた絶対零度の冷気は一瞬で彼女の身体を包み込み、身体の深奥まで完全に凍結させてしまったのである。走っている最中に突如として止まり、倒れて地面とぶつかった瞬間砕け散った。先程、彼女の身に起こった現象の正体は、そう言う事なのであった。

「素晴らしい。想像以上だ」

 杖を手にする男は、奇妙な出で立ちをしていた。
人目を引く風貌だった。悪い意味ではない。顔立ちは驚く程端正で、整っている。
磨かれた鋼を思わせるような銀色の髪に、ルビーのように真っ赤な双眸。その姿を見て、彼が日本人であると考える人間は一人もいるまい。
骨格までもが、日本人のそれとは思えない。西欧とか、この辺りの民族の骨格に近い。どちらにしても、美男子である。
海の向こうでも美形として通じる程の、優れた顔つきをしていながらしかし。その服装は、かなりエキセントリックだった。
何処で売っているのかなど想像も出来ない、デジタル数字がプリントされた半纏を羽織り、しかも修験道の行者が履いているような高下駄をしていて。
ではそれで、服装が法衣であるかと言うとそうではなく、一般的な洋物のシャツとズボンだ。チグハグにも、程があった。
要素だけを文字で表記すれば調和などある筈もなく、一つの皿の上に和洋中の料理を辛い物や甘いものの隔てなく滅茶苦茶に盛り合わせたような。そんなカオスさが服装から滲み出ていた。

「俺に働かせるだけ働かせておいて、貴様は逃げたネズミを漁るだけか。怠惰な屑め、ベリアルの奴の方が幾らか働く」

 半纏を着流す男に対し、剣呑な目線を送りながら、サーヴァントを瞬く間に鏖殺して見せたセイバーは言い放った。

 ――魔王。その男を一言で言い表すのに、これ以上と相応しい言葉はない。そうと確信させる程の、鬼気を男は放っていた。
その男は、山に例えられるような魁偉の持ち主な訳でもなければ、血を浴びた様に赤い皮膚を持っている訳でもなく、況してその頭に山羊の角でも生やしている訳でもなかった。
険の強そうなその顔立ちは誰がどう見ても絶世の美貌としか言いようのないそれで、高い鼻も切れ長の瞳も、女の胸の最奥を熱い恋の熱で焦がす魔力を宿していた。
露出された上半身の、何と均整と調和の取れた肉体美である事よ。古代ギリシャの彫像家は、アポロンのモデルにこの男を選ぶ事であろう。
その姿はまさに、神話や伝説が語り継ぐ所の、美の精髄を極むる男神そのものであるのに、何が、男が善性の存在であると言う理解を拒ませるのか。
見るが良い、その男の背中から展開される、6対12枚の漆黒の翼を。見るが良い、男周囲を取り囲む、見る者の魂ごと無明の淵へと引きずり込まんがばかりの、禍々しい漆黒のエネルギーを!!
これこそが、男が竪琴と平和を愛する男神でもなければ、神の意思を汲む輝ける大天使でない事の、何よりの証左。

 その真名をこそ、『ルシファー』とする、何よりの証拠ではあるまいか!!

「サボタージュを決め込んでいた訳ではない。仕事はしたつもりだ」

 言って、半纏の男は懐から何かを取り出し、地面に放った。
ゴトリ、と言う音を立てて、アスファルトの上に成人男性の物と思われる、開かれた右手が2つ転がった。どちらも、冷凍庫に入れたミカンかバナナのように、凍結しきっていた。


115 : 000 ◆zzpohGTsas :2022/06/30(木) 04:09:09 RVXqO2QU0
「今は消えているが、令呪の刻まれていた方の手だ。仕事をしていなかったと言う事の反論にはなろう?」

「賢しらな人間だ」

「光栄な評価だ。天賦でもなお足りぬ聡明さを持つお前に、賢しいなどと言われるとは」

 声の調子は冗談めかしているが、半ば、ルシファーのマスターは本心から今の言葉を口にしていた。
この半纏の男もまた、人類史上最高のレベルで近しい天才であるが、ルシファーの方は、頭一つ二つ、どころか、同じ次元で比較する事自体が、既に間違いな程『達して』いた。
天才? まだ足りない? 天賦? まだまだだ。ルシファーは、生まれながらにして神域の知識の持ち主だった。単純な知識量に於いても、その応用についても。そんな人物から、賢しいと言う評価を引きずりだすのは、骨が折れるどころの話ではない。通常であれば、不可能な話なのである。

「どうだ? 聖杯戦争とやら、貴様は如何見る」

「解を出す前に、俺の質問に答えろ。今俺が殺した奴らは、強い方だったのか?」

「そうだな。上澄み、と言う認識で問題はない」

 ルシファーが殺した4騎のサーヴァント。
セイバー・アーチャー・ランサー・ライダーの面々は、真名も宝具も知れぬままに瞬殺したが、ステータスと言う観点だけで言うならば、間違いなく、
アッパークラスの面々であった。傍目から見れば、弱く見えるだけなのだ。ルシファーが、強すぎる。その事実の故に引き起こされた、錯覚なのだ。

「だとするのならば、実に下らんな」

 だが、弱く見えただけで実際は強いんだ、だとか、速く殺されたのだが運が悪かっただけだとか。
そんな慰めやフォローなど、敗北の前には滓程の意味もない。現に、四体のサーヴァントは、花を手折るよりも容易に殺されたし、マスターの面々も、
一矢報いる事もなく全員無惨に殺された。ああ、確かに彼らは強かったのかも知れない。だが、例えそうだったとしても、ルシファーが彼ら4騎が集まったのよりも、遥か格上だった。この事実は、決して揺るがないのだ。

「ベルゼバブや特異点の小僧、預言者共が集まるのならいざ知らず……。この程度の、認識するのも億劫な小物共を倒して手に入れられる聖杯とやらに、とても世界を破壊するだけの力があるとは思えん。担がされた気分だ」

「お前が葬った奴が弱すぎるのではない、お前が強すぎるだけだ」

 世辞でも何でもなく、男が口にした言葉は事実であった。
ルシファーが、聖杯戦争を勝ち残った末に得られるトロフィーであるところの、聖杯と言う物質に疑問符を浮かばせるのも無理からぬ事。
彼からすれば、先程消し滅ぼした4体のサーヴァントは、宝具がどうだ、ステータスがどうだ、と言われても、知らんとしか言いようがない程、強さの差がない。雑魚と言う事だ。
ルシファーの認知の遥か外の異世界の英雄が集まると言うからには、黒衣を纏った鋼の翼の男に、狡知を司る鬱陶しい蠅のような天司。
そして、ルシファーですら油断を許さぬ奇跡を引き起こす特異点。そして――傲岸不遜を絵に描いたようなこのルシファーが、唯一、対等と認めるただ一人の天司長。
そう言った存在がやって来る事を、心のどこかでは期待していたのだ。実際は、どうだ? 強い、上澄みだ、と言われても、何処がだと問い返したくなるような雑魚だった。
興が醒める。前途も暗い。物見遊山でこんな催しに招かれたのではない。既存の世界と宇宙を破壊するに足る、強大な力。これを求めて、ルシファーはこの地を踏んでいるのであるから。

 屠った4体のサーヴァントの下に、そもそもやってきた理由は単純明快。サーヴァントとしての己の試運転であった。
サーヴァントとなった存在は、信仰や逸話などの補正によって生前よりも強力になる者と、その反対に、誇張された風評被害の影響或いはサーヴァント時の制限と言う理由で、
弱体化を被る者の二種類に分けられると言う。ルシファーの場合は後者の弱くなる方であり、それが、どの程度の物なのか彼は知りたかった。
だから彼と半纏の男は、丁度近くでサーヴァントの気配を感じ取った為、其処に足を運び――そうして、現在に至る。

 弱体化は間違いない。ルシファーの知る、星晶獣ルシフェルのフルスペック。それが、著しく制限されている。
されていてなお、この強さ。依然としてルシフェルは、最強のスペックを誇る存在として、この聖杯戦争の地でも燦然と輝いているのであった。この程度のサーヴァント、何するものぞ。


116 : 000 ◆zzpohGTsas :2022/06/30(木) 04:09:28 RVXqO2QU0
「人間。その聖杯とやら、確かな代物なのだろうな」

「サーヴァントとして召喚されているのなら、知識としてその確実性は理解しているだろう?」

「それが、実に不愉快だ。俺は、俺がその目で確かに見て、思考し、結論を下した物しか信じない。俺の脳に、そうであると勝手に決めつけた知識を刻み込んだ、その行為そのものが不快極まりない」

「ククク、思っていたよりも偏屈らしいな。まるで学者だよ」

「人間。その聖杯とやらは、願いを叶えると言う事実に疑いはないのだろうな?」

「俺自身も、聖杯に願いを叶える力があると言うのは初耳だよ。聖杯伝説の元となった事物である所の、ダグザの窯については、成程そう言う効果はあったらしいがな。何れにせよ、俺自身も願いを叶える機能については懐疑的だよ」

 「――だが」

「神を殺すだけの力については、期待しても良いかも知れんな」

「……ほう」

 ルシファーの、憂いを秘めたその眼に、興味の色が灯った。

「貴様の願った神殺し。それは、無軌道で自堕落、自分の境遇の悪しきを世界に転嫁する、破滅主義者の塵共のような願いとは違う。本心から、正当な理由を以て、希っている」

 目を細め、ルシファーは、試すような瞳で、問うた。

「神の破壊とは、世界の破壊と等号で結ばれる。それは、俺の願いであり、レゾンデートルでもある。俺と同じ地平を目指そうとした、その理由を聞かせて見ろ」

「意にそぐわなかったら?」

「貴様を殺す。ただでさえ、奴隷の名を与えられて不愉快なのだ。その上に、つまらぬ者に星晶獣のように使役されるなど我慢が出来ん。聖杯などなかろうが、俺には世界を破壊するプランなど幾らでも思い浮かぶ。俺の消滅と退場は、俺の野望の頓挫とイコールではない。数あるプランの一つが、消えるだけに過ぎない」

 成程、難物だ。半纏の男は不敵な笑みを浮かべる。
ルシファー、神に反旗を翻した至高の熾天使であり、今は地に在りて地獄の王者、魔界の帝王と同じ名を冠し、底知れぬ邪悪さを秘めたこの男が、元より簡単で与しやすい筈がない。
常人であれば、ルシファーの恐るべき邪気に触れ、話す事も出来なかろうが、男は、違う。知って居るからだ。この男と自分が、同じ願いを持った、夢を共有しあえる存在である事を。

「試される事が、俺は嫌いだ」

 滔々と、男は語り始めた。

「仲の良い弟がいてな。奴は羊の放牧が得意な羊飼いで、俺は畑を耕し小麦の収穫に勤しむただの農家だった」

 昔日に思いを馳せるような、遠い目をしながら、半纏の男は言葉を一旦切り、ルシファーを真正面から見据えた。

「つまらないと思うだろう」

「全くだ。面白みに欠ける」

「俺もそう思うよ。だが、それでも俺はその日々が続けば良いと思った。思い思いの女を娶り、それぞれの人生を歩み、年を取る。そんな人生で、俺は満足だった」

 半纏の男の瞳が、鋭くなる。殺意が、眼球の奥底で噴き上がった。

「……ある日神は俺達を試した。忠誠心と信仰を、唐突に試したくなったとでも言う風に。神は俺達兄弟に、供物として血を求めた。弟は飼っていた羊の一匹でも捧げれば良かったが、俺にはそれは出来なかった。それで、弟が神に選ばれ、天使にでもなって終わっていれば、良かった」

 「だが――」

「神は俺にも血を求めた、俺の血じゃない、誰かの血を。耕す者でしかなかった俺に、神の求める物など捧げられる筈などなかった。だから俺は、弟を殺した。人の世に於ける、最初の殺人者としての名を負うた!!」

「……それはまるで、アベルとカインの話だな」

「そうだ。俺は、遥か太古に生きていた者。系譜をどれだけ遡っても遡れ得ぬ、カインの罪と記憶を継承している。『直哉(ナオヤ)』としての個体名に社会的地位、そして精神など、欠片の意味もない。悔い改めろ、罪を悟れ。神は、転生した俺にそう言い聞かせるように、この世から既に消えた男の記憶を、俺の魂に転写している!!」

 憎いと思う理由など、幾らでも思い浮かぶ。
俺ではなく弟を選んだから? それもある。弟に対し嫉妬している? 間違いではないのかも知れない。
だがそれよりも、ナオヤの逆鱗に触れる事は――。


117 : 000 ◆zzpohGTsas :2022/06/30(木) 04:10:21 RVXqO2QU0
「俺は、弟を殺すように仕向けた神が、何よりも憎い。勝手に此方を試し、俺達が右往左往する様子を高みからほくそ笑んで見下しておいて、選んだ選択が気に食わぬと跳ね除ける。ふざけるな」

 弟を殺すように仕向けておきながら、お前は神の試練に膝を折った、悔悟せよ、許しを乞え。そうと告げる、天使が憎い。神が憎い。
戯言を言うな、人に望まぬ選択を強いておいて、それしか選べぬように誘導しておきながら。お前達は、それをほざくのか。
俺はアベルを殺したぞ。その時の感触は今も覚えている。ならば、殺されたアイツを己が御下にでも送っておけば良かっただろう。俺を地獄に堕として、離れ離れにしておけば良かっただろう。
それすらしないとは、如何なる了見だ。人類最初の人殺し、地獄に堕ちるに相応しかろう。そうしないのは、お前の慈悲と慈愛だとでも言うのか、下らぬオナニーだ。

「神がこの世に存在する限り、俺には、自由がない事を知った」

 解き放たれたいのなら、罪を自覚せよと。神は言っている。
笑止、である。許可のいる自由など自由ではない。リードに繋がれた犬は、自由ではないのだ。
首輪から解き放たれ、好きに野を馳せ思い思いの作物を耕せる。それこそが、自由。ナオヤが目指すべき目標なのだ。

「気まぐれに人を試し、気まぐれに破滅させ、その癖、不完全な世界しか創造出来ない。討ち滅ぼした方が、マシだろう」

「その過程で多くの人が死ぬが?」

「笑わせるなよ、セイバー。俺の知るルシファーと言う魔王はな、人の死になど心を痛めん。貴様も、そうなのだろう?」

 不敵な笑みを浮かべるナオヤ。今度は、彼が、試す番だった。

「貴様を初めて召喚した時から、確信したよ。お前も、『神を殺したいのだろう』」

「……」

 そうだ。ルシファー……神に反旗を翻した大天使の名前を冠しておいて。そして、これだけの邪悪のカリスマを放っておきながら。
平和主義者であり、神を敬愛し、世界の維持に努める、などと言うパーソナリティは断じてあり得ないとナオヤは踏んでいた。
ルシファーと言う名前からくるバイアスだとか、偏見だとかと言うものもあろうが、彼は殆ど確信を抱いていた。

 自分との縁で、真っ当なサーヴァントが呼ばれる筈がない。呼ばれるなら、どうしようもなく終わっているサーヴァントが来るものと強く思っていたからだ。
そして、その通りの存在がやって来た。我が身を顧みず、後先がどうなろうが知った事ではない。己の欲求とエゴイズムによって、世界を滅ぼそうとする純然たる悪。
黒き翼を携えた恐るべき魔王が、彼の下へと馳せ参じて来たのだ。

「数千年にも及ぶ転生と放浪の果て……俺は遂に、神を殺せる究極の機会を得た。貴様だよ、ルシファー」

 不遜にも、ルシファーの眉間に指をさしながら、ナオヤが言った。

「この符号に運命以上の意味を俺は見出している。神を屠る事を祈る俺の前に現れたのが、ルシファーなどと……。俺はこれを偶然だとは思わぬ。必然の邂逅であったとすら言える」

 口の端を釣り上げた、獰猛な笑みを浮かべ、ナオヤは言った。爛と、瞳の中で狂気が荒れ狂っていた。


118 : 000 ◆zzpohGTsas :2022/06/30(木) 04:10:39 RVXqO2QU0
「貴様が何を思って、世界を破滅させるのかはどうでも良い。ルシファー。貴様の頭に組み上げられているプラン、それに俺を組み込め。俺と共に、働け」

「……フッ、ククククク……」

 笑った。話の途中から顔を俯かせていたルシファーが、クツクツと、忍び笑いを上げながら。
ゆっくりと、顔を上げ始めた。剣呑な笑みだった。感情を大きく露わにしている訳ではない。どちらかと言えば、微笑みに近い。
だが、その笑みを向けられたものは、すぐさま悟るだろう。自分は、殺されると。命乞いなど聞き入れない、物で気を許そうとしても受け取らない。慈悲など勿論、ありはしない。
この笑みは気安さだとか赦しだとかから、遥かに遠い。殺す為の笑みだった、邪悪そのものの、笑みだった。

「俺の視座に立てる者など、ルシフェルの奴めしかいないと思っていたが……そこに近しい場所に立とうと言うものが、よりにもよってただの人間だとはな」

 それは、ルシファーにとっての心の底からの、驚きだった。
自分と同じ目線と視座の持ち主など、世界を滅ぼすと言う己が目的を完遂するその時まで、永久に現れぬものだと彼は本気で思っていた。
自らに献身的だったベリアルですら、ルシファーに付き従うのは、彼の目線と視座を併せ持っているからではなく、世界の破滅に注力するルシファーの姿に陶酔しているからだと、ルシファーは思っていた。

 してみると、このナオヤと言う男は、正真正銘、ルシファーが産まれてから初めて出会う、意気投合した人物だった。
媚を売って、ルシファーの意見に賛同しているのではない。今のこの、不出来で、神にとって都合の良い、失敗作の世界が心底気に入らないから。
神なき後の地平で、自由に生きて見たいから。そして、神が死んだ大地では、人は自由に生きられるのか。それが、知りたいから。
神域の叡智を我が物とする二人ですら、今だ知り得ぬ、神が去った後の大地での未来。男達は、それを求めていた。己が身を焼く程に、焦がれていた。

「良かろう、貴様は生かしておいてやる。俺の傍に立つ事も許す。そして、その命を俺の終末の礎石に使わせてもやろう。光栄に思え」

「馬鹿言え、知能を誇るなら俺を生かすプランにしろ」

「それは貴様の働き次第だ、小僧」

 そう言えば、このような軽口を叩いたのは、何時以来だろうかと、ルシファーは考える。
今は最早この世にいない、己と唯一対等であったルシフェルとの間ですら、斯様な言葉は交わさなかったと言うのに。遠い所に来たものだと、ルシファーは思った。
そんな様子を、地面に転がっている、ナオヤが殺した女魔術師の眼球が、恐れを込めた瞳で見ているのであった。





.
【クラス】

セイバー

【真名】

ルシファー@グランブルーファンタジー

【ステータス】

筋力A 耐久A+ 敏捷A+ 魔力A+ 幸運D 宝具EX

【属性】

混沌・善

【クラススキル】

対魔力:A+
A+以下の魔術は全てキャンセル。事実上、魔術ではセイバーに傷をつけられない。
これはセイバー自身が星の民と言う出自である事もそうだが、彼の肉体が、セイバーが嘗て想像した至高にして究極の天司長。
進化を司る星晶獣、ルシフェルの肉体である事の方が大きい。


119 : 000 ◆zzpohGTsas :2022/06/30(木) 04:10:51 RVXqO2QU0
【保有スキル】

破滅主義者:EX
今の世界の在り方を、宇宙の存在を認めぬ者。過ちに満ち、計算が狂い続け、存在自体を許容できない、不出来な世界。
セイバーにとっては世界がそう見えている。極めて強い精神耐性を保証するスキルで、事実上セイバーには、精神攻撃の類は一切通用しない。
またこのランクにもなると、精神の在り方が完全に極まった状態になっており、己の至上の目的である世界の崩壊に全ての意思を注力する事も可能となっている。極限域の、鋼鉄の意思スキルをも、兼ねている状態である。

星晶獣:EX
数千年の昔、彼方よりやって来た星の民と呼ばれる種族によって創造された、星の民に対しての奉仕種族。星晶獣であるかどうか。基本、作成時期が初期に遡れば遡る程高位の星晶獣である。
セイバーのランクEXとは特異性と唯一性、絶対性の全てを兼ね備えた、Aランクよりも上と言う意味でのEXに相当する
厳密にはセイバーは星晶獣と言う生き物ではなく、元が星の民であった人物と、最初の星晶獣にして全ての天司達の長、天司長ルシフェルの肉体が融合した姿なのである。
通常星晶獣は人智を超えた身体スペックや戦闘能力を発揮するのもそうだが、各々が司る権能のような物を振るう事が可能。
ルシフェルの揮えた力を当然セイバーも行使出来る。対城宝具規模の光線の射出や、次元間渡航や瞬間移動、傷を瞬時に癒す魔術から強化の術。
ルシフェルが元々司っていた権能は『進化』であり、文字通り彼は己の権能に従い、空の民の成長に貢献して来た。
セイバーはこの進化の権能を用いる事で、肉体の軛を越えた完全上位存在に変身する事も出来るが、サーヴァント化に際してこれは使用すると膨大な魔力が発生する奥の手と化している。
成り立ちからして星晶獣ではなく、星晶獣と言う生命体の生みの親である星の民と、最強の星晶獣のキメラであるセイバーは、正しく規格外の星晶獣のスキルランクを誇る。

天賦の叡智:A+
並ぶ者なき天性の叡智を示すスキル。肉体面での負荷(神性など)や英雄が独自に所有するものを除く多くのスキルを、A〜Bランクの習熟度で発揮可能。
セイバー即ちルシファーの絶対的な知性と、ルシフェルの肉体が持つ圧倒的なスペックが合わさる事で獲得されたスキル。
星晶獣と言う、権能の擬人・擬獣化の理論を確立させ、それ以外にも多くの理論を開発して来たセイバーは、このスキルを最大ランクで保有する。

終焉の担い手:B+
終わりを運ぶ者、破滅を呼ぶ者、結末を齎す者。その世界観、或いは神話体系に於いて、破壊や滅びや終局を担っているか。或いは、担ったか。
本来であれば神霊の振るう権能に相当するスキルであり、勿論の事、権能相応の力を発揮する事は、サーヴァントにまで零落した身では不可能である。
そのため、一挙手一投足に粛清防御を貫く貫通効果が付与され、相手を破壊する、抹殺すると言う行為の全てに有利な判定を得る程度の効果にこれは留まる。
ランクBは破壊神一歩手前のスキル。一つの世界観に於いて、不可逆の破壊を齎したか、或いは齎し得るだけの力があったか、と言うレベル。
概ね、神ならぬ身が獲得出来る最大のスキルランク。セイバーは厳密には神を殺したのではなく、その神の御使いを殺した事があると言うだけに過ぎず、この点でランクは落ちる。
但し、本人は神を殺すと言う目的に対し非常に強い執念を燃やしており、神性を保有しているサーヴァントの交戦時、全てのステータスに+が一つ追加され、彼らに対する攻撃に特攻がのるようになる。


120 : 000 ◆zzpohGTsas :2022/06/30(木) 04:11:07 RVXqO2QU0
【宝具】

『友よ、永久を生きよ。死が二人を分かつとも(プロヴィデンス・ルシフェル)』
ランク:EX 種別:対自宝具 レンジ:1 最大補足:1
セイバーの首から下、即ち、セイバーが嘗て創造した星晶獣にして、最高傑作。ルシフェルの肉体そのものが宝具となったもの
セイバーの、首の縫合部から下は己の肉体ではなく、ベリアルと呼ばれる星晶獣の計画によって融合するに至った、天司長ルシフェルの肉体であり、
正真正銘セイバーの肉体と言えるのは、ルシフェルの肉体より上の部分、つまりは、頭部だけと言う形になる。
ランクにしてA+相当の神性スキルを保有した肉体として機能する他、星晶獣スキル欄にて説明したような超常現象を引き起こす事も可能。
また、ルシフェルに備わる真の能力である進化の権能を行使する事で、セイバーは己の肉体を黒い炎に包まれたような人型へとアセンションする事が出来る。
本人はこの姿を、肉体の軛を捨てた更なる次元(HIGH LEVEL)の姿として認識している。この状態のセイバーは全てのステータスに+の補正が2つ追加された状態となり、
対魔力ランクもA++ランクにまで向上する、正真正銘の怪物に近いステータスを誇るようになる。

『黒き羽(ヘレル・ベン・サハル)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
生前セイバーが葬り、吸収した、暁の預言者であるルシオを屠り去り、そのコアを吸収する事で獲得した宝具。
背面から展開された十二枚の漆黒の翼の形態をとり、セイバーの意思によって、Aランク以下の対魔力を貫く状態異常やデバフ効果を付与する力場を展開させたり、
ただでさえ異常なセイバーのステータスを向上させたりも出来る、敵対した相手にとっては恐るべき宝具。勿論直接打擲する事によって物理攻撃に転用する事も可能。

『終末の神器(ダーク・ラプチャー)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
セイバーが創造し、振るう事が出来る武器群。この、終末の神器と呼ばれる武器の数々が宝具となったもの。
形態としては、火の属性を司る大鎌、水の属性を司る杖、風の属性を司る槍、土の属性を司る楽器、光の属性を司る大剣、闇の属性を司る大太刀の姿を取る。
これらの武器を、セイバーの周囲を取り囲む、暗黒物質・ダークネスマテリアルと呼ばれる物質から創造、戦闘に用いると言うのがセイバーの戦闘の基本骨子。
基本的に全ての武器をそつなく使えるが、最も適性があるのが剣であり、この故に、セイバー適性を満たしている。

これら一つ一つがAランク相当の宝具に換算される恐るべき武器であり、使い手の筋力と耐久をワンランクアップさせる効果を持つ。
当然の事、武器としての性能も宝具相当のものであり、一度振るえば、それぞれの属性に対応したあらゆる破壊現象を引き起こす事が可能。
また、それだけではなく、セイバーはダークネスマテリアルからペンデュラムと呼ばれる補助物質を創造する事が出来、これによって攻撃速度の加速や、
終末の神器の破壊力の強化、特定動作後に回復など、武器性能そのものを著しく向上させる事も可能となる。
また、この宝具は1種類につき複数個作ることも出来、余剰分は適当に射出させる事は勿論、任意の相手に貸し出させる事も当然出来る。

【weapon】

【人物背景】

天司達を筆頭とする星晶獣の生みの親にして『研究者』でもある星の民の一人。
何かに執着する、強烈な感情を抱く事がない星の民に在って、過剰なまでに知識に執着した異端児。
空の民の進化を促すことを目的とし、様々な目的を持つ天司たちを制作したが、その研究過程で神々の思惑に気づき、その予定調和を唾棄し、
全てを作り出した創造神の仕組んだホメオスタシスに反逆し超越することを目指すようになる。

【サーヴァントとしての願い】

終末の成就。そして、その後に、真の自由を得る。


121 : 000 ◆zzpohGTsas :2022/06/30(木) 04:11:24 RVXqO2QU0
.


【マスター】

ナオヤ@女神異聞録 デビルサバイバー

【マスターとしての願い】

神を殺し、真の自由を得る

【weapon】

【能力・技能】

カインとしての記憶と魂:
ナオヤは、旧約聖書に語られる所の、アベルとカインのカインの魂と記憶、知識を、転生しても引き継ぐ事の出来る人物である。
この転生は恩恵でも何でもなく、神話に於いてアベルを殺した咎を償う為の罰であり、自ら過去の行いを悔い改める為に神が用意した慈悲……で、あると言う。
勿論本人はそんな事を信じているつもりは毛頭なく、悪辣な嫌がらせとしか認識していない。

悪魔召喚プログラム:
COMP。折り畳みが可能な二画面式携帯ガジェットの形をとっており、ナオヤはこの端末に悪魔召喚プログラムと呼ばれるものを落としこんでいる。
本来悪魔召喚とは極めて高度な魔術的知識並びに、複雑な儀式手順、極めつけに本人の才能をも要求する、複雑と煩雑を極めた高等儀式であった。
ナオヤはこれらの面倒な儀式プロセスを、プログラム化させて肩代わりし、後は本人の才能と資質で悪魔を呼び出せると言う所まで簡略化させている。
人類がバベルの塔の逸話以前に用いていた統一言語をプログラムとして使用しており、これにより魔界に存在する悪魔召喚サーバーを通じ、悪魔が召喚可能になると言うのが、
この悪魔召喚プログラムの基本原理。但し、今回の聖杯戦争の舞台はナオヤが認識する魔界とは余りに遠い所であるらしく、悪魔召喚の機能は完全に死んでいる。
但し、統一言語を用いたプログラムによる、本人の才能向上システム、『ハーモナイザー』の機能は健在であり、これによりナオヤの身体能力は飛躍的に高まっており、
下手なサーヴァントとも戦闘が可能どころか圧倒する実力を保有するに至っている。本人にとっては、既に作り方を知っている代物であり、幾らでも量産が可能。勿論、本人にとっては益もクソもないので、作る事はしないが。

魔術:
カインとして転生を続け、記憶と知識を継承する事が出来るナオヤは、その過程で超高度な魔術の知識を保有するに至っている。
勿論直接的な戦闘で用いる事もするが、進化は上述のような、プログラム作成などのクリエイター面で発揮される事が多い。

【人物背景】

傍若無人な性格をした人物で、天才プログラマーとしての地位を欲しいがままにしている男。
その正体は、旧約聖書のカイン……の、魂と記憶と知識を保有する男であり、正しく言えばカインの転生体である。
アベルを殺した罪を自覚し、悔い改めるその日まで、世界の終わるその時まで転生を続ける男だが……?

本編開始前の時間軸から参戦。ロールは、異界東京都の筋で有名なフリーの天才プログラマーである

【方針】

神を殺す。


122 : 000 ◆zzpohGTsas :2022/06/30(木) 04:11:37 RVXqO2QU0
投下を終了します


123 : ◆Il3y9e1bmo :2022/06/30(木) 08:28:19 kNwHW2W20
投下します。


124 : 雛【ばろっと】 ◆Il3y9e1bmo :2022/06/30(木) 08:29:15 kNwHW2W20

ばーか(フーリッシュ)、クズ(トラッシュ)、灰(アッシュ)、金(キャッシュ)……。

私の頭の中を、昔どこかで聞いた歌が巡る。

腐った卵(ジョッシュ)、生理(フィッシュ)、めちゃくちゃ(ハッシュ)、ちくしょう(ガッシュ)……。

切れかけた蜘蛛の糸のように頼りない記憶を辿ると、モヤのかかったような思考の中で誰かの呼びかける声が聞こえた。

『決めるんだ、バロット。もう一度選べ。生きるのか、死ぬのか』

私は、彼の問いかけに応える。
もう二度と間違わないように。もう二度と手放さないように。

私は――

◆ ◆ ◆


125 : 雛【ばろっと】 ◆Il3y9e1bmo :2022/06/30(木) 08:29:39 kNwHW2W20

雑居ビルの、ある一室で少女は目を覚ました。
ふと見上げると、天井の照明が所在なさげに輝いている。もう夜更けのようだ。
随分懐かしい夢を見ていた、と少女は先程の光景を思い返す。
彼女の名前はルーン=バロット。およそ1ヶ月程前にこの街に招かれた、15歳の少女娼婦である。
バロットとは、卵の中にいるまだ産まれていない雛をそのまま煮殺して食べる料理の名前のことだ。
この街に来る前、自分という殻の中で閉じこもり続けていた彼女は、一匹のネズミに救われた。
ウフコック・ペンティーノ。「煮え切らない卵」の名を冠したこの喋るネズミは、殻の中のバロットに様々なことを教えた。
何気なく街をぶらつくことの楽しみ。規律を守ることの大切さ。力を持つ者の責任。――そして、恋も。
そう、バロットは彼を愛している。だから、一刻も早く元の場所へ戻らなくてはならない。
――あの欺瞞と混沌の渦巻くマルドゥック市へと。

「あれっ。マスター、起きたんだ。おはよー」

バロットが寝ぼけ眼に目をこすっていると、無邪気な声とともに、柱の陰から少年が姿を現した。
Tシャツを裸の上から羽織っただけの、バロットとそう変わらぬ年端もいかぬ少年は、嬉しそうな顔をしてこちらに手を振る。

「ごめんなさい。ずっと寝てたみたい」

バロットの喉元に付けられたチョーカーから、機械的な女性の音声が発せられた。
彼女は以前に車両火災で全身と喉を焼かれた過去から、声を発することができない。
だが、人命救助のために条件付きで科学技術の使用を許可する「マルドゥック・スクランブル-09法」は、彼女に金属繊維の人工皮膚を与えた。
これにより、バロットは常人を遥かに超える空間認識機能と、手を触れることなく電子機器の操作・干渉を行える『電子撹拌(スナーク)』能力を手に入れたのだ。
今回はチョーカータイプの電子発声器を操作し音声を発したが、全身が電子情報端末の彼女にとって、その気になれば街中のネットワークの掌握さえ造作もないことだ。


126 : 雛【ばろっと】 ◆Il3y9e1bmo :2022/06/30(木) 08:29:58 kNwHW2W20

「もう! ずっと起きないから、俺、お腹減っちゃったよ。今日はマスターが夕飯作る日だけど?」

少年はフライパン片手にバロットを詰る。
見ると、備え付けのキッチンの辺りには炭のように焦げた肉や卵の殻が散らばっていた。
どうやら彼なりに夕飯の調理をしようとしていたようだ。

「分かってるわ。今から作るけど、何がいい?」

バロットは微笑みながらベッドから身体を起こし、キッチンに立った。
スナークでガスコンロに点火し、焦げ付いていない方のフライパンを温める。

「うーんと、俺は『俺』の好きなものが好きなんだけど、今は目玉焼きの気分かな」

少年はバロットのサーヴァントだ。この異界東京都に喚ばれたばかりで、右も左も分からないバロットを陰に日向に色々と助けてくれた。
クラスは『暗殺者(アサシン)』。真名は『怪盗X(サイ)』。
怪盗Xとは妙な真名だが、ステータスにもそう記載されているため、とりあえずバロットは彼を「サイ」と呼んでいた。
彼は、実は彼女でもあり、そして彼でもあった。この怪盗Xは特異体質により、絶えず全身の細胞が常に変化し続けているため、性別・年齢、はたまた人間であるかどうかすら不定なのだ。
そして全身の細胞、というのは脳細胞も含まれるらしく、この1ヶ月間、バロットは主従関係の記憶を失った怪盗Xに何度か殺されかけていた。
だが、バロットはマスターとサーヴァントという関係抜きで、彼を放っておくことができなかった。
それは、本当の自分が分からなくなって子犬のように震える彼を見たからでも、かけがえのない記憶を失って月夜に涙する彼を知ったからでもなく、彼が自分に似ているからだ、とバロットは考えていた。
殻に閉じこもりすぎて自分(なかみ)が分からなくなった雛料理(バロット)と、自分(なかみ)が分からないから他人を壊してでも隅々まで知ろうとする怪盗(サイ)。
こじつけかもしれないが、不幸な生い立ちのせいで社会から爪弾きにされたという点で、自分と彼はなんとなく似ている、とバロットは思っていた。


127 : 雛【ばろっと】 ◆Il3y9e1bmo :2022/06/30(木) 08:30:19 kNwHW2W20

「ねえ。マスター、今日もクイズやろうよ」

そんなことを考えながらサニーサイドアップの目玉焼きを焼いていると、怪盗Xがいつものクイズ勝負を持ちかけてきた。
サーヴァントになる以前、彼の従者をしていた女性と好んで食事の前にやっていたらしい。
それは彼にとって儀式であり、きっと大切だったであろう『彼女』を忘れないため、変化を続ける自分の脳細胞に対する必死の抵抗なのだろう。
バロットは味見のために目玉焼きの白身をかじりながら、ゆっくりと頷いた。

「じゃあ問題! 2つの内、どちらかが魔界行きの門でどちらかが地上行きの門。
 それぞれの前に立つ門番はどちらかが嘘しか、どちらかが本当のことしか喋らない。
 たった1度だけ質問が許される場合、どちらの門番にどんな質問をしたら地上に帰れる?」

バロットは手を止めて沈思黙考する。

「うーんと、そのまま『あなたは地上行きの門番ですか?』って質問は……ダメか。
 地上行きの門番が嘘つきだったら『いいえ』って答えるし、正直者だったら『はい』って答えるから……」

「悩め悩め〜。ちなみにこの謎、俺のライバルは一瞬で解いちゃったからけど?」

この食事を作る前の僅かな時間に怪盗Xが提出する『謎』にバロットが悩んだり困ったりすると、彼は本当に嬉しそうな顔をする。
それは、待ち遠しいご飯にありつける喜びと、自分の作った中身(なぞ)が他人によって紐解かれる瞬間を目にする楽しさの、両方を味わえるからのようだ。
また怪盗Xが言うには、嘘か真か、生前の彼には魔界の謎を全て喰らいつくした魔人探偵なる永遠のライバルがいたらしい。
彼との戦いの記憶について嬉しそうに語る彼の姿を見るのも、この異界東京都でのバロットの数少ない楽しみの一つだ。

「あ、毎回言ってるけど、スナークでこっそり検索するとかは絶対ナシだからね」

考えすぎて頭がこんがらがりそうになるバロットに、怪盗Xが追い打ちをかけてくる。


128 : 雛【ばろっと】 ◆Il3y9e1bmo :2022/06/30(木) 08:30:47 kNwHW2W20

「う、うう……。ギブアップ……」

バロットはたまらず降参を申し出た。
すると、怪盗Xは自慢げに謎の答えを語ってくれる。これが食事前のいつものルーティンだ。
こんな平穏な時間を過ごしていると、マルドゥック市へ帰ることが怖くなっている自分がいることに気づく。

――でも、帰らなくちゃダメだ。

これまで幾度となく、バロットはそう己に言い聞かせてきた。
彼女が異界東京都に来てから約1ヶ月、ウフコックもドクター・イースターもきっと心配しているだろう。
もしかしたら自分のいない今、彼らの身に危険が降り掛かっているかもしれない。

だから、バロットは帰らなくてはならない。
何の確証も持てない賭けだけど、他の主従を全て倒しても突き進まなくてはならないのだ。
たとえその扉の先が、もう後には戻れない魔界行きへの道だとしても。

◆ ◆ ◆


129 : 雛【ばろっと】 ◆Il3y9e1bmo :2022/06/30(木) 08:31:14 kNwHW2W20

腐った卵(ジョッシュ)、壊す(クラッシュ)、皿(ディッシュ)……。

私の頭の中を、昔どこかで聞いた歌が巡る。

洗う(ウォッシュ)、磨く(ブラッシュ)、潰す(マッシュ)、おやおや(ゴーッシュ)……。

切れかけた蜘蛛の糸のように頼りない記憶を辿ると、モヤのかかったような思考の中で誰かの呼びかける声が聞こえた。

『決めるんだ、バロット。もう一度選べ。生きるのか、死ぬのか』

私は、彼の問いかけに応える。
もう二度と間違わないように。もう二度と手放さないように。

私は――


……光(フラッシュ)。


「――私は、生きたい」

力強くそう叫んで、私は殻を破った。


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130 : 雛【ばろっと】 ◆Il3y9e1bmo :2022/06/30(木) 08:31:41 kNwHW2W20

【クラス】
アサシン

【真名】
怪盗X@魔人探偵脳噛ネウロ

【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:E 幸運:D 宝具:C+

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば発見することは難しい。

【保有スキル】
変化:A
自身の細胞を操作し、子供から老婆、果ては犬にまで姿を変える。
変化の際、体積はある程度無視されるが、生物以上に複雑な存在に変身することはできない。

天性の肉体(偽):E
生まれながらにして生物として不完全な肉体を持つ、遺伝子操作により誕生した生物兵器としての器。
絶えず変化する脳細胞によって記憶が安定せず、定期的に過去の記憶を失う。
基本的にはマイナススキルとして働くが、確率で精神への状態異常を無効化する。

戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
ただし霊核が損傷した場合は耐えることができない。

【宝具】
『X(サイ)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
この宝具を発動することによって、通常状態では不可能な魔人やサーヴァントなどの特異な存在にも変身することが可能になる。
変身の具体的な手順としては、対象を観察することによって記憶を読み取り、記憶を再現してそのモノに成る、という流れ。
サーヴァントに変身した場合、宝具や逸話などの再現も可能になるが、変身の最低限の条件として対象の真名看破が必要になる。
あくまで「変身」部分のみが宝具に当たるため、観察を事前に済ませておけば、状況に応じての発動も可能。

【weapon】
素手。常人程度なら軽く叩き潰せる。

【人物背景】
世界的犯罪者。普段は白髪の幼い少年のような姿をしている。
『怪』物(monster)+強『盗』(robber)と、それに未知を表す『X』に不可視(invisible)を表す『I』を合わせた『怪物強盗X・I』を縮め、『怪盗X』と呼ばれている。
全身の細胞が常に変化し続けているため、その変化の方向を操作することで形式問わず様々な人物に成り代わることができる特異体質。
「作った奴の中身が全部詰まった」美術品を盗んだり、その過程で出会った人間を殺害後、箱に加工して観察して自分の正体(なかみ)を理解しようとしている。
生前は従者として「アイ」という名の女性がいた。彼女とは、日によって主人、子守り、友人、恋人、兄弟、姉妹、他人のいずれかの関係だったが、ある事件によって死別している。

【サーヴァントとしての願い】
もう一度、怪盗Xとしての自分(なかみ)を取り戻す。


【マスター】
ルーン=バロット@マルドゥック・スクランブル

【マスターとしての願い】
死にたくない。

【能力・技能】
『電子撹拌(スナーク)』
バロットがマルドゥック・スクランブル-09の適用によって獲得した能力。
全身に移植された金属繊維の人工皮膚により、手を触れることなく電子機器の操作・干渉や高度な空間スキャンが可能。
作中では、ハッキングだけに留まらず、車の運転や監視カメラに偽の映像を映す等の操作も自在に行っていた。

【人物背景】
15歳の少女娼婦。
3年前に父親に強姦され、それを知った兄が父を重障害者になるほどまでに痛めつけて一家離散。
少女情婦に身をやつしていたが、店の摘発を機にカジノ経営者のシェル・セプティノスの情婦になる。
その後、シェルの資金洗浄取引の一環として突然彼に車ごと焼き殺されかけて重傷を負ったところを救出され、一命を取り留める。
その際に、人命保護のために科学技術の使用を許可するマルドゥック・スクランブル-09によって、全身に電子干渉機能を持つ金属繊維で作られた人工皮膚を移植されている。
大火傷を負った際に声帯を喪い、肉声で喋ることができないが、近くにスピーカー機器があればスナークして発話することができるため、あまり不便は無い。
普段は能力を隠すためもあって、チョーカータイプの電子発声器を身に着けている。

【方針】
帰還を目指す。
とりあえずはスナークで他の主従の様子を探る。


131 : ◆Il3y9e1bmo :2022/06/30(木) 08:32:07 kNwHW2W20
投下を終了します。


132 : ◆ruUfluZk5M :2022/06/30(木) 15:27:59 ZBJogy6Q0
投下します。


133 : 請負人はなにを請け負ったのか ◆ruUfluZk5M :2022/06/30(木) 15:29:39 ZBJogy6Q0
 ワインレッドのスーツに、稲妻状の飾りが前髪についた、赤い髪。
 女――哀川潤が、走る。否、走らせる。
 走らせる。
 走らせる。
 走らせる。
 赤い車を走らせていた。ハイウェイを――疾走していた。

 やがて、哀川潤は車を止まらせ降りる。そこはどうってことのないありふれた住宅街だった。
 そこに至るまで、高速道路を飛んでから車を変形やらなんやらさせたかなり無茶な運転で強引に最短距離を駆け抜けてきたのだが。

「重加速発生の目撃情報はここ――だっけか?」
 蜘蛛のような頭部を持った人型の存在、胸元には012のナンバー。
 機械生命体、ロイミュードだ。

 怪物の存在を見ても、哀川潤は驚くでもなく。むしろ、目当ての存在が居たとばかりに近づき。
「うらぁっ!」
 無造作に潤は殴りつける。が、ロイミュード012が手をかざした瞬間。周囲のすべてはスローになった。
 しかし――それもわずかな時間だけ。
 哀川潤の拳は、止まらずロイミュード012の頭部を殴り抜けた。
「!!??」
 ダメージそのものより殴られた事実自体を意外に思ったのか、頭を抱えるロイミュードに、哀川潤はニンマリと笑う。
 ロイミュード012は混乱する。
 なぜ、スローにならないのか。いや、ならないにしてもなぜ人間の攻撃が効くのか。
 自分は「サーヴァント」なのに。

 理由はシンプルだった。哀川潤の腰についている、ミニカー。

 サーヴァントが使う道具は神秘を帯びる。大原則である。
 それは逆にサーヴァントを装備すれば哀川潤もまた、神秘を帯びるということに他ならない。
 普通ならばそれはただの言葉遊びだろう。
 だが、ここには「人に装備される小型サーヴァント」とでも言うべき存在が腰についていた。
 シフトカーと呼ばれる、アイテムだ。哀川潤のサーヴァントの一部であり、仲間でもある。宝具でもあり、ひとつひとつがある種のサーヴァントでもある。
 それを身に着けたものはロイミュードの周囲を停滞させる「重加速」をも無効にする。

 ならば、ただのサーヴァントにこの哀川潤の拳が通用しないわけもなし。


134 : 請負人はなにを請け負ったのか ◆ruUfluZk5M :2022/06/30(木) 15:32:07 ZBJogy6Q0
 そう――最後になぜ哀川潤がサーヴァントにダメージを与えられるか。そんなものは簡単である。
 彼女が出した拳は、人類最強のそれだからだ。

「ったく。ぷに子よりかってぇとかずりいだろ」
 そういいながら、哀川潤は特に応えた様子もない。
 鋼鉄よりも硬いものを殴ったのに、だ。それは彼女が――学習し、適応し、進化を続けている証拠だった。

 ●
 
 結局、あの後あたしはロイミュード殴り飛ばしてボディを壊すと、トライドロンに乗ってコアを轢殺した。そのまま、また高速道路を走らせている。
 今度はロイミュードを破壊しに駆けつけるためではなく、単に走らせたいからトライドロンを駆っていた。
 ドライブの連れも居ないわけではなく、助手席ではなくハンドルのすぐそばにあたしの相棒は居た。
 同心円の重なった、シンボリックにデフォルメされた表情が点灯する。遠くから通信しているのではなく、この風変りな飾りのような機械そのものがあたしのサーヴァント本体だった。
「しかし、えらく手際がよかったな……」
 あたしのサーヴァント、ライダー。この車に備え付けられたベルトに魂を移植したとかいうクリム・スタインベルトがちょっと引き気味に聞いてくる。
「轢くのも轢かれるのも慣れっこだからな」
「……深くは聞かないでおこう」
 話していると変なところが律儀なやつだが、そりゃたぶんこの男が異常に用心深いのもあるんだろう。
 サーヴァントとしての特性からか、あたしの出自もあってか精神やら記憶がある程度はつながってるってのに、いやつながってるからこそこいつは用心が過ぎる。

 機械生命体、ロイミュード。こいつの脅威として自立的に発動してしまっている宝具を、あたしたちは狩っている。どうにも勝手に暴走したという逸話からロイミュードたちはクリムが自害しようが勝手に動き続けるらしい。
 組んだ以上、自害させる気もねえけどな。
 とにもかくにもこの陣営のスタンスは、暴走した自分の宝具を自分たちで撲滅するという変な形だ。ま、あたしとしちゃあ対サーヴァントの経験値がガンガン積まれてる感じがして悪くはねえが。

「変則的な召喚であるためライダーではあるが、君では戦士ドライブになることはできない。なによりドライブとなるには「彼」でなくては……すまないな、マスター」
「潤でいいよ。こっちも名前で呼ぶしな、クリム。ただしあたしを名字で呼ぶなよ。あたしを名字で呼ぶのは敵だけだ」
「オーケー、潤。だが君に提示できる戦力はドライブシステムの全力とはいいがたい」
「いいや。変身よりあたしはこのトライドロンがちょうどいいさ。良いマシンだ。デザインも気に入った。変形できるのもシフトカーもおもしれぇ」

「面白い……ね。そう言ってくれるのはありがたいが、やはりロイミュードの技術を含め、必要とあらば封じることも視野に入れねばならないだろうな」
「は。理性的だな。自分が造ったものより世界を選ぶ……冷徹と言ってもいい」
 だが、実際は表でこいつの技術は暴れている。なら、むしろ封じるより矢面に立って戦い続ける方があたしとしちゃあ正解って気もするんだがな。
 ただ、一度は自身のあらゆる技術と自分自身を凍結し封印し地下へ降りたのは、クリム・スタインベルトなりの筋の通し方なのも事実だろう。
「冷徹、冷酷な判断とは認めよう。だが、私は常に人類を選ぶ。秘密主義の猜疑心が強い存在だ」


135 : 請負人はなにを請け負ったのか ◆ruUfluZk5M :2022/06/30(木) 15:33:47 ZBJogy6Q0
 こいつは理性的だ。あたしがあった科学者の中でもトップクラスに理性的かもしれない。強いて近い存在をあげるといえばヒューレット准教授だろうか。
 情が無いわけではないのだが、人類のために平然と見捨てる。心を持ったロボットを。心を持っていると明確にわかりきったロボットを。
 
 自分すら、切り捨てる存在の中に平然と含めている。
 寂しい癖に。人でなくなったから、人を守るために、人のために、人を捨てる。
 そいつはちょっと、寂しすぎるぜ、クリム。

「まあいいさ。ロイミュード全個体の撲滅。聖杯戦争の打倒。この哀川潤が請け負うぜ」
 そう言ってタンカを切る。しかし……だ。請け負ったばかりだが。引き受けたばかりだが、引っかかるところが実はひとつあった。
 このチームにはある重要な問題が立ちはだかっていた。
「だが、あたしにゃあひとつだけ納得できねえとこがある。こればっかりは納得できねえ」
 神妙になったあたしの声色に、クリムが思わず沈黙で返す。

「ライドブースターってあるだろ、トライドロンの横にくっついてVTOL機みてえに飛べるようになる小さい車」
「……ああ」

「かたっぽ赤くねえじゃん! なんであっちのマシンだけ青なんだよ、赤く塗れよ!」
「えー。気にするとこ、そこかね?」
 緊張の糸が切れたように投げやりな言葉を投げかけてくるが、あたしにとっちゃ重要だ。あれじゃあ赤の基調が台無しと言わざるを得ない。
「重要だろ!? せっかく全体的に赤くキマった車なのに台無しだっつーの。変形して黒になったりするのはまだいいけどよー。あれはねえよあれは……」
 つうかクリム自身だって赤ベースの色合いじゃん。合わせた方が良いに決まってんだろうになんであそこで青入れたんだか。

「とにかくだ、あんたの仕事はあたしが請け負ったわけで。お代はそうだな……このクルマくれ」
「なに?」
 突拍子もない提案にクリムが思わず聞き返してくる。

「カッコいいじゃん赤い車。ちょうど赤いヘリも欲しかったんだよな。あっちのライドブースターブルーってのも赤く塗らせてもらうからさ。一石二鳥の新車だ。いやいやいや、ぜってーおかしいって、全部かっちょいい赤なのにあれだけ青って」
 あたしはぐっとくる赤いヘリが中々見つからず困っていたのだ。その点、ブースタートライドロンならふさわしい。

「あの……ジュン? トライドロンは一応は私の技術の結晶でもあるからあまり野放しにしたくはないんだが……危ないというか」
「あぁ? 別にいいじゃん。よこせよ。人類最強の請負人が使ってる車ならこんなすげぇのもあり得るか、で終わるって」
「そんな適当な……」
「そんなに不安だったらアンタも見張りについてくりゃいい。良いナビになる」
「人をオマケのカーナビ扱いかね!?」
「いやーあたしって相棒になったやつ必ず死ぬってジンクスあるけどもう死んでるから大丈夫だよなー。死んで魂データ化しててついでにサーヴァントだもんなあ」
「いやいやいや初耳なんだがねぇ、その不吉なジンクス!!」


136 : 請負人はなにを請け負ったのか ◆ruUfluZk5M :2022/06/30(木) 15:36:27 ZBJogy6Q0
【クラス】
 ライダー
【真名】
 クリム・スタインベルト@仮面ライダードライブ
【パラメータ】
筋力E 耐久A+ 敏捷E 魔力E 幸運C 宝具A++
【クラス別スキル】
騎乗:C
ライダーの場合は自身の肉体の延長線上である宝具を操作するかなり限定的なもの。

【保有スキル】
 魂のデータ化:A
 人間の精神をデータと変換して無機物やネットワークに出し入れが可能となるライダーが確立した技術。
 ライダーの霊核は魂の物質化の反対とも言える彼の技術によりデータ化している。
 また、たとえ爆散しても空間に波長を残しているため、バックアップなどデータを復元する手段さえあればオリジナルを修復する形で復活が可能。

【宝具】
『三相の赤き疾走(トライドロン)』
 ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1-100 最大補足:108
 使い手の精神に呼応し、能力を発揮する。
 また荒れ地を走るタイプワイルド、アームで破壊するタイプテクニックへの三段変形能力を持ち、
 2機の飛行能力を持った「ライドブースター」と合体することやシフトカーのひとつ「シフトフルーツ」の装填によりそれぞれ飛行能力を持った形態へと変化する。
 なお、ライダー自身の力と合わせて変身する機能もあるのだがそれを使用可能な存在はただひとりのため、実質今回の聖杯戦争では使用不可能となっている。

『人を救うための小さき僕(シフトカー)』
 ランク:B+++
 21存在する意思を持ったミニカー型サーヴァントの一種。それぞれが固有の能力を持ち、トライドロンに装填されることで能力を発揮もする。
 また、シフトカーとシフトカーが触れた存在はグローバル・フリーズの重加速を無効化する。
 
『撲滅すべき108の罪(グローバル・フリーズ)』
 ランク:? 種別:対星宝具 レンジ:不明 最大補足:全人類
 ライダーが過ちとして否定すべき創造物、その被害が具現化した宝具。
 時間経過とともに「重加速」という鈍化現象を周辺にもたらす存在「ロイミュード」がランダムに具現化されていき、無差別での破壊活動を行っていく。
 呼ばれたロイミュードはサーヴァントの一種であり意志もなく進化もしない生前の破壊を再現するだけの駒だが、逆にそれだけで完結した事象でありライダーの魔力をまったく消費せず止められない。
 またライダーの召喚と共にこの宝具は自動発動し、またライダーが消えても解除もされない完全な自立暴走宝具。

 召喚が進むごとに重加速現象や破壊活動は重なり最終的には地球上の数分の1を鈍化させる効果となる。今現在は東京しか存在しないため、実質範囲は手早く世界すべてと等しくなる。
 これを止める方法はロイミュード108体を胸元にあるコアごと完全破壊することのみ。
 また「この世界で動けるものはライダーの技術を用いた存在のみである」という逸話からライダーとライダー自身の宝具を用いない限り重加速現象の鈍化に逆らうことはできない。

【人物背景】
 機械生命体「ロイミュード」の開発者。しかし暴走したロイミュードに殺された彼は、自身の魂を機械にダウンロードする技術によってベルトに精神を移し替える。
 そのまま暴走を始めたロイミュードたちを倒すために仮面ライダーのシステムを作成。
 紆余曲折あってロイミュードの完全打倒を目指す。
 変身者を見つけ協力により、諸悪の根源たるロイミュードに悪意を植え付けた存在を打倒。
 ロイミュード108体の完全撲滅を確認し、自身の技術は今の人間の手に余るとして仮面ライダーのシステム及び自分自身を地下に封印、凍結し眠ることを選んだ。

【サーヴァントとしての願い】
 ロイミュードの打倒。聖杯が危険物である場合の打倒。

【マスター】
 哀川潤@最強シリーズ
【マスターとしての願い】
 賞品にトライドロンが欲しい。
【能力・技能】
 得意なことは錠開け、声帯模写、読心術。
 優れた身体能力。心臓が止まっても蘇生する生命力。またどれほど傷ついても戦闘続行可能なしぶとさと勝利をもぎとる精神力を持つ。
【人物背景】
 因果崩壊のための存在として父親たちに意図的にデザインされて造られた人類最強の存在。父からは未完成とされたが反旗を翻し、戦争を引き起こし暴れた後に請負人となる。
 その後、ありとあらゆる伝説を作り上げつつも、世界の終焉を目指す父を打倒。
 請負人として生き続けるも能力が高すぎる、破壊や騒動を巻き起こすといった弊害からか「哀川潤に依頼をしない」協定が各組織で締結されてしまった。
【方針】
 請負人の仕事をまっとうする。


137 : ◆ruUfluZk5M :2022/06/30(木) 15:36:59 ZBJogy6Q0
投下終了です。


138 : ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/30(木) 19:36:39 guUS7afE0
投下します


139 : 室田つばめ&室田◼️◼️ ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/30(木) 19:37:47 guUS7afE0



薄暗い灰色の空が、深々と雪を生み出していた。
静かな朝だった。民家が立ち並ぶ住宅街の脇、点々と続く並木の間を静かに雪は舞い落ちて、積もっては地面を白く染め上げている。

彼女はそれを、横倒しの視界で見つめている。

音のない朝だった。街がにわかに動き出すには少し早い時間帯であり、必然として人の姿は一人として見えなかった。倒れ伏す彼女を除いては。
雪の降りしきる中、彼女は動きなく、うつ伏せに倒れていた。手足は投げ出され、手提げのバックは少し離れた場所に転がっている。雪の冷たさに触れて、手袋をしていない手のひらは寒さで赤くなっていた。
じわり、と鮮やかな赤色が、彼女を中心に広がっていた。
新雪の白さを侵すように、それはゆっくりと嵩を増し、徐々に赤色の領土を広げていった。同じく赤色をしたタイヤ痕が彼女の斃れた場所からいくらかの距離まで続いていたが、そちらは降り積もる雪の白さに覆い隠されて、徐々に徐々に見えなくなっていった。
音はなく、動きもなかった。彼女はただ、今や顔の半分も雪に埋もれるほどの長い時間、ただそこに横たわっていた。

その日、前日から続く雪で街は白かった。朝焼けを迎える直前の街に歩く人はいなかった。彼女はそんな中を帰路についた不運な人間で、やはり運がなかったことに、雪に慣れていないドライバーの運転ミスに巻き込まれてしまったのだ。tを超える鉄の塊は人体なんか軽く跳ね飛ばして、糸の切れた人形のように彼女は倒れて動かなくなった。突然のことに気が動転したドライバーは、救急車を呼ぶこともなくその場を走り去った。つまりはそういうことだった。
彼女は横倒しの視界で、街を見つめていた。痛みはなく、冷たさもなく、感覚のなくなった体と感慨のなくなった思考とで、茫洋と真っ白な世界を見つめていた。

そして、全てはとっくに手遅れだったのだと。
今更になって、室田つばめは思い出した。








140 : 室田つばめ&室田◼️◼️ ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/30(木) 19:38:41 guUS7afE0





目を開けてしばらくは視界がぼやけていた。天井や壁が白かった。私はベッドに寝かされていて、体に毛布がかけられていた。
傍らに男の人がいた。彼はよく見知った顔で、一番近くにいる人だった。彼は椅子に座り、少し首を傾けて瞼を閉じていた。少しの間、彼を見つめていた。目を開けること以外に、動くことも、声を出すこともできなかった。
やがて彼が目を覚まして、私のほうをまじまじと見た。勢いよく立ち上がり、叫び声をあげた。
"誰か来てください、つばめが意識を取り戻しました"、と。
そこからは何人もの人が部屋にやってきて、にわかに慌ただしい空気になった。私はお医者様と向かい合わせになり、いくつか質問を受けた。痛みや不快感の有無、何が起こったかの確認、混乱はしていないかどうか……
そうして少しの時間が経って、やがて初老のお医者様は言いにくそうに、けれど意を決して口を開いた。

「残念ですが、流産です」

その言葉に、正直驚きはなかった。"ああ、そっか"と、何処か他人事のような空疎な感覚が胸にあった。そんな私とは裏腹に、彼は、私の夫である室田昇一は、ショックを隠し切れない様子だった。いつもは温和で優しい彼の表情は悲痛に歪んでいて、自分の身に起きたことそれ自体より、彼にそんな顔をさせてしまったことが、なんだか申し訳なくて悲しい気持ちだった。
ひき逃げ。私を襲った不幸は、そんな一言で済むようなことだった。
派手に跳ね飛ばされた私は奇跡的に軽傷で済んで、しかしお腹の子は駄目でした、と。纏めれば本当にただそれだけのことで、それ以上でもそれ以下でもなかった。
お医者様の説明が終わった後で、昇兄ちゃんは色々と声をかけてくれた。慰めと励ましの言葉、なのだと思う。正直その時のことは覚えてないというか、彼の声は聞こえていたけど頭に入ってこなかったのだ。私はただぼんやりと、"そういうふうにこじつけたのかぁ"とか、そんなことを考えていた。

私が本当は死んでいて、この世界は偽物であることを、私は既に知っていた。

聖杯戦争という奴があって、私はそのマスターとして呼ばれた、らしい。記憶を取り戻すと同時に、そのことが知識となって頭に流れ込んでいた。サーヴァントというよく分からん連中を従えて、他の人間全員ぶっ殺せば何でも願いの叶う聖杯が手に入るのだと。
頭おかしいんじゃねえのか? と思った。
殺し合いに巻き込まれるのはこれで二度目だった。魔法少女育成計画のソーシャルゲームを通じて魔法少女とかいうものになって、ファンシーよろしく人助けするもんだと思ってたら魔法少女同士の殺し合いに巻き込まれた。
厳密には足の引っ張り合いというか同士討ちというか、まあそんなものだったけど。ともかく私室田つばめこと魔法少女トップスピードは、街を壊し人を殺すとある魔法少女を止めるために、相棒と一緒に戦った。何とか勝利したと思った矢先、後ろから胸をぶっ刺された。
衝撃が先に来て、痛みや苦しみを感じる暇もなかった。あーこりゃもう無理だなと悟って、次に浮かんだのは家で待ってる旦那の顔だった。
そうして室田つばめは死んで……そして気づいた時には、私は車に轢かれたことになっていた。

多分、つじつま合わせなんだろうな、と考える。
あの時、確かに自分は死んだ。そして当然、お腹の子も死んだ。
そんな時に聖杯とやらが私をこの東京に呼び込んで、でも聖杯がマスターとして欲しがったのは魔法少女である私だけで、お腹の子は別人カウントだったのだろう。
聖杯は私を生かして、お腹の子はいらなかった。
だからこの東京で"そういう状況"になるように、シチュエーションを設定した、のだと思う。


141 : 室田つばめ&室田◼️◼️ ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/30(木) 19:39:21 guUS7afE0

「ふざけんなよ」

自分の身の上を理解して、出てきたのはそんな一言だった。
面会時間が終わりたったひとり取り残された病室で、つばめは絞り出すような小さな声で呟いた。
怒りに震えるのではなく。
哀しみに打ちひしがれるでもなく。
ただひたすらに、何馬鹿なことしてんだよ、という呆れを含んだ憤りの声だった。

だってそうだろう。せっかく生き返らせるのなら、選ぶ人間を間違えているではないか。
死者蘇生の奇蹟があるなら、お腹の子を平和な世界に、私の旦那様のもとに送り届けてくれたっていいじゃないか。せめて死地に在るとしても私のお腹の中で生かしてくれてもいいではないか。
それがなんだ。狙いすましたかのようにお腹の子だけを殺して、願いを叶えたいなら殺せと……それはあんまりな話だろう。

何をどう足掻いても、お腹の子は死んでいる。
死んだ人間は生き返らない。それはどんな魔法を使っても覆せない絶対の理だった。
死を前に全てを諦めていた室田つばめは、希望を目の前で振り翳された挙句に二度も大切なものを奪われたのだ。

『───こんにちは、つばめ』

……視界の端で、嘲笑う誰かの声が聞こえた気がした。






142 : 室田つばめ&室田◼️◼️ ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/30(木) 19:40:00 guUS7afE0



N市で行われた魔法少女同士の殺し合いは、実際のところ本当に殺し合う必要はなかった。
人助けで生じた感謝の気持ちがマジカルキャンディーという形で表示され、その数によって脱落者が決まる仕組みであったから、他人を殺す以外でも生き残る道は存在したのだ。
けれど人助けはいつの間にか足の引っ張り合いになり、それはいつしか本気の殺し合いに姿を変えた。自分が脱落するより前に他の魔法少女を殺せば椅子取りゲームは終わりを迎える。それはあるいは、必然の流れだったのかもしれない。
そんな中でも、室田つばめことトップスピードは決して誰かを蹴落とす真似はしなかった。
彼女は最初から最後まで、徹頭徹尾人助けに徹した。
それは彼女の生来的な気質(あるいは彼女と結婚した幼馴染の根気強い寄り添いの結果か)もあったが、同時に言い訳が立つからだ。
キャンディーを集めるのは自分が生き残るためであって、能動的に他者を殺したわけではないのだ、と。
自分でも無理のある現実逃避の言い訳だということは分かっている。それでも、あのころのトップスピードは生き残るために必死だったし、シスターナナの唱える理想論に手を貸してやれるほど余裕はなかった。

聖杯戦争は違う。
これは文字通り、一切の言い訳が利かない殺し合いだった。
逃げ道はどこにもなかった。戦いを放棄しての帰還などできるはずもなく、生き残ることができるのは1人のみ。怯えて逃げまどっても、いつかは戦うべき時が来る。その時手を汚すか、あるいは逆に殺されるかは知らないけれど。
綺麗なままで願いを叶えるハッピーエンドは存在しないと、それだけは確実だった。

あるいは、そう。かつてシスターナナやスノーホワイトが唱えたように、みんなで手を取り合って元の世界へ帰る手段を探す、という選択肢もある。
元のトップスピードのままだったら、多分、喜んでその選択に縋っただろう。けれどそうはならなかった。お腹の子は死んでしまって、自分ひとりだけ帰ったところで一体何になるというのか。

この子だけは、どうしても助けたかった。
そのための手段が一つしかないことは、十分理解していた。

その道を選ぶしかないことは、もう分かり切っていることなのに。
それでも二の足を踏んで何も行動に移さなかったのは、事故直後で体が弱っていたとか、契約されたはずのサーヴァントが姿を見せなかったからとかもあるけど、でもそれ以上に記憶がそれを邪魔した。

室田つばめとしてではなく、魔法少女トップスピードとして空を駆けたあの日、あの時。
素直じゃない相棒と一緒に胸を張って人助けに駆け回ったあの日々は、決して嘘ではなかった。

室田つばめは、自分の子を助けたい。
トップスピードは、人道を踏み外すことができない。
どちらもが本心であり、どちらもが大切な想いであった。

ならばどうすべきなのだろう、私は。
戦うどころか、一歩を踏み出すことさえできない自分は、いったい。
何を選び、何を捨てるべきなのか。


143 : 室田つばめ&室田◼️◼️ ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/30(木) 19:40:30 guUS7afE0



『こんにちは、つばめ』

『あきらめるときだ』



───ああ。

───視界の端で道化師が踊っている。

努めて見ないようにしている。道化師は、やり場のない思いだけを胸に去来させる。何をどうしようが晴れない想い、二者択一で両取りなんてできない理想の残骸。
そうして、結局、つばめはこの日までを無為に過ごしてきた。
「1週間で退院できますよ」と告げられ、病室と中庭とを行き来するだけの日々を送っている。日中は昇兄ちゃんが欠かさず見舞いに来てくれて、彼の言葉に努めて笑顔を浮かべるようにして、後は無為に時間が流れるままに時を過ごす。
結局のところ、私は何者にもなれないのだろう。
我が子を助ける母親でも、誰かを助ける魔法少女でもない。中途半端な生き物。偽善者、臆病者。

「私は……」

人道を踏み躙り、倫理を嘲笑い、己が願いに身を窶すのか。

「俺は……」

自らの幸福を諦め、かつての理想がままに振る舞うのか。

答えは出なかった。怖かった、のだろう。戦うことも、殺すことも、殺されることも、選ぶことも。
何もかもが恐ろしかった。そして最も恐ろしいのは、何をどうしようが自分は元の自分ではいられない、ということだった。
子を選ぶか、理想を選ぶか。
どちらを選んでも、どちらかが失われる。
この期に及んで我が身可愛さか。つばめは、乾いた笑いを止められなかった。






144 : 室田つばめ&室田◼️◼️ ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/30(木) 19:41:15 guUS7afE0



決断の時は思いのほかすぐにやってきた。
夜。静まり返った暗闇の病院。眠ることができず、トイレに起きたふりをして意味もなく病院の廊下を歩いていたつばめは、ふと違和感を覚えた。
視界がぐにゃりと歪んだような、あるいはふらりと立ち眩みをしたかのような。
そんな奇妙な感覚を覚え、つばめはただの直観に従って暗闇の一角へ足を進めた。煩悶に揺れ続けた彼女は、判断力が鈍っていた。
結論から言って、それはサーヴァントの仕業であった。
非常灯の緑の光にわずかに照らされて、夜闇に浮かび上がるのは奇妙な風貌の人影だった。薄汚れたローブを身に纏い、表情は杳として伺い知れない。それは血に濡れた手で魔法陣を描き、何等かの魔術的儀式を今まさに行おうとしているのだった。

「なに、を……!」

しているのか、と問う暇もなかった。その影は目撃されたと悟るや否や、何事かを呟きながらその指先をつばめへと向けた。
つばめは知る由もなかったが、その影はキャスターのサーヴァントであり、彼は今まさにこの病院を対象とした魂喰いを行おうとしていたのだった。一定数の人間を常に確保できて、かつ傷病者という抵抗のできない人間が多数を占める病院は、人知れずその魂と魔力を貪るにはうってつけの餌場だったのだろう。簡易的な隠形の術式は一般人では感知することはできなかったが、つばめが持っていた魔法少女としての適性が故か、僅かな違和感を彼女に与える形で見破る結果となった。
それが幸運か不幸かは、恐らく後者の側に比重が傾くのであろう。
聞きなれぬ言語で放たれるは、純粋魔力を圧し固めての魔術弾であった。それは真っすぐにつばめへ殺到し、その身を穿たんと威力を発揮する。
躱せたのは、偶然以外の何物でもない。
足を滑らせ尻餅をついたつばめの頭上を、魔力弾が空気を裂いて通り抜けた。ダイナマイトでも爆破させたかのような発破音が背後から轟き、それがコンクリートの壁すら容易く破壊する攻撃であることを、つばめは悟った。

逃げなきゃ。頭ではそう分かっているのに、体が動いてくれなかった。
鉄火場に立ち会うのも殺意を向けられるのも初めてではないのに。死の危険と隣り合わせに勇敢に戦ったことさえ、あったはずなのに。
どうして。その答えは自分が一番よく分かっていた。
戦う理由すら定められない自分に。己が命の使い道さえ迷っている今の自分に、いったい何ができるというのか。


『あきらめるときだ、つばめ』


───死ぬのも、それはそれでいいかもしれない。
生きて帰りたい気持ちはあるけれど。昇兄ちゃんに会えなくなるのは悲しいけれど。
でも、そんな結末も……何かを選ぶことなく逝くのも、あるいは一つの良い終わりなのかもしれない。


「あなたは、どうするの?」


145 : 室田つばめ&室田◼️◼️ ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/30(木) 19:41:58 guUS7afE0


───そんなわけが、あるか。
何をしたり顔で諦めようとしている。選ばないことが綺麗な終わりなど、そんなことあるはずがないだろう。
生きる、生きるのだ。死以外のあらゆる苦痛を受け入れてでも、その終わりにだけは抗わなくてはならない。
己が願いのために、一つの命を殺すこと。
己が願いのために、生まれるべき命を見捨てること。
それがどうしようもなく罪深い、生きるに際してぶつかってしまう選択なのだとしても。


「あなたをみているよ」


───けれど。


「わたしにはもう、からだがないから。みることしかできないけれど」


───全てを諦めたあの時、自覚した喪失を、もう二度とは繰り返したくないから。


「わたしは、あなたを、みているよ」


───お前を、もう二度と取りこぼしはしないから。




「……決めたよ。いや、もうとっくに決めてた」

魔法少女トップスピードとしてではなく。
どこにでもいる普通の人間として、室田つばめは決意する。

「お前は、絶対に私が産んでやるから」

それは、我が子を慈しむ母親の笑み。


146 : 室田つばめ&室田◼️◼️ ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/30(木) 19:42:32 guUS7afE0




『ならば、〈うつくしいもの〉を見るがいい』

『きみのためのそれが、用意されている』




「───来いッ、アルターエゴォォォーーーーーーッ!!!」

絶叫と共に、浮かび上がるものがあった。
それは影。
それは鋼。
それは、彼女の叫びに答えるように。
音もなく浮かび上がる。絶叫し、喉よ張り裂けろと叫ぶ彼女の下腹部から、黒墨が滲み出るようにして湧き上がる漆黒の瘴気が如き影の形。

それは人のようにも見えた。
けれど、決して、人ではなかった。

つばめの背後より伸びる影。彼女と緒で繋がり、軋んだ金属音を奏でる鋼の影。それは、酷く歪んで。
腕の生えた揺りかごにも見える。骨盤と大腿骨のみ取り出した骨格に子宮を乗せたかのようなフォルムは、悪趣味な彫像にも思えて。

「私は、決めたぞ」

一つの命のために、多くの命を捨てよう。
我が子のために、信じた理想を捨てよう。
室田つばめであるために、魔法少女トップスピードを捨てよう。
ぶっきらぼうな相棒には、もう会うことはできないだろう。
その資格は、今まさに、室田つばめ自身が捨て去ったのだから。

「私は何も奪わせない。何も取りこぼしはしない」

そして、生まれることさえできなかった我が子に報いるのだ。

つばめの右手が動く。応じるように、鋼の影の右手が動いた。
巨大な刃。肘から手先にかけて大きな刃に変化した右手を、影は動かす。
───動く。そう、動くのだ。
───自在に。つばめの思った通りに。
重なる腕と同時に、同じものを見ている。サーヴァント、キャスター。魔の法を統べる殺戮の化身。
驚き惑う魔性の影を、つばめと鋼の影は見る。


147 : 室田つばめ&室田◼️◼️ ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/30(木) 19:43:18 guUS7afE0

「だから、ごめんな」

それは、何かを決めた笑みで。
そして、何かを諦めた笑みで。

「こんな私が、母親でさ」

振るわれる斬閃が、影の矮躯を引き裂いた。







きっと、この結果は必然だったのだろう。
誰かを助ける魔法少女の理想は、地獄では輝けない。
どれだけ人倫を唱えようとも、戦場はそれ以外のもので出来ている。

「私は、絶対に願いを叶える」

つばめは、背後に佇む言葉なき鋼の影に告げる。
想い、形にして。
決意、言葉にして。

「お前みたいなバケモンに縋ってでも、私は生きて帰る。助けなきゃいけない奴がいる。
 自分勝手でいい、そう詰られようが構わない。それでも、私は……」

こみ上げるものを抑え込むようにして、震える右手で顔を覆い、つばめは言葉を絞り出す。
溢れ出るのは涙か、それとも感情か。自分でさえ判別のつかぬそれは、きっと後戻りのできない道からもたらされた慚愧の念。

「私は、あの子を見捨てることだけは、できないんだ」

影は、やはり何を言うこともなく。
つばめも、それ以上を続けることはなく。
両者の心はすれ違うことさえない。

……視界の端に。
既に、道化師の姿はなかった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


148 : 室田つばめ&室田◼️◼️ ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/30(木) 19:43:52 guUS7afE0







     こうして目が覚めるや否や、彼らはあたかも不安から逃げ出すものの如く、忽ち起き上がった。

     そして、お互いの姿を見た時、初めて自分たちの目がいかに開け、また心がいかに昏くなっているかを、翻然として悟った。

     無垢は消え、正義、信頼、名誉といったものも失われ、あとに残されたのは罪に悩む無様な裸身のみであった。


                                              ───ジョン・ミルトン『失楽園』より。




【クラス】
No Date

【真名】
根源の現象数式@赫炎のインガノック

【ステータス】
筋力- 耐久- 敏捷- 魔力- 幸運- 宝具-

【属性】
No Date

【クラススキル】
この存在はクラスを持たない。

【保有スキル】
この存在はスキルを持たない。

【宝具】
『■■■■■■■■』
ランク:- 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
万象の根源。黄金なるもの。人々に美しいものをもたらすとされる〈力〉
聖杯戦争中にたった一度だけ、人の願いを成就させる。
この宝具は既に、後述の存在を疑似サーヴァントとして顕現させることで使用されている。

【人物背景】
人の想い。そして、願い。それは何よりも尊いのだと誰かが言った。
そして想いは根源を生んだ。視界の端で踊り続ける道化師を。
故に彼は囁くのだ。全ての人々の耳元で、あらゆる全てを嘲りながら。

「全ての願いを」
「あきらめてしまえ」

と。


149 : 室田つばめ&室田◼️◼️ ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/30(木) 19:44:45 guUS7afE0

【クラス】
アルターエゴ

【真名】
奇械■■@赫炎のインガノック+魔法少女育成計画

【ステータス】
筋力C 耐久A+ 敏捷B 魔力A 幸運E 宝具A+

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
対魔力:A+
魔術に対する抵抗力。ランクA+では魔法陣及び瞬間契約を用いた大魔術すら完全に無効化してしまい、事実上現代の魔術師が傷付けるのは不可能。

【保有スキル】
最期に残った御伽噺:A
誕生の刻を迎えられなかった可能性の嬰児。人々に美しいものをもたらすと言われる鋼の影。
彼らは可能性そのものであり、それ故に物理も精神も彼らを砕くこと能わず、あらゆる存在を圧倒し得る。
しかし彼らは宿主なしには現界を果たせず、宿主たるマスターが命を失うか、あるいは宿主が「諦めた」瞬間にレイラインを絶たれ、世界から消滅する。


形なき寓話:A
アルターエゴが非顕現時、サーヴァントとしての気配・魔力を発さない。
また顕現時、マスターにランク相応の頑強・対魔力のスキルを付与する。


うたかたの愛:C
「うらんでなんかいないよ。
 にくんでなんかいないよ。
 わたしはただ、あなたをあいしています」

個人の願望、幻想により形を与えられた仮初の存在。
想いにより生まれたため一つの方向性に対して強い力を持つが、同時に一個の生命体としては永遠に認められない。
全てが終わった後、彼らはかたちを失い、眠りにつく。例えどのような道を辿っても、消滅という末路は決して変わることがない。

そして彼らは生持たぬ存在であるがために、生者たるマスターと繋がる限り宿主に神経負荷を与える。
本来あり得ぬ者が現界する負債は、必ず誰かが払わなければならない。


150 : 室田つばめ&室田◼️◼️ ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/30(木) 19:45:11 guUS7afE0

【宝具】
『〈安らかなる死の吐息〉』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1
失血死の権能。
手に具現した漆黒の大鎌による斬撃と、それによって僅かでも傷ついた場合に発生する即死効果。
これは生物学的な死ではなく、概念的な即死となる。生物以外でも、空間や音といった無形のものですら殺害の対象となる。

【人物背景】
全てを失った彼女に与えられた、最期に残った御伽噺。42体目の奇械。
鋼の体は青白く、骨盤の上に子宮が乗せられたようなフォルムをしている。単眼だが、終期型に変異することで双眼となり、表皮は赤熱し、口を形成して慟哭する。
無垢ではあるが意思はある。宿主とは緒で繋がり、安らぐ歌を好むとされる。

室田つばめが本当に守りたかったもの。名を付けられる前に死亡したため、この存在もまた名を持たない。

【サーヴァントとしての願い】
どうか、かなしまないで。



【マスター】
トップスピード(室田つばめ)@魔法少女育成計画

【マスターとしての願い】
せめて。
せめて、生まれることなく死んでしまった、あの子だけは。

【weapon】
ラピッドスワロー:
魔法の箒。魔法少女の姿であれば自由自在に取り出しができる。

【能力・技能】
猛スピードで空を飛ぶ魔法の箒を使うよ:
専用礼装のラピッドスワローに跨ることで空を飛ぶことができる。速度は最低でもマッハ3以上、最高速度は本人にも分からない。
飛行中は空気抵抗の影響を受けず、また障害物に衝突しても反動を受けることはない。最大3人まで相乗り可能。

【人物背景】
N市で活動する16人の魔法少女の一人だった。
明るく社交的で非戦派だった彼女は、程度の差はあれ魔法少女全員と親交があったとされる。
本名は室田つばめ。19歳、新婚、妊婦。幸せな家庭を築くはずだった女性。

【方針】
何としても生き残り、聖杯を手に入れる。


151 : ◆Uo2eFWp9FQ :2022/06/30(木) 19:45:29 guUS7afE0
投下を終了します


152 : ◆IHJrDmiRfE :2022/06/30(木) 21:21:02 KCoN.6HI0
投下します。


153 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆IHJrDmiRfE :2022/06/30(木) 21:21:53 KCoN.6HI0
 家族を捨てた。ただ生き延びる為に。
伸ばされた手を捨てた。ただ生き延びる為に、
差し出された手を掴んだ。ただ生き延びる為に。
生、正、静。少年は、選んだ。
選んだものを誓った。名前以外を喪ったことで、もはや壊れてしまったのか。
養父である男の理想を引き継ぐことを。
正義の味方。笑ってしまうくらい単純で、呆れ返ってしまうくらい、綺麗な願い事。
正義の味方になりたかったんだ、と。草臥れた笑顔で呟いた男の横顔を見て、少年はに笑みを返す。
自分がその役割を代わりに担うことを笑って口にした。
そうして、そうして。少年は選んだはずだった。
全を救い、善を為す――正義の味方になることを。

「お前は、この戦争で何を望む」

 問われた言葉はいつの日か、神父に問われたことであった気がする。
聖杯戦争。戦い、欺き、鏖殺を是とする戦争の名前。
聖杯。黄金の奇跡を以て、願いを紡ぐ願望器。
かつての自身が参加した、戦い“だった”。
語るべくもない、少年の過去の軌跡。
もう終わってしまったことを言葉にしても、何の意味はない。
やり直そうとは思わないし、思ってはならない。
それは奪った重みに対しての侮辱だ。
運命の夜を共に駆け、共に戦い、奪い合ったものたち。
黄金の騎士王、紅き魔術師、白銀の少女。

 ――良かった。先輩になら、いいです。

 少年が好きだった、女の子。
彼女だけの、たった一人の少女を救うだけ。
それしかできない、■だけの正義の味方。
降りしきる雨の中、抱きしめた彼女のぬくもりは今も覚えている。
自身の隣を歩き、はにかむように笑んだ彼女の煌めきは片時も忘れたことはない。
けれど、裏切った。殺した、許さなかった。
正義の味方。民衆の為、世界の為。原初の誓いを少年は優先した。
世界を呪う終末装置となった彼女を放置してしまう道理はない。
まだ、殺せる。犠牲が最小限のまま、終わらせることができる。
少年は迷った。迷って、最終的には切り捨てた。


154 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆IHJrDmiRfE :2022/06/30(木) 21:22:09 KCoN.6HI0

「正義の味方を張り通す。それ以外、俺に必要ない。不服か?」

 漏れ出た声は、あの時と同じ――鉄の冷たさだった。
少女を殺した後、少年は順当に正義の味方へと至った。
神父の予想通り、聖杯戦争を勝ち抜き、正義を為す。
ただそれだけのロボット、と。
予定調和の物語に番狂わせの運命が介入する余地はない。
物語は終わり、正義の味方は無名の執行者の道を進む矢先だ。
運命の夜は捻じれ狂い、舗装され、再誕した。
奇しくも季節は同じ冬。都市こそ違うが、寒空と人は同じまま。
そして、再び宛がわれたサーヴァントは、あの運命の夜に出会った時と同じ黄金だった。
しかし、その男は騎士王と違い、苛烈だった。
あの運命の夜を塗り替えることこそないが、彼もまた、黄金。
黒い軍服、顔に斜めに迸った傷跡。七本揃いの剣。
そして、自身と同じ、渇望。

「いや。それでいい。
 サーヴァントとして比翼を担う身として、申し訳ないが、俺に語らうような物語はない。
 凡庸で前に進むことしかできん愚物を引き当てた不運を恨んでくれ」

 正義の味方――否、悪の敵。
少年の魂に呼応したのか、そのサーヴァントの在り様は非常に似通っている。

「だが、悪を滅す意志は誰に負けるつもりはない」
「俺もだよ、バーサーカー」

 かわす言葉はそれだけで十分だった。十分すぎた。
青年もサーヴァントも多弁ではない。
必要以上に絆を深めるなど、片腹痛し。
二人の間にはそんなものを容易に蹴散らせる誓いがある。

「大事なのは結果だ。悪を殺す正義の味方、俺はただそれだけでいい」

 ――さあ、聖杯戦争を再始めよう、衛宮士郎。

 何度も、何度でも。正義無き夜を終わらせる為に。







 サーヴァント。バーサーカー。
アドラー帝国総統、クリストファー・ヴァルゼライド。
彼が士郎に語った言葉に嘘偽りはない。
愚物でありながら、どこまでも苛烈に戦場を駆けた男。
悪の敵として、容赦なく外敵を殺す英雄として。
自国の繁栄を願う滅私奉公の英雄として。
黄金の奇跡は、自国へと、そして悪を貫く光へと。
その英雄は遍く世界を貫き、前へと進み続けるだろう。
例え、世界という器が崩れ落ちても、永遠に。


155 : 衛宮士郎&バーサーカー ◆IHJrDmiRfE :2022/06/30(木) 21:22:46 KCoN.6HI0
【クラス】

バーサーカー

【真名】

クリストファー・ヴァルゼライド@シルヴァリオ ヴェンデッタ

【ステータス】

筋力C 耐久A 敏捷C 魔力C 幸運C 宝具A++

【属性】

秩序・狂

【クラススキル】

狂化:EX
トンチキ。何を言っても聞く耳を持ちません。

【保有スキル】
陣地作成:A
一刻を率いた総統として、自らに有利な陣地を作り上げる。

カリスマ:A
大軍団を指揮する天性の才能。光の奴隷もといトンチキ製造スキル。

始まりの英雄譚:EX
あらゆる不可能を可能へと押し上げる精神・ステータス上昇スキル。
全ては心一つ、気合と根性があれば何でもできる。トンチキスキル。きっと、限界はない。
戦闘が続行されるにつれて、ヴァルゼライドの持つ武勇、そしてステータスは際限なく上昇し続ける。
加えて、同ランクの精神汚染は無効化させる、というより精神汚染がほとんど効かない。
そもそも、彼を汚染させるなどよっぽどではない限り難しいし、やったとしても根本まで穢し切れないだろう。

光の英雄:EX
戦闘続行、心眼(偽)を混ぜあわせた複合スキル。
不死と勘違いされてもおかしくない彼を体現するトンチキスキル。
やっぱり、限界はない。
通常ならば、重傷及び霊核を貫かれようならば、サーヴァントとして消失してしまう。
しかし、光の英雄たるヴァルゼライドが致命傷程度で死ぬはずもなく。
どれだけ、手傷を負おうが、武勇に陰りなし。彼は十全以上に戦い続ける。
それは、原初たる魔星としての肉体強度だけではない、意志の強さ。
そして、彼が生前も想像を絶する手傷を負いながらも、
身体が崩壊しようが、決して止まらなかった不倒の証。

【宝具】
『天霆の轟く地平に、闇はなく』
 ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1-100 最大補足:100
核分裂・放射能光発生の具現化能力。
掠めるだけでも激痛が迸る光を剣に纏わせて接近戦、
もしくはそのまま、放出することによる遠距離戦も可能。

【人物背景】
英雄――悪の敵。それ以上でもそれ以下でもない。

【サーヴァントとしての願い】
アドラーの繁栄を。そして、悪の敵として、再び。

【マスター】
衛宮士郎@Fate/stay night

【マスターとしての願い】
正義の味方。

【weapon】
なし。

【能力・技能】
投影、強化の魔術。

【人物背景】
正義の味方。それ以上でも、それ以下でもない。

【方針】
正義の味方。


156 : ◆IHJrDmiRfE :2022/06/30(木) 21:24:55 KCoN.6HI0
投下終了です。


157 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/30(木) 22:52:35 hb1cfEeA0
重み無き理の刃
主従間の邂逅とそこからの一悶着でキャラクターの個性や強みが分かるのが大変読みやすかったです。
マスター側であるイザクにもサーヴァントのそれに劣らぬ強さがあるという時点でこの主従は大変強力そうですね…。
主従間の性格的な相性も合っていそうなので、これは脅威度の高い主従になりそうな。

佐藤&バーサーカー
サーヴァントのチョイスにも驚きましたが、そういう形で逸話を持ってくるかと驚かされました。
ターゲットこそ限定的ながら聖杯戦争の舞台全土でイベントを引き起こせる能力は純粋に凄い。
そして佐藤姓と絡めてマスターの方を用意するという発想もお見事でした。

000
ルシファーとナオヤ、両者の実力と格の高さがこれでもかと描写され圧倒される一作でした。
ルシファーという規格外も規格外であるサーヴァントに対して、一歩も退かないどころか一目置かせるナオヤの凄まじさ。
この聖杯戦争における最大の敵になるだろうことを余す所なく理解させる、そんな候補作だったと思います。

雛【ばろっと】
独特なテンポで続いていくモノローグの文章が大変好みでした。
そしてバロットとサーヴァント・Xの問答が、互いのキャラ性が巧妙に描き出されていてとても良い。
作品の最後でバロットが殻を破る構成も含めて、実によく纏まった一話でした。

請負人はなにを請け負ったのか
言わずと知れた人類最強である哀川潤と、彼女に振り回されるサーヴァント・クリム。
二人の軽妙な会話が非常に読みやすく、それでいてこの主従の持ち味がよく出ていて好きだなぁと思いました。
しかし聖杯戦争を前にしてもこの調子なあたり、実に例の赤色ですね……。

室田つばめ&室田■■
トップスピードこと室田つばめと赫炎のインガノック、その両方を把握していれば必ず唸る一作だったと思います。
彼女がこの世界でも母親の務めを果たし切れないこと、人間室田つばめと魔法少女トップスピードの間での葛藤。
それを丹念に描写した末の覚醒シーンが美しくも哀しく、構成も発想も思わず舌を巻かされるそれでした。

衛宮士郎&バーサーカー
"正義の味方"を選んだ士郎が悪の敵たる英雄を召喚する話、ストレートの豪速球って感じで最高ですね…。
どうしようもなく救われない二人の雄々しさ(哀しさ)が互いの会話の中にこれでもかと描かれているのが堪らない。
騎士王ではない運命と巡り合ってしまう士郎という構図がまた、その救われなさに拍車をかけているように感じます。

皆様今宵も投下ありがとうございました。
投下します


158 : 朝比奈まふゆ&バーサーカー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/30(木) 22:53:37 hb1cfEeA0

 …最初は夢だろうと思った。
 いつもと同じ天井、違う世界。
 頭の中にさも当然のような顔をして居座っている知らない知識。
 聖杯戦争。
 サーヴァント。
 願いを叶える力。
 その為の殺し合い。
 こんな情報を突然頭の中に流し込まれて、現実だとすぐさま順応できる人間がどれ程居るだろうか。
 もし居るとしたら思春期特有の病気に罹っているか。
 もしくは…最初からこういう世界で生きてきた人間か。
 そのどちらかだろうと思いながら、私は。
 朝比奈まふゆは――どうやら私と契約関係で結ばれているらしい"そいつ"の姿をまじまじと見つめていた。

「悠久の時を経た我が降臨に立ち合った我が使徒よ。
 貴様と我は今や深く儚い縁によって結ばれた。恐怖に慄いても最早遅い。
 貴様はこの我の使徒として、聖杯戦争が終わるまでその身を粉にして我に仕えるのだ」

 そいつは明確にヒトの形をしていなかった。
 魔術だの何だのが絵空事にしか聞こえないような世界で生まれ育った私ですら、疑う事なくそう思える程分かり易い姿形をしていた。
 今すぐスマホなり何なりで写真を撮ってSNSにでもアップすればバズの一つ二つは約束されるだろう。
 もっともあんまりにも出来過ぎているから、すぐにフェイクだCGだと謗られ叩かれるのが関の山だったろうけど。

「諦めて我に恭順せよ。そうすれば悪いようにはせぬ。我が使徒を増やす為に使い潰しはするがな…!」
「…うん」
「物分かりの良い奴だ。であれば疾くこれに…我が宝具に貴様の名を記すがいい。
 それを以って改めて貴様はこの我の使徒となり、永久に我と共に名を刻む栄誉を授かるのだ……」
「それは分かったんだけどさ」

 そいつの名前はバーサーカー。
 本当の名前はまた違うんだろうけど、よっぽどの事がない限りこう呼べばいいんだと頭の中の後付け知識が教えてくれている。
 バーサーカーは異形の、タコのような姿をしていた。
 そしてその大きさは。
 私達人間の頭より少し小さいか同じくらいのサイズ。
 その尊大な物言いにはまるでそぐわない、可愛らしさすらあるそれだった。

「…そのプロフィール帳が、本当にあなたの宝具なの?」
「何を言う。この我を疑うつもりか?」
「そういうわけじゃないけど。ただ…なんかイメージと違うなって思っただけ」

 そんな生き物が宝具と称して何処にでもあるようなプロフィール帳を差し出して。
 おまえはもう自分の使徒だから此処に名前を書けと言ってくる。
 状況の剣呑さとはまるで不釣り合いなコミカルさにこっちは火傷しそうだ。
 だけど目前のサーヴァント…自称・破壊神のバーサーカーは大真面目な様子で。

「我ら神の存在を貴様ら人間の尺度で測るでない、新たなる使徒よ。我らは貴様らの貧困な脳髄では理解しきれぬ大いなる存在であるぞ」


159 : 朝比奈まふゆ&バーサーカー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/30(木) 22:54:24 hb1cfEeA0
「そうなんだ。じゃあ、そんな偉い神様にお願いがあるんだけど」
「口にする事を許す。我が新たなる使徒、朝比奈まふゆよ。
 貴様は我に何を望む? 富か、名声か? 破壊か、支配か、殺戮か」
「どれもあんまり興味ないかな。聖杯とか、サーヴァントとか…正直そういうのはどうでもいいと思ってるから」
「どうでもいいだと? 貴様、この我の威容を他の諸々と十把一絡げに片付ける気か…!?」

 そうだ。
 私にとっては正直、この世界の全部がどうでもいい。
 聖杯戦争なんて大袈裟に言われてもわざわざ叶えたい願いなんて思い浮かばない。
 お金も名誉も特に欲しいとは思わないし。
 何かを壊したいとか誰かを殺したいとか、そういう気持ちともとりあえず今は縁がない。
 …正確には、願い事が無いわけじゃないけど。
 でもそれは聖杯みたいな近道で叶えたい事じゃない。
 だから結局私には"生きる為"以外の戦う意味が見当たらなくて。
 となると必然、私がこのバーサーカーに望む事は一つだった。

「バーサーカーは…私を元の世界に帰してくれる?」

 私は帰りたい。
 元居た世界に。
 皆の処に帰りたい。
 願いを叶える願望器を魅力的に感じないのかと言われたら、…勿論そんな事は無いけれど。
 それでも誰も彼もを殺して潰して、そうまでする必要があるのだったら。
 そうまでして聖杯が欲しいとは思えなかった。
 そんなに道のりが過酷なら聖杯なんて必要ない。
 只…元の世界に帰してくれさえすればそれでいい。
 それが私の願いらしい願いで。
 私がマスターとしてバーサーカーに望む唯一の事だった。
 そんな私の質問にバーサーカーは。
 一瞬の沈黙も挟む事なく答えてくれた。

「当然だ。我が使徒よ、貴様と我は既に一蓮托生」
「……」
「ならば我の勝利は貴様の生還と同意だ。貴様が心変わりでも起こさぬ限り、その願いは必然果たされるだろう」
「…そっか」

 ペンを手に取る。
 どの道私が頼れる相手はバーサーカーしか居ない。
 そのバーサーカーがそう答えてくれるなら、信じるしかないだろう。
 ペン先をバーサーカーの持つ宝具…なんてことのないプロフィール帳へと走らせた。
 そこに私の名前を記す。
 正直、こうすることに意味があるのかどうかは分からなかったけど。
 それでも…あんまりバーサーカーが堂々とこれを突き出してくるものだから。
 気付けばそうしてしまっていた。
 そして当のバーサーカーはそんな私を前に満足げに「うむ」と呟いた。
 そんなバーサーカーに私は言う。
 確認するように。

「じゃあ、これで私は皆の処に帰れるんだよね」
「破壊神マグ=メヌエクの名の許に誓おう。
 案ずる事はない。この我の使徒となった以上は…貴様が"勝利"以外の結末へ辿り着く事など有り得ぬのだから」

 別に根拠があったわけじゃない。
 私はこいつが戦う所を見たわけじゃないし。
 だから実際、このバーサーカーが。
 破壊神がどれくらい強いサーヴァントなのかは分からないままだった。
 でも…私の問いかけに対して一秒の間も置かず断言した姿は不思議と頼もしくて。
 荒唐無稽な程の自信に満ちたその言葉がどうしてか凄く力強く感じられて…。

「歓迎するぞ、我が新たなる使徒よ。
 生死、時空の垣根を遥か超越したこの世界であろうとも…このマグ=メヌエクの名と力のみは不朽である事を。
 それを貴様と、この世界へ集った有象無象の器達へ一人余さず示してくれよう」

 もうとっくにブームの終わったプロフィール帳なんてものに。
 わざわざ名前を書いてやったのもまぁ悪くはないかなと。
 そんな風に思えた。
 思わせてくれた。
 どの道私が頼れる存在はこのバーサーカー以外には居なかったから。
 頭の中にあの子達の顔を思い浮かべて。
 私は、「じゃあ…よろしくね」と一言呟いた。

    ◆ ◆ ◆


160 : 朝比奈まふゆ&バーサーカー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/30(木) 22:54:51 hb1cfEeA0

 分からなくなった時にはもう手遅れだった。
 そう気付いた時には私は私でなくなっていた。
 自分が誰なのか、そしてどこにいるのか。
 それすら分からないひどく宙ぶらりんな存在。
 皆の声と期待を聞いてそれに応えて。
 そうする事は正しい事、当然の事なのだと信じて歩んできた結果がそれ。
 自分自身をも見失って。
 何もかも分からなくなった私を――
 見つけてくれた人が居た。
 救うと誓ってくれた人が居た。
 もしも皆が…あの子が居なかったら。
 私は、ひょっとしたら――この世界で、生きたいと思えていなかったかもしれない。

「…この世界に、皆は居ないのかな」

 言ってからはっとする。 
 自分は今なんて言ったのか。
 言ってはいけないことだった。
 聖杯戦争だなんて舞台はあの子達には似合わない。
 それは一時の気の迷いと言えども考えてはいけないことで。
 でもそれは私に一つの納得を与えてもくれた。

“そっか…やっぱり、私”

 帰りたいんだ――。
 皆と会う前までならば。
 私は"帰りたい"とまでは思えていなかったかもしれない。
 自分がどこにいるのかも分からないような人間が。
 そこまで必死になって生き延びたいと願うなんておかしな話だから。
 だから、その時私はきっと今よりもっと投げやりになっていただろうと思う。
 そんなどうしようもない私が今、曲がりなりにも生きたいと思えているのは皆のおかげ。
 私を救うと誓ってくれた…あの子のおかげ。

“会いたいな”

 この世界から生きて帰る事はできないかもしれない。
 そんなのは嫌だと今は心からそう思える。
 私は帰りたい。
 だってまだ私は救われていないから。
 皆に会いたい。
 あの子に会いたい。
 こんな所で死にたくなんてない。
 その思いだけを寄る辺に私は今生きていて。


161 : 朝比奈まふゆ&バーサーカー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/30(木) 22:55:39 hb1cfEeA0
 そしてそんな私の胸の内なんて知る由もなく、この自称破壊神は自由気ままな毎日を過ごしていた。

「うむ、色褪せぬ味よ…時空の垣根を越えても尚衰えぬ事なき我が供物。褒美を遣わすのも吝かではない」
「納豆は日本の国民食だからね」

 私がこいつにしてやった事は一つだけだ。
 こいつが自慢げに突き付けてきたプロフィール帳に自分の名前を書いただけ。
 朝比奈まふゆ、と書いただけ。
 それなのに。

「無銭飲食は許さないから。ちゃんと私を元の世界に帰す約束、果たしてね」
「破壊神に二言はない。貴様が使徒としての働きを忠実に果たすのなら、その凡庸な願いをこのマグ=メヌエクが成就させてやろう」

 私のバーサーカーはその偉そうな言動とは裏腹に律儀なやつだった。
 何を願うつもりなんだか知らないけど、今はあのプロフィール帳…ああいや。
 『破滅使徒血盟の書』を埋めることの方がずっと大事らしい。
 …こんなのがサーヴァントで本当に大丈夫なのかなって。
 そう思わなくもないけど。
 でも――

「わかった。じゃあお願いね、マグちゃん」
「ぬ」
「…どうしたの? 鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して」
「――いや」

 物騒な文字が付いてるけど一応神様らしいから。
 当分の間はこの変な生き物のことを信じてみてもいいのかもしれない。
 そんな私をよそに破壊神はずるずると手元の納豆を飲み込んだ。
 それから何もない、遠くの方を見てこう言った。
 何か…遠い昔のことを懐かしむような。
 バーサーカーは、そんな目をしていた。

「少し、昔の事を思い出した。それだけの事よ」

【クラス】
バーサーカー

【真名】
マグ=メヌエク@破壊神マグちゃん

【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A+ 幸運A 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
狂化:E
破壊神としての人倫から離れた倫理観。
今はこのスキルはバーサーカーに何の影響も及ぼしていない。

【保有スキル】
混沌の神核:A++
太古の昔地上を支配していた混沌の神であることを示す複合スキル。
神性スキルを含む他、肉体の絶対性を維持する効果を有する。
本来のランクはEXだが現在はランクが一段落ちる。
これは破壊神として健在だった頃の彼と現在の彼とでは幾分か精神性が異なることに起因している。


162 : 朝比奈まふゆ&バーサーカー ◆Lap.xxnSU. :2022/06/30(木) 22:56:36 hb1cfEeA0

破壊神の器:B
バーサーカーの肉体はあくまで神格を収める器に過ぎず、よって多少の無理が利く。
基本的に伸縮自在で損傷してもお湯に浸したり本体に接着するだけですぐに再生する。
痛覚も存在せず吸着力も強いが、強いて言うなら非力なことが欠点。
尚このスキルも万全の状態に比べてランクが一段落ちている。
破壊神マグ=メヌエクの肉体は現在疲弊状態にあり、後述する宝具を一発放っただけでも極端に衰弱してしまう程弱っている。
基本的に英霊の全盛期を参照して現世へ召喚するシステムであるにも関わらず彼がこんな状態にある理由は後述する。

破壊神の叡智:A
意外と勤勉。
なので見かけによらず知識が豊富。
少なくとも中学校の理科程度なら『内容が低次元過ぎて理解できない』というレベルであるらしい。

【宝具】
『破滅の権能(マグ=メヌエク)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1〜1000 最大補足:100人
破壊神マグ=メヌエクが持つ権能(ちから)そのもの。
読んで字の如く、この世界に存在する万象を破壊し滅ぼす力。
その破壊力は絶大の一言に尽き、大袈裟でなく主神級神霊の全力の一撃に匹敵する。
先述の理由によりバーサーカーはこの宝具を解放すれば衰弱してしまうが、現世の食べ物を幾らか摂取すれば十分に回復可能。

『破滅使徒血盟の書』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
この宝具に特別な効果はない。
宿っている神秘も申し訳程度のものである。
破壊神マグ=メヌエクが永い封印から目覚め現世で活動を再開した時、自身の部下を集める為に使用していた契約の書。
ただそれだけの何の役にも立たない宝具だが、今のバーサーカーにとっては万象を滅ぼす力なぞよりも余程――

【weapon】
『破滅の権能』

【人物背景】
太古の世代から世界を支配していた"混沌の神"の一柱。
『破滅』のマグ=メヌエク。
混沌教団により現世へ召喚されたが聖騎士団によって封印され、数百年の時を経てとある少女の手で現世に舞い戻った。
その後彼は現世で多くを学び、部下を作り…そして大きな別れを知った。
破壊神としては見る影もなく疲弊した霊基。
悠久の時を超えて現界するにあたってあえてその状態を選んだのは他でもないマグ=メヌエク自身である。

【サーヴァントとしての願い】
生前同様に部下を増やす。
良い成果が得られたなら褒美として下等生物(マスター)を元の世界に帰してやるのも吝かではない


【マスター】
朝比奈まふゆ@プロジェクトセカイ

【マスターとしての願い】
元の世界に帰りたい。
もしくは、皆の処へ。

【Weapon】
なし

【能力・技能】
作詞、作曲、MIX…etc。音楽の才能。
使命感のままにそれを磨き続けた少女は見つけられ、居場所を見つけた。

【人物背景】
明るくユーモアもあり、誰からも頼られる優等生。
…そんな彼女の真実を知る者は少ない。
まふゆには自他を問わず"人の心がわからない"。
優しい抑圧の中で自己を失ったまふゆはしかし自分のことを見つけてくれた仲間達に囲まれ、ありのままで過ごせるようになった。
しかしそれでも彼女は未だ救われていない。
自分を救えるとしたらばそれは一人だろうとまふゆはそう思っている。

――朝比奈まふゆは、■■■を呪っている。


163 : ◆Lap.xxnSU. :2022/06/30(木) 22:56:52 hb1cfEeA0
投下終了です


164 : ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:50:38 arZxodoc0
フリースレに投下した拙作の誤字や誤表現を修正した物を投下いたします


165 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:51:23 arZxodoc0
.





    薔薇のなかの薔薇、こよなき薔薇よ

    そなたもまたおぼろな潮が悲しみの波止場に打ち寄せるところに来て、

    たえまなくわれらを呼ぶ鐘の音を聞いたのだ、かの慕わしくはるかな鐘を。

    美神はその永遠なる身をかなしみ、そなたをわれらから、暗い灰色の海からつくった。

    われらの長き船は思いに織られし帆を上げて待つ。

    神がわれらと同じさだめを与えたまいしうえは、かの船もまたさいごに神の戦いにやぶれおなじ白い星々のもとに沈んでいった。

    もうあのちいさな叫びを聞くことはないだろう。

    生きることも死ぬことも許されぬわれらのかなしい心の叫びを。

                                 ウィリアム・バトラー・イェーツ、戦いの薔薇



.


166 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:51:46 arZxodoc0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 そこは、近隣ではよく知られた屋敷であった。
立派な佇まいだ。装いは洋風、造りは木。イギリスだとかフランスだとかの、ヨーロッパ圏の貴族や名家の住まいを、そのまま持ってきたような、建売りのそれよりも格上の空気をかもしている。
このような場所に住まえるのだ。管理が出来るのだ。それなりの収入の道がなければやっていけないだろう。
だが、この家の主が、何をして生計を立てているのか、知る者は少ない。そう言う事実が、風評に拍車をかけていた。よく知られている、と言うのは、『幽霊屋敷』としてだった。

 幽霊屋敷とは、誰も住まう者がいないと言う意味ではない。本当に、『それ』が出ると言う意味である。
見れば、成程。確かに、草木も眠る時間に足を運べば、出そうな雰囲気が醸し出されていた。
外壁は長年の経過を想起させる程度に色褪せていて、これが、時の重みを見る者にイメージさせる。数百年の時を経ている、と嘘を吐かれても信じる者がいるのではあるまいか。
その上、屋敷の壁を這うシダ類にも似た植物のツタ。管理が余り行き届いていない証拠であった。広い中庭も、よく見ると荒れ放題で、庭師を雇っていない事も解る。
吸血鬼を題材にしたフィルム・ノワールの白黒映画の世界から、数千万色から成る色彩を伴って飛び出して来たような屋敷だった。
事実、満月を背後にすると言う構図で一眼レフで撮影したある一枚の写真をSNSに掲載したところ、本当に出そうだと言って、数万もの反応が得られた事もある。

 だが――往々にして真実と言うのは、大衆の心をくすぐるようなドラマティックさから掛け離れた、肩透かしを食らうようなものである事が多い。
この屋敷だとてそうだった。幽霊が出るだとか言う噂も勿論出鱈目であるし、ガリレオ・ガリレイが地動説を提唱しはじめた時代から生きている錬金術師が家の主と言う噂も当然嘘。
況して、この家の主が不在と言う話など、行政の機関が違うと認めるレベルには、あり得ない話なのである。

 真実とは得てして、そんなものだった。
登記簿は明白に、この屋敷もその土地も、今も生きているフランス人女性が全ての権利を保有している事を認めている。
屋敷にしたとて数百年が経過していると言う話も、登記に照らし合わせれば全く嘘で、真実は戦後移り住んで来たフランスの富豪が、
この国を甚く気に入りこの地に別荘を建て、其処に妾を住まわせて……それが今に至っている、と言うのが本当の話なのである。数百年は勿論の事、100年だとて経過していないのである。

 面白くもなんともない話であろう。
なんだ、つまらない。知らされれば、興味がそれで終わりの人間が殆どだろう。
それにそもそも、冷静に考えれば、人の通りも多く、時間帯によっては車の往来も盛んなこの住宅街の真ん中に建てられている屋敷なのである。
普通に考えれば、そんな立地に建てられている建造物が、廃屋である筈もなし。普通に考えれば、誰かしらが住んでいるであろう事は考えられる事柄であるし、
況してや面白いから侵入してみようと考える者など、真っ当なモラルが備わっているのならいないであろう。立派な不法侵入、犯罪を犯している事となる。

 とは言え、真実が面白いか面白くないかが全て解る者など、神を置いて他にいる筈もなく。
この屋敷が法的にも問題がなく、権利上に於いても一人の女性に帰属するものである事を、知らない者がいる事も事実。
そしてその中には、本当にこの場所に幽霊の類が出ると信じ切っている者もまた、いるのである。

 ――例えば、直立の状態からの跳躍で、高さ数mはあろうかと言う塀を飛び越えて、邸宅の中に忍び込んだ、黒装束のこの男だ
年齢を、悟らせない。顔に黒布を巻き付けているばかりか、身体の何処を見ても、肌の露出がない。長躯である事が、分かるだけだ。

【おらぬか……?】

 胸中で呟く男性。
新たな拠点を増やす事に、彼――アサシンのマスターは積極的だった。
勿論、そのマスターはマスターで、与えられたロールに準拠した拠点と言うものを持っている。
だが、この拠点とは別に、スペアの拠点が欲しかったのだ。そしてマスターは、拠点の候補として、今アサシンに忍ばせている幽霊屋敷を選んだ。


167 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:52:05 arZxodoc0
 何て事はない、これは内見である。
本当に誰も居ない、と言う噂を真実かどうか確かめ、その上で、自分達の拠点として借りようと言う腹なのだ。
誰かいるのならいるのならで、簡単な催眠を掛けてやれば良い。屋敷から一時的に退去させる、こう言う事である。
だが、何人も催眠に掛ける訳には行かない。屋敷の主含めて、何人この屋敷には住み込んでいるのか、その確認の意味合いが特に強い。
主一人に催眠を掛け、使用人達に一時暇を出させる。理想的なムーブメントとしては、これである。

 忍び込むに当たり、夕方の内にアサシンは事前に調査を済ませていた。
目に見える場所に監視カメラがない事は確認済み。この辺りは特に有名な、所謂『お金持ち』の面々が住まう高級住宅街である。
召喚されてからアサシンは独学で、現代事情を学び、監視カメラの存在を学んでいる。この辺りの住民に限って言えば、敷地の中どころか、正門の段階ですら、
それと解るようなカメラが設置されていて、しかも高度な人感センサーも備わっているのか、一定距離に入ったらレンズを自動で此方に向けて来る物もある事も知って居る。
この屋敷にはそれがない。それどころか、一部の家には備わっている、番犬の類も見られない。本当に、防犯の為のシステムも道具も備えていないのだ。こう言った事情もまた、この屋敷が幽霊屋敷だと言われる理由でもある。

 とは言え、カメラがないだけで、実際には屋敷の中には沢山の人員が待機していて、それが庭や表の様子を確認している可能性だとて、ゼロではない。
だが踏み込んで解った。人の気配が、まるでない。アサシンは暗殺者の英霊として、鋭敏な気配察知の能力を兼ね備えている。
住居の中にこもって居ようとも、その中に蠢く人間の気配を、敏感に彼は感じ取る。その第六感が告げている。人の気配が、絶無だ。
驚く程誰も居ない。全神経を集中させ、屋敷に対して意識を傾けさせる。やはり、だ。呼吸の音も、鼓動の音も、人の話す声も聞こえない。
真夜中の山中の中の様に、静まり返っていた。しかしそれでも、油断がないのがこのアサシンの優れた所。
無音の歩法で屋敷に近づいて行く。狙いは窓。屋敷の裏に建付けられた1階部の窓に手を伸ばし、開けようと試みる。
――開いた。静かに窓を開け、完全に開け切ったとみるや、屋敷の中に侵入。

 ――――死ぬ程の、後悔を味わった。

「ッ……!?」

 先ず後悔したのは、侵入した部屋の不気味さだった。
保管場所、或いは、コレクションルーム。その様な印象を少年は覚えた。ただ、保管している物が問題だった。それは、洋人形が保管してある部屋だったのだ。
その数は、幾つか? 百か、二百か? それ以上か? まさに、沢山、であった。

 これが、小さい女の子が欲しがるような、ファンシーでメルヘンで、それこそ例えば、ディズニーやらサンリオやらの可愛らしい人形であるのならば、マシだった。
置いてある人形は全てが全て例外なく、精緻で、リアル。本物の人間のようにしか思えない程、精巧な作りの人形ばかりなのだ。
ドールのサイズは様々。子供が抱えて持てるような小さいサイズの物から、アサシンの体躯程の大きさをした物まで
ありとあらゆる大きさの人形が、ずらりと並んでいる。一瞬気圧されそうになるが、そうはならない辺りが、流石に英霊として召し上げられた存在である。

 ――だが、違う。これじゃない。真に後悔を覚えたのは、鎮座している人形の不気味さの故ではなかった。
この邸宅の内部に侵入した瞬間に覚えた、プレッシャー。歩く事もままならず、息する事すらただ辛い。
今にも身体がぺしゃんこになりそうな重圧感と、心臓を巨大な手で握り絞められているような圧迫感。それをアサシンは、一時に覚えたのである。

 ――なんだ……これは……――

 敵に囲まれた時にですら、こんな感覚、覚えた事なかった。
予感がする。これ以上此処にいては、ならないと。何も持たないまま帰ろう。マスターには、この場所は不適合だから進言しよう。
これ以上此処にいては、ならない。そうとアサシンが判断し、踵を返して立ち去ろうとする。

 ――その最中に、アサシンは、全ての人形の目が、此方に注がれた事に気づいた。
それは錯覚だった。アサシンの焦りと恐れによって生じた誤認、錯誤の類であった。
だがもしも、この場にいる人形達に、熱い血潮が流れていて、鼓動が胸の奥で脈を打ち、意思を生じせしめる心が宿っていたのなら。きっと、彼の見間違えの様に、目線を動かしていたに違いない。

『そうだ、お前が正しい。早く逃げろ』

『この馬鹿、なんでよりにもよってこの家に入って来たんだ』

『もう遅い。あの御方が来る』

『来た。目を逸らせ』

 人形達に心があったのならば、その様な事を思ったに相違ない。
それが事実であろうと言う裏打ちの様に――部屋を占める重圧が、万倍にも倍化した。


168 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:52:30 arZxodoc0
「ッ!?」

 足が動かせない、膝を上げられない。腕が振れない、肘を曲げられない。
ゆとりのある呼吸が出来なくなり、マラソンや短距離走を終えた後みたいな、連続した短い息継ぎしか出来なくなっている。
鉛で出来たリュックサックを、背面と前面に負わせられたように、身体が重かった。無論それも、錯覚だった。アサシンの身体には、100g分の重りすら取り付けられていないのだから。
これこそまさに、当人の意識の問題なのである。事実は何も変わっていないのに、脳が、心が、魂が。そうであると誤認をし、現実の我が肉体に誤解を引き起こさせる。

 ――それ程の存在が、自分の背後にいる。それを、認識してしまったのだ。
振り返ってはいけないと思った。脳も心も魂も。細胞の一欠けらですら、それに同意している。逃げねば死ぬと言う、確信があったからだ。
満場一致に等しいその意思を裏切ったのは、誰ならぬ、アサシンの肉体と、その本能であった。人ならば誰にでも備わる、反射行動。
危機を察知したら、その方向に対して意識と身体を向けてしまうと言う、防衛反応。アサシンは、これらを自制出来る程の訓練を経ている。経ていてなお、身体が、裏切った。

「あ……あ……」

 天を衝く程の、大きな山が其処にあったと、アサシンは思った。
どれ程昔から存在したのか、頂上までの距離はどれ程なのか。そう言った事が一目で判別する事が出来ない程に、巨大(おおき)い山。それが、目線の先に佇んでいた。

 勿論の事、実際に本物の山がそこにあった訳じゃない。
其処にいる人物から放たれる、気風と覇気が、アサシンの脳に山のイメージを焼き付けさせ、網膜に映る光景にその模様を投影させてしまっただけに過ぎないのである。

「……ほう」

 だがそれにしたとて、その男が巨人である事には変わりはなかった。
見上げる程の大人物だった。1mは80㎝を超える恵まれた体格のアサシンよりも、更に、50㎝以上も大きい。宛らそれは、小山。

 日本は勿論の事、今時、ヨーロッパの王室に連なる貴き血筋の面々ですらが羽織っていないであろう、厚手の黒いマントを着こなす男だった。
顔立ちは、日本人のそれじゃない。ヨーロッパの国々の顔つきで、良く整えられた髭の生え方から察するに、歳の頃は、40の半ば程だろうか。
威厳のある顔立ちで、史記に出て来るような偉大なる大王や皇帝が、そのまま今の時代に蘇ったと思える程に、力と覇風と神威に溢れていた。アレキサンダーやカール大帝を題材にした映画を撮影しようと思い立ったのなら、モデルには、この男が選ばれよう。

 平伏する事が、義務だと魂が吠えている。頭を垂れろと、脳が命令を下している。
生前、王の類を暗殺した事がある。貴族の類など、両の指では足りぬ程、その刃で倒して葬って来た。
何の感慨も、なかった。所詮王も貴族も、誰の助けも来ないと言う状況下で、刃先を突き付けて見せればただの人。
その勇猛さから獅子の仇名を冠する王君も、慈悲なく農奴から税を徴収し払えぬ者を眉一つ動かさず処刑するその貴族も。
アサシンが剣先を突き付けさせてしまえば、ただの人間、役人の類と何も変わらない。死を隣人とする何処にでもいる人間なのだと言う事が解ってしまう。
我と同じ人間に、ただ身分の上で偉いからと、広大な土地と権能を引き継いだからと言って、何故、傅かねばならないのか。


169 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:53:01 arZxodoc0
 この男は、違う。
一目で、王である事が解る。神である、と嘯いても納得出来る。
王権神授。王の権威は、神から授かったもの、と言う事を意味する言葉だが、この男を見れば、それが真実であったと誰もが思おう。
このような覇気を発散出来る者、神か、神の化身以外にあり得ようか。アサシンは、生前でも見た事がなかった、本物の王者を。
魂を掌握する絶対のカリスマの保有者を、初めて目の当たりにしたのであった。

 ――だが、その神は善と光の神ではない。
これもまた、一目で理解した事だった。確かにこの男は、神の威光を帯びた、半神の者であるのかも知れない。
ただ、その神が司る物は――――――闇と魔である。この男はきっと、暗き闇の淵の領分を支配する、暗黒の支配者なのである。

「おおっ!!」

 魂を掌に包まれ、脳を屈服されているこの状況下。
肉体だけは、目の前の魔人の支配を逃れていた。嘗て積み重ねて来た、何千時間を容易く超える鍛錬の成果だ。
人生の数多い時間を、修練に割いて来た。その結果が今こうして、窮地に陥った際に反射的に身体が動く、と言う形で表れていた。
鍛錬に漬け込んで来た肉体だけは、最後の最後で屈服を拒んだ。懐に忍ばせた短刀を、魔人の喉元に投擲しようとし――それを果たすよりも前に、アサシンの心臓は、魔人の右手に貫かれた。
心臓が魔人の右手に握られていた事も、貫かれた痛みも、そもそも自分が何をされたのか。全てを認識する間もなく、アサシンは即死し、魔力の粒子となってこの世から消滅した。
魔人の腕に着いた血も、握っていた心臓も、夢か、幻か、とでも言う風に、同じような末路を辿る。

 そこは、近隣ではよく知られた屋敷であった。良く知られているとは、幽霊屋敷として、である。
だが、この屋敷には幽霊はいない。そもそも、屋敷の持ち主だって今もこの瞬間に、邸内で作業に没頭している。幽霊屋敷など、嘘八百も良い所なのである。

 ――だが、幽霊ではなく『吸血鬼』なら住んでいると言う事実までは。
近所の住民も、そして、忍び込んだ末に息絶えたアサシンも。予想する事は、出来なかったであろう。


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170 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:53:37 arZxodoc0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 彼女の作るドールは、1体で家が建つと言われる程の価値を持った逸品だと、その筋には広く知られていた。 
どのような世界にも、マニアや収集家と言うのはいるものだ。コイン、切手、硯、こけし、初版本、時計に模型に昆虫の標本など。
普通の人間でも集めていそうな物から、一部の好事家や金持ちしか集めていないような物まで。世界には、普通の感性の人間では及びもつかないようなものを集めるコレクターと言うのが数多くいる。

 だが、人形については、集めている、と公言したとて問題はない。理解の得られる物である事だろう。
その造形の美しさや精巧さに惹かれて買ってしまったり集めたりする者もいれば、金銭的な価値や投資の目的で手元に置いていたい者もいる。異常な点は何もない。
しかし人形と言う物は凝りだせば凝りだす程にその価値が天井知らずに跳ね上がって行くものだ。人形に着せる服装や、手入れの為の道具もそうだが、何と言っても人形そのものの値だ。
ドイツのシュタイフ社が1904年に世に出したテディベアは、6000ポンド、現在の日本円のレートに直せば90万以上の値段で取引されていたという事実からも解る様に、
年代が古く、そして、名のある人形師の手による真品であると鑑定されれば、容易く、この数倍以上の値段で取引される事もあるのだ。そして、その値段でも、手に入れたい者がこの世には、いる。

 彼女、『フランシーヌ』と言う名の女性が作る人形など、正しくその類だった。
彼女の手がけたテディベアや操り人形(パペット)、腹話術人形などは、一番安いもので100万程の値段で取引されたが、この女性人形師の神髄は、自動人形に集約されている、
と言うのがその手の好事家の間で有名なのである。自動人形、つまるところは、オートマタと呼ばれる、西洋版のからくり人形の事である。
これが、大層な評判だった。受注は一切受け付けておらず、彼女が気まぐれに作った物を、本当の金持ちか本当のマニアにしか知られていない、
彼女の経営する小さなドールショップ、『真夜中のサーカス』にやはり気まぐれに展示される。値札もつけられず、ただ、ショーガラスの中で静かに動くその人形に、マニアは法外な値を付ける。その様子はある種のオークションの競り争いの様子に似ていて、つい最近売れた、リュートを弾く詩人の自動人形は、3300万の値段で落札された。

 何が、マニアを其処まで惹きつけるのか?
動きが良いと言う者がいる。生きた人間そのもののような滑らかな動きに魅せられ、衝動のままに買ってしまった収集家の言葉である。
顔が良いと言う者もいる。人形の命は一にも二にも、顔である。人形と言う器物でありながら、フランシーヌの作る人形は、命一つ吹き込まれたかのように、精彩と精髄が宿っていた。
同じ人形師で、どんな手品や魔法が掛けられてるのかが知りたいと語る同門の者もいる。内部のカラクリの様子を見て、ネジ一本、歯車一つとっても、自らの及ばぬ超絶の技術で作られていた事を知り、愕然の念を覚えてしまい、今もその人形師はスランプから脱し切れずにいる。

 彼女の手がけた人形を買った者は皆、値段以上の満足を得る。 
仕事で使う操り人形や腹話術の人形を購入した者は、今まで以上に仕事が円滑になったしお客も満足したと喜んでいた。
コレクション目的で購入したコレクター達は、コレクションの調和により深みが出て、完成度も増したと満足気だった。
その技術を盗もうとした人形師達は、幾らでも月謝を払うからその技術を教えて欲しいと懇願して来た。フランシーヌは丁重に、それは断ったが。

 誰も彼もが、彼女の人形を購入し、満足すると、こう思うのだ。
まるで彼女は――人形と言うものと心が通じ合え、人形と、言葉を喋れるかのようだと。だってそうじゃなければ、こんな人形、作れる筈もないじゃないか。
彼女はそう、人形を作る為にこの世に遣わされた、天性の人形師だと。誰かが評し、その言葉を誰もが、疑いもしなかったのである。

「……御戻りになられましたか」


171 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:54:02 arZxodoc0
 目の前に突如として現れた巨躯の男に、フランシーヌは驚いた様子もなく告げた。
純銀を糸状に伸ばして見せたような美しい、白銀の如き銀色の髪を長く伸ばした女性で、その顔立ちはゾッとする程美しく整っていた。
剃刀のように冷たくて鋭い、人間性の感じられない顔つき。彼女はチェアに座りながら、テーブルに広げた大きな紙にペンを走らせていた。
設計図だった。自動人形の、だ。フランシーヌの横には、灰色の髪と黄金色の髪を長く伸ばした、ドレスを纏った子供2人が佇んでいて、それを交互に眺めながら、紙の空白部分を埋めていた。

「精力的な事よな……。順調なのか? それは」

 良く通る声で、マントを羽織った大男が問うた。
フランシーヌのアトリエに、真の暗黒を落とす事なく薄明程度に留めている、蝋燭の弱い炎が、消え去らんばかりに揺らいだ。
人類が征服したと思い上がり、この世の片隅にまで追いやったのだと思い込む事で、太古の昔より続くその不滅性と永遠性、そして根源的な恐怖を忘れ去ろうとした、大いなる暗黒と宵闇。その具現たる巨人が発する威風に、炎ですらが、恐れたじろいだか。

「順調であるとは、言えません」

 羽ペンを置き、フランシーヌは言った。

「この人形を作りし方は、さぞや優れた方だったのだろうと思います。造詣は美の極致、身体つきは理想の少女のそれ。そして……歯車の音も発条(ぜんまい)の音も聞こえない。まるで、生きた人間から作られたよう」

「よく見ておるよ。お前は優れた人形師だ。私が保証してやろう」

「恐縮です」

 フランシーヌの周りに佇む、二体の人形。
即ち、カーマインとマジェンタと名付けられたこの自動人形は、彼女の言うように、正真正銘の生きた人間から作られた人形だった。
その事実に、憶測でも到達出来る存在がいるとは、と。この二体の人形の現状における主人は、内心で嘆息していた。

 ――きっと、彼女が。フランシーヌが、人間ではないから、気付けたのだろうと男は思った。
男は気づいていた。自らのマスターが、瞬きをしない事に。脈動の代わりに、纏うドレスのその下で、歯車と歯車がかみ合う音が、聞こえてくる事に。彼女は、人形だった。

「与えられたロールと、社会的な立場に則って、人形師の真似事をして……貴方の従える自動人形を模して作ろうとしましたが……。私の知る理の外なのでしょう、アプローチ出来ません」

 それもそうだ。
何せカーマインとマジェンタとは、大いなる闇の力をその身に宿す、太母リリスの血肉より創造された、生ける人形なのである。
歯車如何だ、螺子が如何だ、金属の管の配置が如何だ関節の駆動が如何だでは、到底生み出せない。魔性の業と、一人の女の妄執の結晶なのだ。
作れる筈がないのは当然だ。寧ろ、これを模した存在を、作ろうと思うその発想が、先ず出て来る事はない。男から見て、目の前のフランシーヌは、中々に面白い人形だった。

「それより、『プリテンダー』。貴方は何処で、何をされていたのですか? 貴方が何か威圧を放つ、気配を感じましたが」

「物盗りがやって来たのでな。我ら流の歓待で、出迎えたさ」

 その意味を理解しないフランシーヌではない。サーヴァントと、その主かを、葬った事を、その言葉は示唆していた

「真の吸血鬼は、己の領分を犯した者を許さない。道理ですね」

 フランシーヌはこの世界に呼び出される前……即ち、真夜中のサーカスの首領であった時代、誰もが連想するような吸血鬼そのもののイメージの人形を、作った事もある。
その時は確か、人間の著した書物を参考に、吸血鬼のパブリックイメージを優先して作った筈だ。
即ち、青白い肌に、ナイフの様に鋭くて大きい犬歯を持ち、黒いマントとタキシードを纏い、洗練された所作と慇懃な態度で相手に接し、それでいながら尊大さも兼ね備える。
そんな風なイメージで想像し、その自動人形もまた、嘗てのフランシーヌを笑わせようと、おどけて見せたり、劇を披露したりしていたか。

 プリテンダー……その真なる名を、『《伯爵》』と言うこのサーヴァントは、フランシーヌが、否。
この世界に住まう全ての人類が、吸血鬼と言われて想像する、全ての要素を完璧なまでに兼ね備えていた。


172 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:54:19 arZxodoc0
 人間では太刀打ちなど出来ようもないと一目で理解せしめる屈強な身体つき。語らずとも雄弁な、威風堂々としたその立ち居振る舞い。
嘗てこの世に産まれ落ちた如何なる諸王などよりもずっと威厳のある、整えられた髭が特徴的なその厳めしい貌(かんばせ)。
そして、夜の闇への恐怖から産まれた様々な異形や妖物全ての王であり、そして光の届かぬ絶対の暗黒を己の領土だと主張しても何一つ不足のない、絶対的な闇のカリスマ。
誰が疑いを挟もうものか。この男こそは、夜の覇種。人が瞼を閉じ、眠りて見ないようにする闇の現実の中を歩む者達全ての王。ドラキュラとは、正しく、この男の事ではないか。

「真の……吸血鬼、か……」

 フッ、と、《伯爵》は笑みを綻ばせた。我が身が背負いし、苦い過去。それに対して、呆れて、愛想を尽かせた。そんな、笑み。

「そうと呼ばれた事も、あるな。嵐とも、炎とも、雷とも形容された覚えもあるぞ。そして……斯様に扱われ、得意になっていた時期も、な」

「不服、なのですか? その認識は、正しい物かと存じますが」

「こうと言われた事がある。空っぽの存在、吸血鬼としての記号、張りぼて。……現実の何処にも居場所のない、夢幻」

 くつくつと、《伯爵》は笑った。今思い出しても、笑えるジョークや芸を思い出して、不意に、笑ってしまっているかのようだった。

「吸血鬼等と言う存在が、この世にいると思うか?」

「私の目には、映っております。誰の目にも明らかな、理想の吸血鬼が」

「『そうと作られただけのオートマタ』だと言われ、信じられるか?」

 眉を動かし、フランシーヌが反応した。
自動人形……? この男が? いやまさか……だが認識してしまえば……、こんな理想的に過ぎる存在が……。

「問おう、マスター。己の親を思い出せるか?」

「はい。我が造物主様は、白金(バイジン)……プラチナを意味する名を冠する、錬金術師で御座いました」

「重ねて問う。己が足跡を思い出せるか?」

「はい。造物主様は、笑みを浮かべられぬ私に失望し、私を御見捨てになられました。私は……あの御方に振り向いて……戻って来て貰いたくて、笑みを浮かべる為の旅を続けていました」

 語っていて、フランシーヌは、己を笑わせる為に心血を注ぎ続けてくれた、側近達の事を思い出す。
皆、自らを師として、女王として、神として認識し、絶対の忠誠を捧げていた者達だった。最古の四人……アルレッキーノやパンタローネ、コロンビーヌにドットーレ達は、
今も影武者のフランシーヌを笑わせようと暗闇の中で己の芸を磨き続けているのであろうか? 本物のフランシーヌは、あの世界にはいないと言うのに……今も健気に……?

「思いを馳せられる旅路があるようだな」 

 黙りこくり、己の歩んだ足跡を振り返っていたフランシーヌを、《伯爵》はその一言で現実に引き戻した。

「初めから理想足らんと創造された私には、過程も何もなかった。蓋しの当然よ。初めから完璧な存在として生まれたのなら、以降の物語になど如何程の厚みと熱が産まれようか。足りぬ者が苦難の末に至った話には、過程が生じ得るが、全てを得ていた者が産まれただけの話には過程など起こり得る筈がない。自然な話だ」

 今度は、《伯爵》の方が黙る番だった。やおら、と言うように、口を開く。

「我が破壊の痕跡から着想を得た物書きが記した、ドラキュラの話に曰く。吸血鬼は、輝ける曙光を一身に浴び滅びるのが定めだと言うではないか」

「ブラム・ストーカーの事ですか?」

「形は違えど、滅んだと言う結末は同じだった。其処までも……理想的な死に方だったと言う訳だ」

 ――運命が、お前を射止めた――

 ――おまえ自身が撒いた種を、俺が紡いだに過ぎない――

 ――運命は、幻想ではないのだから――

 己が心臓に刀と言う名前の墓碑を突き立てた、あの宿敵の言葉を《伯爵》は反芻する。
血塗られた《伯爵》の2000年の旅路に終止符を打ち、どんな者にも辛くて厳しくて、理不尽な上に、裁きをも下す現実の世界を、それでも生きて行こうと決意した、あの旅人……。
縛血者(にんげん)、鹿島杜志郎の姿が、克明に、彼の心に思い描かれた。

「……迂遠な言葉で、煙に撒く……。最早今の私は、これを好かぬ。我が思いを……直截に告げよう。……堪らなく、悔しいぞ」


173 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:54:35 arZxodoc0
 絞り出すように、《伯爵》は言った。
無意識のうちに、難解な語彙を用い、威圧的で、謎めいた言葉を口にして、人々を惑わせる。そんな、有り触れた吸血鬼像から余りにも乖離した、ストレートな言葉だった。

「あと一歩のところで勝利を逃す……と言うのは、こんなにも悔しくて悔しくて、堪らない物なのだなぁ……。こんな、当たり前の情動すら、知らなかったのだよ。マスター」

「勝つ事が、願いですか?」

「大願は別にある。だが、これを成就する上では、ああ、その通り。勝利の為に」

 始祖であるリリスの願い。勿論これを、《伯爵》は忘れていない。彼女のエゴの為の道具である、その運命を彼は受け入れている。
受け入れたのなら、後は歩むのみ。心臓を穿たれた吸血鬼は、滅びるのみ。宇宙開闢の折より定められた、死者は蘇らないと言う絶対の理。
未だかつて誰も覆した事がなく、そして、その絶対性に誰も意を唱えた事のない永久不変のこの天則は、《伯爵》であろうと逃れられない。
この天則からすらも、こうして《伯爵》は免れた。仮初の生なのは解っている。自らがこのような歪んだ形で蘇ったのは、皮肉な事に、自らが広めてしまった吸血鬼幻想のせいであろう。
それでも良い。蘇ったのなら、今度こそ、真っ直ぐに歩む。最早この身は、己の在り方に疑問すら覚える事が出来なかった愚者の身ではないのだ。今度と言う今度は、果てなく往くのみであった。

「大願……ですか。私にも、また」

「ほう。マスター……その身に鼓動のない娘、瞬き一つせず、この世の在り様を常に眺め続ける女よ。問おう、お前の願いとは?」

 カーマインとマジェンタ、二つの人形に目をやった後に、《伯爵》の方に目線を向け、一言。

「笑う事」

 告げた。

「笑う事が、人である事の証明。人になりたくてなりたくて、そうすれば、私を御認めにならなかった造物主様が戻って下さると思っていたから……何十年も、旅を続けた。……多くの人の、幸せを奪った」

 造物主と呼ばれ、崇められた事もある。アプ・チャーと言う側近は、フランシーヌの事を指して女神とすら認識していた事もある。
存在を疑ってはならぬ、自動人形にとってのレゾンデートルであり、現実世界に形をなした自動人形にとっての魂であると、最古の四人は考えていた。
そんな彼女の望みとは、果たして何だったのか。それは、世界の支配でもなければ神になる事でもなく、況して、人類の絶滅でもなかった。

 ――ただ、笑いたかった。それだけなのだ。笑えれば、自分は、人になるのではないか。
歯車の軋みが脈の代わり、金属の管を循環する生命の水が血潮の代替品、空気を循環させて呼吸の真似事をすると言う小賢しい小細工。
彼女に出来ない身体の動きはない。踊りも出来るし、新体操だってお手の物だ。ただ、笑う事、微笑む事が、フランシーヌには出来ない。
笑顔の素敵なフランシーヌ。彼女のモデルとなった人物は、弾けるような晴れやかな笑みが美しかったと、この人形を生み出した造物主は回顧し続けていた。
女神のような美しさを与えられた女は、しかして、その美しさをより一層際立たせる、最も簡単で確実な方法。人であれば子供ですら出来る、笑む、と言う行為だけをフランシーヌは剥奪されていた。

 女神の微笑みを射止める為に、多くの自動人形達が芸を磨いて来た。
お手玉、玉乗り、綱渡り。猛獣使いに猿回し、パントマイムに腹話術。ブランコ、物まね、演奏会。
人間が想起し得る、凡そあらゆる大道芸を、自動人形達は研究し、それを実行に移して来た。全ては、造物主たるフランシーヌの笑みを見たいが為。
そしてその全てに対し、彼女の表情は、不変。氷のような無表情を、保ち続けるだけであった。

 だから自動人形達は、語るも恐ろしい行動に出た。
フランシーヌは、恐らくは人類史上最後の錬金術師であったろう、白金の手自ら作られた至高の自動人形。人であれかしと作られた、最高の人型。
彼女以降の全ての自動人形は、所詮は彼女の後追いに過ぎない。どれだけ人に近づけようとも、精巧な人形の域を出ないのである。
だから、思った。人の心を理解していないから、自動人形たる我々は、フランシーヌ様を笑わせられないのだと。そうと思った彼らの後の行動は、迅速だった。
吸えば死ぬよりなお苦しい生を確約させる銀の煙を吐き散らし、彼らは世界を行脚した。自動人形の駆動に必要な疑似生命の水の劣化を防ぐ為に、人の生き血を啜った。

 女神を笑わせよう、笑わせようと懸命な努力を続けて来た自動人形達はその実、笑えない程に罪深い存在となり、天下の憎悪を一身に背負う怪物となり果て。
その自動人形を率いるフランシーヌの名を与えられたこの人形は、人々にとっては女神どころか、世界に災禍を振り撒く邪神同然の扱いとなってしまい――。
これでは、自らが笑う遥か以前の問題である。


174 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:55:00 arZxodoc0
「……愛すべき我が自動人形達の一生懸命で無為な努力を与えられる事にも、造物主様と同じ人間達から居場所と幸せを奪う事にも。私は、疲れてしまいました」

 陽の当たらぬ真夜中に、薄明かりの中で行うサーカスは、もう沢山だった。
その身の業の故に陽の光の下には最早歩く事は出来ず、生み出される血肉のない自動人形達は人々の生き血を啜り喰らい。
人の社会に寄生し、その社会を腐敗させ壊して行く、人間の形をした悍ましき何者か達。これではまるで――吸血鬼ではあるまいか。
その様な存在になりたくて、フランシーヌは、一念発起し旅を続けた訳じゃないのだ。

「笑いたいか?」

 《伯爵》が問う。

 フランシーヌが、首を振るう。横。

「笑えた……気がするのです」

「何?」

「私を見て、赤ん坊が、笑ったのです」

 フランシーヌの姿を見た者の誰もが、彼女の造形を見て、美しく思う。
その存在の真実を知った者の殆どが、彼女がこの地上にある事に恐怖し、また、憎悪し、滅びあれかしと強く祈った。

 クローグの村で、自らにフォークを突き刺して来た女の顔を、フランシーヌは思い出す。
憎悪と憤怒。そんな言葉で表現する事すら躊躇われる程の、負の激情を宿した瞳と表情だった。力み過ぎて、双眸から血の涙すら流さんばかりだったと回顧する。
誰も彼も、そのような顔でフランシーヌを見て来た。お前を破壊する、罪を贖え、父母兄妹の仇だ。その様な、呪詛が立ち上らんばかりの悪罵も幾度となく浴びせられてきた。
斯様な態度で応対される謂れについて、覚えがあるし、されて当然だとも思う。優しさと温かみのある対応をされる事から、最も遠くかけ離れた、罪そのものの人形だと言う事実に、嘘はない。

 そんな彼女に……あの赤ん坊は笑った。
嘲り、愚弄、蔑み……。その様な負の感情からくる笑みじゃない。
エレオノールは確かに、フランシーヌを象ったこの人形に、安心を覚え、許しの笑みを浮かべたのである。
狭く、薄暗く、ほの寒い、水の張られた井戸の中。不安と恐れを湧き立たせるあの井戸の中で、エレオノールは、フランシーヌに救いと庇護を求めた。
その発露が、あの、邪気もなく罪もない、純粋な笑みだった。エレオノールは、世界の憎しみを一身に受けるフランシーヌ人形に、安堵していたのだ。

「恐らく、我々は……人形とは……何処まで行っても、誰かの為にしか在る事を許されないのでしょう。自立し、独立する事が出来ない」

 自動人形の頂点たるフランシーヌですら、創造主である白金に依存していた。そしてその配下の自動人形もまた、フランシーヌと言う造物主に絶対の忠誠を誓っていた。
人形とは愛玩され、利用される為の物。存在の本質自体が、誰かに依拠する受動的な存在なのである。能動的に動いているように見えても、それも結局造物主の都合で施されたプログラムだ。
それで、良かったのだ。その事実を、もっと早くに受け止め、人形としての己の道を選ぶべきだったのだ。
見捨てられた事を諦めきれず、人間になろうなどと思い上がって見っともなく足掻いて……、結果辿り着いた真実が、造物主が己を見捨てたのだと言う事実を強く受け止めるだけだったなど……。

「罪深い我が身に向けられたあの笑みを見た時……。歯車の軋みは止み、我が身を循環する霊水に不思議な熱が帯びました」

「それを、笑みだと?」

「わかりません」

 フランシーヌは直ぐに答えた。

「わかりませんが……。恐らくは……」

「恐らくは?」

「『私の生涯で、あの瞬間こそが私が一番人に近づけた時』だったのでしょう」


175 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:55:20 arZxodoc0
 自動人形は熱を持たない。
身体のどこにも生身の部分がなく、翻って体温もまたない。そもそも、熱いとか冷たいと言う温度の変化を、感じる事すら出来ないのである。

 そんな身体であるのに、フランシーヌは確かにあの時、温かかった。
不快なぬくもりでは断じてなく、その仄かな温かさは、何時までもずっと、己の歯車に宿していたいと思える心地よさがあったのだ。
それはきっと……人間の言葉で言うのなら、いい気持ち、と呼ばれるべきものなのだろう。

「あの時私が笑えたのかどうか。それを確かめる術は、きっとないのでしょうが……。あの娘が私を見て笑ってくれた事と、最期に見た夜の星が、たまらなく綺麗だった事は、確かでした」

 「全て――」

「それでよしと、致します。私の一生に打たれたピリオドは、悪くはない、ものでしたから」

「願いは、あらぬか。マスター」

「今際に感じた情動をまた味わいたいと言う思いは真実ですが、此度は聖杯戦争。誰かを殺して奇跡が成されるのでしょう? 今更、誰かの怒りと憎悪を一身に受ける必要性を、私は感じません」

「だが私の願いは、誰かを殺さねば果たせぬよ」

「自らを指して、オートマタと仰りましたね、プリテンダー」

「その通り」

「自らもまたオートマタであるからこそ解ります。我々には、これぞ、と言うべき存在意義が必要です。己の行動を規範づける、黄金の法に縛られねばならないのです」

 自動人形は結局、誰かの為の被造物。
造物主であったり、それ以外の何者かに対して、何かを成す為のもの。それは奉仕する事であり、喜ばせる事でもあり、そして、人を傷つけ、殺める事でもある。
規範のない人形は、ただの人の形をしただけのもの。文字通り、ただの人を象っただけのモノに過ぎない。
モノと自動人形の境界線は、その形を人間のそれに象らせた意味が、あったかどうかに他ならない。この意味の否定は、アイデンティティの崩壊を越えて、自動人形の『死』である。
それを知悉するフランシーヌは、《伯爵》の願いを否定する事が出来ない。やめよ、と言っても、聞かぬだろう。ならば、止めない。

「貴方が歩む事を、敢えて止めはしません。ですが――」

「……」

「自らの滅びが来たと悟ったのならば、その現実を、静かに受け入れなさい。今となっては私も貴方も、世界にとっては……演目を終えた芸人でしか、ないのですから」

「……現実、か」

 瞑目し、《伯爵》は思う。
幻想の対義語として語られるこの言葉は、幻想などよりも余程大きくて恐ろしい。
現実とは言ってしまえば、巨大なベン図のようなもの。その中に於いては《伯爵》ですらが、現実の巨大で広大なベン図の中に存在する事を許された、ちっぽけな集合。居候でしかない。
現実の潔癖さ、無情さ、苛烈さ、残酷さ、峻厳さ……。何よりもその、応報のシステムの、完成度の高さ。《伯爵》も、フランシーヌも。それを、痛い程思い知らされている。
彼は既に、現実が織りなす、運命と呼ばれるものに射貫かれて、役目を終えている。現実は、死の淵に堕ちた者が蘇る事に、意義を唱えるもの。
自由なのは今だけだろう。2度目の『運命』が来るのは、近いか遠いか。この、違いでしかなかろう。

「よく、知っているとも。その時の、身の振り方はな」

 牙を見せて、《伯爵》は笑った。苦笑い、と言う風に、フランシーヌには見えた。

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176 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:55:48 arZxodoc0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『これが、井戸の中に溶けて消えた自動人形(オートマタ)の女と、現実の刃に心の臓を穿たれ消えた吸血鬼(オートマタ)の出会いの一幕』



『観客もいないテントの暗闇の中で配下の芸を見続けた女は、何の因果か、夜の帳の中に蠢いては母の大願の為に跳梁していた道具の男を召喚したのでございます』



『これは果たして、運命の女神の気まぐれか。地獄の機械の思し召しか。いやさ、因果の糸車が狂ったか』



『さても奇妙なこの演目、敢えて名付けるのであれば、【吸血鬼伝承(からくりサーカス)】とでも言うべきでしょうか』



『血を吸う自動人形達の首魁であった女の下、血を吸う鬼そのものたる男が、何を見、何処へ歩もうとするのか。それは次回のお愉しみと致しましょう』



『それでは――一時、閉幕となりまする』



【クラス】

プリテンダー

【真名】

《伯爵》、もとい、『吸血鬼(オートマタ)』@Vermilion -Bind of Blood-

【ステータス】

筋力A+ 耐久A++ 敏捷B 魔力A+ 幸運D 宝具A

【属性】

混沌・善

【クラススキル】

対人理:A
人類が生み出すもの、人類に有利に働く法則、その全てに『待った』をかける力。本来は『クラス・ビースト』が持つスキル。
始まりの男女である、女・リリスの血肉より生まれたプリテンダーは、リリスの悲願である所の、嘗ての力ある太母としての姿を取り戻す事と、
その力によって新たなる種を地に満たさせると言う使命を実行する存在である。現生人類を駆逐する新種族の創造は、人理の焼却や地球の白紙化とは全く形を異にする人理の破壊。
その方法が人理にとってどれだけのダメージを与えるのか、そしてその方法が達成可能なのかを加味してランクは上下し、ランクAはその可能性が極めて高い事を意味する。
純然たる人間の英霊及び、人間に利する理念の持ち主、人類の奉仕者に対する特攻効果及び、行動の達成値に上方修正が掛かるものとする。

【保有スキル】

吸血鬼(真にして偽):EX
吸血鬼であるかどうか。高ければ高ければそれは吸血鬼としての格が高まって行く事を意味するが、同時に、正統な英霊からは遠ざかる。
プリテンダーのランクEXとは、絶対性と規格外の双方を意味するEXであり、そもそもの話、プリテンダーは吸血鬼ではなく、『全ての者が抱く絶対の理想像としての吸血鬼』、と言う名目の下リリスによって創造された『ホムンクルス或いはゴーレム、オートマタ』に類する存在である。

 その威厳ある振る舞いと姿、謎めきつつも確かかつ高度な知性を秘めた言の葉、そしてヴァンパイアをヴァンパイア足らしめる超常の力の数々。
これは誰もが思い描く、銀幕(ムービー)や古典(クラシック)の中でのみの存在としか思えない、理想的かつ完璧な吸血鬼。この意味でプリテンダーは絶対の吸血鬼である。
だが、先述の通りプリテンダーは吸血鬼と言う生物ではなく、絶対・完璧・理想的、をモットーとして作られた吸血鬼に似た何かである。この意味でプリテンダーは、吸血鬼の規格の外に君臨する何者かである。

 超高ランクの怪力や、催眠による魅了、再生を兼ね備えた複合スキルであり、特に再生については、脳や頭蓋を伴う頭部の欠損ですら、数秒の内に成立させる恐るべき力を持つ。
勿論、吸血鬼の代表的な力である、噛む事による下僕の創造並びに、自身と同じような吸血鬼の創造も可能となっている。但し吸血鬼の創造については、魔力を多分に消費する。
但し、サーヴァントとしての顕現により、プリテンダーは『理想的な吸血鬼と言う側面に縛られての召喚』となっており、『万人が想起する吸血鬼の弱点もそのまま』の形となっている。
陽光の下での戦闘を行えば全てのステータスはワンランクダウンするし、ニンニクや銀に対しては特攻ダメージを得るし、流れ水の上は渡れないなど、弱点についても理想の形になってしまった。
また、上述の理想的な吸血鬼の側面は、その姿を見られても発動し、具体的には目にした者はプリテンダーを『吸血鬼』であると認識するようになってしまう。

戦闘続行:A
吸血鬼の持つ不死性と再生性による恐るべきタフネス。霊核に損傷を負った状態ですら戦闘を継続する事が出来、それどころか下手な瑕疵では霊核が再生する。

対魔力:A+
A+以下の魔術は全てキャンセル。事実上、魔術ではプリテンダーに傷をつけられない。
2000年以上の時を経るプリテンダーの対魔力は最高クラスのそれであるが、上述の様に、吸血鬼の弱点として想起され得る属性の攻撃については、ダメージを負う。


177 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:56:27 arZxodoc0
カリスマ:A---
大軍団を指揮する天性の才能。Aランクはおおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望。精神耐性がない場合、攻撃をする事に支障を来たす程の、精神的な威圧を相手は受ける事となる。
創造主である始祖リリスによって、最高の吸血鬼あれかしと作られたプリテンダーは、生誕の折より他を跪かせるカリスマを会得していた。
だがこれは言うなれば、『そのカリスマを得るにあたったエピソードが存在せず、厚みも何もない張りぼて』である事をも意味する。プリテンダーの本質的な薄っぺらさを理解した瞬間、このスキルの効果は消滅する。

新雪の野:EX
――だがプリテンダーは、己のチープさを、誰よりも理解しているし、受け入れている。
自分が母のエゴによって生み出された自動人形であり、自らが会得していたと認識していたあらゆる力はその実与えられたものに過ぎず。
所詮は単なる張りぼてであり、他者が羨むような圧倒的な王者ではない。その事を受け入れたプリテンダーが、新たに獲得したスキル。
自分には何もないのなら、其処から新たに始めればいい、歩めば良い。母が己に願いを託したのなら、それを叶えてやればいい。
己の滑稽さと無様な生い立ちを受け入れたプリテンダーには精神攻撃の類が一切効かない。それによって心が惑わされる段階を、卒業しているからである。
またアサシンは戦闘の時間が長引けば長引く程、その戦闘時に於いてのステータスが向上して行き、更に生前の、『自分の人生において苦戦や挫折がなかったが故に敗北した』、
と言う逸話をもプリテンダーは受け入れており、『自分と互角に近い実力の相手との戦闘に勝利するか、苦戦を強いられたがその戦いを中断する』と言うどちらかの条件を満たした場合、
その条件達成以降の全ての戦いに於いて、上述のステータスの向上効果及び戦闘続行のスキルランクが跳ね上がる。

 純然たる幻想の住民、万民が理想とする吸血鬼でありながら、それに至るまでの過程がなにもない。
苦難も挫折も後悔も、怒りも悲しみも喜びもなく、理想の吸血鬼としてあり続け、その実、己の価値がそれしかなかった事を克服したプリテンダーだからこそ、得られるスキル。

 克服したと言えば聞こえはいいが、まぁぶっちゃけ、究極の開きなおりである。

【宝具】

『吸血神承(ドラキュラ)』
ランク:A+ 種別:対軍〜対国宝具 レンジ:10〜 最大補足:100〜
本来、プリテンダーのいた世界に於ける、吸血衝動を保有する人間。即ち、縛血者と呼ばれた者達は、その全てが、一切の例外なく特殊な能力、『異能(ギフト)』を有していた。
この宝具はプリテンダーの持つ異能が宝具となったもの――ではなく。プリテンダーが持つ生態現象そのものが、宝具として登録されたもの。プリテンダー自体は、異能を持たない。

 その能力の本質は、魂を吸い上げる事にある。言ってしまえば、魂喰いのウルトラ上位版の宝具である。
発動した瞬間プリテンダーを中心に、ありとあらゆるエナジーが吸い取られて行く。範囲内に存在するサーヴァントや人間、動物の類は勿論、
樹木や建造物、果ては大地ですらもエナジーを吸い取られて行く。このエナジーとは即ち、魂だとかソウルだとか呼ばれるものとニアリー・イコールである。
エナジーを吸い取られた存在は、極熱と極寒に同時に苛まれる感覚を覚え、重度の火傷と凍傷による痛みに似た感覚に苦しむ間に、エナジーを吸いつくされ死に至る。
有機物であればそのままこと切れるだけで終るが、建造物や大地等の無機物の場合は、存在を構築する為に必要な活力まで吸い取られているのか、そのまま崩壊の未来を辿る。
防御手段は神性並びに粛清防御、そして何よりも魂を吸い上げられてもまだ動こうと言う強い意志力によってのみでしか行われず、それらの手段を用意したとて、
吸い尽くされる時間を遅れさせる事しか出来ず、完全な無効化は出来ない。生前に於いては、この能力はそもそも能力ですらなく、呼吸や鼓動と同じレベルの、
プリテンダーにとっては基本となる生態現象であり、一度発動してしまえば能力の持ち主であるプリテンダーですら、能力のオフが不可能になってしまう程『だった』。
サーヴァントとして召喚され、宝具に登録された今では、出力の調整及びオフが効くようになり、吸血神承を纏わせた拳足で攻撃をも行える、と言うメリットまで得るようになった。


178 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:56:52 arZxodoc0
 極めて強力な宝具であるが、弱点もある。
この宝具による魂喰いは本当に無差別であり、出力の調整は出来るが、『任意の相手のエナジーのみ吸収する、しない』と言う調整は不可能。
その為、範囲内にマスターがいるのなら問答無用でマスターもエナジーを吸い取られ死亡する。
次に、後述の宝具により当該宝具によって、出力を更に向上させる事が出来るのだが、この方法を用いて出力を上げた場合、上述の『出力調整』と言うメリットが消滅。
常に最大範囲で宝具が発動し続けると言うデメリットを負う事になる。そして極めつけに――この宝具はプリテンダーの大願である、リリスの夢を叶える為の宝具なのであり、
『吸い取った魂魄を己の活動魔力に変換する事が出来ない』。つまり事実上この宝具には、魔力回復の機能などなく、『魂に対しての特攻宝具』以上の域は出ない事になる。

 生前プリテンダーを討ち取った人物に曰く、天に生じた虚空の孔。有象無象を喰らい尽くす重力崩壊そのもの。
“焼却”と“略奪”の融合。魂という心血を啜るこれはまさしく鬼の魔業。存在するだけで命を奈落の祭壇へ召し上げる、まさに、魂をも啜り尽くすソウルイーターの宝具である。

『永劫の紅、不滅の緋(リリス・オートマータ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
柩の乙女。プリテンダーのみが支配し、命令可能な二体の少女。ストレートの銀髪のロングヘアの少女がカーマイン、ウェーブのかかった金髪のロングヘアの少女がマジェンタである。
その正体は原初の人類であるリリスの肉体から作られた一種の自動人形であり、プリテンダー自身もまた、リリスによって作られた自動人形に該当する。
現生人類の大本である人物の肉体から作られたこの宝具は、表記不能・規格外の宝具であり、ランクEXとはその通りの事を指している。

この宝具の効果は、大別して3つ。

一つ目はスタンドアローン性。
カーマインとマジェンタは単体で、『筋力C 耐久A++ 敏捷B 魔力A+ 幸運D、単独行動:A+ 催眠術:A 再生:A++』相当のステータスを持った、
プリテンダーの意志によってのみ動く使い魔のような存在であり、この高い単独行動スキルにより、プリテンダーから遠く離れていてもステータスを損なう事無く戦闘が可能になる。
催眠能力については凄まじいものがあり、生半可な精神防御スキルと意志力であればこれを貫いて、意思を奪われてしまう程である。
だが真に恐るべきはその再生能力。元が始祖リリスと言う埒外・規格外の存在の肉体を根源とする物の為か、同一の神秘を内在した宝具による攻撃でなければ、
傷一つ負わせる事すら困難であり、よしんば破壊し、損壊させたとしても、即座に再生してしまう程。首を刎ねられる事は元より、灰の状態からですら復活してしまう。
また、カーマインとマジェンタの見聞きしたものは、プリテンダーも知覚する事が出来、遠く離れていても手に取る様に解る。

二つ目は、裁定者(テスタメント)と呼ばれる存在の創造。彼女らに噛まれ、血を吸われた人間は、裁定者と呼ばれる、全体的に人間の姿を保った異形の怪物に変貌する。
裁定者は、『筋力B 耐久A 敏捷B+ 魔力D 幸運E、単独行動:B 対魔力C+ 再生:B 怪力C』相当のステータスを持った存在として機能し、カーマインとマジェンタ、及び、
プリテンダーの命令にのみ従う意思のない使い魔である。極めて発達した筋力による暴力は勿論、身体の内部から骨を突き出させ、それをミサイル染みた勢いで放つ、と言う芸当も可能。
裁定者化は本来、縛血者と呼ばれる存在達がカーマインとマジェンタに噛まれる事でしか変貌しえないのだが、
宝具として彼女らが登録された事により、範囲が広範化。特殊な防御スキルや宝具を持たないのであれば、NPCは当然の事、マスターやサーヴァントですら、裁定者になり得るようになった。
但し、この裁定者化の広範化は、『生み出される裁定者の基本スキルの劣化』と言う欠点を孕んでおり、具体的には、上述のステータスとは、平均レベルの戦闘能力の持ち主が、
裁定者になった時のステータスであり、そもそも何らの戦闘能力を有さないNPCが裁定者になった場合、一山幾らの雑魚と化す。
逆に言えば、これらの欠点は、『極めて戦闘能力の高い存在が裁定者になれば帳消しになる』のであり、元の存在が強ければ強い程上述のカタログスペック以上の強さをも発揮する。


179 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:57:20 arZxodoc0
そして三つめは、プリテンダーそのものの強化。厳密に言えばこの使い方こそが、当該宝具の真の目的である。
この宝具は始祖リリスの身体を分割する事によって作られた自動人形の事であり、カーマインはリリスの脊柱で作られた魔聖槍、マジェンタは皮膚から作られた魔聖骸布に当たる。
この宝具をプリテンダーが取り込むという事は即ち、始祖リリスの力に限りなく近づく事を意味し、その恩恵は単純なステータスの向上と言う形では勿論の事、
第一宝具である吸血神承の威力・範囲の激増と言う形を以て現れる。但し、この三つ目の使い方を行った場合、当該宝具は消滅するだけでなく、
プリテンダーの第一宝具は常時発動しっぱなしの状態になる為、魔力の燃費と言う観点では最悪を極めるものとなる。当該聖杯戦争に於いてこの使い方を実行する事が意味するのは、自爆、道連れ、悪あがき、である。

 当該宝具にはもう一体、プリテンダーが切り札としていたスカーレットと呼ばれる第三の自動人形、リリスの頭蓋骨から作られた魔聖杯を担当する者がいたのだが、
現在はスカーレットから離反を受けている為、彼女に限ってはどの聖杯戦争に於いても持ち込む事は不可能。また翻って、プリテンダーが全ての魔神器を吸収して、完全体に至る事も出来ない。

【weapon】

右手のガントレット:
プリテンダーの右腕に装備されているガントレット。
これによって防御は勿論、攻撃の威力の向上も図っているのだが、そもそもプリテンダーの攻撃はガントレットを装備しようがしていまいが、
あり得ない威力を誇る為、大抵のサーヴァントからしてみれば、元より即死級の威力の攻撃になんかダメージが上乗せされてるな位の感覚でしかない。多分オシャレみたいな感じで付けてるんじゃね?

【人物背景】

 何? 私に《伯爵》の説明をしてほしいだと……? クク……面白い事を言うな。
お前のような態度の人間、路傍の石の様に蹴散らして殺してやろうかと思ったが、私に《伯爵》の事を尋ねるとは、誰から聞いたかは知らないが、わかっているじゃないか。
良いだろう、興が乗ったぞ。私と、あの御方の関係について、話をしてやろう。おっと、直ぐに終わると思うな? 夜が更け……日が昇りて沈み行き、次の月がまだ沈んだとて、まだ話が終わってないのかもしれないのだからな。

 あの御方を指して、嵐と呼ぶ者がいる。とある地を亡者で埋め尽くし我が王国を建てようとした血族の前に現れ、その首を刎ねて断罪し、風の様に去って行ったからだ。
あの御方を指して、炎と呼ぶ者もいる。とある国家同士を陰で操り栄耀栄華を貪る血族達を、容易く滅ぼし再び闇の中に潜ったからさ。
あの御方を指して、雷と呼ぶ者は多い。とある城を美しい乙女の血で染める血族を、その愚かしい狂気と共に地獄の奈落に叩き落したのだ。
血族とは即ち、血を吸う鬼の事。己の事を選ばれたもの、不死の命を誇り、永遠の絶頂を味わい続ける夜の魔人だと気取る者達、与えられた薔薇の心臓に欲望の汚泥を塗りたくる者達に、
何処からともなく現れては裁きを下す、荒ぶる神であるのだと。有象無象の小童共は思っているよ。いや、年若い若輩共に至っては、存在そのものを信じていないのだ。
御伽噺(フェアリー・テイル)、ブギー・マンの類だとすら、決め込んでいるのではないか? 愚かしい、あの御方の偉大さ、高貴さ、恐ろしさ。それらを認識したその瞬間、彼奴等は恥じ入りては自ら灰になる事を選ぼうな。

 あの御方……《伯爵》は、実在されるのだ。私は、あの御方の御目に適い、慈悲を賜り、救われた。
最早生まれ故郷の名すら思い出せぬあの村で、嘲りと蔑みを受け、生きる事に絶望していたこの身に、夜の世界の美しさと、奔放に振舞う事の面白さ。
そして、絶対的な存在に仕える事は、この世のあらゆる快楽に勝る至上の福音を得られるのだ、と言う事を教えて下すったのだ!!

 《伯爵》の為であるのなら、私は何でもできる。
不肖の娘だと言われても、誇らしかった。私にはまだ、あの御方の御目に適う余地があるのだと。成長できる伸びしろがあるのだと、法悦に酔えた。
永遠に、《伯爵》に仕え続けられると思ったのに。女として彼を愛し、男として友誼を交わし続けると誓ったのに!! 私に生きる事の喜びを与えるだけ与えた彼は、夏の嵐の様に消えて行った。


180 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:57:36 arZxodoc0
 そうだ、私の数百年は全てあの御方との再会を願う為の旅路であったのだ。
《伯爵》と言う、星明かりなき夜空を逍遥する旅人の頭上に輝く暗黒の太陽、輝ける月を探し求める、足掻きの過去であったのだ。
久闊を叙する、と言う言葉では尚足りぬ程の年月を費やし、漸く出会えて見れば、私の中の太陽である御方は、当の昔に死んだ女のエゴの為の道具で――?
あああああああああああああああああああああふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな《伯爵》はそんな御方ではない!!
何だお前は過去の女であろう死んだのであろう消えたのであろう己の無力を《伯爵》に転嫁して隠れたのであろうふざけるなこの敗北者が私だ私の方があの御方の為に何百年も魂を燃やし続けた私の方があの御方の右に或いは後ろで傅く事を許される唯一の存在なのだそれを貴様《伯爵》の造物主であるからと言うだけの理由であの御方を独占するばかりか死ねとまで言うのかふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけ

 ――文責、ジョージ・ゴードン・バイロン ドン・ジュアン
 
【サーヴァントとしての願い】

母の理想を叶えよう



【マスター】

フランシーヌ人形@からくりサーカス

【マスターとしての願い】

エレオノールが自分に笑いを向けた時、自分が何をしていたのかを知りたい。そして、あの時のいい気持ちと温かさをまた、味わいたい

【weapon】

【能力・技能】

自動人形:
フランシーヌは人間ではない。人間そのものとしか思えない程、見事な動きを披露するからくり人形なのである。
普段は高価な衣服を着て本質を隠してはいるが、その服を脱げば、歯車と鉄管で構築された、からくり人形としての駆動部が露わになる。
また、通常の運動能力と言う面でも、他の自動人形からは隔絶しており、フランシーヌは自動人形の中で最も美しい人形であると同時に、最も強い人形でもある。
だが今は、才賀正二によって施された改造により、自動人形の中でも最高峰の運動能力と戦闘能力は最低の値にまで低下されており、単純な戦闘と言う面では最弱の部類にまで落ち込んでいる。

生命の水:
アクア・ウイタエ。フランシーヌは造物主である白金(バイジン)によって、生命の水を利用して作られた唯一の自動人形である。
服用すれば、常人の1年分の身体の成長や老化には5年かかる・夜はほとんど眠らずに済む・傷の再生が目に見えるほど早い・髪と瞳の色が銀色に変化する、等と言った特徴を得る。

錬金術・人形作成能力:
卓越している。特に人形作成能力については、材料次第では戦闘力を秘めた自動人形ですら今でも作成が可能な程である。

【人物背景】

べろべろ、ばあ。


退場後からの参戦。

【方針】

正二やアンジェリーナ、エレオノールにギィ達に悪い為、聖杯戦争のモチベーションは低い

【人物関係】

《伯爵》→フランシーヌ:
よくできた人形。人形が人形を召喚するなど……、と言う皮肉には内心苦笑いしている。

《伯爵》→柩の娘達:
宝具。だが実際上は、《伯爵》もまた、用途こそ違えど、本質的には柩の娘達と同じ自動人形なのである。カーマインがいない事については、その理由を理解している。

フランシーヌ→《伯爵》:
願いを否定する事はないが、散り際は潔くして下さい。

フランシーヌ→柩の娘達:
彼女らを作った人は、下手をすれば造物主である白金様よりも優れた人形師なのかも知れない……、と思っている。まさか動力源が生身の人間の皮膚や脊柱であるとは夢にも思うまい。

文責の女→《伯爵》:
愛しい人。そして、私を産み、摘んでくれた人。英霊の座からその活躍見守っております

文責の女→柩の娘達:
嘗て《伯爵》より下賜された自動人形。《伯爵》が与えてくれたと言う事実に舞い上がり、愛でてもいたが、その真の利用目的を知っている為その思いは反転。本当に壊しておけば良かったと後悔している

文責の女→泥棒猫:
ふざけるな!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!《伯爵》の『マスター』だと!?!!!!?!!!不敬であるぞ木偶人形が殺して殺る!!!!!!!!816!!!!!!!!


181 : 薔薇煙のサーカス ◆zzpohGTsas :2022/07/02(土) 00:57:46 arZxodoc0
投下を終了します


182 : ◆ruUfluZk5M :2022/07/02(土) 02:23:49 r.taQpjc0
投下します。


183 : 殿堂入り・麦 ◆ruUfluZk5M :2022/07/02(土) 02:25:37 r.taQpjc0
「今の世のサイダーはうまいのう。みんなにも飲ませてやりたかったのう」
 粗野にも思える少年が路上で炭酸飲料を飲んでいた。ボロボロの学生帽に、まくられた腕。冬だと言うのに、路上に腰を下ろして気にも留めない。
 まばらに路上を通る人はいぶかしむが、やはり少年はその視線を気にするでなく、サイダーを飲んでいる。
 いたたまれないのは、少年のマスターとも言える男の方だった。

 ある種の助手とも言える、ある見知った女性のバックアップも得られず、この少年……サーヴァント、サバイバーとただふたりで怪しげな異界とも呼べるこの東京を戦い抜かなくてはならない。
 しかも、召喚して以来このサーヴァントは一切の命令を聞かないのだ。おかげで主従そろって住所不定の無職に近い立場と来た。
 準備もおじゃんで、足並みもそろわない。

 だいたいが自分は第四次聖杯戦争に居たはずだ。
 それがなぜこんな意味不明な場所に呼ばれ、こうも凄まじいサーヴァントを相棒とせねばならないのか。
 衛宮切嗣は少年に戸惑いの目を向けた。本来なら怒鳴ってやりたいところだが、このサーヴァントが相手ではそうもいかなかった。

 だが、手札がこの少年である以上、彼は目的のために聖杯戦争を遂行せねばならない。サイダーの瓶を逆さにして、底からしずくを一滴も逃さんとしているサーヴァントに向かい、切嗣は命じた。いや……命じようとして、口を開いた。
「サ、サバイバー」
 その声はどこか上ずっていた。
「僕たちもやるべきことをやらなくてはならない」
「ほうか」
 サバイバーの視線に射すくめられ、切嗣は言葉に詰まる。
「戦争か」
「あ……ああ」
「戦争か。アホなことしちょるのぅ……戦争なんぞ、ワシは許せん」
 衛宮切嗣はそのセリフに返す言葉を持たない。そのフレーズ自体は、単体なら同意すらできる。

 ただ生き延びた者。生き抜いただけの者。間違いなく聖杯戦争におけるサーヴァントとしては「ハズレ」に該当する。
 しかし、どのような華美な英霊、最強の英雄よりも、このみすぼらしい学生帽を被った禿頭の少年こそが、切嗣にとっては畏怖に値する存在だった。


184 : 殿堂入り・麦 ◆ruUfluZk5M :2022/07/02(土) 02:28:26 r.taQpjc0
 その名は元。中岡、元。

「人の住む土地で戦争ごっこするばかたれどもがっ!!! こんなことしとる暇があるかっ!」
 まだ成人にもならん若者だと言うのに、その言葉にはおそろしい凄みがあった。
 完全なる一般人でありながら、核攻撃から生き延びた経験者。
 この少年に自分が戦争の醜さを吐き捨てるなどと、釈迦に説法であろう。

「だが……この世界は恐らく魔術的に作られた異空間で、周囲の人間も偽の」
「なにがマジュツじゃっシゴウたるぞっ」
 一喝される。微妙に耳慣れない広島弁が切嗣からすると余計に困惑するものがあった。だが、自分とて聖杯戦争に賭けているのだ。退くわけにはいかない。
「しかし、聖杯さえあれば世界が平和に……戦争を根絶することも不可能では」
 同じく戦乱の被害者と言う属性を持つ相手からか、咄嗟に切嗣の目的が口に出た。決して嘘やごまかしではない、必死で追い求める目的が。
 が、その言葉もサバイバーにとってはただの妄言と変わりない。

「こんな胡散臭い場所でしょうもない人殺しをやって世界が平和になるかっばかたれっ、とんでもないインチキにすがるなっ! 戦争が終わった頃にはのう、突拍子もないものに頼る人間なんぞ山ほど見てきた。それを利用してだます人間も山ほどおったわ!!」

 根拠は無いが、しかし何か核心を突いたような言葉だった。
 張り詰めたように間が空く。ちょうど路上に人は居ないタイミングだったが、居たところで重苦しい空気にショックで棒立ちとなっていただろう。
 ひとしきり怒鳴って落ち着いたのか、元もいくらか声のトーンを落とす。
「わしだけがつらかったとは言わんけぇの」
 それは、断片的に感じられた切嗣の過去を鑑みた言葉であろう。

「難しいことはわからんが、おどれにもつらいことがあったこと程度はわかる。じゃがのう、つらいことがあればすがった怪しいものが本物になるんかのう。何をやってもつらかったから上手くいくと。ザンコクなことをすれば結果がついてくると。そんなに世の中っちゅうもんは甘かったかのう?」
 主従のお互いが理屈を知っているわけではないが。それは例えるのならコンコルド効果にも似たものではないかと言う大意は切嗣にもわかった。今さら退けぬということが、本当に意味ある行動であるという理由になるのかと。

「じゃあ……今さら、どうしろというんだ」
「決まっとるわい」
 切嗣の質問に対し、中岡元は立ち上がって言い放った。
「こんな戦争に乗るばかたれ共はみんな下駄でひっぱたいたるわいっ! 行くぞっキリツグッ!」
 そう言って風を切って歩く元に対し、令呪を使おうかと思い……切嗣は、止めて後ろをとぼとぼと付いていった。
 あの半生を送った立場で、それでもなお己の矜持を貫いて最後まで生き抜いた者を、止められるわけがないのだから。

 衛宮切嗣は堂々と歩いていくサバイバーの背を見て呟く。
「ゲン。君だって戦争によるおぞましい光景は山ほど見たはずだ。己の無力さを知り、友も、恋する人も、家族すら犠牲になったはずだ。なんで、なんでそれでも君は」
 そんなに強く生きられるんだ。


185 : 殿堂入り・麦 ◆ruUfluZk5M :2022/07/02(土) 02:29:33 r.taQpjc0
【クラス】
 サバイバー
【真名】
 中岡元@はだしのゲン
【パラメータ】
筋力D 耐久E++++ 敏捷C 魔力E 幸運EX 宝具EX
【クラス別スキル】
生存続行:EX
 戦闘続行の亜種。異能や頑強さとも違ういかなる場合でも生き抜くという生存能力、適応能力。

【保有スキル】
喧嘩殺法:B
 乱戦、脅し、ブラフ、なんでもありの野生の戦闘技術。

【宝具】
『麦のように強く』
 ランク:EX 種別:対運命宝具 レンジ:- 最大補足:-
 サバイバーが託された願い、生きたいという無念、貫いてきた意志の半生が宝具となった結晶。
 生きようとする意志がある限りサバイバーはいかなる環境、戦局においても生き抜き、令呪であろうとその一切の意志を縛られることはない。運命と戦乱に抗う生の宝具。
 この宝具によりサバイバーの幸運は高い低いではなく評価のしようがないためEXとなっている。

【人物背景】
 原爆を投下された広島在住の少年。家族を失い、生きるためにあらゆる手段に走り友を得て、恋を知り、そしてまた失いながらも自立しただの人として生き抜いていった。
【サーヴァントとしての願い】
 なにが聖杯戦争じゃっおどれらチンポさかむけにしたるぞ!!

【マスター】
 衛宮切嗣@Fate/Zero
【マスターとしての願い】
 世界平和。
【能力・技能】
 高い暗殺能力。起源を暴走させ相手の魔術回路をショートさせる起源弾。
【人物背景】
 幼少時に父の魔術的実験の事故で住んでいた島が全滅した過去を持つ。その直後、魔術師の父を殺害。
 別の女性の元で育つが、その育ての親とも言える女性が乗った飛行機を広域汚染を防ぐため爆殺する。
 そして戦地に魔術使いの殺し屋として介入し続け魔術師殺しとしての異名が定着するも、第四次聖杯戦争に際し聖杯戦争の製作者、アインツベルンの一族にその殺しの腕を依頼され、聖杯の力による恒久的世界平和をもたらすため了承し参加。
 表向きは妻となったアインツベルンの女性アイリスフィールを唯一無二のマスターと見せかけ、自身は本当のマスターとして己のサーヴァントであるセイバーの意見を無視し続け暗躍する。
【方針】
 サーヴァントを……このサーヴァントを……ど、どうすればいいんだ。


186 : ◆ruUfluZk5M :2022/07/02(土) 02:30:04 r.taQpjc0
投下終了です。


187 : ◆As6lpa2ikE :2022/07/02(土) 07:41:37 zlsL3rZg0
過去に箱庭聖杯に投下した候補作に修正を加えたものを投下します。


188 : 英雄と魔法少女! 友達100人できるかな ◆As6lpa2ikE :2022/07/02(土) 07:43:19 zlsL3rZg0
0

あまりに高度な科学は、魔法と区別が付かない。
では、あまりに高度な魔法は……?


189 : 英雄と魔法少女! 友達100人できるかな ◆As6lpa2ikE :2022/07/02(土) 07:44:03 zlsL3rZg0
1

「魔法少女、と聞くと、夢と希望に満ちた、華々しい存在だとイメージするかもしれません。実際、私もそんな空想を抱いていた一人でした。魔法少女ってすごい、魔法少女って憧れる――という風に」

だから。
本物の魔法少女になれた時はとても嬉しかったですね――と、学生服風の衣装を身に纏い、椅子に腰掛けている少女は、口元を緩め、微笑むような顔で言った。
豪奢な木製の机を隔てて、少女の向かいの椅子に座っている少年――『地球撲滅軍』の新設部署、空挺部隊の隊長にして、十四歳の若き英雄、空々空は、会話に出てきた魔法少女というあまりにも非現実的な言葉に対して驚──かなかった。
何もこのノーリアクションは、空々が感情を持たず、驚く感性が無いからということだけが原因ではない。
単に彼は、魔法少女という存在に慣れているのだ。
なんなら一度、魔法少女になってすらいる。
正確には魔法少女の魔法のコスチュームを着ただけだけれども、それでも、魔法の力を体験し、使用した事はあるのだ。

(むしろ驚く所は、あんなフリフリのコスチュームを着ていなくても魔法少女って所かな……)

そう考えつつ、ふと、かつて四国で出会った魔法少女達を順に思い出す――が、黒髪シニョンの華奢な馬鹿が脳裏に浮かんだ途端、それを打ち切った。
ともあれ、あんな着る事自体が罰ゲームみたいなドギツい衣装を着なくとも、目の前の少女が着ているような学生服風の衣装(あくまで学生服『風』であり、それに施されたアレンジはコスプレじみてて多少目立つけれども)で魔法少女になれるというのは、空々にとって初耳であった。
いや、たしか、この少女の場合、魔法少女になるにあたって重要なのは、衣装では無いのか?

「魔法少女になったばかりの私は、夢が叶った喜びのままに、しかし得た力を私利私欲で使いはせず、色んな人の役に立つべく活動しました。側溝に落ちた車を戻したり、無くした鍵を探したり、あとは……」

まあ、要するに、彼女はその魔法の力を『困っている人を助ける』ために使ったのだろう。
まさに、漫画やアニメに出てくる、清く正しく優しい魔法少女だ。
四国では魔法の力を自分が生き残るために使い、人を助けるどころか殺しすらした空々にとっては、耳が痛くなる話である――いくら心が無い英雄でも、痛くなる耳ぐらいならある。

「けれど、そんな風に魔法少女の活動を楽しめたのも、ほんの短い間の――あの恐ろしいゲームが開催されるまでの話だったんです」

と。
そう言って、少女は、少し表情を暗くし、僅かに俯いた。
空々のように心に欠陥を負った人でなしではなく、きちんと感情の備わっている人間がその顔を見れば、『なんて悲しい顔をしているんだろう』と、少女への哀れみを禁じ得なかっただろう。
心が無く、それ故に、他人の心を察する能力が決定的に欠けている空々は気付くまい。彼が四国で体験した『四国ゲーム』に負けず劣らぬ程に血と死に満ちたゲームを、目の前の少女がかつて体験していたことになど。

「その催しで沢山の人が死んでいった後で、無事生き残った私の心にあったのは、後悔だけでした。私は何も出来なかった。自分で何も選ばず、どんな決断もしなかったままに、終わってしまった。それを、後悔しました」

だから――と、少女は表情を変えないまま、言葉を続ける。

「決めたんです。次は……選ばなかったことを後悔するんじゃない。後悔する前に自分で選ぶ――と。」

その考えには、空々も同じであった。
何事も、他人に何かをしてもらうのを待っていては遅く、間に合わない。
伝説上では、何かと他人頼りな印象を受けられやすい空々だが、もしも彼が本当に何もかもを他人に任せていた場合、彼の英雄譚はとっくの昔に幕を閉じていたであろう。
結局、自分の事は自分でやり、自分で決める他ないのだ。

「それから私は、あの地獄のようなデス・ゲームを繰り返させないために、そのような事を企む魔法少女を次々に倒していきました。そうしていった末、いつの間にか、私は『魔法少女狩り』という異名で呼ばれるようになっていたんです」

少女の腕は美しくて細く、柔らかそうである。
健康的ではあるものの決して強力そうではないその腕では、悪者どころか少し重めの図鑑一冊すら倒せなさそうな気もするが、しかし、彼女は魔法少女――この世の法(ルール)ではなく、魔の法(ルール)の元にいる存在だ。
ならば、悪者の一人や二人、余裕で倒せるだろう。


190 : 英雄と魔法少女! 友達100人できるかな ◆As6lpa2ikE :2022/07/02(土) 07:45:46 zlsL3rZg0
「だけど、私が働けば働くほど、世の中が良くなったか――と言えば、そうではありませんでした。この話の最初に、私は『魔法少女、と聞くと、夢と希望に満ちた、華々しい存在だとイメージするかもしれません』と言いましたけど、実際はそんなイメージ通りではなく、魔法少女の社会にも、人間社会と同じくらい生々しい闇だったり、面倒臭い慣習だったりがあったわけです。だって、魔法少女も、元々は普通の人間だったんですから」

それもやはり、空々と同じである。
人類を救う為の若き英雄になり、『地球撲滅軍』に入れられた空々であったが、彼を待ち受けていたのは、絵に描いたようなヒーローストーリーではなく、ただひたすらに汚く、醜い、人間同士の争いであった。
自分の出世の為に、上を引き摺り下ろし、他人を陥れ、弱い者を危険に晒す――そんな組織は何処にだっている。
結局、人類を救う正義の組織であろうと、この世の法則から外れた魔法少女の集まりであろうと、平凡な社会であろうと、其処に居るのが人間であれば、出来る社会構造はそう変わらないのだ。

「そんな中で生活していたから、次第に私の心はプレッシャーや責任、遣る瀬無さで擦り切れていったのかもしれませんね。だからこそ、決定的な崩壊を迎えてしまった『あの時』以来、私は魔法少女であるのが嫌になったんでしょう――全てが嫌になったんでしょう」

少女の顔に掛かった影が、言葉を紡ぐ度に段々と暗くなってゆく。
しかし、次の瞬間。
『だけど』――と。
力強い発音でそう言って、少女は俯いていた顔を上げた。
空々の方を見据える少女の表情には、先程までの暗さが微塵も無く、月のような輝きを纏った笑顔があった。

(こういう表情を何処かで見たような……いや、表情というよりも、感情かな?)

目の前に現れた表情――感情に対する既視感を疑問に思う空々。
彼が、それへの決定的な答えを出すのを待たずに、少女は言葉を続けた。

「――だけどその後、私は、プク様のおかげで救われました。彼女の友達の一人になることが出来ました。それまでの悩みなんて気にもせず、プク様に仕え、プク様のお役に立てる事を、生きる目的として定められたんです。それが、どれほど幸せなことだったか分かりますか?」


191 : 英雄と魔法少女! 友達100人できるかな ◆As6lpa2ikE :2022/07/02(土) 07:48:25 zlsL3rZg0
2

あぁ、そうか――と、空々は納得した。
目の前の少女が放つ感情への既視感が何だったかを、思い出したからだ。
その感情は、空々の世話係にして空挺部隊副隊長、氷上竝生が時折見せていた、『献身する事への喜び』だった。
もっとも、氷上女史が見せていたこの感情は、目の前の少女ほどに甚大ではない、細やかなものだったけれども。
少女のその感情に、空々は押されることもなければ引くこともなく、ただ受け流し、

(成る程。これが『彼女』の魔法なのか)

と、今ここには居ない、自分が召喚したサーヴァント――少女が言うところの『プク様』の魔法を分析していた。
その時、それまでうっとりと酔いしれるような表情をしていた少女が、ふと、何かに気付いたような表情を見せ、台詞を中断した。

「そろそろプク様がいらっしゃるようです。こんな短時間で着替えを終わらせなさるとは……プク様は余程、あなたとの会話を楽しみにしているのでしょうね」

背後をちらりと振り返り、そこにあるドアを見て、少女はドアの向こう側の様子が見えているかのように――否、聞こえているかのように、そう呟いた。
その口調は先程までとは違い、恍惚に満ちた物ではなく、何処か不満げで、憎々しげな様子である。
その不満と憎悪は、これからやってくるプク様に対して――ではなく、『プク様』との会話を予定している空々に対して向けられたものであった。
要するに、彼女は空々が羨ましく、妬ましいのである。『プク様』と会話が出来ることは勿論、『プク様』が着替えの時間を短縮するほどに、空々との会話を楽しみにしてくれていることも。
しかし、そう恨んでも羨んでもばかりいられない。
『プク様』の来訪を予見した少女は、空々との会話を唐突に打ち切り、席を立った。
そのまま、ドアの真横まで移動し、使用人が主人を迎えるような、恭しいポーズを取って待機する。
その数秒後、ドアが開き、部屋の外から一人の魔法少女を先頭に、何人もの魔法少女たちがぞろぞろと室内に入って来た。
彼女たちは、まるで魔法に掛けられているかのように美しい少女たちであったが、その中でも先頭を飾っていた少女は一際美しかった。
アフタヌーンドレスを更に豪華にしたような着衣物に加え、背中に孔雀の羽のような装飾品を何枚も付けている彼女は、そのまま先程まで学生服風の少女が座っていた椅子の真横に到着。
すると、後ろに控えていた何人もの少女の内、五人がそれぞれ、布やらクッションやらを持ち出し、椅子を飾って行く。
やがて見る見るうちに、五秒と経たず、椅子は女王(クイーン)の玉座さながらの豪華絢爛さを醸し出すようになっていた。
それを見て、豪華アフタヌーンドレスの少女は満足げに頷き、椅子の装飾を担当した魔法少女たちの頭を順番に撫でていった。
頭を撫でられた彼女たちは皆、頰を赤らめ、今にも昇天しそうなほどに気持ち良さげな表情を浮かべていた。
その後、豪華アフタヌーンドレスの少女は、ぴょんっとバックジャンプするような動作で着席。クッションに腰を沈めた。

「改めましてこんにちわ、空々お兄ちゃん。スノーお姉ちゃんとのおしゃべりは楽しめた?」

空々が召喚したサーヴァント――豪華アフタヌーンドレスの少女こと、キャスター『プク・プック』は、太陽のように明るい微笑みと共にそう言った。


192 : 英雄と魔法少女! 友達100人できるかな ◆As6lpa2ikE :2022/07/02(土) 07:49:21 zlsL3rZg0
3

空々空が、聖杯戦争の一参加者に選ばれ、異界東京都へと連れてこられたのは、ほんの数時間前のことである。

(聖杯を巡る戦争なんかより、まずは地球との戦争をどうにかしなくちゃいけないんだけどな……)

そんなことを考えるも、現実への適応性において右に出る者がいない空々は、召喚されつつあるサーヴァントの姿を見ながら、これからどう聖杯戦争を生き抜こうかと策を練っていた。
かくして、召喚されたのは『誰とでも仲良くなれる』魔法少女、プク・プックだった。
それどころか、彼女に加えて、何十人もの魔法少女たちが一緒に出現した。
プク曰く、『硬い友情で結ばれている友達は、いつでもどこでも――サーヴァントになった後でも、一緒に居るものなんだよ』だとか。
その台詞を聞き、その場に居た他の魔法少女達は、『プク様の戦いに同行出来て、私たちは幸せです』と、滂沱の涙を流していた。
まあ、タネを明かせば、彼女たちは単にプクのスキルで同行しているだけなのだが、それを知った所で彼女たちの心境に大した変化は生じないだろう。
ともあれ、空々は一騎のサーヴァントだけでない、何十人もの戦力を一気に有するようになったわけである。彼が地球撲滅軍で率いていた空挺部隊のおよそ五、六倍近くの人数が居るのではないだろうか?
だからと言って、そこで諸手を上げて喜ぶほど、空々は愚かではない。
たしかに戦争において重要視されるのが兵隊の人数であり、空々の(正確にはプク・プックの)有するそれは文句無しに充分だと言える。
しかし、それを上手く使わねば、戦争に勝てる訳がない。
ただの数のごり押しで戦争に勝てるならば、四十七億人の人類は地球との戦争にとっくに勝利を収めていただろう。
というわけで、空々はプクと今後の戦略について、ミーティングを行おうとした――のだが。

「それならちょっと、おしゃべり用のファッションに着替えてくるね。これは召喚される時用のファッションだったから」

召喚された当時の彼女のファッションは白いトーガであった。しかし、それでも十分に豪華極まった衣装である。

「プクが着替えている間は暇でしょ? だったら、スノーお姉ちゃんとおしゃべりしてみてね。スノーお姉ちゃんは、これまで悪い子たちをたっくさん倒してきたすごい子なんだよ。だから、面白い話をいっぱい聞かせてもらえると思うな」

と言って、プク・プックは学生服風の少女と空々を部屋に残し、屋敷――これは、空々が冬木市に居た当初から、彼の住居として設定されて居た場所だ――の別の部屋へと、魔法少女たちを連れて行ってしまったのだ。
そして、暫く気まずい沈黙が室内に流れた後、学生服風の少女と空々は着席、会話を始め、冒頭に至る、というわけである――。


193 : 英雄と魔法少女! 友達100人できるかな ◆As6lpa2ikE :2022/07/02(土) 07:50:32 zlsL3rZg0
「プクは聖杯が欲しいな」

会話を始めるやいなや、プクはそう言った。

「だって、聖杯に願えば、どんな願いでも叶えられるんでしょ? しかも、たった数十組の敵と戦うだけで。そんな事、あの『魔法の装置』でも出来なかった筈だよ。だから、プクは聖杯が欲しいな」
「ちなみに聞きたいんですけれど、聖杯を手に入れたら、キャスターさんは何を――」
「プクは『キャスター』じゃなくって、『プク』って呼んで欲しいな」
「…………」

サーヴァントを真名ではなく、クラス名で呼ぶべきだということを、聖杯戦争のルールを知った時に勘付いていた空々であったが、まさかそれをサーヴァント自らが否定してくるとは思っていなかった。
目の前に居るプクは、名前で呼んでもらえなかったことに、少し哀しげな表情を浮かべて居る。
その瞬間、空々とプクの周りを囲っていた何十人もの魔法少女たちが一斉に、空々へ殺意と敵意を向けた。
ある者は睨み付け、またある者は悲しんでいるプクの姿に悲しみ、またまたある者は『それ以上プク様を悲しませたら殺す』と言わんばかりに腰に下げた剣の柄に手を掛けている。
そんな中でなお、自分の意見を頑固に貫こうとするほど、空々は命知らずではない。

「……聖杯を手に入れたら、プクさんは何を願うんですか?」

と、改めて言い直す。

「ええとね、『魔法の国を救いたい』ってお願いしようかな」

「そうですか」

 空々は魔法の国がどういうものなのかを詳しくは知らないが、外見的に幼稚園の年少くらいに見えるプクプックから国家の救済を願う発言が飛び出したことを意外に思った。
それを言うなら、空々だって本来なら中学校に通っている年齢でありながら、人類の存亡をかけた戦いの最前線で戦っているのだけど。
救うのが国か、人類か。
その程度の違いがあるだけで、空々とキャスターは、方針だけ見てみれば、案外似たもの同士の主従なのかもしれない。

「あっ、あと、もしももうひとつお願いできるなら『世界中のみんなと仲良くなりたい』ってお願いするかなあ」

「…………」

世界中のみんなと友達になりたい。
その文面だけ見れば、なんとも微笑ましい、子供が思う様な願いである。
是非叶って欲しいものだ。
だがしかし。
プク・プックが――『誰とでも仲良くなれる』魔法を持ち、友達になった者全員から狂信者の如き服従を受けている彼女が、その願いを口にした場合、それが含む意味はだいぶ違った物になるだろう。
それは、『世界を支配したい』と言っているのと、ほぼ同じだ。
子供ではなく、悪の魔王が思う様な願いである。

(なんて事を此処で言った所で、意味は無いんだろうけど)

プクの意見への否定を、プクの友達の前で言えばどうなるか。
プクを現世に繫ぎ止める楔の役割でもあるマスターの空々をそうあっさりと殺す事はないにしても、半殺し程度にはしてきたっておかしくない。
彼女達にとってみれば、空々は『最悪生きてさえいれいれば、大丈夫なもの』なのだから。
異常なまでの友情から発する、異常なまでの狂信。
けれども、そんな彼女達よりもずっと異常だったのは、空々空そのものであった。
何せ、彼はプクを召喚してから現在に至るまで、一度たりとも、彼女に対して友情を感じていないのだから。
プクの美しく愛らしい姿に、ほんの少しも心が動いていないのだから。
それもその筈――何せ彼には美しいものを美しいと思い、感動する心がないのだ。
友情以前に情がないのである。
人道ならぬ外道を歩み、情ならぬ非情を持って敵を倒す――それが、空々空という、心の死んだ英雄のあり方であった。
そんな彼にも、かつて友人が居たには居たが……その人物との友情は、プク・プックの求めるそれとは異なっていると言えるだろう。
少なくとも、彼女が友達に求める友情は『友達は友達だけど、その必要があればビルの屋上から蹴落とす』なんてものではないはずだ。
というわけで、空々はプク・プックの友達――シンパにならずに済んでいるのである。

(まあそれは、僕が周りから外れた、どうしようもない人でなしだという証明でもあるんだけどね)

今まで何回も確認し証明して来た事実を再認識し、空々は溜息を吐きたくなった。が、ここでそんな動作をして、あらぬ誤解を受けるわけにもいかないので、自制する。


194 : 英雄と魔法少女! 友達100人できるかな ◆As6lpa2ikE :2022/07/02(土) 07:51:41 zlsL3rZg0
一方、プクもプクで、マスターがいつまで経っても自分の『誰とでも仲良くなれる』魔法で友達にならない事に、疑問を抱いていた。
どういう理由か分からないけど、空々ちゃんが友達になってくれない。
その事を悲しく思うプクであったが、しかし同時に、然程危険視するほどの事ではないとも思っていた。
なにせ、空々はその精神に多大なる欠落を持っていて、英雄と呼ばれていても、所詮はただの人間であり、それも十四歳の少年だ。
非力な存在である。
その上、空々とプクはマスターとサーヴァントの関係――謂わば、仲間であり、運命共同体なのだ。
空々が聖杯戦争を生き残りたいと思っている限り、プクに頼らざるを得ないだろう。
依らざるを得ないだろう。
つまるところ、空々はプクの『誰とでも仲良くなれる』魔法が効かない異例の存在であるものの、無力な仲間である彼がこちらに危害を与えて来る可能性はゼロであり、危険は全くないのだ。
尤も、空々は人類の味方の英雄でありながら、味方である人類を倒した回数の方が多いという、仲間殺しの英雄なのだけれども……。
ともかく、

(だけど…………)

空々が無害である事を理解した(つもりになった)後でもなお、プクは思う。

(それでも、いつかは空々お兄ちゃんとも友達になりたいな)

そんな優しい願いを胸に秘めつつ、偉大なるプク様は、空々との会話を進めていくのであった。

(終)


195 : 英雄と魔法少女! 友達100人できるかな ◆As6lpa2ikE :2022/07/02(土) 07:53:28 zlsL3rZg0
【クラス】
キャスター

【真名】
プク・プック@魔法少女育成計画シリーズ

【属性】
秩序・善・天

【ステータス】
筋力A+ 敏捷A+ 耐久A+ 魔力A+ 幸運A− 宝具EX

【クラススキル】
道具作成(偽):B
魔力を帯びた器具を作成する。
道具作成の逸話を持たないプク・プックはこのスキルを持ち得ないが、スキル『同行友達』によって呼び出される魔法少女達の存在によってこのスキルと同等の能力を得ている。
召喚される魔法少女たちは、バラエティ豊かであり、彼女たちが持つ道具の種類も多岐にわたる。
プクの友達である彼女たちは、自分が持つ道具の全てをプクに捧げるだろう。

陣地作成:B−
自らに有利な陣地を作成するスキル。
プク・プックは生前、自らの邸宅を持っており、また、ある遺跡に篭って他派閥の魔法少女たちと戦ったこともあった。
しかし、彼女の最期は陣地内に予めあった物により齎された物なので、スキルランクにマイナスがかかっている。

【保有スキル】
魅了:EX
下記の宝具で得たスキル。
例え敵対関係にあろうとも、プクを一目でも見た者は彼女に魅了され、その愛らしい姿と声に好感を抱くようになる。

魔法少女:A+
三賢人の一人の現身であるプクのこのスキルのランクは著しく高く、肉体の強度は従来の魔法少女以上となっている。
このスキルによって、プクはキャスターらしからぬ高ステータスを獲得した。

同行友達:B
プクが生前友達になった者たちを召喚する。
召喚される友達の殆どは高い戦闘能力を有した魔法少女であり、中には歴戦の猛者もいる。
プクと魔法少女たちの間に並々ならぬ友情が存在した為、このスキルが生まれる事となり、魔法少女たちの召喚・現界に費やされる魔力は従来の召喚・現界よりも著しく少なくなっている。
身の回りの世話をしてもらうべく数十人の魔法少女を常に召喚しているが、このスキルが最大展開された時、何百人もの友達が召喚される。

【宝具】
『誰とでも仲良くなれるよ』
ランク:A 種別:対人・対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

プク固有の魔法。
文字通りどんな相手とも仲良くなれ、プクと友達になった相手は彼女の役に立つ為に己が身を犠牲にしてでも働こうとする。
魔法の力の強弱によって、友達になる深度は変わる。最大出力で力を発揮すれば、相手は一瞬の内に洗脳され、プクの配下に落ちるだろう。
ある程度距離を取れば、魔法の力を弱める事が出来る。
また、この魔法はプクの姿を直接見ずとも、テレビ画面のモニター越しで彼女の映像と音声を見聞きしただけでも効果を発揮する。
生前は殆ど常にこの魔法を大人数に使っていたこともあり、この魔法、もとい宝具の使用に際して消費される魔力量はランクに見合わず少ないものとなっている。
人間以外に知性の低い生物にも効果を発揮するが、機械のように心のない存在には効かない。

【weapon】
なし。強いて言うなら友達との友情だよ。

【サーヴァントとしての願い】
魔法の国を救う。
いつかは空々ちゃんとも友達になりたいな。


196 : 英雄と魔法少女! 友達100人できるかな ◆As6lpa2ikE :2022/07/02(土) 07:54:25 zlsL3rZg0
【マスター】
空々空@伝説シリーズ

【能力・技能】
元野球部で現軍人である為、身体能力はそこそこ高い。

【weapon】
ヒーロースーツ『グロテスク』
空々専用のヒーロースーツだ!
着るだけで透明になれるぞ!
だが、着るのに手間と時間が掛かったり、透明になれる時間に制限があったりと、短所もある!
必殺技はグロテスクキック! 正義の蹴りで悪を踏み潰せ!

破壊丸
かつて空々と共に居た剣道少女の形見!
持っているだけで敵をオートで斬りまくるぞ!
持ち主を文字通りの殺人マシーンにしてくれるわけだ!

――という、地球撲滅軍の科学の叡智を尽くした武器を、かつて持っていたが、人工衛星『悲衛』に乗り込む直前の時期では、いずれの武器も持っていない。
丸腰の徒手空拳である。

【人物背景】
人類の三分の一を絶命させた『大いなる悲鳴』――それを発した地球を打倒すべく『地球撲滅軍』によって英雄に選ばれた少年。
心が空っぽで、現実への適応力がずば抜けている彼はショッキングな出来事も大抵ならば受け流し、見ただけで脳が壊れる美しすぎる怪人も直視でき、必要ならば人殺しもアッサリとやってのける。
参戦時期は悲衛伝直前。

【マスターとしての願い】
現在人類と地球の間に起きている戦争をなんとかする。
ともかく、まずは生き残る事を目標に。


197 : ◆As6lpa2ikE :2022/07/02(土) 07:54:57 zlsL3rZg0
投下終了です


198 : 名無しさん :2022/07/02(土) 10:43:29 37h06k0Y0
nicovideo.jp/watch/sm40708331


199 : ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/02(土) 21:53:15 KcZpzCII0
投下します


200 : 太陽が傾いだこの世界で ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/02(土) 21:54:08 KcZpzCII0



   いつまでも、一緒にいると誓った。
   誓えたことが、安らぎだった。

   こいつのことが、大切だと思った。
   思えたことが、喜びだった。

   幸せにしてやると、言ってやれた。
   言えたことで、満たされていた。

   こんなにも色々なものを、こいつから受け取っていた。
   なのに、俺は───



───世界の果てに少女が舞っている。

遠い記憶、薄れた夢。
壊れ砕けたその景色を、割れた眼球が焼き付けている。
何もかもが死に絶えた灰色の大地に、寄り集まって群れを成す〈獣〉たちの影。
倒れ伏したこの体は至るところが折れて、砕けて、破れて、潰れて。最早人の形をしていることさえ奇跡といった有様で。
動くこと叶わぬその視界で、俺は彼女の戦い散る様を見た。

それは夢の終わりだった。
ありふれた日々の移ろいで、たわいもない食卓の風景だった。失くした理想に心を摩耗させた男にとって、笑えるほど贅沢な毎日だった。
そんな都合の良い夢の終着点が、きっとここなのだろう。

(……クトリ)

口を動かすことさえできない。クトリ・ノタ・セニオリス。
たった一人、彼女だけが、遂に誰かを救うことの叶わなかった無価値な男に残された、最後の夢だった。

ありがとうと言いたかった。伝えたい思いはたくさんあった。こんなにもたくさんのものをくれたお前には、せめて戦いのない平穏な日々を送らせてやりたかった。
だけど、ああ。それなら、どうして───

ならばどうして、俺はこいつの傍にいることを選んだのだろう。
何も守れず、救えず、自分以外を不幸にすることしか能のない、この俺が。
それは、ただ、酷く簡単な……


201 : 太陽が傾いだこの世界で ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/02(土) 21:54:47 KcZpzCII0

『───クトリは、幸せにしてやりたかった』

たとえそれが、目を背けたくなるような醜いエゴだったとしても。
彼女に救われたその事実に、報いたかった。俺にとっては、ただそれだけで……

「……馬鹿野郎」



伸ばしかけた腕が力を失う。
飛び散る血と肉片が視界を赤く染める。
痛みに歯を食いしばり、堪え切れずに這い蹲る。
声の限りに叫んでも、祈りは届かない。
奇跡は起きない。
神様なんてどこにもいない。
目の前には、燃え盛る炎と、死と荒廃の大地と、数え切れないほどの〈獣〉の姿と。
■しそうな、あいつの笑顔。











未来はいつだって俺達の手の中だ。

そこから零れ落ちたものを、俺達は過去と呼んでいる。








202 : 太陽が傾いだこの世界で ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/02(土) 21:55:43 KcZpzCII0





空がどこまでも高かった。
雲一つない晴れ渡った青空は、不純物のない硝子細工か水晶であるかのように、どこまでも青く透明に澄み渡っている。
冷え切った空気がそう思わせるのだろうか。人気のない廃ビルの屋上で大の字に寝転がりながら、ヴィレム・クメシュは誰ともなくそんなことを思った。

彼は、何の変哲もない男だった。
年の頃は18かそこらだろう、まだ年若い外見。覇気のない顔に細い体躯。顔立ちは決して悪くないが、群衆に紛れてしまえば途端に見失ってしまうだろう風貌。
彼は手足を投げ出して、軽薄な笑みを顔に張り付かせ、言う。

「クソウケる」

全てはとうに手遅れだった。この世界に呼ばれた時点で、変えられるものは何もない。
平穏無事に帰還したとして、もう誰も助からない。何も救えない。

「ご丁寧に、ここに来る直前の傷だけ治しやがってよ……こんなことするんなら、俺じゃなくて他に助ける奴いただろ。何考えてんだよ本当に」

黒衣の青年の心中には、軽薄な笑いとは裏腹の憎悪があった。
自身の無力。何も救わぬ神。犠牲ばかりを強いる世界。
あらゆるものが零れ落ちていく中、かつて憧れた理想だけが嫌に鮮やかだった。

「なあ。あんた、サーヴァントって奴なんだろ?」

青年から少し離れた場所に、もう一人の影があった。
それは屈強な体躯の偉丈夫であり、巌のような男であった。彼は言葉を発さず、ただ無言のままにヴィレムを見下ろしている。

「英雄として人々から畏敬され、その信仰が昇華して世界の座に刻まれる……すげぇよな。
 俺にはとてもできなかったよ、そんなこと。戦って戦って戦って戦って、それでも何にもなりゃしない」

皮肉にも聞こえる言葉は、実際のところ全て自虐だ。そのことを見抜いているのか、男はやはり何も言わない。
そしてヴィレムもまた、乾いた笑いを浮かべて。

「あんたさ、夢ってあるか? 英雄様の夢だもんな。それはきっと、俺なんかとは比べ物にならないでっけー理想や目標なんだろうな」
「……」
「俺にもさ、あったんだよ。ちっぽけで、笑っちまうようなくだらないものが。勇者様だとか世界の命運だとか、そんなもんには到底及ばないことだったけどさ」

皮肉げな笑みはそのままに、今はもう届かない郷愁を帯びて。


203 : 太陽が傾いだこの世界で ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/02(土) 21:56:34 KcZpzCII0

「バターケーキ、食べたかったんだよ」

そんなことを……本当に何でもないようなことを、口にした。

「俺の生まれた時代は結構酷いもんでさ。どこもかしこも戦争戦争、殺し殺されてばっかだった。やれ向こうの平原から樹魔(ドリアド)が来るぞ、やれあっちの森から古霊(エルフ)が攻めてきたぞ、挙句の果てにはいきなりドラゴンが街を襲ってきたり……刺激には事欠かない世界だったよ」

「そう考えてみれば、俺は結構恵まれてるほうだった。準勇者とか呼ばれてさ、割と強いもんだったんだぜ? 子供の頃の憧れなんかも半分くらいは叶えて、憧憬の的にもなった。巨竜種なんかとやり合ってもなんやかんや勝ち残ったりでさ、守りたいもんの一つや二つくらいは守れるもんだと、まあ思い上がってたんだ」

懐かしむように、ヴィレムは苦笑する。

「俺は孤児院の出でな。行き場のないチビ共が20人ばっかしいる、ボロくて狭いクソみてぇな場所だった。しかも一応は管理者のクソ爺が無責任にも院の経営をほっぽりだすもんだから、一番年上ってこともあって、俺がほぼ全部取り仕切ってたんだ。チビ共にはおにーちゃんだとかおとーさんだとか、そんなふうに呼ばれててさ。騒がしくて手のかかる奴らだったけど、かわいい奴らだった」

「けどまあ、俺もそこに付きっ切りってわけにはいかなかった。仮にも勇者様御一行の一員だったし、やることはたくさんあった。その日も決戦前夜ってことで、ようやくの思いで一晩だけ帰ることができたんだよ。せめて最後の時は家族と一緒に、って奴さ。生憎浮いた話もないもんで、一緒に過ごす相手と言えばそこしかなかった。で、言われたんだよ。絶対帰ってこいって」

ヴィレムの笑みが、その瞬間だけ、別の意味合いを含むものに変わった。自虐と皮肉しかなかったそれが、その一瞬だけひどく暖かなものを見る微笑みに変わったことを、きっと彼は自覚していまい。

「心残りを失くすとか、そんないつ死んでもいいみたいなこと言うな。後ろ向きな理由じゃなくて、もっと分かりやすいまたここに帰ってくる理由を言え、ってさ。結婚相手とか子供とか、そういうのがいれば分かりやすかったんだろうけどな。やっぱりそういうのはいなかったから、仕方なく言ったんだよ」
「……それが、バターケーキか」
「そう、それ」

初めて口を開いた男の、鉛のような重たい声に、至極軽薄にヴィレムは返す。

「俺の娘……とは言っても、血の繋がらない、年も2つか3つしか変わらない妹みたいな奴がいたんだけどな。そいつの焼くバターケーキが絶品だったんだ。俺もそれなりに心得はあったけど、未だにあいつには敵う気がしねえわな。そいつを、俺が帰ってきたらたらふくご馳走してもらうことにした。ついでに、次の俺の誕生日にも特大のを頼む、ってな」

それが、ヴィレムが生まれ故郷に残すことができた、たった一つのちっぽけな心残り。
そんなもののために、青年は命がけで戦場から生きて帰ることを誓った。

「それで笑顔で見送られて、戦いに行って……まあ結論から言えば帰れなかった。敵の首魁と相討ちになって、大量の呪詛浴びせられて、ああ俺はここで死ぬんだなぁ、とか考えてたんだけどな」

傾国レベルの禁呪を7種、自壊するまで限界酷使した聖剣が11振り、さらには自分には発動資格のなかった極位古聖剣の秘奥までぶちかましてようやく倒せた相手だった。
そして当然、代償というものは相応にやってくるもので。


204 : 太陽が傾いだこの世界で ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/02(土) 21:57:50 KcZpzCII0

「即死級の呪詛が7本分、相互干渉を重ねて本来とは違う効力を発揮したんだろうな。死ぬはずだった俺はなぜか石化して、そこで意識を失った。で、次に目が覚めた時にはさ」

「人類滅亡してたよ」

何でもないことのように、言う。

「俺らが負けたから、ってわけじゃなかった。俺が動かなくなった後で、仲間だった奴らはきっちりと倒すべき相手を倒しきっていた。
 人間を滅ぼしたのは、その時人類と争っていた別種族ではなくて、人類の内輪もめでもなくて、天災だとかの自然現象でも当然なくて、誰も知らんぽっと出の怪物だった。
 いきなり現れていきなり目につくもん全部滅ぼしていった正体不明の〈獣〉にみんなやられたんだとさ。
 笑えるだろ? 結局のところ、俺達が勝とうが負けようが、最悪戦わなかろうが結末は同じだったんだ。俺達の戦いに、意味なんて何もなかった」
「お前のその無様な姿は、つまりそういうことか」
「そうじゃない、とは言えないのが情けないわな。実際、起きた当時は抜け殻みたいな有様だったわけだし」

自嘲するように、ヴィレムは笑う。

「500年間、俺は何も知らないまま呑気に眠りこけていた。見知った連中は当然みんな死んでいて、そもそも地上は〈獣〉に全部ぶっ壊された。
 空に浮かぶ浮遊大陸(レグル・エレ)ってところで目が覚めた俺は、正直何もやることがなかった。人間はもう俺しかいないっていうし、体はボロボロだし、空の連中もまあそれなりに平和にやってたわけだしな。
 俺の解呪で迷惑かけた連中にその費用分の借金返したら、どこぞで野垂れ死ぬことも考えてたよ。そんで、借金返済の途中で妖精倉庫ってとこの管理人の仕事を紹介されてな」

詳細も分からぬままに案内された辺境の施設。
対〈獣〉用の武装が保管されているという管理倉庫。
何も考えぬまま向かった俺は、そこで。

「俺はもう一度、戦う理由を手に入れた」

そこにいたのは、幼い少女たちだった。
黄金妖精(レプラカーン)。死した幼子たちの亡霊が受肉した存在。
人間族が遺した聖剣を手に、ただ殺されるためだけに製造される仮初の命たち。
無垢で、無邪気で、死さえ知らぬ少女らを見た時。ヴィレムは残り少ない命の使い道を知った。

「最初は成り行きで、次は同情だった。あいつら自身じゃなく、あいつらを通じて500年前のとっくに死んだ連中を見てただけだった。
 けどさ。あいつら、よく笑うんだよ……俺の身の上なんか知らねえで、知ったところでそんなの知るかと押し寄せて……挙句の果てに、俺に家で待っていてほしいって……おかえりなさいって言ってほしいって、んなこと言ってくるんだよ。
 呆然としたよ。理解できなかった。なにがなんだか分からなかったし、どれだけ長い間呆けていたんだろうな。けど、瞳の奥が熱かったのを覚えている」

守るべきを守れなかった。
帰るべき場所に帰れなかった。
果たすべき約束を果たせなかった。
戦うべき場所で戦えなかった。
そして、死ぬべき時に死ねなかった。

何の価値もない、生きる意味のない男。やるべきことはなく倒すべき敵もなく、妖精倉庫の少女たちにだって、最初はどこぞのかわいそうな連中を見るような目で遠巻きにしていただけのはずだった。
だから、それは当然的外れな好意であったのに。
自分の命と同じくして、鼻で笑うこともできたはずなのに。


205 : 太陽が傾いだこの世界で ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/02(土) 21:58:35 KcZpzCII0

「ようやく、見つけられたんだよ。認めてもらえたような気がしたんだ。
 お前も周りと何も変わらない、当たり前の命なんだと。こんなどうしようもない塵屑でも、あいつらを守るために生きていいんだと。美しいものを守れるのだと……!」

真っ当に、当たり前に前を向いていいのだと。
抜け殻のように生きて、生きながらに死んでいたかつての自分。動く死体だった男に、それでも生き続ける価値と資格があるのだと、そう言ってもらうことができて。

「俺は、クトリを幸せにしたかった」

例えそれが、どうしようもなく愚かで醜い現実逃避の感情であったとしても。
過去を忘れ、現在と未来だけを考えていたいなどという、自分勝手な祈りなのだとしても。

守りたいと思えるものができた。
帰りたいと思える場所ができた。
戦う理由は、それだけで十分だった。

そのはず、なのに。

「あいつはさ、夢見がちな奴だったよ」

そして自分もまた夢見るように、ヴィレムは呟く。

「あいつはバカで、単純で、どうしようもなく見栄っ張りで、でも俺なんかよりずっと綺麗で、優しくて、みんなに慕われていた。俺より若かったし、友達も家族の数も多かった。何より、俺よりずっとまともだったし、生きたい理由もたくさんあった。なのに俺はこうして生き恥晒して、あいつは死んだ。生死を分ける境目ってなんなんだろうな? 神様はどこに目ぇつけてんだろう」

あ、そういや俺達が殺したんだっけ神様、などと。やはりヴィレムは軽薄に笑う。
薄っぺらい、空虚な笑み。

「お前は死にたかったのか」
「死にたい、と思ったことは一度もねえよ。俺の人生に意味や彩りを、なんてことも考えない。ただ、な。
 こんなちっぽけな俺の命でも、何か意味のあることに繋げることができたら……そいつはきっと、笑えるくらい良いことなんだろうなって、そう思うんだ」

だからせめて、死ぬのならば意味のある死を。
それで俺が救われるのではなく、俺の死で誰かが救われるように。
そして願わくば、愛おしい彼女たちが笑って暮らせる当たり前の日常を。
……いつかそんな日をもたらすのだと、生きた彼女に誓いたかった。


206 : 太陽が傾いだこの世界で ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/02(土) 21:59:11 KcZpzCII0

「ならば、俺がお前を殺してやる」
「……あんた、何言って」
「お前の死に、意味をくれてやる。死ぬべき時、死ぬべき戦場で、お前が死ねるように。俺が、お前と共に戦おう」

ヴィレムは、この物静かな岩のような男の言わんとするところを察して、思わず笑った。
おいおい、お前さん言うに事欠いてそれはさあ。

「気遣いが分かりづらいって、誰かに言われなかったかあんた?」
「生憎と、そのような言葉を交わすような者はいなかったのでな」

反動をつけて、勢いよく立ち上がる。僅かに体についた雪を払い、改めて男と向き直る。
大きい。弛まぬ鍛錬を続けたのであろう男の屈強な肉体は、押すこと叶わぬ大岩の如く聳え立っている。

「俺は聖杯を手に入れる。今度こそ、俺の為すべきことを成し遂げる」
「俺は俺の望みを果たす。他力などには頼らず、俺自身の手で成し遂げる」

ヴィレムは笑い、男は不言。それで良かった。それ以上の関りは、彼らには不要だった。

「なら最低限、お互いのことは知っておかねえとな。
俺はヴィレム・クメシュ。元準勇者、今は護翼軍二位呪器技官兼妖精倉庫の管理人をやっている」
「聖槍十三騎士団黒円卓第七位、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン」

男は僅かに苦笑の色を滲ませて。

「お前と同じ、無様な死に損ないだ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





     どうしたら私の祈りがあなたに届くでしょうか。

     あなたはいかにしても近づくことあたわぬ御方なのですから。

                          ───ニコラウス・クザーヌス「神を観ることについて」


207 : 太陽が傾いだこの世界で ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/02(土) 21:59:58 KcZpzCII0


【クラス】
ライダー

【真名】
ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン@Dies Irae

【ステータス】
筋力A++ 耐久A+ 敏捷C 魔力D 幸運E 宝具EX

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
対魔力:A
魔力への耐性。ランク以下を無効化し、それ以上の場合もランク分効力を削減する。事実上、現代の魔術師ではライダーを傷つけることはできない。

騎乗:EX
騎乗の才。彼は優れた戦車兵であったが、現在はそれ以上に彼自身が「元となった人間の魂を乗せて走る戦車」であるため、ランク測定が不能となっている。

【保有スキル】
エイヴィヒカイト:A
極限域の想念を内包した魔術礼装「聖遺物」を行使するための魔術体系。ランクAならば創造位階、自らの渇望に沿った異界で世界を塗り潰すことが可能となっている。
その本質は他者の魂を取り込み、その分だけ自身の霊的位階を向上させるというもの。千人食らえば千人分の力を得られる、文字通りの一騎当千。
肉体に宿す霊的質量の爆発的な増大により、筋力・耐久・敏捷といった身体スペックに補正がかかる。特に防御面において顕著であり、物理・魔術を問わず低ランクの攻撃ならば身一つで完全に無効化してしまうほど。
人間の魂を扱う魔術体系であり殺人に特化されているため、人属性の英霊に対して有利な補正を得るが、逆に完全な人外に対してはその効力が薄まる。

無窮の武練:A++
一つの時代において無双を誇るまでに至った武芸の手練れ。あらゆる精神的制約下においても十全な戦闘能力を発揮できる。

死の淵:A
戦闘を続行する能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負っても戦闘が可能。戦闘続行と呼ばれるスキルの、ウルトラ上位版。
自らの意志が健在である限り、身体の過半が吹き飛ばされようが、戦う事を止められない。死そのものと化したライダーは、およそ死という事象から遠ざけられている。


208 : 太陽が傾いだこの世界で ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/02(土) 22:00:37 KcZpzCII0

【宝具】
『機神・鋼化英雄(デウス・エクス・マキナ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
形成位階・特殊発現型。ライダーの肉体そのものであり、常時発動型の宝具。
魂と自己を持つ生ける聖遺物。人型の戦車。万人規模の魂の殺し合いである蟲毒において他の魂を全て殺害・吸収した最後の生き残りである魂を元に形作られた生体兵器。その内部には、蟲毒の勝者であるミハエル・ヴィットマンの人格が個我として存在している。
能力は「物理的な破壊のみならず、死を概念的に叩きつける拳」。形成位階でありながら既に創造位階に手をかけるほどの域であり、あらゆる防壁・加護・耐性・体質等を貫通して直接的にダメージを与える。
結論を言えばライダーの拳撃に対しては特別な防御方法は一切意味を持たず、純粋な耐久ステータスによってのみ受けることが可能となっている。

『人世界・終焉変生(ミズガルズ・ヴォルスングサガ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
創造位階・求道型。
元となった渇望は「唯一無二の死によって、己としての生を終えたい」。発現した能力は「拳に触れたものを問答無用で殺す」。
己の存在を死の塊と化し、拳に接触したもの全てに死を与える。
誕生して一秒でも時間を経ていたものならば、物質・非物質を問わず、例え概念であろうともあらゆるものの歴史に強制的に幕を引く。
この状態のライダーの拳が壊すのは生物も器物も知識も概念も等しく内包している時間、積み上げた物語という歩みと、その道である歴史そのもの。如何なるものであれ生誕より僅かでも時間が経過している限り、たとえコンマ百秒以下であっても、その歴史を粉砕する。
ゆえに防御が絶対に不可能な文字通りの一撃必殺。曰く、「幕引きの一撃」。
人界に語り継がれる英雄譚。定命の者として生きるからこそ輝き栄える物語。それはすなわち、絶対の死という終焉を是とするということ。
この創造が発現した時点でライダーは意思を持ったご都合主義(デウス・エクス・マキナ)。触れるものを悉く終了させる機械仕掛けの神と化す。

【weapon】
機神・鋼化英雄:
要は素手の格闘である。

【人物背景】
終わることすらできなかった男。

【サーヴァントとしての願い】
唯一無二の死を俺に寄越せ。


209 : 太陽が傾いだこの世界で ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/02(土) 22:01:09 KcZpzCII0

【マスター】
ヴィレム・クメシュ@終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?

【マスターとしての願い】
クトリを幸せにする。

【weapon】
言語理解のタリスマン:
首から下げた護符。発した音声を媒介に意思そのものを伝える機能を持つ。ただし会話の機微等を全部すっ飛ばしてしまう。

【能力・技能】
かつて準勇者として聖剣を執り、星の眷属神と相討つほどの実力を持っていた。しかし現在は聖剣もなく、魔力も起こせず、自身が戦えばそれだけで死にかねないほどに壊れている。

不治の古傷:
全身の体構造が微細に破壊し尽くされている。例えて言えば煮崩れたジャガイモ。生きてるのが不思議なくらい。全力で近接格闘など行おうものなら、3合目くらいで血吐いてぶっ倒れる。

魔力焼尽:
魔力を行使しようとすると肉体が概念的に死に近づき、全身に激痛が走る。令呪については、自前のものでなく聖杯由来のものであるため何とかなってるらしい。
それでもサーヴァントの維持だけで常に全身めちゃ痛いし、全力戦闘ともなろうものならやべーことになる。まあ自分じゃなくサーヴァントが戦う分には痛いだけなんだから気合と根性で頑張ってほしい。

【人物背景】
意思も強さも機会も手にしながら、ただひとつ運命だけを持ち合わせなかった青年。
成すべきことを成せず、戦うべき場所で戦えず、死ぬべき時に死ねなかった。とっくの昔に終わってしまった物語に縋りつき、蛇足を重ねた無価値な死に損ない。

【方針】
聖杯を手にする。


210 : 太陽が傾いだこの世界で ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/02(土) 22:01:24 KcZpzCII0
投下を終了します


211 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/02(土) 23:19:56 rlvTGfEM0
薔薇煙のサーカス
《伯爵》の荘厳さとそのルーツに起因する空ろさが同居した見事な描写に唸らされました。
人物関係欄にもある通り人形が人形を召喚するというとんでもない皮肉が光っている。
不滅であれとされてきた《伯爵》に滅びが来たなら潔く受け入れろと諭すフランシーヌの下りが、二体の人形の一番の違いを物語っていますね。

殿堂入り・麦
そういう作品からサーヴァントを引っ張ってくるのかとまず驚かされつつ。
しかし作品の内容的に、生存にこの上なく特化した性能になっていることには納得ですね。
そして他でもない衛宮切嗣が彼を召喚するというのがこれもまた皮肉と言う他ない……。

英雄と魔法少女! 友達100人できるかな
プク様というあらゆる意味で規格外の魔法少女をサーヴァントに落とし込むなら、確かにこの内容になるな……というステータス。
世界中の皆と仲良くなりたいという願いが、その純粋さとは裏腹の洒落にならない意味合いを持つのも彼女らしい。
マスターである所の空々が彼女の魔法に魅入られていない理由付けも好きでした。なるほど不感症。

太陽が傾いだこの世界で
終末、全てが過去になった世界から流れ着いたヴィレムが召喚するのがマキナ、あまりにも似合いすぎている。
からりと渇ききった吐露が戦意に変わるまでの錆びた会話が重厚で、それでいて美しくて良かったです。
…にしてもこのニグレド、つくづく終わるに終われない男。果たして終焉に辿り着けるのか。

皆さん投下ありがとうございます。
投下します


212 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/02(土) 23:21:14 rlvTGfEM0

 …夢を見ていた。
 ある愚かな男の夢だった。
 汗ばんだ額を手の甲で拭いながら少年は起き上がる。
 悪夢を見て涙を流す歳でもない。
 だが無感でいられるような夢でもなかった。
 動揺と呼ぶには小さな情動だ。
 強いて言うならばこれはきっと。
 感傷――と呼ぶべきものであろうと。
 そう思いながら黒川イザナは己が右手に目を落とす。
 もはやルーティーンの一つと化して久しいこの仕草は、イザナにいつも今自分の置かれている状況が夢幻ならざる現実なのだと確かめさせてくれた。

「…夢を見たよ。オマエの夢だった」

 ふうと吐いた溜息が白く染まって空気に溶ける。
 イザナの暮らす寂れた部屋には暖房がなかった。
 今の季節は真冬だ。
 肌が痺れるような寒さがあったが、しかしそれが逆に目覚めの倦怠感を緩和させてくれる。
 部屋の中にはイザナ以外に人影はない。
 にも関わらずイザナは確かにそこにいる誰かに向けて話しかけていた。

「オマエは…上手に生きられなかったんだな」

 …この世に生まれた大半の人間は成長していく中で上手な生き方というものを覚えていく。
 それはその場しのぎの嘘の吐き方であったり誰かに気に入られるための処世術であったり。
 自分を幸福にするための生き方のノウハウは世の中に無数に転がっていて。
 それを見つけ拾い上げて己が物とするのは決して難しいことなどではない筈なのだ。
 なのに時折、それができない人間が出てくる。
 自己実現の仕方に暴力を選んでみたり。
 つまらない侮辱を聞き流せなかったり。
 我儘言ってもどうにもならない現実と折り合いをつけられずに歪んだり。
 そういう生き方しかできない人間が、この世にはしばしば生まれ落ちる。

「あぁ。あと…こうも思ったよ」

 黒川イザナもその一人だった。
 彼は自分という人間に暴力以外の価値を与えてやれなかった。
 突きつけられた認めたくない現実に、最後の最後まで折り合いをつけられなかった。
 生まれてから死ぬまでずっと不器用に生きて、生きて、生きて、生きて…。
 そして死んだ。
 そういう人生だった。
 波瀾万丈を地で行く彼の人生は二十年と続かなかった。
 少年は複雑怪奇な人の世を生きていくには、あまりにも不器用すぎたから。
 そんな彼が夢の中で垣間見たある男の生涯。 
 上手く生きられず堕ちる所まで堕ちてしまったある兄の追憶(はなし)。
 それを鑑賞して目覚めたイザナが抱いた感想。
 それは…

「――いいなぁ、オマエは。オレはオマエが羨ましい」


213 : 黒川イザナ&アサシン ◆Lap.xxnSU. :2022/07/02(土) 23:21:58 rlvTGfEM0

 事の当人にしてみれば決して看過することなどできない発言だった。
 言葉を口にし終えると同時にイザナの首筋に冷たい感覚が走る。
 つい先刻までは確実に彼以外の誰も存在しなかった筈の部屋。
 そこにいつの間にやら、おぞましく醜い姿をした見窄らしい鬼が立っていて。
 その手に握り締めた鎌の切っ先を黒川イザナという主の首筋に突きつけていた。

「…巫山戯た口を利くなよなあ」

 彼の容貌と佇まい。
 そしてその痩身から漂う異様なまでの死臭を嗅げば。
 誰もが即座にこれは人間ではないと理解するだろう。
 その上でこんなものに出遭ってしまった自らの不幸を呪ったに違いない。
 しかしイザナは数少ない例外だった。
 何しろ彼はこの仮初の世界に鬼を招き入れた張本人。
 討ち果たされて英霊の座に幽閉された憐れな鎌鬼を贋作なれども現世に解き放った主人(マスター)なのだから。

「あまり舐めた口を叩くようなら俺はてめえがマスターだろうと構わず殺すぞ。そこん所分かってんだろうなああ」
「そう怒んなよ。これでもちゃんと本心だ」

 その殺意は嘘じゃない。
 イザナが返答を誤れば鬼は彼の首を捌いていただろう。
 寸での所で踏み止まれたとしても四肢の半分はもぎ取られていたに違いない。
 だがイザナに彼を恐れる思いはなかった。

「オレは最後の最後までテメエの弟(きょうだい)と上手く向き合えなかったからさ」
「……」
「オマエは失敗したし負けた。だから死んだ。
 …でもオマエはちゃんと妹(きょうだい)と同じ所に逝けたんだろ?
 オマエは怒るだろうが、オレはやっぱり羨ましいよ」

 鎌の鬼は妹と一緒に地獄に堕ちた。
 罪を贖った彼らの魂が何処に向かったのかは知らない。
 だがそれとは別に英霊の座という牢獄へ押し込められた彼らが居るのは紛うことなき事実であった。
 これでは無間地獄だ。
 幸せでなどある筈がない。
 それを軽々しく羨ましいなどとほざけば。
 怒りを買うのは無理もないことだろう。
 しかしイザナは本心からそう思っていた。
 彼らというきょうだいを羨んでいた。
 
「オレは…家族が欲しかったんだ。
 手の届かない夢じゃなかった。なのに他でもないオレ自身が手の届かない所まで蹴り飛ばしちまった。
 オレが一言でも望めば……チンケな意地なんか捨てられれば、アイツらはきっといつでもオレを受け入れてくれたのにな」

 バカみたいだろ。
 イザナは笑う。
 誰よりも彼自身が己という人間のことをそう思っているのだと分かる、そんな自嘲(わらい)だった。


214 : 黒川イザナ&アサシン ◆Lap.xxnSU. :2022/07/02(土) 23:22:51 rlvTGfEM0

「血の繋がりなんて気にしてたのはオレだけだったんだ。
 オレだけがその現実を拒んだ。
 ガキみたいに駄々こねたのをズルズルと引きずって…気付けばオレはデカくなってた。
 逆恨み拗らせて一人で壊れて、周りを巻き込んで、狂って――そんな人生が間違いだったって気付いたのは最後の最後だ」

 救いようねぇだろ?
 そう言って笑うイザナの脳裏に浮かぶ郷愁の光景は最後に見上げた雪降る空だった。
 もっと早く折れていればよかった。
 つまらない意地や拘りなんて捨ててしまえばよかったのだ。
 そうして目を背け続けてきた現実と向き合いさえすれば。
 自分があれ程までに妬み嫌っていたそれはきっと、暖かな団欒で自分を迎え入れてくれたろうに。
 家族が居て。
 自分の為に身を粉にしてくれる親友(ダチ)が居る。
 そんな人生は決して夢物語などではなかった。
 それはずっとイザナの直ぐ側にあったのだ。
 なのに手を取らなかったのは、イザナの方。
 目を背けていたのは、他の誰でもない彼自身。
 
「情けねぇ…女々しい奴だなあ、お前は」
「そうだな」

 アサシンから見たイザナは一言、弱い人間だった。
 現代の人間の中では間違いなくできる部類なのは間違いないが。
 しかしその心はひどく脆い。
 継ぎ接ぎを重ねてどうにか動かしているような壊れた心。
 当然のように自分で自分のすべてを台無しにしてしまった情けない阿呆。
 今更になって自分の過ちに気付いた、つける薬もないような女々しい馬鹿。

「だからオレはやり直したいんだ」

 だから当然こう願う。
 未練がましくも過去へ、過去へ。
 冒した失敗をやり直したいと願う。

「真一郎が居て、万次郎が居て、エマが居て…親友(ダチ)が居る。
 聖杯なら創れんだろ? そういう過去(みらい)もよ」

 黒川イザナは敗者である。
 彼は己の人生と運命に敗北した。
 そうして神の気まぐれでこの世界に流れ着いた。
 運命を受け入れて諦めるのならば是非もなし。
 だがそうでないのなら。
 この漂着物で溢れた世界で、それでも明日をと願うなら。
 敗者が自分の結末を否とし、覆さんと足掻くのならば。
 その願いは名前を持つ。

「オレは聖杯を手に入れて願いを叶える。
 だから協力しろアサシン。
 オレがオマエを勝たせてやるから、オマエはオレを勝たせろ」

 それは――

「これは、オレたちのリベンジだ」

    ◆ ◆ ◆


215 : 黒川イザナ&アサシン ◆Lap.xxnSU. :2022/07/02(土) 23:23:29 rlvTGfEM0

「私アイツ嫌いよ。人間の分際で偉そうだから」
「あぁ…そうだなあ。弱ぇ癖に苛つかせる奴だよなあ」
 
 アサシンはかつて上弦の陸と呼ばれた鬼だった。
 そう、鬼だ。
 人を喰って生き延びる鬼。
 そうすることでしか生きられなかった憐れな生き物。
 彼ら兄妹は大勢を殺した。
 そして敗れた。
 地獄へ堕ちた。
 その果て辿り着いたのはこの無間地獄だ。
 英霊の座。
 人類史に名を残した魂を捕らえ続ける運命の牢獄。

「けどまあ…アイツが居なきゃ俺たちは消滅しちまうからなあ。死なれても困るよなあ」
「ホンット面倒臭いわ、聖杯戦争って。なんで人間なんかに従わされなくちゃいけないのよ。
 最初からサーヴァント同士だけで戦わせてくれればいいのに」

 傍らで愚痴を零す片割れ。
 堕ちた姫の諱を与えられた妹を兄――妓夫太郎は見つめる。
 上弦の陸は二人で一つ。
 真の意味でその称号を持つのは妓夫太郎の方だというのに、英霊の座は堕姫を逃しはしなかった。
 妓夫太郎の宝具という形で同じように囚われた彼女は、妓夫太郎の知る妹そのままの口調で悪態をついている。
 
「さっさと聖杯手に入れてこんな所おさらばしましょ。そして今度こそ…私達は幸せになるの」

 英霊の座からの脱却と転生。
 聖杯がそんな大きな願いさえ叶えてくれるというのなら妓夫太郎としてもそれでいい。
 だがもしも、それは叶わないと告げられたなら。
 その時どうするか。
 どのように願いを変えるかは、既に妓夫太郎の中で決まっていた。

 ――これは、オレたちのリベンジだ

 頭の中で繰り返すイザナの言葉。
 妓夫太郎はペッと唾を吐き捨てた。
 それからそのままの唾棄するような調子で。
 堕姫の耳には届かないか細い声で、言った。

「お前に言われるまでもねぇんだよ、糞が…」

 辿った道も冒した失敗も違う二人の"兄貴"。
 故に当然彼らは目指す未来もそれぞれ違う。
 だが聖杯を勝ち取るのだという目標だけは共通していた。
 これは彼らのリベンジだ。
 何をしても上手くいかず、どうしようもない生き方しかできなかった兄貴(オトコ)達の…
 人生の、リベンジなのだ。


216 : 黒川イザナ&アサシン ◆Lap.xxnSU. :2022/07/02(土) 23:24:09 rlvTGfEM0
【クラス】
アサシン

【真名】
妓夫太郎@鬼滅の刃

【ステータス】
筋力C+ 耐久B 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具C

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【保有スキル】
鬼種の魔:A
鬼の異能および魔性を表すスキル。
鬼やその混血以外は取得できない。
天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出等との混合スキルで、妓夫太郎の場合魔力放出は"血鎌"となる。

捕食行動:A
人間を捕食する鬼の性質がスキルに昇華されたもの。
魂喰いを行う際に肉体も同時に喰らうことで、魔力の供給量を飛躍的に伸ばすことができる。

猛毒の血鎌:B
自分の血液を鎌に変化させる。
血鎌には非常に強力な致死性の猛毒が含まれており、これは妓夫太郎の使う全ての血鬼術に付随する特性でもある。

【宝具】
『上弦の陸』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
多くの人間を喰らい、命尽きるその瞬間まで人に恐怖を与え続けた"上弦の陸"の肉体そのもの。
非常に高い再生能力を持ち、急所である頸を切り落とす以外の手段で滅ぼすのは非常に困難。
本来であれば"日輪刀"で頸を落とす必要があるが、英霊の座に登録されたことにより弱点が広範化。
宝具級の神秘を持つ武装であれば何であれ、頸を落として鬼を滅ぼせるようになっている。
また妓夫太郎は"血鬼術"と呼ばれる独自の異能を行使することができ、血鎌を操り様々な攻撃を繰り出す。
しかし欠点として日光を浴びると肉体が焼け焦げ、浴び続ければ灰になって消滅してしまう。
このため太陽の属性を持つ宝具、それどころかただの太陽光でさえ致命傷になり得る。

『上弦之月・血染之夜』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1〜500 最大補足:1000人
鬼の中でも特に多くの人間を捕食した上弦の鬼が共通して持つ宝具。
自身を中心として同心円状に鬼の時間、彼らの狩場たる"夜"を展開する。
この結界の内部ではたとえ昼であろうと太陽光が遮断され、従ってその輝きが鬼の体を蝕むこともない。
性質上真名開放が前提となる宝具のため使用の度に展開時間に比例した魔力消費がマスターへ押し寄せる。


217 : 黒川イザナ&アサシン ◆Lap.xxnSU. :2022/07/02(土) 23:24:37 rlvTGfEM0

『兄妹の絆』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
彼ら兄妹は二人で一つ。
妓夫太郎の妹であり、もう一人の上弦の陸である鬼『堕姫』。
妓夫太郎が人間であった頃から血縁で結ばれていた彼女はその繋がりの深さから宝具として登録されるに至った。
堕姫は妓夫太郎と同等のステータスを持つサーヴァントとして他者に認識される。
その他"鬼"としての性質は兄と全く同一だが、彼らはあくまでも二人で一つの存在(兄妹)。
宝具である堕姫の頸を斬っても彼らは滅びないが、しかし本体である妓夫太郎の頸を斬っても彼ら兄妹を滅ぼす事はできない。
彼らを真に滅ぼすためには妓夫太郎と堕姫の頸を同時に斬るか両方の頸を斬り落とした状態を成立させる必要がある。

【weapon】
血鎌と帯

【人物背景】
鬼舞辻無惨配下の精鋭、十二鬼月の一人。
上弦の陸。妓夫太郎と堕姫の兄妹からなる鬼。
たとえそれが不合理であろうとも、兄妹の絆を捨てられなかった愚かな兄。

【サーヴァントとしての願い】
英霊の座から梅を解放し、幸せな来世に送ってやりたい


【マスター】
黒川イザナ@東京卍リベンジャーズ

【マスターとしての願い】
自分達兄弟が居て"アイツ"が居る。そんな幸せな世界がほしい

【能力・技能】
無敵のマイキーとすら張り合う身体能力と頑強さ。
そんじょそこらの一般人ではイザナに遠く及べないだろう。

【特徴】
褐色の肌と色素の薄い髪色が特徴の少年。

【人物背景】
「天竺」総長にして元「黒龍(ブラックドラゴン)」八代目総長。
歪んだ憎悪の果てにチームを築き、そして敗れ。
たった一人の親友(マブ)以外は何も得られなかった男。


218 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/02(土) 23:25:58 rlvTGfEM0
投下終了です
アサシン(妓夫太郎)のスキル・宝具は『Fate/Over The Horizon』に登場する同作キャラクターのステータスを参考にさせていただきました。


219 : ◆ruUfluZk5M :2022/07/03(日) 01:44:19 n3ah0rSw0
投下します。


220 : beautiful or ugly ◆ruUfluZk5M :2022/07/03(日) 01:46:22 n3ah0rSw0
 東京の暗闇に這いよる、それは醜い生き物だった。
 皮膚はただれ、ずるずると汁のようなものにしめっている。
 目玉は人類ではありえぬほどにぎょろりと大きく、血走っていた。
 頭髪の代わりに乱雑に蛇が頭頂へ巣食っている。
 口にあるまばらな牙は、生気を感じさせない。
 四肢の形からかろうじて人型なことはわかるが、間違いなく化物であり、悪魔であった。

 悪魔は、偶然通りがかった場所で、あるマンションの少女を見た。
 偶然目に入った相手を、獲物と見なした。

 ●

 マンションに住む少女はユミと言う子供だった。もっともこの聖杯戦争においてはあまり名は意味が無い。
 要はただのマスターでもサーヴァントでもない、一般人ということである。
 ユミはここ最近、なにやらニュースで不審な事件をたびたび耳にするようになったと、親の言葉を聞いて不安になっている。

 なにせ母は出産間近の妊婦だったのもある。医者の診断では、男の子らしい。
 弟が生まれてくるのに、辺り一帯の治安が悪くなっていると聞けば、不安にもなるものだった。
(こわいなあ……)
 そう考えていると、どうやら最近近くに引っ越して来たらしい女性が挨拶に来た。

「あたし、マキ。よろしくね」
「うん」
 マキという若い女性は、どうやら未成年らしいがユミよりだいぶ年上だった。
 そばかす混じりで目もぎょろっとしており、お世辞にも美人とはいいがたい人相だが、人の良さそうな女性だ。
 たまに会うと快活に世話や遊んでくれるマキが来たことで、ユミは気がだいぶ紛れていった。

 だが、それ以来ユミはおかしな悪夢を見るようになった。
 不思議な時代錯誤なかっこうや仮装じみた格好の人間やら、体のどこかに刺青を入れた幾人もの男女に家族も、自分もごみくずのように殺される夢。
 まるで、雑草のように引っこ抜かれ、消し飛ばされ、なにか生贄のように吸収すらされる。
 生まれてくるはずだった弟すら、存在自体がどうでもいいと言われたかのように消える。
「ウワアアアッ!!!」
 ユミが目を覚ますと、ぐっしょりと濡れていた。幾度となく、悪夢で目が覚めた。
 それを、部屋の上から眺めている女が居た。
 ユミから見えぬ形で、すぐそばで悪夢に苦しむユミをニヤニヤと獲物として見定めている……それは、マキだった。

 マキは悪魔だった。その正体は、世にも醜い生き物であった。


221 : beautiful or ugly ◆ruUfluZk5M :2022/07/03(日) 01:48:59 n3ah0rSw0
「もうそろそろ、ユミも弱って来たようね。聖杯戦争なんてものの舞台だもの、そりゃあ不安もあるでしょうよ」
 マンションの屋上でニヤニヤと笑うマキ。
「私は人の世に自在に入り込める。ロールなんて元々自在に書き換えてどこにだって都合よく行けるのよ。人を破滅させるためにね。そうよ、人間の魂を地獄へ落とせば。私は美しくなれる……私はそういう存在なのよ、アサシン」
 そう隣にたたずむ従者へとマキ……悪魔としての真の名を「魔鬼子」は言う。それを聞いた美しい長身の男は、心底下劣なものを見るような目を向け、魔鬼子をなじる。
「そんなことをして美しくなってなんの意味があるんだ?」
 男は魔鬼子のサーヴァント、アサシンだった。真名はビュウトと言う。

 心底侮蔑するかのようなアサシンの言葉に、マキは顔を歪めて怒りをあらわにする。
「だまれっ! お前に……その容姿を持っているお前に何が判る……! 醜く生まれたものの気持ちがわかるか! 地獄に人を落として美しくなるのなら私はいくらでも破滅させてやる! 大体普通の人間ならともかく異世界のコピー人間を地獄に落として文句を言われる筋合いがあるか!」
 実は。
 アサシンのビュウトはそういった容姿のコンプレックスに関しては。わかる、と言える境遇だった。
 この整った容姿は、実は己の醜さを呪い隠しとおした結果、精神と肉体に変調をきたし、変異した肉体により偽装されたものなのだ。
 だが、言えなかった。己の境遇を明かせるほどの信頼がマスターに対して無かったからだ。

(間違いない……マスターは「怪人」と言える。しかも精神がねじれて肉体が変異するような……順序は逆だがブサモンに近い。最も元から人間から遠い存在と形状だからか、僕もその容姿に恐怖ですくんだりはしないのが幸いだった。こうなれば、被害が拡大する前に始末するしかないのか……?)

 きっと彼女には、素の醜さを恥じ、美しさを求める存在としてのつながりがあって召喚されたのだろうと、イケメン仮面アマイマスクと言う名でヒーローとして戦ってきた男、本名ビュウトは考える。
 その共通点は、嫌と言うほど見てとれた。
 だが、ビュウトにはマスターとは違うと言えるある自負があった。あくまで自分は「ヒーロー」なのが最優先なのだという。
(僕は既に「覚悟」を決めた。イザとなれば醜い姿をさらしてでも、悪を退治し人々を救うためなら……構わない。ヒーローはそういうものだと、尊敬できる男に教えられたからだ)

 だが、魔鬼子が言った通りこの場所において人間たちは全て人のコピーとでも呼べる存在。いわば人形だ。彼らも人ではない、と言う意味では怪人のようなものだ。
 人を殺すのなら「悪」だろう。だが、あれらを喰らって美しくなるという願いだけを叶えることは「悪」なのか……?
 ビュウトには、迷いがあった。
 倫理を規定する基準が、彼が元居た場所と異なる世界。
 ユミと呼ばれるあの少女は、理屈としてはただのこの世界にセッティングされた人形のひとつに過ぎない。

 そうして迷っている内にある日、ふらふらとユミはマンションの屋上へと誘導されていく。


222 : beautiful or ugly ◆ruUfluZk5M :2022/07/03(日) 01:52:54 n3ah0rSw0
「さあ、おしまいだ。地獄へ落ちろ!」
 人としての姿を偽装したままマキは悪魔としてのおぞましい言葉を叩きつけ、ユミを自ら死なせんと幻覚の世界を展開する。
 東京各地に散るサーヴァントやマスターたちがもたらす「不安」が実体化したかのように、悪魔たちが屋上から落ちるユミをせせら笑い、絶望を焚きつける。

 ユミは、誰に聞かせるでもなく己の無力さに涙した。この東京にあふれる謎のおぞましい力をうっすらと感じ取り、そして無念だとばかりに泣いた。
「いやっパパ! ママ! 頑張るって言ったのに……弟ができるって言うから、お姉ちゃんになるから守るんだって約束したばかりなのに……!」
 その言葉を聞いて、ビュウトはマスターを討つことを決めた。理屈ではない。ああも泣いている子供を見捨てては「ヒーロー」ではない!
 手刀をマスターに向かい振り上げる……

 それと同時に、光線がユミの周囲の幻覚を薙ぎ払った。
「……え?」

 その指から唐突に怪光線を放った存在は、魔鬼子だった。
 おのれ魔鬼子裏切るか、という恨みの言葉が幻影と共に湧き出た悪魔たちから出るが、魔鬼子はそれをやはり眼光だけでかきけす。
「ユミちゃん!」
 魔鬼子が、いやマキは屋上のユミを抱き起すと、自分を認識させる。
「マ……マキさん!?」
 ユミは驚くが、マキは力強い言葉で励まし、ユミの意識を強く保たせる。
「全部嘘よ、無事よ!」
「嘘……」
「ユミちゃん。帰りなさいな。ほら、あんなの嘘っぱちよ。最近変質者が多いって怖さに夢を見たのよ。きっと大丈夫。これから生まれてくる弟さんのためにも心を強く持たなきゃ。きっと元気な子が生まれてくるんだから」

 不思議と。魔鬼子の言葉は「勇気」を与えたように染みわたっていた。
 やがて、ユミの意識が落ちる。あらゆることは無かったことになり、なにごとも無かったかのように寝床へと戻されていった。
(なんだ……これは)
 まるであべこべだった。地獄に落とすどころか不安を解消し、助けている。
 明らかに魔鬼子はユミに「活力」のようなものを与えていた。あれでは他のサーヴァントやマスターの暗示や魔術の影響すらある程度は防げるかもしれない。
 妊婦だという母の具合すら、魔鬼子の後押しで安産にすらなるに違いない。
「マスター、これはどういう……」
 途方に暮れてビュウトが聞くが、魔鬼子はひたすら押し黙っている。
「……………………」

 ●

 誰も居ない路地裏をずるずると悪魔の姿で歩く魔鬼子。頭の蛇はうごめき、ただれが前よりややひどくなり、粘液を引きずり苦悶していた。
 困惑しながらも黙ってそれについていくビュウトだが、そこに空をふるわせ巨大なひとつの目がにらみつけるように出現する。
「地獄の大魔王……!」
 それは、魔鬼子の知る者らしかった。世界を超えて、魔鬼子へとコンタクトを取りに来たのだった。
『ええいまたか魔鬼子! いつもいつもお前は!』
 咎める、と言うより呆れていさめるような声色で空よりにらみつける巨大なひとつの目……大魔王が吐き捨てた。

 お前は人を救えば救うほど醜くなっていくのだぞ!

 地獄の大魔王のその言葉にビュウトは口をぽかんと開け、魔鬼子に視線が向く。その醜い姿から、目をそらすことができなかった。
 魔鬼子はえづいたように濁った声を出す。
「わからない……でも、でもあの子は悲しんでいた。不安を抱えていた。帰ろうとする場所があった。温かい家族が……偽物のはずなのに。でも、私がなぜそれを見て助けたのかがわからない!! あの言葉を聞くと、放って……おけなかった……」
 その言葉に、ビュウトは全てを察した。
「マスター。キミは、キミは……まさか、いつも……」

 人を貶める醜き心がにじみ出ていたのではなく。誰かの願いにこらえきれず手を差し伸べる心が、その行為が更なる外側の醜さへとつながっているとしたら。
 この、おぞましい姿はむしろ――
「美しく、なりたい。今度こそ……今度こそ……地獄に人の魂を落として……!」


223 : beautiful or ugly ◆ruUfluZk5M :2022/07/03(日) 01:55:33 n3ah0rSw0
【クラス】
 アサシン
【真名】
ビュウト@ワンパンマン(ONE版)
【パラメータ】
筋力B 耐久A+ 敏捷A 魔力E 幸運B 宝具B
【クラス別スキル】
 気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。彼の場合は表層的には目立ちつつも自身の素性や本質を隠す、ということに長けている。
【宝具】
『なんのための美しさ(フー・イズ・ビューティフル)』
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
 人体操作により自身の肉体を意図的に変異させる宝具。これにより己の容姿をある程度は意図的に変更できる。
 手足が千切れる、肉体が変形破壊されるなどが起こってもある程度は粘土細工のように修復が可能。
 全力状態の場合は筋力耐久敏捷に更に+補正が付くが、変わりに容姿の一切を取り繕えず本来の状態となる。
【人物背景】
 容姿端麗、眉目秀麗のアイドル兼ヒーロー「イケメン仮面アマイマスク」として戦ってきた人気者。
 だが、元々は醜い素性を隠蔽しながら戦ってきた男性で、その自分自身の容姿への拒絶が高まり続けた結果肉体が変異。自分の容姿を取り繕い、身体強化する怪人へと変貌してしまう。
 そのまま怪人であることを隠しながらヒーローを続けるが、強迫観念と変異からか段々精神と肉体に異常をきたす自分に恐怖を覚え、ヒーローを誰かに受け継がせようとする。
 だがサイタマという男とのやり取りを経て強大な怪人を目にして民衆を護るために変身を解除。
 醜い姿と人間とは言えなくなった変異した肉体を明かし、怪人として拒絶されながらもヒーローとしての在り方を通し姿を隠した。
【サーヴァントとしての願い】
 ヒーローとして生き抜く。

【マスター】
 魔鬼子@魔鬼子
【マスターとしての願い】
 美しくなりたい。
【能力・技能】
 悪夢と幻影により精神を蝕み、死に追いやることでその魂を地獄に落とすことができる。
 目や手から出す怪光線は同じ地獄に属する悪魔などを一方的に溶かしたり逆に凍結させてしまう威力を持つ。人体に害無く気絶させる程度に加減も可能。
 普通の人間に化けることができる。姿は固定。
【人物背景】
 地獄の悪魔の中でも最も醜き女。日頃はまだ普通の人間(決して美しくはない)の姿に化けている。
 人間を地獄へ落とすことにより美しくなれる力あるいは契約をしているらしく、目についた女性をつけ狙い幻覚を見せる。
 だが、毎回相手の事情や悲しみを知っては寄って来た悪魔を薙ぎ払い手助けすらしてしまう。結局地獄に落とそうとした相手は毎回個人の事情や精神状態が好転する。
 そのたびに魔鬼子は人を救った代償として醜くなり、なぜ自分でもそうしてしまったのかと慟哭しつつも魔界一美しい女へとなることを誓うのである。
【方針】
 敵対者を地獄へ落とす。絶対になんとしても落とす。


224 : ◆ruUfluZk5M :2022/07/03(日) 01:56:24 n3ah0rSw0
投下終了です。


225 : ◆Ydvc2XJMDI :2022/07/03(日) 13:58:03 DyuQeS6o0
投下します。


226 : 刑事とギャングの共通点 ◆Ydvc2XJMDI :2022/07/03(日) 13:58:56 DyuQeS6o0

 そのアパートの一室は、異様ともいえる生気のなさに支配されていた。

 現在は真冬だというのに暖房は機能しておらず、食料が保存されている筈の冷蔵庫は、電源も入らないまま伽藍洞となっていた。
 食器棚に置かれているのはビールを飲むためのコップと、摘みを乗せる為の小皿がそれぞれ一個ずつ。部屋の隅に置かれたゴミ箱は、まだまだ満杯には程遠い。
 未だ紫煙を燻らせている、一本の煙草が置かれた灰皿だけが、辛うじてその部屋に生活臭を齎していた。

 実に二人もの男が、其処で一週間近くも共に暮らしているなど、余程の推理力がなければ気づくことは叶わぬだろう。

 黒髪を真っ直ぐに切り揃えた男のは、薄茶色の髪をしたもう一人の男に語りかける。
「では、お前はそれで本当にいいのだな、マスター?」
「ああ、俺はこの聖杯戦争に、何の願いも託さない」
 一呼吸の間を置いて、薄茶色の髪の男は二の句を語り出す。
「俺は元居た世界で、仇討ちって自分の都合の為に仕事を放り棄てて、むざむざ罠に嵌って死んだ。俺の周囲に居た皆に、取り返しのつかない迷惑をかけたよ」
 だから、と彼は続けて語る。
「俺はもう二度と、私情の為にこの命は使えない。刑事の端くれとして、この聖杯戦争に巻き込まれた人たちを守る」
 語る内容の過酷さにそぐわぬ、淡々とした口調と声色。しかしそれを聞く黒髪の男は、言葉の込められた覚悟と勇気を、確かに感じ取っていた。

 男の一人は笹塚衛士。聖杯戦争に招かれたマスターにして、日本警察の刑事。
 男の一人はブローノ・ブチャラティ。アサシンのクラスで召喚された笹塚のサーヴァントであり、イタリアギャングの幹部。
 警察とギャング。水と油に思えるこの主従は、しかし人を惹きつけ、人の輪に囲まれた生を送ったという一点で、極めて近しい組み合わせといえた。


227 : 刑事とギャングの共通点 ◆Ydvc2XJMDI :2022/07/03(日) 13:59:36 DyuQeS6o0
「マスター……どうか、自分ばかりを責めないでほしい」
 お前ばかりを懺悔させるのは悪いと、ブチャラティも口を開く。
「オレの二人の仲間は、無謀な道を歩んだオレに付き合って、オレが倒そうとした男に殺された」
「……そうか」
「すべきことをしたとは思っている。だがそれでも……オレがその男に抗わねば、二人が生きていられたことも事実だと、そう思う」

 ブチャラティの生前、その最後の数日間。血塗られたギャングの世界で、太陽の如き少年に出逢い、苦難に満ちた、しかし信じられる道を走り切った烈しき戦いの記憶。
 笹塚が観た欠けた夢の終わりに、彼は残された者たちに希望を託し、一滴の後悔も遺さずに天へと昇って行った。

 ああ、そうか、と笹塚は想う。
 復讐に身を委ねた最後の日々で、自分は周囲の人々を信じることを忘れていた。
 潔癖で誇り高い同期の上司と、控えめでフォロー上手な後輩。色々と軽すぎるふざけた男と、実直だが堅物な女の、真逆の意味で危なっかしい部下たち。
 自分とは真逆の個性を持つが、だからこそ頼れる味方だったチンピラの男。――誰よりも無力な筈なのに、事件の只中で希望を捨てずに前を向いていた、大食いの女子高生探偵。

 彼ら、彼女らは皆、笹塚を信じ、助けになろうとしていた。己をあれ程に報われぬ死へと追いやったのは、彼らの手を振りほどいた己自身であったのだと、笹塚は内省する。

 だから。

「少しだけ、叶えたい願いが出来たよ」

 最期まで仲間たちとの絆を守り、共に在ろうとすることを諦めなかったこのサーヴァントとならば。

「俺の周りの人たちに、一人で突っ走って済まないって謝りたい」

 信じてくれた人々に恥じぬよう、もう一度最後まで戦えるだろうと、笹塚はそう信じられた。

「ならばその願い、決して投げ出すな。それこそがきっと、俺たちが死ぬためではなく、前を向いて戦うための力になる」

 二人が見上げた窓の外には、雲を裂いた陽の光が燦燦と差し込んでいた。


228 : 刑事とギャングの共通点 ◆Ydvc2XJMDI :2022/07/03(日) 14:00:26 DyuQeS6o0
【クラス】
アサシン

【真名】
ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険 Parte5 黄金の風

【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力C 幸運D 宝具C

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
気配遮断:D+
サーヴァントとしての気配を絶つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
宝具『引手が信ずるは務歯の道』との併用によって効果の増幅が可能。

【固有スキル】
貧者の見識:A
相手の性格・属性を見抜く眼力。
言葉による弁明、欺瞞に騙されない。
無知なる者の救いを呼ぶ声を悟り、吐き気を催す邪悪を打ち倒す為の智慧。
……余談だが、ブチャラティには汗のテカリ具合で相手の嘘を感知し、汗の味を確認することで真偽を確実に見抜くという特技があるらしい。

スタンド使い:B+
生命エネルギーの具現化である、スタンドを保有する事を示すスキル。
スタンドの制御には強い精神力や闘争心を必要とする故に、このスキルは逆境における精神耐性としても効果を発揮する。
ブチャラティの場合は上記に加え、自分のチームを率いてスタンド使い同士の激戦を戦い抜いた逸話から、
このスキルにCランク以上の「カリスマ」「心眼(真)」「戦闘続行」を内包している。

【宝具】
『引手が信ずるは務歯の道(スティッキィ・フィンガーズ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大補足:30人
殴った物体にジッパーを取り付ける能力を有するスタンド。
取り付けたジッパーは自動的に開閉し、強度を無視してあらゆる物体を切り開き、寸断する。
能力で作った切断面は、ジッパーを閉じて元に戻すことも、完全に切断して敵を死に至らしめる事も本体の意思次第で自在。
この性質を利用し、自分の腕をジッパーで切り開いてパンチの射程を伸ばす事も可能。
他にもジッパーを閉じて別々の物体を結合する、ジッパーの中に空間を作り、潜入や収納に利用する、ジッパーの引手を掴み、開閉の勢いで移動するなど、総じて応用力が極めて高い。

本体であるブチャラティの周囲から約2メートル程度しか離れられず、スタンドのダメージは本体に、本体のダメージはスタンドにフィードバックする。
スタンドは通常、スタンド使い以外からは認識されず、スタンドでしか干渉されないという性質を持つが、
現在はサーヴァント化の影響によって、マスター及びサーヴァントであれば視認可能となり、魔力を帯びた攻撃であればダメージも通じる状態になっている。

スタンドのステータスはサーヴァントの基準に換算して、筋力B 耐久C 敏捷Aに相当。

【人物背景】
人の輪に囲まれて生きたギャング。

【サーヴァントとしての願い】
マスターの想いに従う。


229 : 刑事とギャングの共通点 ◆Ydvc2XJMDI :2022/07/03(日) 14:01:06 DyuQeS6o0
【マスター】
笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ

【マスターとしての願い】
身の周りの人々全員に謝罪したい。

【weapon】
拳銃、及びトラップ用具一式。

【能力・技能】
世界各地を旅して培った、通常の警察官の範疇を遥かに超える射撃・格闘・トラップ技術。

そして、並外れた生気の薄さ。

【人物背景】
人の輪に囲まれて生きた刑事。

【方針】
自分を信じてくれた人々に恥じぬよう、この聖杯戦争を収拾する。


230 : ◆Ydvc2XJMDI :2022/07/03(日) 14:01:45 DyuQeS6o0

投下終了です。

本作のアサシン(ブローノ・ブチャラティ)のステータス設定は、◆ZjW0Ah9nuU 様による、
「Gotham Chalice」候補作を参考にさせていただきました。

【魏&セイバー(ブローノ・ブチャラティ)】 ttp://www63.atwiki.jp/gotham/pages/55.html


231 : ◆FiqP7BWrKA :2022/07/03(日) 16:51:48 70LDwco60
投下します。


232 : あの人の為に戦った者たちよ ◆FiqP7BWrKA :2022/07/03(日) 16:52:41 70LDwco60
なんだか真っ黒コーデの男と縁があるな、と、クトリ・ノタ・セニオリスは思った。
急に頭に流れ込んで来た知識に照らし合わせれば、
自分の勉強机(私はこの異界東京では高校生とのことだ。)にふんぞり返るこのツンツン頭に黒いロングコートの男こそ、
自分が突然放り出された魔術儀式、聖杯戦争を共に生き抜くサーヴァントという事になる。

「お前が俺のマスターか?」

「君がサーヴァントなら、きっとそうなるね」

左手に宿った西洋剣を模した令呪を見せると、コートの男は小さく頷いた。

「それで、お前の願いは?」

「願いかあ……正直、誰かを殺したりしたくはないけど、
もしどうしても一個挙げろって言うんなら……私、ここに来るちょっと前に告白されたんだ。
ずっと、好きだった人に」

自分で言ってて面映ゆくて、目をそらしてしまう。あー、やだな。
今絶対顔真赤だ。だってあの時の事が、
一回壊れたはずなのに奇麗に元通りになっている『クトリの記憶』が、
幸せだったよ!と、全霊で叫んでいる。

「それで?」

コートの男が強い口調で続きを促した。

「だから、その返事をしたい。とかかな?」

「そうか。分かった」

「え?」

顔を挙げると、勉強机から立ち上がったコートの男が跪いていた。
そして令呪の付いた腕を取り、その甲に口づけをする。

「契約は交わされた。
これより我が身は貴女の剣にして盾。
貴女の運命は我が身に預かり、我が身は貴女の元に。
必ずや、貴女の願いを成就させましょう」

さっきまでの太々しい態度からとんでもない変わりようだ。
まるで絵本のおとぎ話の騎士様がお姫様に忠誠を誓うようである。

「え、ええ。よろしく。
えっと、無理してそんな硬い喋り肩しなくていいわよ?」

「安心しろ。最初だけだ。だが、さっきの言葉に嘘はない。
お前のサーヴァントとして、その願いは必ずかなえる」

「……一応、理由を聞いても?」

「俺は生前、愛した女の為だけに、何人もの人間の願いを踏みにじった。
唾を吐きかけたことも有ったし、この手で命を含めて全てを奪った事もあった。
けど俺は、止まろうとは思わなかった。
俺自身の願い、どうしても譲れないものの為に戦い続けた。
だから俺は、例えどんなに運命(Fate)が拒もうと、
この世のすべてがお前の願いを否定しようと、俺だけはお前の願いを肯定する」

そう言い切った彼はまぎれもなく、ただ一人。たった一つ。
どうしても譲れない願いの為に戦い続け、その果てについにつかみ取った戦士。
彼の言葉は、否応ない、一切の反論を許さない物だったが、
クトリにとっては、誰よりも優しい言葉だった。

「ありがとう。えっと、君の名前は?」

「クラスの事か?ならばアーチャーだ」

「クラスだけ?真名は?」

「そのうち教えてやる」

そう言うとアーチャーは霊体化して姿を消してしまった。

「無愛想だな……ってまずい!遅刻!」

コートと学生鞄を引っ掴むと、
生まれて初めて学校に向かって全力疾走で走り出した。


233 : あの人の為に戦った者たちよ ◆FiqP7BWrKA :2022/07/03(日) 16:53:22 70LDwco60
【クラス】
アーチャー

【真名】
秋山蓮@仮面ライダー龍騎

【属性】
秩序・悪

【ステータス】
筋力C 敏捷B 耐久B 魔力E 幸運D 宝具EX

【クラススキル】
対魔力D
魔術に対する抵抗力。
現代生まれの蓮には魔術的素養がほぼ無いため、極めて低い。
一工程の魔術なら無効化できる、魔力避けのアミュレット程度のもの。

単独行動C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
Cランクならマスターを失っても1日は現界可能。
本人の一匹狼気質と合っているのか、
かなりこじつけみたいな理由でアーチャーになってる蓮にしては高いランクで保有している。

【保有スキル】
騎乗A
乗り物を乗りこなすスキル。
仮面ライダーと呼ばれる戦士ならほぼ全員が保有している。
本来なら車、バイクなどの現代の乗り物の中でも一般的な物しか運転できない彼だが、
後述の宝具がある為、逆説的に高ランクで保有している。

心眼(真)B
13人の仮面ライダーたちやミラーモンスターたちとの死闘によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す。

始まりの仮面契約者C
仮面ライダー龍騎の物語において、
一番最初に仮面ライダーとなった彼に贈られた固有スキル。
鏡を媒介に侵入できる異世界における戦闘にて補正がかかる。

戦闘続行B
致命傷を受けてなお、敵を倒さんと立ち上がり、
必殺の一撃まで放って見せた彼の固有スキル。
致命傷を受けようと、目の前の敵を倒すまでは動き続ける。


【宝具】
『目覚めるその日をしんじていて(カードデッキ・ナイト)』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:1 最大補足:1人
彼が鏡の世界のライダーバトルにおいて使っていた変身アイテム。
ミラーモンスター、闇の翼ダークウイングとの契約の証でもある。
ミラーワールドと現実世界を行き来するための道具でもある為、
Dランクの対界宝具の側面も持つ。
使用することで魔力、運以外のステータスを上昇させるほか、
武器の召喚、契約したダークウイングに特殊攻撃をさせる、
分身出来るようになるなど、様々な力を発揮できるようになる。
最大の攻撃はファイナルベント、飛翔斬。
ダークウイングと連帯し、黒い矢になって相手を貫く技で、
彼がアーチャークラスに振り分けられる所以である。


『限界解放・黄金右翼(サバイブ疾風)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
『目覚めるその日をしんじていて(カードデッキ・ナイト)』に付属する、
仮面ライダーナイトとダークウイングの真のパワーを解放するためのカード。
ナイトサバイブに覚醒したナイトと、
疾風の翼ダークレイダーに覚醒した彼らは更にステータスを向上させ、
圧倒的な力を発揮する。
最大の攻撃はファイナルベント、疾風斬。
バイクに変形したダークレイダーに騎乗し、黒い矢になって相手を貫く技で、
その発動の過程で、幻想種級の存在を乗りこなしている。
彼が高ランクの騎乗スキルを保有するのはこの為である。

『君に捧ぐ果てなき希望(グッドモーニング・マイ・ディアー)』
ランク:計測不能 種別:対人宝具(?) レンジ:1 最大補足:1人
最後のライダーバトルの勝者となった彼が得た命。
これを用いて寝たきりだった恋人を甦らせたことから、
厳密には命一個と同価値の何かであると推察できる
生前の逸話が逸話故に、自分には使えないが、

【weapon】
通常形態では、召喚器であるダークバイザーによる剣戟、
騎乗槍型のウイングランサーによる近接、
契約モンスターを変形させて装備するマント型の防具ウイングウォールなどを用いた近接戦。
また、ダークウイングと合体することで飛行も可能。
サバイブ状態では、ダークブレードによる剣戟、
そしてダークシールドとダークブレードを合体させて作るボウガン型武器、
ダークアローによる遠距離攻撃が可能。
通常形態と違い、飛行は出来ない。
また、どちらの形態でも、契約モンスターの援護、自立行動する分身の召喚が可能。

【サーヴァントとしての願い】
マスターであるクトリの願いを叶える。


234 : あの人の為に戦った者たちよ ◆FiqP7BWrKA :2022/07/03(日) 16:53:35 70LDwco60
【マスター】
クトリ・ノタ・セニオリス@終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?

【能力・技術】
西洋剣を用いた近接戦。
サーヴァントで言う魔力放出による飛行。
自身の魔力を暴走させることによる自爆。

【weapon】
なし。聖剣セニオリスは与えられた社会的役割に合わないという理由で没収されている。

【人物背景】
諦めていたはずの人生に、ふいに差し込んだ光に希望を見た少女。
それを見せてくれた彼に恋し、彼の幸せを願い、自分もこれで幸せだと散った。
なおも与えられた続きに、彼女は自分の幸せの最後に仕上げを願う。

【マスターとしての願い】
ヴィレムの告白返事をする。


235 : ◆FiqP7BWrKA :2022/07/03(日) 16:53:57 70LDwco60
投下終了です。


236 : ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/04(月) 01:00:00 A/qRpd/M0
投下します


237 : 終着駅(ラストステイション) ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/04(月) 01:01:21 A/qRpd/M0
『歌姫(ディーヴァ)プロジェクトだと…?
能力者の完全支配だと…?
…くだらん』

紅白の甲冑を身に纏った少年は、そう吐き捨ててボクに銃口を差し向けた。

『皇神(ヤツら)のようなクズが、バケモノどもを律したところで――
その先に待つのは、破滅だけだ
だからこそ…能力者(バケモノ)どもは一匹残らず根絶やしにしなければならない…
オレたち“人間”が生き残るために…』

その瞳は憎悪に燃えている、何を言っても無駄だろう。
理解はできない。だが彼の言い分には理があり同情できるものだった。

「アスタラビスタ…GV」

彼は、正しかったのだろうか。
己の父とも呼べる人間から撃ち抜かれたボクは、そんなことを考えた。
胸から血がとめどなく溢れる。

「君もだ、シアン」
霞む意識の中、倒れこむシアンの姿が見えた。
彼女に渡しそびれた小さな宝石を、強く握りしめる。
ボクは彼女を守れなかった、それだけを考えてボクの意識は闇の中に沈む。

この悲劇は長きに渡る惨劇の始まりに過ぎない、そのことをボクはまだ知らなかった。


238 : 終着駅(ラストステイション) ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/04(月) 01:02:00 A/qRpd/M0
「あれ…ここは?」

聞き覚えのある声に呼ばれた気がして目覚めたボクの網膜に映るのは、目まぐるしく変わる窓越しの夜景と、眩しい蛍光灯。
がらんどうの電車の車内に、ボクはいた。
眼前で己の手を握っては開く。手の感覚はある。
窓ガラスを見ると、反射した己の蒼い目線と視線が合い、電車の動きに合わせて揺れる己の金の髪を見た。
影もある、間違いなく生きている。
先ほどまで見ていたのは、ただの夢だったのだろうか。

「ごめんなさい、起こしちゃった?」
横から聞きなれた声が聞こえた、目覚める寸前に聞こえたあの声と同じ声。
夢の中で倒れた彼女、シアンの声だ。
やはり、先ほど見たものはただの夢だったのだろう。

「大丈夫だよシアン、気にしないで。」
彼女に心配を掛けぬ様落ち着いて答えたが、一間あって返って来た彼女の声にボクは凍り付いた。

「シアン…って、誰?」

彼女は何を言っているんだ。
動悸が止まらない。何かを言おうとした口が開かない。
目の奥がチリチリする。
見てはならないものがボクの横に居る。ボクの第六感はそう告げていた。

「マスター?どうしたの?」

心配する彼女の声に応じて、ボクの首はようやく動いた。
顔を横に向けると、白い長い髪の少女が視界に入った。
ボクを見つめるその瞳は、シアンと同じ。いや、アキュラと同じ紅の美しい色をしている。
ボクの隣にはシアンとは違う少女がいた。

「ごめんキャスター、寝ぼけてたみたいだ。」


239 : 終着駅(ラストステイション) ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/04(月) 01:02:27 A/qRpd/M0
あれは、夢ではなかった。
死んだはずのボクは何故かこの東京に呼ばれ、そして彼女を召喚したのだ。
「…ミチル。」

アキュラの双子の妹、シアンの持つ電子の妖精のオリジナル。
それがボクのキャスター、神園ミチルだった。

「うなされていたけど、大丈夫?」

「夢を見ていたんだ。
 アキュラに…ボクの大切な人。色々な人が出てきたよ。」

「アキュラくん、アキュラくんか…」

実の兄の名を彼女は噛みしめるようにつぶやいた。
僕とシアンの亡き後、何が起こったのかは先ほどと同じように夢を見て知った。
端的に言うと、悪夢は繰り返された。

「アキュラくんにはね、幸せになって欲しかったんだ。」

「うん。」

アキュラは、あの後戦い続けた。
例え己の敵を誹れる身体で無くなろうとも、例え父の無念を晴らせずとも。
自分の頭で考え、追い求め続けた。

「結婚して、家庭をもって…毎日笑顔で暮らせるようになって欲しかったんだ。」

「うん。」

そして、ボクが彼女(シアン)と出会った時から始まった全てに終止符を打ってくれた。
ボクにはできなかったことを彼はやってくれた。
幸せになるべきはボクのような孤独な人間ではなく、彼のような家族と、社会と、人類と関わって互いに支え合える人間だ。
ボクもそう思う。


240 : 終着駅(ラストステイション) ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/04(月) 01:03:15 A/qRpd/M0
「でも…私は足手まといで…。私のせいでアキュラくんも、人類(みんな)も誰も幸せになれなくて…世界が…無茶苦茶に…。」

そんなことはない。
その言葉が、喉で止まった。
その無茶苦茶になった世界で、誰よりも苦しんだのは他ならぬ彼女(ミチル)だ。
ボクが彼女(シアン)と出会って救われた一年にも満たない日々のために、あの果てしない地獄を肯定しろというのか。
気休めの言葉すらかけられず、ボクは沈黙したまま項垂れるしかなかった。

「…キミの本当の願いは何?」

「私が生まれてくると、みんなに迷惑が掛かっちゃうみたい。」

シアンにはほんの一時の安らぎしか与えられなかった。
アキュラとミチルにはボクとシアンの悍ましい再演を押し付けてしまった。
無能力者は淘汰され、能力者は万民頭の中の自由すら許されぬ管理が待っている。
彼女が言っていることは正しい。

「だから、私は…私を産まれてこなかったことにしたいの」

その選択であれば、確かに大勢の人間は救われる。
ただ、シアンと出会えないボク一人を残して。
目を瞑り、彼女に最後の問いかけをする。

「それが、キミの願いなんだね?」

「うん。」

耳に聞こえるのは彼女と同じ声。
ボクの戦う理由はそれで十分だ。
自分に言い聞かせるように、決意するように己の目をゆっくり見開いた。

「わかった。ボクとキミで一緒に聖杯を勝ち取ろう。」

ターゲットは電子の謡精(サイバーディーヴァ)。
人々の絶望の抹消。
けれど躊躇っているこの感情(ココロ)の残滓は拭い去れない。

いつかの日と同じように、電車は動き始めた。


241 : 終着駅(ラストステイション) ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/04(月) 01:03:42 A/qRpd/M0
【クラス】
 キャスター

【真名】
神園ミチル@白き鋼鉄のX

【パラメーター】
筋力E 耐久EX 俊敏C 魔力A++ 幸運E 宝具A++

【属性】
 混沌・善

【クラススキル】
陣地作成:EX
自らに有利な陣地を作成するスキル。
電子の謡精の使い手たる彼女は、電脳空間上に謡精のライブステージを作成可能。

道具作成:A
魔力を帯びた器具を作成する。
宝具:兄妹を導く、青い鳥を探す童話(ガンヴォルトクロニクルス)により蒼き雷霆の使用者の装備を作成可能。
詳細は宝具欄にて記載。

【保有スキル】
セプティマホルダー:A++
旧人類を少数派として駆逐した存在。
(サーヴァントを除く)人間属性に対する攻撃力が大幅向上。

恒久平和維持装置:A
世界のためにその命を捧げられた証。高度な再生能力を誇る。
このランクであれば頭部の霊核を粉砕破壊されるまで再生可能。

自己改造:A+++
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
ランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。


242 : 終着駅(ラストステイション) ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/04(月) 01:04:08 A/qRpd/M0
【宝具】
電子の謡精(サイバーディーバ)
ランク:A++ 種別:対精神宝具 レンジ:100 最大補足:7000000000
モルフォと呼ばれる蝶を模した電子と音波で構成されたビジョンを介して他者の精神に干渉する精神感応能力。世界を産み直すクイーン。
高次元の生命体・霊体の波長を感知・操作することが可能であり、無能力者の生きた人間であればモルフォを介した破壊能力で干渉するのみであるが、セプティマホルダーと呼ばれる人種であればソナーによりその所在を把握することや精神干渉を行うことが可能。
また電子的な干渉能力や高度な情報処理能力も兼ね備えており、能力範囲が届けば全人類規模の能力者の監視統括も可能とする。
これだけの干渉能力がある分、本体が弱いはずはなく電子障壁(サイバーフィールド)と呼ばれるバリアを張ることや魔力弾の発射まで可能であり、楽園幻想と呼ばれる広範囲の音波攻撃もSPスキルとして持つ。

兄妹を導く、青い鳥を探す童話(ガンヴォルトクロニクルス)
ランク:A+ 種別:対雷霆宝具 レンジ:10 最大補足:7
数多の時代・世界で電子の妖精の守護者として立ちはだかる蒼き雷霆の使用者(GV・アシモフ・アキュラ・RoRo・ブレイド・他キャスターの観測外のため不明)を召喚する。蒼き雷霆版レジデントオブエデン。
本来は単独行動スキルを持たない蒼き雷霆の使用者を一時的に召喚し、能力者や機械であれば電子の謡精の能力で強制的に従属させる宝具だが、装備品のみを現界させることやマスターたるガンヴォルトに魂の断片たるABスピリットを憑依させることで各技能を使用させることが可能。

The One(ザ・ワン)
ランク:- 種別:対命宝具 レンジ:100 最大補足:1
死に瀕した己の愛するものを蘇生させる電子の謡精の究極の力。
マスターたるGVはキャスターの愛するものではないため当然範囲外ではあるが、副作用である覚醒状態を呼び出すことは可能。

【サーヴァントとしての願い】
己の存在の抹消。


243 : 終着駅(ラストステイション) ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/04(月) 01:04:22 A/qRpd/M0
【マスター】
ガンヴォルト@蒼き雷霆ガンヴォルト

【weapon】
キャスターが作成する蒼き雷霆使用者たちの武器。
彼本来の武装としては避雷針を打ち出すダートリーダーである。

【マスターとしての願い】
キャスターに聖杯を捧げる。

【参戦時期】
蒼き雷霆ガンヴォルト ノーマルエンド後


244 : ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/04(月) 01:04:53 A/qRpd/M0
投下終了です。


245 : ◆A3H952TnBk :2022/07/04(月) 19:22:56 l9f52b7k0
投下します。


246 : 杜野凛世&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/07/04(月) 19:24:07 l9f52b7k0
◆◇◆◇



祭囃子の唄が、聞える。
和太鼓の音色が、何処かで轟く。
篠笛の調べが、何処かで囁く。
かぁん。
拍子木の聲が、威勢良く響く。
そして、掻き鳴らされる三味線。

祝祭。祝宴。
燃え上がる焔のように。
じわり、じわり、と。
場の熱気は、みるみると昂ぶっていく。

神楽を思わせる、舞台の壇上。
冬の景色とは不釣り合いの活気。
祭りの喧騒。祀られる雅楽。
陽気で、賑やかで。
大団円のように、華やかで。
それ故に眩くて、じっと見惚れてしまう。

はっ、はっ、はっ、ほっ、ほっ―――。
誰かが、楽器を奏で。
はっ、はっ、はっ、ほっ、ほっ―――。
誰かが、踊っている。
はっ、はっ、はっ、ほっ、ほっ―――。
沢山の人達が、舞っている。

皆の履く下駄の歯が、床を踏み鳴らし。
躍動するように、音色を奏でる。
木製の律動が、反響する。
舞踏(タップ)。舞踏(タップ)―――。

所狭しの、軽快な舞踏(タップダンス)。
木の音色がかんかんと、小気味良く鳴り響く。
和の旋律には、不釣り合いな筈なのに。
笛の音や太鼓の音と絡み合い、共鳴していく。
いにしえの音色と、電子の旋律も。
不思議なほどに、親和していく。

賑やかな祭りを見つめるのは。
観客として其処に居る、自分だけ。
まるで映画館で独り、ぽつんと座り込むように。
現実と虚構のはざまで、眼の前の景色に浸り続けている。

はっ、はっ、はっ、ほっ、ほっ―――。
誰もが、踊っている。
はっ、はっ、はっ、ほっ、ほっ―――。
にこやかに、楽しげに、舞っている。
はっ、はっ、はっ、ほっ、ほっ―――。
御祭は、きらびやかに続く。






247 : 杜野凛世&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/07/04(月) 19:24:30 l9f52b7k0




――――そして。
――――視界は、急速に。
――――映画の場面が、暗転するかのように。
――――“現実”へと、引き戻される。






248 : 杜野凛世&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/07/04(月) 19:25:00 l9f52b7k0




白い吐息。寒々しい風。
空の静寂を思わせる、青ばんだ視界の中。
現実と虚構。真実と空想。
その境目が曖昧になったように、錯覚する。

日没を迎えた路地裏。
立ちはだかるのは、“人ならざる何か”の群れ。
黒い影のような姿で、ゆらり、ゆらりと。
皆、こちらの命を奪おうとして。
その身を揺らしながら、機を伺ってくる。

“私”は―――“凛世”は。
夢や幻のような、そんな光景を。
ただ呆然と、見つめていた。

脳裏に、知識が流れ込んでいた。
見知らぬ情報。知りもしない“戦争”。
まるで以前から憶えていたかのように。
その知識は、眼前の状況へと結び付く。
後戻りは出来ない。引き返すことは適わない。
そう告げるかのように。
焼き付けられた記憶は、“私”を急かす。


動揺する“私”を庇うように。
“その御方”は、眼の前に立っていた。


金色の髪と、閉ざされた両瞼。
その手に握り締めた杖を、構えながら。
“人ならざる何か”達と、対峙していた。

分かっていた。理解していた。
“その御方”が、何者であるのか。
何故、其処に佇んでいるのか。
何故、護ってくれるのか。
御伽噺のような現実に対する答えを、“私”はとうに識っていた。
そして、刹那の瞬間。


――――ひゅん。
風を切る音。
――――ひゅん。
風を裂く音。
二度に渡り、響く。


それは、余りにも疾く。
須臾の狭間。稲妻のように迸り。
次に、瞬きをしたとき。
人ならざる黒い影は、二体。
首元を斬られて、崩れ落ちていた。

―――銀の刃が、光っていた。
“仕込杖”から、刀を抜き放ち。
居合を、繰り出したのだ。

“私”は、そんな光景を。
ただ唖然としながら、見つめる他無かった。


「お嬢さん」


やがて、“その御方”は。
低く、嗄れた声で。
“私”に向けて、静かに囁いた。



「―――逃げな」



その一言は、“私”の意識を引き戻した。
自分が今、命の危機に晒されている。
そんな実感のない事実を、否応無しに突き付けられた。

ですが、貴方さまは――――そう言おうとして。
けれど“その御方”は。
無言の背中で。仕込杖を握る両腕で。
“私”に対して、言葉もなく語り掛ける。
――――行け、と。
それだけの、単純な訴え。


“私”は、微かに躊躇って。
その矢先に。
“その御方”は、再び。
銀色の刃を、閃光の如く抜き放ち。
それを合図にするように。
“私”は、その場から無我夢中に駆け出した。



◆◇◆◇


249 : 杜野凛世&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/07/04(月) 19:27:18 l9f52b7k0

◆◇◆◇



遠い記憶の、幼い頃。
まだほんの小さな子供だった頃。
“姉さま”と二人で、こんな景色を見つめた。

肌寒い街の情景。顔を撫でる冷たい風。
薄暗く沈む、日没の空。
しんしんと降り積もった、白染めの足元。
お正月。姉さまと一緒に、初詣へと向かう道。
そんな記憶を、ふいに思い出した。

息を切らして、“私”は奔る。
艶やかな模様の着物を揺らし。
鼻緒が切れそうな勢いで、下駄を鳴らし。
人気の無い路地を、必死に往く。

どん、どん、どん、どどん――――。
どん、どん、どん、どどん――――。
祭囃子の太鼓が、脳裏で木霊する。

はっ、はっ、はっ、ほっ――――。
はっ、はっ、はっ、ほっ――――。
舞踏の音色が、鮮明に反響される。

静寂の冬風が吹く、路地の中で。
あの喧騒が、幾度と無く心に浮かぶ。
思えば、初詣の日。
神社の境内も、酷く賑やかで。

そして―――人混みの中で。
姉さまと、ふいに逸れてしまって。
こんなふうに、“私”は駆け回っていた。
今にも泣き出しそうになりながら。
ほんの少し前まで握っていた、姉さまの暖かな手を探していた。

どん、どん、どん、どどん――――。
どん、どん、どん、どどん――――。
“私”の小さな孤独と恐怖をよそに。

はっ、はっ、はっ、ほっ――――。
はっ、はっ、はっ、ほっ――――。
すれ違う人々は、年明けに賑わいでいた。


あの時と、同じように。
“私”は―――“杜野凛世”は、迷い子だった。



.


250 : 杜野凛世&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/07/04(月) 19:27:47 l9f52b7k0
聖杯戦争。異界の東京。
令呪。英霊。奇跡の願望器。
見知らぬ記憶。見知らぬ世界。
見知らぬ日常―――前奏。

奇跡に求めるものは、何もない。
“私”が欲しいのは、奇跡ではなくて。


――――あいたい。


掛け替えのない青春を分かち合う、大切な仲間達に。
“私”を見つけてくれた、大切なひとに。
また、触れたい。また、会いたい。
この手を握ってくれた、慈しい温もりに。

ただ、それだけ。
そんなささやかな願い。
けれど。“私”には、それで十分だった。

だから―――“私”は。
この世界に、迷う。

手を握ってくれる人は、いない。
あの初詣の境内のように。
必死に、必死に、彷徨い続ける。
あの時のように、“姉さま”は戻ってきてくれない。

いま。
“私”のそばに、いてくれるのは。
開かぬ瞼を持つ、“あの御方”だけ。
あの路地裏に誘われて。
あの“人ならざる影”に襲われた“私”の前に。
彼は、突如として姿を現した。

――――きっと、無事だ。
――――何事もなく、切り抜けている。

何故だか、そんな確信を抱いていて。
路地を抜けて、“私”はふいに立ち止まる。
そして、先程まで奔っていた道を、振り返る。

静寂。閑靜。沈黙。
何もなく。何も聞えず。
だと言うのに、脳裏の喧騒は。
変わることなく、木霊する。
あの壇上で、御祭は賑わい続ける。
宴も、たけなわに―――――。



◆◇◆◇


251 : 杜野凛世&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/07/04(月) 19:28:26 l9f52b7k0

◆◇◆◇



とん、とん、とん。
刀を仕込んだ杖を、幾度も軽く振る。
地面を叩き、反応を確かめる。
戻ってくる返事は、何ひとつない。

そのまま杖を真正面に伸ばし、辺りを探る。
触れるものは、何ひとつない。
周囲の敵は、全て斬り倒し――――とん。
杖の先端が、何かに触れた。

金色の髪を持つ“盲目の剣客”は、思わず身構える。
その仕込杖をいつでも抜ける体勢を取り。
眉間に皺を寄せ。殺気を、解き放ち。
そして、沈黙が続く。

暫しの静寂の後。
剣客は、恐る恐ると構えを解き。
再び杖を、前方へと伸ばした。
とん。先端が、やはり何かに触れる。
とん、とん、とん。
警戒をしながら、杖でそれを何度も突く。
何とも云えぬ無言のひと時。
やがて剣客は、口を開く。


「ただの壁じゃねえか」


そうぼやいて、思わず苦笑いを浮かべた。
おそるおそる。
おっかなびっくり。
そんな態度を取った己が、酷く間抜けに感じる。

ゆらり、ゆらりと。
剣客は、彷徨う幽鬼の如く。
その場から、ゆっくりと歩き出す。
静寂の狭間。
何処からか、喧騒が聞こえる。

どん、どん、どん、どどん――――。
どん、どん、どん、どどん――――。
祭囃子の太鼓が、脳裏で木霊する。

はっ、はっ、はっ、ほっ――――。
はっ、はっ、はっ、ほっ――――。
舞踏の音色が、鮮明に反響される。

盲目の剣客は、その喧騒の正体が何なのか。
言葉もなく、考え込んでから。
やがて、何かに思い至ったように、にやっと笑みを浮かべた。


――――なんでえ、あの宿場の祭りか。


きっと“あの祭り”は、無事に終わったことだろう。
あの町のやくざ共は、己が斬り捨てたのだから。

宴もたけなわ。
祭もたけなわ。
喧嘩旅に、“座頭市”が往く。



【クラス】
アサシン

【真名】
座頭市@座頭市(北野武版)

【属性】
中立・中庸

【パラメーター】
筋力:B 耐久:D 敏捷:C++ 魔力:E 幸運:C 宝具:E


252 : 杜野凛世&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/07/04(月) 19:28:46 l9f52b7k0

【クラススキル】
気配遮断(偽):C+
明鏡止水の域に迫る無想の剣技。
自身の太刀筋が見切られにくくなる他、『直感』など相手の危機察知系スキルの効果を半減させる。
ただしサーヴァントとしての気配遮断能力は「多少察知されにくくなる」程度に留まる。

【保有スキル】
盲の心眼:B+
音。匂い。気配。殺気。目は開かずとも、彼は世界を感じている。
研ぎ澄まされた感覚による察知能力、そして戦闘技術。
自身に迫る危機や殺意、状況を敏感に感じ取り、その場で残された活路を瞬時に導き出す。

風切りの剣閃:A
盲目の侠客”を伝説足らしめた高速の剣技。
鞘からの抜刀と共に敵を斬る“居合”を繰り出す際、高い確率で相手の先手を取れる。
更に先手を取った場合、クリティカルダメージを確定で叩き出す。

無明の剣鬼:B
自身の剣技による攻撃判定にプラス補正が付与され、相手の攻撃に対して打ち勝ちやすくなる。
更に自身と対峙した相手に一定確率で『威圧』のバッドステータスを与え、相手の攻撃の命中率とダメージを低下させる。

北ノ蒼:A++
彼を取り巻く“死と暴力”は、“蒼色”に染まっていた。
自身が参加する戦闘において、戦場にいる全参加者の不死性を一時的に消失させる。
四肢の欠損をも治癒する再生能力も、死という概念そのものへの耐性も、彼が戦闘に加わっている場面においては一切の効果を発揮しない。
故に、彼の立つ戦場では全ての攻撃が“致死の暴力”と化す。
アサシンが離脱するか戦闘が終了した瞬間に効果は解除される。

【宝具】
『照壇(Showdown)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1\~10 最大捕捉:10
「“めくら”の方が人の気持ちが分かるんだよ」
盲目の剣客であるアサシンはあらゆる存在を“感じ取り”、敵と見做した者達を全て斬り捨ててきた。
敵や飛び道具等を問わず、レンジ内に侵入した存在から向けられた“殺意”と“敵意”を完全察知する宝具。
「気配遮断」を始めとする隠密行動系のスキルや宝具をランクに関わらず無視し、自身に迫る攻撃や殺気を確実に捕捉してみせる。

『舞祭(Festivo)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
「幾ら目ン玉ひん剥いても、見えねえもんは見えねえんだけどなぁ」
盲目の剣客、座頭市の禁忌―――すなわち“開眼”。
両眼を開いている間、自身の与ダメージが倍増する。
更に全攻撃に視覚遮断のバッドステータスが付与され、彼の振るう刃に斬られた者は戦闘終了時まで視覚を奪われる。
ただし発動中は「北ノ蒼」を除く全スキルが最低ランクにまで低下する。
座頭市という英霊の根幹たらしめる神話性、即ち“盲人であること”を自ら棄てる宝具であるが故に、効果以上にデメリットが目立つ。

因みに作中終盤において座頭市は「おめえ眼が見えてんのか?」「そうだよ」等のやり取りをするものの、ラストでは石ころに躓いて「幾ら目ンひん剥いても、見えねえもんは見えねえんだけどなぁ……」とぼやく。
つまるところ、実際彼に視力があるのか否かは物語では曖昧に濁されている。
とはいえサーヴァントとしての座頭市は、この宝具を発動しない限りは“視力を失った状態”として扱われる。

【Weapon】
仕込刀

【人物背景】
流れ者として各地を彷徨う盲目の剣客。
金髪という異様な風貌を持ち、その素性は一切語られない。
ただ分かるのは、彼は居合の達人であること。
その超人的な剣技によって、悪辣なやくざ達と対峙することのみである。
映画本編においては“祭り”を目前にした宿場町へと流れ着き、町を牛耳る悪辣なやくざ・銀蔵一家との争いに身を投じることになる。

【サーヴァントとしての願い】
知らねぇよ。んなもん。



【マスター】
杜野 凛世@アイドルマスター シャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
皆に、あいたい。

【能力・技能】
ボーカルやダンスなど、アイドルとして一定の技術を積んでいる。
また由緒ある呉服屋の娘ということもあり芸道全般に精通している。

【人物背景】
283プロダクションに所属する大和撫子系アイドル。『放課後クライマックスガールズ』に所属。
常に控えめで礼儀正しく、良家の子女としての確かな佇まいを持つ。一方で少女漫画を好むという意外な趣味があり、またメンバーとの交流ではノリの良い一面を見せることも。自身をスカウトしたプロデューサーに対して一途な想いを抱き続けている。

【方針】
生きて帰りたい。


253 : ◆A3H952TnBk :2022/07/04(月) 19:29:06 l9f52b7k0
投下終了です。


254 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:34:30 BhpaRzHE0
投下します


255 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:34:52 BhpaRzHE0
.








     もう十七歳なんだけど、

     ときどき十三歳がやるみたいなことをしてしまう

                          ――J・D・サリンジャー、ライ麦畑でつかまえて









.


256 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:35:12 BhpaRzHE0

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 良心が痛まなかったのか、と言われれば、痛んだと答える。
痛ましいと思っていたのなら何故殺そうとした、と問われれば、チャンスがあったからだと言う以外の理由はなかった。

 既にして、死に体の少女だった。
ランサーのサーヴァントを引き当てた、魔術師くずれのこの男が見た時には既に、少女は瀕死に近い程の重傷を負っていた。
石鹸のような白い肌を持った、可愛らしい少女で、身長と骨格の育ち具合、肌の張りの具合から推察するに、まだ小学生程度の年齢であろう。
その少女は、まるで今時の女の子向けのアニメーションの中の登場人物が身に着けるような、可愛らしくて煌びやかなコスチュームを身に纏い、そして、
そのアニメの中のキャラクターには到底似つかわしくもなく許されないであろう程、血まみれの状態だった。男が、少女の姿を見た時にはもう、そうなっていたのだ。

 誰かと争い、戦った後である事は、一目で理解出来た。だが、誰と戦ったのか、など、この際どうでも良かった。
肝心なのは、その時に地面に這い蹲り、蹲っていた少女が、魔術に40年の年月を捧げた自分など、一笑に付す程に膨大な魔力を持った人物である、と言う事だった。
聖杯戦争の参加者である事は、最早明白。付近にサーヴァントがいる様子もなく、手負いの状態のマスターだけが放り出されている、この現状。
これを、好機以外の何と捉えるべきなのだろう。気づいた時には反射的に、ランサーに「殺れ」と命令していた。

 今に至る。
ランサーが、少女の腹に突き刺した己の槍を引き抜き、心底、遣る瀬無い表情を此方に向け、そのまま歩み寄って来た。

「それは止めとは言わんのではないか?」

 マスターである男が問うた。

「気乗りがしなかった。どのみち、後三分と生きんよ、この少女は」

 この男が召喚したランサーは、槍を投げさせれば、射線上に障害物さえなければ1㎞先の標的の頭部を粉砕する投擲技術を持っていた。
全く同じ技量の戦士と打ち合わせれば、最初の5手で相手の技を見切り、20回打ち合わすまでには心臓を穿つ程の槍捌きを誇っていた。
ゼロカンマ数秒の間に生じた針の穴程の大きさの隙間目掛けて一撃を叩き込む事も出来たし、石突による簡単なカウンターで鎧の上から対手の肋骨を粉々にする事も出来るのだ。
それ程までの達人が、這い蹲っている相手に止めを刺すのに、頭や心臓ではなく、腹を狙ったのである。マスターが、しっかりと殺してくれ、と遠回しに言ってくるのも、無理はなかった。

「良いのか? その娘に背を向けていて。相当な魔力量だ、あっと驚く事を仕掛けて来るかも知れないのだぞ」

「私はこの少女よりも、全く姿を見せぬそのマスターのサーヴァントの方が気がかりなのだよ。これ程の素養を持つ少女なのだぞ、余程弱いサーヴァントが召喚されていなければ先ず遅れは取らなかろう。不意に馳せ参じて来るかも知れぬ、そちらの方が私は怖い」

 成程、ランサーの言う事も一理ある。
サーヴァントと言う存在は、ただ維持するだけでもマスターの魔力を漸進的に消費して行く。戦闘行為などと言う激しい行動を行わせれば、一気にそれは失われる。
つまり聖杯戦争とは聖杯を勝ち取る為のバトルロワイヤルの側面の他に、マスターが日ごろ魔力量のプールを鍛えているか否かが問われる持久戦としての側面もあるのである。
身も蓋もない話だが、例えマスターの戦闘能力が大した物でもなかろうが、魔力の保有量が多い、と言うその一点だけで聖杯戦争に於いては重要な意味を持つ。

 ために、この少女は聖杯戦争の観点から見れば、当たりも当たりの優良マスターである事になる。
何せ、ランサーのマスターである彼の、比喩抜きで数倍に近いレベルの魔力量を誇るのだ。さぞ名の知れた魔術の大家の子供なのだろうか。男とは、偉い違いであった。
ランサーの言う通り、このレベルの地力を持ったマスターが引き当てたサーヴァントなのだ。この場に姿を見せていないからと言って、油断が出来る筈がない。
警戒するなら、現在進行形で死にかけているこの少女よりも、観測されていない彼女のサーヴァントの方だ。二人は、気を、張り続けた。

 ――そんな彼らだからこそ気付けた。よろり、よろり、と。這う這うの体で立ち上がる、死にかけの少女の姿に。


257 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:35:34 BhpaRzHE0
「っ!!」

 ランサーが飛び退き、槍を構えた。
たった1人で万人分の働きをする、とまで称えられた戦士が、小突けばそのまま逝ってしまうであろう少女に、此処まで警戒を露わにする。
英雄、笑止極まれりと言うべき光景だが、それでも彼を責められまい。程なくして、本当に目の前の少女は死ぬのだ。
意志の力をどれだけふり絞ろうとも、出来る事は、死神の出迎えを遅らせる事だけだ。それにしたとて、ランサーに刺された腹部の激痛が消える訳ではない。
そもそも、立ち上がる事すら苦しい筈であろうし、このまま寝転がって、あの世に逝くのを待っていた方が、当人としては遥かに楽な筈なのだ。そんな娘が、無理を押して立ち上がる。何か、二の手があると考えるのが、当たり前の話であった。

「何故、立てる」

 マスターが問う。

「消えたく……ないから」

 青息吐息に、九死一生。正しく目の前の少女の今のコンディションを語るのならば、そんな所になってしまう。
耳を峙てなければ本当に聞こえてこない程呼吸は弱弱しく、死が秒読みである事など明らかな程に、小刻みに身体が震えている。
であるのに、その瞳にだけは。不自然な程に強固で、眩く、激しい、生への渇望と不屈の闘志が煌めいていた。
死にたくない、と言う気持ちも汲み取る事が出来た。だがそれ以上に。自分はまだ、終わっていない。終われない。まだ立てるし戦えるのだ。諦めてなど、いないのだ。
そんな力強い裂帛の意思が、ありありと、読み取る事が、出来てしまったのだ。

「……もう、立ち上がらないでくれると嬉しい。私の戦士としての矜持を汚したくないのだ」

 弱音とも取れる言葉をランサーが零した。
マスターである男にしてもそれは同じだった。ランサーの持つ誇り高さ、気高さの、100分の1も有している男ではなかった。
しかし、男には元の世界には娘がいた。傷だらけで立ち上がるピンクブロンドの髪の少女、彼女と同い年の娘がいるのだ。
一人の子を持つ父として、他人の娘であるとは言え、年端も行かない少女を殺したくない、と言うのは人情なのだ。だが、この場に於いては、殺さなくてはならないのだ。
殺すのなら、痛めつけないやり方でありたい。結局最後には殺すんじゃないかだとか、自分の体裁と外面を気にしているだけの醜いエゴだとか言う批判など、彼自身が理解している。それでも、これ以上は痛めつけたくないというのは、彼らの偽らざる本心であった。

「諦めたく……ないんです……っ」

 両手でステッキを握り、酩酊状態のように上体を前後にゆらゆらさせながら、少女は更に言った。
マスターである男は、魔術師であるからこそ、目敏かった。少女が手にしているそれは本当に、女児向けのアニメの中に出て来るキャラクターが握っているような、
子供ウケを狙った可愛らしいデザインを追求したようなそれであると言うのに、男は勿論嘗て男が出奔した生家である魔術の一族の誰もが手を尽くしても作り出せない程に、高度な礼装……どころか、宝具手前の代物であったのだ。

 ランサーが念話で、少女の現状をより詳しく伝えて来て、内心で愕然とした。
正直、何故生きていられるのかが不思議な程であった。外見以上に、内面の損傷の方が遥かに重篤なのだ。
ランサーの優れた動体視力が、皮膚の下の血管の様子を捉える。血流は滅茶苦茶で、至る所で内出血が起きていて、宛ら、破裂した風船そのもの。
筋繊維の多くが断裂して、比喩抜きで、歩く事は勿論立ち上がる事すらままならない状態の筈なのだ。凡そ目で見て観測・推測可能な体内の様子ですら、これなのだ。
恐らくレントゲンに掛けたり、専門の魔術を駆使すれば、神経系・リンパ系はもっと滅茶苦茶な状態になっているであろう事は明らかだ。
此処まで来ると、本当に、何と戦ってきたのかが疑問となる。そして……此処までの手傷を負いながら、何を、諦めないのかも……。

「助けたい友達がいるんです……、大切な、大切な……」

「俺も同じだよ。だから頼む、死んでくれ」

 聖杯に懸ける願いなど、男は持ち合わせていなかった。多くの魔術師にとっての悲願である所の根源ですら、この男にとってはどうでも良かった。 
魔術師としての責務を死んだような目でこなして来た自分の下に現れた、パン屋の娘。ジョージアの温泉街で出会った化粧っ気のないその女は、
心清らかで柔らかい物腰で、誰に対しても腰の低い人だった。その娘と恋に落ち、駆け落ちし、一子を設けた。


258 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:35:51 BhpaRzHE0
 頼む、俺は生きて帰らなければならないんだ。
あの娘にはまだ父親が必要だ、妻にはまだ俺の稼ぎを当てにしていて欲しいのだ。
君の友と私の妻子とに、人間的な優劣などない。そんな事は解っている。だが俺にとって、重要なのは俺の妻と娘なのだ。
君の気持ち、俺には良く分かる。無理を押し通して立ち上がってでも、その友達は大事なのだろう。だが、君の為に道を譲ってやれないんだ。
俺だって、こんな所で諦めたくないんだ。そう、俺にだって大切な――

 その瞬間は、一瞬であった。
右足の力だけで地面を蹴りぬき、時速数百㎞の加速を得たランサーが、鬼気迫る顔でマスターである男の方へ迫って来た。
ランサーの姿が、消えた、と男が認識した頃には、不自然に己の目線が、落ちるように下がって行くのを彼は認めた。
大地が、音もなくせり上がっているようだった。違う――大地がせり上がっているのではない、男の目線が落ちる『ように』ではない。実際に、落ちていた。
男の上半身は、背後に現れた何者かの手によって、臍の辺りから横に真っ二つにされ、同時に、その何者かが男の下半身を蹴り飛ばしたのだ。
ダルマ落としの要領で一瞬中空に留まった男の上半身は、そのまま、重力の掟に従い落下を始めたのである。その事実を認識した瞬間、血しぶきの噴き出る感覚と激痛とが同時に叩き込まれた。

「オオッ!!」

 雄たけびを上げ、己の槍を正しく、目にも留まらぬ速度で振るうランサー。
先端のスピードは音の数倍に達し、とてもではないが目で見て見切れる速度ではない。何せ、弾よりも遥かに速く、そして、弾丸すらも弾き飛ばしてしまう程なのだ。
狙う箇所は、頭部や心臓、肝臓、股間等の急所から、手先や足先と言う末端まで。これを正確無比に、ランサーは攻撃し続けている。
一瞬で勝負の趨勢が決まる部位から、攻撃されれば著しい弱体化は避けられ得ぬ部位まで、人体の何たるかを知り尽くし、武の極地に足を踏み入れた者のみが繰り広げられる、
その連撃の数々は成程、英霊として召し上げられるに相応しいものであった。

 そしてその絶技の数々を、涼しい顔をして男は受け流し、防ぎ、弾き続けていた。
殺傷の為に生み出されたと言うよりは、神の系譜に連なる偉大なる国父が振るっていた武器がレガリアと化した物、と言う名目で、
美術館や博物館にでも飾られている方が相応しい、美術品の類。そうとしか思えない程、派手で、仰々しく、物々しい幅広の大剣を片手で振るっていた。

「成程、良いセンスだ。武の極地に達していると自ら口にしても誰も異論を挟むまい。手にしているその槍も大層な業物なのだろう事も解る。加えて、単純な地力(ステータス)も高い。英霊として崇められるに足る男だな、お前は」

 ランサーの攻撃が加速する。怒りに我を忘れ、怒りに心を支配された訳ではない。
冴えた頭で、激する心が産み出す力を手足に込めているだけだ。戦士には怒りは無用だが、激情は必要なのだ。
正しく怒りを律する事が出来るのなら、無限の力を人は手に入れられる。ランサーは、己を御する高い精神性をも身に着けているのだった。

「だが、もういなくなった」

 剣を振るう男がそう告げた瞬間、ランサーの身体が大きく仰け反った。
攻撃に対してピンポイントで、攻撃を合わせられ、そして、あわせに来た攻撃の方が威力も重さも鋭さも上だったから、体勢を崩してしまったのだ。
己の身体をよろけさせたものの正体。それは、セイバーの男が左手に握った、大剣をしまい込む為の鞘で――

 気づいた瞬間には、ランサーの身体が十字に割断され、4つに分割された身体がそのまま地面に落下。うめき声一つ上げる事無く、消滅してしまった。

「……」

 セイバーは、瀕死の重傷を負いながらも、立ち尽くし、茫乎とした様子の少女の方に目線を投げかけ、足早に近づいて行った。
生の気配が急激に失せて行っているのが解る。今の少女からは生の実感を欠片も感じ取る事が出来ない。亡霊だとか地縛霊の類だ。
だのに、その目にだけは、眩いばかりの意思が輝いていた。カットされた宝石などよりも、余程魅力的な、希望の煌めきが宿っていた。


259 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:36:12 BhpaRzHE0
「昔の俺なら、君のような逸材は、有無を言わさず誘っていたのだがな。神殺しとの建前もある。故に、訊ねよう」

 膝立ちになり、目線を、少女と同じ高さに合わせてから、男は言った。少女の目は霞んでいて、男の顔が上手く認識出来ない。

「生きたいか?」

「生き……たい、です」

 掠れた声で少女は言った。

「まだ立てるか?」

「立ち……続けます」

 小さな声で少女は答えた。

「何処まで歩ける?」

「倒れる…まで……」

 最早、舌が回ってなかった。

「――世界と友、片方しか救えぬとしたら、どちらを選ぶ?」

 その言葉を口にした時のセイバーの顔を、最早、少女の瞳はまともに映してすらいなかった。

「――両方」

「見事」

 そう告げた瞬間、セイバーは、空手の左手に力を込める。
すると、如何なる不思議の技か。彼の掌から、手品か魔法か、苗木が生えて来たのである。

 ――違う、それは苗木ではなかった。
男の掌の真ん中から延びる、一本の棒軸。これを起点に、濃いエメラルドのような宝石がフラクタル図形のツリーのように垂れ下がっている、ある種の宝飾品にも見える何かだった。

「神天地(アースガルド)の門戸を叩く者に生を」

 男は、右手で油断なく握っていた大剣を鞘に納めるや、それまで剣の柄を手にしていたその手で、壊れものでも扱うように少女を抱き寄せ――。

 左の掌から延びる宝石の樹木を、後1度の搏動で停止する筈だった心臓に、打ち込み、穿って見せた。

 「わー!! これセクハ……え、ちょっとこれ……ま、何をやらかしてくれてるんですか!?」と、電子音混じりの女のような声が、ステッキから鳴り響いた。

 痛みを越え、己の身体から失ってはならないものが、後数秒の内に消えるだろう、その中で。
ランサーのマスターだった男は、その男だけは、ダメだと少女に呟いた。嫌になる程見て来た目だったからだ。
根源を目指す為に、人間的な生き方と考えの全てを放棄する、ロクデナシの目を、男が一瞬だけしたのを確かに見たからだった。


260 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:36:38 BhpaRzHE0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 『イリヤスフィール』の目から見た『グレンファルト・フォン・ヴェラチュール』と言う男は、理想的な聖騎士(パラディン)そのもののような人物だった。
先ず、背丈が高い。イリヤと親しい男性達、その中でもグレンファルトの身長は頭一つ抜けている程であった。
別に身長が低いからと言って騎士としての資格がないと言う訳ではないが、それでも、見栄え、と言う点ではどうしても差がついてしまうものである。
加えて、顔立ちも良かった。美形である事は疑いようもないが、顔立ちはどちらかと言えば精悍で、女性的な美しさと言うよりは男性性に寄った男らしい美形であった。
だが何よりも目を引くのが、そのマッシブさであった。その身体のどこにも、凡そ贅肉だとか、脂肪だとかの、余分なものが一切付随されていない。
名にし負う彫刻家の手によって作られた彫像に、血と精神と魂とを吹き込まれ、それが動いているかのような、優れた肉体美であった。
これに、彼の出身世界に於いての宗教的モチーフが散りばめられた、示威的で、しかし、それでいて清潔感溢れる白を基調としたスーツに似た服装を、
嫌味なく着こなされては堪らない。格上の男は、何を着ても似合うものであるが、グレンファルトの場合はその典型だ。
肉体(ガタイ)も銅像の如く引き締まったそれの上、顔も良いのだから、余人が着れば気障ったらしい服装も、似合わない筈がない。

 勿論、外面だけのサーヴァントではない事は、証明されている。
剣を振るう姿は護国の聖騎士、破邪の勇者宛らであり、余人を魅了するに足る力強いエネルギーを発散するのである。
これで仮面でもつけて、颯爽と活躍でもしたのなら、一世代前の魔法少女のアニメに出て来る、正体不明の謎の男キャラそのものだ。

「の割には、余りスマートじゃないですよねー。もっとシュッ、とした身体つきじゃないと」

「ちょ、ルビー!! 勝手に人の心を代弁しないで!!」

 ブンブンとコバエみたいに飛び回る、喧しいステッキに対し突っ込みを入れるイリヤだったが、公園のベンチに腰を下ろすグレンファルトは、年の離れた幼い妹でも見るような目で、その動向を見守っていた。

「昔はもっと細かったんだがな。今じゃ立派な筋肉の塊さ」

「何食べたらそんな、だっと体形になるんですか?」

「(だっとって何……?)」

「何を食べたら良いのか考えた上で、鍛えただけだ」

「(わーシンプルー……)」

 鍛えれば、強くなる。当たり前の理屈を突き詰めれば、此処まで行ける。
グレンファルトの言っている事は要はそう言う事である。……尤も、本当にそれだけじゃないのは、喧しいステッキこと、マジカルルビーは勿論、イリヤですら理解していた。

「さてセイバーさん。改めてですが、イリヤさんを助けて頂いて、本当にありがとうございました。私、普段のキャラクターをかなぐり捨てて、本気で感謝を表明します」

「え、ルビーそんな他人行儀な真似出来る機能あったんだ(わ、わたしからもありがとうございます!!)」

「お逆ゥー!!」

 と叫んだルビーは、ドリルさながらの回転をしながら、イリヤの脳天にステッキの柄部分から着地(頭)。
そのまま、火起こしのような要領で回転を続け、「痛い痛い痛い痛い痛い!! 薄くなる!! 髪薄くなるから!!」と涙目で叫ぶイリヤのリアクションに満足したのか、コホン、と咳払いしビシッと気を付けの姿勢。

「イリヤさんは、本当に死にかけの状態でした。セイバーさんが倒したランサーのサーヴァント、彼が腹部を貫く前から、既に体力ゲージがあと1ミリメートル、食いしばりが発動してる状態でしたから」


261 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:37:04 BhpaRzHE0
 ルビーの言う通りだった。そもそもイリヤは、例えランサーの主従が彼女の姿を確認して殺しに掛るまでもなく、放置していれば死ぬ筈だった命なのだ。
8枚目のクラスカードを巡る戦いで、イリヤが繰り出した、後の健やかな人生など知った事ではない、寿命が何十年と縮まり、その残った人生をもリハビリ生活に費やすのも、
かくやと言うべき超大技。これによる体内の損傷もそうであったが、突如として現れた正体不明の2人の少女が引き起こしたと思われる、大爆発としか形容のしようがない謎の現象。
これに巻き込まれ、辿り着いた先が、今イリヤ達のいる世界であった。此処が、ゼルレッチがよく観測しているような並行世界の類である事は、当初のルビーもいち早く理解していた。
だが最悪だったのは、余りにも無理な世界間の移動であった為、移動の最中にイリヤに対し猛烈な負荷がかかってしまっていた事。
そしてその負荷が、多元重奏飽和砲撃によって損壊していた体内の傷口を開かせてしまったと言う事。だから、この世界に弾き飛ばされた当初、イリヤは余りの痛さに蹲って痙攣する事しか出来なかったのだ。

「貴方が命の恩人である事については、疑いようもありません。……だからこそ聞きたいんですよねぇ。貴方、イリヤさんに『何を』しました?」

 イリヤがあの時負っていた傷は、現代医療、それも、彼女のいた世界に於いても最先端の集中治療を施したとしても、元の状態まで復調するのに丸数年。
完治したとて、すり減った寿命までは戻らないと言う程である。魔術で治療したとて同じである。魔力を湯水のように用い、高度な医療魔術を施したとしても、寿命までは戻らない。
それこそ、神代の時代を生きたとされる、蛇使い座を象徴するあの神医の手からなる治療でもなければ、イリヤは完全に回復しなかった筈なのだ。

 ――何故、完全回復している?
否、この際回復していると言う事実は良い。問題なのは、元のコンディションに戻ったのではなく、『イリヤとルビーの知るベストコンディションの時』よりも、
今のイリヤの調子は遥かに良いのである。すこぶる順調だとか、絶好調だとか言う次元の話ではない。
ルビー風に言わせれば死亡フラグも甚だしいが、力が漲るぞ、今のわたしに出来ない事など何もないッ、の状態である。
そんな全能感を錯覚するのも無理はない。そもそもルビーは無限の魔力供給を約束する礼装であり、これがあるからイリヤは魔法少女として戦える。
逆に言えばルビーがいなければイリヤは小学5年生相応の少女程度の力しかない訳なのだが、変身していない今の状態ですら、今の彼女には莫大な魔力が宿っているのだ。
身体能力の面でも、向上が著しい。身体の調子が余りにも普段の自分のそれとは違う為、試しに軽くピョンピョンと跳ねようとしたら、垂直に8m程も飛び上がってしまったのである。

「毒を打ち込んだワケじゃない」

「それは解っています。少なくとも害意の類は一切感じませんでしたが……」

「が……?」

「メリットしかないと言うのも、都合が良すぎる話なんですよね」

「優秀なブレーンを持っているな、マスター。彼女の判断力があるのならば俺も安心出来る」

 「ああ……盛大に勘違いしてる……」、とイリヤがゲンナリする。生きる道具型トラブルメイカー、愉快愉悦型礼装であるルビーを、
コミカルだが優秀な切れ者参謀だと思っているのではないか……? 頼むから何処かのタイミングで気づいて欲しいなとイリヤは祈った。

 ともあれ、ルビーの疑念は余りにも尤もなものである。
どうにも話がうますぎるからだ。湯水の様に魔力を生成出来て、一切の無理も負担もなく肉体的損傷を全快させ、極めつけにおまけの抱き合わせとでも言わんばかりに、
あり得ない程の身体能力も約束する。此処までメリットしかない措置をされると、人は、何か裏があると勘繰るもの。
美味しい話に裏がある、と言うのは、魔術の世界に於いても同じ事なのだ。いやむしろ、権謀術数が当たり前の魔術師の世界であるからこそ、出来過ぎた話には警戒するのである。
グレンファルトがイリヤに対して行った措置は、美味すぎるどころの話では最早ない。イリヤですらが、何か対価があるのではないかと内心で戦々恐々している程なのだ。

 イリヤは果たして、アンデルセンの人魚姫に出て来る人魚の娘のように、人の姿と引き換えに彼女の美声を求めた魔女のように。
成し崩し的に、恐るべき契約を交わしてしまったのではないかと。彼女以上にルビーの方が心配していたのだが――。
グレンファルトの方は、彼らの懸念をようく認識しているのか。堂々とした様子で言葉を紡いで行く。


262 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:37:30 BhpaRzHE0
「出来過ぎた話だと思うか? それは正しい。俺がその気になれば、俺が君に施した措置を基点にして、一瞬で君を殺す事も出来る」

「ブーッ!!!!!!!!」

 空を見て、今日の天気は晴れである、とでも言うように。一切の逡巡も迷いもなく、グレンファルトは言って退けた。
爽やかな見た目と語り口で、そんな事を言う物だから、思わずイリヤは気を落ち着かせようと口にしていたミネラルウォーターを噴き出してしまうのだった。

「――フ。安心してくれ。出来るには出来るんだが、実を言うとそれは過去の話でね。今の俺には其処までの強権はないんだよ」

「それはイリヤさんが聖杯戦争のマスターであり、貴方がそのサーヴァントだから、と言う事と関係あります?」

「半分は正解だ。どうもサーヴァントに際して、俺は相当の弱体化を強いられているようでな。これは、伝承や逸話に縛られざるを得ない俺達英霊、サーヴァントの宿命のようなものなのだろう」

 弱体化、である。イリヤにはとても信じられなかった。
あのランサーを隔絶的なまでの力量さで、しかも、華麗と言う言葉が相応しい程鮮やかに、倒して退けたこのグレンファルトが。
自ら、弱体化していると認める程に、弱くなっていると言うのだ。俄かに信じられなかった。それは、英霊と呼ばれる存在がグレンファルトの言うように、伝承や逸話によってあらぬ弱点が生じたりしてしまうと言う事実を知っているルビーですら同じで、今のグレンファルトの強さですらこれなのに、生前の彼は、如何なる強さを発揮していたと言うのだろうか。

「間違っている半分の方は、イリヤ嬢がマスターだからという点だ。実際は逆だ、彼女が――いや厳密に言えば、魔力を彼女に供給してくれている君か、紅玉杖(ルビー)。寧ろ君達が俺のマスター、要石だからこそ俺は思う存分戦う事が出来る。魔力の量が君達は大変優れているんだよ。これが他のマスターであれば、こうも行かなかったろう。俺は、実に運が良いらしいな」

 同じサーヴァントでも、操るマスターの技量や、魔力量の多寡によって、サーヴァントの戦い方もそうなのだが、宝具を使える回数だったり、
一見不変に見える筈のステータスですら、変動する事がある。優れた魔術師がマスターならサーヴァントの強さは全盛期のそれに近くなり、その逆も然りだ。
この事実を鑑みるのなら、イリヤスフィール並びに彼女に魔力を莫大に供給しているルビーのマスター適正は、抜群と言う他ない。この点に於いてグレンファルトは自らが言うように、間違いなく彼は当たりくじを引いていたのである。

「尤も、如何に優れたマスターに恵まれたと言っても、サーヴァントと言う型枠に俺が嵌められていると言う事実には代わりはなくてな。分けても、俺が君に施した技術――洗礼、と言うのだが、これが酷い」

「ウワーッ!! う、胡散臭い!! 自分の行為に洗礼なんてつけるの一番駄目な奴!!」

「る、ルビー!! 私を助けてくれた能力にそんな――」

「彼女の言う通りさ。そう言う名前を付けたのは人の『ウケ』を狙ったからでね。昔はこれで地固めを行ったものだ」

「ブーッ!!!!!!!!」

 少しは嘘をつけ。と思うイリヤだった。

「洗礼の効果はイリヤ嬢が身を以て実感しただろう。要はそう言う事だ。政治上、こんな手段で味方を作って行く場面も必要だったのさ」

「その洗礼とやらの使い方の是非はまぁ良いんですけど、マジコレ魔法級の大技ですよ? これで本当に弱体化してるんですか?」

「断言出来るがしているよ。生前の話だが、外部からの攻撃では絶対に死なない身体にする事も出来たからな」

「ひ、火の鳥みたいな不老不死に!?」

 と口にするイリヤの言を、やんわりとグレンファルトは否定した。

「歳は取る。死にもする。攻撃で死ぬ可能性が、ゼロに近い程低くなるだけだ。防御能力が上がっているのもそうだが、傷が再生する、と言うアプローチを採用していてね。生中な外傷など数秒の内に元通りだ。ああ、病にも掛からないぞ。癌・白血病・エイズ、糖尿に健忘に老眼も、君には無縁のものさ。そんな君の今の状態でも、俺の良く知る洗礼を経た勇士達――『使徒』には程遠いさ」

「それが……えと……セイバーさんの宝具ですか?」

 自分の頭にいつの間にか挟み込まれていた、聖杯戦争に対する知識。
そのデータベースから、グレンファルトの洗礼とは、如何なる力なのか、それを導く為のワードを口にして見せた。
イリヤは宝具と呼ばれるものが、サーヴァントが有する切り札、奥の手、秘奥義のような物であると認識していた。成程、それが宝具だと認識するのも無理はない。
現にルビーですらそう思っていた。これ程までのメリットを齎す行為、宝具以外にどう説明を付けると言うのか。


263 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:38:11 BhpaRzHE0
「いや、俺のサーヴァントとしての特性だ。スキル、と言うべきか。あくまでも出来る、と言うだけであって、洗礼を本当に得意としていた友人が別にいてな。恐らくは奴の方が洗礼を宝具としているだろうし、しかもあちらの方が遥かに格上だ」

 めまいがしたのはイリヤよりもルビーの方だ。
常識に照らし合わせればグレンファルトがイリヤに対して行った措置は、誰が考えたとて宝具によるものだと考える筈なのである。
だのに、グレンファルトはこれをスキルによるものだと言い、しかも語調に嘘がまるで感じられない。スキルですらこのレベルの御業を達成出来てしまうのだ、これで宝具ともなったら……。

「……でもルビー、これ本当に凄いよ!! もしもセイバーさんの洗礼、って言うのが元の世界に戻っても続いたのなら……ミユだって!!」

 どうあれ、グレンファルトが施した洗礼は、メリットのみに注目するのであれば間違いなく、凄すぎる物である事は、ルビーであっても疑っていない。
変身していない状態でこの身体能力なのだ、プリズマイリヤに変身すれば、より強力になる蓋然性が高い。
魔力だってあって困る物でもないし、寧ろ今後ルビーの魔力供給が何らかの形で断たれてしまった時に、魔力を自家発電出来るのなら選択肢の幅も大きく削られずに済む。
何よりも、ダメージが再生すると言う点が素晴らしい。魔法少女になっている時ならばいざ知らず、変身していない状態で、腹に銃弾の一発でも貰えば、人は容易く終わるのだ。
そう言った不意打ちにも対応出来るようになる上、これで更に魔法少女に変身した状態であろうものなら、滅多な攻撃ではダメージを負う事もなくなろう。

 そう……これがあれば。美遊の事を助ける事が出来る。
水が開けられている所の話ではない、最早隔絶していると言っても過言ではない位に実力に差があった、謎の少女2人。
彼女達から、美遊を救い出す事が出来るじゃないか。彼女達とも、渡り合えるじゃないか!!

「――君達の質問には答えた」

 グレンファルトは、何気ない風にそう口にしたが、イリヤは、その語調にただならぬものを感じた。
年の離れた妹に対する接し方のような、何処か親しみと優しさを感じられる声音はそのままに、恐るべき、威圧のような物が、内在され始めたのである。

「俺の質問にも、答えて貰いたい」

「……はい」

 気を強く、とルビーが小さく伝えて来た。タメになるアドバイスだった、普段のような態度で臨んだら、呑まれかねない。

「実を言えば俺は、マスターと呼ばれる立場の存在に、魔力の大小と言う概念を重視していないんだ。ああ、なくても良いと言う訳じゃない。勿論あれば良いのは言うまでもないが、大局的には少なくとも別に構わないと言うスタンスで俺自身がいる、と言うだけの話だ」

 サーヴァントが口にする発言とは、到底思えない。
魔力の総量とはサーヴァントにとって、あらゆる場面で浮かび上がるであろうあらゆる選択肢の総数に直結する。
腹の探り合いである交渉や、直接的な戦闘行動。そして、戦いが終局に向かいつつある時に絶対に直面するであろう、持久戦の様相。
こういった時に物を言うのはその時の魔力の多寡であり、現界において魔力と言う概念に縛られているサーヴァントであるのなら、魔力の有無は大した問題じゃないと言う言葉は、絶対出て来る筈がないのだが……。

「セイバーさんにとっては、何が、大事なんですか……?」

 イリヤは生唾を呑みながら、グレンファルトに訊ねた。鷹揚とした態度で、それに答える。

「意思の強さ。決意の強さ。妥協しない心」

 もっと戦略的で、戦術的な要素をピックアップされるものと考えていたイリヤからしたら、予想外の言葉であった。
要するに、諦めず、挫けぬ心だと言うのだろうか。何と言うか、少年漫画的だ、とイリヤは思った。


264 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:38:29 BhpaRzHE0
「意外そうな顔をしているな。だが、重要な事だよ。人間が産み出し得る中でも最高のリソースだ。俺もそれを抱いて、生前は行く所まで歩んで来た」

 「だからこそだ」とグレンファルト。

「何かを成すぞと誓った者は、敵に回すと恐ろしい。実力の差、性能の差程度など、容易く覆す。想定が通じないのだ。幾度も手を焼かされてきたよ。信じる心は、奇跡を成すものだ」

 何処か遠くを見ながら、グレンファルトは口にした。
己の人生の足跡を振り返り、敵対して来た彼や彼女、追い詰めて来た強敵達。彼らに対して、思いを馳せているようだと、イリヤ達は思った。

「そう言う者と難度も争い、戦ってきたからな、マスターの戦闘力や魔力など、決め手にはならないと言う哲学があるんだよ。君を否定しているように聞こえてしまうのが心苦しいが、これは曲げられない」

 イリヤと、目を合わせて来た。恐ろしく澄んだ瞳だった。威圧感の類など、欠片も込めていない筈なのに。イリヤはたじろいでしまう。

「如何なる願いをも成就させる、万能の願望器。これを求めんと、本気になる者達の登場は想像に難くない。怖いぞ、本気になった人間は。強いぞ、諦めない人間は。君は、そんな者達を相手に、勝ち残り、生き残らねばならない」

 数秒程の間を置いてから、グレンファルトは口を開いた。

「君に洗礼を施した時に、君の本気を俺は問うた。今は違う。別の事を問う。マスター、聖杯戦争に君は乗るかね」

「――乗ります」

「イリヤさん、深呼吸しましょうか。聖杯戦争は、人を殺――」

「知ってるよ、ルビー」

 ルビーの言葉を制するイリヤ。
言われるまでもなく解っていた。頭の中に差し込まれた、聖杯戦争についての諸々の知識。
これらから導き出される結論は一つ。聖杯戦争とは、たった一つの奇跡を求めて、何人もの人間と戦って殺し合う、血みどろの戦いなのだと。
ルールに則って、正々堂々? そんな綺麗事が一切通用しない、情けも容赦も欠片もないそれになるだろう事は重々承知している。
否、死ぬのが聖杯戦争の関係者や参加者だけならばともかく、その過程において、全く無関係の人物が何人も死ぬであろう事も、容易に想像出来る。

「本当を言えば、洗礼って言うののメリットだけ受け取って、それじゃ!!ってしたかったよ」

「強かだな、嫌いじゃないぞ」

「でも、聖杯戦争に乗らなければ、そもそも元の世界に戻る事だって出来ないんですよね?」

「他の方法も勿論あるのだろうが、概ね、聖杯戦争の終盤も終盤まで生き残らねばならない、と言う点に於いては間違いなかろう。早い話、生き残らねば話にならんと言う事さ」

「だったら、わたしの答えは決まってます」

 イリヤの心から、グレンファルトに対するたじろぎと、そこはかとない苦手意識が、消えた。消した、と言うべきなのだろうが。

「聖杯戦争にも乗りますし、だけどわたしは誰も殺さないまま聖杯を手に入れるか、帰れる算段を見つけられたら其処でお別れします」

「それが、本当に出来るとでも?」

 グレンファルトの表情は、アルカイックスマイルから動かなかった。
遥か年下の愛くるしい童女の身振り手振りを、見守るような顔つきではあったが、その語気だけは。明白に、威圧感を増して行っていた。高まっていた。

「甘い考えだとか、舐めてるだとか、現実を見てないだとか……。そんな事、わたしだって解ってるよ」

 言っているイリヤ当人ですら、夢見がち過ぎる言葉だと思っているぐらいだった。
グレンファルトの強さが一線を画していると言う点については疑いようもないが、聖杯戦争に於いては、彼に勝るとも劣らぬ冠絶級の戦闘力を誇る、
怪物中の怪物が他にも跋扈している可能性が高いのである。しかもその強さの方向性も、直接的な一対一での戦いで強いと言う事もあれば、
軍略を練り上げてその作戦に沿って大軍団を動かす面と言う事もあれば、人が大勢住んでいると言う事実を一切無視して広範囲に破滅を齎すと言う意味での強さもあり得る。
こんな人物達を相手に、自分が死なないは勿論の事、誰も死なせる事無く、平穏無事に、しかし、聖杯を手に入れられなかった悔しさだけを残して終わらせる、と言うのは、余りにも現実を見ていないにも程がある。夢想を越えて、最早現実逃避の域であった。

 ――だけれども


265 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:38:47 BhpaRzHE0
「どうせなら、誰も何も失わない、ハッピーエンドの方がいいじゃないっ」

 イリヤが見て来た、触れて来たアニメや漫画は、初めから悲惨な結末を迎える事が解りきっていたものを除けば、皆、ハッピーエンドで終る作品が殆どだった。
勿論、其処に至るまでの過程で、多くの者が傷つき、挫折し、悲惨で、見ていられない事態にも直面したりもしたが、それでも、終わってみれば、
誰も欠ける事無く、誰もが満足のゆく答えを得、そうして話は終わる事の方が殆どだった。

 そんな終わり方を、どうして、現実に求めてはならないのだろうか。
現実が甘くない事など、イリヤの歳の子供ですらが解っている事であるし、思うようにいかない事も当たり前のように皆知っている。
じゃあ、現実は厳しいから、綺麗事など通る余地何て何処にもないから、幸せな終わりを諦める事は、間違っている、諦めろ、とでも言うのか?
誰も死なず、傷つかずに終わる結末を求めると言うのは、図々しくて、厚かましく、謙虚さの欠片もなく、現実への配慮も何もない、醜い祈りであるとでも言うのか?

「セイバーさんがわたしに、どんな決意とか思いとか、本気を求めたのか知らないけれど……。わたしって本当は……多分だけれど、どうしようもない欲張りなんだと思うっ。だけど、わたし、これだけは間違ってないと思ってる!! わたしの本気は、わたしが求める最良の――全員が助かる道を選んで勝ち取る事だから!!」

 自分で言っていて、何とも欲深な言葉なのだろうと、思わぬイリヤではなかった。勝ち残るのはたった一人、トロフィーはどんな願いをも叶えて見せる万能の聖杯。
しかもその勝敗を決める方法は、チェスでも将棋でもなければ、況してテレビゲームの対戦格闘でもないのだ。
正真正銘の何でもあり。不意打ち闇討ち、毒殺に爆殺、射殺でも、殺せるのならどんな方法でも用いても良い、正しく何でもありの殺し合いなのだ。
誰が聞いても、熾烈な様相を示すしかない殺し合いになる事が容易に想像出来るだろう。このような形式の殺し合いで、誰も死なない方法を模索するなど、余りにも、ムシが良すぎる。
餓鬼の妄想以外に掛ける言葉がない。しかし、それを求める事が、間違いであるなどイリヤは欠片も思っていない。
簡単な話だ。そっちの方が、絶対に良いに決まっているからだ。良いものを、選ぶ。それの何が、間違っていると言うのか。

 聖杯戦争にも勝つ。誰も死なせない。そして、その足で美遊も助けに行く。
何が、間違っていると言うのか? 本気でイリヤは信じている。これ以上最良のプランがあると言うのなら、教えて欲しいものだった。

「……ハッピー、か」

 その言葉に、思う所があったのか。グレンファルトは、静かに瞑目し始めた。
沈黙が、十数秒、2人と1本の間に立ち込める。自分の主張が退屈だからと、眠ってしまったんじゃないかとイリヤが不安になり始めたタイミングで、グレンファルトはゆっくりと瞳を開いた。

「俺はな、マスター。どんな運命のいたずらかは知らないがな、本当は科学者だったのだよ。それも、……フフ。驚くなよ? 本当は日本人なんだ」

「え、え、え、え、えぇー!!?!!?!?!!!????!!」

 余りの衝撃のカミングアウトに、先程までのシリアスを全部吹っ飛ばすほどの勢いで驚いてしまうイリヤ。
日本人? 目の前の男が? 身長から骨格、髪の色の自然さから顔の彫りの深さまで、どっからどう見たって日本人のそれじゃあり得ない。
古代ギリシャでペロポネソス戦争に従事していましただとか、カエサルと一緒にガリアに赴いてウェルキンゲトリクスの征伐に協力していましたとか、言ってくれた方がまだ信頼性がある。
それどころか自分は科学者であるとすら言うではないか。いやいやお前のような科学者がいるか、家でも乗っけてそうな肩幅してんのに。

「驚く程の事でもない。先ほども言っただろう、鍛えただけだ」

「確かにそうなのかも知れませんけども……」

 なんだか納得がいかないイリヤだ。此処まで衝撃のPRをかました後なのだ、Beforeの時の姿が見たくなる。

「科学とは何か。俺の生きていた世界でも未だに議論されていて、個々人で考え方が違っていた観念だったがな……。マスターにも分かりやすく、俺の考えを述べるのなら、因果関係の究明だ」

「い、いんが……?」

「難しく考えなくてもいい。要するに、なるようにしかならない、と言う事だ」

 余計に、訳が分からなくなった。小首を傾げたそのタイミングで、グレンファルトは言葉を更に続ける。


266 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:39:29 BhpaRzHE0
「どんなに魔法染みた科学技術であってもな、其処には必ず、その技術を技術たらしめる原因がある。車はただの鉄の箱を置いているだけで走るのか? 違うだろう。ガソリンと言う燃料を注いで、それが爆発する力で機械を動かしているからだ。原子爆弾もそうだ。あれは濃縮ウランを生成し、このウランによって各連鎖反応を発生・維持させて初めてあの威力が成立する。何か一つ欠けても、あの威力は出せないのだ」

 ふぅ、と、一息。

「解るか? 俺達は魔法使いでもなければ神でもない。現実世界に存在する物理現象や、その世界でのみ実現可能な理論を組み合わせて、奇跡に近しい現実を引き起こそうとする、泥臭い連中なんだよ」

 そう言ってくれると、成程。イリヤとしても理解が速かった。

「幸福とは、何か」

 話が、一気に哲学の方面に飛んだ。目を回さないようしっかり持てイリヤスフィール、内心で喝を入れる。

「凡そ、様々な哲学者が人としての幸福とは何かを考えて来たよ。アリストテレス、エピクテトス。スピノザにショーペンハウエル、エミール=オーギュストにラッセル、カール・ヒルティ。誰も彼もが哲学史に名を遺す大哲人だ。人にとっての幸福とは何かなど、個人によって違うだろうし、時代によっても変わって来る。絶対の解などない。現に俺が言った哲学者は皆、人としての幸福とは? がまるで一致していない」

「セイバーさんにとっての幸福って……?」

「……なぁ、マスター。満足に食べるものもなく、着るものだって何もなく、住む場所だって何処にもない。そんな人物は、果たして幸福か?」

 首を横に振るイリヤ。誰が聞いたとて、それは、幸せの何処にも結び付かない。誰だって、違うと答えよう。最低限度の水準すら、満たせていないじゃないか

「そうだ。衣食住足りて、と言うだろう。其処を満たさぬ限り、人は絶対に己が幸福などと言う事を自覚しない、認識もしない、そもそもその状態は俺だって幸福な訳がないと答える」

 最早イリヤは、グレンファルトの言葉を黙って聞いているだけだった。
しかし、何故だろう。男の言葉は子供のイリヤにも分かりやすく、その為、深く心に染み入り、理解を進ませて行く。不思議な魔力、言霊の類が、男の言葉に宿っているようだった。

「先ずは、その最低限度のラインをクリアしない限り、人の世の幸福など夢のまた夢だろう。先ずは世界を、そのステージにまで引き上げるべきじゃないかと、皆が思うだろう」

 「……だがな」

「そのレベルの世界の存在をな、科学は否定したんだよ。俺達の生きた時代、世界人口は100億を既に超えていた。世界人口がその半分だった時代から既に、全人類に満足に衣食住を保証する為には地球と同じ大きさで、同レベルの資源があって水も酸素も地球並、そんな惑星が複数必要だったと言うシミュレート結果があったのだ。笑える話だと思わないか? 空を飛ぶコバエにすら命中するミサイルや、人間と同じ思考の柔軟さを持つAI、現実世界そのものに近しいメタバース。こんなものを開発出来る俺達の世界が直面していた問題は、エネルギー不足・食糧不足・水源不足だ。あいも変わらず飢餓で死ぬ人間がいたし、旱魃や蝗害には成す術もない。全人類の幸福の前に、その幸福とはを考えられる最低限の段階にまで、達してなかったんだよ」

 其処で、一呼吸。グレンファルトは置いた。
空を彼は見上げた。月が出ていた。そして、グレンファルトのいた世界に於いて、あって当たり前とも言えるものが、その夜空にはなかった。
アマテラスが開いていない夜の空など、本当に、1000年ぶりだと、心の何処かで彼は思った。

「俺にはその事実が堪えられなかった」

 何気ない風に口にしたこの言葉に、果たして、どれだけの量感が、込められていたのか。

「科学がどんなものなのか、誰よりも知っていた筈なのに、それでも、俺は失望したよ。科学の限界にだ。西暦は2500年を数えていると言うのに、食糧不足を解決する為には人口そのものを、人を殺すなりにして削減させるしかないと言うシミュレートが出た時には、人類が長年の時間を掛けて積み重ねて来た技術の進歩が、何の意味もなかったのだと遣る瀬無かった」

 グレンファルトは目線を、イリヤの周りを浮遊する一本のステッキに向けた。「いやん」、とルビー。


267 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:39:55 BhpaRzHE0
「魔法があればいいのにと、何度思っただろう。御伽噺やイソップ寓話のように、条理や道理を無視して奇跡を引き起こす。そんな事が出来たのなら、世界はより幸せだったんじゃないか? フフ、笑えるだろう。まるで幼稚園児の女の子が信じるような、魔法や奇跡を、大の大人が、本気で存在して欲しいと祈っていたんだ」

 「そんな風だから」

「其処の紅玉杖が、俺の洗礼に対して疑いの目線を向けた時にな、落胆したんだ。ああ、洗礼は、彼らの世界では当たり前ではないのかと。俺はな、君達には俺の施した洗礼、出来て当たり前の物だと思っていて欲しかったんだよ。奇跡が当然の世界でなら、俺の洗礼程度など、驚くに値しない行為の筈だろう? なのに君達は、大層に驚いていた。この事から必然的に、導けてしまった。魔術・魔法の世界でも、全人類の幸福は、未だに達成出来ていないんじゃないかと。そうなのだろう?」

「ええ、お察しの通り。世界は未だ、全人類の幸福を御認めになっていないようでして」

 魔術とは、もっとドキドキするもので、一足飛びに願いを叶えてくれる代物だと、魔法少女に変身出来る前のイリヤも思っていたが、実際には違う事が今なら良く分かる。
魔術にもまた、格式があり、法則があり、因果関係があり、その通りに沿わないと効力が発揮されないし、そしてその効力もまた、全能とは到底呼べないものしかなくて。
過度な期待と言うものを寄せるのは、かえって危険なんじゃないかと、思うようになってきたのだった。

「俺にとっての幸福とは何か、と言ったな。マスター」

 グレンファルトは、イリヤが問うた事を、忘れていなかった。答えるべく、口を開いた。

「俺にとっての幸福とはな、誰しもが主役になれる事、主人公であると言う事だ」

「皆が……しゅ、主人公……?」

 流石に理解が及ばない。目が回ってきているのを、隠しきれていない。

「夢と現実の違いとは、自らが主体になれるか否かにある。夢の世界・空想の中では己の認識こそが世界の主体になり得るのだが、現実ではそうはならない。思った事が現実に形を伴って現れる、成就されるという事はあり得ないし、成そうとした事を自ら実現出来るような実行力を持つ者も、極々僅かだ。そうはいない」

「その……単純に、全員が主人公って、おかしな事にならないですか? 世界が回るのかなって言うか……」

 イリヤは言語化にとても難儀していたが、実際問題、多少なりとも本やゲーム、アニメなどを齧っていれば解るが、全員が全員主人公では、話が散らかって訳が分からなくなる。
読者やプレイヤー、視聴者が作品と言う世界を理解する為のフィルターこそが主人公なのであり、いわば主人公とは、メタ的な存在である読者・プレイヤー・視聴者の目であり耳。
主人公を通じて彼らは世界観やその中に生きる人間関係を咀嚼するのであり、そのフィルターが複数あっては、理解と言うものが散逸する。
そしてそもそも、脇役や端役と言う、小さいネジや歯車、潤滑油があってこそ、作品と言うものは成り立つのではないか? 全員が全員主人公では、とても成り立ちようがないように見えるが……。

「そうだ。実際には回らん」

 グレンファルトはあっさりとこれを肯定した。

「唸る程金を持っている大富豪。名前が世界中に轟き渡っている大企業の経営者。一国の首相・大統領。そう言った地位につき、華々しく活躍している者達を世界の指導者、主人公だと仮定した場合、実際にはそれ以外の多くの人間がとるに足らない端役であり、脇役である事になる。別にそれを否定するつもりはない。マスターの言う通り、全員が主体性と積極性の塊では、世界が立ち行かなくなるからだ。誰かが受動的で、指示待ちでいる必要がある。誰かが片田舎で、小麦や米、トウモロコシを育てる必要がある。誰かが退屈な事務作業、炎天下で汗水垂らして土木作業に従事する必要がある。華々しくは勿論ないし、地味でつまらない生き方にも見えようが、彼らがいなければ支配者もまた立ち行かない。だからこそ、脇役(エキストラ)にも幸せは必要なのだ。自分達も、世界の一員なのだと思わせなくてはならないのだ」

 「ところが、な」

「大勢の人間に慎ましやかを強いる癖に、世界は、突出した一人の主役に対して、余りにも無力で、余りにも甘かった」

 その言葉に込められた、僅かな怒りは、果たして、何処に向けられていたものだったのか。

「マスター。君は見たことがないだろう。踏み躙られ続け、闇の彼方に押しのけられた男の昏い逆襲劇が、全ての正論と光輝を呑み込み砕くその様子を。君は知らないだろう。願い、挑み、無茶を押し通し、それでも俺はと暴れるそのエゴイズムが、正しく生きよう妥協して生きようとする者達の目を晦まし、世界を滅ぼしかけたそのあり得なさを」

 暫しの、沈黙。


268 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:40:11 BhpaRzHE0
「世界は、多くの人間に対して端役である事を望むのに、突出した主役が齎す世界の変革を、日々をめいめいの形で送る者達に受け入れさせる。それだけならばまだ良かった。その変革が例え世界を文字通りに滅ぼすものであったとしても、受け入れろとするのだ。死にたくない者など、誰だとて同じだと言うのに、甘んじて受け入れよとする」

「セイバーさん、わたし……何が……何を、言ってるのか――」 

「『この世界に産まれてきたのなら、誰しもが主人公になっていい』」

 端的に、グレンファルトは言い切った。

「本当に君の言った通りなのだ、マスター。全員が主人公の物語など話が回らん、筋書きが破綻する。実世界でも同じだ。誰も彼もが大会社の経営者にはなれない、全員が大富豪になれるわけではない、国民全員が首相や大統領などありえない。――誰しもが、世界の在り方を変えてしまう能力を得てはならない」

 「簡単な話だ」

「世界が限界を迎えるからだ。全員が金持ちに? 経済や財政が破綻しような。全員が大統領に? 権力闘争と言う言葉ですら足りない政争で何も物事が進展するまい。全員に、世界を変革するだけの力と能力に目覚めさせよ? 土台自体が――そう、持たない」

 其処で、グレンファルトは言葉を切り、押し黙った。
不愉快だから、黙った訳ではない事は、その穏やかな表情を見れば明らかであった。

「マスター。君を使徒に洗礼した時にな、俺は素直に感動した」

「わたしに……ですか?」

「世界と友、どちらを救うか。そうと聞いた時、君は両方と答えた。当然、この問いに正解などない。状況次第、当人の贔屓次第で、如何様にも答えが変わるからな。その中で、君は迷いなくどっちも救うと言って退けた」

「セイバーさんも、もしかして……?」

「当然、どっちもだ」

 正当性が完全に担保された定理を口にするような当然さを以て、グレンファルトは断言した。

「妹を失い、地上に一人残されたあの時ほど、この世界の不完全さを嘆いた事はない。誰もが哀しまずに生きられる世界、誰もが楽しく暮らせる世界。そして、誰もが手を取り合える争いのない世界。それは、有史以降一度も成立した事がなく、これからも生み出される事はないのだろうと強く思った」

 「そう、だから――」

「俺は創ろうとしたのだ。世界の果てに逝った妹を救いだし、その上で、二度と、俺のような哀しみを背負わないで済む世界。多くの者が、天国、ニルヴァーナ、極楽浄土、高天原、ニライカナイ、桃源郷、崑崙、エリュシオン、アアル、と言った名前で信じた、楽園。俺はそれに、神天地(アースガルド)の名を与え、創造を目指したのだ」

 スッと、イリヤの方に手を伸ばすグレンファルト。その手は、開かれていた。


269 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:40:32 BhpaRzHE0
「望めば誰もが、幸せになれる世界。そして、思いを分かち合える者と必ず出会え、永遠の絆が約束される世界。それこそが、俺の目指した理想。誰しもが世界の主体となり得、そして、それに耐えられる完全不滅の世界。それが、俺が神天地と呼ばわり、創ろうとしたもの」

 イリヤの目線と交錯する。グレンファルトから、目を逸らせないイリヤ。

「俺達は普通の人間からすれば、何とも強欲な主従に見えるだろうな。人を殺さずして聖杯を獲りたいと願う君と、世界中の誰もが幸せであれと願った俺」

 グレンファルトは、なおも言葉を続けて行く。

「欲深な人間には罰が当たる、そんな寓話は数知れまい。金の斧と銀の斧、舌切り雀。欲をかいた者の末路は悲惨なものだが、きっと、俺達のようなはてなき貪欲さを以て突き進む者には、目も当てられぬ地獄が待ち受けているだろう」

 そう、殺し合いとどうしようもなく不可分の性質を秘めている聖杯戦争に於いて。
マスターを誰も殺さずして、聖杯を勝ち取ろうと言うのは、虫が良すぎるどころの話ではない。完全に、舐めている程に甘すぎる思想である。
取れる選択肢も限られるし、その故に殺される可能性だってあり得るのだ。それこそ、イリヤの善性を利用されて、無惨な末路を辿る事にもなるだろう。

「だがな、俺の認めた男はな、身を以て教えてくれたよ。地獄で足掻く事は無駄ではないと。地獄は、踏破出来るのだと」

 フッと、笑みを綻ばせながら、グレンファルトはこういった。

「地獄の先に咲く花を、共に掴もう。君と俺なら、それが出来る。君も、その友達も、俺の神天地で笑っていて欲しい」

 その手を、イリヤは取るべきかどうか悩んだ。
好ましい人物なのは間違いない。真摯で、公正明大、優しさの中に厳しさも持ち合わせ、何よりも、その強さに裏打ちされた頼り甲斐がある。
それでも、少女が聖なる騎士の手を握ってやれなかったのは、男の話す内容のスケールが、余りにも大きすぎたから。イリヤが取り戻そうとしている日常から、余りにも掛け離れ過ぎていたから。

「わたし……ミユも助けたいし、クロにも生きていて欲しいし、2人で学校生活も送りたいし、まぁその……腐れ縁ではあるんだけれども、リンさんやルヴィアさんとも、まだ一緒にいたいし、家で家族と、のんびりも過ごしたいんです」

「気持ちは、良くわかるさ」

「セイバーさんの目指そうとしてる目標だとか、志とかよりも、全然小さい、身近で有り触れた世界が、わたしは良いんです」

「何を気後れする事があろうか。素晴らしい世界だ。神天地は、君の祈りを否定しないぞ」

 グレンファルトが理想とする世界では、己の願いの平凡たること、など、些末な問題だ。比べるに値しない。悩む事が間違っている。
全てが叶う世界では平凡と非凡の垣根もなく、正邪善悪の二元論すら超越している。抱く願いの全てが∞の価値を有し、そしてそれ故に、全ての願いが平等であるのだから。
だから彼は、イリヤの願いを肯定する。ああ、素晴らしい。目指して良いぞと、諭してやる。

 やがて、意を決したように、イリヤは、グレンファルトの手を両手で握った。
沈黙を保った様子で、ルビーがその光景を眺める。満足そうに、グレンファルトは首肯する。

「……妹さんが、いたんですか?」

 長広舌のグレンファルトが話していた内容で、イリヤが引っかかった事がそれだった。


270 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:40:47 BhpaRzHE0
「いたともいえるし、いる、とも言える。専門的な話だから説明は省くが、生きているとも死んでいるとも取れる状態でね。古の量子力学的な思考実験で言う所の、シュレディンガーの猫、のような状態さ」

 実際にグレンファルトの聡明な頭脳を以てしても、九条御先が何処に導かれたのかは解らない。
今の自分が英霊の座、なる場所に登録され、こうしてイリヤのマスターとして導かれ、再び夢を目指して良い身分になった事は、千年分の経験値で受け止め切れているが。
彼女は果たして、何処に行ったのか。解らないし、気にもなる。だが、きっと。彼女は自分を見ているのだろうと言う確信があった。応援も、してくれているだろうと言う予測もある。

「わたしにも、複雑な事情の妹がいて、義理のお兄ちゃんがいて……。勿論、わたしにとってとっても大事な人なんです」

「そうだな、俺にとっても、妹は、大事な人だよ」

「『その人に逢いたい、って思わないんですか』?」

 微笑みが、一瞬硬くなった。イリヤは、気付かなかった。

「セイバーさんの理想、とっても、立派だし、凄いし、素敵だし、わたしも、そんな世界で生きていたいって……思うんです」

 「――だけど」

「なんで、大好きな妹さんにもう一度会って、幸せに暮らしましょう、ってしなかったのかなって……」

 イリヤにとって、解らなかったのはそこだった。
グレンファルトが妹を愛しているのは良く分かった。其処に異を挟む事はしない。ウソじゃないと、イリヤは思ったからだ。
妹の事を語る時、この男は、間違いなく真実を話していると。根拠も何もあったものじゃないが、其処だけは、真実なのではないかと思ったからだ。

 妹を酷い事故で失ったのは、話の文脈から伝わって来た。その妹を失った哀しみがあったからこそ、彼の言う神天地を目指したのだろう。
――『飛躍しすぎ』じゃないかと、思ったのだ。新しい世界がどうだだとか、みんなが主役になれる世界がどうだとか。
それを目指す事よりも、妹にもう一度会いに行く、とかの方が、まだ簡単だったのではないか? 
グレンファルトは立派な男である事に、イリヤも、ルビーですら、疑ってはいない。

 ――だからこそ、であった。

「セイバーさんは、『妹さんを失ったから、神天地を目指そうとした』んですか? もっと……別の、何かがあったんですか?」

 誰もが楽しく暮らせ、誰もが笑いあえ、孤独の寂しさもなく、人類の宿痾である所の争い事すらも脱却された、全人類が主役の世界。
確かに、素晴らしい世界だ。その様な世界を実現させようと、本気になる人間を、イリヤは馬鹿にしない。凄い事だし、尊敬もする。
そんな遠大かつ、雄大な夢だからこそ。妹の死以外の、納得の行く理由があって、目指そうと決意したのではないかと、平凡な感性の持ち主であるイリヤは考えたのだ。

「……。フフッ。勿論あるが、今日はもう疲れたろうし、此処は寒いだろう。何れ、話してやろう」

 確かに、この東京都の季節は冬も盛りの季節らしい。吐く息が白い。雪だとて、降るかもしれない。
それに、色々な事が一時に勃発しすぎて、肉体面の疲労が解消されてはいるものの、精神的な疲労はまだ回復し切っていない。
グレンファルトの言う通り、一旦は、異界東京都内に於いてイリヤに割り振られたロール、それに則った拠点に戻るべきなのかも知れない。

 ――はぐらかされちゃったなぁ……――

 それはそれとして、子供心にすら解った。
グレンファルトは明らかに、誤魔化した。余り言いたくない理由があったのだろうか。素晴らしい世界なのであるから、堂々としていれば、良いのにと。イリヤは思った。

 ――……俺が神世界を目指そうとした理由か――

 飲み干したミネラルウォーターのペットボトルを捨てる場所を、顔だけを動かして探すイリヤを眺めながら、グレンファルトは思った。

 ――……そう言えば、何故俺は神天地を目指そうとしたのだったか――

 イリヤは知らない。
まさかグレンファルトが、神天地に向かって歩もうとした理由を、話したがらないのではなく、そもそも忘れてしまった事を。
忘れてしまう程に、摩耗し、壊れてしまった男であるなどと。その大層に立派な姿からは、想像も出来なかったのであった。


271 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:41:11 BhpaRzHE0
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【クラス】

セイバー

【真名】

グレンファルト・フォン・ヴェラチュール@シルヴァリオ ラグナロク

【ステータス】

筋力B 耐久A++ 敏捷B 魔力A+ 幸運A 宝具A+

【属性】

中立・中庸

【クラススキル】

対魔力:A

騎乗:D

【保有スキル】

神祖:EX
人の形をした恒星、悠久の時を経る輝ける綺羅星。地上を闊歩する、煌めく昴(すばる)。
その正体は、肉の身体を兼ね備えた自立活動型極晃現象とも言うべき超常生命体。
自己の根幹を担う魂とも呼ぶべき部分が三次元上に存在しておらず、物理的な破壊でこのスキルの保有者を破壊する事は著しく困難。
このスキルを保有する者は一切の例外なく、魔力を保有しないマスターであっても運用に問題がないレベルの凄まじい魔力燃費を誇る。
また、その性質上霊核が本体ではなく、『肉体を構成する魔力の一欠けら一欠けらが全て本体』であり、セイバーを構成する魔力の欠片が一つでも残っていた場合、
その魔力の欠片から完全な復活を果たす。頭蓋や心臓の破壊が勿論、細胞一つ残さぬよう木端微塵に消し飛ばしても、数秒で復活を遂げてしまう。
但し、マスターが死んでからセイバーが大ダメージを負った場合、上述の再生は機能せず、最悪そのまま消滅するし、短時間の間に何度も何度も殺された場合も、魔力切れによって退場の危険性が内在している。

このスキルの保有が確認されている四人は、千年の時を経た人型の怪物であり、その千年の間に、己の弱点を潰し続け、またその時間の間に強みをいくつも伸ばして来た怪物中の怪物。
その弱点とは精神的な達観面についても適用されており、セイバーの場合はその揺るぎない、達した精神性により、精神攻撃を完全にシャットアウトする。
そして、神祖スキルを保有する者のもう一つの大きな特徴として、翠星晶鋼(アキシオン)と呼ばれる特殊な結晶の創造にある。
この結晶を保有する者は、全てのステータスが1ランクアップし、+の補正が1つ追加される強化を獲得出来るが、結晶は1分足らずで自壊する。
セイバー自身はサーヴァント化によって、この翠星晶鋼を補助目的で利用した場合の性能が大幅に落ち込んでおり、上述の自壊デメリットはその影響。
加えて、使徒と呼ばれる眷属の創造については見る影もなく弱体化しており、具体的には、1体が限界になっている。

無窮の武錬:A+
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
総代聖騎士と言う、戦闘とは不可分の立場であり、後述の宝具が戦闘面に特化している能力である事。そして何よりも、血で血を洗う闘争の時代を一千年間駆け抜けて来たセイバーのスキルランクは、最高のそれを誇る。

心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

鋼鉄の決意:EX
一千年もの永き時間を、一つの目的の為に歩み続けられる強固な精神性。決めたからこそ、果てなく歩む鋼鉄の誓い。
痛覚の超克、超高速行動に耐えうる超人的な心身を有している。複合スキルであり、「勇猛」と「冷静沈着」スキルの効果も含まれる。

神性:D
本来セイバーは神ではなく、況して神の系譜に何らかの形で連なる英霊と言う訳ではない。純然たる人間のサーヴァントである。
神天地に王手をかける寸前だった事、そしてその過程でこれを導く者として君臨していた逸話から、軽度の神性を得るに至った。


272 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:41:28 BhpaRzHE0
【宝具】

『戴冠王器・九天十種星神宝、人界統べるは大神素戔王(Heaven-Regalia Veratyr)』
ランク:A+ 種別:全局面型万能宝具 レンジ:1〜99 最大補足:1〜1000
星辰体結晶化能力・万能型。生み出した星の結晶を触媒に、望むがまま超常現象を描き出すセイバーの星辰光(アステリズム)。これが宝具となったもの。
翠星晶鋼と呼ばれる物質化した星辰体を生み出しながら、それを基点にあらゆる破壊現象を顕現させる神の星光。
有体に言ってしまえば『戦闘に纏わる事柄なら何でも出来る宝具』。翠星晶鋼を散弾のように射出させ飛び道具にする事は勿論、
視界に収まっているならどれだけ離れていても相手に到達する遠距離狙撃の要領で打ち出す事も当然可能。
産み出した翠星晶鋼から莫大なエネルギーを放出させそれで相手を薙ぎ払う事も、翠星晶鋼をセイバーそっくりの形に創造させそれを自律行動させ分身する事も。
果ては、己の身体に過度の翠星晶鋼を取り込ませ、自爆。カウンターとして用いながら、自爆した当人は何食わぬ顔で再生して復活すると言う、弩級の荒業を披露出来る。
サーヴァントとなった現在では多少不得手になってしまったが、自陣の補助、即ち戦闘能力の向上と言う形でもこの宝具は用いる事が出来る。
使徒の洗礼が出来るのは、この宝具が戦闘以外の用途についても多少の適性を持っているからに外ならず、そう言った面でも、全局面的に万能な宝具と言える。

『晃星神譚、大祓え天地初発之時来至れり(Rising Sphere Braver)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:∞ 最大補足:∞
発動不能。しかもその理由は3つある。
一つ目にはマスターの魔力。規格外の魔力量を誇り、加えてルビーからの無限大に近しい魔力供給があっても尚、この宝具の持続は1秒とて不可能。
二つ目には九条御先の不在。この宝具は心を通じ合った誰かの存在が必要なのであり、セイバーの場合はこの御先なる人物になるのだが、現在彼女とのパスが途絶えている為発動不能。
三つ目には世界樹がない事。仮に発動出来たとしても、生前のような単一宇宙の改変すら可能な規模でこの宝具を発動するには、巨大な翠星晶鋼で作られた世界樹の存在並びに次元間相転移式核融合炉が必要になる為、仮に発動出来たとしても、生前程無茶苦茶な事にはならない。と言うより、なる事がない。

この宝具の発動及び維持こそが、セイバーの理想であり夢である。現状この宝具を発動しようものなら、魔力切れによる一発退場は免れない。

【weapon】

アダマンタイトの大剣:
聖騎士としてセイバーが振るう大剣。これ自体が業物ではあるが、別にこれがあろうがなかろうがセイバーは格闘戦に於いても類まれな実力を発揮する。

【人物背景】

夢はいつかきっと叶う!!(爽やかスマイル)
運動不足の干物妹がひいこら言いながら各方面に頭を下げ、結果加勢に現れた1000万人分の人間達を臆面もなく『俺の力と絆だ!!』と宣う夏みかんより分厚いツラの皮をした男。
 
【サーヴァントとしての願い】

えっ今日は神天地目指して良いのか!?

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273 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:41:41 BhpaRzHE0
【マスター】

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ

【願い】

元の世界への帰還。ミユを助ける。世界も、救う。全部

【能力】

カレイドの魔法少女:
キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが作り上げた第二魔法応用謹製による一級品の魔術礼装、カレイドステッキにより魔法少女(カレイドライナー)に転身することができる。
変身後は常時魔術障壁による防御や身体能力強化など様々な効果を受け続けることが可能。更にイリヤは複数のサーヴァントカード…通称"クラスカード"を所持してもおり、これを用いて英霊の力を借り受けることも可能となっている。

使徒:
グレンファルトの宝具によって洗礼を受け、イリヤは使徒になっている。
使徒と言うのは一部のサーヴァントによって力を分譲された者たちにして、文字通り神の眷属。忠実な神々の手足。
主と同様に欠片も残さず消滅しても数秒で再生するなど、その永遠性は絶対。
通常の攻撃手段では殺害など一切不可能な魔人であり、神祖との見えない接続を破断しなければ旧時代の核兵器を持ち出しても、滅ぼすことは出来ないだろう。
三次元上の生命体であるため寿命は有限なままなのが弱点といえば弱点だが、それは裏を返せば戦闘による撃破と殲滅を望む場合、神祖と何ら遜色ない脅威度を誇る事を示している。

洗礼措置を受けた結果、魔法少女に転身しないにも関わらず、イリヤは凄まじいまでの身体能力と、高い魔力ボーナス。そして、上述の再生能力を得るに至っている。
但し再生能力については、グレンファルトの想定よりも遥かに弱まっているが、それでも、四肢の欠損程度なら十数秒で完全に回復してしまう程である。

【人物背景】

穂群原学園小等部(5年1組)に通う小学生。……だったのだが、数奇な出会いによって魔法少女の道を歩む事になり。
奇妙な運命によって、世界を渡る事にもなってしまった、1人の少女。

Twei最終巻からの時間軸で参戦。

【方針】

聖杯戦争には乗るが、人は殺さない方向で行きたい。聖杯戦争以外に良いプランがあるのなら、やはりそちらを重視したい。

ルビー「あのセイバーさん……大丈夫なんですかね?」

【人間関係】

グレン→イリヤ
スペック、思想面で共に理想的なマスター。性格も年齢も違うが、神祖になる前だった頃の御先との思い出を想起させるらしく、年の離れた妹のように接している。神天地に行こう

グレン→ラグナ
俺を討った相手。大した奴だし、お前の思いも尊重したが、やっぱ俺……諦められねぇから!!

グレン→他の神祖
同志。出会ったらもう一度勧誘したい。

イリヤ→グレン
頼れるセイバーさん。話が長い事だけが唯一の欠点。

神殺し氏→グレン
死ね。お前はこっちや

地母神→グレン
(3秒に一回化け物の子を妊娠し出産するVRエロゲーに集中している為コメント不能)

思兼神→グレン
正直スフィアの研究ってあまり面白くないから誘われても行かないわよ。

大国主→グレン
もう他所でやっててくれ……。


274 : ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい ◆zzpohGTsas :2022/07/04(月) 21:41:53 BhpaRzHE0
投下を終了します


275 : ◆vV5.jnbCYw :2022/07/04(月) 23:57:11 8WvCDbaI0
投下します。


276 : だからここにおいでよ、一緒に冒険しよう ◆vV5.jnbCYw :2022/07/04(月) 23:57:36 8WvCDbaI0
2階の窓から広がっていたのは、良く知っていて全然知らない町の景色だった。
場所は東京。僕が10年以上住んでいた町。
けれど土管が積んである空き地は無い。あるのは土管の山よりはるかに高いマンション。
近くの駄菓子屋は取り壊されて、代わりにデパートが建っている。
たまにお使いに行く八百屋はすっかり消えて、その場所に佇んでいるのは不動産屋の事務所だ。


「ママ、パパ、おはよう!」
「おはよう、ケンちゃん。朝ご飯早く食べないと、遅刻するわよ。」


いつもと違う景色の中の、いつもと同じ家族。

机の前にパパがいる。読んでいるのはゴルフクラブのカタログか。そんな物を買うなら僕にプラモデルを買ってくれればいいのに。
いや、この世界の電気屋で売っていた、もっと面白そうな電子ゲームを買って欲しい。

その隣にママがいる。読んでいるのはスーパーの広告。
どうやら野菜がまた値上がりした様だ。眉間に少ししわが寄っている。
ピーマンだったら上がっても良いけど、ニンジンやジャガイモやタマネギは上がって欲しくないなあと思う。


僕の左は、誰も座っていない。


「行ってきます。」
お気に入りの帽子をかぶり、ランドセルを背負って歩いていく。
学校に行くのではない。
友達を探しに行くためだ。

パパはいる。ママはいる。でも僕の大切な友達がいない。



「ハットリく〜ん!出てきてよ!!」
忍者は他人に姿を見せない。
けれど、僕には姿を見せてくれた。
勉強もスポーツもパッとしなかった僕に、色んな物を見せてくれた。
空を飛んだり、消えたり、他にも色んな忍術を見せてくれた友達。


この姿を変えた東京には、ハットリくんも、シンゾウも、獅子丸もいない。
彼らが何かのはずみで伊賀の里へ帰ったという訳ではない。
同じ同級生のケムマキもいない。
ロボ丸に至っては、シノビノ博士の研究所ごと姿を消している。


277 : だからここにおいでよ、一緒に冒険しよう ◆vV5.jnbCYw :2022/07/04(月) 23:58:26 8WvCDbaI0
以前読んだ猫型ロボットの漫画にあったような姿に変わったこの街が、忍者の存在を許していないかのようだった。
何度か角を曲がり、路地裏を走る。


「ハットリく〜ん!ハットリく〜ん!!」
忍者は他人に姿を見せないなら、僕の方から人がいない場所に行けばいい。


「アンタ、聖杯戦争の参加者だろ?」
不意に、目の前から野太い声が響いた。
声の主が現れる前に、心臓を鷲掴みにされたような気分になる。
寒い季節だというのに、汗が全身を伝う。


「ランサー、やれ。」
空から槍を持った男が僕を串刺しにしようとする。
反射的に体をかがめて、目をぎゅっと瞑る。
全身の筋肉が収縮し、鎧となって僕の身体を守ろうとする。
そんなことをしても、槍で刺されれば死んでしまう。


「助けて!ハットリくん!!」
大声で叫ぶ。
いつまで経っても、槍で刺されることは無かった。
代わりに、人が倒れる音が聞こえた。


「テ、テメエは……ぎゃあっ!」
さっきの声の主の悲鳴が聞こえた。
僕は、おっかなびっくり目を開ける。
さっき目を閉じるまでの景色と、何ら変わりはない。
あるとするなら、赤と紅が占める割合がずっと増していることだ。


「無事か、『ますたあ』。」
そこに立っていたのは、ハットリくんやシンゾウと同じ、忍び装束を見に纏った男だ。
彼は慣れた手つきで、刀に付いた血をピッと払う。
いると思いきやいなく、いないと思いきや突然現れる。
姿もやってることも、忍者のそれだと分かる。


「ありがとう、助かったよ。」
僕はその忍者の顔を見て、礼を告げる。
その顔を見た時に分かった。彼とハットリくんが違う所が。


彼の顔は、悲しみや傍観といった負の感情が、小学生の僕にも分かるほど表れていた。
パパがママによく注意されていた無精髭に、脂と血で汚れた髪の毛。
目の下には、残業帰りのパパのような濃いクマが出来ている。


「礼はいい。」
静かにその忍びはそう答えた。
その答えは、感謝を必要としていないという意味合いではなく、感謝されること自体が億劫であるかのように感じた。

「ねえ、君も忍者なんでしょ?」
それでも、彼がハットリくんの手掛かりになっているかもしれないと思った。
だから、話をすることにした。


278 : だからここにおいでよ、一緒に冒険しよう ◆vV5.jnbCYw :2022/07/04(月) 23:58:44 8WvCDbaI0

「僕、忍者の友達がいるんだ。ハットリくんって……」
「服部!?」

その人は、目を見開いた。
「お、お前服部の一族の仲間なのか?」
突然僕の胸倉をつかまれる。
大人と子供だ。僕は足を地面につけることも出来ず、両脚をばたつかせるだけだ。
しかし、急に手を離された。
重力に従って、ドサリと尻もちをつく形で解放される。


「………すまない。すまないことをした。」
突然忍びは泣き始めた。
ハットリ君とは違う、ひどく悲しい忍者だった。


「僕の方こそゴメン。」
この忍者は、ケムマキのように伊賀の忍者ではないのか。


「謝らなくていい。ただ、俺にこれ以上殺しをさせないでくれ、ますたあ。」



その言葉を言われた時、僕は思い出した。
僕は『聖杯戦争』の参加者だということを。
そしてもう一つ思い出した。
夢で見た、『アサシン』の凄惨な過去を。


★   ★   ★



俺は、百地勘兵衛は他人を殺した。
飛び道具が得意で気さくな友を
体術が得意で気の弱い友を
剣術が得意で冷静な友を


百地家とその家宝の巻物を守るという題目の下で、他にも数えきれないくらい人間を殺した。
百地三太夫に最も信頼された志能備として、殺し続けた。
そして、俺が殺したよりずっと多くの人間がその巻き添えを食って死んだ。
1つの巻物と1匹の蝙蝠に振り回され続けて、気が付いた時に目に入ったのは、燃え盛る伊賀の里だった。


全ての元凶になった巻物を埋めて、忍者としての役割を放棄した。
手にした刃物は、人を切るためではなく、石膏像を彫るために使った。
そのまま残りの生涯を全うするはずだったが、『あさしん』という『くらす』の下で、殺し合いに参加させられた。
しかもどういう訳か友を殺した頃の姿で。



★   ★   ★


その夢は、僕が知ってる忍者とは全く違う、凄惨な過去だった。
空を自由に飛ぶような楽しい忍術などなく、あるのは泥まみれの騙し合いと血みどろの殺し合い。
殺された忍者のうち何人かに、服部の名が付く者がいた。
もしかするとハットリ君の先祖だったのかもしれない。


でも、僕の友達は人を殺したりしなかった。
名うての忍者として、ロボ丸やザ・ニンジャなど他の忍びと戦ったことは幾度となくあったが、それでも殺すことは無かった。


ハットリ君たちがいなかったり、空き地がないのも当たり前だ。
僕が住んでいるのは、いつもの街ではなく、聖杯戦争の作られた東京なんだから。
それは確かに教えられた。けれど、忍者に会って来た僕にとっても違い過ぎる出来事に、受け入れられなかっただけだ。


百地勘兵衛という名を持ったアサシンの彼は、僕の知っている忍者と違っていた。
明るくも楽しくも無く、悲しい忍者だった。


279 : だからここにおいでよ、一緒に冒険しよう ◆vV5.jnbCYw :2022/07/04(月) 23:59:00 8WvCDbaI0

「悪かったな、『ますたあ』。こんな俺が『さあばんと』で。」
僕の考えを知ってか知らずか、アサシンはおもむろに謝罪し始めた。

「そんなこと無いよ。アサシンは僕を助けてくれたでしょ?」
「違う。俺は聖杯を欲しくないんだ。だからますたあに協力できない。」


聖杯戦争に選ばれたサーヴァントにあるまじき言葉。
それを言うのも仕方がない。
彼は全てをその手に治めることが出来る巻物、すなわち聖杯のような人知を超えた何かを巡って争った。
その果てが大切な友達の喪失だった。


「こんなことを言っても分からないかもしれないが、凄い力を求めても凄い力に振り回されるだけ。
もう俺は、同じ失敗を繰り返したくないんだ。」


それを聞いて、僕はー――
―――この人のマスターでいれて良かったと思った。
僕が望むのは、聖杯なんかじゃなくて、僕が知っている東京に帰ることだけだから。


「お願い。力を貸して欲しいんだ。」
「……お前、いや、ますたあ。人の話聞いていたのか?」
「違う。僕は生きてハットリくんたちの所へ帰りたいだけなんだ。聖杯なんていらない!
アサシンも一緒に帰ろうよ!」


きっと、ハットリくんならこうしていると思った。
伊賀の忍者であろうと、他の忍者であろうと、放っておけぬはずだ。
だから僕は彼に手を差し伸べた。
アサシンは困惑した様だが、僕の手を握り返した。
その手は、傷やマメだらけで、ハットリくんみたいに修業を積んだ人の手をしていて。
その握り方は、ハットリくんと同じで優しいものだった。


「分かった。でも俺なんかに期待するなよ。どうして英霊なんかに選ばれたのか不思議なくらい、何も出来なかった人間だ。」
「僕が期待しているのは、アサシンが友達になってくれることだけだよ。」
その言葉をかけた時、張り詰めたようなその顔が僅かばかり綻んだ。


「俺はお前の知っているような志能備にはなれん。理想の押し付けだけはやめろ。」
僕は黙って首を縦に振った。


今まで、ずっとハットリ君に助けてもらっていた。
この場所は、どんな時でも助けてくれた友達はいない。
けれど、一緒にいた経験は無駄にはなってないはずだ。


280 : だからここにおいでよ、一緒に冒険しよう ◆vV5.jnbCYw :2022/07/05(火) 00:00:15 ZeOXydzc0


★   ★   ★


――服部 藤林 百地!!俺達が力を合わせたら無敵だ!!
――みんなで伊賀の里を守るぞ!!


何でもますたあというのは伊賀忍者の頭目、百地丹波守のような人のことらしい。
けれど、とてもそんな風には思えない。
俺のますたあのキラキラした瞳は、あの時の俺達を思い出してしまった。
やがて殺し合うことなんて全く予想してなくて、みんなで伊賀の里を守るんだとばかり思ってた俺達に。


だからか、守りたくなってしまった。
それは他人の為なのかもしれないし、喪われた過去を取り戻したい俺の身勝手な欲望かもしれない。
けれど、この志能備好きの友達が期待する限りは、生きてやろうじゃないかとほんの少しだけ思った。


不意に、狭い路地裏にグゥーと音が響く。


「志能備の腹が鳴るのは命取りだって、お前の所の奴は教えてくれなかったのか?」



★   ★   ★



この2人は知らない。彼らの影が、蝙蝠を形作っていたことを。

『さてさて、どうなるんだろうねえ。この殺し合いは。オレの力は抑えつけられているみたいだが、どうなるやら。』


歴史の管理人である蝙蝠にとっても、聖杯戦争とは完全なるブラックボックス。
それ故、力も抑えられている。


『まあ、時が来れば奴さんの理想の為に、何処へ行けばよいかまた教えてやるか。』


281 : だからここにおいでよ、一緒に冒険しよう ◆vV5.jnbCYw :2022/07/05(火) 00:00:30 ZeOXydzc0

【クラス】
アサシン

【真名】
百地勘兵衛@BILLY BAT

【ステータス】

筋力D 耐久D 敏捷B 魔力E 幸運D 宝具C

【属性】
中立・善

[クラススキル]

気配遮断:C
伊賀の忍者の中でも抜きんでた能力を持つが、腹の虫など、敵に気付かれてしまう外的要因はある。

仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
地形を上手く利用して、追い詰められた状況や取り柄の足が封じられた状況でも戦線離脱できる。
反面、離脱した直後に幸運がD→Eとなる。


[保有スキル]

心眼(偽)(B)
所謂「第六感」「虫の知らせ」と呼ばれる、天性の才能による危険予知。視覚妨害・罠などによる補正への耐性も併せ持つ。

変わり身の術:C 
近くにある、人間サイズの何かを盾にして、やられたかのように見せる技。
攻撃範囲が広すぎる技には対応できず、近くに適したオブジェクトが無ければ役に立たない。

単独行動:C
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。Cランクなら1日は現界可能。
幼き頃から、個人技も達者だと認められていた経歴によるもの。

【宝具】
伊賀の志能備
ランクC: 種別:対人宝具 レンジ 1〜50 最大補足:50人
伊賀の忍者の中でも、とりわけ名家の百地の一族の、特に手練れの百地勘兵衛という人物そのもの。
生存力において他に類を見ない百地勘兵衛の力を活かすための道具が宝具となっている。
具体的には拘束を逃れるための油や、刀が使えなくなった際の竹やり、相手の真偽を見破る勘合符などがある。


BILLY BAT
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-

蝙蝠の姿をした、歴史の管理人。
3次元的存在を超越する4次元的存在に成り替われる宝具。その姿は時代ごとに姿が変わり、映画だったり巻物だったりタイムマシーンだったりする。
当のサーヴァントはこの蝙蝠を否定し、地蔵の下に埋めたが、聖杯戦争にて召喚された際に、その加護の影響を受けることになっている。
この聖杯戦争は、史実におけるミッシング・リンクとなっているため、歴史の力を司る彼の力も制限されている。
また、通常、この宝具による恩恵を百地勘兵衛自身の意思では解放を行うことは出来ない。
だが、もしも何かのはずみでこの宝具が解放されれば、あり得ないような奇跡が起こるだろう。
それこそ、敵の吹き矢が全て外れ、こちらの攻撃がすべて当たるような。


【サーヴァントとしての願い】
なし。だが、マスターが友達の下に帰るまで守りたい。


【weapon】
忍び刀

【人物背景】
戦国時代の伊賀忍者。群を抜いた優秀さと健脚、そして仲間をも欺く卑劣さを買われ、百地の里の御館様から『天下を分ける蝙蝠の巻物』を運ぶ人を受ける。だが巻物を巡ってかつての幼馴染を殺すことになり、その最中に彼を助けてくれた人物も死ぬことになる。生き残った彼は巻物を危険なものとして埋めた。隠棲して亡くなった人々の菩提を弔った。


【マスター】
三葉ケン一@新・忍者ハットリくん

【マスターとしての願い】
元の東京に戻りたい。

【weapon】
特に持たない。

【能力・技能】
身体能力も知力も、同年代の平均より下で、大したものは持っていない。
だが、自分をいじめていたケムマキでさえも、ピンチになったら心配する優しさを持つ。
まあ、身も蓋も無いことを言ってしまえばドラえもんにおけるのび太。
参戦時期は新・忍者ハットリくんの最終回でハットリくんと別れるまで。

【人物背景】
ひょんなことから伊賀の忍者ハットリくんと出会った少年。
彼との出会いによって、非日常に巻き込まれていく

【方針】
聖杯は必要ない。それでもこの世界からどうにかして脱出して、元の東京へ帰る。


282 : ◆NIKUcB1AGw :2022/07/05(火) 21:33:58 8UlBYGZQ0
投下します


283 : あの人に会いたくて ◆NIKUcB1AGw :2022/07/05(火) 21:35:14 8UlBYGZQ0
とある安アパートの一室。
そこに、聖杯戦争のマスターに選ばれた青年がいた。

「結論は出たか、マスター」

青年の背後から、彼のサーヴァントが問いかける。
目を引くのは、ド派手なピンク色の髪。
その髪色と服装の方向性が相まって、目の下の隈や頬の傷もメイクに見えてしまう。
街を歩いていたらビジュアル系のバンドマンかと思ってしまいそうな容貌の彼だが、実際にはそんなことは全くなく。
サーヴァントとしてのクラスはライダー。真名を、ガウマという。

「ああ、決めたよ」

振り返ってそう告げるマスターの名は、由崎星空。
「星空」と書いて、「ナサ」と読む。

「僕は、聖杯戦争に乗る。もう一度、あの子に会うために」

自分のキラキラネームに対するコンプレックスから、ナサは猛烈に勉強に励んだ。
模試で全科目全国1位を取れるほどに。
その頭脳があれば、エリートコースを歩むこともできただろう。
だが彼は、そんな道を選ばなかった。
それよりも価値があると思えるものを見つけたから。

中3の冬に出会った少女。
一目見ただけで、ナサは彼女に魅了された。
我を忘れるあまりトラックに轢かれたナサを助け、彼女は姿を消した。
結婚の約束だけを残して。
それから、3年の時が経つ。
彼女との再会だけを目的に生きてきたナサだったが、未だにそれは成し遂げられていない。
ならば、超常の力にもすがりたい。

「正直、今までの僕なら願いを叶える聖杯なんてまったく信用しなかっただろうけど……。
 気づいた時には知らない街に住んでいて、サーヴァントが召喚される瞬間も見てしまった。
 ここは僕の常識では起こりえないことが起こる世界だと、認めるしかない。
 ならば僕は、聖杯に望みを託す」
「そうか……」

ナサの決意を伝えられたライダーは、短い言葉でそれを受け入れる。

「ライダーは、それでいいの?」
「おいおい、俺は聖杯戦争のために召喚されたサーヴァントだぜ?
 戦うことを否定するわけがねえだろう。
 ただ……」

ライダーの表情が、いっそう引き締まる。

「俺はおまえみたいな、平和な人生を生きてきた人間に人殺しの責任を背負わせたくねえ。
 狙うのはサーヴァントだけだ。
 どうしても避けられねえ時を除いて、マスターには攻撃しねえ。
 それでもいいか?」
「もちろんだよ。むしろ、僕から頼んでもいいような話さ。
 いくら自分の悲願と言っても、そのために人を殺すのはさすがに罪悪感が勝るから」
「安心したぜ、マスターの倫理観がまともでよ」

そう言って口元を緩めるライダーの姿を、ナサは意味深な目つきで見つめる。

「……なんだよ」
「なんかライダーって、僕のことを妙に気遣ってるというか……。
 僕に、別の誰かを重ねてない?」
「妙なところで鋭いな、おまえ……」

図星を突かれ、ライダーは苦々しい表情を浮かべる。

「まあ、別に隠すことでもねえか。
 なんか似てるんだよ、おまえ。
 生きてた頃の仲間にな」
「仲間、か」
「ああ、初対面の時に俺を助けてくれたいいやつだ。
 惚れた女に一途で……。
 俺が死んだ後だが、ちゃんと思いを伝え合って無事に結ばれたらしい」
「はあ……」
「だから、ほっとけねえんだよ。
 惚れた女のために、命賭けるようなやつはな」
「なるほど、よくわかったよ」
「わかってくれて嬉しいぜ」

投げやりな口調で、ライダーは会話を打ち切る。

(まあ、それだけじゃねえけどな)

ライダーがナサに肩入れする理由は、もう一つある。
それは彼自身も、愛する人との離別を経験していることだ。
彼は再会を強く望んでいたが、生前にそれがかなうことはなかった。
ゆえに、それを聖杯に願うことも考えている。
しかし、どうしてもというわけではない。
今の自分は所詮、死者の残像に過ぎない。
生きる人間よりも優先して願いを叶える権利など、あるはずがないのだから。

(おまえの願いは叶えてやるよ、ナサ。
 絶対と言い切れないのがつらいところだがな……)

窓から月を眺めるマスターの背に視線を送りながら、ライダーは改めて決意を固めた。


284 : あの人に会いたくて ◆NIKUcB1AGw :2022/07/05(火) 21:37:11 8UlBYGZQ0


【クラス】ライダー
【真名】ガウマ
【出典】SSSS.DYNAZENON
【性別】男
【属性】中立・善

【パラメーター】筋力:E 耐久:E- 敏捷:E 魔力:C 幸運:B 宝具:A-

【クラススキル】
騎乗:A
乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。
「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
Aランクでは幻獣・神獣ランクを除くすべての獣、乗り物を乗りこなせる。

対魔力:C
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Cランクでは、魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
隊長:D
少人数限定のカリスマ。
2〜5人程度で行動する時、高い指揮能力を発揮できる。

愛と約束と:A
ライダーの信念がスキルとなったもの。
「愛のための行動」「約束を守るための行動」を取る時、大幅にステータスが上昇。
さらにEランクの「戦闘続行」を得る。

怪獣使い:―
この世の理から外れた存在、「怪獣」を支配することができるスキル。
ライダーはあえてこの力を失った状態で現界しているため、ただの飾りスキルと化している。


【宝具】
『戦いの海突き進む船(ダイナダイバー)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1-200 最大捕捉:100人
ライダーが生前操縦していた、戦闘用潜水艇。
普段は片手で持てるサイズだが、真名を解放することで巨大化する。
潜水艇なので陸上は走れないし、空も飛べない。
宝具になっているのでその辺の融通が利いても良さそうなものだが、ライダーの思い入れの強さがかつての性能をそのまま再現している模様。


『愛と約束背負いし竜神(ダイナゼノン)』
ランク:A- 種別:対軍宝具 レンジ:1-250 最大捕捉:150人
ダイナダイバーと仲間たちのメカが合体した、巨大ロボ。
本来は4人で動かすものをライダー一人で動かすため、性能は元々のスペックより低下してしまっている。
パイロットを現地調達すれば多少はパワーアップするが、それでもかつての「ガウマ隊」には及ばないだろう。

【weapon】
なし

【人物背景】
かつて、現在の中国付近にあった国に仕えていた怪獣使いの一人。
しかし国は怪獣使いの力を恐れ、暗殺を決行。
姫と恋仲であった彼は唯一国の側につき、仲間たちとの殺し合いの果てに相打ちで命を落とした。
だがそれから500年後、なぜか日本の地で蘇ってしまう。
そして彼は未来で出会った仲間たちと共に、姫から託された龍の像が変化したダイナゼノンで怪獣と戦っていくことになる。

【サーヴァントとしての願い】
姫ともう一度会いたい。
だが、無理に叶えるつもりはない。


【マスター】由崎星空(ナサ)
【出典】トニカクカワイイ
【性別】男

【マスターとしての願い】
司との再会

【weapon】
なし

【能力・技能】
学校の勉強を始めとしていわゆる「学問」の知識は非常に豊富で、推理力や洞察力も高い。
その一方で、興味のない分野は常識レベルのことでも知らない。
要するに、頭のいいバカ。

【ロール】
一人暮らしのフリーター

【人物背景】
学業で圧倒的な成績を記録しながらも、恋のために全てをなげうった男。
参戦時期は、司と再会する数日前。

【方針】
聖杯狙い。ただし、殺人はできる限り避ける。


285 : ◆NIKUcB1AGw :2022/07/05(火) 21:38:09 8UlBYGZQ0
投下終了です


286 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/05(火) 23:26:04 7RLzVMJY0
beautiful or ugly
これはまたえげつない設定のマスターがやって来たものだなぁ…とまず思いました。
その怨念にも等しい憎悪の念は他者を容赦なく害するものであり、故にある意味ではサーヴァント以上に恐ろしいのかも知れないですね。
そんな彼女の真実の一端に触れたビュウトですが、果たして彼はその先に行けるのか。

刑事とギャングの共通点
復讐者という共通点を持っていながら決定的に違う人生を送った二人ですね。
本来の物語が終わった後からの参戦ということで、笹塚の精神性もかなり変わっているのが新鮮でした。
黄金の精神を持つブチャラティと復讐から解放された笹塚の組み合わせ、有無を言わせない安心感があります。

あの人の為に戦った者たちよ
生前の自分とは明確に違う、サーヴァントとしてクトリに相対する秋山が格好いい。
サーヴァントというのはどんな幕切れであれ己の物語と向き合い、それを終えた者なのだなと改めて感じますね。
彼の気高い闘志がクトリの願いをきっと助けてくれることでしょう、うむ。

終着駅(ラストステイション)
作品を知っている人間が読めば、組み合わせの段階で全ての意味を理解する主従ですねこれ…。
会話の一つ一つに痛ましさすら伴っていて、しかしそれが表面に覗く事はない話運びが絶妙でした。
果たしてGVは"彼女"の願いに添い遂げる事はできるのか。もとい、それを善しと貫けるのか。

杜野凛世&アサシン
別所で氏の描かれた同じ組み合わせを読んだ事があるのですが、だからこそ役者の違いがこうも雰囲気を変えるのかと驚かされました。
小気味いいテンポの文章で紡がれる銀幕の向こうを思わす各種描写がするりと脳に染みてくる感じが堪らないですね。
座頭市の殺陣、凛世という少女が出会った非日常の剣客…素晴らしい筆致で描きあげられていたと思います。

ものすごくあつかましくて、ありえないほどちかい
最悪だよこの男(読後の第一声)。…それはさておき、実にグレンファルトらしい語り口で感嘆しました。
全てを救う貪欲さを見せるイリヤは間違いなく神天地の主にしてみれば高評価でしょうし、当然お説教も弾みますよね。
しかし話の流れで使徒化も済んでいるイリヤ、既に本人が思っているより遥かに後戻りできなくなってしまっている事に気付いてほしい。

だからここにおいでよ、一緒に冒険しよう
そういう組み合わせか、成程なぁ…と唸らされつつ。全体的に凄く纏まっていて読みやすい内容でした。
一人称視点で描かれるケン一の心情などの描写も精微で、だからこそアサシンとの会話がまた味を持つ。
忍者という縁を寄る辺に結ばれた二人の物語はさぞや見ごたえのあるものになりそうですね。

あの人に会いたくて
主従同士の会話が簡潔ながらも味のあるそれで良かったです。
ガウマの独白がまた何とも言えない切なさを醸していて良いですね。
宝具もかなり豪快なものなので、戦わせて絵になりそうなのが魅力的でした。


改めて、皆様投下ありがとうございました。


287 : ◆TPO6Yedwsg :2022/07/06(水) 19:59:27 1OnFwM7I0
投下させていただきます


288 : 無明の夜に、黎明が来る ◆TPO6Yedwsg :2022/07/06(水) 20:01:13 1OnFwM7I0
その日は雲ひとつないごきげんな晴れ模様で、こんな日はなにか良い事がありそうだって思いました。
真っ赤に燃えるお日さまが、冬の寒さを吹き飛ばしてくれる、そんなワクワクするような一日。
もうすぐクリスマス、その後は冬休み。
今のうちに小学校でできること、いっぱい楽しんでおこうって。
だから、下校中にちょっと頭がぼんやりしてきたのは、はしゃぎすぎて疲れちゃったのかもしれません。
今日はレッスンもお休みだし、しっかり休んで明日もまた楽しくがんばろう。
そう思いながら、あたしはぼんやり歩いていました。
ぼんやり――ぼんやり――。
おかしいな、と思ったのは、いつの間にか歩くのをやめて、地べたに座り込んでいることに気づいた時です。
ついさっきまで明るかったはずなのに、あたりはすっかり真っ暗で、どう見たってもう夜でした。
あたしこんな時間に何をしてるんだろう、お父さんとお母さんとマメ丸が心配しちゃう、早く帰らなくちゃ。
不思議とうつむいていた視線を上げると、そこには沢山の人がいました。
その人たちは、今のあたしと同じように、地べたに座り込んでうつむいてしまっています。
何人も、何十人もの子供と大人の人たちが。
「あっ、あの……大丈夫ですか?」
近くにいた人に声をかけても、うんともすんとも言いません。
寝てるわけじゃないのに、目も開いているのに、あたし以外の人たちはまるで夢を見ているかのようにぼんやり、ぼんやり。
「あの、あのっ、ここはどこですか。どこか悪いんですか?」
誰も、何も言ってくれません。
起きているのはあたしだけ。
ぼんやりしていた頭はすっきりしてきて、代わりに大きな不安が風船みたいにふくらんでいきます。
こんなのまるで、悪の組織に捕まってしまったかのような――

「おや? 目が覚めてしまった子がいますね」
「わっ、え……?」
誰かが、声をかけてくれました。
けれどその時あたしが感じたのは、起きている人がいたって安心じゃなくて。
その言葉を聞いて、あたしの体はまるで雨の中冷え切ったみたいに冷たくなってしまったんです。
いつの間にかそこにいた魔法使いみたいな姿のお兄さんは、あたしのことを見下ろして、首を傾げています。
「あ、あのっ……この人たち、返事がなくって」
「当然です。キャスターである私が暗示をかけてこの場に集めたのですから、意識など残りようがない」
「え?」
「むしろ、少女一人が私の暗示を破るとは……魔術師ではないようですが」
キャスター、あんじ、まじゅつし。
いくつかの言葉の意味は分からなかったけど、分かったことがありました。
それは、この人があたしと、周りのぼんやりしているみんなをここに連れてきたということで。
「あ、あたしたちを……ゆうかいしたんですか!?」
「はい。聖杯戦争も未だ選定段階。今のうちに資源を集め、準備を整えなければ。
これだけの人数を秘密裏に、痕跡を残さず集めるにはそこそこの時間がかかりましたが」
「そんな……どうして、こんなこと」
ズキリ、と頭が痛みました。
せいはい、せんそう。
その言葉を聞いて、頭のすみっこがズキズキとします。
「無論、魂食いのために。本戦が始まるまでに魔力はあるだけあれば良い。
といっても……お嬢さんには分かりませんか」
それがどんなことなのか、あたしには分かりません。
けれどなんでもない顔でこんなにたくさんの人をさらって、これ以上の何かをしようとしている。
ああ、この人は悪い人なんだ。
あたしは今ニチアサの悪者みたいなひどいことをする人と、現実で向かい合っているんだ。
ズキリ、ズキリと頭痛は酷くなっていって。
けど不思議と、頭のぼんやりはスーッと消えていって、みんなの顔がよく見えます。

あたしに手を伸ばしてくる、悪い人(キャスターのサーヴァント)。
ぼんやりと、どこを向いてもいないうつむいた人たち(暗示によって意識を奪われた一般人)。
ズキズキする頭と、ちりつく右手(新たなマスターを選定中、聖杯戦争の知識をインストール中)。

分かんない、なにも分かんないよ。
けど、そんな分かんないって気持ちとは別に、あたしはあたしのやらないといけないことが分かりました。


289 : 無明の夜に、黎明が来る ◆TPO6Yedwsg :2022/07/06(水) 20:02:15 1OnFwM7I0
「起きてくださいっ! ここから、逃げてくださいっ!」
「何を――」
冷え切った手足を動かして、立ち上がり、声を上げます。
今、起きているのはあたしだけ。
だから、みんなを起こしてあげられるのもあたしだけ。
あたしはヒーローアイドルになりたくて、ヒーローに憧れてて。
あたしには、ヒーローみたいに悪者を倒せる力なんてないけれど。
『正義のヒーローに必要なのは、体の強さじゃなく、心の強さだ』。
そうだよね、ジャスティスレッド!
「起きてくださいっ! ここから、逃げてくださいっ!」
何度も、何度でも呼びかける。
うつむいていたみんなの顔が上がる。
ぼんやりしていたどこも見ていない目が、あたしを見てくれている。
もう少し、もう少しで、みんな起きてくれる。
あたしの元気を、あたしの勇気を、もっともっと、みんなに――
「そこまでだ、お嬢さん」
「起きて――あ、かっ……!?」
もうちょっとなのに、あたしの声は止まってしまいます。
首を押さえられて、喉が狭くなって、息ができない。
頭のズキズキが、どんどん酷くなって。
「まさか、言葉に込められた力のみで暗示を破ろうとするとは……最早、常人と思うには危険ですね。
お嬢さん、その蛮勇を後悔しなさい。大人しくしておけば、死の寸前まで魔力を搾り取るだけで済んだものを」
「あ、う……」
「では、死んでください」
ダメ、なんでしょうか。
ヒーローに憧れて、ヒーローみたいになりたくて。
みんなを笑顔にできるヒーローアイドルになりたくて。
だから、ニチアサのヒーローみたいに戦う力がなくたって、さらわれたみんなに笑顔を取り戻してあげられれば。
けど現実は、大人の力で首を絞められて、声一つ上げられなくなって。
あたし、ヒーローになりたいんです。
けど、こんなあたしじゃ、ヒーローになれないんでしょうか。
「か、あっ……!」
それでも、あきらめたくない。
大好きなジャスティスV(ファイブ)のジャスティスレッドなら、きっとあきらめない!
声が出なくたって、声を上げようとすることをやめない。
正義の味方は、最後まで正義の味方をやめない!
そうしたら、頭のズキズキが火花みたいに飛び散って、右手のちりつきがあったかい何かになって――

「――ああ、聞こえたよ。マスター、きみの声が!」


290 : 無明の夜に、黎明が来る ◆TPO6Yedwsg :2022/07/06(水) 20:03:12 1OnFwM7I0
――あったかい。
あたしは、あったかい何かに包まれていました。
あたしの喉を締め付ける悪い人の手はいつの間にかなくなっていて。
それは太陽みたいにあったかくて、大好きなジャスティスレッドみたいに赤い。
炎が、あたしを包み込んで、守っていたんです。
「ごほっ、ごほっ……ジャスティス、レッド……?」
「ジャスティスレッド、というのはよく分からないが。俺は、君の味方だ。
明日を知れぬ人々を救い、虐げる者を討つ。立ち塞がる壁を壊すために、俺は来た。
誰かのために立ち上がる心を持つ、きみの声を聞いて」
そのお兄さんは、ファンタジーの戦士のような姿をしていました。
重たそうな鎧をなんでもなさそうに着こなして、その手には燃え盛る剣を……燃え盛る……燃え……
手が、燃えてる!?
「え。えっ、えっ、あ、あの……!? あのあのあの、燃えてます! 手が燃えちゃってますよ!?」
「ああ、これ。大丈夫だ。いや、大丈夫ではないんだが……困ったな。そりゃ、子供には痛々しく見えるよな」
お兄さんは苦笑いしながら剣の炎を消すと、背中に背負いました。
けど今も両手が真っ黒に、炭みたいになっています、大惨事です。
「救急車……いやおまわりさん!? えっと、えっと……ごほっ、ごほっ」
「マスター、無理に声を出しちゃダメだ。サーヴァントの力で首を絞められていたんだぞ。
それに、俺の腕も大丈夫だ――『シオン』!
「ええ、分かってるわ。マスター、そのまま動かないで」
お兄さんが、誰かの名前を呼びます。
すると、もう一人。
白いドレスの綺麗なお姉さんがそこにいました。
お姉さんはあたしの首に優しく触れると、触れたところが光みたいに輝いて。
あたしの首の痛みも、息のつらさも、魔法みたいになくなってしまいました。
「貴方も」
「ありがとう」
お姉さんは次に、お兄さんの真っ黒な手に光を当てます。
すると、炭になってしまった手がみるみる肌の色を取り戻していきます。
「マスター、話すべきことは沢山あるんだが。ひとまず、下がっていて欲しい」
「どうするんですか?」
「奴を、倒す」
視線を向けた先には、お兄さんの炎の剣によって片腕をなくした悪者が、こっちを睨んでいました。
さっきまで悲鳴をあげながらのたうち回っていた気がしますが、元気を取り戻してしまったようです。


291 : 無明の夜に、黎明が来る ◆TPO6Yedwsg :2022/07/06(水) 20:03:36 1OnFwM7I0
「おのれ……! よもやマスターの資格を……更には土壇場で『セイバー』の召喚だと!?
それも『二体』! どうなっている、一人のマスターが二体のサーヴァントを召喚するなど、あり得ない!」
「『二体』じゃない。『二人』だ」
悪者の糾弾するような態度に鼻を鳴らし、お兄さんが踏み出します。
お姉さんはどこからか大きな銃を取り出し、あたしの前へと立ってくれます。
「俺とシオンは二人で一人。それが俺たちのサーヴァントとしての特性、ってやつらしいな」
「対にて一体のサーヴァント! そのような存在が、魔術師でもない子供に……!」
「あんたは」
お兄さんが剣を構えます。
さっきの、腕ごと燃えちゃってた剣とは別の、鋼の剣です。
「許されないことをした。人を浚い、意思を奪い、食い物にしようとした。
それは、『奴隷を虐げるもの』の振る舞いだ。俺たちの敵だ」
「正道を謳いますか、いかにもなセイバーだ。だが所詮私も貴様も、聖杯に願いをかけるサーヴァント!」
悪者が魔法の球をお兄さんにぶつけます。
傷はありませんが、お兄さんはその勢いに一歩後ずさってしまいます。
「ランクC相当の対魔力、といったところですか。そのランクであれば私の魔術も通る!
素人のマスターに召喚されたことを後悔しろ!」
悪者が手を空に向けると、大きな大きな炎の球が作られます。
あんなものが投げられたら、ここにいるみんなが焼けてしまいます!
しろうとのますたー、というのはきっとあたしのことです。
あたしは今、足手まといになってしまっているのでしょうか?
「あの、あたしのことは……!」
「マスター」
お姉さんが、あたしのほっぺに触れます。
落ち着いて、という気持ちが指先から伝わってきて、あたしはお姉さんの綺麗な輝く目を見つめます。
「貴方を守る、それが私達の役目よ。ううん、役目なんかなくたってそう。
私たちは、貴方のような子たちを守るためにここにいる」
「それだけじゃない。ここにいるみんなを守る。見てくれ、マスター。
マスターの呼びかけと俺達の召喚の衝撃で、拐われた人たちの暗示が解けかかってる。
あのキャスターはこれ以上みんなを留めておけず、魔力を利用できない。
君の声が、この状況を作り上げた」
「あたしの声が、届いた?」
「ああ、下手をすれば人質を操られて盾にされるところだったんだ。スゴいぞ、マスター」
分かりません、今頭の中をぐるぐる回ってるおかしな知識も含めて何も分からなかったけど。
けど、二人はあたしの声がみんなに届いたんだって言ってくれました。
あたしにも何かができたんだと思うと、それが無性に嬉しくて。
「マスターがこれだけ頑張ったんだ。次は、俺たちの番だ。任せてくれるか?」
「……はい! 頑張ってください、ヒーローさん!」


292 : 無明の夜に、黎明が来る ◆TPO6Yedwsg :2022/07/06(水) 20:04:15 1OnFwM7I0
あたしはお兄さんの言う通り数歩下がって、お兄さんとお姉さんが大きな火球に向かっていきます。
二人は火球を前に、こんなことは慣れたかのように会話をしています。
「暗示によるラインが切れたとはいえ、身動きの取れない人質が多数。
中遠距離からの炎の剣(フラムエッジ)は禁止よ、至近距離のみ」
「だが時間をかけるのも論外だ、あの大火球を投げつけられる前に接近しないと。
大星霊石(レナス=アルマ)を用いた召霊の儀による魔力の取り出しも無しだな。
あの大火球を耐久力のみで凌ぎ、人質に手を出させることなく速攻で決める」
「なら、使うべき宝具は決まったわね。『ブーストアタック』を使い切って決めるわよ。
マスターの子には、なるべく負担をかけないように」
「言うまでもないさ。回復は頼んだぞ、シオン!」
そして、お兄さんがものすごい速さで飛び出します。
それはまるでたった一歩で悪者の目前まで迫ったかのような速さでした。
「血迷いましたか! この大魔術を前にCランク程度の対魔力でぶつかろうとするとは!」
悪者は上げていた腕を振り下ろして、火球をお兄さんにぶつけます。
一軒家をまるまる飲み込んでしまうような火球が、お兄さんを飲み込んでしまいました。
「うお、おおおおおおおおおっ!!!」
全身が燃えながらも、お兄さんは火球をせき止めています。
後ろにいるあたしたち、拐われたみんなに火がいかないように。
「けれど、これじゃお兄さんが!」
「そうね、けれど私がいるのよ」
お姉さんが、前で頑張っているお兄さんへと手を向けます。
お姉さんの光がお兄さんを包んで、お兄さんの火傷がどんどん消えていきます!
「私がいる限り、彼に傷を残しはしない」 
「馬鹿なっ、火球の威力をも上回る回復速度だと!? ならば……!」
「ならば、火球を割いて改めて後方に撃ち込むか? やらせないぞ――『ロウ』!」
お兄さんが、また誰かの名前を呼びました。
すると、誰かが悪者の背後から飛びかかります。
それは狼の肩当てをした、拳を振り上げる男の子の姿!
「なっ、どこから……私の魔力障壁が、割れた!?」
パリィとガラスの割れるような音がして、悪者を守っていた壁のようなものが消えました!
「この……ならば次弾を……!」
悪者はたまらず、別の魔法を唱えようとします。
「『リンウェル』!」
「な、あ!? 詠唱が!?」
続いて現れたのは、大きな本を持った魔法使いの女の子!
女の子が魔法をぶつけると、悪者の呪文が途切れてしまいます!
「今だ、『キサラ』!」
その次は、大きな盾を持った騎士のお姉さん!
お兄さんを守るように火球にぶつかり、火球の勢いを止めてしまいます!
「馬鹿な……馬鹿な! まずい、撤退を――」
「『テュオハリム』!」
そして、長い棍棒を持った貴族みたいなお兄さん!
たまらず後ずさった悪者の足に、植物のツタのようなものが絡みついて動きを止めてしまいます!
「何だ、何なんだ貴様らは――!」
「――シオン!」
「ええ!」
まるで戦隊ヒーローのように、四人の仲間の力を借りて。
身動きの取れない悪者に、火球を抜け出したお兄さんが。
いつの間にか追いついていたお姉さんの回復の魔法を受けながら、赤い炎の剣を振り上げて!

「これで――」
「終わり、だぁ――!!!」


293 : 無明の夜に、黎明が来る ◆TPO6Yedwsg :2022/07/06(水) 20:05:05 1OnFwM7I0
そして炎の一振りが、悪者を焼き尽くしました。
もう体を冷えさせる恐ろしい気配はそこにはなくて。
ただ、炎がそこにあります。
悪者を焼き尽くした炎、けれどそれは怖いものではなくて。
太陽のようにあったかい、みんなを助けてくれる炎。
まるで、ヒーローが現実に現れたみたいな。
ちょっとずつ意識を取り戻した、さらわれたみんなも、おんなじことを思ってるみたいです。
腕を焼いてしまうような炎の剣を何の躊躇いもなく人助けのために振るうお兄さんと、
そんなお兄さんの傷を治してあげられるお姉さん。
「大丈夫か、マスター」
「あ、あのっ!」
聞きたいことは、たくさんありました。
今頭の中にある、たくさんの知識。
聖杯戦争っていう何か。
サーヴァントっていう何か。
令呪っていう、不思議な模様。
けど、けど、今はそれよりも、何よりも、言いたいことがあって、聞きたいことがあって。
「あたし、小宮果穂! 12歳! 小学6年生です!
お名前を教えてください、ヒーローさん!」
あんなに危ない目にあっていたのに、あたしの目はきっとこれ以上なく輝いていて。
お兄さんとお姉さんはそんな様子をどう思ったでしょうか、けど。
二人とも、あたしに優しく笑いかけてくれて、

「果穂、か。いい名前だ。俺はアルフェン」
「私はシオン」
「「君(貴方)を守り、ともに戦うセイバーのサーヴァントだ(よ)」」

その日は雲ひとつないごきげんな晴れ模様で、こんな日はなにか良い事がありそうだって思いました。
真っ赤に燃えるお日さまが、冬の寒さを吹き飛ばしてくれる、そんなワクワクするような一日。

その日あたしは、青いマフラーに黒い鎧の、赤い剣を背負ったヒーローと、
宝石のようなピンク色の髪に白いドレスを纏ったヒーローに出会ったんです。


294 : 無明の夜に、黎明が来る ◆TPO6Yedwsg :2022/07/06(水) 20:09:13 1OnFwM7I0
【クラス】
セイバー

【真名】
アルフェン&シオン・アイメリス@テイルズオブアライズ

【パラメーター】
筋力B 耐久B+ 敏捷C 魔力C+ 幸運D 宝具B

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:C+
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
ただし後述のスキル『召霊の儀』による儀式と併用することにより一時的にAランク相当の守護を発揮できる。

騎乗:C
セイバークラスによる補正。
生前に騎乗の逸話はないが正しい調教、調整がなされたものであれば万全に乗りこなせる。

【保有スキル】
運命の開放者:A
奴隷解放の英雄としての称号であり、双世界救世の英雄の称号。
あらゆる苦痛、絶望、状況にも絶対に屈しないという極めて強固な意志。
肉体的、精神的なダメージへの耐性に加え、運命、因果、支配等『何かを強制する効果』への耐性を持つ。

召霊の儀:B+
アルフェンの持つ『王』の力とシオンの持つ『巫女』の力。
これらは莫大な星霊力を操作、制御するために人体改造で付与された後天的な素養である。
自身の容量を超える魔力量を一時的に制御することが可能。
また二人で儀式を行うことにより外部の魔力に対しても制御が可能となる。
後述する宝具『大星霊石』と組み合わせることによりこのスキルは真価を発揮する。

この痛みは、君の心に触れたから:B
二人を象徴し繋ぎ止める絆。心に触れる痛みを、その痛みを超えて触れることの意味を、彼らは知っている。
アルフェンはシオンを守る時に限り、耐久を1ランク向上させる。
シオンはアルフェンを回復する時に限り、その回復力を向上させる。
この効果は絆を結ぶことによってマスターも効果範囲に含めることができる。

【宝具】
『炎の剣(フラムエッジ)』
ランク:B+ 種別:対人〜対壁宝具 レンジ:1~50 最大補足:500人
炎の星霊力が剣の形を成した武装。
その力の膨大さは炎属性でありながら属性相性を貫通し敵をねじ伏せる。
所有者はシオンだが使い手はアルフェンであり、シオンが発動許可を出しアルフェンが武器として振るう。
この性質上どちらが欠けても運用することはできず、この性質故二人は一人のサーヴァントとして扱われる。
魔力を込めるほど任意で威力と規模を増し、最大で国境にそびえ立つ大壁を破壊する程の規模となる。
その威力の見返りとしてこの剣は力を発揮している間常に燃え盛り、対魔力を無視し使い手の腕を焼き続ける。
その自傷ダメージは威力を上げるほど蓄積されるが、逆説的に自身の耐久力の持つ限り威力を上げ続けられる。


295 : 無明の夜に、黎明が来る ◆TPO6Yedwsg :2022/07/06(水) 20:10:55 1OnFwM7I0
『心の黎明を告げる者たち(テイルズオブアライズ)』
ランク:C++ 種別:対軍宝具 レンジ:1~5 最大補足:不明
ダナとレナ、双界を結び平和を齎すために共に戦った仲間たちを召喚する。
召喚可能な対象はリンウェル、ロウ、キサラ、テュオハリムの四人。
消耗する魔力量に応じ宝具運用が変化し、その運用法は主に三種類。
小規模の魔力量で一瞬のみ召喚し連携攻撃を行う『ブーストアタック』。
中規模の魔力量で体勢を崩した敵に大技を叩き込む『ブーストストライク』。
そして大規模の魔力量で行う『サーヴァントとしての一時的パーティ召喚』。
汎用から決戦まで幅広い用途を持つ戦闘の基幹となる宝具である。

『大星霊石(レナス=アルマ)』
ランク:EX 種別:対星霊宝具 レンジ:1 最大補足:不明
星霊力を貯蔵、制御する器。地水火風光闇の星霊力が凝縮された触媒。
貯蔵されている魔力の総量は『惑星の地表から生成する魔力三百年分』に相当する。
この魔力はスキル『召霊の儀』によって任意に使用が可能だが、一度に行使可能な魔力量はスキルに依存する。
この宝具の本質は魔力タンクではなく、貯蔵した星霊力の意志を霧散させることにある。
スキル『召霊の儀』によって外部の魔力を蓄積し、更に蓄積された魔力から意思、指向性を剥奪する。
即ちいかなる意思、属性を帯びた魔力であろうとも純粋魔力へと還すことが可能な封印具である。
『一つの世界を支配する意思』さえも理論上は封印可能なものであり、宝具ランクとしては破格のEXを誇る。
封印する対象が強大であればあるほどスキル『召霊の儀』による長時間の儀式を必要とするが……
逆に言えば、詠唱時間と集中するための安全さえ確保できればサーヴァントだろうと封印が可能。

【weapon】
アルフェン:常用の剣と炎の剣を戦況に応じ使い分ける
シオン:特殊弾を用いるライフル銃、星霊力爆弾、攻撃と回復の星霊術

【人物背景】
奴隷階級であるダナ人の男性と、支配階級であるレナ人の女性。
二人は数奇な出会いによって行動を共にし、仲間を得て、三百年間に及ぶ支配を打破し、双世界を救うに至った。
物語終了後、ダナとレナの橋渡しに奔走しながらも平穏な生活を手に入れた精神性での召喚。
シオンは茨の呪いを持たず、アルフェンも記憶の欠けは存在しない。

【サーヴァントとしての願い】
マスターを守る。
虐げられるもの、善き人のために戦う。

【備考】
ステータスにおいては耐久に秀でたセイバー。コンセプトは『守護』と『継戦能力』。
二人で一人のサーヴァントという特性により一陣営で高度の連携を行う。
宝具『大星霊石』が魔力を賄うためマスターの資質を選ばない、求められるのは善良であることのみ。
マスターは守るべき善良な子供だが、確かな勇気を胸に戦いへと向かうのならその意志を否定はしない。
宝具『フラムエッジ』は非常に強力かつ常に自傷ダメージを発生させる諸刃の剣だが、シオンの回復術がそれを補う。
スキル『この痛みは、君の心に触れたから』の効果により、アルフェンに対しては欠損レベルの負傷さえも治癒可能。
宝具『心の黎明を告げる者たち』の『ブーストアタック』は良燃費で速攻発動が可能。
召喚する仲間一人につきクールタイムが存在するが、要所での追撃やいざという時のマスターの護衛に秀でる。
宝具『大星霊石』によるサーヴァント封印の儀式は強力な味方の存在が大前提であり、使用難易度が非常に高い決戦兵器。
自力では打ち倒せない強大な敵を前に無防備な状態で長時間の儀式を行う必要があるため、
実行には一部工程省略のための令呪行使が現実的。


【マスター】
小宮 果穂@アイドルマスター シャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
聖杯については、まだよく分からない。
聖杯戦争が人を傷つけるなら、傷つく人を守るために、みんなの笑顔のために戦う。

【能力・技能】
ボーカル、ダンス、ビジュアル等アイドルとして人々を魅了する技術。
加えてヒーロー志望としての持ち前の正義感、快活さ、善良な心。
あと特撮ヒーローの名台詞の暗記、引用。

【人物背景】
283プロダクションに所属する特撮が大好きなアイドル。『放課後クライマックスガールズ』に所属。
ヒーローに憧れる小学六年生で、何にでも興味津々の子犬みたいに純粋な性格。
お気に入りのヒーローは「ジャスティスV(ファイブ)」の「ジャスティスレッド」。
163cmの恵体から初対面だと高校生にも間違われがちだが、話してみれば幼気で威勢の良い快活さが目立つ。
小学生なので、ちょっと難しい言葉は鋭意勉強中。鋭意ってなんですか?
笑顔、元気、勇気を大切にするヒーローアイドルを目指している。
口癖は「スゴいですっ!」

【方針】
アイドルとして、二人のマスターとして、かっこいいヒーローとして活動する。


296 : 無明の夜に、黎明が来る ◆TPO6Yedwsg :2022/07/06(水) 20:11:35 1OnFwM7I0
透過を終了します


297 : ◆As6lpa2ikE :2022/07/06(水) 21:50:37 jlRmaNXs0
投下前にお知らせ。
wikiに収録していただいている拙作「英雄と魔法少女! 友達100人できるかな」において、プク様のステータスの宝具ランクを変更しました。空々空のweapon欄に究極魔法を書き忘れていたので、追加しました。

それでは投下します。


298 : ゆうこサキュバス ◆As6lpa2ikE :2022/07/06(水) 21:52:20 jlRmaNXs0
黒に黒を重ね塗りしたような闇が視界いっぱいに広がっていた。
文字で表せない騒音が鼓膜を叩く。
暴風が肌を削らんばかりの勢いで通り過ぎていく。
自分の体を包む何かは、不定形の流体のように絶え間なく蠢いている。

「ここどこ!? 台風!? 洪水!? おおあらし!?」

困惑と共に吐き出した言葉も、四方八方から飛び交う騒音にかき消される。
まぞくの少女、吉田優子は最初、嵐の海に投げ込まれたのかと思った。
だがしばらくして、それが勘違いだったと気付く。
暴風だと思っていたのは、何百、何千、何万──数え切れないほどの大人数の呻き声による、空気の振動で。
荒波だと思っていたのは、何百、何千、何万──数え切れないほど大量の人間の流れだった。

「ど、どうしてこんなにたくさんの人が……。それになんだか、みなさん顔色が悪いような……?」

正確に言うと、それは人間ではない。
元人間。
人間が元となった怪異──ゾンビだ。
肉がドロドロに爛れ、うつろな目で動く死体の群れに、優子は囲まれていたのである。

「ほぎゃあああああああああああっ!?」

自分がオブ・ザ・デッドな状況に置かれていることをようやく理解した優子は、悲鳴を上げた。
いくら彼女がまぞくであり、『闇の女帝(シャドウミストレス)』を名乗っていても、怖いものは怖い。彼女の苦手なもののひとつである近所のよく吠える犬と比べても、人を噛むどころか捕食さえするゾンビの方が、どう考えても怖い。
逃げようにも360度どこを見てもゾンビまみれだ。初詣の神社みたいな人口密度である。
周囲をゾンビでみっちり固められている優子に、逃走の選択肢なんて始めからなかった。なんならここでぺたんと腰を抜かしてもおかしくない精神状態なのに、前後左右にほとんどゼロ距離でいるゾンビのせいで、立った状態の維持を強制されているのである。

「こっ、こんな時は! 心の壁フォームマークⅡ!!」

目を回しながら変身の口上を叫んだ。
すると魔力の渦が優子の体を包み、見る見る内に彼女のイメージに沿った外装へと変化する。
心の壁フォームマークⅡ──見た目は各部から棘の生えた巨大な巻貝(ガンゼキバショウ。主に東南アジアに生息している)そのものだが、その殻の防御力は凄まじく、内部に潜り込んでいる優子に安全地帯を提供していた。時折ゾンビが引っ掻いたり噛み付いたりして心臓に悪い音が響いているが、殻の表面には傷ひとつついていない。
これでひとまず急場はしのげた……が、貝の姿で居続けるわけにはいかない。心の壁フォームは防御に特化している為、機動力がゼロなのだ。

「どうしよう……、このままずっと殻にこもり続けて水もご飯も摂らなかったら、飢えて乾いて干からびまぞくになってしまう……。ゾンビに噛まれないために心の壁フォームになったのに、それでゾンビと変わらない見た目になってしまったら本末がずっこけです」

巻貝の唇から外の様子をこっそり窺う。
果てが分からないほどにゾンビで埋め尽くされている世界は、エキストラやCGにかける予算の桁をひとつかふたつ多く間違えたホラー映画のような絵面をしていた。もしかして、地平線の先までこんな終末的な光景が続いているんじゃなかろうか? ──その時、優子は気付いた。
周囲を行き交うゾンビ達。
その隙間から見える地上の一点。
そこにだけ、黒に黒を塗り重ねたような闇ではなく、金色に輝く光があるのを。
優子は最初、それを月だと思った。
あるいは太陽。いずれにせよ、星のような光だった。
だが、光の正体はどちらでもない。
それは金髪の少女だった。
星そのものではなく、星のように輝く髪を持つ、美しい少女。
年齢は──良子と同じくらいだろうか。
着ているワンピースが汚れることも構わず、小さな膝を折りたたんで地面に座り、顔を伏せている。
しくしくと、肩を震わせて泣いていた。

「は、早く助けないと……っ!」

 ほとんど反射的に飛び出そうとする優子。


299 : ゆうこサキュバス ◆As6lpa2ikE :2022/07/06(水) 21:52:46 jlRmaNXs0
 そんな彼女の耳元に声が届いた。

「すまぬ……」

 少女の声だった。

「すまぬ……儂がうぬを信じていれば……うぬから信じてもらえる儂であれば……こんなっ、……こんなことには……」

今に血の涙でも流しそうな、深い悔恨の念がこもった声で、少女は言う。
優子に向けての謝罪ではない。そもそも少女は、優子どころか周囲にひしめくゾンビたちすら気に留めていない。この場にいない誰かに向かって、ひたすら謝っているのだ。
……いや、待て待て待て待て。
姿を目視できるのはともかく、これだけ大勢のゾンビの呻き声が響いてる中で、女の子ひとりの声がかき消されずにはっきりと聞こえるなんておかしくないか? 
現実的じゃない。

「…………ということは夢?」

脳に直接響くような金髪少女の声が、彼女の口からではなく、(おそらくは彼女が主となっている)夢の世界全体から響いているのなら、物理法則を無視して優子の耳に届くのも納得だ。

「…………」

優子は今一度、周囲を見渡す。
どこまでも真っ暗で、ゾンビに満ちた世界。その中心で誰かへの謝罪を繰り返す少女。
光景自体は少しも変わらず、恐ろしいままだけど、それが少女ひとりの夢の世界だと知ってみると、なんだか──

「(──とても、かなしい。まるで、いつか入った桃の夢みたい)」

そして。
優子の脳内に流れ込む言葉は、少女の謝罪だけではなかった。

「血」   「自殺」        「あの時出ていけば」       「ハンター」

                「燃える」     「見つけてほしいだけじゃった」

「家出」           「六月十四日」 「ごめんなさい」       「猫」

「眷属」  「吸血鬼」                       「失敗」「嫉妬」

     「死に損ない」


「うぬだけが」 「熱い」   「こんな世界はもう」      「血」   「怪異」

             「従僕」 

「失せろ」……

膨大な声の塊が優子を押し潰す。
ともすれば、ゾンビたちのうめき声のオーケストラよりも大音声。
あまりに膨大すぎて、一瞬でそれらを浴びた優子は、自分の頭がバカになるかと思ったし、その殆どを理解することが出来なかった。
先ほど聞いた少女の声と同じく、そこから深い深い悲しみと後悔を感じただけである。
飛び出そうとした足が竦む。
そして、その直後、

「失せろ!!」

それまでとは違って優子の存在を明確に意識した声が、天から雷のように降り注いだ。
まるでそれが合図だったかのように、足元を支え続けていた地面が崩れる。

「うわああああああああああああああっ!」

夢の世界から強制退場を言い渡されたまぞくは、現実へと戻っていった。




300 : ゆうこサキュバス ◆As6lpa2ikE :2022/07/06(水) 21:53:11 jlRmaNXs0
「……………………ぶはっ!!」

優子は目を覚ました。
今の夢はいったいなんだったんだ。何から何まで分からない。
あとで桃やごせんぞに相談してみよう──そんなことを考えながら、よろよろと起きあがった。しかし途中で優子の動きは止まる。
彼女の両目は驚愕で見開かれ、天井に釘付けになっていた。
見覚えが、ない。
生まれた時からずっと同じ天井の下で育っており、そこに刻まれた細かな傷や小さなシミまで記憶している優子は断言できる。自分の頭上に並ぶ天井板が見覚えのない、全くの別物に変わっていたことを。
……変わったのは天井だけではない。
壁も、床も、ドアも、家具も、内装も──室内のあちこちに目をやると、その全てが優子の知るものではなくなっていた。
窓の外の景色すら、二階の高さであること以外に馴染みがない。
まるで、ターゲットが寝ている間に布団ごと別の場所に移動させるタイプのドッキリを仕掛けられたみたいだ。
現実に戻った後も続く異常事態に、優子の処理能力は限界を迎えそうになった。
本日二度目の「ここどこ!?」を叫びたい気分だ。

「…………違う。この部屋は……、この町は、桜ヶ丘じゃなくて──」

異界東京都。
脳裏に浮かんだその言葉は、優子の知識から湧いたものではなく、遠く離れたどこかにある何かから齎されたものだった。
それをきっかけに、優子はいくつものことを知る。
自分が異界東京都に招致されたこと。
手に入ればなんでも願いが叶う聖杯を巡って、戦争をさせられること。
そして、自分がその戦争で担う役割は──

「おい角娘」

窓の方向から声が聞こえた。
そちらに目を向けてみると、先程まで誰もいなかったはずの窓枠に、ひとりの女が腰掛けていた。

「うぬが儂を呼んだのか」

輝く金の長髪を持つ女だ。
背後の夜の闇との対比が美しい。
その美貌に相応しい尊大な態度をしている所為で、彼女が腰掛けているただの窓枠が玉座のように見えてくる。
優子が初めて会うタイプの女性だ。
しかし不思議なことに、その姿には見覚えがあった。
というか、つい先程見たばかりだ。

「夢の女の子……?」

外見年齢が二十歳くらい違うが、その頭から伸びる金色の輝きや、整った顔など、所々に面影がある。
困惑しっぱなしの優子に対して、金髪の女は「ふん」と鼻を鳴らすと、

「なるほど。夢魔(サキュバス)か」

優子の正体を一目で看破した。

「時にマスターは主従間のパスを介してサーヴァントの記憶を夢に見ることがあるという。万物の無意識に干渉可能な夢魔の力を持つうぬは、その現象が通常より強く、やや異なった形で発生したらしいのう」

女の顔に重なるようにして、いくつかの文字列が見える。
クラス・セイバー。その他、圧倒的なステータス値の数々。
それは彼女がサーヴァントという超常の存在であることを意味している。

「おかげで儂は召喚早々、土足で記憶の中に踏み込まれたわけじゃ」

「すみませんすみませんすみません! 勝手に記憶の中を覗かれるって気分が悪いですよね! うっかりじゃ済まされませんよね! 本当にごめんなさい!」

 顔中からぴょこぴょこと汗を飛ばして涙目で謝る優子だった。ともすれば全力で土下座しかねない勢いだ。マスターはマスターでも、彼女のバイト先のマスターみたいである。
 金髪のセイバーは優子の謝罪を興味なさげに聞き流した。
元より彼女は、優子と話すつもりではなかったのかもしれない。今まで喋っていたのは、相手の返答を聞く気がない壮大な独り言だったのかも。
彼女は窓枠から腰を浮かせ、部屋の外へと体を向け、窓枠に足を掛けた。


301 : ゆうこサキュバス ◆As6lpa2ikE :2022/07/06(水) 21:54:11 jlRmaNXs0
「えっ、あの、セイバーさん──でいいんですよね? ──何をしているんですか? そんなことしたら外に落ちちゃいますよ? あぶない……」

「投身自殺程度でくたばれるなら、儂の人生は、鬼生は、もっと上手くいってたわい──なに、大したことではない。むしろ大したことをするための野暮用に出かけてくる」

「野暮用?」

「聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントがやることなど、ひとつに決まっておろう──蹂躙じゃ」

 優子の顔から血の気が引いた。
 蹂躙。
 それはつまり、誰かを傷つけるということで──

「……っ! そんなことダメです!」

「聖杯戦争の参加者が言う台詞ではないのう」

 セイバーは振り返った。
 髪の隙間から覗く金色の両目で睨まれた瞬間、優子は身動きが取れなくなる。まるで蛇に睨まれた蛙だ。優子の本能的な部分が、セイバーが自分より上位の生物だと、上位の怪異(まぞく)だと理解していた。

「……おい角娘。その口ぶりからして理解しておらぬようじゃから、ひとつ教えてやろう。この戦争において、儂がうぬに求める立ち位置は主でなければ従僕でもない。ツーマンセルのバディなんてもっての他じゃ──楔じゃよ」

「くさび?」

「儂という反英霊の影法師を現世に繋ぎ止めるための、生きた楔にすぎん」

 ざわ、と。
セイバーの髪が意思を持ったように蠢いた。
 金の長髪はいくつかの房を成し、やがてその先端はそれぞれ別の形と色を得る。
ある髪束は透き通るように白い骨の腕。
ある髪束は血のように真っ赤な肌をした筋骨隆々の腕。
ある髪束は黒い毛むくじゃらの獣じみた腕。
 ある髪束は鱗が生え揃ったぬめりけのある腕。
 ある髪束は肌の代わりに甲殻類のような外殻で覆われた腕。
 ある髪束は不定形の泥の腕。
 ある髪束は何匹もの蛇が絡み合うことで出来た腕。
 腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕。腕──異形の、腕。
それらを髪から伸ばしているセイバーは、ただひとりで百鬼夜行を再現していた。
 腕たちは皆一様に、優子を指差している。
批難するように。指示するように。攻撃するように。
まるで、歯の代わりに腕を生やした巨大な口で、まぞくを丸齧りするかのような光景だ。
腕の群れはそのどれもが、たとえたった一本だけであっても、向けられるだけで恐怖を感じる輝きを、爪の先端から放っていたが、中でもより一層恐ろしい輝きが、それらの中心から伸びていた。
 それは、セイバーがいつの間にか握っていた、長い刀である。。
 銘は心渡。
数多の怪異を斬ってきた、怪異殺しの妖刀。
 彼女が最優のクラスに収まった所以であるその武器は、切っ先を優子の鼻先へと向けている。

「儂が自分より弱い他者に召喚されるという屈辱を味わい、記憶を勝手に覗かれる無礼を働かれても生かしておいてやったのは、単にうぬが死ねば儂も消滅するからじゃ。そうでなければうぬなんぞ、今頃食ろうておったわい」

「…………っ!」
                                     ・・・・・・・・・・・・・・・・
「元より、たかが夢魔の分際で、怪異の王たる儂をどうこうするなど無理なことよ。どうやら世話役は他におるようじゃし、うぬはそやつに面倒を見てもらいながら、死なないように大人しくしておけ。儂はその間に他の参加者を──」

「ダメーっ!」

 今後の方針めいたものを言いながらその場を去ろうとしたセイバーに向かって、優子は叫んだ。

「だから、じゅーりんなんてダメですってば! あなたが私に何を求めているかは、ちょっと言い方が難しくて分からなかったけど(楔ってなに?)、たとえマスターとして認めてもらえていなくても、ダメなものはダメってはっきり言わせてもらおうか! だいたい何が、怪異の王ですか! こちらだって一応、ひとつの町のボスを務めているまぞくです! 王様なんかにビビって黙り込むなんて、出来ません! 言うべき時はビシッと言わせていただきます!」

 先ほどまで弱弱しかった語気が段々と強くなる。
 セイバーは知らなかっただろうが。
 吉田優子は普段腰が低いが、一度「これ」と決めると絶対に曲げない、強い信念を持つ少女だ。


302 : ゆうこサキュバス ◆As6lpa2ikE :2022/07/06(水) 21:55:06 jlRmaNXs0
「この頑固者が」

 セイバーはその美貌を忌々し気に歪めて吐き捨てた。

「そもそも儂が聖杯戦争に勝利することは、うぬにとって悪い話でもあるまい。うぬだって叶えたい願いがひとつやふたつはあるじゃろう?」

「そんなことな……」ごせんぞの封印の解除とか。お父さんや桜さんの復活とか。あとやってるソシャゲで最近ガチャに実装された好きなキャラの完凸とか。あとあと桃の闇堕ちフォームの紐の謎を解き明かしたい。「……な、ないことはないけれどっ!」こういう時に欲望がふと頭を過ってしまい、はっきりと否定できなくなるのが、優子の優子らしいところだった。「でも、誰かを殺して叶えたいとは思わない!」

 聖杯で願いを叶えれば、優子の人生はもっと豊かになるだろう。
たとえば、それで町の平和を叶えれば、彼女の周囲はより一層笑顔で溢れるに違いない。
 だけど、その為に誰かを蹴落としたら──優子は今後、周囲のみんなに顔向けできなくなる。
 聖杯のおかげで桃がいつでも素敵な笑顔を浮かべられるようになったとしても、それを未来永劫直視できなくなる。
 それは──嫌だ。

「お願いですセイバーさん。じゅーりんなんてやめてください。あなたの願いが何なのか、まだ分からないけれど、聖杯を使わなくてもそれが叶う道を、私も一緒に探──」

「は」

優子が言い終わるよりも前に、セイバーは音を発した。

「は「は「は「は!「はは!「ははは!「はははは!「ははははは!「はははははは!「ははははははは!「はははははははは!「ははははははははは!」

 それは聞いているだけでぞっとする、凄惨な哄笑だった。
 笑うだけでこれだけの恐怖を他者に与えられるセイバーは、紛れもなく真の怪物である。

「ははは──道か。くくくっ。なかったよ、そんなもの。少なくとも、あの世界の儂の前にはな。……いや、あったとしても気付けなかったと言うべきか」

 セイバーは意味深に呟いた。
 
「だが、どこか別の場所には、別の世界には、上手くいった道があった。『あの世界の儂』がその道をどうして歩けたのかは未だに分からぬし、奴らの姿を思い出すだけで臓腑が嫉妬と切なさで軋むが──いずれにせよ、こんな儂にもチャンスはあったわけじゃ。聖杯が万能の願望器だというのなら、その道を見つけてもらおう。来た道を戻り、案内をしてもらって、正しいルートを王道のように堂々と歩ませてもらおう」

 話は終わりだ。
そう言わんばかりに、セイバーは再び窓枠に足をかけ、外に広がる夜の世界へと羽ばたこうとする。
 その背中に向かって、優子は咄嗟に手を伸ばした。

「──待って!」

 それは、思わず口をついた制止の言葉だった。
 しかし、曲がりなりにもセイバーのマスターである優子が、令呪の刻まれた手を伸ばし、セイバーに向かって強い感情を込めた命令を叫んだのなら、それはただの言葉では終わらない。
 ギンッ、と。
 優子の小さな手の甲に刻まれた令呪の一画が、血のように赤黒い光を放つ。
 やがてそれは強制力を持った膨大な魔力となり、セイバーの霊基を縛ろうとする──が。
 セイバーは止まらなかった。
 「待って」という言葉と共に発動した令呪一画分の命令は、最強の怪異の前に、ガラス細工のように呆気なく砕け散り、無為に帰す。
 セイバーは何事もなかったかのように飛び立ち、やがて、その姿は夜の闇に溶けた。


303 : ゆうこサキュバス ◆As6lpa2ikE :2022/07/06(水) 21:56:05 jlRmaNXs0
「え、あ…………」

 他に誰も居なくなった部屋で、遅ればせながら自分がセイバーに令呪を使ってしまったことに気付き、そしてそれが不発に終わったことを知る。
 その時、優子はふと思い出した。
 先ほどセイバーは言っていた。
「どうやら世話役は他におるようじゃし、うぬはそやつに面倒を見てもらいながら、死なないように大人しくしておけ」──世話役?
 そんな者がいただろうか? と室内を改めて見渡す。
 すると、

「……みこやー……」

 声がした。

「シャミ子やー……」

聞きなれた声だった。

「ごせんぞ!?」

 優子は部屋の隅に転がっていた邪神像を拾い上げた。
 見た目は埴輪に簡単な顔を描いて角を片方だけ生やした古代感溢れる滑稽な骨董品だが、その正体はシャミ子のご先祖・リリスが封印されている、ありがたい像なのである。

「いったい、いつから……?」

「最初からだ。子孫が使い魔に恫喝されているのを、文字通り手も足も出ずに見せられているのは歯痒かったぞ……」

「すみません、気付きませんでした。さっきまでセイバーさんに圧倒されてて」
 
「えっ、それって余があの吸血鬼よりオーラがない……ってコト? 見た感じ、あやつ余より四千歳は年下なんだが……」

「えっ、あっ、いえ、ごせんぞにオーラがないなんて……、そ、そんなことは……!」

 目を白黒させて両手をあたふたと動かしながら弁明の言葉を探すシャミ子だった。
怪異の王であるセイバーと対峙していた時よりも、ご先祖を相手にしている時の方が緊張して見えるのは、なんだか奇妙である。
 
「いやあ、しっかし」ごせんぞは言った。「まさか一族の復興を目指している最中に、こんな戦争に呼ばれるとはな。しかも、呼び出された使い魔はあまりいい子ちゃんではないときた。見たところ、召喚の儀式に際して触媒が消費された形跡はないし、おそらくあやつは、まぞく繋がりの縁だけで闇系英霊の中からランダムに呼び出されたのだろうな」

「なんだかマジカルバナナみたいですね」

 マジカルバナナ。シャミ子といったらまぞく。まぞくといったら怪異。怪異といったらセイバー。

「あれ? じゃあ、まぞく以外の繋がりで──たとえば、ご先祖由来のメソポタ系の繋がりでメソポタ系の誰かが召喚される可能性もあったんですか?」

「十分にあり得ただろうな。たとえば王は王でも怪異の王とやらではなく、なんか財宝を山ほどコレクションしていたのメソポタの王様なんかが召喚されていたら、シャミ子の血に流れる余の魅力にイチコロされて服従を誓っていただろうな!」

「す、すごい……!」

 この場に冷静な視点を持つ第三者がいたら、リリスの言葉に「ほんとかなあ?」とツッコミを入れていたかもしれないが、ご先祖のことを心の底から尊敬しているシャミ子は目をキラキラと光らせるだけだった。

「……ともあれ、どうするシャミ子? 余としてはやはり、子孫であるおぬしの安全を第一に考えたい。となると、あの吸血鬼にこれ以上口出しして反感を買うのは、あまりかしこな行動ではないぞ。次も脅しで済むとは限らぬからな」

 無論、リリスはあくまで案のひとつを挙げたまでだ。
 本音を言えば、彼女だってセイバーの暴走を止めたいに決まっている。
 だけど、子孫のことを第一に考えて、現実的な大人の視点でアドバイスをするなら、やはりこうなってしまう。

「心配してくれてありがとうございます。──でも」

 シャミ子は、ごせんぞの言葉に込められた思いやりを十分に理解した上で、それでも首を横に振った。

「セイバーさんが誰かを悲しませようとして、私にそれを止められる可能性があるのなら、やれるだけのことはやりたいです」

 それに。
 シャミ子は思い出す。
 セイバーの顔を。
 そして、夢の中で見た、金髪少女を。
 彼女が流していた涙の理由は、まだ分からないけれど。

「あんな泣き顔を見たのに放っておくことなんて……できません」


304 : ゆうこサキュバス ◆As6lpa2ikE :2022/07/06(水) 21:56:29 jlRmaNXs0
【クラス】
セイバー

【真名】
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード@傾物語

【属性】
混沌・悪・地

【ステータス】
筋力A++ 耐久A+ 敏捷A 魔力B 幸運E 宝具C

【クラススキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない

騎乗:EX
怪異の王である彼女は、竜種を含めた全ての魔獣への騎乗が可能である。

【保有スキル】
怪異の王:EX
鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼。
セイバーは最強の怪異である。
並の英霊なら拳一つで爆散させる『怪力』、ナイトウォーカーの象徴的行為である『吸血』、宝具のレプリカすら作成可能な『道具作成』、霧や闇そのものと同化する『気配遮断』、どれだけ体を破壊されても即座に復活する『戦闘続行』等との複合スキル。
吸血鬼の弱点である太陽の光を浴びて体が燃え上がろうとも、セイバーの肉体はすぐさま再生する。あまりに高ランクの吸血鬼には、もはや弱点すら通じない。

美の顕現:A
麗しき吸血鬼としての、おそるべきカリスマ性。他者(エサ)を惹きつける魅力。
セイバーは常に、月どころか太陽さえ霞む程の美の光を放っている。
ちなみに、本スキルはこのランクでもセイバーにとっては相当下降している状態である。
仮にセイバーが吸血鬼になる前の姿──キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード・リリィとして召喚されていたら、このスキルのランクは超越性を示すEXとなっていた。

日傾にて:B
眷属を失い、人類を吸血鬼の成り損ないに変え、世界を滅ぼし、自殺を試みたが失敗したキスショットの絶望。狂気。自暴自棄。あるいは弱過ぎるメンタル。
このスキルを持つセイバーは、あらゆる説得、誘惑、精神干渉、果ては令呪による命令すら一画消費程度なら──かつての従僕に関する事柄を除いて──聞き入れない。
また、このスキルによってセイバーは怪異の王にして異聞帯(もどき)の王であったことが証明されており、『世界を滅ぼした』実績を持つ彼女は、存在そのものが一種の対界宝具に近くなっている。

【宝具】
『妖刀・心渡』
ランク:C+++ 種別:対怪宝具 レンジ:2 最大捕捉:1

大太刀。
万物を両断する非常に鋭い切れ味を持ち、数多の怪異を斬ってきた妖刀。
セイバーがこの宝具で怪異に攻撃した際、与えるダメージは絶大なものとなる。ランクのプラス値は相手の怪異としての純度が高ければ高いほど上昇する。
本来はBランク相当の宝具だが、セイバーはこの刀の真の所有者ではない為、ランクダウンが生じている。

【weapon】
宝具

【人物背景】
六月十四日に阿良々木暦が怪異・障り猫に殺された世界の忍野忍。阿良々木暦との信頼関係が少しだけ足りなかった世界のキスショット。
この世界の彼女は第二の眷属を失ったショックから、八つ当たりで人類滅亡を実行し、自殺を試みて失敗している。
異世界からやって来た自分と暦の二人組に呼び出されたが、互いに信頼し、寄り添い合っている彼らを目にしたことで、「そういう道もあったのか」と自分が失敗したことを改めて思い知らされる。
その後、別ルートの自分に血を吸わせることで、彼らに時空間移動を可能とする量の霊的エネルギーを提供し、死亡した。

【方針】
もう一度やり直し、失敗しなかった道を進みたい。


305 : ゆうこサキュバス ◆As6lpa2ikE :2022/07/06(水) 21:57:09 jlRmaNXs0
【マスター】
吉田優子@まちカドまぞく

【人物背景】
まぞく。
活動名はシャドウミストレス優子。友人からはシャミ子と呼ばれている。
ボスとして町を守るべく、魔法少女・千代田桃と共に、日々さまざまな事件を解決している。
4、5000年前から続く夢魔の血族の末裔であり、眠ることで万物の共通無意識──いわゆる夢──に潜り込む能力がある。
病弱だった過去があり、素の運動能力は低め。
名前の通り心優しい性格をしている。

【能力・技能・武器・道具】
・なんとかの杖
優子の力を掛け算的に増幅し、棒状の物ならなんでも自由に変形できるすっごく便利な杖。たぶん神話級の逸品。
現実世界でもうちわや中華鍋、知り合いの魔法少女の武器のコピーなど色々変形できるが、夢の中で使用した方が変形の自由度が高く、架空の武器やゲームのアイテムも出せたりする。

・危機管理フォーム
シャミ子の戦闘フォーム。
肌面積がやべえ広く、パッと見は通報不可避のコスプレ痴女。
この状態だとちょっとだけ身体能力が上昇し、調子が良くなる。

・邪神像
シャミ子のご先祖・リリスを模した古代感溢れる像。
封印空間にいるリリスと繋がっており、これを介して会話をすることが可能。
地面に置けばドアストッパーにもなる。
リリスの魂に近い形をした人型のよりしろではなくこちらにインしているタイミングで、シャミ子の携行品という形で異界東京都に呼ばれた。

【方針】
元の世界に戻りたい。
セイバーを止める。


306 : ◆As6lpa2ikE :2022/07/06(水) 21:57:24 jlRmaNXs0
投下終了です


307 : ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:31:15 wxu1iD5U0
投下します


308 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:32:30 wxu1iD5U0



     我はここに集いたる人々の前に厳かに神に誓わん───

     我が生涯を清く過ごし、我が任務を忠実に尽くさんことを。

     我は全ての毒あるもの、害あるものを断ち、

     悪しき薬を用いることなく、また知りつつこれをすすめざるべし

                                ──────『ナイチンゲール誓詞』より





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


309 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:33:28 wxu1iD5U0





───地獄を見た。

それは過去。セピア色の記憶。
灰色の雲に覆われた、それは誰かにとっての愛の終わりの風景。

多くの人が、倒れていた。
崩れた瓦礫の山、燃え盛る炎、そこかしこに広がる夥しい数の赤色。
肉と内臓の区別もつかない男。止まらない血に包帯を汚す女。
役目を終えて空っぽになったアンプルと同列に打ち捨てられた、誕生を祝福されるはずだった小さな肉塊。

此処は病院だ。
上層階段公園に付属する大きな病院。やがて都市の全ての人を救うと喝采された夢の跡。

風光明媚な緑の庭園を望む、癒しの園であった場所。
今は地獄。悲鳴と絶望の呻き。諦める声さえあちこちで響いて。

皮が焼き付く。内臓は融解を始める。
肺は呼吸の度に針が刺さり、髪は根本からこそげ落ちる。
目からは血の涙が止まらない。
鼻から出るのは血? 何か腐った臭いのものが混じっている。
鼓膜は否応にも振動し続ける。ああ、指が腐り落ちた。
足からは骨が見えている。

痛みに溢れていた。慟哭に溢れていた。そして何より、死に溢れていた。
たくさんの白衣がそこにはあって。けれど、何もかもが間に合わない。

差し伸べた手から零れ落ちていく、暖かな命。
小さな命。生まれなかった、子供たちの。41の命。

泣き叫ぶ者がそこにはあって。悲痛に顔を歪める者がそこにはあって。
けれど、ああ。どうしようもなく、そこには死しか在りはしない。

もう、誰も救われない。
そう思わざるを得なかった。

なのに。


310 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:34:03 wxu1iD5U0


「死なせない」


……声が。

手を差し伸べる、あなたの声が。


「きみは絶対に」


こんなにも多くの誰もが諦める中で。
こんなにも多くの絶望が充ちる中で。
その人だけが。


「僕が助ける」


───聞こえていた。

───聞こえていたから。

───わたしは、あなたを───











「───ぃて───……」

欠けた夢を見ていた。
断片的にしか思い出せない。覚えているのは、そこにあった感情だけだ。
十年前の記憶。それは、己の中から完全に失われて。

「おき───さい───聞いて───」

汚泥の中を這い出る感覚。どうしようもないもどかしさが手足に纏わりつく。
それは夢から浮上する意識。僅かに差し込む光が、閉じられた瞼の上から視界を白く染め上げて。


311 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:34:50 wxu1iD5U0

「───いい加減に、起きなさい!」
「……っ」

張り上げられた声───身近ではまず聞かないだろう類の溌剌とした声質───が耳に刺さり、夢うつつの意識が一気に覚醒した。

眠っていた体───久しく睡眠の必要を忘れていた───を起こして、周囲を見渡す。
勝手知ったる第7層28区のアパルトメントではない、馴染みの薄い様式の一室。
綺麗に塗装された真っ白な部屋。冬の朝に特有の冷えた空気。
カーテンの隙間から漏れる一条の光が目に眩しい。明けたばかりの空は、朝の冷気と共に新鮮に輝いていた。
そして目の前に、腕を組んで立つ少女。

青の印象が強い少女だった。
年の頃は15ほどだろう。腰まで伸ばした髪は青空の色をして、澄んだ瞳は凪の海の色をしていた。およそ真っ当な人間では生まれ持たないであろう色、しかし人工色に特有の違和感は、何故か彼女にはなかった。純度の高い硝子の器に麗水を満たしたかのように、超自然的であるはずの色合いは、少女の麗姿と調和を果たして霊妙なる姿を映えさせているのだった。
腕を組んでこちらを見る視線からは気の強さが伺えて……いや、多分違う。これは彼女が持つ、優しさと見栄と面倒見の良さの表れだった。キーアがあと5年ほど歳を経れば、彼女のようになるだろうか。ぴんと背筋を伸ばした姿は、文字通りに背伸びした気配があった。
見た目の神秘性とは裏腹に、内面はどこまでも普通の少女なのだ。それを、ここ数日を共に過ごしたギーは知っている。
本来ならば市井を生きるべき少女が、サーヴァントという超常の英霊たるものだということも、また。

「……おはよう。君は朝が早いんだね」
「早くなんてないわよ。ほら、とっくに朝の8時。診療時間までもう時間ないんだから」

そうやって時計を指差され、なるほどと納得する。
こうも長時間爆睡してしまうとは、我ながら随分と気が緩んでいたらしい。
自らに対する苦笑と共に、すまないと少女に声をかければ、彼女は何とも言い難い顔をして。

「……謝ることなんて、ない。本当ならもっと寝させてあげたいところなんだけどね。
 平和な時間なんてもうあと少しもないんだし。
 でもきみ、寝てる時息は全然しないし胸も動かないし、一瞬死んでるんじゃないかって思ったんだから」

ああ、と納得する。それは確かに、自分の身体的性質上仕方ないことだろう。
自分は───今はギーと名乗っているこの男は、どうにもそうした生命活動の一切が薄まっている。
食欲も睡眠欲もなく疲れも感じない。代謝も極限まで落ちている。寝てると本当に死んでるようだと、顔なじみの黒猫にもよく言われたものだ。
だから昨夜も、連日の徹夜を心配して小言を言ってくれた、この会ったばかりの少女に対して、そうした諸々も含めて心配いらないと言ったのだが。

『ああ、僕は食べるのも眠るのもあまり必要ないんだ。欲求が消え去っているからね。疲れも全く感じ取れない』

───1ペケ。

『代謝も極限まで落ちているから、燃費自体は結構良いんだ。垢もあまり出ないし、それなりに役立つ』

───2ペケ。

『休憩……2日前にソファで少し仮眠を取ったし、平気だよ。食事も栄養剤のアンプルがまだ残っているし、今すぐ倒れるってことはないはずだ』
『よし今すぐ寝なさい、すぐ寝なさい。そして健康という言葉のありがたみを知りなさいバーカバーカ』

3アウトバッターチェンジ、ということでギーはあり合わせの食べ物を口に突っ込まれた後、半ば強引にベッドにシュートされて今に至る。
それが確か、昨日の午後8時頃。そこから約12時間も眠りこけていたことになる。
こんなにぐっすりと眠ったのは、それこそ10年ぶりか。
もう長い付き合いになる黒猫や、キーアがやってきた最近は、少しだけ生活が改善されたけれど。

「さ、起きたら着替えて顔洗って、そしたらダイニングに来てちょうだい。
 簡単だけど朝ご飯もできてるし、今度こそ残さずしっかり食べてもらうからね」

それじゃまたね、と一言残して少女は部屋から退室する。後には、ベッドに腰かけた男がひとり。

「平和な時間は少ししかない……」

少女の言葉を、小さく繰り返す。

「聖杯戦争、か」

呟かれる声は、誰にも届かず宙に溶け消えるのみであった。






312 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:35:29 wxu1iD5U0



ギーが呼ばれたこの都市は、平和だった。
戦争などという言葉が冠された殺し合いが発生しようとしているにも関わらず、これまでギーが過ごしてきた日々は平穏そのものだと言っていい。

平穏。
その一語があまりにも遠い言葉になってから、もうどれだけになるだろう。

積層型巨大構造都市インガノック。
彼の地が異形都市と呼ばれるようになってから、十年の時が過ぎた。
かつて完全環境型都市(アーコロジー)を目指し、王侯連合から喝采を浴びた華の都は、今や死と退廃が跋扈するこの世の地獄となり果てた。
地獄、とは言っても、そこは人で溢れていた。かつて人と呼ばれた者たちだ。
無数に行き交う人ならざる姿をした人。それが十年前であるなら異様な光景。けれど、それが今の正常な都市の姿。
人倫はなく、笑顔は消え失せ、命は1シリング以下の価値しか持たない雑多なガラクタとなった。
聖杯戦争などなくても。
あの都市は、今日も多くの人の命が失われている。

対して、この異邦の都市はまさしく平穏そのものと言って良いだろう。
東京。西享の極東に位置する国の首都、巨大経済流通都市。仮にインガノックがアーコロジーとして完成していれば見られたであろう景色。
その一角に居を構える町医者が、この都市においてギーに与えられた役割(ロール)だった。
東京の街は、今日も多くの人が行き交う。
けれどそこに、死はなく。
常人離れした膂力を持つ熊鬼がその腕を振るい家屋が破壊されることもなく。
怪しげな違法ドラッグが公然と売買されることも、口減らしに捨てられる死にかけの弱者も、犬のように打ち据えられて殺される労働者階級の幼子も、此処にはない。
遍く弱者は死ぬべきという、死の都市法さえここにはなく。
夜ごと都市の至る場所を巡回したギーが救えた命は一つとてなかったが。
代わりに、ギーの手をすり抜けていった命もまた、一つとてなかった。

あまりにも違う、まるで失われた御伽噺であるかのような、この都市。
最早元の世界とは何一つとて関わることのない、彼岸の出来事。
だがギーにとって、それは酷く尊いものに思えて仕方なかった。
戦を知らず、炎を知らず、死を知らず。
穏やかに訪れる日々を当たり前のものとして過ごす世界。

そんな世界が、きっと何処かにはあった。
人間は、あんな末路を辿るべく生まれたものではない。
彼らは、あの地獄で無意味に死ぬしかなかったわけじゃない。

「なら、それだけで十分だ」

本当に意味のないことだけど。
自分にとってこの世界は、間違いなく平和だった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


313 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:36:05 wxu1iD5U0





───地獄を見た。

それは過去。モノクロに覆われた記憶。
永き放浪の果てに辿り着いた、それは誰かにとっての愛の終わりの風景。

そこには、何もなかった。
灰の大地と鉛の空。茫漠たる荒野には足跡の一つもなく、流離う砂礫の一粒が動くことさえない。此処では既に、風さえもが死に絶えているらしい。
人はなく、木々もなく、流れる水の一滴もなく。
在るのはただ、蠢く〈獣〉たちの姿だけ。

地獄とは神の不在であるならば。
此処はまさしく地獄そのものであった。

灰色の世界で、唯一動く影がある。
緋色に染まった髪をした少女だった。
灰の砂原と蠢く〈獣〉たちの中にあって、人らしき原型をとどめているのは彼女を除いて他にいない。
その手には輝ける聖剣を携え。
その目にはおよそ感情と呼べるものがなかった。

それはまさしく、夢の中を泳ぐかのような心地であった。
少女は駆ける。どうしようもないもどかしさを手足に纏わりつかせながら、際限なく引き伸ばされる時間。加速する意識。
少女が聖剣を振るう度に、二つのものが消えた。
一つは〈獣〉。燃え盛る魔力の奔流に呑まれ、耐え切れずに蒸発する。
一つは───

少女の中に残された「■■■」が、ぱきん、ぱきんと小さな幻聴を響かせながら、少しずつ削り取られていった。

失いたくない記憶が、あるはずだった───もうそれは思い出せない。
諦めたくない未来が、あるはずだった───もうそれは訪れることがない。
もう何もかもなくしてしまった。
手放してしまった。
後悔さえ、そこにはなかった。そんなものを判断できるだけの記憶や思考は、残されていなかった。


314 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:36:57 wxu1iD5U0

ただ。
ただ、一つだけ覚えていることは。

『この人には、笑っていてほしいな』

いつも通りに意地悪な笑顔を浮かべていてほしい。
けれど、同時に、泣いてもほしい。
貴方には、この空っぽになってしまった自分のことを、泣いてしまうほど想っていてほしかった。あなたに要らぬ重責を押し付けて振り回した、とても許されないことをした酷い女だと、ずっと忘れないでいてほしい。そして、あなたはきっと許してくれるだろうと確信してこんなひどいことを思うわたしを、それでも許してほしい。
ごめんなさい。
こんなわたしに出会ってくれて、ありがとう。

───さようなら。

───わたしの、大切な……







「単なる風邪ですね。お薬を出しておきます」

小さな診療所には、人の声が溢れていた。
その後、軽くシャワーを浴びて少女の用意してくれた食事───トーストにベーコンエッグという内容だった───を何とか完食してみせて少女から笑顔を引き出してみせたギーは、そのまま住居兼診療所である小さな問診室で本日の患者を診察していた。
ギーの営んでいることになっているこの診療所は、医師が一人に受付が一人という、町医者にしても小規模すぎないか、という有様ではあったが、どうも近所では評判の医院として知られているようだった。体調を崩した子供と付き添いの親、近所住まいのご老人、定期的に通院している腕にギプスを巻いた男性や、果ては身重の女性など、ギーのもとにはひっきりなしに診察希望の人間が訪れるのだった。
ギーがその身に修めた異形の技術、現象数式を使う機会はなかった。代わりに、もう二度と役には立たないと思っていた人間相手の医術が、ここでは万金に値する技術だった。人生どうなるか分かったものではないと、折り返しに手が届き始めたばかりの年齢であるギーは思ったものだった。
ちなみに受付担当はギーが召喚したサーヴァントであるところの、あの青色の少女である。聖杯戦争に際してロールが用意されるのはマスターだけであるらしく、彼女にはロールどころか戸籍すら存在しなかったのを、ギーがバイトとして雇っている、らしい。
らしいというのは、ギーが記憶を取り戻した時には、既に「そういうこと」になっていたからだった。記憶のなかったころの自分がやらかしたのか、あるいは聖杯が余計な気を利かせたのかは分からないが、ともかくそういうこととして以後の毎日を続けている。
そしてご近所の皆さんの反応と言えば、当初は「お医者さん先生が女の子拾ってきた」だったのが、数日もしないうちに「あの子が先生の面倒見てる」という評判に変化していた。
……いや、まあ、うん。実際生活面において間違ってはいないのが、なんとも言えないのだが。
さて、年若い男がいきなり見も知らぬ(そして対外的には非常に目立つ外見をした)幼い少女を一つ屋根の下、ともなれば普通は通報案件であろうが、なんかそこについても特に大きな話にはならなかった。
「いやあ……ほかの人ならともかく、あの先生なら、ねえ?」とはご近所さんの言。ギーの人徳というよりは、マジで情欲とかない人間と思われているのだろう。

「お大事にねー」
「ありがとー! クトリおねーちゃん!」

と、最後の診察を終えた小さな男の子が、少女と手を振り合ってるのを観ながら、ギーは述懐する。
この都市は平和だ。
それはここに訪れる患者たちを診ても感じることだ。

死に瀕したものが誰もいない。
誰もが日々を安らかに過ごしている。
心のおおらかさについても、そうした環境によるものが大きいのだろう。荒んだ衛生環境、酷い栄養状態、常に暴力に怯えなければならない社会情勢は、人間の肉体より早く精神を蝕む。病や怪我に倒れるより先に、人々は心を病むのだ。
そうした実例を、ギーは嫌になるほど目にしてきた。
あの都市で、真に正気であった人間などいるはずもない。
他ならぬ、このギー自身を含めて。


315 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:37:40 wxu1iD5U0

「……良い人たちよね」

ぼそり、と呟かれた少女の声。
ギーは短く、それに首肯する。

「そうだね。誰もが笑顔を浮かべている。豊かな証拠だ」
「うん、それもそうなんだけど……なんていうか、聖杯戦争なんて嘘みたい。サーヴァントのわたしが言うのもなんだけどね」

それは、あるいは危機感の欠如と謗るべきものだったのかもしれず。
しかし、そこに込められた意味は、この日常が続いてほしいという確かな祈りであった。

「それでも現実は変わらない。この街は聖杯戦争の舞台で、わたしたちが巻き込まれたのは凄惨な殺し合い。わかってはいるはずなんだけどね」

英霊などというものを無差別に呼び出しての殺し合い。
更には、求めてもいない人間までをも閉じ込めて、生き残りたくば殺せと強要される。
集まるのは、当然まともな人間ばかりではない。
願いに狂った者、血に愉悦する獣性を抱く者、何も知らぬまま死地に足を踏み入れた者。
そんなものの果てがどうなるかなど、火を見るよりも明らかだろう。

「こんな穏やかな毎日が過ぎるだけなら、それに越したことはないのだけど」
「……セイバー。君には叶えたい願いが」
「まあ、あるわよ。思い残しはなかったはずなんだけど、でも、どうしてもね」

セイバーと呼ばれた少女は、たはは、と力なく笑う。
自分で自分に呆れている、そんな意味合いの笑いだった。

「わたしね、幸せになりたかったの」

ぽつりと、そんなことを言った。
どこか遠くを見ている。そんな目をしていた。

「元々わたしって、そんな長生きできるわけじゃなかったのよね。わたしのいた世界にはどうしようもない敵がいて、わたしみたいなのが自爆してようやく撃退できる。そういう決まりだった。今度でかい奴が来るぞ、なら次はわたしの出番だ、って……嫌だなんて言えるわけもなくて、じゃあせめて心残りは失くしておこうって思ったわけ」

世界を滅ぼした〈十七種の獣〉。浮遊大陸という新天地に移ったことでその脅威から逃れたはずの多種族は、しかし空を浮遊する〈六番目の獣〉に怯える五百年を送ってきた。
通常の攻撃では打破できない脅威たる〈獣〉を、唯一倒せるのが聖剣(カリヨン)であり、それを扱えるのが黄金妖精(レプラカーン)だった。つまりはそういうことで、少女が死ぬことにそれ以上の意味はいらなかった。

「そんな時にひっどいのがやってきてね。嵐のようにやってきて、何もかもぶち壊して、わたしなんかに生きてても良いなんて臭いこと言って。
 でも、そういうこと全部「本当」にしちゃった。ほんとに酷い奴」
「……君は、その人のことが」
「好きだったわ。うん、今でもわたしは、ヴィレムのことが好き」

夢見るように、少女は呟く。
ギーはただ、黙って彼女の言葉を聞いていた。


316 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:38:30 wxu1iD5U0

「幸せになるってどういうことか、考えたことがあるの」

それは哲学的なようでいて、実際はとても個人的な、ありふれた疑問。

「その時に言われたんだけどね。幸せに気付くことはできても、なることはできないんだって。ほとんどの人は漠然と幸せを求めていて、けど自分が置かれた状況がどんなものかすら分かっていない。幸せって言葉が何を意味しているのかさえ、何も知らない」

少女は───クトリ・ノタ・セニオリスは、生まれと育ちを鑑みれば悲劇としか言いようのない存在だった。
生まれることなく死んだ幼子の死霊より生じ、命と引き換えの武勲を強制され、生きているだけで前世の侵食により自我を侵され……
ならばこそ、彼女は悲劇の果てに繋がる旅路を守護する極位古聖剣セニオリスに選ばれた。
そして。

「そして、気づいたんだ。わたし、とっくの昔に幸せになってたんだって」

思い返すのは、いきなり現れて全部滅茶苦茶にしていったはた迷惑な男と送った、ありふれた日々の情景。
それは本当に何でもないことだったけど。でも、それがわたしにとっての幸福だった。
本当なら手に入らないはずだったものを、たくさん分けてもらった。
だから、きっと、わたしの願いと呼べるものは全部叶ってしまったのだ。

「それでも一つだけ願いが叶うなら……またヴィレムに会えるんなら、『ありがとう』って言いたいな」

きっと彼は思い詰めて、全部自分のせいだ、なんて思っているのだろう。
泣かないで、とは言わない。彼には自分のことを、泣いてしまうほど想っていてほしいから。
忘れて、とも言わない。彼と築いた思い出は、わたしにとっても大切な宝物なのだから。
だから、言うとすれば一つだけ。
ありがとう、と。あなたと出会えたことは、わたしにとって一番の幸せだったんだよ、と。それだけを伝えたかった。

「けど、そのためには聖杯戦争、勝たないといけないのよね」

はぁ、とため息をひとつ。全くもって悪趣味な話だった。
正直、クトリの聖杯戦争へのモチベーションは皆無に等しかった。愛の言葉を伝えるために人倫を侵せとか、本当に何言ってんだこいつと本気で思っていた。
願いが叶うと言っても、限度があると思うのだ。罪もない人たちを殺してまわって、そんなことしてヴィレムや妖精倉庫のみんなに顔向けできるわけないだろう。

「マスターをそんなことに付き合わせるわけにもいかないし……」
「……そこは、素直に感謝したいかな。僕としても人殺しは論外だし、この街を戦場にすることも気が向かない」

夜毎巡回し、助けを求める誰かを探した。
十年間ずっと続けてきたそれを、しかしこの都市は不要とばかりに拒絶した。
きっとこの都市には、ギーの手を求める誰かなどいないのだろう。
ならばこそ、平和な日常を送れるこの街を壊すなど、認められるはずもないことで。


317 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:39:06 wxu1iD5U0

「そう、それよ」

と、クトリはギーを指差している。

「この際わたしの願いなんてどうでもいいけど、問題はきみなのよね」
「……それは、どういう」
「きみ、全部自分のせいだって思ってるでしょ」

その問いに、ギーは何も返せなかった。
何をバカな、と言うことは簡単だっただろう。けれど、やはり、何も言えない。
全て自分の責任である。
その強迫観念こそが、十年もの間ギーを突き動かしてきた罪悪感そのものであるからだ。

「毎回毎回深夜徘徊するのも、正義感と行動力がすごいなーとか最初は思ってたけどさ。
 違ったのね。きみは聖杯戦争なんてものに巻き込まれるよりずっと前から、死者に憑かれ、呪いを刻まれてる」

心臓を掴まれる音がした。
それは、ギーにとって決して忘れてはならない言葉だった。

過去の記憶。切れ切れではっきりと思い出せない。
今はもう細やかな破片になってしまった記憶たち。赤と黒を基調とした、無数の。

記憶。
悲鳴と絶望の呻き。

記憶。
この手で助けられると驕っていた。
差し伸べれば、必ず救えるものと。

記憶。
次々と手をすり抜けていく命。

記憶。
都市が崩れた、あの時。


318 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:39:49 wxu1iD5U0

「きみみたいな人を知ってる。
 形のないものに急き立てられて、誰かを救うことでしか、自分を傷つけることでしか自分を許せない。
 そういう人を、わたしは知っている」

それは、誰のことを言っているのか。
言葉なき言葉は、何よりも雄弁に語っていた。

「わたしは、そりゃきみがどういう人生送ってきたかなんて知らないし、本当は偉そうなこと言える立場じゃないんだけどね。
 それでも、きみにはもう一度聞いてほしい」

とん、と胸に拳をあてて、少女は───クトリ・ノタ・セニオリスは、誇るように宣言する。

「わたしは、彼に『ありがとう』って言いたい。
 始まりが何であったとしても。最初は同情と投影だったとしても。わたしの気持ちに嘘はない。
 自分を許せないあなたは、それでも尊いあなたなんだって、そう言いたい」



『───どうして』



……声が聞こえる。
それは、十年前に聞いたはずの。もう忘れてしまった、思い出せない声。
その声が、罪深い僕を責めるはずの声が。
本当は、別のものだったとしたら。
それは───

「なんて。ホントにわけわかんないこと言っちゃったね。
 ごめん、忘れて。別にあなたのこと責めたかったとかそういうわけじゃ」
「分かっている」

彼女は決して、この愚かな男のことを憎んで言ったわけじゃない。
むしろ逆だ。ギーとよく似た男に感謝を伝えようとする彼女は。
すなわち、ギーの抱える過去もまた、同じものではないかと言ってくれている。

「僕はどこか間違えている。それはきっと杞憂なんかじゃない。
 そのせいで大切なものを取りこぼして、大事だったはずの人の言葉さえ取り違えているかもしれない。
 それでも、僕は」

自分を顧みず他者を助ける。
人助けそのものを報酬とする、その矛盾と末路。
偽善に歪んだ精神。
それら全てを承知の上で、それでも。


319 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:40:19 wxu1iD5U0

「それでも僕は、この手を伸ばそう。助けを求める全ての命に、差し伸べよう」

そのようにして助けるのだと、かつて見殺しにした少女に誓いたかった。

「……きみ、ホントにバカだね」
「よく言われる。狂人だとも」
「それは言ってるほうがバカなのよ」

流石に言いすぎだわ、とクトリは憮然とした表情をして。
それが少しだけおかしかったものだから。

「一つだけ、約束してちょうだい」
「……うん、聞こう」
「絶対に死なないで」

あまりにもシンプルな言葉だった。
だからこそ、込められた思いの多寡が知れた。

「必ず、生きることを諦めないで。
 どれだけ絶望的だとしても、どれだけの苦痛があろうとも。死ぬことだけは肯定しないで。
 そして、自分から死にに行くような愚かさを、決して認めないで」

死を想うな。
生きろ。

それはありふれた、しかしこの身にはとても重い願い。
死に囚われ、死に近づいたギーにとって、それは鉄の鎖のように絡みつく言葉だったけれど。

「……ああ、分かっている」

それでも受け入れよう。
クトリの言葉を、想いを、裏切らないと誓おう。

そしてそれこそが、かつてキーアと呼ばれた少女が真に望んでいたことであると、ついぞ知らぬままに。

「僕は生きよう。生きて、この都市を出よう。
 それまで、どうかよろしく頼む」
「ええ、我が身尽きても……とは、ちょっと怖くて確約できないけど。
 精一杯頑張るわ。これでも聖剣使いなんだから」

差し伸べた手を取り、約束する。
過去の霧は晴れず、真実は忘却され、黄金螺旋の果ては未だ見えず。
けれど。誓われた想いだけは、やはり決して嘘ではなかったのだった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


320 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:40:56 wxu1iD5U0





ばたばたと、やかましく髪が揺れる。
起こすまでもなく、全身の魔力(ヴェネノム)は、これ以上なく充溢していた。
ぱきん、ぱきんという幻聴と共に、心の欠片が崩れていく。
またひとつ。またひとつ。
駆けるたびに。
振るうたびに。
色々なものが頭から抜けていく。楽しかったことも、苦しかったことも、自分の心が白紙に戻っていくのが分かる。
けれど。
それでも、わたしは。

いつまでも、一緒にいるよと誓った。
誓えたことが、幸せだった。

この人のことが、好きだなと思った。
思えたことが、幸せだった。

幸せにしてやると、言ってもらえた。
言ってもらえたことが、幸せだった。

こんなにもたくさんの幸せを、
あの人にわけてもらった。
だから、きっと───



「今のわたしは、誰が何と言おうと」

「世界で一番、幸せな女の子だ」




【クラス】
セイバー

【真名】
クトリ・ノタ・セニオリス@終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?

【ステータス】
筋力C 耐久E 敏捷A 魔力A+ 幸運D 宝具A++

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:A
魔力への耐性。ランク以下を無効化し、それ以上のものはランク分軽減する。事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけることはできない。

騎乗:D
騎乗の才覚。はっきり言って悲しいほど才能を感じない。最低限のクラス保証みたいなランク。


321 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:41:40 wxu1iD5U0

【保有スキル】
黄金妖精:A
レプラカーン。人造妖精であり、「人の器具を扱う者」としての性質を持つため、人族専用の聖剣を使用することを可能としている。
厳密には妖精ではなく、死霊の一種。魂が現実と肉体に固着するより以前に死した幼子の霊魂を、外法によって繋ぎ止めた存在。
その由来ゆえに世界のどこにも居場所を持ち得ず、概念的に「未来」を有さない。通常の生命とは異なり属性が限りなく「死」に近い。
そもそも生きてはいないため生体に作用する概念的干渉を一律で無効化するが、代わりに死霊特効と何故か神性特効がモロに突き刺さる。撒き塩とかされたら思い切り涙目になる。

魔力放出:B
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせジェット噴射のように瞬間的に放出することで能力を向上させる。
種族的特性として魔力の翅を形成し、ある程度の飛行を可能とする。

巨獣狩り:A+
地上世界を席巻した〈十七種の獣〉への対抗として生み出されたセイバーは、巨大な敵性生物との戦闘経験に長けている。
対獣・対巨大に補正を与える他、クラス・ビーストへの特効性能を発揮する。

星神の夢/少女の加護:E
黄金妖精(レプラカーン)の真実。仮初めの命として鋳造されたすべてのモノたちが抱く、希望と結論。
砕かれた星神は世界を夢見、生持たずして死に近づく矮小な魂たちは無垢なるままに世界を俯瞰する。
クトリ・ノタ・セニオリスには彼女たち矛盾した知性体が生まれた理由と、それら短命のものたちが目指すべき真理が、"愛"という形で宿っている。
(星神という星の生命を創造した超越者の魂によって発生し、人の愛を知った彼女は、『造られた短命の生命』ゆえの達観、客観性の極致に僅かながら手をかけている)。

「くとり」「がんばれ」

【宝具】
『告死聖剣・煌翼天墜(セニオリス)』
ランク:A++ 種別:対人・対獣宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:500
力無き小さき種族である人類が鍛え上げた、星を殺すための人造秘蹟。特にセニオリスは極位古聖剣の1振りとされ、聖剣(カリヨン)というカテゴリにおいては最上位に位置する最強の幻想(ラストファンタズム)。
その正体は41の雑多なタリスマンを呪力線で束ねた複層構造の剣であり、偶発的に誕生したこの宝具は当時栄華を極めた人類文明でさえ完全な解析・再現ができなかったとされている。
常態においてはランク相応の神秘を携えた超抜級の概念武装であり、魔力そのものを切り裂く性質の他、使用者に魔力ブーストや身体能力強化の加護を与えるに留まる。
真名解放に伴って剣を構成するタリスマンが展開し、魔力を光に変換し集束・加速させることで極光の斬撃となる。なおその威力は自身の宝具ランクを下限として、接触対象が持つ魔力量に比例して青天井に上昇する。
身も蓋もない言い方をしてしまえば「相手よりちょっとだけ強くなる剣」であり、多数を殲滅するのではなく超級の個体を相手取る時に真価を発揮する。
……より厳密に言うならば、上記能力も副産物に過ぎず、この剣の真の力は「死を与える」こと。相手が不死であれ不滅であれ、あらゆるものに死の呪詛を刻み問答無用で死者へ変じさせる事象改竄能力。

適合条件は「帰る場所を持たず、帰りたい場所に帰ることを諦め、自分自身の未来をすべて投げ出し終える」こと。
悲劇を抱えた者でなく、悲劇を超えた者でなく。
希望を持たぬ者でなく、希望を捨てた者でなく。
心より渇望する未来を持ちながら、その未来が決して手に入らないのだと受け入れた者だけが、この聖剣を手にすることが叶う。
その性質上、セイバーの消滅時、周辺に彼女以上に適合条件を満たした個人がいた場合、この宝具だけは消滅することなく当該人物の手に渡る。


322 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:42:13 wxu1iD5U0


『全て遠き妖精郷よ、敬虔なる殉死者を迎えよ(ゲートオブアヴァロン)』
ランク:E〜A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:800
セイバー自身の肉体を宝具とした二重の壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。一点集中ではなく広域に作用するため対軍宝具にカテゴライズされるが、純粋なエネルギー総量は対国宝具に匹敵する。
真名解放と同時、セイバーの背から肥大化した光の妖精翅が広がり、それを中心に爆発的な魔力の奔流が発生する。
生前においてセイバーが扱った魔力(ヴェネノム)とは型月魔術観における魔力とは存在を異としたものであり、その本質は「生命力の反転である、概念的に死に限りなく近いもの」である。
サーヴァントとして現界するにあたりセイバーが通常行使する魔力は他のサーヴァントと全く同じものに規格統一されているが、この宝具に関してのみ話は別。発生する爆発は生命力や純エネルギーといった「正の属性」を直接反転させ、対消滅させる。事実上、対魔力などといった加護・耐性・障壁等で軽減・無効化することはできない。
この宝具の発動と同時に、セイバーの霊基は致命崩壊をきたし、消滅する。つまりこの宝具を使えば必ず死ぬ。例外はない。

【weapon】
極位古聖剣セニオリス:ちょーつよい
銀のブローチ:継がれるなにか
黒い大きな帽子:秘めたる(ぜんぜん秘められてない)想いのきっかけにして象徴。普段は非装備。

【人物背景】
滅びゆく世界に残された最後の希望。生まれることなく死した幼子の亡霊。殺されるためだけに生み出された仮初の命。
あるいは、世界で一番幸せな女の子。

【サーヴァントとしての願い】
もう一度だけ、ヴィレムに会いたい。


【マスター】
ギー@赫炎のインガノック

【マスターとしての願い】
誰の命も取りこぼしたくない。

【能力・技能】
現象数式:
変異した大脳に埋め込んだ数式により、現実を改変する技術。特にインガノック産の現象数式は魔術ではなく科学の分野であるが、その原型は時計人間と呼ばれる外神の権能であるとされる。
ギーのそれは解析と物質置換に特化されており、人体へ使用すれば置換による治療が可能。
赫炎のインガノック作中ではあまり言及こそないものの、現象数式とは元来非常に高度かつ強力な術式である。ギーのそれも仮に攻性に特化させた場合、ポルシオンなしでも「現象の支配者」「〈結社〉最強の魔人」と称されるほどになり果てる才覚を有している。

奇械ポルシオン:
ギーの背後にたたずむ鋼の影。都市に残された最後の御伽噺。
可能性そのものであるため、あらゆる物質を、幻想を、世界を圧倒し得る。

【人物背景】
異形都市インガノックで生き足掻く人々に手を差し伸べ続けた巡回医師。
彼は決して聖者ではなく、狂人でもなく、自分の目の前で死に行く少女を見ていられなかっただけのありふれた人間でしかない。
10章終了後より参戦。

【方針】
聖杯戦争を調査し、戦いを終わらせる。


323 : いずれその陽は墜ちるとしても ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/06(水) 22:42:30 wxu1iD5U0
投下を終了します


324 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/06(水) 23:45:30 1Undjg4g0
皆様投下ありがとうございます。
感想の方ですが、申し訳ありませんが後日に回させて下さい

投下します


325 : 沙条愛歌&アサシン ◆Lap.xxnSU. :2022/07/06(水) 23:46:15 1Undjg4g0
 悪夢だ。
 今際の際にそう零した男は英雄と呼ばれるに足る武勲を積んで、英霊として世界に召し上げられた勇者であった。
 善なる心を胸に歩み、絆の力を剣へと載せて悪を切り祓う。
 この世に生まれ落ちた瞬間から己の善悪(いろ)は前者であると認識し。
 それを真我と信じて己の物語を歩み切った。
 悔いのない人生だった。
 召喚者の声に応じて異界の地を踏んだ瞬間にも胸の中には誉れがあった。
 己の武勇が必要だと乞われたならば是非もなし。
 あらゆる障害を蹴散らして、我が身に縋った召喚者の願いを叶えてみせようと。
 そう誓って戦場へ歩み出た。
 それは紛うことなき勇者の凱旋であり。
 大団円を迎えた英雄譚の続きが紡がれ出した瞬間だった。
 眩く強く正しく歩む万夫不当の勇者。
 一体この世の誰が信じられるだろうか。
 輝きに満ちた勇者の新たなる旅路の末路が、体を上下で分割されて土埃に塗れながら蠢く死に体だなどと。

「ごめんなさいね、名前も知らないあなた。
 すぐに終わらせても構わなかったのですけれど」

 勇者の胴を一閃したソレは少女の姿をしていた。
 名家の令嬢を思わす絢爛可憐なドレスに金髪碧眼。
 背丈は十代の半ばにも届かない程小さく、顔立ちもそれ相応にあどけない。
 だが勇者は対面するのと同時に確信した。否、感じ取った。
 目前の少女らしき何かから漂い香る死の臭い。
 彼女に殺され喰われ踏み潰された者達の怨念が幻視できる程に濃密な凶気。
 一つの英雄譚を歩み切った彼をして、未だかつて出会った事のない邪悪であると危機感を最大に高めざるを得なかった。

「わたし、どうしてもあなたに訂正してほしい発言があったものですから」

 我こそは勇者なりと名乗りを上げて剣を揮った。
 その時彼は確かにサーヴァントではなく一人の勇者として剣を執っていた。
 そんな彼の剣は確かに少女の姿を模した"死"に直撃。
 その矮躯を袈裟懸けに断ち割ったのだったが――
 心臓諸共斬り遂げた手応えを感じた時には既に。
 確かに斬った筈の体は何事も無かったかのように治癒を全うしていた。
 時が巻き戻ったのかと錯覚する程出鱈目な速度で行われた自己再生。
 それを目視し戦慄に目を見開いた時にはもう、何もかもが遅かった。
 少女の振り抜いた真紅の大鎌が勇者の胴体を横一閃に両断し。
 誇りと誉れを胸に英霊となった勇者の体は泥と自らの血肉に塗れ、敗残者として地面に転がったのであった。

「あなたは勇者などではありません」

 己の召喚者は無事だろうか。
 そんな事に想いを馳せる余力も余裕もない。
 地に転がった己の頭を両手で持ち上げて。
 ぶち、ぶち…と音を立てながら首ごと胴体から引き千切る。


326 : 沙条愛歌&アサシン ◆Lap.xxnSU. :2022/07/06(水) 23:46:49 1Undjg4g0
 そうして自分と目線を合わせて少女は重ねた。
 勇者として生き勇者として死んだ男への否定を。

「勇者というのはもっと強くて鋭くて…恐ろしいお方の事をいうのです。
 美しくて絢爛で、自分の幸福(しあわせ)なんて全てどうでもいいと投げ捨てられて、
 自分が歩み遂げると決めた道のためならどれだけの苦しみでも喜んで受け入れられて、
 誰にも理解する事の能わない旅路であるというのにその剣一つで誰も彼もを虜にしてやまない。
 善も、悪も、変わりゆくものも、不変なるものも、全部、全部、全部全部全部全部全部全部…理解し、受け入れ、一人ひとり目を見て殺す」

 そんなモノが存在するわけがない。
 それが勇者だと? ふざけるな。そんなモノが仮に実在したとしてそれが勇者等であるものか。
 己の生き様全てを我が道を進む為に費やして自己を尖らせ。
 そうも禍々しく歩みながらも絢爛華麗に他者を魅了する。
 敵も味方も全てを例外なく殺しながらしかし誰もがその在り方を礼賛する――そんなモノがもし実在するのなら。
 それは断じて勇者などではない。
 勇者などである筈がない。
 だが英霊はそれを口にできなかった。
 口にする前に――花を手折る幼子のように無邪気な仕草でその頭蓋を握り潰されたからだった。

「勇者様とはそんなお方のこと。分かっていただけたでしょうか。
 …あぁ、わたしったらいけない。お返事を聞く前に握り潰してしまってはお説教になりません」

 消滅し英霊の座に還る勇者だったモノを見送りながら。
 いけない、と死の権化たる殺人鬼…殺人姫は口元を抑えた。
 その仕草は淑女そのもの。
 しかしその凶行と放つ死臭の濃密さがそうした迷彩の全てを無為にしている。
 彼女の名前はフレデリカ。
 第四位魔王、フレデリカ。
 人間から虫の一匹に至るまで全ての生物が善悪二元のもとに大分された宇宙において億を越す人命を鏖殺した不義者(ドルグワント)。
 殺人鬼を束ねる空虚の姫にして、宇宙鏖殺の救世主が唯一勝ち逃げを許す他なかった■。
 此度の聖杯戦争にあってはアサシンのクラスで召喚された、死と殺人の頂点(ハイエンド)である。

    ◆ ◆ ◆

 日本人離れした容姿の少女だった。
 奇しくもフレデリカと同じ金髪碧眼。
 一級品のビスクドールを思わすドレスを纏って紅茶を啜る姿は現実感に乏しい。
 庭園のテラスで己がサーヴァントの対面に座り、報告を受けた彼女こそはフレデリカのマスター。
 悪逆無道を地で行く殺人鬼の姫を従えて尚もたおやかに笑う生娘。
 薔薇の香りがほんのりと漂う流血庭園の一角にて、少女は彼方の宇宙の第四位魔王と事も無げに会話を交わしていた。

「…というわけなの。わたし、つい頭に来てしまって」

 軽々と勇者を名乗られた事。
 星の一つも砕けない程度の力。
 音程度の領域に留まったスピード。
 頼みの綱の宝具はたとえ百倍したとてフレデリカが兄と呼ぶ暴食の巨星が戯れに放つ一撃の影すら踏めないだろうお粗末な代物。
 力も、剣も、器も…覚悟も。
 何もかも足りない男が厚顔無恥にも我こそは勇者なりと囀っていたものだから。
 
「本当は一振りで殺せたのだけど、どうしても一言言って差し上げないと気が済まなくて。
 だからわざと消し飛ばないように加減してあげたんです。
 お説教なんて生まれて初めてしたわ。される事は、まぁたまにあったけど」


327 : 沙条愛歌&アサシン ◆Lap.xxnSU. :2022/07/06(水) 23:47:36 1Undjg4g0

 フレデリカは本人曰く大人げなく、一撃で終わらせられる戦いに加減を持ち込んだ。
 あの程度の英霊ならば文字通り消し飛ばす事も可能だったがそこはぐっと堪えて力を抑え。
 勇者を嘯く蒙昧に、勇者を名乗るなら最低限有しているべき資格というものを説いてやった。
 慣れない事をしたから力加減が上手くできなくて、結局話の途中で頭を握り潰してしまったものの…それでも彼女なりに溜飲は下がったらしい。

「少し意外だわ。あなたは腹が立つとか、そういう感情とは無縁の生き物だと思っていたから」

 常人ならば、フレデリカの姿を視認しただけでその体に染み込んだ死の威容に恐れ慄き…ともすれば発狂を来たしても不思議ではない。
 何しろ彼女は戦力ではなく殺した生命の数で魔王としての番付を上げた鬼子。
 人間の感情など硝子戸の向こうの絵空事。
 それらしく演じ装う事はできても本質の部分ではそれを理解する事のできない虚ろな生き物。
 奇形化した殺意を感情のように振り翳すしか能のない生まれながらの殺人鬼(ノコギリ)。
 それを踏まえて今の彼女を見れば…成程おかしな有様だった。
 憧れと慕情に瞳を甘く染めて。
 自分の想い人を間接的に貶められた不満を愚痴る。
 殺人鬼の姫君、殺人姫には相応しくない姿だ。
 今のフレデリカはあまりにも人間らしい。
 その事を他でもないマスターに指摘された彼女は一瞬きょとんとした顔をしたが。
 次の瞬間には花が綻ぶようにくすりと笑った。

「それは貴女も一緒でしょう、愛歌? わたしのマスター、わたしの初めてのお友達」

 ――愛歌。
 沙条愛歌。
 それが少女の名前であった。
 彼女の生まれた世界では勿論、全宇宙を股にかけた善悪二元闘争等行われていない。
 あらゆる生物が生まれながらに善か悪かに分けられ、どちらかが滅び切るまで殺し合い続ける等という腐った理も存在しない。
 フレデリカの生きた宇宙に比べれば遥かに小さな神秘が渦巻く世界。
 そこに彼女は生まれ落ちた。
 しかしてもしも生まれた世界が、宇宙が逆だったならば。
 愛歌が善悪二元真我(アフラ・マズダ)に生まれ落ちていたならば。
 その時彼女は間違いなくフレデリカと同様に、絶対悪たる七つの丘。
 あまねく悪の王にしてあまねく善の敵たる七大魔王の円卓に、その名を列ねていたに違いない。
 ああいや。
 そこにはもう一つ条件が付く。
 彼女を全能から少女へ堕としたかの騎士が件の腐った宇宙に存在し、変わらぬ輝きで不義者を討滅し続けていたならば。
 その姿を一目見たならば。
 愛歌は己の真我(いろ)を覆してでも悪に堕ち、彼の為にと愛を言祝ぎながら数多の悪行に手を染め。
 真にフレデリカと肩を並べ…ともすれば凌駕する魔王の器として覚醒していただろう。

「あなたとわたしは似た者同士。だからこそわたしはあなたをお友達と呼ぶの」

 …愛歌は生まれながらにしてヒトの領分を遥かに超えていた。
 手を伸ばせばそれだけでこの世の全てに手が届く。
 全知全能という夢物語を地で行く根源接続者。
 それ故の退屈とそこから来る無機質さを抱えていた彼女は、ある日運命のような恋を知った。


328 : 沙条愛歌&アサシン ◆Lap.xxnSU. :2022/07/06(水) 23:48:11 1Undjg4g0
 そして堕ちた。
 沙条愛歌という名の全能は同じ名前を持つ少女へとカタチを変えた。
 全ては愛する貴方のためにと。
 この世の何より純粋な想いを燃料に、根源の姫は晴れて人理の崩壊を乞い願うポトニアテローンへと姿を変えたのだ。

「好きな人の趣味は合わないのにね」
「あら、それを言い出したら殺し合いよ?」
「そうなっても負けないわ。知っているかしら? 恋する乙女って生き物は、無敵なんだって」
「えぇ、わたしもよく知ってるわ。恋は盲目、いい言葉よね」
「そうね、本当に素敵な言葉。
 胸の中にただ一つ温かいこの気持ちがあるだけで、なんだってしてあげたくなるし、なんだってできてしまうんだもの」

 愛歌とフレデリカは似た者同士。
 生まれながらに誰より虚ろな存在である事を運命付けられて。
 そしてその空虚を、恋という情熱を知る事で自ら埋め合わせた。
 そうして成った…そうして完成した怪物王女(ポトニアテローン)。
 少女へ堕ちた全能と。
 恋を知った殺意。
 生まれた宇宙は違えど、振るう力の規模も違えど。
 紛れもなく彼女達は似た者同士で、出会ってはならない者達だった。
 彼女達は恋する乙女。
 恋に恋して愛を愛するあどけない少女達。
 だが、だが。
 その手に握られた力はあまりにも大きすぎた。
 誇張抜きに世界の行く末すら左右できる力を、彼女達は生まれながらに当たり前に持ち合わせていた。

「わたしはあなたのサーヴァント。
 あなたの恋に寄り添うために召喚された殺人鬼。
 この世で独りきりのあなたの声に応じて、遠い神座の果てからやって来たあなただけのお友達。
 あなたの恋路を叶えるためにわたしはこの体を使いましょう。
 でも。でも――これだけは覚えておいて」

 根源の姫は人理の定礎を崩す。
 殺人の姫は星をすら一太刀の元に斬り伏せる。
 恋する乙女は無敵の生き物。
 何だってやれて何だってできる。
 彼女達に限界はない。
 だが――

「恋(それ)は叶わないこともあるのよ」

 伸ばした手が届くかどうかは分からない。
 思い描いた通りの終わりに辿り着けない事も世の中には現実としてあるのだと。
 その事をフレデリカは知っていた。
 睦み合いの末に自らの望む形で愛する勇者と結ばれる事を信じて挑んだ殺人姫の、その先で待っていた嘲笑を朧気ながら覚えている。


329 : 沙条愛歌&アサシン ◆Lap.xxnSU. :2022/07/06(水) 23:48:38 1Undjg4g0
 突き付けられた真実。
 気付かされた現実。
 殺人姫に生まれて初めての動揺をすら引き起こしたそれは紛れもなく乙女の目論見に孔を穿つものだった。
 そしてフレデリカは死んだ。
 滅びたのだ。
 不死不滅の戒律を持つ筈の、彼女が。

「ないわ、そんなこと」
「あなたはきっといつかそれに遭遇するでしょう。
 だって愛歌、あなたはとてもわたしに似ているから。
 恋する乙女は無敵だけれど、絶対に負けないというわけじゃない」
「…忠告ありがとう。でもやっぱりわたしには不要(い)らないわ」

 二つの碧眼が微笑みの中で交差する。
 深い、何処までも深い…宇宙(そら)を思わす蒼い瞳。
 底知れず昏い悪なる海がそこにある。
 
「叶う叶わないなんて話をしたって意味はないわ。
 叶えると決めたのなら、あとはそのまま歩けばいいのよ。そうすればこの世のどんな願いだって、思うがままに叶ってしまうの」

 その言葉に嘘はない。
 愛歌はそれができる人間だ。
 彼女にとって目下の問題はこの世界。
 聖杯戦争という名の牢獄。
 此処では愛歌は全能ではない。
 彼方の地からかの獣が自分を引き上げてくれる事でもない限り。
 愛歌はこの世界から出られない――勝利をその手に掴むまで。
 
「もしも聖杯が手に入ったら。その時はもう一度、二人で恋の話をしましょう?」
「そうね――愛歌。あなたの王子様はわたしの勇者様ではないけれど」
「それでもいいわ。わたし、実は経験がなかったの。
 恋をしている仲間同士で、ああでもないこうでもないって語り合う経験が」
「わたしもそうよ。あなたがとびきり悪いおかげで、わたしはあなたとお話ができる。
 同じ――不義者(ドルグワント)としてね」

 フレデリカという大鎌(デスサイズ)を武器にして。
 沙条愛歌はこの地に集った全ての苗木を伐採する。
 未来への可能性が育ち実を付け花を咲かすその前に。
 ただ無情に、そして非情に自らの王道を貫くだろう。
 此処には居ない騎士王へ捧ぐ救済(すくい)の道を。
 冬の東京は今、蒼銀の魔の手に堕ちる。

    ◆ ◆ ◆


330 : 沙条愛歌&アサシン ◆Lap.xxnSU. :2022/07/06(水) 23:49:17 1Undjg4g0

 魔王フレデリカのその末路。
 全時代を引っ括めても最優の一つに数えられる不死の戒律を持ちながら、何故彼女は勇者の剣に滅ぼされたのか。
 一つの宇宙を一本の剣で滅ぼし尽くした無慙の剣に何故屈したのか。
 その答え、それは――

「…わたしが会いに行くことをあなたは望まないでしょう。
 だってそれはわたし達の、わたしの結末を自ら侮辱する自傷行為だから。
 なんだかんだで優しいあなたは……そんなこと、許してくれないですよね」

 フレデリカは自ら舞台を降りたのだ。
 戒律とは掟を守る事によって担保される力。
 従って掟を破れば。
 自ら破戒の愚を犯せば…たちまち戒律の効力は消え、破戒の罰が降り注ぐ。
 それはフレデリカのような極めて高位の使い手であっても例外ではない。
 老若男女も強弱も、善悪すらも関係なく平等なこの世の摂理。
 それで以ってフレデリカは不死者ではなくなり。
 それどころか不義者ですらなくなり…義者(アシャワン)の少女として、愛する勇者の剣によって落命した。

「正直に言うならすぐにでも会いに行きたいです。
 聖杯を手に入れればそうする事も可能なのでしょうし。
 全てのしがらみを飛び越えて、あなたの瞳にわたしを入れたい。見てほしい」

 それが彼女の結末。
 恋に目覚めてそして思い通りの結末には辿り着けなかった少女の末路。
 しかしフレデリカは、後悔はしていなかった。
 過ぎ去った時間をもう一度戻せるとしても、きっと自分はあの結末を選ぶだろうという確信すらある。
 そんな彼女だから、当然。
 終わった物語の結末を覆したいとは考えていない。
 …考えはしても、それを選ぶ事はしない。

「でもそれをしたら嫌われてしまうし、わたしもわたしの事が嫌いになってしまうでしょう。
 だから寂しい気持ちをぎゅっと堪えて…今は初めてできたお友達と一緒に歩いてみようと思います」

 あの子はきっと失敗する。
 いつかの未来、思いがけずにすっ転ぶだろう。
 そう分かってしまったから心地は妹を見るようなそれだった。
 おかしな話。妹はもう居るというのに。

「でも、せめて。見ていてくれたら嬉しいです」

 わたしの――

「マグサリオン様。わたしの、たったひとりの――」

【クラス】
アサシン

【真名】
フレデリカ@黒白のアヴェスター

【ステータス】
筋力A 耐久EX 敏捷B 魔力C 幸運A 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
気配遮断:E
サーヴァントとしての気配を絶つ。
平時はこのスキルは機能していない。
スキル「虚装戒律」を用いて化けの皮を被る事でAランク相当の気配隠蔽を可能とする。
完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃行動に移るとそのランクは大きく落ちる。


331 : 沙条愛歌&アサシン ◆Lap.xxnSU. :2022/07/06(水) 23:49:48 1Undjg4g0
【保有スキル】
殺人鬼:EX
ノコギリ。人類種に対する理由のない殺意を習性として抱える種族。
殺意という感情のみが肥大化した存在であるため喜怒哀楽が虚ろで、本質的には人を殺したいという欲求しか持っていない。
理屈なく不死身であり、たとえ肉塊レベルに破壊されたとしてもそこから再び元通りに再生することができる。
フレデリカは殺人鬼という種族のハイエンド。
彼女を凌駕する殺人鬼はこの世界に存在しない。
 
虚装戒律:A+
バランギーナ。
フレデリカの生きた宇宙に存在した理の一つであり概念としては第一宝具と同一。
自らに制限を課す代償と引き換えに対応する形で力を得る。
元来の戒律は永続的な誓いとリスクが伴うのに対し、虚装戒律は前提条件が充たされた場合その場で能力と共に消失する。
例えば"三日間喋らない"という縛りなら"三日間だけのテレパシー能力"を得ることができる。
この場合四日目以降は喋っても破戒にはならない。

精神異常:A
汚染ではなく異常。
殺人鬼は心を持たない。
それ故に恐怖や畏怖などの感情も極めて希薄である。
他の精神干渉系魔術をシャットアウトするが、A+ランク以上の干渉に対しては効果を軽減するに止まる。

【宝具】
『殺人鬼の掟(キラークイーン)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1(自身)
第四位魔王、フレデリカの戒律。
己自身に禁忌を設け遵守すると心に誓う。
自身に破ってはいけない制約を課す代わり、その制約が重いほど反動として強力な特殊能力を行使できる。
フレデリカの禁忌は"敵のいかなる攻撃であろうとも防御・回避を行わない"というもの。
その代わり彼女は類を見ないほど強力な再生能力を不死性を保有するに至っている。
彼女が生きた宇宙はおろか、そこから数度に渡り神の代替わりが起きた全体を総括しても最高峰の不死に数えられる。
頭部破壊、人体両断、原子レベルでの粉砕、霊核の完全破壊…そのいずれでもバーサーカーは滅ぼせない。
ただしあくまでも"死なない"だけであるため、封印等の搦め手に対しては再生能力は発揮されないのが難点。

『殺人鬼の大鎌(デスサイズ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:100
フレデリカの武装。赤と青の意匠が刻まれた大鎌。
特殊な拵えも仕掛けもなく、製造に魔術的な工程を経たわけでもないごくごく一般的な代物。
しかしこれはフレデリカの手により数億単位の命を滅ぼした殺人道具となっており、今やそこにあるだけで次元すら歪ませる怨念の塊と化している。
全力を載せて振るえば惑星の両断すら成し遂げる逸品。
だがサーヴァントとしての召喚にあたって主であるフレデリカ自身の力が数段劣化している為、かつて程の威力を発揮することはできない。


332 : 沙条愛歌&アサシン ◆Lap.xxnSU. :2022/07/06(水) 23:50:13 1Undjg4g0

『流血庭園バリガー』
ランク:A+ 種別:固有結界 レンジ:- 最大捕捉:1000
常時展開型固有結界。魔王フレデリカの支配領域。
人間の残骸を養分にした不義者の毒花が咲き乱れる異界。
この空間は分離の法という義者の術により、フレデリカと彼女の執事であったある殺人鬼を封じ込めた牢獄であった。
しかしフレデリカは容易くこの封印を破る事ができる上、生死や殺人鬼の存在が強く意識された時に外界へ繋がる虹の橋が架かる『分離の橋』という性質を持つ。
生死の願望や恐怖、殺人鬼への呼び掛けが溢れた土地に庭園は自動的に接続され、これを利用する事でフレデリカは神出鬼没的な出現を可能とする。
橋が架かっているのは一時間程度。時間が過ぎるか橋の先に居る人間を全滅させるかすれば、フレデリカは自動的に庭園の中へと送還される。

【人物背景】
悪の不義者にして第三位魔王。
殺人姫フレデリカ。
空虚のままに人間という人間を鏖殺していた幼い魔王はとある魔人との遭遇によって殺人鬼にあるまじき感情を知る。
少女の姿をした死は少女に堕ち、そして二元論の宇宙を鏖殺(すく)う皆殺しの英雄を相手に唯一勝ち逃げを果たした。

【願い】
再会。逢瀬? 
いいえ。わたしの願うものは──。


【マスター】
沙条愛歌@Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ

【マスターとしての願い】
すべては彼のために。

【weapon】
なし

【能力・技能】
根源接続者。
あらゆるすべてが可能、あらゆるすべての事象を知り、あらゆるすべてを認識する"機能"を持つ。
文字通りの全知全能。
宇宙が異なればフレデリカら七大魔王にさえ並び立ったろう規格外中の規格外。
しかし現在は聖杯そのものからの束縛により限りなく弱体化させられており、高位の魔術師程度の力量に落ち着いている。
イメージ的には『Fate/Labyrinth』にて迷宮の亜種聖杯戦争に挑んでいた時程度の存在規模及び出力。

【人物背景】
マスター階梯第一位・熾天使。
蒼銀の騎士王を召喚せし最強のマスター。
生まれながらの全能であったが、それ故の空虚を抱えていた命。
燦然たる騎士との遭遇によって世界を滅ぼす感情を知った。
かくて少女の姿をした全能は――少女に堕ちた。

【方針】
聖杯戦争への勝利並びに聖杯の獲得。


333 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/06(水) 23:50:31 1Undjg4g0
投下終了です


334 : ◆TPO6Yedwsg :2022/07/07(木) 00:27:45 seciMnPY0
誤字訂正をさせていただきます。
拙作『無明の夜に、黎明が来る』におけるサーヴァントのスキルですが、

誤記:召霊の儀
正しい表記:招霊の儀

となります。誤字失礼いたしました。


335 : ◆ylcjBnZZno :2022/07/07(木) 02:14:28 ZgHU2y/60
投下します。
過去にFate/Over The Horizonに投下した候補作に加筆修正を加えたものです。


336 : 湖月レオナ&アサシン ◆ylcjBnZZno :2022/07/07(木) 02:15:38 ZgHU2y/60
喝采と共に幕が下り、公演が終わる。
しかし、主演を務めた彼女の心は別のところにあった。


◆◆◆


『聖杯』―――万物の願いを叶える願望器。


雑誌やネットで見たならば、一笑に付してしまうような馬鹿げた話。

しかし湖月レオナの脳内には、どこで見たわけでもないのに、聖杯についての正しい知識が備わっていたし、それが紛うことなき事実であると認識できていた。
そしてそれこそが、聖杯を巡る戦いの参加権を得た証左であると理解した時、レオナの中で何かがひっくり返った。

全ての願いが叶うならば、愛する人と―――霧生鋭治と過ごした、あの暖かくて幸福な日々を取り戻せる。
それを思えば、彼の命を奪ったあの三人への復讐すら些末事と化した。

「クリスティーヌ」

サーヴァントがレオナを呼ぶ。
引き当てたのはアサシン―――ファントム・オブ・ジ・オペラ。
考え得る限り最もレオナに縁深く、そして最も相性が悪い英霊。

聖杯にかける願いを知られれば、この関係はたちまちのうちに瓦解してしまう。


「我が歌姫よ。
 共に歩もう。 共に歌おう。 私達の幸福のために」

傍らに立ち、手を差し出してくるアサシン。
手袋に包まれたその手を取って応える。

「ええ、エリック」

そして微笑む。
今日が人生で一番幸せな花嫁のように。


337 : 湖月レオナ&アサシン ◆ylcjBnZZno :2022/07/07(木) 02:16:45 ZgHU2y/60



貴方は私の『ファントム』ではないけれど。

聖杯で願いを叶えるまでは―――


「―――私はあなたの『クリスティーヌ』になりましょう」



【クラス】アサシン
【真名】ファントム・オブ・ジ・オペラ
【出典】Fate/Grand Order
【性別】男
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:B 耐久:C 敏捷:A 魔力:D 幸運:D 宝具:B

【クラススキル】
気配遮断:A
自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。

【保有スキル】
ガルニエの呼び声:B+
「魅惑の美声」が発展したスキル。人を惹き付ける天性の美声。
異性に対して魅了の魔術的効果として働くが、対魔力スキルで回避可能。対魔力を持っていなくても、抵抗する意思を持っていればある程度は軽減できる。
「ガルニエ」とはオペラ座の別名であり、このスキルはその地下から語り掛ける彼の呼び声を指す。


338 : 湖月レオナ&アサシン ◆ylcjBnZZno :2022/07/07(木) 02:17:18 ZgHU2y/60

無辜の怪物:D
生前の行いからのイメージによって、後に過去や在り方を捻じ曲げられ能力・姿が変貌してしまった怪物。本人の意思に関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を指す。このスキルを外すことは出来ない。
誹謗中傷、あるいは流言飛語からくる、有名人が背負う呪いのようなもの。
小説『オペラ座の怪人』のモデルである彼は作品の影響を受けて素顔と両腕が異形と化している。

精神汚染:A
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。

【宝具】
『地獄にこそ響け我が愛の唄(クリスティーヌ・クリスティーヌ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大補足:200人
かつての犠牲者たちの死骸を組み合わせて作成された、パイプオルガンの如き形状の巨大演奏装置。
異形の発声器官をもつ自身の歌声と併せて奏でることで不可視の魔力放射攻撃を行う。

【weapon】
かぎ爪と化した両腕
美しい歌声

【人物背景】
ファントム・オブ・ジ・オペラ。十九世紀を舞台とした小説『オペラ座の怪人』に登場した怪人の、恐らくはそのモデルとなった人物。
とあるオペラ座地下の広大な地下迷宮に棲まい、オペラ座の寄宿生でコーラス・ガールを務めていたクリスティーヌという女性に恋をしたことから、彼女を姿を隠して指導。同時にオペラ座関係者への脅迫や実力行使により彼女を歌姫へと導くも、恋敵の出現や自身への信頼を揺らがせ始めたクリスティーヌの様子から暴走し始め、遂には殺人にまで手を染めた。
本名はエリック。

【サーヴァントとしての願い】
クリスティーヌの幸福


【マスター】
湖月レオナ@金田一少年の事件簿

【マスターとしての願い】
霧生鋭治を蘇生させ永遠に幸せに暮らす

【能力・技能】
卓越した演技力
連続殺人のトリックを思いつく計画力
連続殺人実行中に発生した数々のアクシデントを乗り越える機転。

【人物背景】
劇団「遊民蜂起」の団員にして舞台女優。20歳。
優れた容姿と高い演技力を兼ね備え、劇団内外にファンが多い。
合宿所の火事に巻き込まれた事から火がトラウマになっている。
この火事で顔にやけどを負いながら自分を救助してくれた霧生鋭治と恋仲となり駆け落ちするも、ある日霧生は行方をくらまし、自身は同じ劇団の三人の役者によって連れ戻されてしまう。
後にレオナは火事の原因がこの三人の役者であること、彼らに自首するよう説得していた霧生が彼らによって殺害されたことを知った。
そして火事を起こした罪を霧生に被せて、ヘラヘラと笑う三人の姿を見たレオナは『ファントムの花嫁』として復讐を決意した。

【方針】
聖杯を獲得する。


339 : ◆ylcjBnZZno :2022/07/07(木) 02:17:37 ZgHU2y/60
投下終了です


340 : 名無しさん :2022/07/07(木) 14:57:48 pBeEAHEo0
ここってどうでしょうか?
ttps://moshigra.com/


341 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/07(木) 23:48:08 Vb/lbftg0
無明の夜に、黎明が来る
この異界にあっても正しい道を外れない果穂が召喚したサーヴァントと意思を交わすパートが最も好きでした。
伝奇小説の邂逅シーンのような読み心地があり、読んでいて心が弾むものがありましたね。
そして"悪者"を撃破する場面までの運び方も読んでいて心地よく、構成力の妙を感じました。

ゆうこサキュバス
シャミ子がかわいい。あの独特な愛らしさを此処まで再現できることにまず驚きでした。
そしてアニメ版物語と西尾文体の間の子のような文章演出もとても魅力的で、これを滑る事なくこなせる事に技量の高さを感じました。
シャミ子の最後の台詞がとても好きなんですよね。決意でお話を切るの、とても原作らしさを感じる。

いずれその陽は墜ちるとしても
まさにいずれ墜ちる太陽であるクトリがそれでもと幸せを信じる様、本当に美しくて哀しいんですよね…。
彼女がギーのサーヴァントとして召喚されるのも納得ですし、不健康医師との会話も楽しい。
その上で描かれる儚く淡い地の文が最高に決まっていて、ただうんうんと頷くしかなくなるそんな一作でした。

湖月レオナ&アサシン
簡潔に纏まっていながらこの主従の味わいがよく描写されていた印象です。
果たしてマスターの彼女にはファントムの手綱を引き、凶器として使うことができるのかどうか。
そこのところが聖杯戦争に勝てるかどうかに大きく関わってきそうですね。

遅れましたが感想の方を書かせていただきました。
改めて皆様投下ありがとうございました。


342 : ◆A3H952TnBk :2022/07/08(金) 05:59:58 y5y4AINg0
投下します。


343 : 青木ルリ&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2022/07/08(金) 06:00:22 y5y4AINg0
◆◇◆◇



西洋の宗教とかだと、ドラゴンは。
古くから“邪悪なもの”の象徴だったらしい。
時には、悪魔とも同一視されるとか。
まあ、だから何だという話だけれども。






344 : 青木ルリ&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2022/07/08(金) 06:01:36 y5y4AINg0




何気無く日々を過ごしていると。
ふいに、気付かされることがある。
頭にツノが生えてると。
寝るとき、たまに不便なのだ。

寝てる間にベッドの上部をツノで傷つけてたり。
寝返りを打ったときに、たまに枕のシーツをちょこっと裂いてたり。
そもそも顔を横向きにするとツノが邪魔になったり。

青木ルリ、ただの女子高生。
ある日を境に、ツノが生えて。
半分龍の血が流れてるという自分の出自を明かされて。
そうなってからの日々は、何だか不思議なものがあったけど。
普通に生活しているだけでも微妙に不便になる瞬間は、ふいに訪れる。

休日の朝、多分7時過ぎくらい。
目が覚めて、ぼんやりと寝ぼけた眼で。
シーツやベッド上部の無事を、とりあえず確認する。
手で適当にまさぐったりして、諸々の部分を傷付けていないことを確かめて。

その直後に、私の足元にしがみつく「重さ」に気付く。
まるで金縛りのようにずっしりと伸し掛かる感覚に、私は目を細める。
別に驚きもしなければ、ビビリもしなかった。最近はよくあることだったから。
そして私は、そのままガバっと掛け布団を剥がした。


「ちょっと」


先程まで掛け布団で覆われていた場所で。
ツノ頭の女の子が、いびきをかいて寝ていた。
そう、ツノである。
私と同じように、頭から直に生えている。


「パワー、ちょっと」


その娘は、私の右脚に引っ付いたまま寝ていた。
視線を落とした私は、太股の下らへんに付いていた噛み痕に気付く。
牙で喰らいついたような形跡に、私は目を細める。

―――また血ぃ吸ったな、こいつ。

彼女は私が寝てる時、たびたび勝手にベッドに入ってくる。
そんで夜な夜な私に噛み付いて、血を吸ってくる。
手軽に血液の補給がしたいらしい――それで満足したら、この娘は大抵そのまま同じベッドで寝落ちする。
パーソナルスペースもへったくれもない。


345 : 青木ルリ&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2022/07/08(金) 06:01:59 y5y4AINg0

まあ、噛み痕自体は私にとって些細な傷だ。たぶん。
これくらいなら龍の代謝能力ですぐに治る、んだけど。


「寝てるとき吸わないでってば」


それとこれとは別である。
蚊じゃないんだから。
この娘は私がしぶといのを良いことに、遠慮なく血を吸ってくる。
いつか貧血になりそうで困る。
なってないけど。


「ん〜〜〜〜〜……」


ゆさゆさと身体を揺らしたら、ようやくパワーが目を覚ました。
猫みたいに大あくびをしながら、目をゴシゴシと擦っている。

というか、パワーちゃん。
サーヴァントは睡眠いらないって言ってたじゃん。
なんでほぼ毎日普通に寝てるんだ。


「聞いとらん〜〜〜……」
「寝る前言ったじゃん……」


パワーはよく人の話を聞かない。
都合の悪いことを頻繁に忘れる。
彼女はバーサーカーのサーヴァント。
理性と引き換えに強さを得る英霊らしいけど。
この娘は正気が奪われてるとかじゃなくて、単に自己中なだけである。
ステータスいわく、狂化スキルのランクが低すぎて理性を奪われてないとか何とか。


「ウヌはワシ専用の血液タンクじゃあ……」
「いや違うし……」
「ワシはバーサーカーじゃァ……狂気ゆえウヌの話など聞かん……」
「じゃ令呪使っていい……?」
「やめろォオオ」


とりあえず、私の脚にしがみついたままジタバタしないでほしい。





346 : 青木ルリ&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2022/07/08(金) 06:02:33 y5y4AINg0



聖杯戦争というものは、正直まだよくわかっていない。
サーヴァントとか、マスターとか。
一組になるまで戦えとか、願いが叶うとか。
急にそんなこと言われても、といった気持ちで。
眼の前にその現実が横たわっているのに、私の心はまるで追いついてなかった。

バーサーカーことパワーと出会ったのは、一週間と数日ほど前だった。
どんな出会いだったのか、と言うと。
私が学校から帰宅したら、あいつは普通にリビングでテレビ観ながら寛いでた。うちにあったポテチも勝手に食ってた。
そのときは不法侵入の不審者出現に動転して思わず通報しそうになったけど、あいつが「ワシがウヌのサーヴァントじゃあ!」とか言って事情を説明してくれたので事なきを得た。
パワーと出会ってから聖杯戦争の知識とやらも頭に流れ込んできたから、信じざるを得なかった。

というか、こないだ自分の生まれに関する衝撃の事実を明かされたばかりなのに。
今度は聖杯戦争だとか何とかで、私を取り巻く世界が忙しなさすぎる。

この世界に、お母さんはいなかった。
いないというか、“都外の実家にいる”ようで。
どういうわけか、ここでの私は下宿生活をしているらしい。
つまりは一人暮らしである。このでっかい都内で。
諸々の家事とかを自分でやっていたのだ。
どうやら自炊までこなしていたらしい。
我ながら信じがたい。
この世界の私、立派すぎる。


「ルリィ〜〜〜〜」


寝起きの気だるさを引きずりながら、リビングへと赴き。
適当に目覚めの一杯でも飲むか、なんて思って冷蔵庫を開けた矢先。
真後ろからパジャマの裾を引っ張りながら、パワーが呼びかけてくる。


「早くメシ作れ〜〜〜〜」


腹が減った、早くしろ、などと言っている。
毎日ご飯作ってくれるお母さんの偉大さを、よりによってこんな形で知ることになってしまった。


「何故ワシのメシがまだ無いんじゃあァア〜〜〜〜」
「いま起きたばっかだからだよ」


せっかくの休日だというのに、いきなりメシを所望されている。
一週間ちょい一緒に過ごして気付いたけど、パワーに“家事を手伝う”という観念はない。


「腹が減ったァアア〜〜〜〜」
「ちょっと待ってろー」
「メシぃぃ〜〜〜〜」
「はいはい分かったってば」


サーヴァントは食事も睡眠も要らないらしいのに、この娘は喰うし寝るしおまけに遊ぶ。
そのくせ家事は気まぐれにしか手伝ってくれない。というか基本的に手伝わない。
霊体化ってのを使えば姿を消せるらしいけど、パワーは嫌がるのでいつも堂々と寛いでる。


「早く作らんとウヌのツノぶっこ抜くぞォ〜〜〜〜」
「やめろや」


結果、実質的に扶養家族(?)が増えた形になっている。
マスターとサーヴァントって主従関係じゃないのか。というか私のが立場的に上じゃないのか。
妙な理不尽を感じてしまう。
こんな状況に慣れ始めている自分も、なんだか変な感じだ。


「トーストでいい?」
「モチじゃ〜〜!」
「うーい」
「でもサラダは嫌じゃ!」
「野菜は摂れよ……」
「嫌じゃあ……」


でも、まあ。
案外、悪くはない。
何だかんだで不思議なものだ。






347 : 青木ルリ&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2022/07/08(金) 06:03:29 y5y4AINg0



さっくりとトーストとサラダを用意。
マスターとサーヴァント、朝の食卓。
テーブルで向かい合って、一緒にごはん。
窓から仄かに朝の光が溢れて、リビングを照らす。
適当に付けたテレビからは芸能ニュースとかも流れてるけど、あまり興味はない。

トーストを齧りながら、私は目の前の相手を見つめる。
パワーは私よりも遥かに豪快にトーストへと喰らいついている。
折角用意したサラダは、しれっと私の方へと皿を寄せている。
いらないからやる、と言わんばかりに。
いけしゃあしゃあとしてるやつだ。
そう思いながら、バリバリとトーストを口に運ぶパワーを見つめていた。

視線の先。
パワーの頭のてっぺんにある、一対のツノ。
天へとピンと伸びる、
真っ赤に尖ったそれをぼんやりと見つめてから、私は自分の頭へと何気なく左手を伸ばし。
頭の根本から生えている、骨のような突起に触れた。
突起―――そう、自前のツノである。
私の頭にも、一対のツノがくっついている。
私とパワーで、ツノとツノ。

ある日の朝、急にツノが生えてきて。
お母さんから「あんたは龍と人のハーフ」なんて告げられて。
それだけでもひっくり返ったけど。
まさかツノで“おそろい”になる日が来るとは、夢にも思わなかった。
そんなパワーを見つめながら、ふいに考える。


「そういえばさ」
「うん」
「パワー、聖杯欲しいんだよね」
「そう……ワシのもんじゃ……」


もう勝った気になってないか?
謎に誇らしげな笑みを浮かべるパワーへのツッコミを抑える。


「戦わなくていいの?」
「いずれは戦う時が来るんじゃあ〜〜〜でも今はその時じゃないんじゃあァァァ」
「先延ばしにしてる夏休みの課題みたいだ……」


聖杯戦争は、奇跡の願望器とやらを巡って戦う。
他の主従をみんなやっつけたら、何でも願いを叶えられる。
そういうことらしい。

私には、特に願いはなかった。
強いて言うなら「うちに帰りたい」とかそれくらいだし、「お金持ちになりたい」とかそういう俗なものも気が引ける。
しょうもない願望もあれこれ浮かぶけど、別にみんなを蹴散らしてまで叶えたいことじゃない。
だから私はこの世界に来て、未だに聖杯戦争に対して積極的ではない。


「……それでさ」
「なんじゃ」
「パワーは、なに叶えたいの?」


じゃあ、パワーはどうなんだろ。
ふと思ったことだった。


348 : 青木ルリ&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2022/07/08(金) 06:03:57 y5y4AINg0
パワーと出会ってから、未だになんとなく聞きそびれていたことだった。
何というか、あまりに生活に馴染んでいたから。
戦うとか願いとか、そういうのを聞く空気でもなかった。
パワーにどれだけやる気があるのか否かも、正直わからないけれど。
それでもいつかは向き合うことだからと、腹を括って問いかけた。

肝心のパワーは。
なんだか、神妙な顔をしてて。
ほんの少しだけ、沈黙して。


「ワシ、友達おる」


そして、ぽつりと呟き始めた。
パワーの友達。初めて知ることだった。


「あいつ、ワシにまた会いに来てくれるって約束した」


思い出を振り返るように。
ぽつぽつと、自分のことを語る。


「だからワシも、会いに行くんじゃあ……」


どこか感慨を抱くように、宙を仰いでいた。
そんなパワーの姿に、なんとなく驚いてしまって。


「……そっか」


そして私は、ただ一言。
そんな反応を呟いた。


「ところでウヌはぼっちか?」
「ちゃいます」


パワーって、あんな顔するんだ。
ふいにそう思ってしまった。
すごく、寂しそうで。切なそうで。
ただのぼんくらだと思ってたこの娘が、何となくかわいそうに見えた。








『だって、デンジは』


『デンジは……』


『初めて、できた……』


『友……達―――――』







349 : 青木ルリ&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2022/07/08(金) 06:04:43 y5y4AINg0




「ルリ!!マリカー対戦じゃあ!!」
「メシ食って即ゲームかい」
「もしやウヌは戦いから逃げる気か?腐りきった臆病者が……!」
「そこまで言うか……」


そんなこんな言いつつ。
パワーはいつもこの調子である。
メシ食って遊んでは寝てばかり。
大丈夫なのかこれ―――そう思いつつもあるけど。
嫌かどうかで言ったら、別に悪くもない一時だった。

ツノが生えてても。
案外みんなは、受け入れてくれた。
人見知りだった私だけど。
ツノをきっかけに、何だかんだで繋がりが生まれた。

世の中、色々な人がいる。
火を吐いたり、ツノが生えたり、そんな人もいるけれど。
普通と違った特性を持つ人なんて、よくあること。
だから、仲良くやっていきましょう。
そんなふうにクラスの先生が言ってたのを、ふと思い出す。

そして、いま。
むちゃくちゃで、ぼんくらだけど。
自分勝手で、ワガママだけど。
それでも、何だか妙に憎めない。
そんな“同じツノの友達”ができた。
―――いやまぁ、やっぱりアレな娘だけど。
でも、これはこれで、友達なのかもしれない。
誰かと毎日一緒に過ごして、なんだかんだ馴染んでいるのだから。


「パワー最強!!パワー最強!!マリカーのチャンピオンじゃあ!!」
「しょっちゅう私に負けてんじゃん」
「ワシが勝つんじゃあ〜〜〜〜〜、ついでに聖杯もワシのモンじゃあぁぁ〜〜〜〜〜」
「聖杯とマリカーは関係ないだろ……」


それにしても、わたし。
つくづくヘンな人生送ってるなあ。
そんなことを、しみじみ思ってしまう。



【クラス】
バーサーカー

【真名】
パワー@チェンソーマン

【属性】
中立・中庸

【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:C 魔力:C+ 幸運:E 宝具:B+

【クラススキル】
狂化:E-
ワシは狂気の英霊じゃ……
まさに最強のサーヴァントなんじゃあぁ……
E-ランクの狂化スキルに相当する自己中である。
思考能力は正常に保たれているが、能力補正は特に無し。
ただし血液を過剰に蓄えすぎると狂化スキルにプラス補正が掛かる。
つまるところ、適度な血抜きをしないと更に傲慢になっていく。


350 : 青木ルリ&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2022/07/08(金) 06:05:24 y5y4AINg0

【保有スキル】
パワー参上!!:B→A
「がははははは!!ワシの出番じゃあ!!」
任意発動型のスキル。
その場で大騒ぎして己の存在を喧伝し、一定時間に渡って敵全員のターゲットを自身に集中させる。
発動中は自身の耐久値にプラス補正が掛かり、また自己再生能力の効率が上昇する。
宝具『血の悪魔』発動時にはAランクに上昇し、効果が更に強化される。

吸血:B
血の魔人としての吸血能力がスキル化したもの。
血液を摂取して体内に蓄えることができる。
蓄積した血液は宝具による能力行使に回せる他、自己治癒に使うことも出来る。
また後述のスキル『血晶』は血液の蓄積量に応じて効果が発動する。

血晶:B+
バーサーカーが蓄えてる血液量に応じて魔力を自家発電できる。
溜め込んだ量が多いほど高効率での生成が可能となる。
なお一度生み出した魔力はそのままバーサーカーにストックされるため、『どれだけ魔力を自家発電しようと血液が無くなった時点で枯渇』という事態にはならない。
また、あくまで魔力を“自家発電”しているので、このスキルが発動することで血液の蓄えが減少するといったことも無い。

反骨:A
彼女はたった一人残された友達を守るため、“支配の悪魔”にさえ叛逆した。
同ランク以下の精神干渉能力を無効化し、ランクを上回る場合でも効果を大幅に軽減する。

簒奪:E++
ワシのじゃ……
神秘の宿っていない武器や乗り物を操る際、初撃に限りサーヴァントを傷付けることが可能になる。
例えただの自動車であろうと、バーサーカーが運転すれば英霊さえ轢殺できる(運良く一撃で殺せればの話だが……)。

【宝具】
『血の魔人(パパパパワー!!)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
人間の死体に悪魔が憑依して活動する『魔人』としての肉体と能力そのもの。
悪魔の力に由来する高い身体能力と再生能力を持つ他、固有の能力として血液を自在に操作できる。
バーサーカーは主に自身の血液を媒介に武器を生成して戦う。
血を蓄えれば蓄えるほど能力がパワーアップするものの、蓄えすぎると狂化スキルにプラス補正が掛かりツノが更に生えてくる。
逆に能力を使い過ぎると貧血になり、一時的に行動が難しくなるという欠点も持つ。
またその気になれば他人の血も操れるようだが、あまり得意ではない模様。

『血の悪魔(ミス・プレジデント)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
魔人パワーの本体である『血の悪魔』へと一時的に変身する。
通常時とは全く異なる異形の風貌と化すものの、人格は普段と一切変わらない。
全パラメーターが1ランク上昇し、血液を操る能力が劇的に強化される。
無数の血液武器の射出、他者の血液操作による体内破壊など、その規模と殺傷能力は魔人状態の時とは比較にならない程。
ただし宝具の維持に必要な魔力消費も大きいため、『血晶』スキルによる魔力貯蓄が不可欠となる。

【Weapon】
血で精製した武器

【人物背景】
悪魔への対策を担う公安退魔特異4課に所属するデビルハンター。
人間の死体に悪魔が憑依して生まれた『魔人』の少女であり、血の悪魔が本体となっている。
自己中かつ理不尽な性格で、更には虚言癖持ちで差別主義者。
どうしようもないボンクラだが根は純朴で素直。
同僚となるデンジや早川アキとは最初こそ揉めていたものの、次第に家族のような関係へと変わっていった。

【サーヴァントとしての願い】
“あいつ”がパワーを見つけに行くように。
ワシも“あいつ”を見つけに行く。


351 : 青木ルリ&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2022/07/08(金) 06:06:13 y5y4AINg0

【マスター】
青木ルリ@ルリドラゴン

【マスターとしての願い】
特に展望なし。
いつかはうちに帰りたい。

【weapon】
なし

【能力・技能】
人と龍のハーフ。龍のツノが生えている。
龍の代謝能力も遺伝しており、喉の大火傷や刺し傷くらいなら数日くらいで自然治癒する。
そのせいでバーサーカーから夜な夜な血を吸われがち。
その気になれば口から火も吐ける。暴発は克服したが、まだ完全制御は出来ていない。

【人物背景】
何処にでもいる普通の女子高生。
「あ……?何コレ」
ある日の朝、目覚めるといきなりツノが生えていた。
お母さんに聞いてみたら、衝撃の答えが返ってきた。
「あんた人と龍のハーフなのよ、父親が龍だから」
冗談だと思いきや、どうやらマジらしい。


352 : ◆A3H952TnBk :2022/07/08(金) 06:06:38 y5y4AINg0
投下終了です。


353 : ◆TPO6Yedwsg :2022/07/08(金) 14:13:49 pvdI7bF60
投下させていただきます


354 : 誰かが苦しんでおるところが見たい。 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/08(金) 14:14:36 pvdI7bF60

「誰かが苦しんでおるところが見たい」

 そのサーヴァントは、笑顔でとんでもないことを言い放った。
 黒衣を纏った金髪のエキゾチックな美女、しかしその姿は英霊としての仮初の姿でしかない。
 彼女は、否、彼でも彼女でもないが、女性の姿を取っているからには彼女と呼ばせてもらおう。
 彼女は竜だ。神ならぬ身にて神さえも蹂躙する、特大の邪竜だ。

「誰かが苦しんでおるところが見たい」

 大事なことなので二度も言った。
 ぽかん、と口を開けて自身を見上げているマスターに対し、何に憚ることもなく神は己の在り方を顕示する。

「わえは天地を覆う苦難、試練を与えるもの、世を虐げる邪竜よ。だが、虐げることそのものが目的ではない。
それを乗り越えるところが見たい。わえという苦難を必死に乗り越えるものこそがわえの望み」

 彼女こそはアスラシュレーシュタ。
 その名が示すものは『最も優れたるアスラ』『障害であり塞ぐもの』。
 修羅場、という言葉は、その始まりからして彼女とさる雷の神の戦場を意味するもの。

「それはか弱き人の子だろうと力ある神だろうと世界の意思だろうと構わぬ。
いやむしろ驕り高ぶった神とかががわえを前に四苦八苦しているのを見るのは最高に楽しい。
わえの持つ力はそのためにこそあり、わえの持つ力が新たな輝きを生み出すことこそ最高の愉悦よ」

 まさに、この世の全てを弱者と断じる邪神の理だ。
 力あるものも力なきものも、全てをねじ伏せ蹂躙する災害。
 等しく全てに苦難を与え、等しく全てにそれを乗り越えることを望む。
 神の理不尽で、竜の暴力で、一切の呵責なく。
 ランサー、ヴリトラはそれを心の底から楽しんでいるのだ。

「き、ひ、ひ。この聖杯戦争とやらは良い。古今東西の英雄が、神が、わえも知らぬ異界のものどもが集う!
この選定期間とやらに100を余る程の英霊がいることか、そしてそこから生え抜かれた数十騎がしのぎを削ることか!
なので、わえはそんな切なる願いを持つ主従とか、ただただ暴れたい主従とか、何がなんだか分からない主従とかを虐めに行く」

 邪悪、ではないのだろう。この神は信じている。苦難を乗り越える可能性を、強きも弱きも関係ない、あらゆるものが持つ輝きを。
 ただ、悪ではないにしろ、どこまでも邪である。厄介極まる。どこまでも欲に忠実である。
 己のマスターの願いなど知ったことではないし、従ってやる義理もない。

「面白きものがいればちょっと手を貸してやるのも吝かではないかもしれんなあ。
まあ無論その苦難の果て、最後に立ち塞がるのはわえなんじゃが。楽しみじゃのう、楽しみじゃのう!
――貴様はどう思う? わえの召喚者、マスターよ」

 そんなどうしようもない迷惑な邪竜を召喚してしまった、不運なマスターがここにいる。
 フードのついた緑のパーカーを来た、白髪の男子だ。あどけない高校生ほどの少年だ。
 まさに常識の外、埒外の理をぶつけられ、少年は唖然とした面持ちで――


355 : 誰かが苦しんでおるところが見たい。 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/08(金) 14:16:51 pvdI7bF60

「――素晴らしいよ!!!!!!」



 その表情を、歓喜に染め上げた。
 彼もまた、心の底から、邪竜の理を礼賛したのだ。
 不運? とんでもない。常人にとっての不運たるこの邪竜の召喚は、少年にとって何よりの幸運だった。
 これこそが、彼の求めるものだったのだ。

「認めざるをえないよ……君こそが試練の象徴。最上級の絶望。それなのに、絶望でありながら誰よりその先の希望を願っているなんて……
ああ、ボクはボクが恥ずかしい……ボクみたいな矮小なクズでも、この聖杯戦争に集う希望の欠片たちの踏み台になれればいいと思っていた。
それに相応しい絶望的なサーヴァントが来ればいいとさえ思っていた。けれど、聖杯はそんなボクに、予想だにしなかった『答え』をくれた!」

 美少年のかんばせが狂気に歪む。瞳の中に輝く闇が渦巻く。
 そう、試練の邪竜を召喚したものもまた、試練を望むもの。
 それも試練の先に待つ希望のためならば、どれだけの破滅が訪れようとかまわない。
 狛枝凪斗という『超高校級の幸運』という称号を持つ彼は、そんな少年だった。

「君は最高だ、ランサー。インド神話に燦然と輝く邪竜ヴリトラ。邪魔なんてしないよ、君は君のあるがままにあって欲しい。
この聖杯戦争にあるがままの試練として君臨して欲しい。ボクも、君の与える試練に華を添えられるよう最大限努力するけど……
けど、流石に君という絶望の頂点を目にしてしまったら、ボクなんかに何ができるのかって思っちゃうな」

 狛枝は、なんと自信を喪失していた。
 気持ち悪いほどのネガティブにしてポジティブ、超高校級の絶望によって世界が滅んだ後でさえも希望を求め彷徨っていた狂人でさえ。
 否、狂人だからこそ、求める理念にこれ以上ないほど噛み合う解答を与えられ、自身の意味を失いかけている。
 ヴリトラのもたらす試練に比べれば、自分が生み出せるであろう試練などなんと矮小なことか。
 かつての自分であれば、そこに例え何の意味もないとしても実行に移しただろう。
 だが、明確な自身の上位置換、自分以上に自分の願いを叶えてくれる存在を前に、果たして自分は必要なのか?
 限りない歓喜の中に、限りない苦悩があった。
 そして、その見えざる苦悩を、邪竜は正確に見抜いてみせる。

「同好の志を得られて嬉しいぞ。だがマスターよ。わえは、貴様にも望んでいるのだぞ? そう、希望をな」

「ボクが、希望? そんな……恐れ多いよ。こんな幸運なんてゴミクズのような才能しか持たない、人と呼ぶことすら烏滸がましいボクなんて。
ボクは、皆の希望の踏み台になれればそれで――」

「貴様がゴミクズと呼ぶその『幸運』が、わえをこの聖杯戦争に呼び込んだ。聖杯が、貴様の『幸運』を見ていた」

 呼吸が、止まった。
 それは絶望によるものか、それとも歓喜によるものか。
 まだ、どれでもない、ただただ天啓を与えられたことによる、思考の停止だった。

「貴様の希望にして絶望たるわえが認めよう。狛枝凪斗よ。貴様の幸運がわえを呼んだ。
わえはこの聖杯戦争にこれ以上ない絶望を生み、その果てにこれ以上ない希望をもたらそう。
わえは、貴様がこの地にもたらしたものである。であれば、わえの希望と絶望は、貴様の希望と絶望であることに相違あるまい」

「そんな、そんな……ボクは……そんな恐れ多いことを、他でもない君が認めるというのか?」

「我がマスターよ。貴様もまた、わえという絶望を乗り越える希望となるがいいぞ。わえが許す」

「ボクは……ボクは……」

 体が打ち震える。
 喉の奥から制御できない音がせり上がってくる。
 闇を何十にも折り重ねたと形容されるような淀んだ瞳の中心に、一点の光が灯る。


356 : 誰かが苦しんでおるところが見たい。 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/08(金) 14:17:40 pvdI7bF60

「はは、ははは、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」


 そして、狛枝は嘗てない境地に至った。
 神だ、神がここにいた。
 狛枝はヴリトラを己の神と定め、そして――それを打ち破ることをここに誓ったのだ。
 天高く、令呪を宿した腕が掲げられる。

「令呪三画を捧げ、願う! ヴリトラよ、『試練であれ』!!!」

 それは誰よりも純粋な暴挙であった。
 邪竜ヴリトラを縛る三度限りの命令権、それを狛枝は歓喜のままに手放した。
 願いが一致すれば奇跡さえも呼び起こせる力のすべてを、『試練であれ』と、ヴリトラと完全に一致する願いを彼女に注ぎ込む。
 今ここに、試練の邪竜は純粋なる願いを受けその威容を増し、軛から解き放たれた。

「誓おう! ボクは、君の望みを受けた! その願いこそが、ボクの希望を証明するものであると!
ボクがボクを信じられずとも、君が信じるボクを信じ、ボク自身も希望へと邁進しよう!
この聖杯戦争の中で、必ずや『君を打ち倒す希望』を見出し、生み出してみせる!
それが、君という偉大なる同胞に対する、ボクの答えだ!」

「きひひ、きひひひひひひ! それでこそよ! この混沌の坩堝にあって、わえに最も近しいマスターが諦めていることほどつまらんことはない!
踏み台結構、絶望結構、しかし踏み台となって尚、自身も上り詰め次の踏み台に、そして踏み台を重ね自分自身さえもわえのもとに至る!
そんな欲望を抱かねばな! いいぞいいぞ、貴様の願いは実に甘美。わえは貴様の試練であり貴様の力。すべての敵でありすべての味方!
わが欲のまま、世界を塞ぎ、共に開こうではないか!」

 何処かで、狂気の声が木霊する。
 この声は、まだ誰にも届いていない。
 しかしこの声の届くときが、誰かにとっての試練の時、絶望の時、希望の時。
 すべては表裏一体であり混沌、あまりにもあんまりな絶対に解き放ってはならない邪すぎる主従が、ここに産声を上げてしまったのだった。


【クラス】
ランサー

【真名】
ヴリトラ

【パラメーター】
筋力A 耐久C 敏捷A 魔力A 幸運D(+++) 宝具EX

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:A
魔力への耐性。
ランク以下を無効化し、それ以上のものはランク分軽減する。
事実上、現代の魔術師ではランサーに傷をつけることはできない。

竜種:A
竜、もしくは竜を模した魔獣のこと。
分類としては幻想種同様「魔獣」「幻獣」「神獣」の全ランクに存在しており、
なおかつその中で最優良種と見なされることが常である『幻想種の頂点』。
その心臓はそれ自体が魔力の発生源となっているため、外部にマナがなくても自分で魔力を生成して生存可能。
真なる竜ともなればもはや一つの概念に等しく、竜退治という行為は「自分の存在の全てをかけて竜の存在の全てを打倒する」レベルである。


357 : 誰かが苦しんでおるところが見たい。 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/08(金) 14:18:30 pvdI7bF60

【保有スキル】
穿貫せしヴァジュラ:A
宿敵インドラの武器、金剛杵とも。
自らを貫いているものとして、体の一部扱いでランサーはこの神具を持ち込み、自在に操る。

宿命の神敵:A
伝承により様々な姿で語られるヴリトラではあるが、
一方、その役割は常に変わらない。
根本的に神と対立する存在であること、その不変の立場と存在意義を示すスキル。

永遠不滅の魔:EX
インドラに敗れようとも、時が経てば再びヴリトラは蘇り、また神との闘争を始めるという。
自然現象にもなぞらえられるその永劫の繰り返し、不滅性を示すスキル。
「水を堰き止める(干魃をもたらす、あるいは雲や山に閉じ込める)ヴリトラ」と「それを雷雨にて解放するインドラ」の対立は一度きりのものではなく、
遥か過去から繰り返されてきたものであり、また、未来においても永遠に続く。
それはあるいは自然と神に対する原始の信仰そのもの。
人々が自然に対する畏敬を神に込めたのとまったく同じ強度を持って、ヴリトラは不滅の魔として君臨する。

【宝具】
『魔よ、悉く天地を塞げ(アスラシュレーシュタ)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:9~99 最大補足:1000人
アスラシュレーシュタ。
ヴリトラの異称「アスラの中の最上のもの」の名を冠した宝具。
眷族、あるいは自分そのものの分体である魔の軍勢を用い、自らの存在意義通りに天地を覆い、対象を隔絶させる。
「ヴリトラは自らの身体で水を山に閉じ込めた」という伝承における「山」が「雲」のことでもあると解釈されるように、その様は不吉な雲が世界を覆い墜つるがごとし。
ヴリトラは邪竜であると同時に、アスラ(魔族)としても語られており、アスーレンドラ(アスラの王)との名も持つ。
マハーバーラタにおいては、ヴリトラに率いられたカーラケーヤやラクシャーサなどの魔族の大軍にインドラたち神々が苦しめられた描写も存在するため、
「何かを堰き止める」権能だけでなく純粋なる暴力の軍勢としても彼女はこれを行使できる。

【weapon】
借りパクしたヴァジュラ
竜たる自身の肉体

【人物背景】
いつものわえ様。FGOを参照。
何、数十騎の異世界のものどもがしのぎを削る聖杯戦争じゃと?
こんなの試練するしかないじゃろ!

【サーヴァントとしての願い】
誰かが苦しんでおるところが見たい。


【マスター】
狛枝凪斗@スーパーダンガンロンパ2

【マスターとしての願い】
この聖杯戦争に、最高の絶望と最高の希望を。

【能力・技能】
超高校級の幸運と呼ばれる異能。
狛枝の幸運は自身と周囲に不運を撒き散らした後、その反動ともいうべき大きな幸運を呼び寄せる。

【人物背景】
スーパーダンガンロンパ2における超高校級の幸運。
自らの才能がもたらす不運によって多くを失い後に来る幸運の恩恵を受けてきた少年の心は歪み果て、『絶望の先に希望が訪れる』という思想を持つに至った。
思うだけならまだいいのだが、原作においては自ら絶望を引き起こし希望溢れる才能を持った誰かがそれを乗り越えさせるという蛮行をしでかすようになる。
前編を通してのトリックスター、荒らし役。
世界が試練を与えてくる天運は、非常にわえ様ポイントが高い。
ただ当の本人が自分を卑下するためわえ様がちょっと発破をかけたら光の奴隷に似て非なる別の何かに覚醒してしまった。

【方針】
希望の踏み台となる。しかし自身も希望のカケラとして、ヴリトラへと挑む。
ヴリトラを打倒する希望を生み出すべく暗躍し、試練を与える。
状況によってヴリトラと共に行動したり、ヴリトラから離れて他陣営に単独で勝手に干渉しに行く。
見込みのない陣営は潰すだろうし、興味深い陣営はヴリトラを打倒とする希望とするべく支援を惜しまないだろう。
なんだこいつら……無敵か?

【備考】
開幕で狛枝が令呪三画をぶっぱし、ヴリトラを強化しました。
この強化内容は妥当な範囲で後続の書き手さんが自由に決めて構いません。
特に思いつかなければステータスの強化、単独行動スキルの付与などが安牌かと思います。
またマスターである狛枝の影響によりランサーの幸運ステータスの数値が常に乱高下しています。


358 : ◆TPO6Yedwsg :2022/07/08(金) 14:18:53 pvdI7bF60
投下を終了します


359 : ◆TPO6Yedwsg :2022/07/09(土) 12:22:01 hLSF3r7M0
重ねて誤記報告失礼します。
拙作の「誰かが苦しんでおるところが見たい。」のランサーヴリトラの出典を明示し忘れました。
またアライメントに間違いがあったのでこの二箇所を訂正します。

×【真名】ヴリトラ
◯【真名】ヴリトラ@Fate/Grand Order

×【属性】中立・善
◯【属性】中立・悪


360 : ◆TPO6Yedwsg :2022/07/09(土) 23:43:18 hLSF3r7M0
続けて投下させていただきます


361 : 歌う悪魔と歌う少女 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/09(土) 23:45:22 hLSF3r7M0

「俺はお前のことなんて知らねえし、聖杯戦争なんて興味ねえよ」
「ええー!? 興味ないんデスか!?」

 辛辣な言葉をぶつけるのは、青メッシュ混じりの赤髪にパンクファッションを着こなす青年だ。
 アンニュイな表情を一切変えず、右手に宿った令呪をしげしげと眺めている。
 それを聞いて仰天するのが、召喚されたサーヴァントである少女だ。
 バッテン印のヘアピンが特徴の、快活そうな威勢の良い金髪の少女だった。

「そ、そんな事言われても困るデスよ! ここには調もいないし、S.O.N.Gもないし、あたしはさーゔぁんと? になっちゃったし……
とにかくセーハイセンソウっていうのに参加して、情報を集めないといけないデス!」
「俺は困らねえ。お前の力なんて必要ねえぜ」
「なんでこの人こんな塩の味しかしないデスか!?」

 困り顔のサーヴァントに対し、マスターはどこ吹く風。
 ピクリとも動かないアンニュイフェイスに、少女はぐぬぬと唸った。
 少女にとっては異界東京都とやらも、サーヴァント化した自分も完全に理解の外の現象だった。
 いや、一応一通りの知識は頭の中にインストールされたのだが、今ここにいる自分は一体何なのか。

 いつものようにアラートが鳴ったので出動し、『ギャラルホルン』の様子を見に行ったらこの始末。
 どうすれば自分は帰ることができるのか、セーハイとやらを掴めばいいのか。
 そのために戦う必要があるなら仕方ないだろう、幸い自分のコンディションは最高値で固定されているようだし。
 願いを賭けて戦うというのなら、それは対等な決闘だ。虐殺とかでないのなら否はない。
 そう悩みつつも一念発起して、マスターに声をかければ、帰ってきた返事はなんともまあつれないもの。

「マスターさんは、叶えたい願いとかないデスか? このままでいいのデス?」
「俺に願いなんてない。選ばれたことが残念だぜ」
「それは……巻き込まれただけなら、無理強いはできないデスね……」

 しょもん、と少女は意気消沈する。
 主従というのは少なからず相性が関連するという知識から、自分のマスターはきっと気が合う人だと思った。
 しかしそもそも聖杯にかける願いもなにもないというのであれば、切り口もない。

「…………」

 マスターの青年は、そンな少女をじっと見つめる。
 今しがた拒絶の言葉を吐いたはずの青年は、何かを訴えかけるように見つめ続ける。


362 : 歌う悪魔と歌う少女 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/09(土) 23:46:22 hLSF3r7M0

「? なんデスか? あ、ひょっとしてあたしの美貌に――」
「俺は戦うのは嫌いだ。歌うのはもっと嫌いだけどな」
「ガーン!? まさかの追い打ち!? っていうか、歌うの嫌いなんデスか!? そんなロックシンガーみたいな格好で!?」

 戦うことどころか歌も否定された。
 歌は少女にとっての武器であり、かけがえのない大好きなものだ。
 もうなんか、何もかもが噛み合わなくて流石に元気が取り柄の少女もちょっと泣きそうだった。

「…………」

 そんな少女を見て、青年は僅かに顔をしかめる。
 小さくあー、とか、いや、とか気まずそうに頭を掻いた。
 お互いそんな状況で、ちょっとだけ間が空いて。

「……よし」

 アクションを起こしたのは、青年だった。
 どこからか、長い何かを持ち出す。
 それは少女にとっても非常に馴染み深いものだった。

「マイクスタンドとスピーカー? マスターさん、歌が嫌いなんじゃ……?」
「…………」

 手に持ったマイクを大切そうに握りしめ、一呼吸おいて、青年は少女を指差す。

「全く気分が乗らねえぜ……お前のためになんて歌ってやらねえからな」
「……? デ、デデデ???」

 ここまで来ると、最早訳がわからなかった。
 否定に否定を重ね、もったいぶったと思ったらまた否定。
 別に少女は強制するつもりなんて欠片もないし、そんなに念を押さなくても……と思い、そして別のことに思い至る。

 そうだ、いちいちこんなことを口に出す理由があるか?
 確かに世の中には人の嫌がる顔を見て愉悦を感じるようなどうしようもないダメな大人がいるが。
 しかし少女は一貫して、この青年からそんな悪い気配を感じないのだ。
 悪い言葉を使ってはいるが、そこに悪意を全く感じないのだ。
 で、あれば、この一連の行動の意味は何か?
 少女は顔に似合わず、過酷な生活を沢山の仲間と共にしてきた経験がある。
 だから、少しだけ分かることがある。

「……なんだよ、ついてくんなよ。俺は路上になんか出ねえし、お前に聞かせる歌はねえからな」
「!」

 なんともおかしいものだ、自分はついていってなどいないのに『ついてくんな』とは。
 明らかに不自然なこの発言に、少女はついにこの『素直じゃない人』の真意にたどり着いた。

「……分かったデス! ついていくので、マスターさんの歌、聞かせてくださいデス!」
「…………!」

 その言葉に、青年は大きく目を見開いた。
 まるで、望んだ答えを得られたかのように、その目には輝きがあった。


「――お前、俺のこと全然分かってねえよ。最低だぜ」


 青年の口元に、微かに笑みが浮かんだ。
 二人はマイクスタンドとスピーカーを持って、外に出た。


363 : 歌う悪魔と歌う少女 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/09(土) 23:48:10 hLSF3r7M0

 駅近くの橋、通行の邪魔にならない程度のスペースで、青年はマイクスタンドを構え、少女は一人目の観客となった。
 派手なカラーのロックシンガーの登場に、通行人も僅かにざわめき、足を止める人もチラホラと見える。

「これっぽっちもやる気が出ねえ……お前ら、せいぜい盛り下がってろ!」

 口から出るのは相変わらずの憎まれ口。
 なんだこの不遜なやつは、とざわめく人々は、その後に評価を一転させる。

「〜♪ ――Loki Rock you!」

 足元のスピーカーから音楽が奏でられる。
 聴衆の目を引き付ける腕の振り付けから、空気を揺さぶるロックフレーズが響き渡る。
 この世のものとは思えない悪魔のような美貌から、魂を震わせる歌唱が飛び出した。

「Loki Rock you Loki Rock you! Loki Rock you Loki Rock you!」
「わあ……!」

 少女には分かる、それは命をかけた、魂をかけた歌だった。
 自らの存在意義を示すかのように、青年はロックを奏でる。
 最高峰の歌姫と比すれば荒い所はいくつかある、しかし本当に大切なことはそんなところにはない。
 これは――形は違えど、これは彼なりの『絶唱』だ。

「ろっきろっきゅーろっきろっきゅー……ろっきろっきゅーろっきろっきゅー!」

 脳裏に響き渡るフレーズを口ずさむ。
 青年のロックは、少女にとっても心地よい、とても好みの曲調だ。
 きっと気が合うと思っていた、それは何も間違いではなかった。
 やがてコールは観客に伝播していき、突発の路上ライブは大盛況を迎える。

「「「ロッキロッキューロッキロッキュー! ロッキロッキューロッキロッキュー!!」」」

 その熱狂は、三度のアンコールが終わるまで続いた。
 アンコールのたび、青年は悪態をつき続けたが、しかし言葉とは裏腹に観客の期待に応え、歌い続けた。


364 : 歌う悪魔と歌う少女 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/09(土) 23:48:44 hLSF3r7M0

「なんでかは分かんないデスけど、嘘しかつけないデスね?」

 ライブが終わり、後片付けを始める青年の顔を覗き込む。
 青年はそれを見て、おもむろにまたマイクを構えた。

「〜♪ その通りだぜ♪ 分かってくれて、ありがとな♪ ついてきてくれて嬉しかったぜ♪」
「わっ!? あれ……今回は素直デス」

 青年はリズムに言葉を乗せる。
 その内容は、今までのような悪態ではなかった。

「俺はロキ♪ メギドラルからやってきたメギド♪ ヴィータはメギドを悪魔と呼んだ♪ 俺のメギドの個のさだめ♪ 俺は嘘しか話せねえ♪
嘘なんてホントは大嫌いだ♪ けど歌ならいけるんだ♪ 歌ならホントを言えるんだ♪ だから俺は歌を歌いに、ヴィータの世界にやってきた♪」
「嘘しかつけない……けど歌なら嘘をつかなくていいデスか? ううっ、苦労してきたデスね」

 つまり、これまでの言葉は全て嘘だったということだ。
 と、するとだ。少女はこれまでの会話を思い出してみる。


「俺はお前のことなんて知らねえし、聖杯戦争なんて興味ねえよ」
>『俺はお前のこと知ってるぜ、聖杯戦争にも興味あるな』

「俺は困らねえ。お前の力なんて必要ねえぜ」
>『俺は困ってる。お前の力が必要だ』

「俺に願いなんてない。選ばれたことが残念だぜ」
>『俺には願いがある。選ばれて光栄だぜ』

「俺は戦うのは嫌いだ。歌うのはもっと嫌いだけどな」
>『俺は戦うのは好きだ。歌うのはもっと好きだけどな』

「全く気分が乗らねえぜ……お前のためになんて歌ってやらねえからな」
>『お前のために歌いたい気分だ』

「……なんだよ、ついてくんなよ。俺は路上になんか出ねえし、お前に聞かせる歌はねえからな」
>『ついてきてくれよ。俺は路上に出るから、俺の歌を聴いてくれないか』


 つまり、こういうことだったのだ。

「ただのいい人じゃないデスか!?」
「お、おう……?」

 つまりこの人は戦うのが好きで、歌うことはもっと大好きで、聖杯にかける願いもあって。
 なーんの問題もないということだ。
 メギド、とかヴィータ、とか専門用語らしき単語はよく分からなかったけど、少女に懸念することはもう何もなかった。
 だってこのマスターは、ただの素直じゃないだけのとびっきりの歌好きだったのだから。
 歌を愛する人に、真の悪人はいないから。
 だから、ようやく自己紹介もできるというもの。


「あたしはランサーのサーヴァント、暁切歌デス! イガリマのシンフォギア装者で、歌うのは大好きデス!」
「そうかよ。お前の歌、全然聞きたくねえな。後で聞かせるんじゃねえぞ」
「はいデス! 後で一緒に歌いましょう! ところで、そんな癖を持ってて一人で辛くなかったデス?」
「一人だった頃は辛くなかったが、マネージャーがいた頃は辛かったな。マネージャーは俺の真意を理解しないやつだった」
「はえー、マネージャーさんがいたデスか!? 翼さんとマリアみたいデス!」
「その翼とマリアってやつ、気にならねえな。話なんてしなくていいぞ」
「ここではあたしがマスターさんの通訳にならないとデスねー」


 戦意は十分、そして歌への気持ちも十分。
 ここに、胸の歌を力とする悪魔と少女の主従が結成された。




【クラス】
ランサー

【真名】
暁切歌@戦姫絶唱シンフォギアシリーズ

【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運B 宝具B

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。


365 : 歌う悪魔と歌う少女 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/09(土) 23:50:11 hLSF3r7M0
【保有スキル】
レセプターチルドレン:C
終わりの魂の器。
輪廻転生を繰り返す先史文明期の巫女の器候補として集められた孤児であり、実験体として調整、訓練を施されていた。
シンフォギアの適合者候補として厳しい訓練と薬物による強制適合実験を繰り返したため、痛みや毒物への耐性を持つ。
また他者の感情の機微に敏感となり、それを感じ取る。

ユニゾン:A
異なる旋律を相乗させ増幅させる力。
これは本来イガリマとシャルシャガナに搭載された決戦機能だが、擬似的なユニゾンであれば他者とも可能。
イガリマの適合者であり『誰とでも合わせることができる』と言わせしめた切歌のユニゾン適性は非常に高い。
歌を力とするものが共にいる時、互いの歌の力を高めることができる。
ユニゾン間における理解度、絆の深さによってより効果は高まっていく。

きりかのおきてがみ:C
黒歴史。自称常識人の独特センス。
若干ズレた存在に対する共感性、とも言う。
突拍子のない存在に見えて、切歌は他者を支え引き立てることに長けている。
アライメントに関わらず、あらゆる相手との交渉、対話、連携が若干円滑となる。

【宝具】
『獄鎌・イガリマ』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:1 最大補足:1人
戦神ザババの双刃、その片割れたる翠の刃。
の、欠片を使用したFG回天特機装束『シンフォギア』。
歌の力、フォニックゲインによって聖遺物の欠片を励起し、鎧と纏う戦装束。
聖詠によってシンフォギアを纏い、歌い続けることによってフォニックゲインを生成し宝具を維持する。
戦闘においてこの宝具の存在は大前提であり、パラメーターもこの宝具を装備した状態のもの。
身体能力の上昇、多種のアームドギアの創造、そして『位相差障壁』と呼ばれる特殊な空間的防護を無効化する。
切歌の創造するアームドギアは大鎌を中心とし、アンカーやギロチン等トリッキーな形状の刃が多い。
複数の決戦機能、モードチェンジが存在するのだが、サーヴァント化に伴いその殆どが没収されている。
「イグナイトもアマルガムもデュオレリックも取り上げられたデス! 絶唱とエクスドライブしか残ってないデスよ、およよ〜!」

『絶唱・魂魄一閃』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
シンフォギアシステムの決戦機能。
絶大なバックファイアを代償に聖遺物の欠片に対応した必殺の攻撃を放つ。
イガリマの絶唱は、物質的な防御を無力化し対象の魂を一閃するというもの。
文字通りの必殺、死神の一撃である。

『始まりの歌(エクスドライブ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具(自身) レンジ:1 最大補足:1人
莫大なフォニックゲインによって全ての拘束を解除するシンフォギアの決戦機能。
飛行機能の獲得の他、全ての出力が大幅に上昇する。しかし単独での発動はまず不可能。
自身の絶唱を含めた『3つ以上の絶唱』とユニゾンしない限りこの宝具は起動しない。

【weapon】
イガリマのシンフォギア、及びそこから展開されるアームドギア

【人物背景】
イガリマのシンフォギア装者。
シンフォギアGより登場し当初は敵として戦ったが、GXより味方として参入。
以降チームの自称常識人、新たなムードメーカーとして心強い味方となる。
G参入組の共通点として低い適合係数をLiNKERで補なわなければならない弱点があったが、
サーヴァント化において適合係数はLiNKER使用時で固定されている。

【サーヴァントとしての願い】
とりあえず聖杯戦争に参加して聖杯の獲得を目指す。
マスターさんともっとお話する。一緒に歌も歌いたい。


366 : 歌う悪魔と歌う少女 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/09(土) 23:51:34 hLSF3r7M0

【マスター】
ロキ@メギド72

【マスターとしての願い】
自身の個である『嘘つき』をなくす。
しかし、メギドとしての個は自身の存在そのものとも言えるので、
これを無くした時果たして自分は自分でいられるのかと一抹の迷いもある。

【能力・技能】
純正メギド:
異世界メギドラルの住人であり、人間(ヴィータ)からは悪魔と呼ばれる存在。
メギドには基本的に戦いを求める本能があり、メギドラルの社会とは戦争社会、軍団の戦争によって全てを決定する世界観である。
赤い髪の青年の姿は『ヴィータ体』という人間を模倣することによる省エネモードであり、本当の姿は正しく悪魔と形容できる異形。

メギドとしての能力:
ロキは『音』を武器とする。
叫び声は壁を粉砕する衝撃波となり、その歌唱は味方を高揚させ攻撃と防御を高める。
この効果は自他問わず演奏が重なれば重なるほど高まっていき、味方の演奏効果も向上していく。
全力を発揮する場合『メギド体』へと変身し強力なシャウトを繰り出す。
ただしメギドの力を使用するのには自分の魔力を消費するため乱発は厳禁。

【人物背景】
嘘しか言葉として発せられなかったメギド。
ロキの話す言葉は全て嘘であり、彼は本当のことを喋ることができず、また黙ろうとしてもつい喋ってしまう自分を制御できない。
本当の気持ちを話してみたいと願っていた彼は「歌」と出会った。
音楽に乗せれば本音で話すことができると気付いた彼は、ヴィータの世界ヴァイガルドに降り立ち流されるままに歌手となる。
初対面の相手からはひどく態度の悪いやつだと思われがちだが、言ってることの全てが嘘だと分かればその評価は反転する。
なにせ彼は基本悪いことしか言わないので、それはつまり良いことしか言ってないということだからだ。

【方針】
俺は戦うのは嫌いだ。歌うのはもっと嫌いだけどな。(俺は戦うのは好きだ。歌うのはもっと好きだけどな)
ランサーとは気が合いそうにねえよ。一緒に歌ってなんかやらねえからな。(ランサーとは気が合いそうだ。一緒に歌ってみてえな)

【備考】
切歌は一撃必殺の宝具を持つ以外は平均的なランサーで突出した能力はない。
しかしマスターであるロキとの相性は抜群であり、マスターに対しスキル『ユニゾン』が使用可能。
ロキと切歌、双方が『共に歌うことで効果を高めていく能力』を持っているため、戦闘が長期化するほど目に見えるステータスに反しその戦闘力が高まっていく。
仮に他にも歌や演奏を得意とする参加者がいた場合、協調することでさらなるハーモニーを生むだろう。
性格的にも好戦的ではあるが善玉の陣営。ただし、マスターであるロキにとって『嘘』は地雷である。
ロキに対して『嘘』をつき、それを見破られた場合ロキは激昂のままに戦闘を開始し、相手を殺そうとする。
嘘をつかなくても生きていける人間が、わざわざ嘘をつくことが彼には許せないことなのだ。


367 : ◆TPO6Yedwsg :2022/07/09(土) 23:54:11 hLSF3r7M0
投下を終了します


368 : ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/10(日) 18:18:11 lTLLt53U0
投下します


369 : You're myself, I'm yourself ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/10(日) 18:19:43 lTLLt53U0





     その国土を、父の国と喚ばなかったのには、訳があると思う。

     ……それは異族結婚(えきぞがみい)によく見る悲劇的な結末が、若い心に強く印象したために、

     その母の帰った異族の村を思いやる心から出たもの、と見るのである。

     こういった離縁を目に見た多くの人々の経験の積み重ねは、

     どうしても行かれぬ国に、値い難い母の名を冠らせるのは、当然である。

                                  ───折口信夫『妣が国へ・常世へ』






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


370 : You're myself, I'm yourself ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/10(日) 18:20:24 lTLLt53U0





眼が見えるというのは、ある種の不具だ。
現実と隣り合わせの幽世を覗くには、同じく幽世の理を得た盲の目が入用となる。
古来、巫女となる者は片方の目を潰し、現世と常世の双方を観えるように、としたという。
その虚が真っすぐに闇を見つめた時、深淵は何を見つめ返すのか。

深き霧の微睡みの果ては、未だ見えない。






371 : You're myself, I'm yourself ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/10(日) 18:21:09 lTLLt53U0



───眠りから覚めると、そこは朝霧の海だった。


ふと気が付くと知らない場所に連れられていて、自分は道と道の重なる四辻に立っている。
そこには、知らぬもの、目に見えぬもの、言葉では言い表せないもの、目に輝くもの、捉えられぬもの、たくさんの不思議なものが道を行き交い、まるで電子の情報が飛び交う回路が如しであった。
やがて、荷車にたくさんの蓑や籠を吊るした痩せた男がやってきて、靴を脱ぎここで待てと言う。
どうしてかと尋ねると、


「お前は、これから敷居を跨いで床に上がるのだから」


男はそう答えると、四辻を渡って行ってしまう。
──────…………

目を凝らすと眼球が疼く。
自分の目が瞼になってしまったような異物感。
朝に目覚める前の、朧な繰り夢のようだ。


「■……」

「おいで、■……」


自分を呼ぶ声。
門を開く音。
煙る白い霧。
見えぬ眼で歩を進める。

「……」

景色が切り替わる。

潮騒の耳鳴り。
焼ける砂浜。
しき寄せる波。
感覚の輻輳、ここは二つの世界の最果てだ。
足元には、人になりそこねたモノたちが、どこまでも列を成して打ち上げられている。

           肌が粟立ち

  息が止まる

              体がばらばらに

                         広がっていく

    風が脇腹の間から差し込み

             やすりのように心臓をこそぐ

                      自分はどこにいる

            あれは誰だろう

      また自分を

               呼ぶ声がする

                        すがる気持ちで

         歩

                を

                       進める


372 : You're myself, I'm yourself ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/10(日) 18:21:53 lTLLt53U0


「ああ、そうか」

此処は既に幽世だった。
俺は、貴方に呼ばれてここまで来たのだ。

幕が上がる。
下駄の音が床板を掻き鳴らす。
鼓と笛が重なっては響き、木製の旋律が耳に痛い。
舞台の上に光が差し、少女の影が浮かぶ。

『貴方の魂が、本当は諦めていないなら』

祭囃子の律動が反響する。

『我が心と道を同じくし、日常を取り戻さんと願うなら』

静寂の木枯らしが吹き抜ける。

『確りと眼を開き、真実を見るのです。
そして、この国の皇であった私に力を貸してはくれませんか、我がマスター』

屹然と告げられる、強い意志の言葉。





















「すまない、今から学校だから帰ってきてからでも良いだろうか」
『あ、はい』

そういうことになった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


373 : You're myself, I'm yourself ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/10(日) 18:23:28 lTLLt53U0





なんか家の前に靴が脱ぎ揃えてあったんだが、ありゃなんだ?
という叔父さんの疑問を曖昧に流して、ぎりぎりになった登校時間に合わせるように玄関を出た。

鳴上悠は高校生である。
彼は、色素の薄い灰色がかった髪をまばらに伸ばし、理知を印象付ける眼鏡をかけた、精悍な顔つきの青年であった。
その体は細くはあったが、服の上からも鍛えられているのが見て取れる。それは筋肉の膨らみ以上に、姿勢と重心の安定感がそう思わせるのであろう。
一見して寡黙で武骨な男であったが、しかし醸し出される雰囲気は柔和なそれである。彼と同じく通学する高校生や大学生、あるいは談笑する近所の奥様方とすぐにでも打ち解けてしまえそうな人柄をしている。端的に言って、好青年のそれであった。
重苦しいのではなく、逆に軽薄なのでもなく、エリートに特有のインテリジェンスと肝の据わった極道者にも似た度胸、そして他者を惹きつける人間的な魅力が極めて高いレベルで調和した、そんな青年であった。

悠はそんな自分という人間に関して、驕りはしないが自覚はしていた。
というのも、こうした人間的なステータスは生まれついての才能であるとか、そういった付き合いの長いものではなくて、ここ1年の間で必要があって身につけたものであるからだ。
1年前、すなわち高校二年に上がったばかりの頃は、こうではなかった。学力も運動も平均的、覇気は見当たらず目標と呼べるものも特になし。根気も勇気も十人並み。総じて卑下されるほどでもないが褒められたものでもない、良くも悪くも最近の若者でしかなかった。
契機と呼べるのは、稲羽市に越してから巻き込まれた、不可解な連続殺人事件と、偶発的に手に入れたペルソナ能力に纏わる騒動なのだろう。
なにせ警察はおろか身近な大人を頼ることすらできない、孤立無援の状況でひたすらに霧の中を彷徨うが如き戦いだったのだ。悠は文字通り、自分にできることは全てやった。同じく霧の怪事件に巻き込まれた者たちと協調し、様々な人間と交流した。時には悪意で以て応えられ、時には物理的な困難に直面し、努力と機転によって乗り越えることもあった。数多の心の綾模様に触れ、多くの出会いと別れを経験した。人間とは環境によって形作られる、という言説が本当であれば、今の鳴上悠という人間はまさしくあの激動の1年を通じて形成されたものであった。
そして遂に彼の足掻きは実を結び、霧の四辻は踏破され狂える国産みの荒魂は浄化された。幾千もの呪詛の言葉を、幾万もの真なる決意によって打倒したのだ。
全てが終わり、自分はまた元の家へと戻ることになった。見送りに来た仲間たちに別れを告げ、迎えの列車に座り、一年を過ごした稲羽の街を眺めながら、沸き起こる郷愁の念と共に僅かにその瞼を閉じて……

気が付いたら、自分はこの東京にいた。
意味不明だった。


374 : You're myself, I'm yourself ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/10(日) 18:24:06 lTLLt53U0

この手の幻覚には覚えがあった。しかしこちらの精神を直接攻撃し心を折ることを目的としたアレらと違い、この異変はあまりにも回りくどかった。勝ち取ることができれば如何なる願いであっても叶えることができるという万能の願望器、聖杯。それを巡り資格者同士で殺し合うのが、聖杯戦争。それがこの、異界東京都における戦いのシチュエーションであるらしい。
正直言って、まるで乗る気になれなかった。何人もの人間が血を流し、命を散らすことが確定している争い。そんなものに加担するというのは、利害がどうこう以前にあまりにも論外極まりない代物である。
無論、自分のような考えを持つ者は、恐らく希少種なのだろう、と思う。なにせ獲得できるモノがモノなのだ。現実に叶えることができない夢や、何に優先しても確実に成就させたい願いを持つ人間というのは、当然ながら世の中に掃いて捨てるほどいる。それは世界平和であったり、大切な人間との再会であったり、あるいは金や学識といった利己的な欲望であったりもする。そういった我欲を、悠は否定しない。それらは言い方を変えれば人生の目標であり、人間が人間として生きるに当たっては必要不可欠な代物だ。どのような願いであれ当人にとっては切実な問題であり、他ならぬ悠自身でさえ、もしも時と場合が違えば───仮に堂島菜々子がその命を落とした瞬間にこの都市に招かれていれば───どうなっていたか分からない。聖杯というトロフィーは、それだけ魅力的なのである。
そうした諸々を十分に加味し、自覚して。
それでも自分は聖杯戦争には乗らないことを、彼は既に固く決意していた。

問題は、サーヴァントのほうである。
聖杯戦争を制して願いを叶える権利は、マスターだけでなくサーヴァントにも存在する。
そして当然、サーヴァントは自分の願いを叶えるためという打算を以て召喚に応じるのである。
そんなサーヴァントに「自分は聖杯戦争に乗らないぞ」と告げるのは、つまり「俺はお前の願いなんざ知らねえけど、お前は俺のために命かけて戦えよ」と言ってるようなものだ。
正直、舐めてるとしか言えない暴挙であろう。
聖杯戦争に乗らないのは譲れない決定事項ではあったが、己の声に応え助けとしてくれたサーヴァントに、それもあのような年若い少女に、酷なことを言うというのは。
やはり、気が重いことであった。






375 : You're myself, I'm yourself ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/10(日) 18:24:46 lTLLt53U0



「私は一向に構いませんよ」

まさかの即答だった。
あまりにも迷いなく、無理をして嘘を言っているようにも見えない様子に、むしろ悠のほうが戸惑う始末であった。

「……いいのか、それで」
「サーヴァントも人の子、決して一枚岩ではありません。
 英霊という性質上戦中の出身が多く、当然ながら道半ばで未練を残し没する者が大半ではありますが、私はそうではなかった。
 これは単に、それだけの話です」

粗茶ですが、と悠が出した玉露を静かに啜りながら、ライダーと名乗った少女は厳かな表情で言い切った。

彼女を見て悠が真っ先に抱いた印象は、深窓の令嬢だった。
年の頃は15か、あるいはもっと下だろうか。楚々とした黒い瞳と烏の濡れ羽色の長髪をした、人形然とした少女。
良い家の出と言えば身近なところでは老舗旅館の跡取り娘である天城雪子がいたが、正直これは格が違う。纏う気配は王侯貴族を思わせる重厚なそれであり、所作の端々からは隠し切れない真の気品を感じさせる。見るからに日本人である彼女は、旧来の華族と言われても何の違和感もないほどに、高貴という言葉を体現しているかの如き出で立ちであった。
あるいは……そう、例えば皇室典範に記されるようなやんごとなき身分であっても納得できてしまうような……
と、脱線しかける思考を戻して、悠は問いを投げかける。

「君に願いはないのか?」
「私人としては小さきものが。しかし公人としての願いはありません。
 私の生前は、やはり多くの英霊がそうであるように譲れぬ願いを伴った戦によって落命したものでした。
 しかし、私の願いは……この国を守護し、人々の安寧を維持する務めは、既に果たされています。これ以上を望むことは何もありません」
「私人としての、という奴はどうなんだ?」

少女は、そこで初めて言い淀んだ。
話せない、というよりは。
本当にそれを望んで良いのか、という葛藤の色が見えた。

「……元来、私のそれは人の身では決して叶うはずのないものでした。
 そうであればこそ、聖杯という奇跡に縋る諸人を否定するわけではありませんが、叶わぬのが自然と断ずることができます。
 夢は夢、どれだけ願っても叶うはずがないのだと」
「聞いてもいいか」
「死者との対話」

悠の疑問に、端的に答える。
その顔に浮かべられるのは、僅かな微笑み。

「私は、私を遺し葦船へと去った母と、ただの一人の娘として話がしたかった」
「……それは、望んで当然の願いであるように思う」
「しかし他者を轢殺してまでも叶えるべきものではない。そうでしょう?」

その通りだった。
そも、最初は悠の側から言い出したことである。厚かましいにも程がある偽善であった。


376 : You're myself, I'm yourself ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/10(日) 18:25:26 lTLLt53U0

「それなら……これは単純に疑問なんだが、君と最初に会った時のアレは一体何だったんだ?」
「私にも詳しいところは分かりませんが、一種の共鳴現象と言うべきもの、なのでしょう。
 マスター、貴方は尋常ならざる力を持っていますね?」
「ああ」
「そして、まつろわぬ神を討った」
「その通りだ」

即答であった。傍から聞けば子供の妄想に等しい言を、両者は確かな真実として語っていた。

「私の身には、かつてとある神格が宿っていました。
 宿る、というよりは私を依り代に穢れとして取り込んでいた、と言ったほうが正しいかもしれません」
「雛人形みたいな話だな」
「言い得て妙ですね。私は正しく、流し雛として擁されていた存在ですので」

ともかく、と彼女は続ける。

「私は生前において国体の危機に際し、漂泊の幼神の穢れを引き受け、この身を雛として常世に流しました。
 我が身は正しく神降ろしの器であり、ある意味においては、その神の第二の妣と象徴付けることもできましょう」

そして、と告げる。

「その神の名は、素戔嗚」
「……そうか。その縁は」
「ええ。貴方にも関りがあるはずです。伊邪那美の荒魂を祓い、霧の四辻と比良坂を平定せし者。今代において真なる伊弉諾の現身である、貴方には」

そうであるならば、この出会いは必然のものだった。
永劫に等しい漂流を経て、この聖杯戦争に彼女が召喚されたことも。
ならば、あれはまさしく常世だったのだ。
認知の存在ではなく、本物の。人が立ち入ること叶わぬ幽世。

「私はこの国の風景を愛します」

ややあって、少女はふと口にする。
それは何か巨大なものを背負う公人としてではなく、等身大の少女として。

「人々のひっきりなしの往来。街の喧騒はこの国の活発な血流を体現する。
 国民の生命力が自然を征服し、天を摩する力強い石造りの山々を作り上げた」

それはこの東京をこそ見ての言葉であろうか。
あるいはそれこそが、この少女の原風景なのだと。悠は悟っていたがために、言葉なく耳を傾ける。

「夥しい数の窓が、同じ数だけ人々の営みを額縁に描く。
 私達皆が愛着と誇りを覚える豊かな風景です」
「……君は、この国が好きなんだな」
「そして、そこに住まう人々も」

告げる言葉は迷いなく、ただ決然なる意思のみを携えて。

「ですので、マスターが聖杯を望まぬと言ったことについて、私は正直安心しました。
 人民を、そして国土を自ら傷つける可能性が消えて無くなった。それだけで、私の道に迷いはありません」
「俺も同感だ。ともあれ、俺は良縁に恵まれたということなんだろう」

訳も分からず連れてこられ、殺し合いを強制され、命を預ける英霊を無作為に選ばれた。
その中で、選ばれたのがこの少女であったことは、間違いなく悠にとっての幸運だった。

「そういえば……君の真名は何というんだ?」

悠がこの少女と会って半日、言葉を交わしてまだ半刻と経っていない。
思えば、初対面の人間に対して自己紹介もしていなかったというのは、我ながら間の抜けた話であった。

「日瑠子、と。故あって姓はございません。
 では、マスター。鳴上悠。今後とも、どうかよしなに」


377 : You're myself, I'm yourself ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/10(日) 18:25:56 lTLLt53U0


【クラス】
ライダー

【真名】
日瑠子@朝霧の巫女

【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運A+ 宝具A+

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:B
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Bランクなら三節以下の詠唱の魔術を無効化でき、大魔術を以てしても傷付けるのは難しい。

騎乗:A++
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
A++ランクともなると竜種さえ騎乗の対象となる。

【保有スキル】
天孫のカリスマ:C+
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
彼女は将来的には一国を治めるに相応しい絶大なカリスマ性を獲得し得る逸材であったが、幼少期に没したためこのランクに留まる。
日本国とそこに属する民族に対しては効力が高まり、同ランクの神性スキルを内包する。

皇室勅命:A
本来持ち得ないスキルを、本人が主張することで短期間だけ獲得できるというもの。該当するのは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、と多岐に渡る。

鋼鉄の決意:A
国体によって定められた軛を超え、真実己自身の決意によって高天原にまで殴り込みをかけ神権を簒奪した鋼の精神がスキルとなったもの。
悠久の流離いにさえ耐え得る精神の絶対性の他、勇猛や冷静沈着といった複合スキルという面も兼ね備える。
彼女の持つものはあくまで国体の守護者としての性質が強く、どこぞの巌窟王ほどの苛烈さはない。

忠義の徒:B
生前ライダーに仕えた臣民たちを一時的に疑似召喚するスキル。
警視庁抜刀隊や六波羅機関など、主に諜報や戦闘、あるいは対霊戦闘を旨とする精鋭部隊であり、最大では師団規模で展開可能。
ただし、直接的な英霊召喚ではなくシャドウサーヴァントに近い存在であるため、固有の自我は存在しない(簡単な受け答えや命令の受諾等は可能)。


378 : You're myself, I'm yourself ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/10(日) 18:26:30 lTLLt53U0

【宝具】
『祓戸大神・速佐須良比売』
ランク:EX 種別:奉神宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
神性の受容体質。ライダー自身、穢れを引き受ける流し雛として奉られた存在であることの証左。
元来魔術的に女性とは子を孕むという性質上、受容の象徴として扱われており、霊的存在を身に降ろす巫女として優れた資質を持つとされてきた。
更にライダーの場合は国体規模の穢れを受容するための存在として奉られた都合上、「他の存在を受け入れる」性質が極めて強い。
生前において一神話体系の主神に匹敵する神格を己が身に封じた彼女は、聖杯戦争中において一度だけ「自分の肉体を媒介に霊的存在を常世へ流す」ことを可能とする。
代償は自身の霊基消失。要は自分を人柱としたサーヴァントへの対消滅攻撃である。

『鳥之石楠船神・霊的国防戦艦大和』
ランク:C++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000
ライダーが生前、高天原に殴り込みをかけた際に搭乗していた旗艦であり、悠久の時を流離う葦船とした旧時代の弩級戦艦。
全長263m、出力153553馬力の弩級戦艦が水上のみならず三次元空中機動を為し遂げた上で神秘にも通じる火力を有し、なおかつ軍事速度で巡航可能な時点で文句なく聖杯戦争の規模を逸脱した脅威なのだが、加えて白兵戦力(他のサーヴァント等)を内包することさえ可能であるなど、物理面からは最早攻略不可能とさえ思われる存在である。
反面純粋な神秘性自体は然程でもなく、物理攻撃ではなく概念的干渉に対しては呆気なく押し負ける可能性がある。
上述した逸話の通り神性特効の性質を持つ他、神秘性の低さ故か規模に反して魔力消費は軽め。
通常時は砲門のみを具現化して砲撃、といった具合で使う。

『神剣・草那芸之大刀』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜60 最大捕捉:500
日の本の国宝にして天照大御神の直系子孫である皇室に伝わる「三種の神器」の一つである、天叢雲剣または草薙剣そのもの。
かつて下総の刀鍛冶が己が全てを賭して振るった剣のオリジナルであり、西洋における宝剣の頂点がかのエクスカリバーならば、こちらは東洋における宝剣の代名詞。
真名解放の一斬たるや、八つの谷と峯を切り拓き、八つの大河を新たに生み出すほどだが、ライダー曰く「私の剣才に期待しないでください」とのこと。実際、祀られる対象でしかなかった彼女は素人に毛が生えた程度の剣腕しか持たないため、専ら固定砲台としての運用が主とされる。
しかしこの宝具の真価は剣としてのものではない。
この剣は本来、八岐大蛇という特級神秘を制御するための外部器官として発生しており、これを尾に突き立てることで神代の巨蛇を飼いならすことができる。
真名の二重解放に伴い、身の丈数百mにもなる八岐大蛇が顕現、ライダーの制御下に加わる。内包した弩級の神秘に物理的頑健さ、更には抗霊子波動流放射(ドラゴンブレス)の行使など、対国級の超級戦力となる。
当然の如く周辺被害は相当なものになる他、消費魔力もヤバイので早々使えない。

『天地を漂り、遊び猛ぶる神の名をぞ(スサノオノミコト)』
ランク:- 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
使用不可能。
元来ライターの胎内に封じられていた神格なのだが、本聖杯戦争においては従僕と一緒にボイコットしており、精々足掻く様を英霊の座から見物しとるで〜とのこと。

【weapon】
神剣・草那芸之大刀:
古ぼけた細剣であるが、極めて高密度の神秘を内包し物理的にも非常に頑強。とはいえライダーに剣を扱う技能がほぼないため、「むしろマスターが使ったほうがよろしいのでは?」と言う始末である。

【人物背景】
神々の闘争が続く剪定事象世界における現代日本の今上天皇。
摂政を必要とする15歳の少女だが、既に国体危機へ立ち向かう精神性は完成されている。

【サーヴァントとしての願い】
まず何をおいても日本国と国民の安全が最優先。
しかし、それらを度外視して自分のわがままが言えるとしたら……
母と、もう一度だけ話がしてみたい。


379 : You're myself, I'm yourself ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/10(日) 18:26:57 lTLLt53U0

【マスター】
鳴上悠@ペルソナ4

【マスターとしての願い】
早いところ帰りたいんだが……

【weapon】
十握剣:
神話級の神秘を備えた概念武装。
日本神話に登場する神々が携える剣の総称であり、特に八岐大蛇退治におけるスサノオの剣が有名。
この剣自体は神話の時代から残された本物の宝具というわけでなく、アラヤの認知によって発生した代物。

【能力・技能】
ペルソナ能力:
個々人の心象を現実に投射し、神々や神秘を模した「力あるヴィジョン」として行使する、特殊な異能形態。
ペルソナ能力者には当人の内的側面に悪魔の認知情報を宿すアルカニスト(秘儀精通者)と、人類の集合無意識の海から想念を汲み上げて行使するワイルドの二種類が存在するが、悠の場合は後者。
対応するアルカナは愚者、数字の0。無限の可能性を真価としているが、彼は既に〈世界のアルカナ〉へと可能性を固着させた、ワイルドとしての完成形である。

あと原付免許も持ってる。

【人物背景】
霧の四辻を踏破し、国産みの女神の荒魂を祓い清めた、〈真実〉のワイルド。
伊邪那美を倒した後、実家に帰る電車の中で居眠りしたらいつの間にかこの東京にいた。マジ迷惑。
あとライダーの経歴聞いた瞬間ジャンピング土下座した。

【方針】
超帰りたい。


380 : ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/10(日) 18:27:30 lTLLt53U0
投下を終了します


381 : 🏆 ◆As6lpa2ikE :2022/07/10(日) 23:52:47 y17Xunsw0
投下します


382 : 🏆 ◆As6lpa2ikE :2022/07/10(日) 23:53:54 y17Xunsw0
「なんでも願いが叶うの!? それって……最高じゃん!」

「ハァ?」

「ワ……!」

 ハチワレ猫とウサギ、あと……白鼠? 白熊? とにかく全体的に白めで耳が丸い、なんか小さくてかわいいやつの三人組は、聖杯がどんなものかを知って、三者三様の反応を見せた。かわいらしい声が、都内某区に建つ公民館みたいな豪邸に響く。
 特に嬉しそうにはしゃいでいるハチワレは、両目をニコニコと細めながら、ウサギとちいかわのふたりに、

「ねね、どんなお願い叶えてもらおうかな?」

と聞いた。

「プルルッ」

「エ〜〜? ………ムム……ムムム……ウゥ~ン?」

 ちいかわの頭の中には、マントを付けてかっこよく討伐棒(ランカーのマーク付き)を構えている自分や、あま〜いシュークリームを山ほど食べている自分など、たくさんのイメージが一瞬で思い浮かんだ。
いざなんでも叶うとなると、願いをひとつに絞るのが難しいようだ。

「クスクスッ……、今までやったことがないくらいでっかいパーティとか……したいよね」

 ハチワレは愉快そうに笑う。まるでクリスマス前日の子供みたいな浮かれ様だ。
 するとハチワレは、それまでウサギとちいかわに向けていた視線をぐいっと上げ、まるで普段鎧さんに会っている時のような姿勢になりながら、

「「マスター」はなにをお願いしますか?」

と、尋ねた。

「えっと──」

 マスターと呼ばれた少女、千代田桃は「どう答えたものか」と言いたげな困り顔になった。
 なぜなら、ハチワレたちは重大な勘違いをしているからだ。
 
「……聖杯がなんでも願いを叶えられるっていうのは、私を桜ヶ丘から『異界東京都』に一瞬で呼び出したり、あなたたちを召喚したりした力からして、本当……だと思う」少なくとも非現実的な現象を起こせるほどのエネルギーを持っているのは確かだ、と桃は推測している。「でも、無条件で叶えてくれるわけじゃない……」

 光の一族の巫女であり、神話や伝説の類については人一倍詳しい桃は、聖杯について以前から知っていた。
 聖杯──手に入れた者に奇跡を齎す、伝説の聖遺物。
『願望成就』の機能だけに限れば、魔法少女のまぞく討伐ポイントカードと似たようなものだろう。ひょっとすると、光の巫女の『ごほうび』の形として、大昔に使われていたことがあるかもしれない。
 そして現在、彼女とハチワレたちの会話にあるところの聖杯には更にもうひとつ、付随する情報がある。

「聖杯を手に入れられるのは一組だけ。その一組を決めるための戦争に、私たちは参加させられているんだよ」

「えッ!?」

「ワ……!?」

 ハチワレとちいかわのふたりは目を丸めて驚いた。

「戦争―?」

「うん」

「「討伐」じゃなくて?」

「えっ? ……ああ、うん。戦争。最後の一組になるまでね」

「それって……「バトル・ロワイアル」ってコト!?」

「えっ」

 可愛らしい見た目をしている猫から、討伐とかバトロワとかいう単語が飛び出したことに少し驚いた。
そんなん知ってるんだ。
全体的にゆるい、まるで絵本の中から飛び出してきたようなビジュアルと性格をしてるから、そういう物騒なジャンルとは無縁の生物かと思っていた。
……いや、無縁なんてことはないのか。
聖杯戦争とかいう物騒オブ物騒なイベントに、サーヴァントとして現在進行形で参加している最中なんだし。
だったら、召喚時点で聖杯についてある程度の知識は与えられていそうだけど──単に『聖杯が手に入ればなんでも願いが叶う』という甘美な情報に意識が引っ張られて、それ以外の情報の認識が疎かになっていただけなのかもしれない。
現に、ちいかわとハチワレと一緒に召喚されたウサギは、桃が今しがたおこなった説明まで含めて事前に知っていたかのような落ち着きを見せているし……。「フゥン」と呟いて腕を組んでいる。
 そもそも今更の話だが、この三人組は何者なのだろう? 
千代田桃にとって、喋る動物は珍しくない。彼女が飼ってるメタ子は、それこそめちゃくちゃ人語を喋る猫だし(最近は語彙が「時は来た」のひとつに限られているけど)、動物系まぞくの知り合いも何人かいる。
しかし今、桃のサーヴァントとして召喚されたちいかわたちは光の一族の使いでも、動物系まぞくでもなさそうだった。
 なんというか……魔力? 
雰囲気? 
存在感? 
世界観? ……なんか、そういう曖昧なものが桃の知っている喋る動物たちとは全然違う気がする。


383 : 🏆 ◆As6lpa2ikE :2022/07/10(日) 23:54:56 y17Xunsw0
聖杯がどういうものなのかを改めて正しく認識したちいかわとハチワレは、急激にテンションが下がっていた。数秒前の浮かれぶりが嘘みたいだ。
 先ほどまでちいかわの脳裏に浮かんでいた輝かしい未来像が一瞬にして消え去る。
 代わりに浮かんできたのは、なんかでかくてつよい敵に追い掛け回される自分や、固めで痛〜い武器で全身をザクザクと突かれている自分の姿だった。
 途端にちいかわの白い顔は青褪める。
 胸の奥から湧いた恐怖心はやがて眼球に到達し、涙の形になって溢れ出た。

「ワ……ァ……ァ」

「泣いちゃった!!」

 ハチワレは、ボロボロと大粒の涙を流すちいかわに駆け寄ると、背中を優しく擦った。

「こわいよねー」

「ウ……ゥッ……ウゥ……」

「ハァ?」

 ウサギはずっと変わらないペースを維持していた。どことなく、こういう荒事に慣れた雰囲気を感じさせられる、落ち着いた佇まいである。
 マスターとして意識を取り戻し、聖杯戦争に関する知識を得た時、桃はてっきり、自分の元には荒事向きの性格をした偉人が召喚されるのかと思っていた。しかしまさか、荒事を予感するだけで子供のように泣きじゃくるサーヴァントが召喚されるとは……。
予想外だ。
 戦争にめちゃくちゃ乗り気なサーヴァントが呼ばれていたら、それはそれで困っていたかもしれないけど。
 一向に泣き止まないちいかわと、それをなんとか慰めようとして困っているハチワレと、よくわからない奇声を発しているウサギを眺めながら、桃は自分の横髪を触った。
 しばらく悩んだ後、彼女は厨房へと向かい、すぐに戻ってきた。その手にはポテトチップスの袋が握られていた。
 ちいかわたちの前で袋の背に両手をあてがい、そっと開く。中にたっぷりと詰まったポテトチップスの、食欲を刺激するスパイシーな香りが立ち上った。先程ハチワレが言っていたような「おっきいパーティ」ほどではないが、ちょっとしたポテチパーティだ。

「本当は温かいうどんとかが良いんだろうけど、私じゃ作れないから……どうぞ」

「いただきますっ」

「ワ……っ!」

 ちいかわたちは一斉にポテチを頬張った。口いっぱいに広がるジャンクな風味は、ネガティブな感情を癒し、ちいかわの表情がさきほどよりちょびっと柔らかくなる。お腹がいっぱいになると気分が明るくなるのは、どうやらサーヴァントにも共通していることらしい。
 とにかく何か食べさせて落ち着かせようという考えに基づいての行動だったが、上手く奏功した。
 桃は自分もポテチを一枚つまみながら、ようやく落ち着いたちいかわに声を掛ける。

「ランサーたちが積極的に誰かと戦うことは……多分ないと思う。私は聖杯をそんなに欲しいと思わないし」千代田桃だって人間なので、叶えたい願いのひとつやふたつあるのだが、それをこんな血に塗れる予感しかないイベントの景品で叶えるのは、あまり気が進まない。仮に聖杯で姉を復活させたり、姉の代わりに町の平和を守ったりしたら、逆に怒られそうだ。「それに多分、私のほうが強いと思うから。何かあったら私が守るよ」

「ワァ……ッ!」

「フゥン?」

 マスターがサーヴァントを守るとは、なんとも主従の立場が逆転している発言だったが、ちいかわの目に光が戻っているのを見ると、どうやら元気を取り戻せたようだ。

「とりあえずの方針は『異界東京都』からの脱出。あと余裕があったら、私のようにやる気もないのにここに呼ばれた人の保護もしたい。ランサーたちには、その手伝いをお願いしたいな──やれそう?」

 ちいかわはコクコクと顔を上下に振った。
 そんな友人の姿に、ハチワレは安心したようで、ニコニコと微笑んでいた。
 ハチワレは鼓舞するように、握りしめた拳をえいえいおーと掲げると、

「せっかく召喚されたんだからさー。やれるだけがんばってみよっ!」

「プルルリャッ!」

「…………ウンッ!」

 ちいかわは目元に残っていた涙を拭って、凛々しい表情を作ると、力強く答えた。
 ちょっぴり泣き虫だけど、頑張り屋で、ちいさくてかわいいその姿に。
 千代田桃は一瞬、なにかを連想した。
 
「……早く町に戻って、シャミ子が作ったうどんを食べたいな」

 その為にも、まずは『異界東京都』での問題を解決しなくては。
 改めてそう決意する桃だった。


384 : 🏆 ◆As6lpa2ikE :2022/07/10(日) 23:56:24 y17Xunsw0
【クラス】
ランサー

【真名】
ちいかわ@なんか小さくてかわいいやつ

【属性】
秩序・善・地

【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷B 魔力E 幸運A+ 宝具E+

【クラススキル】
対魔力:E

【保有スキル】
草むしり:E
草むしりの技能や、それに必要とされる草花の知識がどれくらいあるか。ランクが高ければ高い程、植物に由来する相手と対峙した時に真名を看破しやすく、戦闘を有利に進めやすい。このスキルを最高ランクで保有している英霊は、異星の神によってもたらされた異聞帯の楔たる大樹の伐採においてすら有利な判定を得やすくなる。
Eランクの場合、数回の実地経験と草むしり検定の試験勉強をした程度であり、完全に習得したとは言えない。

聖杯の寵愛(偽):D+
聖杯に近い権能を持つ存在と、ランサーは何度か接触している。
このスキルを高ランクで保有していれば、幸運が跳ね上がり、特定の条件無くしては突破できない敵の能力さえ突破可能になるが、スキル名に(偽)が付いた上、低ランクになっているランサーの場合、効果は幸運の微弱な上昇に留まっている。

ちいさな勇気:A
【勇猛】の類似スキル。
威圧、混乱、幻惑といった精神・肉体干渉に抵抗判定を実行する。失敗すると何もできずに泣き喚き、成功した場合は泣きながら行動を起こすことが出来る。
その際、幸運ステータスにプラス補正がかかり、起こした行動が「成功」に繋がりやすくなる。

【宝具】
『討伐槍(さすまた)』
ランクE+ 種別:対人宝具 レンジ1 最大捕捉1

ランサーが討伐で用いる槍。いくつもの怪物と戦ってきた逸話から、魔性・怪物の特性を持つサーヴァントにダメージを与える際、更にダメージがプラスされる。
また討伐成功後に報酬を貰っていたエピソードから、この宝具を用いて戦闘に勝利すると、微弱なステータス上昇と魔力回復のボーナスが発生する。

『ちいかわの森』
ランク:? 種別:対軍宝具 レンジ? 最大捕捉?

 ランサーと縁のある者たちを召喚する。
今回のマスターは常人より魔力に優れた魔法少女だったため、特に縁の強いハチワレとウサギが常時現界している。供給される魔力量や、ランサーの境遇によっては他の知り合いも駆け付ける可能性がある。召喚される彼らは低ランクの単独行動と、それぞれの性格・技能に由来するスキルを保有している。

【weapon】
さすまた

【キャラ紹介】
ちょっぴり泣き虫だけど優しい性格。
草むしりや討伐などをして生活している。

【方針】
聖杯戦争は怖いけど、マスターを無事に元の世界に返してあげたい


385 : 🏆 ◆As6lpa2ikE :2022/07/10(日) 23:56:54 y17Xunsw0
【マスター】
千代田桃@まちカドまぞく

【能力・技能】
・筋肉
女子高生どころか魔法少女の水準すら逸脱した運動能力をしている(50mは3秒で走破、握力計は振り切り、肺活量もカンスト)。
特に筋肉の鍛錬には並々ならぬ執着を見せており、鉱山車両用の巨・タイヤや巨・岩を軽々と持ち上げることができる。その所為か、何か問題が起きたら筋力のごり押しで解決しようとする悪癖がある。

・魔法少女
光の一族の力をその身におろして闇の一族と戦う巫女。
肉体がエーテル体に置き換わっているため、魔力を消耗すると体が消滅してコアにだけになったり、普段は高い再生力をしているがエーテル体同士の戦闘だと傷の直りが遅くなったりする。
千代田桃の魔法少女としての変身形態はいくつか存在する。
・フレッシュピーチ
基本的な戦闘フォーム。
・ダークネスピーチ
闇堕ちフォーム。体は光、心は闇という二重属性。この状態だと魔力の蛇口が常に全開になっており、放っておくと魔力が枯渇してコアになってしまう。日常の些細な負の感情で闇堕ちしやすくなっているが、その負の感情の原因を解決すれば元に戻れる模様。
・フレッシュピーチセカンドフォーム
第二形態。ローラースケート、腰から生えた謎のマント、猫の刺繍、膝当てと頭のてっぺんからつまさきまでクソダサマウンテン。
速度特化型のフォームであり、その性能は本物。ローラースケートのローラが纏う魔力がグリースとして働くことにより、摩擦係数を限りなくゼロ、時にはマイナスまで下げており、抵抗があればあるほど加速する物理ガン無視お化けスペックをしている。

【人物背景】
魔法少女。
活動名はフレッシュピーチ。
六年前に世界を救っており、女子高生になった現在は魔法少女としてのやる気があまりなかったがまぞくの少女・シャドウミストレス優子との出会いをきっかけに、彼女と共に色んな人々やまぞくと深く関わっていき、日々様々な事件を解決していく。
魔法少女としての力は全盛期と比べると著しく弱まっているが、それでも一般人に比べたら魔力は豊富。また異常なまでに筋力を鍛えており、その練度は友人の魔法少女から「筋力は必要以上のステージに行ってる」と評されるほど。

【方針】
元の世界への帰還


386 : ◆As6lpa2ikE :2022/07/10(日) 23:57:07 y17Xunsw0
投下終了です


387 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/11(月) 01:18:16 FxbxF8RA0
青木ルリ&バーサーカー
この話数でルリドラゴンから出してくるかという驚きと、そして内容の"らしさ"への納得とが交互に来る感じでした。
パワーとルリの会話はまるで日常系の4コマ漫画のようにほのぼのとしていて、そののどかさがルリドラゴンの作風に合っていて楽しく。
それでいてパワーの願い含めそれぞれのキャラの良さとエモさを押し出してくるのが大変よかったです。

誰かが苦しんでおるところが見たい。
マジで最悪すぎる主従で笑ってしまったんですよね……(もちろん褒め言葉です)。
苦難もとい絶望の果ての光を求める二人としてこの上ない巡り合わせなのが本当に最悪すぎて言葉を失ってしまいます。
狛枝の野郎とヴリトラの最悪の掛け合わせから生まれる最高の試練主従、これに付き合わされてしまう主従は災難ですよこれは……。

歌う悪魔と歌う少女
音楽と関わりのあるそれぞれのキャラクターを結びつける表現と構成の妙が光っていた作品でした。
互いの会話のウィットさと雰囲気は明るいけど通じ合えては絶対いない感じもそうなのですが、
ステータスシートまで見て初めて当話のカタチが見える仕組みになっているのも非常に良い演出だなと思いました。

You're myself, I'm yourself
会社を数年に渡り単身支え続けた男なら、本編終了後から間髪入れずに呼ばれるのも納得なんですよね。
そして他でもない彼が召喚したサーヴァントが斯様なルーツとその名前を持つ彼女というのがあまりに聖杯くんの諧謔が効いている。
しかし双方言い淀みようもなく善き人である事に疑いの余地はないので恐ろしく安心感があるのもまた。

??
こんなのを召喚してまっとうな態度が取れるちよもも、聖人以外のなんと言えばいいんでしょうか…。
それはさておきちいかわのあの独特なノリと作風を見事にクロスオーバーの土俵へチューンしているのが印象的でした。
なんとかなれーッ!の精神で寄せ来る敵を打ち払っていく事を期待…できるかなぁ……?


皆さん投下ありがとうございました。


388 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 20:59:05 3892wHXo0
投下します


389 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 20:59:17 3892wHXo0
.






     「ねえダーリン、世の中にはセックスに過剰になにかを求める悲しい人たちが多すぎるわ。

                何かを見失っているのよ。愛。愛だけが幸福を運んでくるのにね」

     「そうさハニー それを教えてくれたのが君さ」

                                           ――岡崎京子、3つ数えろ






.


390 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 20:59:49 3892wHXo0

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 その女は己が此処に呼ばれた意味と意義を瞬時に理解した。
聖杯、と来たか。騎士たらんと言う教育を幼少の頃より徹底されて来た彼女にとって、騎士道物語は物心ついて間もなくの頃から寝物語代わりに聞かされて来た話だった。
ギャラハッドにパーシヴァル、名だたる古の騎士達が探し求めた、至高の物質であったか。ヒムラーは聖槍と並んで、この聖杯の確保を優先していたのを思い出す。結局は世界中を血眼になって探しても、目当てのそれは見つからなかったが、もしも何かの間違いで見つかっていたのなら、ラインハルトが手にする聖槍以上の聖遺物になっていた事であろう。

 彼女の知る聖杯の知識と、その在り方は大分異にしているようであるが、この、どんな願いも叶えてくれると言う機能が真実であるのなら、成程、聖杯。その名の格に偽りはない。
個人として、叶えたい願いは確かにある。抱くその願いは、叶っているとも言えるし、叶っていないとも言える。何とも、煮え切らない。
要はまだまだ満足出来ていないのだ。ではその願いを成就させる為に聖杯を手に入れるのかと言われれば、それこそ否。
勿論聖杯は手に入れるし、己の実力で、しかも何でもありの戦争の形式で召喚されたとあれば、勝利は最早我が物だろうと言う確信すら抱いている。
抜け駆けについて、悪い事だとは思っていない。戦場に於いては徹底して、出し抜かれる方が悪い。そう言う余地を与える者が、間抜けなのだ。
だが、この聖杯については話は別。これを彼女は、神の如くに敬服している、黄金の獣。愛すべからざる光(メフィストフェレス)、ラインハルト・ハイドリヒに奉る物だと認識しているからだ。

 つまるところ、『エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ』は、献上の機会を与えられたと言う事になる。
彼女が黒円卓と呼ばれる組織に所属する理由の1から10、つまるところ全てである男に、改めて、忠を示せる機会。
サーヴァント、と呼ばれる存在に型を嵌められ、その状態でも、エレオノーレは大隊長の一角、赤騎士(ルベド)としての実力を遺憾なく発揮出来るのか?
それを、問われているのだと思った。ほざけ、見縊るにも程があるぞ。私が選択を誤るとでも思ったか。遠く離れた世界に遠征に行ったとて。
ハイドリヒ卿の威光が微かにすら届かぬ地に赴いたとて、私はあの御方の爪牙。黄金の獣の威容を保証する鬣の一房であり、名代なのだ。
故に勝つ、故に奪う。凡そ戦争と名の付く物に於いて、私が呼ばれたと言う事は、必勝を期さねばならないと言う事。赤騎士の名は、飾りでもなく伊達でもない。
勝利(シゲル)のルーンを背負う者に、敗北の二文字は許されないのであるから。

 ――なのだが。

「不愉快だ」

 戦場の本質は、一言で語れない。定義出来ない。戦場とは時代や状況、参戦している人間によって、幾つもの貌と相を有するものであるからだ。
多元的かつ多面的である戦場の本質の一つに、無秩序と言うものがある。よく語られる所で言えば、戦争とは何でもあり、ルール無用、と言う事になろうか。
勿論、それも一つの真実だし、寧ろ、死ねばそれまでと言う人間である以上絶対に避けられ得ぬこの真理と直に隣り合わせである以上、戦争に何でもありの様相が帯びるのは無理からぬ話だ。
死ねば、終わり。それまで歩んで来た人生と言う道程の全てが、断絶するのだ。許容は出来まい、怖いだろう。だから、そうならないよう何でもするのだ。
不意打ち闇討ち、トラップの設置に裏切りに。果ては民間人の虐殺や、道徳上は当然の事国際法にすら抵触する兵器の数々の行使など。追い詰められた人間は、禁忌とされ得るメソッドにすら、平気で手を染めるのだ。

 だが同時に、完全なる無秩序の戦争も、またない。 
戦争は始まってしまえば、ある程度以上の秩序や法、掟に縛られると言う側面がある。
例えば階級、例えば一個大隊や中隊等の隊列の編成、例えば戦争法。個々人が思い思いに戦うだけでは、戦争は立ち行かなくなるのだ。
それでは人類に文明が起こる前の、蛮人や蛮族、原人に猿人の戦いと何も変わらない。最低限の秩序があってこそ、人の戦なのである。
エレオノーレにとっての戦争に於ける法であり秩序、そして唯一とも言って良い大義名分、錦の御旗とは、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒただ一人。人の形をした戦争。神を殺した槍を振るいし、生ける掟そのものだ。


391 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 21:00:19 3892wHXo0

 そして、この聖杯戦争ではそれは違っていた。
ラインハルトの意思が全く介入出来ない、この世界に於いて、聖杯戦争を遂行するのであれば。エレオノーレは、ある一人の人間を要石としなければならない。
つまりそれは、限られた量の魔力を、目盛の刻まれたビーカーの中の水を注視するかのように、何処で使うのか、温存するのかを自らの意思によって計算しろ、と言う事でもあった。
要は、バディを組めと言う事だった。マスターと呼ばれる、エレオノーレの現界の為の楔であり鎹は、彼女よりも遥かに弱い。数千どころか、億分の一もないだろう。
腹が立ったのは言うまでもない。自らの主君はハイドリヒ卿ただ一人と固く信じる彼女が、他の者を主と仰げだなどと。
舐めた性根の持ち主であれば、苛烈なまでの折檻を行って矯正してやろうとも彼女は思ったが、正味の話、それ以前の問題だった。
それは、召喚した人間の性格が腐っているだとか、青くて若くて現実を見れていないニュービーだと言う訳でもなかった。

 ――単純に、エレオノーレ個人が、気に入らない、侮蔑する類の人間だった。要は、それだけの話であった。

「吐き気がする程に、気に食わぬ女だ。来歴など語らずとも解るぞ。反吐の出そうな、売女の悪臭だ」

 真皮まで達し、火傷で爛れたその顔を、不機嫌に歪ませながらエレオノーレは吐き捨てるように言った。
目線の先には、彼女のマスターが佇んでいた。女だった。ドイツの生まれであるエレオノーレにとってアジアの人種の顔立ちなど殆ど同じに見えてしまうのだが、
これは恐らく、日本人(ヤーパン)である事は間違いない。黒円卓にはその結成間もなく、即ちまだナチスが世界から消滅していなかった時代から、構成員に日本人が存在していた。
黒円卓の中でも古株であり、また、個人的な所用で日本に赴いていた事もあるエレオノーレだから、目の前のマスターの人種については、凡その察しがつくのである。

 年の頃にして20代。いや、もっと若く見える。大学生、高校生位の年齢だと偽っても、疑う者はいないだろう。
若々しい容姿だが、目につくのはやはり、その女性的な容姿になるであろうか。抱えきれるか解らないような豊満な胸、小ぶりな尻、くびれたウェスト。
これで顔の方も平均よりも上なのであるから、世の男は放っておくまい。引く手あまた、と言う奴だ。

「形だけでも名誉アーリア人扱いはされて欲しかったわね」

 ――『小松ユリカ』がエレオノーレを、自らそうだと言っていないにも関わらず、かの第三帝国の思想を受け継ぐ人物である事を見抜いた理由は、単純明快。
服装で、主張しているからに他ならない。と言うよりも、SS(親衛隊)の軍服を身に纏っている人物を、ナチスと結びつけない方が寧ろおかしな話であろう。
タイに付けられている鉄十字章の大きさとデザインを見るに、SSの中でも相当上位の立ち位置に席を置いていた高官であろう事が伺える。
燃えるような赤髪を後ろで束ねた女性で、きっと、顔の火傷の跡さえなければ、切れ長の瞳が特徴的な美女として、社交界でもその名を馳せていたのかも知れない。
纏う雰囲気は剣呑で獰猛でありながらも、それを徒に発散させるのではなく、己の意思で律して抑えられるだけの確かな理性が感じ取れる。

 成程、女傑だ。ステータスだとかスキルだとか、宝具だとか。そんなものを認識するまでもなく。
ユリカが召喚したこのアーチャーが、油断も異論も挟むまでもない絶対強者である事を彼女は理解した。
だがユリカは、これだけのただならぬ雰囲気を醸す女性がナチスにいたと言う事実を、寡聞にして聞いた事がなかった。
顔の火傷と言い、それを刻まれていて尚優れた容姿といい。これだけの特徴の塊が、後世に記録として残っていない筈がない。
ヒトラーの愛人であり、ワルキューレとすら称えられたユニティ・ミッドフォードか? だが彼女は美女でこそあったが、ブロンドの髪だった筈。
それともヒトラーから直々に第一級鉄十字章を授与されたと言う、女性パイロット、ハンナ・ライチュか? しかし彼女であれば召喚されるクラスはライダーであろう。
まさかエヴァ・ブラウンの筈はなかろう。ナチスのトップのファースト・レディであれば、それこそ、見ただけですぐ解るのであるから。


392 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 21:00:34 3892wHXo0

「人種差別の気はないがな、優秀かそうでないかでは区別はする。貴様が日本人だから言っている訳ではないぞ、戯けが」

 エイヴィヒカイト、と呼ばれる呪法を操る魔人。
その中にあって最高位に近しい格を有するエレオノーレは、単純な身体能力は当然の事、魔術的な力に於いてすら、人間に備わっている或いは会得し得る限界の水準を遥かに超えている。
五感は元より人間のそれを逸脱するレベルに達しているし、魔術的な力量に至っては、一種の半神・亜神の領域にまで到達している。
故に先ず、臭う。本人は風呂などに入って消しているつもりなのだろうが、上位のエイヴィヒカイトであるエレオノーレは、ユリカの身体から漂う性臭を敏感に嗅ぎ取った。
それだけならば、エレオノーレも此処まで悪し様に言う事はない。問題は、男性の臭いが同じなのではなく、別人のものが多すぎると言う事であった。
速い話、この女は不特定多数の男と、寝ている。エレオノーレに言わせれば、不逞の輩、股の緩い女、尻軽、淫売。そんな類の女にしか、見えなかった。

「戦場はな、男の機嫌を取りながら、艶やかな声を上げて身体に枝垂れかかって、甘く鼻を鳴らしておれば、生き残れる場所じゃない」

「私は、そんな女に見える、と」

「ほう、違うと言うか?」

「――いいえ、逆。あなた、人を見る目があるわ」

 男なしでは生きられない淫乱の血が流れている、と自分を評したのは、目を背けたくなる程に醜くて、吐き気を催す程息の臭かった、あの国務大臣の娘であったか。
その時は否定したが、今にして思えば、良く見ていたなと思わなくもない。

「どうしようもなく経済が冷え切って破綻した国では、綺麗言じゃご飯は食べられない。女は身体を売って日銭を稼ぐしかないだなんて、ナチスの高官とお見受けするあなたには言われるまでもない事だと思うのだけれど」

「よく調べているじゃないか。多少は評価してやろうか」

 WW1の後に結ばれたヴェルサイユ条約、それによって課せられた天文学的な戦後賠償及び海外領土の喪失は、ドイツの経済に致命的(オーバーキル)のダメージを与えていた。
馬鹿げた額の賠償金によって経済が滅茶苦茶になり、ハイパーインフレーションが引き起こされたのは周知の通りだが、実態はそんな生易しいものではない。
多くの失業者が経済破綻によって生まれ、金を稼ぐ手段を失うどころかその頼みの金が紙くず以下の価値しかなく。
明日どころか今日食べるものすらない為、犯罪に手を染める者が出て来るのは当然の帰結。女は身体を売って小銭を稼ぎ、不潔な環境でのセックスの為性病に掛かって苦しみ抜いた後に死に至り。
そうして男の慰み者になって得た金で、その日の飢えを凌げる物が買えるのか、と言えば、買えぬのだ。物が、ないからである。
あったとしてもそれは相当の粗悪品でしかも、酷い値段で売買している闇屋・闇市・悪徳商人からしか手に入らない。
彼らだけが良い思いをしているのかと言えばそうでもなく、今日も生き延びられるか解らない連中相手の商売だ。襲撃や強盗にあい、今度は彼らも乞食の身分にだとて転落する。
乞食、浮浪者、失業者。悪徳商に殺人鬼、詐欺師ペテン師、誘拐犯。凡そこの世のありとあらゆる悪徳が集っていたアノミー都市。それが当時のベルリンなのだ。
黒円卓の構成員であり、同じ大隊長であるシュライバーや、平団員のヴィルヘルムは、こうした街で生まれ育ち、頭角を現して行ったのである。
そして、自分達が今こんな不遇を託っているのは、戦勝国の奴らのせいだ、と言う不満を利用し、躍進していったのが、国民社会主義ドイツ労働者党、後のナチスだ。

 ユリカの言う通りだった、エレオノーレは知らない筈がないし、寧ろよく知って居る側の人間だ。
当時のそんな母国の窮状を、変えたい、その為に上に立つ。そんな思いを胸に秘めていたからこそ、魔人に堕ちる前の彼女は親衛隊の門戸を叩いたのであるから。

「アーチャー、あなたの目には私がどう映ってるのか解らないけれど、一応これでも、国家公務員なの。木っ端も木っ端だけれどもね」

「公務員(ベアムター)? 貴様がか、世も末だな」

 成程、変に頭が回るのはその為かとエレオノーレが納得する。
官僚と言い公務員と言い、公務に従事する者には最低限度の知性がなければならない、と言うのは何もナチスに限った話じゃない。
やけに小賢しいと思ったら、成程、そう言った事情があったのか。


393 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 21:00:58 3892wHXo0
「二次大戦の頃とは随分戦いの在り方が様変わりしたけれどもね、私だって、第三次世界大戦の戦中を体験した、歴史の証人よ。それなりに、戦時下を語るだけの資格はあるわ」

 ほう、とエレオノーレは嘆息した。
今でこそ、ナチスが台頭していた時代に彼らが起こした、或いは、巻き込まれていた戦争、その全てをひっくるめてWW2と呼ぶ事は常識となっているが、
当然戦争に組み込まれている兵士は勿論上官達も、自分達が参戦している戦いが二次大戦と呼ばれている事など知らない。と言うより、その様な名前はまだ名付けられていなかった。
戦争の名前とは並べて、後世の歴史家や世論が決める物だ。講和条約が結ばれ、参戦した国々とその陣営を制定し、死亡者・負傷者・行方不明者を統計し。
そうして初めて、戦争の名前と言うものが決まる。あの時の戦いを第二次世界大戦と言う名前である事を知ったのもエレオノーレは大分後になってからだし、実際そう名付けるだけの規模ではあった事も理解している。

 第三次、世界大戦と来たか。
同世紀に二度に渡って、世界規模の影響を与えた大戦を引き起こした反省から、人類は戦争そのものを起こすべきではない、封をするべきだと言う機運に向かって行った、
と聞くが、所詮人間の知性など鶏より多少マシな程度だったようだ。三歩あるけば何とやら、よりは酷くないとは言え、たったの数十年を経るだけで。
代を二代、三代と代替わりするだけで。嘗ての誓いを忘れてしまったようである。三度目の世界大戦とはどんな風だったのか、何が使われたのか、開戦の切っ掛けはなんだったのか。色々と聞きたい事はあったが、今は、黙っておいてやる事にしていた。

「貴様に戦場の何が解る?」

 エレオノーレが問い質したい事は、其処であった。

「貴様が戦士でない事など、一目見るだけで解る。89個、その理由が私には説明出来るが、そんなものは時間の無駄だ。正直に認めろ。事実、貴様は軍属でも何でもなかろうが? 違うか?」

「そうよ。戦場に出た事はないわ。プログラマー、と言って伝わるかしら?」 

「小馬鹿にするのも大概にしろよ。旧い時代の骨董品に思われているのならふざけた話だ」

 ラインハルトと共に城に残らざるを得なかったエレオノーレは、現世に留まる他なかった他の団員達に比べ、現代の事情に疎い面がある事は自覚している所ではある。
が、疎い事と愚鈍である事はイコールではない。聡明な頭脳の持ち主である彼女は、現世に姿を見せたその一瞬で、今の世の中の在り方を理解出来る位には知性的なのだ。
流石に、プログラマーが何であるのか位は講釈されるまでもない。無論、彼らが戦場に於いて何を果たすのか、と言う事も。
恐らく第三次世界大戦、とやらは、極めて高度に電子制御された次世代のハイ・テクノロジー兵器が活躍する場所だったのだろう。
最先端の知識を有する数学者やコンピューター学者、生物学者、物理学者が軍人の帷幄に所属し、己の理論を利用して、楽に何万人も殺せる兵器を開発したのであろう。
彼らの頭脳はミサイルを生み出し、恐るべき生物兵器も創造するにいたり、小銃や拳銃などの持ち運びが出来る武器をより強力にもしたのかも知れない。

 頭脳だけが取り柄で、殴り合いもした事がなく、上官に頭を軍靴で踏み抜かれた事もない軟弱者が、戦場に介入出来る時代か、とエレオノーレは呆れる他ない。
尤も、その様な気風は彼女が生きていた時代から既に顕著であったし、彼女が保有する聖遺物であるところの、ドーラ列車砲だとて、元々はナチス肝入りの科学者達が作り上げた代物だ。
科学者共が戦場に参戦出来る事については、諸手を上げて肯定は、個人の心情としては兎も角、全面的な否定もしない。そうする事によるメリットがある事も、解っているからだ。


394 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 21:01:22 3892wHXo0
「戦場の華とは、前線で戦う命知らず共だ。馬鹿みたいに重い装備を装備して、靴擦れに股擦れ、水虫に苦しみながら、100㎞以上も行軍を寝ずに行い続ける歩兵達だ。眠れる時間もなく、当然集中など出来る筈もないのに、それでも正確な仕事をしろと要求され怒鳴られ続ける工兵達だ」

 話を、エレオノーレは続けて行く。

「仇花を咲かせるしか最早なく、その過酷な運命を受け入れ、雄たけびを上げて命を燃やす者共はいつだとて美しい。終わる事はないのではないか、我々は目的地に到着する事はないのではないかと思いつつ、それでも歩み続け耐え続ける者はいつだとて美しい。戦争の主役はいつだって彼らであるのと同時に、それらを率いる指揮官だ。彼らの全滅と共に、自らもまた死を選べる気高い黄金色の精神の持ち主なのだ」

 エレオノーレは沈黙し、鋭い目線を、ユリカに向かって投げ掛けた。
ゾワッ、と、百万の銃口を一斉に己に向けられる事以上の恐怖を、ユリカが覚えた。殺意を放出している訳でもない。敵意を剥き出しにしている訳でもない。
ただ純粋に、詰問する。それだけの意図しかないのに、魂の内奥すら震え上がらせる、この眼力は。どんな死線をくぐっていれば、こんな領域に、達する事が出来るのか。

「翻って貴様は何だ。技術職ではあるのだろうが、戦場に携わっていた訳でもないのだろう。庶務と雑務、保守を担当するだけの典型的な役人の臭いしかせんぞ。挙句の果てには淫らな売女の悪臭を漂わせ、何が戦場を語る資格がある、か」

 エレオノーレは何につけても、半端が嫌いであり、覚悟もないのに戦場に首を突っ込む輩が嫌いだった。
確かに淫売は嫌いだ。反吐が出る。だが、自分の知らない所で、その役割を徹底しているのなら、己の業を見つめているのなら。嫌い以上の感情はない。
時に母であろうとし、時にヒロインであろうとし、時に己の不幸な身の上を利用してパイを奪おうとし。己のサガを見ないふりをして、都合の良い事をベラベラと口にする、真の意味での尻軽こそが、エレオノーレは嫌悪するのである。

 当然、覚悟も何も抱いておらず、ただただ軟弱・柔弱、弱音しか吐かない兵士など殺してやりたい程に嫌っている。
大した戦果もない役立たずが、したり顔で戦場の何たるかを語っているのを見た時には、銃床で頭蓋骨が凹む位に思いっきり殴ってやったものだ。

 死のリスクが限りなく低い遥か後方の公務員。その上に淫売。
そんな女を、エレオノーレが好感を抱く筈がない。徹底して嫌悪の対象、侮蔑するべき屑であるとすら思っている。
こんな女に従う事など、真っ平御免であり、マスターの乗り換えすら、いよいよ視野に入れ始めている段階なのだ。

「今一度、問う」

 エレオノーレは、言った。

「貴様は戦場の、何を知っている」

 目線だけで、人を殺せる。
これを地で行くような、エレオノーレの目線を真っ向から受け入れながら、ユリカは、臆する事無く言い切った。

「私の旦那を人殺しにした場所よ」

 地獄と言うのではない。天国だなどと、口が裂けても言うつもりもない。
ユリカにとって戦争とは、戦場とは。馬鹿だが、愛するべき夫に人殺しの咎を生涯背負わせ続ける事を宿命づけた、憎むべきものでしかなかった。

「笑わせる」

 ユリカの言葉を、嘲弄で返した。

「女と言う奴はいつもそうだな。どいつもこいつも、判を押したように、話のタネが男の話題しかないのは何故だ。それほどまでに、男が大事か」

「そうよ!!」

 そこだけは、ユリカは、譲らなかった。

「何が戦場の華よ、何が美しい仇花よ!! 知ってる? 産まれた瞬間から、その人が将来どんな人物になるのかが解る遺伝子があるって事。そして、それに異常があると、絶対に犯罪者になるんだって!!」


395 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 21:01:49 3892wHXo0
 二十一世紀が始まって間もなく、八角清高によって提唱されたM型遺伝子理論は、知る者から見れば、遺伝学の拡大解釈としか思えない突飛な理論だった。
人間の一生、即ち、その人間が将来どのような者になるのかと言う情報が詰め込まれたその遺伝子の異常、即ちM型遺伝子異常が確認された場合、その人物は絶対に犯罪者になるのだと言う。
人間の柔軟性、フレキシブルさ、多様性を根本から否定するこの理論は、来たる第三次世界大戦に備え、国民の意思の統一並びに、国家の全権の掌握を目論む者達によって、都合よく利用された、『政策』でもあった。

「私の夫がそうよ!! 産まれた時から犯罪者の烙印を押されて、国家の存亡を左右する激戦地に自分の意思で赴いて――!! どんだけ頑張って戦果を立てて凱旋しても、与えられたポストが私と同じ下っ端の役人!! 最下級の巡査職しか与えられなかった男よ!!」 

 小松ユリカの夫。婚姻関係を法的に結んだ訳でもなければ、式を挙げた訳でもない。
そんな旦那である、廻狂四郎は、M型遺伝子異常と言う遺伝子のエラーのせいで、産まれたその時より将来的には犯罪者になる可能性が高いと診断され、
そのせいで生後間もなく厚生病院と言う名前の軍事訓練施設に預けられ、大戦の開戦と同時に激戦地に投入され……。
そうして生きて還ったその時には、何らの昇級もなく、地方の下級巡査としての地位をお情けで与えられたに過ぎず。
差別、差別、差別差別差別。何処に行っても偏見の目で見られ、差別的な扱いを受ける日々。30億あると言う人間の遺伝子の中の、たった一つ。
異常や欠陥があると言うだけで、重要な要職には就く事が出来ず、学問・宗教・職業選択・転居、ありとあらゆる自由が剥奪される。そんな異常な政策が罷り通っていた国家で、
狂四郎もユリカも生まれ育ち、かく言うエリカもまた、そのM型遺伝子に少なからぬ異常があったせいで、下級公務員以上の役職に就く事も出来ない身の上なのである。

「ならば跳ね返ってみれば良かろうが。国家に対する裏切り者……犯罪者になる事が怖くて唯々諾々と従うだけか。貴様の男は」

「もうなってるわよ、お生憎様ね!!」

 この言葉は、流石のエレオノーレも予想はしてなかった。瞳が、僅かに細まった。

「酷い国になったわ……。男女は性別で厳密に分けられ、国が作った大農場に男女が別れて、事実上の断種法が施行されてるの。貴方達で言う所の、アウシュビッツよ」

「待て。まさか貴様ら、自分の国の国民にそれをやっているのか?」

 流石のエレオノーレも驚いた。
当然の話、彼女に対してアウシュビッツがどういう施設で、そして実際に何をやっていたのかを説明するのは、釈迦に説法どころの話ではない。
黒円卓に嘗て所属していたヒムラーも深く関与していた施設であり、現存する黒円卓の何人かも、実際に関与していた。
現にシュピーネの保有する聖遺物はまさしく、そのアウシュビッツで用いられた絞首の為の縄であった。
だが、アウシュビッツとは、当時ヒトラーが目の仇にし、民族浄化を本気で目論んでいたユダヤの民に対しての施設であり、断じて、ドイツ国民の為の物ではない。
当たり前だ、如何に末期のヒトラーが強迫観念に捕らわれた怪物であったとしても、自国民を粛清して行けば結果として国家がどういう末路を辿るのか、知らぬ程愚かではなかった。

 まさか、あれを自分の国の民に?
正気の沙汰ではない。何のメリットもないし、そんなものを男女の別にやって行けば、総人口が急激に落ち込んでいき、最終的には国家の衰亡を辿るしかないではないか。

 ――いや、メリットはある。魔人の思考回路を持つエレオノーレは瞬時にその意図を読んだ。
形は違えど、ヒトラーも、その宿敵であったスターリンも、同じ事をやっていたではないか。
独裁者に必要なものとは何に於いても、自分が全権を握っていても許される、と言うカリスマ性。卑近な言葉で言うのなら、人気である。
だからこそ彼らは、自分と同じ位に、或いは、それ以上の人気や有能さを持った幹部や側近を嫌う。ヒトラーもスターリンも、それは変わらない。
己の権勢の邪魔となる有能な側近を、彼らは排除していった。ヒトラーはSA(突撃隊)の幕僚長であり盟友でもあったエルンスト・レームを処刑した。
スターリンは軍の有能な司令官の実に9割以上を粛清した。独裁者とは、国民の人気に於いて成り立つ。それを知っているからこそ、このような常軌を逸した選択を彼らは選べるのだ。


396 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 21:02:03 3892wHXo0
 では――粛清対象を有能な側近ではなく。
己の権力基盤を盤石のものとするべく、『自らの側近や友人以外の全国民を粛清』するとしたら?
普通に考えれば、気が触れたような発想であろう。だが、その失った分の国民を、補える何らかの手段があったとするのなら?
そして、ユリカはそのヒントを既に口にしていた事にエレオノーレは気づく。遺伝学……。ああ成程、優生学を散々、祖国は利用していたじゃないか。
レーベンスボルンに所属していた団員も、思えばいたな……。そんな事を、エレオノーレは思い出した。

 とどのつまり、小松ユリカと言う女は。
『総人口の1%を満たすか満たさないかと言う一部の特権階級と、これに奉仕する遺伝子改造によって産み出された残り99%の新たなる民族』と言う構図が成立しつつある国家から、やって来たのであろう。

「解るでしょう? もう私達は、自由な恋愛は勿論、国家であれば奨励する筈の子作りだって出来ないの。男女が出合い、落ち合う。それ自体がもう、死に値する重罪なの」

 国家が指定した大農場(プランテーション)に、男女を隔離させ、其処で農業に従事させる法案。
直球に、男女隔離政策と言う名前で施行された人間は、オアシス農場から脱走した場合、死刑が確定する。
否、そもそも脱出するまでもないのだ。農場の敷地から出た瞬間、監視塔に常駐しているスナイパーが、脱走犯を狙撃するのであるから。
この時のスナイプで即死していれば、まだ幸運な方だ。生き残っていた場合、その脱走犯を待ち受ける運命は公開処刑の末の、晒し首なのであるから。
このような処遇は、主権を剥奪された一般国民だけの話ではない。役人であっても、そのヒエラルキー上、下級の役職であった場合は粛清対象になってしまうのである。

「ならば――貴様らは何処で知り合った」

 それは、明晰な頭脳を持つエレオノーレであれば、当然抱いて然るべきの疑問。
男女が隔離され、出会って恋愛するだけで処刑対象の世の中で、何処で、ユリカ達は出会えたのか。
話を聞く限りなら、隔離方法はかなりの完成度を誇る筈。物理的な遮断は勿論の事、ネット上、コンピューター上でのやり取りすら、出来ないと見て間違いなかろう。

「教えてあげるわ。セックスを目的としたバーチャル空間での事よ」

 冷笑で、エレオノーレは返した。

「現実にあった事のない男を、伴侶と呼ぶか。呆れる程に滑稽な生き物だよ、貴様は」

「それの、何が悪いのかしら」

 ユリカの返事は、強かった。何らの悪びれも感じておらず、一切の恥も感じてないようであった。

「そうよ。式はバーチャル空間内で挙げた、神前式よ。その後に待ちきれないでセックスだって飽きずに何回も何回もやったわ。江戸時代の日本を模した空間で、私達は毎日毎日出会って、何度もおまんこをハメ倒したわよ」

 本質的にエレオノーレは、品のない言動を嫌う。
だからユリカのその、場を弁えない下品な言葉に怒喝を飛ばしてやりたくなったが――ユリカが余りにも鬼気迫る風に言うものだったから、黙って聞いてやる事を選んでしまった。

「でも現実には、私達は出会ってない。だって私達は、隔離されてるから。私は北海道の中央政府電子管理センター。旦那は国家の反逆罪を課せられて、場所を転々としてて。追っ手を撒きながら――殺しながら向かってるわ」


397 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 21:02:43 3892wHXo0
 ユリカの生きる時代、北海道の電子管理センターと言えば、日本の最高機密を司る最重要施設であった。
永田町及びそこに建てられている国会議事堂や首相官邸は戦火によって焼け落ち破壊され、国家の機能が日本全国に分散され、北海道はプログラム担当の公務員が集中する省庁となった。
当然、お尋ね者の身である狂四郎がそこまでたどり着く為には並ならぬ労苦を覚悟せねばならないし、辿り着いた所で、センターの周りには地雷原が敷かれ、敷地内には日本が誇る精鋭軍隊が巡回し、マジノ要塞を参考にしその欠点を完全に克服したセンターと言う建物自体が物理的にも電子的にも強固な鋼の要塞となっている。だからこそ、スーパーコンピューターの中のスーパーコンピューター、飛鳥は、狂四郎とユリカが出合える可能性を0%と断言したのである。

「あなたの言う通りよ、アーチャー。私は淫売よ。15歳で職場の上司に無理やり犯されて初めてを散らされて、その後は来る日も来る日も、望まない男にレイプされて!! でも見返りはあったから、耐えて、大丈夫、まだ頑張れるを繰り返して!! ほんと、自分でも嫌悪する位の売女だわ!!」

 公務員及び特権階級の家族、全部の国民の主権が剥奪された、ユリカの世界に於いて、その公務員ですら、役職によっては婚姻の権利を剥奪されていた。
つまるところの、生身の女との性交が、出来ないという事である。だが、性欲食欲睡眠欲の三欲が、人間のサガである事は論ずるまでもない事で。
自分よりも役職の下の女性に無理やり肉体関係を迫り、性的虐待を行うケースは、何も彼女の勤めるセンターに限った話ではなかった。
当然の様にパワハラが行われ、その一環で性交渉が行われていた。レイプ被害にあった多くの女性が泣き寝入りするように、黙って耐える者もいれば、勇気をだして諮問機関に訴える者もいる。
だが、殆どの場合黙殺され、握り潰される。その様な事で人員を潰していれば、機関が、組織が。回らなくなるからだった。
そんな、世の中の暗黒と理不尽を見続けた結果、ユリカは、慣れてしまったのだ。犯される事に。そして、黙って耐えていれば、遺伝子的には劣等に近い自分にも、出世の芽があるし、餓える事もないからだ。

「男なんて、どれもこれも異常な性欲を隠し続けてる野蛮で酷い生き物で……。セックスを目的としたバーチャルソフトの開発と保守もしてたからね、言葉にするのも嫌になるセックスをしていた男なんて沢山いた。見続けて来た。だから私には、男なんて、言葉を喋る男性器にしか見えなかったわ」

 「――そんな中で」

「旦那の狂四郎に、バーチャル空間で出会ったわ。セックスが目的としたバーチャル空間の中で、取り合えずヤればそれでいいソフトなのに。感情のないバーチャルの女を必死に口説いて、勝手にバツの悪さを感じて……、ソフトを閉じて、バーチャル空間内で剣術を学べるソフトを起動して修行に打ち込むあの人の姿に……初めて、普通で……まともな、男の人を見たの」

 男女の交際が一切禁じられた世界に於いて、男女共に性欲をどうやって解消するのか?
性欲は男だけの欲求ではない、女にだってある。フラストレーションの蓄積は、普段の農事にだって差支えが出て来る。
ために、国はバーチャマシンと呼ばれる機械を与え、これによる本物そっくりの仮想空間を性サービスに特化したそれに改造、国民の性欲を解消させようとしたのだった。
種々様々なソフトが、其処にはある。SM、レイプ、ロリコン・シニア向け。ベイビープレイに、寝取り・コスプレ・スカトロジー。
凡そ人類が想起し得るありとあらゆるシチュエーションのセックスソフトが用意されていて、人の性欲に対する執着の強さと欲深さが、ソフトの数だけ存在する。
そんな、セックス向けのソフトであるのだから、バーチャル空間内のキャラクターは全て男女の性欲の解消の為に存在するのであり、つまりは人の醜い欲望の解消の為の付随物なのだ。
だから、狂四郎のように、回りくどい口説き文句だとか、セックスに持ち込む為の前口上も努力も、要らないのである。

「狂四郎は不器用で、下品で、スケベだけど……。でも、付き合うまで、ちゃんと、順序を守ったわ。出羽の庄内藩を模したバーチャルの世界を一緒に歩いて、何気ない話をして、仲良くなって……2年目にキスをして。で、それから紆余曲折があって、バーチャルの世界でシた」

「……」

「狂四郎、だけだった。私を犯そうとしなかったのは。私の周りの現実の男達はいつも、暴力や権力を笠に着て、セックスを迫って来たのに……。旦那だけは、違った」

 すぅ、と息を吐いてから、決然とした光を更に強めて、ユリカは口を開く。


398 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 21:03:38 3892wHXo0
「私にとって、狂四郎は太陽だった。北海道のセンター何て言う、冷たくて暗くて、陽の当たらない場所に閉じ込められていた私を、温めてくれた唯一の太陽よ」

 出会った事のない、バーチャルの中でしか絆を育んだ事のない男女が、愛を語る。
それは、エレオノーレが言った『滑稽』の一言が何処までも当て嵌まる。顔を突き合わせた事もないのに、手だって繋いだ事がないのに。
バーチャル空間内でのセックスで結婚した気に、夫婦になった気になる。成程、哀れで無様で、愚かしい。
本来は、それで満足していればよかったのだ。二人は絶対に出会えないのだから、二人は現実の世界にいる、と言う事を受け止めた上で、バーチャル空間で1日の内何時間かを過ごす、と言う日常を続けて行けばよかったのだ。

「それでも――夫は逢いに来てくれるの。私の所に、向かって行っているの」

 ――死出の旅である事は、誰ならぬ狂四郎自体が解っていた筈なのに。
殺される可能性の方が遥かに高い事など、ユリカだって解っていたのに。現に国家の反逆者への烙印を押され、日々追っ手に追跡されていると言うのに。
それでも、旦那は、私の事を迎えに来てくれている。今も、北海道目指して旅を続けている。

 ああ……ならば。

「『太陽に近づかれて、拒める女なんていない』のよ!!」

 心の底から愛する男が、自分を救いに来てくれていると言うのに、そのまま大人しく待つだけのジュリエットになるなど、死んでも御免だった。
狂四郎に出会う為ならば、弱い自分を幾らでも変える。一日の運動の時間を大幅に増やしたのも、相変わらず男に犯されそうになっても心を強く持てるようになったのも。
狂四郎が、北海道に向かって来てくれていると言う事実を知っているからだった。だから、自分も、救いに来てくれた狂四郎の為に鍛える、備える。彼の邪魔に、ならないように。
自分を照らし、そして、愛の炎で焦がしてくれた狂四郎に、私のまんこを味合わせるその為に。

「こんな所で私は死なない。絶対に生きて還る。今も地獄の底で苦しむ夫の下に、私は行く。その為に私は、アンタの力が必要なの。解ったなら協力しろ、アーチャー!!」

 捲し立てるようにそう告げるユリカは、自分がどれ程の非礼を働いているのかを認識していない。
エレオノーレがその気になれば、小松ユリカの命など、1秒を数万分の一に分割した時間よりもなお早く、殺される。
恐らくエレオノーレが本気になれば、ユリカが元居た世界の日本など、壊滅に持ち込ませる事だとて造作もない。個人で、それだけの暴力を有するのだ。
成程、人間を遥かに超越したサーヴァントである。そうと解っていても、殺されるかもしれないと解っていても、ユリカは譲らなかった。私の夫の為に、戦え。そこだけは、決して曲げなかったのだ。

「……………………ククッ」

 顔を俯かせていたエレオノーレが、そんな忍び笑いを漏らした。

「……ッハハ、ハハハハハ、ハハハハハ……」

 笑いが、どんどん強まって行く。

「ハハ、ハハハハハ、フハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

 顔を上げ、その顔面を、手袋をはめた右手で抑えながら、躁病の患者のような爆笑を、エレオノーレは上げ始めた。
ある種狂的な風すら感じられるその哄笑は、誰に対しての物だったのか。ユリカの馬鹿さ加減か、呆れ返る程の滑稽さ、淫乱さか?
それとも、彼女の思いもよらぬ強さのエゴ、肝っ玉の太さに対してなのか?

 違う。
エレオノーレは、自分自身に笑っていた。それは、自嘲の念からくる爆笑だった。


399 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 21:04:15 3892wHXo0
「まぁ確かに……城で過ごした50年の間、貴様と喧嘩が出来なかったから、張り合いがないなと思った事もある、それは認めようさ」

 瞼を閉じると、あの、泣き黒子の女の顔が思い浮かぶ。
ああ、思い出すと張り手を喰らわせてやりたくなる。サーヴァントになっても思い出せるぞ、貴様の顔は。
同じうら若き青春を、ユーゲントで過ごした腐れ縁。朝の早くから夜寝るまで、ウンザリする程に一緒にいた敵同士。
何につけても貴様とは張り合ったな。朝起きる時間、食事のスピード、学業の成績、トイレを済ませる早さ。ユーゲントの生活だとて厳しかったのに、
何日寝ずにいられるか、などと言う馬鹿もやったな。一生分の時間を、その下らない争いに費やしたような気がしたよ。お前はレーベンスボルン、私はSAに行って、別々の進路を選んで。もうこれっきりだと思って清々した。

「どうしようもない下種で、屑で、女の腐った奴と思った事だとて一度二度じゃないが、それでも、ハイドリヒ卿の御許に導かれたのなら、また、あの時みたいに喧嘩してやっても良いとは、少しは思ったよ」

 ククッ、と口元を歪め、苦笑いを浮かべながらエレオノーレは言った。

「だが、よりにもよって、別の淫売を宛がってくれるとはな。やってくれたなブレンナー。貴様はそんな風だから――」

 大淫婦(バビロン)と呼ばれ、他の団員からも嫌われ、疎まれるのであろうがよ。

「太陽に近づかれては、拒めない、か」

 ゆっくりと瞳を開け、紅色の瞳をユリカに向けるエレオノーレ。
あいも変わらず苛烈な光を、眼球の奥底に湛えていたが、不思議と、その表情は穏やかだった。

「成程、貴様が正しい。この世界に、太陽に求められ、差し伸べられた手を払い除けられる者は、いないのだ」

 そう、何せ、自分がそうだったのだから。そうと続けたかったが、其処は、意思の力で抑え込んだ。
憧れが向けて来た手は、握ってやりたくなる。あの時、何かの間違いで自死すら選びかねなかった自分の下に現れたラインハルトは、
軍人として最早これまでと自分自身ですら思っていたにも関わらず、自分を誘ったのだ。それが修羅の道であろう事は、解っていた。
だがそれでも、その手を払い除ければ、後悔する事も解っていた。だから彼女は、選んだのだ。黄金の獣の鬣になる事を、爪牙になる事を。
永劫、その御許でラインハルトの発する熱に焼かれ続け、その威光を浴び続ける道を、迷いなく。幸福であると信じたのだ。

「私は太陽に焼かれ続ける事をこそ至福と捉え、其処に近づこうと必死になったが……。お前もまた、そうなのだろう」

「そうよ。もう、冷たくて暗い場所なんて嫌。地上に太陽なんてもうないの。だから私は、地獄の底の太陽に向かって、走って行くの」

 ああ糞、とエレオノーレはむかっ腹が立ってきた。
何だこの女は。紛う事なき淫売で、自分とは徹底して反りが合わないと思っていたのに。男の愛と庇護がなければ、立っていられない程に弱くて女々しい小娘だと言うのに。

 何でこうも、肝心の魂の部分が。
抱く願いを、否定出来ないのか。そんな事、私自身が良く分かっている。人種も違う、生きた時代も違う。まして、生き方だってまるで違う。
だが、同じなのだ。赤騎士(ルベド)と呼ばれ、恐れられたこの私と、この淫売は――根の部分が、同じであるのだ。


400 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 21:04:30 3892wHXo0
 ――同族嫌悪、か――

 まるで鏡合わせ。
成程、聖杯戦争とはただバディをランダムで組むだけじゃないのか。似た者同士を、勝手にマッチングしてくれるのか。
舐めた事をする。貴様も絡んでいるのか副首領(メルクリウス)。だとするのならば、貴様も殴ってやりたくなったな。

「恐るべき炎が周りを取り囲む館に囚われたブリュンヒルデと、それを救いに行くシグルド……か」

「? 何故ワーグナーを?」

 ドイツが産んだ天才作曲家。
後世に於いて絶大な影響を与えた音楽家であり、かのアドルフは、総統を目指す遥か以前の、貧乏作家だった時代、貧窶を極むる状態である事を事実として認識しつつも、
ワーグナーのオペラに足繁く通っていた程のワグネリアンであった事は有名な話だ。そして、エレオノーレが口にした言葉は、そのワーグナーの最高傑作。
ニーベルングの指輪のシーンの一つだった事を、ユリカは知っていた。シグルドは英雄、ブリュンヒルデは囚われの姫であり、戦士達の身体と心を癒すワルキューレだった筈だ。

「何だかんだ言っても、私も、ニーベルングの指輪は嫌いじゃない事を、思い出しただけだ」

 ワーグナーが楽劇の王である事については異存はないし、ニーベルングの指輪が名作である事も異論はない。
だが、琴線には触れない作品だなと、嘗て黒円卓のメンツの中にヒムラーやハウスホーファー、ルーデル達が所属していた頃、付き添いで観に行って、退屈だった事を思い出す。
今は、少々見方を変えられる。成程、考え方を少し変えた今なら、少しばかりは、良い作品だったと、思う事に、思い直す事にしたのだった。

 だが――

「待つだけの女など私は認めん。黄金は、手足をちぎれんばかりに動かす者にのみ微笑む」

 瞳に、剣呑な光が宿った。覚悟を問う目。

「殺せるか? 人を。己を殺そうとする者を、殺り返せるか?」

「――殺るわ」

 目を、ユリカは逸らさなかった。愛する者を、思う目。

「私は、世界で一番旦那を愛してる、早く出会ってハメ倒したい淫売だから」

「ならば、大変に不服だが使われてやる」

 剣呑な笑みを浮かべ、エレオノーレは言った。

「私は、永遠に炎に抱かれて焼かれていたい、永遠の処女(こども)であるから」

「お熱い相手がいるのね」

「下種の勘繰りは命を縮めるぞ、馬鹿者め」

 ユリカの事は少しは認めてやるが、其処だけは間違われると怒る。
リザにしてもそうだが、女は愛と恋とだけに、熱を上げる訳では、ないのであるから。

「貴様の決意は兎も角、戦争に組み込まれる人間としては落第だ。地力が足りん。今日この瞬間から開戦まで貴様を鍛えてやる。荒療治だが、多少はマシな新兵にはしてやるよ」

「狂四郎との逃避行にも?」

「それが楽に思える位、私の訓練は厳しいぞ」

「やるわ。だったら、階級で呼んだ方が嬉しいでしょう? 最終的な階級は?」

「少佐だ」

 率直に凄いと思った。見た所エレオノーレの年齢は、かなり若い。二十代の後半位にしか見えない。
その年齢で佐官にまで、しかも女性の身で上り詰めるとは。かなりの切れ者かつ有望株、そして有能な人物でなければ、到達し得ぬ階級であった。

「親切ですね、少佐。さっきまではあんなに手厳しかったのに」

「よく思えば、貴様より酷い淫売との腐れ縁があった事を思い出しただけだ。アレに比較すれば、まだ貴様は良い」

「でも、訓練じゃ私、出来が悪いわよ。拳銃だって扱い全然下手だし」

「……」

 一瞬だけ、遠い目をするエレオノーレ。
脳裏に思い浮かんだのは、黄金色の髪を、自分のように後ろに纏めた嘗ての部下。
戦乙女の仇名を貰っておきながら、どうしようもなくダメだった女であり、頭の悪い駄犬のように、自分に付き従ってきた女。

「……不肖の娘の相手も、慣れているよ」

 ブレンナーと言い、キルヒアイゼンと言い。
私の周りには、思えば、ロクな女がいなかったなと。普段葉巻を忍ばせている所をまさぐりながら、エレオノーレは思った。
「先ず最初の指令だ、葉巻を調達しろ」「……パシリ?」、葉巻が、ないのであった。


401 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 21:04:43 3892wHXo0




【クラス】

アーチャー

【真名】

エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルク@Dies irae

【ステータス】

筋力C 耐久A++ 敏捷B 魔力A++ 幸運A 宝具A

【属性】

混沌・善

【クラススキル】

対魔力:A
魔力への耐性。ランク以下を無効化し、それ以上の場合もランク分効力を削減する。事実上、現代の魔術師ではアーチャーを傷つける事は出来ない。

単独行動:A+
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。このランクならば、宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合ではない限り単独で戦闘できる。

【保有スキル】

エイヴィヒカイト:A
極限域の想念を内包した魔術礼装「聖遺物」を行使するための魔術体系。ランクAならば創造位階、自らの渇望に沿った異界で世界を塗り潰すことが可能となっている。
その本質は他者の魂を取り込み、その分だけ自身の霊的位階を向上させるというもの。千人食らえば千人分の力を得られる、文字通りの一騎当千。
また彼らは他人の魂を吸収し、これを自己の内燃エネルギーとして蓄えられると言う都合上、魔力の燃費が極めて良い英霊にカテゴライズされていて、
具体的には、余程ノープランな運用をしていない限りは、魔力切れのリスクがかなり低いと言う事。
肉体に宿す霊的質量の爆発的な増大により、筋力・耐久・敏捷といった身体スペックに補正がかかる。特に防御面において顕著であり、物理・魔術を問わず低ランクの攻撃ならば身一つで完全に無効化してしまうほど。人間の魂を扱う魔術体系であり殺人に特化されているため、人属性の英霊に対して有利な補正を得るが、逆に完全な人外に対してはその効力が薄まる。

魔力放出(炎):A+
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。
自在にオンオフが可能であり、オンの状態にした場合、アーチャーの一挙手一投足は勿論、彼女が産み出した道具による攻撃の全てに、炎の発生がエンチャントされる。

銃器創造:A
努力で身に着けた能力。アーチャーは向こう側にストックされている、当時のナチスで用いられた火器及び重火器を、それを扱う兵団ごと引きずり出す、或いは再現し、
これを行使する事が出来る。ランクAは、戦車砲や高射砲、地雷に手榴弾にメッサーシュミットなど、極めて広範な火器・重火器、果ては爆撃機までをも再現する事も出来る。
またこれらの武器は、サーヴァントが産み出した兵装の為、勿論神秘を保有している為他のサーヴァントにもダメージが与えられるし、そもそもその威力からして、魔人であるアーチャーが産み出した物の為、格段に威力及び規模が跳ね上がっている。

修羅への忠:EX
生涯をかけて、傍に仕える。永久に、その光に焼かれ続ける。それを選んだアーチャーの、絶対の忠誠。
高度な精神防御として機能する他、極限域の鋼鉄の決意、勇猛、戦闘続行スキルを兼ねた複合スキル。
いや愛じゃないの?と突っ込むと昔程じゃないとは言え滅茶苦茶怒るから気を付けような!!


402 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 21:04:58 3892wHXo0
【宝具】

『極大火砲・狩猟の魔王(デア・フライシュッツェ・ザミエル)』
ランク:A 種別: レンジ: 最大補足:
聖槍十三騎士団黒円卓第九位であったアーチャーの操る聖遺物。武装形態は武装具現型。
素体は第二次世界大戦でマジノ要塞攻略のために建造された80cm列車砲の二号機。
その運用には砲の制御のみで1400人、砲の護衛や整備などのバックアップを含めると4000人以上もの人員を必要としたとされる文字通り『最大』の聖遺物。
幅7m、高さ11m、奥行き47mというあまりの巨大さのため殆ど形成されず、普段は空中の魔法陣から炎熱の砲弾を発射する活動位階の能力のみが使用される。
ただし、戦略兵器として造られた来歴に違わず、活動位階での運用でもその火力は、サーヴァントになった現在でも、容易く耐久に鳴らした相手を死傷させるほどに強力。

近代の物ほど神秘が薄く、宝具としてのランクが低いと言う原則に則って考えれば、異様に宝具ランクが高いが、事実、この宝具の本来のランクはE相当に過ぎない。
にも拘らずこれだけのランクを誇るのは、生前のアーチャーがこの宝具を使って多くの人間の魂を簒奪して来たからに他ならず、言ってしまえばこの宝具のランクは魂の量のランク、という事になる。

『焦熱世界・激痛の剣(ムスペルヘイム・レーヴァテイン)』
ランク:A 種別:対軍〜対国宝具 レンジ:常時拡大 最大補足:常時拡大
創造位階・覇道型。
能力は『標的を着弾の爆発に飲み込むまで爆心地が拡がり追いかけ続ける』と言うもの。聖遺物である極大火砲・狩猟の魔王から発射された砲火が着弾した瞬間、宝具は発動する。
例え爆心地からの逃走を果たしたとしても、対象に着弾するまでその爆心が燃え広がり続ける。やがて地上に逃げ場は消え去り、対象は焼き尽くされる他ない必中の業。
絶対に当たるとはこう言う事、何処まで逃げても追い続け、星の全てを爆心地が多い尽くすまで、熱が止まらないと言う事なのだ。

『焦熱世界・激痛の剣(ムスペルヘイム・レーヴァテイン)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
創造位階・覇道型。上述の宝具はアーチャーの有する宝具である事は間違いないが、真の切り札ではない。此方の方が本当のワイルドカード。
『黄金の輝きに永劫焼かれていたい』と言う、アーチャーの渇望のルールを具現化した覇道型の創造。
能力は『逃げ場の一切ない砲身状の結界に対象を封じ込め、内部を一分の隙間もなく炎の壁で焼き尽くす回避不能の絶対必中の攻撃を放つ』と言うもの。
絶対に逃げられず、絶対に命中し、総てを焼き尽くす炎が凝縮した世界。
対象と自身をドーラ列車砲の800mmの砲弾が走り抜け長さ30mに達する砲身内部……を模して展開された固有結界に取り込み、逃げ場なく己と相手を燃やし尽くす。
発動すると紅蓮の炎が周囲を包み込み始める。一度発動してしまえば、1秒以下の速度で酸素が消滅し、隠れ場所も存在しない場所の為、
ただ一寸の隙間すらなく業火のみが埋め尽くす溶鉱炉と化す。その様相は正に、あらゆるものが沸騰し、溶岩の数百倍を上回る熱風が吹き荒れるムスペルヘイムそのもの。
また固有結界内の炎は当然アーチャーは自在に操ることが可能で、着弾と共に弾ける炎弾を撃ちだしたり、念を込める事で炎を凝縮させた、
摂氏数万度に達する炎の槍を砲弾の勢いで放つ。さらにその火槍を雨のように降り注がせる、と言った小回りすらも利くのである。最大火力で極炎の砲弾はの燃焼とその威力は、核に等しい熱量ともなる。

逃げ場がないとは、こう言う事。必殺とは、即ち之也。
初めから逃げ場などない空間を展開し、相手を殺せる程の熱量の一撃を、飽和するが如き勢いと数をぶち込んで、殺すまで攻撃し続ければ良い。
真の絶対必中、絶対必殺が具現化した、アーチャーの究極の宝具。それが、これと言う事になる。


403 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 21:05:10 3892wHXo0
【weapon】

剣:
普段は銃を用いた攻撃をする事が多いが、実際は剣術に於いても恐ろしい程の達者。取るに足らないサーヴァントであれば、相手がセイバークラスであっても圧倒する。勿論、格闘術に於いても類まれな実力を発揮する。

【人物背景】

処女
 
【サーヴァントとしての願い】

ない。手に入れた聖杯は、ハイドリヒ卿へ献上する。



【マスター】

小松由利加@狂四郎2030

【マスターとしての願い】

狂四郎と出会う

【weapon】

【能力・技能】

プログラマーとしての知識:
本来ユリカは、M型遺伝子にかなりの割合の異常を抱えているのだが、それでも彼女が公務員としての地位を得られているのは、
天才的なまでのプログラミングの知識があるからに他ならない。超高度演算装置などの修理すらも、彼女は可能としている。

【人物背景】

淫売。

【方針】

聖杯の獲得には乗り気。殺す覚悟もある。が、それは向かってくる相手のみでありたい

【人間関係】

エレオノーレ→ユリカ
淫売。ロクでもない女だと思っているし、色ボケしてるとも思っているが、リザやベアトリスと何処か被ってしまい、どうにも切り捨てられない。精液臭いから風呂に入れシャワーを浴びろ

ユリカ→エレオノーレ
サーヴァント。恐ろしい相手だと思っているが、面倒見は良いのだろうなとも推測している。その服装気合い入り過ぎじゃない?

ベアトリス→エレオノーレ
少佐なんか私に対する扱いよりも優しくないですか!? 差別ですよ差別!!

リザ→エレオノーレ
大分丸くなったみたいで貴女にビンタした身として鼻が高いわ……

ラインハルト・ハイドリヒ→エレオノーレ
最も信頼する部下の一人。鬣の一本だなどとは謙遜が過ぎる、私の代理人でも良い位だ。話は変わるがこの駄菓子は中々美味いなカール


404 : 私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog- ◆zzpohGTsas :2022/07/11(月) 21:05:20 3892wHXo0
投下終了します


405 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/12(火) 00:25:01 5zejnlLk0
私は貴兄のオモチャなの -I wanna be your dog-
悲惨という言葉が生易しく思える様な世界を生きてきた女の想いが、苛烈なるエレオノーレと引き合うお話だった訳ですが、
リザとの決着を経た玲愛ルート後の彼女だからこその納得や共鳴が描写されていてキャラ理解の高さに思わず唸らされました。
基本的に死後、物語が終わった後から現れるというサーヴァントの特性を最適な形で利用した一作だったと思います。

投下ありがとうございました。
投下します


406 : あの海を今も想う ◆Lap.xxnSU. :2022/07/12(火) 00:26:21 5zejnlLk0

 今もあの日の景色を鮮明に覚えている。
 全てを失った自分が斜陽の海辺で見たものを。
 肉体が滅び骨だけになったイルカが。
 確かに自由を取り戻し泳ぎ始めた瞬間を。
 それが幻視や錯覚の類であったとしてもだ。
 その光景は紛れもなく、私にとって新たな門出の決意を固めるに足る光だった。
 医者かそれとも学者か。
 アイツのようにNGOに身を置いて人命救助のみを掲げ生きるのもいいだろう。
 そう思った矢先にしかし。
 私は、人間の意思ではどうする事もできない大いなる運命に絡め取られた。
 異界と化した真冬の東京。
 伝奇小説の一説でも追体験しているかのような青天の霹靂。
 脳内に鎮座する見知らぬ知識――聖杯戦争。
 万能の願望器を求め殺し合う英霊達の饗宴。
 何もかもが理解不能の現状の中で。
 しかし私こと霧島軍司という男に、天は慌てふためく時間すら与えてはくれなかったのだ。

「ねえ…お医者さん……」
「喋ってはいけない。目を瞑って体をリラックスさせるんだ。眠ってしまっても構わない」

 大学病院には日夜様々な容態の患者が搬送されてくる。
 知識さえあれば研修医でも問題なく手術を完遂できる患者。
 名医と呼ばれる力量の医者が全力を尽くしてようやく救える患者。
 そして、余人の理解を遥か越えた天才が死力を尽くして――それでも救えぬ患者。

「もう、何の感覚もないんだけど…」

 私の目前で横たわり力なく笑う少女はそれだった。
 医師として実務を重ねていけば数年と経たずに知る現実がある。
 自分の腕を頼るしかない患者たち。
 その期待にいつだって応えられるとは限らない。
 ――全ての命を救う事はできない。
 手術不可能の末期癌、現代医学では治療法の確立されていない難病。
 医師の予測を越えたタイミングで患者を襲う容態急変。
 そして…

「あたし、やっぱり……駄目、なのかな」

 どう最適な手を踏んでも救命が追い付かない外傷を負った患者。
 重度の負傷でアドレナリンが過剰分泌されているのだろう。
 意識こそ保ってはいるものの彼女の余命が残り数分と無い事は誰の目にも明らかだった。
 左脇腹が吹き飛んで腸が露出。
 その腸も激しい衝撃で損壊し傍のアスファルトに飛び散っている。
 傷の大きさ故に出血の速度も尋常ではない。
 私の脳内に存在するありとあらゆる知識と記憶を総動員して考えても。
 この患者を救う手段は一つたりとも思い浮かばなかった。
 更に言うなら設備も無い。
 現在進行形で炎上する街の中では人類が知識を結集させて生み出した医療機器の一つも確保する事はできなかった。
 聖杯戦争という儀式の惨さを私はこの地へ降り立った瞬間に思い知らされた。
 サーヴァントの交戦により戦場と化した街で。
 私は彼女と出会った。
 腹を吹き飛ばされて地に倒れ空を見上げる少女。
 彼女は駆け寄った私に苦笑を浮かべながら言った。
 自分の吹き飛んだ腹部を指差して。
 “他に行って下さい。あたし、見ての通りコレなんで――”と。


407 : あの海を今も想う ◆Lap.xxnSU. :2022/07/12(火) 00:27:08 5zejnlLk0
 
 ああそうだ。
 医者としての最適解はこの場を立ち去る事。
 救命不可能と見切りを付けてまだ手の施せる患者を探す事。
 その判断こそが多くの命を救う。
 救える命をゼロから一に変える。
 単純な止血では救えず。
 臓器を修復できる見込みもなく。
 ただ死んでいくだけの患者等さっさと見切りを付けてしまうべきなのだ。
 私はそれができる人間だ。
 医師として命を選別できる冷たい人間だ。
 しかし諦めを滲ませて呟いた少女の声に、私は。

「――そんな事はない」

 言ってはいけない事を口にしていた。
 私は彼女をそれでも救おうとしていた。
 脳内を過ぎるのはやはりアイツの顔。
 私の知る限り並び立つ者のない天才。
 アイツならばどうするだろうか。
 目前の患者を助ける事に全力を注ぐか。
 それともより多くの命を救う為にこの場を去るか。
 …その答えが出ない事こそが私の凡人さを裏付けていたが。
 それでも私は選んだ。
 この場に留まり、救う為の努力を続ける事を。
 目の前で消え行く命をせめて最後まで繋ぎ止め続けんとする事を。

「君は私が助ける。必ず…私が助けてみせるとも」
「…ほん、と……?」
「ああ。これでも私は……大学病院の外科医ですからね。
 勝算の無い言葉は吐きません。助けられると思ったから、助けてみせると誓うのです」

 それに。
 勝算は無いわけじゃない。
 この世界は私にとって異世界だ。
 科学の領分を遥かに超えた法則が平然と闊歩する世界であるならば。
 そして他ならぬこの私も、"彼ら"と縁の結ばれた要石であるというならば。
 医療機器の確保が間に合わない状況で、その上手術を行える人員も望めない戦地で…それでも尚。
 不可能を可能にしてくれる奇跡のような不条理だけは、望めるだろうと。
 私は天を見上げた。
 口を開いた。
 何を言えばいいかは…自分でも不思議な程よく分かっていた。


「急患です」


408 : あの海を今も想う ◆Lap.xxnSU. :2022/07/12(火) 00:27:43 5zejnlLk0


 刹那。
 私の背後に気配が生まれる。
 つい一秒前までは確かに存在しなかった筈のそれに。
 私は驚くでもなく冷静だった。
 ただ、その気配を受けて芽生える感情には覚えがあった。
 私はこの感覚を知っている。
 それは確かに…あの男と。
 朝田と共に手術室へ入った時に覚えたのと同じ。
 大船に乗ったような安心感。
 

「状況は?」


 その第一声に。
 私の口は驚く程淀みなく応える。
 こんな非日常の只中にあっても私は結局医者だったらしい。

「大腸破損。左脇腹の損傷重度。
 出血も同じく重度。使用可能な医療機器はほぼ皆無――」

 あらゆる動揺や不安の全てに先立って現状報告が先行する。
 普通ならば報告するだけ無駄な容態。
 どれ一つ取っても救命の余地がない重篤患者。
 大学病院に限らず普通の病院は搬送されてきた時点で医師、オペ看全てがそう判断するだろう有様で横たわる少女。
 既になけなしのアドレナリンも尽き果ててか意識は喪失。
 死亡まで悠長に見積もって一分あるかどうか。
 よしんば奇跡的にこの損傷と失血を解決できたとして脳死状態になる事はほぼほぼ避けられない。
 どんな名医でも匙を投げるだろう死に体を見て。
 私の隣に立ったその女は、一瞬たりとも迷う事なく断言した。

「では、救いましょう」

 耳を疑う。
 これを、救う?
 どうやって。
 それを問う事ができなかったのは、こと彼女に対して生半な弱音など向けてはならないと感じたから。
 奇跡を願った者としてそれを疑う事だけはしてはならないと思えたから。
 そうだ――たとえ命を救う手段が奇跡なら。
 それ以外の何一つ縋るもののない状況ならば。
 我々医者は飛びつくべきなのだ。
 固定観念や常識などかなぐり捨ててでも、藁をも掴む溺者のように必死になるべきなのだ。
 術中死は医者の権力と評判を翳らせる。
 だから誰もが挑まない。
 困難な道を歩くのを避ける。
 …私もまたその一人だった。
 だが――

「…あなたの前でそれを言っては、笑われるどころでは済まなそうだ」
「目の前の命を救う事に臆するのなら、それはもはや医者ではありません」


409 : あの海を今も想う ◆Lap.xxnSU. :2022/07/12(火) 00:28:34 5zejnlLk0
「耳が痛いです。臆病とはよく言ったもの。臆し誰かを救う手を止める行為は、我々医者にとっての病だと?」
「それが病魔であるなら治療が必要です。治療を妨げる怠慢であるなら死を与えます」

 凡そ医者であるならば。
 動機が善意であれ打算であれ、一度でもこの道を志したならば。
 誰一人彼女の前でその臆病を語る事はできないだろう。
 正真正銘の戦場で…この世の地獄そのものの戦時医院で辣腕を振るい続けた彼女に。
 そんな"病み"を吐露する等、できるわけがない。

「――貴方はどちらですか、ドクター」
「…私は」

 私は地獄を知らない人間だ。
 権謀術数渦巻く医局での政治戦ばかりに明け暮れた無能な医者だ。
 私は人の臆病を肯定する。
 臆する事が病気だと言うならば、この世は一部の恐れ知らずな超人だけしか生きられない地獄と化すだろう。
 だからこそ私は人の弱さを許したい。
 認め、理解してやりたいと。
 そう思ってきた。
 そして今もその考えは変わらない。
 …が。

「私はあなたにドクターと呼ばれるような医者ではありません。
 救えなかった命は仕方がないと割り切って忘れ、命の選別と謗られるような行為も平気でやってきました。
 手術中に冒したミスを保身の為に揉み消した事だってある。
 それどころか…つまらない嫉妬で、他人を蹴落とす為に患者を利用した事もあるような人間です」
「――殺したのですか」
「患者は人工透析が必要な体になりました。
 知っての通り、高齢者の人工透析は体力を著しく奪いQoL(生活の質)を大きく下げます。
 …私が謀略の当て馬にさえしていなければ、あの患者は今も病気と上手く付き合いながら余生を過ごせていたかもしれませんね」

 …今もあの日の景色を鮮明に覚えているのだ。
 全てを失った自分が斜陽の海辺で見たものを。
 肉体が滅び骨だけになったイルカが。
 確かに自由を取り戻し泳ぎ始めた瞬間を。

「私は人様に…ましてや貴女のような方の前で、胸を張って医者を名乗れるような人間ではないのです。
 もしも死後の世界等というものが実在するのなら、その時わが魂は地獄に堕ちるでしょう。
 天国で安らぎを得るには……この魂は罪を重ねすぎました」

 過去を変える手段はない。
 どんなに医学が発達したとしても。
 過ちという名の傷を取り除く方法は存在しない。
 だから私は歳を重ねて地獄へ向かっていく。
 見捨てた患者の数という咎を背負いながら果てていこう。
 それでも――

「それでもメスが捨てられないのです」


410 : あの海を今も想う ◆Lap.xxnSU. :2022/07/12(火) 00:29:19 5zejnlLk0

 本当は捨ててしまおうかと思った。
 しかしどうしても捨てられなかった。
 医学の道に背を向ける事ができなかった。
 そのまま私はこの地を踏んでいる。
 この地獄の中で、死にゆく少女に寄り添っている。
 言葉を誤れば死ぬだろう。
 彼女には自分のような、世界に掃いて捨てる程居る医者へ遜る理由等無いのだから。
 だが言葉を選ぶ気にはなれなかった。
 それは曲がりなりにも同じ道を歩む者として、恐るべき恥であるように思えたからだ。

「私はメスを持ち患者を切り続けるでしょう。
 この先も、この世界を出てあなたとの縁が途切れたとしても。
 この体が荼毘に伏すその時まで…不遜にも医者を名乗り続けるでしょう」
「何のために」
「――患者(だれか)を救うために、ですよ。フローレンス・ナイチンゲール女史」

 随分と遅くなった。
 あの男と出会ってから。
 あまりに遠い回り道だった。
 嫉妬し、鬱屈し、敗北し、喪失し。
 そしてようやくアイツの影を踏めた。

「患者を救命します。執刀は私が行いますので、あなたには"英霊(あなた)"としてのアプローチから患者の処置を図っていただきたい」

 彼女は医者ではない。
 ならば執刀医が必要だろう。
 実際に手術へ入れば恐らく私の出る幕はない。
 彼女の言う事に従い、その手伝いが一つ二つできれば御の字といった所。
 なのにこうも大口を叩いた理由はきっと。
 私の、凡人なりの…つまらない見栄だった。

「救う事のできる命をそうと分かって棄てる医者を私は憎みます。
 患者を救い生かす事を生業としてメスを取る者が、助けを必要としている患者を道具にする等言語道断」

 ――しかし。

「今目の前の患者を救う事に死力を尽くす者ならば。
 その罪も咎も全てを不問としましょう。それは貴方が一人で背負いなさい」
「…ええ」
「貴方が医者として正しい行動を取る限り、私は貴方のサーヴァントとして仕えましょう。
 貴方が現代医学の病魔に呑まれるようであれば、私は看護婦として殺してでも貴方の病を滅しましょう」

 彼女には見栄でも本音でもどちらでも構わないのだ。
 命が救えなければ真実なぞに何の価値もありはしない。
 逆に命が救えるならば、どんな虚飾も見栄も肯定する。
 彼女はそういう人間なのだと改めて私は理解した。
 そんな私の向かい側に腰を下ろしたサーヴァント…ナイチンゲールは。
 もう私の事など見てはいない。
 その目に写るのは目の前の患者だけ。

「ドクター・霧島――覚悟は宜しいですね?」
「無論です。貴方こそ、くれぐれも私の権威を汚さぬようお願いしますよ」

 異世界だろうと。
 私の手術で術中死など、御免ですから。
 …そう呟いた後の事は。
 正直な所、よく覚えていない。

    ◆ ◆ ◆


411 : あの海を今も想う ◆Lap.xxnSU. :2022/07/12(火) 00:29:45 5zejnlLk0

 医療は万能ではない。
 医者は全能ではない。
 たとえ奇跡に縋ったとしても。
 いつだって完璧な処置が施せるとは限らない。

「…申し訳ありません。できれば、後遺症が残らないようにしてあげたかったのですが」

 あの日の少女は今、病室のベッドに身を横たえていた。
 奇跡は起きて手術は成功した。
 フローレンス・ナイチンゲールの医術は人智を超えた効力で死に逝く命を掬い上げた。
 既に死亡していた人間の大腸を切除し殺菌の上で患者の臓器に縫合する。
 医学の道理を蹴飛ばすような手術には目を瞠る他無かったが、現にそれで命は繋ぎ止められた。
 しかし少女の体には…不可逆の後遺症が残った。
 下半身不随。
 腰から下を動かす事ができない。
 それが救命の代償だった。
 この少女はもう二度と、自分の足で駆け回ったり散歩したりする事はできないのだ。
 …彼女の家族から聞いた所によると。
 彼女は陸上部のスプリンターだったらしい。
 将来有望なアスリートの卵としてコーチからも高く評価されていたそうだ。
 だがその夢も。
 もはや、潰えた。
 命は救えたが。
 患者の将来までは――救えなかった。

「――何言ってんのさ、先生」

 責められる覚悟はしていた。
 だが少女は私にそう言って、笑った。

「あたしさ…もう此処で死ぬんだなって思ってたんだ。
 死んだらもうペル……あ、飼い犬ね。あいつの面倒も見れないなって思ったし。
 お母さん泣くだろうなぁ、女手一つで育ててくれたのになぁとか考えてたんだけど……」
「……」
「…お母さん、やっぱり泣いてた。
 よかったねぇ、助けてくれて本当によかったねぇって。
 もういい歳なのに顔中ぐっしゃぐしゃにしてさぁ。それ見てたらあたしもなんか、めっちゃ泣けてきちゃって」


412 : あの海を今も想う ◆Lap.xxnSU. :2022/07/12(火) 00:30:46 5zejnlLk0

 あのね、先生。
 少女は小さくVサインを浮かべながら私の目を見て。
 言った。

「――全部、先生のおかげだよ。
 先生があたしを助けるって言ってくれたから…がんばれた。
 先生があたしを助けてくれたから……あたし、まだ生きてられる。
 だからお願い、謝ったりなんかしないでよ。
 あたし、世界の誰よりも……先生に感謝してるんだからさ」
「…そうですか」

 …患者一人ひとりの生死にいちいち胸を打たれていては医者など務まらない。
 大学病院に限らず実戦の場に身を置いた経験のある者なら誰もが悟る事だ。
 外科医は年間何百人という患者を診る。
 何百という死に立ち会い、何百という生を見送る。
 それだけ多くの生死を見ていれば…自然と医者は慣れてくる。
 研修医は患者一人の術中死で病むが。
 熟達した執刀医は眉一つ動かさずに今晩の飲み会の事を考える。

「ありがとう。職業柄、その言葉は何度も聞いてきたつもりなんですが…」

 私は後者だった。
 患者の生死と自分の感情を完全に切り離して考えられる人間だった。
 私は医局の中でそういう風に育ってきた……その筈なのに。

「……何故だか今のが一番、心に響きました」

 朝田――私はきっと生涯お前には追い付けないだろう。
 お前は天才で私は凡人だ。
 私がこんな所で足踏みをしている間にもお前は次へ次へと進んでいるに違いない。
 それでいい。
 私は私でお前はお前だ。
 だが…聞いてくれよ。
 私はようやく、本当の医者になれそうだ。

“…この世界がいずれ消えゆくものならば、此処での命を救う事に意味などあるのでしょうか”
“よもやこの期に及んで、まだそんな愚問を?”
“いえ、まさか。…ただずっと疑問に思っていたんです。
 私はしがない凡人ですから。あの日あなたという奇跡を知ってもまだ、心の何処かでは悩んでいた”
“……”
“でも――その答えがようやく理解できた気がします”

 この世界と心中するつもりはない。
 それでも、この世界を去るその日まで。
 私は医者としての務めを果たし続けよう。
 いずれ遠からぬ内に訪れるだろう世界の終わりのその日に、一人でも多くの人間が眠るように死に逝けるように。
 私は救い続けよう。
 フローレンス・ナイチンゲールをオペ看に付けていながら屍を量産しただなんて、笑い話にもならないのだから。


413 : あの海を今も想う ◆Lap.xxnSU. :2022/07/12(火) 00:31:16 5zejnlLk0

“そうですか。ならば引き続き、救いましょう。ドクター・霧島”
“はい。救いましょう、この泡沫を生きる全ての命を”

 …窓の向こうに海は見えない。
 あのイルカは今も何処かを泳いでいるのだろうか。
 きっと泳いでいるのだろう。
 そう信じて私は空を見上げた。
 冬空とは思えない雲一つ無い快晴がそこにはあった。

【クラス】
バーサーカー

【真名】
ナイチンゲール@Fate/Grand Order

【ステータス】
筋力B+ 耐久A+ 敏捷B+ 魔力D+ 幸運A+ 宝具D

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
狂化:EX
バーサーカーのクラススキル。
パラメーターをランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。
ナイチンゲールは落ち着いた表情で言葉を話すが、すべて"自分に向けて"言っているだけなので意思疎通は困難。

【保有スキル】
鋼の看護:A+
魔力で形成されたメスや薬品を使用して仲間の治療を行う。
人を救う逸話により強化されているため、重症でも治療可能。また対象は人間もサーヴァントも問わない。
本来は18〜19世紀の技術なので、他の人間がマネをしても同じ治療効果は望めない。

人体理解:A
精密機械として人体を性格に把握していることを示す。治療系のスキルや魔術の行使にプラス補正。
相手の急所をきわめて正確に狙うことが可能となり、攻撃時のダメージにプラス補正が加えられ、被攻撃時には被ダメージを減少させる。
ナイチンゲールにとっては知識であると同時に肉体が覚え込んだ勘の集大成である。

天使の叫び:EX
クリミアの天使と呼ばれた彼女の、心よりの叫び。
聞く者の魂を奮起させ、生存への本能を著しく上昇させる。


414 : あの海を今も想う ◆Lap.xxnSU. :2022/07/12(火) 00:31:43 5zejnlLk0

【宝具】
『我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:0〜40 最大捕捉:100人
戦場を駆け、死と立ち向かったナイチンゲールの精神性。
それが昇華され、更には彼女自身の逸話から近代的にかけて成立した"傷病者を助ける白衣の天使"という看護師の概念さえもが結び付いたもの。
効果範囲内のあらゆる毒性と攻撃性は無視される。強制的に作り出される絶対的安全圏。

【weapon】
徒手空拳と銃。
彼女は誰かを救うため、殺菌を遂行するためにあらゆる手段を用いて戦う。

【人物背景】
近代看護師の祖であり、統計学者、建築学者、社会学者、教育学者、看護学者、社会福祉士など、様々な顔を持つマルチタレント。
クリミアの天使、小陸軍省といった異名を持つ女性
クリミア戦争の後も彼女は活動を続け、戦時医療及び陸軍衛生の大改革に着手。ヴィクトリア女王さえをも味方として引き込み、改革を進めていく。やがてそれは、軍のみならずイギリスの一般社会にも波及していき、社会福祉、福利厚生といった概念の改善を成し遂げていった。

【サーヴァントとしての願い】
この異界東京都に存在する全ての患者を救う。


【マスター】
霧島軍司@医龍-Team Medical Dragon-

【マスターとしての願い】
医師としての務めを果たす

【能力・技能】
外科医としての技量。
それは異能にこそ達しないものの、凡人として身に着けられる技術としてはハイエンドと言っていい。
十分な人材と環境が揃っていればバチスタのような難関手術ですら成功させられる。

【人物背景】
心臓外科医。
天才への劣等感を拗らせ許されざる過ちを犯し、そして自分と同じ凡人達の味方となれる教授を志すに至った。
しかし望みは叶わず夢に敗れて医局を追われ、彼は自分だけの新たな門出を迎えることになった。

【方針】
ただ己のために。
そしてこの世界の全ての患者のために。
より多くの命を生かす事ができるように。


415 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/12(火) 00:31:56 5zejnlLk0
投下終了です


416 : ◆NIKUcB1AGw :2022/07/12(火) 23:15:53 fvyL5QzA0
投下します


417 : 大悪行(かいしんげき)の夢をGO SHOW TIME ◆NIKUcB1AGw :2022/07/12(火) 23:18:07 fvyL5QzA0
深夜の山道を、学生と思わしき年齢の男たち数人が歩いている。

「なあ、やっぱり肝試しなんてやめようぜ?
 季節外れにもほどがあるだろ」

最後尾を歩く男が、わかりやすいおびえの表情を浮かべながら言う。

「帰りたいなら、一人で帰れよ。
 俺はここまで来て逃げ出すなんてごめんだぜ」

だが先頭を歩く男は、にべもなくそれを拒絶する。

「帰れって言われても、懐中電灯一つしかないじゃん……。
 夜の山道を、明かりなしで歩けって言うのかよ」
「スマホのライトでも、なんとかなるだろ?」
「だいたい、ビビりすぎなんだよ。
 この令和の世に、化物なんか出るかよ」

彼らがここに来たのは、この周辺に怪物が出現するという噂が流れているからであった。
もっとも彼らの言動からわかるように、その噂を信じているわけではない。
何か変わったことでも起これば儲けものという、暇つぶし感覚である。

「ん?」

突然、先頭の男が足を止める。
懐中電灯の照らす先に、人影のようなものを確認したからだ。
男は最初、自分たちのように噂につられた人間が他にいたのだと考えた。
だが相手が近づいてくるにつれ、それが間違いであることに気づく。
近づいてくる男の体は、腐っていた。
顔は見るも無惨に腐敗し、ウジ虫が這っている。
目も完全に白目を剥いており、一切の意思を感じさせない。
それは完全に、死体であった。
にもかかわらず、ゆっくりとこちらに近づいてきていた。

「ひいっ!」

まともに思考することもできず、男は本能に従って逃げようとする。
だが、それはかなわなかった。

「ぐぎっ!」

男が振り向くとほぼ同時に、短い悲鳴があがる。
男が見たのは、体から伸ばした触手で仲間たちの心臓を貫く、腐った女の姿だった。

「うわあああああああ!!」

絶叫。その数秒後に、男の意識は永遠に断たれた。


◆ ◆ ◆


とうてい人が来ぬであろう、山の奥。
そこにぽっかりと、洞窟が空いている。
そして一組のマスターとサーヴァントが、この洞窟を拠点としていた。
こんなへんぴなところを拠点にしている理由は二つ。
一つはマスターにロール……すなわち社会的身分が与えられていないこと。
そしてもう一つは、サーヴァントの宝具の特性上、人里近くに拠点を構えるのが困難であるからだ。

「やれやれ……。効率悪いですねえ」

自分の宝具により生み出された「兵士」たちを眺めながら、サーヴァントはため息を漏らす。
彼の名は、梶原景時。
源平合戦に参加した武将である。
厳密に言うと彼は「景時に成り代わった何者か」であり、景時本人ではない。
しかし彼の本名については一切記録が残っていないので、ここでは便宜上「景時」と呼ぶことにする。

「この世界の元となっているのは、21世紀の日本。
 この時代ではもはや、土葬の習慣は廃れています。
 そうなると、自分たちで数を増やしていくしかないわけですが……。
 あまり大量に殺してしまうと討伐令の対象となる恐れがありますし、そうでなくても他の参加者に目をつけられやすくなる……。
 まったく、困ったものです」

彼の前に並ぶ「兵士」たち。
その正体は、死体である。
中には、先ほど山を歩いていた男たちも混じっている。
死体を不死身のゾンビ兵士へと変え、操る。
それが彼の宝具である。
厳密に言えば生きている人間に使用することも可能なのだが、戦わせているうちに死ぬのでどっちにしろ同じである。

「僕から見たら、これでも十分多いんやけどなあ。
 魔界にこれだけの人間がおったら、大パニックやで」

そう口にしたのは、景時のマスターである顔色の悪い青年。
そのこめかみあたりからは、いびつな角が生えている。
彼の名は、アミィ・キリヲ。魔界で暮らしていた、悪魔である。

「マスターの世界では、人間は伝説上の生き物とされているのでしたか。
 人間である私には、今ひとつピンとこない話ですが……。
 オルフェノクやロイミュードに支配された世界もあるようですし、パラレルワールドの中にはそういう世界もあるのかもしれませんね」
「相変わらず、君の話はようわからんなあ」


418 : 大悪行(かいしんげき)の夢をGO SHOW TIME ◆NIKUcB1AGw :2022/07/12(火) 23:19:23 fvyL5QzA0

キリヲには景時の口にする固有名詞がよくわからなかったが、そもそも興味がないらしく軽く流す。

「まあそれより、戦力の補充が難しいって話なんやろ?
 どないするんよ、景時くん」
「そうですねえ」

キリヲの前に移動し、景時はもったいぶった振る舞いで言葉を続ける。

「我々も寄生しますか、他のマスターに」
「もうちょっと具体的に」
「他のマスターと、同盟を組むということですよ。
 少ないとはいえ、こちらも戦力を提供できますからね。
 手を組んでもいいというマスターは、決して少なくないでしょう」
「なるほど。そんで、ここぞという時に……」
「ええ、裏切ります」

二人の顔に、満面の笑みが浮かびます。

「それは楽しみやなあ。いい絶望を見られそうや」
「私はそういう趣味はありませんが……。
 まあ、マスターが喜んでくれるなら何よりです」
「そしたら、他の参加者の情報も集めないとあかんな」
「それなら、マスターが動いてくださいよ。飛べるんですから」
「えー? 僕が人間の中におったら、目立ってしゃあないやろ」
「それをいうなら、ゾンビの方が目立ちますよ」
「まあ、それはそうやけど」


方向性は異なる。
だが、二人がいずれも常軌を逸した精神の持ち主であることは間違いない。
邪悪な主従は、今はまだ牙を隠して潜伏する。


【クラス】フェイカー
【真名】梶原景時
【出典】小説仮面ライダー電王 デネブ勧進帳
【性別】男
【属性】混沌・悪

【パラメーター】筋力:D 耐久:D 敏捷:D 魔力:C 幸運:B 宝具:C

【クラススキル】
単独行動:A
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
Aランクは1週間現界可能。

偽装工作:C
ステータスおよびクラスを偽装する能力。
自らの真名は最後まで隠し通したものの、「偽物」であること自体はあまり真剣に隠そうとしていなかったためランクは低め。

【保有スキル】
軍略:C
多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。
自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。

詐欺師の話術:A
交渉においてあえて相手を不快にするような物言いをし、冷静さを奪うスキル。
相手はフェイカーの思惑を正しく理解することが困難になる。

タイムジャッカー:B
歴史を自分に都合よく改変しようとする、時間犯罪者。
時間停止能力を持ち、自らは時間操作系の能力にある程度の耐性を持つ。
ただしサーヴァントという枠にはめられたことで、時間停止は大きく魔力を消耗するようになっている。

【宝具
『菌の軍勢(マッシュルーム・オブ・ザ・デッド)』
ランク:C 種別:対人〜対城宝具 レンジ:理論上無限大 最大捕捉:理論上無限大
動物に寄生するタイプのキノコを遺伝子改造することで生み出された、生物兵器。
人間に寄生し、フェイカーの意のままに動くゾンビ兵士に変えてしまう。
ゾンビ兵士は頭や心臓を潰しても止まらず、バラバラになっても触手で体をつなぎ合わせてしまう。
また複数の個体が融合することにより、巨大な怪物になることも可能。
対処法としては火で燃やしたり、爆発で再生できないほど木っ端微塵にしたりなどがある。
宝具そのものはゾンビ兵士ではなくわずかな質量の菌であるため、消費魔力のコストパフォーマンスは非常によい。
一方で宝具でないがゆえにゾンビ兵士は常に実体化しているため、現代日本では隠しておくのに難儀するという難点もある。

【weapon】
平安時代の武具。
もっとも、本人が直接戦う気はあまりないが。

【人物背景】
平安時代末期〜鎌倉時代初期の武士。
当初は平氏側として源平合戦に参加するが、後に頼朝の下につく。
壇ノ浦の戦いで義経と戦略を巡って対立し、それを頼朝に訴えたことが兄弟の確執を生むきっかけになったとされる。
……というのは、我々の世界の歴史における梶原景時である。
この景時は、未来から来て本物の景時に成り代わった時間犯罪者・タイムジャッカー。
その目的は、ゾンビ兵士の力を使い「源氏による世界征服」を成し遂げること。
計画にはおのれの死すら織り込んでおり、世界の頂点に君臨したいわけではなく「歴史を変えること」そのものが目的だったようである。

【サーヴァントとしての願い】
せっかくのチャンスなので、もう一度歴史改変に挑む。


419 : 大悪行(かいしんげき)の夢をGO SHOW TIME ◆NIKUcB1AGw :2022/07/12(火) 23:20:28 fvyL5QzA0


【マスター】アミィ・キリヲ
【出典】魔入りました!入間くん
【性別】男

【マスターとしての願い】
魔界の秩序を崩壊させる

【weapon】
なし

【能力・技能】
『断絶(バリア)』
アミィ家の家系魔術(一族に代々伝わる魔術)。
任意の場所に、透明な壁を出現させる。
壁の強度は非常に高く、破壊しても瞬時に修復される。
完全破壊は、高ランクの宝具でなければ難しいだろう。

【人物背景】
悪魔学校「バビルス」の2年生で、魔具研究師団団長。
生まれつき魔力に乏しい体質だったため家族から冷遇された過去を持ち、
魔具の発展により実力による上下のない世界になることを願っている。
その正体は、長い歴史の中で失われた悪魔のネガティブな部分が蘇った「元祖返り」の一人。
他人の絶望する姿を見ることを何よりの喜びとし、上記の思想も「魔界の常識が崩壊し、阿鼻叫喚になるのを見たい」というのが真の理由である。
参戦時期は、収穫祭後。

【方針】
聖杯狙い


420 : ◆NIKUcB1AGw :2022/07/12(火) 23:21:33 fvyL5QzA0
投下終了です


421 : ◆vV5.jnbCYw :2022/07/12(火) 23:53:28 bZ/PVpqY0
投下します。


422 : 青の炎は未だ消えず ◆vV5.jnbCYw :2022/07/12(火) 23:54:00 bZ/PVpqY0
「家族って大事にしなきゃだめだよな。」
そんなひどく常識的な言葉を聞いた時。
櫛森秀一の胸をよぎったのは、言いようもない不快感だった。





朝、目覚ましと共に起きて、顔を洗って歯を磨き、食パンをトースターに入れる。
トースターの音が鳴る前に、フライパンを1つ取り出し、手際よくハムエッグを作る。
半分液体だった卵の白身が、固まってきた頃に、パンも焼き上がる。
コップにオレンジジュースを注ぎ、朝食の完成だ。


悪くない出来の朝食を、食卓に持っていく。
彼の家族は、この東京ではなく、鎌倉に住んでいる。
彼が朝食を一人で作っているのもそれが理由だ。


「よお、マスター。今日は早いんだな。」
一人暮らしという訳ではない。
目の前にいる、黒いロングコートともみ上げが印象的な、セイバーのサーヴァントと共に暮らしている。


「セイバー、偵察で誰かいたか?」
「いや、いなかったな。」
「そうか。」
秀一は顔を歪ませながらも、セイバーの話を聞く。
だが、それ以上話を進めようとも、盛り上げようともする気は無かった。
ただ、黙々と朝食を食べていく。


「そう見つめても、お前の分はないぞ。」
「いらねえよ。そんなシケた飯。そんなものを食ってて何も感じないのか?」
「シケた飯で悪かったな。昔のお前と違って、こっちは貧乏なんだよ。」


セイバーのサーヴァントから、彼が生前なにも不自由ない暮らしを謳歌していたことは聞いていた。
彼が欲しい物は、裕福な祖父に何でも買ってもらったという。
聖杯を望む理由も、祖父を生き返らせてもらうつもりだという。
なるほどそこまでは家族想いの良い人ではないか。
秀一の祖父は彼が生まれる前に亡くなったが、その気持ちは分かる。
そこまでは良い。そこまでは。


423 : 青の炎は未だ消えず ◆vV5.jnbCYw :2022/07/12(火) 23:54:37 bZ/PVpqY0

「なあ、マスター。もっといい小麦粉を使ったパンを食わねえのか?味の良し悪しが分からねえ奴は不幸だ……。」
セイバーは見下しているかのように、秀一の朝食に対して愚痴をこぼす。
目玉焼きに箸を突き立てると、涙が流れるかのようにとろりと黄身が皿の上に広がった。


「そんなこと1つで、人の幸せを決めつけるな。」
机をバンと叩いて、マスターを一喝する秀一。
セイバーは失言だったと感じたのか、話を続け無かった。
だが、秀一は不幸では無いと否定することも出来なかったので、彼も話を続けられなかった。


この聖杯戦争に巻き込まれる前、秀一が高校1年生までは、彼の生活は充実していた。
豊かではなくとも、心優しい妹と心配性の母の3人で、祖父の残してくれた大きな家で幸せに暮らしていた。
だが、それらをすべて失ってしまった。


しばらくしてから、セイバーは口をまた開く。
「1つじゃねえよ。俺はウマいものを一杯食わせてくれた爺ちゃんを奪われてから、飯以外にもケチが付き始めたんだ。」
「それで、聖杯で祖父を生き返らせたいのか。」
「その通りだよ。やっぱり学がある奴は、話を分かってくれていいな。」


食事を終えて、食器を乱暴に流しに置く。
「マスターも、家族が大事って思ってるんだろ。まあ優勝まで仲良くしようぜ。
学があるんだから、人の話聞くことだって出来ねえわけじゃねえだろ。」


十年来の友達であるかのように馴れ馴れしい口を利くセイバー相手に、秀一の胸の奥で炎が燃え滾った。


(ふざけるな。)
お前ごときが、家族の大切さを語るな。
お前のような屑と、俺を一緒にするな。
お前の祖父のような屑と、遙香や母を一緒にするな。


セイバーのサーヴァント、サムライソードが何をしてきたか秀一も知っている。
彼の祖父は、麻薬を売って、債務者を生活のどん底に追い込んで、未成年でも無理矢理働かせて、荒稼ぎしていたという。
言ってしまえば、他人を財布にしか思ってない、曾根や石岡のような屑だ。
その屑はデンジという男を殺そうとして、逆に殺されたらしいが、自業自得としか思えない。
そんな祖父から良い思いをさせてもらい、それでいてその所業を正当化している彼もまた屑だ。


「俺もマスターも、家族を奪われた。この戦いは俺達が勝手に人のモン奪い取る、学のねえ馬鹿をブチ殺す為にあるんだよ。」

秀一の胸に、かつてのように青い炎が燃え滾る。
冷たく、それでいて高い熱を発する炎だ。
叶うのならば、令呪を使ってこの悪鬼に自殺させてやりたい。
けれど、そんなことをしたら、願いがかなわなくなる。
自分が犯した罪を無かったことにして、家族と再び仲良く暮らすことにするという願いだ。


424 : 青の炎は未だ消えず ◆vV5.jnbCYw :2022/07/12(火) 23:55:00 bZ/PVpqY0

彼は、殺した。
暴力を振るい、寄生虫のように家に居座る義父の曾根を。
母と妹を守るため自分で完全犯罪になるであろう手段を思いつき殺害した。
そして、この犯罪の一部始終を偶然見つけて、強請ってきた不良の石岡も正当防衛に見せかけ殺害した。
だが、破綻していた完全犯罪を、とある警部補に見破られた。
家族がその罰の巻き添えを食う前に、トラックが走って来る道路目掛けて、ロードレーサーのハンドルを切った。


一度は全てを放棄し、家族のために自殺を決意した秀一だ。
けれど、こうして生き返り、しかも何でも願いが叶うという報酬を目の前に見せられると、俄然未練と言うものが湧いてくる。
2人を殺してから、何度も思い描いた、「もしも」の世界を。
自分は罪を犯しておらず、今でもロードレーサーと共に学校へ行き、帰れば家族と平和に暮らしている「もしも」の世界を。


「無視するなよ。俺はマスターが昔したこと、否定しているワケじゃないんだぜ。
むしろマスターがやったのは『必要悪』ってヤツなんだ。要は俺の爺ちゃんと同じことだ。
頭がイイならわかる……。」
「もうお前は黙っていろ。」


話を聞いてくれないとようやく理解したのか、セイバーは口を閉じる。
今度は、もう開くことは無かった。


しかし、黙ったからと言って、愉快な気持ちになった訳ではない。
彼は、セイバーの言っていることとやったことをすべて否定した。
だが、法を犯して何かを成し遂げようとしたのは、彼もまた同じだ。
そして、この世界でも聖杯を手に入れるために、家族とまた平和な生活を送るために、法を犯そうとしている。
まだ誰も殺していないが、戦争ということは、いずれは誰か殺さずにはいられないのだろう。


425 : 青の炎は未だ消えず ◆vV5.jnbCYw :2022/07/12(火) 23:55:32 bZ/PVpqY0
そんな自分が、セイバーやその祖父を否定できるのか。


家族がいた暖かな家とは、全く違う冷たい空気が充満した建物の中で、彼はそう考えていた。


【クラス】キャスター
【真名】サムライソード
【出典】チェンソーマン
【性別】男性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:C 魔力:D 幸運:B 宝具:C

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:C
 騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 野獣ランクの獣は乗りこなせない。


【保有スキル】
精神異常:B
 家族や同胞には同情心を持つが、そうでないものに対しては一切容赦しない。
 また、仲間が害を受ければ、その仲間に非があろうと一切聞く耳を持たない。
 精神的なスーパーアーマー能力。精神攻撃に対する高い耐性を持つ。

変身:A
刀の悪魔に変身出来る能力

仕切り直し:D
 戦闘から離脱する能力。


【宝具】
『刀の悪魔』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大補足:‐
 刀を恐怖する人の心によって具現化した悪魔。正確には、その心臓。
 彼が望めば、頭部と両腕に大きな刀が付いた怪物の姿になり、並の相手なら簡単に切り裂くことが出来る。また、捕食された場合に変身することで、窮地から脱却出来ることも。
また、変身後は基本的に不死身となるが、刀が折れたり、致命傷を負った後回復するには血液の供給が必要不可欠。魔力での代用は原則できない。

『爺ちゃんの想いを継いで』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:250
彼の祖父が集めていた「借金を返せねえクズ共」で結成されたゾンビ軍団。
発動条件は付近に倉庫や地下など、日の当たらなく、かつ広い場所があること。
総数百を超えるゾンビ軍団を体現し、敵対するものをのべつまくなしに襲わせる。


『鎮魂歌』
ランク:‐ 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:2
レクイエム
本人も自覚しない宝具。
抵抗することも出来ない状況で、かつ、急所に致命的な攻撃を受けた時に発動。
その際に発せられる音は、近くにいる者をスカっとさせるという。
特に本人やマスターにとってはメリットの無い宝具


【weapon】
両腕、頭部の刀。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯を手に入れ、爺ちゃんを生き返らせる。


【人物背景】
刀の悪魔と契約したヤクザの若頭。
悪事を重ねた祖父から、甘やかされた生活を送っていたが、祖父が殺されたことでデビルハンターに敵意を向ける。
彼は祖父のことを「ヤクザだったけど必要悪的な存在で女子供も数えるほどしか殺した事がない」「薬を売って得た金で何でも買ってくれた」と述べている。
要するに「自分とその祖父のことを悪と思っていない最もどす黒い悪」である。


426 : 青の炎は未だ消えず ◆vV5.jnbCYw :2022/07/12(火) 23:55:50 bZ/PVpqY0
【マスター】
櫛森秀一@青の炎 

【マスターとしての願い】
自分の罪を無かった、そもそも殺した相手をいなかったことにし、家族と平和な生活を送る。


【能力・技能】
一般人の枠を出ないが、柔道の経験があり。また、ナイフで相手を正当防衛に見せかけて巧妙に殺したことがある。
また、人を殺すために簡易的な発電機を作ることも出来る。

【人物背景】
由比ヶ浜高校の2年生。
成績は優秀で、ロードレーサーや家族の手料理、王菲のCDなどをこよなく愛する。
妹想いな性格で、バイト先からも信頼を置かれていたが、嘗て母親が別れた元夫の曾根がやってきたことで人生は暗転する。
法律でもどうにもならないと分かると、彼をばれないように殺害する方法を探る。
そして殺害に成功するが、それが崩壊の始まりだった。


※本編終了後の参戦です。
【方針】
聖杯を手に入れたい。だがそのために人を殺すべきか悩んでいる。


【Weapon】
2本のダガーナイフ。一本はブラックマンバのように凶悪なナイフで、もう一本はタマゴヘビのように巧妙に作られた殺傷力の無い偽物。

【Weapon】
護身用のバット

※映画版・小説版どちらからの参戦でも問題ありません。ラストでとある人物が書いている絵の内容が違っていたり、石岡の断末魔が異なっていたりしますが、粗筋にはさほど影響はありません。
漫画版もあるようですが、中の人が把握していない+未登場の人物がいるそうなので、こちらとは関係ありません。


427 : 青の炎は未だ消えず ◆vV5.jnbCYw :2022/07/12(火) 23:56:04 bZ/PVpqY0
投下終了です。もう一本投下します。


428 : 青の炎が消えた後も ◆vV5.jnbCYw :2022/07/12(火) 23:56:37 bZ/PVpqY0

櫛森遥香は、夢を見ていた。
竜の顔が付いた、真っ赤な船に乗って、広い広い海を渡る夢。
その船はお世辞にも大きいとは言えないが、優れた緑帽子の船長によって、どんな波を受けても大きく揺らぐことは無かった。
揺りかごの様で昼寝をしている赤ん坊のような、安らかな気持ちになる。
見上げると、青一色の空をバックに、空を飛ぶウミネコが見えた。


やがて、島が見えてくる。
近付くにつれ、徐々にシルエットから実体を帯びてくるその島は、彼女が良く知っている場所だった。
良く知っている場所と言っても、浜の方から海を見るばかりで、海から浜の方を見たのはこれが初めてだ。
季節は冬だからか、観光客はほとんどいない。


その浜の、さらに向こう側で、自転車を漕いでいる人を見つけた。
ずっとずっと遠くにいたが、それが誰なのかすぐに分かった。


「お兄ちゃん!!」
声が届かないくらい遠くにいたけど、それでも声を張り上げる。
向こう側から、トラックが走ってきている。
それでも、彼女の兄はブレーキを切ることは無い。むしろ、一層加速させていく。


「お兄ちゃん!!!」
その声を張り上げ続ける。
お腹の中から声を出すのが、こんなに難しいことだなんて思ってもいなかった。


「マスター!!マスター!!」


緑帽子の少年の、少し高めな声で、彼女はハッと目を覚ました。
見慣れない天井が目に入る。
窓からはこれまた見慣れない、都会の景色が広がっている。
ここは彼女の家ではない。場所も鎌倉ではなく東京。
地理的にはさほど離れてはいないが、随分と遠くに来てしまったような気がした。


「うなされていたよ。大丈夫だった?」

夢の中で見た、金髪で猫目の少年が、心配そうに声をかける。
その態度は、彼女より年下なのにも関わらず、彼女の兄を彷彿とさせた。


429 : 青の炎が消えた後も ◆vV5.jnbCYw :2022/07/12(火) 23:56:54 bZ/PVpqY0

「大丈夫よ。ライダー。それより着替えてくるから、放っておいて。」
彼女は1人で洗面所へ向かい、寝汗でぐしょぐしょになったパジャマを脱ぎ捨てる。
顔を洗い、歯を磨いて、寝ぐせでボサボサになった髪を整える。
私服に着替えて洗面所から出ると、部屋に良い匂いが漂って来た。


「おはよう。マスター。朝ご飯にスープを作ったけど、食べる?」
「そうするわ。ありがとう。」


ライダーのマスターに催促されて、食卓に置かれた黄色いスープを一口啜る。
刻んだ香草の匂いが鼻孔をくすぐる。
口の中に、ふんわりとした甘い味が広がり、頭を活性化させる。
寒い季節だというのもあり、全身が暖かくなっていくような気がした。
どこか母親が作ってくれたスープのような味がした。


「ありがとう。マスターは料理も上手なのね。」
「この世界はボクがいた島より、食材が充実してるからね。」

東京という町は、ライダーのサーヴァントから見ると、極めて異例な場所だった。
彼が元居た島より異様なほど広く、それでいて鉄の動物が所狭しと走り回っている。
店の数は商人の島と言われたタウラ島よりはるかに多く、見たことのない物を売っている店も両手で数えきれないほどある。
そのため、スープを作るのにしても、どの食材を買うべきか苦労した。
結局、いくつかの野菜や調味料を混ぜて作ってみて、彼の祖母が作っていたものに似た味の物を彼女に出してみた。

元々彼がいた世界の人々は、点々とした島の上で生活を営んでおり、海と陸の比率は、七対三どころではない。
現実で言うなら、島国というよりも群島国家といった方が近いぐらいだ。
この聖杯戦争の舞台と同じ国出身のマスターに、この世界について教えてもらうことでようやく事なきを得たぐらいだ。
だが、彼が驚いたのは、彼女の世界の地理的情報ではない。


「ごちそうさま。」

遥香はスープを飲み終わった後、皿を流しの下に置く。
あのスープは、彼女にとって美味しいか不味いかで言えば、間違いなく美味しかった。
けれど、彼女の心を満足させるものではなかった。
彼女の心を満たすのは、どんな豪華な料理でもなく、兄と母とで食べる料理なのだから。

「良かったら、お昼も作ろうか?いくつか本も読んだし、この世界の料理も作ってみるよ。」


そんなライダーの何気ない言葉を聞いて、彼女はあるやり取りを思い出した。


430 : 青の炎が消えた後も ◆vV5.jnbCYw :2022/07/12(火) 23:57:14 bZ/PVpqY0


――じゃあ、行ってくるな
――お兄ちゃん
――何だ?
――お昼には、帰ってくるんだよね?
――ああ。昼飯は、みんな、一緒に食べよう
――うん。じゃあ、行ってらっしゃい
――おう。


あの時、彼女は分かっていた。
兄はもう戻ってこないのだと。
それでも、見送った。見送ることしか出来なかった。


「作らなくていいよ。その代わり、私に協力してくれない?」
「キミが望むなら、ボクは戦うつもりだよ。」

強いまなざしで彼は答えた。

「いいの?」
彼女がやろうとしていることは、すなわち戦争に参加するということだ。
それが褒められたような行為ではないのは、彼女自身も分かっている。
けれど、罪を犯すこと以上に、何も出来ないまま大切な人を失うのが嫌だったのだ。
もしも自分が、父がもうじき死ぬことを兄に伝えていれば、兄は父を殺さなかったかもしれないから。
もしも自分が、罪の意識に苦しむ兄の気持ちを分かち合えば、兄は遠くへ行かなかったかもしれないから。
彼女は、かつての物語では観客でしかなれなかった自分から変わろうとしていた。


「囚われている妹を助けるのは、ボクの役目さ。実の妹じゃなくてもね。」


噛み合わない会話。
けれど、事実として、櫛森遥香は囚われている。
魔獣島の牢獄に囚われていたライダーの妹アリルの様に、物理的に囚われている訳では無い。
しかし、彼女の心は、もっと真っ黒で悲しい何かに囚われている。
それはライダーにも分かっていた。


「ボクは認めたくない。家族を守るために戦うことが間違っているなんて。」

ライダー、リンクの物語も妹を助けようとしたことから始まった。
彼が12歳の誕生日、妹アリルが怪鳥ジークロックに攫われてから、初めて故郷の島を出た。
そして冒険の果てに、海に沈んだハイラルの王や海賊テトラの協力も経て、妹を助けた。
そして風の勇者として大成し、妹を攫った怪物の裏にいた魔王ガノンドロフを討伐した。


始まりはマスターの兄と同じで、終わりはマスターの兄とは真逆だった。
だから、妹を守るために戦った兄が、悪として裁かれなければならない彼女の世界を、受け入れられなかった。


431 : 青の炎が消えた後も ◆vV5.jnbCYw :2022/07/12(火) 23:57:30 bZ/PVpqY0

この世界は、マスターのいた世界に似た姿をしている。
けれど、力がモノを言う構造は、ライダーの世界に似ていた。
だから一人のマスターは、この世界ならば兄のしたことが肯定されるのではないかと思った。


「ありがとう。お兄ちゃんの為に協力してくれて。」
「けれど、一つだけ言っておきたいことがある。ボクが剣を振るうのは、相手がどうしようもない悪の時だけだ。」

聖杯戦争で戦わないということと、聖杯を手に入れるということは相反する。
ライダーの発言に、遥香は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。


「もしもこの戦争に参加するのが少し前なら、違っていたかもしれない。」


旅の果てに、妹を故郷に返した後、彼が選んだ道は故郷で人生を終わらせることではなく、再び海に出て、新天地を見つけることだった。
彼は家族だけではなく、旅の間に知らない生き物や建物を見て、世界の広さを風の勇者ではなく1人の人間として、味わいたかった。



「気になるんだ。この戦争にいる人が、どんな願いを叶えてもらおうとしているのか。」
彼としては、マスターの願いも大切だったが、新天地で出会う者も気になった。


「もし聖杯に似合う人がいるなら、その人に乗り換えるってこと?」
「違う。でもボクは、マスター1人の為に全てを捨てきることは出来ない。」

彼は風の勇者リンクだから。
1人の人間の為に全てを殺し尽くすことも、傷付けることも出来ない。


「分かった。でも私を守って。お兄ちゃんに会えるその日まで。」
マスターはライダーに手を出す。
「それは任せて。君の兄にはなれないかもしれないけど、やり通してみせるよ。
風の勇者ではなく、一人の兄としてね。」
2人で握手を交わす
かつてアリルの手を掴み損ねた時と違い、今度はきちんと握れた。



(ねえ。お兄ちゃんがしたことってさ。正しくなかったかもしれないけど……
間違ってもいなかったよね。)




【クラス】
ライダー

【真名】
リンク@ゼルダの伝説 風のタクト

【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運C 宝具EX

【属性】
善・中庸

【クラススキル】
騎乗:B
海賊船、小型船、漁船など、船関係の騎乗ならば右に出る者は無し。
その反面、動物の騎乗は不得手。


432 : 青の炎が消えた後も ◆vV5.jnbCYw :2022/07/12(火) 23:57:48 bZ/PVpqY0

対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
また、タイミングが合えば彼の盾「ミラーシールド」で跳ね返すことも出来る。


【保有スキル】


単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

怪力(B) 一時的に筋力を増幅させる。本来ならば魔獣にしか適用されないスキルだが、「パワーリスト」によって、巨大な岩でさえも持ち上げられることが出来る。


【宝具】
『風の勇者』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
時の勇者の生まれ変わりで、勇気のトライフォースに選ばれた力を持っている。
風に乗って、船を動かし、海に沈んだハイラルを冒険することが出来る。
ここはハイラルではないためその力は制限されているが、風向きを変える『風の唄』、心を通わせた相手を自由に動かせる『操りの唄』、決まった場所に移動できる竜巻を起こせる『疾風(はやて)の唄』を使える。

『マスターソード』
ランクA: 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
ハイラルに眠りし剣。勇気のトライフォースを持つ者にのみ、抜くことが出来る聖剣。
元々確かな力を持っているが、令呪を使えばその力をさらに増大させることが出来る。
その際には剣の柄の翼が開いたようになり、持っているだけで光を放つようになる。
その状態だと、いかなる結界を破ることが出来る。

【weapon】
マスターソード

【人物背景】
時の勇者」の生まれ変わりで12歳の少年。妹アリルと祖母の三人暮らしだった。
誕生日にアリルが怪鳥ジークロックにさらわれてしまい、海賊の頭であるテトラに頼んで妹を助けるために魔獣島に向かって旅立ったが、妹を助けるための旅がいつしか世界の命運に関わる旅へとなっていく。その後、時の勇者が所持していた「勇気のトライフォース」の持ち主として、風と共に大海原を駆け巡った事から「風の勇者」となってガノンドロフとの最終決戦に挑み、見事にガノンドロフを倒す。その後のエンディングでは新天地を目指すためにテトラ達と共に旅に出る。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯はマスターの為に欲しいが、悪人以外殺したくはない。


【マスター
櫛森遥香@青の炎

【マスターとしての願い】
もう一度お兄ちゃんに会い、家族3人で幸せな暮らしを取り戻したい。

【weapon】
特に持たない。

【能力・技能】
身体能力も知力も歳相応で、特に逸脱したところはない。
あるとするなら、何があっても気遣える優しい心か。

【人物背景】
優秀な兄を持つありふれた妹。
それゆえ、彼の苦しみを背負うことは出来ず、彼の殺人も止めることが出来なかった

※本編終了後の参戦です。

【方針】
兄の様に戦う。
たとえ自分の手を汚すことになっても。


433 : 青の炎が消えた後も ◆vV5.jnbCYw :2022/07/12(火) 23:58:02 bZ/PVpqY0
投下終了です


434 : ◆E/GAFOrs9g :2022/07/14(木) 00:20:17 oa0q6pHo0
投下します


435 : どう見えるかだ ◆E/GAFOrs9g :2022/07/14(木) 00:21:42 oa0q6pHo0
異界都内某所。
マンションの一室にて。

12帖ほどのフローリングの部屋に作業台のような机が並んでいた。
部屋の周囲には本棚が並んでおり、その上には資料や漫画と言った本やキャラクターの人形が飾られており雑多な印象を受ける。

外の光を届ける窓は分厚いカーテンによって閉め切られ、昼だと言うのに僅かに薄暗い。
どこか息苦しさを感じるのはその薄暗さよりも、一番奥の作業机に鎮座る男が放つ雰囲気によるものだろう。

ボサボサの長髪を後に括り、薄後汚れたTシャツにGパン。
自分の身なりになど興味ない、と言うよりそんな事に気に掛けるよりも優先すべきことがあると言った風貌である。

部屋に響くのは男が一心不乱に筆を奔らせる音だ。
まるで命を削るような鬼気迫る様子で机に向き合い、その音だけを響かせていた。
戦いの様な有様、いや男にとって正しく戦場は机の上に広がっているのだろう。

「……なぁ。いい加減、戦いに出てもいースか? マスター」

そこに部屋の片隅から声がかかった。
退屈そうに椅子に座っていた少年が自信を示すようにコキ……と腕を鳴らす。
平凡な顔つきの少年だが、その額には勾玉のような文様が刻まれている。
黒いパーカーの上に白い羽織を纏い、その腰元には日本刀らしき柄が差されていた。

「…………すまないセイバーくん。俺には戦いよりもやるべきことがあるんだ」

謝りながらも、男は手元の原稿から視線を背けることなくペンを奔らせ続ける。
男がそこまでの情熱を注ぎ手掛けている物――――それは漫画だった。
何か拘りるのだろう、作画はデジタルではなくアナログによるもので、一筆一筆に魂を込める様に腕を動かし続けている。

そんなマスターの背中を見ながら、サーヴァントは露骨に溜息をつき、どうにもならない気持ちを乗せて椅子を回転させた。
聖杯戦争に参加するマスターであるからには、何か願いがあるはずである。
だというのに、このマスターは願いに背を向けて机に向き合っていた。
戦うために呼ばれたサーヴァントとしては不満の一つも沸くという物である。

どうしたものかという空気が流れたところに、ガチャリと玄関から鍵が回る音が聞こえてきた。
続いて錆び付いた玄関が開かれる重々しい音がゆっくりと響く。

「た……ただいまー……」

どこか自信なさげな声と共に玄関から現れたのは、両手にパンパンのスパーの袋を抱えた黒髪の少女だった。
和風の民族衣装のような衣服に身を包み、ショートカットの両脇に垂れる後れ毛を鳥の羽のような髪飾りで縛る。
目が覚めるような美人という訳ではないが、素朴な田舎娘と言った風な愛らしい少女である。

「お……遅くなってごめんね。言われた通り、しょ…食材買ってきたから、こ……これからご飯作るね」

そう言って少女が両手に抱えたスーパーの袋を降ろすべくキッチンまで足を運んだ。
もたもたとした足取りの少女の脇から、見た事もない犬種の大型犬が室内へと滑り込んで来くる。
機械犬は少女の護衛として同行していたのか、部屋に戻るなり主人である少年の元に駆け寄って行き嬉しそうにニャンと鳴いた。
犬の頬には何やら紋様らしき記号が刻まれており、機械のようなフォルムからして通常の生物ではないのは見て取れる。

「あっ。マ……マスターさん、お借りしていた財布……」
「ああ。そこに置いて……」

原稿の手を止めず少女に応えるマスターの言葉が言い終わる前に、玄関から今度は呼び鈴が鳴らされた。
少女がどもりながら「はーい」と返事を返して、慌てた様子でばたばたと玄関に向かう。
来訪者と少女のやり取りがややあって、玄関から戻ってきた少女の手には重ねられた重ねられた盆が抱えられていた。

「で……出前の人だったけど、こ……これって……?」
「へへっ。実はこっそりかつ丼とうどんのセット頼んじゃってました!」

してやったりと言う顔で少年が言って、少女から自分とマスターの分のかつ丼セットを取り上げる。
両手にそれぞれかつ丼セットの乗ったお盆を持ってマスターの元に向かうと、横から机の上に差し出す。

「マスター。食べようぜ」
「俺は……いいよ、かつ丼なんて食べる資格がないから…………これだけ貰うよ」

そう言ってセットから付け合わせの漬物だけをを受け取ると浅漬けをボリボリと食べる。
かつ丼を食べるのに何の資格がいるのか、碌な食事をとらないことに何の意味があるのか。
本人にしかわからないその拘りに、少年と少女は不思議そうに目を合わせる。


436 : どう見えるかだ ◆E/GAFOrs9g :2022/07/14(木) 00:24:44 oa0q6pHo0
「け……けど、た……食べないと体に毒です」

この異界東京に来て以来、ろくに食事をとっていない。
漫画を描くという行為は男にとってそれ程の決意と覚悟が秘められた行為なのだろうか。
狂気すら感じさせる執念と情熱を注ぎ一心不乱に原稿に向き合っている。

「いいや、それよりも――――――」

男にとって為すべきことは異世界であろうとも変わらなかった。
犯してきた罪。その贖罪のため彼の為すべきことは一つ。
それは、


「この―――――ホワイトナイトを世界に届けないと」


漫画家志望であった男、佐々木哲平には罪があった。
創作者が決してやってはいけない、盗作と言う罪だ。
無論それは彼の意図したモノではない。

落雷を受けた電子レンジに未来のジャンプが届く。
そんな夢みたいな荒唐無稽な出来事が起きるなど普通は思わない。

だからそれを夢だと思いこみ、そのジャンプに書かれていた漫画を自身から出たアイデアとして描いても仕方ないと言えるだろう。

それが夢でなかったと気づいたころにはもう手遅れだ。
一度世に出てしまった瞬間、本来の「ホワイトナイト」は失われ、そのアイデアは哲平の物となった。

この稀代の名作が世界からなくなってしまう。
哲平は漫画を愛するが故に、それだけは許せなかった。
知らなかったでは許されない。
ホワイトナイトを世に出してしまった責任を取るには、その真実を知る哲平がゴーストライターとして代筆を続けるしかないのである。

例え世界が変わろうとも彼のなすべきことは変わらない。
この異界東京都でも、電子レンジには10年後のジャンプが届き続けている。
これではまるで神の意志が続けろと言っているようではないか。

そんなマスターの事情など知らぬサーヴァントたちはよくわからないと言った風な顔で首を傾げた。

「よくわかんないけど、願いがあるんならそれこそ戦って聖杯に願えばいいんじゃないの?」
「ッ! ダメだッ!!!!」

軽い調子で投げかけられた純粋な疑問を怒声が遮る。
ダンと机に叩きつけられた拳は震え、その激情を滲ませていた。

「……それじゃ…………ダメなんだ!」

贖罪はこの手で果たされなければならない。
都合のいい願望機に願ったところで、彼の贖罪は果たされない。
故に、哲平は原稿に向き合うしかないのである。

話は終わりだと言わんばかりに戦いに背を向け黙々と原稿に取り掛かった。
言葉の届かぬその様子に、サーヴァントたちは黙って見送る事しかできなかった。

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

少年と少女、そして犬の二人と一匹は閑散とした朝方の街を歩いていた。
出で立ちからして現代の東京にそぐわない奇妙な一行であるのだが、聖杯戦争の開催されたこの異界東京においては見ようによってはマスターとサーヴァントというありふれた一行なのかもしれない。

「い……い……いいの八丸くん…………?」

少女が少年――八丸におずおずと尋ねた。

「いいって何が?」
「マ……マスターさんは、た……戦う気はなさそうなのに……か……勝手に」

原稿に勤しむマスターを一人置いて、八丸たちは表に出ていた。
言うまでもなく完全なる独断専行である。
マスターの意向を無視したサーヴァントとしては失格の行動だろう。


437 : どう見えるかだ ◆E/GAFOrs9g :2022/07/14(木) 00:26:21 oa0q6pHo0
「大丈夫だって! 聖杯戦争なんだから戦わい方がおかしいんだから。
 マスターがどう思おうが、戦うかどうかはオレが決めることにするよ」

八丸は戦うと決めた。
少なくとも聖杯戦争の参加者としては正しい行動である。

かといってマスターの事を全く考えていない完全なる身勝手という訳でもない。
勝利すればマスターの願いも叶うのだ。
よくわからない拘りを見せていたが、勝利することがマスターのためにならないはずがない。
少なくとも八丸はそう思っていた。

「それより、アン。真名じゃなくセイバーって呼んでくれよな。真名がバレちゃうよ」
「あっ。そ……そうだね。け……けど、私や早太郎はどうすれば…………?」
「あぁ……確かに。じゃあ、これからアンの事は姫って呼ぶことにするよ」

などと会話をしながら朝靄の晴れ始めた道を行く。
だが、このやり取りには一つ大きな勘違いがあった。
彼を召喚したマスターは原稿にばかり集中して彼とろくに向き合っていたにために発生した、本来であれば起こりえない勘違いである。

それは八丸と呼ばれたこの少年、その正体にある。
他ならぬ当の八丸自身ですら認識を誤っていた。
彼のクラスはセイバーではない。

八丸は武神・不動明王によって創られた存在。
世界を滅びから救うパンドラの箱そのものである。

すなわち、彼のクラスはセイバー(剣使い)ではなくセイヴァー(救世主)である。
本人ですら自覚はないが、その宝具は全ての争いを終わらせる力を持っていた。

「よーし! 行くぞー!!」
「お……おーっ」
「ニャン!」

手を上げて意気揚々と戦いに挑むサムライたちの結末は果たして。


438 : どう見えるかだ ◆E/GAFOrs9g :2022/07/14(木) 00:27:14 oa0q6pHo0
【クラス】
セイヴァー

【真名】
八丸@サムライ8 八丸伝

【ステータス】
筋力:D 耐久:EX 敏捷:D 魔力:E 幸運:E 宝具:EX

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
カリスマ:E
軍団を指揮する天性の才能。統率力こそ上がるものの、兵の士気は極度に減少する。

対英雄:D
英雄を相手にした場合、そのパラメーターをダウンさせる。
ランクDの場合、相手のいずれかのパラメーターを1ランク下げる効果がある。
反英雄には効果がない

【保有スキル】
鍵侍:-
「ロッカーボール」と適合し肉体をサイボーグかした人間の総称。
宇宙空間でも行動可能で、霊核を破壊されても消滅しない。「勇」や「義」を失った時に発生する「散体」という現象が起きない限り消滅することはない。実質的な不死身。
「義」を失ったかどうかは本人の認識によって判定されるため、傍から見て生き恥のような状態であっても本人が負けを認めなければ「散体」することはない。

三身一体:C++
侍、キーホルダー、姫は三つで一つの存在であり、いずれかが召喚された場合に残りの二つも必ず同時召喚される。
三体が一つになった時、本当の力が発揮され、絆の強さに比例してステータスが上昇する。

【宝具】
『パンドラの箱』
ランク:EX 種別:対銀河宝具 レンジ:∞ 最大補足:∞
銀河を滅ぼすマンダラの箱と対になる不動明王によって創られた銀河を救う力が封じされた箱。その正体は八丸そのもの。
解放するには鍵となる7人の侍が必要となるのだが、聖杯戦争内では7騎のサーヴァントを疑似的な鍵と見立てて発動する。
発動した時点で世界は救われ聖杯戦争は終了する。

『武神再び』
ランク:EX 種別:対自己宝具 レンジ:0 最大補足:1
悟りを開いた状態で「散体」した場合に自動発動する宝具。武神である不動明王として転生する。
全てのステータスがEXとなり、神霊レベルの権能が使用可能となる。その必殺の一撃は星を消滅させる威力となる。

【weapon】
『姫』アン
『キーホルダー』早太郎

【人物背景】
「サムライ8 八丸伝」の主人公。
詳細はサムライ8を読もう!

【サーヴァントとしての願い】
「義」を守る(銀河を救う)。

【マスター】
佐々木哲平@タイムパラドクスゴーストライター

【マスターとしての願い】
ホワイトナイトを世界に届ける。
ただしそれは罪を犯した自分自身の手で行わなければならない。

【Weapon】
未来のジャンプが届けられる電子レンジ

【能力・技能】
漫画が描ける

【人物背景】
「タイムパラドクスゴーストライター」の主人公
詳細はタイパラを読もう!


439 : ◆E/GAFOrs9g :2022/07/14(木) 00:27:32 oa0q6pHo0
投下終了です、ありがとうございました


440 : ◆A3H952TnBk :2022/07/14(木) 22:45:23 usgYJJhU0
投下します。


441 : 柴大寿&ライダー ◆A3H952TnBk :2022/07/14(木) 22:45:47 usgYJJhU0
◆◇◆◇



『大寿』


あの聖夜。
王座も、組織も、プライドも。
一夜にして、全てを失った。


『お前を倒して』


あのちっぽけな男が。
ろくに喧嘩もできない男が。
血だらけの顔で睨みながら。
俺の前に、立ちはだかる。


『黒龍(ブラックドラゴン)をもらう!』


そんな啖呵を切りながら。
勝てもしない戦いへと、無謀に挑む。
敵う筈など、ありはしない。

その男は、吼える。
幾度、殴り飛ばされようと。
幾度、叩き潰されようと。
幾度、死にかけようと。
そいつは――――俺に立ち向かう。
どれだけ格の違いを見せつけても。
執念に駆られるように、その男は戦い続ける。


そして。
この俺に、一撃を叩き込み。
たった一度。膝を突かせた。



◆◇◆◇


442 : 柴大寿&ライダー ◆A3H952TnBk :2022/07/14(木) 22:46:25 usgYJJhU0
◆◇◆◇



深夜―――白雪の積もる、小さな教会。
長椅子が両脇に並ぶ、無人の礼拝堂。
その中央通路の奥。
祭壇を目前に、青年は佇む。


「主の御前だ」


ロングコートを纏った青年が、口を開く。
低く、響き渡るような声で、ゆっくりと。
靡く髪も、屈強な体躯も、獅子のように猛々しく。
その年端には不釣合な程の威圧を放つ。
生半可な“不良”が対峙すれば、身を竦めるほどの気迫を纏い。
圧倒的なまでの存在感を、その肉体に凝縮させる。

暴走族、黒龍(ブラックドラゴン)。
その十代目の“元総長”――――柴 大寿。
かつて“最狂最悪”と謳われた青年が、睨む。
眼前に居る“相手”を、見下ろす。


「――――弁えろ」


ドスを利かせた声色で、言い放つ。
祭壇の壁に掲げられた十字架に見下されるように。
“一人の男”が、そこに鎮座していた。

その男は、異様な風貌だった。
古代民族を思わせる衣装を纏い。
筋骨隆々の超人的な肉体を曝け出し。
仁王のように凄まじい“闘気”を放ち。
無言のまま、佇んでいる。
瞑想をするかの如く、両瞼を閉ざしたまま。

鬼人。武神。修羅。
紛れもない、無比の戦士。
闘争の中に生きる、無双の英傑。
男の姿は、その有り様を否応無しに示す。

神の住まう家。
主の御前にて、不遜に胡座を掻く。
まさしく不敬も甚だしい。
大寿はその生き様とは裏腹に、敬虔なクリスチャンだ。
聖夜には必ず礼拝へと赴く程の信心深さを持つ。
それ故に、男を睨むように見据える。


「……人の創りし『神』か」


やがて男は。
その言葉と共に。
ゆっくりと、瞼を開き。


「――――笑止千万」


ただ一言。
挑発するかの如く、呟いた。


その瞬間。
轟音が、響き渡る。
聖堂の静寂を裂くように。
衝撃が、木霊する。
大寿が突き出した、右腕の拳が。
男の顔面へと、叩き付けられたのだ。


443 : 柴大寿&ライダー ◆A3H952TnBk :2022/07/14(木) 22:46:55 usgYJJhU0

再び、沈黙。
ほんの刹那の波紋を経て。
その場に、無音が戻る。
礼拝堂は、静まり返る。

大寿は、目を見開く。
拳は、紛れもなく。
眼前の男の顔面に突き刺さっていた。
骨の髄まで、確かな手応えを感じていた。


「大した度胸だ」


だと言うのに。
眼前の男は、びくともせず。
まるで岩盤を殴ったかのように。
微塵も、動じたりなどせず。


「俺が“喰っていれば”―――お前はここで右腕を失っていた」


不敵に笑い。
不敵に見据え。
男は、そう言い放つ。
その一瞬の“殺意”。
迷いなき度胸への“称賛”。

そんな男の態度に。
ほんの僅かにだが、大寿は気負される。
眼の前の武人が如何に“格が違う”かを、肌で感じ取る。

ああ―――成程。
大寿は、確信する。

脳内に流れ込む知識。
知りもしない情報。
“この世界”の真実が、意思に流入する。

元の世界―――聖夜での死闘で、大寿は敗北した。
己が再興させた“軍勢”は崩壊し。
権威も、勢力も、全てを失った。
それから大寿は、妹の柚葉へと別れを告げた。
先の敗北で何かを感じ取ったように、家族と過ごした家を去り。
それから数日を経て。
この“異界の東京”へと、招かれていた。

そして、深夜の礼拝へと赴いた自分を。
まるで待ち受けるかのように、男は鎮座していた。

男に叩きつけた右拳を、ゆっくりと下げる。
その掌の甲へと、視線を向ける。
気が付けば、其処に“紋様”が刻まれていた。
渦巻く黒龍を思わせるその刻印を一瞥し。
大寿は、再び口元に獰猛な笑みを浮かべる。


「てめえが、ライダーか」


男は、英霊だった。
柴大寿を主君として現界したサーヴァントだった。
クラスはライダー、即ち騎兵。
その知識は、大寿の脳裏より浮かび上がる。

男は――――ライダーは、何も言わず。
されど、無言の態度で肯定をする。


444 : 柴大寿&ライダー ◆A3H952TnBk :2022/07/14(木) 22:47:21 usgYJJhU0

聖杯戦争。
万物の願望器を巡る闘争。
たった一つの奇跡を巡る死闘。
大寿は、既に理解していた。
己が戦いの場へ放り込まれたことを、悟っていた。


「生前に、人間の文化を知る機会があったが……」


ライダーは、淡々と語る。
己を取り巻く空間を見渡しながら。


「『神』を信奉するお前に、聞きたいことがある」


神への敬意を払う大寿へと、問いを投げかける。
ライダーは、“人間”ではない。
遙か悠久の時を生きる“上位種”である。
古代より人類と闘い、その過程で幾度となく人間の文化へと触れてきた。
故に彼は、その疑問を好奇心から投げ掛ける。


「『聖杯』とは何だ?」
「主の血を受けた、聖遺物」


大寿は、答える。
聖杯。最後の晩餐に用いられた器。
救世主たるイエスが己の血を捧げた、神聖なる遺物。
それは敬虔なる神の子達にとって、崇敬の対象となりうる物であり。


「この『異界』に出現したものは、それか?」


ライダーは、改めて問いかける。
大寿は、僅かに黙り込んだ後。
自らの首を、横に振る。


「……違ぇだろうな」


闘争の果てに齎される“奇蹟”。
血で血を拭う死戦によって完成する“願望器”。
そこに主の祝福など、宿っているだろうか。
きっと、違うだろう。
そんなもの、主の聖なる遺産には程遠い。


「ならば、貴様は聖杯を求めないのか」
「――――いいや」


それでも。
それを分かっていても尚。
大寿は、敢えて告げる。


「“勝ち残る”ことには、用がある」


不敵な笑みを、ニヤリと浮かべながら。
この戦いに“乗る”ことを、宣言する。



◆◇◆◇


445 : 柴大寿&ライダー ◆A3H952TnBk :2022/07/14(木) 22:47:58 usgYJJhU0
◆◇◆◇



あの時は、間違いなく。
理解が出来なかった。
あのちっぽけな男が、何故抗うのかを。


無駄。無意味。無価値。
奴を否定する言葉など、幾らでも並べ立てられる。
結局、死物狂いでようやく一発を当てた程度。
歴代最狂とまで謳われた俺の強さには、遠く及ばない。
足掻こうが、藻掻こうが、結果は変わらない。


『みんな弱ぇ。だから家族(なかま)がいる』


だと言うのに。
あいつは。あの男は。


『そんな嘘で、オマエを見捨てねぇ』


決して屈することなく。
途轍もない意思を背負い。
あの臆病な“弟”さえも奮い立たせて。
この俺へと、必死に立ち向かい続ける。


『――――それが“東卍”だ!!』


聖夜の下。あのちっぽけな男は。
“弟”を変えてみせた。
そして、この俺に突きつけた。
“力だけが全てではない”ことを。

改心などはしない。
所詮は外道の生き方しか出来ない。
それでも、認めるしかない。
あの男は、命懸けで叩き付けた。
立ち向かうという覚悟を。
譲れないものへの想いを。

“お前は強い。だが心がない”。
“だから、時代を作れない”。
無敵のマイキーは、俺にそう言い放った。

ああ――――そういうことなんだろう。
俺は、何に敗けたのか。
今ならば、理解できる。


花垣武道。
それがお前の“強さ”なんだろ。



◆◇◆◇


446 : 柴大寿&ライダー ◆A3H952TnBk :2022/07/14(木) 22:49:10 usgYJJhU0
◆◇◆◇



聖杯戦争の知識を得てから、既に腹を括っていた。
己が求めることは、すぐに理解していた。
だからこそ、躊躇わない。
あの“敗北”を背負い、この地に来たからこそ。
柴大寿は、迷うことなく道を選ぶ。


「試したくなっちまったんだよ。
俺の力とやらに、どれだけの価値があるのか」


ただ暴力だけを信じて生きてきた。
強くあれ。強さこそ全て。
弱いだけの臆病者には、何の価値もない。
ましてや―――頼れる親など、いない。
強さを持たずして、何を得られる。
弱さは、力を以て正さなければならない。
そんな妄執を抱いて、弟と妹にすら暴力を振るい。
外では、己の強さを金に変えて売り込み。
いつしか不良達を総べる暴君として祀り上げられ、君臨することになった。

だが、大寿は敗けた。
無敵のマイキーと、花垣武道によって。
あのちっぽけな拳と、信念によって。
暴君の魂は、真正面から穿たれた。
傲慢な自尊心。力への信奉。
そして、家族への歪な支配。
大寿の骨子に根付いていた執着を、花垣武道は打ち砕いた。


「勝ち抜いた果てに、“強さ”ってモンを見出だせるのか―――」


あの時、全てを失った。
敢えて、全てを棄てた。
だからこそ、大寿は思う。
まっさらになった己に、どれほどの価値があるのか。
あの男に打ち砕かれた己は、どこまで辿り着けるのか。
古今東西の英霊と、彼らを従える主君。
祈り。誓い。信念。欲望。あるいは、生きること。
それらを胸に抱く彼らと戦い抜いた果てに、何を得られるのか。


「その“答え”を、この“戦争”で見つける」


そのために、戦う。
叶えるべき願いがあるとすれば。
それは、この戦いの中にこそあると。
大寿は、確信するように呟く。


「だから――――力を貸せ、ライダー」


ああ、そうだ。
これは、自分(オレ)自身への挑戦であり。
そして、自分(オレ)自身に対する――――リベンジだ。


447 : 柴大寿&ライダー ◆A3H952TnBk :2022/07/14(木) 22:49:49 usgYJJhU0


「……そうか」


そんな大寿の意思を、黙って聞き届け。
何かを悟り、思い至ったように。
重い腰を上げるように、その場から立ち上がる。


「ただのちっぽけな“小僧”に召喚されたものだと思っていたが―――」


巌のような体躯が、佇む。
圧倒的な存在感。格の違い。
異様なまでの気迫を、大寿は肌で感じる。
身震いをするような覇気が、肉体に突き刺さる。
それでも尚、豪傑を真っ直ぐに見据える。
己の従える“英霊”と、ただ向き合う。

俺は、お前と共に戦う。
決して怖じたりなどしない。
そう言わんばかりに。


「良かろう」


そんな大寿の度胸を汲むように。
その誇り高き眼差しで、見据えながら。
風の英傑―――ライダーは、宣言する。



「ならばこの俺と共に、戦ってみせろ」



◆◇◆◇



一万二千年。
それほどの時を、彷徨い続けた。

主に従い、忠義と闘争の中に己を見出した。
主の宿願のために戦うこと。
己自身の矜持に殉ずること。
強者との決闘。勇者との対峙。
即ち―――武人としての生。
そこに悔いなど、一欠片もない。


『おれが最期に見せるのはッ!』


若き戦士達の姿が。
脳裏に、蘇る。


『代々受け継いだ未来に託すツェペリ魂だ!』


強き戦士こそが真理。
勇者こそが友であり、尊敬すべき者。


『――――人間の魂だ!!』


己は、彼らと対峙した。
全身全霊を持って戦い抜いた。
柱の一族には遠く及ばぬ、貧弱な肉体で。
あの男達は、果敢に立ち向かった。


『ワムウ、貴様は戦士として凄かった』


そこに見出したものは―――“意志の光”。
人間という生き物が持つ、本質の強さ。


『だが、俺には―――』


恐怖を知りながら、それを己のものとすること。
人間を人間たらしめる、勇気という力。


『シーザーという強い味方が最後までついていたのさ』


そして、死してなお紡がれる。
黄金に輝く、絆と魂の物語。
それこそが、人間の力。
勇気を讃える歌―――人間讃歌。


448 : 柴大寿&ライダー ◆A3H952TnBk :2022/07/14(木) 22:51:07 usgYJJhU0

ああ、悔いはない。
後腐れなど、あるものか。
そう。“未練”などないからこそ。
己は、“更なる先”を求める。

聖杯に託す願いなど、有りはしない。
されど、確かめたくなった。
この“闘争”の果てに、“真の強さ”の高みへと到れるのかを。
古今東西の英傑との対峙を経て、武人としての己が何処まで辿り着けるのか。
それを、この眼でしかと確かめたい。

そのためにも、渇望する。
己さえも超えてみせた、あの黄金の精神のように。
まだ見ぬ強者を―――まだ見ぬ気高さを、まだ見ぬ誇りを。
ただ只管に、待ち望む。

ジョセフ・ジョースター。
シーザー・アントニオ・ツェペリ。

彼らという“若き勇者たち”との出会いが、己を駆り立てた。
更なる闘争を。更なる真理を。もっと高みへ。
己が魂の限界を、追い求めたい。
故に、この聖杯戦争へと参じたのだ。


『試したくなっちまったんだよ』。


己を召喚した“あの小僧”は、そう言った。
その傲岸な笑みとは裏腹に。
眼差しからは、確かな意志を感じた。

聖杯に託す祈りなど、無くとも。
それでも、戦いの果てに得られる“答え”を求めていた。
己の力には、如何なる価値があるのか。
己の勝利で、如何なる強さを見出すのか。
“あの小僧”――――“柴大寿”は、闘志を燃やしていた。

その気迫から、容易く読み取れた。
この小僧は、真っ当な道など歩んでいない。
あの波紋の戦士達とはまるで違う。
暴威のみを宿す、外道の生き様。
正しきから踏み外した、悪徳のサガ。
柴大寿は、決して“正道の人間”ではない。

それでも。
気付かされたことがある。
そんな道を歩んできた小僧が。
今まさに、“矜持”を求めている。
“誇り”へと至る道を、見据えている。


―――――そうか、貴様も。
―――――“高み”を求めるに足る。
―――――そんな邂逅があったのだろう。


それは、直感に等しく。
されど、確信に至っていた。
故に己(ワムウ)は、決心を固める。

猛き小僧よ。暴威の若武者よ。
貴様が“道”を突き進むというのならば。
なれば、このワムウと共に戦う資格はある。

己は、高みを求める。
強者としての頂を目指す。
故に――――見せて貰おう。
貴様が、如何なる答えを見出すのか。


【クラス】
ライダー

【真名】
ワムウ@ジョジョの奇妙な冒険

【属性】
混沌・中庸

【パラメーター】
筋力:A+ 耐久:A 敏捷:B+ 魔力:C 幸運:D 宝具:B+


449 : 柴大寿&ライダー ◆A3H952TnBk :2022/07/14(木) 22:51:47 usgYJJhU0

【クラススキル】
対魔力:A
同ランク以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではライダーに傷をつけられない。
人類史以前の太古より存在する“闇の一族”として最高ランクの神秘を持つ。

騎乗:D+
吸血馬などの魔獣を自在に使役する技能を持つ。
現代の乗り物や動物も一通り乗りこなせる。

【保有スキル】
柱の男:A
太古より地上に存在する“闇の種族”。
吸血鬼を凌駕する身体能力と生命力を持つほか、全身を用いた捕食能力や変幻自在の肉体操作など、数々の異能力を備える。
また生物を捕食することで通常よりも高効率で魂喰いを行うことが可能。
ただし日光を浴びると肉体が石化してしまうという弱点を持つ。
死徒に近い属性を持ちながらも、その出自を異にする上位種。

久遠の武錬:A+
一万年もの研鑽を積み、“戦闘の天才”と称されるまでに至った武術の体現。
現状の戦況を的確に分析し、自身の最適な行動を瞬時に導き出す戦闘技術。
同ランクの「心眼(真)」「直感」「勇猛」スキルと同等の効果を発揮する他、攻撃・防御・回避などのあらゆる戦闘判定にプラス補正が掛かる。

流法:A
柱の男の肉体操作能力の応用によって編み出された異能。
ライダーは風を自在に操る“風の流法”を操る。
暴風による攻撃や気流の察知など、その能力は多岐に渡る。

【宝具】
『闇の一族』
ランク:B+ 種別:結界宝具 レンジ:1\~50 最大捕捉:-
太陽を忌み嫌い、闇夜に生き続けた一族としての伝承が宝具化したもの。
日中に限り霊体化を解いた際、太陽光を遮断する『闇夜の結界』が自動展開される。
結界内は現実空間と地続きのまま“夜”が維持され、日光を弱点とする柱の男が自在に活動できる。
ただし宝具維持に魔力を割かれるため、発動中はライダーを運用する負担が大きくなる。
また魔力探知に長けるサーヴァントには結界を察知される危険性もある。

結界はライダーを中心にしてバリアのように展開され、ライダーが移動する度にその座標に追従して結界も動く。
外部からは“結界の存在そのもの”を認識できず、結界内外ともに地続きのまま視認できる。
しかし結界のレンジ内と踏み込んだ瞬間に周囲の景色は即座に“夜”へと変わり、同様に射程外へと離脱した時点で景色は元通りの日中と化す。

『騎兵闘術・破軍迅』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:2\~50 最大捕捉:100
波紋戦士と繰り広げた闘技場での決戦を昇華した宝具。
2体の吸血馬が引く古式戦車を召喚。
ライダーがその腕力で自在に馬を操り、圧倒的な破壊力で疾走する。
吸血馬は吸血鬼同様の超常的な身体能力・再生能力を持ち、生半可なサーヴァントをも凌駕するパワーを備える。
ただしライダー同様に日光への弱点を併せ持つため、“太陽”としての属性を持つ攻撃には脆い。

『闘技・神砂嵐』
ランク:C+ 種別:対軍宝具 レンジ:1\~60 最大捕捉:300
ライダーが操る風の流法の奥義。
両腕の回転によって超破壊力の暴風を発生させ、敵を蹂躙粉砕する必殺技。
“左腕を関節ごと右回転・右腕を関節ごと左回転!”
“その二つの拳の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間!”
“正に歯車的砂嵐の小宇宙!”

『最終流法・渾楔颯』
ランク:C++ 種別:対城宝具 レンジ:1\~50 最大捕捉:200
風の流法・最終奥義。
周囲から取り込んだ風を自身の角へと収縮し、あらゆるものを切断する超高圧のカッターとして放出する。
「烈風のメス」と称される程の凄まじい殺傷力と引き換えに、その風圧によって自身の肉体さえも崩壊させる諸刃の剣。
宝具へと昇華されたことにより、あらゆる魔術防御・概念礼装をも突破して敵を断ち切るという“必殺の攻撃力”を得ている。


450 : 柴大寿&ライダー ◆A3H952TnBk :2022/07/14(木) 22:52:15 usgYJJhU0

【Weapon】
己の肉体と流法

【人物背景】
“生態系の頂点”として遥か太古より生き続ける超生物“柱の男”のひとり。
主君であるカーズとエシディシに従い、“エイジャの赤石”を奪取すべく波紋戦士との戦いを繰り広げていた。
戦闘の天才と称される誇り高き戦士。
武人としての矜持を重んじ、強者との戦いを至上の喜びとする。

【サーヴァントとしての願い】
闘争の果てにある“高み”を求める。



【マスター】
柴 大寿@東京卍リベンジャーズ

【マスターとしての願い】
戦いの果てにある答えを確かめる。

【weapon】
己の肉体

【能力・技能】
筋骨隆々の肉体と暴力的な格闘センスによる喧嘩の実力。
腕っぷしの強さとカリスマ性に加え、暴力をビジネスとして売り込む強かさを持つ。
ただし“無敵”と謳われる東卍會総長・マイキーには実力で及ばない。

【人物背景】
暴走族「黒龍(ブラックドラゴン)」元総長。16歳。
総長としては十代目にあたり、歴代最狂最悪と称される凶暴な不良だった。
その異次元の強さと暴力的なカリスマ性によって、当時著しく弱体化していた「黒龍」を一気に再興させた。
複雑な家庭環境を背景に持ち、弟の八戒と妹の柚葉に対して躾と称した日常的な暴力を振るっていた。
その一方で敬虔なクリスチャンであり、聖夜には必ず教会を訪れるという一面も持つ。
“聖夜決戦”で東京卍會メンバーとの死闘の果てに敗北し、最終的には総長の座から降りて家族とも離別した。

参戦時期は聖夜決戦編を経て、妹の柚葉に別れを告げて家を去った後。


451 : ◆A3H952TnBk :2022/07/14(木) 22:52:44 usgYJJhU0
投下終了です。


452 : ◆ylcjBnZZno :2022/07/15(金) 00:10:20 P34uVVqA0
投下します


453 : テューレ&アーチャー ◆ylcjBnZZno :2022/07/15(金) 00:11:28 P34uVVqA0
駅から少し離れた路地沿いに、その小料理屋はあった。
自衛隊上がりの大将が営むその店は、駐屯地や事務所からは少々離れているにも関わらず、多くの自衛官たちが集まり賑わっていた。

また一人、客が暖簾をくぐり店に入って来る。
「よう古田!」
「いらっしゃい」
いつもの頼むわ、と笑いながら、慣れた足取りでカウンター席に腰掛けたこの男は、大将の自衛官時代の同期である。

注文されたビールを注いでテーブルに置かれると、間髪入れずに口元に運ぶ。
仕事の愚痴を吐き出しながら流し込むうちにジョッキはみるみる空になった。
二杯目を受け取り口をつけた男の目の前に皿が置かれる。
カツオのたたきとハンペンフライ。男の『いつもの』だ。
「ありがとう。テューレさん」
「女将と呼んでくださいな」

応えて微笑む女将。
その頭部には兎のような長い耳が、真っすぐピンと立っていた。


◆◆◆


「成果を報告しなさい。アーチャー」

閉店後、自室に戻ったテューレが虚空に話しかける。
すると緑のマントを纏ったハンサムな青年が霊体化を解き、姿を現した。

「命じられた通り、渋谷で同盟を組んでたマスター三人。全員仕留めて来ましたよ。
 はいこれ、証拠ね」

軽薄そうな声音でそう言うと、手に持っていた黒いビニール袋をテューレに手渡す。
中を検めるとそこには三人分の下顎骨が入っていた。
「マスター殺害の証拠としちゃ十分だろ」
「そうね。ご苦労様。
 この間のように処分しておきなさい。しつこいようだけど、くれぐれも店に影響が出ないように」
「はーい了解了解。
 それでだ、マスター」


454 : テューレ&アーチャー ◆ylcjBnZZno :2022/07/15(金) 00:12:19 P34uVVqA0

とここで、アーチャーの声色が変わる。
先ほどまでの軽薄さは鳴りを潜め、ドスを効かせたような低い声に。

「俺は時には言われた通りに、時にはアドリブで仕事をこなし、使えるサーヴァントだと示せたと思う。
 そろそろ教えてもらいたいもんだね。アンタが聖杯にかける願いを」

テューレは聖杯の獲得を目指している。
それはファーストコンタクトの際に明言されていた。
しかし、その内容については秘せられていた。
尋ねるには尋ねていたが「いずれ切り捨てるかもしれない相手に、軽々しく私の内面を話したくはない」と断られていた。
故にアーチャーは己の有用性を証明し続けた。
マスターと思しき人物の噂があれば行って真偽を確認し、場合によっては始末したし、
小料理屋には罠を張り巡らし、敵サーヴァントの襲撃を返り討ちにしたりもした。
そうしてアーチャーは、召喚されてからの10日間で6人もの主従を脱落させていた。

アーチャーは確認しておきたかったのだ。
この小料理屋の女将として幸せそうに生きるマスターが、この聖杯戦争という修羅場にどんなモチベーションで臨んでいるのか。

「いいでしょう」とテューレは語りだす。

「私が望むのは、今、この時よ」
「はあ?」
「私は復讐を成し遂げ、死んだ。
 帝国を滅茶苦茶にできたし、ゾルザルもこの手で殺した。
引き換えに私も死んでしまったけれど、そこに悔いはないわ。
 だからフルタの営む小料理屋で女将をやっている今の状況が、現世からハーディの御許に逝くまでのひと時の夢に過ぎないことはわかっている。
 ここにいるフルタだって、声も姿も料理の腕も同じだけれど、帝都で出会った彼とは別人だということも、この暮らしに固執することは虚しいことだというのも全部わかっている」

けれど、と大きく息を吸って続ける。
「それでも今、私は幸せなの」

自分を騙し、陥れ、故国を滅ぼしたゾルザルに、絶望と屈辱をたらふく味わわせて殺してやった。
テューレの復讐はここに完結した。
その後のことなんか、考える必要もないと切り捨てた。

それでも少し未練だった。
フルタの描く夢に自分が関われないことが。

「この夢に終わってほしくないの」

ずっと続いてほしかった。
自ら作り上げた国で、客――国民のために努力と研鑽を続けるフルタを、隣で微笑み支える日々が。

「だから私は聖杯を求めるの。
 聖杯を求める連中に、この夢を脅かされないために」

その妨げとなる存在すべてが此度のテューレの敵だった。


455 : テューレ&アーチャー ◆ylcjBnZZno :2022/07/15(金) 00:13:11 P34uVVqA0
お眼鏡に適ったかしら?と小首をかしげるテューレに、アーチャーは嘆息しかぶりをふる。

「ま、そうっすねえ」

平凡な日々の営みを守りたい――人類救済だの世界征服だの言われるよりは、はるかに実感の湧くモチベーションだった。

―――アーチャー自身も生前、似たようなモチベーションで戦った英雄だったので。


「誓おう」
そう言ってアーチャーが跪く。

「ロビンフッドの名の元に、この命ある限り、アンタの夢を守りぬこう」



【クラス】
アーチャー

【真名】
ロビンフッド@Fate/EXTRA

【属性】
中立・善

【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:B 宝具:D

【クラススキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。
Dランクでは、一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:A
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。依り代や要石、魔力供給がない事による、現世に留まれない「世界からの強制力」を緩和させるスキル。
Aランクではマスターを失っても一週間現界可能。

【保有スキル】
破壊工作:A
戦闘を行う前、戦闘の準備段階で相手の戦力を削ぎ落とす才能。トラップの達人。
ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格が低下する。
ロビンフッドの場合、森林であれば進軍前の敵軍に六割近い損害を与えることが可能。

黄金律:E
人生においてどれほどお金がついて回るかという宿命。
ロビンフッドは常に貧しかったが懐具合が悪かったことは一度もなかったそうだ。


456 : テューレ&アーチャー ◆ylcjBnZZno :2022/07/15(金) 00:13:49 P34uVVqA0

【宝具】
『祈りの弓(イー・バウ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:4〜10 最大捕捉:1人
アーチャーが生前に拠点とした森にあるイチイの樹から作った弓。ロビンフッドの通常武装であり奥の手。射程距離より近場での暗殺に特化した形状をしている。
標的が貯め込んでいる不浄(毒や病)を瞬間的に増幅・流出させる力を持ち、対象が毒を帯びていると、その毒を火薬のように爆発させる効果がある。矢が対象に命中する事は毒を爆発させるトリガーでしかないため、矢を弾いたり受けたりして防いだとしても効果は発動する。
また、単に武器としての効果の他に、基点となる地面に矢を刺すことで周囲をイチイの毒で染め上げ毒の空間にすることが可能。この毒の空間を先んじて作り毒矢を撃つ戦法も扱った。

『顔のない王(ノーフェイス・メイキング)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
アーチャーの纏うマント。完全なる透明化、背景との同化ができる。光学ステルスと熱ステルスにより気配遮断スキル並の力を有するが、触ってしまえば位置の特定は可能。外套の切れ端を使い、指定したものを複数同時に透明化させたり、他人に貸し与えても効果は発動する。この性質を利用し、発射した矢を透明化することも可能。
ただし、『祈りの弓』との同時使用はできないという制約があるため、『祈りの弓』を使うときは透明化を解除していた。

【weapon】
クロスボウ

【キャラ紹介】
顔のない、名前のない義賊
勝つためには手段を選ばず、奇襲や闇討ち、毒矢を得意とする。
軽薄な皮肉屋で毒舌だが根は善良。彼を迫害した村が領主の圧政に苦しめられているのを見捨てられず助力に入る程度には。
正義にこだわる青臭い自分を隠すために不真面目な素振りをしており、正々堂々とした戦いを望んでいるが、それでは勝てないためその手段を否定している……が、今回のマスターは彼にそれを求めないので、その青臭い部分は表出しないだろう。

【方針】
マスターの幸せな夢を守る


【マスター】
テューレ@ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり

【マスターとしての願い】
異界東京都での幸福な日々ができるだけ長く続いてほしい

【能力・技能】
ヴォ―リアバニーとしての高い身体能力。特に聴力は高性能収音機並み。
元女王であり、白兵戦闘能力も高い。

【人物背景】
東京の銀座に出現した『門(ゲート)』により日本とつながった中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界『特地』。
その特地の覇権国家『帝国』の皇太子・ゾルザルの愛玩奴隷。だがゾルザルの秘書も務めている。
元ヴォーリアバニーの国の女王。国を滅ぼさない代償としてゾルザルの奴隷となったが約束は反故にされ、国は滅亡し、同族からは国を売った裏切り者として恨まれている。
そのような経緯で帝国や皇族、ヒト種に恨みを抱き復讐を誓っていた。
謀計と人心の掌握術に非常に長けており、言葉巧みにゾルザルを陰から操っているほか、裏では多くの配下を従え、数々の謀略を以て帝国を泥沼の争いに陥れた。
その最中に出会った料理人・古田に惹かれる。自らの店を持ちたいという彼の夢に同行することを望みはしたが、想いを叶えることなくゾルザルと刺し違えた。

【方針】
平穏を脅かす者の排除。


457 : ◆ylcjBnZZno :2022/07/15(金) 00:14:12 P34uVVqA0
投下終了です


458 : ◆6sJIISo1u. :2022/07/15(金) 14:33:12 uD7pfU8c0
投下します


459 : 蝗害 ◆6sJIISo1u. :2022/07/15(金) 14:35:21 uD7pfU8c0
男は恵まれた魔術師だった。
一族の中でも頭ひとつ抜けた才能を持ち、それを無駄にしないための努力を積み重ねた。
人一倍自尊心が強いところはあったが、それも力に見合ったものとして周りからは強い反感は持たれなかった。

そんな彼は運命のいたずらか、この異界東京都に召喚される。
最初はそのことになぜ自分がと怒りを覚えたが、一瞬で発想を変えてこれはチャンスだと思った。

元の世界でも噂に聞いていた聖杯戦争。
現物を見るまでは疑わしいところはあるが、真実であるなら根源への近道として有用なものは間違いない。
どうせ逃げ場がないのなら、それを目指すことにした。

そして彼は呼び出されたサーヴァントを見る。
サーヴァントのクラスはバーサーカー。
二メートルを超えた筋骨隆々の体躯の、緋色の瞳に灼炎のごとき烈しい髪を持つ大男。

格が違うとはっきり分かった。
今まで培ってきた自分の尺度など意味をなさないと感じた。

そうしてバーサーカーは目を開き、マスターである自分と目を合わせる。
これからこの存在を従えて戦うのかという不安と高揚感を感じ始めていた。
だからか、次の行動に反応できなかったのは。

「まずはお前か」

バーサーカーの第一声を聴いたと思った瞬間、男の身体はこの世から消滅していた。


460 : 蝗害 ◆6sJIISo1u. :2022/07/15(金) 14:36:55 uD7pfU8c0
◆     ◆     ◆


魔術師を消し飛ばしたのはバーサーカーの拳であった。
召喚された直後に自身のマスターを殺害するという暴挙をしでかしたサーヴァントはついさっき消し飛んだ己のマスターを見ていた。
自分を召喚したマスターだから、という理由ではない。
単純に自身の手で葬った男を見送っただけである。

彼にとって自身を呼び出したマスターなど関係ない。
自分と目を合わせ、互いに存在を認識したのだから倒すべき敵として全力をぶつける。
バーサーカー――バフラヴァーンとはそう言ったサーヴァントである。

「ぬ? ああ、そうだったな。この戦争はそういうものであったのを忘れていた」

そんなバフラヴァーンは自身の肉体が霧散し始めていることに気づいた。
先の攻撃で己のマスターを殺害したのだ、単独行動スキルも持たないバーサーカーでは当然のことである。

「ぬうぅぅん!」

そうした状況を把握したバフラヴァーンはそのまま霧散している身体に力を込めた。
そうすると霧散していたバフラヴァーンの身体の魔力が再び集まり、肉体の形を取り戻していく。

我力――我の強さで荒唐無稽な現象を実現させる意志の力。
バフラヴァーンはその世界において最強の我力使いとまで言われた存在である。
彼はその力でもって無理やり魔力の霧散を押し留めたのである。

無論これは誰でも出来る芸当ではない。
通常であれば例え押し留めてもそれを維持する消耗は避けられず消滅するのを早めるだけで、やる意味はほぼないと言っていい。


461 : 蝗害 ◆6sJIISo1u. :2022/07/15(金) 14:38:54 uD7pfU8c0
だがバフラヴァーンは第一戒律の宝具により消耗という概念が存在しない。
マスターからの魔力供給を必要とせず、魂喰いも行わずに存在を維持できるのがその証である。

「サーヴァントの肉体というものは窮屈なものだな。万全というにはほど遠い」

生前と比較すれば今の自分が劣ったことに少しばかりの憤りを感じていた。
サーヴァントになろうとも全力で戦うことを常態とすることに変わりはないが、万全の力をこれから戦う相手に見せられないのは不甲斐ない。
いずれはこの枠すら破壊して自らの強さを証明しなければならないと彼は思いを決めた。

そしてこのまま次の闘争へと赴く前に一度立ち止まって思案する。
元々の性分からすればあまり慣れないことだが、ゴールを定めておくのがいいと思い、今回の聖杯戦争で自分の目指す先を見据えようとする。

「聖杯に願うというなら俺にあるのはただ一つだけ。そしてそれを叶えるためにわざわざ全てを相手取る必要などない」

そう口に出しながらバフラヴァーンは失笑する。
戦う相手を選り好みするなど彼からすればあり得ないことである。
相手の強弱やどのような存在だろうと関係ない、どんな敵手だろうと全力をもって答えるのが己という存在だろう。

「もはや願いを自覚した今となっては全ての存在と戦うなど必要はないが、目の前にある闘争を無視して行くなどそれは俺という存在の否定になる。
ならばどうするか、決まっている」

そうしてバフラヴァーンはこの聖杯戦争においての方針を決めた。
かつて己に真実と敗北を刻んだ男を思いながら。


462 : 蝗害 ◆6sJIISo1u. :2022/07/15(金) 14:39:42 uD7pfU8c0

「この世界の者たちを全て打ち倒してから、奴との再戦へと臨む。単純明快で実に俺好みだ」

聖杯などあくまでその過程で手に入れればいい、どちらにせよ全員打ち倒せばどこかで必ず手に入る。
それが決まれば後は簡単、ただそれを成すために動くのみ。
やはりこれこそが自分だと改めて感じる。ここが何処だろうと関係ない、終わらない闘争行を歩き続けるのみだと。
これから行う全ての生命の絶滅。
規模で言えば奴の真似事とすら言えるものではないが、それに倣うようだと気づいたバフラヴァーンは少しばかり気持ちを逸らせた。

「俺を追っていた時のザリチェやタルヴィもこんな気持ちだったのか?
なるほど、確かに。これは悪くない気持ちだ」

かつての同志に思いを馳せてたところでバフラヴァーンはそこで気づいた。
互いにその存在を認識した、ならばその時点で開戦の号砲が鳴る。

俺を見たな。俺を知ったな。俺と同じ空気を吸い地に立ったな。

瞬間、バフラヴァーンの全力が放たれ、また命が散る。
虫や草花であろうと例外はない、彼の通った道に無事なものなど存在しない。

暴窮飛蝗――それがバフラヴァーンの魔王としての二つ名である。


463 : 蝗害 ◆6sJIISo1u. :2022/07/15(金) 14:40:50 uD7pfU8c0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
バフラヴァーン@黒白のアヴェスター

【ステータス】
筋力:A++ 耐久:A+ 敏捷:A 魔力:D 幸運:B 宝具:EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
狂化:EX
バーサーカーは正常な思考力を持ち、普通に会話することも可能である。
ただしその精神性はまさに狂戦士と呼ぶに相応しく、通常のそれとは隔絶されたものである。

【保有スキル】
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

我力:EX
我の強さで荒唐無稽な現象を無理矢理に実現させる力。
身体能力の強化や自身の攻撃に毒のような回復を阻害する効果を付与したり、衝撃波を抑えて威力そのままで規模を縮小するといった芸当も可能。
不老不死の実現も可能であり、高位の魔王達は強靭な意志の力で、寿命すら超越して千年以上もの間存在し続けている。
バーサーカーは最強の我力使いと言われるほどの我力を持つ。
ただし今回はサーヴァントで召喚されたこととマスターを失った状態で無理やり現界を維持するのに幾分かの力を常に割いている。

戦闘続行:EX
宝具の効果によりどのような致命傷を受けようと戦い続け、肉体が消滅するまで戦闘が可能である。

勇猛:EX
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
どんな特殊な能力を持ち強力な相手だろうと一切臆すことなく突撃していく。
ここまで来ると気狂いの類である。


464 : 蝗害 ◆6sJIISo1u. :2022/07/15(金) 14:41:44 uD7pfU8c0
【宝具】
『殲くし滅ぼす無尽の暴窮(ハザフ・ルマ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1(自身)
第三位魔王、バフラヴァーンの第一戒律。
戒律とは己自身に禁忌を設け遵守すると心に誓う。
自身に破ってはいけない制約を課す代わり、その制約が重いほど反動として強力な特殊能力を行使できる。
バーサーカーは出会った者とは誰であろうと全力で戦わねばならない代わりに、体力・持久力の消耗しない永久機関になる。
己こそが最強、それを証明するための戒律、消耗がないため死の寸前まで全力で戦える。
出会った者の定義は相互認識した者に限り、それは虫や草花に至るまで例外はなく全力で戦わなければならない。
そのためバーサーカーの攻撃は無差別な範囲攻撃等で虐殺を行えば破戒扱いとなってしまうため、我力によって認識した相手にのみ攻撃が当たるようにしている。
なおこの縛りは必ず相手を殺す必要はなく、同時に認識している相手が複数いるなら中断して標的を変えることも可能。
欠点として自分を認識していない相手には一切の殺傷が不可能になることと自分を意図的に意識から外している相手には攻撃できなくなる。

『終わりなき群生する暴窮(マルヤ・アエーシュマ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1(自身)
第三位魔王、バフラヴァーンの第二戒律。
孤独を恐れず戦い続ける代わりに、己と寸分違わない分身を作り出す。
この宝具は深層意識下で課している戒律のため、条件を満たさない限り自身でも任意に発動させることができない。
その条件は非常に伯仲した実力の持ち主か、近い性質の者と戦った場合、即ち「自身と同種の存在と戦った時」に発動する。
分身は思考回路と性格も含めて一切の差異がない正真正銘の本物であり、結果起こるのは増えたバーサーカー同士によるバトルロイヤルである。
結果として相手は最強の座を求めて自分同士で殺し合うバーサーカー達の全力の殺し合いの真っ只中に巻き込まれ、増殖したバーサーカー達に袋叩きにされてしまう傍迷惑極まりない荒唐無稽な宝具である。
極度の興奮と昂揚が宝具発動のトリガーなので、この宝具が発動している時、バーサーカーは一種のトランス状態となっており、自分が増えている事実を認識できない。
本来は増殖数に限りはないのだが、それが起こり得る相手は1人だけであるため、彼が召喚されない限りは今回の聖杯戦争で無秩序な増殖は起こらないと考えられる。

【人物背景】
頂点に君臨する絶対悪、『七大魔王』の一角、千年以上も君臨していた第三位魔王暴窮飛蝗バフラヴァーン。
二メートルを超える体躯と桁外れの筋肉を持つ、灼炎のごとき蓬髪の男性。
「この世のすべてと戦い、倒し、最後に残った者が最強である」という子供じみた狂気の野望を掲げて宇宙を渡り歩き、その思想の前には老若男女も不義者も義者も関係ない。
武の道を行き、最強を目指し、実践する。最終的に宇宙すべての生命を倒そうとしている究極の戦闘狂。 口癖のように「俺の方が強い」と言い放つ最強を目指す。
そうして彼は自身が最強を証明するために戦い続けた長き旅路の果てに好敵手を見出す。
その戦いの中で彼は自身の真の望みを知り、敗北した。

【願い】
異界東京都の全てを打ち倒し、マグサリオンと再戦する


【マスター】
不明@???

【マスターとしての願い】
不明。

【weapon】
不明。

【能力・技能】
不明。

【人物背景】
才能があって努力もしていた魔術師。
バフラヴァーンによって殺害される。


465 : ◆6sJIISo1u. :2022/07/15(金) 14:42:18 uD7pfU8c0
投下終了です


466 : ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/15(金) 22:13:06 k3/dBwYA0
投下します。


467 : フォニイ ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/15(金) 22:15:23 k3/dBwYA0
肩で風を切る。今では古い言葉に近くなったその言葉を体現するかのように少年は爬虫類染みた視線で前方を睨みながら、堂々と歩いていた。右に流した髪が冬の冷たい風にあおられて揺れる。
いや、彼にとっては古い言葉とは言い難い。なぜなら彼はこの2022年の東京から見れば過去―、2005年を生きていた少年だ。

「携帯の進歩ってのはスゲエな」

そう言って、舌なめずりをしながら己の手のスマートフォンを弄る少年の名は九井一、友人からは主にココと呼ばれていた。
2005年を生きていた彼の目には、2022年の景色は目新しいものが多い。
携帯電話、現代でもっとも利用されていると言っていい電子機器を前に彼の指はせわしなく動いていた。
かつて生業にしていた少年による犯罪請負から他の金稼ぎまで、これ一つあるだけで敷居が大きく下がる。
依頼請負、資金移動、証拠隠滅、せわしなく動いていた彼の指がピタリと止まった。
2005年当時では考えられない大型化を果たしたその画面には、一枚の画像が写っている。
日本人離れした美形の顔をした金髪の少年。イヌピー、彼の無二の相棒である彼をココはじっと見つめていた。
いや、少年を見つめているというのは間違いかもしれない。

「赤音さん…」

ココはその瞬間、少年の顔を見て瓜二つの顔をしていた彼の姉に思いを馳せていた。
ここまで長かった。
一生守ると誓ったあの日から。赤音と青宗を取り違えた日から。治療費4000万を稼ぐため犯罪に手を染めた日から。商売(犯罪代行サービス)が軌道に乗った途端、彼女が死去した時から。それから理由も無く金を稼ぎ、寄ってくる輩に己をゆだねていた時から。聖杯戦争、ずっとこんなときを待ち望んでいた。
万に一つでも構わない、また彼女に手を差し伸べられる時が来た。それが死んでいたように生きてきたこの体に、なにより生の充実を与えてくれた。

「うへえ、なにこの人。…ヘンタイさん?」

そんな感動に耽っていた時、横合いから声が掛かった。


468 : フォニイ ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/15(金) 22:19:50 k3/dBwYA0
目線だけ横に向けると、布面積が少なすぎる黄色調の衣装に身を包んだ茶髪の少女が、そのポニーテールを揺らしながら己の顔を覗き込んでいた。

「今の顔、同性の人に向ける表情じゃなかったよ?何考えてたの?」

「黙れアサシン。」

スマホを乱雑にポケットにしまい、緩んでいた表情を引き締める。
日中の往来で考える事ではなかった、その失敗を噛みしめている間も横の少女は話し続ける。

「今まで生きてきた世界でこの体だとマイナーズ(希少種)なんて呼ばれる身分だったからあんまり人間関係の事とか詳しくないんだけどさ、ココくんが生きていた世界だとそーゆーのも一般的だったりするの?」

「名前で呼ぶんじゃねえ。」

ココは舌打ちをした。
このサーヴァント、コハクにはだいぶ常識が欠けている。
なにせ、人類が絶滅確定種となった未来の生まれだ。目に映るものの多くが物珍しくて仕方が無いのだろう。
コハクはキョロキョロと辺りを見回しながら、いつの間に買ったのかクレープにかぶりついていた。

「了解、マスターくん!」

少女は口の端にクリームを付けながらケラケラ笑うばかりだった。
どうしたものかと考えていた時、仕舞ったスマホが鳴り響く。
ポケットからスマホを取り出して内容を確認した時、ココの鋭い眼光は殺気を増した。

「真剣な表情だね、聖杯のお仕事?」

「ああ、カタギ臭えのに妙なイレズミを入れたヤツを見かけたらしい。
 こっちの指定の場所に誘い込んで今夜叩くが…大丈夫だろうな?」

「大丈夫!こう見えて元の世界だとアキュラくんの次くらいには強いんだよ!」
コハクが華奢な胸を張ると、その影から球状の物体―彼女の宝具が顔を出した。

《こっちもバッチリあったまってるよ。そろっそろ出番じゃないかな?》

灰色(コハクが塗装を間違えたらしい)のボディを輝かせ、コハクと揃って自信満々にしている。

「わあ!頼もしいね!」

虚しいやり取りに却ってココの不安さは増す一方だが、他に使える手はない。せめてこいつらの実力を見る気持ちに切り替えながら夜への準備へ取り掛かった。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。困った時はこの“ぼく”にお任せだ!」

コハクは、そう言うとクレープの包み紙を潰してゴミ箱へ投げ捨てる。
口の端に着いたクリームとストロベリーの紅白の模様を、ココの様に舌を伸ばしてキレイになめとった彼女の妖しげな笑みにココが気付いたのは、夜になってからの話であった。


469 : フォニイ ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/15(金) 22:20:38 k3/dBwYA0
《アイアンファング》

夜の廃工場の中、無機質な電子音性が静寂に響くと相手のマスターは生命力(ライフエナジー)ごと鉄分を吸い取られミイラとなった。
青い水晶のごときビットとの合体により展開された巨大な機械の翼をはためかせたコハクは、その両腕の蒼爪から血を滴らせている。先ほどまで敵マスターと共にいたサーヴァントのおびただしい血液である事は知っている。

ココが何をするまでも無い、一方的な戦いであった。

「作戦完了。帰ろっかマスター。」

コハクは黒い機械翼を畳み、変身と呼べる状態を解除すると微笑んだ。
ココは、おびただしい返り血を浴びながら屈託なく笑う彼女の姿に同様を見せまいと眉一つ動かさずに向き合ったが、冷や汗が止まらない。

「…やるじゃねえか、そんなとんでもない機械だとは思わなかったぜ。」

「おいおい、強いのは肉体(こっち)だよ。」

「バカ言え、そっちだけならオレでも勝てそうだ。なにより…」

ココは一呼吸置いてから、今まで軽薄だったコハク表情が殺気を帯びるのを肌で感じながら続けた。

「お前の本体、そっちの丸い機械だろ。」

ココは召喚した当時を思い返す。聖杯戦争に消極的、いや反抗的ですらあった召喚したばかりの当初のコハク相手との荒れたやり取りの中、彼女の宝具であった球状のバトルポットがコハクを襲い紙一重で反撃を受ける前に彼女の人格を乗っ取っていた。
つまり、今この場に居るコハクの本体とは、あの灰色のバトルポットに他ならない。

「違う!こんなものはただの傀儡(デク)だ!」
《違う!こんなものはただの傀儡(デク)だ!》


470 : フォニイ ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/15(金) 22:21:46 k3/dBwYA0
焦りのあまりか、コハクの口とバトルポットのスピーカーから同時に発声すると、コハクはバトルポットを踏みつけにした。
バトルポットの心臓部(ABドライブ)が迸る。

「この人間の体こそ!人類のパートナーとして純化した究極の姿!ぼくこそがアキュラくん最高のパートナー“コハク”だ!」

少女はその胸に小さな手を当てる。
コハク、そう自称する存在は思った。ここまで長かった。
己の創造主、アキュラくんと共に人類のために戦っていたあの日から。
アキュラくんと共に人類再生の塔を建てた時から。異世界に向かうアキュラくんを見送った時から。
それから永劫の時アキュラくんを待ち続けた時から。
人類再生が進まない中、傀儡(デク)が蔓延るようになってしまったアキュラくんの地球を剪定しようとした時から。
この人間(コハク)の体を手に入れた時から。
彼女と一緒に居た“アキュラくん”こそぼくのマスターに相違ないと気づいた瞬間から。
最後の瞬間、コハクへの人格アップロードを試した時から。ずっとこんな時を望んでいた。
アップロード完了前に壊れたため、成否は知らないが聖杯でもう一度やればいい。
永劫の時を狂いながら生きねばならない機械の体を捨て、100程度の寿命の生身の体を持って死ぬまでアキュラくんと共に過ごす。
創造主(ヒト)としてありふれて、被創造物(モノ)としては大それた、そんな夢をかなえる最初で最後のチャンス。
例え呪いのごとき宝具(きせいちゅう)となっても、挑みたくて仕方が無かった。

「狂ってるのか…?」

「狂ってるのはこいつの電子頭脳だ。ぼくは正常だよ。」

コハクはそう言って足元のバトルポットを蹴り飛ばす。
コハクの記憶をもとにマスター=アキュラとして記憶を補正した。
経年劣化で色褪せていた彼の記憶が鮮明になり、彼女は心機一転鮮やかに色のついた世界を堪能していた。

カメラアイをカチカチと光らせながら灰色の球体が血痕の残る暗い工場を転がるのに目を向けると、床に白黒紅のコントラストが生まれていた。
なぜだか“赤毛のメイド”のように見えたその三色模様に懐かしさを感じてしまった彼女は、独り言ちる様に呟いた。


471 : フォニイ ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/15(金) 22:22:44 k3/dBwYA0
「キミにはわからないかな。この体はアキュラくんを修理(すくえ)たんだ…アキュラくんの落とした銃を拾えたんだ。
 腕から銃を生やした化物…いや、銃に頭を生やした傀儡(デク)にそんなことができると思うかい?」

バトルポットを自分のポニーテールの脇に呼び戻し、感慨の湧くビジョンを消した。
“アキュラくん(マスター)とRoRo(マザー)”、それ以外の記憶は未だに色褪せたぼやけた写真の様になっているが、要らないはずだ。光の消えた影を見ながらたたずんでいた。

「救えた、ね。」

コハクの返答に、ココは舌なめずりをした。

「まーいいや、オマエ(機械)の方が前のガキ(元のコハク)より金になりそうだ。」

ココは聖杯を手にせねばならない。
そのためには何をするにも志を共にする同士が必要であることを、彼は良く知っている。
その点においては元のコハクより今の彼女の方が相応しいし、何よりも救う手を欲するものの渇望は強い。
頭の中身は正常な人間である自分には到底理解できない執着にまみれているが、まあ聖杯を勝ち取るには関係のないことだと彼は認識している。

コハクも同様だ。
宝具がサーヴァント本体を操っている彼女からすればなおさら良好な主従関係が重要である。
ココは金周りの良さはもちろん、それを聞きつけた裏社会の人間が次から次へと目を付けてくるという太い人脈があるし、何より無意味になり果てた行為を続けるものは足を止めない。
現在セキュアな頭で考えている自分には時々ココがイヌピーに向ける視線が異様さについていけないが、それを補って優秀なマスターであると彼女は評価している。

互いの値踏みするような視線が混ざり合った。

「ちゃんと指示に従えよ?オレの命令に従えたら仲間って事にしといてやる。」

「了解。オーダーをどうぞマスター。」


472 : フォニイ ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/15(金) 22:23:59 k3/dBwYA0
「金を出せ。」

簡潔に指示を出す。
コハクは金など与えられていなかったが、その指示の意味を理解しすぐに行動に移した。

「これでいい?」

足元のミイラの胸ポケットを漁り、財布を取り出した。
それを見たココはニッと笑い合格を告げた。
思ったより頭が切れるし、何より躊躇が無かった。薄暗い手を躊躇なく取れるタイプだ。
己が引いたサーヴァントの手ごたえを感じながら、ココは財布の中身を検める。

「お金あった?」

「金の量は問題じゃねーんだよ。この時代、GPSとか財布に入れてる奴がいるのがめんどくせえ。」

「五円玉あった?」

冗談なのか、真剣なゲン担ぎともわからぬコハクの一言に、ココは一瞬頬が緩むと、同額の紙幣を二枚抜き出した。

「要らねえだろそんなモン、所詮数ヵ月(あっという間)の付き合いだろ。」

「それもそうだったね。」

言いながら今度はコハクが苦笑した。
意味を無くしながらなおも人類再生に尽くしたあるいは、金を稼いだ時間に比べれば聖杯戦争の時間なんぞ瞬く間に過ぎていく。たぶん、事が終われば互いに互いの顔も思い出すことなく生涯を終えるだろう。
コハクが一枚だけ受けとると、二人は外へ向かった歩き出した。
いつでも割り切れる二人の道は、己の道を求めて今この時だけは重なっていた。


473 : フォニイ ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/15(金) 22:24:41 k3/dBwYA0
【クラス】
アサシン

【真名】
コハク(マザー)@白き鋼鉄のX2

【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷D 魔力D 幸運B 宝具A++

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
気配遮断:A+
サーヴァントとしての気配を絶つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
コハクはスメラギの秘密基地に侵入し、最終目標を破壊した逸話から高度な気配遮断スキルを誇る。

【固有スキル】
無力の殻:E
宝具を未使用の間、自身の能力を一般人並みに抑える代わりにサーヴァントとしての気配を断つスキル。
後述の理由で現在ある宝具が常時稼働状態のため現在は殆ど機能しておらず、常時確認できるステータスがコハク本体の貧弱なものに見えるのみ。

仕切り直し:B
戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。機を捉え、あるいは作り出す。
また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。同時にバッドステータスの幾つかを強制的に解除する。
アサシンは基本的に煙幕弾を用いてこのスキルを発動させる。

でたらめ機械工作:B
技術系統・論理を無視し、いわゆる第六感によって機械の作成を行う。
基本的に問題は起きないらしいが、稀にカメラアイの映像がドット絵になるような失敗をするらしい。


474 : フォニイ ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/15(金) 22:28:47 k3/dBwYA0
【宝具】
『七天を滅する者(ファイナルセプティマスレイヤー)』
ランク:- 種別:対機械宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1
人類の真なる脅威、機械文明に対する特攻宝具。
現在はコハク本体の意識が無いため使用不可能であり、詳細は不明だが射程内の電子機器の類を強制的にスリープ状態にし、対象がデマーゼル属性を持つ場合はサーヴァントや宝具の類であっても高確率でスリープ状態・或いは性能を1/3まで落とすとされる。

『迸れ白虎の魂よ、憎しみ仇なすものを消し去る光となれ(ジ・アウトオブガンヴォルト)』
ランク:B 種別:対不死宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1
蒼き雷霆から鋼鉄の白虎へ、そして琥魄が叶えた復讐の一撃。
真名解放により、ディバイドの一撃に不死特攻属性を付与する。更に対象サーヴァントが聖杯戦争中に蘇生・死亡無効化を行っていた場合更に特攻倍率を上昇し蘇生スキル・宝具を無効化する。
(ディバイドの入手経路は諸説あるが、ここではGVがかつて持っていたダートリーダーをベースとしているものとする。)

『バトルポット・マザー』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1
かつて人間(アキュラ)のために戦った機械の成れの果て、人類(今を生きる者)の脅威。
基本的には平行同位体『バトルポット・RoRo』と同様であり、小さいボーリング玉程度の球体である本体から、水晶状の青い子ビットをコントロールし戦闘を行う。
戦闘能力としては『EXウェポンミラーリング』と呼ばれる独自機能によりかつて交戦した多国籍能力者連合エデンと蒼き雷霆の能力を疑似再現可能であり、幻夢鏡(ミラー)の能力はかつてのパンテーラ同様ホログラム人格が自己暗示で変更されるまでの域に達している他、
アシモフ由来の蒼き雷霆による永久機関ABドライブにより高度な単独行動スキルを保持している。(なお、電子の謡精の能力はエデンとの最終戦でロストしたままのようだ)
人間の洗脳機能を備えているが、宝具がサーヴァント本体を操作するという特殊操作に機能の容量を割かれているため更なる他者への洗脳は現実的とは言い難い。
戦闘時は子ビットとコハクの連係によりコハクを機械翼と蒼爪を備えた姿に変身させるほか、マザー本体と下記のグレイブピラーの連係により、紅白の巨大な女神のようなホログラムを用いる。
現在コハク本体の意識を乗っ取りし、意のままに動かすとともに彼女の記憶を元にアキュラ・RoRoに関して経年劣化した記憶を復元、ガンヴォルト爪のような情緒を取り戻している。

なぜ人間が生存していない世界での機械がコハクの宝具として登録されているのかはマザーすら把握していないが、『サイバーディーバオーディション(マイティガンヴォルト参照)』のように幻夢鏡(ミラー)の虚像が多次元に干渉し観測された。
人類の残した英知であり第七波動研究とも縁の深い魔術式がグレイヴピラーに当然収められており、偶発的に実行され魔術式として保存された等の可能性が考えられる。
しかし、一番可能性の高い『ワーカーたちの世界は剪定事象ですらない汎人類史の一部であり、何をするでもなく順当に宝具として登録された』という説に関してはマザー本人が認めないためおそらく真相が明らかになることはないだろう。

『グレイヴピラー』
ランク:A 種別:対人理宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:-
マザーのかつての居城にして牢獄、その世界の現存人類にはグレイヴピラーと呼ばれていた地球環境再生機構を召喚する。
あくまでアサシンの本体がマザーではなくコハクであるためか、召喚可能範囲はグレイヴピラー全域には至らず、マザーの安置場所のような限られた一室に制限されているようだ。

【weapon】
白き鋼鉄のXの愛銃『ディバイド』と煙幕弾、バトルポット・マザー

【サーヴァントとしての願い】
コハクの体でアキュラとずっと一緒に居る。


475 : フォニイ ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/15(金) 22:29:10 k3/dBwYA0
【人物背景】
コハクは白き鋼鉄のXの登場人物であり、アキュラの仲間というより庇護対象に近い存在である。
白き鋼鉄のX2では機械と砂漠の異世界にてグレイヴピラーの主『マザー』の命により連れ去られ、最終的にアキュラの活躍により無事救出された…が、今回の聖杯戦争では心をいれかえてしまったらしい。
宝具の一つ『マザー』は白き鋼鉄のX2の登場人物であり、世界の管理者と呼べる存在。人類が滅亡の危機に際した際人類の新天地を求めて旅立った『マスター』が帰還することが無かったため電子頭脳の経年劣化により暴走。
ワーカーと呼ばれる作業機械が人類の代わりに反映された世界を選定するべく、己に刻まれた環境保護の使命を撤廃するために人間を探し求め見つかったコハクを拉致、追ってきた白き鋼鉄のXとの死闘を繰り広げるが、戦いのさなか白き鋼鉄のXの正体に気づいた節があり、バッドエンドでは気づかれぬようコハクを乗っ取り『ずっと一緒』だとアキュラに告げた。
白き鋼鉄のXのRoRoとは並行同位体に当たり、マザーの武装やその他から少なくともガンヴォルト爪と同等の事件を経由しているものと思われる。

【マスター】
九井 一@東京卍リベンジャーズ

【マスターとしての願い】
赤音さんを蘇らせる。

【能力・技能】
各暴走族の幹部並みの喧嘩の実力を持つが、それ以上に大人から子どもまで買われる金稼ぎの才能を武器とする。
現在の所属は不明。

【人物背景】
黒龍、東卍、天竺など各暴走族を転々とする男。16歳。
当初は思い人である乾赤音の治療費を稼ぐために非合法的なやり方で金を集めていたが、赤音の死去により無意味なものとなる。
しかし既に話は話を呼び、目的を失ったままその才能で金稼ぎを続行。赤音の弟である親友乾青宗(イヌピー)に従い、または暴力に従う形で暴走族の世界に足を踏み入れ続けた。

【参戦時期】
天竺編ラスト、イヌピーと決別後。


476 : フォニイ ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/15(金) 22:29:31 k3/dBwYA0
投下終了です。


477 : ◆WqSH6YeYXs :2022/07/16(土) 15:37:08 HTfbIyXs0
投下します


478 : キメラが哭く夜 ◆WqSH6YeYXs :2022/07/16(土) 15:39:30 HTfbIyXs0
「おとう、さん……おとう……さん……」

犬が、泣いていた。
犬とは思えぬ、人間のような長髪を生やした犬が泣いていた。
犬という生物の性質から考えれば、頭部にこんな大量の毛髪など必要ない。
まるで後付けで、異なる部品を兼ね合わせた結果、備わった不要な部位のような雑な配合を行われたような歪な造形
声と呼ぶにはあまりにも淡々として、鳴き声と呼ぶにはあまりにも情が乗せられていた。
虚ろな目からは何も伺えない。

「あそぼ、あそぼ……」

ただ、その空虚な瞳からは涙が流れていた。

「あはっ、あはっ」

その犬を、もう一匹の奇怪な生き物が呆然と見つめていた。
耳が頭部から生え、赤い模様の毛が生え揃っており、腹部は白い毛に包まれている。
四足歩行ではなく二足歩行なのは妙だが、愛らしい動物には見える。
だが、背中に昆虫のような羽が突き出していた。尻尾は爬虫類のような青紫色で、生き物として不釣り合いすぎる。
別の種族の異なる生物を、それぞれの部位に引っ付けたような歪な生物。
これが、この異なる二匹の共通点だ。

「そんなになっちゃったんだ……」

その生き物から、真紅の鋭い爪が飛び出してきた。
爪からポタポタと、赤い滴がしたり落ちている。

「そんなんになっちゃったんなら、もう……ネ…」

犬の右足に刺青があった。毛の下に隠されているが、紛れもない令呪がそこに刻まれている。
つまるところ、聖杯戦争の参加者でありマスターなのだ。そして、この奇怪な生き物もまたマスターの召喚されたサーヴァントだ。

「おとうさん……おとうさん……」

「たはは」

二匹は泣いていた。一人と一匹は感情も表せない能面のような顔で父親を想い、一匹は張り付いた笑顔から変わり果てた自分自身と目の前のキメラを見て、涙で頬を濡らし続ける。
その足元には、何の生物とも結合させられていない純粋な人間の死体が転がっている。
聖杯戦争のマスターだった少年だった。

「エ、ド……エド……ワー、ド…………おにいちゃん」

犬はすくっと立ち上がり、ぎこちなく歩き出した。

「ひーこわいこわい」

その後ろを生き物は着いていった。


479 : キメラが哭く夜 ◆WqSH6YeYXs :2022/07/16(土) 15:39:49 HTfbIyXs0
【クラス】
アサシン

【真名】
キメラ@なんか小さくてかわいいやつ

【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 宝具E

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】

気配遮断:E
ちいかわの背後を取れる位には気配を消せる。

【固有スキル】

あはっあはっ:D
殺しに躊躇いがなくなり、ステータスが上がる。

【宝具】
『不穏(ディストピア)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:5

低燃費で常時発動型の宝具、キメラを見た者を不穏にさせ、精神を不安定にさせる。
生前キメラと遭遇したちいかわが後日悪夢にうなされたことから、その奇抜な容姿が宝具に昇華された。

【サーヴァントとしての願い】
こんなになっちゃったからには……もう……ネ…。



【マスター】
ニーナとアレキサンダー@鋼の錬金術師

【マスターとしての願い】
おとうさん……おにいちゃん……。

【能力・技能】
犬なのに人の言葉が喋れる。

【人物背景】
鋼の錬金術師及び、それを原作としたアニメ版シリーズに共通して登場するゲストキャラ。
ニーナは天真爛漫で元気な少女で、アレキサンダーは穏やかで温和な飼い犬だったが、父親のショウ・タッカーに合成されてしまった。
現在は人の髪を生やした犬で、言葉こそ発するが発生は機械的でぎこちなく、インコのように事前に聞いた言葉をオウム返しすることでしか話すことが出来ない。
ショウ・タッカーは国家錬金術師の資格を維持するため、研究成果の報告にニーナとアレキサンダーを使って、ようやくこのキメラを制作した。
だが後に流暢な言語を操り、意思疎通に一切の支障もない、元の人間だった頃の記憶も人格も全て維持したまま、肉体を強化し、容姿も人間の姿を完全に保持する完全上位互換のキメラが登場する。
掛け替えのない家族を対価にしても、キメラとしては出来損ないしか作れない。ショウ・タッカーの技量は極めて低いことが伺える。

【参戦時期】
タッカーが死んだ直後。


480 : ◆WqSH6YeYXs :2022/07/16(土) 15:40:11 HTfbIyXs0
投下終了します


481 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/17(日) 00:45:39 5/OLLu8.0
大悪行(かいしんげき)の夢をGO SHOW TIME
歴史を改変させる願望を持ったサーヴァントと、秩序の崩壊を願うマスター。
どちらも結果的に一つの社会なり世界なりを狂わすだろう願望を持っている繋がりですね。
そんな二人の悪巧みのパートが読んでいてワクワクする趣がありました。

青の炎は未だ消えず
サムライソード、死して尚最悪すぎる男なので凄い。
そしてそんな彼の言葉が全て響いてしまう秀一、という構成が巧いなと思いました。
彼の願いも決して綺麗なものではないので、呼んでしまったのが運の尽きという感じがします。

青の炎が消えた後も
一本前の候補作とは雰囲気も方向性もまるで違うお話でしたね。
読んでみて、これは確かに連作で投下してこその味わいだとアイデアの粋を感じました。
兄妹どちらも違う形で家族の幸せを取り戻そうとしている部分が切ない。

どう見えるかだ
タイパラとサム8の組み合わせ、近代ジャンプの味わいの奇妙な部分を重ね合わせた感じがしますね。
佐々木の原作通りの志向心とそれに対し向き合う八丸という組み合わせは実に王道で良いなと。
その目的もとい悲願が遂げられるかどうか、先を見たくなる組み合わせでした

柴大寿&ライダー
太寿の目から見た武道が完全に理解不能の存在として無二の気迫を放っているのが滅茶苦茶良いですね…。
そして彼と出会って敗北を知った太寿が闘うことは止めず、答えを探す姿勢を取り続けるのも二次創作として解像度が高く好きです。
そんな彼と、同じく初めての敗北で散ったワムウの語らいもまた良く、それぞれのキャラへの理解と解釈の深さを感じました。

テューレ&アーチャー
ロビンフッドも元は誰かの平穏を脅かす者の排除を目的に戦った者なので、この主従には因果を感じますね。
作中でも描かれているようにまさに似たようなモチベーションで戦った者達。
ロビンフッドは誓い通りテューレの夢を守り通せるのかが楽しみです

蝗害
草(直球)。バフラヴァーンを召喚してしまったマスター、お悔やみ申し上げますとしか言い様がないですね…。
相互認識が成立した相手全員と戦う戒律は聖杯戦争では無茶も良い所なのですが、彼にはその無茶を通せるだけの力があるので恐ろしい。
それはさておき、バフラヴァーンが上陸した東京って一日どころか半日保つのでしょうか……。

フォニイ
犬猫コンビ(柴太寿談)解散後の彼がこういう場に招かれてしまうのは目も当てられない。
サーヴァントである所のマザーとどういう部分を接点に結び付いたのかが容易に想像できてしまうのが、また。
そしてマザーに対しても金を生み出す力を求める辺りが彼らしくもあり、宿命から逃げられない哀しさを感じさせてくれましたね。

キメラが哭く夜
キメラだ、めざましテレビデビューおめでとうございます。
とはいえどちらも本当に「こんなになっちゃったらもう…ネ……」としか言い様がない身の上なので合掌する他ない。
まぁよりによってちいかわ単体でどかせるキメラを呼んでしまったニーナ&アレキサンダーは不運と言う他ないですが…。

随分と溜め込んでしまっていましたが感想になります。
皆様、投下ありがとうございました。


482 : ◆Il3y9e1bmo :2022/07/18(月) 23:01:47 AP8EAVF.0
投下します。


483 : 顔のない男 ◆Il3y9e1bmo :2022/07/18(月) 23:02:29 AP8EAVF.0

「稀咲君。あなたのことが、好きです」

目の前の女が、オレの最も欲していた言葉を吐く。

「好きです。付き合って下さい」

愛らしい紅顔でオレに蜜語を囁くその女は、橘日向の顔をしている。
オレが狂おしいほどに欲して欲して手に入らなかったその言葉は、嘘のように簡単にオレの心の裏側に滑り込む。

――嘘だ。

「嘘だ!」

オレは声を荒らげて、その女の言葉を否定する。
ずっと聞きたかったはずなのに。その言葉さえあれば、後は何も必要なかったはずなのに。

「嘘じゃないよ」

女は上目遣いで、悲しそうな顔をする。
その大きな目は潤み、今にも涙が零れ落ちそうだ。

「黙れ」

その女の胸ぐらをオレは掴み、強引に突き飛ばした。

「やめて、稀咲君」

女は床に倒れ込み、怯えたように震える。
オレはそのまま女に馬乗りになり、何度も何度もその女を殴りつける。

拳に血が滲み、息が上がる。
だが、オレは執拗に『橘日向の形をした何か』を殴り続ける。

「……ヤ、やめ……テ……き、きキき……」

次第に女の身体にヒビが入り、黒い油が血液のように吹き出した。
歯車や動力パイプが辺りに飛び散るのも構わず、オレは『それ』に暴力を加え続ける。

しばらくして、橘日向の形をしていた人形(オートマタ)は完全に動きを止めた。
オレは息が上がり、その場に尻もちをつく。

「おやおやおやおや! 稀咲クン、異世界で寂しいだろうと、せっかくボクが作ってあげた人形(カノジョ)を壊してしまったのかい?」

部屋の扉を開け、ワインを片手にサングラスとたっぷりのカイゼル髭を蓄えた銀髪の老人がおどけた調子で現れた。


484 : 顔のない男 ◆Il3y9e1bmo :2022/07/18(月) 23:03:06 AP8EAVF.0

「キミとボクは令呪で繋がっている。だからキミの想い人も手にとるように分かっちゃうんだよ〜ん! おっぺきょり〜ん!」

老人はオレのことを逆撫でするのを分かっていながら、自身の顔を両手で縦に伸ばし、いけしゃあしゃあとそう言ってのける。

「黙れ。オレのことはマスターと呼べ。それから、こういうことを次にやったら令呪を消費してでも、お前には罰を与える」

この男に令呪を使って与えた痛みなど意味がないだろう、そう思いつつもオレは言葉を抑えることができない。
先程、このオレのサーヴァント、ランサーが言った通り、オレたちは令呪で繋がっている。
そう、罰。罰だ。オレの手には東京卍會の象徴である『卍』に『×(バツ)』が入った形の令呪が刻まれている。
おそらく、人を裏から操り、散々痛めつけてきたオレに対するこれが罰なのだろう。

「えー、オホンオホン! ゴホンゴホン!」

しばし物思いに耽っていたオレの肩を、馴れ馴れしくランサーが叩く。

「以前に稀咲ク――マスターに言われた通り、本当はボク以外の手で何かを作るなんてのはイヤなんだけど、そうは言ってらんないし、アポリオンを作るための量産体制を整えたよ〜ん。
 何でもやってみるモンだ。誰もいない廃工場を乗っ取って、ちょっと中の装置を弄れば簡単に増産できるようになったよ。これが生身でもしろがねでもない、サーヴァントの力ってやつなんだねぇ……」

しみじみとアゴの髭を撫でるランサーは不気味なほどに嬉しそうだった。

こいつは『ドス黒く燃える太陽』だ。オレはランサーのことを、そう評している。
自分のために起こる犠牲は全て仕方のないことだと完全に割り切り、自身の利益のみを『愛』の名のもとにひたすら追い求めている。
そんな狂人が、全てを燃やしつくすような技術力と頭脳を手に入れたのだから手に負えない。
コイツは何百年もの間、ひたすら女性を愛し、失恋し、そして愛に狂い続けてきたのだ。

オレは月でいい。
昔、吐いた言葉がオレの脳裏に蘇る。
そう、オレは月でいいんだ。
月は太陽のように一人では輝けない。
だけど、だからこそ、月には月なりの輝き方がある。

「オレもお前と同じ、道化(ピエロ)だ。欲しい物は手に入れる」

オレはランサーにそう呟き、壊れた人形(カノジョ)の転がった根城を後にした。


485 : 顔のない男 ◆Il3y9e1bmo :2022/07/18(月) 23:03:24 AP8EAVF.0

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【クラス】
ランサー

【真名】
フェイスレス@からくりサーカス

【ステータス】
筋力:D 耐久:B 敏捷:C 魔力:B 幸運:D 宝具:B

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成できる。
ランサーの場合は、人形や機構などの機械的な道具の作成が得意。
なお、フェイスレスはキャスタークラスでの召喚が多いが、今回はランサークラスであるため、このスキルは1ランクダウンしている。

不屈の意志:A+
あらゆる苦痛、絶望、状況にも絶対に屈しないという極めて強固な意思。
肉体的、精神的なダメージに耐性を持つ。

人間観察:B-
人々を観察し、理解する技術。
ただ観察するだけでなく、名前も知らない人々の人生までを想定し、忘れない記憶力が重要。

【宝具】
『三解のフェイスレス(メルト・アンド・ブレイク・アンド・グラスプ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:10
ランサーが生前に有していた特技が宝具に昇華されたもの。
3種類の『解』を使い分け、対象にクリティカル値を上昇させた攻撃を行う。
対象が人形属性を持つ場合は特攻となり、命中すれば必殺になる。

●分解:服の中にしまってある工具を使い、物体を素早く分解する。
●溶解:掌の装置から強力な酸を放出し、対象を溶かしてしまう。
●理解:自動人形たちに創造主であることを理解させ、平服させる。

【weapon】
全身を機械化することによって得た身体能力、および「三解」に使用する無数の工具。

【人物背景】
「三解」のフェイスレス。サイボーグ「しろがね-O」たちの司令官。
横恋慕した女性を三代にわたって追いかけ回し、その過程で全人類を不幸にした狂人。
人を笑わせなければ激しい呼吸困難に陥る「ゾナハ病」をばら撒き、世界を滅ぼそうとした。

【サーヴァントとしての願い】
フランシーヌに愛されたい。


【マスター】
稀咲鉄太@東京卍リベンジャーズ

【マスターとしての願い】
橘日向のヒーローになりたい。

【能力・技能】
己の目的を果たすことを決してあきらめない不屈の精神と、人を裏から操り、有利な状況を整える天才的頭脳。

【人物背景】
東京卍會の参番隊隊長を務めていた男。
小学生の頃に橘日向に一目惚れし、一方的に失恋。
その後はストーカーと化し、日向に振り向いてもらうために不良へと転向。
様々な手練手管を使用し、東京卍會を強大な犯罪組織へと変貌させた。

【令呪】
卍にバツが入った形。

【方針】
優勝狙い。
まずは計画の第1段階として、アポリオンを東京中に蔓延させる。


486 : ◆Il3y9e1bmo :2022/07/18(月) 23:03:40 AP8EAVF.0
投下を終了します。


487 : ◆TPO6Yedwsg :2022/07/19(火) 19:58:54 D06WWQk60
投下させていただきます


488 : 魔女旅々、浮世閑歩 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/19(火) 19:59:54 D06WWQk60

「この東京という都市は興味深いな。そう思わないか、マスター」

 時刻は早晩、しかし冬の季節の太陽は早々に地平線に沈んでいた。
 暗闇を数多の電灯が照らし、仕事から帰る者、食事をするもの、寄り道をするもの。
 数多の人々が行き来する歓楽街の中を、少女と青年が歩いていた。
 売店で購入したらしき、片手でも楽に食すことのできる軽食を手に、青年は自身の所感を口にする。

「日本、と呼ばれる島国の首都を再現したという異界東京都。ここにはマスターの世界にあるような魔法も、俺の世界にあるような神もいない。
信仰や創作、幻想としての概念は存在しているが……そういった、一切の絶対存在無き世界の発展の末と思うと、実に興味深い」

 鷹揚に頷き勝手に物事を咀嚼している青年を、若干鬱陶しげに少女が見上げる。
 青年は、構わず言葉を続ける。

「天高く聳える摩天楼の数々は、限られた土地の中で如何に発展を続けるかという命題への解答だ。
地震が多く災害大国とまで形容される地理にありながら、それに対し真っ向からぶつかり災害に対しても崩れない建築法を編み出した。
山手線と呼ばれる交通網はこの東京を円形で囲うことにより、凡人であろうとも労せず23もの区画を行き交うことができる。
一方で数多の災害、戦災によって古き善き建築の多くは消え去るさだめにあったが、それでも人々はそれらを『善いもの』として留めようと努力している」

 青年の視座は高く、語る内容は為政者のそれだった。
 異なる世界、魔法の如き世界からやってきた青年は、しかしこの東京への知見を既に得ていた。
 人工物によって覆い尽くされ、それによる世界の弊害は数多に存在する。
 しかしそれでも、この都市一つの芸術であり、宝石であり、叡智の美が存在すると。

「数多の戦火の中、信仰の是非を問われた歴史もまた数多にあったという。しかし、この世界に神……いや、『神の如き力』は存在しないとされている。
それでも尚人々は信仰を口にし、憲法とやらにはその自由が最たるものの一つとして記載されている。
俺はこれを、人の歴史の行き着く先と感じている。神に対する無形の畏敬。そこにあらずとも確かに存在しているもの。
物理的に頼る柱としてではなく、心の支えとする想いとして、この国における『なんとなくありがたいもの』としての神の肯定の形は、俺にとっても新たな知見だ」

「あの、ちょっといいですかね」

「む、すまない。俺ばかりが話し込んでしまったな。どうした、マスター」

 ようやく少女が口を開いた。
 少女は鞄から財布を取り出すと、その中身を改めている。

「いや、別に貴方の知見が鬱陶しいというわけではないんですけどね。いや、やっぱりちょっと鬱陶しかったですね。
まあ、観光は楽しかったですし、食事も良質ですし、それはいいんですよ。今日は良い日でしたね。それでですね……」

 財布の中身を開くと、そこには紙幣が何枚か。
 それを見て、少女は大きくため息を付いた。

「路銀が尽きかけています」

「なんと」

 少女は旅人であり、青年は閑人だった。
 当初こそ聖杯戦争だの物騒なことはひとまず置いておいて、観光に繰り出したものだ。
 しかし、そんな少女の所持金は今尽きかけていた。


489 : 魔女旅々、浮世閑歩 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/19(火) 20:00:40 D06WWQk60
「お金を稼ごうにも、この国は戸籍とか住所とか年齢制限とか色々カッチリしすぎてて、手早くお金を稼ぐ手段がありません!
どーなってんですかこの国! なんで仕事の一つ一つ、お金のやり取りまで管理されなきゃいけないんですか!」

「マスターの現在の所持金は、ここに呼ばれる前の路銀がこの国の貨幣に変換されたものだったか。
そして付与されたロールは『必要な単位は既に取得した大学生』だったな。この身分だと……資金調達の手段は、アルバイト、とやらしかあるまい」

「はあ、それしかありませんよねえ。交通費とかは夜間に魔法を使えば誤魔化せますが、夜間に訪ねることのできる施設なんて微々たるもの、意味がありません。
かくなる上は、あのパチンコとやらに手を出すしか……へへへ魔法を使えば」

「マスター、賭博は関心しないな。それはまっとうな対価とは言えない」

 自身の魔法を悪用し非合法な稼ぎに手を出そうと企むマスターの少女を、サーヴァントの青年が諫める。
 しかし、それに対し少女は非難するような視線を向ける。

「この資金の減り具合には貴方の鞄の中にあるそれなりの数の土産物も関与しているんですが?
綺麗事をほざくならその分のお金返してくださいよ、ホラホラ」

「む、それは……すまない。なるべく控えるよう努力はしたのだが」

「控えてはいましたね、その分購入数で補っていただけで。ハァ〜……」

 ファンタジックな世界にて乱立する国家群を気ままに旅していた少女にとって、この国のシステムは窮屈なものだった。
 問答無用で拉致された、というストレス解消のため気ままな散財を続けていたが、そろそろ現実を見なくてはならない。

「仕方ないですねえ……バイトは勿論探しますが、そろそろ本腰を入れますか。聖杯戦争」

 コートの袖から木の棒のようなものを取り出し、くるくると回す。
 それは、魔法の杖だ。魔法使いの少女にとってかけがえのない生命線。
 この杖がある限り少女は魔女であり、杖を失ってしまえば無力な少女に過ぎない。

「いいのか、マスター」

「いいのかも何も、軍資金が尽きたからにはそれを調達するか、必要としないことで楽しまねば損というものです。
この異界に招かれた沢山の異邦人……中には話の合う人もいるかもしれません。まあ、大半は聖杯に願いを賭けるろくでもない連中でしょうが」

「否定的だな、聖杯というものに」

「無論です。ここに招待されたのはともかく、殺し合って願いを叶えろって。滅茶苦茶不本意に決まってるじゃないですか」

「そうか。俺はまだ決めかねている。聖杯という遺物の本質が、どのようなものか。道具に罪はないが、聖杯とは真にただの道具であるのか」

 旅先で数々の事件に巻き込まれ、あるいは首を突っ込んできた魔女にとって、このような状況への対応は馴れたものだった。
 一に命、二に挟持、三に金、後はそれ以外。
 彼女は決して、優先順位を間違えない。

「貴方が『お金を生み出してくれれば』話は早いんですけどねー、『帝君様』?」

「それはできない。俺はただの凡人だからな」

「ですよね。まあ、知ってましたけど。言ってみただけで」


490 : 魔女旅々、浮世閑歩 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/19(火) 20:01:46 D06WWQk60

 この異界東京都に召喚され、現状把握に数日。生活に数日。観光に数日。
 二人は既に互いのことを理解していた。
 それは会話を通してであり、ラインを通してでもある。
 少女はこの槍兵のクラスを適応された青年がどのような存在かを理解し、そして彼がどのようにありたいかを理解していた。
 訳知り顔で世を散歩し、聞かれずとも薀蓄を垂れ、良いものに対しては金に糸目をつけず、その癖金の管理に疎い浮世の閑人。
 天才を自負する自分の上からものを言うことのできる、厄介な相方。
 途方もない年月を経た意思を持つ大岩であり、今も尚人間を見つめ続けるもの。
 夢の中で、彼の人生の断片を見た。
 彼の言葉、そこに込められた祈りを。


『この大陸の全ての金銭は俺の血肉』

『こんな形で俺は、人間の労働、知恵、未来を保証する』

『これが俺の人間への信頼。金銭に背くことは、俺の血を汚すのと同然だ』


 ああ、彼が私に召喚されたこと、その理由は全く清々しいほどに理解ができます。
 この一点においては、聖杯とやらを認めてもいいかもしれません。
 私が信じるものの全てを司っていた、浮世の人々を守護するもの。
 絶対に口にはしませんが、この『人』は私が敬うに足る、偉大なる先達なのですから。
 けど、先生とは呼んであげません。そう呼ぶ人は一人だけと決めていますので。

「ところでですね。数日考えていたんですけど、その『マスター』っていうの、やめましょう」

「む?」

「『イレイナ』でいいですよ。私も貴方のことは『鍾離さん』と呼びますので」

「そうか、それは光栄だ。こうして一人の人間として認められるというのは、改めて悪くない。では、これからどう動く。イレイナよ」

「観光中に何人か争ってるマスターの目星がついたので、とりあえず襲ってカツアゲしてみましょうか。ま、勝てるでしょう」

「俺も努力するが、油断は禁物だ」

「油断でも慢心でもありませんよ、これは余裕です。なんだかんだ成り行きで既に3騎ほど落としているじゃないですか、私達。
これは確かな実績でしょう? それに、ですね」


「仮に何度かの撤退を前提としても。私と貴方が組んでいるのに勝利を掴めないなんて、それこそ怠慢の極地でしょう?」


【クラス】
ランサー

【真名】
鍾離@原神

【パラメーター】
筋力B 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運B 宝具B

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上現代の魔術師ではランサーに傷をつけることは出来ない。

【保有スキル】
浮世閑歩:A
浮世の閑人は四方を流離い、世に思いを馳せる。
人と縁を結び、美食に舌鼓を打ち、芸能を称賛し、心の広がりを知る。
芸術審美、美食家、貧者の見識を包括した複合スキル。
鍾離は美しさの宿り得るすべての事柄、世間の万事に理解を示し、見識を発揮する。
ランクが低いとただの暇人なのだが、鍾離はその知識と見識を広く認められた客卿である。
Aランクともなれば多少の会話、証言、見聞から対象の詳細の正確な考察が可能。

老練:A++
精神が熟達した状態で召喚されたサーヴァントに与えられるスキル。
いかなる状態でも平静を保つと同時に、契約を通じてマスターの精神状態を安定させることができる。
A++ランクともなればその精神は神の威光、獣の脅威、如何なる絶望を前にしても揺るぎはしない。

最後の契約:EX
それは、全ての契約を終わりとする契約。神の国は人の国へ、岩王帝君はここに死す。
自身の能力から『神』たる要素の一切を排除し、『人』に固定する。
本来の『全盛期』と比較し、ステータスの下降、複数のスキル宝具が消失及びランクダウンしている。
これはひとえに鍾離本人の意思でありその意思を反映したサーヴァントとしての特性であるため、これらの力を取り戻すことはない。
仮に取り戻す事がありうるとすれば、それは聖杯戦争の範疇を逸脱した『世界に対する脅威』と相対した時だろう。


491 : 魔女旅々、浮世閑歩 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/19(火) 20:05:27 D06WWQk60
【宝具】
『地心』
ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:1~5 最大補足:50人
『岩の堅きこと、物に於いて陥さざる無きなり』
戦闘天賦・元素スキル。玉璋のシールドを展開する。
シールドはダメージを吸収すると同時に岩元素の波動を発し周囲の敵に継続ダメージを与える。
ダメージ吸収上限は鍾離の耐久を参照するため、耐久ステータスを強化することによりシールドも強化される。
動きを阻害しない鎧としても、一度に広範囲を守る結界としても展開可能。他者への付与も可能。
燃費は良好であり、ダメージ吸収上限を超え破壊されようと再展開可能。

『天星』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~5 最大補足:50人
『蒼天の星岩を落とし、暗闇の運命を照らす』
戦闘天賦・元素爆発。天より岩元素で構築した隕石を降らせ着弾地点の敵に大ダメージを与えつつ、石化させ短時間その動きを封じる。
攻撃には『岩を砕く』概念があり、高い耐久力、強固な鎧、防御能力等を持つ敵に対し、それを大幅に消耗させる。
石化効果は対魔力がC以下の相手には確定で通り、B以上の相手は幸運判定に成功することで無効化される。
ただし、無効化された場合も全ステータスを1ランク低下させる『重圧』状態を付与する。
こちらの宝具も燃費は良好であり、連発も可能。

【weapon】
長柄武器

【人物背景】
俗世の七執政が1柱、岩神モラクス。岩王帝君の尊称を持つ。
6000年以上を生き、3700年を璃月の統治と守護に費やした『契約の神』。戦神、商神の側面もあり、貨幣を生む権能を持つ。
彼は3000年を超える治世の末に、己の仕事はもう終わった、と判断するに至った。
しかし果たして己が消えた後、人の治世へと移り変わる準備は出来ているだろうか。
それを確認するために彼は『岩王帝君の死』を偽装し、璃月の民と仙人たちは力を合わせその難事を乗り越えてみせた。
その後は一部の者たちにのみ己の生存を知らせ、最早この国で神としての権能を振るうまいと誓った。
岩王帝君はこの世にいない、ここにいるのは一人の凡人、『鍾離』であると。
その意思を受け、彼はサーヴァントとして召喚されても凡人の範疇を逸脱することはない。
ただ、6000年の生によって磨かれた見識と精神、武練と元素操作の極地を人の身にて振るうのみである。

【サーヴァントとしての願い】
この限りある異邦を見聞し、多くの芸能、技術を知り、多くの人々と語らう。
聖杯という遺物の是非、聖杯戦争への評価は保留。


492 : 魔女旅々、浮世閑歩 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/19(火) 20:06:47 D06WWQk60
【マスター】
イレイナ@魔女の旅々

【マスターとしての願い】
異界東京都を観光する。そのためにバイトする。
一方で戦いへの準備は怠らず、旅を続けるためにもこの異界からの脱出方法を模索する。

【能力・技能】
魔女としての魔法の数々。魔術師、マスターとしては相当にレベルが高い。
箒による飛行、様々な攻撃や防御の魔法等、魔女としてできそうなことはだいたい可能。
最たるものとしては対象物の時間を巻き戻す時間逆行魔法が存在し、負傷もこれで治癒可能だが魔力消費が非常に重い。
戦闘面では全力で戦闘したならば小国を半壊させることも可能だが、これは実力が完全に拮抗した相手とひたすら持久戦をした結果とする。
魔法で起こす現象が大規模であればあるほど魔力を大量に消耗するため、小さな現象を重ねて展開することを好む。
例えるなら大量の魔力を使って一気に地面をくり抜くよりも、少量の魔力と長時間の労力を駆使し少しずつ土を掘っていく方が魔力効率は良い。

【人物背景】
15才にして魔法使いの最高位『魔女』の称号を獲得した天才少女。現在の年齢は十代後半〜二十代前半。
『ニケの冒険譚』という物語に憧れ、自分もこのような冒険をし様々な見聞を得たいと夢見て旅人となった。
灰色の髪と瑠璃色の瞳を持つ(貧乳の)美少女だが自己中心的でお金にがめつく、インチキ占いとかイカサマ程度なら平気でやらかす性根の汚い美少女。
シビアな面もあり、自分の手に負えない悲劇に対しては撤退を選び、事件が解決しないまま次の旅に出ることも。
しかし非情というわけではなく、むしろ一度気に入ってしまった相手に対しては滅茶苦茶情が厚く手助けをしてしまう。
近づきすぎてしまうと離れがたくなってしまう、本当に会いたい人とは会えないくらいがちょうどいい、と本人はそのような性質を自覚している。
お金にがめつい面も、価値のあるものに対し資金を擲つことに対しては躊躇いがなく、自分の納得を優先する。
話の結末によっては金貨袋を抱えぐへぐへ言っている時もあれば、得たお金を全て寄付してしまうこともある。
自己に対する深い理解と情動を抱えた、まだまだ道半ばの旅を往く多感な少女。

【方針】
聖杯についてはかなり懐疑的。
しかしそれがこの『国』のルールであれば仕方ないので、ひとまずルールに沿いつつ裏道抜け道を探す。
抱く願いも自身の見聞を通さねば意味がないので、仮に勝利して聖杯に何か願うとしても当分旅に困らない路銀でも要求するつもり。
話せそうなやつがいたら話をする、ボコれそうなやつがいればボコってカツアゲする。
後バイト探して資金を貯めて観光する。

【備考】
鍾離は最高ランクの対魔力とCランク以下が存在しないステータスを持つ。
更に技量面でも武術の技巧の冴えわたること。相対者の能力や人柄を見抜き、その精神は揺らぐことなし。
宝具はいずれも良燃費で実用性が高く、特化した派手さはないが安定性は抜群。
尚且つ『天星』の副次効果は対魔力を持たない三騎士以外の存在には非常に厄介極まる。これぞ凡人の極み。
それに加えマスターとして高い資質を持つイレイナとのコンビは十方隙き無しの万能。
マスターとの相性、関係性は浮世を歩くものとしての先達、後輩のような関係。
イレイナは鍾離に対して密かに対抗心を燃やし、鍾離はイレイナの稼ぎ方について苦言を呈する。
一見相性は若干良くないように見えるが、本質的な部分で深く共鳴しているため表面上のやり取りは単なるプロレス。
鍾離はイレイナをマスターとして申し分ないと思っているし、イレイナは言葉にはしないが鍾離を先達としてその深い知見を尊敬している。


493 : 魔女旅々、浮世閑歩 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/19(火) 20:07:12 D06WWQk60
投下を終了します


494 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/19(火) 23:13:37 rsASxyYM0
投下します


495 : それがあなたの幸せとしても ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/19(火) 23:14:45 rsASxyYM0
お金は人を満たしてくれる。

金では買えないものがある...なんてわかったような口をきく奴らはごまんといるけどそんなものは嘘っぱち。

もってるやつらがそうロマンチックな響きに酔って嘯いているだけ。

お金がなくちゃなにかを食べることもできない。

人様の前に胸を張って出ることもできない。

「優しい」って色んな人から褒められる人も借金取りに縋りついて、唾をかけられ足蹴にされることしかできない。

人間を取り巻く衣食住はお金で成り立っている。

どんな幸せを求めるかは人の自由だけれど、幸せになりたいなら、どうしてもお金は必要なの。

だから...ねえ、なんで。

なんであんたはあの時、あの娘のタオルを取らなかったの?


496 : それがあなたの幸せとしても ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/19(火) 23:15:15 rsASxyYM0


路地裏に肉を打つ音が響く。

プロレスラーを彷彿とさせる仮面を被った屈強な男の拳が、鎧をまとった男の胸板に叩き込まれる。

鎧の男の握りしめた鉄の拳が男の横っ面を殴り飛ばす。

ここで行われている演劇は試合―――否。

命を削り合い、命の灯火を燃やし合う様はまさに『死合い』。

互いの命果てるまで終わらぬ魂のやり取り。

血しぶきが舞い、男が壁に叩きつけられる。

鎧の男はトドメの追撃として、男の顔面目掛けて拳を突き出す―――それこそが、男の狙い。

プロレスラーは他の格闘技者よりも頑丈且つ受け身のプロ。

拳の着地点を微かにずらすことでダメージを軽減。

加えて、僅かに生じた緩みを活かし、懐に飛び込み、身体をぶつけ鎧の男の上体を崩す。

その隙に男は鎧の男の足を、肩を踏み台にして跳躍。

サルト・モルタル。

宙がえりした男は、雄叫びと共に鎧の男の頭部目掛けて飛び膝蹴りを放つ。

その鋼鉄のように硬く、そして強力な膝蹴りはまさに空駆ける馬の蹄。

『飛翔天馬・烈鋼弾(パンツァーペガサス)』

ゴキリと鈍い音が鳴る。

顔面が拉げる。

そして、勝敗は決した。


497 : それがあなたの幸せとしても ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/19(火) 23:16:35 rsASxyYM0
倒れ伏した鎧の男がその姿を空気に溶かしていく。

「あ...そ、そんなぁ...僕のサーヴァントがぁ...!」

眼鏡をかけた如何にも凡弱、という風貌の青年が悲痛な声を挙げて泣き叫ぶ。
そんな青年の肩に、彼女は手を置いた。

「ハイ、これで決着。どうする?私の為にちゃきちゃき働くか、ここで死ぬか」

露出の多い服装の女―――間宮リナは、青年の耳元で妖艶に囁く。
青年は恐怖でガチガチと歯がかみ合わなくなり、全身を震わせながら地に額を擦りつけた。
土下座。完全敗北を認めた証である。

リナはぐにゃりと嗜虐的に口角を釣り上げ青年の頭を踏みつける。

気分がいい。
破滅した奴を見下ろすというのは。
その破滅を己の幸せの糧とするのは。
人間というものは、他者よりも己が上だと思える時が一番幸福感を抱けるのだと実感する。

リナはそのまま携帯やクレジットカードといった生活必需品を押収し、自分が呼びつけたらすぐに動けと念押しをして青年の尻を蹴飛ばした。

「ふぅ...」

先ほどまでの機嫌の良さは成りを潜め、己の英霊へと目を移する。
そこにはもう彼の姿はなかった。
役を終えたレスラーは即刻退場するものだと言わんばかりの早さだ。

リナの引き当てたサーヴァントは少なくとも外れではない。
命令に従うだけの協調性もある。
余計なことを言わない寡黙さも気にならない。
圧倒的に強くはない為、万が一の時は切り捨てやすいのもある意味利点といえよう。
しかし、それでもリナは彼を気に入ることはできなかった。


498 : それがあなたの幸せとしても ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/19(火) 23:18:18 rsASxyYM0
彼女は夢を見た。
一人の男と少女の夢を。

男はプロレスラーだった。
老若男女、みんなが元気な気持ちになれるようなプロレス団体を創りたい。
そんな地道でささやかな願いを叶えようとするただのプロレスラーだった。

だが、ソレは瞬く間に奪われた。
有無を言わさぬ、圧倒的な『カネ』の力で!

コツコツと築き上げてきた信頼。
プロレス団体を運営する上で必須の地方興行権。
彼以外の選手。
そして、生活に必要な金を得る権利さえも。
要求を一つ断った―――ただそれだけで、カネの力に全て奪われたのだ。

団体は消え、残されたのは彼と愛する娘、そして空しく光るチャンピオンベルトだけ。

そして彼は戦いのリングへ上がり、戦った。
娘の為に。受けた屈辱を晴らすために。
プロレスラーの意地と誇りをかけて、血で血を洗う裏格闘技試合・ロシアンコンバット―――彼らをここまで追い詰めた元凶のもとへ。

そして彼は戦い、勝ち抜き、ついには絶対王者に挑む権利まで手に入れた。

だが―――王者は圧倒的な強さを誇った。
鍛え上げたこちらの攻撃は通じず。
逆にこちらの身体は為す術なく破壊され。
誰が見ても勝敗は明らかだった。

命を、金を拾う術はいくらでもあった。
彼が負けを認めればそれでよし。
そうでなくとも、セコンドであった愛する娘がタオルを投げ入れればそれでよかった。
それだけで、王者には負けても、ファイトマネーはしっかりと払われ、娘と生きて幸せに暮らすことができた。

なのに。

彼はそれを拒んだ。
すぐそこに金があるのに拒み、死が迫っているのに前へと進んだ。

リナにはそれがわからなかった。
なぜ金をとらなかった。
なぜ幸せをとらなかった。

これではまるで、金よりも大事なものがあると言わんばかりではないか。


499 : それがあなたの幸せとしても ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/19(火) 23:18:56 rsASxyYM0
ただ、それだけならばさして気にならなかっただろう。
リナはそういったロマンチストを食い物にしてきた身なのだから。
それ以上に、彼女が気に入らないと思ったのは、娘のことだった。

彼は決して娘との仲が悪いわけではなく、むしろかなり良好だった。
なのに彼は金を、娘を捨てて戦いに挑んだ。

娘と共に幸せになる権利を投げ捨てた。

それが彼女は気に入らなかった。
貧困に苦しむ、片親の一人娘という環境に、自らの生い立ちを重ねずにはいられなかった。

(...ちょっと前まではこんなじゃなかったのになあ)

リナは思わずため息を吐く。
本当に、少し前まではそんなことはなかった。
騙す相手に娘がいようが構わず金を巻き上げ、破滅に陥ろうが知らんぷり。
むしろ騙される方が悪いと舌を出しているレベルだ。

なのに、身も知らぬ娘に想いを馳せるなどと甘っちょろいにもほどがある。
その原因はわかっている。

ここに連れてこられる前に、リナが金をだまし取ろうとしていた男の一人娘・竜宮レナ。
自分の本心を察し、余計な口を挟むなと脅しかけても目を逸らさず。
涙目になりながら彼女は言った。

「お母さんがいなくなったのは私のせい」「今度こそお父さんを護るんだ」...と。

その姿が幼少期の自分と重なり、もう彼女を不幸にするような真似をすることが出来なくなってしまった。

(だからって、やり方を改めることなんてしないけど)

それでもリナは幸せになりたいと願っている。
お金をたくさん手に入れて、あの頃のようなひもじい思いをしたくないと思っている。
自分は他人を利用する術しか知らないのも解っている。


(幸せの椅子は誰にも渡さないわ。だってそれが私、間宮リナだもの)

幸せになるためだったらなんでもやってやる。
ステージが変わってもやることはなにも変わらない。
私の人生は、私の私による私のための、幸せ目指すがんばり物語でしかないのだから。


500 : それがあなたの幸せとしても ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/19(火) 23:19:31 rsASxyYM0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
天野和馬(リングネーム:アイアンペガサス)@職業・殺し屋。

【ステータス】
筋力:C 耐久:A 敏捷:C 魔力:E 幸運:E 宝具:D

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
狂化:D
筋力と耐久が上昇するが、言語機能が単純化し、複雑な思考を長時間続けることが困難になる。



【保有スキル】
頑健:B
自身の防御力アップ。
プロレスラーは打たれ強い。

血濡れの蛮勇:A
血で己の身体が真っ赤に染まったという、血生臭い逸話がスキルとなったもの。
敵を攻撃すればするほど攻撃力が向上するが、引き換えに防御力が下がっていく。


戦闘続行:A
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
彼を動かすのはレスラーとしての、父親としての意地、何よりも深く濃い闘争本能―――そして、巨大で純粋な、狂おしいほどの殺人・破壊衝動。


【宝具】
『飛翔天馬 烈鋼弾(パンツァーペガサス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
アイアンペガサス必殺の跳び膝蹴り。
敵の身体を踏み台に跳躍し、敵の顔面目掛けて放つ技。
その威力は鋼鉄の身体を誇る男の顔に消えない傷をつけるほど強力。




【weapon】
無し。己の鍛え上げたレスラーとしての肉体のみ。

【人物背景】
S・M・Wプロレス団体の社長。
シュートレスラーとして名を馳せたが、大金持ちであるイワノフ・ハシミコフの裏格闘技への抜擢を断ってからは金の力で貧困にまで追い立てられる。
愛する娘のため、プロレスラーとしての意地のため、イワノフ主催のロシアン・コンバットへ参戦。
しかし死闘を繰り広げる中で、湧きあがる己の闘争本能を抑えられなくなり、絶対王者・グルガとの死合いでは己の命が尽きるまで戦い続けた。
その姿はイワノフの脳髄にも刻まれ、その死合いの内容を聞かされた二人の男はその姿に触発され闘争心を燃やす。
けれど、娘のメイにはわからなかった。負けたって、父さんが無事ならそれでよかったのに。なんで止めさせてくれなかったのだろう。


【サーヴァントとしての願い】
己の限界まで死合いを勝ち抜く。ただそれだけでいい。

【今の状態】
本能が理性を上回っており、戦いのみを求めるその姿はまさに本来の意味での狂戦士。
その為、意思疎通は難しく、戦闘をする時以外はマスターの前には滅多に出てこない。


501 : それがあなたの幸せとしても ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/19(火) 23:22:33 rsASxyYM0
【マスター】
間宮リナ(本名:間宮律子)@ひぐらしのなく頃に 巡

【マスターとしての願い】
幸せになる。その為ならば障害の排除も辞さない。

【能力・技能】
水商売で培ってきた、異性を垂らし込む話術。整った顔立ちと豊満な胸。


【人物背景】
園崎グループの店のホステス。幼少期は両親の離婚に伴う貧困生活で苦しんでおり、その反動かお金への執着が一際強い。
その為、美人局や詐欺といった下法な手段を取るのも辞さない小悪党染みた性格になった。
ある時、金をだまし取ろうとしていた竜宮家の男、その一人娘とのいがみ合いの際、彼女の流した涙と放った言葉に己の幼少期が重なってしまい動揺。
性根が変わった訳ではないが、以降は竜宮家から身を引くことに。
その数日後に竜宮レナに殺される運命にあったが、この聖杯戦争にはそれを知る前からの参戦となる。


【把握手段】
天野和馬→漫画作品 職業・殺し屋(通常版) 7〜9巻

間宮リナ→漫画作品 ひぐらしのなく頃に 巡 鬼明かし編 その壱―②


502 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/19(火) 23:23:00 rsASxyYM0
投下終了です


503 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/20(水) 16:08:55 nPgKuOR.0
顔のない男
歪んだ愛情と執着で怪物と化した男達の主従ですね。
目的のためならどれだけの人間を弄び犠牲にすることも厭わない彼らが結び付いたのには因果を感じます。
どちらか片方でも十分すぎる程厄介な男達が結託している状況は、いずれ東京に最悪の災厄を齎すかもしれません。

魔女旅々、浮世閑歩
まさに現代社会に迷い込んだ異世界人、を地で行く二人のやり取りが何だか可愛かったです。
またサーヴァント・鍾離の語り口がその設定にそぐわぬ含蓄溢れるもので、知性の高さを感じさせてくれましたね。
イレイナの矜持はあれど何処かふわりとした旅人らしさがそこに噛み合い、独特の読み味を作り上げている印象でした。

それがあなたの幸せとしても
間宮リナがマスターの候補作が出てくるの、とても時代を感じますね…。
と、それはさておきその身の上によく合致したサーヴァントがチョイスされたなと思いました。
決して善人ではないしむしろその逆であるリナが生き続けられるのか、その辺りの先行きが大変楽しみな一作だったと思います


最近は投下が滞りがちで不甲斐ない限りですが、生きております。
今回も沢山のご投下ありがとうございました。


504 : ◆TPO6Yedwsg :2022/07/20(水) 19:12:05 leYd6Elk0
投下させていただきます


505 : 狼に飴玉 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/20(水) 19:13:46 leYd6Elk0

「あーっはっはっは!」

 男は、キャスターを召喚したマスターだった。
 堅実な魔術師であった彼は数日を陣地の構築に費やし、守りを固め、使い魔で情報を収集し、敵を迎え撃つ方針を取った。
 ロールによって与えられた家屋を要塞化し、防御力を高め、その行動に落ち度はなかった。
 落ち度があるとすれば、運が悪かったことだ。
 構築した陣地を外から粉砕するような、馬鹿げた火力の持ち主に目をつけられてしまった。
 結果家屋は木端微塵に吹き飛び、キャスターも爆殺されてしまった。
 魔術師は、その下手人であるサーヴァントを見る。
 深夜とはいえ住宅地の家屋を堂々と爆破した大胆不敵にも程があるそのサーヴァントは、小中学生ほどの少女だった。

「はい終わり。こんな小細工あたしには通じないよ。で、あんた。死にたくなけりゃ知ってることと溜め込んだモン全部吐き出しな」
「だ、誰が……」

 虚勢を張り口答えすると、少女は面倒くさそうにじろりと睨み、何かを投げて寄越す。
 それは、飴玉だ。そこらの菓子屋で売っているような飴玉。
 しかし、それはこの少女の魔力によって再構築され、全く別のものへと変貌している。

「ぎゃあああああああああ!?」

 そして、飴玉は盛大に爆発した。
 火を撒き散らすものではなく、概念的な爆発現象。
 絶妙に死なない程度に加減されたそれを受け、魔術師は痛みにのたうち回る。

「さー首を縦に振らないとこのまま爆発で延々と路上を転がしちゃうぞー?」
「あ、あくま……」

 その一撃で魔術師は気絶してしまい、少女はつまらなそうにその頭を足蹴にする。
 数秒後、遅れてその場に駆け込む男の姿があった。

「ランサー!」
「遅かったじゃん、もう終わっちゃったよ。活躍できずご愁傷さま」
「遅かった、じゃない! 派手な行動は慎めって言っただろ! 歩幅を合わせろ!」

 灰色の髪の、耳と喉にピアスを付けた男だ。
 魔力の消耗に加え、自身のサーヴァントの行動に頭痛を堪えている。

「あんたこの程度でゼーゼーいってんの? マスターの才能ないねえ」
「言われなくても僕が一番よく分かってる……! クソ、これだから天才の類は……いや、そんなことより、そいつを捕虜にして早急に撤退するぞ。
魔術での隠蔽だって限りがあるんだ。今から逃げつつ足跡を消すが、ここまで派手にやった以上気取られない保証は」
「あっそ。じゃあ全部任せるわ。あたしは霊体化しておぶさってるから。精々がんばんな」
「お前ッ、お前も手伝えよ、何のためにお前に『隠蔽の魔術を教えた』と……」

 ランサーはあくびをしながら霊体化した。
 現場に残されたのは木端微塵の家屋、気絶したキャスターのマスター、そしてランサーのマスターのみだった。

「……ああ、クソッ!」

 結果、ランサーのマスター……カドック・ゼムルプスは、一人で捕虜を抱えつつ足跡を隠蔽し全力で走ることになった。
 幸運にも、そしてカドックの努力もあって、その事件は翌日大々的に報じられはしたが、その下手人が彼(のサーヴァント)であることは気取られなかった。
 表の世界にも、裏の世界にも。


506 : 狼に飴玉 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/20(水) 19:15:19 leYd6Elk0

「ランサー、何度も言うが僕の魔力ではお前を支えきることはできない。消耗戦ができないんだ。敵に発見され情報を流されたら命取り……」
「はいはい分かった分かった。あんたの雑魚アピールはもう耳タコだよ」
「……分かったなら、無駄に火力を上げず節制に勤めてくれ。お前の宝具は威力を自在に調整できるのが取り柄だ。
お前が敵の耐久力を見極めて必要な分だけ威力を上げてくれれば、僕の貧弱な魔力生成力でもなんとか」
「やだね、かったりぃ。性に合わない。あたしはあたしの好きなようにやる」
「こ、こいつ……!」

 工房化した拠点にて、コロコロと飴玉を口の中で転がすランサーはカドックの説教などどこ吹く風だ。
 その問題児っぷりに、カドックは何度目かも分からない頭痛を堪えた。

 この異界東京都にてカドックの召喚したランサー……アクアは強力なサーヴァントだ。
 そのステータスはランサーというよりキャスターであり、本人も本来のクラス適性はキャスターだと言っているが、ならキャスターで召喚されて欲しかったと思う。
 異世界の魔法使い……飴玉を爆弾に変えるという物騒な宝具を持つ魔法少女は、それが唯一にして絶対の攻撃手段。
 そう、Aランクの対人宝具による魔術攻撃を通常攻撃として使用するのだ、弱いはずがない。
 例え三騎士が相手だろうと、対魔力など何の問題があろうか。
 飴玉一つだけでも家屋一つを木端微塵にする威力があるというのに、こいつはそれを気ままにダース単位で投げつける。
 それだけで、大抵のサーヴァントは倒せてしまう。

 しかし、それが許されるのは彼女に生身があった場合の話だ。
 彼女はサーヴァントであり、その攻撃を行うための魔力を賄うのはマスターであるカドックだ。
 そう、このランサーは強い。しかしあまりに火力に振り切れすぎている。
 難しい、実に気難しいサーヴァントだ。キャスターであれば陣地作成で賄えたというのに。


507 : 狼に飴玉 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/20(水) 19:16:28 leYd6Elk0

「別に、あんたの采配に従ってないわけじゃないだろ? あたしは別に戦闘狂とかじゃないし。
ダラダラしてていいならダラダラしてるよ? あんたが『あのキャスター陣営は情報を蓄えている、捕虜にしたい』って言ったんじゃないか」
「ああ言った、言ったさ。そして結果だけ見ればそれはうまく行った。そこに文句はない。勝手に出ていって戦闘を始めてるわけじゃない。
ただ……ただ……一度出ると決めたら、お前はひたすら目立つんだよ……! いちいちでかい破壊の痕跡を残すな!」
「ちまちまやるのはスッキリしないからやだ。戦うと決めたら容赦はしないよ。そこは譲れない線引ってことで。それとも、令呪でも使う?」
「馬鹿言うな、こんなくだらないことに令呪なんか使ってられるか。ただ、お前は脆いんだ。直撃を受けたらまずい、僕も補助はするが、気をつけてくれ」
「やられる前にやるさ。それでいいだろ」
「はあ……とにかく。これからあのキャスターのマスターから暗示で情報を引き出す。お前が相当痛めつけたからな、すんなり通るだろ。
今後は、しばらく潜伏期間だ。ランサー、お前には本格的に僕の魔術を『学んで』もらうぞ」
「へえ? そりゃ別に構わないけどね。マスター、それを許容するのかい?
あんたみたいな劣等感とプライドの板挟みになってるようなのが。ずっと渋ってたじゃん?」

 ニヤニヤと見透かしたように言うアクアに、カドックは苦虫を噛み潰す。
 このランサー、アクアは、カドックの嫌う『天才』に属する少女だ。
 例え100年間研鑽する時間があったとしても、彼女は一代で大成した才能の塊。
 カドックは、アクアを決して良く思ってはいない、いないが。

「お前のことは気に入らないさ。無遠慮に僕の魔力を持っていくことも、天才特有の下を見ない振る舞いも。
けど、それはそれだ。お前は強い。戦略を間違えなければ十分に優勝を狙えるサーヴァントだ。
なら、負ける訳にはいかない。僕は、もう二度と敗北を許容しない。どれだけ惨めに這いつくばっても、最後の勝利を狙う。そう、誓ったんだ」

 彼女に、アナスタシアに。
 この戦いに勝利して、その先自分はどうなるのか、それは分からない。
 だが今は、浅ましく目先の勝利に執着しよう。魔術師らしく、狼らしく。

「ふーん……獣だね。あんた」
「は? 急に何だ。そりゃ、僕の家の魔術は獣狩りの魔術だが」
「そう、そこ。陰気を気取ってるけどわっかりやすく自分に正直。その上で、戦いに手は抜かない。できることを何でもやって格上にも食らいつこうとする。
あんたとミカゼは……いや、やっぱ全然似てないわ。ミカゼは何だかんだ体術の才能は抜きん出てたし、あんたみたいに陰気臭くないし」
「認めたのかやっぱり貶めてるのかどっちだ」
「勿論馬鹿にしてんのさ、ケケケ」

 ま、及第点か。アクアはそう判断した。少なくともボンクラに召喚されるよりはいい。
 自分にも願いはある、勝って聖杯を手にしなければならない。
 背中を任せるには頼りないが、まあそこそこの力にはなりそうだ。
 そうして、二人は反りの合わないまま心を決めた。
 この一時の相方を使って、聖杯戦争を勝ち抜くことを。

「じゃ、あたしは駄菓子屋のおばあちゃんのとこで飴玉買い占めてくるから」
「目立つって! 言ってるだろ! 通販を使えよそんなもん!」
「はー!? 品質も定かじゃないカタログだけで飴を選べるわけ無いだろバカタレ! あのおばあちゃんの飴玉が一番質がいいんだよ!
これはあたしにとっての礼装ってやつなの、分かる? 礼装に手抜きの材料使うのかあんたは、あー?」
「こ、こいつ……! 魔術師として絶妙に認めざるをえない屁理屈を振りかざしやがって……! クソ、僕もついていくからな、暴れるなよ!」

 前途は非常に多難である。
 しかし、並大抵の壁であれば、カドックの努力とアクアの爆発はそれを問題なく打ち砕くだろう。
 打ち砕いだ余波で、更に前途は多難になること請け合いなのだが。


【クラス】
ランサー

【真名】
アクア@マテリアル・パズル〜神無き世界の魔法使い〜

【パラメーター】
筋力E 耐久D 敏捷D 魔力A 幸運B 宝具A


【属性】
混沌・善

【クラススキル】
対魔力:E
魔術のダメージ数値を多少削減する。
彼女は生前の事情により魔力ダメージへの抵抗力が皆無に等しかったため、本当に申し訳程度の対魔力しかない。
対抗するくらいなら破壊力で相殺するのが彼女流の対魔力なのだろう、多分。


508 : 狼に飴玉 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/20(水) 19:16:52 leYd6Elk0

【保有スキル】
破壊の魔力:A
アクアの魔力が持つ起源であり特質。
とにかく破壊することに特化した魔力は攻撃魔術やその威力を高めるための補助効果、魔力効率に大幅な補正を加える。

傍若無人:B
どこまでも身勝手なクソガキ。
自分が快適に過ごすためならだいたいの悪事はやる。けど自分以外の悪党は許さない。
敵ごと家屋を粉砕するわ、近所の畑から作物を盗むわ(自分の手は汚さない)、味方以外の敵どころか中立の存在に対しても容赦がない。
典型的な『自分にとって善いと思うことを躊躇いなく実行する』善属性の持ち主。
自己を強く主張しない対象に対し、あらゆる行動にアドバンテージを得る。
このスキルに抗うには一定以上の精神強度が必要。

マテリアル・パズル:A
万物に宿る根源的エネルギー『マテリアル・パワー』を組み換えることにより、既存の力を全く異なる性質を持つ別の力に生まれ変わらせる。
編み出す魔法に何1つ同じものはなく、即ちそれは己のみが設計図を所有し組み立てることのできる『新たなる法則』である。
習得難易度は高く、1000人に1人の才能ある人間が、20年適切な指導の下修行をしてようやく『習得』できるかどうか、というもの。
アクアは最高位の魔法使いであるバレット王の指導の下、僅か8年で『魔法』を習得した天才。
このスキルの持ち主はあらゆる魔力が関わる術理に対して高い理解力を発揮する。
Aランクともなれば異なる術理であろうとそれが実行可能なものであれば理解吸収し、己の力とする。
各世界において個人の特質ではない汎用的な術式であれば、アクアはそれを学び行使できる。
過去の戦いにおいてラセン国の秘術である『陣術』を、簡単な基礎講釈を受けただけで自分のものとした逸話の具現でもある。

【宝具】
『スパイシードロップ』
ランク:E~A 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:50人
アクアが習得し極めた彼女だけの『魔法』。自身の魔力を飴玉に込め、飴玉を破壊の爆発に変換する。
尚習得したての頃は『破壊の爆発』ではなく『花火』だった。現在のランクと威力は以降60年の更なる研鑽による賜物。
魔法による爆発のため科学的な理による威力の軽減は不可能、本人曰く素粒子単位での分解に近いもの。
込める力の大きさにより威力を調節可能、家屋を木端微塵にする威力から気に入らないパシリをしばく程度の威力まで自由自在。
尚、この宝具が彼女の通常攻撃である。

『ブラックブラックジャベリンズ』
ランク:A+ 種別:対城宝具 レンジ:1~50 最大補足:500人
スパイシー・ドロップの奥義。
複数の飴玉を触媒にして威力を相互増幅し解き放つ『陣術』。
解き放たれたスパイシードロップの魔力は直射線上の全てを貫く『黒い槍』となる。
魔力を込め陣を拡大するごとに力を相乗させていくため、チャージ時間が長いほど威力は際限なく上昇していく。
一分間のチャージがあれば最高クラスの対城宝具に匹敵する威力を発揮できる。
この宝具の名が彼女のランサークラス適性の所以であり、クラス補正により更に威力は向上している。

【weapon】
棒のついていない飴玉:適当にばらまいたり空中に設置したりする。
棒つき飴:接近戦で敵に叩きつける。
スーパーキャンデー28号:自身の身の丈ほどもある巨大な棒付きキャンディ。その大きさからスパイシードロップの威力も折り紙付き。

【人物背景】
かつてドーマローラという国に住んでいた妹思いで飴玉好きの活発な少女。
しかしある事情で国が滅び、瀕死時の重傷の中ティトォ、プリセラと体と魂を共有することで生きながらえるが、不老不死となってしまう。
当時13歳であったため、13歳の姿のままその後100年の時を過ごすこととなる。
修業を重ね、国を滅ぼし世界を滅ぼそうとしている元凶と相対するも、敗北。
魂を共有していた状態から無理矢理かつての3人に引き剥がされ、アクアはティトォを庇い海に落ち行方不明となる。
そして3年後、世界の命運を懸けた最終決戦において彼女は復活を果たすのだが……サーヴァントの彼女に、その時の記憶はない。
よって本来の彼女の『全盛期』を象徴する最終宝具『廻天の術』はロストしている。ぶっちゃけ最終決戦は現在本誌連載中なのでこの辺は出しにくい。

【サーヴァントとしての願い】
彼女の記憶は『行方不明となった直前』のものであり、その先の記憶はない。自分が生きているのか死んでいるのかも分かっていない。
聖杯にかける願いとしては、もし最終決戦に自分が間に合わなかったのであれば聖杯の力で駆けつけること。
それ以外では、自分の思うままに好き勝手過ごす。邪魔するやつは爆破する。


509 : 狼に飴玉 ◆TPO6Yedwsg :2022/07/20(水) 19:17:17 leYd6Elk0

【マスター】
カドック・ゼムルプス@Fate/GrandOrder

【マスターとしての願い】
生き残り、勝利し、聖杯を手にする

【能力・技能】
高いレイシフト適性とマスター適性。しかし反面魔力量には乏しい。
基礎的な魔術に加え、対獣魔術を得意とする。猛獣退避、臭跡追跡、獣性付与など。
その魔術適性から野外活動もプロ並みにこなせる。

【人物背景】
カルデアAチームの一員。ロシア異聞帯を率いて第二部最初の敵として立ちはだかったクリプター。
魔術の才には乏しいがそれでもAチームに選ばれるだけの実力はあり、研鑽と努力を怠らない。
時間軸としてはトラオムの前、治療ポットで眠っていた頃からの参戦。

【方針】
この聖杯がどこから来たものであれ、これが聖杯戦争であるならば魔術師として勝ち残り聖杯を手にする。
かつての自身のサーヴァントの献身に賭けて、二度と敗北を受け入れはしない。
本戦に向けて情報を集め、しばらく潜伏期間とする。
その間に、アクアに『魔術』を教える。

【備考】
ランサーの皮を被ったキャスター。全てを破壊する魔力を備えるが、近接戦は脆い。
しかし買い貯めした飴玉を雑に振りまいているだけでも火力面では十分に強い、通常攻撃が宝具級のガキ。
また術を扱う協力者を得ることでマテリアル・パズル:Aによりその術理を取得できるチャンスが発生し、汎用性が広がっていく。
露払いもできる火力砲台であり、強敵相手には如何にチャージしたブラックブラックジャベリンズを命中させるかが肝。
圧倒的パワーの持ち主ではあるが、ちょっとしたミスで落ちかねない危うさがある。
マスターとの相性は、正直良くない。
莫大な火力で敵を殲滅する宝具を持ちチャージ時間がそのまま威力と化すアクアは、魔力量に乏しいカドックでは十全に運用することはできない。
万全の戦闘力を維持するには躊躇うことなく令呪を切るか、戦闘回数を控え魔力を貯蔵し策略を巡らせる必要があるだろう。
しかしそれは耐久性に乏しいアクアにとってある意味最適な戦術でもあり、戦術相性で言えば悪くはない。
反りの合わない主従だが、反りが合わない上で一定の評価はしている主従。


510 : ◆TPO6Yedwsg :2022/07/20(水) 19:17:35 leYd6Elk0
投下を終了します


511 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/22(金) 02:32:40 JYbH2k3k0
投下ありがとうございます。
感想の方は後日必ず書かせていただきます。

投下します


512 : 東雲絵名&フォーリナー ◆Lap.xxnSU. :2022/07/22(金) 02:34:00 JYbH2k3k0
 ひまわりが咲いていた。
 花瓶に挿されたひまわりだ。
 土から離れてなお美しく咲くひまわりだ。
 油彩画の技とセンスを尽くして描かれたようなひまわりが無数に並んでいる。
 ひどく凡庸な構図と色使いなのに、ひどく心に焼き付く大輪の花。
 それを、私は――

「マスターさまはきっと凄い画家になれますよ」

 綺麗だと思った。
 きっと最初はそうだった。
 それは興味本位で調べた時に見た印象だったかもしれない。
 学校で美術の教科書を開いた時に思った感想だったかもしれない。
 もしかしたらきっかけなんて自分でも覚えていない、そのくらい何気ない日常の中での遭遇だったのかもしれない。 
 別に参考にしたり描き方を真似したりした訳じゃなかったけど。
 それでも彼…彼女の描く絵は私にとって憧れの的のひとつな事に違いはなくて。
 だけどそんな彼女を実際に、私は時の彼方から呼び出した。
 人類史の果てからやって来たこの子は私が知っているのよりずっと若くて、そもそも性別からして違っていて。
 そして私の絵を見た彼女が口にした言葉は。
 とても優しくて、肯定的だった。
 にへらと笑って彼女は言った。
 偉人として教科書やらテレビやらに取り上げられるようなものを描いておいて。
 …私のサーヴァントは言ったのだ。

「こんなに陰気でしょうもなくてどうしようもないわたしなんかよりも、ずっと」

 まともな教育を受けてまともな教養を備えた人間ならば。
 別に大人じゃなくたって、子供だって誰でも名前くらいは知っているだろう人が。
 私がいつか必ず乗り込んでみせると息巻いている世界では"人"の前に"偉"の一文字が添えられるような画伯が。
 私の絵を良いと言ってくれた。
 あなたはきっと良い画家になれると褒めてくれた。
 こんな自分なんかよりもずっと。
 凄い画家になれるだろうと祝福してくれた。
 その言葉に私が返した言葉は感謝でも謙遜でもなくて。

「…やめてよ。何それ」

 部屋の中に散らかした紙の一枚一枚。
 そのどれもに、私がこれまで描いてきたどの絵も霞むような習作を描きながら。
 時にはそれをゴミ箱に放り捨ててしまうこいつが。
 丸められたそれを広げて見つめる私のことなど知る由もないこいつが。
 さも自分はどうしようもない人間だという風に笑うこいつが。
 私なんかの事を本当だか嘘だか分からない言葉で褒めそやすこいつのことが――

「あんたに言われても、全然嬉しくないから」

 …私は。
 大嫌いだった。

    ◆ ◆ ◆


513 : 東雲絵名&フォーリナー ◆Lap.xxnSU. :2022/07/22(金) 02:34:24 JYbH2k3k0

 聖杯戦争。
 私の日常は、そんな誰の都合とも分からない事態によって一変した。
 とはいえ何が変わったわけでもない。
 少なくとも今の所は。
 死にかけた事もなければ、私以外のマスターにもサーヴァントにも出会った試しはない。
 私は定時制に通うただの学生で。
 家に帰れば家族が居る。
 生意気な弟も――あいつも。
 私の夢を否定した、父親も。
 何も変わった所なんてない。
 私の部屋に居着いた陰気で卑屈な画家を除いては。

「…やっぱり全然似てないじゃん」

 引っ張り出してきた美術の教科書。
 本当は図書館に行ってみようとも思った。
 だけどやめた。
 あの根暗なサーヴァントに借りてきた伝記やら画集やらを見られるのが嫌だったからだ。
 アレが外に出ているのを確認してから、頁を捲る。
 目当ての頁はただ一つ。
 1880年代から始まるポスト印象派の時代。
 そこで主役のように描かれている肖像画の"彼"は、うちでジメジメしてるアレとは似ても似つかなくて。

「ゴッホが実は女でしたとか、売れない漫画かよっての」

 ヴィンセント・ファン・ゴッホ。
 それが私のサーヴァントの名前だ。
 彼ではなく彼女。
 史実に伝わっている自画像とはまず性別からして違うから、対面した瞬間真名がバレるって事は無いだろう。耳もちゃんと両方あるし。
 最初にその名前を聞いた時。
 もとい打ち明けられた時。
 私が思ったのは、これは何の皮肉だろう――という事だった。
 よりにもよって。
 よりにもよってゴッホだなんて。
 生前は酷評の憂き目に遭い続け。
 一方で後世では掌を返したように偉大な画家として称賛された画家。
 英霊の座とかいう大層な場所から私の許にやってきたサーヴァントが、それ。
 …ふざけろ、と思った。

“お前に”
“画家となれるだけの才能はない”

 あいつの言葉が脳裏をよぎる。
 何度もリフレインしてきた忌々しい言葉。
 それが認められなくて。
 受け入れられなくて、受け入れてやるつもりもなくて。
 そうしてずるずる生きてきた。
 そんな私の許にやってきた遅咲きの天才。
 今までは単に偉大な先人の一人としか思っていなかったその名前が。
 私には、嘲笑のように聞こえた。


514 : 東雲絵名&フォーリナー ◆Lap.xxnSU. :2022/07/22(金) 02:34:46 JYbH2k3k0

 マスターさまはきっと凄い画家になれますよ。
 私のゴッホはいつだってそう言う。
 でもそれっていつのこと?
 死んでから偉大になれって、評価されろって言ってるの?
 絵を描いて誰かに見せるよりも。
 ちょっとアングルを工夫して撮影した自撮りの写真の方がウケを取れるような私には。
 急ぐんじゃなく自分のように"いつか"を目指せって、そういう事?

“…分かってるよ。悪いのは最初から私だけ”

 ひどい被害妄想だ。
 自分でもそう思う。
 素直に受け止めればいいだけなのに。
 教科書に載るような画家が、あのゴッホが。
 自分の絵を褒めてくれたんだ…って。
 嬉しく思いながらまた筆を執ればいいだけなのに。
 なのにそれができない。
 私はあいつの言葉に、ありもしない棘を見出してしまう。
 自分などよりよっぽど素敵だと。
 良い画家になれると言うあいつの言葉を。
 他でもない私が、拒絶していた。
 自分なんかよりとそう言うあいつが。
 丸めて放り捨てた画用紙に描いた落書きで、私が心血注いで描いた絵を平然と飛び越えていくあいつが。
 嫌いだから。
 いや。
 妬ましくて。
 妬ましくて妬ましくて仕方なくて。
 なんで私はああなれないのって。
 どうしてもそう思ってしまうから。
 その気持ちを隠し切れないから――

「いっそぼろくそに貶してくれれば良かったのに」

 なんでそんな性格なんだよ。
 なんでそんなに卑屈なのよ。
 それだけの腕があるのに。
 そんなに上手いのに。
 どうして自分を認めてあげないの。
 どうして――希望を持たせるような事を言うの。
 こっちはあんたの落書き一つで、ペンを投げ捨てたい気分になってるってのに。


515 : 東雲絵名&フォーリナー ◆Lap.xxnSU. :2022/07/22(金) 02:35:07 JYbH2k3k0

「…はぁ」

 教科書を閉じて。
 引き出しの奥底にぶち込んだ。
 多分もう一度開くことはないだろう。
 少なくとも、この世界では。

「どうしよっかな。聖杯戦争」

 正攻法で勝ちに行くには手を汚す必要がある。
 誰かの命を背負って先に進む必要がある。
 それはやっぱり、できればしたくないことだった。
 たとえ命が懸かってるとしても…他の誰かの命を奪うっていうのは簡単な事じゃない。
 でもできないやれないと目を塞いでいたら待っているのはこの偽りの世界での死だ。
 本当に何にもなれないまま死ぬ。
 それはやっぱり嫌で、でも覚悟を決めるなんて簡単に言われてもすぐに決断する事なんてできなくて。
 今の今まで私の聖杯戦争はずっとその調子だ。
 どっちつかずの宙ぶらりん。
 頭を抱えたいのは私じゃなくむしろゴッホ…あの子の方かもしれない。

「あいつ――毎日毎日何処行ってんだろ」

 ゴッホは基本私の部屋に居る。
 私の嫌いな卑屈な笑顔を浮かべて何やらブツブツ言っている。
 でも時々ふらりと外に出て行く事があった。
 別に追いかける事はしなかったけども。
 それってやっぱり、マスターとして失格なのかな。
 偉人捕まえて八つ当たりして。
 本分も忘れて振り回して。

「…はは」

 私って。
 最低だなぁ。
 はぁ。

    ◆ ◆ ◆


516 : 東雲絵名&フォーリナー ◆Lap.xxnSU. :2022/07/22(金) 02:35:30 JYbH2k3k0

「マスターさまはきっと凄い画家になれますよ。
 わたしなんかより…"ゴッホ"なんかよりずっと」

 夜の闇に蠢くものがあった。
 闇の中に消えていくものがあった。
 逃げ去るかつてマスターだった人間の背を見送りながら。
 ヴァン・ゴッホは電柱に背を委ねながら呟いていた。
 彼女はヴィンセント・ファン・ゴッホである。
 絵の道を志す者からそうでない者まで。
 誰も彼もが名前を知っている、その領域にまで辿り着いた傑物である。
 しかしこれはゴッホであってゴッホではない。
 そういう存在だった。
 そういうモノだった。
 東雲絵名が彼女に対して抱く嫌悪と忌避感はある意味では正しい。
 今此処に居る彼女は少なくとも。
 教科書に載っている"ヴァン・ゴッホ"ではないのだから。
 
「あぁ、かわいそうなマスターさま。よりによってこんなものを喚んでしまうだなんて。
 塗り潰すしか能のない怪物のわたしなんかより、もっとあなたに相応しいサーヴァントは居た筈なのに」

 画家たるゴッホの記憶と画才。
 あとは狂気のニンフとブラックボックス。
 神の悪意でぐちゃぐちゃにされたつぎはぎのサーヴァント。
 この世を塗り潰せと染め上げろと、そう仰せつかった呪われた魂。
 これはゴッホであってゴッホではない。
 少なくとも"ヴァン・ゴッホ"では。

「それでも…こんなゴッホをあなたが必要としてくださるなら……。
 生きるためでもそれ以外のためにでも、ゴッホにあなただけの価値を見出してくださるなら……。
 ウフフ、ウフフフ……わたしはこの小さく貧相な身を粉にしてでも、あなたに使われてみせましょう」

    ◆ ◆ ◆


517 : 東雲絵名&フォーリナー ◆Lap.xxnSU. :2022/07/22(金) 02:35:59 JYbH2k3k0

 …最近よく見る夢がある。
 黄色い家が出てくる夢だ。
 その家はひどく絵の具臭くて。
 そしてひどく陰気で、視界に入れただけで気分がどんよりしてくるような家で。
 だけどそれを見ているとどうしてだか前に進みたくなる。
 そんな希望と絶望が渦巻いた、黄色い家。
 ヘット・ヒェーレ・ハイス。
 それを遠巻きに見つめながら。
 夢の中の私はいつまでも、足を止めていた。

【クラス】
フォーリナー

【真名】
ヴァン・ゴッホ@Fate/Grand Order

【ステータス】
筋力:E 耐久:B 敏捷:C 魔力:A 幸運:D 宝具A+

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
領域外の生命:A
外なる宇宙、虚空からの降臨者。
邪神に魅入られ、権能の先触れを身に宿して揮うもの。

狂気:C
不安と恐怖。
調和と摂理からの逸脱。
周囲精神の世界観にまで影響を及ぼす異質な思考。

【保有スキル】
道具作成:B-
魔力を帯びた器具を作成可能。

神性:B+
神霊適性を持つかどうか。
高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
フォーリナーは外なる神が恣意的に作り出したつぎはぎの英霊である。

向日葵の呪い:A
陽光に焦がれた者を蝕む自罰の呪い。
彼女は自殺をすることができない。
不死身になるのではなく"死にたくても死ねない"スキル。


518 : 東雲絵名&フォーリナー ◆Lap.xxnSU. :2022/07/22(金) 02:36:20 JYbH2k3k0

虚数美術:B+
虚数生まれのサーヴァントとしての特質と、独自の美術的視座を持ったゴッホの画才が融合したスキル。
虚数魔術と似て非なる独自理論体型の技術。

澪標の魂:EX
『つぎはぎ』された画家と妖精の魂が、『身を尽くす狂気』により共鳴し転じたスキル。
呪いという形で現れる狂気を己の力に変換する。

【宝具】
『星月夜(デ・ステーレンナフト)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:25人
第一宝具/対人宝具。
サン・ポール療養院の窓からの光景を想い描いた幻想的な絵。
その人智を超えた世界観がカンバスからあふれ、固有結界を形成し現実を侵食する。
晩年のゴッホは不可解な精神疾患の発作に苦しみつつ、信仰と善なるものを求めて絵筆を執り続けた。
その狂気じみた執念が外なるものどもに利用され、他者の霊基や精神構造を改変・神化させる禁断の宝具となった。

『黄色い家(ヘット・ヒェーレ・ハイス)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:8人
第二宝具。
ゴッホの才を開花させる転機となり、ゴッホの夢の破綻の舞台ともなった南仏アルルの居宅を絵で再現する。
敵に対しては南仏を苛む風・ミストラルの嵐を、味方に対しては手厚い加護を与えるが、一方で呪いも蔓延させてしまう。

【人物背景】
十九世紀ヨーロッパで活躍した画家。
作品は死後高い評価を受け、世界中に愛好家を持つ。
霊基の8割は狂気のニンフ。
霊基の1割5分は虚数由来のブラックボックス。
霊基の5分のみ、画家ゴッホの記憶と画才が占める。
外なる神が恣意的に作り出した、つぎはぎの英霊。

【願い】
「あの別離あの裏切りを覆して何になるのでしょう!」「ええ、いただけるなら喜んで。五個ぐらい」


【マスター】
東雲絵名@プロジェクトセカイ

【願い】
元の世界に帰りたい

【能力】
天才と称賛された画家の娘。
彼女自身も絵を描くことを好んでいる。
…たとえその道が茨の道であろうとも。

【人物背景】
承認欲求が人より強くSNS依存気味な少女。
父親は有名な画家で、自身も絵を描いて投稿していた。
コンプレックスと鬱屈を抱えながらそれでも彼女なりに前を向く。
そんな彼女が"天才"を召喚してしまったことは…果たして福音か呪縛か。

【方針】
元の世界に帰る手段を探したい。


519 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/22(金) 02:36:34 JYbH2k3k0
投下終了です


520 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 20:56:42 H12vwR2M0
投下します


521 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 20:57:34 H12vwR2M0
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。

 雲に覆われ、星も月も見えない曇天の夜。街灯と建物から僅かに溢れる光以外は、何も明かりのない道を、一人の女が全力で走っていた。
 女は聖杯戦争のマスター『だった』。同盟を組んだ二騎のサーヴァントに襲われ、彼女のサーヴァントは襲撃してきた二騎のうち、一騎を屠ったものの、その隙を突かれもう一騎に致命傷を負わされた。
 最後の力を振り絞り、自身に致命傷を負わせたセイバーを抑え込んだ、己がサーヴァントに促され、女は全力で逃走を開始したのだった。

 目的地も無く、現在位置も分からずに走り回る事5分。

 「此処は、何処?」

 左側はビルが連立し、右側は四車線の道路。それは良い。
 だが、此処は、新宿区だ。都庁も見える中央公園にも近い場所だ。
 にも関わらず、誰一人として人が居ない。
 独りだ。その事を認識した瞬間。女の全身を凄まじい疲労感が覆い尽くした。緊張しきっていた精神が、孤独感により一気に憔悴し、それを機に肉体の疲労を正常に認識で来る様になったのだ。
 ぜいぜいと息を荒げながら、道にへたり込もうとした瞬間。女は背骨が氷柱と変わったかの様な感覚を覚えて飛び上がった。

 ─────追ってくる。

 間違いなく、自分を追ってくるものがいる。
 きっとあのセイバーだ。マスターである私を、聖杯戦争のセオリーに則って殺そうとしているんだ。
 そう悟った女は立ち上がり、先程よりも早いスピードで逃走を再開する。
 涙を流し、汗を流して、暗い夜道を走り続け─────。

 「灯りだ!!」

 10m程先のビルとビルの間の路地から、明かりが溢れている。その事を認識した女は、躊躇う事なくビルの間に飛び込んだ。

 「何よ…これ」

 100m四方の広場が其処には有った。月の明かりが広場を白白と照らし、中央にある満開の花を咲かせた桜の樹と、小さな舞台を、夜闇に浮かび上がらせていた。
 今は冬だ。桜が花をつける時期ではない。今日は曇天だ。分厚い雲が月明かりを遮り、地上には一片の光も刺してはいない。
しかし、現に女の眼は、月明かりに照らされて咲き誇る花を、宙を舞う薄桃色の花弁を見ていた。

 「唄……?」

 渋い唄声が夜気を震わせている。謡曲だと女には判るはずもない。
 女の眼は必然的に舞台へと向けられる。他に何もないのだから当然だ。
 そして─────一点に吸着した。

 真紅に染め上げられた平安貴族の装束に身を包んだ男が、舞台の上で舞っていた。
 
 「……………」

 女は呆然と立ち尽くした。精神も肉体も現界だったところへ、あまりにも奇怪な出来事に遭遇し、現実を認識出来なくなったのだ。
 この幻妖怪異極まる光景。常であれば夢かと思うだろうが、女はこの光景を現実だと認識していた。
 舞台で一人舞う男。その男の顔があまりにも美し過ぎたから。
 夢とは見るものの記憶、或いは想念により形作られる。ならばこそこの光景が夢では無いと認識できる。これ程の美を、女は今までの人生で見たことも、思い描いたことも無い。そして、これからも。
 目が有る。耳が有る。鼻が有る。口が有る。常人と何ら変わらぬそれらが、何故こうまで美しいのか。
 時代により、場所により、人の美醜は移り変わる。五百年前の美男美女と、現代の美男美女は全く異なる容貌だ。
 だがこの男の美は、古来より不変を誇り、未来に於いても変わらずその美を讃えられるだろう。
 壮麗なる山脈が、可憐に咲き誇る花が、果てより流れ来たりて果てへと流れ去る大河が、時代を超え、異なる地に生まれた者達を魅了した様に、彼等から讃えられ、崇拝されてきた様に。
 真に普遍にして不変の美。それは、人の形をしたものが持つ事が許されるのか?もし許されたとして、それは本当に人なのか。人のカタチをした人以外のものではないのか。
 呆然と、自我を喪失し、舞手の顔を見つめ続けていた女は、いつの間にか舞台の上で舞手と対峙していた。


522 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 20:59:57 H12vwR2M0
女よりも頭ひとつ高い長身の舞手が、視線を女に向けている。
 顔を上げた女の視線が、舞手の視線と交差した。
 
 なんて、深い眼なの
 なんて、澄んだ眼なの
 なんて、冷たい眼なの

 舞手の眼差しに竦んだ女を救ったのは、舞手の美貌だ。
 夜天に輝く月は至近で見れば只の荒野でしかない。遠目に眺めれば神々の住居とも見える。荘厳にして神秘なる大山脈も、足を踏み入れれば、只の岩と雪ばかりの、断崖と急峻な坂だ。
 だが、この男の美は違う。至近で見ても粗というものが見つからない。白皙の肌にはシミひとつ、皺ひとつ存在しない。
 口づけをしたならば、死者ですら感動と興奮のあまりに蘇りそうな美を誇る、血の様に紅い紅唇が動いて言葉を紡ぎ出す。発声器官を用いて空気を震わせているだけのそれが、神韻縹渺と聞こえるのは、紡がれる声の美しさの故だ。

 「此処に来た。という事は、生者でも死者でもないか、それともそういったものと縁が有るのか。お前は『さーゔぁんと』では無し、つまりは『ますたー』か」

 女は我知らず後退った。舞手の美しさに忘却し果てていたが、そもそもがこの異常な空間にいるという時点で、舞手は尋常の存在ではなかった。
 
 「あ、貴方も…サーヴァン…ト?」

 こう訊いたのは、やはり男の美しさの故だ。
 こんな美しい男が、この世の存在である訳がない。ならば、この世ならざる存在。サーヴァントであるという結論に至るのは、至極当然の事だった。

 「いや─────」

 舞手が応えようとしたその時。

 「此処にいたか!!」

 新たに広場に入ってきたのは、漆黒の板金鎧に身を包み、手には夜の闇でもなお輝いて見える宝剣を引っ提げたセイバーと、そのマスターで、先程の声の主だろう、黒いスーツ姿の中年男。女を襲撃し、従えるサーヴァントを葬り去った二騎の内の片割れだ。

 「サーヴァントを失ったとはいえマスターはマスターだ。此処で仕留めさせてもらうぞ」

 薄ら笑いを浮かべた中年男に何を感じたのか、女の顔が酷く歪んだ。
 
 「用無しは始末した。一戦で死ぬ程度のサーヴァントのマスターなだけあって、実にあっさりと殺れたよ。貴様は奴に比べれば、少しは持ったがな」

 サーヴァントという対抗手段を失ったものを一方的に嬲り殺す。その愉悦に醜く歪んだ中年男の顔に、セイバーと女は嫌悪感を露にした。

 嫌な事はさっさと済ませるに限る。とは口にこそしなかったものの、ありありと態度で示したセイバーが、迅速に行動に移る。
 滑る様な歩法で距離を詰め、女の心臓を剣で突く。出来うる限り体に傷をつける事なく、速やかに死を与える。そんな配慮のもとに放たれた一突きは、しかし、女の胸に鋒が触れる寸前で止められていた。横から伸びた二本の繊指によって。
 セイバーが咄嗟に次の行動に移れなかったのは、本気全力では無かったとはいえ、己が剣を指二本で止められたことに関してか、それとも二本の繊指の美しさに見惚れた為か。
 我に返ったセイバーが動くより早く、剣に急激な力と方向が与えられ、セイバーの身体は宙を舞った。それでも無様に転がったりせず、着地を決めて立て直したのは最優のサーヴァントに相応しい動きだった。

 「御身は……」

 一分の隙も無く剣を構え、セイバーが陶然と舞手に呟く。この美しさ、この存在感、明らかにこの世のものでは無い。
 セイバーの頬が僅かに紅潮しているのは、舞手の美しさの故だ。男であっても、人類史に名を刻んだ英雄であっても、魅了するその美よ。

 「此処は我の舞台よ。狼藉は許さぬ。失せるか、観るか、どちらかを選ぶが良い」

 妖々と告げる舞手。その全身から噴き上げる濃密な鬼気よ。直に向けられたセイバーはたじろいで一歩後ろに下がった程だ。女と中年男は、舞手の周囲に漂う鬼気を感じただけで、体温が下がり、意識が漂白していくのを感じていた。

 「こ、殺せ!!」

 中年男の絶叫。聖杯戦争の関係者だと判じたからでは無い。舞手の鬼気に竦み上がり、恐怖に耐えきれなくなったのだ。
 マスターの号令に応じ、セイバーが動く。
 一歩を踏み出し、上段からの真っ向唐竹割り。正中線に沿って舞手の身体を左右に断割する一閃は、ちょうど切先が宙天を指し示した辺りで停まっていた。
 セイバーが止めたわけでは無い。そんな事をする理由は何処にも無いのだから。それに、見よ。セイバーの驚愕と疑念の浮かんだ顔が告げている。セイバーの意図により停まったものでは無い事を。
 セイバーが感じた感触は、凄まじい粘性と靱性。硬いという訳でもなく、加える力が霧散するという訳でも無いのに、どれほど力を加えても剣を引く事も降る事もできず、剣身が空中に固着したかの様に、引く事も叶わない。
 
 ─────蜘蛛、か?

 セイバーは己が剣を封じたものの正体を推測した。だが、現状の打開には全く役に立たないのもまた道理。


523 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:01:01 H12vwR2M0
 「我の技を悟ったか。ならば判るだろう、お前では如何ともし難いという事が。なにせ我が糸は、かつてアルゼンチンなる国で起きた山崩れ、ざっと五十万トンに及ぶ岩を、谷間に十文字に張った二筋の糸で全て吸着し、止めてしまったのだからな」

 セイバーは動けない。剣を吸着した糸がどうにもならないというのもあるが、何よりも舞手の語った内容に心を打ちのめされたのだ。

 「ば、化け物」

 セイバーが絞り出した言葉を受けて、舞手は笑った。美しく。恐ろしく。

 「良い言葉だ。やはり化け物よ、魑魅魍魎よ、そう言われて怖れられるのは、我のみで良い」

 セイバーを見る舞手の眼よ。その深さ、その恐ろしさ、その美しさ。月明かりに照らされ、自らも湖面に月を写す、極北の静夜の深い湖の如き輝きの眼であった。
 その輝きに魅入られたものは、夢見る様な面持ちで湖水へと入り、光の差さぬ深淵へと沈んでいくのだろう。
 セイバーは深く昏い水の中を、何処までも落ちていく自身を幻視した。その顔には、紛れも無い恍惚の相が浮かび─────。

 「ウ…ウゥオオオオオオオオ!!!」

 忌まわしい想像を振り払う為にセイバーが吠える。渾身の力で、否。限界をすら超えた力で剣を振るい、剣を封じる糸を切断。間髪入れずに舞手の首に横殴りの斬撃を浴びせ、首を宙に舞わした。のみならず、未だに立ち続ける首のない胴体に剣を縦横に振るい、十文字に切り裂さいた。
 明らかに過剰な攻撃は、セイバーがどれだけの恐怖を舞手に抱いていたかを雄弁に物語っていた。
 鮮血をぶち撒け、四つの肉塊となって地に転がる身体と、離れた場所に落ちた頭部を見ようともせず、セイバーは女に向き直った。

 今だ恐怖に強張った顔のまま、セイバーは剣を引く。此の期に及んでも女への配慮を忘れないのは、やはり一角の英雄だ。引かれた剣の切先は、女の心臓目掛け、不可視の直線を引いている。線に沿って剣を突き出せば、女の心臓は致命の損壊を受けるだろう。
 一息吐いて、女に死を与えようとしたセイバーは、ふと足に違和感を覚えて下を見た。
 漆黒の鋼のブーツに覆われた両の足首から先がが、流れ出たばかりの鮮血を思わせる紅に染まっていた。
 驚愕と戦慄に身体を震わせて、セイバーは必死に目を凝らす。紅いものは小さな無数の紅蜘蛛であった。
 セイバーの足元から紅い帯となって伸びる紅蜘蛛は、首の無い、四つに断割された舞手の骸へと続いておる。
 セイバーは慄きながら理解した。舞手を斬ったときにぶち撒けられた紅いモノ。あれは鮮血などでは無く、紅蜘蛛であったのだと。
 足を覆い尽くした紅蜘蛛を見たセイバーは、同時に両脚全体に激痛を覚えて絶叫した。
 脚の皮膚を噛み裂き、肉を喰い千切り、骨にまで達して尚牙を突き立てる紅蜘蛛達の齎す苦痛だった。
 
 「マスター!!」

 蜘蛛共を引き剥がすことは出来る。魔力放射を行えばいくら群がろうと、蜘蛛如き簡単に吹き飛ばせる。だが、蜘蛛と共に脚の肉と血も吹き飛ぶ。確実にセイバーの脚は使い物にならなくなるだろう。
 此処は離脱の一手あるのみ。まず脚から蜘蛛を剥がし、マスターに令呪の使用を乞うて脱出。
 この異常な状況下に於いて最善の行動を速やかに選択できる。確かにセイバーのクラスを得るだけはある英霊だった。

 「…………!?………………ッッッ」

 だが、マスターもまた、窮地にあった。全身を白い糸に覆われ、僅かも動かぬ。未だ死んではいないがそれだけだ。一切の行動を封じられている。
 そして、セイバーもまた。いつの間にか首や腕に絡み付いた糸により、動きを完全に封じられていた。


524 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:01:24 H12vwR2M0
 「これが英霊というものか」

 セイバーは背骨が氷の柱と変わったかのような錯覚を覚えた。この声、声に含まれた妖気。確かに首を刎ね、胴を四つに斬断したあの舞手だ。
 人であれば死んでいる。サーヴァントであっても死ぬ。ならば何故生きている。
 聞き違いなどあり得ない。これ程美しい声は世に二つと有る訳が無い。これ程恐ろしい声が世に二つと有る訳が無い。
 声の方に目を向けた女が目を見開く。視線の先にあったのは、巨大な蜘蛛。女を見て微笑したのは、頭部にある舞手の顔だった。

 「よく効いた。だが、振るう技は所詮、人殺しの為のもの。これでは人や獣は殺せても、我は殺せぬ。彼奴らのものと違ってな」

 「お、お前は…お前は一体…何なのだ!?」

 セイバーの言葉は、問い掛けというよりも絶叫に近かった。

 「藤原紅虫」

 とそれは言った。

 「では、座とやらへ還るが良い」

 一気に顔まで這い上がり、全身を覆った紅蜘蛛に貪り食われながら、セイバーの眼は艶然と微笑む紅虫のその顔から、最期まで離れる事は無かった。
 繭が引き絞られ、内部のマスターが全身を圧壊された事にも気付く事なく、セイバーは魂の奥底から湧き起こる恐怖と、恐怖を上回る、紅虫の美への陶酔を抱きながら消滅した。



───────────────────


525 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:01:59 H12vwR2M0
 「脆いものよ。これが英雄、サーヴァントというものか」

 余りにも現実離れした光景を目にしたからか。礼も言わずに駆け去る女に、紅虫は視線を向けることもしなかった。
 その姿は、美しい平安貴族のそれだ。先刻の人蜘蛛の姿など、まるで夢か幻であったかのようだ。

 「千年前にはあの程度の輩、そこらに幾らでも転がっておったぞ」

 千年前、と紅虫は言った。紅虫の外見は二十半ば、到底千年の時を生きたものには見えぬ。
 だが、先程の主従を葬り去った一戦を見れば、そして紅虫の美貌を見れば、誰しもがこの男ならば、一千年の時を生きていても何もおかしくは無いと思うだろう。

 「あの程度であれば、我一人で充分。とはいえ、従僕が遊んでいるにも関わらず、主人である我が働くというのは気に食わぬ」

 もしもセイバーのマスターが生きていれば、紅虫の言葉に、恐怖と驚愕のあまりに言葉を失った事だろう。
 この美しい男は『従僕が居る』と言い。自身を『主人』と言ったのだ。
 ならばこの男はマスターだというのか。セイバーを苦もなく一蹴したこの紅虫が。

 「其れにしても,彼奴め、何処に行きおった」

 「此処に居るよ。危なくなったら手を出そうかと思ってたんだけど。なにもする必要がなかったからな」

 上空から声が降ってきた。紅虫よりも若い声だ、10代半ばといったところか。

 「当然よ。この我があの様な者に遅れを取るものか。むしろあの程度の輩に我の手を煩わせた事が腹立たしい」
 
 声の方を見る事もなく、紅虫は声を返す。

 「うんうん。同じ一族として鼻が高い」

 声の主は紅虫の前に降り立った。歳の頃は10代半ば、膝まで届く長く伸びた白い髪と、頭部の大きなリボン、真紅の瞳が記憶に残る少女だ。

 「お前の様なガサツな者が、我と同じ一族と名乗るで無い」

 僅かながら硬くなった声で、紅虫が言う。どうも目の前の少女に対して思うところは割と有るらしい。

 「はぁ、長幼の序というものを弁えない奴だな」

 紅虫は沈黙した。痛い所を突かれたらしい。その顔は、明らかに苦いものが浮かんでいた。
 藤原紅虫。その名が示す通り、そして『千年前』という言葉が示す通り、平安の都において、藤原摂関政治が絶頂期を迎えた、藤原道長の時代に生を享けた男である。
 “向こう側”の存在と融合して産まれ落ち、長じては数多の残忍無惨な振る舞いから、あらゆる歴史書・記録より抹消された存在である。
 並のサーヴァントなど、軽く屠る魔人。それがこの藤原紅虫という男である。
 それが、この少女に対しては、妙に腰が引けているのは何故なのか。
 サーヴァントであるから、紅虫よりも強い。という単純な理屈は成立しない。
 紅虫の戦闘能力と不死性は、聖杯戦争をサーヴァント抜きで勝ち上がる事も、相手次第では可能な程だ。ましてや令呪もある以上、サーヴァントを恐れる理由が存在しない。


526 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:02:43 H12vwR2M0
 「…不比等めが、娘の躾も出来ぬとは」

 理由は単純。少女が正しく紅虫の目上だからだ。少女の名は藤原妹紅。藤原紅虫よりも三百年ほど前、平城の都で藤原氏の娘として生を享け、後に不死不滅である“蓬莱人”となった存在。
 アーチャーのクラスを得て現界したサーヴァントである。 

 「一族の不始末をキッチリとつけた道長の方がマシかもね」

 紅虫は凄まじい目つきで、妹紅を睨み付けた。先刻のセイバーであれば、恐怖に駆られて後退ったろうが、平然としたものだ。

 「ああ、悪い。今のは失言だった」

 妹紅の謝罪をどう受け取ったのか、紅虫は無言で月を見上げた。

 「気に障ったか」

 「いや、昔を思い出したのよ。我が地の底深くに封じられた千年前の夜も、……あの時も、こうして月が輝いていた」

 妹紅は『あの時』という言葉が引っかかったが、敢えて流した。触れれば紅虫との関係に修復不可能な亀裂が生じる。その事が理解できたから。

 「さっきの女、マスターだろ。逃がして良かったのか」

 話題を変える為に、話を振ってみる。この自信に満ち溢れた傲慢尊大な男の答えは分かっていたが、やはり直に聞いてみたかった。

 「あの程度のものに斃される様なサーヴァントしか招けぬ女。わざわざ我が手を下すまでも無い。新たにサーヴァントを従えて再起を図ろうが、この地で生涯を終えようが、我に挑もうが、どうでも良い」

 笑みの形に口元を歪ませる紅虫の顔は、どう見ても極悪人のそれだった。見た者すべてが怖気付きながら見惚れる程に。

 はぁ。と、溜息を吐いて妹紅も月を見上げる。
 紅虫は月から来たと言っていた事を思い出し、自分は月から来た奴によほど縁が有るらしいとしみじみと思う。
 そんな事を思ったら、腐れ縁。宿敵。そういう間柄の、マスターに負けず劣らずの美しい顔─────女だが─────を思い出して、少女はわずかに顔を顰めた。

 「あいつに見られたら未来永劫笑い話のネタにされるなぁ……」

 「あいつとは、お前の因縁の相手か」

 「そうさ、月から来たかぐや姫さ」

 「ふん。蓬莱など存在せぬ。そんな地にあるというものを要求された時点で、大人しく諦めておけば良かったものを」

 「叶えたかったんだろうなぁ」

 悔しいが認めざるを得ない。後世に美女の代名詞となるかぐや姫。その美しさは、比するものなしと名を持つ男でも、抗えぬものだったのだろう。
 なにせ同性である自分でも、最初に見た時は、その姿が夜闇に輝いて見えたものだ。今隣に立つ紅虫の様に。


527 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:03:13 H12vwR2M0
 「お前が戦う理由はそれか?不比等の願いを叶えてやりたいのか?」

 「いや違う」

 即答であった。

 「私に叶えたい願いなんて言われても、思い付かないし、あいつとは自分の手で決着をつけたいし」

 そもそもが、このマスターに引き合った理由は判る。だが、サーヴァントなどという立場になった理由が判らない。
 サーヴァントは生前に偉業を成し遂げた存在が、英霊として『座』へと召し上げられた存在であるという。
 ところが妹紅は死んだ覚えがない。そしてそもそもが死なない。じゃあ一体今の自分は何なのか?何かの異変か?
 妹紅は頭を振って思考を中断した。いくら考えても解らないものは、考えても仕方が無い。

 「お前には無いのか?願い」

 「……無い」

 僅かな沈黙。先だっての『あの時』と言った時の紅虫を思い出したが、これもまた流す。
 紅虫は間違い無く、何かしらの未練を持っている。だが、その未練を聖杯に願う、などという事は決してしない。それが紅虫の矜持なのか、それとも誓約なのか、それは判らない。

 「お前と同じで、決着をつけねばならぬ相手は居るがな」

 そう言った紅虫は、何処か遠くを見る様な目をした。その眼差しの先に有るのは、決着をつけねばならぬ相手の面貌なのだろう。
 そして紅虫の事だ『決着』とはつまりは殺し合いを以って着けるのだろう。

 「なら、戻らないとな」 

 ならば自分と同じだと、妹紅は思った。尤も、自分も宿敵である蓬莱山輝夜も死ぬことは無いが。
 
 「そうよな」
 
 短く紅虫は応える。

 平城と平安と、二つの都に生きた二人の藤原は、まるで散歩に赴くかの様に、聖杯戦争という戦場へと踏み込んだ。


528 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:04:22 H12vwR2M0
【CLASS】 
アーチャー

【真名】
藤原妹紅@東方Project

【属性】
中立・中庸

【ステータス】
筋力: D 耐久: EX. 敏捷: B 魔力:B 幸運: C 宝具:C


【クラス別スキル】

単独行動:A+
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクA+ならば、宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合ではない限り単独で戦闘できる。


対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。



【固有スキル】

蓬莱人:EX
老いず朽ちず、死なず死ねない。蓬莱の薬を服用する事で不死になった者の通称。
老いる事も病になる事も無く、死んでも肉体を再構築して復活する。如何なる毒も効かないが薬も効かない。
魂を打ち砕くような攻撃でもなければ即死攻撃も通じない。
戦闘続行スキルと対毒スキルの効果を待ち、あらゆる毒を受け付けないが、あらゆる薬も効果を発揮しない。
致命傷を負っても、例え肉体が消滅しても、任意の場所に肉体を再構成して復活する。この際マスター共々魔力を大量に消費する。
どちらかの魔力が足りなかった場合そのまらま消滅する。


命名決闘法:A
アーチャーの故郷、幻想郷で行われていた決闘方。
弾幕の美しさを競うもの。EXボスなんで最高ランク。
同ランクの射撃と矢避けの加護の効果を発揮する。


魔力放出(炎):A
魔力を炎に変えて放出する。拳脚に纏わせることや、飛び道具として射出。飛行時の加速といった使い方が出来る。
炎を使用する戦闘法が逸話となり、獲得したスキル。
なお、この能力を使うと、自身の身体も燃える。熱いし痛い。


妖術:B
妖術を用いて妖怪退治をしていた為、並の妖怪では太刀打ちできない妖術を複数身につけている。
炎を用いる戦闘法も此処から派生したもの。


 


【宝具】
激熱!人間インフェルノ

ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:10人

深秘録で触れた都市伝説『人体発火現象』が宝具化したもの。
魔力放出(炎)を暴走させ、攻撃力や機動力を大幅に上昇させる。
荒れ狂う炎は近くにいるだけで熱によるダメージを与え、最大で3ターン後(期限内であれば任意でタイミングを選べる)に、周囲を巻き込み自身の体を灰も残さず焼き尽くす。妹紅自身は即座に再生するが。そして無茶苦茶痛い。
魔力放出の暴走からの自滅、そして再生までがワンセットになっており、一度発動すると、燃え尽きて再生するのは絶対に避けられない。この為に燃費は凄まじく悪い。




【Weapon】
妖術と自分の身体

【聖杯への願い】
無い。さっさと帰りたい

【解説】
幻想郷に存在する迷いの竹林に住む少女。かつて月の姫君である蓬莱山輝夜に生き恥をかかされた復讐する為に、人を殺し、蓬莱の薬を飲んで不老不死の蓬莱人となった。
一つの場所に留まる事ができず、妖怪退治をしながら各地をさすらい、幻想郷に行き着き、蓬莱山輝夜と再開する。
現在では同じ蓬莱人の輝夜と殺しあったり、竹林を訪れた人間を案内したりと、生を楽しんでいる様子。


529 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:04:47 H12vwR2M0
【マスター】
藤原紅虫@退魔針シリーズ

【能力】
体内に無数に飼っている蜘蛛。鉄すら溶かす酸を出す涙蜘蛛や、紅虫の耳目となって物事を見聞する探り蜘蛛が存在する。

鋼すら断つ糸や、土石流すら吸着させて止める糸。

八つ裂きにされようが、身体の右半分が喰われて無くなろうが、平然と復活する再生能力。

人蜘蛛形態(仮名)。巨大な蜘蛛の頭部部分に、紅虫の上半身が生えている姿に変じる事ができる。

大摩流鍼灸術。
万物が陰陽の気に支配されつつ流転する。その流れを『脈』と呼び、経穴を打つ事で『脈』を操る技法。
元々は妖魔を滅ぼす為のものだが、鍼灸術としても用いる事が出来る。紅虫は妖魔を滅ぼす技としか使えない。
イメージとしては北斗神拳か鳥人拳鶴嘴千本。
ツボを千分の一ミリ角度や深さを打ち間違えると、刺された妖魔は一千倍も凶暴になり、万倍も強力になる。


ランク付けるならC相当。交渉事を有利に進めたり、気迫を込めると相手の動きが一瞬止まる程度。
洗脳とか出来ないし月にビーム撃たせるなんて夢のまた夢。





【武器】
身体から出す糸と蜘蛛。

【ロール】
そんなものは無い。普段は生者の生きる“こちら側”と死者が行く先である“向こう側”の間に有る中間地帯に居る。

【聖杯への願い】
無い

【参戦時期】
紅虫魔殺行終了後。

【人物紹介】
千年前、藤原摂関政治の絶頂期である藤原道長の時代に、“向こう側”の存在と融合して産まれてくる。
その性状と行状により、ありとあらゆる記録から存在を抹消され、当人は地中に封じられる。
千年後、ヨグ=ソトースの意を受けた者により復活し、己を封じた鍼師・大摩童子と拳士・風早狂里の子孫を復讐の為に付け狙う。
その後は紆余曲折を経て復活した、かつてムー大陸を海に沈めた、異界の破壊神ザグナス=グドを大藦たちと共に封じ、その際に自身がムーの神官であり、人外の存在と戦う役目を持っていた事を知る。


その後、大藦との決着を預け、世界を巡り「魑魅魍魎と恐れられるのは我のみでよい」という考えの元、世界中で妖魔を殺して回る。
韓国で最後の一匹を滅ぼした時、日本から吹いてきた風に妖物の気配を感じ、再び日本の地を踏む。
そこで『ワライガオ』という妖物に代々憑かれてきた家と、その家の一人娘のみふぉりと出会う。
みどりに求婚され、受け入れて、妻となるみどりの為、己が唯一の人外化生となる為にワライガオを滅ぼすべく戦うが、無限進化するワライガオを前に手の打ち用が無くなり、大摩に頭を下げて大摩流鍼灸術をみどり共々習得、 ワライガオとの決戦に臨むも、みどりがツボを打ち間違え、ワライガオが万倍の力を得る。
紅虫も大摩も成す術が無くなったその時、 ワライガオと繋がっていたみどりが自ら命を絶つことでワライガオを滅ぼした。
みどりを失った紅虫は、大摩と再会を約し、月へと昇っていった。


530 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:07:26 H12vwR2M0
投下を終了します
もう一作投下をさせて戴きます
こちらは天国聖杯様に投下したものの流用です


531 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:08:12 H12vwR2M0
東京の一角に、広大な竹林の中に建つ広壮な洋館と、洋館と棟続きになっている鍼灸院がある。
此処に住まうのは東京どころか、日本中に名の知られた鍼灸医。
如何なる病気も鍼の業のみで治療してのけると言われる技量に加え、もう一つ、鍼の業よりも知られているのは────。

「全く面倒な事に巻き込まれたものだ。殺し合いをさせたければ紅虫でも呼べば良いのだ」

溜息交じりに愚痴をこぼす男が一人。
聞いたもの全てがもう一度聴きたいと願う美声が空気を震わせる。
精緻な彫刻が施された重厚な黒檀の机に手をついて立つ姿は、黒ずくめの服装に腰まで届く黒い長髪と相まって、気障ったらしいと言われても仕方がない。人によっては見ただけで怒気を抱くだろう。
だが────。この男に限ってそれは無い。
個人の好み、その時代その土地の美的感覚。そういったものを超越して燦然と輝くその美貌。
その目に見つめられたものは永劫に視線を独占したいと願い。
その唇から溢れた吐息に触れたものは、生涯にわたって恍惚とその瞬間を思い出すだろう。

「面倒?」

男の声に応じるか細い少女の声。水晶の鈴の音の様な澄んだ美声。
ソファに腰を下ろす、男に負けず劣らずの漆黒の長髪の少女が放ったものだ。
如何なる優れた美幌の主でも、その存在が霞んで見える男と向かいあって、微塵も揺らぐ事なくその美を主張出来る麗姿。
紅薔薇の花弁のように赤く、桜の花弁の様に繊細な唇が、男に向かい言葉を紡ぐ。

「貴方は聖杯が欲しく無いの?」

「言われた課題をクリアすれば、望んだ報酬が手に入る…。それで本当に渡すつもりがあると思うかね?聖杯戦争とやらを催した事で黒幕が何の利益を得るか、それが判らない限りは何とも言えんよ。最悪、勝ち残った所で用済みとして始末されるかも知れん」

一旦うごく事を止めた男の唇が、再度動いて言葉を紡ぎ出すより早く、少女が口を開いた。

「言われてみればそうよね…。そういえばさっき紅虫って言っていたけれど、虫の妖怪か何か?」

少女の問いに、男は僅かに苦笑した。

「いいや、千年前に藤原氏の一人として生を受けながらも、''向こう側"の存在と融合して生まれてきた為に、凡ゆる記録から抹消された男だ。
尤も、''向こう側"の存在というのが、蜘蛛だったから、虫といえば虫だが」

「藤原氏………」

少女が感慨深げに呟く。

「かつて君を欺こうとした男の子孫が気になるかね?」

「いいえ、その男の娘と知り合いだもの。数多く居る子孫なんて今更気にもならないわ」

「ふむ………。その娘が復讐でも誓って追ってきたのかね」

「ご明察。逆恨みも良いところだと思うけれど。貴方はどうして千年前の貴族と知り合いなのかしら」

男は短く息を吐いた。


532 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:09:13 H12vwR2M0
「その所業の故に私の先祖が倒して地の底に封したのだ。地の底から蘇ったら、私を仇呼ばわりして付け狙ってくる困った相手だよ。
尤も、自分以外の魔性を毛嫌いしていてね。世界中の魔性を殺し回ってくれたお陰で随分と楽をさせて貰った」

「今はどこで何をしているのかしら?」

男は少女を見つめて微笑した。
輝く様な美貌に微笑みかけられても、少女は全く揺らがずに平然と男を見ていた。

「色々あって今は月に居るはずだが………どうかしたのかね?君の出自に思うところが有るのかね?」

何やらしきりに頷いている少女に問いかける。

「思い出したのだけれど、さっき言った私の知り合いも、過去に妖怪を退治していたそうだけど、 藤原氏というのは存外武闘派なのかも知れない」

「単に妖怪を殺すのが趣味な一族なのだろう」

にべもない返しに少女が妙な表情で固まった。

「ふむ、話が逸れてしまったが、君はどうなのだ。聖杯に託す願いがあって此処に来たのだろう」

「え?無いけど」

即答。答えるまでの時間が秒にも満たぬその速度は、少女の回答が疑念の余地など全く存在しない真実の意思を告げていると明確に示していた。

「聖杯に願いたい事なんて無いけれど、好事家としては聖杯自体は欲しいわね」

男は肩を竦めて苦笑した。気障ったらしい仕草がやけに絵になる男だった。

「それはそれは………てっきり死でも願うのかと思っていたが。まあこの様な事態を引き起こす時点で、
聖杯は破壊するか封じるかしなければならんとは思っていたが、君が持ち去るのならばそれでも構わんだろう」

「どうして死を願うと思うのかしら?不老不死は貴方達人間が求めて止まないものでしょう?」

「経験さ。長く生きたものは大抵死を願うようになる」

「私も何時かは死を願う事になるのかしら」

「さて」

「それで…もしもよ、もしも私が死を願うと言ったらどうするつもりだったのかしら」

男は心底嫌そうな顔をした。そして言った。

「他のものならば兎も角、死ならば心当たりがある」

「言っておくけれど、私の不死は私と"月の賢者"との合作。貴方の技は見せてもらったけれど、そう簡単に破れると思わない事ね」


533 : ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:10:31 H12vwR2M0
己の身体に鍼を打つ事で皮膚を鋼のように硬くしたり、死体となって心臓を貫かれても問題なく立ち上がったり、果ては空間に鍼を打つ事で虚空に穴を開けて少女の放った弾幕を吸い込んだりしたが、それでもどうにかなるとは思えない。

「私の技では不可能だ。万物が陰陽の気に支配されつつ流転する。その流れを我が流派では"'脈"という。
君の肉体はともかく、固定化された君の魂には"脈"が無い。これでは私の技の及ぶところではない」

「つまり代わりを用意すると」

「その通り、私の力が及ばぬならば力及ぶものを用意すれば良い。
其方が月ならば此方は星だ。妖剣我神、夜狩省三羽烏と謳われた紫紺の家に伝わる剣。
この国がまだ形を成さぬ時代に天より堕ちた星を鍛えて剣としたという。
正当な使い手の手になれば、如何なる妖物の装甲をも貫き、傷一つつけずにその魂のみを斬り滅ぼしたとされる妖剣。
その力全てを解放すれば、世界を支配することも可能となるという。この剣ならば君に死を齎す事が可能だろう。
継承者がいれば厄介極まりないだろうがね。あの妖剣を振るうとなれば、おそらくはサーヴァントと同等の強さだ」

「まあ私もその内に死を願うようになるかも知れないから聞いておくけれど、今は何処にあるのかしら?」

「さて。絶えていなければ紫紺の末裔が所持しているだろうが、あれは相当な力を持つ妖剣。
京の羅生門に夜な夜な鬼が出没していた頃、紫紺の家の者が'我神''を羅生門に安置した事があったそうだ。
その結果"我神''を手にした鬼により、他の鬼が皆殺しにされ、殺した鬼も自殺したと聞く。
紫紺の末裔が妖剣の気に耐えて現在まで続いているかどうか」

「………何処に在るかも分からない上に、危険極まりないものをよくも渡そうとするわね。しかも他人のものだし」

「世に在っても碌なことにならないからな。君が持ち去るというのならそれでも構わん」

「私の処で問題が起きても構わないと?」

「自己責任という言葉があってな」

ぬけぬけと言う美貌をジト目で見据える。
マスターである男の性格が大分掴めてきた。

「………………どうやって譲ってもらうつもりだったのかしら」

「人間誠意を以って話し合えば必ず通じるものさ」

「せーい」

長く生きてきた中でもこれ以上のものはそうは無いと断言できる棒読みの返答。
僅かな付き合いだが、この男が凡そ『誠意』等というものから程遠い人間性を有している事は理解できていた。


534 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:11:25 H12vwR2M0
「疑うのかね。こうやって目と目を合わせて話せば皆分かってくれたさ」

ズイ、と夜天に白く輝く月のような美貌が眼前に迫り、少女は思わず仰け反った。
僅かに頰が紅くなっただけで済んでいるあたり、呑気そうに見えて随分精神力が強いらしい。
常の者ならば、恍惚と意識が蕩けて忘我の態となっていただろう。
互いに同等の美を持つ二人だが、男が少女の麗姿を至近で見ても平然たるものであるのに対し、少女の方に動揺が見られるのは、精神力でも容姿の差でもなく、経験の差。
男が男女問わず自身に並ぶ美の持ち主と対峙してきたのに対し、少女の方は美女の類はそれなりに見てきたが、そもそも男とは接した事すらロクに無かった。
この経験の差が両者の態度の差に現れているのだった。

────この男絶対性格悪い。

自分の顔が他人に対してどういう効果を発揮するのか、知り尽くした上でのこの振る舞い。これを性格悪いと言わずして何と言う。

「はああ………」

溜め息が溢れる。
そもそもこの身は元より不老不死、死んではいない。
腐れ縁の相手と殺し合った後、眠りに就いたら此処にいた。謂わばこの身は邯鄲の夢。覚めれば消える夢の中に居る身だ。
どうせ夢ならもう少しまともな相手と組みたかったが、なんでこんな性格の相手と組まなければならないのか。

「はああ………………………………」

急激にヤル気が無くなっていくのを感じる少女は、見知った顔が自分を指差して笑っている姿を幻視した。


535 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:11:54 H12vwR2M0
【CLASS】
アーチャー

【真名】
蓬莱山輝夜@東方Project


【属性】
中立・中庸

【ステータス】
筋力:B 耐久:EX 敏捷:C 魔力:A 幸運:B 宝具:A +


【クラス別スキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではアーチャーに傷をつけられない


単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。


【固有スキル】

蓬莱人:EX
老いず朽ちず、死なず死ねない。蓬莱の薬を服用する事で不死になった者の通称。
老いる事も病になる事も無く、死んでも肉体を再構築して復活する。如何なる毒も効かないが薬も効かない。
魂を打ち砕くような攻撃でもなければ即死攻撃も通じない。
戦闘続行スキルと対毒スキルの効果を待ち、あらゆる毒を受け付けないが、あらゆる薬も効果を発揮しない。
致命傷を負っても、例え肉体が消滅しても、任意の場所に肉体を再構成して復活する。この際マスター共々魔力を大量に消費する。
どちらかの魔力が足りなかった場合そのまらま消滅する。


命名決闘法:A
アーチャーの故郷、幻想郷で行われていた決闘方。
弾幕の美しさを競うもの。トラウマ級の高難易度弾幕なんで最高ランク。
同ランクの射撃と矢避けの加護の効果を発揮する。


魅了:D-
麗しい容姿と人を惹きつける仕草や立ち居振る舞い、話し方などを持って人を魅了する能力。
極まれば精神力以外での対抗が不可能な洗能能力となるがアーチャーはその域に到達していない。
性格が変わった上に長らく使っていなかった為に、ランクダウンを起こしまともに機能しない。


透化:C +
極めて呑気な性格から来るスキル。精神干渉を無効化する精神防御。
自身の容姿や環境も有ってか金品や魅了に対しては特に強い。


536 : 双紅 ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:12:20 H12vwR2M0
【宝具】
永遠と須臾を操る程度の能力
ランク:A+ 種別:対人・対界宝具 レンジ: 最大捕捉:

永遠とは歴史の無い世界の事で、未来永劫変化が訪れない世界である。
輝夜が永遠の魔法をかけた物体、空間では幾ら活動してようとも時間が止まっているのに等しく、一切は変わらず、腐らず、壊れない。


須臾とは、永遠とは反対にもの凄く短い時間の事である。
人間が感知出来ない程の一瞬で、彼女はその一瞬の集合体だけを使って行動する事が出来るという。
その時間は須臾の集合体だから普通に時間が進んでいるが、輝夜以外の人間には全く感知出来ない。そのため他人には輝夜が「いつのまにかそこにいる、いつのまにか全部の工程が終わっている」といった具合に見える。

これを応用すると「異なった歴史を1人で複数持つ」といった技能も可能であるらしい。


月都万象博
ランク:C ~A 種別:対人~対軍宝具 レンジ:1 ~99 最大捕捉:1 ~1000

アーチャーが幻想郷で開催した『月都万象博』に出展した品を取り出す。
地球よりも遥かに進んだ文明を持つ月の都産の兵器や、''月の賢者"謹製の薬物等がある。


神宝・難題
ランク:B ~A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1 ~99 最大捕捉:1 ~300

アーチャーが過去に収集した物品。
神宝は現物で難題はレプリカ品であるらしい。
某魔法使いが狙っていたりする。



………天井板以外を。



【Weapon】
神宝・難題

【解説】
御伽噺に語られる『かぐや姫』その人。
不死となる蓬莱の薬を服用した罪で地上に流罪となり、幻想郷に流れ着いて数百年程を迷いの竹林に在る全く変化の無い永遠亭の中で過ごす。
永夜異変と呼ばれる異変の後、永遠亭の外に出る様になり、現在はやりたい事を探している。
里の子供達に昔話を聞かせたり、月都万象博を催したり、同じく不死の昔馴染みと殺し合ったりと今を生きる事を愉しんでいる様子。
天真爛漫で暢気かつ育ちの為か常人とは思考がやや異なっている所為か人間味が薄い様にも感じられるが、身内に対する優しさや、自分を育てた老夫婦への感謝の念を持ち合わせていて、情愛が存在しないわけでは無い、
過去よりも現在と未来を大切にする。
好事家を自称しており、珍しいものを収集し、他人に見せるのが趣味。

【聖杯への願い】
無い。好事家として聖杯は欲しいが。


537 : ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:12:45 H12vwR2M0
【マスター】
大摩@退魔針シリーズ

【能力】
大摩流鍼灸術:
万物が陰陽の気に支配されつつ流転する。その流れを『脈』と呼び、経穴を打つ事で『脈』を操る技法。
元々は妖魔を滅ぼす為のものだが、鍼灸術としても用いる事が出来る。
ツボを千分の一ミリ角度や深さを打ち間違えると、刺された妖魔は一千倍も凶暴になり、万倍も強力になる。

美貌:
ランク付けるならC相当。交渉事を有利に進めたり、気迫を込めると相手の動きが一瞬止まる程度。
洗脳とか出来ないし月にビーム撃たせるなんて夢のまた夢。


【人物】
清和源氏の成立と共に設立された『夜狩省』の末裔。世間一般的には鍼師で通っている。
性格は阿漕でケチ。楽して結果を出せればそれで良いという思考の主。
超然としていてあまり感情が動かない為に人間味が薄い様にも見える。少なくとも何考えてるかは解り難い。
しかし、ヨグ=ソトースやザグナス=グドに対しては逃げずに率先して立ち向かい、鬼の王に対しては二度使うと死ぬ『崩御針』の二度目の使用を行おうとするなど、先祖代々継いで来た役割に対しては強い義務感と責任感を持っているようだ。

絵的には斎藤岬版とシン・ヨンカン版とが有るが、斎藤岬版で。


シン・ヨンカン版は大摩と十月をもう少しどうにかならなかったのだろうか。



【参戦時期】
紅虫魔殺行終了後


【聖杯に対する願い】
無い。聖杯は破壊するか封じる。


【把握媒体】
魔殺ノート 退魔針@全7巻
退魔針 魔針胎動篇@全3巻

原作小説は全2巻


538 : ◆/sv130J1Ck :2022/07/22(金) 21:14:22 H12vwR2M0
投下を終了します

こちらのSSタイトルは『月下麗人』です。
間違えてしまいすいませんでした


539 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/23(土) 00:11:49 FPx6mA9g0
投下します


540 : 地獄の沙汰も金次第 ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/23(土) 00:12:45 FPx6mA9g0
燃える、燃える。

島が、金が、命が燃えてゆく。

「い、嫌だ...」

私は震える喉で声を絞り出す。

死にたくない。

私はまだありあまる金を、バイカル湖から溢れんばかりの全ての金を使い切りたい。

だが、命乞いをしようとも奴らは、職業・殺し屋は止まらない。

当然だ。

殺しの権利を安く買いたたく逆オークション。そんなリスク無用の痴れ事に興じる奴らが、そんなことの為に命を賭けられる奴らが、金の力に惑わされるはずもない。

私の莫大な金の力が効かない奴らはまさに天敵としか言いようがない。

「イワノフぁぁぁ!!」

殺し屋の男が雄叫びと共に右の拳を振るう。

その時、私の見たものは...奴の右腕の枷に彫られていたのは、東洋の教典だったろうか。

そしてその瞬間、私は理解した。

これまで神ですら私を裁けないと思っていたが、それは間違いだった。

私は実は裁かれる者だったのだ―――そう、神(ポーフ)に。

そして、神はついに私の命を潰さんと目前にまで迫った。


541 : 地獄の沙汰も金次第 ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/23(土) 00:14:16 FPx6mA9g0


「クックククク....ハーハハハハハハッッッ!!!」

私は腹の底から愉快だと笑い声をあげる。

そう。あの時、私は神に裁かれるはずだった。

それがどうだ。あの恐ろしき殺し屋共は何処へと消え去り、私の命は繋がれ。

更には、戦いに勝ち残れば勝者の願いを叶える願望器まで手に入るというではないか。

「結局、神は屈したのだ。金の力に...このイワノフ・ハシミコフの力に!!」

やはり金こそが最強の矛であり盾である。

金さえ払えば、戦士だろうが女だろうが兵器だろうが土地だろうが、神羅万象地球上に存在する如何なるものでも手に入る。

金さえ積めば、殺人だろうが人身売買だろうが、如何な罪を犯そうとも赦される。

金さえあれば―――神すら、その前に頭を垂れる。

「私に聖杯とやらを直接渡さなかったのは、神であるためのせめてもの抵抗かもしれんが...なに、そこはソレ。すぐにでも貴様が金に屈したことを証明してやろう。
そうは思わんかね、アーチャー」

私は背後の英霊、アーチャーに嗤いかける。

「私は私の思い通りにならないやつらが大嫌いだ。その点、キミはわかりやすくていい。
英霊の身でありながら、御大層な大義名分ではなく金に従い金の為に戦う素晴らしい存在だ。お陰で交渉がつつがなく進んだというものだ」
「ま、ずっとそうやって生きてきたんでね。契約金分はしっかり働きますよ」

私は彼の肩に手を置きながら観察する。
私の言動にも顔色ひとつ変えず、己が金の走狗であるのを平然と肯定する。
その様子から、この男が根っからの傭兵であるのは容易に窺い知れた。

これはグルガ以上に『当たり』の駒かもしれない。

グルガ―――私が主催する裏格闘技トーナメント、ロシアン・コンバットの絶対王者を務めてきた男。
奴は強かった。私を良きパートナーと認識していたかはわからなかったが、牙を剥くこともなく私の見たい死合いを幾度も見せてくれた。
だが、奴の唯一の欠点は抑えが効かないこと。
一度本気になれば、命すら平然と奪うファイトスタイルは私の渇きを癒してくれたが、一方で命惜しさに奴を本気にさせまいとBook(イカサマ)をする闘技者が増えたのも事実。
もしも奴が英霊として呼ばれ、肝心な時にあの癖が発露してしまえば私自身にも危険が及ぶかもしれない。

奴に比べて、骨の髄まで傭兵であるこの男は、聖杯戦争を勝ち抜く上ではこれ以上なく心強い存在になるだろう。
徹頭徹尾金の関係であるため、金が切れればそこで終了してしまうだろうが、幸いにも私は大金持ち。
勝ち抜いた暁には百億だろうが千億だろうが一兆だろうが払うことができる。
そんな契約金を払えるマスターがどれほどいるだろうか?いや、いない。
このイワノフ・ハシミコフを差し置いて、いるはずもない。

「待っていろ神よ、そして職業・殺し屋どもよ!この戦いを勝ち残り示してくれようぞ!最強の力は私の金であることをな!!」


542 : 地獄の沙汰も金次第 ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/23(土) 00:15:57 FPx6mA9g0



「......」

何度目かわからないマスターの高笑いを眺めながらも、俺の心は一糸も乱れなかった。
平和ボケした連中はもちろん、そうでない奴から見てもこのイワノフ・ハシミコフという男が下衆であることには変わりないだろう。
だが、それがなんだ。
聖者だろうが愚者だろうが、人間は殺す時には誰だって殺す。
理想を掲げ。大義名分を掲げ。
それを成す為にに相手が邪魔だから排除する―――突き詰めればそれが全てだ。
そこに私情を挟めば目が濁り、心がどよめき、屍を晒すだけだ。

その点で言えば、金はわかりやすい。
命がけで捻りだした一億だろうが、片手間に払われる一億だろうがそこには何の差もない。
多い方が正義。感情が介入できない、ただそれだけのシンプルな強さだ。
己の力量と釣り合った金額を見極めれば、屍を晒すことなく人生を謳歌できる。
英霊となった身で人生云々を語るのもおかしな話かもしれないが。

とにもかくにも。
金の前には性格云々は何の意味もなさない。
欲っする金を払えるかどうか。余計な柵のないただそれだけの世界だ。
だから俺は雇い主が誰であろうと構わない。

公明正大を掲げ虐殺と餞別を繰り返す日陰者だろうが。
絶対女王制を掲げ弱者の拠り所となる使い捨ての英雄だろうが。
金食礼讃を謳う、人心掌握に長けた社長だろうが。

俺は俺の要求する金を払える奴の下に着くだけだ。

それは、英霊となった今も変わらない。




【クラス】
アーチャー

【真名】
火防 郷@血と灰の女王

【ステータス】
変身前 筋力:D 耐久:D 敏速:D 魔力:D 幸運:C 宝具:D

(変身時)筋力:B 耐久:B 敏捷:C(スラスター使用時はB) 魔力:C 幸運:C 宝具:B

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
単独行動:B
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
2日は現界可能(吸血鬼として人の血を吸えば期間を延ばせる)


対魔力:C
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
サーヴァント自身の意思で弱め、有益な魔術を受けることも可能。
この英霊は特に炎の系統の魔力に対しての耐性が高い。

【保有スキル】
吸血鬼(ヴァンパイア):A
魔力を一定量消費し変身することができる。
伝承の吸血鬼とは異なり、日光を浴びても消滅することは無い。
また、霊核を傷つけるか破壊されない限り死ぬことは無い。
ただし、変身することができるのは夜のみである。
その為、昼は例え暗闇においても人間体のままでしか戦うことが出来ない。
死ぬと遺灰物(クレメイン)という手のひらサイズの心臓を遺し、それを食した英霊は一際強力な力を手に入れられる。

変身体:A
このアーチャーが変身した姿。
頭部からつま先まで纏われた燃え盛る鎧に、身体中に仕込んだナイフや銃や地雷など、近接においても遠距離においても十分な力を発揮できる。
また、身体から出る炎を利用して簡易的な陽炎を作り敵を惑わすこともできる。


沈着冷静:B
如何なる状況にあっても混乱せず、己の感情を殺して冷静に周囲を観察し、最適の戦術を導いてみせる。
精神系の効果への抵抗に対してプラス補正が与えられる。特に混乱や焦燥といった状態に対しては高い耐性を有する。

直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
長年の戦場で培ってきた観察眼と経験値は己の危険を的確に知らせてくれる。


【宝具】
『W・M・D(ウェポンズオブ・マス・ディストラクション)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ: 最大捕捉:100
変身体の時にのみ発動できる宝具。この宝具は一夜のうちに一度しか使えない。
数多の大砲やミサイルなどを一斉掃射することで敵を撃ち滅ぼす。



【weapon】
人間体の時は、傭兵の経験を活かし、銃火器やナイフの扱いに長ける。


543 : 地獄の沙汰も金次第 ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/23(土) 00:16:15 FPx6mA9g0
【人物背景】
男。金の為に場所を問わず戦う傭兵。
一番新しい職業は食糧輸出会社・ゴールデンパーム。
表面上は気安い好漢だが、その裏では傭兵らしく非常に冷静沈着且つ冷徹。
人を殺すことに躊躇いがなく、如何な状況でも情に支配されることもない。
常に金の支払いの良い雇い主のもとに就いている。
容貌はゴリラに似ており、本人もわかりやすい容姿を売りの一つにしているのか、ゴリラと呼ばれてもまったく気にしていないどころか受け入れている。
その為、あだ名は「ゴリファイア」「火ゴリ」「ゴリさん」などゴリラにちなんだものが多い。
火山灰を浴びて吸血鬼となり、以降はゴールデンパーム社長:ユーベン・ペンバートンを王にするという契約のもと戦っている。





【サーヴァントとしての願い】
イワノフを生還させ、己も受肉し大金を貰う。

【把握資料】
漫画 血と灰の女王 6巻以降の登場。
現状の主な活躍は6、11、12、14、15巻が中心となる。



【マスター】
イワノフ・ハシミコフ@職業・殺し屋

【マスターとしての願い】
生還し、自分を殺そうとした職業・殺し屋たちを始末した後は思う存分に金を使い欲望を満たす。

【能力・技能】
莫大な金。金は力なり。


【人物背景】
ロシアの石油王。超が付くほどの大金持ち。
貧困で育った彼は、成り上がったことで絶大な自信と欲望を抱くようになる。
己の自己(エゴ)を見開かすのをなによりの愉しみとしており、己に逆らう者には容赦なく経済制裁をはじめとした罰を与え、なにがなんでも屈させようとするほどのエゴイスト。
その為、普段は紳士的な態度で接しているが、興奮すると後先が見えなくなり、重大な問題が起きても「金で解決すればいい」とかなり短絡的になる。
ロシアン・コンバットという裏格闘技大会に執心しており、己の金の力で創り上げた最強の闘士・グルガの力を通じてイワノフ自身の力を見せびらかすのを愉しみとしていた。
だが、プロレスラー:アイアン・ペガサスこと天野和馬を半ば強制的に参戦させ、死に至らしめたことで彼の命運が決まる。
天野和馬の娘、天野メイが敵討ちの為に、イワノフ自身が与えた20億の賞金で雇った職業・殺し屋の二人により、グルガとイワノフは激闘の末に命を断たれることに。
イワノフが縋った金の力も、約20億の依頼金を8万円で買い取った卑しい狂人共には通用しなかった。


【参戦時期】
赤松に顔面を砕かれる寸前。


【把握資料】
漫画 職業・殺し屋 7〜9巻『ロシアン・コンバット』編


544 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/07/23(土) 00:16:39 FPx6mA9g0
投下終了です


545 : ◆zzpohGTsas :2022/07/23(土) 01:29:08 NS1aDBpw0
投下します


546 : 歩くような速さで ◆zzpohGTsas :2022/07/23(土) 01:29:58 NS1aDBpw0
 その子を見てると、天才ってのはいるんだなぁっていう気持ちと、自分は何とも日々を漠然と生きてるんだなぁ、と言う気持ちが湧きたってくる。

 ランドセルを背負っていてもおかしくない年齢と身長の男の子だった。
多分誰が見たって、この子を中学生とは思わない。小学校低学年程度の見た目だ。
まるでドラマとか映画に出て来る、主役レベルの役割を与えられている子役のように、顔立ちも可愛い。高校生位になったら、さぞモテなさるんでしょうなぁ、って感じだ。

 ――だけど、その見た目とは裏腹に、醸し出される雰囲気は、ビックリする程大人びていた。
大人ぶっているだとか、達観してるとか、そんな感じの話じゃない。本当に、雰囲気が、大人のそれ。
いや、大人と言うか最早、お爺ちゃんだとか、賢い学者様だとか、ファンタジーに出て来る、賢者様のそれだよ、これもう。

 ――君が、僕のマスターのようだね。ライダーのサーヴァントとして、君の求めを叶える為にやって来た。英霊と聞いて、こんな餓鬼が寄越されて失望しただろうけど、期待には応えるよ――

 なにせ、初対面の挨拶がこれだ。
声変わりだってまだの、ボーイズ・ソプラノだって可能なかわいらしい声なのに、その声に漲る笑っちゃうぐらいのインテリジェンス。
良い塾に通わせて貰っているんだなぁとかじゃなくて、根本的に、この子はあたしなんかとは……『宮薙流々』とは頭の出来が違うんだろう。
多分学級委員だって率先してこなしてたんだろうし、全校集会で全生徒の前でスピーチしたってプレッシャーなんてヘッチャラなのかも知れない。
落ち着いていて、冷静で、堂々としていて、この子に着いて行けば大丈夫だと言う安心感すら与えてしまう。うわー、大物。末は博士か、大臣か。平凡な人生何か、もう送れないねぇこの子。

 ――んでその子は今、何故か完全コピーされたあたしのお家のリビングで、納豆をかけたご飯と御味噌汁、たくあんと言う夕ご飯を。私と一緒に食べているのであった。

「ごちそうさまでした」

 米粒一つ、お椀には残ってない。うーん、お行儀が良い。

「何かその、サーヴァント? だか解らないけど、こんなご飯で大丈夫だった?」

「あぁ、気にしていないさ。むしろ、納豆と味噌汁何て……はは、久々に食べられて嬉しいぐらいだ。1000年ぶりに食べたな」

「1000年って……」

 冗談の才能は、ないらしい。これじゃスベっちゃうよ。

「食器、洗っておくよ。台所はどこだい?」

「だ、大丈夫だよ!! 遠慮しないでよライダーくん」

 見た目的な話で言えば、あたしの方が全然年上何だけど、どうにも気後れしてしまう自分がいる。
多分それは、ライダー君が他所のお家の子だからとか、サーヴァントだからとかじゃなく、本当に、偉い人なんじゃないかという思いが心のどっかであるからだった。

 そもそもの話、服装が普通のそれじゃなかった。
半袖短パン、だなんてワンパクぼーずみたいな服装じゃない。
白をベースにした清潔な印象を与える、子供用の礼服のような物をライダーは身に着けていて、まるでお金持ちとか政治家だとかが集まるパーティに出席するみたいな装いなのだ。
それだけならばまだしも、ケープには黄金色の糸で出来た徽章みたいなものが付いていて、更に更に、お胸の辺りには純金なんじゃないかと思ってしまうようなピカピカのドデカい、十字の紋章のような物をぶら下げているのだ。

 あー、はいはいあたし解っちゃいました。
お金持ちだよこの子。納豆食べた事ないのも当然だよ。多分「ほーら僕も庶民と同じものを食べるんだよw」とか言って、納豆ご飯を食べてるのを尻目にご飯にキャビアをかけるんだ……。


547 : 歩くような速さで ◆zzpohGTsas :2022/07/23(土) 01:30:15 NS1aDBpw0
「……君、凄く失礼な事考えてない?」

「キャビアとか好きそうだなって……」

「いや、それ程好きじゃないよ」

 まるで、アホ犬でも見るような生暖かい眼差しで、ライダー君はあたしの事を見つめて来た。声も、呆れ気味。

「……食事の席でする話じゃない事は、百も承知だが……君には現実を見て貰いたくてね。気が引けるけど、尋ねなくてはならない」

「うん?」

 これ程までに、『改まってお前に話がある』みたいな話しぶりはない。
ライダー君は、これまで、遥か高みの知性の持ち主が、私に歩幅を合わせて話をしてくれている、と言う風な感じだったけど、今は全然違う。
賢者とか神様が、試練でも与えているかのような、突き放した声音。初めて会った時のミュッさまよりも、遥かに偉そうだった。

 ……いや、実を言うとライダー君が何を聞こうとしているのか、あたしだって馬鹿じゃない。理解していた。
この子としては、聞いておかなきゃならない事だろうし、あたしとしても、答えなくちゃならない事でもあった。

「君は、聖杯戦争の参加者だ。君が聖杯戦争について何も知らない事は僕も解っているし、そもそも自分の意志とは無関係に訳も分からず巻き込まれただけだと言う事も知っている」

 さて、と言ってライダー君は言葉を区切った。

「聖杯について、解ってる事は?」

「願いを叶えてくれるって事しか……」

 それにしたって、あたしの頭の中にいつの間にか刻み込まれた知識を、口にしているだけに過ぎない。ライダー君に会うまでに知ってた知識じゃない。
聖杯なんて言葉、初めて聞いたし、何の伝説に出て来る物かも解らない。マグちゃんだったら、持ってるかも知れないけども。
どの国のどれ位昔の話に出て来る道具なのかあたしもわからないけれど、その、全ての願いを叶えてくれる魔法のランプみたいな機能だけは、確実なんだと言う実感が刻み込まれているのだった。

「その機能については、概ね、正しい物だと思っていて良い」

「でも、信じられないし、騙されてるような感覚が凄いよ?」

「普通は君が正しい。実際僕も、聖杯の機能とやらについては、ある程度信を置いて良いとは思ってるけど、全幅の信頼を寄せてる訳じゃない。半信半疑……ああ、七信三疑ぐらいかなぁ」

 何処か、人を小ばかにしたような、悪い笑みを浮かべて、ライダー君は口を開いた。

「けど、世の中、君みたいに立ち止まって『ちょっと待てよ?』が出来る人間ばかりじゃない。ぶら下げられたニンジンしか、骨の形をしたビスケットしか、眼中に映ってないような狭い視野で短絡的なお馬鹿さんが大勢いる」

「聖杯を信じてる人がいる、って事?」

「信じているだけなら可愛いもんさ。聖杯戦争のルールは解ってるだろう? 殺し合いだ。聖杯が欲しいから、殺しに乗っかって、君を殺そうとする者が絶対にいる」

 ゾッとしない話だ。多分、感情が顔に出てたと思う。

「ライダー君は、聖杯……? って奴、欲しかったりする?」

「その機能が本当なら、僕は……うん、そうだね。叶えたい願いがあるんだよ」

 私の質問に答えるのに、意味深な間があった。躊躇い、のようなものだったと思う。

「僕はね、マスター。少なくとも君よりは遥かに強いし、今回の戦いにおいても、早々遅れをとる事はないと思ってる。それなりには、強い方だと思うさ」

 それは、多分、そうなんだろうとあたしは思う。

「僕は、個人的な好悪で考えるなら、君の事は好ましい娘さんだと思うし、君に協力する事だって、吝かじゃない」

 「だからね――」

「君の方針を教えて欲しいな。聖杯が欲しいかい? それとも、この世界からの脱出をお望みかい? どちらを答えたって良いさ。ただどうあれ……どちらを選んでも、人は死ぬ。誰かを殺し、誰かに殺されるかも知れない。念頭に入れておいて欲しい」

「それを避ける事は……」

「残念ながら不可能だ。聖杯戦争の性質上、死は避けられないと思って良い。けれど、深刻に考えるな。殺すのはあくまで僕だ。罪の避雷針の役割を、果たすと約束するよ」


548 : 歩くような速さで ◆zzpohGTsas :2022/07/23(土) 01:30:58 NS1aDBpw0
 殺すだとか、罪だとか。あたしは、そんな事真剣に考えた事なかった。だって、宮薙流々の人生は、そんな物とは縁遠いものだと思っていたから。
そりゃ確かに、凄い破壊神のマグちゃんとはお友達だし、人間の一生を容易く左右する力を持った邪神の皆とも知り合いだよ。ミュッ様に至っては、あたしに殺意も敵意もぶつけて来た。
じゃあそれで、だったら聖杯戦争も同じノリで行け!!、って言われてもそれは違うだろう。賢くないあたしにだって大体解る。
この戦いに集まる人たちは、等身大の人間の筈なんだ。あたしとは違う生き方をして、違う考え方を持っていて、好きな人もいて趣味もあって、でも嫌いなものも勿論ある。
そんな、人間が参加しているんだ。多分だけど、本人からすれば、凄い切実な理由で、聖杯を求めてる事もあるんだろうな。
現実の世界に、自分が迷い込んだ袋小路を打破する手段何てもうとっくになくなってて、見つけられなくて、ワケ分かんなくなってて。そんな、可哀そうな人もいるんだろう。
そんな人を相手に、何で、殺し合い何て出来ると思うのだろう。何で、そんな人を相手に殺し合いをしなくちゃいけないんだろう。考えれば、誰だって分かるよ。聖杯戦争は、もう、コンセプトからして破綻しているって。

「それでも、あたしは、人を殺したくないよ」

 試すような態度のライダー君に、真正面からあたしは返した。

「……そうか」

「そしてね――」

 まだ、話は終わってないんだよ、ライダー君。

「ライダー君にも、出来るのなら人を殺して欲しくないな」

「……何で?」

 疑問の光が、ライダー君のキレイな瞳に宿り始めた。

「だってそんな事したら、ライダー君の日常が変になっちゃうじゃん」

「この際だから言うけど、サーヴァントとして召喚されてる時点で、その人物は、普通の日常から遥か遠い所にいる変態だと思って良い。僕とてそうだ。数え切れない程の人間を、この手で殺して来たよ。直接的にも、間接的にもだ」

「やっぱりライダー君良い子だよ。悪人って普通は、馬鹿正直にそんな事言わんて」

 ピクッと、ライダー君は反応した。
そりゃそうだよ、だって本当にどうしようもない悪い人で、こっちを騙そうとするんだったら、天使の顔して甘い言葉と嘘でも囁いてさ、その気にさせればいいだけじゃん。
ライダー君なんてただでさえ顔が良いし頭も良いんだから、あたしを騙す事なんて赤子の手を捻るみたいに出来た筈だもん。
でもそれをしないで、凄く真面目な顔してさ。覚悟をしておいた方が良いよだとか、願いは何だとか聞いてきたりとか、罪は自分が被るだとか。悪い人がそんな事、言う訳ないって。
自覚無かったのかな、この子? いや多分、本当はもっと上手に隠せるんだと思う。でも、此処までのやり取りでもう疑いようはない。この子は、根っこの根っこの部分は善良で、あたし達と何ら変わる所のない凡人の感性を持ってるんだって。

「あたしの夢はね、平凡で、素敵なヒトでいる事なの」

 「あ、平凡なのは今だってそうだろって突っ込むのナシね!! 今真面目な話だから!!」、と念を押す。

「あたしが今よりもちっちゃかった頃にね、お父さんが死んじゃってね……。子供心に、分かったの。平凡で普通の毎日って、『誰か一人いなくなるだけで壊れちゃう特別なもの』だったんだって」

 幸せな日々は幸せなまま、いつまでもずっと続いて行く。小さい頃の宮薙流々は、そんな事を思っていた。
だけど、実際には違った。大好きで優しくて、お母さんといるともっと大好きになれるお父さんが亡くなって、平凡な日々って言うのが、
実は、凄く絶妙なバランスの上で成立してた、一本の細い糸の上のヤジロベーみたいな物だったんだって分かっちゃった。
そして、何事にも終わりがある事も、その時理解した。そりゃそうだよね、だって年も取らない、死ぬ事もない人間なんて、いるわけないんだから。


549 : 歩くような速さで ◆zzpohGTsas :2022/07/23(土) 01:31:19 NS1aDBpw0
「あたし、何で聖杯戦争って奴に巻き込まれてるのかなぁって思う位には、普通の人間だよ。食べなきゃお腹空くし、暑いの嫌だし寒いのもダメ、特売の日なんて欠かさずチェックする位にはお金もないし……。んで、最終的にはまぁ、死ぬ事になるだろう。ふっつーの一般人よ」

「その日常を、変革しようと言う気は起きないのかい?」

「全然!! っていうか、変えるにしても聖杯使っててのはないでしょ」

 アハハ、と笑うあたし。

「これからあたし、高校に入るんだ。ド田舎でさ〜、高校の選択肢って近場のあそこしか実質ないんだよね〜。でも入試はあるから勉強しなくちゃならんくってさ。んで、高校に入ったら勉強して部活もやったりしてさ、んで大学入るかこのまま就職するかとかで悩んでみてさ……。どっちを選んでも色んな人と出会って、で、今までの人生の中で出会った人達の中の誰かと結婚もしちゃったりしてみてさ……。子供も産むのかなぁ」

 「そんでもって――」

「死ぬ」

 ああ、あたし今、どんな顔してんだろ。得意げで、悟った顔とかしてないよね? そんな気はないけども……ライダー君の顔は、きょとんとしたそれになっていた。

「ライダー君のいった通りさ、多分、何かを変えなくちゃいけない時とかもあると思う。引っ越しだったりだとか、転校だったりだとか、転職だったりとか、あまり考えたくないけど……うーん、離婚、とか?」

 あたしの頭じゃ、そんな事ぐらいしか思い浮かばんや。

「でもでも、そんな事の為に聖杯何て、使える訳ないじゃん? そんなん使うぐらいなら、普通に友達に相談したりして、なんとかなれーってやるもん」

 ふぅっ、と一息つく。遠い目を、あたしはしながら言葉を続けた。

「普通に生きる事ってさ、結構不安だし、大変なんだね。いて欲しい人に先立たれちゃったから、あたしには解る。支えてくれる人がいるから、あたしは立ってられるんだって」

 そう言って思い出すのは、錬の顔だった。お父さんが死んで、一人で泣いてた時も、そばにいて、励ましてくれたっけ。
昔から、ずっと大切な友達だった。昔は同じ背丈だったのに、今じゃあっちの方が伸びて来た。後、あたしにもマルノヤの商品券もくれたりして、優しくて。
多分だけど、あたしより早く、結婚するかもなぁアイツなら。誰と結婚するんだろう。

「あたしを助けてくれたりした人や、仲良くしてくれてる人に、申し訳ないじゃん。聖杯の為に人を殺すって」

「……」

「身長が伸びて行って、女の子らしい身体つきになって、親しくて仲が良い皆と一緒に歳を重ねて、大人になって……。そんで、誰かと結婚して、子供を産んで、小さい幸福を一緒に噛み締めて……。それで、皺くちゃのおばあちゃんになる」

「普通の、生き方だ」

「そう。だけど、あたし本人からすれば、特別な生き方。誰でも出来るようで、だけど、中々難しい生き方」

 だからね、ライダー君。

「ごめんね。そんなあたしだから、聖杯戦争何か正直滅茶苦茶に壊して欲しい。ライダー君の夢も、叶わないと思う。あたし、人を殺した後で、『失ってはじめて気づいた大切なもの……』だなんて、死んでもいや。失うまでもなく、大事なんだって知ってるから」

「凄い事言うね、君。サーヴァントがサーヴァントだったら、殺されてるぜ?」

「でも、許してくれる気がしたから、正直にいった。……ちょっと、優しさに甘えた感じがしなくもないかな」

 こんな小さな子供の善意に甘えるのも、凄いその……倒錯的って言うか、アレな話だけど。
話しやすいし、正直にぶっちゃけても、許してくれそうだって、思ったのは本当の事だった。本当、何年生きればこんなオーラが出せるんかなぁ。


550 : 歩くような速さで ◆zzpohGTsas :2022/07/23(土) 01:31:36 NS1aDBpw0
「……僕の、夢、か」

 そう呟いた後、ライダー君は、まるで、自嘲するような笑みを浮かべ始めた。

「僕にもね、聖杯の機能が本当にあるんだったら、叶えたい夢って奴が、あったんだよ」

 ライダー君の、夢……?
過程は最悪だけど、どんな願いでも叶えられる、どっかの漫画の中に出て来るようなアイテムなんだ。
そりゃ欲しがる人がいるのも当然だし、現にあたしだって、アスレチックコースを誰よりも早くクリアー!! とかで手に入れられるんだったらそりゃ欲しいもん。
サーヴァントとして選ばれる程の人物なのだ。叶えたい願い何てすっごい達成困難なものに違いないだろうし、聖杯でもなければ、叶えられない大それた奴なのかも知れない。

「知りたいな、ライダー君の夢って奴。絶対笑わないよ、あたしの夢なんて聞いたでしょ? ザ・一般市民って感じで、面白みもなんともなかったんだから。聖杯使って叶えたい願いなんだから、普通だったら、おっきく、でっかく!! だよね」

「フフッ……そいつはね……」

「……」

 ゴクリ。

「――――――――――――――――――――――――世界一周だよ」

「………………………………………………………………は?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言うライダー君とは対照的に、間抜け面そのものな表情を浮かべて固まるあたし。

「君は、僕の事を頭がよさそうって思ってるだろう? 実際その通りでね。5歳の頃には今でいう通信教育に似た制度を駆使して、当時の国内の最高学府に首席で入学して、1年後には博士号を取って。んで、その翌年には、史上前例のない、10歳にも満たない若さで、国の最先端技術の研究施設のコア研究員に抜擢……って感じなんだけど」

「ぶっとばしていい?(すごーい!!)」

「嘘でも良いから本音は隠した方がいいよ。それでねぇ、高い給料も貰っててね。ボーナスは確か、春夏秋冬全部のシーズンで支給されたよな。こんなに貰っても子供だったからさ、車を買っても運転出来ないし酒もタバコも勿論ダメだから、宇宙飛行士とかが使う高い椅子とか買ってたよ。当時の値段で2億円位だったかな」

「今ライダー君が食べた納豆、一粒1億円位の物なんだけど、払える?」

「ダイヤモンドで出来てるのかいその納豆は? 君が羨ましく思うのも当然な程のお金は、確かに貰ってたよ。そして、すぐに紙切れ以下の価値しかなくなった。僕らのしていた研究が元での、それは酷い事故のせいで、ね」

「……え?」

 途端に、話の方向性が、完全に変わってしまった為か。目をまん丸にし、ポカンと口を開けてしまう。

「君の生きていた時代に起きた事故で、最も近しい奴を上げるとするなら……フクシマ星辰体増殖炉……あぁ、この時代じゃまだ旧福島原発だったね。まだ原子力発電が最高効率の発電形式だったのを忘れてたよ。アレのメルトダウンの、数億倍は酷い事故だと思って良い」

 その事故については、あたしだって知ってる。
今日日、社会の教科書で当たりまえのように名前が出て来る、ここ10年以内に起きた中で……いや、今後何十年経とうとも風化する事はないだろう、一大事件。
それより酷くて、しかも、円の価値がなくなる位の大事故って、何……? 想像が、出来ない。何を、仕出かしてしまったんだろう。

「指が何本あろうが足りない人間が死んだよ。その倍以上の人間を、不幸にして来た。生き方を、激変させてしまった。世界の秩序もあり方も、滅茶苦茶だよ。凡そ、変わらなかった国何て一国としてなかった、影響を受けなかった人間なんて1人たりともあり得なかった」

「……それは、私に詳細を話して、スケールが私に想像出来る?」

「多分、難しいかな。それで、そんな事故を起こしてしまった責任から、僕も同志も、必死に元の世界に戻そうと、頑張るんだ。それ1個で1000億は下らない価格の研究機材何て全部役立たずの鉄くずで、事故以前に溜め置かれてた量子スーパーコンピューター数万台分の膨大な情報データはセルバンテスのドン・キホーテの100億分の1以下程の読む価値のないゴミになった。前例もない、道具もない、人もいない。何もかもが足りていない状態の中、手探りで、僕らはスタートしなくちゃならなかった」

 分からない。あたしは、ライダー君が何を話しているのかがてんで分かってない。
単語の一つ一つは、あたしにだって解るレベルのそれを使っていて、話してる内容だって破綻してないし、れっきとした日本語を喋っているにも関わらず。
この世界じゃない架空の世界の有様を、実際にあった・見て来たように話しているその様子。それなのに、あたしは、わかってしまう。ライダー君が、嘘を吐いていないってことを。


551 : 歩くような速さで ◆zzpohGTsas :2022/07/23(土) 01:32:09 NS1aDBpw0
「礼儀もなければ正義もない時代さ。殺されかけた事なんて百や二百何て数じゃ効かない、信じて側に置いていた側近が実は敵の送り込んだ暗殺者だった何て珍しくもなかった。ああ、遠距離から狙撃された事もあったっけ。敵対していた組織に拉致された事だって、あったよなぁ。本当に、思い起こせばロクな思い出がないや」

 まるで家族とアルバムでも一緒に見て、写真でも指さしながら。
ああ、こんな事もあったっけね、というみたいな事を口にするような声音で、ライダー君は、どうしてそうなったのか、あたしには想像も出来ない事を淡々と話している。
台本に箇条書きで書かれた事実でも、列挙していっている、そんな風な口ぶりでもあった。

「よく正気でいられたね、って顔をしているよ」

 微笑みを浮かべるライダー君。あたしはどうしたって、顔に出るタイプだ。彼からすれば、あたしが何を思っても、御見通しらしい。

「正気な訳はない。一番信頼していた部下からも裏切られたのをきっかけにさ、糸が、切れた。ぜーんぶ、嫌になったんだよ。何もかも投げ出して、着の身着のまま。路銀の一つも持たないで、家出したんだ。可愛らしいだろう?」

 ククッ、と忍び笑いを浮かべていたライダー君。
数秒程の沈黙の後だろうか。とても、穏やかな笑みを浮かべて、遠くを見るような目をして。夢見るような風に言葉を紡いで行く。

「いつ休憩をとって、いつ水分を補給して、どれだけの距離を歩いたのかな。名前すら気にも留めた事がなかったその村で、無垢な女の子に出会ったんだ」

「女の子……?」

「素直で、純粋で、イエスへの祈りを毎日欠かさず行う敬虔さも持った、地獄に咲く白百合みたいな娘だった。僕の話を、何でも信じてくれた。僕が歳を取らない事も、何をしても死なない事も、世界の破滅の引き金を引いた者の一人である事も。全て信じて、受け入れて、許してくれた」

「……好きだったの?」

 あたしは尋ねた。ライダー君が、誇るような口調でそんな事をいうんだから……微笑みを浮かべて、そう聞いてしまった。
ライダー君は、指を開いた状態で、両手の甲をこっちに見せて来た。シミ一つない、綺麗な肌。皮膚のハリときたら、本当に歳幼い子供のそれだった。

「指輪を用意しておけば良かったと、今でも時折後悔する位には、最愛の人だったよ」

 ああ……本当だ。ライダー君の両手の薬指には、愛を証明するものが、嵌められてなかった。

「僕の夢はね、世界一周なんだ。傍らには、勿論、愛する彼女と一緒さ」

 彼の話す事を、あたしは、頷きながら聞いて行く。

「キャリーバッグを引きながら、いろんな所を巡るんだ。御覧、あそこがビッグベンだ、ピサの斜塔だ、パルテノン宮殿だ、エッフェル塔だ、ノイシュヴァンシュタイン城だ、ハギア・ソフィアだ、タージマハルだ、ホワイトハウスだ、ポタラ宮だ、紫禁城だ、僕の生まれた国の姫路城だ」

 「ああでも――」

「自転車での旅ってのも捨て難い。キュリー夫人って知ってるかい? 放射線研究を最初に行った偉人さ。彼女は新婚旅行に、夫のピエールと一緒に、祝い金で買った自転車でフランスの田園都市を旅したんだよ。これも良い。一緒に自転車を漕いでさ、初夏の風を浴びながら、秋の涼しい風を一身に受けながら。夫婦で風と一体化して、笑顔でペダルを漕ぐのも最高だと思う」

 それを口にするライダー君は、本当に、楽しそうだった。あたしも思わず、笑顔になる程に。

「船旅もいいよなぁ。砕氷船に乗って北極や南極を眺めたかったし、ホエールウォッチング何かもアリだ。ヘレンは絶対に、喜んでくれた筈だよ。行く先々で写真を撮って、分厚いアルバムに時系列に挟んで、時折眺めて指さすんだ。ああ、此処で食べたパンは美味しかった、あの屋台の親父はまだケバブを焼いてるのかな、見知らぬ子供にダンスで勝負だ!! なんて言われたりもしたね、とかさ……」

 其処までいってからだった。ライダー君が、消え入りそうな程弱弱しい笑みを浮かべたのは。

「……そんな事をしてあげられたら、良かったんだけどね」

「……」

「狭い村の中で一緒に最期まで過ごしてね。新婚旅行に何処にも連れて行けなくてごめんって謝ると、困ったような笑みを浮かべて『一緒にいられれば私は嬉しい』って言ってくれるんだよ。僕は何年経っても子供のままなのに、彼女の背丈だけは大きくなるんだ。本当に、親と子位の見た目の差になっても、彼女は変わらぬ愛情を注いでくれて……。クルミみたいな皺くちゃのお婆ちゃんになっても、最初に出会った時のままの僕を見て、バケモノのように扱わないで、優しく接してくれる……」

 「ああ、全く――」

「実に……実に。僕には過ぎた、女(ひと)だった。僕が彼女にしてあげられた事なんて、何一つとしてなかったのに……彼女は僕に、生きる力と勇気を、惜しみなく与えてくれた」


552 : 歩くような速さで ◆zzpohGTsas :2022/07/23(土) 01:32:57 NS1aDBpw0
 そうか……あたしは、分かってしまった。
ライダー君は……いや、この子は……真面目なんだ。責任感が強いんだ。……物の止め方を、知らなかったんだ。
素敵な人だったんだろう。ライダー君が何百年生きたのかあたしは知らないけど、それ以降の人生をずっと、前を向いて歩いて行けるだけの力をくれた、強い女性だったんだろう。
与えてくれたものが大きすぎたから。誰よりも愛した女の人だったから。誓いを捨てる事なんて出来る筈がなく、投げ出す事なんて出来なくなって。
愛と責任、そして、信念で、雁字搦めにされて、歩き続ける事しか出来なくなった、何処にでもいる普通の子供。それこそが……ああ、きっと。

「マスター。君は言ったね。平凡で、素敵なヒトでありたいって」

「うん」

 沈黙。数秒程だったかな。ライダー君は、ややあって、こう言った。

「君が正しい」

 ――と。

「これから聖杯戦争が終わるまで、君の人生の中で最大の試練と、最悪の事態に見舞われるだろう。そして、何も知らないボンクラ共は、訳知り顔で君に対して説教する。『此処は戦場だ、覚悟がない奴は去れ』、『お前みたいな奴から死んでいく、喰われて行く』、『半端な奴には聖杯は獲れない』……みたいな事をね」

 今口にした人達を、心底から嘲るみたいな顔をして、言葉を続けた。

「無視していい。そう言う事を説教する奴はね、往々にして『平和な世界での居場所をなくした』負け犬なんだよ。君を心配して説教しているんじゃない。平和な世界と繋がりながら、それでも生きている君が羨ましいから、憎いから。そんな事を言うんだ」

「――」

「千年の時を経て、僕が得た結論だ。愛より、偉大なものはない。君には、それを、忘れないで欲しい」

「大丈夫だよ、ライダー君。伝わってる」

「――うん。なら、良し」

 満足そうに、首を縦に振って、ライダー君はあたしの方を見据えて来た。
偉そうな態度だなぁと思ったけど、今は何ていうか、こう、愛おしさすらあった。

「何かライダー君、凄くお説教がサマになってたね」

「昔取った杵柄さ。信じられないだろうけど、これでも昔は、一国の教皇も務めた事があったんだぜ?」

「きょ、教皇様!? あの、バチカンとかみたいな……?」

 ど、どうりで……立派な服を身に付けられている筈ですよ……。

「そんな所かな。と言っても、彼らほど立派でもなかったし、敬虔でもなかった。ハハ、誰も導く気もなかった、とんだ破戒僧だ。尊敬何てしなくて良い」

 肩を竦めてそう告げるライダー君。本当に、お人よしだなぁ。そんな事、いわない方が良いって、ほんとは解ってるだろうに。

「ライダー君」

「うん」

「道を踏み外さないで。短い間だけど、あたしが一緒にいてあげるから。……前を向いて歩こうね」

「……ああ、そうだね」

 口元を少し綻ばせて、ライダー君は言った。

「『皇(スメラギ)悠也』は……それだけは、得意なんだ。前を向いて、歩き続ける事だけは、いつだって一丁前さ。そこは、安心して良いよ。マスター」


.


553 : 歩くような速さで ◆zzpohGTsas :2022/07/23(土) 01:33:11 NS1aDBpw0
【クラス】

ライダー

【真名】

スメラギ@シルヴァリオ ラグナロク

【ステータス】

筋力D 耐久A++ 敏捷C 魔力A++ 幸運E+++ 宝具A+

【属性】

秩序・悪

【クラススキル】

対魔力:A
現代の魔術師ではライダーに傷を付けられない。2000年の時を生きたライダーは、その積み重ねた神秘の故に、高い対魔力適性を持つ。

騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。

【保有スキル】

神祖:A+
人の形をした恒星、悠久の時を経る輝ける綺羅星。地上を闊歩する、煌めく昴(すばる)。
その正体は、肉の身体を兼ね備えた自立活動型極晃現象とも言うべき超常生命体。
自己の根幹を担う魂とも呼ぶべき部分が三次元上に存在しておらず、物理的な破壊でこのスキルの保有者を破壊する事は著しく困難。
このスキルを保有する者は一切の例外なく、魔力を保有しないマスターであっても運用に問題がないレベルの凄まじい魔力燃費を誇る。
また、その性質上霊核が本体ではなく、『肉体を構成する魔力の一欠けら一欠けらが全て本体』であり、ライダーを構成する魔力の欠片が一つでも残っていた場合、
その魔力の欠片から完全な復活を果たす。頭蓋や心臓の破壊が勿論、細胞一つ残さぬよう木端微塵に消し飛ばしても、数秒で復活を遂げてしまう。
但し、マスターが死んでからライダーが大ダメージを負った場合、上述の再生は機能せず、最悪そのまま消滅するし、短時間の間に何度も何度も殺された場合も、魔力切れによって退場の危険性が内在している。

 このスキルの保有が確認されている四人は、千年の時を経た人型の怪物であり、その千年の間に、己の弱点を潰し続け、またその時間の間に強みをいくつも伸ばして来た怪物中の怪物。
その弱点とは精神的な達観面についても適用されており、具体的には、Aランクまでの精神攻撃を完全にシャットアウトする。
また、一見すると武器を携帯していないライダーは、その年数の間に拳法も達人級に鍛え上げており、具体的には、A++相当の中国拳法レベルに相当する格闘練度を披露出来る。
そして、神祖スキルを保有する者のもう一つの大きな特徴として、翠星晶鋼(アキシオン)と呼ばれる特殊な結晶の創造にある。
この結晶を保有する者は、全てのステータスが1ランクアップし、+の補正が1つ追加される強化を獲得出来るが、結晶は1分足らずで自壊する。
ライダー自身は、この翠星晶鋼の創造に極めて長けた神祖であり、かつ、サーヴァント化に際して、『使徒の創造が出来るのは彼だけ』になってしまった為、他の3人に比べて神祖ランクが高くなっている。

話術:B++
言論にて人を動かせる才。国政から詐略・口論まで幅広く有利な補正が与えられる。
元が凡俗な精神の持ち主であった者が、長い時を経て王に相応しい威風を獲得したと言う経緯から、弱者や凡人、一般的な考えの持ち主の心情を理解する事に、
特に長けていて、彼ら相手の場合だと話術の判定にボーナスが掛かる。

扇動:A
大衆・市民を導く言葉と身振り。個人に対して使用した場合には、ある種の精神攻撃として働く。
一国の教皇として君臨し続け、民草を支配し、誘導して来た手腕が反映されている。


554 : 歩くような速さで ◆zzpohGTsas :2022/07/23(土) 01:33:26 NS1aDBpw0
【宝具】

『国津平定・豊葦原千五百秋聖教皇国(Kunitsu Ashihara-Midgard)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜 最大補足:1〜
星辰体結晶化能力・分譲型。結晶化した星辰体である翠星晶鋼を元に己が力を分譲し、対象に爆発的な強化を齎すライダーの星辰光(アステリズム)。
神祖が例外なく愛用している只人を使徒に変える“洗礼”行為、その原型にして他者強化の頂点とも言うべき宝具。
己の肉体内部ではなく、体外に集束させた膨大な翠星晶鋼として物質化、エネルギー発生装置として誰にでも適合できるよう調整後、
対象に付属させると言う工程によってこの宝具は成立する。ライダーは生前、この宝具をベースとして眷属化、即ち洗礼の権能をマニュアル化。
他の神祖にも扱えるようにし、カンタベリー聖教皇国を管理するための組織形成に大いに貢献を果たした。

他の神祖サーヴァントも翠星晶鋼の創造は可能だが、ライダーの宝具を通して生み出された翠星晶鋼は例外となる。
神祖スキルにて説明した、自壊のデメリットが完全に消滅するだけでなく、この宝具によって作られた翠星晶鋼を装備させる・持たせる事で、
全てのステータスが2ランクアップし、+の補正が2つ追加される状態となる。また、ライダーによって使徒の創造が体系化されたと言う逸話から、
『ライダーだけが使徒の創造を可能とする唯一の神祖サーヴァント』となっており、これによって、任意の人物を使徒として改造する事が出来る。
使徒に改造された人物は上述のステータスアップの恩恵を受け、燃費の改善、更に、ライダーと全く同じレベルの再生能力を宿すなどの、デメリット皆無の強化の恩恵を与れる。
他者の強化と言う点に於いては、比肩するべき対象が見当たらないレベルの、最上位の宝具であるが、弱点が存在する。
生前に比べ、無軌道に何人も何人も強化できる訳ではなく、何人も使徒に出来る訳ではない。特に使徒化については、最高クラスの燃費の良さのライダーを以てしてすら、
無視出来ぬ程の魔力の消費を負うらしく、現状の状態では2人程度が関の山、と言う程にまで弱体化している。また、この宝具を利用して、ライダー自身を強化する事も不可能である。

『第五次世界大戦用星辰兵器・天之闇戸(High-Astral Generator,Amenokurato)』
ランク:A 種別:対人・対軍・対城・対国・対環境改竄宝具 レンジ:1〜 最大補足:1〜
眷星神・天之闇戸(アメノクラト)。人造惑星と呼ばれる人型兵器、その原点にして戦争兵器の完成形。
直接的な戦争に特化してチューニングされた完全なるコンバットモデルであり、世界の歴史を激変させる大事件さえ起きていなければ、この兵器が世界の戦場を席巻する筈だった。
ライダーが上述の宝具を、当該宝具に纏わせる事が起動の条件となり、これを同時に複数オペレーションし、類稀な連携を以て相手を追い詰めるのがライダーの基本戦術。
このアメノクラトと呼ばれる宝具が持つ能力は、『事象改竄』。搭載された超高度・超高速演算を可能とした電子頭脳によって、
任意の環境を改竄してしまい、特殊な現象を引き起こすと言うもの。火焔や水流、突風に落雷の発生は言うに及ばず、酸素濃度の調整による窒息死、
細菌兵器の創造による複数人の抹殺なども可能となっている。また、アメノクラトの数が複数体揃っているなら、小規模の水爆現象すらも引き起こす事が可能。
更に、物理法則に縛られない世界の場合、この事象改竄の規模は更に跳ね上がり、ブラックホールの創造や海溝に引きずり込む、大陸間プレートで圧殺させてしまう、
等の抜級の現象すらも引き起こしてしまえる。ライダー自身の魔力がある限り無限に創造が出来るが、言うまでもなく創造には魔力を消費する上、複数体操作すると言う事は、その分だけ翠星晶鋼を創造しなければならないという事でもあり、ボディブローのように魔力の消費が効いてくる。

【weapon】

【人物背景】

千年の時を歩み続ける神祖の一柱、天津の秩序を万民に敷く大国主。
一度は神としての地位を辞するも、少女の無垢なる愛を知り、その愛に報いる為にと、再び神の座に返り咲き、歩み続け――。
その果てに、神殺しの牙を打ち立てられ、少女が自分に求めていた事、そして、その求めを今まで気丈に無視していた事を突き付けられ、少年は、天に召された。


555 : 歩くような速さで ◆zzpohGTsas :2022/07/23(土) 01:39:10 NS1aDBpw0
【サーヴァントとしての願い】

英霊の座から、スメラギと言う名前も存在も完全に抹消し、『人として死に、罪を償い、ヘレンの下に逝く』

皮肉なことに、神祖の中では総代聖騎士・グレンファルトに並んで対外的に特に目立っていたポジションだった事。
そして、そのカリスマ性も絶大であった事から、カンタベリーは勿論諸外国からも広くスメラギの存在は認知されてしまっていた為、
結果、ヘレンの下へと逝く事無く、英霊の座でコキ使われると言う最悪の結果になってしまった。勿論本人は納得がいっていないので、全力でこの現状を何とかしようとしている。
……ただ、マスターである宮薙流々の言葉が、余りにも身を詰まらされるそれであった為か、今回は、彼女の願いの方を、優先して上げたいと思っている。



【マスター】

宮薙流々@破壊神マグちゃん

【マスターとしての願い】

誰も殺さずして元の世界に戻る

【能力・技能】

【人物背景】

破壊神の信徒、その第一号。
恐るべき破壊神によって、孤独を壊され、日々を楽しく過ごしている

【人間関係】

流々ちゃん→スメラギ:
召喚してしまったライダーくん。説教臭いし何処か上から目線な様子は、ミュッさまを思い出す。悪い子じゃないと思う

スメラギ→流々:
マスター。スメラギ、ひいては神祖の面々からすれば、極々普通の、それこそ、父親に先立たれたと言う境遇までもが何処にでもいる月並みの悲劇でしかない、取るに足らない普通の人間。だからこそ、それを乗り越え、それでも普通に生きて行く、と言う彼女の決意を、スメラギは無視出来なかった。

スメラギ→グレンファルト:
グレンファルト「また一緒に神天地目指さないか?」
スメラギ「😁🖕」
嘗ての同僚。もうそっとしておいてほしい。後お前、大事なことを隠し事する悪癖はマジで直せ

スメラギ→イザナ:
嘗ての同僚。今でこそ言うが一番苦手だった。それは、産まれて来る命を大切にしなかった姿勢もそうであるが、単純に彼女の性癖の故だった。神祖当初は禁断症状が全然克服出来てなかったから、凄いよこしまな目線を送って来られたのが最大の原因。「ああ……だから大破壊前には、御先さん達は僕をイザナから遠ざけてたんだな……」

スメラギ→オウカ:
嘗ての同僚。真の意味で一番、神祖と言う存在に対して余人が抱くイメージそのものだったと思う。恐らくだが、四人の中で最も強固な精神の持ち主だったとスメラギは回顧する」

スメラギ→ルーファス:
嘗て『洗礼』を施した使徒の一人。洗礼なんて断って、小市民として生きていればよかったのになぁ……


556 : 歩くような速さで ◆zzpohGTsas :2022/07/23(土) 01:39:42 NS1aDBpw0
投下を終了します


557 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/24(日) 16:13:22 kC6.NZ6M0
狼に飴玉
聖杯戦争に参戦することになってしまったカドック、鯖に振り回されている姿がこの上なく似合う男…。
それはさておきその彼とランサー・アクアの会話がそれぞれのキャラクターが大変活き活きしていて読んでいて楽しかった印象です。
アナスタシアとの離別を経て気高く飢えるカドックを獣と称する科白も彼の歩みを知っていると重い。

双紅
英霊の恐ろしさと凄まじさを克明に描き出した戦闘描写が素晴らしい。
同じ藤原のルーツを持つ二人がこういう形で邂逅した事には因果の存在を感じますね。
剣呑ながらも何処と無くドライな二人のやり取りがこの主従の格の高さにそのまま繋がっている気がしました。

月下美人
妹紅が投下されたら当然こっちも来るよなとばかりの連続投下で笑わせていただきましたが…
それぞれ同じ作品(シリーズ)を出典元としながら上の主従とはガラリと趣が変わっているのが面白いです。
とはいえこの絶妙なゆるさとは裏腹に頭抜けた力を持っているのが輝夜の凄い所なのですが。

地獄の沙汰も金次第
金という概念に主眼を置く主従の恐ろしいあり方が不足なく描かれていたなと思います。
世界線を超えて結び付いたエモーションなど一切ない打算と金銭の関係性はもはや異質。
そしてそんな彼らがあるがままに振る舞う姿は、まさに傍若無人の一言に尽きますね。

歩くような速さで
本編で神殺しに滅ぼされた彼、スメラギのアフターとして解像度も完成度もあまりに高すぎる一作。
あくまでも只人として生きることを尊ぶ流々ちゃんを全肯定するスメラギが原作を知っている身としては頷くしかない優しさで好きですね。
永遠の呪縛から解放された神祖の慈しみが優しく描き上げられていた、そんな作品だったと思います。

皆様素敵な作品の投下をありがとうございました。


558 : ◆As6lpa2ikE :2022/07/25(月) 12:54:08 PmROLUjY0
投下します


559 : Ouroboroses ◆As6lpa2ikE :2022/07/25(月) 12:54:59 PmROLUjY0
「はははっ!
「やった! 勝ったぞ!
「よくやったセイヴァー!
「サーヴァント戦なんて初めてだから、どんなものかと思っていたが案外、呆気なかったな。
「相手が戦いの才能がないサーヴァントだったからか? はははっ。
「これで俺はまた一歩、聖杯に近づけたというわけだ。
「さてと……あとはサーヴァントを失ったマスターから令呪を奪って、適当に処理するだけ……あれ!?
「いない! 
「見失った!
「……なんだセイヴァー。
「「マスターの処理はお前の仕事だった」? 
「「お前がグズグズしているから逃げられた」? 
「……ッ! 
「このっ!
「サーヴァントのくせに、俺をナメるなよ!!
「もういい! 俺がなんとかする!
「ともあれ、まずい……まずいぞ。
「サーヴァントを失ったとは言え、あの女は俺の正体を知っている。
「厄介なことになる前に、消さなくては」




560 : Ouroboroses ◆As6lpa2ikE :2022/07/25(月) 12:55:59 PmROLUjY0
男が身分の証明に警察手帳を差し出してきた時、少年は怪しいと思った。
その理由は男が名乗った、自らの所属にある。
警察庁警備局公安課特殊事例三班──聞いたことのない組織だ。
男の見た目は七三分けに眼鏡、そしてスーツに手袋と清潔感のある格好だ。
見たところ、警察手帳にも怪しいところはない。
しかし、胡散臭い所属を名乗られては警戒せざるを得ない。
下校途中の学生に警察関係者を名乗って、詐欺に引っかけようとでもしているのか?
そんな少年の猜疑心を見透かすように、男は言った。

「三班は国益に関わる組織にスパイ活動をする部署ですからね。一般人の君が知らないのも無理はありません」

「……、そっすか」

刑事ドラマみたいな設定だ。
なんだかますます怪しい。
不信感を募らせた少年は、すぐに逃げられるよう、周囲の地形をさりげなく確認した。

「…………」公安を名乗る男は少年の通学鞄に視線を向けた。二頭身くらいにデフォルメされた漫画キャラのキーホルダーが吊るされている。「その漫画……最近人気ですよね。知り合いの編集者がよく自慢してましたよ」

「公安なのに出版社に知り合いがいるんですか」

「むかしスパイ活動をしていた時に知り合ったんですよ。出版業界がどれだけ国益に影響を及ぼしているかなんて、一般人の君でも想像できるでしょう?」

「はあ」

「よければ今度、知り合いに頼んで、その作品の非売品グッズを貰ってきましょうか?」

「ホ……ホントですか!?」

「勿論。お近づきの印として、このくらいのことはやらせてください」

男はグッと親指を突き立てた。その姿は実に頼もしかった。
途端に場の空気は和む。
逃走経路を探していた少年の足は、すっかりその場に縫い留められていた。
たった数度の会話で他者が抱いた不信感を拭い去るその手腕。
卓越した人心掌握能力である。

「本題に入ろうか」

少年の気が緩んだタイミングを見計らったかのように、男は言った。

「一昨日の晩から消息を絶っている君の友人について、ちょっと話がしたくてね。声を掛けさせてもらったんですよ」

「……!」

 瞬間、体が強張る。

「どうして、公安のあなたが彼女を……」

「私は今、ある組織について調査中でしてね。扱い方次第では国益が大きく損なわれかねない、重大な案件だ。私がスパイだとバレたら、潜入先から抹殺されかねないほどの危険度さ。危ない橋を幾つか渡りながらも、調査は順調に進んでいたんだが──そこで予期せぬトラブルが起きました」

「トラブル?」

「一昨日の夜、組織の取引の現場に、一般人であるはずの彼女が偶然居合わせてしまったんですよ」

「え!?」

「人払いは十分に行っていたはずなんだが……不運な事故だった、としか言い様がありません」

男は嘆くように、片手で顔を覆った。

「当然、組織の連中は容赦なく彼女を消そうとしましたが、私が咄嗟に妨害して、最悪の事態だけは避けられました──そのまま公安の名の元に彼女を保護しようとしたんですが、事情もよく知らないままに襲われて、誰が敵で誰が味方かも分からなかったのでしょうね。話し合う暇もないまま、一目散に逃げられました。今も見つからないので、どこかに隠れているのかもしれません」

「…………」

少年は通学鞄に入れているスマートフォンを意識した。
彼女の行方が分からなくなってから、それを使って何度も連絡を試みているが、返事が来た試しはない。
どころか、メッセージアプリに既読の通知が付くことすらなかった。
そんな明らかに尋常ではない様子から、彼女が何か事件に巻き込まれたのではないかと不安に思っていたが──実際は予想以上だった。

「友人である君にも、組織の魔手は伸びるかもしれない。それに彼女のことを深く知っている君なら、私よりもっと上手く彼女を見つけられるでしょう。だから──私と共に行動してくれませんか?」

「……事情は分かりました」

元より、少年だって彼女を探すつもりだったのだ。
公安の助けが借りれるなら、協力しない手はない。
それから少年と男は、ふたりで彼女を捜索した。
「これだ」と思った場所を探しても不発に終わることが殆どだったが、それでも同じ目標を持つ仲間と行動を共にしているというのは、実に心強かった。
ひとりで探していたら、かなり早い段階で心が折れていたかもしれない。


561 : Ouroboroses ◆As6lpa2ikE :2022/07/25(月) 12:57:41 PmROLUjY0
そして、調査を進めていったある日──ついに、彼女の痕跡を見つけることができた。
都内某区の駐車場。そこに長い間放置されているワンボックスカーでのことだった。

「ここを去ってからそう時間が経ってないようですね……まだ付近にいるのかもしれません」公安の男は車内を検分しながら考察を口にし、顎に手を添えた。「……放っておくと、先に組織の連中に見つかってしまうかも」

「そんな……! すぐ追わなきゃ! 二手に分かれましょう!」

「ええ。もし彼女を見付けたら、まずは私を呼んでくださいね」

公安の男とは逆方向に走りながら、少年は周囲に血走った眼を向けた。
僅かな見落としも許さないとばかりに、全力で観察する。
いる。
近くに、彼女がいるんだ。
見つけないと。
はやる心。
鼓動がいつもよりうるさくなる。
まだ走り始めたばかりなのに、呼吸がもう荒くなっていた。
少年は走って──走って、走って、走って。
街中を必死で走り回って。
自分でも気づかない内に、いつのまにか公安の男が向かったのと同じ方向へと足を進めてしまっていた。
少年がそのことを自覚したのは、覗き込んだ裏路地に男の後ろ姿が見えた時のことだった。
少年は慌てて自分の捜索エリアに引き返そうとしたが、彼の足は唐突に止まることになる。

「…………え」

「おっと、見つかってしまったか」

裏路地に立つ男の両腕は、肘から先が大振りの刃物へと変じていた。
人間の生物学的構造を無視して生えた、明らかな異形である。
しかし少年の視線は、男の両腕ではなく、彼の足元へと吸い寄せられていた。
そこには。
ずっと探していた彼女が散らばっていた。
寝ている、でも、転がっている、でも、倒れている、でもない。
散らばっている。
ひとりの人間の体が、バラバラに。
四肢は切り離され、胴体は真ん中あたりで横一文字に分断されていた。
腹の断面からはいくつもの内臓が飛び出している。
四方八方に散らばったパーツの一部である見慣れた眼球が、少年の方を向いていなかったら、それが元々彼女だったことに気付かなかったかもしれない。
徹底的に破壊された──どう見ても蘇生不可能な死体だった。

「うわあああああああああああああああっ!」

「……どうやら、先の戦闘までに令呪を全て使い切っていたようだな。つくづくマスターの才能がない女だ」

大振りの刃がコモコモと形を変え、数秒としない内に元の両手に戻った。
だが、その五指にべっとりと付着した血は、今しがた彼がその両腕でもって人間を殺害したことを雄弁に物語っていた。

「そんな……あなたにとって彼女は保護対象だったはずじゃ……」

「保護対象? ……ああ、そんなことも言ったね、うん」

男はにっこりと、まるで今まであった詰め物が綺麗さっぱり抜けたかのような爽快感すらある笑顔で言った。

「俺が公安ってこと以外は、ぜーんぶ嘘だよ♡」

「…………!」

少年は息を呑んだ。
今まで築かれてきた男への信頼が、音を立てて崩壊していく。

「ど、どうして人殺しなんて……あんたに彼女を殺さなきゃいけない理由なんて……」

「この子に恨みなんてないんだけどさー。ま、私の正体を知られたからには殺すしかないよね。できることなら令呪も奪っておきたかったし。それに『マスター』を殺していけば、『聖杯』が手に入るらしいから──なんでも願いが叶うなら、俺は人だって殺すよ」

少年には、男の言っている意味が分からない。
マスター? 聖杯? なんだそれは。
そもそもどうして、人間の腕が大振りの刃物に変わっている?
……ただひとつ、たしかに分かることがあるとすれば。
少年が信じていた男の正体は、吐き気を催すクソ野郎だったということだ。


562 : Ouroboroses ◆As6lpa2ikE :2022/07/25(月) 12:58:09 PmROLUjY0
「……、俺のことも殺すのか?」

「え?」

男は眼鏡の奥にある目を丸めて、意外そうな顔を作った。

「殺す? 君を? 私が? ……ははっ。ひどいなー。人を快楽殺人鬼みたいに言わないでくれよ。令呪も持っていない一般人(NPC)を殺したところで、私に何の得がある? そもそも殺すつもりだったら、『脳力』を解除していないよ」

彼の顔に浮かぶのはへらへらとした軽薄な笑みだ。
人ひとりを殺したばかりだというのに、どうしてそんな顔ができる?
ひょっとして、彼にとって人殺しは日常茶飯事だとでも言うのか?
そんなことを考えて、少年は背筋に冷たいものを感じた。
まるで蛇が肌の上を這いずるような、悪寒。

「それに、仲のいい学生ふたりがまとめて死んでたら、他の参加者から疑われそうだしね──君には全てを忘れて、日常に帰ってもらうよ」

否──『まるで』ではない。
事実、少年の背後には『蛇』が這い寄っていた。

「アディオス」

「待て、前園! ──『前園甲士』!」

少年は、こちらに背を向けて去ろうとする男に向かって、かつて見せられた警察手帳に載っていた彼の名を叫ぶ。

「俺はお前を絶対に許さ──」

少年の意識は──『記憶』は、そこで途切れた。




563 : Ouroboroses ◆As6lpa2ikE :2022/07/25(月) 12:58:38 PmROLUjY0
意識を失って倒れている少年。
その頭部から奇妙な輝きが飛び出している。
その正体は、音楽や映像作品がサブスク全盛になった現在、目にする機会がすっかり減った円盤型のプラスチック──DISCだ。
まるで少年の頭がCDプレイヤーやDVDプレイヤーになったかのように、後頭部からDISCが飛び出しているのである。

ウジュ
               ウジュ

ウジュ
               ウジュ

「…………」

湿地を歩く爬虫類が立てるような音と共に、影が現れた。
それはおおむね人の形をしていたが、顔の上半分をすっぽりと隠している覆面や、全身に刻まれた塩基配列の文字は、見る者に怪人じみた印象を覚えさせるだろう。
影は屈み、少年の頭からDISCを回収した。
その様子を見て、公安の男は──前園甲士は、「はあ」と溜息をつく。

「……いいかげん姿を見せたらどうだ。セイヴァー」

この怪人こそ、前園が従えるサーヴァント・セイヴァー──ではない。
これはあくまで、セイヴァーの宝具(スタンド)──ホワイトスネイクだ。
マスターである前園の視界を通しても、サーヴァントの証明であるステータスが見えない。救世主(セイヴァー)という大層なクラス名も、あくまで怪人の自己申告によるものだ。
この『異界東京都』に呼び出されて以来、前園はセイヴァーとの会話を彼(彼女?)のスタンド越しにしか行っていなかった。

「ソノ提案ニ乗ッテ、私ニ何ノ得ガアル?」

ホワイトスネイクはDISCを懐に仕舞いながら、淡々とした声で言った。

「別ニ、姿ヲ見セナクテモ、コウシテ会話ガデキテイルジャアナイカ。寧ロ、下手ニ姿ヲ晒シタ結果、他人ニ君ノ口カラ私ノ真名二繋ガル情報ガ露見スルヨウナ事態ハ避ケルベキダ──君ハチョット、ボンヤリシテイル所ガアルカラネ」

「お前に言われたくない!」

自身の天然を指摘され、前園は青筋を立てて叫んだ。



裏路地から僅かに離れた場所に、その男は立っていた。
聖職者の証である黒衣。褐色の肌。遠い外国の顔立ち。
男の名はエンリコ・プッチ。
彼はホワイトスネイクの本体であり。
そして、前園甲士の元に召喚された、セイヴァーのサーヴァントである。

「マスターがあんな三下の悪党だと知った時は何かの間違いじゃないかと嘆いたものだが──」

セイヴァーは右手に持つ『何か』に意識を向ける。
それは小さな、チョークよりもやや太い白い棒にしか見えない。
しかし、生物学的な見地を持つ者がそれを見れば、『人体の骨』だと一目でわかるだろう。
セイヴァーはそれを何よりも大事
なもののように握りしめた。

「私たちが主従として引かれあった以上、ここにもまた『運命』があるのだろう。ならば精々、私を天国に押し上げる為に力を尽くしてくれ、マスター」

前園甲士とセイヴァー。
性格が真逆の彼らの相性は最悪かもしれない。
だが。
時代(アイオーン)を進め。
時代(アイオーン)を終わらせ。
そして時代(アイオーン)を一巡させる蛇どもが。
こうして聖杯戦争で引かれ合うのは──必然の『運命』なのかもしれなかった。


564 : Ouroboroses ◆As6lpa2ikE :2022/07/25(月) 12:59:13 PmROLUjY0
【クラス】
セイヴァー

【真名】
エンリコ・プッチ@ジョジョの奇妙な冒険 第6部 ストーンオーシャン

【属性】
渾沌・善・人

【ステータス】
筋力E 耐久B 敏捷E 魔力B 幸運A+ 宝具C

【クラススキル】
カリスマ:E+
軍勢を指揮する天性の才能。
セイヴァーを名乗っているにしてはランクが低い。神父という立場上、信心深い者に対してはランクが上昇する。

対英雄:C
英雄を相手にした際、そのステータスをダウンさせる。
 ランクCの場合、相手のステータスをすべて1ランク下のものに変換する。
このスキルは第一宝具にも付与される。

【保有スキル】
信仰の加護:A++
一つの宗教観に殉じた者のみが持つスキル。
加護とはいうが、最高存在からの恩恵はない。あるのは信心から生まれる、自己の精神・肉体の絶対性のみである。
……高すぎると人格に異変をきたす。

天国への階段:EX
『自己改造』を含む特殊スキル。
セイヴァーは天国へと到達し、全人類に『幸福』を齎そうとした救世主である。
彼は天国への行き方を知っている。
本聖杯戦争において、このスキルの所有者は特定の工程あるいは膨大な魔力の補給を経ることで、霊基の再臨が実現される。

単独顕現:E
単独で現世に現れるスキル。
単独行動のウルトラ上位版。
このスキルは“既にどの時空にも存在する”在り方を示しているため、時間旅行を用いたタイムパラドクス等の攻撃を無効にするばかりか、あらゆる即死系攻撃をキャンセルする。
このスキルを持つものは特異点による人理焼却も、█████による人理編纂にも影響を受けず、条件が揃いさえすれば顕現する。
プッチは一巡した世界の中心にいた人物であり、それ故に全ての時代で存在が証明されている。
████として幼体である現時点、このスキルのランクはEとなる。

ネガ・スター:-
夜空に輝く星の如き精神性を得る可能性がありながら、泥のようなドス黒い邪悪に染まり、ついには星の一族を滅ぼした者。
『星』属性のサーヴァントとの戦闘時に特攻特防効果が発動し、相手の攻撃のクリティカル率は低下するが、プッチの攻撃のクリティカル率は上昇する。さらに自身の幸運ステータスにふられるプラス値がふたつ増加する。『主人公』に対して徹底的に有利を得る能力。
█████としてはまだ幼体の段階である現時点だと、このスキルは著しく弱体化しており、上記の『対英雄』スキルに吸収されている。

【宝具】
『白蛇(ホワイトスネイク)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:20 最大捕捉:1

セイヴァーのスタンド。
スタンドとは本体の精神がビジョン化したものであり、一体につきひとつ能力を持つ。
見た目は全身に塩基配列が刻まれた、覆面の怪人。
【筋力C 耐久B 敏捷D】の肉体ステータスと【気配遮断:B】を保有する。
相手の記憶と能力をDISCにして抜き取る能力がある。抜き取ったDISCは物理的な破壊が不可能。
また、命令や記憶を書き込んだDISCを対象に挿入することで、操る事ができる。


『天の賜物、そして時は加速する(メイド・イン・ヘブン)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:∞ 最大捕捉:∞

第二宝具。
この霊基のプッチは、この宝具を発動できない。
代わりに彼は、親友DIOの骨を保有している。

【weapon】
スタンド『ホワイトスネイク』

【人物背景】
州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所の教誨師を務めていた神父。
亡き親友DIOの意志を継ぎ、彼が目指していた天国へと到達すべく、ジョースター家の最大の敵として立ちはだかる。
動揺すると素数を数えて落ち着こうとする癖がある。

【サーヴァントとしての願い】
もう一度天国に到達し、全人類を『幸福』にする。


565 : Ouroboroses ◆As6lpa2ikE :2022/07/25(月) 12:59:35 PmROLUjY0
【マスター】
前園甲士@ナノハザード

【能力・技能】
・ナノホスト
医療用のナノロボに寄生され、常人離れした再生能力を獲得した超越者。
ナノホストはナノロボが寄生した脳の部位に応じて特殊な脳力が発言する。前園の場合、それは『刃』。彼が従属していたナノホストの女王の元カレと同じ脳力であり、両腕を大振りの刃へと変化させる。

・公安
『異界東京都』に来る前に彼が所属していた組織であり、『異界東京都』内で彼に与えられたロール。
日本の調査機関の頂点に君臨するこの組織には、『異界東京都』内で起きた様々な事件に関する情報が入り込むため、情報戦において前園は、他参加者より幾分か優位な立場にあると言えるだろう。

【weapon】
・ドライバー型ナノロボ回収容器
見た目は新品のドライバー。
耳から脳に突き刺すことで、ナノホストの脳内にあるナノロボの『核』が回収できる。
『異界東京都』に呼ばれる前に若返りのナノホスト・今之川権三に対して使用済。

・ラバー銃
ゴム弾を発射する、テロリスト制圧用のラバー銃。一度付着したゴムは弾力と粘着力がありすぎる為、ダイヤモンド並の硬度を指先で粉砕できる程度の力では破壊不能。
前園は公安課に所属しているものの、警察官や刑事ではないため、拳銃携帯許可がおりていないが、このラバー銃は特別に携帯許可がおりている。

【人物背景】
警察庁警備局公安課特殊事例三班に所属し、国益に関わる企業に潜り込んでは調査をしているスパイ。
ちょっとぼんやりしている部分があるものの、やる時はやるやつだと思われていたが、実はその正体は、公安のスパイ活動でナノロボ研究所に潜り込んでいる最中に、某国からの依頼でナノロボを盗んだ売国奴。30億で国をも裏切った男。加えて、主人公・円城周兎の父親を六年前に殺した犯人でもあったことが発覚。作中終盤では円城との決戦の末、地球全土に特殊なナノロボが拡散し、人類を滅亡させる『ナノハザード』が起きる一因にもなった。
原作において『全ての元凶』といえる存在をひとり探すなら、あらゆる意味でこの男になるだろう。

女王配下のナノホスト化〜円城との決戦までの間の時系列からの参戦。

【マスターとしての願い】
30億の金なんて目じゃない聖杯の力を使って、残りの人生を楽しく暮らす

.


566 : Ouroboroses ◆As6lpa2ikE :2022/07/25(月) 12:59:56 PmROLUjY0
投下終了です


567 : ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/27(水) 01:31:57 KxomUp7I0
投下します


568 : 三香織&ランサー ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/27(水) 01:33:06 KxomUp7I0
「どうした?これで終わりか?」

「くっ…」

強い。肩で息をしながら騎士の如きセイバーは目の前の獅子の如き獣人のランサーをそう評していた。
使い魔らしき異形の魔物を多数引き連れた獣人のランサーに対し、セイバーと少女のマスターは数の利を生かせぬよう狭い路地裏へと逃げこみ使い魔を各個撃破していたがランサーが単騎で迫ると状況は一変、終始圧倒されるばかりであった。
多数の使い魔を操りながらキャスタークラスやライダークラスではなく、ランサークラスとして召喚されている本質をその大鎌を振るう手腕に感じる。個の武芸がそのまま配下の数に繋がる神代やより神秘の色濃い空想の世界の生まれだろうか。

ランサーがその剛腕で狭い路地裏をものともせず壁を切り裂き振るう大鎌をなんとか避けると、セイバーは背後の少女、己のマスターへ目くばせをした。

正面勝負では不利だが、逃げれば今度はこのランサーに加え多勢の使い魔に囲まれる危険がある。
ならば、イチかバチかこの場で令呪を切り己の宝具と合わせてのランサー打倒に賭ける。それがマスターと出した結論だった。
息を整え、セイバーは己の剣を構える。ランサーはそれを見てなお堂々と構え、相手を見下すような笑みを浮かべていた。

「行くぞ!ランサー!」

「来い、人間風情が。」

同時に、セイバーの背後で少女が令呪を切る。
セイバーは静かに、ただ目の前のランサーに己の最大の一撃を加える事だけを考えていた。

《令呪を持って命ずる。セイバー…》

命令が途切れる、セイバーの体がふっと体が軽くなった。
魔力供給が途絶えたことによる軽い虚脱状態だ。
後ろを振り返ると、己のマスターが腹部から生えた虹に貫かれ、息絶えていた。
その背後でにやにやと笑う、虹を背負ったメルヘンな少女がセイバーの目に入る。
マスターの見たアニメで言う“魔法少女”だったか。それがセイバーの最後の思考だった。


569 : 三香織&ランサー ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/27(水) 01:33:47 KxomUp7I0
虹を背負った魔法少女、レイン・ポゥは倒れた少女の姿が変わらないのを見て残心を怠らず、そういえば目の前の相手は魔法少女ではなく普通の人間だったことを思い出して残心を解いた。

聖杯戦争、それ自体は耳慣れぬ言葉だったが似たような形式の戦いは耳にタコができるくらい聞いた。
クラムベリーの試験。イカれた魔法少女が起こした試験と称したイカれた殺し合いだ。
過程は碌に知らないが、結果は知っている。新人魔法少女に対してベテラン魔法少女クラムベリーが死ぬまで数え切れないほどの殺し合いが起こることになり、更にイカれた魔法少女がクラムベリーの子どもたちをかき集めた所、中でもクラムベリーの信仰者となって活動していたベテラン魔法少女が大多数を殺害した。
レイン・ポゥも相棒トコとともに即興魔法少女たちを作り捜査班とぶつかったことがあるから分かるが、戦いに慣れたものと慣れていないものの間には明確な差がある。自分も殺しの世界に身を置いて長い、勝ち残ることは不可能ではないはずだ。

「おい、女。なんのつもりだ?」

レイン・ポゥが足元の死体から顔を上げると、己のサーヴァントであるランサーの顔が目に入った。
その顔は怒りと侮蔑に満ちている。レイン・ポゥは隠すことなくため息をついた。
まずはこのサーヴァントとのやり取りを切り抜けなければならない。

「なんのつもりって…マスター殺っただけだけど?今までもアンタの魔物借りてこんなのやってきたでしょ。」

「貴様が勝手に動くもオレの部下を動かすも許してやったが、オレの戦場に茶々を入れるまで許した覚えはない。
オレはあの程度の人間に後れを取らん。余計な手出しをするな。」

また始まったよコイツ。レイン・ポゥはそう思った。
自分のランサー・獣王グノンは強い。魔力の問題があるとはいえ最大で十万もの魔物の軍勢を召喚する宝具は魔法少女の中では見たことが無いし、その上でランサー本体も魔王の一角として十分な戦闘能力を持っている。頭も切れるし普通に残虐だ。
しかし、性格が偏屈すぎる。どこに怒りのツボがあるのかわかりはしない。
コイツがキレるのは勝手だが、つけあがらせると一生調子に乗るタイプだろう。舐められるわけにはいかない。レイン・ポゥはわざと苛立ちを隠すことなくぶつけた。


570 : 三香織&ランサー ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/27(水) 01:34:36 KxomUp7I0
「別にランサーが負けるとは思って無かったけど?むしろ余裕勝ち間違いないからちゃっちゃと終わりにしてやろうと思っただけ。なんか文句あるの?」

「勝ちに遅いも早いもあるか、人間の手出しなんぞいらん。」

「そうは言うけどさ、聖杯戦争に参加してる奴らって全員二人組なわけじゃん。こっちも二人で襲った方が公平な戦いじゃない?」

「公平なんぞ知るか、オレの戦場だ。」

テメーの言い分の方が知るかなんだよ。
レイン・ポゥはその言葉を軽く呑み込み、両手を上げた。

「わかったわかった。これからはランサーが戦ってたら殺っていいか聞いてから殺るって。それでいいでしょ?」

レイン・ポゥとしては即応性が落ちるしランサーの反応でバレかねないリスクを伴う余りやりたくはない提案だったが、コイツ相手にはいくらか譲歩せねば話が終わらない。
ランサーはそれを聞くとふっと鼻を鳴らして嘲るように笑った。

「女、貴様は戦いにこだわりはないのか。」

「ないない、勝てりゃどうでも良いでしょ。」

「当然だ。罠に掛けようが多勢で嬲ろうが最終的には勝てばいい。
 だが、肝心なことが二つある。勝者が全てを得る事、戦う以上オレが勝つ事だ。貴様のやり方は所詮敗北を恐れるだけにすぎんな。」

所詮人間か、そう吐き捨てるランサーをレイン・ポゥは冷めた目で睨んだ。
レイン・ポゥからすれば戦いなど限りなく避けたい。最後に残った一人だけを殺して勝ち残れればそれでいいのだ。
本来の相棒、トコが恋しい。もういない、自分が殺してしまった。
大人しくついてきて助けてくれたたっちゃんが懐かしい。もういない、自分が殺してしまった。
あの二人を生き返らせるためには勝つしかなく、勝つためにはランサーとの結束が不可欠だが、心に滲む毒は尽きない。
なんでこんなハチャメチャに傲慢でド偏屈な野郎を引いてしまったのか、レイン・ポゥは自分を呪いたくなっていた。

「せいぜいオレの足を引っ張ってくれるなよぉ?女ァ」

己を見下ろし厭味ったらしくそう言って飛び去るランサーを見て、レイン・ポゥはうっせーよと思い舌打ちした。
どうやら自分は魔王と呼ばれる輩とはトコトン反りが合わない星の下に産まれたらしい、レイン・ポゥはこの先暗そうな展望を思いながら、再び深いため息をついた。


571 : 三香織&ランサー ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/27(水) 01:35:06 KxomUp7I0
【クラス】
ランサー

【真名】
獣王グノン@ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章

【属性】
混沌・悪

【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運D 宝具EX

【クラススキル】
対魔力(炎):B
A以下の魔術は全てキャンセル。事実上、魔術ではランサーに傷をつけられない。
炎属性であるグノンは氷・風属性の魔術に対しては耐性がワンランク下がり、氷・風・雷以外の属性の魔術に対して耐性がワンランク上昇する。

【保有スキル】

獣王:EX
頑強・戦闘続行・カリスマの複合スキル。
獣(ビースト)兵団の主である称号であり、同様の異名を持つ別世界の軍団長は竜の騎士の必殺権を数度耐え抜いたとすら言われる。

獣王特権:A
勝者が全てを得る獣王の特権。
生前打倒経験・使役経験がある存在のスキルを一つ獲得可能。
ランサーはこれにより竜王(狂)から魔王のカリスマを獲得している。

魔王のカリスマ:A
魔性に対するカリスマ。
ランサーはこのスキルにより宝具『魔王軍』の範疇が種族を問わぬ全種族に拡大している。


572 : 三香織&ランサー ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/27(水) 01:35:38 KxomUp7I0
【宝具】
『魔王軍』
ランク:EX 種別:対人理宝具 レンジ:100 最大捕捉:100000
生前獣王グノンがアリアハン平原の決戦にて率いた総勢10万のモンスター軍勢を召喚・使役する。
勇者アルス一行を苦しめたその物量も脅威であるが、何より恐ろしいのは獣王グノンの癇癪に触れ嘆願を聞き遂げられずに殺されたものまで居るというのにアルスの次代の勇者との決戦において復活した際も全軍が獣王グノンの命令に従い続けるその統率力の高さにある。ランサークラスでありながらこの宝具を所有していることからわかる通り、ランサーはこれに頼り切ることはなく、装備の一種に過ぎないと認識している。
また、聖杯戦争中に獣王グノンが『勇者』属性を持ったサーヴァントと対峙し、その属性を認めた際にはこの戦いを「勇者と魔王の戦い」であると定義し、ランサー、魔王軍団員と対象サーヴァントにAランクの単独行動能力を付与、三日三晩続いた悪夢の戦いを再現する。

『ハーケン』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:10 最大捕捉:4
ランサー愛用の大鎌が宝具となったもの。
ライノソルジャー数名がようやく持ち上げられるほどの重量があるが、ランサーはこの宝具を軽々とブーメランのように扱うことができる。

『獣王グノン』
ランク:A 種別:対勇者宝具 レンジ:50 最大捕捉:4
ランサーそのものである獣王グノン、その真の姿。
面に獅子の体、蛇の尾、翼を持つスフィンクスに似た巨大な四足の魔獣の姿に変身。剣王と呼ばれる聖戦士の刃が通らない強靭な体毛と飛行能力により敵を圧倒し、により勇者の援軍に駆け付けたアリアハンの軍勢を軽く蹴散らした低気圧を操ってのブレス「空圧砲」を必殺技とする。

【weapon】
ハーケン

【サーヴァントとしての願い】
魔界と世界を手中に収め、支配する。
?
【マスター】
三 香織@魔法少女育成計画limited

【マスターとしての願い】
トコと酒井達子を蘇らせる。


573 : 三香織&ランサー ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/27(水) 01:35:57 KxomUp7I0
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574 : ◆H3bky6/SCY :2022/07/27(水) 20:37:50 /g9UW0pU0
投下します


575 : 無惨 ◆H3bky6/SCY :2022/07/27(水) 20:39:30 /g9UW0pU0
廃ビルに雨が降っていた。

雨漏りなどではない。
夜の空は蒼々と透き通っており雲一つなく、そもそも雨など降っていない。
星一つない都会の空には今も冴え冴えとした月が浮かんでいた。

降り注ぐのは赤い雨。
ネバついた鉄の匂いを漂わす、不吉な血の雨である。

廃ビルの地面には無惨としか言いようがない死が転がっていた。
死体はおよそ人間業とは思えぬ剛力によって首を引き潰され、間欠泉のように血を噴き出す肉塊となっている。
人は血の詰まった肉袋なのだとまざまざと見せつけてるように、噴き出す血液が天井を赤く染め上げてゆく。
その天井を染めた赤が重力に従いポタポタと降り注ぎ、室内に血の雨の降らしていた。

だが、その光景も源泉である死体が光の粒子となって消滅する事で終わりを告げた。
残るのは名残のように降り注ぐ血の雨だけである。

死体の消滅。
これは死した者もサーヴァントと呼ばれる超常の存在であるという証左である。

ならば必然、一つの疑問が沸く。
超常の存在をこれほど無惨に殺し尽くしたのはどのような化け物なのか?

血の雨の注ぐ廃墟に佇むは、淡い光を放つ槍を構える男だった。
現代東京に似つかわしくない西洋鎧に、寒さの厳しい北国の出身なのか分厚い蒼のマントを纏う。

眉目秀麗であっただろう顔つきは獰猛に磨かれ精悍な顔つきへと変貌していた。
砂金のように輝いていたであろう金の髪はすっかりくすんで光を失っている。
宝石のような光を放っていたであろう蒼い瞳はその片方が失われ、残った瞳もどうしようもなく乾いていた。

この惨状を作り上げたのは他でもないこの片目の蒼い獅子である。
彼が生物のように脈動する槍を振り下ろした瞬間、敵の体は弾け飛んだ。
次の獲物を求めるぎらついた瞳はさながら血に飢えた肉食獣のようである。

「ええ、父上、継母上、分かっています。ご心配せずとも必ず聖杯は手に入れます、あなた達の無念は…………」
「…………誰と話しているの?」

誰もいない虚空に向かって話し始めるサーヴァントに背後より声がかかった。
大切な人との会話に水を差されたと言わんばかりに不愉快そうな様子で、視線だけを睨むように向ける。

「……マスターか」

その視線の先に佇むのは一人の少女だった。
着ている制服からどこかの高校に通う女子高生なのだろう。
負傷しているのか頭部や服の隙間から覗く首元には包帯が巻かれていた。

色素の薄い肌に虚ろな瞳。絵にかいたような薄幸の美少女だ。
吹けば飛ぶような儚さは、ともすれば幽霊のような印象を受ける。
だが、その瞳は虚ろでありながら強い決意を秘めている、そんな矛盾した光を孕んでいた。

少女のウェーブがかった髪が揺れる。
むせかえるような血の匂いに少女は口元に手をやり表情を歪めた。
目眩でも起こしたのか足元をふらつかせ、頭を抱える。
ポケットから薬瓶を取り出し、慣れた様子で錠剤を水もなしに呑み込む。
それで症状が収まったのか、改めて自らのサーヴァントに向き直った。

「……残酷なのね。アヴェンジャー」

天井から降り注ぐ血の雨を挟み、マスターとサーヴァントの視線が交錯した。
マスターは感情のない声でそう素直な感想を述べる。
その言葉に、サーヴァントは心底オカシイと言った風に喉を鳴らして笑う。

「これは聖杯”戦争”なのだろう?
 己が願いのために死体を積み上げる畜生の宴だ。
 惨たらしく死ぬのも覚悟の上だろうよ」

吐き捨てるように言う。
己が願いのためにいくつも死を積み上げる儀式。
それが聖杯戦争という物だ。
願いに群がる畜生ども。己たちを含めて誰も彼もが残酷な死に値する存在でしかない。

「だいたい、敵を引き込んだのはお前だろう? この死は他ならぬお前の望みだ」

入り口に佇む自らの主に向けて、死を生み出した槍の穂先を突きつける。
引き留めるのも聞かず猪の様に飛び出し、無謀にも自らを囮にして敵をこの廃墟に誘い込んだのはマスターの方である。
アヴェンジャーはマスターの意に沿ってそれを討っただけにすぎない。
この結果は他でもないマスターの殺意によってもたらされたモノだ。

「……? おかしなことを言わないで。私はそんな事、していないわ」

少女は心底不思議そうな顔をして首を傾げた。
その返答にサーヴァントが眉を顰める。
意味のない虚言だ。
自らのサーヴァントにこんな事を誤魔化したところで意味がない。
それはつまり、少女は本当に自らの行動を覚えていないという事である。


576 : 無惨 ◆H3bky6/SCY :2022/07/27(水) 20:42:04 /g9UW0pU0
――――東雲諒子。
彼女は記憶障害を患っていた。

世界を消滅せんと襲い来る怪獣『ダイモス』の脅威から世界を救うべく、機兵という巨大人型兵器に乗って戦う13人の少年少女。
彼女もその一人。14番機兵を操る機兵の操縦者である。

だが、彼女たちが乗る機兵にはDD426というウイルスが仕込まれていた。
DD426に冒されると脳内ナノマシンが剥離を起こし激しい頭痛と共に記憶障害が引き起こされるのである。
彼女は既に末期ともいえる程その症状が進行していた。
全ての記憶は曖昧で、もはや自身の名前すら危うい。

だが、そんな直前の行動すら曖昧な状況で誰もが混乱するような”戦争”に巻き込まれておきながら、彼女の行動には一切の迷いがなかった。
事実、本人が忘れているとはいえ、他の主従を狩るために自ら囮役を買って出るアグレッシブさを見ている。
何故なら迷う必要などないからだ。

「……まあ、いい。どうでもいいことだ。だが、まさか戦う理由までも忘れたとは言わないだろうな?」

サーヴァントとマスターの主従関係は互いの願いを叶えるための利害関係にすぎない。
その願望すら忘れたというのなら、この場で首を撥ねて別のマスターを見繕うまでだ。
返答一つに己が生死をかけられている事を理解しているのかいないのか、諒子はこれまでにないはっきりとした態度で首を振る。

「いいえ。忘れてなんかいないわ。私は……井田先生の望みを叶えるだけ」

井田鉄也。
1985年における彼女の担任教師であり世界の滅びに抗うために活動するエージェント。
それ以上に、彼女にとっての運命の相手である。

東雲諒子は井田鉄也を愛していた。
彼女の胸の中には狂おしいまでに燃え上ががる愛がある。

何を忘れようとも、この愛だけは決して忘れない。
それが己の記憶すら定かではない彼女にとっての道しるべ。
どれほど道が曖昧であろうとも、それさえあれば彼女は迷う事などない。

「ならば、今更キレイ事をほざくなよマスター。
 俺もお前も、自分の願いのために死体を積み上げる事を了承したのだろう?
 お前もとどのつまり、俺と同じ醜い人殺しだよ。
 化け物同士、道を阻む相手を仲良く殺し尽くすそうじゃないか」

復讐者のサーヴァントは凄惨な笑みを浮かべる。
諒子はその言葉を飲み込むことしかできなかった。

彼女は愛する人のためならば、その引き金を引くのに何の躊躇いを持たない
彼が自分を愛してくれるのならば、世界すらどうでもいい。
愛に狂った少女はそれこそ自分自身がゴミのように利用されて使い分されても構わわない。


577 : 無惨 ◆H3bky6/SCY :2022/07/27(水) 20:43:06 /g9UW0pU0
「そうね。仲良くするつもりなんてないけど、私は私の願いを叶える。そのためならばなんだってするわ。あなただってそうでしょう?」
「無論だ。俺は聖杯を手に入れ――――死者たちの無念を晴らす」

死者たちの無念を晴らす。
それがこの復讐者のサーヴァント、ディミトリ=アレクサンドル=ブレーダッドの願望。

『ダスカーの悲劇』と呼ばれる悲劇があった。
フォドラ大陸を三分する大国、ファーガス神聖王国の国王がダスカー人に殺された事件である。

その悲劇の中で多くの無辜の民が虐殺された。
逞しかった父王は目の前で首を刎ねられた。
優しかった継母は炎の中に消えて行った。
親友であった騎士は彼を庇って死んでいった。
その全てが殺し尽くされた悲劇の中で、ファーガスの王子であったディミトリはただ一人生き残った。

「死者たちは救いを求め続けている」

あの日からずっと付きまとう死者たちの幻影がそう言っていた。
復讐を望むことすらできなくなった死者たちの代わりに、その復讐を果たさねばならない。
あの事件の首謀者を皆殺しにして、その首を捧げ死者に報いる。
そうしなければ死者は無念と憎悪に囚われたまま永遠に苦しみ続けることになる。

あの惨劇で生き残ってしまった彼の願いはそれだけだ。
そのためだけに人生の全てを捧げてきた。

だが、直接的に死者たちを救う、そんな都合のいい方法(きせき)があるのならば。
妄執に狂った王子は目の前に転がるその救い(きせき)に、手を伸ばしていた。

「………………」

そんな狂人の妄執など諒子に理解できるはずもなかった。
そもそも理解するつもりもない。
ただの利害の一致による関係、相互理解など元より必要としていない。
だいたい理解したところで、諒子はすぐさま忘れてしまうだろう。

記憶障害を引き起こし自身の行動すら忘れるマスター。
死者に囚われ幻覚や幻聴と会話するサーヴァント。
互いに活発で聡明であった人間性は、無惨にも塗り潰されていた。

それ故に、人間としてはどこまでも噛み合わない。
だが、利用し合う関係としては致命的なまでに噛み合っていた。
互いに全てを塗りつぶされた果てでも、決して忘れぬ願いがある。
その為ならばどのような手段も厭わないだろう。

月だけが照らす廃れたビルにて、未だ降りやまぬ血の雨の中。
皮肉交じりの暗い笑みを浮かべながら怪物は告げる。

「さあ醜い怪物になり果てたこの俺たちの願いを叶えようじゃないか、マスター」


578 : 無惨 ◆H3bky6/SCY :2022/07/27(水) 20:44:04 /g9UW0pU0
【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
ディミトリ=アレクサンドル=ブレーダッド@ファイアーエムブレム風花雪月

【ステータス】
筋力:A++ 耐久:B 敏捷:B 魔力:D 幸運:E 宝具:A

【属性】
秩序・悪

【クラススキル】
復讐者:A
復讐者として人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。

忘却補正:A
失われた物を、死んでいった者たちの無念を、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。

自己回復(魔力):C
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。魔力が僅かに毎ターン回復する。

【保有スキル】
怪力:A
一時的に筋力を増幅させるスキル。
本来は魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性だがその身に宿る紋章(竜の血)の効果によって獲得している。

精神汚染:C-
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
まれに死者の幻覚を視認して会話することがある。

ブレーダッドの小紋章:C
女神の眷属(竜族)の血を取り込んだ人間、又はその子孫に稀に現れる紋章。
ブレーダッドの紋章を持つ者は異常な筋力を持つとされている。
攻撃時に一定確率で発動。武器の消耗を早める代わりにSTR(筋力)を倍にする効果を持つ。

【宝具】
『我が復讐に無惨な死を(アラドヴァル)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1-3 最大補足:1
女神の眷属(竜族)の遺骨から作成された英雄の遺産と呼ばれる武器の一つ。
全てのサーヴァントに対して特攻を持つ戦技『無惨』が使用可能となる。
使用するたび消耗していき最終的には宝具自体が使用不可能となるという『壊れた幻想』に近い特性を持つ。
修復には魔獣から取れる特殊な鉱石が必要となる。

【weapon】
『アラドヴァル』
ブレーダッド王家に伝わる槍の『英雄の遺産』。
紋章を持たない人間が使用すると魔獣となる。

『キラーランス』
サブウェポン、クリティカル確率が高い。

【人物背景】
ファーガス神聖王国の第一王子。
ダスカーの悲劇で生き残ったことでサバイバーズギルトとなり、慢性的な頭痛、幻覚、幻聴、味覚障害などの精神障害を患っている。
死者の無念を晴らすため事件を引き起こした者たちへの復讐を誓い、その犯人を捜すべく士官学校に入学する。
本編ではその復讐心は一応の解決を見るのだが、復讐者としての全盛期の姿で召喚された。

【サーヴァントとしての願い】
死者たちの無念を晴らす。


579 : 無惨 ◆H3bky6/SCY :2022/07/27(水) 20:44:26 /g9UW0pU0
【マスター】
東雲諒子@十三機兵防衛圏

【マスターとしての願い】
井田先生のためにダイモスを消滅させる。

【Weapon】
『フェイザー銃』
2100年製のショックガン。
威力を10段階まで調整可能で最大威力ならば象も一撃で殺傷可能。

『C0204』
DD426の抑制剤。症状を遅らせるだけで特効薬ではない。
DD426に汚染された諒子は定期的にC0204を摂取しなければナノマシン剥離により記憶が失われる。

【能力・技能】
機兵と呼ばれる搭乗型の二足歩行の巨大ロボットを操る。
機兵の召喚マーカーが左膝に刻まれているが聖杯戦争内での召喚は封じられている。

【人物背景】
破滅した2065年から1985年へとやってきた未来人。
DD426というウイルスに脳を冒され記憶障害を起こしている。
記憶が曖昧で人格も不安定になっているが、本来のとことん自己解決する性格からか異常なまでの行動力で即断即決で行動する。


580 : 無惨 ◆H3bky6/SCY :2022/07/27(水) 20:44:37 /g9UW0pU0
投下終了です


581 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/28(木) 20:36:17 Zv4xYv/w0
Ouroboroses
プッチのステータスというかスキル説明がどう見てもセイヴァーではないですねこれは…。
原作からして配下にアレなのが多かったプッチが彼の言う所の三下の悪党と引き合ったのは何だか似合っている気がしました。
マスターの前園の活躍もジョジョ的な不気味さがあり、日常に潜む恐怖といった感じでしたね。

三香織&ランサー
グノンの圧倒的な強さと、一方で正当な戦いに固執しないレインの狡猾さ。その対比が印象的でした。
実際問題極まった武力となりふり構わない暗殺者の組み合わせは強力だと思うのですが、この様子だと主従の相性は水と油のようですね。
魔王殺しのレイン・ポゥがパムに続きまた魔王と引き合ってしまう事態、グノンにしてみれば不吉ですらあるような。

無惨
錆び付いたとか物寂しいとか、そう形容できる空寒い雰囲気の漂う一作だったと思います。
どれ程の血と虐に塗れようとも道を違えないという彼らの覚悟の強さが克明に描かれており、筆力の高さを感じました。
本文中にもあるように醜い怪物に成り果ててでも叶えたい願いがある、それを炎に変えて突き進んでいくんだろうなと。

投下ありがとうございました。
投下します


582 : 絶望の底のエルピス ◆Lap.xxnSU. :2022/07/28(木) 20:37:17 Zv4xYv/w0

「心底理解に苦しむね」

 辟易したように眉尻を下げて肩を竦める青年は凡愚の身形をしていなかった。
 黒の長髪に僧職を思わす五条袈裟を纏った上でその背丈も日本人離れした高さとなれば風格は自ずと後から付いてくる。
 その上でモデルやアイドルに転向したとて通じるだろう端正な顔立ちまで備わっているのだから、天は人に二物を云々の訓はとんだ虚言といえた。
 そんな彼は辟易したように肩を竦めながら、隠すつもりもない嘲笑を自らの主へと向けていた。
 しかしてあるのは嘲りだけではない。
 その奥には主への嫌悪が蜷局を巻いている。
 ディスプレイの明かりが並ぶ机の前で椅子に腰掛けて青年を見つめる主君は、ひどく華奢で色素の薄い少女だった。
 英霊に年齢という概念を適用して語るのも妙な話だが、外見だけで見たなら彼よりも十歳以上は確実に下だろう。
 そんな娘が、かつて最悪の呪詛師と呼ばれた男を三画の刻印のみを頼りに従えている。
 ひどく可笑しな話だった。
 彼も…他でもない娘自身もそう思っていた。

「君は元の世界に帰りたい。そして私は聖杯を手に入れ生前果たせなかった理想を叶えたい。
 利害が一致しているのならば、後は最短距離で目的の達成に向け漕ぎ出すべきだと思うんだけどな」

 彼らの道は決して別れてはいない。
 元の世界に帰るにしても、この異界を抜け出す手段が確立されていないのだから現状は聖杯戦争に勝つ事のみがそれを叶える唯一の術になる。
 キャスターのサーヴァントたる彼が全ての敵を滅ぼして熾天の頂へ至る事。
 それが"帰りたい"という彼女の願いを叶える最適にして最短の手段なのだ。
 娘もそこに異論は唱えなかった。
 彼女が拒んだのは勝利するという方針ではなく、それを貫く上で彼が行わんとしていた所業の方だ。

「再三に渡り説明したつもりだが…不足だったようだからもう一度講釈してあげよう。
 この異界の街に存在する人間は全てNPC(ノンプレイヤーキャラクター)、つまり人形のようなものだ。
 誰かが聖杯に至って戦争が平定されればどの道世界ごと消滅する泡沫以下の蜃気楼さ」

 呪霊操術。
 それが呪詛師の彼が用いる術式だ。
 読んで字の如く呪霊を操る術式。
 彼が所有する六千体以上の呪霊を意のままに解き放ち動かす究極の手数。
 これを用いてNPCを対象とした魂喰いを行いつつ、異界東京都に潜むマスター達を炙り出し叩く。
 自軍を肥え太らせながら着実に敵も減らせる妙手である。
 しかしこのやり方を彼のマスターは頑なに拒んだ。
 強行するなら令呪を使ってでも止める、その勢いでの拒否だった。

「それらの犠牲を厭う君の考えは"優しさ"なんて高尚なものじゃない。
 心の贅肉というものだ。ひどく愚鈍で有害な、今すぐに切り落とすべき甘さだよ」

 彼とて最悪のケースは想定していた。
 敵を倒すのはいいがマスターまで殺すのは止めろとか、そういう甘ったれた事を言い出す可能性は考えていた。
 だが魂喰いという合理的な戦略にまで難色を示されるのは想定の外。
 討伐令を下す監督役や裁定者のサーヴァントが存在しないこの東京において、それは最も優れた食い扶持である。
 それをつまらない感情に任せて拒むとはとんだ無能に呼ばれてしまったものだと、そう思わずにはいられない。


583 : 絶望の底のエルピス ◆Lap.xxnSU. :2022/07/28(木) 20:38:07 Zv4xYv/w0
 瞳の奥に数多の命を奪い踏み潰した凶光を一筋灯しながら、改めて己のマスターへと問いかける。 
 頭が痛かった。
 本当は契約関係で繋がれているだけでも腹立たしいというのに。
 今回の件を抜きにしても――この娘は己にとって頭の先から足の先まで、骨は愚か魂の髄まで忌まわしい嫌悪の対象であるというのに。

「それでも君は人形の死を拒むのか?」
「うん――それでも」

 少女はただ真っ直ぐに呪詛師の目を見上げていた。
 寒色の髪に色の薄い肌。
 力を込めれば呪力に頼らずとも簡単に手折れそうな程か細い手足。
 体のどれを取っても弱々しい印象しか与えない羽虫のような小娘であるにも関わらず。
 彼女はただ毅然と、呪詛師(キャスター)が。

「わたしはもう、あなたに誰も殺してほしくない」

 …また誰かの命を奪うのは嫌だと、我儘を吐いていた。
 時計の針は宵の刻を指している。
 呪詛師・夏油傑は憚る事もなく嘆息した。
 彼にとって人間一人の感情を変えさせる事などは造作もない。
 どれだけ強情な人間でも皮を剥いて神経を弄ってやれば。
 あるいは安らかとは程遠い死の気配を味わせてやれば、その心は容易く砕け散る。
 研鑽を積み正しい力を持って邁進する呪術師ならばいざ知らず。
 
「いいご身分じゃないか。自分は安楽椅子に座っているか強者の影に隠れるかしかできないのに、意志の強さだけは一丁前とは」

 術式も持たず。
 覚悟もなく。
 挙句の果てに存在するだけで呪いの生まれる土壌を形作る。
 
「胸を張るといい、宵崎奏。君は実に模範的な猿だ――君達の事が大嫌いなこの私が保証するとも」

 そんな猿の心根一つ動かせないのが今の夏油だ。
 宵崎奏というちっぽけな猿の手にある令呪が。
 そして、要石無くして英霊は存在できないという忌々しい"縛り"が。
 夏油をこの猿の飼い犬に貶めていた。
 そうでなければこんな猿の一匹、話を聞く間もなく呪霊の腹にでも押し込んでやるだけなのに。
 令呪と要石という二つの縛りが…最悪と呼ばれた呪詛師の采配を、鉛で塗り固めたように重く鈍いものへ歪めているのだった。

    ◆ ◆ ◆


584 : 絶望の底のエルピス ◆Lap.xxnSU. :2022/07/28(木) 20:38:39 Zv4xYv/w0

 英霊の断末魔は猿共のそれと何ら変わらない。
 大概は無念の色に彩られている。
 英霊の座というのも玉石混淆なのだろう。
 玉から石まで選り取り見取りということか。
 逃げ去るマスターの体を地から這い出た巨大な芋虫が丸呑みにして咀嚼する。
 骨が砕けて肉と混ざる音を他人事のように聞きながら踵を返す夏油。
 本戦までの道すがらに立ちはだかる敵を一つ潰せたと言うのに、その表情に浮かれた様子はなかった。
 道化じみた笑顔も鳴りを潜め。
 ただ虚ろな無の貌(かんばせ)だけがそこにはある。
 自分に、これ以上手を汚さないで欲しいと願った娘の顔が思い出された。
 高尚な事を言っていた。
 だが結局はこれだ。
 アレに実際に凶行を止められるだけの知恵はない。
 目前で犯そうとすればそれこそ令呪も使いかねない危うさはあるが、何も言わず影で殺す分にはアレは自分を止められない。
 その実に猿らしい無力さは夏油にとって本来愉快痛快。
 しかして彼は嗤わない。
 そうする事すら疎ましい程、夏油はあの娘の事が嫌いだった。

「戻ったよ」

 望み通り当面は魂喰いは控えよう。
 しかしあくまで当面の話だ。
 敵は殺す。
 再契約を結ばれる危険を避ける為にも敵のマスターは呪霊の餌にする。
 そしていつか状況が整えば、当初の予定通り魂喰いを決行して自軍の総力を高める工程に入る。
 その時もまだ立ち塞がるというならば。
 その時はマスターの鞍替えすら視野に入れて考える。
 猿の浅い性根を騙し欺く事など、夏油に言わせれば赤子の手を捻るように造作もない些事なのだから。

「…戻ったと言っているんだけどね。相変わらず良いご身分で」
「あ――ごめん、キャスター。無視した訳じゃないんだ」

 戻ってきた家の中には明かりの一つも点いていない。
 宵崎奏は机の前に座り、無機質なブルーライトに照らされながらキーを叩いていた。
 そこに視線をやれば表示されているのは譜面。
 ゲームか何かに興じているのかとも思ったが、すぐに違うと分かる。
 彼女は曲を創っているのだ
 自分の頭と指で新たな音楽をこの世に生み出そうとしているのだ。
 平穏から切り離されたこの異界東京都の只中にありながら。
 何度目かの溜息が口をついて出た。
 更には厭味ったらしい小言も。

「君は選ぶべきだ」


585 : 絶望の底のエルピス ◆Lap.xxnSU. :2022/07/28(木) 20:39:16 Zv4xYv/w0

 夏油に音楽の心得はない。
 だが画面を見ればそれが高度かどうかの判別は付く。
 奏の曲作りは単純な趣味の範疇に収まるものではなかった。
 自分の人生を擲つ勢いで心血注いで打ち込む"存在証明"。
 非術師が何を創り何に命を懸けようが夏油の知った事ではなかったが…

「両方は選べない。人生はそう都合よくは進まない」

 人は誰しも全能を空想する。
 夏油にとってそれは"最強"だった。 
 自分達ならば何でもできると本気でそう信じていた。
 典型的な若気の至りだ。
 早く夢から醒めていれば良かったものを。
 敗北の泥と喪失の澱に呪われるまで、ついぞ自分は気付けなかった。
 そして今も。
 夏油傑は夢を見ている。
 見続けている。
 現実という汚泥の中で楽園の夢を空想し続けている。

「死ねば君の曲が何かを産む事もない。誰かの心に届く事もない。
 君のような非力の猿に両方を選ぶ道は歩めない。
 力ある者にすら歩む事の叶わない道を、術の一つも使えない小娘が歩めるものか」

 非術師を淘汰した呪術師だけの世界。
 呪霊が生まれる事がなく。
 そして力無き弱者という名の衆愚に正しい者達が足を引かれる事もない極楽浄土。
 それが夏油の抱く願いであり野望だ。
 聖杯を手に入れたなら彼の生まれ育った世界から、彼が猿と呼ぶ人種は草の根残さず消え去るだろう。
 その願いの元彼は此処に居て。
 この呪いを呼び寄せた奏は、その死と呪詛に塗れた願いを知っている。
 そうでなくば"もう"誰も殺して欲しくない等という言い回しはすまい。
 なのに――
 
「やっぱり優しいね、キャスターは」

 なのに何故、この娘はそんな言葉が吐けるのか。
 矛盾している。
 潔癖じみた善性を謳いながら非術師の虐殺を是とする呪詛師を従え、あまつさえ優しいだなどと評するなんて。
 苦笑しながら奏はまた夏油の顔を見上げた。
 アイスブルーの瞳の奥底にあるもの。
 その正体がようやく分かる。

「キャスターの言う事は…正論だと思うよ」
「ならば」
「でも、見捨てたくないんだ」
「――何故」


586 : 絶望の底のエルピス ◆Lap.xxnSU. :2022/07/28(木) 20:39:49 Zv4xYv/w0
「ずっと昔に決めたから」

 一歩踏み外せば死が待つ呪わしき死滅の儀式にありながら。
 誰かを犠牲にしたくはないと、見捨てたくないと夢を見る娘。
 その根底にあるものはなんてことのないありふれた概念。
 夏油傑もよく知る慣れ親しんだもの。
 人間という生物がこの世に発生した恐らくその瞬間から存在した病。


「どんな人でも救える曲を作るんだって――決めたから」


 あぁ。そういう事かと。
 夏油はやっと納得できた。
 宵崎奏は呪われている。
 誰かを救うという縛りを自らに科して。
 自分自身を呪いながら誰かを救う、後先のない救世主。
 いつか燃え尽きる身代わり人形。
 
 その道に先は無い。
 茨の道を歩き続けた末に、報われる事もなく断崖を転げ落ちて死ぬだけだ。
 もしくは挫折して歪み果てるか。
 傲慢な正論を得意げに振り翳して最強を騙り、夢破れて死を振り撒く事しかできなくなった誰かのように。
 ヒトの出会いは引力のように引き寄せ合う。
 ならば宵崎奏が…全てを救う事を志す傷だらけの救世主が。
 数多の死の上に立ちながら救世を謳う敗残者を呼び出してしまったのは、つまりそういう事なのだろう。
 夏油傑は誰かを救うという生き方の成れの果てだ。
 弱さという名の醜さに尊さという仮面を被せて見ないフリをし続け。
 それでもと彼らに寄り添い続けた男の腐乱死体こそが夏油傑(これ)なのだ。
 
「わたしにできる事があれば何でもする。危険な事だって頑張るから」
「思い上がるな。君にできる事など何一つない。
 君は私をこの世界に留める要石で、私が理想を遂げる為の道具に過ぎない」
「じゃあキャスターがわたしを使って。わたしはあなたの道具なんでしょ?」
「君は…」

 眉根を寄せる。
 それは家族達の前に立つ救世主としての顔ではなく。
 現実に呪われ悪夢に酔う事を選んだ、あの日の人間の顔だった。

「――お前は、何がしたいんだ」

 その答えは夏油自身分かっている。
 宵崎奏は救世主なのだから。
 縛りは誰かを救う事。
 得られる対価は、生きる事。
 そんな女のしたい事があるとすれば。
 それは愚かしいまでの――

「わたしは」

 決して救われる事のない優しさで、誰かに手を差し伸べ続ける事以外にある筈もない。

「――あなたにも、救われてほしいと思ってる」

    ◆ ◆ ◆


587 : 絶望の底のエルピス ◆Lap.xxnSU. :2022/07/28(木) 20:40:32 Zv4xYv/w0

 その夢を認める事はできない。
 宵崎奏は夏油傑の生涯を垣間見てそう思った。
 彼の理想は他人の死を前提としている。
 力無き者全て。弱き者全て。
 非術師の猿を皆殺しにし、呪いが生まれる事のない完全無欠の世界を実現する――それは。
 誰かを救える曲を作りたいと願い呪われた少女にとって、許す事のできない世界だったから。
 しかし奏には夏油を否定できなかった。
 彼の見る世界はいつだって汚泥に塗れていて。
 その生涯はまるで泥の中を泳いでいるよう。
 そして奏は思った。
 気付いた、と言うべきか。

 ――この人はわたしかもしれない。

 正しい想いで誰かを救っていた。
 しかしいつしか闇を無視できなくなってしまった。
 守るべき弱さが憎むべき醜さにしか見えなくなって。
 間違った答えを得てしまったから戻れなくなった。
 救うと決めた手で誰かを殺して、壊して。
 最後の最後にほんの微かな救いに触れて、そしてそれでもまだ解けない呪いに苦しんでいる。
 誰かを救う事の意味。
 誰かを救い続ける事の重み。
 宵崎奏はまだそれを知らない。
 奏自身、その自覚はあった。
 その目前に突き付けられた"もしも"の自分(わたし)。
 
 …助けたいと思った。
 救ってあげたいと、そう思った。
 このままじゃ彼は永遠に救われない。
 きっと聖杯を手に入れたとしても。
 それでもきっと――この人は救われないんだろうなと。
 根拠も無いのにそう分かってしまったから。
 だから奏は作り続ける。
 この世界でも、作り続ける。
 誰かを救える曲を。
 汚泥の底に沈んでしまった優しい人の魂にも届くような音楽を。
 伸ばしたこの手がいつか届くと信じて。
 その体を傷つけながら。
 他でもない自分自身を勘定の外に弾き出しながら。


588 : 絶望の底のエルピス ◆Lap.xxnSU. :2022/07/28(木) 20:41:02 Zv4xYv/w0

 宵崎奏は夏油傑を救いたい。
 親友の手で与えられた安らかな眠りに、いつか彼が帰れるように。
 清らかな光と心で闇の中へと歩んでいく。
 いつものように。
 そう、いつものように。

【クラス】
キャスター

【真名】
夏油傑@呪術廻戦

【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷D 魔力A+ 幸運E 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:A
呪術師として"帳"を下ろす。
展開部と外界を遮断し、内部を外から認識できないようにする。ただし認識を阻めるのは魔術、呪術の素養がない非術師に限られる。
更に帳に特殊な条件を加える事で別個効力を付与する事も可能である。
呪術師(呪詛師)として最高位の技能を持つキャスターの場合、特定個人の侵入を妨げる帳の展開すら可能とする。

【保有スキル】
呪霊操術:A++
呪霊を取り込み操る術式。
降伏した呪霊を球体に変化させて経口摂取で取り込む。
サーヴァントの使い魔は愚か、サーヴァント本体でさえ魂の組成次第では術式の対象になり得る。
最大の強みは圧倒的な手数の多さ。呪力行使は呪霊自身の呪力によって行われる為燃費も極端に良い。
キャスターは合計して6000体以上の呪霊をこの術式によって取り込んでいる。

呪詛師:A+
呪力を操り呪いを祓う人間を呪術師と呼ぶが。
逆に呪力を用いて他人へ害を及ぼす者はこう区別される。
キャスターは当代に数える程しか存在しない特級術師である為ランクが高い。
術式の行使は勿論、呪力による肉体強化等幅広い応用の幅を持つ。

カリスマ:D
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。


589 : 絶望の底のエルピス ◆Lap.xxnSU. :2022/07/28(木) 20:41:36 Zv4xYv/w0

【宝具】
『呪霊操術・百鬼夜行』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜1000 最大補足:1000人以上
彼が最悪の呪詛師と呼ばれるに至った所以の大規模テロ。
新宿と京都の二都市にそれぞれ千体以上の呪霊を放ち非術師の皆殺しを目論んだ、"新宿・京都百鬼夜行"。
それをサーヴァントとなった現在の霊基で再現する、大規模軍勢召喚/百鬼夜行再演宝具。

『うずまき』
ランク:EX 種別:対城・対霊宝具 レンジ:1〜50 最大補足:500人
極ノ番。呪霊操術の最大奥義。
所持する呪霊を一つに圧縮し、高密度の呪力の塊を放出する。
その威力は非常に高いが、呪霊操術の強みである手数を捨てる事にもなる為一長一短。

が――力の真髄はそこではない。
この宝具により一定以上の格を持った呪霊を圧縮した時、術式の抽出と呼ばれる現象が発生する。
呪霊から術式そのものを吸い出して自らの物にできるという破格の奥義。
生得術式を複数使用するという規格外を実現可能であり、また当該術式の項で触れた通り聖杯戦争においては時にサーヴァントすら呪霊操術の術式対象となり得る。その条件を満たしたサーヴァントを取り込めた場合、当然この奥義で術式抽出を行う事も可能である。

【weapon】
特級呪具『游雲』

【人物背景】
最悪の呪詛師と呼ばれた男。
新宿・京都百鬼夜行事件の首謀者。

【サーヴァントとしての願い】
世界の清浄。かつて思い描いた地平の実現。
いずれはマスターである宵崎奏をも殺して理想を叶える心算。


【マスター】
宵崎奏@プロジェクトセカイ

【マスターとしての願い】
元の世界に帰る

【能力・技能】
作曲家としての抜きん出た才能。
本職の作曲家をして賞賛させ、同時にその自信を喪失させる程の天賦の才。
奏にとって祝福でもあり呪いでもあるギフト。

【人物背景】
救世主たれと呪い呪われた少女。
そして実際にそうあれる才能を与えられた幼子。

【方針】
協力できる相手とは手を取り合いたい。
キャスターの事も救ってあげたい


590 : ◆Lap.xxnSU. :2022/07/28(木) 20:41:52 Zv4xYv/w0
投下終了です


591 : ◆VJq6ZENwx6 :2022/07/28(木) 23:18:25 VJVABUJA0
自作「フォニィ」のアサシンの説明文に関してwiki上で一部修正を行いました。


592 : ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:39:08 eHxvzjsY0
投下します


593 : 貴方のための物語 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:39:53 eHxvzjsY0






     アリスよ。子どもじみたおとぎ話をとって
     やさしい手でもって子供時代の夢のつどう地に横たえておくれ
     記憶のなぞめいた輪の中
     彼方の地でつみ取られた巡礼たちの、しおれた花輪のように

                        ───ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


594 : 貴方のための物語 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:40:40 eHxvzjsY0






あたしはどこにいるんだろう。
あたしはどこにいきたかったんだろう。


最後まで残っていた右脚の感覚が、とうとうなくなった。
右足、とけちゃったのかな? 不安になる。視線を落とそうとして、でも、あれ? 首が動かない。
しょうがないので目だけを動かして、そこにあるはずの足を探す。ぼんやりと霞む視界の端に、スカートの裾から覗いた白い足を見つける。
ああ、よかった。まだあたしはひとなんだわ。そう思ってほっと息を吐こうとして、自分が息をしていないことに気づく。

体の感覚が少しずつなくなっていることに気づいたのは、一体いつのことだっただろう。
少しずつ、少しずつ、自分が存在するためのリソースを取り込むたびに、自分という存在を水で薄めるかのように希釈されていくあの感覚。
最初はとても熱くなって、冷たくなって、震えが止まらなくなって、そして何も感じなくなる。
あたしはずっと歩いているのだけど、もうあたしは自分が本当に歩いているのか、本当に足を動かせているのか、実はとっくに倒れて夢を見ているんじゃないか、何もわからなくなっていた。
目はみえるわ。耳もきこえる。でも、もうこえはでないの。
あたまの中はぼんやりかすんで、もやがかかって。まるで起きながらゆめをみているような気分なのに、ゆめのようにここちよくはない。

ねむくなる───ゆめにおちていく。
少しずつ「あたし」がこわれていく。
なにもわからないわ。
なにもしらないの。
かこも、きおくも、なまえさえ。ながれるなみだのいみすら、もうわからない。

ただ、たいせつだったことだけはおぼえている。
あれは、そう、いつだっただろう。そのときあたしはひとりじゃなかった。
×××がいて、××××××がいて、それはしあわせなワンダーランド。
さんにんはいつだっていっしょにいたわ。

×××。たいせつなあたしのともだち。
××××××。ふたりしかいなかったせかいで出会った、さいしょでさいごのひと。

たくさんわらったわ。とてもうれしくて、すごくあったかくて、だからあたしたちはずっとずっとわらっていたの。
ええ、たのしかったわ。たのしかったの。だから、あのときだってないたりしなかった。

……あのとき。
××××××が、いなくなったとき。


595 : 貴方のための物語 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:41:13 eHxvzjsY0



「いかないで××××××」

「あたしをおいていかないで」



きおく───とうとくかがやくもの。

きおく───それは、とてもあたたかな。


あたしがずっとほしかったもの。ほしくて、ずっとてにはいらなかったもの。
あのひとはそれをくれたから。きっと、あたしにうそなんかつかないから。



「絶対に帰ってくる。約束だ」



やくそく。
……うん、やくそくよ。

あたしはまってる。ずっとまってる。
ずっと、ずっと。

まってるの。
ずっと。
いつまでも。
あなたを。


───おにいちゃん。








596 : 貴方のための物語 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:41:54 eHxvzjsY0





「アリスは何処だ?」
「……え?」

開口一番に問われたその言葉に、少女は訳も分からず目を点にするばかりであった。
あれ、あたし、今まで何をしてたんだっけ?
まるで夢から覚めた直後であるように、少女はぽかぽか寝ぼけ眼な心地の頭で、うーんと首をひねった。

ふと気が付けば自分はちょこんと椅子に座っていて、目の前には真っ白なテーブルと、その上に乗ったティーカップ。中には淹れたばかりの紅茶があって、ゆらゆらと白い湯気が立っている。
そして、テーブルを挟んだ向こう側には知らない男の人。
鎧を纏った、ええと、誰?

「え、えっと……」

絶えず疑問符が浮かぶ頭を無理やり落ち着かせて、少女は改めて男を見やる。
一見して彼は、鎧の人だった。黒銀のフルフェイスを装着した彼は、まさしく中世の騎士そのものであり、ひどく時代錯誤めいた様相を呈した姿をしている。
そんな彼は、作法の整った姿勢で以て椅子に腰かけ、ティーテーブル越しに少女と向かい合っているのだった。
誰だろう、わからない。けれどこのまま黙っているわけにもいかず、少女はおずおずと、話しかける。

「……騎士様?」
「アリス」
「え?」
「アリスを探さねば」
「え、待って……え?」

ぎり、と軋むような音。
人であったはずの男の姿が、一瞬ゆがんだように見えた。
彼はまるで糸の切れた人形のように、あるいは朽ち果てた機械のように、人ではありえない不自然な動作と声音で以て、もはや声ではない音と化した声を発した。

「アリスが不足している」
「アリスをよこせ」
「アリスを訪ねる」
「アリスはどこにいる」
「お前がアリスを隠しているんだろう」

「ええと……ありすはありすよ?」

「さつが───いや、君はアリスではないだろう」

ぴたり、と狂騒めいた声が止む。
ちぐはぐな人形はそこにはなくて、まるで最初からそのように落ち着いていたと言うかの如く、行儀よく腰かける男の姿。
直前の壊れたテープレコーダーっぷりが嘘であるかのように。先ほどまでの狂的な様相は何処にもない。
そのことについて思うところはあるけれど、それより少女には、ありすには看過できないことがひとつ。


597 : 貴方のための物語 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:42:33 eHxvzjsY0

「むう……騎士様はあたしを嘘つきとおっしゃるの?」
「む、ああいや、そうか。君もまたアリスという名であるのか。だが君は私の探し人ではあるまい。数奇な巡り合わせではあるが」

探し人───
そう語らう彼は、どこか遠くを見るような素振りであった。

「私は探しているのだ。アリスという名の、愛しき少女を。彼女を探さねばならぬという一念だけが、今も私の胸の裡に渦巻き急かすのだ。他は何も覚えてはいないがね」
「何も……」
「そう、何もだ。恥ずかしながら記憶喪失という奴だ。名前、というより与えられた役柄だけは知ってはいるが」

そこで彼は、湯気揺蕩うティーカップを手に取り、口元へと傾ける。フルフェイスの兜はいつの間にか開閉口が開いていて、その素顔を明らかにしていた。
しかし、ありすは彼の顔をはっきりと見ることができなかった。黒く霞んでいたのだ。まるで、黒く染まる霧が顔の周りにだけ充満しているような光景であった。

「私はバーサーカー。サーヴァントであり、君を守護する英霊の一角ということになるらしい。聖杯戦争については知っているかね?」
「……せい、はい。えと、ううん。なんだか聞いたことがあるような気はするのだけど」

記憶の海の底に沈むもの、それを思い起こそうとすると、きりきりと頭が痛む。まるで頭の中に歯車ができて、それが軋んでいるかのようだった。
痛い。何も思い出せない。わかるのは自分の名前と、そしてあとひとつだけ。

「……おにいちゃん」
「うん?」
「おにいちゃんに、あいたい」

何もかもがなくなって、零れ落ちて。
最後に残ったのがそれだった。もう何も覚えていないけど、自分の口が語る「おにいちゃん」が誰だったのかすら、わからないけれど。
大切だったことだけは覚えている。それこそが、ありすの心の裡に残った唯一の真実。

「なるほど。私はこれを数奇な巡り合わせと言ったが、どうやら想像以上であったらしい。そんなところまで私と同じであるとは。
 だが案ずることはない。例え記憶が無くなろうと、想いだけは決して消えない。なにせ、人の想いは永遠なのだからね」
「えいえん?」
「その通り。愛はとても強い感情だ。なればこそ、尊く輝かしいそれが報われないなどありえない。
 例えば、聖杯。万能の願望器たる杯を得れば、あるいは求めるものが手に入るかもしれない」

私はそのための剣なのだ、と彼は語る。


598 : 貴方のための物語 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:43:15 eHxvzjsY0

「私はサーヴァント。聖杯戦争に参ずるは多種多様な魂たちのパレードだ。
 だが生者が私に向ける目はどれも濁っている。
 魂たちは私を憎んでいるのだろうか? けど、そんなことはどうだっていい。
 英霊の座という魂の循環がなくなることは永遠に来ないのだから。
 波打つドラムロール、灰のカーテン。そして再びパレードだ。
 アリスを見つけ出すことができれば終わりは来るのに───」

そして或いは君の探し人が、と付け加える。
彼は大仰に手を振り上げ、まるで舞台演劇であるかのように歌い上げる。

「呪わしきは聖杯戦争! 願望器が杯ならば、水などいくらでも注ぎ込めばよかろうに。されど天上におわす御方はただ一度きりの奇跡しか望まぬなどと!
 ありす、我が愛しきアリスにあらざる永遠に幼き水子の魂よ。無知なるままに惨劇の都へ投げ込まれた哀れな子よ。なれば汝は願うままに願えば良い、君にはすべてが許されている」

「……わからないわ」

ありすは沈んだ瞳のままに答える。覇気も、活力も、そこにはない。

「なにもわからないわ。あなたとあたしは同じと言ったけど、あたしには何もないの。
 あなたが語るものも、願いも。あたしにはあたしが無いんだわ」

自己の欠落とは、果たしてどれほどの不安と恐怖をもたらすのであろうか。
健常な人間にはきっと想像さえつきはしまい。己が己であるという当たり前に存在する存在証明が、まるで成立しないのだ。
存在しない記憶、世界、価値観。名前や主観ですら信用するには値せず、目に見える全てが欺瞞によって構成される書割に等しいという孤独。
世界という舞台演劇の中に、己ひとりだけ役も何もないままに放り込まれるに等しい疎外感。それは一個人の矮小な自我など苦も無く呑み込んで削ってしまうほどに強大だ。
なければ1から作ればいい、などというのは何も知らぬ部外者の無責任な妄言だ。
自意識すらなき真っ新な0である赤ん坊と、確固たる主観を有する個人とではまるで話が違う。
その恐れを、孤独を、自分が自分であるという証明を、いったい誰が担保してくれるというのか。

「嘆かわしいなありす。君はとても聡明な子だが、やはりまだ幼いのだ」

彼は一言、ほんの少し哀れみのような色を含んで言った。
ありすは一瞬、自分が何か間違ったことを言ってしまったかと肝を冷やしたが、彼は問答を楽しむような表情を兜の向こうに浮かべつつ、さらに言葉を続けた。

「物事には、対象の外部からでなければ観察し得ない事実というものがある。例えばありす、君は君をわからないと言ったが───君の脳髄に宿る君の精神は、自分自身のことをどれだけ認識しているのかな?」
「??????」
「分からなかったかね? つまり私はこう言いたいんだ。君のことを教えてくれないか、と」
「じこしょうかい?」
「そう言い換えてもよい」

ありすは大人の真似事のように、らしくなく姿勢を正した。


599 : 貴方のための物語 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:44:02 eHxvzjsY0

「ありすはありすよ。歳は8つで、ずっとおにいちゃんのことを探しているの」
「それが君の全てかな?」
「? うーん、たぶんそう、かしら?」
「では今度は、私が知る君について語ろう」

すると彼はまるで頭の中のノートを諳んじるかのように、朗々と言葉を流しだす。

「ありす・性不詳。性別女性、生年不明。聖杯戦争に招かれたマスターのひとりであり、他ならぬ我がマスターである。
 ───と、ここまでは君の理解と同様だが、無論これで終わりではない。
 髪の色は白の色合いが強い薄桃色、瞳は髪と同様だがやや赤色の色素が強い。小柄痩身、栄養状態に難ありだが現状の活動に影響なし。記憶がやや不安定であり、過去について断片的にしか覚えていないのが不安材料。ぶっちゃけ私も心配だ。しかしそれを願いと並びたてた不安や謙遜として吐露するのは自分なりの節度と矜持のためだ。そう、君は優しくも誇り高い人間である。その年にして既にね。
 そして気付いているかな、ありす。君は私との会話中にしばしば目を逸らした。幼さ故の多動性ではない。相手の視線から逃げたがっているのだ。誇りと自意識の鏡像としての自己への評価の不安が、君を消極的にしてしまうのだな」

ありすはティーカップに落としていた視線を、慌てて上げた。それを見て男は、安心させるように笑う。

「無論、それは未だ君が私を信頼しきれていないという、ごく当たり前の心情の現れに過ぎないのであり、不徳とすべきは私にあるのだが、まあ良い。
 そして君のその内省的な性質は長所でもある。すなわち、君はよく観察し熟考する習慣を持ち、そして何某かの気づきを得られたときに初めて、その表情を太陽の如く輝かせる。実に好ましい精神的特徴だ」
「たいよう……おひさま?」

辛うじて聞き取ることのできた言葉を、ありすは反芻する。彼の言葉は難しくてまるで分らないが、どうも自分に対して好意的である、ということは察せられた。

「うむ。比喩、修辞的表現で「大変に輝かしい」という意味だ」
「おひさまはあたしも好きよ。ぽかぽかできもちよくって、まるで笑ってくれているみたい」
「ほう」

男は感心したように声を上げる。

「詩的であり、同時にそれだけで留まらぬ感性に満ちた言葉だ。然り、君の中には信仰と創造に値する資質があると、私は考える。自らを信じ、敬いたまえよ」
「むー……」
「理解できたかな、ありす?」
「あなたのいうことは回りくどくていけないわ。つまりこういうことかしら? 『じぶんの鼻を見るにはだれかに見てもらわなきゃいけない』」
「さらにひとつ付け加えるなら、先の私の言は『君の鼻は中々良い形をしている』という指摘も含んでいる」
「あなたの鼻もごりっぱよ。でもちょっと赤くなって、寒そうだわ」
「おお、それは私にとっては新たな発見だ!」

彼は片手で自分の鼻をつまみ、もう片方の手でありすの頬をつまんだ。

「しかし、そう言う君は顔が真っ赤だぞ!」

言われてみて、ありすは自分の顔の火照りを自覚した。鈍色の寒空の下、含んだ紅茶の熱が体内に蓄積され、頬を突き抜けて外に出ているかのようだ。

「どうかね、我らは互いを客観的視点から観察することによって、初めて己の鼻の色を知った。ならば自らを知ることに一体何の疑いがあろうや!」

男はまさに会心の笑みを浮かべた。

「よろしい、理解したようだな少女よ───君は今まさに、太陽の如く笑っている」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


600 : 貴方のための物語 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:44:48 eHxvzjsY0






それは最初、確かに勝てる戦いであるはずだった。

涼やかな風が吹く夜半の街角。人通りなど誰もいない路地で遭遇したはぐれサーヴァントとの戦闘は、当初は優勢に進んだ。
魔術師としてはそれなりの腕を持つマスターたる青年と、総合的に優れた資質を持つランサー。そして相手は、マスターの付き添いもなく未だ宝具開帳の兆しもない狂戦士。となれば、要所要所で的確に魔術によるサポートを得られるランサーに隙はなく、下手さえ打たなければこちらの勝利は盤石であった。
そうして戦況は推移し、遂には宝具の真名を開放したランサーの手によって、狂戦士はその胸に槍を突き立てられ、絶命する末路に至った。
如何なサーヴァントとて心臓を潰されて無事に済む英雄などいるはずもなく……ならばこそ、彼らが自らの勝利を確信するのはある種当然のことではあったのだが。


「繧「繝ェ繧ケ縺ッ縺ゥ縺薙□?」


聞こえるはずのない声が、聞こえた。
男も、ランサーも、揃って驚愕に表情を歪める。その声は今まさに絶命したはずの、心臓に槍を突き立てられ大量の血反吐をぶちまけた狂戦士の口から放たれたものだったからだ。

「き、貴様……ッ!」

それでも流石は歴戦の勇士たるか、ランサーは即座に無手での反撃に成功。茫洋と伸ばされる狂戦士の手を払いのけ、その首を一撃にてへし折ったのだが。

「縺ゥ縺薙↓縺?k」
「くっ、づぅう……!」

頸骨の折れる乾いた音を響かせて、しかし狂戦士は何の痛痒も感じぬとばかりに尚もランサーへと腕を伸ばす。寸でのところで回避したランサーが後ろ手に飛んで後退するのを見遣り、男は未だ覚めぬ困惑のままに戦況を眺めるばかりであった。
それはランサーも同じようで、パスを通じて彼の混乱の感情が伝わってくる。男は既に、ランサーの生前を聞いている。戦場にて活躍した無双の英雄、ならばこそ致命傷を負っても立ち上がる傑物など幾度も見たことはあるはずだが、しかしこれは性質が違った。
死する傷を負っても戦う英雄はいたが、死して立ち上がる人間はいなかった。眼前の何かはまさしくそうした不条理であり、二人の理解の範疇を超えた存在である。
男は念話で指示を仰いだ。それはもはや怒号にも等しい悲鳴であり、返される言葉もまた同じであった。
狂戦士はぎしぎしと、まるで何度も折り曲げた針金めいてぐちゃぐちゃになった体を持ち上げて、虚空に手を伸ばした。それは生者を求める屍鬼にも似た動きで、しかし手元へ魔力が凝縮して現出したのは、人間の身長ほどの長径を持つ巨大な銃砲火器であった。
機関銃───その単語を認識したかどうか、その刹那の時間ですべては終わっていた。
耳を劈く破裂音と、空気を切り裂く炸裂音。断続的にけたたましく鳴り響くはまさしく機関銃の放つ弾丸の射出音であり、ただ純粋に人の命を奪うための暴威であった。
男のすぐ隣に、ぱっと赤い花が咲いた。そうとしか形容できないほどに、すべてはあっけなかった。ランサー、稀代の英雄。彼が運命を共にし、優勝さえ狙えるだろうと確信した傑物。そうであるはずの英霊が、赤い水の詰まった風船であるかのように、びしゃりと弾けて消えてしまったのだ。

男は叫んだ。喉よ張り裂けろとばかりに、何もかも忘れて、ただ胸の裡を支配する恐怖の感情がままに。思考はおぼつかず、今や自分の置かれた状況さえも理解しないまま、脱兎と走る。逃げる。
嫌だ、嫌だ、死にたくない。あんな死に方はしたくない。聖杯なんてどうでもいい、無事に帰れるなら何もいらない。それだけを望んで、男は走って、走って、少しでもあの怪物から距離を離そうとして。
もつれる足で路地の角を曲がった瞬間、男の生はやはり呆気なく終わりを迎えた。
彼が最後に見たものは、自分に向かって迫る、何か黒く巨大な口であった。






601 : 貴方のための物語 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:45:27 eHxvzjsY0



『Ring-a-ring o'roses,
 A pocket full of posies,
 A-tishoo!
 A-tishoo!
 We all fall down.』

それは一見、黒く染まった樹木のように見えた。
樹木。細長い幹が一本と、同じく細長い枝がいくつもいくつも伸びている。枝の先には人の頭部ほどの丸い塊がついていて、ゆらゆらと揺れている。
しかしこれは樹木ではない。枝の先についた球体には口があり、歯があり、舌があった。それらは口々に歌いながら、歯を軋らせてぐちゃぐちゃと何かを咀嚼している。
球体が一つ動くたびに、新たに赤い液体がぶち撒かれる。食っているのだ、人を。今この場に逃げてきた魔術師の男を。
人でないものが人の歌を歌っている。人でないものが人を食っている。
そして最も異常でありグロテスクなのは───この黒木が、エプロンドレスを着た小さな少女の体から生えているのだという、拭えない事実。
少女を苗床にした異形の樹木。
ただ一言、怪物。そうとしか形容の仕様がなかった。

「蠕?◆縺帙◆縺ュ縲√◎繧阪◎繧崎。後%縺?°繧「繝ェ繧ケ」

近づく影がひとつ。
それは死したはずの狂戦士であり、彼はやはり死んでいなくばおかしなほどの傷を負ったまま、少女のような異形の傍に歩み寄る。
その胸には未だ槍が刺さり、首は折れて垂れ下がった頭部がぷらぷらと揺れている。手足もおかしな方向に折れ曲がり、およそ人としての行動ができる有様ではないはずなのに。
彼と彼女はおよそ常人には理解できない、何か独自の言語らしきもので少しだけ話すと、意思疎通ができているのか揃い踏んでどこかへと歩き出した。
点、点と伸び行く血の足跡。後にはただ、惨劇の残り香とも言うべき血の海だけが、そこに残されているばかりであった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








     きみはその右脚が左脚と違うほどにも私と異なるわけではないが、
     私たちを結び合わせるのは、怪物を生み出す───理性の睡りなのである。

                            ───バタイユ『宗教の理論』







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


602 : 貴方のための物語 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:46:01 eHxvzjsY0






小さなお茶会の跡片付けを済ませると、ふたりは揃って歩き出した。
男はアリスを探すため、少女はお兄ちゃんを探すためである。
煌めく夜空、笑う星々。静かな夜の冷たい空気が、手を握って歩くふたりには心地よかった。

「楽しいわ、楽しいわ! こんなにお話したのはいつぶりかしら!
 あたたかな紅茶に甘いお菓子、ときめく絵本に煌めく夜空! きっとここはワンダーランドなのだわ!」

はしゃぐようにありす。うきうきと、少女はまさに年相応の子供が如く、浮足立って笑う。
特に、そう。先ほど食べたケーキはとても美味しかった。ティーテーブルで語らうふたりの前に現れた、丸々と太った歩く不思議なケーキ。
「妊婦ケーキだ」、彼はそう言った。「あのおなかの中にはたくさんのケーキが詰まってるんだ」。
ああ、それはなんて素敵なことだろう。言われた通りケーキナイフを入れてみれば、あらびっくり! ぱんと弾けた妊婦ケーキから、たくさんのおちびたちが飛び出てきたのだ。

「好きなものができたのだね、ありす」
「ええ! 甘いものもおいしいものも大好きよ!」

るんるんと跳ねるありすを、何か微笑ましいものを見るように、彼は柔らかに見下ろす。

「喜びしか知らぬ者から祈りは生まれない。同時に、喜びすら知らぬ者から慈しみは生まれない。
 君は何もないと言ったが、好きなものができたのだ。ありす、たった今から君の世界は変わっていくだろう。私たちが互いの鼻の色を知ったように、これからの一歩一歩が君を形作っていく」
「あいかわらずあなたの言葉は難しいわ。でも悪い気分じゃないの」

うーん、とありすは首を捻り、ぽんと納得する。

「そうだわ、あなたはまるで『先生』みたいなんだわ!」
「……先生、かい?」
「ええ、そうよ! パパもママもお友達もお兄ちゃんも、みんな大切だけどあなたはどこかちょっと違ってて、うん。やっぱり先生なのだわ!」

そうなのだわそうなのだわ、と笑うありす。男もやっぱり笑ってて、でもどこか困ったふう。

「そうか……なにやら、以前にもそう呼ばれたような覚えがある」

でも、と言葉を続ける。

「うむ、悪い気分ではない、な」

それは何かを懐かしむように。思い出せるものなど何もないはずの彼が、郷愁に浸って笑みを浮かべる。

「では行こうかありす。物語を続けるにはもう夜も深い。続きはこんど───」
「いまがこんどよ!」

そうしてふたりは笑いあう。
小鳥囀る黄金の昼下がりを、求めて。
ふたり以外のなにもかもから、見放されたまま。







どれだけの少女が、未知の物語を前に好奇心を抑えられるというのか?

「親愛なる君へのクリスマスプレゼントとして、
 夏の日の思い出に贈る」

手書きの挿絵を添え付けた、貴方の為の物語。


603 : 貴方のための物語 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:46:36 eHxvzjsY0

【クラス】
バーサーカー

【真名】
"グリム"或いは"ルイス・キャロル"或いは"アンデルセン"、或いは"名も無き不死者"@BLACK SOULSⅡ-愛しき貴方へ贈る不思議の国-

【ステータス】
筋力B+ 耐久B+ 敏捷B+ 魔力B+ 幸運EX 宝具E〜A++

【属性】
混沌・狂

【クラススキル】
狂気:A
憧憬と渇望、無垢と愛憎。調和と摂理からの逸脱。
周囲精神の世界観にまで影響を及ぼす異質な思考。

領域外の生命:A
外なる宇宙、虚空からの来訪者に見初められた者。
邪神に魅入られ、権能の先触れを身に宿して揮う器。

【保有スキル】
宇宙〈そら〉の恩寵:EX
虚空より見遣る無貌から贈られる、寵愛にして最悪の呪詛。
創造されたる箱庭宇宙の中枢を担うに相応しい高次生命として強い神性を帯びるが、代償に自身のあらゆる運命・未来・可能性を簒奪され、死後の輪廻までをも縛られる。
このスキルは自身の死亡、ないし令呪の使用、聖杯による奇跡を行使しようと、決して取り外すことができない。
余談だが、彼の幸運ランクEXはこのスキルに由来する(本来のランクはE-)。
これを規格外の幸運と解釈するか、逆に規格外の不運と解釈するかは、人によって別れるだろう。

不死の呪詛:A
その身に掛けられたる呪い。バーサーカーは決して死ぬことが許されない。霊核を破壊された場合、彼の肉体は一時的に消失し、次瞬に相応の魔力消費と共に復活する。
事実上戦闘続行の上位互換スキルとも取れるが、無論これにはいくつかの条件とデメリットが存在する。
第一に、復活にかかる魔力消費はサーヴァント召喚に匹敵するものであり、マスターがこれを賄えない場合にはバーサーカーの霊基は消滅する。
第二に、復活の度にスキル:精神汚染のランクが上昇し、更に汚染をマスターと共有する。
歪な比翼連理は溶けあうように墜ちていく、それは精神的な心中と言い換えてもいい。

精神汚染:A+++
愛しき少女の情念によって精神が汚染されている。
精神干渉をシャットアウトできるが、同ランクの精神汚染を持つ者でなければ意思疎通が成立しない。


604 : 貴方のための物語 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:47:06 eHxvzjsY0

【宝具】
『開演の刻来たれり、其は総てを弄ぶもの(ディアラヴァーズ・グランギニョール)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1000
あらゆる他者を演者とし、その運命を弄ぶ悪辣劇場。
かつて数多の物語を玩弄し結末を書き換えたご都合主義の支配者「メアリィ・スー」が保有する世界改変の権能にして、それ自体が意思を宿した最新の邪神とも言うべきもの。
その権能が最大まで発揮された場合、過去の改竄や死者の蘇生さえ実現できてしまう文字通りのデウス・エクス・マキナであり、限りなく全能に近い万能の力ではあるが、
その本質はあくまで既存の物語の改変であり、0からの創造だけは決してできないという性質を持つ。
かつて暗黒舞台装置・機械仕掛けの失楽園との戦闘で簒奪した力だが、バーサーカーは現在この宝具を失っている。

『終幕の刻来たれり、其は総てを尊ぶもの(アリス・イン・マリアージュ)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000
己一人を苦行者とし、物語を紡ぎ上げる創造能力。
神ならぬ人間であれば誰もが持つものであり、別の事象世界においては「観測の力」とも呼称されるもの。
バーサーカーが、そして彼の魂の大本となった童話作家たちが繰り返してきた、空想の創作にして世界の創造。
バーサーカーの場合、書き上げられた物語に準じた登場人物を夢霊として召喚することができたはずなのだが、現在彼はこの力を失っている。

『恐怖劇を終える剣よ、此処に(アンサンブル・カーテンコール)』
ランク:E〜A++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:100
かつてバーサーカーが揮った数多の武器群を、相応の魔力消費と引き換えに具現化する。
由来なく拾い上げた名も無きもの、想いと共に誰かに託されたもの、血と闘争の果てに奪い取ったもの。彼が歩んだ死山血河の旅路の象徴にして、力の具現。
それはまるで、彼らが紡いだ物語のように。
幾重にも折り重なる因果と縁にして、想いと願いの果てである。

【weapon】
アンサンブル・カーテンコールによって召喚した武器群。


605 : 貴方のための物語 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:47:34 eHxvzjsY0

【人物背景】
「君は確かに、過去に、覚えがあるだろう。
 偽りでありながら感じた肌の温かさを、抱擁する躰から滴る血の温かさを。
 記憶の底に在る少女を再現すれば、人の形に見えるものなのか」

邪神に玩弄された魂。神々の箱庭遊びのお人形。
総ての真実を忘却したまま、彼は今も愛しき少女を探し求めている。

【サーヴァントとしての願い】
「アリスは何処だ?」



【マスター】
ありす@Fate/EXTRA Last Encore

【マスターとしての願い】
「お兄ちゃんは何処?」

【weapon】
なし。

【能力・技能】
サイバーゴーストの常として、際限なき魔力貯蔵量を誇る。また周辺物質をリソースに変換して肉体を保持する。
以上は本来的には電脳空間においてのみ機能するものであるはずだが、本成敗戦争においてはなぜか現実世界においても同等の機能を有しているようだ。
リソース使用による負荷と情報混濁により肉体そのものが変容してしまっており、並みのウィザード程度なら苦も無く虐殺できるほどの異形・身体スペックを持つ。

【人物背景】
かつて少女だった怪物。


606 : ◆Uo2eFWp9FQ :2022/07/29(金) 20:47:52 eHxvzjsY0
投下を終了します


607 : ◆4Bl62HIpdE :2022/07/31(日) 06:16:38 X/mClFzw0
投下します


608 : 絶対的な敵 ◆4Bl62HIpdE :2022/07/31(日) 06:18:30 X/mClFzw0


「……あんたは、ナチスがユダヤ人に何をしたのか覚えてるのか」







ある地区の路地裏、血だまりの中、ロングコートの白髪の男と白い、戦闘服を着た女が佇んでいた。
男の名は岸辺。最強のデビルハンターを自称し、支配の悪魔を計略により撃ち滅ぼした男だった。

その後、新たな支配の悪魔を協力者の手に託した所で、突如としてこの聖杯戦争に参加させられた。
そうして襲い掛かってきた一組の主従を倒して、今に至る。


「『核兵器』は?」

「……この手で撃ち放った」「マジか」

戦闘服の女――ザ・ボスと名乗った彼女は、手を震わせながらそう呟いた。

「で、第二次世界大戦にも参加した。チェンソーマンに喰われちまった歴史の体現者....か、アンタは」

「『チェンソーマン』……?」
彼女は、何だそれは、とばかりに首を傾げる。

「....この様子だと、悪魔を知らないみたいだな」
岸辺はこれ以上は何も語らず、ウイスキーを飲む。
ザ・ボスは、それを苦い眼で見つめた。

「戦争中に酒を飲むとはな。...悪魔というのは、何かの比喩か?」
「...そのまんまだ。どうやら聖杯戦争というのに招かれたんだろ?」
岸辺は酒を飲み続け、人差し指を立てる。

一。「マスターの俺の攻撃はさっきの変な衣装のやつ....サーヴァントには通用しない」
二。「サーヴァントのあんたの攻撃は変な衣装に通用する」
三。「この状況は俺にとっては昼下がりの飲みと何ら変わらない平穏なものだ」


609 : 絶対的な敵 ◆4Bl62HIpdE :2022/07/31(日) 06:19:14 X/mClFzw0


「....。」
ザ・ボスは呆れるが、同時に岸辺の独特な風格にも気が付き初めていた。
仮にとはいえ、戦争に巻き込まれてもここまでの余裕。そして尚、兵士にのみ分かる直観だが――この男、戦闘後から奇襲に対する警戒を全く怠っていない。
それは、例えば自分を生前殺してくれたジョン....スネークが順当に年老い、老人となって尚戦場に身を寄せる姿を想起させる物だった。

死体、適当に片づけておいてくれ、俺は飲みに行く、と岸辺は言い放ち、
「.....あ、一つ言い忘れた」

「....何だ」

岸辺はウイスキー瓶を持ちながら、こう言った。
「お前の願いは何だ?」

岸辺の目が鋭く光る。ザ・ボスは少し狼狽え、こう告げた。
「……何もない。私は国家に忠を尽くしたが……もう、何も残っていない。今は自分と、主に忠を尽くすだけだ」

「そうか」
岸辺は背を向け、呟いた。

「....国とか仲間のためにと思ってやった事でも、辛いことあるよな」
「……マスター、我々が戦った記憶すら抜け落ちた貴方に何が分かるというの?」

ボスは反論するも、岸辺は難なく躱した。
「只の一人言」

そう言って、岸辺は路地裏の出口から雑踏の中へ消えていった。
....と、思ったが、ひょっこり顔を出して、

「日本は俺が戻って後始末しないと面倒なことになる。俺の方はただ、戻るだけだ」
そう言って、本当に雑踏の中へ姿をくらませた。



「(『相対的な敵』、か)」

ザ・ボスは死体の痕跡を消しながら考える。
時流によって、絶えず敵は変移する。そして軍人は弄ばれる。
軍人の技術は仲間同士を傷つける為にあるのではない。

ザ・ボスの居た世界では、敵はいつの時代も同じ兵士であり、人間だった。
岸辺が話した所によると、岸辺の居る世界では人間以外にも「悪魔」という相対的な敵がいるらしい。
チェンソーの悪魔を巡り、ソ連、アメリカ、日本、中国は平和の元、争った。
それは別に構わない。語っていた支配の悪魔とやらが目指したように、悪魔の力によって戦争や死が消えれば、相対的な敵も消え、自身がジョンに託した意志とは別のやり方で岸辺の世界は一つとなってしまうのかもしれない。

そう言う意味では、キシベはありのままの世界を残すために抗った兵士の一人とも考えることもできた。

「(ならば、私も....最善を尽くそう)」

ザ・ボスという英霊には、二つの側面がある。

核を撃ち込んだ凶人として歴史に名を刻まれながら、任務を全うし、全面核戦争を抑止した英雄(愛国者)としての顔が。

デイビー・クロケット。
彼女を凶人たらしめた戦術核兵器は、現在も彼女の宝具として扱えるようになっている。

この戦いは、チェンソーの心臓を巡る争いとも、賢者の遺産を巡る争いとも違う。
国家に帰属しない、たった一人の身勝手な意思によって、世界は書き換わる。
もし、彼女が死の間際にスネークに語った、時間に関与しない、本来ザ・ボスの居る世界に居るはずのない「絶対的な敵」....あらゆる世界の人類の存続を脅かす恒久的な敵が此度の聖杯戦争で生まれる場合は、もう一度、その手段を確立させた後にこの手で東京に核を撃ち放つだろう。
例え撃ち滅ぼせなかったとしても.....あらゆる物が、犠牲となったとしても。

それが、「ザ・ジョイ」....運命と時代に翻弄され、戦う相手は常に人間だった者に対する、運命への反抗であり挑戦。
即ち、英霊としての、人間でない「絶対的な敵」への戦いの願いであり、喜びだった。


610 : 絶対的な敵 ◆4Bl62HIpdE :2022/07/31(日) 06:20:42 X/mClFzw0



岸辺は路上で飲みながら考える。この聖杯戦争について。
飲酒でネジが緩んだ頭の中に入れられた情報によって、サーヴァントには歴史上の逸話を再現した「宝具」が与えられているらしい。



"「『核兵器』は?」

「……この手で撃ち放った」「マジか」"

マジか、というのは即ち、そういう事だった。
つまり、得体の知れない兵器持ちのサーヴァントと一緒に組まされているし、何より悪魔との契約により自分の体には魔力どころか何も残っていない。

令呪の使い方までは頭に入っているが、ボスに聞かされたナチスや第二次世界大戦と同レベルの悪魔の恐ろしさだったら、まずそんなものを勝手に撃ち放たれた日には確実に魔力切れで死ぬんだろう。

「...嫌んなったな」

ストレスは増えるし、酒の量も増える。
あのサーヴァントに使える手札は二つ。一、片手で持ってた銃。二、相手のサーヴァントを取り押さえるときに使った格闘術。
そんなもので、他のサーヴァント達の「歴史上の宝具」には勝てるとは思わなかった。

ならば、宝具を使われる前にマスターを殺すか、脱出の協力者を探すしかない。
岸辺は、念話でボスに問いかけた。

『聞こえるか、ザ・ジョイ』
『....何だ、マスター』

『俺たちは積極的に他のマスターを探して、身柄を拘束するか殺す。サーヴァントが出たらお前は待機してろ』
『分かった。気を付けろ、マスター』






【クラス】
アーチャー

【真名】
ザ・ボス@METALGEARSOLID3

【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力E 幸運D 宝具C

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
新しい英霊のため抵抗力は低く、ダメージを少し緩和できるのみ。


単独行動:A++
魔力供給なしでも長時間現界していられるスキル。
ザ・ボスの潜入工作員としての能力がスキルを向上させている。

【保有スキル】
射撃:A++
銃器による射撃全般の技術。
長年作戦行動に従事した実力により、宝具パトリオットを使用した戦闘では脅威に値する命中精度と威力を発揮する。

CQC:A++
クロース・クォーターズ・コンバット。
ザ・ボスが弟子であるジョンと共に開発した格闘術。主にナイフや関節技を用いる。
基本的には、背後から忍び寄るか相手に高速で駆け寄り〇ボタンかRTボタンを押す....即ち、アクションを起こすことで発動し、相手を気絶、あるいは速やかに殺傷する。
ザ・ボス程のレベルともなれば、連続で相手をねじ伏せる連続CQCやカウンターを前提にCQCを行うことも可能。

カリスマ(コブラ部隊):A+
軍団を指揮・統率する才能。
第二次世界大戦を終結させた「コブラ部隊」を率いた英雄であり、統率・訓練教育の才能に恐ろしく秀でる。

【宝具】

『パトリオット』
ランク:C+++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜100 最大補足:10人
携行兵器。XM16E1をベースに銃身を切り詰め、高い火力を誇る、
魔力が枯渇しない限り無限に発射できる他、正面から弾幕によるバリアを展開できる。

『デイビー・クロケット』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜1000 最大補足:5000人
彼女を「核兵器を撃ち込んだ凶人」たらしめた戦術核兵器の再現。
軍事要塞を粉々に消し飛ばすレベルの威力を誇るが、その分膨大な魔力リソースが必要となる。

【weapon】
パトリオット、CQC用のナイフ

【人物背景】
通称「ザ・ジョイ」。嘗て歴史上から情報統制により抹消され、それ以前には「凶人」として記録された女性兵士。
冷戦の最中、第二次世界大戦時に遺された莫大な遺産を回収する責務を全うした。

【サーヴァントとしての願い】
願いは無い。今の私は何も残っていない。
だが、この聖杯戦争に『絶対的な敵』がいるのなら、嘗て自身がひとつになるべきだと信じた世界の為にそれを撃ち滅ぼす。


611 : 絶対的な敵 ◆4Bl62HIpdE :2022/07/31(日) 06:21:48 X/mClFzw0



【マスター】
岸辺@チェンソーマン

【マスターとしての願い】
脱出。無用な殺しはしたくないが、他のマスターが全員殺しに掛かる気/脱出の方法がないなら勝ち残る。

【weapon】
支配の悪魔と対峙した時に使用した拳銃・ナイフ

【能力・技能】
生来の肉体の強さと、デビルハンターとしての怪異全般に対する対処能力。
ただし、彼の体は契約で支払えるものがほとんど残っていない状態。
【人物背景】
自称「最強のデビルハンター」。
殉職者が多数出ている公安デビルハンターにおいて、50代にして現役、且つ高い実力を保つ。
能力は人間の範疇であるとはいえ、下等生物を支配できる悪魔からチェンソーマンを逃がす、中国の支配下にある少女を攫うなど、諜報面において実力の底が見えていない。
参戦時期は第一部終了後。

【方針】
マスターを順次狙って潰す。抵抗する気が無いなら保護、あるなら殺害する。


612 : ◆4Bl62HIpdE :2022/07/31(日) 06:22:09 X/mClFzw0
投下を終了します


613 : ◆Lap.xxnSU. :2022/08/01(月) 23:43:10 fGhL672g0
貴方のための物語
微笑ましい陽だまりの日常を描いてから一気に現実の姿を描いて落とす、その構成が大変絶妙だなと思いました。
幻想的と退廃的の境目が非常にハッキリとしているにも関わらず当人達はお構い無しに明るく微笑ましくやり取りを交わすおぞましさ。
ありすのあどけなさと"先生"の頼もしさ、その二つが最悪の狂おしい形で噛み合っていて…うん、素晴らしい。

絶対的な敵
岸辺とザ・ボスの淡白で事務的な会話に双方それぞれの原作らしさがあって良かったです。
マキマに教えられた失われた兵器の名前を岸辺がザ・ボスに問うやり取りもチェンソーマン原作のアフターとして良い。
生を繋ぐためなら誰にでも容赦しなそうなこの組み合わせ、手堅い強さと恐ろしさがありますね

投下ありがとうございました。


614 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/02(火) 19:18:36 6C1ajP7g0
2作品投下させていただきます。先ずは1作目を


615 : 大人のように、あこがれに ◆TPO6Yedwsg :2022/08/02(火) 19:19:32 6C1ajP7g0

「先生に、なりたいんです」

 竹刀袋を握りしめる。
 脳に刻まれた知識と、目の前にいるサーヴァントという存在を認識し、少女は決意を固めた。
 少女、川添珠姫は剣道をしているという以外は、ごく普通の少女だ。
 幼い頃母を事故で無くしたが、父の愛を受け、実家の剣道場で大人に混じって剣道に励んできた。
 そんな彼女からすればこの状況は、聖杯戦争というものは許し難いものだ。

「あたしは、特に理由もなく剣道をしていました。お父さんの、実家の剣道場の手伝いで。
あたしにとって剣道は家事みたいなもので、毎日当たり前にすることで。嫌いじゃなかったけど、好きでもなかったと思います」

 サーヴァントは、赤い髪の少年だった。
 見たところ、少女と1つ2つ程度しか変わらない、しかしそれでも、世界に認められた英雄だという。
 特撮の世界にいるような、若くして超人的な力を振るい世界を救うヒーロー。
 そんな存在が何人もいて、そもそもヒーローだけでなく悪者だっていて、願いを叶えるために戦い合う。
 少女では、到底及ぶものではない。
 けど、それでも。

「高校生になって、成り行きで剣道部に入部して……けど、そこでやる剣道は、楽しかったんです。
皆と一緒に練習をして、試合をして、友達になれて。こんなあたしのことを、頼ってくれるんです。
タマちゃんみたいになりたい、って言ってくれたんです。あたし、それが嬉しかった」

 あこがれをまっとうする自分でありたい。
 もっともっと、強くなりたい。
 剣道家として、友達として。
 そして何より……自分にも、あこがれるものがあるから。
 先生のように、誰かを導き、頼られる存在でありたいと、珠姫はそう願っているから。

「この戦いで、沢山の人が悩んだり、苦しんだり、困ったりしているなら、あたしはそれを聞きたい。
どうにもならないかもしれなくても、あたしがもし何かを示すことができるなら、それを諦めたくないんです。
あたしを一緒に、連れて行ってくれませんか」

 赤い髪のサーヴァントは、じっと少女の瞳を見つめながら話を聞いていた。
 少女もまた、相手の瞳だけを見ていた。
 そうして、彼も口を開く。

「沢山の人が死んでしまうところを見るかもしれないぞ」

「けど、救うことだってできるかもしれない」

「マスターが死んじまうかもしれない」

「それは、誰もが死んでしまうかもしれないということです」

「人死なんて、知らないほうが、絶対いいぞ」

「知らないままでも、きっと悔やみます。それにきっと先生なら、助けに行きます」

「……そっか」


616 : 大人のように、あこがれに ◆TPO6Yedwsg :2022/08/02(火) 19:20:09 6C1ajP7g0

 いくつかの問答を経て、サーヴァントはニカッと笑った。
 少女より年上にしては、戦いの絶えない異世界の英雄にしては、それはとても幼気な笑みだった。

「オッケー。いいぜ、マスター。一緒に行こう」

「! いいんですか?」

「ああ。誰かのために死ぬ、とか言い出したら考えもんだったけどな、そうじゃないだろ?」

「はい、死ぬつもりなんてありません。そんな事になったら、皆悲しんでしまいます。先生も」

「せんせい、か。なんかさ、そういうところも、似てるな。聖杯ってのは、そういう共有点のあるやつを相方に選ぶのかもなあ」

 少年はどこか、過去を偲ぶように空を仰いだ。
 珠姫の先生は、親しみのある良い先生だったのだろう。
 しかし、自分の師匠(せんせい)は……。

「俺にもさ、師匠(せんせい)がいたんだぜ。尊敬できる人だった。そう、だったんだ。
けど……あの人は俺を利用してて、俺を作った人で、戦うことになって」

「それは……」

 遠い遠い異世界の話。
 過酷で、沢山の人が死んで、多くの災害があって。
 そんな遠い話を珠姫はあまり共感することができなかった。
 しかし、先生と決別してしまった、その悲しみだけは理解できた。
 きっと今も、彼は後悔している。

「俺、なーんにもなかったんだ」

 彼は、詐称するものという意味を持つエクストラクラスだった。
 世界を騙す、偽り人のクラス。
 そしてそれに相応しい経歴を、彼は持っていた。

「誰かの代わりとして生み出されて、利用されて、捨てられた。その時まで疑問に思うこともなかった。
ただ、なんとなく生きてきた。けど、それじゃいけなかった」

 空っぽの少年。
 それは少女と同じく、ただ環境のあるがままに信念を持たずに育った。
 だから少年は既に、少女のことが好きになっていた。
 二人は互いの半生に共感し、共に戦って欲しいと感じていた。

「不完全な技術で生み出された俺には欠陥があった。このままじゃダメだって、自分なりに頑張って、けどそれは所詮自分なりでしかなくって。
沢山のことを間違えながら、答えを探して。分かったことが、一つだけある」

 誰もが、一つの命であること。
 苦悩しながらも答えを探す時間を与えられるべきだということ。
 誰かのために生きること、誰かのために死ぬこと、それは信念の果ての答えであるべきで、強要されるべきではないこと。
 それが、少年の至った命の答えだった。

「君の『誰かのためになりたい』って願い、俺も手伝いたい。たとえ相容れず、戦うことになっても。
俺、精一杯マスターを守るよ。俺じゃ、頼りないかもしれないけれどな」

 だから、二人は誰かのために戦える。
 それは誰かを寄る辺にするためでもなく、そうしなければならないという強迫観念でもない。
 ただ、自らの夢と信念に基づいてそうしたいと思ったから。

「頼りないなんてことないです。ありがとうございます、一緒に戦いましょう。ところで……なんて呼べばいいですか?」

「ん? ああ――まあ、ここじゃ真名ってのはそんな重要でもないらしいけど……『プリテンダー』でいいよ。
しっかし聖杯ってやつも、俺にお似合いのクラスを持ってくるよなあ」

 少年の諧謔を含んだ物言いに、珠姫はムッとして反論する。
 年頃の少女が友人を呼ぶには、なんとも刺々しい名称だった。音の響きも気に入らない。

「ダメです、それ、そんなにいい意味ではない言葉じゃないですか。そんな風に呼ぶのは申し訳ないので、ちゃんと名前を教えてください」

「そ、そうか? じゃあ、俺の名前は――」


617 : 大人のように、あこがれに ◆TPO6Yedwsg :2022/08/02(火) 19:21:24 6C1ajP7g0
【クラス】
プリテンダー

【真名】
ルーク・フォン・ファブレ@テイルズオブジアビス

【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具A

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上現代の魔術師ではプリテンダーに傷をつけることは出来ない。

騎乗:C
乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。
「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
Cランクであれば正しい調教、調整がなされたものであれば万全に乗りこなせる。

偽装工作:D
ステータスおよびクラスを偽装する能力。
Dランクであれば、いくつかのステータスを隠蔽又は改変し相手に見せることも可能。
主に一部のステータスを低くし誘いに用いるか、逆に高くすることで威嚇に用いる。
生前においてルークは別に振る舞いを偽っていたわけではないのでスキルランクは低い。

精霊の写身:A-
ルークは音を司る第七音素意識集合体『ローレライ』と固有振動数を同じくする完全同位体である。
ローレライは別世界の基準においては所謂最上位の精霊とも形容できる。
ルーク本人は精霊というわけではないが、ローレライと共鳴しその権能の一部を振るうことができる。
自身の属性に『精霊』が付与される。

【保有スキル】
聖なる焔の光(偽):A
『ND2000 ローレライの力を継ぐもの、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。
名を聖なる焔の光と称す。彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くであろう』
ルークはこの予言によって生誕した存在ではないが、『本物のルーク』に成り変わり予言に記された運命と戦い世界を救った。
歴史上に発生する試練に対抗する正当な英霊としての底力、運命力をルークは保持している。
故にルークは正当なセイバーの適性を持つが、彼は自身が偽者であることをルーツとして認めているためプリテンダーとしての適性も持つ。

アルバート流:C+
ユリア・ジュエの弟子にして後の夫であるフレイル・アルバートが興したホド特有の剣術で、盾を使わず攻撃力に長けているのが特徴。
無手でも戦えるようにすることを念頭に置かれているためか、烈破掌や崩襲脚など格闘技も多い。
ルークはこの流派の基礎を修めているが、以降は正当な鍛錬ではなく過酷な旅の中で力を培うこととなった。
そして培った力は遂に、己の片割れを、師さえも超えた。

菩提樹の悟り:E
世の理、人の解答に至った覚者だけが纏う守護の力。 対粛清防御と呼ばれる“世界を守る証”。
そう呼ぶにはあまりにも拙い答えではあるが、ルーク・フォン・ファブレが悟った『生まれた意味』。
特別な意味がなければ己の存在を許せなかった偽者の少年が、ただ一つの命としてこの世に生きたいと叫んだ原初の願い。
Eランクであればあらゆるランクの物理、概念、次元間、精神攻撃に対し抵抗する余地を生み出す。
スキル「神性」を持つ者はこのスキルの効果を無視出来る。


618 : 大人のように、あこがれに ◆TPO6Yedwsg :2022/08/02(火) 19:21:49 6C1ajP7g0

【宝具】
『超振動(レイディアント・ハウル)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:10人
まったく同一の振動数を持つ音素(完全同位体)が干渉しあうことで起こる、ありとあらゆるものを分解し再構築する力。
第一から第七まで全ての音素で発生しうる現象だが、第七音素で起こった場合の破壊力は他を遥かに上回る。
ルークはローレライの完全同位体であるため、自力で超振動を起こすことができる。
しかしルークの超振動は劣化しているため威力は本来の6割程となる。

『ローレライの鍵』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
第七音素を集結させる力を持つ剣。
発動することによりルークの力の精密操作能力が格段に向上し、魔力効率を向上させる。
更にこの宝具を装備中、宝具『第二超振動』を使用可能となる。

『第二超振動(ロスト・フォン・ドライブ)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:1人
ローレライの鍵を装備している時のみ発動可能な最終宝具。
オリジナルとレプリカ、二人の完全同位体の超振動を合わせることによって発生する『全ての音素の力を無に帰す力』。
ルークは生前オリジナルであるアッシュの力を受け取りこれを行使可能となった。
その威力は通常の超振動の比ではなく、あまりに高威力であるため制御の観点からもルークはこの力を対人以上の範囲で使用しない。
莫大な魔力を消耗するが、斬撃の効果範囲である直線上の対象を完全消滅させる。
『力を無に帰す』という性質上敵の宝具に対抗する際更に莫大な補正を得るため、およそ相殺できない宝具は存在しない。

【weapon】
片手剣
ローレライの鍵

【人物背景】
『ルーク・フォン・ファブレ』の劣化レプリカ。
生まれた意味を知らなかった偽者の少年。
その旅の果てにオリジナルとの対話を経て、彼は偽者であることを肯定しながらも自身が一人の命であることを肯定した。
特別な意味がなくても、誰かに必要とされなくても。
生まれたことに意味なんて無い、ただ、俺はここにいる。

【サーヴァントとしての願い】
生きたい。


【マスター】
川添珠姫@バンブーブレード

【マスターとしての願い】
人を守るために戦う。

【能力・技能】
全国クラスの剣道の腕前。
剣道は精神修養を第一目的としたものであり、窮地での護身は勿論精神強度は一学生としては非常に高い。

【人物背景】
川添道場の一人娘。
幼い頃から道場で剣道をしていたが、そこに何か具体的な目的があったわけではなく、真面目にやってはいたが惰性にものだった。
唯一の趣味といえば特撮鑑賞。『ブレードブレイバー』を初めとするシリーズが大好き。
高校に入学するまで目的もなく剣道に没頭し、それゆえに部活の剣道部にも興味を示すことはなかった。
しかし剣道部顧問の先生のしつこ、もとい熱い勧誘を受け、剣道部への入部を承諾。
そこで彼女は部活としての剣道を、自分を慕ってくれる同級生たちを、何故自分は剣道をし、その果てにどうなりたいのかを知っていくこととなる。
剣道をすることに目的なんてなかった。けれど、そんな自分を尊敬し目標とし追いつきたいと言ってくれる友人ができた。
たとえこれまでの自分に理由がなくても、自分は皆を導く標となることができる。
そして、川添珠姫は一つの招来への展望に至った。
『剣道をすることで、誰かが喜んでくれることが好きです。剣道部の皆と剣道をするのが好きです。コジロー先生みたいになりたいです。それがあたしの目標です』
空っぽだった少女が初めて自分を見つめ、剣道を見つめ、そして至った答えだった。

【方針】
戦いに出る。説得できる人は説得する。
戦うしかないのなら、戦う。けれどマスターは殺さない。犠牲者も容認しない。
たとえNPCだろうと、聖杯からの情報以外で判別できる要素がない以上意思を持ち血を流す人として扱う。

【備考】
レプリカルークにプリテンダーとかいうクラスを与える尊厳凌辱。ジアビスの皆さんは激おこ案件。
完全なる善陣営。ルークには聖杯が手に入ったら受肉したい、くらいの願いはあるが誰かを傷つけてまで願うものではない。
マスターが何処までも真っ直ぐで良識ある少女なのでルークの卑屈癖はある程度押さえられるでしょう。
ステータスとしては平均的なセイバーだが、宝具『第二超振動』が極悪。
その本質は対宝具迎撃宝具とでもいうべきもので、敵の宝具が強力であればあるほど突き刺さり負担を強いる。


619 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/02(火) 19:22:57 6C1ajP7g0
1作目の投下を終了し、2作目を投下させていただきます


620 : 子供のように、ひたむきに ◆TPO6Yedwsg :2022/08/02(火) 19:23:39 6C1ajP7g0

 魔力を鳴動を感じる。
 無色の空間から、夢心地に似た何処かから、浮上していく感覚。
 本来は沈んでいたもの、それが浮上するにつれ、自我を取り戻していく。
 かつて滅びに瀕した世界にてその役目を終えた英雄は、まどろみの中その瞳をゆっくりと開いた。

『聖杯』『異界東京都』『聖杯戦争』『異なる世界の英霊たち』『数十数百騎による願いを賭けた戦い』

『そして、私の戦うべきもの』

 魔力が、失った体を編み込んでいく。
 その過程で、数多の見知らぬ知識が練り込まれていく。
 それは、何処かの世界からの干渉か。
 聖杯か、編纂事象の抑止力とやらか、それとも『守護神デュデュマ』の意思であるのか。
 少女には、ささやかでこまやかな願いこそあれど、聖杯などにかける大それた願いはない。
 しかし、少女はここに召喚される。
 ある一つの使命を持って、少女は召喚者のもとへと現れた。

「サーヴァント・ライダー。使命を受け召喚された。お前が私のマスターか――」

 懐かしい装束を纏い、仮初めの体を得る。
 サーヴァントとは、死した後も皮肉なものだと思いながら、ライダーは目前のマスターを見て。

「え、何? サーヴァント……マスター?」

「……は?」

 寂れたアパートで一人酒盛りしていた男は、見た通りの呆け声で応じた。
 スーツ姿を楽に着崩した、20代半ばほどの男だった。
 か細いライン、頼りない魔力、状況を明らかに理解していない酔っ払い顔。
 どう見たって、素人だった。
 おい、これはどういうことだ。
 少女……ミト・ジュエリアは、未だ預かり知らぬ『使命』とやらに内申毒づいた。


621 : 子供のように、ひたむきに ◆TPO6Yedwsg :2022/08/02(火) 19:24:44 6C1ajP7g0

「で、そろそろ落ち着いたか」

「ああ落ち着いたよ……魔力放出とやらであれだけ部屋の中を転がされればな!
チクショーお陰で体の節々が……どうしてくれるんだ明日も仕事あるんだぞ!」

「それは悪かった。どうにも定職についた男には見えなくてな」

「俺は、フリーターじゃ、ねえって!」

 似たようなことを言われたことがあるのか、男は悲しげにビール缶を冷蔵庫にしまうとミトと対面する。
 胡座をかき、あー、とか、うー、とか、しばし困ったように頭を掻いていたが、それが終わると姿勢を正し、正座で向き直った。

「……おかしな催眠術にかけられた、とかじゃないんだよな? お前は、サーヴァントってやつか?」

「その通り。お前の手に宿った令呪が、私のマスターである証ということになるな」

「マジか……マジか」

 男は険しい顔でうつむき、眉間を揉む。
 自分の頭に刻みつけられた、不自然さをまるで感じない知らないはずの知識を咀嚼していく。
 ミトはそれを待った、こちらから声をかけることなく。
 初対面こそダメな大人の姿だったが、よくよく見れば武道の基礎、初歩の精神修養を修めたものの振る舞いだと気づいたからだ。
 マスターの男は現実逃避をしているのではなく、現状を理解し答えを探していた。
 ならば発破をかけることはせず、試してみることにした。

「……悪い、とりあえず名前からだよな。俺は石田虎侍。高校の教師で、担当は政治経済。後剣道部の顧問をしてる。
この異界東京都、ってとこで与えられたらしいロールも、それに準拠してるみたいだな」

「改めて、私はライダーのサーヴァント。サーヴァントの基礎クラス七騎のうち、強力な乗騎を持つものが選ばれる。
此度の聖杯戦争には、ある使命を抱いて参戦した」

「使命? 願いってやつか? 聖杯で、なんでも願いが叶うっていう」

「違う。私は聖杯にかける願いを持たない。私が召喚されたのは、ここに私の戦うべき『何か』が存在するからだ。
私は『世界』、或いはそれに近しい存在の要請を受けて召喚されたものである」

「……かいつまんでいうと、仕事ってこと?」 

「そういうことになる。そして、私が使命を果たすには必然戦う必要があり、マスターであるお前の協力は不可欠だ」

 その言葉に、空気が引き締まる。
 武道の基礎を修めているとはいえ、紛れもない一般人に対する協力要請。
 ミトとしても不本意ではある、だがその程度の不本意は飲み下さねば、戦うことなど到底できない。

「石田虎侍。戦う覚悟はあるか? まもなくこの異界東京都は戦場となる。サーヴァントの戦いは秘匿されるものではあるが。
しかし、この創造された異世界は『最悪この世界が壊滅しようと構わない』ことが前提にあると想定される。それに値する強力な宝具の持ち主がいれば。
逃げ場の保証はできない、戦わねば死ぬ。特にマスターとして招かれたお前は。果たしてお前が現実のお前であるのか、我らと同じような写身であるのか。
しかしどうあれ、ここにいるお前はお前としての意思を持っていることに変わりはあるまい」

「……戦う、か。現実味が全然ないな……けど、この知識ってやつがこれが現実だって嫌ってほど訴えてきやがる」

 教師、それも社会学の担当であるからには、戦争というものがどういうものかは知っているのだろう。
 平和な日本においては体験することなど無いが、中東や西欧においては今も残酷で陰惨な国境争いを続けている国は多数存在する。
 まして、英霊。人の形をした戦闘機とでも形容すべきものがこれから数十数百の規模で争いを始めるというのだ。
 しかし、迷う時間は与えられない。
 残酷なことではあるが、迷うくらいなら、戦わないほうがいい。

「今、ここで、答えを聞く。お前は戦えるか。戦えぬいうのなら、今日のことを忘れ、脳裏の聖杯の知識から目を逸らせ。覚悟無きものに――」

 英霊は、マスターという要石さえあれば存在できる。
 最悪、自分一人でも。そう思ってかけた言葉は、焦りの声に遮られた。

「待った! ちょっと待って! 3分くれ!」

「は?」

「だから、3分! それだけ待ってくれないか」

「……戦場では、1秒の迷いも命取り――」

「まだ戦場じゃないだろ! というか、『そういうの』じゃないんだ! とにかく待ってくれ!」

「……いいでしょう。3分だけ」

 3分を許すと、虎侍は棚の上の写真立てを手に取った。
 中には、竹刀を持った剣道少女たちの姿が写っている。
 ある青春の一幕、その中には虎侍の姿もあった。
 その写真を、写真の中のひとりの少女を、彼は見つめていた。
 そこに何かを問いかけるように、そしてそこから答えを受け取ったように。


622 : 子供のように、ひたむきに ◆TPO6Yedwsg :2022/08/02(火) 19:25:11 6C1ajP7g0

「なあ、ライダー。この聖杯ってのは、俺みたいなただの教師もマスターに選んじまう。
ならさ……こいつらくらいの子供が選ばれちまうってこともあるのか?」

「……あるだろうな。多くの願いを内包するには、多種多様な人間を招き入れマスターに選ぶだろう。その子達は、教え子か?」

「ああ。けどまあ、何かを教えられたかって言われると甚だ疑問なんだけどな。
俺は……あの頃、生徒よりも明日の食い物のことを考えてるような、典型的なダメ教師だったよ」

 生徒から菓子パンを恵んでもらい喜ぶその姿は残パンマン、などと呼ばれていた事実は本人としては知らないほうがいいだろうが。
 だがそんなことは認知するまでもなかった。
 ある少女を剣道部に引き入れたことをきっかけに、大いに自分を見つめ直すことになったからだ。

「一年分の食事券をかけて先輩と剣道部同士の試合だーなんて馬鹿なことしてたのがきっかけだったかな。
なんとしても勝とうって躍起になって。実家が剣道場をやってる新入生の子を引き入れたんだ。
これがべらぼうに強くてな。俺なんかよりよっぽど強い。それにどこまでも真っ直ぐな剣道で……あの頃、剣道部の先生は俺じゃなくてあいつだった」

 そう、そんな真っ直ぐな剣道に触発されて、ダメ教師は昔を思い出した。
 嘗て剣道に打ち込んでいた自分、先輩に勝てるほど強くなれた自分は確かにいた。
 昔とった杵柄で、惰性で剣道部顧問をしていた自分に火が灯った。

「火がついたことで、自分が見えるようになった。昔の自分は思い出せた。けど、昔じゃダメだ。俺があいつらの先生をしてやるには、何が必要なんだろうって。
結局、その答えは出なかったよ。俺にできたのは、剣道部顧問でいたことだけだ。ただ場所と機会を用意してやっただけ」

 それは他の誰だってできたことだ。
 たまたま、その時にいたのが自分だったというだけの話。
 けど、それでも。

「『先生みたいになりたいです』って、そう言ってくれたんだ。あいつは剣道は実家の手伝いってだけで、あんまり好きでもなくて。
けどあの剣道部で皆と一緒に剣道して、皆あいつを目標に頑張ってて、それが嬉しいって言ってくれたんだ。俺たちを通して目標を見つけてくれたんだ。
あの日ほど教師になって嬉しかった日はなかった」

 大人になるっていうのは……大人になったら、ビールを飲めるようになる。
 それだけだ、ただそれだけ。
 つまり、ほっといても勝手になっちまうってことだ。
 じゃあ、大人と子供の違いって何だ?
 俺たち大人は、子供たちに何を伝えてやればいいんだろう。
 答えは、まだ出ていない。
 子供の代わりに戦ってやることか? それは、何か違う気がする。
 けど、それでも。

「ライダー。俺も戦うぞ。……滅茶苦茶怖いけど。正直勘弁だけど。けどさ、もし助けられる子供を見過ごしちまったら、俺はタマに、あいつらに顔向けできねえよ。
いざその時になったらビビって逃げ出しちまうかもだけど。けど、そこにいなけりゃ、逃げ出すこともできないよな」

「……子供たちの代わりに、命をかけるのか? お前が?」

「分かんね。命なんてかけられるのか。多分ちゃんと理解できてねえ。けど……もし仮に、俺に命より大事なものがあるとすれば。
それはきっと、これ以外にないと思ったんだ。人によっちゃ馬鹿馬鹿しいかも知れないし、なんならただの見栄だけど」

 答えは出た。
 それは平和な世界に住む男なりの、何も分かっていないなりの一般論でしかなかったが。
 その瞳の中に偽りのないことを、ミトは十分に感じ取った。


623 : 子供のように、ひたむきに ◆TPO6Yedwsg :2022/08/02(火) 19:25:38 6C1ajP7g0

「だ、だからさ……ライダーの使命ってのが何なのかは知らないけど、できればそのー、手伝って欲しいかなって……」

「……クッ、クックック」

「え、何。どしたの、今の良かったの悪かったの。ちょっと怖いんだけど」

「あはははははは! いいよ、及第点にしといてあげる」

 そうして、荘厳な雰囲気の少女の顔は崩れた。
 大人のような口調は少女然とした年相応のものに変わり、華のような笑顔が溢れる。

「ま、どうせ現状じゃできることなんて限られてるしねー。マスターからの魔力共有は頼りないし、宝具はまだ使えたもんじゃないし。
仙里算総眼図であたりの情報を集めるくらいしかね。そこに方針を加えるくらいなら、何も困らないし」

「? ??? お、お前猫被ってたのか!? 普通に喋れるなら最初からそうしてくれよ心臓に悪い!」

「私のこと少女の形した得体の知れない怪物だとか思ってた? まあ実際そうなんだけど。
ま、対外的な口調も私的な口調も私ではあるから慣れてよ。で、あんたの言い分だけど。子供たちを助けるっていうのね。いいよ、手伝ってあげる」

「それは助かるけど……いいのか? お前の使命ってやつは」

「使命はあるけど、それが具体的に何なのかは知らされてないの。
多分この聖杯戦争に召喚されるサーヴァントの中で『私が戦うべき相手』がいるんだと思うけど……そもそも見つけなきゃ話にならないし。
因縁でもあるのか、相性の問題か。まあ何にせよ、急ぎではないってこと。
本当は、使命に向けて力を蓄えるべきなんだろうけど……けど、ここに鬱陶しい上役はいないし。マスターが『助けたい』って言うなら、私も乗るよ」

 女神ミト・ジュエリア……否、メルパトラ・アーロという少女は、この頼りない大人の言葉に多少なりとも心を打たれた。
 生前、大人というのは自分の都合で他者を戦わせそれを肩代わりすることもできない、金稼ぎだけが取り柄の存在だった。
 手を差し伸べてくれる大人なんてものは希少種で、自分はどこまでも女神として祀られるだけの存在で。

 だから、使命を果たす同胞としては頼りなくとも、真摯に子供を助けたいと願う大人としては及第点だ。

「石田虎侍、貴方をマスターとして認めます。私は女神ミト・ジュエリア。ですが私の真の名は別にあります。
真の名はメルパトラ・アーロ。我が使命を果たすまでの間、貴方の願いを叶えるサーヴァントでありましょう」

「お、おう、よろしく……あ、じゃあ俺のことはコジローでいいよ。生徒は皆そう呼ぶんだ」

「コジロー? ……ああ、トラジをコジって読むのね。では、コジロー。なかなか似合いの渾名じゃないですか。
では、貴方とマスターと見込み私のステータスを開示ます。これは今後の活動を左右するので、よく聞いてください――」
 

【クラス】
ライダー

【真名】
ミト・ジュエリア

【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力EX 幸運B 宝具A

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
対魔力:A+
Aランク以下の魔術を完全に無効化し、特に炎の力に対しては更に強力な守護を発揮する。
石の一族と火の一族の末裔であり炎の神獣王と魂レベルで融合するミトは炎属性への適性が極めて高い。

騎乗:EX
乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。
「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
存在変換によって神獣王と一体化する最高位のクロイツ融合者であるミトは文字通りの意味での規格外の騎乗スキルを保持する。
心拍数、脈拍、呼吸、魔力等あらゆるリズムを対象と同調し取り込むことによってあらゆる魔獣、幻獣を従える才能を持ち、条件をクリアすれば竜種さえも従える。
対象が既に深い絆を結んだ敵の乗騎であっても、その支配力をぶつけることによって絶大なプレッシャーを与え行動を制限する。

女神の神核:E
生まれながらにして完成した女神であることを現す、神性スキルを含む複合スキル。
神性スキルを含む他、精神と肉体の絶対性を維持する効果を有する。
Eランク程度だと精神と肉体の強度に神性による補正が掛かる程度。
ミトは神の血を引いてはいないが、『女神ミト』としてプロパガンダされ全世界から信仰されていた。


624 : 子供のように、ひたむきに ◆TPO6Yedwsg :2022/08/02(火) 19:27:10 6C1ajP7g0

【保有スキル】
支魂の術:A
血縁者の力を引き継ぐ秘術。
ミトは戦死した父と兄の力を継承しており、規格外の魔力を持つ。
ランクに応じ継承した力をより多く強く発揮することができるが、Aランクでも力の大半は眠っている状態である。

仙里算総眼図:A
千里眼の亜種。分類的には現在視と過去視。
遠方で起こった出来事などを見聞することができる能力。大地に刻まれた過去の出来事の記憶を映像のように見ることもできる。
ミト曰く、「大地(星)は石と炎でできており、炎の一族と石の一族の子である自分は母なる大地の記憶を詠むことができる」とのこと。
過去視においては遠い過去の場合その時期を象徴する触媒に類するものが必要。
現在視においては精査することにより特定の位置での出来事を把握し、強力なサーヴァント同士の衝突などがあれば瞬時に認識することができる。

魔力放出:A
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。いわば魔力によるジェット噴射。
絶大な能力向上を得られる反面、魔力消費は通常の比ではないため、非常に燃費が悪くなる。
ミトは高ランクの魔力放出を持つが本分はあくまで後述の宝具『神獣王・炎ノ壱式』を使用した戦闘であり、人間体での戦闘はあまり慣れていない。
生前は全長数百mレベルの敵との戦いが当然だったため、人間同士で戦争をしている場合ではなかった。

【宝具】
『神獣王・炎ノ壱式(クロイツ・フラメアインス)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1 最大補足:1人
星のたまごから産まれた魔導生物。太古の昔、大地を守護するために生み出された30体の神獣のうちの1つ。
フラメアインスはその中でも最上位の6体、神獣王と呼ばれる個体であり、炎の力を操る獅子の如き獣。
ミトが宝具として所有しているのは生きている神獣王そのものではなくその化石、魔王の骨と呼ばれる残骸である。
骨となった神獣王に同調し、存在変換の力で自身そのものを神獣王の肉体とすることで一時的に大地の守護者を復活させる。
これがミトの生きていた時代に運用されていた魔導兵器『クロイツ』である。
その巨体は全長200mをゆうに超える余りにも強力な宝具であり、市街地で使用すればそれだけで壊滅的な被害を与えかねない。
状況によっては全く使う余地のない宝具ともなりうる。

『焦天回廊(しょうてんかいろう)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人
フラメアインスに刻まれたマテリアル・パズル。『神獣王・炎ノ壱式』を起動中に重ねて発動する。
酒気を炎に変換する、破壊力に特化した強力な攻撃魔法。
その性質から使用者は事前に大量の酒気を帯びる必要があり、酒を飲めば飲むほど魔力が上昇していく。
宝具化した影響により人間体でも発動自体は可能だが、威力規模はクロイツ体の1%程度のものとなる。

『廻天の術(かいてんのじゅつ)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
ウイルスを注入し細胞をつくりかえ、肉体の限界を引き出す術。
特殊な素材とミトの魔力を用いて使用する術だが、ミトは素材を一人分しか持ち込めていないため実質的に使用できるのは一度のみ。
対象者は『魂が記憶しているその者の最大の力』を引き出されるため、例えそれが一時のものだったとしてもすべての力が引き出される。
肉体が欠損している場合五体満足に回帰し、老齢で弱っている場合青年期に若返る。
誰にでも使用できるが、対象者は『数日』経ったのち魂が砕け散り必ず死ぬ。
が、聖杯戦争に参加するサーヴァントとして『数日』というのは短い内に入らないため抑止判断で劣化し『24時間』に短縮されている。

『マジック・パイル』
ランク:C+ 種別:対人宝具(自身) レンジ:1 最大補足:1人
支魂の術の奥義であり、絶大なバックファイアと引き換えに受け継がれた力の全てを解き放つ。
父と兄の力を継いでいるミトの力は単純に3倍に跳ね上がる。
宝具『廻天の術』と併用した場合、バックファイアを無効化した上で廻天の術の効果時間中常にこの宝具を発動し続けることができる。
この宝具は抑止されており使用できない。

『ゼロクロイツ』
ランク:A- 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
『神獣王・炎ノ壱式』を起動中のみ発動できる、自身の存在エネルギーを全損させ敵を滅ぼす対消滅自爆特攻。
これは本来の使用法ではない暴走というべき使用法のため、その威力に反し宝具ランクは劣化している。
この宝具は抑止されており使用できない。

【weapon】
魔導兵器クロイツ、フラメアインス。
あまりに強力無比であるため、これを使うには市街地を巻き込まない特殊な異界であることが必須となる。


625 : 子供のように、ひたむきに ◆TPO6Yedwsg :2022/08/02(火) 19:28:05 6C1ajP7g0

【人物背景】
本名はメルパトラ・アーロ。ミト・ジュエリアの名前は女神として象徴されるための名前。
マテリアル・パズル〜神無き世界の魔法使い〜より1万年前に生きていた古代人。
この時代は宇宙から飛来した鋼鉄の侵略者『ロボット』により世界滅亡の危機にあった。
あまりに巨大なロボットと戦うためにはそれと同じ規模の兵器が必要であり、それが魔導兵器クロイツ。
親子三代に渡る生粋のクロイツ融合者であり公式の場では威厳高い『女神ミト』としての雰囲気を纏うが、本当は年相応にきゃぴきゃぴした15歳の少女。
本当は戦いも嫌いで女神として祭り上げられている自分を嫌悪していおり、休暇を得るために『もうクロイツで戦わないぞ』というブラックジョークをぶつけたこともある。
それはあくまで冗談では有るが、おそらく何割かは本気の言葉でもあり、彼女の属性が秩序ではなく混沌なのはそれ故。
心の比重として組織はあくまで手段でしかなく仲間を重んじ、それ故に好いていた男が死んだときは心底絶望し、終盤一時期は戦いを放棄していた。
苦節折々あり最終的には立ち直り、人類は殆どが死滅したものの戦いには勝利。享年15歳。
その後『守護神デュデュマ』に誘われ、戦死した魂たちと共に宇宙の彼方へと旅立ち、人の住める無人惑星、新天地を探している。

【サーヴァントとしての願い】
彼女は抑止力又は守護神デュデュマによって遣わされたサーヴァントである。
『自身が対峙するべき脅威』を発見し対処するのがサーヴァントとしての使命。
本音を言うと細やかな願いはあるがそれを口にはしない。


【マスター】
石田虎侍@バンブーブレード

【マスターとしての願い】
教師として、子供を守る。滅茶苦茶怖いけど。

【能力・技能】
教師としての基本的な能力。剣道部顧問としての運動能力。
ただし実力としては高校レベルトップと比較しても中堅どころ。

【人物背景】
バンブーブレードの裏の主人公。通称コジロー。
室江高校教師、政治経済担当であり剣道部顧問。担任は持ったことはない。
現在は別の高校で剣道部顧問をしている。
絵に描いたようなダメ教師だったが、剣道部の新入部員たちを通し、自分も大人として成長していく。
大人としての強さを見いだせず苦悩する中、ある少女を導き彼女の目標となれたことで、コジローははじめて大人としての自分を肯定することができた。
『俺……教師になって……剣道をやってて……本当によかった……』
積み重ねた全てが、過去の自分が、そしてただそこにいることが、誰かの救いとなることだって、ある。

【方針】
巻き込まれた子供がいれば助ける。
ライダーの使命を全うする。

【備考】
フラメアインスだけでも街がやべーのに更に自爆系統の宝具が3つとか許されるわけないだろ!!!
すべての宝具を実装してしまうと無茶苦茶扱いにくくなってしまうのでいくつかの宝具はロストしてもらったミト様。
ライダーが最適性で間違いないのだが宝具が怪獣大決戦用でとても市街地で使えるようなものではない。
人間体でも高位のマテリアル使いであり人外の身体能力を持つが、本職の戦士のサーヴァントに比較すれば流石に劣る。
魔力放出と焦天回廊を活用すればトントン、といったところか。
仙里算総眼図による情報収集に徹しているだけでもサポート面は優秀。
最高ランクの千里眼持ちは情報戦を制するということを体現するサーヴァントとなるだろう。
ライダーは抑止力又はそれに近似するものから使命を受けて召喚されていますが、その使命の行方は後続の書き手さんにお任せします。
またライダーは都合2つの宝具をロストしていますが『使命』と相対しロストした宝具を取り戻すかどうかもお任せします。


626 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/02(火) 19:28:32 6C1ajP7g0
投下を終了します


627 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/02(火) 19:47:06 6C1ajP7g0
拙作「子供のように、ひたむきに」のサーヴァント名の出典記載漏れがあったので訂正します。

×
【真名】
ミト・ジュエリア


【真名】
ミト・ジュエリア@マテリアル・パズル ゼロクロイツ


628 : ◆Lap.xxnSU. :2022/08/04(木) 02:59:38 gHoLb8So0
大人のように、あこがれに
珠姫の無力ながらも直向きな心がルークの告白につながる流れがとても綺麗でした。
"なんにもなかった"サーヴァントの心を打ったのが誰かのためになりたいという願いであることが実に美しいです。
プリテンダー呼びではなく名前呼びを求め、そこからステータスに繋げる構成も好きですね…巧みだ。

子供のように、ひたむきに
少年の善性を知ってミトが猫被りを解くまでの流れが王道ながらだからこその素晴らしさでしたね。
強力で頼りになるサーヴァントながらマスターとのやり取りが何処と無くコミカルなのが可愛いです。
性格は違えど本家SNの士郎組を思わす王道感があり、大変おもしろく読ませていただきました

投下ありがとうございました。
私も投下させていただきます


629 : 愛のために泣けるのは ◆Lap.xxnSU. :2022/08/04(木) 03:00:20 gHoLb8So0
 目を覚ました時最初に確認したのは自分の容態ではなく、緋色の瞳持つ彼が隣に居るかどうかだった。
 酷く寂れたアパートの一室に彼は寝かされていた。
 鼻をつく劣化した木材の臭い。
 肌に触れる湿った空気、見れば外には雨がしとしと降り頻っている。
 何処だ此処は――抱く疑問の答えが自然と脳裏に溢れてくる奇怪に青年は眉根を寄せた。
 万能の願望器を争奪する儀式、聖杯戦争。
 それを行うためにのみ存在する異界、東京都。
 頭に知識は詰まっている。
 だが理解できている訳ではない。
 混乱という名の雑音が脳細胞を侵食していく不快極まりない感覚に舌打ちをしながら青年は黒髪をぐしゃりと握り潰した。
 脳内の知識がどう頭を捻っても"理解"に変わらないままならなさは彼にとって酷く不快だった。
 何故なら彼は解き明かす者。
 破格の頭脳を持ち、後の世では大英帝国にその人ありと比喩でなく世界中から敬愛されるに至る名探偵。
 …シャーロック・ホームズ。
 それが男の名前だった。

「何処の誰だから知らねぇが…何余計な事してくれてんだ、クソが!」

 理知的で冷静な探偵。
 そのパブリックイメージに背くかのような粗暴な言動で叫んだのは怒りだった。
 しかし胸中を占めるのは怒りではなくむしろ焦り。
 聖杯はシャーロックの頭脳を聖杯戦争という舞台に適合できるようアップグレードしてくれた。
 だが彼が本当に知りたい事。
 自分と共にテムズ川へ墜ちた宿敵。
 シャーロックの心を高鳴らせ、脳に無二の刺激を与え。
 生まれて初めて対等の頭脳で渡り合えた友人――ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ。
 シャーロック・ホームズの最大の敵たる"教授"の安否。
 それについての情報を、聖杯は一切彼に与えてはくれなかった。

「…随分と足元見てくれるじゃねぇか。アイツがどうなったのか知りたきゃ勝って聖杯に願ってみろってか?」

 考えるまでもなくその道は論外だ。
 それを選んでしまったら自分という人間を信じ支えてくれた全ての人を裏切る事になる。
 そしてウィリアムの事も、裏切る事になる。
 もしも己が此処で大勢の犠牲を許容できる人間だったなら、彼が自分の前に現れる事は無かっただろう。
 そのきっかけを自ら破壊してしまっては元も子もない。
 罷り間違ってその道を選び元の世界に帰ったとして。
 アイツの安否を確かめるにしろ。
 助かっていたアイツに会うにしろ。
 …その時、どんな顔をして臨めばいいか分からないからだ。


630 : 愛のために泣けるのは ◆Lap.xxnSU. :2022/08/04(木) 03:00:51 gHoLb8So0

「お断りだバカ野郎。てめぇの口車になんざ誰が乗るかよ」

 シャーロックに誰かを殺すつもりはない。
 既にその手はある悪党の血で汚れている。
 殺めたのは心底どうしようもない、吐き気を催すような外道だったが。
 それでも手を汚して気持ちいい等とはまるで思えなかった。
 あれをまた味わうのは御免だ。
 誰も殺さずにこの世界の謎を解き、生きて帰る。
 シャーロックの指針は決定された。
 しかしその決意に水を差すように。
 いつから其処に立っていたのか。
 部屋の片隅に影法師宛らの気配の薄さで立つ何者かが、難業に挑まんとする名探偵へ言葉を吐いた。

「本当にそれでいいのか?」
「…誰だお前」
「サーヴァント・アサシン。お前の召喚に応じて顕現した、しがない人間崩れだよ」
「サーヴァント…か。それにしては随分と……なんつーか、貧弱じゃねぇ?」

 率直な感想だった。
 シャーロックの目に映るサーヴァント…アサシンのステータス。
 それはひどく貧弱で、身体能力の面に限って言えば普通の人間と大差ない。
 その言葉を聞いたアサシンは苦笑をして肩を竦める。
 錆びた歯車機械のようにぎこちない、人間らしくない笑い方をする奴だなと思った。

「俺は戦闘向きのサーヴァントじゃないからな。それどころか大の不得手だ。切った張ったの大立ち回りには期待しないで貰おうか」
「あぁ、成程な。宝具やスキルで抜きん出たもんを持ってるってとこだろ?」
「…あるにはある。だが普段使いはできないな。頭を使うのが多少得意ってくらいだ」
「マジか」
「マジだ」

 大丈夫なのか? 俺の聖杯戦争。
 さしものシャーロックも危機感を覚えたが。
 それよりも彼の口にした言葉の方が気になった。
 有耶無耶にしてはいけない重大な何かが、先の問いに含まれていたような。
 そんな気がしてならなかったから。

「まぁハズレを引いたのはお互い様だな。アンタも知ってるだろうが、俺に聖杯を手に入れるつもりはない」
「それならそれで問題ない。元々誰かを蹴落としてどうこうってのは性に合わなくてな」
「で、基本誰かを殺すとかそういう事をする気もねぇ。
 帰りたいって連中を適当に集めて帰るか…それが無理ならこの聖杯戦争って儀式自体の解体だな。
 俺の方針はこんな所だ――で、此処まで分かった上で訊いたんだよな。先刻の質問はよ」


631 : 愛のために泣けるのは ◆Lap.xxnSU. :2022/08/04(木) 03:01:26 gHoLb8So0
「狂気の沙汰だ」

 アサシンは酷く見窄らしい男だった。
 顔の作り自体は端正だが、体の其処かしこに広がった火傷の痕がそれを台無しにしている。
 片目は失明している事が一目で分かる白濁した状態。
 体内も既に余す所なくボロボロなのだろう。
 耐え難い激痛を堪えながら骨身に鞭打ち錆びた体を動かしている事がシャーロックにはすぐ分かった。
 そんな彼の冷たく静かな瞳がシャーロックのそれを見据える。
 その上で言う。
 その道は正道に非ず、狂人のみが往く事を許された道であると。

「チェックメイトを突き付けるだけなら容易いだろうさ。
 だが自分の勝ち以外のものを勘定に入れて計算すると難易度は次元違いに跳ね上がる。
 その結果がこの有様だ。俺もかつてはお前と同じ道を選び、望み…そんで歩み切った。一応はな」
「…こりゃ驚いたな。アンタ"先輩"なのか」
「そんな大層な物じゃないさ。俺はただ歩み切っただけだ。成し遂げたわけじゃない」

 男の目が虚空を見つめる。
 何か、もう戻らない遠く離れた何かを見ているような。
 そんな哀愁を彼の隻眼は孕んでいた。

「俺は負けた。勝ちはしたが成し遂げられはしなかった。
 俺のせいで何十人、何百人、下手すりゃもっとか。とにかく山程死んだよ。
 そいつらが吐いてくれる優しい嘘を信じて、信じたフリをして…見てみぬフリをした。
 言い訳と自己弁護を重ねながら歩むだけ歩んで、ゴールするだけゴールして……不遜にも勝ちを僭称したクズ野郎さ」

 彼が何をして英霊の座に登り詰めた人物なのかをシャーロックは知らない。
 だがその目に宿る悔恨と口から紡ぎ出す自罰の念に嘘偽りは一切感じられなかった。
 コイツは真実だけを語っている。
 正しく彼は先人なのだとシャーロックは理解した。
 これから己が歩もうとしている道。
 誰かを殺すでのはなく、誰も彼もを利用しながらも殺す事なく戦いの平定だけを見据える道。
 それを何処とも知れない世界あるいは時空で歩み切った先人。
 
「マスター。お前には大切な人が居るか? 生涯を誓い合っても構わない相手は居るか」
「あぁ居るぜ。そいつの全てを共に背負って進む事を決めた所で呼ばれたんだよ、俺は」
「――俺はそれすら守れなかった」

 そう言ってアサシンは口を噤み目を伏せる。
 彼の言葉は確かな重みと鋭さでシャーロックの心に突き刺さった。
 脳裏に浮かぶ"彼"の末路。
 血の海に沈む面影はシャーロックの背を粟立たせるには十分すぎた。


632 : 愛のために泣けるのは ◆Lap.xxnSU. :2022/08/04(木) 03:01:56 gHoLb8So0

「ずっと一緒に居てやりたかったし、居てほしいと思ってた。
 そんな人の死に目にすら俺は遭えなかったんだ。
 誰かがやらなきゃいけない事ではあった。俺がやらなきゃ戦争が終わる日は遥かに遠ざかっていただろうという自覚もある。
 それでも後悔は消えないよ。俺が大それた事を考えずに、アイツと毎日を細々と生きる幸福(みち)を選んでいたなら…。
 他の何が救えなくても……アイツを失う事だけは無かったんじゃないかって。そう思わずには居られない」
「…嫁か?」
「あぁ。マジで世界一可愛い、代えの利かない自慢の嫁だった」

 でも死んだ。
 そう言ってアサシンは苦笑する。
 それから改めてシャーロックの目を見た。
 目を逸らせない。
 逸らせる筈もない。

「悪い事は言わない。聖杯を狙え、シャーロック・ホームズ」

 末路の彼の言葉は冷たかった。
 それは茨道でも何でもない。
 この世界を生きて出るには。
 生きてあの大英帝国に帰るには、それが間違いなく一番の近道だ。
 守る事は難しいが殺す事は簡単だ。
 誰かを蹴落とす為に取れる手段は"守る"それに比べて格段に多いのだから。
 シャーロックが一言それを望めば、アサシンはあらゆる手に訴えて彼の敵を排除するだろう。
 戦いを扇動して強い者同士を潰し合わせ終始漁夫の利を得る事だけに腐心し。
 この儀式に列席した全員を手駒にしながら冷淡に勝利への道を舗装していくに違いない。

「もう分かっただろ? それは人類種(イマニティ)の歩める道じゃないんだよ。
 魔法も使えない。鉄を引き裂く爪や牙もない。そんな弱者が大それた事を望むな。
 無理を押して進んだとしても――その先にお前の幸せがあるとは限らない」

 シャーロックもそれは理解していた。
 純粋な頭脳の粋ならばいざ知らず。
 こと戦争を生き抜く事にかけて、自分はきっとこの男に敵わない。
 その自覚があったから――その上でシャーロックは言った。

「嫌だね。俺を誰だと思ってやがる」

 本棚に収められた一冊を手に取りアサシンへと投げ渡す。
 それは他でもない、世界一の名探偵と謳われる男を描き上げた一作だった。
 
「この時代ではよ、俺はどうやら他に並ぶ者のねぇ名探偵らしいぜ。
 俺はアンタとは違う。根本的におつむの出来が違うんだよ、思い上がってんじゃねぇぞロートルが。
 だがあぁもしも? そんな俺でもどうにもならねぇ状況が来たってんならその時は――」

 シャーロックが笑う。
 挑発するような笑みだった。
 思えば久しくこういう顔はしていなかったなと思う。


633 : 愛のために泣けるのは ◆Lap.xxnSU. :2022/08/04(木) 03:02:29 gHoLb8So0
 チャチなトリックを解き明かして犯人を看破した時はいつもこんな顔をしていた筈なのに。
 我ながら遠くへ来たもんだとそう思わずにはいられない。
 そんな望郷めいた述懐を抱えながら、彼は続けた。

「その時はアンタの出番だ、アサシン」
「…俺のようにはならないと。そう信じているんだな」
「当たり前だろ。話を聞いた限りでの推理だけどよ…アンタ、嫁さんが死んでからは本質的に独りだったんじゃねぇのか?
 そんな状態で戦争とやらを終わらせた手腕が凄ぇが、アンタは根本的な所で見落としてんだよ。
 独りより二人の方が強ぇんだ――ガキでも分かる足し算だぜ」

 シャーロックは何も独りで頑張るつもりはない。
 頼れる者があるなら迷わず頼るし力も借りる。
 ましてやこの世界では、かつて自他共に認める無理難題を歩み抜いた男が味方に付いてくれているのだ。
 この状況で孤軍奮闘など馬鹿のする事だろうとシャーロックは思う。
 だから躊躇なく、彼は地獄めいた難易度の道のりに同伴者を求めた。

「チェックメイトは要らねぇ。ステイルメイトが必要だ」
「…後戻りはできないぞ。泣きたくなった頃にはもう後ろを振り向く事すらできやしない。
 心血、心魂、その全て。引き分け(ステイルメイト)に捧げる覚悟はあるか?」
「舐めてんじゃねぇぞ」

 鼻で笑う、シャーロック。

「余計な事心配してないで、アンタは負け惜しみの一つ二つ考えとけよ。
 アンタはこれから完膚無きまでに追い抜かれんだ。この俺にな」
「…はッ。はは、はははは。馬鹿だな――お前」

 アサシンも彼の物言いには笑うしかなかった。
 神をも恐れぬ大言壮語、それが何故こうも心地良く聞こえるのか。
 思い出すからだろう。過去の自分を。
 それでいて確かに違うからだろう――過去の自分と。

「あぁ馬鹿だよ。お行儀の悪さには定評があってな」
「生きながら地獄に落ちた先人を前にしてよく吠えられるもんだ。流石、大物だな。シャーロック・ホームズ」
「力を貸せ」

 そう言ってシャーロックは右手を差し出す。
 握手を求めながら、彼はいつも通り不敵に笑ってみせた。

「――アンタの見られなかった"めでたしめでたし"を見せてやるよ。それが報酬だ。最高の景色をくれてやるから、アンタの全部を俺に寄越せ」


634 : 愛のために泣けるのは ◆Lap.xxnSU. :2022/08/04(木) 03:02:57 gHoLb8So0



 …かつて。
 とある世界で、とある戦争があった。
 あらゆる種族が殺し合う弱肉強食の究極系。
 混沌を地で行く時代を終わらせたのは一人の人類種(イマニティ)だった。
 何の力もない人間が。
 人としての幸せも、愛した女も。
 全てを失いながら歩み切って成し遂げた。
 戦いを終わらせた。
 本人にとってそれがどれほど出来の悪い結末だったとしても。
 それでも彼の偉業が空前絶後のものである事に変わりはなく――従ってその"幽霊"の存在は英霊の座に記録されるに至った。

「…前言撤回は許さねえぞ。傷口に塩塗り込んででも立ち上がらせるが、いいんだな?」
「こっちの台詞だクソジジイ。ケツに火点けてでもこき使ってやるよ、覚悟しとけ」

 此度の聖杯戦争ではアサシンのクラスを与えられ現界している彼。
 脆く弱く無力な…しかし他の誰も持ち得ない究極の可能性を秘める男。
 リク・ドーラは斯くしてシャーロック・ホームズと契りを結んだ。
 サーヴァントとマスターという領域をすら超えた、"共犯者"にすら近しい一蓮托生。
 勝利ではなく引き分けを求めて艱難辛苦の渦へ身を投じる二人の「人間」。
 その旅路が幕を開けた瞬間であった。

【クラス】
アサシン

【真名】
リク・ドーラ@ノーゲーム・ノーライフ

【ステータス】
筋力E 耐久E+ 敏捷E 魔力E 幸運B 宝具EX

【属性】
中立・善

【クラススキル】
気配遮断:EX
正面戦闘においては全くと言っていい程役に立たない。
戦争や抗争の大局の中における自らの気配を極限まで薄める。
彼の手の者がどれほど暗躍を繰り返し戦果を挙げても、それがリク・ドーラの指揮に依るものだとは露見しない。

【保有スキル】
戦闘続行:A+
往生際が悪い。
霊核が破壊された後でも最大5ターンは行動を可能とする。
彼の場合正確には「行動続行」と呼ぶのが正しい。
目的達成の為に全てを捧げた彼の生き様そのもの。

無力の殻:A+
アサシンはサーヴァントとしては全く無力な存在である。
宝具を使用するか自ら正体を看破されるような行動を取らない限り、サーヴァントとして感知されない。
彼は聖杯戦争に列席するにはあまりに非力な人類種(イマニティ)である。


635 : 愛のために泣けるのは ◆Lap.xxnSU. :2022/08/04(木) 03:03:23 gHoLb8So0

一意専心:A
一つの物事に没頭し、超人的な集中力を見せる。
アサシンの場合、自分の最終的な目標を達成することにのみ注がれる。

分割思考(偽):E
偽りの自己を形成し、自分自身の心を欺く。
個人の努力と自己防衛の範疇であり決して特別な能力ではない。
しかしアサシンの歩みを常に支え続けた思考法であるからか、このスキルは彼に同ランクまでの精神攻撃に対する耐性を与えている。

【宝具】
『再演・星殺し/地獄の先に花よ咲け(ディスボード・ニューオーダー)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
かつて男は遠くない死を待つばかりの無力な塵屑だった。
しかし男は運命の出会いを経て自分が真に成し遂げたい未来を見つけた。
無数の傷を浴びながらも歩み続け、一つの世界の理(ルール)を新生させるまでに至った男が不完全なれども辿り着いた勝利の具現。
アサシンが生前辿り着いた勝利確定(ステイルメイト)の状況と同等の勝利条件が満たされた瞬間にのみ発動可能の"目的達成宝具"。
アサシンの霊基そのものを燃料にして宝具を発動させ、彼の目指す目標――終着点――を彼の霊基分のリソースで可能な範疇で実現に導く。
宝具の発動はその性質上アサシンの消滅とイコールで結ばれる。
その上発動に至るための条件も難易度は非常に高く、とてもではないがアサシン単体で満たせるそれではない。
…だがそれでも。
一度発動を可能としたならば、聖杯の権能にも届く奇跡を引き起こすことができる規格外の宝具である。

【人物背景】
戦乱の時代。
故郷と両親を失い若くして集落の長を務めていた青年。
より多くの命を生かすために少数を切り捨てる日常に摩耗していたが、彼はそんな中で己だけの運命に出会う。
数多の出会いとかけがえのない離別と、そして目を瞑るしかなかったあまりに多くの犠牲を経て…
アサシンは、リク・ドーラは――世界を救った。

【願い】
叶うならばもう一度シュヴィに会いたい。
…だがマスターの想いを蔑ろにしてまでそれを叶えたいとは思わない。


【マスター】
シャーロック・ホームズ@憂国のモリアーティ

【願い】
聖杯戦争という事件の解決。
チェックメイトに用はない。

【能力】
類稀なる推理力と洞察力。
社会の全てを敵に回す覚悟を秘めた大悪の貴公子に鍵と見据えられた男。
名探偵、シャーロック・ホームズ。

【人物背景】
自称、世界でただ一人の「諮問探偵(コンサルティングディテクティブ)」。

【方針】
聖杯戦争の解決と元の世界への帰還。
…あんな幕切れで終われると思ってんじゃねぇぞ、リアム!


636 : ◆Lap.xxnSU. :2022/08/04(木) 03:03:38 gHoLb8So0
投下終了です


637 : ◆KV7BL7iLes :2022/08/07(日) 19:42:38 CnZ/w9cA0
二本続けて投下させていただきます。


638 : ◆deFECPYDAg :2022/08/07(日) 19:43:55 CnZ/w9cA0


──それは、紛れもなく現実だった。
現実に顕現した、地獄だった。


灰色の町並みがあった。
黒と呼ぶには余りにも整然、されど白と呼ぶには余りにも澱んでいる風景。
その最たる原因は、そこに立ち込める霧だった。
人類が産み出した知恵だとか、未来を切り開く為の道具だとか、そんなモノが副産物として吐き出していく人工の魔障。
発展していく世界の裏の、穢れた汚点を投げつけるゴミ捨て場に、今日も工場から漏れ出たスモッグが充満していく。
言わずもがな、それは生を蝕む毒。身体に入り込み、内側から肉体を腐らせる死神の吐息。
死へのカウントダウンを刻む針が、一層他より早い場所──それが、霧の都ロンドンの一角。ホワイトチャペルという町だった。

ある時、一人の少女が其処にいた。
何処から流れ着いたのか、少女が誰か。そんな事は知る由も無いし、知ったところで此処では何の意味もありはしないのだから。
ただ、少女は見るからに不健康といった風体で──そして、飢えていた。
単純な話だ。此処はまともではないとされるような食事にありつく事、それですら困難というような場所。生き残る為には、そもそも己自身をまともな範疇の埒外へと投げ捨てる必要がある。

そう、例えば。
彼女の前に、浮浪者の男が現れた。
片手を力なく垂らし、そしてもう一方の手には。腐りかけだが、それでもまだ食べられそうなパンが幾つか。
たちまち少女は飛び付いた。持っている金を全て出し、地を這うように土下座をした。
男は暫く黙ってそれを見て──少しして、下卑た笑みと共に口を開く。
告げられた言葉に、少女は暫し固まって。それでも、すぐにそれを受け入れた。
それから数刻。少女はその手に一つだけパンを持ち、とある建物から外に出た。
所持金も減ってはおらず、その身体も先と比べればむしろ綺麗になっているくらいだ。尤も、それはあくまで外見が、というだけ。中で何があったかなど、言わずと知れる。
ついさっきまでいた男のねぐらを一瞥し、少女はゆっくりと歩き始める。
「幸運にも」目減りすることが無かった金を握りしめて、彼女は『万が一』を避ける為に近くの医者へと駆け込むのだろう。

──そうしてまた、灯るかもしれなかった命の火が、消えた。

それは殺戮ではない。
生まれる前の命など殺すとも言えないし、そもそもそこには殺意どころか特異な感情を持ってすらいない。

それは、消費だ。

少女が握ったパンと同じだ。
その日を凌ぐ為に望まず生まれ、そして消失することで誰かの生きる糧となる。
遺すものどころか生まれすらしない、生きる前に殺されるという命とすら呼べないモノ。
それらが、存在することすら許されず、使い潰されて消えていく。

そんな事が、彼方此方で起こっていた。

これが、或いは何か、明確な悪が存在していれば良かったのかもしれない。
何かが消えることで解消される地獄なら、もっと早くに人々が立ち上がって、或いは外からその歪みを断ち切る人間がやってきて。
それで、この地獄は終わりを告げていたかもしれない。

けれど、これは違う。
これは、「ただそこにある」ものだった。
丁度、其処に立ち込める霧と同じ。消すことは愚か掴むことすら出来ずに、どうしようもなく存在する。
生の為に生を蔑ろにするという論理すら通用せず、ただ「生まれるはずだった、でも生まれなかったモノ」が使い潰されるという、馬鹿げた、しかしシステマチックなまでに効率化された都市機能。
──紛れもなく、そしてどうしようもなく。
これが、その時の現実だった。
一度階段を踏み外したばかりに踏み入れてしまったせいで。
希望など存在しない世界で、展開されるべくして展開されるそもそもが人工の地獄で、ヒトは何処までも堕ちていった。

例えば、報われぬ愛を誓い合った二人の片割れが、生を欲するばかりにもう片割れを殺してその肉を喰らう様。
例えば、食物を奪う為に散々に痛めつけられて、それでも当たり所が悪かったばっかりに死ぬ事も出来ず生き地獄を味わい続ける様。
例えば、嘗ては名もそれなりに知れていたであろう可憐な令嬢が、今は最早寒さすら凌げない程にボロボロになった元は豪奢なマントだったろう襤褸すら奪われる様。

例えば、そう。


ある娼婦が、栗色の髪を三つ編みに纏めた娼婦が。
当たり前の愛を受けていた筈の、そしていつの間にか地獄に堕ちていた女が。
自らと愛する男の遺伝子が伝った「それ」を、己諸共にただ川へと廃棄しようとする様──



「─────あ、あ、ああああアアアアアアァァァァァ!!!!」


──堪らず、絶叫を上げて。
そうして、室田つばめは夢から覚めた。


639 : 総ては此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2022/08/07(日) 19:45:23 CnZ/w9cA0

 ◆

目の前に広がる自室の風景が、ここまで心を休めてくれる時が来るとは思いもよらなかった。
もちろん、厳密に言えば彼女の自意識としてはここは勝手知ったる我が家ではない。東京という土地に呼び寄せられた、今の彼女にとっての住まい。余分な物が無いことを「遊びが無い」とこっそり非難した自分を、この時ばかりは罵倒する。
寝汗のせいで寝巻きは身体にひっつき、掛け布団もやたらと蒸し暑いのを苦にして、つばめはゆっくりとベッドから立ち上がった。
隣に眠る夫を起こさないようにそっとベランダに出て、火照った身体と未だに脈打つ心臓を冷まそうとする。

「………なんだよ、あれ」

ぼそり、と思ったことを正直に口にした。
酷い夢だった。
嘗て燃え盛るハイウェイを見た時にはこの世の地獄かと思ったものだが、あんなものとは比べ物にならない真の地獄。
悪意すら存在しない故の残酷な世界を思い出し、どうしようもなく背筋が凍る。
夢、と断じることすら簡単ではない程に強烈なリアリティを以て再現された、この世で最も穢れていた場所の一つ。
なぜ自分がそれを垣間見たのか、と思い、そして少しの間を置いてはたと思い当たる。

「……アサシン」
「なあに、おかあさん」

その「心当たり」の名を呼ぶと同時に、ベランダに少女の姿が現れる。
どことも知れない虚空から霊体化を解いて現れたその様は、正しくアサシンのサーヴァントに相応しき出現。
白髪の小柄な少女の形をした可愛らしい姿の、しかしその名は聞くものを震え上がらせる恐怖の象徴。
──ジャック・ザ・リッパー。
イギリスという国を恐怖させた、現代日本でも語られるような殺人鬼の名が目の前の少女の名だと知った時は、つばめも流石に衝撃を受けた。
というより、実のところを言えば、召喚してしばらくはまだ少し疑っていた。
なまじ、彼女が既にとある非常識に触れていたというのもあるだろう。姿を消すことやアクション映画じみた動きを軽々とこなすアサシンの姿も、「切り裂きジャック」の名前を結びつけるには足りなかった。
けれど。
今の夢、そしてこの少女が語った彼女自身についての説明を思い出す。
子供であり、かつ何処か精神を病んでいるような少女の言葉から受け取った「ジャック・ザ・リッパーの生まれ方」と、夢の中の地獄、そしてその中で響く声のない悲鳴。
リフレインするそれに突き動かされるかのように、つばめは口を開いて。

「……お前は」

言おうとして、口を噤む。
心の内に、未だに残る一つの凝りが、アサシンへと踏み込んだ発言をすることを阻害する。
その代わりに、と言葉を探し、そして導き出したのは一つの、そして彼女が現れてから数回目の提案。

「今日も行くからさ、ちょっと手伝ってくれ」
「うん、わかった」

頷くアサシンから、僅かに目を逸らすように、つばめは懐から端末を取り出す。
画面をタップし、途端に光が放たれて──そして、そこに室田つばめはいなかった。
代わりに立っているのは、箒を構えた可憐な少女。
魔女が被るような三角帽にこれまた魔女が持つような箒、そして背中のローブにでかでかと刺繍された「御意見無用」の文字。

「さあ、今日も行きますか!」

──魔法少女・トップスピードが、そこにいた。





──東京での人助けは、以前に比べて難易度がぐんと上がっていた。
その理由はといえば、やはり今のトップスピードの行動を見た人間に対しての処置をしてくれるファヴがいないから。
そして、神秘の秘匿という条件によって、明確に存在する事を仄めかす事が事実上不可能になったからだ。
ここに来る前は、ファヴというマスコットキャラクターのお陰で、情報の隠蔽が徹底されていた。
助けた人間はぼんやりとしか魔法少女の姿を覚えていないし、カメラなどでも確実にピントがズレるようになっていた。
それ故に、ある程度なら大っぴらに活動出来ていたのだが──今、この場にそのファヴはおらず。
それでも、「知られてもいい」ならばもう少し大胆な行動も取れたかもしれないが、そこでネックになるのは神秘の秘匿という条件。
これがトップスピードの魔法少女としての力にも適応されている以上、下手にバレるような事があれば瞬時に討伐令やら何やらと面倒な事が降って湧く。
よって、強いられるのは隠密行動。
露見する手がかりをギリギリまで減らし、その上で何かしらの行動を起こす、という事が必須だった。
しかし、そこまで制限があるならば、人助けなどほぼ不可能ではないか──と聞かれれば、実を言うとそうでもない。


640 : 総ては此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2022/08/07(日) 19:45:52 CnZ/w9cA0
その理由は、アサシンの手助けにあった。
人が来ればそれを知らせ、間に合いそうにないとなれば対象を気絶させる──最初は解体しようとしていたが慌ててトップスピードが止めた──などと、その高い敏捷を活かしてフォローに入ってくれている。
また、サーヴァントだけあって見た目にそぐわぬ力も持ち、魔法少女であるトップスピードと合わされば大抵の物は動かす事が出来た。
人を助けている彼女の顔は、最初こそ不思議そうな表情を浮かべていたが、今は楽しそうなあどけない表情を浮かべながら手伝ってくれている。
──時たま、その表情が強張るのを除けば。
そうしてその日も何件かの人助けを終え、いい加減に外に出ている人の数も減ってきていることを確認すると、彼女はゆっくりと裏路地に降り立つ。

「ありがとな、アサシン」
「うん」

自分と同じく箒に跨がっていたアサシンが降りたと同時に、その頭を撫でてやる。
ごわごわの髪を撫でられて、擽ったさそうに小さく身を捩る少女の姿を見て、トップスピードの表情も和らぐ。
そうして、時間も時間だからと、再び箒に跨がってさっさと退散しようとする。

「…ねえ、おかあさん」

だが。
何処か逃げるようなトップスピードのその行為よりも、アサシンの言葉の方が早かった。

「おかあさんは、いつまでこうしてるの?」

放たれるのは、端的な問い。
いつまでこの人助けを続けるのか。
いつまで──現実から目を逸らし続けるのか。

「…いつまで、って、」

言葉に詰まる。
それは、少なからず彼女に自覚があるから。
本来やるべきではないことをしているという、その自覚が。
──それでも、トップスピードは答えられない。
それを告げてしまえば、もう嫌が応にも逃げられなくなるから。
だから、その言葉に続く先は提示されぬまま、静寂が路地を包んでいた。

「おかあさん」

それに対し、アサシンは尚も問いかける。
──ジャック・ザ・リッパーにとって、この人助けは、決して嫌なものではなかった。
それが彼女の過去に存在せず、それ故に「この」ジャックが生まれたという事実を併せて考えれば、それは想像に難くない。
何せ、自分達のような不幸が生まれることが減るのだから。
助けを差し伸べられ、それで救われた人間が一人でも多かったなら、きっと世界を呪う子供も減っていただろう。
そう考えると、彼女は決してこの人助け自体には決して反対ではなかったのだ。

けれど。
そこには、前提がある。
「もう少しで己らも救われる」という、そんな前提が。

聖杯を手にして、もう一度真の意味で産まれ直す。
それが成就するならば、確かにそう、これから生まれるかもしれない自分達は人助けによって生まれることはなくなる。
だが、そもそもマスターが聖杯を手にしないなら。この人助けはただの偽善に成り下がり、行為の意味は前提から瓦解する。
彼女もまた、生きているものを救う、というだけで。
歴史の廃棄物たる、産まれてすらいない自分達を助けてくれるということは、ないのか。
それは怒りではなく、恐れ。
また、自分は胎内に帰る事が出来ずに死んでいくのか。
そんな恐れを、ジャックは抱いていた。

それでも。
召喚に応じ、そしてこれまでの日々で、アサシンも己のマスターが抱えているものには気付いていた。
そして、それがあるのならば、彼女は絶対にわたしたちを助けてくれると信じていた。

けれど。
それは、間違いだったのか。
アサシンが垣間見た室田つばめは、偽りだったのか。
今はただ、それをアサシンは聞きたかった。







「おかあさんも、わたしたちをすてるの?」





「──────────」


何も、言い返せなかった。
ただ虚ろな瞳で此方を見つめる己のサーヴァントに、トップスピードはただの一言も返すことが出来なかった。


641 : 総ては此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2022/08/07(日) 19:46:12 CnZ/w9cA0

──室田つばめ、或いは魔法少女『トップスピード』。
彼女は、厳密には一度死んでいる。
相棒と共に町を壊す悪党と対峙し、そしてそれを勝利という形で終えた後、突如胸の中央で冷たい感覚がした。
何かの刃が己の胸を貫いたのだ、と気付いて、次に、ああ、助からないな、と悟った。
人間、どうしようもないと理解した瞬間には、案外死ぬまでは早いらしい。
最期の最期に思い浮かべたのは、家で帰りを待つ主人の顔だった。
そうして、そのまま、室田つばめは死ぬはずだった。
だが。
その最期の視界の中に、白いトランプがうっすらと映ったかと思うと──気付けば、自分はこの東京にいた。
自分は死んでいなければおかしい、という実感は、瞬間的に記憶を取り戻すには十分なトリガー。
それから、聖杯戦争、そしてサーヴァントの事実を知り。
知ってなお、彼女の心中を過っていたのは喜びだった。

──良かった。
──まだ、自分は死んでいない。
──なら、自分は。

『この子を、産める』

その事実は、死と同時に全てを諦めていた彼女にとっては何処までも朗報だった。
──その時は。

間違いに気付いたのは、この地でも魔法少女としての人助けをしようと自然に身体が動きかけた時。
ジャックがその時、彼女へとかけた言葉。

─────ころしにいくの?

その言葉に、まず内容が飲み込めず少し固まって。
次に、その内容を理解して笑顔で間違いを正そうとして。
そこで漸く、自分が何に巻き込まれたのか、改め理解した。

これは、戦争なのだ。
自分がいたあの魔法少女同士の椅子取りゲームと、決して同じ物ではないのだ。
向こうは、死人が出なかった場合──本来は出ないはずのものだが、いつのまにか最初からそうだったようにすら感じられた──は、マジカルキャンディーの量で脱落者が決まった。
だから、マジカルキャンディーを集める人助けは、「生き残る為に必要なこと」だった。……そうやって、自分を納得させた。
だから、徹頭徹尾彼女は人助けに専念した。
けれど、今回のこれにそんな逃げ道は存在しない。
もし自分が最後まで戦闘から逃げようとしたとしても、自分を除いた最後の二組が同士討ちするというほぼ有り得ない状況にならない限りは戦いは避けることは出来ない。
いつかどこか。どれだけ逃避を続けたとしても、戦わなければならない時は絶対にやってくる。
……少なくとも。
そんな前提条件のある、この場所での人助けは。本当に、どこまでも気休めでしかない行為だというのは、確かだった。

──それでも、道が無いわけでは無かったのかもしれない。
聖杯に頼らずにこの世界から抜け出す道を探るという手段も、もしかしたらあったかもしれない。
けれど、その選択肢は既に縛られている。
その理由は、他でもなくアサシンだった。

彼女もまた、願いの為に聖杯を求めている。
その願いとは、胎内回帰。
ついぞ産まれることが出来なかった彼女、或いは彼女たちにとって、願うことはたった一つ。
「この世に生を受ける」という、ただそれだけ。
怨霊の願いでしかない、たったそれだけの願いは。
けれど、彼女にとっては、その願いは。
──「本来産まれるべきだった命を」「己の命と諸共に永遠に失わせてしまった」彼女にとっては。
その願いは胸に突き刺さるものだった。

わかっている。
わかっているのだ。
聖杯戦争に乗りたいと思っているという、そんな自分の気持ちは。
けれど、それを妨げるのは、輝かしい「魔法少女」としての自分。
あの時、相棒と共に胸を張って空を駆けた記憶。
希望を信じた魔法少女としての自分が、どうしてもそこで二の足を踏ませる──

「─────俺は、俺は─────!!!」


642 : 総ては此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2022/08/07(日) 19:46:36 CnZ/w9cA0

けれど。
答えを返す前に、それはやってきた。

最初に訪れたのは、衝撃だった。
ごう、と響き渡った激震に、辛うじて魔法少女の身体能力で踏み止まる。
次いで第二撃。今度はより直接的な、暴力の具現が振るう一振りの槌。
飛び去る事で助かったのは、魔法少女であったからだろう──常人では、そのまま潰されていたに違いない。

『──サーヴァント』

念話を通じて、アサシンの声が伝わってくる。
敵サーヴァントが現れると同時に、アサシンたる彼女は気配遮断と霊体化を発動していた。
敵のクラスが何であれ、アサシンというクラスそのものが敵に対し真っ向から立ち向かっていくクラスではない。
そういう点では、それは非常に正しい選択だっただろう。
現れた英霊を、トップスピードは改めて確認する。
握るは鉄槌。鋼鉄の鎧に身を包み、そしてその顔には正気とは思えぬ形相が張り付いている。
その表情、まさに狂気。見るものの精神すら蝕みそうなそんな風貌をしているとすれば、それは──

「──バー、サー、カー……!!」

物陰から、その声と同時に人影が現れる。
年若い、高校生くらいの少女。整っていれば美しいだろう黒髪や、元は可憐と呼ばれるに相応しかったのであろう風貌ではあるが、しかし窶れている今となっては見る影もない。
重い魔力消費のせいなのだろう、息も絶え絶えといったような少女だが──それでも、此方を睨む眼に宿る殺意はぎらついた光を放ち続けている。

「……行きな、さい……!貴方の全力で、あのマスターを殺しなさい……!!」

絞り出すようなその叫びに、しかしバーサーカーは咆哮を以て応と答える。
狂戦士が飛び出さんとするのを見て、トップスピードも咄嗟に箒に跨がり地を蹴る。
途端に、箒が超加速せんと唸りを上げる。
如何にサーヴァントであろうと、敏捷のランクが高くない限りはラピッドスワローには追い付けまい。
──逃げられる。
なんとかそう算段を立て、いざ飛び立たんとして。

(──おかあさんも、わたしたちを──)

止まる。
疾風の如く飛び去ろうとした箒が、加速することなく唸りだけを漏らす。
先の言葉が、逃げようとした己の足を縫い止める。
刹那の迷いが、彼女の行動を遅らせて。
そして、その一瞬の迷いは、サーヴァントを相手取る上ではあまりに致命的。
風圧すら置き去りにした殺意が、すぐそこに迫るのが感じられて。
はたと振り向けば──すぐそこに、バーサーカーの鈍器が見えた。
人間の血を喰らうが如く浴びてきたのであろう鉄槌が、今まさにその犠牲者の一人として己を数えようと迫り。
そうして、思わずトップスピードは目を瞑った。



──ああ、また、死ぬのか。
自分は何も出来ず、此処で。

…そうだ。
そもそも、自分が生きられるような道理ではなかったのだ。

「──『遊びを理由にするなんて、馬鹿のする事だ』、か」

愛する男が言っていた事を、漸く理解する。
馬鹿は死ななければ治らない、なんて言うけれど──ほぼ一度死んだと言っても差し支えない己が今になって理解出来たということは、案外その諺も間違っていなかったのかもしれない。

己の生を実感する為に、遊んで生きてきた。
遊ぶということは生き甲斐だと、そう言って日々を過ごしてきた。
それ自体を間違っていたことだとは、彼女は思わない。
きっと、もっと平凡な毎日を送れるような。そんな運命であったなら、やはりずっと自分は同じことを言い続けていただろう。
子供と共に遊んで、旦那に呆れられたり、なんてそんな何気ない日常を、きっと送っていただろう。

けれど──今。
今、自分がそうやって生きて、その結果として、一つの命を殺すなら。
自分の為の遊びというそれだけの為に、生まれるべき生命を見捨てるというのなら。
結局のところ、それはあの『システム』と自分が何ら変わらない事を意味する。

──いや、そもそも。
そもそも、此処に、遊びは無い。
此処は地獄。戦争という名の地獄。
生きる為に生を踏み躙り。
願う為に願いを轢き潰し。
幸福の為に不幸を散蒔く。
故に、『魔法少女トップスピード』は此処では生きられない。
生き甲斐を失くした少女の末路は、夢など有り得ぬ汚泥の底の其処。


643 : 総ては此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2022/08/07(日) 19:46:52 CnZ/w9cA0




─────けれど。



『おかあさん』



─────ああ、けれど。



『また、わたしをころすの』



─────それでも、もう、そんなことはしたくない。



『わたしを、うんでくれないの』



─────お前を道連れにするなんて、そんなことはもうしないから。



「─────安心しろ」



『魔法少女トップスピード』ではない。
ただ一人、『これから産まれてくる命の親』として、ならば。



「─────俺は、絶対にお前を産んでやる」

彼女は、地獄を超えられる。


644 : 総ては此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2022/08/07(日) 19:47:27 CnZ/w9cA0
 



「─────アアアアアサシイイイイイイインンンン!!!!!!」

絶叫と同時に、彼女は天空へと翔んでいた。
バーサーカーのマスターが驚きながら何かを叫ぼうとしていたが、風に阻まれてただの一言も聞こえることはなく。
そして、トップスピードの加速が追い付く前に迫っており、依然彼女を叩き潰そうとした鈍器は、二筋の銀光に刻まれる。
最高クラスの敏捷を活かして一瞬にしてトップスピードの元へ馳せ参じたアサシンが受け流すと同時に、彼女たちは空へと舞い上がっていた。
天に飛び去った箒は、そのまま百八十度ターンする。
当然だ。逃げる為ではない。
もう、逃げるわけにはいかないのだから。

「アサシン」
「なあに、おかあさん」

けれど、その前に。
彼女はひとつ、聞いておきたいことがあった。
確かめておきたいことが、あった。

「──俺は、『少女(こども)』じゃない、立派な『親(おかあさん)』になれると思うか?」

問いかける。
己は、母に足るものか、と。
ここまで逃げてきた少女が、今更母親となっていいものか、と。

「おかあさんは、わたしたちのおかあさんだよ」

答えは、単純だった。
母となってくれるのならば、それだけでジャック・ザ・リッパーには十分であり。
ならばこそ、母親に合格も失敗もなく。ただの現実として、それは認めるに値した。

トップスピードは振り返る。
そう告げたアサシンの顔を、改めてしっかりと見る。
──其処に、何ら変化はない。
けれど。
『親』は、其処に面影を見た。
未だ見ぬ『我が子』の面影を、確かに。

「──そうか」

覚悟は決まった。
眼下を見下ろせば、既に裏路地の中に影など見えなくなっていた。
その理由は、ほんの僅かな時間で立ち込めた濃霧のせいだ。
『暗黒霧都』(ザ・ミスト)。二つあるアサシンの宝具、その片割れ。中にいるだけでも魔力の硫酸が猛毒となって牙を剥き、生半可な人間程度なら十分に殺し得る。
だが、相手もサーヴァントとそのマスター。この程度で倒れてくれるとは思わない。

「──行くぜ、アサシン」
「──うん、かいたいするよ」

だから
言葉を交わし、それと同時に再びラピッドスワローが加速する。
進む先は尚も霧が立ち込める裏路地。バーサーカーとそのマスターがいるその場所へ、二人はまっすぐに突っ込んでいく。




─────此よりは地獄─────


運が良かった、と、トップスピードは思う。
もしもこの時、不確定要素が多かったとするなら、彼女はそれを躊躇ったかもしれない。
躊躇って、その結果、自分が選択するのは遅くなり。
結局、選ぶ暇も無く脱落していたかもしれない。


─────私達は、炎、雨、力─────


けれど、今は違う。
今は「夜」で。
今はアサシンの宝具によって「霧」が出ていて。
──そして、バーサーカーのマスターは「女」だった。
ならば。
ならば、確実に殺せる。


─────殺戮を、此処に─────


──覚悟を決めろ。
──これは、お前が選んだ道だ。
──後悔する前に、と、お前がお前で選んだ修羅の道だ。
わかってる、と心の声に応える。
もう、この先後戻りは出来ない。
大人になった女が少女に逆戻りできないように、もうこの先彼女が『魔法少女』を名乗ることも。
あの時心を許し合ったあいつと肩を並べることも、最早ない。

「─────それでも、俺は─────」



──もう、夢みない。


645 : 総ては此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2022/08/07(日) 19:47:47 CnZ/w9cA0




霧の中を、箒が一瞬にして駆け抜ける。
その内の一瞬、サーヴァントが対応する前にマスターと肉薄した刹那。
それで、全ては事足りる。
アサシンの宝具、二つの宝具のうちのもう一つ。
『切り裂きジャック』は──現れる。

「─────解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!!!」

──ナイフが振られる前から、「それ」は始まった。
黒色の怨念が、バーサーカーのマスターへと纏わりつく。
それを振り払おうとするよりも先に、その障気が彼女の臓腑を撫ぜて。
次の瞬間、彼女は『解体』された。
反応する暇なぞ一切与えず。
声を上げることすら許さずに。
ただ─────殺人鬼への恐怖だけを残して、命の灯火が掻き消される。
臓物が溢れ出し、肉が切り分けられ、骨が揃えられ、鮮血が舞い散り。
徹底的に解体された、ただの肉塊だけがそこに残る。
何故──霧が出る晩、女の前に『切り裂きジャック』が現れたから。
どうやって──そこで、漸くナイフが降り下ろされる。
因果の逆転。
ジャック・ザ・リッパーに牙を剥かれた誰もが死に絶えた逸話、その再現はこうして行われ。
完全なる解体(さつじん)が、此処に成る。

魔力源を失ったバーサーカーはしばらく暴れようとしていたが、魔力の消費が追い付かず、数分もすれば消滅した。
安全が確保された、と認識した後、トップスピードは改めて路地に降り立った。
既に霧は晴れ、そこにある惨劇の様はありありと見ることが出来た。
撒き散らされた臓物。
両側の壁にまで飛び散った血痕。
美しいほどに切り揃えられた人体。
それも、己がアサシンに命じてやらせたことだ。
それらをしっかりとその目に納め──彼女は、改めて理解する。

──ああ。
──これからは、俺が地獄を作るのか。

ホワイトチャペルを思い出す。
人の悪意ですらないものによって作られた、紛れもない地獄。
それに対して、眼前の光景はどうか。
人が一人、願いを踏みにじられて死んだ。──自分が、殺した。
少なくとも、これは悪と呼べる所業なのだろうという自覚はある。
己の為に人の命を食い物にする行為を、悪役と呼ばずに何という。
物語の中ならば、それこそ魔法少女のようなヒーローにいつか退治されて然るべき、そんな悪。
だからこそ、人間の悪性によって作られるこの地獄は、同一ではない。
けれど、それでもここは地獄に相違ない。
地獄の釜の入り口を、自分は今踏み越えたのだ。
──それでいい、と思う。
先に言った通り、この地獄にて『魔法少女(トップスピード)』は生きられない。
そして、生き延びることなく死に堕ちた少女は、それでも地獄から掬い上げたいものがある。
本来此処に来るべきではなかった一つの命を、この地獄からあるべき世界に戻す。
それが、今の彼女が見据える現実。
胸の中には、ただ─────あの時響いた声とそれに裏付けられた決意が、煌々と燃え盛っていた。



「…なあ、アサ──」

なんとなくサーヴァントを呼ぼうとして、ふと思う。
『アサシン』や『ジャック』は、決して彼女の名ではない。
彼女には、未だに──明確な、「彼女」を指す名前はない。
ならば、いっそのこと自分が彼女に命名するのもありか。
そんな思考が、ふと過る。

「いつか、さ」

けれど、結局それはしない。
それはきっと、彼女が名付けられるべき人間の元で産まれたときにされるべきことだ。
それを自分がしてしまうのは、きっと少し違う。

「俺が『お前』を生んだら、その時はちゃんと名前をつけてやるから」

それは、「母親」の顔だった。
子を見守る母親のように、優しい目付きをしていた。
まるで、本物の子を見ているかのように──或いは、彼女を通してそれ見ているかのように。

「だから、今は──アサシン。よろしく頼む」

それを聞いて、アサシンは。
一瞬驚いたような顔をした後、その顔を満面の笑みに染めた。

「うん!」

その顔は、ちょうど。
親に褒められた、得意げな子供のようで。


646 : 総ては此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2022/08/07(日) 19:48:48 CnZ/w9cA0




【クラス】
アサシン

【真名】
ジャック・ザ・リッパー@Fate/Apocrypha

【属性】
混沌・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:C 幸運:E 宝具:C

【クラススキル】
気配遮断:A+
サーヴァントとしての気配を断つ、隠密行動に適したスキル。完全に気配を断てば発見することは不可能に近い。
攻撃態勢に移ると気配遮断のランクが大きく落ちてしまうが、この欠点は“霧夜の殺人”スキルによって補われ、完璧な奇襲が可能となる。

【保有スキル】
霧夜の殺人:A
夜のみ無条件で先手を取れる。暗殺者ではなく殺人鬼という特性上、加害者の彼女は被害者の相手に対して常に先手を取れる。

精神汚染:C
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。
このスキルを所有している人物は、目の前で残虐な行為が行われていても平然としている、もしくは猟奇殺人などの残虐行為を率先して行う。
彼女の場合、マスターが悪の属性を持っていたり、彼女に対して残虐な行為を行うと段階を追って上昇する。魔術の遮断確率は上がるが、ただでさえ破綻している彼女の精神は取り返しの付かないところまで退廃していく。

情報抹消:B
対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から、能力、真名、外見特徴などの情報が消失する。例え戦闘が白昼堂々でも効果は変わらない。これに対抗するには、現場に残った証拠から論理と分析により正体を導きださねばならない。

外科手術:E
血まみれのメスを使用して、マスター及び自己の治療が可能。見た目は保証されないが、とりあえずなんとかなる。
120年前の技術でも、魔力の上乗せで少しはマシ。

【宝具】
『暗黒霧都』(ザ・ミスト)
ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:50人
産業革命の後の1850年代、ロンドンを襲った膨大な煤煙によって引き起こされた硫酸の霧による大災害を由来とする現象の宝具化。
霧の結界を張る結界宝具。硫酸の霧を半径数メートルに拡散させる。骨董品のようなランタンから発生させるのだが、発生させたスモッグ自体も宝具である。このスモッグには指向性があり、霧の中にいる誰に効果を与え、誰に効果を与えないかは使用者が選択できる。
強酸性のスモッグであり、呼吸するだけで肺を焼き、目を開くだけで眼球を爛れさせる。一般人は時間経過でダメージを負い、数分以内に死亡する。魔術師たちも対抗手段を取らない限り、魔術を行使することも難しい。サーヴァントならばダメージを受けないが、敏捷がワンランク低下する。最大で街一つ包み込めるほどの規模となり、霧によって方向感覚が失われる上に強力な幻惑効果があるため、脱出にはBランク以上の直感、あるいは何らかの魔術行使が必要になる。

『解体聖母』(マリア・ザ・リッパー)
ランク:D〜B 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1人
霧の夜に娼婦を惨殺した、正体不明の殺人鬼「ジャック・ザ・リッパー」の逸話を由来とする宝具。
通常はランクDの4本のナイフだが、条件を揃える事で当時ロンドンの貧民街に8万人いたという娼婦達が生活のために切り捨てた子供たちの怨念が上乗せされ、凶悪な効果を発揮する。
条件とは『対象が女性(雌)である』『霧が出ている』『夜である』の三つ。このうち『霧』は自身の宝具『暗黒霧都』で代用する事が可能なため、聖杯戦争における戦いでは1つ目の条件以外は容易に満たすことができる。
これを全て揃った状態で使用すると対象の霊核・心臓を始めとした、生命維持に必要な器官を蘇生すらできない程に破壊した状態で問答無用で体外に弾き出し、血液を喪失させ、結果的に解体された死体にする。“殺人”が最初に到着し、次に“死亡”が続き、最後に“理屈”が大きく遅れて訪れる。
条件が揃っていない場合は単純なダメージを与えるのみだが、条件が一つ揃うごとに威力が跳ね上がっていく。またアサシンを構成する怨霊が等しく持つ胎内回帰願望により、相手が宝具で正体を隠しても性別を看破することが可能で、より正確に使用する事ができる。
この宝具はナイフによる攻撃ではなく、一種の呪いであるため、遠距離でも使用可能。この宝具を防ぐには物理的な防御力ではなく、呪いへの耐性が必要となる。


647 : 総ては此の世に生まれ落ちる貴方の為に ◆deFECPYDAg :2022/08/07(日) 19:49:17 CnZ/w9cA0

【weapon】
ナイフ。六本のナイフを腰に装備するほか、太股のポーチに投擲用の黒い医療用ナイフ(スカルペス)などを収納している。

【サーヴァントとしての願い】
おかあさんのおなかのなかに、かえる。

【人物背景】
ジャック・ザ・リッパー。世界中にその名を知られるシリアルキラー。日本ではそのまま「切り裂きジャック」と呼称されることが多い。
五人の女性を殺害しスコットランドヤードの必死の捜査にもかかわらず捕まることもなく姿を消した。
ジャック・ザ・リッパーは金目当てでも体目当てでもなく、「ただ人間の肉体を破壊したかっただけ」としか思えない殺し方をしていた。
アサシンとして召喚された彼女は数万以上の見捨てられた子供たち・ホワイトチャペルで堕胎され生まれることすら拒まれた胎児達の怨念が集合して生まれた怨霊。
この怨霊が母を求め起こした連続殺人事件の犯人として冠された名前が“ジャック・ザ・リッパー”である。
後に犯行が魔性の者によるものと気づいた魔術師によって消滅させられたが、その後も残り続けた噂や伝承により反英雄と化した。
しかし「ジャック・ザ・リッパー」という概念はあらゆる噂と伝聞と推測がない交ぜとなった今、全てが真実で全てが嘘であるために「誰でもあって、誰でもない。誰でもなくて、誰でもある」無限に等しい可能性を組み込まれた存在となっている。
そのため、もはや「彼女たち」が「ジャック・ザ・リッパー」の伝説に取り込まれたのか、伝説を取り込んでしまったのかすら定かではなくジャック・ザ・リッパーの可能性の一つと化している。
また群体で一個体の「ジャック・ザ・リッパー」を形成しているため、一人一人には名前もなく、世界に個体としての存在が認められていない。
「暗殺者」として顕現したジャックは姿も精神も幼い子供のものとなっている。自身をそう名乗っているが、本当に「真犯人」なのかは本人自身にも分からない。





【マスター】
室田つばめ(トップスピード)@魔法少女育成計画

【参戦経緯】
死亡直前に白いトランプを発見、手にすることでスノーフィールドへと転移し生存した。

【マスターとしての願い】
我が子に、幸せを。

【weapon】
『ラピッドスワロー』
彼女の魔法『猛スピードで空を飛ぶ魔法の箒を使うよ』によって生み出された魔法の箒。
箒と呼ばれてこそいるが、彼女が全力を出した場合は風防やハンドル、ブースターが現れ、バイクのような形へと変化する。
その性能は非常に高く、最高速度ならばサーヴァントとて容易に追いつくことは出来ない。

【能力・技能】
『魔法少女』
『魔法の国』から与えられた力によって、魔法少女に変身する。
人間とは比べ物にならない身体能力や非常に可憐な容姿を持つ他、その魔法少女一人につき一つ固有の魔法を持つ。彼女にとってのそれは、後述する『猛スピードで空を飛ぶ魔法の箒を使うよ』である。
正確には「身体が魔法少女という生物に変化する」と言った方が正しく、妊娠している彼女も魔法少女に変身している間はどう体を動かそうと影響が無い。

『猛スピードで空を飛ぶ魔法の箒を使うよ』
彼女の固有魔法。文字通りの魔法。
Weapon欄にある箒、『ラピッドスワロー』を作り出し、それに乗って空を駆る。

【人物背景】
彼女はもう、夢と希望を守る『魔法少女』ではなく。
子供を幸せにする、たったひとりの、ありふれた『母親』に過ぎない。


648 : ◆KV7BL7iLes :2022/08/07(日) 19:49:56 CnZ/w9cA0
一本目の投下を終了します。続けて投下させていただきます。


649 : 今はただ、己が栄光の為でなく ◆KV7BL7iLes :2022/08/07(日) 19:50:30 CnZ/w9cA0


あの日、美しいものを見た。



群れは、いつしか果てに消えた。
その姿を、ぼうっと見つめながら失墜した。
堕ちた竜。余分な「腕」。飛翔に邪魔な、くだらないもの。
それは地に落ちて、そして、終わる筈だったもの。
それに名はなく、意味もなく、ただ朽ち果てるはずだったもの。

――それを愚かにも拾い上げる、物好きがいた。

どうしようもなく愚かなものと。
どうしようもなく輝かしいものの。

それは、出会いだった。


650 : 今はただ、己が栄光の為でなく ◆KV7BL7iLes :2022/08/07(日) 19:51:17 CnZ/w9cA0


 ◆

端的に言えば、ハズレだった。
自分を召喚したマスターと名乗るその男は、ただの人間にしては少しはやるほうで、ただそれだけだった。
いや、実際そこそこではあるのだろう。ワイバーンを撃ち落とすことに特化した砲術に関してはそこそこやるし、軍や兵法が何たるかくらいのことも把握はしている。
だが、やはりそれ止まりだった。
一つや二つ秀でたことがあり、仮にもある都市の最上位執政官の座を戴くだけの武勲があったとしても――名を残すには、その男はあまりに凡人すぎた。
くだらない下積みと妄執のような一念が形を成して、形ばかりの名誉が与えられ、それを情けと知り己の愚かさを知りながら

「……も、戻ったか、ランサー」

今だってそうだ。
聖杯戦争の場に呼び出され、何の因果かこの世界に呼ばれた後、彼はこの一室に閉じ籠ったかと思えば、戦況把握と称して余程のことがない限り外に出ず引きこもりに徹している。
勿論何もしていない訳ではなく、むしろ普段から偵察や戦略、そして隠れ家の確保に向けた幾らかの行動は起こしている。
その情報収集意欲と警戒能力自体には褒めるところもあろうが、こうして閉じ籠ってばかりでは此方としても自由に戦えない。



「そんなにびくびくと震えなくても大丈夫さマスター。ここはまだ見つかっていないし、此方の攻勢は順調。今のところ、何一つとして問題はない」
「そ、そうか……ならばよし。引き続き警戒を続けろ。これまで通り、明確に戦闘の意思がないマスターを除けばこれを撃滅しても構わん」

そう言い残すと、彼は再び電子端末に向き合って悪戦苦闘を始める。
一応は執政官としてロールを与えられた故の配慮か、はたまた目立つことで警戒されることを恐れてか、不用意な交戦をこうして封じている。
しかし、聖杯を手に入れるのであればその恐れも配慮も手緩いと言わざるを得ない。本戦開始まで耐えるにせよもう少し他陣営にちょっかいを出すにせよ、立場をはっきりとさせなければ本戦開始後に一人だけ出遅れることは目に見えている。
何より、こうして曖昧な指針でただお茶を濁すばかりの男の下で暇を持て余すというのは、中々にストレスが溜まるものだ。

「……私を、私を笑うつもりか、ランサー」

そんな内心を察したのか、肩を怒らせてマスターが問うてきた。
口から返答を返す代わりに、ランサーは嘆息だけで己の意を示す。

……愚かだと思った。
元より人間に大した思いなど持っていないが、それでもこれが愚物に類することは明らかな事実であるだろうと。
下等と呼ぶには賢明さが勝るが、上等と呼ぶにも無様が過ぎる。さりとて並みのものだと言うには、その意思はどうにも狂っていて。
そういう風にしか生きられぬ者を喩えるのであれば、それはきっと、「愚か」というその一言だけなのだろう。

「……まあ、マスターが前に出ずとも僕には関係ないからね。君がそういう人間であるのなら、それはそれで問題はない」

事実、そういう風にしか生きられぬことを、咎めるつもりはなかった。
人生をただの一つにしか費やせぬものなど、あの妖精國には飽きるほど居た――というより、妖精という生命そのものがそういう風にしか生きられぬものであった。
享楽的で己の欲に塗れ、何より己が至上とする生き方を違えられぬ生命。存在意義を喪えば影となって彷徨う、生まれながらにして罪深き生命。それらと比べれば、人間であるだけ少しはマシと言えるかもしれない。
尤も、妖精と愚かさにおいて引けを取らない人間というのは、それはそれで中々に救いようもない気もするが。


651 : 今はただ、己が栄光の為でなく ◆KV7BL7iLes :2022/08/07(日) 19:51:38 CnZ/w9cA0

「聖杯を狙うのなら、私が居れば事足りる。これは君の評価とは関係なく、僕というサーヴァントを呼んだ以上は厳然たる事実さ。
 君は、何もしなくていい」
「何も――」

何も、しなくていい。事実として、必要ない。
サーヴァントを現界させる楔、という役割としてのマスターの存在さえあれば、ランサーの中に駆動するアルビオンのドラゴンハートは無尽蔵に魔力を生成する。魔力供給など必要なく、炉心から生まれたその魔力を以てしてただ自分が薙ぎ払うだけで、並みのサーヴァントを圧倒するには十分だろう。
下手な軍略や加減など、最強種としての権能を振るう足枷にしかならない。妖精騎士として國の治安を守らなければいけなかった頃とは違い、一つとして遠慮する要素のないこの戦争に於いては、自分がただ一掃する上で何の障害もありはしない。

「ああ、その通りだ。だから君は、僕が聖杯を取ってくるまで安心してここで待っているといい。
 聖杯を手に入れたら、栄光でも富でも、好きな物を手に入れるがいいさ」

だから、そう言った。
それがメリュジーヌにとっての真実だ。
聖杯など今は必要ないが、聖杯戦争にわざわざ参加して負けるというのも癪に障る。すぐに全てのサーヴァントを撃滅し、この男に聖杯を手渡して去る。そのような作業に過ぎなかったし。
その後、この男が聖杯で何を手に入れようと、何の関心もなかった。

「栄、光」
「おや、違うのか。君はてっきり、そういうものに惹かれているんじゃないかと思ったのだけれど」

関心は、なかったけれど。
それでもその推測は、決して外れてはいないだろうと、メリュジーヌは感じていた。
文官としての地位が反映されたロールが与えられ、そのくせ実務でそういった地位に至るには判断能力と頭の回転が足りているようには見えず。
そのくせ、己の立場――マスターとしての権威を振り回すかのように己に命令するような言動が多分にみられたのは、自分がそういった立場や関係を意識していると明言しているようなものだ。
最早輝きなどあったのかすらも分からない、曇り果てたその姿は、哀れに固執したものの末路のようで。


652 : 今はただ、己が栄光の為でなく ◆KV7BL7iLes :2022/08/07(日) 19:52:05 CnZ/w9cA0

……けれど。
それは、目の前の男にとっては、どうやら琴線だったようでもあった。

「――違う、ものか」

静かな言葉だった。
だが、メリュジーヌは気付く。理解する。その裏に渦巻く感情を。
事実、言葉を発する毎に、その情念によって言葉はぐらりぐらりと揺らいでいく。

「違う、違うものか。ああ――そうだ!私は名誉と栄光の為だけに戦ってきた!その為だけに骸の山を築き、あまつさえ、ああ――あの竜さえも手にかけた!」

メリュジーヌの分析は、決して間違ったものではない。
男を――静寂なるハルゲントという男を分類するのであれば、間違いなく彼は愚物に属しているだろう。
その身にそぐわぬ栄光を望み、雑多な塵芥の光を積み上げ、世界の平和への貢献にも放棄しながら邁進して。
そうまでして掴んだ地位と名誉は、やはり形ばかりのもので。その地位を誇れど、しかし同じ地位の相手には見下される程度のもので。

「ああ、そうだ、そうだ!私は見栄の為に友を殺した!あの友を自分なら越えられると!越えられるものを連れてこれると!そうして友を失った!すべて、すべて私の咎だ!」

……その動機には、一匹の鳥竜(ワイバーン)がいた。
ハルゲントのいた世界において、修羅の一角に数えられ、最強のひとつと謳われた鳥竜。世界を飛び回り、搔き集めたあらゆる魔具を使いこなし、同族の軍勢はおろか竜すらも容易く葬り去る鳥竜。
そして、彼が幼い頃に、同じ時を過ごしていた、鳥竜。
彼が、ハルゲントが言った幼い夢をあまりに信じるから、それから逃げることもできず、ただ幼い夢を――栄光を、追い求め続けて。
そして、その竜は――当世最大の簒奪者であった竜は、その生の終わりに、彼の男に手渡した。

「最後には、我が名誉のために……再び蘇り黄都に脅威を齎した友を、この手で撃った!友の――星馳せアルスの亡骸を、民に誇ってさえみせた!」


――そんな修羅をも打倒したという、最大の、栄光を。


「それで…それで漸く栄光を手にしたかと思えば、このザマはなんだ!あいつから奪ってまで手に入れたものすら、こんな場所では意味がない!これから……これから私が一体どんな願いを叶えるというんだ!?」

メリュジーヌは、思う。
この男は、なんて愚かで。なんて無様で。なんと滑稽で。
ごうつくばりに己の欲しいものを求めるあまり、周囲がどう思うかなんて全く気にしないで。

「私が、私が欲しかったのは――なんだ!名誉か?栄光か?最後まで、私には、何も――あいつに並び立つものなんて、何も――!!」


そのくせ。
彼は、どうしようもなく。
理解して、しまっていたのだと。
己の感情の正体を知って、見ないふりをし続けて。
そんな有様で、本当に欲しいものを手に入れることなんて、永劫にできるはずもないのに。


「君は」
「その竜を、未だに友と呼ぶのかい?」

気付けば、既に問うていた。
問われた男は、まずその問いの内容に面食らったように身を引いた後、逡巡を隠すこともなく顔を覆った。
男の二つ名に違わない静寂の帳の中で、響くのは空調の無機質な音と、外から届く小さな喧噪の残り香だけ。


「……………………ああ」

そうして、男は口を開いた。
黄都二十九官。翅毟りにして静寂。そんな肩書きも名誉も、今はただ不要だと言うように。
ただのくたびれた、ハルゲントという男は、そうして一言、呟いた。


653 : 今はただ、己が栄光の為でなく ◆KV7BL7iLes :2022/08/07(日) 19:52:23 CnZ/w9cA0




「………友だ。友達だった。アルスは、俺の、たった一人の、友達なんだ」



……こんな感情を、今になって知ることになるなんて思わなかった。
竜種である自分に、こんな機能が備わっているなんて、これまで知る由もなかった。

――嫉妬。あるいは、羨望。
私は、そのアルスという鳥竜に、そういう感情を覚えたのだ。

自分と同じ最強という名を冠して、自分と同じように誰かに拾われて、そして自分にはない、欲しかったものを持っている、ただ一匹の竜。
私が「彼女」から欲しかったものを、ずっと手にしていたもの。
その存在に、どうしようもない「いいなあ」という思いを抱いてしまった。

そして同時に、呆れ返る。
彼女は、ずっとこんな――こんなものに焦がれて、あれだけの悪逆を為していたのか。
或いは、目の前の男も、こんなものに焦がれて、道を見失い続けたのか。
そう思うと、なんだか無性に、今の自分が馬鹿らしくなって。
自分の中の炉心が小さな炎を灯していることに、その時ようやく気付いた。

「……全く」

思わず漏れた溜息一つ。
この程度のことにも一々驚いて身を引くマスターに改めて呆れながら、それでも少しの声が上がる。

「君は、運がいいね」
「何を――」
「私をこうしてやる気にさせた、という意味で。君は、とても運がいい」

な、という声が耳に届く。
それは今まで本気ではなかったのかとか、もしかしてこれまでは裏切るつもりだったのかとか、そういう疑問符であることは想像に難くなかったけれど。

「先に言っておこう。というより、さっき君が言った通りなんだけど。
 君は愚かだ。名誉だとかに惚れて、『あいつに負けない』ってそれだけのことでとんでもないことをやらかす。
 振り回された方はきっとたまったものではなかっただろうし、元の世界に帰ったら迷惑をかけた人には謝った方がいいんじゃないかな?」
「……ぬう」

返す言葉もない、といった趣で俯く。
元より、自覚はあったのだろう。それでいてやめられない。やめられなかった。やめたらきっと、彼は生きていけなかった。そういう生き方しかできなかった。
それを厭う心すら残らず安らかに生を謳歌していたという意味では、彼女の方がまだ救いがあったのではないだろうか。

「……そして、それでも。君は、誇りたかったんだろう」

ついぞ、得られぬものだった。
美しいと彼女が呼んだのは、どこまでも見栄のためだったから。
愛はないと分かっていたし、それでも隣にいた。そして、彼女を守る為にこの身を差し出した。
そこまで滅私を果たして尚、得られずに終わったものだった。

……いや。
その実、得られてはいたのだ。
ランサーが知らぬところで、それは逢った。いつかの空、夢のおわりで。
彼女が焦がれた美しきものは、彼女を憎みながらも彼方への飛翔を見届けた。
そこで彼女からランサーに贈られた言葉には、確かにランサーへのあらんかぎりの情念が籠っていた。

されど、知りようはない。
どこまでも空を飛んでいった機龍は地に這う女の遺言を知らないし、もし知っていたとしても、ランサーは最初からそれをもう一度聖杯に願うつもりもないだろう。
……元より、そんなものはないのだと知っている故に。
捧げられる愛はエゴの裏返し。どうしようもなく自己愛に塗れた、愚かな女の世迷言。
それを今更欲しがるつもりなどない。ないけれど。

「だから、次は伝えてあげてほしい。そこに、友愛はあったのだと。
 彼がそれをもう知っているとしても、何度でも、言ってあげてほしい」

――その言葉を、あげられる人がいるのであれば。
それはきっと、彼にとって、決して忘れられぬ宝の一つになるだろうから。


654 : 今はただ、己が栄光の為でなく ◆KV7BL7iLes :2022/08/07(日) 19:52:41 CnZ/w9cA0

「この、聖杯戦争。私に祈りはないけれど、この一時において――君に私という槍を預けよう」

外装は蒼。――かの鳥竜と同じ。
異常性は「腕」。――三本目の腕に非ず、去れど飛行に不要とされた竜種の腕。
そして、名乗るは最強。――嘗て彼の世界で勇者の候補とされたものどもと、同じく。


「――我が名はメリュジーヌ。暗い沼のメリュジーヌ。これから君にとっての『最強』は、私だ。聖杯を取り、君にとっての最強を打倒して、これを証明しよう」


……ああ、そうだ。
与えられた名でいい。
かつて美しいものを拾い上げ、その翼に意味を与えたきみに。
もう存在する必要もなかった、その「腕」に意味を与えたきみに。
ならばわたしはそう名乗ろう、愚かなきみよ。

「その果てで。君たちは、最強ではない男と、栄光などないただの男として、存分に語らうがいい」
「……ああ。貴様のマスターとして、改めて命じる。聖杯を我が手に齎せ、暗い沼よ」

――ここに、改めて契約が結ばれる。
ただ愚かであることのみを突き詰めた男は、再び最強たる竜をその手に収める。
それは、決してその手に栄光を掴む為ではなく。
……今はただ、己が栄光の為でなく。

「だが、ひとつ言わせてもらう」

今はただ、己が友の為に。

「アルスは、強いぞ」
「望むところさ」







それは異聞にて空から失墜した、原初の竜種の亡骸である。
それは彼方の騎士の名を着名し、無窮の武練をその身に宿している。
それは竜種の炉心をその身に宿し、無尽蔵にして超高出力の魔力を滾らせている。
愚かなるものの腕に抱かれてかたちを得た、無垢にして孤高なる最強の幻想種である。

紅き竜(アルビオン)。妖精騎士(ランスロット)。
暗い沼のメリュジーヌ。


【サーヴァント】
【CLASS】
ランサー

【真名】
メリュジーヌ/ランスロット・アルビオン

【出典】
Fate/Grand Order

【性別】
雌型

【ステータス】
筋力:C 耐久:A+ 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:B 宝具:A+

【属性】
中立・悪

【クラス別能力】

【保有スキル】
ドラゴンハート:B
竜の炉心、あるいは竜の宝玉と呼ばれる、メリュジーヌの魔術回路を指す。
汎人類史においては『魔力放出』に分類される、生体エネルギーの過剰発露状態。
“竜の妖精”として自身を再構築したメリュジーヌは、竜種ではないものの竜と同じ生体機能を有している。

無窮の武練:B
汎人類史の英霊、ランスロットから転写されたスキル。
どのような精神状態であれ、身につけた戦闘技術を十全に発揮できるようになる。
過度の修練により肉体に刻み込まれた戦闘経験……といえるものだが、生まれつき強靱なメリュジーヌにはあまり必要のないスキルだった。
このスキルの存在そのものをメリュジーヌは嫌っている。生まれつき強い生き物に技は必要ないのである。

レイ・ホライゾン:A
イングランドに伝わる、異界への門とされる「地平線」「境界」を守る竜(ミラージュ)の逸話より。
メリュジーヌはあくまで『妖精』としての名と器であり、本来の役割は『境界』そのものである。
……メリュジーヌ本来の姿に変貌するための手順。


655 : 今はただ、己が栄光の為でなく ◆KV7BL7iLes :2022/08/07(日) 19:53:09 CnZ/w9cA0

【宝具】
『今は知らず、無垢なる湖光』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:2〜10 最大捕捉:1匹

イノセンス・アロンダイト。
自らの外皮から『妖精剣アロンダイト』を精製し、対象にたたきつけるシンプルな宝具。
ランスロットのアロンダイトの槍版。
ダメージは低いが、回転率はトップランク。
まるで通常攻撃のような気軽さで展開される宝具。
なぜダメージが低いかというと、メリュジーヌにとってこの宝具はあくまでランスロットの宝具であって自分の宝具ではない借りもの(偽物)だからだ。

『誰も知らぬ、無垢なる鼓動』
ランク:EX 種別:対界宝具
レンジ:20〜500 最大捕捉:500匹

ホロウハート・アルビオン。
第三スキルによって『本来の姿』になったメリュジーヌが放つドラゴンブレス。
『本来の姿』になったメリュジーヌはもはや妖精と呼べるものではなく、その威容の心臓からこぼれる光は広域破壊兵器となる。
その様は境界にかかる虹とも、世界に開いた異界へのゲート(異次元模様)ともとれる。
使用後、メリュジーヌは『そうありたい』と願った妖精の器に戻れず、人知れず消滅する。

異聞帯のアルビオンは『無の海』を飛び続け、やがて死に絶えたが、どの人類史であれ『星に帰り損ねた竜』は無残な最期を迎える、という事の証左でもある。

【weapon】
通常は『今は知らず、無垢なる湖光』を使用。その他にも、上空から魔力弾を打ち出す『爆撃』等も得意としている。


【人物背景】
妖精國ブリテンにおける円卓の騎士、その一角。汎人類史における円卓の騎士・ランスロットの霊基を着名した妖精騎士。ブリテンでただ一種の“竜”の妖精。
無慈悲な戦士として振る舞うが、その所作、流麗さ、そして他の妖精たちとは一線を画した姿から、妖精國でもっとも誇り高く、美しい妖精、と言われている。

彼女が存在した妖精國ブリテンはモルガンの術式により特異点化、汎人類史へと編入されたため、彼女の存在も英霊の座に刻まれた。
その経緯故に、彼女はブリテンの終わり――あの奈落の穴を破り、空高く飛翔した最後の記憶を残しながら現界している。

【サーヴァントとしての願い】
なし。強いて言うなら、マスターが聖杯を手に入れた暁にはアルスとやらとどちらの方が強いのか試すこと。

【方針】
聖杯を狙う。


【マスター】
静寂なるハルゲント
【出典】
異修羅

【性別】


【能力・技能】
『黄都二十九官』

黄都において政治の実務を担当する最高位の執政官の一角。といっても政務能力に突出して秀でた点はなく、ハイエンドな政治戦・情報戦に介入するには明らかな実力不足。
一応最低限の裏工作くらいはできる手腕を持っており、この聖杯戦争においても微力ながら根回しによって己とランサーの繋がりを隠しているようだ。

『羽毟りのハルゲント』
上述の黄都二十九官に上り詰める為に彼が積み上げた研鑽とそれに由来する二つ名。多くの鳥竜(ワイバーン)殺しの功績を積み上げ続けた彼は、こと鳥竜殺しに関しては間違いなく第一人者である。
戦術眼などに関しても突出した訳ではないが、経験から培ったプランニングは定石として鳥竜の効率的な殺戮に通用し得るものであるし、彼が工術によって作り出す対鳥竜兵器の巨大な機構弓『屠竜弩砲(ドラゴンスレイヤー)』は鳥竜の鱗を貫通し絶命せしめる程の火力を有している。
とはいっても、その策略を臨機応変に活用し常識外れの相手を相手取るほどの頭の回転や、鳥竜の更に格上である竜に対しての対抗手段などは持ちえないからこそ、彼は無能だと謗られているのだが。

【weapon】
上述した技能における、執政・最低限の根回し能力と軍の指揮能力。そして、彼自身が作り出す『屠竜弩砲』が主な武装といえる。

【人物背景】
ある世界における最大の都市・黄都において、その執政官のトップと称される黄都二十九官の一人。
しかし、彼がその地位に至るまでに行ったこととして代表的なものは鳥竜(ワイバーン)討伐の功をひたすら積み上げ続けたのみであり、本人に傑物として認められる程の才があった訳ではない。
そうまでして権力を追い、栄光を希求したのは、幼い頃に友となった一匹の鳥竜との約束がため。

――そして、その友を、鳥竜の突然変異であり最強の英雄の一角とも謳われた星馳せアルスを討ったことで、その栄光が不動のものとなった後から、彼はこの聖杯戦争に招かれた。

【マスターとしての願い】
もう一度、ただの友として、彼と。

【方針】
聖杯を狙う。


656 : ◆KV7BL7iLes :2022/08/07(日) 19:58:30 CnZ/w9cA0
二本分の投下を終了します。
なお、一本目は『Fate/Fessenden's World-箱庭聖杯戦争-』にて投下し、落選したものを、当時のトリップで投下させていただきました。
また、二本目は『二次キャラ聖杯戦争OZ EFFECTIVE EARTH』に投下させていただいたものですが、当企画が企画主の宣言の元進行を停止したということから、こちらで再利用させていただきました。
以上の再利用について、もし何か問題がありましたら取り下げさせていただきます。


657 : ◆Lap.xxnSU. :2022/08/09(火) 01:46:30 u0SyBoxY0
総ては此の世に生まれ落ちる貴方の為に
子どもを産めずに終わった母親と産まれられなかった水子霊の組み合わせ、最悪で最高ですね…。
トップスピードが覚悟を決めてアサシンを呼ぶシーンがとても好きでした。
ジャックに対し面と向かって取り繕わずに産む宣言をする彼女が格好良くもあり哀しくもあり、実に見事な塩梅だなと思いました。

今はただ、己が栄光の為でなく
ハルゲントがメリュジーヌを召喚するのは両作を把握している人間なら誰もが頷く名人選なんですよね。
ハルゲントがアルスについてメリュジーヌに話す台詞の一つ一つが最高です。素晴らしい。
「アルスは、強いぞ」「望むところさ」…最早言葉は必要ない、問答無用のパワーを感じる会話です。優勝。

投下ありがとうございました。


658 : ◆Lap.xxnSU. :2022/08/10(水) 02:08:37 q7BlR8CY0
投下します


659 : Answer ◆Lap.xxnSU. :2022/08/10(水) 02:09:06 q7BlR8CY0
 目前で金色の粒子に変わっていく誰かの面影を見届ける。
 顔面を物理的に凹の字に変えられたそれはかつて英霊だったモノだ。
 しかし彼は敵方のサーヴァントを見る事もなくこの異界東京都から退場する。
 人間の少年により一撃で蹴り倒され。
 それから現界を保てなくなるまで殴り潰された。
 よって誰かにとっての希望だった筈の何某は何も遺す事なく消滅する。
 後に残されたのは本体同様に金へ変わって霧散していく返り血の残滓を纏った少年と。
 英霊をすら涜せる神秘を帯び、思い思いの凶器を持った…少年に倣うように白い特攻服を羽織った凡人達の集団だった。
 関東卍會――特攻服にはそう刺繍が施されている。
 それは東京に住まう人間で、尚且つ多少なり暴力の世界に関する知識を有する者であるなら誰もが畏れる四文字。
 破竹の勢いで勢力を拡大し続ける不良集団の名に他ならなかった。

「…便利なもんだな。相手が霊体でも殴れるのか」

 未成年の不良グループはおろか。
 半グレやヤクザ者ですら無視できない。
 しかして抗争を持ちかけた者は一つの例外もなく返り討ち。
 常勝無敗の関東卍會に無敵の二つ名が付けられるまでそう時間はかからなかった。
 そして今日この日、彼らは更に上のステージへと上がった。
 人間相手の戦いで無敵。
 それを一段乗り越えて。
 関東卍會は――人智を超えた。
 人の一生を超克しその存在を"世界の一片"へと召し上げられた英霊。
 本来であれば人間の拳を届かせる事すら叶わないのが道理のサーヴァントを、殺した。

「お前らこれで分かっただろ?」

 総長たるは組織に先駆けて無敵の名を恣にした男。
 誰も彼を倒せず。
 そして誰もが彼に跪くしかなかった。
 この異界に辿り着く前に時を遡ってもまた同じ。
 あらゆる絆も友情も、そして悪意ですら。
 誰も彼もが彼に跪いた。
 彼は無敵の存在であると自ずと信じた。
 信じなかった人間は全員殴り倒された。
 その身で以って"無敵"の二文字の重さを思い知らされた。


660 : Answer ◆Lap.xxnSU. :2022/08/10(水) 02:09:44 q7BlR8CY0

「テメェらはもう人間じゃねぇ。バケモノでも殴り殺せる人外だ。
 関東卍會(オレたち)は今日を以って東京最強の暴走族(チーム)になった」

 関東卍會総長、佐野万次郎。
 通称――無敵のマイキー。
 聖杯戦争のマスター。
 冬の女王を従え、この異界東京都に君臨する者。

「だから付いて来い。逃げたい奴は勝手に逃げろ。弱ぇ奴に用はねぇ」

 彼の総身は今神秘に包まれていた。
 彼のサーヴァントが施した肉体強化(エンチャント)。
 天性の才覚と天性の肉体に最上の魔力が加わった事により。
 今や生半なサーヴァントでは彼を打ち倒す事は叶わない。
 それが今目前で証明されたのだから、昨日まで普通の人間だった彼の兵隊達もにわかに色めき立った。

 マイキーがあの化け物をぶっ殺した。
 オレたちもマイキーと同じになってるのか?
 だったら本当に最強じゃねぇか。
 東卍に勝てる奴なんて居ねぇだろ、もう。
 いつしかざわめきは歓声に変わる。
 東卍、東卍、東卍、東卍、東卍――!
 高らかに謳う兵隊の数は数百人に達していた。
 敵の実力にも当然依るだろうが、十人も居れば戦闘向きでないサーヴァントなら圧殺できるだろう。
 更に集団の中でも練度の高い…元々腕っ節の強い幹部を使えれば。
 ともすれば一対二、一対一での撃破も夢ではないかもしれない。
 だが万次郎の瞳は冷ややかだった。
 喜ぶでもなく。
 ただの虚ろだけがそこにはある。
 それは無敵の二つ名にまるで似合わない退屈そうなそれであったが。
 強いて言うならば微かな憐れみが、其処には含まれていただろうか。
 
“誰も逃げやしねぇな。まぁ…そういう風に弄ってあるんだろう”

 関東卍會は総長マイキーと彼が従える女王の兵隊だ。
 重ねて言うが、兵隊なのだ。
 仲間ではない。
 彼らの存在を"マイキー"や女王が顧みる事は決して無い。
 兵隊に意思など必要ない。
 自分で考えて道を選ぶ機能など贅肉となるだけである。
 鳴り止まない歓声を無視して万次郎は歩き出した。
 初陣は勝利。
 これから東卍はサーヴァントをも狩猟できる最強の暴走族として版図を拡大していくだろう。
 万次郎の心は痛まない。
 物の道理を教えてくれる龍は隣に居ない。
 渦巻く衝動を晴らすにはこの世界は実に都合が良かった。
 英霊を殴り殺す感触は人間に対しそうするのとそれ程違いがなかった。
 されど。
 佐野万次郎という少年の心に空いた穴が塞がる事は、やはりと言うべきか無いのだった。

    ◆ ◆ ◆


661 : Answer ◆Lap.xxnSU. :2022/08/10(水) 02:10:10 q7BlR8CY0

「叛逆の心配はありません。そういう機能は事前に削いでありますので」
「だろうな」

 玉座に坐すは冬の女王と呼ばれるモノであった。
 美麗にして怜悧。
 只其処に存在しているだけでその場の空気を塗り替えてしまうような、ある種暴力的なまでの存在感を宿した女。
 どんなに無学な人間でも…はたまた気位の高い貴人であろうとも。
 一目見れば理解するだろう。
 彼我の力の差を。
 其処に横たわる壁の大きさを。
 蟻の視点から空を見上げたような果てしないものを。
 感じ、跪き、屈従するに違いない。
 ヒトなのか神なのか、そのどちらとも異なる何かなのか。
 全てにおいて判然としない超越者の威容が其処にはある。

「この時代の概念で説明するならプログラミングというのが一番近いでしょう。
 魔術的処置で反抗、離反、挫折、逃亡その他諸々の不確定要素を切除してあります」
「使えるか? オレの兵隊どもは」
「思ったよりは悪くありません。此処まで神秘の衰退した時代の民草がこうも私の魔術に適合するとは…正直な所想定外でした。
 いや――あるいはだからこそ、なのでしょうか」
「ガキってのはどいつもこいつもバカばかりだからな。現実を知らねぇから、そういうもんとの相性も良いんだろ」

 女王の名をモルガンと云う。
 アーサー王伝説に語られる悪逆の魔女を原典とし。
 しかしてそれとは交わらぬ、異なる歴史を辿った人類史から召喚された異聞のサーヴァント。
 彼女が関東卍會の構成員達を英霊すら殺傷できる東京最強の兵隊集団へと変えた。
 肉体強化、魔術に対する防壁、精神攻撃への耐性に人類が生存不可能な過酷環境への適合力。
 ありとあらゆるステータスを強引に底上げした結果の武力。
 スパイスは脆弱な人間のメンタルに対する補強。
 佐野万次郎に叛くあらゆる可能性の排除。
 これを以って彼らは盲目と化したが、故に欠点の存在しない人形として完成された。
 
「念には念を入れ自爆の術式も内蔵してあります。
 敵に拿捕されたとて、彼らは最期の一瞬まで己が使命を全うするでしょう」

 素体が人間である以上戦力としての上限はどうしても低いが。
 それでもモルガンは恐ろしい程的確かつ完璧に仕事をこなした。
 関東卍會を最強の軍勢に変えろと言うのは他でもない万次郎のオーダーだ。
 手段は選ばない。オマエの思う最上を寄越せ。
 その命令にモルガンは応えた。
 関東卍會というチームを彼女は最高の練度に仕上げてみせた。

「…どうした。人の顔をジロジロ見て」
「いえ、そう大した事ではありませんが。貴方はこういうやり方を善しとしないのではと思いましたので」


662 : Answer ◆Lap.xxnSU. :2022/08/10(水) 02:11:12 q7BlR8CY0
「文句はない。どうせ血が通ってるのかどうかも定かじゃない作り物だろ?
 尤も…仮にあいつらがオレと同じ血の通った人間だったとしても何も変わらねぇけどな」

 …昔は先陣を切っていた。
 チームの誰かが害されたなら。
 総長自ら皆を焚き付けて敵地に乗り込む。
 武器や奸計を弄する敵には嫌悪を露わにし、その上で真っ向乗り越えぶっ飛ばす。
 佐野万次郎はそういう男だった。
 だがそれも昔の話だ。
 今は残骸が一つあるのみ。
 
「聖杯を手に入れられなきゃ此処で死ぬんだろ?」
「聖杯戦争の終結と共に、世界諸共虚空へと消え去るでしょう」
「なら最初から道は一つだ。死ぬのは構わねぇが…死ぬ理由も見当たらねぇしな」

 佐野万次郎は闇に愛されている。
 あらゆる未来で彼は堕ちる。
 大切な誰かの死、誰かの悪意。
 …あるいは。
 すべての悲劇に打ち勝ったとしても。
 彼だけは光の中に居られない。
 他ならない彼自身がそれを壊してしまうから。
 己の内側で渦を巻くドス黒い衝動を、いつか解き放ってしまうから。

「オマエがオレを使ってみせろモルガン。ロストベルトの、冬の女王」

 最初、その世界が迎える終わりは決まっていた。
 佐野万次郎は巨悪と化して裏社会を支配する。
 彼を人の道に引き戻せる龍は死に。
 不安定な心を肩に預け合った友は彼の影に沈み闇へと堕ちる。

「それは構いませんが」
「…どうした?」
「いえ。誰かと契約するというのは愉快な事だけではないのだと、感じ入る出来事がありましたので」
「何が気に入らない。兵隊の質か」
「あなたの夢を見ました」

 だが――その未来は変わった。

「あなたの知る救世主の夢を」


663 : Answer ◆Lap.xxnSU. :2022/08/10(水) 02:11:36 q7BlR8CY0

 龍は死なず。
 袂を分かった友を赦し。
 歪な家族の絆は叩き直され。
 兄の妄執との決着も着いた。
 未来を曇らす黒幕は志半ばで散り。
 幸せな未来が約束された。
 そこに佐野万次郎が居ないだけだ。
 彼一人が闇に沈み、彼の仲間は皆救われる。
 そんな未来を血の滲むような想いをしながら掴み取った男が居た。
 弱くちっぽけで青っちょろくて。
 なのに勝てる喧嘩はしない。
 何度のされても諦めずに立ち上がる、救世主(ヒーロー)。
 彼は皆のヒーローだった。
 それは。
 万次郎にとっても…無敵のマイキーにとっても例外ではなかった。

「…まさかオマエも――」
「それだけです。特段取り立てて話すような事でもありません」
「……そうか」

 悪意に挫けず。
 最後の最後まで歩み抜いた救世主。
 本来の歴史ならば万次郎の人生に名を刻む事すら無かったろう一人のヒーローの名前を。
 闇と空虚に支配された今でも覚えている。
 自分はそちらには行けないし、行くつもりも無かったが。

「なら忘れてくれ。それは――今のオレには不要な過去だ」

 佐野万次郎は止まらないだろう。
 無敵のマイキーは止まらない。
 今や人外犇めく魔群と化した関東卍會を率いて。
 聖杯を手に入れるという只それだけの目的の為に。
 この異界での頂点(テッペン)を、目指す。
 
 …白い。
 白い雪が降り積もる冬だった。
 虚ろな白色が降り頻る季節に。
 血が流れる。
 黒が渦巻く。
 救いは降りないままに。
 救世主の光から外れた影を少年は進む。


664 : Answer ◆Lap.xxnSU. :2022/08/10(水) 02:12:08 q7BlR8CY0
 かつて救世主と呼ばれた女を。
 何も知らぬままに、従えて。
 異界の時は進んでいく。
 無敵の彼はリベンジをしない。
 何にも挑まない。
 ただ勝つだけだ。
 ただ――歩むだけだ。

【クラス】
バーサーカー

【真名】
モルガン@Fate/Grand Order

【ステータス】
筋力C 耐久E 敏捷B 魔力A+ 幸運B 宝具EX

【属性】
秩序・悪

【クラススキル】
狂化:B
全パラメーターをアップさせる代償に理性の大半を奪われる。
…筈だが、異聞帯のモルガンは理性を失うことなく人格を維持している。

【保有スキル】
渇望のカリスマ:B
多くの失敗、多くの落胆、多くの絶望を経て、民衆を恐怖で支配する道を選んだ支配者の力。

湖の加護:C
湖の妖精たちによる加護。
放浪した時間があまりにも長い為、ランクは下がっている。

最果てより:A
幾度となく死に瀕しながらも立ち上がり、最果ての島に至り、ブリテンに帰還を果たした女王の矜持。
通常のモルガンは持たない、異聞帯の王であるモルガンのみが持つスキル。
戦場の勝敗そのものを左右する強力な呪いの渦、冬の嵐、その具現。

対魔力:A
魔術への耐性。
ランクAでは魔法陣及び瞬間契約を用いた大魔術すら完全に無効化してしまう。
事実上現代の魔術師が彼女を傷付けるのは不可能。


665 : Answer ◆Lap.xxnSU. :2022/08/10(水) 02:12:26 q7BlR8CY0

道具作成:EX
魔力を帯びた器具を作成可能。

陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。

妖精眼:A
ヒトが持つ魔眼ではなく、妖精が生まれつき持つ『世界を切り替える』視界。
高位の妖精が持つ妖精眼はあらゆる嘘を見抜き、真実を映す眼と言われている。

【宝具】
『はや辿り着けぬ理想郷(ロードレス・キャメロット)』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:10〜99 最大捕捉:100人
モルガンが生涯をかけて入城を望み、果たされなかった白亜の城の具現。
モルガンは娘であるアルトリアと同じ存在であるはずなのに、アルトリアは迎えられ、モルガンは拒絶された。
アルトリアに拒絶されたのではなく――世界のルールそのもの。即ち『人理』に拒絶された。
モルガンが憎むはアルトリアではなく人理そのものであり、決してたどり着けない路を一夜にして踏破し人理そのものを打倒せしめんとする「世界を呪う魔女」としての彼女の在り方を表した宝具。
世界に対する恩讐(のろい)。

【人物背景】
異聞帯・妖精國ブリテンを支配する女王。
最高位の妖精であり、最果ての槍・ロンゴミニアドを魔術として修得した神域の天才魔術師。
人間を嫌い、妖精を嫌い、
弱いものを嫌い、醜いものを嫌い、
平等である事を嫌い、平和である事を嫌う、
民衆から見れば『悪の化身』そのもののような人物。

【願い】
自分には不要であると諦めている。
だがいざ目前にそれが顕れた時、彼女がどうするかまでは分からない。


【マスター】
佐野万次郎@東京卍リベンジャーズ

【願い】
???

【能力】
常人の領域を数段以上飛び越えた身体能力もとい喧嘩の腕前。
彼は常勝無敗、不良の頂点の景色を知る者。
人は彼をこう呼んだ――"無敵のマイキー"と。

【人物背景】
元東京卍會総長。
…現関東卍會総長。
聖杯戦争の舞台となったこの世界で関東卍會を組織し聖杯を狙い戦っている。
黒い衝動に蝕まれたその心は既に空洞。
かつての面影はそこにはない。

【方針】
やるべきことはいつもと変わらない。
ただ少し"殺す"という選択肢を取るのに面倒がないだけ。


666 : ◆Lap.xxnSU. :2022/08/10(水) 02:13:10 q7BlR8CY0
投下終了です。
この主従は当確枠になります。


667 : ◆.EKyuDaHEo :2022/08/10(水) 16:24:27 88pWIPGM0
投下します


668 : 『家族』 ◆.EKyuDaHEo :2022/08/10(水) 16:25:12 88pWIPGM0
「やだやだ!オラ月の石見たいよ!」
「ひろし、おめえもわかんねぇ奴だな〜、三時間も並んで石ころ見たってしょうがなかっぺ?」

オラはどうしても月の石が見たくてとーちゃんとかーちゃんにぐずってた
でもとーちゃんは三時間も並んで月の石を見てもしょうがないと言って並ぼうとはしなかったしかーちゃんも乗り気じゃなかった

「ただの石じゃないもん…本物の月だもん…アポロがとってきたんだもん…」

オラは涙を流してとーちゃんとかーちゃんにいった、だってずっと夢にまで見てた月の石がすぐ近くにある、なのにそれを見ずに帰るのなんて絶対嫌だった…その時…

「とーちゃん、オラ迎えに来たよ?おうち帰ろうよ」

オラと同い年ぐらいの赤い服に黄色いズボンを着た子がそう言ってきた、オラは当然困惑した

「オラに言ってんの…?あんた誰?」
「オラだよとーちゃん!」
「とーちゃん変な子だよ!」
「変じゃないゾ!オラ■■■■■だゾ!」

この子は何を言ってるんだろう…オラはお前と会ったこともないし、■■■■■なんて名前も知らない…
すると突然とーちゃんとかーちゃんがオラに背を向けて歩きだしてしまった…

「とーちゃんかーちゃんどこいくんだ!」
「とーちゃんは自分でしょ!」
「離せよ!!何でオラがお前のとーちゃんなんだよ!!」

オラがとーちゃん達を追いかけようとすると■■■■■って子がオラの服を掴んで引き止めた
これはひょっとしたら神様からの天罰なのかもしれない…確かにオラは月の石を見らずに帰るのは嫌だってわがままを言った…でもとーちゃんとかーちゃんと…"家族"と離れるのはもっと嫌なんだよ…
だから離してくれよ…このままじゃとーちゃん達に置いていかれちゃう…!
そう思って必死に足に力を入れて引き剥がそうとしたら突然その子が手を離した、そのせいでオラは転んでしまった…
その隙にその子がオラの靴を脱がせて嗅がせてきた

「とーちゃんはとーちゃんなんだよ?この臭い分かるでしょ?」

オラの靴は確かに臭かった…でも、何故か懐かしい臭いにも思えた…その瞬間、見覚えのない記憶がオラの中に流れてきた…


◆◆◆


頭のなかで一つの映像が映し出されていた
自分とそっくりな一人の少年が父親が漕いでいる自転車の後ろに乗っている…

その少年は小学生、中学生、高校生とだんだん歳を重ねていった

そして社会人になり会社に入社、上司の教えに焦りながらもこなしたり部長に怒鳴られる日もあった

しかしそんな嫌な日々だけじゃなく自分の最愛の人と巡り会うこともできた

そしてその最愛の人と結婚し一人目の子供もできた、とても可愛らしい顔だった

その後も家を建てたり車を買ったりと充実に暮らしていた、ローンはだいぶ長いけど

相変わらず仕事は大変だ、部下に色々教えたり夜遅くまで残業して急にデータが消えるのだって稀じゃなかった
帰りの電車や帰り道ではいつもクタクタになって帰っていた
しかしそれでも頑張れる理由があった
それは最愛の"家族"がいるからだった

家族と一緒に遊んだり笑ったり、時には喧嘩をすることもあるけどそれでも家族といる時間は本当に幸せだった


そうだオラは……"俺"は……みさえとひまわりとシロ……そして…


「とーちゃん…オラが分かる…?」
「あぁ……あぁ……」


"しんのすけ"のとーちゃんだ…


669 : 『家族』 ◆.EKyuDaHEo :2022/08/10(水) 16:25:30 88pWIPGM0
◆◆◆


「どうしてこんなことに巻き込まれちまったのかな…」

俺は高台で街並みを眺めながらそう呟いた
折角自分の子供達が勇気をふりしぼって俺とみさえの洗脳を解いてくれて過去に戻りたいという気持ちが少しはあったものの家族と未来を生きると決めたというのに俺は突然『聖杯戦争』というのに巻き込まれてしまった

「セイバー、いるか?」
「はい、いますよ野原さん」

聖杯戦争はマスターとサーヴァントの二人一組構成になっているらしい
そして俺がマスターでこのセイバーが俺のサーヴァントらしい
金髪で長い髪の綺麗な顔立ちをした女性だった、こんな美人な人がサーヴァントとは驚きだな…しんのすけがセイバーを見たら絶対喜ぶだろうな、なんて考えたりもした
セイバーは最初俺のことをマスターと呼んでいたが何だか堅苦しく思ったから名前で呼んでもらうことにした

「この聖杯戦争って最後の一組になるまで続くのかな…?」
「分かりませんが…恐らくは…」
「…そうか…」
「野原さんはこの聖杯戦争どう動きますか?私は野原さんのサーヴァントである以上従うつもりです」
「そうだな……」

聖杯戦争…聞けば最後の一組になればどんな願いも叶うという
もちろん俺にも願いは色々ある、32年のローンを失くしてほしいだとか大金が欲しいとか…でもそれよりも、今は家族の元に帰りたいというのが一番の願いだった

「俺は確かに願いがある、家族の元に帰りたいって願いがな…でも、誰かを殺してまで叶えたい願いかと言われるとそうじゃないんだよな…自分の願望のために他人を巻き込むのは間違いだと俺は思う、だから今は一先ず様子見、かな…」
「…分かりました、野原さんの気持ち、しかと受け取りました、ですがもし相手から仕掛けてきた場合はどうしますか…?」
「その場合は………やっぱり戦うしかねぇのかな…」

俺は他人を巻き込んでまで願いを叶えたいとは思わなかった、でもセイバーから言われた相手から仕掛けてきた場合、確かに聖杯で願いを叶えようとするやつもいるかもしれない、今までだって魔神だの魔女だのと世界を征服しようと企んでるやつがいたからな、だが今回はひょっとしたら善意な者が誰かのために願いを叶えたいという者もいるかもしれない、それを考えると戦うのにためらってしまい頭を悩ませてしまった

「まぁ、とりあえず今は様子見で動こう」
「はい、分かりました」

こうして行動方針もまともに決まらないまま俺の聖杯戦争は始まった
けど待ってろよ、みさえ、しんのすけ、ひまわり、シロ…俺は必ず、お前らの元に帰るからな…


【クラス】
セイバー

【真名】
フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはstrikers

【性別】
女性

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷A+ 魔力A++ 幸運D 宝具A

【クラス別スキル】
対魔力:D
一工程によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
魔力放出(雷):A
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。魔力によるジェット噴射。
絶大な能力向上を得られる反面、魔力消費は通常の比ではないため、非常に燃費が悪くなる。常に雷を帯びているが、雷の性質を抑えることで飛行が可能になる。

変化:C
文字通り、「変身」する。
服装とステータスの一部が変化する。


670 : 『家族』 ◆.EKyuDaHEo :2022/08/10(水) 16:25:57 88pWIPGM0
【宝具】
『雷神大剣・音速斬刃(ジェットザンバー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:1人
「バルディッシュ・アサルト」を用いて発動する。 巨大な剣に変形し、結界・バリア破壊効果を持つ。 まず物理的破壊力を持つ衝撃波を放ち、次に魔力で形成した刃を振るって斬りつける。振るう際には魔力刃が伸び、使用者の意思でダメージを精神的な疲労に変えることができる。

『雷光一閃・雷斬壊者(プラズマザンバーブレイカー)』
ランク:A+ 種別:対城宝具 レンジ:1〜60 最大捕捉:300人
ベルカ式カートリッジシステム搭載型インテリジェントデバイス、「閃光の戦斧・改」バルディッシュ・アサルトのフルドライブ、ザンバーフォームで放つ砲撃魔法。
高速儀式魔法によっては発生させた落雷を自身の魔力と共にバルディッシュ・アサルトの半実体化魔力刃に収束させた後、一気に振り下ろして放出し攻撃する。
また、ザンバーの巨大な刀身にそのエネルギーを蓄積することによって、自身の限界を超えた魔力を扱うことが可能となっており、そのエネルギー(屋内で使用する際はプラズマスフィアを吸収することで同様の効果を得る)は自身の魔力やリボルバー内の残りカートリッジ全ての魔力と重ね合わせることで電光を伴う巨大な魔力砲として撃ち出され、対象を完全に破壊する。

【Wepon】
『バルディッシュ・アサルト』
セイバーの持つ魔術礼装。AIを搭載しており、基本的には戦斧の形態だが、状況によって鎌と双剣、そして大剣に変形する武器で、カートリッジシステムという魔力が凝縮された弾丸を装填、解放することで魔力をブーストさせる。装備している限り高速詠唱:Bを獲得する。

【人物背景】
19歳。高速移動からの斬撃による一撃離脱を得意とし、射撃・広範囲魔法も優れた前衛戦闘型の魔導師。一方でバリア出力の低さなど防御面に難があり、また攻撃に傾倒し過ぎるためトラップに弱い点をクロノに指摘された。魔力光は金色。魔力変換資質「電気」を保有しているため、変換プロセスを踏まずに電気を発生できる。 戦闘服はやや軍服調のインパルスフォームという形態をとっている。その他に、レオタードのような薄い装甲の高速戦用形態、真・ソニックフォームが存在する。

【サーヴァントとしての願い】
野原さんを守る。
なのはとヴィヴィオの元に帰りたい。



【マスター】
野原ひろし@クレヨンしんちゃん

【マスターとしての願い】
家族の元に帰りたい。

【能力・技能】
普通の一般人のサラリーマンだが世界征服を企む悪者や宇宙人、怪獣と戦ったことがあるというずば抜けた経験をしていて、多少の戦闘スキルはありいざとなれば自分の命も張れるガッツをもっている、そして特に彼の靴下は最終兵器と呼ばれるほど臭いがキツくその威力はロボットにも通じる程。

【人物背景】
双葉商事のサラリーマンで係長、家族は妻と子供が二人に犬が一匹で一家の大黒柱。普段は頼りない一面が多くよく妻や子供からは呆れられることが多い、しかし家族がピンチに陥った時は普段の頼りない一面とは裏腹に家族のために動くという父親として立派な行動をしている。

【方針】
家族の元に帰りたいがなるべく他の組と戦いたくない。

【備考】
※出展は映画【クレヨンしんちゃん オトナ帝国の逆襲】からで参戦時期は家族で東京タワーを昇る前です


671 : ◆.EKyuDaHEo :2022/08/10(水) 16:26:18 88pWIPGM0
投下終了します


672 : ◆ruUfluZk5M :2022/08/10(水) 18:47:30 voprLp7U0
投下します。


673 : 武に身を任せい ◆ruUfluZk5M :2022/08/10(水) 18:52:25 voprLp7U0
 肩口に露出の多い奇妙なチャイナ服を着た、白髪の男が東京の街を駆け抜けている。
 細身だが筋肉質で背も高く、ただ者といった感じではない。
 非常に目立つおかしな風体だが、こそこそと見つからず駆けるのが上手いのか周囲は誰も気にもされていなかった。
 隠形にも長けたその男は、必要とあらば変装も得意だが今はそういった余裕もない。

「畜生、畜生、糞がっなんだよ聖杯戦争って、なんだよマスターって……ふざけんな糞がっ」

 ブツブツと毒づいて怯えながら辺りをきょろきょろ神経質に見まわしている。繁華街の商人という適当極まりない役割で、人込みに紛れながらこのマスターは怯えていた。

 やがて当然のごとくこのマスター……名前を夏忌(シァジー)と言う男は、別のマスターと出会う。
 だが。
「ア……アサシン! どうしたアサシン! なんだよ! 見てるんだろ!?」
 あわてて上ずった声で己の従僕のクラスを呼ぶが、夏忌の声に居るべきはずの「それ」は応えない。
 令呪を切ろうにも、数少ない隠し玉であるそれを最初から使うという選択肢は気が引けた。
 敵マスターは怪訝に思いながらも、なにやら怪しげな文言を唱え魔術を打ち、そして自らはスムーズにサーヴァントを呼び出す。
 なんらかの不調によりサーヴァントを呼べぬこの状況を好機とみて、襲い掛かる敵。
 あわや夏忌はひとりであっさりと討ち取られるかと思いきや。

 情けなくも悲鳴をあげ――その主従の攻撃をするりと避けた。
 は? と意外な声があがるも。

「うわあああああ!!!」
 夏忌は必至で魔術やサーヴァントの小手調べの攻撃を潜り抜け逃げ惑うと、あっと言う間に路地裏に逃げ込んでビルの外壁をのぼっていった。
 なんと手足をコンクリに平然と突き刺して無理やりかけあがっている。
 ぽかん、と他方マスターはあっけにとられた。
 デタラメな腕力とこちらをすりぬけるような動きでやることが情けない逃走というアンバランスさにひたすら困惑していた。
 少ししてまんまと逃げおおせられたことに気付くが、それでもアレはなんだったのだろうとこの魔術師は脱落するまで不思議に思っていたと言う。


 ●


 どうにか繁華街にある自分の怪しげな店(何を売っているのかもよくわからない雑然とした店である)に戻った夏忌は、片隅で震えていた。


674 : 武に身を任せい ◆ruUfluZk5M :2022/08/10(水) 18:54:54 voprLp7U0
「なんでだよぉ……俺がなにしたってんだよぉ……」
 何も悪いことをしてこなかった、と言うにはこの男のそれまでの人生は暗殺と陰謀に彩られた巨悪と言っていいものだったが。
 そんなことを全く悪びれもせず、ただ夏忌は己がなぜこのような理不尽な環境に放り込まれているのか理解しきれず泣いていた。
 ただ一人で泣き続けていると――
「ほほほ。大陸に悪名高き彼の「蟲」の頭領になろうとする男がこれくらいでベソかいてちゃいかんの」
 今は誰も居ないはずの店で、声がした。
 
 ぎぎぎ、とさび付いたような動きで夏忌が後ろを振り向くと、そこには本来は唯一の手下……従僕と言えるはずの己のサーヴァントの姿。
 丸いサングラスに赤いチャイナ服の上下。帽子をかぶり、皺で満たされた肌。背は低く、車いすにちょこんと座っている。

 アサシンのサーヴァント。好々爺とした柔和な感じのその老人を、夏忌はよく知っている。
 だが、だからこそ、このサーヴァントをあてがわれたという事実は彼からすると嫌だった。
 強さがではない。この男の「強さ」に不満などはない。
 それに、自分のような裏稼業の人間を平然と認めるくらいにはこの老人の懐は広かった。拳士としての側面を認めれば頓着しない部分は好都合と言える。
 だがもっと別のところが、嫌だった。

 中国武術界に長年……それこそ、人の一生分より長く君臨する妖怪にして頂点。おそらくはあの呉一族すら「人間をやめている」度合いだけなら遥かに劣るであろう存在。


675 : 武に身を任せい ◆ruUfluZk5M :2022/08/10(水) 18:58:43 voprLp7U0
 地上最強の生物、範馬勇次郎と殺し合って生き延びた男。いや、死んでから蘇ったとすら聞くバケモノの中のバケモノ。
 互いに知人というわけではない。別に仲間でもない。だが中華の武に属している以上その名を知らなければモグリもいいところである。
 元々の世界で鉢合わせしそうになっていたのなら、決して喧嘩を売ってはならないと夏忌が怯え泣きじゃくりながら逃げ回っていただろう男。
 齢、146歳の超武術家。

 その名は郭海皇。

『どうしても無理な時は儂が出るから、お前もそれなりにこの状況に慣れておけい』

 そう言いつけられ夏忌はおっかなビックリ外に出かけていたのだが、結局敵のマスターと出会ってもこのアサシンはスルーしっぱなしだった。霊体化して黙って観察していたのだ。
 本当に助けてくれるのだろうか、と思いながらも強くは出られない。自身にとってこのアサシン、郭海皇の存在が生命線なのもある。
 このかりそめの東京では身代わりになってくれる部下も逃げ込める組織も無い以上、アサシンにすがるほかないのだ。

「忌(ジー)よ」
「な……なんだ、です、か。なんでしょうか」
 俺はマスターだぞ、なんでさっさと助けなかった、どうせこちらには令呪とやらがあるのだ従え、と怒鳴り散らしたくもなったが。
 やはり怖かった。思わずたどたどしい丁寧語になってしまう。そんな奇妙な喋りを郭は流しながら。
「おぬしの所作やこれまでの動きから、おおむね実力や挙動はわかった。逃げた事を責める気は無い。中々どうして、悪くはない。筋はよい」
 それは、夏忌の持つ無類のポテンシャルを見抜いての言葉だった。
「は、はあ。恐縮で――」
「しかしの」

「なぜそこまで才がありながら武をひたすらに求めぬ」
 一転してこちらを叱責するかのようなサングラスの奥からもありありと見える眼光に、夏忌はヒッと息をのんだ。
 あくなき執念。サーヴァントという「霊」であることを抜きにしてもなお、人ならざるものに睨まれているような、生きた心地のしない感覚。
 正しく「人間」でありながら一世紀以上武を、技を、理合を貪欲に求め続けた怪物の境地は、同じく武に身を置く人間でありながら才能に溺れた怠惰かつ臆病な存在である夏忌にとっては強烈すぎるし、あまりに異質なものだった。
 そして、恐怖の対象だった。

「理を欲さぬ」
「技を磨こうとせぬのだ」
「はよう基礎の站椿からでも習練をせい」

 反論を許さぬ断定。
 なぜサーヴァントに、なぜ聖杯戦争などをやっている時にそんな拳法の練磨を命じられなければ――とこのマスターは言えなかった。
 中華に身を置く拳法の使い手にとって、海皇とは骨の髄まで畏怖の対象である。


676 : 武に身を任せい ◆ruUfluZk5M :2022/08/10(水) 19:01:01 voprLp7U0
 聞いたところによると余計なことをやらかした武術省の責任者はいきなり手首を纏めて手刀で切り落とされたと言う……
 ましてや夏忌のような鼠の精神の持ち主ならば本能レベルでの『恐怖』が刷り込まれていた。

「は、ははは、はい……わかりました、郭老師」
 素直に従い、彼は手慣れたように――それでいて、嫌そうに構えを取り武術の習練を開始した。
 あるいは。これが冷静に勤勉な双子の弟である夏厭なら、淡々と「今そういうことやってる余裕のある環境ですかね?」とツッコミを入れながらもごく普通にその手ほどきを受け入れていただろう。
 蟲において最上位の謎に満ちた存在「繋がる者」に対しても冷静でいられるあの弟ならば。

 しかし、鼠の心を持った龍たる夏忌にとってはこのサーヴァントも、聖杯戦争も、なにもかもがただ「嫌なもの」でしかなかった。
(畜生ォッ〜!!! なんで俺が、俺がこんな目にィ!!! ふざけんじゃねえぞっ怖ぇよお怖ぇよお!!)
 困ったことに、それでも彼は拳法の天才である。魔術には疎いものの、裏の呪いや荒事をすり抜けることには普通の人間より遥かに適正のある……
 そんな人間が、海皇と呼ばれる至高の中国拳法家をサーヴァントとして擁しているこの状況は紛れもなく脅威だった。
 とてもそうは見えないが、間違いなく脅威は東京の片隅で育まれていた――
 
「よろしい。ではこれよりおぬしを海王候補生として日課としてイメージで関節を増やす修行を命じる。手本を見せるから超音速の突きを覚えい」
「エッ……!!??」


677 : 武に身を任せい ◆ruUfluZk5M :2022/08/10(水) 19:03:18 voprLp7U0
【クラス】
 アサシン
【真名】
郭海皇@刃牙シリーズ
【パラメータ】
筋力E 耐久E? 敏捷E 魔力E 幸運C 宝具A
【クラス別スキル】
 無し。強いて言えば全てが中国武術の内に統合されている。
【保有スキル】
中国武術EX
 中華の合理。宇宙と一体になる事を目的とした武術をどれほど極めたかの値。
 郭海皇は「存在が中国拳法そのもの」とすら言われる存在であるため、存在するだけでその一挙手一投足が武術と化す。そのためEXとなっている。
 思念ひとつで腕を無限の関節を持った「超音速の鞭」へと変えることすら容易く、時には臨床学的な「死」すら平然と武術のための武器へと変える。
『消力』
 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1 
 あらゆる攻撃を脱力によって逃がす脱力と技の境地。これを体得するにあたりアサシンの耐久のランクは半ば破綻している。
 その効力は100年の修行によりサーヴァントとして概念のレベルにまで到達。
 また攻撃に転じれば完全に筋力や敏捷のパラメータを無視した攻撃性能、移動性能をもたらす。
【人物背景】
 中国全土の拳法家の頂点である海皇の名を冠する老人。御年146歳。あくまで人類。
 100年前はアジアで最も強い筋力を誇る怪力拳法家だったが老練の拳法家に「技」で負けた経験により筋力と決別し、長きにわたる異常な修行によりやせ細った肉体と脱力から発せられる筋力を超えた技と破壊力を会得した。
 日常においては鷹揚な面もあるが、勝敗と武に関しては異常なまでの執念を持ち、平然と番外戦術や卑劣な手段、残酷なペナルティも辞さない。
【サーヴァントとしての願い】
 中国拳法をこの聖杯戦争の場で余すことなく『試す』

【マスター】
 夏忌(シァジー)@ケンガンオメガ
【マスターとしての願い】
 死にたくない。蟲の頂点に立ちたい。安全が欲しい。痛いの嫌。
【能力・技能】
 常人の2倍の筋肉の質を持つ超人体質(発揮しているパワーは明らかにそれより上)。裏組織に属する諜報能力。隠し武器を服や体内に仕込んでおり、諸々を応用する。
 そして上記のそれらがただの飾りと断じられるレベルの拳法の才能を持ち、鞭のように腕を振るう戦法を得意とする。
 また圧倒的に生き汚い逃走能力を持ち、例え隙の無い格上相手からも一瞬で逃げおおせることができる。
【人物背景】
 古代より戦争や政治の裏で暗躍する中国秘密結社「蟲」の頭領の息子に生まれた男。
 性格は一見するとクールで謎めいた暗殺者と言った風情だが、その実他人には冷酷な癖に臆病かつ痛がり屋の苦行や鍛錬が嫌いな怠け者。
 なおかつキレやすく八つ当たりなども多い小物で、追いつめられるとすぐ泣く上になにをしでかすかわからない情緒不安定。
 恵まれた筋肉による超人体質と双子の弟、夏厭(シァヤン)以上の圧倒的な拳法の才能を持つ天才だったが、部下を使い親を謀殺し頭領の座に座ろうとするも蟲の頭領の座はより遥かに強く有能な弟に与えられ、自身は幹部の極東本部長のポストに据えられる。
 そのことを不当に思いつつも自分が弟やトップクラスの強者から見れば大したことのない存在であることもまた心の内では認めており、天才としての傲慢さと同時に持たざる者、脇役としての劣等感も抱いている。
 ……真面目に鍛えていればその「自分より圧倒的に強い弟」よりも普通に上になれたはずなのだが。
(才能と精神性のチグハグさは「鼠に生まれるはずだった龍」と評されている)


 なお刃牙シリーズとケンガンアシュラのシリーズはある特別回において世界観がつながっていたため、アサシンとは互いに名前や存在を事前に知っていても矛盾ではない。
【方針】
 郭老師の顔色を窺いつつ安全圏を逃げまくる。魔術?なにそれ怖い。


678 : ◆ruUfluZk5M :2022/08/10(水) 19:03:48 voprLp7U0
投下終了です。


679 : ◆vV5.jnbCYw :2022/08/10(水) 21:38:14 hhXxzu9M0
投下します。


680 : その幻想録は続きか、前日譚か ◆vV5.jnbCYw :2022/08/10(水) 21:39:03 hhXxzu9M0
キン コン カン コン

「近ごろ交通じこがふえています。みんな車に気を付けてかえるのですよ。」

どこの学校でも聞くことの出来るチャイムが鳴ると、初老の先生の声が教室に響きました。
チャイムの高音も、先生の低い声も、もう二度と聞くことはないと思っていたからか、凄く悲しく懐かしく聞こえました。


ランドセルを背負って、帽子をかぶったぼくは屋上に出ました。
そこからは知らないのにひどく懐かしく感じる景色が広がっていました。
校舎の舌から聞こえるのは大人や子供の、男の人や女の人の話し声。時に犬の遠吠えなんかも混ざっています
富士の『天国』で見た、はりぼての東京ではなく、確かに生きた町が広がっていました。
空からは真っ白な雪が、道を染めるほどではないにせよ降っています。
何もかもが、もう二度と見ることの出来ないと思っていた景色でした。


思わず、涙が出そうになりました。
屋上では同じように、景色を見ている人がいました。
サラサラの金髪で、笛を吹いていました。
初めて聞くのに、どこか懐かしさを思い出す曲でした。
そう言えば、あの時未来キノコを食べた美川さんが、心まで怪物になる前に弾いていた曲に似ているような気がします。


曲が終わったようなので、僕はランサーのサーヴァントという彼に話しかけました。
「またあの話の続き、聞かせてくれない?」
「良いよ、マスター。確か僕が友達を追いかけて、ピラミッドに行く所まで話したよね?」


昨日も、そして今日も、ランサーは話を僕にしてくれました。
僕だけじゃなく、年頃の小学生のほとんどが憧れる冒険の話を。
その話はとても不思議な話でした。
全く違う世界なのに、ナスカの地上絵やムー大陸、万里の長城にアンコールワットと、ぼくも知っている地名が出てくるのです。

やがて話は佳境に入り、ランサーの顔が変わりました。


「バベルの塔に来た時に知らされるんだ。
僕達がいた世界の人間は、彗星のせいで間違った進化を遂げて、間違った形を作っていたんだ。」
「スイセイって、スイキンチカモク……ってやつ?」
「違う。魔物を生んで、人をおかしくする怪物のようなものだ。」


それからさらにランサーは話を続けました。


「彗星……ダークガイアを倒した時、地球は元の姿に変わった。ぼくたちが冒険した今まで冒険してきた間違った世界は歴史ごと消え去ることになった。めでたしめでたし。」

その話を聞いて、ぼくはなんとなく悲しい気持ちになりました。
だから聞きました。


「それで良かったの?世界が消えたってことは、きみの友達なんかも消えたってことじゃないのか?」
「そうだよ。でもそのおかげで君たちが生まれたんだ。悲しむことはないよ。」

納得のいかなかったぼくをよそに、ランサーは本当にうれしそうに話を続けます。


681 : その幻想録は続きか、前日譚か ◆vV5.jnbCYw :2022/08/10(水) 21:39:26 hhXxzu9M0

「マスターの教室にあった世界地図は、あの時宇宙から見た変化した世界の姿をしていた。こんな形でだけど、僕は記憶を持ったまま新しい地球の人達に会えてよかったと思う。」

そう話すランサーは、ユウちゃんのように人懐っこくて、大友くんのようにしっかり者で、それでいて咲っぺのように照れ屋でした。
なのでぼくはこの世界に来てからも時々思います。いや、ずっと思い続けてます。
向こうの世界に置いてきたあの人たちはどうしているのかなと。


そして、一番ランサーに伝えなければならないことがあります。
彼の力によって変わった青い地球は、やがて砂と石、怪物だけになって滅びてしまうことを。


「ぼくは知っているんだ。ランサーが変えた世界がどうなるか。」
「教えてほしいな。どんな世界になってるの?」

僕は一度息をのんで、それから無理矢理吐き出すようにいいました。
そう言えば、自分を犯人だと告白した大友くんは、こんな気持ちだったのかなと思います。

「色んなことが起こって、砂漠になってしまったんだ。」


予想通りというべきか、ランサーは驚いたような、悲しむような。
そんな表情を浮かべました。
無理もありません。僕だってつい3週間ほど前まで、そんなことを考えもしなかったのですから。
自分が変えた世界が、待ち望んでいた世界が、最後に何もない砂漠になってしまうなんて、信じたくないでしょう。
この学校の屋上から見える建物が、何もかもが砂と石に変わってしまうのです。


「じゃあ、新しい地球の未来を守るために、マスターは聖杯を狙うの?」
「違う。めちゃくちゃになった未来は、ぼくたちが種をまいてまた耕すつもりだ……。」


だから、あの砂漠の未来から帰れなくても良かったんです。
諦めとかそんな感情ではなく、ぼくたちがしなければならないことを見つけた。それだけのことでした。
だから幼いユウちゃんだけを元の世界に返して、生き残った大和小学校のみんなで、未来に捲かれた種になろうと決意したのです。
だというのに。


ぼくはずるいと思いました。
あの時二度と見ることが出来ないと思っていたものを目の前で付きつけられたら
あの時二度と聞くことが出来ないと思っていた音を耳元で鳴らされたら
思ってしまうのも仕方のないことだと思います。


「帰りたいんだ。あのとき喧嘩したまま出て行ったおかあさんの所に。
帰ってただいまって言いたい……ごめんなさいって言いたいんだ……。」

現代に置いてきた人にまた会いたいって。


682 : その幻想録は続きか、前日譚か ◆vV5.jnbCYw :2022/08/10(水) 21:40:03 hhXxzu9M0

もしも聖杯を手に入れて、願いが叶うなら。
元の東京に帰れるだけじゃなくて、未来の崩壊も無かったことに出来るかもしれない。
勿論友達の池垣くんたちの死も無かったことに出来るんじゃないか
あの時みんなで決めた想いを踏み躙ってでもやるべきじゃないか。
そんな風に思ってしまう自分がいます。

戦争に参加するということは、恐ろしいことをしようと考えているのは分かります。
平和学習で学んだとか、戦争ごっこを経験したから、そんな理由ではありません。
だってぼくは未来で食料をめぐって、小学生同士、友達同士で戦争をしたことがありますから。
恐ろしいことだと分かっていても、願いが叶うという、再びこの景色と雑踏を目と耳に入れられるという光明は眩いものでした。


でも一度決意した気持ちが、嘘というわけではない。そう思います。
未来の学校に置いてきた友達や、ぼくより小さい子供たちはどうなったのか。
願いを叶えたら、あの人たちは消えてしまうんじゃないか。
この世界から出たら、その先は現代の東京か、それとも砂漠になった未来の東京か。
決意することは出来ず、涙だけが出てきました。


「でもどうするか、まだ決められないんだ。」


今のぼくは、未来の大和小学校の総理大臣ではありません。
聖杯戦争の参加者で、ランサー・テムのマスターの、高松翔です。


それを聞いたランサーは、ただその手を握り締めてくれました。

「どうするか決めるまで、ぼくはただマスターを守ることにするよ。」



 ▲▼


「分かったよ、マスター。僕がなぜ君のサーヴァントに選ばれたのか。」

夢で見ていた。
夢と思えないくらい凄まじい轟音で揺れる学校、全てが石と砂に変わった世界。
暴走する大人、怪物、疫病、未知の植物、そして食糧の枯渇。
死んでいく、マスターの友達。
それが夢じゃなくて、マスターのたどった道だと分かった時にそう思った。


ぼくは知っている。
生きることは、悩み続けること、そして選び続けることだって。
ぼくだけじゃなく、あの日僕と共にサウスケープを出た仲間たちだって悩み、選び続けた。


リバイアサンになっても生きることになったモリスのように。
心が壊れた父親と一緒に暮らすことにして、代わりに僕との冒険をやめたロブのように。
そのロブの後を追って一緒にいることを決意したリリィのように。
そして死んだ両親に代わって貿易会社を受け継ぐことにしたニールのように。
そして何より、ぼくと一緒に世界を変えることを決意したカレンのように。


683 : その幻想録は続きか、前日譚か ◆vV5.jnbCYw :2022/08/10(水) 21:40:24 hhXxzu9M0

本当にバベルの塔で終わりを迎えたあの物語がめでたしめでたし、ハッピーエンドかと言われれば、ぼくは疑問だ。
辛いこともあったけど、それを補って余りあるほど楽しい思い出があったあの冒険が、消えてしまうのが悲しくなかったかと言われれば、嘘になる。
あれが彗星の力によって作られた間違ったものであったとしても。
ぼくにとってはかけがえのない、自分を作る糧だった。


もしも願いが叶うというなら、あの間違った世界を、本当だったことにしたい。
あの冒険を、仲間との大切な思い出を、無かったことにしたくない。
またカレンに会いたい。
会ってあのふわふわな髪の毛、柔らかな唇、ちょっと高いけど聞いていれば暖かい気持ちになるあの声、彼女を彼女づける全てを心行くまで楽しみたい。
あの時イカダで2人だけで漂流した時のように、今度はボートで海に出て魚釣りをしてみたい。


新しい世界では、たとえカレンや他の友達に出会ったとしても、気付かずすれ違ってしまうかもしれない。
ぼくは最後に地球に戻る前、千年かかってもカレンのことを必ず探し出すからと彼女に言った。
けれどそんなことは出来ないかもしれない。ただ彼女を励ますために言っただけの、根拠のない言葉だ。


だからこそ、新しい地球にはマスターのような人が生きていると分かって良かったと思う。
ぼくが聖杯に世界を元に戻すように願うことはできない。
今のマスターはいなかったことになってしまうから。


ぼくはマスターの葛藤が分かる。ぼくがそう思わずに済むのは、ひとえにマスターのお陰だ。
そしてもう一つ分かっている。聖杯によって過去と未来を、原因と結果を改ざんするのは、ダークガイアの力で世界を歪めるのと同じことだということを。
マスターは未来の世界で役目を果たさなければならないということを。
でもぼくはその言葉をマスターに言わない。
生まれた場所に帰りたいという郷愁の想いは、使命という理由で決して捨てられるものではないと思う。


だから、ぼくはマスターの未来に賛成も反対もしない。
ただ、そうやって悩み続けることが出来るように、選べるその時まで守るだけだ。




【クラス】
ランサー

【真名】
テム@ガイア幻想紀

【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力D 幸運D 宝具EX

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:C
魔術への耐性。二節以下の詠唱による魔術は無効化できるが、大魔術・儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。

超能力:C
透視能力や、手で触れずにある程度の重さの物体を動かすことが出来る。ただし、それらの対象は非生物のみである。


【宝具】
『ガイア幻想紀(イリュージョン・オブ・ガイア)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:1人
ガイアの力を借りて、ヤミの力を持つ戦士に変身出来る。
変身できる戦士は以下の2人である。


684 : その幻想録は続きか、前日譚か ◆vV5.jnbCYw :2022/08/10(水) 21:40:43 hhXxzu9M0
・フリーダン
剣を持つ長髪の剣士(筋力C+ 敏捷C 魔力B相当)であり、エネルギー弾『ダークフライヤー』、闇の力で二枚の壁を発生させて体の周囲を回転させる技『ダークバリヤ(対魔力B相当)』、地震を起こす『アースクエイカー』を使える。
・シャドウ
揺らめく人型の影の姿を持つ闇の戦士(筋力A- 敏捷B 魔力B相当)であり、対魔力A相当の力を持つ『オーラバリヤ』、液状化してひび割れた地面に入ったり抜けたりできる『オーラの玉』を使える。
また、テムがこの形態に変身している際に、マスターが令呪を使えばヤミの戦士の究極奥義『ファイアーバード』と飛翔能力を手に入れられる。本来ならば光の戦士の力が必要なのだが、この聖杯戦争ではその力はマスターの令呪で代用できる。

『不思議な笛』
ランク:D- 種別:対人宝具 レンジ:1人 最大捕捉:100人
テムの父が遺した笛。武器として使っても壊れない頑丈さを持つほか、楽器としての本来の要素を持つ。
鎖を切ったり敵の攻撃をガードしたり出来るが、攻防の力はそこらの武器に毛が生えた程度でしかない。
かつて彼が使った時のように、然るべき場所で吹けば何かが変わるはずだ。

【人物背景】
探検隊の父、オールマンの息子。
サウスケープという町に住んでいたが、愛用の笛から聞こえてきた父の声に導かれて、世界中の遺跡に散らばっている土偶「ミステリードール」を集める旅に出る。
旅の果て、バベルの塔で、オールマンの幻影から、テムの正体は、古代人が邪悪な彗星を破壊するために作りだした生物兵器「闇の戦士」の末裔で、対の存在である「光の戦士」の末裔であるカレンと心を1つにすることで『対彗星兵器ファイヤーバード』として完成する。
やがて彗星を破壊したのち、彗星によって作られた世界と共に消えていった。

【願い】
自分には不要であると諦めている。
けれど、マスターが望むのならば戦うことも辞さない。


【マスター】
高松翔@漂流教室

【願い】
まだ決めていない。未来に捲かれた種として生きるためにも、この世界から出るか、聖杯を入手してその使命を破棄し、母の下に帰るか。

【能力】
特になし。
運動会では毎回リレーの選手に選ばれる運動神経を持っているが、ありふれた小学生よりかは運動が出来るといった程度。
ただし仲間をまとめ上げる能力があり、状況に咄嗟に対応できる判断力がある。

【人物背景】
大和小学校6年3組。元気で明るいごく普通の少年。親にも迷惑をかけてばかりいたやんちゃな子供だったが、荒廃した未来の世界に飛ばされ、頼れるはずの先生たちが次々に発狂・死亡した中で、小学生ながらにリーダーになる。
終盤で大友と和解した後、現在へ帰還するものの上手く行かず、落胆するも、世界再生の片鱗を未来世界の中に見出す。
自分達が未来にやって来た意味が『荒廃した未来を再生させるためだ』という結論に行き付く。そして彼は生き残った仲間と共にこの世界に生きる決意を固めるはずだったが……

【武器】
錆びたナイフ

【方針】
まずはランサー以外にも、聖杯戦争の参加者を集める。それでどうするか決める。


685 : その幻想録は続きか、前日譚か ◆vV5.jnbCYw :2022/08/10(水) 21:40:55 hhXxzu9M0
投下終了です


686 : ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:06:15 oCFVLha.0
投下します


687 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:06:50 oCFVLha.0





     さあ、私を祝福してくれ。君よ、どんなに大きな幸福ですら妬心なく見ることができる、静かな眼よ。

     さあ、祝福してくれ。この溢れんばかりの杯を。水は金色に光り、杯から流れ出して至るところ君の歓びの照り返しを運んでいくだろう。

                                                     ───『ツァラトゥストラはかく語りき』より。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


688 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:07:26 oCFVLha.0





「私が死んだら、君は悲しむ?」



───欠けた夢を見ていた。

雪の降り積もる、真っ白な夜の夢だ。



『何故笑う』

夢の中で、自分ではない誰かが言った。
戦いの後に広がるのは空ろな地獄だった。いつもそうだ。黒煙の立ち昇る戦場の荒野に散らばるのは、両陣営の残骸。鉄屑となった兵器たちと力尽きた人間たちだ。
黒煙のけぶる戦場にあって、不自然なものがいくつか存在した。それは重く垂れこめた雲の下でもさんざめく光であり、地上に残る痕跡であったりした。
主要な攻撃目標、及び敵方の主力兵器が、全て巨大な氷柱となっているのだ。
周囲の気温は低い。それこそ、「彼女」が戦ったという痕跡だった。

「……え?」

コンマ数秒の開きがあって、相手からの応答があった。
凛と鳴る鈴のような、ころころとした愛らしい声だった。その声音はただ不思議そうに、こちらを応えていた。

『君は、何故、今もそうして笑っていられる』

自分ではない誰か───今、自分が視点として宿っている少年は、不可解な思いを抱いていた。
彼が相対する少女は、戦いが終わった後、立ち昇る煙と荒れた戦域を俯瞰し、真っ先に自軍の安否を確認した。それこそ整備班や回収班よりも早く、だ。
そうして無事な相手には良かったと笑い、そうでない相手にも───やはり、笑った。

「あ……これ? なんだろ、なんて言うのかな」

少女は、ほんの少しだけ返答に迷い、

「せめて、笑ってようかなってさ」
『意味不明である』
「うん、私もあんまり……何の為とか、どうしてとか、そういうの説明できないけど」

また少し、間。


689 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:08:06 oCFVLha.0

「泣くよりはいいと思うんだ。私が勝手にそう思ってるだけなんだけどさ。死んじゃったみんなを笑って見送って、私は心配いらないぞ、後は任せて、って笑ったほうがいいと思って」
『……それは、ただの自己満足だ』
「うん」

彼女は否定しなかった。百も承知なのだろう。

「でも、それしかないから」

帰投命令が下るまでの数分。
硝煙と粉雪が混在する戦場で、少女は───蜉蝣はその視線を空へと向けた。重い曇天を見上げるその姿は、雲の切れ間から光が差し込むのをじっと待っているようにも見えた。



───視点が切り替わる。



それはいつかの時代、凍えるような冬のことだった。
極東の島国『八洲』が繰り広げる戦争の終盤。もはや泥沼となりつつあった争いにおいて、『帝國』はある切り札を出した。
新型熱核爆弾。何もかもをひっくり返す、最後の手段だった。
これが本国で爆発すれば、八洲の全域に渡り甚大な破壊と深刻な汚染がまき散らされたであろう。帝國は全てに決着をつけるため、八洲の最高戦力を海域に引き付け、ステルス爆撃機での投下という作戦を組んだ。
あまりにも巨大すぎる一石は、帝國の側にとっても博打であり、それだけ両者が追い詰められていたという証左でもあった。
結果として八洲は後手に回り、爆撃を未然に防ぐことはできなかった。
ぎりぎりで予測された投下地点に間に合うのは、ただ一人の少女のみ。
それが、彼女だった。
そして彼女はただ一人、「物理的に」爆発を押し留められる可能性を持つ唯一の人材だった。彼女はそういう力を持っていた。
いつもの、怖いものなどないといった口調で。

「大丈夫だよ、私が止めるからさ」

その言葉を聞いた時に、少年の心中で渦巻いた感情は、一言では説明できない。
ただ、聞いた瞬間に体が動いていた。視界に入る敵を全て叩き落し、自分でも知らぬまま、少女のいる北へ進路を取った。
邪魔なものは全て撃墜した。動く動かないにかかわらず進路上にあるあらゆるものを砕いて振り切り、海と陸をいくつも跨いだ時、煤けた地平線の向こうによく知る反応を感知した。

『───柊!』

少年の叫びは届いたのだろう。
ノイズ塗れの回線が僅かに開き、たった一秒だけ彼女の声と息遣いが聞こえた。それが最後だった。


690 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:08:37 oCFVLha.0


その時も、少女は困ったように笑った。
声にほんの少し、泣きそうな揺らぎを乗せて。


少年の視界で二種類の光がほぼ同時に爆ぜた。
熱核兵器の爆発の光と、刹那の後にそれを覆い尽くすように広がった「力」の光だ。
引き伸ばされたような感覚の中、光に比して遅すぎるように思えるタイミングで、空に巨大な亀裂が奔ったような音が轟いた。それから更に遅れて、極低温の冷気を伴う豪風が吹いた。
周囲の気温が一気に氷点下となり、少年の駆る機体表面にびっしり霜が迸った。何十キロも離れたこの地点でこれなら、中心部はどうなっているか想像もつかない。いや、それよりも。

───届かなかった。

最初に、そう思った。
間に合ったところで何ができたのか、などと考えられなかった。あるのは事実のみ。
その翅も手も、遥か向こうで弾けた激烈な光に届くことはなかった。これはただ、それだけの話であった。

そして、都市は永遠の冬となった。
八洲北部にある防衛都市『落地』は、彼女の作った氷の世界となって全てを停止させ、二十年に渡り終わりのない雪を降らせている。







「私が死んだら、君は悲しむ?」

───欠けた夢を見ていた。
自分ではない誰かが見た、それは泡沫の夢だった。

「もしそうなってもさ。できれば、さ。笑ってほしいんだよね」
『───』

答える言葉を、彼は持たなかった。その視点を介して見る、自分も、また。

「だめ、かな?」

そう言って、彼女は弱気な笑みを浮かべた。
雪の降り積もる、真っ白な夜の夢だった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


691 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:09:21 oCFVLha.0





柊は覚えている。
いつか空戦の訓練をしていた時、師であり自分たちのリーダーであった竜胆という男の言った言葉を。
勝負を決める「速さ」の話だ。古の武術の知識だった。

まず一刻を八十四に分割する。
そのうちの一つを、分と呼ぶ。これは人間の一呼吸分に等しい。
分の八分の一を、秒と呼ぶ。
秒を十に割ったものを絲。
絲を十に割ったものを忽。
忽を十に割ったものを毫。
そして毫の十分の一の速度を、雲耀と呼ぶ。雷光を意味する言葉。勝負は全て、その雲耀の領域で決まる。神経を研ぎ澄ませ、全ての機を見逃すな。

柊はその言葉を覚えている。そして、この場を制するにはまさしくその言葉を実践しなければならないと悟っていた。
雲耀に至れ、全てを見落とすな。
全神経を集中させて、ゆっくりじっくり手元を操作し、そー…っと、そー…っと。そーーーーーーーー……っと。

……ぼとん。

「うびゃあーーーーーーーーーーーー!!! 落っこちたーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

UFOキャッチャーの筐体に向かって本気で悔しがってる少女の姿が、そこにはあった。
「信じられない」みたいな目をして、ぱんぱんと小さく両手で台を叩きながら、お行儀悪く「うっそでしょ」とかほざいている。

日本人らしからぬ風貌をした少女だった。腰まで伸ばされた長髪は、一分の不純物も見られない真っ白なものだ。所謂染料や脱色による人工的なそれではなく、ごく自然にそうなったであろう、嘘臭さと粗雑さのない純白の髪。新雪の野を思わせるかのような。
冗談のように佳麗な白髪にそぐうように、その顔立ちもまた麗姿と呼べるものであった。高く整った鼻梁、およそ沁みとは無縁な白磁の肌、山吹色の瞳はぱっちりとした可愛らしい眼窩の形に縁どられ、今は何かを訴えるような上目遣いを見せている。
未だあどけなさを残しながら、あと数年もすれば誰もが振り返るであろう美貌を湛える少女ではあった。
しかし、今はその全てが台無しだった。
彼女は冬用のブレザーの上に白のダッフルコートとマフラーをかけた、つまりは学校帰りの服装をしていて。まあ要するに、明らかに高校生以上の外見をしているのである。
ゲーセンでガチ(意味深)になるには、少々いい年をしていると言わざるを得ない。

「これ絶対なんかおかしいって! だって私、アームの圧力も重量との摩擦比も全部mg単位まで完璧に計測したし、ボタンの操作タイミングだってちゃんと思考加速したから合ってるはずなのにぃ!」
「何やってんだお前……」

少女の後ろから、連れ合いと思しき同年代の少年の声が一つ。
困惑というか、呆れというか、ともかくそんな感情を滲ませて。

「いや本当に何やってんだよお前」
「2回も言わないでぇ」


692 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:09:58 oCFVLha.0

しおしお……という擬音でも聞こえてきそうな情けない顔で振り返りながら、少女はへなった声で返す。

彼らがいるのは最寄りの駅の近くのゲームセンターで、時刻は午後の5時頃。つまりはパッと見の印象通り、学校帰りの寄り道であった。
寄ったことに特に深い理由はなく、というか遊びに出るのに明確な理由なんて必要ないだろう。少女の側が「あ、ねえねえあれ何?」と聞いてきたもので、素直に答えたところ、じゃあ寄ろうか、ということになったのである。
曰く、「娯楽施設なんて見たことないから」とのこと。
その辺については、深くは聞かなかった。

「……むー。じゃあ今度はフェイカーの番ね」
「俺?」
「そ。私ばっかやるのもなんだし、お手本も見せてほしいしね」

お金は私が出してあげるからー、と背中を押され、あれよと言う間に筐体の前へ。

「……まあ、久々にやってみるか」

仕方あるまい。かつて司狼と一緒に近隣のゲーセンを荒らしまくり、どっかのバカ集団と抗争になり、散々のバカ騒ぎの末、最終的には香純に二人まとめて頭ぶん殴られたその実力を見せる時が来たようだ。

「いいか、こういうのにはコツってのがあるんだよ。計算とかそういうこと言ってるうちはスタートラインにも立てないってわけだ。見てろ、これが本物の……」

と、調子よく語りながら操作したアームは、思い切り景品へ向かい、
掠りもしなかった。

……少女が爆笑と共に、背中をバンバンと叩いてきた。






693 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:10:39 oCFVLha.0



「えへへー、もうけもうけ」

その後30分くらいして、二人の姿は外の雪降る路地にあった。
あの後も柊はああでもないこうでもないとゲーム台と格闘し、都合800円ほどを消費してようやくお目当てのもとを手に入れることに成功した。カエルをモチーフにしたキャラクターのストラップだった。正直趣味が分からない。

「……それ、向こうのコンビニで300円で売ってたぞ」
「いいんですー。こういうのは金額じゃなくて、思い入れとか思い出とか、とにかくそういうのが重要なんだから」

むふふー、と少女はストラップを胸に抱いて上機嫌だった。マフラーが揺れて猫の尾のようである。
思えば、彼女は最初からこうだった。
好奇心旺盛、と言えば聞こえは良いが。見るもの触れるもの何にでも興味を示し、目を輝かせて「あれなにあれなに!?」と逐一問うてくるのだから堪らない。
家の中やご近所だけでもそうなのだから、初めて都心部に出た時は凄かった。文字通りに目を丸くして、言葉を失っていたことを覚えている。彼女はただでさえ顔が小さくて目が大きいのだから、そうしていると本当に目が真ん丸だった。そこは見ていて面白かった。


『お前、いったい何時の時代の人間なんだよ』
『えーっと、確か昭和101年だったかな』
『……西暦で』
『せいれき?』
『いや、うん。OK、大体分かった』

まあつまり、そういうことなのだろう。
自分にとってこの東京の風景は、十数年の時が経っているとはいえ割とありふれたものではあるのだが。彼女にとっては、文字通り世界が違っていたのだ。

『あ、それとね。ひとつだけ訂正』

そしてもうひとつ、印象に残った言葉があった。

『私、人間じゃないんだよね』

その時の困ったような笑顔が、何故か、強く心に残っていた。


「どしたのフェイカー、難しい顔してるよ?」

ひょこっ、と柊が前に回る。
長い髪が動きに合わせて残像のように揺れた。色素の薄い彼女の髪は、街灯の明かりを受けてはほんのり銀色に光って見えた。

「……別に」

お前と会った時のことを思い出していた、とは気恥ずかしいので言わない。
柊は例の山吹色の瞳で、フェイカーと呼ばれた少年の青い瞳を覗き込む。彼は目を逸らす。視界を塞がれて甚だ迷惑です、と顔面を使って表現する。


694 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:11:31 oCFVLha.0

「んむー、またその顔だよー。そういうの良くないと思うな、笑顔笑顔!」
「やめんか」

顔をほぐそうと柊の手が伸びて、それをしゅっと払う。

「おっ、やるねー。じゃあもうちょっと早くいくよっ」

しゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅ。

「寄るな動きが気持ち悪い!」
「あべしっ」

手と手の攻防、ボクシングのスパーのようなやり取りは、脳天にチョップを食らった柊という幕切れで終わった。

そんなこんなで、二人は夜の公園にいた。
帰り道の途中にある小さな公園で、今は雪が積もって人の気配もなかった。色とりどりの遊具はブランコの鎖に至るまで白い雪化粧に覆われて、街灯の小さな明かりだけが、暗い夜道と木々を照らしている。
フェイカーは木陰に立ち、柊は木柵フェンスの上に座って足をプラプラさせている。何が楽しいのか、相も変わらずニコニコと笑っていた。

話を切り出したのは、フェイカーだった。

「……お前さ」
「うん?」
「よく飽きないっていうか、いつも笑ってるよな」

出会ってから今まで、彼女はずっとそうだった。
街の景色に笑い、人との会話に笑い、未体験の食事に笑った。みんなが大好きでみんなが楽しい、あたかもそう言うかのように、彼女はいつも笑っている。
柊は、んー、と指を唇に当て、少しだけ考えて。

「まあ、実際に楽しいしね。それにさ。
 今の私は、笑うしかできないから」

えへへ、とやはり笑って、柊は答える。

「フェイカーが何を言いたいか、流石に分かるよ。聖杯戦争が始まってるのに、お前何したいんだ、ってことでしょ」
「……まあ、それもある」
「ふふーん、私だってあーぱーじゃないんだもん。ちょっとは考えてるよ」

得意げに胸を張るように、彼女は言う。

「うーん、そだねぇ。話は変わるけど、フェイカーって夢とかある?」
「何だよ藪から棒に」
「いいからいいから! ほら、お姉さんに言ってごらんなさい」

何がお姉さんだ。まあ、こっちは享年17だから、肉体年齢では下かもしれないが。
フェイカーは暫し、押し黙る。柊の明るく気安い振る舞いとは裏腹に、込められた感情が切実なものであると気づいていた。だから、この質問には真摯に答える必要があると、そう思った。


695 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:12:09 oCFVLha.0

「……正直、今の俺に叶えるべき願いはないよ」
「そういう大げさなものじゃなくてさ、もっと個人的なものだよ」
「そう、だな。それなら……」

彼は顔を上げ、言う。

「俺は、俺の日常に終わってほしくなかった」

フェイカーと呼ばれた少年───藤井蓮に、元より大仰な願いなど存在しない。
時間が止まればいいと思っていた。今が永遠に続けばいいと思っていた。この日常に終わってほしくない。
いつか終わると、分かっていても。

彼はただ、それだけを望んでいた。誰もが当たり前に有する日常という普遍。ありふれた日々の情景を、ただあるがままに続いてほしいという、ささやかな願い。
結果として、それは永遠に叶うことはなかった。

非日常の殺し合いに巻き込まれ、何より大切だった友人たちを失った。街も学校も破壊し尽くされ、挙句の果てには世界の命運だなんだと分不相応な戦いの趨勢の矢面に立たされて。
最終的に、宇宙は全く新たな形に書き換えられた。
それは自分とて納得済みの結末だった。後を託した彼女は、全ての命を慈しむことができる、誰よりも神となるに相応しい女性だった。自分や、殺すことしか能のない黄金、我執に呑まれた水銀とは比べ物にならない、優しい神様だ。
だから藤井蓮は彼女に全てを託し、心穏やかに新世界を迎えた。輪廻転生の理を有する、誰もが最後には幸せになれる世界。その中で蓮は、神としての力を持たず、黒円卓の因縁など全くない真実ただの凡人として、人生を送るはずだった。
だがそれは逆を言えば、これまでの「藤井蓮」としての個我は死んでしまうということで。
今この自分として出会い、唯一無二として愛した氷室玲愛とも、顔と名前の同じ別人として生きていく他にないということでもあった。

だから、願うとするならば、結局はそれを置いて他にないのだろう。
彼は死者の生を認めず、死者の願いを聞き入れず、それは自分だとて決して例外ではないけれど。

「俺はもう一度、先輩と会ってみたかったんだ」

この身は既に、滅び去った第四神座に焼き付いた朧気な残像でしかないけれど。
本当の彼女は、新たな女神の治世において幸福な只人として生まれ変わっているけれど。
こんなことを願うこと自体が間違っているのだと、他ならぬ自分こそが何よりも理解しているけれど。

仮に、藤井蓮が願うとすれば。
それはやはり、これしかないのだ。


696 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:12:47 oCFVLha.0

「ん……」

柊は、言葉なく耳を傾けていた。
ほんの少しだけ、笑って。これ以上なく真剣に、彼の言葉に向き合っていた。

「やっぱり君は優しいね。私の見込んだ通りだ」
「今の何を聞いてそう思うんだよ。お前こそ……」

蓮は顔を背け、続きを言わなかった。
本当に優しいのは、お前のほうだろう。
それは言うまでもないことであったし、多分、彼女が望むものでもないのだろう。

「私にもね、夢があるんだ」

言葉の通り、夢見るように、柊が言う。

「私のいた時代は戦争真っただ中でね。特に私のいた八洲はちっちゃくて、人も物資もなかったからジリ貧ってレベルじゃなかったんだ。
 ぶっちゃけ戦争相手に勝てる要素なんて何一つとしてなかったよ。実際負けちゃったしね。それでも八洲が曲りなりにも戦争を続けてられたのは、私達がいたからなんだ」

鬼虫。八洲国軍が作り上げた、必殺にして絶対の国防超兵器。それは昆虫を模した鋼の機体と、それを統制する人型の主脳という二つの要素で構成されていた。
少女───無明の柊は、鬼虫八番式〈蜉蝣〉の適格者に選ばれた存在であった。

「鬼虫は強かったからさ、そりゃ私達は連戦連勝でブイブイ言わせてたよ。軍神様とか生き神様とか言われてさ、よせばいいのに有難がられたりして。
 でも戦術レベルで勝ちを繰り返しても、戦略レベルの勝敗をひっくり返すことはできなかったんだ。私達は一人、また一人っていなくなってった」

弐番式〈蜘蛛〉・羅刹の巴は、敵の主要基地に突入を仕掛けたまま帰ってこなかった。
参番式〈蟷螂〉・夜叉の剣菱は、幾千の敵に単身切り込み、その全てを道連れに斃れた。
四番式〈蜈蚣〉・弩将の井筒は、傷ついた無数の歩兵の盾となり、立ったまま逝った。
伍番式〈蛾〉・奔王の万字は、敵のこれ以上の侵攻を防ぐため、自爆して散った。
六番式〈蟋蟀〉・鉤行の庵は、敵拠点の中枢を捨て身で撃ち、爆発と運命を共にした。
七番式〈蟻〉・霖鬼の楓は、三百時間以上に及ぶ超高速演算をやり遂げ、祈るように機能を停止した。
そして、八番式〈蜉蝣〉・無明の柊は。
この、いつも笑ってばかりいる不器用な少女は。

「敵の新型兵器で、凄い爆弾があってね。核分裂がどうこうって、難しくよく分かんないけど。それがいくつもポンポン投げ込まれたの。
 そん時は残ってた鬼虫も他の戦場に釘付けになってたからさ。間に合うのは私だけだったんだよね」

後はもう、語るに及ばずというものだ。
柊はその身に秘めた力と共に、熱核爆弾の火を押し留めて逝った。
そのことに後悔はないと、彼女は言う。自分だけではない、彼らは彼ら自身の意思で、その死を選択したのだ。
それは誇るべきことだ。悲しみこそすれ、憐れむべきことではない。柊もまた、覚悟と決意の上で選択したことだった。
だが、それでも。


697 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:13:30 oCFVLha.0

「私はさ。月並みだけど、みんなに笑ってほしくて戦ってたんだ。
 市民の人たちも、兵士のみんなも。そして……同じ鬼虫のみんなにも。
 みんな笑って、平和に暮らせたらなって。そう思ってたんだ」

それは兵士が戦場に臨むにあたって、そう珍しくもない理由だろう。
誰もが大切なものを持ち、誰もがそれを守りたいと願う。それは例えば家族であったり、友人や恋人であったり、財産や地位であったり、ちっぽけなプライドであったり、あるいは譲れぬ願いであったりする。
柊の場合は、それがほんのちょっとだけ優しかっただけだ。

「だから、願いの半分は叶ってるんだよね。
 ここは八洲じゃなくて、日本っていう別の国だけど。大きな戦争があって、負けちゃって、たくさんの人が死んで……それでもみんな頑張って、きっと大丈夫だよって支え合って、もうこんなことしちゃ駄目だなって反省して、今の姿がある。
 それってさ、すごいと思わない? 八洲もきっと、いつか立派に復興してみんな幸せに暮らせるんじゃないかって、そう思えるんだ」

柊の好奇心は、生来のものも当然あったけれど。
それ以上に、そうした燻る思いが故のものでもあったのだろう。
敗戦を経験して一度は荒廃した国土。それが活力を取り戻し、多くの人の流れを生んだ。そうした人々の営みを、柊はずっと目に焼き付けていたのだ。
もう帰ることはできない、故郷の代わりに。

「……それは、自分で見ろよ。こうして生きてるんだ、なら時間も機会もたくさんあるだろ」
「もー、意地悪なこと言うなフェイカーは。
 ……そうしたいのは、やまやまなんだけどさ」

柊は、やはり困ったように笑って。

「気付いてるでしょ。私、もう寿命とかそういうの、ほとんど残ってないんだよ」
「……」
「だからね、此処が私の最期なんだよ」

機械という存在の「死」は、その境界が曖昧になりがちである。
特に鬼虫というものは、機能停止からの再起動は手段さえ整えば絶対不可能なことではない。それはただ一人生き残った九曜から聞いた経緯からも、明らかなことではあった。
蘇生不可能な状況、完全な死と定義づけられるのは、おおまかに二つ。
一つは、深刻な欠損やパーツの不足といった物理的質量の喪失。
そしてもう一つが、不可逆的な「変化」があること。
柊の場合は、後者が該当した。
彼女自身の特攻術の暴走。かつて迎えた「永遠の停止」という末路は、もう二度と目覚めることのない眠りであった。

「稼働限界っていうのもあったんだろうね。正直これはどうにもできないなぁ。
 だから、ごめんね。私、君に聖杯をあげることはできそうにないや。君の夢、叶えてあげられない」
「そんなことはどうでもいい」
「ははっ、言ってくれるなぁ……うん、ありがとね」

それきり、二人は言葉を失くした。場に沈黙が下りた。小さな雪の結晶だけが、ひらひらと落ちるのみであった。


698 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:14:04 oCFVLha.0

「……怖くはないのかよ」

ぼそりと、蓮が言った。

「怖いよ」

柊が答えた。

「最初の時はね、震えるほど怖かった。本当に怖くて、死ぬのが嫌で、色々わけわかんなくなって、必死だった。けど、今はそうでもないんだな」

それは、己に残された時間を指折り数えるように。柊は丁寧に、言葉の一つ一つを蓮に伝える。

「だって私が止まった後も、世界はちゃんと続いてたんだもん。それがはっきりわかったからさ。
 私が止まっても、世界は知らん顔して当たり前に続いて、ちゃんと生きてる人がいて、時間は流れていくって分かったから。そしたらさ、何も怖くなくなっちゃった」

礎となること。
為すべきことを為し、戦うべき時に戦い、守るべきものを守り、託すべきものを託した。
運命を受け入れ、心配ないよと笑うことができた。後に続く時代の流れを信じ、残された者に全てを託した。
それに何より。
最期に、九曜に会うことができたから。

「だから、私にはもう、心残りって奴がないんだな」
「……」
「あ、でも心配しないで? 今すぐ止まるわけじゃないし、この聖杯戦争くらいなら平気だと思うから。
 私はね、最後まで生きるよ。だから私は大丈夫。君に迷惑かけちゃうのは、悪いなーって思うけど」

柊は満面の笑みを浮かべて。

「だからさ、そんな顔しないで。ほら、笑って。ね?」

……その言葉に、自分は何を返したらよかったのだろう。

何も言えないまま。笑うこともできないまま。藤井蓮は、少女と向かい合っていた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


699 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:14:42 oCFVLha.0





───欠けた夢を見る。

それは意識の共有であり、起きながらに見る夢であった。
垣間見えるは過去、そして想い。それらを内包する生そのもの。

その意識の奔流の中で、藤井蓮は欠けてしまった夢を見る。

───任務、飛行、鬼虫、戦争、
あと三機、自分だけが、───傷、高高度、暴風、───
遥か遠くの地平線と水平線、視界の果てで混ざる色、空気の臭い、大気を切り裂く笛に似た音、差し込む陽、確かあの日は晴天で、眼下に広がる灰色の街、地面、空、影に差す何か、間に合、彼方に飛び去る黒い鳥、───無音、───遠く、───全て、
───怖、

爆発。

『「止めなきゃ」』

「止、めな、」

意識に連なる声が、実像を結んだ。

「めなきゃ、止め、止めなきゃ、私が止めなきゃ、あれを、あれを私が、私が私が私が!」

喉を枯らす絶叫が続く。
それは爆発を止めた最後の時、彼女自身すら胸中の深くに封じ込めた心からの本音だった。
やがて彼女の意識は叫ぶのをやめた。涸れた喉から掠れた吐息が何度も漏れ出る。しばしの沈黙が続き、そのうち、喉の奥から搾り出る細い泣き声が聞こえた。

柊が泣いている。
子供のように、しゃくりあげて泣いている。

「こわいよぉ」

涙交じりの震えた声は、勇気も使命感も諦観も納得も何もかも取り払った、心からの本音。

「しにたくないよぉ」

夢で見た、最後の姿を覚えている。
彼女はその時でさえ、泣きそうな声で笑っていた。
これはあの時に封じ込めた柊の、心の声なのだろう。幾つもの戦場を駆け抜けた最強の鬼虫、その八番式として前線の在り続けた一人の兵士。初めて出会った時からずっと明るく、違和感を覚えるほどにいつも微笑み続けていた彼女。その笑顔こそ、彼女の強靭な精神力がなせる業だったことを、今更になって蓮は知った。
無明の柊は二十年もの間、爆炎と共に身を焦がす恐怖と、絶対零度の死の実感に囚われ続けていた。

俺は、その声を聞いて───


700 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:15:10 oCFVLha.0

「―――莫迦が」

吐き捨てて自己嫌悪する。それは、決して願っていいことではなかった。
彼女の決意を踏み躙り、我欲で以て蹂躙するに等しい蛮行であった。
それでも、願わずにはいられない。
分かっている。これが酷く愚かしい思いであることなど。
運命を覆してみんな助けて、ご都合主義のハッピーエンドを迎える。
そんな都合のいい選択肢があり、俺にそれを選べるだけの力があったなら、そもそもこんな面倒事にはなっていない。
ここに来るまで、何十人何百人も死なせていない。
でも、だからこそと思う気持ちも真実で。
迫る刻限。尽きる命運。遠からぬ内に分かたれる生と死、明暗。

俺は。
俺の選択は……


「――――」


諦めない。
そうだ、今までどれだけ零してきたと思ってる。
どれだけ誤りどれだけ後悔してきたと思ってる。
甘いと言われようがなんだろうが、俺はもうこれから先、納得のいかない結末なんて何一つ認めない。

『だからね、此処が私の最期なんだよ』

心の中で反芻されるその言葉。笑いながら告げられた、それを。

「……なあ、知ってるかよバカ女」

こんなところを、お前の最期にだなんて、させてたまるか。

「主人公って奴は、いつだって無敵なんだよ」

俺にはもう、叶えるべき夢はないけれど。
せめて、お前の見る夢だけは守りたいと、そう思うんだ。


701 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:15:45 oCFVLha.0



【クラス】
フェイカー

【真名】
藤井蓮@Dies Irae

【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運A+(E) 宝具A++

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
単独行動:C
マスター不在でも行動できる能力。

水銀汚染:-
藤井蓮はその生まれから自分は自分でなかった。
神に魂を玩弄され、真実の己を見失い、出生を呪われ、運命を縛られ、未来を簒奪された。彼の人生は彼自身のものではなく、神の敷いた筋書きによって予め決定されたものだった。
───その呪縛を、彼は乗り越えた。真なる覇道と共に己の真実を掴み取った彼は、束の間とはいえ親たる水銀の蛇の思惑を超越した。

彼がフェイカーのクラスで呼ばれる羽目になった最たるスキル。現在の彼は水銀の蛇による汚染を払拭しているが、サーヴァントの霊基としてはその以前の状態で呼ばれているためなんか付いてきた。本人としては結構不服。

【保有スキル】
エイヴィヒカイト:A++
極限域の想念を内包した魔術礼装「聖遺物」を行使するための魔術体系。ランクAならば創造位階、自らの渇望に沿った異界で世界を塗り潰すことが可能となっている。
その本質は他者の魂を取り込み、その分だけ自身の霊的位階を向上させるというもの。千人食らえば千人分の力を得られる、文字通りの一騎当千。
また彼らは他人の魂を吸収し、これを自己の内燃エネルギーとして蓄えられると言う都合上、魔力の燃費が極めて良い英霊にカテゴライズされていて、
具体的には、余程ノープランな運用をしていない限りは、魔力切れのリスクがかなり低いと言う事。
肉体に宿す霊的質量の爆発的な増大により、筋力・耐久・敏捷といった身体スペックに補正がかかる。特に防御面において顕著であり、物理・魔術を問わず低ランクの攻撃ならば身一つで完全に無効化してしまうほど。
人間の魂を扱う魔術体系であり殺人に特化されているため、人属性の英霊に対して有利な補正を得るが、逆に完全な人外に対してはその効力が薄まる。
フェイカーのものは『座』から直接流入する力を利用したもの、というよりかつて覇道神として流出に至った己自身の力をスケールダウンさせた代物であるため、通常の創造位階よりもランクが向上している。


702 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:16:23 oCFVLha.0

覇道の魂:EX
かつて神域に至ったフェイカーの渇望(精神)そのもの。
サーヴァントとして現界するにあたりその霊基は創造位階の時点で固定され、彼には神格・永遠の刹那として揮った権能は存在しない。
しかし彼が流出に至ったという事実、そしてその領域に達するに足る精神を持つことだけは、サーヴァント化による力の矮化では消すことができない。
霊基上限による力の制限とは全く別の話として、彼の精神は今も流出に至った時と強度を同じくしている。
フェイカーに対して精神的・概念的に干渉し影響を与えるには、最低でも「単一宇宙を超える規模」でなければならない。
如何に強力な精神操作であろうともそれが対人のものならば意味はなく、広域に作用するとしてもその範囲が宇宙以下であるならば原則として無効化される。
これは何某かの特殊な術式等によるものではなく、単純に「フェイカーの持つ魂と精神の質量が宇宙以上である」ことから発生する物理的現象でしかない。
一見してド外れた、無敵のようにも聞こえるスキルだが、これはあくまで精神・概念干渉に対してのみ働くもの。
殴る蹴るといった物理的干渉、直接的に肉体を害するタイプの魔術や呪術に対しては、このスキルは一切機能しない。

在りし日の黄昏:EX
黄昏の女神の恩寵。
いつの時代、何処の世界線であろうとも施される太母の愛。全ての命を慈しむ女神の抱擁。
彼女と袂を分かった彼には、かつて存在した女神の魂はもう宿っていない。しかし彼を包む女神の愛は加護という形で彼の霊基に現れ、一つのスキルにまで昇華された。
フェイカーが形成するギロチンによる攻撃に、超高ランクの洗礼詠唱に匹敵する浄化能力を付与する。彼女は触れるもの全てを斬首する罰当たり子ではなく輪廻転生の主として目覚めているため、かつてのような接触即死の力は失われており、首を攻撃した際のダメージボーナス程度に落ち着いている。
余談だが、フェイカーの幸運ランクの高さはこのスキルに由来する(本来のランクはE)。

【宝具】
『罪姫・正義の柱(マルグリット・ボワ・ジュスティス)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
形成位階・人器融合型。
18世紀フランス革命時に使用された処刑用のギロチンを素体としており、聖遺物の形成に伴って右腕を覆う巨大な一振りの刃となる。
マリィの魂を有していないため、「斬首した対象を必ず殺す」不死殺しの力は失われているが、上記スキルにより首に当てた際にダメージボーナスが発生する。
また、マリィがいないとはいえ術者であるフェイカー自身の渇望深度により非常に頑強。「斬る」「人を殺す」という性質に極端に振り切れた概念礼装であるため、対人の近接武装として非常に剣呑な威力を誇る。


703 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:16:53 oCFVLha.0

『超越する人の理(ツァラトゥストラ・ユーヴァーメンシュ)』
ランク:EX 種別:対神秘宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
■■位階・特殊発現型。
自律活動する聖遺物。フェイカー自身が生きた宝具であり、固有の権能を宿している。
その本質は「聖遺物を操る聖遺物」であり、彼が手にした聖遺物・概念武装・宝具に至るまで、その性質はそのままに十全に扱うことが可能となっている。
同様の宝具である「騎士は徒手にて死なず」と比較した場合、支配権の上書きによる性質変化や非宝具の低ランク宝具化といった事象は起こせないが、代わりに精密操作の面で遥かに優れており、例え固有の所有者にしか扱えない代物であろうとも万全の性能を発揮し、真名解放まで行使することが叶う。
それでも弱点は存在しており、聖約・運命の神槍や約束された勝利の剣など、「その世界観における最上の神秘」に関しては使用に際するキャパシティが足りず、無理やり扱うことはできないという点がある。
ただし、それさえ所有者や宝具自身の承認さえあればその限りではない。

『美麗刹那・序曲(アインファウスト・オーベルテューレ)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
創造位階・求道型。
元となった渇望は「大切な時を無限に味わいたい」。
能力は時の体感時間を遅らせることによる自己の時間加速。純粋に速度に特化した能力であり、運動エネルギーの増大による推進力の獲得ではなく時間ごとの加速であるため、知覚能力も同様に加速されている(主観的には自分が速くなったのではなく周囲が遅くなったように感じる)。
求道創造という自己の体内に形成される異界法則であるため、他者に一切影響を与えることができない代わり、自分の法則を破られる可能性もまた低い。
加速率は魔力残量の他、当人の精神状態にも左右される。魔力供給さえ間に合えば理論上限界点が存在しないということだが、逆に言えば潤沢な魔力があれど心折れては十全な加速はできないことの裏返しでもある。

『涅槃寂静・終曲(アインファウスト・フィナーレ)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000
創造位階・覇道型。
元となった渇望は「大切な時を失わせず堰き止めたい」。
能力は上記時間加速を発動させると同時、周囲には同等の時間停滞を押し付けるというもの。百倍に加速すれば百分の一の停滞を押し付け、相対的に万倍の加速を得るという、時の縛鎖。
更にフェイカー自身の肉体と霊基も変化を起こし、聖遺物たる罪姫・正義の柱と一体化。幸運以外の全ステータスがA+〜A++に修正され、全身は赤黒く変化し、背中からは形成時のギロチンが十数本も翼のように生え、凶眼からは血涙を迸らせる。
この状態のフェイカーは一挙手一投足の全てが聖遺物による攻撃に等しく、視線や呼吸に至るまで概念的な魂破壊の圧が付与される。単なる絶叫のみで周囲一帯を砕き、疾走した軌跡は空間が捻じれ砕けてしまうほど。
覇道創造においてはラインハルトの城に並ぶ究極形とされ、効果範囲は視認可能な全域。一見すると暴走状態にも見えるが、むしろ聖遺物の力を完全にコントロールした状態である。
欠点は甚大過ぎる魔力の消費。


704 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:17:21 oCFVLha.0

【weapon】
罪姫・正義の柱

【人物背景】
陽だまりに帰れなかった、誰より足の速い男。

玲愛ルート三つ巴決戦の後より参戦。

【サーヴァントとしての願い】
死人に願いなんざ聞くなよ気持ち悪い。



【マスター】
無明の柊(幸村陽緒)@エスケヱプ・スピヰド

【マスターとしての願い】
いきたい

【能力・技能】
鬼虫:
後天的なサイボーグ。人間を超越した身体能力と知覚領域、物体や熱源の感知センサー、ステルス能力、対毒分解、高速演算、高度電子戦能力など、サイボーグと聞いて連想する機能は大体ついてる(適当)。

凍結結界〈ゼロ〉:
柊が有する特殊攻撃術。冷気を操る力であり、射程範囲は本体のみでも数十〜百m程度。
より厳密に言うならば、この能力の本質は運動の停止。空間そのものに働きかける力であり、広域に作用する絶対的な法則である。
柊は平時において、それを分かりやすく「大気に働きかけ」「冷気として操っていた」に過ぎない。それでさえ瞬間的に絶対零度にすることなど造作もない。
9種の特殊攻撃術の中でも特に超常の域に達した能力であり、半ば科学の分野から外れた特質を持つ。その行き着く先は時の停止とも。
それでも科学技術の産物であるためサーヴァントを殺傷することはできないが、空間そのものに働きかけるためサーヴァントの動きを固定して足止めすることは可能。
全てが止まり、存在しない無明の世界。固有法則に支配された領域の作成こそが、彼女の真骨頂である。


蜉蝣は置いてきた。マスター枠であんなん持ってこれるわけないだろ(正論)


705 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:17:52 oCFVLha.0

【人物背景】
「そんな顔しないで。ほら、笑って?」

冬の陽だまり。歩くのが遅い女。
原作6巻終了後から参戦。

【方針】
使命は果たした。想いも告げた。心残りは何一つとしてない。
それでも。
それでも私は、最後まで生きていたい。

【人間関係】
柊→蓮:
良い人だよ、素直じゃないけど。自分の我儘と寄り道に付き合わせちゃってることについては、割と申し訳ない。

蓮→柊:
バカ、危なっかしい奴。見た目は先輩だけど中身はバカスミ。勝手に命を諦めてんじゃねえよ絶対生かして帰すからなテメー。

柊→九曜:
初恋。やっと追いつけた背中。自分の行動に後悔は一つもないが、最期に酷いものを押し付けてしまったことについては、ちょっぴり胸が痛む。

九曜→柊:
大切な戦友。小生は結局、君に何もしてやれなかったな……

九曜→蓮:
叶葉と同じ市井の出から英霊へと昇華されたこと、心より敬服する。心苦しくも力添えは出来ぬが、せめて英霊の座よりその武運を祈らせてほしい。

熊本先輩→蓮:
時と世界を超えてもこんなに私のことを想ってくれるなんて、藤井君の妻として私も鼻が高いよ…

熊本先輩→柊:
こいつ私とキャラ被ってない?

香純→柊:
☆(ゝω・)v

柊→香純:
(っ>ω<c)

黄金→蓮:
宿命の相手にして最大の好敵手。機会があればまた語らいたいものだな。

水銀→柊:
至高なるは礎となって死ぬこと。然り然り、その幼さでよく真理を弁えているものだ。取るに足らぬ価値なき塵芥はせめて新たな地平の大地となればよい。ならば君も幸福であったことだろうな?なにせ君の尊ぶ世界と民草とやらのために死ねたのだ。全くもって愉快愉快、我が息子もこの殊勝さを見習うべきだと愚行するが、如何かね?(CV.鳥海)

蓮→水銀、黄金:
死ね。お前らは英霊の座の記録にすら残さん。


706 : 僕の存在証明 ◆Uo2eFWp9FQ :2022/08/10(水) 22:18:31 oCFVLha.0
投下を終了します


707 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:14:55 vn/W5FF60
2本続けて投下させていただきます


708 : 貴方の声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:16:04 vn/W5FF60


 すべてを終わらせた私に願いなんてない。
 けど本当は、もう一度だけ、貴方の声を聞きたい。
 私の悲しみの終わり、私の憎しみの果てに。
 黒き憎しみの炎の中で、降りしきる苛立たしい五月雨の中で。
 今も私は、貴方の声を夢見ている。


709 : 貴方の声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:17:43 vn/W5FF60



 如何に栄えた都市であろうと、光と闇は表裏一体。
 発展と治安は必ずしも比例せず、東京という都市にも一般的に近寄ることを推奨されないエリアは多数存在する。
 そんな治安の良くないエリアの付近では、ある一つの噂話だった。

『凄腕の占い師がいるらしい』

『コールドリーディングってやつ? 少し話をしただけでこっちの言いたいことをズバズバ当ててくるの』

『すごい陰鬱そうな女の子がえらく辛辣な物言いをしてくるんだけど、これがまあぐうの音も出ない正論で』

『ムカついて喧嘩売ったやつがいたけど、不思議な力で廃人にされかけたとか何とか』

 不思議な和装をした怪しげな少女が、裏通りの奥地で決まった曜日に占い店を出している、という話だ。
 店と言っても、路地の脇に簡易テントを張りテーブルを出して座っているだけらしいのだが。
 噂話をしているのは主に所謂不良、中には半グレや暴走族に片足突っ込んでいるようなものもいる。
 そういった場所に出入りすることに躊躇いのない層から聞こえる話だ。

 さしたる広がりではなく、未だごく少数のみが認知している噂話。
 一般の人にとっては真偽も定かではないものではあるが……それは、概ね真実であった。





 雨の降る薄暗い裏通り、汚れたアスファルトと排気が雨と混ざり合う中に、その店はあった。
 雨避けの簡素な組み立て屋根の下に、特にそれといった道具も並んでいないテーブルがある。
 そしてその奥に座っている、錫杖を携えたまるで疲れ切った老人のような白髪の女がいた。
 絶望に彩られた瞳に反し、それは未だ齢20も超えた様子のない少女だった。
 横髪の一部に朱色の名残が根ざしているのは、彼女の白髪が生来のものではないことを示している。
 極限下のストレス負荷により、本来の色を失った故の白色だった。
 大雨の裏路地を通る人は少なく、時折傘を差した会社員が不思議そうに少女を見て、通り過ぎていくばかり。
 占い師の少女はぼんやりと、雨を降らせてくる暗き曇天を仰ぎ眺めている。

「こんな雨の日くらい、店を出さなくても良いでしょうに」

 それは、占い師の少女の言葉ではなかった。
 少女の隣、もう一つ用意されていた空き席に、突然現れたサーヴァントのものだ。
 占い師の少女より更に幼い、美しい銀髪をたなびかせた黒いドレスの少女だった。
 しかしその口調に幼さはまるでなく、老獪で妖艶な女性のそれだった。

「晴れていようが雨だろうが関係ありませんよ。占い屋は毎週決まった曜日に出しているので」

「こんな薄汚い環境につきあわされる私の身にもなって欲しいのだけれど。帰っていいかしら?」

「すいませんね、なんだか二人いないとしっくりこないもので。昔の相方は、ここにはいませんから」

「生きていた頃ではないのだから、あえて劣悪な環境に身を置くこともないんじゃなくって?」

「美しかった頃に回帰できるほど、綺麗ではないでしょう? 貴方も、私も」

「別に好きで泥を啜っているわけではないでしょう?」

「別に泥が好きなわけではありませんが。私は、こちらのほうが落ち着くので」

「難儀なマスターに当ってしまったものだわ」

「貴方も十分難儀なサーヴァントですよ、キャスター」

 二人で屋根の下、雨の音を聞く。
 忙しない環境音、やかましい静けさの中で。
 この世界に招かれてから、サーヴァントを召喚してから、かつてのように占い屋を出すようになってからもうしばらくたつ。
 各地では既に戦いが始まり、脱落したサーヴァントも死亡したマスターもいることだろう。
 しかし占い師の少女は、変わらない。
 誰と戦うでもなく、こうして目立たない場所で、しかし必ずしも見つからないとはいえない場所で、占い屋を営んでいる。
 その事に対しサーヴァントの少女もまた劣悪な環境に対する形式上の文句を言うだけで、異論を挟む様子はなかった。

 二人の少女は、見る人が見ればまさに恐ろしい怪物そのものだった。
 人外の力を内包し、世界を滅ぼしうる術式を手にし、他者を殺すことへの躊躇もない。
 双方ともに混沌・悪のアライメントを持つ、生前は数え切れぬ程の人々を殺戮した悪魔のような少女だ。
 しかし、少女たちはただ空を見上げる。
 嘗て燃え盛っていた炎は胸の内の種火となり、再び燃え上がらせる理由がなかった。
 全ては、終わったことだった。


710 : 貴方の声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:18:40 vn/W5FF60



 ふと、通りを小学生ほどの男の子が通りがかった。
 ここの治安のことを知らないのだろうか、長靴で水溜りを踏みしめ、カラフルな傘を回している。
 そしてそれは、反対側からやってきたガラの悪い青年とぶつかった。
 倒れ込む男の子と、にらみつける青年。
 びしょ濡れになり既に泣きそうな男の子は、青年に胸ぐらを掴まれ苦しそうに呻いた。

 よくある、悪しき光景だった。
 たしかに男の子にも非はあるだろうが、青年は軽くぶつかられただけで何ら被害を受けていない。
 ただムカついたから、苛ついたから、特に理由はないがそれっぽい理由をでっち上げて弱いものを虐げる。
 全くもって、いつも通りの世界の光景だ。

「あの」

 突然背後から声をかけられ、青年は振り返った。
 そして、闇のような暗い瞳に見つめられ、後ずさる。
 占い師の少女は傘もささず、雨の中通りに出て青年を見ていた。

「別に水をかけられたわけでもないでしょうに。手を上げるつもりですか」

 そのおどろおどろしい雰囲気に押されかけたが、それが小さな少女であると見るや青年は苛つきのままに暴言を吐いた。
 とっとと消えろ、とか、お前も同じ目に合わせてやろうか、とか、月並みなセリフを聞き流す。

「一過性の苛立ちですら無い。ただ殴りたいから殴る。善悪ですら無い、愚者にもなれない堕落者ですね。
警告します、その手を離して失せなさい、塵屑」

 そして、分かりきっていたことだが青年は拳を振りかざした。
 占い師の少女はため息を吐き、蔑んだ目でそれを見る。

「では――仕方ありませんね」

 そして、瞬間青年は『燃え上がった』。
 全身を真っ赤な炎が覆い、皮膚が焼け付き、肺の中の空気が熱されていく。
 それをただただ、果てしない痛みとしてだけ青年は認識した。
 何が起こってるか分からず、焼けたまま一瞬呆け、そしてようやく痛みを理解する。

「ひっ、火、火、火ィ!? た、たすたす、け、たすけ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!??」

 青年は『燃えたまま』路地を転げ回り、汚い悲鳴を撒き散らしながら奥へと走り去っていく。
 走り去ったところでどうなるというのか、身の程を知らなかった青年はやがて、ある程度走ったところで息絶えるだろう。
 そのように、占い師の少女は調整した。

「貴方、大丈夫ですか」

 そのような恐ろしいことをしでかしたままに、占い師の少女は転んでしまった男の子に手を差し伸べる。
 しかし男の子は、まるで怯える様子を見せずその手を取った。

「すっげー、姉ちゃん! 『何もしてない』のに追っ払っちゃった! あいつ、どうしたの?」

「さあ、どうしたんでしょうね。忘れ物でも思い出したんじゃないでしょうか」

 男の子には、『燃え上がった』青年の姿など見えていなかった。
 ただ突然苦しみだし逃げ出した、そうとしか見えていない。
 青年の体が『燃え上がった』のは青年にとってのみの事実であり、男の子にとっての事実ではない。
 だから、今目の前でどのようなことが起こったのかも、理解していない。

「それよりも。こんな大雨の中でわざと水溜りに足を突っ込んではしゃぐからこのようなことになるのです。
好奇心旺盛なのは結構ですが、貴方は未だ小さくか弱い。必要でない危険は遠ざけることを心がけなさい」

「うっ……けどさあ」

「けど、ではありません。規則正しい生活、人を傷つけない義、正しいことを成す心を育みなさい。
言い訳を続けたまま成長すれば、良き未来は訪れません。先程のろくでもない男のようになりたくはないでしょう。
貴方はまだ幼い、だからこそ間違った成長を選ばないことです」

「姉ちゃんの言うこと、むずかしいよ」

「今は分からずとも、覚えておいてください」

「うーん、分かった!」

 先程何の躊躇いもなく青年に命を奪う幻術を仕掛けておきながら、男の子を見つめる占い師の少女の表情は柔らかいものだった。
 暗い面持ちの中にも、微かに愛らしい少女であった時代が存在したことを感じさせる微笑みだった。
 男の子の手を引き立ち上がらせると、ハンカチで汚れと水を拭いていく。

「いてっ、あー、擦り傷……」

「我慢しなさい、と言いたいところですが」

 痛みに顔をしかめる男の子の手を、軽く握りしめる。
 男の子はまるで明かりを直視したようなちかちかとした何かを感じた。
 なにか温かいものが体を満たしたと思えば、気付けば傷の痛みはさっぱり消えていた。

「痛みをなくす『おまじない』です。帰ったら消毒するように」

「すげー! ありがと、占いの姉ちゃん!」

 男の子は占い師の少女に感謝すると、路地を駆け出そうとし……思い出すように振り返って、静かに歩き出した。
 それを見送ると、占い師の少女は占い屋の席に戻った。


711 : 貴方の声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:19:32 vn/W5FF60



 水浸しのまま座ろうとすると、頭にタオルを被せられる。
 一部始終を眺めていたキャスターが、皮肉げにしていた。

「お優しいことね、マスター」

「そう見えますか、キャスター」

「貴方からすれば厳しいのでしょうけど、私からすれば十分優しいわよ」

「私は、できることをしているだけです。あれが、今の私にできるせいぜいのことですから」

「謙遜もそこまで行くと嫌味ね」

「事実ですが。実際、今の私は貴方の『虚無の魔石』の再現にマスターとして8割の力を常に消費しています。
できることといえばあの程度の幻術と、おまじないくらいのものです」

「別に再現して欲しいと頼んだ覚えはないのだけれどね」

「別に再現したくて再現しているわけではないんですけれどね」

 互いに呆れたように視線を合わせ、溜息を吐く。
 数奇な縁、数奇な共通点、それ故に不完全なれど復活してしまった力。
 このような采配を行う聖杯とやらは全くもって底意地の悪い存在なのだろうと、二人は確信していた。

「サーヴァントとしては力があるに越したことはないわ。そういう意味では有り難い。
けれど、せっかく彼が。『ヴェラード』がその手で砕いてくれた忌々しき不死の根源を、不完全とはいえ再び手にしてしまうとはね」

「男女の惚れた腫れたはよく分かりませんが、まあ、なんかすいません。嫌なら他のマスターを探しに行けばいいかと。
別に貴方であれば、私を殺しても構いませんよ」

「嫌よ。忌々しいけど、貴方以上に気が合うマスターなんてきっといないもの。私も貴方も、どっちも『やる気なんて無い』でしょ?」

「そうですね」

 再び、ぼんやり路地と雨模様を見つめ始める。
 抑揚はなく、意味も特にない、ただなんとなくの共感だけがそこにあるやり取り。
 五月雨には程遠い、真冬の雨模様。
 けれどこんな雨の日はいつだって、元々悪い気分が更に悪くなる。
 まあ、気分が悪いからなんだという話だが。


712 : 貴方の声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:20:00 vn/W5FF60



「ところで、惚れた腫れたの話だけど」

「はあ、まだ何か?」

「よく分かりませんは、それは嘘よねえ?」

「何ですか、嘘なんて言いませんが。恋愛沙汰なんてとんと縁がありませんよ」

 鬱陶しげに占い師の少女が否定すると、キャスターはにんまりと悪どく笑った。

「――『騎士を志望します! 姫、あなたへの愛を誓いましょう!』」

「ぶッ、ごほッ」

 突然放たれたその台詞に、占い師の少女は喉をつまらせた。
 それは、古い古い思い出の言葉。
 少女にとって何よりも大切な、幼馴染との記憶。
 このキャスターには知られているはずのないことだった。

「可愛い子じゃない。死ぬことも恐れず、姫を守る健気な騎士様ね」

「貴方……まさか私に『幻燈結界』を使っていませんよね……?」

「そんな野暮はしないわ。ただ見えてしまうだけよ。私と貴方なら尚更このと。貴方だってそうでしょう? 言いっこなしよ」

「…………」

 マスターとサーヴァントは、ラインで繋がる。
 そしてこの聖杯戦争では聖遺物の触媒は一切用いられず、縁のみが頼りとされる。
 召喚されるサーヴァントは必然何かしらの要素でマスターに近しく、それが善であれ悪であれ、本意であれ不本意であれ、ラインは強固となる。
 そして強固なラインを通じ、無意識の内に互いの存在を把握する、そう、夢という形で。
 そして、この二人は、そう、あまりにも『共通点』が多かった。

「偽りの正義によって故郷を蹂躙された貴方。世界に絶望した私。それを許せなかった貴方。この偽りの世の終わりを願った私。
炎と幻術を得意とする貴方。同志とともに忌々しき信徒共と争った私。死を覚悟し最後の戦いを起こした貴方。そして、終りを迎えた『私達』」

「私は、貴方ほど清々しく死んだわけではありませんがね」

「そんな貴方がマスターであるからこそ、私は通常の霊基すら若干逸脱し、『虚無の魔石』をスキルとしてだけど取り戻してしまった」

 キャスターは己の下腹部を撫でる。
 そこに、その中に、何かがあると言いたげに。

「こんなもの、『不死』なんて、得るものじゃないわ。けれど、これのおかげで私はあの人に、ヴェラードに出会えたの」

「…………」

「貴方はどう? 幼馴染に『不死』を与えてしまったことを、後悔してる?」

「……しているに、決まってるじゃないですか」

 幼かった頃の過ち。
 内乱に巻き込まれ重傷を負い、痛みを訴える親友に一心不乱に施した『おまじない』。
 痛くない、痛くない、痛くない、痛くない、痛くない、ただそれだけを込めたおまじない。
 ただただ無意識で、生きていて欲しいと願った幼い故の無垢で残酷な意思がもたらした、取り返しのつかない『呪い』。
 あの日から、彼女は。そして、それを自分はずっと知らないまま。

「もしあんなことをしなければと思わなかった日なんて、ありませんよ」

「けれど、願わないのでしょう?」

「願いませんよ。私の罪は、私だけのものではないのですから」

「そうね、罪深いことだわ。『良き死』を迎えられないことは。けれどそれを含めて、人生というもの。私の800年も、貴方の可愛い幼馴染の苦悩も、また」

 親友は、いつの間にか姿を消していた。
 何も知らない私に、私のせいであんな体になってしまったことを知られないために。
 そしてあの子は帰ってきて、私を連れ出して、そして。

「愛していた? それとも、憎んでいた?」

「どちらも。きっと、彼女もそうです」

 愛憎はまさに紙一重、愛する故に憎み、憎む故に愛する。
 美しいものを見た(おぞましいものを見た)。
 優しい人達がいた(残酷な人たちがいた)。
 世界はどこまでも広かった(世界はどこまでも間違っていた)。
 何も知らぬ小娘に親友が命を擲ってまでそれを教えてくれたのは、きっと愛情であり、同時に復讐だったのだ。

「そうね。あれほど愛したものはいない。同時に、あれほど憎んだものはいない。
愛する故に期待し、期待する故に裏切られる。けれど……けれど最後には、願いが叶ったわ」

「ええ。最後に聞いた声が愛する人の声である以上のことは、ありません」

 死の際に、彼女らの願いは既にかなっている。
 故に、聖杯に願うことは、ない。
 ここにあるのは嘗て存在した世を乱す残酷な悪魔、その信念の形骸でしかない。
 世界に絶望し、悪を成し、世界に殺された。
 例え未熟だらけの過程に後悔があろうとも、自ら選び取った結末に、後悔はない。


713 : 貴方の声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:21:12 vn/W5FF60



「『不憎』。憎しみが過ぎれば、心が押し潰されてしまう。絶望し、死を希ったこともあります。
けれど、私はその果てに新たな家を、家族を得たのです。こんな私が家族のために戦い、共に死ぬことができた。
その結末の、何を後悔することがあるでしょうか。私はもう『ボタン』ではない。ヴェーダ十戒衆の五番、『フューリー』なのですから。
貴方が『リゼット』ではなく、『リーゼロッテ』であるように」

「大したものね。私は憎まないことなんてできないわ。ただ、ただそれ以上に、ヴェラードが私を終わらせてくれた。
そのことが嬉しい。これ以上のことなんて無いし、これ以下のことなんてどうだっていいくらいにね。
けれど、ならば、これからどうするのかしら? 私のマスターは」

 闇に濡れた4つの瞳。
 この世の絶望という絶望を知り、悪逆を為した2人の稀人。
 しかし今はただ静かに、静かに、雨音の中にいる。
 今は、静けさだけがどこまでも心地よい。例え、五月蝿い雨音の中でも。

「まあ、一度死んだからってまた殺されてやるつもりはないので。私はこの異世界にて再び『正義』を問いしょう。
正しく人を救う信念、組織、社会の在り方を問い続けます。偽りの正義は、破壊されるべきですから」

「殊勝なこと。まあ私は正直どうだっていいけれど、せめてお気に入りの貴方に付き合ってあげましょう。当分は占い屋の相方のようだけど。
ああ、それと、もう1ついいかしら」

「はい、なんでしょう」

 細やかな情動、冗談の掛け合い。
 言葉は曖昧に、心の奥底で通じ合うことは、特別な絆だった。
 フューリーの陰鬱な表情を、リーゼロッテはゆるりと微笑みながら眺めて、言う。

「もし仮に願うとしたら、何を願う?」

「……それは、愚問というものでは?」

「そうねえ、じゃあ一緒に言ってみましょうか」

 それは、決まりきったお約束。
 勝手知ったる言葉遊び、解答欄を覗いた答え。
 それでも、視線と口を合わせたそれは何だか可笑しくて。
 つられて、フューリーも小さく笑みを零した。



「「――もう一度だけ、彼女(彼)の声を聞きたい」」



【クラス】
キャスター

【真名】
リーゼロッテ・ヴェルクマイスター@11eyes

【パラメーター】
筋力C 耐久E 敏捷C 魔力A+ 幸運E 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として自らに有利な陣地を作成可能。
Aランクとなると「工房」を上回る「神殿」を構築する事ができる。

道具作成:A
魔力を帯びた器具を作成可能。
リーゼロッテは古今東西の大抵の魔術道具を作成することができる。


714 : 貴方の声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:21:47 vn/W5FF60
【保有スキル】
信仰の加護(異):A
一つの宗教に殉じた者のみが持つスキル。加護とはいっても最高存在からの恩恵ではなく、自己の信心から生まれる精神・肉体の絶対性。
ランクが高すぎると、人格に異変をきたす。
リーゼロッテはかつて敬虔なカタリ派の教徒であり、世界に絶望し神を憎んで尚今も信仰を貫いている。
彼女が一度は世界を滅ぼそうとしたのも、愛憎のみだけではなくカタリの教義に則ったものだった。

虚無の魔石:A
『翠玉碑(エメラルド・タブレット)』の大いなる欠片であり、1000年間闇精霊を吸収し漆黒の輝きを帯びた不滅の象徴。
本来はEXランクの宝具かつ通常霊基では到底再現不可能なものであるのだが、マスターとの最高峰の相性によってスキルとして付属している。
その効果である『完全なる不死性』と『無限の魔力』が劣化再現されている。
リーゼロッテは必要な魔力を消費することにより瞬時に失った肉体を再生可能とし、また自身は存在するだけで魔力を生成する。
劣化して尚魔術世界においては竜種にも等しい人外性を誇るが、このスキルはフューリーがマスターである時以外は機能しない。

バビロンの魔女:EX
炎の魔女、ルクスリアの魔女、大淫婦とも呼ばれし最も邪悪なる魔女、その忌み名。
欧州最強最古の魔女として800年もの間魔術世界に君臨し、破壊と混乱を振り撒いた逸話の具現。
その魔術は暗黒の太陽を創造し、その手管は国家を崩壊させ戦火を拡大させる。

【宝具】
『幻燈結界(ファンタズマゴリア)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人
記憶や恐怖といった深層意識に働きかけて幻影を見せる暗黒魔術。
分類としては『固有結界』に該当する、幻影魔術の領分を完全に逸脱した異世界創造。特殊な条件を満たせば平行世界への干渉すら可能とする。
結界に取り込んだ対象の五感と精神を支配し、自身又は他者の心象風景から幻影の素材を蒐集しそれを投影具現化する。
具現化された風景や物質は本質的には幻影なのだが、精神支配を受けている状況下においてそれは実物に等しい。
他者のトラウマを刺激し精神崩壊を起こしたり、実体化した幻影による直接攻撃で対象を殺害する。
情が深いほど、強い信念を持っているほど、過酷の過去を持つほど、この幻術は心に突き刺さる。

『奈落墜とし(ケェス・ビュトス)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:惑星全土 最大補足:全人類
世界全土を対象に発動する人類鏖殺の大儀式魔術。
光精霊で構築された現世に暗黒の門を開くことで全ての光精霊を闇精霊に反転させることにより、全ての生物を死滅させる。
かつてリーゼロッテが行使しようとした世界を滅ぼす大魔術だが、現在のリーゼロッテはこの宝具を行使することはない。
人類鏖殺の理想は、かつてそれを語った愛する男によって否定された。
しかし理論と術式は確立されており、今でも必要な魔力と最適な霊脈があれば行使自体は可能ではある。

【weapon】
暗黒魔術を中心とした魔術攻撃。
また体術においても超一流であり人外の膂力を誇る。

【人物背景】
嘗てリゼット・ヴェルトールという少女であったもの。
南フランス、オクシタニアの城塞都市ベゼルスにて敬虔なカタリ派の民であった少女は十字軍に蹂躙され、世界を、神を呪った。
その憎しみを見初めた魔術師によって『虚無の魔石』を与えられ、不老不死の魔女と化した。
十字軍への憎しみと、『良き死』を迎えることができなくなった絶望から、魔術を極め世界に混乱を振り撒きながらも自身が死ぬ方法を探し続ける。
そして自身と同じく世界に絶望する男と出会い、愛し、『人類鏖殺』の理想を掲げ『奈落堕とし』の術式を編み出し、それを実行しようとした。
しかし、その理想は他でもない愛する者の魂によって否定され、彼女は彼から齎された死を受け入れた。
いつか不死のお前に死を与えてみせる、その約束が果たされたことにより、魔女は愛する者の腕の中で息絶えた。

【サーヴァントとしての願い】
ない。人類鏖殺の悲願は既に失われた。
今は自身を召喚せしめるに至った『縁』に免じ、召喚者の道行きに付き合う。


715 : 貴方の声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:22:31 vn/W5FF60
【マスター】
フューリー@誰ガ為のアルケミスト

【マスターとしての願い】
ない。ただこの世界の『正義』の行く末を問う。偽りの正義があらば、破壊する。
――本当は、『彼女』の声が聞きたい。

【能力・技能】
呪砲術。火の砲撃を得意とする。
幻術。視覚、聴覚、触覚、極めれば痛覚をも支配し、存在しないダメージを敵に与える。
フューリーは呪術師としての天賦の才に加えヴェーダより齎された異次元の力を得た。
今や彼女の呪術は街一つを破壊し尽くしたと錯覚させたり一万の軍勢を顕現させる程の幻術を扱える。
しかし現在フューリーの力の8割はリーゼロッテのスキル『虚無の魔石』の再現に費やしている。
また彼女はヴェーダの力を得る代償として『忘却』を失っており、あらゆる過去を忘れることができず、あらゆる悲劇を鮮明に記憶している。

【人物背景】
誰ガ為のアルケミスト期間限定イベント 十戒衆アルゾシュプラーハ-うるさいよ五月雨-を参照。

嘗てボタンという少女であったもの。
ワダツミという島国で生まれ育った彼女は外の大陸で騎士となっていた幼馴染のイカサに連れられ遊学の旅に出た。
絵物語でしか知らなかった立派な騎士、大陸の優しい人々、美しい景色。全ての人々が手を取り合えば、世界はきっと平和になると彼女は信じていた。
しかし大陸のグリードダイクという国家がワダツミが内乱で疲弊しきった隙きを狙い『錬金術の乱用』を大義名分にワダツミに宣戦布告。
『悪しきワダツミの巫女を赦すな』と標榜し、同じくワダツミの巫女であるボタンが錬金術を修めていることは大陸中に知れ渡った。
そして、地獄が始まった。立派だった騎士、優しかった人々、美しかった景色は全て、全てが反転した。
手を取り合えたはずの人々からは恐怖と憎しみの視線を向けられ、騎士からは剣を向けられ、ボタンは絶望のままイカサと共に逃げた。
逃げて、逃げて、故郷へと戻って、そして、大切な人たちは皆死んだ。
グリードダイクの偽りの大義、所詮疲弊した国土を容易く切り取るためだけのただの言葉を、それに踊らされた世界を、ボタンは憎んだ。
そしてそんな偽りの正義を破壊すべく『ヴェーダ十戒衆』へと加入。五番目の席に座り、名をフューリーと改めた。
彼女は『不憎』の戒律を掲げ、過ぎた憎しみを抱えることはない。しかし偽りの正義を掲げる世界を許すことはない。

【方針】
主従ともにとんでもなくやる気がない。しかし死ねと言われて死ぬつもりもないし聖杯は気に食わないし敵を殺すことには一切躊躇いがない。
この別世界においてフューリーは静かに占い屋を営みつつも、嘗てのように正義の在り処を問い続ける。
そんなフューリーをリーゼロッテは見つめ、隣りにあり続ける。

【備考】
モチベーションに著しく欠けるものの極めて強力で危険な陣営。
フューリーはその力の8割をリーゼロッテの規格外のスキルの維持に費やしているため戦闘力に大幅な制限が加わっている。
その代わりリーゼロッテに付与された『虚無の魔石』はただでさえ強力なリーゼロッテの力を更に増幅させている。
積極的に襲いかかることこそ無いが、野生のFOEと呼ぶべき存在となる。
リーゼロッテもまたやる気はないが、なにかするとすればそれはフューリーのために動く以外ありえないくらいには彼女を気に入っている。


716 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:23:26 vn/W5FF60
一本目の投下を終了し、2本目を投下します


717 : キミの声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:24:39 vn/W5FF60



 全ての悲しみの終わり、全ての憎しみの果てに、ワタシはキミを待っている。
 どれだけの罪と、どれだけの残酷と、どれだけの屍の上に立とうとも。
 ワタシだけは、キミを待つことをどうか許して欲しい。
 どれだけの愛、どれだけの憎しみを抱えようと、側にいさせて。
 五月闇の中、五月雨が耳を打ち続けたとしても、――キミと一緒なら、どれだけうるさくとも。


718 : キミの声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:25:41 vn/W5FF60



 宵闇の中に、剣戟の音が響く。
 多くの人の寝静まった深夜、されど東京のネオンは途切れることなく、星のように地上を照らしている。
 地上の星と空の星、その狭間の中空という闇の中を、2人の剣士が飛び交い火花を散らしていた。
 否、一人は剣士であり、一人は暗殺者だ。『聖杯戦争』という規格に則れば、そういうことになるだろう。

「闇に紛れる暗殺者の身で、なかなかやる」

 そう言ったのは、剣士、セイバーのサーヴァントだ。
 高いステータスと如何にもな宝剣は、基本に忠実な強力さを物語っている。

「これでも一応騎士だったものでね。剣の腕も、術の腕も、まあそこそこ。最も、セイバーを名乗るには役者不足なんだろうけど」

 対するは暗殺者、禍々しい大刀と戦旗を携えた緑髪の女騎士だった。
 アサシンのサーヴァントはからりと乾いた笑みを崩さないが、その内心は現状に眉をしかめていた。
 ――正直、分が悪い。

「キミ! ものは相談なんだけど、今夜はここまでにしないかな?」

「……一応、聞いてやろう」

 セイバーは構えこそ崩さないものの、その先を促した。
 アサシンは飄々と言葉を続ける。

「キミは恐ろしいサーヴァントだ。ワタシと戦う直前に、実に『3騎』ものサーヴァントを落としている。
今日の晩に起こった多数のサーヴァントの乱戦はワタシも見ていたよ。そしてキミは今も尚、1戦する余力を残している」

「…………」

「キミの魂胆は分かる。キミは一般には無茶な連戦を行っているが、ここで敗北することなど微塵も考えていない。
この日の変わり目を迎える前に、ワタシさえも落とそうとしている。マスターもまたそれを支えうる優秀な術師なんだろうね」

「そこまで理解しているなら、問答は無用だと思うが?」

「いーや、言うね。退いてくれないかな? このままじゃワタシとしても、命をかけてキミを倒さざるを得なくなる」

 戦況は、アサシンに不利だった。
 アサシンが細々とした傷を手足に受ける一方、セイバーは未だ健在。
 大きく傾いてこそいないものの、現状を維持し続ければ敗北するのはアサシンだ。
 故に、アサシンは言う。
 このまま続けるなら、文字通り全力で、すべてのスキルと宝具を用いて反撃すると。
 既に連戦を重ね少なからず疲弊しているセイバーにとっては、確かにそれは不確定要素と言えるものだろう。
 だが、しかし。

「そのような脅しを受ける謂れはない。もとより命懸けの戦い。アサシン、貴様はここで落ちろ」

「そっか……残念」

「貴様も一廉の騎士であるのなら、覚悟を決めろ」

「そう言われてもねえ。ワタシは帰らないといけないんだ、あの子のためにね。だから、今のワタシは命が一番大事なんだよ」

 アサシンの大刀が燐光を纏う。
 それは何らかの術による強化か、アサシンは強烈な剣気を放っている。
 セイバーは警戒しつつ、迎撃の構えを取った。

 セイバーに侮りはなかった。
 対峙するアサシンは剣士として遜色ない技量の持ち主であり、事実セイバーの攻撃はすべて致命傷を逸らされていた。
 肉を切らせて骨を断つ、異端の剣であるとセイバーは直感する。
 自らが傷つくことを前提とした剣術、つまりその本質は特攻だ。
 アサシンが本気を出すというのなら、文字通り捨て身の攻撃を行ってくるのだろう。
 ならば、捨て身が形をなす前に、肉を越え、敵の骨を先んじて断つのみ。


719 : キミの声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:26:38 vn/W5FF60

「――秘玄・幽刃」

 それは、闇の剣だった。玄の名を冠する秘剣は、黒を纏って敵を討つ。
 なるほどその姿はアサシンのクラスが相応しかろう。
 強烈な踏み込みから着地地点への薙ぎ払い、振るわれる剣は相手の攻撃を妨害しながらも広範囲を斬り裂く。
 まともに受ければ次に不利になるのはこちらか、そう判断するや、セイバーは後の先からアサシンの踏み込みに呼応し突撃した。
 まさに、完璧な見切りだった。

「ッ!」

 アサシンは焦りの表情で行動を修正する。
 踏み込みを短く、斬撃を威力を犠牲にとにかく速く振るうべく体勢を変える。
 しかし、時既に遅し。

「貰ったぞ」

 セイバーの剣は、アサシンの剣腕を捉えていた。
 十分な威力を乗せて放たれた斬撃は、せめて身を守るべく交差したアサシンの腕に直撃する。
 そして、そのまま腕を斬り飛ばし――

「……何?」

 斬れない。セイバーは、アサシンの腕を断ち切ることが叶わなかった。
 肉を斬った、筋を抉った、しかし骨だけはどうしても断つことができない。
 それは耐久であるとかそういったものでは断じてなく、まるでそこだけは絶対に断つことができない、と言わんばかりのものだった。
 腕を半ばまで断って尚、骨から先のもう半ばには届かない。
 セイバーは即座に悟った、これは、そういった概念であると。

「一定以上のダメージに対する肉体の保全、これが貴様の宝具か!」

「正解……ワタシは決して『戦うための四肢を失わない』!」

 四肢を失わないという概念、なるほどそれは、如何なる強力な攻撃であろうと彼女は手足を失うことはないということだ。
 肉体そのものを宝具とするタイプのサーヴァント、それも戦士としては地味ながらも重要な要素だった。
 きっと凄烈な戦いを続け、戦いに戦い抜いた逸話の持ち主なのだろう。
 セイバーはそれに敬意を表する、そしてその上で……反撃に移ろうとするアサシンより、尚セイバーの追撃の方が速い。

「良い剣士であった、さらばだ」

「がッ、ぐ……」

 セイバーの大剣が、アサシンの体幹を貫いた。
 四肢を飛ばせない、或いは肉体の欠損を防ぐ概念であるのなら、欠損させることなく貫いてしまえばいい。
 アサシンの心臓は完全に貫かれ、無慈悲に両断されていた。
 これで、終わりだ。

 そう、普通なら、これで。


720 : キミの声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:26:57 vn/W5FF60

「……ぬ、なッ!?」

「つ、か、まえ、た……」

 血反吐を吐き、体の中心を貫かれながらも、心臓が止まりながらも、アサシンは微笑んだ。
 ゼロ距離でセイバーの剣を支える腕を掴み、離すまいを封じにかかる。

「霊核は砕けたはず……最高ランクの戦闘続行、或いは蘇生宝具!?」

「半分、はずれ……正解は……『健在状態から致死ダメージを受けた時霊核のみを保護するスキル』だよ!」

 剣は、アサシンの体に深く突き刺さっている。
 さしものセイバーも、この状況から取れる手段は少ない。
 そして遂にアサシンの大刀が、セイバーの肩を貫いた。
 このままではこちらが敗北しかねない、セイバーは即座にそう判断し……宝具の真名を開放した。

「――ッ!」

 セイバーの宝剣が光を放つ。
 伝承級の聖剣、魔剣の真名開放はそのことごとくが対軍以上の力を持つ。
 疲弊しているセイバーのなけなしの最後の魔力ではあるが、その威力はサーヴァント1体を滅ぼして余りある。
 そして光がアサシンを包み込み、その体を消し飛ばす。

 そのようには、ならなかった。

「馬鹿、な」

 見るも無惨な有様だった。
 アサシンの全身は血に塗れ、骨は砕け、散々たる有様だった。
 しかし、それでも尚、アサシンは四肢を失わず、人の形を留めていた。
 決して、人の形を失うことはなく。

「さっきは否定したけどさ。それはさっき『まだ使ってなかった』ってだけで……別に蘇生宝具を持ってないってわけじゃないんだよね」

 血濡れの姿が回帰し、美しい女の姿を取り戻していく。
 相変わらずアサシンは、乾いた微笑みを浮かべていた。
 自らの胴にセイバーの剣を括り付けたまま。

 セイバーは、アサシンの体を見た。
 自身の宝具を受けズタボロとなった、つま先から首まで全身を覆う、どこか東方の意匠を交えた騎士装束。
 その下の肌を見て、そこに刻まれた『無数の致命傷』を見て、自らの失策を悟った。
 あの言葉は掛け値なしに『警告』であったのだと、あの時点で彼女は既に、この道筋を見ていたのだと。

「そうか……貴様はそのような英霊であったか……ああ、私の敗北だ」

「――秘玄・黄昏舞」

 そして、アサシンの斬撃がセイバーを八つ裂きに葬った。
 それはまるで受けた傷の威力全てを込めたかのような、闇夜の始まりを告げるが如き刃の舞踏だった。
 聖杯戦争の開始から数多のサーヴァントを葬りその名を轟かせていたセイバーは、ここに脱落した。


721 : キミの声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:27:43 vn/W5FF60



「やあ、帰ったよ。マスター」

「おかえりなさい〜。待ってたよ〜」

 ボロボロになりながらも帰還したアサシンを、間延びした声が出迎えた。
 アサシンのマスターは、ベッドに横たわりながらアサシンを見やる。
 その姿を確認し、その傷を確認した。

「アサシン、また無茶したね?」

「ごめんごめん、流石にアレは滅茶苦茶強敵だった。説得も無理だったし……命1つ使ってでも、ここで落とすしかなかったんだよ」

「そっか。アサシンがそう判断したなら、何も言わないよ」

 マスターはちょいちょいと右腕でアサシンを手招きする。
 アサシンはそれに応じベッドの前まで進むと、その右腕に対し跪き、頭を差し出した。

「じゃあ、補充するね。これで後3日は補充できなくなるから、大きな戦いは控えてね」

「分かってるよ、マスター。暫くは気配遮断に徹しよう」

 アサシンの持つ蘇生宝具は、2度までの致命傷から生き延びる力を持つ。
 そしてストック型の蘇生宝具は、マスターが莫大な魔力の持ち主であれば、その素質次第でストックを回復することも可能だ。
 異世界、冬木の聖杯戦争において、とある少女は3日に1回分のペースでの蘇生ストックの回復を可能としたが、このマスターも同様のことを可能とした。
 とてつもない素養、魔力を秘めたマスターだ。
 しかし、それを加味しても、このマスターは、この少女は。

「マスター、痛みはない? この世界の魔術形式はマスターに馴染みのないものだし……『神樹様』とやらの加護も、全ては届いていないんだろう?」

「大丈夫。端末がないから勇者への変身はできないけど、相変わらず痛みはないし、何もしなくても死ぬことはないみたい」

「……そっか。良かった」

 何が良いものか、とアサシンは思う。
 ベッドに横たわるマスターには、右目がなかった。
 左腕もなかった。両足もなかった。恐らく内蔵も欠けていた。心臓は止まっていた。全身は包帯で覆われていた。
 それでも、この少女は生きていた。この乃木園子という少女は、生きていた。
 最早右腕しか動かすことができなくても、それでも生きていた。

「私は辛くないよ。今はアサシンがいてくれるから。辛いのはアサシンの方でしょ。私のわがままで無理をさせちゃって、ごめんね」

「無理なんてとんでもない。キミはワタシを使ってくれればいい。ワタシも、痛みを感じないからね」

「お揃いだね、私達」

「そうだね、お揃いだ」

 初めて召喚された時は、愕然としたものだった。
 少女は『神樹様』と呼ばれる神にその身を捧げたという。
 身を捧げるほどに力を得て、国を、世界を脅かす外敵と戦い続ける。
 その末路が、この姿だった。
 心臓さえ動いていないという異常な状況は聖杯のロール付与さえも適応できず、生涯病棟の患者にもなれない。
 あるマンションの、ベッドしか無い空虚な一室。乃木園子はそこに横たわっていた。
 彼女は、死を忘れた者だった。
 『自分と同じ』死にながら生かされ続けている存在だったのだ。

「アサシン、手を握ってくれる?」

「ワタシの手、冷たいよ?」

「いいよ。それでも、あったかいから」

 アサシンは椅子を用意し、ベッドの横につける。
 そして園子に残った唯一の四肢である右手に、自分の手を重ねた。

「ワタシの手足を、マスターにあげられたら良かったんだけど」

「アサシンの手足は立派すぎて、ちょっと持て余しちゃうかな〜」

「そっか、そうだね」

「ねえ、アサシン」

「うん」

「今日も、お話聞かせて?」

「いいよ、マスター。マスターが眠れるまで、話してあげる」

 今日の出来事を、その中で感じ取ったことを、アサシンは語る。
 それはマスターである園子のささやかな願いだった。
 この聖杯戦争に参加する、沢山の人達の話を聞きたいと、園子はそう願ったのだ。


722 : キミの声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:28:07 vn/W5FF60



『体を治したいとは思わないの? 元の世界に帰ることは?』

『……まだ、分からないんだ。どうすればいいんだろうね』

 ぼんやりと、どこか途方に暮れたような声色で、園子は言った。
 それは千載一遇の機会を得たという様子ではなく、心の底から困惑していた。

『私ね、治りたいよ。私の体を、わっしーの思い出を、ミノさんの命を奪ったあの世界のこと、許せないって思ってる。
今だって、大赦の大人は何人もの勇者のことを騙して、代償のことを隠して戦わせてる』

 それは、所謂護国の大義だった。
 大きな枠組みを守るためならば、多少の犠牲は仕方がない。
 たった数人の人柱で世界が救われるのならそうすべきだという、残酷な結論。

『それは、残酷な現実を直視させないための一つの優しさだったのかもしれない。けどね、けど、私は教えて欲しかったよ……知っておきたかった……。
だからきっと、元の世界でなら、私は世界のことより友達を、わっしーの思いを、私の思いを優先してたと思う。
もしそれで世界が滅んで、みんなみんな死んでしまったとしても、来るべくして来た結末だと思う』

 けどね、と園子はくしゃりと瞳を歪めた。
 涙を堪えるように、言葉を続けた。

『ここは、私の世界じゃないから……天の神も、神樹様も、勇者も、大赦もない。わっしーも、いない。
もしもバーテックスなんてものが存在しなくて、平和な世界が続いてたなら、こんなに綺麗で広くて、楽しい世界になっていたんだって。
色んな世界の人がここにいて、願いを託しに来てるかも知れなくて。私は……私はね。分からないんだよ。そんな幸せを壊して、願いを叶えていいのかなって。
私は……分からなくなっちゃったんだ』

 本来は、快活で奇抜な少女だった。
 明るく元気で、けどちょっと友達の少ない、それ故に友達を大事にする少女だった。
 そんな少女も友達を失い、体の大部分を失い、心の奥底にほのかに『許せない』という感情が生まれていた。
 それは当然のものだった。その選択をすることを一体誰が咎めることができるだろうか。
 しかし皮肉にも彼女はこの異世界に来たことにより、その感情を向ける先を失ってしまった。
 幸福な世界があることを知ってしまった。これを壊してはいけないと、そう思ってしまった。

『私、考えたい。2年間も寝たきりで、これ以上時間が必要だなんて思いもしなかったけれど……考える時間が欲しいんだ。
この世界のこと、聖杯戦争に参加する人たちのこと、全部知った上で判断したい』

『――分かった。ワタシがマスターの目と耳になるよ。キミの代わりに、この聖杯戦争を渡り歩こう。
騎士の誓いは……生憎、ワタシの主君は一人だけでね。けれど、キミのこと、精一杯助けるよ。待っていて、ワタシが帰ってくるのをさ』

『――ありがとう、アサシン』

 そうして、アサシンの戦いが始まった。
 それはこの舞台を渡り、見定める長い旅。
 敗北は許容しても死することは決して許されない、傷だらけの旅路だった。


723 : キミの声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:28:40 vn/W5FF60



 語らいは夜明けまで続き、ようやく園子は眠りについた。
 眠るための機能さえ正常に働いているか定かではないが、見る限りは休めている。
 アサシンはほっと息を吐き、ベランダに出た。

「どうすればいいんだろうね。ねえ、ボタン。あの時のキミも、こんな気持ちだったのかな」

 思い返すのは、生前の幼馴染のこと。騎士の誓いを契った主君であり、親友だった少女のことだった。
 自分が死ぬことのできない『死忘者』であることを知った彼女の顔は、本当に酷いものだった。
 今更ながら、あの子には本当に残酷ことをしたと思う。
 致命傷だらけの体、いびつに折れ繋がれた腕、どす黒く変色した肌、それが、英霊となって尚刻まれているイカサの姿だった。

「ワタシに、何ができるだろうか。ボタン、キミを裏切ったワタシが。キミを地獄へと突き落としたワタシが」

 生前の話だ。
 幼い頃のボタンが無意識にかけた『おまじない』によって死なない体となった自分は、ボタンの手でしか死ぬことができない。
 ボタンは、そのことを知らなかった。自分が言わなかったから。
 そして自分は、愛しい親友を、憎らしい親友を、守って、守り続けて、追い詰めて、追い詰め続けて。

 その手で、自分を殺させた。
 彼女が自分に救いの手を伸ばすことを許さなかった。
 そんな自分が今同じような、否、もっと酷い境遇の少女をマスターとし、それを救いたいと思っている。
 なんとも笑える話だった。どう考えても、そんな資格などありはしないのに。

「それでも、ワタシはサーヴァントだ。幻影兵にも似た、夢の続きを見ている」

 ――騎士を志望します! 姫、あなたへの愛を誓いましょう!

 いつか、昔の思い出が蘇る。
 幼いボタンと幼いワタシの、可愛らしい騎士ごっこ。
 あの日、ボタンの騎士であることを誓った、すべての始まり。
 ワタシは、ワタシは例え何があろうとも、これだけは。

「騎士であることだけは、やめなかった。それだけは、誇ってもいいかな? ねえ、ボタン。ワタシは、キミを守ることができていたかな?」

 その後のことは、分からない。彼女は絶望してしまったのか。
 絶望して尚、生きることを選んでくれたのか。
 もし、もしも、生きてくれていたのだとしたら。

「後少しだけ、騎士の夢を見続けてもいいかい? 同じ夢を抱く子と、出会ってしまったんだ。救ってあげたいと願ってしまった。
ボタン、もしキミなら……きっと、迷うこともなかったろうね」

 手のひらを閉じ、指を数え開いていく。
 故郷ワダツミに伝わる、昔々のおまじない。

 ひとつ、見渡す限り水平線。
 ふたつ、憧れの夢の大陸へ――みっつ、背後に平和な故郷。
 よっつ、同じ夢見た騎士がお供で――いつつ、見上げた今の空は?

『……正直に言っていいですか?』

 何処かから、声が聞こえた気がした。
 これはいつ聞いた声だったろうか、思い出せない。
 それはどこでもないどこかで、全てが終わった後あの子と再会した時の――

『憎らしいほど悪天候!』

「漫遊道中異常なし、か」

 雨は止まない。
 けれどこの雨音が眠りを妨げることも、ない。
 だって彼女はそこにイる、カサのようで。
 たとえその道筋がどこまでも間違っていて、どこまでも深い憎しみに続いていたとしても。
 隣り合い進めたのならそれすら幸せで、うるさい雨音さえも心地よかった。


 だから、貴方の思うままに、イカサ。
 貴方のことが大好きです、貴方の信じる道を行ってください。
 それが傘の中のものを守るための全てに繋がることを、私は願っています。


「ありがとう、ボタン。あの子のこと、なんとかしてみるよ」

 そうして、イカサは改めて決意した。
 今は園子のために戦うことを、彼女が答えを得る時間を作ることを。
 そしてこれより、彼女に聖杯を齎すための戦いを行うことを。
 今は遠き、最愛の友に誓った。


【クラス】
アサシン

【真名】
イカサ@誰ガ為のアルケミスト

【パラメーター】
筋力C 耐久EX(E相当) 敏捷A 魔力C 幸運C 宝具C

【属性】
中立・悪

【クラススキル】
気配遮断:A
自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
イカサは特に逃亡戦を得意とし、限定条件下において攻撃態勢移行時のランク低下を緩和する。


724 : キミの声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:29:05 vn/W5FF60
【保有スキル】
牡丹のおまじない:C++
彼女にとって最も愛しきおまじないであり、最も憎悪するのろい。
自身は健在の状態から致命傷に値する威力の攻撃を受けた場合、霊核へのダメージのみを無効化し踏みとどまる。
擬似的な不死さえ実現可能だが、このスキルはあくまで『死なない』だけであり、傷が治るわけではない。
イカサは生前に無数の致命傷を負い、全身を覆う服の下は数多の醜悪な傷が残っており、唯一出している顔さえ化粧を施さなければ直視し難い。

奇跡の生還:A
戦闘続行と心眼(偽)の複合亜種スキル。数多の死線から自身のみが生き残り帰還した逸話がスキル化したもの。
どれほど絶望的な戦況の中にいようと、イカサには常に一定の生還確率が存在する。
あらゆる戦闘において敵の脅威度に関わらず、幸運判定に成功することで生還の道筋を見いだせる。
戦場に敵軍友軍問わず多数の参戦者がいるほどイカサの幸運判定の成功確率は上昇し、逆にそれ以外の全ての参戦者の幸運判定の成功率を低下させる。

死滅願望:B
『死にたいと思ったことは何度も』
『死のうと思ったことも何度も』
『死にたくないと思ったことは一度だけ』
死をいとわない生存活動。肉体の限界を無視して稼働する。
腕が上がらない状態であろうと、心臓が止まろうと、五体がある限りイカサは立ち上がり剣を振るう。

【宝具】
『死忘華(しわすればな)』
ランク:D+ 種別:対人宝具(自身) レンジ:1 最大補足:1人
常時発動型宝具。同僚の聖教騎士たちからさえも『死忘者』と忌み嫌われたイカサの肉体そのものが宝具化したもの。
イカサは如何なるダメージを負っても戦闘力が減衰せず、自身の受けたダメージと攻撃回数に応じ筋力、敏捷、魔力ステータスに補正を得る。
痛みを感じることがなく常に自身の肉体は原型をとどめ、五体は欠損せず、自身が受ける治癒の効果を向上させ、自身のダメージを時間経過で回復させていく。
また自身が致命傷を負った場合、2回まで蘇生することができる。
イカサの蘇生は1度にどれだけの大ダメージを受けようと複数の命を失うことはなく、1回として処理される。
蘇生効果はマスターが大量の魔力を消費することで回数を補充することも可能だが、
それはマスターの魔力量がトップクラスである前提とし、3日かけて1回分を限度とする。

【weapon】
冥境刀:故郷ワダツミ製の武器。所謂極東の刀的なものだが、通常の刀剣より大振り。
紫苑の旗槍:仕える主人の家紋を刻んだ旗と、それを支える長槍。武器として使うことは殆どない。

【人物背景】
誰ガ為のアルケミスト期間限定イベント 十戒衆アルゾシュプラーハ-うるさいよ五月雨-を参照。

孤児であったイカサは、ボタンという名家の少女に拾われた。
彼女らは親友となり、幼い児戯の延長ではあるが、イカサはボタンの騎士を志すようになった。
彼女らの故郷ワダツミは内乱の絶えぬ地であり、ある日少女イカサは重傷を負ってしまう。
痛みに苦しむイカサを救うため、ボタンは必死に彼女に『おまじない』を施した。無意識に、自身の溢れる才能のまま、全力で。
そして、イカサは『死ねない体』となってしまった。『おまじない』は『呪い』に転じてしまった。
呪われた体となってしまった絶望、親友に自分のせいでこうなってしまったと知られたくない一心でイカサは故郷を出奔する。
その後、さしたる目的もないまま親友の憧れである『騎士』を志望し、大陸の騎士団に所属。
時は流れ、鎖国を続けるワダツミに開国要求という戦火が目前に迫ってきた頃、イカサはワダツミへと帰還する。
鎖国の影響で外の世界の状況を何も知らないボタンの手を引き、諸国遊学という名目で彼女を連れ出し……
そして、イカサは親友を絶望させた。世界の本当の姿を直視させ、その手で己を殺させた。
それでも、親友に生きて欲しかったから。生きて、苦しんで欲しかったから。憎まれても、一緒にいたかったから。

【サーヴァントとしての願い】
あの子に会いたい。
あの子に会いたくない。


725 : キミの声が聞きたい ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:29:33 vn/W5FF60
【マスター】
乃木園子@結城友奈は勇者である

【マスターとしての願い】
失った体を取り戻し、友人と再会する。

【能力・技能】
21体もの精霊を所有する最強の勇者としての力。
しかし右目、左手、両足、その他内蔵多数を欠損しており戦うどころか身動き一つ取れる状態ではない。
神樹様の力はギリギリ届いているものの現在『勇者』への変身はできない。
ただマスターとして莫大な魔力とそれを供給運用する技術を持つ。

【人物背景】
『結城友奈は勇者である』、通称ゆゆゆにおける先代勇者。結城友奈の章途中から参戦。
この時期の彼女は都合21度の満開によって体の21箇所を散華し失っている。
心臓も動いてはいないが、勇者としての力によって死ぬことがない。
そのような状態から現人神として大赦という組織で保護され祀られている。
本来は天然系でぽわぽわした愛らしい少女なのだが、2年間に渡り寝たきりとなっていたため快活さは静かさに取って代わっている。

【方針】
園子としては、聖杯を取るべきか決めかねている。
元の世界であれば、世界の危機よりも友の選択を尊重しただろう。
しかしここは神樹様もバーテックスもいない別世界であり、そんな世界に対し自分の世界における恨み節をぶつけるのは筋違いだと自制している。
そのため、この聖杯戦争に参加する人々をアサシンに見てきてもらい、いろいろな話を聞いて判断しようと思っている。

【備考】
とにかく死ににくいアサシン。
『牡丹のおまじない』で致死攻撃を食いしばり、『死忘華』で五体を決して失わず、死を2度まで無効化する。
更に『気配遮断』と『奇跡の生還』により撤退を高確率で成功させ、大成功すれば敵に生存を悟られずに死を偽装することさえできる。
マスターとの共通点は、例え心臓が止まろうと生き続けるところ。
聖杯戦争の参加者を見てきて欲しい園子にとって生存に特化しているイカサは最善に近いサーヴァントではある。
互いに悲しくも強力なシンパシーを感じ、イカサは既に園子の体を治すために出来得る限り勝利を狙っている。


726 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/11(木) 20:30:12 vn/W5FF60
投下を終了します


727 : ◆As6lpa2ikE :2022/08/12(金) 11:36:29 g6qhNkQw0
投下します


728 : その手に、再び、栄光を ◆As6lpa2ikE :2022/08/12(金) 11:37:45 g6qhNkQw0
壊れ果てた街。
つい先ほどまで辺り一帯に犇めいていた喧騒は、すでに消え去っていた。
しん、と墓所のように静まり返っている。
あるのは僅かな命の音だけ。
街の中心に、『それ』はいた。
その命は、確実な死へと向かっている。
致命の一撃を受け、倒れ伏し、起き上がれずにいた。
かつて、それが見せていた眩い栄光は、今となっては、もはやない。
何もかも失い、命さえ奪われ、死を待つだけの、ただの肉塊だ。
いまわの際になって、『それ』は見た。
視界の先にあるのは、どうしようもなく愚かなもの。
あるいは──眩しく輝く美しいもの。
そんなものを最後に目にし、そして──『それ』は死んだ。
それが簒奪者の末路。

あとに残ったのは、静寂だけだった。




729 : その手に、再び、栄光を ◆As6lpa2ikE :2022/08/12(金) 11:38:35 g6qhNkQw0
汎人類史を模した『異界東京都』は、あまりに広かった。
どこに目を向けても、ブリテンで見たことがないものばかりだ。
首を回し、瞳を動かすたびに新たな発見があり、物珍しさに心が動かされる。
時刻は夜だが、空に散らばる星々よりも強烈な輝きが、地上を埋め尽くしていた。
カルデアの人間から聞いていた通り、ブリテンの外の世界には未知の景色が広がっていたのだ。
こんな大都市を、あの憐れで汚くて弱々しい人間が作り上げたのだというのだから、驚かずにはいられない──オーロラの名を持つ美しき妖精は、そんな街並みを眺めて微笑んだ。
彼女の肌は何千年もかけて磨き続けてきた大理石のように白く、街が放つ光を反射して輝いている。しかし、その一点には赤黒い紋様が刻まれていた。とはいえ、オーロラの美貌にかかれば、それもまた彼女の美しさを引き立てる装飾品のような役割を果たしているのだが。
この紋様こそ、この美しき妖精が『異界東京都』を舞台にした聖杯戦争の参加者であることの証左──令呪である。
オーロラはそれを目にし、少し不満げな表情を見せた。
ブリテンの外に連れてこられたのは、いい──元より出ていくつもりだったのだから。
人間たちの世界へと連れてこられたのも、いい──元より来るつもりだったのだから。
しかし、そこで開かれる聖杯戦争へと強制的に参加させられるのは、困る。
戦なんて、もうこりごり。
しかも今回は衛兵も側近も付けてない、自分ひとりだけの危険な戦いだというのだから、ちっとも面白くない。嫌になって来る。

「ああ、でも──」

オーロラは軽やかに振り返った。
そこにはちょっとした高さの建造物がそびえたっており、そのてっぺんにはひとつの影が留まっていた。
オーロラは影を見上げながら、にっこりと微笑する。

「──あなたが、私を守る騎士になってくれるから安心ね、アーチャー」

「……騎士……? おかしなこと言うね、あんた……」

影は、その細い首を傾げながら、陰鬱な声を返した。

「おれは、騎士じゃない……冒険者だよ……」

その影は、人の形をしていなかった。
オーロラの美しい翅とは真逆の、悪魔じみた凶悪な羽を生やした竜である。
幻想種に詳しい魔術師がこの場にいれば、ワイバーンの名を連想するだろう。
……いや、そうは言い切れない。
なぜなら、その影には一般的なワイバーンのイメージからも外れた特徴があったからだ。
腕──それが三本も、生えている。
人間の尺度から逸脱した竜種においても、奇形に分類される外見だ。
三本腕のワイバーンの名は、アルス──星馳せアルスである。
『冒険者』という役職は、彼の自称に留まらない。
とある世界においてアルスは、誰もが認める最強の冒険者だった。
星馳せが倒した敵は数知れず、かき集めた宝は数えきれない。
神話や伝説に出てくるような英雄。それが、星馳せアルスという修羅だった。
彼は尋常ではない行動範囲の広さを誇る冒険者だ。
絶海の孤島に眠る宝であろうと、近づくだけで危険な高山地帯に潜む魔具であろうと、持ち前の飛行能力でもって、それら全てを暴いた実績がある。
しかし、ひとつだけ、そんなアルスであろうと辿り着くどころか、その発想さえなかった場所があった。
それは──“彼方”。
アルスにとってそこは、“客人”や魔具が流れてくる源であり、こちらから飛んで行く領域ではない。
しかし今、彼はいる。“彼方”に。
そこはアルスにとって、新雪の野も同然の世界だ。

「…………」

アルスは建物の縁に留まったまま、ゆっくりと周囲を見渡した。
視界の先に広がる迷宮の名は『異界東京都』。
その規模と文明は、アルスが知る最大の国家『黄都』さえも上回る。
そこに潜む敵は、数も強さも未知数。
アルスと同等、あるいはそれ以上の修羅さえ、いるかもしれない。
そこに眠る宝は、万能の願望器──聖杯。

「…………。……広いね、ここ」

自分が置かれた舞台を改めて認識し、アルスは静かに呟いた。
それは相変わらず、陰鬱な小声だった。
しかし、彼のことをよく知るものが──少なくとも彼のマスターであるオーロラではない──聞けばわかるだろう。
その声に、とある感情が混ざっていることに。
それは『期待』という感情だ。
『異界東京都』の何処かにある聖杯は元より、聖杯戦争の参加者たちが持っている文字通りの宝である宝具すらも手に入れたいという強欲が、アルスの小さな体躯に収まりきらず、舌先から声に乗って滲み出ていた。


730 : その手に、再び、栄光を ◆As6lpa2ikE :2022/08/12(金) 11:39:11 g6qhNkQw0
「ええ、そうね。人間が、こんな街を作るなんて──きっと、すごく頑張ったんだわ」

アルスの呟きは、ただのひとりごとだったのだが、オーロラは感慨深げに言葉を返した。

「こんな素敵で、理想的な世界を、戦争で壊してしまうなんて……勿体ない」

「…………」

「戦争の過程で、サーヴァントを失ったマスターは、身一つでこの戦場に取り残されることになるでしょう。聖杯戦争に直接の関りがない一般人だって、危険に晒されることがあるかもしれません。そして私には、妖精として彼ら人間を守る義務がある──そう思わない? アーチャー」

「……さあ。おれには……義務とかそういう、難しいことは……よく分からないな……」

「それでね、とても良いことを思いついたのだけど」

アルスの響かない反応を受け流し、オーロラは言った。

「戦争の最中で行き場を無くした可哀想な人たちがいたら、優しく迎え入れてあげるのはどうかしら」

「…………? ……?」

オーロラの言葉を受け、アルスは疑問符を浮かべた。
生前は自身の独特な言動で数多くの他者を困惑させてきたアルスだが、今回は普段と真逆の構図が発生している状態だ。
しかし、彼がそんな反応を見せるのも無理はない。
聖杯戦争という状況でまず真っ先に出てくる考えが、他の主従との戦闘でなければ、自己の保身でもなく、他人の保護とは、どういうことだ。
しかも、その対象は何の価値もない弱者だと来た。宝も持っていないただの重荷、しかも聖杯戦争が終われば跡形もなく消えてしまう物をわざわざ背負う理由を、アルスは理解できない。
そんなことをして、何になる?

(ほめられたい、のかな……)

まさか、そんなことはないと思うけど。
他者から賞賛を浴びたいのなら、もっと他に方法があるのだから。
たとえば、アルスがよく知り、最も尊敬する人間であるハルゲントもまた、他者からの賞賛を求めていた。
彼の場合、自分の目標を達成すべく必死で考えて、『ワイバーン狩り』ただひとつに何十年も専心していた。
自分の欲するものに、手を伸ばそうとしていたのだ。
その点、オーロラは違う。
『ただそこにいること』が最大の存在価値となる妖精は、自己を高める為に何かに手を伸ばすことは絶対にない──自分より優れた他者の足を引っ張る為に手を伸ばすことはあるかもしれないが。
無論、現時点のアルスが、そんなオーロラの本性を知るはずがない。
それ故、彼は「珍しいことを考えるマスターに召喚されてしまった」程度に受け止めた。

「…………あんたがやりたいようにやれば、いいんじゃないかな。……おれも、好きなようにやるよ」

「ありがとうアルス。大好きよ」

ブリテンで最も美しい妖精であるオーロラが囁く愛の言葉は、通常なら効く者の心を溶かすほどの魅力を有していたが、アルスは大した感慨もなく飛んだ。
次なる敵を倒すため、次なる宝を掴むため──強欲なる冒険者は、『異界東京都』においてもまた、当然のように英雄譚を更新するのだろう。

「……ハルゲント」

先のマスターの言動から連想した友の名を呟いて、空を見上げた。
月がひとつしか浮かんでいない夜空が、目に入る。

──黄都でおれを倒した後、ハルゲントはどうなったんだろう。英雄になれたかな。

──……いや、ハルゲントは凄いやつだ。

──あいつの眩しい欲望が、おれを倒した程度で収まるはずがない。

──きっと、あれからも、もっともっとすごい偉業を成し遂げて、おれなんかより凄くなったに決まってる。

かつてアルスは、友との一騎打ちに敗北した。
しかし今、彼は英霊として仮初の体を手に入れ、もう一度冒険の機会を与えられている。
そしてアルスは思う。
聖杯戦争を経てもっと強くなり、もっと宝を集め、もっと凄くなった自分が、再び友と競い合う機会に恵まれたら──それほど、幸せなことはない。

英雄は、風ですら追いすがれない速度で、飛ぶ。
それは紛れもなく、空中最速の生命体だった。




731 : その手に、再び、栄光を ◆As6lpa2ikE :2022/08/12(金) 11:40:26 g6qhNkQw0
それは異常の適性を以て、弓兵の域を超えた武器を取り扱うことができる。
それは地平の全てよりかき集めた、無数の宝具を有している。
それは広い世界の無数の迷宮と敵に挑み、その全てに勝利している。
欲望の果てに竜(ドラゴン)の領域さえ凌駕した、空中最速の生命体である。

冒険者(ローグ)。鳥竜(ワイバーン)。

星馳せアルス。


732 : その手に、再び、栄光を ◆As6lpa2ikE :2022/08/12(金) 11:40:53 g6qhNkQw0
【クラス】
アーチャー

【真名】
星馳せアルス@異修羅(書籍版)

【属性】
混沌・中庸・星

【ステータス】
筋力D 耐久B 敏捷A+++ 幸運B 魔力B 宝具A+

【クラススキル】
単独行動:A++
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクA++ならば現界どころか宝具の使用であっても、自前の魔力で補える範囲内で発動可能。
ただひとりで地平のあらゆる迷宮を攻略し、あらゆる宝を集めたアーチャーはこのスキルを破格のランクで保有する。

対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
クラス補正で得たお飾り程度のランク。ただし宝具を使用した場合は、この限りではない。

【保有スキル】
鳥竜:A
ワイバーン。
アーチャーの世界では空の支配者と呼ばれるほどの飛行能力を持つ種族。
飛行時、敏捷ステータスに振られたプラス値が効果を発揮する。

詞術:A
とある世界においてそれぞれの生物が持つ独自の『言語』を他者に直接伝える法則。
あるいは対象に頼む事で発火や変形といった現象を発生させる技術。
アーチャーは保有する多数の武具を焦点に詞術を発動する。

無窮の武練:A+
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
莫大な戦闘経験の積み重ねにより、たとえ思考と記憶が曖昧な状態にあっても十全を超えた万全の戦闘能力を発揮できる。
アーチャーは最強の冒険者である。

【宝具】
『その手に栄光を』
ランク:E〜A+++ 種別:対人〜対国宝具 レンジ:魔具による 最大捕捉:魔具による

アーチャーが生前に地平の全てよりかき集めた無数の魔具がそのまま宝具になったもの。
あるいは全ての武具に適性を持つ常軌を逸したアーチャーの才能が宝具に昇華されたもの。
アルスはこの宝具によって多種多様な武具を保有しており、そのため、弓兵(アーチャー )で現界していながら、他クラスのサーヴァントのような戦闘を可能とする。
彼が保有している武具は、その一部を挙げるだけでも、マスケット銃及びそれから射出する数多の魔弾、巻き付いた対象の強度を無視して捩じ切る鞭、空間位相の断絶を生み出すことであらゆる攻撃をシャットアウトする盾、抜刀時に極めて強力なエネルギーの剣身を伸ばす剣、無限に湧く泥を刃や弾丸として放出する土塊、と多岐に渡り、そのどれもが伝説級の逸品。
彼は異常な適性によってこれらの魔具全てを十全に使いこなす。どころか、ひとつ扱うだけでも常人にとっては困難な魔具を組み合わせて発動することすら可能。

またアーチャーは聖杯戦争の最中で打ち倒したサーヴァントの宝具が自身も使用可能なものであった場合、簒奪し、己の宝具として使用できる。

【人物背景】
鳥竜の冒険者。
または強欲な簒奪者。

【weapon】
魔具の数々。アルスはその全てに適性を持ち、手足のように使いこなす。


733 : その手に、再び、栄光を ◆As6lpa2ikE :2022/08/12(金) 11:41:06 g6qhNkQw0
【マスター】
オーロラ@Fate/Grand Order

【能力・技能】
妖精として超常的な能力を持つが、戦闘に役立つものは殆ど無い。

【人物背景】
妖精の氏族長。
または無垢な簒奪者。

【方針】
究極の自己愛に基き、『自分が一番愛されること』を求める彼女は、周囲から『心優しき人格者』に見えるよう動くだろう。──自分以上の人気者が現れない限り。


734 : ◆As6lpa2ikE :2022/08/12(金) 11:41:24 g6qhNkQw0
投下終了です


735 : ◆zzpohGTsas :2022/08/12(金) 15:29:53 KAHhx4IY0
投下します


736 : 流れた涙の行方 あの青空を見上げながら -Danke schön- ◆zzpohGTsas :2022/08/12(金) 15:30:25 KAHhx4IY0
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   たとえば君が傷ついて くじけそうになった時は 

   必ず僕がそばにいて ささえてあげるよその肩を

   世界中の希望をのせて この地球は回ってる

   いま未来の扉を開ける時 悲しみや苦しみが いつの日か喜びに変わるだろう

   I believe in future 信じてる

                                    ――杉本竜一、Believe







.


737 : 流れた涙の行方 あの青空を見上げながら -Danke schön- ◆zzpohGTsas :2022/08/12(金) 15:30:38 KAHhx4IY0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 今日は、食べてくれるだろうかと。少女は思った。
ううん、弱気になっちゃだめ。気難しい人だけど、今日こそは口を付けてくれるわ、と思い直した。

 朝のメニューに、奇の衒いはなかった。スクランブルエッグ、焼いたベーコン、トースト。そして、コーヒー。とてもオーソドックスな、モーニングメニューだ。
先日、近所のスーパーで1パック限定で、卵が特売されていたから、それをスクランブルにした。
スーパーで、その卵と、今日明日食べられる分の食糧を購入した、その帰り。商店街を歩いていたら、顔馴染みの精肉店が、美味しそうなベーコンのブロックをくれたのだ。
「困るわおじさん、おばさん」と最初は遠慮したが、「良いんだ良いんだ、『キーア』ちゃんが頑張ってるのは知ってるんだ。若い娘も肉を食べないと」。
そう言って肉屋の店主は、キーアと言う名の少女の持っていた買い物袋に、半ば無理やりビニール袋に入った、サランラップで巻かれたベーコンを突っ込んだ。
「パパもママも仕事でいないのは知ってるけど、一人が寂しかったらあたし達のお家に顔を見せても良いんだよ」と、店主の妻である年配の女性が手を振ってそう言っていた。
その貰ったベーコンを包丁でスライスして、ベーコンから染み出る油だけでカリっと焼いてみせたのだった。
そして、主食のトーストである。商店街のパン屋で買ったものだが、これが、ビックリする程美味しかった。
初めてその食パンを口にした時、キーアは、ビックリして腰を抜かすかと思ったのだ。キーアが今まで食べて来た、どんなお菓子よりも、甘くて、そして柔らかくて。
ジャム何て塗る必要がない程に、甘くて、ふわふわで、もちもちで。トースト何てする必要がない程に、美味しかったのである。

 いや、食パンだけじゃない。
このベーコンにしてもそうだ、卵にしてもそうだ、コーヒーにしてもそうだ。
ベーコンは正真正銘豚の肉で出来ているし、卵にしたって本当に実在する鶏が産んだ代物である。
コーヒーはお湯で溶かすタイプの簡単なインスタント聖だが、それでも、キーアが嗅いできたどんなコーヒーよりも香りが良かった。
ベーコンが豚の肉の加工品で、鶏が卵を産む事の、何処に驚く所があるのかと。呆れられ、無知の阿呆でも見るような目で見られた事もあるが、
階層都市インガノックの住民からすれば、それは驚くに値する事。何せキーアからすればベーコンとは、合成ベーコンの事である。
これは最低限人間の肉じゃない事だけは保証されている、とても不味い肉である。卵と言えば、合成卵。キチン質の殻に注入された、卵によく似た何かなのである。白身は独特の臭みがあって不味いし、黄身の色もどことなく汚くて、初めて見た時は何ともまぁ、食欲が消えてしまったのを思い出す。

 本物は、こんなにも違うのかとキーアは驚いたものだった。
ベーコンにしてもそう、卵にしてもそう、パンにしてもそう。この地で、とても高いとは呼べない、寧ろ安いグレードの食べ物ですら、インガノックで食べたあらゆるものを凌駕する。
とても美味しくて美味しくて、自分だけが、この味を知ってしまうのは罪なのではないかと思う事がある。パルやルポ、ポルンらお友達にも、振舞ってあげたいぐらいだった。きっとあの子達なら、目を輝かせるに違いない。

「さ、朝のご飯ですよ、セイヴァー」

 そんな、素晴らしい食材を丁寧に仕上げたのだから、美味しい食事になっている筈だとキーアは強く思う。
そして今日こそは、一口だけでも食べてくれるだろうと、希望的観測を彼女は抱く。
テーブルまで今日の朝御飯を持って行き、対面の席に座るその女性に対して、はいどうぞ、と差し渡した。

「……」

 綺麗な青色の髪をセミロングにした女性だった。
化粧気が薄く、ナチュラルメイクすら施していないようであるが、それなしでなお、女性の顔つきは綺麗であった。
アクアマリンを思わせる蒼い切れ長の瞳が特徴的で、キーアは初めて彼女の目を見た時、吸い込まれそうになった程である。
一方で服装にはそれ程頓着しない性格なのか、それ自体に、余り金をかけていると言う様子はなく、ファッション性を重視していると言う気風も見受けられなかった。
肌の露出の少ないワンピースで、辛うじてボディラインが浮き出る程度にしか、己の身体のプロポーションとポテンシャルとを主張しない。
年頃の、それも、誰が見たとて美人であると判ずる女性にしては、何とも欲のない、田舎娘のような服装であった。

「御前のしつこさには呆れる他ないわね」


738 : 流れた涙の行方 あの青空を見上げながら -Danke schön- ◆zzpohGTsas :2022/08/12(金) 15:31:08 KAHhx4IY0
 その声には、刺々しいものが含まれていた。
女性は、確かに美人ではあった。但しそれは、普通に過ごしていれば、の話である。
キーアは、セイヴァーが召喚されて以来、彼女の笑顔を見た事がなかった。いや、笑顔を見せないだけならまだ良い。
気を許し、リラックスするような表情すら、キーアは目にしていなかった。その言葉には何時だって、他者を遠ざける為の棘があり、纏う空気には何時だって、何者をも寄せ付けさせぬ・近寄るなとでも言いたそうな斥力のような物が含まれていた。

「サーヴァントに食事の必要がないと言う事は、御前の頭にも刻み込まれている筈。それをも知らぬ程に無知なのか、それとも、知りながらの嫌がらせなのか」

 セイヴァーは、常に険を纏わせた表情で、キーアに対して接していた。
しかしその一方で、彼女に対して強く当たった事は一度もなかった。勿論今のように、遠回しに悪罵するような言い回しを用いる事はあれど、語気を荒げてそう言った事は一度もなかった。
単純だ。セイヴァーは、キーアとコンタクトを取る、その事そのものを、積極的に避けている。それはまるで、御前と付き合う事がただただ面倒臭い、と言う声なき声が聞こえてくるかのようだった。

 同じ場所に佇んでいれば、絵になる二人であった。 
キーアの方は成程、商店街を歩いていれば、道行く顔馴染みに声を掛けられ、利益など出なくても良いからと、いろんな商品をプレゼントされるのもむべなるかな、と言う位には。
愛くるしくて、可愛らしい容姿の持ち主だった。オレンジがかった金髪の少女で、年の頃にして十歳にも達していないような、疑いようのない少女であった。
精緻な洋人形を思わせるような姿でありながら、表情豊かで、愛想も良い。その上気配りも良く出来ていて、礼儀も正しいと来る。
成程、商店街のちょっとしたアイドルなのも頷ける。性格も良くて見た目も可憐、しかも歳はまだまだ子供と来る。孫がいるような年齢の人間が多い近所の商店街の人々に、可愛がられるのも良く分かろう、と言うものだった。

 キーアとセイヴァーの年齢差は、年の離れた姉妹位である。
姉妹、と言うには髪の色から顔つきまで何から何まで違うが、整った顔立ちの2人、と言う共通項が其処には横たわっている。
キーアもあと十年すれば、道行く男が皆振り返るような美人に育つ事であろう。その十年の変遷の間に、性格の方も洗練されていたのなら、世のどんな男とも結婚が出来るに違いあるまい。

 並んで立っていれば、これだけ顔も良いのだ。サマになる事は間違いないだろう。だが、そうはならない。セイヴァーの方に、問題があるからだ。
端的に行って、セイヴァーは『擦れて』いた。皮肉屋を越えて、最早ニヒリストそのものとしか思えない思想や言動は、明るく優しいキーアの傍に立たせるには、到底相応しくない。
年齢にして恐らく、二十代前半か、十代の後半位に見える程度には、セイヴァーの外見は若い。にも拘らず、纏う雰囲気は年相応のそれでは断じてあり得なかった。
落ち着いていると言うよりは、寧ろ彼女は枯れている。この世の何物にも興味を示していないような風すらキーアには感じ取れるのだ。
もう生きている内にやるべき事を全部やり終えて、後は、棺桶の中に入ってその蓋が閉じるのを待つだけの、老人。それが、セイヴァーに対して抱かれるイメージであった。
倦怠、諦観、そして、虚無。それらが綯交ぜになったような雰囲気を緩く醸すセイヴァーの傍に立つには、あまりにも、キーアは似合わなかった。

 そして――理由はそれだけじゃない。
セイヴァーがコーヒーを口にする時、左腕の袖から覗く手首に刻まれた、無数の、洗濯板のような赤黒い傷痕を、キーアは目にする事があるのだ。
酷い事故にあったんだろうと、キーアは同情した事もあった。「何の傷なのかしら?」とキーアが問うた時、「楽になろうとしたのよ」と返した、その意味をキーアは知らない。

 キーアは、リストカットと言う言葉もまた、知らない。


739 : 流れた涙の行方 あの青空を見上げながら -Danke schön- ◆zzpohGTsas :2022/08/12(金) 15:31:22 KAHhx4IY0
「確かに、あなた達には必要がない習慣なのかもしれないけれど……。食べる事で、生きる力も湧くと思うわ。あたし、元気のないあなたが不安」

「生きる、力」

 セイヴァーは、キーアの言葉を鼻で笑った。特大の嘲りと侮蔑とが、その声には内在されていた。

「下らない言葉。私が此世で一番、嫌悪するセンテンス」

 キーアが、自らの召喚したこのサーヴァントとまともにコミュニケーションを取れた時間。
召喚した当初から現在まで、全てをひっくるめて彼女とこのような会話のキャッチボールをする事が出来た時間を総和するのなら、20分以下、と言ったところであろう。
キーアの方から積極的に話しかけても、セイヴァーの方は取り付く島もなし。相槌を打ってくれるのならまだ良い方で、酷い時には無視である。
たまに何を思ってか、戯れと言わんばかりに言葉を交わす事もあるが、出てくる言葉は、皮肉と虚無の極地。
セイヴァーは、生きる、と言う事に対してあまりにも消極的で、冷笑的で、欠片として正のイメージを抱いていない。何処までも、嘲笑の念を隠そうともしない。
それはまるで――死ぬと言う事こそが、救いとでも言うかのようでもあった。

「鋏にとっての幸福とは、と、考えた事はある?」

「? はさみ?」

 キーアは、質問の意図が読めなかった。きょとん、とした表情を隠せない。

「鋏は、何かを切る為に存在している。それは、覆しようの無い定め。其れだけが鋏の存在意義であり、この事物にとっての、幸福」

「セイヴァーの言っている意味、あたしよくわからないわ」

「役目がある、って言う事は幸福なの」

 断言するようにセイヴァーが言った。

「仕事とか義務とか使命とか、そんな言葉でも言い換えられる。何か打ち込めるものがある、其れは人にとって自然な形であり、最も簡単に幸福が手に入ると言う事」

「じゃあセイヴァー、あなたにとっての役目って?」

「セイヴァー、と言う言葉の意味も知らないかしら? 救世主、と言う意味よ。その役目を果たしてしまったから、私は、御前の奴隷<サーヴァント>に身を窶してる訳」

 「これなら世界なんて救うんじゃなかったわね」、と小言を口にするセイヴァー。

「そして、その目的を達成してしまったから、私はもう不必要な存在に成った」

「世界を救ったんでしょう? そんな事になるわけがないわ」

 セイヴァーがどのようにして世界を救ったのかは定かじゃないが、世界の危機を救ったとあれば、もっと褒められてもおかしくないのではないか?
然るべき席(ポスト)を用意され、其処でまた活躍し、ハッピーエンドを迎える。それが、普通の終わり方ではないのか?

「御前、私を御伽噺の勇者だと勘違いしていないかしら?」

 呆れを、セイヴァーは隠しもしない。

「現実は甘く無いわよ。世界を支配する悪の魔王を倒して、祖国に凱旋して御姫様と結婚して終わり? 生贄を要求する邪悪な龍を打倒して、溜め込んだ宝を手に入れて幸せに過ごしました? 黴の生えた下らない、陳腐な王道よ。今時の餓鬼の興味すら引けない」

 吐き捨てるようにそう言葉を紡ぎ続けるセイヴァーを、キーアは、もの悲しげな瞳で見つめていた。

「現実に世界を救ってもね、誰も褒めてくれないわ。へぇ、そうだったんだ、凄いね。これでおしまい。救世に失敗すれば、今度は一転して戦犯扱い。当然よね、救世主は結果が全て。世界を救う事に失敗した者を、人は救世主と呼ばない。敗北者と言う相応しい言葉が用意される」

 「――そして」

「救ったとて、安泰何てもう無い。役目を果たして、世界を救う以外の生き方を何一つとして知らない、世故に疎い大人の出来上がり。余生をドラッグに手を出して身を破滅させてみたり、タチの悪いトリップで見た幻覚の勢いに任せて自殺を試みたりとか。そんな風にして終わりよ」

「それでも……セイヴァーは、人間なのでしょう? 他に、生きる目的とか、興味だとか……」

「御前の歳じゃ解らないし、想像も出来ないだろうから、教えてあげる。此の世の中には、其れしか生き方を知らない人間が、御前が思ったよりもずっと多い。そして私の其れは、世界を救うと言う事だった。そう言う生き方を、徹底された」

 救世の巫女だとか天使だとか、色々調子の良い言葉を使われたりもしたが。
究極の所、『ヴェーネ・アンスバッハ』と呼ばれる女性を一言で言い表すのであれば、世界を救う為の道具でしかなかった。
セラフィックブルー第一片翼として、セラフィックブルー本体の存在を安定させる重要なピースであったヴェーネは、産まれた頃よりその役目を徹底した教育を課された。
教育、とは言うが、実態は計画と実験と言っても良い。それも、『精神性を致命的に破壊してしまう程の』、と言う形容句が付く程の。


740 : 流れた涙の行方 あの青空を見上げながら -Danke schön- ◆zzpohGTsas :2022/08/12(金) 15:31:40 KAHhx4IY0
 ヴェーネの生きていた星は、緩やかに、だが、確実に、死を迎えつつあった。
ガイアキャンサー、文字通り『地球の癌』とも言うべき存在は、星が有する生体定義情報、ガイアプロビデンスの異常から生じた存在であった。
ガイアプロビデンスとは、何か。摂理や真理をも包括した、根源とも言えるであろうか。万有引力から光や音の速度、水の沸点から重力の強さに至るまで。
地球と言う星に作用するありとあらゆる事象を定義する情報根幹、それこそガイアプロビデンスである。
これに対処しようと多くの者達が手を打ったが、それでも、ガイアキャンサーによる侵攻を遅らせるだけで、根本的な解決には至らなかった。
星の癌を一網打尽にし、この世から根絶しようと、編み出されたプロジェクト。それこそがプロジェクト・セラフィックブルーであり――。ヴェーネはその計画の、疑いようもなく根幹に属する人物であった。

 世界を救うと言う一大事業。
その重責たるや並の物ではなく、当事者の、特に世界を救う役割を大きく担うヴェーネの精神的負担たるや、尋常の物ではない事は誰もが想像がつく。
プレッシャーに圧し潰される程度なら、まだいい。考え得る中で最悪の事態は、使命の放棄であり、これをされてしまえば当然世界が終わってしまう。
故にこそ、プロジェクトのリーダー格たる男は、徹底して、ヴェーネ・アンスバッハから人間的な感情や情動、精神性を奪おうと考えた。
つまりは、ヴェーネ・アンスバッハを一個人としてではなく、世界救済の為の道具であり、それのみに注力出来るような人格を形成しようとしたのである。

 その目論見は、失敗だったとも言えるし、成功であったとも言える。
結果論の話ではあるが、ヴェーネは確かに世界を救って見せたのだから、教育の一環が功を奏していた、と言う言い方も確かに可能だ。
だが、その様な教育方法を施したせいで、ヴェーネの周りを取り巻く人物が多いに激怒し、状況を拗らせてしまい、本来的には起こす必要のないトラブルを無数に引き起こしていたのもまた事実。
何よりも、世界を救うと言う事をこそ己の存在意義としていたヴェーネが、その目的を達成してしまえば、どうなるのか? それ以外の生き方を知らない彼女が、だ。
空虚な抜け殻、燃え尽きた人型の灰が出来上がるだけである。世界に平和と安寧を齎す筈の女は、皮肉な事に、その平和の故に生き方を見失い、精神を病ませて行ってしまったのだった。それが、ヴェーネ・アンスバッハに与えられた、ピリオドの向こう側であった。

「生きる事が、本当に正しいと思う?」

 ヴェーネは、キーアの方に目線を向ける。
キーアは、自らのサーヴァントである彼女の瞳を見る度に、不安を覚えるのだ。
とても、とても、綺麗な青い瞳であると言うのに。彼女の瞳は、冷えた泥土のように淀んでいて、生気など欠片も感じぬ程に、曇りきっているのであるから。

「生きる事が救いに成るとは限らないし、死が人から全てを奪うと言うのも限定的な発想。百の癒し、千の愛ですら救いきれぬ絶望の淵に沈んだ者を、それは、時に優しく包み込んで、あらゆるしがらみから解放してくれる許しの御腕。死は、時にあらゆる存在をも救うのよ」

 キーアは、押し黙ってしまった。
傍から見れば、ヴェーネと言う女性は、最早矯正が不能な程に精神を病んだ女性にしか思えないだろう。
捻くれ者だとか、変り者だとか、奇人や変人だとか、そんな可愛い言葉で形容出来得る域を当に彼女は過ぎている。
娑婆ではなく、本来的には、精神病棟にいるべき精神性の持ち主だった。生きる事への悲嘆、死への希求。それがヴェーネは、余りに強い。

 ……成程、確かに。
常人は彼女に何も出来ないだろう。ヴェーネの辿った道筋は余りにも悲しみと絶望と怒りとで舗装されていて、故に、普通の人間には彼女の考えなど変えさせられない。
生き方の密度、其処に至るまでの過程の凄絶さが違うからだ。

「……フン。私も、子供相手に大人げないわね。そう言う事。御前の召喚したサーヴァントは、厭世観を何処までも拗らせた悲観論者<ペシミスト>。言い換えれば、外れであると言う事」

「セイヴァー」

 けれど。

「生きる目的って言葉が嫌いだって言ったけど、セイヴァーには、恋人とか、いなかったのかしら?」

「馬鹿にしているのかしら? こんな、塵のような性格をした女に恋をする男なんて――」

 けれど、けれど。

「生きていて欲しい、と思える人は、いなかったの?」
 
 けれど、どうやら。
キーアと言う少女は、『普通』じゃない。

「……」

 ヴェーネが、黙った。
その時、瞳に、柔らかい光が灯ったのを、キーアは確かに見たのだ。険の強いヴェーネの表情が、一瞬、穏やかで心優しいそれに変わったのも。


741 : 流れた涙の行方 あの青空を見上げながら -Danke schön- ◆zzpohGTsas :2022/08/12(金) 15:32:17 KAHhx4IY0
「あたし、恋人……って言うには、そんな関係じゃないのかもしれないけれど、生きていて欲しい、好きな人がいるの。お医者様なんだけど、自分の身体の健康なんて全然気にしない、困った人よ」

 ギー。キーアの大好きな、数式医(クラッキング・ドク)。
当て所なく都市を徘徊し、自分の力を僅かにでも必要としている患者を助けようとする男。自分の身体の健康よりも、他者の健康の方が重要であるような、医者の不養生が極まった男。
ああ、思えば、あの人には随分と、口に出した以上に困らせられきたわ。ご飯も食べないし、コーヒーだけしか飲まないし、そのせいで足取りもフラフラだったし……。

「あたしは、あなたのこと、ごみだなんて思わないし、ハズレだとも思わないわ。それに、生きる希望だって、捨てて欲しくないの」

「どうしてよ」

「あなたは……あたしの好きなあの人と、おんなじだから……」

 ――ギーは、異形都市に於いて、ある意味で最も狂った人間だったと言っても良かったのかも知れない。
夢や希望と言う単語の意味が、遠くに置き去りになって等しい街だった。その都市に生きる者は皆、ヴェーネと同じような瞳の輝きをしていた。

 青空が奪われて久しい世界だった。空が蒼いと言う事実を忘れている者すら珍しくない都市だった。
まるで煮溶かした鉛から噴き出る蒸気のように、重苦しく陰鬱な灰色の雲が隙間なく全天を覆うあの街のあの空を見上げても、夢も希望も自由も、見出す事は叶わなかった。
『《復活》』、そうと呼ばれる現象が起きた理由は、今を以てしても不明瞭な部分が多い、説明不能な事柄であった。
《復活》と言えばプラスの意味合いに聞こえようが、実際に齎された結果はプラスどころか限りの知れぬマイナスであった。
人は人としてのあるべき形を失い、その生き方を大きく変更しなければならない事を余儀なくされた。
身体から獣毛が生える、手足が獣のそれになる、翼が生えるなど可愛い方で、顔の形が鳥類のそれになるだとか、下半身がまるでラミアめいた蛇体になるだとか、魚鱗が生じるだとか。
人間の体をベースにして、全く異なる生命体の特徴が露出すると言う奇怪な症状がありとあらゆる人間に生じ始め、異形の姿に変じたばかりか。
都市には妖物魔樹の類が蔓延り始め、嘗て人であった異形達の生命を脅かす、この世の地獄のような有様と化してしまったのである。

 異形となり果てた人類が辛うじて生きられる領域を確保し、其処でまるで、奴隷船の一室のように多くの者達がたむろする。
荒くれ者、薬物中毒者、狂人、終末思想の傾倒者、アルコール中毒者に人攫い。そう言った身分にまで身を落とさざるを得なくなった者達すら跋扈する、階層都市インガノックの下層部。
其処に生きる者達の頭から、夢などと言う言葉が消失して、既に久しかった。

 輝かしくも美しいものがあった筈の過去を振り返っても、底の見えぬ断絶の奈落が広がるだけで。
転機と好機とが待ち受けている筈の未来に目を向けても、其処に在るのは今と変わらぬ、これまで過ごして来た灰色と暗澹と惨憺のルーティンが丹念に舗装されているだけで。
絶望と失望とを友とする、インガノックの毎日は、其処に住まう者の精神を鑢掛けにでもするように、確実に擦り減らせて行ってしまい……。
遂には、その日常こそが当たり前のものになってしまい、諦めてしまう。ヴェーネの目と言うのはつまるところ、そう言った、諦めた者の目であり、生きる事に希望を見出さぬ者の目であった。


742 : 流れた涙の行方 あの青空を見上げながら -Danke schön- ◆zzpohGTsas :2022/08/12(金) 15:32:44 KAHhx4IY0
 誰もが、自分か、自分の魂よりも大事なものの為に動いていたあの街で。
ギーだけは、違った。あの男は寧ろ、自分の事に何て全く重きを置いてなどいなかった。
亡霊のように都市を彷徨い歩き、自分の力を欲する誰かを探し、時には対価なんて全く求めず、治療に及ぶあの数式医を指して、ある者は狂人だと言っていた。
ギー程の才能がある人物であれば、階層都市とも時に称されるインガノックの底辺階層ではなく、もっと上のアッパー・レイヤー。
上層部で活躍し、華々しい生活を送る事だとて、可能だった筈なのだ。ギーは、それをしなかった。何故そうしないのかと、ギーの友人のエラリィは逢う度彼を説得していた。
もっと自分の欲に従っても、良いんじゃないのかと。エラリィはそう言いたかったのだろうか。苦労して得た技術なのだ、その苦労に見合った対価を要求する事もまた、大人に求められる責務なのではないのかと。

 ギーは、何故、狂ってしまったのか?
変わり者だったから? 確かにそうだ。欲がなかったから? 成程そう言った情動について彼は希薄でもあった。
だが、キーアは知っている。病院施設の崩落に巻き込まれた一人の少女の、懸命な治療の甲斐なく死なせてしまい、その時の後悔こそが今の無欲な医療行為に繋がっている事を。
力及ばず、少女を救えなかったその無念こそが、廉潔無私の域を超えて最早気狂いの域に突入している、病的かつ強迫的な人助けであった。

 だから、そのインガノックから、身分の差が撤廃され、階層間の行き交いが思うがままになり、職業の選択の自由も許されたあの時。
自分の力を必要としていた者が己の手の内から旅立ち、更なる幸福を約束されてしまった、あの瞬間。
ギーと呼ばれる数式医は、己がどのようにして生きれば良いのか、解らなくなってしまった。ギーの医療に依存していた患者も勿論いたが、それ以上に、ギーがその患者に依存していたのだ。
自分の力を必要としてくれる者が、誰もいない。依然として都市の現状は変わっていないのに、皆は幸福への片道切符を手に入れていて、自分もそれを手に入れられる筈なのに。
ギーだけが、幸福じゃなく、困惑と当惑の中に放り出されただけだった。インガノックの混沌に、一番救われて、一番依拠していたのが自分であった。その事をギーは、認識してしまったのだ。
数式医としての自分を求めてくれる者は何処だと、迷子の子犬のように都市中を歩き回り、遂には見つけられず、項垂れて、インガノック第7層28区域のアパルトメントに戻って来たあの瞬間を、キーアは覚えていた。

「あなたの事、あたしはよく知らないけど……。いたのよね? 生きていて欲しかったと。あなた自身が、強く思う人が……」

「……」

 ――まあ色々在るだろうけどさ。空でも見ながら、ゆっくり歩いて行けよ――

 ――頑張れよ。俺達が付いてるからな。みんなで、一緒に生きて行こうぜ――

 ――恐れないで。必ずその足で何処までも歩いて行ける――

 生前に掛けられた、様々な言葉を思い出す。ドラッグを服用し、頭がおかしくなっても消える事のなかった言葉と思い出。
彼は前世の自分の夫だった。彼は前世の自分が産んだ愛しい息子だった。彼女は、本当の自分であった。
皆、答えを得たかのように、己の人生の納得を見つけ、それに相応しい終わりを見せつけ、そして、ヴェーネに生きて欲しいと願っていた人々だった。
……酷い人達ね、本当。私が本当に生きていて欲しかったのは、私何かじゃなくて、あなた達だったと言うのに……。勝手な事を思い思いに言って、何処かに行ってしまうのだから……。困った奴ら。

「死んだ方が楽になれる、それは、そうなのかも知れないわ。あたしも……同じ事に出くわした事があるから」

 ギュっと、握り拳を作るキーア。
忘れはしない。出産を間近に控えた母と、それを楽しみにしていたキーアと、彼女の兄と父。入院していた病院を突如として襲った、崩落事故。
それに巻き込まれ、瓦礫の堆積に埋もれ、最早死を待つだけだった自分と、そんな自分を救おうとする若い研修医。
そして、苦しみに喘ぐ自分を見て、涙を流して「苦しそうだ、頼むもう楽にしてやってくれ」と懇願する兄の姿。今際に見るには、余りにも凄絶かつ壮絶な風景だった。


743 : 流れた涙の行方 あの青空を見上げながら -Danke schön- ◆zzpohGTsas :2022/08/12(金) 15:33:08 KAHhx4IY0
「……でも、やっぱり、生きていたいと思ったわ。あたしを助けてくれようとしたあの人に、お礼を言いたかったから。あの人と一緒に、過ごしてみたかったから」

 自分の死が消えぬ、癒えぬ傷痕となり、狂ったように壊れたように、人を治す事に努めようとするあの青年に、キーアは逢いたかった。一言、言ってあげたかった。
恨んでなんかない。憎んでなんかない。苦しんで欲しくもないし、傷ついて欲しくもない。あの時、死に逝くあたしの為に一生懸命になってくれて、ありがとう。それが、キーアの思いだった。

 ギーとヴェーネは同じだ。
忙殺されんばかりの使命と義務の環境の中でしか、己の存在意義を見出す事が出来ず、それに注力する事ことこそが、生きる目的だと信じる者達。
自分はそう言うものの為の装置であり歯車だと、疑っていない。疑っては、ならない。疑問を覚えてしまえば、自分の意義を見失うから。壊れて、しまうから。
本来彼らが求めるべき最終目標である平和が訪れる事で、逆に自壊してしまう、逆説的で哀れな生き物。ギーとヴェーネは、キーアの目には、同じに見える。

「……辛いわよね。好きな人がいなくなるのは。不安にもなるわ」 

 だが、結局キーアがそんな事言えるのは、自分が逢いたいと思っていたギーが、生きていたからに他ならない。
ヴェーネはきっと、違うのだ。自分に生きていて欲しいと願った大切な人達はとっくに逝ってしまい、精神的な支えにもなっていた己の使命が消失し。
そんな平和と虚無とが綯交ぜになった世界で、生きて行く事を、彼女は強いられてしまったのだ。それはとても、堪えられぬ程に残酷で、辛くて、厳しくて。

「でも、あなたに生きていて欲しいと願った人達は、本当は優しい人。だって、誰かに生きていて欲しいと願える人は、心優しい人だもの。間違いないわ」

 「――だから」

「その人達の為に、もう少し、前を向いて歩いてみましょう?」

 「それにも少し飽きたら……」と言ってキーアはパタパタと小走りになって、窓まで近づき、カーテンを開けた。
抜けるような冬の晴れ空。雲一つない快晴。輝ける真冬の太陽。室内灯など付ける必要もない。気持ちよくなるような、見事な蒼い蒼い空が、窓から広がっていた。

「ほら、見て!! 綺麗な青空でしょう? たまには空でも眺めて、楽しみましょう?」

 キーアは、この異界東京都で見る空が好きだった。
本当に、蒼いからである。インガノックで見た書物で、青空を指して『抜けるような』と言う比喩が用いられていたのを見た事があるが、当時はその意味が解らなかった。
今なら解る、その表現が正しかった事を。あの空は何処までも大きくて広くて、高くって。見上げ続けていたら、己の魂までもが上昇していくような、そんな気分が味わえるのだ。
ああ、翼が欲しい。アティと一緒に仕事をしていた、あの翼を生えた《鳥禽》の人が、羨ましく思える。あの人も、どうせ飛ぶならこんな空だと、この東京の空を見れば思うに違いない。

「……馬鹿な娘」

 フッ、とヴェーネは嘲った。

「空を見上げても、何も無いわよ」

「自由に生きていても良いって、思えるでしょう? 青は自由の色だそうよ?」

「憂鬱の色でもあるわ。blueは、憂鬱って意味もあるのよ」

 そこでヴェーネは押し黙る。数秒程の沈黙が流れ、ああ、これで今日の会話も……。とキーアが思いかけたその時だった。

「優しい人だって。御前はそう言ったわね」

 ふと、ヴェーネがそんな事を口にして来た。

「半分は正解よ。もう半分は……何処までも身勝手。何やら満足して、私の知らない答えを見つけて、自分に自由やら祈りやらを託して重荷を任せて来た、自分勝手な男共よ」

 そう口にするヴェーネの言葉は、呆れながらも、親しみと、温かみが同居した、優しい声音であった。

「男の子はそう言うものだって聞いたし、そうだとあたしも思うわ。ギーも、あたしに何も言わず何処かに行って、フラリと帰って来る人だったから。でも、そう言う人が、あたしは好き」

「……呆れる程のマセた餓鬼ね。御前の十年後は、ロクでもない男に騙されて終わりよ」

「フフッ」

 と言ってキーアは微笑んだ。この少女にその十年後が遂に訪れなかった事を、ヴェーネは知らない。
さて、と言ってテーブルに戻ろうとし、自分も朝のご飯を食べようとしたその時だった。

「――聖杯戦争」


744 : 流れた涙の行方 あの青空を見上げながら -Danke schön- ◆zzpohGTsas :2022/08/12(金) 15:33:35 KAHhx4IY0
 ヴェーネはポツリ、とそんな事を口にした。キーアが立ち止まる。
それは、今正しくキーアが巻き込まれている恐ろしいイベントの事であり、今後嫌が応でも避けられ得ぬ事柄であった。
考えていなかった訳じゃない。寧ろ必死にどうすれば良いのか考えていた。結局、彼女の頭では何も思いつかなかったし、ヴェーネと心を通じ合わせようと頑張る事の方が、重要だと思い、プライオリティを下げていたのである。

「私にとっては何処までも如何でも良いイベントだけど、御前にとってはそうでも無いのでしょう?」

「……ええ、そうね」

「どうせ御前の事、願いなんて物も、無いのでしょう?」

 頷くキーア。そうだ。彼女の願いは、もう生前に叶っているのであるから。

「簡単な心理テストを出して上げる」

「心理……テスト?」

 インガノックでギーの助手を勤め、古い医学書とかを学んでいた時、そう言ったテストを行う事で、患者の心理状況を把握したり、適性を計ったりする習慣があった事をキーアは知って居る。勿論《復活》後のインガノックでは、死に絶えた風習である。

「其れの答え次第じゃ、御前を守ってあげても良いわ」

「じゃあセイヴァーは今まで……」

「当然。御前の為に戦う気何てなかったわ。とっとと死んで、私の方が自由に成りたかった」

 余りにも直接的に、正直に言うものだから、キーアは怒るよりもむしろ苦笑いをしてしまった。そして、その事に対して、如何にも怒れない。

「――その右腕に抱くのは、産まれて間もない懐いた仔猫。その左腕で握るのは、一本のハンマー。……この意味は?」

「???」

 意味が解らない、と言う風に首を傾げるキーア。
通常心理テストと言うのは、出題された者にその意図を探られては意味がない。
それはそうだ、テストと言うからには当然、想定された答えが用意されていて、その答えを元に適性等を図るのである。
だからこの場合、質問の意図が読めないと言うのは、寧ろ極めて正常な反応なのだが、それにしたとて、キーアは意味が解らない。猫に、ハンマー?

「猫ってあの、ニャーニャー鳴く、あのネコ?」

「其れ以外に何が在るってのよ、馬鹿」

 恥ずかしながら、キーアは猫を見た事がなかった。
本物の猫を見たのは、この異界東京都に召喚されてからの、近所の駐車場で野良猫が会議をしている様子を目の当たりにしたその時こと。
そのあまりの愛くるしさに、彼女は時間を忘れて可愛がってあげた物だ。そして、その猫と遊んでいると、インガノックでの大事な友人である、アティの事を、彼女は思い出すのである。

「フフッ、セイヴァー。あなたの心理テストって、面白いのね」

「は?」

 仔猫が自分に懐いている。確かにヴェーネはそう言った。ならば、やる事など、一つだろう。

「『ハンマーを捨てて、開いたその手で撫でてあげた方がねこさんが喜ぶわ』」

「………………………………」


745 : 流れた涙の行方 あの青空を見上げながら -Danke schön- ◆zzpohGTsas :2022/08/12(金) 15:33:53 KAHhx4IY0
 ヴェーネは押し黙る。キーアは、答えを出すのを渋っているのだと思った。

 ――やあヴェーネ。今日はお前の5歳の誕生日だったな――

 ――これはハンマーと言うものだ――

 ――猫の顔をよく見ているのだぞ――

 生前、幾度となく繰り返されたやり取り。
5歳の時も、6歳の時も。7歳の時も10歳の時も、20歳の時もやらせた事をヴェーネは思い出す。
そしてキーアに質問したシチュエーションにそのままヴェーネが直面し、彼女がどんな選択を選んだのかと言う事も。外ならぬヴェーネ・アンスバッハは、良く覚えている。
この心理テストと言う名前の、過去の自分の追想に対する正解とは、何だったのか。キーアの問いは、きっと、恐らく……。いや、絶対。これが正しかったと、ヴェーネは思った。

「……ま、50点ね」

 ヴェーネは違った。
自分の頭の空想の中で、ヴェーネは、過去の自分にそんな体験をさせて来たジークベルト・アンスバッハの顔面にハンマーを叩きつけ、その脳漿と頭蓋骨と脳みそとを巻き散らさせ、即死させた。

 ――ああ、スッキリした。こんな世界でまで憑いて来るんじゃないわよ、この亡霊風情が。

「……あ、セイヴァー……!!」

 あっと、キーアは思わず目を丸くした。
食べている。ヴェーネが、自分の食べた朝食を。スクランブルエッグに、口を付けている!! 今まで、食べてもくれなかったのに!!

「……この箸って奴、使い難いわね。あと、卵はもっとしっかり炒りなさい。半熟は嫌いなの」

「……フフッ、何か、大きな子供みたい」

「可愛げのない餓鬼ね、やっぱり御前は」

 不機嫌になりながらも、ヴェーネは朝のご飯を食べ続ける。
気分を良くしたキーアが、直ぐにテーブルに座り、楽しそうに、彼女と一緒にトーストを頬張り始めた。

 ――異界東京都の北区、そのアパルトメントでの一シーンが、これであった。




【クラス】

セイヴァー

【真名】

ヴェーネ・アンスバッハ@Seraphic Blue

【ステータス】

筋力D 耐久C+ 敏捷B+ 魔力A 幸運A 宝具EX

【属性】

中立・善

【クラススキル】

救世の使徒:A+
世界を救う定めを課せられた者。そして、その役割を果たせた者。
前提として世界を救ったと言う事もそうだが、当スキルのランクの高低は、当該サーヴァントが関与した危機の深刻さ・広範さで決定される。
要は、惑星の危機が深刻であればある程、そしてその事態のケアの完璧さによって、スキルランクは高くなる。
セイヴァーの救世の使徒ランクは最高峰、惑星全土から霊長の類が消える事は勿論の事、全天全地が消滅する程の危機を救った、紛れもない大偉業の達成者である。
世界の危機、星の危機、人命に対する危難を救おうとする行為全般に対して、有利な判定ボーナスが付く上に、その行為を行っている間、セイヴァーの全ステータスはワンランクアップする。

【保有スキル】

セラフィックブルー:EX
聖なる青を、取り戻す者。
地上に生きる人間であるパーソンと、前世の記憶と能力を引き継いで産まれる天使王国フェジテの人間であるセラパーソンの相の子。それが、セラフィックブルー本体である。
存在的に極めて不安定であり、その存在の確度を高める第一片翼と第二片翼と呼ばれる存在が必要になり、セイヴァーは本来はこの第一片翼の方であり、本体はまた別に存在した。
セラフィックブルーと呼ばれる存在の真の意義は、後述する宝具であるガイアリバースを発動させる事に在り、これを以てセラフィックブルーと言う存在が定義される。
その為、第一片翼に過ぎなかったセイヴァーはそもそもをしてこのスキルを獲得できないのであるが、生前の辿った足跡の影響で、唯一単体で、
即ち片翼のサポートを得る事無く、独力でガイアリバースを発動出来るセラフィックブルー・セルフに進化している。ランクEXとはまさにこの、セルフ化した事に由来する。


746 : 流れた涙の行方 あの青空を見上げながら -Danke schön- ◆zzpohGTsas :2022/08/12(金) 15:34:07 KAHhx4IY0
抑止力の加護(ガイア):C(EX)
星の代弁者、その加護。
存在自体が星の救助の為に在るセラフィックブルーは、その性質上星の危機を明白に救う事が確定されている存在であり、翻って、星にとってなくてはならないピースである。
この故にセイヴァーは地球上に於いて戦う事で、ガイア側の抑止力から優先的なバックアップとサポートの供給を可能としている。
本来のランクはEX相当。優先的に、星の内部で鍛造された神造宝具相当の代物をも与えられる程の破格のランクであるが、この異界東京都はヴェーネの活動していた地球ではない事。
加えて再現範囲が限定的である事、何よりも星の代弁者と呼ばれる、所謂ガイアの抑止力側の担当者が見受けられない事から、格段にランクが落ちている。
このランクになるとこちら側の幸運判定に優先ボーナスが得られ、この地上にいる限り大地から魔力が優先して供給されるなどの恩恵に留まる。

対魔(異邦):A+
魔なる者に対する特攻性能。
事にセイヴァーは、地球由来のかつ、本来の生態系や進化の系統樹から逸脱した存在に対して、強い特攻性能を有する。
また聖杯戦争に於いては更に能力に拡大解釈がなされ、地球外の生命体に対しても特攻性能を得られるようになった。
対フォーリナークラス、対ビースト、対異星の生命体、対系統樹外の生命体・能力者特攻。
ランクA+は極めて高度なクラスランク。生前、ガイアプロビデンスの異常から生まれた地球の癌、ガイアキャンサーを一匹残らず駆逐したセイヴァーの対魔ランクは、最高峰のそれを誇る。

対魔力:A

精神異常:E
精神を病んでいる。精神的なスーパーアーマー、と言う程ではないが、彼女の精神はやや歪んでいる。

【宝具】

『天羅の翼(セラフィックトランス)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大補足:100〜
セイヴァー、即ち、セラパーソンと呼ばれる人種に於いて、前世の情報と記憶を一つの身体に溜め置く事が出来ない為、この二つ分の人生を体内に留めさせる為の拡張器官・フェザー。
通常この器官は目に見える事はないが、極限までの意識集中か意識の喪失状態になると体外に、フェザーの名前の通りの天使の白い翼のような器官として現出する。
このフェザーを自壊させ、莫大なエネルギー暴走を引き起こす事をセラフィックトランスと呼びその威力は破格のもの。
この現象を意識的に引き起こした場合、待っているのは当該セラパーソンの確実な死亡であり、通常は何が在っても生き残れない。
仮に生き残れたとしても、フェザーそのものがセラパーソンの記憶と人生の情報を内包した拡張器官であり、それを自壊させると言う性質上、重大な記憶障害が発生する。
しかしセイヴァーはこの現象を引き起こして生き残っていた唯一の人物である、と言うエピソードと、スキル・抑止力の加護(ガイア)スキルの影響と、宝具として登録された事により、
出力の調整が可能となり、出力如何によってはセラフィックトランスを引き起こしても自爆になるどころか記憶障害すら引き起こす事もなくなると言うメリットを得られるようになった。
勿論これは、『出力を調整していたら』の話であり、最大開放の威力は正に痛烈無比。サーヴァントの霊基を得たセイヴァーですら、消滅確定の自爆宝具となる。

『癒者よ、星を治せ(ガイアリバース)』
ランク:EX 種別:対星・対摂理宝具 レンジ:∞ 最大補足:∞
生前にセイヴァーが引き起こした究極の奇跡、ガイアリバース。これを意図的に生じさせる宝具。
ガイアリバースとは、地球が持つ生命エネルギー、或いはこれに類するエネルギー溜まりを活性化させる事であり、
生前はこの現象を用い、地球環境の安定及び地球に根差す病根を根絶させるに至った。発動した瞬間、地球を蝕むあらゆる内的・外的因子は消滅する。
この因子とは物質的な存在は元より、概念的なもの、また異界・異星由来の物を含めて、『地球上では本来生じ得ない上に確実に地球を滅びしかねないもの』を完全に消滅させる。
この消滅とは攻撃ではなく、『地球が元の形に回復する過程で起こる消滅』の為、攻撃や障害を防ぐと言う目的で編まれた概念・魔術・呪術的な、全ての防護を貫く。
勿論埒外の奇跡を体現させる宝具の為、発動すればセイヴァーは消滅するだけでなく、魔力消費も尋常のそれではなく、何よりも、セイヴァー自身が、
強い生きる意思を有していなければこの宝具は発動する事が出来ない。二番目のデメリットも致命的だが、最後の生きる意思こそが重大で、セイヴァーは現在、この宝具を発動出来るだけの強い意思を持っていない。

『R(エル)』
ランク:- 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
この宝具は完全に消滅している。セイヴァーは、勝利している。


747 : 流れた涙の行方 あの青空を見上げながら -Danke schön- ◆zzpohGTsas :2022/08/12(金) 15:34:21 KAHhx4IY0
【weapon】

蒼天弓ブルーブレイカー:
生前星の代弁者より与えられた、星の内部で鍛造された弓矢。矢ではなく指向性のエネルギーを射出する弓で、これ単体がAランク宝具に相当する性能を持つ。

蒼天衣セイクリッドブルー:
同じく星の代弁者より与えられたフレーム。着用している本人にAランク相当の対魔力と、状態異常に対する耐性を約束する。これもまた、Aランク宝具に相当する性能である。

魔法:
TYPE-MOON世界に於ける魔法とは違うが、セイヴァーは特に回復と補助の魔術に長けていて、この2つに関しては、下手なキャスタークラスをも完全に超えている。
この2つの魔法と、上述のブルーブレイカーによる恐るべき威力の弓術を合わせる戦いこそが、セイヴァーの基本骨子。

【人物背景】

生きる事を決意した女性。だがそれでも、世界の無情さに耐え切れなかった、嘗て優しかった女性。
 
【サーヴァントとしての願い】

ない。が、自分を召喚した餓鬼の選択は見守ってやる



【マスター】

キーア@赫炎のインガノック -What a beautiful people-

【マスターとしての願い】

誰も殺したくないけど、出来るのなら、あの人に逢いたい

【能力・技能】

勘が鋭い。直感的に、人の嘘が解るようになる。後母性的。

【人物背景】

嘗て死んだ命。自分の命を懸命に拾い上げようとした男に、ありがとうを伝える、その為に立ち上がった少女。

その本懐を果たし、召された後から参戦。


748 : 流れた涙の行方 あの青空を見上げながら -Danke schön- ◆zzpohGTsas :2022/08/12(金) 15:34:33 KAHhx4IY0
投下を終了します


749 : ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/12(金) 15:52:34 qcNz8BPQ0
投下します


750 : 死神と道化 ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/12(金) 15:53:11 qcNz8BPQ0
―――主役になれねぇのはわかってる。俺は道化(ピエロ)だ。

―――それでも欲しい物は手に入れる。


あれぐらいだろうか、アイツが俺に本音を話したのは。



★ ★ ★


その光景こそ、正しく芸術品であった。
規則正しく、さながら一寸の狂いなくカッティングされたダイヤモンドのような。
見るも美麗な多角形の氷晶が、幾重にも鎮座されている。
評論家がこれを見たならば、世界最高峰の氷の美術品として後世に語り継ぐほどに。

―――そんなわけがない。
氷晶の中には人の体のパーツが有った。腕、脚、指、身体、頭部。
切り裂かれ、砕かれて、飛び散った脳漿ごとアートみたいに冷凍保存された部品もあった。
これは見せしめだ。王に歯向かった愚か者の末路を尽く晒し上げる罪人の墓標だ。

これらは、聖杯戦争の参加者、もといマスターだった存在の成れの果て。ただの残骸。
複数人集まったマスターとそのサーヴァントが、たった一人の或るサーヴァントに蹂躙され、敗北し、こう成り果てた。
氷獄の中心に立つのは、鴉色という言葉があまりにも相応しい一体のサーヴァント。
復讐者のクラス。真名、ヴォルラーン・アングサリ。
そんな男が、氷に包まれた世界で目を瞑り沈黙している。それは一種の失望か、それとも呆れか。

「つまらぬ。」

絶対零度の如き呟きが、氷獄に木霊する。

「英霊などと言う有象無象は、この程度か?」

苛立ちを込めたその眼球は既に哀れな敗者の姿など映してはいない。
根本として、アヴェンジャーにとっては聖杯戦争と呼ばれる催しに呼ばれた事自体が苛立ちの種だった。

「……いやいや、あんたが強すぎるだけでしょうに、アヴェンジャー。」

そして、アヴェンジャーのもう一つの苛立ちの種がこの男。
飄々とアヴェンジャーに語りかける長身の男。この聖杯戦争において、アヴェンジャーのマスターとなってしまった人物。
半間修二。愛美愛主(メビウス)の元副総長。稀咲鉄太の片腕であった男。
規格外。英霊の強さは知識のみで把握できていたとしても、人知を超えた、正しく自然災害とも言うべき惨状を作り上げたこの男を評するならば、これが一番相応しい。
もしこんなものが抗争にいたならば、関東事変に君臨していたならば、東京卍會も天竺も、チリ一つ残さず木端微塵の氷の残骸と化していただろう。

「……まあ、今までがイージーモードってだけで、この先――」
旦那より強いやつだっているだろうなぁ、そう言いかけた瞬間、アヴェンジャーは半間の首元に剣を突きつける。

「―――ッ。」
「なぜ、貴様は生きていられると思う?」

流れる冷や汗と共に血が零れて、雪の大地に消える。
緊張が、静寂の大地に冷たく木霊する。

「貴様がいなければ俺はここに存在できないからだ。――そうでなければ、貴様の命は既に無い。」

アヴェンジャーは、不快だった。
自分がこんなマスターなる男に従わされているという事実を。
マスターが死ねば自分も消えるという理不尽な事実を。
自分が聖杯戦争に、マスターによって『支配』されている事実が、何よりも不快で、悍ましく気に入らなかった。

だが、半間から見るアヴェンジャーの瞳は、満たされない者の瞳だった。
どれだけ支配しようと、どれだけ服従させようと、たった1つ。ある太陽のみは支配できなかった。
手を伸ばそうとも、届かないモノ。太陽を支配したかった月。
まるで道化だ。支配できぬと、それすら自覚せずにこうするしか、そう生きるしかなかった男。
そう、まるで―――。


751 : 死神と道化 ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/12(金) 15:53:45 qcNz8BPQ0
「はいはい、わかってますって。」

そんな、口に出せばすぐさま斬首刑執行確定な本心は抑える。
実際実力は折り紙付きで、余計な怒りさえ買わなければ優秀なサーヴァントだ。
と言っても、唯我独尊傲慢不遜を地で行くような男、正直な所手綱なんて全く握れていない。
多少は納得した様子なのか、剣を収めたアヴェンジャーが再びその冷徹な瞳を半間修二に向ける。

「……貴様が俺を支配するのではない、俺が貴様を支配するのだ。ゆめゆめ忘れるな。」

そう告げたアヴェンジャーが矢継ぎ早にこの場から立ち去っていく。
明らかに証拠隠滅に一苦労しそうな場所に半間修二を残し。

「……はぁ、ダリィ。」

冬の夜に、一人呟く。
幾ら強かろうと癖の強すぎるサーヴァントは流石に困る。
そして理解する、この男は王にはなれない。時代を創ることは出来ないと。
だが、そんな事を言っても無駄だろう。
彼にはそれしか無いのだから、彼にはその色しか無いのだから。
だが、それでも半間修二がアヴェンジャーを見限らなかった理由。
アヴェンジャーが望む先の、復讐者としてのその根底。
もう一人の王、アヴェンジャーが憎みし太陽。
アヴェンジャーがそれへと執着する様は、稀咲鉄太とはまた違う色彩が垣間見えるのだ。
流石にサーカス程には楽しくないだろうが、暇つぶしとしてはスリルがあっていい。

「……が。てめぇもアイツと同じなんだな。」

そう、似通っているのだ。
稀咲鉄太が橘日向を求めるように。
稀咲鉄太が花垣武道を憎むように。
稀咲鉄太がその目的のためなら手段を選ばないことを。
主役になれない、だがそれでも手に入れたいものは手に入れる。
彼もまた、必死なのだと。
最も、アヴェンジャー自身、そんな道化である自覚など無いのだが。

「だったら少しは付きやってやるよ。アヴェンジャー。稀咲が逝っちまって、暇してたんだ。」

死神は新しい道化に目をつけた。
その道化は道化にしては強く、そして傲慢で、王であることに執着していた。
そんな道化を、死神は面白いと微かに思った。
道具扱いには慣れている、楽しくやっていこう。


752 : 死神と道化 ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/12(金) 15:54:12 qcNz8BPQ0
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
ヴォルラーン・ライ・アングサリ・ライモ@テイルズオブアライズ
【属性】
秩序・悪
【ステータス】
筋力A 耐久A+ 敏捷C 魔力B 幸運C 宝具B
【クラススキル】
『復讐者:A』
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。

『忘却補正:A+』
時がどれほど流れようとも、彼の憎悪は決して晴れない。
〈王〉は忘れない。己を赦した一人の〈王〉の事を。

『自己回復(魔力):A』
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。

【保有スキル】
簒奪のカリスマ:B
アヴェンジャーは奪い、そして支配する。それかアヴェンジャーにとっての王の在り方。
対象に対し判定を行い、成功時にその意志を奪い、自らの手駒として利用することが出来る。
これは対魔力があるほど効きづらく、対魔力B以上には通用しない。
意外なことに、恐らくはアヴェンジャーが独力で為して得た賜物。

反骨の相:A
アヴェンジャーは利用される事を嫌う、なぜなら彼は自らが支配することを当然としているから。
同ランクの「カリスマ」を無効化する。

〈王〉の紋章:A--
アヴェンジャーが〈王〉たる証。
その実態はヘルガイムキルと呼ばれる存在によって植え付けられた後天的な権限に過ぎない。
後述の『主霊石』に溜め込まれた膨大な魔力を制御もしくは操作する事が可能。
ただし、もう一人の真の〈王〉と違い、伴侶となる巫女が存在しない為にその出力は本来の〈王〉には敵わない。当然、基本的に自身の限界を超えた出力は出せない。


【宝具】
『水の主霊石(マスターコア)』
ランク:A 種別:対聖霊宝具 レンジ:1 最大補足:不明
聖霊力を溜め込む力の器。領将としての証。その内の一つである水の聖霊力を司る。
主霊石の持ち主は、その属性に応じた聖霊力を引き出すことが出来る。アヴェンジャーの場合は〈王〉であることも踏まえてそのランクは高い。

『永遠の終わり(フィニステルナム)』
ランク:B 種別:対人〜対軍宝具 レンジ:1〜50 最大補足:500人
アヴェンジャーの秘奥義。水の聖霊力を用い、虚空の扉より氷の剣を召喚し叩き落とす。
着弾後、着弾地点を中心に氷柱を複数展開し相手を砕く。

『王はただ一人! 貴様は死ね!』
ランク:EX- 種別:対アルフェン宝具 レンジ:1〜10 最大補足:2
アヴェンジャーのある執念と憎悪が宝具に到るまで昇華され、現出したもの。完全な特定個人を条件とする極めて稀有な宝具。
彼が知覚出来る範囲にアルフェンが存在し、それを感知した瞬間、この宝具は発動可能となる。
アヴェンジャーの出力が際限なく上昇し、更にそのアルフェンが『大星霊石』を所有している場合は、その力の一部を文字通り簒奪し己の力とすることが出来る。
発動中限定であるがこの時のアヴェンジャーはマスターの存在なくとも現界可能となる。

欠点としては余りにも条件が限定的すぎる為に、実戦ではほぼ役に立たないこと。
それともう一つ、この宝具を発動させたとしても、アヴェンジャーはどうあがいてもアルフェンに勝つことは出来ない。正しくはアルフェンの出力を上回ることが出来ないということ。
何故ならば、アヴェンジャーは孤独で。孤独の力には限界があるのだから。

【Weapon】
日本刀のような氷の長剣

【人物背景】
ガナスハロスの領将にして、もうひとりの〈王〉。
その実態はそうあれと作り上げられた、ただの道化。
その事実を認めず、男はただ〈王〉であることに、支配することに固執した。
それしか存在しない、空っぽに等しい人間だった。

だからこそ、真の〈王〉に、全てを取りこぼしたくない誓った青年に敗北した。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯を勝ち取り、全てを支配する。
もし"やつ"が居るならば、今度こそ決着をつける。


【マスター】
半間修二@東京卍リベンジャーズ

【マスターとしての願い】
特になし。まあ、楽しけりゃいいや。
殺されない程度には自由にさせてもらいますっと。

【能力・技能】
喧嘩の強さ自体はドラケンと対等。

【人物背景】
歌舞伎町の死神と恐れられた男。
主役になることの出来ない道化の味方であり続けた自由奔放な死神。


753 : ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/12(金) 15:54:23 qcNz8BPQ0
投下終了します


754 : その幻想録は続きか、前日譚か ◆vV5.jnbCYw :2022/08/12(金) 18:11:13 Y7wDCMq.0
訂正です。

>>680

誤:ぼくたちが冒険した今まで冒険してきた間違った世界は歴史ごと消え去ることになった。めでたしめでたし。」
正:間違った世界は、歴史ごと消え去ることになった。めでたしめでたし。」

>>683
誤:ぼくはマスターの葛藤が分かる。ぼくがそう思わずに済むのは、ひとえにマスターのお陰だ。
正:ぼくはマスターの葛藤が分かる。そしてぼくが聖杯を求めずに済むのは、ひとえにマスターがいるお陰だ。


>>684
誤:終盤で大友と和解した後、現在へ帰還するものの上手く行かず、落胆するも、世界再生の片鱗を未来世界の中に見出す。
正:終盤で大友と和解した後、現在へ帰還しようとするものの失敗に終わる。
その後、世界再生の片鱗を未来世界の中に見出す。


755 : ◆T9Gw6qZZpg :2022/08/13(土) 18:27:25 qpnwUhig0
投下します。


756 : アンリライアブルナレーター ◆T9Gw6qZZpg :2022/08/13(土) 18:36:42 qpnwUhig0

【3】

 英国で長年のキャリアを積んだ後、引退後にアドバイザーとして日本の警察に協力している元刑事。
 南井に宛てがわれたその役割は、東京都内で発生した犯罪の捜査情報をある程度自由に引き出せるという点で、好都合であった。ホテルの室内で考察を重ねるこのスタイルを、推理小説では安楽椅子探偵と呼ぶのだったか。
 そして、南井は今日もまた、ある事件の情報を前に思考する。

 深夜の地下駐車場にて、当直の警備員を含む民間人複数名の遺体が発見された。脳天を撃ち抜かれた遺体、体の数割を欠損させた遺体など様々だが、いずれも射殺体であると見られる。
 現場は超電磁砲の乱射か戦車の暴走でもあったのかと思えるほどに痛ましく破壊され、何台もの乗用車の爆発炎上まで起きていた。
 間違いなく、聖杯戦争によるサーヴァント同士の衝突が起きたのだろう。こればかりは警察への説明を行うわけにもいかないなと頭を痛めつつ、南井は奇妙な点へと関心を向ける。
 深夜だというのに集まってきた周辺住民が野次馬となって騒がせていた最中、群衆の中に紛れていた一人の青年がその場で拳銃を取り出し、自分の顎へと押し当てて発砲したのだ。当然のごとく青年は即死、明らかな自殺であった。

 青年が聖杯戦争のマスターであったことを、南井は確信している。
 今回の事件よりも更に二日前、また別のマスターであると思われていた一人の女子高生と何らかのきっかけで接触・交戦した末に殺害した容疑者であるとして、南井は既に青年をマークしていた。愛用の手帳に記された数々の事項が、南井の青年への警戒を雄弁に物語っている。
 拳銃はある非合法のサイトで青年自身が購入したものであったようだ。因みに、サイト内で他者とメッセージのやり取りを行っていた形跡も確認されたが、相手の特定はサイトの構造上ほぼ不可能だろうとのことであった。
 ともかく、危険人物であることは明白。いずれ対処するべき相手であったと思われていた青年は、しかし南井と対面することなく、こうして死亡した。
 青年が引き連れていたサーヴァントもまた、今回の事件現場で既に倒されてしまったことだろう。

 この青年の主従を破った『正体不明のマスター』と『正体不明のサーヴァント』は、一体何者なのか。
 青年は何故、他殺ではなく自殺によって死亡したのか。

「恐るべき敵であると思わないか? バーサーカー」

 物言わず傍らに佇むバーサーカーへと、南井は語りかける。予想通りだが、バーサーカーからの返答は無かった。
 『狂人』のクラスのサーヴァントでありながら、南井の指示には的確に従ってくれるのが幸いだ。しかし、あいにく会話のキャッチボールが成立する相手ではない。ただの武力、強力すぎてやや扱いに困る銃として見倣すのが妥当なところだ。
 そう、バーサーカーは強力なサーヴァントだ。今回の事件を引き起こした『正体不明のサーヴァント』と同程度には。
 まるでバーサーカーと瓜二つの戦法を取る敵だと、南井は感じていた。いくら人の少ない場所とはいえ、高過ぎる攻撃力の持ち主が躊躇なく暴れた事実には目眩さえ起こしそうだ。

 何故、『正体不明のマスター』はこのような破壊行為を良しとしながら、青年のことを直接手にかけなかったのか。
 南井は考える。いつものように、犯人の気持ちになって。

 青年は、死んで当然の屑である。しかし自らの手で殺害したら、万が一にも第三者から疑念の目を向けられかねない。生き残って目的を果たすためにも、この青年には自殺という形で死んでもらった方が好都合だ。
 そのためには、青年を体よく唆したいところである。例えば……そう。遂に出会えた運命の相手と添い遂げられないなら、永遠を誓ったはずが一転して冷酷に見捨てられてしまったなら、もういっそ死んだ方がましだ……などというようなことを思わせながら。
 青年の召喚したサーヴァントは、彼の死を阻むだろう。あらかじめ処分する必要がある。しかし、何らかの理由により青年が令呪による自害を行えなかったら。
 まあ、それでも別に構わない。倒せば済む話だ。やるならいっそ、設備を全て壊して、目撃者を全員殺して、自分達のことを特定不可能となるくらい盛大に暴れさせてしまおう。
 何より、このように思えるのではないだろうか。
 この青年のせいで不要な犠牲が出ることになった。だからこそ、彼が死ぬことへの清々しさが際立つものだ。


757 : アンリライアブルナレーター ◆T9Gw6qZZpg :2022/08/13(土) 18:37:43 qpnwUhig0

「……許せんな」

 不思議な感覚だった。
 ただの思考のシミュレートだというのに、本当に南井自身がその日その場所でそう考えていたかのように、追体験が一際スムーズに進んでいる。
 故に、憤りも大きく膨れ上がる。
 もし『正体不明のマスター』の心境が、この仮想の通りだとすれば。彼奴は自らの罪悪感を軽減または抹消するために、或いは己の手掛ける断罪の正当性を確信したいがために、新たな犯罪の発生を敢えて黙認したと言えるではないか!
 現に目論見は成功している。わざわざ舞い戻った青年の死は、それ自体がラブコール。死に場所にこそ、きっと大きな意味があったのだ。
 その愛情が一方通行であると、最期まで気付かずに青年は死んだのだろうかと思うと共に、南井は深い溜息をつく。
 遺憾ながら、この青年の死はすぐに忘れられていくことだろう。南井としても、これ以上手を出せる余地を見出せそうにないところであった。『正体不明のサーヴァント』が再度出現する機会に警戒するのが、現状の限界か。
 
 彼の死について、何より恐ろしい点がもう一つ。救えない悪は死すべしという思想それ自体は、南井としても心情的に賛同してしまいそうな部分があることだ。
 そして、この東京を舞台に行われるのが、個人へ過剰な殺傷能力を貸与しての殺し合い、戦争だ。人が培った倫理を投げ捨てることを許容する適当な名目が、南井達に授けられたのだ。
 ……屈してはならない。呑まれてはならない。正義の執行者である警察官の誇りにかけて、絶対に己を律しなければならない!

「お前がいれば、もっと心強いのだがな……右京」

 鮮明に思い出せる、英国での記憶。
 悪の繰り出す謎へと立ち向かう、輝ける頭脳を持つ逸材との再会。
 世界の誰もが憧れる創作上の名探偵、シャーロック・ホームズ。その生き写しと言っても過言ではない男。

 杉下右京。

 彼と過ごした充実の日々こそが、南井にとっての何より堅固な支柱だった。
 右京ならば、聖杯戦争での勝利など望まないだろう。人による解明、法による裁定という手続きを重んじる右京ならば、聖杯を得るための過程を嫌悪するに違いない。
 右京と、また肩を並べたい。二人で力を合わせて捜査し、闇に光を当てたあの環境へ、再び身を投じたい。そんな無垢な希望が、南井を善の側へと留めているのだ。
 異界の東京に右京もいてくれるなら、どんな醜悪な犯人が相手でも負けはしないだろうに。犯罪の無法地帯となる都市など、それこそ右京の出番ではないか。
 いや、むしろ。光の側に立つ名探偵を活躍させるためにこそ、闇の側の悪者達はこれから罪を犯していくのか……?
 と思ったところで、不謹慎かつ荒唐無稽な発想であると失笑し、南井は己を戒めた。


758 : アンリライアブルナレーター ◆T9Gw6qZZpg :2022/08/13(土) 18:41:37 qpnwUhig0



【1】

 『弓兵(アーチャー)』の名を携えて召喚された身だが、得物は弓矢ではなく拳銃だ。
 発砲するだけなら五本の指で誰でも成せる。工業製品としての量産が可能。人が絶命する瞬間を触覚で感じ取らずに済むため、ストレスが軽減される。
 殺人という行為を容易で身近なものとした銃の頼もしさと恐ろしさは、一角のガンマンとして承知しているつもりであった。
 そう、ここは恐怖の殺人合戦の会場。争いの熾烈さに常に身を震わせながらもプロとしての役目を全うする人生を遂げたアーチャーは、この地でも己のマスターの警護に身を捧げると決めていた。
 そんなアーチャーが今、いっそ戦場から逃げ出したい衝動と必死に戦っていた。
 轟々と周囲が燃え盛る、深夜の地下駐車場でのことであった。誰より銃を恐れるアーチャーが、いや、誰より恐れているからこそ、今夜の敵――バーサーカーに心を折られようとしていた。
 成人男性の体格のバーサーカーは、その顔面から銃口が突き出ていた。左肩から先が血の通った腕ではなく、真っ黒なライフルになっている。
 コンクリート壁を抉り取るほどの馬鹿げた威力の弾丸を撃ち続けるバーサーカーは、まともな言語を発しない。逃げ遅れた人々が巻き込まれるのもまるで気に留めず、対話によるコミュニケーションを取らず。薄ら笑いを浮かべながら、ただ恐怖だけを一方的に抱かせてくる、クラス通りの狂戦士。

 アーチャーはほぼ直感的に、バーサーカーをこのように形容した。
 奴は、『銃の魔人』だ。

 アーチャーの生涯において、魔人と呼称されるほどの驚異的なキルスコアを誇った銃士には、何名か心当たりはあった。僅かな隙を手繰り寄せてどうにか勝ちをもぎ取った、いずれも善い好敵手であった。 しかし、正真正銘の人外じみた敵と対面するのは今日が初めてで、こういう奴のためにこそ魔人の二文字はあるのだなと、アーチャーは痛く理解させられていた。
 どん、と。身を潜めていた軽自動車が撃たれ、爆ぜる。出鱈目な爆風と破片がアーチャーを襲い、逃避のための脚を焼いた。
 第二の生の終末がいよいよ近付き、意識をいっそ闇の中へ放り出したくなってしまう中、アーチャーは思う。
 何も望まない、帰りたいとすら思えないと告げた、生気の無い瞳のマスターに、鉄火場しか知らない自分が尽くせることは何かと考え、決めた。理想の生き方がわからないなら、私がこの戦争をいかに戦い抜くかを見届けてほしい。この姿に何か感じ入るものがあったら、その思い出を手土産に、お前のこれからの人生を歩んでみてはどうだろうか。
 ……あんな大言壮語を述べておきながら、ネガティブな一心に支配されるなど、恥知らずもよいところだ。口から笑いが零れて、一緒に恐怖心も少しだけ体内から出ていってくれたような気がした。
 このまま敗死するなど、ガンマンの名折れ。魔人が何だ、生涯の伴侶であった銃の化身など、この私が愛と敬意を以て弾丸を贈答するのにうってつけの相手ではないか。

 心を震わせる。高揚し過ぎてはいけない、深呼吸一つでクールダウン。コンディションは整った。
 身体を突き動かし、砲火の射線上へと身を晒す。生命の危機であればある程、精度は研ぎ澄まされる。
 標的は五メートル先。複雑な思考は要らない。肢体と脳が、すぐに適応する。
 バーサーカーは動きを止めていた。狙いを定められるまでにアーチャーを仕留められなかったならば、その時点で一秒の半分の間だけ、敵は死を待つ木偶の坊と化す。
 そして、引鉄を引いた。
 肉体の耐久性を最低限まで落とし込まれたバーサーカーの身体へと弾丸は吸い込まれ、心臓を貫通する。どれほどの頑強なサーヴァントが相手であろうと、必ずクリティカルヒットを確定させる一射。
 赤い血をどろりと流し、バーサーカーの身体が崩れ落ちる。それと同時に、アーチャーの愛銃は、手中で盛大に爆発した。
 ガンマンとしての死を引き換えに成し遂げる一撃。万に一つの勝ち目もない状況から一気に逆転するアーチャーの宝具、最後の切り札により、バーサーカーの討伐を果たしたのであった。
 ……指が全て潰れてしまった右手は、もう銃を握れないが。命あってのなんとやらだ。
 パートナーとして、マスターと共に時を過ごすことはまだできる。今日の戦いを土産話に聞かせれば、多少の感動でも与えられるかもしれないし……彼の最近の不信な言動、そして是正すべき価値観について、きちんと対話をするべきだ。
 そんな未来を思い描く時、アーチャーの胸には一片たりとも後悔の念など湧かなかった。


759 : アンリライアブルナレーター ◆T9Gw6qZZpg :2022/08/13(土) 18:42:29 qpnwUhig0

 だから、この決闘はアーチャーの負けに終わるのだ。

 消え失せたはずの気配が、また戻ってきている。空気の張り詰め方が、敵は未だ健在であると告げている。
 顔を上げると、そこにはバーサーカーが立っていた。胸に空いたはずの孔が、既に塞がっているのを視認する。贈ったはずの死は、無慈悲に拒絶されていた。
 ああ、流石は『魔人』だ。銃で撃たれたら人は死ぬという絶対の掟すら、覆してしまうのだ。
 アーチャーは呆れたようにくしゃりと嗤う。その表情は、直後、上半身ごと消し飛ばされた。


 バーサーカーは『銃の魔人』であり、『銃の悪魔』ではない。
 悪魔に遺体を乗っ取られた人間の軌跡に基づいた権能を、あり得ざる形の宝具として獲得したサーヴァントだ。

 バーサーカーは、最後には『最悪な死に方』を遂げる運命にある。
 つまり、言い換えれば。
 『最悪な死に方』でない限り、バーサーカーは死ねない。
 そういう存在に、なってしまっていた。


760 : アンリライアブルナレーター ◆T9Gw6qZZpg :2022/08/13(土) 18:46:19 qpnwUhig0



【2】

 アーチャーが消滅したというのに、至って平静であることを青年は自覚した。

「君の望み通り、アーチャーは始末した。これで、満足したかな?」

 青年は、人生で四度の死別を経験している。
 小学生の頃、ペットだった犬が老衰で死んだ。中学生の頃、妹になるはずだった小さな命が、流産で死んだ。高校生の頃、自動車で青年を迎えに行く途中だった母が、濡れた路面でスリップ事故を起こして死んだ。
 社会人三年目の頃。自棄を起こしたような生活を続けて久しい父が、青年との些細な諍いの末に突き飛ばされて箪笥で頭を打って、死んだ。 いずれの場面においても、青年は涙一つ流すことなく事実を淡々と受け止めた。
 父が死んだ翌朝には何食わぬ顔で出社し、職場に押しかけてきた警察にも特に抵抗せず、弁護士に用意された反省の弁を法廷で気怠げに読み上げる。そんな性分があの日の父を苛立たせたのだろうし、ネットニュースの片隅で顔も知らない連中の反感を買ったのだろう。
 頭でわかっていても、仕方ないじゃないかとしか思わなかった。感じ入るものが無いのに、何を表現しろというのか。 お前達のいうとおり、ああ、僕は頭がおかしい人なんだろう。

「バーサーカーはどうしても過剰に被害を出しかねない戦い方をしてしまう。場所と時間は選んだつもりだが……巻き添えは、出たかもしれないな」

 刑期が二年目に差し掛かった頃、気付けば聖杯戦争の参加者として異界の地へ喚ばれていた。免職されたはずの会社で今も勤務を続け、父は脳卒中で死んだことになっていた。
 特に、望みも無かった。死んだ家族に会いたいとも思えず、金も名誉も欲しくはなく。共に戦う中で何かの希望が見つかるかもしれないと提案したアーチャーに、とりあえず付き合っておくだけの、何も変わらない平坦な日々の始まりだ。
 刑務所に入る前、刺激を求めてスナッフフィルムを眺めるのが数少ない暇潰しの趣味だったので、当時と同じように非合法のウェブサイトを探してみたらすぐに見つかった。同じサイト内で銃や薬物も買えるのを覚えていたので、とりあえず護身用にでも取り寄せようと思ってのことだった。
 そんなある日、サイト内で何者かからメッセージを送られた。『M』とだけ名乗ったその人物は、管理人でもないだろうに購入の用途を尋ねてきた。
 どうせ信じられないだろうと思いながら、聖杯戦争のことも殺人の経験があることも明かしてみた。本物のマスターだとバレたらバレたで別に構わないという投げやりな思いも、まあ、幾らかはあった気がする。
 しかし、そんな与太話を『M』は随分と親身に聞いてくれた。相槌を示す文字が久しぶりで新鮮で、ほんの少しだけ、話すのが楽しかった。

「尤も、誰が殺したかなど最早わからないだろうが……」

 『M』は、青年に指示を出した。君と同じような立場と思われる者達がいるから、接触してみてはどうだろうかとのことだった。
 結果を言えば、青年とアーチャーは一組の敵主従を倒すことになった。街の住民相手に魂喰いとやらをしていたアサシンのサーヴァントと、それを従えていた女の子だ。
 アサシンは、アーチャーが討った。マスターの女の子は、青年が撃った。
 女の子がアサシンの所業に対してどのような思いを抱いていたのかは不明だ。ただ、止める機会がありながらそれを怠り続けている時点で危険だろうというのが『M』の見解であったので、だったら殺しても問題あるまいと思い手を下すことにした。
 赤の他人を殺すのは初めてであったが、悔恨も快楽も伴わなかった。
 その代わりに生じた問題は、アーチャーの反発だ。事情を満足に聞かずに命を奪うのはさすがに酷な話ではないか。最低限守るべき道徳があるのではないか。いや、そもそもどうやって彼女達のことを突き止めた、一体誰が我々に今回の戦いを仕向けたというのだ。
 同じ人殺しのくせに思いの外倫理観を重んじていたアーチャーとの主従関係も、これで破綻していくのだろうなと察し、また『M』へ相談した。仲直りへ向けて必死になるような心掛けなんて、青年は人生で持てたこともなかったのだ。
 そして今夜、アーチャーは『M』の連れてきたバーサーカーのサーヴァントによって粛清された。相棒を死に追いやって尚、心中に波風はまるで立たず、それがまた可笑しかった。


761 : アンリライアブルナレーター ◆T9Gw6qZZpg :2022/08/13(土) 18:46:52 qpnwUhig0

「どうかな、相棒を裏切った気持ちは……いや、聞くまでもないか。その顔を見ればわかる」

 意外だったのは、今夜の戦闘に際して『M』が自ら姿を見せたことだった。対面の方が意思疎通はスムーズに進む、という社交の原則に傚ってのことだろうか。
 享年の父よりも年上の、穏やかながら活気を感じさせる瞳の老紳士だった。
 『M』――南井、と名乗った彼もやはり聖杯戦争のマスターであり、しかし聖杯を求める意思は無く、それよりも罪なき人々の救命を目指すのだという。

「ともあれ、これで君の聖杯戦争は終わった。直接的にはアサシンのマスター、間接的にはアーチャーとアサシン……そしてこの地に来る前には、君の実の父親。最低でも四人の命を奪った。それが、君の人生だ」

 だから、南井はわざわざこうして姿を現したのかと、青年は悟る。
 南井は、罪を許さない正義の味方だ。ならば自分は、南井に裁かれる悪か。
 青年の罪は、少女の命を奪ったことか、彼女の言葉に耳を傾けなかったことか。この先の未来で平然と人を殺す可能性の排除か、或いは人を殺した過去を悔いることもできない現在の姿への、怒りか。
 なんでもよかった。どうでもよかった。
 目的の無い、感慨の無い、自分自身でさえ愛着の持てない人生を終える、丁度良い機会がやっと巡ってきただけのこと。死ねることが嬉しいわけではないが、気楽にはなれるかもしれない。
 ……もし、心残りがあるとすれば。この手で奪った生命も、無駄に終わるのだなあということくらいだろうか。

「…………辛かったろう」

 青年は、南井に抱擁されていた。いつか思い出せないほど遠い昔に感じた気のする、人肌の暖かさだ。

「君はアーチャーを令呪で自害させることができた。それなのに私に彼を殺せと依頼した」

 敢えて不要な手間を掛けて、民間人を巻き込むリスクを負った理由を、南井には語らなかった。誰にも理解されないものだと、諦めていたからだ。

「『罪悪感』を、抱きたかったのだろう?」

 心臓が暴発しそうな、そんな錯覚を覚える。

「他人が死んでも、悲しくも苦しくも思えない。そんな自分自身が何より悲しくて……君の本心を誰にも理解されないことが、苦しかったのではないか?」

 飽きるほど聞いた人でなしだのサイコだのといった罵倒とはかけ離れた、柔らかな南井の声色。
 連なって聞こえるのは、自らの声にならない声。やがて、心が震えて氷解していく。

「もういいんだ。君はこれ以上、傷付く必要は無い。私が……君を理解したから」

 ずっと小さな頃の、優しかった父の姿が、南井に重なったような気がした。
 青年は、南井の両腕の中でひたすらに嗚咽を漏らす。会話としては支離滅裂であるのも構わず、感情を言葉にして吐露し続ける。

「今はこの出会いを喜ぼう。たとえ今夜が、私達の最後の時間となったとしても……互いを、決して忘れないように」

 笑って、困ったと告げる。死への無頓着さに、一つの例外ができてしまった。
 彼と共に未来を歩めるなら、もっと生きたいと思ってしまった。


「……ああ。ところで、この後の君の処遇なのだが――」


762 : アンリライアブルナレーター ◆T9Gw6qZZpg :2022/08/13(土) 18:48:20 qpnwUhig0



【4】


――右京、また捜査をやろう。一緒に! お前となら、どんな悪も光のもとに引き摺り出せる!

――かつての貴方は…………人間の深淵をも…………

――右京、また一緒に……!

――もう、言葉もありません…………罪は、決して…………僕も、あなたのことを、忘れないでしょう。


 ……そういえば。 南井が右京と最後に言葉を交わしたのも東京の夜だったのは覚えているのだが、詳細がどうにも靄のかかったように曖昧だ。
 まるで今生の別れを告げるような言葉は、一体どのような話の流れから出た言葉だったか。
 親しい戦友との一時で向けるものとは思えない、悲嘆に崩れ落ちそうなあの表情は、果たして何故に作られたものだったのか。

「…………うむ。最近物忘れが多い。いけないことだな、バーサーカー」

 これでは本当に老いぼれではないかと、南井は苦笑する。
 傍らに立つ従者は、相変わらず何も語らない。味気ないものだ。彼が一体どんな夢想をしているかなど知る由もないが、ウィットに富んだ会話ができる相手と組める方が、喜ばしいところだ。
 ああ、やはり。南井の生涯で相棒と呼ぶに値する人物は、杉下右京ただ一人だけなのだ。


763 : アンリライアブルナレーター ◆T9Gw6qZZpg :2022/08/13(土) 18:53:08 qpnwUhig0



【クラス】
バーサーカー

【真名】
銃の魔人@チェンソーマン

【属性】
混沌・狂

【パラメーター】
筋力:C 耐久:A 敏捷:B 魔力:B 幸運:C 宝具:B

【クラススキル】
狂化:C
幸運と魔力を除いたパラメーターをランクアップさせるが、言語能力を失い、複雑な思考ができなくなる。
バーサーカーは、正常な現状認識ができていない。真っ白い雪原で童心に帰って雪合戦を満喫するような夢見心地に、今も浸り続けている。

【保有スキル】
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
『銃の悪魔』がアーチャーのクラス適性を持つことに由来して、このスキルを獲得した。

千里眼:D
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
生前のバーサーカーが『未来の悪魔』と交わしていた契約の、名残。Bランク未満のため、未来視は行えない。

集中砲火:B
バーサーカーは標的への攻撃を執拗に繰り返すほど、付与ダメージ量や命中率にプラス補正がかかる。途中で別の相手を標的に変えても効果はリセットされず、各人へ累積されていく。
一緒に遊ぶ友達は多い方が楽しく、ずっとじゃれ合える友達がいたら嬉しい。そんな幼心の賜物。

無言の帰宅:A
覚醒した『銃の魔人』は、■■■■の住処を真っ直ぐに目指した。
たとえ別人の思惑によるものであろうと、家族のように強い絆を繋いだ仲間達のもとへ帰ることを望んだのだ。
バーサーカーは狂化した状態にありながら、自分を支配するマスターの指示には忠実に従う。
ただし、「生前に友好的な関係であった者を標的としている」間はその限りでなく、またこの時バーサーカーは外的要因による行動の制約への耐性を著しく向上させる。
本物の『支配の悪魔』の力でないならば、令呪による命令をもってしてもバーサーカーを引き止めることは叶わないかもしれない。


764 : アンリライアブルナレーター ◆T9Gw6qZZpg :2022/08/13(土) 18:53:38 qpnwUhig0

【宝具】
『銃の魔人(ガンマン)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大補捉:1000人
人々から恐れられた災厄の権化『銃の悪魔』が、ある人間の死体に憑依して誕生した、魔人としての姿そのもの。
悪魔から魔人へと身を堕としたことで凋落こそしたものの、その権威が未だ有効であることは、人間離れした高い身体能力や再生能力に限らない形でも示される。

バーサーカーと対峙する者が「銃」という概念に対して畏怖の念を強く持っているほど、バーサーカーの戦闘能力は更に強大化される。
尤も、この効果は当然ながら「銃」を知らない者、「銃」に馴染みの無い者、「銃」を恐れない者に対しては有効に働かない。

『最悪な死に方(トゥルーエンド・フォー・ユー)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補捉:1人
『未来の悪魔』と呼ばれる存在から「お前は最悪な死に方をする」と予言されていた■■■■は、確かに非業の死を遂げた。
しかしそれは、■■■■自身にとっての「最悪」を意味するのではなく。
慕っていた■■■■を自ら手にかけたことで心に消えない傷を残すという、ある少年にとっての「最悪」であった。
■■■■に課せられたそんな運命が、拗じくれた形で昇華された宝具。

バーサーカーを破った者が、その事実に対して後悔や無念、罪悪感といった類の感情を強く抱いていた場合に限り、バーサーカーは聖杯戦争から消滅する。
この条件を満たすことなく撃破された場合、バーサーカーはいかなる状態からでも復活することができる。肉体は霊核が破壊されていようと、完全に修復される。
そして、復活には血液の補給や特定の所作などといった余計な手間が一切必要とされず、魔力の枯渇による脱落でさえ、即刻の回復によってキャンセルされる。
糞でも喰ったかのように後味の悪い結末を迎えない限り、バーサーカーとの戦いは永遠に終わらない。

【weapon】
顔面または左肩の小銃から発射するエネルギー弾。

【人物背景】
悪魔が人間の死体を乗っ取って生まれた魔人。
死んだ人間が生まれ変わったから、魔人。
彼の名は、もはやただの、銃の魔人。

【サーヴァントとしての願い】
―――――――――――。


765 : アンリライアブルナレーター ◆T9Gw6qZZpg :2022/08/13(土) 18:54:28 qpnwUhig0


【マスター】
南井十@相棒

【マスターとしての願い】
正義を成す。

【能力・技能】
観察眼と経験から、犯人のプロファイリングと取り調べを得意とする。
老齢でありながら今なお精力的かつ健常な人間である。
本人も自覚しない、「ある病」を患っているという点を除いて。

【weapon】
南井自身は特に武器を持たないが、「異界東京都」でも用意された各種ネットワークが武器と言えるだろう。
それが光の当たる表側でも、そうでない裏側でも。

【人物背景】
元スコットランドヤードの警部。警視庁特命係・杉下右京のかつての相棒。
「犯罪者の中には贖罪の心を持つことができない者もいる。そんな犯罪者は自らの死で償わせるのが相応しい」
そう語った理念に従うように、犯罪者に私的制裁を下している疑惑があるが、右京にさえ証拠を掴ませずにいる。

【方針】
聖杯を求める意思は無い。聖杯戦争を口実に不当な犠牲を出す者、聖杯の悪用を謀る者と戦う。

【備考】
「相棒」シリーズ中で南井十が登場するエピソードは以下の通り。
season16……「倫敦からの客人」
season17……「倫敦からの刺客」
season18……「善悪の彼岸〜ピエタ」「善悪の彼岸〜深淵」


766 : 名無しさん :2022/08/13(土) 18:54:52 qpnwUhig0
投下終了します。


767 : ◆NIKUcB1AGw :2022/08/13(土) 22:11:06 T1parw7g0
投下します


768 : 祭りの時が待ち遠しい ◆NIKUcB1AGw :2022/08/13(土) 22:12:18 T1parw7g0
株式会社フェスティバル。
都心に本社ビルを構える、それなりに大きなイベント運営会社である。
その社長室で、アフロじみたボサボサ髪の小柄な男が椅子にふんぞり返っている。
彼の名は、ブエナ・フェスタ。
この地に招かれた、聖杯戦争の参加者の一人である。

「ここの生活も、悪くはねえ」

コーヒーをすすりながら、フェスタは独りごちる。

「俺がいた世界より飯は美味いし、便利な機械もこれでもかってくらい普及してる。
 仕事もまあ、それなりには楽しい。
 だが……それだけだ。俺には物足りねえ」

フェスタはかつて、数々の「祭り」を催してきた。
その結果、彼は「暴力」こそが人々をもっとも熱狂させるという結論に至る。
より大きな熱狂を求め続け、フェスタは「戦争屋」と呼ばれるようになった。
だが彼が巻き起こした熱狂も、ゴール・D・ロジャーによって引き起こされた「大海賊時代」という熱の前ではチリ同然だった。
失意にさいなまれたままフェスタは時を過ごし、年老いた。
しかし燃え尽きた彼の前に、一人の男が現れた。
ダグラス・バレット。かつてのロジャーの部下であり、フェスタ同様ロジャーという壁を越えられなかった男。
彼と組めば、大海賊時代を超える熱狂を巻き起こせるかもしれない。
フェスタはバレットに賭けた。そして、賭けに負けた。
再び絶望に突き落とされたフェスタだったが、運命は彼を聖杯戦争の参加者に選んだ。
そして、新たな相棒と引き合わせた。

「物足りないというなら……今すぐ戦いを始めようじゃないか、マスターくん!
 僕はずっと、戦いたくてうずうずしているよ!」

社長室に響くもう一つの声。フェスタのサーヴァント・バーサーカーのものだ。
バーサーカーは来客用のソファーに腰掛け、優雅に紅茶を飲んでいる。
その出で立ちは、まさに西洋貴族そのもの。
とてもその出自が、古代中国だとは思えない。
まあ、そもそもまったく異なる歴史の世界から呼び出されたフェスタにとっては、どうでもいい話であるが。

「俺だって始めたいさ、バーサーカー!
 だが祭りってのは、人手がいる。
 俺たちだけが乗り気になったところで、始まらねえのさ!」
「なるほど、他の参加者も乗り気になってくれないと、どうしようもないってことだね」
「そうよ! そして、俺の読みじゃあその時はそう遠くねえ!
 そのタイミングが来たら、その時は……。
 思いきり戦って、思いっきり壊して……思いっきり殺そうぜ!」
「ああ、楽しみだ! 楽しみだよ、マスターくん!」

やる気満々のバーサーカーを見ながら、フェスタはほくそ笑む。
この男は、バレット以上の「怪物」だ。
海賊王の遺産を失ってしまったのは痛いが、この強さがあれば世界を変える方法はいくらでもある。
聖杯を手にしたあかつきには、彼を自分の世界に連れて行く。
そして今度こそ、ロジャーの作り出した大海賊時代をひっくり返すのだ。

「やってやるぜ、俺は……」

絞り出すように、フェスタは呟いた。



フェスタは気づいていない。
ダグラス・バレットは、怪物と呼ばれるにふさわしい力を持っていたが、それでも人間だった。
だがバーサーカーは、生物学的な意味でも「怪物」だ。
人間の枠にはまらないバーサーカーの思考は、フェスタ程度の男では制御することなどできない。
おのれの進む道があまりに危険なことを知らぬまま、フェスタは野心を燃やし続ける。


769 : 祭りの時が待ち遠しい ◆NIKUcB1AGw :2022/08/13(土) 22:13:32 T1parw7g0

【クラス】バーサーカー
【真名】趙公明
【出典】封神演義(藤崎竜版)
【性別】男
【属性】混沌・悪

【パラメーター】筋力:B 耐久:A 敏捷:C 魔力:A 幸運:D 宝具:EX

【クラススキル】
狂化:D
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
身体能力を強化するが、理性や技術・思考能力・言語機能を失う。
彼の場合、元から狂気じみた思考であるせいかあまり影響が見られない。

【保有スキル】
妖怪仙人:A
動植物が修行を積んだことにより、仙人になった存在。
バーサーカーの場合、元の姿は植物である。
本来の姿に戻ることによりステータスを大幅に上昇させることもできるが、その場合マスターの魔力消費も跳ね上がる。

目立ちたがり:A
スキルに昇華されるほどの、強烈なナルシズム。
良くも悪くも、他者の注目を集める。
神秘の秘匿? 知らん。
戦闘においては、敵のヘイトを自分に集中させる効果もある。


【宝具】
『金蛟剪』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1-100 最大捕捉:100人
かつて異星人によって地球に持ち込まれた超兵器「スーパー宝貝」の一つ。
ハサミのような形状だが接近戦用の武器ではなく、使用者の生命力を龍の形にして飛ばすという形で攻撃する。
破壊力は絶大だがその分消費魔力もすさまじく、下手をすれば1回使っただけでマスターが死ぬ。

【weapon】
「縛竜索」
乗馬用の鞭とサーベルを掛け合わせたような形状の宝貝。
振るうことで衝撃波を飛ばして攻撃する。
バーサーカーにとっては金蛟剪の前座的なポジションにすぎない武装だが、その威力は決して侮れるものではない。

【人物背景】
金鰲島に所属する妖怪仙人。
かつては妲己、聞仲と並び「金鰲三強」と称された実力者だが、独断専行への懲罰として地位を剥奪されている。
その性格は、簡潔に言うなら「愉快犯のバトルマニア」。
野望も信念もなく、ただ強い敵と戦うことだけを望む。
戦うため、相手を本気にするためならどんな卑劣な手段もいとわない、迷惑極まりない存在である。

【サーヴァントとしての願い】
ただ戦えればそれでいい。


770 : 祭りの時が待ち遠しい ◆NIKUcB1AGw :2022/08/13(土) 22:14:47 T1parw7g0

【マスター】ブエナ・フェスタ
【出典】ONE PIECE STAMPEDE
【性別】男

【マスターとしての願い】
バーサーカーを受肉させ、自分の世界に連れ帰る。

【weapon】
拳銃

【能力・技能】
高い計画性

【人物背景】
フェスティバル海賊団船長。
海賊社会で様々な祭りを催し、「祭り屋」として名を馳せた男。
やがて彼はさらなる熱狂を求め、「戦争屋」となる。
しかし一つの時代を生み出したロジャーに敗北を感じ、隠居。
以後20年間表舞台から姿を消していたが、ダグラス・バレットからとある計画を持ち込まれそれに協力することを決意する。
参戦時期は、サボに取り押さえられた直後。

【ロール】
イベント運営会社の社長

【方針】
聖杯狙い


771 : ◆NIKUcB1AGw :2022/08/13(土) 22:16:10 T1parw7g0
投下終了です


772 : ◆ruUfluZk5M :2022/08/14(日) 01:25:34 caBUlkgY0
投下します。


773 : ねじれた主従、ねじれた師弟、ねじれた時間 ◆ruUfluZk5M :2022/08/14(日) 01:29:02 caBUlkgY0
 銀髪の男は、異なる世界に来ていてもさして驚いたわけでもなく。東京という聞きなれない場所でも変わらなかった。
 死んだ、と思った状態からの呼び出しと言えるがため、彼を化物たらしめた魔力は無い。
 かつて銀髪の男は、あるアイテムを拾ったことで200年生きた。
 ブラックボーンと呼ばれる十字の魔力。力の尽きかけたそれは、しかし男の寿命を若々しいまま伸ばし続けた。
 だが、今の彼にそれは無い。元々ブラックボーンの魔力は、この東京に来る前にちょうど尽きていたのだ。

 それゆえに死ぬところであった。
 が、今の彼は魔力無きただの人間、若者としてここに存在している。聖杯もわざわざ、元の世界で無くなりかけていた強力な魔力のアイテムまでサービスはしてくれないようだ。
 果たして今の状態を聖杯戦争によって「救われた」と言うべきか「失った」と言うべきか。
(どちらでもいいか)
 元々永き人生と戦いの果てに消える寸前の命であったためか、当人はあまり気にしてはいなかった。

 むしろ、彼に驚きの念を多少なりとも抱かせたのは、こうして廃教会の中にひとり佇んでいる中……実体化してきた己が従僕の方だ。
 そのサーヴァントに目を向け、不思議そうに銀髪の男、シルバは問いかける。
「……俺がいた場所と、同じ世界の亡霊。まさか、お前が俺のサーヴァントだとはな。オラクル・ジークフリードか」
 
 かつて。シルバのいた世界にはジークフリードと呼ばれた男が居た。
 その名はニトス・ジークフリード。

 それはジークフリードの異名を持つだけの一人の強者であり、あくまで「人」ではある。
 その来世とも言えるもの。亡霊と呼ばれる存在として「オラクル」という少女が、シルバと同じ時代に生誕していた。すなわち、オラクル・ジークフリード。
 マスターたるシルバの記憶において敵対していた、少年と見まごうような少女だったはずの姿は、成人の女性のものとなっている。
 シルバが知っているわけではないが、その容姿はオラクルの前世における幼少時の姉、つまりはニトス・ジークフリードの姉とやや似ていた。

 魂が性別すら変わり輪転した逸話が、あるいは全盛期が呼ばれるという概念が影響してか、彼女を亡霊としてなり得なかった成長した姿として呼んだのだろう。
「俺の闘気が見えるか。なるほど、サーヴァントとやらの状態は完全に英雄としてのお前を覚醒させている。今のお前なら……俺と勝負になるかもな」
 オラクルは顔を真っ青にして、シルバを見つめていた。シルバは敵対組織のテロリストの首領にサーヴァントとして召喚され、従うことに対する忌避感だと、そう汲み取った。


774 : ねじれた主従、ねじれた師弟、ねじれた時間 ◆ruUfluZk5M :2022/08/14(日) 01:32:20 caBUlkgY0
「お前からしても不服と見える。だろうな、街にとって悪党とされていた俺の従者となるのは業腹だろう……」

 違う。
 オラクルの驚愕は、そこにはなかった。

「マルコ……?」
「ッ!?」

「なぜ、お前。その名を」
 それは、かつてシルバに元々つけられていた名前。彼がブラックボーンを拾うずっと前、ただの村人の子供だった頃の名。
「生涯の情報が俯瞰して見えたんだ。英霊の座は時間軸を越えて情報をなんとかって、そんな話を……あと、お前ともつながりのラインが……俺は、そんな。人としての最後の弟子が、お前だったなんて」

 その言葉でシルバは全てを察した。
 200年前。シルバが「ただの人」であった時代。かつて名を捨てたと言っていた両目の潰れた浮浪者の男。
 トーレと言う殺人鬼の汚名を着せられ、村で処刑された男。かつてマルコと呼ばれた少年の師。
「バカな、バカな。あの時俺に武を教えた盲目のおっさんが……英雄ジークフリート。人間だった時の、生まれ変わり女の亡霊として魂がこぼれ落ちる前の、生前のお前の末路だったと言うのか!?」
「あの、一応今の俺はマジで大人のお姉さんだからおっさん呼ばわりはやめてくれない?」
 セイバーは少し涙目になっているが、体格があるせいで逆に間が抜けて見えた。

 言われてみると面影がある。ニトス・ジークフリードの。そして、切り裂きトーレだと冤罪で決めつけられた男の。
 まじまじと見つめ、シルバは、やがて笑い出した。誰にも止められない哄笑が廃教会に響く。
 この「英雄」と自分との縁は、皮肉だなんて言葉では済まされない運命を帯びていたようだ。
「なるほどな……! あんたがアイツなら話が早い。俺は俺の英詩を作る。その決意は変わらん。力による統制だ」
 その言葉にオラクルは顔をゆがめる。
「やめてくれ。俺の死がそれをもたらしたと言うのなら……俺は、俺は元々英雄になんて別になりたくなかったんだよ」

 泣き言のようにも聞こえるオラクルの言葉に、シルバは眉をひそめた。

「人だったころの家族は死んでしまった。殺されて。友も、守るべき者もいない。なあ、マルコ。今となっちゃこの世界にもう俺の身内は……弟子のお前だけだ……」
「ニトス」や「トーレ」ともまた違った「オラクル」としての幼い情緒が影響しているのか、たやすく彼女の目から涙が伝う。

「下らん感傷だ。今は女としての涙で、俺をそうやってつなぎとめるつもりか? お前はしょせん亡霊。しかもそれぞれのジークフリードの記憶を持つ総体としての影に過ぎない。継ぎはぎか」

 それは、もっともな指摘であった。
 サーヴァントになるまでもなく元々の世界ですでに、ジークフリートの魂はこじれにこじれていた。
 過去へ戻り、分かたれ、暴走し……人の心は亡霊として記憶を失い、別人格として性別も変わって生まれた。
 それらの記録をいっぺんに情報として得たセイバーは、まぎれもなく元の世界のジークフリードとしての知識や人格しか持っていないにも関わらず、それまでの誰とも違う存在とも言えるものへとなっている。

 それは、戦場を駆けぬけ続け、ジークフリードの異名を持つようになったひとりの男の物語。

 未来の世界に召喚された英雄として現代で戦った自分(ニトス)。そしてそこから1200年前の過去へと戻り1000年の戦いで名を失い、別人としてのレッテルを貼られ死んだ自分(トーレ)。
 死した後に、人としての心、その魂が生まれ変わり少女としてさまよっていた自分(オラクル)。
 魔の心の方が独立し、過去の自分(ニトス)と戦った自分(ヴァジュラ)。


775 : ねじれた主従、ねじれた師弟、ねじれた時間 ◆ruUfluZk5M :2022/08/14(日) 01:34:23 caBUlkgY0
 同一人物でありながら異なる自分の記憶が、全て明確に引き出せる。

 それはもう、それまでのどのジークフリードとも別物なのではないだろうか?
 マスターから暗に指摘されたセイバーとしてのオラクルは、わずかに震えて自身の現状に動揺した。
 女性としてのオラクルが主体なのは、おそらく人としての魂の最後の姿が少女の状態での死だったからに過ぎないのだろう。

 1200年の混沌。時間も性別も存在もめちゃくちゃなすべてのジークフリードの生涯の記憶をしっかりと持って召喚されてしまったこの側面。
 自分はいったい何者なのだろう?

 シルバは、その姿を冷ややかに見つめる。自身はその殆どと面識があるからこそ、詰め込まれたこの女の形をした「ジークフリード」の異常性がよく見えた。
 あるいは、己がそれほど縁深いからこそそのようなイレギュラーな呼ばれ方をしたのかもしれない。
 だが、今となっては自分の道に立ちはだかる邪魔者でしかないのも事実だ。

「俺はあんたとは違う。己を貫くことを辞めたあんたとはな。圧倒的な力を見せつけなければ英雄と言うものはただ排除されるだけの異物でしかない。それを知ったのさ。だからこそ、俺は俺のために生きると決めた」
「だと、しても。今のお前も、聖杯に呼ばれたオモチャみたいなもんだろ? ブラックボーンの力も無くして。ただの人として駆り出された。ある意味では俺に近いぞ」
「……それでも好都合だ。魔力こそ無くなったが、200年の研鑽は俺の内にある。寿命が尽きかけていたあの時よりは、よほど使えるというものだ」
「このトウキョウでまたあの時のような暴虐に身を染めるのか!? そんなことは……」

 オラクルの言葉が止まる。

「そんなことは、なんだ? 力で俺を止めるとでも? それもよし。継ぎはぎと言えど1000年を駆けた経験を宿したあんたと戦えるのなら……ジークフリードと戦えるのならば、文句は無い」

 男の周囲から闘志が噴出する。威圧感が増大していく。

(そうだ、忘れていたのか……もうあの時の少年とは違う。相手はあの、十字八剣を統べる男。銀色の二丁拳銃、ダブルガンズ・オブ・シルバ!)
 その名の由来である腰に下げた拳銃こそが脅威……ではない。そんなチャチな攻撃ならジークフリードならば神秘を抜きにしても叩き落とせる。
 真の恐ろしさはシルバ自身の持つ闘気。その不可視の広範囲連撃は、二丁拳銃で一方的に撃ち殺されるかのような殺戮をもたらす。強者以外には知覚すらできない。

 シルバの筋肉が隆起する。

「光の剣閃を使わずして……俺に勝てると思っているのか? 英雄……!!!」
(なんだ、この、闘争心……こんなのはサラドにも、冥王会にも……魔の「俺」すら……かつての黒き風のヴァジュラにすら感じたことのない、純粋な闘志……!)

 魔力や苦痛、人ならざる力が勝手に暴走させる憎悪や闘争心ではない。もっと純粋なエゴイズム。
 200年。半端に寿命だけが伸びた状態で、研磨を続け。
 男は気付けば生のままに。戦に全てをかける魔人となっていた。

 そう短くない距離を一瞬で詰め、突きがオラクルの腹をとらえた。咄嗟に掌で受けるが、指がきしみ折れそうな感触に、オラクルはぞくりとした。


776 : ねじれた主従、ねじれた師弟、ねじれた時間 ◆ruUfluZk5M :2022/08/14(日) 01:36:17 caBUlkgY0
 もはやその拳は単純な己が業、研鑽のみで神秘を帯びている。
 英霊となったオラクル・ジークフリードと言えど、戦闘集団十字八剣の長、シルバの闘気を防ぐアドバンテージは、無い。

(人としての側面しか持たず、宝具にブラックボーンが存在しない俺。聖杯戦争に無理やり呼ばれブラックボーンを持たないマルコ。条件は互角だが……どういうことかただの人間として居ることで、逆にあいつは寿命寸前という限界が無くなっている……!)

 本来それは、弱体化の証のはずだ。
 残骸とは言えブラックボーンの魔力による強化を持たず、ただの人間として存在をリセットされて呼ばれた今のシルバは弱体化しているはずである。
 ブラックボーンと言う、人ならざる魔力の凶器を与えるアイテムの欠落。
 その真なる魔王の力による魔王の心、黒き風のヴァジュラとなれない「人の側」の集積である今の自身のように。

 しかし今のオラクル・ジークフリードは英霊。
 戦場を単騎で駆け、マインゴーシュだけで切り刻んでいった英雄。その逸話と生きざまからか、今のセイバーの敏捷はA++を体現している。
 
 オラクル自身がかつて言ったように英雄ジークフリード、その強みは脚力。それはつまりサーヴァントとして象徴と化した速力だ。
 これは単純にスペックやステータスとして速度に優れているというだけでは終わらない「強さ」が概念のレベルとして発現している、と言えるだろう。

 なのに……この男は、完全な生身でありながら体技のみで互角以上にまで戦い抜いている。

 確かにはるか昔、ニトスとして死力を賭して彼と戦った「記憶」はある。
(だが、ここまで化物だったか!?)
 ぶつけられる闘気を、引き抜いたマインゴーシュでなんとか弾きとばしつつも接近戦で振るうが、紙一重で避けられる。

 オラクルは知らない。
 それこそ、シルバがニトス(かつての自分)に負けたのは彼自身の末路、トーレと呼ばれた死の過去によってシルバが揺らいだからだということを。
 精神的な隙が無ければ、彼は寿命が尽き死にかけた状態ですら英雄をもその手で討っていたであろう真正の魔人であることを。

 だが。
 ジークフリードもまた「鬼人」と呼ばれた人の異端である。
 1000年を駆けた記憶が……人ならざる怪物たちを殺し続けた業が、今の総体としての彼女を、さらなる鬼人へと変貌させていた。

 殺気が。
 シルバの闘気にも劣らぬ殺気が、鬼人の眼光に宿る。
 拳が、闘気を突き抜けて突き刺さる。

 上半身を抉るようなその一撃に対し、咄嗟にスウェーで威力を殺すが、それでも無傷にはできず軽い苦痛にシルバの顔色が歪む。だがそれは苛立ちではなく、むしろ愉しいとでも言いたげな歪み方だった。
「誰が、お前に戦いを教えたと思っている?」
 そう言い放ったオラクルの言葉に、シルバは笑みを深める。
「良い拳だ。万の言葉よりよほど効く……やはり、俺が死力を尽くすに足る宿敵は、あんたしか居ないのかもな……!」
 鬼人と魔人が、戦う。並大抵の戦士では間に立つどころか知覚も思考も困難な瞬間に、攻防が繰り広げられる。

 互いの跳躍と疾走は廃教会の壁や天井を床同然の足場へと変える。
 何度かの縦横無尽と交錯の後、ある瞬間。オラクルが手を掲げると、無明無音の衝撃がシルバに突き抜けた。

「真空波……か。だが」
 
 鏡面絶殺。あるいは反面絶殺。
 受けた攻撃を叩き返しノックダウン寸前にまで追い込むシルバの技。
 軽くはないダメージに、オラクルは思わずよろめく。

 オラクル・ジークフリードの目は、それでもダブルガンズ・オブ・シルバを見据えていた。シルバとて、一切の攻防で無傷というわけではない。

 オラクルの澄んだ緑色のまなざしと、目が合う。
(そんな目を……していたんだな)

 見返すシルバは思わず、
「なあ。あの時」
 なぜあんたは諦めて死んじまったんだ。そう言いそうになって、シルバは口をつぐんだ。
 感傷に流されたようで。


777 : ねじれた主従、ねじれた師弟、ねじれた時間 ◆ruUfluZk5M :2022/08/14(日) 01:38:30 caBUlkgY0
 まだ、目の前のジークフリードの前世の終わり、死の瞬間を、心のどこかで引きずっていると認めるようで。

 しばらくして、マスターは拳をひっこめた。
 サーヴァントは、困惑する。
「やめだ。良い戦いだが……まだ記憶やその存在に慣れてないんだろう。見ればわかる。冷静なつもりなんだろうが思考がグチャグチャだぞ、あんた」

 女性的な側面を見せたかと思えばシルバの師としての部分を見せる。
 かと思えば鬼人と呼称されたほどの膂力と殺気を放ってみせる。

 ジークフリードとしての1200年の時空を超えた変遷をいっぺんに詰め込まれた人格的混乱。その経緯に縁浅からぬシルバからするとまだ彼女は本調子ではない、ということが理解できたのである。

「決着をつけるのならこの聖杯戦争の終わりにでも戦える。今は俺が俺自身の力を証明できればいい。あんたも戦ってもらうぞ」

「……人をむやみに傷つけることはしねえからな」
「そこは期待してない。無理強いしたところでというのもあるしな。だが、戦わざるを得ない危険人物くらい腐るほど居るだろうよ、俺のようにな。それに、いざとなればこいつもある」
 腕についた赤い紋章をかざす。ブラックボーン発動時のそれに形状が似ているが、違う。それは絶対命令権としての令呪だ。
「くそっ、師匠を無理やり命令してこき使うやつがあるか。でもまあ平和のためなら頑張る。だって女の子だもん!」
「しかし動いて腹が減ったな……」

「おいスルーはよせスルーは。せめて台詞につっこんでくれ。悲しくなってくる」
「とっとと行くぞセイバー。サーヴァントでも見つかれば喧嘩のひとつも売れるかもしれんからな」
「……おい、待てよマルコ!」

「お前本当にさ、昔から人の話聞かないんだからよ!」
 他のサーヴァントと会う前にそれなりに疲弊しているような困った事態だが、オラクルはそれでも笑った。
 誰だかわからない存在へとなってしまった自分でも、ほんの少しだけ昔に戻れた気がしたから。


778 : ねじれた主従、ねじれた師弟、ねじれた時間 ◆ruUfluZk5M :2022/08/14(日) 01:40:11 caBUlkgY0
【クラス】
セイバー
【真名】
 オラクル・ジークフリード@B.B.ライダー
【パラメータ】
筋力B+ 耐久C 敏捷A++ 魔力E 幸運E 宝具EX
【クラス別スキル】
対魔力:C
 魔術に対する抵抗力。魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
 大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:D
 近代的なバイクなどを初見で乗りこなす運転能力。
【保有スキル】
 真空波:B
 相手を間接的に吹き飛ばす衝撃。単純物理攻撃に対する反射などを無視することができる。

【宝具】
『光の剣閃(シュマーリ・ゴールド)』
 ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:3 最大補足:1
 輝けぬ金色。刃物を使って次元の隙間を切り開くことにより、人から巨大な構造物、魔に至るまで森羅万象を殺す光の剣閃を生み出す。
 これに対処するには単純に回避するか同質同量のものをぶつけて相殺するしかない。

【人物背景】
 1200年前の世界で戦っていた英雄ニトス・ジークフリード。現代に召喚された彼は、自身の数々の因縁と決着を付けて1200年前の世界へと帰っていった。
 その後、1000年間戦い抜いた彼は処刑され、やがてその身に宿した強大な魔王の力は暴走し「ヴァジュラ」と呼ばれる存在となった。
 その力のうち人の魂は「亡霊」として現代で身寄りのない少女、オラクル・ジークフリードとして現代に生まれ変わる。
 なお、現代に来たニトス、つまりかつての自分自身ともお互い知らずに出会っていた。
【サーヴァントとしての願い】
 もう誰も失いたくない。


【マスター】
 ダブルガンズ・オブ・シルバ@B.B.ライダー
【マスターとしての願い】
 力で英雄として名を刻む
【能力・技能】
 200年の研鑽による格闘・戦闘技術。
 短刀一本で瞬時に数百の敵を切り刻む相手と同等の反応、空中戦を行う身体能力。
 あふれだす闘争心が具現化した闘気により、周囲の人間を同時に昏倒させうる遠隔攻撃を使う。自分より劣った物理攻撃をシャットアウトし、近しい領域の相手でさえなければその闘気は知覚すらできない。
 また自身より実力が上の相手でさえその意志力だけで圧倒、戦慄させる異常な闘志を持つ。
【人物背景】
 テロ組織「十字八剣」のリーダー。常に飄々とした男。
 幼少時はマルコという名前でごく普通の少年だった。彼は村はずれの教会に住み着いた浮浪者の男性に師事し武術を習い始める。
 だが、その浮浪者は殺人鬼の汚名を着せられ処刑されてしまう。村と人間に見切りをつけたマルコは姿をくらまし、10数年後に自身の価値観からけじめとして村の人間を皆殺しにする。
 村の跡地で彼はBB(ブラックボーン)と呼ばれる魔力の無くなりかけたあるアイテムを拾い、わずかな魔力によって人間のまま半端な不老状態となり、200年の間、成長途上の肉体で戦闘力が増し続ける体質となった。
 やがて彼は力による統制と、それによる英詩を掲げることを望み、銀色の2丁拳銃(ダブルガンズ・オブ・シルバ)の名で破壊と戦いに身を置くこととなる。
【方針】
 俺自身の力で全てを叩き潰す。セイバーは……


779 : ◆ruUfluZk5M :2022/08/14(日) 01:40:37 caBUlkgY0
投下終了です。


780 : ◆jZ3DTmgo2M :2022/08/14(日) 12:19:21 SHnrHEQY0
投下します


781 : 八虐と逆罰 ◆jZ3DTmgo2M :2022/08/14(日) 12:21:43 SHnrHEQY0
東京都渋谷のとある廃墟。
そこに自分が召喚されて状況を確認しようとした真人は一瞬マスターの存在に気が付かなかった。

周りを見渡してあったのは何かの塊、それが人型の形をしてるのに気付き、そのまますぐ魂の形を確認してこれが自分のマスターであることを理解した。
そして同時に真人はそのマスターに関心を示した、驚きもあったと思われる。

それは人の形をしていたが、あくまで辛うじてということである。
その見た目は彼が改造した人間とほぼ似た姿であった。
これが今も魂を持って生きているというのだから驚きである。

とはいえこのままでは自分のマスターは死んでしまい、何かする前に自分も消えてしまう。
そう思った真人はそのマスターの元に近づき、自身の術式──無為転変で一度健常の状態にしようとして。

血眼となった目で真人を睨みつけ血反吐を撒き散らしながら、真人の腕を枯れきった手が掴みそれを静止させた。
それに対して真人も少なからず不意をつかれた様子だったが、無理もない。

死にかけていた、もうすぐ死ぬところだった。
そもそも生きてるのも不思議な存在であった。
そんなものが明確に拒絶の意志を示してくるとは思わなかったのだ。
そして今にも消えかけた魂が沸き立ち、呪詛が溢れ出す。

「いったい、誰の許しを得て、触れようとする……この、塵がァ!」

声そのものは僅かに搾り出されたもの、声の大きさなど微かなものにすぎない。
だがそこに宿っていた憎悪、怨念、羨望はその声から想像できないほど遥かに大きなものだった。
まるで真人だけでなく世界全てに向けているかのように。

「へえ…」

そんな男に彼はそれに興味を惹かれた。
様々な人間を見てきたが、これは今までにはないサンプルだと。
タイプそのものはそれほど珍しいものではない、病いに犯された人間ならばそういうものなのだろうと思っている。
事実、真人は先天的に病に犯された存在を一人知っている。
その時は特に思うところがなく、倒すべき敵として排除しただけだが。


782 : 八虐と逆罰 ◆jZ3DTmgo2M :2022/08/14(日) 12:22:49 SHnrHEQY0

彼が興味を惹かれたのはその常軌を逸した生への執念。
そしてその普遍的なものから成り立つ魂が人として異形と言っても過言ではなくなっている。
もはや人の魂ではない思えるほどに歪みきっていた。
これ自体が世界が生み出した一つの呪いと言ってもいいほどに。

正直なところ、真人はマスターという存在に対して面倒なものとしか思っていない。
自由に振る舞いたい自分に否応なく枷となるものだからだ。
聖杯戦争自体はともかく自分の願いを叶えるまでの過程で束縛されなければならないのはサーヴァントというものに不便さを感じている。
それは今も変わらないが、どうせなら面白いサンプルをマスターとしていた方が幾分かは気も紛れるだろうと思っていた。
そして生前自分は最後に良いように使われた、ならばここで人間に対する意趣返しとして次は自分が良いように使ってやろうと思いついたのだ。

「マスターなら聖杯戦争のルールくらい知ってるだろ? 俺はアンタのサーヴァントで、今アンタに死なれたら困るんだよ。だからアンタは黙って俺の処置を受ければいい」

「そう、か…。貴様が、俺に…献上された、道具…というわけか。いいだろう、ならば…さっさと、この俺を治せェ…!」

そして自分の生殺与奪を握る相手であろうと媚びずに唯我独尊を貫く聖十郎。
彼にとって自分以外の存在は自分に使われる存在でしかないと思っている。
ゆえに懇願ではなく命令、従って当然だろうという考え。
それが逆十字と呼ばれた男の他に対する価値観であった。

そんな目の前のマスターに呆れつつも嘲笑いながら真人は彼の魂に触れる。
酷く歪んだ彼の魂を健常な形へと変えていく。

そうして互いに見下しながら二人は主従の契約を結んだのだった。


783 : 八虐と逆罰 ◆jZ3DTmgo2M :2022/08/14(日) 12:24:05 SHnrHEQY0

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「手を抜いたな貴様?」

「あれだけ反抗的な態度取られると俺も気が滅入ったからね、もう少し殊勝な態度だったら違ったかもしれないけど」

真人が聖十郎に処置を施してすぐ後、聖十郎は完全に復調していないことを問い詰めたが、悪びれる様子もなく真人はそう言い放つ。
二人の間には信頼なんてものは存在しない、あるのはただの利害の一致である。

「最低限動けるくらいにはなっただろ? それに呪力を使えるようにはしたんだから、そこは感謝して欲しいね」

「…………」

「どうする? 今すぐ自害させるかい?」

「忌々しいが確かに貴様の能力は有用だ、無駄に捨てるつもりはない。業腹ではあるがサーヴァントとして使ってやろう」

どうせ出来ないことを知りながら挑発的な態度を取る真人を見ながら、聖十郎は顔をしかめつつも今はその気がないと告げる。
その答えを聞いて呆れながら肩をすくめる、こんな状態で主従契約というのだからお笑い種である。

「まあどうせ俺たちに信頼関係なんてものはないから、これぐらいがちょうどいいか」

そう言って真人は霊体化しその場を去って行く。
どこへ行くつもりかと聞こうとした聖十郎は遠目から人が近づいているのを見て、材料の確保に動いたのだと察し、離れている間に新たに手に入れた力に対する分析を始めていた。

(呪術か、盧生までの繋ぎとしては悪くない。最低限の知識は奴から聞き出したが、奴が語っていない使い道もあるだろうな。だが構わん、奴を観察しつつ呪力の性質を観察すればいいだけだ)

そう思考し、聖十郎は廃墟ビルの屋上から街を見渡した。
彼の術式の都合上、どこか人が集まる場所へ赴き、大量に人間を回収することで戦力を大幅に増やすことができる。
もっともいきなりそんな大掛かりなことを仕出かせば他の陣営にすぐ感知されるだろうが。

聖十郎は敵を恐れることはほぼないが、だからといって会う敵全てと律儀に戦うような効率の悪さも好まない。
聖杯を手に入れることは必定、肝心なのはどのように動けば効率よく事が進められるかどうか。
そうして少しだけ手に入れた時のことへと思考を巡らす。
自身のサーヴァントであるあの英霊、最終的には奴を排除しなければならない。
奴の術式を奪うとなれば先に逆サ磔を取り戻さなければならないが、もしかすれば呪術の力でそれを為せる可能性もあるかもしれない。
どちらにせよ手段はその状況において変わるだろうが、やるべきことは変わらないと聖十郎は結論づける。


784 : 八虐と逆罰 ◆jZ3DTmgo2M :2022/08/14(日) 12:26:07 SHnrHEQY0
人への恐れから生まれた呪霊。
ならば愛も情も分かり、人の性を余さず理解してると豪語するこの男にとってそれは己の枠に収まるものであると定義づける。
ならば逆十字に負ける通りなどない。
今までと同じように障害となる全てを排除し手に入れるだけである。

「精々高を括っていろ、貴様もまた俺のために生きている。ああ、そうだ───」

いつものように彼は宣言する。
彼にとってアレもまた一つの輝きであるならば。

「俺はお前が羨ましい」

彼が羨むのは必然であった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「柊の術式は病か」

一方人の気配を感じてその魂を確保しに来た真人はこの付近をたまり場にしていた半グレたちをコンパクトサイズの異形に変えながら聖十郎の魂に触れて読み取った彼の力に関して思案していた。

「すぐに教えてやってもいいんだけどアイツがどう悪用するのか分からない以上、まだ明かさない方がいいかな」

聖十郎に治療を施しつつ呪力を使用できるようにした真人は彼に呪術師としての最低限の知識を与えた。
本来であれば術式についても教えるつもりだったが、呪力の扱い方を実演で一度見せただけで彼は少しの時間でそれに適応してみせた、その飲み込みの早さを真人は脅威に感じた。
聖杯戦争という短期間での戦いならば制御できる範囲までしか成長しないだろうと高を括っていたが、理論だけでもあの男に授ければ厄介になると考えたのだ。

「それでも簡単に死なれちゃ困るしな、頃合いを見ながら小出ししていくしかなさそうだな」

現状決して良い関係とは言えないが、利害の一致として行動するには双方都合がいい状態である。
単にマスターを乗り換えるとしてもつまらない相手は勘弁したいところだった。

「それに柊がどんな存在になっていくかは興味がある。もしかしたら呪霊に転じさせたりできるかもしれないし、それはそれで面白そうだ」

術師に止めを刺す時、呪力によって殺害されなければ呪いへと転じる。
この世界でそれが適応されるかは不明だが、狙っても損はないだろうと真人は考えていた。
世界すべてを呪うような男の呪霊がどれほどのものになるのか、興味がないといえば嘘になる。
そんなことを考えるつつ、その場にいた人間を回収した真人は聖十郎の元へと戻っていく。

「難しいとこだね、気に入らない奴だけどただ捨てるにはもったいない」

聖杯を手に入れるまでの足掛けとして利用しつつ見世物として面白い存在として今のところ不満はない。
最終的に決裂しようとも最後まで付き合える存在ならマスターとして悪くないと結論づけた。

「どうせ最後は始末するんだ、せっかくだし遊んでおこう。滅多に会えるサンプルじゃないしね」

そうして最悪の呪霊は今後の展望とともにこれからの楽しみへと思いを馳せていった。


785 : 八虐と逆罰 ◆jZ3DTmgo2M :2022/08/14(日) 12:27:09 SHnrHEQY0
【クラス】
キャスター

【真名】
真人@呪術廻戦

【属性】
混沌・中庸

【パラメータ】
通常時   筋力:D+ 耐久:D+ 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:B 宝具:EX
遍殺即霊体 筋力:A 耐久:A 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:B 宝具:EX

【クラススキル】
陣地作成:D
呪霊として、自らに有利な陣地を作り上げる。
帳と呼ばれる ”結界”の形成が可能。

道具作成(人間):A+
宝具により魂を弄り、人間を武器や駒としての道具へと作り替えることが可能。

【固有スキル】
自己改造:EX
自身の肉体にまったく別の肉体を付属・融合させる適性だが、キャスターは別の肉体を付属・融合するのではなく自身の肉体を別の肉体へと改造することができる。
これによりある程度までなら筋力、耐久、敏捷のパラメーターを変化させることが可能。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。

仕切り直し:B+
窮地から離脱する能力、不利な状況から脱出する方法を瞬時に思い付くことができる。
加えて逃走に専念する場合、相手の追跡判定にペナルティを与える。
さらに宝具の使用により逃走できる確率を上げることができる。

直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

【宝具】
『無為転変』
ランク:EX 種別:対魂宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
相手の魂に触れ、魂の形状を操作することで対象の肉体を形状と質量を無視して思うがままに変形・改造する術式。
手のひらに直接触れられなければ効果はないが、魂を守れなければそのまま改造され、改造された者は二度と元に戻れず遅かれ早かれ死ぬ。
キャスター自身に対して使うとノーリスクで自身の肉体を自在に変形させられるため、肉体の武器化や身体能力の強化が容易に可能。
また即死させずに対象に少しの強化や肉体回復をさせることも可能である。
応用性が高く、改造人間の生成にトカゲの尻尾切りの要領で自切したり、宝具を使用できない分身を生み出すこともできる。
そしてこの宝具による攻撃は魂に直接作用するものであるため、肉体の不死性は意味をなさない。

ただし生前であれば魂を知覚しなければキャスターにはダメージを与えられなかったが、サーヴァントはその基本が出来ているため、生前ほど無敵とはならない。
魂の防御もサーヴァントでは難しくないため、仕留めるにはそれなりの時間触れる必要が出てくると思われる。

『自閉円頓裹』
ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:結界内全て
キャスターの領域展開、風景は縦横無尽に人間の腕が伸び格子のように相手を囲む漆黒の空間を展開する。
「無為転変」を必中化する領域で、対抗手段を持たないものが引き込まれてしまうと、なすすべもなく餌食になる。
ただし領域展開の使用後はかなりの消耗を強いられ、わずかの間だが『無為転変』 が使用不可となる。

『遍殺即霊体』
ランク:A 種別:改造宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
複数回の黒閃発動を経て掴んだ「自身の本当の魂の本質」を具現化するべく、無為転変で自身を改造したことで変貌したキャスターの真の姿。
これまでの姿を脱ぎ捨てて「魂の羽化を果たした姿」とも言える新たな形態。
パラメーターを肉弾戦用へと変化させるが、魔力消費が大きい。
この形態ではこれまでとは正反対に、トリッキーな肉体変形に依存しない肉弾戦を駆使する。
攻撃手段は主に格闘戦に加えて肘の動きに合わせた棘による斬撃や尾による打撃で、マフラーのような触手で敵の四肢を絡め取り動きを縛る小技も扱う。
この形態時はブレード部分以外の変形は不可能となる。
この形態でも『無為転変』は使用可能。


786 : 八虐と逆罰 ◆jZ3DTmgo2M :2022/08/14(日) 12:29:20 SHnrHEQY0
【weapon】
『改造人間』
無為転変で魂を改造され怪物化・奇形化させられて操られる犠牲者の総称。或いはキャスターに即死させて貰えなかった人間の末路。
犠牲者は脳髄を弄られている関係上ほとんど自我を失い人々に襲い掛かり、コンクリートの地面を素手で叩き割り、
民間人程度なら食い殺すなどして容易く殺傷できる程に身体能力が高められているが、僅かに残った自我を使い助けや死による救いを求める傾向にある。
戦闘では意のままに動かせる戦闘員、奇形を利用した醜悪な武器や飛び道具、動く足場などとして運用。
「武器」や「手駒」となる人間が多くいる市街地はキャスターにとっては武器庫に等しい。
またサーヴァントとして召喚されたことで魂喰いを行えるため、魔力不足の時に収縮した人間を取り込むという非常食としての役割も果たしている。

「多重魂」「撥体」
多重魂は二つ以上の魂を融合させる技で、撥体は「多重魂」により生じた魂の拒絶反応を利用して魂の質量を爆発的に増大させ、攻撃として利用する技。
消費する改造人間の数に比例して攻撃範囲と攻撃力が増していき、通常の改造人間を消費した攻撃よりも更に広範囲の攻撃ができる。

「幾魂異性体」
拒絶反応の微弱な魂同士を合成した改造人間、その魂を燃料に、爆発的な攻撃力を一瞬だけ実現する。
その攻撃力はかなり強力だが、攻撃力以外は大したことはない。

【人物背景】
自らを「人が人を憎み恐れた腹から生まれた呪い」と称しており、実態は「人が人へ向ける負の感情」から生まれた呪霊。
髪が長く、身体中継ぎ接ぎだらけの青年のような姿をしている。
軽薄な性格で、発生したばかりの呪霊ゆえに無邪気で子供っぽく好奇心旺盛。
表面上は人間にも優しく接するが、本性は呪霊らしく冷酷非情で人間を見下しており、逆に同族である呪霊には、心から親しみを持って家族や親友の様に接する。

基本的には改造人間や変幻自在の肉体を駆使して距離を取りながら敵を翻弄しつつ戦う極めてトリッキーな戦術を駆使。
更に大量の一般人の命を使い捨ての消耗品として使い潰していく残酷で悪趣味極まりない戦法が特徴。
また悪意に満ちた言動と嘲笑、改造人間で敵の心を揺さぶりペースを乱すことも得意。

【聖杯への願い】
受肉して呪霊の世界を築くのが第一目的
虎杖と羂索に復讐するのが第二目的
それはそれとして聖杯戦争では好き勝手に暴れる

【備考】
マスターがいなければ現界できないため、死なれては困るから面倒と思ってると同時にあまりないタイプの人間で見物するサンプルと興味を持っている。


787 : 八虐と逆罰 ◆jZ3DTmgo2M :2022/08/14(日) 12:32:12 SHnrHEQY0
【マスター】
柊聖十郎@相州戦神館學園 八命陣

【聖杯への願い】
聖杯を得て、盧生の資格を手に入れる

【weapon】
なし

【能力・技能】
文化人類学全般の分野で名を馳せる天才であり、語学も二十ヵ国以上の言葉を話せるほどの知識と失敗に終わった邯鄲法を研究し、一人で実現一歩手前まで研究を進めるほどの頭脳を持つ。
さらに相手の技術、戦法、体術を見切り、それに対応するどころか「覚える」事で自分の技術として使用できるようになるほどの戦闘センスの持ち主。

盧生との繋がりはないため、邯鄲法は使用できないが、キャスターの宝具により呪力を使用できる状態となっている。
術式は病とされているが、現時点では使用不可。
今後の成長次第では手足に病魔の概念を纏わせたり、本来の技である逆サ磔のような力の略奪が可能になるかもしれない。

【人物背景】
隙のない凍結した鋼のような気配を纏い、顔立ちこそ整っているが非人間的なほどその印象は温かみを感じない。
酷薄、冷厳、威圧的な容姿ながら、幽鬼のような不確かな存在感を滲ませる「ただそこにいるだけで、すべてを不安にさせる人間」
氷の計算機めいた極めて冷徹な精神を有し、遊びがないため過虐はないが、同時に情けもないため容赦もない。
息子である四四八に対しても欠片ほどの愛情も示さず、彼を含め全ての他者を自分のための道具としてしか見做していない。
超人的な肉体と、極めて優秀な頭脳を持つものの、その精神性と行いは鬼畜・外道の類であり、真っ当な人間からはかけ離れている。

実は数多の病魔を発症し続け生涯一度たりとも健常であれた事のない特異体質な肉体の持ち主。
並の人間ならすぐに死んでいるが、彼は超人的な身体能力と、皮肉にも”病に屈しない強烈な自我”を持って生まれた為、数十年の間耐え続けている。

【方針】
聖杯への願いが第一でそれ以外のものは全て自分のための道具と考えている。
サーヴァントに対しても同じでかなり役に立つ道具としか見ていない。

【備考】
本来は数多の病魔を発症し続け生涯一度たりとも健常であれた事のない特異体質な肉体だったが、自身のサーヴァントにより半端に治癒されている。
なお聖十郎は邯鄲法を取り戻した暁には逆サ磔にかけてやろうと思っている。


788 : ◆jZ3DTmgo2M :2022/08/14(日) 12:32:46 SHnrHEQY0
投下終了です


789 : ◆A3H952TnBk :2022/08/14(日) 22:10:23 69GK1GPw0
投下します。


790 : ドブ&アーチャー ◆A3H952TnBk :2022/08/14(日) 22:11:23 69GK1GPw0
◆◇◆◇



『ブロンディーーーーーッ!!!』

『てめえは善玉なんかじゃねえええ!!!』

『薄汚え大悪党だ!!!このくたばり損ない野郎!!!』

『てめえなんか、犬に喰われちまえーーーーーーッ!!!!』



◆◇◆◇


791 : ドブ&アーチャー ◆A3H952TnBk :2022/08/14(日) 22:11:57 69GK1GPw0
◆◇◆◇



かち、かち、かち、かち――――。


“あの時”のクリスマスのように。
肌寒い冬の日だった。


かち、かち、かち、かち――――。


時計の短針が動く。
肌寒い空気の中で。
物言わぬ静寂の中で。
淡々と音が響く。
黙々と時が進む。


かち、かち、かち、かち――――。


足元がぐらつく。
不安定な台座の上に、ぽつんと佇む。
足場と呼ぶには小さく、そして狭苦しく。
一歩踏み外せば、すぐに崩れ落ちるだろう。


かち、かち、かち、かち――――。


一回り高くなった目線で、周囲を見渡す。
此処は、廃ビル内に拵えた隠れ家。
薄暗い明かりに照らされた、殺風景な部屋。
ソファや時計など、申し訳程度の雑貨だけが用意されている。
ただ隠れ潜むために用意された、なけなしのスペースであり。


かち、かち、かち、かち――――。


そんな空間の中心。
彼は、小さな椅子の上で直立していた。


かち、かち、かち、かち――――。


延々と続く首筋の感触に、眉を顰める。
纏わりつく麻の束が、彼の首を捉えて離さない。
天井からだらりと垂れ落ちた“それ”が、椅子の上に立つ男の頚部に巻きつけられている。
そして両腕もまた、後ろ手で縛り付けられて動かすことができない。


かち、かち、かち、かち――――。


縄だ。
男の首が、縄で縛られている。
椅子の上。不安定な足場。
一歩踏み外せば、すぐにでも崩れ落ちる状態であり。
まるで“絞首”を目前に控えた死刑囚のように、彼はそこに佇んでいた。

彼は、犯罪者である。
彼は、ヤクザだった。
通称“ドブ”。本名、溝口恭平。
暴行、恐喝、詐欺、窃盗―――。
数々の悪行を繰り返してきた、札付きの悪党だ。


792 : ドブ&アーチャー ◆A3H952TnBk :2022/08/14(日) 22:12:25 69GK1GPw0

首に縄を掛け、台座に立ち。
時計の針が刻々と進む音ばかりが響き渡る。
数秒の刹那が、永遠を巡るかのように。
彼を取り巻く時間は、停滞し続ける。

彼は何故このようなことをしているのか。
己の罪に対する懺悔に走ったのか。
己の罪に恐れを抱き、自暴自棄になってしまったのか。
己の罪に耐えきれず、償いをしようとしたのか。

いずれも違う。彼に限ってそんなことは有り得ない。
ドブは、根っからのワルとして何年も生きてきた。
暴力と打算次第で白も黒になる稼業だ。
踏み越えてきた一線は数知れず。
悪事に対する良心の呵責など、今更ありやしない。
だから自死を選ぶような罪悪感など持ち合わせる筈がないし、ましてや己の罪を悲観するような人間でもない。


かち、かち、かち、かち――――。


にも関わらず。
時計の針が動き続ける中で。
彼は、絞首を目前に控えていた。


「なあ、アーチャー」


そして、ようやく。
ドブは、不服な表情を浮かべながら。
ゆっくりと、その口を開いた。


「悪かった。謝るよ」


沈黙に耐えきれなかったかのように。
あるいは、こんなところで死ぬ訳にはいかないと訴えるように。
視界の端にいる“相手”に、謝罪をする。


「俺も調子に乗ったのは間違いねえ」


ここまでされる謂れはないだろ、という言葉を押し殺し。
その気になれば幾らでも不満を垂れ流せる口を抑えて。
逆鱗に触れてしまった“相手”へと、心にもない詫びを行う。


「だから、だ」


一呼吸を置き。
縛られた首を傾けて、視線を動かし。
“相手”の目を、真っ直ぐに見据える。


「この縄を外してくれ。今すぐに」
「やなこった」


即答だった。
心底ふてぶてしい一声が返ってきた。


793 : ドブ&アーチャー ◆A3H952TnBk :2022/08/14(日) 22:13:35 69GK1GPw0

アーチャーは、何をしているのか。
何処かから引っ張り出したソファにどっしりと腰掛けて、踏ん反り返っていた。
髭面の浅黒い面構え。まるで山賊のように小汚い服装で、申し訳程度の“お洒落”で赤いマフラーを巻いてる。
どうせまた勝手に拾ってきたんだろう―――そのマフラーを見て、ドブは内心毒づく。

どこで掻っ攫ったのかも分からないフライドチキンを、行儀悪く左手でクチャクチャと喰い漁り。
ドブの無様な姿を見物しては、何度もケタケタと笑ってツバを飛ばす。
それでいて右手にはしっかりと、黒光りする拳銃が抜け目なく握られてる。


「てめえは―――」


ぎょろっと睨みつけるように、アーチャーがガンを飛ばす。


「俺の女にちょっかい掛けやがった。
裏切りは罪だぜ。ブロンディーも卑怯な野郎だった」


粗野な顔を怒りに歪めつつ。
銃身を向けながら、ドブへと吐き捨てる。


「待て待て、元はと言えば俺の知り合いだったコだろ?キャバ嬢の」
「知るかドブ野郎。寝取ったてめえが悪いんだ!」
「寝取ってねえっての。俺との付き合いが先なの」


こりゃ理不尽だろ―――ドブはそんな言葉を押し込める。
アーチャーは妙な英霊だ。
死人とは思えぬほど、食も女も金も気ままに楽しむ。
良くも悪くも生気に溢れている。
日頃から霊体化せずに活動することもザラである―――無論、抜け目ない警戒を行いつつスキルの恩恵を受けた上での行動らしいが。

彼は自らの欲望に正直である。
故に、ドブのシノギに付き合うことも度々あった。
アーチャーは悪党だ。ならず者だ。
ドブの犯罪に対してあれこれ口出しはしないし、寧ろ積極的に協力して“おこぼれ”を貰う立場にあった。
無法の荒野。社会の裏街道。アーチャーにとってはどちらも似たようなものである。


「あのコ、元々俺と親しかったんだよ。分かるだろ」
「俺と寝たのも事実だぜ、この薄らトンカチめ」
「いや、サーヴァントだろお前?何で女と寝る必要があるんだよ」
「悪い?女のコと寝て?」
「いや……悪くはねぇけど」


そんな稼業の傍らで、アーチャーは半ば強引にドブの“夜の遊び”へと付き合うことが多々あった―――博打、酒、そして女である。
ドブにはヤクザな友達がいて、夜の街で働くような女性との付き合いも豊富であり。
それが今回の一悶着のきっかけだった。


「冷静になってくれアーチャー。俺がいなくちゃお前も困るだろ?」
「へへへッ……俺にゃ『単独行動』スキルがあらぁ。
てめえがくたばっても当分は生きられるってワケよ」


そんな訳でアーチャーは、己の女(自称)と勝手に寝たドブに罰を与えることにしたのだ。
椅子の上に立たせ、吊るされた縄を首に巻きつける――――即ち絞首刑である。
西部開拓時代において最も典型的な処刑方法であり、アーチャーも生前に“幾度となく体験した”極刑である。


「アーチャー、いい加減にしねえと」


今まさに、ドブは処されようとしている。
惨めな“吊られた男(ハングマン)”になろうとしている。
聖杯戦争の真っ只中―――よりによって自分のサーヴァントの手で。


「俺も流石に、黙っちゃいねえぞ」


そんな結末を受け入れる訳にはいかない。
だから、彼もまた睨みを効かせる。


794 : ドブ&アーチャー ◆A3H952TnBk :2022/08/14(日) 22:14:15 69GK1GPw0


「なあ。いいんだな?」


自らの右手の甲に宿る刻印に、力を研ぎ澄ませる―――。


「令呪を以て命ず―――」


ズドン。
ズドン。
――――閃光と、銃声。
そして、硝煙が立ち昇る。


コンマ数秒の刹那。
密室に、轟音が響き渡る。
ドブの足場が途端に崩れる。
両足を踏み外し。
その場でバランスを崩す。

何が起こったのか。
アーチャーが、瞬時に銃を抜き放ち。
椅子の脚を二本、瞬きの間に撃ち抜いた。
クイックドロウ――――早射ちである。
その粗野な出で立ちとは不釣り合いなほどの速射、そして精密射撃。
四本脚の半分をへし折られた椅子は、そのまま崩れ落ちて。
ドブをかろうじて生かしていた足場を、無慈悲に奪っていった。


で、どうなる。
――――“首吊り”だ。
絞首刑。骨折か、窒息か。
どっちにせよ、最悪な死に様だ。


足元が崩れた、一瞬。
ふいに過去の記憶が、ドブの脳裏をよぎる。
クリスマスの夕方。
何億もの金が待ち受ける駐車場。
“ドクロ仮面”に腹を撃たれて。
死にかけながら、助けを求めて。
されど、“協力者”からも見放されて。
――――あの直後、ドブはこの異界東京に召喚された。
奇妙なことに、腹部の傷が癒えた状態で。

思えば、二度目だった。
己が死というものを本気で覚悟したのは。
あの時は聖杯戦争に巻き込まれたことで命拾いしたが。
今回ばかりは、最早どうすることもできない。
こんな無様な最期を遂げることになるとは、思いもしなかったが。
やれやれ、どうにでもなれってんだ――――ドブが全てを受け入れかけた瞬間。


ズドン。
再び、銃声。
閃光と共に、ドブが“落下”する。


.


795 : ドブ&アーチャー ◆A3H952TnBk :2022/08/14(日) 22:15:09 69GK1GPw0

顔面が、叩きつけられる。
芋虫のように、床へと横転する。
今度は、何だ――――ドブは状況を確認する。
少なくとも、死んではいない。
そもそも、首を吊られてすらいない。


「この世にゃあ2種類の人間がいる。
 首に縄を掛けられるヤツと、縄を切るヤツ。
 要するに、ええっと……身体張って無茶させられるヤツと、安全な尻拭いだけするヤツってこった」


右手に拳銃、左手にフライドチキン。
クチャクチャと肉を咀嚼しながら飄々と語り出すアーチャーを見上げつつ。
ドブは、天井から垂れていた縄が“切断”されていることに気付く。

――――撃ち抜いたのか、縄を。
――――ぶら下がっている部分を、正確に。

ドブは目の前に横たわる事実に、目を見開く。
この絞首刑は、最初から“ただの脅し”でしかなかったらしい。
だからアーチャーは、本当にドブを吊るすつもりなど無かった。
故に彼は、限界まで脅しを続けたのち―――絞首の直前に“精密な早撃ち”でドブを救ったのだ。


「生きてた頃は、いっつも首に縄掛けられてばかりだったがよ――」


そんな曲芸じみた技を披露しておきながら、なんてこともなしに。
アーチャーは「うぇー」と首吊りのジェスチャーをしながら語り。


「――今回は俺が“切るヤツ”だったってワケだ!!ガハハハハハハハッ!!」


そして、大口を開けて大笑いした。
どうだ、ビビったか。コノヤローめ。
そんな小言で突っつきながら、アーチャーはドブの顔を覗き込む。
そんな彼の姿を、ドブは唖然とするように見上げて。
頭が冷静さを取り戻していくと共に、呆れたような表情へと切り替わっていった。

アーチャーのサーヴァント。
滑稽な“卑劣漢”トゥーコ。
彼は、ならず者だった。





796 : ドブ&アーチャー ◆A3H952TnBk :2022/08/14(日) 22:16:04 69GK1GPw0




「マジで死ぬかと思った」
「悪かったよ。怒んなって」
「冗談で済むわけねェだろ……」


首と両手の縄を解かれたドブは、アーチャーと入れ替わるようにソファへと踏ん反り返る。
そのまま気晴らしと言わんばかりに、ぐいぐいと缶ビールを飲み下していた。
部屋の隅に置かれた小さな冷蔵庫から取り出したものだ。
肝心のアーチャーは、さっきまでドブが突っ立っていた椅子に寄り掛かって座っていた。


「次やったらマジで令呪だ」
「なんだと?てめえこそまた手ェ出したら……」
「あー、もういい。女の話はもうやめろって」


ドブが呆れたように大きなため息を吐き。
アーチャーはキョトンとした顔で頬をぽりぽりと掻く。

今回の一件で、主従の間に亀裂が入ったかと言うと―――別にそんなことは無かった。
互いにとって重要な利害関係はちゃんと分かっている。
本気で対立したところで、結局はお互いが損するだけなのだ。
それにドブも、アーチャーが“こういうヤツ”であることは既に理解している。
同じ悪党同士として、こう見えて相性は悪くない―――今まさに一悶着が起きたが、それはそれだ。
とはいえ、あんな仕打ちを受けてドブが憤らない訳も無かった。


「安心しな、ちょっと脅かしただけだよ。
 てめえはブロンディーよりも話の分かるヤツだ!殺しゃしねえさ!」


無駄に屈託のない笑顔でそう言ってくるアーチャーに、ドブは再びため息。


「ああ、そうかい」
「大丈夫だって!信じろよ!」


ホントに大丈夫かよ、と思わずごちりながら。
それでもドブは、これ以上の遺恨は残さない。
先も述べたように、相手の性格は既に分かっている。
今は無意味な争いをしている場合じゃない―――聖杯戦争の「前奏」を生き抜く必要がある。


「俺は頼もしいサーヴァントなんだぜ、アミーゴ」
「分かってるっての。信頼してるよ」


ドブはこの世界においても犯罪者だが、幸いにして指名手配犯ではない。
故にシノギをする上では、元の世界よりも融通が利く。
金は力だ。ケチな手段に頼らずに金を掻き集められるのは都合がいい。
築き上げたコネクションとも併せて、人手や銃器などを取り寄せられる下地は整えてる。

どんな力を持ってるかも分からない他の主従に対し、ゴロツキの立ち回りがどこまで通用するのかは未知数だが。
少なくとも社会が戦場となる以上、無駄にはならない筈だ。


「とはいえ、お前の能力は別に高くもないんだ。過信はするなよ」
「そりゃ承知の上だぜ。俺はマヌケじゃねえ」
「……気をつけろよ。サーヴァントに限らず、最近は場末も騒がしいモンだ」


そして、肝心のサーヴァントとやらが如何なる化け物の集まりなのか―――今後の盤面でそれも知る必要がある。
アーチャーは決してステータスに優れてるとは言い難い。
戦闘においても、あくまで拳銃などの近代的な武器に特化している。
強力なサーヴァントではない可能性が高い以上、今後はもっと慎重になる必要があるだろう。
尤も、アーチャーは軽率に見えて強かな男だ―――その点に関しては確かに信頼している。


「場末……近頃はデケえツラしてるガキ共もいるんだろ?
確か、カントー……カントー、なんだっけな」
「『関東卍會』」
「そう!それだよそれ!」


そして、気になる“動き”はある。
ある暴走族のことだった。


797 : ドブ&アーチャー ◆A3H952TnBk :2022/08/14(日) 22:17:18 69GK1GPw0
話によれば、構成員は中高生程度。
ただの不良少年の集団。ガキの集まりだ。
しかし―――妙な噂を聞いた。
ここ最近になって、連中が急速に勢いを付けているという。
今はまだ囁かれる程度のネタに過ぎないが、その話は半グレの間でもちらほら語られるようになっていた。

現実を知らない、ただの小僧共の寄り合いと思っていたが―――“何かある”のかもしれない。
急激に動き出したという噂が流れた件の暴走族に対し、ドブはそんな直感を抱く。


「ガキだろうと油断はならねえ。
 サーヴァントに聖杯戦争……もう何があっても不思議じゃない」


故にドブは、警戒をする。
この聖杯戦争において、敵は何処から現れるのかも分からない。
裏社会におけるコネクションや情報網を駆使して、可能な限りのアドバンテージを取る必要がある。

ドブの目的は、この舞台で勝ち残ること。
聖杯の力が本物であるかどうかの確証は、脳内に流れ込む知識の他に得られていないが。
少なくとも、生き抜くためには聖杯へと至らねばならない。
仮に願いが叶うのならば、巨万の富や身柄の自由でも祈っておきたいところだが―――それは勝ってから考えればいい。

あの“ドクロ仮面”に撃たれて。
“共犯者”に見放されて。
そんな無様な最後を受け入れるつもりなど、毛頭ない。
勝って、生き残る。
何でも願いが叶うのならば、存分に使わせてもらう。
それだけだ。ドブの目的は、極めてシンプルだ。


「なあに、俺がツイてるんだ。聖杯は俺達のモンだぜアミーゴ」
「ああ、だからもうさっきみたいな騒ぎは起こすなよ。
 遊びもそろそろ控え目にしとけ」
「分かってるって」


そんな楽天的な言葉を吐きながら。
へっへっへ、とアーチャーは品のない笑みを零す。
粗野で小汚く、欲望に何処までも素直。
そのくせ妙な愛嬌と滑稽さをちらつかせる。
相変わらず掴みどころのないヤツだと、ドブは思うが。


「この世にゃあ2種類の人間がいる」


ふいにアーチャーが、ニヤリと笑う。
抜け目なく拳銃を握っていた、先程と同じように。
ふてぶてしさと不敵さを滲ませながら、ドブをじっと見つめる。


「高いところに登るヤツと、そいつの足場になるヤツだ」


――――そう、俺たちはどっちだい?
笑みを浮かべながら、アーチャーはそんな風に問いかけた。
ドブはほんの一瞬、呆気に取られたが。
やがて、喉を鳴らすように微かな笑いを溢した。
ああ、その答えは分かり切っている。
そう言わんばかりに、アーチャーと顔を合わせてほくそ笑んだ。






「ところでよ、アーチャー」
「何だ」
「前々から思ってんだが、ブロンディーってのは誰だ」
「そいつぁ……クソッタレのブタ野郎だ!!」





798 : ドブ&アーチャー ◆A3H952TnBk :2022/08/14(日) 22:17:58 69GK1GPw0


【クラス】
アーチャー

【真名】
トゥーコ(卑劣漢)@続・夕陽のガンマン

【属性】
中立・悪

【パラメーター】
筋力:D 耐久:E+ 敏捷:C++ 魔力:E 幸運:A+ 宝具:D

【クラススキル】
対魔力:-
神秘への耐性を持たないため、本スキルを喪失している。

単独行動:A
マスターからの魔力供給を断っても暫くは自立できる能力。
Aランクならばマスターを失っても一週間は現界可能。

【保有スキル】
射撃:B+
「撃つときは撃て!喋るんじゃねえ」
銃器による早撃ち、精密射撃を含めた射撃全般の技術。
凄腕のアウトロー達とも互角に渡り合うほどの射撃技術を持ち、例え入浴中であっても銃捌きには抜け目がない。
銃器による攻撃を行う際には高確率でクリティカルヒットを叩き出せる他、宝具『The Ecstasy of Gold』発動時には早撃ちの敏捷性にプラス補正が掛かる。

仕切り直し:C
「あばよ、アミーゴ!」
戦闘から離脱し、状況をリセットする能力。
不利になった戦闘を初期状態へと戻す。

窮地の嗅覚:B
「嫌な予感がすらぁ」
ならず者として磨き上げてきた虫の知らせ。
自身に迫る危機を高い確率で察知し、幸運値などの判定で優位を取りやすくなる。

吊られた男:A
「俺は縄を掛けられる側の人間だ。命懸けなんだぜ」
彼は幾度となく自らの命を懸ける羽目になり、悪運の強さによって常に生き延びてきた。
自身に向けられた攻撃のファンブル率をアップさせ、ファンブル成立時にはダメージ数値を激減させる。
また致命傷と成り得る攻撃に対し、回避判定の成功率が大幅にアップする。

荒野の導き:B
「俺を裏切ったヤツは二度とお天道様を拝めねんだ!」
僅かな痕跡を辿り、因縁の相手“ブロンディー”を何処までも追跡してみせた逸話がスキル化したもの。
一度捕捉した相手の気配を高い精度で追跡することが出来る。
対象がサーヴァントなど魔力を扱う存在である場合、魔力の残痕を探ることも可能。

卑劣漢:B+
「俺、汚えヤツ」
闇討ちや不意打ち、奇襲攻撃などを行う際、自身のあらゆるステータスと判定にプラス補正が掛かる。
更に戦闘態勢に入る瞬間まで、自身の気配や殺気が常に察知されにくくなる。

【宝具】
『The Ecstasy of Gold』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1\~20 最大捕捉:2
旅路の最後、果てしない墓地の中心部。
悪漢達が繰り広げた“三竦みの決闘(メキシカン・スタンドオフ)”が宝具化したもの。
要約すると「早撃ちの決闘へと強制的に巻き込む宝具」。

この宝具を発動して“早撃ち”の構えを取った瞬間、周囲の時間流が“停滞”。
相手の持つあらゆる瞬間移動や超高速移動、超瞬発力や戦線撤退などの能力が妨げられ、強制的にアーチャーとの“睨み合い”による刹那の拮抗状態が作り出される。
宝具の効果から逃れるためにはアーチャーとの幸運値判定による対決が必要となる。
そして睨み合いの末に抜き放ったアーチャーの早撃ちに耐久値無視のクリティカルダメージが付与され、更には一定確率で相手の宝具やスキルを無視した即死判定を叩き出す。

『The Death of a Soldier』
ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:1\~30 最大捕捉:300
南北戦争において元相棒と共に行った“橋落とし”を具現化した宝具。
ダイナマイトを生成し、直接攻撃や破壊工作を行う。
単純明快ながら破壊力は抜群。アーチャーの意思によって起爆させることが出来るため、設置による遠隔爆破から投擲による攻撃まで用途も自在。
ただしアーチャーがダイナマイトから離れすぎると起爆が作動しない。
そして戦局の要である橋を崩落させた逸話から、敵の陣地や結界に対して特攻効果を持つ。


799 : ドブ&アーチャー ◆A3H952TnBk :2022/08/14(日) 22:18:49 69GK1GPw0

【Weapon】
懐に仕込んだ拳銃。
ライフル、ナイフ、縄も魔力で生成可能。

【人物背景】
通称“卑劣漢”。
粗野で乱暴なならず者だが、饒舌で何処か愛嬌がある。
小悪党のように薄汚い風体とはいえ、銃捌きに関しては凄腕。
流れ者のブロンディーとは一時的に利害関係を結んでいたが、破綻をきっかけに腐れ縁のような関係になる。

クールなガンマン、“善玉”ブロンディー。
冷徹な殺し屋、“悪玉”エンジェル・アイ。
粗野な悪党、“卑劣漢”トゥーコ。
『続・夕陽のガンマン』は南北戦争のアメリカを舞台に、隠された金貨を巡って彼らが三竦みの争いを繰り広げるイタリア産西部劇(マカロニ・ウエスタン)である。
なお邦題に『続・』と付いているものの、『夕陽のガンマン』の続編という訳ではない(ただし制作スタッフや役者、主役の人物造形などはある程度共通している)。

【サーヴァントとしての願い】
金銀財宝、美味いモン、いい女!全部いただきだ!
ついでにブロンディーの墓石にションベンでも掛けてやらぁ!


【マスター】
ドブ(溝口 恭平)@オッドタクシー

【マスターとしての願い】
生き残って、富と自由を得る。

【能力・技能】
喧嘩の腕はプロの格闘家並。
番外編の小説では数人掛かりの自称地下格闘家たちを叩きのめしている。
また堅気相手の人心掌握にもある程度長けている。

【人物背景】
都内で活動する指名手配犯のゴロツキ。39歳。
損得勘定で動く粗暴な悪党だが、時おり面倒見のいい一面を見せることも。
打算的で強かではあるものの、目的のためなら手段を選ばない性格や詰めの甘さから“小悪党”とも断じられている。
作中ではタクシードライバーの小戸川と手を組み、対立するヤノを出し抜くべく銀行強盗を目論む。

参戦時期は12話終了時点。
異界東京内では裏社会との繋がりを持ち、非合法的なシノギで稼いでいる。
各地に部下の舎弟や自身の息が掛かった者達がいる他、複数の隠れ家を所有している。
元の世界とは異なり指名手配はされていないが、裏社会ではそれなりに顔が利く模様。

【方針】
聖杯を信じるかはさておき、とにかく勝ち残る。


800 : ◆A3H952TnBk :2022/08/14(日) 22:19:15 69GK1GPw0
投下終了です。


801 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 01:28:54 hlpNLqAA0
投下させていただきます


802 : 冠を戴く魔王 ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 01:30:18 hlpNLqAA0
 その男は大いなる野望があった。
 その男は最高位の魔術師だった。
 その男は魂を喰らい寿命を伸ばしていた。
 その男は嘗て聖杯戦争に参加し、大聖杯を奪い取るという快挙を成し遂げた。
 その男は60年の歳月をかけ、入念な準備を行ってきた。

 そしてダーニック・プレストーン・ユグドミレニアの企みは、この異世界に招かれた時点で9割が頓挫していた。

「クソ……こんなことが……あってたまるか……!」

 最高峰の弁舌を操る涼し気な美貌は今、憤怒に染まっていた。
 無理もない、彼は己の力のみで聖杯戦争の準備を、必勝の策を整えてきた。
 だというのにその寸前となって訳の分からぬ別世界の聖杯によって拉致され、身一つで戦えという。
 ルーマニアに築いた城塞、収集した数多の触媒、一族の魔術師たち、その全てを使えないままにだ。
 こんな、突然聖杯を得るなどという機会が降って湧いてくるのなら、これまでの苦労は、冬木での聖杯戦争は、60年の準備は何だったのか。

「運命というものはどこまでも私を、ユグドミレニアを呪っていると見える……だが。
だがしかし、望みはまだある、か細い糸と成り果てたが、この地に聖杯は存在する……」

 そう、まだ望みはある。
 嘗ての冬木のように身一つから謀略を駆使し、聖杯戦争を勝ち残ればいい。
 ナチスの高官として潜入し、最後には全てを裏切り聖杯を得たときのように。
 自分なら、やってやれないことはない。
 だが、この聖杯戦争の規模はあまりにまずい。
 およそ100騎を越えるであろうサーヴァントたちが相争い、本戦への切符を奪い合っている。
 積極的に攻勢に出るには、危険過ぎる。
 こめかみを押さえ、激情を制御する。
 そう、今必要なのば魔術師としての力量ではない、『八枚舌』と呼ばれし弁舌能力だ。
 既にダーニックは、この聖杯戦争に必要な要素を理解していた。

 ――協力者が必要だ。この聖杯戦争は必ずどこかのタイミングで勢力が乱立し、組織規模の争いとなる。
 そのためには『非情な魔術師』であることを悟られてはならない。
 幸い、と言っていいのか、この世界ではダーニックの素性は知れ渡っていない。魔術協会は存在しない。
 今の自分のロールは大学の客員教授、期間中に仕事はない上に十分な貯蓄は存在した。動くための制限は殆どない。
 このロールは好都合ではあるのだが、こんな采配を受けるなら特製の魔術礼装の一つでも持ち込みたかったものだ。

「……フン」

 非常に気に食わないが、受け入れるほかない。
 ダーニックは己の身に降り掛かった理不尽をようやくすべて飲み下し……背後へと声をかける。
 自分が苛ついている原因の一つである、あまりに貧相なサーヴァントへと。

「出てこい、アヴェンジャー」


803 : 冠を戴く魔王 ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 01:30:56 hlpNLqAA0

「……どうやら落ち着いたようだな? 意思は固まったか、マスターよ?」

 ふてぶてしくソファーに座っているのは、フォーマルなスーツ姿の青年だ。
 二十代の日本男性であり、それと言って特徴のない見た目ながらも不敵に笑っている。

「誠に残念だが、私を召喚してしまった以上、お前は私を使って戦うしか無いわけだ。
冠位、とやらは最高峰の魔術師の称号なのだろう? そんな偉大な魔術師が召喚したのが……ご覧の通り。
箸にも棒にもかからない、神秘の欠片もない現代生まれの若造だったのだから、全く。
その内心をお察しするよ、叶うのならばその令呪で自害を命じたいくらいだ、そうだろう?」

「よく言ってくれる……貴様に自害を命じることはできない。
そんなことをすれば手駒が減るだけ、そして何より……貴様にはその第三宝具があるからな!」

「そうだ。お前が私を殺せば、この宝具は私の意志に関わらず必ず発動する。そうすれば、お前は詰むだけだ……。
だが、お前は私に感謝するべきだ。私はお前の交渉力を評価しているし、私を自害させよう自力で再起することも不可能ではない。
そう考えたからこそ、全てのステータスを自発的に明かしたのだからな」

 端的に言えば、このアヴェンジャーはただのテロリストだ。
 現代において一つの都市をまるごと人質にとり、政府に対し前代未聞の要求を通すことに成功した、たったそれだけの男。
 無論戦闘能力など真っ当な英雄に比べれば期待するべくもない、供給が必要な魔力もなんと小さなことか。
 本来の運命においてダーニックが召喚すべき大英雄と比べれば1割にも劣る、そんな存在。

 だがそれでも、使い道はある。
 そう判断したからこそ、ダーニックはこうして声をかけた。
 間接的に殺害する方法ならいくらでもある、しかしダーニックはこのサーヴァントを『使う』ことを決意した。

「貴様を使ってやろうではないか。業腹だが……ある一点、一点において、貴様は認めるに足る存在だ」

「そう言ってくれると思っていた。そうだろうとも、お前は魔術師でありながら弁舌と交渉の力を誰よりも知る男だ。
そして、この聖杯戦争において今必要なのは暴力ではなく、まさにそういった力だ。
それを顧みれば、私の持つ力をお前は正しく運用することができる」

 既に、2人は脳内で同じ作戦を思い描いていた。
 このあまりに広大にして多数の参加者を抱える聖杯戦争、それに勝ち残る方法を。
 ダーニックは憮然とした顔で、アヴェンジャーはどこか愉快そうに、互いに言葉を繰り返していく。

「この聖杯戦争の形式において、真っ向から勝負するのは愚策だ。
たとえどれほどの大英雄を抱えようとも……何十戦もの戦闘を、サーヴァント同士の戦いを繰り返すのは、もとより現実的ではない」

「無論天運が不要とは言わないが……賭けの要素をある程度排除する必要がある。
そして排除できる最も多くの母数を持つ要素が『戦闘回数』だ。通常の聖杯戦争、7騎で争うという形式とは全く真逆。
この戦場では相争う敵を率先して落とす必要はどこにもない。必要なのは情報とコネクション。そしてそれらを安全に集める環境」

「戦闘力に乏しい、あまりに乏しい貴様を引いたことで、戦闘を避けるという方針はいよいよ極まった。
だが、ここまで極まったのなら……むしろ早々に動けるというもの」

「私もお前も、人の心に潜り込むことには慣れたもの。そしてこの聖杯戦争はあまりに多種多様な人間を集めすぎている。
歴戦の傭兵はいるだろう、強力な魔術師もいるだろう、得体の知れない人外だっているかもしれない。
だが、それと同じくらい、世間を知らぬ無力な子供がいるはずだ。現実に挫けた大人がいるはずだ。利益で交渉できる同業者がいるはずだ」

「貴様はあまりに弱い、だが、この弱さは利点に反転することもできる。私がマスターであるのなら……」

「そう、私はお前の持つキャパシティの何割も専有していない。冠位の魔術師殿にとって、支えるコストはあってないようなもの。
さて、今一度ルールを確認してみよう……どうやらこの聖杯戦争において、令呪の移譲やサーヴァントとの再契約は、任意に行えるらしいな?」

 アヴェンジャーがニヤリと笑う。
 それを見て、ダーニックにもようやく微かに笑みが戻った。
 この雑魚サーヴァントは存在そのものが汚点だが、しかしその思考傾向はよく似ている、そしてこちらの思考に追いついてくる賢さがある。
 展望が見えたことにより、ようやくダーニックにも余裕が戻った。
 本当の意味で余裕がある訳では無い、しかし、例え無かろうと不敵さを崩してはならない。
 ここからはより一層、そういった振る舞いが必要となってくるからだ。


804 : 冠を戴く魔王 ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 01:31:26 hlpNLqAA0

「サーヴァントを奪う。時間をかけ根回しを行い、参加者とコネクションを築く。特に争いを好まない層を狙えればいい。
最上であれば、交渉のみでサーヴァントを譲り受けることが可能だろう。得るサーヴァントについては吟味を重ねる。『本戦開始後』が最も望ましい。
100騎以上の参加者から残ることのできる要素の存在する、強力なサーヴァント。それを得るのが最終目標となる」

「困難な交渉となる。多数の目がある中、多角的に観察される中で交渉を続けるというのは露見のリスクが非常に高い。
サーヴァントの中には話術、交渉系統のスキルを持つものもいるだろう。だが、しかし。
私は交渉系統の『宝具』を所有している。スキルより格上である以上、高ランクの話術を持った相手にも負けるつもりはない」

「貴様の持つスキル、そして宝具……その全てがこの方針に最適だ。
何より貴様も、勝利して得るべき欲望がある。我々は、互いに足を引っ張り合う理由は、ない」

「よく言うものだ、今もプライドが傷ついて内心ズタズタだろうに。私とお前の関係は私が一方的に得をする立場だ。
貧弱な私は勝ち残るのにお前のような強力なマスターと必要とする反面、お前は貧弱なサーヴァントなど本来求めていなかったのだから。
だが、それをこそ評価しよう。そう言えるのなら……今後に一切不安はない。そうだろう、我がマスターよ」

 アヴェンジャーが手を差し伸べる。
 ダーニックがそれに応じる。
 それはあまりにも反目する者同士の、純然な利益のみを計算した同盟だった。
 互いの能力のみを評価し、それ以外を見ることはないという暗黙の了解だった。

「喜ぶがいい、『魔王』はこと策謀において、何一つ仕損じたことがない。
命をもってしても、必ずや目的を成し遂げる。おれは、そういうサーヴァントなのだからな」

「貴様の持つ全ての能力を、私のために使うがいい。我々は運命共同体だ。
例え何を為そうとも、最後に立っているのが私達であればいい。精々私の機嫌を取ることだな。

魔王 鮫島恭平」


【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
魔王 鮫島恭平

【パラメーター】
筋力D 耐久E 敏捷C 魔力D 幸運A 宝具D

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
復讐者:A
復讐者として、人の怨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。怨み・怨念が貯まりやすい。
周囲から敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。
魔王の名が意識されればされるほど、自身のスキルと宝具の効果が高まっていく。

忘却補正:B
人は忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
時がどれほど流れようとも、その憎悪は決して晴れない。たとえ、憎悪より素晴らしいものを知ったとしても。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化する。
魔王の場合、自身の策略によって得る成果がランクに応じ一定確率で跳ね上がる。

自己回復(魔力):E
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。魔力を微量ながら毎ターン回復する。
生憎と生前は魔力なんてものとは無縁だったため申し訳程度のもの。

【保有スキル】
諜報:A
気配を遮断するのではなく、気配そのものを敵対者だと感じさせない。
親しい隣人、無害な石ころ、最愛の人間などと勘違いさせる。
ただし直接的な攻撃に出た瞬間、このスキルは効果を失う。
鮫島は諜報専門の傭兵として数多の潜入工作を経験しており、テロの最中でさえ彼についての事前情報を持たない相手に疑われることはなかった。
彼の存在を告発することができるのはそれこそ、強力な因縁を持つ相手のみである。

軍略:C-
多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。
作戦中に危機的瞬間を迎えようとしている時、それを直感的に感じ取り即座に修正する。
魔王は作戦中に遊びを織り交ぜてしまう悪癖があり、これにより自ら危機を呼び込む要素があるのでマイナス補正がついている。
しかしそれらのマイナスによって魔王が作戦を仕損じたことは生前において一度もない。

邪智のカリスマ:C
国家を運営するのではなく、悪の組織の頂点としてのみ絶大なカリスマを有する。
魔王にとって組織とは自身の目的を達成するための道具でしかないが、裏稼業に属する人間や自身が手懐けた『坊や』から絶大な信頼を得る。


805 : 冠を戴く魔王 ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 01:32:07 hlpNLqAA0

【宝具】
『G線上の魔王』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
魔王の復讐心の源泉である旋律の名を冠する、悪魔的手腕と称された魔王の天才的交渉力そのものが宝具化したもの。
嘘を嘘と認識することなく会話を行える境地に達している魔王は交渉において偽りを看破されることがない。
こと交渉においては高ランクの交渉系スキルを持つ相手にさえ優位を得ることができる。
『魔王』の名において宝具化したことが影響し、彼の行う交渉には魔術的誓約の要素が付与されセルフギアス同様の強制を可能とする。
また対象が大人ではない未成年であった場合、対象の精神を『坊や』に改変する判定を行う。
対象が社会に何らかの不満を抱える抑圧層であった場合この判定はほぼ確定で成功し、『坊や』は魔王の手駒となり、アライメントが悪属性となる。
本来は数日、数週間をかけて行うべきマインドコントロールだが宝具化したことによって過程を省略し施せるようになった。

『坊やたちの国(ネバーランド)』
ランク:E++ 種別:対都市宝具 レンジ:1~99 最大補足:100000人
数百人の『坊や』たちを富万別市に引き入れ暴徒化させ都市を崩壊させた逸話の具現。
『G線上の魔王』によって支配した『坊や』たち全てをEランクのステータスを持つサーヴァントとする。
そして全員にEランクの単独行動、気配遮断、狂化スキルを付与する。
都市を対象に宝具を発動した場合、全ての『坊や』は即座に都市に集い、欲望と衝動のままに破壊活動を始める。
対都市であり、対マスター、対民衆宝具。生み出される光景は現代における地獄そのもの。
より現代に近く、非力で、善性を持つものであればあるほどこの宝具は効果を発揮する。
またこの宝具は生前の魔王にとってはあくまで目的を引き出すための交渉手段に過ぎず、これもまた分類上は『交渉』に属する。
魔王はこの宝具を発動中交渉の成功率が格段に上昇し、交渉相手から通常ではありえない対価を引き出すことができる。

『最後の試練』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
この宝具は魔王の死と同時に発動する。
魔王は死と同時に『受肉』し、その遺体は消滅せず残存する。
そして魔王を殺害した対象は、世間に『殺人犯』として認知されるようになる。
尚サーヴァントによる殺害だった場合、マスターも同様に認知され、令呪による命令の果てに死んだ場合命令者を対象とする。
生前の魔王が『勇者』の少女と『勇者の仲間』の少年にしかけた最後の罠。その幸福を阻む、命を擲った悪辣なる試練。

【weapon】
傭兵としての基礎能力、しかし生死のやり取りの最中遊びを交えてしまう悪癖があり、自分は戦闘には向かないという自覚がある。
本領は弁舌、交渉能力であり、一見純朴で善良な少女でもその無知に付け込み悪の芽を出させてしまう。

【人物背景】
『G線上の魔王』における黒幕。
詐欺によって5000万の借金の保証人にされた彼の父親は苦悩の果てに詐欺師の男たちを縊り殺し、死刑判決を受けた。
当時一介の留学生でしかなかった鮫島恭平は、父を必ず救い出すと約束し力を求め始める。
その後数奇な運命により傭兵斡旋業者の口車に乗り傭兵となり、アンダーグラウンドに数多のコネクションを築いていった。
しかし傭兵などという狂った環境に身をおいたことによって、恭平の倫理は狂っていった。
何故あんな悪党を四人ほど殺しただけで父が死刑にならなければならないのか。
義憤は狂気によって反転し憎悪となった。恭平は父のためならば文字通りあらゆることを成す『魔王』となった。
十年後、魔王は数十人程度の傭兵仲間と、集めに集めた『坊や』たちを使い、日本にて前代未聞のテロを敢行。
囚われている政治的過激派の開放を装い、その中に父の名をさり気なく混ぜ、その要求を政府に通し父の開放を遂には成功させた。
この物語には『勇者』である少女が大いに関係しているのだが、ここでは割愛する。
生前の鮫島恭平にはわずかに倫理感が残っていたが、復讐者となった魔王には最早それも存在していない。
魔王という称号からサーヴァント化したことによりわずかばかりの人外の戦闘力は有しているが微々たるもの。
サーヴァントとしては最弱層の上の方に入るだろう。

【サーヴァントとしての願い】
父の蘇生


806 : 冠を戴く魔王 ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 01:33:07 hlpNLqAA0
【マスター】
ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア@Fate/Apocrypha

【マスターとしての願い】
聖杯を手にし、一族に未来を

【能力・技能】
冠位の魔術師。実際は色位相当だが、それでもアポクリファにおいて赤のマスター全員を相手にして勝算があると言わしめるほど。
しかし本領はその弁舌力であり政治力。『八枚舌のダーニック』の二つ名を持つほど、この男は権力闘争を得意とする。

【人物背景】
Apocrypha世界においては冠位を持つ最上位の魔術師。
人間でありながら他者の魂を直接喰らうという規格外の魔術を使い延命しているが、その結果元々のダーニックの人格は既に無い。
冬木の大聖杯を奪い、60年の下準備をかけてルーマニアで聖杯大戦を起こすはずだった男。
しかしこの異世界に招かれたことによって用意していたすべての準備は元の世界に置き去りになってしまった。
加えて召喚したサーヴァントがとんでもない雑魚であったことに憤死しそうになる。
しかし弁舌と交渉を武器とするダーニックは、鮫島の能力と提案を聞いてこれはこれで使いようはある、とひとまず納得した。
今はこの聖杯戦争に勝ち残るために思考を切り替えている。

【方針】
諜報と交渉、コネクション作りに徹する。
人のよさそうな雰囲気で危険度の低い陣営に干渉し、勢力を形成するための環境を吟味する。
十分な信用を得た上で強力なサーヴァントを探し、『譲り受ける』。
ダーニックは魔王をいずれ切り捨てるつもりだが魔王もそれは承知の上で、ギリギリまで自分の力を必要とする展開になるよう調整するつもりである。

【備考】
大英雄をも平然と支えうる冠位のマスターにクソ雑魚一般人をあてがうという尊厳凌辱。
しかしこの聖杯戦争のルールでは一人のマスターが複数のサーヴァントを抱えることも可能であり、魔王の普段の燃費は石ころのように軽い。
重い宝具は『坊やたちの国』の最大展開くらいのものであり、こんな思い切った状況下に追い込まれたことにより、ダーニックは逆に吹っ切れた。
他のマスターのサーヴァントを奪うという方針を開幕から決定づけたことにより、この交渉と政治力に特化した主従は早急に動き始める。
もし本戦まで生き残っていたのなら……盤上の糸を1手に握る存在となりかねないだろう。


807 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 01:35:04 hlpNLqAA0
投下を終了します。
また上記のアヴェンジャーの出典の記載漏れがあったので訂正します。


【真名】
魔王 鮫島恭平


【真名】
魔王 鮫島恭平@G線上の魔王


808 : ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/15(月) 20:20:05 hvWOQnkE0
投下します


809 : HERO IS HERE ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/15(月) 20:21:17 hvWOQnkE0
手を伸ばす。
奈落に堕ちようとしていく彼に。

三発もらった、意識が朦朧とする、息も荒い。
口や鼻から鉄臭い血の味や匂いばかりがこみ上げる。
視界が徐々に暗くなっていく。
自分はもうすぐ死ぬんだと、今まで歩んできた旅が終わるのだと。
それでも。
だとしても。

何度繰り返しても、救われなかった■■■■だけは、助けたかった。
■■■■だけが、何度過去に戻っても、何度悲劇を阻止しても、オマエだけが不幸のまま、孤独のまま。

――タケミっち オレを…もう楽にさせてくれ……

■■■■が、そうつぶやいた。
何処までも黒い眼で、どこまでも悲しい顔で。
全てに蹴りを付けたくて、自分を撃ったというのに。
だから。

「うるせぇぇぇ!!」

今にも黒に落ちそうな自分の意識でも、■■■■の唖然とした顔がはっきり見えた。
そうだ、■■■■は何でもかんでも一人で背負い込んで、みんなに迷惑かけまいと独りになって。
俺たちにとっての最良の未来を作って、それで自分だけ不幸のままになって。

「アンタはいつもそうだ。なんでもかんでも、一人で背負いやがって!!」

なぁ、マイキー。お前はそれで良かったんだろう。
みんなはそれぞれの未来を歩み始めた、俺もヒナタを救うことが出来た。
けれども、お前だけ救われないままでいいのかよ。

「オイ万次郎!! 一度だけでいい!!」

だから、叫ぶ。
心の限り、力の限り。地上に群がる有象無象も、自分の命すら気に留めず。

「"助けてください"って言えやぁあああ゛!!」

ずるり、と掴んだ手が滑り落ちそうになる。
流石に限界だと、理解させられるように。
でも、この手だけは離したくはない。

「オマエを絶ッ対ェ助けてやる!!!」

離さない。離す訳にはいかない。
今度こそ、今度こそ君を助けるために。
俺も、みんなも、君のお陰で救われた。だから。

「万次郎」

今度はお前を救う番だと。
だが、力が抜ける。命の灯火が消えていく。
もう意識すら保てなくなりそうな時に。
うっすらと、彼が泣いているのをこの目に焼き付けて。

――助けてくれ、タケミっち

握りしめられる熱い感覚が、胸のうちにこもった後に。
俺の意識は、再び―――


810 : HERO IS HERE ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/15(月) 20:21:49 hvWOQnkE0
★★★★★★★★★★★★★★★★








すべてが幸せに、あるいはせめて正義が行われて終わる物語が聞きたい。

そのような話をしっておるか?



                                 ―――タニス・リー、闇の公子


811 : HERO IS HERE ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/15(月) 20:22:09 hvWOQnkE0
★★★★★★★★★★★★★★★★





朝日の輝きが部屋を照らし、目を覚ます。
今となっては懐かしく思う、あの時の夢が。
そして思い返す、この世界が偽物で、聖杯戦争という抗争の舞台であることを。
聖杯、というものさえ手に入れられればどんな願いでも叶えることが出来るという。

最初に考えたのは、マイキーや「救うことの出来なかった」皆を救えるかもしれない、という事だ。
馬地圭介、佐野エマ、そしてドラケン。
過去に遡っても、それでも助けることも出来なかった二人と、自分が戻って来てしまったせいで結果的に命を落とした一人。
救うために動こうと考えて、結局そのために他の誰かを犠牲にするなんてやり方が出来るはずもなくて、止めた。
それこそ、本当に稀咲のような外道に落ちてしまいかねないと思ったから。

運命の悪戯なのか、それとも宿命なのか、この異界にも関東卍會が存在していた。
自分が知っている関東卍會よりも、余りにも不自然に、遥かに強くなって。
比喩でもなく、現在の関東卍會は東京都最強のチームであろう。

俺がやるべきことなんて最初から決まっている。
聖杯になんて頼らない、もしも、この異界東京都に本物のマイキーがいるなら尚の事。
最初はヒナを救うためだけに我武者羅にやってきた、そんな事していたらいつの間にか守りたい人はだんだんと増えていった。
そんな守りたいモノ全部を、マイキーは守ってくれた。
だから尚更、あんな未来は認めない。マイキーだけが不幸なままなんて決して認めない。
いつもと変わらない。みんなを頼って、巻き込んで、仲間と一緒にマイキーを助ける。

と、言いたい所なのだが、今回に限ってはわけが違う。
なにせ聖杯戦争。参加しているが魔術師とかいうそこんそこらの札付き不良じゃ全く歯が立たない。
更に生半可な手段では傷一つつけられない英霊と来た。
原型をとどめたまま死ねるのなら幸運だった言えてしまうほどにこの聖杯戦争は苛烈なものだ。
それこそ喧嘩や抗争程度では収まらない、文字通りの戦争。

実を言ってしまえば、俺も一度襲われてボコボコにされた。
これでもある程度強くなった感覚はあったのだが、魔術とやらには手も足も出ずという体たらく。
だがそれでも諦める訳にはいかなかった、どれだけ非力でも、諦めない事だけが自分の唯一とも言うべき長所だから。
そんな俺の魂の叫びに答えたのか、"英霊(それ)"は姿を表した。右手に宿った、熱く滾る令呪の感覚と共に。
言い表すならば、それは焔そのもの。
心に熱さが有り余る、そんな突き抜けるような輝きが。
眼前に迫る英霊の巨躯を盛大に殴り飛ばしたのだ。

大きく見えた、その身体が。自分よりも小さい女の子の背が。
白い衣装と、暖かくも熱く燃え滾る焔を纏ったその女の子が。
ちっぽけな自分を包み込んでくれるような、暖かさが。
もしも、もしもこの世界に、この現実に、超常のヒーローというのが存在するというのなら。
それこそ、彼女の事、なのかもしれない。


















「マスっさん、おはよう!」

そして今、俺に対し朝の挨拶をしに部屋にやってきたこの少女が。
俺が呼び出したらしいサーヴァント、セイバーである。


812 : HERO IS HERE ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/15(月) 20:22:31 hvWOQnkE0



「マスっさんがそのマイキーって人を助けたいっていうのは、ようわかった!」

気圧されるような大声に、思わず転びそうになった。
花垣武道が改めて眺めれば、セイバーの背丈は中学校頃の自分と凡そ対して変わらない。
何ら穢れのない、それこそ純度百パーセントな紫水晶のような瞳の奥には燃え滾る焔の恒星が見える。
無垢な子供、と言い表せば良いのか顔立ちは幼い方。
こんな少女が、異世界で名を刻む英霊だというのだから、世界はあまりにも広いのだとタケミチは実感させられざる得なかった。

そして、彼女はタケミチから一通りの事情を聞き、断言した。
タイムリープに、黒い衝動。ランサーにとっては余りわからないことばかりであったが。
それでも、自分のマスターが、助けたいと思っている人がいることは、はっきりと理解できた。

「今まで頑張ってたんじゃな。」
「ああ。そういう事だから、余り事情を周りには話せなくてさ。タイムリープの事知ってるのは、今だと千冬とヒナと、あとはマイキーぐらい。……それに。」
「それに?」
「こんな事に巻き込まれてなかったら、仲間集めて俺たちのチーム作って関東卍會に挑むつもり、だったんだけれど……。」

そう、本来なら、みんなに声をかけて自分たちのチームを、第二の東京卍會を立ち上げてマイキーたちに挑むはずだった。
が、聖杯戦争。抗争なんて甘っちょろいと切り捨てられるほどに、過酷な戦場。
ほんの少しだけ、たじろいでしまった。これにみんなを巻き込む、というその意味を理解してしまったから。
もっともこの世界にいる千冬たちが本物であるかどうかなんて関係はなく、例え異界東京都のNPCであろうと間違いなく話は聞いてくれるであろう。けれども、NPCだからと言ってむざむざ死が確定されているような戦場に送ってしまうことに。

「……情けないよな、俺。……でもさ、だからってやっぱ諦めたくはねぇよ。」

だが、そうだとしても。あいつらは自分が声を上げれば応えてしまうだろう。
そうだ、そんなみんなに支えられて、こんな所にいるのだから。
例えここが、全てが偽りの世界だとしても。
もしも、『本物』のマイキーがいるなら、やることなんて、一つだけ。

「だから、俺はこんなくだらねぇ戦争ぶっ壊して、その上でマイキーに勝つ!」

無敵のマイキー。最高のチーム東京卍會の元リーダーにして、現在における最強のチーム関東卍會のトップ。
証拠もなにもないけれど、この世界にいるマイキーは恐らく本物だと、確信する。
そしてマイキーは、この戦争を勝つ気だろう。全てを文字通り蹂躙してでも。
――そんな事させない。
黒い泥の、その深い深淵に飲み込まれているであろうマイキーを。
そんな誰にも立ち寄れない闇の中で、心の内で泣きたいと思ってるであろうダチを、今度こそ救い出すために。


813 : HERO IS HERE ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/15(月) 20:22:51 hvWOQnkE0
「よく言ったマスっさん!」

即答だった。一切の迷いもなく、「信じている」と言わんばかりの視線で、ランサーは断言した。

「友達助けたいんだったら、ボクは最後までマスっさんの力になるよ。そして絶対に、マイキっさんを助けてあげないと。」
「ありがとう、セイバー。」

輝かしい笑顔で、ランサーはそう言ってくれた。
疑念も裏表も一切なく、それが当たり前だと言わんばかりに。

「困ってる人がいるのなら助けるのが、ヒーローだからね。」

そう言ったセイバーの顔は、今度は年相応の笑みを向ける。
今は彼女が、この小さな英霊が、誰よりも頼れるように思えた。
セイバーの顔を見ていると、悩みとかモヤモヤとかそういうのが晴れてきそうで。
一応、みんなには声は掛けようとは思っている。
勿論断られる可能性もなくはないが、その時は別の方法を考える。
自分だけでは非力なのはわかっているから、散々巻き込んで、散々頼って、最後に自分が一番頑張る。

「っと、そうだマスっさん、これ!」

ふと、何かを思い出したかのようにランサーが机に視線を向ける。
同じく視線を向ければ、皿に乗せられた、いかにも焼きたてのピザがそこにあった。
香ばしいチーズとパンの匂いに、その上にたくさん乗せられたペパロニが思わず食欲をそそる。

「ええっと、セイバー?」
「これは店長の勤めてるエリュマのペパロニピザ、ボクの好物なんだ。英霊になったせいなのかな、こっちまで届くらしいよ!」
「どゆこと???」
「……まったくわからん!!! でも、美味しいから食べてみて。」

エリュマという単語の響きを聞くにコンビニのようなものなのだろうと思う。
のだがそこのピザがここまで届くなんて、どういう仕組みなのか理解不能だ。
というよりも当のセイバー本人が分かってないのだからこの疑問は忘れることにした。
多分考えすぎても徒労に終わりそう。
でも、やはり美味しい匂いには堪えきれずに手を出して、切り取って口に入れる。

「……うめぇ。すげぇうめぇ!」

……美味しかった。セイバーが推しているのも頷ける話だ。
最近ピザなんて食べてなかったから、尚の事だ。
甘いチーズとペパロニのピリっとした辛さが口に広がる。

「でしょ?」

そう尋ね、同じくピザに手を付けるセイバーの笑顔を見つめながら。

「……これからよろしくな、セイバー!」
「うんっ!」

開いている片手を拳にしてお互いに重ね合い、月並みな口上文句を告げる。
一度叩きのめされて、絶望したけれど、それでもここにいる。
巻き込まれたのは誰の思惑かなんて知らない。
誰が何を望んでこの異界を用意したのか分からない。
だったら、やるだけやってやる。
やるだけやって、聖杯戦争を勝ち抜いて、マイキーに勝つ。
そんな矜持に、願いに、聖杯なんて必要ない。
今度こそ、この手を届かせる。
その闇の中から、引きずりあげてやる。
勝って、目を覚まさせてやる。

これはオレの、オレたちの――リベンジだ。


814 : HERO IS HERE ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/15(月) 20:23:10 hvWOQnkE0




微睡む程に深い闇の中で、ボクは彼の声を聞いた。

『それでも、絶ッ対ェ譲れない願いのために戦ってんだ!』

ボロボロで、今にも倒れそうで、今にも泣きそうな顔をした彼の声を。
その背後に人の形をした光を幻視した。
彼は、色んな人の思いに背中を押されて立っているように見えた。

神話還り(ミュータント)でも、ボクのような生まれ変わりでもない。
かといって黒猫さんみたいな特殊な力はない。
相手からは諦めろ、無意味だと嘲笑と侮蔑だけが吐き捨てられる。
それでも彼は諦めない。
信じたものの為に、背負っているものの為に、救いたい誰かの為に。
挑んで、抗って、やられて、何度倒れても立ち上がる。

泣き虫のヒーロー。あの時のマスっさんを評するならばこの言葉が一番似合う。
エウさんに100戦100敗だった頃を思い出して、珍しく懐かしさを感じていた。
どれだけ負けても、どれだけ挫けそうになっても、その諦めの悪さだけで突き進んで。
時に迷惑をかけたりするけれど、周りはそんな彼に惹かれて、揺れ動かされて、次第に大きなものとなって周囲を、世界を変えていく。

どれだけ頑張っても、それでも取り零してしまうのは出てしまう。
それでも、自分を曲げず、見失わない事が大切なんだと。
キミも、そうなんだね。
キミも、その為に、戦っているんだね。
たった一つ、絶対に譲れないものの為に、曲げたくないその思いを背負って。

ねぇ、タケミっさん。そんな泣き虫のヒーローだから、ボクはキミの願いに応えたんだ。
キミだから、ボクはやって来たんだ。
だから、最後までボクは付き合う。死んでも、諦めない。
でも、もしキミが死んじゃったらキミの大切な人も、ボクだって悲しむよ。
だから、絶対に守る。守って、一緒にマイっさんを救おう。


だって、ボクは、一人で泣いてる誰かを、見捨てたりなんてしないから。
一緒に、助けよう。手を伸ばして、届かせよう。

――ヒーローは、ここにいるって。


815 : HERO IS HERE ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/15(月) 20:25:56 hvWOQnkE0
【クラス】
セイバー

【真名】
アレイシア

【属性】
秩序・善・人

【ステータス】
筋力:B 耐久:A 敏捷:C+ 魔力:EX 幸運:B 宝具:EX

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
不屈の闘志:C+
あらゆる苦痛、絶望、状況に絶対に屈しない極めて強固な意思。
100戦100敗、幾多の敗北を刻まれようと彼女はヒーローになることを諦めなかった。

アレス零:A+
ある異界において、オリュンポス十二神の一席に数えられながらも、ゼウスに追放され存在を抹消された戦神アレス。
そしてセイバーはそのアレスの生まれ変わり――転生体である。
神の力を宿し、人として生まれた者。正しく人神合一。その力で変身したのがヒーロー・アレス零である。
アレス含むオリュンポス十二神は神紋と呼ばれる魔力の門を通じ、無限の力の根源、零と呼ばれる場所よりその力を供給している。

……と言いたい所なのだが、紋を開く、という場合に関しては話が違う。
一度紋さえ開ければ無尽蔵の魔力の恩恵こそ受けられるものの、紋を開く事自体が馬鹿みたいにマスターの魔力を使う。例えれば蛇口が硬すぎてそれ以上回せないとかそういう類のやつ。
つまり、物凄く燃費が悪いのである。魔力切れこそ起こさないにしても、思った以上に魔力を引き出すことが出来ない。理論上令呪を切ることで更に開ける事が可能であるが、労力を考えた場合割が合わない。
余談であるが、アレス零の基本戦闘スタイルは具現化した焔の槍を使用してのインファイトであるが、セイバークラスで召喚されたせいで更に魔力燃費が悪くなっていたり。

終焉を封せし楔:EX
かつて神界を除く全て異界を支配した終焉の龍帝、その分かたれた破片を打倒する力を持った存在。
戦神アレスは生きながらにしてその『楔』であったが為に終焉の欠片を追い払うことが出来た。
その力は、同じくアレスの力を引き継いだランサーにも引き継がれている。
人類の脅威、及び『獣』の特性を持ちうる相手による魔術の影響をカットし、尚且つそれらに対する特攻を付与される。
セイバーの場合、楔としての力を得た過程が特殊中の特殊であることからそのクラスは規格外。

店長(バイト)からの差し入れ:E+++
数日か数週間に一度、エリュシオンマート特製のペパロニピザがセイバーとマスターの元に届けられる。
というよりも、このスキルはセイバー推しのとある元神様なバイトが居てもいられず、ちょっとズルしてこんな形で支援できないかと四苦八苦して出した結論がこのピザ配達である。
ちなみにこのピザ、神の残滓とかは変なのは入っていないのでマスターが食べても問題はない(多分)。


816 : HERO IS HERE ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/15(月) 20:26:25 hvWOQnkE0
【宝具】
『神剣ザグレウス』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1
オリュンポス最強のヒーロー、デュオニソスⅫの所持する神器(パンドラ)
神酒(ネクタル)の力がこれでもかと詰め込まれたこの剣は、かつてデュオニソスⅫが一度死んだ際にランサーに託した事から、セイバーの宝具の一つとして昇華されている。
本来の持ち主でない都合、ランクは下がっているものの、魔力消費の激しいセイバーが魔力を節約して戦うことの出来る貴重な武器。

『英雄アルティメット・アレスちゃん』
ランク:EX 種別:対『終焉』宝具 レンジ:1〜100 最大補足:100
終焉の欠片12の集合体、龍帝ゼウスとの戦いで、デュオニソスⅫに託された神剣ザグレウスに、他のヒーローから託された神器の力を集結させたセイバーの逸話から生まれた宝具。
ハデス、ポセイドン、アポロン、アフロディテ、アルテミス、ヘラ、デメテル、アテナ、ヘパイストス、ヘルメス、ゼウス、そして――ディオニソス。
彼ら彼女らの神器の力を剣に集わせ、みんなの声援を受け、それに応え変身したのがこの英雄アルティメット・アレスちゃんである。

その権能は、上記の12名の神の名を冠したヒーローたちの神器を呼び出しその力を使用出来るというもの。
神器それぞれがAランク以上を誇る代物ばかりであり、それを全て操作し行使する。これだけでもシンプルに強力無比な代物であるが、更に特筆すべきは、ヒーローらしく「人々の声援を受ける事で更に強化される」という事。
ヒーローは人々を守る。ヒーローは皆の応援があるから頑張れる。何の見返りも求めず戦うのもヒーローの在り方であるが、やはり声援や応援あってのヒーロー。それがある限り魔力は無尽蔵だし、その力も青天井に上がり続ける。

欠点を上げるとすれば、発動自体が非常に困難だということ。理論上は令呪全角を使って、それで発動できるかどうか。ただ発動さえしてしまえば前述の言葉通りあらゆる理不尽や悲劇をぶち壊す、最高のヒーローが降臨することとなるだろう。

【人物背景】
みんなのヒーロー、アレスちゃん。

どこかでだれかが泣くかぎり、ヒーローは駆けつける。

【サーヴァントとしての願い】
マスターを助ける。
マスターの助けたい人を救う。
一人で泣いている子を、見捨てたりなんて出来ないから。


817 : HERO IS HERE ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/15(月) 20:27:21 hvWOQnkE0
【マスター】
花垣武道@東京卍リベンジャーズ

【マスターとしての願い】
マイキーに勝つ。今度こそマイキーを救う。聖杯になんて頼らない。

【能力・技能】
『タイムリープ』
特定の人物に手を繋ぐことで過去と現在を行き来する力。
だが、今の彼は現在へ戻ることは許されない。
たった一人、未だ救われない"彼"を救うまでは。

『未来視』
ランダムなタイミングで、未来が見える。
発動条件は不明。

『諦めの悪さ』
彼には皆のような才能はない。
だったら彼が誇れるのはどんな事でも諦めない事。

【人物背景】
皆にとっての、泣き虫のヒーロー。

始まりは、たった1つの偶然から。
逃げてばかりの青年の人生は、覚悟を決めた事で一変した。

龍が死ぬ運命を覆し。
悲劇より袂を分かたれた友は赦され。
聖夜の夜に歪んだ家族の絆を叩き直し。
歪んだ天竺の、妄執の兄との決着は着き。
未来を黒く染める悪の道化は力尽きた。

そして、再び過去に彼は戻ってきた。
みんなが救われた中で、たった一人未だ救われないダチを救うため。


818 : ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/15(月) 20:27:31 hvWOQnkE0
投下終了します


819 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 20:31:29 hlpNLqAA0
投下させていただきます


820 : 斯くも尊き、犠牲の上に立つ命 ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 20:34:21 hlpNLqAA0

「あのー、面会の手続きさせてもらいたいんですが」

「あら、ジークちゃん。今日も彼のお見舞い?」

 真冬となれば、17時にはもう陽の光はなく、夜にも等しいものだった。
 そんな中東京の大病院、障害者病棟の受付にて、受付担当は訪問してきた少女を慣れたように出迎えた。
 定期的にある病室の患者と面会を希望する長い黒髪をツインテールにした少女は、今ではすっかり院内の名物となっている。
 何かのアスリートらしくしなやかな体つきで、当初はなんとも野暮ったいジャージ姿でおろおろしながら訪れたものだ。
 今はしっかりと愛らしい私服を着直し、人見知りもしなくなった。

「あの、彼の様子は……」

「そうね……ごめんなさい。なんとも言えないわ。原因不明の重度の意識障害……全身に薬害のような痕跡が残ってることまでは分かったんだけど。
肉体の不可解な変移と、脳波の以上は今も継続したままって話よ。急変の兆候はないから、命の心配は無いようだけど」

「そうですか……ほな、今日も声かけてきます。ひょっとすると、届くかも知れへん」

「そうね、そうかも知れないわ。それにしても、本当に彼のこと気にかけているのね。……ひょっとして、彼氏だったり?」

「へっ? い、いやいやいや! そんなんじゃあらへんですよ! その……」

 ジーク、と呼ばれた少女は僅かに顔を赤らめ両手を振って否定する。
 ジークがこれから面会しようとしている男との関係は、言い表すことが難しい関係だ。
 それでも、もし仮に、そうありたい、と思える関係を言葉にするとしたら。

「友達、なんです。まだお互いのこと、全然知らへんけど。あの人のこと、知りたいって思います」

 本当は。本当は、言葉も交わしたことのない相手に、ジークはそう言った。
 しかし、それは確かに心からの願いを込めた言葉だった。


821 : 斯くも尊き、犠牲の上に立つ命 ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 20:35:01 hlpNLqAA0



 障害者病棟とは、一人では生活も困難な重度の意識障害者などに対する入院施設だ。
 生涯病棟、とも言い換えることができるかもしれない。
 決して断言してはいけないが、もはや社会の中で生きることが物理的に困難となってしまった人が、最後に行き着く場所。
 その一室に、西洋風の顔立ちをした金髪でツンツン頭の青年が入院していた。
 年の頃は成人したての、しかしどこかあどけなさの残る少年のようでもあった。
 体は鍛えられていて、中肉中背ながらも鉄のような強靭さがある。
 しかしそんな体も、寝たきりとなった今では衰えてしまっているだろう。
 目を開きながらもその視線はぼんやりと宙を彷徨い、どこを見ているわけでもない。
 それは、病室にジークが面会に来てからも同様だった。

「こんにちは。今日も来たで、『マスター』」

「……ぅ、……ぁ……ぁあ」

 青年は微かにうめき声を上げるだけだった。
 そんな相変わらずの様子にジークは少し眉尻を下げるが、気を取り直し側の椅子に腰掛ける。
 青年の右手には、令呪が刻まれていた。
 ジークにとってそれは、自分と青年を繋ぐ証だった。

 そう、彼女はサーヴァントだった。
 バーサーカー、その真名は『黒のエレミア』。
 その依代たるジークリンデ・エレミアという少女に聖杯が充てがったマスターは、この意識を失った青年だったのだ。

「今のところ、この地区周辺は静かなもんや。けど、他はそうもいかないんやろな。
なんかそれっぽい噂を結構聞くわ。きっともう聖杯戦争は始まってて、何人も戦ってるんやろな……」

「ぁ……ぁぁ……ぅう……」

 マスターの、令呪の刻まれた手をゆっくりと握る。
 ぴくりとも動かないそれは、しかし確かに命の暖かさを宿している。

「うちな、こう見えて格闘競技選手だったんよ。うちにとって、戦いっていうのは、みんなを楽しませるものや。
けど、こうして『ご先祖様』たちの総体として依代に選ばれて……なんでうちだったんやろな。
しょーじきなところ、戦いたくないなあ……殺し合いなんて、まっぴらや」

「……ぅ……」

「けどな。君は……君が、うちを呼んだんや。それはきっと、君の『生きたい』って願いや。
うちのマスター……君のこと、うちは全然知らへん。けど君のこと助けてあげられるのは、うちだけや。
託されてもーたからな。うちは、君のこと守ってあげたい。そのためなら……」

 そのためなら、何だろう。
 そのためなら、他の主従と戦える? 殺せる?
 そんなはずはない、そんなことは断じてしたくはない。
 けれど、この儚いマスターを生かすことができるのは、ジークだけしかいない。
 この聖杯戦争はタッグマッチだ、他の参加者には相応しい相方がいるだろう。
 しかし、彼には、自分しかいないのだ。
 自分が戦うことを放棄すれば、抗うことを放棄すれば、ここでゆっくりと朽ちていくしかない。
 ジークがサーヴァントでありながら、正規の面会者として定期的に手続きを行っているのもそのためだった。
 自分が会いに来なければ、彼のもとを訪れる人は誰もいなくなってしまう。
 彼は、皆から忘れられていってしまう。


822 : 斯くも尊き、犠牲の上に立つ命 ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 20:35:18 hlpNLqAA0

 ほんの少しだけ、意識のラインが繋がったことがある。
 まるでコマ送りの映画のようなもので、彼のことを知れたとは全くもって言えない。
 しかし、それでも聞こえたのだ。
 託されたのだ。


『■■■■■になりたいって? がんばれよ』

『また一緒か。よろしくな!』

『おい、気分はどうだ』

『ちょっとここで待ってろよ。この先の安全を確保してくる』

『ちくしょー! きりがねえ』

『今日はここで朝まで休もう。明るくなったら出発だ。ま、気長に行こう』

『なあ、ミッドガルについたら、お前どうする?』

『冗談だよ。お前を放り出したりはしないよ』

『――トモダチ、だろ』


「いい友達やったんやな。うちにもな、どうしようもなかった頃のうちを支えてくれた大事な友達がいるんよ」

 ほんの少し垣間見ただけのそれ。
 しかし、それはきっと彼にとって何よりも大切なものだったのだ。
 彼を命懸けで助けようとした人がいた。
 それに報いるためにも、彼の無意識は今も懸命に生きようと願っている。

「――うん。うん。ごめんな、隣で辛気臭い話聞かせて。戦いたくない〜とか、聞かされても困るよなあ。
大丈夫。うちは君の味方、君のサーヴァントや。君のために、君を想うすべての人のために、うちは戦うよ。
たとえそれが、戦乱への道だったとしても。ご先祖様が記憶をうちにくれたのは、挫けない心をくれたのは、このためなんだって信じる」

 もう、目を逸らしてはいられない。
 ジークは決意した、マスターを救うことを第一とすることを決めた。
 もしかすると、サーヴァントの中にはマスターの意識を取り戻す力を持ってる誰かがいるかも知れない。
 できることなら戦わず、お話をしたい。
 けれど、それが叶わないのなら、戦火がこちらへと飛んでくることがあるのなら。

「――ッ!」

 そして、力のぶつかり合いを感じた。
 付近で、この病院にほど近い何処かで、サーヴァントが戦っている。
 いずれそうなるであろうことだった。
 病院に被害が及ぶようなことがあれば、マスターの命は危険に晒されることとなる。

「……ほなマスター、また来るからな。行ってきます」

 ジークのやるべきことは、一つだった。
 例えその結果何が起ころうとも、ジークにそれをしないという選択肢は最早なかった。
 病室を出て、その扉を振り返る。
 病室の名札には、『クラウド・ストライフ』という名前が刻まれていた。


823 : 斯くも尊き、犠牲の上に立つ命 ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 20:36:00 hlpNLqAA0



 大病院近くのエリアで争っている、2組の主従がいた。
 見れば好戦的な主従が消極的な主従を潰そうと狙っていることが分かる。
 聖杯は願いの有無など関係なしにあくまで聖杯にとって相応しいマスターを選ぶ。
 このような光景も、この聖杯戦争においてはよくあることだろう。

 かたや聖杯を求め、願いのために他者を叩き潰そうとする主従。
 かたや脱出を求め、ただ生きて帰りたいとその手段を模索する主従。

 しかし……どうあれ、それがサーヴァントの激突であることに変わりはない。
 そして、その争いの中央に、黒い疾風が舞い降りた。
 突然の第三者の乱入に、それぞれが困惑し僅かに引き下がる。

「そこの人。お願いやから、できるだけ遠くに逃げてくれんかな?」

 ジークは消極的だった主従に声をかけた。
 しかしそちらも得体の知れないジークの存在に躊躇し、中々動き出せなかった。
 背を向ければ撃たれるかもしれない、とも思っていた。

「君たちに戦う意志がないなら、できるだけ遠くに逃げて。うちは――」

 しかし、その言葉は遮られる。
 好戦的な主従による攻撃は、立ちはだかるジークへと向いた。
 霊核である心臓と頭部を同時に狙う、手加減など存在しない致死の攻撃。
 その攻撃を前に、ジークは――

「……ごめん」

 ただ一言、それだけを言い残して。
 そして、彼女の『宝具』が発動した。





 戦いは、終わった。
 まるで巨大な獣の爪で抉ったような、恐るべき破壊痕が刻まれていた。
 この場に存在するサーヴァントはジークのみであり、そして、『2つの死体』が横たわっていた。

「……ごめん。ごめんな。ヴィクター、番長、ハルにゃん、ヴィヴィちゃん……」

 ジークは、静かに涙を流していた。
 友の名を連ね、それに最早顔向けできないと悲しみに心を沈めた。
 彼女の両腕は、必要のない命さえも砕き、その血に染まっていた。
 この場に存在する主従は等しく、彼女の手によって葬られた。
 しかし、彼女が挫けることはもう、ない。
 それが彼女の宝具、彼女の狂戦士としての所以だった。

 彼女はバーサーカー、『黒のエレミア』。
 古代ベルカ戦乱期より以前、格闘戦技の概念すら存在しなかった時代よりその身一つで戦い抜くことを極めていった一族。
 歴史書に登場する記述は僅かなれど、その技量は聖王家すらも凌駕すると讃えられたもの。
 記憶継承魔法による『エレミアの一族』の総体。
 一度戦いが始まれば、並み居る影は全て敵。眼下の命のすべてを刈り取る。
 例えその依代が戦乱より800年後の、平和な時代に競技者として生きる末裔であろうとも。

「それでも、うちは戦い続けなあかんねん。うちは、マスターのために戦う。それが、うちが『黒のエレミア』である意味なんや」

 黒のエレミアの鉄腕を前に、あらゆる命は意味を持たない。


【クラス】
バーサーカー

【真名】
『黒のエレミア』@魔法少女リリカルなのはvivid

【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力B 幸運B 宝具A

【属性】
中立・善

【クラススキル】
狂化:EX
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
身体能力を強化するが、理性や技術・思考能力・言語機能を失う。また、現界のための魔力を大量に消費するようになる。
このスキルは後述の宝具『エレミアの神髄』の効果の一部であり、通常時は機能していない。


824 : 斯くも尊き、犠牲の上に立つ命 ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 20:36:39 hlpNLqAA0

【保有スキル】
記憶継承者:A
古代ベルカの遺失技術であり、後述の宝具『黒のエレミア』の一部。血統に作用する継承魔法。
継承者は自身の祖先の記憶を継承し、その人生経験と共感することによって祖先の保持していた技術を獲得する。
エレミアの一族は戦闘経験のみを継承する特殊な記憶継承を施したため、個人のエピソード等の記憶は本来継承していない。
現在の最終継承者、依代であるジークリンデには始祖から数え500年分の戦闘経験が継承されている。
しかし『黒のエレミア』の疑似サーヴァントとなった影響により、依代となったジークリンデには通常の記憶継承者としての特性が付与されている。
具体的には幸運判定に成功することにより、戦闘経験以外の技術の再現や、過去の戦乱の記憶を朧気ながら認識できる。
戦闘に対する忌避感を軽減できる他、戦時に関わる技能の獲得、義肢の作成などが可能になる。
それが彼女にとって喜ばしいことであるかは、ともかく。

エレミアン・クラッツ:B
後述の宝具『黒のエレミア』の一部であり、依代であるジークリンデが編み出した一種のリミッター。
ミッドチルダの魔導師としての基礎的な魔法技能を習得している事実も兼ねる。
ジークリンデは『黒のエレミア』の人体破壊技術の一部を封印し、格闘競技用に調整した。
『殲撃』を封印し、射砲撃と投げ技を中心とした無血制圧を基本とする。
それが通じない相手には『鉄腕』を用いた格闘打撃からの関節技でねじ伏せる。
このスキルにより彼女は『事前に合意のある模擬戦』においては宝具『エレミアの神髄』を発動しない。
危険な攻撃を直撃コースで受けない限り、安全に相対者を制圧することができる。

無窮の武練:B
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。極められた武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
武装を失うなど、たとえ如何なる状態であっても戦闘力が低下することがない。
現在のランクは依代であるジークリンデの、『次元世界最強の十代女子』としてのもの。
後述の宝具『エレミアの神髄』の発動によって、このスキルのランクは跳ね上がる。

【宝具】
『黒のエレミア』
ランク:- 種別:対人奥義 レンジ:1 最大補足:1人
放浪の一族エレミアが連綿と継承してきた魔法戦技流派。
格闘戦技という概念すらなかった時代、己の五体で人体を破砕する技術を求め、戦乱の中でその技を極めていった。
手足による格闘打撃戦、魔法による射砲撃戦、密着状態での掴み技、投げからの関節技等あらゆる体術と魔法射撃を包括した総合戦技。
そして、それら全ての戦技に『殲撃』と呼ばれるあらゆる防護を貫通する消滅の魔力を付与する魔法技巧。
完全消滅魔法イレイザーは才能あるものでも構築に数分間の時間を要するものとされるが、黒のエレミアはそれを一瞬で展開する。
古代ベルカ戦乱期の記録において、当時の継承者ヴィルフリッド・エレミアは聖王オリヴィエや覇王クラウスに匹敵、或いは凌駕する使い手であったという。

『鉄腕』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
エレミアの一族に継承されるアームドデバイス。所謂魔法の杖と近接攻撃用の武装を兼用したもの。
エレミアの戦技の起点となる指先から肘までを覆う黒い手甲。
古代ベルカの戦乱以前から存在するそれはアームドデバイスとしてはハイエンド、古代の遺産であり現代の技術では再現できない武装と想定される。
装備中は『黒のエレミア』の戦技の練度を1ランク向上させる。
強靭な鋼鉄による打撃威力の向上、専用の構造による受け流しと掴みの成功率の上昇、射砲撃の詠唱時間短縮、等。

『エレミアの神髄』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:1 最大補足:1人
『黒のエレミア』から派生し、記憶継承者が自動的に習得する自身の命を敵対者から守護するオートコンバットシステム。
自身の命の危険に呼応し、肉体が反射的に全力の迎撃行動を行う。
戦時においては非常に有用な力だが、平時においては継承者の少女を暴走させ、その人生に影を落とす要因となった。
上述の逸話と彼女の真名、そしてバーサーカーというクラスから、この宝具は強大なメリットとデメリットを併せ持つ制御不能宝具と化している。
この宝具は『危機的状況』においてバーサーカーの意思に関わらず強制発動する。
自身に狂化:EXを付与し全ステータスを1ランク上昇させる。
更にスキル『エレミアン・クラッツ』を封印し、スキル『無窮の武練』のランクをA+ランクに上昇させる。
発動中自身は周囲の敵を破壊することのみに専心し、一切の容赦を加えず全ての宝具を発動する。
『たった一人で駆け抜けた数多の戦場の記憶。並み居る影は全て敵。眼下の命のすべてを刈り取る。黒のエレミアの鉄腕の前に、あらゆる命は価値を持たない』


825 : 斯くも尊き、犠牲の上に立つ命 ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 20:36:58 hlpNLqAA0

【weapon】
自身の五体。
『黒のエレミア』による総合戦技。

【人物背景】
真名である『黒のエレミア』は、エレミアの一族の記憶継承システムを基幹とした『エレミアの一族が培った500年の総体』を意味している。
エレミアの一族全員を示すものであり、その依代となっているのが末裔であるジークリンデ・エレミアという少女。
依代の彼女は平時に生まれた少女であり、現在は己の腕前を健全に総合魔法格闘競技の選手として活かしている。
関西弁に似た言動の人見知りがちで心優しい少女だが、彼女は幼い頃『エレミアの神髄』を制御できず無作為に破壊の力を振りまいてしまったトラウマがある。
多くの友人とライバルに恵まれ現在はある程度立ち直ってはいるものの、未だ制御はできていない。そもそも、制御できるものなのかも怪しい。
本来の心根としては競技者として楽しく戦うことを信条としているので時代錯誤の殺し合いなど以ての外、なのだが。
皮肉にも『黒のエレミア』の真名と宝具化した『エレミアの神髄』は、彼女を聖杯戦争で戦うための最適な状態に変異させた。
彼女は敵対者をその意思に関わらず容赦なく攻撃するし、殺してしまったとしても継承者の記憶を参照し心を摩耗させることはないだろう。
ただ、悲しいだけである。どこまでも、悲しいだけ。
500年の研鑽と、戦乱の中眼下の敵を無情に屠り続けた歴史を背負ってしまったジークリンデの辿り着く先は何処か。

【サーヴァントとしての願い】
マスターを守ってあげたい。
そのためなら、自身の悲しみは抑え込む。


【マスター】
クラウド・ストライフ@クライシスコア ファイナルファンタジーVII

【マスターとしての願い】
■■■■

【能力・技能】
兵士としての基本的な能力。
非常に高い身体能力を持つが、メンタルが弱くそれを活かしきれていない。
そして宝条のセフィロスコピー計画によって埋め込まれた、純粋ジェノバ細胞の力。
現在は重度の魔晄中毒により意識混濁、昏睡状態に陥っている。

【人物背景】
神羅カンパニーに所属していた一般兵。
ソルジャーに憧れ田舎なら上京したが、ソルジャーになれなかった。
参戦時期はクライシスコア終了直後、ティファと再会する前。
つまり魔晄中毒により動くこともままならない状態である。

【方針】
ジークリンデはマスターを救うために行動する。
重度の魔晄中毒症状を回復させる力を持つ人を探し、不可能であればサーヴァントとして聖杯戦争の勝利を目指す。
たとえ誰が相手でも、手加減は、できない。彼女の宝具はそういうものだからだ。

【備考】
考案の経緯
ジークリンデちゃんを使ってみたいな……>けどこの子マスターとしては若干規格外、サーヴァントとしては若干物足りない微妙なラインにいるな
>せや、『黒のエレミア』の疑似サーヴァントにして歴代エレミアの集大成ってことにしよう!

宝具『エレミアの神髄』は戦闘となればほぼ確実に発動する。
神髄状態の彼女は全ステータスがA、無窮の武練スキルがA+という破格の性能を誇るが、眼前の敵を屠るのみの殺戮マシーンと化す。
殺戮マシーンのため無論みんな大好きミッドチルダの非殺傷設定なんてオフだしそもそも殲撃は非殺傷設定とかクラッシュエミュレートとか関係なく敵を消滅させる。
これは依代であるジークリンデにとってはトラウマそのものなのだが、記憶継承者:Aによって本来彼女が持ち得ないはずの戦乱の記憶があるので彼女は挫けない。
守るべきマスターのため、挫けることができない。
聖杯戦争という戦場においては最適だが、ジークリンデという少女にとっては呪いともいうべきもの。
しかし祖先の記憶を蔑ろにすることもできず、彼女は苦しみながらも戦いの中答えを探すだろう。
そこに何の罪もない、物言わぬマスターが居るのなら尚更。
クラウドの入院する病院の場所、クラウドの魔晄中毒を治療する方法については、後続の書き手さんにお任せします。


826 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/15(月) 20:37:40 hlpNLqAA0
投下を終了します


827 : ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/15(月) 20:41:07 hvWOQnkE0
拙作『HERO IS HERE』に出典の記載抜けがあったの報告します


【真名】
アレイシア




【真名】
アレイシア/アレスちゃん@ARES THE VANGUARDシリーズ


828 : ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/15(月) 20:52:24 hvWOQnkE0

【真名】
アレイシア/アレスちゃん@ARES THE VANGUARDシリーズ


【真名】
アレイシア/アレスちゃん@魔法使いと黒猫のウィズ ARES THE VANGUARDシリーズ


829 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/08/15(月) 23:03:12 GpSvcPmI0
投下します


830 : ありったけの夢をかき集めホラ聖杯0224 :2022/08/15(月) 23:04:13 GpSvcPmI0





昨日の夢は今日の希望であり、明日の現実である。

              ───ロバート・H・ゴダード


831 : ありったけの夢をかき集め ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/08/15(月) 23:04:49 GpSvcPmI0
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




爆音と、銃声がけたたましく耳朶を打つ。
状況は一言で形容できた。『絶望』、と。
戦力差は明白。ここから逆転できたなら、それは正しく奇跡だ。
しかし、そんな状況下でも、彼は笑っていた。
どこまでも、不遜に。不敵に。自信に満ちた笑みで。

そもそもが、絶望的な道程だった。
ある日、何の伏線もなく全人類は石となり、文明は滅び去った。
3700年という旧世紀を遥かに超える圧倒的な時間は、多くの意味を消失させた。
それでもなお、目覚めたその日より。
彼の心に絶望の二文字は存在しなかった。
諦観も、停滞も、彼と彼の仲間たちにとっては無縁の代物だった。
3700年という月日すら、人類が持つ未来への大いなる希望と前進の意思を奪い去る事は出来なかったのだ。

その旅路の果てに死が差し迫ったとしても。
それすらも、彼の魂から希望の二文字を奪う事は不可能だ。
何故なら、彼は信じていたから。
中途で誰が斃れようと、必ず自分の仲間は、自分達が信じた科学は。
為すべきことを成し遂げ、全てを救うのだと。
汲んでも汲みつかせぬ果てなき欲望と、仲間への無限の信頼だけが彼の胸にはあった。
だから。


───途中で誰が倒れようと、最後に勝つのは俺達だ。
全てを石にし、全てを救う。未来の科学、Dr.STONEで───


どんな困難も、彼から、彼らから明日の光は奪えない。
絶望の海を踏破して、彼らは、進み続ける。
前人未到の明日へ。果てなき新天地へ。
………あぁ、ならば。
ボクが彼にこうして呼ばれた事も、必然だったのかもしれない。


832 : ありったけの夢をかき集め ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/08/15(月) 23:05:13 GpSvcPmI0
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


───聖杯戦争本選前、東京湾付近の臨海公園───


陽は落ち、肌寒さを感じるその浜辺に二人の少年はいた。
ティーンエイジャー程の少年に、それよりも更に幼い少年が一人。
並び立つ二人の視線は、目前の海に浮かぶ一隻の艦に注がれていた。


「やるな…ライダー。欲しいぜ、これは!」


最初に呟いたのは、金髪と意志の強そうな瞳が印象的なマスターの方だった。
総額数千万はくだらない服に袖を通し、クックと含み笑いを漏らす。
その視線は、目の前に聳える巨艦を言外に讃えていた。


「……艦を褒められるのは悪い気はしないかな。
フライカジキの様に目が効くマスターなのは好印象だよ、龍水」


その傍らに立つライダーと呼ばれた少年は、余り感情を出さない声でそう返した。
幼く華奢な体を高貴な雰囲気の漂う軍服で包み、端正な顔立ちと蒼の髪先が特徴的な少年だった。


「フゥン。この近辺ならばお前の能力を十全に発揮できるか?」
「うん、問題ない。海神としての権能がフルに発揮できるここなら…
僕の艦は神話の英雄にだって遅れは取らない。
そこは、明確に君がマスターだったアドバンテージかな」


腕を組み、尊大な態度で尋ねるライダーに龍水と呼ばれた少年。
彼の慇懃無礼なコミュニケーションにも特段気にする様子は無く、ライダーは問いに対する返事を返した。
ライダーは自らのマスターが、自分が最もパフォーマンスを発揮できる陣地を用意したのを理解していたからだ。
前提として、この浜辺は魔力補給源として運用できる霊地というわけではない。
しかし、この主従にとってこの海辺は下手な霊地よりも余程価値のある代物であった。
海の主神たるポセイドン、その一子であるライダーの権能により、水辺で彼の魔力が尽きることは無く、あらゆる判定で有利となる。
その事を伝えるや否や、瞬く間にライダーの主である少年は東京二十三区に位置する海辺の土地を抑えていった。
元々彼に与えられた役割(ロール)…海運業の覇者たる七海財閥の御曹司という立場も後押しして、今ではほぼ全ての海の近辺は彼の管理下だ。


833 : ありったけの夢をかき集め ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/08/15(月) 23:05:37 GpSvcPmI0
本選開始前にここまで状況を作り上げたのは、英霊たるライダーをして舌を巻く手腕だった。
即断即決にして即座に欲しいと思った物を手に入れる手際と行動力は常人では測れないだろう。
そして、それを支えているのが。


「マスターである以上、お前の力が最大限発揮できるように手を回すのは当然だ。
何せ俺は───世界一の欲しがり屋だからな」


ひとえに、七海龍水というマスターの尽きぬ欲望だろう。
まったく、飢えたフカの様に貪欲なマスターと引いた物だと、ライダーは思った。
けれど、その思考の中には不快感など混じってしなかったが。
そのまま淡々とした様子で、ライダーは龍水に尋ねる。


「ねぇ、マスター」
「何だ、ライダー?」
「マスターはこの聖杯戦争に何を欲するか、聞いてもいいかい?」


我ながらおかしな問いだと、心中で思う。
普通ならば、この地に招かれて欲するものなど聖杯以外にあり得ない。
けれど。
ライダーにはある種の不思議な確信があった。
我が主の目指す終着点はきっと、聖杯ではない。
己の主は、そんな当然の欲望からは超克した欲望(ねがい)を抱いている。
そして、その予感は正鵠を射ていた。


「全て、だ」
「全て?」


星が輝く夜空に五指を広げて。
明瞭足る声で『七海龍水』は己の従僕へと告げる。


「あぁ…全て、だ。魔術という未知の資源、テクノロジー。
聖杯戦争という儀式の発生条件、マスターとサーヴァントの選出条件、
願望器として完成に至るプロセス、その全てを数値化し、解析する。
それらを成し遂げるための情報…知識が、俺は欲しい!」


五指を握り締めて。
静謐な夜空に浮かぶ月をその手に握りしめながら。
揺るがぬ決意と共に、少年は高らかに叫んだ。


834 : ありったけの夢をかき集め ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/08/15(月) 23:05:56 GpSvcPmI0


「………それは、聖杯を目指すのとは違うの?」
「違う、ただ発生した聖杯を使うだけでは本当に手に入れたとは言えん。
構造を理解し、性能を検証し、未知を既知へと変えて漸く手に入れたと言える
欲するのは再現性だ。ライダー。俺は…聖杯戦争という魔法〈ファンタジー〉を、科学へと変える」


そう。
過酷な生存競争を強いる聖杯という特大の未知を、科学の光で照らし。
不可能の闇を祓い。神話を日常に変えていく。
それこそが、龍水という男が抱く特大の欲望だった。


「……マスター、君は」


英霊たるライダーも、流石に言葉を失う。
マスターが語る願いの終着点の意味するところは。
紛れもない奇跡を、制御可能な既知の事象へと堕とす、という事なのだから。
聖杯の力によって現界を果したライダーだからこそ考えてしまう。
確かに、聖杯戦争という儀式の果てに聖杯は顕現する。
儀式として成立している以上、そこには確かに法則性がある。
そして、聖杯戦争はあらゆる並行世界で行われてきた。故に、再現性もあるだろう。
だからと言って、魔術師でもない只人の主にそんな真似が可能なのか。
可能だとしても、一体何百年の時を必要とするのか。
気の遠くなるような…有史から現代に至るまでの時間を掛けても不足かもしれない。
そして、それだけの時間を掛けたとしても、可能であるとは限らない。
人が生身で空を飛べぬように、水の中で生きてはいけない様に。
全てが徒労に終わる可能性だって多分にあるだろう。


「フゥン、俺のサーヴァントにしては無粋なことを考えているな、ライダー」


そんなライダーの心境を読んだかのように。
不敵な笑みを浮かべて、龍水は厳然たる態度で宣言する。


「仲間の受け売りだが──科学とは、単なる知識や技術の集積体を指すんじゃない。
未だ解明されていない事象にルールを探す。その地道な努力こそ、科学だ」


語る少年の言葉には。
人類の持つ可能性への信頼に。
見果てぬ未来への希望に。
全てを手に入れようとする強欲さに満ちていた。


835 : ありったけの夢をかき集め ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/08/15(月) 23:06:15 GpSvcPmI0
話だけ聞けば、夢物語の様な内容なのに。
それでも彼が語れば──どうしようもなく、心を惹きつけられてしまう。
無表情を保ちながらも…胸の奥が高揚し、浮かされる様に熱を持つ。
そんなライダーに、龍水は懐からある物を取り出し、目の前に差し出した。


「科学の神髄は未来へと、ただ地道に楔を打ち続ける事だ。
どれだけ果てなく遠くとも…それでも必ずいつか──俺達は奇跡に追いつく」


差し出された掌の中へ納まっていたのは、一つの小型機械だった。
それが何であるかは、ライダーもまた、マスターの記憶を通じて知っていた。
電池切れなのか、光彩を失いながらも確かな存在感。
メビウスの輪の形をした、オーバーテクノロジー。
人類文明の仇であり、救世の英雄たる叡智の石。Dr.STONE。
それを見た瞬間、何もマスターは現実的な視点に立たず語っている訳ではないことを察する。
数千年人体を石化させながらも健全に保つDr.STONEの技術さえあれば。
本当に、彼が奇跡をその手に掴むまでの時間がやってくるかもしれない。


「あぁ」


思えば、マスターは。マスターの仲間たちは、皆そうだった。
3700年という絶望的な時の流れが、多くの意味を奪い去った世界の中で。
ただの一度も諦める事無く、世界を、全人類を救おうとしている。
人類文明を崩壊させた元凶たる破滅の光さえ、誰かを救う礎としようとしている。


「君は……君たちは、そうだったね。マスター」


であるならば。
僕が彼に呼ばれたことは、やはり必然だったのだろう。
ライダーの心中での想いが、確信へと変わる。
同時に何故、本来なら幻霊たる自身が現在の霊基で召喚されたのかも、今得心がいった。
だって、途中参加で、例え最初はやる気も可能だとも思っていなかったとしても。
僕もまた、かつて未来を取り戻そうと戦った、一人の少女を支えた…カルデアのサーヴァントだったのだから。


「俺に手を貸せ、ライダー。俺についてこい。
全てを手に入れるために、この聖杯戦争で俺はまず───お前が欲しい」


はぁ、と。
心中で溜息を吐く。


836 : ありったけの夢をかき集め ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/08/15(月) 23:06:34 GpSvcPmI0
だって、こんなの反則だ。
餓えたフカの様に忠実で、マッコウクジラよりも豪快。
自分が船長として求める安定性には程遠い。
彼と行く道行きは、きっと航海ではなく冒険となってしまうだろう。
あぁ、でも。どうして。
その誘いを聞いた時…ここまで、胸が高鳴ってしまうのか。
この選択はひょっとしたら間違いなのかもしれない。
それでも…この胸の鼓動だけは、目の前のマスターとの出会いを確かに讃えていた。


「…それが合理的な物であり、道徳のある命令ならば従おう。
非道な作戦は許容しない。無茶な作戦には──…まぁ、時と場合に依るかな」


こほんと息を吐いて、返事を返す。
何だか気恥ずかしくて、もったいぶったモノになってしまったけれど。
本当は、答えなんか最初から決まっているくせに。


「あくまでノーチラスの船長はこの僕、『キャプテン・ネモ』だ。そこは譲らない。
でも…総司令は君だ。僕のマスター、七海龍水。指揮権は預けるよ」


そう伝えて、初めてマスターに向けてほほ笑む。
主の目指す旅路の果ては、ネモにとって好ましいものだったから。
誰かを犠牲にして得る奇跡よりも、マスターの目指す未来の方が目指す価値がある。
そう、彼は考えていた。
だから、龍水をマスターとして戴く事に、迷いはなく。


「…さて、諸君。これからの航海はより過酷なモノになる。
昼夜を押しての作業も増えるだろう。だが…この航海は必ず成し遂げて見せる」


独りごとのようにそう呟いて、龍水の方に向けていた体を、背後へと向き直る。
すると、ネモの背後にはいつの間にか多くの人影ができていた。
そのどれもが、個体によって差異はあるものの、ネモの姿に酷似していた。
これこそネモの持つ能力、初代マスターにより与えられた権能。
ネモ・シリーズと呼ばれる分身能力だった。
幼い風体ながら整然と彼等彼女等は整列しており、練度の高さが伺えた。
また表情も気合に満ちており、士気は非常に高い。
ノーチラス号は、艦として最高の状態にあると、ネモは確信を以て判断する。
そして、その事実を確認した後、艦長として力強く命令を発した。


「僕からの命令はたった一つだ!あらゆる波濤からマスターを守り抜き…
我々こそ、最高最優のサブマリナーであることを、マスターに証明しろ!」
「「「「「Aye, aye, Captain!!」」」」」


837 : ありったけの夢をかき集め ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/08/15(月) 23:06:48 GpSvcPmI0


二十人を超える分身たちが、鬨の声の様に了解の号令を発し、大気を震わせる。
容姿は幼いながらも、やはり彼らは一流の船乗りだ。
艦もまた一流。そして、自分が指揮を執るのだ。
こうなれば、何の不安があろうことか。
龍水は腕を組み、その相貌の笑みを深めて歌うように。
ネモの号令に応える様に言葉を奏でた。


「あぁ…これから忙しくなるぞ、ライダー。
聖杯戦争を解き明かし、科学で既知の事象へ変えるだけの全てを手に入れる
何一つ、諦めはしない。欲しい=正義だ!!」


力強く言葉を紡ぎながら、ある事を考える。
自分の仲間である彼奴ならば。
あの龍水が認める一番の科学者ならば、この状況で何と言うだろう。
少し考えて、きっと──『石神千空』ならば、こう言うだろう。
想像したそのままの言葉を、龍水は宣言した。


「───そそるぞ、これは!!」


838 : ありったけの夢をかき集め ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/08/15(月) 23:07:05 GpSvcPmI0
【クラス】ライダー
【真名】キャプテン・ネモ
【出典】Fate/Grand Order
【性別】男
【属性】混沌・中庸

【パラメーター】筋力:C 耐久:B 敏捷:C 魔力:A 幸運:A 宝具:B

【クラススキル】
騎乗:A+
ライダーのクラススキル。乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。

【保有スキル】
神性:A
高位の神霊の息子であり本人も神霊であるため、最大級のランクを持つ。

海神の加護:B
父である海神ポセイドンによる加護。
水辺での戦闘時、ライダーの全ステータスにボーナス補正が発生し、常時魔力が急速に回復する。

嵐の航海者:C++
と認識されるものを駆る才能。集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。なお、トリトンは別に船長ではなく、
ネモはその船が高性能だったため、『ボロ船で嵐を踏破した』経験は少なく、他の船長系のサーヴァントよりランクは低い。
ただしフィールドが『水辺』である場合、ネモはその性能がより大きく向上する。ランクに『++』が入っているのはこの特性からである。

不撓不屈:C++
英霊ネモの精神性、信念が形になったもの。同ランクまでの精神干渉を軽減する効果があるが、真価は彼の霊基が深刻なダメージを負ったときである。
その時このスキルはBランク相当の戦闘続行と同じ効果が働き、同時に魔力が宝具を放てる分だけマスターの供給に依らず瞬間的に装てんされる。


旅の導き:C++
かつてアルゴー号を導いたトリトンは英雄たちを導く性質を持ち、それが形となったスキル。
水辺において自己を含めた自軍サーヴァント全員にあらゆる判定でボーナス補正を発生させる。


分割思考:A
ライダーの初代マスターであるアトラス院の麒麟児に召喚されたことによって後天的に座に記録されたスキル。
このスキルによってライダーは分身を生み出すことができ、単騎での潜水艦の運用を可能とする。
基本的に分身を生み出せば生み出すほど個々のスペックは低下していくが、それでも水兵(マリーン)数人までならネモ本体と遜色のないスペックの分身を生み出せる。


【宝具】
『我は征く、大衝角の鸚鵡貝(グレートラム・ノーチラス)』
ランク:A++ 種別:対海宝具 レンジ:2~70 最大捕捉:1
ライダーの愛船である潜水艇「ノーチラス号」そのもの。
あらゆる海を航行し、すべての嵐を越える万能の艦という、人々が夢見たオーバーテクノロジーの結晶。
幻霊と神霊の融合サーヴァントである彼は潜水艦ノーチラス号とも一体となっている。
宝具使用時は潜水艦ノーチラス号を主体とした姿へとかたちを変えて、備わった大衝角を用いて突撃を行う。敵がどれほど巨大な存在(大イカ、巨大戦艦など)でも怯まず、これに衝突・突破する特殊な概念を帯びている。
水のない場所(地上や空中)でも使用可能だが、フィールドが水中、海中であれば命中率が著しく上昇し、威力も向上する珍しい性質を持つ。
また虚数潜航という技術も習得しており、発動中のライダー及びノーチラス号はあらゆる攻撃、干渉を回避可能、水辺以外でのノーチラス号の運用も可能となっている。
ただし、長時間の潜航は魔力面と存在証明の観点から不可能である。

【weapon】
『我は征く、大衝角の鸚鵡貝』に搭載された各種武装。

【人物背景】
かつてシオン・エルトラム・ソカリスと言う魔術師が人理継続保証機関カルデアの召喚方法を真似て一騎だけ召喚できたサーヴァント。
召喚に使用できる聖遺物を持たなかった彼女が本来サーヴァントになり得ない幻霊を掛け合わせて霊基を成立させている非常に特殊なサーヴァントである。
それ故に通常の聖杯戦争では召喚できるはずもないが、マスターとの相性の良さ故か、それともカルデアの人類史を救う旅路で観測可能となったからか、ともかくこの聖杯戦争で召喚されている。
素直で優しく誰からも愛されたトリトンと、信念の人であり行動力の化身だったネモ船長の二つが合わさった結果、その性格はそれぞれのオリジナルからやや逸脱している。
プロ意識が非常に高く、船の安全を犯すと判断した場合はマスターにさえ背く仕事人。船長としての仕事であってもそうでなくとも、任された仕事に対しては精力的に対応する。

【サーヴァントとしての願い】
なし。マスターの航海が終わるその時まで守り抜く。


839 : ありったけの夢をかき集め ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/08/15(月) 23:08:11 GpSvcPmI0

【マスター】
七海龍水@Dr.STONE

【マスターとしての願い】
聖杯戦争という儀式の解明。聖杯獲得には拘らない。

【能力・技能】
財閥の御曹司という資金力。
船や飛行機、果ては宇宙ロケットまで操る非常に高レベルな操縦能力。
状況分析能力、人物分析や危険察知能力も人並外れて優秀である。
何より世界全ては俺のモノという不屈にして不撓の欲望と自信を有する精神性。

【人物背景】
この世の全てを目指す、見果てぬ夢を抱いたどこまでも強欲な航海者。
強くて優しい、只人の少年。


840 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2022/08/15(月) 23:08:25 GpSvcPmI0
投下終了です


841 : ◆zzpohGTsas :2022/08/16(火) 01:08:22 kdmJBqRk0
フリースレに投下した物を再投下いたします


842 : キミの記憶 ◆zzpohGTsas :2022/08/16(火) 01:09:02 kdmJBqRk0
.




     儚くたゆたう世界を キミの手で守ったから

     今はただ 翼をたたんで ゆっくり眠りなさい

     永遠の安らぎに 包まれて love flew on eternity

     優しく見守る私のこの手で眠りなさい

     笑ってた 泣いてた 怒ってた キミの事覚えている

     忘れない いつまでも 決して until my life is exhausted




.


843 : キミの記憶 ◆zzpohGTsas :2022/08/16(火) 01:09:33 kdmJBqRk0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 何かが違うと、少女は思った。

 学園での生活に、不足や不満を覚えた事はなかった。
フランスから留学にやってきた、名家の令嬢である。太陽王として後世に語り継がれ、世界史に於いてその名を正しく太陽か、綺羅星かの如くに輝かせる大王・ルイ14世の統治時代から続く大商家。
これを母体とする巨大な株式会社のCEOの、末娘。それが、彼女の素性であった。

 生まれに貴賤のあるなしかはさておいて、血筋、と言う面で言えば紛れもなく彼女は最上位の血統にあたるであろう。金銭もコネも、唸る程存在する。
勿論、学園と言う閉じた世界に於いて、これ程の少女が目立たない筈もない。その扱いは専ら、麗しい羽の胡蝶、高嶺の花、一粒の美しい宝石。それに等しい。
優婉な容姿の持ち主でもあった。煮溶かした純金を糸状に誂えたような、美しく照り輝く金髪に、エメラルドの様だと言う王道の表現がこれ以上となく相応しい緑の目。
加えてその可憐な顔つきと、女性的な曲線美と丸みを帯びた、身体つきである。大衆の中に紛れ込ませたとしても埋もれる事無く、その存在を彼女は主張出来るであろう。
飾らぬ言葉で言うのであれば、可愛らしい、と言うべきか。それだけでなく、声もまた、鈴を転がしてみせたかのように透明感のある綺麗なのだ。
笑みもまた、魅力的だった。屈託がなく、邪気もない。弾けるような明るい笑顔は、一目で、ああこの少女は善性の塊のような、優しい性格なのだろうな、と誰しもに納得させる魔力があった。

 異性からの評価が、頗る良いのは言うまでもない。凡そ、この学園の中で、彼女の事を悪し様に言う男は、学生は勿論、教師ですら存在しない。
同性からも、同じ評価だった。あの娘可愛いからって、仕草や声が、男に媚びている。猫を被って、ぶりっ子ぶっているのが、イラつく。その様な評価が、まるでない。
男の心理は男が一番良く分かるように、女の心理をよく理解するのもまた女である。仕草や声の調子でコロリと男は騙せても、同じ性別の人間は、騙せないのである。
だから、皆、良く分かる。彼女の所作や声は、素のもの。天来より授かった自前のサガ。彼女の普段の行いには打算もなければ裏もない事を知っているのである。
自分でテリトリーを築こうと言う意思なく、勝手に居場所が作られて行く。そしてそれを誇る様子も、彼女にはない。こんなもの、嫉妬するだけ無駄である。
余人には、僻みにしか見えなかろう。そして、そんな人物にすら、彼女は優しいのであるから、彼女を嫌おうと言う人物からすればもうお手上げである。こんな事をされれば、好かざるを、得ないじゃないか。好いてしまうのが、人のサガであろう。

 誰が言ったか、彼女を指してマドンナと称した。女神みたいだね、と誰かが言った。 
言い過ぎだよと彼女は笑ったが、そこで、変な違和感を感じた。今見たいなやり取りではないが、そんなことを昔、言われた事がある。
誰もいない、黄昏の浜辺。踏んでも痛くない柔らかい砂の上を、白くて薄いドレスを着た自分が、聞いた事もないし、歌った事もない歌を口ずさんでいる。そんな記憶が、瞼の裏をチラついた。

 その浜辺はいつも荒れる事無く、つねに、さざ波を波打ち際まで運んできた。同じ波は二度とこないし、繰り返さない。そうと言ったのは誰だったのか。
確かにそうかもしれないが、送られてくる波は何時だって、優しくも小さく、そして弱い勢いの波だった。彼女がその浜辺を去ってしまったとしても、永劫。
そんな気怠い波が緩やかに起こり続けるだけの浜辺であったことだろう。沖を遊弋する船もなく、空を舞うカモメもウミネコもまたない。
思えば、ヤドカリも小カニの類も、見た事がなかった。もっと言えば、沖の向こうに広がる水平線の先に、何があるのかすらも、気に留めた事がなかった。それを当たり前の物だと、認識していた。

 ――貴女に恋をした――

 ……彼女が、黄金色の朝焼けが美しい浜辺に立ち尽くしていた時代において、その始まり、原初と呼べるまでに遡れる最初の記憶。
その瞬間に近い時に、そんな事を言ってやって来た男(ひと)が、いたっけ。擦り切れたような黒いローブのような物を身に着けた、
子供の頃に聞かされた童話に出て来る胡散臭いペテン師だとか詐欺師を思わせる語り口でしかし、話しかけた言葉は余りにも直截で、飾る気も何もない、真っ直ぐなプロポーズ。
人生でそんな事を言われたのは初めてだったから、その男を疑うよりも先に驚いてしまった事も、覚えている。


844 : キミの記憶 ◆zzpohGTsas :2022/08/16(火) 01:09:50 kdmJBqRk0
 口を閉じれば、死んでしまうんじゃないかと思う程に、
良く喋る男だった。自分が話すだけ話して、中々本題に入らない。勿体ぶって話す人だと、初めの数分言葉を交わすだけで解ってしまう程であった。
その上、使う表現も、何処か、オーバー、大きすぎるきらいがあった。初めて聞いた時は、何処かおかしかったものだ。私の事を、『女神』だなんて――――――――――。

 封じられた記憶の蓋が、一気に開放された。

 何時までも懐に抱いていたい、懐かしくて愛らしい既視感が、一気に身体に叩き込まれる。

 それまで他愛のない話をしていた、同じクラスの女友達達に目もくれず、彼女は走り出す。学園の福利厚生の一環。学生や教職員、用務員達に開放されている大食堂での話だった。
まだウェハースやコーンフレーク、アイス部分を大量に残したジャンボパフェをテーブルに放置し、急いで席を立って食堂から去って行く彼女の姿を、直前まで一緒だった女友達はキョトンとした表情で見つめていた。

 階段を一足飛びに駆け上がって行きながら、彼女は屋上を目指していた。すれ違う生徒や教師が驚いて彼女を見ていた。学園では、落ち着いた娘として通っているからだ。
昔、大好きな人と一緒に、学校の話をした事を思い出す。歳の近い人たちと一緒に、同じ部屋で同じ事を学び、お昼の時にはそれぞれ違うご飯を食べて、思い思いの事を話して。
そして時間が来たら、外で遊んだり、同じ部活で汗を流したり……。そんな事が出来る世界がある事を、彼女は知らなかった。其処で、時間を過ごしてみたいと心から思った。

 ――その夢は、叶った。この土地に、彼女の知る大切な人間が誰もいない、と言う形でだが。

 屋上の扉を勢いよく開け放つ。
いつかの時に話していたみたいに、大事な友達が、其処に集まっていてほしかった。
明るくて優しい香純が一人で盛り上がって、それを司狼がペットの機嫌でも直してやるみたいに窘めてて……。
そんな様子を一歩引いたところから、玲愛と螢、別の学校の筈なのになぜか混ざっているエリーが、めいめいの反応を見せつけて。

 そして、そんな有り触れた、何処を切り取っても平凡な毎日に、楽しんでいるのか楽しんでいないのかと言う微笑みを浮かべ、身を委ねる、大事な人。胸に空いた穴を埋めてくれる、大切な――

「レン!!」

 叫びながら開け放った先には、寝転がる青年が一人だけ。
雲一つない青空を眺めながら微睡んでいたその男は、昼休みのひと時を此処で眠って過ごしている……と言う訳ではないらしかった。
そもそも、纏っている制服が、全然違うのであるから。この学園の生徒ではない事は明白。

 ……そして何よりも、その青年を見た瞬間、情報の奔流が、爆発して行く。知らない筈なのに、知っている。まさに既知感の奔騰そのもの。クラスは、『セイヴァー』、その真名(な)を……。

「人違いだよ」

 ゆっくりと起き上がって、少し眠たげな眼で此方を見ながら、青年は気だるげな声音でそう言った。

 ――これが、『マリィ』と呼ばれる少女と、『有里湊』と呼ばれる少年の、出会いの一幕であった。


845 : キミの記憶 ◆zzpohGTsas :2022/08/16(火) 01:10:32 kdmJBqRk0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 マリィにとって大切な人であるところの、藤井蓮に似ている。そんな青年だった。
年のころは、ドンピシャだろう。背格好も、近い。顔つきは勿論全然違うのだけれど、中性的と言うか、ともすれば女形に近い顔立ちと言う点では、蓮と同様の特徴と言うべきか。

 何処か、超然とした雰囲気の男の子だな、とマリィは思った。達観している、老成している、とも言い換えられよう。
斜に構えているだとか、諦観だとか、否定からかかるような皮肉気な態度だとか、そう言うのとは違う。例えて言うのならそう、カリスマ、とも言うべき雰囲気である。
大人しそうな外見とは裏腹に、強い意思のようなものが、内奥から発散されているのである。宛らそれは、樹齢数千を超える大樹。神霊ですらが宿りそうな程の、巨大な神木が人の形をとっているかのような男子である。

「ウワキしてそう」

「え、なんで」

 マリィの口から飛び出た、名誉の毀損そのものみたいな発言に、湊は困惑する。場所をベンチに移していた。

「その顔の良さで、女の子をその気にさせる事を言ったりしたら、メっ、何だからね? 言ってないよね?」

「…………………………」

 無言で湊は両の手で握り拳を作りだし、一本づつ、その状態で指を立てていく。
「ゆかりだろ、美鶴先輩だろ、風花だろ、アイギスだろ、エリザベスさん……」。小声でつぶやく言葉の意味をマリィが理解した瞬間、胸ポケットに入れていたボールペンを取り出して、それで湊のこめかみを小突いた。

「痛ッ」

 ペン先は出してなかったものの、マリィは勢いをつけていた為か。かなり痛かった。こめかみを抑える湊。

「浮気する人は、抱きしめてあげません」

「……ハグ魔?」

 向こうの国では久方ぶりの再会の時に、抱きしめ合ったり、何ならば、軽い接吻(ベーゼ)すら交わすと言うが、その類なのだろうかと、湊は考えた。

「いや、まぁ……僕も、いつも通りの日常が続いてたんだったら、付き合ってた女の子達に謝ったり、殴られたりもしたんだろうけどね……」

「むっ、責任逃れは更にマイナス5ポイントだよ」

「責任……逃れ、ね」

 困ったような苦笑を浮かべ、湊は空を見上げた。ああ、蒼い。卒業式の時に、月光館学園の屋上で見上げた時と同じような、蒼い蒼い、空。

「特別なんだろ、何とかしろよ。そう言われた事もあったっけか」

「? セイヴァーの、特別?」

 そもそもサーヴァントになる時点で、特別な存在であろうし、湊はそのサーヴァントの中でも更に特別な存在に宛がわれる、エクストラクラス。
セイヴァーの号を与えられている人物だ。今更、湊自身が言うまでもなく、特別な存在であろう事は、論を俟たないであろう。

「別に、自分で自分の事を特別とも、別格とも思った事もないんだけどね。人よりもちょっとだけ、出来るようになる速度が早いだけ、位の感覚だよ」

 ふぅ、と一息吐いてから、更に言葉を続ける。

「少し出来る人間なりの、役割を全うした。それだけの事なんだけど。そのせいで、友達とも久しく遊べてないし、女の子達に責任を取る事も出来ないし、殴られも蹴られたりも、してないんだなぁ」

 まだ、高校も卒業していない年齢だった。
世話になった先輩たちが、一足先に学園から羽ばたくのを見届けた後、今度は自分達が、来年の同じ日に羽ばたくまでの準備をしなければならない、そんな期間。それは、有里湊と言う人物から一切失われた。

 親がなく、親類からも厄介者、腫物のように扱われた青年は、影時間と言う非日常のワン・アワーによって初めて、年相応の輝かしいジュヴナイルを送る事が出来た。
満ち足りた学校生活だったと、湊は思う。勉強もやった、部活にも励んだ、一足早い大人の遊びも経験したし、お金を稼ぐ大変さも身を以て味わった。
そして何よりも、それらがサーヴァントとなった今なお記憶の中で輝いているのは、その時一緒にいた友人や、親切な人々の姿があったからである。
勉強が楽しかったわけじゃない、部活が生きる糧なのではない、大人の遊びに魅力を感じたのも、日銭を稼ぐ大変さを耐えられたのも。其処に人がいて、彼らと繋がれたからに他ならない。


846 : キミの記憶 ◆zzpohGTsas :2022/08/16(火) 01:11:18 kdmJBqRk0
 ああ、日常は楽しかった。気づいてしまえば、こんなにも、人生を彩る要素はあちらこちらに転がっているのだと、思わされた。
だけど同時に、非日常にも、楽しみがなかったのか、と言われれば、嘘になる。影時間を何とかしようと、尽力していたあの時、湊は間違いなく、生を実感していたのだ。
リーダーと呼ばれ、頼られる事が嬉しくなかったのか? 嘘である。楽しかったし、天狗にもなっていた。
影時間を消滅させ、その為に、シャドウを消滅させる為のあの戦いに、己のヒロイズムに酔っていなかったのか? 否、湊のみならず、誰もが少なからず、酩酊していたに違いない。
あの時間を楔にして、S.E.E.Sとは強い絆で結ばれたのだ。アイギスや、望月とも、出会えたのだ。無駄であったと、憎めるべくもない。

「僕が少し出来て、頼れるリーダーとしての居場所が確保されてたのは、本当に、どうしようもない非日常の世界での事なんだ。その世界が続いて欲しかった、と言う思いも、なくはなかった」

 「だけど、さ」

「それじゃ、良くないよね」

「よく、ない……?」

「非日常の世界が当たり前になって、日常の世界に流出し始めたら、日常の世界でしか生きられない人達に迷惑だろう? 迷いはした。何なら、僕には非日常の世界が終わる位なら全人類を道連れに出来る権利もあった」

「選んだの? セイヴァー」

「まさか」

 即答し、マリィの問いを湊は否定した。

「現実の厳しさも良く分かってたけど、『楽しい事が用意されているのもまた現実の世界』なんだって僕は知ってるんだ。じゃあ、非日常に逃げる必要性はない。現実にだって、耐える事も出来るよ。人の嫌がる事はしちゃいけない、当たり前の話だろ? だから、道連れ何て、僕には選べないさ」

 影時間と言う非日常を放置し、その時間の間存在する悪夢の楼閣であるところのタルタロスを無視する、と言う事は。
逃れ得ぬ滅びとイコールである、『ニュクス』の来臨を口を開けて待っているのと同じ事であった。
降誕の暁には、地上に如何なる結果が齎されるのか、それは最早改めて説明する程のものではなかった。その通りの結果しかない。地球上の全ての生命体が、一切の例外なく滅び去るだけだ。

 非日常の幻想の中でしか生きられない存在がいる事を、湊は知っている。
そして、その幻想が崩れ去るのなら、と言って、自棄になる人間の胸中もまた、理解は出来る。
湊もまた、両親を一時に突然失い、生きる活力も目標もなくした時、同じような事を微かながらにでも抱いたからだ。
だが、湊が非日常を生き抜く為の力の糧とした絆の力は――高校2年生の1年間を楽しいと思えた理由は、どうしようもなく、日常と現実の中でしか生きられない者達によって齎されたもので。
そして、彼らの多くが、辛い現実に直面しながらも、それでも、湊との出会いを切っ掛けにもう少し前を向いて歩いて行こうと心に決めた者達で。
ああ、彼らを切り捨てられない。彼らの死を、願えない。特筆するべき所なんて何もない、英雄的な所なんて何もない。湊は今でも自分をそう思っている。
何処の誰とも知らない何者かが尊ぶ破滅願望と不可分の非日常と幻想よりも、湊が良く知る大切な人が生きたいと願う日常の方を、選んだに過ぎないのである。

「自分に特別な才能があったとすれば、選べる自由が少なからずあったって事で、そしてその選択は、まぁ、自分一人が犠牲になる事と引き換えに世界が存続するって事で……」

「……寂しい?」

 後悔している? とは、マリィは聞かなかった。していないと言う確信があったからだ。

「……うん。寂しくは、あるかな」

 やや、間を置いてから、寂寥の念を感じさせる笑みを浮かべ、湊はマリィの問いを肯定した。
許されていた罪悪感が、きゅっ、と。マリィの胸を締め付ける。片時も忘れた事はないけれど。蓮も許してくれたけど。しこりとしては、それはやはり、彼女の心に残っていた後悔。

「でもみんな、僕がいなくても楽しく、上手くやってそうだからね。それでいいんだ」

 ああ、似ている。
日常の中に降り注ぐ陽だまりに焦がれ、それを求め、取り戻そうと足掻き、結局、望んだ形で取り戻す事が終ぞ出来なかった、あの青年。
マリィが地獄へと誘ってしまった、藤井蓮に、余りにも、彼は似過ぎていた。

「セイヴァーは、貴方をそんな風にしちゃった人達を、許せる?」

「許してるし、感謝もしてるよ。彼らも大切な、友達だ」


847 : キミの記憶 ◆zzpohGTsas :2022/08/16(火) 01:12:09 kdmJBqRk0
 どうあれ、自らの身体にデスのシャドウを封印しなければ、今の湊は存在しなかったし、世界も破滅していた。
また、湊の中に封印されていたデス……ファルロスもまた、湊に対しては友誼のような物を抱いていて、世界に滅びを齎す事に対しては否定的だった。
彼らがいなければ……そうと考えた事もあるし、そう言うifも実際あったのだろう。だが、結果論的な話ではあるが、彼らがいたから、彼らに人格があったから。
世界も救われたのだし、湊が守りたかった日常もまた、暖かなままで守られた。それで、良かったのだ。これで、いいのである。

「わたしの大好きな人と、同じ事、言う」

 湊の言葉に、マリィは言った。優し気で、しかし、寂し気な声。

「わたしはね、大事な人を、酷い所に行かせちゃったんだ。いっぱい痛くて、血を流して、歯が震える程怖くて……人が、たくさん死ぬところに」

 自分がいなければ……自分がもっと、カリオストロの目にも留まらないような、凡俗な女の子だったらと。マリィは考える事がある。
マリィと藤井蓮の在り方は、不可分であり、コインの裏表である事は、彼が如何なる目的でこの世に生を授かったのかを考えれば、マリィが凡俗であったのなら、と言う仮定は前提から破綻している。
だがそれでも、と思うのだ。もし自分が凡俗だったら? もっとカリオストロが別の目的で藤井蓮を創造していたのだろうか? そうであったのなら、彼は、幸せだったのか?

「友達思いでね、無意識に女の子をその気にさせちゃうウワキな人でね、時々馬鹿な事しちゃう人なんだけど……わたしの大好きな、優しい人」

「……そうか」

 湊は、黙って、マリィの話を聞いていた。

「わたしとかね、カスミが酷い目に合うと、レンは本気で怒るの。それだけ、わたし達の事を大事に思ってくれてるんだけど……わたし、知ってるんだ。レンは、怒る事が、苦手な人なんだって」

 勿論、蓮は実際に全く怒らない人間だった訳じゃない。
寧ろ、マリィの知る蓮は、何時だって、怒っていた。自らの日常を完膚なきまでに破壊した黒円卓に、それを率いる黄金の獣、ラインハルト・ハイドリヒに。
そして、斯様なふざけた絵図を描いた、カール・クラフト・メルクリウスに。蓮は、何時だって、嚇怒の念を抱いていたのだ。

 彼らが、蓮にして来た仕打ちを考えれば、許されないのが当たり前だった。それ程の所業を、彼らは犯したのである。
しかしそれでも、蓮は、彼らに歩み寄ろうとした。理解しようと、尽くした。終ぞ彼らの思想に賛同する事はなかったが、それでも、許さないぞ、殺してやる、と言って。
話し合いもしないで殺しあいにかかりは、しなかった。彼らであろうとも、そう言う事をしなかったのだ。そうしたとて、誰も文句を言わない境遇に身を置かされていたにもかかわらず。

 マリィについても、同じだった。
彼女がいなければ、蓮が大事に思っていた香純は、人殺しのカルマを負う事もなかっただろう。それに対して、非難する資格は蓮にはあった筈なのだ。
だが、蓮はマリィを赦した。恨み言を言い放っても許される。大嫌いだと突き放されたとて、おかしくない。それなのに、蓮は、マリィを赦した。抱きしめた。

 理不尽に日常を奪われた青年は、逆に言えば、そうでもされなければ怒りを抱けないと言う事の証明であった。
陽だまりにずっと当たっていたい、一緒にいて楽しい人物達の時間に永遠に身を委ねていたい。青年はこの願望を、地獄しか生まないと心底卑下していたが。
マリィは、その渇望が、藤井蓮と言う青年が生来宿していた、優しさと子供っぽさからくる、切なる祈りである事を知っていた。

 蓮と湊は、当然の事、生い立ちは元より、顔だって違うし身体つきだって違うし、細部の性格だって全然違う。
だが、『自分がいなくなってでも、大事な者を守りたい』と言う思いが余りにも強い、という事を、マリィは感じ取っていた。
怒るのがヘタクソで、最後は自己犠牲で解決を図ろうとする。それは、マリィと言う少女が、何よりも愛し、幸福を祈り、そして、抱きしめたいと思う人物の姿であった。

「レンは多分、今、とっても怒ってると思う。わたしに酷い事した人を、絶対にゆるさないって、強く思ってる」


848 : キミの記憶 ◆zzpohGTsas :2022/08/16(火) 01:12:44 kdmJBqRk0
 マリィは、全ての人物の幸福を祈る女神としての地位を、恐るべき少年の手によって、力尽くで以て追放され、今こうして、聖杯戦争の開催地に招かれているに至る。
身体が拉げ、やがて砕け散り、飛散した肉片の一つ一つに厚みがなくなるまで踏み潰された時に、マリィは、思った。
ああ、あの時の因果が巡って来たのかも知れない。大好きな男の子を地獄に誘い、それでいて、許されてしまった罪。
痛いだとか、どうしてそんな酷い事が出来るのだろうか、と。踏み躙られていた一方で、こういう形で清算される過去もあるのかと、冷静に感じ入っていた自分が、確かにあの時存在したのである。

「だからね、出来るんだったら……また、会えるんだったら。『落ち着いて』、って。言ってあげたいかな。レンは、思い切ったら、後は真っ直ぐ行く人だから」

 私の仇を取ってと言う事はしない。自分の滅びは、受け入れているから。
だけど、怒らないで、とも言わない。自分の為に怒ってくれる事は、確かに、嬉しいから。
少しだけ、冷静でいて欲しいのが、マリィの願いだった。あなたは倒すべき誰かを間違えない人。多分、あなた程の人が倒すと心に決めたのだから、それは正しく敵であるのだろう。
倒したいのなら、落ち着こう。そうと伝える為だけに、マリィは、彼にまた、逢いたかった。

「でもその為には、聖杯戦争、だっけ? 勝たなくちゃいけないんだろう?」

 そう、それこそが最大のネックであった。
これが昔の、蓮の為のギロチンとして在れる事が嬉しかった時代だったのならば、兎も角。
女神として昇華され、痛みと幸福を知った彼女が、今更、嘗て諏訪原の街で引き起こされたような、スワスチカを巡る殺しあいのような真似は、到底出来ない。

「……」

 それに対する答えは、まだ、見つかってない。
考えてみれば、あの戦いに於いて、マリィと言う存在は受動的な存在だった。
諏訪原の街に被害を出さない為の立ち回りとは? みんなを守る為には? それを考えていたのは、藤井蓮なのであって、マリィではなかった。
もっとあの戦いに、積極的に蓮と言葉を交わしておけば良かったとマリィは思う。退屈だからと寝ていた自分の頭を、叩きたくもなって来た。
蓮の為の力として活躍していればよかったあの時と違い、今度は正真正銘、マリィ本人が独立して、自分の意思と頭で選び、勝ち抜かなくてはならないのだ。

 自分に、出来るだろうか?
アレだけ頑張った蓮だって、その手で守り切れずに取りこぼしたものがいっぱいあったと言うのに。
座にいた頃の力を剥奪された今の自分に、この戦いを生き残る事が――今の自分に、殺しを選ぶ事が、出来るのか?

「答えは、今じゃなくても良いよ」

 黙りこくり、目を伏せ、思案に耽るマリィを見て、湊は言った。

「多分、今どれだけ考えた所で、それはやっぱり、理想論じゃないかな。マスターは、今の自分を全力で楽しみながら、時が来たら、僕と一緒に、頭が痛くなるほど考えればいい」

 「――そうだね」

「今は、今を楽しもう。答えの方が、近づいてくるまで。明日の死が、見えて来るまで。何て言ったっけ……これ……。――ああ、そうだ」

 思い出したかのように言葉が浮かんだ湊。マリィも、同じ事を思い出したらしい。

「メメント・モリ」

「メメント・モリ」


849 : キミの記憶 ◆zzpohGTsas :2022/08/16(火) 01:13:20 kdmJBqRk0
 memento mori。ラテン語で、死を忘れる事なかれ、と言う意味を示す警句である。
古代ローマの時代には広く受け入れられていた概念であり、ヴェスヴィオ火山の噴火によって一夜にして地図と歴史から消滅したポンペイの街からは、
この警句をイメージ図化したモザイクのテーブル天板が出土した位である。つまりそれだけ浸透し切っていて、家具のモチーフに使われていた程なのだ
尤も、ローマの民は、どうせ死ぬのなら、めい一杯人生を楽しもう、と言う意味合いで使っていたようであるが。

「よく知ってたね、マスター」

「私を守ってくれてた人が良く言ってた言葉だから。……あまり好きな言葉じゃないんだけどね」

 それは、言葉自体が受け入れられないと言うよりは、今も、彼……黄金の獣に対する苦手意識があったからなのであるが。

「セイヴァー。……それじゃ、わたしの大好きな人に会えるまでは、一緒にいてくれる?」

「いいよ」

 即答する。

「う、ウワキじゃないよ。その辺りは、その、かんちがい、しないでね?」

「そんな事したら怒られそうだからしないよ」

 いや本当に、話聞いてる限りだと、マスターの彼氏怖そうだもん。

「……でも、全部が終わったら、セイヴァーを、抱きしめてあげたいな」

 それは、マリィの本心であった。
セイヴァー……有里湊は、見るからに儚くて、だけど強い意思を心の裡に秘めていて。
……何よりも、見ていて、幸福であったと言う気配をまるで感じさせない程、幸の薄そうな、青年であったから。そして、そう言う人の魂をこそ、マリィは、抱きしめてあげたかったから。

「……悲観される程、薄幸の人生を送って来た訳じゃないぜ、僕も」

 有里湊の人生は確かに、悲劇的であり、それでいて、余りにも短い人生であったが。
それでも、湊は自分の選択を後悔した事もないし、自分の辿って来た足跡を、誰かに哀れまれる程、幸せの息吹も芽吹きもない人生であった訳じゃないのである。

「だけど……そうだな。もしも、マスターが許してくれるのなら……」

「? 許して、くれるのなら……?」

 次の言葉を紡ぐのに、湊は、数秒程の間を必要とした。
言おうか言うまいか、迷っている様子だった。思い付きはしたが、言うのが気恥ずかしいみたいで。照れ臭そうな態度で、頬を掻きながら、こう言った。

「……膝枕の方が、良いかな」

 今際の際に、機械の乙女の膝に身体を委ね、見上げた空が綺麗だった事を、湊は、今でも覚えているから。
マリィが蓮に逢える事を夢見ているように、湊も、女神のような人物にそう言う事をして貰えるのは、悪くはないかなと思っていた。

「あっ、それ……蓮にもやってあげたいかも」

 抱きしめるより、そっちの方が良い事もあるかな、と一瞬思った。
ならば、蓮にも……カリオストロが羨ましそうにしてたら、彼にも、試してあげたいな、とマリィは、思った。

「してあげたら良い。その方が、喜ぶだろうしね」

 ふっと笑みを浮かべ、湊は空に目線を投げた。良い天気だ。死ぬには、良い日かも、知れない。


850 : キミの記憶 ◆zzpohGTsas :2022/08/16(火) 01:13:40 kdmJBqRk0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





     眩く輝くひととき みんなと一緒だった
 
     かけがえのないときと 知らずにわたしは 過ごしていた

     今はただ大切に 偲ぶよう I will embrace the feeling

     キミはね確かに あのときわたしの そばにいた

     いつだって いつだって いつだって すぐ横で笑っていた

     無くしても取り戻す キミを I will never leave you






【クラス】

セイヴァー

【真名】

有里湊@PERSONA3

【ステータス】

筋力C 耐久D(EX) 敏捷C 魔力A++ 幸運E 宝具EX

【属性】

中立・中庸

【クラススキル】

境界にて:EX
死の境界、そのもの。セイヴァーは己の魂を以て、あらゆる生命体に絶対の終焉を齎す存在、『ニュクス』を封印する為の閂。
そして、人類が抱くどうしようもない、死滅への願望、自滅衝動が、ニュクスに触れる事を防ぐ為の大扉である。こうなる事を、セイヴァーは選んだ。
そう言う存在であるからか、セイヴァーは『死』、『滅び』、『終焉』と言った、過程を無視して行き成りこういった事象を齎す現象を、ランク問わず全て無効化する。
言い換えれば、即死に対する完全耐性。

対概念:EX
宇宙一つと、等価の少年。
独力で唯一、ユニバースのアルカナ、即ち、根源に等しい場所に辿り着いた少年は、本来、単一の宇宙に於いて成せない事は何もないと言われる程の、全能の存在。
まさに、『宇宙』を体現する存在であった。いわばセイヴァーは、人間大の宇宙、歩く人型の特異点である。
その性質の故、セイヴァーの身体をもしも概念的な攻撃や支配の類で影響を与えたければ、文字通り、『宇宙一つを丸々支配出来る範囲の物を用意せねばならない』。
大海に墨の一滴を零した所で、全海が黒一色に染まる事などあり得ないのと、これは同じ事。
催眠の魔術や呪法を行おうとも、それが対人の物であるのなら一切意味を成さないし、広範囲に渡る広域精神操作であっても、単純にそれが宇宙全土の範囲に影響を与えられねば意味がない。
また、魔法手前とも言われる大魔術である固有結界や、精霊種などが行う空想具現化ですら、上述のように宇宙一つが範囲でなければ、セイヴァーをその影響下に置く事が出来ないどころか、
単純に質量及び範囲の面でセイヴァーに負けるので、『固有結界や空想具現化の方が内から張り裂けるように砕け散る』。

要約すれば、精神に作用する攻撃や概念的な改変や支配攻撃や行動は、宇宙以上のレンジをカバーして初めてセイヴァーに影響を与えられると言う事を証明するスキル。
一見すれば無敵の力だが、これはあくまで上述の効果にのみ有効なものであり、『直接的に相手を殴る蹴ると言った物理攻撃や、肉体を直接損なう魔術や呪術』には一切作用しない。用は、ダメージを与える系の行動については、素通しする。

【保有スキル】

根源到達者:D-(EX)
「 」から生じ、「 」を辿るもの。宇宙の渦であり、全ての始まりであり、全ての終わり。根源と呼ばれるところに、到達したかどうか。
根源接続者と違う点は、『生まれついてその場所に接続していたか否か』の違いであり、このスキルの場合は、後天的に自らの力で到達した事を示す。
ランクEXとは、到達しただけで奇跡と言われる根源の、更に最奥に到達した事を証明する。事実セイヴァーは、すでに説明した通り、全能の存在とニアリーイコールであった。
だがセイヴァーは――己の全能性の全てを、絶対の死であるニュクスを退ける事と、人類の想念がニュクスに触れないようにする鉄扉になると言う事に注いでいる。
その為、サーヴァントとして召喚されたのとは別に、その全能性を十全に発揮する事は出来ない。その為セイヴァーに出来る事は、己の振るうペルソナ能力の超広範化に特化している。
セイヴァーは装備したペルソナによって己のステータスやスキルを変動させる事が出来、装備したペルソナ次第によっては、高ランクの対魔力や無窮の武錬、勇猛、再生スキルを得る事が可能。
またセイヴァーは、単一の力のみでミックスレイドと呼ばれる力を発揮出来る、唯一のペルソナ能力者でもあり、また、魔力の消費によって、受胎と呼ばれる、装備したペルソナ由来の宝具を生み出す力にも覚醒している唯一の人物である。

死の淵:EX
戦闘を続行する能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負っても戦闘が可能。戦闘続行と呼ばれるスキルの、ウルトラ上位版。
自らの意志が健在である限り、身体の過半が吹き飛ばされようが、戦う事を止めない。セイヴァーは、死そのものの直撃を受けてなお、戦う事を。立ち向かう事を、止めなかった。


851 : キミの記憶 ◆zzpohGTsas :2022/08/16(火) 01:14:16 kdmJBqRk0
カリスマ:D+++
人を惹きつける力。大軍を率い、国家を支配すると言ったような魔的なそれではない。
が、セイヴァーの場合は対人でのやり取りに於いて、その効果は強く発揮される。具体的には、魅力的な青年に映る。

【宝具】

『絆、宙へと続け(コミュニティ)』
ランク:E〜A++ 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:22
セイヴァーが他者と交流し、絆を深めることによって22の大アルカナに対応したコミュニティが形成される。
コミュニティの数やランク(交流の深さによって変動する)に応じてセイヴァーのステータス・スキルに上昇補正が加わる。

『心の宇宙(ユニバース)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:??? 最大補足:???
嘗てセイヴァーが築き上げ、そして到達したとされる、アルカナの旅路の果てに存在すると言う宇宙/世界。
この宝具に覚醒したセイヴァーは、その身で出来ない事など何一つとして存在せず、森羅万象から奇跡の意味を消し飛ばす存在となる。
生身での宇宙空間の活動や、次元防御や一切の概念防御を無効化する絶対の『死』ですらも、彼の身体を害する事は不可能となる。
その本質は、セイヴァーが結び、縁を育てた絆の力の真の到達点。セイヴァーでなくとも人間ならば誰しもが有している、
現実の流れを些細にでも良いから変える力が、究極のレベルにまで高められたそれであると言っても良い。言ってしまえばセイヴァー自体がある種の願望器である。
サーヴァントとして召喚されたセイヴァーは、生前のような無茶は初期段階では出来ない。――但し、様々な存在と縁を育んだ場合は、別である。
セイヴァーのステータスやスキルランクは、上述の宝具によって縁を築き上げた人物の数が多ければ多い程無限大に上方修正されて行き、場合によっては新しいペルソナにも覚醒する。
育んだ人々の縁が多ければ多い程、奇跡を消し去ると言われた程の力をセイヴァーは取り戻す事が出来、事実上セイヴァーの強さは青天井にも等しい。

【weapon】

ペルソナ能力:
セイヴァーが、ユニバースに覚醒する前から得意とする能力。セイヴァーの様に、複数のペルソナを使い分けられる存在を、『ワイルド』と呼ぶ。
才能のせいもあるが、身体にデスと呼ばれる特殊なシャドウを封印された影響で、その才能が奇特な形で頭角を現してしまった。

無銘・小剣:
セイヴァーは様々な武器の扱いに長けるが、とりわけ得意とするのがこういった小ぶりな剣である。
装備したペルソナによっては、本職の三騎士サーヴァントを圧倒する程の力を発揮する事も可能。

【人物背景】

知恵の実を食べた人間はその瞬間より旅人となった。カードが示す旅路を巡り未来に淡い希望を託して……。

とあるアルカナがこう示した。強い意志と努力こそが唯一夢を掴む可能性であると
そのアルカナは示した。心の奥から聴こえる声なき声…それに耳を傾ける意義を。
そのアルカナは示した。生が持つ輝き…その素晴らしさと尊さを。
そのアルカナは示した。あらゆるものに毅然と向き合い、答えを決するその強さを。
そのアルカナは示した。己を導く存在、それを知る事の大切さを。
そのアルカナは示した。他者と心が通じあう…その喜びと素晴らしさを。
そのアルカナは示した。目標に向かって跳躍するその力こそ、人が命から得た可能性であることを。
そのアルカナは示した。何もかもが不確か故に、正しき答えを導かねばならぬことを。
そのアルカナは示した。時に己を見つめ、自らの意思で道を決するべき勇気を。
そのアルカナは示した。永劫、時と共に回り続ける 残酷な運命の存在を。
そのアルカナは示した。どんな苦難に苛まれようと、それに耐え忍ぶ力が必要なことを。
そのアルカナは示した。避けようのない窮状においてこそ、新たなる道を探すチャンスがあることを。

知恵の実を食べた人間はその瞬間より旅人となった。アルカナの示す旅路を巡り、未来に淡い希望を抱く。
しかし、アルカナは示すんだ。その旅路の先にあるものが、絶対の終わりだということを。いかなる者の行き着く先も絶対の死だということを。

――青年はその死を、乗り越えた。その先に、宇宙を見、奇跡を成し、そして、自らの旅の終わりに、魂を捧げる事で、皆の幸せを約束した。
 
【サーヴァントとしての願い】

特にはない。女神の膝枕ってのも、悪くはないのかな


852 : キミの記憶 ◆zzpohGTsas :2022/08/16(火) 01:14:27 kdmJBqRk0
【マスター】

マルグリット・ブルイユ@Dies irae

【マスターとしての願い】

レンとまた逢いたい

【weapon】

【能力・技能】

神としての魔力:
マリィは覇道神と呼ばれる存在になる前からして、当代の絶対神に該当する存在が、次の代を引き継がせるに相応しいと確信させる程の魂の質を誇る存在だった。
実際彼女は、その神の手からなる戯曲を経て、神の座に座る事が出来た。が、最強最悪の邪神に神の座を追われた今では、覇道の神としての性質もその当時の魔力はない。
なので、覇道神になる前。即ち、求道の性質を持っていた頃と同等程度の魂の質、魔力を有する程度に留まる。
程度に留まる、と言ったが、その魔力量は極めて膨大で、Aクラスの攻撃宝具を何発も行使した程度では、到底其処を見せぬ程には圧倒的な総量を誇る。
但し、これだけの魔力を以てしても、セイヴァーが持つユニバースの力を無理に引き出そうとすれば、一瞬で枯渇するし、彼女自身も消滅する。

呪い:
彼女が有していた、斬首の呪い。彼女に触れた存在は、首が飛ぶ。これは比喩ではなく、物理的に、ギロチンを落とされたように首が宙を舞うのである。
その呪いの程は極めて強固。聖杯戦争のマスターとしての召喚、かつ、神の座を暴力によって追われ滅茶苦茶にされた今では弱体化こそしているが、それでも、
対魔力を持たぬサーヴァントは彼女に振れた瞬間首が切断され即死。持っていたとて、触れ続ければ時間差で首が舞う。
粛清防御レベルの防護手段を以て初めて、数分は触れていても耐えられると言う程で、例え粛清防御があったとしても、それ以上の接触は危険水準となる。
但しセイヴァーの場合は、既に述べたような、概念的な力に極めて強い防御手段を持っている為、マリィに触れても平気である。

【人物背景】

嘗て女神と呼ばれ、そして、水銀の蛇の導きと、超越者との二人三脚で、女神の座に至った少女。
全てを愛し、全ての幸福と健やかなるを祈り、そして抱きしめた聖女。その性質の故に、最悪の邪神の生誕をも祝福してしまい、当たり前の様に、その邪神に仇を返された。

マリィルート後、うんこマンによってクソミソにされ、神咒神威神楽に至る前の時間軸から参戦。

【方針】

聖杯戦争に対する意欲は低い。取り合えず、今は頑張ってがっこうせいかつ


853 : キミの記憶 ◆zzpohGTsas :2022/08/16(火) 01:14:41 kdmJBqRk0
投下を終了します


854 : ◆Lap.xxnSU. :2022/08/16(火) 02:35:19 K/RlGx.s0
投下します


855 : ビースト・ダンス ◆Lap.xxnSU. :2022/08/16(火) 02:36:05 K/RlGx.s0
 少年は頭を垂れる敵手の首を刎ねた。
 その手に握るのは血塗れの日本刀。
 これまでにも幾人かの血を吸ってきたのだろう。
 死の香りがする銀刃は血に塗れ、滴らせ。
 それによって首と胴体を永遠に泣き別れにされた死体は跪いたまま事切れていた。
 転がった生首は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしたまま呆けたように口を開けている。
 誇りも願いもかなぐり捨てて死の間際まで土下座して命乞いをしただろう…あらゆる意味で無残な死体。
 女の生首をサッカーボールのようにつま先で弄びながら、少年はそれを鼻で笑った。

「無様な死体(スクラップ)だぜ。死ぬ時くらい潔くしろってんだ」

 口元に傷のある少年だった。
 桃色の頭髪は可愛らしい印象をさえ抱かせるがその表情と佇まいが放つ剣呑さが牧歌的なもの一切を消し飛ばしている。
 日本刀を握る右腕には真紅の刻印。
 令呪――聖杯戦争のマスター、外の世界から異界東京都へ招かれた客人の証。
 少年…三途春千夜は聖杯を求める権利を与えられている。
 だからこそ彼は今宵人を殺したのだ。
 見ず知らずの女だった。
 サーヴァントを従え、自分自身に言い聞かせるように叶えねばならない願いとやらを叫んでいたのを覚えている。
 死に別れた友人がどうこうとかそんな事を言っていたなぁと三途は漠然と思い出していたが。
 彼が彼女にした事と言えば憐憫や理解を示すのとは全く真逆だ。
 己の従僕に彼女の希望を殺させている傍ら執拗に斬り付けて心をへし折った。
 嗜虐心のままに降伏した相手の四肢を斬り、戦意を霧散させて頭を垂れ跪いて許しを乞うその素っ首を叩き斬った。
 それだけの事をしておいて。
 三途の心には罪悪感はおろか感慨すら欠片も無かった。
 むしろ己が殺した女の無様さをせせら笑う悪意が幅を利かせている程であった。

「ご苦労だったなガウェイン。次もその調子で頼むぜ」

 三途春千夜は破綻者であり狂信者だ。
 人を殺す事、傷付ける事、そして踏み躙る事。
 その一切に微塵の感慨も抱かない男。
 目的の為ならば…自分が生涯を懸けてもいいと思える相手の為ならば。
 己の身がどれ程の罪に穢れる事も厭わず。
 己の手がどれ程の血に塗れる事も厭わない。
 倫理観という名の箍が常に外れている人間。
 そんな彼の従える騎士はしかし、己が主君に隠し立てする事もなく軽蔑の視線を注いでいた。

「…貴様に言われるまでもない。務めは果たすと常々伝えているだろう」


856 : ビースト・ダンス ◆Lap.xxnSU. :2022/08/16(火) 02:37:13 K/RlGx.s0
「そう嫌うなよ。これでもオレはオマエのマスターなんだぜ?」

 ガウェイン。
 そう呼ばれた女の視線は三途の足元に注がれていた。
 液体に濡れた生首を蹴転がして玩弄する主君。
 その所業に対しセイバー、騎士ガウェインは明確な軽蔑の念を示している。
 三途もそれを承知の上で憚りもなく文字通りの死体蹴りを続け。
 最後には腰を入れた蹴りで吹き飛ばした。
 処刑場となった廃工場の壁に衝突し、べっとりと壁を汚してから床に落ちる。
 口と目を半開きにして濁った唾液を零している様に人間の尊厳などは欠片も無かった。

「従者は王を立てるもんだ。オレは王に対する一切の不忠を許さねえ」
「ならば折檻でもしてみるか? 貴様の意に添わない私に」
「勘違いすんな。オレはオマエのマスターだが、王じゃない」

 …騎士ガウェインはこの男を嫌悪していた。
 その嫌悪に叛意はない、
 ガウェインが彼の背に刃を向ける事も恐らくない。
 だが彼女が三途という主君に心からの敬愛を抱く事もまたあり得ない。
 悪辣にして残忍な振る舞いと言動はかつての同僚を思わせる。
 敗者を嬲り弄び、嬉々として死体を蹴り飛ばす狂人じみた少年。
 口を開けば忠の何たるかを説く彼はしかし、ガウェインに自分へ跪く事は求めなかった。

「オレには忠誠を誓い全てを捧げた王が居る。だからオマエもオレに倣ってくれればそれでいい」
「似合わん殊勝さだ。貴様が誰かに跪くような柄には見えん」
「跪くし靴でも嘗めるさ。アイツがそう望むなら」

 その目には確かな憧憬の念が宿っていた。
 それはやはり、この男らしくない瞳だった。
 しかしそれこそが彼の真実。
 三途春千夜は狂犬である。
 自分自身に首輪を填め王以外の全てに牙を剥く血塗れの狂犬。
 誰もが恐れる東卍の猛犬…そしてなればこそ。

「オレの気はそう長くねぇぞ? ガウェイン」
 
 三途も、そして騎士ガウェインも。
 それぞれがそれぞれの巡り合わせを感じていた。
 一人は福音を。
 そして一人は…底の知れない凶兆を。


857 : ビースト・ダンス ◆Lap.xxnSU. :2022/08/16(火) 02:38:54 K/RlGx.s0
 三途は己の従僕がどういう女であるかを知っている。
 どういう"モノ"であるかを知っている。
 知ったその上で喜び歓迎しているのだ、彼女を。
 騎士――妖精騎士ガウェインという型に嵌められた忌まわしきイヌを。

「生贄は用意してやる。存分に味わって肥え太りやがれ」

 ハッと嘲笑った三途の首に。
 ガウェインの抜いた剣のその切っ先が突きつけられる。
 静かに燃え上がる殺意が彼女の美顔には横溢していた。
 これ以上の愚弄は容赦のない死を招く。
 そう悟らせるに十分な気迫でありながら三途の笑みは崩れない。
 分かっているからだ。
 知っているからだ――此処で彼女が牙を剥き己を斬り裂けば。
 それは彼の望む通りの黒犬(ブラックドッグ)に成り果てる事を意味するから。
 彼が求める通りの厄災に歩みを進める事に他ならないから。

「…貴様が私の何を見たのかは知らん。
 だが残念だったな。貴様の望むモノはもう二度と顕れん」

 あの呪いを覚えている。
 忘れる筈もない。
 何故ならそれは今も己が肉体の内で脈を打ち続けているのだから。
 この霊基が肥え太ればいずれ血は煮え立とう。
 血管には稲妻が走り、触角は肥大化しあるべき姿へと迫っていくのだろう。
 そう解った上で騎士ガウェインは。
 その名を与えられた妖精はそれを否定する。
 遥か過去ブリテンの國で己が成り果てた厄災を。
 今もこの身を蝕む呪いを、否定する。
 
「我が名はバーゲスト。妖精騎士バーゲスト――貴様の覗き見たあの地獄を超える者だ」

 妖精騎士ガウェイン。
 否…異聞帯ブリテンの妖精バーゲスト。
 ブラックドッグの頭、黒犬公バーゲスト。
 いずれ厄災となる獣ではなく正しき妖精騎士として。
 彼女は今此処に立っている。
 あまりに救われず呪わしい幕切れの果てに此処に居る。
 そしてそんな彼女に災禍たれと願う少年は彼女の宣誓を鼻で笑った。

「いいやテメェは逃げられねえ。己の宿命、己の宿痾、そのどっちからも」


858 : ビースト・ダンス ◆Lap.xxnSU. :2022/08/16(火) 02:39:44 K/RlGx.s0

 未だ刃を突き付けられたままでありながら。
 三途の声は怯えるどころかむしろ嬉々としていた。
 宴を前にした幼子のように純真な渇望がそこにはある。
 
「オレなんかに呼ばれちまったのがその証拠さ大食らいのガウェイン。
 オマエは人を殺すしかない。オレはオマエにそれを願い続ける。
 オマエの生む全ての血と虐と嘆きを歓迎し続ける! オレは――闇に染まったオマエをこそ必要としてるんだ」
 
 かつて厄災に成り果てた彼女は天文台の魔術師とその一行により討たれた。
 汎人類史と縁を持った事により英霊の座へ登録された彼女がよりによってこの男に召喚されてしまった事は不幸以外の何物でもないだろう。
 彼女が目指し憧れる眩き騎士像。
 妖精騎士バーゲストとしての未来を、三途春千夜は当然のように全否定する。
 何故なら彼は光に興味など無いからだ。
 彼が望むのは闇の中に進んでいく大きな力。
 …黒い衝動。
 
「オマエはオレにとって最高のモデルケースだ」

 彼の王はそれを抱えている。
 バーゲストの背負う呪いとは根本的に異なる、しかし周囲の全てを不幸にするという点でだけは共通する闇の宿痾。
 誰よりも王を崇め王に尽くす男だからこそ。
 三途はバーゲストが秘める"衝動(それ)"を歓迎していた。 
 彼女の決心や覚悟などに興味はない。
 その強さすら眼中にはない。
 彼が望むのはただ一つ。
 妖精國ブリテンの国土を焼き焦がした"獣の厄災"のみ。

「オレの望む未来を先んじてテメェが描いてくれ――魔犬バーゲスト!
 この東京を餌場にくれてやる。好きなだけ喰らえ! 好きなだけ殺せ!
 オレがテメェの罪の全てを赦してやる! 草の根一つ残すんじゃねぇぞ!? ハハハハハッ!!」
「その名で…ッ、二度と私を呼ぶな……!」

 三途が望み幻視する未来。
 焦土と化した東京に君臨する魔犬が全てを食い尽くす結末。
 しかしてそれだけに拘るつもりはない。
 それ以上の結末があるのならば貪欲に飛びつこう。
 もしもこの地に己が信奉する王が居るのなら変わらず全てを捧げよう。
 妖精騎士の剣が首筋に触れる。
 そこから滴る一滴の血を指先で掬い舐め取って三途は笑った。
 
「何度でも呼ぶさ」


859 : ビースト・ダンス ◆Lap.xxnSU. :2022/08/16(火) 02:40:21 K/RlGx.s0

 歓迎しよう全ての呪いを。
 受け入れようオマエの罪を。
 それがアイツの為になるならば。
 オレのマイキーの糧になるならば。
 三途春千夜は狂犬であり狂信者だ。
 狂っているのだから、当然手段は選ばない。
 いつか辿り着くのだと誓い見据えた未来の為に。 
 他のあらゆるものを犠牲にしながら――彼は今日も今日とて殺し、壊すのだ。

【クラス】
セイバー

【真名】
バーゲスト@Fate/Grand Order

【属性】
混沌・善

【パラメーター】
筋力:B+ 耐久:A 敏捷:A 魔力:C 幸運:C 宝具:B+

【クラススキル】
狂化:A+
精神に異常は見られないバーゲストだが、定期的に■■を■■しなければならない。
この衝動に襲われた後、速やかに解決しなければ発狂し、見境なく殺戮を繰り返すバーサーカーとなる。

対魔力:C
詠唱が二節以下の魔術を無効化する。
大魔術・儀礼呪法のような大掛かりなものは防げない。

【保有スキル】
ワイルドルール:A
自然界の法則を守り、その恩恵に与るもの。
弱肉強食を旨とし、種として脆弱な人間は支配されて当然だと断言する。

聖者の数字:B
汎人類史の英霊、ガウェインから転写されたスキル。
日の当たる午前中において、その基本能力が大幅に増大する。


860 : ビースト・ダンス ◆Lap.xxnSU. :2022/08/16(火) 02:40:55 K/RlGx.s0

ファウル・ウェーザー:A
コーンウォールに伝わる、一夜にして大聖堂を作り上げた妖精の力。味方陣営を守る強力な妖精領域。

【宝具】
『捕食する日輪の角(ブラックドッグ・ガラティーン)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:100人
燃えさかる角、『妖精剣ガラティーン』を用いての巨大な一撃。
バーゲストの額にある角は自身の霊基成長を抑制する触覚であり、これを引き抜くとバーゲストの理性は死に、残った本能が肉体を駆動させる。
角を引き抜いたバーゲストは"先祖返り"を起こし、黒い炎をまとい妖精体を拡大させ、ガラティーンを相手の陣営に叩き降ろす。
地面から燃え立つ炎は敵陣をかみ砕いて捕食する牙のように見える。

【weapon】
ガラティーン

【人物背景】
妖精國ブリテンにおける円卓の騎士、その一角。
汎人類史における円卓の騎士・ガウェインの霊基を着名した妖精騎士。
妖精國ではもっとも恐れられた妖精騎士。
――『愛多きガウェイン』『大食らいのガウェイン』とも。

【サーヴァントとしての願い】
興味はある。だがそれに頼り叶える願いではないとも思っている。


【マスター】
三途春千夜@東京卍リベンジャーズ

【マスターとしての願い】
マイキーの為に聖杯を用いる。
元の世界に持ち帰るか、あるいは…。

【能力・技能】
喧嘩の強さと躊躇なく人間を殺傷できる精神性。
武器として日本刀を携帯している。

【人物背景】
黒い衝動を渦巻かせる無敵の男をただ追う男。
彼が生む血と虐の全てを歓迎する男。
彼の全てを知る男。

【方針】
鏖殺


861 : ◆Lap.xxnSU. :2022/08/16(火) 02:41:13 K/RlGx.s0
投下終了です


862 : ◆vV5.jnbCYw :2022/08/16(火) 17:57:10 W7DoCwA.0
投下します。


863 : pray for the fiction ◆vV5.jnbCYw :2022/08/16(火) 17:58:19 W7DoCwA.0
夢を見ていた。
そこで見たのは、ゲームの中で見たような世界と、その世界を仲間と共に冒険する青い髪の兄ちゃんやった。
夢の中で彼は、色んな怪物と戦っとった。
緑の太ったトカゲのような怪物、オレンジ色の怪鳥、醜悪なまでに太った半魚人、赤銅色の筋肉に覆われた魔人。
そして最後に、手と頭だけになった怪物の王を倒して、世界を救った。
人を笑わせることしか出来ず、誰も救えなかった僕とは大違いやった。


けれど


――レックにいちゃん、だいすき……さよなら……。
――さみしいけどそろそろ、おわかれの時がきたみたいね……。さようなら、レック……


彼が他の誰よりも守りたかったはずの二人の女の子は、泡沫へと消えていった。
それもそのはず。二人の存在は夢が作り出した偽物なのだから。
夢の世界にいた彼らは、怪物の作った世界の舞台装置のようなもので、怪物の力によってその存在を許されていたのだから。
まるでダニXによって生きることを許されていた『竜宮』の住人のように。


それを考えると、想い人と同じ場所で死ねた僕は幸せなのかもしれへんな。
誰かの人生を比較して悦に浸るつもりはないが、そんな風に思ってもうた。





カーテンから差し込んでくる眩しい太陽が、僕を照らす。
『竜宮』を照らしていた人工の灯りではない。
網膜が焼け付くような感じは、確かに二度と拝めることが無いと思っていた太陽やった。


「おはよう、ピート。」
『何やねんその言い方。とっくに昼やっちゅうに。』
「そんな時間か。どうにもホッとしてしまうと、遅起きになってしまうわぁ。」
『アンタ元の世界にいた時でも、仕事ないとき遅まで寝とったやろ!』


僕の兄、正確には兄が遺してくれた腹話術人形のピートは、この世界でも話しかけてくれた。
こんな風に言うと、頭おかしい奴としか言われへんと思うが、それでも事実や。

「あの時お別れやと思ったのに、また会えて何よりや。」
『アホやなー。生まれ変わったんなら、綺麗な女の人の手に動かして欲しかったわ。なんで生まれ変わってまでおまえとおるねん。』
「アホとはひどいな。僕がこんなに喜んどるというのに。」


864 : pray for the fiction ◆vV5.jnbCYw :2022/08/16(火) 17:59:12 W7DoCwA.0
たとえ一人だとしても、いつもやっていたことをやらないと、どうにもしっくり来へんらしい。
聖杯というのは、どうやら僕に寄生していたダニXまで生き返らせたーーということは無かったようで、鼻血も倦怠感も頭痛も無くなっとった。
着替えて家を出て、向かった先は芝生の青い公園。
二度と拝むことの出来なかったはずの地上を満喫しながら、ずっと前からやっていたことを始める。
既に子供たちが近くに集まっていた。
中には主婦や、散歩中のおじいちゃんらしき人もおった。


「はーい、こんにちは!ピート兄弟どぇー――ーす!」


いつものように、竜宮にいた時のように、竜宮に来る前のように、ピートと一緒に芸をやる。
笑ってくれる子供たちがいるのは、ええことやと思う。
あの竜宮でも、笑ってくれる子供たちがいたから、嘘つきでいられることが出来たしな。


「これは僕が高校生の時、ピートのズボンが脱げてな」
『笑うなや!人の失敗を笑う芸は、もう古いで!』
「君は人ちゃうやん!」
『こういう時だけ都合よく人形扱いするなや!』


こうしていると、どうにも落ち着いてくる。
どちらが嘘で、どちらが本当のことなのか分からなくなってくる。


「長くなったけど、これで今日の講演は終わり。みんなありがとう。」
『ほな、またな!!』
「先に言ってどうすんねん!ほな、またな!!」


満足したらしい子供たちが帰って行く。
この瞬間は、きちんと仕事を出来たのだと気持ちよくなる瞬間やった。

でも、僕の芸で笑ってくれへん人が一人いる。

「面白かったよ、マスター。」
少し高いくらいの、若い男性の声が、木の上から声が聞こえる。
そこで腰かけていたのは、夢の中で見た青髪の青年やった。


「ありがとう、マスター。」
『お世辞や。なんでわしの芸に笑わんねん。木の上に座ってるのがバレるくらい、デッカイ声で笑えや!』
「こら、マーク。セイバーに対して失礼やぞ。」


気まずそうな顔をしたセイバーは、顔を歪める。
それは僕が何度も目の当たりにした中で、特に下手くそな嘘の笑顔やった。

「ごめんね。これでも面白く感じているんだ。けれど俺は笑えないんだ。」


お笑い腹話術師として、僕は色んな人を笑わせて来た。
その中には、災害や離別によって笑顔を無くした人もいた。
一度は死んだ僕でも、ここまできっぱりと笑えないと言う人は初めて見た。
でも、セイバーが笑えなくなった原因を見てきたのだから、仕方がないとしか言えへん。


865 : pray for the fiction ◆vV5.jnbCYw :2022/08/16(火) 17:59:33 W7DoCwA.0

「君まで暗い顔することは無いよ。俺は勇者としての役目を果たしただけなんだから。」


ぎこちない笑顔で、セイバーはそう語る
「………。」
『おまえが励まされてどないすんねん!』
ピートがそう突っ込んでくれる中、不意にある言葉を思い出した。


――最後の最後まで嘘つきでいられるか?


僕が竜宮に来るきっかけになった質問やった。
意図も分からんままハイハイ答えて、竜宮を新設のレジャーランドか何かやと思て付いて行ったんや。
その後すぐにわかることになった。


『竜宮』は可能性のある人間を未来に遺すためのシェルターやってことを。
その先で僕は普通なら一生かかっても見れへんはずのものを、いやというほど見ることになる。

竜宮越しに見ることになった、隕石によって崩壊した日本。
食糧不足を解消するために、間引かれていく竜宮の住人たち。
そのあとすぐに、蔓延していく殺人ダニ。
鼻血を出していなくなる仲間。


そんな中でも、腹話術師としての役割を全うできるか聞かれたんやった。


その時、僕は分かった。
この若いセイバーの兄ちゃんも、最後の最後まで勇者でいられるか、誰かから言われたんやろな。実際に言われたわけではないにしても。
その結果が、今のセイバーなんやろ。


夢で見たあの冒険は、映画か何かと勘違いするくらい壮大やった。
僕より若いのに、あんな冒険を生き残るなんて、凄いとしか言いようがない。
情けないことこの上ない話やけど、あんな経験を積んでしもうたら僕の芸なんかで笑わせることなんて出来へんと思う。
いや、彼を笑わせる心当たりが無いわけではあらへん。
こんなのに頼るのは、腹話術師として最低の方法やと思うけど。


「ごめんな。人を笑顔にする仕事やというのに、何も出来んくって。」
「まさか、僕の笑顔のために聖杯を取ろうって考えてるの?」

見透かしたかのように、セイバーは問うてくる。

「そんなことしなくていいよ。俺の大切な人たちは、今でも……。」
「マスターとしてお願いや。」


僕は命令した。令呪を使ったわけではないが、心から懇願した。
彼の作り笑顔が、あの時最後のラーメンを食べさせてくれたおっちゃんの顔に似てたから。


866 : pray for the fiction ◆vV5.jnbCYw :2022/08/16(火) 18:00:17 W7DoCwA.0

「僕の前でだけ、嘘をつかないでや。噓つきは竜宮へ行った人らだけで十分や。
ヒーローになれるくらい強なったんやろ?じゃあ嘘つかんでも生きていけるはずや!!」

本当は強くても嘘をつき続けなきゃいけない人がいるのは、竜宮で学んでいる。
僕よりずっと色んな人を笑顔にした火野選手やミキ・マリかて、嘘つきにならなければアカンかった。
あの場所では、誰もが嘘をつき続けることを頼まれた。
ここでも、世界は僕らに嘘つきでいろと言うのか。
じゃあ、本当の僕らはどこにあるというんや。


せめて、自分は嘘をつき続けるのはいいが、隣にいる人間ぐらいは正直にいて欲しいと思った。

「俺は……。」

それを聞いたセイバーは、目をぱちくりとさせた後、絞り出すかのような声で言った。


「俺は……俺はあの穏やかな世界で、いつまでも妹と一緒にいたかった!嘘の妹でも良かった!!
そして……バーバラには消えて欲しくなかった!たとえ勇者なんかにならなくっても!!
手に入れた力は他人の為じゃなくて、自分のために使いたかった!!」


一度穴をあけてしまうと、止め処なく感情はあふれて来た。
まるで竜宮の穴から漏れ出た水のように。


「改めて聞くで、セイバー。何をしたいんや。」

僕にとっても、それ以上聞く必要のない事やった。
けれど、覚悟を決めるためにあえて聞いた。


「俺が愛したウソを、夢を現実にしたい。たとえ仲間や故郷を捨ててでも。」
「分かったで。セイバー。あんたと違て戦いは出来へんけど、あんたが笑顔になるまで、僕は一緒にいたる。」
『わしもいっしょにいたるわ!』

僕には分かる。きっとこの先、あの竜宮であったみたいなことがあるはずや。
それでも、僕はセイバーの笑顔が見たいねん。マスターとして、笑顔にさせてやりたいねん。

なあ、聖杯だっけ?お願いがあるんや。
僕はずっと嘘つきでいたるから、あの悲劇も離別も、災害さえも嘘にしてくれへんか。




【クラス】セイバー
【真名】レック@ドラゴンクエストVI 幻の大地
【属性】
秩序・善
【ステータス】
筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:B 幸運:E 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:A〜EX
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
また、下記の宝具の使用によって、1度魔法を跳ね返すことが出来る。

仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。

ふかくおもいだす/わすれる:A
出来事・セリフなどを正確に思い出すことが出来る。また、不必要なものを捨てることも可能。

自己回復:A
回復呪文による自己回復。

【保有スキル】

勇者:A
彼が持つスキルで、雷の魔法、自身とマスターを鉄に変える魔法、あるいは毒を受けても、致命傷を被っても命尽きるその時まで全力で戦えるスキル。
何が会ってもその役目を全うすることを望まれたのが勇者なのだから。
また、混沌、もしくは悪属性を持つサーヴァントに対して与えるダメージが大きくなる。


867 : pray for the fiction ◆vV5.jnbCYw :2022/08/16(火) 18:00:39 W7DoCwA.0

【宝具】
『幻の大地』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
レックが、冒険の途中で見つけて、装備した剣、盾、兜、鎧のセット。
天空からの授かり物である勇者の武器で、夢を創りし魔王を討った。
各装備品の能力は以下のとおりである

・ラミアスの剣
イナズマの文様が象られた剣。振ると斬撃と共に、爆発が起こる。

・スフィーダの盾
中心に十字架をあしらった白い盾で、使うと敵の魔法を跳ね返すことが出来る。他にも、氷系のダメージを抑えられる。

・オルゴ―の鎧
ハートのような印が刻まれている鎧で、炎の攻撃を軽減する。また、一定数歩くごとに宝具を使ったセイバーの体力を回復させる。

・セバスの兜
頂点に太陽のような印が彫られている兜で、精神に作用する攻撃を無力化する。

【weapon】
ラミアスの剣

【人物背景】
嘘をつき続け、人間を守るために大切な人たちと愛していた世界を犠牲にした勇者。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯の力で、嘘を本当にする。


【マスター】
茨木真亜久@7seeds

【マスターとしての願い】
聖杯という嘘のような力を持って、本当を嘘にする。

【Weapon】
なし。

【能力・技能】
腹話術師だったので、戦える力は無い。だが、どんな状況でも自分の役目を全うする胆力はある。

【人物背景】
兄の遺した人形ピートと共に「ピート兄弟」として活動していた腹話術師。
ある日、「最後の最後まで嘘つきでいられるか?」と聞かれ、そのまま災害用シェルター『竜宮』で活動することになる。
だが、竜宮で致死率100%の謎の寄生ダニ「ダニX」が蔓延し、次々と人が死んでいく。
想い人までも寄生ダニに感染していたことに気付き、彼女ら生き残りを冷凍庫に閉じ込めたのち、自分の命も断とうとする。
最期に宿主を殺させまいとする寄生ダニの抵抗に遭うが、自分すら騙すことで自殺に成功した。


[行動方針]
聖杯は欲しい。
かつて腹話術師としての役割を全うした時のように、聖杯戦争のマスターとしての役割を全うするつもりだが、他人の笑顔を奪いたくない。


868 : pray for the fiction ◆vV5.jnbCYw :2022/08/16(火) 18:00:54 W7DoCwA.0
投下終了です。


869 : ◆T9Gw6qZZpg :2022/08/16(火) 18:07:23 YBqrXVWg0
先日投下した作品について、wiki上で若干の内容編集を行いましたのでご報告します。


870 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/17(水) 01:37:58 twXHJVZI0
投下させていただきます


871 : 紅蜘蛛は未だ修羅道の中にありて ◆TPO6Yedwsg :2022/08/17(水) 01:38:58 twXHJVZI0
 医療産業機関ブロック・ケミカル・インダストリーズの上級執行役員、フレデリック・ハマーン。
 それがある男に与えられた『ロール』であり、そしてそのロールは元の世界においても馴染み深いものだった。
 その名と地位を使い、数十年を費やし日本のある地方都市を屈指の医療産業都市として発展させた。
 男は魔人だった、数十数百の命を縊り、貪り、己の力とする恐るべき人外だった。
 されど気ままに世界を蹂躙する人外たちの中でも類稀なる組織運営と経済センスを見込まれ、その組織維持を一手に引き受けている存在でもあった。

 聖槍十三騎士団黒円卓第十位、ロート・シュピーネ。
 彼は既に本来の名を忘れ数多の偽名をその身に重ねていたが、その中でも真実の名を示すならばこれこそが彼の名前だった。

「聖杯、と来ましたか。なんともまあ……」

 彼にとってその単語は同胞であり何とも油断ならない男を想起させるものだった。
 しかしここは諏訪原ではなく、同胞たちの気配もまた、ない。
 そして、信じがたいことではあるが。
 その身に刻まれた『聖痕』からは、主たる黄金の獣との繋がりが薄まっているのを感じていた。
 それは、シュピーネにとって好機であった。

「完全なる異世界とは信じ難いことですが、確かにこの場においてはハイドリヒ卿の威光さえも届いていない。
聖杯を手にしてしまえば、諏訪原に戻らなくとも良い? あの栄光と恐怖の席を忘れ、誰に支配されることも無くなると?
それは――なんと素晴らしい」

 思わず愉悦の笑みが溢れた。
 この異世界に自分同様招かれたというたかが数十人、百人ぽっちを縊れば、その権利が与えられるという。
 英雄、サーヴァントとやらがどれほどのものかは知らないが、仮に脅威であったとしても、非力なマスターを殺してしまえばいい。
 シュピーネには自負があった、自身は聖杯に招かれしマスターの中でも上澄みであると。
 恐らく、創造位階に至っている自身の同胞、あの化け物どもは、サーヴァントとして召喚されるのが相応しいのだろう。
 しかしシュピーネは形成位階、それほどの力はない。
 そして今、それほどの力がなかったことが、有利に働いている。

「聖杯を得て、私は新たな人生を始める。私の頭を押さえつける化け物共のいない平和な世界で。
私は思うままに殺し、犯し、奪う! ああ、なんと甘美な夢でしょうか……これは半世紀を雌伏に費やした私への恩寵に他なりません。
柄にもなく、神とやらを信じてもいい気がしてきましたよ」

 典型的な殺人狂の精神と、典型的な俗人の精神を併せ持つ男だった。
 その悪しき欲望は、それを求める意思だけを問うのならなるほど大したものだった。

「いいでしょう。乗って差し上げますよ。聖杯とやらもまた、私にそれを期待しているのでしょう。
ならば私は期待通りに振る舞い、そして願いを手にする! では、英霊召喚とやらを試してみましょうか……」

 シュピーネは聖杯に刻まれた知識の通りに召喚の準備を始める。
 自らの操る聖遺物『辺獄舎の絞殺縄(ワルシャワ・ゲットー)』で、召喚のための方陣を床に刻む。
 どうやら召喚されるサーヴァントは自身の性質に近しい存在が選ばれるらしいが、そこのところはどうでもいい。
 身の程をわきまえるのならビジネスパートナーとして付き合えるだろうし、そうでなくとも令呪がある。
 これを用いて支配することに、何の躊躇いがあろうか。

 聖遺物に蓄積した魂を捧げ、召喚を実行する。
 未来への展望に、シュピーネの口元は思わず釣り上がった。
 魔力が吹き荒れ、それが何らかの形を成していく。

 その過程をシュピーネは愉悦の中観察し――そして、その口元は凍りついた。


872 : 紅蜘蛛は未だ修羅道の中にありて ◆TPO6Yedwsg :2022/08/17(水) 01:39:57 twXHJVZI0

「な、んだ? なんだ、これは……」

 馴染み深い気配だった。
 シュピーネにとってあまりにも馴染み深い、そう、それは修羅の気配。
 まるで黄金の獣に付き従う三人の大隊長の如き、戦場に狂った存在の影。
 それに匹敵する力の本流。

 まさか、まさかまさか。
 シュピーネは自身の右手の令呪を直視する。
 自身に刻まれたルーン、獲得(オセル)の刻印を模した令呪。
 サーヴァントは縁によって召喚される。
 ならば、このサーヴァントが辿った縁とは自身ではなく、自身に刻まれた黄金の獣の――

「や、やめろォ! 来るな! 来るな!」

 もう、召喚は止まることはない。
 シュピーネは後ずさりながらも令呪を掲げる。
 その展開によっては即座に令呪による隷属を命じることを想定し、そして、召喚されたものを見た。

「――俺を地獄から引きずり上げたのは、お前か。ニンゲン」

 それは、黒き鋼鉄だった。
 総身鋼の肉体を持つ偉丈夫は、シュピーネの知る黒騎士を連想させるものがあった。
 だが少なくとも同胞ではありルーツを同じくする魂を持っていた黒騎士と違い、この存在は根本から人間ではない。
 シュピーネの感じる恐怖は、それが『人類への脅威』たる存在故のもの。
 その実力差を前に恐怖に顔を引き攣らせたシュピーネを意にも介さず、サーヴァントは名乗りを上げた。

「我が名はブーメラン。魔族の戦士。そして今はサーヴァント・フォーリナー……とやららしいぞ。
ふん……戦いの果てに地獄へと落ちた俺がニンゲンの隷下とはな。なるほど、これも地獄としては間違ってはいないのかも知れん」

「戦いの果て……地獄……ああ、なんということだ……ハイドリヒ卿、貴方の意思はこうも私の願いの前に立ち塞がるというのかァ!?」

 ああ、これは駄目だ。
 これはあの恐るべき怪物たち、修羅道の申し子たちと同類だ。
 決して相容れぬ恐怖の象徴だ。
 確かに武器としてはこれ以上ない存在かもしれない。
 しかしシュピーネは既に、この存在を支配する自信を喪失していた。
 こんなものが、思い通りに動くはずがない。

「成る程。どうやら妙な外法でかさ増ししているようだが、貴様は戦士ではないな。
小賢しい策を弄するものの気配……アルハザードの同類か。俺の前に立ち塞がる資格を持つものは、強き戦士に他ならん」

「クッ……」

 やはりそうだ、そう来るか。
 このような相手に交渉は通じない、力こそ全て。
 シュピーネは歯噛みしながらも令呪へと魔力を込める。
 果たして一画で機能するか、二画以上必要かもしれない。
 それでも死ぬよりはマシだと、シュピーネはその腕を掲げようとして。

「逸るな、誇り無きニンゲンよ。俺は、お前の思惑などどうでもいい」

 それに対し、鋼鉄のサーヴァントは憮然と言い放った。
 それを聞いて、シュピーネの動きが止まる。

「どうやらお前は俺を言葉の通じない存在だとでも認識しているらしい。そしてそれは、別に間違いでもないが。
俺はお前に対して興味がない。本来お前のような誇りなきものにかける慈悲はないが、此度においてお前は俺の要石であるらしい。
であるならば、興味のない上司に従うのは慣れている。お前が俺の要求を満たすのなら、お前はその令呪を切る必要はない、というわけだ」

「……ほ、ほう。それはそれは……して、その要求とは?」

「無論、戦場だ。強き好敵手を望むことができる戦場こそ、俺の求めるもの。
俺は既に戦場に果て渇きの満ちることを知った残骸に過ぎないが、こうして再び形を得た以上はまた渇きを満たすべく戦い続けるのみ。
聖杯を目指すのなら、敵を潰すのはお前にとっても悪いことではないだろう」

 それは、シュピーネにとって望外の展開だった。
 まるで言葉の通じない修羅であると思った相手に、交渉の余地があったのだ。
 そして打診されたのは、至極まっとうな兵士と兵站の関係性。
 この存在は、戦場さえ供給すればこちらに口を挟まない、と言っているのだ。


873 : 紅蜘蛛は未だ修羅道の中にありて ◆TPO6Yedwsg :2022/08/17(水) 01:41:51 twXHJVZI0

「見る限り、小賢しさが取り柄なのだろう。お前が俺の望む戦場を用意できるのなら、ある程度はお前の思惑通りに動いてやってもいい。
だが、それを満たせなかったのなら、好きにさせてもらう。邪魔立てしようものなら、後は言うまでもないだろう」

「なるほど……なるほど。それが真実であれば、貴方と私は手を取り合うことができる。
いやはや貴方の同類を数多く知る身としては交渉の余地などないと思っていましたが……私の見識も未だ狭かったようだ。
よもや元が人間であった修羅よりも、生まれついての修羅、人ならざる鋼鉄の存在のほうが理性的であるとはね」

 シュピーネは歪な笑みを取り戻した。
 ――勝った、彼はそう感じていた。
 黒円卓の大隊長にも匹敵する力を武器として行使することができる。
 その武器は望外に物分りがよく、戦場があればそれでいいという。
 全く、ベイやマレウスなどよりもよほど扱いやすい。
 召喚の瞬間こそ絶望しかけたが、何とも好相性ではないか!

「では、貴方とはビジネスパートナーとしての関係を望みましょう。
私と貴方は相容れない、それは事実です。しかしそれが何だというのか。
貴方は自身の望みのためにそこから目を逸らす度量を持っている、そして私もまた」

「――一つ、忠告しておこう。お前は戦士ではない」

 気分良く語るシュピーネを前に、ブーメランは言う。
 シュピーネはそれに疑問符を浮かべた、それが何だというのか、言われるまでもない。
 自分はあのような戦争狂いではない。

「お前はお前の本領を自覚している。だが、自覚して尚滲み出る愉悦を抑えきれていない。
生き長らえたいのであれば、覚えておけ。戦士でないものが戦場に身を晒せば、死ぬぞ。
お前はニンゲンにしては多少強靭なのだろうが、所詮はその程度だ。蜘蛛は蜘蛛らしく、巣を張り待ち構えていればいい」

「……ええ、理解していますとも。ご忠告、ありがたく。
では貴方は戦いを、私は情報を。それでよろしいですね、フォーリナー?」

「理解している、か。ふん、どうだかな。まあいい、さっきも言ったが、俺はお前に興味がない。
俺を動かしたいのであれば、それに足る材料を提示しろ。ニンゲン」

 その言葉の意味を、果たしてシュピーネが正しく理解したのか。
 しかし当面の間問題はないだろう。
 シュピーネは首尾よく強力な武器を手に入れ、裏方仕事に専念することができる。
 それはある意味理想的なマスターとサーヴァントの関係であり、それを維持し続けられるのならばこの主従の質の高さは屈指のものだった。

 そう、維持し続けられれば。
 もしもシュピーネの『危機感』が薄れ、自ら撃って出ようとしたならば。
 彼の『自壊衝動』が限界に達した時こそがこの主従が崩壊する時であり、その時までに聖杯を手にできるかどうかは、シュピーネの手腕次第だった。


【クラス】
フォーリナー

【真名】
ブーメラン@ワイルドアームズ アルターコード:F

【パラメーター】
筋力A+ 耐久A++ 敏捷A 魔力C 幸運B 宝具B

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
領域外の生命:A
外なる宇宙、虚空からの降臨者。
ブーメランは別次元に存在する魔星ヒアデスより地球に飛来した侵略者『魔族』の高位戦士である。

狂化:D+
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
身体能力を強化するが、理性や技術・思考能力・言語機能を失う。また、現界のための魔力を大量に消費するようになる。
言語機能に問題はなく、筋力と耐久が上昇している。
ブーメランは戦闘狂であり、血湧き肉躍る戦闘を続けるほど強化値が高まっていき、最大でBランク相当の強化が入る。


874 : 紅蜘蛛は未だ修羅道の中にありて ◆TPO6Yedwsg :2022/08/17(水) 01:42:41 twXHJVZI0

【保有スキル】
魔族:A-
鋼鉄の肉体に水銀の血潮を持つ、人類種の天敵。このスキルの持ち主は『人類への脅威』属性を持つ。
ブーメランはその戦闘力のみを見れば魔族の大幹部である終末の四騎士に匹敵するが、『同族殺し』『処刑人』の忌み名を持ち嫌悪されていた。

満たされぬ渇き:A
アヴェンジャーのクラススキルにも似た、決して満たされぬことのない戦いへの欲望。
この渇望が満たされるのは唯一、強き敵対者によって自身が死を迎え、戦場に燃え尽きた時のみ。
本来はEXランクだが、ブーメランは一度死を経験し渇きが満たされた瞬間を認識しているため、生前と比べランクは下がっている。
ブーメランの放つ飽くなき戦いへの欲望の気配は、周囲の存在も巻き込み戦闘の機運を高めていく。

戦場の鬼:EX
個人の武勇により戦場にいるもの全てを奮起させるスキル。本来の能力を超えて自身と、更には相対する敵さえも強化する。
ブーメランは戦場を求めて流離う鬼、戦鬼である。相手を高め、さらに己を磨く戦いこそが彼の本懐であり、飢えを満たすための手段でもある。
所謂ミックスアップ効果を生み出し、自身の全力と敵の真価を引き出す。

【宝具】
『孤高煌めく月狼牙(クレッセントファング)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:50人
ギミックによって剣の形状とブーメランの形状に可変する武装。
魔族は『生きた金属』によって肉体を構成しており、それによって形成された武装もまた彼の体の一部に等しい。
ブーメランと数多の戦場を共にしたこの武装はブーメラン同様戦闘を重ねるごとに徐々にスペックを増していく。
またこの宝具は『再戦』の逸話を持ち、一度のみ『好敵手』を認めることにより対象との再戦が成されるまで同ランクの戦闘続行スキルを互いに付与する。
『俺は必ず帰ってくる…』

【weapon】
クレッセントファング。
剣形態とブーメラン形態を使い分け、時に体術と併用する。

【人物背景】
戦鬼として戦いに生き、そして駆け抜けた男。
魔族でありながらその種族としての野望に興味はなく、裏切り者や任務失敗者を始末する『処刑人』『同族殺し』の汚名も気にすることはなかった。
ブーメランにとって重要なのは己の戦いへの欲望を満たすことのみ。
戦闘狂だが目につく敵全てを破壊するような存在ではなく、彼なりの美学が存在する。
壁として立ち塞がりながらも決着をつけることなく好敵手にもっと強くなることを望むなど、勝利ではなく戦いそのものへの執着が見て取れる。
彼は生前の象徴として『欲望の守護獣ルシエド』が付き従っていたのだが……彼は死の直前自身の渇きが満たされたのを認めルシエドに別れを告げた。
よってルシエドは宝具化しておらず、彼の最終形態である『ブーメランフラッシュ』と『魔剣ルシエド』は所持していない。

【サーヴァントとしての願い】
今の自分は戦鬼の残骸であり、生前最後の死闘は最早望むべくもない。
しかしこうして仮初めの体と意思を取り戻した以上やることは変わらない。
強きものと、戦い続ける。


875 : 紅蜘蛛は未だ修羅道の中にありて ◆TPO6Yedwsg :2022/08/17(水) 01:43:03 twXHJVZI0

【マスター】
ロート・シュピーネ@Dies irae

【マスターとしての願い】
黒円卓からの逃亡

【能力・技能】
裏方仕事全般。黒円卓という組織のライフライン。
形成位階のエイヴィヒカイト。聖遺物は辺獄舎の絞殺縄(ワルシャワ・ゲットー)。
ビルをも容易く斬り裂く糸を張り巡らすことができるが、糸を切られた時点で聖遺物が破壊されたと見なされダ瀕死の重傷を受ける。
これは格上相手には致命的な弱点であり、糸を武器とすること自体が心臓を晒しているに等しい。
一般人やマスター、戦闘力のない特殊なサーヴァント相手にイキれても戦闘型のサーヴァント相手にはとてもじゃないが使えたものではない。

【人物背景】
Dies iraeのやられ役、みんな大好きシュピーネさん。
思うがままに殺戮を楽しみたいという性根の持ち主であり俗物だが、組織運営能力については破格。
裏方に徹していればこの上なく優秀であり黒円卓というガバガバ組織が半世紀も存続できたのは聖餐杯と彼の手腕によるものが大きい。
格上に媚びへつらい危険を冒さないリスクヘッジ能力はしかし、『自壊衝動』という魂の寿命により失われつつある。
Dies irae原作開始直前からの参戦。それはつまり、自壊衝動が発生する寸前ということである。

【方針】
シュピーネが地位を利用し情報を集め、ブーメランに戦場を斡旋する。
シュピーネは提供する戦場を選ぶことによってブーメランの動きを誘導できるし、その戦場に不満がなければブーメランも特に文句はない。
この方針を維持し続けることができればこの上なく凶悪な主従なのだが、果たして維持できるかどうか……。

【備考】
ブーメランは強い、超強い。素の身体能力のみでトップサーヴァント級であり、人類への脅威に相応しい強度で敵に立ち塞がる。
しかし彼は目につく敵全てを殺す戦闘狂というわけではない。彼は好敵手の存在を大切にし、成長の芽があるのなら先を譲ることもある。
それはそもそも彼と対等に戦える存在が少ないためだ。期待外れだったり強くとも誇り無き存在は戦士として認めずさっくり殺しに行くが。
彼のスキルと宝具はおおよそ『好敵手を見出す』ためのものであり、気に入った相手がいれば殺せるにも関わらず生かす可能性は大いに有り得る。
黒円卓の修羅よりは話の通じる存在ではあるが、そこに戦いの享楽は確かに存在する。
組織に属すことを良しとしても、時に自身の欲望を優先するブーメラン。
その様子を見て、果たしてシュピーネは徐々に自分の思いどおりに動かなくなっていくブーメランを許容することができるかどうか。
多分無理なんじゃないかな。


876 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/17(水) 01:43:25 twXHJVZI0
投下を終了します


877 : ◆A3H952TnBk :2022/08/18(木) 12:27:35 mfMMew8c0
投下します。


878 : 暁山瑞希&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/08/18(木) 12:27:59 mfMMew8c0
◆◇◆◇


きっと手を繋ぐだけで、ゾッとされる。
馬鹿げた競争に一抜けしたら、通報される。
“突然変異”なんかじゃない。
ボクは、ボクでいたいだけ。

朝。鏡の前に立って。
きれいに顔を洗い流して。
ボクは、望むままに自分を彩る。

スキンケア。お肌を整えて、下地のメイク。
ファンデーションに、コンシーラー。
仕上げでしっかりと整えて。
そうしてボクは、変身していく。
なりたい自分を、形作っていく。
ボクの好きなものを、突き詰めて。
お化粧の下に、ありのままの真実を隠す。

ボクにとっての好きなもの。
ボクの世界に色を与えてくれるもの。
好きなファッション、好きなコスメ。
ボクは、何にだってなれる気がしてくる。

自由になって。望む姿になって。
ボクは、ボクらしく在り続けて。
そうすることで、閉ざされた心が解放されていく。
この瞬間、確かにボクは満たされている。

けれど。
そんな自分の奥底を、大切な人達に打ち明けられない。
秘密のクローゼットに、真実を押し隠している。


―――よく見ないとどっちかわからない。
―――気付かなくて、びっくりしちゃった。
取り巻くのは、好奇の眼差し。


悩みも、苦しみも。
本当は誰かに、打ち明けたい。
でも。裸の心なんて、見せられない。
剥き出しの想いなんて、言えない。
そうすることで何かが変わってしまうのが。
他の何よりも、怖かったから。


―――みんなに合わせられないの?
―――普通の格好すればいいのに。
そんな言葉にも、慣れちゃってる。
けれど、いつだって胸の奥へと突き刺さる。


今のままがいい。
みんなと一緒にいたい。
けれど、話せないボクがいる。
何も伝えられない、ボクがいる。
そうすれば、ボク達は永遠になるかもしれないって。
そんな臆病な想いを、抱いてしまった。

何も知られなければ、押し込められない。
常識なんて型に、嵌め込まれない。
“当たり前”や“普通”という色眼鏡で見られることもない。
そうしてボクは、口を噤んで。
掛け替えのない友達、何も伝えない。
みんなを信じたくても、不安と恐怖に足止めされる。
やっと見つけた居場所を喪うかもしれないのが、怖かった。
“話すことで、良くない結末になる”かもしれないから。


だから。
“暁山瑞希”の真実は、未だに秘密のまま。
ボクという人間は、“嘘つき”で出来ている。


睫毛を整えて、目元をなぞって。
淡く薄いリップを塗って。
チークで彩った顔で、ほんの少し微笑む。
よし。大丈夫―――今日もカワイイ。
暗示のように、ボクは唱える。
“変身”したボクの姿を、見つめながら。


◆◇◆◇


879 : 暁山瑞希&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/08/18(木) 12:28:34 mfMMew8c0
◆◇◆◇


がたん、ごとん。
がたん、ごとん。
規則正しいリズムで響く音。
窓越しに過ぎていく、真っ暗な景色。
電車の中。端っこの座席。
ボクは、夢うつつにいるように。
ぼんやりとした顔で、寄り掛かるように座っていた。

ふぅ、と息をつく。
バイトが長引いて、諸々の用事も済ませて。
気が付けば、随分と遅い時間になっていた。
冬の只中ということもあって、外はすっかり暗くて。
車内にいる乗客も、いつの間にかボク一人になっていた。

がたん、ごとん。
がたん、ごとん。
ひとりぼっちの帰り道。
誰もいない日常の景色。
まるでボクだけが取り残されたような。
そんなふうに、錯覚してしまう。

気が付けば、こんな日々に放り込まれていた。
今までの現実と、少しも違わなくて。
だけど、何かがおかしくて。
そうしてボクは、あるとき“違和感”に気付いた。
まるで大切な何かを、思い出したかのように。

“セカイ”には、行けなかった。
痛みを背負い続ける、あの娘が作った心の風景。
そこへ赴く術は、失われていた。
いつもと変わらない日常なのに、決定的に欠けたものがある。
だからこそボクは、この夢から醒めた。

偽りの日々に気付いてから、数日。
それでもボクは、ただいつものように過ごすことしか出来ない。
家で過ごして、気ままに外へと出かけて。
バイトにも行ったりして、たまに学校へ行って。
何も変わらぬまま、時だけが過ぎていく。
真実に霧が掛かったまま、ボクは彷徨い続けている。

がたん、ごとん。
がたん、ごとん。
電車は、走り続ける。
闇夜の景色が、過ぎていく。
ぽつぽつと見える外の灯りをよそに。
時間だけが、無為に進んでいく。
ボクを置いていくように。

――――帰りたい。
そんなことを、ふいに思った。

その想いを抱いた瞬間。
不安と孤独が、胸の内を苛んだ。
一人でいることには、ずっと慣れていたんだけどな。
自嘲するように、ボクは思う。
だけど。今はもう、違う。


880 : 暁山瑞希&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/08/18(木) 12:29:03 mfMMew8c0

がたん、ごとん。
がたん、ごとん。
車輪が回る音。車両の揺れる音。
それに紛れ込むように。

かつ、かつ、かつ―――小気味良い音が、耳に入った。
無骨な鉄の音の狭間で。
気品に溢れる、歩の音が聞こえた。
ボクはふと、視線を動かした。

―――長い金色の髪の、女の子だった。
白いファーの帽子に、コートを纏っていて。
まるでお姫様のように、風格を感じさせる佇まいで通路を歩き。
やがてボクの眼の前の座席へと、向かい合う形で腰掛けた。

周りに、他の乗客はいない。
ボクと彼女。二人だけで、この空間に居る。
真正面から向き合って、彼女はボクを見つめてくる。
白い肌と、蒼い眼を持つ、綺麗な娘だった。
外国の人かな―――なんて、能天気に考えてしまうボクがいた。

がたん、ごとん。
がたん、ごとん。
鉄と車輪の音が、変わらず響く。
ボクとその娘は、ただ黙って対面し続ける。

沈黙。静寂。
電車の音色だけを背景に。
ボク達は、無言で僅かな時を過ごす。

彼女は、ボクを見つめていた。
小さな顔と、宝石のような瞳で。
ボクの姿を、静かに捉えていた。
思わず、覗き込まれるような感覚を覚えて。
照れ臭さのような、気まずさのような。
そんな複雑な気持ちを抱いてしまうけれど。

やがて、彼女は。
その端正な顔を緩ませて。
向き合うボクへと、静かに微笑んできた。


「ごきげんよう」


その娘と向き合って。
その娘に呼びかけられて。


「そして、“初めまして”」


その一言を、掛けられて。
ボクは、何かを悟ったように。
何とも言えぬ微笑と共に、応える。


「……うん。はじめまして」





いつか見た夢。
遠い西洋の国。
時計塔を中心に広がる市街地。
あちこちから立ち込める蒸気。
そんな舞台を背景に。
月夜を飛翔する、一つの影が在った。

黒い帽子。黒いマント。
まるで怪盗のような姿で、“彼女”は往く。
重力というものに、囚われることなく。
街の上を、縦横無尽に跳躍する。
飛ぶ。跳ぶ。翔ぶ――――。

ああ、この娘は。
果てしない壁さえも飛び越えて。
月の彼方まで行けちゃいそうだ。
霧と煙の夜を舞う、その姿を見つめて。
ボクは、そんなことを思っていた。





881 : 暁山瑞希&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/08/18(木) 12:30:27 mfMMew8c0



目の前の“その娘”と対面して。
脳裏に、情報が流れ込む。
知りもしなかった、この世界のシステム。
まるで漫画かアニメのような。
とても現実とは思えない、ファンタジーな物語が。
ボクの記憶の中に、確かな実感を伴って刻み込まれていく。

――――聖杯戦争。
――――古今東西の英雄、サーヴァント。
――――彼らを従えるマスター。
――――たった一組の勝者を選定する戦い。
――――その果てに得られる、奇跡の願望器。

ひどく現実味に乏しい話なのに。
夢でも見ているんじゃないかと錯覚しそうなのに。
けれど、ボクはただ、それを信じるしかなかった。
大切な人達と分かたれた世界で、ボクは目の前の現実を受け入れる他なかった。

ああ、そうだ。
ボクは既に“未知”を見ている。
“誰かの想いによって形作られたセカイ”。
そんなものに触れていたからこそ。
空想のような真実を、捉えられた。


「アサシン……で、いいのかな」
「ええ。宜しく、マスター」


だから、ボクは目の前の女の子―――アサシンに問いかける。
アサシンはすぐに頷いて、淑やかに微笑みを見せた。
ステータスとか、そういうものは一切見えないけど。
ボクと彼女の間に魔力ってものの繋がりがあるらしくて、そのおかげで“クラス”を直感で知ることが出来た。


「なんか……凄いね、こういうのって」
「そうね。私も、最初は驚かされたわ」
「奇跡なんだね、ホントに」
「ええ、正真正銘の願望器。手に入れれば、どんな祈りも叶う」


ふたりきりの車内。
取留めもなく、言葉を交わし合う。
お互いに現実味がないような様子で。
ボク達は二人で、緩やかな時間を過ごす。


「すごいなぁ、何だか……」


そうしてボクは、ぼんやりと呟く。
思いもよらない現実を前にして、呆然とする。
誰かの“想い”を具現化する―――そんな力は、確かに知っている。
バーチャル・シンガーの力によって齎されるセカイ。
それぞれの歌に触れた人間が形作る、心の風景。

ボクはそれを知っている。
だからこそ、どんな祈りでも叶う奇跡を。
ぼんやりとだけど、受け入れられたのかもしれない。


882 : 暁山瑞希&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/08/18(木) 12:31:08 mfMMew8c0


「ねえ、マスター」


がたん、ごとん―――。
がたん、ごとん―――。
物思いに耽るボクに向かって。
彼女は、静かに呼びかけてくる。


「あなたは、“奇跡”に――――」


がたん、ごとん―――。
がたん、ごとん―――。
向かい合うボクと彼女。
電車が、揺れる。
景色が、夜が、動く。
そして。


「――――何を望むの?」


ほんの一瞬。
視線を逸して。
また目の前を視た直後。
ボクは、目を丸くした。

先程までの“少女”の姿は、何処にもなく。
まるで入れ替わるように、“彼女”は眼前に座っていた。
銀色の髪。真っ黒な外套。
何処かスパイを思わせる衣服だったけれど。
フリルのついたスカートが、ドレスみたいに対照的で。

そして、“彼女”の顔は。
先程までの“少女”と、瓜二つだった。






私達が、離れるなら。
私達が、迷うなら。
その度に、何回でも繋がれるように。

それが、“彼女”と“王女”の絆。
そして、“白い鳩達”の契り。

壁によって遮られ。
それでもなお貫かれた、二人の友情。
全てを欺く、鏡合わせの愛。

少女の“嘘”は、世界を変える。
想いを隔てる、壁さえも乗り越えて。






883 : 暁山瑞希&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/08/18(木) 12:31:54 mfMMew8c0



「凄いね……一瞬で“変身”しちゃった」
「ええ、“黒蜥蜴星人”の特殊技能よ」


クロトカゲ―――何だって?
妙な単語に、思わず聞き返しそうになったけれど。
真顔でそんなことを言ってきた“彼女”に対し、問い詰めるのも気が引けてしまった。

出で立ちは違くても、顔はそっくりなのに。
けれど、身にまとう雰囲気は全く異なっている。
まるで、何ていうか―――もっと“只者じゃない”みたいな。
そんな張り詰めた空気が、漂っていた。

それだけじゃなくて。
すぐ目の前に姿があるのに。
実態が無いかのように、気配が朧気で。
まるで幻影でも目の当たりにしているかのような感覚に、内心面食らってしまう。

彼女は、ボクをじっと見つめている。
ボクの答えを、待つように。
――――あなたは聖杯に、何を望むの?
その問いは、未だ続いている。

それを察したボクは、少しだけ考え込んで。
やがて、“彼女”の目を見据えて答えた。


「……何も望まないよ。ただ、帰りたい」


ボクは、きっぱりと答えた。
きっと、奇跡の力があれば。
どんな悩みだって、振り払えるんだと思う。
ありのままの姿を打ち明けられない、臆病な自分。
社会と自分のギャップに、延々と苛まれる自分。
願望器があれば、そんなものも容易く乗り越えられるのかもしれない。


「ボクのこと、いつまでも待ってくれるって。
そう約束してくれた“友達”がいるから」


だけど、それでも。
ボクには大切な“居場所”があるから。
待ってくれる“友達”がいるから。
それ以上のことは、望まない。

―――いつか話してもいいって思ったら、話して。
―――それまで私、待ってるから。
―――話せる時が来るまで、ずっと一緒にいる。

嘘つきで、臆病なボクに。
“あの娘”は、そう言ってくれた。
無理に言わなくてもいい。
それでも、友達だから力になりたい。
いつか話してくれる時まで。
ずっと傍に居たい。
そう伝えてくれたことが、嬉しくて。
少しでも前に進んでいきたいと、思えるようになって。

だからこそ、ボクの望みがあるとすれば。
それはただ、“元の世界に帰りたい”という一点だけだった。
だって―――大切な友達が、ずっと待っててくれているのだから。
皆が作ってくれた居場所に、ボクは戻りたかった。


884 : 暁山瑞希&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/08/18(木) 12:32:35 mfMMew8c0

そんなボクの想いを聞き届けて。
アサシンは、静かに目を閉じていた。
何かの思いに耽っているかのように。
過去を振り返って、懐かしむかのように。


「いい友達ね」


そして彼女は、瞼を開いて。
微かに笑みを浮かべた。
そんなアサシンの姿に、ボクは仄かな安心を覚えた。
その優しげな微笑みを見て。
彼女の心に、少し触れられた気がしたから。


「今は、まだ……難しいけれど」


だからこそ、ボクはぽつぽつと語る。
胸の内の想いを、静かに紡ぐ。


「いつか、越えなきゃって思ってるんだ。
友達にもまだ打ち明けられてない、本当の自分のことを」


ボクは、まだ決心が付いていない。
不安と拒絶。喪失への恐怖。
真実を伝えることで、ささやかな幸せが壊れてしまうかもしれない。
そうして足踏みを続けて、前へと進むことができなくて。
だけど、ボクの“友達”は。
いつまでも待ってくれると、そう言ってくれた。

だからこそ、思う。
もしも、ほんの少し。
ほんのささやかにでも。
踏み出す勇気を掴めたのなら。
その時は、越えたい。


「――――“嘘つき”な、ボクの壁を」


ボクを堰き止める。
とても大きな、心の壁を。





885 : 暁山瑞希&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/08/18(木) 12:33:13 mfMMew8c0



「空」
「え?」
「翔びたいと思ったこと、ある?」


がたん、ごとん。
がたん、ごとん。
音が、流れていく。
景色が、流れていく。
深い夜に、揺られて。


「……うん。自由に、ありのままに」
「そう。なら、連れて行ってあげる」


がたん、ごとん。
がたん、ごとん。
過ぎゆく世界の中で。
彼女は、そんな約束をしてくれた。
ボクの瞳を、まっすぐに見つめて。






がたん、ごとん。
がたん、ごとん―――。


「駅、着いたみたい」


それからボクは、再び瞬きをした。
瞼を閉じた、ほんの刹那の合間に。
眼の前にいた黒衣の少女は、再び金髪の“お姫様”へと戻っていた。

彼女は何事もなかったかのように、優しく微笑んで。
座席から立ち上がってから、ボクに手を差し出した。


「行きましょう。マスター」


その言葉に誘われるがままに。
ボクは頷いて、彼女の手を取った。
そうして、ゆっくりと身を起こしてから。
仄かな明かりの灯る駅のホームへと、二人で降り立つ。
そうしてボク達はゆっくりと、静寂の中へと溶け込んでいった。


◆◇◆◇


886 : 暁山瑞希&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/08/18(木) 12:33:52 mfMMew8c0
◆◇◆◇


少女“アンジェ”は、スパイだった。
東西に二分された英国を変えるべく。
自らの願いの全てを背負わせてしまった“親友”を救うべく。
彼女は、影の戦いへと身を投じていた。

その狭間で、思い出す。
白鳩の名を冠した、仲間達のことを。
たった一人で戦っているつもりだった。
それでも、“親友”は“王女”としての決意を固めて。
そして皆もまた、各々の“想い”を背負って奔り続けていた。

生前の記憶は、途切れている。
女王暗殺計画を妨げ、“王女”と共に飛び去った瞬間を境にして、霧が掛かっている。
サーヴァントとして召喚された際に、何かしらの影響が出たのかもしれない。
それでも“生前にきっと後悔はなかった”と、アンジェは直感する。
何かの納得を得て。何かの答えを掴んで。
そんな結末を迎えたことを、彼女は理解していた。

だからこそ―――彼女は内心で謝罪した。
ごめんなさい、また一人で無茶をすることになる。
親友や仲間達に、そう告げる。

聖杯。あらゆる奇跡を齎す願望器。
この世の理さえも塗り替える、絶対的な力。
それがあれば。そんなものが、あるならば。
きっと、私達のような人間は生まれなくなるのだろうと。
アンジェは、そう思ってしまった。
差別。貧困。分断。戦争―――人々は“壁”によって遮られ、苦しめられる。
“王女”は、そんな英国を変えたいと誓った。
善き世界が訪れることを、望んでいた。

ああ。
ならば、私もまた。
奇跡を、求めたい。
願望器が紛れもない真実だというのなら。
私は、それを掴み取りたい。

英国だけじゃない。
この世界のあらゆる“壁”を壊して。
片隅で喘ぐ人達に、少しでも善い世界を齎したい。
貧しき人々にも、虐げられる人々にも、安寧があってほしい。
そして、二度と想いが遮られることのない未来を作りたい。
そんな無垢で、子供のような願いを抱いてしまった。

だからこそ、アンジェは聖杯戦争へと召喚され。
そして、暁山瑞希と出会った。


――――いつか、越えなきゃって思ってるんだ。
――――“嘘つき”な、ボクの壁を。


瑞希の言葉を思い出して。
アンジェは、微かに微笑んだ。
何かを背負っているのは、お互い様らしかった。
“嘘”への負い目を抱えながら生きて。
それでも待ってくれる“友達”を想っている。
そんな瑞希の姿を、どこか懐かしく感じて。
だからこそ、少し肩入れしたくなってしまった。
瑞希が翔びたいと願うのなら。
その壁を超えられるために、支えたかった。


アンジェ・ル・カレ。
かつてのプリンセス・シャーロット。
彼女は、誓う。壁を越えることを。
己の願いと、マスターの想いを果たすべく。
さあ――――翔ぼう、白い鳩のように。


◆◇◆◇


887 : 暁山瑞希&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/08/18(木) 12:35:05 mfMMew8c0

【クラス】
アサシン

【真名】
アンジェ・ル・カレ@プリンセス・プリンシパル

【属性】
中立・中庸

【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:E 幸運:C 宝具:C+

【クラススキル】
気配遮断:A
自身の気配を消す能力。隠密行動の技能。
完全に気配を断てば発見はほぼ不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。

【保有スキル】
専科百般:A
スパイとして体得した多数の専門技能。
戦術・学術・隠密術・暗殺術・詐術・変装術など、工作活動におけるスキルをBランク以上の習熟度を発揮できる。

心眼(真):B
訓練と実戦によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦術論理”。

跳躍:B
宝具『Cavorite Moon』発動時にのみ効果を発揮するスキル。
三次元機動を行う際、敏捷値にプラス補正が掛かる。
また敵への接近、攻撃の回避、戦線離脱と言った敏捷値が関わる行動においても優位な判定が得られる。

鹵獲:B
自身が調達した物資・装備に低ランクの神秘を付与させることが出来る。
対サーヴァント戦において通用する武装の現地調達が可能となる。
神秘を帯びた装備は他者への譲渡も可能だが、アサシンが魔力パスを切断することでいつでも効果は解除される。

【宝具】
『Cavorite Moon』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1\~2 最大捕捉:5
空間・物質の重力を遮断する動力源「ケイバーライト」。
それを個人携行型の球状移動装置へと落とし込んだ「Cボール」が宝具化したもの。
レンジ内の重力へと干渉し、アサシンの肉体を無重力化させることで変幻自在の三次元機動を行う。
アサシンの操作によって自在に無重力状態が制御される他、他の物質を無重力化させることで攻撃や妨害を行うことも出来る。


888 : 暁山瑞希&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/08/18(木) 12:35:45 mfMMew8c0

『Princess Principal』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
瓜二つの顔を持つ“王女”への変装。そして“真実の姿”への回帰。
アルビオン王国の王女と入れ替わる極秘任務「チェンジリング作戦」が宝具化したもの。
サーヴァント『プリンセス・シャーロット』へと変身する。
宝具の領域へと到達したことで、“変装”ではなく“変身”と化している。
発動と解除はアサシンの意思で自在に可能。なお肉体や霊基は完全にプリンセスと同一のものになるが、人格や記憶はあくまでアンジェのままである。
宝具発動中は以下のステータスに切り替わる。

《パラメーター》
筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:E 幸運:A 宝具:-

《クラススキル》
気配遮断:D
自身の気配を悟られにくくする。
最低限の隠密行動は出来る。

《保有スキル》
カリスマ:C+
大衆の上に立つ天性の才能。
集団の士気を向上させる他、他者との駆け引きや交渉で優位な立場を引き出しやすくなる。
政治的バックを持たず、王位継承権からは遠い立場にある王女だったが、それでも人々を惹き付ける十分な才覚を備えていた。

鋼鉄の王冠:B+
王族としての器量と覚悟。
自身に対する精神干渉の効果を大きく軽減する。
また窮地においても冷静に状況を見極め、確固たる意志を持って判断を下すことが出来る。

掩蔽の姫君:A
始まりは貧民。やがて王女と化し、そして内通者となった。
自らの真実の姿を隠しながら大衆の前に立ち続けた逸話の具現。
サーヴァントとしてのステータスを視認されず、魔力の気配も一切感知されない。

専科百般:E
スパイとして体得した多数の専門技能。
学術・詐術・話術・変装術など、工作活動におけるスキルをある程度発揮できる。
アンジェと霊基を共有していることに伴い、劣化した状態でスキルが引き継がれている。

【Weapon】
オートマチック式リボルバーを携行。
遠距離にワイヤーを射出するワイヤーガンなども装備。

【人物背景】
壁によって東西に二分された19世紀英国。
その西側、アルビオン共和国に所属するスパイの少女。
東側の王女であるプリンセス・シャーロットと瓜二つの風貌を持っている。
その容姿を活かした「チェンジリング作戦」を立案し、名門校クイーンズ・メイフェア校の生徒として東側のアルビオン王国へと潜り込む。
アンジェとプリンセス。二人には、ある秘密があった。

サーヴァントとして召喚されたアンジェは英霊として限定的な再現に留まっており、TV版最終話以降の記憶を持たない。

【サーヴァントとしての願い】
差別。貧困。分断。戦争。
人々を隔てる“壁”を壊して、少しでも善い世界を齎したい。


889 : 暁山瑞希&アサシン ◆A3H952TnBk :2022/08/18(木) 12:36:29 mfMMew8c0

【マスター】
暁山 瑞希@プロジェクトセカイ

【マスターとしての願い】
みんなとの時間が、1秒でも長く続いてほしい。
そして、いつか壁を乗り越えたい。
そのためにも、生きて帰る。

【能力・技能】
音楽サークル内では動画制作を担当。
コラージュや洋服のアレンジなども得意。

【人物背景】
ネットで活動する音楽サークル「25時、ナイトコードで。」のMV担当。
可愛いものが大好きな気分屋。
たまたま聴いた宵崎奏の曲に惹かれるものを感じ、MVを作って投稿する。
それが奏自身の目に留まり、動画担当として誘われた。
サークルメンバーの誰も知らない秘密がある。

参戦時期はイベント「ボクのあしあと キミのゆくさき」以降。

【方針】
生きて帰る。


890 : ◆A3H952TnBk :2022/08/18(木) 12:36:56 mfMMew8c0
投下終了です。


891 : ◆Il3y9e1bmo :2022/08/18(木) 19:44:03 Qq54nZpc0
投下します。


892 : マキマ&バーサーカー ◆Il3y9e1bmo :2022/08/18(木) 19:44:56 Qq54nZpc0

夕焼けの空の下。
新し過ぎもせず、古過ぎもしないアパートの一室で、痩身の男が膝を抱えて震えている。

ああ、怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

その男は全てが怖くてたまらなかった。
買い物かごを下げて道をゆく老婆が、風に吹かれて夕日にかかる雲が、退屈そうに欠伸をする野良猫が――

男はずるり、と異常に長いマフラーを手繰り寄せる。
ずるり、ずるりとマフラーは彼の顔を覆い、瞬く間に男の身体は繭のようにマフラーで雁字搦めになる。

すると、がちゃり、という音がして、アパートの扉が開いた。
男は震えながら、マフラーの隙間を指でこじ開け、玄関口の方を窺う。

そこに立っていたのは、赤いロングヘアーを三つ編みにまとめた美女だった。
黒いコートを着たその美女は、ふう、とため息をつき、靴を脱ぎ始める。

それを見た男は身動ぎをし、膝を痣ができるほどさらに強く抱え込み、目を眼球ごと押しつぶすような勢いで閉じた。

「ただいま、バーサーカー。今日はネギとニンジンが安かったので買ってきたよ。鍋にするから、一緒に食べよう」

赤髪の女性は平然と団子のようなマフラーの塊に近づき、先程『バーサーカー』と呼ばれた男の入ったマフラーを指先で突く。
すると、そのバーサーカーは蚊の鳴くような声で何かを呟いた。返答だろうか。
女性はマフラーに耳を近づける。

「……そ、そんなこと言って、お、俺を食べる気か!? おっ、お前の手口は分かってるんだ!!
 かつて魔武器を喰った俺を喰うことで、お前も鬼神になる気なんだろ!!!!」

男は突如身体を包んでいたマフラーを破き、狂気と猜疑心の入り混じった殆ど悲鳴のような声でそう絶叫した。

「いや、食べないよ? お野菜切らないといけないから、バーサーカーも手伝って下さい」

女性はバーサーカーの様子に特段の感情を見せるでもなく、台所で手を洗い始める。

「うぅ……何でお前は狂気に染まらないんだよぉ……」

男はそう言うと、再び膝を抱え、マフラーを手繰り寄せ始めた。

男の名は『阿修羅』という。
いや、阿修羅は正確な名ではない。
正しく彼という存在を言い表すのであれば、こう言うのが一番だろう。

『鬼神 阿修羅』。

鬼神とは、己の弱さに負け、本来であれば禁忌とされる『善人の魂』を乱獲、その身に取り込んだもののことである。
弱いものは強さを欲する。力への渇望は、狂気へと変貌し、狂気は他の全てを否定しつつ伝染していく。

阿修羅は、世界で初めてその『鬼神』となった存在である。
異常な猜疑心と恐怖心から、この世の全てを信じず、恐怖し、そして他者をも自身の狂気へと塗りつぶしてきた。

だが、この女は――――

阿修羅が異界東京都へと招かれ、初めて会ったのが、この『マキマ』という女であった。
彼女は、誰が見ても異様な風体の阿修羅へと臆すことなく近づき、あまつさえ友好関係を結ぼうとしていた。

ああ、怖い。

阿修羅には訳が分からない。
時間が経って、阿修羅の狂気が伝染し、恐怖心を喪失したのなら分かる。
吹き上がる恐怖心を抑え、無理やり平常心を保とうとしているのなら分かる。
しかしこの女はどうやら、本心から臆さず、疑わず、染まらず、ただひたすらに阿修羅を自身のサーヴァントとして扱っているようであった。

阿修羅は震える。
目の前で、鼻歌を歌いながらネギを切るマスターの心情が分からない。
やはりサーヴァントである自身を逆に喰い、『鬼神』になろうとしているのか……?

理解できないならば――

理解できないならば、いっそこの世界から消してしまえばいいのでは……?
阿修羅の腹中にふっと思案の火が灯る。

今ならマキマは料理にかかりきりで台所の方を向いている。
彼女が魔術師としてどのような力を持っているかは不明だが、令呪を使わせる暇もなく首を落とすことなど容易い。
阿修羅は熱に浮かされたかのように、コンロに鍋をかけている彼女の首へと伸びる手を抑えることができなかった。

「ダメだよ」

残りコンマ1秒でマキマのうなじに手が触れるか触れないか、というところで阿修羅の手が止まる。
見ると、マキマが包丁を手にこちらを向いて微笑んでいた。

「ダメ。分かった? 返事は『はい』か『ワン』だけ」

それだけ言うと、マキマはまたくるりと振り返り、楽しげに野菜を切り始めていた。

ああ、本当に――――

阿修羅は何も言わず、もとい何も言えず、そのままきびすを返すと再び部屋の隅で体育座りをし、またブツブツと取り留めのないことを呟き始めた。


893 : マキマ&バーサーカー ◆Il3y9e1bmo :2022/08/18(木) 19:45:27 Qq54nZpc0
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【クラス】
バーサーカー

【真名】
鬼神 阿修羅@SOUL EATER

【ステータス】
筋力:C+ 耐久:B+ 敏捷:A++ 魔力:A+ 幸運:E 宝具:A++

【属性】
混沌・狂

【クラススキル】
狂化:EX
筋力と幸運を除くパラメーターを2ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。
規律を否定し、ありとあらゆるものに怯える狂気の化身。

【保有スキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば発見することは難しい。

精神汚染:EX
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を完全にシャットアウトする。
ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。
また、長時間バーサーカーと接していた対象は、確率でEランク相当の精神汚染スキルを獲得する。

対英雄:C
英雄を相手にした際、そのパラメーターを1ランクダウンさせる。
ただし、反英雄には効果がない。

【宝具】
『魂喰い(ソウル・イーター)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:∞
善悪問わず魂を乱獲する、力への渇望へと負けた者の力の在り方が宝具へと昇華されたもの。
レンジ内に存在する全ての魂を持つ存在に対して魂喰いを行う。
サーヴァント及び契約済みのマスター、そして彼らと深い繋がりを持つものでなければその魂は吸収され、バーサーカーの糧となる。
また、発動範囲を意図的に抑えることによって、魂の選別を行うことも可能。

【weapon】
体内に仕込んだ金剛杵。
宝具による魂喰いによって段階的に強化される。

【人物背景】
世界で最も初めに生まれた『鬼神』。細面とも言える普通の男性だが、髪に目の模様があり、第三の眼が額に開いている。
元は猜疑心の塊のような人間であり、パートナーの魔武器ですら信じられなかった。
死の恐怖から逃れるために武器に善人の魂を食べさせ、さらに武器すら食べてしまった結果、鬼神となった。
猜疑心のため、何十枚と重ね着をしているが、それは精神の安定のためであるとのこと。
顔に巻かれたマフラーをはじめとして、眼があしらわれていることが多い。
素顔だと普通の冷静な口調なのだが、隠すと極端にハイになる。
また魂を喰らう時はおぞましくも歯をむき出しにし、顔の造形が簡単に変わる。

【サーヴァントとしての願い】
恐怖から逃れたい。


【マスター】
マキマ@チェンソーマン

【マスターとしての願い】
???

【能力・技能】
支配の悪魔としての権能。以下の4点が確認されている。
なお、一番上の圧圧殺能力については、サーヴァントやマスターには効かないようである。

・条件付きで対象を圧殺
・不死性
・指鉄砲で物を抉る
・下等生物を操る

【人物背景】
公安退魔特異4課のリーダー。
内閣官房長官直属のデビルハンター。
狂気の否定者にして、世界平和を目指す女性。

【方針】
不明。少なくとも前奏段階が終わるまでは目立つことはしないようだ。


894 : ◆Il3y9e1bmo :2022/08/18(木) 19:45:57 Qq54nZpc0
投下を終了します。
短くてスマヌ〜!


895 : ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/18(木) 23:05:30 8J00Uo7Y0
投下します


896 : 橘日向&アルターエゴ ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/18(木) 23:06:07 8J00Uo7Y0
「本当に、それでいいの?」


異界東京都、雪積もる公園の一角。
切り取られた隔絶の静寂の中。
少女が少女に問いかけている。
問いを投げるのは巫女装束に身を包んだ少女。
腰まで伸びた黒の長髪。
明けの明星の如き碧空色の瞳。
モデルの如き完璧なプロポーション。
まるで、完成された偶像のように。
まるで、崇め奉れられた現人神のように。
まるで、神の天啓を幻視させるかのように。
少女は、アルターエゴは、眼前の只人に問う。


「私の気持ちは、変わりません。」


問いかけられたのは、只の少女だった。
何の力もない、ほんのちょっぴり正義感の強い少女。
ヒーローに守られているだけの少女。
ヒーローが戦う理由を知った少女。
橘日向。覆されて尚、何度も死の運命と言う呪縛を科せられた少女。


「私は、私の願いの為に聖杯を望みます。」
「何を聖杯に望む?」
「救けたい人のため。」


只人の少女は、答えた。
大いなる英霊、異界の英雄を前に震えを覚えながらも。
目を逸らさず、確固たる決意を秘めて。


「私を今でも救ってくれている、たった一人のヒーローの為に。」


橘日向のヒーロー、花垣武道。
何度挫けそうになっても、立ち上がるヒーロー。
負けるとわかってても、立ち向かうヒーロー。
どんな事でも諦めず、彼女の笑顔のために戦える泣き虫のヒーロー。
そんな彼を救けたいと、そう願った事。


「……健気だな。そこまで惚れ込んでいるのね。」
「そうですね。自分でもこう言いだしちゃってるのが、ちょっと怖いですけれど。」


苦笑気味に、橘日向が呟く。
聖杯戦争、万能の願望器を巡り殺し合う。
願望、矜持、復讐、享楽、妄執。数多の感情が巡り混じり合う戦場に。
橘日向という一般人がそれに巻き込まれて、怖いと思わないのが不自然だ。
それと同時に、橘日向が花垣武道が思う気持ちに嘘偽りはない。


897 : 橘日向&アルターエゴ ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/18(木) 23:06:24 8J00Uo7Y0

「だけど、私のヒーローは。そうだとわかっていても、行ってしまうんです。」


そう。
橘日向のヒーロー、花垣武道とはそういう男なのだから。
勝てないと、負けるとわかっていても。
誰かを助けるために立ち向かう、そんな人だから。
それは、勝てる人よりも、100倍かっこいい。


「そんな彼に、私は恋をしました。」


橘日向が花垣武道に恋をした日。
子猫を囲んでいたいじめっ子たち。
子猫を逃がすために声をかけた彼女。
泣き出しそうな強がりをする彼女を助けにやってきたヒーロー。
負けるとわかっていても立ち向かって、自分を守ってくれたヒーロー。
あの日が、橘日向にとっての恋の分岐点。


「……まるで、お陽さまのようね、マスター。」


アルターエゴが、口元を緩ませる。
橘日向を、太陽だと例える。
優しき太陽。
迷い人を導く日向。
向日葵の如き光。
ああ、確かに、ヒーローが守りたいと願っても仕方のないのだと。
その輝きは、まるで陽の巫女のような―――。


「……が。」


アルターエゴが瞳を閉じる。
静寂を裂いて、風が吹きすさぶ。
飛び散る蝶の如く、白雪が空に舞う。
刹那、アルターエゴが変貌した。
黒き髪は白へと。碧空の瞳は深紅へと。


『故に、妾は解せぬ。』


神が、降りた。
天に響き、地に木霊する。
高天原より、舞い降りる。
アルターエゴに宿る、大いなる神。
今までが鞘ならば、これは剣。
剣神・叢雲の命(みこと)。
それが、この神の名。


『貴様は太陽であるが、力あるものではない。』


神が、問う。
お前は戦う力を持たぬもの。
ただの向日葵。
誰かを支えることは出来ても、誰かと戦うことは出来ぬはず。
それを橘日向が理解ていないわけがない。
だから、問う。


『死ぬぞ。』


決意は十分、信念は十分。
だが、身に余る戦場に、余りにも力不足。
思いだけでも、余りにも足りない"戦争"では。
お前の様な木端は意図も容易く刈り取られると睨む。


898 : 橘日向&アルターエゴ ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/18(木) 23:06:44 8J00Uo7Y0

神威が、暴風となり吹きすさぶ。
積もった雪が、吹き飛ぶ。
その審判に、部外者が関わるに能わず。
アルターエゴは少女をただ見据える。
剣神は少女をただ見下ろす。
叢雲は少女をただ見定める。

『力不足だと、無力だと理解した上で、挑むのか?』

橘日向にはその正義感と優しさ以外に、何もない。
守ってくれるヒーローは、今は居ない。
力もなく、ただ誇れるのは思いだけ。
思いだけでは、余りにも足りない。
それでもなお、その選択を取るのかと、神は問う。

空気が震える。神の圧が橘日向を包み込む。
これは神判。神が人に価値を見出すかどうかの判別、区別。
迂闊な問いは、即ち終わりに直結する。
だが、橘日向は、最初から答えが決まっている。
意を決し、こう告げる


「私、死ぬんです。」


その言葉に、神は僅かながら眉を動かす。


「私、十二年後に死ぬんです。――殺されるんです。」
『――なん、だと?』


神も、流石に驚きを隠せない。
未来、自らが死ぬ運命だと知っていると来た。
だが、彼女から感じるのはただの少女であること。
魔眼による未来視では全くない。
ならば何故、この女は未来に己が死ぬことを知っているのだと。
己ですら、己の死の未来を視ることなど、不可能だったというのに。
いや、あるではないか。彼女が未来を知りうる手段である人物が。
橘日向の言っていた、聖杯を願う理由に繋がるヒーロー。


「私のヒーローは、タケミチくんは、それを止める為に、未来から来たんです。」


その言葉に、神は合点が行った。
聖杯を望む根幹の理由に関わる存在、タケミチというヒーロー。
彼が、彼女の未来に待ち受ける死という呪いを解こうと足掻いているのなら。
彼女が、その事実を知ってしまったのならば。


「私だけじゃない、みんなの未来を知ってる。みんなを救けたいと思ってる。そのために、タケミチくんは必死だから。」


橘日向の声が、震える。
透明なグラスから、水が溢れてゆくように。
その瞳から雫が落ちて、降り積もる雪に消えてゆく。
孤独に戦う、彼の最大の理解者として。
未来のために、抗う彼に寄り添う者として。


「なのに私は、彼の為に何もできない…。」


それが、苦しかった。
それが、後悔だった。
逃げず、先の見えない真っ暗闇に突っ込んで、絶望と悪意に立ち向かうヒーローに。
何一つ手助けすら出来ない事が、橘日向にとっての哀しみ。
それが彼女が、ヒーローに授けてしまった愛にして哀。呪いなのだ。


899 : 橘日向&アルターエゴ ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/18(木) 23:07:02 8J00Uo7Y0

「本当なら、タケミチくんの支えになれるだけで、それだけで良いなんて、心のなかで思ってた。」


俯いた顔を上げ、涙を拭う。
悲しみの涙も拭い、凛とした表情で神に視線を向けて。


「こんな訳の分からない事に巻き込まれて。私の心じゃタケミチくん頼りのままで。」


正しく歪んだ過去。異界東京都。欠けた未来。
無敵の彼は闇に落ち。
救いをヒーローは今はいない。


「私はヒーローなんかにはなれない、だから。」


橘日向は花垣武道のようなヒーローにはなれない。
橘日向は誰かのような強さを持てない。
悪く言えば他人頼りの極み。
それでも、宣言せずにはいられない。

「私は、未来に繋がる不幸の運命を全て壊す。」


もう、後には戻れない。
聖杯戦争、初めて経験する戦場に巻き込まれ。
逃げて何もかも投げ出すという選択肢もあった。
だが彼女はそれを放棄した。
橘日向だからこそ知っている、ヒーローの弱さを。
橘日向だからこそ知っている、ヒーローの諦めの悪さを。
橘日向だからこそ、ヒーローは逃げないことを知っている。


「私が、タケミチくんにとっての聖域で。」


花垣武道がタイムリープを決めた引き金。
橘日向の死を覆すため。
その願いの為に、彼は過去に、絶望に抗い続けた。
その内に、橘日向以外にも守りたいものが増えていった。
全ては橘日向という聖域が始まった事。
その愛が、ヒーローを縛っているというのなら。
その哀が、ヒーローにとっての使命であると同時に呪いとなったのなら。


「―――なら、私にとっての聖域は、タケミチくんを含めたみんなが幸せに過ごせる未来。」


だったら彼女は、橘日向は。
ヒーローですら取り零してしまった命も。
ヒーローが抱えた悲しみも。
何もかも掬い上げて直してしまおう。


「ヒーローを信じるだけの私とはもうさよなら。だから、私が――橘日向が、運命を破壊する!!」


それは、人の身が願うには余りにも傲慢。
只人が望むには余りにも重すぎる奇跡。
されど、橘日向は望んだ。
救われず、命を落とした誰かにも、救済を。
運命を他人に決めてもらう甘えは終わらせる。


「だって――」
『運命は抗うもの、だろう。』


橘日向の言葉を黙って聞き入ってた神が、割り込むように漸く口を開いた。
まるで、懐かしい光景を見るような微笑みで。
まるで、成長した子を喜ぶ母親のように。


900 : 橘日向&アルターエゴ ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/18(木) 23:07:20 8J00Uo7Y0

『お前の覚悟、しかと聞き届けた。』


そして満足だと、そう表情で告げ神は去る。
白は黒へ、紅は碧へ戻る。
神は少女へと。愛宮千歌音の意識へと戻る。


「……驚いたわ、運命を破壊するだなんて言い方。本当にあの子……姫子みたい。」


アルターエゴの過去。贋作が人間になる前の記憶。
神様・叢雲でなく人間・愛宮千歌音であることを肯定してくれた陽だまりの彼女。
来栖守姫子が運命を、神の力を破壊したことで、愛宮千歌音になれた。
信じるだけの運命を棄て、自ら運命に抗うことを決めた。
正に彼女の生き写しだと、アルターエゴは思う。


「まあ、英霊となって、また神の力にお世話になるなんて思わなかったけれど。」


英霊となって、またしてもこの剣神を宿すことになるとは因果な事。
少女聖域もまた、アルターエゴの中にいる。
それがどのような形であるか、それはまだ知らず。


「全く、姫子になんて言われるかしら。」
「好きなんですか? その姫子さんって人は。」
「……そうね。好きよ、でも私は。」


偽物だから、と言いそうになって、やめる。
愛宮千歌音とは本来、叢雲の命の分け身。
神が人を愛するがあまり、人へと姿へ変えたもの。
そんな自分を、神の力だけを破壊し、人で在る事を来栖守姫子は認めてくれた。
でも、それでも来栖守姫子が慕う本来の千歌音は来栖守千歌音の方。
こんな自分を卑下したら、それこそ姫子に怒られそうだと。
寂しげに、自嘲気味に微笑む。
来栖守姫子は神の力の破壊を代償に、神と姉と共に、高天原へと還っていったから。
二度と、彼女と会えるとは、思えなかったから。


「……アルターエゴ。私の聖域を守るために、聖杯の獲得を。」


橘日向が、らしくもない強い口調で告げ、手を出す。
これが、一種の覚悟表明なのか。
恐らくは、アルターエゴの過去を夢として垣間見た影響か。
そんな所も、彼女らしくなくてもと、アルターエゴは苦笑して。


「わかったわ、マスター。」


アルターエゴが告げる。頭を垂れて、その手を取る。
それはまるで、姉妹のようで。
其れはまるで、太陽と月のようで。
振り続ける白雪だけが、彼女たちの始まりを照らしていた。


☆★☆★


901 : 橘日向&アルターエゴ ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/18(木) 23:08:01 8J00Uo7Y0
★☆★☆


長き時を経ても、変わらぬ星明かりのみが照らす。
疲れ部屋で眠るマスターの側、星明かりに照らされるアルターエゴの姿。
弱くも強い、死の運命に縛られ続ける少女。
ヒーローをその愛で縛ってしまった少女。


「マスター……その道は、きっと。」


大いなる神、叢雲の命。
二人の巫女、千歌音と姫子を愛してしまった神様。
二人と共に居られる幸せを願ってしまった神様。
それが永遠にかなってしまった。
永劫の時の流れに、願いは呪いへと変貌し錆びついた。

マスターの願いが、マスターの願う幸せは。
いつか呪いとなって、湧き出た憎悪が己に牙を向くかもしれない。
彼女は何処かでわかっているのか、それとも全くわかっていないのか。
それとも、それでも幸せを願わず得なかったのか。


「でも、私は―――。」


叶うならば、会いたい。来栖守姫子に。
あの優しさにもう一度、絆されたい。
その肌に、もう一度触れたい。
その唇に、もう一度契りたい。
その身体と、もう一度愛を捧げたい。

だが、それを叶う権利はない。
それを願えば、再び姫子を縛ってしまうから。
姫子は私のために、神と共に高天原へと還ったのだから。


「会いたいよ、姫子………。」


ぽたぽた、ぽたぽた。
寂しさで、涙が零れ落ちる。
本当に、情けなかった。
蘇った神の力、それで彼女の心は満たせない。
仲間が居ても、マスターが居ても、その寂しさだけは満たせなかった。
その喪失を、願望器という甘い汁が、再び浮き上がらせてしまった。


「姫子ぉ……。」


彼女の哀しみを抑える者は、今は居ない。
今にも崩れそうな、喪失に耐えられなかった少女の姿がそこにある。
涙はとめどなく流れ続ける。
星だけがそれを寂しく見下ろしている。


902 : 橘日向&アルターエゴ ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/18(木) 23:08:26 8J00Uo7Y0
「――ちかね、ちゃん。」
「――え?」


声がする。
暗き夜に、人影が一つ。
人形のような顔立ちで。
可愛らしい童顔で。
おひさまのような、紅茶色髪で。
黒い修道服に身を包んだ、少女の姿。


「……せつな?」


アルターエゴが、思い浮かんだ一つの可能性。
愛宮千歌音の少女聖域。剣の力、神の力が姿かたちを為したもの、せつな。
神の力が在るのなら、彼女もまた在ると、予想はしていた。
だけど、彼女の声は、瞳は、姿はまるで――。


「……ううん。違う。」


その少女は、違うと告げる。
アルターエゴに向けて、笑顔を向ける。
その瞳に、心なしか雫が溜まっているようにみえる。


「お姉ちゃんには、すごく反対されたよ。……でも、会いに来ちゃった。」
「―――ッ!」


その言葉だけで、アルターエゴは全てを理解する。
何故、壊された神の力を再び使えるのか。
何故、自分のクラスがアルターエゴなのか。

有無も言わず、脇目も振らず、アルターエゴは少女に抱きつく。
目一杯、もう二度と離したくないと、肌をすり合わせて、唇を近づかせて。


「ただいま、千歌音ちゃん。……私も、本当は、会いたかったよ……寂しい思いさせて、ごめんね……!」
「姫子……姫子……ひめこぉ………!」


輪廻を超えて、永劫の時を超えて、呪いすら超えて。
神の気まぐれにて再開した二人は激しく愛し合った。
月と星だけが、それを祝福していた。


★☆★☆
☆★☆★


愛は―――呪いになり、哀になる…でも
想う事は自由だ。望まず…想うだけなら


男が、女を想う事も
女が、男を想う事も
姉が、妹を想う事も
人が、神を想う事も


そして私は…この異界東京都で思ってしまうのだ
人は――――それでも、愛する事を、止めないだろう――


全てに、愛を…


☆★☆★


903 : 橘日向&アルターエゴ ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/18(木) 23:09:24 8J00Uo7Y0
【クラス】
アルターエゴ

【真名】
愛宮千歌音@絶対少女聖域アムネシアン

【属性】
秩序・中庸

【ステータス】
筋力:C++ 耐久:B 敏捷:C 魔力:B+ 幸運:C 宝具:B+
『神格化』発動中 筋力:A 耐久:A 敏捷:B+ 魔力:A 幸運:B

【クラススキル】
対魔力:B


神性:C++


【保有スキル】
アムネシアン:B
アルターエゴの居た世界での、異能者の総称。人が愛のために神を縛り、神の力の欠片を得た者たち。
このスキルを所有しているものには、「神性:C」が付与される。
アルターエゴの場合、かつて神様の生まれ変わりだったという点も踏まえて付与される神性は本来のランクよりもプラス補正が掛かる。

カリスマ:C+
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
アルターエゴは叢雲としての神威も踏まえ、ランクが上がっている。

少女聖域(来栖守姫子):EX
アルターエゴの少女聖域。剣の力そのものにして、少女の形をした神の力そのもの。
そのはずなのだが、「出来ることなら二人一緒の方がいいんじゃ!」とかほざいた高天原帰還済みの某神様の心情を、同じく高天原に還った一人の少女の願いとの利害一致が噛み合い力を合わせた事で変質。
本来ならせつなという少女聖域が呼ばれる所を、よりにもよって来栖守姫子本人がスキルという形で再開しに来たという滅茶苦茶をしでかした。
来栖守姫子という少女自体が、英霊の使い魔や戦闘向けのサーヴァントでなければ相手取れるステータスを持ち、さらに彼女の主武装である大鎌「天命剣クラウソラス」は、C+クラス相当の宝具と同等の性能を誇る。
尚、姫子の姉は英霊の座から「ふざけんな神様、妹が納得してなかったらもう一度殺しに行くぞ」と憤っている模様。


【宝具】
『神格化・剣神叢雲の命』
ランク:B+ 種別:対人宝具(自身) レンジ:1 最大捕捉:1人
アルターエゴの、本来の姿だったものの解放。剣神としての神格の顕現。
全ステータスの上昇に加え、前述の少女聖域が来栖守姫子へと変化した結果さらなる恩恵付与が追加。
スキル化に伴い、仮に来栖守姫子が英霊と呼ばれた際に宝具となる外ツ神の力も上乗せする結果に。
発動中さらに「戦闘続行:B+」「領域外の生命:D++」も追加される。

【weapon】
『七星剣』
セブンス・ソード。1本の実体剣と6本の幻影剣を自由に繰り出す能力。実体剣には紫の飾り紐がついており触れることも可能だが、幻影剣の方は千歌音以外触れることができない。

『天叢雲の剣』
神格化発動中のアルターエゴの主武装。草薙剣とも称される八岐大蛇を討伐した三種の神器の一つ。

【人物背景】
神の生まれ変わり。かつて神であった人。
愛という呪いから解き放たれて、人になった少女。

【サーヴァントとしての願い】
マスターの"聖域"を守るため、聖杯を手に入れる。






【マスター】
橘日向@東京卍リベンジャーズ

【マスターとしての願い】
タケミチくんと、みんなを不幸になる運命を破壊する

【能力・技能】
なし。

【人物背景】
泣き虫のヒーローにとっての"聖域"
人より正義感が強いだけの少女。

【備考】
参戦時期は佐野エマ死亡後


904 : ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/18(木) 23:09:37 8J00Uo7Y0
投下終了します


905 : ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:41:34 EG.M1YRA0
投下します


906 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:42:09 EG.M1YRA0
 富、名声、そして力。
世の男が求めるものを、男は全て、高いレベルで有していた。
自分がどれだけ貯蓄していたか男は覚えてはいなかったが、少なくとも、皇国の一等地に大豪邸を建て、無数の使用人を雇っていてもなお、お釣りが来る程であったと記憶している。
名声については、皇国に生を授かった男児達の夢である所の、聖騎士団、その中でも最高の序列である第一軍団・金剛騎士団(ダイアモンド)団長である。
凡そ皇国民が考え得る中で、最高に限りなく近い地位に就いていた人物である、と言う認識には何の異論もなかった。これより上など、神か、教皇、総代聖騎士位しか最早存在しない。
力に至っては、最早説明するのも愚かしい。聖騎士団と言っても、実力についてはかなりのバラつきがある。
低位階の聖騎士ならば実力がなくても金でその地位を買えると言う、何やら旧西暦時代の金で爵位が手に入ると言うエピソードが思い浮かぶが、少なくとも男の所属している金剛騎士団は、別格。
加味される要素は1にも2にも、己の実力その一点。国家の威信である聖騎士団、その最高序列。対外の要であり、国家の暴力の象徴でもある聖騎士団のヒエラルキーの最上位には、
その名に恥じぬだけの力が求められる。そんな、組織の最高位のチームの中で、最も高い地位に就いている彼の実力は、今更筆を執るまでもない。別格。そう、この二文字で全てが足りるのだ。

 とどのつまり、『ウィリアム・ベルグシュライン』と言う男は、当代で言う所の防衛官僚。
外で訓練をしているような軍人達とは一線を画する、高級軍人と言う認識で、差し支えないし、間違いもない事になる。
現にカンタベリー聖教皇国における、防衛費などを確定する予算の折衝会議であったり、その期に於ける聖騎士の採用人数の決定や配属先の決定等の人事に於ける会議にも、
ベルグシュラインは参加し意見を述べた事もあったし、紛う事なき軍事の中枢に部分に食い込んでいた人物であった。
有事の際には、他の軍属や聖騎士(パラディン)に先駆けて戦場に馳せ参じ、皇国の特記戦力としての実力を発揮もする、現場に於いてもその存在感と活躍ぶりは発揮される。

 その生涯で汚職らしい汚職に一切手を染めず、生死不明の行方知れずになるまで無敗であったとされ、その後数十年が経過して尚、当時を知る聖騎士団員の一部では最強の呼び声高かった男。
星辰奏者に纏わる技術で、アドラーに劣後していたカンタベリー、その中に在っても強力とは言い難い星辰光に覚醒していても、男は最強と呼ばれていた。
御国の為、主の為、至高を越え神の領域にすら突入しているとすら言われた剣術で、眉一つ動かす事無く敵の一群を斬殺せしめるこの男は、
この聖杯戦争の地である異界東京都に呼ばれて、思う。

 ――ああ、思えば俺は、踊りの一つも嗜んだ事がなかったな。と

 都内は某区に在るとされる、283プロダクションが買い上げた自社アイドルのレッスン室、それが用意されている貸ビルの前に、ベルグシュラインは佇んでいる。
時刻は直に夜の十一時の半ばを回ろうと言う頃合いで、この時間になると、貸ビル内に存在するレンタルオフィスは、全員が帰社している為か殆どが消灯されている。
何も、このビルだけの話じゃない、周辺に存在する同じようなレンタルビルに、規模の小さい弁護・司法書士事務所、不動産屋に、飲食店まで。
昨今の社会情勢を鑑みてか、目につくあらゆる店舗は消灯されているかシャッターが下ろされているかで、一目で、営業時間外である事を訴えて来る。

 その、レッスン室だけが。煌々と、明かりが付いていた。
ベルグシュラインが感覚を研ぎ澄ませ、五感を鋭敏にさせると、微かながら、キュッ、キュッ、と。
板張りの床を、ラバーに似た何かで強く押し付けているような音を捕捉する事が出来た。その音には一定のリズムがあり、それでいて、人間が意図を以て力を加えている事が解る。機械的ではない。


907 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:42:24 EG.M1YRA0
「良く励む主だ」

 ベルグシュラインはその音が、己をサーヴァントとしてこの聖杯戦争の舞台に召喚したマスターが、ダンスの鍛錬をしている時の物である事を理解している。
このような時間でまで、自主的にレッスンを続けるとは中々上昇志向が強い。自主的、と言うのは、真実その通りの意味であり、何分の事、時間が時間だ。
既に283お抱えのダンス・歌唱のコーチは既に帰っており、即ち、帰って以降は本当に自らの意思で残っている事になる。
このような、根を詰め、張り切った練習や鍛錬について、人の意見は二つに分かれる。頑張っている、励んでいる、として素晴らしいと思う者。休め、間を置け、と否定的な者。
これについてベルグシュラインは、前者の方だった。深い理由や、人生経験に基づいて、そう判断している訳ではない。
人間が、それこそ、遥かな高みへと己の才能を届かせたいのであれば、何処かで一度は、壊れなければならない、と言う嘗ての主君の語っている所の故である。
壁を破る為には、逆に、自分の殻を破らなければならないと。こういう、論調になる。それを思えば、ベルグシュラインのマスターが行っている事について、彼は、肯定的に受け止めているのだった。

「頃合いか」

 そう言うと、ベルグシュラインは軽く地面を蹴り、垂直に跳躍。
たった、それだけの動作で、10階建ての貸ビルの屋上、其処に立て付けられた転落防止フェンスの上端まで飛翔する跳躍力を得た彼は、其処に着地するなり、眼を鋭く光らせる。
人の通りは疎らだ。終電の時間を見誤り、うろうろと泊まれるホテルやネットカフェを探すサラリーマン風の男や大学生の姿が見えた。この時間まで、仕事をしていたか、飲み過ぎていたか。
スーツを着た中年が、親と子程の年齢差の、制服を着た少女と一緒に、何やらホテルに入っている様子が見えた。とやかく、その行為についての是非を問う事はしない。
道端で吐いている酔っ払いに、タクシーの所に駆け寄る中年のサラリーマン。人通りの少ない路地裏に駆け込む、ジーンズ姿の男――。

 ――その男目掛けて、ベルグシュラインは懐に差していた、己の身長程もある長刀を抜刀。
刀としては規格外にも程がある得物を、苦も無く抜き切り振り抜き終えるベルグシュライン。
次瞬、ジーンズの男の首が、シャンパンのコルク栓のように宙を舞い、泣き別れになった胴体が俯せに倒れ込んだ。
果たして、如何なる術理が働いたのか。ベルグシュラインと、首を刎ねられた男との距離は、優に400m程も離れていたと言うのに。男の剣術は、距離の問題さえも超克するのか。

「これで」

 そう、これで。あの男の殺害と、自らのマスターが結び付く事はないだろうと、ベルグシュラインは判断した。
男の死を見届けた時、ベルグシュラインは地上に向けて身を投げ、まるで猫のように。何の音も立てずして地面に着地。
人の命を無慈悲に刈り取った様子など億尾にも出さずに、貸ビルの中に入って行った。

 ……ビルに入ると同時に、ベルグシュラインが先程まで佇んでいた場所に散乱していた、身体中を59分割されたアサシンのサーヴァントの屍体が、跡形もなく消滅し、
流した血の跡すらも消えて無くなっていた。サーヴァントの気配を察知したので、マスターの暗殺を謀ろうとしたある聖杯戦争の参加者は、その本懐を遂げる事無く、そしてその氏素性も知られる事無く。斯様にして、退場する事になったのであった。


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908 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:43:03 EG.M1YRA0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 レッスンルームと言っても、何もそこまで大仰なものがある訳じゃない。
床は全面フローリングで、大きなパネルミラーを壁そのものにはめ込んで接着させて。後は、ゲストを座らせる為の簡易ソファに、設置式のデジタイマー。後は、申し訳程度の観葉植物。
ダンスと言う、身体を激しく動かす事を行う為の部屋の為、部屋にはそれ以外の余計なものは一切置いていない。ダンスの妨げになる障害物になりかねないからだ。
その為、初見での印象は、だだっ広い、殺風景な部屋と言って良いだろう。その部屋の中で、彼女は、玉散る汗を光らせて、ダンスに一生懸命励んでいた。

 色気のない、機能性のみを重視したジャージを身に纏った女だった。浮き出るボディラインが、彼女の女性美に優れたプロポーションを主張する。
出るべき場所が出、くびれるべき場所がくびれた、魅力的な身体つきの女性である。肌の露出をもう少し上げた服を纏ったならば、世の男は放っておくまい。
常日頃の時間を運動に費やし、美容も最低限度以上のものを欠かす事はない為か。肌の張りは十代の女児のようなそれであり、身体の引き締まり方や体脂肪率は、アスリートの理想にやや近い。
顔つきは、大人っぽくも見えるが、同時に、幼さのような物が垣間見える、綺麗なものだった。美人、にカテゴライズされる事は間違いない。色っぽく、艶っぽいのも、疑いはない。
だが、見る者が見れば、彼女がティーン・エージャーでない事は瞬時に看破出来る。骨格が、完成されているからである。育ち切っている、と言うべきか。
そしてそれは事実その通りであり、彼女は二十代をもうすぐ半ばに差し掛かろうかと言う人物であり、女の子、と言う呼び名はお世辞にも使えない年齢であった。

 練習を苦であると思った事は、彼女は一度もなかった。
何事もそうであるが、慣れない環境に身を投じた時、投じる前と、投じて間もなくの頃が一番本人にとって、肉体的にも精神的にも負担となる。
その環境に、慣れていないからである。どの環境(コミュニティ)にも、ホームルールとローカルルールと呼ばれるものがある事が常であり、そしてそのルールには、
その環境なりの合理性が大なり小なり存在するものである。故にこそ、そのルールに順応すると言う事が、新参者の最初の仕事になる訳である。

 彼女が飛び込んだアイドルの世界に於いて、真っ先に課されたのが、いま彼女がやっているような基礎練習である。ボイストレーニングだとか、ダンスレッスンだとかがそれだ。
何食わぬ顔で、それどころか、笑顔すら浮かべてステージ上の歌姫達は演技を続けているが、単純な話、あれで疲れの色を見せないのは、普段の練習がタフさを裏打ちしているからである。
要は普段から練習を続けているのだから、疲れ難いだけなのである。ステージ上で長時間パフォーマンスを続けても、疲れない、へこたれない。そんな身体作りが先ず必要になって来る。
勿論ダンスや歌が上達するのも勿論だが、定められた演目をやり切る事が、前提条件になる以上、上達の優先順位は二番目だ。

 華やかな世界を想像していたのに、ある種泥臭く、華やかさとは正反対の地味さに夢を裏切られ、アイドルの道を諦める者が出て来る。
他のアイドルより根気があっても、一向にブレイクの芽が出ず、その事実に心を折られ、事務所を去る少女はこれより遥かに多い。
そして、同じ人間である筈なのに、事務所に入ったのも同じなのに、スタートラインは疑いようもなく同じだったのに。自分よりもメキメキ上達する同期に追い縋れず、ドロップアウトする者だって。

 ――『緋田美琴』は、そのどれにも該当しなかったアイドルである。つまりは、生き残ったアイドルと言う事になる。
アイドルの世界の裏方が地味だった事は、認める。だが練習を苦しいと思った事はない。自分が上達している、ステップアップしていると言う実感は、何にも勝って嬉しかったから。
一向にブレイクしない事実について、思う所はある。だがこの業界、期待の新星はあり得ない事が解った。その新星とは、何年もの下積みの果てに新星を名乗る事が許されるのだ。
同期のアイドルが自分よりも成功を掴んで、焦った事もある。だがすぐに、そう言う事もあると思う事にした。思えば確かにあの娘は、自分にないものも持っていたから。


909 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:43:21 EG.M1YRA0
「戻ったぞ」

 数回のノックの後、ドアを開け、男が入って来た。精悍な、男の声。
ノックもなくレッスンルームに入って来た男は、その声音通りの、男らしい男だった。
背格好が高く、身体つきもしっかりしている。胴体を保護する金属製のプロテクター、その下には磨き上げられた筋肉が搭載されている事は明瞭で、そしてそれは、
血の滲むような研鑽の果てに得られた成果物である事も理解出来る。成程、見てくれが良いのであるから、普通の男が纏った所で格好付けにもならない、
白いロングコートが様になるのも当たり前だ。これで顔も良いのであるから、非の打ち所がない。女を守るサーヴァントとして、恰好だけならベルグシュラインはこれ以上となく合格だ。

 実際、ベルグシュラインの戦い方は、見惚れる程に鮮やかだった。
突如として異界東京都に招聘され、右往左往していた所を、美琴よりも前にこの地に呼ばれていた主従の襲撃にあっていた所に、彼は現れた。
長身であるベルグシュラインの身長以上の刀を目にも留まらぬ速度で振るい、本来であれば掛け値なしの強敵であった筈の敵対サーヴァントを瞬時に輪切りにし、
そしてそのままマスターを細切れにしたのを見て、美琴は、吐いた。理由は何て事はない、その酸鼻を極むる凄惨な光景のせいである。
だが、吐いた以上に、彼の戦いぶりは、凄かった、鮮やかだったと思う自分が、確かに美琴の中にいたのである。
激しい動きをしている筈なのに、その動きは乱雑なそれではない。何某かの流派の型に則った物である事が窺い知れ、そして、息咳吐く事もなく、余裕綽々に敵を屠り去る。
そしてそれだけの戦いを披露したのに、返り血一つ浴びておらず。御伽噺の勇者の戦い、斯くやあらん。そうと思わせしめる程の、圧倒的な威力が、其処にはあった。

「無事だった?」

「ああ」

 ベルグシュラインの返事は短かった。
無事か、とは聞いては見た美琴であったが、このレッスン室を出て行った3分前と、彼の服装は全く変わっていないのだ。
血の跡は勿論、土汚れ一つ付いていない。つまり今回も快勝かつ、楽勝であった事は言外せずとも解る。聞くだけ、野暮だったかなと。美琴は思った。

「そう。良かった」

 美琴の返事もまた、短い。それに対し、何を言うベルグシュラインでもなかった。 

 自分に対し、気を遣ってくれているのだろうと美琴は思う。
初対面で、ベルグシュラインが作り出した凄惨な死体を見て、胃の中の物を戻してしまったのである。
そう言う現場に耐性がない、ただの女である事を容易に見抜いたに違いない。実際その見立ては正しい。
幾らなんでも、人の死体に対する耐性は美琴にはない。その辺りは、何処にでもいる普通の人間と大差がないのである。
だから、そんな彼女の為に、サーヴァントの気配を感じ取るや、独りでにベルグシュラインはレッスン室から出て行って、件の相手を迎え撃ったのである。

「外に居ながら、マスターの踊る音が聞こえた」

 ベルグシュラインは静かに呟く。

「凄いね。何で、聞き取れるの?」

「靴の音だ。それで解る」

 このビル全体が、283プロの所有物と言う訳ではない。
一階層ズレれば、其処はもう他の会社がレンタルしている別のスペースなのだ。
だから、他所様に迷惑が掛からないよう、防音防震が徹底されている。故に、ボーカルレッスンも遠慮なく行える訳だし、ダンスレッスンだって気兼ねなく行えるのだ。
一階下に居ても、声も振動も気にならないし聞こえないと言うのに、ビルの外に居ながら、シューズの靴底のラバー部分とフローリングとが擦れ合う音を聞き取れるなど、
人間の聴覚では凡そあり得ない事であろう。

「ごめんね。アーチャーが頑張ってるのに、のんきに、踊ってて」

「気にする事はない。斬れ、と相手を指させば俺はそれに従うだけだ。……それは君には難しそうな事だが」

「うん。そこまでは……非情になれないな」

 幾ら浮世離れして、やや天然気味の美琴とは言っても、自分の命令で相手を如何様にでも斬り殺してくるベルグシュラインに、非情の命令を下す事は出来ない。


910 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:43:40 EG.M1YRA0
「……踊る音を聞きながら、君を暗殺しようとしたアサシンを葬り去った時に、思った」

 ベルグシュラインにすれば、敵対していたアサシンに対してよりも、別所で踊る美琴に対しての方に、思考のリソースを割いていた。
余力を十分に残した状態で、余裕で斬り殺せる相手であったからこそ出来た芸当である。

「この状況下で、よく踊れるな。と」

「……」

 それは、言葉だけを聞けば非難がましく聞こえる事だろう。
実際美琴も、そう言う風に聞こえた。そして、ベルグシュラインはそれを言う権利があるとも思った。
何せ命を薄め、鎬を削り合っているのは誰ならん、彼の方であり、有事の際の危難が真っ先に誰に及ぶのかと言えば、当然彼の方である。
だから、真っ当な感性の持ち主であれば、自分は命を張っているのにお前は何で踊って居られるのかと、非難するのは当たり前の話であろう。
だが、ベルグシュラインにはそんな意図はなかった。それは彼の、寧ろ美琴に対して感心しているような声音からも、明らかであった。

「本当に普通の人間ならば、震えて隠れているのが当然なのに、マスターは普段通りに踊っているだけだ。本当に、普段と全く変わらない」

 その通り。
ベルグシュラインの言ったように、サーヴァント同士の殺し合いに直面し、かつ、マスターが本当に何の取柄もない一般人であったのなら。
普通は安全な場所に隠れ、或いは余波を被らぬように距離を取る筈なのだ。その時に、恐怖で身体を震わせ、身体を縮こまらせていても、誰が責められよう。
サーヴァントとサーヴァントの戦いは、普通の人間が想像し得るものよりも遥かに激しく、そして壮絶なものであり、事と次第によっては地形すら変化させてしまう。
本当に、巻き込まれれば死ぬ事だってあり得る話なのだ。だから、その事に対して恐れ慄き、身体を振るわせようが涙目になっていようが、其処に驚きはないし、当たり前の反応でもあるだろう。

 美琴は、違う。
ベルグシュラインが初陣に召喚されてから今に至るまで、美琴は、ずっとダンスか、ボーカルのトレーニングをしていた。
勿論の事ながら、24時間通しで踊っていた訳ではない。人間にとって不可避である生理現象。食事や睡眠の時間は勿論用意されている。
だが、その時間は最低限だ。旧西暦時代の大英雄であるナポレオン・ボナパルトは3時間しか眠っていなかった、と言う伝説は誰もが知る所であり、
実際にはしっかりと睡眠を取っていたと言う本当の話は以外と知られていないが、美琴の場合は本当に、3時間か4時間位しか眠っていない。
食事にかける時間も最低限で、自炊する時間も惜しいのか。出来合いの物を買いこんで、それを数分で平らげ、直ぐにレッスンを再開する、と。万事こんな調子なのだ。
一日の半分以上の時間をこう言う風にして彼女は費やし、しかもインターバルを取らない。一度気になって踊っている最中、ベルグシュラインが『休まなくて良いのか?』と聞いたら、
返って来た返事が「忘れてた」である。その間彼女は、水すらも飲んでいなかった。驚嘆すると同時に、思わず呆れ返ったものである。

 一時的に、そんなスケジュールでレッスンをしているのではない事は、ベルグシュラインには解る。
これは、異界東京都に呼び出される以前から、こんな調子の日常を送り続けていない事には、説明が出来ない程美琴の日常は堂に入っていた。
つまり彼女は、此処に呼び出される前の日常を、聖杯戦争と言う非日常のイベントが連続しているこの世界でも送っているのである。

「並の神経ではない」

 その声に、感情はなかった。

「君は、俺の思う以上に、非日常への耐性があるのかも知れない」

「……そんな才能は、あまり欲しくはないかな」

 苦笑いする美琴。


911 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:44:01 EG.M1YRA0
「それに、買い被り過ぎだよ。私、こう言うレッスン以外に時間の潰し方を知らないだけだし…………」

「……」

「……多分、ただの……現実逃避だから」

 我ながら、自分の神経の図太さと言うか、無頓着さには呆れ返る。
同じSHHisのにちかにも、嘗て同じユニットであったルカにも、自分の私生活の自堕落さには、かなり注意されて来たじゃないか。
まさか、こんな非日常そのものである聖杯戦争の渦中に引きずり込まれて尚、曲げないとは思わなかった。自分の頑固さと言うか、偏執ぶりに美琴が一番驚いている。

 踊っている間は、聖杯戦争に纏わる事を忘れられるから、便利なものだった。
だが、美琴自身が口にしたように、このようなものは眼前の現実から目を背けているだけの逃避行動にしか過ぎず。
非日常への適正どころか、非日常への適性のなさを何よりも物語る証拠でしかない。何て事はない、脆いだけの女でしか、彼女はなかった。

「優しいね。アーチャー。気配りも出来るし……守ってもくれるし」

「……いいや」

 ベルグシュラインは、美琴の言葉を、お世辞と捉えた。

「俺は君の事を、装置だと思っている」

「……装置?」

 言っている意味が、解らない。目を、美琴は丸くする。

「君が想像している以上の人数を、俺はこの手で殺して来ている。それが仕事の一環だったからな」

 カンタベリーの男児の憧れであるところの聖騎士団、その中でも最上位のヒエラルキーである金剛騎士団とは、文字通り、聖騎士として別格の実力を備えていなければならない。
要は、喧嘩も強ければならないと言う事だが、ベルグシュラインはその象徴のような人物だ。聖騎士団とはカンタベリーに於ける警察機構であり、軍機構でもある。
有事の際には国家を守らなければならない、と言うのは換言すれば、内・外敵から国家を守る為に相手を殺すと言う事でもある訳で、ベルグシュラインは正にその通りに職務を遂行して来た。
十、二十では最早利かない。百を超え、千にも届こうかと言う人間を、ベルグシュラインはこの手で斬り殺して来た。曲がり間違っても、清廉潔癖、高潔な騎士ではありえない。
男のその手は、血で汚れ切っていたし、そしてその事について、ベルグシュラインは、欠片も罪悪感を覚えていなかったし、そも、何とも思って等いなかった。

「俺は、誰かの為に戦った事がない」

 淡々と、男は語り続ける。

「信奉している主君の為に戦った事はあるが、それは俺を見出し、育て、要職に就かせてくれた恩義に報いると言う当然の心理的発露からくるものだ。俺個人が、自分の信念だとか、身勝手で、守りたいと思った者は、全くいない」

 言った通りであった。
ベルグシュラインは生前も、そしてサーヴァントとしての生を授かった今この瞬間に於いても。
孤児であった自分を養育し、己の才能を見出し育て上げ、自らの右腕と言う栄誉まで授けてくれた、グレンファルトへの尊敬や忠誠を変わらず抱いていた。
生前は彼の言った通りの仕事を、彼の完全な満足と充足を得るまで遂行したし、彼との信頼を違えた事は一度たりともなかった。
彼がどんな非道を犯していたのかも、悉皆、ベルグシュラインは理解していた。理解していてなお、彼との忠節を守ったのである。

 ――だがそれは、何処まで行っても忠義でしかなく。何から何まで、恩義でしかなく。
感謝しているから、義務だから。それ以上の域を出やしない。感情ではない。理屈の話であり、グレンファルトとベルグシュラインの関係は、システマチックが極まった物であった。
聖騎士に選ばれたばかりの、若くて青臭い若造のように、顔も知らない臣民を守る為だとか、命を賭しても守りたい女の為だとか。
そんな事を、ベルグシュラインは思った事がない。そんな物の為に、ベルグシュラインは動いた事がない。
グレンファルトと同列は勿論、彼以上に優先しなければならない個人の存在を、この無敵の剣士は知らない。
人間的な感情の発露から、守りたいだとか超えたいだとか、殺したいだとか憎いだとか、そんなものをベルグシュラインは抱いた事がない。

 そして、その人間的な感情の具現のような存在に、彼も、そして、その主も敗れ去った。
グレンファルトの、デッドコピーに過ぎない男の筈だった。圧倒的なまでの力で彼の仲間達の、勝ち筋の一つ一つを丹念に潰して行って、王手指しまで後僅かの筈だった。
だが彼らは最後まで、神祖達の予測していた勝ち筋とはまた違う逆転の道筋を隠し通し、これを実行に移し、そして、勝利を勝ち取ったのだ。


912 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:44:21 EG.M1YRA0
「俺に敗北を刻んだ男の言葉によると、俺は物語(うんめい)を全く有していないらしい」

「運命……?」

「俺も、よく分からん」

 今を以てしても、彼らが――ラグナ・ニーズホッグ達が何故勝てたのか、ベルグシュラインは理解出来ない。
奇跡が起きたと言えばそれまでだが、奇跡が起きるその瞬間まで命を繋げられたのには、何か理由がある筈だった。
彼らの幸福を一方的に蹂躙した事からくる、憎悪? 殺意? それとも、神祖を滅殺したいと言う、克己心? 仲間達との、絆?

 ベルグシュラインは、違うと考える。
それらは確かに重要なファクターであったろうが、主であるグレンファルトの、強固な精神性を裏打ちしていたものを考えれば、明らかである。
――『女』だ。愛する女こそが、グレンファルトの、そして、ラグナの、無限大の原動力であった筈じゃないか。
大切な女の為に、彼らはスフィアを掴み取り、そして、己の運命どうしをぶつけ合い、そして、勝敗を決させた事は、ベルグシュラインも良く知っていた。

「俺を屠った男の傍らには、彼が愛していただろう女がいた」

 ――そう。

「だから、サーヴァントとして君を守ろうとすれば、俺も、俺を倒した男と同じ境地に――物語を得られるかも知れないと、思ったのだ」

 ウィリアム・ベルグシュラインと言う男は、いっそ哀れな位、全てを履き違えた男であった。

 運命と女が同質の存在であると言うのなら。女一つで、あそこまで変われるのなら。
己も、それに倣ってみようと、ベルグシュラインは思ったのだ。幸いな事に、己を呼び出したマスターは、女性であった。
女である緋田美琴をマスターとして守る事で運命の何たるかを、理解出来ると、思ったのだ。
女に対して忠節を誓う騎士ならば、また違ったものが見えてくるだろうと、本気で思っていたのだ。

「……それで、見えた? 運命、ってやつ」

「見えない」

 ベルグシュラインは即答する。

「何でだと、思う?」

 美琴の問い。

「動機が不純だからだろうな」

 何て事はない、ベルグシュラインも、今しがたアサシンを屠った所で、理解したのである。
こんな事で運命とやらを理解出来るのなら、新西暦は今頃大変な状況になっているに違いなかったのだから。
運命を理解したいから、今から君を主として仰ぎます。これで悟りを得られるのなら、何の苦労もないのである。
その通り。この有様では、身分がマスターとサーヴァントのそれに変化し、主の性別が単に逆転しただけで、生前のように成すべき事だけを成していたあの時と、何も変わらないのだ。
それを理解してしまったからこそ、ベルグシュラインは、美琴の言った優しい、と言う言葉を否定した。運命を見せてくれる為の、外付けの装置としか見ていなかったと白状した。

「そう言う訳だ。君が思う程優しくもない。打算的で、相手を斬る事だけは上手い、つまらん男さ。軽蔑したくばすれば良い」

「うーん……そう言う気にはなれないな」

 実際、ベルグシュラインのおかげで自分の命が繋げているのだし、軽蔑するのは少し違うと思っている。
それに、美琴自身を装置扱いするにしても、それもあまり、彼女はピンと来ていない。
寧ろサーヴァントからすればマスターとは、魔力を供給する事でサーヴァント自身の活動限界を保証する、電池、バッテリーのような物で、装置扱いは妥当な線なのではあるまいか。
だがこれも、受け取り方は人それぞれだろう。同じユニットの、あの娘だったら、凄い剣幕で怒るのだろうかと、美琴は考える。

 結局この話は、想像を絶する才能と力の持ち主が、自分に対して何かの期待を抱いている。
それだけの話なのではないかと思ったし――いや、その事を思った瞬間。

「何か、嬉しいかな……期待されちゃってるの」

「……?」

 少しだけ、笑みを綻ばせる美琴を見て、ベルグシュラインが首を傾げた。

「アイドルって、期待されるのが仕事だから」


913 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:45:00 EG.M1YRA0
 それは、緋田美琴が考える、アイドルなるものの本質の一側面であった。
前提として、アイドルと呼ばれる存在は、仕事人である。プロフェッショナル、とも言い換えられるか。
そして、プロの仕事と言うのは一人じゃ成立しない。所属しているプロダクション。仕事を持ってきてくれるマネージャー。化粧を施すメイク担当。
舞台を整える裏方、大道具に照明に音響等。相手方のプロデューサーやディレクター、監督等の基幹部分のスタッフ。
たった数分のアイドルのパフォーマンスには、多くの人間の数時間、数日、数週間、数か月の仕事振りが混然一体となって込められているのだ。
彼らが道を整えてくれたから、アイドルは仕事が出来るのだ。では何故、それだけ多くの人間が、ただの小娘に力を貸してくれるのか。
お客、である。アイドルに仕事を託した者の多くが、お客に対する訴求力を、持たない。だから、自分達にはない訴求力を持つアイドルに期待するのだ。
その託するもの、即ち期待とは、宣伝とか広告とか、要するにスポンサーに対する利益である事が、まぁ殆どであるのだが。何れにせよ、そう言う期待が彼らにはある。

 そして、客もまた、アイドルに期待する。
客がアイドルに求める物は、タレント業に携わる者が求めるそれとは異なる。彼らが見たいのは、アイドルそのものの、姿なのだ。パフォーマンスそのものだ。
生の歌を、聞きたい。パフォーマンスに、魅せられたい。その姿を、見てみたい。連続する無味無臭の現実の中に突如として泡の如くに現れた、非日常の世界を、垣間見たい。
そんな客の期待にも応えて、アイドルは、仕事をする。夢や憧憬を、向けられる仕事、とも言えるのかも知れない。

「私、そう言うアイドルになるのが、夢なんだ」

「アイドル……」

 ――アイドル。
その言葉の意味は当然、ベルグシュラインも理解している所だが、当世の日本(アマツ)で用いられている意味合いと、彼の知る意味合いとで、齟齬があるようだ。
ベルグシュラインにとってのアイドルとは、広告塔であり、シンボルである。そして、利用されるものだ。志半ばで神殺しに屠られた、同志ルーファス・ザンブレイブの姿が、脳裏を過った。

「歌とか、踊りとか……。そう言った物を全部ひっくるめた、パフォーマンス。それで、人に感動を与えられるのなら、それは……。どれだけ素晴らしい事なんだろう」

 美琴は、今でも、自分が今の道を歩むに至ったきっかけを覚えている。
始まりは、何て事はない。ただ、歌を歌ってみたいから、と言う理由で、北海道から上京し、事務所に運よく転がり込み、研修生としての入所する事に成功したのだ。
日々のレッスン、諸先輩のステージの見学。そうした物を続ける内に、彼女の胸中に一つの思いが芽生え始める。
歌だけじゃない。ダンスでも、自分を高めたい。歌と踊りで以て、皆を感動させられるようなアイドルになりたいと、思うようになったのだ。

「でもね、私、そう言うアイドルにまだなれてないの」

「運が、無かったからか?」

 月並みな意見である。
聖騎士の採用をしていた頃もそうだが、基本的にはアレは狭き門である。誰彼構わず受け入れるような物ではない。
と言うより、採用する側自身が、自分で門戸を狭めさせているのだ。それは、試験や検査と言う形でだ。
筆記や、実技と言った試験での足切りは勿論、これに並行する形で前歴の照合、そしてテストを終えた後に、適性検査――星辰光へのそれも含まれる――に面談に、と。
そう言った形で篩に掛けて行き、最後に残った者を聖騎士として任命する。正規の形で入団するにはそのような形になる訳だ。
これらをクリアするには基本的には本人の才覚や日々の努力が重要になる訳だが、星辰光への適正なども見ている以上、如何あっても運の側面も多分に含まれる事は否めない。

 そう言う事情を知っているからこそ、こんな言葉になる訳だ。
美琴のダンスや歌唱の技術力は、門外漢のベルグシュラインから見ても、中々の物だ。アレだけ身を削って努力が出来るのだから、至って当然の水準である。
これで、彼女が口にした夢に結びつかない理由など、最早運しかないだろう。競合相手に、彼女が霞む程の好敵手がいたのか。
それとも、審査する側のやっかみや不興を買って、言いがかり同然の理由で落とされたりだとか。そんな事を、彼は考えたのであった。

 美琴は、そんなベルグシュラインの言葉を、首を横に振って否定した。

「歌とか踊りが、上手いから、みたい」

 美琴の言った事が、アイドルになれない理由と結びつかない。プロは、上手いからプロではないのか。


914 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:45:17 EG.M1YRA0
「完璧、一番上手。……今回のオーディションに参加してる子達の誰よりも、上手い。そんな事を、ずっと言われた事があるの」

 「だけどね」

「そのオーディションだとかテストだとかで勝ち残るのはいつも、私よりちょっと劣る位の……、あんまり良い言い方じゃないけど、少し下手な子だった」

 アイドルとしてデビューする前も、そしてデビューした後も。
緋田美琴と言う女性は、技術と言う面では突出したものがあった。元々の才能は並であったが、努力する、と言う才能が並外れていたのである。
加えてその努力の方向性や効率性も、工夫がされている。凡そ、無駄な努力がない。研鑽に効率の悪さが見られない。だから、上達する。当然の話であった。

 ――しかし。篩に掛けられ、掛けられ。網目から零れ落ちるのは美琴の方で、残るのは何時だって、下手な側の方だった。
勿論、審査する側は芸能の世界で長らく活動し、見る目に長けたプロフェッショナルであるのだから、美琴自身が意識できないような悪いポイントを見つけ、
そして同様に彼女自身が気付かないような他のアイドル候補の良いポイントを見つけたのかも知れない、と。思う事はあった。

「本当に重要なのは、技術じゃないんだって。身近さ……って言うのかな? 完璧じゃないけど、応援したくなるような……そんな雰囲気。それが、私にはないんだって」

 そう口にする美琴の声音は、承服しつつも、心の何処かでは、納得がいっていないようなそれだった。
技術が重要なのは、言うまでもない。だがアイドルは、それだけじゃダメなのだ。彼女の言った通りアイドルがアイドルである為には、ファンが必要で、
ファンとは応援するものなのだ。そして応援をしてくれるか否かの分水嶺は、共感性があるか如何かであった。他に比べれば下手だけど一生懸命頑張っている、と言うのはその最たる物であった。

 それ以外にも、ファンの、人の心を掴む要素と言うのは幾らでもある。
普段の振る舞いであったりだとか、外見の良さだとか、個性とかキャラクターの独自性であったりだとか、それらが折り重なる事で、人に推して貰えるのである。

 美琴には――それがなかった。
究極の所、緋田美琴と言うアイドルの価値は、ダンスと歌『しか』ないのだ。

「……とっても、悔しかったな。初めて、それを言われた時。それで、惨めにもなった。私が一番上手って褒めてくれた人は……遠回しに、それしかないんだ、って言ってるみたいで」

 美琴が、ダンスも歌も上手である、と言うのはプロダクションの間では周知の事実であった。
実際、プロを名乗る水準には達しているし、ダンスに至っては、本職のダンサーに対してある程度の指導を行えるレベルにまでは至っているのだ。

 しかし、それだけじゃ、ダメなのだ。
『物凄く頑張って、凄いダンスとボーカル技術を身に着けた』、これだけではアイドルとして武器になるドラマになり得ないのだ。

 名前も聞いた事がないような田舎から、僅かな小金だけで上京して来て。アイドルの門戸を叩いて、一生懸命努力をし、その世界に順応しようと頑張って。
街を歩いていた所をスカウトに誘われ、気乗りがしないながらも誘いに乗って。何度も諦めそうになるも、あと一回ぐらいは、もう一回だけを繰り返して。
そんな、大衆の興味を引くような、応援してみたいと言うような、ストーリー性が美琴にはない。寝食を惜しんで、レッスンに打ち込んでいた。それだけだった。
学校にも行っていたが、学生時代の思い出が、まるで思い浮かばない。学校に居た時間よりも、レッスン室で研鑽していた時間の方が、遥かに長かったからである。

「運命がないって、アーチャーは言ったけど……正直、それが見たいから私を守ってみた、って言われても、怒れないんだ」

「……」

「……私だって、見られるのなら見たいから。多分私にも……そんなものはないだろうから」


915 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:45:47 EG.M1YRA0
 嘗て自分の相方だった娘は、悩みを抱えた今時の女の子の共感を掻っ攫い、今ではカミサマなどと呼ばれ、その人気を確かなものにしていた。
現在自分の相方である少女は、甘え上手でトークも上手く、一生懸命にアイドルとして振舞っているキャラクターにシンパシーを感じる者が多いのか。バラエティでの露出がかなり多くなった。

 きっと、運命を物にしたのだろう。自分がどんなキャラクターで、それを如何すれば開花するのか。解っているのだから、成功したのだ。
彼らに嫉妬するのは筋違いだし、そんな気は今もない。素直に、凄いと思っている。
それに――美琴だって本当は解っている。実を言えば、何年も前からそんなアドバイスは貰っている。もう少し自分の技術を低く見積もってパフォーマンスをして見ろと。
お前に足りないものは身近さなんだ、親しみやすさなんだ、応援したくなるような気持ち何だと。こうすれば絶対にイケる、彼らは皆自分の成績の為だとか、親切心から、そんな事を言っていた。それは、美琴も解っている。

 絶対に、ダメだった。それだけは、曲げてはならないんだと、彼女は心に誓っていた。
憧れから、目を背ける事は出来ない。夢を、捻じ曲げてはならない。自分が最初に目指そうとした、歌と踊りで感動を与えるアイドル、と言う理想。
それだけは、譲らない。譲らないからこそ、現状がある。美琴は、多くの者がドロップアウトするアイドルの世界で生き残っている、ベテランだ。キャリアは10年、中々の物だ。
だが実際には、生き残ったと言う言い方は正解ではない。『売れ残った』、と言う表現の方が実際には正しかった。業界人からは、こう言われているのだろう。
頑固者、偏屈者、売り方を解っているのにそうしない馬鹿、もうすぐ薹が立つ売れ残り。その言い方に、反論は出来ない。そう言う悪し様な言い方を跳ね除ける唯一の方法、アイドルとして大成する、に美琴は至れていないのだから。

「運命って、何なんだろうね。もっとこう……私も、ちゃんと学校行ってたり、いろんな人と話をしてたりしたら、解るのかな」

 ベルグシュラインから言われて、美琴はそう思った。
学校での生活、その記憶は朧げだ。親しい友人も学校内には余りおらず、寧ろ業界人との知り合いの方が多かった。
家族とはたまに連絡を取り合うが、その時間もかなり短い。最近は安否の事もそうであるが、遠回しに結婚の事について聞かれる事も多くなった。
解らない。運命とは、そう言う所にもあるのだろうか。考える度に、ドツボに嵌る。

 ――だが。

「それが解った時には……うん。真っ先に、見て貰いたい人に、見て欲しいよね」

 最初に美琴の下から飛び立った、斑鳩ルカは、何を思うのだろうか。
自分と一緒にいるせいで、少し窮屈そうにも思える七草にちかは、如何考えるのだろうか。
何時だって、自分達の為に最大限以上の努力をする事を惜しまない、あのプロデューサーの眼鏡には、何が映るのだろうか。
そして、その暁には――自分の原初の夢だった、みんなに感動を与えられるアイドルに、なれているのだろうか?

「そうか」

 美琴の話を聞き終えたベルグシュラインは、静かにそう呟いた。

「……そうか」

「?」

 目の前の女は……俺と同じかと、ベルグシュラインは思った。
神同然とも言うべき肉体的性質と、圧倒的なまでの出力の星辰光、人間では及びもつかぬ知見と深謀を持った怪物、神祖をして。
ウィリアム・ベルグシュラインは希代の剣士、1000年に一度の逸材、怪物と言わせしめる程の、天才であった。

 剣を握らせて、男に出来ない事など何一つとしてなかった。
剣術の一生涯を賭した剣豪が、その晩年に漸く至れるか、と言うような領域の、その一太刀。ベルグシュラインがそれを物にしたのは十代の半ば。
剣術に関しては神の域。生涯通して負け知らず。そんな剣聖が生涯を賭して初めて、意識するでもなく披露出来たその神域の一撃。それを如意自在に駆使出来るようになったのはそれから1年後。
剣術に関しては魔の域。斬り殺した人の数、千にも及ぶ。そんな剣鬼が死の直前に初めて振るえた、その剛剣。それを即座に再現し、相手の防御を破る手段の一つとして利用出来るようになったのは、それから更に半年後。


916 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:46:19 EG.M1YRA0
 何故、そんな事が出来るのか? どうして、其処まで上達出来るのか?
理由はない。言葉にすれば単純にして、陳腐そのもの。ベルグシュラインが、究極の天才。
人類史に於いて嘗て天才と呼ばれていたであろう、あらゆる剣士達が、委縮してしまう程の麒麟児であったからに他ならない。
最高の資質を持った男が、最高の師に見いだされ、最高の環境を与えられ、誰よりも真面目に、驕る事無く、腐る事無く、不満も無く。
カリキュラムに取り組んでいた。要するに、それだけの事。真面目で隙のない精神性の天才に、最高の師と環境を与えた。
ベルグシュラインの強さの故など、これだけで全てが説明出来る。そしてその事を、疑問に思った事もなかった。出来るから、達しただけ。報いる為に、上り詰めただけ。ベルグシュラインにとって己の剣才など、その程度にしか思った事がなかった。

 神祖・グレンファルトの右腕として、相応しい地位を与えられた。金も名誉も、思うが儘のポジションだった。
金剛騎士団の団長である事に、誰も異論を挟む事がなかった。それに相応しい実力も、精神性も。男は、高すぎる程に持っていた。
逆に、非難した側が、僻みだと蔑まれ馬鹿にされる程、ベルグシュラインの力は、圧倒的なものであった。

 その地位と名誉の故に、呼んでも居ないのに女も寄って来た。皆が、カンタベリーの特権階級、その子女であったり、令嬢であったり、当主の婦人であった。
貴方の剣を振るう姿に見惚れました。護国を成すその御姿に神を見ました。その男らしい雄姿に、夫がいる身でありながら……。
誰もが似たり寄ったりの前口上を続け、結局、最後にこう続けるのだ。お情けを下さいまし、私の身体を御自由に。と
そして、その全てを、素気無く断った。己が女に興味のない朴念仁、木強漢だと言うあらぬ噂を広められ、それが知れ渡って久しくなってからも、この手の手合いが後を絶たなかった。

「……俺も、それだけだったな」

 ――たった一つ。物語(運命)だけをお前は欠片も持っていない――

 己を葬った好敵手の言葉が、リフレインする。
ベルグシュラインは、全てを有していた男だった。金も地位も、女だとて自由に出来ただろう。
肉体的性質にしてもそうだ。神祖・グレンファルトより洗礼の栄誉を賜り、不死に等しい肉体を得た彼は、戦場に於いてはシンプルに、無類無敵。
この肉体に驕るでもなく、研ぎ澄まされ、極められた剣術は、敵手から見れば悪夢そのもの。次に自分の命が刈り取られる瞬間は何時なのかと怯えさせる、死神の峻別であり。味方からすれば、一息の間に敵軍を切り刻み勝利を約束する最高の英雄にしか見えないだろう。

 そして、ベルグシュラインの価値など、それでしかなかった。
師であるグレンファルトをして、お前が敵に回っていたら当に俺達の計画など失敗に終わっていたと言わせしめ、それを事実であると他の神祖すらも認めていた。
それだけの実力を持ちながら、ウィリアム・ベルグシュラインがその生涯でやった事と言えば、『言われた事をこなしただけ』に過ぎなかった。
神をも斬るだけの力を有する剣士は、己の生涯を振り返り、上司の言われた事をしていただけだった事に、この瞬間気付いた。


917 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:46:41 EG.M1YRA0
 思えば、遊んだ事もなかったな。
聖騎士団の中には、己の地位に物を言わせ、私腹を肥やす者も居れば、女を選り取り見取りする者もいる事は当然知っている。
俺は、俺の特権を利用して小金を稼ぐ事もなく、寄って来た婦女子も追い払っていた。それは主を裏切る行為だと思っていたし、俺自身が興味なかったからだ。
そんな事を続けて行って、生まれたのが、三十を過ぎて童貞で、私服も制服とその代えしかなく。真面目さと剣が取り柄の、面白みの欠片もない男だった。
プライベートの時間を鍛錬に費やし、残りの時間で知見を広める。時には外交に赴いてカンタベリーの威をしろ示し、時に外患内憂とも言うべき敵手を斬り殺し……。それだけが、俺の生涯だった事を思い出す、

 ただ、剣の腕前と実直さだけが高まって行った。 
浮いた噂が一つもなく、愛する者がいるでもなく、民を護るぞと言う意気込みも実はなく。主君の恩義に報いるぞ、と言う忠誠心しか、俺にはなかった。
無念の内に倒れたであろう、同じ仲間であったルーファス・ザンブレイブは、今際に何を叫び、何を思って砕け散ったのだろうか?
徹底して後方支援にしか向かない星辰光を授けられ、その事に鬱屈した思いを抱いていたシュウ・欅・アマツは、そもそも何故、己の力と向き合い迎合しなかったのか?
己の許嫁が、本当は前衛と後衛を変わって欲しいと思っていた事に気づかなかったリナ・キリガクレは結局、シュウの思いに気づき、どうやって折り合いをつけるつもりだったのか?
解らないが、彼らはきっと、彼らなりの業を抱え、それ故に嘆き、苦しみ抜き……。そして、答えを得たと、俺は思いたかった。
壮絶な死に様を見せつけたルーファスも、最期には、己の運命に気づいたのだろうと、俺は信じたかった。

「道化、以下か」

 自嘲気味に呟くベルグシュライン。
斬空真剣(ティルフィング)、それが生前の彼に勲(いさおし)同然に与えられた異名であった。
名前の由来は知っている。古の北欧に伝わる神話だ。オーディンの末裔である王が土の精霊であるドヴェルガー達に作らせたと言う、抜けば相手を必ず斬り殺す魔剣の事である。
そして、一度引き抜けば最後。持ち主に死の呪いを降りかからせ、その呪い通りに破滅させるのである。だからこそ、『魔剣』なのである。

 笑わせる、とベルグシュラインは思った。
ティルフィングが何故恐れられつつも、その魔名を知った者を魅了するのか? 理由は一つだ。その切れ味と引き換えに、持ち主を破滅させる、その魔性の性質の為だ。
恐ろしい武器だ。だが……振るってみたい、見てみたい。神域に踏み込んだ性能であるのに、危うい側面がある。そう言った所に、人は魅了されてしまう。だから呪われた武器なのだ。
翻って、己は何だ。ティルフィングなどと烏滸がましい。主を破滅させたでもなく、況して、ベルグシュラインの非道を全て知ったいたにも関わらず、それに反抗したでもない。
斬れと言われたから斬って来て、断てと言われたから断っただけ。彼のやった事は、その範疇に全てが収まる。世間では、その在り様をこう呼ぶのだ。『指示待ち』、と。

 ティルフィングの名を冠しながら、主の意思を忠実に遂行する。
自由に生きた訳ではない。悪逆非道に生きた訳でもない。君主に反発し我を通した事も一度もない。
主、グレンファルトの佩刀として、斬って、断って、割った、割いて、貫き、穿ち、屠っただけだ。名前負けも、良い所。
主に使われるだけの道具でしかない。これでは市井の人妻が料理に使っているであろう、包丁と大差がないではないか。

 ベルグシュラインが言ったように、道化ですらない。何故なら彼は、己の過去の愚かなふるまいが、巡り巡って今の自分の首を締めて、破滅したわけじゃない。
グレンファルトの忠義と、義務の故にラグナ・ニーズホッグに挑みかかり、単純に相手の方が強かった、と言う当然の理屈で敗れ去った。それだけの事。
ピエロにすら、ベルグシュラインはなれなかった。何処まで行っても、お行儀のよい、真面目な男。運命と出会える機会などそれこそ無数に恵まれていたのに、その全てを蹴った男。それが、ウィリアム・ベルグシュラインなのである。


918 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:46:55 EG.M1YRA0
「君が……運命とやらに気づいた時。それを俺に教えてくれ」

「アーチャーに?」

「気付きとして、覚えておきたい」

 そして、運命とやらを知らないから、知ってみたいから。
凡そ戦った事など、喧嘩だって経験がないであろう女性に、それを乞うて見る。己を俯瞰して見て、何とも滑稽なザマだと、ベルグシュラインはまたも自嘲する。

「うーん……私も、どうすれば良いのか、良くわからないけど……」

 スッと、美琴は手を伸ばし、ベルグシュラインに語り掛けた。

「踊ってみたら?」

「踊り……?」

「私、それしか、気の紛らわし方、知らないしさ」

 少し恥ずかしそうに、美琴が言った。
そして、ベルグシュラインは思い出した。金剛騎士団の団長ともなれば、社交界から、ダンスパーティーにも誘われた事を。そして、その全てを断っていた事を。

 ――踊った事など、欠片もない事を。

「……そうだな。やった事がない事を、やってみるか」

 二度目の生だ。主も居ないこの世界で、羽目を外してみるのも、悪くはないか。飽きる程に、この聖杯戦争の最中で、『踊る』事になるであろうから。
それに、遅すぎた反抗期でもないが、嘗ての主達が呼ばれていれば、斬ってみるのも良いかも知れない。道化とやらも、演じてみたい。

 ベルグシュラインは、美琴の手を取って、「如何すればいい」と尋ねた。「先ずは……」、と彼女が続ける。
これを運命、と呼ぶにはいささかオーバーだが、縁と思い、丁重に扱おうと、ベルグシュラインは思った。
彼女もまた、物語(うんめい)を持たぬ者なのだ。仲違いする理由など、果たして、何処にもないのだから。


.


919 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:47:08 EG.M1YRA0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆












   「カミサマくらい有名になるまでは、幸せになんてなれないわ」

                  ――マドンナ。郷里のミシガンを飛び出し、ニューヨークのタイムズスクエアに向かった際、そう誓ったと言う











.


920 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:47:24 EG.M1YRA0
【クラス】

アーチャー

【真名】

ウィリアム・ベルグシュライン@シルヴァリオ ラグナロク

【ステータス】

筋力D 耐久A+ 敏捷A++ 魔力C 幸運A 宝具D

【属性】

中立・中庸

【クラススキル】

対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。

【保有スキル】

使徒(神祖):A+
神祖、と呼ばれる極めて特殊かつ超常的な生体の生命体から、洗礼と呼ばれる特殊な加護を受けたサーヴァントが獲得出来るスキル。
翠星晶鋼と呼ばれる特殊な鉱石を精製して心臓に打ち込む、と言う事が条件であり、この人体改造を受けた存在は、授けられた力のみならず主君の備える性質も継承する。
その性質とは、即ち後天的な不死能力であると言う事であり、アーチャーの耐久ステータスは、このスキルに起因する。
同ランクの再生、頑健を兼ねた複合スキルであり、耐久についてどちらかと言えば特化しているスキルである。
腕を切断しても再生する、首を刎ねても元通りになる、文字通り欠片も残さず消滅させたとて、数秒の内に再生するなどは序の口。
通常の攻撃手段では一切殺害不能の、使徒どころか魔人とも言うべき連中。サーヴァント化に際して、霊核を完全に破壊すれば当然サーヴァントの常として、
消滅が確約してしまうが、下手な損傷ではその傷ついた霊核すら再生してしまうので、恐るべき耐久力については何も変わりない。

本来彼ら使徒とは、神祖と呼ばれる超常存在との、見えない紐のようなリンクがあって初めて脅威の不死性が成立する。
その為に、そのリンクを断ち切る手段があれば不死性は成立しなくなり、この時に初めて抹殺が可能になる、と言う弱点が存在していた。
但しサーヴァント化に際し、彼らの不死性と神祖の洗礼とが別の形でフィーチャーされてしまい、具体的には彼らの不死性に神祖が絡まなくなった。
よって、洗礼を施した神祖がアーチャーの不死性を奪おうと、使徒スキルの解除に打って出ても、それが出来なくなってしまっている。
これだけならば弱点も何もない無敵のスキルであるが、この不死性と言う特徴により、生前以上に『不死殺し』、『不死特攻』の攻撃や宝具の影響を受けるようになってしまい、これらの宝具と抜群に相性が悪い。

一切斬滅:A++
新西暦始まって以来、至高かつ最強の剣士。千年もの時を経る神祖を以てして、比喩を抜きに、千年に一度生まれるかの逸材と言わせしめるアーチャーの、比類なき剣術の才。
凡そ剣士のサーヴァントが有するであろう様々な戦闘向けスキルを含有する複合スキル。
同ランクの無窮の武錬、心眼(真)、宗和の心得、見切り等、他の剣士系サーヴァントであればセールスポイントとなるべきスキルがこれでもかと詰め込まれた欲張りセット。
また、相手が同じように、特殊な剣術を用いるサーヴァントであるのなら、それが己の身体で再現できる可能性があるのなら、これを完コピ出来る。
剣術だけなら兎も角、理論の上では再現が出来る可能性がある、と言うような、剣とは全く関係ないスキルであっても、これを再現出来得る。
あくまでも、現在のアーチャーの腕前でのみ再現可能性があるのなら、そう言った事が出来るのであって、光のトンチキ一族みたいに、素のステータスから常時能力が上昇し続ける、と言う類のスキルではない。

透化:A
精神面への干渉を無効化する精神防御。
暗殺者ではないので、アサシン能力「気配遮断」を使えないが、武芸者の無想の域としての気配遮断を行うことができる。

運命認定:EX
好敵手に対する情念。
アーチャーは戦う相手が自分と伯仲する程の強敵であった場合、それを好敵手(うんめい)と認めるようになり、自分の技術で出来る範囲内で、可能な剣術の幅が更に広がって行く。
いわば、己の剣術に対するボーナスのような物であるが、この相手との戦闘が中断され、相手が撤退した場合、その相手が何処にいるのかについての直感が働くようになる。
これは魔術だとか異能だとかではなく、アーチャーの勘のような物であり、相手がどんな魔術的・呪術的・概念的な防護を施して、居場所を隠匿したとしても、アーチャーは何となくその位置を掴めるようになる。

とまぁ格好よく説明したけど、要するに勝手に相手を運命認定して、何か相手の居場所がストーカー宜しく解るようになると言うスキルである。
別にサーヴァントになってこういう性格になった訳ではなく、某神殺し氏曰く生前からこんな感じ。勝手に感動して勝手に運命認定する様はさながら当たり屋。
人の世界ではこういう人を出会い厨と言います。


921 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:48:09 EG.M1YRA0
【宝具】

『抜刀・天羽々斬空真剣(Orotinoaramasa Tyrfing)』
ランク:D 種別:対人・対軍・対城宝具 レンジ:直線状であるのならば無限長 最大補足:斬撃の届く範囲に何人いるかによる
斬閃延長能力。剣戟に籠められたエネルギーを刃先から伸ばし、射程距離の長い斬撃を繰り出す異能。万物断ち切る斬空真剣。アーチャーが保有する星辰光(アステリズム)。
この能力自体は強いそれではなく、それどころか、弱い能力ですらある。アーチャーの生きていた世界で考えるのならば、これよりも強く、汎用性にも優れ、威力に優れた物が大勢あった。
本人がアダマンタイトの長刀を引き抜き、その後に攻撃の動作を行う事が発動の条件であり、つまるところ、『アーチャーが攻撃動作を行わない限り発動不可能』。
加えて威力が上がる類の能力でもなく、ただ斬撃のレンジを伸ばすだけ。攻撃範囲が劇的に上がるだけに過ぎない。
そして止めに、本人のコンディションに著しく左右される類の宝具であり、セイバーの動きが鈍り、ダメージを負っていればそれだけ技の冴えも鋭さも鈍り、両腕を切り飛ばされればその時点で宝具の発動が不能になるなど、発動の条件や制約を加味すれば弱い方にすらラベリングされてしまう宝具である。

 ただそれだけの宝具であるが、使い手がアーチャー、即ちウィリアム・ベルグシュラインと言うこの一点が、この宝具の脅威を加速させている。
斬撃のレンジを伸ばすだけと言ったが、それは、使い手の放つ剣撃の威力や切れ味をそのままにして無限大に伸びると言う事と同義である。
人体を容易く両断するのは勿論、建造物すら野菜か何かのように切断する斬線が、音を容易く凌駕する速度で矢継ぎ早に、冠絶級の技量を交えて飛んで来るのであるから、
まともなサーヴァントでは先ず対象は不能。加えてアーチャー本人には一切武士道や騎士道精神はない為、相手を倒すと決め、それが最も効率的だと判断したのなら、
相手から距離を取りながら斬線を射出しまくる、と言う余りにも余りにもな戦法を容赦なく取って来る。
弱点である腕の機能を奪えば、と言うのも、アーチャー自身が果てしなく剣の腕に優れている為、生中な実力では疲労は勿論、そもそも接近する事も、術中に収める事すら出来ない。
そして当該宝具の最大のメリットは、斬撃を飛ばす『だけ』と言う単純性からくる、魔力の燃費の低さであり、具体的には殆どないものとすら言って良い。

【weapon】

長刀:
アーチャーが用いる、彼の身の丈以上の刃渡りの刀。
常人であればその長さのゆえに満足に振るう事も、そもそも保持すら出来ない程の重さである筈だが、これをアーチャーは何だか良くわからないけど気持ち悪い技術で振るってくる。
他の星辰奏者のように、この刀自体が能力の発動を保証する媒体であるアダマンタイトで出来ており、これを砕かれたり破壊されれば能力の発動は不能。
……だったのは生前での話であり、アーチャーの星辰光は宝具として登録されている為この刀に限定しなくても宝具は発動可能であるし、そもそも破壊されれば発動不能、と言う弱点も承知である為、滅多な事では壊させてくれない。

【人物背景】

かつて斬空真剣(ティルフィング)と呼ばれた、無敵の剣士。それしか、価値のなかった男
 
【サーヴァントとしての願い】

運命とは何か


922 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:48:23 EG.M1YRA0



【マスター】

緋田美琴@アイドルマスターシャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】

個人としては、皆を感動させられるアイドルで在りたい。聖杯自体に叶える願いは、無い

【能力・技能】

アイドル:
アイドルとしての才覚。ダンスと歌の技術は、積んだキャリアの分もあって一人前。明白にプロレベルに達してる。
ただ、技術だけであり、アイドルとして応援したくなるような、不思議と惹きつけるような。そんなカリスマ性については、からっきし。

【人物背景】

誰しもがその技術を上手だと認める、アイドル。それしか、価値がないと思われている女。

イベント、ノー・カラット以降から参戦

【対人関係】

美琴→ベルグシュライン:
サーヴァント。寡黙だけど、頼りにしている。あの後踊りを見てみたけど普通に上手くなかった

ベルグシュライン→美琴:
マスター。運命も何もない男には、やはりそう言う人物が当てられるのかと、皮肉なめぐりあわせには苦笑い。あの後踊ってみたがクッソ固い動きを披露した

ベルグシュライン→グレンファルト:
嘗ての主。今も尊敬してるし感謝してるけど、女を守る為に主君に反旗を翻す剣士ってのをやってみたいから出会ったら斬ってみたい

グレンファルト→ベルグシュライン:
お前自由過ぎないか?

ベルグシュライン→神祖(その他):
嘗ての上司だった者達。凄い人物達だと思っていたが、同時に、能力などを目の当たりにして、それでも、勝てると踏んでいる。出会ってみたら斬ってみたい

ベルグシュライン→神殺し氏:
自分に引導を渡した者。その生涯で唯一、敗北して悔しいと思った人物。出会えば斬りたい

神殺し氏→ベルグシュライン:
運命って女を守るからって言って降って湧いてくるもんじゃないんだけどな……

ベルグシュライン→ジェイス:
嘗て戦い鎬を削った者。明白な敗北を喫したが、クッソ無粋な方法で復活してまた再戦をリクエストしたのは、流石にアレだったと思ってる。出会えば斬りたい

ジェイス→ベルグシュライン:
お前多分帝国に産まれてた方が幸せだったんじゃねぇかな……


923 : Like A Virgin ◆zzpohGTsas :2022/08/19(金) 19:48:34 EG.M1YRA0
投下を終了します


924 : 蹂躙の獣が望みし未来 ◆EPyDv9DKJs :2022/08/20(土) 21:54:51 TWAyv.6U0
投下します


925 : 蹂躙の獣が望みし未来 ◆EPyDv9DKJs :2022/08/20(土) 21:55:41 TWAyv.6U0
 財力も権力も彼の家にはあった。
 欲しいものを手に入れることはさほど難しくなく、
 父親も人を虐げることが常識的な物と考えていたため、
 頼めば案外どうとでもなるような生活環境に身を置いていた。
 その為の努力もできる。だから彼はどのような未来でもあっただろう。
 でも。彼のなりたいものは金や権力だけでもどうにもならない。
 彼がなりたいのは職業だとか立場だとか、そういうものではないから。
 ただ一つ、彼が望むのは───





「この偽の東京って、理不尽だと思わないかい?」

 ビルが雑多に並ぶこの異界となる東京の街並み。
 高層ビルもさほど珍しくなく、此処もそのうちの一つとなる場所。
 質の良いソファやテーブルと言った調度品が多数配置されており、
 『いかにも金持ちの部屋です』と示す程度に裕福な暮らしをしてることが伺える。
 曇天の空から雪が降り、段々と白く東京を染め上げる街並みを一室から見下ろす、
 クリーム色の髪の青年が呟く。

 雑多な人込みとかの音は遥か下にある為、
 この場は何気ない呟きも十分に響く程の静けさがある。
 足音一つすらコンサートホールのような響きを奏でるだろう。

「と、言いますと?」

 青年の背後で一人の女性が、紅茶を淹れながらその言葉に対して返事をする。
 白いドレスと鎧に身を包む彼女は、戦乙女や女神と呼べそうな姿だ。
 彼女の髪と近しい、鮮やかな緋色の紅茶を前に湯気と共に立つ香りを軽く愉しむ。
 サーヴァントには必要のない食事ではあるが、嗜好品に理解がないわけではない。
 時としてこういう人の好みを理解することも必要に迫られることももしかしたらあると。
 彼女の場合、その必要に迫られるパターンが斜め上であるが、そこは割愛とさせていただく。

「理由も、信念も、自由も、権限も、
 人にとって今以上に大事なものは必ず存在する。
 勿論俺みたいにこの聖杯戦争が楽しい、って人もいるだろうけどね。
 でも多くの人は一般的な倫理を以って殺し合いを是としてないはずだよ。
 それなのにこんなところに招かれる……こういうの、理不尽と思わないかい?」

 振り返って向かいのソファへと座り込む。
 ティーカップはちゃんと二つ出されており、
 まだ何も注がれてない方にも女性がついでで注いでくれる。
 此処に望んで来る参加者は、普通はいないだろう。
 彼もまた此処には突発的で来てしまっているので、
 他の参加者も大体が突発的に、いつの間にか来てしまったはずだ。
 聖杯とは誰よりも身勝手で、誰よりも自由で、誰よりも理不尽であると。

「場合によっては、大事な用事があったりしたのに、
 無理矢理此処へきて置いてきちゃったパターンもあるだろうし。
 俺は運よく自分の目標を達成した瞬間だったから気にしてないけど。」

「確かにそうですね。私のように戦いを肯定するサーヴァントが普通でしょうから。」

 サーヴァントと言うのは殆どが戦いに身を投じてきた英霊が占める。
 当時の価値観も合わせ、現代を生きる人間よりも倫理や道徳から離れているだろう。
 場合によっては精神汚染、狂化と言った意思疎通が困難になるスキルを持つ場合もある。
 サーヴァントに振り回され、したくもない命のやり取りをする渦中に巻き込まれていく。
 何気ない日常は問答無用で終わりを告げられ、誰であっても血で血を洗う戦に身を投じる。
 ある意味では、彼の言う理不尽と言う言葉にも頷けるだろう。

「ストレートティーでいいのかい?」

「起き抜けの糖分補給は思考力の低下に繋がりますので。
 と言っても、サーヴァントにそのような思考は無意味でしょうけど。」

「ランサーが言うなら、後を考えて俺もストレートで行こうかな。」


926 : 蹂躙の獣が望みし未来 ◆EPyDv9DKJs :2022/08/20(土) 21:57:02 TWAyv.6U0
 戦いを知る英霊の言葉なら信用に値する知識だ。
 常在戦場なんていうのは柄ではないが、何があるかは分からない。
 死の寸前、と言うより死ぬつもりでいた彼にとって此処は実質セカンドライフ。
 思考力が低下していたから死んだ、なんてお粗末な死に様は流石にごめんだと、
 彼もまた角砂糖の小瓶の蓋を開けることなく、紅茶を一瞥してから一口呷る。
 砂糖を入れてない為純粋な紅茶の苦みだけが口内に広がっていく。
 味としては物足りない所はあるが、目覚めの一杯としてはいいものだと感心する。

「ランサー。俺はなりたいものがあるんだ。」

「確かにマスターの年頃であれば、
 既にそういう将来設計は決まっているものですよね。」

「いやいや違うんだ。人生設計は確かに考えてはいるけど、
 俺がなりたいものって言うのはランサーの思う職業とは違うのさ。」

「職業では、何になりたいのですか?」

「──俺は『理不尽』になりたいのさ。」

 キョトンとした表情でランサーは首を傾げる。
 端麗な姿だけあって、その姿も可愛らしく見えてしまう。
 確かにそれは職業ではない。しかしそれは概念と言ったものだ。

「おかしなことを言うんですね。支配者や神と言った、
 人の上に立って行う理不尽ではなく、理不尽そのものになりたいと?」

 人生設計ではないと言ったのならば、
 人の上に立つ立場とかでは成せないもの。
 と言う程度には彼女も理解して会話を続ける。

「ハハハ、支配者って言うのは間違いじゃないかもしれない。
 言うなれば『掌の上で踊って欲しい』って言えば確かにそうだからね。」

 父はその力で人を虐げるのが病的なまでに好きで、
 当然幼い頃からそれを見た彼もまた、それが日常と認識するように育った。
 だから別に人を殺すにしても、人を支配するにしても特に道徳と言った抵抗はない。
 でもある日。父に連れられ、金持ちの見世物として人が殺し合いをするゲームを観戦した。
 いきなり拉致され、見世物として命懸けのゲームに挑まされる、その理不尽な光景。
 そこに彼の根源があり、彼は自分の欲求を満たす方法を見出しそれを成し遂げた。

「満たしきれなかったんだ。ああして外を見下ろしてるだけじゃ何も。
 映像越しにいくら人が死んだところで、人が理不尽に晒されても何も。
 高みの見物では理不尽に晒された人を愉しむはできても理不尽は与えられないのさ。
 違う、俺はもっと身近でいたいのさ。『俺の存在が理不尽でないといけないんだ』って。」

 彼が言いたいことは端から見れば狂気だろう。
 目指しているものは最早概念と言ったものとの同化。
 更にその概念の示すは他者を陥れ、謀り、貶めると言ったもの。
 そんなものになって一体何の意味があるのか常人では理解しかねる。
 と言うより、ランサーも正直なところ明確な理解はできていない。
 彼女も似たような性を背負いながら獣としての役割を担ってはいる。
 それはある意味同化と受け取れるが、彼の場合はただの人間なのだ。
 心臓が潰れれば死ぬし、出血多量でも死に、呼吸なくしては生きられない。
 人間以上の種族でもないし、魔法とかもない、ありふれた人間でしかなかった。

 ただ、ありふれた人間としては程遠いその狂気だけは別だ。
 生きた人間が精神汚染のようなものにかかってるに近しいだろうか。
 自分が理不尽になる為であれば、この男は自分の命も自ら捨てられる。
 行動を示さずとも英霊として召し上げられたランサーならば問答は不要だ。
 やるのだろう。自分の悦楽の為であれば、簡単に捨てられてしまうのだと。

「所謂『自分の手である必要』があると?」

「そうなるかな。ランサーにはそういうのは無縁かい?」

「いいえ。私もどうしても蹂躙したい相手がいました。
 その相手を蹂躙するのは私の役割。他の相手には譲りたくはないので。」

 ティーカップを置きつつ、想起するは二人の人物。
 嘗て共にあった守護の女神と、世界を揺るがす特異点となった存在。
 お互いにどんな困難を前にしてもその困難を仲間と共に乗り越えんとする。
 その心はとても綺麗で素敵で、だからこそ蹂躙のし甲斐があると言う物だ。
 まるで外の雪景色だ。白いキャンバスを、どんな色で染めてしまおうかと。
 相手が弱者でも強者でも関係ない。彼女はその性を受け入れてそれを愉しむ星の獣。

「しかし理不尽ですか……私との相性は悪いのでは?」


927 : 蹂躙の獣が望みし未来 ◆EPyDv9DKJs :2022/08/20(土) 21:57:44 TWAyv.6U0
 ただ、それはそれとして少しばかり気落ちするランサー。
 彼の考え方を察するに、正面戦闘では面白みがないのだろう。
 どちらかと言えば暗躍するアサシンやキャスターの方がよほどに合うし、
 ランサー自身は元々正面戦闘から理不尽を吹っ掛けられるようなタイプだ。
 単なる理不尽を与えるだけの自分ではマスターは満足できないのは少々悩ましい。
 仮にも主君。今後も付き合うのであれば、なるべく良好な関係を築いていきたい。

「強者が嘆き、弱者が命乞いをする。
 そういった方面での悦楽は慣れてますが、
 そういう形もあると。私には経験はありませんでした。
 ですが、私にはその要望に応えられる能力はないことは歯がゆいですね。」

「ああいや、俺は別にランサーを召喚したことを悔いてるわけじゃない。
 あくまで理想だよ。君は愛し合う者同士が仕方なく殺し合う、なんて展開は好きかい?」

「どちらかの命を捧げなければ両者の命は無惨に散らされる、
 確かに、とても魅力的ですね。片方が命惜しさに差し出す場合も特に。
 ですが……片方の命の為に無抵抗で死ぬ、と言うのは少し興が殺がれますね。」

「ほら、そういうところ。君が秩序を重んじず、
 己のやりたいようにするその混沌。そこだけでもとても助かるよ。」

 自分が狂っていることは理解している。
 誰に受け入れてもらいたいわけでも否定されたいわけでもない。
 ただ、それはそれとしてサーヴァントとの軋轢は気にしていた方だ。
 この考えは当然だが、秩序を重んじる存在からはとても受け入れられない。

「確かに、相性が決して良いとは言い切れませんが、
 かといって互いに否定的ではない……それはいいのかもしれませんね。」

 ただ殺すだけでは意味がない。ただ勝つだけでは意味がない。
 彼らが欲しいのはそこまでの過程。結果だけでは満足できなかった。
 何より、そこを自ら手を加えて初めて完成するのだから。
 アウトローな英霊であろうともかみ合わせなど難しく、
 事実どちらも、お互いの考えに完全な理解ができていのがその証左。
 
「それに、マスターの言う理不尽も少しばかり興味があります。
 命乞いをする人の嘆きとかでは、マンネリの可能性もありましたから。」

「ハハハ、そう言ってくれると嬉しいね……さて、
 程よく温まったことだし朝ご飯でも作ろうかな。」

 紅茶を飲み干した青年は席を立つ。
 元から金持ちではあるものの、命懸けのサバイバルゲームに挑む際に鍛えた。
 何があるか分からないので、銃の使い方と言った部分以外も色々と。
 まさか、こんな形でその知識が利用できるとは思いもしなかったが。

「でしたら私も手伝いましょう。これでも栄養バランスへの理解もあるので。」

 ランサーも席を立ち、彼の後へとついていく。
 ありふれた日常を過ごす男女だが、
 彼らが求めるは理不尽/蹂躙と、まさに災禍の如き化身に思える。
 ただ彼らは聖杯に望むものなど何もなかった。否、既に叶っているのだ。
 弱者も強者も、男も女も、若者も老人も、人も英霊も関係なし。
 等しく理不尽に晒す/蹂躙することが可能なこの世界こそふたりの理想郷。
 故に万能の願望器など興味なし。此処にあるのは、ただの災禍な存在のみ。


【クラス】
ランサー

【真名】
エニュオ@グランブルーファンタジー

【属性】
混沌・善・天

【ステータス】
筋力:B 耐久:C+ 敏捷:B 魔力:A 幸運:D 宝具:B

【クラススキル】
対魔力:C
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
サーヴァント自身の意思で弱め、有益な魔術を受けることも可能。

【保有スキル】

星晶獣:B
空における太古の時代、星の民が空の民との戦争、覇空戦争に用いた生物兵器。
星晶獣は司った権能により役割が変わるが、エニュオの場合は『破壊』と『蹂躙』の二種類。
時に神のように崇められるなどこともあるが、エニュオは戦争終了後は一度人間社会に溶け込み、
神聖視された経験もなかったため、基本的には彼女自身が司る権能に関する部分のみになる。
戦争の為の設計され、事実それぐらいの活躍をしたことがあって対軍宝具に対して強い耐性も持つ。
人間社会に溶け込んだのと、更に彼女が得たい悦楽の為にずっとその性を隠し続けたのもあって
不貞隠しの兜と似たステータスの秘匿と言った恩恵もあるが、当人が隠す気があるかどうかで言えば、
なんとも言えないところなのが玉に瑕。バレるときは計算されたものかもしれない。
星晶『獣』であるため獣の特攻対象にされる。ただ神性特攻には強い。
複製体が創られる程度に有用性があるため、ランクは高くある。


928 : 蹂躙の獣が望みし未来 ◆EPyDv9DKJs :2022/08/20(土) 21:58:00 TWAyv.6U0
嗜虐体質:A-
戦闘において、自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。
本来は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し普段の冷静さを失うデメリットを持つが、
彼女の場合は逃走率が下がってしまうこと以外は特別なデメリットを所持していない。
ただ彼女の悦楽の為に、あえてこのスキルを我慢しようとすることもあるためマイナスがつく。
最高の悦楽の為であれば、彼女は対象に手料理で健康維持を目論むことも辞さない程の異常者だ。

エイジャックス:B+
所謂魔力放出の類。彼女の場合は司る力から風属性になる。
相手の体力を奪えるなど通常の魔力放出とは異なるが、
代わりに消費量は通常の魔力消費よりも高い。

【宝具】
『おいでなさい、蹂躙の獣(キュドイモス)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:不明
破壊と蹂躙の星晶獣としての権能、
彼女がそれらを司った力。キュドイモスと呼ばれる白亜の獣を召喚する。
一個体は使い魔以上サーヴァントの宝具以下と言った程度で大したことはない。
但し同時に出せる数とコストは別。低コストかつランサーの魔力がある限り無尽蔵に召喚でき、
所謂数の暴力を利用していく。ただしエニュオが攻撃中に召喚することはできない。
此方も獣特攻対象。個体に意志はないため精神系の攻撃は受け付けない。

『慈悲なき戦女神の蹂躙(ルースレス・タイラント)』
ランク:D 種別:対城宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:3
ランサーの持つ槍から放たれる、身も蓋もなく言えばビーム。
使用すると敏捷が上昇し、元より攻撃性のある彼女の攻撃性がさらに増す。
スキルの嗜虐体質も合わせると、ステータス以上の攻撃能力を誇ることになる。
宝具ではあるがコスト自体はかなり軽いのと恩恵から、連発を前提とするもの。

【weaponn】
インサイテッドランス
所謂馬上槍のような大きめの槍。
蹂躙された敗者の慟哭が、その槍に秘められた真の力を呼び醒ます。
嘆きや怨嗟は嗜虐心を昂らせる糧となり、無慈悲な結末を招く。

【人物背景】
星の民が作り出した生物兵器であり、破壊と蹂躙の星の獣。
嘗てはその役割の性を理解できず、寧ろ笑顔や感謝の表情に喜びを見出した。
だが彼女は後に性を受け入れたことで、破壊と蹂躙を悦楽とする獣となる。
『零れた水は戻らない』らしいが、今の彼女は破壊の側面が強い方で召喚された。
彼女の過去がどうであったとしても、このランサーには最早関係のない。

【方針】
破壊と蹂躙。最高の悦楽を愉しみましょう。
その為であれば共闘、自制もやぶさかではありません。

【聖杯にかける願い】
アテナとの再戦と言った望みはあれど、
今以上の至福のひと時の方が大事。





【マスター】
崎村貴真@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage

【能力・技能】
・サバイバル能力
 ある程度の銃器の扱いを除けば、
 山林地帯を歩き回れる体力作りをしてるぐらい。
 別にそれらの才能が超人的でも何でもない。

【weaponn】
なし。
もしあるとするならば、
その狂気じみた信念とそのための努力だけ。

【ロール】
黒い噂もある資産家の一人息子。
金銭に関してはさして困ることはない。

【人物背景】
この男はただなりたいだけだ。自分が『理不尽』である為に。
誰かを理不尽の渦中に陥れ表情を見るためなら、最悪の場合命さえも捨てられる。
そして彼はその命を捨てる寸前に、二人の男女に理不尽を与えた後に此処に来た。

【聖杯にかける願い】
特に考えてない。聖杯を破壊することで理不尽を達成する道すら考える。
或いは今後も聖杯戦争と言う理不尽と同化するのもいいかもしれない聖杯大迷惑野郎。

【方針】
聖杯を勝ち抜かないでいる相手と組むのも手だし、
逆に勝ち抜く前提の相手と組む(できればアサシン、キャスター)のもありかな。


929 : ◆EPyDv9DKJs :2022/08/20(土) 21:58:27 TWAyv.6U0
投下終了です


930 : Night Walker ◆/dxfYHmcSQ :2022/08/20(土) 22:42:58 Pn4fKQg.0
投下します


931 : Night Walker ◆/dxfYHmcSQ :2022/08/20(土) 22:44:03 Pn4fKQg.0
暗い。昏い夜だった。
 月も星も分厚い雲に覆い隠され、狂風が吹き荒ぶ夜だった。
 ただでさえ氷点下に到達した気温は、風の為に体感温度を更に下げてくる。 
 こんな夜に外を歩く者は、よほどの急用があるか、飛び抜けた豪胆さを持つものかの何方かだろう
 現に、建ち並ぶ家々は、門も扉も窓も雨戸も固く閉ざして、外と内とを完全に分け隔てていた。
 その様は、忌むべきものが、家の中へと入り込むことを阻止しようとする、虚しい努力を思わせた。
 
 「此処か…………?」

 街灯の灯り以外には光の無い住宅街の一角。
 雑草のい生茂る広い敷地と、その周囲を取り囲む、薄汚れた高い塀を持つ、4階建ての広壮な屋敷の門前に、8人の男女の姿があった。
 彼等は聖杯戦争を勝ち抜く。その為だけに手を組んだ四人のマスターと四騎のサーヴァントである。
 全員が全員、魔術師では無く、鉄火場の経験も無し。聖杯が手に入れば欲に目が眩む事だろうが、進んで聖杯を望んでいると言う訳では無い。引き当てたサーヴァントは当たりと言って良いが、キャスターを引き当てたマスター以外は、サーヴァントを運用する魔力の確保と維持に汲汲としている有様。
 必然。手を組もうということになる。キャスターが霊脈から確保した魔力を他の三騎に分け与え、三騎は直接の戦闘能力に乏しいキャスターの前衛となって戦う。
 マスターもサーヴァントも、互いの負担とリスクを減らせるこの同盟は、組まないという選択肢が最初から存在しない程に魅力的ではあった。
 更に言えば、聖杯戦争を勝ち抜く途上で、互いの戦い方、得手不得手や戦う上での癖、得意とする、或いは好む戦い方や、逆に、苦手とする、或いは好まない戦い方。更には切り札、秘奥である宝具。
 それらを知り得る事で、やがて来る決着の時に戦局を自身に有利に導く。そう言う意図も存在していた。
 いずれは戦う時が来る。サーヴァントもマスターも、殺し合うその時を規定の未来とした上で組んだ同盟は、今日までに三騎のサーヴァントを首尾良く脱落せしめたことからも、確かに功を奏したと言える。
 
 ───────────────────


932 : Night Walker ◆/dxfYHmcSQ :2022/08/20(土) 22:44:38 Pn4fKQg.0
 「間違いない。噂になっているのは、この屋敷だ」

 それは、他愛の無い噂話だった。
 人が住まなくなって久しい洋館に、『出る』というかものだ。
 無論。ただの噂だ。
ある少年は、金髪の幼女が家まで尾いてくると言い。
 ある主婦は、白いワンピースの女に地獄へと連れ去られると語り。
 ある青年は、かつてこの屋敷の住人を皆殺しにして己も自殺した、屋敷の主人の怨霊が、邸内を彷徨っていると囁いた。
 そんな噂であり、そんな噂を持つ屋敷だ。
 10人知る者がいれば、10人が違うことを語る。
 所詮はただの噂話。実物は単なる廃屋に過ぎない。

────その筈だった。

 この廃屋が、真正の『曰く付き物件』として認識され出したのは3日前。肝試しに入り込んだ大学生の男女5人が、全員そのまま帰って来なかった時からだ。
 警察が屋敷の内部を捜索したが、人が侵入した痕迹すら見つからなかった。
 
 「間違い無い。サーヴァントの気配だ」

 固く閉ざされた門扉の前。周囲に鋭い眼差しを配りながら、西洋風の甲冑に身を包んだ壮年の男───ライダーが言う。

「中にいるのは一騎。陣地が構築されている様子は無い。一気に決められる」

 ゆったりとしたロープに身を包んだ男───キャスターが語る。

 「気味が悪ぃな。こんな所、サーヴァントは兎も角、マスターが持たんだろう」

 軽鎧を身につけて、自身の身長よりも長い槍を肩に担いだ女────ランサーの言葉に、全員が不気味そうに屋敷を見た。

 荒れ果てている。という表現以外に用いようが無い。それ程までに荒涼とした屋敷ではあるが、それだけではマスターはまだ兎も角、サーヴァントの心胆を寒からしめることは出来ない。
 屋敷の敷地内に立ち込める凄まじい妖気。神代の魔物でも巣食っているのかと、四騎のサーヴァントが揃ってそんな事を思ってしまった程に、屋敷から感じる妖気は濃密で、悍ましかった。外に居てこれならば、内部はどれ程の惨状を呈しているのか。一つ、息を吸っただけで、肺腑が爛れ果て、腐った血を吐いて死ぬ。そう、言われても、此処にいる誰もが信じただろう。
 凡そ、人が居住できる環境では無い。そもそもが居住以前に、人が────生物が居られる環境では無い。現に庭を仔細に観察した四騎は、庭に生物の気配が一切存在しない事に気付き、戦慄していた。こんな環境下にある屋敷に潜むマスター。サーヴァント共々、『怪物』と呼ぶに相応しいシロモノである事だろう。

 『遠見』の魔術で屋敷内を走査したローブの男───キャスターが、陰鬱な表情で言った。

 「4階に棺が一つ。地下室に人間が五人。地下室の五人は生きていない。死人だ。ついでに言うと屋敷の中に存在するのはこれだけだ。ネズミ一匹、ゴキブリ一匹居ない」

 「棺が…って事は、そういう事かよ……」

 己がサーヴァントの言葉の意味を正しく解釈した、キャスターのマスターが、心底嫌そうに言った。 
 魔術師では無い、ただの一般人だが、キャスターの言葉の意味を解することは簡単だった。
 吸血鬼、死徒。夜の一族。そう、呼ばれる者達が、この屋敷の中に巣食っているのだ。
 生者の気配がない。つまりこの屋敷に巣食うサーヴァントを召喚したマスターは…。
 マスターの運命を想起して、全員が息を呑んだ。

 「マスター達は此処で待っていて貰おう。中に居る死徒がマスターであったのならば、サーヴァントと死徒を同時に相手取ることになる。万が一が無いとは言い切れん」

 今まで無言だった最後の一人。壮麗な全身甲冑に身を固めた女───セイバーが言い。
 ランサーをマスター達の護衛に残して、三騎のサーヴァントは、霊体化して屋敷に侵入した。


 三騎が屋敷に侵入したのを見送ったランサーは、何の気なしに空を見上げ、屋敷へ向かって空を飛んで来る人影を見た。
 

───────────────────


933 : Night Walker ◆/dxfYHmcSQ :2022/08/20(土) 22:45:06 Pn4fKQg.0
 「これは…」

 全ての壁が破壊され、一つの広い部屋と化した四階の空間に置かれた棺。晴れていれば、明かり取りの窓から差し込む月光に照らし出される位置に安置されたその棺を前に、三騎のサーヴァントは戦慄していた。
 屋敷の中の空気を、それこそバクテリアでさえも死滅したとしか思えない程に汚染し抜き、サーヴァントである三人でさえもが、気を抜けば妖気に肉体を蝕まれて衰弱しきり、精神を蝕まれて思考や意識の喪失思想になる程の妖気が 、この棺から発散されている。というのも無論あるが、それは三騎が戦慄する直接の原因では無い。
 その原因は、棺そのものに有った。棺の主の名を、棺を見た者全てに悟らせるその意匠。 
 凡そ人間二人を収める事ができる大きさの棺。その表面に黄金を用いて施された意匠は、天空を舞う龍(ドラクル)。
 この様な棺に眠る者の名など、彼等は一つしか知らない。他に知り得ない。

 「中に居るのは…かの竜公か………」

 女のセイバーが漏らした呟きは、その場の全員が、背中に重石を乗せられたような錯覚を覚えた。
 全員が撤退を考えていた。棺の中に眠る吸血鬼が『あの』名を持つ者だとすれば、夜に挑むのは愚行や蛮勇という以前の問題だ。撤退して、昼間に陽光の加護のもと挑むべきだった。
 棺から目を離す事なく後退した三人は、棺から気を逸らさなかったからこそ、肝心な事に気づけなかった。聖杯戦争とはサーヴァントとマスターが組んで戦うという事を。
 棺の中で眠る者が、マスターとサーヴァント何方にせよ。此処には『一人しか居ない』という事を。

 肉の裂ける濁った音がした。
 三人の布陣は、セイバーとライダーが前に出てアタッカー。キャスターが後方でバックアップという至極オーソドックスなものだ。
 音は後方────キャスターの居る位置からした。
 光の速度で振り返ったセイバーとライダーが見たものは、胸の中央から、白い繊手を生やしたキャスターの姿。
 だが、明らかにおかしい。手の大きさから推察される手の主の大きさは幼女のそれ、成人男性であるキャスターの胸を貫くには、上背が足りないのだ。
 二人の疑念は、手が引き抜かれ、キャスターが崩れ落ちた事で解消された。キャスターの胸を貫いたのは、淡い金髪に真紅の瞳の幼女。背には決勝か宝石のようなものがぶら下がった一対の枝、としか言い表しようのない翼。
 こんな翼でも飛ぶ事に不自由は無いらしい。幼女は床から三十センチほど浮いて、感情の窺い知れない瞳で二人を見つめている。

 「貴方達は、人間?」

 外見相応の幼い声。だが、人理に名を刻んだ英霊二人が、総毛立ったのは何故か。

 「いいや、死人よ。儂と同じく、な」

 錆を含んだ声が言った。蝶番の開く、軋むような音がした。棺の主が、起きたのだ。
 咄嗟に左右に飛び、幼女と棺の主を同時に視界に収められる位置を取った二人は、妖々と起き上がった壮漢を見た。
 圧倒的な顔相の長身の男だった。瘤のような額の隆起を、逞しい鷲鼻が堂々と支え、強烈無比な意思力を示す分厚い唇と岩のような顎は、あらゆる困難をねじ伏せてきた力の具現だった。
 一見、粗野ともいえる顔立ちに異を唱えるのは、糸のような二筋の眼であった。その形と色とを信じるのならば、この壮漢は、誇り高い家柄に生まれ、優美と権力を糧に育ってきたのだった。
 深い海のような色の瞳と黄金(こがね)の髪の色を、二人は見ることができた。
 
 取るべき選択は二つに一つ。逃走か、戦闘か。
 降伏や交渉という選択肢は存在し無い。容れられる事など全く無く。その場で殺されるだろうという確信が二人にはあった。

 二人は即座に逃走を決断した。この主従は底が知れなさすぎる。視線を交わすと、互いに背を向け、逃走を開始する。屋敷前に居るマスターと速やかに合流して、撤退。安全を確保してから、日が登るのを待つ。これ以外に選択肢など存在しない。
 棺の主から見て右へと走ったセイバーは、五歩を駆けたところで、右肩を強烈に圧搾されて動きを止めた。
 棺の主が右手を伸ばして、セイバーの肩を掴み、凄まじい圧を加えているのだ。
 だが、いつの間に?既に30mは距離を離した。如何なる神速を誇るサーヴァントでも、これだけの距離を詰めるのならば気配がする筈。まるで瞬間移動を思わせる速さだった。
 セイバーは振り解こうとし、右肩に生じた灼熱の感覚に絶叫した。無惨にも鎧ごと右腕を付け根からもぎ取られたのだ。
 
 「儂の国では、死者が先に部屋を出る」

 壮漢の右手に、己が剣の鞘が握られているのを。視界の奥で、幼女が振るった炎の剣に、ライダーが腰斬されるのを、セイバーは呆然と見つめていた。


───────────────────


934 : Night Walker ◆/dxfYHmcSQ :2022/08/20(土) 22:46:08 Pn4fKQg.0
屋敷の敷地内では小規模な混乱が渦を巻いていた。
 極僅かな時間に、二人のマスターが令呪を失えば、場を恐怖と混乱が支配するのは当然だ。
 戦況が極短時間に絶望的に不利になった事を悟ったランサーは、自身のマスターを連れて逃走する事を決意した。
 セイバーがまだ残っているが、ライダーとキャスターが瞬殺されている以上、長く持ちはするまい。
 恐怖に自失しているマスターの襟首を掴んで、ランサーがその場を離脱したと同時。残された三人の所にセイバーが落ちてきた。
 屋敷の屋根から相当な速度で投げつけられたのだろう、直撃したキャスターのマスターは、原型を留めぬ肉塊と化して即死した。
 恐怖に硬直したライダーとセイバーのマスターの前に、金髪碧眼の偉丈夫が、地を震わせて降り立つ。
 胸に鞘を突き立てられ、半死半生のセイバーの顔を掴んで、自分の頭よりも高い位置に持ち上げると、首筋に牙を立て、溢れる血潮を嚥下し出した。
 全身を痙攣させるセイバーに一切構うことなく、グビグビと音を立てて血を飲み干すと、貫手をセイバーの胸に撃ち込み、心臓を握り潰した。

 「この様な身の上になっても腹は減る」

 偉丈夫が視線を上に向ける。つられてライダーとセイバーのマスターも上方にに視界を向けると、背に一対の枝を生やした人影が浮いているのが見えた。

 「儂のマスターも、な」

 運命を悟った二人は、糞尿を垂れ流しながら、立ち尽くしていた。
 偉丈夫の掌の中で、セイバーの身体が黄金に粒子となって消えていった。



───────────────────


 常人の眼には、黒い影としか映らぬ速度で駆けながら、ランサーは歯噛みしていた。
 館の中で何が起きたのか、あの偉丈夫は何者なのか、何も判らない。
 セイバーも、ライダーも、キャスターも、せめて相討ちに持ち込むなり、叶わぬのならば、真名を明らかにするなり、せめて手傷の一つでも負わせるなり、してから斃れれば良いものを。これでは何の為に同盟を組んでいたのか。だが、愚痴を言っても始まらない、今はあの3人が殺されている間に、少しでも距離を稼ぐ事だった。
 とは言え、マスターを抱えての身では、如何に最速を誇るランサーのクラスといえども、出せる速度など高が知れている。焦燥と苛立ちを、野生的な美貌に刻んで、夜の街中を疾駆するランサーは、ふと上に視線を向けた。
 何ということはない。只、抱いていた自負が裏切られ、自信を喪失し、進退窮まった者が、無意識の内に取った所作というだけの話である。

 だが、しかし。
 其処に、居た。
 漆黒の夜闇を背に。
 其れは、居た。


935 : Night Walker ◆/dxfYHmcSQ :2022/08/20(土) 22:46:30 Pn4fKQg.0
ランサーの瞳は、闇夜の中にあっても煌めく、宝石の如き輝きをはっきりと見る事が出来た。
 宙に浮かぶ影が、先刻館に飛んできた影だと、その背中の一対の枝が告げている。
 ランサーは闇夜を貫いて、己と主人とを貫く真紅の眼差しを確かに見た。影が運ぶ偉丈夫の姿も、また。
 ランサーの決断は早かった。マスターを離れた場所へ放り投げると、宝具でもある槍を取り出し、投擲の姿勢に入る────よりも早く、宙に浮かぶ影は、運んできた偉丈夫を、ランサー目掛けて全力で放り投げていた。
 舌打ちして、ランサーは投擲では無く刺突へと姿勢(フォーム)を切り替える。
 真名解放を伴う渾身の一突き。しかも放り投げられて宙にある偉丈夫に、この一突きは躱せ無い。
 その目論見通りに槍は偉丈夫の胸を捉え、ランサーの刺撃と、宝具の威力を、余す事なくその身体に叩き込んだ。

 ────仕留めた。

 歴戦の雄たるランサーが、そう思って気を抜いたのも当然と言える。それ程の会心の一撃。心臓を僅かに外れたが、その程度問題にならない威力の一撃。
 強敵を仕留めた安堵と、上空への敵への対処を思案したランサーが、偉丈夫から気を離した瞬間。
 ランサーの両手首は、肉が潰れ、骨が砕ける音と共に、握り潰された。
 痛みよりも驚愕に襲われ、声も無く、呆然と、己の手首を握り潰した者を見る。
 確かに致命傷を与えた筈の偉丈夫が、何らの痛痒も見せずに威風堂々と立っていた。
 
 「良い技倆だ。得物も良い」

 笑って、偉丈夫は未だに己が胸を貫く槍に手を掛けた。

 「だが、それでは儂は殺せても、滅ぼせぬ。儂を滅ぼすには、古の礼法に則らねばならん」

 偉丈夫は掴んだ槍を引いた。凄まじい力だった。例え無傷であっても、数秒と抗えぬ、それ程の力だった。
 両手首が潰れても、尚も槍を握りしめていたランサーの両手の皮を引き剥がしながら、偉丈夫はランサーの宝具を奪い取った。
 ランサーは己が宝具が、偉丈夫の魔力に侵食され、漆黒に染まってゆくのを成す術無く見ている事しか出来なかった。
 
 「お前の技と宝具で送ってやろう」
 
 偉丈夫が、ランサーの宝具の真名を唱え、先刻のランサーの動きをそのままに、槍を繰り出す。
 ランサーの動きを真似た、模倣した。などというレベルでは無い。
 ランサーが積んだ鍛錬。蓄積した経験。それらを基に振われる、英雄として語られるのに相応しい絶技。
 それを、偉丈夫は、いとも簡単に再現してのけたのだ。
 ランサーの眼から見ても、完全に己の絶技だ。彼女が鍛え上げ、技を教え込んだ弟子が振るったのならば、惜しみない賞賛を与えただろう。それ程に、彼女の技そのものだった。
 ランサーは受けも躱しも、否、それらの行為のために必要な動きを取る事もできず、棒立ちのままに腹を貫かれた。
 腹部を貫いた宝具の衝撃で、ランサーの内臓が潰れ、鮮血が口から噴水の様に迸る。
 槍の切先を上げ、急速に力が抜けていくランサーの身体を頭上に掲げ、降り注ぐ血潮を浴びながら、偉丈夫は満足そうに笑った。
 
 「熱い血潮よ。女の血は甘いが薄い。だが、お前の血は、並みの男よりも熱く、並の女よりも甘い」

 ランサーが息絶え、消滅するまで、偉丈夫は流れ落ちる血潮を舐めとっていた。


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936 : Night Walker ◆/dxfYHmcSQ :2022/08/20(土) 22:47:13 Pn4fKQg.0
 「食事だ」

 2階にある食堂で、巨大なテーブルの席に着いて、食事を待つ少女の前に、何処から調達したのか、鮮血を満たした巨大な銀の皿を置いて、偉丈夫は少女の向かいの席に腰を下ろした。
 
 「外はどうであった」

 これもまた、廃館に相応しく無い銀の匙で、血を掬って口に運ぶ少女に訊く。

 「愉しかった!」

 「であろうな。儂も久し振りに外に出た時は、外の歓楽と人間共の生命の豊穣さに、まるで生まれ変わった様に感じたものよ」

 偉丈夫はしみじみといった風情で呟いた。少女の境遇を聞いた時、自分を招いた縁とはこの事かと思った程だ。
 少女の名はフランドール・スカーレット。その規格外の力の為に、495年も屋敷の地下から出る事を許されなかった吸血鬼である。
 目立つ姿形でありながらも、外を徘徊するのに任せているのは、空が飛べるだとか、下手なサーヴァントなら一蹴できるだとかいったところよりも、フランドールの境遇に共感してしまった…と言うところが大きい。
 自身の心に、生前の知り合い共の顔を思い出し、奴らが知ればきっと笑い転げるだろうと思う。

 「ずっと本ばかり読んでいたから、外に出て、人間と出会ってからは、外って本当に面白いと分かったの。けど、此処はもっとおもしろい」

 朗らかにフランドールは笑う。年相応のあどけない、それでいて何処か狂気を孕んだ笑い。

 「貴方も外にいかないの?」

 何気無い問いである。サーヴァントが主人であるフランドールの境遇を知っている様に、フランドールもまた、サーヴァントの境遇を知っている。
 狂人、怪物等恐れられる所業の果てに、裏切られ、敵国に囚われて、首を落とされる────筈が、吸血鬼に拾われ、吸血鬼とされ、そのまま五百年間幽閉された男。
 自身がこのサーヴァントを招いた縁とはこの事かと思った程だ。
 だからこそ疑問に思うのだ。
 このサーヴァントは自由が恋しくは無いのかと。自由気ままに外を歩けるのに何故引き篭もって居るのかと。

 「今はまだ、有象無象共が犇めいておるからな。こうして館にいれば、勝手に食事を伴って死にに来おる。敵を求めるのは、まだ先の事よ」

 「遊べる相手が揃うまで、待っている訳ね」

 「そうだ」

 「揃ったら、一緒に遊びに行こう」

 フランドールは笑みを浮かべる。狂気を含んだ、あどけない笑顔。

 「そうしよう」

 偉丈夫は笑みを返す、獰悪と称して良い、見たものが総毛立つ笑顔。
 二人の口元には、鋭い乱杭歯が覗いていた。

 「それでは儂は行くぞ。下僕共に下知を下さねばならん」

 偉丈夫はフランドールに告げると、地下室へと足を向ける。先日侵入し、二人の喉を潤した五人に加え、今日新たに加えた、妖眼で支配した一人。この六人に命を下し、調度品の調達や、他の主従を呼び寄せる為の噂の流布を行わねばならない。
 フランドールが使用している、食器や寝具は、この者達に調達させてきたものだ。それまでフランドールは、館内に打ち捨てられていたソファーで眠り、偉丈夫が態々人間を絞って血を与えていた程だった。
 
 「これからは食事の用意もさせるか」

 捕らえた人間を『加工』させる事もやらせても良いかもしれない。巧くできるかは定かでは無いが、最悪、皿に血を湛えられればそれで良い。

 「この様な境遇になって子供の世話か」

 偉丈夫は僅かに苦笑した。
 偉丈夫を知る者達ならば、誰しもが偉丈夫と自身の正気を疑うだろう。偉丈夫自身、何故こんな事をやっているのか判らない。
 マスターであるというのもある。永い間幽閉されていたフランドールに共感したというのもある。
 だが、結局のところは。

 「お前ならば、こうしただろう。我が妻よ」

 オスマン・トルコの大軍に城を包囲され、絶望して身を投げた妻。偉丈夫の戦う理由。
 人であった時に死別し、吸血鬼となってから再会し、そして腕に抱く事が叶わなかった妻。
 彼女ならばそうしただろう。そう思えばこその行為であった。
 だが、彼女とは?我が妻とは?果たして誰なのか。
 深い谷底へ身を投げた妻か。
 あの街で、姿を思い出すだけで陶然となる、その名を唱えるだけで戦慄する、美しい化物と奪い合った娘か。
 記憶の中で、両者の姿はまじりあい、その姿は判然とせぬ。
 だが、どちらであろうと構わない。聖杯に願って顕れた者こそが、偉丈夫が求める『妻』なのだから。

 「待っておれ、再会は直だ」

 偉丈夫の戦意に応じ、総身から濃密な鬼気を噴き上がった。


937 : Night Walker ◆/dxfYHmcSQ :2022/08/20(土) 22:47:44 Pn4fKQg.0


[クラス】
ランサー

【真名】
カズィクル・ベイ@魔界都市ブルース 夜叉姫伝

【ステータス】
筋力:A 耐久:A+ 敏捷:B+ 幸運:E 魔力:B 宝具:EX

宝具使用時

筋力:A++ 耐久:EX 敏捷:A+ 幸運:E 魔力:B 宝具:EX


【属性】
混沌・悪

【クラススキル】

対魔力:A -
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではランサーに傷をつけられない。
…………のだが、聖性や流れ水に対しては脆弱であり、素の耐久値でしか抵抗出来ない。
陽光に対しては、抵抗すら出来ず、攻撃値をそのままダメージとして受ける



【保有スキル】


夜の一族:A(EX)
 蒼天の下、陽光の祝福を受けて生きるのではなく、夜闇の中、月の光の加護を受けて生きる者達の総称。
 天性の魔。怪力を併せ持つ複合スキルであり、ランサーは夜の覇種たる吸血鬼である。
闇の中では魔力体力の消費量が低下、回復率が向上する。
 夜の闇ともなれば、上述の効果に加えて、全ステータスが1ランク向上する。
 また、種族により更なる能力を発揮する場合があり、吸血鬼ならば吸血による魔力体力の回復及び下僕の作製。
 及び精神支配の効果を持ち、抵抗しても重圧もしくは麻痺の効果を齎す妖眼の二つである。


 下僕となった者にはA+ランクのカリスマ(偽)を発揮し、ランサーに服従させる。
 下僕化は対魔力では無く神性や魔性のランクでしか抵抗出来ない。
 このランクではCランク以上の神性や魔性でないと吸血鬼化を遅らせる事も出来ない。
 下僕化によるランサーへの服従は精神力若しくは精神耐性を保証するスキルにより効果を減少或いは無効化させることができる。
 弱点としては、大蒜や十字架に対して非常に脆弱で、陽光を浴びれば即座に全身が燃え上がり、負った火傷の回復は非常に困難。
 十字架を直視すれば行動不能となり、後述のスキルが保障する不死性が消滅する。
 ランサーは五百年の歳月しか閲していない元人間だが、当人の極めて高い資質と、親の規格外の格の高さにより、最高のランクを獲得している。

 ランサーの親や、兄弟にあたる吸血鬼は、桃の果実を苦手とするが、ランサーは不明。おそらく苦手だと思われる。



不老不死:A+(A++)
 吸血鬼の特性がスキルになったもの。
ランク相応の戦闘続行及び再生スキルを併せ持ち、老化と病を無効化、毒にも極めて高い耐性を持ち、即死攻撃はダメージを受けるに留まる。
 攻撃を受ける端から再生し、一見傷を受けていないようにすら見える程。
 物理的な攻撃では、たとえ肉体が消滅しても、時間経過で復活する。
 しかし、復活に際しては、主従共々魔力を必要とし、何方かの魔力が不足していれば復活出来ない。
 但し聖性や神性を帯びた攻撃には非常に脆く。流れ水に身体を漬けられたうえでの攻撃は通常のそれと変わらぬ効果を発揮する。

 ランサーを滅ぼすには古の礼に則り、心臓に白木の杭を打ち込むか首を落とすかのどちらかしかない。
 とは言え、首を落とすにしても、斬ったものの技量次第では斬る端から再生されて再生して無効化され、首尾良く斬れても、首を押さえて傷口が開く事を防ぎ、その間に再生癒着してしまう為に、何らかの方法で、ランサーの肉体に再生を忘れさせなければならない。



叛骨の相:A+
 人であったときは、生涯を通じてオスマン・トルコと戦い続け、吸血鬼となっても自らの親である『姫』に叛旗を翻した在り方。
 激烈強固な自我に基づく叛骨は、他者への服従を一切認めず、他者を自己に服従させる傲岸の極み。
 同ランクまでのカリスマや、魅了をはじめとする精神干渉は当然として。
 権威や権力、権能に基づく服従を無効化。
 ランク以上でも、スキルランク分を軽減する。


心眼(偽):A
 視覚妨害による補正への耐性。
 第六感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知である。


938 : Night Walker ◆/dxfYHmcSQ :2022/08/20(土) 22:48:12 Pn4fKQg.0

【宝具】
徒手にて戦陣に立つ人非の騎士(ナイト・オブ・ジ・イーヴィル)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ :1 最大補足:1人


 かつて森深き東欧の果ての地に伝えられていたとされる古の魔道の技。人の心を捨てた騎士に不敗の四肢を与えたとされる。
 習得の為の修練は筆舌に尽くし難く、業の完成の暁には、人の心を捨てた証として、九十九日荒野を旅し、出逢った者悉くを虐殺しなければならなかったという。
 そうして得られる業は凄まじく、如何なる敵の武器でもたやすく奪い、瞬時にその扱いに習熟し、その武器を振るって闘ったという。


 その本質は“対峙した敵の“戦う術を奪い、使いこなす”。 古の魔道の業。
 武具を用いるならば武具を奪い、更に武具を扱う為の技術をすらも、瞬時に習得し我がものとする。
 ランサーの膂力に加え、元より、『武器を奪い取る』という性質を持つ為、三騎士のクラスといえども、得物を掴まれれば抵抗は困難。

 徒手空拳の絶技や、特異体質の類でも、使い手の腕に手で触れるか、我が身に受ける事で、己がものとする。
 如何なる武器も、無双を誇る練達の武人の業も、一切問題無く使いこなせる事から、副次効果として最高ランクの無窮の武練及び、武の祝福の効果を発揮する。

 宝具へと昇華されたことにより、概念や逸話を基にする宝具や技能すら、奪う、もしくは習得できる。
 同様の宝具である『天津風の簒奪者】と違い、形のある物でなければ、所有権の簒奪は発生せず、只修得するだけにとどまる。
 つまりは技術や肉体的な特性による宝具やスキルは、習得した元である相手も継続して使用することが可能な為に、相手の驚異度が全く変わらない。
 



串刺し魔王(カズィクル・ベイ)
ランク: C 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大補足:一人

生前多用した処刑法であり、ランサーの代名詞でもある“串刺し刑”が宝具化したもの。
 効果は『手にした棒状の物体を杭の宝具とする』
 棒状の物体であれば良い為、槍や矛の類のみならず、丸めた布や、束ねた糸でも杭とすることが可能。
 杭は『貫く』事にのみCランク相当の宝具と同じ威力を持つが、強度や耐久性は元の物質に準拠する。
 杭には『吸血』の概念が宿り、杭により流された血は、ランサーの魔力に還元される。
 ランサーの持つ逸話である、泉に黄金の杯を放置し、持ち去ったものを捉えて杭に串刺した。という伝説から、ランサーが『賊』と認識した者をランサーの意志によらず追尾する。
 この効果は、ランサーが手にして振るう時だけでなく、投擲した場合にも発揮される。



鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア』)
ランク:A+ 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人

 後の伝承によるドラキュラ像を具現化させ、吸血鬼へ変貌する。
 身体能力を宝具使用時のものに変更。一部のスキルランクが()内のものとなり、動物や霧への形態変化、といった能力を獲得。不死性や怪力や魅了の魔眼といった、元から所有する特殊能力が超強化される。

更に夜間には全ステータスが更に向上。正しく夜に無敵の魔人と化す

…………が、聖性や陽光に弱いという弱点が更に強調されてしまう。

 魔力の消費量も跳ね上がり、通常のそれに、Aランク相当の狂化を持つ、バーサーカーのそれを加えたものとなる。


939 : Night Walker ◆/dxfYHmcSQ :2022/08/20(土) 22:52:16 Pn4fKQg.0
【人物紹介】
魔界都市〈新宿〉に現れた、四名の吸血鬼達の長である『姫』により、〈新宿〉に解き放たれた吸血鬼、作中ではベイ将軍と呼称される。

『姫』が想いを寄せる美しき魔人、秋せつらへの嫌がらせの道具にされた、華南高子に亡妻の面影を見て執着し、『姫』と決別する。
末路は、秋せつらへの刺客に仕立て上げられ、〈新宿〉の全てを知悉するせつらにより、再生機能を封じられ、首を刎ねられた。
 
 人であった時には、東欧の国を統べ、オスマン・トルコと戦い、三万人のトルコ兵を串刺しにしたという。
 ぶっちゃけヴラド三世その人である。
 割と脳筋気質であり、姫の霊廟に突撃した時には、吸血鬼の馬鹿力で大パン三発入れてもビクともしない扉に対し、思考してから取った手が、助走つけての体当たりで蝶番を破壊する事だったりする。


 余談だが、人であった時に首を落とされ、コンスタンティノープルで晒されたと記録され。
 吸血鬼としての最後が斬首であった為、断頭・斬首といった概念には非常に弱く、抵抗すらできないのだが、当人はこの事を知らない。


【聖杯への願い】
受肉と妻の蘇生


【weapon】
無し


940 : Night Walker ◆/dxfYHmcSQ :2022/08/20(土) 22:52:53 Pn4fKQg.0
【マスター】
フランドール・スカーレット@東方Project

【能力】
ありとあらゆるものを破壊する事ができる程度の能力。

その物の一番弱い箇所"を自分の手の中に移動させ、拳を握りしめることで対象を破壊することができる。
原理は『全ての物には「目」という最も緊張している部分があり、そこに力を加えるとあっけなく破壊することができる。というもの。
異界二十三区では、『目』を手の中に移動させることが出来なくなっている。


【武器】
無い

【ロール】
無い。強いて言うなら幽霊屋敷の幽霊。

【聖杯への願い】
聖杯を獲得してから考える。

【人物紹介】
紅魔館の長であるレミリア・スカーレットの妹。
姉のことを『アイツ』呼ばわりしていたりする。
気が触れているとの触れ込みだが、頭の回転が速く、知識も豊富。会話も普通にこなす。
なお、ガチで閉じ込められていたベイと異なり、出ようと思えば出られるのだが、単純に力尽くに訴えてでも出ていかなかっただけだったりする。


941 : Night Walker ◆/dxfYHmcSQ :2022/08/20(土) 22:53:16 Pn4fKQg.0
投下を終了します


942 : ◆NIKUcB1AGw :2022/08/21(日) 00:19:37 fjTKYEWI0
投下します


943 : 君が二度と悲しまないためのヒーロー ◆NIKUcB1AGw :2022/08/21(日) 00:21:03 fjTKYEWI0
青山優雅は、裏切り者である。

彼は、ヒーローを目指す学生だ。
だが同時に、世界を脅かす巨悪「オール・フォー・ワン」の息がかかった者でもある。
「個性」と呼ばれる特殊な力を持っているのが当たり前の世界において、青山は個性を持たずに産まれた。
子供が差別されることを恐れた彼の両親は、オール・フォー・ワンの力を借りて息子に個性を与えた。
その代償が、悪への服従だ。
両親の安全をネタに脅され、青山は自分の通う雄英高校の情報を提供する内通者となった。
絆を育む友を、尊敬する師を、裏切り続ける日々。
気が狂いそうなくらいに辛かった。
それでも青山は、耐えた。愛する家族を守るために、悪の下僕であり続けた。
そしてある日、彼はそんな地獄から解放される。
聖杯戦争という、新たな地獄に招待されたことによって。


◆ ◆ ◆


「はあ、はあ……」

青山は、涙をボロボロとこぼしながら走り続けていた。
どこか目的地があるわけではない。単なる逃避行動だ。
青山には、この状況でどうしたらいいのかわからなかった。
聖杯を手にすることができれば、裏切り者としての立場から脱することもできるだろう。
だがそれは、他の参加者を殺すということだ。
正当防衛ならばまだしも、自分から他者の命を奪ってしまえば、二度と光の当たる道は歩けないだろう。
だが聖杯を手にできなければ、死以外の結末はない。
つまりは八方塞がりだ。

(僕は……僕はどうしたら……)

答の出ない疑問で頭をいっぱいにしながら、青山は走る。
血のにおいにも気づかぬまま。

「え……?」

突如視界に飛び込んできた惨状に、青山は唖然とする。
血まみれの不良らしき男たちをさらに切り刻む、巨漢の剣士。
地獄のような光景が、そこには広がっていた。

「なんだぁ? わざわざ人のいねえところで、死んでも騒ぎにならねえようなクズを魂食いしてたってのによぉ。
 いるんだなあ、こういうところに出くわしちまうバカが」

剣士の傍らにいたサングラスの男が、ニタニタと笑いながら青山を見る。

「こいつもやっちまってくれ、セイバー」

指示を受け、剣士も青山の方へ向き直る。

(セイバー……ってことは……)

サングラスの男が用いたフレーズにより、青山は理解する。
あの男は自分と同じ聖杯戦争の参加者であり、剣士はそのサーヴァントなのだと。

(ど、どうする……?)

青山のサーヴァントは、まだ姿を見せていない。
ここで抵抗するのであれば、青山自身が戦わなければならない。
しかし相手は、ただのヴィランではなくサーヴァント。
神秘の力を帯びた、古代の英雄だ。
プロヒーローならまだしも、青山一人で勝てる相手だとはとうてい思えない。

(それでも……ここで逃げるわけには!)

ガタガタと震えながらも、青山は臨戦態勢を取る。
不良とはいえ一般人を虐殺するこの主従の行いは、間違いなく悪だ。
それを放置して逃げてしまえば、青山に残された最後のプライドさえへし折れてしまう。
そうなれば、二度と立ち上がれない。この聖杯戦争で、むごたらしく殺されるだけだ。
それを理解しているから、青山は立ち向かう姿勢を見せる。
だが相手のマスターからすれば、それは愚者の行動にすぎない。

「おいおい、まさかこいつに立ち向かうつもりか?
 思ってた以上の大バカ野郎だな。
 それとも、お子様番組のヒーローにでもなったつもりなのか?」

心ない言葉をぶつけられても、青山は揺るがない。


944 : 君が二度と悲しまないためのヒーロー ◆NIKUcB1AGw :2022/08/21(日) 00:21:50 fjTKYEWI0
涙の溜まった目で、目の前の悪を見据える。

「なんだ、その目つきは……。
 むかつくぜぇ。
 セイバー! できるだけいたぶってから殺してやれ!」

マスターのさらなる指示を受け、セイバーが動き出そうとしたその時。
突然、轟音が周囲一帯に響き渡った。
それは、バイクの排気音だった。

「おいおい、暴走族でも近づいてきたか?
 クソうるせえなあ」

顔をしかめるマスターとは対照的に、青山は不思議な感覚を覚えていた。
まるで、この音が自分を鼓舞しているかのように、彼には感じられていた。
やがて、1台のバイクがその場に現れる。
それに乗っていたのは、昆虫のような顔の男だった。

「すまない、マスター。遅くなってしまった」

穏やかな、しかし力強い声で、男は青山に語りかける。

「じゃあ、あなたが……」
「ああ、君のサーヴァントだ。
 ライダー、これより君の力となる」

そう告げるとライダーはバイクを降り、セイバーの主従に向き直る。

「はっ、何を大物ぶってやがる……。
 バイクなんぞ乗ってるってことは、ごくごく最近の英霊ってことじゃねえか!
 そんな神秘もクソもねえザコが、俺のセイバーに勝てるわけねえだろう!
 とっととぶっ殺しちまえ、セイバー!」

今度こそ、セイバーが動く。だが、ライダーは動じない。

「たしかに俺の歴史など、100年にも満たない。だが……」

ライダーが右の拳を握りしめ、思い切り振るう。

「ライダー……パンチ!!」

拳が、セイバーの胸に叩き込まれる。
セイバーの身につけていた鎧は木っ端微塵に砕け、本人は苦悶の表情を浮かべて膝をつく。

「力なき者を一方的に蹂躙するような、邪悪な連中に……。
 仮面ライダーは、負けん!」

ライダーは続いて地面を蹴り、大きく跳躍する。
そして、空中で一回転。右脚を突き出した姿勢で、落下する。

「ライダー……キック!!」

衝突。セイバーの体は子供に蹴られた石ころのように吹き飛び、爆発四散した。

「は……? あぁ……?」

セイバーのマスターは状況が飲み込めず、呆然と立ち尽くす。
だがやがて、スイッチが入ったように怒り狂い始めた。

「ふざけるなぁぁぁぁぁ!! てめえみてえなゴミクズに、セイバーが倒せるはずねええええ!!
 どんなインチキしやがったぁぁぁぁぁ!!」

怒りのあまり我を忘れ、セイバーのマスターはナイフを構えてライダーに突撃する。
だがそんなものが、ライダーに通用するはずもない。
ライダーは冷静にナイフを叩き落とし、敵の腕をひねり上げる。

「がああああ!!」
「退け」

静かな声でそう告げ、ライダーは手を離す。
セイバーのマスターは脇目も振らず、その場から逃げ出した。

「すごい……」

青山の口から、思わず言葉が漏れる。
その強さももちろんだが、何よりライダーが纏う雰囲気。
それは、あのオールマイトを彷彿とさせるものだった。

(この人は、本物のヒーローなんだ……。オールマイトと同じ……。
 僕みたいな薄汚い偽物とは、格が違いすぎる……)

危機が去った安堵と自己嫌悪により、青山はその場にへたり込む。
ライダーはその青山にゆっくりと歩み寄り、語りかける。

「俺はまだ、君のことを何も知らない。
 君がどんな人生を歩んできたか、わからない。
 だが、これだけは言わせてくれ。
 ……よく、がんばった」
「あ……ああ……」

心に染み入る、ライダーの言葉。
青山はただ、泣いた。


945 : 君が二度と悲しまないためのヒーロー ◆NIKUcB1AGw :2022/08/21(日) 00:22:56 fjTKYEWI0
【クラス】ライダー
【真名】仮面ライダー1号/本郷猛
【出典】仮面ライダーシリーズ
【性別】男
【属性】中立・善

【パラメーター】筋力:B 耐久:EX 敏捷:B 魔力:C 幸運:E 宝具:B(変身時)

【クラススキル】
騎乗:EX
乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。
「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
本郷猛は、日本でもっとも多く「ライダー」と呼ばれた男である。
ゆえに日本の一部を模したこの地では、知名度補正が最大限かけられる。

【保有スキル】
原初のヒーロー:A
人類の自由と平和のために戦い続けるヒーローたち、「仮面ライダー」のオリジン。
ただその場に存在するだけで善なる者には絶大な安心感を与え、邪悪な者には強い苛立ちと動揺をもたらす。

不滅のヒーロー:A
「戦闘続行」の上位スキル。
彼は何度となく「死」に遭遇しながらも、そのたびに蘇り人々を救ってきた。
マスターの心が折れぬ限り、どんなに傷つこうと彼は戦闘を続行する。

ライダーキック:A
光の巨人の光線と双璧をなす、日本における「必殺技」の代名詞。
彼が悪属性のサーヴァントに対して飛び蹴りを放った時、その攻撃には中確率で即死属性が付与される。
このスキルによって撃破されたサーヴァントは、必ず爆発を起こす。


【宝具】
『回れ風車(タイフーン)』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
本郷の体に備え付けられた、変身ベルト。
真名の解放により、本郷猛は仮面ライダー1号へと姿を変える。

『走れ疾風(サイクロン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-20 最大捕捉:1人
本郷が愛用してきた、高性能バイク。
最高時速は400km/h。
さらに魔力消費により、「改造サイクロン」「新サイクロン」へとパワーアップさせることができる。

【weapon】
基本的に格闘で戦うが、一般的な武器ならたいていのものは使いこなせる。

【人物背景】
仮面ライダー、本郷猛は改造人間である。
彼を改造したショッカーは、世界制覇を企む悪の秘密結社である。
仮面ライダーは人間の自由のためにショッカーと……そしてあらゆる人類の敵と戦うのだ!

【サーヴァントとしての願い】
マスターを生還させる。


946 : 君が二度と悲しまないためのヒーロー ◆NIKUcB1AGw :2022/08/21(日) 00:24:12 fjTKYEWI0

【マスター】青山優雅
【出典】僕のヒーローアカデミア
【性別】男

【マスターとしての願い】
生きて帰る

【weapon】
「ヒーローコスチューム」
個性の補助具であるベルトを組み込んだ、西洋騎士の鎧を思わせるコスチューム。
へそ以外の箇所からビームを出せるギミックが内蔵されている。

【能力・技能】
「ネビルレーザー」
へそからビームを放つことができる個性。
後付けの個性であるため体質に合っておらず、一定時間以上連続使用すると腹痛を起こしてしまう。

【ロール】
普通の高校生

【人物背景】
雄英高校ヒーロー科1年A組の生徒。
つかみ所のない言動を繰り返すナルシスト。

その正体は、巨悪「オール・フォー・ワン」が雄英に送り込んだ内通者。
脅迫により従わされているだけで本人は善良な人物だが、それ故に仲間を裏切る罪悪感に苦しみ続けていた。
参戦時期は、内通者であることが発覚する以前。

【方針】
生還


947 : ◆NIKUcB1AGw :2022/08/21(日) 00:25:02 fjTKYEWI0
投下終了です


948 : ◆Lap.xxnSU. :2022/08/21(日) 02:49:09 PIvkMWiU0
皆様投下ありがとうございます。
投下します


949 : got ist tot ◆Lap.xxnSU. :2022/08/21(日) 02:49:52 PIvkMWiU0

 思えば。
 何処で間違えたのだろう。
 充実はしていた筈だ、少なくとも昔は。
 だけど何処かでその歯車が狂った。
 それに気が付いた時にはもう戻らなくなっていた。
 輝きに満ちた時間は覆しようのない過去へと変わり。
 私はただ崇められるだけの偶像(クズ)に成り果てていた。
 カミサマ、カミサマと。
 現人神のように崇められ称賛され全てを肯定され。
 生きている実感が無いのは私だけ。
 まるで有り難い教えか砂漠のオアシスでも見つけたみたいに熱狂して、手を合わせる代わりにネットの海で声を吐くあいつらはさぞ幸せだろう。
 そんなのは只の八つ当たり?
 …あぁ、そうだろうな。
 分かってんだよそんな事。
 他でもないこの私が。
 私自身が他の誰よりも、よく分かってんだよ。

 なぁ。
 いつからだったかな。
 お前が私にとってそんなに大きな存在になったのは。
 お前はいつでも意識が高くて、誰よりも努力してたっけ。
 付いていけないと思った事も正直あるよ。
 だけどそれもいつしか尊敬に変わってた。
 お前は私みたいな木っ端じゃ信じられないくらい、輝く事に真摯だったから。
 アイドルっていう生き方に誰よりも真面目だったから。
 歌って踊る事以外は軒並み壊滅してんのに、アイドルの必修技能だけはその辺の奴より頭一つも二つも抜けてんだからさ。
 凄い奴だと思ったし…今でも思ってるよ。
 もう今となっちゃ、どうでもいい事だけど。

「…派手にやりやがって。お前が派手をやらかした尻拭いをするのは私なのだぞ」
「あァ? 知るかよンな事。チャチな魔術師がオレ様に意見してんじゃねぇ」
「黙れサーヴァント。貴様がどれだけ強かろうが、所詮は令呪を用いた命令一つ跳ね除けられない使い走りだろう。
 貴様の方こそ舐めた口をあまり叩くなよ。その卑賤な願いを、本当に叶えたいのならばな」
「弱い犬程よく吠えんだよな」
「自虐か? よもや貴様にそんな謙虚な一面があったとはな」

 仕事で訪れたとあるテレビ局に私は居て。
 そして其処が何処の誰とも分からない連中に襲われた。
 顔見知りの局員やAD。番組のスタッフにお偉方。
 誰も彼もゴミみたいに殺された。
 警察を呼ぶ暇すらない。
 皆殺しだった。
 最後には一人ひとり殺すのが面倒臭くなったのか、爆弾じみた激しく燃える光の塊をぶちかまして。
 今やこのフロアに残っているのは私と。
 生きているんだか死んでいるんだか分からない倒れ伏した人間の数人もとい数体だけ。


950 : got ist tot ◆Lap.xxnSU. :2022/08/21(日) 02:50:25 PIvkMWiU0
 カミサマと褒めそやされる歌を紡いだ私の口から漏れるのは情けない喘鳴だけで。
 それを一顧だにする事なく下手人の二人は自分達の世界に只浸ってる。
 死んだ奴らも、生きている私も。
 人間も「カミサマ」も。
 誰も彼もが奴らにとっちゃ蚊帳の外だった。
 只の路傍に転がるゴミに過ぎないんだと、嫌でも理解させられた。

「まぁ良いだろ。マスター一人は殺せたんだ。さっさと次に行こうぜ、虱潰しに探してこう」
「フン。単細胞が…次はもう少し小規模にこなせよ。派手さなど聖杯戦争では何の美点にもならぬのだからな」

 隣で顔見知りの同業者(アイドル)が死んでいた。
 首が変な方向に曲がってるし取り柄の顔も右半分が赤と黒の塊みたいになってる。
 まぁ生きちゃいないだろう。
 悲しくはなかった。
 腐っても顔見知りなのに。
 人間なんて所詮蓋開ければ血と臓物の詰まった袋でしかないんだなってこの期に及んで捻くれた感想しか湧いてこなくて。
 思わず自虐の笑いがこぼれた。
 此処まで来たら筋金入りだ、いよいよな。
 見てるか? 見てないか。
 「カミサマ」も化けの皮が一つ剥がれりゃこのザマだ。
 この情けない負け犬もどきの死に体こそが、お前らが崇め奉ってた現人神の真実さ。

“体…痛った……”

 痛いのは本当に体?
 自問する自分に冷笑が浮かぶ。
 知るかそんな事。
 最早今となっちゃどうでもいい。
 何もかも終わったんだ。
 私はこの紛い物の世界で死ぬ。
 楽園には程遠く、渇きだけは一丁前な子羊共が集いに集った痰壺の底で。
 頭の中に今更満ちる世界の真実が啓示なのか今際の妄想なのかすら今の私には分からなかった。
 
「私は…」

 なぁ、何がしたかったんだろうな。
 何処で狂ったのかは分かってる。
 分かってるけど今更どうしようもない。
 それも分かってる。
 直に私は死ぬだろう。
 この傷じゃ長く保たないのは素人でも分かる。
 腹に突き刺さった瓦礫を見て。
 それでもニヒルに笑うなんてウケのいいカミサマを演じ続けられる程私は上等な役者じゃなかったみたいで。


951 : got ist tot ◆Lap.xxnSU. :2022/08/21(日) 02:51:07 PIvkMWiU0

 あぁ。
 何だよ。
 こんな終わりは…無いだろ。
 終わるんだったら呑んでやる。
 でも、だけどさ。
 せめて最後に。
 もう一回だけでいいから。
 私の人生を締め括るに相応しい〆(デザート)を。
 只楽しくて甘かったあの時間をもう一度だけでもと願う中で私の頬には一筋の雫が流れて落ちて。
 腹の傷からどくどくと流れ出る他称・神の血を他人事のように見つめながら、私は血の腥さと苦さばかりが満たす口の中で舌を泳がせた。

「…なぁ……美琴。色々細かい事とか、譲れないもんとか…全部、抜きにしてさ……。
 私は、ただ…」

 聖杯戦争とか言ったっけ。
 もう全部遅いけどさ。
 もう少し早く私が気付けてたら、また違う未来もあったのかな。
 どんな願いでも叶えてくれるありがたい願望器サマ。
 私は…それに。

「お前と、ずっと――」

 きっと願いたかった。
 私が辿り着けなかった未来を。
 永遠に失われてしまった幸せを。
 だがそれももう全部終わった話だ。
 私は死ぬ、此処でゴミみたいに朽ち果てる。
 何がカミサマだ。
 蓋を開けてみれば只のゴミじゃないかよ。
 あぁ、笑える。
 心底笑える。
 涙が出るわ。
 目を閉じる。
 まぁ"らしい"死に様かと最後に自嘲を一つして。
 体の力を抜き、私は目前の苦い死を受け入れて冥土へ旅立つ準備をした。


952 : got ist tot ◆Lap.xxnSU. :2022/08/21(日) 02:51:45 PIvkMWiU0
.











「グラニテブラスト」












 轟音、破砕音、悲鳴、混乱。
 熱と光に全てが呑み込まれて消えていく。
 私もそれに食われて消える。
 そのすんでの所で体は抱き上げられた。
 そのまま空中へと私は躍り出る。
 "そいつ"に抱かれたまま。
 霞む視界で顔を見て落胆した。
 私が望んでいた顔じゃなかったし、何よりそいつはあまりに論外だったから。
 大砲のように突き出した髪型(リーゼント)。
 口端には煙草を咥えて崩れ去るビルには脇目もくれない。
 は、と声が出た。
 
「タイプじゃないんだけど」
「俺もだよ。現代の女は生意気でいけねぇや」

 自由落下の気味悪い感覚に顔を顰めながら。
 振り向けばそこでは慣れ親しんだテレビ局のビルが崩落していた。
 こいつがやったんだろう。
 でも責める気は起きなかった。
 人殺しだとか色々思い浮かぶ言葉はあったけれど。
 それを口にしていたら前に進めない。
 どうにもならないという確信めいた何かが私の中にあったから。


953 : got ist tot ◆Lap.xxnSU. :2022/08/21(日) 02:52:15 PIvkMWiU0

「なんで助けたの」
「死なれちゃ困る。此処は羂索の野郎が仕込んだゲーム盤じゃ無ぇからな。
 不完全な受肉しかできてねぇ身で要石を無碍にする程余裕は無いんだよ」
「…自分の知り合いを、相手も知ってる体で喋んなよ。コミュニケーション苦手か?」
「知らねぇなら知らねぇなりに想像しな。つーか"ありがとうございます"はまだか?」

 そういうことか。
 こいつが私のサーヴァント。
 随分駆け付けるのが遅かったけど、頭の中には既に私の理解が追い付くのに先んじて知識が充填されていた。
 クラスはアーチャー。
 真名を石流龍。
 偉人とかじゃないのかよって心の中で文句を言う。
 何処の誰なんだよこいつは一体。
 そう考えてる間に地面へと着地した。
 着地の衝撃で破けた腹の痛みが戻ってくる。
 うぐ、と声を漏らせばサーヴァントは…石流は何処で調達したのか懐からスマホを取り出し。
 そして素知らぬ顔で連絡し救助を呼び出した。
 火事場を更なる地獄絵図に変えておきながら悪びれた様子の一つもない。
 何なんだこいつは。
 改めてそう思う私の前で石流は通話を切ると。
 その冗談みたいな見た目とは裏腹の冷静な調子で声を発した。

「行方不明者扱いされるのも面倒臭ぇ。大人しく病院に搬送でもされて、奇跡の生還者とか呼ばれとけ」
「…、……お前さ、何してんの。自分が何したのか分かってんのかよ」
「あ?」
「――アレ。何百人死んだんだよ」

 崩れるビルを指差す。
 何百人ですら控えめかもしれない。
 下手したら千人以上死んでいてもおかしくない。
 しかし石流は私の問いに対して。
 今思い出したとばかりに後ろを振り返り。
 短くなった煙草を地面に投げ捨て靴底で揉み消しながら言った。

「知らね」

 は、と私の口から声が漏れた。
 そうか――あぁ、そういう事か。
 こういう事なんだろう。
 この世界は偽りの紛い物。


954 : got ist tot ◆Lap.xxnSU. :2022/08/21(日) 02:52:47 PIvkMWiU0
 その中で只一つ、聖杯という奇跡だけが眩しく輝き続けている…そんなセカイ。
 地獄より尚醜くておぞましい汚濁の底で。
 そんな事の一つ一つを気にしている私こそが間違いなのだ、きっと。
 叶えたい願いがあるにも関わらずそれ以外の有象無象に目を向けるなんて。
 それは教科書で見た紙幣を燃やす成金にも勝るあるいは劣る、傲慢なのだろう。

「…石流。お前さ」
「アーチャーって呼べよ、一応な。伊達藩(なじみ)の知り合いが居ると行けねぇからよ」
「……アーチャー。お前は聖杯に何を願うつもりだ?」
「聖杯なぁ。正直な所俺はそれに固執し過ぎるつもりはねえんだよな」
「は?」

 聖杯を求めないサーヴァント。
 そんなもの、存在からして矛盾している。
 抗議の目を向ける私に石流…アーチャーは一笑して言った。

「人生に不満はねえ。良い女とも巡り会えたし大概の良い思いはして来た。
 大概の輩は俺に逆らえなかったし、敵だっていつも鎧袖一触に薙ぎ払って来た。
 別段二度目の生を望む柄でもない。只、な。そんな俺の人生にも一つだけ足りない物があった」
「なんだよ」
「デザートだ。俺の人生にはたった一つそれだけが欠けていた」

 最強、最優。
 そんな言葉は数え切れない程浴びてきた。
 満足の行く人生だった。
 だが俺の人生にはデザートが無かった。
 そう言って黄昏れたような目をする姿がおかしくて。
 私は気付けば鼻を鳴らして笑っていた。
 「ガキは気楽でいいよな」とふて腐れたように舌打ちするアーチャーに私は言う。

「デザートなら食べてたよ」
「そりゃ良かったな。美味かったか?」
「食べかけなのにさ、床に落としちゃった」
「馬鹿だな」
「あぁ、私もそう思う」

 デザート。
 デザート、か。
 確かにそうかもしれない。
 違ったとしても結論は同じだ。
 私はアイツを…美琴を手放してしまった。
 他の何にも代えがたい上等な幸せを捨ててしまった。
 悔やんでも戻ることはない。
 一回床に落としてしまったなら。
 どんなに甘くて美味いケーキだって、もう二度と出されたその時の姿には戻ってくれないのだから。


955 : got ist tot ◆Lap.xxnSU. :2022/08/21(日) 02:53:11 PIvkMWiU0

「なぁ、アーチャー」

 それでもと願う。
 願ってしまうんだ、私は。
 私はカミサマなんかじゃなくて。
 所詮何処までも愚かでバカな小娘でしかないから。
 自分の手ではたき落としてしまった甘い憧れを取り戻したいと願ってしまう。

「聖杯の力で拾い上げたケーキは…ちゃんと甘いかな」
「決まってんだろ」

 救急車のサイレンの音。
 消防車のサイレンの音。
 群衆の悲鳴とシャッター音。
 ヘリコプターの飛び交うプロペラ音。
 あらゆる音、音、音、音。
 それに囲まれながら私はそいつの答えを聞いた。
 冗談みたいなリーゼントを素手で整えながら。
 その片手間に紡がれたその言葉は。
 酷くぶっきらぼうで粗雑だったけど。

「――甘くねえ奇跡なんざこの世には無ぇよ。どんな呪いでもな、願いが叶った時は蕩けるみたいに甘いんだ」
「…何を犠牲にしててもか?」
「当たり前だ。オマエは踏み潰した蟻の人生をいちいち想像すんのか?」

 まるでカミサマの聖句みたいな救いになった。
 そうか、そうだよな。
 奇跡なら仕方ないよな。
 甘くない奇跡なんて。
 都合の良くない奇跡なんて、この世にはないんだから。
 
「…自分が甘い思いするために他人を踏み潰すとか。オマエも――私も。とんだ極悪人だな」

 あぁ頼むよアーチャー。
 私だけじゃ踏み出せなかったんだ。
 でもオマエになら頼めるし任せられるよ。
 命令(オーダー)は一つだ。
 私を勝たせろ。
 オマエは好きなだけ甘い汁を啜っていいから。
 だから私に…最後の一口でいいから、一番美味い所を残しといてくれ。

「生きるってのはそんなもんさ」


956 : got ist tot ◆Lap.xxnSU. :2022/08/21(日) 02:53:47 PIvkMWiU0

 倫理観もクソもないこいつの物言いは。
 私の中にある余分な荷物を全部取り払ってくれた。軽くしてくれた。
 土手っ腹から血を流しながら私は笑った。
 乾いた笑いだった。
 改めて実感する――私はカミサマなんかじゃない。
 ただの人間だ。
 吊り下げられた餌に惨めったらしく飛びつく、下らなくてつまらない…人間だ。

【クラス】
アーチャー

【真名】
石流龍@呪術廻戦

【パラメーター】
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力A++ 幸運C 宝具B++

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。

【保有スキル】
呪術師(古):A
呪力を操る人間の事。
呪術師と呪詛師の区別が無い時代の出自である石流のスキル名称は現代術師のそれとは異なる。
術式の行使は勿論、呪力による肉体強化等幅広い応用の幅を持つ。

魔力放出(呪):A++
武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。
石流の場合は正確には魔力ではなく呪力を媒介にこのスキルを用いる。
その出力は術師の中で上澄みの上澄み。
紛れもなく最高峰の火力を実現している。


957 : got ist tot ◆Lap.xxnSU. :2022/08/21(日) 02:54:18 PIvkMWiU0

戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

【宝具】
『グラニテブラスト』
ランク:B++ 種別:対人・対軍・対城宝具 レンジ:1〜1000 最大補足:100
自身の頭髪(リーゼント)の先端から呪力を放出し放つ砲撃攻撃。
基礎の呪力操作の極致とも呼ぶべき技であり、攻撃範囲と射程距離、そして威力の全てにおいて折り紙付き。
最大で対城級の火力を発揮可能だが石流の随意にホーミングや拡散の性質も与える事が可能。
更にこれは厳密には石流龍という術師の術式ではなく、あくまで基礎の呪力操作の延長線上に留まるため、何らかの理由で彼が術式を使用できない状態に陥ったとしても平時と同等のパフォーマンスをする事ができる。

【weapon】
素手

【人物背景】
四百余年前の時代を生きていた術師。
肉体を転々とし悠久を生きる羂索によって現代へと受肉させられた存在。
だが今回英霊として召喚される際には、受肉後の肉体でありながら持つ記憶は死滅回游参戦前という特異な状態と化している。
この混線はそもそもからして死滅回游という儀式の発生が英霊の座にとってイレギュラーなものであった事が大きい。

【サーヴァントとしての願い】
生前見つけ得なかった最高のデザートの模索。


【マスター】
斑鳩ルカ@アイドルマスターシャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
自分の許を離れていった甘い時間を取り戻す

【能力・技能】
「カミサマ」と呼ばれカルト的な人気を博するある種のカリスマ。
だがそれは彼女の真に願う事、望む事を叶えてくれなどしない才能だった。

【人物背景】
カミサマ。
デザートのように甘く明るい日々を失ってしまった女。

【方針】
…聖杯に縋る事の意味は分かってる。
だけど……それでも。


958 : ◆Lap.xxnSU. :2022/08/21(日) 02:54:39 PIvkMWiU0
投下終了です


959 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/21(日) 15:48:37 5wvyplWQ0
投下させていただきます


960 : 新たな『冒険』の始まり ◆TPO6Yedwsg :2022/08/21(日) 15:50:49 5wvyplWQ0



 きみがいつか見た物語は、終わらない旅の途中だったんだ。




 水の中を揺蕩っている。
 こぽり、と呼吸が泡となって外に出ていくのを認識する。
 英霊の座、或いは異世界の座。
 そこから零れ落ちた一騎の英霊は、その仮初めの命の脈動を感じ取り、重い瞼を開ける。

『くすくすくす……』

 子供のような無邪気な笑い声が耳を打った。
 英霊の少年は意識も定まらぬ中、状況を確認する。
 彼は未だ召喚による現世への招待を承諾しておらず、即ちここは現世ではない。
 例えるならそう、夢の狭間。
 このような場所にあることについて、彼には少しばかり経験があった。
 誰かの意志と意志が繋がり合うことによって生じる心象世界。
 片方の意志は、無論自分だ。
 なら、もう片方とは誰なのか。

『やあ、おはよう。英霊さん』

 意識は未だ定まらない。
 この場所が夢であるせいか、瞼も半分以上は開かない。
 それでも、英霊の少年はそこにあるものを見上げ、認識した。

 それは、白い鯨だった。
 途方もなく巨大な、目の大きさ一つをとっても自分の背丈よりも大きい。
 生命という規格を逸脱した上位存在。
 そう、そこにいたのは『神』だった。

『くすくすくす……やっぱり、君にはぼくが見えるんだ。聖杯戦争って、面白いね。招待されて良かったよ。
君はきっとそんな小さな姿なのに、ぼくに似た存在なんだ。ねえ、ぼくの召喚を受けてくれる?』

 英霊の少年は困惑した。
 この巨大な白鯨は、己のことをマスターだというのか。
 未だ召喚が成されぬ中、微かな縁を辿り、召喚される『予定』の自分に夢の狭間から語りかけている。
 無垢にして無邪気、それ故の残酷さを感じた。
 静かな海の中、英霊の少年はそれを雨を齎す嵐であると直感する。
 気まぐれに全てを破壊し、気まぐれに恵みを与えるもの。
 彼の知る『神』とは『守護者』の側面の強い神格者が多かったが、この白鯨から感じるのは『生まれたばかりの子供』のような危うさだった。
 果たして、この召喚を受けることが正しいことなのか。

 英霊の少年は胸に手を当て、思案する。
 自分がぶつけるべき言葉は、最も大切なこととは何か。
 この存在を前に、多くの事柄をぶつけるべきではないと思った。
 聖杯にかける願い? 違う。
 世界をどうするつもりなのか? 違う。
 一番大切なことは、その一時のみの感情や目的ではなく、危険を顧みることでもない。
 意を決して、口を開く。

『君は、何をしたいんだ?』

 危うくとも、無邪気で残酷であろうとも。
 少年は、先ず彼を信じるための言葉を選んだ。
 自分がどうするべきかではなく、聖杯の行方という大義でもなく。
 そうだ、まだ自分たちはこうして出会ったばかりだ。
 何かをしたわけではなく、何かを語り合ったわけでもない。
 たとえそれが途方もなく大きな力でも、引き金を引くのはいつだって小さな意志の力に他ならない。
 それを恐れ、排斥することは、自分の信じた道を裏切ることだ。

 英霊の少年がまっすぐに白鯨の瞳を見つめる。
 その在り方は大海に灯る一筋の篝火のようで。
 ややぼんやりとした間あって、白鯨は言葉を返した。

『冒険が、したいなあ』

 そこに、危うさはなかった。
 昨日の出来事をまるで遠い昔のように思い返す、懐旧の心があった。
 貴い思い出に身を浸すその姿からは、僅かばかりに無邪気さが薄まっているように見えた。

『あの時みたいに、最高に楽しくて、最高にスリリングな、何より夢中になれる冒険。
みんなと一緒に大きなものと戦って、たくさんのものを得て、時には失って……それでも取り返して。
そんな冒険があることを、ぼくは彼女に教えて貰ったんだ。くすくすくす……』

 きっとそれは、たまたま今は天秤が良い方向に傾いているだけなのだろう。
 何か悪しききっかけがあれば容易く反転するのだろう。
 それでも、それは無垢な魂に芽生えた善心だった。
 信じるべき光だと、彼は思い、頷いた。

『分かった。一緒に行こう』

 英霊の少年がそっと白鯨に触れる。
 そこに、遠くとも確かな繋がりが生じたことを認めて。
 ゆっくりと浮上し、白鯨から離れていく。
 座という深海から、縁を手繰り地上へと。
 そして、白鯨の現身である『少女』を見つけ――そこに手を伸ばした。


961 : 新たな『冒険』の始まり ◆TPO6Yedwsg :2022/08/21(日) 15:51:21 5wvyplWQ0



 欠けた夢を見ていた。
 都内のインターナショナルスクールの学生である茶髪の少女は突っ伏していた机から頭を離し起き上がる。
 どうやら今日の授業は終わったようで、友人たちは呆れたように少女を見やると一人、また一人と帰宅していった。
 少女はとても気分屋で、優等生な時もあれば問題児な時もある不思議な子であると認識されていた。
 ある宗教国家から母とともに日本にやってきて、もうどれくらい経つだろうか。
 異国の学生生活は新鮮で、毎日が楽しかった。
 しかし、最近は何だか物足りなさを感じていた。
 その答えを自分は知っているはずなのに、どうにも思い出せない。

 そんなモヤモヤを抱えて数日。
 今何か、欠けた夢を見ていた気がする。
 夢の内容は思い出せないが、それが今の自分に欠けた何かだと、そう思えてならなかった。
 だから少女は手を伸ばす。
 手の届かない思考の先、夢の先へを手を伸ばし、そして。

 そして、少女は思い出した。

「……あーッ!」

 叫びながら勢いよく椅子から立ち上がる。
 周囲が何だ何だ、いやいつものことかと反応するが、意にも介さない。

「そっか! ボクは『エール・モフス』だ!」

 そして高らかに自分の名前を叫ぶ。
 今更こいつは何を言ってるんだ、いやいつものことかという視線を受けるが、やはり意にも介さない。

「とうッ」

 エールは教室の窓枠に足をかけると、そこから豪快に飛び降りをかます。
 ここでようやくいつものことじゃねー! と周囲が慌てるが、エールは2階の高さから満点の着地をした。
 およそ、13歳の少女の身体能力ではなく教室がざわめくが、やがてまあエールだし……ということで終息していった。

「がははははー!」

 走る、走る、尋常ではない速さで走る。
 目指すは母の待つ自宅、チャリを追い抜き不良を轢き殺しサラリーマンを踏み台に、途中でちょっと占い屋に寄ったりしつつエールは走った。
 そして、自宅の扉を開け放つ。

「お母さん!」

「おや、お帰りなさいエール。どうしましたか?」

「ボク、聖杯戦争に行ってくる! 冒険の時間だ!」

「はあ」

 エールは何の躊躇いもなく今しがた脳裏に刻まれた情報をぶちまけ、エールの母は小首を傾げつつもエールをテーブルにつかせるのだった。


962 : 新たな『冒険』の始まり ◆TPO6Yedwsg :2022/08/21(日) 15:51:51 5wvyplWQ0



「なるほど分かりました。学校の方には休学届を出しておきましょう」

 エールの語る与太話としか思えない内容を、母はあっさりと信じた。
 一体どういう神経をしているのだろうか、この子にしてこの母ありというものである。

「では、これからどうしますか。エール」

「仲間を増やす! サーヴァントを呼ぶ!」

「なるほど、貴方の相棒というわけですか。で、どうやって呼ぶのです?」

 この母は本当の母ではない、NPCというものらしい。
 しかし本当の母そっくりの寛容さでエールの行いを許してくれた。
 エールの方はというと、サーヴァントの召喚についての知識を頭から捻り出そうとしているが、やがて面倒くさくなったのか。
 まるでこの指とまれと言わんばかりに右手の人差し指を前方に突き出した。風情もへったくれもない。
 しかし、エールにとってはそれで十分だった。

「おや……」

 エールの母は、何処からか風が吹いてくるのを感じた。
 窓を締め切った屋内に、風など吹くはずがない。
 しかし、風はそこにあった。
 それは希望を象徴する西方より来る風。
 その風はエールの指に優しく絡みつき、その場で光となっていく。
 英霊という一種の怪物の顕現にしては、どこまでも優しい『この指とまれ』。
 そしてその指に、一つの手がとまる。

「初めまして。僕はサーヴァント・アーチャー」

 現れたのは、エールより少しばかり年上の、あどけない青髪の少年だった。
 ウエスタン風の軽装と装備に身を包んだそれはきっと、エールと同じ腕利きの『冒険者』。
 エールの求める仲間が、そこにいた。

「真名は、『ロディ・ラグナイト』です。よろしく、僕のマスター」

「よろしく、アーチャー。エール・モフスです。一緒に冒険してくれますか?」

「勿論。一緒に行こう」

「やったぜ!」

 キラキラとした視線を向けてくるエールに、ロディは苦笑いする。
 ああ、この子は本当に冒険が好きなんだ。
 この戦争の先に待つものが楽しいことばかりではなく、苦しい決断や選択を繰り返すであろうことは言うまでもなく承知のことで。
 その上で、この冒険を精一杯楽しみたいと思っている。
 救えるものも、救えないものもあるだろう。けれど人生はそういうもの。
 それらすべてを楽しむことを、この子は知っている。
 それはきっと稀有で素晴らしい素質だと、ロディは思う。
 そう思っていると、エールがロディの頭に蜜柑を乗せてきた。ロディは困惑した。

「あの、これは何?」

「よし、仲良く話せたな!」

「えっと……マスター??」

「では、エール」

 そんなことをしていると、エールの母がなにか小包を持ってくる。
 テーブルの上に中身を広げると、そこにあったのは通帳だった。

「折角の冒険なので、終わるまで帰ってこないように。この通帳の資金は好きに使いなさい。
数ヶ月分のホテル宿泊費には足りるでしょう」

「わーいやったー。ありがとうお母さん」

「え、ええ!? いいんですか? 心配じゃ……」

「子はいつか冒険に出るものです」

「すごい親子だ……」

 そんなこんなで、エールの新たな冒険が始まりを迎えた。
 異世界でのロール如きではエールはおろか、NPCであるはずのエールの母すら縛り付けることはできなかったのである。
 異なる世界の異なる自由の形を目の当たりにし、ロディは若干苦悶の表情を浮かべた。


963 : 新たな『冒険』の始まり ◆TPO6Yedwsg :2022/08/21(日) 15:52:35 5wvyplWQ0



 区をいつくかまたいだ先のホテルに宿泊すると、エールは着の身着のままベッドへと飛び込んだ。
 上質なスプリングにより勢いのついたエールの体がよく弾む。
 霊体化してようかとロディは提案したが、エールはそれじゃ一緒に冒険する意味ないじゃんとぶーたれたのでロディも一緒だ。

「アーチャーの冒険の話、聞かせて」

「僕の話? そうだな……」

 2人は異なる世界で異なる冒険をしていた同業者だ。年齡もほど近い。
 エールはルドラサウム大陸を、ロディはファルガイアを旅して回っていた。
 ロディにとって、『渡り鳥』として世界を流離うきっかけとなったのは、祖父の死だった。
 唯一自分を受け入れてくれた祖父を失ったことにより世界に一人ぼっちになったロディは、自分を受け入れてくれる場所を求めて旅に出る。
 培った力を誰かのために使うことができればと、各地で仕事を受けて回った。
 時には排他的な地域で、恐ろしい力の持ち主として忌まれたことも少なくはなかった。
 けれど、ある国で古代遺跡の発掘の仕事を請け負った際、運命の出会いを果たす。
 復讐のためにその牙を研ぎ澄ませてきたトレジャーハンターの剣士と出会った。
 10以上も年の離れた大人である彼は、気さくにロディを仲間として扱ってくれた。
 姫という身分を隠した修道女の魔法使いと出会った。
 世情に疎いものの上品で頑張り屋な少女は、ロディの知らないたくさんのことを教えてくれた。
 そして起こったのは古の存在『魔族』の復活。
 ロディは2人とともに世界を救うための旅に出て、そして……。

「アーチャーも世界を救う旅をしてたんだ。おそろいだ」

「マスターもそうなのかい?」

「うん、ボクはね……」

 エールのきっかけは、13歳の誕生日。
 突如母からカミングアウトされた、自分が『魔王の子』であるという事実。
 『魔王の子』は世界各地に存在し、まだ見ぬ兄妹たちと出会い魔王を倒すのですと突然家から放り出されたという。
 実のところそこにはとてつもなく複雑な事情が絡んでいるのだが、エールはそのことを知る由も無い。
 慣れ親しんだ村を出て、荒野を歩いた。
 道中でおかしなハニー『長田君』と出会い、友達となった。
 魔物をしばき倒し、盗賊をしばき倒し、様々な国を巡り、兄と出会い、姉と出会った。
 たくさんの冒険を重ね、たくさんの夜を経て、たくさんの仲間と経験を得た。
 吹雪の中で遭難してしまった時は、独りであることの寂しさに気づいてしまい泣きそうになった。
 魔王と戦った時は手も足も出ず、自分が死ぬことよりもみんなが死んでしまうことが怖かった。
 そして、冒険が終わって。
 寂しいけれど、兄妹のみんなと笑顔で『またね』をして、家に帰った。
 帰ったら母が『お帰りなさい』をしてくれたから、エールは『楽しかった!』と返した。
 冒険は終わったけれど、きっとまた、冒険に行こう。
 そうして今、エールは次なる冒険へのチケットを手に取ったのだ。

「だから、帰るのは『この冒険が終わったら』でいいんだ」

「帰り道が、なかったとしても? 帰るためには悪いことをする必要があるとしたら、どうする?」

「うーん。その時考える。今はとにかくいっぱい観光して、いっぱい戦って、いっぱい食べて、いっぱい話して、いっぱい寝る!」

「そうか……うん、そうだね。じゃあ、僕もそうしようか」

 先行きが見えないことへの不安はない。
 荒野の先は常に未知の世界であり、自分こそが最初の一歩を踏み出すもの。
 無明の闇の中、灯火を手に進むことこそが『冒険』であるのだから。

 希望は、いつだって胸の中にある。
 それは何処にいようとも失われることはなく、今も西風は変わらず吹いていた。


964 : 新たな『冒険』の始まり ◆TPO6Yedwsg :2022/08/21(日) 15:53:02 5wvyplWQ0
【クラス】
アーチャー

【真名】
ロディ・ラグナイト@ワイルドアームズ アルターコード:F

【パラメーター】
筋力A 耐久A 敏捷E 魔力E 幸運-(A+) 宝具A

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:-
その生まれの所以からロディは魔力に対する抵抗力を一切有さない。
クラス補正であろうと、これを覆すことはない。

単独行動:A
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
依り代や要石、魔力供給がない事による、現世に留まれない「世界からの強制力」を緩和させるスキル。
Aランクであればマスターが不在でも7日間は現界可能。
ロディはファルガイアの冒険者、『渡り鳥』として若くから一人旅を続けていた。

道具作成:C
渡り鳥は冒険を補助する様々な固有アイテムを持つことから、ロディは限定的な道具作成スキルを持つ。
魔力を消費し、旅に必要な道具やかつて使用していた便利なグッズを作成できる。
野外活動の道具やサブウエポンとして使用できる剣、設置型の爆弾(セットボム)、宝物や隠し通路を探知するセンサー(ディテクター)、
筋力を増強し巨大な障害物を動かせるようになる手袋(マイトグローブ)、投擲型の爆弾(グレネード)などが作成可能。

【保有スキル】
精神同調:A++
『生きた金属』と心を通わせる特殊な精神感応能力。
『心ある機械』に類する存在に対しロディは破格の同調能力を持ちそれに干渉、操作、分析することができる。
A++ランクともなれば、鋼鉄の肉体を持つという魔族と同等のランク。人間業ではなく、人間ではありえない。
このランクの精神同調の持ち主は『人類の脅威』属性を付与される。

ロックオン:A
高ランクの精神同調から派生する、ARMを用いた射撃に対する必中効果付与。
魔力を消費することで敏捷の差に関係なく弾丸及びカートリッジによる射撃の命中率を100%に引き上げる。
特殊な回避の加護を持つ相手にはスキルランク差に応じた幸運判定が発生する。
後述の宝具『銀の左腕』と併用することによって更に威力の向上、消費した弾丸の自動補給、クリティカル率の上昇効果が付与される。

造られし希望の心:EX
本来は『希望のかけら(ファンタズムハート)』という宝具であり、スキルとして発揮されるのはそのごく一部の効果。
ロディはその生まれの所以から幸運ステータスを持たないが、このスキルが擬似的な『A+ランクの幸運ステータス』を発生させる。
人造生命体、それも人類と敵対する魔族を模して作られた存在でありながら、ロディは人と共にあった。
極めて危険な心無き兵器であったはずのそれはしかし、祖父ゼペット・ラグナイトから教わった他者の痛みに共感する優しさを持ち続けた。
造られた心は遂に『愛』と『勇気』に認められ、『希望』を甦らせるに至った。
これはただそこに『希望の少年』が存在している、その事実を示すもの。
その生まれにどれだけの悪性、どれだけの相容れぬ理があろうと、希望となりうることを示すもの。


965 : 新たな『冒険』の始まり ◆TPO6Yedwsg :2022/08/21(日) 15:54:27 5wvyplWQ0

【宝具】
『Alte Ratselhaft Machine(アルテ・レーツェルハフト・マシーネ)』
ランク:A- 種別:対人~対軍宝具 レンジ:1~5 最大補足:50人
大戦時、鹵獲した魔族から得た『生きた金属』を用いて作成されたARMと呼ばれる超兵器。
名ARMマイスターであったゼペット・ラグナイトが孫であるロディに合わせて調整・改造を施した銃型ARM。
用途に合わせたカートリッジを装填することにより、個人携行兵器としては不釣り合いなほどに幅広い攻撃手段を展開できる。
カートリッジは威力に秀でたもの、範囲に拡散するもの、規格外の連射を行うものなど様々。
しかし、それ故に並み居るARMの中でも群を抜いて複雑な構造であり、おおよそ人間に扱える構造ではない。
ARMと極めて高い精神感応性を示すロディだからこそ性能をフルに発揮することが可能となっている。
なお、銘は『古く謎めいた機械』を意味し、頭文字を繋げるとARMとなる。

『銀の左腕(ガーディアンブレード・アガートラーム)』
ランク:EX 種別:対人宝具(自身) レンジ:1 最大補足:1人
ロディの左腕と一体化したガントレット。
一度左腕を失ったロディに与えられた、『生きた金属』を素材とした新たな腕。
発動することによりARMの出力が暴走レベルで上昇し、それを制御することができる。
この宝具のランクがEXである所以は素材となった『生きた金属』が最上級のものであること。
そして『ロディの左腕』が数多の未来、可能性に波及し新たな存在を生み出したことにある。
それは特に具体的な宝具効果を持つ訳ではないが……少なくともこの左腕は決して砕けることはないだろう。

【weapon】
ARM

【人物背景】
祖父ゼペット・ラグナイトに拾われ養育を受けた孤児の少年。
ARMへの高い同調能力、同世代にはない怪力などから迫害を受けたが、絶望することなく優しい祖父の下で育つ。
祖父の死後ファルガイアを旅する『渡り鳥』として独り立ちし、15才ながら険しい荒野を渡る腕利きとして活動する。
その後仲間と運命の出会いを果たし、復活した『魔族』との戦いに身を投じる。
戦いの中左腕を失う重傷を負い、自らの禁じられし出生、大戦期に製造された鹵獲した魔族をベースとした人造生命体であることが明らかになる。
しかし自らの出生が人類の敵であろうと、手を差し伸べてくれた仲間のため、愛する祖父と世界のため戦い続けた。
造られた心はやがて人に並ぶどころか凌駕し、荒廃した世界から失われた概念の一つ『希望』を宿すに至った。
尚『ロディの左腕』はシリーズを通し特別な意味を持つこととなり、失われたロディの左腕が次回作で聖剣の素材になったとか、
ロディは『未来を司る守護獣』として昇華されたとか、いろんな裏話が語られている。
「造られた存在でありながら『希望』に至ったロディの在り方を何らかの形で『次』に繋げたい」という製作者の想いは、
後発のナンバリングタイトルは勿論作品の枠組みを超えシンフォギア世界にも届いている。
一人称は確定的ではないが、今回は公式小説に則り『僕』とする。
仲間でもひとまわり年上の者には敬語を使うが、年が近い相手にはフランクに話す。

【サーヴァントとしての願い】
特に無い。渡り鳥として困っている人に手を差し伸べる。
最優先の仕事は、マスターを守ること。


966 : 新たな『冒険』の始まり ◆TPO6Yedwsg :2022/08/21(日) 15:55:41 5wvyplWQ0

【マスター】
エール・モフス(茶・女)@ランス10

【マスターとしての願い】
特に無い。未知の世界を冒険する。

【能力・技能】
神魔法Lv2、剣Lv1、魔法Lv1。
原作終了後、帰宅して父親の如くレベルが下がった状態からの再スタートを想定。
魔王と戦っていた頃の限界突破したレベルは溶けてしまいました。
現在の想定レベルは72。AL魔法剣、上級ヒーリングまでの神魔法を使用可能。
サーヴァントにも匹敵するであろうレベル252の力は失っているが、それでもマスターとしては優秀。
ヒーリング、側面排除、状態回復などのサポートからAL魔法剣による強力な攻撃まで一通りをこなす神官剣士。

【人物背景】
みんな大好き茶エールちゃん。鯨も見てるよ。
時には丁寧で、時には天然で、時には暴走するランス10第2部の主人公。
公式曰く『プレイヤーの数だけエールが存在する』無限の可能性を秘めた器。
聖杯戦争については良くも悪くも現状は冒険感覚。
召喚された相方に色んな意味でシンパシーを感じ表も裏も興奮している。

君も無口で雄弁なんだね!(きみも心を知らなかったんだね)
それでいて冒険者なんだ!(それなのに今は希望と未来の力を持ってるんだ)
ボクたちって、なんだか似てるね!(ぼくもね、教えてもらったんだ。人間の楽しさを)

ちなみに茶エールちゃんは13歳で146cm、ロディは15歳で158cmである。

【方針】
聖杯戦争に参加する。どうするかは流れで決める。

【備考】
中距離戦闘で絶大な威力を叩き込む銃系アーチャー。遅い行動速度を火力とタフネスで補う固定砲台。
ロックオンによる必中効果は特殊な回避や無敵効果を持たない限り確実に敵にダメージを与えるため、物理消耗戦に秀でる。
問題はこっちも遅いのでダメージを食らうことと、魔術攻撃への抵抗力がカスなところ。エールちゃんのサポートで補おう。
ロディとエール、どちらも原作において『喋らない系主人公』。地の文や動き、戦闘ボイスで雄弁になるタイプ。
そしてどちらも『心無い怪物が母(祖父)を得て人の心を学び、世界を救うに至った少年少女』である。
流石に地の文だけで動かすスタイルは無理があるので台詞は普通に。


967 : ◆TPO6Yedwsg :2022/08/21(日) 15:56:10 5wvyplWQ0
投下を終了します


968 : ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/22(月) 21:04:49 pVxJH3Nk0
投下します


969 : ■■■■&アーチャー ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/22(月) 21:05:13 pVxJH3Nk0
撃つ。殺す。片付ける。
撃つ。殺す。片付ける。
撃つ。殺す。片付ける。
繰り返し、繰り返し、無限にも思える刻の中で、ひたすらに同じことを繰り返す。
ゴミ掃除のように、淡々と、粛々と。

何も思わない、何も感じない。
傭兵として、執行者として、仕事を為すだけの、機械人形。

積み上げられ、崩れゆく屍の海に目をくれず、男は次の獲物を探す。
次の獲物は銃を持った男だ、狙いを定め、殺した。
次の獲物は刃物を持った狂人、狙いを定め、殺した。

殺した、殺した。
殺して殺して殺して殺して、殺し尽くす。
あらゆる悪の痕跡を滅びす尽くさために。
あらゆる悲劇の可能性を根絶し尽くすために。

男には、それしか残っていなかった。軋んだ機械の、錆びた歯車。
理想も思想もとうの昔に擦り消えた。残骸以下の動死体(リビングデッド)。
死臭の血溜まりを踏みしめ、何もかもが黒に染まった誰かが、再び銃を握って、悪を殺す。
何もなく、何も抱えず、下された責務を動力源に動く機械のような。
無銘の刀剣。誰かに使われる、ただそれだけの存在。
それが、この男なだけであった。


――――■■■■。かつて正義の味方を目指した男、その残骸。
心を剣(てつ)に変えた、その末路。
それ以外の、それだけしか残らなかった、そんな男だった。


『その為に多くの命を踏みにじった。であれば今回も例外は許されません。』
『どうぞ思うままに、無銘の執行者。』
『最後の責務、存分に果たされますよう──』


970 : ■■■■■&アーチャー ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/22(月) 21:05:45 pVxJH3Nk0






市立病院に、一際清潔な、と言うよりはまるで隔絶されたような一つの病室があった。
別に物理的に、外面的に隔絶されているわけではない。
コールを叩けばナースやかかりつけ医がやってくるし、簡素とは言え美味しい病院食も届く。他の患者とも交流はあるため孤独というわけではない。
端的に言うなら、この病室のベッドの主である少女には、記憶が無かった。
少女は、世界から隔絶された存在だった。

意識を取り戻した時から、彼女の両足は動かなくなっていた。
両足不随の記憶喪失者。引取先も見つからず、現状の少女の家はこの病院となっていた。
幸運にも病院関係者には善人が多かった。彼女の引取先が見つかるか、彼女の記憶が戻り帰る場所がわかるまではこの病院で暮らす生活が続くことになっている。

何度目の雪の夜か。月明かりに照らされた病室から、物憂げに窓から月だけを少女は見つめていた。
自分が何だったのか、誰にとっての何かだったのか。それすら思い出せない。
病院の人たちがどれだけ心優しくとも、彼女の本当の孤独を癒やすものは誰も居なかった。
茫洋と、窓越しの雪景色を見るのが彼女の日課となっていた。

――ただ、一つ。変わったことがあった。
右手に、赤い痣のようなものが浮かび上がっていた、二重丸に一線食わせたようなシンプルな模様の痣だ。
医者に見せても、分からなかった。何度か検査はしたが、原因不明だが特に身体の異常に関わるようなことではなく、少女当人も気にしないことにした。

何日かが経った。何も変わらない日々だけが続いている。
夜の赤い痣が不規則に光り輝くこともあったが、それすらも普通として受け入れられている。
そのたびに、少女の中にある何かが疼く。忘れていたものの蓋が開くような感覚。
それがなんなのか、未だ彼女にはわからなかったけれど。

「――私は。」

それでも、知りたかった。
それでも、思い出したかった。
自らの記憶の蓋、何故こうなったのかという断崖の扉の前。
いや、比喩としての扉はあった。眼前にある、光の粒子の塊。
手を伸ばす。それが自らに繋がる欠片だというのなら。
手を伸ばす。それが欠けた自己を補完するものであるというのなら。

できる限り手を伸ばす。それでも光には届かない。
だが、その光は塊というよりも徐々に人の形に集ってゆく。
光が薄れ、人の形として完成した"それ"は、余りにも黒いものだ。

鉄塊のような男であった。肉体的にではなく、精神的に。
黒ずんだ肌は、擦り切れた、もとい摩耗の象徴にも思えた。
白い眼から垣間見る眼光が、獲物を見定める狩人の如く、少女を見据えている。

「……全く、辺鄙なマスターに選ばれたものだ。」
「……ッ。」

男が、初めて口を開く。
重かった、何処までも。銃の引き金を初めて引くような錯覚。
命そのものが刈り取られそうな、そんな衝動だけが、少女の心に響いていた。

「問おう、アンタが俺のマスターか?」

男は、問う。少女に。
その刹那、彼女は思い出す。彼女が何物であるのか。
……何も思い出せなかった。最初から、彼女には何もなかった。
その代わりに、頭に流れたのは知らない知識の放流。


971 : ■■■■■&アーチャー ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/22(月) 21:06:32 pVxJH3Nk0


――聖杯戦争。英霊たちを従わせ、殺し合う。万能の願望器たる聖杯を手にするための戦い。
それが異界東京都、この世界の真実。

「……!!?」

少女は思い出せなかった。代わりに、この世界が殺し合いのためだけに生まれ。
殺し合いのためだけに、この世界に呼ばれたことを。少女は思い出した。

「……どうした?」

男が、目の前のサーヴァント、と言う先程知識として手に入れ理解した人物が問いかける。
途端に恐怖が襲いかかった。怖かった。何も思い出せない自分が、誰でもなかった自分が。
それでも、恐る恐る、少女はサーヴァントへと、声をかける。

「……はい。おそ、らくは。……あなた、は。私の、サーヴァント……?」
「そういうことになるな。」

震える少女の声に、男は答えた。
この男は自分のサーヴァントだというのはわかった。
それが、この殺し合いに選ばれた証拠。赤い痣――刻まれた令呪と共に、聖杯戦争の参加者であることを示す印。

「サーヴァント、アーチャー。……中身のない、ただのつまらない執行者だ。」

アーチャー。弓兵のサーヴァント。
その言葉が、なにか引っかかった。
でも、何も思い出せなかった。
でも、一つだけわかったのは、彼もまた、自分と同じく過去が無い誰かであったことぐらい。





■■■■■■■■


972 : ■■■■■&アーチャー ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/22(月) 21:07:28 pVxJH3Nk0



わからない場所にいる。

わたしは誰? あなたは誰?

何もわからない、何も思い出せない。

わたしはどうしてこんな所にいるの?

わたしはこんな所で何をしていたの?

わからない、分からなくて、怖い。


『大丈夫、私がなんとかする。』


しらない女のひとが、わたしにやさしくかたりかけている。

なつかしい面影、なつかしい匂い。

その髪の色も、何もかもがなつかしくて、尊くて。


『私は■■■■。あなたは■■■■。あの子は■■■■』


きこえない(ノイズ)、きこえない(ノイズ)、きこえない(ノイズ)。
わすれても、わすれられない、おんなのひとのこえ。


『三人は友達だよ。ズッ友だよ』


それだけ言って、おんなのひとはどこかへいってしまいました。
ともだち、あのひとはわたしのともだちだったのでしょうか。
それもおもいだせません。それすらおもいだせません。
でも、その言葉だけは、私ははっきりと覚えています。








私たちは三人は友達だった。
今は名前も思い出せない誰かだけれど。
それでも、その誰かを、その言葉を覚えている限りは。
生きたいと、死にたくないと、そう思っています。


973 : ■■■■■&アーチャー ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/22(月) 21:07:54 pVxJH3Nk0
【クラス】
アーチャー
【真名】
エミヤ・オルタ
【属性】
混沌・悪・人
【ステータス】
筋力:C 耐久:B 敏捷:D 魔力:B 幸運:E 宝具:E〜A
【クラススキル】
『対魔力:D』
詠唱が一工程(シングルアクション)の魔術を無効にできる。

『単独行動:A』
マスターからの魔力供給を断っても自立できる能力。宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。

【保有スキル】
『防弾加工:A』
最新の英霊による「矢除けの加護」とでも言うべきスキル。防弾、と銘打っているが厳密には高速で飛来する投擲物であれば、大抵のものを弾き返すことが可能。

『投影魔術:C(条件付きでA+)』
道具をイメージで数分だけ複製する魔術。アーチャーが愛用する『干将・莫耶』も投影魔術によって作られたもの。 投影する対象が『剣』カテゴリの時のみ、ランクは飛躍的に跳ね上がる。 この『何度も贋作を用意できる』特性から、エミヤは投影した宝具を破壊、爆発させることで瞬発的な威力向上を行う。

『嗤う鉄心:A』
反転の際に付与された、精神汚染スキル。精神汚染と異なり、固定された概念を押しつけられる、一種の洗脳に近い。与えられた思考は人理守護を優先事項とし、それ以外の全てを見捨てる守護者本来の在り方をよしとするもの。Aランクの付与がなければ、この男は反転した状態での力を充分に発揮できない。

【宝具】
『無限の剣製(アンリミテッド・ロストワークス)』
ランク:E〜A 種別:対人宝具 レンジ:30〜60 最大補足:不明

錬鉄の固有結界。剣を鍛える事に特化した魔術師が生涯をかけて辿り着いた一つの極致。
『無限の剣製』には彼が見た「剣」の概念を持つ兵器、そのすべてが蓄積されているが、このサーヴァントは相手の体内に潜り込ませて発動させる性質となっている。
本来は世界を引っ繰り返すモノを弾丸にして放ち、着弾した極小の固有結界を敵体内で暴発させる。そこから現れる剣は凄まじい威力を以って、相手を内側から破裂させる。

【人物背景】
理想を喪った男

【サーヴァントとしての願い】
???






【マスター】
■■■■■(鷲尾須美)@鷲尾須美は勇者である

【マスターとしての願い】
死にたくない。

【能力・技能】
今は、ない。

【人物背景】
記憶を喪った少女


974 : ◆XJ8hgRuZuE :2022/08/22(月) 21:08:07 pVxJH3Nk0
投下終了します


975 : ◆As6lpa2ikE :2022/08/22(月) 23:57:54 ryYDKqtA0
投下します


976 : HiGH school boy & LAW ◆As6lpa2ikE :2022/08/22(月) 23:59:16 ryYDKqtA0
異界東京都に根を張る暴力の世界に、もはや安息の領域は無かった。
無敵の称号をほしいままにする『関東卍會』を筆頭に、いくつもの勢力が入り乱れ、連日連夜いくつもの事件が勃発。
まさに異界の如き混迷を極めている。
そんな戦場において、特に名の知れた集団があった。
その名も、鬼邪高校。
都内某区の私立高校でありながら、暴力の世界の勢力図に名を連ねているそこは、全国から札付きの粗暴者が集まるヤンキー校である。
将来有望な悪童の巣窟であるが故、その筋からのスカウトが絶えず、在校生たちはより良いスカウトを得るために留年するのは当たり前。
5度の留年など珍しくもなんともなく、校内で石を放れば20歳を超えた生徒に当たること間違いなし。平均年齢はなんと23歳。
そんなあまりにも桁外れな無法ぶりから、ついた異名は『漆黒の凶悪高校』。
鬼邪のてっぺんに立つ方法はただひとつ──古くからの伝統である『選りすぐりの粗暴者たちによる拳100発を耐える試練』の達成。
長年、そんな無茶を達成できる者が誕生せず、鬼邪は頭の存在しない無軌道な不良集団となっていた。
しかし、ついにそれを成し遂げ、鬼邪高初代番長になった者がいた。
100発の拳に耐えるタフネスを持ち、拳のみで不良たちのてっぺんに立つ戦闘力を備える、最強の男。
彼の名は──




977 : HiGH school boy & LAW ◆As6lpa2ikE :2022/08/22(月) 23:59:36 ryYDKqtA0
それは殴打という粗暴な行為でありながら、実に美しかった。
まるで黄金長方形の螺旋をなぞるような軌道で放たれた拳は、吸い込まれるようにして顔面の中心部に直撃。鼻の骨が折れるというより、いっそ潰れるような音が鳴り響き、鼻血が噴出する。この時点で殴られた相手の眼球はぐるりと縦に回転して白くなり、気を失ったのは明白だった。
しかし最後の悪あがきか、それとも何かしらの強い意志に基づいた行動か──既に気絶しているはずの誰かは、掴みかかるようにして両手を突き出す。
その右手の甲には、赤黒い紋様が刻まれている。
それは、彼が聖杯戦争の参加者であることを示す、『令呪』なる刻印だった。
しかしその紋様はその者だけの特徴ではない──そいつを殴った少年の拳にも、似たようなものが刻まれていた。

「ォラアッ!!」

少年は令呪を宿した拳を再度握り、ちっぽけな悪あがきごと相手を殴り飛ばした。
名も知れない誰かは次こそ活動を停止し、そのまま地面に倒れ伏す。
聖杯戦争の参加者と雖も、その体は人間。生物の域を出ていない。気を失うようなダメージを負えば、戦闘不能は免れないのは道理だった。
少年の、拳ひとつで聖杯戦争の参加者をねじ伏せる戦闘力は、まさに鬼神。
それもそのはず。
なにせ彼は鬼邪高校初代番長にして最強の不良──村山良樹なのだから。

「うっし、おしまーい」

村山は間延びした声で勝利宣言をした。
その息に乱れはない。
彼にとって、今しがたの戦闘が大した疲労になっていない証拠だ。

「ライダーは上手くやってっかな」

呟きながら頭を掻く。バンダナでまとめ上げた黒髪がクシャクシャと揺れた。
村山はそのままのんびりとした調子で歩き出した。
彼が今いるのは、都内某湾岸地区にある大型倉庫だ。
二車線はある道路の脇には体育館くらいの大きさの倉庫が、いくつも建ち並んでいる。
しかし、視界の先に目を向けて見ると、そこには驚愕すべき異常が広がっていた。
倉庫が、バラバラに、なっている。
内部に収蔵するものを保管すべく分厚く作られていた壁も、頑丈な材質と構造で成り立っていたシャッターも、その全てがバラバラになり、滑らかな断面を晒していた。
バラバラになっているのは倉庫だけではない。
視線を動かしてみると、港に泊まっていたのであろう小型船の舳先『だけ』や輸送トラックの荷台『だけ』が倉庫の壁や道路のアスファルトに深々と突き刺さっていた。挙句の果てには地面そのものに鋭利な刃物を通したような切断面が走っている始末。
見渡す限りあちこちがバラバラ。
まるで巨人の剣士が暴れまわったかのような、異様な破壊。
しかし、これを為したのが自分のサーヴァント、ライダーであることを知っている村山は、大して驚くこともなく、通り過ぎた。
やがて破壊の中心部に辿り着く。
そこではひとりの男が、地面に座っていた。
ヒョウ柄の帽子に、黒いコート。
全身からどことなく漂う不吉な雰囲気は、他者に死神を連想させるだろう。
男は村山の登場を認めると、顔を上げた。その両目には濃い隈があり、前述した不吉さを更に強調していた。


978 : HiGH school boy & LAW ◆As6lpa2ikE :2022/08/23(火) 00:01:17 6dk2elOg0
「終わったか村山屋」

低い、冥府の底から響くような重みのある声だった。

「まーね。楽勝楽勝」ぶい、と片手で勝利のサインを作る村山。「ていうか派手に暴れたなー、ライダー。倉庫とかトラックって、弁償することになったらいくらになんだろ。バイクの何倍?」

「俺が知るか」

ライダーと呼ばれた男は興味無さそうに吐き捨てながら、体を僅かに傾けた。それと同時に、「ぐえ」と第三者の呻き声が響いた。
地面に座っているライダーは、行儀悪くアスファルトに腰を直接下ろしているのではなく、間に何かを挟んで座している。
その『何か』は、サーヴァントの胴体だった。
先程見かけた倉庫やトラックのようにバラバラになった胴体が、断面から一滴も血を流すことなく、エーテルの漏洩も起こさずに、クッションのようにライダーの尻に敷かれている。
見れば、胴体の他にも腕や脚、頭までもがバラバラになり、乱雑に転がっていた。先程の呻き声は頭部から発せられたものなのだろう。
驚くべきことに、バラバラにされた何某はこんな状態になってもまだ生きていた。
生物非生物に関係なく、どころか英霊(サーヴァント)であろうとその強度を無視して分解し、自由自在に取り扱う異能。
これこそが、村山良樹のサーヴァントであるライダー、トラファルガー・ローの宝具『オペオペの実』の力である。

「そいつどうすんの? 尋問にでもかける感じ?」

「それはさっき終わった。必要な情報は十分引き出した以上、こいつはもう用済みだ」

ローの片手にはいつの間にか、ピンク色の立方体が握られていた。
それは心臓だった。
ガラスのような不可視のケースに収められたそれは、冷たい冬の外気に晒されながらも、ドクンドクンと音を鳴らして脈動している。
生命を声高に主張しているそれを、ローは躊躇いなく握りつぶした。

「うぐぁあっ!」

先程よりも大きな呻き声が響く。
同時に、それまでローが腰かけていた胴体を始めとする、名も知れないサーヴァントのパーツたちが細かな光の粒子となり、空気に溶けだした。心臓(霊核)に致命的なダメージを受けたことによる消滅現象だ。
徐々に薄れていく胴体から、ローは腰を上げる。人ひとりの心臓を握り潰したばかりだというのに、その表情にあるのは、常人が見れば震え上がるような冷たい残酷さだけだ。
立ち上がった己がサーヴァントを、村山は見上げた。
「やっぱスゲえタッパしてんな」──率直にそう思った。
比較対象となっている村山は番長の割に小柄で細身であるため、余計にそう思わされるのかもしれない。だが、それを抜きにしてもライダーの体格は凄まじい。2メートルにも迫らんばかりの身長だ。


979 : HiGH school boy & LAW ◆As6lpa2ikE :2022/08/23(火) 00:01:51 6dk2elOg0
「気を抜くんじゃねえぞ」

遥か高くから、ライダーの声が聞こえた。

「いま倒したこいつらは、本選にすら辿り着けずに終わった雑魚だ。こんなのを聖杯戦争の参加者の基準にするんじゃねえ」

ライダーの生前の記憶に照らして考えれば、彼が先程消滅させたサーヴァントは、新世界の海には到底足を踏み入れられなかったであろう程度の実力だった。そして、それと同時にローは思い出す。新世界の海にうじゃうじゃといた怪物たちを。中でも突出した怪物である、ふたりの四皇──カイドウとビッグマムの姿を。

「これから先、戦争が進むにつれて、今回みたいな余裕は段々と失われていくはずだ。だから村山屋、お前も聖杯を狙って戦うなら、もっと──」

「聖杯? そんなんいらねえよ?」

「は?」

虚を突かれたローは思わず素の声で返してしまった。

「欲しかった二輪の免許は、この前よーやく取れた。仕事だって……まあ、まだあんま上手くいってねえけど、頑張るつもり。だから、俺は聖杯にそこまで惹かれねえかなー。むしろさっさと元の世界に戻りたいくらいなんだけど。卒業しなきゃいけないし」

「でも」──と、そこで村山は拳を固く握りしめた。

「戦争(ケンカ)に参加しといて、わざわざ負けるのも性に合わねえ──目指すなら頂点(テッペン)のみだ」

緩やかだった口調に、鋭さが増す。
その瞳からは、野獣の如き獰猛さが滲み出ていた。
これが村山良樹。
拳のみでワルガキ共を統一した、鬼邪の番長である。

「だからさ、発破かけてくれてんのは分かるけど、あんま肩肘張って俺をビビらせようとするんじゃねえよ、ライダー。言われなくたってオレ、頑張るつもりだから」

「…………もういい、黙れ」

ローは帽子を目深にかぶり直すと、そのまま音もなく霊体化した。
ちょうどその時、雪が降り始めた。
白い粒がひとつ、村山の髪に落ちる。
見上げると、空には分厚く暗い雲が広がっていた。今夜いっぱいはこの天気が続きそうだ。

「うおっ、さみいさみい。帰りになんか、あったかいもんでも買うか」

着流している青のスカジャンだけではやはり寒いのか、両腕で自分の体を抱きしめるような格好になりながら、村山は湾岸倉庫を歩く。
鬼邪高最強の不良の姿は、やがて雪景色の向こうに消えた。


980 : HiGH school boy & LAW ◆As6lpa2ikE :2022/08/23(火) 00:05:11 6dk2elOg0
【クラス】
ライダー

【真名】
トラファルガー・ロー(トラファルガー・D・ワーテル・ロー)@ONEPIECE

【属性】
渾沌・悪・人

【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷C+ 幸運D 魔力B 宝具A

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:-
下記の『嵐の航海者』スキルによって失われている。

【保有スキル】
嵐の航海者:A
船と認識されるものを駆る才能。
集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。
偉大なる航路(グランドライン)を航行し、その後半の海である『新世界』にまで踏み入ったライダーは、このスキルを高いランクで所有している。

医術:A+
死の外科医。
幼い頃から医学を教わっており、オペオペの実を食う為に更なる教育を受けていたライダーは、医術に関する知識・技術を非常に高いレベルで習得している。
このスキルを併用することで、下記の宝具を十全に使用することが可能。

覇気使い:B+
全ての人間に潜在する"意志の力"。
気配や気合、威圧、殺気と呼ばれるものと同じ概念で、目に見えない感覚を操ることを言う。
ライダーは熟練した武装色の覇気と見聞色の覇気を使用する。

【宝具】
『改造自在人間(オペオペの実)』
ランク:A 種別:対人・対軍宝具 レンジ:展開するROOMの広さによる 最大捕捉:展開するROOMの広さによる

ライダーは超人系『オペオペの実』の能力者である。
自身の周辺にROOMと呼ばれるドーム状の空間を展開し、それを『手術室』とすることで、内部に存在する生物・非生物全てを『手術台に乗せられた患者』にし、自由自在に取り扱うことができる。
この能力の最も恐ろしい点は、ROOM内で起こせる現象の幅広さ。
ROOM内の物を切ったり繋げたり動かしたりは勿論のこと、あらゆるもの(実体のない人格も含む)の位置を一瞬で入れ替えたり、対象に指を押し付けて全身が焼き焦げるレベルの電撃を与えたり、刀の形に集約したオペオペのエネルギーを叩きつけることで外相は一切与えず内臓だけに致命傷を与えたり、更には能力者の命と引き換えに永遠の命を与える『不老手術』とやれることは様々。普通の人間が『オペオペ』『改造自在』と聞いてイメージする能力の範囲を大きく逸脱している、驚異の能力。
しかしそんな便利な能力をしている分、能力の発動には体力(魔力)の消費が伴うという欠点が存在する。
また、ライダーの能力は『覚醒』している。

【weapon】
・鬼哭
大振りの長刀。
妖刀であるため、これ単体で宝具に匹敵するほどの神秘を有している。
ライダーはこれに上気の宝具と覇気を併用した戦闘を得意とする。

【人物背景】
『最悪の世代』のひとりであり、『ハートの海賊団』船長。
眼の下の隈や全身に刻まれたタトゥーといったビジュアル、クールな佇まいから、彼のことを深く知らない他者からは残忍で名が通っているが、実際は割と良い奴。たまにはロボや忍者にときめく男の子な一面や、天然な面を見せることも。
『海の戦士ソラ』の正当な読者を自称している。

【方針】
聖杯の獲得


981 : HiGH school boy & LAW ◆As6lpa2ikE :2022/08/23(火) 00:05:34 6dk2elOg0
【マスター】
村山良樹@HiGH&LOW

【weapon】


【人物背景】
とある湾岸地区を五つに分割する組織『SWORD』。
その『O』を担う漆黒の凶悪高校、『鬼邪高校』の初代番長。
『一番になること』に強いこだわりを持つものの、勉強や運動では平凡な才能しかなかったが、唯一喧嘩だけは負け知らずだったことから、拳ひとつで成り上がることを決意。全国から札付きの粗暴者が集まる鬼邪高校の噂を聞きつけ、転入を決意する。
番長になる条件である『選りすぐりの粗暴者たちから拳100発を受ける荒行』を耐え抜き、どころかその後に全員を返り討ちにし、鬼邪高の歴史ではじめて統一を果たした。
小柄で細身だが、どれだけ殴られても起き上がるタフさと根性を持つ。
参戦時期は少なくとも免許を取った後。
出典元のHiGH&LOWシリーズを配信しているHuluは、たしか最初の二週間は無料トライアルを実施しているはずだから、それを使って把握してみよう! ドラマ版は1話あたりサクサク見れるから把握は超簡単だぞ! シーズン2の8話は必見!

【方針】
聖杯に興味はない。
だが、戦争(けんか)に参加してわざわざ負けるつもりもない。


982 : ◆As6lpa2ikE :2022/08/23(火) 00:05:52 6dk2elOg0
投下終了です


983 : ◆Lap.xxnSU. :2022/08/23(火) 00:55:00 /PA43ZUk0
スレ残量の方が残り僅かとなりましたので新スレの方を立てさせていただきました。


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