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表裏バトル・ロワイヤル

1 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/18(木) 17:37:14 .Igrixhs0
8/9【ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
○リンク(♧ジャック)/●イリア(♢3)/○ゼルダ(♡クイーン)/〇ミドナ(♤クイーン)/○ダルボス(♢6)/○キングブルブリン(♤3)/〇モイ(♤2)/〇ガノンドロフ(♤キング)

7/7【ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
○アルス(主人公)(♤A)/○マリベル(♡2)/〇ガボ(♤6)/〇メルビン(♧2)〇アイラ(♢8)/〇シャーク・アイ(♡キング)/○ボトク(♤9)

7/7【ペーパーマリオRPG】
○マリオ(♤7)/○ピーチ姫(♢クイーン)/○クッパ(♢キング)/〇クリスチーヌ(♢9)/〇ノコタロウ(♡6)/○ビビアン(♡4)/〇バツガルフ(♤ジャック)

7/7【ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】
○東方仗助(♢キング)/〇広瀬康一(♡8)/〇山岸由香子(♡5)/〇ヌ・ミキタカゾ・ンシ(♧10)/〇川尻早人(♧8)/〇吉良吉影(♧9)/〇矢安宮重清(♢4)

7/7【FINAL FANTASY IV】
○セシル・ハーヴィ(♡9)/○カイン・ハイウインド(♡3)/○ローザ・ファレル(♧クイーン)〇ヤン・ファン・ライデン(♧7)/〇エッジ(♡ジャック)/〇ゴルベーザ(♢ジャック)/○ルビカンテ(♢7)/


6/6【新世界より】
○渡辺早季(♡10)/○朝比奈覚(♧5)/○伊東守(♧3)/〇秋月真利亜(♡A)/〇スクィーラ(♤10)/○奇狼丸(♢10)


5/5【無能なナナ】
○柊ナナ(♢2)/○小野寺キョウヤ(♤5)/○犬飼ミチル(♧4)/○佐々木ユウカ(♡7)/○鶴見川レンタロウ(♤4)/


5/5  のび太の魔界大冒険
〇野比のび太(♢A)/〇ドラえもん(♧6)/〇美夜子(♧A)/〇満月博士(♢5)/〇デマオン(♤8)/



計52名

【主催側】
ザント@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
オルゴ・デミーラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち


まとめ
表裏ロワwiki


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2 : ルール 制限解説 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/18(木) 17:38:08 .Igrixhs0

【基本ルール】
特設会場にて殺し合い、優勝者のみが生還できる。優勝者は一つだけ、どんな願いでも叶えてもらえる。

【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していたものは衣服を除き全て没収。
ゲーム開始時、参加者は以下の物を「ザック」にまとめて支給される。

「ザック」
ものを無限に収納することができ、重量も感じないザック。

「参加者トランプ」
参加者全員の顔と名前が52枚書いてある。どのキャラがどのカードかは上記に。
ジョーカーはザントとオルゴ・デミーラの絵。

「地図」
会場の地図。座標を示す線が引かれている。

「コンパス」
方角が分かる普通のコンパス。

「筆記用具」
普通の鉛筆と紙。

「水・パン」
約三日は身体機能に不調を来さず過ごせる程度の水とパン。

「時計」
安っぽい腕時計。

「ランタン」
暗闇を照らすことができる。蛍光灯のため、何か特別な道具・能力でも使わない限りこれで発火させることはできない。

【切符 】
参加者に一枚ずつ配布。
一つの駅の間を電車で移動できる。

「不明支給品」
何かの道具や装備品が1〜3個入っている。

【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
ただし、禁止エリアでも列車で通る際には問題ない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者の発表を行う。

【予約】
期限は7日間とするが、延長申請でもう7日可能。

【状態表テンプレ】
【座標(A-1など)/詳細場所/日付 時間】
【キャラ名@作品名】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
3.

【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24


3 : ルール 制限解説 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/18(木) 17:38:36 .Igrixhs0

【能力制限・支給禁止アイテム】
【ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】

・トライフォース、影の結晶石、陰りの鏡のカケラ 支給禁止
・リンクの参戦は人間状態のみ。ただし何らかのトリガーで獣になるかも


【ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
・職業はPS版、3DS版どちらにするかは書き手に委ねます。
・禁止魔法・特技 ザオラル、ザオリク、ニフラム、地割れ、めいどうふうま ルーラ リレミト
・ホイミ系の効力は10分の1ほどに制限されます。メガザルは全回復のみです
・バシルーラ、突き飛ばしなどの技で飛ばされた先は、会場内のどこかに限定されます
・ザキ系も一人の相手に連続して使い続けない限り、効果を発揮しません。
・世界樹の葉は、使用可能ですが、使える対象は自信と死亡して1分以内のキャラだけです。また、作中で誰かに1枚支給された場合、それ以降誰にも支給されません。


【ペーパーマリオRPG】
・バッジはこの作品だけではなく、全参加者がつけられますが、BPの概念がないため一人2つまでです。
・禁止アイテム ヤッツケアタック、ヤッツケーレ、


【ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】
禁止アイテム スタンド発現の弓と矢
4部以外の支給品を配布してもOKです(1部のブラフォードの剣など)
・仗助のクレイジーDは、回復にはいつもより時間がかかります(瀕死からの全快には5分ほど)
・吉良のスタンドは、バイツァダスト禁止です
・重ちーのハーヴェストは、移動範囲が本人の目の届くまでになります。


【FINAL FANTASY IV】
・禁止魔法 レイズ、アレイズ、テレポ
・制限魔法 トード、ポーキー(何か措置を取らなくても、術者の死亡や一定時間経過で解除されます)
・支給禁止アイテム フェニックスの尾、非常口、クアールのひげ


【新世界より】
・攻撃抑制・愧死機構の制限を一部解除。仮に呪力で人間を殺害しても、反動を受けることはない。
・ただし、力そのものはある程度弱まり、目に入った者を作中のように対象を一瞬で殺害したり、数百キロ以上の物を動かしたりすることは不可能。
・早季の物質復元呪力や、覚の鏡呪力などは、制限されない。


【無能なナナ】

・小野寺キョウヤ 不死身の能力に制限。一度死ねばしばらくは復活できない
・佐々木ユウカ ネクロマンサーの能力に制限。操れる死者は一度に一人のみ
・ミチル、レンタロウは特になし

【魔界大冒険】
・使用できる秘密道具は、漫画版、または映画版に出てきた、道具限定。
・ただし、もしもボックス、どこでもドアは使用できない。
・取り寄せバッグは取り寄せられる範囲が限られる。
・石ころ帽子、モーテン星、タケコプターはエネルギーが切れるのは原作よりずっと早い。また、何らかの手段でエネルギーを回復出来るかも。
・デマオンの不死身の能力は無くなっている。心臓は体内にあり、銀のダーツでなくてもそのほかの武器・技で死亡する可能性もある。


4 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/18(木) 17:38:52 .Igrixhs0
オープニング投下しますね


5 : 終わりの始まり ◆vV5.jnbCYw :2021/02/18(木) 17:40:08 .Igrixhs0
どんな物にも、表と裏がある。
表が美しい存在は、裏もそうとは限らない。
どんなに好きな相手でも、その裏を知ってしまったとき。
それでも人は、その相手を好きでいられるだろうか。


世界でも同じこと。
どこまでも平和だと感じていた世界が、実は見えない所で争いと鬱屈に満ちているかもしれない。
それを目の当たりにしたとき、世界を受け入れられるだろうか。





ある朝僕は、フィッシュベルの港を漁船と共に出発した。
行き着く先は風が示している。
空は雲一つなく、太陽のみが輝いている。
船乗りたちはせわしなく動きながらも、満ち足りた表情をしている。
嬉しそうな表情を浮かべると、父のボルカノからぼやぼやするなと喝を入れられた。
早速船室へ行って、芋の皮むきを手伝おうとすると、背後から大きな声が聞こえた。


「船長!!大渦です!!」
突然の轟音と共に、海のすぐ近くから大渦が出来ていた。

「……どういうことだ!!急いで方向を変えろ!!」
ボルカノが慌てた表情で、舵取りに指示を出す。
しかし、方向を変える暇もなく、大渦は迫りくる。



「うわあああああ!!」
船は自由を完全に失った。
自分も合わせた、様々な悲鳴が船中にこだまする。


どちらが上かもわからない。ただ、海の藻屑になるまいと必死だった。
その後、視界が真っ黒になり……。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「起きなさいよ!!」
意識を取り戻すと、見知らぬ場所だった。

「ようやく目が覚めたのね、アルス。あんたっていつまでたっても寝坊助ね。」
「マリベル!?」
声の主は、アルスのよく知っている人だった。


「ここは!?」
見回すと、大広間。人も、人ならざる者も、多く集まっている。

「分からん。だがいつの間にか、ここに皆集まっていた。」

そう話しかけたのは、自分と同じ、緑の帽子で、堀りの深い顔ととがった耳が特徴的な青年だった。


「静粛に!!」
頭上からホール全体に轟く、野太い声が聞こえる。
天井近くに、異形の存在が浮いていた。
それは、僕のよく知っている怪物だった。


「我は、オルゴ・デミーラ。貴様たちデク人形共、我を楽しませて見せよ。」

楽しませる、とは何のことかは分からないが、この怪物が考えていることだから何かろくでもないことなのだろう。
「これより貴様たちは殺し合いをしてもらう。逆らうことは許さん。」


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6 : 終わりの始まり ◆vV5.jnbCYw :2021/02/18(木) 17:40:21 .Igrixhs0
予想は最悪の形で当たった。
元々不穏だった空気がざわつき始めた。

一部の存在を除いて。


「そうはさせるか!!」
隣にいた緑帽子の青年が、弓矢を取り出し、ムカデと竜を合わせたような怪物の、むき出しの脳目掛けて射る。
それは、一寸のぶれもなかった。
矢はデミーラの頭に吸い込まれるその時。


矢は軌道を突然変えて、別の少女の頭に突き刺さった。
悲鳴と共に少女の頭から血がほとばしる。


「イリア!!」
どうやら青年の知っている相手だったらしい。
「困るな。いくら殺したいからと言って、いきなり武器を出すなど。」

「ザント!!」

突然上空に表れたのは、不気味な仮面をつけ、黒い服を全身にまとった男だった。
青年の動揺もよそに、話を続ける。


「とはいえ、殺し合いをする鞭だけではやる気も起きないだろう。影の王として生き残った一人には、何でも願いを叶えることにした。」

仮面の男、ザントが指をパチンと鳴らすと、矢が消え、イリアと呼ばれた少女が息を吹き返した。
僅かながら青年も安どしたような表情を見せる。

「え?」

「このように、死んだ者も生き返らせる。全員を生き返らせることはできないが、我らに不利にならない限り、無限の富でも永遠の命でも、何でもくれてやろう。」

「ただし、我らに逆らうとこうなる。デク人形共、自分の首を見るがよい。」
(!?)
ここでようやく、僕は首輪に気づいた。

「何……これ。いやああああ!!」
デミーラが念じると、首輪から謎の点滅音が聞こえ、先ほど生き返ったばかりの少女の顔が、爆発と共につぶれた果実のようになった。


「最後に選別として、デク人形共に道具をくれてやろう。参加者の名前や、大切なことは載っているから先ほどの青年のように、くれぐれも殺しに急がないように。」
「だが、他の道具は何が入っているか分からん。珍しい物があるかもしれぬから、弱者でも強者に打ち勝つチャンスはある。」

「うああああああ!!」
二度少女を失った青年は、なりふり構わず二人に斬りかかる。
だが、その結末を見ることはできなかった。
僕も、その青年も、マリベルも違う場所に送られたから。


【イリア@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 死亡】
【残り51名】

表裏ロワイヤル 開始。


7 : 終わりの始まり ◆vV5.jnbCYw :2021/02/18(木) 17:40:57 .Igrixhs0
オープニング 投下終了です。
今から予約解禁です。


8 : ◆7PJBZrstcc :2021/02/18(木) 20:08:41 XMW/XPsQ0
新ロワ投下乙です。
ですが一点指摘させていただきますが、クッパと仗助が♢のキングでダブっています。
これは、どちらがどちらなのでしょうか。


9 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/18(木) 21:11:55 .Igrixhs0
ご指摘ありがとうございます。クッパのカードは♧キングでした。
それともう一点。

ジョジョキャラのスタンドは、他のキャラクターにも見えるようになっています。

ではモイ、クリスチーヌ予約します。


10 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/18(木) 23:30:33 .Igrixhs0
投下します。


11 : 頭を使おう、物理ではなく ◆vV5.jnbCYw :2021/02/18(木) 23:33:41 .Igrixhs0
「まったくもう、嫌になっちゃうわ!!」

憤りを見せている少女の名前は、クリスチーヌ。
かつてマリオと共に旅をし、やがて世界を闇で覆いつくす力を持った魔物を倒した女学生だ。

「しかも人の命を弄ぶ行為をレディに見せるなんて、びっクリするくらい悪趣味ね!!
絶対私の頭突きをお見舞いしてやるから!!」

主催への怒りを吐露するクリスチーヌ。
だが、一人で丸腰で勝てるほど、勝てる相手ではないことは彼女にもわかっていた。
せめて知り合いが呼ばれていないか、名簿のカードをめくる


(誰がいるのか分かりづらいわね……こういうのって本でひとまとめにするもんじゃないの?)
愚痴をこぼしながら、カードをめくっていく。
何枚かめくっていくと、知っている名前がいくつか見つかった。


マリオとピーチ姫。それに旅の途中で仲間になったノコタロウにビビアン。
これだけ見れば頼もしいが、よい事ばかりではない。

自分たちが追いかけていた敵の組織の総統であったバツガルフ
復活させた魔物に無様な姿にされてしまうというお似合いの末路だったが、復活したというならこの世界でも悪事を働く可能性が高い。
もしかすると、優勝して、世界征服の願いをかなえてもらおうとしている可能性だってあるかもしれない。


マリオのライバルにして、ピーチ姫をつけ狙うクッパ。
バツガルフに追い詰められた時こそ偶々助けになったが、簡単に協力できる相手でもないようだ。


トランプをしまい、辺りに他の敵がいるか警戒しながら、今度は何を支給されたのか見てみる。


朗報と悲報があった。
良い話というには、支給品が斧、剣、ボウガンと、3つとも武器だったこと。
わるい話は、いずれもが彼女の使い慣れていない武器だったということ。


「頭に来ちゃうわね。もっと気配りってものをしなさいよ!!」

「起こっている所で悪いが、後ろから失礼するよ。」
「!!」


低い声を後ろから聞き、驚く。
そこには茶色のヘルメットを深々とかぶった初老の男が立っていた。
「驚かせてすまないね。俺はモイ。きみと同じく、この戦いを開いた奴らを倒そうとしている者だ。」
「あっ……クリフォルニア大学4年の、クリスチーヌです。」

自分の独り言を聞いていたと思って、恥ずかしくなる。
だがこの男が、穏やかに近づいてきて、自分の支給品をいただこうとしていない保証は無いので、身構える。
彼女が冒険の拠点にしていた町、ゴロツキタウンでは気が付いたらコインを奪われていることもざらにあるからだ。

「まだ信用してもらってないようだね。じゃあ俺の支給品の中で好きなものをやろう。どれがいいかな?」

モイは仮面を外した後、ザックの中から、同じように3つの道具を出す。
その中に、彼女が知っていた道具があった。

「このバッジ、一つだけもらっていいですか?」
それはにこやかな笑顔が象ってあるバッジだった。
かつてクリスチーヌの仲間が、メガバッテンのアジトのクレーンゲームで見つけたものである。


「本当にそれでいいのかい?」
「ええ。これは特別な力があったので。」
「じゃあ、あたしからも。どれか使える武器はあるかしら?」
「ありがたいね。俺はこの剣をもらうことにするよ。」


12 : 頭を使おう、物理ではなく ◆vV5.jnbCYw :2021/02/18(木) 23:34:36 .Igrixhs0
モイは一つ剣を貰い受け、二、三度振り回す。
「うん。中々いい持ち心地だ。俺の村で作った剣の方がいいと思うがね。」
「どんな村何ですか?」
剣を作る村、という話を聞いて、少し興味を持つクリスチーヌ。


「ああ、トアル村って所なんだがね。のどかで野菜も沢山取れるし、あそこの山羊から出る乳で作ったチーズは絶品なんだ。角は剣の材料になるしね。
人は良い人ばかりだ。」

そこで、モイの表情が浮かないものになる。


「さっき殺された女の子がいただろ、あの子は、俺の村の子なんだ。あと斬りかかっていた帽子の人も、同郷だよ。」
「ご、ごめんなさい。嫌なことを話させてしまいました。」
「謝る必要はないよ。俺が勝手に話したことだ。」


初めて会った人が、見せしめにされた人の知り合いだと知って、改めて主催を倒す決意を固める。

「いきなり質問だが、俺たちはどうするべきだと思う?君は主催を倒すと言っていたが……俺は違うと思うな。」
「……じゃあどうすればいいのですか?」
「この世界で脱出のヒントをかき集める。クリフォルニア大学というのがどこなのかは知らないが、君は頭は冴えているようだからね。
俺たちだけで主催を倒すのは難しい。」

モイの言うことはもっともだった。
1000年のトビラの先にいた魔物でさえ、仲間との協力を経てようやく倒したのだから、それと同じか、それ以上の威圧感を持った奴等を一人で倒せる可能性は限りなくゼロに近い。


ならばかつてマリオに助言をし続けたように、この世界のルールや知識を集めることがいい。

「じゃあ、まずはこの図書館に行きませんか?」
「なるほど。いい考えだ。では行こうか。」


会話を終え、二人は歩き出した。
世界が変わっても、勇者のために少しでも役に立つ知識を見つけ出す。
新たな戦いでも、彼女らのやることは変わらない。



【B-7/森/一日目 深夜】
【クリスチーヌ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:健康 
[装備]:イツーモゲンキ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品 アイアンボーガン(小)@ジョジョの奇妙な冒険 キングブルブリンの斧@ゼルダの伝説
[思考・状況]
基本行動方針:
1.モイと共に図書館へ向かう
2.首輪を外すためのヒントを見つける。
3.仲間(マリオ、ピーチ、ノコタロウ、ビビアン)を探す
4.クッパ、バツガルフに警戒

※本編クリア後、ゴロツキ港でマリオに再会してからの参戦です

【モイ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:健康
[装備]:鋼の剣@ドラクエVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊。
1.B-5図書館へ向かう
2.首輪を外せる者を探す。
3.クリスチーヌの仲間および、リンクを見つける


【支給品紹介】

鋼の剣@ドラクエVII
クリスチーヌに支給された剣。切れ味はそれなりで、原作では序盤から中盤にかけて手に入る。


イツーモゲンキ@ペーパーマリオ
モイに支給されたバッジ。装備すると毒、眠り、混乱など悪い状態変化を軒並み無効か出来る。


キングブルブリンの斧@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
クリスチーヌに支給された巨大な斧。
元の持ち主は力いっぱい振り回して攻撃していた。


アイアンボーガン(小)
クリスチーヌに支給されたボーガン。
ボーガンだったりボウガンだったりする。
ある程度力があれば鉄の弾を放つことが出来る。


13 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/18(木) 23:34:49 .Igrixhs0
投下しました。


14 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/19(金) 01:19:51 KH585Vxc0
モイの参戦時期を忘れてました。
少なくとも、リンクが時の神殿をクリアした後です。

伊東守、ビビアン予約します。


15 : ◆EPyDv9DKJs :2021/02/19(金) 08:04:25 ypdgjyVc0
小野寺キョウヤ、東方仗助、バツガルフで予約します


16 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 00:25:43 CHoMzHHY0
予約ありがとうございます!!
作品楽しみにしてます!!

では、私も投下しますね。


17 : 影に飲まれるな ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 00:26:35 CHoMzHHY0

伊東守は、影につけられたことがある。
時はこの戦いが始まる、少し前。
呪力を持つ子供の中で、出来の悪い子供や、将来町に危害を及ぼす可能性のある子どもを間引いていく、「不浄猫」の影を見た。
殺されまいと、一人で町から逃げた。
その先で彼の仲間である早季や覚、そして最愛の人であった真理亜が助けてくれるも、真理亜の決意の下で、永遠に町から離れる道を選んだ。


守は心の優しい性格だった。
そして、一度愛した相手には、どこまでも愛した。
彼の得意なことである、呪力を使った絵で、恋人を何度も何度も描き続けた。




「殺し合いなんて……どうすればいいんだ……。」
爆発したようなくせ毛の髪型の少年、伊東守は恐怖に震えていた。

今でもフラッシュバックする、少女の悲鳴と、真っ赤な血と共に潰れた顔。
「う……うええ……」
何度も心を苛む出来事に耐えきれず、胃の中のものを戻す。
元々弱気な彼は、殺し合いに耐えきれるほど強い心ではなかった。
以前不浄猫に追いかけられた時は、町の人の手が届かない所に逃げることが出来た。
しかし、今回はそれさえも出来ない。


「そ……、そうだ。誰がいるのか、確認しないと……。」
名簿代わりというトランプを、震えた手でめくる。
どこか全人学級時代に呪力で作ったカードの塔を思いだし、懐かしい気持ちになるが、1枚目をめくった瞬間、それどころではないことに気づいた。


「真理亜……。それに早季に覚まで………。」

めくり続けるといたのは全人学級の一般の友達、そして、最愛の人だ。
何度も言うが、守は優しい性格の持ち主である。
たとえ命令されても、生き残るために大切な友達や恋人を殺すことはできない。
だが、主催に対する反撃をしようと考えるかは、別の話。
この殺し合いを止めようという勇気は、彼は持ち合わせていなかった。


続いて地図を見ると、その中に書いてあった地名に、見覚えがあるものがあった。

『清浄寺』
かつて神栖66町で、守護霊を得た子供が、呪力を承る洗礼の場所である。
もう二度と行くことになるまいと思っていた場所だが、他の仲間もこの場所を目指しているはずである。

ゆっくりとだが、北へ向かって歩きはじめた。


18 : 影に飲まれるな ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 00:27:12 CHoMzHHY0
(みんな……無事でいて……。)

そう思いながら駆け出した時、何者かがぬるりと地面から現れた。


「マリオ……。どうすればいいの……。」
何かを嘆いているその存在は、どう見ても人間ではない。
体全体が影のようで、頭に大きなとんがり帽子をかぶっている。
バケネズミが作ったミュータントか?と思い身構えてしまう。


「あの……大丈夫ですか?」
自分の身も案じずに、守はなぞの魔物に話しかけた。
近づくのは怖かったが、いざというときに呪力がある。
もしかすると真理亜達に関する重要な話を聞けるかもと思って、声をかけた。


「アタシはビビアン。大切な人がね。殺し合いに呼ばれたの。」
ふと守は大切な人が呼ばれて、困惑していた自分を重ねてしまった。
「近寄らないで!!」
警戒心を解き、ビビアンに近づくと、急に叫ばれた。

「ご、ごめんなさい。」
「アタシ、あなたを殺そうと思ってるの。」
突然の告白に、守の背筋が冷たくなる。


「マリオのために生きることにしたの。アタシの幸せは、マリオの幸せだから。」
ビビアンは守に向けて指をさす。
守自身は相手の能力を全く知らないが、それが恐ろしいものだと第六感が告げていた。
呪力で抵抗する勇気も、失せていた。

「真理亜……。ごめん。」
守は涙目になりながら、最愛の人に別れの言葉を呟く。


「どうしてよ……。」
しかし、ビビアンは攻撃をする前に、崩れ落ちた。
「同じ大切な人がいるのに、アナタだけを殺せないわ。」


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


ビビアンは、かつてはバツガルフ所属の刺客集団、カゲ三人組の一人で暗躍していた。
しかし、その中で彼だけ男だということ、他の二人より弱いということで、惨たらしい扱いを日々受けていた。
ある日、リーダーのマジョリンが無くした爆弾を、無理矢理探させられていた。
その時に、かつて敵として命を狙っていた相手のはずの、マリオに助けてもらった。
彼の優しさに惚れ込み、その命を共にしようとした。


やがてカゲ三人組の真のボスである、女王がマリオの手により倒され、姉たちとも和解し、幸せを手に入れた。
手に入れたはずだった。

再び自分たちに会いにやって来たマリオを、他の仲間と共に迎えようとしていた時、気が付いたら殺し合いに巻き込まれていた。
しかも、大切な人まで参加させられていた。


(何でアタシの幸せは、こんなに脆いの?)
しかし、ビビアンの心にはあるものがあった。
自分はまだマリオを幸せに出来ていない。
こんな状況だから、全てを殺してでもマリオを生き残らせるべきだ。
だが、マリオはそんなことを望まないはず。
でも、もしも、この殺し合いで、彼が殺されてしまったら?



最初に出会ったのは、気弱そうな少年だった。
殺そうと思ったら、殺せるほどの。
だが、マリオと自分の幸せのために、誰かの幸せを壊していい権利なんてない。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


19 : 影に飲まれるな ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 00:27:39 CHoMzHHY0

「へえ、ビビアンも好きな人がいたんだ」
「マリオっていうのよ。」

2人は戦えないと分かって、僅かながらの話をすることにした。
トランプカードの、『♤7』の所に、優しそうな笑みを浮かべた、赤い帽子の男がいた。
「じゃあ、ちょっと待って。」


守が呪力で、ビビアンのザックの表に絵を描いた。
彼は昔から、真理亜の絵を描き続けたので、得意なことである。
マリオとビビアンが、楽しそうに手を繋いでいる絵だ。

「ありがとう。とてもステキね。」
「こういうの、得意だからね。」

少しだけ守は表情を緩めた。


「ねえ、一緒に行かない?」
守はビビアンに、同行を頼む。
「ゴメン。それは出来ないわ。」
「えっ!?」
心を許した相手であったと思っていたからこそ、余計驚く。


「あなたが優しい人だと分かった。でも、時が来れば、アナタを殺すかもしれない。」
「ま、待ってよ!!」
「ごめんなさい。アナタの絵、ありがとう。」


独特な走り方をしながら、ビビアンは小さくなっていく。
呪力を使えば動きを止められたかもしれないが、守にはそれは出来なかった。


【E-4/草原/一日目 深夜】
【伊東守@新世界より】
[状態]:健康 不安 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:
1.真理亜、早季、覚を探す
2.清浄寺へ向かう

※4章後半で、真理亜と共に神栖66町を脱出した直後です

【ビビアン@ペーパーマリオRPG】
[状態]:健康 情緒不安定
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針 マリオを探す もし彼が死んだら?
1. 探す途中に、危険そうな存在がいれば殺す

※本編クリア後の参戦です


20 : 影に飲まれるな ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 00:28:24 CHoMzHHY0
投下終了です。


21 : 影に飲まれるな ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 00:31:06 CHoMzHHY0
すいません。ビビアンの一人称が、「アタイ」の所を「アタシ」になってました。


22 : ◆EPyDv9DKJs :2021/02/20(土) 05:11:48 tDQK.puw0
投下します


23 : 背けた視線の先のカエサル ◆EPyDv9DKJs :2021/02/20(土) 05:14:06 tDQK.puw0
(意味が分からないな。この殺し合い、何がしたい?)

 小野寺キョウヤは不老不死の能力を持った能力者である。
 文字通り、何をしても彼の身体は元の身体に戻ってしまう。
 火達磨にされても毒を飲んでも、絶対に死ぬことがなく。
 だから殺し合いなんてやったところで、何の意味もない。
 最終的に自分が勝者になるのが目に見えた出来レース。
 何がしたいのか分からず、草原の上で困惑する。

(いや、早計だな。)

 自分が不老不死の能力者と言うことぐらい相手はリサーチ済みの筈。
 態々自分を参加させる理由を考えるのであれば、大雑把だが二つに絞れる。

 一つは自分を優勝させると言う、先程のとおり出来レース。
 しかしこの線は薄い。主催者たる二人の人物は初対面。
 初対面である自分を優勝させてどんな得があるのか。
 と言うより、殺し合いと言う舞台を用意する意図も不明だ。
 何よりこの殺し合いの為にリサーチ済みであるのなら、
 自分がこんな催しに従うかと言われればまずノーと答える。

(と言うことは、俺を殺せるのか?)

 不死身を無力化できる手段の確立。
 此方の方がどちらかと言えば可能性が高い。
 キョウヤは話を聞きながら辺りを見渡していた。
 見知った顔や会社員もいたが、鎧を装備した連中や、
 そもそも亀と言った人ですらない奴まで居合わせている。
 能力者が存在するとしても、明らかに雰囲気が違いすぎていた。
 例えるならば『世界そのものが違う』と言うべきか。
 不老不死を無力化……中島ナナオのようなものは特殊だ。
 早々同じ能力が二つ三つと出てくるはずがない。
 しかし世界が違えばあり得ることなのではないだろうか。
 他の世界の技術など全く知らないのだから、
 あり得ないと断言することはまず不可能になる。

(何にせよ、過信はしない方がよさそうだな。)

 普段は躊躇せず毒を飲んだりする行為に及ぶが、
 此処ではそれはかなりリスクのある行為になる。
 もし死んで復活できなければ笑い話にしかならない。
 他の参加者と情報を照らし合わせてみるのが一番だ。
 殺し合いの理由、能力者を選ぶ理由等考えることは多数。
 慎重に行動するべく自分のザックを漁る。

「トランプ?」

 トランプにはマークがあるが、
 同時に見覚えのある姿が映っている。
 ダイヤの2は柊ナナ、クローバーの4は犬飼ミチル、
 自分はスペードの5……最初は何なのか疑問に思ったが、

(まさか、これが名簿か。)

 他のカードも調べてみれば、
 見渡した時にみかけた参加者が多くいる。
 何の説明もないので疑問には思ったが、
 名前も併せて参加者五十二名を現す為のもののようだ。
 オルゴ・デミーラは参加者の名前があると言った。
 他にそれと思しき物はないので、恐らくそれなのだと。
 犬飼ミチルがいると言うことも予想外な存在ではあったが、
 他の二人の存在によってそのインパクトは薄れる。

「佐々木ユウカもいるだと?」

 柊の話によれば、彼女は身投げした筈。
 なぜかこの場にトランプの中に紛れている。
 態々嘘の名簿として用意するメリットの薄さ。
 そこを考えると、恐らくはこの名簿は本物になるだろう。

(どうやら奴らは本当に死者を、『死体操作』と違って確実に復活できるとみてよさそうだな。)

 最初の死亡した女子とのやり取り。
 あれは自分たちに願いの力があるのだと、
 信じ込ませるための舞台装置だと思っていた。
 つまり、名簿上でイリアと記されてる少女もグルだと。
 だがユウカの存在を考えるに、本当に死者の蘇生は可能らしい。
 願いを叶えるかどうかまではともかく、完全な嘘でもなさそうだ。
 一方で微妙に困る。彼女はシンジを死体操作で操る程好きだった。
 となれば、死者の蘇生が可能なこの殺し合い……どうなるか分からない。
 最後は罪悪感を感じたそうだが、この状況でもそのままかは不明だ。
 同じく死亡したはずの鶴見川レンタロウもいる。
 あの状況下においても殺人をやってのけた人物だ。
 となればこの場では確実に乗ってる側とみていいだろう。

「……身内だけでも面倒な人選だ。」

 トランプをしまいながらごちるキョウヤ。
 犬飼も能力と性格のせいで非常に危なっかしいし、
 柊もまだ完全に疑いが晴れてるわけでもない。
 完全に振り回される立場である。

 一通り情報の整理は出来た。
 後は主催者が言っていた珍しい物。
 それが何かと手を付けようとするも、

「!」


24 : 背けた視線の先のカエサル ◆EPyDv9DKJs :2021/02/20(土) 05:15:22 tDQK.puw0
 視界の隅に捉えた青い炎が迫ってることに気付き、咄嗟に避ける。
 とは言え不老不死を普段から躊躇なく行動に出てたせいか、
 避ける動作に遅れて軽く左手の皮膚が焼けただれる。
 不老不死と言えども痛みは伴うので、表情は苦痛に歪む。
 草原には炎が通り過ぎたのを示すように、焼け焦げたラインが一直線に続く。

「ほう……あの男ならまだしも、
 誰とも知らない奴が私の魔法を避けるとはな。」

 炎のラインを追えば黒と紫のマントを羽織った、
 バツ印が目立つ機械をのような頭を持つ人物が杖を持って立つ。
 誰かは先程のトランプで理解している。

「確か……名簿にはバツガルフと記されていたか。」

「いかにも。そしてこの殺し合いの勝者の名前だ。」

 まだ序盤、どれだけ強い奴がいるかも分からないと言うのに勝利宣言。
 自信のある様子だが、先程の炎はモグオ程ではないにしても強力だ。
 多少遅れたと言っても避けたはずなのにこの腕の火傷具合。
 少なくとも相応の力を以って優勝を目指していることは間違いない。

「どうだろうな。主催者の一人が言っていただろう。
 弱者が強者に勝てる可能性を与えていると。それに、
 さっき『あの男』と言っていたな。対抗できる奴がいるはずだ。」

 自分が出来レースにならないように、
 彼にも出来レースにならないよう何かされてるはず。
 力の制限や、或いは彼を打ち倒すことができる存在が。
 自分の見知った間柄は四人。一割近くを占めている。
 となればバツガルフの見知った間柄も少なからずいるはず。

「いたところで何になる? 今お前を助けに来るとでもいうのか。」

 再び杖を振りかざす。
 先ほどの炎の攻撃とそれなりに開いた距離。
 タイミングを見計らえば無理ではない速度だ。
 不意打ちでも避けることができた以上見切るのは難しくない。

「何!?」

 だが炎ではなく雷。
 空から降る雷に打たれ、全身を黒ずんだ姿へと変える。
 雷と言う見た目の割に即死するレベルの威力ではないようだが、
 この場合は寧ろ激痛が続くせいで人によっては運が悪くて重傷だ。
 文字通り死ぬ痛みを何度も味わっている一方で慣れすぎたことによる、
 痛みの感覚がないと言うわけでもないので、彼の場合は半分当たりか。
 全身から焦げ臭い煙が出るも、嗅覚がない彼には特に感じない。

「発火どころか、雷まで使えるのか……ッ。」

 見た目よりは軽傷で、膝をつく程度に済まされている。
 とは言え此処から逃げるにはかなり無理のある状態だ。

「私は多彩な魔法が使える。まだお前にも明かしてないものがある程にな。
 この杖に使い慣れてないがゆえに、先程から本来の威力よりも落ちているが。」

 他にもできるとは何でもありか。
 とは思うが、能力者も似たようなものだ。
 特にまず死ぬことがない自分の能力はそれになる。
 ある意味ではお互い様と言うべきか。

「だったら俺も同じことではある。
 お前に明かしてない能力があるってことだ。」

「では死ぬ前に早めに使うのだな。」

(開始早々実験することになるか……生き返ればいいんだがな。)

 珍しい感覚だ。
 少なくとも見た目以上にいろんなことを経験したが、
 『死なないように』願ったことなんて早々にない。
 不老不死の能力が分かってからは、縁遠い『死』の感覚。
 そんな感覚に少しだけ笑いを浮かべながら、バツガルフの魔法を見届けるだけ。

 何の本で読んだかは忘れたが、
 スペードとは死を意味する不幸のマークの意味を持つ。
 自分とバツガルフは、トランプ上ではスペードのマーク。
 マークの意味に惹かれた結果とでもいうべき結末だろうか。





 しかし、だ。
 バツガルフのポジションであるスペードのジャックには別の意味がある。
 それは───

「ドラァ!!」

 『死』のマークから目をそらした兵士、即ち『死に対する否定』を意味する。
 影の女王に破壊されつくしても生きた彼に相応しいともいえるポジションだが、
 彼ではなくバツガルフの頭部の機械を殴りつける拳の方が、まさに否定の象徴だった。
 頭に軽くヒビが入ると同時にその身体は草原を派手に転がっていく。


25 : 背けた視線の先のカエサル ◆EPyDv9DKJs :2021/02/20(土) 05:18:37 tDQK.puw0
「こんな夜中に雷落とせばよぉ〜〜〜……すぐに見つかるって気づかなかったみてーだな。」

 いかにも不良ですと言わんばかりの改造学ランと、
 今時チンピラでもそうは見ないような長いリーゼントヘアー。
 凡そ学生らしからぬ威圧感と、背後霊のように傍に立つ何かと共にこの男は現れた。
 この場において、ある意味ではキョウヤ以上に死から縁遠くなるとも言える、
 そんな能力を持つ男───東方仗助が。

(あれは確か東方仗助。どうやら俺にとっては味方らしいが……)

 漸く体の傷が戻りだした。
 少なくとも普段よりも遥かに回復速度が遅い。
 不死性どころか、再生力も落ちているのは間違いなかった。
 この程度、全身焼けただれても数十秒で元に戻るのが、
 手の火傷ですらこれぐらいの時間がかかるとは思わない。
 腕が戻りつつあるのを見届けながら、仗助を見やる。

「おまえさん……その隣のはなんだ?」

 頚部に数本のパイプと至る所のハートマークが目立つ、
 さながら鎧を着こんだ戦士のようなものは一体何なのか。
 名簿には一切なかったものであり、新しい情報に疑問を持つ。

「な……おめえ、スタンドが見えるのか!?」

「スタンドと言うのか……中々に恐ろしい威力だ。
 生身で受けていればただでは済まなかっただろうな。
 勿論、生身ではない私にはそこそこで済んでいるが。」

「……どうやら、スタンド使いでなくても見えるみてーだな。」

 考えたらそれもそうだと納得させられた。
 参加者にスタンド使いですらない人物がいた場合、
 圧倒的優位になるのは目に見えていることだ。
 特にスタンド使いでない川尻早人がいることから、
 公平さを考えれば妥当な話である。

「気を付けろ東方。炎に雷と多彩な魔法を使うらしい。」

「おいおいマジかよ。」

 つまり相手は厄介なものだと言うことはすぐに理解した。
 彼のスタンド、クレイジー・ダイヤモンドの治す能力は拳で触れる必要がある。
 触れることそのものが危険な存在に対してはそれが発揮できない。
 それにスタンドが見えるだけではなく、干渉してくるのもあり得る。
 スタンド使い同士の戦いで気にしたことはないが、そこにも警戒をしておく。
 つまり避けるしかないと言うわけだ。

「流石にあの一撃を何度も喰らうわけにはいかないな───バツバリアン展開!」

 バツガルフの四方に展開される、黄緑のバツ印に目玉が付いた物体。
 四方に散らばると同時に、緑色の障壁にバツガルフが覆われる。
 目に見えてわかる、バリアーの類だと。

「私に触れられるものなら触れてみるがいい。」

「そんなに触られてえなら
 ワニワニパニックみてーに存分にぶっ叩いてやるっすよぉ!!」

 魔法を唱えてる間に仗助が肉薄。
 クレイジー・ダイヤモンドの射程距離に入るや否や、

「ドララララララララララララァ!!」

 残像が見えるほどの拳のラッシュを叩きこむ。
 拳は障壁に阻まれてダメージを通ることはない。
 しかし、その拳の弾幕がバツガルフだけには留まるはずもなし。
 一体、二体、三体、四体。すべてのバツバリアンを一掃していく。
 バツバリアンが吹き飛ぶ中、バリアが消えてそのままラッシュを叩きこむ。

「そんな薄板のバリアで大丈夫だと───ッ!?」

 だがラッシュは叩き込むことはできなかった。
 パンチ一発を当てた瞬間、突き刺さる痛みにラッシュには至らない。
 何が起きたか分からず、咄嗟に地面をスタンドで蹴って距離を取る。

「だから言っただろう。私に触れるものなら触れてみろと。」

 バツガルフは魔法を既に行使していた。
 攻撃ではなく、反射と言う補助の魔法を。
 スタンドは殴る以外の行動をしてこない。
 ならば、触れること自体を妨害してしまえばいいだけのこと。
 ダメージは確かに受けるが、無傷と言うわけにはいかない。
 そして分かった今、警戒して殴るのに抵抗が出てくる。

(まずいな。このままだと東方がどんどん不利になる。
 バツガルフにはまだ隠してる魔法もあるはず……ン?)

「だがてめえも無傷ってわけにはいかねえようだな!」

「確かにな。だが魔法と反射の二段構えと御前の拳一発。
 此方の方が分があるとは理解してないわけではあるまい。」


26 : 背けた視線の先のカエサル ◆EPyDv9DKJs :2021/02/20(土) 05:19:26 tDQK.puw0
 指摘に対して返す言葉はない。
 こっちの手数を封じられたも同然だが、
 相手は普段通りの手数で攻撃してくる。
 肉を切らせて骨を断つのは完全に自分が骨を絶たれる側。
 支給品はこの短時間で確認できたのは一つ。しかも攻撃には向いていない。
 このままだとじわじわ削られて先に倒れるのは目に見えている。

「東方! 此処は一度退くぞ!」

 このまま戦えば負けることは必至。
 キョウヤから逃げることを提案されるが、

「退くって、そっちがそんな身体でどう逃げんだよ!」

 彼の負傷をまだ何も治せてないのに、
 相手から逃げきれる状況に持ち込むのは不可能。
 治しに行く間に攻撃の隙を与えてしまうのは確実。
 下手をすれば道連れになってしまうのにどうするのか。


 答えはすぐに分かった。
 夜道を照らす眩い明かり。
 赤と黒で構成された、洒落た車両がこのエリアへとやってくる。

「列車が走ってるのか!」

 そう、列車。
 地図を見てる余裕はなく、
 レールがあったことも知らなかったので、
 この舞台にはそれがあると言うことを此処で初めて知った。

「これがある、乗れ!」

 先にザックを背負って、目についた梯子にしがみつく。
 速度は普段目にする高速ではないので、負傷気味の彼でも掴まるのは容易だ。
 治りかけの手で身体が悲鳴を上げるも、今はそれどころではない。

「分かった、だがその前に───ドラァ!!」

 会話してる隙にさらりと魔法を唱えようとしていたバツガルフに、
 一発だけ拳を叩きこんで大きく距離を引き離して時間を稼ぐ。
 手ごたえはある。しかし同時に鋭い痛みが腕に伝わる。

「ッ……!!」

「そんな痛みも消してやろうではないか!」

 怯んだところに続けて襲うバツガルフの魔法。
 今度は氷の魔法で、周囲の冷たさから何か来るかは察していた。

「やべ!!」

 列車を追いながらの回避。
 だが完全には避けれず、左腕が凍り付いていく。
 そのまま振るえば鈍器にもなるような氷塊が装備させられる。

「早く乗れ東方! この列車は普通のより遅いが、追いつけなくなるぞ!」

 キョウヤに言われながら仗助は全力で列車を追う。
 この列車は多く見積もっても最高速度は四十キロ程度。
 飛び乗ったりは難しいことではないものの、問題は仗助本人。
 左腕は氷塊で自由に使えず、ザックも背負ってダメージも受けている。
 乗るタイミングが何度も失い、次第に距離が開き始めていた。

(東方が氷を砕く暇はない。砕いてる隙に奴が仕掛ける。見捨てるしかないのか?)

 初対面だが、少なくとも見ず知らずの奴を助ける行動力。
 この殺し合いに置いて頼もしい人物であることは間違いない。
 此処で降りて逃がすための囮を務めてもどの道仗助は列車に乗ることは不可能。
 どうするべきか考えてると、

「なるほどね。こういう時に使えってことだな!
 じじいのように叫ばせてもらうぜ───ハーミット・パープル!!」

 唯一調べた支給品を懐から取り出し、それを飛ばす。
 クローショット。ハイラルの勇者が険しい道を超える際に頼った道具の一つ。
 距離が開き始めた手すりを鉤爪が掴み、重量を物ともせず仗助を引っ張っていく。
 すかさず仗助がいた場所に降り注ぐ雷だが、クローショットで逃げられて当たることはない。

「フッ、私から逃れたところでお前たちの命はない!
 私の腹心である男、マリオもこの場にいるのだからな!」

「ヘッ! 負け推しみ言ってんじゃあねえぜ!
 つっても俺達が勝ったわけでもねえけどよぉ〜〜〜!」

 遠のいていく列車と二人。
 追い続けるのは困難だと判断し、バツガルフは線路から離れる。
 列車がどのようなシステムかもわからない。次の列車が来る可能性もあるのだから当然だ。
 こんな殺し合いに轢殺されて退場しましたなんてことになってたまるか。


27 : 背けた視線の先のカエサル ◆EPyDv9DKJs :2021/02/20(土) 05:21:56 tDQK.puw0
「折角完全に復活できたのだ。私は成し遂げるぞ……」

 影の女王にほぼ全身を破壊しつくされたあの屈辱。
 自分を騙していたマジョリンも、計画を邪魔したマリオも許はしない。
 此処でマリオも倒して、願いと共にマジョリンたちへと復讐を考えている。

 役に立つかどうかは別として、
 逃げた敵にはマリオの悪評でも流して置く。
 自分が乗っている人物である以上は、
 此方の味方と言う風に吹聴するのが一番だ。
 血の気が多い奴が聞けば、戦いに繋がるかもしれない。
 倒せば支給品を得て、逃がせば悪評。一先ずその方針で彼は動く。

 踊らされ続けた男は再び立ち上がる。
 この行動は、もしかしたら二人の手のひらで踊ってるだけかもしれないが。 

【B-3/レール付近/一日目深夜】

【バツガルフ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:えいゆうのつえ@ドラゴンクエスト7
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜2 確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し世界征服を叶え、ついでに影の女王へ復讐する。
1.打倒マリオ。その為の支給品集め。
2.マリオを味方と偽る形での悪評も考えておく。

※参戦時期は影の女王に頭だけにされて間もなくです。




 ……一方、逃した二人はと言うと。

「ちょっと凍傷してっけど大丈夫だ……さみぃ〜〜〜。」

 氷を水へと戻して手を動かす。
 多少麻痺してるが致命的なものではない。
 ただ、列車の上で風に晒され続けては寒いものだ。
 そのままクレイジー・ダイヤモンドでキョウヤの傷も治しておく。
 明らかに回復速度が遅いが、キョウヤ自身の再生力で本来の回復速度は速い。
 時期に傷は癒えるだろう。

「早急な加温が凍傷には効く。
 服の中にでも腕を突っ込んだ方がいい。」

「おう、サンキューな。」

 列車の上で、風に煽られながら二人は会話する。
 中に入ればいいのにと思われるが不正乗車だからか、
 正規の手段で乗ってない彼らは車内へ入ることはできなかった。

「支給品を見るに、切符が必要らしいからそれがトリガーか。
 お前さんのスタンドとやらで窓を破壊したりとかはできないのか?」

「悪い、結構頑丈みてーだから時間かかる。
 あんまし硬いもの殴ってるのもやばそーだしよ。」

「流石に都合よくはないか……ところで東方。おまえさんは今後どうするつもりだ?」

「あのサイボーグみてーなあいつはこのままほっとくわけにはいかねえ。
 けど魔法か〜〜〜まだ手のうち隠してそうなのに、どうすっかな〜〜〜。」

 こういう時億泰がいれば触れられない物に触れることができるのに。
 行動そのものを封じる露伴もいなければ、時を止めて殴ればいい承太郎もいない状況だ。
 このまま正面戦闘でバツガルフと戦うのはグレートにヘビーな状況になる。

「いや、それもだが基本的な方針を聞きたい。」

「勿論乗るつもりなし! 吉良とは別方向にあいつらはゲス野郎だ。絶対にぶちのめす!」

「……吉良? 名簿にもあったが、何者なんだそいつは。」

 杜王町に潜む邪悪。
 十五年以上にわたる殺人を犯してきた殺人鬼、吉良吉影。
 他にもこの場に居合わせた杜王町のことを彼へと話す。
 キョウヤ同様に、既に死んだはずの仲間がいることも交えて。

「吉良は俺達の方でいう、人類の敵のようなものか。」

「人類の敵? なんすかそれ?」

 今度は逆にキョウヤの番だ。
 仗助は信頼に足る人物であることが分かり、
 ある程度此方の事情を話すことにする。
 人類の敵と戦うために孤島に隔離された学生達。
 その中で起きる、不審な失踪や死亡した事件を。

「悪いが俺の能力は今は明かすことはできない。
 もしかしたら、使い物にならないかもしれないからな。
 それを当てにされて俺が死ぬのは困る。」


28 : 背けた視線の先のカエサル ◆EPyDv9DKJs :2021/02/20(土) 05:24:10 tDQK.puw0
 自分の方は隠すほどのことでもないので話したが、
 スタンド使いが相手に自分の能力を明かさないのと同じ。
 彼もきっとそういうことなのだと言うことは理解する。

「スタンド使いじゃあないのに能力が使えるんだな。
 いやでも、じじいは波紋ってスタンド以外の力持ってたよな。」

「能力者とスタンド使い。更にバツガルフの存在。
 別々の世界から招かれてる説は、本当と思ってよさそうだな。」

「マジかよ。」

 東方仗助はジョースター家の中でもかなり冒険と縁遠い存在だ。
 遠くの街へ行ったり、国を渡ったりと言ったものではなく、
 杜王町と言う決して大きくない町の中で、町を脅かす存在や色んな住人と出会ってきた。
 言ってしまえば非常にスケールの小さい世界で生きてきたようなものである。
 (どちらかと言えば吸血鬼や柱の男と戦ってきた連中が奇妙な冒険がすぎるが)
 だから別々の世界とか、スケールの大きな話には途方もない存在に感じさせられた。
 経験豊富な承太郎であれば『やれやれだぜ』で済ませそうだが。

「異なる世界から俺達五十二人を呼んでの殺し合いは、
 蟲毒と言うものによく似ているが俺達に毒の概念はない。
 血をや肉を集める生贄であれば、最初から殺せばいいだけだ。
 しかも俺やお前さんのように乗るつもりがない人間までいる。
 奴らの目的が今一つ分からない。殺し合いをさせたいのか阻止したいのか。」

「……弓と矢、か?」

「矢?」

「スタンド使いにできる弓と矢が俺の町にあったんだよ。」

 DIOをスタンド使いにしたとされる弓と矢。
 スタンドとは己の精神の具現化させた像であり、
 穏やかだったり闘争心を持たない人間にはスタンドは害になる。
 自分や、承太郎の母もスタンドが害になったのはそういうのに縁遠かったから。

「あいつらはスタンド使いを探してるっつー可能性。」

 ならば、殺し合いでその闘争心を育ててしまえばいいと。
 キョウヤの言うように殺し合いをさせると言う行為に理由が生まれて、
 最初から殺さないでこの舞台に配置させた理由にもつながる。

「弓と矢のことを余り知らないが、その可能性は一理あるか。」

 こんな手間暇かけてまでどんなスタンドが彼らは欲しいのか。
 そしてそのスタンド使いを従わせられる手段が彼らにはあるのか。
 (単純明快な首輪があるが、スタンド次第では爆破も狙えないのでその線は低い)
 今一つ確定させるには無理のある仮説ではあるものの、
 異なる世界の特殊な力。可能性の一つとしては十分にある。
 或いは他の世界と合わせた何かを企んでいるのかもしれない。

「とにかくバツガルフに対抗できる勢力を作りたい。
 利害が一致しているが、此方と手を組む気はないか?」

「こっちとしても大助かりだぜ。よろしくなキョウヤ!
 それはそうと───なんで俺のリーゼント触ってるんだ?」

 二人の主催の目的について話してる間、
 なぜかキョウヤの手が仗助のリーゼントを撫でている。
 最初は何か埃でもついてるのかと思ったが、全く違う。

「悪い。何か考えてるとき触っていたい性分でな。
 お前さんのリーゼントの出来の良さと弾力が中々良いんだ。」

「……できれば他の探してほしいっす。」

 褒められてるのかよくは分からないが、
 キレるほどのことでもないし特に気にしないことにしておく。
 一先ず触られ続けてるとムズ痒いので素直に当人のシャツの生地で我慢してもらう。

「ところで、先程あいつが言ってたが。」

「ああ……『マリオ』って奴には気を付けろってことだな。」

 バツガルフの腹心。
 それだけ豪語するのであれば相当な実力者の筈。
 トランプで顔は覚えたので用心することは容易い。

「いや、軽い警戒程度にしておきたい。」

「ん? なんでだ?」

「奴がもし『私の腹心がいるのだから』と言えばどうだ。
 東方はその腹心がどんな奴かトランプだけで判断できるか?」

「……あ!」

「気付いたな。奴はマリオと言う名前を名指ししている。おかしいと思わないか?
 腹心の名前を伏せておけば、俺達は誰なのか分からない腹心にずっと惑わされ続ける。
 その有利を捨ててでも、奴はマリオと言う名前を使った。いや、使わざるを得なかった。」

 このことから出てくる結論は、
 彼にとってマリオの存在は都合が悪い。
 都合が悪いと言うことは即ち味方になりうる可能性があると。


29 : 背けた視線の先のカエサル ◆EPyDv9DKJs :2021/02/20(土) 05:24:35 tDQK.puw0
「だが、万が一それを見越したうえでの発言かもしれない。
 奴は自信に満ち溢れていた。ばれたところで問題ない強さの可能性もある。
 どちらかと言えばバツガルフの方が疑わしいだけで、警戒するべき相手だ。
 何より、マリオは注意を惹くダミーで本当の腹心が潜んでいる可能性も否定できない。」

「結構策士だなあいつ……」

「ただでは転ばない辺り、あの男にも相応の理由があるのだろうな。」

「殺して自分の欲求満たそうとするやつにロクな奴はいねえよ。」

「……だろうな。」

 アンジェロに吉良。二人程ではないにしても音石だってそうだ。
 自分の目的のために平然と他人を殺すことができる奴がまともなはずがない。
 (音石の場合は虹村形兆のやった行為もあるので、一概には責められない。
  もっとも、ジョセフの殺害の計画を企てたので擁護する気もないのだが。)

 強風に煽られながら、二人は列車の行き先に身を委ねる。
 このまま何事もなければ、次の駅へたどり着くことになるだろう。

【B-3〜B-4/列車上/一日目 深夜】

【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:左腕凍傷、腕にダメージ、寒い
[装備]:クローショット@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜2 未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:乗るつもりはない。
1.バツガルフから逃走、及び対策の考案。
2.マリオと言う人物、或いは本当のバツガルフの腹心に警戒。
3.仲間を探す。不安と言う意味で由花子か生き返ってる重ちー、一般人の早人を優先したい。
4.吉良吉影を探す。乗ってるかどうか関係なしにぶちのめす。
5.佐々木ユウカ、鶴見川レンタロウに警戒。
6.クローショットがちょっと楽しい。
※参戦時期は少なくとも最終決戦、億泰復活以降です。
※キョウヤから無能なナナの情報を得ました。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。





(殺人鬼、吉良吉影か。)

 次々と起きる行方不明者。
 ひっそりと、しかし確実に殺してる奴がいる。
 まるで人類の敵のように姿を見せることはないまま。

(お前はどっちだ? 柊。)

【小野寺キョウヤ@無能なナナ】
[状態]:右手火傷(自己再生+仗助の治癒中)、雷撃による全身火傷(自己再生+仗助の治癒中)、寒い
[装備]:なし
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×1〜3 未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者が何を考えてるのか。少なくとも乗る気はない。
1.バツガルフから逃走、及び対策の考案。
2.マリオと言う人物、或いは本当のバツガルフの腹心に警戒。
3.知人の捜索。優先順位は佐々木=鶴見川>犬飼=柊。
4.東方仗助は信用してもよさそうだ。
5.吉良吉影、柊に警戒。
※参戦時期は少なくとも犬飼ミチルの死亡を知った時期より後です。
※不老不死の再生速度が落ちています。少なくともすぐには治りません。
※死亡した場合一度死ぬと暫くは復活できません。
※仗助からダイヤモンドは砕けないの情報を得ました。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。



※切符を使わず列車に乗る場合中には入れません(窓を破るなどで強引に入ることは可能)
※B-3の草原に草の焦げたのラインがあります。
※B-4でバツガルフの雷が落ちました。遠くからでも見えるかもしれません

【えいゆうの杖@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
バツガルフの支給品。作中におけるステータスが最も高い杖。
一方でバツガルフが使い慣れた杖ではないのでまだ慣れてない。
慣れればもっと強くなるかもしれない。

【クローショット@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
仗助の支給品。三つの鉤爪を打ち出すアイテム
爪が引っかかると対象を掴み、鎖が自動的に巻き取られ、その引っ張られる動作で移動する。
逆に敵を引き寄せる、物を引き寄せる、敵の持ち物だけ引き寄せることも可能。
リンクは二刀流でこれを用いたので、もう一つが何処かにあるかも。
なお仗助はこれをハーミット・パープルと呼んでいる。


30 : ◆EPyDv9DKJs :2021/02/20(土) 05:26:18 tDQK.puw0
投下終了です。列車は描写の都合、
リッチリッチエクスプレス@ペーパーマリオRPGとさせていただきました


31 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 09:38:32 CHoMzHHY0
投下乙です!!
いずれも頭脳と能力をフルに使った戦い、見ごたえがありました!!
ラスボス直前であるバツガルフ相手に上手く立ち回る仗助。
3人ともどうなるか楽しみですね。

ではメルビン、ノコタロウ、ガノンドロフ予約します。


32 : ◆2zEnKfaCDc :2021/02/20(土) 12:32:33 S.rN5OM.0
ガボ、鶴見川レンタロウ、美夜子で予約します。


33 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 16:16:28 CHoMzHHY0
投下します。


34 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 16:16:54 CHoMzHHY0

「おのれオルゴ・デミーラ……許してはおけん!!」
神の老兵メルビンは、三度蘇った魔王に対して憤りを覚えた。
この殺し合いという、閉鎖空間でのゲーム。
まさしくあの魔王が考えそうなことだ。
とある城の玉座の間に飛ばされた彼は、誰が参加させられているか知るや否やすぐにでもアルス達を見つけようと、ザックから一本の剣を取り出し、歩き出した。


玉座の入り口の扉を開けた時、鼻に絆創膏を付け、亀の甲羅を背負った少年と目が合った。


「うぬ!奇妙ないで立ち!!この戦いに乗った者でござるか?」
メルビンはアイアンタートルか何かのような姿をした少年を怪訝な目で見つめた。
「ち、ちがいますよ!!」

少年は慌てて、甲羅に引きこもる。
その動きは、まさしく亀だった。
そして、誰かを襲おうという姿勢ではなかった。

「驚かせてすまぬ。ワシはメルビンという者。魔王の討伐を目指した神の兵でござる。」
「ボ、ボクはハナハナ村の、ノコタロウって言います。あの……この人を見かけませんでした?」

魔王の討伐、神の兵。
一般人が聞けば腰を抜かしそうな言葉だが、出自も個性も様々な仲間と冒険してきたノコタロウには、特に驚くようなことでもなかった。
そんなノコタロウは甲羅から、一枚のトランプを出す。
そこにはマリオの絵が描いてあった。


「ふむ。ワシはこの人は見ておらぬ。どうやら探しに行くしかないようだ。」
「メルビンさんも、手伝ってくれるのですか?」
「勿論でござる。ノコタロウ殿の仲間を見つける過程で、ワシの仲間も見つかるかもしれぬ。」


その後、メルビンとノコタロウは互いに情報を交換した。
クッパ、バツガルフ、ボトクが危険人物で、マリオ、ピーチ、クリスチーヌ、ビビアン、アルス、ガボ、マリベル、アイラ、シャーク・アイの9名が安全な仲間であるということになった。



「メルビンさんがいい人で良かったです。」
「うむ。見たところそなたも悪いアイアンタートルでは無いようだからな。」
「え?アイアンタートルって何ですか?ボクはノコノコですよ!」


城の階段を下りながら談話する二人。
平和な会話だった。
それこそ、この殺し合いも意外と簡単に終わらせることが出来るかもしれないと錯覚するくらいには。
1階に降り、城門から出ようとした二人を、邪悪な気が襲った。


「メルビンさん……!」
怯えた表情を見せるノコタロウ。
「うむ。この嫌な気、相当な手練れに違いない!!」


その瞬間、二人の前に会った城門が、轟音と共に吹き飛ばされた。
「よくも我を裏切ったな……!!ザント!!!」

城門を破壊し、入ってきたのは、黒い肌で赤髪で堀の深い顔の巨漢だった。
何があったのか知らないが、その表情にすべてを破壊するほどの怒りが浮いてていたことは確かに分かった。
さらに恐ろしいのは、メルビンも知っている、大地そのもののような重厚な鎧を身にまとっていたことだった。


35 : 魔王を貫け ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 16:17:28 CHoMzHHY0

「我が名はガノンドロフ。丁度いい、貴様らを最初の贄にしよう。」
「させぬ!!バギクロス!!」

猛烈な竜巻が、魔王に襲い掛かる。
元々得意技だったバギマを、アルス達と修行を重ねることで、さらにグレードアップした魔法だ。
ガノンドロフが身にまとっているのは、熱の魔法に強いガイアーラの鎧だ。
だが、風魔法ならば通じるはず。

「ヌウウン!!」
「!!」
魔王は戦いなれた英雄でさえも驚きの方法で攻撃を防いだ。
石材の城の床を、拳で強引にめくりあげたことで、竜巻からの盾替わりにしたのだ。

「この程度か!!ならばこっちから行くぞ!!」
巨体に似合った剛力を発揮したと思いきや、今度は巨体に似合わぬ機敏な動きでタックルをしかけた。


「負けません!!コウラのまもり!!」

メルビンがタックルの餌食になる直前、巨大なコウラが落ちてきてメルビンを守った。
しかし、それはたった一撃で破壊され、一時しのぎにしかならない。

「そんな……。」
「いや!助かったぞ!!ノコタロウ殿!!」
破壊された甲羅から出てきたメルビンは、大きくジャンプし、空中で剣を振り、十字を作る。


「受けるがよい!!神の十字架、グランドクロス!!」
聖なる光で作られた十字が、ガノンドロフに直撃した。
「うおおおお!!!」


「やった!!」
耳をつんざくような雄たけびとともに、手ごたえがあったと確信する。
「ノコタロウ殿!!まだ終わってないでござる!!」
前線に出ていたメルビンが、慌てて後ろにいたノコタロウに声をかける。


「その通りだ。無傷ではなかったがな。」
ぺっと赤い色の混じった唾を吐いて、仁王立ちするガノンドロフ。
頭から血を流して、髪の毛はもともとの赤さなのかそうでないのか分からなくなっている。
だが、致命傷では無さそうだ。


「どうやら貴様らを倒すには、素手では手間がかかりそうだ。」
ザックから長剣を出し、メルビンに突きつける。
長剣とは言っても、居丈高の持ち主により、短剣に見えてしまうが。

「うおおお!!」
メルビンも剣を構え、斬りかかっていく。
老兵と魔王が斬り結んだ時、メルビンは岩にでも切り付けたような感覚を覚えた。


「ぬぐっ!!」
「中々の手練れだが、我には及ばぬようだ。」
隙を見つけ、メルビンの脇腹に回し蹴りを叩き込む。


「メルビンさん!!」
今度はノコタロウが甲羅に入って、ガノンドロフに体当たりした。
コウラアタック。だがノコノコ族なら誰もが出来る程度の技で、到底この男を倒すことはできない。

肘鉄がノコタロウの顔面に炸裂。
そのまま城の壁へと叩きつけられるノコタロウ。
何とか甲羅に入ったため、事なきを得る。

「ノコタロウ殿は下がっているでござる!!貴殿まで守るのは難しい!!」
「はい……。」
まるで歯が立たないノコタロウは、状況を見極め、階段の上へと逃げる。


36 : 魔王を貫け ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 16:17:49 CHoMzHHY0
「それでよかったのか?あんな未熟者でも、盾くらいには役に立つかもしれぬぞ!?」
「ワシならまだしも、若い者まで……生かしておけん!!」
復帰したメルビンは、ガノンドロフの首を落とそうと剣を一振り。
敵に届く距離ではないが、剣を振ったことにより生じた鎌鼬が首に襲い掛かる。

「ふん。味な真似を……。」

一瞬避けるのが遅れ、首に数ミリほどの傷が走るも、大したダメージにはならない。

「この程度で、勝てるとは思っていないでござるよ。」
だが、あくまで鎌鼬はブラフ。
躱した方向目掛けて、袈裟斬りをかける。
それさえも躱されてしまうが、隼斬りは二連撃。
追撃の逆袈裟が、魔王に命中するも、鎧にはじかれてしまった。


(ワシらが持っていた鎧が、敵の物になるとここまで厄介とは……。)

「中々面白い連撃だ。だが、この手の攻撃は我にも得意でな。」
ガノンドロフは体をコマのように回転させ、回転切りを放つ。
「見切った!!」
メルビンも負けじと、ガノンの剣の軌跡と自分の剣の角度が垂直になるように持ち替え、攻撃を防いだ。

「甘いな。」
今度は剣を逆回転に振り回す。
一撃目を防いだ際に、姿勢を崩されたメルビンに、その一撃は叩き込まれた。

「なっ……!!」
腹から鮮血が迸り、追加の蹴りを腹に浴び、抵抗できずに壁へと命中する。
城内に衝撃が走った。
甲羅もない彼は、勢いよく頭を壁にぶつけ、意識を手放す。


「ふん。中々強かったが、甘いな。」
「メルビンさん!?」
ガノンドロフが勝利を確信した所で、声が聞こえた。
ノコタロウがメルビンの身を案じ、下りてきたのだ。


「ふん。自ら首を出す潔さだけは、認めてやろう。」
剣を構え、その首を落とさんとする魔王。
その凄まじい眼光に見つめられ、ノコタロウは身がすくんでしまった。


「でも……ボクだってマリオさんの仲間なんだ!!コイツを倒して、みんなを助けに行くんだ!!」
甲羅に閉じこもり、体当たりする。

「またその技か、避けるまでもない。」
自分の直前に来たところを、剣で両断してやろうと意気込む。
しかし、その意思に反して、ノコタロウは自分の所に来なかった。

大きく反れた甲羅は、城の壁に命中。

「つまらぬ。恐怖でコントロールさえ失ったか。」
カベの反動で飛び続けるも、全く当たらない。


(もういい、引導を渡してやるか。)
どうでも良くなった魔王は、角度を読んで、飛ぶ先目掛けて斬りかかる。


「ボクはこの時を、待っていたんだ!!!」
とどめを刺しに来る瞬間、甲羅が加速する。

「何!?」
ノコタロウは外していたわけではない。
何度も反動をつけることで、勢いを増していたのだ。


37 : 魔王を貫け ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 16:18:16 CHoMzHHY0

マリオとの冒険の果てに身に着けた、ノコノコ族でもごく一部しか使うことの出来ない技。
その攻撃は、いかなる固い鎧をまとっていようと関係なく、ダメージを与えることが出来る。



「させるかあああああぁぁあああ!!」
「これがボクの最後の技!!ツラヌキコウラ!!!!!」

気付くも、時すでに遅し。
弾丸のような一撃が、大地の精霊の力を借りた鎧を貫き、肉体にまでぶつかる。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「今のは、さすがと言ったところか。」
気が付けば、ガノンドロフがいたのは城の外だった。
ツラヌキコウラが当たった直後、魔王は剣を亀の弱点、腹に突き刺した。
それでもノコタロウの勢いは止まらず、最終的には城の壁をも破った。
回転の反動で、剣がより深く腹に刺さることになっても。


「どうやらこの戦い、思った以上に手間がかかりそうだな。」
敵の強さを再認識するガノンドロフ。
だが、それでもどうでもいい。
勇気と知恵のトライフォースを奪い、参加者を皆殺しにし、最後に裏切り者のザントと、その仲間のオルゴ・デミーラも殺す。


痛む体も無視して、城から離れていった。


【G-4/バロン城外/一日目深夜】
【ガノンドロフ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:頭から出血、腹部に打撲
[装備]:ガイアーラの鎧@ドラゴンクエスト7、美夜子の剣@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜1 確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者も含め皆殺し、その過程でリンク、ゼルダから勇気と知恵のトライフォースを手に入れる



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「ノ、ノコタロウ殿!!それにガノンドロフの奴は!?」
目を覚ましたメルビンは、慌てて辺りを見渡す。
城には壁に大きな穴が開いており、外には腹から血を流してノコタロウが倒れていた。
自分が無事ということは、死んだと思われていた幸運もあったが、彼が命を懸けて戦っていたということは、誰にでも分かることだった。

「お主のこと。誤解していたでござる。」
本当に勇敢だったのは、自分ではなくノコタロウだったことに気づかされたメルビン。


「すまぬ、勇敢な少年よ。お主の仲間は必ず守る。」
もう動かなくなっていた、仲間に祈りを捧げ、悲しき英雄は歩き出した。




【ノコタロウ@ペーパーマリオRPG 死亡】
【残り 50名】


38 : 魔王を貫け ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 16:18:38 CHoMzHHY0

【G-4/バロン城外/一日目黎明】

【メルビン@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:背中に打撲、軽い脳震盪 MP2/3
[装備]:勇気と幸運の剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜5(一部ノコタロウの物)
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーから身を守る、ガノンドロフは今度会ったら絶対に倒す
1.自分とノコタロウの仲間(アルス、マリベル、ガボ、アイラ、シャーク・アイ、クリスチーヌ、ビビアン、マリオ、ピーチ)を探し、守る
2.ボトク、バツガルフ、クッパには警戒
※職業は少なくとも武闘家、僧侶、パラディンは極めています。

【美夜子の剣@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
ガノンドロフに支給された剣。
切れ味もそれなりだが、適性のあるものが使うと火柱を打てる。

【ガイアーラの鎧@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
ガノンドロフに支給された、大地の力を得た鎧。防御力が大きく上がるだけではなく、炎、爆発系のダメージを大きく減らすことが出来る。

【勇気と幸運の剣@ジョジョの奇妙な冒険】
メルビンに支給された剣
かつてはイギリス人なら誰もが知る(大嘘)黒騎士ブラフォードが持っていた剣
刃に『Luck(幸運)とPluck(勇気)の文字が彫られている。


39 : 魔王を貫け ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 16:18:52 CHoMzHHY0
投下終了です


40 : ◆7PJBZrstcc :2021/02/20(土) 17:02:29 Qah1f/lo0
柊ナナ、矢安宮重清、ピーチ姫で予約します。


41 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/20(土) 18:58:09 CHoMzHHY0
ローザ・ファレル、ボトク予約します。


42 : ◆s5tC4j7VZY :2021/02/20(土) 21:00:47 dfWXNk1E0
デマオン、ゼルダ、アイラで予約します


43 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/21(日) 18:08:15 kdlhZblA0
投下します


44 : 怪物 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/21(日) 18:09:30 kdlhZblA0
「殺し合い……許しておけないわ……。」
セクシーなドレスを身に纏った白魔導士は、殺し合いを止めようと決意した。
ザックを探ると、出てきたのは弓と矢。
何でもゴロン族の秘宝らしい。
ゴロン族というのは何なのかさっぱりだが、自分に向いた武器というのは不幸中の幸いだった。


続いて名簿代わりのトランプをめくってみる。
かつて月でゼムスを倒した仲間たち(なぜかリディアのみいなかった)に、一時的に共に冒険したモンクであるヤン、ゼムスに操られていたゴルベーザ。
そして、もう一人気がかりになる名前があった。

火のルビカンテ。
彼はバブイルの塔と、巨人の体内で繰り返し倒されたはずだ。
かつてゼムスがあの炎使いを生き返らせたように、オルゴ・デミーラやザントも、何らかの力を持っていることで間違いないだろう。


この際だから、かつての仲間のみならず、ルビカンテやゴルベーザ、この世界に呼ばれた見知らぬ者とも協力したい。
洗脳が解けた後、ゼムス討伐に協力してくれたように、ゴルベーザはセシルの兄であることも踏まえて、きっと協力してくれる。
武人気質なルビカンテも、敵として戦った相手とは言え、このような殺し合いを嫌っているはずだ。(両親の死の原因になったエッジと相いれるかどうかは別として。)


とはいえ、この場でぼんやり考えていても、実際に会わなければどうしようもない。
まずはファイアもホーリーもなしで灯りがついているこの不思議な建物から出ることにした。

どこかバブイルの塔にでもありそうな、エレベーターで1階に降りた所で、巨大な人影に出くわした。
いや、「人影」というのは間違えた表現である。
なぜなら柱の裏側にいたのは、魔物だったから。

「!!」
「あなたはこの戦いの参加者ですか?」

死人のようなカーキ色をしたローブと、血のような赤い帽子を付け、ワニを彷彿とさせる緑の顔をした魔物は、丁寧な口調で話しかけてきた。


「あなたは誰!?」
この魔物から発せられる気を、ほんの1時間前味わったことがある。
圧力こそは幾分か劣るが、この背筋を羽で擽られたような悪寒や、アンデッドの臭いを嗅いだ時のような胸のむかつきは、あのオルゴ・デミーラから発せられるものだ。

「私はボトク。オルゴ・デミーラの僕でした。ですが、勘違いしないでください。」
「そんな気を出しておいて、勘違いするなという方が難しいわ。」

ローザは弓の弦を引こうとする。

「ですが、それは昔の話です。今はこの戦いを通じて、デミーラの奴を倒そうと思っています。」
「一応、話を聞くわ、何があったの?」
ほんの僅かだけ、警戒心を解く。
だが、まだこの怪物を信用するわけにはいかない。

「ことの発端は、デミーラがこの殺し合いを計画した時です。
こんな残酷な行為を許しておけず、反対したらいつの間にか、この戦いに飛ばされていたのです。だから是非あなたにも、デミーラを止めるために協力して欲しい。」


45 : 怪物 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/21(日) 18:09:50 kdlhZblA0

「いいわ。何をして欲しいの?」
元々こんな悪趣味な催しは許しておけない。
ボトクに頼まれずとも、するつもりだった。


「この戦いの反対勢力を集めて欲しいです。この建物から私は東へ、あなたは北へ行き、手分けして人を探しましょう。」
「ちょっと待って欲しいわ。」

そこでローザは意見を唱える。
「ボトクと言ったわね、あなたが北へ行ってくれない?東には私の故郷の、バロン城があるの。きっと私の仲間も向かっているはずだわ。」
「少し待ってください。先ほどこの建物に入る前に見たのですが、知らない者が城の方へ向かっていました。
恐ろしい闘気を発していて、私は止めることが出来なかったのですが……。」

ボトクは危険人物が向かっていたという、バロン城に行くなと忠告する。
「だからこそよ。私のセシルは、そいつが殺し合いに乗っていれば、絶対止めるはず。」
「ならばこれをどうぞ。」
ボトクが渡したのは、目玉がたくさん描かれた、奇妙なとんがり帽子だった。
「ふしぎなぼうしと言うそうです。何でも消費する魔力を減らすことが出来るとか。私が被せてあげますね。」
怪物の手が僅かながら耳に触れた気持ち悪さはあったが、帽子からは禍々しさは感じられなかった。

「助かるわ。ではそろそろ行くわね。」
「待ってください。その帽子、水に当たると効果を失うようです。くれぐれも水辺に近寄らないように。」
「分かったわ。ボトクも無事で。」
「ええ。分かっていますとも。」


魔物と美女は、デパートの入り口で別れた。





魔物は東のバロンへ。美女は北へ。



【F-3/デパート外/一日目深夜】

【ローザ・ファレル@Final Fantasy IV】
[状態]:健康
[装備]:勇者の弓@ゼルダの伝説+矢30本 トワイライトプリンセス ふしぎなぼうし@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:バロンへ向かい、対主催勢力を集める。かつての仲間だけじゃなく、様々な参加者と協力したい
1.バロン城に向かったらしい強者に警戒
※参戦時期は本編終了後です。



※ボトクの姿になっています


46 : 怪物 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/21(日) 18:10:07 kdlhZblA0
「ふふふ……あははははは!!」
ローザが見えなくなった後、北へ向かった人影は笑い始めた。

(まさか、こんなにも簡単に成功するとは。)

今度は、人の姿をしていたから、「人影」という表現は正しいはずだが。
ローザの姿をしたボトクは、先ほどローザに帽子をかぶせ、耳に触れた際に、姿を入れ替える魔法を唱えたのだ。


彼がローザに対して放ったのは、入れ替わりの呪術。
かつて自分の姿と、村を守ろうとした神父を入れ替え、愚かな村人たちを弄んだことがあった。
あの時こそ失敗してしまったが、この世界でもまた、同じことが出来そうだと確信する。


(この姿のまま、どうするか。あの女が言っていた、セシルという奴に近づくのもいいかもな。)
ローザを鏡があるデパートから離そうとしたのも、鏡で自分の姿を知られまいとするためだ。
バロンへ向かわせまいと、正確には海に近寄らせまいと出鱈目を流したのも同じこと。


怪物になったローザの姿を、自信に見せまいとするためだ。

(オルゴ・デミーラ様、おれ様を復活させてくれたことを、感謝します。是非ともこの催しを、狂わせて見せましょう)
男の誰もが振り返るほどの美貌で、邪悪な笑みを浮かべる。
いつあの愚かな女は自分の姿に気づくかなと、楽しみで仕方がなかった。


(それに、面白い道具も手に入れたしなあ。)
持っていたのは、人畜無害そうな鳥の卵。
玩具でも手に入れたかのように、それを手でコロコロと遊んで、ザックにしまった。

【F-3/デパート外/一日目深夜】

【ボトク@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、カヤノスヅクリの偽卵@新世界より ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:ローザの姿で参加者に近づき、参加者を翻弄する。自分を倒したアルス、ガボ、メルビン、アイラ優先
1.北へ向かう
2.最終的には優勝
※参戦時期は本編死亡後です
※ローザの姿になっています
※原作で神父と入れ替わった魔法の発動条件・内容は、以下の通りです。
・相手に触れれば、魔法は発動する。
・相手を自分の姿に変えている間は、自分はそれ以外の相手に変身することも、別の相手を自分の姿に変えることも出来ない。
・姿が入れ替わっても、ボトク自身は自分の姿に戻ることが出来る。
・どの魔法・能力・道具で治るかは不明。少なくともローザ自身のエスナでは戻らない。
・ボトクか魔法をかけた相手が死ねば、互いに元の姿に戻る。


【支給品紹介】

【勇者の弓@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス】
ローザに支給されたゴロン族の秘宝。
かなり遠くにぶら下がっている綱でも切ることが出来る速さで飛ばせる。


【ふしぎなぼうし@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
ボトクに支給された帽子。
防御力こそ低いが、付ければ消費魔力を減らすことが出来る。


【カヤノスヅクリの偽卵@新世界より】
ボトクに支給された道具。
元々鳥類のカヤノスヅクリが自分の卵を捕食者から守るために糞や枝で作った物である。
投げても相手を汚すだけだが、蛇などが呑み込めば飛び出る枝と糞の毒素で大きなダメージを与えられる。
本ロワではどの程度の参加者まで致死性かは不明。


47 : 怪物 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/21(日) 18:10:17 kdlhZblA0
投下終了です


48 : ◆OmtW54r7Tc :2021/02/21(日) 19:54:45 7v5Yvo9A0
ゲリラ投下します


49 : ここから先は語り部なき物語 ◆OmtW54r7Tc :2021/02/21(日) 19:56:26 7v5Yvo9A0
私の名前は、渡辺早季。
二一〇年の十二月十日、神栖66町に生まれた。
私はこれから、二十三年前、十二歳の時の出来事に端を発する様々な出来事や事件について、手記を…残そうとしていた。
だがしかし、困ったことが起きた。
…思い出せないのだ。

十二歳で呪力を発現し、小学校「和貴園」を卒業して、「全人学級」に入学したこと。
そして、夏季キャンプにやってきたこと。
そこから先のことが…思い出せない。
思い出そうとすると黒い風景が浮かぶばかりで、何も見えない。
それは夜の闇のようであったが、しかしいつまで経っても暗順応することなく真っ暗なままだった。
昨日まではっきり覚えていたはずだったのに。

「…寝よう」

結局夜遅くなっても筆が進まなかった私は、その日は寝ることにした。
おそらく、頭が疲れてるかなにかだろう。
眠れば、スッキリして思い出せるかもしれない。
それでも思い出せなければ、覚に相談してみよう。
そう考えながら、私は眠りについた。


50 : ここから先は語り部なき物語 ◆OmtW54r7Tc :2021/02/21(日) 19:57:26 7v5Yvo9A0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「な、なんなの一体…」

渡辺早季は、困惑していた。
自分は、同じ班の友人たちと共に、夏季キャンプをしていたはずだ。
キャンプ初日を終え、眠りについたはずだった。
それなのに気が付けば全然知らない場所にいて、殺し合いをしろと言われ、そして女の人が…

「うっ…うええ」

二度にわたって凄惨な死体と化した少女の姿を思い出し、吐き気に襲われる。
なんとか吐きそうになるのを耐えた早季は、一度大きく深呼吸した。
当然それだけで恐怖や気分の悪さが収まるはずもないが、少しはマシになった。

「…荷物、見てみよう」

殺し合いというものに実感がわかないし、そんなものをする気もなかったが、身を守るものは欲しい。
発現して数か月の呪力に頼ってどうにかなるとも思えないし。
そうしてザックを開けると出てきたのは、

「プギー!」

見たこともない生物だった。



「えっと、なにこれ?」

見たこともない生物に、早季は目を丸くする。
最初見た時は、「ミノシロか?」と思った。


ミノシロ。
それは早季の住む町の内外に生息する不思議な生物だ。
体長は30cm〜1mほど。
背中に10本程の触手を生やし、それを振動させることで警戒音を発する。田畑などでよく見られるが、害虫を食べるほか土壌改良の役割も果たしているため、益獣として重宝されている。
ミノシロという名前の語源には貯説あるが、長くなるのでここでは割愛する。


そんなミノシロ、芋虫のようだと形容されるのだが、今目の前にいる生物は、ミノシロ以上に芋虫っぽい見た目をしていた。
毒々しい棘のような頭部と、ギザギザ歯を開いた口が怖い。
親友の真利亜に比べればこういう生物に耐性はある早季でも、ちょっと近寄りがたい見た目だった。
その一方で、見たことのない生物への好奇心もあった。
瞬や覚なら、知っているだろうか。

「…あれ?紙が貼ってある」

生物の身体に貼ってある白い紙を、早季は恐る恐る近づきながら、目を凝らして見る。
そこにはこう書いてあった。


51 : ここから先は語り部なき物語 ◆OmtW54r7Tc :2021/02/21(日) 19:58:14 7v5Yvo9A0
チビィ
種族名ヘルワーム
身体に無数のトゲが備わった、イモムシの魔物。
体内に毒を持っており、口から吐く糸で相手の動きを封じ、毒でじわりじわりと弱らせる。
なお、通常のヘルワームは体色が緑色なのに対し、このヘルワームの体色は黄色であり、色違いの希少種である。

「毒っ!?」

説明を読み、後ろに下がる早季。
そんな彼女に、生物―チビィはのそりのそりと追いかけるように近づく。

「来ないで!」

慌てて早季がそう叫ぶと、チビィは動きを止める。

「プギー…」

そして寂しそうに鳴くと、踵を返して立ち去ろうとしていた。

「え、ちょ…」

そんなチビィの姿に思わず早季は手を前へと伸ばしていた。
が、すぐにその手を引っ込める。

「…これで、いいのよね」

自分を納得させるように、そうつぶやく。
説明書きを信じるならば危険な生物のようだし、連れ歩くわけにはいかない。
理性の自分は、そう納得しようとしているのだが―

『プギー…』

去り際のチビィの姿を思い出し、罪悪感が襲う。
悲しそうに見えたのは、気のせいだろうか。

「…ああ、もう!」

早季は走ってチビィの後を追うと、彼の横に立つ。

「…一緒に行く?」
「!…プギー!」
「ち、近寄らないで!」

結局早季は、この名前の割にでかいイモムシと、一緒に行動することになった。

(考えてみれば、こんな危ない生き物を放置して誰かが襲われたりしたら、大変だしね。うんそう、別にかわいそうとかそういうのじゃないよ)

ザックに入れるというのは、触るのが怖いのでできない。
故に、こうして一緒に歩くしかなかった。
そういえばこのザック、チビィが入るには小さすぎるし、それに重さも変わらないが、いったいどうなってるんだろう。

「まあいっか、それじゃ行くよ、チビィ」
「プギー!」


52 : ここから先は語り部なき物語 ◆OmtW54r7Tc :2021/02/21(日) 19:59:30 7v5Yvo9A0
こうして渡辺早季の新たなる物語は、一匹の魔物と共に始まった。
この物語に語り部はいない。
故に、彼女がこの先どうなるのかは誰にも分からない。

未来の自分にすらも、分からない。

【E-7/一日目 深夜】

【渡辺早季@新世界より】
[状態]:健康 恐怖 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 チビィ@ドラゴンクエスト7 不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:不明
1.とりあえずチビィと共に移動する
※参戦時期は夏季キャンプ1日目終了後
※チビィとのゴタゴタで他の荷物の確認を忘れています。
 故にトランプ名簿も未確認です。


53 : ◆OmtW54r7Tc :2021/02/21(日) 20:00:28 7v5Yvo9A0
投下終了です


54 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/21(日) 21:15:45 kdlhZblA0
初投下お疲れ様です!!
出たよチビィが!!
あからさまにヤバそうな能力を持っていることが分かりながらも、一緒に行こうとする早季優しい。
原作でも色んな可能性があったキャラだし、ここから先どうなるか気になりますね。

セシル、マリオ、ルビカンテ予約します。


55 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/21(日) 21:24:11 kdlhZblA0
>>54
に追加でドラえもん予約します。


56 : ◆s5tC4j7VZY :2021/02/21(日) 22:14:24 pdioYTrc0
皆様投下お疲れ様です!
そして、ロワ開幕おめでとうございます。

終わりの始まり
オカマ口調がネタにされるオルゴ・デミーラですが、歴代魔王としては有能であるだけに強力な主催ですね。
それに加え、ザントとのタッグもう、ロワ会場は影の世界ですよ……
そして、リンクが不憫……

頭を使おう、物理ではなく
クリスチーヌにモイとそれぞれ主人公(マリオとリンク)を支えた仲間のペアは心強いですね!
果たして彼らは主人公のサポートをここでもできるのか!?楽しみです。

影に飲まれるな
互いに分かりあえ、ペアとなれたかも知れないのが悲しいですね……
ビビアン……彼女の行く末は如何にッ!!

背けた視線の先のカエサル
何気にバツガルフって多彩な魔法が使えるので強敵ですね!!
バツガルフの誘導にも気づくキョウヤの頭のキレは流石ですね。
クロ―ショットをハーミット・パープルと叫ぶ仗助に笑っちゃいました(笑)

魔王を貫け
ガノンドルフにガイアーラの鎧は正に鬼に金棒!!
(ワシらが持っていた鎧が、敵の物になるとここまで厄介とは……。)
↑メルビンのこの台詞、ロワならではで共感します。
魔王に一矢報いたノコタロウの雄姿は忘れちゃいけませんね。

怪物
オルゴ・デミーラの配下はどいつも知恵が働く魔物達ですが、ローザに化けたボトク……ッ!
策士ですねぇ〜
そして、ボトクの姿のローザ……これは……萌えられない(涙)

ここから先は語り部なき物語
最初、まさかの人妻早季ちゃんで参戦かと思っちゃいました!
冒頭と大きく未来が変化してしまった早季ちゃんの行く末……どうなるのか注視d¥したいです!

それでは、私も投下します。


57 : デマオンの表裏バトル・ロワイヤル ◆s5tC4j7VZY :2021/02/21(日) 22:16:03 pdioYTrc0
D-5…大魔王の城。それは、見るものを畏怖するおどろおどろしい城。

その城の大広間にて剣を片手に持ちながら踊る女性……
女性の名はアイラ。
旅の民族であるユバールの10代目踊り手。
生来、踊りよりも剣を握る方が好きなアイラは伝説のトゥーラの弾き手を探すべくアルスたちに同行し、最後には神を騙り世界をわが物にする魔王オルゴ・デミーラを討ち取った。

「……」
アイラの舞を静かに見つける女性……
女性の名はゼルダ。黄昏の姫。
神の力が眠るとされたハイラル王国の姫。
影の王ザントに攻め込まれ、民を守るために降伏の道を選んだ。
民を守れなかった弔意を込めて黒いローブを身にまとい塔に幽閉されていた。

(なんて、情熱でいて美しい足のステップ……見惚れてしまうわ)
アイラの艶がある長髪の黒髪がその踊りをいっそう同性が見ても艶やかに感じさせる。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ふぅ……元気がでましたか?」
踊りを終えるとゼルダに話しかけるアイラ。

「…ええ。ありがとう。アイラ」
「よかった。それに礼はおよびません。私も踊らないと気がすまなかったので」
ゼルダの顔に元気が見えてきたので、アイラは顔をほころばせる。

☆彡 ☆彡 ☆彡

アイラとゼルダが互いに邂逅する前……

「やっぱり…!!」
大魔王の城に降り立ったアイラはまず、殺し合いに参加させられた人の顔を覚えるため、顔つきのトランプを確認する。
トランプに描かれた参加者には予想通りアルスたちオルゴ・デミーラを討ったパーティ全員がいた。

「私たちへの復讐を兼ねているわけね……」
「でもね…」
「人の命を弄ぶあなた達に私達は負けないわ!」
命を握られていようとアイラはオルゴ・デミーラとザントに宣戦布告をする。

「ん?あれは……」
視線の先に座り込んでいる女性がいた。

(きれいな人…)
女性である自身も見惚れてしまう気品漂う女性であった。


58 : デマオンの表裏バトル・ロワイヤル ◆s5tC4j7VZY :2021/02/21(日) 22:17:03 pdioYTrc0
「あの……あなたも参加者ですよね?私の名前はアイラといいます」

「……私の名前はゼルダ」

☆彡 ☆彡 ☆彡

〜アイラと会話を交わす前のゼルダ〜

(ザント……一体、何を企んでいるの?)
憂鬱な表情で座り込むゼルダ。

おそらく、自分を苦しめる目的でこのような殺し合いを開いたのだろうが、わざわざ、王国の民とは関係ない者たちまで巻き込むとは。

(それに、あのオルゴ・デミーラと名乗る者の魔力はザントとは異なる力を感じたわ……)
(ザントだけでなく、あのような禍々しい魔力を持つ化け物……死を待つしかないのかしら)
ザントと共にいたオルゴ・デミーラの魔力にゼルダは諦めの境地に達していた……

しかし、ある叫び声がゼルダを光の道に導く!!

「人の命を弄ぶあなた達に私達は負けないわ!」
突如、叫ぶ声。
私はその声の主を見つめる。
その女性は凛とした意思の目を持つ美しい女性であった。

「……どうして、悲しい顔をしているのですか?」

「いえ……無力な自分に恥を感じているのです……」
女性の尋ねにゼルダは弱弱しく返答する。
「……」
アイラはゼルダの言葉を聞くと……

「あの、今から少し踊りたいと思うので、よければご覧になってください」
「え?」
アイラの申し出にゼルダは間の抜けた声を発してしまう。

「では、舞います!」
アイラの情熱でいて艶美な舞がはじまる……

☆彡 ☆彡 ☆彡

〜冒頭の舞が終わり〜

「つまり、ゼルダ姫とワタシの住む世界は別々の可能性がありますね」
「そうね。オルゴ・デミーラと名乗る魔王の所業はハイラルの歴史にも載っていないわ」

アイラの舞を見て元気を取り戻したゼルダは互いに情報交換を行う。
そして、互いの世界に君臨する王を知ると、別の世界の可能性に言及することとなった。


59 : デマオンの表裏バトル・ロワイヤル ◆s5tC4j7VZY :2021/02/21(日) 22:18:52 pdioYTrc0
「どちらにせよまずは、アルス達と合流したいと思います。姫にも同行願いたいと思いますが…」
「ええ。私からも共に行動することを願いたいわ。それと…貴方はハイラル王国の民ではありません。ですので、ゼルダで構わないわ……アイラ」
ゼルダの申し出にアイラはーーーーー

「わかったわ……ゼルダ」

アイラとゼルダは互いに握手をするとーーーーー

「地球人にしては、見後な舞であった。褒めてつかわそう」
「…何者!?」

謎の声と同時にアイラとゼルダのすぐ側の左右に火柱が燃え盛るッ!!

「くっ……!?」
(これは…メラゾーマ?いや、違う…威力が桁違いだわッ!?)
燃え盛る業火に額から汗を流すアイラ。

アイラとゼルダの眼前に姿を現す禍々しき魔力の持ち主。
「…ワシの名はデマオン。魔界を統べる大魔王なり」

大魔王デマオン。
魔界を統一し、国家元首として君臨し完全独裁国家を築き上げた。
その後、魔界族の悲願である地球を征服しようと侵略を始めたが、その悲願は果たせず7人の魔法使いにより敗れ、死を迎えた。

「大魔王ですって!」

デマオンの名乗りにアイラはディフェンダーを構え、ゼルダもアルテミスの弓に自身のエネルギーで作成した光の矢で構える。

「やめんか!愚か者ども!!」
デマオンは一喝する。

「ここで、争えばあの不遜なるデク人形共が顔をほころばせて喜ぶだけだということがわからんのかッ!!」
「「……」」

デマオンの言葉にアイラとゼルダはそれぞれ武器を下す……

「それでよい。貴様らをワシの部下とする。誉れあるデマオン軍の一員となったこと喜ぶがいい。……では、図書館へ向かうぞ。ワシについてこい」
デマオンはアイラとゼルダの返答を待たずに歩きだす……

「…どうする?」
「……ついていきましょう。いざという時は私たちが食い止めるために」

大魔王と名乗るデマオンを野放しにするわけにはいかず、アイラとゼルダはデマオンの後をついていく。

図らずも2人はデマオン軍に入団してしまった……

【D-5/大魔王の城/一日目深夜】

【アイラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康 職業 調星者 (スーパースター)
[装備]:ディフェンダー@ FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラを再度討つ デマオンへの警戒
1.デマオンには警戒しながら同行する
2:アルス達を探して合流する
※職業は少なくとも踊り子、戦士、武闘家・吟遊詩人・笑わせ師は極めています。
参戦時期はED後。
【ディフェンダー@FINAL FANTASY IV 】
アイラに支給された剣。
装備すると防御力が上がる他、体力上昇の効果も持ち、更に使用効果でプロテスが発動する。
…ちなみに投げることも可能である。


【ゼルダ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 】
[状態]:健康
[装備]:アルテミスの弓@ FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:ザントの企みを阻止する デマオンへの警戒
1.デマオンには警戒しながら同行する
2.アイラの仲間(アルス達)を探して合流する
3.ミドナ…あなたもいるのかしら?

参戦時期はミドナとリンク(狼)が出会い1回目の頃。
※参加者のトランプは確認していない。

【アルテミスの弓@FINAL FANTASY IV 】
ゼルダに支給された弓。
装備すると攻撃力、命中率ともに上昇するかなり優秀な効果を持ち、さらに力・素早さ・体力が向上する装備補正もある。
反面、精神と知性が少し減少してしまう…


60 : デマオンの表裏バトル・ロワイヤル ◆s5tC4j7VZY :2021/02/21(日) 22:20:15 pdioYTrc0
(……)
デマオンは己の胸に手を当てる。

(ワシの体内に心臓がある……)
ドクンドクンと鼓動するのが証拠だ。

(おのれぇぇぇ!!これもあの不遜なるデク人形共の仕業かッ!!)
怒りに燃えるデマオン。

(ワシが魔界を統べることができたのは強大な魔力だけでなく、心臓を隠すことによる不死身の体質があってのこと!!)
普段、デマオンは自分の心臓をデモン座のアルファ星に偽装して隠している。
そのため、心の位置に銀のダーツが刺さっても痛くも痒くもない。
しかし、現在はオルゴ・デミーラ及びザントにより、心臓は体内に戻され、デマオンの強みである不死の能力は失われているのだ。

(おのれ!その草はお詫びのつもりか?大魔王デマオンをあなどるとは……なッ!)
デマオンは支給品とされた世界樹の葉を眺める。

(たとえ、心臓が体内にあろうともワシを滅することができるのは銀のダーツのみ……いや、しかし、ワシを蘇らせこのような催しに参加させるデク人形共のことだ……あるいは、銀のダーツでなくても可能であることを考慮しておかなければならぬな……)
デマオンを唯一滅することができる銀のダーツのみであるが、デマオンは不遜なるデク人形共が細工を施している可能性を考慮する。

(あの、2人の女どもから不遜なデク人形共に似た魔力を感じた…つまり、関係者の可能性が大きい)
デマオンがアイラとゼルダの眼前に姿を現したのは、両者からオルゴ・デミーラとザントの魔力を感じたからに他ならない。

(ここには、ワシを滅した地球人(ジャイアン)はいないが、その仲間の青だぬき共はいる。復讐といきたいが、あやつらの不思議な道具は有益だ…始末するとなるとあの女どもが騒ぐであろうから、ここでは不問としようではないか)
トランプには7人の魔法使いの何人かがいた。
しかし、デマオンが魔力を振るうべき相手はオルゴ・デミーラとザントのデク人形である。
ここでの殺し合いはデク人形を喜ばせるだけ…デマオンは私情を殺す。

(まずは、情報収集…そして首輪の解除が優先)
情報収集・首輪解除に繋がりそうな可能性が高い図書館に目標を定めた。

(見ておれ!このワシを【デク人形】と称したこと貴様らの命で償ってもらうぞ!!)
本来、アイラとゼルダとは相いれない立場のデマオンだが、オルゴ・デミーラのデク人形発言が大魔王を対主催へと舵をきったのだ。

(そして、その後は……今度こそ地球を…いや、あの女どもの世界もワシが支配してくれる…ワハハハハ!)

アイラとゼルダ姫の会話から、自身とは異なる世界の存在を知ったデマオン。
ここでは対主催とはいえど、大魔王の野望は既にこのバトルロワイアルの【その後】を想定している。

【デマオン@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:健康 魔力消費(極小)
[装備]:世界樹の葉@ ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:不遜なるデク人形(オルゴ・デミーラ、ザント)をこの手で滅し、参加者どもの世界を征服する
1.図書館に向かい、情報収集する
2.部下であるアイラとゼルダを引き連れる
3.刃向かうものには容赦しない
4.青だぬき共の処遇はこの場では不問とする

【世界樹の葉@ ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち 】
デマオンに支給された葉。
使うと【死亡】している1人を生き返らせ、体力を完全回復させる葉っぱ。
ただし、ここでは 使える対象は自信と死亡して1分以内のキャラだけ
もったいない精神が原因で結局使わないこともある。
だがそれでは宝の持ち腐れなので、使うべき時は迷わず使おう。


61 : デマオンの表裏バトル・ロワイヤル ◆s5tC4j7VZY :2021/02/21(日) 22:20:26 pdioYTrc0
投下終了します。


62 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/21(日) 22:34:35 kdlhZblA0
全話感想兼投下乙です!!
ゼルダとアイラを勝手に部下にしたり、世界樹の葉にキレ散らかす、
デマオンの原作にはないコミカルさに思わず笑ってしまいました!!
世界征服の野望は変わってませんが、それでもガノンやバツガルフに比べて話が通じる対主催ってのは驚きです!!


余談ですが、◆s5tC4j7VZY さんの天気の子ロワの千空登場回、かなりお気に入りなんですよね。
ドクストのキャラは書き手に高いハードルを要求されるので、通らないとは思っていましたが、それでも通って欲しかったです。
勿論今作も面白かったので、また表裏でも感想・ssを書いてくださるとうれしいです。


63 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/22(月) 11:40:36 L3s0bfqU0
投下します。


64 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/22(月) 11:41:56 L3s0bfqU0
投下します。


65 : 闇に身を委ねた者 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/22(月) 11:43:15 L3s0bfqU0
とある学校の校庭。
この殺し合いが始まる前、クラスの覇権を目指した争いが繰り広げられようとしたこの場所で、新たな争いが始まらんとしていた。
片側にいるのは紅の戦士、ルビカンテ。
もう片側にいるのは、白のパラディン、セシル。

「行くぞ、セシル!!」
先に飛び出してきたのは、紅の戦士の方だった。
「話を聞いてくれ!ルビカンテ!!」
先手を許してしまったが、その攻撃に当たるまいと躱し続けるのが白の聖騎士。


「話を聞く余裕などない!!ファイガ!!」
ルビカンテが念じると、一対の火球がセシルに向けて襲い掛かる。
セシルが真珠色の大剣を振りかざすと、その炎は水蒸気に帰した。


「ふむ。氷の剣か。」
「ここで僕らが戦っていてもあいつらが喜ぶだけだ!!君ならわかるはずだ!!」
「然り。だが、私は脆弱な者共と協力する気などない。ただ、強者との戦いを望むだけだ!!」

続いて右手から炎の魔法を続けざまに打つ。
仲間であったエッジやリディアのように、遠距離攻撃を持たぬセシルにとって、この攻撃は厄介だった。


「どうした!?私がおまえに負けたのは、貴様の仲間や強い武具のおかげというわけなのか?」
「頼む!奴等を倒すために、僕と協力してくれ!!」
「ならん。この殺し合いを止めたいのなら、私を殺すがよい。」

自分の発言が矛盾していることなどお構いなしとばかりに、続けざまに炎の魔法を打ち続ける。
弾幕のように迫りくる炎を、吹雪の剣を振り回す。
だが、このままではらちが明かない。


(力を貸してくれ、ローザ、みんな!!)
炎の嵐の中をくぐり抜け、ルビカンテに斬りかかる。
その刃が深紅の衣に吸い込まれんとした時。


(!?)
その一撃は、ルビカンテの左手により止められた。

「中々面白い武器を貰った。使わせてもらうぞ。」
「爪!?」
かつてのルビカンテは、炎の魔法やそれを応用した術など、徒手空拳の戦い方をしていたので、セシルも油断していた。
だが、炎の爪という支給品を承ったことにより、新たな戦法を編み出したのだ。


反撃を受けまいと、慌てて後退するセシル。
「この爪は、こういった使い方も出来るようでな。」
ルビカンテは左手を上空にかざす。
すると爪に火が集まった。


「食らうがよい!!」
さらにその炎を持ち前のファイガで増幅させる。
先ほどより強い炎球が、白騎士めがけて襲い掛かった。

「ぐあああ!!」
吹雪の剣を持ってもしのぎ切れず、熱風により吹き飛ばされる。


66 : 闇に身を委ねた者 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/22(月) 11:43:39 L3s0bfqU0
「どうした?まさかそれで終わりではあるまい。」
倒れたセシルを見下ろすルビカンテ。

「どうやら……本気で戦わなくちゃいけないようだね。」
「その通りだ。全力でかかってくるがいい!!」
予想通り、というわけだが、パラディンとして前面で戦い抜いた彼は、その程度では終わらなかった。
顔や体のあちこちに火傷を見せながらも、ケアルで回復していく。
回復術の制限によりその効果は著しく低いが、最低限の回復が終わると、すぐにルビカンテに斬りかかった。


「ほう……やはりやるではないか。」
先程までとは別人のような速さに僅かながら驚く。
炎の爪でも防御できず、マントの守りの無い腿に凍傷をつけられる。

その後もセシルは二撃、三撃と続けざまに斬撃を加えようとしていく。
だがルビカンテもさることながら、その攻撃を悉く凌いでいく。


そして、何度目かセシルの剣が空を切った時。
空から、正確には校舎から、何者かが飛んできた。
それは同じように赤い色をしていたので、一瞬ルビカンテと関係ある何かとセシルは戸惑ってしまったくらいだ。


しかし、それは着地する前に、身体を大きく回転させ、巨大なハンマーでルビカンテを大きく吹き飛ばした。
赤の巨体が、何度かバウンドして転がっていく様子は、セシルも見とれてしまっていた。

「誰だが分からないけど、助かった……っ!?」
赤い帽子の男は、無防備だったセシルの顔面に、ハンマーを打ち込んだ。

「な……なぜ!?」
視界がブラックアウトしたセシルの疑問に答える間も無く、暗い闇を宿した目を持つその男は、ハンマーを振りかざす。
完全に不意を突かれ、ルビカンテとの激闘もあったセシルが、この男に敗れるのも時間の問題だった。


「おのれ……おのれ!!よくも戦いに水を差してくれたな!!!!」


怒りに燃えるルビカンテが、赤帽子の男目掛けて切り札である技を出した。
「火焔流!!!」

真紅の竜巻が、深紅の衣装を身に纏った男を呑まんとする。
その一撃は、炎の爪により、かつてセシルが見た時よりも強大だった。
だが、彼はその場から一歩も動かず、ハンマーを構え、深く腰を落とす。


「何っ!?」
火焔流とは逆方向に激しく回転したハンマーは、その竜巻を一撃で打ち消した。
渾身の一撃を破壊した後、不気味に笑う。

「ぐうっ……!!」
ルビカンテに雷が落ちる。ただの雷ではなく、黒い色を纏った雷だ。
あんな色をした雷は、雷魔法やラムウを見てきたセシルも見たことがない。
分かったのは、帽子の男が相当な手練れであることだ。


「うおおお!!」
今度はセシルが立ち上がる。
ザックから何かを取り出し、帽子の男目掛けて投げた。
それを男は何の問題もないと体を反らして躱す。


「ぬ!?」
しかし投げた先にいたルビカンテにそれは当たった。


67 : 闇に身を委ねた者 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/22(月) 11:44:05 L3s0bfqU0

「うおおおお!!どういうことだ!!」
身体が浮かびあがる奇妙な感覚に、叫び声をあげる。

「ルビカンテ!!君だけは逃げろ!!そして、僕の仲間と共に……。」
全てのセリフを言い終わる前に、鈍器の一撃がセシルの顔面に迫りくる。
それを吹雪の剣で受け止めるセシル。

だが、相手の持ち味はハンマーや雷だけではない。
彼が今のような有様になる前からあった、ジャンプ能力だ。
剣の反動を逆利用してセシルの背後に回り込む。


「速い……。」
そのまま巨大なハンマーを、後頭部に叩きつける。


「ローザ……ごめん。」
最後にこぼしたのは、最愛の人への言葉。
それを聞いても、影に従った男の心には届かなかった。



【セシル・ハーヴィ@Final Fantasy IV 死亡】
【残り 49名】






(た、大変なものを見てしまった!!)
学校の外から、戦いの一部始終を見た者がいた。

(は、早くこのことを他の人やのび太君に伝えないと!!)
何のためらいもなく巨大なハンマーを振るうマリオを見て、彼は見ることしか出来なかった。
その姿勢は、彼の主人が学校で宿題を忘れた時に廊下で取ることになった姿勢と似ていたのは、何かの皮肉だろうか。
男が校舎から出る前に、ドラえもんは急いで学校の外へと走り出した。


(ポケットもない今、ぼくだけでは絶対あいつに勝てない……早く誰かを集めないと……!!)
今はただ、これ以上被害が出ないことを望むだけだった。


【E-8 学校 校庭 深夜】
【ドラえもん@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
[状態]:健康 恐怖
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーから身を守る、赤帽子の男(マリオ)に警戒
1.のび太を探す
2.学校で起きたことを対主催勢力に話す

※魔界大冒険終了後です。
※トランプ名簿は、のび太しか確認していません。



セシルを葬り、ルビカンテに重傷を負わせたかの男は、キノコ王国の姫を何度も救った、かつての英雄だった。
だが、そんな英雄でも、絶望に囚われる時が来る。


「お願いだ!!ボクは何でもするから、仲間だけは殺さないでくれ!!」
――――なかなか、ききわけの、いいヤツじゃのう

1000年の扉から目覚めた魔物を目の前にして、マリオが目の当たりにしたのは、今までにない絶望だった。
助けるはずの姫が、魔物に乗り移られてしまった。
ただでさえ目の前の敵の恐ろしさをその身で感じているのに、その敵を倒しても姫まで取り戻せるか分からない。
最悪の場合、自分の手で大切な人を殺めてしまうことになる。


――――……よかろう……。一生わらわにつかえるといい。これで、そちはわらわのものだ。
仲間の反対を振り切って、影の女王の軍門に下ることを選んだ。
そうすれば、少なくとも姫は怪物の物になっても、死ぬことはないと思ったから。



その後は、彼は魂を奪われて、邪悪な心を植え付けられた直後、この戦いに呼ばれた。
仕える相手となった女王はこの舞台にはいない。
だが、彼がやることは、怪物に魂を売った英雄として、参加者を殺し続けるだけだ。



【マリオ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:健康
[装備]:大型スレッジハンマー@ジョジョの奇妙な冒険  
[道具]:基本支給品×2 ランダム支給品0〜3 ふぶきのつるぎ@ドラゴンクエストVII
[思考・状況]
基本行動方針:殺す

※カゲの女王との選択で「しもべになる」を選んだ直後です
※カミナリなど、カゲの女王の技もいくつか使えるかもしれません。


68 : 闇に身を委ねた者 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/22(月) 11:45:05 L3s0bfqU0

「許せぬ!!許せぬ!!許せぬ!!」
飛ばされた先で、ルビカンテは叫び続けた。
それが最早負け犬の遠吠えでしかないと分かっていても。
戦いが終わり、負けが確定した時に飛ばされた先が、闘技場と言うのは何かの皮肉だろうか。


――――ルビカンテ!!君だけは逃げろ!!そして、僕の仲間と共に……。
彼の脳裏にフラッシュバックするのは、彼が発した言葉。
あの時、逃げようと思えば自分があの羽のような道具を使えばいいのは分かっていた。
だが、それでいて自分に使った。


その身を挺してまで発した想いを、無下にするなど、彼の武人としての誇りが許さない。
だが、脆弱な者に協力することも、彼の性格が許さない。

彼の苦悩は、続く。




【A-8 黎明 闘技場】

【ルビカンテ@Final Fantasy IV】
[状態]:HP 1/4 魔力消費(小)
[装備]:炎の爪@ドラゴンクエストVII フラワーセツヤク@ペーパーマリPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2 
[思考・状況]
基本行動方針:戦うか、協力するか
1.あの帽子の男(マリオ)は絶対に許さない

※少なくとも1度はセシルたちに敗れた後です。



支給品紹介

【ふぶきのつるぎ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
セシルに支給された、氷柱を模したような剣。
氷属性の剣で、斬った後追加で氷のダメージも与える。


【炎の爪@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
ルビカンテに支給された爪。
暖色を中心としたデザインに違わず、攻撃した後追加で炎のダメージも与える。
また、道具として使うと、炎の球を出すことが出来る。

【大型スレッジハンマー ジョジョの奇妙な冒険】
マリオに支給されたハンマー。
そのままでも十分な破壊力を持つが、原作で波紋エネルギーを纏わせたように、何らかの力を纏わせることが出来るかもしれない。


【キメラの翼@ドラゴンクエストVII】
セシルに支給された道具。
本来なら投げると一度行った場所に移動するシステムだが、本ロワでは相手に投げることで、同じ会場内にランダムで移動できるシステムになっている。


69 : 闇に身を委ねた者 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/22(月) 11:45:30 L3s0bfqU0

「許せぬ!!許せぬ!!許せぬ!!」
飛ばされた先で、ルビカンテは叫び続けた。
それが最早負け犬の遠吠えでしかないと分かっていても。
戦いが終わり、負けが確定した時に飛ばされた先が、闘技場と言うのは何かの皮肉だろうか。


――――ルビカンテ!!君だけは逃げろ!!そして、僕の仲間と共に……。
彼の脳裏にフラッシュバックするのは、彼が発した言葉。
あの時、逃げようと思えば自分があの羽のような道具を使えばいいのは分かっていた。
だが、それでいて自分に使った。


その身を挺してまで発した想いを、無下にするなど、彼の武人としての誇りが許さない。
だが、脆弱な者に協力することも、彼の性格が許さない。

彼の苦悩は、続く。




【A-8 黎明 闘技場】

【ルビカンテ@Final Fantasy IV】
[状態]:HP 1/4 魔力消費(小)
[装備]:炎の爪@ドラゴンクエストVII フラワーセツヤク@ペーパーマリPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2 
[思考・状況]
基本行動方針:戦うか、協力するか
1.あの帽子の男(マリオ)は絶対に許さない

※少なくとも1度はセシルたちに敗れた後です。



支給品紹介

【ふぶきのつるぎ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
セシルに支給された、氷柱を模したような剣。
氷属性の剣で、斬った後追加で氷のダメージも与える。


【炎の爪@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
ルビカンテに支給された爪。
暖色を中心としたデザインに違わず、攻撃した後追加で炎のダメージも与える。
また、道具として使うと、炎の球を出すことが出来る。

【大型スレッジハンマー ジョジョの奇妙な冒険】
マリオに支給されたハンマー。
そのままでも十分な破壊力を持つが、原作で波紋エネルギーを纏わせたように、何らかの力を纏わせることが出来るかもしれない。


【キメラの翼@ドラゴンクエストVII】
セシルに支給された道具。
本来なら投げると一度行った場所に移動するシステムだが、本ロワでは相手に投げることで、同じ会場内にランダムで移動できるシステムになっている。


70 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/22(月) 11:46:12 L3s0bfqU0
投下終了です。
多重投下してしまいました。


71 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/22(月) 19:14:49 L3s0bfqU0
のび太、ダルボス、覚予約します。


72 : ◆7PJBZrstcc :2021/02/22(月) 21:03:22 4y1ZNj4Y0
ピーチ姫の予約を取り下げ、ナナと重ちーの二人で投下します


73 : ♢のフラッシュは揃うのか ◆7PJBZrstcc :2021/02/22(月) 21:05:51 4y1ZNj4Y0
 知略、暴力、惨劇渦巻くバトルロワイアル。
 その会場の一角。B-5にある図書館にて、二人の少年少女が顔を見合わせ、話し合っていた。
 少年の名前は矢安宮重清。小柄な体と特徴的な頭が目立つ、杜王町在住の中学生だ。
 対する少女の名前は柊ナナ。ピンクの髪色と整った顔立ちが特徴的な高校生である。

 二人が出会ったのは学校のすぐ近くだ。
 重清が殺し合いという状況に、戸惑いと怒りを覚えながらもどうしていいか分からず戸惑っていると、そこにナナが現れた。
 最初はナナを少し警戒していた重清だったが、彼女の言葉の朗らかさ、雰囲気であっという間に警戒を解く。
 そしてひとまず近くにある図書館にに入り、簡単な情報交換をすることになったのだが――

「重ちー君。本当に、能力者や人類の敵のことを知りませんか?」
「そんなこと言われても知らないものは知らないど」

 重清はナナの言葉に困惑する。
 ちなみに重ちーというのは重清のあだ名である。両親と友人はこう呼んでおり、ナナにも同じように呼んで欲しいと彼自身が頼んだのだ。
 彼女曰く、能力者と呼ばれる特殊な能力を持った少年少女がおり、彼らは人類の敵と呼ばれる怪物と戦うため日夜訓練を積んでいるとか。

 しかし重清はそんな話をこれっぽっちも聞いたことがない。
 ならば能力者など彼にとってはただの虚構なのかと問われると、そうでもない。
 なぜなら彼にも、ナナが語るものとは違うが能力を持っているのだから。

「これがオラの『収穫(ハーヴェスト)』だどッ!!」
「これは……!?」

 重清が叫ぶと同時に、重清の足元にどこからともなく現れる百を超えそうな数の小人のヴィジョン。
 小人の大きさは彼の足首位で、一体では小銭を一つ抱えるのがやっとである。
 だが数が集まれば大きなものを運ぶことも、場合によっては人を殺すこともできる強力な力。
 似たような力を持つ彼の友人の祖父が、傍に立つもの(スタンド・バイ・ミー)から取って名付けたスタンドと呼ばれるものだ。
 このスタンドを持つ者はスタンド使いと呼ばれている。
 もっとも、重清はスタンドの名前の由来など知らない。
 同じスタンド使いに出会って初めて、彼は自分と同じような力の持ち主がいることと、スタンドと呼ばれていることを知ったくらいである。
 これを彼は、殺し合いに呼ばれる少し前に不思議な矢で刺されたことで手に入れたのだ。
 
「ナナさんの言う能力者っていうのは、オラと同じような力を持っているど?」
「い、いえ。全然違います……」

 だが今度は逆に、重清の話を聞いたナナが困惑してしまった。
 彼女が言うには、能力がヴィジョンを持つことはなく、ましてや不思議な矢で後天的に能力者が増えるなど聞いたこともないそうだ。

 似たようなもののはずなのに、確かにここにある明確な差異。
 この原因を考えるべく二人は頭を捻るが、答えはまるで出ない。

 するとここで、ナナが話を切り替える。

「そういえば、重ちー君はトランプを見ましたか?」
「トランプだど?」

 話の内容はザックに入っているトランプについてだった。
 トランプには殺し合いの参加者の顔と名前が書かれており、これで参加者は知人がここに居るかどうかを知るのだ。
 ナナも落ち着ける場にたどり着いてから確認しようと考えていたので見ておらず、彼もまた確認していなかった。
 慌ててザックからトランプを取り出し、一枚一枚見る重清。
 しかし、見ても見ても一向に知人が出てこない。

「見づらいど! 何でトランプになんか書くんだど!
 知っている人を探すのが自販機の下に落ちた小銭を頑張って拾う位面倒くさいどッ!!」
「まあまあ。私がそのトランプを机に並べますから」

 遂にはキレ始める重清を、何とか宥めようとするるナナ。
 彼女はいっそトランプ全てを七並べの要領で置いた方が、結果的に彼の知り合いを見つけやすいと考えたのだ。

「そういうことならオラがやるど」

 そのナナのアイデアを聞いた重清はトランプを一枚ずつハーヴェストに持たせて、机の上に整列させる。
 そしてまずはマークごとに行で揃え、次に数字順に列で揃える。
 これにて七並べ順にトランプの名簿が並んだ。ここまでで五分も掛かっていない早業である。

「おお〜!!」

 それを見ていたナナは感心したような声をあげながらパチパチと小さく拍手をした。
 そんな彼女に重ちーは少し照れながらも知人を探し、すぐに見つける。


74 : ♢のフラッシュは揃うのか ◆7PJBZrstcc :2021/02/22(月) 21:06:53 4y1ZNj4Y0

「おっ、仗助だど」

 東方仗助。彼は重清の友人であり、スタンドについて教わった関係でもある。
 まあ、初対面の際には一悶着あったのだが、重清は流石にそれをナナに話そうとは思わなかった。
 そして彼が知っている参加者は仗助だけだった。

「えっと……その人だけですか?」
「そうだど」

 一方、ナナは戸惑ったような顔で重清に問いかける。
 彼女も名簿を見たが、知っている人が四人いた。なので重清も同じくらい知っている人がいると思っていたのである。
 思わず彼女は机に並べてあるトランプのうち一枚、ハートの8、広瀬康一と書かれたカードを手に取って重清に見せる。

「例えばこの広瀬さんという人、見た限り重ちー君と同じ制服なので知っている人かと思ったのですが」
「うーん、見たことないど」

 ナナの言葉に重清は否定で返す。
 彼としては本当に知らないので、彼女の言い分に否とするしかないのだ。

「ところで、ナナさんの知り合いはいるのかど?」
「ええと、そうですね――」

 なので重清は逆に質問で返した。
 それに対するナナの返答はこうだ。

 上からまずは鶴見川レンタロウ。クラスメイトではあるものの、あまり話したことはない。
 次に小野寺キョウヤ。クラスの友達で、不老不死の能力を持っている。
 頭のキレる冷静な人だが、ちょっとマイペースなところがある。
 佐々木ユウカ。死体を操る能力を持っている。
 恋人と一緒に学校にいたものの、実は恋人ではなくストーカーしていた相手の死体を能力で操っていたもので、それがバレたことが理由で今は学校にいない。
 犬飼ミチル。クラスの友達で、傷を治す能力を持っている。
 人を疑う性格ではなく、とても殺し合いに向いているとは思えないので早く合流したい。

「こんな感じですね」
「犬飼って人は仗助と同じような能力だど。仗助も人のケガや壊れたものを治せるんだど」
「へぇ〜、世の中似たような人もいるものですね」
「でも殺し合いに不老不死なんておかしいど」
「……そうですね」

 こうして二人は知り合いの名前を確認しあった。
 そこでナナはもう一度並んだトランプの内一枚を手に取って、ボソっと呟く。

「信じられませんが、参加者の中には人間以外もいるようですね」
「……本当だど」

 ナナが手に取ったカードは♡の6,ノコタロウ。
 二足歩行の亀が服を着ているという不可思議な姿は、超能力を知る二人にとってすら常識の外の絵面だった。
 これを見て、ナナはある結論を出した。

「もしかしたらですが、このカメさんは私達とは違う世界の存在かもしれませんね。
 いやそれだけではなく、私と重ちー君も違う世界の人間と考えられます。それなら、重ちー君が私にとって常識の能力者や人類の敵を知らないのも説明が付きます」
「異世界なんて、凄いど。オラ思いつきもしなかったど。ナナさんは頭がいいんだど」
「ど、どうも……」

 異世界をあっさり受け入れた重清にナナの方が思わず動揺するが、ともかく情報交換はこれでおしまい。
 じゃあもういいかと重清は机のトランプを仕舞おうとしたのだが、そこにナナが待ったをかける。

「どうしたんだど?」
「何かの役に立つかもしれませんし、このトランプの順で名簿を紙に書き写しておきますね。
 なので重ちー君はその間、自分の支給品を調べておいてください」
「分かったど!」

 こうして、重清はナナの言う通り自分のザックを調べ始めた。


75 : ♢のフラッシュは揃うのか ◆7PJBZrstcc :2021/02/22(月) 21:07:33 4y1ZNj4Y0





(重清は地頭は悪くないと思うが、どうにも鈍い奴だな)

 重清を視線の隅に置きながらナナは、名簿を書き写しながら一人思考を回す。
 さっきまで重清に見せていた敬語キャラや朗らかな態度は偽り。これから見せる内心こそが彼女の本当の姿。

 そもそもなぜ偽る必要があるのか。答えは彼女が帯びている任務にある。
 能力者とは人知が及ばず、物理法則を超越し様々な現象を引き起こすことが可能だ。
 場合によっては町一つ滅ぶことすらある。

 それを危険視した日本の権力者たちはありもしない怪物、人類の敵という話をでっちあげ、その対処の為に能力者を孤島の学校に集めた。
 だがそこは能力者を殺すための狩り場。
 そして狩人の役目を命じられたのがここにいる無能力者、柊ナナである。

 しかしここで言っておこう。彼女は殺し合いに乗るつもりはない。
 確かに殺しの任務を受け、既に能力者を幾人も死に追いやったのは事実だが、彼女は人殺しを楽しむ狂人ではない。
 何もなければ、側溝に嵌った猫を助けようとするお人よしの面さえある。
 人類の為と信じたから、能力者を人類の敵と考えているから、柊ナナは今まで殺してきたのだ。

 そしてこの殺し合いでも考えは変わらない。
 ナナが重清と接触し行動を共にしようと考えたのも、殺し合いに乗っていない一般人を殺す気はないからだ。
 もっとも、それだけではなくオルゴ・デミーラとザントは確実に自分の素性を知っていると推測できるので、始末せねばなるまいとも考えているが。
 とはいえ、実際は重清がスタンドという異能を持っていることが分かった以上、印象は大きく変わっている。

(スタンド使いか。私の知る能力者と似ているが、違う面もあるようだな。
 同一視して考えるのは危険か。下手を打てば足を掬われる)

 スタンド使いを危険視するナナが続いて考えるのは、果たしてスタンド使いがこの殺し合いに何人いるかだった。

(まずは東方仗助に広瀬康一。そしてヌ・ミキタカゾ・ンシは確実か)

 ナナはまずこの三人をスタンド使いと推測した。
 重清から直接聞いた仗助は勿論、同じ制服を着ている二人もスタンド使いと考えた。

 ナナは重清が康一を知らないと聞いていたが、彼が嘘を言っているとは思っていない。
 そもそも孤島や田舎の分校でもない限り、同じ学校の生徒全員とと面識を持つことも稀だろう。
 中学生の重清と高校生の仗助が友人という時点で、ちょっと不思議なくらいだ。

(後は、正直特定できないな。
 しいて言うならこの山岸由香子か? 男子の制服が学ランなら女子はセーラー服だろうし)

 まあ、イラストを見る限り大人や小学生もいるのでこれだけ、と考えるのは早計かもしれないが、といったところでナナはスタンド使いについて思考を打ち切る。
 代わりに考えるのは別のこと。

(佐々木ユウカ……)

 それは、ナナと同じ世界の住人のことだ。
 この佐々木ユウカについてナナは重清に対して、まるで事件を起こして学校を去ったかのように説明しているが、実際は違う。

 ユウカはナナの手で殺害されている。
 もし彼女が最初の場で見せたようにオルゴ・デミーラの力で蘇生させられ、なおかつ死んだときの記憶があるのなら間違いなく復讐に来るだろう。

(あの蘇生自体は本物だ。それくらいはやりかねない)

 ナナはイリアの蘇生は主催者の仕込みによる偽装ではなく、本物だと考えていた。
 伊達に死体は見慣れていない。本物か偽物位かは遠目でも分かる。
 あれがスタンドか能力で作られた偽物となれば話は変わって来るが、まず本物とみて間違いないだろう。
 何せあの場に呼ばれた時点で力の差は明確だ。それなのに虚偽で囃し立てる意味は少ない。

 そして一度対処したとはいえ、おそらく蘇生されたユウカの死体を操る能力は強力だ。
 なにせ単純に手駒が増える。それも甘言や脅迫、騙しも必要なく忠実なしもべが作れるのだ。
 とはいえやりようはある。

(アイツがやったことをありのまま話せばいい)

 一方的に好意を抱いていた男の死体を操り、周りに恋人だと思わせようと立ち回っていたのだ。
 それを嘘偽りなく話せば大抵の人間はユウカを危険視するだろう。
 無論、向こうもナナを貶めようと悪評を振りまくだろうが、この場で殺し合いに乗るつもりのない彼女の評判をどれだけ信じるだろうか。


76 : ♢のフラッシュは揃うのか ◆7PJBZrstcc :2021/02/22(月) 21:08:30 4y1ZNj4Y0

(だが別の可能性もある)

 そう思いながらナナはザックから一つランダムで支給されているアイテムを取り出す。
 最初の段階で最低限支給品だけは調べておいたが、重清に警戒されないように一旦仕舞っていたのだ。

 そのアイテムの名前は、空気砲。
 同梱されていた説明書曰く、22世紀に開発された空気を撃ちだす小型の大砲。
 手にはめ、「ドカン!」と言うことで発射され、殺傷力はないが護身用には十分だそうだ。

(22世紀の物がここにある。つまり奴らには時間遡行の方法があるということだ。
 ならば佐々木ユウカは死ぬより前から呼ばれている可能性もある)

 まあ、だからと言ってやることは変わらないが。とナナは脳内で締めくくった。

 ちなみに他のクラスメイトに関しても考えたが、結論はかなり簡素だ。
 鶴見川レンタロウについてナナはよく知らないので、警戒はするがある程度は場当たりでいく。
 他の参加者と接触して彼の情報を得ていくしかないだろう。

 小野寺キョウヤついては、むしろこの場の方がチャンスかもしれない。
 ナナは殺し合いには乗らないが、能力者を殺す使命がある。
 そしてここは殺し合いであり、いくら不老不死であってもオルゴ・デミーラ側である程度制限を加えているだろうと考えている。
 そうでなければキョウヤ自身が首輪を引きちぎり、後は参加者全員が死ぬのを待っていればいいだけの話になってしまう。
 流石に自らの能力にかまけていきなり首輪をどうこうするほど愚かではないだろうが、油断する可能性は十分にある。

 そして犬飼ミチルについては考慮する必要はない。
 治癒能力は殺し合いにおいてかなり貴重なので、他の参加者から重宝されるだろうが戦闘力は低い。
 殺す気になったら小学生でも殺せるだろう。いつでも殺せるだろうから極論、この殺し合いで無理に死なせる必要もない。
 一応合流を目指し、生きていれば同行。死んでいたらそれまでで十分だ。

「ナナさん。調べ終わったど」

 こうしてクラスメイトの対処を決めるのと、名簿を移し終えたタイミングで重清が話しかける。

「首尾はどうですか重ちー君?」
「オラにはいらないからこれをやるど」

 そう言って重清はナナに、まるでダイナマイトのようなものを手渡す。

「えっと、何ですかこれ?」
「オラの支給品だど。
 ナナさん、知っている人の能力は言ってくれたけど自分の能力は言わないから、きっと使いたくないし言いたくないんだど?
 だから武器になりそうなこれをあげるど」

 確かにナナは能力を言いそびれていたが、それは言いたくないわけでも隠していたつもりもない。
 聞かれたところで心を読む能力という嘘しか言えないが、別に黙るつもりもなかった。
 だが重清はナナなりの事情があって自分の能力を言わないと解釈し、あまつさえ気を遣ったのだ。

「ありがとうございます!(甘いな)」

 そんな重清の優しさに表では満面の笑みで感謝しながら、裏では侮蔑していた。
 確かに大半の参加者が初対面であるこの殺し合いにおいて、内面への踏み込みすぎはいらぬ亀裂を生むこともあるだろう。
 なのであえて踏み込まないという選択肢は間違いではないが、だからと言って見過ごしていい理由にはならない。
 もしナナが重清の立場なら、踏み込まないにしても自分から目を離すようなことは決してしなかっただろう。

 だから甘い。能力にかまけて、それ以外を見落としている。
 結局、別世界のスタンド使いも自分の世界の能力者と変わらない。
 ナナにはそうとしか思えなかった。


77 : ♢のフラッシュは揃うのか ◆7PJBZrstcc :2021/02/22(月) 21:09:51 4y1ZNj4Y0

「それで、これからのことですが。私に考えがあります」

 とはいえ、そんな凍り付いた内心をナナはおくびにも出さず、重清にある提案をする。

「私達はこれからあのオルゴ・デミーラとザントを倒す仲間を募りたいと思います。
 ですがその際、優先したい人材がいます」
「仗助や、ナナさんのクラスメイトかど?」

 ナナの台詞が重清が応じるが、それは彼女にとって少し違う。
 確かに回復系の能力を持つミチルや仗助は合流しておきたいが、それ以上に優先したい人材がいる。

「そうですが、それだけでなくオルゴ・デミーラとザントについて知っている人です」
「あの、剣を振っていた人かど……」

 ナナの言葉に今度は気まずげな顔をする重清。
 イリアと呼ばれていた知人である女性を二度も目の前で殺されているのに、それを掘り起こすような真似を彼は躊躇ったのだ。
 その気持ちはナナにも理解できるが、あいにく彼女は目的の為なら躊躇を飛び越えられる人間だった。

「そうですね、私も正直聞きにくいです。
 でもそうしなければ、きっともっと多くの人が死んでしまいますから……」

 いかにも悲痛な決意を抱えてる、と言わんばかりの表情を取り繕ったナナに対し、重清は反論の言葉を失う。

「それに、あの場にはオルゴ・デミーラを知っている人もいたはずですし、そちらの方から情報を得るという手もありますから」

 そこに追撃するように与えられる追加の情報に、重清は少しだけ気が軽くなった。
 だがここでナナは重清に問いかける。

「ところでこれからどう動きたいですか?
 ここは地図にも載っている目立つ施設なので、ここまで待っていれば他の参加者も来ると思います。
 勿論、外に出て信頼できる人を探すのも選択肢です。私はどちらもありだと思います。
 重ちー君はどちらにしますか?」

 ナナの質問に頭を悩ませる重清だが、質問した当人としてはどちらでもいい。
 この図書館というあからさまに何かありそうな施設を探索する傍ら、罠を仕掛けて待ち構えてもいい。
 だが自分と重清の世界しか知らない現状で探索して何か見つけても、情報不足で理解できない可能性がある。

 どちらでもいいのなら、いっそ重清に選択権を与えよう。
 あまり自分一人で決めすぎて、主導権を握られていると考えて不満を抱かれても面倒だ。

 ところで、ここまでナナ自身は一切言及していないが、彼女が殺し合いに乗る可能性はある。
 確かに現状乗っておらず主催の打倒を考えてはいるが、あくまで彼女の最優先は自身の任務である。
 なのでもし、いよいよ優勝以外の道がないと判断すれば、彼女は躊躇なく牙をむくだろう。 


 知らず危険な爆弾の傍にいる重清がまず決断するのは、ナナの問いに対する答え。
 さあ、どうする?


78 : ♢のフラッシュは揃うのか ◆7PJBZrstcc :2021/02/22(月) 21:10:23 4y1ZNj4Y0


【B-5/図書館/一日目 深夜】

【柊ナナ@無能なナナ】
[状態]健康
[装備]空気砲(100/100)@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2(確認済み)、名簿を七並べ順に書き写したメモ、ナンシーダイナマイト@ペーパーマリオRPG
[思考・状況]
基本行動方針:最低でも脱出狙い。可能ならオルゴ・デミーラ、ザントの撃破。最悪は優勝して帰還。
1.図書館に留まるか外に出るか。私はどちらでも構わない
2.殺し合いに乗っていない参加者と合流を目指す。特にオルゴ・デミーラかザントについて知る参加者の優先度が高め。
3.回復能力を持つミチルと東方仗助と合流したいが、1よりは優先順位は低め
4.小野寺キョウヤはこの殺し合いの中なら始末できるのか?
5.佐々木ユウカは出会ったら再殺する。
6.スタンド使いも能力者も変わらないな
※参戦時期は20話「適者生存PART3」終了後です。
※矢安宮重清からスタンドについて、東方仗助について聞きました。
※広瀬康一、山岸由香子、ヌ・ミキタカゾ・ンシをスタンド使いと考えています。
※異世界の存在を認識しました。

【矢安宮重清@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラとザントを倒す
1.図書館にいる? それとも外に出る?
2.ナナさんと一緒に行動する
3.仗助と合流したい
※矢安宮重清の参戦時期は「重ちーの収穫(ハーヴェスト)」終了以降です。
※異世界の存在を認識しました。


【支給品紹介】

【ナンシーダイナマイト@ペーパーマリオRPG】
矢安宮重清に支給。
パワープラスやムキムキボディを除けば作中最高峰の威力が出るマリオ達が使うアイテム。
本ロワでは有効範囲は狭いものの、高い威力の出るダイナマイトとして機能する。

【空気砲@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
柊ナナに支給。
腕にはめて「ドカン!」ということで空気弾が発射される。本ロワでは弾数は100発。
兵器としての殺傷力は低いが、護身用としては十分。
のび太の魔界大冒険では最終盤において、デマオンが雷にして襲い掛からせた星を退ける為に使用された。


79 : ◆7PJBZrstcc :2021/02/22(月) 21:12:00 4y1ZNj4Y0
投下終了です


80 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/22(月) 22:08:14 L3s0bfqU0
投下乙です!!
ナナしゃんの思考ここでもキレッキレですね!!
でもって貪欲な性格の重ちーとの関係がいつ破綻するかドキドキです!
何気に近くに仗助とキョウヤがいるのですが、列車に乗ってるので会えるかどうか……。
近くにマーダーのバツガルフがいるのも厄介ですね。


81 : ◆OmtW54r7Tc :2021/02/23(火) 12:53:20 Y4X9nNOA0
ゲリラ投下します


82 : MINIMUM BOYS〜真実照らす光〜 ◆OmtW54r7Tc :2021/02/23(火) 12:55:14 Y4X9nNOA0
「うーん…どうしようかな」

広瀬康一は、迷っていた。
動くべきか、動かざるべきか。

彼がいるのは杜王駅。
ここに呼ばれた知り合いは皆杜王町に住む人達なので、ここで待っていれば知り合いと合流できるかもしれない。
しかし、自分みたいに近くに配置されていなければたどり着くとしても時間がかかるだろうし、時間を無為に浪費する結果に終わるかもしれない。
その間に殺し合いの犠牲になっている人が増えるかもしれないと思うと、動いた方がいいのではという気もしてくる。

そんなことを考えていると、やがて偵察に出していたエコーズがこちらに人が近づいていることを知らせてくる。
ほどなくして、その人物は現れた。
それは緑の帽子をかぶった小柄な少年だった。
そういえば、最初の場所で殺された少女の近くに、緑の帽子の二人組がいたような気がする。
3人目とかじゃあなければ、彼はその片割れだろうか。
向こうもこちらに気が付いたのか、足を止め…

「破邪の光よ、全てを零に導きたまえ…」
「なっ!?」

突然こちらに向けてなにかを唱え始める。

「エコーズ3FREE…」

康一は、決して油断していたわけではない。
だからこそ、相手の不審な動きに対してすぐに接近してエコーズを仕掛けるという動作を取れた。
しかし、先手を取られてしまったのは変えられない事実であり、結果として相手の行動を許してしまう。

「マジャスティス!」

少年から放たれた光を浴びる康一は、

「ええ!?」

再び驚きの声をあげることとなった。
今まさに相手に仕掛けようとしていたエコーズが…消えたのだ。

「くっ!?お前、何をした!?」
「…えっと、今の術、君に当たったよね?何故か隣の人形が消えたけど。てことは杞憂だったかあ」
「何を言ってるんだ!質問に答えろ!」
「そんなに怒らないでってば。僕の名はアルス。この殺し合いには乗っていないよ」


83 : MINIMUM BOYS〜真実照らす光〜 ◆OmtW54r7Tc :2021/02/23(火) 12:56:35 Y4X9nNOA0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「じゃあアルス君は、あのオルゴ・デミーラを知ってるんだ」
「まあね」

康一の言葉を肯定したアルスは、申し訳なさそうな表情を見せる。

「ごめんね、僕たちがちゃんとあいつを倒してれば、こんなことに巻き込まれずに済んだかもしれないのに」
「い、いやそんな。あいつを倒したっていう君がいるのは、心強いよ」
「ああ、任せておいてよ。何度蘇ろうと…倒して見せるさ」

強い決意を乗せた瞳に、康一は彼の強さを感じ取る。
肉体的な強さではなく、精神的な強さを。
いきなり攻撃をしかけてきたこともあり疑っていたのだが、彼の言葉に嘘はないと、康一は感じていた。

「でも、それならなんでいきなり戦いを仕掛けてきたのさ。というかあれ、なんだったの?」
「いや、戦う気はなかったんだ。ただ、確認したかっただけで…」
「確認?」
「うん…実はこの殺し合いに、オルゴ・デミーラの配下が参加させられててさ」

そういってアルスは一枚のトランプカードを見せる。
そのトランプに書かれた名は、『ボトク』。

「こいつ、自分や他人の姿を自在に変えられる能力を持っててさ…」
「へえ、間田くんのサーフィスや彩さんのシンデレラみたいだな。間田くんのは変身っていうよりコピーだけど」

ちなみに杜王町には他に変身能力を持った参加者がおり、しかもこの殺し合いにも参加しているのだが、康一は面識がなかったので知らない。
まあ彼の場合、「地球人の顔は見分けがつきにくい」らしく、ボトクのような変装みたいな芸当はできないが。

「だから一応、出会った参加者に化けてないか確かめようと思って」
「それがさっきの光?なんかエコーズが消えたんだけど」
「うん、あの術は、相手の状態変化を全て無効化する能力があるから。魔力消費が勿体ないけど、命がかかってるし背に腹は代えられないしさ」
「なるほど…それでエコーズが消えたのか」
「そうそう!聞きたいんだけど、さっきのあの人形、なんなの?」

アルスは、先ほどのエコーズについて疑問があった。
あの時アルスは、康一本体に向けてマジャスティスを放ったはずなのに、エコーズが消えた。
マジャスティスは単体相手の術なのに、どういうことなのか不思議だった。

「なにって…スタンドだよ。見えるってことは、アルス君も似たような能力を持ってるんじゃないの?」
「いや、あんなの知らないよ」
「え〜?じゃあ、スタンド使いじゃないのにスタンドが見えるの!?」

康一は驚き、そして腕を組んで考える。
康一が知る限りでは、スタンドはスタンド使いにしか見えない。
しかしアルスはスタンド使いでもないのにスタンドが見えるらしい。
アルスが特別なのか、それともこの場ではスタンド使いでなくともスタンドが見えるのだろうか。
とりあえず考えても分からないので、ひとまず康一はアルスにスタンドについて簡単に説明することにした。

「…とまあ、こんな感じかな」
「なるほどね、自分の身体の一部…一心同体みたいなものなんだ。だから君にかけたマジャスティスが、あの人形に効いたのかな」
「スタンドが受けた攻撃は、本体にもフィードバックするしね。今回は逆だったけど」


84 : MINIMUM BOYS〜真実照らす光〜 ◆OmtW54r7Tc :2021/02/23(火) 12:58:58 Y4X9nNOA0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

疑問が解決したところで、二人は改めて情報交換をすることとなった。
お互い、トランプの名簿を取り出す。

「僕の知り合いは、さっき言ったボトク以外に、5人。ボトク以外は信用できるよ」
「僕も、5人かな。仗助君に由香子さん、重ちー君に早人君に…吉良吉影」

「仗助君は強いし頼りになる。早人君は僕たちみたいな能力を持ってない子供だから、早く保護してあげたいな」

「由香子さん…僕の彼女なんだけど、ちょっと気性が激しいとこがあって、最悪僕を守るために殺し合いに乗ってるかもしれない」

「重ちー…矢安宮重清君。この子は直接面識がないから、よくは知らない。吉良に殺されたはずなんだけど。お金への執着が強い欲深いところはあるけど、根は悪い奴じゃないって仗助君が言ってた」

「吉良…こいつは危険な殺人鬼だ。もしかしたら殺し合いに乗ってない可能性もあるかもしれないけど…そうだとしても心を許しちゃいけない」

その後康一は、早人と重ちー以外のスタンド能力について説明をした。
説明を聞いていたアルスは、吉良のスタンド能力の「バイツァ・ダスト」の説明を聞くと、「へえ…時を巻き戻す、か」と、少し興味深そうな反応を見せていた。
そして、康一が説明を終えると、今度はアルスが説明を始めた。
この殺し合いの主催者の一人…オルゴ・デミーラについて。

「僕たちの世界はさ、一つの島しかなかったんだよ」

アルスは語る。
オルゴ・デミーラによって封印された大陸。
それを取り戻す時をかける冒険。
各世界で巻き起こった異変。
二度にわたって戦うこととなったオルゴ・デミーラ。

「簡単に説明したけど…まあ、こんな感じかな」
「は、はあ…」

説明を聞いた康一の反応は、曖昧なものだった。
まあ、無理もないだろう。
一つの街で戦いを繰り広げてきた康一にとっては、あまりにもスケールのでかすぎる話だった。
あっさりと受け止められる話ではなかった。

「さて、これで話せることは話したと思うけど…コーイチ、どうする?僕は仲間やボトクを探すために動こうと思うんだけど、一緒に行く?」
「うーん…いや、もう少しここにいるよ。知り合いがここを目指してるかもしれないし…そうでなくとも、移動手段のこの場所には君みたいに他にも誰か来そうだし」
「そっか。じゃあ、ここでお別れだ。くれぐれも、ボトクには気をつけてくれよ」

こうして彼らは別れ、それぞれの道を進むことになった。


85 : MINIMUM BOYS〜真実照らす光〜 ◆OmtW54r7Tc :2021/02/23(火) 13:00:18 Y4X9nNOA0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「変身能力かあ。厄介なのがいるんだなあ」

アルスがいなくなると、エコーズを再び索敵に出しながら、康一はつぶやく。
もしも化けているのが知り合いなら確かめる方法などいくらでもあるが、初対面相手だと判断材料がない。
とりあえず康一は、せめてボトクが参加者以外に化けた時に対応できるようにと、トランプ名簿を眺めることにした。

【E-2/杜王駅周辺/一日目 深夜】

【アルス@ドラゴンクエスト7】
[状態]健康、MP微消費
[装備]不明
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラやザントを倒す
1.ボトクの変身に警戒しながら仲間を探す
※参戦時期は本編終了後
※広瀬康一からヌ・ミキタカゾ・ンシ以外のジョジョ勢について聞きました。
※広瀬康一からスタンドについて聞き、ヌ・ミキタカゾ・ンシと重ちー以外のスタンド能力も把握しました

【E-2/杜王駅/一日目 深夜】

【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラやザントを倒す
1.しばらく杜王駅で待ってみる
2.ボトクに警戒
※参戦時期は4部終了後
※アルスからDQ7勢やオルゴ・デミーラについて、簡単な旅の概要と共に聞きました
※ヌ・ミキタカゾ・ンシのことは知りません


86 : MINIMUM BOYS〜真実照らす光〜 ◆OmtW54r7Tc :2021/02/23(火) 13:00:57 Y4X9nNOA0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「変身能力かあ。厄介なのがいるんだなあ」

アルスがいなくなると、エコーズを再び索敵に出しながら、康一はつぶやく。
もしも化けているのが知り合いなら確かめる方法などいくらでもあるが、初対面相手だと判断材料がない。
とりあえず康一は、せめてボトクが参加者以外に化けた時に対応できるようにと、トランプ名簿を眺めることにした。

【E-2/杜王駅周辺/一日目 深夜】

【アルス@ドラゴンクエスト7】
[状態]健康、MP微消費
[装備]不明
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラやザントを倒す
1.ボトクの変身に警戒しながら仲間を探す
※参戦時期は本編終了後
※広瀬康一からヌ・ミキタカゾ・ンシ以外のジョジョ勢について聞きました。
※広瀬康一からスタンドについて聞き、ヌ・ミキタカゾ・ンシと重ちー以外のスタンド能力も把握しました

【E-2/杜王駅/一日目 深夜】

【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラやザントを倒す
1.しばらく杜王駅で待ってみる
2.ボトクに警戒
※参戦時期は4部終了後
※アルスからDQ7勢やオルゴ・デミーラについて、簡単な旅の概要と共に聞きました
※ヌ・ミキタカゾ・ンシのことは知りません


87 : ◆OmtW54r7Tc :2021/02/23(火) 13:02:09 Y4X9nNOA0
投下終了です
最後二重投稿になりました、すみません


88 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/23(火) 15:58:41 dkEwXW9M0
投下乙です!
主催者をかつて倒したアルスと、原作の裏主人公として有名な康一くん。
このロワでも頼れる存在になりそうですね!!
ボトクとも距離が近く、警戒もしているならメタ張れそうだけど、果たしてどうなるのか?


余談ですが、新世界より組は、早季と守の参戦時期に違いがあり、名簿の絵面に齟齬が生じるかもしれません。
なので、2話の守登場回の内容を変えます。

訂正前1
「真理亜……。それに早季に覚まで………。」

めくり続けるといたのは全人学級の一般の友達、そして、最愛の人だ。

訂正後
「真理亜……。」

トランプをめくって一番最初に見つかったのは、全人学級の一般の友達にして、最愛の人だ。
他にも神栖66町から呼ばれている者が呼ばれているかもしれないが、このカードを調べている時間が勿体ない。
彼女だけは絶対に死ぬ前に見つけないといけない。

訂正前2
基本行動方針:
1.真理亜、早季、覚を探す
2.清浄寺へ向かう

訂正後
基本行動方針:
1.真理亜を探す
2.清浄寺へ向かう

※真理亜以外の知り合いが参戦していることを知りません。


89 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/23(火) 21:31:08 dkEwXW9M0
投下します


90 : 始まりは1枚の支給品と共に ◆vV5.jnbCYw :2021/02/23(火) 21:32:00 dkEwXW9M0
ここは【A-9】の市街地。
ゴロン族の族長、ダルボスは苛立っていた。

「フン!!」
巨体の彼が放ったパンチが、頑丈そうな街灯をへし折る。
「あいつら……絶対に許さねえ。」


最初の会場で、命を弄ばれ、殺された少女のことを思い出す。
遠くにいたため、イマイチ姿ははっきりしなかったが、あの少女は間違いなく、自分の知っている者だ。
かつての恩人であるリンクの同郷であり、失った記憶を取り戻すために自分も協力した少女。
ようやく記憶が戻った果てに、あのような扱いを受けるとは。


ダルボスは戦いが好きだ。
特にゴロン同士でその肉体の強さのみを競い合う、相撲をしている時は、この上なくワクワクする。
土俵際の争いと、駆け引きはたまらない。
最近の若いゴロンは相撲好きが減ったと嘆くこともあるくらいだ。
だが、このような首輪をつけられて、挙句の果てに女性や子供らしき者とも戦いたいかと言われると、答えはノーだ。


「とりあえず、何が入っているのか確認しねえと。」
乱暴に支給品をひっくり返す。
名簿は、めくるのが面倒だし、自分の知り合いが二人も参加させられていた時点で、見る必要はなかった。


「目ぼしいものはこの布切れくらいか。しゃあねえ。とりあえず悪いやつをとっちめて、武器を調達するか。」
時計のマークがついた、赤と紫の布切れを適当に揺らして、腕に巻いてみようとするも、向こうから声が聞こえた。

「あーーーっ!!それ、巻いちゃダメだよ!!」
「おわっ!ニンゲン、あんたこいつを知っているのか?」
「うん。ぼくの友達が持っている道具なんだ。」


声の主である、野比のび太は、その布切れや、ドラえもんの説明をした。
「ふーん。『タイムふろしき』ねえ。信じがたい話だが……。」
「包んだものの時間を巻き戻して、逆向きに巻くと、時間が過ぎちゃうんだ。」
「てか、スゲエじゃねえか!!これでこの首輪、クズ鉄に戻してやろうぜ!!」


ただの布切れだと思っていたタイムふろしきの、予想外なまでの使い道に驚き、早速首に巻こうとするダルボス。

「でも、本当にこれで上手くいくのかなあ。」
予想外のラッキーアイテムを引いたことにより、興奮するダルボスは急に首に巻くのをやめる。
「どういうことだ!?」
「これで首輪を外せたら、簡単にこの殺し合い、終わっちゃうんじゃない?」

上手い話にはウラがある。
もしもボックスで魔法の世界へ行き、楽が出来ると思っていたら、魔法が使えないわ、魔界が迫ってくるわと、大変な目に遭ったばかりののび太だからこそ思うことだ。


「ふむ、確かにそうだな。」
ダルボスはタイムふろしきに同封された説明書を今さらながら読んでみる。
「あんたの言う通りだ。コイツ、1度しか使えねえらしい。しかもコイツで死者を復活させることが出来ねえとよ。」
「じゃあ、一人しか首輪を外せないんだ。」


ひみつ道具の力は、この殺し合いでも発揮することが出来ると期待していたのび太も落胆する。


91 : 始まりは1枚の支給品と共に ◆vV5.jnbCYw :2021/02/23(火) 21:32:19 dkEwXW9M0

「悪いが、コイツはオレが預かってていいか?」
「うん。いいけど。」
「恐らく、コイツのことを知る奴が増えれば、ひでえ奪い合いが起こるはずだ。その時はオレが守るしかねえ。」
「ダルボスさん、優しいんだね。」
「おう、ありがとうよ。」


自分が率先して危険な役割を請け負おうとする巨人に、のび太は感心する。
それに対し、照れくさそうにするダルボス。

「ところでよ、ノビタと言ったな、今さらながらゴロン族のオレが怖くねえのか?」
ダルボスにとって、のび太はニンゲンの中でも小柄に見えた。

「うん。今まで色んな人と友達になったしね。」
最初はダルボスの巨体よりも、彼が腕にタイムふろしきを巻こうとする所に驚いて、勢いのまま話しかけてしまった。
だが、恐竜や宇宙人、人の言葉を話す2足歩行の犬や海底人とも仲良くなってきたのび太にとって、ダルボスの巨体もさして恐ろしいものではなかった。


「なら良かった。ところであんたは、何を支給されたんだ?」
「あっ、忘れてた!」

あわてて鞄の中を調べると、チョーカーのようなものが出てきた。
「ん〜?なんだその変な形の入れ物は?」

それは、☣の形をした入れ物だった。
知っている人が見れば、感染症の類をもたらす危険な何かが、入っていると伺うだろう。

「オレはこんなマーク見たことねえよ。」
「うーん。ニュースで見たような気がするけど、何だったかなあ。」
しかし、のび太の世界はバイオハザードマークそのものがアメリカから開発されたばかりの時代(1966年)であり、ダルボスの世界はそのマークと全く関係がなかった。


「未来の道具かもしれないな。」
自分の時代から、ドラえもんのいる時代までに開発された何かかもしれない、と推測するのび太。


「君たち、ちょっといいか?さっき、時間がどうとか、未来がどうとか言ってなかったかい?」
のび太とダルボスの会話に入ってきたのは、20代後半ぐらいの青年だった。


「俺は朝比奈覚。カード名簿の、♧5の奴だ。君たちに、ちょっと聞きたいことがあってな。」
「答えてやってもいいけど、あんたに答えた所で、オレ達が不利にならねえ保証はあるのか?」
「ちょっ……。」
のび太の静止も振り切り、ダルボスが覚に詰め寄る。
目の前の男が何を考えているか分からない以上、安易に情報を漏らすわけにはいかない。


「待ってくれ!!それ、サイコ・バスターじゃないか!!」
ダルボスとのやり取りも無視して、のび太が左手に持っている道具を見て、大声を出す覚。
それは、覚にとって思い出深い道具だった。
自分たちが持っている呪力で殺せない悪鬼を唯一殺害するウィルスカプセルとして、廃墟で早季が手に入れた道具。
結局、早季は自分をウィルスから守るため、それを燃やしてしまったが、どうしてここにあるのだろうか。


「俺は見たことがある。そいつは恐ろしい細菌兵器だ。迂闊に割ったり誰かに渡したりするんじゃない。」
のび太は慌てながら、ザックにしまい込む。

「待てよ。あんた、それが本当だって保証は、どこにあるんだ?」
ダルボスはなおも覚を疑わし気に見つめる。

「名前も力もその人が言っている通りだ。多分ウソはないと思うよ。」
サイコ・バスターの代わりに、説明書を取り出し読むのび太。

「そうか。疑ってすまねえな。」
「いいさ。こんな戦いで、疑り深い方が自然なくらいだ。」
その注意深さを、かつてのバケネズミの仲間、奇狼丸を思いだす。


92 : 始まりは1枚の支給品と共に ◆vV5.jnbCYw :2021/02/23(火) 21:32:48 dkEwXW9M0

「まあ、俺が聞きたいのはこういうことだ。君たちは、未来や過去の人間と関係はあったのか?」
突飛な質問に、ダルボスは戸惑う。
しかし、のび太は普通に答えた。
「うん。ぼくの友達の、ドラえもんのことだけどね。」

自分の未来を変えるために、100年以上先の未来からお助けロボットが送られてきたことを話した。
その話を、興味深そうに聞く。

「なるほどな。」
「朝比奈さんは、何か知っているの?」

「気になるのは、この2枚だ。」
トランプのケースから、器用に♧の5と、♡の10を取り出す。
一人は覚自身。もう1枚は渡辺早紀と書かれた、一人の少女だ。
年はのび太の少し上なくらい。
最初に見せしめにされた少女と同じくらいの年齢だ。


「早季は、俺の幼馴染だ。」
「「え!?」」
あまりに二人の年齢が違うのに、幼馴染呼ばわりする覚に二人は驚く。


「嘘じゃない。確かに俺と早季は同じ26歳だ。これはどういうことだ?」
「渡辺さんは、過去から呼ばれたとか?」
「あるいは、俺が未来から呼ばれた、と解釈するべきかもしれない。」

続いて出したのは、♧3と、♢10のカードだ。
さっきから手を使わずに、狙ったカードばかりを出しているので、マジシャンか何かのような錯覚を覚える。
片方は早季より少し上ぐらいのくせ毛の少年。もう片方はとても人間とは思えない姿の生き物だった。


「この二人は、既に死んでいるんだ。しかも守の方は、何年か前に。」
「??」
「死人も参加させられているってことか?」

死者が参加させられているという、驚きの事実に二人も開いた口が塞がらない。

「それだけじゃない。敵は、過去も未来も、原因も結果も無視してこの殺し合いを開いたのかもしれないんだ。」
覚の話から、敵の恐ろしさに背筋が寒くなる二人。


「なるほどな。それが、わしのここにいる理由か。」
のび太の方から、低い男の声が聞こえた。
「ん?ノビタ、何か言ったか?」
「いや、ダルボスさんが言ったんじゃない?」
「君の鞄から何かいるんじゃないか?」

覚がのび太の鞄を開けると、そこから出たのは、写真だった。


「安易に鞄など開けるものじゃないぞ!!」
「うわあ!!」
大きな声と、それとともに出てきた老人の写真に、腰を抜かすのび太。


「なんだ!!おらぁ!!」

ダルボスが掴もうとするも、するりと写真は抜ける。
「お前らに捕まるものか!!」


既に写真はダルボスの手の届かない高さまで飛んでいた。しかも、その手にはサイコ・バスターを持って。
「待て!」
覚が呪力で、写真を引き下ろそうとする。

「待てと呼ばれて待つバカなど、誠実な政治家くらいおらんぞ!!」
(呪力が効かない?いや、トランプは普通に動かせた。範囲が狭まっているのか!?)

それから写真が、三人の目から消えるのは、そこまで時間がかからなかった。
ただでさえこの辺りは障害物の多い市街地で、空を飛べる者をそうでない者が追いかけるのは至難の業である。


「とりあえず二人とも、奴を追いかけよう!!あいつが誰の差し金か分からないけど、このままだと厄介なことになる!!」
「うん!!」
覚とのび太は追いかけようとする。
それに続けてダルボスも走る。


93 : 始まりは1枚の支給品と共に ◆vV5.jnbCYw :2021/02/23(火) 21:33:07 dkEwXW9M0


【A-8/市街地/一日目 深夜】

【ダルボス@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、タイムふろしき@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[思考・状況]
基本行動方針:リンクと合流し、主催を倒す
1.写真の男(吉良吉廣)を追いかける
2.サトルの奴、さっき何をしたんだ?
※参戦時期は少なくともイリアの記憶が戻った後です。
※名簿の確認はしてません。

【野比のび太@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:ダルボス、覚と共に脱出する
1.写真の男(吉良吉廣)を追いかける
2.朝比奈さん、エスパーなの?
※参戦時期は本編終了後です
※名簿の確認はしてません。


【朝比奈覚@新世界より】
[状態]:健康 焦り 早季への疑問
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:写真の男からサイコ・バスターを奪い返す
1.その過程でもし出来たら、早季や真理亜、奇狼丸を探す
2. のび太は呪力を持ってるのか?
※参戦時期はスクィーラを捕獲し、神栖66町に帰る途中です。









「ふふ、愚か者共め。いつからわしが、空にばかりいると思っていた?」
のび太たちが走り去った後、空き家の引き出しの中に隠れていた、男はほくそ笑む。

男はずっとのび太の鞄に隠れ、サイコ・バスターと共にチャンスを手ぐすね引いて待っていた。
そして怪しげなチョーカーが何なのか分かるや否や、隙を見て生物兵器を盗み出そうとしていた。


「なぜわしまで、しかもこの姿で蘇らせたのか知らないが、感謝しておるぞ。
これでまた、わしの吉影の世話が出来るのだからな!!」


男は笑いながら、窓からひゅるりと出て行った。



【写真のおやじ@ジョジョの奇妙な冒険】
のび太に支給された、ぶっちゃけハズレ支給品。
杜王町の殺人鬼、吉良吉影の父親が写真となって現れた姿。
元々息子の殺人の隠蔽を手伝っていた。
このロワでは原作とは違い、スタンド発現の矢を持っていないが、他の道具を持ち運ぶことが出来る。
どれほどのサイズまで持てるかは不明。

※現在はサイコ・バスター@新世界より を持っています
※まずは吉影との合流を考えています。


【サイコ・バスター@新世界より】
のび太に支給された、バイオハザードマークのカプセル。
呪力の持ち主が倒せない敵が現れた際の対処法として、中に猛毒の細菌兵器が入っている。
ただし、後始末を容易にするために、空気中に出されてから数時間で死滅するようになる。
本ロワでは、毒性が原作でも強くなる(人間より強い相手でも死亡or大ダメージ)反面、ウィルス死滅の速さも出てから数分ほどになっている。


【タイムふろしき@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
ダルボスに支給された秘密道具
時計のマークがちりばめられたふろしきで、表に被せると古い人・物の時間を巻き戻すことが出来る。
逆に、裏にかぶせると新しい物を古くすることが出来る。
本ロワでは、1度しか使えない。


94 : 始まりは1枚の支給品と共に ◆vV5.jnbCYw :2021/02/23(火) 21:33:17 dkEwXW9M0
投下終了です。


95 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/24(水) 10:20:45 n1h0pYfQ0
リンク、カイン予約します。


96 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/24(水) 10:47:25 n1h0pYfQ0
>>95
上にミキタカを追加予約します。


97 : ◆2zEnKfaCDc :2021/02/24(水) 20:45:19 qqwmPQFo0
投下します。


98 : 月光のシンデレラケージ ◆2zEnKfaCDc :2021/02/24(水) 20:46:21 qqwmPQFo0
ㅤ月明かりに照らされて、彼女――満月美夜子はただ一人、立ち竦んでいた。

ㅤ月の光は綺麗だ。それは、殺し合いの世界でも変わらない。悪魔たちの根城の魔界星も、それを包む黒い炎も、観るだけならば美しい。美醜が本質を捉えないものなんて満ち溢れている。

ㅤ大事なのは中身だ。改めて言うまでもない、当たり前の話。それでも、物事の表しか見ない人間はたくさんいる。地球の危機を誰よりも早く察知して守ろうとしていたお父さんを、人々はホラ吹きと罵るだけだった。

ㅤこの世界も、おそらくは同じだ。正しい人が信用されるかなんて分からない。第一印象で決めつけ、疑心暗鬼に駆られ、最終的に殺し合う。

ㅤそんな人間が全てではないとは分かっている。お父さまは魔学博士として偏見を捨て、世の中の実態を暴こうと研究に身を捧げた人物だ。ドラちゃんものび太さんも、魔界接近説を信じてくれて、共に魔王デマオンを倒す旅に出向いてくれた大切な友だちだ。

ㅤだけど、ほとんどの人は知らない人。そんな中で殺し合うつもりはないと、信用してもらうことはできるのだろうか。また、自分も信用することが、できるのだろうか。

ㅤ魔王という明確な悪がいて、世界滅亡の危機に瀕していたが――しかしある意味では、美夜子の世界は平和だった。人の悪意に触れることはあっても、人の害意に触れることは無かった。

ㅤそのために、想定が遅れてしまった。

「――おらあああっ!」

「――っ!」

ㅤ木の裏に身を隠し、出会い頭の一閃――不意打ちだった。信用の可否以前に、機会すら訪れない邂逅は、完全に意識の外だった。

ㅤしかし幸いにもその一撃は急所を外れ、防具としては頼りない薄桃色の衣ごと皮膚を裂かれるのみに留まった。美夜子の鮮血が月夜を彩る。

「くっ……、たて!ㅤ火柱っ!!」

ㅤ魔界の悪魔の侵攻に備え、実戦を想定した魔法の訓練を欠かさなかった美夜子。不意打ちを受けても、追撃までもを易々と許すことはない。魔力で形成された炎を展開し、襲撃者を包み込む。同時、それに伴い発生した気流が美夜子の身体を後方へ吹き飛ばし、襲撃者との距離を保つ。

ㅤ両の足で着地し、未だ燃え盛る炎の中で悶える影に視線を向ける。咄嗟の判断で出してしまった、人間を焼き殺すには十分な火力。正当防衛とはいえ、誰とも知れぬ命を奪ってしまったかもしれない、その事実が美夜子の心にずしりと伸し掛る。

ㅤこの人だって、襲いたくて襲ったわけでもあるまい。こんな催しに招かれて、無理やり殺し合いをさせられた被害者だろうに――自責に満ちた想像は、しかし次の瞬間には消え去ることとなる。


99 : 月光のシンデレラケージ ◆2zEnKfaCDc :2021/02/24(水) 20:47:14 qqwmPQFo0
「――ひどい世界だと思いませんか。」

ㅤ酸素を消費する炎の中で、人は呼吸をできない。だというのに、炎の中の人影は言葉を発している。それだけでも、耳を疑いたくなる光景だ。

「そうよ、ここはひどい世界よ。だというのに……何がおかしいっていうのよ!」

ㅤしかし今は耳だけでなく、目すら疑わしい。暗闇に紛れていた影の醜悪な顔貌を、眩いばかりの火柱が暴き出した。その先に見たのは、無理やりに殺し合わされているこんな状況下で、男――鶴見川レンタロウが満足気に笑っている光景。

「皆、自分は可愛いものでしょう?ㅤだから死にたくなくて、人を殺し、奪って……そうして生き残った人は、さぞかし薄汚いものに満ち溢れているんでしょうねえ。」

ㅤ燻る炎は男の全身を微塵も焼いていない。それも当然、この場に居るレンタロウは能力『幽体離脱』により肉体から乖離した幽体である。刃物を握れる実態はあれど、物理的なダメージは通さない。したがって、レンタロウは意に介さない顔持ちで炎の中を潜り抜ける。

ㅤそんな中でも手にした刃物だけは熱を帯び、黒く焼き目を付けながらその存在を主張する。それを逆手に翻し、レンタロウは一歩、一歩と美夜子に接近する。それに伴い後退する美夜子。両者の距離は一向に縮まらない。

「本当にひどい世界ですよ。キレイなものを貶める表現は、僕だけのものでないといけないんです。」

ㅤ美夜子の白い肌、そして月夜を映し出すような翠色の瞳を、レンタロウは舐めまわすように凝視する。

「ところであなたもキレイですねえ。」

ㅤ美夜子の全身に嫌悪感がほとばしる。醜悪さのベクトルが悪魔とは根本的に違う。自分の知らない、知るべきですらない価値観の相手だ。真っ当にやり合っては駄目だと直感が理解する。

ㅤ善悪の狭間で苦しんでいるのなら説得の余地もあっただろう。魔学が発展した現代では迷信だと信じられてきた"科学"を使えるドラちゃんも、力が無くても誰にも負けない優しさを持っているのび太さんも、この世界には呼ばれている。それは喜ぶべきことではないけれど、こんな絶望的な状況でも手を取り合えるはずだと、誰かを諭す材料は持っている。しかし、あろうことかこの状況を楽しんでいる者には、語る言葉など持っていない。持っているはずもない。説得の道を即座に諦めて踵を返し、脱兎のごとく逃げ出した。


100 : 月光のシンデレラケージ ◆2zEnKfaCDc :2021/02/24(水) 20:48:09 qqwmPQFo0
「おや、おいかけっこですか?」

ㅤそうこなくては、とレンタロウは口角を吊り上げる。すぐさま死なれても面白くない。恐怖に震え、小便を撒き散らしながら逃げる獲物を追い詰め、友情や愛情、人々がキレイだと信じて止まないものをかなぐり捨てて保身に走り始める者をじわじわと嬲り殺してこその"表現"だ。最初の奇襲であえて急所を外したのもそのためだ。

ㅤ一般的な幽体のイメージと異なり、宙に浮くことはできない。質量があるため、美夜子を追って大地を踏みしめる度に荒い足音が耳を叩く。それは恐怖の演出としては十分すぎた。

「ははは、楽しいですねえ。」

(こんなの……楽しいもんですかっ……!)

ㅤ息を切らして逃げ回る美夜子。魔法が通じない。攻略の糸口が見えない。

ㅤそして、初撃で傷を負った美夜子と、疲れという概念のない幽体のレンタロウ。両者には元より体格差もある。間もなくして追い付かれるのもやむを得ないことだった。

「きゃああっ!」

ㅤ美夜子の足に一筋の斬撃痕が刻まれる。機動力を一気に削がれ、逃げるという選択肢を完全に潰されてしまう。勝ちを確信したレンタロウは、ナイフをくるくると手のひらの上で遊ばせながら、舌なめずりする。

「安心してください。あなたが殺し合いで穢れていく前に、僕が表現してさしあげますから。」

「そう簡単に……やられてたまるもんですかっ!」

ㅤ対する美夜子は、剣を内蔵したいつものペンダントは没収されているが、代わりに支給された一本の剣を取り出す。刀身が蒼く煌めく意匠の施されたそれは、『オチェアーノの剣』と呼ばれている。月の光を反射した海の水面のような、儚い美しさを備えた伝説の剣――しかしそれを相手に向けてしまえば、どれほど綺麗な武具であれ殺傷力の塊でしかない。

ㅤまたひとつ、キレイなものが殺し合いの枠に貶められてしまったことを感じ取り、どこか恍惚の表情を見せるレンタロウ。幽体を傷付けられない剣など恐れる必要は無いため、一切億さずに刃を振り上げる。

――ギィンッ!

ㅤ心臓を隠しているために不死身であったデマオンと同じく、幽体を倒すことはできないかもしれない。そもそも、目の前にいるレンタロウが幽体であるという推測すら美夜子にはできないのだ。だけど、二度も自分に突き刺さったナイフだけは、間違いなく質量を持ってこの場に存在していると分かっている。だから、こうして押し戻すこともできる。ナイフと、オチェアーノの剣が拮抗する。

「もう好き勝手はさせないわ。覚悟しなさい!」

「なっ……押さ、れ……!?」

ㅤ腕力勝負なら男であるレンタロウが有利。しかし、伝説の剣の攻撃力に加え、美夜子の念力による後押しも加わり、レンタロウのナイフを弾き返す。

(モグオと同じ炎の能力かと思っていたが……チッ……もしかして怪力の能力でも持ってんのか……?)

ㅤ曲がりなりにも、強力な魔法を使う悪魔と戦うために剣術を磨いてきた美夜子に対して、自分より弱い者にしか刃を振るってこなかったレンタロウ。経験の差は覆せない。もしもこの場に存在する彼が幽体でなければ、この地点で一刀のもとに斬り伏せられて勝負は決していただろう。それほどまでに、両者の剣術の実力差は開いている。

ㅤそれでも、幽体のレンタロウに敗北は無い。精神の持つ限り、何時までも美夜子と戦い続けられる。しかし美夜子の側には、明確なタイムリミットが存在する。

ㅤ魔王デマオンにかけられた呪いによって、美夜子の姿は猫に変えられている。魔法が解け、人間の姿でいられるのは月の光の下のみ。しかしこのまま戦い続けていれば、いずれは月の入りの時刻を迎えてしまう。

ㅤ確かに猫の姿でも魔法は使える。しかし、オチェアーノの剣のサイズの武器を振るうには体格が足りない。怪我のせいで逃走しても回り込まれてしまうであろう現状、数少ない防衛手段である剣を扱えなくなるのは死に直結しかねない。

ㅤその一方で――ある地点では、レンタロウの側にもタイムリミットが迫っている。そのことにこの場の誰も、気付いていない。


101 : 月光のシンデレラケージ ◆2zEnKfaCDc :2021/02/24(水) 20:48:41 qqwmPQFo0



「殺し合いだぁ?ㅤ魔王のやつ……ゆるせねえ!」

ㅤ少年、ガボは憤りながら平原を駆け抜ける。

ㅤ弱肉強食は自然の摂理だ。人も動物も、生きるために他の生き物を殺す。それは在るべくして在るものだ。オオカミの頃から食物連鎖の上層に位置していたガボは決して、清廉潔白だと言うつもりも無いし、他者を責め立てようとする資格もない。

ㅤだが、殺し合いとなれば話は別だ。死ななくていいヤツが無意味に死ぬ。主催者は生きるためなどではなく、世界征服の一環として、或いはただただ娯楽として、悪戯に命を奪っている。絶対に、許してはならない所業である。

「むっ!」

ㅤそして――オオカミとしての敏感な鼻が、物陰に潜む匂いを感じ取った。不意打ちを受けることはひとまず回避したが、しかしそれだけならば自分と同じく、殺し合いの世界に巻き込まれた参加者の存在を知ったというだけだ。隠れているというだけでは、こちらを狙っての潜伏なのかこちらを恐れての逃避なのか区別はつかない。嗅覚で居場所を特定しても、敵か味方かの判断は即座には難しいものである。

ㅤしかしその方角からは、衣服に染み付いた動物の血の匂いがした。それも、食用としても用いられている動物ではなく、ネコやウサギ等、言わば愛玩動物のもの。この殺し合いに招かれる以前から残虐な嗜好を持ち合わせていたことが容易に汲み取れる。看過できない、悪意の匂いだ。

ㅤだが、いかなる理由か、それ以上ガボは踏み込めない。匂いがどの地点から発せられているのかは分かる。その匂いの主を許せないという気持ちも本物だ。

ㅤだというのに、ガボはその者と接触を果たそうとしない。かといって、その匂いから逃げようという気概は全くもって湧いてこない。必然、辻褄の合わない思考を抱いたままに、ガボはアクションコマンドを取らずその場に留まることしかできない。

ㅤガボの感知した存在は、元の世界で虐殺していた動物の血が付着した制服を身にまとった鶴見川レンタロウの肉体である。美夜子の元へ幽体を飛ばしている最中、魂を失った肉体は抜け殻となっており、その状況で外敵から身を守る手段も無い。

ㅤしかしその肉体が身につけている装備品――22世紀のひみつ道具『石ころぼうし』により、何人たりともレンタロウの肉体に注意を向けることはできない。

ㅤガボが抱いている警戒心とて、レンタロウ本人ではなく衣服についた動物の血の匂いに由来するもののみだ。衣服についた匂いにまでは石ころぼうしの効力が及んでいない。しかしその持ち主に注意を向けることができないために攻撃ができず、また動物の血の匂いの意味を理解しているために逃げることもしようとしないのが現状だ。ひみつ道具が、「オオカミ少年」を相手取ることを想定していなかったがために起こったバグとも言える。

ㅤただし、石ころぼうしのエネルギーが切れるまでの時間は決して長くない。効力が切れると同時、レンタロウはその肉体ひとつで、時空を超え世界を救う旅に出た少年と対峙することとなる。

ㅤ誰が死に、誰が残るか。誰が消え、誰が殺すか。

――シンデレラの魔法が解けるその時は、刻々と近付いてきている。


102 : 月光のシンデレラケージ ◆2zEnKfaCDc :2021/02/24(水) 20:54:13 qqwmPQFo0
【C-8/森/一日目 深夜】

【美夜子@ドラえもんㅤのび太の魔界大冒険】
[状態]:胸と足の怪我
[装備]:オチェアーノの剣@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反抗する。
1.レンタロウを退ける。

※呪いが解ける前からの参戦です。月の光が届かなくなると猫の姿になります。デマオンが死亡したら解呪されます。

【鶴見川レンタロウ(幽体)@無能なナナ】
[状態]健康
[装備]ダンシングダガー@FINAL FANTASY Ⅳ
[道具]無し
[思考・状況]
基本行動方針:参加者がキレイな内に"表現"する。
1.美夜子を殺す。

※本編死亡前からの参戦です。
※肉体に瞬時に戻ることができますが、その場合所持品はその場に放置されます。

【C-8/平原/一日目 深夜】

【ガボ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たち】
[状態]健康
[装備]疾風のブーメラン@ゼルダの伝説ㅤトワイライトプリンセス
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラとザントを倒す。
1.

【鶴見川レンタロウ(肉体)@無能なナナ】
[状態]健康
[装備]石ころぼうし@ドラえもんㅤのび太の魔界大冒険
[道具]基本支給品 不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針:参加者がキレイな内に"表現"する。
1.美夜子を殺す。

【支給品紹介】

【オチェアーノの剣@ドラゴンクエスト Ⅶㅤエデンの戦士たち】
美夜子に支給された、水の精霊の加護を受けた剣。攻撃時に電撃の追加効果を与え、道具として使用するとバイキルトの効果がある。

【ダンシングダガー@FINAL FANTASY Ⅳ】
レンタロウに支給された短剣。現在は幽体が所持している。道具として使用すると武器自体が踊り出して攻撃する効果がある。

【石ころぼうし@ドラえもんㅤのび太の魔界大冒険】
レンタロウに支給されたぼうし。現在は肉体が装備している。(漫画版では透明マントのように使用されているが、)被っていると誰からも気にされなくなる効力がある。

【疾風のブーメラン@ゼルダの伝説ㅤトワイライトプリンセス】
ガボに支給されたブーメラン。投げた軌道に沿って風を巻き起こす効果がある。


103 : ◆2zEnKfaCDc :2021/02/24(水) 20:55:11 qqwmPQFo0
投下完了しました。


104 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/24(水) 22:11:13 n1h0pYfQ0
投下乙です!!
レンタロウのワンサイドゲームかと思いきや、まさかのメタるキャラが登場。
高度な心理戦もさることながら、3人とも有用な道具を持っているので、どうなるのかが非常に気になりますね!!
時間経過で戦況が変わるという描写も見ものでした!!


では、私も投下しますね。


105 : 罪人と宇宙人と ◆vV5.jnbCYw :2021/02/24(水) 22:11:52 n1h0pYfQ0
草原地帯。
地面の色に見紛うかのような服装の青年が、当て所なく歩いていた。
彼の耳に響くのは、ザントの声。

―――困るな。いくら殺したいからと言って、いきなり武器を出すなど。


殺した。
自分が、殺した。
戦って、守り抜いた相手を殺した。
記憶を失って、それをようやく取り戻した相手を殺した。


ここで誰かがいれば、「殺したのは君ではなく、ザントだ。」と言うだろう。
だが、そんな言葉は耳に入らないくらい、彼の心は弱っていた。
武具も持たず、ここがどこかも確かめず、誰が参加させられているのかも分からないままフラフラと歩いた。



罪人の俺を、裁いてくれ。
いや、そんな面倒なことをしなくていい。
殺すだけで充分だ。


綺麗な月光がさす中、なおも歩いていると、何かが月をバックにして飛んできた。

(!?)
飛んできたそれは、槍を振りかざし、地面に目掛けて突き刺した。
明らかに自分を狙った勢いだった。
続けざまに、地面に刺した槍を天目掛けて一振り。
死にたいとは思っていても、敵と戦い続け、培った経験は脊髄に刷り込まれているなと、感心してしまう。


「フッ、避けたか。中々やるじゃないか。」
「何で、あんたは殺し合いに乗っているんだ。」
リンクは率直な疑問を、槍の男に投げかけた。
それは、自分の強い力をなぜ正義に使わないのか、という意味合いではない。
あれほどの跳躍力があれば、あの勢いでザント達の所へ飛んでいくことも可能かもしれないのに、という意味合いだったが。


「シンプルな話だ。殺しあえと言われたからこうしているだけだ。分からないのか?」
男は槍をリンクの心臓目掛けて突き刺そうとする。
それをまたも反射的に横に飛びのいて躱すリンク。


「その力、人を守るのに使えないのか!?」
「笑わせてくれる。人を守ることも、殺すことも出来ない奴に言われたくはないな。」

今度は、槍を袈裟懸けに一閃。
直撃こそしなかったが、緑の服に斜線が走る。


106 : 罪人と宇宙人と ◆vV5.jnbCYw :2021/02/24(水) 22:12:31 n1h0pYfQ0

「死んだような顔をしていた癖に、死ぬのが怖いか。」
逆袈裟に一閃。
当たらない。だが、次も無事な保証もない。


「そうだ、貴様を殺した後、貴様の仲間も殺してやるか。」
死んだはずのリンクの心が、敵への憎しみを募らせた。
相手がなぜ自分さえ知らない仲間を知っているか。そんなことはどうでも良かった。


男が再び、天を突くかのように跳躍する。
今度は直撃すれば、良くて大ダメージ。悪くて即死。


「!!」
草原に派手な金属音が響いた。

渾身の一撃が、弾かれた。
リンクが取り出したのは、台風を模したかのような盾。
返ってきた衝撃に押され、男は後退する。
盾は一目で業物と分かるが、乾坤一擲の攻撃をノーダメージで受け止めたのは、彼の技術があったからだ。


「どうやら、戦わなきゃいけないようだな。」
「フッ、なかなかやるじゃないか。」
銀の兜から見える口元が笑い、ザックに手を突っ込む。
何をするかと思いきや、剣を取り出し、リンクに渡す形で地面に刺した。


「オレが攻撃して、貴様が守るだけじゃ退屈だ。そいつはくれてやろう。」
「ありがたく受け取っておく。」

夜の闇を照らすかのような光を放つその剣を手に取り、すぐにカインに斬りかかる。
一文字に振るったその剣は、槍を縦に回転させた斬り上げによって、天を仰ぐ形になる。
続けざまに振るわれる男の突きは、リンクの盾によってまたも止められた。


「このような使い手、バロンでも殆ど見ない。名を教えてくれないか?」
「トアル村の剣士、リンク。」
「いい名だ。俺は竜騎士カイン、この戦いを征する者だ。」

互いの自己紹介が終わるや否や、三度カインは天へと駆ける。
だが、既に2度空からの攻撃を経験したため、攻撃へのタイミングは覚えていた。
そして、一たび空へと舞い上がると、そこからしばらくは攻撃をかわす手段が限られる。
一度目は自分の身を守ることに夢中だったリンクは、腰を落とし、今度は一歩も動かない。
ならば二度目のように盾を構えて、躱すのではなく受けることに専念するかと言うと、それもまた否。
カインの跳躍が頂点を通り越して、下降に至る頃、リンクは盾を捨て、剣を下段に降ろした。


右手が迫りくる。
だが、タイミングは見切った。
串刺しにされる瞬間、カウンター代わりに斬り上げを入れてやろうと、両手で剣を握りしめて身構える。

(!?)
しかし、同じ攻撃ばかりするほど、カインは無能ではなかった。
刺されたものではなく、何かがぶつかった様な痛みをリンクは肌で感じる。


小手だ。
端からカウンターを狙っていると見抜いた相手は、先に左手から小手を投げつけたのだ。
だが、文字通り小手先の技で討たれるほど、リンクも愚かではない。
カウンターの構えをキャンセルし、どっしりと地面に踏み込んだ足を、攻撃の為ではなく回避の後転のためにシフトさせる。


107 : 罪人と宇宙人と ◆vV5.jnbCYw :2021/02/24(水) 22:13:12 n1h0pYfQ0

三度目の飛襲もまた、空振りに終わった。
敵方の攻撃が済んだ瞬間、攻めに回るのはリンクの方だった。
今度はカウンター代わりにとカインが槍での突きを放つ。
それを姿勢を低くしたまま、ぐるりと転がるようにして回り込み、そのまま斬り付けた。


背面(そとも)斬り
古の勇者から学んだ第三の奥義だ。
だが、これでカインを倒せたかと言えば、そうではない。
実際には皮一枚届かず、最初にリンクが斬りつけられた時のように、服だけだった。


「地面技(グラウンド)で、空の主である竜騎士に叶うと思うな。」
今度は飛躍を、ダメージを逸らすために使ったのだ。
追撃が来るかと思うと、今度は尾を引いて逃げ出した。


「待て、不利になったら逃走か。」
「初戦で全力を尽くすなんて、馬鹿のすることだ。」
なおも追いかけようとするリンクを、ジャンプを繰り返して振り切ろうとする。


だが、行く先は崖。
追い詰めたか、と思いきや、カインは何のためらいもなく飛び降りた。


―――初戦で全力を尽くすなんて、馬鹿のすることだ。
確かにその通りだと納得する。
この戦いの敵はカインだけじゃないはず。
いつどこで新手が襲い来るかは分からない。
崖下まで追いかけても捕まえられるか分からないし、おそらく彼のことだから投身自殺ではなく何か秘策はあるはずだ。


「いいぜ、カイン、それにザント。俺を殺さなかったことを、後悔させてやる。」
リンクは剣を鞘に納め、確かな足取りで歩き始めた。


【B-2/草原/一日目 深夜】

【リンク@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:健康 服に裂け目 疲労(小)
[装備]:光の剣@FF4 トルナードの盾@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:主催を倒す
1.まずは名簿を確認
2.カインは次会ったら倒す
※参戦時期は少なくともザントを倒した後です。
※地図・名簿の確認はしてません。
※奥義は全種類習得してます


108 : 罪人と宇宙人と ◆vV5.jnbCYw :2021/02/24(水) 22:13:32 n1h0pYfQ0

「ミキタカ……だったな。助かったぞ。」
崖から飛び降りるも、何にでも変身出来る宇宙人、ヌ・ミキタカゾ・ンシが落下傘に変身してくれたおかげで、無傷で着地したカイン。

「ええ。私に出来るのは、これくらいですから。」
「しかし……スタンド、とはな。おかしな能力だ。」
「おかしな性格なのはあなたですよ。」

変身なんて出来る宇宙人に、逆に変人扱いされるとはな、とカインは笑う。

「自分がよりによって、憎まれ役を引き受けようだなんて。」
「この戦い、誰かがそれをやらなきゃいけない。最悪なのは、全員が争って、本当の力を出せず、誰も幸せになれないことさ。」


この戦いが始まり、名簿を見た瞬間、カインはどうするか決めた。
華をセシルとローザに持たせ、他の参加者は自分一人を敵にさせ、他の奴等同士で争うことを防ぐ。
そうして全員が団結して主催を倒すという算段だった。
しかし、それをいざ実行するのが難しいと考えていたところ、偶然出会ったのがミキタカだった。
同じように殺し合いに反対していたミキタカは、カインの話に乗り、逃走ルートを用意してくれていたのだ。



「私はアナタのような面白い人に出会えて幸せです。これからもどうぞよろしく。」
「フッ、まかせておけ。」
かつて親友に返したものと、同じセリフを吐くカイン。


だが、彼は知らなかった。
彼の無二に友人は、既に死んでいるということを。


【B-1/崖下/一日目 深夜】
【カイン@Final Fantasy IV】
[状態]:健康 服の背面側に裂け目 疲労(小)
[装備]:ホーリーランス@DQ7  ミスリルヘルム@DQ7
[道具]:基本支給品 
[思考・状況]
基本行動方針:憎まれ役を演じ、対主催勢力を繋げる。もしセシルが死ねば?
1.セシル、お前はどうしている?
2.ミキタカ、しっかり頼むぞ。
※参戦時期はクリア後です



【ヌ・ミキタカゾ・ンシ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 
[思考・状況]
基本行動方針:カインに協力する
1.カインさんは面白い人ですね。
2.仗助さんが無事か気がかり

※参戦時期は少なくとも鋼田一豊大を倒した後です。


【支給品紹介】

【光の剣@ドラゴンクエスト Ⅶㅤエデンの戦士たち】
カインに支給された剣。現在はリンクが持っている。
ス〇―ウォーズのラ〇トセイバーのように刃先が光っている。

【トルナードの盾@FF4】
リンクに支給された盾。
風の精霊の力を帯びており、ただ防御力が高いだけでなく、氷の魔法、吹雪系のダメージを抑えることが出来る。

【ホーリーランス@DQ7】
カインに支給された槍。
FF4にも同名の武器があるが、これは月の力を帯びた武器ではなく、凡庸な性能をしている。



【ミスリルヘルム@DQ7】
カインに支給されたフルフェイスの兜。
特に性能はないが、高い防御力を持っている。


109 : 罪人と宇宙人と ◆vV5.jnbCYw :2021/02/24(水) 22:13:43 n1h0pYfQ0
投下終了です。


110 : 罪人と宇宙人と ◆vV5.jnbCYw :2021/02/24(水) 22:22:26 n1h0pYfQ0
投下終了です


111 : 罪人と宇宙人と ◆vV5.jnbCYw :2021/02/24(水) 22:37:36 n1h0pYfQ0
すいません。
ミキタカの支給品記入漏れがありました。

【ヌ・ミキタカゾ・ンシ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:カインに協力する
1.カインさんは面白い人ですね。
2.仗助さんが無事か気がかり


112 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/25(木) 11:07:26 YdpQw4To0
ゴルベーザ 予約します。


113 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/25(木) 22:10:32 YdpQw4To0
投下します。


114 : ある男の帰還 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/25(木) 22:11:32 YdpQw4To0
服装を頭からつま先まで黒で統一させた長躯の男、ゴルベーザが荒地を闊歩する。
彼の使命は、終わったはずだった。
月の民、ゼムスに操られ、青き星の侵略者として先陣を切っていた彼は、何の皮肉か生き別れた弟、セシルに助けられた。
その後、弟とその仲間達と共にゼムス、そしてその怨念ゼロムスを倒し、ゆっくりと眠りにつくことにした。
だが、どういうわけか不意に目覚めた上で、殺し合いへと参加させられていた。


(ザントにオルゴ・デミーラだったか。だがこれ以上私は悪の言う通りになる気はない。)
自分に罪を犯せと命令されたのは、かつてゼムスに操られた時と似ている。
だが、既に罪の重さを知った彼は、悪の命令など聞く耳を持たなかった。

ここでやることは既に決めていた。
自分の命を投げ捨ててでも、この殺し合いを破壊する。
そのために、この不可思議な世界を壊すカギを、この会場を巡ってでも探し出す。


この会場に飛ばされて、真っ先に目に入ったのは、やたら背の高い建物だった。
地図を眺めてみると、「展望台」といかにもな名称がついてある。
弟、セシルの第二の故郷であり、まだ操られていたころの自分が拠点にしていた『バロン城』があったのも気になったが、それは展望台を見た後に行くことにしようと決める。


彼が展望台に関して、最も疑問に感じたのは、その名称と地形だ。
確かにこのような未知の場所、全貌を高い場所から見てみたくなる気持ちは大いに納得できる。
だが、バロン城以外にも、『山奥の塔』やら『大魔王の城』やら、屋上からの眺めがよさそうな建物は多くある。
他にも展望の用途として用いることが出来そうな建物はあるはずなのに、「展望台」とはどういうことか。


加えて、地形はもっと疑問だ。
展望台への道は、湖に囲まれており、一本の橋でしか行くことはできない。
自分の部下であったカイナッツォのように、水を操る力か、はたまたバリバリシアのような空を飛ぶ力でも持ってない限り、行き方は極めて限られる。
こんな所に出入りすることは、殺し合いをしようとしている誰かに追い詰められてもおかしくない。


従って、最も立ち寄る必要がない場所なのだ。
一見、立ち寄る必要がない場所と思えるからこそ、そこには何かあるのではないかと逆に考える。
敵に襲われる覚悟こそはあったが、腕には自信があった。
たとえ敵に襲われようと、返り討ちにしてみせんと、辺りを伺いつつ、丸木橋を渡る。


勿論、水を操る何者かがいるかもしれないので、地上だけではなく、水面にも注意を配っていた。
普通にわたるより時間こそ費やしてしまったが、警戒の必要もなく、展望台へとたどり着く。


そこは木製のやぐらで三階建てになっていた。
平らな木材に、乱暴にくぎを打ち付けた、簡素なデザインの階段を上り、2階へと上がる。
ここからでも、十分見晴らしがいいが、まだ上がある。


115 : ある男の帰還 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/25(木) 22:12:21 YdpQw4To0

3階に上った時に、ゴルベーザの目を引いたのは、外の風景ではなく、謎のモニターが付いた、機械だった。
まるでカジノのスロットのような機械を、ゴルベーザが見つめると、そこから女性の声が聞こえた。

『参加ナンバー♢7 ゴルベーザ様ですね。この度は展望台へお越しいただき、誠にありがとうございます。』
「!?」

かつて月の民の技術で、バブイルの巨人や機械兵のような、戦闘機械にも精通したゴルベーザは、一瞬身構える。

『当システムは、6時間ごとにこの戦いを有利に進める道具を、提供することが出来ます。』
少なくとも敵では無いようだと安堵する。

『今回ゴルベーザ様が選ぶことが出来るのは、こちらのうちから一つ!
・地図1マス分の参加者の場所が分かる 首輪レーダーA
・参加者一人の場所が地図のどこへいても分かる 首輪レーダーB
どちらでございますか?』

モニターに映ったのは、片手に収まるくらいの赤と青のレーダーだった。


小回りの利きやすさなら、断然Aだが、ゴルベーザはBを取った。
この会場で恐らくいるであろう、危険人物を追跡するには、間違いなくBの方が有用だからだ。

『ありがとうございました。なおレーダーAは30分使うと、レーダーBは2名指名するともう使えなくなるので、考えて使ってくださいね!!
それでは、生きていればまたお会いしましょう!!殺し合い、頑張ってくださいね!!』



購入してから欠点を指摘するなど、厄介な機械だ、と呆れながら、機械から吐き出された青いレーダーを手に取る。
ともあれ、この展望台に何かあるという予想は、正しかったと実感する。
早速ボタンを押すと、マークと数字も連なって、リスト化された参加者の名簿が出てくる。
自分のマークは、♢の9。
なるほど、さっき言ってたことはそういうことかと、名簿を見てなかったゴルベーザは納得する。


しかし、ゴルベーザがさらに驚いたのは、リストの一つ上だった。
♡の9、『セシル・ハーヴィ』。
間違いなく自分の弟の名前だ。


116 : ある男の帰還 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/25(木) 22:12:48 YdpQw4To0
慌てて2人しかサーチできないのに、セシルと書かれた名前のボタンを押してしまう。
しかし、レーダーに出たのは、大きな『ERROR』の文字だった。
「な!?」

騙されて不良品を掴まされたのかと怒りそうになるが、レーダーには衝撃的なメッセージが表示された。

      その参加者は死亡しているため、首輪の機能も停止しています
         従って、場所を特定することは出来ません



「………なぜだ。」
瞳をかっと見開いて、半開きの口から零したのは、疑問だった。
確かにここへ来るのに時間はそれなりに費やした。
だが、この殺し合いが始まって2時間経過した経過してないかの短時間で、弟が殺されるとは予想だにしていなかった。

彼の心を揺さぶったことは、更に出てきた。
すぐ展望台から見えるほどの森の中で、火の手が上がっていたことに、今さらながら気づいた。
それは【C-8】で、美夜子が放った魔法の爪痕だということを、彼は知る由もない。
だが、あの場所で殺し合いに乗った者がいるということだ。
あの煙は、火を起こして出来るものでは無い。
黒魔法に長けた彼だからこそ分かることだ。


そのため、慌てて鞄に手を突っ込み、支給品の、呪われた剣を掴んでしまった。



ザックの中で乗り移る相手を今か今かと待ち望んでいた邪剣は、ゴルベーザの心に問いかける。

「これは!?」
幼き頃に味わった感覚だが、極めてはっきりと覚えている。
父であるクルーヤを失った時の喪失感で、空洞になった心に、決して心に入れてはならぬ、苦く甘い何かが喉から入り込んでくる感覚。
焦点の合わない両目で、月を仰ぐ。


『憎いか?弟を殺した相手が』
「……違う!!」
剣の声を、聴いてしまった。

『私に心を寄越せ、そうすればこの殺し合いを止めてみせるぞ。』
紫の剣は、なおも甘く囁く。

「やめろ!!」
『拒否することはない。拒否することは、死んだ弟もどうでもよかったことになるぞ?』

既に心の奥深くまで入り込まれてしまった。
まだ辛うじて意識があるうちに、舌を噛んで自殺しようと考えた。

だが、歯に当たったのは、柔らかな舌ではなく、固い剣の先だった。

『死を拒んだな?それでいい。それは、貴様が死んだ弟を大事に思っていたことだからだ。
償いたいと思っていたからだ。』
「そうか………。」



短い言葉を最後に、男は意識を手放した。
そして、ゼムスに操られた時と同じように、再び悪の道を進むことになった。




【C-6/展望台3階/一日目 深夜】
【ゴルベーザ@Final Fantasy IV】
[状態]:健康 呪い
[装備]:皆殺しの剣@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2 参加者レーダー青
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を全滅させ、セシルを生き返らせる
※参戦時期はクリア後です
※皆殺しの剣の呪いにかけられており、正常な思考ではありません。
防御力こそ下がっていますが、魔法などは普通に使えます。


※展望台上には、6時間ごとにこの殺し合いを有利に進められる何かが、先着1名限定で置かれています。
幾つかある選択肢の中で1つだけで、誰かが選んでしまうと6時間ごとにリロードされるまで手に入りません。

【支給品紹介】
【皆殺しの剣@ドラゴンクエストVII】
ゴルベーザに支給された、呪われた装備。
長剣のためか、装備すると高い攻撃力と広い攻撃範囲を得られる反面、守備力はゼロになる。
本ロワオリジナル要素として、持ち主を強制的に殺意の衝動を植え付ける効果がある。


【首輪レーダー青@オリジナル】
バトルロワイヤルすっかりお馴染みの首輪レーダー。
参加者を一人指名すると、マップ上のどこにいるか参加者が死ぬまで示してくれる。もちろん移動しても分かる。
ただし、死者は教えてくれない。
2人指名すると、それ以上は指名できなくなる。


117 : ある男の帰還 ◆vV5.jnbCYw :2021/02/25(木) 22:13:00 YdpQw4To0
投下終了です。


118 : ◆NYzTZnBoCI :2021/02/26(金) 02:54:43 zgMEg7w20
ゴルベーザ、マリベル、キングブルブリンで予約します


119 : ◆2zEnKfaCDc :2021/02/26(金) 04:26:09 RHNkCnVk0
ゲリラ投下します。


120 : 愛を込めて。 ◆2zEnKfaCDc :2021/02/26(金) 04:26:51 RHNkCnVk0
ㅤ私は強くなんてない。ただ、大好きな人たちと一緒にいたかっただけなんだ。

ㅤ嫌だ。死にたくなんてない。殺したくなんてない。私を、皆から引き離さないで。大切な皆を、殺さないで。

「殺し合いなんて……嫌だよ……。」

ㅤとめどなく溢れる気持ちを言語に変換していく 。そうしなくては、本当に自分がそう思っているのかも分からなくなってしまいそうだったから。

ㅤ知ってしまった。人間が、同じ人間とも争って殺し合うような出来事が、1000年前の現実にあったのだということ。

ㅤそして知ってしまった。親友の早季のことを大好きだという想いも、呪力で人間を攻撃しないために仕組まれた偽物の気持ちだったということ。

ㅤ分からない。本当に、私は早季のことが好きなのか。本当に、私は殺し合いを望んでいないのか。大人たちに植え付けられ、書き換えられ続けてきた自分の頭の中さえも、もう信じられない。

ㅤこれ以上、知りたくない。早季にも知ってほしくない。大切な関係がひとつ、終わってしまう。だから私は――彼女の邪魔をした。世界の真実を求める彼女の足を引っ張って、虚飾の中に浸かっていく道を選んだ。彼女の隣に並び立てる人で居たいと思っていたのに、足手まといにはなりたくなかったのに、だけどこれでいいとほくそ笑んでいる自分が自分の中にいたのも確かなのだ。

ㅤもはやこれが自分の気持ちであるのかすら分からないけれど――嫌い。いつまで経っても強がってばかりで弱いままの私が嫌い。私を置いて、どこかへ行ってしまう早季も嫌い。

ㅤ色々な想いが交錯し、ぐちゃぐちゃになって。気が付けば、私――秋月真理亜は、本当は大好きなはずの早季と喧嘩していた。

ㅤそしてまだ、気持ちはぐちゃぐちゃのまま。偽物に塗れた自分の、本当の気持ちも分からずに。唯一の会いたい人への想いも、本物なのか分からない。

ㅤ考えれば考えるほど、目に映る世界は目まぐるしく回っていくように見える。

「私は……どうすればいいのよッ!!」

ㅤその場にへたりこんで、虚空に向けて叫んだ。応答なんて期待していない。ただ、頭の中で考えたことなんて、明日には思い出ごと無くなっているかもしれない。大人たちに記憶を弄られて――或いは、殺し合いの果ての死によって。

ㅤ何でもいい。自分がここで何かを思った証を外部に残したかった。


121 : 愛を込めて。 ◆2zEnKfaCDc :2021/02/26(金) 04:27:29 RHNkCnVk0
――ポトッ。

「ヒイッ……!」

ㅤ何かが落ちる音がした。唐突な物音に、背筋が凍りつく感覚に襲われる。その音の正体が、自分のザックから何か支給品がこぼれ落ちた音だと間もなくして気付く。

「鏡……?」

ㅤ美しい装飾が成された丸型の鏡だった。裏面には説明書きのようなものがセロテープ貼りで備え付けられている。

(わざわざ鏡に説明書……?)

ㅤ不思議な取り合わせだと思った。鏡など説明されるまでもなく用途は分かっている。もし鏡を用いる文化の無いバケネズミのスクィーラが招かれていることに真理亜が気付いていれば、連鎖的に説明書に疑問を持つことも無かったのかもしれない。しかし結果的に説明書に疑を持ったことで、一周まわって多少冷静になり、おそるおそる説明書に目を通す。


【ラーのかがみ】

『真実を映す鏡。』


ㅤ拍子抜けしてしまうほどに、あまりにも簡潔に纏められていた。そもそも鏡は真実を映すものではないのか。否、厳密には、鏡に映る像は実態に比べ左右対称であり、人は自分の顔を正しく観たことがない。では、そこを矯正すれば真実なのか?

ㅤ堂々巡り。ラーのかがみについての疑問は尽きない。だが、その全てがどうでもいい。

「真実なんて、いらない。」

ㅤ説明書に書かれていた二文字が、嫌に重く真理亜の心にのしかかる。真実を追いたがっていた早季と、それを邪魔した自分。どうしても、思い返してしまう。

「真実なんて……ああもうっ!ㅤこんなものッ!!」

ㅤ鏡面の無い裏面を自身に向けたまま持ち上げる。そしてそのまま、鏡面を大地に叩きつけようとして――

「――はぁ……はぁ……。」

ㅤその手を、ピタリと止めた。別にこの鏡が、自分と早季を繋ぐ要素はまるで無い。だけど、このまま破壊してしまえば、二度と真実を求める早季の隣に並び立てないような気がした。

(――私も、変わらなくちゃ。)

ㅤ変革を望むのは、怖い。大切な人との関係が変わってしまう。だけど、変わっていく早季と一緒にいられなくなるのは、いちばん嫌だ。

ㅤおそるおそる、ぎこちないまま鏡をひっくり返しながら――最終的には半ばヤケクソでガバッと覗き込んだ。

ㅤそこに映し出された真実は――


122 : 愛を込めて。 ◆2zEnKfaCDc :2021/02/26(金) 04:29:08 RHNkCnVk0

「……何よ。」


――相も変わらず、自分の顔そのものだった。

ㅤ拍子抜けだった。覚のデタラメな怪談話を聞かされた時と同じ。前フリの割に、特に何も得るものは無かった。

「……いや、違うか。」

ㅤだけど、それでも。

ㅤいろいろあったけど、やっぱり私は私だ――不思議な鏡のお墨付き、これが真実なのだ。この頭の中をぐるぐると巡っているこの感情が、例え仕組まれたものであったとしても。私がこうしたいという気持ち、それだけはやはりまがい物なんかじゃないんだ。

ㅤ両の足を地に付け、立ち上がる。大丈夫、私は私を信じられる。

ㅤそして、ある種吹っ切れた彼女が、悩んだ末に選び取った道は――


「私は――早季を護りたい。例えそれが、誰かを殺す道であっても。」

ㅤ殺し合いなんて嫌――先に語った言葉に、何の嘘偽りも無い。だが、それは逃避でしか無かった。殺し合いをやれと言われているのだから、大人の言いつけには従わなければ処分される未来しか待っていない。

ㅤそれに、本当の望みは早季が無事でいることだけ。どんな虚飾であろうとも、胸の内に燃えたぎるこの愛だけは否定させてやるもんか。

ㅤでも、きっとあの子は人を殺さないし殺せない。早季のそういう優しいところを私は好きになったのだ。この世界で生き残れるのは1人だけ。だったら、早季の分まで私が殺さないといけない。

ㅤそしてもし、早季が望んでくれるなら。願いで生き返らせる人は、私を選んでくれたら嬉しいなって――そっと、願いを込めてみる。

【B-6/草原/一日目 深夜】

【秋月真理亜@新世界より】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品 ラーのかがみ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たちㅤランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:早季を優勝させる。
1.早季が蘇生の願いで私を選んでくれたら嬉しいな。

※ミノシロモドキから世界の真実の一部を聞いた後、不浄猫に襲われる前からの参戦です。

【支給品紹介】

【ラーのかがみ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たち】
真理亜に支給された道具。モシャスの呪文などで姿を偽っている場合、真実の姿を暴く事が出来るが、それ以外の者にとっては普通の鏡。


123 : ◆2zEnKfaCDc :2021/02/26(金) 04:29:24 RHNkCnVk0
投下終了します。


124 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/26(金) 10:42:16 g5RiQxcM0
投下乙です!!
ロワ特有の参戦時期のずれは良くありますよね!
彼女がどうなるか、敵に回すと怖いのが呪力持ちなので、気になります!!
しかし豆腐メンタルに鞭打ってまで真理亜をさがそうとしていた守が浮かばれねえ……

余談ですが、先程の私が投下した回で、ゴルベーザが♢7と呼ばれていましたが、
正しくは♢ジャックです。
上の投下を編集する際に訂正しておきます。


125 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/26(金) 14:13:05 g5RiQxcM0
エッジ、スクィーラ予約します。


126 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/26(金) 16:38:18 g5RiQxcM0
上にクッパを追加予約します。


127 : ◆s5tC4j7VZY :2021/02/26(金) 23:08:53 Sc1Ybr0.0
投下お疲れ様です!
闇に身を委ねた者
ミスター任天堂がまさかのしもべ参戦!?
セシル……マリオの世界観では深く考えていなかったんですが、ハンマーの打撃はもろ致命傷ですよね。
セシルの施しを受けたルビカンテはどう動くのか要注視です!

♢のフラッシュは揃うのか
ナナは流石の思考ですね!ですが、スタンスは対主催でも、思考はデマオンと同じ危険な香りが……
そして、ナナの異世界の考察に素直に感心する重ちーの純粋さ!!
不穏な未来も予想されるこのペアの行く先、要注視です!(天丼)

MINIMUM BOYS〜真実照らす光〜
トランプに描かれたボトクの発見から他の参加者にマジャスティスをかますアルスは、以前の体験から対策を講じていて流石ですね!
そして、オルゴ・デミーラを一度討った者としてリンクと双璧になるたのもしさですね!
アルスとは別行動を選択した康一くん。その選択が吉となるか……

始まりは1枚の支給品と共に
ゴロン族と直ぐに打ち解けるのび太!のび太の強さは正にそれだと思います!
ルビカンテが近いですが、のび太の強さを理解できるのか……
それと、おやじはやっぱりおやじですね。

月光のシンデレラケージ
石ころ帽子をガラスの靴に見立てたタイトル…好きです!!
臭いに敏感なガボは、正に石ころ帽子のジョーカーですね!
美夜子とレンタロウの戦いはどうなるのか…要注視です(トリプル天丼)

罪人と宇宙人と
カイン…進んで茨の道を選択する姿、痛みますがミキタカという理解者がいるだけで救われますね……
その覚悟がリンクを奮い立たせることができ流石です!
セシルの死を知った時、カインは何を思うのか…気になります!
ある男の帰還
セシルの死がゴルベーザを再び悪の道に引き込むとは…なんたる皮肉!!
これは…いいですともではありませんね!

愛を込めて。
真理亜の愛…それは哀にもなりますね…
ロワ特有の時系列の違い!他の新世界より組の出会ったときのリアクションが気になります!
vV5.jnbCYw様
感想ありがとうございます。
天気の子のアダムとイヴ
頭脳キャラを考えたら千空かな?と思い書きましたが、私の知力が千空に追いついておらず非常に書いていて頭が疲れました(笑)
でも、気に入ってもらえたようでとても嬉しいです(●^o^●)
デマオンの表裏バトル・ロワイヤル
OPのオルゴ・デミーラのデク人形発言が今回のデマオンの構想になりました!
普通に登場すればいいのにわざわざ、魔力を消費して登場するというデマオン。言動などコミカルさがあって原作から外れすぎたかなと思ったのですが、笑っていただき嬉しいです(笑)
対主催ですが、思想は大魔王なので、もし生き残ってもエピローグ後は対デマオンになってしまうかもしれません(汗)
私で良ければ、不肖ながらこれからも感想及び作品を投下していきたいと思っております。
ミドナ、満月博士、ヤン・ファン・ライデンで予約します。


128 : ◆NYzTZnBoCI :2021/02/27(土) 12:28:52 7nSR1l5c0
投下します


129 : 自然の摂理 ◆NYzTZnBoCI :2021/02/27(土) 12:29:49 7nSR1l5c0

破壊という言葉はきっとこいつの為にあるのだろう。
差し込む月光だけが頼りの森の中、振り下ろされる金槌から逃れながらマリベルは冷たい汗を額に滲ませる。

金槌が触れた大地は即座に爆発し、遅れて届く衝撃がマリベルの服を揺らす。もしも直撃していたのならば──そこまで想像したところで寒気と吐き気が襲いかかった。

背を向けて走り出す少女を追う襲撃者は人とは思えぬ形相──否、容姿を持っている。
マリベルの身の丈を優に越えるトロルじみた体格と森に馴染む濃緑色の身体、闇夜に浮かぶ赤い瞳はそれが理性のない魔物であるとマリベルの本能に訴えかけていた。

「くっ、ベギラ──」
「グオオオオオオッ!!」

振り向きざまに獄炎を浴びせんと紡いだ詠唱は薙ぎ払いに妨げられる。
息を呑み、攻撃を中断したのは流石の判断と言えよう。もし身を屈めるのが一瞬でも遅れていたならばマリベルの頭部は塵も残らなかったはずだ。
しかし脅威は未だ去らず。立て続けに襲いかかる縦振りの打撃は少女の歩幅の何倍もの踏み込みを経て必殺となる。
持ち前の身軽さと反射神経により飛び込む形でやり過ごすも続けて振り下ろされる鉄槌はまるで意志を持つかのように的確に、執拗に地面を転げ回るマリベルを追う。

「い、い……かげん、に……!」

土埃を被りながら苛立ちを顕にするマリベルの手には月明かりとは異なる光が宿る。
幾度となく振り下ろされた一撃をギリギリでやりすごし、生じた風圧に乗る形で距離を取る彼女の手は魔物の顔面へ狙いを定めていた。

「──しろッ!!」

豪速を帯びて飛来する火球、メラ。
詠唱する暇さえ与えてくれぬお陰で反撃としては心許ない最下級の呪文を選ばざるを得なかった。無論これは撃退を目的としたものではなく一秒でも長く時間を稼ぐのが彼女の狙い。
一秒でもあれば数ある選択の幅は確実に広がる。的確な判断をすれば勝利を収めることは出来るはずだ。

──そんな彼女の目論見は思わぬ形で破られることとなった。


130 : 自然の摂理 ◆NYzTZnBoCI :2021/02/27(土) 12:30:41 7nSR1l5c0

「ブオオッ!!」
「は……?」

魔物はその火球を金槌で叩き落とした。
威力こそ低くとも速度という点においてはメラ系で最速を誇る呪文を。まるで何が来るか、どこを狙うかを予想していたかのように呆気なく。

結果、マリベルが稼げた時間はゼロ。
どころか進行の勢いを削ぐ事すら叶わず目前に迫る巨体に再び回避に専念する。

(こいつ……っ!? あんな図体の癖になんて動きしてんのよ!?)

マリベルは知る由もないがこの魔物、キングブルブリンは達人であるリンクと四度もの戦いを重ねてきた。
切っても切れぬ因縁の中、成長するリンクに伴いキングブルブリンもまた戦略や装備を変えその都度彼と渡り合ってきたのだ。
それこそがマリベルの誤算。目の前の敵は断じて知性のない魔物などではなく──歴戦の戦士に他ならない。

「はぁ……、はぁ……っ!」

マリベルが息を切らし始めるのにそう時間は掛からなかった。
元より彼女は体力が高い方ではなく、白兵戦よりも後方支援を得手としている性分だ。これがアルスやガボ達であれば自分よりも上手く立ち回れたであろう。
嘆いたところで降りかかる攻撃が収まってくれる訳では無い。回避と共にメラによる足止めを狙うもその悉くが無駄となり、悪戯に魔力と体力を消耗するばかりだ。

「メラゾ──」
「グォォオオオオッ!!」
「──ああもう! 撃たせなさいよ!」

だからといって勝負を焦り最大呪文の詠唱をしようものなら暴力の塊がそれをさせない。
キングブルブリンも彼女が魔法使いスタイルだと理解した上で立ち回っているのだろう。でなければ幾ら彼とてここまで我武者羅に金槌を振り回すような真似はしない。


131 : 自然の摂理 ◆NYzTZnBoCI :2021/02/27(土) 12:31:38 7nSR1l5c0
戦況は劣勢も劣勢。
敵を侮る事を止め本気を出せば事態が好転する、などということはなく。遠距離から知性のない魔物を呪文で薙ぎ倒す戦法を取ってきたマリベルには現状を打破する策が浮かばない。

全力を封じられ、苦労して就いた天地雷鳴士のプライドが削られてゆく音を聞いてマリベルに苛立ちが募る。
あれだけ壮大な旅をして経験を積んだのに、一人だとこんな魔物一体も倒せないのか──その事実を否定するかの如く奥歯を噛み締め迫る打撃を跳躍でかわす。

「あっ──!?」

しかし、マリベルの足は彼女が思うよりも限界だった。
当然だ。不安定な森の足場を駆け抜け、金槌が降り掛かる度に回避による負荷を一身に受け止めていた反動は大きい。
もつれた足に引っ張られるようにマリベルは倒れ込み土の味を知る。悪寒と共に振り返れば、そこには振り上げられた剛腕が目に映った。

(嘘────)

逃れられぬ死の運命。
頭上の鉄槌は月光を浴びて鈍く輝く一番星。
星の墜落へマリベルが咄嗟に取れた行動といえばやはり苦し紛れに下級呪文を放つことだけだった。

「──イオ……!」

たかが下級呪文。
されどそれはメラ"しか"知らない魔物の意表を突く役を担うには十分過ぎた。

魔物本体ではなく足元を狙った爆発はマリベルの目論見通り数センチ分地面を陥没させ、キングブルブリンの身体が傾くと同時金槌の軌道が僅かに逸らされる。
辛うじて直撃を避けたマリベルはしかし真横から襲いかかる衝撃の波に吹き飛ばされ、擦り傷を代償に距離を取る事に成功した。


132 : 自然の摂理 ◆NYzTZnBoCI :2021/02/27(土) 12:32:44 7nSR1l5c0

「──メラゾーマッ!!」


ようやく奪った距離は無駄にしない。
キングブルブリンがマリベルの元へ到達するよりも早く、遂に解き放たれた最大火球呪文が暗い森を照らす。
一時的に宵闇を打ち消す太陽を思わせる光源を前にキングブルブリンは初めて回避行動を行う。彼女の魔力から放たれるそれを迎え撃つ事は不可能と判断したのだろう。
しかし飛来する火球と比べれば魔物の動きは鈍重過ぎる。瞬く間に魔物の全身を灼熱が飲み込み派手な火柱が天を昇った。

「は、ぁ……! はぁ……! どう、よ……ざまぁ見なさい! このマリベル様にかかれば──」

──ごおっ、という風切り音がマリベルの勝利宣言を掻き消す。
炎の檻から覗く赤色の瞳はまるで生気を失っておらず、寧ろ強者との対峙に溢れんばかりの闘気を宿しているように感じた。
そしてそれが気のせいではないと確信したのは次の瞬間。激しい雄叫びと共に魔物の体を覆っていた炎が霧散するというあまりに非現実的な光景への愕然。

全身から血の気が引く感覚がマリベルを襲う。
触れれば即死は免れない猛攻を潜り抜け、いつ死んでもおかしくない恐怖に抗い、ようやく掴んだ勝利の糸口は濃緑の肌を焦がす程度。


納得がいかなかった。


いくら自分が後衛職だからといって魔物一匹相手する程度訳もないという自信に似たプライドが呆気なく砕け散った。
驕りだと言われても構わない。無謀と嗤われても構わない。
自分一人で凶暴な魔物を討ち倒したという実績が欲しかった。揺るぎないそれを引っ提げていれば彼に──アルスに褒めてもらえると思ったから。

けれどきっとそれは叶わない。

もうあの魔物を倒せるチャンスは来ないだろう。あの金槌による一撃をかわせる気が微塵もしないのだ。
最大呪文を浴びせれば勝てると信じていたからこその活力は今や不思議なほど湧かない。

「あ、…………う、そ……」

力の入らない足はマリベルから逃走という選択肢を奪い去る。対するキングブルブリンは他の隠し玉が来ないかと幾分か慎重な足取りだった。
逃走するならば今しかない。しかし肉体的なものとは異なる精神的な疲労がただ立ち上がるという行為にすらもたつかせる。
そうしてようやく立ち上がった頃にはもうキングブルブリンの間合いだった。高く掲げられた金槌を見上げた頃にはもう、全てが遅い。


133 : 自然の摂理 ◆NYzTZnBoCI :2021/02/27(土) 12:33:53 7nSR1l5c0

「あ────」
「ブォォォオオオオ!!」










世界が凍りつく。
音も、風も、炎も、呼吸も。
"それ"の前では等しく頭を垂れ存在すら許されぬ虚となる。

ざわめきが消えた森に襲い掛かるは凄まじい重圧の波。
数秒動きが封じられたのは少女も魔物も同様。二つの視線は突如訪れた異常の元凶へ向かう。

そこに君臨していたのは、殺意だった。
頭上に降り注ぐ月光が映し出すのは長い銀色の髪。闇夜の如きマントと極限まで鍛え抜かれた肉体。と、それだけを見れば人と呼べるかもしれない。
それどころかある種神秘的とも呼べる光景から視線を外す事すら罪と本能が訴えかけている。

けれど、けれども────違うのだ。

男から放たれる濃密過ぎる殺気はまるでそれが本体で、人間の容姿を借りているだけなのではないかと心の底から疑うほどに次元が違う。それこそ彼女の知る絶対悪、オルゴ・デミーラにも匹敵する程の圧倒的な存在感。
陰に隠れた男の眼光が此方を向く。と、全身にかかる重力が何倍にも引き上げられるような感覚に陥った。


134 : 自然の摂理 ◆NYzTZnBoCI :2021/02/27(土) 12:35:00 7nSR1l5c0

「オオオオォォォォ──!!」

キングブルブリンは弾かれるように男の元へ駆ける。まるでマリベルなど眼中に無いとばかりに躊躇のない彼が持てる最高速度。
歴戦の戦士であるキングブルブリンだからこそ分かる。この男は別格だ、と。
強き者を求めるという生物として致命的な欠陥を抱える彼が惹き付けられるのは最早確定された運命と言えよう。
呆然と立ち尽くすマリベルは思考よりも先に彼の足取りを追っていた。


しかし、


「────目障りだ」


一太刀。
まるで虫を払うかの如く振るわれるただの一太刀がキングブルブリンの腹を切り裂きその巨体を沈め、地を鳴らす。
数瞬遅れて彼の周辺の木々が鏡のような断面を残して崩れ去った。

「────っ!?」

まるで見えなかった。
明らかに剣の射程から外れている位置からの剣戟。ただそれだけで自分が殺されかけた魔物が惨敗した。
悔しさすら湧かない。代わりに浮かぶのは諦念。
この男にはどう足掻いても勝てない──突きつけられた事実がマリベルの足を動かした。

(冗談じゃ、ないわよ……! 死にたくない、死にたくない────!!)

体の疲労も無視し、感覚を失い始めた足に鞭を打ってとにかくこの場から離れようと男と逆方向を走る。
振り返る勇気はなかった。後ろで何やら男の声が聞こえるが、それすらをも拒むように耳を塞ぐ。
音を遮断したせいか己の鼓動が今までにないぐらい脈打っているのを感じる。それが疲弊によるものだと言い訳をする余裕は彼女にはなかった。





「なんのつもりだ?」

銀髪の男、ゴルベーザがマリベルを追わず足を止めた理由は己へ頭を垂れるキングブルブリンにあった。
斬り伏せた後に立ち上がった際には生命力の高さに感嘆しつつ、再び襲いかかると思っていたばかりに魔物の取った予想外の行動に上記を問い掛けた。

「俺達ハ、強イ者ニ従ウ。……タダ、ソレダケノコト」
「……面白い。ならば私の目的の為に働いてもらおうか」

キングブルブリンの実力は自分には遠く及ばないにしても、かつて率いていた四天王の一角に食い込む程の戦闘力を有している。手駒としては十分だ。
この場ではルビカンテもいるが、武人肌である彼は弱者を狙う事を避けるだろう。その点ではキングブルブリンは幾分か扱いやすい。

「まずはあの娘を始末しに向かえ。その後東側を主に攻めるがいい」

低い唸り声により了承を表し、のそりと立ち上がるキングブルブリンはマリベルの逃げた方向へ駆け出す。
その背を見届けたゴルベーザは一人地図を取りだし、飢えた瞳でとある場所を射抜いた。

「気に食わんな」

──大魔王の城。

大仰な名を持つその場所はしかし、幾らか惹かれる者も集うであろう。
それが自身と同じ目的の者でも、殺し合いの打破を目論む者でも関係ない。皆殺しだ。
潰すのならば早い方がいい。皆殺しだ。
結束などさせない。否したとしても構わない。皆殺しだ。

膨れ上がる殺意の中には必ず弟の姿があった。
意識を闇に飲まれながら尚も色褪せぬ記憶は、皮肉にも彼を殺戮の道に歩ませる原動力となる。

「待っていろ、我が弟よ」

漆黒のマントを翻すゴルベーザの足取りに迷いはない。
それが正しい道ではないと咎める存在は未だ現れず。
呪縛にまみれた因果の先は、果たして────


135 : 自然の摂理 ◆NYzTZnBoCI :2021/02/27(土) 12:37:48 7nSR1l5c0

【C-7/森/一日目 深夜】
【ゴルベーザ@FINAL FANTASY IV】
[状態]:健康、呪い
[装備]:皆殺しの剣@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、参加者レーダー青
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を全滅させ、セシルを生き返らせる
1.大魔王の城を目指し、参加者を殺して回る。
2.キングブルブリンには手駒として働いてもらう。

※参戦時期はクリア後です
※皆殺しの剣の呪いにかけられており、正常な思考ではありません。防御力こそ下がっていますが、魔法などは普通に使えます。

【キングブルブリン@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:全身に軽い火傷、腹部に裂傷
[装備]:ウルトラハンマー@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:強い奴に従う。
1.ゴルベーザに従い、参加者を減らして回る。
2.マリベルを追い、殺害した後東側を中心に
3.強者との戦いを楽しむ。

※リンクとの最終決戦後からの参戦です。

【マリベル@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たち】
[状態]:服が泥まみれ、腕に擦り傷、疲労(大)、恐怖
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:ひとまずは仲間を探してから考える。
1.とにかくこの場から離れる。

※本編終了後からの参戦です
※職業は天地雷鳴士で熟練度は少なくとも★2以上です。

【支給品紹介】
【ウルトラハンマー@ペーパーマリオRPG】
キングブルブリンへ支給されたハンマー。
ハンマー系の中では最高峰の威力を持つ。


136 : ◆NYzTZnBoCI :2021/02/27(土) 12:38:19 7nSR1l5c0
投下終了です


137 : ◆NYzTZnBoCI :2021/02/27(土) 13:04:46 7nSR1l5c0
すいません、キングブルブリンの状態表が途中で途切れてしまっていたので訂正します。


【キングブルブリン@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:全身に軽い火傷、腹部に裂傷
[装備]:ウルトラハンマー@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:強い奴に従う。
1.ゴルベーザに従い、参加者を減らして回る。
2.マリベルを追い、殺害した後東側を中心に攻める。
3.強者との戦いを楽しむ。

※リンクとの最終決戦後からの参戦です。


138 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/27(土) 15:25:36 vnLCeXRU0
投下乙です!!
キングブルブリンつええなと思ったら、まさかの更なる強敵!!
そして初のリレーされたキャラの登場で、嬉しいことこの上ないです!!
この辺りはマーダーが多いですが、その中でもゴルベーザは中心になりそうですね。

では、私も投下します。


139 : 無能なネズミ ◆vV5.jnbCYw :2021/02/27(土) 15:26:29 vnLCeXRU0

何もかもが終わったはずだった。
スクィーラ、別名野狐丸の始まりは、バケネズミに呪力が使えない代わりに、人間を殺すことが出来る呪力の持ち主を手に入れてからのことだ。
あの子供を用いて、人間社会を転覆させ、バケネズミの天国を作る。
手始めに自分のコロニーから最も近い神栖66町を、壊滅に近い状態まで追い込んだ。
壮大な計画の成功まであと一歩という所、2人の人間と1匹の裏切り者によって、失敗した。
自分は裁判で、バケネズミの、否、持たざる人間の天国を作ろうとしていたことを告げるも、受け入れられるわけもなかった。
判決の下、長きに渡り苦しめられ続けるだけの存在になることが決まる。
元々人間に気味悪がられていた姿から、更にグロテスクな形状にされ、ただ苦しむためだけ生かされていた所……。



気が付けば元の姿に戻り、殺し合いに参加させられていた。
辺りを眺めると、どこかの建物の中だった。
壁や柱はボロボロで、東京と同様、ここも人間がかつて居住区にしていたのかと疑問に思うが、そんなことを考えている時間はない。
とりあえず、どうすればいいか考えていると……。


「わからーーーーーん!!」
塔の外から怒声が聞こえてきた。
何事かと思って、外が見える場所に行くと……。


「ウガーーーーーーッ!!」
優にスクィーラの5倍はある大きさの怪物が、炎を吐いていた。


「ひぃぃぃ!!」
当然ながら脱兎のごとく逃げ出す。
他の生き物に比べて、様々な姿やサイズがあるバケネズミだったが、あのような怪物は見たことがない。
ミュータントである生物ですら、あのような姿の者はいなかった。

彼に分かったのは、あの怪物と正面からぶつかれば、間違いなく負けるということだ。


どうせこの世界でも、何か能力を持った人間が闊歩するとは思っていなかったが、あのような怪物までいるとは思わなかった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「おのれ、奴らめ!許さん!!」
キノコ王国で、マリオやピーチ姫と並んで、知らない者はいないというカメ一族の大魔王、クッパはひたすらに憤っていた。


殺し合いと言うが、彼は全くそんなものを恐れるほど、小さな肝を持ち合わせていない。
何度も溶岩にハマったと思いきや、乗り物が故障して海に落ちたり、イチコロバクダンの爆発に巻き込まれたり、2時間ほどオババの説教に巻き込まれても無事だったクッパにとって、この会場の敵など恐るるに足らぬ存在だった。


「強者代表でワガハイを呼んだのなら戦ってやろう!!だが、どう見ても無力な子供までおるではないか!!」

もしもこの殺し合いが、世界中からの強者を呼ばれた上での戦いだったら、彼は嬉々として戦っていただろう。
だが、最初の会場で見る限り、10行くか行かないかくらいの子供や、明らかに怯えている女性までいる。


140 : 無能なネズミ ◆vV5.jnbCYw :2021/02/27(土) 15:27:00 vnLCeXRU0

クッパは女性や子供とまで戦いたいような、戦闘狂ではない。
むしろそんな相手まで殺せと命令されたのが、無性に腹立たしいくらいだ。
主催の怪物と仮面男は、優勝賞品に何でもくれてやると言ったが、そんなものにも興味はない。
むしろ少女を見せしめと称して殺すような、主催をボコボコのギッタギタのバッタバタにして、クッパ城の屋上に飾っておいた方がまだ面白そうだ。



「フン!!」
腹いせにザックを地面に叩きつける。
そこから勢いよく、パンやらボトルやら、その他もろもろの支給品が飛び出てきた。
最初に目を引いたのは、部下のワンワンを彷彿とさせる、鎖でつながれた巨大な鉄球だった。


「なかなかカッコいいな。これは悪くない。」

ブンブンと振り回し、使い心地に感心する。
いざとなれば徒手空拳でも十分戦えるが、持っておいて悪くはないだろうということにする。
続いて名簿らしきトランプを目にした。

しかし、3枚めくった所で、怒鳴った。
「わからーーーーーん!!!」
1枚めくりながら、チマチマ誰が参加しているのか確認する作業に苛立ったクッパは、カードの束を地面に叩きつける。


「ウガーーーーーーッ!!」
それを自分の炎で焼き払ってしまった。

しかし、それを塔の入り口から、見ていた者がいた。


「ひぃぃぃ!!」
どこかクッパ軍団のチューチューに似たそれは、自身を見た瞬間、慌てて逃げだした。

「オイ!!ワガハイは悪い奴ではないぞ!!待て!!」
他の支給品をザックに詰め込み、チェーンハンマーを担いだまま、クッパはスクィーラを追いかける。

しかし、相手はなおも逃げ続ける。


141 : 無能なネズミ ◆vV5.jnbCYw :2021/02/27(土) 15:27:36 vnLCeXRU0
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

あいつは何なのか。
人間が実験の果てに生み出した生き物か、それとも別のコロニーのバケネズミが作り出した、ミュータントか。

捕まったら絶対殺される。
まさか、呪力を持った人間以上に恐ろしい存在がいるとは思わなかった。
鎖鉄球などを持った、自分の体格の5倍くらいある相手が追いかけてくるのだから、逃げるのは当たり前だ。


自分が悪い奴ではないと言う所など、逆に信用できない。
スクィーラが逃げる先には、倒れた柱が重なってあった。
しかし、バケネズミ特有の小柄な体格を活かし、その隙間を潜り抜ける。


こんな隙間、あのデカブツには通り抜けられまいと、ほくそ笑むスクィーラ。



ドォン!!


その瞬間、鉄球で柱が粉砕される。
「うわああああ!!」
何の障害もなかったかのように、クッパは追いかけて来る。


そのまま地面の出っ張りに躓いて、転んでしまった。
「待て!ワガハイから逃げ出して、どういうつもりだ!!」
これだけ態度で示しておいて、理解できないのはタチが悪い。
いや、タチが悪いからこそ、理解できないのか。


鞄に入っていた支給品がいくつか零れ落ちる。
その中から、可愛らしいケースに入っていた針を取り出し、クッパの腹に突き刺す。
針は裁縫用ではなく、とある暗殺者が超能力者を殺すのに用いていた猛毒付きの針だが、そんなことはつゆ知らず、何本か取ってクッパの腹に突き刺す。


「ぐうう!?」
怪物が体を押さえ、苦しみ始めた。
予想外の効力に喜びつつ、落とした支給品の中から針のケースのみを拾い、再び逃げ始める。


「痛いではないか!!」
瞬く間に体内の毒を焼いてしまったクッパ。
確かに人間には致死性の効力を持つ毒だが、クッパに効くとは限らない。
元々炎を吐けるほど高体温を維持する彼(こらそこ亀は変温動物だろとか言わない)は、爪や牙に毒を持っており、簡単に中和してしまった。


2階に上がっても、なおもクッパは付いてきた。
しかし、ここで予想外な幸運が訪れる。
元々建築が古い塔の、脆い部分が、クッパの重みに耐えかねて、抜け落ちたのだ。

「ガアアアア!!」
大声と共にクッパは、下の階へ落ちていく。
しかし、落ちる直前に右手で、力いっぱい床を掴んだためか、スクィーラがいる床まで、崩れてしまう。


「こっちだ、ネズ公!!」
共に穴に落ちそうになっていたスクィーラの手を、何者かが引っ張った。
「え!?」

白を基調とした装束で身を包んだ男は、塔の障害物をものともせず進み、そのまま3階へと上がっていく。
どこかバケネズミの駆除隊を彷彿とさせる格好だが、だからと言って助けてくれた相手は大事にしなければならない。


142 : 無能なネズミ ◆vV5.jnbCYw :2021/02/27(土) 15:28:08 vnLCeXRU0

3階は、通路が入り組んだ1階や2階とは異なり、会合でも行うかのような広場になった。
良く見ると隅には寝床や
そこに二人は腰掛け、休憩を取る。




「怪物から助けて下さり、ありがとうございます。カミサマ。」
「神様だぁ?俺は神じゃねえぞ?」
「いえいえ。我々バケネズミは、あなたがたをカミサマと崇め、日々奉仕しているのです。」
「じゃあ早速、この塔の下で起こったことを話してくれ。」


スクィーラは助けてくれた男、エッジに、起こったことを話した。
塔の下で、怪物と出くわし、その怪物は火を吐き、鉄球を振り回して追いかけてきたということ。
済んでの所で、床が抜け、助かったということ。


「スゲエやつがいたもんだな。で、そいつはこの名簿の中にいるか?」
カードの名簿を適当にばら撒く。
スクィーラが指したのは、♧キングのカードに映っていた、トゲだらけの亀の怪物だった。

「キングのカードになるだけあるぜコイツ。スゲエのに襲われたんだな。」
「ええ。カミサマが助けてくださらなければ、まず助からなかったです。」
「まあラッキーだったな。でも、俺はそろそろ行くぜ。」
「え?」

ずっと助けてくれるものだと思っていた人間に、もう行くと告げられたことで驚く。

「聞こえなかったのかよ、もう俺は行くと言ったんだ。この戦いに知り合いがいるんだよ。」
「ま、待って下さい!!」
「はあ?」

スクィーラが散らばったカードの山から拾い上げたのは、この2枚のカード。
一人は人間、もう一人はスクィーラと同じく、異形の存在だ。

「この二名に、お気を付けください!」
スクィーラは説明した。
人間、朝比奈覚は危険な能力を使ってバケネズミを狩ることを趣味にしている危険な男。
もう片方の異形、奇狼丸は我々塩屋虻コロニーに属する敵で、何匹もの同胞を殺害した、好戦的な性格をしていることを。


「朝比奈覚に、奇狼丸ねえ。まあ例のクッパとかいう怪物共々気を付けるとするか。
まあ俺の方からも、このルビカンテって真っ赤な奴には気を付けろってことも言っておくぜ。」
「助かります、カミサマ。」

そのまま煙のごときスピードで、塔から降りて行った。



【C-1/山奥の塔/2階 深夜】
【エッジ@FINAL FANTASY IV】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
1:朝比奈覚、奇狼丸、ルビカンテに警戒
2:まずはバロン城に向かうか

※少なくともバブイルの巨人を攻略した後です。


143 : 無能なネズミ ◆vV5.jnbCYw :2021/02/27(土) 15:29:16 vnLCeXRU0

それを見送った後、一匹残されたバケネズミは、静かにほくそ笑んだ。

(さて……あの人間が、どこまで働いてくれるかな……。)



エッジという男からカードを受け取ってから、短い時間でずっと思考を繰り返し続けていた。

自分は苦しみを与えるためとはいえ、まだ死んでいなかったため、死者なら誰でも生き返らせてくれることは、最初はスクィーラとしては半信半疑だった。
しかし、名簿を見てみると、戦いの果てに死んだ奇狼丸や、雪崩に飲まれ死んだ真理亜、守が参戦させられていたことから、主催者は何らかの蘇生能力を持っていたことが分かった。


だが、まだ疑問はある。
朝比奈覚以外に、自分と戦った早季という女も参戦させられていたが、その姿は14年前、筑波山で会った頃の姿だった。
たまたま名簿のデザインが違うと言えばそれまでだが、それならわざわざ異なる時代の姿を載せるのかが分からない。
エッジに彼女を危険人物として伝えなかったのは、幼い彼女はまだ自分の凶行をしらないはずだからである。
予想が正しければ、主催者は時間をも操ることが出来る。



スクィーラはかつて、ミノシロモドキから、呪力に目覚める前から、目覚めてからの歴史について学んだことがある。
死者の蘇生に、時間の操作など、いかなる時代の人間も、挑戦こそすれど成功した歴史はなかった。

だが、もし主催者がその力を持っているというのなら。
もし主催者が、その力を、バケネズミの覇権のために使わせてくれるというなら。
完全に失敗したはずの、バケネズミの天国を築く計画が、また復活するではないか。


武器はある。だが、あの怪物のように、殺せない参加者も少なくないはず。
また、あのエッジと言う男も、人間とは思えないほどの速さだから、当てるのは容易ではないはずだ。

彼が行うことは、力ある人間をカミサマと称して奉仕しつつ、その裏で勝利のために必要なことをするだけだ。
例えば、自分の敵を危険人物として吹聴するなど。
次に自分がすることは、この塔の散策。
一つでも有利に出来そうな物があるか、探すべきだ。



【C-1/山奥の塔/3階 深夜】
【スクィーラ@新世界より】
[状態]:健康
[装備]:毒針セット(17/20) @無能なナナ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:人間に奉仕し、その裏で参加者を殺す。
1:まずは塔の散策
2:覚、奇狼丸は危険人物として吹聴する
3:優勝し、バケネズミの王国を作るように、願いをかなえてもらう

※裁判の刑を言い渡されてから、早季に殺されるまでの参戦です


144 : 無能なネズミ ◆vV5.jnbCYw :2021/02/27(土) 15:29:31 vnLCeXRU0


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

場所は変わって、山奥の塔の1階。

「ウーーム。ワガハイとしたことが、失敗したのだ!!」
1階に落ちたクッパは、いち早く塔から出ていくことにする。
こんな自分が暴れただけで壊れる塔など、もういたくないからだ。


「それにしても、やはりクッパ軍団の再結成が必要だ!」
先程の塔のように、自分が行きにくい場所へ行くなら、部下に任せるしかないだろう。


ドカドカと歩きながら、今後のことを考えながら歩いた。


【C-1/草原/深夜】
【クッパ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(小) 腹に刺し傷
[装備]:チェーンハンマー @ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(名簿焼失)、ランダム支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:主催をボッコボコにする
1:クッパ軍団を結成する
2:あのネズミ(スクィーラ)は、今度会ったら殴った後、クッパ軍団に引き込む。



【支給品紹介】
【チェーンハンマー@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
クッパに支給された鎖付き鉄球。
言うまでもなく重たいが、その大きさは攻守両面で役に立つ。


【毒針×20@無能なナナ】
スクィーラに支給された毒針。
元々は能力者を殺害するために用意された武器で、人間には刺されただけで致死量の毒をもたらすことが出来るが、このロワではどこまで通じるかは不明


145 : 無能なネズミ ◆vV5.jnbCYw :2021/02/27(土) 15:29:57 vnLCeXRU0
投下終了です


146 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/28(日) 17:18:25 KnWsSmIw0
犬飼ミチル、川尻隼人、吉良吉影、シャーク・アイ予約します。


147 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/01(月) 00:47:15 AnJqsyAs0
投下します。


148 : 扉1枚隔てた先に ◆vV5.jnbCYw :2021/03/01(月) 00:47:58 AnJqsyAs0
「良い寺だな、ここは。」
ドクロのネクタイの上に、白いスーツを身に着けた男が、畳の一室の座布団に座る。
その隣には、どこにでもありそうな制服の上に、クリーム色のカーディガンを羽織った、くせ毛の少女。

「それよりも、最初に出会えたのが吉良しゃんみたいな大人で良かったです!!」
少女、犬飼ミチルは、孤島での寮生活であった以上、近年頼れる大人というものにあまり出会えていなかった。
だから、こんな状況でも落ち着きを払った大人を見れば、頼れる大人だと思うのは当然だった。

「私はそれほど良い人間ではないよ。ただ、戦いや争いとか元々好まないだけだ。
人と人が争うなど、限りなく空しい行為だ。
血なまぐさい争いと関わることなく、この腐った競技から脱出できれば、それでいい。」
「でも、わたしはわたしだけじゃなく、友達も助けたいです。」
「友達?」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


厄介な状況に巻き込まれた。
この世界に飛ばされて、吉良吉影が発した最初の心の言葉はそれだった。
彼は、殺人鬼であれど決して争い、ましてや殺し合いを好む気質ではない。
殺人は暴力的衝動の先にあるものでは無く、性的な欲望を満たすための行為だった。
決して、誰彼構わず殺したいわけではない。
例えば深夜にカップラーメンを食べることのように、生活でふと何か心が空しくなった際の、穴埋め代わりの行為だ。
にも関わらず、しつこく追いかけてきた者達がいた。


整形エステで、顔を川尻耕作のものに変えてもらい、新たな生活を手に入れ、ようやく振り切ったと思った矢先に、この殺し合いだ。
森林地帯を抜けた先に寺を見つけ、落ち着けそうな場所であったため、とりあえず自分の拠点にしようとする。

しかし、残念なことに先客がいた。
おまけに、小うるさそうな女だ。
さっさと殺してやろうかとも思ったが、この近くに誰かがいれば、自分に疑いが深まる。

ひとまず、自分は殺し合いに乗っている者では無いことと、杜王町という場所でしがないサラリーマンをしていることだけ話したら、どういうわけか盛んに話しかけてきた。
お仕事大変ですかとか、自分は孤島の学校暮らしだからあまり会社員には会ってないとか、あれこれ話してきた。
そして、彼は一つのことが分かった。
この女は、小うるさい女ではなく、うるさい女であることに。


それからも、大半の話を聞き流していたが、うるさい女、犬飼ミチルの話の内容に、一つだけ引っかかることがあった。
「人類の敵!?」
「ええ。わたし達能力者は、人類の敵と戦うための訓練をしているのです。あの二人は、きっとそれに違いありません。」

孤島の学校に能力者だけで集められ、人類の敵と戦うための訓練をしている。
にわかには信じがたい話だが、現にこうして人類に害を及ぼす存在を目の当たりにしたからこそ、否定するのも難しい。

だが、まだ引っかかる話がある。
「だから今こそ、わたし達の出番というわけです!!死んだクラスの人たちの仇も取ってあげますよ!!」

ミチルの話によると、既に人類の敵は何度かその孤島に襲来していたというらしい。
人類の敵の目的とやらが、ミチル達能力者なら、こんな回りくどい事をせずとも、孤島に潜入して一人ずつ間引いていけばいい。
彼女が「仇」と言っていたから、少なくとも何人かは殺せているのだろう。
その途中、突然このようなゲームに河岸替えした理由が、全くもって分からない。
上司の急な交代による、方針の転換など関係あるかもしれないが。


149 : 扉1枚隔てた先に ◆vV5.jnbCYw :2021/03/01(月) 00:48:35 AnJqsyAs0

「ちょっと吉良しゃん、聞いてますか?」
目を合わせずに、ミチルの話のおかしな点を考えていたことから、話が上の空だと思われていた。
「ああ、すまない。良い寺だと思ってね。」
「そうなんですか?わたしはこういうの、良く分からなくて……。」

即興のウソでごまかすことにする。
「良い寺だな、ここは。」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


しかし、即席のウソなどで誤魔化すことなど、とても出来ない存在が、彼の下に迫っていた。


(あれは……どうして!?)
同じように森林地帯に飛ばされていた小学生、川尻隼人が見つけたのは、衝撃の後ろ姿だった。
吉良吉影。
パパを殺し、パパに入れ替わっていた殺人鬼だ。


仗助くん達に追い詰められ、救急車に撥ねられて最期を迎えたはずなのに。
何にせよ、あの男はあの時と同様、恐ろしいことを企むはずだ。
小学生特有の小柄な体格を活かして、木の影に隠れながら、後を付けていた。

その先で、寺へと入る吉良。
隼人自身も辺りの様子をうかがいながら、ひっそりと中へ入る。
廊下を少し渡った先の部屋から、声が聞こえてきた。
一人は吉良、もう一人は知らない女性。
どうするのか聞き耳を立てながら、支給された鞄の中身を探った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

場所は部屋の中。
「友達も助けたいとは……誰かいたのかな?」
トランプを散らかして、見せてきたのは桃色の髪にヒスイ色の瞳の少女だった。

「このナナしゃんって人は、わたし達のリーダーで……。」
他にも、3人ほど同じ学校から呼ばれているらしかった。
だが、吉良の目に付いたのは、自分の名簿、それに、4人の男の名前だった。
姿を変える前の自分をあと一歩の所まで追い詰めた、東方仗助に広瀬康一。
自分が大事にしていた美奈子さんの手を持って行ったがために、殺したガキに、移り変わった先の家にいた子供。


極めつけは、自分の名簿だ。
姿は川尻耕作の姿が映りこんでおり、それでいて吉良吉影の名前になっている。
何の嫌がらせだ、と伸びた爪を立てて掌を握りしめる。
それと、さっきから興奮を誘うのは、ミチルと言う少女が、カードを動かすたびにチラチラ見え隠れする、白くて綺麗な手だ。
自分が頼れる大人だということを信じて疑わない、純粋な心を表すかのような、宗教画の天使のような手だ。


もっと顔を近づけたくてたまらない。
今にも頬ずりしたくてたまらない。
あの手と共に街を歩きたくてたまらない。
手だけ持ち帰りたくてたまらない。
愛撫したくてたまらない。


「吉良しゃん、大丈夫ですか?何か呼吸が荒いですよ?」
「いや、関係ない。こうした非日常に慣れないからだと思う。」

とりあえず無事を装う。

「あっ、怪我してますよ!」
ミチルは慌てて、爪を立てたために出血した吉良の掌を舐める。

「!?」
突然の対応に、吉良も言葉を出せなかった。
自分は先ほどまでミチルの綺麗な手を舐めまわしたいと思っていた。
だが、逆に舐めまわされるとは予想の斜め上を行くものだった。

しかし、さらに驚いたことは、自分の爪の痕が、消えていたことだった。


150 : 扉1枚隔てた先に ◆vV5.jnbCYw :2021/03/01(月) 00:49:23 AnJqsyAs0
「小さなキズでも、バイ菌が入ったら大変ですよ!!」
「それが、君の能力という奴か。」

あの厄介者の東方仗助に似た能力とは何の因果か分からない。
だが、これでますます、ミチルをどうするか悩む。
文字通り飼い犬として、自分の怪我を癒す役、あるいは自分のことを知っている仗助達に会った際に、仲介役として使う。
しかし、ミチルを使うことにすると、必然的にミチルの仲間探しをする、ひいては血気盛んな輩に鉢合わせする可能性が高い。


ならば即殺害するか?
相手の手の内が分かった以上は、問題なく相手を制圧出来る。
否。
スタンドは一人一体までと言われるが、相手の能力はスタンドではない。
だから、2つの能力を持っていることも否定できない。


どうするか?


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


緊張する手で、隼人はザックを開けた。
最初に目に入ったのは銃。

これがあれば、あの男をも殺せる。
だが、吉良はただの殺人鬼ではない。
スタンドという謎の力を使う。

不意を突かねば、倒すことはできない。
そもそも、銃など打ったことのない自分に、奴の心臓を打ち抜けるのか?



そもそも、身の保全のためにはここは一度逃げるべきじゃないのか?
だが、彼は目の前の敵と、銃に集中しすぎるあまり、名簿を見忘れていた。
彼がもし、名簿の存在を知っていれば、葛藤など起こさずとも、仗助達を探しに行くことにするだろう。
だが、今の所、戦うか逃げるかのフィフティフィフティで思考を巡らせている。
冷静な思考とはしようと思ってもそう簡単にできるものでは無い。


151 : 扉1枚隔てた先に ◆vV5.jnbCYw :2021/03/01(月) 00:49:35 AnJqsyAs0

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



(さて、どうしたものかな。)
清浄寺にいるのは、3人だけではない。


天井裏にいたのは、海賊船マール・デ・ドラゴーンの船長、シャーク・アイだ。

彼が海賊になるまでに培った魔法、トヘロスの力だ。

これでよほど敏感な相手出ない限り、気配を消すことが出来る。
気配消去の魔法と、海賊のリーダーになるだけの身体能力で、廊下の天井付近に隠れていた。
清浄寺に来るまで、用心深い隼人に見つからなかったのもそれだ。


(あのガキ、何をしている?ただならぬ様子だから付けていたが、あの扉の向こうに誰かいるのか?)

ここには、長い時を経て再会した、アルスやその仲間もいる。
なるべくなら人殺しなどしたくはないが、ガキか、扉の向こうにいる相手が殺人鬼なら、手を打つことも考えねばならない。
普通に考えれば、ガキが追いかけているのが悪人で、そちらに加勢すべきだが、見た目で判断するなということもある。

さて、どちらかに加勢すべきか。



【C-3/清浄寺室内/一日目 深夜】

【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:ミチルに協力するべきか?殺すべきか?
1.名簿に載っていた、仗助、康一、重ちー、隼人に警戒
※参戦時期は川尻耕作に姿を変えてから、カップルを殺害した直後です


【犬飼ミチル@無能なナナ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:人類の敵と戦う
1:吉良と共に、同じ学校の能力者を探す(柊ナナ中心)
※参戦時期は柊ナナがリーダーになり、クラスの能力をまとめるように頼まれた直後です(アニメ4話後)。
※主催者は「人類の敵」だと思い込んでいます。


【C-3/清浄寺廊下/一日目 深夜】

【川尻隼人@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタm92@現実
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:戦うか?逃げるか?
※本編終了後です

【シャーク・アイ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康 トヘロス状態
[装備]:鶴見川のナイフ@無能なナナ
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:アルスを探す、その過程で危なっかしい人物を倒す。殺し合いに乗る気はないが、最悪殺害も辞さない。
※少なくとも4精霊復活後です
※少なくとも船乗り、盗賊、海賊の技は使えます。


152 : 扉1枚隔てた先に ◆vV5.jnbCYw :2021/03/01(月) 00:52:35 AnJqsyAs0
【支給品紹介】
ベレッタm92@現実
川尻隼人に支給された小型銃。
誰でも打つことが出来るが、反動もバカにならない。
なお、何発弾が入っているか不明

鶴見川レンタロウのナイフ@無能なナナ
シャーク・アイに支給されたナイフ。
元々レンタロウが、美しい存在を見にくく傷つけることを目的に使っていた。
切れ味はそれなりである。


153 : 扉1枚隔てた先に ◆vV5.jnbCYw :2021/03/01(月) 00:52:46 AnJqsyAs0
投下終了です


154 : ◆s5tC4j7VZY :2021/03/01(月) 05:45:23 /z8Pdr8Y0
皆様投下お疲れ様です!

自然の摂理
戦闘描写勉強になります!
ゴルベーザの一撃を受けても斃れないキングブルブリンの生命力は流石ですね!
そして、マリベル…無事に逃げ切れるのか!?要注視です!

無能なネズミ
エッジは仲間と合流できるのか?
今度こそ、スクィーラの悲願は達成されるのか?
そして、クッパ軍団は宿敵の姿を知ったらどうするのか…どれも要注視です(天丼)

扉1枚隔てた先に
例えば深夜にカップラーメンを食べることのように、生活でふと何か心が空しくなった際の、穴埋め代わりの行為だ。
この女は、小うるさい女ではなく、うるさい女であることに。
自分が頼れる大人だということを信じて疑わない、純粋な心を表すかのような、宗教画の天使のような手だ。
↑吉良全開ですね!読んでいて笑っちゃいました(笑)
しかし、一歩間違えば、凄惨な現場になりそうな正にヨーロッパの火薬庫!!!
次話が非常に気になります!!

投下いたします。


155 : 光と影 ◆s5tC4j7VZY :2021/03/01(月) 05:47:46 /z8Pdr8Y0
「なんと、ヤン殿は国王でありますか!?」
「いや、ここではそのような肩書きは意味を為さない。ヤンで結構だ満月殿」
会話をしている2人を照らすランタンの光は輝きを増す…主に頭が。
輝く頭の2人……満月博士とヤン・ファン・ライデン。

オルゴ・デミーラ並びにザントによるバトルロワイアルに参加させられた2人は出会い頭に情報交換を行っていた。

満月博士。
TVに多数出演をしている魔学博士。彼は魔法の世界で度重なる大地震の正体について「魔界接近説」を警鐘していた。
それを聞いた多くの人々は信じることはなく逆に博士のことを「ホラ吹き」だの「おかしい」と蔑んだ。しかし、実際はその通りで地球侵略を企む大魔王デマオンを7人の魔法使いと共に倒して世界を救った。

ヤン・ファン・ライデン。
ファブールのモンク僧長だったヤンはホブス山で修行をしている最中、セシル達と邂逅した。
バロン軍との攻防を経て、ヤンはセシルの仲間となった。
途中、戦線離脱をしてしまうが、肉体が滅んだがゼロムスとして蘇ったゼムスとの最終決戦には力をかして現在はファブールの王として国を治めている。

「ヤン殿。どうやら、ここに呼び寄せられたのは多種にわたる世界の人物のようだ」
「ああ。満月殿の言うことは一理ある」
満月はヤンとの情報交換から「並行宇宙論」を打ち出した。

「影の王と名乗ったザントにオルゴ・デミーラなる怪物が纏う妖力は悪魔族の者とも違った」
「それに、この支給品とやらは私の世界にもないものばかりだ…」
ヤンも満月博士からの情報と支給品から「並行宇宙論」を支持する。

「まずは、この首輪をどうにかしないといけませんな」
「建物を見る限り、図書館が最適だと思うが、距離があるな…」
2人は目的地B-5図書館に定めるが、2人がいるのはE-1で距離がある。

「それについては、ワシに考えがあります」
「ほう?それはどのような方法で?」
満月の言葉にヤンは首を傾げながら尋ねる。

「それはですな…ん!?」
答えようとした満月だが、来訪者の存在に気づき、空を見上げる。

「な〜んだ!光が見えたから来てみたら、アンタ達の頭かよ…」

2人の前に姿を現した小さな黒い体の生き物……

名はミドナ。
黄昏の姫君(トワイライトプリンセス)

「その姿……魔物か?」
ヤンは迎撃の構えをする。

「ククッ、そんなコワイ顔でにらみつけてもい〜いのかな?」
ヤンの構えにもミドナは動じない。

「ヤン殿、待ってください。……君からザントと名乗った人物と似た妖力を感じたが?」
「へぇ…影の力を感じ取るなんてやるね。人間さん」
自身が纏う影の力を感知した満月博士に興味が生まれたのかジロジロと顔を眺める。

「…君の名は?」

「アタシかい?アタシの名前はミドナ。よろしくね、光頭の人間さん達」

☆彡 ☆彡 ☆彡


156 : 光と影 ◆s5tC4j7VZY :2021/03/01(月) 05:48:53 /z8Pdr8Y0
〜ヤンと満月博士の元へ向かう前〜

「……」
(ザント…一体、何を企んでいる…?)
ミドナはこのバトルロワイアルに疑問を抱いている。

(手っ取り早くこの首輪で始末する方が速いのに手間がかかる蠱毒のような儀式めいた殺し合いもそうだし、自尊心が高いアイツが他の魔物(オルゴ・デミーラ)と手を組むなんてらしくないね…?)
自ら影の王を狙っていた野心ある男がいくら絶大な影の力に劣らない禍々しき力をもつとはいえ、オルゴ・デミーラと手を組んだことにミドナは釈然としない……

(ま、ここでいくら考えてもしかたがないか…)
ここで考えていても仕方がないとミドナは考えを切り替える。
(…アイツへの協力を拒んだワタシは瀕死になって……)
リンクと影の結晶石を集めている途中、ミドナはザントの手により瀕死の重傷を負ってしまった。息も絶え絶えの中、ゼルダ姫にリンクを元に戻す方法を教えることと陰りの鏡の場所を教えるよう懇願した。
ゼルダ姫はミドナに自らの力を全て授けたことにより、ミドナの体は回復するだけでなく光の世界でも実体化が可能となった。

(姫の力でワタシは光の世界でも実体化が可能になったとたん、ここに呼ばれた)
(残されたのは唯一の鍵は陰りの鏡。だけど…ここにあるのか?)
陰りの鏡……それは、神により陰の世界へ追放された一族の末裔が光と影を繋ぐ唯一の鍵。

「…アイツにあったら、真実を明かさなきゃな」
(そして、全てを明かしたら改めて伝えたい……「一緒に…行ってくれないか?」…と)
ミドナがいうアイツとはリンクのこと。

(アイツのことだ…あんなことがあって、今頃は死人のような顔だろーが、立ち直るとワタシは信じているぞ?)
この島のどこかにいるであろう相棒に語りかけるミドナ。

「ん?光が…?行ってみるとするか」
ミドナに見えた輝く光……ミドナはそれを希望の光と信じて……

☆彡 ☆彡 ☆彡


157 : 光と影 ◆s5tC4j7VZY :2021/03/01(月) 05:50:31 /z8Pdr8Y0
「クク…威勢は良いけどこの首輪をどうにかしないとザントには勝てないよ?」
「これがホントのお手上げ」
そういうとミドナは両手をバンザイと上げる。

「その態度…愚弄しておるのか?」
ミドナ態度に物言いはヤンに好印象を与えない……

「ククク…そんなに熱くなると、ゆで上がるよ?…ん?」

「?……なんだね?」
視線を向けてきたミドナに満月は怪訝な顔をする。

「ふーん。まぁまずまずの乗り心地だね」
なんと!ミドナは満月博士の頭に腰を下ろす!!

「…なぜ、私の頭に乗る?」
「ククク…なに、ちょうど座り心地がよさそうな頭なんでね?人間共は心地よい場所でくつろぐのが好きなんだろ?どうだい、乗り物にされる気分は?楽しいねクククっ!」

「無礼だぞ!この魔物がッ!」
ミドナの態度に憤慨するヤン。

「ははは!ヤン殿。私は別に構いませんよ。私の頭が気に入ったのならくつろいでくれても結構だ」
本来、満月博士という男は興奮すると激情する性格の持ち主なのだが、相手が幼子の姿をしていることと、性格こそ違うが一人娘の美夜子をついつい想起させてしまうことが満月の怒りを削ぐ。

「へぇ〜…こっちの光頭はそこの光頭と違って柔らかくていいじゃないか!頭だけに!ククク…」

ちなみにヤンの名誉の為に述べておくが、ヤンはけっして光頭ではない。
辮髪という頭髪を一部を残して剃りあげ、残りの毛髪を伸ばして三編みにし、後ろに垂らした 髪型をしているわけでけっして光頭ではない。

「それと、そこの光頭!ワタシは魔物なんかではないわッ!」
ミドナはビシィィィ!と指を指してヤンに言葉を放つッ!

「ならば聞くがお主は一体、魔物ではないというのならば何者なんだ?それにザントとの関係は?」
ヤンはミドナから色々と聞きだそうとするが……

「質問が多すぎるね光頭ちゃん。ワタシの言うことを聞くならおいおい教えてやるよ。返事は?」
ミドナの傍若無人な物言いにヤンは顔を顰め……
「満月殿…どう思う?」
「…いまは、この、ミドナの言う通りにしましょう。私たちよりもザントに関する情報はもっています」
(それに…あの目…一見傍若無人な物言いだが、協力者を求めている…一人で寂しさもあるのだろう……)
満月も娘を持つ一人の親。
ミドナの目を見て、ほおっておけなくなった。

「そうそう!そっちの不愛想な光頭!これをやるよ!」
ミドナは支給品の炎のツメをヤンに投げ渡す。

「この武器は、お前にピッタリ似合いそうだからな」
「…わかった。私はヤンだ。支給品感謝する。ミドナ」
ヤンはミドナから受け取った炎のツメを装備する。

「ふん!分かればいいのさ最初から。それじゃあ、宜しくね?」
ミドナはポニーテールの髪を手に変えると握手を求める。
「ワシは満月。よろしくたのむよ」
満月はその手を握り握手をする……

☆彡 ☆彡 ☆彡


158 : 光と影 ◆s5tC4j7VZY :2021/03/01(月) 05:51:32 /z8Pdr8Y0
「では、この絨毯にお乗りくだされ」
そういうと満月博士は支給品の絨毯の上に立つ。
「わかった」
ヤンは言う通りに絨毯の上に同じように立つ。
「何だい?何だか面白そうだねぇ」
満月の頭に座っているミドナはワクワクした表情で満月の行動を見ている。

「それでは、行きますぞ!…全速急行!!」
満月の言葉に反応した絨毯はなんと!空高く浮かび始めた!!

「なんと!博士は空を飛ぶ魔法が使えるのか!?」
「ククク…ますます気にいったよ!光頭!!」
満月の魔法にヤンは驚き、ミドナは満足そうな顔を見せる。

「ははは…娘の美夜子には敵いません…がッ!」
2人の反応に満月は若干自慢そうに絨毯をスピードアップさせて進む!!

「……」
(美夜子…今、どこにいる?お前が死んだら母さんが悲しむ…決して死ぬのではないぞ!)
満月は大事な一人娘を……

「……」
(セシル殿…今はどこに?あなたがいれば百人力だ!)
ヤンは頼もしい現バロン王の仲間を……

「……」
(リンク…もし、出会ったとき、府抜けていたら一発殴るよ!)
ミドナは共にザント打倒の相棒を……

夜風に当たりながらそれぞれ、会場のどこかにいるであろう求め人を想起する。

こうして光(頭)と影のパーティが結成された!!

【E-1/市街地/一日目 深夜】

【満月博士@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:健康 魔力消費(極小)
[装備]:スカイラインFC@ のび太の魔界大冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:美夜子の保護、首輪の解析及び解除
1. 美夜子を見つけ次第保護する
2.図書館へ向かい、情報収集する
3.ヤン・ミドナと行動を共にする
4.デマオンには警戒する
参戦時期はエンドロール後
ヤンとの情報交換でFF4 の世界の情報を得ました。

【スカイラインFC@のび太の魔界大冒険 】
満月博士に支給された魔法の絨毯。
ついに出た!目産ニューモデル「スカイラインFC」!!
高速性能に加えて安全性、居住性、低念費を極限まで追究。
お待ちかねの新登場!!
…つまり、新車ならぬ新絨毯。

【ミドナ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 】
[状態]:健康
[装備]:ツラヌキナグーリ@ ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:ザントを討ち、光と影の両世界を救いたい
1:陰りの鏡に影の結晶石がここにあるのなら手に入れたい
2:満月博士、ヤンと行動を共にする
3:リンクに出会ったら、真実を明かして改めて協力を求める
4:満月の光頭は心地いい
参戦時期は瀕死の状態からゼルダにより復活した後
陰りの鏡や影の結晶石が会場にあるのではと考えています。

【ツラヌキナグーリ@ ペーパーマリオRPG 】
ミドナに支給されたバッジ。
敵の防御力を無視して殴る「ツラヌキナグーリ」が使えるようになる。
これは痛いぞ!

【ヤン・ファン・ライデン@FINAL FANTASY IV】
[状態]:健康
[装備]:ガツ―ンジャンプ@ ペーパーマリオRPG 炎のツメ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラ並びにザントを討つ
1:満月博士、ミドナと同行する
2:できたらセシル達と合流したい
3:デマオンには注意する
参戦時期はED後
満月博士との情報交換で魔法世界についての情報を得ました。

【ガツ―ンジャンプ@ペーパーマリオRPG 】
ヤンに支給されたバッジ。
大きな力で敵を踏みつける「ガツーンジャンプ」が使えるようになる。
これを身に付ければあなたもミスター任天堂。

【炎のツメ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち 】
ミドナに支給されたツメ。
ただのツメとしての武器ではなく炎の力を封じた秘石の効果か爪から高熱を発して切裂いた相手に大きな追加ダメージが発生する。
道具として使用した場合のメラミの効果を発動する。


159 : 光と影 ◆s5tC4j7VZY :2021/03/01(月) 05:51:48 /z8Pdr8Y0
投下終了します。


160 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/01(月) 10:57:02 AnJqsyAs0
投下乙です!
この予約ハゲ率たけえな!
とか思ってたらガッツリその設定をフルに使っているとは笑えました。
年長者と影の世界の女王、頼れるメンバーだと思いますが、その目的地はデマオンがいる以上はまずいですよ!!

ピーチ、奇狼丸予約します。


161 : ◆EPyDv9DKJs :2021/03/01(月) 14:56:39 kznAk8zQ0
ユウカ、由香子予約します


162 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/02(火) 01:37:55 m0mr2l6c0
投下します。


163 : 武人と姫と ◆vV5.jnbCYw :2021/03/02(火) 01:38:17 m0mr2l6c0
会場北西に位置する牧場。
普通ならこの時間帯は、牧場の門も山羊小屋も鍵がかけられているはずだが、どちらも開いており、家畜のいない小屋の中はランプが内部を照らしていた。


「外道が……。」
拳を一発壁に撃っただけで、小屋全体が揺れる。
首より下は、大柄な人間の体格をしている。
ただし、上は人間のそれとはまったく異なる。
顔の周りに立派な鬣を生やし、その顔つきは狼を彷彿とさせる。


大雀蜂コロニーの将軍、奇狼丸は鋭い歯をギリギリときしませる。
別に戦いが怖かったり、嫌いなわけではない。
彼は繰り返されるバケネズミ同士の戦争で、将として戦い抜いてきた。
だが、それは自分のコロニーと、崇拝する女王の為だけ。
間違ってもあんな得体のしれない生き物を楽しませるために戦うつもりなどない。


あの主催達は、願いを叶えると言っていた。
自分には人間たちの覇権をバケネズミの物にするという、願望はあるが、そんなものを叶えてくれるはずなどない。


鞄を探ってみると、立派な剣が出てきた。
ただ切れ味鋭いだけではなく、何か特別な力を秘めていることが感じられた。
奇狼丸は過去に、自分のコロニーの強化や、ともすれば人間に反旗を翻すために、人間の遺物である強力な武器を求めて、東京に出向いたことがある。
結局その探査では、大したものは見つからなかったのに、その辺りの刀や槍とは一線を画す業物が、こんな戦いで手に入るとはどんな皮肉だ、と笑いたくなる。
後は2種類の麦菓子だけだったが、量より質、ということなのだろう。


続いて、参加者名簿を漁ってみる。
眺めると、驚きの顔があった。
その顔は特に覚えている。
悪鬼を使い、自分のコロニーを壊滅させた野狐丸の顔だ。
名簿では将の名を鬻ぐ前の、スクィーラという名前だったが、間違いない。
他にも、かつて筑波山に迷い込んだ人間の姿があった。
14年前の記憶であるため、極めて朧気だが、確か名簿に書いてあるような名前だった気がする。
なぜあの時と同じ姿をしているのか、正確にはなぜ覚という少年だけ大人の姿をしているのか分からないが、考えていても仕方がない。


恐らくスクィーラはこの戦いでも、人間に取り入り、ひっそりと勝利を狙うはずだ。
それ以上に、奴は自分の同胞の仇だ。
先程刃は戦いには使わないと誓ったばかりだが、奴だけは別だ。
奴の良く回る二枚舌を、是が非でもこの剣で切り落とさねばならない。
だが、懸念すべきはそれに扇動された人間だ。


バケネズミが人間に反抗できない唯一にして最悪の理由。
それは、人間には特別な呪力が備わっているからだ。
普通の人間一人分の呪力でも大変な脅威になるし、呪力が卓越した人間なら、一人でバケネズミの巣ごと殲滅させるのも不可能ではない。
実際に人間の怒りを買い、コロニーごと焼かれたバケネズミの勢力もある。


この戦いにも、そのような呪力を持った参加者、つまりは人間がいる。
そして、その中には積極的に他者の殺害を企てる者もいるだろう。
野狐丸の始末はするとして、問題はその人間をどうするかだった。

いや、最悪なパターンというのは、考えてばかりで、何もせず突っ立っていることだ。
武将に求められるのは、戦ってばかりの粗暴さでも、考えてばかりの青白さでもない。
支給された刀、政宗を鞘にしまい込み、山羊小屋から出ることにした。


164 : 武人と姫と ◆vV5.jnbCYw :2021/03/02(火) 01:38:36 m0mr2l6c0



ここは牧場から離れてすぐの場所。
ピンクのドレスに、金髪にティアラを乗せた女性、ピーチは一人、怯えていた。
彼女は思いだす。
すぐ近くで少女が、地面に落ちた熟れた果実のようになる様を。
もし、自分もああなったら……。

かつて1000年のトビラの先にいた魔物の依代にされた経験がある彼女でさえ、認めるのに憚られる異質な状況だった。
だが、首から感じる金属の冷たさが、現実であることを語っている。


「マリオ……。」
自分を何度も助けてくれた、大切な人の名前を呟く。


この戦いに参加させられているのかいないのか分からないが、きっと彼は助けに来てくれる。
だから、それまで自分の身は守らなければならない。
ピーチはそう心で強く思った瞬間……。

後ろでザッという草の音が聞こえ、後ろを向くと、人ではない異形な存在が立っていた。
身体はクッパと同じか、少し小さいくらいのサイズ。
二本足で歩いていたが、その姿はどう見ても人間ではない。


しかし、ピーチにとってさほど恐ろしい存在でもなかった。
彼女は何度もさらわれ続けたし、彼女が少し前に滞在していたゴロツキタウンは貿易町の顔も持つため、様々な人種がごった返している。


「あなたは、この殺し合いを止めようと思っているの?」
先に声を出したのは、ピーチの方だった。
「無論。貴方もそうなのですね?」


思ったより丁寧な口調で、ピーチの質問に答える。
「思ったより話が通じるのね。でも、逆に怪しくもあるわ。」
「疑っているというなら、これでどうでしょうか。」


怪物は鞘に納めた剣を捨て、ザックも地面に置いた。

軽い自己紹介の後、ピーチと奇狼丸は情報交換を行った。
またその際に、ピーチは今まで確認していなかった名簿も、奇狼丸の提案に従って確認してみた。

「姫ですと!?バケネズミならばともかく、人間の中での王政はとっくに途絶えたものだとばかり……それにキノコ王国というのも気がかりですな。」
「私の世界では有名だけどね。とはいっても私も『カミス』とか『ツクバヤマ』なんて地名は聞いたことがないわ。呪力が使える人間というのもおかしな話だし……。」
「なんと。では、以前人間の作製した資料で読んだ「パラレルワールド」というものなのか?」


165 : 武人と姫と ◆vV5.jnbCYw :2021/03/02(火) 01:38:52 m0mr2l6c0

奇狼丸は、過去にディスク化された資料から、様々な人間の歴史や作品について学んだことがある。
敵を知り、己を知れば百戦危うからずというものだ。

「にわかには信じがたいけど、そうなのかもね。しかしそれに気づく奇狼丸さんは、中々頭がいいのね。」
「かたじけない。」

ピーチに褒められ、少し口元を吊り上げる奇狼丸。
今まで彼らは人間のために働くのが当然と思われ、酷い扱いは受けても、賞賛を受けることは殆どなかった。


「ところで、あなたはどこへ向かうつもりなのですか?」
「私はここから南東の、「ゴロツキ駅」に向かうつもりよ。私達が知っている場所はここだけだから、マリオや、他の仲間も来るはずだわ。」

奇狼丸がこの会場で唯一知っているのは、清浄寺だけ。
しかも自分のコロニーが壊滅して、どうにか逃げ延びた際に、保護という名のもと、人間に囚人のような扱いを受けた思い出がある場所だ。
そんな所へ向かうくらいなら、この女性と共に目的地へ向かおうと考える。

それに、結局の所良く分からないが、ピーチは姫という高貴な身なりで、彼女の知り合いも参加しているため、人間を味方につける際の、仲介役になるはずだ。


いずれスクィーラ、ひいてはオルゴ・デミーラ達と対峙する際に、きっと助けになるだろうという、期待があった。

一方でピーチも、頼れる武人が仲間になり、一人だけの時よりずっと心強い想いをしていた。


「では、参りましょう。」
「うん、そうね。」

目的地も決まった。
早速二人は歩き出す。
姫と武人、生まれも姿も立場も違えど、目的こそは変わらない。
未来を切り開くため、決意と共に進む。



だが二人は知らない。
この会場に招かれたマリオは、彼女の知るマリオに非ず。
奇狼丸には言わずもがな、ともすればピーチにもキバを剥く存在であることを。
その違いが、2人にとって何をもたらすのか、今はまだ知らない。


【A-2 トアル牧場付近/一日目 深夜】

【ピーチ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品&ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:ゴロツキ駅へ向かい、マリオを探す
1:奇狼丸と共に行動する
2:列車の駅が近くにあるけど、まだ出発してないかしら?
3:なぜか生きているバツガルフ、およびスクィーラに警戒

※参戦時期はクリア後

【奇狼丸@新世界より】
[状態]:健康 主催、スクィーラへの怒り
[装備]:正宗@FF4
[道具]:基本支給品 ナンシークッキー@ペーパーマリオ たべっ子どうぶつ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本行動方針:ピーチを守る
1:この戦いに協力できる人間を探す
2:スクィーラは絶対に殺す

※参戦時期は大雀蜂コロニーが壊滅してから、清浄寺で早季達と再会するまでです。(アニメ22話)


【支給品紹介】
[正宗@FF4]
奇狼丸に支給された刀。
ただ強いだけでなく、持ち主の動きを持っていない時以上に俊敏に動くことが出来る。
また、使うとヘイストの効果。

[ナンシークッキー@ペーパーマリオ]
奇狼丸に支給された食べ物
食べると僅かながら傷や魔力を癒すことが出来る。

[たべっ子どうぶつ@ジョジョの奇妙な冒険]
奇狼丸に支給された食べ物
こちらは食べても空腹をしのげるだけ。
「靴のむかで屋」の主人の大好物


166 : 武人と姫と ◆vV5.jnbCYw :2021/03/02(火) 01:39:12 m0mr2l6c0
投下終了です


167 : ◆EPyDv9DKJs :2021/03/02(火) 08:48:02 rhRfdIac0
投下しまっす


168 : ハートの道は憎悪で舗装される ◆EPyDv9DKJs :2021/03/02(火) 08:50:39 rhRfdIac0
「確かに康一君トランプで見る限りかっこよさそうだよね〜。」

「……」

「あ、でも別に彼を取る気はないから安心して!
 私もシンジって奴がいるからもうずっと一筋だし!」

「そう。」

「でもやっぱ、恋する乙女って無敵だよねー。
 こういう時でも由花子ちゃんは康一君を大事に思ってるわけだし!」

「ええ。」

 殺し合いと言う場には似合わない笑顔と会話の内容が湖の傍で繰り広げられる。
 年頃の女性二人で恋バナとは、状況を理解できてないのではないかと思うが、
 これについてはその談議に付き合わされてる当人、山岸由花子も思っていた。 
 と言うより、これはほぼ一方的な会話に等しい。

 二人の出会いは大層なものではなかった。
 E-2の杜王駅へ向かおうと湖を歩いていれば、
 近くから彼女、佐々木ユウカがやってきただけのこと。
 関係のある場所がなく、当てもなくさまよっていたらしい。
 (学校だけであの学校かどうかを判断するのは、当然だが無理と言うものだ。)
 合流した後は情報交換をした後雑談をしているのだが、

(何なの、この子。)

 はっきり言うと、彼女は少し苛立ってきていた。
 最初の情報交換ではただのフランクな人物で別段何も思わなかった。
 だが康一君について強く尋ねたことで、興味を示されて答えれば今に至る。
 彼女の性格を知っている人がいればプッツンを起こすかもしれないが、
 余り自分が敵意を示して康一君に被害が及ぶのは避けたいところだ。

「何故、そんなに恋愛の話をしたがるの?」

 湖付近の線路へつくと、いい加減うんざりしてきた。
 恋する乙女ではあるが、他人の恋愛事情に別に興味はない。
 一体何がしたいのか分からず尋ねると、ユウカは表情に影を落とす。

「……シンジさ。死んじゃったんだよね。」

 映画館で起きた火事。
 それが原因で命を落とした。
 でも死なせない。ずっと一緒にいると決めた相手だ。
 だから死体操作の能力を使って、シンジを維持させていた。
 何時までも一緒にいるために。

「まさか、この殺し合いに乗るつもり?」

 大事な恋人を生き返らせる。
 実にありふれた願いではあった。
 最初の犠牲者となった少女の知り合いも、
 事と次第では乗っていることが伺える。

「いや、最悪乗らないつもり。
 さっきも言ったでしょ。あたしの能力は死体操作。
 死者を蘇らせられるから、シンジとはずっと一緒だよ。」

 死んでも愛し続ける。
 その気持ちは十分に理解できることだ。
 康一君と死別しても、この愛は変わりはしない。
 死んでも会話ができるなら正直羨ましくすら思える。
 彼女を異常と思わないのは、由花子自身も異常故に。

「でもあくまで最悪の場合なんだよねーこれが。
 この場にあったらそれを見つけて帰れたら、それでいいから。」

「……何を探してるの?」

「シンジの遺体と、テストの切れ端。」

 死体操作の条件である遺体と縁のある物。
 確かに、シンジをそこまで愛するのであれば、
 その二つがあればそれでも構わないのは分かる。
 別に生き返らせると言うリスクのある行動はとらないのも納得だ。
 特に彼女には武器となる死体がなく、確保はこの場では容易でも、
 その死体を作った相手との鉢合わせの方が可能性はありうる。
 後半まで人と出会わず潜み続ける戦術も、地図は全体的に開けた場所ばかり。
 はっきり言って彼女の戦術には余りに相性が悪い状況だ。

「でもこの場にあると思うの?」

「ああ、それなんだけど……これ。」

「写真?」


169 : ハートの道は憎悪で舗装される ◆EPyDv9DKJs :2021/03/02(火) 08:52:13 rhRfdIac0
 ユウカが出したのは一枚の写真。
 男女の大人二人と、小さな子供二人。
 見たところ何の変哲もない親子の写真だ。

「そ。虹村って人の写真なんだけどね。」

「虹村……」

「知り合い?」

「多分。」

 腐ってもクラスメイトだ。
 名前ぐらいは一応だが覚えてはいる。
 とは言え此処まで幼さすぎると流石に判断は付かない。
 兄がいることも、康一君経由で聞いただけで顔も知らないのだから。

「こんな感じで、ザント達が言ってた何が入ってるか分からないって、
 多分こういう参加者に縁のあるものも支給してるんだとあたしは思うの。
 もう一つはイリアって子の馬笛で、こっちは多分最初に殺された子の奴。
 だから、多分シンジの遺体も誰かに支給されちゃった可能性はあると思うんだ。
 あたしみたいに写真や馬笛とか使い道がない外れ枠で渡してるかもしれないし。」

「確かに、それなら分からないわね。」

 馬笛はひょっとしたら誰かに馬が支給されていて、
 それを利用できると考えれば意外と分からないかもしれない。
 写真については、完全に外れ枠の部類だろうことは分かるが。

「でしょ? だからお願い! シンジを探すの手伝って!
 あたしは上のエリアの人達に聞くから、下のエリアだけでいいの!」

 手を合わせながら強く頼み込むユウカ。
 正直なところ、疑わしい要素がないとは言い切れない。
 彼女にとって全面的に信用できるのは康一、ついでに仗助だけだ。
 名前に覚えがある人もいるが、名前だけで面識なんてほぼない。
 なのでこれは別にユウカ自身に限った話と言うわけでもなかった。
 単純に死体操作と言う物騒な能力で警戒してる先入観、と言うのは少々否定はできない。
 スタンドが己の精神の具現化のように、能力者もその類なのではと言う考えもある。
 性格が能力に反映されてる説が能力者にもあるなら、あまりいい印象は抱けないだろう。

「いいけど、条件があるわ。」

 しかし信用しないと言うわけでもなかった。
 正直、彼女と自分は似た立場にあるのだから。
 このまま康一が死んだ場合死体操作がない分、
 優勝してでも彼を生き返らせることを考えてしまう。
 何より今の彼女は死体がない以上一般人と変わらない。
 康一と敵対しても、大して脅威になるとも思えなかった。

「吉良吉影って男を、可能なら生きたままで連れてきて。
 死体操作で誤魔化すようなら内蔵引きずり出すから気を付けなさい。」

「コワッ! 殺人鬼って聞いたけど何するの!?」

「康一君に酷い目に遭わせたゲス野郎よ。許すわけがないわ。」

 仗助のお陰で生き延びたとは言え、
 腹に風穴をあけられたと聞く。そんな奴は絶対に許さない。
 瞳の中に黒い炎が揺らめくのがユウカからも感じ取れて、
 余りの殺気に距離を置いてしまう。

「……じゃ、じゃあさ、あたしももう一つお願いがあるんだけど。
 殆ど由花子ちゃんと同じ内容で。ナナちゃんは殺さないでおいて。」

「? おかしなことを尋ねるわね。柊ナナって、あなた達のリーダーじゃあないの?」

 最初に出会った情報交換では、
 さほど悪い人物のようには見えない。
 明るくムードメーカーでクラスを纏めていた。
 死体操作についても容認してそうな気もするし、
 そもそも乗ってないなら殺す理由がないではないか。
 吉良の場合は殺人鬼だからやむなく殺した展開はありうるが。

「……あいつはあたしとシンジの仲を引き裂いた奴だよ。
 由花子ちゃんも、康一君との仲を裂いた奴いたら許さないでしょ。」

 声のトーンが明らかに低い。
 彼女らしからぬ憎悪の瞳もあって、
 詳しいことは分からないが自分にとっての吉良みたいなもの。
 そう思えば彼女のその考え方も納得ではあった。


170 : ハートの道は憎悪で舗装される ◆EPyDv9DKJs :2021/03/02(火) 08:53:38 rhRfdIac0
 忘れてはならないが、
 由花子は自分のしたことを悪いことと思わない行動も多い。
 康一のクラスメイトを火だるまにしかけたり、
 この場にもある別荘の避暑地を勝手に使ったりとか。
 彼女は別に悪びれもせず行ってるのだから性質が悪い。
 康一と成就した今は流石になりを潜めてるのだろうが、
 吉良に対する報復も、罪悪感と言うものは欠片もない。
 だから、もとより薄い他人への関心は報復と言ったものでも薄い。
 関係ないから勝手にやってくれ、みたいなもの。

「その通りね、分かったわ。」

 人物的には殺し合いには乗らないだろう。
 ならそもそもいざこざが起きる可能性は低い。
 康一君を狙うようなら話は別だが、そういう人物でもなさそうだ。

「じゃ、あたしABCDの人に聞くからそっちもよろしくね!
 合流場所は……とりあえず昼になったらDエリアのどっかで!」

「ええ。」

 必要な約束を取り決め、ユウカは由花子の方角とは逆へと向かう。
 丁度上のエリアにいるので、行動を起こすにはそう苦労はしない。
 彼女を見届けた後、線路沿いに歩いて杜王駅へと目指す。
 偏向的『だった』愛と、一方的な憎悪と共に。

【C-2とC-3の境界線/線路脇/一日目 深夜】

【山岸由花子@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:吉良への憎悪(極大)、ユウカに対するいら立ち(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜3(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:康一君の敵の排除。彼が死亡した場合……
1.杜王駅へ向かう。
2.康一君に酷い目に遭わせた吉良は絶対に許さない。
3.シンジと言う名前の遺体を探しておく。範囲はE〜F。昼になったらDの何処かで合流
4.最初に殺された子の知り合い(リンク)にも少し警戒
5.余裕があればキョウヤ達との合流。ナナは……状況次第。

※参戦時期は少なくとも吉良が顔を変えて逃亡してるよりも後です。
※ラブ・デラックスの髪の毛を植え付けての操作の制限は、後続の方にお任せします
※無能なナナの参加者の能力と人柄、世界観を理解しました。
 ただし一部嘘が吹き込まれており「死体が自分の意思で喋ってる」などがあります。
 他にもどのような嘘があったかは後続の書き手にお任せします
 また、レンタロウについての情報は乏しいです。










「あーうまくいった。」

 由花子が見えなくなった後、
 明るさとは無縁そうな虚ろ目で不敵な笑みを浮かべるユウカ。
 これが本来の彼女。シンジの彼女ではないし、ストーカーで毛嫌いされてた存在。
 殺すつもりはなかったが、どちらにせよ嫉妬だけで放火に手を出した人物だ。
 最期はあっさりとあの女───柊ナナに殺されたのだが。

 優勝を目指さないとは当然ながら嘘だ。
 絶対に優勝すると言う確固たる信念を持つ。
 だがこの場には自分の正体を知っているであろうナナ、
 そして自分の死を誤魔化した嘘をキョウヤ達にも伝わってるはず。
 だからある程度自分の信用を得られる人物が必要だった。

(今回はちょっと状況が違うよナナちゃん。)

 あの襲撃の際はクラスのリーダーと言う立場を使われると、
 立場が圧倒的に不利な状況だから拘束を諦めざるを得なかった。
 此処では無関係な人間が多い。ならば先に多く人の信用を得た方が有利となる。
 勿論最初から向こうは三人。既に他と接触してる可能性もあるだろう。
 その前になるべくユウカと敵対する側を丸め込める程度に信用は得ておきたい。
 だから能力も死体操作を隠さず言ったし、シンジの遺体を探してることも言った。
 常人からは間違いなく引かれる要素を隠さずに言えば、信用は十分に得られる方だ。
 余りに誠実にやりすぎると信用を得たそうで必死に見えてしまうところもあるので、
 やるとしてもあと一人か二人にしておきたい。後は勝手に仲間を増やしてくれる。

(運営の二人も、あたしのことよくわかってくれてるし助かるなぁ。)

 支給品が写真と馬笛なのも当然嘘だ。
 いや、厳密には間違っているわけではない。
 確かに支給品の枠として組み込まれてる物だ。
 だがそれはおまけ。本来の支給品は別にある。


171 : ハートの道は憎悪で舗装される ◆EPyDv9DKJs :2021/03/02(火) 08:56:36 rhRfdIac0
「さてと、どっちを使おうかな〜。」

 ザックから取り出したのは二つの紙。
 普通の紙ではなく、物が収納できる紙『エニグマの紙』だ。
 ただし、これはあくまで運営の計らいによって小分けされただけのもの。
 本来のエニグマの紙であるあらゆるものを収納できる効力は存在せず、
 あくまで入ってるものを出し入れするためだけの、臭い避けの物に過ぎない。

(戦力的にはこっちか。)

 エニグマの紙に書かれてた説明を見ながら、
 試しに一枚の紙を開くと出てくるのは黒焦げの学生服の男性。
 中々に惨いが、まだ十分原形を保ってるためマシな部類か。
 どことなく髪型が先程の写真の彼と似てるが、どうやら成長した姿らしい。
 由花子の言うスタンドを所持しており、軍隊を展開できるスタンド使いだ。
 紛れもなく此方の方が優れてはいるのだが、もう片方も調べて出してみる。

(うっわ……ひっどい状態。)

 潰れた果実のような酷い有様。
 死体操作で見慣れたユウカも流石にこの状態と臭いには距離を置きたくなる。
 誰かは知っている。最初に殺し合いで爆発の実験にされた少女だ。
 此方は大した戦闘能力はないものの、少なくとも知り合いがいるのは分かる。

(リンクにモイ……へぇー意外と知り合いいるじゃん。)

 記憶を覗けば昔からの馴染みの子のようだ。
 死んだ人間が生きていれば不審に思うかもしれない。
 だがイリアはちゃんとトランプに参加者として存在する。
 最初のはデモンストレーション用で生き返らせてもらった、
 という誤魔化しもギリギリ通るだろう。戦闘力も皆無なのだから。
 それに人格も問題なく記憶の共有でトレース可能。騙せる相手には十分騙せる。
 状態の酷さも、ユウカの死体操作は元通りの綺麗なままにもできるので問題ない。
 だから十分に誤魔化すことは可能た。場合によっては知人なら武器の調達はいるが、
 不意打ちだって十分に可能とただの武器よりも自由度が高いものになる。
 ただし、服の血とかは先に何とかするべきで、近くの湖で服の血を適当に洗わせておく。

(基本戦力はこっちの形兆。知り合いがいたらイリアかな。)

 二体も死体をよこしてくれるのは、
 本当によくわかってるが良い事尽くめにあらず。

(でも、やっぱ警戒するよね上の二人も。)

 試しに同時に操作しようとすると、
 イリアの死体が元に戻ってから形兆が動き出す。
 死体操作が一体しかできないと言うのは、正直なところ予想出来てたことだ。
 この能力を知った人達が死体を燃やしたり海に捨てたりしてしまわないと、
 殺し合いが加速すればする程に死者が出てくるだけ有利になる能力。
 しかも死体だから余程損壊しない限り動かすことができる無尽蔵の戦力。
 後半がただの蹂躙になってしまうのを見越しての判断だろう。
 何かの拍子に制限が緩和されてくれればいいが、期待は薄い。

(操作できないのは仕方ないけど、どうしようかなぁ。)

 となると困るのが、遺体の出し入れと言う問題だ。
 今までは動かして潜ませればそれでよかったが、
 此処ではその遺体の取り扱いに少々面倒なことになる。
 紙を開いて遺体を出すと言う動作が非常に煩わしい。
 このタイミングはナナとの戦いみたいな場面ならまだ分からないが、
 もしスタンド使いとか、それ以外の自分が知らない能力者と遭遇したら場合。
 対応が一歩遅れるだけで勝負を分けてしまう可能性は十分にある。
 それに、参加者ですらない形兆は明らかに不審な存在だ。
 此方の取り扱いも少々気を付けるべきか。

 それに、朝も遠からず迎えてしまう。
 朝を迎えれば死体操作は一切使えなくなる。
 そうなると日中はただの一般人になってしまう。
 中々に慎重な立ち回りが要求される。

「んー、何かいい方法ないかな。」

 ネクロマンサーは悩む。
 『今も』偏向的な愛と、一方的な憎悪と共に。

【C-2/湖付近/一日目 深夜】


172 : ハートの道は憎悪で舗装される ◆EPyDv9DKJs :2021/03/02(火) 08:57:48 rhRfdIac0
【佐々木ユウカ@無能なナナ】
[状態]:ナナへの憎悪(極大)
[装備]:虹村家の写真@ジョジョの奇妙な冒険、イリアの手作り馬笛@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[道具]:虹村形兆の死体@ジョジョの奇妙な冒険、イリアの死体@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、基本支給品、遺体収納用のエニグマの紙×2@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本行動方針:シンジと添い遂げるために優勝する
1.形兆の能力で参加者を狙っていく。
2.ナナちゃんだけは絶対に許さない。
3.リンクやその知り合いと出会ったらイリアも使ってみようかな。
4.何人かは味方と思わせるようにしておきたい。
5.ABCDの参加者と接触してシンジを探す。
6.朝の立ち回りも考えないと。

※参戦時期は死亡後で、制服ではありません。
※制限である死体操作可能なのは一体までを認識しました。
 現在の操作は 遺品:虹村家の写真 対象:虹村形兆
 また死体の移動距離は同エリアの端までです(此方は気づいてない)
※イリアと形兆の能力で、リンク、仗助などの情報を得ました。
 イリアの参戦時期がいつ頃のかは後続の方にお任せします。
※由花子との情報交換でジョジョの奇妙な冒険の参加者の能力と人柄、世界観を理解しました。。
 但し重ちー、ミカタカ、早人に対する情報は乏しい、或いはありません(由花子の参戦時期で多少変動)

【イリアの死体@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス】
見せしめに殺された彼女の遺体
酷い状態だが、死体操作なら一時的に元通りの状態になる
残念ながら彼女自身に特別秀でた能力はないが、
名簿のトランプには参加者として残ってるのも事実
死体操作に必要な遺品は『手作りの馬笛』
使えば何処かにいるエポナを呼べるかも。いればの話だが。

【虹村形兆の死体@ジョジョの奇妙な冒険】
音石明によって殺害された虹村形兆の遺体
肉体は黒焦げだが、上述のとおり別段問題はない
死体操作に必要な遺品は『虹村家の写真』
此方はスタンド【バッド・カンパニー】を使役することが可能
ステータスは破壊力:B スピード:B 射程距離:C 持続力:B 精密動作性:C 成長性:C
ミニチュアサイズの歩兵約六十名、戦車七台、戦闘ヘリのアパッチ四機をビジョンとした群体型スタンド
歩兵はナイフや地雷もあるが主に射撃能力に優れ、サイズは小さいだけで破壊力は本物
歩兵の銃ならまだしもアパッチや戦車の威力は壁も十分に壊せるだけの攻撃性を持つ
それでいて群体型スタンドの特徴として、スタンドがやられても本体へのダメージは軽微
総じて戦闘、諜報、隠密など極悪中隊の名に恥じない多彩な用途を持つスタンド
ただし、事実上ユウカによる操作なので理知的で几帳面な彼ほどの戦術の披露は難しい
当然ながら死体操作で操作してるので、これ以上のスタンドの成長も大して望めない

【エニグマの紙@ジョジョの奇妙な冒険】
厳密には支給品のおまけ。宮本輝之助のスタンド【エニグマ】の紙。生物、物質問わず紙に取り込める
重量は感じず、臭いも嗅覚に優れなければ感じず、腐りもしない保存性を誇る。破くと中身も破損する
ただしあくまで死体を収納するためのおまけのであるため本来の収納はできず遺体にのみ限られる
一方で遺体に限れば入れることが可能。


173 : ◆EPyDv9DKJs :2021/03/02(火) 08:58:33 rhRfdIac0
以上で投下終了です


174 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/02(火) 11:22:10 m0mr2l6c0
投下乙です!
予想はしてましたが、恋する乙女は恐ろしいですね!!
ガノンドロフやマリオには単純な戦闘力では劣りますが、それでも会場を引っ搔き回しそうです。

それと、これで全参加者が一周しました。
残りが由花子とユウカになるのは予想外です。
これだけ早く1周迎えるとは予想外でした!!
皆様これからもよろしくお願いします。

ではレンタロウ、ガボ、美夜子予約します。


175 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/02(火) 22:48:51 m0mr2l6c0
投下します。


176 : 狼、猫、人間、そして…… ◆vV5.jnbCYw :2021/03/02(火) 22:50:27 m0mr2l6c0

勝負は、意外なくらいあっけなく終わった。






レンタロウの石ころ帽子のエネルギーが切れるまでもなく、ガボが居場所を探り当てる。
風の妖精の力を纏ったブーメランは、殺傷力こそ低いが、攻撃範囲は広い。
よしんばガボが狙う気なくとも、誰かに当てることは出来る。
そして巻き上がる風が、見えないレンタロウの石ころ帽子をはぎ取った。
再び投げた疾風のブーメランのダメージに、レンタロウの幽体が異変を感じ、戻ろうとするも時すでに遅し。


肉体がいる場所に戻った時には、既に近くにガボがいた。

「オマエが本体か!姿を消しても、オイラの鼻はごまかせなかったようだな。」
「もしやあなた、俺を殺すつもりですか?やめてくださいよ。もしそんなことしたら、あなたも俺と同類になりますよ。」

今まで美夜子を襲ったことなどどこ吹く風のように、ガボの行動を咎めようとするレンタロウ。
「安心しろ、殺すつもりはねえ。」
大きく息を吸い込んだと思うと、ガボは口から、ピンク色の息を吐いた。


「な……これは……Zzzz……。」
抵抗を見せるも、既に肺には眠りを誘う、甘ったるい匂いのガスが大量に入っており、レンタロウは目を閉じた。
そこで、半透明だったレンタロウの魂が姿を消す。
意識を手放したことにより、魂は彼の肉体に戻った。

持っていたナイフは、主を失い、地面に落ちる。
そして、レンタロウ自身もナイフに同調するかのように、ゴロリと大の字になり、地面に寝転がった。

そこへ、猫の姿をした少女がやってくる。
丁度月が雲に隠れ、猫の姿に戻ったところだ。


「あなた、助けてくれたの?どうして?」
見ず知らずの自分を助けた、あまり良い恰好とは言えない少年を、怪訝な顔で見つめる。
「わかんねえけど、コイツからすげえ嫌なニオイがした。
猫の姉ちゃん、コイツは何者なのか知ってるか?」
「会ったことはないけど、そのままにしてはおけない人みたいね。それと、ありがとう。」


レンタロウは、何事もなかったかのように眠っている。
しかし、厄介なのはこれからの相手の対処法だ。
目を覚ましたら、縛ってようと何してようと幽体離脱されれば意味がない。
この男を二人で運び、起きるたびに眠らせるというのもまた、面倒な手法だ。


177 : 狼、猫、人間、そして…… ◆vV5.jnbCYw :2021/03/02(火) 22:51:53 m0mr2l6c0

「どうしようかしら。」
せっかく助かったというのに、根本的な解決が出来てないことに、悩む美夜子。
「オイラにいい物があるぞ。」

提案を出したガボは鞄から、一本の剣を出す。
青の柄と黄色がベースの刀身を持っており、十字架をモチーフにした、神聖なデザインをしていた。

「これ、オイラの仲間が使っていた、ゾンビやお化けに強い武器なんだ。」
「そんな物があるの?それにゾンビにお化けって?」
悪魔や使い魔と戦った経験のある美夜子でも、驚きの話だ。
「ああ。最初の会場にオルゴ・デミーラって怪物がいただろ?オイラ達はアイツやその手下とも戦っていたんだ。」

ガボの話によると、彼の世界では竜、ゾンビ、怪鳥など、様々な怪物に対応した武器や剣技があるという。
武器のサイズとしては、美夜子に支給されたオチェアーノの剣よりも小ぶりだ。
逆に言えば、猫の姿にされていても、どうにか使うことが出来る。


「でも、あなたは、私より小さいのに凄いわね…。」
ガボはどうにも嘘をついているように見えなかった。
彼の純粋な瞳からは、魔界が迫ってきているという自分の話を信じてくれた、のび太たちから近い物を感じた。

「ああ!オイラは白い狼の子供だからな!!」
「え、狼?どういうこと?人間じゃなくて?」
「姉ちゃんこそ猫じゃねえのか?」

呪いで人間にされたガボと、呪いで猫にされた美夜子。
話がこんがらがるのは当然でもあった。
ひとまず話を整理して、美夜子にゾンビキラーを渡すガボ。


「ありがたいけど、あなたの武器はいいの?」
「オイラは剣は好きじゃねえ。ブーメランで充分だ!
そうだ姉ちゃん、オイラの仲間……。」


ガボが自分の仲間を、美夜子が知らないか聞こうとしたところ、ボン、と爆ぜる音が聞こえた。
それに反応して、音の方向を見てみると、向こうの森から煙が上がってきた。
「あれは……オイラの仲間かもしれねえ!姉ちゃんはそいつを見張っててくれ!!」
「ちょ……ちょっと……!!」

美夜子の静止も無視して、森の方へ走っていくガボ。


瞬く間に姿が小さくなっていき、完全に見えなくなると、ふうっとため息をついた。
相も変わらずレンタロウは寝転がっている。
片手を曲げて、残った手足はまっすぐ伸ばして。


178 : 狼、猫、人間、そして…… ◆vV5.jnbCYw :2021/03/02(火) 22:52:36 m0mr2l6c0

(そうだ!!)
美夜子はここで、肝心なことを思いだした。
レンタロウが持っていたナイフは、どこへ行ったのか。
あの時彼は幽体化していたが、攻撃した時の得物の手ごたえはあったため、ナイフは本物だろう。
それを取り上げなければいけない。

しかし、ザックを探っても、肝心なものは出てこなかった。
ならば森から肉体の場所へ戻る際に落としたのだと推測し、レンタロウ本体を置いて走り出す。
安堵していた彼女は、急に焦り始める。

(ナイフはどこよ……。)
あれを残しておけば、きっとよからぬことになる。
しかし、具体的な「よからぬこと」とはどういうことなのかまでは、想像できなかった。



(いつまで寝てると思ってたんだ?)
ヒュッ、と飛んできた短剣が、美夜子の後頭部に刺さった。

「なんで……?」
一言、疑問をこぼした。
だが、答えを聞く前に、彼女は絶命した。
刺しぬかれた短剣の、舞い狂うような追加の刺突によって。


「ああ、あなたは醜い、獣の姿だったのですね。」
ガッ、と動かなくなった美夜子の死体を蹴りつけるレンタロウ。


元々眠りに落ちた際に、ナイフはレンタロウの体の下に置かれていたのだ。
それは彼が意図してやったことではない。
だが、相手の体に触れ、起こすことを嫌った美夜子に、見つけられずに済んだのだ。


そして、遠く離れていた美夜子に刺したのは、彼の能力あってのものでは無い。
それは、彼が持っていたダンシングダガーにあった。
意識さえあれば、持っている者が念じるだけで、踊るようにひとりでに相手を刺しに向かうのだ。
遠く離れた位置の爆音によって目覚めた直後も、報復の機会を目を閉じて待っていたのだ。
そして、二人組の片割れが走っていったのは、この上ないチャンスだった。


気が済むまで美夜子を蹴とばすと、捨て猫のような姿になった美夜子を置き去りにし、先へ進むことにした。

(さて、どこへ向かうとするかな?あの汚いガキにも復讐したいが、アイツはどうでもいいかな、しかし……。)
レンタロウが気になったのは、ガボが美夜子に渡したゾンビキラー。


(これは一体どういうことだ?)
自分が幽体離脱している際には、抜け殻になった自身へのことは気遣ったが、魂の方に被害を受けたことなど一度もなかった。
さっきの怪しい息を吐いたガキもそうだったし、この世界は自分が見たこともない能力を使う者がいるのかもしれない。


ひとまずゾンビキラーをザックに仕舞い、南へ向かうことにする。


【美夜子 死亡】
【残り 48名】

【C-8/平原/一日目 黎明】


【鶴見川レンタロウ(@無能なナナ】
[状態]ほぼ健康 タンコブ
[装備]ダンシングダガー@FINAL FANTASY Ⅳ
[道具]基本支給品×2 オチェアーノの剣@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち、ゾンビキラー@ドラゴンクエストVII 石ころ帽子(エネルギー切れかけ)@ドラえもん 不明支給品0〜1、美夜子の支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:参加者がキレイな内に"表現"する。
1.南へ向かい、新たな獲物を見つける。
2.汚いガキ(ガボはどうでもいいが、邪魔するなら殺す)

※本編死亡前からの参戦です。
※肉体に瞬時に戻ることができますが、その場合所持品はその場に放置されます。
※名簿はまだ確認していません

【C-8→7/森/一日目 深夜】

【ガボ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たち】
[状態]健康
[装備]疾風のブーメラン@ゼルダの伝説ㅤトワイライトプリンセス
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラとザントを倒す。
1.C-7の、炎の発生源へ向かう
※少なくとも魔物ハンターはマスターしています。
※名簿はまだ確認していません。


[支給品紹介]
[ゾンビキラー@ドラゴンクエストVII]
ガボに支給された剣。十字架を模した形をしており、ゾンビ・幽霊系に大きなダメージを与えられる。
本ロワではこの効力がどこまで及ぶか不明。


179 : 狼、猫、人間、そして…… ◆vV5.jnbCYw :2021/03/02(火) 22:52:48 m0mr2l6c0
投下終了です。


180 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/04(木) 00:54:04 Lf7DFokg0
モイ、クリスチーヌ、真理亜予約します。


181 : ◆OmtW54r7Tc :2021/03/04(木) 17:18:40 ZniOOk7s0
東方仗助、小野寺キョウヤで予約します


182 : ◆OmtW54r7Tc :2021/03/04(木) 19:05:41 ZniOOk7s0
投下します


183 : ペナルティ ◆OmtW54r7Tc :2021/03/04(木) 19:08:07 ZniOOk7s0
現在の時刻は夜の1時半を少し過ぎたくらいだろうか
ハイラル駅を出発した列車は、神栖駅へと到着していた。
列車から降りてきたのは、二人の男。
もっとも、列車の中から出てきたのではなく、列車の外側から出てきたのだが。

「ひゅ〜、やっと極寒地獄から解放されたぜ」

自慢のリーゼントを揺らしながら、未だに身体を震わせている男の名は、東方仗助。
ぶどうヶ丘高校に通う高校生だ。

「東方、あれを見ろ」

そんな仗助の名を呼ぶ目つきの悪い男の名は、小野寺キョウヤ。
不老不死の能力を持つ彼は、自身が持つ再生能力と、仗助の持つクレイジーダイヤモンドの治癒能力によって、右手や全身に負った傷が完全に治っていた。
そんなキョウヤは、仗助の名を呼ぶと、とある一点を指さした。

「『注意書き』?」
「この項目を見てみろ」

キョウヤの指示に従い、仗助はいくつかある注意書きのうちの一つを見る。
そこに書いてあったのは、


・切符を使わず車体にしがみつくなどして不正乗車を行った場合、未使用切符を所持していれば切符を消滅。持っていなければ警告ののちに首輪を爆破させる。(1駅ごとのカウント)
 ただし、5分以内に降車すれば上記ペナルティを受けない。


「なにっ!?」

仗助は慌てて荷物を確かめる。
そこにあるはずの切符は…

「なんだ、切符あるじゃねえか!…って、なんだこれ?」
「なにか貼ってあるな」

仗助とキョウヤの切符には、紙切れがくっついていた。
そこにはこう書いてあった。

『始発列車の為、今回の不正乗車に関しては特例として不問とする』

「どういうことだ?」
「…なるほどな」

両者の反応は、正反対のものだった。
仗助が首をひねる中、キョウヤは納得の表情を見せていた。

「東方、この列車はおそらくこの殺し合いゲームが始まってすぐ出発した。…これがどういうことを意味するか分かるか?」
「い、いや…何が言いてえんだよ」
「誰も乗れないんだ、始発列車に。運よく最初に飛ばされた場所がハイラル駅でもない限り。そうなると、最初のハイラル駅〜神栖駅間の列車は誰も乗れないただ走ってるだけの無意味な物体と化す」
「なるほどな。つまり、そうなるくらいなら、いっそ途中乗車だろうが不正乗車だろうが最初だけは認めてやろうってことか」


184 : ペナルティ ◆OmtW54r7Tc :2021/03/04(木) 19:10:43 ZniOOk7s0


『まもなくゴロツキ駅行きの列車が発車いたします。お乗りになる方は切符を切り、ルールを守ってご乗車ください』


「そろそろ列車が移動するが…東方、どうする?」
「次の駅の近く、知ってる場所が地図に書かれてるんすよね」
「山岸由花子、だったか」
「ああ、それに杜王駅もここより近いし、乗っときてえとこだな」
「分かった、俺は特にはっきり目指す場所もないし、付き合おう」

こうして仗助とキョウヤは、再び列車に乗った。
今度はちゃんと切符を使い、車内に入って。


【B-7とB-8の境界/列車内/一日目 黎明】

【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:左腕凍傷、腕にダメージ
[装備]:クローショット@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(切符消費)、ランダム支給品(×0〜2 未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:乗るつもりはない。
1.列車でゴロツキ駅へ移動。
2.バツガルフへの対策の考案。
3.マリオと言う人物、或いは本当のバツガルフの腹心に警戒。
4.仲間を探す。不安と言う意味で由花子か生き返ってる重ちー、一般人の早人を優先したい。
5.吉良吉影を探す。乗ってるかどうか関係なしにぶちのめす。
6.佐々木ユウカ、鶴見川レンタロウに警戒。
7.クローショットがちょっと楽しい。
※参戦時期は少なくとも最終決戦、億泰復活以降です。
※キョウヤから無能なナナの情報を得ました。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。

【小野寺キョウヤ@無能なナナ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(切符消費)、ランダム支給品(×1〜3 未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者が何を考えてるのか。少なくとも乗る気はない。
1.列車でゴロツキ駅へ移動。
2.バツガルフへの対策の考案。
3.マリオと言う人物、或いは本当のバツガルフの腹心に警戒。
4.知人の捜索。優先順位は佐々木=鶴見川>犬飼=柊。
5.東方仗助は信用してもよさそうだ。
6.吉良吉影、柊に警戒。
※参戦時期は少なくとも犬飼ミチルの死亡を知った時期より後です。
※不老不死の再生速度が落ちています。少なくともすぐには治りません。
※死亡した場合一度死ぬと暫くは復活できません。
※仗助からダイヤモンドは砕けないの情報を得ました。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。

※切符を介さない不正乗車については、切符or首輪によるペナルティが課されます。(今回は特例)
 5分以内に降車すればペナルティを受けません。


185 : ◆OmtW54r7Tc :2021/03/04(木) 19:11:17 ZniOOk7s0
投下終了です


186 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/04(木) 23:22:10 Lf7DFokg0
投下乙です!!
列車に乗った二人組を降ろす内容、そして切符の使い方良かったです。
その後きちんと切符を使って乗る二人組、礼儀正しいw
そっちはマーダーが多いけど、運行中に襲撃とかされないですかねw


187 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/05(金) 23:29:01 oWTh/EGw0
投下します。


188 : 紅色の願い ◆vV5.jnbCYw :2021/03/05(金) 23:30:03 oWTh/EGw0

出会ってから10数分後、クリスチーヌとモイの二人組は何事もなく森を抜けることが出来た。
辺りはだだっ広い草原。
所々に起伏が見えるが、それ以外には大した物は見えない。
だが、前以外を見れば、話は別。
左側には、のっぽの展望台と、見た目おどろおどろしい大魔王の城がでんと構えている。
そして、右を見れば、走っているのは列車。


「クリスチーヌ君、右のアレは何か知っているかな?」
「列車……ですよね?」
突然のモイからの質問に、意図が分からぬまま答えるクリスチーヌ。
彼女にとって、むしろあの城の方が気になるくらいだ。

「列車!?」
モイは驚きながら聞く。
「そんなに驚くほどの物なのですか?」
あの列車は、遠くからで極めて小さくしか見えないが、彼女も知っている。
ガーネットスターがあるピカリー神殿に向かうために使った、リッチリッチエクスプレスだ。
なぜこんなところを走っているのか、前に乗ったものより小さくないかという疑問はある。
だが、モイが聞いてきたのは、列車の詳細ではなく、列車の存在そのものだった。


「俺がいたハイラルは、馬車や船はあっても、列車はないんだ。
大陸を越えて海を渡った先の大陸にはあるって話や、古代文明が使っていたって話も聞いたが、どれも眉唾物だ。」
考古学に精通しているモイは、列車やそれに近しい乗り物というのは聞いたことがある。
だが、どれも書で読んだだけの話だ。

「この首輪も列車の知識を応用して作った物なのだろうか?」

モイが知っている列車の知識というのは、ボタンを押したり、レバーを引いたりするような単純な動作で、様々な音を出して稼働するというものだ。
あの首輪も、始まりの場所で、デミーラが手をかざしただけで音が鳴り、爆発した。


「違うと思います。私の世界に列車はあっても、こんな首輪は全く見たことありません。」
「じゃあ、何か爆発物は知っているかな?」

仮に首輪そのものや、それに似たものがなくとも、ある技術とある技術を併せて作った可能性は高い。

「そちらはそれなりね。あたしの世界にはボム兵っていう爆発する人たちもいるし、爆弾みたいなものもあるわ。」
「成るほど、生きた爆弾か。俺の世界にもあるよ。」

モイの世界にも、爆弾魚という魚がいる。
普段は普通の魚と変わらないが、別の存在がテリトリーに踏み込んでくると、仲間を守るために自爆する危険な魚だ。
釣り上げれば爆弾として使うことが出来るが、そんなことをする物好きはあまりいない。

「もしや、この首輪、生き物?」
今まで機械か何かだと思っていた首輪が、そうでないようにも思えてきた。
実際にクリスチーヌも、マホマホやバリアーンのように、生物なのか機械なのか分からないモンスターを見てきたから猶更である。
「分からないな。だが、この先に何かカギが見つかるかもしれない。」

最も、目下ヒントが少なすぎる以上、いくら考えても机上の空論にしかならない。
だが、様々な世界の物が組み合わせられている以上、図書館へ行けば様々な書が手に入る可能性は極めて高いと結論付けた。

「結局の所、資料の不足ね。」
「ああ、考古学でも、一番厄介な問題だな。」


どうにかして知識の源泉となるものを見つけなければならない。
足を速め、図書館目指して西へ向かおうとする2人だったが、目的の方向から2人を見ている者がいた。


189 : 紅色の願い ◆vV5.jnbCYw :2021/03/05(金) 23:30:40 oWTh/EGw0

★★★★★★★★★★★★★★★★


(2人か……一人は人間だけど……、もう片方は、何かしら?)
呪力が生まれる前の人間なら、到底認知することの出来ない距離から、2つの影を見つめる真理亜。
呪力を持った人間にとって、視力は直接実力につながるほど、重要な要素である。
電子媒体など、人間の視力を落とす物が少なくなったこともあり、彼女の世界は全般的に視力が極めて高かった。


どうやらまだ二人は気づいていないというアドバンテージはあったが、肝心なのは攻撃方法だ。


―――『愧死機構』の作用機序は、以下のようなものです。最初に、自分が……の人間を攻撃し………ると脳が認……と、無意識にPKが発動し……および……腺の機能を停止させます。…………………攻撃が続行された………には、低……ウム……症による強直の発作で窒息死するか、………の…度の急増によって心停止にいたるのです


かつてミノシロモドキから聞いた、呪力に関する言葉。
あれからしばらく経っているので、朧げだが、肝心なところは覚えている。
人ではない存在ならともかく、人に使った場合、遺伝的に繋がった抑制機能で止められるが、それでも無視して使った場合、死に至る能力である。


相手がまだ近づかない内に、何か呪力以外に頼れるものはないかとザックを漁ると、綺麗な銀色の矢が何本か出てきた。


(でも、これじゃちょっと難しいわね。)
先端は尖っている。
相手の胸にでも当たれば確かなダメージが与えられそうだ。
だが、真理亜はダーツなどしたことないので、まっすぐ投げることさえ難しい。
呪力で飛ばせばそれなりな威力があるかもしれないが、それなら本末転倒でしかない。


もう一つ残っていたのは、4つ折りにした厚紙だ。
中には、怪物のような生き物の絵が描いてある。
恐らくハズレの支給品だと思い、完全に開かずにポケットの中にしまった。

(とりあえず、狙いはあっちの方ね)
人間の方をどうするかはいったん保留にして、まずはそうではない方を狙うことにした。

しかし、相手を上空に投げ飛ばそうとするも、どういうわけか呪力が効果を発揮しない。
(まさか、呪力が封じられてる?)

ミノシロモドキの言葉を聞いた直後、離塵士に呪力を封じられたことを思いだす。
「おーい、そこの君、何をしているんだ?」

相手が声をかけてきた。
まずい、もう気付かれている。
相手に敵意は無さそうだし、ひとまず相手に取り入ることにするか?
否。私は早季のために地獄へ落ちることに決めたのだ。
それこそ、悪鬼となっても。


190 : 紅色の願い ◆vV5.jnbCYw :2021/03/05(金) 23:31:02 oWTh/EGw0




「うわああ?」
「クリスチーヌ君!!」
その瞬間、彼女の紡ぎだした呪力が片割れ、クリスチーヌを吹き飛ばした。
イメージで巨大な手を作ったが、見事に成功した。
即死では無いようだが、それなりなダメージは与えたようだ。

真理亜の想いに呼応したわけではなく、呪力の範囲が制限されている距離を超えただけだが。

「ゲームに乗った相手と、こんなにも早く会うとは……。」
モイは鞘から鋼の剣を抜き、臨戦態勢に入る。

だが、まだ距離は離れている。
ザックから銀のダーツを3本取り出し、1本ずつ呪力に乗せてモイ目掛けて放った。
これで殺害するつもりではなく、脚目掛けて刺すことで、動きを封じるためだ。

「何のこれしき。」
しかし、相手もさることながら。
モイもリンクに次ぐ、トアル村の名うての剣士である。
特に、正面から向かってきた相手をいなすことに関しては、右に出る者はいない。
高速で襲い来る銀の矢を、剣を横薙ぎに三閃。
いとも簡単に、矢を弾いてしまった。

だが、ダーツはブラフ。
真理亜は地面すれすれに、鎌鼬を作っていた。
殺害はせずに、脚を直接狙うような攻撃だって、呪力には可能だ。
相手は矢を全て落として、僅かながら安心しているはず。


「わたしがいることも、忘れないで!」

「危なっ!!」
しかし、今度は死角からクリスチーヌの頭突きが、真理亜を狙った。
済んでの所で鎌鼬をキャンセルし、自分の呪力で自身を浮かせる。


頭突きは空を切り、真理亜も地面に着地する。

「あなた、やるわね。超能力者ってやつ?」
「そんな所で良いわ。」


急に自分の体が重くなる。
慌てて後退すると、地面にポカリと穴が出来ていた。
今度は彼女がイメージした、呪力のハンマーだ。


負けじと、モイが地面に転がっていた1本の銀のダーツを、真理亜目掛けて投げる。
しかしそれは、彼女に当たる直前で止められる。
動きが止まるや否や、ベクトルを変え、クリスチーヌに襲い掛かった。
それをクリスチーヌは姿勢を低くして、軌道上から離れる。
しかし、ダーツはフォークボールのように不自然に急降下し、脳天目掛けて刺さらんとする。

「危ない!!」
それを、咄嗟にモイが剣で弾いた。


「助かりました。」
「礼はいらんよ。」

クリスチーヌは頭で捻りだす。
モンスター図鑑もパンフレットもない以上、ここは自分の得意技、ものしりが使えない。
従って出来ることがいつもより限られる。
だが、知識に頼れない時こそ、己が経験だ。
マリオやほかの仲間たちと共に戦った様々な敵から、最適解を導く。


191 : 紅色の願い ◆vV5.jnbCYw :2021/03/05(金) 23:31:26 oWTh/EGw0

「敵が攻撃した時が、チャンスよ!!」
先程クリスチーヌは、敵の能力に不自然な面を見出した。
最初に敵の少女が投げた三本の矢は、まっすぐ飛んで来た。
しかし、次に投げた一本の矢は、方向転換した。
可能ならば、最初から三本の矢を自由に操作できたはずなのに。

まだ不自然な箇所はある。
モイが投げた矢は、敵に当たる寸前に『止まってから、方向転換して』襲い掛かった。
いきなり方向転換をさせることも可能だったはずなのに。


以上の点から、クリスチーヌは結論付けた。

・相手はサイコキネシス使いではあるが、操る物が増えると操作の精密度が落ちる、あるいは最初から複数の物体を1度に操作できない
(距離によって能力が落ちる可能性もあり)
・防御と攻撃を同時に行うことはできない。


そして、何故かは知らないが、相手はモイより自分を優先的に狙っている。
目的は分からないが、狙いが明らかだということは、そこに付け入る隙もある。

先んじて真理亜に突撃するクリスチーヌ。

「熱……!!」

小さな爆音がして、彼女の前面に体に火が付いた。
ビビアンの魔法の炎ほどではないにせよ、火傷が彼女を襲う。
だが、すぐに地面に伏せて、火の付いた部分を急いで消した。
炎使いならば、何度も冒険の上で戦ってきたから、最低限の対処は分かっている。

火を消すとすぐに地面から弾みをつけて跳び、真理亜に向けて頭突きをする。

「っ!!」
呪力で相手を打ち落とすことが出来ず、やむなく自身を横へ飛ばす。


そこでモイが突撃する。
済んでの所で真理亜は、呪力を回避から防御にシフトさせ、鋼の剣をモイの手から離した。

「武器を奪ったからって、勝てると思ったか?甘いぜ嬢ちゃん。」
「え?」
真理亜の視界が、急に回転する。
それは別の世界の、「背負い投げ」という技に酷似していた。
ハイラルに集うレジスタンスの一員でもあるモイは、剣術のみならず、機械工学や体術、コッコの手なずけなど、様々な技術に覚えがある。


相手を押さえ込んだけでは、呪力を食らってしまう。
だが、呪力の欠点も、モイは見抜いていた。
それは、視界に入らない対象には、使えないということだ。

どうにか呪力で寝転がった状態から、立ち上がる真理亜。

「後ろ、取ったぜ。」
そこからモイは、羽交い絞めにすることに成功した。


192 : 紅色の願い ◆vV5.jnbCYw :2021/03/05(金) 23:31:58 oWTh/EGw0

「く……離して!!」
まだ自由な両足をバタつかせ、拘束を解こうとする真理亜。
呪力を自身に使っても、モイも動いてしまう以上は意味がない。

「なあ、嬢ちゃん。なんで俺たちを殺そうとしたんだ?なんであんな最低な奴等の言うことを受け入れたんだ?」
ここでモイは、至極まっとうな疑問を投げかけた。
見た目は、彼と同じ故郷の少女、イリアと同じくらいの年齢。
一見、トアル村にいてもおかしくないような彼女が、殺し合いに乗るのはどうにも解せなかった。


「私は、大切な人がいるの……」
「そうか。でも俺にだって、妻や息子がいるんだ。息子にはもうすぐ、弟か妹が出来る。
まさか大切な人がいるのは自分だけなんて思ってないよな?」


暴れる真理亜のスカートのポケットから、ぱさり、と折りたたまれた紙が落ちた。
名簿のトランプとは違うようだが、訝しんだクリスチーヌが手に取る。
そこには、怪物の絵が描いてあると思った瞬間。


「ギーーーーーーーーーーッ!!」

「キャッ!?」
猫と猿、それに蝙蝠を合体させたような怪物は、折りたたまれた紙から急に現れた。

「何だこいつは?」
そのままキースのような翼で、滑空する生き物を、モイが怪訝に見つめる。
「ギャア!!」
甲高い声を上げると共に、羽交い絞めしていた男の肩に嚙みついた。


「ううっ!!」
突然の乱入者が現れた驚きと、噛みつかれた痛みに顔を歪め、拘束を解いてしまう。

「助かったわ。ありがとう。」
まったく持って予想外の援軍だったが、支給品の紙から出てきた使い魔によって、難を逃れた真理亜。
そこですかさず突風を起こし、モイを吹き飛ばす。

「うわああ!!」

突然の攻撃に耐えきれず、草原を転がっていくモイ。
「モイさん!!」
真理亜へと向かっていこうとするも、出てくるのは使い魔の方。


「ギ……ギャア!!」
使い魔は両の角から、雷を出した。

「電撃……?しまった!!」
バサバサと同じタイプだと勘違いした彼女は、全く対応できずに、その雷撃を受けた。
彼女は崩れ落ち、それを真理亜が見下ろしている。


「ごめんね。でも、大切な人のためなの。分かって欲しいわ。」
自分を見つめた赤髪の少女の、黒曜石のような瞳は、酷く悲しげだった。

「じゃあ、わたしからも分かって欲しいことがあるわ。」
電撃を食らい、体のあちこちに火傷を残しながらも、クリボー特有の鋭い目で、真理亜を見返す。

「わたしを殺したら、マリオが許さないわ。きっと他の仲間だって許さないし、モイさんもきっとそうよ。
あなた、誰かに怨まれながら生き続ける覚悟はあるのよね!!」


193 : 紅色の願い ◆vV5.jnbCYw :2021/03/05(金) 23:32:21 oWTh/EGw0

「ふざけないで。あるに決まってるでしょ。」
それをにべもなく一蹴する真理亜。
怨みの気持ちとは強いものだ。
小さなノコノコが、父を怪獣ゴンババに食べられた怨みを糧に、その怪獣を打ち倒したように。


「じゃあ何であんたは、そんなに悲し気な顔しているのよ!!」
想いの気持ちは強いものだ。
どんなに苛酷な冒険でも、ピーチを助けるためにマリオが諦めなかったように。
バツガルフにデータのほとんどを削除されてなお、ピーチのことを想い続け、自分達に協力してくれたテックのように。
そしてそんな強い物を壊せば、その時の衝撃は絶対自分に返ってくる。
彼女は心のダメージに耐えられるほど強くはない。
だから、殺しを止めたかった。

「もういいわ。黙って!!」
彼女の心は、強いナイフを作り、彼女の顔目掛けて真っすぐに刺そうとする。
まるで彼女の、早季に対する想いのように。

(マリオ……ごめん……。)
目を閉じるクリスチーヌ。

「そうは行かねえぜ、嬢ちゃん。」

だが、彼女の命運は尽きていなかった。
吹き飛ばされ、身体のあちこちを地面にぶつけたモイが、凄まじいスピードで走ってくる。

「ギィィィィ!!」
襲撃にいち早く気付いた使い魔は、モイに電撃を浴びせる。

「邪魔だ!!」
「ギャアッ!!」

強引に使い魔を素手で殴り飛ばし、走り続ける。


だが、覚悟をした彼はそんなものでは怯まない。
どちらも想い人がいる。
形は違っても、それは同じだ。
所違えば、仲良くなれたはずの少女二人組が、殺しあわねばならない。
そんな状況、年長者として何もするなというのが無理な話だ。



「クリスチーヌ、離れろぉ!!」
そのまま勢いをつけ、真理亜に突進する。
狙うは彼女の延髄。
殺したくはないが、気絶をさせることを望み、彼女へとぶつかる。
だがそこは、彼女がクリスチーヌを殺そうと、呪力が練られている場所。


194 : 紅色の願い ◆vV5.jnbCYw :2021/03/05(金) 23:32:42 oWTh/EGw0

モイの手が、彼女の背後に届くまで20センチ

「や

10センチ



5センチ






1センチ


え!!」

そこで、爆ぜた。


真理亜に一番近い手から始まり、次第に身体まで裂けていく。
激しい痛みと共に、大量の血が迸る。
モイの生暖かい血が、彼女を濡らす。


「速く逃げろぉ!!」
「はい!!」
彼女は立ち上がり、全力で走る。

まだ無事な左手を、自分の体の裂け目に入れ込み、彼女の顔に血塊をぶつける。
彼女の超能力の弱点は目。
これでしばらくは時間が稼げる。
同時に、自分は出血多量で長くはないが、1つだけとはいえ、仕事を済ませた。


「コリン、帰れなくてごめんな。ウーリ、もうすぐ産まれる子供の顔、見たかったよ。」
ただ、口惜しいのはこの世界にいない、家族の顔。
最後にもう一度でいいから、会いたかったなと思い、意識を手放した。





【モイ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 死亡】
【残り 47名】


195 : 紅色の願い ◆vV5.jnbCYw :2021/03/05(金) 23:33:52 oWTh/EGw0

彼から流れ出た血の、母親の手のような生暖かさは、自分が奪った命の原動力だということを語っていた。
「ごめん、早季……。」
辺りに血が溜まっている地面に、蹲る真理亜。
人を殺したから、だけではない。
自分が早季のための使命を全うできない悔しさもある。

人を殺したということは、間違いなく遺伝子レベルに組み込まれた反動が襲い掛かってくる。
最初は人間ではない方を呪力で殺害し、もう片方はそれ以外の手段で殺すか、行動の手段を奪っておくだけにするつもりだった。
だが、人間の方を殺してしまった以上、その死は免れない。


(どうか、早季が幸せに生きられますように……。)
心臓が止まることを覚悟し、ゆっくりと目を閉じた。


それから感覚が一切なくなる。











はずだった。

血の錆臭さが消えない。
頭上では、どうしたのかと使い魔がキーキーうるさい。
血の粘っこさが変わらない。


「どうして?」
死なない。
実は自分では殺してはないのではないのか、と思うが、モイは冷たくなっている。
心臓に手を当てる。
動揺しているためか、鼓動が多少早いが、トクントクンとリズムを打っている。


「そう……味方をしているのね。」
誰が自分の味方をしているかは分からない。
分かることは、自分が呪力を使っても、この世界では死なないという訳だ。
少々威力が落ちているが、それは代償だと受け取っておこう。


立ち上がり、動かなくなった中年男性を見つめる。
雑巾のようになった身体の半分とは対照的に、もう半分はほとんど無事で、今にも息を吹き返しそうだ。

「じゃあ、行くわね。貴方の好きな人への想い、無駄にはしないわ。」


赤い髪と、紅い血。
二つの赫に包まれた少女は、道を行く。
一匹の使い魔が、早く殺しに行こうぜと、嘶く。
その姿は、やがて彼女の未来に現れる悪魔のようだった。


196 : 紅色の願い ◆vV5.jnbCYw :2021/03/05(金) 23:34:28 oWTh/EGw0

【B-6/草原/一日目 黎明】
【クリスチーヌ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:HP1/2
[装備]:イツーモゲンキ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品 アイアンボーガン(小)@ジョジョの奇妙な冒険 キングブルブリンの斧@ゼルダの伝説
[思考・状況]
基本行動方針:首輪解除のヒントを見つける
1.図書館へ向かう
2.赤髪の少女(秋月真理亜)から逃げる
3.仲間(マリオ、ピーチ、ノコタロウ、ビビアン)を探す
4.クッパ、バツガルフに警戒
5.モイの死を無駄にしない




【秋月真理亜@新世界より】
[状態]:背中に打撲
[装備]:銀のダーツ 残り9本@ドラえもん のび太の魔界大冒険
基本支給品×2ラーのかがみ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たちㅤモイの支給品0〜2
思考・状況]
基本行動方針:早季を優勝させる。
1.早季が蘇生の願いで私を選んでくれたら嬉しいな。

※ミノシロモドキから世界の真実の一部を聞いた後、不浄猫に襲われる前からの参戦です。
※呪力は攻撃威力・範囲が制限されており、距離が離れるほど威力が弱まります。

【支給品紹介】

【銀のダーツ@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
錬金術で錬成されたダーツ。デマオンを倒す唯一の武器である。
本編ではデマオンはこの武器じゃなくても倒せるが、この武器も普通の投擲武器として使える。

【使い魔@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
悪魔族の偵察用ペットである。
エニグマ@ジョジョの奇妙な冒険 の紙に封じられており、開かれると出てきて使役することが出来る。
両角から電撃を出すことが出来たり、空を飛びまわったりする。


197 : 紅色の願い ◆vV5.jnbCYw :2021/03/05(金) 23:34:40 oWTh/EGw0
投下終了です


198 : ◆s5tC4j7VZY :2021/03/06(土) 08:47:33 i2mq1hJU0
投下お疲れ様です!

武人と姫と
ピーチ姫との会話から即座にパラレルワールドに辿り着く奇狼丸の知能の高さが見られましたね!
そして、クッパを何度も目にしているためか奇狼丸を前にしてもそれほど怯えないピーチは胆力ありますね!

ハートの道は憎悪で舗装される
これが、ヤンデレというやつですね……
そして、まさかの死体を支給品とするとは!?発想に驚かされました!!

狼、猫、人間、そして……
美夜子さん…不運が重なりましたね……
父である満月博士は愛する娘の死を知った時、何を想うか……

ペナルティ
汽車を利用する際のルールが明確になり、良かったです。
今度はちゃんと切符を使い、車内に入って。
↑二人とも律儀に乗車しなおしてなぜだが笑っちゃいました。

紅色の願い
モイ……ッ!!支給品によって戦局が変わるのがロワですね……
クリスチーヌも「ものしり」が使えない中でも、真理亜の攻撃方法から結論付けたのは見事ですね!
この世界では呪力で人を殺めても大丈夫なことに気づいた真理亜はさらに突き進むんですね…茨の道を傷つきながら……

奇狼丸、ピーチ、バツガルフ、リンク、佐々木ユウカで予約します。


199 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/06(土) 18:32:56 /cwYAysQ0
皆様感想兼投下ありがとうございます。
ですが、ここで一つ問題が発生しました。
具体的には各作品の媒体ごとの違いです。
今回の表裏・バトルロワイヤルはいずれの作品もアニメ、ゲーム、漫画など媒体が多いのです。
しかし、媒体ごとの細かい違いはともかくとして、粗筋にも齟齬がある点に気づきました。

具体的には漫画版とゲーム版でストーリーの流れが異なるペーパーマリオ、トワイライトプリンセス、魔界大冒険。
および、小説・アニメ版と漫画版で粗筋が異なる新世界よりです。
従って、ここから先は各ストーリーをどの媒体準拠にするか、このレスと本wikiのルールに書いておきます。


新世界より→小説版準拠(アニメ版は最後の悪鬼の性別を除いてほとんど違いはないが、漫画版は流れ・一部登場人物が異なる)
ペーパーマリオ→ゲーム準拠(マリオくん版は途中からクッパが味方になるが、原作はそのようなことはない。また、ビビアンは最後までついてくる)
トワイライトプリンセス→ゲーム準拠(漫画版は連載中だが、設定が追加されている)
魔界大冒険→漫画準拠(『新』魔界大冒険ではメジューサのストーリーなど、一部追加設定が追加されている、およびゲーム版では、ゲームオリジナルのキャラクターがいる)

なおジョジョ、ナナ、FF4は、媒体ごとの粗筋の違いは見られないため、省略します。


今の所粗筋の違いでロワに齟齬が生じている話は、第15話『愛を込めて』だけであり、なおかつ『愛を込めて』の作者とも相談の下、修正することが決まりました。
それ以外の話には問題はありません。
続きの話である、『紅色の願い』は、修正内容に応じて私が変更します。
そのため、不躾ではありますが、秋月真理亜、およびクリスチーヌの予約を一時禁止させていただきます。


最後に、私の不備のためにこのような手違いを起こしてしまい、読者・および書き手の皆様に申し訳ありません。
今後はこのようなことが起きないように、気を付けます。
引き続き、表裏・バトルロワイヤルをよろしくおねがいします。


200 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/06(土) 21:04:18 /cwYAysQ0
クッパ、ボトク予約します。


201 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/07(日) 00:12:23 YkUDy5yw0
それともう一つ奇狼丸の回の地の文で、説明不足な箇所があったので、加筆します


参加者名簿の箇所で、この内容を追加します。

他にも、かつて筑波山に迷い込んだ人間の姿や、神栖66町で会った人間の姿があった。
人間の中で、秋月真理亜と伊東守の方は筑波山で会えた14年前の記憶であるため、極めて朧気だが、確か名簿に書いてあるような名前だった気がする。
なぜあの時と同じ姿をしているのか、正確にはなぜ早季という少女だけ子供の姿をしているのか分からないが、考えていても仕方がない。


202 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/07(日) 16:06:54 YkUDy5yw0
投下します


203 : Tragedy or Comedy ◆vV5.jnbCYw :2021/03/07(日) 16:07:30 YkUDy5yw0
平原に、ドカドカと走る音のみが聞こえる。
背中と頭と手足、それに口の中まで尖っていて、走るスピードも相まって破壊兵器のようだ。

「ウーム、さっきから走っているのに、誰にも会わないぞ!」
足音の主、クッパは探せど探せど参加者に会えず、嫌気が刺してくる。
もう一度、あのオンボロの塔に戻って、あのネズミを引き入れるべきか、と考える。
だが、すぐに考えをやめた。
自分から何もしてないのに逃げ出しただけでも失礼千万だが、毒針まで刺してきた。
相手の方から非を詫びるならともかく、自分が戻ってまでネズミを自分の部下にするのは、プライドが許さんと思い始めた。

それに、自分がジャンプしただけで崩れる塔など、もう行きたくない。


走っていると、遠くに不思議なものを見つけた。
空飛ぶ絨毯だ。
浮遊できる乗り物を持っている彼でも、それには魅入られた。
最近何かと故障気味なクッパクラウンに代わる新たな乗り物を、土産代わりに持って帰るのも悪くないと思った。

「オーイ!!そこの絨毯、止まれ!」
タクシーを止めるかのように片手を上げ、自分も乗せて欲しいと頼む。
しかし、3人の男女を乗せた絨毯は、遠すぎたからか、無視して飛んでいく。


「ワガハイを無視するな!!」
ボン、と炎の球を飛ばす。
当たったのか否かは分からないが、そのまま見えなくなっていった。


「クソ!この会場、ワガハイに不愉快なことばかりではないか!!」
勝手につれて来られるわ、得体のしれない首輪を付けられるわ、ネズミには逃げられるわ、塔は崩落するわ、乗車(乗絨毯?)拒否されるわ、ハラは減ったわで、苛立ちは限度に達していた。


ふと前を見ると、女性が歩いていた。
どこか高貴さを彷彿させる姿をしている。
流石にピーチには劣るが、かなりの美女の部類に入るだろう。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「そこのオマエ!!名前は何という!!」
「あの……私、ローザと言います。」


厄介な奴に出会った。
美女の姿をした怪物、ボトクが感じたのはそれだった。

「ローザか。いい名前だな!!ワガハイはクッパ大王だ!!
こんな所で心細かっただろう。もう大丈夫だ!!ワガハイは全世界の美女の味方だからな!!」

いきなり自分のことを大王と呼び、全世界の美女の味方と自称する。
きっと自分の正体など、知る由もないだろうとボトクはほくそ笑む。
だが、コイツを扇動するのは難しいだろうなと顔をしかめた。

「ん?どうした!?顔が浮かないようだが。」
「い、いえ。セシルはどうしているのかなと思いまして。」

溢れるほど感じるエネルギー。
思考は単純だが観察眼も変な所で長けている。
迂闊に殺し合いをさせれば、自分の意図を気付いてしまいそうだ。
だからまずは、自分が何をしたいかでっち上げでも教える。
こんな時に誰かの殺害を頼むなど、二流のやることだ。

「そいつは、ローザの仲間か!」
「ええ。まず彼を探そうと思っています。」


204 : Tragedy or Comedy ◆vV5.jnbCYw :2021/03/07(日) 16:07:50 YkUDy5yw0
「ワガハイに任せろ!誰だろうと見つけてやる!!」
明らかに根拠のない自信で、腕組みをするクッパ。
なおも自分に対する不信感などない様子で傲岸不遜に構えている。


「ところで、クッパさんは知り合いがいないのですか?」
彼は配布された名簿に、自分を殺した者がいるのは良く知っていたので、恐らくどの参加者にも知り合いがいると踏んでいた。
ボトクが『いたのですか』ではなく『いなかったのですか』と聞いたのは、話の展開のためだ。
前者ならば『いた』と返されて終わり。
そこから『誰だ』と聞いても、根掘り葉掘り詮索しているようで質が悪く見える。
だが後者ならば、『そんなことはない』と否定される。
そこから『じゃあ誰がいるのか』と聞いても、否定に対する興味と取られる。


「いるに決まっておろう!!どうしてそんなことを聞くのだ!」

質問を質問で返すと0点だが、質問直後にすぐ質問で返すのも20点くらいで、あまりいい物じゃないと言いたい衝動に駆られる。

「いいえ。クッパさん、私の知り合いを探してくれるって言ってくださったので、知り合いがいないものだと思ってました。すいません。」
「そういうことか!!ワガハイの大事なピーチ姫と合わせて、見つければいいだけの話だ!!」

そこで、クッパの腹が鳴った。
「あの……もしかしたら、お腹すいているのですか?」
「そういえばそうだな。腹が減っては戦は出来ぬ。」


クッパはザックを開け、パンを取り出そうとする。

「もう一ついい物がありますよ。」
ボトクはザックから、タマゴを取り出した。
それはタマゴとは名ばかりの、毒の塊なのだが。
食べればクッパであろうと、腹痛の一つくらいは起こすはずだと踏んだ。
正直、コイツと共に行動するのは気が進まない。
彼としてはいざとなれば殺害出来て、なおかつ御しやすい相手と行動したかった。

「気が利くな!タマゴヤキは大好きだぞ!!」
クッパは喜んで、カヤノスヅクリの偽卵を受け取る。


「ウガーーーーッ!!」
しかし、炎を、偽卵に向けて吐き出した。

「え?え?」
自分が渡したのが毒だとバレたのかと思い焦る。
案の定、それは黒焦げになってしまった。
食べれば中から尖った枝が出る、カヤノスヅクリが巧妙に作った罠も、これでは形無しだ。


「タマゴヤキにしようとしたのに、コゲたではないか!!」
消し炭になったそれを、下らないものとして握り潰す。
開いた口が塞がらなかった。

「あ、あの……やっぱりパンでも食べましょうか。」
「そうするしかないようだな。アイツら、ハラペコになるワガハイたちにあんな食べ物の出来損ないを渡すなんて、性格悪いぞ!!」


主の心の歪みは認めるが、だからといってそれは違うだろ、と心の中で思うボトクであった。
ひとまず、ボトクは頭の中で計画を変え、クッパと共に行動することにした。
この男は御しにくい暴れ馬の上、この戦いを快く受け入れている者では無い。
だが、いざとなれば自分が犯した罪をクッパに擦り付ければいいと考える。
気にくわない相手はクッパが倒してくれるし、その裏でクッパが倒そうとしない相手を殺す。
殺し合いに乗ろうとしていない者さえも絶望させる、良いプランだ。

それにクッパが言っていた、ピーチという人物も気になる。
ローザが死んだ後の、新たな依代として使えるかもしれない。

期待を胸に抱いて、白魔導士の姿を持った怪物は歩き出した。


205 : Tragedy or Comedy ◆vV5.jnbCYw :2021/03/07(日) 16:08:09 YkUDy5yw0

【E-1/草原/黎明】

【ボトク@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康 ローザの姿
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:ローザの姿で参加者に近づき、参加者を翻弄する。自分を倒したアルス、ガボ、メルビン、アイラ優先
1.クッパと共に行動する
2.最終的には優勝
※参戦時期は本編死亡後です
※原作で神父と入れ替わった魔法の発動条件・内容は、以下の通りです。
• 相手に触れれば、魔法は発動する。
• 相手を自分の姿に変えている間は、自分はそれ以外の相手に変身することも、別の相手を自分の姿に変えることも出来ない。
• 姿が入れ替わっても、ボトク自身は自分の姿に戻ることが出来る。
• どの魔法・能力・道具で治るかは不明。少なくともローザ自身のエスナでは戻らない。
• ボトクか魔法をかけた相手が死ねば、互いに元の姿に戻る。


【クッパ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(小) 腹に刺し傷
[装備]:チェーンハンマー @ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(名簿焼失)、ランダム支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:主催をボッコボコにする
1.ローザ(ボトク)と共に行動する
2.クッパ軍団を結成する
3.魔法の絨毯に興味あり
4.あのネズミ(スクィーラ)は、今度会ったら殴った後、クッパ軍団に引き込む。

※ステージ7クリア後、ピカリー神殿を訪れてからの参戦です


206 : Tragedy or Comedy ◆vV5.jnbCYw :2021/03/07(日) 16:08:32 YkUDy5yw0
投下終了です


207 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/07(日) 20:49:52 YkUDy5yw0
ゼルダ、アイラ、デマオン予約します。


208 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/08(月) 21:05:38 zqMJsGLg0
投下します。


209 : とある王家の話 ◆vV5.jnbCYw :2021/03/08(月) 21:06:13 zqMJsGLg0

静寂
1人の悪魔と、半ば無理矢理その配下にされてしまった2人の人間が、ただ歩く音のみが聞こえる。
これと言って話したいことなどなく、ただ目的地へとむけて歩いていた。
3人共沈黙は金なりを金科玉条とする性格ではない。
殺し合いの場だから、一言でも話せば死に直結するなど、そこまで気持ちが追い詰められている訳でもない。
だが、共通の話題をどうにも見つけることが出来ず、加えて互いが何を考えているかイマイチ分からないため、3人はだんまりを決め込んでいた。


その沈黙を破ったのは、意外なことにデマオンだった。
「2人共、何故先から言葉を発さぬ?映えあるデマオン軍の一員なのだぞ?」

それが一つの原因だ、と言いたい気持ちを二人は抑えた。

「今のうちに、ワシに聞きたいことあらば聞いておくがよい。配下の心情を知ることも、上に立つ者として重要なことだ。」
「一つ教えて欲しいことがあります。」
次に言葉を発したのは、アイラだった。


「デマオン様は、なぜ魔王になったのですか?」
「まさか、人間がその質問を投げかけるとはな。いいだろう、ワシが如何にして魔王になり、地球を目指すことになったか。」


アイラが見た大魔王というのは、デマオンが初ではない。
神に成りすまし、世界の全てを手中に収めようとしたオルゴ・デミーラがいたが、彼奴に比べると遙かに話の通じる相手だった。



「ワシが魔王になるまで、魔界星は腐敗しきっていた。」

彼の言う通り、数百年ほど共和政を通していた魔界の政治は、贔屓目に見ても腐り切っていた。
共和政というと聞こえこそ良いが、その中では賄賂と自らの保身、世襲悪魔同士の馴れ合いに、それを自らの力だと勘違いした愚か者の巣窟だった。
そんな烏合の衆で、魔界が好転するわけがない。


210 : とある王家の話 ◆vV5.jnbCYw :2021/03/08(月) 21:06:39 zqMJsGLg0

加えて腹が立ったことは、奴らが総じて「地球を我が手に」と言っていたことだ。
確かに地球は多くの魔界族が数百年・数千年単位で欲していた惑星だった。
優れた魔力を持つことでようやく生存が許されるほど、資源や住める場所に乏しい魔界星に比べて、地球は資源が非常に潤沢だったからである。
地球を手に入れれば、鉄や頑丈な木材を始めとする豊かな資源が手に入り、岩を魔法でくり抜いて住む住居からおさらば出来るはずだった。
加えて地球人という食糧を手に入れれば、魔界の至る所で問題になっている悪魔の餓死者を大幅に減らすことが出来る。
食糧不足のために、危険な帰らずの原に出向き、迷った果てに逆に怪獣の餌にされるような悲劇も、抑えることが出来る。
だが、彼らが考えていたのは、自分の権威の座とその日の食事に酒のこと。
地球のことなど全く意に留めず、ただ国民からの支持を得るためだけに地球侵略を声高に叫んでいただけだった。


気に食わなかった。
保身馬鹿、世襲馬鹿、高慢馬鹿、ただの馬鹿の悪魔政治家達も、中身のない演説に扇動される国民も、彼らを悪く言っておきながら、似たような案しか出せない反対者共も。
彼一人では寿命も時間も限られている以上、長いスパンでの計画の実行は難しかった。
だが、その前提を打ち破るきっかけになったのは、「心臓移しの術」である。
自らの命を司る場所を胸の内ではなく、異なる場所、しかも魔界から離れた星に移すという、とんでもない術を研究の果てにやってのけた。
これでデマオンには、デモン座のアルファ星が寿命を迎えるまで、言い換えれば永遠にも近い時間を保証された。
だからこそデマオンは、自らの知識と魔力を数十年かけて蓄え、更なる時間をかけて魔界統一を果たし、数百年ぶりに独裁政治を敷くことに成功した。
そして長きに渡り、絵に描いた餅でしかなかった地球侵略の実行と、それに向けての政策を進め始めた。



最も、民衆の中にはデマオンの独裁を忌み嫌う者や、地球侵略を掲げたことで、同じ轍を踏むと思い込んでいた者も少なくなかった。
しかし、その意見がガラリと変わったのは、既に自身の心臓を移す際にもやってのけた、「魔界黒炎層突破案」だ。

魔界星の大気圏は、厚い炎の層に包まれている。
南極地域など、ごくわずかながら炎が薄くなっている箇所はあるが、それでも星外移動方法は限られる。
悪魔族なら魔術で結界を張れば耐えるのは難しくないが、問題は魔界星から地球へ移る際に重要になってくる、移動用魔界獣の存在だ。

そこでデマオンは魔法による魔界獣・魔界竜の改良方法を発見し、炎に強い毛皮や鱗を持つ種を作るのに成功した。
魔法の炎にこそ耐えるのは難しいが、魔界星の突破さえしてくれれば問題はない。
これこそ彼が大魔王として称賛される一件になった。

賞賛さえされれば、後はトントン拍子に侵略計画は進んだ。
偵察者を用意し、逆にナルニアデスのような自分達を嗅ぎまわる地球人を殺していき、魔力に優れた者を集めて魔界星の軌道を操作して地球に近づける。


「これがワシが大魔王になった過程だ。本当は実力もないのに威張り散らしていた輩が気に食わなかっただけだがな。」

壮大な自身の半生を二人に聞かせた。
どこか人間の世界に通じなくもない彼のサクセスストーリーは、いずれ敵になるはずの二人にとっても、魅力的なものだった。


「随分苦労したのですね。」
長らく言葉を発していたのはデマオンのみだったが、そこでアイラが口をはさむ。

「それほどでもない。逆に貴様らは如何にして今の座を掴んだ?ワシに隠しても無駄だ。どこか高貴な立ち居振る舞い、王家かそれに近しい者に違いない。」

(?)
アイラは疑問に感じた。
ゼルダこそ確かにハイラルの姫だというのは、会話で分かっている。
だが自分は、1つの住まいを持たず居住地を転々とするユバールの民。
言ってしまえば、王族とは完全に対である者だ。
確かにアルス達の冒険に加わり、グランエスタード王との親睦も深まったが、それで一目見て分かるほどの王族らしさが身につくわけでもないはずだ。


211 : とある王家の話 ◆vV5.jnbCYw :2021/03/08(月) 21:06:59 zqMJsGLg0

「ええ。私の姫になった原因は……。」
そう思っているうちに、ゼルダの方が言葉を紡いだ。
そして、白の手袋から見せたのは、正三角形が3つ連なった文様。
仲間ではなく、一時的な同盟相手にこのようなことを教えるのもどうかと思ったが、相手に対して不躾だと思い、見せることにした。

「それが、王族たる条件ということか。」
知恵のトライフォース。
彼女の手に宿り、ハイラルの行く末を委ねる大いなる力だ。
それゆえ、ハイラルの侵略を狙う者も後を絶たない。

この邪悪な催しを開いたザントも、その一人だ。


「後天的な力ではなく、先天的な力によって、手に入れた力か。
ならばゼルダよ。時にその力、忌み嫌ったことはないのか?」
「本当のことを言えば……。ザントがハイラルを侵略したのも、恐らくこの力を求めたことでしょう。」


―――選ぶがよい。降伏か、死か。
―――ハイラル全土の、生か死を!!

一人一人殺されていくハイラルの兵。
ザントに突き詰められ、彼女が選んだ選択は、降伏だった。


「あのデク人形も、下らぬことを。」
デマオンの言葉に含まれていたのは、ゼルダに対する同情などではなく、侵略する予定の国が1つ減ったことへの落胆だったのだが。


「まあいい。アイラ、貴様はどうなのだ。家柄か?それとも実力か?」
「お言葉ですが、私は王族ではありません。遊牧の民です。」
「なんと……ワシの目も曇ったものよ。」


目の前の相手が、王族とは真逆の生き方をしていることに、さしものデマオンも驚く。

「いえ、私の先祖に、遠い国の王子であったのに、私達の守り手になった方がいます。もしや、その方を?」
「王家から遊牧の民?逆ならともかく、王から平民の身へと移るなど、何があったのだ?」

これにはデマオンとしても驚きだった。
平民から王への成り上がりなら自分と同じ、相当なハングリー精神の持ち主だと褒め称えるべきだ。
だが、強制された場合はともかく、自分から進んで魔王から平民の身に成り下がった者など、見たことがない。


「私も詳しくは知りません。けれどその方は、王家での生活を嫌い、自由なユバール族にあこがれを持っていたそうです。」

デマオンにとっては、全く訳の分からない話だったが、詳細を聞いてみれば極めて納得がいく話だった。
(言われてみれば、あの薄汚い政権に愛想をつかす者がいなかったのが、おかしいくらいだな。まあ不快感を抱かなかったからこそ、あの政権に留まったか)


「なるほど。中々どうして面白い話だった。暇つぶしにはなったな。」


212 : とある王家の話 ◆vV5.jnbCYw :2021/03/08(月) 21:07:16 zqMJsGLg0

そこでデマオンが疑問に感じたのは、二人の配下から聞いた王国のことだ。
これほど多くの王国があるのは、いくら何でも異常ではないかと。
独裁制を始める前でさえ、あまり国そのものが少なかった魔界出身のデマオンだからそう感じたというのもあったが。
地球以外の別の星と捉えてもいいが、魔王がかつて見た「あるもの」と照らし合わせると、合致する点があった。
それは、かつて自分を討った青ダヌキが腹の袋から出していた道具。
奴等は姿を消したり、物を大きくしたり、空気の弾を飛ばしたりと、あの手この手で攪乱してきたが、それには全て謎の道具があった。


あれは悪魔族の手により作れる物では無い。
文明の差ではなく、もっと根本的な理由で作れないのだ。
自分にとって誠に荒唐無稽な話を持ち出すなら、「科学の力」の道具だ。
しかし、魔界でも科学の力というのはおとぎ話の世界に通じている。
だが、あの道具と言い、この首輪と言い、どうにも科学の臭いを感じる。


何らかのはずみで、科学の世界が、自分達の世界につながった様な。
そして、この殺し合いもまた、そのような者がいるはず。


(奴らは一体、何を考えている?)
この殺し合いを開いたデク人形のことだけではない。
思えば、科学の力を持った地球人が魔界星に攻め込んできた理由も、不明だ。
もしや面白半分、はたまた何らかの事故で、科学の力を持ったまま、魔法の世界に入ってしまったとか?
またしても無茶苦茶な考察をしてしまったが、再度考えてみても、スジが通っているため、余計不気味に感じてしまう。


話が逸れてしまったが、科学世界の地球人とは違う。
彼らは曲がりなりにも、自分を倒し、地球を守るという信念に基づいていた。
だが、デク人形共は何がしたいのかはっきりしない。


(まあ、今考えた所で分からぬか。)

考えを一度中断した所で、目的地の建物が見えてきた。
予想外なほどすんなり到着してしまった。
このまま上手くいけばいいのだが、と三人は願う。
叡智の宝庫とも言われる、図書館で何が待ち受けているのか、それはまだ誰も知らない。



【C-5/草原/黎明】

【D-5/大魔王の城/一日目深夜】

【アイラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康 職業 調星者 (スーパースター)
[装備]:ディフェンダー@ FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラを再度討つ デマオンへの警戒
1.デマオンには警戒しながら同行する
2:アルス達を探して合流する
※職業は少なくとも踊り子、戦士、武闘家・吟遊詩人・笑わせ師は極めています。
参戦時期はED後。



【ゼルダ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 】
[状態]:健康
[装備]:アルテミスの弓@ FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:ザントの企みを阻止する デマオンへの警戒
1.デマオンには警戒しながら同行する
2.アイラの仲間(アルス達)を探して合流する
3.ミドナ…あなたもいるのかしら?

参戦時期はミドナとリンク(狼)が出会い1回目の頃。
※参加者のトランプは確認していない。



【デマオン@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:健康 魔力消費(極小)
[装備]:世界樹の葉@ ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:不遜なるデク人形(オルゴ・デミーラ、ザント)をこの手で滅し、参加者どもの世界を征服する
1.図書館に向かい、情報収集する
2.部下であるアイラとゼルダを引き連れる
3.刃向かうものには容赦しない
4.青だぬき共の処遇はこの場では不問とする
5.この世界は一体?


213 : とある王家の話 ◆vV5.jnbCYw :2021/03/08(月) 21:07:26 zqMJsGLg0
投下終了です。


214 : ◆2zEnKfaCDc :2021/03/12(金) 11:37:21 J3tqbyDE0
『愛を込めて。』の投下主です。>>199の経緯通り、アニメ版新世界より準拠に修正したものを投下します。


215 : 新世界の礎に ◆2zEnKfaCDc :2021/03/12(金) 11:38:04 J3tqbyDE0
ㅤ大好きな人たちと、一緒にいたい。それ以上は何も望んでなんていない。ただ、生きていたいだけ。ただ、殺されたくないだけ。その願いは、罪ですか?

ㅤ誰かを傷つけずとも。悪鬼となるつもりがなくとも。ただ、呪力が少し弱いというだけで、大人たちに不安を与えるというだけで、私たちはどうして死ななくてはならないのでしょう?

ㅤ私――秋月真理亜は独り、月明かりの下に立っていた。共に生きると決めた男はもういない。処分対象になっていつ殺されるかも分からない環境に身を置くことは自分から選んだはずなのに、いざ首輪を嵌められてそんな世界に降り立ってみれば、守が隣にいないというだけでこんなにも恐怖心が湧き上がってくる。私だって、守と同じ。繊細で弱くて、優しい……かどうかは分からないけれど、とても人なんて殺せない。

ㅤ名簿の書かれたトランプに伏し目がちに目をやる。人間の顔も、バケネズミ(人間以外)の顔も、描かれているものは様々。

「守っ……!ㅤ……と、早季と……えっと……覚……なのよね……?」

ㅤしかしそこには無視できない、大切な人たちの名前があった。写真を入手できなかったか、早季の写真は幼い頃のものに見える。また、覚の写真は前に会った時よりもかなり老けている。疑問は多少、無いわけではないが、しかしその名前と大まかな風貌、紛れもなく彼らであると断言できる。

ㅤ死にたくなんてない。それならばこの殺し合いに勝てば、生きて帰れるのかもしれない。そんな考えはいくらでも浮かんでくる。"処分"を免れるために生まれ故郷も両親も捨て去って、自然の中で生きることを決めた時のように、足枷となるものを切り捨てて生きる。それはきっと正しいのだろう。

ㅤだけどそのために切り捨てられるのは、幼い頃から控えめな私たちを先導し、引っ張ってきた覚であり。切なさも悲しみも共に分かち合ってきた恋人の守であり。そして私の大好きな親友、早季でもある。

ㅤ確かに死にたくなんてない。その気持ちに、嘘偽りなんてありはしない。でも、いつも隣にいてくれる人がいない世界でどう困難に立ち向かえばいいのだろう。いつか逢いたいと願う人を殺した私は、何を希望に生きていけばいいのだろう。大切なものを失いながら戦って、そうして勝ち残った私に残ったものは何も無い。それは果たして、希望と呼べるのだろうか。


216 : 新世界の礎に ◆2zEnKfaCDc :2021/03/12(金) 11:39:04 J3tqbyDE0
(殺し合いなんて……嫌だよ……。)

ㅤ殺意や破壊衝動といったものを、真理亜は知らない。そういった類の感情を抱かぬよう思想教育を施されてきた。ましてや、親友や恋人を殺すなど、想像するだけで身の毛がよだつ。へたへたと、その場に倒れるように座り込んだ。

――ポトッ。

「ヒイッ……!」

ㅤその時、何かが落ちる音がした。唐突な物音に背筋が凍りつく感覚に襲われる。間もなくして、その音の正体が、自分のザックから何か支給品がこぼれ落ちた音だと気付く。

「鏡……?」

ㅤそれは美しい装飾が成された丸型の鏡だった。裏面には説明書きのようなものがセロテープ貼りで備え付けられている。

(わざわざ鏡に説明書……?)

ㅤ不思議な取り合わせだ。鏡など説明されるまでもなく用途は分かっている。もし鏡を用いる文化の無いバケネズミのスクィーラが招かれていることに真理亜が気付いていれば、連鎖的に説明書に疑問を持つことも無かったのかもしれない。しかし説明書に疑問を持ったことで一周まわって冷静になり、おそるおそる説明書に目を通す。


【ラーのかがみ】

『真実を映す鏡。』


ㅤ拍子抜けしてしまうほどに、あまりにも簡潔に纏められていた。そもそも鏡は真実を映すものではないのか。否、厳密には、鏡に映る像は実態に比べ左右対称であり、人は自分の顔を正しく観たことがない。では、そこを矯正すれば真実なのか?

ㅤ堂々巡り。ラーのかがみについての疑問は尽きない。鏡といえば、覚に見せてみれば呪力で形成できる鏡とどう違うのかを分析してもらえるかもしれないが、それは今すぐではない。今は何はともあれ試すのが早い。おそるおそる、鏡を覗き込む。

「…………。」

ㅤそこに映っていたのは、目じりに涙の痕が残った自分の顔。いつかの守と同じ、死への恐怖に怯えていて、頼りなくて――二度とこんな顔をさせたくないと思った彼と何も変わらない表情で自分が映っていた。

「うっ……!」

ㅤそして――何かが頭の中に流れ込んできた。

「わ……」

ㅤ1班にいたはずの少年、Xの存在。すでに、誰かを喪失しているという実感はあった。

「わた、し……」

ㅤだけど、少なくとも"彼"のことは喪失ではなかった。何を失ったかも覚えていない。辛いとか悲しいとかに先行して、その記憶を保持していないことへの恐怖があった。

ㅤましてや、"彼女"はなおさらだ。その痕跡とて辿れていなかったし、その存在を掴めていなかった。

「思い出した……!」

ㅤだから――これは紛れもなく喪失なのだ。

ㅤ感情が決壊し、涙がぽろぽろと零れ落ちていく。夜露に晒されたように、踏み締めた大地がしっとりと濡れていく。


217 : 新世界の礎に ◆2zEnKfaCDc :2021/03/12(金) 11:39:38 J3tqbyDE0
「瞬……麗子……みんな……あっ……ああっ……!」

ㅤ無くしていた友達との思い出を、彼らを失った後で取り戻したのなら――それは今ここで起こった喪失と言って差し支えない。まだ殺し合いも動いていないその時から、真理亜は二人もの友人を亡くした。仮に、オルゴ・デミーラへの反逆に成功し、偶然に早季も覚も守も、誰も欠けることなくこの殺し合いを脱出できたとしても、すでにハッピーエンドは失われているのだ。他の皆が忘れており、誰とも共有できない悲しみを、独り一生抱えて生きていかなくてはならない。仮に皆がラーのかがみで2人のことを思い出したとすれば、今度は彼らの欠けた穴を埋めることのできないまま、蟠りの残った日々が待ち受けている。

ㅤそもそもの話、この世界から脱出しても、瞬と麗子が消された世界が無くなるわけじゃない。見つかれば、私と守も消される。早季や覚の記憶は再び操作され、いなかったことにされる。

「嫌ッ……そんなの……耐えられないッ!」

ㅤ八方塞がりだった。殺し合いなど関係無しに、すでに希望など潰えていた。

ㅤ最初は、6人。そこから1人ずつ脱落していき、今や4人。残った彼らの命も脅かされつつある。

「どうして……どうして私たちは……死ななくてはならないの……?」

ㅤ死に怯えることなどなく、大好きな人たちと一緒に過ごしたかった。それだけで良かったのだ。たったそれだけのことが叶わないのは、きっと生まれる世界を間違えたのだ。100万分の1の悪鬼でなくとも、少し世界に適合できないだけで間引かれなくてはならない。そんな世界だったからこそ、願いは叶わない。

「無理だよ。みんなを殺して生き残るなんてできない。守も……それに覚だって、耐えられるわけがない。」

ㅤ真理亜の世界の人間は、他害感情を抱かない。ボノボをなぞった愛情型社会を形成したことで、他害に結びつくストレスが生まれない環境で生きてきた。それはある意味では幸せなのがしれないが、しかしその分、与えられるストレスには格段に弱い。


218 : 新世界の礎に ◆2zEnKfaCDc :2021/03/12(金) 11:40:37 J3tqbyDE0
「でも――早季なら耐えられる。」

ㅤそれでも、早季だけは違った。

「早季なら、瞬や麗子の死を思い出したとしても、私たちが死んだとしても、その悲しみを乗り越えて前に進める。」

ㅤそれが、彼女を大好きなところで、同時に少し眩しくもあるところだ。彼女と一緒の道を歩もうとしたら、弱い私はきっと足を引っ張ってしまう。あの時、一緒に町を出ようと言いたかった。だけどそれを言ってしまったら、彼女と積み上げてきた何かが崩れ去ってしまう気がして、言えなかった。

「貴方ならきっと、いつか子供たちが死ななくていい町を作ってくれると思う。だから……」

ㅤああ、本当は。いつか彼女が作り上げたその町で、私も一緒に過ごしたい。やっとまた会えたねって、大好きな早季をもう一度、この腕の中に抱き締めたいんだ。

ㅤでも、駄目だよね。まだ方法は思い付けないけれど――私は人を殺すから。私なんかが貴方の町にいたら、皆の不安を高まらせて、子供を殺す世界に逆戻りさせてしまうから。

「私は早季を――優勝させる。」

ㅤそれは、残酷な願いを彼女に押し付けるということだ。私と覚と守の死から――そして瞬と麗子の喪失から立ち直って、私たちみたいな犠牲者を出さない町を作る決意をさせるということ。

ㅤ瞬と麗子のことを忘れていて、子供を守りたい動機の薄い彼女なら分からないけれど、彼らのことを思い出した上で、さらに私たちまで失った彼女なら、その決意は絶対に今よりもずっと固まる。きっと本懐をやり遂げてくれるに違いない。

ㅤ彼女にこんな役目を押し付けるのも、心が張り裂けそうなくらいに痛む。だけど、やらなくちゃいけないんだ。だってもう、瞬と麗子は死んでるから。あの日々はどうやったって帰って来ない。過去は決して変えられない。だから未来を作ることでしか、その悲しみを埋めることはできない。みんなの犠牲に意味はあったんだよって、そう思えなくちゃ生き残った人たちは報われないから。

「だから新世界を、貴方に託すね。」

ㅤどうやら、涙はしばらく止まってくれそうにもない。死ぬのが怖いのも、殺すのが怖いのも、何一つ変わっていない。友達の喪失も、心を締め付ける。

ㅤ何もかもが心を折りにかかってくる世界。それでも、早季のために戦ってみせると決めた。弱くとも、儚くとも、私なりの在り方でめいっぱい未来を探してみせる。

ㅤその生き様たるや――雪に咲く花の如し。

【B-6/草原/一日目 深夜】

【秋月真理亜@新世界より】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品 ラーのかがみ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たちㅤランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:渡辺早季@新世界よりを優勝させる。
1.人間はどうやって殺そうか。

※4章後半で、真理亜と共に神栖六十六町を脱出した後です

【支給品紹介】

【ラーのかがみ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たち】
真理亜に支給された道具。モシャスの呪文などで姿を偽っている場合、真実の姿を暴く事が出来る。真理亜に植え付けられていた偽りの記憶も、真実のものに書き換えられた。


219 : ◆2zEnKfaCDc :2021/03/12(金) 11:41:18 J3tqbyDE0
以上で投下を終了します。


220 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/12(金) 13:22:17 EpS//yUU0
修正ありがとうございました。
特に小説・アニメ版と大きな違いは見られず、何より世界観をフルに使った点が面白かったので、早速編集してきます。
そしてこれにて、秋月真理亜の予約を解禁します。


221 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/12(金) 15:14:51 EpS//yUU0
渡辺早季、ドラえもん予約します。


222 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/12(金) 15:24:44 EpS//yUU0
>>220

真理亜に加えて、クリスチーヌの予約も解禁します。


223 : ◆s5tC4j7VZY :2021/03/13(土) 08:00:14 1bIapPb.0
投下お疲れ様です!

Tragedy or Comedy
空飛ぶ絨毯に乗りたがり、乗れず火球を飛ばすクッパが可愛く感じちゃいました。
デマオン同様に我が道を進むタイプのクッパをボトクは制御できるのか?…正直、苦労する未来しか思い浮かびません(笑)

とある王家の話
登場話を描いた自分が言うのは恥ずかしいですが、デマオンのキャラが味が深まっていいですね。
「2人共、何故先から言葉を発さぬ?映えあるデマオン軍の一員なのだぞ?」

それが一つの原因だ、と言いたい気持ちを二人は抑えた。
↑個人的に大好きです。
後、アイラがデマオンのことを「様」で呼んだのが機嫌を損ねないためとはいえクスッときました。

新世界の礎に
修正お疲れ様です!
新世界よりの世界観がとても伝わる描写、勉強になります。

その生き様たるや――雪に咲く花の如し。
↑素敵で好きです。

投下します。


224 : 命、擲って ◆s5tC4j7VZY :2021/03/13(土) 08:01:43 1bIapPb.0
矜持ーーーーー自分の能力を信じていだく誇り。自負。プライド。
広辞苑より

「どうやら……始発列車は出発したようですな」
「そうね。残念だわ」

ゴロツキ駅を目指していたピーチ姫とそれに同行する奇狼丸はA-3ハイラル駅へ到着したが、時刻表を確認したところ残念ながら一足遅かったようだ……

「どうなされますか?時刻表を確認するかぎり、次に列車が来るのは放送後のようですが」
奇狼丸の言葉を受け、ピーチ姫は駅に設置されている時計台で時刻を確認する。

「列車が来るまで、時間がかかりそうね。だけど、この視界が悪い夜の中を歩き回るのは危険だわ。ここ(ハイラル駅)で少し、仮眠をとりつつ待つのが最適じゃないかしら?奇狼丸さんはどう思う?」

「は!神様のおっしゃる通り、土地勘がわからぬ見知らぬ場所を闇雲に歩くのは危険です!それでは、私がここで寝ずの番をします!神様はどうぞ安心してお休みください」
「そう?ならそうするわ」
(神様…もしかして奇狼丸さんはキノコ王国の住民になりたいのかしら?)
ピーチ姫は奇狼丸の自分を「神様」と呼ぶことに首を傾げながらも申し出を受け、駅のベンチに腰を下ろし、仮眠をとる……

「すぅ…すぅ…zzz〜……」

「……」
(しかし……王族か……)
少しの安眠をとっているピーチ姫を眺めつつ奇狼丸の脳裏に浮かぶのは、文献に残されたかつて非能力者を奴隷とした国の帝の言葉。

「最初に拍手をやめた者から100人までをこの禊の日の生贄とする!」
神聖サクラ王朝五代目大歓喜帝による蛮行。

(話し方や所作を観察する限りでは、この人間からそのような王政を敷いてはいないように見受けられる。だが、所詮は人間。パラレルワールドとはいえ、神を自称する支配者と同じ……)
奇狼丸は、ピーチの言動や行動から自分達バケネズミを管理する人間とは違うと感じつつも長年の高圧的態度を受けていたせいか完全に気を許してはいない。

(だが、この状況、人間と手を結ばなければ元の世界に帰ることは困難。友好的に接するのが一番)

☆彡 ☆彡 ☆彡


225 : 命、擲って ◆s5tC4j7VZY :2021/03/13(土) 08:05:35 1bIapPb.0
「ふはははは!まさか、こうも早く姫と再会できるとはなんとも幸運!」
仗助とキョウヤを取り逃がしたバツガルフはその後、近くにあるハイラル駅へ立ち寄ったのだ。
「しかし、あの犬っころは邪魔だな……駆除するか?……いや、まてよ。駒があればアイツら(仗助・キョウヤ)のように徒党を組んだクズどもにも対抗できるかもしれぬな」

始めは奇狼丸を有無も言わさずに処理しようと考えたバツガルフだが、手ごまが欲しいと考え直した。

「神様!起きて下さい!!あれは、神様が警戒為されていた人物のようですぞ!!!」
「え?……バツガルフ!?あなた生きていたのね!」
「ほう!?やはり犬っころだけに鼻が効くようだ。……ふん!私がそう簡単にくたばると思ったのか?」

「姫よ。お前はマリオへの切り札(ジョーカー)となる。私に従え!」

「フン!それとそこの獣(ケダモノ)私の駒として働けること光栄に思うがよい」

「…断る。それに私は「奇狼丸」だ。犬っころではない」

「ふん!じゃあ、呼び名を変えてやろう。獣(ケダモノ)でどうだ?」

「!!??…ギキョルキ」
バツガルフの横暴に奇狼丸は怒りを見せる。

駅内に緊迫が走る。

「ファイアウェーブ!!」
バツガルフの十八番が先陣を切る!!

「フン!」
ファイアウェーブを避けると、奇狼丸はバツガルフを一刀両断しようと駆け寄る!

(体が軽い!この刀……やはり、呪力のような力が込められているようだ)
そう奇狼丸に支給され装備している刀……正宗の効果。
正宗には所有者の動きを俊敏にする効果があるのだ。

「…タイムストッパー」

パキ―――――ーーン

「なッ!!??」
なんと、一瞬でピーチ姫と奇狼丸の時が止まった!!

((う…動けない!?))

「動きが速いのなら止めてしまえばいいのだ」

「ファイアウェーブ」
ーーーーー紅蓮の炎が奇狼丸の体を包むと同時に時が解除された。

「グオオオオオォォォオオ!!」
「キャ!?」

「チッ……」
(時止めは、一瞬かッ!?クソ!!余計な制限をかけおって!!)
自身の能力の制限にバツガルフは舌打ちする。

「しかし……所詮は獣。クズだな」
(威力も先ほどよりも上がっている…この杖がなじんできた証拠か)
重度の火傷を負った奇狼丸を見下すバツガルフ。

「だが、ここで駒を失うのは痛い…どうだ?今一度問おう。ここでワタシに頭を垂れてつくばえ!そうすれば、命だけは助けてやろう」

(命だけは……だと?)
奇狼丸にとってそれは、元の世界と同じ境遇を意味する。
バツガルフに頭を垂れることはバケネズミとしての尊厳を捨てる行為!!

奇狼丸の矜持ーーーーー


226 : 命、擲って ◆s5tC4j7VZY :2021/03/13(土) 08:06:56 1bIapPb.0
「こと…わる!!!!!」

「奇狼丸さん!その傷じゃ、無理だわ!!ここは一度、バツガルフの言う通りにして!」
「私はまだ…やれ…ま…す」

「人…ですらない機械に…も頭を垂れればもはや、バケネズミの…独立は永遠に…叶いませ…ん」
「それ(独立)が、何だと言うの!?命さえあれば何度でも機会は訪れるわよ!」

「泣き言は墓穴に入ってからウジ虫に聞かせろ!」

「え!?」
「我々の諺です。心臓が鼓動を止めるまで逆転の方法を探し求める…それが、兵士の本分…いえ…生きている限り戦い続けるのが生物の本分なのです…!あなたは諦めるのが速すぎる」

「!?」
奇狼丸の言葉にピーチ姫は目を見張る!!

「マリオという男神様がどのような方かは存じ上げませんッ!!しかし、この状況で助けが必ず来るとは限りませんッ!助けがこなかった場合、あなたは何も行動せず

「これを…奇狼丸さん」
ピーチは奇狼丸のザックにあった「ナンシークッキー」を口に運ばせる。

「これは……痛み入ります……!」

「神様…危険ですので私から離れて下さい…大丈夫。あの機械は私が木っ端みじんに破壊して…みせましょ…う」

奇狼丸はヨロヨロとしつつも立ち上がるが……

「ふん!やはり知能がない獣だったか…ならここで滅びろ!!」
情けを与える隙も無い追撃のファイアウェーブ。

「グアアアァァァァァ!!!!!」
プスプスと奇狼丸の体から焦げた匂いが立ち昇る。
それでも、大雀蜂コロニーの将軍としての意地か、仁王立ちのまま!!

「ふん。獣風情が手を煩わせおって……それでは、姫よ。私についてこい!」
バツガルフはピーチ姫に近づく……

「…ヤです」
「ん?何だ?言いたいことがあるのならば、はっきり喋るんだな!」
バツガルフは高圧的な態度を崩さない。

「イヤ!と言ったのです!!」

ーーーーーカァァァアアアン!!!

フライパンのフルスイングーーーーー

「ガッ!?アアアァァァ!!??」
予期せぬ頭への強烈な攻撃に頭を抱えるバツガルフ。

☆彡 ☆彡 ☆彡


227 : 命、擲って ◆s5tC4j7VZY :2021/03/13(土) 08:11:51 1bIapPb.0
〜キノコ王国でのとある会話〜

「ピーチ姫、またクッパに攫われたようだよ」
「また?……でも、マリオさんがいつものように助けたんでしょ?」
「そりゃ……まぁ……お約束だからね」
「しかし、姫もよく攫われるね……」
「ははは……でも、姫が冒険に出て主力パーティーだったって噂があるよ」
「本当に!?」
「なんでも……姫にフライパンは最強らしい」

☆彡 ☆彡 ☆彡

「もう、助けを待つだけの私じゃないわ!バツガルフ!!ここであなたは倒れるのです!!!」

ーーーーーピーチ姫。キノコ王国の姫。
国民に慕われ、その美貌は大魔王クッパを虜にして幾度となく攫われる。
クッパに攫われる回数は実に6回。(マリオブラザーズ1・2・3、ワールド、64、ストーリー)
おそらくこのような催しに巻き込まれなければ今後も増えるだろうと予測される姫。
あまり知られてはいないがそんな攫われの姫も自ら戦いに参加したことがある。
それは、夢の国を支配する魔王と武器世界の魔王との対峙。
中でも武器世界の魔王がマリオワールドに侵攻してきた時、なんと!ピーチ姫はマリオがとある男との結婚式を阻止した後、パラソルを武器にマリオ達のパーティーに参加したのだ。
ちなみにその時、ピーチ+フライパン=最強の方程式が生まれた。

ピーチ姫の矜持ーーーーー

「な…ら、もうお前は「死体」でも構わない!!」
ピーチの矜持にバツガルフは人質ではなくピーチの命を奪い、その亡骸をマリオへのジョーカーとして利用しようと作戦を変更した。

「死ね!ファイアウェーブ!!」
炎の衝撃破がピーチを襲う。

「さらにバツバリアン!てんか……!?」
姫の抵抗が予想外だったため、バツバリアンを展開してなかったバツガルフは今度は、きちんと準備をしようとするが……

(あの冒険を思い出すのよ!タイミングよく腕を振るッ!!)

カァァァアアアン!カァァァアアアン!!!

「ガッアアアァァァ!!??ま…た…!?頭がッ!!??」
バツバリアン展開よりもピーチ姫は素早く動くと同時に攻撃を加えた!

「な…ぜ…こんな…にすばや…はッ!?」
ピーチ姫の素早さにバツガルフは疑問が生まれるが、直ぐにその理由が分かった!
そう、奇狼丸のアシストーーーーー

正宗は道具として使うと「ヘイスト」の効果が付与される。
仁王立ちのまま既に瀕死である奇狼丸の口元がニヤリとバツガルフを笑う。

「この死にかけのクズがぁぁぁぁああああ!!」
奇狼丸の頭上に一際大きい雷雲が形成され……

「メガサンダー!」

「…コロニー…女王様……」

脳裏に去来するのは、無限の後悔だけ。ここで無意味に殺されるくらいなら、どうして、あのとき、悪鬼と刺し違えるチャンスを見送ったのだろうと……

命を刈り取る雷が奇狼丸を包み込んだーーーーー

「奇狼丸!」
「ふはははは!悲しんでいる場合じゃないぞ!」

パキパキ―――――

(足が!?)
奇狼丸の死に動きを止めたピーチの足元にすかさずアイスレーザーを放ち凍らせる。

「ふはははは!安心して死ね!お前の体はマリオ対策として有効に使ってやる!!」
この戦闘で幾度もなく繰り返される攻撃ーーーーーファイアウェーブがピーチに襲い掛かる!!!

「マリオ……ごめんなさい」

ーーーーービュッッ!!
「……え?」
「なッ!?」

ピーチ姫に放たれたファイアウェーブを防いだのは飛来してきたトルナードの盾。

「また、クズが現れたか……」

「奇遇だな……俺も同じことを思っていた」

その男性の服の色は彼女をいつも救う赤色ではなく緑色ーーーーー
(緑?ルイージ?……ッ!?この方はあの怪物に立ち向かった人。それにしても、マリオに負けない強い瞳……)

しかし、敵を見据える瞳は姫を毎回救う赤色のスーパースターと同じだったーーーーー

【奇狼丸 @新世界より  死亡】
【残り 46名】


228 : 命、擲って ◆s5tC4j7VZY :2021/03/13(土) 08:12:02 1bIapPb.0
【A-3/ハイラル駅/一日目黎明】

【バツガルフ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:えいゆうのつえ@ドラゴンクエスト7
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜2 確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し世界征服を叶え、ついでに影の女王へ復讐する。
1.ピーチ及びリンクを斃す。
2.打倒マリオ。その為の支給品集め。
3.マリオを味方と偽る形での悪評も考えておく。
※参戦時期は影の女王に頭だけにされて間もなくです。

【ピーチ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:健康 ダメージ(小) 右足凍傷
[装備]:愛のフライパン@FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品&ランダム支給品1〜2、
     たべっ子どうぶつ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本行動方針:ゴロツキ駅へ向かい、マリオを探す
1:リンクと共にバツガルフを倒す。
2:奇狼丸さん、あなたから教わったこと「泣き言は墓穴に入ってからウジ虫に聞かせ
  !」は忘れないわ
3:バツガルフ、およびスクィーラに警戒

【愛のフライパン@FINAL FANTASY IV 】
ヤンの奥さん愛用のフライパン。
ブッ叩くことで気を失っている人を叩き起こせるが良い子は真似をしないように。
愛のフライパンでおしおきよ💗

[たべっ子どうぶつ@ジョジョの奇妙な冒険]
奇狼丸からピーチ姫に移った食べ物
こちらは食べても空腹をしのげるだけ。
「靴のむかで屋」の主人の大好物

【リンク@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:健康 服に裂け目 疲労(小)
[装備]:光の剣@FF4
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:主催を倒す
1.ピーチ姫と共にバツガルフを倒す
2.ゼルダ姫・ミドナと合流して守る
3.カインは次会ったら倒す

※参戦時期は少なくともザントを倒した後です。
※地図・名簿の確認は済みました。
※奥義は全種類習得してます

※奇狼丸の遺体に政宗がある。
※ピーチの目の前にトルナードの盾@ドラゴンクエストVIIが置かれています。


229 : 命、擲って ◆s5tC4j7VZY :2021/03/13(土) 08:12:31 1bIapPb.0











(…何だか、これってチャンスじゃない?)

リンク・ピーチ姫とバツガルフが対峙しているハイラル駅、駅内のまだ、破壊されていない柱に潜みながら様子を窺う影……同じ参加者である佐々木ユウカ。

彼女の行動がこの闘いを左右するかもしれない……

【佐々木ユウカ@無能なナナ】
[状態]:ナナへの憎悪(極大)
[装備]:虹村家の写真@ジョジョの奇妙な冒険、イリアの手作り馬笛@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[道具]:虹村形兆の死体@ジョジョの奇妙な冒険、イリアの死体@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、基本支給品、遺体収納用のエニグマの紙×2@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本行動方針:シンジと添い遂げるために優勝する
1.どっちの味方(リンク・ピーチ姫/バツガルフ)をしようかな……
2.形兆の能力で参加者を狙っていく。
3.ナナちゃんだけは絶対に許さない。
4.リンクやその知り合いと出会ったらイリアも使ってみようかな。
5.何人かは味方と思わせるようにしておきたい。
6.ABCDの参加者と接触してシンジを探す。
7.朝の立ち回りも考えないと。

※参戦時期は死亡後で、制服ではありません。
※制限である死体操作可能なのは一体までを認識しました。
 現在の操作は 遺品:虹村家の写真 対象:虹村形兆
 また死体の移動距離は同エリアの端までです(此方は気づいてない)
※イリアと形兆の能力で、リンク、仗助などの情報を得ました。
 イリアの参戦時期がいつ頃のかは後続の方にお任せします。
※由花子との情報交換でジョジョの奇妙な冒険の参加者の能力と人柄、世界観を理解しました。。
 但し重ちー、ミカタカ、早人に対する情報は乏しい、或いはありません(由花子の参戦時期で多少変動)

【イリアの死体@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス】
見せしめに殺された彼女の遺体
酷い状態だが、死体操作なら一時的に元通りの状態になる
残念ながら彼女自身に特別秀でた能力はないが、
名簿のトランプには参加者として残ってるのも事実
死体操作に必要な遺品は『手作りの馬笛』
使えば何処かにいるエポナを呼べるかも。いればの話だが。

【虹村形兆の死体@ジョジョの奇妙な冒険】
音石明によって殺害された虹村形兆の遺体
肉体は黒焦げだが、上述のとおり別段問題はない
死体操作に必要な遺品は『虹村家の写真』
此方はスタンド【バッド・カンパニー】を使役することが可能
ステータスは破壊力:B スピード:B 射程距離:C 持続力:B 精密動作性:C 成長性:C
ミニチュアサイズの歩兵約六十名、戦車七台、戦闘ヘリのアパッチ四機をビジョンとした群体型スタンド
歩兵はナイフや地雷もあるが主に射撃能力に優れ、サイズは小さいだけで破壊力は本物
歩兵の銃ならまだしもアパッチや戦車の威力は壁も十分に壊せるだけの攻撃性を持つ
それでいて群体型スタンドの特徴として、スタンドがやられても本体へのダメージは軽微
総じて戦闘、諜報、隠密など極悪中隊の名に恥じない多彩な用途を持つスタンド
ただし、事実上ユウカによる操作なので理知的で几帳面な彼ほどの戦術の披露は難しい
当然ながら死体操作で操作してるので、これ以上のスタンドの成長も大して望めない

【エニグマの紙@ジョジョの奇妙な冒険】
厳密には支給品のおまけ。宮本輝之助のスタンド【エニグマ】の紙。生物、物質問わず紙に取り込める
重量は感じず、臭いも嗅覚に優れなければ感じず、腐りもしない保存性を誇る。破くと中身も破損する
ただしあくまで死体を収納するためのおまけのであるため本来の収納はできず遺体にのみ限られる
一方で遺体に限れば入れることが可能。


230 : 命、擲って ◆s5tC4j7VZY :2021/03/13(土) 08:12:48 1bIapPb.0
投下終了します。


231 : 命、擲って ◆s5tC4j7VZY :2021/03/13(土) 08:51:43 1bIapPb.0
すみません!技名を間違えていました。すみません……

「…タイムストッパー」→「…タイムストップ」
に修正します。


232 : 名無しさん :2021/03/13(土) 09:02:12 L653g7tc0
投下乙です
フライパン姫、強い…
奇狼丸は最後まで誇り高くて、ピーチ姫にも勇気を与えて、かっこよかった
リンクの助っ人は頼もしいけど、彼に対するジョーカーを持ってるユウカがどう出るかが怖い

それとこれは指摘なのですが、226の

「マリオという男神様がどのような方かは存じ上げませんッ!!しかし、この状況で助けが必ず来るとは限りませんッ!助けがこなかった場合、あなたは何も行動せず

これ、恐らく数行くらい抜けがあるのではないでしょうか


233 : 命、擲って ◆s5tC4j7VZY :2021/03/13(土) 12:54:08 1bIapPb.0
感想及びご指摘ありがとうございます! 

「マリオという男神様がどのような方かは存じ上げませんッ!!しかし、この状況で助けが必ず来るとは限りませんッ!助けがこなかった場合、あなたは何も行動せず我らバケネズミのように管理されて生きていかれるのですかッ!」
人間に管理されている立場であるが、その支配から抜け出そうとしている奇狼丸の言葉は囚われの姫としてのピーチの考えを否定し、激励した。
「これを…奇狼丸さん」
ピーチは奇狼丸のザックにあった「ナンシークッキー」を口に運ばせる。

↑ぬけていましたので、その部分を修正いたします。何度もスミマセン。

命、擲って
他作品(マリオRPG)の経験を混ぜちゃっているので、グレーゾーンかな?と思いつつもピーチ姫が戦える理由として書きました。
新世界よりはバケネズミ側に結構感情があるので……かっこよかったはありがとうございます。
奇狼丸は戦闘では、噛ませみたいになってしまいましたが、誇りをピーチ姫に継承させられました。
ユウカはどっちに転がるかは後続の書き手様に委ねちゃいました。


234 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/13(土) 14:03:30 WYOZQix60
投下乙です!!
正直奇狼丸は長生き難しいかなって思っていましたが、決意を受け継がせる所は原作そのままですね!!
バケネズミの名言を残したり、初見でマサムネを使いこなしたりと、将軍の名は伊達ではなかった。
リンクの助けも来ましたが、ユウカの持ち物がリンクにメタ張っているアイテムの以上、どうなるか分かりません。

ピーチのフライパンですが、戦い方・小ネタなどはどの登場作品に準拠しても構いません。
キャラクターのここに来るまでの過去・粗筋・スタンス・支給品は原作準拠ですが、それ以外ならある程度自由にするつもりです。
例えばDQ7の場合、3DS版限定の技、PS版限定の技どちらを使っても問題ありません。
FF4の場合でもリメイク版限定の支給品を出しても問題ないです。


235 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/13(土) 23:27:53 WYOZQix60
投下します。


236 : 過去も未来も、巨悪も超えるから ◆vV5.jnbCYw :2021/03/13(土) 23:28:21 WYOZQix60
後ろを振り向く
人の気配は感じない。足音も聞こえない。
きっと人の姿の怪物は襲ってきていなし、気付いてもいない。
あの時、赤い怪物は自分を全く見ておらず、銀髪の青年と赤マントの二人を殺すことに集中していた。
これだけ離れれば、追ってくるわけがない。
恐れることなどない。恐れることなどない。
後ろを振り向く時間は、他にも助けてくれる相手を探すのに使えばいい。


いくら心で考えても、何度も後ろを振り向いてしまう。
ネズミ以外の生物に、ここまで恐怖を覚えるなど、考えたことさえなかった。


何度目か、後ろを振り向く
誰もいない。
憎たらしいくらい見通しのいい草原は、人の姿を映さない。
そう、こんな所で自分はスクラップになるわけにはいかない。
主人、のび太の悲惨な未来を変えるために、帰らなければ。
大丈夫だ、絶対に大丈夫だ。


その先で見えたのは、二人組。
「うわ!あ、あなたは?」
「ぼ……僕はドラえもん……。き……君たちは、この殺し合いに乗ってないよね?」

震えながら、彼は敵意がないことを探る。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



わたしは、チビィと共に、東へ進むことにした。
地図を見ると、その先には「学校」、「ゴロツキ駅」、「山岸由花子の家」がある。
その中で、最も興味を抱いたのは、「ゴロツキ駅」という場所だ。
私がいた神栖66町では、長距離移動を必要としない点もあって、ほとんど乗り物に頼ったことはない。
あるとすれば、キャンプ中に川を渡るためのボートぐらいだ。
だが、和貴園の歴史の授業で、駅について習ったことはある。


元々は当時の乗り物代わりの生き物であった、「馬」という茶色や黒の生き物を置いておく場所で、街道に定期的な距離ごとに配置されていた。
国の中央で重大な命令が発されると、いち早く地方に伝えねばならず、逆に地方で何かしらの事件が起これば、中央に急いで知らせねばならなくなり、そうした時代にあったのが「駅」だという。
やがて馬以上に人を多く乗せ、馬より早く長距離を走ることが出来る「電車」というものが駅を占拠することになった。



そもそも、神栖66町がそうなのか自分達の時代の人間がそうなのか分からないが、どちらかというと時間にルーズな傾向があったため、時間厳守の時代で無くなると共に廃れるのも分かる話だ。
だが、いざこうして、地図に載ってある以上、興味が湧くのが人間というものである。
この首輪といい、奇妙奇天烈な技術を用いている以上、駅というのもただの張りぼてではないはずだ。
最寄りの「ゴロツキ駅」は、扱っているのは馬なのか、電車なのか、はたまた別の乗り物なのかも気になる。
そう言えば、一人乗りなのか、ペット?同伴でもいいのか気になるが、まあそれは付いてから確かめることにして、駅がある方に向かう。


そこから、青い何かが走ってくる。
まさかあれが乗り物……じゃないよなと不安に思ってしまった。


だがその姿が、大きくなるにつれ、参加者だということが分かる。
しかし、わたしが感じたのは疑問だった。
目の前にいるのは、人間なのか、他の生き物なのかということ。


237 : 過去も未来も、巨悪も超えるから ◆vV5.jnbCYw :2021/03/13(土) 23:28:42 WYOZQix60

「うわ!あ、あなたは?」
「ぼ……僕はドラえもん……。き……君たちは、この殺し合いに乗ってないよね?」

自分のことをドラえもんと名乗った生き物は、酷くおびえた様子だった。

「落ち着いて。私は乗るつもりはないけど、何があったの?」
わたしはその生き物をなだめ、何があったのか聞こうとした。

「速く逃げるんだ!!あの赤い帽子の男が追いかけてくるかもしれない!!」
彼に急き立てられるまま、草原を走り、南の方へ行く。
最初考えていた駅とは、全く違う方向だ。
ドラえもんの足の短さも相まって、それほど早い脚ではなかったため、ついていくのはそこまで難しくもなかった。
チビィは大丈夫かと思ったら、体を丸め、般球トーナメントの時の球体のように転がっていっている。


逃げた先は、南の島を繋ぐ橋の下。
そこでわたし達は腰を落ち着け、ドラえもんから話を聞くことにした。
彼の話はこうだった。
私が当初向かおうとしていた方向に会った学校で、紅いマントと白い鎧の男が戦っていた。
だが、突如現れた赤帽子の男が、圧倒的な力で二人を殺しに現れた。

白い鎧の男が投げた翼のような何かで、紅いマントの男はどこかへ逃げられたが、彼は抵抗空しく殺されてしまった。



「そんな……」
わたしは座っているのに、平衡感覚がおかしくなってしまった。
人間が人間を殺す。
そんなもの、あるわけがないと思っていた。
だがこの世界は、そのように出来ていることを、まざまざと感じた。


「しっかりするんだ!僕は早くのび太君にこのことを伝えなきゃいけないから行くけど、君たちはここに隠れていて欲しい!!」
「え?のび太君って、ドラえもんの友達なの?」
「そうだけど……早季ちゃんは名簿を見てないの?」


そういえば、と思い出す。
チビィのことであやふやになっていたけど、名簿を覗くのをすっかり忘れていた。

「僕もよく確認してはいないから、のび太君以外は知らないんだ。」
そんなわけで、わたし達は改めて名簿を確認することにした。
めくってみると、最初に見つけたのはドラえもんの友達だというのび太。
こんな姿をした生き物の友達だから、さぞかし友達も奇妙な姿をしていると思いきや、普通の人間の子供の姿をしていた。
しかし、それ以上に気がかりになったのは、のび太の付けていたサングラスに似た装飾品あった。


「ねえ、のび太の顔に付けてるのって、何?」
「知らないの?これは眼鏡と言って、目が悪い人が、物を見やすくするために使うんだ。」
「サングラスみたいだけど、違うのね。」

呪力が生活の基盤になっている私達には、視力は死活問題である。
だからのび太君は、大変だろうなと思った。


(目が悪い人………)
特筆すべき話でもないのに、なぜか頭の中で反芻してしまった。
装飾品に頼らなければならないほど、目が悪い人は知らないはずなのに、どこかで引っかかることがある。


238 : 過去も未来も、巨悪も超えるから ◆vV5.jnbCYw :2021/03/13(土) 23:29:00 WYOZQix60

―――私、もう、子供をなくすのは嫌よ!

そして脳裏に浮かんだのは、遠く離れた場所にいる、母の言葉。
目が悪い人のことと、母親の言葉がなぜつながるのか、分からなかった。
だが、何故かその言葉を頭の中で反芻してしまった。


「大丈夫!?」
「プギー!!」
ドラえもんと、チビィの声で意識を取り戻す。

大分話が逸れてしまったが、改めて名簿を確認する。
いたのは、和貴園時代から仲良かった覚、真理亜、それに守。
瞬がいれば、こんな戦いでも簡単に解決してしまいそうなので残念だったが、のび太の眼鏡以上の疑問が頭にのしかかった。
覚の姿は、紛れもなく大人だった。
これでは幼馴染というより、親戚か何かと言った方が納得されるくらいだ。
守と真理亜も、覚ほど成熟してないが、私より明らかに年を取っていた。
特に真理亜は、元々美しいと思ったが、幼さが抜けて最早絶世の美女と言ってもおかしくない。
文字通りのハダカの仲であり、ありのままの姿を見ながら育ったから、それどころじゃない状況でも少し悔しくなってしまう。


ドラえもんに、自分の友達の姿が違う理由を知っているか、聞いてみようと思ったが面を上げた時に、その顔は引きつっていた。
元々全身が青いが、人間だったら顔が青くなっている時だ。


「どういうことだ……なぜ、生きているんだ……。」
見つめていたのは、全身を黒で覆われ、両の目から炎のような光を放っている、異形の怪物だった。

「誰なの?」
「デマオンって言って、僕たちが倒した奴なんだ……。」
何でもドラえもんとのび太、さらに美夜子と満月博士と、この戦いに参戦していない3人の仲間と共にやっと倒した、地球侵略を企んでいた大魔王らしい。
どこかおとぎ話じみているが、この戦い自体が荒唐無稽なものなので、今さらでしかない。


「とんでもなく強い魔法を使う奴で、おまけに銀のダーツじゃなきゃ殺せないんだ。会ったらすぐに逃げるしかない!!」

この戦いが、名簿の年齢などどうでもいいくらい恐ろしい物だと分かってしまった。
名簿をしまおうとするが、手が震えて思うようにできない。


239 : 過去も未来も、巨悪も超えるから ◆vV5.jnbCYw :2021/03/13(土) 23:29:15 WYOZQix60

「でも、僕たちは見つけなきゃいけない人がいるから……。」
「そうね、私も同じよ。」
「プギー!!」

おまけに厄介なのは、二人とも共通して、探さなければいけない人がいることだ。
チビィも誰かの捨て犬……いや、捨て虫なのかもしれない。


二人で支給された道具を見せ合う。
戦いに使えそうなのは、わたしに支給された風を起こすことが出来る杖と、ドラえもんに支給された山羊の絵が描いてある盾。
わたしが杖を持ち、ドラえもんが盾を持って前に立つ。

参加者の刺客となる場所から出て、仲間を探しに行くことにする。


「ところで、あなたは何の生き物なの?」
「僕は22世紀の、猫型ロボットだよ。」
「22世紀!?えーと、2100年のことだよね?」

ロボットというのも予想外だが、220年生まれのわたしにとって、驚きの年だった。
最も、呪力が生まれる前の時代の2100年なのかもしれないのだが。

「猫にも見えないけど……まあ猫だって違う生き物にも変わるかもしれないし……。」
フクロウシなどとは違う姿の牛の姿をイメージし、猫もまた時代を違う姿だったのかもしれないと考える。



【F-5/一日目 黎明】

【渡辺早季@新世界より】
[状態]:健康 恐怖(小)
[装備]:トアルの盾@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品 チビィ@ドラゴンクエスト7 不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(真理亜、守、覚を探す)
1.とりあえずチビィ、ドラえもんと共に移動する
2・名簿の友達の姿に疑問
※参戦時期は夏季キャンプ1日目終了後。そのため奇狼丸・スクィーラとは面識はありません。




【ドラえもん@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
[状態]:健康 恐怖(小)
[装備]:天罰の杖@DQ7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーから身を守る、マリオ・デマオンに警戒
1.のび太、美夜子、満月博士を探す
2.学校で起きたことを対主催勢力に話す

※魔界大冒険終了後です。


【チビィ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康
[思考]:とりあえず早季についていく。


[支給品紹介]
[てんばつの杖@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち]
早季に支給された杖。武器としても使えるが、振りかざすとバギマの力を持つ竜巻を起こすことが出来る。

[トアルの盾@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス]
ドラえもんに支給された盾。表にトアル山羊の顔が描かれている。
頑丈に出来ており、金属の武器の攻撃を防ぐことが出来るが、木製なので炎で燃える。


240 : 過去も未来も、巨悪も超えるから ◆vV5.jnbCYw :2021/03/13(土) 23:29:26 WYOZQix60
投下終了です。


241 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/14(日) 12:54:45 0ZaGdSlE0
満月博士、ヤン、ミドナ、守予約します。


242 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/15(月) 22:39:40 jxWB8BGU0
投下します。


243 : 心を照らす光 ◆vV5.jnbCYw :2021/03/15(月) 22:40:04 jxWB8BGU0

「へえ……柔らか月頭の上も良かったけど、この絨毯も中々いいじゃん。どこぞの獣の背中には劣るけどな。」
ミドナは楽し気に魔法の絨毯の上に寝そべり、乗り心地を楽しんでいる。

「気に入ってもらえて何よりです。」
柔らか月頭…こと満月博士は、操縦しながらも、愛車を褒められ、愉快な気分になる。


「いやぁ、満月殿の所は羨ましいですな。私もそれなりに色んな乗り物に乗った経験はありますが、空飛ぶ絨毯などは初めてです。」

同じように、空飛ぶ絨毯の乗り心地を楽しむヤン。
彼もまた、飛空艇やエンタープライズ、古代船にはない乗り心地を楽しんでいた。

「ハッハッハ。カタログも渡しますので、帰ったらお好みのデザインを買うと良いですよ。」
「だが、高すぎれば妻から叱責を受けるかもしれぬな。」
「心配はありませぬ。このご時世、安くなってる外国産の絨毯など、探せばいくらでもありますよ。」

「おい、前!!デカイ木があるぞ!!気を付けろ!!」
愉快な気分になっていた二人を、森の入り口が出迎える。
木にぶつかりそうになる所で、ミドナが警告した。


「いやいや、心配いりませんよ。面舵一杯!!なんてね。」
絨毯は軌道を変え、鬱蒼と茂っている木々の隙間を潜り抜けていく。

「おお、中々やるじゃん!!」
「しかしこの絨毯、デザインも良いですな。魔法に寄ったデザインをしながらも、後ろから炎を出して走る、物理的な面も見せておる。」

すっかり絨毯を気に入ってしまったヤンは、デザインを褒め称える。

「ん?私の絨毯は環境保全のため、炎など出さない仕組みなのだが……」

ヤンの発言に違和感を覚えると、ふいに絨毯がコントロールを失い、失速を始めた。
既に絨毯の後方1/3ほどが燃えていた。
発進させた直後、それに乗りたがったが、気付かずに置いていかれたクッパの炎が、絨毯に引火していた。
だが、それに気づかず、絨毯での旅を楽しんでいた結果が、これである。


「え?柔らか月頭、この絨毯は炎で加速してるわけじゃないのか?」
「ど、どういうことだあああ!!」
愛絨毯を急停止させ、あわてて魔法で消化を始める満月。


「うわあああ〜、ローン25年の絨毯がああ〜。」
((ローンって何だ?))
満月は泣きながらどうにか魔法で火を消し止めるも、既に絨毯は操作不能なほどに燃え広がっていた。
煤と化した絨毯だったものが、空しく地面を黒く染める。

「あ〜あ。折角気に入っていたのに、誰が灰を集めて、魔法で復活とか出来ないのか?」
主にテレポートを頼ってばかりで、乗り物が始めただったミドナも不服そうだ。

「ドラえもん君の道具じゃあるまいし、そんなものがあれば、割れた美夜子の皿を直してるわい。」

「仕方ありませぬ。ここから先は徒歩で向かうしか無いようですな。」
しかし、絨毯に目を向けていた二人とは異なり、ミドナは別の方向に警戒心を出していた。

「おい月頭共、向こうの方で誰かが見ているぞ。」
木の陰からじっと3人を見つめているのは、髪の毛が爆発したような姿の少年だった。


244 : 心を照らす光 ◆vV5.jnbCYw :2021/03/15(月) 22:40:20 jxWB8BGU0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「あの……あなたたちは………。」
少年、伊東守は蚊の鳴くような声で、3人のことを聞く。
燃え盛る絨毯に乗ってきたと思いきや、不時着した彼らは、少年にとって驚きでしかなかった。


「心配しないでくれ。私は満月博士。この殺し合いから脱出しようと思っている者だ。」
見た目もあだ名も、顔の周りがヒゲと髪の毛で覆われていた彼の担任である、太陽王と真逆の男性はそう話しかけてきた。

「私はヤン。ファブールの王にして、一人のモンク僧である。」
「さーて、私は誰でしょーか?」
「これ、ミドナ殿、見ず知らずの者をからかうでない。」
「あの……僕は伊東……守といいます。」


3人のうち、ミドナだけはどこか捉えどころのない性格だったが、敵意はないことは認識できた。

自己紹介を終えた後、今度は互いの目的地・知り合いについて話し合う。

「私達は知識の源泉になるはずの、ここの図書館へと向かう途中だったのだ。」
「そこで絨毯が何故か燃えてしまってな。ところで守君は、どこへ向かうつもりだったのだ?」
「僕は、知っている場所の清浄寺に行こうと思っていました。友達の真理亜もいるかもしれないので。」
「へえ〜、オトモダチかぁ。若いっていいねえ。」
「これミドナ殿、からかうでないと言ったばかりだぞ。」
「あなた達も会っていませんか?このカードに映っている人なんですが……。」
「いや、私達が会ったのはヤン君とミドナ君だけだ。他の女の子は知らないな。」


結局のところ、あまり大した情報は得られなかったが、それでも守にとって、安心できる相手がいたのだけでも救いになった。

「結局行先は別々になってしまうが、守君の護衛も兼ねて、一人付けよう。」
満月博士の提案で、3人のうち1人が守と共に、清浄寺へ向かうことになった。
年若い少年なだけではなく、彼の気弱そうな所は、どう見てもこの殺し合いに向いていない。
誰でもいいから力がある者がその手をつなぐべきだ。
ヤンとミドナも、その提案に同意する。

「では、私が同行しよう。守殿、問題はないかね?」
「はい……あの、ありがとうございます。」
一早く名のりを上げたのは、ヤンであった。

「図書館で知識を集めるそうだが、私はどうにもそういうものは得意でなくてな。満月殿とミドナ殿に任せたい。」

彼は体術や法術には長けているが、工学の知識にはどうにも疎かった。


「満月殿やミドナ殿のご期待に沿えるよう、誠心誠意駆けて守殿を護衛しよう。」
「あの……本当にありがとうございます。」

3人の顔を見て、くせ毛の少年は嬉しそうに照れた。


245 : 心を照らす光 ◆vV5.jnbCYw :2021/03/15(月) 22:40:38 jxWB8BGU0

「君はもう少し大人に頼った方がいいと思うがね。まあこんな状況で、視野狭窄に陥るのも無理はないが。」
「ヤン君の言う通りだ。君が何があったのか知らないが、知らない人の力を借りることも、大人になるうえで必要なことだよ。」
「まあ、誰かを頼らないと何も出来ない奴になっても困るがな。クククッ」

ヤンと満月博士、雰囲気こそは違うが優しい大人の雰囲気を醸し出していた。
ミドナも言葉遣いはきついが、どこか自分を心配しているように見えた。
神栖66町を出て、最早頼れる相手がいないと思っていた彼にとって、嬉しい事この上なかった。


「さて行こうか、守殿。満月殿やミドナ殿も、達者で!」
「ヤン君に守君も、どうかご無事で。」


絨毯は燃えてしまったが、若き少年との新たな出会いがあり、結果的には直で図書館へ向かうより良いことがあったと3人は思う。
満月のみは帰った後に絨毯のことをどう言い訳するべきかの悩みがあったが。


だが、世の中全てが順調に進むわけではない。
守とヤンが行く先にはとある町に潜んでいた殺人鬼が。
満月とミドナが向かう先には、博士の宿敵が。


目的地で、彼らが何をもたらすか、まだ誰も知らない。



【D-4/森林地帯/一日目 黎明】
【伊東守@新世界より】
[状態]:健康 不安 (緩和)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:
1.真理亜を探す
2.ヤンと共に、清浄寺へ向かう

※4章後半で、真理亜と共に神栖六十六町を脱出した直後です
※真理亜以外の知り合いを確認していません。



【ヤン・ファン・ライデン@FINAL FANTASY IV】
[状態]:健康
[装備]:ガツ―ンジャンプ@ ペーパーマリオRPG 炎のツメ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラ並びにザントを討つ
1:伊東守と共に、清浄寺へ向かう
2:できたらセシル達と合流したい
3:デマオンには注意する
参戦時期はED後
満月博士との情報交換で魔法世界についての情報を得ました。


【D-4/草原地帯/一日目 黎明】

【満月博士@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:健康 魔力消費(極小) 絨毯の消失による悲しみ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:美夜子の保護、首輪の解析及び解除
1. 美夜子を見つけ次第保護する
2.図書館へ向かい、情報収集する
3.ミドナと行動を共にする
4.デマオンには警戒する
参戦時期はエンドロール後
ヤンとの情報交換でFF4 の世界の情報を得ました。


【ミドナ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 】
[状態]:健康
[装備]:ツラヌキナグーリ@ ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:ザントを討ち、光と影の両世界を救いたい
1:陰りの鏡に影の結晶石がここにあるのなら手に入れたい
2:満月博士と行動を共にする
3:リンクに出会ったら、真実を明かして改めて協力を求める
4:満月の光頭は心地いい
参戦時期は瀕死の状態からゼルダにより復活した後
陰りの鏡や影の結晶石が会場にあるのではと考えています。


246 : 心を照らす光 ◆vV5.jnbCYw :2021/03/15(月) 22:40:50 jxWB8BGU0
投下終了です。


247 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/16(火) 14:55:11 dpI4YGGg0
アルス、山岸由花子予約します。


248 : ◆OmtW54r7Tc :2021/03/16(火) 19:38:56 wJ9H9NIc0
ローザで予約します


249 : ◆OmtW54r7Tc :2021/03/16(火) 20:53:28 wJ9H9NIc0
投下します


250 : ◆OmtW54r7Tc :2021/03/16(火) 20:55:48 wJ9H9NIc0
人は、肉眼で自分の顔を見ることができない。
しかし、自分の手や足を見ることはできるし、上半身や下半身についても背面は難しいが、正面なら見ることができる。

では、魔物はどうであろうか。
魔物は、様々な形状の生物がいる。
その形状によって、自分の身体の見れる範囲は異なってくる。
例えば、スライムのような魔物は、恐らく自分の身体のほとんどを見ることができないだろう。
しかし、例え魔物であろうと、頭があり首があり胴体がある二足歩行のタイプ、いわゆる人間の形状に近いタイプであれば、視覚に特別な特徴でもない限り、人間と同じく手足や上半身、下半身を見ることができるだろう。
そして、この殺し合いに呼ばれたボトクは、そういうタイプの魔物である。

長々と書いたが、つまり何が言いたいかと言うと、

「ボトク、やってくれたわね…」

ボトクのかけた術は、ローザにバレていた。
手や足を始めとする皮膚が人間のそれとは見た目からして違っており、来ている服も全然違う。
彼が懸念していた鏡や水面がなくとも、バレるのは時間の問題だったのだ。

〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「エスナ!」

ローザは、自身に状態異常を治療する術をかける。
しかし、その姿はボトクのままであり、元に戻ることはなかった。

「まいったわね…私の力じゃ元の姿には戻れないみたい」

ローザは考える。
この会場にいるのかすら分からない解除できる参加者、あるいは支給品を探す、というのは現実的とはいえないだろう。
となると、ボトク本人に解いてもらうのが一番手っ取り早い。
ボトクと別れてからそれほど時間は経っておらず、今から北西寄りに進路を変えれば、追いつくのも難しくはないだろうが…


251 : 頭隠して身体隠さず ◆OmtW54r7Tc :2021/03/16(火) 20:57:18 wJ9H9NIc0
「…いえ、これもあまりいい手とは言えないかもしれない」

ボトクがかけた術が具体的にどういうものなのかは知らないが、もしも他人だけでなく自分の姿も変えられるのだとしたら、おそらくボトク自身は自分、ローザに化けている可能性が高い。
そして、無害な風を装って他の参加者と接触しているかもしれない。
もしもそんな状態でボトクに会ったとして、彼が接触した参加者に真実を伝えたとしてだ。
その参加者は、人間の姿をしたボトクと、魔物の姿をした自分、どちらの言い分を信用するだろうか。

「人は見た目じゃない、心だ」などという綺麗ごとを言うものもいるが、見た目と言うのはどうあがいても人の印象を大きく左右するものだ。
ローザだって、人間の自分の姿が他人から、特に男性からどういう目で見られるかに全く鈍感なわけでもない。
そして、それが人間と魔物となれば、その印象の差は天と地ほどになるであろう。
故に、無策にボトクを追うのはやめておいた方がいいだろう。

「やっぱり、当初の予定通りバロンの方へ向かいましょうか」

ボトクが北で行動を起こすのなら、自分は別方向から攻めるとしよう。
この姿では信用を得るのも難しいだろうが、ボトクに対抗できる仲間を集めるのだ。
それに、見知ったバロンになら、旅をした仲間たちもそちらに向かっているかもしれない。
仲間なら…特に付き合いの長いセシルやカインなら、姿が変わっても自分のことを分かってくれるだろうという確信があった。

「ボトク…私はあなたの悪意に負けたりなんかしない。仲間と共に、あなたの企みを打ち砕いて見せるわ」

決意と共に、ローザは再び東へ向けて歩き出した。
しかし彼女は知らない。
ボトクを追って北に進路を取った方が、カインやエッジ、ヤンといった仲間と会える可能性が高かったことを。
そして、仲間の中では唯一進行方向にいた愛しの人、セシルが死んでしまったことを。

【G-3/一日目深夜】

【ローザ・ファレル@Final Fantasy IV】
[状態]:健康、ボトクの姿
[装備]:勇者の弓@ゼルダの伝説+矢30本 トワイライトプリンセス ふしぎなぼうし@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:バロンへ向かい、対主催勢力を集める。かつての仲間だけじゃなく、様々な参加者と協力したい
1. バロン城に向かったらしい強者に警戒(半信半疑)
2. ボトクに対抗する勢力を集め、彼に自身の姿を戻してもらう
※参戦時期は本編終了後です。


252 : ◆OmtW54r7Tc :2021/03/16(火) 20:57:51 wJ9H9NIc0
投下終了です


253 : 意外!それは髪の毛ッ! ◆vV5.jnbCYw :2021/03/18(木) 18:40:16 dr2iVHPs0
投下します


254 : 意外!それは髪の毛ッ! ◆vV5.jnbCYw :2021/03/18(木) 18:40:38 dr2iVHPs0
磁石を頼りに北へ向かうアルス。
最初に向かう先は、「山奥の塔」だった。
名前がはっきりしていない地名だが、あの場所は恐らく、ハーメリアの奥にあった、塔で間違いない確信があった。
なぜこんな所にあの塔があるのか分からないが、広瀬康一の地元の杜王駅があったから、おかしくはないと考える。


かつてデミーラの部下の海魔神グラコスが起こした洪水から非難する場所だったのが、山奥の塔だ。
その時にはいなかったメルビンやアイラは聞いたことしかないとはいえ、集会場所のような所もあるため、合流するにはこの上ない。


それからはしばらく歩いたところ、火の付いた絨毯が行く先を横切った。

(あれは……メザレの?)
どこかデザインは違うし、自分たちが乗っていた絨毯は炎を出したりしなかったが、英雄の子孫ニコラから承った魔法の絨毯に似ていた。
仲間の誰かが操縦している可能性も追いかけようと考えるが、絨毯が見えなくなった先にいたのは、康一から聞いた人物だった。


だが、何かの理由でボトクが化けている危険性も鑑みて、マジャスティスの詠唱準備をしておく。

「ちょっとアンタ……「マジャスティス!!」
康一の知り合いの一人だという、山岸由花子に、魔法を放った。
姿が変わらなかったということは、彼女は誰かが変身しているという訳ではなかったというわけなので、アルスは安堵する。
しかし、誤算は、彼女の内面であった。

「何よ今の変な光は!!さてはあたしの敵ね!!」
少女の目が、普通の女子高生とは思えないほど殺意を帯びる。
由花子の髪が、急にウゾウゾと蠢いたと思ったら、グイインと延びる。
その姿は、怒りの漲る表情や、強烈な眼光と相まって、人というより人を模した怪物のように見えた。
伸びた髪の毛の束は、幸せを呼ぶクローバーのように途中で4つに分かれ、それぞれが別方向からアルスに襲い掛かる。
「うわ!!何だこれ!!」
どこかヘルバオムを彷彿とさせる伸縮自在な髪の毛を、一束一束躱していく。

「待って!!話せばわかる!!」
鞭のようにしなる髪束や、ハンマーのように振り下ろされる髪束を、姿勢を低くしたりジャンプで躱したりして、必死で凌いでいく。
空を切り、地面にぶつかった髪の毛は、小型のクレーターや裂け目を残した。
見ただけで、食らってはいけないものだと分かる。
あの能力が康一君と同じ、「スタンド」ならマジャスティスをもう一度打てば、無力化出来るかもしれない。
だが、詠唱時間がかかる以上は、簡単に使わせてもらえ無さそうだ。
康一と別れてから一度支給品を確認したが、支給武器はバクダンだ。
致命傷を与えずに攻撃するのは難しい。


「あたしを騙そうとしても無駄よ!!」
アルスの話も聞かずに、髪の毛をさらに伸ばし、覇気を一層強める。
まだ康一からは気性が激しい所があると聞いていたけど、せいぜいがマリベルと同程度だと甘く見積もっていた。

(これは……ちょっとどころじゃないぞ……よくこんな人の彼氏になれたな……。)
でも康一君の彼女ではあるので、迂闊に傷つけるわけにもいかない。

「違うんだ!!僕はコーイチくんと一緒に……。」
そう聞くと、怪物のように伸びた髪の毛はシュルリと戻った。

「あなた、康一君を知っているの?康一君はどこにいるの?ねえ!!」
(どうやらコーイチ君と仲良いのは本当みたいだ……。)
「康一君なら杜王駅にいるよ。待っている、一緒に行こうよ。」


これで説得出来たと安堵するが、そうは問屋が卸さないのがこの少女だった。

「なら、あなたは康一君を危険な場所に一人にしたってことなの!?このクソッタレの、タマナシヘナチンがあああ!!」
再び髪の毛が伸び、アルスに迫りくる。


255 : 意外!それは髪の毛ッ! ◆vV5.jnbCYw :2021/03/18(木) 18:40:57 dr2iVHPs0

(やむを得ない……でも髪の毛だけなら……。)
力で説得するしかないと考えたアルスは、どうにか髪の毛だけでも払おうとする。
構えを取り、髪の毛が体に触れる寸前で打ち出したのは、無数の真空の刃。


「真空波!!」
夏の肝試し中のろくろ首のように伸びても、春に土から出るミミズのように蠢いても、髪の毛は髪の毛。
炎で燃えるし、刃で容易く切断される。


ブツ、ブツと音を立て、次々と髪の毛が地面に落ちていく。
夜の闇とは別の黒が、緑の大地を染めていく。

「うあああああああああああ!!!」
髪を切られるや否や、由花子は歯茎をむき出しにして突然叫びだした。


「よくもッ、よくも、あたしの髪をおおおおおおおオオッ!!」
再度髪が伸び始める。今度は一塊になって、破壊の鉄球のような形になった
「長さなら、その能力で揃えられるじゃないか!」
「毛先は痛んだら直せないのよ!?康一君に見た目が悪くて嫌われたらどうするのおおお!!ションベンタレのくせに!!」


無理矢理高く飛び上がり、地面を薙ぐ髪鉄球を避ける。

「いくら避けても無駄よ!!大人しく掴まれえええ!!」
今度襲い掛かるのは、鉄球ではなく、地面に散らばっていた伏兵。

「!?」

床屋で髪を切ってもらった後のようになっていた髪の毛が、一斉にアルスの四肢に絡みついた。

「うわああ……何これ……!!」
慌てて解こうとするも、生き物のような髪の毛を取り払うのは難しく、手錠のように両手両足を縛ってしまった。

「かかったわね……大人しく、死ねええええ!!」

巨大な黒の槌が、アルスを潰そうとする。
上と下からの髪の毛攻撃。
動きが制限されている以上、右や左に逃げることも出来ない。


ドムギ、と髪の毛の玉と地面がぶつかる音が響く。
食らえば、一たまりもない、はずだった。


「危ない所だったなあ……。」
しかし、アルスは圧死することはなかった。


「な、なんで?」
人間とは思えない頑丈さに、由花子も驚く。
「スカラをかけておいて助かったよ。それでもタダじゃなかったけどね。」
アルスが使える技は、風の刃を飛ばす技だけではない。
仲間との冒険は言わずもがな、ダーマ神殿での転職の果てに、様々な技を使える。
防御と、さらに身の守りを固める魔法で、由花子の一撃を耐えきったのだ。


256 : 意外!それは髪の毛ッ! ◆vV5.jnbCYw :2021/03/18(木) 18:41:26 dr2iVHPs0

「クソッタレえええ!!だったら何度でもやってやるわよ!!」
「悪いけど、もうさせないよ。バギマ!!」
アルスの手から竜巻が現れる。
魔力の消費はあるが、真空波と異なり、魔法なら最小限の動作で出来る。


そして、魔法の標的にしたのは、由花子ではなく自分自身。

「自分に!?」
風を起こしたことで、自分を動きが限られた状況でも、長距離を動くことが出来る。
最も、飛ばされる形となったため、さほど自由には動けないが。
さらに由花子の槌を躱すだけじゃなく、絡みついていた髪の毛を斬り裂き、吹き飛ばした。


「どうして、上手く行かないのよ!!くそ、クソ、糞おおおおぉぉぉぉ!!」
怒る由花子、とある漫画家に言わせれば、プッツン由花子の攻撃はなおも続く。
髪の毛の塊を解き、再び幾つかの束にして襲い掛かる。


「させないよ!!」
しかし、アルスは先程までとは比べ物にならないほど、早く駆け出す。
バラバラに迫りくる髪のロープも、捕らえることはできない。
その動き、まさに疾風のごとし。


「疾風突き……もとい、疾風の当身。」
トン、と由花子のうなじを叩き、これまでのことが嘘のように由花子は静かに動かなくなった。
速さを意識するあまり、攻撃力を発揮できないこの技は、今回はうってつけだった。




「さーて……コーイチ君にどう言い訳しようかな……」
気を失った由花子を、とりあえず康一のもとに運ぼうとするアルス。
命の危機は去ったが、問題は新たに出てきた。

(だからといって目を覚ましたらまた暴れそうだし、置いていくわけにもいかないしなあ。)
自分より背の高い由花子をどうにか背負って運ぶ。
ゴッドハンドの職に就いたアルスにとって、これぐらいどうということはないが、康一の反応が気がかりだった。
彼の苦悩は、続く。



【D-2北部/草原/一日目 黎明】

【アルス@ドラゴンクエスト7】
[状態]HP3/5、MP3/4 疲労(中)
[装備]なし
[道具]基本支給品、水中バクダン×10 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラやザントを倒す
1.ボトクの変身に警戒しながら仲間を探す
2.杜王駅に戻り、由花子を康一の所へ連れていく
※参戦時期は本編終了後
※広瀬康一からヌ・ミキタカゾ・ンシ以外のジョジョ勢について聞きました。
※広瀬康一からスタンドについて聞き、ヌ・ミキタカゾ・ンシと重ちー以外のスタンド能力も把握しました


【山岸由花子@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:気絶 吉良への憎悪(極大)、ユウカに対するいら立ち(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜3(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:康一君の敵の排除。彼が死亡した場合……
0.………。
1.杜王駅へ向かう。
2.康一君に酷い目に遭わせた吉良は絶対に許さない。
3.シンジと言う名前の遺体を探しておく。範囲はE〜F。昼になったらDの何処かで合流
4.最初に殺された子の知り合い(リンク)にも少し警戒
5.余裕があればキョウヤ達との合流。ナナは……状況次第。

※参戦時期は少なくとも吉良が顔を変えて逃亡してるよりも後です。
※ラブ・デラックスの髪の毛を植え付けての操作の制限は、後続の方にお任せします
※無能なナナの参加者の能力と人柄、世界観を理解しました。
 ただし一部嘘が吹き込まれており「死体が自分の意思で喋ってる」などがあります。
 他にもどのような嘘があったかは後続の書き手にお任せします
 また、レンタロウについての情報は乏しいです。


257 : 意外!それは髪の毛ッ! ◆vV5.jnbCYw :2021/03/18(木) 18:41:36 dr2iVHPs0
投下終了です


258 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/19(金) 23:12:11 Ww.8BD3o0
マリオ、ゴルベーザ予約します


259 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/20(土) 18:14:41 UBH90gyQ0
投下します


260 : 薄っぺらな人形劇 ◆vV5.jnbCYw :2021/03/20(土) 18:15:21 UBH90gyQ0

のっけから申しあげておきますが、この話を読む価値は贔屓目に言ってもありません。
よほど時間を無駄にしたい物好きの方を除けば、この話を飛ばして次の回を読むか、あるいは別の方のお創りする御話を読むほうがよろしいと思います。


それでも読みたいと?
私としてはこの話は、読んでいただかない方が読者様の為だと思うくらいですが。
読むからには決して中身が薄っぺらな作品だとしても、文句は言わないでくださいね。
いえいえ、この話自体にいくらでも文句のほどを述べても構いませんが、他の話まで巻き込むのはおやめください。


では始めましょう。

殺すことを望むくせに、命の価値を全く鑑みない、愚か者たちの殺し合いもどきを。



手下に頭巾の少女を殺すことを任せて、自らは大魔王の城へと向かう黒の男が一人。
そこへ学校から北上してきた、赤帽子の男が一人。

方や、償おうとした弟の喪失を伝えられ、呪いの剣に心を委ねた哀れな人形、ゴルベーザ。
方や、仲間や恋人の喪失を恐れ、カゲの魔物に心を委ねた、これまた哀れな人形、マリオ。


互いの目が合うや否や、黒の人形は主たる剣を持つ力を込めます。
相手は弟の仇でもありますが、そんな高尚な理由ではありません。
ただ、皆殺しにすべき相手の的だから。

一方で、巨大なハンマーを鬻ぐ赤の人形も力を込めます。
これまた誰かのためではなく、主に命じられるがまま、殺そうとしています。


先陣切って斬りかかるのは、黒の人形の方。
長身を生かして、皆殺しの剣を高く振りかぶり、肩から胸を通り、腿まで斬り裂こうと袈裟懸け一閃。
だが赤の人形もただで斬られません。
その生への決意は、人に言えるほど素晴らしい物では決してありませんが、それでも後ろへ飛びのいて躱しました。

驚く間もなく、黒の人形は第二撃を逆袈裟に振るおうとしますが、それより先に赤の人形が、顔目掛けてハンマーを振るいます。
当たれば、彼もまた弟の二の舞になるはずですが、残念ながらそういう訳にはいきません。
先程の斬撃を躱した赤の人形の意趣返しのように、黒の人形もまた後ろへ飛びのき、殴打を躱します。


「雷よ、打ち抜け。サンダガ!!」
剣だけでは手に余ると無駄に判断力を働かせた黒の人形は、ハンマーの届かない位置まで離れると、雷魔術に手を出します。
しかし、赤の人形もまた同時に、黒の雷を呼び出す、主譲りの魔術を念じました。

闇夜から白の槍と黒の槍が生まれ、互いのいた位置に降り注ぎました。
荒野に、二重の轟音が響き渡ります。
それに伴い、土は大きく舞いあがりました。
不幸か不幸か、互いに雷が直撃することは無かったのですが、身体に土くれが降りかかります。
それを払いのけ、再度相手に斬りかかる黒の人形。
しかし、三度目の一撃もまた、空を切ります。


261 : 薄っぺらな人形劇 ◆vV5.jnbCYw :2021/03/20(土) 18:15:48 UBH90gyQ0

そして、赤の人形の姿は、消えていました。
否、消えたのではありません。
赤の人形がマリオだった頃から得意だった、人間離れした跳躍力を用いて、頭上からハンマーを振り下ろそうとしていました。


「くっ……ファイガ!!」
空中に炎球が帯を作るように回転し、赤の人形を焼き尽くさんと迫ります。
だがそれは一度、黒の人形の部下であったルビカンテから似た技を受けているので、回避手段が限られる空中でも凌ぐのは容易。
いともあっさりハンマーを振るい、炎を薙ぎ払います。



だが赤の人形が炎にかかり切りになっているうちに、またも黒の人形はハンマーの距離が届かない位置に。

「ブリザガ!!」
ここまで見てくださった読者様方、とくとご覧あれ!
一つ、また一つと白い氷塊が赤の人形を中心として降り注ぎます!!
誰が言ったか、死と生の境目は赤と白のコントラストで彩られているとのことですが、今の状況はその表れでしょうか!!
一つや二つをハンマーで砕くことは容易、しかしその数、到底短時間で数えきれるものではありません。


やや、どうしたことでしょうか!!
躱すことに力点を置かず、ハンマーを振り回しながら黒の人形へと突撃し始めたではありませんか!!
言うまでもなく、氷の刃が赤の人形の体に突き刺さります。
だが、それは脳や心臓のような、身体の中枢を司る箇所には当たりません。
刺傷と凍傷、2つのダメージを食らってもひるまず、殺すことに力を入れるとは、どこまでも人形の愚かさを語っているようですね。

しかし、黒の人形は邪悪な刃を振るい、いち早く鈍器の攻撃を受け止めます。
耳に悪い、ギィギィと金属と金属が擦りあう音のみが聞こえるだけです。
死線と視線が交錯し合う場所から、いち早く離れたのは黒の人形の方。
赤の人形の方も、負けじと距離を詰めようとします。


ハンマーを振らんとしたその腕が、急に動かなくなります。
先程のブリザガによるダメージが原因でしょうか?
否、黒の人形のもう一つの氷技、呪縛の冷気でございます。
同じ氷術と言っても、こちらはほとんど肉体にダメージを与えない代わりに、神経に作用する術です。

だが、こんな術でいつまでも動きを封じられるような赤の人形ではありません。
彼という人形の糸を握っているのは、たとえ世界が変わってもカゲの女王のみ。
その命令に従い、相手を滅せんと無理矢理体を動かします。


そして、落とされるのは、またも黒い雷。
完全に予想の外を突かれた黒の人形に、今度こそ黒い槍が貫かんと迫ります。


雷は落ち、されど躱さず。

「参れ!!黒龍!!」
その傘代わりになったのは、召喚術と共に、現れた黒いとぐろを巻く巨大な龍。
鱗を全身に纏い、凶悪な牙を持っていますが、その瞳には生気は微塵も感じません。
まあ人形と化した男に、それまた操られる獣ですから、言うまでもありませんが。
そこで、まだ動くのに難儀している赤の人形に、更なる敵がやってきます。
それは、彼が別の世界で乗ったこともある、電車でした。


列車というものを知らない黒の人形が意図してやったことではありませんが、赤の人形が止まった場所は、線路の上。
せいぜいが足を妨げる出っ張り程度にしか思っていなかった二人に、予想外だったようです。
前門の虎後門の狼もとい、前門の龍後門の鉄獣。
どちらの一撃も食らえば、女王の力を得た者だろうと、良くて瀕死。

「これで、終わりか……。」
黒の人形は勝利を確信すると、とどめを黒龍と鉄獣に任せ、踵を返します。
これは別に、黒の人形の同情などではありません。
ただすべての参加者を皆殺しにせねばならないため、とどめを刺す時間が惜しいというわけです。


262 : 薄っぺらな人形劇 ◆vV5.jnbCYw :2021/03/20(土) 18:16:08 UBH90gyQ0
鋭い牙を見せ、龍が迫ります。
後ろは列車。避けるにも体が思うように動かない以上、難しいです。
これにて万事休すでしょうか、


否、これで終わるほど、容易な存在ではありません。
人形と化したとはいえ、彼はまた勇者。
3次元の肉体から、持っているハンマーもろともペラリと薄くなり、攻撃の当たる範囲を大幅に減らします。
だが、これだけでは竜の牙の隙間に入れど、1ミリの隙間もなく迫りくる鉄獣からは、逃れることは出来ません。
ならばこれで哀れな赤の人形はこれで終わりでしょうか?
否、そのまま覚束ない体をどうにかぐるりと回し、筒のような形になり、列車の下の隙間へと逃れます。


獲物を逃した召喚魔は消え、何も残すことなく列車も進みます。
残されたのは、一つの赤の人形だけ。
先に述べたように、この戦いは犠牲も出ず、殺害者が成果を上げることもなく、全く読む価値のないものだと。


かつて自分も乗った列車を見た赤の人形は、そう遠くない場所で下車した者たちを襲うのか、黒の人形を追うのか、はたまた別の人間を狩りに行くのか。
どうするのかは分かりませんが、それはまた別の話。


ではまたどこかで。
この二束三文にもならぬ話を読んでいただいた、物好きな読み手様が、今度はもう少し含みのある話に出会えるように、幸運を。




【D-7/荒野/一日目 黎明】
【ゴルベーザ@FINAL FANTASY IV】
[状態]:健康、呪い MP消費(中)
[装備]:皆殺しの剣@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、参加者レーダー青
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を全滅させ、セシルを生き返らせる
1.大魔王の城を目指し、参加者を殺して回る。
2.キングブルブリンには手駒として働いてもらう。

※参戦時期はクリア後です
※皆殺しの剣の呪いにかけられており、正常な思考ではありません。防御力こそ下がっていますが、魔法などは普通に使えます。


【マリオ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:大型スレッジハンマー@ジョジョの奇妙な冒険  
[道具]:基本支給品×2 ランダム支給品0〜3 ふぶきのつるぎ@ドラゴンクエストVII
[思考・状況]
基本行動方針:殺す

※カゲの女王との選択で「しもべになる」を選んだ直後です
※カミナリなど、カゲの女王の技もいくつか使えるかもしれません。


263 : 薄っぺらな人形劇 ◆vV5.jnbCYw :2021/03/20(土) 18:16:18 UBH90gyQ0
投下終了です。


264 : ◆vV5.jnbCYw :2021/03/29(月) 17:46:37 e140tYOk0
ナナ、重ちー、ゼルダ、アイラ、デマオン予約します


265 : ゲームはまだ始まったばかり ◆vV5.jnbCYw :2021/04/02(金) 00:23:20 lZFmG8y20
投下します。


266 : ゲームはまだ始まったばかり ◆vV5.jnbCYw :2021/04/02(金) 00:23:58 lZFmG8y20

「オラはここにいた方がいいと思うど。」
1秒か2秒の間ののち、矢行宮重清は普通に答えた。
「私はどちらでもいいですが、どうして重ちー君はそうすべきだと思うんですか?」


どちらの選択をしようと、問題ではない。
理由は、その選択の過程、および選択後の行動にあるのだから。
「こんな知らない場所で、迂闊に出歩くのは危ないど。それよりもこの図書館がどんなところなのか調べた方がいいど。」
「重ちー君の言う通り、動かないのもよい事だと思います。では早速、この図書館の散策を進めましょう。」


柊ナナとしても、ここを動くか否か、どちらが良いのか判断するのは難しかった。
地図も見たが、如何せん自分の知り合いがどこに行くのか分かりづらい。
南東にある「学校」は自分がかつて転校生として入った学校という可能性もあるが、重清、あるいは他の参加者の出身校である可能性も否定できない。
現に重清の地元にあったという、「杜王駅」とやらがこの地図に載っている。
他にも、この図書館を加え「山奥の塔」やら「展望台」やら「闘技場」やら参加者ゆかりの地なのか、はたまた主催者が気まぐれで作った建物なのか釈然としない場所が多い。

奥の方まで行くと分かったことだが、図書館は外から見える以上に広く、いくつも本棚があり、迷路のようになっている。
さらに、2階へ続く階段まであった。

「何だか、かくれんぼでも出来そうですね。」
冷静に思考を巡らせ、敵が襲ってきたときどうすれば最短で図書館から逃げられるかイメージしながら、無邪気な発言をする。
「こういう場所では、オラのハーヴェストが大活躍しそうだど。」

デモンストレーションするかのように、スタンドを2.30体ほど出した。
しかし、ハーヴェストは最初の角を曲がった直後に、消えてしまった。
見えなくなったというわけではなく、本当に存在を消してしまったのだ。

「あれれれ?今のも重ちーさんの能力ですか?」
「いや違うど、いつもならオラのハーヴェストは、もっと遠くまで動けるはずだど。」

おかしいと思ってもう一度重ちーはハーヴェストを出すも、またも本棚の角を曲がった瞬間、消えてしまった。


「まあ、こんな状況ですし、不調だということもあります。何度かやってみましょう。」
口調とは裏腹に、ナナは重清のスタンドがすぐに消える理由を、きちんと掴もうとした。
彼女が過去にいた学校では、己の能力を万能の道具と過信するあまり、その首を絞めることになった生徒が何人もいた。
だが、重清の様子は、そうした過大評価から来るものとは少し違っていた。


言われた通り何度かやってみるが、結局同じだった。
直線距離なら長距離でも移動できるが、物陰や背後に移ると、消えてしまう。

「どうやらハーヴェストは、重ちーさんからの視界に入らない場所では無くなってしまうようですね。」
「そ、そんなの無いど!!人の視界から離れると無くなってしまうなんて、数学のテスト勉強へのやる気みたいだど!!」
「でも実際にそうみたいですよ。」
(やはりコイツは、敵意や悪意にあまりに鈍感だな)


267 : ゲームはまだ始まったばかり ◆vV5.jnbCYw :2021/04/02(金) 00:24:17 lZFmG8y20

こともあろうに、自分のスタンドの弱点まで惜しげもなく引けらかす重清を見て、持っている隙の大きさを再認識する。
自分固有の能力を見せびらかすというのは、自分の裸の背中を見せるようなものだ。
実際にその裸の背中を刺してきた(何の皮肉か自身も刺したことはあるが)ナナだからこそ、断定できるものである。
だからこそ自身の能力を偽るユウカには苦労したのだが。




「重ちー君、そこで上を向いてみてください。」
「こうかど?」
その後も実験を何度か繰り返した。
やはりトリガーとなるのは、視界から外れた時のようだ。
視線の遮断物が入り込むと、たちどころに姿を消す。


ただし見えなくなることが直ちに消滅につながるわけではなく、瞬きしたからと言って消えるということはない。
視界から離れて、ゼロコンマ数秒のラグが、消滅のトリガーになっているようだ。
また、身体に密着していれば、背後にいても消えることは無い。
従って、ハーヴェストの大群で重ちー自身を運ぶというアクションも起こすことが出来た。


だが、能力の制限には重清もショックだったようだ。
「そんな……これじゃ地面に落ちているお金を集められないど……。」
「ここから出られれば、また出来るかもしれませんよ。とりあえず、そこの階段から2階も見て回りましょう。」

意気消沈している重ちーとは裏腹に、ナナの心は僅かながら高揚していた。
(もしかすると、他の奴らの能力も制限されているかもしれないな。)
ナナは重ちーと、同じ学校の4人がいたことから、能力者と無能力者が集められているのだと判断していた。
しかし、そのままでは無能力者にとって不利でしかない。
だからゲームで言う「バランス調整」に似たものを、能力者の制限という形で主催は行ったのだと仮説を立てた。


そして、その仮説はナナにとっては、嬉しいニュースだった。
(小野寺キョウヤがいるのも、そういうことか。)
彼が持っている不死身の能力。
毒を飲もうと、ナイフで刺されようと、部屋一つ吹き飛ばすほどのガス爆発に巻き込まれようと全く死ぬことはなかった。
元の世界にいた時もどうするべきか考えあぐねていたが、もしかすると不死の能力とて制限されている可能性もある。

(ここはあいつを殺すには、絶好の機会じゃないのか?)
おまけにこの場所は殺し合いの場だ。
かつてありもしない「人類の敵」に殺人の罪を擦り付けた以上に疑われることなく殺害できるのではないか、そんな期待がよぎった。
最もナナは殺人に快楽を見出しているわけではなく、義務である以上、興奮したわけではないのだが。


重ちーの予想もつかないようなことを胸の内に抱えながら、階段を上り2階へ向かう。
2階は1階に比べると本棚の数は少なく、階段を上った後からすぐに全域を見渡せた。
西側は壁ではなく大きな窓が貼っており、この図書館は見張り台としても役に立ちそうだ。
1階の本棚の迷路と組み合わせれば、それなりに長い時間籠城していられそうでもある。


「私はこの辺りに何か隠されてないものがあるか探します。
重ちー君はそっちの方で外を見ておいてください。それとこれをどうぞ。」
ナナが重清に渡したのは、まるで忘年会で使われそうな目を隠す仮面のようなものだった。
鷹を模したデザインをしている。

「ありがと……って、こんなダサいのどう使えばいいんだど!!クリスマスパーティーでも受けないど!!」
「『ホークアイ』と言って、遠くの的でも見れるそうですよ。」

半信半疑ながら、窓に顔を近づけ、使ってみようとする。
その間に、ナナは2階に何か隠されているものが無いか、探りを入れる。


268 : ゲームはまだ始まったばかり ◆vV5.jnbCYw :2021/04/02(金) 00:24:37 lZFmG8y20

残念ながら、2階は主に絵本や子供向けの本ばかりで、あまり目ぼしいものはなかった。
見通しの良い2階より、首輪解除や隠れるために使うなら1階の方がベターかと思っていた所……。

「ナ、ナナさん!!早く隠れるど!!!」
血相変えた重清が、走ってきた。

「落ち着いてください。何を見たのですか?」
「怪物だど!!怪物が図書館に来ているど!!!」
「怪物!?」
ナナは人類の敵の話をしたが、それはあくまで能力を持った人間の話。
物語に出るような一目で見て怪物と分かるような怪物は言うまでもなく見たことは無かった。

「全身真っ黒で角を生やして、しかも人間を2人連れていたど!!」
ふ、ナナの口元から笑みがこぼれた。
その原因は2つ。
1つは、過去に自分が話した人類の敵の、でまかせの説明に似ていた表現だったこと。
もう1つは、「人を連れている」ことから、殺し合いに乗っているとは断定できないはずなのに、そうだと決めつける重清の短落さに。


「ナナさん!!早く隠れるど!!」
「怪物が殺し合いに乗っているって、誰が言いました?」
ナナは冷静に重清を宥める。

「それは分からない……けれど、あの顔は殺しをする顔だと!!」
「顔……の方は分かりませんが、それに重ちーさんは『人を連れている』って言いましたね?だからその怪物は、人間を殺そうとしていないんじゃないですか?」
「ああ!そう言えば!!」

重ちーは予想もしていないようなことを言われ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔つきになる。

「でもまあ、重ちー君が言う通り、怪物は悪い奴かもしれません。スタンドを出しておいてください。」

登った階段を一段飛ばしで降りていく。
重ちーはこの先に起こりうる恐怖を想像しながら。
ナナは怪物と連れていた人間の組み合わせが持ちうる可能性を想像しながら。
既に1階のロビーに来た時、怪物と後ろの人間達は入り口にいた。


「重ちー君はいざという時にハーヴェストを出しておいてください。」
500体いるハーヴェストのうち、100を二人の周りに。
400を図書館の天井に配置させる。

「あなた方はどなたですか?」
いつものように、ナナは怪物と大人二人を目の当たりにしても、笑顔で接する。
「口の聞き方がなっとらんな。他者に名を訪ねる時は、まずは己から名乗るものであろう。」

体格に負けぬ大きな態度で話す怪物に咎められるも、ナナの心には若干の安堵があった。
少なくともこの怪物は、自分を即座に殺すつもりではないということだからだ。

「私はハイラルの王女、ゼルダといいます。こちらはアイラ。このお方は……」
ナナが紹介しようと思ったが、その前に左側にいた高貴な女性が名前を語りだした。

「皆まで言うな。デマオンだ。魔界星の大魔王をやっていた者だ。」
「大魔王に王女とは……凄いことをやっていたのですね!私は柊ナナといいます!!
殺し合いに乗る気はありません!!」
「お、おらは、矢安宮重清……皆からは重ちーって呼ばれてるど……。」
「ふむ……同じ様だな。ワシらはこの図書館に殺し合いを潰す手掛かりがあると踏み、この地を目指したのだ。」

「頼れる方が3人もお越しになってくれて、嬉しい限りです!!是非協力して、この殺し合いを止めましょう!!」
「話が早くて助かる。では早速、その蟲のような生き物を退散させるのだ。」
好意的な態度をとるデマオンだったが、警戒の糸は緩めていないことはナナの目には明らかだった。
デマオンが突き出した指は、天井のハーヴェストが集まる場所を指していたからだ。


「重ちー君、天井のハーヴェストを。」
「ああ、分かったど。」

言われた通りにスタンドを消す。
いざとなればナナが持っていた爆弾を投げればいいだけだ。

そして、ナナとしてはデマオン達が敵意を抱いていないことは分かった。
それは、アイラやゼルダの「目線」にあった。
自分のすきを窺う視線ではなく、デマオンが勝手なことをしないようにと警戒するかのように、自分よりもむしろデマオンに目を向けている。


269 : ゲームはまだ始まったばかり ◆vV5.jnbCYw :2021/04/02(金) 00:27:25 lZFmG8y20

「では早速、そなたらはデマオン軍の配下だ。共にこの場にある蔵書を探ることにするぞ。」
「はい、そうしましょう。手分けして探せば手掛かりも見つけやすそうですね。」


再びナナとデマオンは図書館の奥に入り、本を探り始めた。
しかし、その一方でゼルダとアイラは、神妙な表情を浮かべていた。


「ねえ、重ちー……君?あのナナって人は、どんな人なの?」
アイラがナナに置いて行かれた重清に話しかける。

「別にどういう人なのか分からないど。まあ気さくな人というぐらいだど。」
「そうねえ……。」
アイラが訝しんだのは、ナナが「気さく過ぎる」ということだった。
自分とゼルダが怪しんだデマオンに対しても、普通に怖気づくこともなく話を出来る。
悪を知らない子供というには、少し大人過ぎているし、子供というならデマオンの姿を見て怯えていた重ちーの様になるはずだ。


どうにもナナという少女に対して、アイラは筋が通らない何かを感じ、訝しむ。
しかも能力が何なのか分からない以上、手の内は何処までも分からない。


胸の内がモヤモヤする所を感じながら、アイラもまた図書館の奥へと入って言った。


これにて、5枚カードが揃うことになる。
だが、それはゲームはまだ始まったばかりということ。
5枚のカードは、さらに増えていくか、捨て札へと送られるか、はたまた交換されるか。
その先はまだ分からない。
分かるのは、小さな形で疑心暗鬼が生まれていたということだ。



【B-5/図書館/一日目 黎明】

【柊ナナ@無能なナナ】
[状態]健康
[装備]空気砲(100/100)@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)、名簿を七並べ順に書き写したメモ、ナンシーダイナマイト@ペーパーマリオRPG
[思考・状況]
基本行動方針:最低でも脱出狙い。可能ならオルゴ・デミーラ、ザントの撃破。最悪は優勝して帰還。
1.デマオン、アイラ、ゼルダと共に、殺し合いを攻略するための本を集める
2.殺し合いに乗っていない参加者と合流を目指す。特にオルゴ・デミーラかザントについて知る参加者の優先度が高め。
3.回復能力を持つミチルと東方仗助と合流したいが、1よりは優先順位は低め
4.小野寺キョウヤはこの殺し合いの中なら始末できるのか?
5.佐々木ユウカは出会ったら再殺する。
6.スタンド使いも能力者も変わらないな
※参戦時期は20話「適者生存PART3」終了後です。
※矢安宮重清からスタンドについて、東方仗助について聞きました。
※広瀬康一、山岸由香子、ヌ・ミキタカゾ・ンシをスタンド使いと考えています。
※異世界の存在を認識しました。

【矢安宮重清@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康 怯え
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2 ホークアイ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラとザントを倒す
1.デマオン、アイラ、ゼルダと共に、殺し合いを攻略するための本を集める
2.ナナさんと一緒に行動する
3.仗助と合流したい
4.デマオンの配下って何だど?
※矢安宮重清の参戦時期は「重ちーの収穫(ハーヴェスト)」終了以降です。
※異世界の存在を認識しました。


270 : ゲームはまだ始まったばかり ◆vV5.jnbCYw :2021/04/02(金) 00:27:39 lZFmG8y20

【アイラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康 職業 調星者 (スーパースター)
[装備]:ディフェンダー@ FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラを再度討つ デマオンへの警戒
1.デマオンには警戒しながら同行する
2:アルス達を探して合流する
3.柊ナナに警戒
※職業は少なくとも踊り子、戦士、武闘家・吟遊詩人・笑わせ師は極めています。
参戦時期はED後。



【ゼルダ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 】
[状態]:健康
[装備]:アルテミスの弓@ FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:ザントの企みを阻止する デマオンへの警戒
1.デマオンには警戒しながら同行する
2.アイラの仲間(アルス達)を探して合流する
3.ミドナ…あなたもいるのかしら?

参戦時期はミドナとリンク(狼)が出会い1回目の頃。
※参加者のトランプは確認していない。



【デマオン@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:健康 
[装備]:世界樹の葉@ ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:不遜なるデク人形(オルゴ・デミーラ、ザント)をこの手で滅し、参加者どもの世界を征服する
1.情報収集する
2.部下であるアイラとゼルダ、それに重ちー、ナナを引き連れる
3.刃向かうものには容赦しない
4.青だぬき共の処遇はこの場では不問とする
5.この世界は一体?


【支給品紹介】


【ホークアイ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス】
ナナに支給された道具。
使うと遠くをフォーカスして見ることが出来る望遠鏡のようなもの。
弓矢に付けることも出来て、遠くを狙いやすくなる。


271 : ゲームはまだ始まったばかり ◆vV5.jnbCYw :2021/04/02(金) 00:27:49 lZFmG8y20
投下終了です


272 : ◆vV5.jnbCYw :2021/04/05(月) 15:03:05 bq11XNhE0
カイン、ミキタカ、スクィーラ予約します


273 : ◆vV5.jnbCYw :2021/04/07(水) 23:22:09 PT3.bLBQ0
投下します。


274 : うずまき ◆vV5.jnbCYw :2021/04/07(水) 23:22:42 PT3.bLBQ0
「ミキタカ、お前は月の民なのか?」
「月……というとあの空に浮かんでいるあれのことですか?私はもっと遠い星からやってきました。
私の故郷はマゼラン星雲にあります。でも滅亡してしまいました。」
「滅亡した上にこんな戦いに呼ばれるとは災難だな。」
「いいえ、そうでもありませんよ。地球でもこの世界でも、面白い人に会えましたから。」


世の中がこいつみたいな奴ばかりなら、あんな争いも起こることは無かっただろうな、とカインは苦々しく思う。

「私の世界では月には人はいませんが、カインさんの世界の月には人がいるのですか?」
「ああ。俺の仲間のことだな。」
「月生まれの人間ってどんな人なのか会ってみたいですね。」
「あまり期待されてもな。見た目は普通の人間だぞ。」

それからも、ミキタカの質問は止むことが無かった。
長らく自分に対して、気さくに物を聞いてくる相手などいなかったため、どうにも不思議な気分だった。
本来ならどこから敵が襲ってくるか分からないから、あまり不用意に口を開くなと言うべきだが、何故かそう言う気にならなかった。


だからと言って、いつまでも質問に答えるわけにはいかなかった。
目の前に背の高い塔が立っていたからだ。

質問をする相手は、ミキタカからカインへと変わる。
「迂回していくか?塔へ行くのか?」
「上りましょう、カインさん。ぜひ人間の歴史を感じる遺跡の中を見てみたいです。」
「それはいいのだが、お前の仲間のことはいいのか?」
「仗助さんのことですか?彼は強いので、きっとこの世界を歩き回っていれば、探さずとも会えるはずです。」


カインとしては、同じ仲間に当たるセシルも同じだった。
信用しているわけではないのに、どうにも心配せずにはいられないという胸騒ぎを隠して、ミキタカの提案通り塔へ行こうとする。


「ならこの塔は上から行くか?それとも下から行くか?」
「上から行きましょう。そうすれば帰りに来た道を戻らなくて済みます。」

カインは蚤のように塔の外壁の出っ張りから出っ張りへと。
ミキタカは下半身を一反木綿のようにして高い塔を外から登っていく。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


一方で、塔の中。

(何だこれは……)
バケネズミのスクィーラはエッジと別れて、持っている支給品を漁っていた。
その中で特に目を引いたのは、革の鞄。
とはいっても、ただの入れ物ではなかった。
2つ目の、黒い鞄を開けてみると、中には頑丈に蓋をされたボトルが入っていた。
入れ物の中に鞄という入れ物があり、その中にまたボトルという入れ物があるのは、どうにも回りくどい気がするが、ようやく中身を掴めた。
ボトルの中にあるのは、どろりとした黄色の液体。


固い蓋を苦労して開け、そこから発されるはずのにおいを、その手で扇いで嗅ぐ。
バケネズミの頃から、人間の遺産を発見した時、肺に入れると有害な可能性のある空気の臭いは、いつもこのようにして嗅いでいた。
蜂蜜の様な甘い匂いが漂うが、どこか火薬のような臭いも漂う。


275 : うずまき ◆vV5.jnbCYw :2021/04/07(水) 23:23:47 PT3.bLBQ0
何か反応が無いか蓋をして、揺らしてみる。
そうしてもドロリとした液体が渦を巻くだけで、何も起こらなかった。
だからと言って物を入れたら化学反応で有毒なガスが発生するかもしれないし、手で触れるなどもってのほかだ。
どうすべきか考えていた所、鞄に説明書が貼ってあったことを見落としていた。

月光が壊れた塔の壁から入り込むため、読むに至っては問題ないが、どうにも引っかかる説明文があった。


『ニトロハニーシロップ
普通に飲めば人の怪我を立ちどころに全回復してしまう素晴らしい薬ですが


                                       』


説明書を読む限り、効果てきめんな回復薬だということが伺える。
だが、気になるのは説明書の不自然な余白。
そして、文末に『が』という逆説が付いてあることだ。
従って、これはただの回復薬ではなく、何かの副作用があることは、大いに推測できた。


最初にスクィーラが考えたのは、この薬の正体が、「麻薬」ということだ。
『素晴らしい薬ですが、中毒性があります』などと書いていても、全くおかしくない。
麻薬についての知識は、彼にもある程度備わっている。
それらの一部は、甘い据えたような臭いを出すため、ニトロハニーシロップから出る、甘ったるいような臭いも、それに近しい成分だと推測する。

主にケシの実や麻の葉を主成分として作られた薬は、中毒性や痛覚の鈍麻、そして思考の偏向など、兵隊として使うにはもってこいの効き目がある。
だからバケネズミの雑兵の食事に軽微な麻薬を盛るコロニーも少なくない。
また、呪力がなかった時代の人間の世界では、安易に金を儲けるための違法薬物として使われていたことも知っていた。
この殺し合いの会場で、安易に殺人を犯そうとする参加者を作るために、意図的にこういった薬を支給した可能性も高い。


だが、そこで考えられるのは、ニトロハニーシロップの摂取方法だ。
口からの接種か、はたまた注射器を用いるものなのか。
あるいは、別の粉を用いてのものなのか。


こうなると、説明書に肝心な部分が見えなくなっているのが、どうにももどかしい。
太陽に照らす物なのか、はたまた水にでも入れると分かるのか。
顔を近づけてみる。だが、全く分からない。
しかし、紙の匂いではない、独特の酸っぱい匂いが伝わってきた。

(なるほど。奴らも面白いことを考える。)

説明書の後半は、恐らく果実の汁で書かれている。
色素の薄い液体で暗号を書き、別の場所であぶり出すのは過去に何度もしたことがある。
だが、炙り出すのに肝心な火が無い。
灯り代わりになっている蛍光灯では、火をつけることは出来ない。
塔の下で怪物が火を吐いていたが、あれから1時間と少し経過しているし、さすがに消えてしまっているだろう。


こうなれば参加者を見つけ、火を出す能力、あるいは火を付けられる支給品を譲ってもらえるか頼むしかない。
しかし、そうしたらそうしたらで、問題はある。
まずは参加者が、安易に自分のために火を譲ってくれるのかということだ。
よしんば譲ってくれたとしても、隠されていた内容が鼻持ちならないものだったら、この支給品を没収されるか、最悪捨てられてしまう。


276 : うずまき ◆vV5.jnbCYw :2021/04/07(水) 23:24:30 PT3.bLBQ0

従って、自分の意図を悟られずに、この支給品の正体を調べなければならないのだ。

とりあえずこの塔を一度最上階まで登り、そこからどこへ行くか決めることにする。
そして、階段を上り5階の見晴らしの良い場所まで来た所で、2人組が壁を上ってきた。


「うひゃああああ!?」
階段を上るだけだが登る手段だと思っていたのに、人間が呪力ではなく跳躍力で塔を外から登ってきた事実は、演技など関係なしに驚くことだった。

腰を抜かしたスクィーラに、槍を突きつけられる。
「あ……あの……どなたさま……でしょうか……。」
「単刀直入に聞く。これまで出会った相手を話せ。」
「わ……私が会ったのは……クッパというトゲトゲの怪物だけです……。」
スクィーラは人間に仕えていた頃、良く見せる姿勢を取り、説明した。
彼はカインがエッジの仲間とは知らなかったが、下手にエッジと出会った経緯を教えて、合流されると面倒になる可能性があると踏み、何も言わなかった。


「そうか。」
カインはにべもなく槍を収める。
それにスクィーラは安堵の表情を見せた。

「ならば2つ目の質問だ。お前はこの塔を見回り終わったか?」
「いえ。1階と2階はまだ見回っておりません。」
「どういうことだ?お前も上から来たクチか?」

カインとしても疑問に思う。
上のフロアならともかく、自分のような入り方でもしない限り、下のフロアだけ見てないというのはおかしい。

「いえ、そういうわけではなく……先程話した怪物に追われていたのです。
それで2階の床が崩れて怪物が落ちてくれたおかげで、事なきを得ましたが。」
「一理ある話ですね。この塔は中もボロボロなので、大きな怪物が走れば崩れてしまうでしょう。」
「なるほど。ならこの塔を見回ることにしよう。名前は何だ?」
「私はスクィーラといいます。あなた方神様に付けていただいた名前です。」
「神様!?私たちが?」

スクィーラの言葉に首を傾げるミキタカ。
それに対し、自分たちバケネズミは人間に奉仕する生き物だということを説明した。

「なるほど。言葉を使えて、手先が器用なら家畜以上に有用かもしれない。」
「カインさん、この方を家畜と比べるのは悪い事では……。」
「いえいえ、滅相もございません。我々バケネズミは神様にとっての家畜のようなものです。」
「そこまで自分を卑下する必要などないのでは……。
それより私はバケネズミの社会について聞きたいことは多いです。
仗助さんに聞いた限り、特別な能力を使うネズミはいるそうですが、言葉をしゃべるネズミを見るのは初めてなので。」

主にミキタカがバケネズミについて質問し、スクィーラがその都度答えていく。
そういったやり取りを続け、2階へとたどり着いた。
「ここでその怪物が落ちたのです。」
人ぐらいなら3人ほどまとめて落ちそうなくらいのサイズだ。

「俺たちも気を付けていくか。」
「あなた方は飛べるから問題ないのではありませんか?」
「いや。俺でも踏ん張った足場が途端に崩れたら落ちるかもしれぬな。」
「そうでございますか。ところで先程から神様方に訪ねたいことがありました。
あなた方はどのような道具を支給されたのですか?」


相手、特にカインは警戒心が剝き出しであることは、スクィーラにも十分伝わってきた。
だからこそ、思い切って訪ねてみることにした。


277 : うずまき ◆vV5.jnbCYw :2021/04/07(水) 23:26:11 PT3.bLBQ0

「私が支給されたものはこちらでございます。毒針に回復の薬、そして指輪です。」
支給品袋を開け、持ち物を出す。
前もって情報を出しておくことで、相手も情報を開示しなければならない雰囲気を作る。
相手を無能で醜いネズミと侮らせ、隙を作る。
人間を手玉に取る際、スクィーラがいつもやって来た方法だ。

「私が持っているのはこの……」
「ミキタカ、待て。」
ザックに手を入れ、持ち物を出そうとするミキタカをカインが制する。

「なぜお前は俺たちに支給品を見せた?見せろと一言も頼んでないぞ。」
「それはもちろん、敵意が無いことを示すためです。」
「嘘だな。」

カインはスクィーラの発言を切り捨てた。

「大方、自分の情報を開示することで、俺たちが安易に持ち物を見せつけるのだと踏んだんだろう。違うか?」
「ええ、その通りでございます。我が身を守る以上、神様の力を借りずとも何か道具が欲しかったのです。
私ごときがこのような下賤な欲望を露わにしてしまい、申し訳ありません。」

自分の目論見が9割方バレてしまった以上、下手に誤魔化し続けてもいいことは無い。
いっそのこと、自分の下心も含めて一番重要な情報以外を、謝罪と共に吐き出してしまうべきだ。

「下賤な欲望を持っている奴は、謝罪などその場しのぎの手段でしか使わないぞ。」
カインの詰問はなおも続く。

「カインさん、あまりこの方を責めるのも悪いのでは……私の支給品なら見せますよ。」
「ありがたい限りです。このご恩はきっとお返しします。」
「いいのか。」
「勿論です。」

ミキタカは支給品袋を開け、中身を見せる。
地面に転がったのは、赤い宝珠が付いた木彫りの杖と、バッジと、これまた瓶に入った紫色の液体。
「どれか欲しい物はあるでしょうか?」
「いえ……やはり私が今もっている道具で十分です。ありがとうございました。」


そのやり取りを囚人が何かしでかさないか見張っている番犬のような目で見ているカインを見つめながら、スクィーラは礼を言った。

穴の開いた箇所を迂回して、2階の中央へ向かう。
1階の階段へ通ずる部屋は鉄格子がかかっていたが、開閉用のレバーらしきものをカインが槍で動かす。


残りは地下と1階になった所で、3人の前に異様な光景が飛び込んできた。
1階の中央部に、青い光の様な何かが渦を巻いていた。


「これは……」
3人の中で、唯一覚えがあったのは、カイン。
かつてミシディアとバロンを繋ぐデビルロードで見かけた渦巻だ。
セシルが言っただけで、実際にカインが見たわけではないのだが、時空を圧縮し、遠く離れた場所を繋ぐという渦に似た姿をしている。


「カインさんは何か知っているのですか?」
「ああ。仲間から聞いただけだが……。別の場所へ行けるらしい。」
「もしかすると……。」
「ああ。そのもしかするとだ。」

3人の共通の意識に、この会場からの脱出という期待が過った。
だが、こんな露骨な場所に脱出口があるわけはないとも思っていた。



話は変わるが、この場所はかつて旅の扉と呼ばれた渦巻きがあったという訳ではない。
とある老楽師の魔法によって造られたものだ。
これがなぜこの会場にて存在するのか。


分かるのは、3人の脳内に別の渦巻が発生していたことだ。


278 : うずまき ◆vV5.jnbCYw :2021/04/07(水) 23:26:32 PT3.bLBQ0

【C-1/山奥の塔/1階 黎明】
【スクィーラ@新世界より】
[状態]:健康
[装備]:毒針セット(17/20) @無能なナナ
[道具]:基本支給品、ニトロハニーシロップ 指輪?
[思考・状況]
基本行動方針:人間に奉仕し、その裏で参加者を殺す。
1:カイン、ミキタカと共に付近を探る
2:朝比奈覚、奇狼丸は危険人物として吹聴する
3:優勝し、バケネズミの王国を作るように、願いをかなえてもらう
4:説明書の読めない箇所を炙り出すための火が欲しい


【カイン@Final Fantasy IV】
[状態]:健康 服の背面側に裂け目 疲労(小)
[装備]:ホーリーランス@DQ7  ミスリルヘルム@DQ7
[道具]:基本支給品 
[思考・状況]
基本行動方針:憎まれ役を演じ、対主催勢力を繋げる。もしセシルが死ねば? 敵がいれば倒す
1.セシル、お前はどうしている?
2.ミキタカ、しっかり頼むぞ。
3.スクィーラに警戒心
4.この渦巻は?
※参戦時期はクリア後です



【ヌ・ミキタカゾ・ンシ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 魔導士の杖@DQ7 バッジ?@ペーパーマリオRPG 紫のクスリ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[思考・状況]
基本行動方針:カインに協力する
1.カインさんは面白い人ですね。
2.仗助さんが無事か気がかり
3.この渦巻は?

※参戦時期は少なくとも鋼田一豊大を倒した後です。


【支給品紹介】
【ニトロハニーシロップ@ペーパーマリオRPG】
我が社の新製品、ニトロハニーシロップは、普通に使えば死んだ人も生き返っちゃうというくらい凄いシロップなのですが・・・貝がらから採った「カルシウム」と「金」をそのシロップと混ぜ合わせてしばらくすると・・・なんと!大爆発を起こすのです!それこそこの列車なんて簡単に吹き飛ばすぐらいの威力があるのです!(某サラリーマンの話)
本ロワでは、普通に使っても死者の蘇生は出来ないにしろ回復できるが、金とカルシウムをまぜあわせると強烈な爆弾を作ることが出来る。なお、爆弾のレシピの部分は普通には読めなくなっている。

【魔導士の杖@ドラゴンクエスト7】
ミキタカに支給された杖。
使うと火の玉を出すことが出来る。


【紫の薬@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス】
ミキタカに支給された薬。
飲むと小回復、全回復、小ダメージ、大ダメージのいずれかの効果が出る。
レアチュチュゼリーを取ろうとしたが、これを取ってしまうことはよくある話。


279 : うずまき ◆vV5.jnbCYw :2021/04/07(水) 23:39:37 PT3.bLBQ0
投下終了です


280 : ◆2zEnKfaCDc :2021/04/07(水) 23:39:46 I.N7mqZ60
投下お疲れ様です。

スクィーラの『小物感』がすごくスクィーラだった……。積極的にキルを狙えないスクィーラに、キル以外の"目的"を与えるの、展開としてすごく巧いと思います。ただ、認識されていない爆発アイテム、それで戦績を挙げる時はスクィーラ自身も生き残れるのか……。

そしてセシルはすでに死んでいるとも知らないカイン。放送後の反応が気になりますね。


281 : ◆s5tC4j7VZY :2021/04/09(金) 16:15:26 WRucoHS20
投下お疲れ様です!

過去も未来も、巨悪も超えるから
早紀ちゃんは次々に人外のメンバーと合流していますね。
共に探し人に出会えるのか……このパーティの行く末が楽しみです。
フクロウシなどとは違う姿の牛の姿をイメージし、猫もまた時代を違う姿だったのかもしれないと考える。
↑この考えがドラえもんの逆鱗にふれずにすみましたね(笑)

心を照らす光
いやぁ〜やはり、このメンバーは「光」ますね〜
守はヤンとペアを組めたのは心強いですね。
無事、彼らが再開できるのか……
「うわあああ〜、ローン25年の絨毯がああ〜。」
↑笑っちゃって満月博士には申し訳ないんですがツボに入りました。

頭隠して身体隠さず
たしかに冷静に考えれば、すぐに気づきますよね!
ローザは次に出会う人物がターニングポイントになりそうで、祈ってしまいます。

意外!それは髪の毛ッ!
「愛」は強い!
アルスの「出会いがしらマジャスティス」は間違ってはいなんですが、あらぬ誤解をやはり受けますね。
別ロワになりますが、どうも「とりあえずメラゾーマ」を連想して笑っちゃいます。(アルスは真面目にやってはいるんですが)

薄っぺらな人形劇
この語り口の進行……凄くて震えました!
迫力あるバトル!!これはアンコールしたいです。

ゲームはまだ始まったばかり
デマオンに普通に接することができるナナさんは流石ですね。
しかし、それがアイラに違和感をもたらす……はたして、どうなるのか。
クリスチーヌや満月博士も向かっている図書館。原作の灯台を彷彿させますね。

うずまき
この奇狼丸が嫌悪する行動は正にスクィーラでした。
バケネズミとはなんぞやを聞いて「なるほど。言葉を使えて、手先が器用なら家畜以上に有用かもしれない。」と言えるカインは世界が違っても呪術側の思考の持ち主だと改めて実感しました。
やはり、放送後が色々な意味で楽しみがあります。

戦い方・支給品について承知いたしました。
キングブルブリン、マリベル、ガボで予約します。


282 : ◆vV5.jnbCYw :2021/04/11(日) 23:11:56 pJytdeBs0
のび太、覚、ダルボス、ルビカンテ予約します


283 : ◆s5tC4j7VZY :2021/04/13(火) 19:40:40 kxDZXMG.0
投下します。


284 : ◆s5tC4j7VZY :2021/04/13(火) 19:42:05 kxDZXMG.0
静寂ーーーーー物音もせず静かなこと。しんとしてものさびしいこと。
グーグル日本語辞書 より引用

B-7、その森林は静寂とは程遠い騒がしさに包まれているーーーーー

ガサガサガサッッッッッ!!!!!
草むらをかき分けながら逃げるマリベルの顔はーーーーー

「はぁ…はぁ…はぁ…!!」
ーーー怖い!怖い!!怖い!!!ーーー
恐怖一色ーーーーー
そう、自慢のメラゾーマが効かず、自信満々に魔物討伐に挑んだ勝気なプライドは砕かれ恐怖にかわっているーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー血路を開けーーー

「嫌っ!来ないで!!」
ーーーほんと、最悪!お気に入りの服が泥だらけ。

「ブォォォオオオオ!!」
あー もう!バカバカッ!何が、ブォォォオオオオよ!女の子が嫌がってるんだから、見逃してくれたっていいじゃないのよっ!

「いい!いくらあたしが魅力的だからといっても、あたしとアンタとじゃ釣り合わないの!だから、諦めなさいッ!!」
むかー!なんだって あたしがこんな目にあわなくちゃいけないのよ!
だんだん!恐怖よりも苛立ちの気持ちが沸き上がるッ!!!

「ウルサイ女ダ……」
なんですって!?むっき〜むかつくっ!このあたしに向かって五月蠅いですって!!

(タシカ、オレノ支給品二……)
アッタ!!……ヨシ!!!

ギリギリギリーーーーービュッ!!!

ザグッ!!
「あう!!!」
あたしの左足に弓がーーーーー!!

ズザァァァァアアアアア!!ーーーーー
あたしは、痛みもあり、転んでしまう。

ニィイ!キングブルブリンは嗤うーーーーー

「…ッ!何すんのよ!!イオ!!!」
あたしは魔物にイオをお見舞いしてやるつもりで呪文を力いっぱい込めて放った!!

「な…なんで!?」
だけど、あたしの掌からは何もでてこないーーーーー

「どうしてでないのよッ!?イオ!イオ!!イオ!!!」
(MP切れ!?いいえ、まだ余裕あるはず……)
あたしの表情は恐怖から苛立ちに代わっていたが焦りに変貌したーーーーー

「ドウヤラ、紙二書イテアルトオリノヨウダ……」
キングブルブリンはうむうむといった様子で満足そうだ。

(なんですって!?まさか……この弓……マホトーンの効果が付いているマジックアイテム!?)
しまった!あたしの支給品には解除するのはないわ!!

そうーーーキングブルブリンに支給された弓はただの弓ではない。
口封じの矢。
沈黙の追加効果を持つ矢。
つまりーーー魔法使い特効の武器!!!

「コノ弓モナカナカイイ。名前ノ「グレートボウ」……力アルオレ二ピッタリダ……」
残り1つの支給品は口封じの矢を放つことができる弓……グレートボウ。

「本音デイウナラ呪文ダケデナク、ソノ口モ封ジタカッタガナ……」
ーーーそれは聞き捨てならない台詞。

「くっ……・それは、残念だったわね。それと、このあたしの声が五月蠅いだなんて、アンタの耳メダパニッてんじゃない?」
(いやーん魔法がないとマリベルこまっちゃーう)


285 : ◆s5tC4j7VZY :2021/04/13(火) 19:42:45 kxDZXMG.0
ブンッ!!金槌がマリベルの右足を潰す!!
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」
声にならない痛みのうめき声ーーーーーー
マリベルはゴロゴロとその場を左右に動かすーーーーー

「ホントニ口ガヘラナイ女ダ……」
「ドウシタ?トクイノ呪文トヤラハドウシタ?」
このムカつく魔物は痛みに苦しむあたしを気持ち悪いニヤケタ笑みを浮かべながら聞いてくる。あたしが呪文を封じられているのを知っているくせに!ほんと、ムカつくわ!この……見てなさい!

「〜〜〜ッ!!はぁ……はぁ……あら?女は準備に時間をかけるものなのよ……待つこともできないの?これだから、イノブタマンは……」
うん、こいつの名前はイノブタマンで決定!流石あたし。

「ブタダトッ!!??」
あら?素敵な名じゃない。文句あるの?

「モウイイ!ソノ口永遠二閉ジテイロ!!!!」
キングブルブリンはマリベルに向かってウルトラハンマーを脳天目掛けて振り下ろそうとしているーーーーー

あたしの脳裏に浮かぶのは幼馴染のアルスーーーーー
(ここまでね……ねぇ、アルス……ギュイオンヌ修道院での会話……覚えてる?……あたしのこと……ずっと……覚えていてくれる?……)

ビュウウウウウウウウ!!!!!!
「何ダ!?」
突如、発生した風邪がキングブルブリンの死を与える行動を中断させるッ!!
(バギ!?…いえ、これはッ!?)

それは、疾風のブーメランが起こした風邪。
風邪がマリベルとキングブルブリンの間に発生する。

「大丈夫かぁ!?マリベル」

「ガボ!?」
仲間のガボであったーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ど…どうして、ここが」
あたしは仲間のガボの登場に嬉しさもあるが戸惑いを隠しきれない。

「大きな音がしたCー8で、匂いを嗅いだらマリベルだっからさ!ほい!!」
ガボはそういうとあたしに時の砂を手渡してきた。
時の砂は戦闘開始時に状態を戻すアイテム。

「はぁ……はぁ……ありがと♪」
砂だらけなんかいってらんない。
あたしは時の砂を体に塗すーーーーー
アイツ(イノブタマン)から受けた沈黙の効果は無事消滅した。

「でも、どうして、あたしが呪文を封じられてるってわかったの?」
そう、そこは疑問であるーーー

「ああ。マリベルがただ座り込んでいるのがらしくねぇなぁと思ってさ!オイラの知ってるマリベルはたとえ、最後の最後まで追い詰められてもメラゾーマなりして抵抗はするはずだと思ってるからなぁ」
そういうと、ガボは照れたように鼻をこする。
ーーーガボの癖によくわかってるじゃない。

「ええ!よくわかってるじゃない!!……もう一度いうわ。ありがと」

「かまわねぇさ!……それにしても、でぇけえモンスターだ」
ーーーマリベル、傷だらけだったな……とっても痛そうだったぞ

「フン!ガキガ一人増エテモ、何モ戦況ハ変ワラナイ」
「オレノ名前ハ、キン「イノブタマンよ」」

キングブルブリンは自分の名前を名乗ろうとしたが、マリベルが遮る。

「マ…マタッ!!」
キングブルブリンはマリベルを睨むーーー

「何よ。間違ってないでしょ。べー」
言ってやったわ!ざまあみなさい!!

「そうか!だったら、懐かせなきゃな♪」
アタシが言った言葉を真に受けたのか、ガボはーーーーー
キラキラキラ……ピンク色の光がキングブルブリンに降り注ぐーーーーー

「何ノマネ……ダ?」
「うひゃ、まものならしは効かねぇかー。せっかくモンスターパークへ送ってやろうと思っていたのに…」
ガボは「まものならし」が効かないことにショボンと肩を落とす。

ーーーあはは。ほんと、最高!

ピクピク……キングブルブリンは怒りで体を震わせる……

「殺ス!!!!!」
「おっと!おこらせちゃったか?わりぃわりぃ」
言葉は謝罪を述べてはいるがーーーーー

「だけど……マリベルをいじめたこと、オイラゆるさねぇからな!!!」
顔は仲間の為に怒りを爆発させているーーーーー

ーーーーー魔物 キングブルブリンーーーーー


286 : ◆s5tC4j7VZY :2021/04/13(火) 19:43:14 kxDZXMG.0
☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー強き者どもーーー
ガボは言うが否や大きく息をすいーーーーー
ボオォォォォオオオオ!!!

ーーかえんの息ーー

かえんがキングブルブリンを包み込む。
しかし、マリベルの表情は硬いままだーーーーー

「気を付けて!アイツ、あたしのメラゾーマを物ともしないッ!」

「ブオォォォオオ!!」
キングブルブリンは炎のダメージをまるで効いていないのかガボに向かってウルトラハンマーを振り回すッ!!!

ウルトラハンマーを持ち前の素早さで紙一重に避けていく。
「こりゃあ、直撃を受けたら大変だ……スクルト!!」
「そしてルカナン!!」
スクルトーーーそれは、味方全体の守備力を上げる呪文。
ルカナンーーーそれは、相手の守備力を下げる呪文。

「ムゥゥウウ!?オレに何ヲシタ!」
(ムゥ……コノガキ!厄介ダ。先二女ノホウヲ始末スルカ)
キングブルブリンは標的をマリベルに定めると口封じの矢を再度、マリベルに放出する。

ビュッ!!! ズダンッ!!!
「!?」
(スリヌケタ!?ドウイウ事ダ…ウガァアア!?)
疾風がキングブルブリンの背中を切り裂く。

「へへん。よそ見をすると、痛い目見るぞ?」
(あれは……マリベルのマヌーサかぁ。よし、オイラはサポートに徹するぞ!!)
ガボはマヌーサからマリベルの意図に気づいた。
パーティとしての経験値。
力のみを信じるキングブルブリンには到達できない絆。

(アイツ……気づいてないわね……)
どうやら、イノブタマンはあたしの「マヌーサ」に気づいていないようね。
キョロキョロしている姿……笑っちゃうわ!

マヌーサによる幻を呼びだした後、あたしはその隙に大木の裏に息をひそめている。
準備をするためにーーーーー

「絶対にぎゃふんと言わせてやるッ!!」
(アイツにメラゾーマは意味がない……とすると「あれ」をするしかないわ……)
そうーーーあたしの切り札

☆彡 ☆彡 ☆彡

シュルルルルルル!!!
疾風のブーメランがキングブルブリンの腹を切り裂くッ!!

「オオオオオォォォォォ!?」
(クッ!?ヤハリ、威力ガッ!!??先ホドノ呪文カ……」
漆黒のマントを羽織る男に勝らない一撃にキングブルブリンは呪文が己の体に異変を与えたと感ずる。

フゥ―――……
キングブルブリンは乱れた精神を統一する。

シュルルルルルル!!!
「フン!!!」
ガキィィィン!!!
ブーメランの軌道に合わせてウルトラハンマーで防ぐ。

(素早イ……癪ダガ……)
キングブルブリンの目の色が変わる。

(アイツの匂いが変わった……気をつけねぇと……)
オイラはイノブタマンの匂いが危険を匂わすことで動きに注意を払うーーーーー

「……」
「……」
緊迫の空気がピリピリと振り得るーーーーー

(準備まであと、もう少し……念のため【アレ】の準備もしておきたい……)
アタシもガボ同様イノブタマンの空気がただ事ではないことを理解しているーーーーー
だからこそ、準備をしなければならない。
もしアタシの切り札で仕留めきれなかった場合も考慮する。

「グォォオオオオッ!!」
雄たけびと同時にガボに突進しつつウルトラハンマーを振り回すッ!!
「ほいッ!!」

側転でそれを避けたガボはキングブルブリンに向かった疾風のブーメランを投げるがーーーーー
「グォォオオオオッ!!! 」
ガボの攻撃を避けると、一瞬の間に後ろへ回り込み、金槌の強打!!!

それはーーーリンクの「背面斬り」
ーーー宿敵の技


287 : ◆s5tC4j7VZY :2021/04/13(火) 19:43:57 kxDZXMG.0
「〜〜〜〜〜〜!!!???」
強烈なウルトラハンマーの一撃はガボの体力を大きく殺ぎ落とすーーーーー
(ガボッ!!!!!!)

「グフフ……」
(フン!……アノ男ノ技。ヤハリ使エルナ)
キングブルブリンは、ハイラル城での決戦でのリンクの技を見事会得できた!!

「うへ〜……体中がズキズキいてぇぞ」
(へへへ……スクルトをかけても、これかぁ。頑丈なオイラでもちょっときついぞ……)
ガボの額から血と汗が流れ落ちる。

「ソコ……ダッ!!」
(ヨウヤク、見ツケタ……)
「キャ!?」
ビュッ!!! 口封じの矢がマリベルが潜んでいた大木に刺さる。

(これ以上は無理ね……完璧じゃないけど……)
2つの呪文を同時進行していたために起きた誤算だが、マリベルは覚悟を決める。

「いい加減に……してよねッ!!!」
潜んでいた大木から現れたマリベルは両手に光の玉を形成するーーーーー

「フン!貴様ノ呪文ハ俺二ハ効カナイコト忘レタノカ?」
(ダガ直撃ハ不味イ。コノウルトラハンマーノ風圧デ消シ去ルカ)
キングブルブリンは口では強がるが、迎撃の体勢をとる。

「とう!!」
しかし、その光の玉はキングブルブリンではなく、空高く頭上に上昇するーーーーー

「何ッ!?」
(女、一体何ヲ企ンデイル!?)
マリベルの予想外の行動に完全に虚を突かれたキングブルブリン。

「喰らいなさいッ!!!」

ーーービックバンーーー
マリベルはビックバンをひきおこした。

光の玉はキングブルブリンに降り注ぐと巨大な爆発を引き起こした。
それは、さながら閃光の花火のようにーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡


288 : ◆s5tC4j7VZY :2021/04/13(火) 19:45:38 kxDZXMG.0
光の爆発が収まり、集束すると、焦げ付いたキングブルブリンが仁王立ちに佇んでいた。
周囲の森は爆発音で炎に燃え広がっている。

「ビックラこいたあ。オイラ、まだ心臓がばっくんばっくんいってるよ」
「ふふん♪マリベル様の実力はざっとこんなもんよ♪」
ーーーふぅ、これならあの準備は取り越し苦労だったわ

「やったね♪」
「やったな!」

勝利にハイタッチーーーーー

「オイラ、腹へったぞ」
「ふふふ。いいわ、美味しいのを作ってあげるわ。感謝しなさい」

それは、つかの間の幸せ。
しかしーーーーー

「グォォォォオオオオ!!!!!」
焦げ付いたが生命を失っていなかったキングブルブリン!!!
力のフルパワーの一撃はガボを樹木にたたきつける威力!!!!!

「ガボ!!」
「次ハ……オマエダ!」

「フンッ!!!!!」
「ッ!?」
ドガァァァアアアアアアア!!!!!

とっさに体を回転させてよけたがーーーーー

「チョコザイナッ!!!オオォォォオオオオ!!!」
豪快な横スイングにアタシは大木に背中から直撃するッ!!!

「アル……ス」
ドサッ!!!

マリベルも地に伏したーーーーーー

「こ…のぉぉぉおおお!!!」
(やべぇ……意識が……でも、そんなこといってらんねぇ!!!)
スクルトの効果も消えていたため、先ほどとは比べ物にならない激痛に耐えつつ何とか起き上がり、キングブルブリンに立ち向かうがーーーー

「スピードガ遅イ。貴様ノ動キ丸見エ!!!」
それは、元の持ち主がキノコや亀に対して振り下ろすよりも力強いーーーーー

命を押しつぶす慈悲亡き一撃ーーーーー

ーーー痛恨のいちげきーーー

ガボの意識は闇に沈んだーーーーー

【ガボ @ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち  死亡】
【残り 45名】

「フン!サテ……東側ヲ攻メロ……ダッタナ」
(トドメ……イヤ、コノ女ノ爆発ニヨル炎ガ予想ヨリモ燃エ広ガッテイル。ココハ、早メ二移動ヲスルカ……)
キングブルブリンは倒れたマリベルを見届けると背を向き、歩きだすーーーーー

暴力が東側を包み込むッ!!!!!

【B-7/森/一日目 黎明】

【キングブルブリン@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:全身に火傷(大)、腹部に裂傷(中)
[装備]:ウルトラハンマー@ペーパーマリオRPG グレートボウ@FINAL FANTASY IV 口封じの矢数本@FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本行動方針:強い奴に従う。
1.ゴルベーザに従い、参加者を減らして回る。
2.回復できる手段を探しつつ一度、休憩をとる。
3.強者との戦いを楽しむ。
※リンクとの最終決戦後からの参戦です。


289 : ◆s5tC4j7VZY :2021/04/13(火) 19:47:06 kxDZXMG.0
☆彡 ☆彡 ☆彡

「ン……何ダ……亀裂?」
地面に亀の甲羅のような亀裂に気づく。
その亀裂は地獄の底へ繋がるような悪寒が感じさせるーーーーー

「気づくのがおそい……わよッ!!!」
それは今際の力ーーーーー保険として準備していた呪文。

メルベルは「鳴動封魔(めいどうふうま) 」をとなえた!

ゴガガガガガガガッッッッッ!!!!!

「ナニィィィ!!??」
一帯の地面の亀裂が左右に分かれるッ!!!

「あんたみたい……なのは……封印が一番……ってね!!」

「ム……虫ケラガァァアアア!!!」

「イノブタマン遊んでくれてありがと。つまらなかったわ。じゃあね」

キングブルブリンは じわれにのみこまれた!

【キングブルブリン @ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス  死亡】
【残り 44名】
ーーー失われた世界ーーー

「ふふん……さっすがあたし……」

マリベルの「鳴動封魔」の威力は広範囲に及びーーーーー

ガボの遺体は じわれにのみこまれた!

(ガボ、ごめん……だけど、許して…直ぐに私も…そっちに逝くから)

地に伏したマリベル周辺にも亀裂が徐々に広がりーーーーー

(アイラ……あなたの踊り……いつも見惚れてた……観れなくなるのほんと、残念だわ……)

(メルビン……もうおじいちゃんなんだから無茶するのは……やめなさいよ……)

(キ―ファ……あんたの我儘で色々と大変だったのよ!だから……あの世で再会したら、リーサの代わりに一発ひっぱたかせなさい!……その後は、いっぱい喋りましょう……別れた後の互いの事を)

(アルス……あたしだってあんな魔物一匹や二匹簡単に倒すことできるよ……だから……ほめちぎりなさい!あたしのこと!!)
ーーーううん、違う。アルスに伝えたいことはそんなことじゃないーーーーー

(アルス……あたし、あんたのこと……す……)
マリベルは じわれにのみこまれた!

【マリベル @ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち  死亡】
【残り 43名】

グゴゴゴゴゴ……………
亀裂で左右に分かれていた地面が元に戻る。
ビックバンの爆発で燃え広がっていた炎も地下深く封印されーーーーーー

森に静寂が戻ったーーーーー

【B-7/森/一日目 黎明】

※マリベルの「鳴動封魔(めいどうふうま)」により、キングブルブリン、マリベル、ガボの遺体は地中深く封印されました。
※ガボ・キングブルブリン・マリベルの基本・ランダム支給品も同様に地中深く封印されました。


290 : 少女、楽園へ至る ◆s5tC4j7VZY :2021/04/13(火) 19:47:49 kxDZXMG.0
投下終了します。
タイトルは「少女、楽園へ至る」です。


291 : 名無しさん :2021/04/13(火) 19:58:43 3AuWJcPE0
投下乙!
激しい攻防の末の結末は、まさかの全滅…
呪文封じからの仕切り直し、倒したかと思ったら逆襲してくるキングブルブリン、そして最後の封印
二転三転するバトル、とても見ごたえありました
改めて乙です!


292 : ◆vV5.jnbCYw :2021/04/13(火) 20:33:27 50iFxhOM0
投下お疲れ様です!!
互いの技をフルに使ったバトルは読み応えありました!!
キングブルブリンに弓を使わせたり時の砂で疑似光の波動を使うようなオリジナルの展開もあって、
緊張感煽るバトルの中でも、PS版の話すシステムなど、原作を使った面もあり、ニヤリとしてしまいました。


293 : ◆vV5.jnbCYw :2021/04/16(金) 18:04:20 XR/WPQ9Q0
投下します


294 : リスタート ◆vV5.jnbCYw :2021/04/16(金) 18:04:46 XR/WPQ9Q0
ルビカンテは闘技場の中心部にいた。
蹲る彼の胸の中にあったのは、敗北の屈辱


彼が敗れたのは1度だけではない。
かつてパラディンになろうとして試練に敗れ、さらにセシルとその一行に敗れた。
そういう点だけ見れば、先の戦闘での敗北も格別珍しい事ではない筈だ。
しかし、敗北の過程が全く違った。
敗北を喫した戦いこそ数あれど、ほとんど傷さえ付けられぬまま勝負がついた戦いはほとんどなかった。
しかも、自分の十八番さえも通じずに。


悲惨だった。
死ななければ負けではない、と言うことさえ出来ない。
今死んでいないのは、自分の力だけではなく、敵としていたはずの相手から受けた施しだからだ。

それなりに傷を負っていたはずだが、何もせずにじっとしていれば感じたことのない不快感でおかしくなりそうだった。
やみくもに鞄を開け、支給品のトランプを取り出す。
参加者のカードの束を地面にたたきつけ、散らばった中から1枚を取る。

「マリオ……。」
自分を追い詰め、自分が倒すはずだった敵を横取りした男の名前を呟いた。


そのカードを握りしめたまま炎を出す。
赤を纏った服の男の絵は、異なる赤に包まれ、瞬く間に灰になり空気へ舞う。


その時、何人かの足音が聞こえた。
誰が来たのか、奴等こそ自分のどうにもならない気持ちを払拭してくれるのかと、期待を胸に戸を開ける。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


時は少し遡り、闘技場前。
のび太、覚、ダルボスの3人は細菌兵器を持って逃げた写真のおやじを追いかけながらも、途中で見失っていた。

「あの写真の人、どこへ行ったのかなあ。二人は見つけた?」
「ダメだ。俺にも見つからん。」

覚のような呪力持ちの人間は、非常に視力が高い。
そして灯りの無い夜でも、目を暗闇に慣らしていけば、昼間と大差なく見える。
だが、いくら視力がのび太たちより数段上でも、見えない物を見ることは出来ない。


「もしかすると、いつの間にか追い越したんじゃねえのか?」
同じく灯りの少ないデスマウンテンを苦労なく動けるダルボスも、空飛ぶ写真の姿は見当たらなかった。
「ええ〜〜!!そんなぁ……。」
いきなり走ることになり、小学5年生、それより幾分か劣るのび太は、すっかり疲弊していた。
そこに予想外のことを告げられ、地面にへたり込んでしまう。


「オイオイ、もうへばったのかよ。そんなんじゃ強いゴロンになれねえぞ。」
「ならなくてもいいよ!!」
「そういやノビタはゴロンじゃなくてニンゲンだったな。」
「あまり無理するな。この先何があるか分からんし、写真の男を探すのを一度中断して、どこかで少し休むのがいいだろう。」

覚の提案には二人も納得する。
敵は写真の男だけとは限らない。
今こうしている間にも別の敵が迫っている可能性だってある。
何処にいるかもわからない相手を追うのに集中しすぎて、体力を使い果たすことを避け、3人は適当な建物を探す。


295 : リスタート ◆vV5.jnbCYw :2021/04/16(金) 18:05:02 XR/WPQ9Q0

「あの大きな建物とかどう?」
のび太は少し先の、屋根にワンワンの人形が付いた建物を指さす。

「まあ、窮屈じゃあなさそうなだけマシだな。」
ダルボスは人工的な市街地よりも、デスマウンテンの様な天然の地形に囲まれた場所の方が好みだが、仕方なくその提案に乗る。

「地図を見た感じ、ここは『闘技場』らしい。こんな場所ならもしかするとのび太やダルボスの知り合いも来るかもな。」

「よっしゃ。ならオレが先に入るぜ。オマエ達は付いてきてくれ。」

そう言いながらダルボスが先に建物の中に入る。
覚の呪術は、不意な攻撃から咄嗟に身を守ることは難しい。
実際にバケネズミからのゲリラ戦の時は、その弱点を大いに突かれた。


後に続いて、覚やのび太も入ろうとするが、すぐにダルボスが制止した。
ロビーから炎の弾が飛んで来たからだ。

「オラァ!!」
しかし、ダルボスの右の拳で簡単に弾き飛ばす。
火山弾飛び交い、溶岩流れるデスマウンテンを主な住処とするゴロン族は、人間に比べると高熱に強い。

「ほう……今のを止めるとは……。」
ロビーとリングを繋ぐ扉には、赤いマントで全身をすっぽり覆った男が立っていた。

「誰だオマエは!!」
その姿に気付いたダルボス

「私はルビカンテ。この殺し合いに乗っている者だ。おまえ達はどうする?」
「奇遇だな。オレ達はオマエみたいな奴等をとっちめようとしていたんだ。」

ダルボスは両手を鳴らし、臨戦態勢に入る。


「待ってくれ!!」
その戦いに水を差すかのように大声を上げたのは、覚だった。
「今俺たちは戦っている場合じゃないんだ!!」


覚としては、目の前にいる赤い男よりも、いつ細菌兵器がばら撒かれるかの方が気がかりだった。
どんな状況であれ、不味いことは同じ組合の者同士が相争っている間に、第三者に水面下でやりたい放題されることだ。


「奴と同じことを言う。なぜ人間と言うのは誰しもそうなのか。」
ルビカンテはセシルのことを思い出し、はあ、とため息をつく。

「話が聞けるなら、今こうして争うのをやめてくれ!!」
「残念だが私は戦う以外のことが出来ぬのでな。その申し出は受け入れられん。」


ルビカンテが手を上げると、ダルボス達に12時、4時、8時の方向から蛇が襲い掛かる。
ただし蛇と言っても、頭は火球で、身体は紅炎で出来ている。
しかし一匹の蛇はダルボスの拳によって潰され、後の二匹は覚の呪力により難なくかき消される。


296 : リスタート ◆vV5.jnbCYw :2021/04/16(金) 18:05:31 XR/WPQ9Q0

「ふむ。やるではないか。なぜその力をもって、戦いに身を投じようとせぬのか度し難いな。」
「世の中には力を持っているからって戦いが好きな奴ばかりじゃないんだよ。」

力を持っているからと言って、考えを放棄して戦ってばかりいれば良いものでは無い。
現に覚は、自分の数十倍はある呪力を持っていながら、バケネズミに殺された日野光風のように、力に頼り切った慢心は死を招くことを学んでいた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

(ど、どうすればいいの?)
2人とルビカンテのやり取りを見て、のび太は1人何も出来ずにいた。
どうにかして殺し合いを止めたい。
だが自分に出来るのは、布切れ1枚動かせるか否かの念動力ぐらいだ。
この戦いを止めるほどの話術も、全員纏めて逃げる戦術案も、無理矢理ルビカンテをねじ伏せるほどの力もない。
飛んでくる炎を、ダルボスと覚が散らしている所を見るだけしかできない。


「そこの少年、おまえは離れろ。」
「え?」
そうこうしているうちに告げられたのは、覚とダルボスを置いて逃げろと言う言葉だった。
しかもそれは敵からの言葉だ。
意図が分からないことを言われ、のび太は戸惑うだけだった。


「弱い者には興味はない。私の意思が変わらない内に行け。」

「置いていけないよ!!」
断ろうとした瞬間、急にのび太の体が浮かび上がった。
朝寝坊した時、慌てて階段から落ちた時の様な奇妙な浮遊感を覚えたと思ったら、急にその体は闘技場から出ていった。

着地した場所は、闘技場から出てすぐの植え込み。


「そこに隠れていろ。奴の言うことは最もだ。」
呪力を使った覚が、のび太をルビカンテの手が届かない場所まで飛ばした。
無重力空間から急にそうでない場所に来たかのような感覚を覚えながら、地面に落ちた痛みを全く感じなかったので、覚に賞賛を送りたいが、今はそれどころではない。

「ちょっ……。」
のび太は止めようとするが、聞く耳持たないとばかりに、すぐさま覚は戦線復帰する。




「いいぞ。やはり強者との戦いはこの上なく満たされる。」
勢いづいたルビカンテに伴い、ポップコーンのように炎の弾がダルボス目掛けてはじけ飛ぶ。

「ウオオオオオ!!」
それを連続パンチで打ち飛ばしていくダルボス。
一見互角のように見えるが、ルビカンテの方が優勢だった。
片や遠距離から魔法を撃ち、もう片方はそれを弾くことしか出来ない。
何度も魔法を撃ち続けていれば、いずれ弾き飛ばすこと出来ず当たる。
従って、戦いの主導権は完全に握られていた。


「それはどうかな?」
戦線復帰したばかりの覚は、何もない空間、正確には二人が戦っている場所の中間あたりを見つめる。

「「!!」」
睨み合っていた両者は、どちらも驚愕した顔を晒すことになった。
何故なら相手しか見えていなかった視界に、急に自分の顔が入り込んできたからだ。
そして、ルビカンテはさらに驚くことになる。
ダルボス目掛けて撃ったファイガが、自らに返ってきたからだ。


元々炎魔法に耐性のあるルビカンテには、それだけでは大したダメージにはならない。
だが、攻撃の札はもう1枚。


「ウオオオオオオオオオ!!」
辺りに充満した煙の中から、鉄球、いや岩の塊のようになったダルボスが、迫りくる。

「ぬおおおおお!!」
ルビカンテは四肢に力を籠め、止めようとする。
当たれば鉄の靴でも履いてない限り、簡単に吹き飛んでしまうゴロンの、その中でも強者の一撃だ。
爆音と絶叫が響き渡る。
纏っていた赤い衣の一部が飛び散る。
そして彼の巨体が、ロビーとリングを繋ぐ大扉を突き破って転がった。


297 : リスタート ◆vV5.jnbCYw :2021/04/16(金) 18:05:49 XR/WPQ9Q0

「やったか……?」
「スゲエじゃねえかサトル!!何をしたんだ!!」
魔術の反射という、
「過去に覚えた、呪力の応用さ。」

覚が全人学級時代に覚えた「鏡造り」の呪力だ。
ルビカンテから出る炎が、ニセミノシロモドキが出したような光線の類ではないかと考えた覚は、空間に作った鏡で跳ね返すことを試みたのだ。
どういうからくりか分からないが、呪力の力や攻撃範囲がいつもより限られていたため、これは出来るのか不安だったが、いつもと同じように成功したことに覚は安堵する。


「今の攻撃、中々効いたぞ。」
「チッ…やっぱりか……。」
だが、彼もゴルベーザ四天王最強の名を冠する者。
セシルの斬撃やマリオの殴打に雷を受け、僅かの休みの後、覚とダルボスの波状攻撃を受けてなお立ち上がる。




一方で、のび太は鞄の中身を探っていた。

「あった!これなら……」
鞄から出てきた最後の支給品は、かつて西部時代にタイムスリップした時、数10人の悪党と戦ったことを思い出す道具だった。
それはとある国のマフィアが使っていた、紫の小型ハンドガン。


耳を澄ますと、闘技場内から大きな音が聞こえて来る。
3人の戦いが白熱しているという何よりの証拠だ。
すくんで動けない足に鞭打って、一歩一歩、静かに足を踏み入れる。



一方で、場所は闘技場のロビーからリングへと移る。
ルビカンテは戦い向けの場所だということも相まって、炎と闘志を滾らせていた。


「構えが変わった!!来るぞ、サトル!!」
「分かってる。」
先程ファイガを撃った、両手を大きく開いた構えとは異なり、爪を装備した右手を空高く掲げる。
その先に聖火のように炎が集まり、覚目掛けて飛んでくる。


それに対して、覚は鏡を作り、またも跳ね返そうとする。

「同じ手は食わんぞ!!」
しかし、炎の弾は鏡を突き抜け、戻ることなく真っすぐに迫りくる。
道具で飛ばした魔法は、光の壁の影響を受けない。
一度魔法の反射を食らって、二人組のうち人間の方がリフレクのような術を使ったことを、ルビカンテは即座に見抜いた。

「あぶねえ!!」
咄嗟に背中を盾にしたダルボスが覚を庇い、危機を救った。


「違う技なのか?」
命の危機を脱した覚だが、鏡の呪力で跳ね返せなかったことに戸惑いを覚える中、炎の爪からの第二撃が来る
次の炎は、箱をイメージしたに閉じ込める形で、どうにか消火した。
だが、これによって、またもルビカンテの隙を作れなくなってしまう。


「そしてこれが私の奥義だ!!火焔流!!」
ルビカンテが大きく右手を横に開き、左手を脇腹のあたりに添える、未知の構えを取った。
ダルボスと覚の間を、炎の渦が現れる。


298 : リスタート ◆vV5.jnbCYw :2021/04/16(金) 18:06:24 XR/WPQ9Q0
「くそっ……」
今までとは違うタイプの攻撃に、覚は悪態をつく。
呪力とは、視界に入る相手にこそ効果を発揮する。
逆に言うと、火焔流の様な360度全方向からの攻撃には、対処が難しい。
一か所の動きを止めても、別方向は止まらない。


そうこうしているうちに、渦は狭まり、二人を焼こうとする。


「サトル!!オレに乗れ!!」
気が付くとダルボスが体を丸めていた。

「分かった。」
意図が分からないながらも、このままやられるぐらいならとダルボスの背中に乗る。

「ゴロォ!!」
「うわあ!!」
そのままゴロン特有の背の固さと、背筋を利用して、覚を上空に飛ばした。
ダルボスだけではない。彼等ゴロンが、そのままだと登るのに苦労する場所に、仲間を飛ばすためによく使う技だ。
この技術を応用して、覚を唯一炎の竜巻が来ない上空に飛ばしたのだ。
すかさず覚は吹き抜けになっている、2階の観客席へ飛び移る。


「やりおる。だが、そちらはどうする?」
覚の危機は脱したが、ダルボスには竜巻が迫りくる。

その時、炎の流れが急に弱まった。

「「「!?」」」
地上にいたダルボスとルビカンテ、そして2階から見ていた覚も、それぞれ驚く。

「次は胸に当てるよ!!」
火焔流の勢いを弱めた張本人は、ルビカンテの肩を撃ったのび太だった。
どんな人間でも取り得はあるように、彼には射的とあやとりに関して、天才的な腕前がある。


「ありがてえ!!これなら行けるぜ!!」
弱まった炎の壁を転がったまま突き破り、再度ルビカンテ目掛けて突進するダルボス。
躱そうとするも、もう間に合わない。


「ぬああああ!!!」
ダルボスとルビカンテ、そして背後の壁が激突する音が響く。


「今のうちだ、2人共行くぞ!!」
そして彼らの目的は、ルビカンテを倒すことではない。
そのまま走って、闘技場から出ていく。


「な!?待て!!」
ルビカンテは叫ぶも、ダメージも重なっている上に、予想の裏を突かれ、追いつけることは無かった。

3人の姿が闘技場から消えていき、戦いのオーケストラは次第に静まっていく。
残ったのは、赤の男と戦いの爪痕。
そして、彼自身が侮っていた弱き者に戦いを崩されたという皮肉だけだった。


299 : リスタート ◆vV5.jnbCYw :2021/04/16(金) 18:06:40 XR/WPQ9Q0


【A-8 黎明 闘技場】

【ルビカンテ@Final Fantasy IV】
[状態]:HP 1/8 魔力消費(中) 屈辱感
[装備]:炎の爪@ドラゴンクエストVII フラワーセツヤク@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1 
[思考・状況]
基本行動方針:戦うか、協力するか
1.あの帽子の男(マリオ)は絶対に許さない

※少なくとも1度はセシルたちに敗れた後です。


【A-8 黎明 闘技場】


【ダルボス@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:ダメージ(中) 疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、タイムふろしき@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[思考・状況]
基本行動方針:リンクと合流し、主催を倒す
1.写真の男(吉良吉廣)を追いかける
2.サトルの奴、超能力者なのか?
※参戦時期は少なくともイリアの記憶が戻った後です。


【野比のび太@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
[状態]:健康 疲労(中)
[装備]:ミスタの拳銃(残弾5)@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、
[思考・状況]
基本行動方針:ダルボス、覚と共に脱出する
1.写真の男(吉良吉廣)を見つける
2.朝比奈さん、エスパーなの?
3.どこかで休憩したい
※参戦時期は本編終了後です
※名簿の確認はしてません。
※この世界をもしもボックスで移った、魔法の世界だと思ってます。


【朝比奈覚@新世界より】
[状態]:健康 疲労(中) 焦り 早季への疑問
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:写真の男からサイコ・バスターを奪い返す
1.その過程でもし出来たら、早季や真理亜、奇狼丸を探す
2. のび太は呪力を持ってるのか?
※参戦時期は26歳編でスクィーラを捕獲し、神栖66町に帰る途中です。


300 : リスタート ◆vV5.jnbCYw :2021/04/16(金) 18:06:53 XR/WPQ9Q0
投下終了です


301 : ◆s5tC4j7VZY :2021/04/18(日) 20:10:56 /Zd6YmlY0
投下お疲れ様です!

リスタート
近接攻撃のダルボス・中距離呪力の覚・遠距離射撃ののび太と攻撃に幅広く対処できるパーティとなったので、頼もしさを感じます。
そして横やりを入れてきたマリオに対する怒りに殺し合ったセシルの情けによる屈辱に弱者と侮ったのび太の反撃とルビカンテの心中いかに……!といった感じですね。
そして、彼自身が侮っていた弱き者に戦いを崩されたという皮肉だけだった。
↑満足に満ち足りていないルビカンテを少し可哀想と思いつつ、ふふふ、ルビカンテもっと苦悩しなさいと思う私もいます。

感想ありがとうございます。
少女、楽園へ至る
始めはガボとマリベルだけが死んでしまう展開だったのですが、マリベルとガボもきちんと輝かせたいと思い、職業を確認していたところ、今回のプロットへとなりました。
「鳴動封魔」の当て字はドラクエ大辞典を作ろうぜの記事から使わせていただきました。
マリベルの魅力は正に会話システムだと個人的に思っていたので、ニヤリとしていただけたのは光栄です。


302 : ◆vV5.jnbCYw :2021/04/24(土) 23:25:21 voTxRHBM0
リンク、ピーチ、バツガルフ、ユウカ予約します


303 : ◆OmtW54r7Tc :2021/04/25(日) 20:55:39 HuxkR2gQ0
アルス、康一、由花子で予約します


304 : ◆OmtW54r7Tc :2021/04/25(日) 21:56:17 HuxkR2gQ0
投下します


305 : 再会、対策、火種 ◆OmtW54r7Tc :2021/04/25(日) 21:58:19 HuxkR2gQ0
「アルス君!それに後ろにいるのは…由花子さん!?」

広瀬康一は、アルスと別れた後もずっと駅にいた。
しかし、他の参加者がやって来ることはなく、ようやく現れたのは先ほど別れたアルスと、後ろに担がれたよく知る人物であった。

「あー、えっと、これはその…」

アルスは康一を前にして、何か言いにくそうな様子を見せる。
しかし、いつまでもまごついている訳にもいかないので、正直に話すことにした。

「ごめん、コーイチ君。君の彼女、傷つけちゃった」
「ええ!?……ああ、そうなんだ」

アルスの告白を聞いて康一は一瞬だけ驚くが、しばらくして納得した様子を見せていた。

「一応聞くけど、由花子さん無事だよね?」
「うん、気絶してるだけ」
「それなら良かった。アルス君にも迷惑かけたね」

康一の様子にアルスは戸惑う。
ここに来るまで、どう弁解したものかと頭を悩ませたのだが、彼の反応は妙にあっさりとしていた。
彼女を傷つけられたのだし、非難されるなり怒られるなりを覚悟していたのだが…

「…えっと、怒ってないの?」
「言ったでしょ?気性が激しいって。どっちが仕掛けたのかは、想像つくから」
「あそこまでとは想像してなかったけどね…」

康一自身、付き合う前は彼女に殺されかけたりした。
付き合い始めてマシになったとはいえ根っこの性格は変わっていないことも理解している。
だから、アルスに対しては怒りよりも同情の方が強かった。

「他人の彼女に口出しするのもなんだけど、よくあんな女性と付き合えてるね…」
「まあ、確かに怖いところはあるけどさ、そういう性格も含めて、由花子さんのこと好きになったから」
「コーイチ君、君は大物だよ…」


306 : 再会、対策、火種 ◆OmtW54r7Tc :2021/04/25(日) 21:59:24 HuxkR2gQ0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

康一は、一応何があったのかを詳しくアルスから聞いた。
そしてアルスの話を聞くと、難しい顔をしていた。

「…うーん、話を聞いてるとアルス君、君にも全く非がないわけじゃないみたいだね」
「うん、マジャスティスで警戒させちゃったのは失敗だった」
「僕の時もそうだけど、出会い頭にあれを仕掛けるのは、やめた方がいいんじゃない?」

康一も、出会っていきなりマジャスティスを仕掛けられてスタンドを消滅させられた時は、攻撃を仕掛けられたと思って警戒した。
康一よりも気の短い由花子なら尚更というものだ。

「うーんでもさ、仮に事情を話したとして、康一君、マジャスティス撃たせてくれた?」
「…まあ、警戒して応じなかっただろうね」
「そうだろ?だからこうするしか…」
「うーん、それならさ…」


「う、うーん…ここは……?」


「あ、由花子さん目を覚ましたみたい」
「そっか、それなら僕は駅の外にいるから、コーイチ君、彼女に説明お願い」
「あ、ちょっと」

康一の制止も聞かず、アルスは出ていってしまった。

「康一君…?」
「朝にはまだ早いけどおはよう、由花子さん」
「康一君…康一君!!」

由花子はガバッと起き上がり…


ゴッチーン☆


「「い、いたた…」」

両者の頭が、思いっきり衝突した。



「それにしてもここは…?杜王駅?」
「うん、アルス君がここまで運んでくれたんだ」
「アルス?」
「緑の帽子の男の子だよ」
「あの男!私の髪を傷つけた…!」

由花子の表情が一瞬で険しくなる。
しかし康一もそんな由花子には慣れたもので、表情を変えることなく宥めにかかる。

「まあまあ、由花子さん。僕らがこうして会えたのも、アルス君がここまで運んでくれたおかげなんだし」
「でもあいつ、康一君を置き去りにしたんでしょう!?やっぱり許せないわ!」
「アルス君は一緒に行こうって誘ってくれたよ。それを断ったのは僕だよ。だからさ…アルス君のこと、許してあげてほしいな」
「…康一君がそこまで言うなら」

康一の説得に、結局由花子は折れた。
その様子に康一もホッとする。

「そっか、良かった。それなら由花子さん、アルス君のことで一つ提案があるんだけど…」


307 : 再会、対策、火種 ◆OmtW54r7Tc :2021/04/25(日) 22:01:12 HuxkR2gQ0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「あ、コーイチ君、ユカコとの話は終わった?」
「う、うん…」

駅の外へと出てきた康一と由花子を出迎えたアルスは、おや、と首をかしげる。
康一も由花子も、様子がおかしい。
由花子は妙に嬉しそうで、康一は顔を赤くして俯いている。
もしや、こやつら…

「…コーイチ君、ほっぺにキスマークついてるよ」
「へっ!?い、いや…ほっぺじゃなくて唇……あ」
「ユウベハオタノシミデシタネ」

どうやらこの二人、駅の外に出る直前に一発かましたらしい。
まあ、恋人なんだし、それくらいするよね?
いや、別に羨ましいとか思ってないよ?
僕だってされたことあるしね?

「ちょっとあんた!康一君困らせてんじゃないわよ!」
「はは、ごめんごめん」

由花子の言葉に、アルスは苦笑する。
恋人と再会して機嫌がいいからか、怒っていても先ほどのような恐さは感じなかった。

「そ、それよりアルス君、さっき由花子さんとも話したんだけどさ、一度は別れちゃったけど、やっぱり僕たちと一緒に行かない?」
「君達と?」
「うん、さっき話したでしょ?マジャスティスを撃つと、警戒されるって」

ボトクの変装を見抜くためには、マジャスティスは必要だ。
しかし出会い頭にマジャスティスを放つことで、康一や由花子に警戒されてしまった。
かといって事情を話して応じてくれるお人好しもそうそういない。

「だけどさ、僕と由花子さんがいれば、この問題が解決すると思うんだよ」
「…どういうこと?」
「僕と由花子さんは既に君のマジャスティスを受けてそれがどういうもののなか知ってる。君が危険人物でないことも知ってる。つまり、僕らが間に立って説得すれば、事情を話して穏便に確認ができると思わない?」

なるほど、とアルスは感心する。
確かに、アルス一人だったら警戒されるかもしれない。
しかし、二人も同行者がいれば、それだけで警戒は薄まる。
それに、術を使うアルス本人よりも、他者に安全を保障してもらった方が、説得に応じてもらいやすくなる。
曲がりなりにも仲間を連れて旅をしていたのにこんなことに気づかないとは、無意識のうちに気負ってしまっていたのかもしれない。

「分かったよ。君達と一緒に行こう」
「良かった!まだしばらく駅で待つことになるけど、いいかな?」
「え、まだ待つの?もう何時間もここにいるんだろ?」

現在時刻は3時を過ぎたところだ。
康一は既に3時間もここで待機しているということになる。

「せめて列車がここに来るまでは待たないと。列車に乗ってここに来る人もいるかもしれないし」
「その列車がどんなものかいまいちよく分からないけど、いつ来るの?」
「今は3時過ぎだから…ゴロツキ駅を過ぎたあたりかな?後1時間半くらいすれば、来るはずだよ」
「分かった、それじゃあ僕は駅の外から人が来るかどうか見張ってるから、二人は中を見ててよ」

アルスは列車をよく知らないので、そっちの対応は列車を知ってる二人に任せたかった。
それに…せっかく恋人が再会できたのだ。
気を遣ってやるべきだろう。

「行きましょ、康一君♪」
「うん。それじゃあアルス君、駅の外から誰か来たら、知らせてよ」
「オッケー」

こうして、アルス・康一・由花子は3人で行動を共にすることになり。
彼らは再び、来訪者を求めて駅に待機するのであった。


308 : 再会、対策、火種 ◆OmtW54r7Tc :2021/04/25(日) 22:02:01 HuxkR2gQ0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「そういえば由花子さん、アルス君以外には誰かと会ったの?」
「ああ…確か佐々木ユウカって女と会ったわね」
「ええ!?」

ユウカの名前を聞いた康一は驚く。

「だ、大丈夫だったの!?」
「え、ええ…特に諍いもなく別れたけど…何か知ってるの、康一君?」

由花子が尋ねると、康一は自分の荷物を探り、一つの支給品を取り出す。

「それは?」
「『柊ナナのスマホ』…これで電話とかができるらしいよ」
「こんな薄っぺらの板で?…信じられないわね」

ちなみに康一は知っている番号に慣れない操作ながらかけたのだが、繋がることはなかったのだが、しかし今重要なのはそこではない。
スマホをいじっている最中、康一は見つけたのだ。
佐々木ユウカの名前を。

「ここに、由花子さんが会ったっていう佐々木ユウカの名前があったんだ」
「佐々木ユウカ…推定殺害人数五十万人以上…!?」


309 : 再会、対策、火種 ◆OmtW54r7Tc :2021/04/25(日) 22:03:31 HuxkR2gQ0
【E-2/杜王駅前/一日目 黎明】

【アルス@ドラゴンクエスト7】
[状態]健康、MP微消費
[装備]不明
[道具]基本支給品、水中バクダン×10@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス ランダム支給品0〜2(確認済み、武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラやザントを倒す
1.杜王駅の外で人が来るのを待つ
2.ボトクの変身に警戒しながら仲間を探す
※参戦時期は本編終了後
※広瀬康一からヌ・ミキタカゾ・ンシ以外のジョジョ勢について聞きました。
※広瀬康一からスタンドについて聞き、ヌ・ミキタカゾ・ンシと重ちー以外のスタンド能力も把握しました
※少なくとも武闘家・僧侶・戦士・バトルマスター・パラディン・ゴッドハンドをマスターしています

【E-2/杜王駅内部/一日目 黎明】

【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、柊ナナのスマホ@無能なナナ、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラやザントを倒す
1.由花子から佐々木ユウカの話を聞く
1.しばらく杜王駅で待ってみる
2.ボトクに警戒
※参戦時期は4部終了後
※アルスからDQ7勢やオルゴ・デミーラについて、簡単な旅の概要と共に聞きました
※ヌ・ミキタカゾ・ンシのことは知りません
※柊ナナのスマホから、ナナ以外の無能なナナ勢の推定殺害人数などの情報を得ました。

【山岸由花子@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:気絶 吉良への憎悪(極大)、ユウカに対するいら立ち(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜3(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:康一君の敵の排除。彼が死亡した場合……
0.推定殺害人数…これは…!? 
1.康一君に酷い目に遭わせた吉良は絶対に許さない。
2.シンジと言う名前の遺体を探しておく。範囲はE〜F。昼になったらDの何処かで合流
3.最初に殺された子の知り合い(リンク)にも少し警戒
4.余裕があればキョウヤ達との合流。ナナは……状況次第。

※参戦時期は少なくとも吉良が顔を変えて逃亡してるよりも後です。
※ラブ・デラックスの髪の毛を植え付けての操作の制限は、後続の方にお任せします
※無能なナナの参加者の能力と人柄、世界観を理解しました。
 ただし一部嘘が吹き込まれており「死体が自分の意思で喋ってる」などがあります。
 他にもどのような嘘があったかは後続の書き手にお任せします
 また、レンタロウについての情報は乏しいです。

【柊ナナのスマホ@無能なナナ】
名前の通り柊ナナのスマホ。
電話機能は使えるが現状ではどこにもつながらない。
委員会からの通達や能力者の情報などが載っている。
能力者情報についてはあくまで推定の殺害人数だったり、能力の内容についての情報が乏しかったりと、精度はかなり怪しい。
というか、委員会はどんな能力を持ってるかもはっきり分からないのに、どうやって推定殺害人数とか割り出したんだろうな。


310 : ◆OmtW54r7Tc :2021/04/25(日) 22:08:32 HuxkR2gQ0
投下終了…ですがアルスの状態表でコピペミスがあったので改めて再掲します


【アルス@ドラゴンクエスト7】
[状態]HP3/5、MP3/4 疲労(中)
[装備]なし
[道具]基本支給品、水中バクダン×10@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス ランダム支給品0〜2(確認済み、武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラやザントを倒す
1.杜王駅の外で人が来るのを待つ
2.ボトクの変身に警戒しながら仲間を探す
※参戦時期は本編終了後
※広瀬康一からヌ・ミキタカゾ・ンシ以外のジョジョ勢について聞きました。
※広瀬康一からスタンドについて聞き、ヌ・ミキタカゾ・ンシと重ちー以外のスタンド能力も把握しました
※少なくとも武闘家・僧侶・戦士・バトルマスター・パラディン・ゴッドハンドをマスターしています


311 : ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:34:55 uklXIbK.0
投下します


312 : 憤懣焦燥 前 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:35:47 uklXIbK.0

「気を付けて!!奴は危険な魔法を使ってくるわ!!」
キノコ王国の王女、ピーチが警告するとともに、ハイラルの剣士、リンクは剣を上段に構える。

「誰が来ようと同じこと……!?」
2人が対峙する敵、バツガルフが魔法の詠唱を始めた瞬間、リンクは光の剣をダーツのごとく投げ飛ばした。
敵は魔法の詠唱をキャンセルし、光線の様な投擲は当たることは無かった。

(今のは危なかった……しかし、盾のみならず剣まで捨てるとは……そういうことか。)
先程炎魔法からピーチを守るのに、リンクは盾を投げた。
そして剣も投げた以上、敵は武具が無くなったことに安堵し、雷魔法の詠唱に入る。
一方で得物を全て投げたリンクは、猛然とダッシュを始める。


走った方向は、バツガルフではなく、奇狼丸が倒れている場所。
すなわち、リンクは最初から死者の正宗を用いて戦おうとしていた。

「ふはははは!どうするかなどお見通しだ!!」
しかし、移動先を読んでいたバツガルフは、その場所に雷を落とす。


「!!」
顔を押さえ、新たな黒こげの死体が出来ることを恐れるピーチ。
だが、空から降る金の槍は突然空中で止まり、地上にいた者に当たることは無かった。


「何!?」
「お見通しなのはお前の攻撃だ。」
ハイラルの剣士は、バケネズミの将軍が持っていた刀を手で掴むのではなく、足で蹴とばした。
宙を舞う正宗は、即興の避雷針になり、命を刈り取る雷を食い止める。


リンクのアクションは、これで終わりではない。
雷を止めたことを確認する間もなく、石畳の床を蹴り空高くジャンプ。
くるくると回転する剣の柄を、手を傷つけることなく器用につかみ取り、そのまま攻撃に転じた。


「獲るぜ、その首。」
空中で駅の柱を蹴とばし、そのまま稲妻と一体化したかのように、バツガルフの首へと斬りかかる。

(確かに早いが、距離はある。また時間さえ止められれば……)

「なっ!?」
正宗を拾う前と、拾った後。
聖剣にかけられた速度向上の魔法により、飛ぶ前と飛んでからの速さが異なっていた。



「くっ……バツバリアン!!」
「でぇやああああああああ!!」
正宗にかけられた所持者の素早さを上げる魔力も相まって、回転斬りで二体のバツバリアンが瞬時に斬り裂かれ、バツガルフの腹にも斬撃が入る。
とはいえ、術者の守りを固めるバツバリアンの助力により、リンクの十八番によるダメージは幾分か抑えられた。


敵の攻撃のタイミングをずらされ、さしものバツガルフも驚いた。
ストップはもう詠唱に間に合わないと判断し、防御で手を打つことにした。
バツガルフが黄緑色のファンネルのような姿をした機械生命体を操る方法は2通りある。
1つは詠唱時間を要するが、四体同時に召喚させる術。
もう1つは二体までしか呼べないが、ほぼノータイムで呼び出せる術。

攻撃の無効化を狙うか、ダメージカットで妥協するかで一瞬悩んだ末、後者を取ったが、その賭けは成功した。


313 : 憤懣焦燥 前 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:37:53 uklXIbK.0

それでも、戦いの風向きはバツガルフにとって向かい風なのは変わらない。
遠くの敵を倒すのは容易だが、一たび懐に潜り込まれると一気に不利になるのが魔法の欠点だ。

英雄の杖を翳し、詠唱を続けるが、続けざまにリンクは強引に間合いを詰め、正眼の構えから、様々な色のランプが点滅する敵の頭部目掛けて打ち込もうとする。
特別な力を持っている相手は、主に光っている、すなわちエネルギーのソースとなっている場所が往々にして弱点だということを、過去に戦ったマグドフレイモスやナルドブレアから学んでいた。


「これでトドメだ!!」
「くっ……テキヨケ!!」
あと少しで正宗が金属の頭を突き破ったはずだが、リンクの手には刺した時の様な感触が伝わってこなかった
敵の動きを止めるのではなく、敵から離れるための回比率を上げる魔法で、危機を脱するバツガルフ。


(ならば、奴より先に……!!)
接近戦は不利だということは僅かな間に、嫌と言うほど伝わったため、バツガルフはターゲットを変える。

「ファイアーウェーブ!!」
青い炎の波が、リンクに迫りくる。
再度リンクは体を捻り、バツバリアンの群れを一掃した時に似た構えを取る。
回転斬りで斬りはらってやろうと構えるが、その瞬間炎の波はリンクを避けたかのように二つに分かれた。
それは傍から見ればリンクが炎と言う名の海を割るモーセのよう。
だが、炎を割ったのはその中心にいる人物ではなく、魔法の詠唱者だ。


不自然な動きをした炎を訝しむリンクは、背後に目を配る。
「危ない!!」

すぐに熱波は自分ではなく、背後のピーチを狙っていたことに気付き、敵では無く炎に斬りかかる。
高速回転により起こされた大風が炎を吹き飛ばし、姫は事なきを得る。


「敵に背を見せるとは愚かな!!」
しかし、これさえバツガルフの作戦通り。
敵2人が近づいた所を、まとめて雷で屠ろうという算段だ。


「私が足手まといだと思わないで!!」
しかし奇狼丸に戦う決意を貰った王女も、負けてはいない。
先程リンクがやったことを真似したかのように、上空にフライパンを投げる。
飛んだ金属の塊は、正宗と同じように疑似避雷針を作った。
先程バツガルフの顔面を滅多打ちにした時に一部が欠けたが、その際に鋭利な部分が生まれたことが功を奏した。


「おのれ……余計な知恵を付けおって……。」
1度ならず2度までも、自慢の魔法を、しかも2度目は人質か弾除けぐらいにしか思ってない相手に無効化される屈辱を覚える。

「あなたは逃げてください。」
「……」
コクリと首を縦に振り、フライパンを拾うと、傷ついた片足を引きずりながらも駅の出口へと足を進めるピーチ。


自分が戦えないのは癪だったが、それ以上に意地にかまけて死んでしまえば、奇狼丸の遺した言葉も無駄になる。
加えて、戦っているのは長剣を振り回す戦法を得意とするリンクと、広範囲にわたる魔法を得意とするバツガルフである以上、フライパン一つで迂闊に戦うことが難しい。
少しでも何か役立つことが無いか、辺りを窺っていた結果、そういった結論を出した。
不服ながらも、忠告に従い戦場から離れようとする。


314 : 憤懣焦燥 前 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:38:14 uklXIbK.0
「逃がすか!!」
再度杖にエネルギーを貯め終えたバツガルフの、冷凍光線が傷ついてない方のピーチの足を狙う。


―――二の奥義 盾アタック
しかし、地面に落ちていた盾を拾ったリンクのシールドバッシュが、光線を跳ね返す。

「お前の相手は俺だ。」
「小癪な……。」


既に現れていたバツバリアンの作りし障壁によって、ビームを反射されて自爆などということは無かったが、その間にピーチは見えない場所に行ってしまった。



「緑の勇者よ!!どうか無事で!!」
「あなたこそ怪我の無いように!!」

所々に正三角形のマークが象られた石柱を中心に作られた駅に、命を感じさせる若い男女の声が響き渡る。

それが、彼らが生きた上で交わした、最後の会話だった。
誰が何と言おうと、それだけは事実だ。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「あの女を逃がしてよかったのか?盾ぐらいに使えたかもしれないぞ?」
「生憎だが俺の盾はこれ一つで十分でな。アンタのように3つも4つも出さなきゃいけない程弱腰じゃない。」
敵の挑発を、涼しい皮肉で受け流す。


「そうか。ならばわたしもオマエだけに集中できるな。」
ガラス膜に覆われた瞳が、ギラリと輝く。
バツガルフは杖をリンクに向け、詠唱を再開する。

「受けるがよい!!メガサンダー!!」
「当たるか!!」
今度は光の剣が落ちている場所と離れていたが、避雷針に頼らず、雷の槍が降り注ぐ場所を躱していく。
どの辺りに雷が落ちて来るかは、何度も魔法を目の当たりにしてきたため、見切ることが出来た。
横っ飛びやバック宙を繰り返し、連続して飛んできても当たることは無い。
だが、避ける方向に足を進めると、バツガルフに近づくことは出来ない。

「ならば行け!!バツバリアン共よ!!」
リンクがどう攻めるべきか悩んでいると、バツガルフの命令と共に、周囲を飛び回っていた黄緑の生命体が光り出し、リンク目掛けて真っすぐに飛んでくる。

「ちっ、防御だけじゃないのか……。」
思ったより威力があるその体当たりを、どうにか盾でガードする。
飛んで来た黄緑の生き物は結界を形成する定位置に戻るが、他の3体が矢継ぎ早に飛んでくる。

「そいつらばかりに構っている場合か!!」
剣と盾で捌ききったと思ったところで、バツガルフの杖から燃え滾る青龍が襲い来る。
「まだだ!!」
同じように回転斬りを放ち、炎を吹き飛ばす。


しかし再度定位置に戻ったバツバリアンが光を帯び、再度リンクに襲い来る。
(くそ……コイツら、俺を近づかせないつもりか……。)
剣を振り回し、虫を払うかのように身を守るが、防戦一方だ。

「どうした?オマエの剣は盾替わりでしかないのか?」
攻撃が終わった所で、杖から撃たれたのは冷凍光線。
今度は氷の耐性を持つトルナードの盾で受け止めるが、弾き返す程の余裕は無かった


315 : 憤懣焦燥 前 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:38:35 uklXIbK.0

ピーチを守るためとはいえ、距離を離したことが悪手だったと実感する。
取り巻きが攻撃している間に詠唱を始め、その攻撃が終わった直後に魔法を使い、終わればまたしても取り巻きに攻撃させる。
絶え間ない波状攻撃は、リンクに距離を詰めることも、反撃することも許さない。
魔法の詠唱の被害を受け、ボロボロになった壁や柱の欠片を蹴とばしても、障壁に阻まれてしまう。
どうにか光の剣が落ちている場所に近づけたため、再び雷攻撃を突破口にしようと目論んでいたが、相手もそれを警戒してか炎と氷のみで攻めてきた。


「ふはははは!!所詮はその程度か!!」
(くそ……このままじゃ俺も……。)


電気を纏って襲い来る小型生物の攻撃をガードしきれず、次第に傷が増えていく。
最初は勢いに任せて優勢だったのが一転、徐々に不利になっていく状況を噛みしめられた。


さらに、まずいのはこれだけではない。
駅の外側から、見知らぬ音が聞こえて来た。
即ちピーチが、何者かに襲われている可能性があるのだ。
敵の攻撃と背後の見知らぬ存在がリンクの焦りを生む。


「いい加減飽きたな。これで楽にしてやろう!!」
(来た!!)
バツガルフが杖を天に向け、雷魔法の詠唱を始める。
本来なら現れないはずの場所に黒雲が集まる。
それを千載一遇のチャンスと見抜いたリンクは、地面に転がっていた光の剣を黒雲目掛けて蹴とばした。


このまま一気に敵に突っ込み、回転斬りでバツバリアンを纏めて斬り裂き、それから後敵が魔法の詠唱をする前に一気に串刺しにする。
だが、そうしたリンクの目論見は、予想外な形で崩壊した。

「しまった!!」
蹴とばしたリンクの剣が、ガチンという音を立てて、明後日の方向に飛んで行った。

「甘い!!甘いぞ!!」
「しまった!!」

飛来するバツバリアンに空中で弾き飛ばされ、頼りの避雷針になるはずの光の剣も形無しだ。


魔法詠唱中に、4つ飛ばしてきたはずのバツバリアンが、一度だけ3つだけしか飛んでこなかった。
バツガルフは雷の詠唱をした瞬間、リンクが同じように剣を蹴とばして来るだろうと予想し、1つだけ飛ばすタイミングをずらしたのだ。

「わたしが間違いを犯したとでも思ったか!メガサンダー!!」
油断して、躱す暇もなく雷が襲い来る。

「ぐわああああああ!!」
白金のごとく輝く雷光の糸が、リンクに絡みつく。
炎や氷ではなく、受けたことが無い雷のダメージは、致命的だった。
トルナードの盾を上空に掲げ、僅かでもダメージを押さえようとするが、それだけでは即死を防ぐのが精いっぱいだ。
触覚のみならず視覚や聴覚までもが責めつくされる。

しかも、食らい慣れてない電撃により動悸が乱れ、持っていた剣を落としてしまった。
そのまま盾だけ持って、両脚も言うことを聞かず、どさりと崩れ落ちるリンク。


服のあちこちから煙を出し、立ち上がろうとするも、電撃の痺れが神経を引っ掻き回し、上手く立てない。
視界はなおも真っ白で、平衡感覚もおぼつかない。
既に微量な電撃を、バツバリアンからの攻撃で何度も食らっていたこともあり、無理に動こうとするとそのダメージまでぶり返す。


316 : 憤懣焦燥 前 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:39:04 uklXIbK.0


「ふん。他愛もないな。いつぞやの赤いヒゲほどでもない。」
バツガルフのリンクを見下ろしながら吐いたセリフも、雷魔法は聴覚にまで影響を及ぼしていたため、何を言っていたのか判然としなかった。


(まだ……俺は………。)
「そう焦ることもない。今楽にしてやろう。」

ゆっくりとリンクに近づいた後、杖を掲げた。


317 : 憤懣焦燥 前 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:39:27 uklXIbK.0
前編投下終了です。続いて後編投下します


318 : 憤懣焦燥 後 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:40:00 uklXIbK.0

(へえ、中々どうして面白そうなことやってるわね……。)
時間はリンクがピーチを逃がす少し前まで遡る。
駅という舞台上の4人目の登場人物、佐々木ユウカは敵の攻撃をじっと観察していた。

(あの緑の服の人は騎士なのかしら?あっちのサイボーグっぽいのは何?能力者?ロボット?)

片や映画でも見ないような剣術を使い、片や能力者でも使えないような複数の能力を操る。
残念ながら、自分の能力では全滅させるのは到底難しいことは、嫌でも伝わってきた。

(どっちかに取り入って、どっちかを倒すべきだと思うけど、どうすればいいかな……。)
見た所話が通じそうなのは緑の服と、ピンクのドレスの方だという印象を抱いた。
だが、サイボーグの方が善だという可能性もあるかもしれない。
どんな状況でも対処できるように、『ネクロマンサー』で使役できる虹村慶兆の、それまた使役する超小型の兵隊を何体か出しておいた。

現在いるハイラル駅は、さながら中世の城か栄えた城下町でもあるかのように、駅に似つかわしくないほどに、石造りの柱が多い。
即ち、隠密行動に適した場所だ。




「緑の勇者よ!!どうか無事で!!」
「あなたこそ怪我の無いように!!」

そんな場所に、二人の言葉が響き渡る。

(いいなあ……、私もシンジとあんな風に言葉を掛け合いたかったよ……。)
緑の剣士が桃色の姫にかけた言葉を、羨ましがるユウカ。
その想いは、ラブ・ロマンスを夢見る年ごろの女子さながらだった。
最も、そのシンジから激励の言葉をかけてもらう可能性を永久に閉ざしたのもまた、ユウカの本人なのだが。


(いや、待って!?)
その時、歪な恋をする乙女に浮かんだのは、支給されていた死骸であった、ある少女から取り入れた記憶。
見せしめにされたイリアという少女は、確かにあの緑の服の男を想っていた。
時に男が持っていた愛馬の世話をしながら。


一度記憶を失ってしまうも、男の尽力もあって記憶を取り戻した。
そして旅の役に立つようにと、記憶が戻るトリガーになった馬笛を、男に渡した。


(もしそうだとしたら……)
桃色のドレスの女性は、既に想い人がいたはずの男を誑かした、吐き気催す売女だということになる。
かつて自分からシンジを奪ったがために殺した、最早名前さえ覚えていない女の様に。


(恋する女の敵ね。許さない赦さないゆるさないユルサナイゆるさない許さない………)
ギリリと歯を鳴らし、細い手に力を籠める。
腹の奥に、毒蛇の様に禍々しいものが渦巻く。

ピーチは別にリンクに対して恋愛感情など覚えていないし、リンクもまた然り。
そしてシンジ本人はユウカを好きな相手どころか、気持ちの悪いストーカーだと思っていた。
しかし事実はどうであれ、ユウカの心の中ではそうなっていた。


319 : 憤懣焦燥 後 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:40:29 uklXIbK.0

「あなた、何をしているの?」
ユウカのイメージとは異なる、穢れの一つも感じさせない声が、呼び止めた。
しかしその目は怪しんでいる。


「あ、あたしは佐々木ユウカって言うの。こ、この駅で、何が起こっているの?」
とりあえずあたかも何も知らなかったかのように振舞うことにする。

「戦いが起こっているって音で分からないの?ここにいると危険だわ。」
ピーチはそのまま自分を連れて駅の外へ出ることにした。
しかし、その歩き方は、どこか様子がおかしかった。

(そういや……足を怪我していたわね。)
忘れていたことだがそれは、嬉しいニュースだった。
どうやらこの阿婆擦れは、見た所それなりの反射神経こそあるが自分の様な能力者でもない。
加えて移動が制限されているという以上、殺すのはそう難しくない。


剣士とサイボーグの目の届かない安全地帯で、世界中の恋する乙女に代わってゆっくりと殺し、死体は近くの湖に投げ捨てようと画策していた所で、またも声を掛けられた。

「ところであなた、さっき嘘をついたわね?ずっと長い事この場所にいたんでしょ。
「!!」
「大方私達が倒れるまで高みの見物決め込んで、それから勝ち馬にでも乗るつもりだったのかしら?」

自分が戦いの様子を長いこと伺っていたことを言われ、胸がドキリとする。
だが、カマを掛けられただけの可能性もあったため、とぼけることにする。

「はぁ?どういうことよ。」
「なーるほど。じゃああそことあそこにある玩具の兵隊さんは、あなたとは関係ないってことね。来たばかりであそこまでたくさん置くことは出来ないもんね。」
目線の先にあったのは、バッド・カンパニーの兵隊のうち一人。
(……!!)
「言っておくけど私がここに来たときは、あんな人形なかったわよ。」


「ご、ごめん。」
ユウカはすぐに自身の細いうなじが見えるほど深く頭を下げた。
屈辱で仕方が無かったが、そうせざるを得なかった。
「確かにうそをついたのは事実よ。けれど、漁夫の利を狙おうとか、そんなことは考えたないわ。」

ピーチの目線がユウカに釘付けになった瞬間、背後から兵隊の銃が火を噴いた。


しかし、フライパンの一振りでその一撃は防がれる。

「その程度で誤魔化せると思った?」
「頭を下げて目線がバレないと思った?私じゃなくて後ろを見ていたことくらいわかるわよ」

ユウカとしては一つ肝心なことを見落としていた。
本来なら参加者の中では戦力が下から数えた方が早いピーチが、数少なく他者に劣らないでいる点に、「観察力」があったということを。
メガバッテンのアジトに囚われていた時、常に辺りを観察することで、敵から情報を盗んだり薬を作ったりして、活路を開いてきた。

時には敵組織のボスの机まで探るほどの度胸と探求心、そして観察眼はこの世界にいてでも使えることだった。

リンクとバツガルフが戦っている間も、ただ案山子の様に突っ立っていたわけではなく、第三者からの攻撃を警戒していたのだ。
戦場から退いた理由には、確かにリンクの戦いに協力するのが難しいということもあったが、影でチラチラ様子をうかがっていたユウカの正体を探りたかったからだ。


320 : 憤懣焦燥 後 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:40:58 uklXIbK.0

「良く分かったわね。」
「あなたの詰めが甘いだけなんじゃなくて?」
なんでこんな奴(ビッチ)に言いくるめられないといけないんだ、と思いながら、反撃となる言葉を紡ぐ。

「一理あるわね。だけど、強くもないのに私の敵意をバラすあなたも、詰めが甘くない?」

ユウカの言葉と共に、駅の入り口付近の陰からぬっと現れた形兆が、ピーチに襲い掛かる。

「ユウカに近づくな。」
そう言った長身と黒服が印象的な男は、ピーチに殴り掛かった。
それをフライパンで受け止めるピーチ。
名簿に写っていた記憶が無い人物だったため、一瞬戸惑うも、すぐに記憶違いか何かだと考えを改め、臨戦態勢に入る。
「一人じゃなかったわけね……。」
「その通りよ。あなた達も撃ちなさい。」


ユウカの命令通り、兵隊が、ピーチを銃で狙う。
しかし、姫は形兆の股下を姿勢を低くして潜り抜け、敵を即興の防弾幕にする。

慌ててユウカの指示は取り消された。


「やるわね。でもまだ新手の兵隊はいるわよ。」
形兆の拳を素早く躱すも、駅の方から20体ほどの兵隊、それにアパッチが空中から襲い掛かる。

(リンクが来るまで、凌いで見せるわ!!)
怪我してない足を踏みしめ、大きくジャンプしたピーチは、フライパンで上からアパッチを叩き落とす。
地面に落ちた勢いで、下にいた兵隊もダメージを受けた。
現れてからユウカが指示を出すまでタイムラグがあることに気付いたピーチは、果敢に銃弾を弾いていく。


バッド・カンパニーは確かに強力な能力だが、使い慣れているか否かでその強さが特に左右される。
現在の操作者であるユウカは、瞬時に指示を出せる反射神経も、軍隊配備に不可欠な几帳面さも持ち合わせていない。

無数の駒を操作する能力に関しては、死者を大量に操れるネクロマンサーの能力とも共通している。
しかし、かつて彼女が行ったのは、ゾンビを利用した人海戦術のみ。
元のスタンド使いがかつて展開したような戦術とは精密さの面で雲泥の差だ。
1体しか操れない死者と、数こそ多いが指令を出すのに手間がかかり、数も無限ではない軍隊。

別にユウカの頭の良さに問題があるわけではない。
彼女自身も敵の逃げ道を予測し、そこに軍隊を集めることぐらいは出来る。
だが頭脳の出来はどうであれ、将棋をやり始めたばかりの人間に戦術が編み出せないようなものだ。


(きっと逃げ道は包囲されているわね、やはりあの二人を倒すかが先決かしら。)
善戦しながらも、ピーチの顔には焦りが現れていた。
戦いにとって素人の彼女でさえ、ユウカの攻撃がどこから来るか見抜くのはさほど難しくない。
しかし、どこから攻撃が来るか、隙が出来るか分かっても、勝てるとは限らない。
加えてピーチは片足を怪我し、いつもほど動けるわけでもない。
支給品を取り出そうにも、その暇があれば少しでも抵抗に回したい。
このままではリンクが来る前に体力が切れるか足が動かなくなるかで、遠からず敗北する。


両者焦る中、駅の構内から爆音が響いた。


321 : 憤懣焦燥 後 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:41:18 uklXIbK.0

何も知らなければ戦車隊のスタンドを操れるユウカがしでかしたことだと思うはずだが、それはピーチが仕掛けたことだった。

何も知らないユウカは驚愕の表情を音の方向に向ける。
だが、その隙を逃すまいとピーチは特攻をかける。
凍傷と過剰な運動によって、片足が刃でもねじ込まれたかのように痛むが、そんなことを気にしはしない。
隙を作ってしまったことを気付いたユウカは、ピーチと自分の最短の直線に戦車隊を配置する。
だが、真っすぐ突撃するかと思いきや、走った先は形兆の懐。


(この人たち、連携が取れてない……!!)
2人の弱点として致命的なのは、連携が取れていないことだった。
かつてアジトに囚われていた時も、沢山いた軍団員の中から、人が少なくなっている場所をテックと共に分析していたピーチにとって、ユウカと黒服のぐだぐだな連携を見抜くのは容易だった。


「たああああああ!!」

戦車から放たれた砲弾は慶兆を盾にして回避し、今度こそユウカ目掛けてフライパンを振りかざす。



★★★★★★★★★★★★★★★★



「良いことを思いついた。丁度オマエを隣のケダモノと纏めて火葬してやろう。だが今までの非礼を詫び、あのオンナの首を持ってくるなら許してやってもいいぞ。」
「誰が……そんなことをするか。」
敵の言葉を拒絶するリンク。
だが、状況は絶望的だ。


そこへ、目に入ったのは奇狼丸の死骸の隣に置かれた、小さな箱。
さっきまでは目に留まるほど鮮やかな色をしたものは無かったはず。
もしかするとピーチが別れる時に残してくれたのではないか、と一縷の望みを胸にその小箱を開く。


「ふはははははははは!!今更そんなものに頼るとは惨めだな!!」
這い蹲って小さな箱に縋るリンクの姿を嘲笑う。
しかし、その笑みはすぐに消えた。


そこから、赤い色以上に鮮やかな、怪物が大量に現れたからだ。


「何だ……コイツらは!!」
バツバリアンより少し大きいだけのサイズしかない球状の怪物だが、問題は数の多さだった。
ぶつかっては自爆を繰り返す
怪物たちは瞬く間にバツバリアンの軍団を壊滅させた。


「くそ……バツバリアン展開!!」
新手を呼び出すも、相手の攻撃のペースの方が早い。

「なるほど……そういうことか……。感謝する。」
リンクはふっと笑みを浮かべる。

ピーチがひっそりと置いたのは、何の皮肉か別世界の王が騎士に渡した、ボムの指輪だった。
普段は小箱に入っているが、一度開けたら指輪に封じ込められていたモンスター、ボムの大群が、開けた者以外に襲い掛かる。

奇狼丸やリンクと共にいた時は、味方にまで襲い掛かってしまう以上、使うのが難しかったが、1対1の状況になって初めて、リンクに渡したのだ。


そこへ、出口の方から爆音が聞こえた。
ボムの爆発とは音の高さが違うので、瞬時にリンクも判別できた。


322 : 憤懣焦燥 後 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:41:40 uklXIbK.0

それまで動けなかったのが嘘のように機敏な動きで、バツガルフのトドメを他所に出口へ向かう。
助けを呼ぶ声あれば、会って数時間あるかないかの相手でさえ、這ってでも救いに行く、それが勇者の役目だ。
敵を倒せたか否かは終ぞ分からずじまいだが、追撃は来なかった。
しかし、安堵出来るどころか、不安な気持ちはますます膨らんでいく。
辺りには壊れた、最初に来たときは無事だったはずの壊れた柱がある。
それだけじゃない。
見知らぬ男が黒焦げになり、倒れている。


ピーチが正当防衛で焼き殺したとは到底思えない。


(頼む、無事でいてくれ)
丁度駅から出て石造りの風景が目に入らなくなった頃に、ピーチは月を背にして、五体満足の形で現れた。

それまで張りつめていた緊張が一気に解れたような気持ちになる。
それが原因で痛みという痛みがぶり返したが、どうと言うことは無かった
「無事で良かったです。危険な思いをさせて、申し訳ありません。」
「あなたこそ、無事で何よりです。」

再び言葉を交わして、互いの生存を確信する。

唯一懸念すべき問題として、バツガルフの生存が気になったため、駅から離れることにした。

「何か戦いがあったようですが、お怪我はありませんか?
「私は大丈夫よ。それより聞いて欲しいことがあるわ。」
「はい。何でもお話してください。」

彼の胸には、安堵で一杯だった。それなりに疲れているが、話でも何でも聞いてやろうじゃないかと思っていた。
「最初に聞き忘れていたけど、あなたはリンクで間違いないわね?」
「はい。」
突然何を聞いてくるのかと思えば、その先の話はリンクの予想を大きく超えるものだった。

「あなたの幼馴染って言ってた……イリアさんが、私を助けてくれたの。」
「!!?」

リンクにとって、驚きの言葉だった。

「イリアって……、それに助けてくれたとはどういうことですか?」
「私が待っている間に、ピンクのツインテールの少女が襲ってきたの。あの人は色んな武器を使って……。」
やはり敵が来ていたのか、と悪寒が走るが、それより疑問なのはイリアがいたということだ。
あの爆発はただの脅しだったのか。
本当なら、再び彼女を守るチャンスが巡ってきたということだ。
だが、彼女には危機が迫っている。


「そ、それでイリアは今どうしているんだ?」
敬語で話すのも忘れてしまう。
「敵を引き付けるために、蹄鉄のような形の笛を吹いて、あっちの方へ行ってしまったわ。力になれなくてごめんなさい。」


323 : 憤懣焦燥 後 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:41:59 uklXIbK.0

そうすると細かいことを探らずに、ピーチが指さした方向に走って行った。
例えば、どうして怪我していた脚が無事なのか、とか。

誰が相手でも物怖じしないことは、瀕死のラルス王子を助けようとした彼女そのままだ。
そして彼女が言っていた笛と言うのは、自分にくれた陶器の馬笛で間違いないという確信があった。
2度ならず3度も殺されてたまるかという決意のもと、痛みも疲労も無視して走っていく。

一方でピーチも、リンクとは真逆の方向に走っていく。


【A-3/草原/一日目早朝】


【リンク@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:ハート1/10 服に裂け目 所々に火傷 疲労(大) 焦り
[装備]:正宗@FF4 トルナードの盾@DQ7
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:主催を倒す
1.イリアのことが気がかり。まずはピーチが示していた東へ向かう。
2.ピンクのツインテールの少女を倒す

※参戦時期は少なくともザントを倒した後です。
※地図・名簿の確認は済みました。
※奥義は全種類習得してます

【ピーチ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:健康 
[装備]:愛のフライパン@FINAL FANTASY IV
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ゴロツキ駅へ向かい、マリオを探す
1:リンクと×に柊ナナを倒す。
2:奇×丸さん、あなたから×わったこと「泣き言×××に入ってか××××虫に聞かせ!」は××ないわ
3:××××ラに××
4:佐々木ユウカに仕える














「気付かれなくてよかった。まあ、こんな汚い女には、お似合いの末路だね。」


丁度その時、月が沈み、朝日が昇った。
リンクが駅から完全に去ると、ピーチの肉体が崩れ落ちた。
最初は怪我していた足がグズグズに崩れて、それから内臓がボトリ、ボトリと零れ落ちる。







【ピーチ @ペーパーマリオ  死亡】
【残り 42名】


324 : 憤懣焦燥 後 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:42:18 uklXIbK.0



既に駅から遠く離れた場所、リンクが向かった方向とは真逆の位置で、ほくそ笑む女が一人。

「いい気味。誰かにとって大切な男を誑かそうとするから、こんなことになるのよ。」
まあ最後に役に立ってくれたし。良しとするかな、と心の中で付け足す。

ピーチは確かに戦いの経験が少ないながら、ユウカをあと一歩まで追い詰めた。
だが、敗北の要因は、観察力の高さだった。
それ故にバッド・カンパニーに含まれる、地雷という見えない罠を見抜くことが出来なかった。

ユウカに迫る寸前で作動した地雷は、既に傷ついた足に大きなダメージを与え、そこからの一斉射撃は彼女に引導を渡した。


(あのオンナの最期は中々笑えたしね。「マリオ……」って、結局他所の男に頼ってるの。)

ピーチの死を確認した後、慶兆を捨て置き支給品を奪い、即座に彼女を『ネクロマンサー』で操った。
そして、記憶の共有が出来るユウカは、操ったピーチの死骸にイリアのことをそれらしく話させ、リンクに柊ナナを危険人物だと吹き込mmだ。


(しかし、もう夜明けか……。)
これにてユウカの能力は、12時間お預けと言うことになる。

(まあ、あたしのことを知ってるナナちゃんはあの緑帽子君が倒してくれそうだしね。身を守る方法でもゆっくり考えるか。)

その表情は、何人もの人間を殺した少女とは思えないほど、朗らかに見えた。



【佐々木ユウカ@無能なナナ】
[状態]:ナナへの憎悪(極大)
[装備]:なし
[道具]:イリアの死体@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、基本支給品、遺体収納用のエニグマの紙×1@ジョジョの奇妙な冒険 ピーチの支給品 ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:シンジと添い遂げるために優勝する
1.とりあえず南へ向かい、隠れる場所を探す。清浄寺か山奥の塔が候補

※参戦時期は死亡後で、制服ではありません。
※次の夜まで死体操作は出来ませんが、何らかの条件で出来る可能性もあります。
※死体の記憶を共有する能力で、リンク、仗助、ピーチ、マリオの情報を得ました。
 イリアの参戦時期は記憶が戻った後です。
※由花子との情報交換でジョジョの奇妙な冒険の参加者の能力と人柄、世界観を理解しました。
 但し重ちー、ミカタカ、早人に対する情報は乏しい、或いはありません(由花子の参戦時期で多少変動)


325 : 憤懣焦燥 後 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:42:35 uklXIbK.0



(余りにも……余りにも愚かな奴等だ。)
リンクとユウカがハイラル駅から出てしばらくした後、バツガルフが現れ、置き去りにされたピーチの死体を一瞥する。


その体はボロボロだったが、機械のマスクで隠された口はそのまま切れてしまうのではないかと思えるほど笑みで歪んでいた。
ボムの大群が自分に襲い掛かる瞬間、自らに冷凍光線を浴びせ、即興で氷の鎧を作って攻撃を耐え凌いだのだ。

(わたしにトドメを刺すことを忘れ、挙句の果てに仲間さえ守れぬとは。)


やはりこの戦いの風は自分にとって、追い風だと確信する。
かつての戦いでさえ、不意に落ちてきたクッパに邪魔される偶然がなければ、マリオとその仲間も負けていなかったはずだから当然のことだが、と思いながら。


(せいぜい足掻き続けるがよい。オマエらクズどもでは、私を傷つけることは出来ても、決して殺すことは出来ぬのだからな。)

緑帽子も、駅にやって来たらしき闖入者も、焦げたハンバーグのような頭の男も、白髪の眠たげな眼をした男も、好きなだけ暴れさせてから、最後に殺すビジョンをイメージする。
身体という身体にガタが来ても、そんなものは知らんとばかりに哂っていた。



【バツガルフ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(特大) 至る所に焦げ付き 愉悦 
[装備]:えいゆうのつえ@ドラゴンクエスト7
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜2 確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し世界征服を叶え、ついでに影の女王へ復讐する。
1.ひとまず休憩場所を探す
2.打倒マリオ。その為の支給品集め。
3.マリオを味方と偽る形での悪評も考えておく。
※参戦時期は影の女王に頭だけにされて間もなくです。



※ハイラル駅には光の剣@ff4 虹村慶兆の死体@ジョジョの奇妙な冒険 が落ちています
※ハイラル駅は2階構造になっており、1階に時刻表付き時計塔とベンチ、その奥に改札があり、2階に電車が停止します。

【支給品紹介】
[ボムの指輪@FF4]
ピーチに支給された、モンスター「ボム」数十匹分のエネルギーが凝縮された魔法の指輪。
普段は小型の箱に収納されており、開けると持ち主以外の周囲にいた相手全員に爆発が起こる。


326 : 憤懣焦燥 後 ◆vV5.jnbCYw :2021/04/27(火) 17:42:45 uklXIbK.0
投下終了です


327 : ◆vV5.jnbCYw :2021/05/02(日) 16:56:01 eYH.vJtY0
ローザ、ガノンドロフ予約します。


328 : ◆vV5.jnbCYw :2021/05/04(火) 00:57:59 5uCc4fCk0
投下します


329 : Seek for my change ◆vV5.jnbCYw :2021/05/04(火) 00:58:28 5uCc4fCk0

自分が怪物になっていると気づいたが、ローザは当初の予定通りバロン城へと向かう。
幸か不幸か、行けども行けどもボトク以外の参加者には出会わなかった。
上手く行けば、怪物の見た目をした自分でも敵意を抱かない相手が見つかり、仲介役をしてもらえるという期待はあったのだが、残念ながらそうは行かなかった。


いくらか歩いた所で、馴染みの城の姿が見え始める。
誰か知り合いがいるのかと言う期待を胸に、橋を渡ろうとした所で、全身に悪寒が走った。

(何……これ……。)
嫌な感じはかつてゴルベーザや、彼を操っていたゼムスと対峙した時に似ているが、圧迫感はそれよりも勝っていた。
立ち尽くしていると、嫌な気配の大元は、橋の先から歩いていた男だと分かった。


破壊と言う名の何かをまき散らしながら歩いているような男。
その正体が何なのか全く分からないのにも関わらず、身体中の震えが止まらなかった。
唯一分かったのは、自分は間違いなくこの男に勝てないということだ。


姿を変えられても体力や筋力は元の姿のままだということは分かっていた。
だが、体格が怪物であり、いつもより手足の短い寸胴体系である以上、柔軟な動作を必要とする弓矢はどうにも使いにくい。

そのため、ローザは橋の下に隠れることにした。
恐らく相手はまだ気付いていない。
踵を返し、橋を渡らずに土手の下へ向かおうとした時。


「何処に行こうとしている?」
地獄の鬼が鳴らす太鼓のような、低く響く声が聞こえた。

「え……!?」
突然男は足を速めた。
ただ速さに驚いただけではない。
高く掲げた右手には、魔法でも放つかのような光の弾が集まっている。
その姿は、光さえも我が物にした悪魔のよう。


「くっ……ホーリー……。」
逃げられないことが分かり、反撃の白魔法を打とうとするが、時すでに遅し。


その手から放たれた速球は、簡単にローザを捕らえた。
「―――――――――!!」
文字にならない悲鳴を上げる。

光が闇夜を照らす花火のように弾ける。
まるでサンダガでも受けたかのような衝撃が全身を走り、地面に崩れ落ちる。
50mは間隔があったため、まだ逃れられると高を括っていたのが失敗だった。


それはほんの数秒の出来事。
だというのにそれなりにあったはずの距離が瞬く間に詰められ、握られていなかったはずの場の支配権はいとも簡単に握られる。


仁王立ちしている男は、一瞬の離れ業をやってのけたにも関わらず、涼しい顔をしている。


330 : Seek for my change ◆vV5.jnbCYw :2021/05/04(火) 00:58:44 5uCc4fCk0

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


(ふむ。先の戦いで幾らか手傷を負ったが、どうやら動きや魔法には差し支えないようだな。)

ガノンドロフは右手をにぎにぎと動かし、どこか体に不具合がないか確かめる。

目の前にいた怪物で、運動能力、あるいは首輪に何かしらの制限を掛けられている可能性を調べようとしたが、特に問題ないことを確認した。

「………。」
足元ではうめき声と共に、怪物がピクピクと痙攣している。
とりあえず命に別状はないと確認し、次いで情報を取ることにした。


彼として気になったのは、怪物から発せられる気配だ。
見た目こそは彼の手下の怪物達と何ら変わらない、緑色の肌や尖った爪・牙を持った生き物。
だが、気配こそはそれらが出すものでは無く、むしろガノンにとっては不愉快な、一般の人間にとっては神聖に感じるものだ。
彼の知っている存在で比較すると、同じトライフォースの所持者にしてハイラルの王女の、ゼルダに似ている。


言ってしまえば、見た目とそこから醸し出される気配がまるで違うのだ。
目の前の女性からは、蜂蜜滴るリンゴを口にした時に、それから唐辛子の味がしたかのような違和感を覚えた。
擬態と言ってしまえばそれまでだが、ここまで完璧な変化などガノン自身も見たことが無い。
自ら擬態をしたのか、はたまた他の何者かに姿を変えられたのか。


「貴様に起こったこと、全て話せ。」
剣の切っ先を怪物の太い首元に向けて、問い詰めた。
それだけで話すか、死かという強迫になる。


だが、皮肉にも相手は話を聞いてくれる相手を求めていた。


そのため、好都合にも怪物は起こったことの詳細を話した。
元はローザという白魔導士だが、ボトクという怪物によって、姿を変えられたということ。
そしてボトクはローザの姿に成り替わり、デパートの北へ向かったということ。


最初は妙にペラペラ起こったことを話すと思うが、確かに自分にとって明かされれば不都合な情報ではないからだと納得した。
ただ、度々別の方向を定期的に見ていることから、どうすればこの場から逃れられるか考えていることは何もせずとも伝わった。


一通り相手は話し終わった後、ローザを嘲笑うかのように、ふんと鼻を鳴らした。

ローザやボトクの目的など、知ったことではない。
どのみちこの殺し合いに乗るにしろ乗らないにしろ、いずれ自らの手で殺すか、他の誰かによって殺されるかのどちらかしかないのだから。


怪物の姿をした女が元の姿を取り戻せようが、ボトクの作戦の成功しようが興味はない。
ましてやそれによって誰が死のうと生きようと、興味は全く沸かない。

だが、いくつか魔王の興味に引っかかったことはあった。


一つは、変化の魔法のこと。
既に老兵士と亀の魔物との戦いで、この世界ではガノンを以てしても知らない力があるのは知っていた。
だが、それらは自分の世界の類似品の域を超えないものだという認識もあった。
変化の術とは、それとは一線を画している。


あの忌まわしい影の僭王、ザントは影の女王ミドナの姿を変えたが、それは力を奪ったことによる追加効果のようなもので、姿を変えることを第一としたものでは無い。


何を求めているのかと言うと、トライフォースの力をも超える新たな力だ。
流石にボトクという魔物が強大な術の持ち主ではないと思うが、どのような魔力を持っているかは調べてみたいと感じる。
異なる世界の力同士を併せて、トライフォースさえも征服出来る力の錬成も可能かもしれない。


331 : Seek for my change ◆vV5.jnbCYw :2021/05/04(火) 00:58:59 5uCc4fCk0

そしてもう一つ気になったことは、体格の変化のこと。
具体的にかつてのローザの体格と言うのはどのようなものか、カード名簿を見ただけでは分からないが、少なくとも均整は人間と違うのだろう。
例えば、首の太さなども異なるはずだ。


ボトクの術は魂を入れ替えたのではなく、姿を変えた。
その情報から察するに、自分にもつけられている忌まわしい首輪は、どういうからくりかは分からないが、持ち主の変化にもある程度順応出来るということだ。


従って、自分の切り札でもある、魔獣変化も行うことが出来る。
先の戦いは室内ということもあったが、何より巨大化による首輪への衝撃を恐れていたため、それが出来なかった。


「失せろ」
「…………?」
怪物の姿のままローザは、間抜けたような表情で見つめていた。

「聞こえなかったのか。我の気が変わらぬまま、どこへでも行けと言ったのだ。」
どうやらようやく言葉を理解したようで、ローザはそのまま橋を渡って消え去ろうとした。
別に殺しても問題はないが、怪物のままにしておいた方が、あれこれと混乱を生み、殺し合い終了までの時間を少なく出来そうだったからだ。


ガノンにとっての殺人は今も昔も手段であり、目的ではない。
従って自分が手を下さずとも他の誰かが殺してくれる状況だったり、見逃したことで更なる混沌が生まれる可能性があるなら、殺人をしないということもある。

それに怒りに任せて全てを滅ぼすのはこの場では難しいと、一度目の戦いで学んでいた。


「ああ、そうだ。リンクと言う耳長で緑帽子の男と、ゼルダと言うこれまた耳長で金髪の女を見なかったか?」

一瞬呆けた顔でガノンを見つめたのち、ローザは首を横に振った。

「もういい。知らないなら、さっさと行け。」
そのまま哀れな元人間の姿は見えなくなった。

「フッ……フハハハハハハハ!!!」

この戦いが始まってから暫くの間怒りに満ちていたガノンドロフは、初めて高笑いを上げた。
終ぞ入手できなかった勇気と知恵のトライフォースのみらなず、異なる世界からやって来た力までも手にする。
優勝し、デミーラとザントを殺し、その先に見るのは何なのか。


魔王は更なる未知との出会いが、楽しみで仕方が無かった。



【G-3/市街地/一日目 黎明】
【ガノンドロフ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:頭に傷 腹部に打撲 高揚感
[装備]:ガイアーラの鎧@ドラゴンクエスト7、美夜子の剣@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜1 確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者も含め皆殺し、その過程でリンク、ゼルダから勇気と知恵のトライフォース、あるいは別の世界の強い力を手に入れる。

※ハイラル城でリンクを待っている間からの参戦です。


【G-4/市街地/一日目 黎明】
【ローザ・ファレル@Final Fantasy IV】
[状態]:HP2/3 ボトクの姿 恐怖
[装備]:勇者の弓@ゼルダの伝説+矢30本 トワイライトプリンセス ふしぎなぼうし@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:バロンへ向かい、対主催勢力を集める。かつての仲間だけじゃなく、様々な参加者と協力したい
1.ボトクに対抗する勢力を集め、彼に自身の姿を戻してもらう
2.ガノンドロフに警戒
※参戦時期は本編終了後です。


332 : Seek for my change ◆vV5.jnbCYw :2021/05/04(火) 00:59:11 5uCc4fCk0
投下終了です


333 : ◆vV5.jnbCYw :2021/05/06(木) 23:44:47 /xfp0O3U0
渡辺早季、ドラえもん、メルビン、ビビアン予約します


334 : ◆vV5.jnbCYw :2021/05/13(木) 02:14:24 9YJW.rVY0
投下します


335 : 想いは呪い呪われ ◆vV5.jnbCYw :2021/05/13(木) 02:15:32 9YJW.rVY0
「早季ちゃん、向こうから誰か来るみたい。」
わたしとドラえもんと橋の下から出ようとした時、頭上からギシギシと音が聞こえてきた。
足音からして、人ぐらいの大きさのようだ。
ドラえもんが言っていた赤い帽子の男あることを恐れながらも、月が輝いている方を見上げた。


「ワシはメルビンと言う者。そこな女子(おなご)とからくり、鎧を付けた赤髪の男を見なかったでござるか?」
橋の上にいたメルビンと名乗った老年の男性は、ひらりと飛び降り、私達に話しかけた。

「私は見てませんが……その怪我は……。」
「ええ!?ぼくはからくりなんて古臭いものじゃないよ!!22世紀の高度な猫型ロボットだ!!」
「別の方向へ行ったでござるか……。」
年にしては妙に優れた身のこなしに驚くも、それ以上にわたしとドラえもんが驚いたことが別にあった。
最も、ドラえもんにとっては自分のこと、わたしにとっては怪我と言う他人のことだったが。

「しかしからくりではないとは、ワシの目も曇ったものでござる。」
からくりとロボットって、どういう違いがあるのだろうと思っていた所で、私達の後ろにいたチビィが、メルビンの方へ這い寄る。

「プギー、プギー!!」

「なんと、そなたは……!!」
意外な人が、意外な生き物と知り合っていたことにすっかり驚いてしまった。
だがそれ以上にチビィの知り合いだということで、メルビンが悪人ではないことが分かって安堵した。

「プギー!プギー!!」
「久し振りでござるなあ。ワシのことを覚えてくれて、嬉しいでござるよ。」
身体をのたくらせ、メルビンの体の上に登ろうとする。
それは捨てられた小動物が、長い旅の果てに主人と再会できたかのような図だった。
最も、片側は犬や猫ではなく、巨大な虫なので見栄えはお世辞にも良いとは言えないが。

「メルビンさんのペットだったの?」
チビィの懐き様を見て、ドラえもんは少し物怖じしながらも、声をかける。

「飼い主はシーブルという男でござる。ワシはこのチビィがルーメンという街を救った一部始終を見届けただけでござるよ。」
「プギー!!」
「え?街を救ったって……。」

わたしとて幼き頃にヒーローが街や国を救った話を、読んでないわけではない。
しかし、そのヒーローの姿は概して人や獣の姿をしており、虫の姿をした英雄の話は聞いたことがなかった。
いや、大昔から語り継がれたヒーローと言うのも、本当は人の姿をしておらず、親近感を持たせるために「カッコいい」と思うデザインにしたのかもしれないが。


「見た目は怖いかもしれぬ。だがチビィは紛れもなく強くて優しい勇者でござる。」
「いえ…私の町にも似たような生き物がいますし……。」
「でも、知り合いに出会えてよかったね!!チビィ!!」
「プギー!」


336 : 想いは呪い呪われ ◆vV5.jnbCYw :2021/05/13(木) 02:16:03 9YJW.rVY0

「そういえばメルビンさん、怪我しているようですが……。」
この集まりは人にからくり人形に大きな虫と、一見仮装大会のようにも見える。
だが、ここは殺し合いの世界だ。
現にメルビンは何者かと戦ったのか、怪我をしていた。
だからそればかりは聞き逃すことは出来なかった。

「うむ。そう言えば忘れていたでござる。」
チビィのことで話が逸れていたが、メルビンが最初に訪ねた、鎧の赤髪の男のことは聞いてなかった。

そして、彼もまた、ドラえもんと同様、殺し合いに乗った者を見たとのことだった。

メルビンは最初は、ここから南のバロン城にいた。
そこで赤髪の男が、自分と仲間のノコタロウに襲い掛かってきた。
戦ったが、力及ばず敗れて仲間は犠牲に、自分も怪我をしてしまった。


自分は幸いなことに、誰かが誰かを殺す瞬間はおろか、殺し合いに乗った者さえも見ていない。
だが、ドラえもんが言っていたマリオという赤帽子、そしてメルビンが言っていたガノンドロフという赤髪の男など、そこかしこに殺し合いに乗っているものがいるという事実は否定できない。


「死んでいったノコタロウのためにも、一刻も早く仲間を集め、ガノンドロフを倒さねばならぬ。」
「うん。ぼくの仲間もきっと協力してくれるはずだよ。」
「あの……私も手伝います!」

順調に協力者は集まっている。
この調子で覚や真理亜や守も来ればよいと、私は思っていた。
そして橋の下から土手に上がり、少し西に向かって歩くと、私の視力が、新たな参加者を捕らえた。

「ドラえもん、メルビンさん、向こうに……。」
しかし私が見つけたその姿は、人とは大きく異なっていた。
紫の液体のような塊に手袋と大きな帽子を付けており、しかも脚は無い。
人間どころか、他の図鑑で見たどの生き物とも似つかない。
強いて似ている存在を挙げるとするなら、私が小さい頃に読んだ絵本の「おばけ」に似ている。

「む。その姿は……!!ワシが近づいて見るでござる。」
意思疎通を取るか取るまいか悩んでいると、メルビンがいち早く私たち二人を後ろに、謎の姿の参加者に走り始めた。


「やめて!来ないで!!」
「待ってくれ!!そなた、ノコタロウ殿の仲間のビビアン殿ではござらぬか!!」

「え?」
ビビアンと言われたお化けは、逃げようとするも、急に足を止める。
「話を聞いているでござる。ワシらと共に、仲間を見つけようではないか。」

「あなた……ノコタロウに会ったの?」
ビビアンはメルビンに対して話を切り出そうとした。
ようやくコミュニケーションが取れたと私も安堵した。


「すまぬ。お主の仲間を守ることは出来なかった。」
深く頭を下げるメルビン。
この人はどうも礼儀と言うものを重んじる人なんだなと思った。

「でも、きっとワシらと一緒にいれば、他の仲間も見つかるはずでござる。」
「そうだよ。君もぼくたちと一緒に………。」

追いついたドラえもんも、仲間に誘おうとする。
しかし、突然造り物であるはずの顔が、引き攣り始めた。

「どうしたの?」
「き、君のそのカバン……」
「え?」


337 : 想いは呪い呪われ ◆vV5.jnbCYw :2021/05/13(木) 02:16:30 9YJW.rVY0

反射的にビビアンの支給品袋を見てみる。
デザインは私達が持っている物と違いはない。
だが、模様が描いてある。
いや、模様ではない。絵だ。
そして私は、その模様に見覚えがある。
全人学級でも習った、呪力で描いた絵だ。
幾分か上手い気もするが、優しげな表情から、守が描いた物だった。
班のメンバー同士で、互いに描いた絵を穴が開くほど見たのだから、間違いない。


「そのカバンに描いてあるのは、あの危険な赤帽子の男の絵じゃないか!!」
「!!!!!!!!!!!!!」


ビビアンの帽子の裏に隠された瞳の、光が失われた。
守の絵を見つけて、嬉しい気持ちになってしまったが、それどころではないことにすぐに気づく。
問題は絵の作者じゃない。何を描いてあるかだ。
確かにカバンに描かれていたのは、ドラえもんが説明したトランプ名簿の人物と間違いなく同じ存在だった。

「ドラえもん殿!そんなはずは無かろう!!マリオ殿はノコタロウ殿の仲間でもあるぞ!」
「ぼくは見たんだ!!そのカバンに描かれている人が、別の人を殺したんだ!!」


「違う……違う……そんなはずない………。」
「落ち着くでござる。きっと何かの間違いで……。」
パニックに陥っているビビアンを、メルビンが宥めようとする。


「マリオがそんなことをするはずがない!!!消えて!!!!!」
耳が痛くなるほどの大声と共に、両手から炎が放たれる。
それは、メルビンも、ドラえもんも、追いついたばかりのわたしとチビィも、全員を焼き殺そうとしていた。


「ぬぐうううう!!!」
しかし、わたしもドラえもんもチビィも、それで焼け死ぬことは無かった。

咄嗟にメルビンが炎を前にして立ちふさがり、どういった技術か知らないが、炎を通すことは無かったからだ。
だが、私は助かっても、彼は無事かどうか分からない。

「メルビンさん!!」
私は呪力で咄嗟に身体中の火を消す。
恥ずかしい話、わたしはビビアンを止めることも、ドラえもんを宥めることも出来なかった。
先程ビビアンのことをパニックに陥っていたと言ったが、一番情緒が安定していなかったのはわたしだったのかもしれない。


「プギィィィィ!!」
「メルビンさん!!」
ドラえもんとチビィも、声をかける。

「かたじけない。ワシより、あの子を助けて欲しい……。」
メルビンはどうやら無事だったようだが、追いかけようとしてすぐに倒れこんだ。
すでに怪我をしていたし、4人分の攻撃を受け止めた火傷は軽くはなかった。
「分かった、そうする。早季ちゃんはメルビンさんを診ていて!!」


ただわたしはコクリと頷き、小さくなるビビアンと、その後すぐに小さくなっていくドラえもんを見守るしか出来なかった。

隣ではチビィが心配そうに鳴いている。
幸い、命に別状は無いようだが、不安でたまらなくなった。


何が正しくて、何が間違っているのか分からない。
ドラえもんが言ったことは間違っていないと思うが、ビビアンやメルビンの話が嘘だとも思わない。
ただ一つ分かったのは、この世界は私が和気園に入る前に読んだ物語の様に、敵と味方がはっきりしているわけではないということだった。


338 : 想いは呪い呪われ ◆vV5.jnbCYw :2021/05/13(木) 02:16:50 9YJW.rVY0

【F-5/一日目 早朝】


【渡辺早季@新世界より】
[状態]:健康 恐怖(小) マリオに対する疑問
[装備]:トアルの盾@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品 チビィ@ドラゴンクエスト7 不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(真理亜、守、覚を探す)
1.メルビンの怪我が治るまで、隣にいる
2.近くにいるらしい守を探しに行きたい。
3.名簿の友達の姿に疑問
※参戦時期は夏季キャンプ1日目終了後。そのため奇狼丸・スクィーラとは面識はありません。


【メルビン@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:HP1/10 全身に火傷 背中に打撲、軽い脳震盪 MP2/3
[装備]:勇気と幸運の剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜5(一部ノコタロウの物)
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーから身を守る、ガノンドロフは今度会ったら絶対に倒す 
1.自分とノコタロウの仲間(アルス、マリベル、ガボ、アイラ、シャーク・アイ、クリスチーヌ、ビビアン、マリオ、ピーチ)を探し、守る
2.ボトク、バツガルフ、クッパには警戒
3.マリオに不信感
※職業は少なくとも武闘家、僧侶、パラディンは極めています。



【ドラえもん@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
[状態]:健康 恐怖(中) メルビンへの罪悪感 ビビアンへの不信感
[装備]:天罰の杖@DQ7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーから身を守る、マリオ・デマオン・赤髪の男(ガノンドロフ)に警戒
1.ビビアンを追いかける
2.のび太、美夜子、満月博士を探す
3.学校で起きたことを対主催勢力に話す

※魔界大冒険終了後です。


【チビィ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康
[思考]:早季とメルビンが心配





【ビビアン@ペーパーマリオRPG】
[状態]:健康 FP微消費 情緒不安定(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針 マリオを探す もし彼が死んだら?
1. 探す途中に、危険そうな存在がいれば殺す
2.マリオに会って、本当のことを知りたい

※本編クリア後の参戦です
※ザックには守の呪力で描かれた自分とマリオの絵があります。


339 : 想いは呪い呪われ ◆vV5.jnbCYw :2021/05/13(木) 02:17:04 9YJW.rVY0
投下終了です


340 : 名無しさん :2021/05/17(月) 12:26:44 Gq7AfrgA0
投下乙です
裏目とはまさにこの事
ビビアンのスタンスは危険だし、ドラえもんは仕方ないけどヒステリックだわで、爆発が前倒しで起こった印象です
メルビンと早季の穏やかさに強さを感じ取れただけに、ままならなさを感じさせる、それでいて登場人物の関係の深さが伺える話でした


341 : 想いは呪い呪われ ◆vV5.jnbCYw :2021/05/18(火) 20:22:39 mQmlJV7k0
ミチル、シャーク、吉良、早人予約します


342 : 名無しさん :2021/05/20(木) 20:51:10 AoMl3JTw0
予約中に申し訳ないのですが、「紅色の願い」の真理亜の状態表は前の話に合わせて修正した方がいいのではと思いました


343 : ◆vV5.jnbCYw :2021/05/20(木) 22:16:20 8mZca0vM0
ご指摘ありがとうございます。
今wikiで編集しました


344 : ◆vV5.jnbCYw :2021/05/23(日) 23:28:23 MAz6EJOs0
投下します


345 : パパは僕のパパじゃない ◆vV5.jnbCYw :2021/05/23(日) 23:30:05 MAz6EJOs0

杜王町の殺人鬼、吉良吉影
人を舐めることで傷を癒すことが出来る「ヒーリング」の能力者、犬飼ミチル
杜王町の小学生、川尻早人
マール・デ・ドラゴーンの船長、シャーク・アイ


前者2名は部屋の中。
内1名は自分のことを嗅ぎまわる相手がいることに気付いていない。

後者2名は部屋の外。
内1名は部屋の中の相手がだれか気付いている。


すなわち部屋の外側の方が有利と思えるが、必ずしもそうという訳ではない。
生兵法は怪我の元、と言うが、中途半端な知識は時として無知よりも有害だという。


そして現状、川尻早人は銃を握りしめながらどうするか必死で頭を回転させていた。
扉の内側からは、吉良と知らない女性の声が聞こえて来る。
その声の感じは、殺人者とその隣にいる者とのやり取りとは到底思えなかった。
だが、早人には分かっていた。
姿も分からない女性の首には、毒蛇の牙が迫ってきていることに。


あの時のことを思い出した。
挙動不審な「パパ」を追いかけた先で、父親の皮をかぶった殺人鬼が人を爆殺したことを。
一刻も早く相手を殺さないといけない。
いざ扉を開けようとした時のこと。


「コッチヲ見ロォ!!」

『死』が扉を破って襲ってきた。





この綺麗な手をした女を殺すか、殺さないか。
本来なら自分の性欲の赴くままに殺害し、「お持ち帰り」するつもりだったが、ここはいつもの場所とは違う。
迂闊に殺すと、近くにいるかもしれない相手から見られる可能性もある。
しかもこの場所は閉鎖空間である以上、杜王町と違って逃げることも出来ない(最もあの場所は逃げるには勿体無いほど素晴らしい場所だったが)


ひとまず辺りに誰かいるか、スタンドで探ろうとする。
手始めにすっかり馴染みとなったキラークイーンを出す。

「え!?吉良しゃん、今の何ですか!!?」
同じスタンド使い以外には見られないはずのスタンドの姿を見られ、全身から汗が噴き出す。
「まだ」何もしていないのだが、歯を食いしばり、掌を伸びた爪で突き刺し、冷静を装う。


「いや、周りに敵がいないか調べたくてね。シアーハートアタック。」

姿を変えて以来、長らく使っていなかった能力だったが、爆弾型戦車はかつてのように動いてくれた。

「コッチヲ見ロォ!!」
敵を見つけたのか、扉を突き破って走っていく。
壊れた木製の扉の先に見えたのは、意外な姿だった。


346 : パパは僕のパパじゃない ◆vV5.jnbCYw :2021/05/23(日) 23:31:07 MAz6EJOs0

「うわああああぁぁあ!!」
悲鳴と共に姿を現したのは、なりすました家にいた子供。
気付かれない筈なのに、自分のことを怪訝な眼で見ていたのはよく覚えている。
まさかこの世界でも自分を追っていたとは完全に予想外だった。


慌てて逃げだすも、そのままシアーハートアタックは追いかけていく。
体温に反応して追いかける自動追尾スタンドと、緊張したことで体温が上がっている相手はこの上なく相性が良い。


確かに予想外だったが、安心して邪魔者は排除できると安心するが、そうでもないことをすぐに分からされる。


「逃げろ!小僧!!」
海賊のような姿をした男が天井から降りてきて、爆弾型スタンドに斬りかかったこと。


「あの……吉良しゃん、脅しじゃなくて話し合うことは出来ないのですか?こんなことはやめましょうよ。」
忘れていたうるさい女が止めに来たこと。

だが、この程度の問題なら何ら大したことは無い。

「ああ、やめることにするよ。」
ミチルの肩に手をぽんと置いて、落ち着かせる。
しかし本当の目的はそれだけではない。


「君とのお話をやめることにね。」

「………―――――ッ!!」
「君は死ななくてはならないんだ」
低い声が荘厳な空間に響く。
僅かなうめき声と共に、背中から噴水の様に血が迸る。
白いカーディガンが、瞬く間にスカートと同じ赤に染まる。
目玉をひん剥き、驚愕しているような、恐怖しているような、敵意を表しているような、何とも形容できない表情を浮かべる。

早人は怒りか恐怖か、動けなくなっている。


キラークイーンで脊椎の一部を吹き飛ばした。
あの白百合のような手まで巻き込むのは勿体ないからと少し加減したのが原因か、一撃で殺すには至らなかったようだ。
しかし、どの道女はもうじき死ぬ。
舌で舐めることで傷を癒せるのかもしれないが、身体の部位的に治せるはずもない。
問題は子供と男だ。


「コイツ……固いな……。」
男はナイフで斬りかかるも、シアーハートアタックの固さを噛みしめたようだ。
しかし、海賊のような姿をした男が、奇妙な構えを取ったと思うと、寺の中の空気が変わる。


「水の精霊よ、邪悪な力を吹き飛ばせ!バギマ!!」
(風を操るスタンドか?もしくは天気か……。)

男の詠唱が終わると、室内にあり得ないはずの竜巻が、廊下に発生した。
それは廊下のあちこちを吹き飛ばしながら、爆弾も吹き飛ばそうとする。
だが無駄なことだ。
シアーハートアタックに弱点は無い。
かつての戦いこそ重くされたり右手に戻されたりと、何度か無力化されたが、あの時は例外だ。


「コッチヲ見ロォ!!」

竜巻を突き破り、男ではなく早人に襲い掛かる。
緊張しているから体温が上がっていることが分かり、なるほどと思った。

「危ない!!」
しかし、爆弾は早人に当たることは無かった。
爆発する場所で、思いっきり男が早人を突き飛ばしたからだ。


しかし、シアーハートアタックは点火。
男を中心に、凄まじい爆発が起こる。
それは人間も、木の壁も床も竜巻も吹き飛ばす。


347 : パパは僕のパパじゃない ◆vV5.jnbCYw :2021/05/23(日) 23:31:58 MAz6EJOs0




あっさりと、事も無げに。
目の前で2人の命が失われた。

僕のせいだ。
僕が判断を誤ったからだ。


あの殺人鬼の能力は、触れた物を爆弾に変えることだけだと思ってた。
だから、あんな戦車のスタンドがあったなんて、知らなかった。
でもそんなものは言い訳にもならない。

ダメ元で殺人鬼目掛けて、銃の引き金を引いたが、当たるわけもなかった。
それを余裕を見せるかのように、吉良の背後に現れた怪物(見るのは初めてだが、あれが『スタンド』というものらしい)が腕を振り回して、銃弾を弾き飛ばした。


「コッチヲ見ロォ!!」
そして自動追尾のスタンドは、海賊のような男を吹き飛ばしてなお、僕に迫ってくる。

慌てて銃を落としてしまったが、どうやらそれが幸いした。
発砲したことで熱された銃に向けて走り、爆発する。
だが、それはあくまで一時しのぎに過ぎない。
しかも、武器は今ので壊れてしまった。

「今ノ爆発ハ人間ジャネェ〜」
不気味な声を出して、方向を変えて早人に迫りくる。

逃げてもあのスタンドが追ってくる。
近いうちに終わりが来る。


固く目を瞑り、死を覚悟した所で、殺人鬼の後ろから強い光が見えた。





―――私は、馬鹿でした。


人類の敵のことばかり考えて、目の前の悪には気付かず、自分のことをペラペラ話して。
その結果、こうして医者になる夢も叶わず、死んでいく。


自分の能力では背中の怪我は治せないし、逃げようにも体を動かせない。
段々と視界が薄れ、爆音も聞こえなくなっていく。
これが死の前触れだと分かっていく。
でも。

―――まだ、終わりません。


自分がリーダーとして選んだ人なら、きっと諦めたりしない。
リーダーになるべくしてなった彼女なら、きっと色んな人を集めて、人類の敵を倒してくれる。
そのために、自分の残り少ない命を投げうってでも、誰かを救うべきだ。


目の前に、自分と同じで倒れた男がいる。
痛々しく全身に木片が刺さり、身体のあちこちから血を流している。
でもまだ生きていて、動かない身体をどうにか動かそうとしている。


私が最後にやれることは、これだ。


動こうとしない両手を鞭打ち、どうにか男に手を添える。
あとはその傷を一つずつ舐めるだけ。
だが、もう身体は動かない。
何も出来ずに終わりたくない。

その気持ちに応えたのか、両手から現れる強い光が、男の体を照らし、あれほどあった傷を癒していった。
刺さった木片も消え、火傷も裂傷も消えていく。


―――後のことは頼みますね。ナナしゃん。
―――私は1人しか助けられなかったけど、ナナしゃんなら、きっと……。




[犬飼ミチル@無能なナナ 死亡]
[残り 41名]


348 : パパは僕のパパじゃない ◆vV5.jnbCYw :2021/05/23(日) 23:32:25 MAz6EJOs0

〇 〇 〇

子供に助けられたのは、これが初めてじゃない。
1度目は、魔王の呪いの氷に閉じ込められた時もそうだ。
今度こそ自分より若い奴等、弱い奴等を守ろうとしたのにこのざまだ。


だが、一度失った命なら、誰かのために惜しみなく使える。


だから見せてやろう。
海賊流の生き方と言う奴を。
ナイフは爆発に巻き込まれた時どこかへ飛んで行ってしまったが、武器はある。

地面に散らばっていた木片のうち、一番長い物を掴み、白いスーツの男のバックを取る。


「生きていたのか!?」
当然と言えば当然だが、羽交い絞めにされて驚く。
「生きていた、じゃない。生き返った、だ。」
殺した相手に不意を突かれ、殺人鬼は完全に動揺する。


「アンタが走らせているあの小型爆弾をすぐに止めろ。怪しいことをしたらコイツで首を刺す。」
「わ……分かった。言う通りにする……。」
ガキに小型爆弾が当たる寸前で、どういう魔法かは知らないが消える。
それに安堵し、拘束は解かないが少し力を緩めた。
しかし、殺人鬼の後ろにいた、召喚魔らしき怪物は消えず、それどころか自分目掛けて殴り掛かってきた。

拘束を解き、咄嗟に後ろに飛びのいて躱す。

「言われた通り『シアーハートアタック』は消した。でも『キラークイーン』を消すとは言ってないぞ?」
「ま、悪人とはそんな風に誤魔化すもんだからな。分かってはいたさ。」


「気を付けて!!その人の能力は、触れた物を何でも爆破させるんだ!!」
戻ってきた子供が自分に警告を告げる。
だが、相手に触れずとも倒せる技を持ち得ているのが海賊。
船越しでも、攻撃する手段など、自分にはごまんとある。

そして再び構えを取り、海賊の中でも、その道を究めた者にしか出せないあの技を出す。


「キラークイーン、第一の爆弾!!」
「メイルストロム!!」


寺に先程の風魔法とは比較にならないほど巨大な渦が現れ、邪悪な男に襲い掛かる。


「何だこれは………うわあああああああ!!!」
その力に巻き込まれた殺人鬼は、寺の天井を突き破って、二人の視界から消えた。


349 : パパは僕のパパじゃない ◆vV5.jnbCYw :2021/05/23(日) 23:35:34 MAz6EJOs0



殺人鬼が消えても、静寂は訪れなかった。
響くのは、庭で地面を掘る音と、少年が人を呼びかける声。

シャーク・アイは壊れた木材の中で丈夫そうな物を使い、ずっと黙って地面を掘っている。
川尻早人は安らかな顔で、動かなくなった犬飼ミチルを揺さぶり、呼びかけている。


「多分無理だ。きっと彼女が使ったのは、メガザルの類なのだろう。」
「何……それ?」
「自己犠牲魔法の類だ。自らの命と引き換えに死者を蘇らせたり大けがを治したり出来る」
「魔法!?スタンドじゃなくて?」

早人は怪訝な顔でシャークを見つめた。

「あの殺人鬼の男が出したものか?てっきり召喚魔のようなものかと思ったが……。」

会話は嚙み合わない。
世界が異なるというのもあったが、それ以前に話が盛り上がるような空気でもなかった。
殺人鬼は追い払えたが、結局犠牲者は出てしまった。
2人は助かったが、その事実は変わらない。


それからは特に会話を交わすことなく、土を掘る音と、風の音だけが空間を支配した。


穴を人が埋まるぐらいの大きさまで広げ、なおも動かないミチルを運ぶ。
死人は重いと聞いたことがあるが、それにしては早人でも持ち上がるくらいミチルの遺体は軽かった。
あの光を出した時に、何か命を維持するのに大切な何かを失ってしまったのだろうと早人は思った。
それを考えて、ようやく安らかな顔で動かなくなった少女の死を理解できた。


最も、持ち運ぶことは小学生の早人には出来なかったが。
結局、シャークと協力して運ぶことになった。


ミチルの姿が見えなくなるまで二人で土をかぶせ、寺を後にすることにした。
僅かな会話の末に、早人の知り合いがいるという、南の杜王駅を目指すことにした。


辺りを流れる空気は冷たいままだった。
早人の手をシャークが暖かく握った。




【C-3/清浄寺室内/一日目 深夜】

【川尻早人@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:シャーク・アイと共に杜王駅へ向かう
1. スタンドが自分が見えることへの驚き
※本編終了後です
※名簿は確認しました。

【シャーク・アイ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康 MP消費(小)
[装備]:鶴見川のナイフ@無能なナナ
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]ミチルに対する罪悪感
基本行動方針:アルスを探す、その過程で危なっかしい人物を倒す。殺し合いに乗る気はないが、最悪殺害も辞さない。
※少なくとも4精霊復活後です
※少なくとも船乗り、盗賊、海賊の技は使えます。


350 : パパは僕のパパじゃない ◆vV5.jnbCYw :2021/05/23(日) 23:38:08 MAz6EJOs0

●●●


「くそ……私がこんな目に……。」
この場所は清浄寺の南の森。
キラークイーンで床板を爆発させたことでメイルストロムのダメージを抑えたのが幸いだった。
地面に叩きつけられて死ぬところを、幸か不幸か森の高い木の上に引っかかり、一命をとりとめた。
だが、下りるのは一苦労しそうな状況だ。
上にいても木の枝が折れて落死する可能性がある。


自分の存在がバレてしまったのは、最悪の話だ。
脱出するまでに何としてでも邪魔者を排除し、脱出派の人間から信頼を勝ち取らないといけない。
最悪の場合は優勝も考慮しなければならないが、あまり戦いに身を投じたくはない。


「…………。」

まずは、無事に木から降りられるのが問題だが。



【D-3/森/一日目 黎明】

【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:ミチルに協力するべきか?殺すべきか?
1.名簿に載っていた、仗助、康一、重ちー、隼人、そしてシャークに警戒
2.早人やミチルにもスタンドが見えたことに対する疑問
※参戦時期は川尻耕作に姿を変えてから、カップルを殺害した直後です


351 : パパは僕のパパじゃない ◆vV5.jnbCYw :2021/05/23(日) 23:39:03 MAz6EJOs0
投下終了です


352 : 名無しさん :2021/05/24(月) 15:35:20 OtYFjIKU0
投下乙です
それぞれの経験の差が浮き彫りになった緊張感ある攻防でした
早人とシャークの距離感と歩み寄りがしんみりしてていいですね
比較的負傷軽微で済んだ吉良も中々
ミチルの最初で最後の頑張りはどこまで理不尽に通じるのかも先が楽しみになる要素でした
あと吉良の状態表の基本行動方針が前話のままです


353 : ◆vV5.jnbCYw :2021/05/24(月) 20:51:03 iGFVzbwI0
感想兼指摘ありがとうございます。
そういや吉良って整形してからシアハ出してねえよなって思ったのが今作の始まりでした。



ミチルを殺すか、殺さないか?

脱出派の勢力をとにかく探し、潜り込む。

以下の内容でWikiにて変更しました。


354 : ◆vV5.jnbCYw :2021/06/06(日) 14:11:25 w3SOiZhQ0
デマオン、ナナ、重ちー、アイラ、ゼルダ、クリスチーヌ、満月博士、ミドナ、真理亜予約します。


355 : ◆vV5.jnbCYw :2021/06/10(木) 01:12:35 nXz/mF9I0
投下します


356 : 交錯した想い ◆vV5.jnbCYw :2021/06/10(木) 01:12:59 nXz/mF9I0

※考察回です。そういったものに興味が無ければ下半分辺りまでスクロールしてくださっても構いません。


図書館、2階の机。
そこには図書館のそこかしこから拝借した本が山積みになっている。


「クリスチーヌ……と言ったな。勉学に対する良き姿勢を感じる。そなたはこの戦いが終われば我が軍の参謀になるのはどうだ?」
「ありがたく……遠慮します。」

数刻前、図書館に着くや否や、私の目の前に現れたのは巨大な黒の塊だった。
その姿はかつて戦ったカゲの女王を彷彿とさせ、身構えるも、不思議なほど話が分かる相手だった。
魔族だとか、人間だとか、デマオン軍だとか良く分からないことを言っていたが、とりあえずこの図書館に相手は全員脱出を考えていることは分かった。
しかも自分が赤髪の少女に襲われたことを話しても、疑わずにすんなりと受け入れてくれた。


それからそこにいたデマオン以外の人達にも挨拶を交わした。
怪しいと言えば柊ナナという、妙に屈託なく話しかけてくれるピンク髪の少女と、逆におどおどしてばかりの重ちーという少年が怪しいが、ひとまず自分のやることに専念しようとした。

このゲームの手掛かりになりそうな本を取り、重要そうな内容を抜粋してまとめる。
クリフォルニア大学にいた時と何ら変わらない時間を過ごしていた。


この殺し合いについて、あるいはこの世界、もしくは首輪についてなど、考えることは山積みだ。
ここまで未知の世界に呼ばれたり、殺し合いに乗った相手に襲われたり、順序を置いて考える暇がなかった。
だから今こそ、状況を整理して「これからどうすべきか」と「敵は何をもってこの状況を作ったか」をはっきりさせたい。


まずは先ほど挙げた後者の疑問点を、より詳細に分割していきたい。

・なぜ殺し合いなのか?最初に少女を首輪で殺したように、全員殺すわけではないのか?
・「首輪」の目的についてーなぜ少女を殺して見せたのか?
・どうすれば首輪を解除できるのか?
・なぜ敵はこの訳の分からない世界を選んだのか?


① なぜ殺し合いなのか?最初に少女を首輪で殺したように、全員殺すわけではないのか?

敵、すなわちザントとオルゴ・デミーラはどのようなインセンティブに基づいて殺し合いを開くに至ったのか。
最初に緑帽子の青年がザントに斬りかかっていった。
さらにこの図書館にいた、アイラという女性はかつてオルゴ・デミーラと戦ったという。
従って、参加者のうち何人かは主催者と何らかの因縁のあるものだったと結論付けられる。
この戦いも、その因縁の相手を嵌めるために作られた可能性が高い。

しかし、そこに疑問点が生じる。

『因縁がある相手なら、こんな回りくどいことをせずに、一思いに殺してしまわないのか?』ということだ。


全員に首輪を知らず知らずのうちに嵌めてしまうほどの技術があるなら、回りくどい真似をせずに即座に殺せるのだろう。
憎き相手の苦しむ顔が見たいから、一思いに殺さずに弄ぶという反論もある。

だが、その反論を加味しても、いかんせん今回の殺し合いは、怨みの相手以外に多くの人を巻き込み過ぎている。
極論を言ってしまえば、オルゴ・デミーラの世界とザントの世界の人間だけを集めて殺し合いを開けばいい。
にも関わらず、私の世界や他の幾つかの世界まで巻き込んでいる。
例えるなら、クリボー1匹殺すのに、イチコロバクダンを数百個使うようなものだ。


357 : 交錯した想い ◆vV5.jnbCYw :2021/06/10(木) 01:13:18 nXz/mF9I0

従って、この殺し合いの目的は、主催者の恨みを晴らすため、少なくともそれ1つの為だけに行われたことではない。
ならば、それ以外の目的があるということだ。


その目的については今の所分からずじまいだが、ここで図書館にいた、アイラと言う女性からヒントらしきものを得た。
彼女曰く、オルゴ・デミーラの部下がかつて岩と沼・そして海に囲まれた天然の牢獄に人間を集め、その人間の力を奪うことで主の力の足しにしていたという。
最もその事件にアイラは関わっていないそうで、仲間から聞いただけの情報だが、大きな手掛かりになりそうな話だ。
脱出不可能な牢獄に、戦いを強制させる環境。
さしずめ今回の殺し合いの会場だ。


その時と同様に、力ある者を争わせ、その力の総取りが目的とすれば、納得できる。


似たようなケースは、私の冒険でも見たことがある。
ウーロン街の闘技場経営者であった、ガンスのことだ。


彼もまたスターストーンのエネルギーを用いた機械を使って、ファイターからエネルギーを奪い取り、自分の肉体を決して衰えぬものにしていた。
一見、闘技場地下に隠されていたマシーンのようなものは見当たらないのではないか、と思うかもしれないが、そうでもない。
私は、この首輪がマシーン代わりになっているのではないかと結論付けた。


② 首輪の目的について

殺し合いの目的のうち1つが、様々な世界からの戦士達から力を奪い、更なる力を手に入れることは察しがついた。
そして、次に気になるのがこの首輪の存在だ。
首輪の役割が、逆らった参加者、あるいは殺し合いの条件を満たさなかった参加者の処刑だけとは、考え難い。
最初に主催者はイリアの首輪を爆破し、「逆らえばこうなるぞ」とデモンストレーションをした。
しかし、爆発と言う分かりやすく、かつ大げさな演出をしたことが引っかかる。


ゼルダという女性から聞いた話だが、影の王、ザントは強大な魔力を持っており、あのような道具がなくても人など簡単に殺すことが出来るらしい。
従って、首輪と言うのは爆発一つが目的では無い。


この図書館にあった、爆発、火薬、爆弾などに関する本は一通り読んでみた。
爆弾も様々な物があり、地球破壊爆弾などという物騒なものから、人を傷つけないクラッカーのような可愛らしいものまであることは本に書いてあった。
その中で気になった内容は、「重力崩壊型超新星爆発の物理」という内容だ。
即ち、爆発物の質量と、爆発の範囲は比例するといこと。
ボム兵とヘビーボムの爆発の範囲が違うのも、バクハツタマゴとナンシーダイナマイの威力が違うのも同じ原理だ。
この書は後書きに、「この書はパソコンやスマホの前にいる皆も読めるので、興味がある人は読んでみて欲しい」という記述があった。
パソコンやスマホの前にいる皆とは誰のことだかさっぱりだが、過去に水夫に返送したペケダーが「テレビの前の皆」という訳の分からないことを言っていたので、それと同じことにしておく。


少し話が脱線してしまったが、何が言いたいのかと言うと、私に付けられている首輪では、私の首を飛ばせる可能性は高くないということだ。
秤などと言うシャレたものは無いため、おおよその重さでしか測れなかったが、この首輪は極めて軽い。
こんなものが爆発したとしても、首周りを火傷させるぐらいが落ちだ。
最も、金属製のこれが至近距離で爆発すれば、破片が首輪に刺さって相当痛い事間違いなしなのだが。


358 : 交錯した想い ◆vV5.jnbCYw :2021/06/10(木) 01:13:33 nXz/mF9I0

ひょっとすれば私が知らない物質、技術を使っている可能性もあるため、爆発しないからすぐにでも首輪を外すように指示したりはしないが。
爆発しないことを前提とするなら、首輪の役割はいずれかの2つ。


・『爆発など見かけだけで大したことは無いぞ』と思わせておいて、別の技術(例えば爆発をトリガーに首輪が縮むことで絞殺したり、刃が出たりすることで刺殺する)を用いて殺害する
・①で挙げた、力の吸収


そのような力は見れないぞ、と思ったが、それはどうやら参加者によって変わるようだ。
デマオンは不死の力が失われ、重ちーはスタンド?という能力が使いにくくなっているとのことだ。
逆にアイラ、ゼルダ、ナナの3人にはそれらしき変化は見られないという。
力の制限は、首輪によるものの名残ではないかと考えた。
従って、最初に少女を殺したのは、首輪が爆弾のような何かと言うミスリードが目的である。
そして、この首輪を用いて参加者からのエネルギーを主催の下へ送っている可能性が高い。



③ どうすれば首輪の解除を出来るのか?
仮説止まりだが、首輪の用途に目途はついた。
だが、それが分かっても外せなければ意味がない。


爆発する可能性は低いと分かったので、いっそ力任せに壊すというやり方もあるが、この首輪に殺傷力がない可能性が99%になるまではそれはやめておきたい。
今思うとサンプルが欲しくなる。

いっそのこと平原のモイが倒れた場所に戻り、死体冒涜を承知で首輪を回収しようかとも考えたが、その間に誰かに襲われる可能性もある。


とりあえず、首輪に何らかの力が加えられていることは分かった。
その力を、無効化してから壊してしまえばいい。

いくつか魔法に関する書を読むと、対応できそうなものがある。
この首輪が魔法を発しているものなら、『マジャスティス』、『ギガジャスティス』などでその魔法を解除する。

あるいは24話で一瞬話題に上がった、首輪が生物と言う説を取り上げるなら、『デス』、『ザキ』のような魔法で死滅させる。
あるいは私の世界にあった『ねむれよいこよ』で休眠状態に落としたり、『あっちいけシッシ』でどこかへ逃がしたりする。
その魔法を無力化させる何かがかかっているなら『デスペル』で解除する。

最も、どれも使える人がいないで、それが出来る参加者を探さなければいけないのだが。


そして、首輪に関して、もう少し気になる点がある。
一見つなぎ目が見当たらず、どのような手品を用いて私達に付けたのかさっぱり分からない首輪だが、裏側に一か所だけ、窪みのようなものが見られた。
自分の物だけならただの偶然と言い切れるほどのものだが、他の首輪もそれぞれ窪みがあった。
最も、これをどうすることも出来ない以上、この窪みの話は保留にしておく。


① ② ③を纏めると、私が第一にすべきことは「首輪の分析と解除」である。
以上の仮説がすべて正しければ、この殺し合いは首輪ありきに出来ている。
よしんば首輪あるないに関係なく殺し合いに乗る者がいても、力を奪えなければ、主催者の目的を止められる。
もしかすると介入と言う形で何らかの手段に訴える可能性も出て来るが、それこそチャンスだ。
現れたが最後、残った参加者全員で迎え撃てばいい。


ただ、もう少し確実性のある方法、もしくは殺し合いの会場からの脱出の様な代替案も手掛けておきたい。
そのためにも、この継ぎ接ぎのような世界の弱点を見破るような……


359 : 交錯した想い ◆vV5.jnbCYw :2021/06/10(木) 01:13:52 nXz/mF9I0

「こんな所にいたのか!!デマオン!!」

そう思っていた所で、図書館の入り口から怒鳴り声が聞こえた
慌てて1階の奥から入口へ行くと、黒いコートを纏った禿げ頭の男がデマオンを睨んでいた。


「キサマは満月とかいう地球人だったな……だがワシは殺し合いに乗るつもりはない。ここでは一時休戦と行こうでは無いか。」
禿げ頭はタコの様になりそうになっていたが、デマオンは冷静にいなした。


「他の者はそれで誤魔化せたのかもしれないが、私の目をごまかすことは出来んぞ!!」
両手を掲げ、デマオンに何かをぶつけようとする。

「は〜い、そこまで〜。」
それを止めたのは、満月と呼ばれた男の頭にいた、黒い魔物のようななにかだった。
頭からオレンジ色の大きな手のような物を出し、それで禿頭の両手をがっちり掴んでいる。


「止めるな。ミドナ。コイツは私達の世界を侵略しようとしている魔王だ!!」
その拘束を無理矢理解こうとしながら、満月は凄む。


「違うんだよ。こんな所で魔法なんかブッ放したらどうなるのか、博士の癖に分からないのか?
アンタとそっちのデカブツの因縁なんてどうでもいいけど、脱出のカギに被害が及んだらどうなる?」

その魔物はデマオンとは似ても似つかぬほど小柄で、声のトーンも子供のそれと変わらない。
なのにどういう訳か、同じようにカゲの女王を彷彿とさせるほどの威圧感を感じた。

「デカブツではない。大魔王デマオンだ。同盟を組みたいのなら、名前で呼ぶぐらいの礼儀は見せてもらわねばな。」

デマオンもデマオンで、どこかそうじゃないような対応をしているが、いっそのことツッコまないでおくことに決めた。


「あの……お二方に何があったのか分かりませんが……このお方は悪い人に思えません。
止めていただけないでしょうか……」
いつもの明るい口調で、ナナが二人の間に割って入る。


だがそれでもなお、空気の刺々しさは変わらない。
その状況で、二人が睨み合っている間に、一本の矢が飛んだ。


三者三葉、その場にいた者同士が、その矢を、あるいは飛んで来た方向を見る。
その先には、ゼルダが弓矢を構えて立っていた。


「私達は戦うためにこの場にいるのではありません。
過去の過ちを捨て、未来の敵を倒すために集まった……違いますか?」

鶴の一声。そんな表現が相応しい瞬間だった。
誰もが意識をゼルダへと移し、同時にその意思は国の指導者たるものだと実感した。

「あ……あの……今じゃなくてもいいんじゃないかど?
お姫様もああ言っているど……。」
それまで柱の陰で怯えていた重ちーも、歯切れ悪く頼み込む。


「……解った。」
数秒、とは言っても妙に長く感じた間を持って、満月博士はそう答えた。
それで場の空気は緩み、それぞれの息を吐く音が響いた。

「感謝する、満月よ。」
デマオンもそう告げた。


360 : 交錯した想い ◆vV5.jnbCYw :2021/06/10(木) 01:13:52 nXz/mF9I0

「こんな所にいたのか!!デマオン!!」

そう思っていた所で、図書館の入り口から怒鳴り声が聞こえた
慌てて1階の奥から入口へ行くと、黒いコートを纏った禿げ頭の男がデマオンを睨んでいた。


「キサマは満月とかいう地球人だったな……だがワシは殺し合いに乗るつもりはない。ここでは一時休戦と行こうでは無いか。」
禿げ頭はタコの様になりそうになっていたが、デマオンは冷静にいなした。


「他の者はそれで誤魔化せたのかもしれないが、私の目をごまかすことは出来んぞ!!」
両手を掲げ、デマオンに何かをぶつけようとする。

「は〜い、そこまで〜。」
それを止めたのは、満月と呼ばれた男の頭にいた、黒い魔物のようななにかだった。
頭からオレンジ色の大きな手のような物を出し、それで禿頭の両手をがっちり掴んでいる。


「止めるな。ミドナ。コイツは私達の世界を侵略しようとしている魔王だ!!」
その拘束を無理矢理解こうとしながら、満月は凄む。


「違うんだよ。こんな所で魔法なんかブッ放したらどうなるのか、博士の癖に分からないのか?
アンタとそっちのデカブツの因縁なんてどうでもいいけど、脱出のカギに被害が及んだらどうなる?」

その魔物はデマオンとは似ても似つかぬほど小柄で、声のトーンも子供のそれと変わらない。
なのにどういう訳か、同じようにカゲの女王を彷彿とさせるほどの威圧感を感じた。

「デカブツではない。大魔王デマオンだ。同盟を組みたいのなら、名前で呼ぶぐらいの礼儀は見せてもらわねばな。」

デマオンもデマオンで、どこかそうじゃないような対応をしているが、いっそのことツッコまないでおくことに決めた。


「あの……お二方に何があったのか分かりませんが……このお方は悪い人に思えません。
止めていただけないでしょうか……」
いつもの明るい口調で、ナナが二人の間に割って入る。


だがそれでもなお、空気の刺々しさは変わらない。
その状況で、二人が睨み合っている間に、一本の矢が飛んだ。


三者三葉、その場にいた者同士が、その矢を、あるいは飛んで来た方向を見る。
その先には、ゼルダが弓矢を構えて立っていた。


「私達は戦うためにこの場にいるのではありません。
過去の過ちを捨て、未来の敵を倒すために集まった……違いますか?」

鶴の一声。そんな表現が相応しい瞬間だった。
誰もが意識をゼルダへと移し、同時にその意思は国の指導者たるものだと実感した。

「あ……あの……今じゃなくてもいいんじゃないかど?
お姫様もああ言っているど……。」
それまで柱の陰で怯えていた重ちーも、歯切れ悪く頼み込む。


「……解った。」
数秒、とは言っても妙に長く感じた間を持って、満月博士はそう答えた。
それで場の空気は緩み、それぞれの息を吐く音が響いた。

「感謝する、満月よ。」
デマオンもそう告げた。


361 : 交錯した想い ◆vV5.jnbCYw :2021/06/10(木) 01:14:16 nXz/mF9I0

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


一悶着あったが、ひとまず交渉は成立し、引き続きそれぞれ手掛かりになりそうな本を探すことにした。



「姫さん、無事で良かった!その……身体とか、大丈夫なのか?」
ミドナは心配そうにゼルダを見る。
一時は彼女のおかげで命が助かったミドナだが、その代償はタダでは済まなかったはず。
姿だけ見れば特に異常はないが、それでも心配になると言うものだ。


「安心しろ。この戦いが始まってからすぐに会ったが、怪我などはしておらん。」
「安心なんて出来ないね。とんだ厄介者まで呼び込むくらいなんだし。アンタが原因で姫さんが怪我でもしてみろ。絶対許さないからな。」
場こそ収めたが、争いの真ん中にゼルダを追い込む可能性があり、その原因を作ったデマオンを不機嫌に睨みつけた。

「ミドナ。言葉に気を付けなさい。」
過剰な言葉に対し目くじらを立て、その発言を注意するゼルダ。


「いや、すまぬな。デマオン軍の配下として、守らねばならぬ。」
不可抗力とはいえ、危険人物を呼びよせることになった不手際を悔いるデマオン。
使い魔と同じ程のサイズでしかないミドナだが、その奥から並みの悪魔を優に超える気配を感じたのもあり、影の女王に頭を下げる。


威圧感に反して意外なほど簡単に頭を下げたデマオンに、棘のある反応を予想していたミドナは驚く。


「みなさーーーーーん!!」
そこで呼びかけたのは、柊ナナだった。


「手掛かりになりそうな本、一度集めよう思うのですが……。」
その言葉を聞いた他の者達も、彼女の言葉に従って本を一つの机に山積みにしていく。
茶色を基盤にした机に、様々な色の本が重なり、見る目を引く姿に成っていった。


「すごいど!!これだけあれば、きっとどうにかなるど!!」
重ちーの歓声とは裏腹に、デマオンの表情は苦々しかった。


「恐らく、全て違うな。」
「ちょ……これだけオラ達に探させておいて、それはひどいど!!」
「うん。アタシも似たようなことを思ってた。首輪を壊せるヒントになるようなものを、わざわざ分かりやすい形で置いておくか?」

ミドナもデマオンに賛同する意見を述べる。


「確かにその通りですね。ならば、どこか別の場所へ探しますか?」
その話を聞いたゼルダが、別のやり方を提案する。

「う〜む。それもまた違うような気がするな……発見と言うものは、『誰も読んでないような本』から見つけるものだ。」
はるばるやって来たのに、すぐに別の場所へ行くことになるのは不満なのか、満月博士は残ることを提案する。


「???どんな本ですか?」
クリスチーヌが良く分からんぞという表情で訪ねる。
フランクリ先生と言い、こういう言いたいことが中々分からない相手は困ったものだと思ってしまう。

「なるほど、分かりました!!」
そこで答えを出したのは、柊ナナだった。


362 : 交錯した想い ◆vV5.jnbCYw :2021/06/10(木) 01:15:02 nXz/mF9I0

「皆さん、「下巻しかない本」や、「1巻が無い本」を探してください!」
何人かは一瞬何が言いたいのか分からない、という表情だったが、アイラはすぐに察しがついた。


「なるほど、そういうことね!!」
彼女は過去に、『勇者ヘッポコ君』を見せてもらったことがあったが、初めて目にしたのが4巻だったので、迂闊に読む気が出なかった。
結局その物語は次の話で最終回を迎えたが、誰だって上巻や1巻から読もうと思うのが性と言うもの。


各自一度解散し、今度はそれらの本を集めて来る。
今度は別の本が新たに積みあがる。

それらの本を1冊、2冊とめくっていき、6冊目 『スーパールイージ 2章』を開いた時に、全員があることに気付いた。

□    
□ □□
□  □    □
□  □  □□
  □  □
 □


背表紙に、幾つかの小さな四角い穴が不規則に空いてあった。
その右下に小さく、1 M 013 P151と書かれる。
それは既にこの図書館にある本の請求記号だと誰もが分かった。
躊躇いなくナナがその穴だらけの表紙を破り、重ちーが何故か乗せていた『日本のここベスト100 民明書房刊の151ページの上にかぶせる


カ    
ぎ はで  
パ ー      と   
  さ   ん  カイ 
  ふ   く
 屋


穴の開いた紙をページにかぶせると、見つかった文章はこれだった。
「鍵はデパートの三階、服屋か」
「この会場のデパートのことでしょうか?そもそも鍵って?」
「この忌まわしき飾りを解くための物か?」

各自その内容に大なり小なり戸惑う。


「い、一応、朝になればメンバーを分けましょう。ここに残る組と、デパートへ向かう組。
それと聞いておきますが、この本を読んだことある方はいませんか?」
「この本、私の世界で売られていたけど、こんななぞなぞみたいな物はなかったわ。」
ナナがこの先のことを提案し、同時にこの本に特有の仕掛けがあるのかどうか訪ねる。
唯一ゴロツキタウンの店でスーパールイージを読んだことがあるクリスチーヌが、こんなものは付いてなかったと答えた。


何にせよ、何かの手掛かりは見つかり、方針も立った。
しかし、誰もが大なり小なり、順調に進み過ぎているのではないかと言う不安はあった。
不安に思ってはいたが、それがどこから来るものなのかは分からなかった。



【B-5/図書館/一日目 早朝(放送直前)】


【柊ナナ@無能なナナ】
[状態]健康
[装備]空気砲(100/100)@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)、名簿を七並べ順に書き写したメモ、ナンシーダイナマイト@ペーパーマリオRPG
[思考・状況]
基本行動方針:最低でも脱出狙い。可能ならオルゴ・デミーラ、ザントの撃破。最悪は優勝して帰還。
1.ここにいるメンバーのうち何人かで、デパートへ向かう
2.殺し合いに乗っていない参加者と合流を目指す。
3.回復能力を持つミチルと東方仗助と合流したいが、1よりは優先順位は低め
4.小野寺キョウヤはこの殺し合いの中なら始末できるのか?
5.佐々木ユウカは出会ったら再殺する。
6.スタンド使いも能力者も変わらないな
7.満月博士、デマオンの関係に警戒
※参戦時期は20話「適者生存PART3」終了後です。
※矢安宮重清からスタンドについて、東方仗助について聞きました。
※広瀬康一、山岸由香子、ヌ・ミキタカゾ・ンシをスタンド使いと考えています。
※異世界の存在を認識しました。


363 : 交錯した想い ◆vV5.jnbCYw :2021/06/10(木) 01:15:23 nXz/mF9I0

【アイラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康 職業 調星者 (スーパースター)
[装備]:ディフェンダー@ FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラを再度討つ デマオンへの警戒
1.デマオンには警戒しながら同行する
2:アルス達を探して合流する
3.柊ナナに警戒
※職業は少なくとも踊り子、戦士、武闘家・吟遊詩人・笑わせ師は極めています。
参戦時期はED後。



【ゼルダ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 】
[状態]:健康
[装備]:アルテミスの弓@ FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:ザントの企みを阻止する デマオンへの警戒
1.デマオンには警戒しながら同行する
2.アイラの仲間(アルス達)を探して合流する
3.このメンバーで力を合わせ、主催を倒す

参戦時期はミドナとリンク(狼)が出会い1回目の頃。
※参加者のトランプは確認していない。



【デマオン@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:健康 
[装備]:世界樹の葉@ ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:不遜なるデク人形(オルゴ・デミーラ、ザント)をこの手で滅し、参加者どもの世界を征服する
1.デパートへ向かい「鍵」の正体が何なのか調べる
2.デマオン軍団の一員として、対主催の集団を集める。
3.刃向かうものには容赦しない
4.青だぬき共の処遇はこの場では不問とする
5.この世界は一体?



【満月博士@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:健康 魔力消費(極小) デマオンへの敵意
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:美夜子の保護、首輪の解析及び解除
1. 美夜子を見つけ次第保護する
2.図書館にいる者と共に共闘
3.デパートへ向かう。その過程で美夜子を探したい
4.デマオンをどうするか?
参戦時期はエンドロール後
ヤンとの情報交換でFF4 の世界の情報を得ました。


【ミドナ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 】
[状態]:健康
[装備]:ツラヌキナグーリ@ ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:ザントを討ち、光と影の両世界を救いたい
1:陰りの鏡に影の結晶石がここにあるのなら手に入れたい
2:満月博士と行動を共にする
3:リンクに出会ったら、真実を明かして改めて協力を求める
4:満月の光頭は心地いい
5:デマオンに興味
参戦時期は瀕死の状態からゼルダにより復活した後
陰りの鏡や影の結晶石が会場にあるのではと考えています。



【クリスチーヌ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:HP2/3
[装備]:イツーモゲンキ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品 アイアンボーガン(小)@ジョジョの奇妙な冒険 キングブルブリンの斧@ゼルダの伝説
[思考・状況]
基本行動方針:首輪解除のヒントを見つける
1.ここでさらに調べ物をするか?デパートへ向かうか?
2.仲間(マリオ、ピーチ、ノコタロウ、ビビアン)を探す
3.クッパ、バツガルフ、真理亜に警戒
4.モイの死を無駄にしない
5.首輪のサンプルが欲しい。モイの所へ戻って取りに行く?
※図書館の本から、DQ7.FF4にある魔法についてある程度の知識を得ました。
※首輪についてある程度仮説を立てました。
・爆発物ではないが、この首輪が原因で死ぬ可能性は払拭できない。
・力を奪うのが目的


364 : 交錯した想い ◆vV5.jnbCYw :2021/06/10(木) 01:15:43 nXz/mF9I0


「どこから攻めるかな……」

誰も知らないことだが、この図書館にいるのは8人だけではない。
もう一人、燃えるような赤髪の少女が能力で自身を飛ばし、屋上に居座っている。
どうにかして、ここにいる人たちを倒さなければならない。
おまけにうち一人は自分が殺し合いに乗っていることを知っている以上は、ここにいる者達をどうにかしないと優勝が極めて難しくなる。



(下で怒鳴り声が聞こえたし、あの人たちは一枚岩じゃないよね……これをどうにか出来ないかな……)
もうすぐ放送の時間になる。
彼女はゆっくり、ゆっくりと頭を回転しながら、策を練っていた。


【B-5/図書館 屋上/一日目 早朝】


【秋月真理亜@新世界より】
[状態]:背中に打撲 返り血
[装備]:銀のダーツ 残り9本@ドラえもん のび太の魔界大冒険 使い魔@ドラえもん のび太の魔界大冒険
基本支給品×2ラーのかがみ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たちㅤモイの支給品0〜2
基本行動方針:渡辺早季@新世界よりを優勝させる。
1.人間はどうやって殺そうか。

※4章後半で、真理亜と共に神栖六十六町を脱出した後です

※ラーのかがみにより書き換えられた記憶を取り戻しています。

※呪力は攻撃威力・範囲が制限されており、距離が離れるほど威力が弱まります。


365 : 交錯した想い ◆vV5.jnbCYw :2021/06/10(木) 01:15:55 nXz/mF9I0
投下終了です


366 : 名無しさん :2021/06/10(木) 11:25:19 YMsSfblE0
乙です
複数の世界の知識を照らし合わせての考察話良かったです
それぞれの人物の立場や首輪周りの謎も見えて来て、読み返したくなる学びたくなる面白さがありました
ナナは頼りになりますね……鋭い人には警戒されるという損な側面もありますが^^���
デマオンと満月博士の確執とラストの真理亜も程良い緊張感がありました
あと重ちーの状態表が抜けてます


367 : 交錯した想い ◆vV5.jnbCYw :2021/06/10(木) 13:45:10 nXz/mF9I0
感想ありがとうございます。

ワードからのコピペ漏れがあったようですね。気付いてくれてありがとうございます。

【矢安宮重清@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康 怯え
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2 ホークアイ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラとザントを倒す
1.殺し合いを攻略するための本を集める
2.ナナさんと一緒に行動する
3.仗助と合流したい
4.これ(暗号となった本)は一体何だど?
※矢安宮重清の参戦時期は「重ちーの収穫(ハーヴェスト)」終了以降です。
※異世界の存在を認識しました。


368 : ◆vV5.jnbCYw :2021/06/30(水) 18:09:20 F6mNnxF60
仗助、キョウヤ、レンタロウ、マリオ予約します


369 : ◆vV5.jnbCYw :2021/07/04(日) 18:41:11 iH9hPoaI0
投下します


370 : Crazy Noisy Bizarre Station ◆vV5.jnbCYw :2021/07/04(日) 18:43:00 iH9hPoaI0

「「おい!!おい!!向こう!!」」

列車の窓から横を見ていた東方仗助と、無心の運転席側から前を見ていた小野寺キョウヤ。
2人が声を上げたのは同時のことだった。

「何があった。」
「そっちこそ何があったんすか!?」

互いの言動に驚きながら、何を見たのか訪ねる。


「龍だ!龍がいたんだ!!」
先に言ったのはキョウヤの方だった。
その表情や口調は、どうにも仗助をからかっているようには聞こえない。
そもそもサイボーグのような姿の参加者を見かけて、龍の存在を疑うというのも奇妙な話だ。

「龍っていうと……あのガーッって奴だよな。どこにいるんだ!?そいつは。」
仗助は両腕を広げ、巨大な生き物のジェスチャーをする。

「……。」
しかし、辺りを見回すキョウヤから返ってきた返事はなかった。
「おいおい、まさか『じょーだんでした〜』って奴じゃ無いっすよね〜?」

だが、仗助の目には龍のような巨大な存在は全く映らなかった。
「いや、確かに見たはずだ。目の前に黒い龍が飛び込んできたんだ。」
キョウヤは戸惑いながらも、自分の言葉を否定しなかった。


「電車に轢かれる龍なんてどうにもマヌケだけど、見えないってのはどういうことっすかね〜。」

一瞬仗助の頭に思い浮かんだのは、祖父、ジョセフと共に世話を焼かされた透明の赤ちゃんのこと。
状況に応じて、その龍とやらも姿を消す、あるいは別の生き物に姿を変えたのではないかと考えた。
だが、その考えはすぐに捨てた。
透明の赤ちゃんと同じ能力ならばぶつかった列車の姿も消えるはずだし、たとえ姿が変わっても電車に衝突した音一つ響かないのはおかしいからだ。


最もその龍はゴルベーザの呼び出した召喚獣で、すぐに姿を消しただけなのだが。

「考えても分からん。東方、おまえさんが見た物は何なんだ?」
「写真っすよ。」
「写真?それならば飛んでいてもおかしくは無いんじゃないのか?」

別方向に予想外な回答を聞かされて、キョウヤも目を丸くする。
龍とは異なり、写真なら風に飛ばされていてもさしておかしくはない。
少なくともサイボーグが襲ってきたり、列車の前に龍が立ちふさがることに比べると、幾分かは現実的な風景だ。


「いや、少し前に空飛ぶ写真で、嫌な思い出がありましてね〜。さっき吉良って殺人鬼の話はしたでしょ?」
仗助は話すことにした。
写真のおやじ、吉良と同様に厄介な彼の父親のことを。


371 : Crazy Noisy Bizarre Station ◆vV5.jnbCYw :2021/07/04(日) 18:43:22 iH9hPoaI0
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


風に乗り、のび太たちを振り切った吉良吉廣は、愛する息子を探して南へ飛んでいた。
どちらかというと彼は騒がしい場所を好まない。
だから戦いの会場の中心へ行かず、周囲から探していくことにした。

そんな中彼の目に入ったのは、会場を疾走する列車。
念のため列車の中を確認してみると、そこには愛する存在の敵である、忌まわしき男、東方仗助の姿があった。


(ゲッ……!!奴は……!!)
列車越しからでも分かる、あの独特な髪型は忘れられなかった。
息子の命を狙う悪党、東方仗助の姿を見かけて、吉廣は歯を食いしばる。
家にまで押しかけて、殺人をしただけなのに愛する息子を殺そうとする極悪人の一人だ。
挙句の果てに、写真の姿をした自分は一度奴に嵌められて、あろうことか息子の能力で殺されてしまった。
すぐにでもこの細菌兵器をぶちまけてやりたいところだが、そう思っている内に電車は過ぎ去ってしまった。


しかし、仗助だけではなく、それ以上に目を引くものが視界に入ってきた。
それはとぐろを巻いた黒い龍。
だが、その龍は一瞬目に入っただけで、列車に触れた瞬間、消えてしまった。


(なんじゃあれは……)
上手く行けば列車の中にいる厄介者にダメージの1つでも与えられるのではないかと期待したが、いとも簡単に裏切られて、何とも言えない気分になる。
ただし、近くにあの龍を操るスタンド使いがいるかもしれないと思い、高度を上げ、さらに線路側から離れて森の中に入り、辺りを警戒する。


そうしていると見かけたのは、金髪の青年だった。
どうやら後ろ暗いことをしているかのように、何度か前以外の方向をチラチラ見ている。
まあ見つかっても、この高さからなら捕まることはまずないだろう。


そう思ったのが間違えだった。

「なっ!?」
突然下から、少年のナイフが飛んで来た。

「何をしていたのですか?」
「お、おまえは!!」
驚く間もなく、写真のおやじは一本の木に磔にされてしまう。

「こんな所に写真が飛んでいたから奇妙だと思ったら、やはりタダの写真じゃなかったようですねえ。」
金髪の少年は醜悪な笑みで、刺さったナイフをグリグリと動かす。
しかし、まだ吉廣には切り札があった。

「早くこれを解け!!これを見ろ!コイツをうっかり間違えて落としたりすれば、おまえなど真冬のカブトムシより簡単に死ぬぞ!!」
のび太から奪った細菌兵器、サイコ・バスターを見せつけ、脅しにかかる。
それを見た少年は、突然背を向け走り出した。



(ふん、少し脅しただけで逃げおって。まあこれが若造との年季の違いと言う奴よ……!?)
小さくなっていくはずの背中が、急に止まったと思いきや、突然サイコ・バスターを持つ手に外側からの力がかかる。

「はい、いただきます。」
その力が、夜の闇に紛れた半透明の少年のものだと気づいた時はもう手遅れだった。


(なんじゃ……あれもスタンドか!?)
言うならば、幽体離脱。
肉体を捨てて自由に動けて、しかも物を掴むことが出来る能力は驚くばかりだが、それどころではない。
切り札をいとも簡単に奪われ、いよいよ八方塞がりだ。

「安心してください。汚い男性の写真などに興味はありません。」
「ま、まさか、このままにしておくつもりか?」
「そうですね。特に得することも無さそうなので。」


得することがないなら捨て置くならば、まだ何か情報を提供することで動かしてもらえる可能性もある。
「そ、そうだ、おまえの鞄に入れさせろ!そうすればわしが知ってる情報をお前に伝えてやるぞ!!」


返事は無く、少年は足を止めなかった。

「ワシはワシの息子が助かればそれでいい!!ワシの息子に手を出さなければ協力もしよう!!」


372 : Crazy Noisy Bizarre Station ◆vV5.jnbCYw :2021/07/04(日) 18:44:12 iH9hPoaI0


レンタロウは口元を歪める。

これは面白い拾い物をしたと。
レンタロウは美しいものが好きだ。
美しい生き物、可愛らしい生き物を見ると、汚してみたくなり、汚れている部分を暴いてやりたくなる嗜好の持ち主だ。
それ故、薄汚い中年男性の映った写真など、後生大事に取っておくものでは無かった。
最も、細菌兵器を食らって、醜くのたうち回る美しい生き物を眺めるのは面白そうだったので、サイコ・バスターは奪ったのだが。


「おお、物分かりが良くて助かるぞ。」
「ええ。あなたの息子への気持ち、わかりましたので。ただし、あなたの細菌兵器とやらはもらいますよ。」
「仕方が無いな……好きにしろ。」

だが、先程の写真の男の発言で、レンタロウの気持ちは変わった。
この男は、見た目こそ醜いが、子供への愛こそはベクトルはどうであれ純粋で美しいものだと。
言うならば、この写真の男にも汚せるものはあるのだと。
それは他の能力者と同様家族から離れて生活をしていた彼にも分かることだった。
だからこそ、木に刺さったダンシングダガーを抜いて、写真の男を解放した。


是が非でもこの写真の男と、この殺し合いにいるらしき「息子」とやらを会わせてみたくなる。
勿論優しさではない。
美しく映える、親子の情を汚すためだ。
再会できた所で奪った細菌兵器をばら撒き、互いのことなど知ったことじゃないとばかりに逃げ惑う姿を見たい。
また、息子とやらをナイフで切り刻み、今わの際に「この写真の男のおかげでこんなことになった」と教えてやるのも良さそうだ。



「それと教えて欲しいことがあります。あなたの正体は何なのですか?」
それを実行するに至って、この写真の男が何者であるのか、なぜ写真の姿でこの会場を散策しているのか聞いておかねばならない。
特別な写真と聞いて思い出すのは、今は亡き彼のクラスメイト、波多平ツネキチの未来が見える写真のことだが、それとは全く違う。
首輪を付けていない(これに首輪をつけるのは難しいという話は無しにして)という点も気になった。


「ワシはな、父親として死んだところを、写真となって蘇り、何故か支給品に混ざっていたのだ。」
「なるほど。あなたは支給品であって、参加者ではない。そういうことですか。」

レンタロウは顔をしかめた。
この写真の男は悪知恵が働く存在だということを知ったからだ。
先程は自分の話をしながらも、全く息子と関係する情報を流していない。
名前ぐらいは話してくれるはずだから、その名前からどの参加者なのか推理すればいいと思った。
息子の名前さえわかれば、この写真に用は無いからだ。


「それとだ。あちら側に向かう列車に、サザエさんのような髪型をした男が乗っていた。奴には気を付けた方がいい。ワシら親子の命を狙う、残酷な男だ。」
「サザエ……?わかりました。色々教えてくださりありがとうございます。」

そこでレンタロウはザックから得体のしれない支給品を取り出した。


373 : Crazy Noisy Bizarre Station ◆vV5.jnbCYw :2021/07/04(日) 18:44:30 iH9hPoaI0
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「ゴロツキ駅に到着しました。5分以内に下車しなければ、首輪を爆破します。」
チャイムと共に車内放送のような物が流れ、降りることを強制させる。


仗助達が降りたゴロツキ駅は、死んだように静まり返っていた。
着いた時間は午前3時過ぎ。
屋根があった神栖駅とは対照的に、構内もなく野ざらしで、改札も小さなゲートに毛が生えたようなもので非常に小さい。
一本の街灯のみが寂しく駅を照らしている。


「さて、東方。どっちへ向かう?」
「俺としては南の山岸由花子の別荘っすかね〜。」
「なら、俺としても向かいたい場所がある。向こうの建物だ。」
キョウヤが指をさしたのは、ここからそう離れてもいない建物だった。


「あれは……学校だな。キョウヤが行ってたとか?」
「そういうことだ。俺の知り合いもいるかもしれない。」
元々「学校」という曖昧な名称で地図に載っていたし、自分が通っていた学校だとは思ってなかった。
だが、ここからその姿を見ると、間違いなく自分達の学校だ。
小野寺キョウヤとしては、知り合いの一人ぐらいはあの学校にいるのではないかと言う期待があった。
仗助の知り合いとやらも気になるし、再会できればうれしいことこの上ない。
だが、キョウヤとしては元の世界の知り合いがどうしているかの方が気になる。



「じゃあ、行こうぜ。さっき列車の中で確認したけど、丁度いい物があってな……」
ザックから出したのは、小型バイクだった。

「おお、こんなものまで支給されているとはな……。お前さん、免許を持ってるのか?」
「勿論、持ってねーっす。でも運転したことはあるから問題ないでしょ……!?」


そこへ闇夜を駆け抜け、一迅の赤が襲い掛かる。

「ドラァ!!」
そこから振るわれたハンマーを、仗助のスタンドが殴り飛ばした。

動きが止まり、はっきりと見えたその姿は、別世界の存在ながらも、知っている相手だった。


「おめーは……」
「マリオか……!」

不気味な笑みを浮かべるのは、バツガルフが配下と言っていた男だった。
とはいえ、バツガルフが流したガセだと思っていた以上、マリオが殺し合いに乗っているのは予想外だったが。


「話が通じる相手でもなさそうだな。」

敵の目は、ひとかけらの慈悲も無いほど、闇に満ちていた。
弾き飛ばされてなお、ハンマーを振りかぶって、二人に襲い掛かる。

「じゃあ話し合いがしたくなるまで何度でも叩いてやんよ!!」

クレイジー・ダイヤモンドの範囲に入る少し前に、大きくジャンプ。
そこからハンマーを叩きつけて来るのかと思いきや、叩いたのは地面だった。


「「!!?」」
地面を叩いただけとは思えないほど強力な衝撃が足の裏に伝わり、二人は立てずにいられなくなる。
マリオが殺したセシルから奪った支給品の中にあった、「ジシーンアタック」のバッジの効果だ。

しかし、これでマリオの攻撃は終わりではない。
ハンマーを掲げると、仗助に雷が落ちる


「ぐああああああ!!」
スタンドの屈強な戦士は腕をクロスさせ、身を守る。
それは雷とは似て非なる者である以上、一撃で人を殺すほどの力はない。
増してや仗助はキラークイーンの作動させた爆弾に巻き込まれても生きているほどの生命力を持っている。
とはいえ、ある世界を闇に包もうとした女王から借りた力。
そのダメージは決して低くはない。


374 : Crazy Noisy Bizarre Station ◆vV5.jnbCYw :2021/07/04(日) 18:45:01 iH9hPoaI0

「東方!!」
しかしただ仲間の心配をするキョウヤではない。
先程電車に乗っている間に、仗助だけではなく、彼もまた鞄の中身は確認しておいた。
中で眠っていた「それ」はむき出しで持ち歩くには持て余してしまうため、見つけた後も仕舞っておいたのだが。


雷を落とした後でも、闇に落ちた英雄はなおも攻撃の手を休めず、ハンマーを振り回して飛びかかる。
そこにドン、と大きな音がして、爆撃を受けたマリオが大きく吹っ飛んだ。


「キョウヤ……助かったぜ……。」
「無事で良かった。」

彼が担いでいたのは、ハイラルのレジスタンスが持っていたバズーカだった。
殺傷力は見た目ほど高くないのだが、それでも成人男性一人を吹き飛ばすには十分な威力だった。


「しかしすげえな!バズーカとか……使い慣れていたのか?」
「本物を使うのはぶっつけ本番だった。まあ、日ごろやってるテレビゲームのたまものという奴かな。」

彼の同級生のモグオやセイヤほど、持っている能力が攻撃向きでないとはいえ、彼は戦場の案山子になるつもりはない。
かつて同級生を殺した「人類の敵」を一人で探っていた時の様に、冷静に状況を分析しながら最適解を見出そうとする。
敵が仗助にかかりきりになっていると判断し、出すのも発射するのも隙を要するバズーカを使ったのだ。

しかし敵もバズーカ程度で終わる相手ではない。
彼も直撃したわけではなく、ハンマーの柄で砲弾を受け止めたのだ。
それでも完全に威力を殺しきれず、吹き飛ばされて、爆風によるダメージも少なからず食らったのだが。


今度はキョウヤ目掛けて、黒い雷が落ちる。
「そうはいかねえぜ!!ハーミット・パープル!!」

仗助はキョウヤの頭上に目掛けてクローショットを放つ。
鍵爪を飛ばすのではなく、クローショットそのものを空に目掛けて投げつける。
金属製のそれは、確実に雷を受け止める避雷針になった。


雷を予想外な形で凌がれたマリオは、驚きもせずハンマーを縦に振り回して襲い掛かる。
まともに当たればセシル同様、仗助も死に至るはずだ。


「そう何度もやられますかってんだ!!」
バチィンと小気味良い音が響く。
クレイジー・ダイヤモンドの両手で上から迫りくるハンマーを挟んで受け止めたのだ。


「ドラァ!!」
そのまま横方向に力をかけ、ハンマーの柄をへし折った。
それはジョースター家の縁から来るものなのか、彼の甥である空条承太郎がかつて刀のスタンドを掴んで折った時に近しい光景だった。


「もう一発と言わず、何度でも決めてやるぜ!!」
今度は一転、仗助が攻勢に出る。
大型スレッジハンマーという、最大の脅威は取っ払った。
このまま一気に攻め続ければそう勝ちは遠くないはず。
仗助はそう思っていたし、キョウヤも同じことを考えていた。


すでにスタンドは拳を固め、マリオに仕上げのラッシュを入れる体勢に入っていた。
まともに当たれば車さえ容易に破壊できるクレイジー・ダイヤモンドの威力は折り紙付きだ。


「ドラ………」

マリオに、雷のお返しを何倍にもして返してやるつもりだった。
もう一瞬時間があれば、事実それは出来ていた。


375 : Crazy Noisy Bizarre Station ◆vV5.jnbCYw :2021/07/04(日) 18:45:18 iH9hPoaI0

仗助の視界に火花が散る。
そして、彼の巨体が木の人形のように簡単に蹴とばされた。
肉体での攻撃をまるで考慮していなかったなんて、自分は何て単純なミスをしていたんだ、と相手よりも自分に苛立つ。
それは仗助のみならず、キョウヤも同じだった。


仗助を蹴った勢いでさらに高く飛び、マリオは追加攻撃を加えようとする。
ジャバラジャンプ。
元々売りであった彼のジャンプ力に、さらに拍車が掛かった一撃だ。
本来はウルトラブーツの力無しではマリオでも出来ない芸当だが、女王の呪いによって強化された肉体、それに敵を蹴った勢いによって、天高く跳び上がったのだ。


「くそっ!!」

仗助とマリオの距離が離れたのをいいことに、キョウヤは再度バズーカを構え、発砲する。
しかし、まぐれは二度は続かない。
砲弾は明後日の方向へ向かい爆ぜる。


すかさず赤の槍はキョウヤ目掛けて突き刺さる。
勢いよくヒットし、そのまま駅の壁目掛けて転がり、倒れた。


「キョウヤ!!」
叫んだところでどうにもならない、が、叫ばざるを得なかった。
すぐにクレイジー・ダイヤモンドで治療しようと思うが、そんな余裕をマリオが与えてくれるはずもない。
そして、仗助が近接、キョウヤが遠距離を担っていた戦闘で、遠距離側に出来た隙を、マリオが狙わない筈がない。


再度高く跳び上がり、キョウヤの顔目掛けて鋭い一撃を見舞う。
ゴキリと嫌な音がして、一人の少年が動かなくなった。


「くそおおおおお!!」
重ちーに次いで、仲間が死んだ。
自分の浅はかな考えのせいで、仲間を死に至らしめた。

「ドララララララァ!!」
怒りのラッシュが炸裂する。
だが、怒りにより隙が出来ていたことを見抜いたマリオは、慌てず騒がず高く跳ぶ。
そして今度は仗助の頭の上を狙うのではなく、彼を大きく飛び越える。

「逃げてんじゃねえ!!殴り合いで勝負しろコラァーーー!!」
拳があと少しという所で、空を渡るマリオにぶつかりそうになる。
彼の速さにも追いつけるのは流石のスタンドということか。



「なっ!?」
しかしその拳は直撃はしなかった。
咄嗟にマリオは鞄から、セシルの氷剣を出し、盾替わりに使ったのだ。

本来剣や盾を使うことは無いマリオだが、緊急回避用の道具としては有用だった。

「つ、冷てえ!!」
仗助の右手に感じたのは、先程バツガルフから受けた冷凍光線と同じ感覚。
パンチを受けたアイスブランドは、ボキリと折れるも、そのお返しとばかりに殴った物の腕を凍らせる。


慌てて腕を引っ込めるが、それはマリオが仗助の後ろに回り込むのには十分すぎるほどの時間のロスだった。
そしてマリオは仗助の背後からすぐに攻撃をすることはなく、用済みになった氷剣を捨て、折れたハンマーの柄の、鈍器が付いている方を掴みに行く。


「ドラララララララララララララ!!」
怒りに燃える仗助の、スタンドラッシュが襲い掛かる。
しかし、マリオの振り回すハンマーは、折れる前よりもスピードが増していた。
風車のごとき回転が、ラッシュの威力を明後日の方向に受け流し、さらに勢いが増す。

「くそ……こいつ、はええ!!」
元々マリオが持っていたハンマーは、柄があまり長くはなかった。
従って、並の人間を優に上回る体格の者向けのハンマーなら、少しくらい柄が折れた方が使いやすかった。


「―――――ッ!!」
スタンドでガードしたため、致命傷こそは免れるも、大きく後退させられる。
距離が出来、近距離型スタンドであるクレイジー・ダイヤモンドの射程から外れた瞬間、マリオは再びハンマーを掲げた。
またも音石がやったような電気攻撃か、と思い身構えるも、それは異なる術だった。


(な……何か来る……やべえ!!)
先程から醸し出されていた邪悪な気配が、数段増した。
立っているだけで総毛立ち、仗助の第六感が逃げろと告げた。



それは、彼が勇者だった時にゴールドスターストーンを媒体に使っていたムキムキボディ、ではない。
カミナリと同じように、女王から承った肉体強化の術だ。


376 : Crazy Noisy Bizarre Station ◆vV5.jnbCYw :2021/07/04(日) 18:45:36 iH9hPoaI0


逃げる間もなく、今度は横からハンマーの一撃が襲い来る。
「ドラァ!!」
何度目か、拳と槌がぶつかり合う。


(くそ……痛てぇ……何でもありかよコイツ……。)

しかし、右腕に受けた衝撃はこれまでとは比べ物にならなかった。
まるで素手でダイヤモンドの鉱脈を殴ったかのような痛みと共に、拳から血が滲み、腕を引っ込めてしまう。
そこへトドメの一撃が振るわれる。


――――はずだった。


「確かに面白い道具だ。お前さんがハマるのも分かるな。2つあったらクローショット仲間を作りたいものだ。」
振るわれるはずのハンマーは、鍵爪ががっちり掴んでいる。
予想外の方向から引っ張られ、肉体が強化されていたマリオもバランスを崩した。
小野寺キョウヤの能力は「不死身」。
従って、頸がおかしな方向に曲がっても、暫くすれば復活する。

「今だ!東方!!」
「お、おうよ!!」
首の骨を折られて、死んだはずのキョウヤが生きて、しかもクローショットまで使っていたことに驚くが、紛れもないチャンス。


「ドラァ!!」
狙いすました拳が、引っ張られているマリオの腹部に一閃。
キョウヤのことを全く考えていなかったマリオは、完全にノーガードだ。
クローショットの拘束からは解かれるが、赤の砲弾として、派手に駅の方まで吹っ飛んでいく。



★★★★★★★★★★★★★★★★


――――僕は、ここで何をしている?

派手な一撃を食らって、目を開けた先に、飛び込んできた光景は、見たことのある光景だった。
地面に叩きつけられた衝撃で、床の一部分がめくれている。
確か、ここにほしのかけらが埋っていて


皆列車に乗るのが楽しみだってチビヨッシーがはしゃいでいて、バレルが注意して、クラウダがそれをみて呆れて。
ビビアンは姉のことを気にかけていて、それをノコタロウが心配して。
クリスチーヌが列車のことを調べようとして、チュチュリーナが列車にあるお宝を探そうとして。

――――誰の記憶?


こんなことをしている場合じゃない。
誰の物か分からないような記憶を、思い出している場合じゃない。
僕は、戦わないといけない。



――――誰のために?

女王様。
違う、ピーチ姫。
僕の大切な人。
ゴロツキタウンで出会えた仲間よりも大切な人。

ピーチ姫。
違う、女王様。
ピーチ姫なら、自分が誰かを殺すことなんて望まない。
女王様は、僕もピーチも生かしてくれた。
そして、永きに渡り仕えるために、新しい力をくれた。


彼女を守るために、戦わなければいけない。
でも、彼女って、誰?



――――今、僕が従っているのは、ピーチ姫?女王様?


377 : Crazy Noisy Bizarre Station ◆vV5.jnbCYw :2021/07/04(日) 18:46:20 iH9hPoaI0

★★★★★★★★★★★★★★★★


マリオが吹っ飛んで数秒。
これまで言葉もしゃべらずただひたすらに殺しに来ていた男が、こうしてうずくまっているのは、紛れもない僥倖。
だが、二人とも薄気味の悪さを感じていた。


「あいつ、どうしたっていうんだ?」
クレイジー・ダイヤモンドによる一撃が原因で苦しんでいるとも思えない。
「敵のこと、心配している場合じゃ無くないっすか?」
「そんなんじゃないが、どうにも細かいことが気になる性分でな。
奴はあのバツガルフと言う男に操られているのかもしれん。」
言われてみれば、バツガルフがああ言ったのも合点がいく話だ。
例えばDIOが肉の芽を虹村慶兆の父に植え付けたように、何か操り人形にしている道具があるのかもしれないと仗助も勘繰る。

「…案外当たってるかもしれないっすね。それとキョウヤ、一つ頼みがあるんすけど。」



そうこうしているうちにマリオは立ち上がり、再びハンマーを向けて襲い掛かってくる。
時間経過で切れるのか、先程の強烈なオーラはもう無かったが、それでも邪悪な気は留まることを知らない。

「とにかく自分の身を安全にしとけよ。いつ雷が来るか分からねえ。」
「言われなくてもそうするつもりだ。」


初手はハンマーか雷のどちらが来るか警戒していたが、ハンマーを振りかざして走ってきたことから、前者で間違いないと判断する。

仗助が再度受け取ったクローショットを、キョウヤはバズーカを放つ。
鍵爪はハンマーで弾き飛ばされ、コントロールの欠如から砲弾は当たらず、マリオの少し前に落ちる。


舞い上がる砂煙は、一見視界を遮るかのように見えたが、ハンマーの一振りで霧消する。

「ドララララララ!!」
ハンマーを振った所で、仗助が勢いよく走り、バズーカの爆心地、丁度マリオがいるあたりの場所の穴をさらに広げる。


「俺のクレイジー・ダイヤモンドは、『治す』ことも出来るんだぜ!!」
そして彼はスタンドでの穴掘りだけが目的では無い。
クレーターのように抉れた地面に、ジグソーパズルのように瓦礫が集まり、元通りになる。

中心にいたマリオがいるのを無視して。


「なるほど、やるじゃないか。」
破壊と再生の合わせ技で、気が付けばマリオは胸の上を残して地面に挟まっていた。
両手で藻掻こうとするも、すぐに抜け出すことは出来ない


378 : Crazy Noisy Bizarre Station ◆vV5.jnbCYw :2021/07/04(日) 18:47:21 iH9hPoaI0

「よし!!今のうちに行くぜ!!後ろに掴まってな!!」
そこから追加攻撃に行くかと思いきや、ここで仗助が見せたのは父譲りの技。
すなわち、逃走だ。

ここで、出したばかりのバイクがようやく出番が来る。

「なるほど、そうするか。」


キョウヤとしてもこれには賛成だった。
手負いの獣は何をしてくるか分からない。
拘束してようとしてまいと、その危険性に違いはない。


「確かあの学校に向かいたいって行ってたっすよね?」
「ああ。あの場所なら休憩できそうな所もある。そこで傷の手当てもするぞ。」
「ところでキョウヤは怪我してね……。」
「問題ない。」

2人が向かった先にあるのは、キョウヤが言っていた学校。
あの場所ならば最悪追ってきても、内部の情報ならばキョウヤの方が詳しいはず。


ひとまずマリオと戦った時に消耗した体力を回復させるために、バイクは学校へと向かう。


【E-8 学校付近 早朝】


【小野寺キョウヤ@無能なナナ】
[状態]:健康
[装備]:モイのバズーカ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス (残弾2/5)
[道具]:基本支給品(切符消費)、替えの砲弾×5 ランダム支給品(×0〜2 確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者が何を考えてるのか。少なくとも乗る気はない。
1.ひとまず学校へ向かう
2.バツガルフ・マリオへの対策の考案。
3.知人の捜索。優先順位は佐々木=鶴見川>犬飼=柊。
4.東方仗助は信用してもよさそうだ。
5.吉良吉影、柊に警戒。
※参戦時期は少なくとも犬飼ミチルの死亡を知った時期より後です。
※不老不死の再生速度が落ちています。少なくともすぐには治りません。
※死亡した場合一度死ぬと暫くは復活できません。
※仗助からダイヤモンドは砕けないの情報を得ました。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。


【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:左腕凍傷、腕にダメージ 軽い火傷
[装備]:クローショット@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(切符消費)、ランダム支給品(×0〜1 確認済) 承太郎が盗んだバイク@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本行動方針:乗るつもりはない。
1.学校へ向かい、傷の手当てをする。その後山岸由花子の別荘へ向かう。
2.バツガルフ・マリオへの対策の考案。
3.仲間を探す。不安と言う意味で由花子か生き返ってる重ちー、一般人の早人を優先したい。
4.吉良吉影を探す。乗ってるかどうか関係なしにぶちのめす。
5.佐々木ユウカ、鶴見川レンタロウに警戒。
6.クローショットがちょっと楽しい。
※参戦時期は少なくとも最終決戦、億泰復活以降です。
※キョウヤから無能なナナの情報を得ました。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。
※マリオはバツガルフに操られている(DIOの肉の芽を植え付けられた虹村家の父の様に)と思い込んでいます



【E-8 ゴロツキ駅付近 早朝】


【マリオ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(大) FP消費(小) 腹部、背中に打撲 拘束中
[装備]:折れた大型スレッジハンマー@ジョジョの奇妙な冒険  ジシーンアタックのバッジ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品×2 ランダム支給品0〜3 
[思考・状況]
基本行動方針:殺す
1:この場所にはいたくない
2:???

※カゲの女王との選択で「しもべになる」を選んだ直後です
※カミナリなど、カゲの女王の技もいくつか使えるかもしれません。


379 : Crazy Noisy Bizarre Station ◆vV5.jnbCYw :2021/07/04(日) 18:47:38 iH9hPoaI0



一方で、場所はE-8の森の中。駅からも学校からも少し離れた所。
「お、おい!!何をしているんだ!!奴等行ってしまうぞ!!」
鶴見川レンタロウの制服ポケットの中から、しわがれた声が響く。


「うるさいなあ。俺は奴等には興味が無いんですよ。」
レンタロウは仗助とキョウヤがマリオと戦っている所を、美夜子の支給品にあった「スパイ衛星」で監視していた。

「そもそも、お前の能力があればそんなことをする必要もないだろうが!!」
「あんたが原因なんですよ。俺としては、幽霊になっている間にあんたが俺の物を奪って逃げられる可能性だってある。」
「……!!」
普段から後ろ暗いことをしているレンタロウは、慎重派な性格だった。
幽体離脱をして、小動物を殺めるときには親分のモグオの説教中や、トイレの個室の中からなど、常にアリバイの利く場所から犯行を重ねていたように。


しかも、戦いが終わるや否や、彼らを追いかけると思いきや、学校を素通りしてさらに南西、すなわちバロン城や山岸由花子の別荘がある方へと向かう。

「お前、奴らを追う気は無いのか?」
「ええ、俺はただ美しいものを汚したいだけなので。あなたの因縁の相手なんて興味が無いんです。」
「〜〜〜〜〜〜!!」


どちらも目的の為なら手段を択ばない性格だが、その目的が大いに異なっているため、合わないのも当然だ。
もしもの話、彼が殺し合いに呼ばれるのがもう少し後なら、その犯行をキョウヤに見抜かれたことで、報復の相手として選んだかもしれない。
だが、彼はまだキョウヤのことなど、1人の同級生程度にしか見ていないので、彼にも興味は持ってなかった。



【鶴見川レンタロウ(@無能なナナ】
[状態]健康
[装備]ダンシングダガー@FINAL FANTASY Ⅳ
[道具]基本支給品×2 オチェアーノの剣@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち、ゾンビキラー@ドラゴンクエストVII、石ころ帽子(エネルギー切れかけ)@ドラえもん、スパイ衛星@ドラえもん のび太の魔界大冒険 サイコ・バスター@新世界より 写真のおやじ@ジョジョの奇妙な冒険 不明支給品0〜1、美夜子の支給品0〜1、 
[思考・状況]
基本行動方針:参加者がキレイな内に"表現"する。
1.南へ向かい、新たな獲物を見つける。吉良吉影は是非とも殺してみたい。
2.急かす写真のおやじに苛立ち
3.サイコ・バスターに興味。ナイフで切り刻むのも良いが、病気で苦しむ姿も悪くないかも
4.あの二人(仗助、キョウヤは割とどうでもいい)
5.写真のおやじは自分の目的のために利用するつもりだが、邪魔になるなら捨てる。

※少なくともアニメ12話で犯行をキョウヤに明かされる前からの参戦です。
※肉体に瞬時に戻ることができますが、その場合所持品はその場に放置されます。
※名簿はまだ確認していません


[支給品紹介]

[承太郎が盗んだバイク@ジョジョの奇妙な冒険]
東方仗助に支給されたバイク。
原作では3部で承太郎とポルナレフがDIOを挟み撃ちにするために使った。
速さはそれなりだが2人乗りぐらいなら十分できる。


[モイのバズーカ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス]
小野寺キョウヤに支給された武器。
トアル村の剣士にしてハイラルのレジスタンスの一人、モイが最終決戦で使っていた武器。
威力はそこそこ強い雑魚的、リザルフォスを3匹まとめて倒せるほど。
使うのに訓練が必要か否かは不明。多分必要

[スパイ衛星@ドラえもん のび太の魔界大冒険]
美夜子に支給されたひみつ道具。
超小型衛星とモニターでセットになっており、飛ばした方向の状況を監視することが出来る。
本ロワでは、半径1マス分の距離までしか調べることが出来ない。

[ジシーンアタックのバッジ@ペーパーマリオRPG]
セシルに支給されたバッジ。
装備することで地面と天井にいる敵全員にダメージを与えられる「ジシーンアタック」が出来る。


380 : Crazy Noisy Bizarre Station ◆vV5.jnbCYw :2021/07/04(日) 18:47:50 iH9hPoaI0
投下終了です


381 : ◆s5tC4j7VZY :2021/07/11(日) 19:36:51 DHQZpcMQ0
再会、対策、火種
とうとうアルスの無差別マジャスティスは不味いよねと指摘されましたね!
康一君と由花子のイチャイチャは微笑ましいですが、アルスのドラクエならではの「ユウベハオタノシミデシタネ」には同意と笑っちゃいました!
最後のナナ勢の推定殺害人数はタイトル通り火種で着火しないことを祈ります。

憤懣焦燥
足で蹴飛ばし疑似避雷針として回避するリンクにサポートするピーチ!
対するバツガルフもバツバリアンを駆使して対抗!
回転斬りで斬りはらってやろうと構えるが、その瞬間炎の波はリンクを避けたかのように二つに分かれた。
それは傍から見ればリンクが炎と言う名の海を割るモーセのよう。
↑読んでいてイメージするともう迫力満点な戦いと分かる描写で感嘆としました!
「お前の相手は俺だ。」
↑リンク……カッコイイ///
そして、後半はピーチとユウカの女のバトル!
そして……ピーチの状態表を読んだときは背筋が凍りました。
正に「な……なんだと……?」
ユウカはこの12時間が執念場ですね。
大作お疲れ様でした!

Seek for my change
予約を見た時は「ローザ逃げてー!」と思いました。
しかし、なるほど、生かすことで混乱を呼び込むところが、ガノンのしたたかさだなーと読んでいて感じました。
しかし、ボトクはクッパでローザはガノンと偶然だが両方とも作品ボスと出会うところにフフっとなりました。

想いは呪い呪われ
「ええ!?ぼくはからくりなんて古臭いものじゃないよ!!22世紀の高度な猫型ロボットだ!!」
↑メルビンに”からくり”と誤解されるドラえもんはある意味ドラえもんのお約束を抑えていてクスリとしました。
チビィが英雄だと知った紗季は、バケネズミに対する認識が実際より早く変わりそうですね!
ビビアンの地雷を踏んでしまったドラえもん……これは避けられなかったとはいえ、いたたまれませんね……

パパは僕のパパじゃない
ミチル……!!正にロワは最初に出会う人によって命運が大きく左右するなと改めて感じました。
ミチルの想いはナナへ託されましたが、ナナの参戦時期からまだナナのミチルへの想いがそこまで大きくないのが……(涙)
辺りを流れる空気は冷たいままだった。
早人の手をシャークが暖かく握った。
↑しんみりとしますが、シャークの人の父としての父性がとても感じられて好きです。

交錯した想い
クリスチーヌ達の考察は読んでいて「おお!!」と感嘆と表裏ロワの今後の楽しみが膨らみました!
「クリスチーヌ……と言ったな。勉学に対する良き姿勢を感じる。そなたはこの戦いが終われば我が軍の参謀になるのはどうだ?」
「ありがたく……遠慮します。」
↑2人のやり取りを脳内でイメージしたら個人的にツボに入り笑っちゃいました。
原作の灯台組のように大所帯となりましたが、これは次の話で大きく急展開しそうなハラハラを感じました!

Crazy Noisy Bizarre Station
バズーカをぶっ放すキョウヤ……好きです(笑)
それとマリオを上手く地面に挟む仗助の機転は流石ですね!
仗助とキョウヤがバイクで移動するとき、脳内に15の夜が流れました。
そしてレンタロウと写真のおやじは一見危険なタッグかと思いましたが、互いの印象が悪く、火薬庫のように感じました。
果たして、親父は息子の吉良と再会できるのか……

クッパ、ボトク、アルス、康一、由香花で予約します。


382 : ◆vV5.jnbCYw :2021/07/13(火) 00:30:00 ZGFJtqmY0
感想ありがとうございます。
しかも久しぶりの自分以外の予約で嬉しいことこの上ありません。

メルビンのドラえもんに対するネタは
「ドラクエの世界ってタヌキいないし狸ネタはコンペでも出てたよな」

「そうだ、からくり兵つながりにしよ!あの世界のからくり兵も青いし」
こんなイメージで考えてました。

では、ゲリラ投下しますね。


383 : カゲが呼び寄せるものは ◆vV5.jnbCYw :2021/07/13(火) 00:31:15 ZGFJtqmY0

走る。
走る、走る、走る。
本当はカゲの一族は人間の様に姿を現さずとも、影に潜りながら場所を転々と移動することが出来る。
でも、それは出来ない。
影に潜っていれば、マリオを見逃してしまうかもしれない。
アタイはマリオを探さなければいけない。
最早迷っている場合ではない。


マリオは絶対に悪くない筈なのに。
他の誰でもない、アタイがそれを証明しないと。
マリオはアタイを助けてくれた。
独りぼっちでどうすればいいのか分からない時に、イチコロバクダンを探してくれた。
自分だって姿と名前を奪われていたのに、アタイに優しくしてくれた。


マリオが人殺しなんてするはずがない。
きっとあの青い生き物の見間違えだ。
それか、あいつが嘘をついたんだ。


「待ってーーーっ!!」
後ろから声が聞こえた。
さっき魔法で焼いたはずの、あの青い生き物の声だ。


その声を聴いた瞬間、アタイの胸の奥に、カゲよりも黒いもやのような何かが渦巻いた。
きっとあいつを放っておけば、またマリオに対して酷いことを言う。
そんな言葉はもう聞きたくない。
聞きたくない
キキタクナイ
聞くことになる前に……殺る。

殺れ!!


指をふり、今度こそあの生き物を焼き尽くそうとした。
真っ赤な火柱が爆ぜる。
しかし、炎は敵を焼くことなく吹き飛ばされた。


青い生き物が持っている杖が光ったと思ったら、竜巻が起こり炎を吹き飛ばした。

「ごめん……でも、話を聞いて欲しいんだ!」
「イヤよ!!」
「待って、ぼくはーーーー。」
怒りに任せ、言葉と炎をぶちまける。
しかし、またも炎は杖から出る竜巻によって吹き飛ばされた。


タダでは済まなかったはずだが、それでも決定打は与えられなかった。


「まだだ!!」
「どこかへ行って!!」
さらに魔法をぶつける。
炎は勢いを増し竜巻を破る。
熱だけではなく、怒りによって増した魔法の炎は、風圧も並ではない。
跳ね返された竜巻の威力も相まって、青い生き物は何メートルか吹き飛ばされ、ゴロゴロとボールの様に転がっていく。

心には真っ黒なものがまだ渦巻いている。
これを払拭してくれるのは、きっとマリオしかいない。
どんな時でも優しかったマリオがしてくれるはず。
青い生き物に背を向け、構っていられないとばかりにまた走ろうとする。


384 : カゲが呼び寄せるものは ◆vV5.jnbCYw :2021/07/13(火) 00:31:50 ZGFJtqmY0

「まだだ!!」
「どこかへ行って!!」
さらに魔法をぶつける。
炎は勢いを増し竜巻を破る。
熱だけではなく、怒りによって増した魔法の炎は、風圧も並ではない。
跳ね返された竜巻の威力も相まって、青い生き物は何メートルか吹き飛ばされ、ゴロゴロとボールの様に転がっていく。

心には真っ黒なものがまだ渦巻いている。
これを払拭してくれるのは、きっとマリオしかいない。
青い生き物に背を向け、構っていられないとばかりにまた走ろうとする。



「もうやめてくれ!!きみはこんなことしたいんじゃないだろ!?」
身体のあちこちに泥を付けながらも、どうにか立ち上がる。
しかもそのまま青い生き物はアタイに向かってきた。


この生き物は、頑丈だからか、はたまたワンワンのように炎の耐性があるのか分からなかったが、別の方法を使うしかない。
あの技だ。
アタイの帽子をずらし、ゆっくりと相手を見つめる。


そこで、投げキッスを送った。
「な………!?」
相手の瞳が焦点を失い、短い脚は千鳥足になる。
成功した。


メロメロキッス。
得意とする炎が効かない相手に、アタイが使える、魔性の投げキッスだ。
最も混乱している時間はさほど長くはないが、今のうちに逃げてしまえばいい。


しかし、相手はあろうことか、地面に頭を叩きつけた。
一度ならず、何度も何度も。
偶々地面に転がっていた石が砕ける。
混乱によるものでは無い。
逆に、混乱状態から脱するために、自分の頭に衝撃を無理矢理与えた。

「アナタ、どうしてそこまで……。」
「ぼくには、のび太君っていう、大切な友達がいるんだ。
ドジでぐずで怠け者だ。でも、誰よりも優しいし、他の誰にも持ってない凄い所がたくさんあるんだ!!」

トモダチ。
アタイと同じ。
誰かが誰かを想う心。
そこに大きさは存在しない。


「だから、こんな所で壊れるわけにはいかないんだ!!」

アタイは思い違いをしていたようだ。
この生き物は、アタイの大切な人を悪く言う、嫌なヤツだと思った。
でも、アタイと同じで、大切な人がいる。


「あ、アタイは……アナタを……」
「………。」
「ころしたく………ない………。」

もう、炎は出せなかった。
誰かの大切な人の想いを踏みにじる。
そんなことをしてしまえば、本当にマリオに顔向けできなくなるから。

「気にしなくていいよ。さ、メルビンさんの所に戻って、一緒に謝ろう。
それからさ、君の大切な人を探しに行こう。
ぼくも勘違いしていたかもしれない。見間違えか、誰か悪い奴が変身していたんだろう。」


385 : カゲが呼び寄せるものは ◆vV5.jnbCYw :2021/07/13(火) 00:32:47 ZGFJtqmY0

「アタイ……ごめんなさい……アタイは……。」
泣き崩れて、その場に倒れこむしか出来なかった。
感情に身を任せて、正常な判断を失って、そのせいで髭のお爺さんも、目の前の生き物も傷つけてしまった。


でも、もう大丈夫。
傷つけてもなお、マリオを探すのに協力してくれると言ってくれる人がいる。
マリオだって、クリスチーヌやノコタロウだって、最初は敵だった。
けれど、旅を通じて、仲間としての絆が結ばれた。
ちょっとした間違いで喧嘩しても、また仲直りすればいい。


どうしてこんな大事なことを、忘れていたのだろう。


丁度その時、この世界で初めての太陽が顔を出した、
その光は、髪の毛の無い彼の頭を照らした。


カゲは濃くなっても、それだけ照らしてくれる光がある。
それは絶対に消えることは無い。






はずだった。




急に背筋が寒くなる。
辺りに、雹が混じった風が吹く。
空を見上げれば、山ほどの氷の塊。

こんな攻撃を受ければ、無事では済まない。


「「危ない!!」」
同時に二人が叫んだ。
でも、まだ間に合う。
カゲの力で地面に潜って、やり過ごせればーーーーー



あろうことか、青い腕はアタイを突き飛ばした。
拒絶ではなく、防衛のためなのだろう。
だが、そのせいでカゲに逃げられたのはアタイだけになってしまった。


氷が雨あられと、名前も聞いていない、青い生き物に降り注ぐ。
何か声を上げていたが、すぐにかき消された。


すぐに黒い仮面の男が現れた。
男は禍々しい剣を一振り、そうしていともあっさり、さっきまで生きていた者の命が、砕かれる。

アタイはカゲの底で、すぐ近くにいた男の悍ましさに震え、何も出来なかった。
誰かの友達の物語は、これにて終わりを告げた。
だが、この物語はまだ終わっていない。


カゲは闇を呼び寄せ、報われることもなく物語は続く。
しかも、その闇はまだ終わることを知らない。


【ドラえもん@ドラえもん のび太の魔界大冒険 死亡】
【残り 40名】


【E-6北/一日目 早朝】

【ビビアン@ペーパーマリオRPG】
[状態]:健康 疲労(大) 情緒不安定(大) 仮面の男(ゴルベーザ)への恐怖
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針 マリオを探す もし彼が死んだら?
1.……。
2. 探す途中に、危険そうな存在がいれば殺す
3.マリオに会って、本当のことを知りたい

※本編クリア後の参戦です
※ザックには守の呪力で描かれた自分とマリオの絵があります。


【ゴルベーザ@FINAL FANTASY IV】
[状態]:健康、呪い MP消費(中)
[装備]:皆殺しの剣@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、参加者レーダー青
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を全滅させ、セシルを生き返らせる
1.大魔王の城を目指し、参加者を殺して回る。
2.キングブルブリンには手駒として働いてもらう。

※参戦時期はクリア後です
※皆殺しの剣の呪いにかけられており、正常な思考ではありません。防御力こそ下がっていますが、魔法などは普通に使えます


386 : カゲが呼び寄せるものは ◆vV5.jnbCYw :2021/07/13(火) 00:33:00 ZGFJtqmY0
投下終了です


387 : 名無しさん :2021/07/13(火) 18:24:24 /QDmzOMM0
乙です
ドラえもんの全身全霊胸を打ちました
のび太の相棒らしく優しさと勇気にも溢れてました
ビビアンより一歩判断が早かったのはマリオの凶行を見たからなのかな
なんとかビビアンは恐怖から覚め一歩踏み出してほしいと思える話でした


388 : ◆s5tC4j7VZY :2021/07/13(火) 18:58:28 ouEybU/Q0
投下お疲れ様です!

カゲが呼び寄せるものは
ド……ドラえもーーーーん!!
ビビアンから幾度も攻撃を加えられても、何度も駆け寄るドラえもんの姿に敬礼します。
「気にしなくていいよ。さ、メルビンさんの所に戻って、一緒に謝ろう。
それからさ、君の大切な人を探しに行こう。
ぼくも勘違いしていたかもしれない。見間違えか、誰か悪い奴が変身していたんだろう。」
↑ドラえもんの優しさがにじみ出ていてとても好きです。
ビビアン……果たして報われるのか……今後が気になりました。

投下します。


389 : 最高の恋人 ◆s5tC4j7VZY :2021/07/13(火) 18:59:03 ouEybU/Q0
恋人ーーーーー恋しく思う相手。普通、相思相愛の間柄にいう。
goo国語辞典より引用。

―――ドカドカドカ。
―――トテトテトテ。
「……」
「……」

―――ドカドカドカ。
―――トテトテトテ。
「……」
「……」

―――ドカドカドカ。
―――トテトテトテ。
「……ローザ!」
「!?な、なんですか……?」
突然、声をかけられたローザに化けているボトクは体をビクリと震わせる。

「さっきから同じ景色ばかりで一体、いつになったら駅につくのだ!?」
パンを食って腹ごしらえを終えた後、クッパとボトクはE2にある杜王駅へ向かって歩いていたのだが、全然、たどり着かないことに癇癪を起したのだ。

「そ、そういわれましても……ほら、もう少しで着きますので我慢してください……」
(はぁ……まったく面倒くさい亀だ……)
ボトクはもう、何度目かになるクッパの癇癪に疲れた様子だ。

「うむむ……もういい!はぁ……やはり、ワガハイが求めるのはピーチ姫だ!早くワガハイが守ってやらねば!」
ローザも可愛いが彼が求める姫ではない。
クッパは恋慕する姫の笑顔を想像すると再び歩きだす―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

ようやく杜王駅が見えてきて―――

「む……アイツはダレだ!?」
駅の校舎前に佇む人影に気付くクッパは大声で指摘する。
「そんなに大声を上げないでください……え〜と、どれど……」
げんなりした表像でクッパに注意すると、ボトクは目の上に手を置いて人影を眺めると―――

「……!!!!!??????」
(ア……ア……アルス——————!!!!!?????)
目が飛び出るほどの驚愕した表情は美人であるローザの姿を痛ましく感じる程だ。

この島にアルスがいるとこは知ってはいた。
そして当然、アルス達一行に復讐をしようと行動を起こしていたが、やはりいざ前にするとボトクは殺された思い出が想起され、体をガタガタと震わせる……

「……緑か。それにヒョロそうだ。……まぁ、いい。クッパ軍団の雑用係として雇ってやるか」
「!!!!!!」
ようやく人影の外見が見える距離まで歩き、クッパは期待して目を凝らすもののアルスの外見にガッカリする。しかし、ため息をつきながらも軍団の一員にしようとするみたいだ。
それを聞いたボトクの汗は止まらない。

(なんだと!?ま……まずい!奴は”マジャスティス”が使える。ここで使われてしまうとおれ様の正体がバレてしまう!)
そう、アルスのマジャスティスはボトクの変化を解く呪文。
そして、アルスはボトクに注意するために無差別マジャスティスを行っていた。

「お……お待ちくださいッ!」
ボトクは歩きだすクッパを制止する。

「む!?なんだ!」
急に呼び止められ、クッパは不満そうな顔を隠さない。

「あ……あの緑の男、アルスは悪党なんです!」
「な、なんだと!?」
ボトクの言葉にクッパの眉間に皺が寄る。

「本当です。いかにも村人Aのような風貌をしていますが、私の同僚……仲間の命を大勢奪っただけであきたらず落としたG(ゴールド)までも拾い集め去っていく悪党達のリーダーなのです」
ボトクはそう言いながら涙をながし、よよよと体を崩す。

「うむむ……緑の癖に許せん!ワガハイが腐った性根を叩き直してくれよう!」
ボトクの言葉をすっかり信じ切ったクッパはアルスに向かって―――

「くらえ!」
口から火球を吐きだした。

☆彡 ☆彡 ☆彡


390 : 最高の恋人 ◆s5tC4j7VZY :2021/07/13(火) 18:59:28 ouEybU/Q0
「……」
康一はあれからナナのスマホのデータに目を通すと岩のように固まっていた。

(犬飼ミチル……推定殺害人数十五万人!?もし、この推定殺害人数が本当なら吉良よりも凶悪な殺人者がここには何人もいるってことになるじゃないか!?)
康一はかつて自分の住む町に潜む殺人鬼吉良吉影を仲間と共に倒した。
しかし、それはコップの中の嵐でそれ以上の悪がこの島に数人いることに冷や汗をかく。

「……」
由花子は康一の様子を黙って見つめている。

(それに幽体離脱に不死者!?スタンド並の能力じゃないか……)
推定殺害人数にも驚くが、もう一つ能力者の詳細なデータにも目が離せない。

「……康一君」
由花子は背後から康一を抱きしめる。

「ゆ、由花子さん?」
由花子の豊満な胸が背中に当たり、康一は赤面してしまう。

「大丈夫よ。私も自分の身は自分で守れるし、康一君に危害を加えるような奴は皆、あたしが全員薙ぎ払ってやるわ」
由花子の言葉と同時に由花子の綺麗な黒髪、ラブ・デラックスはうねうねと同調を見せる。

「いや、違うよ由花子さん」

「……え?」
康一の言葉に由花子はキョトンとする。

「由花子さんを守るのは僕だよ。だって恋人を守るのは、か、彼氏の役目だからね」
康一は右手をグーに握ると胸をドンと叩きながら答えた。

「康一君……」
「由花子さん……」
康一と由花子は互いに見つめ合う。

愛する者同士の唇が―――

―――そのとき。

ズド———ン!

「な、何だ!?」
駅構内に大きな破壊音が鳴り響いた―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ん……あれは、女の人とモンスター?」
康一と由花子に気を使い、駅の外で他の参加者がやってこないか周囲を見渡していたアルスは2人の人影に気づく。

「わぁ……」
美しいブロンドの髪に細い足。
ローザのプロポーションにアルスの顔は赤面だ。

(おそらく、何処かの国の姫様かな?)
体から漂わせる高貴なオーラは王族の者だと感じさせる。

(それにしても、本当に綺麗な人だなぁ……)
ローザの気品はアルスが知る、キーファの妹のリーサやグレーテ姫とはまた違う。
アルスは、ぽ〜っと見惚れて、康一達に声をかけに行くのを忘れてしまっている。

「とと……!いけないいけない。こんな姿をマリベルに見られたら、どやされちゃうな」
【はぁ……何、見惚れているのよ。ばっかじゃないの!】とぷりぷりと怒るマリベルの姿が浮かぶと、アルスは頭をブンブンと振り、煩悩を振り払う。

「……マリベル」
マリベル。
それは、自分とキーファの幼馴染。
ちょっぴり気が強い女の子だが、アルスは知っている。
彼女は本当は誰よりも仲間の事を常に気遣い、物事を一歩遠くから見て、指摘できる心優しい女の子だということを。

(君は一体今、何処に……ん?)
同じ島にいるマリベルの安否を祈っていると、女の子と同行しているモンスターがいきなり自分に向かってメラゾーマを放ってきたのだ!

☆彡 ☆彡


391 : 最高の恋人 ◆s5tC4j7VZY :2021/07/13(火) 19:00:28 ouEybU/Q0
「!?……バギマ!」
アルスは目の前まで迫ってきた火球を竜巻で舞い上げて回避する。

「むむ!ワガハイの火球を避けるとは、生意気なヤツだ!」
クッパはアルスが自分の攻撃を避けたことに不満が高まる。

(その姿、アイアンタートル?いや、トランプにはたしかクッパと書かれていたっけ……どちらにせよメラゾーマはボトクは使えない筈。ということは、殺し合いに乗った参加者か!)
アルスはモンスターの攻撃からボトクが化けているという選択肢を即座に除外すると闘いの構えをする。

「フン!キサマの名前はアルスで間違いないか?」
クッパはアルスに名を尋ねる。

「ああ。僕の名前はアルスだけど、貴方はクッパだね?」
アルスもクッパの名前を訊ねる。
「いかにも、ワガハイは大魔王クッパ様だ!悪党であるキサマの性根を叩き直してやる!」
クッパはそう言うや否やチェーンハンマーをブンブンと回転を加えるとアルス目掛けて投げつける!

「わっ!?」
間一髪アルスは避けることができたが、代わりに杜王駅の外壁に大きな穴が開く。

「コラ!避けたら意味がないだろ!」
思う通りにならず、クッパの不満はイライラへと変容する。

「……スカラ」
(直撃は不味い……それに僕の腕力じゃあの肉体にあまり攻撃は効かなそうだ)
アルスはそんなクッパの抗議に耳を貸さずに守備力を上げる呪文『スカラ』を自身に掛ける。

―――ダダダダ。

「アルス君!今の音は一体!?」
丁度、そのとき、チェーンハンマーの激突音を聞いた康一と由花子がアルスの下へ駈けつけた。

「コーイチ君!ユカコさん!気をつけて!殺し合いにのっている!」

「むむ!?キサマらは悪党の仲間か!まとめてぎったんぎったんにしてやる!」
クッパは康一に向かって、火球を吐く。

「わわ!?」
「バギマ!」
再び、竜巻がクッパの火球を空高く舞い上げる。

「またしても!」
クッパはドスンドスンと床を踏み鳴らす。

―――プッツン。

康一を傷つけようとしたクッパに由花子はプッツンした。

「康一君になに手をだしてやがるのよ!このドンガメ!!!」
ラブ・デラックスがクッパの体に纏わりつくと巨体の体を持ち上げて駅構内へ投げつける。

「いたた……。なんだ!このもじゃもじゃしたのは!?うざったいわ!」
クッパは痛みに怒りつつ、体に纏わりつく由花子の髪を爪で切裂く。

―――プッツン。

「こいつ!よくも由花子さんの髪にッ!!」
康一は大切な恋人の髪を切り裂いたことに、プッツンした。

「エコーズACT3!」
康一の呼びかけに彼のスタンドは姿を現し―――

「命令シテクダサイ」
康一に命令するよう促す。

「アイツをボッコボッコに殴って動きを封じろ!」


392 : 最高の恋人 ◆s5tC4j7VZY :2021/07/13(火) 19:01:28 ouEybU/Q0
「ワカリマシタ」
康一の命令に従い―――

「必殺『エコーズ3FREEZE!!』」
クッパへ猛ラッシュを仕掛ける。

ドババン―――
「グムムム……」
エコーズACT3の猛ラッシュを両腕でガードするクッパ。

「……ドウヤラ、打撃ハアマリ効果ガ見ラレマセンミタイデスネ……デスガ」

―――ズン

「な、何だ!?」
視界が少し下がったクッパは目を見開く。

「ゴ命令ドーリデス。スデ二『完了』シテイマス」
エコーズは吉良の”シアーハートアタック”を重力で地面に埋めたときと同じようにクッパの両足をコンクリートの床へ埋め込む。

「むむ!?グウウウウウ!!体が重いぞ!!」
クッパは両足を上げようと力を込めるが、エコーズACT3による重力がそれを許さない。

「由香子さん!危ないから、下がっていて!」
「……わかったわ」
本当なら、このドグサレ亀を絞め殺してやりたい気分だが、愛する人の言葉に由花子は従い、後方へ下がる。

「―――よし!」
チャンスの到来と見たアルスはクッパに向かい―――

「バギクロス!」
先ほどのバギマとは比較にならない大竜巻がクッパに襲い掛かると暴風がクッパの肉体を切り裂く。
しかし、残念ながらクッパにはあまり効果が見られないようだ。

「ッ!!」
(僕のバギクロスでこれじゃあ、攻撃呪文よりも剣技しかないな。でも……僕の支給品には剣がない!)
アルスはクッパに有効なのは攻撃呪文よりも剣技だと理解し、攻撃方針を変えようとするが、支給品に肝心な”剣”がないことに焦る。

「コーイチ君!何か剣のような武器を持っていないかい!?」
アルスはエコーズの全力行使で集中している康一に武器を持っていないか尋ねた。

「……え?剣?……あ!?あるけど、どうやらこの島にはスタンドに制限がかかっているみたいで、エコーズを一度解除しなきゃ渡せないよ!」
康一はアルスの尋ねに思い当たるのがあるが、全力でエコーズACT3を行使しているため、一度解除しないといけないことを伝える。

「大丈夫!……僕がなんとかする!」
アルスは康一に自信満々に答える。

「……わかった。エコーズACT3!」
「了解シマシタ」
康一の指示に従い、エコーズは重力を解除した。

―――ズボ!
「おお!体が軽くなったぞ♪」
重力が解除されたため、床に埋め込まれた両足を抜け出すとクッパは喜ぶ。

「え〜と……あった!」
解除した隙に康一はザックからアルスが求めている剣を見つけ―――

「アルス君!受け取って!!」
康一は支給品の西洋の剣……幸運と勇気の剣をアルスに投げ渡すッ!

―――パシッ!
「ありがとう!コーイチ君」
(よし、これで……)
アルスは康一から投げ渡された剣をキャッチする。

「ン?……オオ!忘れていた!よくもワガハイの体に妙な細工をしたな!」
クッパは康一に向かって爪を振り上げて襲い掛かる!

「わぁ!?」
「康一君!ドンガメ……殺してやる!」
駅後方の柱で様子を窺っていた由花子だが、恋人の危険をただ見過ごすような軽薄な女ではない。

再び、ラブ・デラックスでクッパの体を拘束しようとするが―――

「大丈夫!」
(生半可な剣技じゃ駄目だ!あの必殺剣で行く!!!)
アルスは由花子の行動を制止させると、康一から手渡された幸運と勇気の剣を頭上に掲げ―――


393 : 最高の恋人 ◆s5tC4j7VZY :2021/07/13(火) 19:01:39 ouEybU/Q0
「―――天空よ、開花せよ」

「ム……!?」
(ワガハイの体が震えているだと!?)
クッパはアルスの構えに突撃を中断する。
クッパの生物としての本能が、明確な”死”を連想させたからだ。

(バカなッ!?こんな剣ごときでワガハイの強靭な肉体を打ち破るはずがないわ!)
宿敵マリオとの幾度となる死闘でも感じられなかった”死”を感じつつもクッパは強く否定する。

「来たれ、義勇の雷」

言葉と共に雷が駅屋上のタイルを突き破り、アルスが掲げた剣に舞い落ちる。
剣に轟雷が纏るのを確認終えるとアルスはクッパの体目掛けて―――

「ギガスラッシュ!」

回転しながら横一線の一撃をくらわす―――

「ガッッッ……ハァァァァァアアアアア!!!!!?????」
紫電一閃の斬撃はクッパの腹を深く切裂く。
おびただしい血の量がアルスの顔、服全体を血まみれに彩る。


394 : 最高の恋人 ◆s5tC4j7VZY :2021/07/13(火) 19:01:59 ouEybU/Q0
「グ……ウウウウウ!!!!!」
―――グム

クッパは歯を食いしばり腹に力を入れ、筋肉を凝縮させて血を無理やり止めた。

「そんなッ!?」
(くそ!ここまで制限されているなんて!!)
アルスは驚愕する。
たとえ、制限がされていたとしてもオルゴ・デミーラに止めをさした必殺剣で仕留められなかったことに。

「くッ!」
アルスは急ぎ、呪文を唱えようとするが―――

「ガアアアアア!!!!!」
「うわあああああ!!!!!!??????」
怒りのオーラを纏い暴走したクッパの強烈なタックルにアルスは吹き飛ばされる。

ちょうど、その先には―――

「杜王駅〜。杜王駅〜。ご乗車なさる方は切符を使用してお乗りください」
駅のアナウンスと同時に列車が杜王駅に到着したのだ。

「アルス君!?」
康一は必死に手を伸ばす。

しかし、手は届かず―――

―――ガン!

「うッ!?」
アルスの体は、列車の車内に入り、窓に激突する。
スカラの効果があり致命傷にはならなかったが、意識が落ちる。

ジリリリリ―――

「杜王駅発車いたしま〜す。駆け込み乗車はご遠慮下さい」

プシュウウ―――

扉が閉まり―――
アルスを乗せた列車は無情にも発車して戦場を後にした―――

【E-2/列車内/一日目 早朝】

【アルス@ドラゴンクエスト7】
[状態]HP2/5、MP1/4 疲労(大) 気絶
[装備] 幸運と勇気の剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]基本支給品、水中バクダン×10@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス ランダム支給品0〜2(確認済み、武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラやザントを倒す
1.杜王駅の外で人が来るのを待つ
2.ボトクの変身に警戒しながら仲間を探す
※参戦時期は本編終了後
※広瀬康一からヌ・ミキタカゾ・ンシ以外のジョジョ勢について聞きました。
※広瀬康一からスタンドについて聞き、ヌ・ミキタカゾ・ンシと重ちー以外のスタンド能力も把握しました
※少なくとも武闘家・僧侶・戦士・バトルマスター・パラディン・ゴッドハンドをマスターしています
※一部の強力な呪文・剣技等に制限(威力の低下)がかかっています。

【幸運と勇気の剣@ジョジョの奇妙な冒険】
黒騎士ブラフォードの愛剣。
両刃の刀身で柄には「LUCK」が刻まれていたが後に血で書かれたPの文字が追加される。
それは2人の世代を超えた友情の証。

☆彡 ☆彡 ☆彡


395 : 最高の恋人 ◆s5tC4j7VZY :2021/07/13(火) 19:02:22 ouEybU/Q0
「そ……そんなッ!?」
列車が走り去るのを唖然とした表情で康一は見送る……

「康一君!」

「はっ!?」
三度クッパの業火の火球が康一に―――

「康一君に手出しはさせないッ!」

―――由香花の恋人を守るという執念がこもった全力のラブ・デラックスで火球を掴むとクッパへ投げ返す。

「ウガーーーーッ!!」
投げ返された火球にクッパはもう一度火球をぶつけると爆風が駅構内を包む。

煙が晴れると―――
クッパは倒れていた―――

―――しかし。

「あああああ!!!!!」
康一を守ることはできたが、火は勢いよく髪全体を燃やすとともに由花子の顔までも焼き尽くした。

「由香花さん!!!!!」
康一はわき目もふらず由花子の下へ駆けだす。

ジュウウウ―――
ザックの中の2人の飲料水を全て振りかけるのと床を転げまわり、なんとか火を鎮火することはできたが―――

「こ……康一くん……見な……いで……こんな……焼け爛れた……あたしの……か……お……」
由花子が負った火傷は辻彩のときの出来事の比ではない。
醜い顔を愛する人に見られたくない。
由花子は康一に見られないように必死に顔を伏せる。

「……」
康一は由花子の懇願を黙って聞くと、由花子のザックからブロンズナイフを取り出し―――

―――ピュッ!

「えっ!?」
由花子は康一の行動に驚愕する。
なんと、康一は己の両瞼の上を一閃に斬りつけた。

―――ツウ。
血が康一の両目を塞ぐ。

「ほら、これなら見られない。だから大丈夫だね?」
康一は由花子の顔を自身へ近づかせると―――

「……好きだよ」
康一は由香花の唇にキスをした―――

(ああ……やっぱりあたしの見る目は間違ってなかった。康一君……勇気と信念を持って、笑うとカワイイあたしの最高の恋人……)
由花子は涙を流しながら―――

「康一くん……す……き……」

康一をひたすら見つめ続けた一途の瞳がゆっくりと閉じられ―――

―――愛に生きた一人の女性の命が儚く散った。


396 : 最高の恋人 ◆s5tC4j7VZY :2021/07/13(火) 19:02:42 ouEybU/Q0
「……」
康一は無言で由香花をゆっくりと下すと―――

―――ドサッ。

由花子のお腹の上に頭から倒れる。

そう―――
実は、アルスの乗せた列車が発車した後、杜王駅構内はボトクによる猛毒の霧で覆われていたのだ。

恋人のピンチに流石の康一も気付くのが遅れてしまった……

(杖助君……ごめん。僕はここまでみたい……だから、後は託すよ……)
康一は友に自身の持つ黄金の精神を託し―――

「……続きは、あの世でだね。……由花子さん」
康一の意識がゆっくりと堕ちた。

【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 死亡】
【山岸由花子@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 死亡】
[残り 38名]

☆彡 ☆彡 ☆彡

―――そして。

「ガアアアアア!!!!!」
クッパは死んではいなかった。
スクィーラに支給された毒針セットよりも遥かに大きい致死力を誇る猛毒の霧だが、体内の中和力に加え、戦闘で破壊された駅構内の壁穴の近くにいたため、クッパ周辺の猛毒の霧は風により露散されたのだ。

アルスの”ギガスラッシュ”を耐えた強靭の体に宿る生命力は伊達じゃない―――

その後、クッパは2人の死体には目もくれず、駅構内をさらに滅茶苦茶に破壊すると駅前に出て―――

「ウガーーーーッ!!!!!」
怒りで暴走している大魔王は吼える。

目にする全てを破壊尽くすために―――

【E-2/杜王駅から離れた場所/一日目 早朝】

【クッパ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(大) 腹に刺し傷、深い裂傷 怒り(大) 暴走
[装備]:チェーンハンマー @ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(名簿焼失)、ランダム支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:主催をボッコボコにする
1.ガアアアアア!!!!!!
2.クッパ軍団を結成する
3.魔法の絨毯に興味あり
4.あのネズミ(スクィーラ)は、今度会ったら殴った後、クッパ軍団に引き込む。
※ステージ7クリア後、ピカリー神殿を訪れてからの参戦です
※怒りで我を忘れて暴走しています。

☆彡 ☆彡 ☆彡


397 : 最高の恋人 ◆s5tC4j7VZY :2021/07/13(火) 19:02:59 ouEybU/Q0
一方―――

「あはははははは♪」
ボトクはクッパが去ったのを見届けると笑いながらスキップする。

「忌々しいアルスは電車でGO!我儘亀は暴走でGO!2人の人間あの世でGO!」
計画が思うように行ったのが嬉しくてたまらない様子だ。

「流石はオルゴ・デミーラさまの配下の中で一番の智将であるおれ様だ!」
クルクルとミュージカル風に体を舞いながら自画自賛。

「それに……この推定殺害人数に能力者の詳細……ふっふっふ!これは、使えそうだ」
康一から回収したナナのスマホのデータに目を通したボトクは邪悪な笑みを浮かべる。

「見ていて下さい!オルゴ・デミーラ様!貴方様の望む結末へデク人形共を狂わせ導いてみせましょう!!!」

忠臣は主君に仕える―――

【E-2/杜王駅前/一日目 早朝】

【ボトク@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康 ローザの姿
[装備]:柊ナナのスマホ@無能なナナ ブロンズナイフ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品 ランダム支給品4(康一・由花子の支給品込み)
[思考・状況]
基本行動方針:ローザの姿で参加者に近づき、参加者を翻弄する。自分を倒したアルス、ガボ、メルビン、アイラ優先
1.さて、参加者共を探すか
2.最終的には優勝
3.クッパから出来る限り離れる
4.ピーチとやらの女……使えるかもしれんな

※参戦時期は本編死亡後です
※原作で神父と入れ替わった魔法の発動条件・内容は、以下の通りです。
•相手に触れれば、魔法は発動する。
•相手を自分の姿に変えている間は、自分はそれ以外の相手に変身することも、別の相手を自分の姿に変えることも出来ない。
•姿が入れ替わっても、ボトク自身は自分の姿に戻ることが出来る。
•どの魔法・能力・道具で治るかは不明。少なくともローザ自身のエスナでは戻らない。
•ボトクか魔法をかけた相手が死ねば、互いに元の姿に戻る。

【柊ナナのスマホ@無能なナナ】
名前の通り柊ナナのスマホ。
電話機能は使えるが現状ではどこにもつながらない。
委員会からの通達や能力者の情報などが載っている。
能力者情報についてはあくまで推定の殺害人数だったり、能力の内容についての情報が乏しかったりと、精度はかなり怪しい。
というか、委員会はどんな能力を持ってるかもはっきり分からないのに、どうやって推定殺害人数とか割り出したんだろうな。

【ブロンズナイフ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
文字通り青銅で作られた、軽くて丈夫なナイフ。
攻撃力は9で、かっこよさは8。非売品で、売却価格は75G。


398 : 最高の恋人 ◆s5tC4j7VZY :2021/07/13(火) 19:03:15 ouEybU/Q0
投下終了します。


399 : ◆vV5.jnbCYw :2021/07/13(火) 19:51:52 ZGFJtqmY0
投下乙です!!
クッパはこのロワではビビアンやマリオに比べても安全だ。
そんな風に思っていた時期が私にもありましたよ。

しかし電車を使って分散させるやり方、実に見事。
こういうギミックの使い方をした展開を待っていたのかもしれません。


400 : 最高の恋人 ◆s5tC4j7VZY :2021/07/14(水) 07:08:17 9UnIXF9s0
感想ありがとうございます!

最高の恋人
クッパはボトクと同行していたので(+アルスが近くにいた)……今回、こういう立ち回りにしちゃいました。(クッパごめん……)
電車というギミックは戦闘に絡めて使いたいな〜と思っていたので、感想でそう書いていただき嬉しいです。
それと最初の案では、康一君が斃れ、由花子優勝蘇りマーダーか由花子さんが斃れ、康一君復讐鬼ルートも考えたのですが、ここで、同時に斃れる結末の方が愛し合う2人としてはどちらかが生き残るよりも幸せなのではと思い、こうなりました。


401 : ◆vV5.jnbCYw :2021/07/20(火) 17:02:50 wDsTN7.k0
のび太、覚、ダルボス予約します。


402 : ◆vV5.jnbCYw :2021/07/21(水) 19:06:46 pD3xhCn.0
投下します


403 : 「もしも」 ◆vV5.jnbCYw :2021/07/21(水) 19:07:14 pD3xhCn.0
敵の襲撃から逃れた3人は、隣のエリアに移動していた。
闘技場から離れて、ルビカンテが追ってこないと分かると市街地を歩いてしばらく進むと、風景が変わってきた。


とりあえず3人の目的は、休憩できそうな場所を探すことだった。
写真の男は恐らく遠くに行ってしまったし、探そうにもまた別の参加者に襲われる可能性も鑑みて、休憩を優先した方がいいと全員判断していた。


建物が林立する鉄の森を抜け、地面の色が人工的な灰から、天然の緑や茶に変わった辺りで、ぽつんとたたずむ1つの駅が見えた。
「あそこで休憩しない?」

その場所はのび太にとっては非常にありふれた場所であるのに対し、後の二人にとっては初めて見る施設であった。
彼が知っている駅という施設は、待合室などが備わっており、休憩するには適した場所ではないかと考えていたが、二人はそうではなかった。

「のび太はあの建物が何なのか知ってるのか?」
「オレも気になるぜ。どうにも入り口が狭っ苦しそうで落ち着けそうにないんだがな。」
「ええええ!?二人とも、駅って知らないの!?」

彼と同年代、ましてやそれより年上ならば知らない方がおかしいぐらいだ。
ただし、それは彼の世界に限ること。

「知らねえものは知らねえな。もしかするとハイラルの外にならあるのかもしれねえが。」
「いや……ちょっと待てよ……。」

駅の入り口になっている階段をのぼりながら、二人はそれぞれの反応を見せる。
あくまで知らないと言い切るダルボスに対して、覚はどこか思い当たるような表情を浮かべていた。


「この構造、東京で見たことがあるな。」

覚自身はかつてサイコ・バスターを求めて、廃墟と化した東京の地下を探索したことがある。
その際に、姿こそは全く違うが、構造が似ているような場所があった。


「やっぱり知ってたんだ……ところで、この字、何て言うの?カミサケ?カミキ?」
構内にある、駅の名前らしきものが書かれている看板を指さし、のび太が尋ねる。
今度は覚の方が疑問に満ちた表情を浮かべていた。


「……なんで、この名前があるんだ?」
「え?この駅の名前、読めるの!?」
「読めるも何も、この駅は俺の町の名前だ。神栖66町にはこんな駅は無かった。」
「……どういうこと?」

のび太までもわけがわからないという表情で聞いている。

「似たような話なら、こっちにもあるぜ。」
しばらく黙っていたダルボスが口を開いた。
指をさしているのは、駅の路線図だ。図の4隅に駅名前が書いており、北東の神栖駅のみ赤字で書かれており、現在地であることを示している。
だが、ダルボスの指先にあるのは北西の駅だ。


「こっちにハイラル駅ってあるだろ?ハイラルってのは、オレの生まれ育った国だ。でも駅なんてなかった。」
「へえ、あんたはハイラルって国から来たのか。てっきりバケネズミの変種(ミュータント)かと思ったぞ。」
「誰がネズミだ!」
「ダルボスさんは、どっちかというとネズミと言うよりゴリラかなあ。」
「オレはネズミでも、ゴリラでもなーい!!」

結局ダルボスは解せぬといった顔を浮かべていたが、それでも3人をずっと覆っていた緊張感が解れたのは事実だった。


404 : 「もしも」 ◆vV5.jnbCYw :2021/07/21(水) 19:07:34 pD3xhCn.0

それからは3人、鞄から地図と名簿を出し、待合室に座ってそれぞれ情報交換をし合うことにした。
この戦いが始まってから、誰かを追いかけたり追われたりと、話し合う暇さえ無かった。
なので、休憩も兼ねてこの場所で知り合いの共有をすることにした。


「くそ、何でこんな紙切れの束にしてるんだ。チマチマしてて読みにくいったらありゃしないぜ。」

名簿の様式に文句を言いながらも、知り合いだけを床に並べていく。

「のび太の知り合いはこの4人か。」
「後の3人は誰かを殺そうと考えたりしない……、でも、このデマオンには気を付けて。僕達の地球を狙っていた恐ろしい奴だ。」

覚の話で、この世界にはどういう訳か一度死んだ人間が参加させられていることは知っていたが、それでも驚かないわけにはいかない存在だった。

「大魔王……ね。そいつほどじゃないが、俺も一人、厄介な奴を知っている。」
覚は出した5枚のカードの中で、スペードの10を見せてきた。
その姿はむしろ貧相な風貌で、デマオンとは異なり恐ろしい印象は伝わってこない。


「他の誰を信用しても、スクィーラの言うことだけは信用してはならない。
コイツは俺たちの町に仕えるフリをして、町どころか日本中を征服しようとしていたんだ。」
「友達にはなれないのかなあ。」
冒険の中で、人の姿とは大きくかけ離れた者とも友達になれたのび太は、口惜しそうな顔をする。

「友好的なふりをして、どうにかして出し抜く機会を狙っているような奴だ。
それは難しいと思うぞ。ダルボスはどうなんだ?」
「オレの知り合いはこのリンクって緑帽子の……最初にアイツラに斬りかかって行ったヤツだ。あと最初の場所で死んじまったイリアって女の子もそうだ。」

思いの外人間の知り合いが多いダルボスに二人はいささか驚くも、彼の話はそれで終わりでは無かった。

「あと、オレと面識はねえが、このゼルダって人はハイラルの姫さんだ。これでオレの知り合いは……ちょっと待て!?」

カードをまとめて仕舞おうとした時、1枚のカードにダルボスは目を落とす。
スペードのKのカードに載るにふさわしい、絵からでも伝わってくる迫力を感じる男だった。
「コイツの名前は聞いたことがある。確か大昔に処刑されたハイラルの大盗賊だ。何でこんな所にいるんだ?」

その理由こそまったく不明だが、大盗賊と言う経歴や処刑されたということから、残念ながら協力は難しい相手だとは分かった。

「やはりあの二人、少なくともどちらかが時間を操ることが出来るかもしれない。」

大昔の人物が参戦しているという話を聞いて覚はその仮説をさらに固める。
「タイムマシンみたいな何かを持っているかもしれない。」
「その話に関して、どうにも腑に落ちない所があるんだ。さっき聞きそびれてしまったけど、そのタイムマシンと、ドラえもんって奴のことを教えて欲しい。」


覚に言われた通り、のび太は自分がかつてお正月に起こったことを話した。
彼が22世紀のお手伝いロボットで、自分の悲惨な未来を変えるためにやって来たのだと。


405 : 「もしも」 ◆vV5.jnbCYw :2021/07/21(水) 19:07:57 pD3xhCn.0

「それがおかしいって話なんだ。君が呪力が生まれる前の時代の人間なのは分かったが、呪力と言うのは21世紀、ドラえもんが来る前に生まれていたはずだ。」

のび太は未来から来たドラえもんと、自分の子孫であるセワシに会っただけではない。
タイムマシンに乗って、その先の未来の東京だって見たことがある。
そのため、朝比奈覚の話はどうにも納得のいかないものだった。


「わけが分からない。話がしっちゃかめっちゃかだよ。」
口を3の字に尖らせ、半信半疑、むしろ疑の方が強いというような表情を浮かべる。


「正直に言うと、オレも話が分からねえ。呪力が生まれるとか、過去とか未来とか、何なんだって話だ。」

それには自然と力を愛し、科学や魔力とはあまり縁のなかったダルボスも同じだった。
彼自身、魔力に無頓着だったことが原因で怪物になってしまったことがあったのだが。

「サトルよお、何が言いたいのか分からねえが、あまり難しいことを考えすぎるのも毒だぞ。」
「あ、そうだ!!パラレルワールドって知ってる?」

一度は覚の話を聞く気は無いと言った態度を見せたのび太が、大声を出した。

――魔法世界の人たちはどうなるの?
――パラレルワールドになるわけよ。
――つまり、あっちはあっちでこっちと関係なく続くわけ。

もしもボックスで元の世界に戻そうとした際に、ドラミとドラえもんから言われた言葉。
のび太は化学が中心になっている世界と、魔法が中心になっている世界を行き来したからこそ知っていることだ。


「俺も聞いただけだが、世界は1つだけじゃなく、あっちにもこっちにも、色んな世界があるってことだろ?
実は俺ものび太やダルボスの世界ってのはそうじゃないのかと思ってるんだ。」
「うん、僕は実際にそれを体験したことがあるんだ。」

彼は説明した。
もしもボックスと、魔法世界のことを。
そして自分の知り合いのうちドラえもん以外の3人は、魔法世界で出会ったということも。

「もしかすると、敵はそのもしもなんたらって道具みたいな能力を持っているのかもな。」
「ちょっと……冗談止めてよ!!」
のび太は敵がドラえもんのひみつ道具と同じ能力を持っているということを想像し、恐ろしくなる。


「……グゴー……。」
気が付くと、退屈過ぎたからかダルボスは丸まって眠っていた。


406 : 「もしも」 ◆vV5.jnbCYw :2021/07/21(水) 19:08:49 pD3xhCn.0

「おいおい、話が分からないからって寝るなよな。」
「んお!?寝てねえぞオレは!!」
「大体そう言うんだよね……。」


「まあ、起きたことだし、少し早いが食事にするか。」
覚は鞄から支給品を出す。
それは、のび太が良く知っている道具だった。
お洒落な花柄模様は、どうみても彼の仲間が持っていた道具である。


「あれ?それは、美夜子さんの!!」
「君たちに会う前に確認したんだが、まさかのび太の友達の物だとはな。」
「しかし、これが本当にウマイのか?」


「これは食べるんじゃないよ。『お子様ランチ』!」
のび太が食べ物の名前を言うと、北風のテーブルかけの上に、日本の旗が印象的なお子様ランチが現れた。

「へえ、俺もやってみるか。『トラバサミのスープと山芋団子』」
面白い物を見つけたという顔で、覚も地元の食べ物の名前を言う。
トラバサミは呪力の影響で彼の世界にしかいない生き物だったが、問題なくテーブルかけは料理を出した。

「まあ、オレのは出来ないだろうが、一応やってみるか。『特上ロース岩』」
続いて出たのは、骨付き肉の形をした岩だった。


「ええ?石ころなんて食べられないよ!?」
どう見ても人間が食べるのに適していない見た目の食べ物が現れ、のび太は驚くも、ダルボスはそれをバリバリ食べる。

「これは石ころじゃねえ。滅多に食えねえ高級な岩なんだ。」
否定する所、そこなのかよという空気が人間2人の間に漂うのだが、岩でも美味しそうに頬張るダルボスを見て、不思議と2人も食欲が出てくる。


「ごちそうさま〜。グゥ………。」

満腹になり、のび太は食べ終わると共に駅内の椅子に座ったまま眠ってしまった。
「仕方ないやつだなあ。まあ、俺も朝が来るまで一休みするか。ダルボスはどうする?」
「オレは外を見張ってくる。あの赤い格好した奴が来るかもしれないし、写真のオッサンが紛れ込んでくるかもしれねえ。」


そう言ってダルボスは駅の外へ行く。


【A-8/神栖駅構内/一日目 早朝】

【野比のび太@ドラえもん のび太の魔界大冒険】

[状態]:健康  睡眠中
[装備]:ミスタの拳銃(残弾5)@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ダルボス、覚と共に脱出する
1.朝まで休憩
2.仲間(ドラえもん、美夜子、満月博士)を探したい
3. デマオン、スクィーラ、ガノンドロフには警戒
※参戦時期は本編終了後です
※この世界をもしもボックスで移った、魔法の世界だと思ってます。
※主催者はもしもボックスのような力を持っていると考えています。

【朝比奈覚@新世界より】
[状態]:健康 睡眠中 早季への疑問
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、北風のテーブルかけ(使用回数残り17/20)@ドラえもん のび太の魔界大冒険 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探し、脱出する
1.その過程で写真の男を見つけ、サイコ・バスターを奪い返す
2. デマオン、スクィーラ、ガノンドロフに警戒
※参戦時期は26歳編でスクィーラを捕獲し、神栖66町に帰る途中です。


[支給品紹介]
北風のテーブルかけ@ドラえもん のび太の魔界大冒険

朝比奈覚に支給された魔法の道具。
ドラえもんのひみつ道具ではなく、美夜子が持っていた道具。
食べ物の名前を言うとそれが出てくる。
今回のロワでは以下の制限がある。

※食べ物を出せるのは20回まで
※食べ物を食べても腹が膨らむだけで、体力の回復が起こらない
(ヘルシーサラダ@ペーパーマリオやトニオの娼婦風パスタ@ジョジョの奇妙な冒険などを出しても、原作の様に傷が治ったりすることは無い)


407 : 「もしも」 ◆vV5.jnbCYw :2021/07/21(水) 19:09:04 pD3xhCn.0

「…………。」
階段を下りて外に出ると、空の色からして、朝になるのはそこまで長くはないことが分かった。
1人になった彼が出したのは、タイムふろしき。
最初に見た時は、ただの布切れだと思ったが、今は特別な力を持った道具だとは分かる。


(オレに巻いたら、過去の自分に戻れるのか?)
その時の意識ははっきりと覚えていない。
だが、自分はかつて、影の魔力に当てられて覚醒火炎獣マグドフレイモスへとなったという話は何度も聞いた。
この世界には、自分の力が到底及ばない敵もいるはず。


(もしそんな相手がいたら……)
のび太や覚、あるいはその友達守るため、怪物の姿に戻り戦う時が来るかもしれない。


(って、何を考えてるんだオレは!!)
そんなものになってしまえば、最悪守ろうとする者を殺してしまうかもしれない。
そもそも自分が怪物になって戦うことなど、誰も望んでいないはずだ。
第一、 これは首輪の解除に使うための物。
それをそんな風に使ってしまうなど論外も良いところだ。

(オレもやっぱり疲れているのかもな……。)
すぐにその考えを捨てようとする。しかし、どうにも捨てきれることが出来なかった。




【A-8/神栖駅外/一日目 早朝】


【ダルボス@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:ダメージ(小) 疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、タイムふろしき@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[思考・状況]
基本行動方針:リンクと合流し、主催を倒す
1.のび太と覚、そしてその仲間を守る
2.なぜガノンドロフがここにいるんだ?
3. タイムふろしき、これを使えば……。
※参戦時期は少なくともイリアの記憶が戻った後です。


408 : 「もしも」 ◆vV5.jnbCYw :2021/07/21(水) 19:09:17 pD3xhCn.0
投下終了です


409 : 名無しさん :2021/07/24(土) 15:12:24 SKTbKvOg0
乙です
マイペースを崩さない、そして自然に協調できる3人に和まされ、ちょっと羨ましいと思える話でした
歴戦の勇士とまではいかなくても独自の冒険の経験をいくつも積んだ証が見えてきそうです
放送後どう互いに支えていくか


410 : ◆s5tC4j7VZY :2021/07/27(火) 18:36:46 nBluuo6E0
投下お疲れさまです!

「もしも」
いや〜、この3人のパーティ、ほのぼのとしていいですね〜好きです!
覚からスクィーラのことを聴かされ『友達』になれないことを残念がるのび太はやっぱり優しいですね。
それだけに放送でのドラえもんの名前にどうなるのか……ぜひ、大人の覚とダルボスには支えてほしいものですが、果たして……
ダルボス……さて、一度生まれた考えは徐々にどうなるのか……今後が楽しみです。


411 : ◆vV5.jnbCYw :2021/07/30(金) 16:03:32 BSPHUWvY0
>>409 >>410

感想ありがとうございます。
2連続で鬱な話が続いたので、和みようのある話を書こうと思いました。
ゴルベーザとレンタロウが南下し、キングブルブリンが落ちたため、比較的温和な北東ですが、どうなるかが気になりますね。

川尻早人、シャーク・アイ、エッジ予約します。


412 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/01(日) 17:22:04 PMjfP3bI0
投下します。


413 : ある忍者の葛藤 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/01(日) 17:22:26 PMjfP3bI0

山奥の塔を後にし、エブラーナの忍者王子は草原を駆ける。
塔からまずはまっすぐ東へと走り、目の前に森が立ち塞がるが、躊躇なく入る。
夜の森とは、常人から見れば殺し合いの会場でなくとも入るのを拒否するほど恐れる場所だ。
だが、忍者である以上夜でも問題なく動けるし、むしろ障害物が多い場所の方が有利に動け、戦えるぐらいだ。


入ってからすぐに南下し、バロンを目指す。
そのまま特に誰とも会わず、もう少しで森を抜ける所で、音が聞こえてきた。

(ん?)
何かが森の中を木霊する。
耳をそばだててみると、それは爆音のようだった。
彼の仲間の中で、唯一このような音を立てることが出来そうなリディアは、ここにはいない。
だからと言って、あのような爆音が響いた場所を無視するなと言うのが無理だった。


もしも、あの場所で仲間が巻き込まれていたら。
また仲間ではなく、自分の宿敵にして、両親の仇であるルビカンテがあの音の原因と言う可能性もある。
来た道を引き返し、森を北上する。
やがて視界に、大きな木造の建物が入り込んできた。
そして、二人の男性の姿も。


片方はオレンジ色のバンダナに、黒を基調とした服装。
高貴な印象は受けず、どちらかと言うとアウトローなイメージが強いが、それでいて強者の風格が漂う。
もう片方は黄色い帽子にオレンジのベストが印象的な子供だということは分かるが、何を考えているかつかめない。



「動くな」
最初に声を発したのは2人の男性のうち、盗賊か海賊のような姿をした方だった。
それだけで、空気が一変し、殺気が辺りに漂う。
武器こそ持っていないが、この海賊の男は確かな実力を持っていることははっきりと伝わった。


「俺はあんたらの敵じゃねえよ。」
「悪いがつい先刻、女を殺してオレ達に襲い掛かってきた奴がいてな。
そう言われてはいそうですかと受け入れるのは無理ってものだ。」


ちっ、とエッジは舌打ちをする。
相手が信用してくれないだけではない。既に人が殺されているという事実を突き付けられたからだ。
勿論、彼自身もこれで相手の方を信用できるというわけではない。
この二人がその女を殺したのであり、その罪を誰かに擦り付けている可能性も拭い切れないからだ。


「そいつぁ残念だ。じゃあどうすりゃ俺のことを信用してもらえる?」
「そうだな。その支給品袋をこちらに渡せ。その後マスクと装束の裏を見せろ。
暗器の方も確かめたくてな。」

なかなかどうして、相手は警戒心がある奴だとエッジも感心する。
もし相手が敵だとするなら、合法的に自分に近づけるチャンスを作れるからだ。


「いいぜ……それなら、好きなだけ覗きな!!」
大きく振りかぶり、支給品袋を2人に投げつける。
しかし、海賊姿の男は彼の動作を見抜いて、それを強引に蹴とばした。


「ハヤト、下がれ!!」
男は少年に巻き込まれないようにと指示を出すとすぐに、猛然とエッジ目掛けて突進してきた。
しかもその右手には抜いたばかりのナイフを持っている。
カウンターをお見舞いしてやろうかとエッジは海賊男にハイキックを見舞うも、姿勢を低くして躱される。


414 : ある忍者の葛藤 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/01(日) 17:22:50 PMjfP3bI0

懐に入り込まれるや否や、相手はナイフでエッジの足の付け根を串刺しにしてこようとする。
しかしエッジは自慢のスピードを生かし、海賊男のナイフを持っている腕の下から手刀で斬り上げる。
その方向から力を加えられるとは予期していなかったのか、ナイフは手から逃れ、遥か上空へと舞った。

これでナイフと言う相手の武器を奪い、俄然エッジは勢いづく。
そのまま身体を一回転させ、回し蹴りを命中させる。


蹴りを胸に入れたことで大きく海賊男を後退させる。
ところが、追撃に行く所、相手は予想外な行動に出た。
地面を強く蹴りつける。
エッジに当てるためにやったのではない。
視界を遮断する砂煙を巻き起こしたのだ。


だからどうしたとばかりに、エッジは砂煙の中に突撃する。
闇を友とする忍者は視界の利かない場所こそ、真価を発揮する。


「ならば……バギマ!!」
男が見知らぬ詠唱を始めたと思うと、突然砂煙の中で風が起こった。
エッジの頬を真空の刃が掠める。
彼の世界にとって、風の魔法とはかなり珍しい物だったので、一瞬驚くもすぐに対策を練る。


「そんな術なら俺にもあるぜ!火遁!!」
エッジが印を組むと、炎が迸り、竜巻とぶつかり合う。
炎こそはダメージを与える前に無くなるも、竜巻も消え、再び自由に動き回れるようになる。


すかさず男の顔面目掛けて蹴りを放つが、肘のガードで受け止められる。


だが、彼の攻撃はそれで終わりではない。
元々、彼は武器を2つ使った二段攻撃を主流としていた。
そして、相手が躱した方向目掛けて、先程相手が落としたナイフを突きつける。


敵が持っているアイテムを盗むのも、エッジの得意分野だ。


「忍者舐めるなよ!」
これにて勝利かと思えば、それは否。
急にエッジの足元が崩れ、ナイフは相手に届かない。
蹴りを放った直後に勝利を急いだこともあって、蹴りを放ってから体軸が不安定だったのか。
それもまた否。

「マストのねぐらで育った海賊を舐めるな。」


男は地面スレスレに足払いを兼ねた蹴りを放ち、意識していなかった足元を狙ったのだ。
そのままアッパーカットをエッジは食らいそうになるも、先程の意趣返しの様に、肘でガードする。
密着状態から離れるかのように、エッジはトントンと3度バック宙を繰り広げ、後ろへ退く。

そのままナイフを投げようかと考えたが、気が付くとナイフが無かった。
盗みに長けているのはエッジのみではない。


「返してもらったぞ。」
「てめえ!」
海賊になる上で培った技術は、盗みも含まれる。


(こいつ、中々出来るな)
(この男、実にやりおる。)

空気がさらに張り詰める。
どちらもまだ本気を出していない。
そのまま互いににらみ合い、再度突進しようとした時―――


その間に、少年が割り込んだ。


「「!!」」
両者互いに少年を危うく殺しそうになり、慌てて筋肉を凝縮させて足を止める。


「下がっていろと言った……」
「テメ……どういうつもり……」


「戦ったらダメだ!!」
その『凄み』は10行くか行かないかの少年には思えない。
むしろ、セシルにも劣らないほどの決意を感じた。


その黄金の精神に押され、2人は戦うのを止める。


415 : ある忍者の葛藤 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/01(日) 17:23:06 PMjfP3bI0

「下がっていろと言ったのに……なぜ前に出た。」
「もしこの人が悪人なら、吉良みたいに僕を狙ってくるはずだ。でもそうじゃなかった。」
「よしよし、君はそっちのオジサンと違って、ちゃんと正義と悪の区別がついているんだな。エライエライ。」
「「「…………。」」」

エッジが茶化すように早人を褒めるが、何とも言えない空気が漂う。
しばらく3人共沈黙を貫いていたが、やがて張りつめていた空気が解れ、最初にエッジが口を開く。

「俺はエッジ。向こうの建物で爆音が聞こえたから来たんだが、何があったか説明してもらえるか?」
「良いだろう。最も信じるか信じないかは勝手だがな。」






「そのキラって奴は、召喚士か何かか?」
シャーク・アイと名乗った男から清浄寺での一件を聞き、思い出したのはこの場所にいない想い人のこと。

「分からん。この坊主の話だとスタンドというらしいが、召喚魔術の一種だろう。」
「やっぱりか。俺の仲間……この世界にはいねえんだが、似たような技を使える奴がいてな。
それと、キラはどの方向にいたのか分からねえのか?」
「分からん。まだ森を彷徨っているかもしれないし、どこか遠くへ逃げたのかもしれん。」


ここでエッジは一つ考える。
まだキラがこの森の中にいるならば、それは奴を追い詰めるチャンスだ。
どのような力の使い手なのか情報を得たし、何より召喚士のことはよく知っている。
加えて相手は自分のことを知らない以上、自分は不意打ちを加えるにはこの上なく適した人材だ。


しかし懸念すべきところは、自分には武器が無いということだった。
「もう一つ聞きてえことがあるんだが、余った武器って持ってるか?俺はあるんだが、重くてどうにも使えねえ。」


塔から降りた後、一度支給品を確認してみた。
しかし、支給された武器らしいものはマスターソードという、強そうに見えるが、余りにも重くて使えそうにない代物だけ。
普通の剣なのにどうしてもてないのかやはり刀なり手裏剣なり武器を持っておきたいところだ。

「残念だが俺の武器はこのナイフだけだ。ハヤトの武器は寺での戦いで壊れたしこちらが欲しいぐらいだな。」

加えて問題は、この殺し合いに乗ったであろう人間は、吉良だけではないはずだということだ。
エッジとしては、簡単に死んでしまう仲間ではないとは分かってこそいるが、早く仲間と再会したいし、1人でも多く危険人物は排除しておきたい。
この森の中で吉良を探そうとすると、それこそ他のマーダーを倒したり、仲間を探す時間まで浪費してしまいかねない。


416 : ある忍者の葛藤 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/01(日) 17:23:45 PMjfP3bI0

2人は早人の仲間と再会できそうな杜王駅を目指しているという。
自分が目指しているバロン城の方向でもあるし、シャークや早人と共にそちらへ向かうのも悪くない。
少なくともこんな森の中をいつまでもうろつくよりかは、効率が良いはずだ。


「俺は南のバロン城って場所を目指しているんだが、その杜王駅までは同行させてもらうぜ。」
「いいのか。」
「ああ。」


こうして、海賊船長と忍者王子、そして黄金の精神を持つ少年の3人が、森の中を進むことになった。

(どっちにせよ、メリットもデメリットもあるよな……)
自分の判断がプラスになることを願いながら、先頭になって森を進む。
森を抜けるとすでに朝日が昇り始めていた。
その太陽は祝福をしているのか、絶望の光になり得るのか。


【C-3/森と草原の境目/ 早朝】
【エッジ@FINAL FANTASY IV】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、マスターソード@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス ランダム支給品(0〜2) 
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
1. まずはシャーク・アイ、川尻早人と共に杜王駅へ
2. それからバロン城に向かうか
3. 朝比奈覚、奇狼丸、ルビカンテに警戒


※少なくともバブイルの巨人を攻略した後です。
※、シャークと早人から吉良吉影のことを聞きました。また、吉良をリディアのような召喚士だと思っています。
※エッジが使える武器は支給されていません


【川尻早人@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2(武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:シャーク・アイ、エッジと共に杜王駅へ向かう
1. スタンドが自分が見えることへの驚き
※本編終了後です
※名簿は確認しました。

【シャーク・アイ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:ダメージ(小)  MP消費(小)
[装備]:鶴見川のナイフ@無能なナナ
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2(武器ではない)
[思考・状況]ミチルに対する罪悪感
基本行動方針:アルスを探す、その過程で危なっかしい人物を倒す。殺し合いに乗る気はないが、最悪殺害も辞さない。
1.早人、エッジと共に杜王駅へ向かう。
※少なくとも4精霊復活後です
※少なくとも船乗り、盗賊、海賊の技は使えます。


[支給品紹介@マスターソード@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス]
エッジに支給された剣。
単純に鋭い切れ味を持つだけではなく、特別な力を持ち、闇の力を払うことが出来るが、選ばれし者にしか持てない。
本作では原作で装備できたリンク以外に誰が装備できるかは不明。少なくともエッジには持てない。


417 : ある忍者の葛藤 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/01(日) 17:24:10 PMjfP3bI0
投下終了です。


418 : ◆s5tC4j7VZY :2021/08/02(月) 21:35:10 UYuEe6gI0
投下お疲れ様です!

ある忍者の葛藤
エッジとシャーク・アイの互いの特性を生かした激突はハラハラしました。
しかし、それを止めた早人の凄みは本編を乗り越えたからこそならではで、大事に至らずホッとしました。
エッジとシャーク・アイの切り替えの早さはある意味、この場においては大事ですね。

ルビカンテで予約します


419 : ある忍者の葛藤 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/02(月) 22:10:16 pEvZUu6w0
感想ありがとうございます。
アウトロー同士のスピード感あるバトルを書こうと思っていたら、、切り替わりまで早くなってしまいました(笑)

クッパ、ガノンドロフ予約します。


420 : 暴走と言う名の救い ◆vV5.jnbCYw :2021/08/04(水) 02:09:45 2rhfv8y20
投下します


421 : 暴走と言う名の救い ◆vV5.jnbCYw :2021/08/04(水) 02:10:07 2rhfv8y20

「何か分からぬが、随分と派手にやっているようだな……。」

遠く離れた煙が立ち上る建物を眺め、繰り返されるティンパニのような轟音を聞きながら、ガノンドロフは1人呟いた。
あの騒動は、先程会った女性の姿を奪った怪物、ボトクが原因になっているのか。
もしまだあの場所にボトクがいるのなら、捕まえて魔力の正体を聞き出せるか。
期待を胸に抱き、崩壊し行く杜王駅へと向かう。



「ウガーーーーッ!!!!!」
煙が上がっている場所に近づいて見ると、建物が崩壊する音だけではなく、怪物のような鳴き声も聞こえる。
正体が分かるまで、そう時間はかからなかった。
鎖の付いた鉄球を振り回した、巨大な亀の怪物が現れていた。
(確か……名簿によると、クッパという名前だったか?)


「ガアアアアアアアアアアアアア!!」
破壊の権化と化した怪物は、鉄球を振り回し、目につく建物全てを破壊する。
自分の姿に気づいたらしい怪物は、ドカドカとうるさく走ってきて、鉄球を投げてきた。
当たれば、ガイアーラの鎧を身に包んだ自分でさえも、無事では済まないだろう。


しかし当たらなければどうと言うことは無い。
ガノンドロフがさっと身を逸らしただけで、破壊の塊は明後日の方向へ飛んでいく。

「避けるなアアアアアアアア!!!」
相手は怒る、だが、遅い。
こういった武器は往々にして、躱されてしまうと大きな隙が出来てしまう。
二撃目を許さず、剣を持っていない方の手で鼻先を思いっ切り殴った。


その一撃で、巨体は大きく後退する。
「ウガーーーーッ!!」
雄たけびと共に、ズシンズシンを足音を立てて突撃をしてくる。
いくら手傷を負っているからと言って、その程度で立てなくなることは無い。
鉄球に頼れないと分かると、クッパは鎖を捨てて炎を吐き、ガノンドロフを焼き尽くそうとする。
だが、気にせずに紅蓮の炎の中を突っ切る。
彼が纏っているガイアーラの鎧は、並の炎は軒並み無力化してしまう。
それでも彼の吐く息を完全に防ぐことは出来なかったが、それで十分。


そのままクッパの下腹部に思いっ切り蹴りを入れる。
ガノンドロフの足に、ズンと蹴った時の衝撃が伝わる。
その箇所は既にアルスのギガスラッシュで大きなダメージを受けていたため、ダメージは倍にも3倍にも膨れ上がった。


2,3度バウンドし、壊れかけの建物の壁を突き破り、柱にぶつかった所で止まる。


「何だ、所詮は見掛け倒しか?」
崩れ落ちるクッパの目の前に仁王立ちし、右手で鉤の形を作り、来いと挑発する。


しばらくの間クッパは、炎を吐いていた所で思いっ切り腹に衝撃を受けたこともあり、呼吸さえままならなかった。
しかし、呼吸がどうにか整うと、息を吸い込み叫ぶ。

「キ、キサマは!!」
どうやら先程のショックで冷静さを幾分か取り戻したようだ。

「我のことを知ってどうするというのだ!?」
傲岸不遜な笑みを浮かべる。対して、クッパの表情は引き攣っていく。

誰か知り合いでもいるのか、辺りを見回した後にクッパは叫んだ。
「ローザ!!逃げろぉ!!!!」
何の皮肉か、手痛い攻撃を受けたことで、身体のリミッターが作動し、周りの相手を慮る冷静さを与えたようだ。
強大な敵を目の前にして、仲間に逃げろと促す姿勢は立派だ。だが。


422 : 暴走と言う名の救い ◆vV5.jnbCYw :2021/08/04(水) 02:10:27 2rhfv8y20

「ローザだと!?ハハハハハハハ!!!」
口元を歪め、零れだすのは絶え間のない嘲笑。
この怪物が暴れていた理由に全て納得がいった。


「キサマ!!何が可笑しいというのだ!!」
鋭い爪でガノンドロフを引き裂こうとする。
だが、その爪が届く瞬間、がっちりと腕を掴む。
掴まれてない方の腕で、殴りつけようとしてくるが、それもまた掴む。
あの鉄球を振り回せるだけに、力こそはかなりのものだと、組み合って見るとそれが伝わる。


「教えてやろうか?貴様がローザという女は、ボトクと言う怪物が化けていた姿だ。どうやらキサマは奴に一杯食わされたようだな。」

一瞬驚いた顔をするも、すぐにその言葉を否定する。
「……デタラメを言うな!!」
「ウソもデタラメも言っておらん。少し前、ここより南の方でローザと名乗った怪物の姿をした女性に会ってきた。」
「デタラメを言うなと言ってるだろう!!」

さらに拘束を振りほどこうとする力が強まる。
これで全力じゃないとは恐ろしいなと呆れるぐらいだ。
力で打ち勝つのはとてもではないが難しい。
だが、攻撃は怒りに任せたワンパターンなものでしかない。
この程度なら、いくらでも凌ぐことは出来る。

クッパは密着状態で、ガノンドロフの顔面に噛みつこうとする。
巨大な牙の一撃を顔面に食らえば、即死ではないにしろ、タダでは済まない。


しかし、力が増していくクッパに対して、敢えてガノンドロフは腕の力を抜いた。
急に敵が力を抜いたことで、元々噛みつこうとして前のめりになっていたクッパは、容易にバランスを崩す。


423 : 暴走と言う名の救い ◆vV5.jnbCYw :2021/08/04(水) 02:11:06 2rhfv8y20

「おわ!?」
そのままがら空きになったクッパの脇腹に、再度蹴りを見舞った。
またも相手は吹き飛ぶ。
そしてまた太い腕を振り回し、襲い掛かって来る。

「キサマ!!こざかしい真似をしおって!!」
「つまらんな……」

クッパの鋭い爪がガノンドロフに襲い来る。
寸前で身を逸らして躱す。
「クソ!!クソ!!クソ!!」
何度も腕を振り回すが、今度は受け止めるようなことはせず、躱し続ける。


「どこまで逃げる気だ!!力づくで勝負しろ!!臆病者め!!」
「逃げたつもりはないがな。」

稼いだ時間を使い、右手には魔法のエネルギーが宿る。
「ヌゥゥン!!」
そのままクッパ目掛けて投げつけた。


「グアアアアア!!」
敵に命中した所で魔法弾は爆ぜ、雷が頭上に落ちたような痺れと、衝撃を受けてクッパは倒れ伏す。


「貴様のような臆病者にその様に言われるとは心外だな。」
「誰が臆病者だというのだ!!」

立ち上がり、啖呵を切るとすぐに、炎を吐くための息を吸い込む。
「ヌグッ!!」
しかしその顎に蹴りを見舞い、ファイアブレスをキャンセルさせる。


「騙されていると認めたくなくて、怒りのまま力を振るい続ける貴様だ。」
クッパは炎を吐きつける所を無理矢理止められたので、ゲエゲエとえづき始める。
「もし我の言葉が偽りの物で、ローザが人間だとしても、どのみち行方が分からぬ以上は裏切られたのではないか?」

「ウルサイ!!どいつもこいつも、ワガハイの邪魔ばかりしおって!!」
クッパは拳を固め、ガノンドロフに殴りかかろうとする。
一度は冷静になったというのに、またも我を忘れるとはしようのない奴だと笑みを浮かべ、相手を迎え撃つ。
迎え撃つ、とは言っても、戦いの主導権は握り切っていると確信したガノンドロフは、クッパの戦い方には乗らず、殴打も噛みつきも、突進も1つ1つ闘牛士の様に躱し続ける。
今度はカウンターの蹴りも、魔法弾も撃たない。


両腕を振り回し、炎を吐き散らし、時には飛び回る。
その都度地面が、建物が、街灯が焦げ、抉れ、ひび割れ、砕ける。
しかし、地面を二度と治ることが不可能になるほど痛めつけても、トライフォースの魔王を傷つけることは出来ない。
頑丈な大地の精霊の力を借りた鎧に守られているのもあるが、如何せん敵の攻撃がワンパターンすぎるのだ。
どんなに強い力での攻撃も、どこに来るか分かっていればさして恐ろしくもない。


「……ゼエ……ゼエ………。」
クッパが肩を落とし、息が切れ始める。
それまで戦術も何もあった物ではないとはいえ、必死で攻撃していたのだが、それさえ出来なくなる。
もともとアルス達との戦いで体力はかなり消耗していた。
その消耗を怒りによってカバーしつつ続けていた攻撃も、体力切れによる限界の時が来た。


424 : 暴走と言う名の救い ◆vV5.jnbCYw :2021/08/04(水) 02:11:33 2rhfv8y20

「愚かな。自分がどのような状況に陥っているのかさえ分からず、獣か童のように暴れ続けることしか出来ぬとは……。」
「調子に乗るな!!まだワガハイは負けておらん!!」
炎を吐こうとするも、出たのは黒い煙だけ。


もう攻撃の手が無くなると分かったガノンドロフの行動は早かった。
まずはクッパの両手を鷲掴みにし、体重をかけて巨体を地面に叩きつける。
一度地に付し、バウンドして空中に戻った後、飛び蹴りを二発見舞う。
下からの攻撃によって、高く高く上がり、ジャンプしても届かなくなるまで上空に飛ばされる。
手が届かなくなった所で、魔法弾を片手に集め、上空のクッパに投げつけた。
「ガアアアアアア!!!」
またも黄白色の魔法弾が、光の粒を飛ばして眩しく弾ける。


既に白みかけている空に、最後の花火が起こるかのようだった。
しかし、これで終わりではなく、クッパが地面に落ち始めた所で、自分も跳び上がり、上空から巨大な槍の様な両足でクッパを蹴り落とす。


抵抗も出来ず、受け身も取れずそのまま隕石の様に地面に堕ちた。

「フン……他愛もない。」
常にフルスイングで戦っていたクッパに対し、最低限の動きで攻撃と回避をつづけたガノンドロフは、少々疲れたと言ったぐらいだった。
これなら、最初に城で戦った老兵士とカメの男の方が、まだ戦い甲斐があった。
しかしガノンとしては、どうにも桁落ち感がしてならなかった。
ボトクがいるなら殺して力を奪い、ボトクで無かったら駅を壊す程暴れている者に力を見せつけ、配下に加えるつもりだった。


しかし、こんな暴れるだけの生き物を配下に加えることは出来ない。
ブルボーでさえ、然るべき乗り手がいれば頭を垂れ、背中を許すというのに。
試しに相手がいかに愚かなことをしていたか説明し、自分と共にボトクや他の参加者を狩る算段をしていたのだが、上手く行くこともなかった。



これで終わりかと思えば、小さなクレーターの中心で、泥にまみれたクッパは身を捩っていた。
「しぶとさだけは認めるとするか……。」


425 : 暴走と言う名の救い ◆vV5.jnbCYw :2021/08/04(水) 02:11:52 2rhfv8y20

クッパとの戦いでまだ使っていなかった魔法の剣を小箱から出す。
ただ使いたくなかった訳ではなく、使う必要もないと思っていただけだ。
トドメに首を斬り落とし、さっさと終わらせようとする。


「そう言えば、奴の力を明かすためにも、この首輪は必要だな。」
迂闊に首輪を作動させないように、慎重に剣をクッパの首に合わせる。
剣を一振り、クッパの首が落とされる―――――はずだった。



「ガアアアアアアアアアア!!!!」
クッパは力で剣の刃をがっちり握る。


「ぐ……離せ……!!!」
しぶといことは分かっていたが、まだ戦う力が残っていたのは予想外だった。
剣を上下させ、無理矢理離させようとする。
元から滲み出ていたクッパの両手から、出血量が増すが、それでも離すことは無い。


そのまま遠心力に任せ、ガノンドロフごと剣を振り回した。
ジャイアントスイング。
かつてクッパはこの技で爆弾にぶつけられ、マリオに敗れたことがあったが、何の因果かその技が彼を救った。


最早クッパに体力は残されていない。
代わりにクッパの体というエンジンを動かしていた怒りの炎も、燃料は既に無くなり、文字通り火花と煙だけの下火になっている。
彼を動かしたのは、こんな所でいいように騙されたまま死にたくないという、マリオとの戦いでは決して味わったことのない恐怖心だった。


「ぬうううううう!!!」
さしものガノンドロフも叫び声を上げる。
手を放しても話さなくても、思いっきり吹き飛ばされる。


「ガアアアアアアアアアア!!!」
何回振り回したか分からないが、そのまま手を離した。
もう良いと思ったから投げ飛ばしたのか、手を放す力が無くなったから投げ飛ばしたのかは分からない。
力の魔王は剣ごと飛んでいく。



かなり遠くに飛ばされたが、地面に魔法弾を打った反動で、落下の衝撃のほとんどを抑えることが出来た。


(フン、時間をかなり食わされたな。)
走れば戻ることは出来たかもしれないが、もうあのカメの魔物に構うつもりはなかった。
そのまま放置すれば勝手に死ぬかもしれないし、自分のような者に殺されるかもしれない。
よしんば何らかの奇跡が起きて、復活したとしても、さほど脅威にならないと考えた。


それよりも彼が気になったのは。
「『ヤツ』とはそんなに遠くないという訳か……。」
地面に落ちた時、人間の足跡が見つかった。
進行方向に沿って規則正しく並んでいるというより、どこか不規則な並び方をしている。
まるで踊りでも踊ったかのように。
嬉しいことが起こり、はしゃいでいるかのように。


426 : 暴走と言う名の救い ◆vV5.jnbCYw :2021/08/04(水) 02:12:22 2rhfv8y20

未知の力が手に入るまで、そう遠くないと分かり、期待に胸躍らせ、足跡の方向へ向かう。


【E-2/杜王駅北/一日目 早朝】


【ガノンドロフ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:頭に傷 腹部に打撲 背中に打撲(軽) 疲労(小) 高揚感
[装備]:ガイアーラの鎧@ドラゴンクエスト7、美夜子の剣@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜1 確認済み)
基本行動方針:主催者も含め皆殺し、ただし殺すに値しなかったり、生かすことでより混沌が生まれそうな場合は別。

[思考・状況]1:ボトクを捕まえ、配下に加える、または魔力を奪う。
2:クッパは野垂れ死ぬのに任せる。
3:その過程でリンク、ゼルダから勇気と知恵のトライフォース、あるいは別の世界の強い力を手に入れる。

※ハイラル城でリンクを待っている間からの参戦です。





「…………。」
身も心も徹底的に痛めつけられ、何も言わず、動かずにクッパは蹲る。
美女に変身していた悪鬼に騙され、いいように扱われ、捨てられ。
もう覚えられなくなるほど殴られ、蹴られ、投げ飛ばされ、魔法の力を食らい。
それでも、クッパの命は頑なに尽きることを拒んでいた。


その瞬間だった。
具体的な理屈で知ったわけではないが、知ってしまった。
何度倒されても諦めなかった大切な想い人が、死んでしまった。
第六感が告げたのか、何故知ったのかは分からないが、どういう訳かそれが分かってしまった。
どのみち分からなくても、彼女の死はもうじき告げられるのであまり変わりはないが。


深く、深く、深く。
ガノンドロフの力によって造られた、自分が寝転がっているクレーターより大きい穴がクッパの心を苛んでいた。
だが、ガノンドロフも、ボトクにも、果てにはデミーラとザントにさえも憎しみは無かった。
ここまでされても死ぬことを許さない、自分の生命力だけだった。


【E-2/杜王駅南の市街地/一日目 早朝】

【クッパ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(特大) 腹に刺し傷、全身の至る所に打撲、深い裂傷 両手に切り傷 戦意喪失
[装備]:チェーンハンマー @ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(名簿焼失)、ランダム支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:………。

※ステージ7クリア後、ピカリー神殿を訪れてからの参戦です


427 : 暴走と言う名の救い ◆vV5.jnbCYw :2021/08/04(水) 02:12:32 2rhfv8y20
投下終了です


428 : ◆s5tC4j7VZY :2021/08/04(水) 06:55:29 4zwPVRH20
投下お疲れ様です!

暴走と言う名の救い
クッパVSガノンドルフの任天堂ボス対決はスマブラを彷彿させる戦いで読んでいてとても見ごたえがありました。
ここまでされても死ぬことを許さない、自分の生命力だけだった。
↑なんといいますか、読んでいて胸にくるものがありました……クッパ……
完膚なきまでにやられても生き残ったクッパは愛する姫の死を乗り越えられるのか……放送後がとても楽しみです。
そして、投げ飛ばされた結果ガノンドルフは”ヤツ”に大きく近づきましたが、果たして未知の力を手に入れられるのか……
一つ言えることは「ローザ!!逃げろぉ!!!!」BYクッパ

投下します。


429 : 七転八起 ◆s5tC4j7VZY :2021/08/04(水) 06:58:25 4zwPVRH20
プライドーーーーー誇り。自尊心。
Oxford Languagesより引用。

「……」
魂が抜けたのかのように闘技場内に留まる男……ルビカンテ。
ダルボス達3人に逃げられた後、彼は追いかけることもせず、ただ佇んでいる。

「……」
屈辱という感情を身に纏いながら彼は自分の人生を想起していた。

―――私の父は生前、世界の5指に数えられる程の闇魔法の……特に氷系の魔法の達人だった。

―――父は私を後継者にしたいと願っていたのだろう……毎日、昼夜を問わず厳しい修行を私に対して行った。

―――とても辛く苦しい修行の日々に私は、父に対する激しい憎しみを抱くようになった。

―――そんな父への反発心なのか、私の興味は氷系魔法ではなく対極をなす炎系魔法に移った。

―――そしてついに私は、父と同じ空間で過ごすのが耐えられず、家を飛び出し、ミシディアを目指しつつ私はケツイした。

―――父を越える魔導士になると。

―――ミシディアに辿り着いた私は長老ミンウのもと、闇魔法の修行を始め……わずか5年で全てを極めた。

―――特に炎系魔法に関しては独自の攻撃方法”かえんりゅう”を開発して、仲間の魔導士たちからは『火のルビカンテ』と呼ばれるまでになった。

―――私は父を越えた

―――そう自認した私の次なる目標は『パラディン』になることだった。

―――長老は反対をしていたが、黒魔導士として最高の地位についた私はパラディンになる力があると信じていた。

―――ついに私は長老の言葉に耳をかさず、試練の山へ向かった。

―――結果は惨めだった。

―――私は試練を克服することができず、重傷を負った。

―――私は痛感した。

―――自分の愚かさ、そして人間の弱さを。

―――死を待つだけの私を救った男がいた。

―――その男の名前はゴルベーザ。

―――ゴルベーザは瀕死の私を救うようにルゲイエに命令すると奴は私の体を改造した。

―――瀕死の状態から一命を救われた私の体はモンスターのような強靭となった。

―――こののち、私はゴルベーザ四天王筆頭の地位に就任した。

☆彡 ☆彡 ☆彡


430 : 七転八起 ◆s5tC4j7VZY :2021/08/04(水) 06:58:57 4zwPVRH20
「……」
(強者との戦いは私の心を満たす。セシル達に敗れはしたが、悔いはなかった)

だが―――

オルゴ・デミーラなるモンスターによる殺し合いの場に召喚されてからは屈辱の連続だった。

首輪をつけられたことには奴らに怒りを感じたが、強者との戦いのみが自身の心を燃やし満たす。
故に殺し合いに乗った。
最初に出会ったのはセシル。

「ルビカンテ!!君だけは逃げろ!!そして、僕の仲間と共に……。」

かつて、自らを打ち破った相手との心躍る戦いは邪魔が入り、水を差された。
自分の十八番が通用しない圧倒的な力の差の敗北。
さらに、セシルによってその場から逃がされるという施しの屈辱。
飛ばされた先は闘技場。
邪魔をした赤い服を纏う男、マリオへの憎しみが止まらない中、次に出会ったのは3人組。
この苦い、鬱憤した思いを晴らすべく新たな戦いに臨んだ。

―――が。

「次は胸に当てるよ!!」

戦いの最中、取るに足らない弱者と判断していた少年に足を掬われた。
もし、少年の言う通り、胸を撃たれていたら死んでいた。
そして、逃げられるという屈辱。
実質、敗北といってもいい。

「私は何をしているのだ……」
敗北に次ぐ敗北。
屈辱に次ぐ屈辱。
武人としての誇りや自尊心はズタズタに砕かれた。
ルビカンテは自分の立ち位置に惑う。

―――当初の予定通り、殺し合いに乗るかそれとも……

「私には戦う以外のことはできない」
武人―――――それが自分、『火のルビカンテ』

だが―――

「ルビカンテ!!君だけは逃げろ!!そして、僕の仲間と共に……。」
それは、自身を縛り付ける呪い。


431 : 七転八起 ◆s5tC4j7VZY :2021/08/04(水) 06:59:19 4zwPVRH20
「……」
―――フゥ。

「いいだろう。セシル、この殺し合い……私が粉砕する。それで貴様から受けた施しは無しだ」
ルビカンテは迷っていた方針を定めた。
殺し合いを打破するという道を。

「だが、それでも私は弱者となれ合うつもりはない。あくまでも、私のやり方でいかせてもらう」
己の―――人の弱さを痛感して生まれ変わった。
その主義は変えられない。
故に殺し合いに乗った者を殺す”マーダーキラー”として動く。

「それに殺し合いが終わった時、生き残っているのは強者のみであろう……」

「ならば、その生き残り達との戦いは私を満たすはずだ」
そう、殺し合いが終われば、後は自分の勝手だ。
邪魔も入らず心行くまでの死闘を味わうことが出来るはず。

―――二ィ
それを思い描くと笑みが浮かぶ。

「この後、放送が流れる。まずは……一度、休息を取るとしよう」
失った血・体力を補充するためにルビガンテはザックからパンを喰らい水を飲む。

プライドを砕かれたルビカンテ―――

しかし―――

瞳に宿る炎は消えていない。

【A-8 早朝 闘技場】

【ルビカンテ@Final Fantasy IV】
[状態]:HP 2/8 魔力消費(中) 屈辱感 休憩中
[装備]:炎の爪@ドラゴンクエストVII フラワーセツヤク@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1 
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを終わらせて受けた屈辱を晴らし、生き延びた者と闘う
1.あの帽子の男(マリオ)は絶対に許さない
2.弱者とは協力はしないが、殺し合いに乗っている者と闘う
3.ひとまず、休息を取り、体力を回復させる
※少なくとも1度はセシルたちに敗れた後です。


432 : 七転八起 ◆s5tC4j7VZY :2021/08/04(水) 06:59:29 4zwPVRH20
投下終了します。


433 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/04(水) 12:05:47 2rhfv8y20
投下乙です、ルビカンテの裏設定懐かしい。
セシルの想いを完全とは言わずとも受け取ったルビカンテ、どうなるか気になりますね。

ただし1つ気になる点が。
本ロワのOPでは、「6時間ごとに死者が呼ばれる」などの説明はされていないため、ルビカンテは6時の放送のことは知らない筈です。
なので、「もうすぐ、太陽が出る」辺りにすれば良いと思います。


434 : 七転八起 ◆s5tC4j7VZY :2021/08/04(水) 13:31:17 4zwPVRH20
感想有難うございます。

七転八起
セシルの想いを受け止める落としどころはこれかなと思い書きました。
ちょこっと、サラマンダー的な空気を纏っている風に見えるルビカンテ……どうなるのかは自分も楽しみです。

ご指摘ありがとうございます。
確認不足ですみませんでした。
既に本wikiに記載されていましたので、そちらの方で修正をいたしました。
ご確認願います。
また、wikiの方で編集していただいた方、有難うございます。


435 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/04(水) 18:36:42 2rhfv8y20
wikiの方を拝見しました。
迅速な対応ありがとうございます。


436 : ◆s5tC4j7VZY :2021/08/04(水) 19:33:34 4zwPVRH20
ご確認ありがとうございます。(ぺこり)


437 : 名無しさん :2021/08/07(土) 00:05:48 TUX3NLoA0
投下乙です
平和だった筈のチームでも激戦が勃発したり犠牲者が出たりの波乱の展開の連続で目が離せません、話がどう進んでいくのか楽しみです


話は変わりますがすいません、ここからはwikiの方に苦言を呈させて頂きます。
この一月辺りでwikiの方に死亡者名鑑や把握資料といったページができてると思います。
自分も楽しく読ませて頂いてますがそこの記述でちょくちょく気になる描写があるように感じます。
具体例を挙げれば「ピーチよりクリスチーネの方が人気」とか「漫画版の新世界よりはこういう展開なので許さない」など(身も蓋もない事を言えば)それわざわざ書く必要ある?っていうネガティブな記述が気になりました。

件のページを編集しているのが書き手の方なのか読者なのか、そもそもこのスレを覗いてる方なのかは分かりませんが当ロワには専用のしたらばもなくwikiの方にも連絡用のページ等は無いようだったので、このような形で書き込ませて頂きました。
スレの空気を悪くしてしまい申し訳ありませんがご意見をお願いします。


438 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/07(土) 00:49:13 iHMnj7a60
読んでくださり非常にありがとうございます。
そしてwikiの指摘点に関してもまたありがとうございました。
そちらに関しては気配りの程が出来ていなかったとも実感し、本wikiの指摘された部分を消すことにしました。
今後とも、表裏バトルロワイヤルをよろしくお願いいたします。


439 : 名無しさん :2021/08/07(土) 18:49:47 TUX3NLoA0
こちらの方こそ細かい指摘になってしまい申し訳ございません。
引き続き企画や各ページのまとめを楽しみにしています。


440 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/09(月) 12:50:38 .YN6I2ek0
吉良、守、ヤン予約します


441 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/13(金) 00:00:59 WxWatuG20
投下します


442 : 闇よりも ◆vV5.jnbCYw :2021/08/13(金) 00:01:32 WxWatuG20

「守君、何か聞こえないかね?」
満月博士達と別れてから十数分後、ヤンはある音を聞き取った。
そしてすぐに守にも、彼の言っていることは伝わった。
ドン、ドンと爆発でも起こっているような音が、森の奥から聞こえてきた。


それを聞いて、守はビクリと肩をすくませ、震え始める。
彼が思いだしたのは、2年前の筑波山での出来事。
バケネズミの雑兵に追われ、頼みの綱の呪力もないまま、行く当てもなく火薬の音が響く森を走り回ったことだ。

「何が起こっているんだ……。」
しかも音が聞こえ方からして、爆音の原因は清浄寺のある方角にある。
既に殺し合いは始まっていることを、否が応でも分からされてしまった。


「守殿……何が起こっているかは分からぬが、心配しないで欲しい。私が付いている。」
息を荒くして、かたかたと震えている守を見たヤンは、気遣いの言葉をかける。


「ありがとうございます。」
守としても、この先に行くのは嫌だ。
しかし、その先で被害に遭っているのは真理亜かもしれない。
不浄猫に追いかけられ、神栖66町を脱走した時、追いかけてくれたのは彼女だった。
だから今度は、自分が真理亜を見つけるんだという意志の下、森を進もうとしていた。


「期待に応えるためにも、貴殿が想い人に会い、元の世界に帰るまで、共に行くとしよう。体と心を鍛え上げたファブールのモンクを見誤らないでいただきたい。命に代えてもお守り……。」

ヤンが言葉を全て言い終わる瞬間、ここからでも良く聞こえるほど一際大きな爆音が響いた。
「どうやら向こうでは予想も出来ない何かが起こっているようだ。走れるかね?」
「はい。」
何が起こっているのか確かめるためにも、先を急ごうとする。



しかし、二人が走り出してすぐに、上から大きな音が聞こえた。
先程のような爆音ではなく、背の高い木から聞こえて来る、葉っぱをガサガサと言わせる音だ。
それぐらいなら急いでいる彼らは無視できたかもしれない。


「た………」

しかし、人の声が聞こえた以上は、無視できなかった。


「助けて………。」

木の上の一本の枝の上に、白いスーツの男が引っかかっていた。
急がなければいけないと分かっている状況ながらも、その姿に視線は釘付けになってしまう。


443 : 闇よりも ◆vV5.jnbCYw :2021/08/13(金) 00:02:08 WxWatuG20

「は、早く何とかしないと!!」
音の原因が何か分かると、守も慌ててしまう。
いつもならば木から人を呪力で降ろすことなど、容易なことだ。
しかし、彼らの呪力には制限がされているため、思うようには行かない。
彼のサイコキネシスは、枝を揺らすだけになってしまう。

「や、やめてくれ!!落ちる!!」


「枝が折れるかもしれないから、暴れないでくれ。今助けに行く!!」
制限の正体は分からなかったが、守は諦めてヤンに任せることにした。
ヤンは軽々と枝から枝へと跳んで行き、男が引っかかっている場所までいとも簡単にたどり着いた。
すぐに吉良を抱えて、垂直な木を坂道か何かのように降りて行く。


「危ない所を助けていただき、ありがとうございました。」
ヤンの手から離れた男は、頭を下げて礼を言う。
衣服こそ乱れているが、その立ち居振る舞いはヤンと同じか、それ以上に整然としていた。

しかし、守はその男を、どういうわけか信用できなかった。
彼の冷徹な瞳から連想させるのは、自分の元担任、太陽王こと遠藤先生の瞳だ。
一見穏やかそうだが、冷徹さを秘めていて、目的の為なら手段を択ばない男の瞳だった。


「では早速、向こうの寺で何があったか教えてくれませんか?
実はあなたが悪人だという可能性も否定できない。」

そしてヤンもまた似たようなものを男から感じ取っていた。
炎の爪の先を男に見せつけ、本当のことを言うしか逃げ道は無いぞ、という意思を示す。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


一難去ってまた一難とは、まさにこのことじゃないかと吉良吉影は実感した。
どうにかしてこいつらからの疑いを晴らさねばならないので、脳内で素早くかつ的確に最適な回答を練り上げようとする。
キラークイーンを出そうにも、近距離パワー型のスタンドでは纏めて殺すのは難しい。
現に清浄寺では、3人のうち2人の戦闘能力が皆無という状況でありながら、1人しか殺せなかった。


とぼけるのもありかもしれないと思ったが、あえて起こったことを嘘を交えながら話した方がこの二人から信頼出来るのではないかと考え、言葉を紡ぎ始める。


「私はここより北にある寺に、たまたま出会った少女と共に隠れていました。」


まずは状況から説明することにする。
「少女?もしかしてその子は、赤い髪をしていませんでした?」

2人組の片割れ、毛髪が豊かな方の少年が食い入るように訪ねてきた。


「いえ、その子の髪はクリーム色でしたが……」
ここは態々嘘を言っても状況が好転する可能性は低かったため、正直に答えることにした。
どうやら恋人か何かなのか、少年は安堵の表情を見せた。


「しかし、そこへ二人の男が入ってきました。」
ここからが正念場。
心臓が一層高鳴る。

「ふむ。その二人はどのような姿をしていました?」
予想通りと言えばそうだが、禿げ頭の男の疑惑の視線が強くなった。


「片方はそちらの方より低い年齢で、もう片方は海賊のような姿をしていました。」
吉良の心臓は最高潮に達していた。
彼はこの感覚を何よりも嫌っていた。
植物の様に穏やかな生活を好む彼にとって、鼓動もまた、常に平静を保って欲しいと望んでいる。
それを許さないこの二人組が憎くて仕方が無かった。


「海賊……ですか。」
その反応を聞き、幾ばくか安堵を覚えた。
もしあの海賊の男が、どちらかの仲間ならば、話の信憑性が無くなり俄然自分への疑いが深まるからだ。


444 : 闇よりも ◆vV5.jnbCYw :2021/08/13(金) 00:02:26 WxWatuG20


「彼らは寺に入って来るや否や、爆弾のような能力で少女を爆殺し、逃げようとした私にも、爆弾を投げてきました。」
平穏を侵してくる簒奪者達への憎しみを抑え、冷静に答えていく。

「爆弾のような能力とな……?」
これもまた予想通りだが、未知なる言葉を聞き、2人の表情が更に強張る。

「私が見た限りですが、2人組の少年が触れた部分が突然、爆発したのです。彼女はそれで背中を吹き飛ばされ、殺されてしまいました。」

疑念の表情は変わらない。

「ええ、そのような顔をするのも最もです。ですが私はありのまま起こったことを話しているだけです。それとも嘘をつけと言うのでしょうか」
「いえ、その点にも幾分か疑問にはなりますが、私としては大の大人が少女を見殺しにして、逃げ出したというのがどうにも気に食わないのです。」


あんたの正義論なんてどうでもいい、と言いたいのをこらえて、敢えて徹底的に下手に出ることにした。

「そうです。私を信頼してくれた少女を見殺しにして、逃げようとした卑怯者だ!ですが仕方が無かった!!」

表情筋を降ろし、目線も下げ、心底申し訳なさそうに振る舞う。
会社の時と同じだ。
過剰に仕事を押し付けられないように、過度な期待を浴びないように、そして何より厄介者として扱われないように、自虐的になる。


「ですが私にどうしろと?2人組相手にむざむざ死にに行けとでもいうのですか!!」

しかし、相手方から何をしても良い存在と思われるのも、また面倒ごとに巻き込まれるきっかけになるので、ほんの少しだけ強気に出る。

「すまない。私としたことが悪いことを言った。しかし、なぜあのような場所に?」
「済んでの所で爆発で死ぬことは無かったのですが、海賊の男が竜巻を起こす能力を持っていたらしく、吹き飛ばされて、気が付けばあの場所にいたわけです。」


「風を起こす能力に、触れた物を爆弾に変える能力ですか。」
「そうです。そちらのお子さん、大丈夫ですか?顔、真っ青ですよ。」


吉良としては、一刻も早くこの場所から抜け出したかった。
もしもこの森の中でまだ殺せていない早人とシャークに出会えば、したくもない殺人をせねばならなくなるし、仮に奴らがいなくても寺へ向かいたくない。


だが、上手く信用を勝ち取ればこの二人を隠れ蓑に出来る。
優勝ではなく脱出を目的とする彼にとって、状況によっては自分のことを全く知らない二人は、重宝する存在になり得るのではないかと考えた。
気を遣う発言も、信頼を得るための言葉だ。


445 : 闇よりも ◆vV5.jnbCYw :2021/08/13(金) 00:03:11 WxWatuG20

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

伊東守が吉良の言葉を聞いて、この世界では人が人を殺すのだと改めて知ってしまった。
不浄猫を使った間接的な間引きではなく、もっとシンプルに、自分の呪力で、はたまた呪力とは異なる力で殺している。


吉良の話は半分を過ぎた辺りで、耳に入れる余裕が無くなって来ていた。
この感覚は、2年前にミノシロモドキから過去の歴史を聞いていた時に似ていた。
身体が熱に浮かされた時の様に熱くなり、鼓動が聞こえるほど高まり、それに伴って嫌な汗が流れ始める。


「守殿、大丈夫か?」
ひゅうひゅうというただ事ではない息遣いを感じ、ヤンは心配の言葉をかける。

「いいえ……大丈夫です……。」
「とにかく、私は被害者です。守君のためにも、早くこの森から出ましょう。」

吉良はこの場から離れることを提案する。
しかし、守はどちらかというと、寺へ向かいたかった。
真理亜が向かうとするなら、清浄寺の可能性が高い。
もし今いないのだとしても、後にやってくる可能性だってある。


おまけにいざ他の場所に移るとなると、どこへ行けばいいか困る。
その先で真理亜と都合よく再会できる保証もない。
寺で吉良を襲い、少女を殺した人間が怖いかと聞かれれば勿論怖いが、それでも行きたいという気持ちがあった。



「いや、これから我々3人でこの先へ向かおうと思う。」
「何ですと!?」
「え?」
その言葉で、吉良はもちろんのこと、寺へ向かいたいという気持ちを汲み取るかのような発言に守も驚く。


「拠点に爆発のような攻撃を建物に加えたのだとしたら、恐らくその二人は留まらずに別の場所に行くのではないかと思います。
逆にその二人がいれば、吉良殿と守殿はバラバラにお逃げください。決して一緒ではありません。」
「それならば、寺へはあなた一人だけで向かい、被害者である私と守君は、別の場所へ……」
「嘘だな。」
「!!?」

なおも寺へ向かいたくないと主張する吉良を、ヤンはにべもなく嘘だと切り捨てた。
「わ、私はウソなど言ってない!!どういうことだ!?」
「何がウソかは分かりません。だが、格闘家の勘というものか……あなたの言っていること、どこか腑に落ちないのです。
単刀直入に言うと、あなたと守殿を二人だけにさせるわけにはいかない。」

自分の言っていることを嘘だと指摘されるも、その根拠が論理的なものでは無かったからか、安堵の表情を見せる。


446 : 闇よりも ◆vV5.jnbCYw :2021/08/13(金) 00:03:31 WxWatuG20

「そこまで私が気に入らなければ、あなた方だけで寺へ向かえば良いのでは?守君もそうは思わないか!?」
「え……?」

急に同意を求められて、元々自己主張の弱い性格の守は驚く。


「子供に同意を求めるのは卑怯ですぞ。吉良殿。」
「卑怯だ何だとはこの際、二の次だ!こうしている間にもあの殺人鬼共がやって来るかもしれない!
私だけに被害が及ぶならまだいい!あなた方まで襲われるかもしれない!!」

「あの……僕は寺に行きたいです。……もし真理亜がいなければ、僕の呪力でサインを残しておきたい。」
そこへ初めて守が意見を述べた。


「では向かいましょう。勿論あなたもご同行お願いします。」
「い、いえ……警察じゃあるまいし、私を悪事を行った人間の様に扱わなくても……。」
「あなたは信用できませんが、この先に起こったことを一番知っているのもあなたです。」




吉良という男をのさばらせておく気もないが、かと言って守と二人だけにするのはもってのほかだ。
それに、吉良の言うことが本当である可能性も完全には否定できない。
自分の判断が良い方向に転ぶことを願いながら、ヤンは寺へと進む。








平穏だと思う町にも、闇はある。
それは神栖66町にも、杜王町にもあてはまることだ。
しかし、伊東守は闇に追われた者。
吉良吉影は、闇そのものだ。


そして町どころか、彼の生まれた星そのものを覆わんとする闇と戦ってきたヤンは、再び闇を暴くことが出来るのか。





【D-3/森/一日目 早朝】

【伊東守@新世界より】
[状態]:健康 不安 
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:
1.真理亜を探す
2.ヤン、吉良吉影と共に、清浄寺へ向かう
3.吉良に不信感
4.呪力がいつも通りに仕えなかったことに対する疑問

※4章後半で、真理亜と共に神栖六十六町を脱出した直後です
※真理亜以外の知り合いを確認していません。


447 : 闇よりも ◆vV5.jnbCYw :2021/08/13(金) 00:03:45 WxWatuG20


【ヤン・ファン・ライデン@FINAL FANTASY IV】
[状態]:健康
[装備]:ガツ―ンジャンプ@ ペーパーマリオRPG 炎のツメ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラ並びにザントを討つ
1:伊東守と共に、清浄寺へ向かう
2:吉良吉影に疑い。根本的な理由は無いが、何故か嫌な予感がする
3:できたらセシル達と合流したい
4:デマオン及び、吉良が行った二人組(川尻早人、シャーク・アイ)には注意する
参戦時期はED後
満月博士との情報交換で魔法世界についての情報を得ました。


【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:脱出派の勢力に潜り込み、信頼を勝ち取る。
1.名簿に載っていた、仗助、康一、重ちー、隼人、そしてシャークに警戒。争うことになるならば殺す
2.早人やミチルにもスタンドが見えたことに対する疑問
3:寺へは自分のしたことが明るみに出る可能性もあるから、行きたくない。
※参戦時期は川尻耕作に姿を変えてから、カップルを殺害した直後です


448 : 闇よりも ◆vV5.jnbCYw :2021/08/13(金) 00:03:59 WxWatuG20
投下終了です


449 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/15(日) 13:20:01 rrT/0We20
カイン、スクィーラ、ミキタカ予約します。
構想上の話の関係上、この予約を投下してから、すぐに放送へ行こうと思っています。
まだ放送前に何か書きたい話があれば、1週間内にこちらに予約をしておいてください。


450 : 名無しさん :2021/08/15(日) 14:23:32 dQ47lVBA0
表裏ロワ放送にリーチ来た


451 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/18(水) 21:31:01 I.lC0Ik20
まだ3日しか経っていませんが、書き終わってしまったので投下しますね。


452 : Grand Escape ◆vV5.jnbCYw :2021/08/18(水) 21:31:28 I.lC0Ik20

6つの瞳は、ただ真っすぐに渦巻の中心を見つめていた。
何も言わずに青白く光り、ぐるぐると回り続けているそれを見つけてから、数分ほど経過した。


カイン・ハイウインドは考察する。


彼の考え方は、シンプルな場合分けに基づいた思考方法だ。
敵勢力は参加者同士の殺し合いを望んでいる以上は、この渦を踏むことが即死につながるとは考え難い。
逆に会場内に即死のギミックがあるとしたら、これまで動いた場所でそこかしこに罠が置いてあるはずだ。
この渦がデビルロードにあるワープゾーンだったと仮定した場合、どこへ飛ばされるかと言うことだ。


1. この会場の外に出られる
2. 最初に集められたあの広間に出ることになる
3. この会場のどこかに移動する
4. この塔のどこかに移動する


1ならばこれが早い段階で見つかったことは、この上ないアドバンテージだ。
勿論主催者の脅威は消えていないし、首輪という邪魔者も残っているが、外側で準備を整え、再度元の場所に戻るという手もある。
また、この殺し合いに参加させられていないリディアやシド、フースーヤ辺りに協力を求めることも出来る。
最もこれが一方通行で、戻るのに難儀するという可能性も十分あるが、使わないという手はない。


2ならばそれは最悪だ。
転移した先に主催者がいるのはほぼ確定事項だし、良くて元の会場に戻され、最悪の場合逃走を目論んだペナルティとして、その場で殺される。
即死のギミックで無かったとしても、自分達の状況が悪い方向に傾くことは間違いないと考えていい。


3ならば1には遠く及ばないが、中々のアドバンテージだ。
この渦が一方通行か否かは分からないが、広い会場を行き来するのに非常に役に立つ。
当然、自分の目的の1つとしているセシルやほかの仲間の捜索にも使えるだろう。


4ならば危険ではないが、期待外れもいいところだ。
塔のどこかに転移されても、精々その場所までに行く体力と時間の節約ぐらいにしかならない。

安全と言うにしろ、危険と言うにしろ、結論付けるには余りにも情報が足らなさすぎる。
今一番やるべきことは、「この塔について知っている者を探す」ことだ。
この殺し合いの会場は、バロン城があるように、理由こそは分からないが参加者の世界のゆかりの地がある。
ミキタカの話によると「杜王駅」という場所は彼の町にある駅らしいので、この塔とゆかりの深い参加者もいる可能性はそう低くない。
この渦は元々塔にあったのか、あったとするならどのような目的で使われていたか、そういった情報を根掘り葉掘り聞いてから、この渦に入っても遅くはない。


453 : Grand Escape ◆vV5.jnbCYw :2021/08/18(水) 21:31:57 I.lC0Ik20

ヌ・ミキタカゾ・ンシは考察する

彼の場合は、この渦に対する興味を基盤にした思考だ。

この渦の形は、どこかで見たことがあると思ったら、ワープ装置を使った時に宇宙空間上に現れるワームホールと似ている。
何万光年も離れた地球に来れたのも、宇宙船に搭載されたワープ装置の賜物だ。
従って、この光を放っているものが同じように、どこかへ飛ばされるものだと容易に推測できた。
しかし、これはワームホールとは決定的に違う点がある。
それは何もない空間上に現れるそれとは異なり、床に設置されているということだ。


この渦は床を吸い込まず、それでいて人を吸い込むのだとしたら、それは自分達の星の技術を集結させても出来ない大発明だ。
カイン曰く敵はスタンドとは異なる「魔法」を用いているとのことだが、この際どんな技術でも良いので、この渦が作られる過程を見たくなる。
それを知るには、まずは入ってこの力をみなければならない。
きっとカインもスクィーラも反対するはずだが、それを押し切ってでも調べてみたい。




スクィーラは考察する。

彼の場合は、「いかにしてこの渦に入らないか」という算段建てだ。

大方どこかへ移動できるらしい渦を目の前にして、他の2人が何を考えているのかは察しが付く。
恐らくは、脱出の可能性があるのではないか、もしそうでなかった場合のリスクはいかほどのものかなどを考えているはず。
しかし、自分にとって「生還」「脱出」という言葉はない。
戻れた所で、元の世界で敗れた自分に残っている時間は、ただ苦しめられるためだけにある。
よしんばこの姿で戻れたとしても、秘密兵器である悪鬼もおらず、部下のほとんどは殺されている以上は、ただ人間達に逆転の余地もなく追い回されるだけの余生を送ることになる。
もしかするとカインかミキタカの世界に行けるかもしれないが、そこでも力を持った人間が統治権を握っているようだし、そこで醜い姿をした自分が高い立場に立つのは難しそうだ。
自分に残されている道とは「優勝して、バケネズミの帝国を作るように願いをかなえてもらえる」という事しかないのだ。
従って、「生還」の必要がない自分にとって、この渦はシンプルにデメリットとなる可能性が極めて高い。
仮にこのどこかへ行けるという渦が、殺し合いに優勝することを考えている者に有利になるように作られていたのだとしても、試しに入るにはリスクが高すぎる。


よく言えば人当たりが良く、悪く言えば警戒心の無いミキタカの尽力もあって、比較的口数の多かったこの3人は、一気に静かになってしまった。

「あの……差し出がましいようで非常に申し訳ありませんが……。」
長い、とは言っても2分もないのだが、非常に長く感じた沈黙を破ったのはスクィーラだった。

「この渦に入るのは、危険ではないでしょうか?そう思いませんか?」
「ああ。俺も同感だ。何より情報が少なすぎる。」

2人が渦に入ることを反対し、これにて渦はひとまず放置されて終わりかと思ったら、そういう訳にもいかなかった。

「ならば、私が入ってみましょう。」
「ミキタカ……あんたは人の話を聞いていたのか?」

興味本位で危険な道へ行こうとするミキタカに対し、流石のカインも呆れざるを得なかった。


454 : Grand Escape ◆vV5.jnbCYw :2021/08/18(水) 21:32:47 I.lC0Ik20

「あなた方には被害はありません。それでいいじゃないですか。」
「アンタだけが汚れ仕事を引き受ければいいって訳じゃない。残った俺たちはどうする。
その先が良い場所か悪い場所かは、戻ってこなければ分からない。」

ここへ一人だけで飛び込んでも、状況が好転する保証はない。
そしてこの渦が一方通行という可能性はある以上、帰ってこれない可能性も考慮しなければならない。
結果がどちらに転んだにせよ情報が伝わらなければ意味が無い。

「勿論、私も無策で飛び込むわけではありません。」
ミキタカは塔を上った時の様に、下半身をひらひらとした布状に変化させる。

「カインさんはあそこの柱に、私の下半身を結び付けてください。」
「考えたな。命綱という訳か。だが、これでいいのか?」
「私は構わないと言ったはずです。」

カインが彼の下半身を結び終わると、すぐに渦に飛び込む

「「!!」」
渦から出る光が一層強くなり、カインは目を眩ませる。
暗い場所を良しとするバケネズミのスクィーラは、猶更だった。

「こ、これは!?」
どうなっているのか2人には伝わらなかったが、ミキタカは驚嘆の声を上げた。
しかし、問題はすぐに起こる。
ミキタカの下半身を結び付けた柱が、ボコリと音を立てて崩れた。
古い建物の柱だからか、はたまた渦の力が強いのかは不明だが、2人はまずいことになったと瞬時に気付く。
そのまま上半身のみならず、下半身までも渦に吸い込まれていく。


「ミキタカ!!スクィーラ、お前も手伝え!!」
慌ててカインはミキタカの下半身を掴む。
渦に飛び込むことは最初から反対していたスクィーラも場の圧力に同調して、掴まざるを得なかった。
しかし、常識的に考えて人間の数十倍はある重さの柱が重石として役に立たない状況で、人間やバケネズミが重石として役に立つわけがない。


そのまま3人共吸い込まれていく。


渦に飲まれてから、見えるのは3つの色だけ。
周囲を覆いつくす白。
進行方向でぐるぐると光を飛ばしながら回り続ける青。
青の中心にある黒。


「「「うわあああああああああああああ!!!」」」
そこに響くのは3重の悲鳴。

目がちかちかする上に、自分が立っているのか倒れているのか分からないほど平衡感覚が覚束ない。
3人共同じような状況になっていた。


455 : Grand Escape ◆vV5.jnbCYw :2021/08/18(水) 21:33:05 I.lC0Ik20

兎に角カインは二人の手を必死で掴んでいた。
こんな場所で手など離したら最後、永遠に会えなくなるような気がしたからだ。
別にこの二人に好意などあるわけではないが、それはさておきこのような場所で別れてしまったら、寝覚めが悪いのは良く分かっていた。

しかし、それが不幸に繋がった。
まだミキタカの下半身はカーテンのレースのようになっている。
その様になっている相手が、空間が回っている中ですぐ近くにいればどうなるか、幼き頃にカーテンに入ってぐるぐる回る悪戯をした者なら容易に分かるだろう。


予想に違わず、カインもスクィーラも、スパゲッティーを食べる時のフォークの様になる。
藻掻こうにも、重力がどっちの方向に向いているのかさえ分からない状況では、余計事態が悪くなる一方だ。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



「………ここ………は?」
一番先にカインが目を覚ます。
片手は冷たいレンガに触れていた。
まずは自分に絡まっているこれをどうにかすべきだと考えて、辺りをそっちのけてミキタカの下半身を解く。


「カインさん、スクィーラさん、巻き込んでしまい、申し訳ありません。」
丁度全てが解き終わる頃にミキタカも目を覚まし、下半身の姿を戻しながら謝罪する。

「カインさん?」
返事が無いのを案じ、もう一度声をかける。

「何だ……これは……。」
カインの返事は、ミキタカに対して返ってこなかった。



最初の場所とは違う広い部屋にあったのは、大量の石像。
1つ1つが不気味なまでに、人とそっくりだった。
全て男の石像だが、ほとんどが戦士か船乗りのような力仕事をやっていることが分かる屈強な姿をしている。
しかし全員、何か恐ろしいものでも見たかのように、恐怖に満ちた表情を浮かべている。
それが逆に恐ろしさを伝えてきた。


「これは……一体……どういう?」
この部屋の持ち主が、石像を集める趣味を持っているだけとは到底思えず、仮面越しの表情はここにある石像の様に恐怖で引き攣る。


456 : Grand Escape ◆vV5.jnbCYw :2021/08/18(水) 21:33:20 I.lC0Ik20

「神様。」
背後から声をかけたのは、スクィーラだった。
相変わらず得体のしれない存在だが、その声や姿さえも愛おしく感じるぐらいには、この空間は未知なる恐怖で包まれていた。


黒いレンガに覆われたこの部屋が妙に明るいと思ったが、そこで初めて、そのタネがつかめた。
しかし、そのタネが掴めた時、カインは先ほどの石像が可愛らしく思えるほど、悍ましい存在を知ってしまった。


石像から背けた視線の先にあるのは、赤赤と光を放っている、大量の蝋燭。
その数は百なのか、千なのか、とにかく数えようのないほど多くの数があった。
問題は蝋燭ではない。
その先にあった2つの物体だ。

蝋燭が置いていない所に、道が作られており、その終点に2つの異物が置いてある。
片方が黒い色の巨大な棺。
そしてもう片方が、人が簡単に入ってしまいそうな、赤やオレンジなど明るい色で覆われた直方体の巨大な箱。


「何だ……あれは。」
片方の棺からは、凄まじく禍々しいものが伝わってきたが、むしろ恐怖を感じたのは、隣の箱の方。
そこから感じたのは何なのか分からない反面、数段恐怖を感じた。

「電話ボックス……?」
ミキタカが呟く。

「何だそれは?」
カインはそれを尋ねる。
勿論声を殺して。
いつこの部屋に誰が入ってくるのかは分からないし、それが主催者であるという可能性も十分にある。

「遠くにいる人と話をするためのものです。しかしなぜこんな所にあるのでしょう。」
ミキタカは不用意に近づこうとする。
それを慌てて羽交い絞めにして止めるカイン。


ミキタカの言うことは最もだったが、まずいのはこれだけでは無かった。

「オロロ〜ン……」


近くにあった扉の方向から、うめき声とも鳴き声とも解釈できる奇怪な声が聞こえてきた。
続いて聞こえて来るのは、カツン、カツンと階段を下りる音。


「もうすぐ……送か。既に10人以上…牲が出て……とは、予想以上だな。」

「!!」
そしてもう一つ声が聞こえて来る。
それは主催による声。
2人組のうち、気味の悪い仮面をつけた黒服の男のものだった。
階段を下りる足音に消されて、上手く聞き取れなかったが、この殺し合いで10人以上犠牲が出た、と言うことで三人の心臓は高鳴った。


457 : Grand Escape ◆vV5.jnbCYw :2021/08/18(水) 21:33:41 I.lC0Ik20

「メ………サ。しっかり……むぞ。」
「お〜ま〜か〜せ〜を〜。」

しかし、そうこうしているうちに階段を下りる音はどんどん大きくなる。
即ち、この部屋に近づいているということだ。

あえて奇襲をかけるという手もあるが、それが成功する確率はあまりにも低い。
今の所首輪を付けられているままである以上、攻撃する前に爆破される可能性も十二分にあるし、まだ他の罠を持っているかもしれない。

「カインさん。」
小声でミキタカが指をさした先には、石像の間に紛れて、小さな渦があった。
山奥の塔で見かけた渦、この場所に来たものと同じだ。
我先にと、最初は一番飛び込むのに躊躇っていたスクィーラは、今度は何のためらいもなく飛び込む。


この渦は元の会場に戻るのか、はたまた別の場所に飛ばされるかは分からないが、それでも先程と違い、入らざるを得なかった。


再び、あの青白黒のみで構成された空間の中を、流されていく。
今度はミキタカの下半身は人間のものだったから、最初の時の様に絡まるということはなかった。
しかし、カインとミキタカの心象は穏やかでは無かった。
あそこで見た物は何なのか。
実はこの殺し合いは氷山の一角でしかなく、その裏では何か予想もつかぬことが為されようとしているのか。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


そうこう考えているうちに、次第に目に映る色が多様性を増してくる。
幸か不幸か、その場所は渦に入る前とほとんど変わらない、山奥の塔の1階。
いや、幸か不幸かというのは間違いかもしれない。
彼等にとっての不幸は2つあったからだ。


1つは、出てからすぐに渦巻きが消えたこと。


「どうにか無事に戻ってこれましたね……カインさん、危険な目に遭わせて申し訳ありません。」
「いや、謝罪は無事に帰ってから……スクィーラは!?」


もう1つは、スクィーラが姿を消したことだ。
元々何を考えているのか分からない相手だったが、いざいなくなると何をしでかすか分からない。

「足跡が続いているようです、何があったか不安です。追いかけましょう。」
カインはもちろん、彼ほどスクィーラを疑っている訳ではないミキタカもまた、気になりだして追いかける。

その足跡を追いかけ、1階の端、塔の廊下を走っていた時のことだった。

「うわあああ!!」
「ミキタカ!走れ!!」

急に柱が二人に倒れこんでいた。
パーティーの中でもエッジに次いで瞬発力に長けていたカインがミキタカを引っ張ったことで、事なきを得る。


458 : Grand Escape ◆vV5.jnbCYw :2021/08/18(水) 21:34:13 I.lC0Ik20

「やられたな。」
柱が倒れたことによる二次災害が起こらないか、辺りを見回した後にカインはこう呟いた。
仮面を被っていてもその表情は、仲間を助けたものとはとても思えないほど浮かないものだった。

「足跡が無くなっている。大方奴は先に戻ってから、俺たちを嵌めるつもりだったんだ。」
「トラックバック……でしょうか。」

ミキタカは経験したことは無いが、彼の友達である東方仗助から聞いたことだった。
ネズミのような小動物が敢えて足跡を付けることで、それを追いかけた獲物を狙った場所におびき寄せるという戦法ということだ。

「奴は……逃げやがった。」

カインはそう力なく呟いた。
恐らく、相当な奇跡でも起こらない限り、スクィーラはもう見つからない。
そして、万が一追い付き、自分達を嵌めようとしたことを糾弾しても、きっと「それは運が悪かっただけだ」とぼけられってしまう。


朝日が差し込む塔の中を、力なく2人は立ち尽くしていた。



【C-1/山奥の塔/1階 早朝】

【カイン@Final Fantasy IV】
[状態]:健康 服の背面側に裂け目 不安
[装備]:ホーリーランス@DQ7  ミスリルヘルム@DQ7
[道具]:基本支給品 
[思考・状況]
基本行動方針:憎まれ役を演じ、対主催勢力を繋げる。
1.セシル、お前はどうしている?
2.あの渦の中で見た物は?
3.スクィーラ……
※参戦時期はクリア後です



【ヌ・ミキタカゾ・ンシ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康 不安
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 魔導士の杖@DQ7 バッジ?@ペーパーマリオRPG 紫のクスリ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[思考・状況]
基本行動方針:カインに協力する
1.自分のせいで起こってしまったことへの申し訳なさ

※参戦時期は少なくとも鋼田一豊大を倒した後です。


459 : Grand Escape ◆vV5.jnbCYw :2021/08/18(水) 21:34:29 I.lC0Ik20

既に壁の隙間から脱出し、塔から大分離れたスクィーラは、説明書を読んでいた。

「なるほど。そういうことだったのか。」
先程、蝋燭と石像で満ちていた謎の部屋で、スクィーラは一瞬のスキを使ってあることを行っていた。
それは、ニトロハニーシロップの説明書の隠された文字を、部屋の蝋燭で炙り出すことだ。


『ニトロハニーシロップ
普通に飲めば人の怪我を立ちどころに全回復してしまう素晴らしい薬ですが
貝殻などから取れるカルシウムと
「金(きん)」を混ぜ合わせてしばらくすると
 電 車 を 吹 き 飛 ば し て し ま う ほ ど の 爆 発 を起こします                                       』


ただでさえ醜悪に見えるバケネズミ特有の表情が、さらに歪む。
これからの方針は定まった。
まずはカルシウムと、金をどこかで調達すること。
そして、上手く対主催の勢力に匿ってもらうことだ。


自分を守ってくれるという点にのみ注目すれば、カイン達は有用な存在ではあったが、警戒心が強すぎたので、逃げ出すことにした。

「さて……次は誰に遭えるか……。」
塔から抜け出し、スクィーラは何処とも分からぬ方向へ走っていった。



【C-1/山奥の塔から離れた場所】
【スクィーラ@新世界より】
[状態]:健康
[装備]:毒針セット(17/20) @無能なナナ
[道具]:基本支給品、ニトロハニーシロップ@ペーパーマリオRPG 指輪?
[思考・状況]
基本行動方針:人間に奉仕し、その裏で参加者を殺す。
1:カイン・ミキタカからは逃走。新たに匿ってもらえる対主催勢力を探る
2:ニトロハニーシロップで爆弾を作る。その為にカルシウムと金を調達する。
3:朝比奈覚、奇狼丸は危険人物として吹聴する
4:優勝し、バケネズミの王国を作るように、願いをかなえてもらう


460 : Grand Escape ◆vV5.jnbCYw :2021/08/18(水) 21:34:47 I.lC0Ik20
投下終了です。引き続き、放送予約します。


461 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/19(木) 21:41:13 b4m9wnI60
放送投下します。


462 : 第一回放送 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/19(木) 21:41:55 b4m9wnI60

「そろそろ時間か。」
最初にこの殺し合いの参加者52名が集められた会場。
とても1人分の為に作られたとは思えないほど巨大な玉座の上で、尻尾を巻いて腰掛けるオルゴ・デミーラが呟いた。

彼は大広間に掛けられた、これまた巨大なモニターを見つめ、薄ら笑いを浮かべる。
そのモニターに描かれているのは、9つの世界地図。
周囲には8つの異なる世界が映されている。
いや、8つそれぞれ異なるわけではなく、うち4つは同じ、日本という国の地図を示している。
そして中央に移っているのはこの殺し合いの会場の地図。


その地図の上に、♤A、♢4、などのように、点滅している38のマークが浮かんでいた。
それはゲームの参加者の現在位置を示していた。


「デミーラ卿。調子はいかほどですかな。」
大広間の隅にある扉が開き、2人の男が入って来る。
片側は主催者の片割れ、ザント。
もう一人は、とても人間の姿と思いにくい、無数の蛇のような髪をした見るも悍ましい幽鬼。


「ザント、メジューサ。我の方は変化はない。参加者の数は減り、万事順調だ。」
「そちらの方は無事で何より。しかし、1つ問題がありましてな。」
「何だ。言うがよい。」
「この広間の地下に、旅の扉が出来ていたのです。」
「な!?」

予想外の言葉に、デミーラは初めて驚愕の表情を見せた。

「ですがご安心を。それは既に消した故……作った何者かも、また探せばよいでしょう。」
予想もつかない状況に、デミーラは苦々し気な表情を浮かべる。


「じ〜〜〜〜か〜〜〜〜ん〜〜〜〜。」
次に言葉を話したのはメジューサだった。
もうすぐ最初の放送の時間だ、と表明していた。


「その通りだ。ではそろそろ始めるか。」
「我々のことを嘲笑っていた光の奴らがどう反応するか、楽しみでたまらん。」


463 : 第一回放送 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/19(木) 21:42:20 b4m9wnI60


『諸君。今いる世界を楽しんでいるか?』
時は6:00。
オルゴ・デミーラは満を持して、大広間に届くほど大声で叫ぶ。
それはこの部屋だけではなく、どういったからくりかは分からないが、会場全体にも届いていた。


『我はそなたらのことを聞き、非常に楽しんでいるぞ。
だがここで一度、この殺し合いがどれほど進んでいるか、報告をさせてもらおう。
これから脱落した弱きデク人形共の名前を話していくことにする。


♡6 ノコタロウ
♡9 セシル・ハーヴィ
♧A 美夜子
♤2 モイ
♢10 奇狼丸
♤6 ガボ
♤3 キングブルブリン
♡2 マリベル
♧4 犬飼ミチル
♧6 ドラえもん
♡5 山岸由花子
♡8 広瀬康一


以上、13名!!


素晴らしい。たった6時間で、これほど犠牲が出るとは、我が思う以上に素晴らしい先駆けだ。
この調子で我々を楽しませてくれたまえ。貴様らの出す闇が我々の至高のご馳走になり、極上の酒になるのだから。

そうだ。脱落した弱き者共は、この際名簿から省いておこう。
これで放送を聞き間違えたことのないことが分かるし、一石二鳥だ。


次に、禁止エリアの発表だ。大切な知り合いが死んだからと言って、意気消沈してこの話を聞き逃さないようにな。


地図を開くがよい。

まずは二時間後に、[F-5] 
続いて四時間後に、[D-1]
最後に六時間後に、[C-6]

この時間が過ぎた後、以上の禁止エリアに数十秒以上留まった者は、死ぬことになる。
我としては殺し合った上で死んでほしいのだから、迂闊に入ったりはしないで欲しいがな。


では、諸君の一層の健闘を期待している。6時間後の放送を楽しみにしておくがよい』


そして放送が切れた。

「素晴らしき演説でした。デミーラ卿。あなたがいてこそ、より強き『女王様』が現れるはずです。」
「女王様!?」
紫色の脳味噌が露出しているため見えにくいが、デミーラは訳の分からないという表情で眉間に皺を寄せる。

「なに、そこまで素晴らしいものでは無い。ただ、我にとっても貴殿にとっても、8つの世界を闇に包むのに、貢献してくれるはずの人物とでも思ってくだされば。」
「……まあいい。好きにしろ。」
「では仰せのままに。我とメジューサは、旅の扉を作った不届き者を探すことにする。」


障害など1つも無いかのように愉快な表情を浮かべるデミーラ。
残り、38名。


464 : 第一回放送 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/19(木) 21:42:41 b4m9wnI60


丁度その頃、地下、かつて旅の扉が繋がっていた場所で、ある男が頭を抱えて悩んでいた。


「ここは何処なんだ?」
彼の名はキーファ。
グランエスタードの王子だったが、旅先で最愛の人を見つけ、彼女の守り人として生きることになった。
ある日、冒険に出る時に似たような渦巻きに近づいて見ると、なぜかこの場所にいたのだ。


ここでかつての仲間、アルスの父親の石像を見つけた。
それは石像というより、かつて旅先で石にされた人間のような姿をしていた。
天使の涙もない今どうしようもないが、この建物の持ち主を探そうとしていた。


響くのを承知で、ひとまずユバール族から教わった、移動の調べを奏で、旅の扉という移動場所を作ってから別の部屋へと移る。
しかし、建物は呆れるほど広く、結局アルスの石像がある部屋に戻って来てしまった。
さらに悪いことに、この部屋に何者かが現れていた。
仕方がなく、一度石像の間に隠れ、休憩を取る。


目の前の棺と正体不明の箱に対して、不気味な気配を覚えながら。



【始まりの場所/一日目 早朝】
【オルゴ・デミーラ@ドラゴンクエストVII】
[状態]:健康 愉悦
[装備]:???
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.???

※死亡後からの登場です。

【ザント@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:愉悦
[装備]:ザントの双剣
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを見届ける。
1.光と影を1つに
2.侵入者を殺す
3.カゲの女王@ペーパーマリオRPG を?

※少なくとも影の宮殿で敗れてからの参戦です。

【メジューサ@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを管理する。
1.ザントに仕える

※参戦時期は不明です


【???/一日目 早朝】

【キーファ@ドラゴンクエストVII】】
[状態]:休憩中
[装備]:トゥーラ@DQ7
[道具]:??
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをどうにかして止める。 アルスの父たちを元に戻す
1.ここは一体どこだ?

※少なくともアルス達と別れ、一定の時間が経過しています。
※トゥーラを奏でることで、旅の扉(海底都市から脱出するのに老楽師が使った技)を作れます。



※参加者名簿から、死亡者のカードが消え去りました。


465 : 第一回放送 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/19(木) 21:44:58 b4m9wnI60
放送投下終了です。
放送後の予約・投下は明日の18:00から解禁となります。

それと皆様のご尽力もあって、表裏バトルロワイヤルは第一放送までこぎ着けました。
ここまで読んでくれた皆様方、およびリレーして下さった方々、実にありがとうございます。
未熟者なりに進めていきますので、これからもこのロワを何卒宜しくお願い致します。


466 : 名無しさん :2021/08/19(木) 22:04:31 5EXuJwic0
投下お疲れ様です
表裏ロワが始まってほぼ半年で第一放送まで到達した書き手達の尽力は素晴らしいものだと思っています
書き手として参加する事はおそらく無いでしょうが、今後とも読ませていただきます


467 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/19(木) 22:13:05 b4m9wnI60
感想ありがとうございます。
私も他の書き手様方に感謝したい限りです。
これからも続きを楽しみにしてください。


468 : 名無しさん :2021/08/19(木) 22:34:43 oz5JJ8d60
投下お疲れ様でした。
第1回放送突破おめでとうございます。
ロワを今日まで継続させる事はもちろん、短期間での放送回投下を達成を実行出来る主催者様及び書き手の皆様へは尊敬の念が尽きません。
私も書き手として貢献する事はとても出来ませんがwiki編集等で微力ではありますがお力添え出来ればと思っております。
これからも皆様のパロロワ活動を全力で応援させていただきます


469 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/19(木) 22:49:32 b4m9wnI60
ありがとうございます。
執筆や支援絵は言わずもがな、
編集や感想の投下だけでも非常に感謝したい想いで一杯です。
これからも表裏ロワの続きを楽しみにして読んでいただければ幸いです。


470 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/20(金) 18:13:32 oBHQStbY0
では予約解禁します。
アルス予約します。

他の書き手様方も興味がある箇所があれば予約してください。


471 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/21(土) 14:42:39 OHXfQnu.0
投下します。


472 : おんぼろ ◆vV5.jnbCYw :2021/08/21(土) 14:43:01 OHXfQnu.0

気が付いた時には、完全に手遅れだった。
場所は会場内を走る列車の中。
無駄だと分かっていても、慌てて列車内の後方に走り、ドアを何度も叩く。
ここで自分が戦いの場から離脱してはどうなる?
自分の力に自惚れているわけではないが、ギガスラッシュを受けてさえ倒れることのなかったあの怪物を、康一と由花子の二人だけで倒すのは難しい。
しかし、こうしている間にも列車はあの戦場から遠ざかっていく。


どうにかして列車に穴を空け、脱出しようとする。
今からでも急げば間に合うかもしれない。
だが、現実は非情だった。
窓を破って脱出しようとするが、いたずらに拳や足を痛めるだけだった。
ならばと支給品の水中爆弾をいくつか使ってみるも、車内を僅かながら焦げ付かせただけ。


結局何をしても駄目だということが分かると、座席に腰掛けて身体を休めることにした。
まだ殺し合いは始まったばかりでしかない。
到着先でも敵が襲ってくる可能性があるし、休んでおいて損はないはずだ。
だが、それがまずかった。
何もしていないと、次々と嫌なことが頭に浮かんでくる。


(こんなことになってしまったのは、僕のせいなのか?
二度もオルゴ・デミーラを倒したから、今回の殺し合いも止められるし、コーイチくんともユカコさんともきっと上手く行くと期待していた自惚れが原因なのか?)

そんなことはない、あれは不運な事故だ、と無理やり自分に言い聞かせる。

(けれどもし、ギガスラッシュをあの怪物に撃った後も、油断しなかったら?
それ以前に戦わず、三人で逃げることを選択していたら?)


とても休めた気はしなかったが、それからすぐに列車はハイラル駅にたどり着いた

「ハイラル駅〜。ハイラル駅〜。ご乗車ありがとうございました〜。引き続き、殺し合いをお楽しみください〜
なお、5分以内に下車しなければ、首輪を爆破しますので、ご注意ください〜。」

無機質な機械音、だが、苛立ちを誘うメッセージと共に、列車の扉は誰が操作せずとも開いた。
どこかフォロッド大陸のからくり兵団拠点で見たような仕組みだと思いながら、ハイラル駅に降り立つ。


473 : おんぼろ ◆vV5.jnbCYw :2021/08/21(土) 14:43:24 OHXfQnu.0

『諸君。今いる世界を楽しんでいるか?』
その時のことだった。
魔空間の神殿にダークパレスと、聞いた回数こそ少ないがすっかり聞きなれてしまったオルゴ・デミーラの声が駅内に響き渡った。


報告内容は極めて単純だったが、アルスの心を深く抉った。
康一や由花子が呼ばれることは覚悟していたが、その前にマリベルとガボの名前が呼ばれることは、予想さえ出来ていなかった。
例えオルゴ・デミーラ達を倒し、帰れたとしても、大切な幼馴染はもういない。


死者の名前が呼び終わると、入ったら死ぬことになるというエリアが発表された。
無言で地図にメモを取る。
したくてやったとか、禁止エリアに入ってしまわないように注意する目的でやった訳ではない。
ただ、何かやっておかないと、頭がどうにかなってしまいそうだったからだ。




――ようやく目が覚めたのね、アルス。あんたっていつまでたっても寝坊助ね

(あれが最後に聞いた言葉って……ウソだろ?)

地図をしまった後、カードの束になっている名簿を覗く。
最初に見た時より、幾分か薄くなってしまっていた。
聞き間違いだったと思いこみ、隙を作ることも厭わず、カードを1枚ずつめくった。
マリベルのカードも、ガボのカードも、康一のカードも、由花子のカードも無かった。
もう一度めくってみても、何も変わっていなかった。


こうしていると、自分はよく口数の多い彼女の言葉を聞き流していたんだなと思った。
不思議と、色んな言葉を彼女は投げかけていたはずなのに、印象に残った言葉は、思い出はと聞かれると、何か今一つ選べない。


あるとするならーーーーー

(いや、やめておこう。)


まだやらなければならないことは大量にある。
康一君の友達だという仗助を、メルビンを、アイラを、もう一人の父を探す。
今もなお暴れているはずのあの怪物を今度こそ倒す
そうだ、1つ忘れていた。
レブレサックで倒したけど、復活して何処かにいるはずのあいつも……


(!!)

そこで、疑問という名のジグソーパズルが綺麗に合わさってしまった。
悔しさのあまり、力いっぱいそこにあるフクロウの像を叩いた。
あの女性だ。
あの女性はボトクが化けた姿で、奴があの怪物を唆した。


なぜ警戒して、相手から疑われることを覚悟でマジャスティスを使っていたのに、肝心な時に気付かなかったのだろう。
自分の間抜けさに、今度は腹立たしさしか覚えなかった。


改札口を抜けるのに切符を使うと、『不慮の事故故に切符手続きは不問にする』と書いてあるのに気づいた。
丁寧なものだ、と呆れながら改札を通り、階段を降りると、構内は惨憺たる状態だった。


474 : おんぼろ ◆vV5.jnbCYw :2021/08/21(土) 14:43:40 OHXfQnu.0

血と煙の臭いが充満し、ただでさえ不快な気分が一層悪くなる。
石造りの柱のほとんどは欠けていて、倒壊する余地さえ見せないのが不思議なくらいだ。
あまり歩いていて落ち着ける場所ではない構内を歩くと、見てしまった。


何かを守るようにして黒焦げになって動かなくなっている獣人。
同じく黒焦げになって、物か何かのように転がっている男。
既に戦いは多くの場所で始まっているのは、嫌でも分かった。


そして、駅の入り口で、血だまりの中心に、一人の女性が倒れていた。
綺麗だったはずの金髪もピンクのドレスも、大量の血や体液を吸ってまだらに染まっている。
片足は離れた場所に転がっており、しかも内臓が至る所に散乱している。
それを見ると、突然悪寒が走り、胸がムカムカし思いっ切り吐いてしまった。


別に死人に見慣れていないわけではない。
例えばフォロッドでは、昨日まで必死で戦おうとしていた町人が、次の日には町の外で動かなくなっていたことなんてざらにあった。
けれど一人で、しかも精神が不安定な状態でこんな惨状を見せつけられ、思いっ切り吐いてしまった。


(この人にもきっと好きな人がいたはずだ。僕が上手くやっていれば、この女性も助けられたんじゃないか?)
考えまいとしても、思考は悪い方向に傾く一方だった。


広瀬康一はまだ立派だったかもしれない。
だって、大切な人と一緒に死んだから。

(少なくとも大切な人の死に目に会えず、だからと言って何も出来ずに生きている自分よりかは立派だったんじゃないか?)


駄目だ。
こんなところにいたら、きっとろくでもないことしか頭に浮かばない。
とにかく、どこかへ行こう。


【E-2/列車内/一日目 早朝】

【アルス@ドラゴンクエスト7】
[状態]HP3/5、MP1/2 疲労(中) 憂鬱
[装備] 幸運と勇気の剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]基本支給品、水中バクダン×8@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス ランダム支給品0〜2(確認済み、武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラやザントを倒す
1.仲間(メルビン、アイラ、シャーク、仗助)を探す
2.ローザ(に変身しているボトク)、クッパを今度こそ倒す
3.マリベル……
※参戦時期は本編終了後
※広瀬康一からヌ・ミキタカゾ・ンシ以外のジョジョ勢について聞きました。
※広瀬康一からスタンドについて聞き、ヌ・ミキタカゾ・ンシと重ちー以外のスタンド能力も把握しました
※少なくとも武闘家・僧侶・戦士・バトルマスター・パラディン・ゴッドハンドをマスターしています
※一部の強力な呪文・剣技等に制限(威力の低下)がかかっています。


475 : おんぼろ ◆vV5.jnbCYw :2021/08/21(土) 14:43:52 OHXfQnu.0
投下終了です


476 : ◆2zEnKfaCDc :2021/08/22(日) 04:31:35 asd7j2Rk0
投下お疲れ様です。
タイトル通り、まさに「おんぼろ」と呼ぶに相応しい精神状態。投下順に意味を持たせるのはリレー小説としては良くないかもしれないですが、「これが定時放送の残酷さだよ」と言わんばかりにこれを放送直後に持ってくるのはなかなか粋に思えます。

メルビン、ビビアン、ゴルベーザ、渡辺早季で予約します。


477 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/23(月) 14:51:15 oWyFL64I0
感想兼予約ありがとうございます。
放送前後で変わった雰囲気をとにかく描写したかったので、初手でこの話を持ってきました。

デマオン、ナナ、重ちー、アイラ、ゼルダ、クリスチーヌ、満月博士、ミドナ、真理亜予約します。


478 : 名無しさん :2021/08/23(月) 20:39:39 vqU7jh4k0
すみません、カイン達のパートと放送後アルスの回、早朝になってwikiにもそれでまとめられてますが、どちらも朝になるのではないでしょうか


479 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/25(水) 18:49:50 UOUYUrYM0
カインパート(51話のことで良いですよね?)は早朝ですよ。
では、投下します。


480 : 悪意の火種が笑った時 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/25(水) 18:50:21 UOUYUrYM0

図書館の1階に集った8人は、1人の姫の下に決意を固め、この殺し合いを打破しようとしていた。
このままの流れに乗って、これ以上犠牲を出さずに、殺し合いを止められればいいとさえも誰もが思っていた。


「朝日が昇れば、ここを出てデパートに向かうぞ。」
「デパートまで8人でぞろぞろ歩くと目立って仕方がありません。ここに残る組と、デパートへ向かう組に4人ずつ分かれませんか?」
「うむ。一理あるな。だが統率者がいなくて、この場所は保つのか?」
支給品のパンを頬張りながら提案する柊ナナに対し、ボトルの水を飲むデマオンが意見を唱える。

「なんでアンタが向かう側のリーダーってことになってるのよ……。」
クリスチーヌが大魔王相手とは思えぬほど歯に衣着せぬ物言いで横槍を入れる。
「勿論、目的地で見つけた物が良き道具でも、キサマらでは上手く使えぬ可能性があるからだ。」
協力相手とはいえ、傲岸不遜な態度をとるデマオンに対し、指導者の座に立てるのは力や頭脳以上に、自分だけは何でもできるという不動の自信ではないかと彼女は思う。

「ではこちら側では私が指揮を取りましょう。それで問題ないですか?」
そこにゼルダが意見する。
「うむ。貴様なら問題なかろう。次はどういったメンバーを振り分けるかだな。」


一方で、フロアの隅の方で複雑な表情を浮かべている満月博士に対し、不信感を覚えたミドナが声をかける。
「月頭、オマエさっきからずっと黙っているけど、会話に入らなくていいのか?」
「いやあ、こういう決め事は、若い者たちに任せた方が良いのではないかと思ってな。」
「アンタまだそういう年じゃないだろ……。」
「この際年齢なんて関係ない。これだけ多くのメンバーが集まったんだ。上手く行けば一気に殺し合いを転覆することが出来るのではないか?」
「何かさっきと言ってる事矛盾してないか?」

神妙な顔つきを浮かべていたと思いきや、急に笑顔になって景気の良いことを言いだす満月を不審に思いつつも、ミドナもまた会話の中心に入ろうとする。


『諸君。今いる世界を楽しんでいるか?』
そこで図書館内部にも、この戦いの主催者の声が響いた。


481 : 悪意の火種が笑った時 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/25(水) 18:50:47 UOUYUrYM0

『空気が重くなる』というのは、こういうことなのだ。
この場には満月博士にとっての美夜子の様に家族が呼ばれた者もいたし、逆に重清のように近縁の者が一人も呼ばれていない者もいた。
だが、誰もが共通して、空気が重くなる瞬間というのを味わった。
そして全参加者の4分の1がわずか6時間で脱落するという事実は、この殺し合いが何たるかを示すのには充分だった。


「おのれぇぇ!!あのデク人形共!!図に乗りおって!!」
デマオンが最初に激怒の声を漏らす。
自らをかつて倒した相手、だからこそ協力関係を築ければ頼りになりそうな相手の喪失への嘆き……ではなく、やりたい放題やって悦に浸っているであろう主催者に対しての怒りだったが。
しかし、その響きは図書館に空しく響くだけだった。


それからは8人もそろっていながら、暫くの間誰も言葉を発さず、誰もが他者が先に話すことを待っている状態が続いた。
ある者は不安な顔つきをし、ある者は歯を食いしばり、言葉に出さなくても想いは自ずと伝わってきた。
だからこそ言葉にする形で、それぞれの想いを聞きたがっていた。


「あの……これからどうするど?」
一番我慢が出来なかった重ちーが、会話を切り出そうとする。
「変えるつもりなどはない。犠牲になる者の数に脅えて行動を躊躇すれば、それこそ敵の思うツボだ。
それとデパートへ向かう者のうち1人はキサマだ。」
「え!?」

突然訳が分からずメンバーに抜擢され、重ちーは驚く。
「ハーヴェスト……だったか?貴様の虫のような生き物を出す力はモノ探しの上で極めて有用だ。連れて行かぬワケにはいくまい。」
「ホ、本当かど?オラの能力を評価してくれるなんて、大魔王様は見る目あるど!!
実はオラ、こう見えて前デパートでモノ探しをしたことがあるんだど!!」

豚もおだてりゃ何とやらと言うか、最初は驚いていた重ちーは自分のスタンドを高く評価され、得意気になる。
彼がデパートで行っていたこととは、捨てられた商品券や福引券をデパート中のゴミ箱からネコババしていたことなのだが。

「それならば私も連れて行ってくれないか。」
満月博士という、予想外な人物からの名乗り出たため、今度はデマオンの方が驚いた。


「知識がある者はこの際多ければ多いほど良いが……キサマはどういうつもりだ?」
「まだあなたのことは信用出来ないから、見張りのつもりだ。」
「いいだろう。わしがこの殺し合いに乗ってないことは、その目で確認するがよい。」

争いは避けられないとは思っていたし、現に相手は信用できないとは言っていたが、今の所敵意は向けられていないのだと安堵する。


「では最後の4人目は、私で問題ありませんか?」
次に提案したのは、4人ずつに分かれてグループを結成しようと最初に言ったナナだった。
彼女としては気になるのは、今も生き残っている3人の能力者だ。
他の参加者は死のうが生きようが割りとどうでもいいとして、生還後のことを考えると、この場所で殺しておいた方が最善だ。
中でも彼女にとって厄介なのが佐々木ユウカだった。
なぜ生き返ったのかは相も変わらず不明なままだが、殺した原因は自分である以上、きっとどこかで手ぐすね引いて報復の機会を狙っている可能性が高い。


482 : 悪意の火種が笑った時 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/25(水) 18:51:02 UOUYUrYM0
下手をすると、自分を危険人物だと参加者に吹聴していることも考えねばならない。
ここに滞在するのも悪くはないが、結局ここの来訪者は誰も能力者の情報を知らなかったし、そろそろ外へ出て彼らの情報も欲しい。


「ならばついてくるがよい。」
先程本の暗号を読むのに貢献したこともあり、デマオンはナナの同行をあっさりと許可した。

「では、私、クリスチーヌ、ミドナ、アイラの4人がこの場に残ることで良いでしょうか。」

メンバーが決まり、向かうことになる4人が階段から入口に歩いて行き、反対に残りの4人は階段を上って2階へと向かう。

この時、まだ図書館にいる8人は気づいていなかった。
屋上にくすぶっている火種のことを。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


時は少し遡る。


炎を表したかのような髪色の少女、秋月真理亜は、躊躇していた。
いくら忌死機構が取り払われているとはいえ、彼女ら呪力持ちには先祖代々から二重三重に植え付けられた、攻撃に対する嫌悪感が残っている。
モイを殺した時は殺そうと思って殺したのではなく、半ば自分の身を護るために殺したようなものだった。
たとえ愛する者のためだとしても、これほど多くの参加者を殺すのは憚られる。
しかしここにいる連中を食い止めないと、必ず優勝に差し支える。
自分はそれが出来るのか?


しかし、時は残酷だ。

例え彼女の時間が止まったままでも、周りは容赦なく動いていく。


そして、放送によってこの殺し合いがいかほど進んでいるか思い知らされた。

(嘘……13人!?)
幸か不幸か、神栖66町の3人は全員無事だった。
早季以外の2人はやがて殺すことになると分かっていても、安堵してしまう。
だが、彼女が知っている者の中には、バケネズミのコロニーの将軍、奇狼丸も含まれていた。
彼のことは早季から聞いたことがほとんどだったが、バケネズミの中でも特に手練れの将軍だという。
いくら呪力が使えないバケネズミと言えど、そのような者がこれほど早く呼ばれてしまう事実、それだけではなく、この殺し合いで既に13人もの犠牲者が出ていることは、彼女に事態は予想以上に深刻だということを知らしめた。


このままだと、優しい彼女が殺されてしまうのも時間の問題だ。

もう迷っている時間は無い。
覚悟はできた。せざるを得なかった。
あの放送が、彼女にとっての最後の藁になった。
支給品袋から、赤と橙で構成された一輪の花を出す。


483 : 悪意の火種が笑った時 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/25(水) 18:52:09 UOUYUrYM0

屋上から地面、図書館の裏側に降り立つ。
図書館の近くに生えている太い木の枝の上に座り、呪力で1階の窓ガラスに穴を空ける。
音を出さずに開けたのと、図書館の中の人が集まっている場所とは離れていたことで、まだ誰も気づいていない。


呪力で微量な風を起こし、花を図書館の中心まで飛ばす。


「ん?アレは何だど?」
図書館の中から声が聞こえた。
道具には気付かれたようだが、自分には気付かれていないと確信する。
今、賽は投げられた。
すぐに図書館の1階の中空へと飛んで行った花に、呪力を送る。

彼女が図書館に入れた花は、予想に違わずただの鑑賞物ではない。
花粉の様に火の玉を飛ばすことが出来る、曰くつきの品物だ。
図書館と言う場所である以上、火攻めにも使うことが出来る。
とはいえ、これだけで戦禍を潜り抜けてきた者達全てを倒すのは極めて難しい。
事実先程の戦いで、真理亜さえもそれを認識している。
ただ使うだけでは、敵に僅かながらの損傷は与えても、8人全体に響くほどの威力は間違いなく発揮しない。


ではここで1つ問うが、この植物と彼女らの呪力の相性は良いのか悪いのか。
答えは最高である。


そもそも植物と言うのは、呪力の下で無限の変化を遂げてきた。
例えば呪力による品種改良によって無毒で美味な野菜を作ったり。
呪力が暴走する業魔がいる場所で、異形な姿と化した植物があったり。


ファイアフラワーと言う植物は、元の世界にあるはずの無かった呪力によって、新たなるステージへ行きつくことになる。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


重ちーが気づいた時には、もう手遅れだった。
ファイアフラワーから、小さい花とは思えないほど大きな火の玉が大量に散布され、図書館全体に飛び散る。
元々の力を、簡易的な発火呪力によって増幅させたのだ。
いくら炎の力を秘めていると言えども、植物は植物だ。
強すぎる炎の前では、その力を出すことなく灰燼に帰す。
しかしその壁を、呪力と言う未知の力によって乗り越えたのだ。


荒々しい火球は、図書館の本を、本棚を、絨毯を、床を次々に焼いていく。
1階にいた4人は、その急襲に戸惑った。

「く……やはりひと時であっても、見張りを払うべきではなかったか……。」

デマオンだけは敵の急襲だと察し、メンバー全員を図書館内部に集めたことを僅かながら後悔する。

「あっついど!何とかならないのかど!!」
「バカを言うな!こんな場所で魔法を打てば、キサマらも巻き添えになるのが分からんのか!!」


484 : 悪意の火種が笑った時 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/25(水) 18:52:29 UOUYUrYM0

そう言いながらしてやられた、とデマオンは思った。
彼自身が本気を出せば、炎も図書館も襲撃者も全て魔法で吹き飛ばし、強引に脱出することさえ難しくはない。
だが、それを行えば他の7人はただでは済まない。
加えて、ここは図書館という人工物で構成された空間である以上、岩や星に魂を与えて迎撃する悪霊降臨術も使えない。
従って、ここはデマオンが力を活かすのには最も不向きな場所なのだ。

すぐに火球は4人が固まっている場所にも飛んでくる。

「ドカン!!」
そこでナナが空気砲で、火球を弾いた。
完全には相殺しきれず、細かい火になって辺りに落ちるが、一時しのぎにはなった。


「早く脱出しましょう!!」
一時は難を逃れたが、降って来る火球は数は少なくなりつつも、火は次々に引火し、燃え広がっていく。
侵略すること火のごとく、と言う言葉を体現したような状況だった。
ここにいれば全員蒸し焼きにされるのも時間の問題だ。

「ハーヴェスト!!おらを乗せて、早く脱出するど!!」

重ちーは急いでスタンドを出して、自分はその上に乗る。
既に床はあちらこちらが火の海になっているが、ハーヴェストはそのコンディションの悪さをカバーできる。
一団となったハーヴェストは重ちーを乗せて床ではなく、壁伝いに移動する。

「やりおる。」
「私達も早く脱出しましょう!!」
重清は安全だと考え、残りの3人もそのまま出口へと向かう。


単純な距離では図書館の端まで移動しないといけない以上は遠回りだが、壁は燃えてないため、極めて安全な手段だ。
移動経路に、先程ファイアフラワーが入ってきた窓、つまり真理亜が近くにいなければ。
そして、満月やデマオン、ナナと距離を離さなければ。


「あ、あんたは!!?」
穴が空いた窓の外で、そのすぐ近くに隠れていた人が見えたことに重清は目玉をひん剥いて驚くも、既に遅かった。
彼女のすぐ近くまで移動してしまったことで、呪力によって吹き飛ばされる。

「うわああああああああ!!!」

急に予想外な方向から引力が掛かったかと思いきや、突如それが失われ、重力に従って落下していく。
そして、その下は炎が燃え盛っている場所。
ドシャ、と重い物を落とした時の音が、燃え盛る本棚から響く。
他の3人の距離は、もちろん離れている。
ハーヴェストを再度集合させようとするも、最早手遅れだった。


「おらは……パパとママの所へ……かえ……。」

火の中で彼はもぞもぞとしばらく動くも、やがて動かなくなった。
死んだ。
主催を倒そうと手を組んだ8人のうち、1人が早くも死んでしまった。


485 : 悪意の火種が笑った時 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/25(水) 18:52:48 UOUYUrYM0



またしても敵が予想外な方法を使って脱出をしてこられたことに真理亜は驚くも、どうにか脱出を止めることに成功した。


「ギーーーーーーーッ!!」
上の方から使い魔の声が聞こえて来る。
元の飼い主でもいたのか、何故か1階から攻撃することを拒否していたので、2階から攻撃させることにした。


その時一筋の汗が額から両目の間を通って行った。
気が付くと、服は汗でびっしょりと濡れていた。
図書館内部から伝わってくる熱気だけではない。
大量殺人という、自分のやっていることの恐怖感が要因だった。


これは彼女の友達である早季しか知らないことだが、かつて彼女がいた町を襲った悪鬼とはやっていることが似ていた。
かの悪鬼と呼ばれた少年は、町の人を殺し、町中に火を放ち、焼いていく。
そして火の無い場所から逃げた者は、更に呪力で殺して行った。


――おらは……パパとママの所へ……かえ……。
真理亜はあの炎に包まれた少年が、最後に大声で発した言葉を思い出した。
きっとあの子の家族は、ずっと帰りを待ち続けることになるのだろう。
早季の両親が、早季の姉のことを忘れたこととは違って。


――あなた、誰かに怨まれながら生き続ける覚悟はあるのよね!!
夜、殺そうとした少女から言われた言葉を思い出した。
これだけ多くの人間を殺せば、さぞかし多くの者に怨まれながら生きることになるとは、彼女も分かっていた。


違う。
そんなものを恐れている場合ではない。
早季の命と、他の参加者の命は、重さが違う。
彼女は、新世界の礎になるべき人間だ。


あの少年は、今わの際に家族の名前を言った男も、きっとこの殺し合いから仲間と共に生還できれば良いはずだ。
だけど、私は違っていた。
私一人が無事に帰ることが出来ても、全く意味はない。
町からの脱走者として、誰からも怨まれずに、誰からも恐れられずに生きる方法なんて、最初からない。
帰ることが出来ればそれで良い人たちとは、絶対に違う。


出来るか出来ないかじゃない。
やるしかない。
私がやることは他の参加者とは違い、生還することではない。
人間もバケネズミも、そうじゃない生き物も全て殺して、彼女に託す。
それが私の願いであり、目的で、残された出来ることだ。


彼女の外で広がっているのは、紅蓮の炎。
しかし彼女の狭い心の内で静かに輝いているのは、空の色の様に鮮やかな青の炎。
それは愛する人と、その人が作る新世界のために戦う彼女の意思を燃料として、代わりに冷静な思索と、赤い炎以上の熱い闘志を齎す。


一時は頭を動かすこともままなら無かったが、燃え盛る青の炎の裏で、彼女の思考はとても冷静だった。

この世界では、自分の呪力とは異なった超能力を持っている者がいるのかもしれない。
だからこの炎だけではじきに脱出されてしまうと思う。
これ以上1階の窓から脱出を試みる者はいないことを考えて、今度は図書館の入口へ回る。


彼女が図書館の正面で行ったことは一つ。
金属製の扉の僅かな点に熱を加え、形を歪ませたのだ。
熱が加わると膨張するのは金属の共通する特徴の一つだ。
全人学級時代に鉄の玉と金属輪の実験でやった。
これで敵を閉じ込めることが可能だろう。





486 : 悪意の火種が笑った時 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/25(水) 18:53:07 UOUYUrYM0

「……間に合わなかったか」
デマオンは冷静に、しかし苛立たしげにつぶやいた。

場所が離れているのと、崩れ落ちた本棚が邪魔をしているので、彼の死の姿は幸か不幸か見えなかった。
だが、彼の悲鳴が聞こえなくなったことで、どうなったのか嫌でも分かってしまった。


「ドカン!!ドカン!!」
なおもナナは必死で脱出経路で燃えている火を吹き飛ばそうとしていた。
しかし、炎が燃え広がっていくペースの方が早い。

そこへ、火の付いた本棚が3人の中で1人、満月博士の方に崩れてきた。
「満月さん!!」
慌ててナナが声を上げた。

「落ちよ!!水柱!!」
しかし、その程度で死ぬほど、彼も弱い男ではない。
突然現れた水は、本棚の火を消し、崩れてくるそれを吹き飛ばした。
仮にも魔法学の第一人者である彼の魔力は、決して侮れるものではない。
そして彼の魔法は、大魔王たるデマオンに比べれば断然劣るが、大量の本棚が支配する迷路のように狭い場所で活かすには、魔王以上にふさわしい物だった。


「すごいです!!」
少し服が濡れるも、危機を脱したナナは喜ぶ。

(これが出来るなら、もっと早くやっておけば重清も助かったんじゃないのか?)
満月を賞賛する裏で、彼の妙な間の悪さに、違和感を覚えるナナ。
それの正体を気付けなかったのは最大の痛手になることを知らなかった。


行先はデマオンが示し、小さい火はナナの空気砲が、大きい炎は満月の魔法が処理していく。
熱気が渦巻く通路を潜り抜け、どうにか無事に入り口にたどり着いた。
この場所は本棚の数も少ないため、火の手はあまり上がってない。
しかし、そこでデマオンが怒りの声を上げた。

「どういうことだ!!」
ドアに手を触れるも、それが押しても引いてもびくともしないことに、苛立ちを覚えた。

「火事のせいで、建物の骨組みがおかしくなっているのかもしれません!ここはこれで……。」

始めてナナは既に亡き重清から承った、ナンシーダイナマイを取り出した。
「私がどうにかします。デマオンさんは下がってください。」
ナナが鞄から爆弾を取り出す。
「うむ。頼むぞ。」

「皆さん、耳を塞いで下さい!!」
けたたましい爆音と共に、ケーキの姿をした武器は爆ぜる。
そこに花火の様に作成者ナンシーの姿を見せ、最後に図書館の扉を吹き飛ばした。
炎獄から解放されたことを表すかのように、外気の清涼感がナナを迎え入れる。
「地球人にしては二人とも良き働きで会った。
だが気を付けろ。外で侵略者が命を狙っておるかもしれぬ。」

危機を脱してもなお、デマオンは警戒を怠らなかった。

「ええ、まずは……。」
「チンカラホイ。」

最も、それは外からの敵にだけだが。


487 : 悪意の火種が笑った時 ◆vV5.jnbCYw :2021/08/25(水) 18:53:31 UOUYUrYM0
以上で前半投下終了です。
後半は明日には投下します。


488 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/26(木) 22:47:41 SIC7KbOQ0
後編投下します


489 : 悪意の火種が笑った時(後編) ◆vV5.jnbCYw :2021/08/26(木) 22:48:57 SIC7KbOQ0

「ちょ、ちょっとこれ、どうなってるのよ!?」
2階に戻ってからすぐに下のフロアが騒がしくなり、急に気温が高くなってきたことに不信感を覚えたアイラは、一早く下の階へ戻る。
どういうわけか、1階が火の海になっていた。


すでに火は取り返しがつかないほど燃え広がっている。
おまけに通路は、燃え盛る本棚が倒れている。
人の身で突破して、入り口に向かうには到底無理だ。


彼女の仲間ならば氷系の魔法で消化すること、あるいは爆発系の魔法で吹き飛ばすことが可能かもしれない。
あるいは津波やメイルストロムを使うことで消し去ることが出来るかもしれない。


しかし、どれも彼女は使うことが出来ない呪文と特技だ。
無い以上はもしもの話を考えても仕方が無い。
とにかく、この通路は人間には通れない。
離れた場所から、先遣隊の声が聞こえてくるが、助けに行くのは不可能だ。


「え?重ちー君?」
どうすべきか立ち往生していた所、能力を使った重ちーが自分を乗せて、すぐ近くの壁を伝って移動していた。
シュールなこと極まりない動き方をしていたが、壁は燃えていないため、少なくとも彼は大丈夫だろうと安堵する。


しかし、その確信は一瞬で砕け散った。
見えない壁にでも当たったかのように、突然彼は良からぬ方向に吹き飛ばされ、そのまま燃え盛る本棚の所へ落ちていく。


(今のは何?)
彼のスタンドがどういうものか分からないが、アレはきっとスタンドの失敗ではない。
窓際にいる襲撃者の攻撃によるものだ。
先遣隊はどこにいるのか分からないが、期待は出来ない。
空を飛べるミドナを呼びに行きたかったが、その時間は無い。


彼女が考え得る最悪のパターンとは、助けに行こうとして、自分も殺されることだ。
重清がやられたのは、魔法なのか狙撃なのかはたまた見知らぬ能力なのか分からないのが、どうにももどかしい。
だからと言って彼を見捨てたくはない。

ザックから、姿を消せる「モーテン星」を取り出し、胸に付けて走る。


彼が飛ばされた場所は、どちらかというと入り口よりも2階への階段に近い。
だから今急げば間に合う。
その期待を胸に、ジャンプして壁を無理矢理蹴り、一足跳びに重清の近くへ行く。
神の踊り手として鍛えた俊敏さが、道なき道を進むことさえも可能にする。


490 : 悪意の火種が笑った時(後編) ◆vV5.jnbCYw :2021/08/26(木) 22:49:22 SIC7KbOQ0

(熱っ!)
火の粉が飛んでくるが、それぐらいの熱さは我慢するしかない。


いくらかの火傷と引き換えに、アイラは彼が落ちた場所の近くにたどり着く。
「掴まって!」
「おらは……パパとママの所へ……帰るど……」

アイラの声がかき消えるかのような大声で、生を叫ぶ。
しかし、それが最後の叫びになった。
現に言葉の最後の方は、徐々に消えつつあった
彼の伸ばした、短い右手を掴み、火の中から引きずり出そうとする。
しかし、手遅れだった。
必死で生きようとする手が、だらりと力を失う。


助けられなかった。
どうにかして引っ張り出そうとするが、そこでさらに炎が絨毯の床を燃やして近づいてきた。
このままじゃ自身も危ない。
そう思ったアイラは、ディフェンダーを取り出し、炎の侵略を防ぐ。
攻撃だけではなく防御にも使える幅広の剣は、彼女を致命的な火傷からは守った。
しかし、それは重清を見捨てる選択でしかなかった。
加えて、火が不自然な動きをしたことで、自分が透明になって近づいていることを敵に察知されるかもしれない。
だが、追加の攻撃は来なかった。


しかし、いくら重い武器を振り回して戦うことが出来るアイラでさえ、体重が110キロある彼を、片手で抱えて、火の海を突っ切るのは不可能だ。
このままどうにかして図書館から出るか、2階へ戻りこの状況をゼルダたちに伝え、脱出ルートを作るか。
コンマ数秒悩んだのち、アイラは後者を選択することにした。


こんなことになってるのに、なぜ2階の者は誰も降りてこないのだと疑問と僅かな不快感を抱きながら、急いで階段をかけ上る。
勿論、モーテン星のスイッチは切った。
いつまで持つか分からない以上、ずっと付けている訳にはいかない。

「クソッ、何だよオマエ!!」
そこには、ミドナが来れなかった理由が存在した。

「気を付けて、アイラ!奴は両手から電気を打って来るわ!」
クリスチーヌが指したのは、猫と蝙蝠を合わせたような怪物だった。
空を飛び回り、2階にいる者達を攪乱していた。


491 : 悪意の火種が笑った時(後編) ◆vV5.jnbCYw :2021/08/26(木) 22:50:00 SIC7KbOQ0

その素早い動きでは、ゼルダの矢も当たらず、クリスチーヌの頭突きが当たる高さよりも上を飛んでいた。
唯一空を飛べるミドナだけが、戦えていたのだ。


「コイツ……これでも食らえ!!」
仮面の飾りが拳のような形を作り、小型の怪物に殴り掛かる。
しかし、怪物は難なくそれを躱し、反対にミドナに電撃を見舞う。

「ギイ!!」

「やりやがったな!!」
ミドナは八重歯をむき出しにして、敵意を一層露わにする。
旗色は良くない。
だが、それはアイラが戻ってきたことにより、大きく変わる。
敵の高さからすれば、アイラの跳躍力を持っても届くのは難しい。


しかし、彼女は今度はディフェンサーを壁に突き刺し、それを踏み台にしてより高くに飛び上がった。
幅広い剣は、攻撃や防御だけではなく、足場としても役に立った。

「これを食らいなさい。ムーンサルト!!」
「ギ!?」
回転しつつ体当たり。
予想外の攻撃に使い魔は避けられず、吹き飛ばされた。


「でかした!」
そこへミドナの拳を使った一撃がクリーンヒット。
吹き飛ばされ、力の差を感じたからか、2階の窓の外から逃げていく。
しかし、そこでゼルダが弓を引き絞り、矢を放った。
いくら動きが素早くても、敵の行き先が分かれば、矢を当てるなど容易な話だ。


彼女の光の力を秘めた矢は、闇の力を持つ者、転じて悪魔にこの上なく力を発揮する。
それが小悪魔の心臓に吸い込まれようとした時、急にそれは止まり、逆方向に飛ばされた。

「姫さん!危ない!!」
ミドナが叫ぶも、意味不明な方向に動いた矢を避けることは出来ず、その矢は彼女の右肩に吸い込まれる。
「うぅ……。」

「姫さん!!クソッ……!!」
当たった場所からして、致命傷ではないが、だからと言って放っておくわけにはいかない。
またも彼女を助けられなくなることを恐れたミドナは、姫の下に飛んでいく。
しかし、彼女の手当てだけをするわけにもいかない。

「みんな、気を付けて!!」
彼女が警告する。
夜、似たような動きをした銀の矢を見たから、その立役者が誰なのかはクリスチーヌは分かった。


案の定と言うか、空を舞うようにして窓から入って来たのは、ゼルダよりも若い燃えるような赤毛の少女だった。

「あの子モイさんって人を殺している!!」
「チッ、どいつもこいつも、何でそこまで血気盛んなんだ……。」
ミドナも苛立たしげな表情を浮かべる。
彼女にとって、モイという青年は狼だった時のリンクが散々化け物扱いされて攻撃された思い出しかない。
言うならば、どうでもいい人間だ。
だが、仲間の知り合い程度の人間と言えど、その人物を殺した相手を目の当たりにして、不快な気持ちを表さない方がおかしい。


「下を火の海にしたのもあなたね!」
「そうよ。」

この場所に来て、始めて真理亜は言葉を発した。
だが、その言葉はひどく冷めていた。
彼女の瞳の奥には、1階の炎とは異なる色の、青い炎が静かに燃えていた。


492 : 悪意の火種が笑った時(後編) ◆vV5.jnbCYw :2021/08/26(木) 22:53:02 SIC7KbOQ0

【B-5/図書館二階/一日目 朝】

【アイラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:ダメージ(小) 軽い火傷 職業 調星者 (スーパースター)
[装備]:ディフェンダー@ FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1モーテン星@魔界大冒険
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラを再度討つ 図書感からの脱出
1. 真理亜と使い魔を撃破
2. アルスとメルビンが心配
※職業は少なくとも踊り子、戦士、武闘家・吟遊詩人・笑わせ師は極めています。
参戦時期はED後。



【ゼルダ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 】
[状態]:右肩に矢傷
[装備]:アルテミスの弓@ FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:ザントの企みを阻止する 図書館からの脱出
1. 真理亜と使い魔を撃破
2. 怪我の治療をしたい。

参戦時期はミドナとリンク(狼)が出会い1回目の頃。
※参加者のトランプは確認していない。


【ミドナ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 】
[状態]:健康
[装備]:ツラヌキナグーリ@ ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:ザントを討ち、光と影の両世界を救いたい
1:怪我したゼルダ姫が心配
2:真理亜と使い魔を倒す
参戦時期は瀕死の状態からゼルダにより復活した後
陰りの鏡や影の結晶石が会場にあるのではと考えています。



【クリスチーヌ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:HP3/4
[装備]:イツーモゲンキ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品 アイアンボーガン(小)@ジョジョの奇妙な冒険 キングブルブリンの斧@ゼルダの伝説
[思考・状況]
基本行動方針:首輪解除のヒントを見つける
1.図書館から脱出する
2.仲間(マリオ、ビビアン)を探す
3.クッパ、バツガルフ、真理亜に警戒
4.モイやノコタロウ、ピーチの死を無駄にしない
5.首輪のサンプルが欲しい。
※図書館の本から、DQ7.FF4にある魔法についてある程度の知識を得ました。
※首輪についてある程度仮説を立てました。
• 爆発物ではないが、この首輪が原因で死ぬ可能性は払拭できない。
• 力を奪うのが目的

【秋月真理亜@新世界より】
[状態]:背中に打撲 返り血
[装備]:銀のダーツ 残り9本@ドラえもん のび太の魔界大冒険 使い魔@ドラえもん のび太の魔界大冒険
基本支給品×2ラーのかがみ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たちㅤモイの支給品0〜2
基本行動方針:渡辺早季@新世界よりを優勝させる。
1.2階にいるものを全滅させる。
2.殺害でも分断でも、出来るだけ戦力を削ぐ
3.いざとなれば逃走も辞さない

※4章後半で、守と共に神栖六十六町を脱出した後です

※ラーのかがみにより書き換えられた記憶を取り戻しています。

※呪力は攻撃威力・範囲が制限されており、距離が離れるほど威力が弱まります。


493 : 悪意の火種が笑った時(後編) ◆vV5.jnbCYw :2021/08/26(木) 22:53:27 SIC7KbOQ0
場所は変わり、図書館の入り口。


「彼女を殺すつもりはない。魔法は手加減をしておいた。だが、君は別だ。」
「どういうつもりだ!!満月!!」
そこにいるのは怒りをあらわにする大魔王と、焦点の合わない瞳を持った満月博士。
そして、不意の超能力の一撃を受けて、気絶した柊ナナ。


しかし、ここは屋外である以上、図書館を巻き込むことは無いまま、魔法を思う存分打つことが出来る。
いくら不死の力が失われたと言っても、魔法合戦で1人の人間に負けるわけがない。
そのはずだが、魔法は出なかった。


ふと見ると、満月は突然緑と紫色で構成された奇妙な杖を持っており、それが不気味な光を放っている。
それが自分の魔法を封じている原因だとは、自ずと分かった。
だが、それが分かるより、彼の豹変を分かりたかった。


「私は心が弱い男だ。先ほどから君にスキが出来ないか、そのことだけを考えていたせいで、重清君を助けるのに遅れてしまった。」

協力するつもりじゃなかったのか、とデマオンが言いたい裏で、満月はさらに続ける。

「私はね、美夜子を失ってしまった以上、君をのさばらせておくわけにはいかないんだ。
現に君はこの殺し合いが終わったら、また地球を征服するつもりだったのだろう?」

痛い所を付かれ、図星になるデマオン。
だが、彼も言い返す。

「それは否定せぬ。だが、それが貴様の娘を失ったことと、どういう関係があるのだ。」
美夜子を殺したのはデマオンではない。
だから協力すると言っておきながら、美夜子が死んだからと言って、デマオンに反旗を翻すのはおかしい。
怒りの矛先を向けるのだとすれば、それは美夜子を殺した何者か、あるいはこの殺し合いを開いた者達だ。


「このさい関係などどうでも良かろう。君を殺す。それが生き残ってしまった私の、唯一の望みなのだからな。」
その表情は、正気の人間のものとはとても思えなかった。


「やれるものならやってみろ!!魔力1つ封じたからと言って、人間ごときが魔族の王にかなうと思うな!!」

いくら魔力が無くても、過酷な環境で生まれ育った魔族の生命力は人間のそれとは一線を画する。
増してや、それが魔族の王ともなれば、その差は安易に覆らない。


突然、デマオンは下腹部に何かで斬られたような感覚を覚える。
出血はしていない。だが、突然の虚脱が彼を襲った。

「ぐ!?」
「私の武器は杖だけだと思ったか?」

満月博士が、杖を持ってない方の手で握りしめているのは、剣の柄。
実は彼は、放送が終わってからは見えない形でずっと握りしめていた。
そして、期は熟した。
彼の吐息が、青白く光り、柄の先に集まって刃を精製する。


494 : 悪意の火種が笑った時(後編) ◆vV5.jnbCYw :2021/08/26(木) 22:53:50 SIC7KbOQ0

それはかつてデマオンとは異なる世界の魔族が作った、人の憎しみを駆り立てる邪悪な道具。
魂の剣と呼ばれている。


「このような力を持つのか。だがこれで終わりはせん。美夜子の痛みを味わってもらう。」

彼が地球の侵略者たる魔族の王を殺すに至った理由は、魂の剣だけが原因ではない。
現に彼は、この殺し合いで最初に出会った時は、この大魔王に対する憎しみを抱いていた。
しかし同盟を組んだ方が得だということや、美夜子を見つけ、主催を倒すまでに無駄な力を使いたくないという優先順位のために、殺害したいという衝動を抑えていた。


しかし、彼女の喪失で心に生まれた穴は、邪悪な剣に容易に入り込まれてしまった。
長きに渡り燻っていた魔族への憎しみと、協力の間で揺れ動いていた葛藤は、邪剣の一押しによって容易に傾いた。


「願ったりかなったりだ。長年追い求めていた魔族の王を、この手で殺せるのだからな……。」
死人のような青い顔になりながら、正気とは思えない笑みを浮かべる満月。
それを睨みつけながらも、魔王の表情は極めて苦々しかった。


悪意の火種は、余すところなく広がっていく。
それは、手を取り合った8人の絆を、いともたやすく壊していった。


【矢安宮重清@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 死亡】
【残り 37名】


【B-5/図書館前/一日目 朝】


【柊ナナ@無能なナナ】
[状態]後頭部に打撲 気絶
[装備]空気砲(90/100)@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)、名簿を七並べ順に書き写したメモ、ナンシーダイナマイト@ペーパーマリオRPG
[思考・状況]
基本行動方針:最低でも脱出狙い。可能ならオルゴ・デミーラ、ザントの撃破。最悪は優勝して帰還。
0.……?
1.ここにいるメンバーのうち何人かで、デパートへ向かう
2.殺し合いに乗っていない参加者と合流を目指す。
3.回復能力を持つミチルと東方仗助と合流したいが、1よりは優先順位は低め
4.小野寺キョウヤはこの殺し合いの中なら始末できるのか?
5.佐々木ユウカは出会ったら再殺する。
6.スタンド使いも能力者も変わらないな
7.満月博士、デマオンの関係に警戒
※参戦時期は20話「適者生存PART3」終了後です。
※矢安宮重清からスタンドについて、東方仗助について聞きました。
※広瀬康一、山岸由香子、ヌ・ミキタカゾ・ンシをスタンド使いと考えています。
※異世界の存在を認識しました。



【デマオン@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:HP2/3 虚脱感 魔法封じ
[装備]:世界樹の葉@ ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:不遜なるデク人形(オルゴ・デミーラ、ザント)をこの手で滅し、参加者どもの世界を征服する
0.満月博士……!!
1.デパートへ向かい「鍵」の正体が何なのか調べる
2.デマオン軍団の一員として、対主催の集団を集める。
3.刃向かうものには容赦しない


495 : 悪意の火種が笑った時(後編) ◆vV5.jnbCYw :2021/08/26(木) 22:54:17 SIC7KbOQ0


【満月博士@のび太の魔界大冒険 】
[状態]: 魔力消費(中) デマオンへの敵意 魂の剣による暴走状態
[装備]:魂の剣@ドラゴンクエストVII 魔封じの杖@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:デマオンの殺害
1.他の参加者はどうするか?
2.美夜子……
参戦時期はエンドロール後
ヤンとの情報交換でFF4 の世界の情報を得ました。


[支給品紹介]

魂の剣@ドラゴンクエストVII

満月博士に支給されていた、最悪の支給品。
普段は剣の柄だけになってザックの中に眠っているが、彼が何者かに対する殺意を許してしまった場合、吐息が刃となって現れる。
持っていると人を憎もうとする気持ちだけが溢れ、正気でいられなくなる。
また他の剣と同様、使うだけで摩耗していき、同時に持ち主の魂もボロボロになっていく。
そのまま戦い続けると、最後には気が狂って悶え苦しみながら死ぬ。
正気を取り戻すには、本人の魂で作られた剣で持ち主の身体を貫くしかない。
本ロワの特別ルールとして、一撃で魂を奪うことは出来ないが、徐々に体力が減っていき、最終的には殺されてしまう。


魔封じの杖@ドラゴンクエストVII

満月博士に支給された杖。
道具として使うと、敵の魔法を封じることが出来る。
ただし、新世界よりの呪力、無能なナナの能力、ジョジョのスタンドなどは封じられない。


モーテン星@ドラえもん のび太の魔界大冒険

アイラに支給された、星形のバッジ
胸に付けることで、姿を消すことが出来る。
本ロワでは制限として、10分ほどしか電池が無い。


ファイアフラワー@ペーパーマリオRPG

モイに支給されていた道具。
使うとファイアマリオになるアイテムではなく、そこら中に火の粉を飛ばすことが出来る。


496 : 悪意の火種が笑った時(後編) ◆vV5.jnbCYw :2021/08/26(木) 22:54:29 SIC7KbOQ0
投下終了です。


497 : ◆2zEnKfaCDc :2021/08/28(土) 23:41:03 7XDjCqMQ0
すみません、予約の延長をお願いします。


498 : ◆vV5.jnbCYw :2021/08/30(月) 20:07:03 HakaufEc0
スクィーラ予約します。


499 : ◆vV5.jnbCYw :2021/09/03(金) 00:00:08 G4cym8V60
投下します


500 : 解答まであと一歩 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/03(金) 00:00:39 G4cym8V60

カイン達を振り切って、スクィーラはそのまま南へ進んだ。
念には念を入れて、何度か後ろを振り返るも、彼らの姿は見えなかった。
いち早く山奥の塔に戻った際に、意図的に足跡を付けておき、その先に立っていた元々壊れかけの柱に細工をしておいた。
すなわち、歯で削って脆くしておいたのだ。
あれで2人共倒れてくれたか、少なくとも行動不能になってくれれば儲けものだが、期待はしないことにした。


『諸君。今いる世界を楽しんでいるか?』
そこへ、島の最端から最端まで、重厚な声が響いた。


その内容は、最初の6時間での脱落者の名前と、禁止エリアの発表。
なるほどこのようにして殺し合いを参加者の減少と共に縮小化していくのか、と納得した。
そこから聞き取った内容は、彼にとってむしろ朗報だった。
奇狼丸という、ここでも自分の計画を練る上で、障害になるであろう相手がこれほど早く脱落したからだ。


たとえ人間に協力したことを念頭に置かなくても、彼の保守的な思想はスクィーラにとって気に食わないことこの上ない物だった。
そして今回の彼の脱落と、自分の五体満足な生存は、彼の思想そのものが否定されたようなものだった。


それと彼の話では、もう1つ気になる点があった。
今いるD-1が、4時間後に禁止エリアにされてしまうという点だ。
彼自身、こんな所に4時間も突っ立っているつもりはないので、命の危険は感じていない。
じゃあなぜ、それが気になるのかと言うと、どういった手品で主催者は、禁止エリアと言うものを作ったのだということだ。


見た所、それらしき前触れは何もない。
(もしや、主催者の中に呪力持ちの人間がいるのか?)
スクィーラは、1つの仮説を導き出す。
基本的に彼が知っている呪力と言うのは、大まかに分けて2パターンある。
1つは呪力と言う名の「見えざる手」を操り、遠く離れた1つの物にエネルギーを加える方法。
もう1つは、決まった地点から円形のドームを広げるかのように、範囲内の狙った敵全てに等しいエネルギーを加える方法だ。


前者は呪力持ちならばほぼ出来るほど、ありふれた技巧だ。
しかし、後者は人間を知ろうとしてきたスクィーラでさえ、数えるほどしか知らない。
かつて神栖66町に攻め入った時にいた、鏑木肆星、そして日野光風という男ぐらいだ。


この殺し合いは、少なくとも4人呪力持ちの人間が参加させられている。
だからといって、同じ呪力持ちの人間が主催側にいないと断定するほど、スクィーラは短慮ではない。
同じコミュニティに属する呪力持ちの人間が、決して一枚岩とは限らないことは十分知っている。
そうでなければ、伊東守のような脱走者が現れたりはしないからだ。


その様に考えるうちに、目的地が見えてきた。
残念ながら、禁止エリアの正体は分からずじまいだが、やがて分かるかもしれないと考える。


501 : 解答まであと一歩 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/03(金) 00:01:36 G4cym8V60
荒野から場所は市街地へと変わり、そこからさらに南下すると、住宅群のなかでひときわ高い建物が目に付く。
それが、彼の目的地だった。
辺りに敵が潜んでいないか警戒しつつ足を進め、入り口までたどり着く。


彼の世界には、デパートのような大型建造物は無かったが、ミノシロモドキから得た、旧人類の知識の1つとして知っていた。
様々な物品が売られているこの場所ならば、ニトロハニーシロップの起爆剤になり得る物も手に入るのではないかという期待を胸に、中に入る。


デパートのガラスの扉は、スクィーラを迎え入れるかのように自動で開いた。
これは自動ドアというやつか、と一瞬思うも、実は何者かがドアを何かしらの手品で開けた上で、罠に嵌めるのが目的ということも考え、警戒する。
だがそれは杞憂なようで、いつまで経っても襲撃を受けることはなかった。


最初に入ってすぐの、案内所らしきカウンターを横切り、案内板を見る。


3F 衣料・装飾品
2F 武器・防具
1F 日用雑貨
B1F 食品


やはりこの殺し合いを勝ち抜く上で一番行くべきは2階だ。
しかし、スクィーラとしては地下1階に行ってみる。
期待通り、あらゆる食品の様々な香りがバケネズミの鼻孔をくすぐった。
いずれも、ミノシロモドキを介して得た知識でしか見ることの出来なかった加工食品だ。


スクィーラがいた、バケネズミの社会で作られる料理は、先史時代の人類のそれに比べて、明らかに低水準だった。
取れた野菜やコメを煮炊きしたもの、上手く動物や魚が捕まれば魚や肉を焼いたり、干物にしたものが主な食材だった。


たとえ知らない料理に関する知識を得たとしても、作り方が分からず、食材や調味料も調達できない以上、絵に描いた餅にしかならなかった。
そんな生活を送っていたスクィーラが、知っていただけの料理にありつける機会があるとするなら、素通りするのは難しかった。

どの道、彼は急いでいるという訳ではない。
最終的に優勝すればよいのだから、それまでの過程がどうであろうと問題はない。

早速目に付いた黄色と白で構成された塊――なんでもチーズと言うらしい、に噛り付く。
(!?)
口の中にボロボロとした食感と、紙の塊でも口に入れたような、人工的な苦い味が広がる。
チーズと言うものは味わったことは無い。
だが、これは食べ物の味ではないことはすぐに分かった。


ただの偶然と言うことも鑑みて、今度は骨付き肉の塊に噛り付いてみた。
同じように、木と蝋を合わせたような苦い味が口に広がる。
これもまた、食べ物ではないと判断し、吐き捨て、代わりに水で口を潤す。


(なるほど。そう甘くはないという事か。)
このデパートの立地条件、建設条件からして、食料が潤沢なこの場所に立てこもって戦うことが出来ると期待をしていたが、それは不可能なことが分かった。
ここにある食品は、恐らくすべて香りを付けただけの張りぼてだ。
食べることは出来ず、ただの雰囲気づくりのためにある。
せいぜい投擢物として使うか、これを見ながら支給品の味気ないパンを食べて気を紛らわすぐらいしか使い道がない。


従って、当初スクィーラが考えていた、この場所に置いてある骨や貝殻からカルシウムを採取するという計画も、恐らく実行できない。
また、食料油など、様々な用途で使えそうな道具も、ここから入手するのは難しそうだと判断する。


502 : 解答まであと一歩 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/03(金) 00:02:00 G4cym8V60

続いて二階へ向かう。
殺意や生物の匂いは感じない。
エスカレーターというらしい、移動式の階段を上った先に、最初に見えたものは所狭しと並んでいる拳銃だった。
棚に並んでいる方には、スクィーラには扱うどころか、持ち運ぶことさえ出来ないほど大きいものまである。
恐らく、バケネズミが開発した火縄銃の数倍の威力はあるはず。


それが本物だった場合なら。

カチ、カチ、と引き金を引いてみるも、全く反応はしない。
それ以前に、銃器としては明らかに軽い。
地下一階にあった食品と同じ、これもまた模型だということが分かる。


次は試しに並べてあった短刀を一つ手に取り、壁に向けて突き刺す。
その短刀はボロボロになって崩れ落ちた。
一方で壁には傷一つ付いていない。
こんなものを持っていったところで、せいぜいが脅しにしか使えないだろう。


そしてスクィーラが仮想敵としているのは、カインやクッパだ。
その様な相手に、ちんけな脅しが通用するとは到底思えない。
格下の相手ならば、支給品の毒針を使えば良いだけだ。


武器も期待できないと分かると、今度は3階へ向かう。
今度は、きらびやかな宝石を付けた指輪や首飾りが、スクィーラを迎え入れる。
金、銀、プラチナ、ダイヤ、ルビー、エメラルド、サファイア。
生還を考慮しており、かつ愚かな者なら、手あたり次第袋に詰め込んでいくだろう。
しかし、どれもこれもガラス細工だ。


期待せずに、爆薬の素材に用いる金の指輪を探してみるが、どれも一目で純金製ではない。余程の馬鹿でもない限りすぐに二束三文の指輪だと分かる、鈍い光を放っていた。
これをニトロハニーシロップに混ぜても、爆薬にはならない。


貝殻のピアスなども展示されてあったが、

装飾品店を後にし、今度は衣料品店に向かう。
馴染みあるもの、そうでないものが所狭しと立ち並ぶ。

中には、布だけではなく、服に金箔を散りばめた帽子や、不可思議な色をした服、さらには鎧や兜まである。
恐らくここにある服も、見た目だけで大した効力はないということは、今さら考えるまでも無かった。


しかし、最低限の寒さは凌げるほどの効果は得られるだろうから、1つ拝借していく。
かつて塩屋虻コロニーの将軍として着込んでいた鎧は、捕虜になった際に奪われ、この場所にいた時は、ボロ布1枚しか身に纏っていなかった。
ようやくまともな服にありつけることに胸を躍らせ、どれを選ぶか決めて行く。


503 : 解答まであと一歩 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/03(金) 00:02:52 G4cym8V60

展示されていた商品の種類こそは多かったが、いずれも人間向きのデザインなので、選ぶのには思いの外時間がかかってしまった。
とりあえず子供用と思しき、紺色のローブ、ついでにとんがり帽子も貰っていく。
その時、カチャンと金属音がデパートに響いたのを、スクィーラは聞き逃さなかった。


(これは……!?)
彼が手に掴んだそれは紛れもない、鍵だった。
しかも、先程の装飾品店にあった金の指輪やネックレスとは明らかに違う輝きを放っていた。
この鍵は一体どこで使えるのか。
もしかすると、この殺し合いで有利に立ち回れるようになるかもしれない。
改めて、ここにあった帽子やローブに、おかしな所が見られないか、探ってみる。


匂いや、ローブや帽子には自分以外に触った跡は見られなかった。
その為、これは、参加者の支給品にあって、何らかの理由でここに置かれたものではなく、最初からこの殺し合いの会場に置かれていたものだと認識した。


いや、違う。
鍵が「どこで使えるか」ではない。
これが、ニトロハニーシロップの起爆剤の片割れになり得るのだということだ。


一度考え直す。
これをどこで使えるか分からない鍵として後生大事に抱えるより、いっそ起爆剤にしてしまった方が良いのではないかと。
とりあえずもう1つの素材、カルシウムが手に入るまでこの考えは保留にしておくとして、念には念を入れて、これが金で出来たものなのか確かめてみる。


かつて人間が呪力に目覚めるまでの時代から、金は価値の高い鉱物故に、偽物が多く出回り、故に真偽を見抜く方法も作られてきた。
それを巡って、時には事件にも発展したことも資料から学んでいた。
例えば金の柔らかいという特徴から、噛んだり引っ掻いたりして、跡が付くか確かめる。
期待通り、鍵の持ち手の部分に前歯と爪の痕が付く。


そしてカギをザックに仕舞い、それから紙を取り出し、書置きを残しておく。
『ここにあった鍵を拝借いたしました。必要ありましたらバロン城に来てください』


これから向おうとする場所を書いておく。
今出した書置きに釣られてくるのが強者か弱者か、単体か複数人かは分からない。
また、出会う頃に起爆剤を全て揃えているかも同じことが言える。


だが、大群で押し寄せてきて、かつカルシウムを持ってない場合は、気付かれずに別の場所へ行けばよい。
持っていればまとめて爆殺するチャンス。
単体で強者が来れば、敵意を隠し、交渉をすれば良い。
その際に貝殻のようなカルシウムを含んだ物を手に入れれば儲けもの。
弱者ならば無視するなり、その場で殺して支給品を奪う成りすればかまわない。


504 : 解答まであと一歩 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/03(金) 00:03:20 G4cym8V60

様々なケースを考えながら、デパートの入り口にも同じ内容の書置きを置き、次の場所を目指す。
このままここで隠れていても良いが、新鮮な情報を得られなくなるのは、それはそれでまずい。
激戦区になるであろう中央部にノコノコ行くのは間抜け以外の何物でもないとしても、やはり人が集まりそうな場所へ向かうのが良いはずだ。
デパートでさえあまり大した物が手に入らない以上、もう1つの起爆剤はやはり参加者との接触を試みない限りは手に入れるのは難しそうだ。
もしかすると死体の骨から回収できる可能背もあるが、解体するのが難しく、それもまた運次第だろう。


だが、着実に勝利の道には進んでいるはずだ。
ニトロハニーシロップの爆発がどのようなものか、それを受けた者達はどうなるのか、期待に胸を躍らせながら、バケネズミの男は進む。



【F-1/デパート1階 朝】
【スクィーラ@新世界より】
[状態]:健康 高揚
[装備]:毒針セット(17/20) @無能なナナ 黒魔導士を模した服@現地調達
[道具]:基本支給品、ニトロハニーシロップ@ペーパーマリオRPG 指輪? 金のカギ?@調達
[思考・状況]
基本行動方針:人間に奉仕し、その裏で参加者を殺す。
1:バロン城へ。新たに匿ってもらえる対主催勢力を探る
2:ニトロハニーシロップで爆弾を作る。その為にカルシウムになり得るものを調達する。
3:朝比奈覚は危険人物として吹聴する
4:金のカギを爆薬として使うべきか?
5:優勝し、バケネズミの王国を作るように、願いをかなえてもらう


505 : 解答まであと一歩 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/03(金) 00:03:33 G4cym8V60
投下終了です。


506 : ◆2zEnKfaCDc :2021/09/04(土) 22:06:59 wb4Qacik0
ギリギリになりましたが、投下します。


507 : ◆2zEnKfaCDc :2021/09/04(土) 22:07:58 wb4Qacik0
 憎しみの果て、セオドールという男の物語は終わりを迎えた。その道程で奪った誰かの命は、再び芽吹くことはなく。残した災禍は歴史に未来永劫、刻まれることとなった。覆水の盆に返らぬがごとく、私の罪もまた消えるものではない。毒虫<ゴルベーザ>――世に数多の戦乱を引き起こし、悲劇を生み出し続けた彼はそう名乗った。

 責任を洗脳の主であるゼムスに求めることに一定の理がないわけではない。あの戦乱はゼムスが望んだものでしかない。事実として、正気を取り戻したゴルベーザは更なる殺戮を望むことなく、その矛先をゼムスへと向けた。ゴルベーザの意思は、紛れもなくゼムスの意思そのものだ。両親を失い、孤独となったセオドールに囁かれた声により、彼の悲しみは憎しみへと変換された。彼の飼っていた闇は、決して誰かを傷つける属性のものではなかったはずだ。

 しかし、どんな洗脳を受けていたとしても、その原因となった悲しみが家族の喪失に起因するのならば決して忘れてはならぬものがあったはずだ。魔法の力が強大なればこそ正しき力の使い方を志す父の教えと、母がその命と引き換えに遺した新たなる命の芽吹きの尊さ。彼ら両親を誰よりも誇りに思っていたなればこそ、その矜恃を志すは使命であろうに――あろうことか、魔法の力を破壊がために用い、そして他ならぬ弟と殺し合ったのだ。父の教えにも母の本懐にも背く悪行。紛れもなく、彼らの誇りを汚す冒涜だ。それを忘れるだけの憎しみに呑まれたこと、それは紛れもなくセオドールの罪に他ならない。

 ゴルベーザとしての己は、生涯抱えて生きるべきものだ。その後悔が誰の救済にもならなくとも。その罪が一人分の生で精算できるものでなくとも。それを背負うことこそ、戻れない過去に向けた唯一の贖罪なのだ。

 ああ、理屈の上では理解している。だが、己が悪行の一切合切を今一度思い返した上で、思う。足りぬ――償いには、到底足りぬと。

 ゴルベーザの物語は、すでに終わりを迎えた。だがその物語の残した傷跡は無くならない。セオドールの生を取り戻したその瞬間には、すでに彼の大円団は失われていた。幼少時に両親を失って以来背負い続けた限りなく深いマイナスを、できる限りゼロに近づけて行くだけの生。決してプラスになり得ぬ負債を抱えながら、セオドールの償いの物語は開始した。

 そして間もなくして――この殺し合いに呼ばれた。ダイヤのジャックのトランプに描かれた文字はセオドールではなく、ゴルベーザ――それは一度は終わった物語の役者である。

 一方で、これは物語の続きではない。今や彼の目的に、"ゴルベーザ"の名を与えたゼムスの思念は関与していないから――物語は、始まる前からすでに終わっていたのだ。何故なら、セシルは"最初から"死んでいたから。ゴルベーザに如何なる関与の余地も与えられず。抱き続けてきた後悔も贖罪の心も、その行先を失った。挙句、皆殺しの剣による精神汚染によって残された"敵討ち"という物語性すらも、彼には与えられなかった。セシルの敵であるマリオも、彼にとっては他の有象無象と同じ、ただの獲物にしか見えていなかった。

――言うなれば、これはエンドロール。すでに終わった物語を、魅せることも汚すこともなく流れていく終幕の裏側。

 それでも、弟の蘇生という目的だけは、常に彼の頭の中に有り続けた。だが、それに何の意味があろうか。それが償いとならぬことを、彼は知っている。かけがえの無い恋人であるローザやその他の仲間、罪のない人々を犠牲にした上で生き返りたいと、セシルが願わないことを知っている。その身をパラディンへと変えられるだけの清い心があればこそ、セシルはゼムスの洗脳を受けなかった。自分とは違い、光の道を進むことができた。彼の蘇生のために皆殺しに進む現状が、彼の生き様の冒涜であると心の底では理解しているはずなのだ。

 だから、これは決して償いの物語などではない。放送を聞いた彼の反応は、まさにその証拠であった。


508 : エンドロールは止まらない ◆2zEnKfaCDc :2021/09/04(土) 22:10:47 wb4Qacik0

『――マリベル。』

 下僕を用いて、殺しに向かわせた少女の名。

『――キングブルブリン。』

 その下僕であり、己が命に従い動いていた魔物の名。

『――ドラえもん。』

 たった今、横凪ぎに切断した機械の名。

『――セシル。』

 そして――皆殺しの思念に先行して心の奥底にある、償いの対象の名。

 この殺し合いで、大なり小なり自分が関わってきた相手たち。その全てを、まるで忘却したかのごとく。

「――残るは37人か。いいだろう。」

 心に留めたのは呼ばれた名の中身ではなく、その数――差し引いて残る、皆殺し対象の数だけだった。正気の頃にすでに知っていたとはいえ、セシルの死の通告に対しても、如何なる感慨も湧き起こらない。

 放送は、ただただ淡白な、残り人数という事実の確認。セシルへの贖罪という、皆殺しの剣に呑み込まれた要因――この殺し合いの原点すら、すでに掠れてしまった。

 これは、もはやゴルベーザの物語ではない。彼の懺悔録には、決して描かれることのない世界線。終わった物語に付随し、流れゆくだけのエクストラ。軸なんてない。芯などとうに折れている。しかし、なればこそ――決して、止まらない。とっくに物語は終わっているから。彼が動き始める前から、彼を止められる唯一の存在が、その命を失ったから。

 もう止められなくなった人形は、新たに獲物を求め始めた。剣から湧き出る本能が、ゴルベーザを突き動かす。

「さて。ここにはもう一人、居たはずだが……」

 ドラえもんを斬り裂いた直前に、一瞬だけ見えたもう一人の生命体をゴルベーザは探し回っていた。無視して進む選択肢は、皆殺しの剣の呪いが許さない。しかし『カゲがくれ』により影の中に篭ったビビアンを見つけることも叶わない。

 だが、少しばかりとはいえ辺りを注視しつつ探し回ったことで、ゴルベーザはひとつの痕跡を見つけた。それは、メルビンやビビアンと出会う前の、ドラえもんと二人でいた時の渡辺早季が付けた足跡。ドラえもんが来ていた方向へと、真っ直ぐ伸びている(ちなみに、足裏の反重力装置で常に3mm浮いているドラえもんの足跡は無い)。

 これがビビアンの足跡であるかは些末な問題だ。むしろ、見えた影はこのような足跡を残す人型ではなかった。それでも重要なのは、皆殺しの対象がそちらの方向へと向かったという事実。

ㅤ皆殺しの呪いに侵された口が、醜悪な笑いを零した。

ㅤ■■■の蘇生のために。彼はゆっくりと歩みを進めた。


509 : エンドロールは止まらない ◆2zEnKfaCDc :2021/09/04(土) 22:13:24 wb4Qacik0



「嘘っ……ドラえもん……!?」

 放送で呼ばれた名前に、早季は驚愕を見せる。生まれて初めて経験した、友達との死別。厳密には経験済みではあるが、今の早季の記憶にはない。この先に早季が乗り越えるはずであった数多の死も、今の早季は経ていない。

 そんな悲しみを前にしては、元の世界の友人が一人も死んでいないことへの安堵はあまり湧いてこなかった。そもそも、『友達が死ぬ心配』など、本来する必要が無かったのだ。早季にとって、他害という倫理規定違反を積極的に行う発想など人間には湧き得ないものだから、不慮の事故でもない限り、むしろ生きている方が恒常だ。

 だからこそ、それに湧き上がる特別な感情は、決して無いでは無いが、されど薄い。どうしても、身に降り掛かった喪失だけを数えてしまう。ドラえもんの死は、確かに早季の心に突き刺さった。しかし同時に、死別と言うにはあまりにも淡白すぎた。放送で呼ばれた五文字の文字列だけが彼の死であり、そこに実感は伴ってこない。

「早季殿……。」

 そんな彼女を労るように、メルビンが声をかける。

 彼とて、放送に対し平静でいられるはずもない。この世界で関わったドラえもんも、共にした時間は短いとはいえ思うところはある。そして何より、ガボとマリベル――元の世界の仲間たちの死。失ったものは早季よりも大きい。

 だが、抱いた感情は悲しみよりも、深く燃えたぎる怒り。ガボもマリベルも、共に戦って死んだノコタロウと同じく、巨悪に屈することなく立ち向かう強さを持った戦士たちだ。その志は、半端な覚悟で打ち破れるものではない。殺し合いを命じられ、恐怖のあまりにやむを得ず――そういう者も中にはいるだろう。だが、それだけではない。闘争に悦びを見出しているかの如き言動と共に若い命を奪った魔族ガノンドロフのように、殺し合いに招かれた"被害者"とのみ呼べるものでは無い巨悪の権化も、この世界には存在している。メルビンの怒りは主催者への怒りであると同時に、彼らへの怒りでもあった。自分よりも未来の可能性に満ちた若い者たちの命が、余興と言わんばかりの企画ごときのために、奪われていく。

 ホットストーンに封印され、永きときを超えた時、当然にかつての仲間たちとは死に別れることとなった。だからこそ、知っている。取り残された者の悲しみも、そこから立ち直れるだけの精神力も。

 己が悲しみを律し、幼い早季の悲しみに寄り添えるだけの精神力がメルビンには備わっている。

「……大丈夫。」

 だが――そんなメルビンの気遣いは不要とばかりに、早季は凛とした様相を崩さず前を向いていた。

「それより今は、二時間以内にここから出ないと。」

「むっ、そうでござったな。」

 言われてハッとする。早季たちの現在位置は、放送で提示された二時間後の禁止エリアに該当する。だから、なるべく早く移動しなくてはならないのは確かだ。

 ボノボ型社会を形成した人間世界の中において稀有な、早季の素質――悲しみを受け止め、前を向くことができる力。元の世界の知り合いの死の有無という大きな差があるとはいえ、放送による喪失感に囚われていたのは、むしろメルビンの方だったのかもしれない。

「しかし、闇雲に移動するのは危険でござる。近くにドラえもん殿を殺害した人物がいると思われるでござるが……。」

 そう、ドラえもんの死は決して他人事ではない。近くに、他人を殺し得る者がいるのだ。メルビンだけであるならまだしも、ここには庇護対象の早季もいる。安易に接触を図るわけにはいかない。

「早季殿は、どうしたいでござる?」

「……まずは会いに行きたいです。」

 恐怖はあっても、迷いはなかった。

「もしかしたら殺したのは……ビビアンかもしれないから。」

 ビビアンを追って行ったドラえもんが死に、ビビアンは生き残っている。そして――早季にとっては、人間が他者を害するのは想像しがたい。現状の何もかもが、ドラえもんを殺したのはビビアンであると考える材料は揃っている。

 安易な疑いだろうか。だが、メルビンに攻撃したビビアンには、人間の倫理規定に反する行いを実行できる素質があったのは確か。

 もし、この疑惑が正しいのなら、ドラえもんの死は一人で行かせた自分のせいなのかもしれない。あの時、メルビンさんを置いてドラえもんについて行けば――いや、より明確に何かができたというなら、ドラえもんとビビアンの言い争いが始まった頃だ。マリオを描いた守の絵を前に冷静でいられなくなったドラえもんとビビアンに何か言うことができるのは、絵の作者である守を知っており、メルビンと比べてではあるが、ドラえもんと長く一緒にいた自分だけだった。

 罪悪感は少なからずある。タラレバに過ぎないのは分かっているし、それに囚われすぎる性分の早紀ではない。でも、命惜しさにそれをしなかった責任から逃げるのは違うだろう。


510 : エンドロールは止まらない ◆2zEnKfaCDc :2021/09/04(土) 22:14:29 wb4Qacik0
 同時に、自分への疑問もある。仮にその想像が正しいとしたら、私はビビアンをどうするのか? ドラえもんの仇として、殺す? それとも、ドラえもんを殺したことすら、許す? 決められない。こんなの、簡単に決めてはいけないことだ。だってわざわざ改めて言うまでもなく、命は重いものだから。ビビアンを殺すのも、ドラえもんの死を許すのも、命を大切にする気持ちがある以上、どちらも間違っているのだ。だからこれは正しい答えを選ぶものではなく、提示された二つのマイナスの片方を選びとる行為に他ならない。何より保留できる時間がないのが、この選択を残酷なものにしてしまっている。何せ時間をかければ、ドラえもん以上の犠牲が出てしまうかもしれない。実際、メルビンはビビアンの力で火傷を負っている。あの力が他の参加者に……真理亜や覚や守に、向かないという保証なんてどこにもないのだ。特に、守とビビアンは一度は接触している。殺し合いが開始してどれほど経ってからかは定かでないが、今も近くにいる確率は決して低くはない。さらにこれは、ドラえもんを殺したのがビビアンでなかったとしても抱くべき懸念だ。進むべき道は、もう決まっていた。メルビンも反対はしないし、下手人がビビアンであるのならば責任を感じるという点でも早季と同じだ。

 ガノンドロフとの戦いの傷も残っており、決して健康体とは言えぬ状態。それでも英雄として。はたまた年長者として。早季を守り抜く決意を今一度固め直す。

「……ビビアンが、殺したんでしょうか。」

「……それは、まだなんとも言えないでござる。心苦しいが、聞いてみねばならぬでしょうな。」

 何にせよ、ビビアンがやったと決めつけるには焦燥だ。話を聞かなくてはならないし、そのためには、ドラえもんとビビアンが向かった先へと向かわなくてはならない。

「ちょっと急ぐから……チビィはカバンの中に入っててね。」

「プギー……」

 移動の遅いチビィをザックの中に詰め込んだ。息苦しくないように、とチャックの口は半分ほど開け放している。

「行きましょう。」

「うむ。」

 早季とメルビンは、進み始めた。

 とはいえ、足跡を残していないドラえもんとビビアンが、必ずしも真っすぐに移動しているとは限らない。だが、追う・追われるの関係であった二人は、直進に近い道筋をたどっているだろうという予測はあったし、事実としてそれは概ね外れていなかった。多少の軌道のズレこそあれ、早季とメルビンは確かにドラえもんの殺害現場へと歩みを進めていた。

 そして同時刻。その殺害現場から、早季とメルビンの出会った場所に向けての足跡を辿り、一切のズレ無く歩む者もまた存在していた。ドラえもんを殺し、間接的にではあるが、メルビンの二人の仲間の死にも関与した男。

 すなわち――この邂逅は必然だった。

 前方から隠れることもなく近づいてくる人影。それは綺麗な白髪の男だった。ドラえもんを殺した危険人物が近くにいるという現状から見ても、素直に邂逅を果たしてもよいのか――心の中に確かな迷いはあった。決して、信用し切っていたわけではなく、警戒と信用の狭間に揺れていた。しかし結論から言えば――不十分だったのだ。

 もしも危険人物であれば事が起こる前に何かしらの兆候が見えるはずだと、そんな心構えだったのだろうか。他人を殺す者がいたとしても、殺し合いを無理やりさせられてやむを得ずであると、そう信じきっていたのだろうか。どちらにせよ、気の緩みがあった。

「――メルビンさん!?」

 我ながら、困惑に染まった情けない声だった。


511 : エンドロールは止まらない ◆2zEnKfaCDc :2021/09/04(土) 22:15:27 wb4Qacik0
 人影を認識するや否や、メルビンは腰の剣に手をかける。その挙動は明らかに戦闘準備であり、対話もなしにそのフェイズに移行したメルビン。

 メルビンは殺し合いに乗っていないのは明らかだ。では何故、目の前の相手に突然襲いかかる? 向こうから見れば、まるでこちらが殺し合いに乗っているかのように――

――ガキィンッ!

「えっ……?」

 今度はあまりにも、間の抜けた声が洩れた。前方の男が何をしたかを識別するよりも速く、劈く金属音が耳を刺激していた。

 その音の方へと意識を向けてみれば――剣と剣が、ぶつかり合っていた。その状況を何と呼ぶのか、早季は知らない。彼女の常識の中に、人と人の業物が"鍔迫り合う"ことなど含まれていないのだから。だけど、その行為と鳴り響く金属音が、何を意味しているのかは十二分に伝わっている。

「ほう、この斬撃を止めるのか。」

 それは、キングブルブリンの巨躯をも即座に沈めた一撃。

 皆殺しの剣の名は、あらゆる相手へと殺意が向くその呪いのみならず、ひと振りで敵全てを薙ぎ払えるその射程にも由来する。偶然にメルビンは皆殺しの剣についての知識があったが、仮にその知識が無くとも、居合の一撃に宿る疾風の如き速度を理解している。仮に皆殺しの剣の射程がなくとも、あの距離は充分に戦闘開始となり得る間合いであった。

「皆殺しの剣、でござるか……。呪われた武器とは……魔王め、なんとむごいことを……。」

 空いた左手で真空刃を放つ。烈風が、皆殺しの剣の呪いによって弱まったゴルベーザの装甲を穿ち、剣を振るっていた腕を肩から押し戻す。

「まだまだでござるッ!」

 息づく暇も与えぬ真空刃の追撃。森羅万象を操る妙技でありながら体力・魔力の浪費を一切伴わないその技を可能とするは、博愛の精神。攻撃の手段こそ違えど、聖騎士<パラディン>としての根本的な在り方を弟と同じくするその絶技に、たった一瞬、懐かしさを覚え――

「――サンダガ。」

――次の瞬間には、破壊が脳を覆い尽くしたかのごとき雷鳴が戦場にほとばしった。

 森羅万象を操るは、月の技術者にして彼の父親たるクルーヤが編み出した、黒魔法の神髄。それを他害に用いたこと、ただその一点を除いたならば、クルーヤの技術を真に継承したのはセシルではなく、ゴルベーザに他ならない。真空刃とは比べ物にならない威力の雷撃は烈風をも逆に吹き飛ばし、エネルギーの衝突の余波はメルビンへと降りかかる。

「ぐっ……!」

 中〜遠距離を撃ち払う呪文においても、天地雷鳴士を極めたマリベルのそれに充分引けを取らない威力。魔力の消耗の大きいグランドクロスならば抵抗できるかもしれないが、相対する皆殺しの剣の射程も相まって、パラディンの最も得意とする中距離戦闘ではむしろ不利と見るべきだろう。

「では……接近戦ではいかがか!」

 地を蹴り、疾風の如き速度からの刺突。速度に特化したその一撃に、ゴルベーザは一歩引きつつ剣で凪ぐ。

 メルビンの剣に宿るは、パラディンとして習得した博愛の特技のみではない。古来より戦闘の腕を磨き続け、ダーマ神殿の導きにより完成した、英雄<バトルマスター>としての剣技がある。

 幸いなのは、ただ剣に操られているだけの者を斬ってよいものなのか、迷う必要がないという点だ。一撃目の重みから、そんな迷いを抱きながら勝てる相手ではないと分かっている。故に、場合によっては殺傷も止む無しとの判断に迷いはなかった。斬り伏せねば、斬られる。手心を見せれば殺意に潰される。英雄としての直感すべてが眼前の人型の異形を危険信号を発している。


512 : エンドロールは止まらない ◆2zEnKfaCDc :2021/09/04(土) 22:16:06 wb4Qacik0
「早季殿っ! ここは拙者に任せて逃げるでござる!」

 近距離から成される斬撃の応酬の合間、守る余裕はないとの見解を簡潔に纏めて言い放った。その声に、ハッとしたように現状を再認識する早季。これが、殺し合い。理解が足りなかった。殺し合いというものを概念として理解はしていても、13もの人数が死んだことに対する実感としてはあまりにも薄かった。

 思えば、殺し合いの会場で唯一起こった戦いと呼べるものは、ビビアンとの不和のみであった。それも矛先はドラえもんに向いていたし、自分が死ぬのではないかという認識からはかなり隔絶されていた。だからこそ、6時間で13人という死亡者の人数に対して抱いた感想は――多すぎる、だった。だが、目の前にしてようやく理解する。戦局が僅かにでも傾けば数秒と経たない内に命など簡単に消えてしまいそうなくらい、これは殺し合いであったのだと。各地で起これば、13人という人数など、むしろ少なすぎるくらいに掻き消えてしまうだろう。ドラえもんもその例に漏れなかったのだろう。ビビアンとのいさかいが可愛く見えるほどの、ただただ真っすぐな殺意。もはやドラえもんを殺した人物がビビアンでなく目の前の男であるということに疑いはなかった。

 メルビンは最初から皆殺しの剣の射程距離を理解していたかの如く、ゴルベーザを視認すると同時に応戦を開始していた。それを知らなかった早季は、ゴルベーザの攻撃への反応が遅れた。確かに、あの距離から斬り付けられる想像など、早季にできようはずもない。だけど、剣についての事前知識の有無など、もはや関係ないのだ。何故なら、メルビンのみならず早季にとっても――互いに互いを視認できるあの距離は、充分に呪力を用いた”戦闘”を開始できる距離であったから。それを行使してくるという想像力が欠如していたことに、何ら言い訳できる材料は無いのだ。

「早季殿……! 早く――」

 次の瞬間。

「――ぐっ!?」

 唐突に、ゴルベーザの右足が踏みしめていた大地が陥没する。ただでさえ戦闘中で研ぎ澄ましていた集中力。そこに加えられた予測だにしていない出来事に、皆殺しの剣によってゴルベーザの感覚は混乱する。接近戦を繰り広げているときには、あまりにも大きすぎる隙。

「ぬおおおおっ!」

 メルビンの渾身の真空斬りがゴルベーザの身体に走る。

 防御力の無い身体に、初めて明確に加えられた一撃。

「おのれ……バイオッ!」

 付け焼刃の狂気で平常心を保っていられるはずもなく、半ば狂乱的に腕から毒霧を振り撒いた。メルビンへの牽制のため、早季には届かない。毒霧に包まれたゴルベーザに対し、メルビンは追撃を断念し、両者には再び距離が開く。

「早季殿、今のは……」

「私も、戦います。」

 大人であるメルビンに任せて、流されていれば、きっと安全なのだろう。きっと、楽なのだろう。だけど、もうドラえもんを失った時のように後悔したくないんだ。もし、私の後を追ってくるのがこの白髪の男だったら。もし、次の放送でメルビンの名前が呼ばれてしまったら。


513 : エンドロールは止まらない ◆2zEnKfaCDc :2021/09/04(土) 22:16:45 wb4Qacik0
「……守れる保証は、ないでござる。」

「守られるだけの私では、いたくないんです。」

 後悔したくないなんて、命を懸けてまで立ち向かってくれる人に対して自分勝手な話かもしれない。だけど、大人に守られ、害悪に晒されぬまま育った命が次の命を育むとき。果たしてその命は新たなる世代を、守れるだろうか。

 一方、メルビンの脳裏に過ぎるは、同じように共闘して、それでも守れなかったノコタロウの姿。今の早季と同じ、逃げられるときに逃げる選択をせずに立ち向かって、消えた命。自分の命があるのは彼のおかげであると言えど、それでも。あの時と同じ後悔をしたくはない。早季が逃げられるのなら、戦場から少しでも離したかった。しかし、彼女にも彼女なりの矜持があるらしく、それを挫くことはできない。

――ならば、死なせなければいい。

 この上なく単純で、しかしこの上なく、難しい答え。戦いを引き受けるのではなく、共闘しつつ守り抜く。

 彼らを突き動かすは、罪悪。二度と取り戻せないものへの後悔に苛まれ、しかしそれを糧に前を向く。それは、償いを求める心を剣に魅入られたゴルベーザの否定であった。

【E-5南/一日目 朝】

【渡辺早季@新世界より】
[状態]:健康 恐怖(小) マリオに対する疑問
[装備]:トアルの盾@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品 チビィ@ドラゴンクエスト7 不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(真理亜、守、覚を探す)
1.ゴルベーザを倒す。
2.ビビアンに会いにいく。
3.近くにいるらしい守を探しに行きたい。
4.名簿の友達の姿に疑問。
※参戦時期は夏季キャンプ1日目終了後。そのため奇狼丸・スクィーラとは面識はありません。


【メルビン@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:HP1/10 全身に火傷 背中に打撲、軽い脳震盪 MP2/3
[装備]:勇気と幸運の剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜5(一部ノコタロウの物)
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーから身を守る、ガノンドロフは今度会ったら絶対に倒す 
1.自分とノコタロウの仲間(アルス、アイラ、シャーク・アイ、クリスチーヌ、ビビアン、マリオ、ピーチ)を探し、守る
2.ボトク、バツガルフ、クッパには警戒
3.マリオに不信感
※職業は少なくとも戦士、武闘家、僧侶、パラディン、バトルマスターは極めています。

【チビィ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康
[思考]:早季とメルビンが心配
※早季のザックは空いているため、チビィの意思でいつでも表に出られる状態です。

【ゴルベーザ@FINAL FANTASY IV】
[状態]:ダメージ(小)、呪い MP消費(中)
[装備]:皆殺しの剣@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、参加者レーダー青
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を全滅させ、■■ルを▲き返ら●る
1.メルビンと早季を殺し次第、大魔王の城を目指し、参加者を殺して回る。
2.キングブルブリンには手駒として働いてもらう。
※参戦時期はクリア後です
※皆殺しの剣の呪いにかけられており、正常な思考ではありません。防御力こそ下がっていますが、魔法などは普通に使えます。


514 : エンドロールは止まらない ◆2zEnKfaCDc :2021/09/04(土) 22:17:12 wb4Qacik0





『ピーチ』

 放送で呼ばれたのは、マリオの想い人の名前だった。

(あのヒトも、死んじゃったのね……。)

 メルビンからノコタロウの死を突き付けられて。目の前でドラえもんを失って。失ったのはそれだけであってほしかった。マリオが生きていたこと、それだけは心の底から安心している。だけど、マリオは。仮にアタイがマリオを失ったその時のごとく、ピーチ姫の死に悲しんでいるだろう。

 大切な人を失う怖さを、アタイは知っている。大切な人を失う痛みは、想像するのも怖いくらいに――それだけで心にカゲが差してしまいそうなくらいに、想像が及ぶ。

(――あ。)

 なのに、だというのに。

(これでアタイは、マリオに想いを伝えられる……?)

 過ぎってはいけない考えが、つい浮かんでしまった。

「……ああっ! アタイは……アタイは……!」

 断じて、ピーチの死を願っていたわけではない。だけど、結果的に。マリオの深い悲しみに繋がるその出来事を、ポジティブに捉えてしまった自分がいたことを、この上なく自覚してしまった。

 ビビアンは、根は優しい生物だ。だからこそ、その一瞬の自分の思考が許せず。だからこそ、続く思考は自己嫌悪のみ。マリオのしあわせを自分のしあわせだと、清廉潔白に語ることができなくなってしまった。それは、マリオへの愛の自己否定に他ならない。

 人間関係に――それも三角関係に、邪な気持ちの介入など、敢えて語るまでもなくありふれた出来事だろう。その意味では、彼は何も間違っていない。だが、彼は優しすぎた。優しすぎるが故に、これまではただただ純粋にマリオのために行動していたし、できていた。ピーチからの"略奪"など、考えたこともなかった。

「……ホント、なさけないわね。」

 良い人だった守の誘いを断って。

 同じく良い人だった人たちに、炎で攻撃して。

 そしてあの日のマリオのように、自分のために頑張ってくれた人を目の前で殺されても、その敵討ちすらしようとせず。

 挙句の果てに、自分のすべてであったはずのマリオへの想いすら貶めた。

「……これが、アタイのやりたかったこと?」

 マリオのために殺し合いに乗る――それは、ホントにマリオの願い? それとも、アタイの願い?


515 : エンドロールは止まらない ◆2zEnKfaCDc :2021/09/04(土) 22:17:39 wb4Qacik0
 ビビアンの原点。今や、懐疑の目が入ってしまった、マリオへの愛。しかし、原点に立ち返って、いま一度回顧して――思い出した。マリオのことが、好きになった理由。マリオ自身も、名前と姿を奪われて大変だった時に、アタイの探し物を手伝ってくれた。顔も名前も分からない人だったけれど、だからこそ、アタイは彼の"優しさ"を好きになったんだ。

「ううん、ちがう。」

 仲間や見ず知らずの人たちの屍を積み上げた上で一人だけ生き残って、それで満足するマリオなんて。仮に優勝者に与えられる願いでピーチ姫が生き返ったとしても、それをもって他の犠牲を良しとするマリオなんて。そんなの、アタイが好きになったマリオじゃない。

「もうまよわないわ。アタイは、アタイの好きなマリオを信じる。」

 殺し合いに反逆することを決めたビビアン。その目は、ゴルベーザの向かった方向へと向いている。

 ずっと目を背けていたが、ゴルベーザの向かった先は、早季やメルビンのいた方向だ。ドラえもんのことは、助けることができなかったけれど。せめて、ドラえもんが信じた彼らのことだけでも、救いたい。それに、ドラえもんの発言が真っ赤な嘘でも明らかな見間違えでもないのなら、ドラえもんはマリオと出会っていたはずだ。それなら、その方向にはマリオがいるのかもしれない。どう考えても、ゴルベーザを追う以外の選択肢などなかった。

 ビビアン――彼もまた、罪悪を糧として前を向いた。

 されど、忘るるなかれ。彼の愛も、すでに終わっているのだ。ドラえもんはマリオについて、全て真実を語っていたのだから。

【E-6北/一日目 朝(放送直後)】

【ビビアン@ペーパーマリオRPG】
[状態]:健康 疲労(大) 情緒不安定(小) 仮面の男(ゴルベーザ)への恐怖
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針 マリオと共にこの殺し合いの世界を脱出する。
1.ゴルベーザを追って、早季やメルビンから遠ざける。
2. マリオに会って、本当のことを知りたい

※本編クリア後の参戦です
※ザックには守の呪力で描かれた自分とマリオの絵があります。


516 : ◆2zEnKfaCDc :2021/09/04(土) 22:17:51 wb4Qacik0
投下完了しました。


517 : ◆EPyDv9DKJs :2021/09/05(日) 08:57:16 ufp2L2/w0
投下します


518 : ◆EPyDv9DKJs :2021/09/05(日) 08:57:54 ufp2L2/w0
 良いことと悪いことは同時に来る。
 ついに迎えた、迎えてしまったとも言うべき朝。
 夜を示す月は何処かへと消え、燦燦と舞台を照らしていく。
 これほどまでに太陽が疎ましく思えたのは、彼女にとって後にも先にもこれだけだろう。
 死体操作が使えない日中とは、日常ならまだしもこの場では余りにも不安要素。
 能力者でなくなればただの一般人と大差ない存在になってしまう。ユウカの最大の弱点。
 耐え凌ぐ時間が始まると同時に放送の結果。それは彼女にとって頭を抱えたくなるものだ。
 正月元旦の朝のような爽やかな気分にさせてくれる気は毛頭ない結果。

 死者は人数からすれば多い。自分以上に乗り気な人がいるのがわかる。
 優勝を狙ってる以上ペースが速い点に関して言えば彼女の良い報せだ。
 ミチルの脱落も、土壇場で誰かが完全復活して襲い掛かる可能性は減った、
 そう考えるとありがたいものではある。仗助は変わらず健在だが。

 一方で悪い報せが多すぎる。
 自分を友好的な参加者と言う情報をばらまくはずの由花子が死亡した。
 しかも彼が一番信頼を置いてる広瀬康一も命を落としてしまっている。
 昼ぐらいまでは生きて情報拡散をしてもらいたかったがこうも早いとは。
 ナナも生存している状態で身を隠していては包囲網を築かれてしまう。
 早々に方針を考え直さなければ袋小路に追い詰められる。
 明るくなった世界とは裏腹に、彼女の道は暗闇へと閉ざされていく。

(ま、それは置いといて……)

 だが、意外にもこれは一番の問題ではなかった。
 彼女の怨敵が未だいるのは復讐の機会があるから。
 というわけではなく。

「遺言ぐらいは聞いてやるぞ、小娘。」

(どう切り抜けるか、だよね。)

 今目の前にいる相手───バツガルフの存在の方が問題だったからだ。
 元々南下して逃げていた以上、湖の開けた場所に沿って歩くことになる。
 どうあがいたって遠目からでも人が認識できてしまうので仕方ないが、
 寄りにもよってと言うべき相手と遭遇してしまい、内心で舌打ちする。
 何とも言えぬ奇抜なロボット、ないしサイボーグのような姿をしてるが、
 相手の実力は先程見ていたので知っている。能力者に負けず劣らずの多彩な力を持つ。
 夜でも難儀しそうな相手を、能力が使えない自分が勝てる可能性など万に一つもない。
 たとえそれが億の可能性であったとしても無理と言い切れるだろう。

「遺言……って言うには大分違うけど、降参。」

 敵意がないことを示すように両手を挙げる。
 内心は相当焦ってるが、冷静さを装った状態を維持していく。
 元々シンジで散々人形遊び、基自作自演を続けていた彼女だ。
 人前でキャラを変えることなんて造作もない。

「ちょっとだけ話聞いてくれる? 一応そっちにも利益があるから。」

「ほう、なんだ?」

 明らかに下の立場。蹂躙されるだけであろう存在が、
 それでもなお生きあがく姿にほんのちょっぴりだけ興味を持つ。

「あたしと手を組まない? 殺し合いに乗ってるでしょそっちも。」

 共闘の持ちかけ。
 この場をやり過ごすにはそれしか選択肢はない。
 ありふれた命乞いでバツガルフは溜息しか出なかった。
 ピーチと違って相容れぬ相手ではないが、ただの小娘。
 殺し合いに乗れる人材とは思えなかったからだ。

「戯言だな。貴様が乗ってると証明できる手段は───」

「ピーチって女を殺したの、あたしだよ。」

 あっけらかんと表情で答える。
 駅に闖入者がいたことは分かっていたが、彼女とは想定しなかった。
 考えれば、移動手段である駅から逃げるようにしてた時点で彼女が犯人なのは当然だ。
 私怨が強いマリオと出会えば、やるかもしれないと言えばそうなのだが、
 悪の権化であるバツガルフだとしても、あそこまで惨たらしい死体にはしない。
 しないと言うよりは、純粋にそこまでやるメリットがないだけでもある。

「言い訳で取り繕った可能性もあるか。どうやって殺した?」


519 : ◆EPyDv9DKJs :2021/09/05(日) 08:59:43 ufp2L2/w0
「持ってた地雷を使ってボンッてね。
 結構エグかったでしょあれ。ま、あんな女には当然の末路だと思うけどね。」

 嫌悪感とか欠片もない、本心の表情。
 自分がやりたいからやったかのような反応は、
 十分に信用に足るだけの悪女であることが伺える。
 ピーチとは対極に位置しそうなほどの輩ではあるが、
 それゆえに利用価値がないと断言もしきれなかった。

「では、何故手を組む必要がある?」

 別に男女差別とかの意識があるわけではないが、
 此処まで小娘の皮を被った悪魔はいないだろう。

「ん-、その前に聞くけどさ……この際呼び捨てでもいいか。
 バツガルフって、此処に来る以前からマリオと敵対してるよね?」

 ピーチの記憶には全部ではないが、事の顛末の多くは理解している。
 月に拠点を持ってたり、かなりぶっ飛んだ世界なのは伺えるものの、
 イリアや虹村形兆から得た前情報から、そこまで理解に苦しむものではない。

「何処から得たのかは知らんが、そうだな。」

 初対面の、それも乗った相手にその事実が伝わってることに訝る。
 死体操作から得た情報とは微塵にも思うことはない。

「だったら、この先も一人だけで戦うのって難しいと思うんだよね。」

 話に乗ってくれたからか、
 手をおろして無防備に適当にそこらを歩くユウカ。
 この場にはペケダー達もいないこともあって、
 確かに孤軍奮闘をせざるを得ないのは間違いない。
 初対面の小娘相手にそれを言われるのは中々に癪なことだが。

「考えてもみなよ。マリオには仲間が三人もいる。
 一人は放送で最初に死んじゃったみたいだけど……それでも、
 参加者と出会った可能性ってのは高いと思うんだよね。そしてその参加者が、
 他の参加者へと伝えての連鎖。六時間も経つし、流石にそっちも理解してるでしょ?」

「要するに、敵と認識した奴がすでに大勢いると言いたいのだろう。」

 ユウカと同様に情報が拡散されての包囲網。
 その可能性は決して否定できるものではなかった。
 特に、マリオの事情を知らないバツガルフにとっては余計に。

「そ。でさ、あたしも同じでちょっと来る前にやらかしちゃってやばいんだよね。
 あたしはそっちほど強くないし、ピーチは運よく殺せても今後は上手くいかない。」

「だから手を組むと。だが、手を組んだところで認識が覆るとでも?」

「確かに難しいかもねー。でもさ、
 どっちも敵と言う情報持ってる参加者って相当限られるんじゃない?」

 由花子が死亡した以上、ナナを敵と仕向けておくのは難しい。
 ユウカの次にできる一手はバツガルフと共に集団に紛れ込むこと。
 昼間のボディガードも確保できるし、生き延びる確率は隠れるよりも高い。
 どちらも脛に傷持ちな立場ではあるが、同行者がいれば不可能ではない。
 単独では弁明は難しくとも、説得できる可能性としては十分だ。
 流石に、リンクのように直接対決してしまったら別だが。

「どっちかの情報は得ていてもどっちかは得られてない。
 だったらまだ集団に紛れ込んで混乱を起こす手段にはなると思わない?」

 事実、双方を敵と認識できるだけの情報を持った参加者は殆ど限られている。
 図書館にいるナナと、学校付近にいるキョウヤの二つの陣営ぐらいしかない。
 そして両者ともに情報の拡散ができるような状況下でもないと言う、
 偶然ながら彼女達にとっての向かい風が起きている。

(この小娘の考え───穴がありすぎる。)

 確かに混乱を招くと言う一つの手としては有効ではある。
 だが、一人の意見にどれだけの効果があると言うのか。
 素性を知られてない側の弁明とは、つまり確実に初対面との会話。
 殺し合いに乗ったと疑われる人物と共にいた片割れの言葉、信用を勝ち取るのは難しい。
 杜撰極まりない共闘の計画ではあった。

(しかし、ダメージが大きいのも事実だ。)

 このまま続けて戦えばいずれ限界を迎えるだろう。
 杜撰であるが、杜撰すぎるのは逆にいいのかもしれない。
 優勝を目指す奴がこんなあからさまな手段を使うか? と言った疑念。
 手駒がいない現状、使える手数は増やしておくのも一つの手だ。

「小娘。武器はあるのか?」

「外れだらけだよ。写真と馬笛と地雷。絶望的でしょ?」

 本当はもう一個あるが、ひとまずは黙っておく。
 終盤で強敵相手に使う際に出し抜くとっておきの一手だ。
 味方になりうる人物であろうともその手札は切らないでおく。

「酷いありさまだな。これでも持っておけ。」

 能力の条件の遺品は思いのほか役に立つ。
 自分の武器が当てにならないと思い込ませられる。
 バツガルフにとってえいゆうの杖があれば大概はなんとかなると思って、
 特に使わずに放置していた支給品であるブロックを渡す。

「え、いいの?」


520 : ◆EPyDv9DKJs :2021/09/05(日) 09:00:36 ufp2L2/w0
「戦える手段がない奴を手元に置く意味などないだろう
 叩けば地震を起こすブロックだ。こちらも巻き添えになる以上合図は送れ。」

 本当はこのブロック二つで一つなのだが、
 彼もまた彼女を信用したわけではなくそのことは伏せる。
 もっとも、それを抜きにしてもまだバツガルフには恐らくもう一つある為、
 ユウカも素直に受け取りはするものの、用心深い奴なのは理解していた。
 少なくとも力と智、どちらも兼ね備えた人物と警戒するには十分だ。

「了解。ところでこの同盟っていつまでにする? 夜?」

「夜にもなれば参加者も殆どいなくなる。放送から動きを変える可能性も考慮し、
 二十一時までの同盟としておこうか。その前には逃げる算段でもしておくんだな。」

「お優しいことで。」

 夜まで猶予を与えた時点でこっちのもんだけど。
 とは思いながらもこっちが出し抜くことは見抜いてるはずだ。
 同盟中だからと油断はしない方がいいだろう。

 こうして、二人は『猶予ない選択』から『好転の兆し』を手にし『嘘』で固めた関係となる。
 月は何処かへ行く。しかし月は姿を現した。ジャックとセブンを合わせた『ⅩⅧ』の二人に。

【佐々木ユウカ@無能なナナ】
[状態]:ナナへの憎悪(極大)
[装備]:POWブロック@ペーパーマリオRPG
[道具]:イリアの死体@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、基本支給品×2(自分、ピーチ)、遺体収納用のエニグマの紙×1@ジョジョの奇妙な冒険 陶器の馬笛@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、虹村家の写真@ジョジョの奇妙な冒険、ランダム支給品×1(彼女でも使える類)、愛のフライパン@FF4
[思考・状況]
基本行動方針:シンジと添い遂げるために優勝する
1:暫くはバツガルフと行動。集団に紛れ込めればいいんだけど。

※参戦時期は死亡後で、制服ではありません。
※次の夜まで死体操作は出来ませんが、何らかの条件で出来る可能性もあります。
※死体の記憶を共有する能力で、リンク、仗助、ピーチ、マリオの情報を得ました。
 イリアの参戦時期は記憶が戻った後です。
※由花子との情報交換でジョジョの奇妙な冒険の参加者の能力と人柄、世界観を理解しました。
 但し重ちー、ミカタカ、早人に対する情報は乏しい、或いはありません(由花子の参戦時期で多少変動)

【バツガルフ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(特大) 至る所に焦げ付き 愉悦 
[装備]:えいゆうのつえ@ドラゴンクエスト7
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜1 確認済み)、POWブロック@ペーパーマリオRPG
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し世界征服を叶え、ついでに影の女王へ復讐する。
1:ひとまず休憩場所を探す
2:打倒マリオ。その為の支給品集め。
3:マリオを味方と偽る形での悪評も考えておく。
4:ユウカの提案には一先ず乗ってみるか。

※参戦時期は影の女王に頭だけにされて間もなくです。

【POWブロック×2@ペーパーマリオRPG】
バツガルフに支給。地上に大きな揺れを起こすことで攻撃するアイテム。
空中にいる敵には何も効果はない。使用者以外の使用エリア全体がこの影響を受ける。
なお二つの理由は初出のマリオブラザーズが一個のブロックで二回使える為。


521 : ◆EPyDv9DKJs :2021/09/05(日) 09:01:06 ufp2L2/w0
以上で『月はなくともMOONはある』投下終了です


522 : ◆EPyDv9DKJs :2021/09/05(日) 09:13:21 ufp2L2/w0
場所完全に忘れてましたすみません
【B-3/湖付近 一日目 朝】


523 : ◆vV5.jnbCYw :2021/09/08(水) 09:56:22 SF1vjFQ.0
リンク、ルビカンテ予約します。
離れていますがその点はカバーします


524 : 名無しさん :2021/09/08(水) 22:45:11 hlxs4r.Q0
表裏wikiに閲覧制限かけられてますけど何かあったんですか?


525 : 名無しさん :2021/09/09(木) 00:07:52 wzMCyEJQ0
パロロワ辞典wikiに荒らしが出現したので編集制限をかけたけど、誤って閲覧制限もかけてしまったそうです


526 : ◆vV5.jnbCYw :2021/09/10(金) 23:51:51 m5SGzusk0
投下します。


527 : 炎の裏で思考する者達 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/10(金) 23:52:37 m5SGzusk0

太陽が完全に顔を出す直前、ルビカンテは準備を整えていた。
恐らく明るくなれば、これまで以上に激しい戦いが訪れる。
きっと次の戦いに負ければ、死ぬことになる。
これまでの2度の敗北で死ななかったのも、ただ運が良かったに過ぎない。
慢心や不意打ちなどを含めて、少しでも負ける要素を減らさねばならない。


そのためにも、支給品を今一度確認する。
確か、もう1つ残っていたはずだった。
あまり道具に頼る戦いは好まないが、敗者に贅沢など許されない。
この際どんな物でも、使えるならば使うしかない。


期待を込めてザックをひっくり返すと、出てきたのは4つ折りに畳まれた紙だった。
何か入っているのかと思い、広げてみる。
そこに写っていたのは、重厚な武装に身を包んだ猪だった。
戦馬、いや、戦猪と言うべきか。
結局ハズレの支給品かと思うも、その時紙の中から鳴き声がした。


「ブルルルルルルーーーーッ!!!」
「なっ!?」
全くもって予想外の登場の仕方に、ルビカンテも驚くしなかった。
まるで水面から顔を出すかのように猪の鼻面が立体的になる。
そのまま全身が出ると、鉄の鎧をまとった猛獣は、闘技場の扉を突き破り、そのまま走って行こうとする。
ルビカンテは慌てて背に乗り、猪の鎧に付いてあった手綱を握り、動きを抑える。


「ま、待て!!」
「ブフゥゥゥーーーー……。」
どうにか足を止めてくれて、安堵するルビカンテ。
彼自身、乗馬の経験はほとんどない。
世界征服を実行する際には、主であったゴルベーザがいち早くバロンの中枢を乗っ取ってくれたおかげで、バロン王国を管理していた飛行船を自由に乗り回すことが出来た。
だから馬、ましてや馬より扱いが難しそうな猪の騎乗は、骨が折れそうだと感じた。
しかし手綱から分かるように飼いならされた獣だからか、それとも主催の手によりそのようにされているのか、いざ乗ってみるとさほど暴れることなく動いてくれた。


「よし、よし、良いぞ。」
不慣れな手つきで手綱を動かす。
次第にコツがつかめてきたような気がしていた。
その思い上がりは、すぐに打ち砕かれることになった。


そこへ、島全体に放送が流れる。
『セシル・ハーヴィ』
助からなかったか、と改めて思う。
最期の瞬間を見ることなく、戦場から強制退場させられたため、彼が逃げて、生き延びているとほんの僅かながら期待していた。
生き延びていたらどうするかは分からないが、借りの1つでも返せるのではないかと言う期待はあった。


528 : 炎の裏で思考する者達 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/10(金) 23:53:06 m5SGzusk0

『キングブルブリン』
「ブッ!!」
人の言葉が分かるのか、はたまた動物にも伝わる仕組みになっているのか分からないが、その名を呼ばれた時に、天に向かって吠えた。

「うわ!落ち着け!!」
急に動揺した猪を宥めようとするも、時すでに遅し。

「ブルルルルルルーーーーッ!!!」
最初に紙から出てきた、威勢のいい鳴き声とは異なる、悲しみと怒りがないまぜになったような叫びと共に走り出す。

「うわああああああああ!!!」
手綱を引っ張るも、全く意味がなかった。
そのままルビカンテごと、思いっきり走って行く。
その速さは、この会場を走る列車を優に超えている。
途中で何本かの木や、岩が立ちはだかるが、全て砕いて進んでいった。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

時は少し遡る。
バツガルフとの戦いが終わり、ピーチと別れた後でも、リンクはひたすらに走り続けた。
勿論、戦いで受けた傷がキリキリと痛む。
だが、そんなことを気にせず走り続けた。
あの時、自分のせいで死んだはずのイリアが生きている。


再び会えるという気持ちを胸に、ただ走った。
今度こそ彼女を守る。


そこへ島全体に行き渡る放送が流れた。
(死者……だって?)
走り続けながらも、その内容に耳を傾ける。


『モイ』
(そんな……アンタも死んだのか?)
同じ村で、何かあるとよく相談に乗ってくれて、剣術を教えてくれた男の名を耳にする
大分後でハイラルのレジスタンスの一員だと判明し、陰りの鏡を求めて時の神殿に向かう時は世話になった男でもある。
しかし、そんな彼の死を悲しむ間もなく、続けざまに知り合いの名前を呼ばれる

『キングブルブリン』
(死ぬのが思い浮かばないヤツなのにな……。)
かつて何度も死闘を繰り広げた怪物の名を思い出す。
崖から落とされても、滅多切りにされてもなお、挑んでくる奴だった。
イリアを攫った怪物として敵対しながらも、最後には実力を認め、協力をしてくれた。
実はこの世界では協力できるのではないかなと淡い期待を抱いていた相手だった。


『ピーチ』
(そんな……なぜだ……?)
その名前は、ある意味で前の2人以上にショックだった。
彼女との関わり合いは、ほんの数時間あるかないかだ。
それでも、彼女をバツガルフから守ることが、イリアを失った贖罪か何かのように感じた。
だからこそ戦いの後、彼女が生きていたのがこの上なく嬉しく感じた。


バツガルフが生きていたのか、それとも別の殺し合いに乗った者が近くにいて、ピーチは殺されてしまったのか。
イリアのことばかり夢中になりすぎて、またも誰かを失ってしまったことに後悔した。
でも、イリアの名前は呼ばれていなかった。
絶対に助けて見せる。
彼女を助けて――――――――


視界が急にまぶしく、鮮明になる。
太陽に目を射られたのか、と思ってしまうが、やがて視界が色を失い、形を失っていく。
同時に、高い山を登った時の様な耳鳴りがして、聴力を失った。
しつこく付き纏っていたはずの痛みが、急に軽くなる。
それから足の力が抜けて行き、正宗とトルナードの盾を地面に落として、崩れ落ちる。
理由はただ単純、体力が尽きただけだ。
最初の6時間、2度も戦い、その後も休まずに幼馴染をたずねて全力疾走していたからだ。
牧畜仕事や剣術で鍛え、野山を1日中駆けまわることの出来る体力を持っているリンクでさえも、限界はいつかは来る。


最後にイリアを追いかけねばという想いと共に、意識を手放した。
草と泥のみが、彼を受け入れた。


529 : 炎の裏で思考する者達 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/10(金) 23:53:38 m5SGzusk0

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「ウワアアアーーーーーーーッッ!!」
崖から落ちた時の様な悲鳴をリンクは上げた。
何しろ、目覚めた瞬間、視界に巨大な猪の鼻面がアップで映っていたのだから。
しかし、よく見てみると、その猪は初対面の獣では無かった。


「目が覚めたか。」
放送で呼ばれたばかりの宿敵が持っていた猪、キングブルボーの背中には、赤マントの男が座っていた。

(???)
記憶が混乱する。
ピーチからイリアの話を聞いて、そして彼女を追いかけた所から、イマイチ覚えていない。

「アンタが助けてくれたのか。」
目の前の男にそう質問する。

「助けたつもりなどない。ただこのケダモノが急に足を止めた先に、おまえが倒れていただけだ。」
「そうか……ありがとう。俺はリンク、この生き物の飼い主とは何というか……敵とも味方とも言い切れない関係だな。」

ルビカンテとキングブルボーに感謝を告げる。
しかもエポナのように長年共に過ごした生き物ならいざ知らず、獣の気持ちは分からなかったが、少なくとも踏みつぶさなかっただけ、お礼を言うことにした。
ついでにエポナにしてやったように、猪の頭をなでたが、キングブルボーはプイと顔を背けた。


素直じゃない所は、飼い主に似ているなと笑いが漏れた。
「聞かれてもいないことを話すな。それに礼など言われる筋合いはない。私はただこの殺し合いを壊したいだけだ。」
「それでも………痛ッ!!」

身を起こそうとした所で、再び体の節々に痛みが走った。
魔法による凍傷や火傷の痛みは、普通の切り傷や打撲よりも長く響く。

「弱者となれ合う気は無いが……回復してやろう。」
赤い衣を纏った男が両手を広げると、その痛みが格段に和らいだ。


「そうだ、そこまでしてくれたついでに、1つ教えてくれないか?」
「一応、聞いてやろう。」
「イリアという、金髪の少女を知らないか?」

逆方向から来たキングブルボー達なら、彼女を見たんじゃないのかと期待して聞いた。


530 : 炎の裏で思考する者達 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/10(金) 23:54:07 m5SGzusk0

「知らぬな。そもそもこやつに乗ってから会ったのは、おまえ1人だけだ。」
やっと起き上がれるようになってすぐに、他者のことを尋ねるリンクに対して、ルビカンテは呆れながら答えた。

「この少女のことだ。本当に知らないのか?」
カード名簿の束をバラバラにして、ルビカンテに見せようとする。
しかし、どうしてもあったはずのイリアのカードは見つから無かった。

「奴の放送を聞いていたのか?死んだ者の札は消えているはずだ。」
「そんなはずはない!!イリアは呼ばれなかった!!」
少し前なら、ルビカンテは死んだ「者」ではなく、死んだ「弱者」と答えていたはずだった。
だが、自分の命を身を挺して救ったセシルを、弱者呼ばわりすることは出来なかった。

「放送が間違っている訳でもないようだ。私がこの殺し合いで死んだと知っている者が呼ばれている。」
「俺は……一体何を……?」
イリアは確かに放送で呼ばれていなかった。
だからこの殺し合いで死んだのではなく、イリアのカードが混ざってないということは、あの時最初の場所で死んだということになる。
だがハイラル駅で五体満足だったはずのピーチが、イリアらしき少女がいると伝えた。



(……何がどうなっているんだ……!?)
訳が分からない状況に、リンクは頭が痛くなった。
ピーチが馬笛と言っていたことから、人違いをしたようにも思えないし、かといってウソを付いたようにも思えない。
ハイラル駅に戻り、ピーチに事の詳細を再度聞きたいが、彼女もまた放送で呼ばれてしまった。


「そうだ、もう1つ聞きたいことがある。」
「欲深いな。」
続けざまに質問をするリンクを、呆れながらもその内容を聞こうとする


「ピンクのツインテールの少女を見たことがあるか?」
「それもまた知らぬな。さっきからおまえの言っていることは意味不明だ。何があったのか最初から詳しく聞かせろ」

ルビカンテはリンクのことなど興味は無かったが、この殺し合いで未知の事柄を未知のままにしておくのは、死や敗北に直結すると知っていた。
現にこの戦いでも、マリオのことを知らぬがまま敗れ、眼鏡の少年の底力を知らない内にまたしても敗れた。
過去には情報収集のような頭脳労働は配下のルゲイエに任せていたが、ここには彼はいない以上、自分で有利になれそうな情報を集めるしかない。
イリアと言う少女が死んでいようと生きていようと、リンクがどうなろうと知ったことではないが、知らない情報のために自分が死んでしまっては困る。


「分かった。そうしよう。」
リンクとしてはルビカンテの言葉は意外なものだった。
見た目もあって人の話を聞かなさそうな風貌だったが、意外に話が分かる相手だと安堵した。


531 : 炎の裏で思考する者達 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/10(金) 23:54:26 m5SGzusk0

リンクは説明した。
イリアというのは最初の場所で、自分が殺した少女だということ。
ハイラル駅で、ピーチと言う参加者を襲っていたバツガルフと戦ったこと。
1度ピーチを駅の外に逃がしたが、その最中に駅に別の襲撃者がやって来たということ。
ピーチは無事だったが、彼女曰くイリアが襲撃者だという桃色の髪の少女を連れて、逃げて行ったということ。
そして、今に至る。


「愚かな男だ。せめてそのバツガルフという男を倒しておけば良かったものを……。」
「愚かなのは十分理解してるさ。」
リンクは自嘲気味に表情を歪める。


一方でルビカンテはしばらく何かを考えているような表情を浮かべていたが、突然口を開いた。
「死霊降臨術(ネクロマンシー)は知っているか?」
「知ってはいるが……どういうことだ?」
リンクもこれまでの冒険で、ゴーストや骸骨の魔物とは戦ったことがある。
だが、どうして急にその言葉が出てくるのかは分からなかった。


「知っているのなら簡単だ。この殺し合いの中で、死者を操る者がいたのかもしれぬ。」
ルビカンテとしては、同じゴルベーザ四天王にいたスカルミリョーネがゾンビを操っていたこともあり、彼自身は出来ないが知識としては知っている。
また彼の直属の部下であったルゲイエも、人間をゾンビの様な怪物に改造して、思うが儘に操る研究をしていた。

「イリアは……そいつに操られていたと?」
あの時のハイラル駅には、誰とは分からないが襲撃者がいたということは分かっている。
だが、それではまだ釈然としない部分がある。
「死霊降霊術の中でも、高度な物は配下の死者にも魔法を使わせたり、術者が思うが儘の言葉を話させたり出来る。」


「だが、それじゃあおかしい。あの時ピーチは『イリアが助けてくれた』と言ったんだ。
イリアに襲われたというのならともかく、助けてくれたというのはおかしいんじゃないか?」
「おまえはいつから操れるゾンビが、1体だけだと錯覚していた?」
「………そういうことか。」
「『ピンクのツインテールの少女』というのは、大方死霊使いが憎んでいる相手だろう」
まずはイリアを操ってピーチを殺す、あるいは死霊使いと共に殺して、そのままピーチを手駒に加える。
それからリンクを唆して、死霊使いの憎んでいる相手を襲わせる。
誰とも分からぬ死霊使いに完全に手の上で踊らされたことが今になって癪に障る。


「くそ……キングブルボーを貸せ!そいつを殺しに行く!!」
初めにイリアが殺された時は、ザントへの怒りと言うよりもむしろ、自分の弱さに対して怒りが向いた。
だが、幼馴染を死してなお弄んだ挙句、殺人をさせるようなことをした相手に対し、怒りを露わにせずにはいられなかった。


「慌てるなと言っておろう!!死霊使いが誰なのか分かりもせずに行くつもりか!!」
「うわっ!!」
ルビカンテが気持ちを早らせるリンクを一喝する。
そしてキングブルボーは体を揺らし、乗ろうとするリンクを突き飛ばした。
どうにもこの猪は、かつての主人の宿敵を乗せることを拒んでいるようだった。


「死霊が相手ならば、私の炎の術の格好の獲物だ。襲ってくるたびに焼き尽くし、死霊共が来た場所から奴を見つければいい。」
ルビカンテはキングブルボーに跨り、リンクが来た方向に向かおうとする。
「待ってくれ!俺も行く!!」
「おまえは別のことをすれば良い。私はこの殺し合いを破壊するつもりだが、なれ合うつもりはないと言ったはずだ。」


そのまま猪の蹄の音と共に、ルビカンテの姿は小さくなっていく。
おまえは別のことをすれば良い、と彼は言った。


532 : 炎の裏で思考する者達 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/10(金) 23:54:40 m5SGzusk0

別の方向を見ると、煙が上がっている建物があった。


リンクは1つ考えることになる。
例えイリアの命を弄んだことを除いたとしても、ミドナやゼルダを傀儡にされてしまう可能性は、一刻も早く取り除いておきたい。

しかし、キングブルボーは行ってしまった以上は、今さらハイラル駅付近に戻っても、遅れることは避けられない。
もしかすると延々と追いかける羽目になる可能性だってある。


本来なら、あの火事になっている場所に向かうべきだ。
火付けの下手人がいる可能性が高いし、今から走れば逃げ遅れた者を助けられるかもしれない。


だが、少しでも早く殺して、死してなお道具とされているイリアを救う事こそが、彼女への贖罪になると考える余地もある。


どちらにせよ、悠長に考えている時間は無いと感じ、リンクは地面を蹴り、走り出した。
その方向は、図書館のある南か、死霊使いがいるはずの南西か





【A-5/草原/一日目 朝】


【リンク@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:ハート1/2 服に裂け目 所々に火傷 疲労(小) 死霊使い(佐々木ユウカ)に対する怒り(大)
[装備]:正宗@FF4 トルナードの盾@DQ7
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:主催を倒す
1.イリアを操っているはずの死霊使いを殺すか?燃えている図書館に人を助けに行くか?
2.ピンクのツインテールの少女(彼女が殺し合いに乗っているかは半信半疑)から、可能ならば死霊使いの情報を聞く

※参戦時期は少なくともザントを倒した後です。
※地図・名簿の確認は済みました。
※奥義は全種類習得してます


【B-4/草原/一日目 朝】


【ルビカンテ@Final Fantasy IV】
[状態]:HP 1/2 魔力消費(小)  
[装備]:炎の爪@ドラゴンクエストVII フラワーセツヤク@ペーパーマリオRPG キングブルボー@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1 
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを終わらせて受けた屈辱を晴らし、生き延びた者と闘う
1.南西へ向かい、死霊使いを倒す
2.あの帽子の男(マリオ)は絶対に許さない
3.弱者とは協力はしないが、殺し合いに乗っている者と闘う


※少なくとも1度はセシルたちに敗れた後です。


[支給品紹介]

[キングブルボー@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス]
ルビカンテに支給されていた意思持ち支給品。
ブルブリンのリーダー、キングブルブリンが愛用していた猪で、刺々しい鎧を纏っている。
頑丈だが、一度暴れると止めるのは難しい欠点がある。


533 : 炎の裏で思考する者達 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/10(金) 23:54:54 m5SGzusk0
投下終了です


534 : 炎の裏で思考する者達 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/11(土) 00:33:31 FB5BFAAc0
それと最近パロロワwikiに荒らしが出たそうなので、
当面の間wikiの編集権限を管理人限定にすることにしました。
投下してから12〜24時間後には編集を私が行うことにします。

もし編集して欲しい場所があれば、このスレに書き込むか、
私のツイッター @znvIEK8MsQ にDMかリプライを送ってください。


535 : 炎の裏で思考する者達 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/15(水) 00:00:13 RcqcaYqc0
カイン、ミキタカ、エッジ、早人、シャーク、ガノンドロフ、ボトク予約します


536 : ◆vV5.jnbCYw :2021/09/17(金) 23:06:56 ipJ75EXc0
前半投下します


537 : 死刑執行中脱獄進行中 前編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/17(金) 23:08:00 ipJ75EXc0

「セシル……!?」

不幸とは続くもの。
カイン・ハイウインドはそれを心底噛みしめることになった。
何を考えているか分からないが、のさばらしておけば問題ごとを巻き起こしそうなネズミを逃し、主催者に反撃を加えるチャンスを棒に振る。
そして、今しがた聞いた放送で、絶対に死ぬことは無いと思っていた親友が呼ばれた。
あり得ないことだと言い聞かせておきながらも、カードの束から確かにその姿が消えていた。
主催者が殺し合いを煽るためについたウソで、バブイルの塔でミサイルを止めようとしたヤンや、爆弾を抱えて飛空艇から飛び降りた時のシドのように、セシルはどこか見えない所で負傷しているだけとも言い聞かせた。
だが、そんなことは何の慰めにもならなかった。
何を考えていても、自分を取り巻くすべてが最下点まで真っすぐ下落しているような気しかしなかった。



「カインさん、こんなことになったのも私の責任です。本当に申し訳ありません。」
「気にするな、それよりアンタの知り合いは呼ばれなかったのか。」
「はい……仗助さんは大丈夫です。」


なぜアンタはそんなに申し訳なさそうな顔をするんだ、とカインは心の中で思った。
こうして申し訳なさそうにしている彼を見ると、何度も仲間たちに頭を下げた昔の自分を思い出した。
自分はかつてセシル達を裏切った時、再会の後に謝罪したのは、悪いのは元をたどればゼムスだとしても、洗脳された原因は自分の心の弱さにもあったからだ。
だが、今こうなった原因はミキタカの弱さにすらない。
確かに山奥の塔へ行こうと提案したのも、渦に入ろうと提案したのも、彼自身ではあるが、そこから先の先まで見越せと言う方が無茶苦茶だ。


その時、遠くで水色の竜巻が立ち上った。

(リヴァイアサン……?)
それは幻獣王の必殺技に酷似していた。
彼を使役することが出来るリディアは、この戦いには参加していない。
姿をくらましたスクィーラか、それとも自分の仲間がいる可能性を鑑みて、足を速める。



●●


死亡者と禁止エリアが発表された放送を聞いて、意気消沈した者ばかりという訳ではない。
「クックック……あはははは!!あははははははははははは!!!!」
見た目は美女、しかしその正体は醜悪な魔物は、ローザの姿をしているのも忘れて、素に戻って高笑いしてしまう。


13人。たって6時間で、4分の1もの参加者が脱落。
これはボトクにとって、愉快なニュース以外の何でもなかった。
おまけに、そのうち1人は自分をかつて殺した忌々しいオオカミのガキだ。
きっと電車で北へ飛ばされたアルスも、きっと仲間の喪失に苦しんでいるだろう。
このまま大したことをしなくても、どんどん参加者は死んでいくはずだ。
かつて自分が滅ぼそうとしたレブレサックの住人の様に、人は誰が敵であるべきかも考えず、保身や衝動のために争い、憎悪し、欺き、殺す生き物なのだから。


538 : 死刑執行中脱獄進行中 前編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/17(金) 23:08:27 ipJ75EXc0

「楽しみだなあ……あははは……」
「随分と楽しそうだな。」
突然ボトクの心の臓まで、ズンと深く響くような声が聞こえた。
巨大な手で、むんずと頭を掴まれる。
抵抗すると頭蓋を握り潰されるか、はたまた首の骨をへし折られるのは目に見えていたので、やむなく後ろにいた男の顔を見た。


「…………………!!」
真の恐怖とは、アドレナリンが体中から沸き上がり、体毛が逆立ち、震えが止まらなくなることではない。
むしろ逆だった。
その尊顔をご覧になった時、ボトクは全身のあらゆる筋肉が弛緩したことを自覚した。
睨めつけている彫りの深い顔と、燃えるような赤毛は、対面するだけで恐ろしい。
力が抜けてのにもかかわらず、地面に尻を付けずに済んだのは、自分の頭を掴まれていたからだ。
圧倒的なまでの恐怖によって、彼が魔物で無かったらあらゆる汚物を垂れ流すことになっていただろう。
主のオルゴ・デミーラに勝るとも劣らぬ魔力を、立っているだけで撒き散らしている。
魔力だけではない。
自分を掴んでいる腕は丸太か大剣を思わせるほど太く、胴体は筋肉の鎧の上に、さらに重厚な鎧を纏っている。
並の人間は言わずもがな、魔物でさえもシンプルに握り潰したり、蹴り殺したり出来ても全くおかしくはない。


「安心しろ、無駄な抵抗をせぬ限り、取って食うつもりはない。ただ1つ、教えて欲しいことがあるだけだ。」
このような相手のやり口は分かっていた。
自分がその『教えて欲しい事』とやらを話した瞬間、用済みと見なし首をねじり切る。


(どうする?変身を解くか?)
もしこの男が、『人間限定のマーダー』ならば、変身を解けば許してもらえる可能性がある。
だが、無差別に殺人をして回っている相手ならば、全くの無駄骨となり、殺されてしまう。


宙ぶらりんにされた状態で、ちらりとザックを見る。
まだ1つ使っていない支給品がある。
もし主が自分のことを信用した上で殺し合いに出したのならば、隠し玉の1つくらい用意してくれているはずだ。
だが、仮にそれが強力なアイテムだったとしても、ザックに手を突っ込み、取り出すまで最低でも数秒はかかる。
この男ならば、自分などその間に10回は殺せそうだ。


「あぐっ!!」
自分の頭を握る力が強くなった。
「どうした?まさか入れ替わりの術について、教えてくれない訳ではあるまい。」
(クソ……知ってやがったのか……!!)


あれは、自分で編み出した能力ではなく、大魔道の一体でしかなかった自分を、その邪悪さを見込んだデミーラが伝授してくれた呪術だ。
教えようと思っても、教えられるものでは無い。
きっとそれを話したら、この男に殺される。
いや、例え殺されなくても、主を裏切った罰として、首輪を爆破される可能性だってある。


その時のことだった。
他所の方向から石が、ガノンドロフの顔面に目掛けて飛んで来た。


539 : 死刑執行中脱獄進行中 前編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/17(金) 23:08:53 ipJ75EXc0

〇〇


「くそっ!!」
エッジの怒りの声が、森に木霊する。
セシルは、彼にとっても重要な人物だった。
このどうしようもない寂寥感が胸を突き抜けて行く感じは、バブイルの塔で魔物にされた両親が目の前で消えて行くのを見た以来だ。
だが、あの時と違い、その怒りをぶつける相手が、目の前にいない。


隣を見れば、シャーク・アイが無言で苦い顔を浮かべている。
それだけで、知人の喪失を嘆いているのだということが容易に伝わった。
早人の知り合いはどうなったのか、彼の表情を見ようと思ったら、その前に彼の目の前に、とんでもない光景が現れた。

重厚な鎧を纏った男が、仲間を襲っていた。
しかもその手は、今にもその仲間の頭を握り潰そうとしていた。


「ローザ!?おいシャーク!!てめえはハヤトを連れて逃げてろ!!」
そのまま2人を置いて、風のごときスピードで駆け出す。
走っている途中に、地面に置いてある石を拾い、仲間を襲っている敵目掛けて投擲する。
男は顔をひょいと逸らし、その投擲を簡単に躱した。
投擢攻撃にはそれなりな自信を持っていた。
しかし、投げたのは手裏剣でもブーメランでもなく、普通の石だったこと。
そして、距離が遠すぎたことで、躱す猶予を与えてしまった。


「ほう、キサマはこいつの仲間か。」
ローザを投げ捨て。ガノンドロフは面白そうな奴が出たという表情でエッジを見つめた。
この時、エッジの不幸は1つあった。
もしもガノンドロフに捕まっている時ではなく、『ローザ』1人だったならば、彼女が偽物だということを、魔族独特の不快な気配で容易に見抜いたはずだった。
しかし、木を隠すなら森の中、と言うべきだろうか。
ボトクの数倍邪悪な気配をまき散らしているガノンドロフが近くにいたがために、ローザが偽物だということに気付かなかった。


「てめえは俺の仲間を……ゆるさねえ!!」
「ほう……許さぬなら何をするというのだ?」
啖呵を切るエッジは、内心で焦っていた。
目の前の男の、圧倒的なまでの威圧感に。
かつて倒したゼロムスと同じくらいのオーラを放っていた。
ローザを連れて逃げようにも、それを許してくれそうな相手でもなかった。


「はああああああっ!!」
戸惑っている内に、雄たけびと共に猛烈なタックルが襲ってきた。
「危ねっ!!」
どうにか寸前で躱し、カウンター代わりに顔面に蹴りを入れる。
ほとんど効いたようには思えなかった。

「ふんっ!!」
「当たるかよ!!」
続けざまに蹴りが襲い来る。
これもまたトンボを切って躱したエッジは、空中で両手で印を結んだ。


「食らえ!!雷迅!!」
突然頭上に黒雲が集まったと思うと、まぶしい雷がガノンドロフに襲い来る。
雷撃の白糸が、黒の魔王に絡み付く。

「ふむ……悪くは無いな……。」
(これもほとんど効かねえのかよ……。)
しかしそれを受けても、魔王は涼しい顔だ。
身体の一部から、ぶすぶすと黒い煙が出ているので、無効と言う訳では無さそうだが、到底致命傷には届いてない。
しかも獲物の予想外なまでの抵抗に狩り甲斐を感じたのか、嬉々として剣を振り回してくる。


540 : 死刑執行中脱獄進行中 前編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/17(金) 23:09:17 ipJ75EXc0


(スピードはまだこっちの方が上か……)
続けざまにガノンドロフの斬撃が来る。
防戦一方だが、どうにかして紙一重で躱し続ける。
何度目か、ついにガノンの斬撃がエッジの喉元を捉えた。
だが、その姿は煙のように消えた。


(ならばさらにその差をつける!!)
それなりな実力を持つ忍者なら、誰もが覚えている「分身の術」だ。
ガノンドロフの目の前に、無数のエッジの残像が立ちはだかる。
「ヌゥゥゥン!!」
「なっ!?」


しかし、これをガノンドロフは予想外な方法で打破した。
力を込めて地面を殴りつけ、地震を起こした。
その攻撃は、威力自体はそれほどでもない。
だが、広範囲に衝撃波を起こすことで、残像を纏めてかき消した。


「そこか。」
剣の先にまぶしい光弾を纏わせ、本物のエッジ目掛けて投げ飛ばした。

「ぐああああああ!!」
今まで体術と剣術しか使ってこなかった相手に、ふいに魔法を使われ、避けることも出来なかった。
サンダガまで行かずとも、サンダラを優に超す魔法を受けて、全身に痺れと焼けるような痛みが走った。
(ドジ踏んじまったか……すまねえ……。)
上を見ると、ガノンドロフが剣を掲げていた。


「水の精霊の竜巻よ!吹き飛ばせ!!メイルストロム!!」
「ぬぅ!?」

そこへ、一迅のとぐろを巻いた水の蛇が魔王に襲い掛かった。
しかし敵は両脚で地面を踏みしめ、水の精霊の力を借りた、魔法と特技の合わせ技を耐え抜こうとする。

一瞬何で来たのか分からないシャークに対し、エッジは戸惑いを覚えるが、それどころでは無いと判断し、ガノンに対し追加の攻撃を加える。
再度エッジは印を結ぶ。
「もういっちょ行くぜえ!!水遁!!」

「うおおおおおおおおお!!」
今度は雷迅ではなく、津波が襲い掛かる水遁の術だ。
二匹の水蛇は、ガノンドロフを中心として二重らせんを描き、やがて交わり一匹の水龍へと姿を変えて行く。
天へと昇る水龍は、魔王をも打ち上げていく。

「バカ野郎!何で来やがった!!」
川尻早人と一緒に逃げろと言ったのに、態々やって来たシャークに対して悪態をつく。
「せめてこのナイフを渡そうと思っていたのに、苦戦しているようだったからな。
ハヤトは森の中の茂みに隠れている。」
「それじゃあ奴を早めに倒さねえとな………!!」


541 : 死刑執行中脱獄進行中 前編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/17(金) 23:09:47 ipJ75EXc0

その瞬間、二人が立っていた地面に凄まじい衝撃波が走った。
「何っ!?」
「くそおっ!!」

予想外な方向からの、予想外な威力の攻撃を受け、シャークとエッジは抵抗空しく吹き飛ばされ、地面に倒れこんだ。
衝撃波の出所には、小型のクレーターが生まれている。
彼が打った魔法弾は、はるか上空から地面に叩きつけることで、凄まじい地震を生み出した。


2人は立ち上がるのがやっとだった。
だが、攻撃はこれで終わりではない。
重力に従って魔王が地面に再び降りる時まで、衝撃波を打ち続けることが出来る。
再び片手に魔力が集まり始めた。
第二撃が、地上に転がっている2人に襲い来る――――――はずだった。


空にいる魔王を刺そうとする、銀色の流れ星が輝く。
「ぐ……!!」
不意を突かれた魔王は魔力の詠唱をキャンセルし、剣を斬り上げる。
魔王の心臓を串刺しにしようとする槍は、済んでの所で天を仰ぐことになった。

「危ない所だった。」
「怪力め……。」
先手を打ったのは当然、槍使いの方。だが、魔王の怪力はその程度の優位を優位としない。
両者、互いに決定打を与えられぬまま、地面に降りる。


「あれは……!!」
その流星の姿は、エッジが見たことあった。
「カイン!!助かったぜ!!」
「エッジか。お前だけでも無事でいてくれて何よりだ。」

油断している場合ではないとは分かっているが、仲間の死を聞かされた直後だというのもあって、再会を喜ぶ。
「俺だけじゃねえぜ。ローザの奴も……。」
「何?ローザ!?」
カインはまるで意味が分からんぞと言う口調で話す。

「何言ってやがんだ、確かにローザは……?」
いつの間にか彼女は戦場から消えていた。
ガノンドロフに恐れをなして逃げたか?
それはあり得ない。
彼女は月へ行くときに魔導船についてくるほど、勇敢な女だ。
ガノンドロフの攻撃を受けた際に、消し飛ばされたか?
それもあり得ない。
ダメージを受けたにしろ、エッジとシャークは無事だったし、少なくとも死体ぐらいは残るはずだ。

しかし、それ以上考えている暇はなかった。
「戦いの最中によそ見とは、我はその程度の雑魚と言う事か?」
剣を中段に構え、ガノンドロフが突進してくる。
慌ててカインは槍を、エッジはナイフを突き出す。
敵の武器は1つだけ。
ゆえに、どちらかを弾かれても、どちらかは敵の腹に刺さるはずだった。
突進してきている以上、進行方向を変えるのも難しい。
しかしこれに対してガノンドロフは剣で回転斬りを繰り出す。

「なっ!?」
「ぐあああ!!」

致命傷にこそならなかったが、それでも二人まとめて大きく弾き飛ばされた
さらにガノンドロフは勢いを止めず、攻撃の手を休めることは無い。
しかし、進行方向に何かがあれば別だ。

それを止めたのは、シャークが放ったバギマ。
そして、カインがやって来た方向から放たれた、火の玉だった。
「カインさん!!」
遅れてミキタカが戦場に入って来る。
先程の火の玉は、彼がザックから出した魔導士の杖によるものだった。


542 : 死刑執行中脱獄進行中 前編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/17(金) 23:10:39 ipJ75EXc0

しかしカインはミキタカのことをかまっている余裕はない。
先程動きを止められたのもほんの1秒あるかないかで、攻撃はすぐに再開される。
ガノンの剣が、執拗にカインを狙って来る。

「まずは貴様からだ。また跳ばれては面倒なのでな。」
1撃目の袈裟斬りは槍を横にして受け止める。
だが、敵が凄まじい力を持っていたため、カインは大きく後退することになった。
さらにガノンは地を蹴とばし、逆袈裟に2撃目を放つ。
そもそも槍が鍔迫り合いに向いていないのもあって、敵の攻撃を受け止めるのは無謀だと判断したカインは、先に後退しようとする。
胸に薄い傷が一筋刻まれるが、防戦一方になるとそのまま負けると判断し、無理矢理槍を前に構えて突撃を仕掛ける。

「なっ!?」
「いい作戦だったが、誰も剣以外の攻撃をしないとは言っていないのでな。」
しかし、ここでカウンターの回し蹴りがカインの脇腹に炸裂した。
さしもの竜騎士も、耐えきれずに地面を転がっていく。

「今だ!!」
カインとガノンドロフの距離が離れた瞬間、エッジの火遁と、ミキタカの火の玉の両方が魔王を襲う。
「温いな。」
ガイアーラの鎧を付けていたことで、その程度の炎では軽い火傷さえ付けられないものの、僅かな時間稼ぎに放った。
その隙を利用し、シャークがメイルストロムを再び打とうとする。
だが、同じ手は二度も食らわず、水蛇の集う中心地化から離れる。


「シャーク!!それとそっちのノッポ!!てめえらはローザを探すか、ハヤトの御守りをするかしやがれ!!」
僅かに出来た隙を利用して、エッジはミキタカとシャークに戦場からの離脱を促す。
突然ローザが消えたこと、早人を1人にさせていること
それどころでは無いと分かりながらも、エッジは言いようのない嫌な予感に付き纏われていた。


「バカを言うな!!4人がかりでやっとだろうが!!」
「海賊男の言う通りだ。4人で戦えば、我に勝つ可能性は僅かでも増えるかもしれぬぞ?」
「ずっとやってろとは言ってねえ!!ローザを見つけるまでで良いんだ!!」

エッジが考え得る最悪の展開は、全滅だ。
認めたくはないが、この殺し合いの敵はガノン一人だけではない。
別のマーダーに早人や、どういう訳か行方不明になったローザが襲われれば、一気に瓦解するだろう。
最悪の結果になるぐらいならば、2人だけが犠牲になる方がマシだ。


543 : 死刑執行中脱獄進行中 前編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/17(金) 23:10:59 ipJ75EXc0

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


(くそっ……)
ローザの姿を借りたボトクは、どさくさに紛れて逃げていた。
それは、エッジとシャーク・アイが起こした水龍が空を舞う間のことだった。


(これだから嫌なんだ……どいつもこいつも……。)
ついでに猛毒の霧を吐いてから逃げてやろうかとも思ったが、杜王駅の時と違って、青空広がる草原でやっても大した効果は無いと思い、使わなかった。
それ以前に、あのおぞましい赤髪の男に通用するとは思えなかったし、とにかく逃げ出したかった。
更に、あの場所にいた男は、恐らくローザの知り合い。
赤髪男にかまけて気付かなかったようだが、正体がバレるのは時間の問題のはずだった。

(姿を変えるなんて回りくどいことはせず、あの女は不意を突いて殺しておけば良かったか?)
自分のことがバレていたことから、ローザが赤髪男に、状況を説明したことは間違ってなかった。
戦場から姿を消して、森へ逃げてようやく、全身の震えが出てきた。


森を歩いてしばらくすると、茂みに隠れていた子供の姿が映った。
「君は!?」
武器を支給されてない早人は、先の尖った木の枝を握りしめ、女性の姿をした怪物を警戒した。

「お、落ち着いて。私はローザ、エッジの仲間よ。君を連れて逃げてって言われたの。」
「エッジさん達は大丈夫なの?」

とりあえず、物を訪ねてくれたと言うことは、警戒はしていないと判断し、僅かに胸をなでおろす。
そして、ボトクは考え始めた。

「エッジ達は大丈夫よ。でも向こうで戦っている敵は強いから、もっと遠くへ逃げなければいけないわ。」
このガキを、人質として有効に使えるだろうと。
いざという時、姿をこのガキに変えるのも悪くはない。
思い立ったが吉日とばかりに、ボトクは早人の手を掴もうとした。


「ぶわっ!!!」
苔の混じった泥の塊を、突然早人が投げてきた。
「な、なにをするの?今は泥遊びをしている場合じゃ無いでしょ?」
「ボクが分からないとでも思ったか?」


544 : 死刑執行中脱獄進行中 前編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/17(金) 23:11:55 ipJ75EXc0

「ぶわっ!!!」
苔の混じった泥の塊を、突然早人が投げてきた。
「な、なにをするの?今は泥遊びをしている場合じゃ無いでしょ?」
「ボクが分からないとでも思ったか?」


ボトクのどこか挙動不審な態度は、川尻早人にとって既視感があった。
その辺りを伺うかのような泳ぐ両目、それに自分を味方ではない何かの様に見つめるような視線。
かつて自分の父親に成り替わり、家にやって来た吉良吉影のそれと酷似していた。
加えて、もう1つ不自然だと感じたのは、ボトクが持っていたザックの数。
作戦が上手く行った高揚感もあって、ボトクは康一と由花子のザックを自らの物にしまっておくのを忘れていたのだが、早人はその不自然さを見抜いていた。
3つもあるのは、殺した参加者の者を奪っても無い限り、いくら何でも多すぎる。


そのまま早人は脱兎のごとく逃げ出した。
しかも小学生特有の小柄さを活かし、狭い木々の間をくぐっていく。


「おのれ!!待て!!」
またしてもまずいことになったと思い、早人を追いかけて行く。

「く、くそ!!」
たかだか人間の子供ぐらい、楽に捕まえられると思えば、狭い木々の隙間を抜けるのに苦労していた。
ボトクにとって、不味い知らせはこれだけではない。


「ハヤト!!どこにいる!?」
「早人さん!!いたら返事してください!!」
そこへ2人の男の声が、森の中に響いた。
自分がこの場にいると分かってしまえば、きっと怪しまれてしまう。


「僕はここだ!!ローザに追われている!!」
そしてそれに応える、早人の声。
ガノンドロフを相手にするよりかはマシだが、それでも直接の戦いは避けたかった

(上等だ!!手札の数はこっちの方が多いんだよ!!)
ここでボトクは更なる逃走よりも、早人もろとも追跡者を殺すことを選んだ。
あわててまだ出していない支給品を探る。
そんな中で、広瀬康一の鞄から4つ折りの紙を見つけた。
何が入っているのかと思って開けると、その瞬間巨大な人型からくりが現れた。


「行け!!『バルナバ』!!ボコボコにしろ!!」
突然現れた、からくり兵に似た鉄塊にいささか驚くも、セットで付いている説明書をもとに、銀色をまとったそれに指示を出す。
「ウガー!!」
あろうことかバルナバはボトクに拳を向けてきた。

「違う違う!!この森に入ってきた奴等だ!!」
「ウガー!!」
どうにか命令が通じ、バルナバは拳を振り回して森の外へ走って行く。
それを見たボトクは、早人の追跡を再開する。


545 : 死刑執行中脱獄進行中 前編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/17(金) 23:12:22 ipJ75EXc0

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「な、何だコイツは!!」

森に入ったシャークとミキタカの前に現れたのは、早人ではなく2〜3メートルほどの大きさの鉄人形だった。
コイツは一体何者だ?支給品か?誰かの召喚によって現れた者か?独立型のスタンドか?
2人の間で様々な疑問が生まれたが、それどころでは無いことも分かっていた。


「ウガー!!」
「斬り裂け!竜巻よ、バギマ!!」
振り下ろしてくる拳を躱し、シャークは竜巻の魔法を浴びせる。
それと共に、ミキタカも魔導士の杖を振りかざし、火の玉を飛ばした。


「ウガー!!」
しかし大した効果は見られず、続いて突進してくる。
「来い!!雷よ!!」
これも身を逸らして躱したシャークは、稲妻を呼び寄せる。

「ウガガガガガガ!!」
機械の身であるバルナバには、雷撃は風や炎以上の効果を発揮した。
しかし、それでも殴り掛かって来る。
このバルナバというからくり兵は、シャークにとってどうと言う敵では無い。
だが、彼の任務はこの敵を倒すことではない。
倒した先にいるはずの、川尻早人を助け、その上でガノンドロフとの戦いに復帰する所までが役目だ。
そこまでを踏まえると、このバルナバという敵は非常に厄介だった。




「行けるか?」
「はい。私はまだ行けます。」

戦い慣れていないミキタカを、シャークは励ます。
だが、誰もまだ知らない。
1人の魔王を中心とした混沌の戦いは、まだ始まったばかりだと言うことを。


546 : 死刑執行中脱獄進行中 前編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/17(金) 23:12:43 ipJ75EXc0
前編投下終了です。後編は後日投下します


547 : 死刑執行中脱獄進行中 前編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/21(火) 21:49:23 LwR5psVc0
すいません。私がワクチンの副作用で寝込んでいました。
今から投下します


548 : 死刑執行中脱獄進行中 後編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/21(火) 21:50:39 LwR5psVc0

「どうした?その程度では、我が簡単に勝ってしまうぞ?」
「ちぃっ!!」

何度目かガノンの斬撃を槍で受け流すカイン。
既にその手は痺れはじめ、呼吸が荒くなっていた。

(アイツの怪力も相当だが、あの魔法剣も負けず劣らず厄介だな……。)
速さは2人の方が勝っているが、それだけでは出し抜けないのを、短い時間で嫌と言うほど理解させられた。
中距離では剣戟、短距離では格闘技、そして遠距離では剣を使った魔法攻撃が襲い来る。
逆転の為にも、得意技のジャンプを使いたいところだが、その隙すら見つけるのが難しい。
この敵との戦いで優位に立てる場所はない。
近づこうが遠ざかろうが、どの場所に居ようがガノンドロフという男はチャンスを見出し、貪欲に攻めてくる。


「離れろ、カイン!!水遁!!」
エッジの合図と共に、ガノンドロフから見て9時の方向から水が集まり、蛇となる。
水蛇はとぐろを巻き、牙をむき出しにして魔王を食らおうとする。
このままならば濁流に飲まれるーーーはずだった。
魔法の力を剣に送り、唐竹に一刀。
いとも簡単に、蛇を頭から左右に裂いた。
常識で考えれば水で造られた物を裂くことなど不可能なはず。
だが、強力な剣術と魔術の両方を兼ね揃えた彼は、そんな常識さえ打ち破ることが出来る。


しかしガノンが水蛇を討つのに使った、一瞬の時間を利用して、すかさずカインが攻撃する。
槍を真っすぐに向けて突撃と言う、戦術もへったくれもない攻撃方法だ。
だが、下手に戦術を練っても、容易く看破されてしまう以上は、どんな攻撃でもひたすら繰り返すしかない。


「温いな。」
魔王はあろうことか、カイン以上に姿勢を低くし、カウンターに体当たりをしてきた。
その勢いは、まさに獣のごとし。
並外れた破壊力、筋力、思考力、体力、判断力、膂力。まさに「力」のトライフォースを持つべき理由を存分に発揮している。

「ぐわああ!!」
「カイン!?……てめえ!!」


「そろそろ終わりにするか。」
剣を上段に構え、袈裟斬り。
当たりはしなかったが、地面に斜線が一本作られる。
続けざまに、もう一撃。
“V”の文字に酷似した痕が、地面に作られた。


それからもデタラメに剣を振り回しているようにしか見えなかった。
ただ剣が地面を引っ掻き、その度に土煙が上がる。
(何をやっている?)
外している様には見えないが、だからといってのんびり敵の出方を伺っているわけにも行かなかった。
2人は槍とナイフをそれぞれ構え、魔王に突撃しに行く。
今こそがチャンス。
カインはようやく出来た時間を利用して、地を蹴り、天高く飛翔する。
エッジも地を蹴り、豹のごとき勢いで斬りかかる。


「何!?」
「壁かよ!?通れねえ!!」
その攻撃がガノンドロフに届く直前、光の三角柱が立ち昇る。
それは本物の柱のように2人を弾き飛ばした。


549 : 死刑執行中脱獄進行中 後編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/21(火) 21:51:03 LwR5psVc0

「この剣も使い方が分かってきた。なかなかどうして面白い剣だな。」
ガノンドロフが持っている剣は、元々魔法の世界で造られたもの。
すなわち、刃物として使うよりもむしろ、魔法道具として使うのに向いているのだ。
元の使い手は、縦に掲げることで火柱を出し、地面に描くことで結界を作るために使っていた。
戦いを繰り返すうちに、その事実に気付いたガノンは、元々マスターしていた結界精製術を応用して、即興で結界を作ったのだ。


「まずは貴様だ!!」
勢いを付けていた反面、結界に弾かれた時のダメージも大きくなってしまった二人は、まだ立てない。
近くに転がっていた方のエッジに、剣を振り上げる。


「まだだ……!!」
どうにか右腕を動かし、ナイフでその身を守ろうとする。
しかし、それで伸ばせた寿命は瞬き程度。
元々セシルやカインに耐久力で劣る彼が、しかも片手で力の魔王に勝つのは土台無理な話だ。

「無駄なあがきだな。」
一瞬でナイフは弾き飛ばされ、明後日の方向に飛んでいく。

「こうなりゃ……ダメもとだぁぁ!!」
瞬き程度に稼げた時間を使って、ザックからもう1つの武器を取り出す。
重くて持ち上げられなかった武器だったが、火事場の馬鹿力と言う事なのか、左手でも辛うじて持ち上げられた。
重さからして、それでも剣術に組み込めないと判断し、仰向けになったまま左手で思いっ切り振り回す。


「おのれ……その剣!?」
それまでどのような攻撃を受けても高らかに笑っていた男が、脛を抑えて呻き始めた。
エッジは知る由もないことだが、その剣こそ様々な時代に渡って、力の魔王の天下を崩し続けた伝説の武器、マスターソードだった。

「何だかわかんねーけど、てめえはコイツが苦手みてえだな!!」
両手で勇者ではないエッジを拒絶し続けるが、両手で無理矢理持ち上げ、振り回す。
またしても傷は浅かったが、それでも鎧と腹筋で覆われた腹に、傷を入れることが出来た。


「よくやったぞ!!エッジ!!」
天から響いた声。
それは既に天へと駆け、敵に迫ろうとする「竜星」となったカインだった。
竜騎士のアイデンティティになり続けた弱点など関係なしの、一撃必殺のジャンプ攻撃が、僅か一点、魔王の心臓に降り注ぐ。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「水面蹴り!!」
シャークは独楽のように回転した、地面スレスレの回し蹴りを打つ。
一瞬バルナバの足元をよろめかせるも、すぐに立て直し、拳を振り回した。

(倒せないなら無力化という訳にも行かないか…)


転ばせて動けなくし、その隙に早人たちの所へ向かおうと考えたが、状況はそれも許さなかった。
拳の攻撃は済んでの所で躱せたが、いつまでもこのやり取りをしているわけにはいかないため、焦りだけが増してくる。


「少し立ったままでいてください。動かないで!!」
そんな最中にシャークの耳に飛び込んだのは、ミキタカの謎の指示だった。

「分かった!ならばすぐに頼む!!」
言っていることは分からないが、突破口が見いだせない以上は、言う通りにせざるを得なかった。
それまで回遊魚のようにフィールドを駆け回っていたシャークが、急に立ち止まる。
当然、チャンスと見なしたバルナバは、拳を振り下ろす。


550 : 死刑執行中脱獄進行中 後編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/21(火) 21:51:55 LwR5psVc0

「効かないな。」
あらゆる職業の中でも特に海との関わりが深い海賊。
そのため海との相性が悪い重厚な防具を付けることは出来ない。
ならば、鎧や盾に頼らずとも出来る護身術を身に着けるしかない。
従って海賊とは、パラディンとは別方向に護身術に長けているのだ。


ドンという衝撃と共に、両の腕で鉄の拳を受け止める。
「お待たせしました!!」
その瞬間、ミキタカの声が聞こえたと思うと、姿を真っ白なひも状に変えていた。
それがシャークの足にまとわりつき、瞬く間に白と紫を基調としたスニーカーの姿になる。

「うわ!!うわあああああ!!」
今まで経験したことのない勢いで跳んで行くことで、シャークは悲鳴を上げる。
緑色の靴ひもが結ばれると、ジェット機のごとく猛スピードでバルナバを飛び越した。
「あなたの力と僕の力で、速さも跳躍力も二倍になってますからね。」

かつてミキタカはスニーカーに化けて、仗助と共に逃げたことがあるので、その力の調整も楽だった。
あっという間に、空中から早人たちの場所を見つける。

〇〇

「……?何だこれ!?」
「はあ……はあ……捕まえたぞ……手こずらせおって……。」
ザックからまだらくも糸を取り出し、予想以上に捕まえるのに苦労した早人に投げつけた。
べとべとの糸玉はすぐに分解し、絡み付き、逃げる足を封じた。
藻掻こうとするも、糸は解けない。
これからどうしてやろうか、と考えるも、そんなことが出来る時間は無かった。


「うおおぅ!?」
猛スピードで空からやって来た男が、すぐ近くでやってきたから。

「は……ははは、驚いたがもう無駄だ。それ以上近づくと、このガキの首をへし折るぞ……。」
ボトクの胸の内には、いまだにガノンドロフの恐怖が占めていた。
彼は、従来何かを恐怖するのではなく、恐怖「させる」対象だった。
それ故、恐怖することに対して慣れていなかった。



「卑怯な……。」
「おれ様にとっては誉め言葉でしかないさ。」
虚勢を張った笑みを浮かべる。
「分かった……言う通りにしよう……どうすればいい?俺が自刃すれば良いのか?それとも………武器を捨てればいいのか?でも、俺は今武器を持ってなくてな……。」
「難しく考える必要はない。これを使って、おまえらの首筋を掻っ切ればよい。」

ボトクはザックからブロンズナイフを取り出し、シャークの前に投げた。

「仕方が無い。ハヤトの命には代えられん。アンタの為ではないが……オレがやるしかない。ついと言えば何だが、オレが死ぬ前にやって欲しいことは他にあるか?」
「いや、他には……な?」


ボトクの地面が急に窪み、地面に尻を付けることになった。


551 : 死刑執行中脱獄進行中 後編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/21(火) 21:52:44 LwR5psVc0

「あなたのやり口は気に入りませんね。正月に大人が子供を騙すようなやり方、やめた方が良いですよ。」

ミキタカはスニーカーの状態を徐々に戻し、今度はドリルのような形になり、土を掘り進めていた。
そして、ボトクが立っている丁度下あたりを掘り進めていた。
足元に違和感を覚えたシャークは、時間稼ぎをするためにあえて長ったらしく話していた。

「だ、だまれ!!」
すぐに立ち上がるも、既にシャークは地面を蹴り、早人とボトクの間に割り込んだ。
口を大きく開き、猛毒の霧を浴びせようとする。


「終わりだ。」
「な……うわあああああ!!!」
しかしシャークが放ったメイルストロムは、毒息ごとボトクを吹き飛ばした。


「どうにか終わりましたね」
「いや、まだだ。…カインさん達を助けに行かないと……。」
ボトクやバルナバはどうなったのかはまだ分からないが、彼らの目的はなおも戦い続けているカインとエッジの下に戻ることだ。
そこで、今度はミキタカが崩れ落ちた。

「大丈夫か?」
「すいません。ちょっと疲れただけです。」
原因は簡単で、スタンドを酷使しすぎただけだ。
だが、助けてくれたこともあり、シャークは彼を背負い、森を出ようとする。


その時、獣の凄まじい雄たけびが聞こえた。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



カインの放ったジャンプが魔王の胸に刺さる直前のこと。
魔王は腹にマスターソードが刺さっている状態でなお、飛来する竜騎士に反撃の拳を入れようとしていた。
だが、その一撃は届かない………はずだった。

「ガァアアアアアアアアアアアア!!!」
「何!?うわああああああ!!!」


「これだけやって……ウソだろ……?」
そこにいたのは、赤い鬣の巨大な猪だった。
鼓膜が破れそうになるほどけたたましい慟哭と共に出されるは圧倒的な威圧感。
そして悪いことに、元々カインが飛び込もうとした先に鋭利な牙があった。
チャンスから一転、空中では竜騎士と言え度方向転換は出来ない以上危機に陥った。

「カイン!!くそ、水遁!!」
人間の姿をしていたガノンにさえほとんど効かなかった術だが、今度はカインを逃がすために打った。


(まさかこれほど早くこの姿になろうとは……。)


カインは無事に助かった。だが、エッジは自分を守るための術を完成させていない。
「エッジ!!」
地面に無事に着地したカインの叫びも空しく、巨大な牙が、エッジを貫く。
空中で真っ赤な花火が散る


552 : 死刑執行中脱獄進行中 後編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/21(火) 21:53:01 LwR5psVc0

「ち……く……しょ………。」
大人の腕ぐらいある太さの牙に宙づりにされたその姿は、とても助かりそうになかった。
だが、その手は忍術を使う時に結ぶ形をしていた。

(!!?)
突然現れるは煙。
それは濃霧のように、瞬く間に戦場を覆いつくした。
火のない所に煙は立たぬとは言うが、間違っても火を起こしたぐらいで立つほどのものでもないほどの濃い煙だ。
それは彼の忍術の中で、唯一攻撃用ではない「けむりだま」から出た物だと、仲間のカインは良く分かっていた。


(逃げろと言う事か……!!)
カインとて戦闘中に逃げることは経験していない訳ではない。
ただ、仲間の仇を目の前にして、逃げることなど彼の矜持が許さない。
軍事帝国バロンの、一団を束ねるリーダーである自分を裏切ることになってしまう。
かといって、手負いの身で勝てる見込みもないまま逃げずに無駄死にすれば、それはそれでエッジの気持ちを裏切ることになってしまう。


だからカインは魔獣から背を向け、逃げ出した。
自分はどう選択しても何かを裏切ることしか出来ない、自分に嫌気が刺しながら。
逃げている途中に、改めて思った。
自分はまだ己の弱さと言う牢から脱獄できていないのだと。


ガノンドロフはそれ以上竜騎士を追うことはしなかった。
元々は影の魔力と、力のトライフォースを使った魔獣化は、かなり体力を消費する。
(奴はこちらの方角か)
最初にボトクの頭を掴んだことから、目的の臭いは十分覚えた。
後は獣の嗅覚を利用して、追いかけるのみだ。





[エッジ@@Final Fantasy IV 死亡]
[残り 36名]


553 : 死刑執行中脱獄進行中 後編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/21(火) 21:53:31 LwR5psVc0

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


(な……何とか逃げ切った……。)
一方でボトクは森から抜け、北へ向かおうとしていた。
メイルストロムの威力を受けて、吹き飛ばされても辛うじて生き延びていた。

(もう一度別の奴に姿を変えれば……)
何度かベホイミをボロボロの自分にかけ続け、新たなチャンスを狙おうとする。
その時、地鳴りが聞こえた。
否、地鳴りではない。命を刈り取る魔獣の地を駆ける音だ。


巨体の上に、凄まじい速さを持つその魔獣にあっという間に追いつかれる。
「何だ……これは……。」
魔獣はボトクを踏み潰す直前、その姿を元に戻した。


「何故我に貴様の変身術を教えてくれない?」
自分の体に刺さったマスターソードをザックに納めながら、ボトクの前に仁王立ちする。
誰が言ったか、大魔王からは逃れられないと。

「くそ……こんな所で終わってたまるか!!」
逃げても無駄だと分かり、大きく口を開けて猛毒の霧を吐きつけようとするも、その口の中に魔法剣を入れられた。

「変身術を教えてくれれば手下として使ってやろうと思ったが、話が通じぬのなら仕方が無い。」
「ぐげっ!!」
その状態で剣に魔法を貯めた。
当然口の中で暴発し、歯がすべて消し飛ぶ。


(まだ……まだ死ぬわけには………。)
彼はレブレサックの民を誑かした快感を忘れられなかった。
それ故、彼は同じことに拘ろうとし過ぎた。
快感と言う名の牢から脱獄することは終ぞ出来なかった。

「ふん。」
最後に剣が、口の中に入った状態から斬り上げられ、頭蓋骨ごと脳を真っ二つにされる。
魔法が解け、無残な怪物の死体を一瞥もせず、持っていた支給品袋を纏めて奪い取ると、北へ向かった。


[ボトク@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち 死亡]
[残り 35名]




「ウガー!!」
主を失っても、機械兵はただ森の中で暴れ続けた。
元々油が簡単に切れる設計だが、デミーラの力によって改造を加えられ、簡単にはエネルギー切れにならないようになっている。
ボトクと言う災厄を振り撒く魔物が死した今、その手下だったバルナバはどうなるのか。
それはまだ誰も知らない。




【D-2/草原/朝】

【カイン@Final Fantasy IV】
[状態]:HP3/10 服の背面側に裂け目 疲労(大)
[装備]:ホーリーランス@DQ7  ミスリルヘルム@DQ7
[道具]:基本支給品 
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーを殺す。
1.セシル、エッジを失ったことによる喪失感
2.ミキタカ達を助けに行く。
3. 体力が回復したら、ガノンを倒しに行く。
※参戦時期はクリア後です


554 : 死刑執行中脱獄進行中 後編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/21(火) 21:53:53 LwR5psVc0

【D-3/森/朝】


【ヌ・ミキタカゾ・ンシ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(大) 不安
[装備]:魔導士の杖@DQ7 
[道具]:基本支給品 バッジ?@ペーパーマリオRPG 紫のクスリ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[思考・状況]
基本行動方針:カインやシャーク、早人に協力する
1. とりあえずカインの下に戻る

※参戦時期は少なくとも鋼田一豊大を倒した後です。


【川尻早人@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康 疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2(武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:シャーク・アイ、エッジと共に杜王駅へ向かう
1. あの獣の鳴き声は?
2.エッジが気がかり
※本編終了後です
※名簿は確認しました。



【シャーク・アイ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:ダメージ(中)  MP消費(大)
[装備]:ブロンズナイフ@DQVII
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2(武器ではない)
思考・状況: 犠牲者たちに対する罪悪感
基本行動方針:アルスを探す、その過程で危なっかしい人物を倒す。殺し合いに乗る気はないが、最悪殺害も辞さない。
1.早人、エッジと共に杜王駅へ向かう。
※少なくとも4精霊復活後です
※少なくとも船乗り、盗賊、海賊の技は使えます。


【D-3/草原/朝】


【ガノンドロフ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]ダメージ(中) 腹に刺し傷 疲労(大) 
[装備]:ガイアーラの鎧@ドラゴンクエスト7、美夜子の剣@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜1 確認済み) 柊ナナのスマホ@無能なナナ まだらくもいと×3@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち ランダム支給品×2(康一・由花子の支給品込み)
基本行動方針:主催者も含め皆殺し、ただし生かすことでより混沌が生まれそうな場合は別。
[思考・状況]
1:ボトクは期待外れだった
2:北へ向かい参加者を探して回る
3:その過程でリンク、ゼルダから勇気と知恵のトライフォース、あるいは別の世界の強い力を手に入れる。

※ハイラル城でリンクを待っている間からの参戦です。
※原作のようにマスターソード以外の攻撃は無効という訳ではありませんが、それでも大半の攻撃はダメージがカットされます。
※影の力が奪われているため、原作の第一戦(ガノン憑依ゼルダ)で使った憑依能力、第二戦(魔獣ガノン)の瞬間移動は出来ませんが、それ以外の技はすべて出来ます。
※魔獣化は出来ますが、長時間変わり続けることは出来ません。



※[D-2 草原]にはエッジの不明支給品0〜2、鶴見川レンタロウのナイフ@無能なナナ が落ちています。
※[D-3 森] ではバルナバが暴れまわっています


【支給品紹介】

[まだらくもいと×3@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち]
山岸由花子に支給された支給品。投げると敵をしばらく動けなくすることが出来る

[バルナバ@Final Fantasy IV]
広瀬康一に支給された支給品。
ゴルベーザ軍のルゲイエ博士に作られたロボットで、どこかフランケンシュタインのような姿をしている。
「ボコボコにしろ」と命令すれば、命令した相手に殴り掛かってくるようなポンコツである。
攻撃は殴るのを繰り返すのみだが、HPがゼロになり、上半身を失っても「合体ロボ」として再利用できる。
ただし、本ロワで誰が合体ロボを操作できるかは不明。


555 : 死刑執行中脱獄進行中 後編 ◆vV5.jnbCYw :2021/09/21(火) 21:57:01 LwR5psVc0
投下終了です。
しばらく所用につき、執筆を休憩させていただきます。
勿論ウィキ編集などは適宜していくので、他に作品を書きたい方がいらっしゃれば遠慮なく投下してください。


556 : ◆vV5.jnbCYw :2021/09/30(木) 18:41:28 HGtMXKVg0
マリオ予約します。


557 : ◆vV5.jnbCYw :2021/10/02(土) 13:33:03 dQLz8YNE0
投下します


558 : ◆vV5.jnbCYw :2021/10/02(土) 13:33:20 dQLz8YNE0

どうにか地面から抜け出したマリオは、仗助達を追わず、北へ向かい始めた。
何故かはわからないが、一刻も早くこの場所から離れたかった。


列車が進む方向とは逆向きに歩いている途中、放送が流れた。
既に仲間のことを忘れ、カゲに身を落とした英雄はその言葉が無くとも殺し続けるーーはずだった。


「アアアアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!!!!」
何が原因かは分からない、とてつもない頭痛がマリオを襲う。
それはクレイジーダイヤモンドから受けた一撃よりも遥かに痛かった。
近くに誰もいなかったのが幸いだったが、辺りに凄まじい慟哭が響いた。
どの名前かは分からない。
けれど、今呼ばれた名前の中で大事な人がいたのは確かだった。
涙はとめどなく流れた。しかし、それは何のため、誰のために流した涙なのかは終ぞ分からなかった。


脳裏に何かがフラッシュバックしたが、靄がかかっているかのようにぼやけていて、それが誰の思い出か、何なのかは全く分からなかった。
だが、かつて想い人だった者の死を知らされても、彼の行く道は変わらない。
ただ、『彼女』のために命ある光の者を殺し尽くす。


――――もう、やめにしないか?
そのまま当て所なく歩くと、誰だかわからないのに、気配だけは感じる『誰か』が話しかけてきた。


――――このまま殺し続けていても、何も残らないよ。
聞いたことがあるけど、どこか聞いてて妙な心持ちになる声だった。


歩いた先に立っていたのは、もう一人の“マリオ”だった。
彼にはもともと瓜二つの弟がいたが、彼がマリオの恰好をしているなどという訳ではない。
兄弟や双子以上にそっくりそのまま、同じ姿なマリオがそこにいた。
否、1つ相違点がある。
それは両の目だ。
片方は墨で塗りつぶされたかのように光を失い、カゲに染まっているのに対し、もう片方は広い海のような青い光を湛えている。



――――それは君自身も分かっているはずだ。いや、ここでは「僕自身」と言うべきかな?
口を動かすことを忘れたマリオは、“マリオ”の言葉に答えることは無かった。
この場合どちらが本物のマリオなのかは分からないのだが。


――――だけどそれを認めたら、仲間を裏切ってまで女王に付いた理由が無くなってしまう。だから気付いていないふりをしている。そうだよね?

マリオはそれに応えず、素通りして行こうとした。


――――無視かあ。掛け声だけは溌溂としていたのに、無口な君らしいね。


無口と言われたのは、マリオも心外だった。だが、口を動かすことは無かった。


――――それとも、仲間たちのリーダーとして、聞き上手を通していたのかな?


当たり前のことかもしれないが、“マリオ”は自分のことを全て見透かしたように話をしてくる。


559 : 影の迷い子 ◆vV5.jnbCYw :2021/10/02(土) 13:34:17 dQLz8YNE0

――――君はリーダーでありながら、自らの意志で選択出来る機会はほとんど無かった。
――――自分で判断して行動しているように見せかけて、不思議な地図やピーチ姫のメールに従って動いてばかりだった。
――――だから自分で選択しなければいけない時に、あの答えを選んでしまった。


“マリオ”は話を続ける。
その言葉に腹立たしいとも思わない。悲しいとも思わない。
“マリオ”が話している人物は、最早赤の他人だからだ。


――――勘違いしないでね。僕は君があの時、女王を受け入れたことを否定している訳じゃないんだ。
――――選択と言うものは得てしてそれ自体に問題があるわけではなく、その後どうするかが重要なものだ。
――――そもそも、君はどうして女王がいないこの場所で、殺し続けている?


鬱陶しいと思ったのか、マリオはハンマーを振り回して、“マリオ”に振りかざす。
それは煙のように消え、少し離れた場所にまた現れた。


――――理由も無く、殺し続ける、か。
言葉に発さずとも、“マリオ”には伝わった。
距離を一度離した後、またしても“マリオ”は近づいてくる。
何をしに来た。
そこでマリオはこの世界に来て、初めて抱いた疑問だった。


――――拒絶したと思ったら、今度は質問だなんて、我ながら随分勝手だね。

言葉には出さずとも、そう思っただけで“マリオ”はその疑問に答えた。

――――ただ君は自分の気持ちに向き合ってくれる相手が必要だと思った。それだけさ。
――――こうなってしまった以上、僕ぐらいしかそれが出来る相手はいそうにないしね。


マリオはもう一人の自分に近づく。
今度は攻撃することは無かった。


ただじっと、“マリオ”の青い瞳を見つめていた。


――――どうすればいいって顔してるね。
――――そうなるのも無理はない。君は今まで助けてばかりで、助けを求めたことなんてなかったからね。
――――でも、そのために何をすれば良いかなんて、悩む必要はない。必要になれば自ずとその答えが出てくるはずさ。
――――それに、もう忘れてしまったかもしれないけれど、君のことを大切に思ってくれる人は沢山いる。
――――その人が君を助けてくれるのを待つのも、時には良いんじゃないかな。君が大切に思っていた人がよくやっていたみたいにね。


マリオの白い手袋が、“マリオ”の手を掴もうとする。
それは拒絶の手か、助けを求める手か、許容の手か、マリオにさえ分からない。
だが、その時、赤い帽子とツナギの男は1人しか立っていなかった。


“マリオ”は本当に幻想のマリオなのか。
ここに立っている赤い帽子とツナギの男は、本物のマリオなのだろうか。
もしも、ここにマリオのことを知っている者がいれば、どちらをマリオだと認めるのか。


“マリオ”が消えた時、マリオは何かを思い出したかのように立ち止まっていたが、再び歩き出した。
あの男は一体誰だったのか、自分は一体何者なのか、分からないままだがそんなことはどうでも良かった。
この世界ではやることは、最後の一人になるまで殺し続ける。
彼の心にあったのは、それだけだった。




【C-7 朝】


【マリオ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(中) FP消費(小) 腹部、背中に打撲 
[装備]:折れた大型スレッジハンマー@ジョジョの奇妙な冒険  ジシーンアタックのバッジ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品×2 ランダム支給品0〜3 
[思考・状況]
基本行動方針:殺す
1:北へ向かい、新たな参加者を狩る
2:???

※カゲの女王との選択で「しもべになる」を選んだ直後です
※カミナリなど、カゲの女王の技もいくつか使えるかもしれません。


560 : 影の迷い子 ◆vV5.jnbCYw :2021/10/02(土) 13:34:29 dQLz8YNE0
投下終了です


561 : ◆s5tC4j7VZY :2021/10/02(土) 20:53:54 oKhk5s0g0
遅くなりましたが投下並びに第一放送突破おめでとうございます。
闇よりも
論理的ではなく”勘”で吉良のどす黒い惡に気づくのは、とてもヤンらしいと思いました!
そして、”瞳”から元担任を連想して吉良を信用できない守も”確かに”と感嘆しました。
ちょっとしたことで直ぐに瓦解しそうな危険なパーティ。今後を注視したいです。
Grand Escape
”うずまき”の正体に!!!です。
これは、今後に大きく影響が出そうですね。
電 車 を 吹 き 飛 ば し て し ま う ほ ど の 爆 発 を起こします
↑スクィーラがヤバイのを手にするフラグが……ッ!!
第一回放送
「何だ。言うがよい。」
「この広間の地下に、旅の扉が出来ていたのです。」
「な!?」

予想外の言葉に、デミーラは初めて驚愕の表情を見せた。

「素晴らしき演説でした。デミーラ卿。あなたがいてこそ、より強き『女王様』が現れるはずです。」
「女王様!?」
紫色の脳味噌が露出しているため見えにくいが、デミーラは訳の分からないという表情で眉間に皺を寄せる。
↑これらから、まさかのオルゴ・デミーラ利用かませ説が個人的に出てきました。(笑)

キーファ!!!???熱いですねぇ〜。
ハッ!?まさか表裏ロワのためにパーティーをぬけたのか!(違う)
もう、キーファが裏で主催の一人とバトル姿がおぼろげながらも浮かんできます。

エンドロールは止まらない
ゴルベーザ……やはり今の境遇は読んでいて切なさを感じます。
■■■の蘇生のために。彼はゆっくりと歩みを進めた。
↑狂気に堕ちようともそこは”兄”なんだなと改めて思いました!
ホットストーンに封印され、永きときを超えた時、当然にかつての仲間たちとは死に別れることとなった。だからこそ、知っている。取り残された者の悲しみも、そこから立ち直れるだけの精神力も。
↑メルビンの強さがとても伝わり、”英雄”の頼もしさを感じさせられました!
後悔したくないなんて、命を懸けてまで立ち向かってくれる人に対して自分勝手な話かもしれない。だけど、大人に守られ、害悪に晒されぬまま育った命が次の命を育むとき。果たしてその命は新たなる世代を、守れるだろうか。
↑逃げると言う選択肢を選ばず闘いに参加する早紀の想い、よくわかります。
この闘いの行く末がとても気になりますよ。
月はなくともMOONはある
ユウカとバツガルフの同盟!日中は無力に近いユウカですが、これは強力なコンビとなりそうなポテンシャルを秘めてそうですね。
月は何処かへ行く。しかし月は姿を現した。ジャックとセブンを合わせた『ⅩⅧ』の二人に。
↑いや、もう好きです……自分もこうした文を書きたいです!
炎の裏で思考する者達
「うわああああああああ!!!」
↑キングブルボーに振り回されるルビカンテが鮮明に想像できて笑っちゃいました(笑)
しかし、そこはゴルベーザ四天王筆頭。リンクの話から即座にネクロマンサーの回答に辿り着く智将ぶりは流石です!
果たしてリンクはどちらを選ぶのか……気になりますね。
死刑執行中脱獄進行中
改めて、ガノンの強さを”これでもか”というほど思い知らされました!
(まさかこれほど早くこの姿になろうとは……。)
↑ですがそれと同時にガノンも追い詰められていたことが分かり、エッジ!お前はよくやったと声をかけたいです。
自分はどう選択しても何かを裏切ることしか出来ない、自分に嫌気が刺しながら。
↑カイン……ッ!辛いだろうがセシルが亡きあと、頼りになるのはお前だ……ッ!と読んでいて握りこぶしを作っていました!
ボトクはまぁ、悪運が尽きたということですね!
影の迷い子
片方は墨で塗りつぶされたかのように光を失い、カゲに染まっているのに対し、もう片方は広い海のような青い光を湛えている。
↑おお……ッ!!!どちらもマリオだけど、なんというか違いを鮮明にする表現がとても巧みで凄いと思いました!
タイトルの迷い子もここまでのマリオの行動を知ると、切なさを個人的に感じました。

表裏ロワのさらなるご活躍をお祈り申し上げます。


562 : ◆vV5.jnbCYw :2021/10/07(木) 23:46:01 Grk8sTGY0
感想ありがとうございます。
第一放送後も書いていきます。

のび太、覚、ダルボス予約します。


563 : ◆vV5.jnbCYw :2021/10/12(火) 17:14:06 otu.RcwY0
投下します


564 : unbelievable ◆vV5.jnbCYw :2021/10/12(火) 17:14:59 otu.RcwY0
太陽が顔を出した頃に、ダルボスは戻ってきた。
特に争った跡が見られないことに安堵した覚は、外の状況を尋ねる。
「戻ったか。外には誰も来なかったか?」
「ああ。さっきの赤マントの奴も来ないみたいだ。」


最初の数時間は追ったり追われたりで騒がしい時間だった反面、駅に来てからの1時間と少しの間は、ダルボスにとって幾分か退屈だった。


しかしその一方で、朝比奈覚は何とも言えない胸騒ぎを覚えていた。
駅の構内には、血のように真っ赤な朝日が差し込んでいた。
それは、悪鬼が襲来した忌まわしき日の朝日を連想させた。
あの時、覚は前夜のバケネズミの襲来はほんの牽制攻撃で、本当の地獄はこれからだったと嫌と言うほど思い知らされた。
同様に、この敵の襲撃を受けていない駅の構内も、嵐の前の静けさでしかないと思っていた。


そこへ、最初の放送が構内にも流れる。


「嘘だろ……13人も……。」
ダルボスの知り合いは呼ばれていなかったが、既に4分の1もの参加者が殺されている事実が彼を動揺させた。
既にルビカンテというゲームに乗った者に会ったし、大盗賊ガノンドロフも方々で暴れているはずだが、その2人だけでは到底13人もの犠牲者を出すことは出来ない。


「参ったな……アイツがこれほど早く殺されるとは……。」
覚が言った「アイツ」とは、かつてサイコ・バスターを探すときに共に行動した奇狼丸将軍のことだ。
彼は呪力こそないが、度重なる戦争で培った武術や戦術の面では自分達より達者だった。
下手な呪力を持った人間よりよほど死ににくいとは思っていたので、これほど早く呼ばれたことは予想外だった。

だが、覚は予想外な事実を突き付けられても、さほど動揺することも無かった。
そうなったのは全人学級で人知れず行われていた間引きや、バケネズミとの戦争で失われた数多の死を経験しただけではない。
そんなシステムや事件は氷山の一角でしかなく、呪力が生まれる前から人類は血みどろの殺し合いを繰り返したことも知っていたからだ。
これが12歳の時にミノシロモドキに世界の真実を知らされる前の彼ならば、動揺していただろう。
だが、それから彼は身近な死も、歴史の裏での死も、知りすぎてしまった。
言ってしまえば、せいぜい1日しか行動を共にしていない1人の戦友、しかも一度死別を経験した相手ぐらいの死では心が動くことさえ無くなってしまった。


(早季達が無事なのは良かったがな……。)
とはいえ、彼が死んだ喪失感のみならず、神栖66町の3人が生きている安堵もあった。
もしも彼女が昔、まだ他者の悪意や殺意を知らない頃にこの世界に呼ばれているなら、是が非でも見つけて保護しないといけないし、後の2人も驚かれることを覚悟でまた会いたい。


しかし、この場にいた最後の1人に知らされた悲劇は、簡単に済ませられるものではなかった。


放送で起こされたのび太は、項垂れてすすり泣いていた。
その反応から、何が起こったのかは話を聞かずとも伝わってきた。
突然のび太は急に立ち上がり、駅の外へ走って出て行こうとする。


565 : unbelievable ◆vV5.jnbCYw :2021/10/12(火) 17:15:21 otu.RcwY0

「待て!どこへ行くつもりだ!!」
覚は呪力を使って、無理矢理のび太を連れ戻した。

「僕の友達を探しに行かなきゃ!!じっとしていられないよ!!」
宙ぶらりんの不安定な体勢になりながらも、手足をばたつかせて抵抗する。
のび太とて魔族との戦いの中で死の危機を感じなかった訳ではない。
しかし、その冒険の中で仲間が犠牲になったことは終ぞなかった。
だからこそ、これほど早く大切な仲間が2人もいなくなった事実を受け入れられなかった。

そしてのび太は身近な者との離別を経験していない訳ではない。
幼稚園の時、初めて死を目の当たりにした祖母から始まり、冒険の度にその世界で出会った仲間との別れを経験した。
しかし、それらは全て寿命や冒険の終わりと言う誰でも分かる前触れがあり、のび太自身も別れの言葉を告げることが出来た、「然るべき離別」だった。
ゆえに、それらとは全く異なる、あまりにも突発的過ぎる離別を受け入れることが出来なかった。

きっとドラえもんも美夜子も、危ないことになっているだけで、今から助けに行けば間に合う。
その根拠は何処にもないのに、そうとしか信じられなかった。

「気持ちは分かる。けど、今一人で出て行ってもどうにもならねえ。」
ダルボスもどうにかしてのび太を宥めようとする。


「じゃあ二人ともついて来てよ!どうしてじっとしているの!?」
「外に俺たちのことを狙っている奴らがいるかもしれない!君は友達の後を追いたいのか!!」


今この場で最悪なことは何か。
それは不慮の事態のせいでパニックになったり過剰に動こうとし過ぎて、更なる不慮の事態を呼び寄せることだ。
野狐丸、神栖66町を侵略した時のスクィーラも、そのパニックを利用した街の壊滅を狙っていた。

「死んだみたいに言うな!!ドラえもんも美夜子も死んだはず無いよ!!どこかで危険な目に遭っているだけだ!!」

キツイ言葉をかけてしまったことに覚は後悔した。
死者を聞かされる放送で自分は動揺することなくとも、他者にまでそうしろと強要することは必ずしも良い事ではない。
むしろ、不和を一層加速させることになってしまう上で、悪い方向に転がっていく可能性だってある。


「……すまない。」
自分がのび太の心の傷を抉るようなことを言ってしまったことを謝る。

「けどよお、どこへ探しに行くんだ?」
そこへダルボスが声をかける。
彼もまたのび太が気がかりで、どうにかして落ち着かせようと考えた。
「わからないよ!」
「じゃあ、いつ敵に襲われるか分からねえ中、手掛かりも無しに探しに行けってのかよ!」
「それでも、探しに行かなきゃ!!」
あくまで友達は死んでおらず、危険な状態になっているだけだとのび太は言い張る。

「そうだな……休憩もしたし、のび太君の友達を探しに行くか。奴等がガセを流したかもしれないしな。」
突然覚はのび太に同調するかのように、死んだはずの仲間を探しに行くと言い始めた。
「……ありがとう。」
「礼なら彼らを見つけてからだ。それとこれから先、自分の身の安全を優先してくれ。」

のび太の心はほんの僅かながら解れ、協力してくれると言ったことへの礼を言う。
2人は早速駅の入口へと歩く。
8時頃に来るという電車を、この空間で何もしないまま待つのは正気を保てる自信はない。

「ダルボス、どうしたんだ。置いていくぞ。」
急な覚の態度の変わりように驚きを隠せず、しばらく唖然としていたダルボスだったが、覚に呼びかけられ、その後を追う。


566 : unbelievable ◆vV5.jnbCYw :2021/10/12(火) 17:15:42 otu.RcwY0



(どうすればいいんだ……?)
ひとまずのび太を宥めることは出来たが、覚の胸の内にはわだかまりが残っていた。
覚は決して、主催が告げた死者の話がウソだとは思っていない。
その場しのぎにのび太に合わせたのは良いが、そうしてしまった以上、言葉を曲げるわけにも行かない。
彼が年長者として、ダルボスと共にまだ少年であるのび太を守らねばならぬという意思は勿論あった。
でも、現実を突き付けず、のび太の都合が良い考えに付き添うのは、本当に彼を守ることに繋がるのかと言う疑問もあった。

同時に、ここから先にもどうすべきかという疑問もある。
もしもの話、この先死人となったのび太の友達を目の当たりにしたら、もしくはその友達を看取ったという参加者に出会ったら、その時こそどうのび太に声を掛ければいいか、見当さえつかない。

人の心、特に年端も行かない子供の心は決して強いものでは無い。
覚にとっての早季のような人物の方が異例だということは分かり切っていたし、強くないから悪鬼のような災害が現れる。
幸か不幸か、のび太は呪力そのものを持っていないし、腰に差してある銃ならば間違った使い方をする前に取り上げれば問題はない。
心の行く宛を失い、自暴自棄になってしまえば、その時は彼とどう接することが出来るのか。


そこまで考えて、自分の心に対して嫌気が刺した。
のび太がどうしようもなくなることを恐れているのが、産まれてくる卵の中身が安全な雛か危険な怪物か恐れている神栖66町のリーダー達と同じだと気づいたからだ。


彼は一見バケネズミのミュータントと見紛う姿をしているダルボスにも気兼ねなく話をすることが出来るし、魔族と戦っていたというのだから、その辺りの子供よりはるかに精神が強靭だ。
しかし、知っているのび太と言うのはあくまで一面でしかない。
6時間ほどしか共に行動していない少年を、昔から知っている人間のように信頼しろと言うのは土台無理な話だ。


そして覚にとっては、もう2つしたいことがあった。
行方の知らぬままの写真の男の追跡と、神栖66町の3人の捜索だ。
先の13人の死因にも全てではないにせよ、細菌兵器を持った写真の男が関わっている可能性も無いわけではないし、ここまで短時間で殺害された者が多いとすると、いよいよ彼女らもいつまで生きているか分からない。


567 : unbelievable ◆vV5.jnbCYw :2021/10/12(火) 17:16:35 otu.RcwY0
勿論彼の友達探しと並行してやることは出来る。
だが、一度自分の仲間、のび太の仲間どちらかの手掛かりを掴んでしまったら、否応なくどちらかを優先することになる。
それ以前に、神栖66町の仲間を探すならば、目的地は清浄寺一択でしかない。
この世界にある清浄寺が、覚の世界にあった清浄寺と同じである保証はどこにもないが、バケネズミに襲われた先で避難した時と同様、あの寺は危急存亡の事態に隠れ場所や集合場所として役に立つはずだ。
しかし、のび太の仲間は清浄寺のことを知らない筈なので、その場所にいる可能性は低い。


のび太に改めて本当のことを伝え、まだ生きているはずの自分の仲間探しの優先に切り替えるか
それとも彼の心が壊れないように「仲間探し」に付き合うべきか。
覚は自分の選択肢が正しいはずであると考えることにした。
その答えが合っていたにせよ、間違っていたにせよ、きっと戦いは避けられない。
襲撃者がいつどこから襲ってきても良いように、辺りを伺うことを怠らなかった。



【B-7/一日目 朝】

【野比のび太@ドラえもん のび太の魔界大冒険】

[状態]:健康  情緒不安定
[装備]:ミスタの拳銃(残弾5)@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ダルボス、覚と共に脱出する
1.仲間(ドラえもん、美夜子、満月博士)を探したい
2.デマオン、スクィーラ、ガノンドロフには警戒
※参戦時期は本編終了後です
※この世界をもしもボックスで移った、魔法の世界だと思ってます。
※主催者はもしもボックスのような力を持っていると考えています。
※放送は主催が危機感を煽るために嘘だと考えています。

【朝比奈覚@新世界より】
[状態]:健康  早季への疑問
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、北風のテーブルかけ(使用回数残り17/20)@ドラえもん のび太の魔界大冒険 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探し、脱出する
1.のび太の仲間を探す。生きていても死んでいても。
2.神栖66町の仲間(早季、守、真理亜が心配)
3.仲間を探す過程で写真の男を見つけ、サイコ・バスターを奪い返す
4.デマオン、スクィーラ、ガノンドロフに警戒
※参戦時期は26歳編でスクィーラを捕獲し、神栖66町に帰る途中です。


【ダルボス@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:ほぼ健康 のび太が心配
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、タイムふろしき@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[思考・状況]
基本行動方針:リンクと合流し、主催を倒す
1.のび太と覚、そしてその仲間を守る
2.なぜガノンドロフがここにいるんだ?
3. タイムふろしき、これを使えば……。
※参戦時期は少なくともイリアの記憶が戻った後です。


568 : unbelievable ◆vV5.jnbCYw :2021/10/12(火) 17:16:48 otu.RcwY0
投下終了です。


569 : unbelievable ◆vV5.jnbCYw :2021/10/12(火) 18:54:49 otu.RcwY0
すいません。すこし訂正を

誤:「死んだみたいに言うな!!ドラえもんも美夜子も死んだはず無いよ!!どこかで危険な目に遭っているだけだ!!」

生:「死んだみたいに言うな!!ドラえもんも美夜子さんも死んだはず無いよ!!どこかで危険な目に遭っているだけだ!!」


570 : ◆vV5.jnbCYw :2021/10/27(水) 00:11:22 sVYTgnGg0
仗助、キョウヤ予約します


571 : ◆vV5.jnbCYw :2021/10/29(金) 23:23:47 TThk9OCE0
投下します


572 : 表の終わり、裏の入り口 ◆vV5.jnbCYw :2021/10/29(金) 23:25:26 TThk9OCE0

学校の前でバイクを停め、校門から入っていく。
キョウヤにとっては懐かしの場所だ。
正確に言うと学校からこの場所に連れて来られてから1日も経っていない以上、時間的な視点から見れば懐かしくも無いが、彼にはどこかそのように感じた。

「ここがキョウヤの通ってた学校っすか?」
仗助は辺りを見回しながら尋ねる。

「ああ。ここで俺たち能力者は『人類の敵』と戦うために訓練していたんだ。」
キョウヤの口から出る、とんでもない言葉に仗助は首を傾げる。
仗助の世界でも、特殊な能力を持った者はいるが、彼らが集められ、人類の敵と戦うようなことは強いられたりはしなかった。

「そんなスゲエことをやってる割には普通っすね……アレ?」
仗助は、グラウンド上で、倒れている銀髪の男を見つけた。
慌てて走り寄るも、近づけばそれが手遅れだということがすぐに分かった。


「ひでえ……。」
思わず仗助も言葉を零した
その男は鈍器のようなもので顔面を潰され、事切れていた。
攻撃の仕方に容赦がない事と、ハンマーを持っていたことから、駅で仗助達を襲ってきたマリオがやったことだと二人とも察しはついていた。


「東方。」
「俺のスタンドは、死んだ人には意味ないっすよ。」
「違う。そのスタンドでこの男の首輪を取って欲しい。」
「ええ?」

予想以上に大変なことを頼まれ、驚く仗助に対し、キョウヤは冷静に返す。

「やがてはこれの解除に必要だろ?」
人差し指で、付けられた首輪をコツコツと叩く。
「いや、それが必要な理由を知りたかったワケじゃなくて、俺がこの人の首を切らないといけないプレッシャーっすね〜。」
「嫌なら俺がやるぞ。これぐらいの死人は見慣れている。ここから適当な刃物を取ってくればいい。」

既に死んでいるとはいえ、人の首を斬るという行為に、恐怖感を覚える仗助。
彼の祖父や虹村慶兆の過去もあるように、人の死を見ていない訳ではないが、死人を眺めるのは気持ちのいいことではない。
ましてや、首を切るという形で触れることになるのだから猶更だ。


仗助はスタンドを出し、右手で手刀を作る。
しかしいざやると決めたものの、中々行動に移せず、手刀も上で硬直したままだった。


そこへ、最初の場所でも聞いた、主催の野太い声が学校にも響いた。
呼ばれるのは、禁止エリアのこと
そして、僅か6時間の間でこの殺し合いに膝を屈した者達の名前。


「おい、東方!?」
手刀が動かなくなったセシルの首を、瞬時に切り落とした。
今まで躊躇っていたのが嘘のように勢いの付いた行動だったため、やるように頼んだキョウヤさえも驚いた。


「何でもねえよ。」
静かに仗助は呟いた。
「ただ、俺たちはこんな所でやることなすこと躊躇う訳には行かねえって分かっただけだ。」
血で汚れるのも厭わず、セシルの首輪をキョウヤに渡した。
実のところを言うと、仗助はこの殺し合いを幾分か楽観視していた。
確かにバツガルフやマリオのように、殺し合いに乗っている者こそいても、かつての吉良と同様、仲間と協力して倒すことが出来ると思っていた。
そして広瀬康一という友人は、この殺し合いを打破するのに欠かせない人物だと思っていた。
その彼が、これほど早くに呼ばれるとは。

また、康一の恋人だった山岸由花子の名前も呼ばれたことも気がかりだったか。
どこか見知らぬところで、お互いを想いながら死んでいったのか。
それとも再会したが、より強い力を持った何者かが、二人を纏めて葬ったのか。

どっちにせよ、否が応でもこの殺し合いの恐ろしさを思い知らされた。
そして、自分はこれしきの事で躊躇っている場合ではないと


573 : 表の終わり、裏の入り口 ◆vV5.jnbCYw :2021/10/29(金) 23:25:49 TThk9OCE0

「ありがとよ。」
キョウヤは小さい声で感謝を告げる。
当の彼は、クラスメイトであったミチルの死に、さほど動揺していなかった。
一度彼女とは死別を経験していたし、冷たいようだが彼女が死んだことに関して、特に思う所は無かった。
大方見知らぬ相手に無警戒のまま近づいたか、治癒の能力を使い過ぎたことが原因で命を使い果たしたか。
彼女の死因は、考える宛はいくらでもあった。


むしろ気になったのは、キョウヤと同じ学校の3人のことだった。
これだけ死者が出ているということは、彼女らのうちいずれか、最悪の場合は全員が殺し合いに乗っている可能性もある。
この学校に行きたかったのも、殺し合いに乗っている者が拠点にしている可能性のある場所を調べたかったのもあった。


「東方、ここを出てどこかへ行きたい気持ちも分かるが、少し付き添ってくれ。」
「え?まだここでやることがあるんすか?」
キョウヤは首輪を受け取ると、今度は自分達がいた寮へと向かう。
キョウヤの予想通りというか、意気込んで外へ出ようとしていた仗助は、急にその足を止められたような気分になる。


「ちょっと気になることがあってな、というか東方、血だらけの状態で人に会うつもりか?」
「え?」
「シャワーや水道が使えるかどうか分らんが、俺の部屋で洗っていった方がいいと思うぞ。」
仗助本人には気付かないのも当たり前のことだが、右手と顔にはべっとりと血が付いていた。


学校の敷地こそは寸分の狂いも無かったが、この場所には寮のすぐ近くの裏山は無かった。
背景のみが全く異なる寮に奇妙な感覚を覚えながらも、寮の中に乗り込んでいく。

「東方、靴は脱がなくていいだろ。」
「いけね、つい癖だ。」

何度か角を曲がり、その先でキョウヤの部屋にたどり着く。

「ここだ。」
キョウヤは仗助を自室に招き入れる。
「んおお?」

部屋を見れば、凡その人間性というのは掴めるというものだ。
しかしキョウヤの部屋は一貫性が無い以上、その人間性を掴むのは無理と言うものだった。

「何かあったか。」
「い、いやぁ〜、個性的な部屋っすね〜。」
上着や靴下が床に乱雑に転がっているのはまだマシな方。
模造刀にテレビゲーム、『21日』と賞味期限らしきものが貼ってある野菜に、不細工なデザインの人形。
そして、部屋の隅には様々な分野の本を詰め込んだ本棚が並んでいた。


574 : 表の終わり、裏の入り口 ◆vV5.jnbCYw :2021/10/29(金) 23:26:06 TThk9OCE0

「そうか?気に入ってもらえると嬉しいのだが。」
どこかキョウヤはズレた回答をしながら、本を何冊か取り出す。

「ここがキョウヤの部屋ってことは分かったんすけど、何か用があったんすか?」
何故かつながっている水道で手と顔を洗いながら、至極当たり前の質問をキョウヤに投げかける。

「友達のおまえさんと親睦を深めるためにゲームを……と言いたいところだが、それどころじゃ無いからな。
この本の中にこいつをどうにかするのに使える何かがあるかもしれないと思って来たんだ。」
「確かに、これだけ本があるなら、何かヒントになる1冊くらいはあるかもしれねえな。」

血を洗い終わった仗助は、ビニールに包んであったトマトを頬張りながら、片手で本を探る。

「何だ……これは……。」
『爆発物取り扱い注意方法』という本を開いた瞬間、キョウヤの表情は驚きの色に染まった。

「虫でも張り付いていたんすか……え!?」
その本の中には、何一つ文字が書かれていなかった。
表紙と真っ白の紙だけで構成されていた本だった。
これでは、メモ帳ぐらいにしか役に立たない。


こんな話があるかと思って、2人は他の本も探ってみる。
しかし、結果は同じ。
キョウヤの部屋にあった本の中身は全て、文字が消えていた。


「意味が分からないな。」
全てでは無いが、一通りの本が白紙になっていることを確認すると、キョウヤは1つ呟いた。

「要はここの本が何か主催に知られたくないことを書いていたってことじゃ無いっすか?」
「そうじゃない。ここまで精巧にそっくりな場所を作っておいて、なぜ本の中だけ違うものにするかってことだ。」
キョウヤの疑問は極めて真っ当だ。
仗助の仮定の通り、元の世界の自室にあった本を置くことが何らかの不利益に繋がる場合は、本を置かなければよい。
そもそも、寮自体を置く必要が無いのだ。


「ところでお前さん、ゲームに興味があったのか?」
そこで仗助がゲームのスイッチを入れていたことに気付く。
テレビ画面には、キョウヤが元の世界でよくやっていたゲーム、『DANGER BOMBER』の文字が浮かびあがった。

「いや、ゲームは好きっすけど、それよりこっちの方はどうなのかな〜って。」
仗助の予想に反して、普通にゲームは動いた。
残念ながらこのまま楽しむ余裕は無いので、電源をそのまま切ったが。


575 : 表の終わり、裏の入り口 ◆vV5.jnbCYw :2021/10/29(金) 23:26:29 TThk9OCE0

「本以外に異常は無いか。」
ここで手掛かりを得ることが出来ないと分かると、残ったトマトやバナナをザックに入れ、寮を後にする。

「ここからどこに向かうんすか?」
ゴロツキ駅から降りた時は、仗助は最寄りの山岸由花子の家へ向かおうと思っていた。
だが、山岸由花子も、その恋人の広瀬康一も死んでしまった以上、その場所へ向かっても仲間と再会できる可能性は低い。
ミキタカや重ちーに出会える可能性に期待して、杜王駅へ向かうのもありだが、道中が禁止エリアにされる以上は遠回ししないといけない。
バイクを使ったとしても、向かうのにはそれなりな時間を要する。
なので行く宛が無い以上、仗助は行先をキョウヤに任せようと考えた。


俺としては禁止エリアって奴が気になる。
その様な表情と共に、地図にメモされた禁止エリアの場所を指した
「ここへ行くんすか?」
キョウヤのメッセージが、「話すな」ということだと見抜いた仗助は、ぼかした言い方で返す。
『気になるのは、「入ったらどうやって死ぬのか」ってことだ。』
今度はキョウヤの部屋にあったボールペンで、中身が書かれていない本に書き込む。
「!?」


恐らく入った場合は首輪が爆発して死ぬことになるのは、キョウヤには勿論、仗助にも察しがついていた。
しかし、どういった過程で、どういった理由で爆発するのかは全く不明だ。


「その先には、スタンド使いがいるかもしれねーっす。」
決まったエリアに行くことで、何かのトリガーが発動するという繋がりで、仗助は鉄塔のスタンドを思い出す。
あのスタンドは鉄塔が無いと意味が無かったが、似たような能力を持つスタンド使いが、殺し合いに協力している可能性だってある。


『もしかすると、主催が直接出入りして手を下す可能性もある。』
『そこを俺たちでモグラ叩きっすか!』
『まあ、それが出来るとは限らないが、この首輪がどんな反応をするか、試してみることは出来そうだ。』


禁止エリアとは、言うまでも無くこの殺し合いの中でも最も死ぬ可能性の高い場所だ。
故に多くの者が近づくことすら恐れる。
だが、誰も近づかぬ場所こそ、殺し合いという檻の扉が隠されていることもある。


この世界に呼ばれた多くの者達は、殺し合いの世界に呼ばれずとも、何かの特別な力が支配する軛に閉じ込められる経験を積んできた。


光の世界の住民からは冥土と呼ばれた影の領域
闇の力で切り取られ、封印された大陸
古の女王の力で呑み込まれた影の宮殿
魔力を秘めたクリスタルの力によって稼働する月と地球を繋ぐ塔
弓と矢の力で覚醒したスタンドによって造られた、不規則に動く時間と爆発の空間
八丁標で区切られた町
とある秘密道具の存在によって露わになった魔法の世界
そして、能力者のみが集められた孤島の学校


ある者はその地に潜む征服者を討伐することで境界を打ち払い、ある者は知恵を用いてその地から脱出し、またある者は何らかの力を使って外からその軛を破り、未来を掴んできた。
拘束された裏にこそ自由への可能性はあり、そしてその裏への道は時に知で、時に力で拓かれるものである。


576 : 表の終わり、裏の入り口 ◆vV5.jnbCYw :2021/10/29(金) 23:26:42 TThk9OCE0

殺し合いという表のカゲに潜む裏への存在は、どのようにして繋がるのか。
あるいは表と裏は繋がらず、乖離されたまま結末を迎えるのか。
能力を持った者達が、そして無能な者達が織り成される道は、未だその先を見せない。



【E-8 学校 寮入り口 朝】


【小野寺キョウヤ@無能なナナ】
[状態]:健康
[装備]:モイのバズーカ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス (残弾2/5)
[道具]:基本支給品(切符消費)、替えの砲弾×5 ランダム支給品(×0〜2 確認済) セシルの首輪
[思考・状況]
基本行動方針:主催者が何を考えてるのか。少なくとも乗る気はない。
1.禁止エリアの近くへ向かい、首輪がどうなるのか試す。
今の所F-5を目指そうと思っているが、状況次第ではC-6の禁止エリアにするかも
2.バツガルフ・マリオへの対策の考案。
3.知人の捜索。優先順位は佐々木=鶴見川>柊。
4.東方仗助は信用してもよさそうだ。
5.吉良吉影、柊に警戒。
※参戦時期は少なくとも犬飼ミチルの死亡を知った時期より後です。
※不老不死の再生速度が落ちています。少なくともすぐには治りません。
※死亡した場合一度死ぬと暫くは復活できません。
※仗助からダイヤモンドは砕けないの情報を得ました。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。


【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:ダメージ(小)ほぼ治療済み 覚悟
[装備]:クローショット@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(切符消費)、ランダム支給品(×0〜1 確認済) 承太郎が盗んだバイク@ジョジョの奇妙な冒険 いくつかの食糧
[思考・状況]
基本行動方針:乗るつもりはない。
1.キョウヤと共に禁止エリアへ向かう。
2.バツガルフ・マリオへの対策の考案。
3.仲間を探す。不安と言う意味で由花子か生き返ってる重ちー、一般人の早人を優先したい。
4.吉良吉影を探す。乗ってるかどうか関係なしにぶちのめす。
5.佐々木ユウカ、鶴見川レンタロウに警戒。
6.クローショットがちょっと楽しい。
※参戦時期は少なくとも最終決戦、億泰復活以降です。
※キョウヤから無能なナナの情報を得ました。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。
※マリオはバツガルフに操られている(DIOの肉の芽を植え付けられた虹村家の父の様に)と思い込んでいます


577 : 表の終わり、裏の入り口 ◆vV5.jnbCYw :2021/10/29(金) 23:26:55 TThk9OCE0
投下終了です


578 : 表の終わり、裏の入り口 ◆vV5.jnbCYw :2021/10/29(金) 23:28:45 TThk9OCE0
>>576
1つ訂正

【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:ダメージ(小)ほぼ治療済み 覚悟
[装備]:クローショット@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(切符消費)、ランダム支給品(×0〜1 確認済) 承太郎が盗んだバイク@ジョジョの奇妙な冒険 いくつかの食糧
[思考・状況]
基本行動方針:主催を康一たちの分まで殴る
1.キョウヤと共に禁止エリアへ向かう。
2.バツガルフ・マリオへの対策の考案。
3.仲間を探す。生き返ってる重ちー、一般人の早人を優先したい。
4.吉良吉影を探す。乗ってるかどうか関係なしにぶちのめす。
5.佐々木ユウカ、鶴見川レンタロウに警戒。
6.クローショットがちょっと楽しい。


579 : ◆vV5.jnbCYw :2021/11/12(金) 00:15:49 NK6iH8QQ0
ローザ予約します。


580 : ◆vV5.jnbCYw :2021/11/14(日) 00:03:25 coUvT4nc0
投下します。


581 : 白魔導士の決意 ◆vV5.jnbCYw :2021/11/14(日) 00:04:03 coUvT4nc0
ガノンドロフがと出会ってからしばらくして、ローザはバロン城にたどり着いた。
(何……これ……)
荘厳で美しかったはずのバロン城は、壁にあちらこちらに穴が空いていた。
頑丈だったはずの城門は何かしらの強い力で半壊しており、侵入者から城を守る役割を放棄している。
静まり返っていることから、ここで行われた戦いは過去のもので、この惨劇の立役者はここではないどこかへ向かったことが伺えた。


(あの男ね……。)
下手人はここに来る前に、バロン城の方向から襲ってきたガノンドロフだということは簡単に分かった。
軍事国家バロンの心臓部たるバロン城の頑丈さは、宮廷白魔導士をしていた自分が良く知っている。
いくら城を兵士がいないと言えど、ここまで傷跡を残せる者など、相当の実力者か未知の武器の使い手でない限り不可能だ。
そして、被害を受けたのは城だけではないこともすぐに分かった。


腹を刺され、動かなくなっている少年を見つけた。
姿は人間の物とは大きく異なっていたが、血の乾き様、開き切った瞳孔など、もう手遅れだということは十二分に伝わった。

(ごめんなさい。私が助けるのが遅れたばかりに。)
ガノンドロフとの戦いで、既に事切れているノコタロウに祈りを捧げ、城の中に入る。
戦いは終わり、静まり返っていたがそれでも隠れている者がいる可能性に期待する。


「誰かいない!?私は殺し合いに乗っていないわ!!」
しかし、帰って来るのは木霊だけだった。
まだボトクの姿に変えられているため、姿で恐れられていることも考え、城内を2階まで探ってみた。
だが、人に会うことは無かった。


(誰もいない……)
バロン城へ行けば、自分の知り合い一人ぐらいには会えるという期待があった。
しかし、その期待は外れた。

(もう少し待っていれば……誰か来るかしら……。)
たまたま自分が一番乗りだったという可能性も否定できない。
しかし、しばらく城を歩くうちに、そうは思わなくなった。
この城の空気が、人を寄せ付けないほどに荒んでいたからだ。


内部を見てみれば入り口以外はさして破壊されているという訳でもない。
だが、静けさとは異なる虚しさと寂しさが、この城の中に充満していた。
床の細かい汚れまで再現しており、地下水道への入り口が無いことぐらいしか違いは無い。
しかし、漂っている空気が決定的なまでに違った。
このバロン城を模した建物は、城として人を集めるのに適していない、殺伐とした空気を放っていた。
雰囲気で連想したのはバロンというよりむしろ、ゴルベーザ軍によって滅ぼされ、魑魅魍魎が蠢くようになったエブラーナ城だった。


582 : 白魔導士の決意 ◆vV5.jnbCYw :2021/11/14(日) 00:04:43 coUvT4nc0
この場所にいても人を集めることが出来るのは不可能ではないのか、そう思い始めた瞬間だった。
空虚な城内に、放送が響き渡った。


「え……!?」

死者の名前が発表され始め、すぐに呼ばれたのは、彼女の最愛の人。
誰よりも強く、自分の弱ささえも乗り越え、常に自分も他の仲間も引っ張っていった男。
そんな彼の死が、無慈悲に告げられた。
何処へ行くか悩んでいた頭を、思いっ切り殴られたような感覚を覚えた。
放送が終わるまで、ローザは何も出来ずに棒杭のように立ち尽くしていた。


城の雰囲気も相まって、重苦しい空気が、ローザを飲み込もうとしていった。
どれくらい経ったのかは分からない。
ローザはただ、ぼんやりとバロン城によく似た廃墟を見つめていた。
だが、しばらくして答えを出した。


(戦うしかないわね。)

一呼吸おいて、弓を構えた。
ボトクの身体の作りは人間とは異なるため、人間が使うのに適した弓を両手で使うのは手間がかかる。
だが、右手と口を使えば、コントロールこそは落ちるが活用することが出来た。


今まで、セシルに頼り切っていたのかもしれない。
それゆえ、ボトク程度の怪物に良いように騙され、殺し合いを止める貢献も出来なかった。


(きっとこんなんじゃ、セシルにも顔向けできないわ。)
姿は怪物にされたままで、どうすれば殺し合いを打破できるかなんて、相変わらず見当もつかないままだ。
だが、カインも、エッジも、ヤンもまだ生きている。
もしかすると、ルビカンテやゴルベーザだって主催に反旗を翻しているかもしれない。


(私はこんな所で終わる訳にはいかないわ。そうよね?セシル。)
最愛の人との離別を嘆くのは、この殺し合いから生還した後でもいい。
セシルを追って、1人で魔導船に侵入した時のことを思い出す。


もうのんびりこの城で立ち止まる気にはならなかった。
じきにこの城を繋ぐ3つの橋のうち、1つが閉鎖されてしまう。
そうすると、いよいよ城に来る人は少なくなるだろう。
すぐに城を出て、北へ向かうことにした。


(8時までにあの橋を渡らなければ……)
そうと決まると、慣れない怪物の姿でも走り出す。
もう、迷いはなかった。


しかし、この時彼女は知らなかった。
禁止エリアを越えた先に、彼の恋人の兄がいることを。
その兄は、ローザとは異なった想いをセシルの喪失に関して抱いていることを。
また、彼女の姿を奪った怪物は死んだことで、もうじき姿が元に戻ることも。


彼女にとって未知の要素がどのようになるかは、まだ誰も知らない。


【F-5 橋/一日目 朝】

【ローザ・ファレル@Final Fantasy IV】
[状態]:HP2/3 ボトクの姿 決意
[装備]:勇者の弓@ゼルダの伝説+矢30本 トワイライトプリンセス ふしぎなぼうし@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:北へ向かい、仲間(カイン、エッジ、ヤン)を探す。
1.ボトクに対抗する勢力を集め、彼に自身の姿を戻してもらう
2.ガノンドロフに警戒
※参戦時期は本編終了後です。
※ボトクの死亡により、もうじき元の姿に戻ります。


583 : 白魔導士の決意 ◆vV5.jnbCYw :2021/11/14(日) 00:04:55 coUvT4nc0
投下終了です。


584 : ◆vV5.jnbCYw :2021/11/21(日) 00:25:10 uOgiJWBs0
ミドナ、ゼルダ、クリスチーヌ、アイラ、秋月真理亜、使い魔(意思持ち支給品)予約します


585 : ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:14:15 ADk/0u7c0
投下します。


586 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:14:53 ADk/0u7c0
図書館というと、連想するものは何だろうか。
まず真っ先に思い浮かぶのは所狭しと並んでいる本棚と、それに可能な限り詰められた本だろう。
そして、それらが提供してくれる心が落ち着く紙の香りと静寂、すなわち本を読むのに適した空間だ。
図書館の中には冷暖房が完備され、暑さ寒さから干渉を受けずに中で本を読むことが出来るものもあるという。


しかし、この殺し合いの会場にある図書館は、それらの全てが無くなってしまった。
秋月真理亜という殺し合いに乗った一人の少女によって、1階は炎獄に、2階は戦場へと早変わりした。
ここはとある世界の大魔王でさえ、脱出を提案するような場所だ。
どうしようもなく酔狂な者でない限り、この場で落ち着いて本など読むことは到底出来ないだろう。


戦場と化した場所でも、他者を思いやる心が残っている者はいる。
最も、それが必ずしも良い事ばかりではなく、足を引っ張る可能性もあるのだが、



「姫さん!!大丈夫か!!」
2階の隅で、ミドナは肩を矢で刺されたゼルダを気遣う。
思ったより深くまで刺さっており、動脈をやられたのか、出血が止まらない。
その矢を、抜くか抜かないかも悩んでいた。
迂闊に抜いたら出血が多すぎて後で面倒なことになる可能性だってある。
普段、光の世界の人間と接する機会は多かったはずなのに、人の治療などに関心を持たなかったことを後悔した。
ザックを開けてみるが、回復に使えそうな支給品は何もない。
だが、何としてでもゼルダは助けなければならない。
この殺し合いが始まる前、ハイリア湖でザントに嵌められた時、ミドナの命は失われるはずだった。
それを身を挺して助けてくれたのは、ゼルダだった。
あの時の恩を、命を擲ってでも返さねばならない。

「ミドナ、私に構わず、あの二人を助けに行きなさい。」
「そんなこと出来るか!!」
状況から考えれば、どちらの言っていることも正しかった。
集団戦ならば負傷している者が真っ先に狙われるのは自明の理である以上、負傷者を優先的に守らねばならない。
同時に、負傷者の治療に戦闘員を使っていると、各個撃破を狙われる可能性が増す。

この図書館でミドナが仕入れた知識だったが、地雷という兵器の殺傷力が低い故の厄介さを思い出した。
地雷とは、1人を負傷させ、もう1人を治療役に回させることで、2人分の戦力を削げるという。
今の状況は、まさに地雷による負傷者と治療者のそれだった。

「私は大丈夫です。死ぬことはありません。」
ゼルダとて、決して戦えない訳ではない。
現にハイラルが影に飲まれる前には、剣を携え兵と共に戦った。
だが、今の肩を負傷したゼルダと、弓矢という両手を使う武器は致命的に相性が悪い。
本人は否定するだろうが、きっと戦うことが出来ないのはミドナにも分かっていた。
しかし、逃げようにも下は火の海になっている。空を飛べるミドナならともかく、人間のゼルダ一人では逃げようがない。
従って、ゼルダを敵から守るためには、誰かが傍に居続けるしかないのだ。


587 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:15:19 ADk/0u7c0

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


図書館だった場所の窓際には、この建物を戦場へと変えた少女が立ちはだかる。
その近くを飛んでいるのは、かつては地球侵略を企む悪魔に、今は真理亜に仕える使い魔。
この場には人間である者、そうでない者数多くあれど、正義も悪もない。
自らの命を守るために、愛する者の命を守るために、そして壁を乗り越えて新世界を目の当たりにするために戦う。



先手を打ったのは、真理亜だった。
ザックから取り出した銀のダーツがアイラに向かって飛んでくる。
「甘いわ!!」
しかし、ユバールの踊り手であり、死線を何度も潜り抜けたアイラにとっては、一本の矢など何の脅威でもない。
ディフェンサーを振り下ろし、飛来する矢を弾き飛ばそうとする。


「!?」
アイラの剣が当たる直前で、矢はベクトルを変え、天井に向かう。
それはただの銀のダーツに非ず。秋月真理亜の呪力により、操られている。


「だったら!!」
すぐに本棚の裏側に隠れたクリスチーヌが、真理亜に目掛けて突進する。
敵の呪力の正体は全て知った訳ではないが、目線こそがトリガーになることは、もう分っていた。
なので、物陰に隠れ、隙が出来た瞬間に一気に攻めることが、最適解だと認識していた。


「させないわ!!」
しかし、クリスチーヌの頭突きが真理亜に当たる瞬間、遠くに吹き飛ばされる。
「うわっ!!」
「きゃっ!!」

しかも飛ばされた方向は、剣を構えているアイラがいる。
危うくクリスチーヌは串刺しにされる所だったが、アイラが慌てて剣を逸らしたため、致命傷を負うことは無かった。
しかし、二人は勢い良く衝突し、それはダメージと共に決定的な間をさらけ出した。


「あぐっ!!」
アイラの右肩に、銀のダーツが突き刺さる。
真理亜が呪力で飛ばしたわけではない。上に飛ばされた後、重力に従って落ちた自由落下によるものだ。
そして、それに追い打ちをかけるかのように、使い魔が電撃魔法を放った。


「なんの……ギラ!!」
アイラは不安定な体勢ながらも、自分が覚えている数少ない閃光魔法で敵の魔法を打ち払おうとする。

(くそ、こんなことなら、もう少し魔法も覚えておけばよかった……。)
「ギギィ!!」
いくら使い魔程度の魔法とは言え、ギラだけで弾こうとするには無理がある。

「アイラさん!」
慌ててクリスチーヌは使い魔目掛けて頭突きを食らわせようとする。
しかし、飛び上がった瞬間、あらぬ方向から力がかかり、明後日の方向にあった本棚に叩きつけられる。

「くっ!!」
この殺し合いにおける制限の為、真理亜はかつての世界のように呪力で数百キロの物体を運んだり、数百メートル先から一瞬で他人を殺したりすることは出来ない。
だが、それでも彼女の敵になる者達にとって、厄介な能力であることに変わりはなかった。
当たり前だが、地に足を付けている時よりも、跳び上がった時の方がサイコキネシスの影響を受けやすい。
しかし、地面に足を付けていては空を飛んでいる使い魔を倒すことが出来ない。
従って、真理亜と使い魔の二人組は、この上なく厄介な相手だった。


「ギイイイイ!!」
使い魔は魔力でアイラのギラを打ち払い、電撃を浴びせる。

「く……。」
反撃しようとするも、全身が痺れ、思うように体を動かせないアイラ。
そこへ、身体を呪力で持ち上げられる

(まずい……!!)
見えない力が掛かっている体の場所が、極めてまずいことはアイラは察した。
このまま目の前の少女が呪力のベクトルを変えれば、最悪首を折られる。


588 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:15:45 ADk/0u7c0
どうにかして身体を捩るも、どうにもならない。
クリスチーヌがいる場所は離れている。

「させるか!!」
しかし、その攻撃は中断されることになった。
ミドナが散らばっていた本を影の手でかき集め、真理亜と使い魔目掛けていっぺんに投げた。
こんな子供の喧嘩に毛が生えたような攻撃では、二人を倒すことは到底出来ない。
しかし、無数に飛んで来た本は、敵の集中力を逸らすには充分だった。
3次元的な動きが出来る使い魔は、宙を飛び回ることで、乱れ飛ぶ本を回避する。
だが、アイラを呪力で抱えていた真理亜は、逃げるのに遅れる。
「痛……。」
慌ててアイラにかかっていた呪力を解除して躱すことに専念しようとするが、幾つかの投擲物をその身に受ける。


「クリスチーヌ、交代だ!!アンタが姫さんを守ってくれ!!」
ミドナはクリスチーヌに下がれと命令する。
ジャンプしなければ使い魔に攻撃が当たらないクリスチーヌより、常に空を飛んでいるミドナの方が戦いやすいという理由だ。

「分かったわ!」
モイの仇を討つためにも、自分も戦いたいが、そのために怪我人を見捨てる訳にはいかない。
不本意ながらも、ゼルダの方向へ向かう。


代わってミドナは、敵2人の場所へ飛んでいく。
「ギイ!」

早速使い魔が襲い掛かる。ミドナは仮面を外して、その内にあった飾りの手を振り回し、迎撃する。
それを躱す使い魔。そのまま反撃に両の指から電撃を撃って来る。
これは先ほど、使い魔が図書館に入ってきた直後の戦いと同じ結果――にはならなかった。

「ギ!?」
「そう何度も食らってたまるか!!」

ミドナはUの字を書くように空を飛び、電撃を躱す。
そのまま飾りの手で、使い魔を殴り飛ばそうとするが、小回りは敵の方が利く以上、空を切る。


「ご主人様の所へは行かせやしないぜ。」

先程の戦いを遠くで見ていて、使い魔と真理亜を近寄らせておくと、どちらにも手を出しにくくなることをミドナは分かっていた。
なので、空を飛べる自分が、使い魔だけをおびき寄せ、双方を孤立させる。
ミドナとてリンクの影の下、時には背の上で指図ばかりしていたわけではない。
戦いの様子を伺いながらも、常に最適解を編み出し、時にはその内容をリンクに伝えていたりしていた。


589 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:16:04 ADk/0u7c0
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


使い魔がクリスチーヌに向かっている間、呪力から解放されたアイラは、綺麗にトンボを切って着地する。

「ねえ、あなたは何でこの殺し合いに乗ったの?」
アイラは燃えるような赤い髪の少女に話しかける。
彼女の服は面積の半分以上が血で赤黒く染まっていたため、既に人を殺したのだと嫌でも察しがついた。
それでも、人の姿をした彼女を斬り殺すのは忍びなかった。
アイラとて、魔物と戦っていたからと言って、人間の悪意に鈍感だという訳ではない。
ユバール族として旅をしていた時も、アルス達と旅をしていた時も、人間の悪意だって人一倍目の当たりにしてきた。
だが、目の前の少女、秋月真理亜は悪意を見せる時のような濁った瞳をしていなかった。
むしろ、自分達の仲間を連想させる、黒曜石のように澄んだ瞳をしていた。
こんな綺麗な瞳を持った少女が、自分達と殺し合わねばならない現実を認めたくなかった。


「何だっていいでしょ。それとも、私の大切な人の為って聞いたら、あなたは死んでくれるの?」
真理亜は冷たく答える。
鋭く、それでも脆さを含んだ瞳をしながら。
まるでアイラの仲間である、マリベルをどこか感じてしまった。


「それはお断りね。あなたがもし私達全員を殺したとしても、その人は喜んでくれるのかしら?」
「黙って。私はあなたみたいな、優しい言葉を吐くだけの人が嫌いなの。」
真理亜には優しい人の言葉など効果がない。
彼女は知っている。
最初は子供を愛しているふりをしておきながら、その子供が害を及ぼす存在になると分かった瞬間、死を願い始める大人達のことを。
身内が死んで、最初の間だけうんと悲しみ、そして何事も無かったかのように忘れてしまう人のことを。
彼女が想う早季は違う。
だから見知らぬ人間の優しい言葉を流して、彼女の為の血みどろの道を歩むことだってできる。


「優しい言葉を吐くだけ?聞き捨てならないわね……。」
「っ!!」
真理亜の近くに火柱が上がった。
目の前の少女が誰のために戦っているのか、アイラは分からない。
けれどその少女にとっての大切な人なら、血で汚れた彼女を見ればきっと悲しむだろうし、もし悲しまないならば命を擲つ価値もない人間だ。

そして、自分のことを優しい言葉を吐くだけの人間、という言葉も気に入らなかった。
自分が力を持っているということを言いたい訳ではない。
優しい言葉を話すことしか出来ない人間の何が悪いのだ。
言葉は人を繋げることが出来るし、例え言葉だけで力がない人でも、力のある誰かを呼び寄せることが出来る。
言葉で味方をサポートし、敵の動きを止める職業、すなわち笑わせ士や吟遊詩人の職業を歩んだアイラだからこそ言えることだ。


「それならその耳で言葉の力をゆっくりお聞きになって。踊りが本業の私だけど、歌の技術も侮らないことね。」
「!?」
ここから再び呪力をお見舞いしてやろうと思いきや、突然意味の分からない言葉を言われて、戸惑う真理亜。
だが、次に取ったアイラの行動は、それ以上に真理亜にとって意味不明だった。


「♪〜♪〜♪〜」
アイラは突然、リズムを口ずさみ始めた。
綺麗な歌声で、一瞬だが聞き入ってしまう。
しかし、その瞬間が命取りだった。
「♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜」
(なに……これ……)
途端に、温かい布団に包っているような優しい感覚を覚える。
急に視界がぼやけ、瞼がトロンと重くなり始めた。
(まさか……これは……?)
真理亜とて子守歌というものを知らない訳ではない。
だが、普通の子守歌ならこんな場所で歌われたところで、突然眠りに落ちるわけがない。


「♪〜♪〜♪〜」
ゆりかごの歌。
敵に眠気を誘う調べを奏でる、不殺の特技だ。
アイラがアルス達と旅をする中、吟遊詩人として覚えた特技だ。


あの歌に何かタネがあるのか、と気づいた真理亜は、意識を半分手放していた。
瞼が閉じかけている以上、視覚が重要になってくる呪力にも頼れない。
慌てて顔をつねる。そんなものではどうにもならない。
なけなしの意識をかき集め、自身の下僕に指示を出す。
「使い魔……さん!!私に………!!」


「ギイイイイ!!」
ミドナと戦っていた使い魔は、慌てて主人の下へ飛ぶ。
吟遊詩人の修行で身に着けた歌の催眠作用は、1グループの敵にしか効かない。
要は敵が決まった範囲内にいないと、ゆりかごの歌はただの歌でしかないのだ。
「おい!待て!!」
急に戦いを放棄されたミドナは、使い魔を追いかけるが、追いつけない。
ミドナを振り切り、真理亜の所に来た使い魔は、雷撃を真理亜に浴びせた。


590 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:16:17 ADk/0u7c0
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


使い魔がクリスチーヌに向かっている間、呪力から解放されたアイラは、綺麗にトンボを切って着地する。

「ねえ、あなたは何でこの殺し合いに乗ったの?」
アイラは燃えるような赤い髪の少女に話しかける。
彼女の服は面積の半分以上が血で赤黒く染まっていたため、既に人を殺したのだと嫌でも察しがついた。
それでも、人の姿をした彼女を斬り殺すのは忍びなかった。
アイラとて、魔物と戦っていたからと言って、人間の悪意に鈍感だという訳ではない。
ユバール族として旅をしていた時も、アルス達と旅をしていた時も、人間の悪意だって人一倍目の当たりにしてきた。
だが、目の前の少女、秋月真理亜は悪意を見せる時のような濁った瞳をしていなかった。
むしろ、自分達の仲間を連想させる、黒曜石のように澄んだ瞳をしていた。
こんな綺麗な瞳を持った少女が、自分達と殺し合わねばならない現実を認めたくなかった。


「何だっていいでしょ。それとも、私の大切な人の為って聞いたら、あなたは死んでくれるの?」
真理亜は冷たく答える。
鋭く、それでも脆さを含んだ瞳をしながら。
まるでアイラの仲間である、マリベルをどこか感じてしまった。


「それはお断りね。あなたがもし私達全員を殺したとしても、その人は喜んでくれるのかしら?」
「黙って。私はあなたみたいな、優しい言葉を吐くだけの人が嫌いなの。」
真理亜には優しい人の言葉など効果がない。
彼女は知っている。
最初は子供を愛しているふりをしておきながら、その子供が害を及ぼす存在になると分かった瞬間、死を願い始める大人達のことを。
身内が死んで、最初の間だけうんと悲しみ、そして何事も無かったかのように忘れてしまう人のことを。
彼女が想う早季は違う。
だから見知らぬ人間の優しい言葉を流して、彼女の為の血みどろの道を歩むことだってできる。


「優しい言葉を吐くだけ?聞き捨てならないわね……。」
「っ!!」
真理亜の近くに火柱が上がった。
目の前の少女が誰のために戦っているのか、アイラは分からない。
けれどその少女にとっての大切な人なら、血で汚れた彼女を見ればきっと悲しむだろうし、もし悲しまないならば命を擲つ価値もない人間だ。

そして、自分のことを優しい言葉を吐くだけの人間、という言葉も気に入らなかった。
自分が力を持っているということを言いたい訳ではない。
優しい言葉を話すことしか出来ない人間の何が悪いのだ。
言葉は人を繋げることが出来るし、例え言葉だけで力がない人でも、力のある誰かを呼び寄せることが出来る。
言葉で味方をサポートし、敵の動きを止める職業、すなわち笑わせ士や吟遊詩人の職業を歩んだアイラだからこそ言えることだ。


「それならその耳で言葉の力をゆっくりお聞きになって。踊りが本業の私だけど、歌の技術も侮らないことね。」
「!?」
ここから再び呪力をお見舞いしてやろうと思いきや、突然意味の分からない言葉を言われて、戸惑う真理亜。
だが、次に取ったアイラの行動は、それ以上に真理亜にとって意味不明だった。


「♪〜♪〜♪〜」
アイラは突然、リズムを口ずさみ始めた。
綺麗な歌声で、一瞬だが聞き入ってしまう。
しかし、その瞬間が命取りだった。
「♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜」
(なに……これ……)
途端に、温かい布団に包っているような優しい感覚を覚える。
急に視界がぼやけ、瞼がトロンと重くなり始めた。
(まさか……これは……?)
真理亜とて子守歌というものを知らない訳ではない。
だが、普通の子守歌ならこんな場所で歌われたところで、突然眠りに落ちるわけがない。


「♪〜♪〜♪〜」
ゆりかごの歌。
敵に眠気を誘う調べを奏でる、不殺の特技だ。
アイラがアルス達と旅をする中、吟遊詩人として覚えた特技だ。


あの歌に何かタネがあるのか、と気づいた真理亜は、意識を半分手放していた。
瞼が閉じかけている以上、視覚が重要になってくる呪力にも頼れない。
慌てて顔をつねる。そんなものではどうにもならない。
なけなしの意識をかき集め、自身の下僕に指示を出す。
「使い魔……さん!!私に………!!」


「ギイイイイ!!」
ミドナと戦っていた使い魔は、慌てて主人の下へ飛ぶ。
吟遊詩人の修行で身に着けた歌の催眠作用は、1グループの敵にしか効かない。
要は敵が決まった範囲内にいないと、ゆりかごの歌はただの歌でしかないのだ。
「おい!待て!!」
急に戦いを放棄されたミドナは、使い魔を追いかけるが、追いつけない。
ミドナを振り切り、真理亜の所に来た使い魔は、雷撃を真理亜に浴びせた。


591 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:16:34 ADk/0u7c0

「うう……!!」
ゆりかごのうたで眠りかけていた自分に雷撃を打たせることで、即興の目覚まし時計にしたのだ。
勿論、吟遊詩人の力がもたらした眠気を無理矢理払拭するほどの痛みだ。
全身の筋繊維を焼かれ、引きちぎられるような激痛が真理亜を襲う。
だが、どんな苦しみよりも意識を手放さずに済んだ安心の方が勝った。


「ウソでしょ!?」
あり得ない方法でゆりかごの歌を破られたアイラは、驚くしかなかった。
確かに彼女の世界でも、みねうちという致命傷を与えない程度に衝撃を与え、味方を睡眠状態から脱却させる特技はある。
だが、彼女が使い魔にさせた技は、どう見てもそんな甘いものでは無かった。


(この子、一体どんな覚悟で?)
しかし、アイラが考えている暇はなかった。
意識をはっきりさせた真理亜は、再び呪力をアイラにぶつけた。

「うわ!!」
突然、アイラの身体が炎に包まれる。


「アイラ……!!これを!!」
「助かるわ。」
使い魔を追いかけていたミドナは、慌てて中断する。
咄嗟にザックから飲料水を出し、アイラへと投げる。
だが、呪力によって付けられた火は、ただの水だけでは簡単に消えることが無い。
アイラは自分を焼こうとする炎が全身に燃え広がる前に、颯爽と駆けだす。
その姿は、炎の紅と、衣服の赤の二つを纏った赤い風のようだった。
ゆりかごの歌のような精神干渉型の技は、相手の元の耐性にもよるが、一度効果を発揮してしまうとしばらくは効きにくくなる。
だからといって相手は呪力以外は普通の少女である以上、対魔物用の剣術なんて使ってしまった日には失血死させかねない。
従って、真理亜を殺すつもりはなくとも、多少のダメージを与える覚悟で、相手を拘束するしかなかった。


アイラの手が届く直前で真理亜はふわりと自らを浮かせ、上空に退避する。
しかし、真理亜の呪力がアイラでは無く自身を動かしたことで、呪力の炎は消えた。
これがチャンス、逃がすものかと、アイラは跳躍する。
神の踊り手として、スーパースターとして鍛えた彼女の体軸は、空中だろうと地上だろうとほぼ変わらずに身体を動かすことを可能にする。
空中で身を捩り、死神の鎌のごとき鋭さで回し蹴りを放つ。


「ギイ!!」
しかし、その足が真理亜に届く寸前、使い魔がアイラの足に噛みつく。

「くそっ!!」
「すまないアイラ!!ソイツを取り逃した!!」

使い魔を先程から追いかけ続けていたミドナもアイラの下にやって来る。
すぐに影の手で使い魔を捕まえようとする。


「うわ!!」
「チッ……!!」

しかし、今度は真理亜の呪力は、ミドナが食らってしまう。
勿論、アイラにぶつけられるというおまけ付きだ。


592 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:17:02 ADk/0u7c0

(クソ……歯車がかみ合わない……。)
リンクに指示を出し、リンクと共に戦った時のように行かない状況に、苛立ちを覚えるミドナ。
敵は二人、しかも一撃で全滅するほど強い力を持っている訳ではない。
だが、自分達の攻撃は悉くかわされ、逆に相手の攻撃を受け続けている状況に危機感を覚えていた。
図書館の2階は本棚などの障害物が多く、それを無視して移動が出来る敵2人に有利な地形だという理由もある。
それ以上に、協力して戦ったことのない者同士が、奇襲に対応するのは難しいことだった。
メンバーの中で反目や自己中心的な感情が無く、全員で協力しようという意思があっても、リズミカルに戦えるかどうかは別の話だ。
むしろ、ミドナとゼルダのように誰かを守ろうとする想いがあると、逆に足を引っ張ってしまうことがある。
逆に、真理亜と使い魔は一度協力して戦ったことがあるし、どちらかが死ぬ心配などしていない。
従って、互いの気を遣うことなく戦える。



ミドナとアイラ、二人とも地面に倒れこんだところで、上空で使い魔が雷撃の魔力を溜め、そのまま雷のように落としてきた。

「!!」
「まずい!!」

防御体制を取れる猶予が無かった二人は、そのまま雷撃を食らう事にはーーーならなかった。

「姫さん!!」
戦線離脱していたはずのゼルダが、紫色の丸盾を両手で掲げて、2人を守っていた。
ゼルダが持っていた魔法の盾は、敵の魔法攻撃を幾分か緩和させる力を持っていた。
血と埃でドレスとその身を汚しながらも、敢然と盾を掲げ、仲間を守る姿は自由の女神を思わせる猛々しさと美しさがあった。

「く……!!」
それでも多少ダメージはある。
両腕に痺れが走るし、ミドナが応急処置をしたとは言え、肩の傷も悪化する。
だが、耐えきれないほどではない。
クリスチーヌがゼルダに渡したバッジ「イツーモゲンキ」は電撃によるダメージこそ防げないが、麻痺による動きの阻害をシャットアウトした。


ゼルダとて、ハイラルの兵士を率いて、影の軍団と戦った経験はある。
結果こそは伴わず、降伏を余儀なくされ、城の一室に幽閉されてしまったが、それでも一人だけ戦えないことに我慢が出来なかった。
そして、肩を怪我して、使える武器が無くても、戦うことは出来る。


「姫さん……無茶をするなんて……クリスチーヌ!!何で止めなかった!!」
「ミドナ、言い争いをしている場合ではありません。戦うと言ったのは私です。
それよりもクリスチーヌ、今です!!」
「はい!あたしがいることも、忘れないでね!!」


使い魔とゼルダのせめぎ合いが繰り出される横から、クリスチーヌが頭突きを仕掛ける。
しかし、彼女がジャンプした所で、先程と同じように呪力で吹き飛ばされるーーーはずだった。

すぐに起き上がったアイラが構えを取ると、辺りが眩しい光に包まれた。
「これは!?」
スーパースターの力によって真理亜の視界を覆いつくしたのは、真っ白な光。
ホタルのような発光能力を持たない人間であるアイラが使うには、とある構えと一定の間が必要だったが、敵の意識がゼルダに集中したことにより、使うことが出来た。
人を焼いたり、脳や神経に異常を齎したりするわけでもない、ただの強烈な光だ。
しかし、その光は敵の目を眩ませることが出来る。
間違って望遠鏡で太陽を見てしまった時のような目の痛みが、真理亜を襲う。
慌てて目を閉じるが、もう遅い。

「……目が……。」
これでしばらく、真理亜は周りの標的に呪力を当てることは出来ない。
唯一出来る、呪力で自らを浮かせる能力で、アイラたちから離れる


593 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:17:35 ADk/0u7c0

「助かるわ!アイラ!!」
呪力の干渉が無くなるのが分かると、すかさずクリスチーヌが頭突きを使い魔に浴びせる。
「ギャア!!」
たんこぶを作った使い魔は、慌てて主人の所へ逃げるが、それを塞ぐかのように、ミドナの影の手が使い魔の進行方向に現れる。

「もう一発食らいな!!」
影の手で殴打しようとするも、Sの字のカーブを描いて飛ぶ使い魔に躱されてしまう。

「チィ!!」
「アイラ!そのダーツを、ミドナさんに投げなさい!!」
「はい!」
ゼルダが指示を出す。
足元には、真理亜が呪力で飛ばした銀のダーツが1本転がっている。

アイラは指示の意図が分からなかったが、すぐに気づき、怪我をしてない方の肩でミドナへと投げた。
未知の力を持つ敵に対して、思うように連携が取れていなかった3人だったが、ゼルダという一人のリーダーがとる指揮のもと、上手く戦えるようになっていた。
アイラはハサミを渡す時のように、ダーツの尖っている側を持ってミドナに向けて投げる。

「ありがと!!アイラ、姫さん!!」
そのままダーツを受け取り、使い魔目掛けて投げた。真理亜はようやく視界が回復したばかりだ。
ゼルダが射た光の矢を跳ね返したようなことも出来ない。


「ギイイィィィィヤアァァァアア!!!!」
魔を払うダーツが刺さった使い魔は、この場にいた5人全員の鼓膜が破れるほど甲高く、不快な悲鳴を上げた。
数十人が一斉に黒板を引っ掻いた時のような音が、図書館の2階に響き渡る。
大魔王格の魔族でさえ、心臓に銀のダーツが刺されば即死する。
増してや、使い魔クラスの魔族など、身体の一部に銀のダーツが刺さればどうなるか、想像
に難くない。
その悲鳴が徐々に小さくなっていくと思うと、使い魔の身体が炎に包まれ、灰になった。



「よし、コウモリネコは倒した!!後はあの女を取り押さえるだけだ!!」
ミドナは颯爽と真理亜目掛けて飛んでいく。
そこへ、向かい風のように何かの力が逆方向から飛んで来た。

「今だ!!ワタシに構わず、アイツをどうにかしろ!!」
しかし、ミドナに呪力がぶつけられたということは、他の者は自由に行動できるということ。
クリスチーヌとアイラは言う通りに向かって行ける……はずだった。


594 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:17:54 ADk/0u7c0

「何……これ……!!」
しかし、アイラもクリスチーヌも、真理亜に近づくことは出来なかった。

「まさか……風を動かしているの!!」
「これは…モイさんを吹き飛ばした……。」
呪力で動かせるのは、固体や液体ばかりではない。
空気の塊を動かすことで、近づけないほどの強風を起こしたのだ。
かつて2年前に離塵師が、筑波山でバケネズミの集団を薙ぎ払う時に使った呪力の技術を、流用したのだ。
勿論、大人である離塵師と彼女では、制限とは関係なく呪力の精度には差がある。
だが、カマイタチを作った離塵師のように高度な技術は持たずとも、雑に呪力の操作だけで強風なら作れる。


「これは……ちょっときついな……。」
強風に乗り、散らばっていた本が、大風に舞う木の葉のように飛んでくる。
しかも、木の葉とは異なり、致命傷は与えてこないにせよ、ゴンゴンとぶつかってきて痛い。

さらに、災害はこれだけではなかった。
使い魔の死体を包んでいた炎が、本棚の本に引火したのだ。
引火した本が飛ばされ、さらに炎を広げていった。


この図書館は既に1階は火の海になっているが、2階もすでに幾分かは燃え広がっている。
「くそ……このままじゃ、アタシも姫さんも……!!」
しかし、障害物に手を掴み、飛ばされないようにするのがやっとだ。
強風で、しかも野次馬が悪役レスラーや無能政治家に投げる空き缶のように本が飛んでくる中では、近づくことさえ出来ない。


(私も……助けに行きたいけど、どうすれば……!!)
唯一強風による被害を受けていないのは、一番距離が離れているゼルダだった。
だからと言って、肩が怪我している上に、弓矢を使えてもまた跳ね返されるかもしれない以上、武器に手を触れられなかった。
先程とは違い、魔法では無く自然現象を呪力で強化した攻撃なので、魔法の盾もあまり意味をなさない。

だが、離れた位置からでも分かるほどの、真理亜の異変に気付いていた。
元々色白だった彼女の顔が、真っ青だったことを。
普通ならばとっくに戦線離脱してもおかしくないほど疲弊しているのが、分かっていた。
大風とページが捲れる音の中に混ざって、彼女の荒い呼吸も聞こえてきた。
呪力は魔法と同様、無から無限の有を生む力とされているが、必ずしもそういうわけではない。
例えば魔力を使い過ぎれば魔力切れによる疲労を起こすように、呪力も使い過ぎれば体力の消耗をもたらす。

(そこまでして……なぜ……。)
先程眠気を覚ますために、自らに電撃を浴びさせた時もそうだ。
彼女には、殺し合いに乗るための固い意志があったということが、自ずと伝わってきた。
そして、ゆえに彼女が人を殺すのを、先導者として止めねばならないと決意した。


しかし、打開策は中々見当たらない。
前の3人は風に飛ばされないようにするのに障害物を背にしたり、しがみ付いたりするので精いっぱいだった。
しかも、図書館の2階の炎は燃え広がっていく。


(クソ……持久戦に持ち込むつもりか……。)
窓際に陣取り、強風のせいで真理亜に近づくことも脱出することも出来ない。
そうしている間に、じわじわと火と煙が広がっていく。
この状況が進めば、一酸化炭素中毒で死ぬか焼け死ぬかのどちらかだ。


595 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:18:12 ADk/0u7c0

(そうか!!)
クリスチーヌは壁を背にして、風を凌いでいたのだが、突然閃いたように走り出した。

「ミドナさん!本を見て!!」
真理亜の周囲を、一見隙が無いように向かい風の壁が囲っているのだが、実は僅かながら無風の場所があるのをクリスチーヌは見抜いた。
本が宙を舞っていない場所だ。
彼女の目論見通り、真理亜は疲労によって呪力が弱まっており、それに沿って粗が生じていたのだ。

「そうか!!」
ミドナはクリスチーヌの指示通り、強風の中を飛んでいく。
無風という訳ではないが、これぐらいなら飛ばされずに済む。
クリスチーヌが地を駆け、ミドナが空を駆け、風の壁の弱い部分を突破していく。


「これで終わりだ!!」
ついにミドナの仮面の手が届く範囲までたどり着いた。
クリスチーヌも、もう少しでやって来る。

真理亜は強風を起こすことを止め、自分を飛ばして攻撃を躱す。
しかし、その瞬間、白く光を放つ矢が燃えるような赤髪の横を掠めた。


「次は当てます。」
「ありがとう。ミドナ、クリスチーヌ。あなた達のおかげよ。」
片手しか思うように動かせなかったゼルダだが、アイラがもう片方の手になってくれたことで、光の矢を射ることが出来た。


「チェックメイトだな。」
「………。」
「まだ何かあるかもしれない。油断しないで。」
得意げだったミドナだが、一度勝利を目の前にしてそれを逃がし、挙句にモイを失ったクリスチーヌは警戒していた。
この場で真理亜の打つ手はもう残されていない。
誰かを攻撃すれば、直ちに他の誰かが攻撃してくる。


「ミドナ、その少女と話をさせて。」
「ダメだ!!こんなヤツに近づいたりしたら、何されるか分かったもんじゃない!!」

ミドナは恩人であるゼルダには、絶対に傷を付けさせたくなかった。
だからこそ一悶着起きそうなデマオンが近くにいるのに反対をしていたし、殺し合いに乗っている真理亜を近づけさせるなんて以ての外だった。
それでも、ゼルダを信じたかった。
身を挺してまで影の世界の住人であったミドナを助けてくれたゼルダを、信じたかった。


「私はその少女を殺したくないし、死ぬつもりもありません。私を信じてください。」
「………オイ、赤髪。話聞いてやれ。姫さんに手を出したら許さないからな。」


「あなたの名前を教えてください。」
「そんなことして何になるの?そもそもあの鬱陶しいカードを見ればいいだけじゃない。」
「まずは言葉を交わすことが大事です。どんなに辛い時でも変わりません。」

他者とのつながりは、どんな場所でも大切なはずだ。
姫として国を作り、繫栄させていく義務があるゼルダだからこそ、猶更分かることだ。

「秋月真理亜……。」
不思議と真理亜の心の中から殺意という名の毒が抜けて行くのを感じた。
不意に感じたのは、望郷の想い。


「マリアと言いましたね。良い名前です。」
「だから何だというの?」
「その名前を付けてくれたあなたの家族は、あなたがやっていることを見ればどう思いますか?」


596 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:18:50 ADk/0u7c0
その時、ゼルダは真理亜の心の内に入りこんだ。

「あなたは家族や帰る場所と切り離された理不尽に耐えられなくて、他者に理不尽を押し付けているのでしょう。」
ゼルダはハイラル城の窓から見ていた。
僭王ザント率いる影の軍団にハイラルを奪われ、王国ごと影に飲み込まれてしまった時、帰る場所を無くした人のことを。
でも、彼女は知っていた。リンクやミドナのような、帰り道を作ってくれる人がいることに。
ゼルダの温かい手が、真理亜の心の内に入り込んでいく。


「私も一国を導かねばならぬ姫として、あなたの気持ちは分かります。私達と協力して、帰り道を探しに行きましょう。」


しかし、心の内に入ることは、必ずしも分かち合えることではない。

「ふざけるな!!」
真理亜の慟哭が、空気を揺らす。
その声の鋭さに驚く間も無かった。
なぜならそこにいた真理亜以外の4人に、上からの引力が掛かったからだ。
いや違う。怒りに任せた真理亜が、呪力で全員を天井に叩きつけたのだ。


(なんでよ……!?)
室内でルーラを間違って使った時のような感覚を覚えながらも、アイラは驚く。
彼女の呪力は、一度に異なる方向の人を持ち上げることは出来ない筈。
答えは、呪力の違いにあった。


これまで真理亜が使っていたのは、何か一つの対象に力を加えたり、火を付けたりする呪力だけだった。
しかし、今彼女が使ったのは、自分の周囲にいる相手に、等しく力をかけるものだった。
真理亜のもう少し先の未来の出来事で例えるならば、鏑木肆星が360度全方向から襲ってきたバケネズミの集団を全員上方に押し上げたような光景だった。
彼女が極端に優秀な呪力の使い手ならば、このまま一人ずつ身体を引きちぎることが出来たが、それが出来るほど優れては無かった。
ただし真理亜はゼルダに対する怒りのあまり、制限下でも一時的に呪力のボルテージが上がったのだ。


「「「「●☆◇〇●△★△〇!!!!!」」」」
アイラ、クリスチーヌ、ミドナ、ゼルダの4人は文字で表せない悲鳴を上げる。

アイラは天井に全身をぶつけて、地面に落とされた後、片手と片足がおかしな方向に曲がっていた。
クリスチーヌは天井を頭にぶつけた所で舌を噛んだのか、口から薄赤い液体を零していた。
ミドナは打ち所が悪かったのか、身体を丸めて蹲っていた。

そしてゼルダは、地面に落ちる瞬間に、再び真理亜に持ち上げられた。


「私には帰らないって自分で決めたの!!その決意を、よりによってあなたが否定するな!!!!!!!」
一瞬呪力から解放され、黄昏の姫はその後凄まじい力で壁に叩きつけられた。
べちゃ、と気持ちの悪い音が響いた。
呪力の制限はかかってある以上、かつて真理亜のいた町で出てきた悪鬼に蹂躙された人間のように、壁に貼り付けられて趣味の悪い芸術作品になることは無かった。
だが、何度も壁に叩きつけられ、皮膚だけではなく、脊椎も頸椎も他の大事な内臓も傷つけられる。


597 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:19:07 ADk/0u7c0

「姫さん……。」
ミドナはその惨状を見ることしか出来なかった。
身体が動かせない以上は、真理亜を攻撃することもゼルダを助けることも出来ない。


真理亜はそのままゼルダの呪力を解放せず、何度目か壁にぶつけた後、上から思いっ切り叩き落とした。



ぐ  ち  ゃ


果物がつぶれた時のような音が響く。
そこまでするほど、真理亜はゼルダを許せなかった。
彼女は故郷を追われたのではない。
自分の決意で故郷を出たのだ。
そしてそれを決意せねばならない原因を作ったのは、ゼルダのようなリーダーである町の大人達だ。


慟哭は咽喉が枯れるまで出た。


(畜生……ちくしょう……)
ミドナは胸の奥に噴火する寸前のマグマのように、悔しさとやるせなさが募った。
折角姫を守ろうとしたのに、守れなかった。
もしあの時自分がゼルダに話をさせずに真理亜を殺しておけば。
もしあの時真理亜の襲撃を受ける前にゼルダを図書館から出していれば。
もしあの時もっときちんとゼルダを守っていれば。
真理亜への敵意より、自分の後悔だけがあった。


両手で印を結ぶ。
片手は折れていたが、それを無理矢理動かす時の激痛よりも、何も出来ないまま真理亜に負ける方が、彼女にとって地獄だった。
そして影の魔力を練る。
かつて獣になったリンクにかけられた鎖を千切った技だ。
動いていない相手に使えず、実践の有用性は限りなく無いが、真理亜がゼルダにかかりきりになっている今こそ、使える時だった。


両手に黒いオーラが集まり、それが解き放たれる。
「きゃっ!!」
真理亜の下腹部で何かが弾け、鮮血が迸り後方に吹き飛ばされる。


(はは……結局ダメだったか……)
やはり生き物相手にやるのは初めてだったため、本棚が邪魔して見えないがトドメこそはさせなかった。
そして悪い予想は辺り、赤髪の少女は窓から逃げていく。


〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


598 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:19:28 ADk/0u7c0

「はあ……はあ……ゲホッ!!」
口から咳と共に血を吐き出す。鼻からも血が出ていた。
秋月真理亜は、身体のあらゆるところが異なる色の赤で斑に染まっていた。
目の先は半分くらい靄が掛かっている。
ミドナから最後に食らった魔法だけではない。
怒りに任せて自分の力を越えた呪力を使ったが、その代償は重かった。
彼女は呪力の訓練で今のようなことが出来たわけでは無く。ただの怒りによるエネルギーの前借りに過ぎない。
感情が収まると、すぐに代償が疲労、頭痛、貧血などの形でやって来る。


まだ僅かながら残っている呪力を使って、図書館から少し離れた場所にある草原に隠れた。
この場所はそう遠くない時間、禁止エリアにされる。逆に近づく者はいないから、他人に殺される可能性は低くなる。
そして危ないとは分かっていても、地面に座り込む。

(きっと、あの人たち、もう生きていないよね。)
向こうの図書館から煙が上がっていた。
ミドナのせいでゼルダ以外はとどめを刺し損ねたが、動けなかったし、きっと焼け死んでいるだろう。

(何か……回復できる物……)
ザックを開け、モイが持っていた支給品の食べ物を手に取る。
『トニオの子羊の背中肉のリンゴソース掛け』という料理は、栄養を摂取できるだけではなく、内臓のダメージも回復できるらしい。
食事などとても出来るような状況では無いが、意識を手放せばこのまま動けなくなるのは目に見えていたので、無理矢理胃に押し込むことにした。
本当は絶品の料理のはずだが、味なんて分かるような状況では無く、胃が受け付けず、何度も何度も吐きかけたが、なんとか完食した。

突然、腹から大量の血が出る。

(毒!!?)
そう勘違いするが、どうやら内臓が回復する上での過程だったようで、痛みが過ぎると幾分か痛みは治まった。
まだ、体力は回復していないが、そのまま崩れ落ちた。



【C-6/一日目 午前】



【秋月真理亜@新世界より】
[状態]:ダメージ(中) 疲労(特大) 意識半分喪失 全身に軽い火傷 返り血
[装備]:銀のダーツ 残り5本@ドラえもん のび太の魔界大冒険 
基本支給品×2ラーのかがみ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たちㅤモイの支給品0〜1
基本行動方針:渡辺早季@新世界よりを優勝させる。
1.しばらくの間この場所で休憩をとる。
2. 12時になれば禁止エリアになるので、警戒する。

※4章後半で、守と共に神栖六十六町を脱出した後です

※ラーのかがみにより書き換えられた記憶を取り戻しています。

※呪力は攻撃威力・範囲が制限されており、距離が離れるほど威力が弱まります。ただし状況次第で、この制限が弱まります。
※彼女の支給品である使い魔@ドラえもん のび太の魔界大冒険は死亡しました。
※モイの支給品である「トニオの子羊の背中肉のリンゴソース掛け」は使い切りました。



【ゼルダ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス 死亡】
【残り 34人】



「姫……さん。」
「どうやら、終わりみたいね。」
「そんな……嫌だ………。」
アイラから告げられたのは、悲しいぐらい残酷な現実だった。
動けない者がいる中で、火と煙だけが広がっていく。
それは、じわじわと残された者の命を焼いていった。
この図書館に、希望はない。





【ミドナ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス 死亡】
【クリスチーヌ@ペーパーマリオRPG 死亡】
【アイラ@ドラゴンクエストVII 死亡】


【残り 31人】



















――――まだよ。


599 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:20:05 ADk/0u7c0
既に顔半分が原形をとどめていないゼルダが、折れた右手を掲げていた。
その状況を、ミドナは見覚えがあった。
彼女の手の甲で3つに連なった正三角形が輝き、そして暖かくて優しげな光が3人に飛んでいく。

「何……これ……」
「暖かい……。」

死を覚悟していたが、予期せぬ形でアイラは痛みが消えていくことに驚いた。
クリスチーヌは、かつてカゲの女王に飲み込まれる直前のピーチがくれた力のことを思い出した。


かつてミドナは、死にかけていた所をゼルダがもたらしたその力で助かった。

今度は、あの時とは違ってやめろとさえ言えなかった。
ゼルダの行いを否定することは、アイラやクリスチーヌの死さえ肯定することになるし、そもそも彼女が再びこんなことをしなければならなくなったのは、自分が判断を誤ったのが原因だからだ。

「ああああああああぁぁぁぁ!!!」

上げたのは、懇願では無く、ただ悲しみと悔しさがないまぜになったような叫びだけだった。
本当なら、この役目は判断を間違えた自分が変わってあげたかった。
けれど、何もしないまま、自分達の身体の傷のみが癒えていく。
心の傷は治らないままだが。


――――ミドナ、悲しまないでください。こうなったのは、私が原因です。
――――彼女の、マリアの気持ちが分からず、それなのに分かった様な口をきいたからです。
――――国の指導者失格ですね。私は。



最後の光が無くなると、ミドナだけではなく、クリスチーヌもアイラも立てるようになった。
それとは対照的に、ゼルダはピクリとも動かなくなった。
「ぼやぼやするな。早く窓から脱出するぞ。」
その言葉には、ミドナらしい覇気が無かった。
どう答えるか、クリスチーヌもアイラも戸惑ってしまい、結局答えは出なかった。


600 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:20:17 ADk/0u7c0

既に2階も炎に包まれている。
図書館としての役割を放棄し、戦場としての役割を放棄したこの場所は、建物としての役割をいつまで保てるかも分からない。


「ワタシは、どうしたらいいんだ。」
やることは分かっていた。
2階から脱出し、真理亜を追いかけ、ゼルダの仇を討ち、ザントとデミーラを倒す。
けれど、ミドナは何故かそう呟いた。
アイラは何も答えずに、ただ彼女の手を握りしめた。
手のないクリボーであったクリスチーヌは、ただ遠い目で向こうを見ていた。



【B-5/図書館二階/一日目 午前】

【アイラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:ダメージ(小) 軽い火傷 職業 調星者 (スーパースター)
[装備]:ディフェンダー@ FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1モーテン星@魔界大冒険
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラを再度討つ 図書感からの脱出
1. ここから脱出する
2. アルスとメルビンが心配
※職業は少なくとも踊り子、戦士、武闘家・吟遊詩人・笑わせ師は極めています。
参戦時期はED後。



【ミドナ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 】
[状態]:ダメージ(小) 言いようのない悲しみ 後悔
[装備]:ツラヌキナグーリ@ ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:ザントを討ち、光と影の両世界を救いたい
1:………。
2:図書館の2階から脱出する。真理亜が入ってきた窓がねらい目。
3:真理亜を追いかけ倒す
参戦時期は瀕死の状態からゼルダにより復活した後
陰りの鏡や影の結晶石が会場にあるのではと考えています。



【クリスチーヌ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:HP1/2
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 アイアンボーガン(小)@ジョジョの奇妙な冒険 キングブルブリンの斧@ゼルダの伝説
[思考・状況]
基本行動方針:首輪解除のヒントを見つける
1.図書館から脱出する
2.仲間(マリオ、ビビアン)を探す
3.クッパ、バツガルフ、真理亜に警戒
4.モイやノコタロウ、ピーチの死を無駄にしない
5.首輪のサンプルが欲しい。
※図書館の本から、DQ7.FF4にある魔法についてある程度の知識を得ました。
※首輪についてある程度仮説を立てました。
• 爆発物ではないが、この首輪が原因で死ぬ可能性は払拭できない。
• 力を奪うのが目的


※ゼルダの支給品 魔法の盾@ドラゴンクエストVII、イツーモゲンキ@ペーパーマリオRPG、その他支給品は死体の横にあります。
※図書館はもうじき倒壊します。


【支給品紹介】
【魔法の盾@ドラゴンクエストVII】
ゼルダに支給された盾。紫色の独特なデザインをしており、魔力を防ぐ力を秘めている。
また、軽いため女性でも持ち運べる利点もある。


【子羊の背中肉のリンゴソース掛け@ジョジョの奇妙な冒険】
モイに支給された料理。食べると空腹を満たすだけではなく、不調な内臓を治すことも出来る。


601 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 01:20:28 ADk/0u7c0
投下終了です。


602 : 帰り道を無くして ◆vV5.jnbCYw :2021/11/26(金) 09:42:14 ADk/0u7c0
今回の話は少し長かったので、wikiで前後編に分けることにしました。

レス591までを「明日へと向かう帰り道」
レス592からを「帰り道を無くして」

にします。


603 : 名無しさん :2021/11/26(金) 18:18:41 WMB0Cv7s0
投下乙です
新世界よりは未把握なのですが、怒りによるブースト込みとは言え対主催4人相手に圧倒できる真理亜の強さには驚愕ですね
アイラ達は致命的なダメージこそゼルダの最期の行動のおかげで治りましたが、まだ炎上する図書館からは脱出できておらず、外ではデマオンと博士が戦っていたりと落ち着ける状況には程遠く、放送前と比べて一気に心身共に苦しくなりどうなるやら


604 : ◆vV5.jnbCYw :2021/12/07(火) 00:38:30 AkjiUVa20
ガノンドロフ、バツガルフ、ユウカ予約します


605 : ジジ抜きで警戒するカード ◆vV5.jnbCYw :2021/12/12(日) 01:41:04 g88l6ACs0
投下します


606 : ジジ抜きで警戒するカード ◆vV5.jnbCYw :2021/12/12(日) 01:41:16 g88l6ACs0

ボトクから支給品を回収したガノンドロフは、北へ向かっていた。

(ぐ……。)
白い装束を付けた男に刺された傷が痛んだ。
それがかつて、処刑された時に受けた傷と共鳴し、更に痛みが増幅していった。
大魔王と言えど、彼もまた命ある者。
力のトライフォースによる常人を逸した生命力と、大地の精霊の力を借りた鎧による防御力があれど、然るべき理由があれば怪我もするし死にも至る。
先の戦いで彼自身が受けた傷の最大の要因になったマスターソードは、既に自分の手の内にある。
災い転じて福となす、ということだろうか。魔獣の姿になった際に、身体に刺さっていた聖剣は、元の姿に戻った際に近くに転がっていた。
だからと言って、これで勝利が保障されたと判断するほど、愚かでもない。


先の放送で知ったことであるが、最初の6時間のうちに死んだ者はおよそ4分の1。
その後殺した2名を踏まえても、まだ先は長いということになる。
このまま休まずに終わりまで殺し続けることは、難しいと判断した。
そのため、一度草原にあった手ごろな岩に腰かけ、休憩を取ることにした。
支給品の食糧である、焼いてから3日ぐらい経っていそうなボソボソとした味も素っ気もないパンを食べ、これまた温いだけで味のない水で喉を潤す。
さして食べた気にもならない食事を終えると、ボトクから奪った支給品を調べることにした。
あの怪物は期待外れだったが、方々で暴れていたからか支給品は潤沢にあった。
まずはひとつめの支給品、ボトクが広瀬康一という少年から奪った支給品だ。


(ふむ、これは……。)
最初に出てきたのは、黒と茶色の筒。
引き金らしきものが付いていることや、その形状からして、小型の大砲のようなものだと判断した。
だがそれだけ。確かに面白そうな武器ではあるが、実用には及ばない。
武器というものは、総じて有効活用するには多かれ少なかれ、訓練が必要となる。
ましてや、剣や棒のような原始的なつくりの武器では無く、形状を考えられて作られた武器なら猶更だ。
訓練する猶予が設けられているならば使用も念頭に置いても良いかもしれないが、そんな悠長なことをしている場合ではない。
これといって大した感情も湧かないまま、火縄銃と呼ばれた武器を仕舞い込んだ。


次に出したのは、ピンクのケースに包まれた薄い四角の金属板。
一見役に立ちそうも無いが、スイッチらしきものがあるので、それを押してみる。

(何だ……これは……!!)
爆弾の様なものかと思い、警戒するがそうでは無いようだ。
しかし、スマートフォンというガノンドロフのいた世界にはない機械が提供したのは、下手な爆発よりも遥かに驚く情報だった。


「推定殺害人数15万人……50万人以上?」
目を見張るのは、スマホに映し出された、到底人一人に殺せるとは思えない人数だ。
ガノンドロフとて、人間の殺害経験が無いわけではない。
並の人間や怪物を軽く凌駕する力を秘め、彼1人だけでも殺害した人間の数は優に百は愚か、千を超える。
故に、生涯を通しても1人だけで殺せる人の数には限りがあるということを、この身で知っている。
だからこそ、この機械に映し出された人間達の殺害者数は、文字通り桁違いだった。
しかも、そのうち4人がこの殺し合いに参加しているのだから余計に質が悪い。


607 : ジジ抜きで警戒するカード ◆vV5.jnbCYw :2021/12/12(日) 01:41:48 g88l6ACs0
(いや待て……。)
一瞬驚きはしたが、すぐにこの機械に映し出された情報に様々な粗があることにも気づいた。
まずはここに書かれているのは「推定」殺害人数と書いてあるということ。
従って、実際にこの佐々木ユウカという少女が50万人を殺したわけでは無く、「50万人を殺す可能性がある」というだけの話だ。
現に自分が処刑された理由も、殺人や略奪だけでは無く、やがてハイラルに反旗を翻すという危険性からだ。
加えて、「50万」やら「15万」やらの数字も、少し考えてみれば愚か者に対して危機感を煽ったり、欲望を掻き立てたりするのに何かと使われがちな数字であることも思い出した。


第二に、この機械の出所が分かっていないということだ。
仮にここに映されている推定殺害人数が本当だったとしても、「何人のうちの15万人」なのかは書いていない。
ハイラルで15万の人間が殺されれば、殺害された者が誰であれ、深刻な人口減少によって国そのものが多大なダメージを受けるのは間違いない。
100万殺されれば、少なくとも一定の産業が動かなくなり、最悪の場合は国の機能そのものが麻痺し、衰退の一途をたどるしか無くなるだろう。
だがもし、この機械の出所になった国の人口が、数十億、もしくは数十兆であり、なおかつ国で紛争でも起こっていれば、百万の命程度簡単に失われるだろう。


第三に、この殺し合いの中で件の危険人物たちの情報が、自分の耳に入り込んでいないということだ。
もし本当に50万や100万を殺せるほどの力を持っている場合は、この殺し合いに参加させられた50人程度、赤子の手を捻るかのように殲滅させることが出来るはずだ。
仮に殺すことが出来るのは自分が殺してきたような「か弱い人間だけ」だったとしても、その惨劇は殺し合い会場の至る所に広まっているはず。
だと言うのに、殺し合いが始まってから7時間と少し経った今でさえ、4人全員どころか1人として情報が耳に飛び込んでこない。
加えて、この機械に掲載されている人間の内、犬飼ミチルという人間は既に殺されている。


以上の根拠から考えて、このスマートフォンという機械に載っていた危険人物たちは、必ずしも恐ろしい存在ではないという結論に達した。
いつの時代でも誰か、とりわけ政治家などが厄介な相手を合法的に排除するために、その存在の危険性を吹聴するという手法は、手を変え品を変え繰り返されてきた。
この機械こそは中々面白いものだが、中に書いてあることは恐らく古臭い、手垢が幾重にも層を作っている手法に過ぎない。
とは言え、ここに載ってある人物が厄介な存在である可能性は決して低くはない。
万全の状態ならば負けるとは到底思えないが、手負いの状態ならばそこそこ手こずる相手かもしれない。
それに、機械に記述されていた内容が真っ赤な嘘だとしても、嘘から出たまことという場合もある。
おとぎ話で読んだ、双子が災いをもたらすという占いを真に受け、捨てた双子の片割れに王座ごと国を奪われる国王のように、危険人物だと嘘を広められた吹聴された人間が、本当に危機をもたらす存在になるケースもある.


608 : ジジ抜きで警戒するカード ◆vV5.jnbCYw :2021/12/12(日) 01:42:02 g88l6ACs0

その時だった。
北の方から2人の人影が見えた。
人影、というのは聊か間違っている表現かもしれない。
なにしろ片側はどう見ても人間には思えず、今片手に持っているピンク色の小型機械のような、精密な金属や未確認物質の塊が人の姿を形成したように見えたからだ。


(厄介な奴だ……。)
一見強敵に見えるのは、人間の姿をしている方では無く、人間の姿を形成している方だ。
しかし、ガノンドロフが警戒したのは、人間の姿をした方だ。
何故なら金髪のくせ毛の少女は、先程危険人物として載せられていた佐々木ユウカだったからだ。
一体どのような隠し玉を持っているか分からない。
そして、人間の方にばかり警戒して、もう片方から不意を突かれる可能性も決して低くはない。
現に自分は二度見くびった相手に不意を突かれ、受けなくても良いダメージを受けている。
従って、迂闊に戦いを挑むのは悪手だと判断した。



△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


南下していた二人組のうち、ユウカは突然足を止める。
「どうした。」
気遣いをするほど温和な性格では無いが、同盟者が後ろ暗いことを企んでいると勘繰ったバツガルフは、声をかけた。


「気付かないの?この先に、恐ろしい奴がいる。」
それは演技などではなく、明らかに本気で恐れていたことがバツガルフにも理解できた。
こういう第六感の様なものは生身の人間であるユウカの方が優れているし、逆にバツガルフは論理的な思考能力は長けている反面、殺意や敵意など目に見えぬものに対しては鈍感であった。
故に、カゲの女王から攻撃を受ける寸前まで、その敵意に気付けなかった過去もあるのだが。


ユウカは、まだ遠くにいるはずのガノンドロフの邪気に、心臓を掴まれているような感覚を覚えた。
そもそも彼女は、元居た世界から後ろ暗いことをしていたため、他者からの殺意には敏感な所があった。

「何しているのよ!早く逃げなきゃ!!」
それに気付いていない様子のバツガルフに、必死で呼びかける。
本当の所バツガルフ程度どうなっても良いが、1人だけで逃げ出すと同盟を破棄したと見なされ、攻撃を受ける可能性も低くはない。
少なくとも、「同盟を組んでいる」と最低限取り繕うための姿勢は見せねばならない。


「もしオマエの言うことが本当ならば、迂闊に逃げればその瞬間に奴は襲ってくるだろう。ここは留まることにする。」
「え?ちょ……。」
「黙っておけ。それとも同盟を破棄して、オマエ一人で逃げても良いのだぞ?」
「………。」


バツガルフの文字通り無機質な瞳に見つめられ、ユウカは黙ってしまう。
もし逃げれば襲ってくるような危険人物だとしたら、ここに留まって戦っても結果は同じでは無いかという考えを、言葉に出すことは出来なかった。

「まあ、勿論準備は仕掛けておけ。例のブロックを出せ。ただし私の指示があるまで叩くな。」
ユウカは言われた通り、叩けば地震を起こすPOWブロックをザックから出す。


609 : ジジ抜きで警戒するカード ◆vV5.jnbCYw :2021/12/12(日) 01:42:40 g88l6ACs0

しかし、どういう訳か重苦しい空気はその場に存在するだけで、空気の主が近づいてくることは無かった。

「ねえ、いつになったら来るのよ?」
重い空気のままの沈黙に耐え切れず、ユウカが小声で言葉を紡いだ。
「それはオマエの方が詳しくないか?現にこの話を切り出したのはオマエの方だぞ。」
「………。」

しかし、いつ来るか分からない敵に身構えるのは、下手に戦う以上に精神も体力も消耗する。
その間は実に3分も満たなかったが、佐々木ユウカにとっては、たっぷり30分にも、それ以上にも感じられた。
彼女は恋人を取られればその相手を、恋人ごと焼き殺したことがある。
そんな常軌を逸した精神と行動力の持ち主だが、死の危険を察知すれば人並みに恐怖もする。
増してや今は能力が使えない以上、胸の内を支配する恐怖心は猶のことであった。


「仕方あるまい。此方から出向くしか無かろう。」
「はあ〜〜〜〜。やっぱりそうなるのよね〜〜〜〜。」

遠ざかれば追いかけたくなり、近寄られれば離れたくなるのが人間の性と言うもの。
下手に逃走したり、相手の出方をいつまでも伺い続けるよりも、敢えて此方から近づいた方が優位に立てるとバツガルフは考えた。
ユウカ自身はバツガルフの策には反対であり、今すぐにでも逃げ出したかったが、月曜日の朝の学生やサラリーマンの様な足取りで、その後に付いていく。


しばらく歩くと、禍々しい気配の主らしき男が、岩の上に腰かけていた。
特にこれと言ったことはしておらず、ただ頬杖をついて鎮座しているだけなのに、肖像画や彫刻のモデルにでもなるかのような荘厳な雰囲気を醸し出している。
全身のほとんどが鎧やコートで覆い隠されているが、唯一露出している、厳めしい顔はあちこちに傷を作っている。
しかし、痛々しいとは全く思わず、むしろそれさえも恐ろしさを感じる。
きっと彼に傷をつけた相手は、それ相応の報復を受けたことも、自ずと察してしまう。


(これは……たとえ夜だとしても、どうするか困りそうなヤツね……。)
ユウカは頭の中でそう考える。
せめてバツガルフと相打ちになってくれれば、と期待していたが、実際にそのご尊顔を拝んでみると、そう簡単に行きそうもない相手だと分かった。


「そう畏まることも無い。我に逃げることもせず、近づいてきただけでも、敬意を払おうでは無いか。」


610 : ジジ抜きで警戒するカード ◆vV5.jnbCYw :2021/12/12(日) 01:43:20 g88l6ACs0

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目の前にいる2人は、明らかに自分を警戒している。
警戒してもしなくても同じことだとばかりに、2人を纏めて薙ぎ払っても良いが、どうにもそれはメリットが薄い。
彼女らを攻撃するのを躊躇う根源にあるのは、恐怖心では無い。
勿論、一見ただの少女である彼女を迂闊に刺激して、手痛い反撃を食らうのは避けたい。
トライフォースの力とガイアーラの鎧でよほどの力を持っていない限り、即死は免れるにしろ、後々に響く傷を負ってしまうかもしれない。
だが、一番の理由は「推定殺害人数50万人」の人間とやらの可能性に対する興味だ。


彼が求めているのは、自分の想像をも超えた力。
彼が元の世界にいた時は、その対象が自分が持っていない知恵と勇気のトライフォースだった。
そしてその力を使って世界を征服し、混沌に満ちた世界を築く。
だが、この世界はトライフォース以外にも素晴らしい力があり、ともすれば自分が望む混沌を見ることが出来るかもしれない。
それが自分の傀儡であったザントのお膳立てによるものだというのが腹立たしい事この上ないが、折角用意してくれた余興は見るべきであろう。


「そう畏まることも無い。我に逃げることもせず、近づいてきただけでも、敬意を払おうでは無いか。」
ガノンドロフは立ち上がり、二人組に近づく。

「どうにも強者気取りだな。その『敬意を払う』とやらはその剣を使うことか?それとも拳を振り回すのか?」
「ちょ……ちょっと……迂闊に挑発しな……。」
「オマエは黙っておけ。」


そのやり取りを見ただけで、機械の男と人間の間では、機械の男の方が上の立場だということが分かった。
それに関しては何らおかしいわけではない。
たとえ同盟関係だという名目だとしても、自ずと力関係が生まれて、イニシアティブをどちらかが握るようになるのはよくあることだ。
問題は、機械の男が少女のことを「詳しく知った上で主導権を握っているか」ということだ。
乞食に変装した王子のように、立場を低く見せつけ、その裏で行動しようとするケースもある。
敢えて少女の正体を試しにバラしてみることも考えてみたが、知らなければ知らなかったで滑稽な様を拝める可能性もあるので、機械を渡さないことにしておいた。


「特に暴力的な手段で敬意を表するつもりは無い。むしろそのような手段に打って出ないのが敬意の表し方だ。」
「何もしないというだけで主導権を握ったつもりか。さぞかし素晴らしい力を持っているようだな。」
「口の減らぬ奴だ。我が力がどのようなものか見せたいところだが、今は互いに傷を貰っている模様。そのようなやり方は賢いとは思わぬのでな。」


その時、少女が僅かでも強張り切った表情筋を緩めたのをガノンドロフは見逃さなかった
(あの機械が見せた情報は嘘だったのか……?)
自分に対する恐れの抱き方は、自分が血祭りにあげてきた人間と同じだった。


611 : ジジ抜きで警戒するカード ◆vV5.jnbCYw :2021/12/12(日) 01:43:44 g88l6ACs0

「それは同じことを考えていたわたしとしても喜ばしい限りだ。感謝する。だが、わたしが油断した瞬間、オマエが背中から刺してくる危険性を考慮する必要は無いのか?」
「無いな。そもそもこちらから我の下に向かう胆力がある時点で、つまらぬ騙し討ちが通用せぬ相手だと分からぬほど耄碌しておらん。最も、キサマに胆嚢があるかは分からぬが。」
「なるほど。わたしの手の内もある程度は想定しているという訳か。」


少し話をして、自分から向かって来ただけあってこの機械男も一筋縄ではいかぬという相手だと分かった。
勿論、正面からぶつかり合えば負けることは無いにせよ、後々に面倒なことになる。
例え勝てても、戦わなくても良い敵や実入りが少ない敵は他者に押し付けた方が良い。
優勝の為にいずれは殺すにせよ、今殺す必要は無いし、その力を他者にぶつけさせて高みの見物を決め込むのも悪くはない。
だが、1つ試したいことがあった。


「我が貴様らの敵でない証拠を一つ見せてやろう。」
ガノンドロフは鞄から3つまだらくも糸を出した。
勿論、警戒は解かれてはいないようだ。
大方爆弾か何か危険な物だと思われているのだろう。


「これは敵に向けて投げれば、動きを阻害するらしい。貴様らのような者に向いているのではないかな。
信用が出来ないのなら、その場で燃やすなり、置き去りにするなりすれば良い。」

そう言って黄色の糸玉を3つ、岩の上に置いた。

「小娘、取りに行け。」
「ええ?」
「オマエのような者は、こういう時にいるのだろう。」
「でも、爆弾の様な物かもしれないんだよ?」
「だからこそだ。」


少女は何度もガノンドロフとまだらくも糸への視線を繰り返し投げながら、亀のようにゆっくりと歩いてくる。
両手を震わせて、顔中に冷や汗を浮かべながら、毒物が爆発物に触れるかのような挙動でまだらくも糸を手に取る。
行く時と違い、戻る時はひどく早足だった。そのまま機械男の所へ戻ると、すぐに糸玉を全て機械男の鞄に入れる。
その挙動は、死や暴力を恐れる力無き人間と何ら変わりはなかった。


そして、機械男は少女を隠し玉として使うつもりでは無く、使い捨ての道具程度に思っている。
少なくとも50万の人間の殺害をしでかす可能性がある人間だとは考えておらぬということが判明した。


「そう警戒しなくても、我はつまらぬ嘘を言うつもりはない。今渡したのは噓偽りのない蜘蛛の糸玉だ。
これで我が騙し討ちをするつもりが無いのはよく理解できたはずだ。」
こちらも貴様らのことが少し分かった、と心の中で付け足す。


「なるほど。ありがたき施しを感謝する。ならばわたしの方にも何か渡さねばな。
こちらはわたしよりオマエの方が使うのに向いていそうなのでな。」

機械男は鞄から出した者は、真っ黒な剣だった。
しばらく離れた地面に突き刺す。
柄から刀身まで真っ黒に染まり、定期的に赤い光を発するその剣の出所は分かった。
その剣から、自分を崇拝するそぶりを見せたくせに、オルゴ・デミーラにあっさり河岸替えした男が発する魔力と酷似していたからだ。


612 : ジジ抜きで警戒するカード ◆vV5.jnbCYw :2021/12/12(日) 01:44:01 g88l6ACs0

「どうした?その剣で何か不満でもあったか?」
「いや、何でもない。ありがたくいただいておく。そうだ、ついでに聞いておくが、リンクという緑帽子の男とゼルダという女性を知らぬか?」
「何!?」


とりあえず聞いてみたのだが、反応があったということはどうやら関わり合いになったらしい。
嘘かとも疑ってみたが、隣にいる少女の目線が嘘では無いことを伝えている。

「奴は北のハイラル駅で戦った。トドメを刺し損ねたが、今ならまだ近くを探せば出会えるかもしれぬ。」
「ふむ、良き知らせを聞いた。また会えることを願っているよ。最もその時は味方ではないかもしれぬがな。」



そのままガノンドロフは北へと走る。
推定殺害人数50万という数字は不確定ながらも惹かれる数であったが、あの少女の態度を見る限り、執着しても大した成果を得られる可能性は低い。
能ある鷹は爪を隠す、ということがを考慮しても、あの少女の態度は、弱者のそれだ。
仮に能力があるとしても、出すには何らかの条件が必要だとしか思えない。
それならば、元々狙いを定めていたトライフォースの入手に集中した方が良いはずだ。


体力が回復したのもあって、探し求めていた獲物の手掛かりを掴めた魔王の足は、さながら黒豹の様だった。



△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


「あ〜、助かった。正直、死ぬかと思った。」
「そう恐れるほどのことでも無かろう。」


バツガルフとユウカは、ガノンドロフとの話し合いが終わったのち、岩場に腰かけ休憩を取っていた。
ユウカはガノンドロフの圧迫感から逃れられて、素直に安堵しているが、バツガルフの電子頭脳の中には別の疑問があった。


(あの男は小娘の何を知っている?)
ガノンドロフという男は、自分よりもユウカの方に視線を送っていた。
自惚れるつもりは無いが、明らかに2人のうちで警戒されるべきは、小娘では無く自分の方だろう。
だというのに、自分よりむしろ小娘の方に警戒した様子を見せていたのは、どうにも疑問で仕方が無かった。
小娘はガノンドロフのことは全く知らなかったというのに、一体奴は何を知っているのだと疑問に思う。

本当ならば佐々木ユウカという人間の詳細を問い詰めたかったが、厄介なことにガノンドロフは、言葉では彼女を知っているか否かを全く話さなかった。
下手な詮索をして、相手方の機嫌を損ねてしまうのは避けたかったのがある。
いずれはガノンドロフも殺さねばならない相手であるのは間違いないが、今はそのタイミングではない。
相手は見ただけで強大な力を持っていると分かるし、例え勝ったとしても無傷では済まない。
もっと悪いことに、小娘がガノンドロフに寝返る危険性だって考慮せねばならない。


613 : ジジ抜きで警戒するカード ◆vV5.jnbCYw :2021/12/12(日) 01:44:25 g88l6ACs0

岩の上に腰かけている最中に、ユウカという小娘と同盟を組むときの話を反芻する。
―――持ってた地雷を使ってボンッてね。結構エグかったでしょあれ。ま、あんな女には当然の末路だと思うけどね。
―――外れだらけだよ。写真と馬笛と地雷。絶望的でしょ?


(奴の能力は、地雷と何か関係があるのか?)
マリオの仲間にいたバレルのように、爆発能力に長けるという可能性も考慮する。
だが、先の地雷のことを述べた発言さえ、ミスリードの可能性もある。
ここでバツガルフは、佐々木ユウカという少女の厄介さを改めて認識することになる。
それは、彼女の「杜撰さと策略の境目が分からない」ということだ。
どこまで小娘は考えて自分と同盟を組もうとし、どこまで彼女の思考の穴なのかが分かりにくい。
1つ問題点があると、続けざまに思考と言うものは悪い方向に傾いてしまうものであり、あの剣をガノンドロフに渡してしまったのも、安直だったのではないかと考えてしまう。
確かにあの剣は自分にとっては無用の長物だ。同盟関係を改善するのに使ってしまうのも悪くはない筈。
だというのに、どうにも間違えたことしてしまったかのように思えてしまった。


かつて佐々木ユウカは、パズルと能力者に向けた暗殺訓練の双方で鍛えた柔軟な思考を持つ柊ナナにその境目を見破られ、手の内を封じられ敗れた。
しかし、数多のデータを持ち、ロジックな思考に長けるバツガルフは、知識なら柊ナナをも凌駕するが、その境目を見抜く能力は、彼女に劣る。
異なる世界の征服を企む2人のヴィランは、佐々木ユウカという少女の裏を見抜ききれなかった。


そしてもう一つバツガルフは知らぬことだが、彼が魔王に渡した剣は、ただの鉄を叩いた刃物に非ず。
光の者に影を齎すと同時に、死した者に生をもたらす魔力を秘めている。
かつてザントは怪獣の頭蓋骨に刺し、その怪獣はザントの傀儡となり戦い始めた。
そのような武器をバツガルフは捨てるほど杜撰ではない。
だが、影の力を秘めた剣は、とある爆薬の材料であるニトロハニーシロップと同様、説明書の肝心な部分は隠されていたのだ。


見えぬ物を見破るのは不得意な彼が、その剣の力を見逃してしまうのも無理はない。
そして、ガノンドロフは影の世界に飛ばされた際にザントのことを知っているため、その剣の力を知っている。
だが、その剣が齎すのは救いか災いか、それはまだ誰も知らない。




【C-3/草原 一日目 午前】



【佐々木ユウカ@無能なナナ】
[状態]:ナナへの憎悪(極大) ガノンドロフへの恐怖
[装備]:POWブロック@ペーパーマリオRPG
[道具]:イリアの死体@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、基本支給品×2(自分、ピーチ)、遺体収納用のエニグマの紙×2@ジョジョの奇妙な冒険 陶器の馬笛@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、虹村家の写真@ジョジョの奇妙な冒険、ランダム支給品×1(彼女でも使える類)、愛のフライパン@FF4
[思考・状況]
基本行動方針:シンジと添い遂げるために優勝する
1:暫くはバツガルフと行動。集団に紛れ込めればいいんだけど。

※参戦時期は死亡後で、制服ではありません。
※次の夜まで死体操作は出来ませんが、何らかの条件で出来る可能性もあります。
※死体の記憶を共有する能力で、リンク、仗助、ピーチ、マリオの情報を得ました。
 イリアの参戦時期は記憶が戻った後です。
※由花子との情報交換でジョジョの奇妙な冒険の参加者の能力と人柄、世界観を理解しました。
 但し重ちー、ミカタカ、早人に対する情報は乏しい、或いはありません(由花子の参戦時期で多少変動)


614 : ジジ抜きで警戒するカード ◆vV5.jnbCYw :2021/12/12(日) 01:44:39 g88l6ACs0
バツガルフ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(大) 至る所に焦げ付き 愉悦 
[装備]:えいゆうのつえ@ドラゴンクエスト7
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜1 確認済み)、POWブロック@ペーパーマリオRPG まだら蜘蛛糸×3@ドラゴンクエストVII
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し世界征服を叶え、ついでに影の女王へ復讐する。
1:ひとまずこの場所で休憩する。
2:打倒マリオ。その為の支給品集め。
3:マリオを味方と偽る形での悪評も考えておく。
4:ユウカの提案には一先ず乗ってみるか。
5:ユウカの能力とは?

※参戦時期は影の女王に頭だけにされて間もなくです。



【B-3/草原 一日目 午前】

【ガノンドロフ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]ダメージ(小) 腹に刺し傷 疲労(中) 
[装備]:ガイアーラの鎧@ドラゴンクエスト7、美夜子の剣@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜1 確認済み) 柊ナナのスマホ@無能なナナ  マスターソード@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス ザントの剣@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス 

基本行動方針:主催者も含め皆殺し、ただし生かすことでより混沌が生まれそうな場合は別。
[思考・状況]
1:バツガルフの話を聞いた通り、北へ向かいリンクを探して殺す
2:柊ナナのスマホに書いてあった、推定殺害人数の能力者(鶴見川レンタロウ、小野寺キョウヤ)に興味
3:せっかく手に入れたザントの剣をどう使おうか


※ハイラル城でリンクを待っている間からの参戦です。
※原作のようにマスターソード以外の攻撃は無効という訳ではありませんが、それでも大半の攻撃はダメージがカットされます。
※影の力が奪われているため、原作の第一戦(ガノン憑依ゼルダ)で使った憑依能力、第二戦(魔獣ガノン)の瞬間移動は出来ませんが、それ以外の技はすべて出来ます。
※魔獣化は出来ますが、長時間変わり続けることは出来ません。


【支給品紹介】


【火縄銃@新世界より】
広瀬康一に支給されていた。
原作出典の武器、ではなく元の世界ではバケネズミの兵隊の武器だった。
言われるまでも無いが、現在の拳銃に比べると撃てる速さは劣り、慣れても1分に4発ほどしか打てないらしい(山川の中学日本史教科書より)
とはいえ、銃ではあるため一般人が受ければ致命傷は免れない。


【ザントの剣@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
バツガルフに支給された剣。真っ黒なデザインの剣で、普通に使うことも出来るはずだが、魔力を込めて死骸に突き刺せば傀儡として操ることが出来る。
原作ではザントは怪物の頭蓋骨にこれを突き刺し、覚醒古代獣ハーラ・ジガントとしてリンクを襲わせた。
本ロワでは同封の説明書には、武器としてしか書かれていない。


615 : ジジ抜きで警戒するカード ◆vV5.jnbCYw :2021/12/12(日) 01:44:50 g88l6ACs0
投下終了です


616 : ◆vV5.jnbCYw :2021/12/19(日) 20:29:58 6ADxOV/E0
ヤン・ファン・ライデン、吉良吉影、伊東守予約します。


617 : ◆vV5.jnbCYw :2021/12/25(土) 18:19:25 fVOhJ8/M0
投下します


618 : 愛する人へ ◆vV5.jnbCYw :2021/12/25(土) 18:19:49 fVOhJ8/M0
人の死は平等、とよく言われる。
だが、人の死の過程はあらゆる国・時代を通じて平等だったことは一度たりともない。
生まれた場所や時代によって、死と隣り合わせの人生を送る者もいれば、逆にほとんどテレビや本越しにしか死を目の当たりにすることのない者もいる。
この場にいる3人は前者の方だった。
最も、その内一人は死を目の当たりにする原因が自身にあったりするのだが。


そして、今ここが死と隣り合わせの時間であり、殺戮と隣り合わせの空間であることを再認識させられる放送が響き渡る。
三者三葉、死した知り合いの名について、思いをはせた。


(奇狼丸……)
その中で伊東守が知っていたのは、筑波山を活動拠点にしていたバケネズミの将軍の名前だ。
だが、彼にとってはさほど縁の深い知り合いでは無かったため、彼の死に関してはさほど動揺しなかった。
むしろ、彼が恐れたのは13人という死者の多さだった。
真理亜が呼ばれなかったのは朗報であったが、それを安堵するには余りにも多すぎる死者の数だった。


(セシル殿……)
一方でヤンも、動揺を見せつけまいとしながらも、その内心は焦っていた。
彼の世界の月の侵略を止めた立役者であり、青き星の中で最強の国家バロンの統治権を担うセシル・ハーヴィが殺されてしまった。
放送の内容を疑うつもりは無いが、今まで殺し合いに乗っていない人物に会っていないのも相まって、その事実を受け入れがたいのも事実だった。


「心配するな、二人とも。この先に何が待ち受けているのかは知らぬが、私が命を懸けて守ろう。」
2人が感じている恐怖は、自分が感じているそれの比では無いと考え、決意を改める。
その時、彼は同行者の異変に気付いた。

「おや?吉良殿、怪我をしているようですが……。」
ヤンは吉良吉影の指から、血が流れていることに気付いた。

「ああ、気にしないでください。どうやら木に引っかかった時に切れたようです。自分で手当てしますので。」


幸か不幸か、ヤンは吉良吉影という男の癖を知らなかった。
彼は子供の時から、褒めて欲しい時に誰も褒めてくれなかったような絶望が身を襲った時、血が滲むほど爪を噛む癖があった。


(どうしてこうも思い通りに行かないのか……)
吉良吉影は先の放送を聞き、唯一苛立ちを覚えていた人間だった。
自分の追っている人間たちのうち、カフェで恥をかかせてきた広瀬康一が先の放送に呼ばれた。
だが、1人呼ばれたぐらいでは到底心が休まることは無い。
寺で逃がした海賊男も、にっくき東方仗助も、自分のことを元の世界から嗅ぎまわっていた川尻早人も呼ばれていない。
そして、この放送で呼ばれた死者の多さからして、あることが分かってしまった。

この場所は、安寧という二字熟語とは最もかけ離れた場所だということを。


619 : 愛する人へ ◆vV5.jnbCYw :2021/12/25(土) 18:20:12 fVOhJ8/M0

(ああ、あの場所がひどく恋しいよ……)
途端に、彼の胸の奥から湧き出てくるのは、望郷の想いだった。
元々思っていたことだが、吉良が生まれ育った町の杜王町は、静かな暮らしを他の何よりも渇望する吉良にとって、この上なくうってつけだった。
あの町のピクニックに来ている時の様な感覚は素晴らしいものだったと思っていたが、このような平穏とは無縁な場所にいると、それを一層感じてしまう。

たとえ戦いをしていない現状でさえ、この殺し合いの会場は、ピクニックなどとても出来そうにない殺伐とした空気に包まれている。
ピクニックとは、フランス語で食べ物をつまむ持ち寄りの宴会というのが語源だったという。
しかし、この場はよほど能天気な人間でない限りそんなことが出来る余裕などない。
つままれるのは食べ物では無く命。
否、命が食べ物、しかも安酒場の柿の種か何かのように平然と躊躇いなく摘まれる場所だ。


3人がそれぞれ全く異なる思いを巡らせている内に、目の前に寺が現れた。
伊東守たち神栖66町で、祝霊が現れた子供が、呪力を承る場所だ。
しかし、清浄寺は守が知っているものに比べて、壁や天井が壊れていた。
その原因の1つが、すぐ近くの男にあることを、守は知らない。



「あの……やはり引き返しませんか?」
最初に口を開いたのは吉良だった。

「吉良殿、今更何を仰る。ここまで来ておいて尾っぽを引いて後ずさりなど、それこそ阿呆のすることでしょう。」
「阿呆だとか賢明とか、安っぽい一般論の話をしているんじゃあないッ!!……失礼しました。
ですが、この殺し合いに乗った口の臭いハイエナ共が舌なめずりして待っているかもしれないんですよ!!」
「危険な者が手ぐすね引いて待っている危険性がある場所は、他でも同じじゃないですか?」

一般論を語るなと言っただろうと怒鳴りつけたい気持ちを抑えながら、吉良はヤンと守の後に続いて寺の中へ入った。
吉良が寺の中に入りたくない理由本当の理由は言うまでもない。
寺の中で、彼が犬飼ミチルを殺した証拠があるかもしれないからだ。


「あの、二人とも気を付けてください。今も殺し合いに乗った者が物陰に隠れて、隙を狙っているかもしれません。」
「だからと言って歩かずにいても襲われるかもしれぬだろう。」
「…………。」


何ならその真面目腐った禿げ頭を今すぐ爆破してやろうかと思った。
だが、そうしてしまえばもう片方の、毛髪の豊かな少年に自分が危険人物だと分かられてしまう。
この少年がスタンド使いか、はたまた無能力者なのかは分からないが、逃げられてしまっても反撃されても面倒だ。
自分のスタンド、キラークイーンが、1度に1人しか攻撃できないという特徴が、ここまで痛烈に響くとは予想もしていなかった。





伊東守とヤンは、そんな吉良の気持ちなどつゆ知れず、寺の奥へと進む。
否、ヤンは薄っすらとだが吉良に対しての警戒を強めていた。

(……先程から殺意を露わにしているようだが……やはりこの寺の崩壊の一因はキラにあるのか?)

ファブールの過酷な環境で鍛え上げたモンク僧である、ヤンにとっては他者からの殺意を見抜くことなど極めて容易だった。
だが、「殺意の原因が何であるか」までは分からなかった。
無理矢理連れて行った自分に原因があるのかもしれないし、はたまた自分の様な者に紛れて殺し合いでの優勝を狙っているのかもしれない。


620 : 愛する人へ ◆vV5.jnbCYw :2021/12/25(土) 18:20:29 fVOhJ8/M0

ヤンは確かに自らの体術に自信があるが、決して疑わしいというだけの相手に拳を振るうような、血の気の多い男ではない。
例え相手が悪で、拳を振るわねば殺されてしまうような相手だとしても、出来れば殺さずに罪を償わせることを望む男だ。
性格ゆえに、ゴルベーザの傀儡としたカインにクリスタルを奪われてしまう過去もあったが。

「守殿、お気を付けられよ。」
「はい。」

迂闊に『吉良に気を付けろ』と言えば居直り強盗のごとく襲ってくるかもしれないので、敢えてぼかした言い方で注意を喚起した。
1対1ならともかく、子供の同行者がいる中で戦いは避けたいし、本当に寺の中に殺人鬼が潜んでいる可能性も捨てきれない。
吉良は『爆弾のような能力の持ち主がいた』と言っていたが、この寺の壊れ様はそれこそ爆弾でも使ったかのようだった。
倒壊する様子は見られないが、あまり拠点にして気持ちの良い場所でもない。




ギシ、ギシと音を立てながら2人は寺の廊下を歩いていく。
それが、吉良は自分の心音と共鳴しているかのように錯覚してしまった。
こうしている間にも、今にもこの寺から自分が犬飼ミチルを殺害した証拠が見つかるかもしれない。
そう考えていると、高鳴る心臓はいっそう激しくなり、汗は滝のごとく流れ始める。
別にこの2人を殺しても問題はない。
だが、少なくとも禿げ頭の方は自分の殺気に僅かながら気づいているようだし、よしんば彼らとの戦いで勝ってもそれは自分の安寧とは遠ざかってしまう。


もしも自分の殺人が明るみに出てしまえば
もしも自分がこの2人を殺さざるを得ない状況に追い込まれれば
その様な状況をシミュレートし、話すべき言葉と取るべき行動も模索していく。


中庭に出ると、前を歩いていた2人の足がぴたりと止まった。
その瞬間、これまで高鳴っていた心臓が、さらに早鐘を打った。
最早このままショック死してしまうことになってもおかしくないぐらいだ。

「これは……お墓でしょうか……。」
「そうですな。恐らくは吉良殿が言っていた、ミチルという少女のものでしょう。」
中庭にはどう見ても掘り返して、誰かを埋めたような盛り土の跡が見えた。

吉良は嫌な予感を覚えた。
ミチルを殺した人間が、ご丁寧にその死体を埋めるはずなど無いのだから、自分が言っていることが矛盾しているとバレてしまうかもしれない。

「誰かが来て、彼女を埋めたのかもしれません。」
「もしかすると、僕の知り合いかもしれない。もう少し寺を探してみましょう。」


やめろという気持ちを抑え、なおも二人の後ろを何食わぬ顔をして歩く。
二人の一挙手一投足が自分の鼓動をさらに加速させる。
かといって無理矢理止めさせればそれこそ疑われかねない。
まだ見つかっていないだけで、この寺には吉良がミチルを殺した証拠が残っていない保証は何処にも無いからだ。
最初にこの寺にいた時は落ち着いた良い場所だと思っていた故に、この場所の印象は最悪なものに転じてしまった。


頼む、早く終わってくれ。
やましい物は出て来ないでくれ。
私に構わないでくれ。
自分の部屋を掃除しに来た親を見ている子供と、同じような感情で寺を歩き回った。


最後の部屋を回ったが、これといった進展はなかった。
守やヤンが探している者にも会うことは無く、自分がミチルを殺した証拠も出てこなかった。
「ここには誰もいないようですな……。あまり拠点にも向きそうにないし、場所を変えますかな……。」
ヤンが声を出した所で、吉良は少しだけ安堵した。
しかし、まだ問題は残っている。
人がいないとなると、ここからどこへ向かうのかと言うことだ。
この寺はあちこちが壊れていて、とても落ち着いて待てる場所ではない。
かと言って迂闊に出歩けば、寺での惨状を知っている者達や仗助に鉢合わせしかねない。
どうすべきか考えあぐねて、やはりこの寺に留まるべきか考えていると、それまで泥貝のように口を閉じていた少年が口を開いた。


621 : 愛する人へ ◆vV5.jnbCYw :2021/12/25(土) 18:20:47 fVOhJ8/M0

「あの……ヤンさんに吉良さんも、お願いがあります。ここで僕の好きな人にメッセージを送りたいのですが……。」
「それはよい考えですな。ではこれを。」
ヤンは鞄からペンを取りだし、守に渡そうとする。

「いえ、必要ありません。」
それを断ったと思うと守は、静かに座り込み、壊れておらず比較的汚れも少ない襖をじっと見つめた。
その姿は、ずっとおどおどしていた少年とは異なり、アメフトのゴールを見つめるジョー・モンタナの様に見えた。
何をしているのかと声をかけようとした瞬間、襖に染みの様なものが浮かんだ。


「なんと……これは……。」
ヤンもその様子には驚いていた。
吉良も絵を描くという行為は紙とペンだけで成されるばかりでは無いことは知っている。
筆や指、時には金属片のようなもので描くことは知っている。
最近は、機械で絵を描くケースも増えてきていることも、聞いたことがあった。
だが、伊東守という少年の絵の描き方は、吉良が知っているいかなる手法とも異なっていた。


次第に、襖に出来た黒い染みは次第に人の輪郭を作り、女性の長い髪を作り、顔のパーツを作り、染みから似顔絵と呼ぶに然るべきものになっていく。
顔を描き終わると、それから胴体、腕、脚と全身像を作っていく。
それは非常に手慣れていた。最も、手を使っておらず呪力で描いてあるので、「手慣れた」という表現は間違っているのかもしれないが。


(実に愚かなガキだ……)
吉良吉影は襖に人の姿が象られていく様子を見ながら、そう考えた。
メッセージを伝えたいのならば、文字と名前だけ手短に書けば良いだろう。
偽装を恐れ、なりすましをしにくい物を作るのだとしても、態々絵を、しかも自分の絵ではなく自分の想い人の絵を描く。
彼にとっては、苛々させるだけの行為だった。
しかし、その感情は絵が完成していくにつれて、あるものへと変わっていった。


622 : 愛する人へ ◆vV5.jnbCYw :2021/12/25(土) 18:21:06 fVOhJ8/M0

〇〇〇〇〇


さらりさらさら。
字面で表すならそんな音だろうか。
静かな寺の中で、守がふすまに絵を描いていく音だけが響く。


しばらくして、座っている女性が膝の上で両手を重ねている絵が完成した。
黒と白の2色だけでも、モデルとなった女性が美しい人物だと伝わる出来の絵だった。
綺麗な顔立ちや手足の細さから伝わる美しさだけではない。
秋月真理亜という女性の優しさやその裏で抱える儚さ、寂しさまでも伝わる絵だ。
ただ絵を描きなれているだけでは到底この絵を描くことは出来ない。
モデルとなる相手を愛し、想い、知り尽くさねば描けない作品だ。


「おお……。実に見事ですな……。この殺し合いが終われば、是非我が妻の絵も描いてもらいたい。」
「ありがとうございます。」

ヤンに褒められ、守は礼を言いながらも恥ずかしそうに俯く。
後は、この絵の下に守自身の名前と、この場所で会おうというメッセージを書いて、作品は終わりを告げた。

「出来ました。二人とも態々待って下さって、ありがとうございます。」
「なぁに、問題ない。守殿の気持ちが顕れた、実に良き作品だ。」
ヤンが守の絵を褒めていた所で、吉良の呼吸が、突然荒くなった。

「おや?吉良殿……!!」
心配したヤンが声をかけると、寺の外を何者かが空を飛んでいる姿が目に入った。


(アレは……)
吉良吉影が呼吸を荒くしていたのは、外で見たものとは関係ないことだった。
だが、寺の近くを飛んで行ったのは、先程吉良が説明した「海賊の様な男」だったからだ。
そう近い距離では無かったが、このままだとこの2人はあの男が飛んで行った方向に走って行くだろうと吉良は勘繰った。


(まあ待て……見えたのは一瞬だったし、分かるはずがない。)
遠かったし見えたのは一瞬だったので、『あの男が吉良の言った海賊の恰好の男なのか』と聞かれてもとぼけてしまうことも出来る。
そう考えていた。


「あの……今飛んで行った人が、吉良さんが言っていた海賊のような男ではないのですか?」
「一瞬でしか見えなかったから、見間違いじゃ無いでしょうか……。」
「いえ……僕も海賊って本でしか読んだことがありませんが、似たような姿の人を見たことがあります。」


吉良吉影は知らなかった。
伊東守という少年が生まれ育った世界は、同じ日本でも環境が決定的なまでに違うということを。
彼のみならず、呪力を持つ者達は視覚が命である以上、得てして遠くを見られる視力を持っている。
また、吉良がいた世界のようにテレビやパソコン、携帯電話など、視力を落とす物が無いのも視力を向上させる一因になっていた。
そして守は言った通り、海賊という物を知らないし、内陸の町の出身である以上は関わることはない。
だが、彼とてニセミノシロモドキから過去の人間の簒奪や殺戮を知っている以上、存在だけは知っている。


623 : 愛する人へ ◆vV5.jnbCYw :2021/12/25(土) 18:21:26 fVOhJ8/M0

「な、ならば逃げましょう!!」

吉良の鼓動は少し収まったと思いきや、また新たに早鐘を打ち始める。
もしもヤンとあの海賊の男が鉢合わせしてしまえば、自分が悪人だと扱われてしまうからだ。

「何を仰る。折角悪を見つけたというのにそれを成敗しに向かわぬ者がどこにいるというのだ。」
「それは強者にしか通じない理屈です!」

弱者として見下されるのは彼のプライドが許さないことだが、今はどうにかしてこの2人を出会わせないようにしようと考えた。

「ならば仕方がありません。吉良殿はお逃げください。向こうには私と守殿だけで向かいます。」
そう言って、ヤンと守はシャーク・アイが飛んで行った先へと走って行った。


「ま、待って下さい!!」
吉良の制止も他所に、2人の姿は小さくなっていく。


(クソ……。)
こうなれば仕方が無いので、吉良はヤン達が走って行った方向とは真逆の、東側へ走って行った。
自分のしたことがバレる可能性が高いため、こうなれば別の対主催集団に匿ってもらうしかない。

「キラークイーン」
せめてもの気休めに、ヤン達が走って行った方に爆弾型スタンドを飛ばす。
何らかのはずみで勘違いした禿げ頭の男と、海賊の男が争って共倒れになってくれないかなと考えながら、走り続けた。
そして彼の心の内には、もう1つ気になったことがあった。



★★★★★★★★★★★★★★★★


「はあ、はあ、はあ……。」
「すまぬ、守殿……。」
身体を鍛えぬいたモンク僧と、身体を鍛えぬく必要のない世界の少年では、体力の差が異なるのも当然の話だ。
一度ペースを落とし、歩くことにした。

「あの人……置いてきて良いのですか?」
「吉良殿のことか?やはり気になるが、守殿と二人だけで置いていくわけにはいかん。
どうにもあの男は食えぬ男だ。」


それに関しては、伊東守も同じことを感じていた。
あの男と二人にはなりたくない、どこかそんな雰囲気を醸し出していたから。
だが、迂闊に手を出せなかったのは、寺を探ってなお、あの男が悪人だということが分からなかったからだ。
だが、それは同時に危険な可能性があった男を自由にさせてしまうことになる。
例え先程向こう側に飛んで行った海賊の姿の男と話し、詳しいことを知ったとしてもだ。


『コッチヲ見ロォ!!』
「なぬ!!これは!!」
その時、2人の下に小型の爆弾型戦車、シアーハートアタックが追ってきた。


ヤンが炎の爪を纏った拳で殴り飛ばす

(……コイツ、硬いな……。)
「守殿、急いで逃げるのです!」

熱に反応して襲ってくる吉良の置き土産は、ヤンの付けていた炎の爪に反応して迫ってきた。


【D-3/森/一日目 朝】

【伊東守@新世界より】
[状態]:健康 疲労(中) 不安(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:
1.真理亜を探す
2.ヤンと共に、海賊の姿の男(シャーク・アイ)を追う
3.吉良に不信感
4.こいつ(シアーハートアタック)一体?
5.呪力がいつも通りに仕えなかったことに対する疑問

※4章後半で、真理亜と共に神栖六十六町を脱出した直後です
※真理亜以外の知り合いを確認していません。



【ヤン・ファン・ライデン@FINAL FANTASY IV】
[状態]:健康
[装備]:ガツ―ンジャンプ@ ペーパーマリオRPG 炎のツメ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラ並びにザントを討つ
1:伊東守と共に、海賊の姿の男を探す
2:吉良吉影に疑い。根本的な理由は無いが、何故か嫌な予感がする
3:襲ってきた魔物(シアーハートアタック)を倒す
参戦時期はED後
満月博士との情報交換で魔法世界についての情報を得ました。


624 : 愛する人へ ◆vV5.jnbCYw :2021/12/25(土) 18:22:01 fVOhJ8/M0



(彼女もこの世界にいるのかな?だとしたら、是非お会いしたいことだ)
吉良吉影が不意に思い出したのは、伊東守という少年が描いた秋月真理亜という女性のこと。
彼の描いた美しい女性、特にその手を見た時、彼の陰茎は屹立しており、白いスーツに小山を作っていた。
彼が子供時代に、レオナルド・ダ・ヴィンチの画集にあった、モナリザの美しい手を見て、性的興奮を覚えたように。
残念ながらモナリザは実在しないが、あの美しい女性はこの世界のどこかにいるはずだ。

「フゥゥゥゥゥ〜。」
思わず、欲情の混じったため息を漏らす。
(是非、あの少女の手を持ち帰り、私とデートをしたいものだ。ああ、たまらないよ。)


あの少年の絵は、流石に万能の天才と呼ばれるダヴィンチが描いた絵には勝らない。
だが、彼が秋月真理亜を美しい女性と思って描いていることはよく伝わった。
それどころでは無いと分かっていながらも、秋月真理亜という少女の手を求めている男の意志がそこにあった。



【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:ダメージ(小) 性的興奮
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:脱出派の勢力に潜り込み、信頼を勝ち取る。
1.名簿に載っていた、仗助、重ちー、早人、そしてシャークに警戒。争うことになるならば殺す
2.早人やミチルにもスタンドが見えたことに対する疑問
3.ヤン達からは逃げる。
4.絵の中の少女、秋月真理亜の手が欲しい
※参戦時期は川尻耕作に姿を変えてから、カップルを殺害した直後です


625 : 愛する人へ ◆vV5.jnbCYw :2021/12/25(土) 18:22:11 fVOhJ8/M0
投下終了です


626 : ◆vV5.jnbCYw :2021/12/28(火) 23:24:03 tggioXDA0
アルス、ガノンドロフ、ルビカンテ、リンク予約します。


627 : ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:30:02 XahnWvGo0
投下します


628 : 魔王決戦1ーー転がるように風を切って ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:30:44 XahnWvGo0
無人の草原を、その草の色に似た服を纏った少年が歩いていた。
しかしその顔色は青く、酷く浮かないものだった。
しっかりと根を張った草や、豊かに葉を付けた木々を『青々とした』と表現することが出来るが、彼の面に映るのは、酷く不健康そうな青だった。


だが、それも無理も無いことだ。
この世界で出会った仲間を失い、かつての世界で出会った仲間を失ったのだから。
不意にフラッシュバックしたのは、駅で見た、姫の様な女性の惨殺死体だった。
遠くにヒールごと吹き飛んでいた足。
転がっていた目玉。
焼けただれた豊満な胸。
飛び散った腸。
剥き出しになっていた赤と黄色の内臓と、全てを彩る真っ赤な血。


思い出すな思い出すなと念じても、その姿ははっきりとアルスの脳内に映り続ける。

「う………」
吐いたばかりなのに、またしても胃液が食道をせり上がって来る感覚を覚える。
「はあ……はあ……。」
どうにか今度は吐かずに済んだ。だが、まだ胸はムカムカして、悪寒も止まらない。


(僕がやって来たことは、何だったんだろうな……。)
今のアルスの胸の内を苛んでいたのは、自分が今まで積み重ねてきたことが全て無駄になっているのではないか、という恐怖感だった。
いわゆる『おきのどくですが、あなたのぼうけんのしょはきえてしまいました』に対する恐怖というものだ。


喪失感と、惨殺死体の鮮やかな記憶と、未来への恐怖を抱えたまま無人の草原を一人で歩くのは、下手な戦い以上に精神的に堪えた。
むしろ誰か敵が襲ってきた方がマシなぐらいだった。
少なくとも戦っている間は、そう言った考えを振り払うことが出来るから。


楽しかったことを思い出そうとしても、それはマリベルやガボとの思い出になり、それが巡り巡って彼女の喪失に伝わる。
本当に彼女には会えないのか。
もし殺し合いを終わらせ、元の世界に戻れたとしても、彼女の父親のアミットさんにどう報告すればいいのか。
そもそも、倒してもオルゴ・デミーラはまた復活し、何かを奪っていくんじゃないのか。


(それならば……?)
そこまで考えて、頭を振った。
その先まで考えると、頭の中だけにとどめていたろくでもないことを行動に移してしまいそうだったから。


何を考えても良い方向には進展しなかったし、だからといって無心になる訳にもいかなかった。
敵でも味方でも、誰でも良いから来て欲しいと考えていた時、不意に嫌な風が吹いた。


南側から、心臓を握り潰すような圧迫感の持ち主、すなわちオルゴ・デミーラにも似たオーラを放つ者がやって来る。
すぐに広瀬康一から貰った剣を抜き、敵を迎え撃とうとした。

気配の主はすぐにやってきた。
姿が見えないくらい遠くにいても、強者である気配は伝わっていた。
だが近くに来ると、空気が刃物になったかと錯覚するぐらい濃い殺気が放たれた。


629 : 魔王決戦1ーー転がるように風を切って ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:31:02 XahnWvGo0

殺気の主たる黒い肌と赤髪の男は、じっとアルスを見つめていた。
「同じ緑帽子でも、違うか……。奴が一杯食わせたか、それとも間違えたのか……。」
男は何やら良く分からないことを言っている。
だが、その目的はろくでもないことだとはアルスにも伝わった。

「我が名はガノンドロフ。そこの小僧、貴様に似た帽子を付けた人間を知らぬか?」
鋭い眼光だった。
手だけではない。身体中の細胞が奥の奥まで震えているのが良く分かった。
だが、その恐怖を押し留めて叫ぶ。

「知らないし、知っていても教えない!!」
「ほう?小僧、我にそのような口を利く勇気があったか。だが過ぎたる勇気は早すぎる死を招くぞ。」

この男が言うことは何のはったりでもないことは、ガノンドロフと戦ったことのないアルスでさえも伝わった。
剣を握る両手に、自然と力が籠もった。

「何の因果か分からぬが、小僧と同じ剣を持った老戦士と、南の城で戦ったな。」
「メルビンさんを知っているのか?」

剣を持った老兵士という言葉を聞き、アルスの語調が強くなる。
それに対してガノンドロフはふっ、と笑みをこぼした。


「名前までは覚えておらぬが、大した力もない癖に向かって来たから、返り討ちにしてやった。
放送では名を呼ばれなかったが、今は我がつけてやった傷が原因で死んでいるかもな。」
「メルビンさんを侮辱するな!!」

猶更相手を生かしておけなくなったと思い、八双の構えでガノンドロフに斬りかかる。
「面白い。」
ニィと笑ったガノンドロフは、魔法剣を抜き、横薙ぎに振るう。
それは、ただのシンプルな斬撃。
しかし、力に愛された魔王が振るった時、岩をも砕く破壊の一撃に変わる。


(!!)
間一髪で姿勢を低くし、その一撃を躱すアルス。
大柄な相手には、自らの姿勢を獣のように低くして戦うのが有効な手段だ。
元々対格差ではガノンドロフの方が圧倒的に勝っている以上、自分の小柄さを最大限利用して討つしかない。

勇気と幸運の剣による斬撃が入る間合いまで入ることが出来た。
「真空ぎ……!!」

アルスが一撃を魔王に打ち込もうとした所、その胸に蹴りが入った。
「ぐはあっ……」
あと一歩で一撃が入る所で蹴とばされ、距離を大きく離される。
受け身を取ったため致命傷は負っていないが、それでも蹴られた腹部にズンと鈍痛が走った。


630 : 魔王決戦1ーー転がるように風を切って ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:31:20 XahnWvGo0

「まさか、剣だけの勝負だとは思っておるまいな?」
ガノンドロフは余裕しゃくしゃくといった態度で手招きをし、もっと打ってこいと言わんばかりに笑みを浮かべる。

無言でアルスは敵を睨み、剣を上段に構えて走って行く。
このまま剣と剣のぶつかり合いになると思っていた直前、アルスは1つ仕掛けを打っておいた。

「バギ!」
それは風魔法の使い手なら誰もが使える初級魔法だ。
だが、初級魔法ゆえにノータイムで、かつほとんど体力を消費せずに打つことが出来る。

「ぬう……」
そして、その風魔法は攻撃のために打ったのではない。
風圧で敵のバランスを崩し、草や土を巻き上げ、ガノンドロフの視界を遮った。

(正面からでは勝てない……だが……!!)
アルスの心の内は先までとは打って変わって、冷静だった。
自らの意志でそうしたわけではない。氷の様に冷静に、炎の様に熱く、それでいて風の様に鋭く、土の様に固く戦わねば、この男は絶対に倒せない。
彼の全細胞がそれを認識し、自ずとそうした姿勢にさせたのだ。


どうやらアルスに気付いていないようだったガノンドロフに、後ろから斬りつけようとする。

「なっ!?」
突然ガノンドロフの周囲が眩しく輝いたと思うと、三角の光の壁が現れた。
急な壁の出現にアルスは止まれず、弾き飛ばされる。
魔法の力で痛みだけではなく、全身に痺れが走ったため、今度は受け身を取れなかった


「正面からでは勝てぬと踏んで、そう来たか。今の戦い方、実に見事だった。」
そう言いながらガノンドロフの右手には光が集まり、それが一つの弾を作っていく。
まだ地面に寝転がったままの状態だが、地面をゴロンと横に転がり、辛うじて一撃を躱す。
光の弾はパシュっと音を立てて、地面に弾けた。


「少しはやると思ったが、もう終わりか?戦いはまだ始まったばかりだぞ?」
ガノンドロフは続けざまに2つ目の光の弾をアルス目掛けて投げてくる。

「バギマ!!」
風の魔法では、光の弾は弾けない。
だが、地面に目掛けて竜巻を打つことで、その反動で空中に逃げた。
またも光の弾は外れることになる。

「なるほど。面白い逃げ方だ。だが翼も無いのに迂闊に空に逃げるのは悪手では無いか?」
ガノンドロフはすぐさま3つ目の光弾を作り、空を飛んだアルス目掛けて投げつけようとした。

「バギマ!」
そこでアルスは3度目の風魔術を打った。

「ゲルド砂漠に吹く砂嵐に比べればそよ風だな。」
ガノンドロフはものともせずに、魔法弾アルス目掛けて投げつける。
空中では、地上とは異なり柔軟な回避が難しい。
だが、魔法の弾道は逸れて、アルスはダメージ1つ無く着地する。

「そういうことか、やりおる。」
敵に大した効果が無いことを承知で撃った竜巻は、敵のボディーバランスを崩した。
そのため、コントロールが乱れた魔法はアルスに当たることは無かった。


着地したアルスは、すぐに攻撃に転じる。
僅かな戦いの間で彼は嫌というほど思い知らされた。
全ての力を出し尽くし、僅かな時間でもダメージ覚悟で攻撃を仕掛けないとこの男は倒せないことを。


まずは剣を中段に構えて、豹の様に猛然と走る。
そのまま敵の心臓に吸い付くかのように真っすぐ突く。
「ふん、つまらんな。」
(ダメだ……早くても一撃が弱いこの技じゃ……)

疾風突きはスピードに特化した一撃で、本来なら自分より早いはずの相手でも出し抜ける。
しかし、反面攻撃力は普通の一撃より劣る。
頑強な鎧と肉体に覆われたこの男の守りを破るには、到底至らなかった。
アルスの一撃は、ガノンドロフの纏ったガイアーラの鎧を僅かに傷つけるだけに終わった。

(だが、間合いには入れた!!)
今度は蹴りを横っ飛びで躱し、喉笛目掛けて逆袈裟に斬りはらう。
疾風突きより速さで劣る一撃は、簡単に首を逸らされて躱されてしまった。

(まだだ、隼斬りは二段攻撃!)
一撃目は躱されることを前提に打った攻撃だ。
身体を回転させ、もう一撃をガノンドロフの首目掛けて撃つ。
「良い一撃だ。我が反撃することを念頭に置かなければな。」


ガノンドロフは逃げることをせず、その場で身を回転させ、アルスに対して裏拳を放った。
(しまっ……!!)
敵に攻撃することばかり気がかりになり、反撃のタイミングを許してしまったことに気付くが、もう遅い。
強烈な拳をまともに受け、2,3度バウンドして地面に転がる。


631 : 魔王決戦1ーー転がるように風を切って ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:31:42 XahnWvGo0

この時にアルスは気づいてしまった。
自分の今までの戦い方は、この世界の戦い方に適していないことを。
元の世界で戦った時は、強い防具に身を纏った上で戦っていた。
また、ルカニなどで守りを緩められても、その間に誰かが庇ってくれることがあった。
だが、今の戦いはそれが出来ない。
武器こそはオチェアーノの剣や水竜の剣には劣るにせよ中々の業物だ。
しかし、防具がない以上はいつ致命傷を受けるか、常にその危険性を考慮しなければいけない。


要は、敵の攻撃を1人で、これまで以上の威力で受けねばいけないのだ。
駅での戦いで、クッパの一撃を受けて気絶してしまったのもそれに気付かなかったことが原因だと今になった分かった。
だが、それが分かった所でどうにもならない。
精々が、スカラで見の守りを固めるぐらいだ。


「辛うじてとはいえ、今の一撃を食らっても立ち上がるとは……。1つ我も面白い戦い方をしてみるかな。」
ザックから1つのアクセサリーの様なものを取り出す。
青白いハンマーの形をしたバッジだった。


「ぬうん!!」
ガノンドロフは力一杯その剣を振り回す。
どうにかしてブラフォードの剣で、敵の一撃を受け止める。
(くそ……重い!!)
たった一撃を受けただけで、スカラまでかかっているのに肩までジインと重たい衝撃が走った。
あと2,3撃も受ければ、剣を落としてしまうだろうと考えてしまう。
しかし、アルスが驚いたのは単純な攻撃の威力だけではない。
服の袖の一部と、剣を握った手の甲が、冷たい氷に覆われていた。

「!!」
「なるほど、バッジというらしいが、面白いものが手に入った。」

ガノンドロフが胸に付けたのは、「アイスナグーリ」というバッジだ。
それを胸に付けた状態で力を込めて武器を用いた攻撃をすると、敵に氷属性の攻撃が出来るという代物だ。
勿論代償が無いわけではなく、魔力や体力を持ち主に応じて消費する。
だがどちらも無尽蔵に近いほど有しているガノンドロフにとって、大した問題ではない。
しかもそのガノンドロフは魔法の世界で造られた剣を持っているため、氷魔法に似通ったその攻撃はさらに威力を増す。


「ハハハハ!小僧の力は所詮その程度か!!」
「くっ……。」


今度は一転し、ガノンドロフの剣がアルスの首を狙いに来る。
まずはガノンドロフの一撃が横薙ぎに一閃。
手に走る凍傷の痛みも無視して、全神経を回避に注ぎ込み辛うじてアルスは躱す。
速さでさえもガノンドロフが勝っているが、力と力の差ほど離れている訳ではない。
だが、当たらなければ良いという訳ではない。アイスナグーリのバッジのせいで、かすっただけでもアルスにとって命取りになった。
よしんば一撃で殺されずとも、斬撃が入った際に来る氷は、確実に動きを阻害してくる。
動きを止められてトドメを刺されるか、凍らされてその身を砕かれるかのどちらかでしかない。

「これだけ力の差を実感してなお背の一つも見せぬか。だが勇気だけでは我は倒せぬぞ?」


(マヒャド斬りに似ている……いや、違うな……。)
ガノンドロフの攻撃を受け流しつつ考える。
アルスもヒャド系の魔法やそれを応用した魔法剣を受けたことはある。
だが、それらの攻撃は凍傷によるダメージを目的としていたのであり、凍結により動きを阻害される危険性は孕んでいなかった。
だが、アイスナグーリを付けたガノンドロフの氷攻撃は、確実に攻撃を阻害してくる。


632 : 魔王決戦1ーー転がるように風を切って ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:32:10 XahnWvGo0

剣と剣がぶつかり合えば服の袖や柄を冷気が襲い、空を切って地面に当たれば地面を凍結させ、足場を悪くする。
従って、攻撃が決定打になるなら無い関係なく、ガノンドロフが剣を振れば振るほど、アルスが不利になっていく状況なのだ。


「ふむ、中々良い装飾品だ。少し形が不細工だがな。」
(はじめてだ。新しい技を助長させる装飾品だなんて)
アルスも筋力を上げる腕輪や、足を速める指輪、果てには経験値が上がる靴など、不思議な力を持った装飾品を知っている。
だが、付けただけで新しい技を伝授するバッジなどは見たことが無かった。


(このままじゃ……)

正面からの攻撃では、すぐに負けるか僅かながら粘った末に負けるかのどちらかでしかない。
どうにかして懐に潜り込み、奪うことは出来ないにしろ、あの胸に付けた装飾品をどうにかせねばならない。
常に行動を氷で阻害され続けていれば、勝つどころか自分の身を守り切ることさえ難しい。

「我が胸にある飾りが邪魔か?ならば壊しに来るが良かろう」
攻撃の手を止めたかと思うと、不適な笑みを浮かべ、左手で鉤の形を作り、手招きする。

(言われなくてもそうする……いや、ダメだ!)
ただ所持品が厄介なだけの相手ならば、そもそもここまでは苦労しない。
この戦いの目的はあくまで、バッジを奪うことではなくガノンドロフという男に勝つことだ。
氷の力を付与するバッジは、あくまで力のほんの一部でしかない。
それを壊すことに集中しすぎれば、そこに生じた隙を突かれて突かれて確実に命を奪われる。


「ふん、せっかく我が与えた千載一遇の機会を不意にしおって。我の施しを無下にした代償は高くつくぞ?」
ガノンドロフは再び剣を振り回し始めた。
「最初から勝機など与えてくれるつもりなどなかっただろ!!」

斜めから、横から、時には上から来る斬劇を避け続け、どうしても避けられないものだけ剣で受け止める。
直接の攻撃は受けていない。だが、敵が剣を振る度に切り裂いた空気の刃が、氷のつぶてがアルスの顔や腕、肩の傷を少しずつ増やしていく。
ガノンドロフはなおも涼しい顔のままだが、アルスの顔は焦燥しきっていた。


「飽きたわ。これで終わりにしてくれる。」
ガノンドロフが力を右腕に込めて、剣を地面に思いっ切り刺した。

「!!」
何をする気か分からないが、背筋に悪寒が走ったため、後退しようとする。
「何処へ逃げても同じよ。」

アルスの周囲に三角形の光が現れる。
「うわあああ!!」
それは先ほど受けた結界に弾かれた時の鈍痛だけではない。
凍傷にある熱さと冷たさが同伴したような鋭い痛みもアルスの両足を襲った。


アイスナグーリのバッジと、ガノンドロフが既に覚えていた結界魔法の合わせ技だ。
(凍ってる!?)
アルスの両脚は、薄い氷に覆われていた。
彼が打った技は、まさに動きを封じる氷の檻だ。


(くそ……動け!!)
「そう焦らずとも、我がその両脚を斬り落としてやろう。」
ガノンドロフが突進して来る。
抵抗することもままなら無い。
せめて何か一矢報いてやろうとアルスが考えたその時だった。


633 : 魔王決戦1ーー転がるように風を切って ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:32:29 XahnWvGo0

「ブルルルルルーーーーーーッ!!」
東側から獣の雄たけびが響いたと思うと、鉄の鎧を纏った猪がガノンドロフめがけて突進してきた。

「これは……」
ガノンドロフは突進をどうにかして躱す。

「君は……。助けてくれてありがとう。」
誰とも分からぬ猪の騎手である、赤マントの男に感謝の言葉を告げる。

「お前に感謝をされる謂われはない。ファイア。」
そう言いながら猪から降りた彼は、炎魔法をアルスに撃った。
ルビカンテは彼を攻撃したつもりではない。


「動ける!!」
「火傷は自分で治せ。後は逃げろ。」

氷の足かせに対する炎魔法。
これほど有用な武器があるだろうか。
勿論アルスは凍傷と火傷、2つの傷を負うことになったが、これぐらいならば制限されている回復魔法で十分リカバーできる。


「戦いに水を差しおって……。」
ガノンドロフは苛立たし気に赤マントの男、ルビカンテを睨みつける。

「ならばその怒りを私にぶつけてくるがよい!!ファイガ!!」
ルビカンテは十八番の炎魔法を、ガノンドロフに浴びせる。
しかし、氷の力を纏った斬撃で、いとも簡単に火球は払われる。


「ふん、つまらぬ。その程度か?」
アイスナグーリによる攻撃や、彼自身の生命力だけではない。

「ダメだ!あの男には炎が効かない!」
ガノンドロフが身に纏っているガイアーラの鎧は、炎や爆発と言った熱の攻撃に大きな耐性を持つ。
アルス自身がかつてオルゴ・デミーラの居城で見つけ、装備したから良く知っていることだ。


「私に指図するな!!」
ルビカンテはアルスの忠告を無視して、炎の爪を付けた右手に力を籠める。

「せっかくの忠告を無視するとはな……まあいい。まだ手札があるならば使ってみるがよい!!」
ガノンドロフはルビカンテ目掛けて突進する。


634 : 魔王決戦1ーー転がるように風を切って ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:32:51 XahnWvGo0

「その余裕は、この技を見ても貫けるか?火焔流!!」
先程より強い熱気と、炎を纏った紅蓮の竜巻がガノンドロフを締め上げる。

「確かに素晴らしい炎の使い手の様だ。だが……。」
炎の龍が魔王の喉笛に食らいつく直前、彼は姿勢を低くし、剣を大きく二重に振り回す。
大回転斬りによる風圧とそれに纏う氷は、簡単に火焔流を切り裂いた。
渾身の力を込めて放った炎は、ガノンドロフの剣に近い場所から消えていく。


「まだだ!!」
味方が増えたことにより、攻撃のチャンスが増えたアルスは、支給品袋から水中爆弾を取り出した。
魚の頭がモチーフになっているそれを、氷の斬撃と炎の竜巻がせめぎ合っている場所目掛けて投げつけた。

(これでダメージにならなくても!!)
火焔流で引火した2個の爆弾は、ドドンと派手な音を立て、爆風を巻き上げた。

「逃げろと言ったはずだ!!」
「そんなことを言っている場合じゃ無い!!」


爆発の余波と、火焔流と打ち消した際の水蒸気で、ガノンドロフの周りには煙が濛々と上がっている。
だが、そんな煙幕など、魔王は斬撃一発で払う。
しかしそこに出来た一瞬のスキを利用し、アルスとルビカンテは魔王目掛けて突撃する。


「懲りぬ奴等だ……。」
再び魔王の周囲に光の結界が現れる。

「ぐわああ!」
ルビカンテは最初のアルスの様に、光の壁に弾き飛ばされる。
だが、すでに一度攻撃を見切っていたアルスは、結界の範囲や消えるタイミングを見抜いていた。
そして光が消え始めた瞬間、アルスが満を持してガノンドロフに目掛けて走る。


「その程度で我を欺けると思ったか!」
カウンターの掌底がアルスの腹を貫こうとする。
だが緑の風は魔王に攻撃するのではなく頭上を跳び越え、背後に回り込む。


「な?」
ガノンドロフが虚を突かれた隙にルビカンテも立ち上がり、アルスと挟み撃ちにする形で突進する。


「ファイガ!!」
「真空斬り!!」
魔王の正面から、火球が迫りくる。
魔王の背面から、風を纏った斬撃が迫りくる。
どちらかに対処すればどちらかの攻撃を食らう、筈だった。


「小賢しい!」

しかしガノンドロフはあろうことか、自ら火球に飛び込む。
否、その一撃を受け入れたわけではない。
氷の力を得た魔法剣で、火球を貫き、そこに出来た突破口を走り抜ける。
当然、彼も無傷では済まないが、ガイアーラの鎧の力でそのダメージを大きく落とした。


その行動はアルスの攻撃を躱し、同時にルビカンテの予想を覆した一撃を作り出した。


「く……。」
あわてて炎の爪で袈裟斬りを受け止める。
炎の魔力を秘めた爪と、氷の魔力を秘めた剣がぶつかり合い、ジュウウとドライアイスを鉄板の上に置いた時のような音が聞こえる。
鍔迫り合いは互角。
だが、格闘術はガノンドロフの方が有利。


「ぬぐぅ!!」
ルビカンテのマントに包まれた腹部に、魔王の膝蹴りが入った。


635 : 魔王決戦1ーー転がるように風を切って ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:34:14 XahnWvGo0

(やはり僕たち一人だけでは勝てない……だが……)
そこに、殺し合いの会場とは思えないほど澄み切った青空に黒雲が集まり始める。

「集え、天の力よ、開花せよ、天空よ。」
「「!?」」

魔力の高まりに、ルビカンテもガノンドロフも驚く。
静かだった天は詠唱と共に、騒がしくなり始める。

(サンダガ……?それにしてはすさまじい魔力だ……)
(恐怖しておる?我が?)

「来たれ、勇者の雷!ギガデイン!!」
デイン系の魔法は、他の魔法より多くの魔力と詠唱時間を食われる反面、確かな威力を発揮する。
今までは時間が無かったが、魔王がルビカンテにかかりきりになっている隙に、詠唱を始めていたのだ。


ぴかりとそれだけで目の一つも焼き切ってしまうほど強い光が瞬き、無数の白銀と黄金の槍がガノンドロフ目掛けて落ちる。
どうなったかは強すぎる光が邪魔をして、詠唱者であるアルスでさえも見えない。
だが、一拍置いて光に遅れたズンと重たい衝撃音が響く。


(やった、成功した………!!)
「ぐああああ!!」
悲鳴が響いた。



だが、その悲鳴は魔王のものではなかった。
アルスより魔王の近くにいたルビカンテが殴り飛ばされていた時の悲鳴だ。
アルスは目を見開いて、その瞬間をただ見ることしか出来なかった。


「雷の魔法か……そう来ると思ったわ……。」
「そんな……勇者の雷が……。」
雷が落ちる瞬間、ガノンドロフは空に剣を投げて、即興の避雷針を作り、ギガデインを回避した。

(くそ……もう一発……。)
だが、時間稼ぎをしてくれる相手もいないまま、詠唱時間のかかる魔法を唱えさせてくれるほど、甘い相手ではない。

空を舞っていた魔法剣を握りしめて、ガノンドロフはアルス目掛けて斬りかかる。

(マリベル……みんな……ごめん…。)
アルスは死を覚悟した。今度は躱す暇も与えてくれえそうにない。


その時、何かがブーメランのように飛んできて、魔王に命中した。
「次から次へと……!」
「無事か。」

盾を投げて走って来たのは、何の因果かアルスと同じ緑フードの青年だった。
「君は……。」
確か、最初の殺し合いの会場で自分の隣にいた男だと、アルスも思い出した。

「馬鹿者!図書館へ行けと言ったはずだ!何故ここへ来た!!」
「アンタ一人じゃ苦労すると思ったからだ。」

だが、もう一人の緑の服の勇者は、アルスやルビカンテの言葉を軽く受け流し、ガノンドロフを睨みつけていた。


その時、魔王の手の甲の正三角形が、黄金に輝く。
「なるほどな。貴様が勇者リンクか。」
力のトライフォースの持ち主である魔王は嬉し気に笑う。

青年の方を見ると、同じように手の甲の正三角形が黄金に輝いた。
「アンタがガノンドロフか。死ぬほど会いたかったぜ。」
それだけ言うと勇気のトライフォースの持ち主は、正宗を抜いた。


この2人の因縁は、当事者にしか分からない。
だが、その因縁は確かなものだと、この場にいる者全員が自ずと分かった。

奇妙な運命の果てに2人の緑の勇者が魔王が巡り会う。
戦いはまだ始まったばかり。


636 : 魔王決戦2ーースティール・ボアー・ラン ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:34:58 XahnWvGo0

ハイラルの剣士と、ゲルドの魔王は互いに剣を正眼に構えて、睨み合う。
それだけで、ビリビリとした空気が、アルスとルビカンテにも伝わってきた。


「まさかこの地で殺し合うことになるとはな。」
「俺はアンタとの縁(えにし)は切れないようだからな。」
2人は互いの名前こそは知っていたが、面と向かって出会うのはこれが初めてだった。
そうやって目を合わせると、リンクにもガノンドロフにも伝わってくるものがあった。

勇者と魔王の、幾つもの時代と幾つものハイラルを跨いだ因縁を。
まるで自分はこの男を倒す為に生まれ、この男を倒すことで未来へと進めると、誰も教えていないのに知っていたかのようだった。


「トライフォースに導かれし勇者よ。その縁をここで断ち切ってくれよう。」
「縁を断ち切るのはお前ではない。俺だ。」


リンクは地面を蹴り、ガノンドロフに斬りかかる。
同時に魔王も地面を蹴り、魔法の剣を構える。
キィンと金属特有の高音が響く。
それだけで、どちらの剣の腕前も相当なものだと伺える。

(力では勝てない……なら、手数で攻める!!)
リンクは月の力を秘めた剣正宗によって、常時より瞬発力が増していた。
勇気の騎士は、先程までルビカンテを追って走ってきたのが嘘であるかのように、長剣を振り続けていた。
左腕の筋肉が、骨が、関節が悲鳴を上げているのも厭わず、更に振り続ける。
袈裟斬り、逆袈裟、横薙ぎ、逆風、そして回転斬り。


しかし力の魔王も負けてはいない。
常人から見れば二刀流はおろか、ともすれば三刀流にも四刀流にも錯覚してしまうほどの手数の攻撃を一つ一つ受け止めていく。
剣を横にして受ける、払う、身を捩る、弾く、そして同じ技をぶつけて相殺する。
勝負は互角のように見えたが、すぐにリンクの方が押されているのは誰にも分かることだった。
動きが、次第に鈍くなっていく。


(なぜだ……氷か!?)
刺すような鋭い痛みと言っても、魔王の剣が斬った空気の刃の痛みではない。
つい先の戦いでアルスさえも苦戦を強いられた、アイスナグーリのバッジは、リンクにとっても厄介な装飾品になった。
「攻撃は剣ではなく、盾で受けて!!」
「!?」
アルスの言う通りに、右手を突き出して斬撃を弾く。
衝撃こそは変わらないが、氷によるダメージを受けなくなった。
それもそのはず。リンクが持っている風の精霊の加護を受けたトルネードの盾は、氷の力から身を護る魔力を秘めている。
ガノンドロフが付けているガイアーラの鎧と同様、オルゴ・デミーラの居城に隠されていた防具だ。
既に装備していたからこそ、その秘められた力を他者に教えることが出来た。

「人に蘊蓄を垂れている場合か!私達も戦うぞ!!」
ルビカンテの声と共に、アルスも魔王へと向かって行く。


―――参の奥義、背面……
「隼斬……!!」
「火焔………!!」


「温いわ!!」
3人の波状攻撃を、魔王はその身を大きく回転させた一撃で吹き飛ばす。
リンク達の世界にあったスピナーの様に、激しい刃の回転が3人を細切れにしようとする。
どうにかそれぞれの得物で守ることで、即死には至らなかった。
だが、魔王に反撃の時間を渡してしまったのは事実だ。


次の手として、魔王は高く跳躍する。
誰かに目掛けてジャンプ斬りをするはずだ、とリンクは考えた。
幸いなことに、この殺し合いでリンクはカインというジャンプ攻撃の使い手と戦っている。
タイミングを見切り、斬り上げをお見舞いしようとした所……。


ガノンドロフの跳躍先は、3人のうち誰の所でもなかった。
「ブルルルルル……!!」

その先にいたのは、ルビカンテが乗ってきており、戦場の隅で座っていたキングブルボーだ。
当然主以外に近づかれた鉄の猪は、近付いてきた者を睨みつける。

「我よりその男が怖いか?」
しかし、その眼光の強さは、魔王のそれには及ばない。
牙を突き出し、魔王を倒そうとするが、反対に殴り返す。


「やめろ!!」
キングブルボーが殺されるかと思い、リンクは制止の声を上げてガノンドロフに斬りかかりに行く。
いくら敵だったとはいえ、こんな形で殺されるのは忍びない。


637 : 魔王決戦2ーースティール・ボアー・ラン ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:35:22 XahnWvGo0

「ゆけ!!幻影の騎士たちよ!!」
ガノンドロフが叫ぶと、5人のファントムライダーが襲い掛かる。
半透明の馬に乗った、半透明の槍を持った兵がリンクに迫る。

(しまった……守り切れないか……。)
盾を構えて守ろうとするが、もう遅い。
騎士の槍がリンクに襲い掛かる。

「ファイガ!!」
「ライデイン!!」
しかし、ルビカンテの炎とアルスの雷がその直前で悪霊を焼き払った。


「助かる。」
だが、赤と白の魔法が晴れた先に見えたのは、驚きの光景だった。


「ブルルルル……。」
「良い子だ。」
ガノンドロフが、キングブルボーを従え、その背に乗っていた。
すぐに王の名を持つ獣に乗った魔王が、3人の下に突撃する。
その勢いは、まさに猪突猛進。


「うわ!」
「くそ!!」

その勢いに、躱すのが精いっぱいで反撃のチャンスさえつかめない。

「ファイガ……」
裏切り者には興味はない、とばかりにルビカンテは魔法を打って猪を焼こうとするも、上から魔王の剣が襲い掛かる。
慌てて詠唱をキャンセルし、炎の爪で受け止める。
だが、上からの攻撃は必然的に同じ高さからの攻撃より、威力が上がる。
ルビカンテの手の甲に、ビリビリと刺激が走り、そのまま後退させられた。


しかも、その上でガノンドロフが剣を振るってくる。
リンクならば知っていることだが、ブルボーは馬に比べて筋肉の躍動が激しいため、騎乗は勿論のこと、それ以上に背の上で出来ることが限られている。
だが、力に魅入られた魔王ならば?
人間、ともすれば魔物を上回る筋力を持ったガノンドロフならば、傍若無人に振る舞い続ける猪の上でも剣を振るい続けることが出来る。


「再び行け!騎士の亡霊よ!!」
近付けばガノンドロフとキングブルボーが、遠ざかればファントムライダーが襲い来る。

「くそ!このままじゃ……。」
リンクは道具なくして魔法を使うことは出来ず、斬撃や殴打などの物理攻撃が効かないファントムライダーからの攻撃を受けそうになる。
「真空斬り!!」
「ありがとう。」

風の魔法の力を借りた一撃が、リンクの胸に迫る騎士の亡霊を切り裂いた。
ファントムライダーは普通の斬撃こそは効かないが、魔法、あるいはその魔法を秘めた攻撃ならば通用することが分かった。
そのまま風の龍がうねるような軌道で剣を振り続け、残るファントムライダーも払い続けるアルス。


ガノンドロフを乗せたキングブルボーは、方向転換した直後だ。

(行ける!今なら!!)
リンクとアルス、2人の緑の勇者が駆けていく。
だが、忘れるなかれ。


「ぐわあ!」
「くそっ!!」

敵は猪に乗って戦うことに特化した騎兵では無いということを。
ガノンドロフは2人が自分に迫りくる瞬間、結界魔法を放ったのだ。
またしても見えない壁に飛ばされる。

(しまった……既にこの攻撃は食らっていたというのに……!!)
キングブルボーとファントムライダーにかかりきりで、結界魔法のことを忘れていた自分の間抜けさにアルスは腹が立った。

「ブルルルルルーーーーッ!!」
猪が咆哮し、鼻息荒く突進して来る。
そのままアルスは猪に踏みつぶされそうになる。

「火焔流!!」
しかし、ルビカンテが放った炎の竜巻により、最悪の事態は免れた。
いくら飼いならされていようと、戦場を幾たびも駆け巡ろうと、獣は獣。
炎には一瞬とはいえ怯んでしまう。

その隙に、猪の進行方向から辛うじて逃れた。
追撃とばかりに魔王の上からの斬撃が襲い来るが、リンクが盾でアルスを庇う。

一時的な危機は逃れるが、再びファントムライダーが襲い来る。
「火焔流!!」
単体攻撃に特化した炎の竜巻だけでは、全ての亡霊を払えない。
だが、そこでアルスが手を打った。


638 : 魔王決戦2ーースティール・ボアー・ラン ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:35:42 XahnWvGo0

「バギクロス!!」
アルスが放った竜巻がルビカンテの炎と合わさり、火焔流の破壊力とバギ系魔法の攻撃範囲を同伴した、巨大な紅蓮の竜巻が作られる。
この世界で生み出された奇跡は、騎士の亡霊を全て薙ぎ払い、ガノンドロフとキングブルボーにも迫った。


「行け!!」
さしもの猪の王も、それには怯んでしまう。
だが、無理矢理ガノンドロフは突っ込ませる。

彼とて、無策で竜巻に飛び込むわけではない。
アイスナグーリの力を借りた回転斬りで、炎の竜巻を払おうとする。
否、ガノンドロフに味方した条件は、それだけではない。


この場にいる者は誰も知らない。
鉄の猪が走る軌道が、「黄金長方形」を描いていたことだ。
本来ならばその軌道は馬、しかも手なずけられた名馬にのみ作れる形であり、まかり間違っても走り方や足の長さが異なる猪が出来ることではない。
だが、力の魔王による強引な矯正で、その軌道は造られた。
黄金長方形を作るために、『馬の癖を最大限活かす』という、とある世界のとある家にのみ伝わる方法とは真逆のやり方で、新たな道は造られた。


無限の回転を内包する、多くの人間、時として動物の目を惹く形は、回転を助長する。
ガノンドロフ自身は黄金の回転を知るツェペリ家と関わり合いは愚か、黄金長方形のからくりを知っていた訳でさえない。
だが、彼の騎乗能力が、偶然その力を生んだのだ。


黄金の回転と、白銀の氷の加護を受けた回転斬りは、巨大な竜巻をたった一撃で薙ぎ払った。
その破壊力の裏に秘めた美しさは、魔王の敵であったアルスやルビカンテでさえも魅入られてしまうほどだった。


だが、勇者たちの攻撃はこれで終わりではない。



「でええやあああああ!!!」
「!!」

正眼に構えたリンクが、猪に乗った魔王以上に高い位置まで飛ぶ。
狙うは魔王の頭上。
どれほど研磨された回転、いや、素晴らしい回転だからこそ、その中心は無防備になる。
ガノンドロフが目の前の竜巻を薙ぎ払った隙にリンクは地面を蹴り、陸の奥義 大ジャンプ斬りを騎手めがけて放った。


「なるほど。我が頭上を狙ったか。」
だが回転の軌道をずらし、リンクの上からの攻撃を潰そうとする。

「ぬうううううう!!」

大ジャンプ斬りのジャンプ斬りと違う点は、斬撃のみならず衝撃波によるダメージも与えられること。
従って、斬撃そのものをガードされたとしても騎手にもその騎手が乗っている獣にも攻撃が出来る。


渾身の力を込めて、天から撃った一撃により、ガノンドロフの右肩から両脚まで衝撃波が行き渡り、その先にいたキングブルボーにも伝わった。

「ブガアアアア!!」
鉄の猪は悲鳴を上げ、地面に崩れる。
そのはずみで、魔王は離れた場所に吹き飛ばされる。
剣を交わしていたリンクも同じように吹き飛ばされそうになるが、身を捩って無事に着地する。


(よし、気絶はしているが、殺してはいないな……。)
猪の静かな呼吸を聞き取り、リンクは安堵する。
キングブルボーには責任はないとリンクは考えていた。
それに、リンクは長い時を牧童として、馬やヤギなどの動物に囲まれて過ごした。
悪戯心の下で、動物にちょっかいをかけたことは数多くあれど、食事以外の目的で殺そうと考えたことは無い。
殺さなければ、それに越したことは無いのだ。


639 : 魔王決戦2ーースティール・ボアー・ラン ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:36:02 XahnWvGo0

だが、その安堵は一瞬で打ち砕かれる。
ガノンドロフが、キングブルボーの脳天に魔法剣を投げたのだ。

「ブルルルルアアアアアァァーーーッ!!」
当然猪は苦しみ始める。
身体を震わせたが、やがて動かずに事切れた。

「何てことをするんだ!!」
リンクは魔王を怒鳴りつける。
「キサマはなぜ怒っているのか分からぬな。」
ガノンドロフは笑みを浮かべ、その反応を面白そうに見ていた。


「君の仲間じゃ無かったのか!」
アルスもまた怒りを露わにする。

「主を地面に落とす獣など、必要ない。違うか?」

自分がしたことも悪びれる様子もなく、さも当然に様な顔をし続けるガノンドロフ。

「良く分かったよ。やはりアンタは俺が倒さなきゃいけない。」
リンクの剣を持つ手の力が強まる。
疲労など関係ない。
宿命さえも関係ない。
要らないから、自分を傷付けたからという理由で自分の手名付けた獣さえも殺そうとする男を、許しておけなかっただけだ。


「我も一つ分かった。獣を繰るより、自らが獣になった方が殺しやすいとな!!」
対して、ガノンドロフはうなり声と共に地面に両手を付いた。
その姿勢は、おおよそ剣を持った者の戦い方とは思えない。

「これで終わりだ!」
予想もつかない挙動にリンクはたじろぐことも無く、足を速めていく。

(ぼやぼやするな!僕も戦え!)
既に体のあちこちが痛むが、アルスも同様に魔王の下へ走り、ルビカンテも右手に炎を溜める。


「グルルアアアアアアアァァァァァアアアア!!!!!」
耳をつんざくような雄たけび、先のキングブルボー以上の凄まじい遠吠えと共に、人の姿をしていた魔王が、巨大な猪に姿を変えた。

(!!)
ただでさえ溢れるほどに滾っていた殺意が、一層凄まじいものになる。
心臓が弱い者だったり、戦いに慣れていない者であれば、それだけでショック死してもおかしくないほどだ。
最初にその牙の標的になったのは、一番近づいていたリンクだ。

突然の変身に対応することも出来ず、貫かれそうになる。
しかし、咄嗟にトルナードの盾でガードしたことで、かつてこの世界でガノンドロフに敗れたエッジと同じ轍は踏まなかった。

「があっ!!」
しかし、あくまで一撃で致命傷を負わなかっただけ。
盾で守っても攻撃力が高すぎるあまり、両腕に雷でも落とされたかのような衝撃が走った。
アイアンブーツなしでゴロン族の突っ張りを食らった時のように、大きくリンクは跳ね飛ばされた。


「火焔流!!」
追加攻撃に炎の竜巻が襲い来る。

「グルアアアアアア!!」
魔獣となったガノンドロフの鬣を焼く。
今のガノンドロフは鎧を付けていないため、炎の攻撃の耐性は弱くなっている。
だが、生命力や攻撃力は比べ物にならない。


640 : 魔王決戦2ーースティール・ボアー・ラン ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:36:21 XahnWvGo0

魔獣はしばらく苦しんでいた。
しかしその「しばらく」が終わると、炎の竜巻は両の前足の爪のたった一撃で引き裂かれた。
「何!?」
自慢の技を大したダメージも与えることなく潰され、ルビカンテも驚いた。

魔獣は地面を駆け始める
走り出した魔獣はリンクとアルスとルビカンテの3人の周囲を、ぐるぐると回り続けた。
魔獣の咆哮と、地を蹴る時に響く悪魔の太鼓のような音が、草原に木霊する。


「3人で背中を合わせて固まって!背中を見せたらだめだ!」
「命令するな!」
何処から襲ってきても良いように、1か所に固まることを提案する。
だが、ルビカンテはそれを無視して、魔獣目掛けて走る。

「いくら巨大であろうと、所詮は獣……!火に弱いことに変わりはないはずだ!!」


一度視界を遮ったこともあり、再び走る魔獣に向かって、炎の竜巻を打とうする。
「ダメだ!」
リンクも止めようとするが、ルビカンテを止めることが出来ない。


「火焔流!!」
だが、魔獣ガノンは巨体に似合わぬ高さで、跳躍した。
その高さは、炎の竜巻の高さをも超えた。

「跳んだだと!?」
猪の怪物がしでかしたとは思えぬほどのアクションで、間近にいたルビカンテは勿論、リンクもアルスも驚く。
しかし、驚いている場合ではない。
巨体が高く跳び上がったことは、地面に落ちた時の衝撃はそれだけ凄まじいはずだ。


「逃げろ!影の場所には絶対に近づくな!!」
言うが否やリンクは早速走り始め、ルビカンテも不服ながらも走り始める。
先程とは打って変わって、1か所に固まらずに散会する。


しかし、アルスのみ逃げることをしなかった。
「君も早く逃げろ!!」
リンクは走りながらも忠告する。
チャンスだと見込んだのか、魔獣の影がアルスへと狙いを定めた様だった。
しかし、アルスは動けなかったのではなく、魔法を紡いでいた。


「破邪の光よ、全てを零に導きたまえ…マジャスティス!」


魔獣の身体が地面に落ちる寸前、アルスから放たれるまばゆい光が辺りを照らす。
極彩色の光が、漆黒と真紅に覆われた魔獣を包み込む。
「ガアアアアアアアァァァ!!」

空中でけたたましい雄たけびが響く。
しかし最初に吠えた時と違い、苦しみが混ざっていた。
アルスが放った魔法は、敵を殺すことは出来ない。
だが、敵に纏っていた魔力を消失させ、元の姿に戻してしまう。


魔獣の身体がアルスを潰す寸前、魔王の姿に戻った。

「小僧が……味な真似を……!!」
しかし魔獣に変化する際、魔力を幾分か消費したとはいえ、まだ戦える力ぐらいは十分残っている。
空中で回し蹴りを放ち、狙いをアルスの細い首に定める。
ただの蹴り。しかし、それだけで並の人間の首を撥ねてしまう威力を持っている。
アルスは強力な魔法を放ったことで防御が手薄な状態だ。

「させるか!!」
死神の鎌の様な蹴りが一人の少年の命を刈ろうとした瞬間、リンクの盾が彼を守る。

「ちっ……」
蹴った反動でリンクから離れる。剣はキングブルボーに刺さっているため、その剣を取ろうとする。
しかし、リンクは休むことなく連続で攻撃を打ち込んでいく。
袈裟懸け、袈裟返し、そして突き。


「図に乗るなあアア!!」
リンクの猛攻を許さず、魔王の掌底が胸に襲い掛かる。
受ければ心臓をつかみ取られるか、穿ち抜かれかねない一撃を躱し、地面を転がり背後に回り込む。


641 : 魔王決戦2ーースティール・ボアー・ラン ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:37:24 XahnWvGo0


―――参の奥義、背面斬り
その一撃が、魔王のマントを切り裂いた。

「天よ怒れ!!ライデイン!」
さらに、魔王の顔面にアルスが放った雷が落ちる。
もうアルスの魔力は残り僅かでしかない。

天からの光の矢が次々と降り注ぐ。
今度はガノンドロフは避雷針になり得る剣を持ってない。
だが、一度ギガデインを見ている以上、どのタイミングで落ちて来るかはガノンドロフに推測が付いた。

雷が落ちる平原の中を魔王は駆けていく。
そこへ、リンクとルビカンテの二人が迫りくる。

「これしきのことで、我を追い詰めたと思うな!!」
雷が止んだ後、何度目か魔王は光の結界を出し、2人を足止めする。



ライデインのみでは魔王にトドメを刺せない。

だが、ここで全ての力を使う。
アルスが持ちうる奥義の中で最強の、ギガスラッシュを。
あの技はクッパに撃った際には、倒せなかった。


(けれど!ここで決める!!)
魔法を連発したアルスにとって、最早戦える時間は僅かしかない。
電車の中でわずかな時間休んで以降、ほとんど休憩していないまま、マジャスティスやギガデイン、ライデインと強力な魔法を打ち続け、今にも気を抜けば倒れそうだ。
筋肉痛と頭痛、疲労と傷が身体を支配しようとする中、戦える時間はもうあまり残っていない。
出来るか出来ないかではなく、やるという気持ちだけを胸に、剣に雷を纏わせる。

黄金の力を纏った一撃が、魔王に目掛けて襲い掛かる。

「その程度か!!」
しかしガノンドロフは読めていた。
この速さならば後ろへ退けば躱せる。

しかし、その後ろにいたのは、蹲っていた鉄の猪だった。
ライデインは攻撃の為のみならず、逃げ場を断つために撃っていたのだ。

「これで終わりだ!!ギガ………え?」

トドメの一撃を打つ瞬間、勇者アルスは崩れ落ちた。
彼の背中、正面から見れば心臓に当たる部分に、猪の牙が生えていた。


ガノンドロフは蹲っているキングブルボーの牙を力づくでへし折り、アルスの心臓目掛けて投げつけたのだ。


アルスは悲鳴を上げず、ただ鮮血が迸る音だけが響いた。
真っ赤な血が、緑の服を汚す。
だが、リンクはその色が変わっていく様を見届けることは出来なかった。

「…………。」
突然の予想外過ぎる瞬間に、リンクは表情も、全身も硬直したままだった。
「なんだと……!?」

それはルビカンテも同じだった。
彼らにとって、アルスと共に生きた時間は、生涯のうちのほんの僅かでしかない。
それでも、少なくともリンクにとっては魔王との戦いで救い、救われてきたかけがえのない戦友だった。

そのアルスが、殺された。
実感がわかない。
世界が白黒になり、まるで時間が止まったかのように感じた。


642 : 魔王決戦2ーースティール・ボアー・ラン ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:37:49 XahnWvGo0

やがて、その瞬間が終わりをつげ、視界に色が戻って来る。
それと同時に、仲間を失った怒りが、胸から神経という神経を伝う。
彼は声一つ上げず、誰よりも静かに緑の風となり、魔王へ向かって行った。


かつてリンクはイリアや村の子供たちを連れ去られた時は、怒りの矛先は弱い自分へ向かっていた。
この殺し合いでイリアを殺された時は、怒りよりも自分の行動のせいで彼女を殺した罪の意識が勝っていた。
そして、イリアが死してなお傀儡として操られていると知った時こそ怒りはあったが、その対象こそは見つからないままだった。


これほど純粋な静かで純粋な殺意と怒りを、リンクは初めて知った。


「ほう……怒りに身を委ねたか。ケダモノの様だな。」
その様を見て笑みを浮かべたガノンドロフは、剣を取り出した。
魔法の世界の少女がかつて持っていたものでは無い。
より大きく、影の世界の魔力を帯び、漆黒に染まった大剣だ。
その剣を握りしめると、血の様に真っ赤な線が刀身の中央を走った。


だが、そんなもので止まるつもりはない。
全てを擲ってでも、この男を殺そうとした。


―――弐の奥義 盾アタック

強力な斬撃を無理矢理押し返す。
当然ながら片腕の筋肉が悲鳴を上げるが、凄まじく湧き上がる怒りは、その痛みを霧消させる。

―――肆の奥義 兜割り

その勢いで高く跳び上がり、脳天を一刀両断にしようとする。
同じように剣を上段に掲げ、その一撃を防ぐ。


(こいつを殺す。)
彼の心の内には、その7文字しかなかった。
余りの勢いに、ルビカンテは付いて行けなかった。
密着状態であるため、迂闊に炎を打てばリンクまで焼いてしまう。


「素晴らしい攻撃だ。」
何発目か、リンクの攻撃は、ついにガノンドロフの持っていた影の剣を弾き飛ばした。
否、弾き飛ばしたのではない。
リンクの攻撃に合わせて、その剣をとある方向に投げ飛ばしたのだ。


そんなことはつゆ知らず、リンクは続けざまに攻撃を仕掛ける。
その身をぐるりと回転させ、魔王の腹を切り裂こうとする。

だが、まだ浅い。
(くそ……だが次こそ必ず殺す!!)


その時、足音が聞こえた。
それはルビカンテが走る時の音ではない。
間違いなく、彼が走る時の足音だ。


奇跡が起こったのか、その姿を僅かな希望を胸に戦友の姿をこの目で焼きつけようとした時。
見えたのは、戦友が自分に斬りかかる姿だった。


643 : 魔王決戦3ーー偽りの■■に抗え ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:38:29 XahnWvGo0

(ここは……?)
周囲は真っ暗だった。
不思議と、先程までに感じていた凍傷の痛みも、切り傷の痛みも、猪の牙に刺された激痛も感じない。

(そうだ、早くあの場所に戻らないと!!)
疲れないのを不思議に思う暇もなく、走り出す。
だが、走っても走っても景色は変わらなかった。
まるで、ヒカリゴケがない大灯台の中を歩き回っているような気分だった。


(誰か、誰かいないのか?)
アルスはこれまで薄暗い洞窟の中を歩いたことはあった。
だが、この世界は違う。
闇という闇が濃縮された、黒以外の色が映らない世界だ。


「久し振りね。とはいっても、しばらく会ってないぐらい?」
黒ばかりの視界に、何色かが飛び込んできた。
だが、色の問題ではない。
アルスの目に映りこんだのは、幼馴染の少女だった。


「マリベル?」
アルスは確かめるかのような口調で、不安気に聞く。

「な〜に馬鹿なこと言ってるのよ。この可愛らしい顔が、マリベルさま以外の物だと本気で考えてるわけ?」
「そうじゃないけど……君、幽霊?」

マリベルは確かに死んだはずだった。
オルゴ・デミーラのことを鵜吞みにしたわけでは無いが、確かに放送で呼ばれたはずだ。

「まあそんなところかな。」
マリベルは少し困ったような顔をして笑っている。

「うわあああああああ!!!!」
アルスは突然叫び、泣き始めた。

「ごめん!マリベル!!君がいなくなって、僕は君を大切にしていなかったって気付いたんだ!!
本当にごめんなさい!!ごめんなさい!!」


「いいわよ。」
泣き叫ぶアルスを、マリベルは静かに抱きしめた。

「人ってね、死んだときに初めて本当に想っていたかどうか分かるの。だから、あんたがあたしを好きでいてくれたってことが分かって、それだけで十分よ。」

マリベルは優しく、アルスの背中を擦る。
アルスはゆっくりと目を閉じた。


★★★


「うおおおおおおお!!!」
アルスの剣がリンクを刺そうとした瞬間、ルビカンテのタックルがアルスを突き飛ばした。

しかし、腹を剣で刺されたままのアルスは、何事も無かったかのようにむくりと起き上がる。
彼の異変は、腹を貫かれてなお、平然としているだけではない。
その量の眼孔が、人で無いかのような真っ赤な光を帯びていた。


「その剣は!!」
「思い出したか?どうやら貴様はこの剣を刺された魔物と戦ったことがある様だが……。」


リンクはそこまで言われて、ようやく思い出した。
あの剣は、ザントが持っていた物だったと。
かつて砂漠の処刑場の最奥で現れたザントが、竜の化石に突き刺したことで目覚めた、覚醒古代獣ハーラ・ジガントと戦ったことを。


644 : 魔王決戦3ーー偽りの■■に抗え ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:38:45 XahnWvGo0

(最悪だ……。)
自分の置かれている状況を分かってしまった。
ザントが持っていた剣は、光を影に、死を生に反転させる力を持つ。

そして、友情は敵意に反転した。


「バギクロス!」
凄まじい竜巻が、リンクに迫りくる。
影の剣は、リンクに偽物の命を与えたのみならず、魔力の供給源にもなった。
かつてその剣を刺された怪獣が、空を飛べた時と同じ原理だ。



「火焔流!!」
しかしルビカンテが炎の渦を巻き上げ、打ち返した。
かつて1つになったはずの2つの竜巻が、今度はぶつかり合う形になった。


「何をしている!!お前は早く魔王を討て!!」
「し、しかし……。」
「早くしろ!!この男は私が食い止める!!」
「分かった!そいつは胸に刺さった剣をどうにかしてくれ!!」


★★★


「暖かいなあ……何で僕は、君のことを大切にしてなかったんだろう……。」
少し背の低いマリベルの肩を、アルスが濡らす。


こうしていると、走馬灯のように彼女との思い出が蘇って来る。
最初に思い出したのは、物語の始まり。真夜中のフィッシュベルの浜辺


―――ふーん、そうなんだ。じゃあどうしても教えられないっていうのねっ!?
―――う〜ん、ちょっと教えられないかな
―――だったらもう聞かないわ!でもあたしはあきらめないよ。あんたたちが何をしようとしているのか、いつかきっと暴いて見せるから!!


「あの時も暴くことが出来たけれど、今度もあたしがあんたの気持ちを暴いてやったわ。」
マリベルはどこか誇らしげに、それでいて僅かに寂しそうに笑う。

アルスは、もう見れないと思っていた彼女の笑顔をただじっと眺めていた。
自分の意識と役割を放棄して。



★★★


再びキングブルボーから美夜子の剣を抜いたガノンドロフが、リンクに襲い掛かる。
それを正宗で迎え撃つリンク。


「どうした?剣が乱れているぞ?」
だが、その一撃はあっさりと弾き飛ばされてしまう。

「うるさい!!」
焦りのまま、攻撃を続けるリンク。
だが、その単純な攻撃は、簡単に受けられ、弾かれてしまう。



「うおおおおおお!!!」
戦略もあった物ではなく、怪物か何かの様に吠え、握りしめた正宗を突き付ける。
その姿は、剣という牙を持って暴れる獣の様だった。

紙一重で顔を逸らし、反対に肘鉄を腹に打ち込む。
だが、怒りに痛みを感じていなかった。
地面を転がったリンクは、またしても魔王に向かって行く。


目の前の男は、破壊や殺戮を繰り返すだけでは飽き足らず、死した戦友を道具にし、自分を殺させようとする外道。
許してはおけない。赦してはおけない。生かしてはおけない。

古の勇者から教わった奥義もすべて無視して、目の前の男にぶつかっていく。


645 : 魔王決戦3ーー偽りの■■に抗え ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:39:07 XahnWvGo0
★★★


「アルス、ごめんなさい。」
マリベルは突然アルスに謝った。
「何で謝るの?」
「あたしのせいで、アンタを苦しませて……。」


場所は変わり、初めて石板の光に導かれて過去の世界が映る。
名前は後で分かったが、ウッドパルナの森の中。



―――……さてと じゃあ あたしは 家に帰るからね。アルス キーファ。 遊んでくれて ありがと。 つまらなかったわ。じゃあね。
―――え?ちょっと待ってよ!!

その時アルスは、勝手について来ておいて何て身勝手なんだとマリベルに対して少し幻滅した。
だが、その気持ちはウッドパルナの元凶を倒し、その島を覆っていた闇と共に消えた。


―――……わるいけど あたしに 話しかけないでくれる? ……今 何もしゃべりたくないの。

不幸の果てに怪物になってしまったマチルダを殺してしまった後、マリベルが鼻声混じりに言った言葉は今でも覚えている。
最初にこの島に来た時に言った言葉は、自分の弱さを見せたくなかっただけなんだと初めて分かった。
そして、アルスは初めて彼女を悲しませたくないと思った瞬間だった。


「違うよ。何もかも僕が決めたことなんだ!苦しんでないし、後悔だってしてないよ。」
「そう言ってくれると……少しだけ嬉しいわ。」
「この気持ちだけは本当なんだよ。マリベル、僕を支えてくれてありがとう。」
「どういたしまして。」

マリベルは笑顔に戻った。
その笑顔は、どこか不自然な気がした。




「ぬおおおおおお!!!」
炎の爪で、アルスの斬撃を受け止めるルビカンテ。


「目を覚ませええ!!」
ルビカンテの叫びと共に、手に握りしめた炎の爪の熱が、さらに上がる。
両の目に人のものでは無い赤い光を煌々と放つアルスの動きは、どこかルビカンテの上司であるゴルベーザに操られた兵士と似ていた。

だからと言って、対処法を掴んだわけではない。
ゴルベーザに操られた雑兵に比べれば、格段に豊富な技を持っている。

「ぬお!?」
武闘家時代にアルスが培った、足払いでルビカンテはバランスを崩される。
敵は決して、剣に生き、剣に死すを信条とする剣士ではない。

すかさず懐に潜り込まれ、下腹部に正拳突きを撃たれる。


「ぐわあああああ!!」


★★★★


次にアルスが見たのは、床が石畳と赤い絨毯で覆われ、高い天井を持つダーマ神殿だった。
時は流れ、幾つかの大陸を解放し、冒険にも慣れてきた頃。


アルスとマリベルは、互いに転職をした。
―――アルス、あんたは何になったの?
―――僕は戦士になろうと思っていてね。
―――うわダッサ〜。ちょっとカシムに剣を褒められたからって、天狗になってんじゃない?
―――なってないよ!そういうマリベルは何になろうとしていたの?」
―――私は魔法使いよ。
―――君こそサジに魔法を褒められたからなろうとしたんじゃないの?
―――はああ?どの口がそう言うのよ!!


「ねえ、マリベル、あの時、本当のこと分かっていたよね?」
「何だ、分かっていたんだ。勝手にいなくなったあいつのこと。」
あの時、お互いに確信していたし、相手のことも分かっていた。
魔法剣を覚えて、キーファが得意としていた火炎斬りを覚えたかった。
己の道を見つけたことで、いなくなった仲間の分を埋めたかった。

それをしたところで何になるのかは分からない。
だが、アルスもマリベルもどうにかしていなくなった彼の思い出を、少しでも残しておきたかった。
残っていたのは手紙だけで、彼が持っていた武器や防具は袋に紛れて、どれがキーファが持っていたのか区別がつかなくなってしまった。
それだけでは、いつ失った仲間を、本当に喪ってしまうか分からなくて、声には出せなくても怖くて怖くて仕方が無かったから。


646 : 魔王決戦3ーー偽りの■■に抗え ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:39:23 XahnWvGo0

誰が言ったか。
人は誰かになれると。


「結局僕は、何者にもなれなかったよ。」
しかし、アルスは戦士を極め、魔法使いになろうとしたが、どうにも身に合わなかった。
マリベルもまた、魔法使いを極めたが、戦士がその身に合わず、辞めてしまった。


あの時掴めなかった結果が、今まで身を引いたのだろうか。
例え魔物を倒しても、それでも零れる命は増えていくばかりで、ついには倒したはずの魔王が蘇り、大切な人を失ってしまった。


「なれなくたって、構わないわ。あんたはあたしが好きなあんたであって、あたしが好きなあんたでしかないから。」
「……ありがとう。マリベル。」
「たとえ価値が無くなっても、大丈夫よ。あんたにはあたしがいるから。」

(本当にそれでいいの?)
何かがそっとアルスに言ったが、アルスの耳には届かなかった。





吹き飛ばされたルビカンテは、悪いことにリンクの背中と衝突した。

「ぐわあああ!!」

「運が悪かったようだな。」
その様をガノンドロフが見下ろす。

「黙れエエエエエ!!」
リンクはルビカンテを突き飛ばし、再び魔王へと駆けていく。


「つまらぬ。力づくで我を倒そうなど、嘗められたものよ。」
突きを紙一重で躱し、魔王は脚を振り上げる。
鋭い蹴りがリンクの腹に刺さり、地面を転がる。


「もう終わりか?折角楽しみにしていた戦いなのに、つまらぬ終わり方だ。」
魔王は見下ろしながら、勇者を嘲る。
上半身を上げた瞬間、リンクの下腹部に今までとは違う激痛が走る。
肋骨が一本折られたのだ。


だが、その痛みも無視して戦い続ける。
正宗と美夜子の剣が鍔迫り合い、ギイギイと嫌な音を立てる。

「1つ分かったことがあるぞ?さては貴様、我を殺せばあの小僧を助けられると思っているんじゃないのか?」
「!!」

図星だった。
ミドナの援助があれど、基本的に剣を一人で振るっていたリンクにとって、アルスと共に剣を持って戦った思い出は、苦しいながらもどこか充実していた。
共に戦った時間こそ1度きりだが、ゆえに忘れがたい高揚感だった。
あの感覚を、あの気持ちを、こんな形で終わらせることだけは何としてでも食い止めたかった。


647 : 魔王決戦3ーー偽りの■■に抗え ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:39:43 XahnWvGo0

「無駄なことよ。奴を操っているのは我ではなく、あの剣だ。
それにあの剣を打ち砕いた所でどうなると思う?骸が1つ転がるだけよ。」

「!!!」
絶望を目の前で突き付け、魔王の称号を持つに相応しい笑みを浮かべるガノンドロフ。
リンクの瞳は、ただ暗い闇を湛えていた。
その瞬間、鍔迫り合いになった状態でガノンドロフは急に力を抜いた。

「!?」
予想外の行動をされ、リンクの力は行き場を失い前のめりになる。

「絶望することは無い。貴様が代わりに死ねばいいだけよ!!」
高く跳躍したガノンドロフの一撃が、リンクを真っ二つにせんとする。


★★★★


場所はさらに移り変る。
今度は冒険の先にあった場所ではなく、二人の故郷、フィッシュベルにあるマリベルの家だ。


―――パパ……。
倒れた父親を見るマリベルは、まるでしおれた花の様だった。
あの顔を見たくなかったけど、それを言えばもっとマリベルやその家族が傷つきそうだから、そんな言葉は言えなかった。


マリベルはきっと戻って来ると、ガボもメルビンも言ってくれた。
けれど、アルスはその言葉を簡単に受け入れられなかった。
せっかくアイラというキーファの思い出が仲間に加わり、彼の生きた証が自分達の所に戻って来た嬉しさも全く晴れなかった。


―――何でみんな、僕の所から離れていくんだよ。

最初に石板を集め、向こうの世界に言った3人は、アルス一人になってしまった。
その分新しい仲間が加わったが、それでもアルスにとってキーファ、そしてマリベルはかけがえのない仲間だった。
その頃には仲間になったメルビンの指導もあり、彼がアルスにもマリベルにも適した道を見極めてくれたことで、魔法戦士を目指すのをやめて僕はバトルマスターに、彼女は賢者になった。
それでもどこか互いに魔法戦士を目指していた時に比べて、息苦しさは減ったと思っていた。
だというのに、マリベルがいなくなり、自分は何をしたいのか分からなくなってしまっていた。


「ねえ、マリベル。実はフィッシュベルが闇に包まれた時……さ。」
そんなことを言うと不謹慎だが、またマリベルと冒険できる、思い出を作れると思ってしまっていた。
魔物が現れ、父ボルカノが行方不明になったというのに。
これだけ沢山思い出があり、そのたびに彼女のことを想い、悩んでいたのは、自分でも気づかなかった。
喉元過ぎれば熱さを忘れる、ということだろうか。


「それは知らなかったわ。でも、ちょっと嬉しいわね。」
その時、あくびが出た。

「アルス、眠いの?」
「僕、とっても眠いんだ。どこか、一緒に寝る場所を探してくれない?」
「あら、いいわよ。」
景色は変わり、再び闇の中へ。
でも、アルスにとってはどんな世界より落ち着けた。
マリベルが優しく手を握ってくれるから。

(優しく手を………?)


648 : 魔王決戦3ーー偽りの■■に抗え ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:40:04 XahnWvGo0



「火焔流!!」
ルビカンテの撃った炎の竜巻が、リンクを吹き飛ばした。
勿論ダメージを食らったが、ガノンドロフの剣を頭から受けるよりかは格段にマシなダメージだ。
だが、本来彼の敵になっているはずのアルスに背を向けたことは、ルビカンテにとって致命傷につながる。


「小癪な……だが貴様の敵に構わなくていいのか?」
獲物を逃した。だが魔王は邪悪な笑みを絶やすことは無い。

振り向いた時、もう手遅れだった。
ドス、と腹から内臓、背中にかけて自らが放つ炎より熱い刺激が襲う。
どうにか身体を逸らしたため心臓を穿ち抜かれることは無かったが、それでも大きなダメージには変わりはない。


「ぬおおおおおおおお!!!」
だが、ルビカンテは自ら刺した剣を握り締めたため、アルスは剣を抜くことが出来ない。
上下させようとするが、剣は動くことを許さない。

「お前のような道化に、殺されてたまるかあああああ!!!」
目が合った瞬間にルビカンテは気づいた。
アルスという少年は、蘇らせられた死者のような、慈愛の無い目をしてたことに。
それが一層、滑稽さを感じた。


アルスに対してではない。
弱い自分に勝てなかった挙句の果てにゴルベーザの軍門に下り、自らの目的も無く破壊を尽くしていた自分に対しての情けなさだ。
目的も無く、ただゴルベーザの下で動いていたことに気付いたのはいつからかは分からない。
だが、ルビカンテは、強い者との戦いを好んだ。
強い者と戦うと、自分に目的があるかのように振る舞えるからだ。


(フン……こうして見てみると、自分の情けなさが分かって嫌になるな。)
そのまま強引に剣を抜き、アルスを投げ飛ばす。



「目を覚ませえええええええええ!!!!!」
叫ぶ。叫び続ける。
その反動で激痛が走っても、叫び続けた。
危機は脱したが、ルビカンテの腹からは鮮血が零れる。
それを自らの炎魔法で、痛みも厭わずに焼いた。


「我を、道化に殺される愚か者にさせてくれるなあああああああ!!!!!」
痛みという痛みを無視して、叫び続けた。


649 : 魔王決戦4ーーその先に待っていた者は ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:41:22 XahnWvGo0

様々な場所を見た末に、アルスが見つけたのは自分の家だった。
煙突からは、母さんの焼いた魚と、アンチョビを塩漬けにした時の匂いが流れてくる。
臭いとか、香ばしいとかではなく、どこか心を落ち着かせてくれる匂いだ。


ここに家族がいて、マリベルがいる。
ずっと好きで、これからも好きでありたい場所だ。
ギイと少しきしむ木の扉を開けて、家の中に入る。


「良い家ね。」
「うん。世界を旅して、ここより良い家を見たけど、やっぱりこの家が一番好きだな。」

「ただいま、母さん。」
どういうわけか、アルスの母マーレの姿はなかった。
まあ、買い物でも行っているんだろうと考える。
そこに、魚が火にかけっぱなしなのに気付いた。
このままじゃ魚は焦げるし、火事になる可能性もあるので、火を消す。


料理をそのままにしておき、梯子を上り、2階へ上がる。
ベッドを見ると、アルスの瞼は一層重くなった。


アルスとマリベルは、1つのベッドで眠りに落ちようとする。
暖かい、幸せな少年と少女が1つになる瞬間。
それは大して、特別な景色でもない。
特別では無いが、それゆえにアルスは優しく、穏やかな笑顔を浮かべていた。























(…………………………………………………違う!!!!!!!!!!!!!!)


「どうしたの?アルス、一緒に寝ようよ。私、アルスのこと好きよ。」
違う。絶対に違う。
何が違うのか分からないが、違うという事だけは分かった。


「お前は誰だ!!」
アルスはマリベルに怒鳴りつける。
「変なことを聞くのね。あたしはあんたの知ってるマリベルよ。アミットの家に生まれて、フィッシュベルで育った……。」
「その口を開くな!!」

今になった、アルスは気づいた。
本物のマリベルならば、絶対に自分に対して好きとは言わないと。
横っ面をはたいてくるのがマリベルなのだと。


「アアアアあああるるるルルルルルススススススすすすすすす」
マリベルの顔が、次いで全身が漆黒に包まれ、スライムの様に形を変えて行くと、その目の前にはザントの姿があった。


「宴は楽しんでもらえたかな?幸せな日々を取り戻せて、良かったかな?」
「うるさい!!僕を元の世界に戻せ!!」
アルスはザントに目掛けて言い放つ。
「元の世界?戯言も大概にするがよい。」

ザントが指を鳴らすと、アルスの胸に激痛が走った。


650 : 魔王決戦4ーーその先に待っていた者は ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:41:39 XahnWvGo0

「既に心の臓を刺され、死した今、元の世界に居場所があるとでも?」
「!!」
胸に手を当てる。
傷こそは無かったが、その奥にあるはずのそれは、動いていなかった。


「諦めろ。あの幻影に気付いたのは予想外だが、もうどうにもならぬ。全てを影に委ねれば良かろう。
それとも、影の世界でもう1度死んでみるか?」

ザントの両手に、真っ黒な魔力が溜まる。
(本当に、本当に何も出来ないのか?)


その時だった。
何処からともなく現れた黒い糸の様なものが、ザントの全身に絡み付く。

(!?)
闇に紛れて非常に見え辛いため、それが髪の毛だということに気付くのに僅かながら時を要した。

「な、何だ?」
ザント自身も驚く。
しかし、驚いている暇も無く、髪の毛はどんどん増えていく。
その能力から考えて、山岸由花子がいたのかと思ったが、髪の先にいたのは似ても似つかぬ男だった。


「君は?」
「俺の名はブラフォード。君が持っている剣のかつての持ち主、と言えば良いか。」
本来ならば、決して起こりえぬはずの奇跡だった。
既に死したはずの剣の持ち主が、次の持ち主に語り掛けてくるなど。


「悪に挑みし勇気ある少年よ。時間はあまりない。だが、名前だけ聞かせてくれ。」
「アルス……。」
「そうか、アルスよ。我が髪が指してある方向に向かえ!!」
「離せ……離せええ!!」

ピョンピョンと猿の様に暴れるが、いっそう髪は強く絡み付き、ザントを拘束し続ける。
だが、一房だけザントを縛っておらず、別の方向を指した髪があった。

「ありがとう!!」
アルスはその方向に向かって走って行く。

「俺もかつて愛した女を失い、悪に身を委ねた。異なる世界の友人よ、お前の瞳から、俺を救った勇者と同じものを感じる。
だから、行け!!振り返るな!!俺のようになるな!!」


名も知らぬ剣士の声が、アルスの背中を押す。
段々声援が小さくなると、その先にいたのは、マリベルだった。


「ようやく気付いた?あんたって本ッッ当にドンくさいんだからねえ!!」
この強気な口の聞き方、間違いない。本物のマリベルだ。
「あらあら、何泣いてるのよ。まだやることがあるんじゃないの?」
「ごめん……マリベル。」
「謝るなら、自分のやることを全てやってからにすれば?このマリベル様がそれさえも待てないぐらい気が短い女だと思っていた?」
「思ってないよ。」


そして、マリベルはアルスの手を強く握った。


651 : 魔王決戦4ーーその先に待っていた者は ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:42:01 XahnWvGo0
「そうだ。1つ言い忘れていたことがあったわ。」
「何?」
「前、あたし言ったわね?『死が必ずしもその人の価値をなくしちゃうとは限らないわよ。もしアルスが死んでもあたしはきっとアルスのこと忘れないもの。
その通りだったでしょ?」

フォロッドで、人の死をこれまでより目の当たりにしてきた僕にかけてきた言葉だった。

その時、アルスが思い出した、彼が冒険で一番印象に残った言葉はそれだった。
初めて彼は、『冒険のこれからのこと』を考えるきっかけになった言葉だから。
どれほど世界を変えられるのか、結局変えられぬままなのか、その果てで何かを喪うのか。
その言葉は本当にその通りだった。
マリベルはこんな場所でも、アルスの言葉を覚えていた。
彼女との思い出を確かめられて、それだけでよかった。


きっと、元の世界に戻っても、残りの命はほんのわずかだ。
だけれど、自分のことを知ってくれる人がいる、無駄じゃ無いってことが分かっただけで戦い続けられる。
命が残り僅かならば、閃光のようにその僅かな時間だけ輝くだけだ。


「行ってらっしゃい!!アルス!!」
「行ってきます!!」


影に覆われた世界を走って行く。
身体の痛みが戻って来る。
刺された心臓が、凍傷が、火傷が、切り傷が、全ての痛みが新鮮になって来る。
だが、それは光の世界から戻ってきているということだ。


「うおおおおおおおあああああああ!!」
雄たけびを上げ、痛みに抗い続ける。


(勝つ!!)
(ザントじゃない!!)
(オルゴ・デミーラじゃない!!)
(ガノンドロフにでもない!!)



(自分に勝つ!!!!!!)


そして、痛みが最高潮になる中で、アルスの両の眼に、知っている景色が飛び込んできた。
早速、ガノンドロフの胸に斬撃を見舞う。
その一撃は浅く、とどめを刺すには至らなかった。
だが、ガノンドロフに衝撃を与えるには十分すぎる瞬間だった。


「みんな……ごめん。」
「な……なぜ……。」

ガノンドロフは、驚愕のあまり目を見開いた。
最も、リンクもルビカンテも反応は大して変わりはなかった。
嘘のような出来事だ。
だが、影の虜になったアルスが元に戻ったフリをしているとか、そういった嘘ではないことは分かった。


影の剣に操られていた時と違い、両の目は決意を秘めた人間の目をしていたからだ。


652 : 魔王決戦4ーーその先に待っていた者は ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:42:18 XahnWvGo0

アルスの右手の痣が輝く。
その瞬間、胸に刺さっていたままの剣は、光に包まれる。その剣を胸から抜いて、投げ捨てた。
忘れるなかれ。
彼はトライフォースに選ばれた勇者では無いが、水の精霊に選ばれしエデンの戦士なのだ。


「ど、どういうことだ……。」
影の剣を消すなど、今ガノンドロフが持っている聖剣の力が無ければ出来ない筈だ。

「色んな人が、影に飲まれそうな僕を助けてくれた……。」
死の寸前とは思えないほどの力で、異なる世界の友人の剣を握りしめる。
アルスは、勇気ある人間などではない。
世界を取り戻す冒険に出るたびに、失うものが怖くて仕方が無かった。
でも、その恐怖はもうない。
喪っても、失ってもその相手を覚えていられるし、自分のことを覚えてくれる相手がいると分かったからだ。


「ギガ、スラーーーーッシュ!!」
「ぬぐおおおおお!!!」
勇者の雷が剣に集まり、ガノンドロフの右肩から脇腹までを斬り裂く。
本来なら最早ギガスラッシュを放つ魔力は切れていた。
しかし、影の剣が齎した魔力が、皮肉なことにアルスの魔力を復活させたのだ。

「俺も忘れるな。」
リンクは大きく隙が出来たことを見つけ、前転を繰り返して敵の目の前に突っ込む。
一度剣を鞘に納める。


―――伍の奥義、居合い

さらに、魔王の傷を増やす。


その瞬間を見て、ルビカンテは涙を流した。
どういう理屈かは分からぬが、あの少年は自らが終ぞ乗り越えられなかった闇を、乗り越えたのだと、自ずと伝わった。

初めて、彼は正義の心を持つ人間を認めた瞬間だった。



「その程度で勝ったと思うな!!勇者共!!」
ガノンドロフは全身を血で汚しながらも、敵意を飛ばす。
魔法の剣で地面を引っ掻き、氷の力を秘めた衝撃波が襲い来る。


「ファイガ!!」
しかしその壁は、炎の力で撃ち飛ばされた。


「隼斬り!!」
文字通り隼のように鋭く速く放たれた攻撃を、一発は受け止め、もう一発は後方に退くことで無力化させる。

―――参の奥義 背面斬り

その退いた背を、リンクが斬りつける。

「急所突き!!」
心臓に目掛けて放たれた一撃を、魔王は即死だけを免れるために最低限の動きで回避する。
その剣は心臓スレスレを傷付けるが、死ぬことは無い。


そのまま左手の拳で、アルスを突き飛ばす。
そして、リンクの放った回転斬りを跳躍して躱す。
魔王は逆転の一撃を狙い、まずはリンク目掛けて魔法の剣を振り下ろす。

後方にいたルビカンテは、もう間に合わない。
だが、アルスはリンクを突き飛ばしたため、事なきを得る。

その代償でアルスは大きく肩から腿にかけて切り裂かれるが、既に死しているアルスにとっては大したダメージではない。


「これで終わりだ!!魔人斬り!!」
渾身の力を込めた一撃を放つ。
本来なら命中率が著しく低いが、この至近距離なら外さない筈。


「くっ……」
だが、その一撃は当たらなかった。
攻撃は最大の防御と言わんばかりに、ガノンドロフはアルスを蹴とばし、自分も後退してさらに距離を離す。


653 : 魔王決戦4ーーその先に待っていた者は ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:42:38 XahnWvGo0

「行くぞ!!」
「勿論だ!!」

距離を離されても、2人の緑の勇者は剣を再び構え、ガノンドロフに斬りかかる。


「ギガ……スラッシュ!!」
「でええやあああああ!!」

しかし、ガノンドロフの周囲に三角の結界が現れ、二人の攻撃を食い止めようとする。
この勢いならば、2人は止まらない。
魔王はそう思っていた。


「「うおおおおおおおお!!」」
ギガスラッシュだけではない。
リンクの正宗もまた、結界を破ろうとしていた。
1本の剣は勇者の雷を浴びて黄金に輝き、もう1本の剣は炎を浴びて紅蓮に輝く。


魔法剣を使えないリンクは、この世界で魔法剣をマスターしたのだろうか。

「行けえええ!!!」
ルビカンテがファイガを、リンクの正宗に纏わせる。


「ぬおおおおおおおおお!!!」
魔王は必死で結界を守ろうとする。
2つの力を秘めた剣が、魔王の結界を破ろうとする。
それはまさに、2つのギガスラッシュ。
いや、ギガ・クロススラッシュと言うべきか。


「「ぶち抜けえええええええええええええ!!!!!」」

魔力の壁が二人を襲おうと、凍結の力が二人を凍らせようとしても、2人の心の炎は消えることは無い。
赤と黄金で造られた十字架が、氷と光の結界を破り、ついに魔王を貫いた。
2つの斬撃は、魔王がかつて処刑された時の剣を中心に交わる。

「これで終わりなのか?我は。」

腹に大きな十字の傷を浮かべたガノンドロフは、疑問符の付いた言葉を発しながらも、どこかその結果を受け入れている様だった。

「ああ。」
リンクは短く答えた。

「そうか……。だがこれで全てが終わったと思うなよ。我と緑の勇者が再び相まみえるその時まで、せいぜい足掻き続けて見せよ。」
それは、魔王ガノンドロフが浮かべた最後の笑みだった。
魔王は、後悔も懺悔も無く、笑みを張り付け、立ったまま事切れた。


この瞬間、勇気の剣士と力の魔王の物語が、1つ幕を閉じた。



「やった……。」
小さく呟いた後、言葉にならない雄たけびを上げた。
勝利の喜びか、失ったものに対する悲しみか、それは分からない。


これまでリンクが培ったものが、彼の脳裏に止めどなく流れていく。
咽喉が枯れるまで叫ぶと、少年の地面に倒れこむ音が聞こえた。よく見れば、彼が持った剣も折れている。


「君!!しっかりしろ!!」
名前も知らない、僅かな間だけの戦友を呼びかける。
けれど、既に鼓動の音は聞こえなかった。
既にアルスは戦いで猪の牙を刺された時、死んでいた。
一度蘇り、戦いに参加していただけでも奇跡でしかないのだ。


「アルス……だよ。僕の名前……。」
「アルス!!しっかりしてくれ!!魔王を倒した!!ありがとう、君のおかげだ。」
リンクは叫び、ザックを開けて何か助けられそうな物を探す。
しかし、彼の死はどうしようもなく不可避の事実だった。
イリアを、姫を、そして戦友を助けられなかったリンクは、アルスの顔に雫を零す。


654 : 魔王決戦4ーーその先に待っていた者は ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:42:56 XahnWvGo0

「回復魔法ではどうにも出来ん。」
ルビカンテはただそれだけ呟いた。

「最後に……お願いがある……。僕の仲間、メルビン……さんと、アイラと……友達になって欲しい……。」
「最後とか言うな!!まだ君は目的を果たせてないだろ!!」
必死で揺さぶり、意識を取り戻そうとする。


「マリベル……僕は君のこと、好きだよ。」
最後に、恋人の名前を呟き、言葉を話さなくなる。

「ガノンを倒せたのはお前のおかげだ。だから、俺はあんたのことを忘れない。
必ずデミーラを倒すよ。」

涙にぬれた瞳で、ルビカンテを見る。

「良いのか。」
「ああ。」

魔力を切れかけたルビカンテが、最後の魔法を唱える。
冷たくなったアルスの遺体を炎が包み込む。
それは彼の放った魔法の中で、一番優しい炎だった。








【キングブルボー@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 死亡】
【ガノンドロフ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 死亡】
【アルス@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち  死亡】



【残り 32名】






【B-3と4の境目/草原/一日目 昼】

【リンク@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:ハート1/15 肋骨一本損傷 服に裂け目 所々に火傷 凍傷 疲労(特大) 死霊使い(佐々木ユウカ)に対する怒り(大)
[装備]:正宗@FF4 トルナードの盾@DQ7
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2  水中爆弾×5@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス アルスのランダム支給品1〜2 (武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:主催を倒す
1.イリアを操っているはずの死霊使いを殺すか。
2.ピンクのツインテールの少女(彼女が殺し合いに乗っているかは半信半疑)から、可能ならば死霊使いの情報を聞く
3.アルスの想いを継いで、仲間を探し、デミーラを必ず倒す

※参戦時期は少なくともザントを倒した後です。
※地図・名簿の確認は済みました。
※奥義は全種類習得してます


655 : 魔王決戦4ーーその先に待っていた者は ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:43:10 XahnWvGo0


【ルビカンテ@Final Fantasy IV】
[状態]:HP 1/20 魔力0 疲労(特大)
[装備]:炎の爪@ドラゴンクエストVII フラワーセツヤク@ペーパーマリオRPG 
[道具]:基本支給品 
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを終わらせて受けた屈辱を晴らし、生き延びた者と闘う
1.とりあえず休む


※少なくとも1度はセシルたちに敗れた後です。


【支給品紹介】

【アイスナグーリ@ペーパーマリオRPG】
ガノンドロフに支給された、青白いハンマーの姿をしたバッジ。
これを使うことで、体力や魔力と引き換えに敵をダメージと共に氷漬けに出来る「アイスナグーリ」を使える。
原作ではFPを使うが、誰が付けたかによって体力だったりMPを消費したりする。
また、ハンマーによる攻撃だけではなく、剣や槍などでも追加効果がある。


※ガノンドロフ、アルスの周囲には、折れたブラフォードの剣@ジョジョの奇妙な冒険、柊ナナのスマホ@無能なナナ  マスターソード@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス ザントの剣@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス 火縄銃@新世界より ガイアーラの鎧@ドラゴンクエスト7、美夜子の剣@ドラえもん のび太の魔界大冒険、アイスナグーリ@ペーパーマリオRPGが落ちています。


656 : 魔王決戦4ーーその先に待っていた者は ◆vV5.jnbCYw :2021/12/30(木) 23:43:20 XahnWvGo0
投下終了です


657 : ◆2zEnKfaCDc :2022/01/14(金) 07:02:14 nvPfH41g0
メルビン、ゴルベーザ、ビビアン、渡辺早季予約します。


658 : ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:26:12 jHMDvFiY0
投下します。


659 : 切望のフリージア(前編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:27:01 jHMDvFiY0
 わたしたちは、狂信者。

 蹴落とされて、地に這いつくばって、世界は優しさでは構成されてないって幾度もなく思い知らされているはずなのに。

 それでも、その先に光があることを信じてる。根拠のない狂信だけをよすがにして、足掻いて、もがいて――いつか帰るところを、死にものぐるいで探してる。

 そこに合理性は欠片も無い。弓矢の一本でも刺さろうものなら砕け散る命で相手取るには、世界はあまりにも強大すぎるから。その先の光を盲目的に信じる私たちは、やはり狂信者と呼ぶに相応しい。

 それでも、わたしはただ、思う。

 そこに光が無かったとしても、暗闇の先に待つのが、更なる暗闇であったとしても。帰るところを信じて戦い抜くその様は――血や泥に塗れてたって……花のように、綺麗だ。


 さあ、咲き誇れ。その雪が溶けることを、その先に青い空があることを、信じて。


660 : 切望のフリージア(前編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:29:07 jHMDvFiY0





 

 古代の英雄メルビンをもってしても、皆殺しの剣は紛うことなき驚異である。横に薙ぐならばひと振りで敵全てを払えるまでの無差別攻撃、縦に振り下ろそうものなら重力をも味方に付けた必殺の一撃。紗季殿を守るという大前提の方針に従えば、横薙ぎの一閃を許してはならない。

「ぬおおおっ!」

 なればこそ、メルビンは積極的に近接戦を挑んでいく。良く言えば広範囲の斬撃も、悪く評せば大雑把。意思が剣に奪われたゴルベーザに、ミクロの判断が鈍くなることは避けられない。

 呪いとは、代償だ。求めた力への正当な代価だ。皆殺しの剣についての知識があるメルビンは、それを理解している。理解の上で、その弱みを適切に突いている。

 それは偏に、永きときを生きてきた老兵、もとい英雄としての経験の賜物に他ならない。世界に残された最後の希望――エデンの戦士と呼ばれる者たちの一人でありながら、ゴルベーザに挑むことにすら至れなかった少女がいた。その少女、マリベルも紛れもなく、魔王オルゴ・デミーラを一度ならず二度までも討ち滅ぼした勇者の一行の名に恥じぬだけの実力を身に付けた勇士である。そんな彼女とメルビンの決定的な差を分けたのは、ダーマ神の導く特技の習得数でも、戦士職と魔法職の差でもなく、積み上げてきた戦闘経験の差と、それに伴う戦闘知識の差だ。

 皆殺しの剣を前にして、己の側に利となる射程を即座に認識して動けるだけの、経験に裏打ちされた判断力。しかしその一点こそが、ゴルベーザを明確に追い詰めている。

「はやぶさ斬りッ!」
「ぐぬうっ……!」

 斬撃の合間を結うかのごとき連撃がゴルベーザの胴に生傷を刻んだ。それでも体躯を逸らし致命傷となる一撃を受けずに済ませるのはゴルベーザの戦闘センスの賜物か。

 だが、ゴルベーザの返しの斬撃もメルビンの命を狙い済ます。大雑把と言えど、しかしそれ故に威力は計り知れない。まともに受ければ致命傷も請け合いのそれを、メルビンは瞬時に体勢を低く保って回避する。

「ぐっ……!?」

ㅤその体勢のまま繰り出されるすいめんげりが、ゴルベーザの足を奪う。転倒を防ぐために大きく後方に跳躍するゴルベーザを、武器を上空前方に投げ捨てて身軽となったメルビンが追随する。

「ばくれつけんっ!」

 カウンターを叩き込む暇もない四連撃がゴルベーザの身を打ち付け、その衝撃に膝を着く。

「まだまだでござるっ!」

 先ほど投擲した剣を空中でキャッチし、そのまま重力を味方に付けて振り下ろす。一方のゴルベーザは、皆殺しの剣を横に構えて防御の姿勢を取る。

「かぶとわり!」

 放たれたその一撃は、その名が示すとおり防具の破壊に特化した特技。斬ることよりも、衝撃を伝道させて敵の防具を砕くことに秀でたその斬撃を、ゴルベーザは武器で受ける。刹那、剣を伝ってゴルベーザの腕に強く走る痺れ。すぐに感覚を取り戻すとしても、直後の一撃に至っては、安易な防御を許さない。

「今っ!」

 攻撃は最大の防御であると、誰かが言った。すでに連戦で体力を消耗しているメルビンにとって、ゴルベーザの攻撃を受けないためには攻撃の隙さえ与えない連撃を叩き込む他ない。

「まじん――」
「埒が明かぬな……ならばっ!」

 接近戦を挑んでいるのは、詠唱の必要な呪文による搦め手と皆殺しの剣の射程に任せた斬撃、その両方を防ぐためだ。だが、後者はともかく前者――黒魔法は僅かなダメージを甘受して紡げば、発動それ自体は不可能ではない。


661 : 切望のフリージア(前編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:29:44 jHMDvFiY0
「ファイガッ!」
「――斬りっ!ㅤ……ぬおっ!」

 渾身の斬撃をその身に刻みながらも、しかし身体の芯を逸らして致命傷だけは避ける。その一方で、生み出された魔力がメルビンへと向かう。すかさず回避しようとするも、渾身の一撃を叩き込んだ直後にそれは成せず、躱せなかった火種がメルビンの胴体を焼く。形成された火柱から即座にバックステップで離れるメルビン。会心の一撃を叩き込めたことでダメージレースではメルビンに軍配が上がっている。

 しかし距離を置いた上で火柱の向こうにゴルベーザの姿が隠されている現状は、決して良い戦況とは言えない。こちらから追撃をすることはできず、さらには敵がいかなる攻撃を図っているのかが見えない。

 だが、皆殺しの剣の性質を考えると、その答えは分かりきっている。その殺意は、誰に向いているのか。近接戦闘を繰り広げ続け、明確に敵対している自分か? それとも、後衛に位置しており手の内の見えない早季殿か?

 否、どちらでもない。奴の殺意が向く先は――"全員"だ。

「早季殿っ!」

 咄嗟に早季の前に躍り出て、彼女の前に立ち塞がる。同時に飛んでくるは、二人纏めて薙ぎ払える横凪ぎの斬撃。『仁王立ち』によって二人分の威力が上乗せされたそれを、メルビンはその剣一本で受け止める。反力で両の腕から飛び散った鮮血が、早季の顔をぴちゃりと濡らした。

(っ……!)

 その冷たさに――わたしは愕然とすることしかできなかった。メルビンさんに庇われたのは、これで二度目だ。わたしがここにいることは、少なからずメルビンさんの負担を増やしている。

 呪力を扱ってその分まで戦いの役に立つのなら、前衛と後衛という役割分担であると、前向きに捉えることもできるだろう。だが、今の早季に戦闘の経験など全く無かった。奇狼丸のような呪力を用いない近距離戦闘を繰り広げる者とも、まだ出会っていない。一瞬の油断が命取りになるが如き戦場に目が慣れているはずもなく、コンマ1秒先に交錯する二人がどの地点を位置取っているか予測すら難しい。そんな状況下で下手に呪力を放とうものなら、最悪の場合メルビンさんに当たってしまう。

(わたしも……役に立たないと……!)

 メルビンさんには逃げるように言われているところを、無理を言ってこの場に立っているのは重々承知だ。間違っても足手まといにだけはなりたくない。


662 : 切望のフリージア(前編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:30:41 jHMDvFiY0
「そうだ……今ならっ!」

 ゴルベーザとメルビンの間に距離がある今は、メルビンを誤射する心配もない。狙いは、ゴルベーザの手にした剣。本体を狙わないのは、命を奪うことへの躊躇でありながら、はたまた戦略的な妥当性に基づく意味合いも多分に含んでいる。呪力とは、イメージを具現化する力だ。死や他害、そういった概念と遠く生き続けてきた早季。人体の破壊のイメージを具現化しようとすれば、無意識的な躊躇が先立ってしまう。しかし、物体の移動となれば話は別だ。皆殺しの剣をゴルベーザから引き離すのみであれば破壊のイメージと切り離した上で行使できる力であるし、メルビンの足を引っ張る危険性も少ない。

「えっ……?」

 しかしその思惑は、崩れ去った。皆殺しの剣へと向けた呪力は、目標物に到達するや否や、虹色の蜃気楼を生み出しながら弾けて消えたのだ。それは、複数の呪力が同じものに干渉し合った時に発生する現象と似ていた。

 皆殺しの剣に込められた呪力と酷似した呪いの力など、早季には知る由もないのだが、しかし分かっていることがひとつ。あの剣に対し呪力を用いた干渉は無力であるということだ。そもそもあの虹色の空間断裂が発生するような事象を無理に通そうとすれば、思いもよらぬ事故が発生しかねない。それによって起こる事柄が、自分やメルビンに向く可能性を考えると、あの剣に対して呪力は行使できない。

 手元に到達した謎の力に一瞬だけ顔をしかめながらも、ゴルベーザはそれ以上気を取られることなく再び早季とメルビンへと斬り掛かる。

「やらせはせぬっ!ㅤしんくう斬りっ!」

 これ以上二人分の攻撃を引き受けながら戦える保障はどこにもない。前進し、根本から攻撃を止めるメルビン。こうして形成された二人の剣士の間合いは、やはり近接戦闘に帰着する。

 この距離であれば、敵の一挙一動の結果が結実する前にその根本を叩ける。早季殿への攻撃が始まる前にその軌道を逸らせる。その目的に察しをつけたゴルベーザは、ただひと言。

「――眩しいものだな。」

 誰かを守るために戦う、聖騎士の道――それは、かつて光の道を往く弟に向いていた感情の発露だった。今やその弟は、この世に存在していない。あの記憶さえも、皆殺しの呪いに侵食された今となっては曖昧なものと掻き消えた。

 もはや光は、私の帰るべきところではない。償いを成せなかった私に、その陽だまりは眩しすぎる。


663 : 切望のフリージア(前編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:31:16 jHMDvFiY0
「そうでござろうな。」

 その言葉を耳にしたメルビンは、ひと言。

「闇を歩むのは、辛いでござろう。すぐにその剣の呪いから、解き放つでござるよ。」
「……ほう、お前はこの呪いを、知っているのか。」

 私の、戦う理由を――戦わずにいられない理由を、知っているというのか。戦乱の中で私に向けられた憎しみは、数えきれない。だが、お前はこの私に憎しみではなく、慈しみを向けるというのか。

 精神の奥深くに眠っているゴルベーザの意思が、誰にも聞こえない悲鳴をあげた。その声は、戦いに何も影響を及ぼすことは無い。呪いに抗えるはずもなければ、僅かばかりの躊躇すら呼び覚ますこともなく、再び二人は剣を交えた。

 そして太刀風の巻き起こる戦場に、早季の介入する余地など全く見えない。しかも心無しか、メルビンの動きには疲れが見え始めていた。

 それは当然だ。メルビンとの戦いに至るまでダメージらしいダメージを負っていないゴルベーザに対し、メルビンはガノンドロフやビビアンとの戦いを経ている分、元より傷は多かったのだ。しかもそればかりか、仁王立ちで早季の分まで受けたダメージまである。単純な消耗戦で、ゴルベーザに利があるのは明白であった。

 呪いの篭った剣から繰り出される一撃一撃が、メルビンの両の肩に重くのしかかる。その度に霞む視界に、揺れる命の灯火。

 その背中を見つめつつ、早季は迷っていた。

(考えろ、わたし。)

 下手に呪力を行使すると、メルビンさんの邪魔になる。下手に戦いに干渉すると、最悪の場合ゴルベーザに利することとなる。

 わたしにできることは、何だ?ㅤわたしのやるべきことは、何だ?

 メルビンさんの意思を汲み取るのなら、逃げることが最適なのは間違いない。呪力でどうにもできない凶器を振り回す敵。怖くないはずもないし、逃げたいという気持ちも心の底から嫌というほど湧いてくる。

 だけど、分かるんだ。ここでメルビンさんを見捨てて逃げたのなら、次もまたその選択を取ってしまう。生き延びるために誰かの命すら妥協してしまう心の準備ができてしまう。次に見捨てるのは守か、覚か、それとも真理亜か。

 そんなの、嫌だ。わたしの帰りたい世界は、誰かの屍の上で胡座をかいて生きる世界じゃない。

 考えろ。いつも授業で教わっている通り、呪力は万能の力なのだから……。


664 : 切望のフリージア(前編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:31:43 jHMDvFiY0
(――そうだっ!)

 そして早季は、ひとつの発想に思い至る。

 根性論など、何の意味も持たない。意志を持つ者にのみ微笑む戦いの女神などいない。だから、早季がその境地に至ったのは必然である。

(敵が呪力を扱っているのかは分からない。でも、仮に呪力じゃなかったとしても……)

 早季は少なくとも、呪力という力とは真摯に向き合い続けてきた。否、早季でなくとも全人学級の生徒は全員だろう。そうでなかったのなら、全人学級からもこの世からも、文字通り"いなくなる"のだから。

(扱うのに"集中力"が要るのは、間違いない!)

 だから、知識として持っている。集中力は、呪力を扱う際の基礎だ。呪力でトランプタワーを組み立てる訓練も、繊細な集中力を鍛えている。

(敵が見ているのはメルビンさんだけじゃなく、わたしも……。それなら、敵の集中力だけを、崩せばっ……!)

 思い付くが早いか、早季は辺りに配置されている巨岩を、呪力で持ち上げる。その光景は、早季に背を向けて戦っているメルビンではなく、ゴルベーザのみに伝達される。力は行使しなくても、力だ。自分の持つ力の片鱗を見せ、警戒をこちらに向けてくれればそれだけでもいい。一瞬の気の緩みが生死に直結するあの斬撃の嵐の中で、それは大いに戦局を変える一手となり得る。

 これは、搬球トーナメントでその片鱗を垣間見せた、早季の軍師としての才。それを戦場でも冷静に見出して、実行に移せるだけの胆力。その全てが、開花する。

 そしてそれは、早季の思惑以上に有効に働いた。ゴルベーザにとっての早季は、実力を考量してメルビンよりも殺す優先度の低い相手、というわけではない。皆殺しの剣の呪いによる殺意は、誰が相手であっても平等に働く。

 なればこそ、割かれる注意力もその分、大きい。

「……バイオッ!」
「むっ……!」

 飛んでくる岩石を警戒し、眼前のメルビンを払い除けるために放ったのは毒霧を生成する黒魔法。

 結論から言えば、尚早だった。この戦局で迂闊に岩石を撃ち込もうものならメルビンも巻き添えになるのは間違いなく、チラつかされた攻撃がブラフだと気付くに足る要素はあった。しかし皆殺しの呪いに侵食された今のゴルベーザに、正常な思考に基づく判断などできるはずもない。仮にできたとしても、その判断に思考を回さなくてはならないこと自体が早季の狙いでもあるのだ。

 そして至近距離から大雑把に放たれたバイオを、メルビンは回避できない。だが、己との距離を取るための牽制として放たれたのは明らかだ。治療(キアリー)を遅らせ、多少の毒のダメージを甘受したとしても、バイオの詠唱で生まれた隙を突くことには価値がある。


665 : 切望のフリージア(前編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:32:12 jHMDvFiY0
「……いざ、参るッ!」
「……!?」

 信じるは己が英雄としての経験のみ。ただただ無心で振るった刃は、文字通り付け焼き刃の狂気でしかない皆殺しの思念を上回った。守備力低下の呪いにより、実質的に唯一の防具でもある皆殺しの剣。真っ向から弾き合い、皆殺しの剣は地に落ちる。

 剣を落としたからといって、皆殺しの呪いは体内にまだ残っている。即座に解呪が成されるわけではない。だが、戦場で武器を落とすことが戦局にいかなる影響を及ぼすかは、あえて語るまでもないだろう。

 皆殺しの剣を拾おうとするゴルベーザに対し、メルビンはいま一度武器を構える。

「呪われし魔法戦士よ、そなた自身に罪はないでござるが……」
「……。」
「……これ以上の犠牲を生まぬためにも、その命、貰い受ける。」

 跳躍とともに繰り出すは、五月雨のごとき英雄の絶技。それをどこか冷めた目で見つめながら、傀儡は静かに口を開いた。

「……そうか。」

 お前は、私自身に――セオドールに罪はないと謳うのか。世に戦乱を招き、両の手では数え切れぬほどの災禍を招いたこの私を赦す、と。

 ああ、それは――



「それが、光の導く答えなのだな。」



 ――何と、愚かなことか。

 ゴルベーザではなくセオドールとしての、月の民の技術――父フースーヤから受け継ぎし黒魔法を、父の論じた理想郷から乖離させ皆殺しの手段として用いているは紛れもなくセオドールの罪だ。さらには、亡き母の形見である弟と戦禍を繰り広げたばかりか、この世界でもみすみす死なせてしまったこと。償っても、償い切れぬ。断じて、赦してはならぬのだ。

 皆殺しの剣の呪いに魅入られた私を赦すことは、ゼムスの洗脳に身を委ねた私を赦すことに等しい。それを優しさと違える勿れ。我が償いを――否定する勿れ。

 光が私を受け入れるのなら。闇だけが私を拒むのなら。

 ――ならば光など、絶やしてみせようとも。

 光を否定し、闇の道を往くその姿は償いの姿とは程遠く、巡る思考も導き出した答えも、何もかもが矛盾に満ちている。いつか償いに生きると決めた男は、もういない。どこにも、いないのだ。


666 : 切望のフリージア(前編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:32:44 jHMDvFiY0
「私の闇を知るがいい……参れ、黒竜!」
「なっ……!」

 ゴルベーザが手をかざした瞬間、メルビンの前方に魔法陣が形成される。ゴルベーザとは違う、新たなる気配を察知したメルビン。繰り出した五月雨剣は、両者の間に顕現した何者かに吸い込まれていく。

 手応えは、決してないわけではない。が、その存在の身体は人間よりも……それどころか鎧よりも硬く、少なくとも守備力を低下させる皆殺しの剣の呪いが及んでいるとは思えない。すなわちその剣の向かった先は、皆殺しの剣の呪いから分離した、ゴルベーザとは全く異なる存在だということだ。

「まずいっ……!」

 刹那の判断。未だその存在の全貌は見えないが、その皮膚の硬度から影の正体――もとい系統は、推察できる。攻撃を中断し、即座にバックステップで距離を取るメルビン。その隙にゴルベーザは落とした皆殺しの剣を拾い上げ、安全圏に下がることのできたメルビンはキアリーを唱えて先の毒を治療する。

 そして改めて、眼前の存在と向き合う。そこに在るのは、人がその身ひとつで挑むには無謀と評されるほどに、強大すぎる存在――ドラゴン。かつてルーメンの町を滅ぼしたやみのドラゴンとも似たその姿と風格が、その威信を証明している。

「ぬぅ……召喚術……でござるか。なんと、禍々しい……。」

 かつて倒した敵とはいえ、無意識に眼前の存在と比較されたのは、ひとつの世界を闇の帳で包み込んだ強大な力を持つ魔物だ。もちろん、当時とて己が身ひとつで討ち取ったわけではなく、仲間の存在があってこその勝利である。そのような強大な魔物を想起させるほどの存在を、ゴルベーザと同時に相手取らねばならない。ああ、嫌でも理解する。ゴルベーザという男が、皆殺しの剣の呪いなど関係なしに、このような禍々しき存在を使役する破壊の使徒であったことを。

 ゴッドハンド、それは英雄(バトルマスター)と聖騎士(パラディン)、ふたつの職業を極めた者のみが到れる戦闘のスペシャリストだ。まさに燎原の火の如く戦場を駆け、一騎当千で敵を殲滅するその勇姿、剣技という部門において右に出る職業は無いと言い切っても過言ではない。だからこそ、ゴッドハンドの職に就くメルビンと剣技において拮抗するゴルベーザが、剣の道において歴戦の勇士であることに何ら疑いはなかった。

 しかしその一方でゴルベーザは、黒竜という高位の存在を召喚した。それはゴッドハンドの対と呼ぶべき魔法の真髄、天地雷鳴士のみに許された高等呪文の領域である。それを扱えるゴルベーザは、魔法の領域においても高位に位置するのは疑いないのだ。

 剣と魔法、ひとつの身にその両方の真髄を宿すは、少なくともダーマの神の導きにおいて人に為せる領域ではない。それは、月の民という種としての特異性がもたらすものか、それともゴルベーザが個人的に持つ才覚であるかは、もはや誰にも知り得ない。

 だが眼前の敵がどれだけ強大であろうとも、負けるわけにはいかない。ここで己が倒れれば、皆殺しの剣は次の獲物へと刃を向ける。その対象は当然にこの場にいる早季殿だ。その次はアルス殿やアイラ殿かもしれないし、ノコタロウ殿の仲間かもしれないし、早季殿の友人かもしれない。これは信念というよりも、もはや意地に等しいものだ。背負っているのは己が命だけではない。守るべき相手の命、そして過去の世界に置いてきた戦友たちの期待もまた背負っている。

 そう、メルビンには、帰る場所がある。

 それはアルス殿やアイラ殿のいる時代ではなく、戦友たちと誓いを交わした遥か昔の時代。それが安らかな余生の先であろうとも、戦場で交わした刃に散ることになろうとも、死という甘い眠りの中で彼らともう一度会えるその瞬間こそが、彼にとっての帰る場所となるのだろう。

 その時は手土産に、魔王の首を。ただそれだけを望んで、剣を握り続けてきた。

 それが、メルビンの戦う理由。決して踏み外すことなく、ただただ真っ直ぐに光の道を往くことができる理由。刃に生きる覚悟なら――遥か昔から、決まっている。


667 : ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:33:13 jHMDvFiY0
前編投下完了しました。

以下、中編です。


668 : 切望のフリージア(中編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:34:12 jHMDvFiY0
 ――その花言葉は、【あどけなさ】

 わたしはまだ、この世界の"裏"を知らない。

 穢れを隠して綺麗に彩られただけの"表"に焦がれて。その装飾の犠牲となった数えきれない者たちを知らないままに、帰る場所であると定めている。

 だけどわたしは、いつだってわたしだ。魔王によって開かれた殺し合いの中であっても。或いは仮にこの殺し合いがなく、新世界の争奪戦へと巻き込まれていたとしても。

 誰も犠牲にならなくていい未来をこの手に掴むため、わたしは戦う。


669 : 切望のフリージア(中編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:34:45 jHMDvFiY0





 戦局は、一瞬の硬直を見せていた。

 仮にもゴルベーザを仕留めるために全身全霊で放った五月雨剣をその一身に受け止めた黒竜。皆殺しの剣の呪いで防御力は下がっているはずのゴルベーザとは違い、その装甲を貫くのは困難を極めるだろう。しかしゴルベーザとひとたび剣を交えれば、黒竜の脅威から早季殿を守る余裕は無くなる。

 まるでジレンマだ。そもそも、元よりゴルベーザ一人に対して何とか拮抗していた戦局だったのだ。それに加えて黒竜という強敵をも同時に相手取ることになれば、どう足掻いてもこちらの不利となるのは当然のこと。

「――メルビンさんっ! 下がって!」
「むっ!?」

 硬直が崩れる。唐突に聴こえた、後方からの早季殿の声。戦闘慣れしている様子ではなかったが、しかし彼女の冷静さは子どもながら信頼に足るのも確か。言われるがままに、一歩引き下がる。

 すると次の瞬間、岩石群が黒竜とゴルベーザの上方から降り注いだ。早季が見せつけるだけに留め、行使せずにいた力を、ゴルベーザとメルビンの距離が離れ、黒竜という大きな的が現れたために放出したのだ。さらにそれは一撃では終わらない。その場にある数々の岩を次々に浮かべては、呪力によって投擲していく。早季の呪力という力について最低限は聞いていたが、その規模はメルビンの想定の上をいっていた。まだ幼い少女であるというのに――想起されるは、幼くも天地雷鳴士の真髄に到達し、森羅万象を司る魔法を極めたにもかかわらずこの世界の犠牲となった少女、マリベル。その末路を知っているからこそ、早季殿に後を追わせるわけにはいくまいと、改めて気概を湧き上がらせる。

 しかしすでにそれをブラフとして仄めかされていたゴルベーザにとっては、予期していた攻撃が今さら訪れたというだけだ。今さら心を掻き乱されることもなく、自分たちへと飛んでくる岩のひとつひとつを皆殺しの剣による長距離斬撃で打ち払っていく。

「黒竜よ、あの老兵を刈り取れっ!」

 そして、その隙を補うために黒竜に前進の指示。黒竜と密接していたら、早季にもメルビンにも範囲攻撃で纏めて攻撃されかねない。

 現状の早季は、メルビンが大きく後退したことも相まって皆殺しの剣の射程外から呪力による攻撃ができている。だが、立て続けに飛んでくる岩石も、それを飛ばす力も、所詮は有限。どちらかのストックが切れるまで老兵の攻撃を凌げば、黒竜との連携で殲滅は容易だ。


670 : 切望のフリージア(中編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:35:07 jHMDvFiY0
「グオオオオオッ!」
「この気迫……できるっ!」

 黒竜は命令の通りにメルビンに狙いを定め、"黒い牙"を構えて突撃する。ゴルベーザとの斬撃の応酬とは違い、種族差と体格差に任せた重量攻撃。力で押すのは厳しいか。ならば、技巧で逸らすのみ。

「真空波っ!」

 竜という種族からすれば向かい風に過ぎない風の刃も、動きを遅めるには充分。その速度を殺した上で、迫る牙の方へと跳躍。

「へんてこ斬り!」

 己へと伸びる長い首を撫でるかのごとく削ぎ払い、その首の向かう先を斜めに逸らす。追加効果で混乱状態に陥った黒竜の牙は虚空を切り、そしてメルビンの狙いは未だ早季の攻撃を防ぎ続けているゴルベーザに定まる。

「さあ、第2ラウンドと参ろうか!」

 早季の飛ばした岩とワンテンポズラして突撃するメルビン。両方を同時に対処しようとすると、その手段は限られる。斬撃の一閃ではタイミングが合わない。

 まだ見ぬカードを切ってくるのならそれで良し。すでに見た魔法であるならば――

「――サンダガッ!」
「そうくると思っていたでござるよ!」

 辺り一面に降り注ぐ落雷の嵐。飛んできた岩を撃ち落としつつも、メルビンへの牽制にもなる。しかし一度受けた魔法である手前、その威力も知っている。

「マジックバリアッ!」

 最低限のダメージは覚悟の上。身体周りに構築した光の壁で伝道する雷撃の威力の大半を殺し、疾走。黒竜と連携されては攻撃に移れる機会こそ稀だ。早季殿の協力の下で訪れたこの好機、"すてみ"の覚悟で活かしてみせる。

「ぬおおっ!」
「ふんっ!」

 両者の業物が火花を散らして唾競り合う。

 しかしこの局面を作り出すまでに、幾つものハンデを背負っている。軽減済みとはいえサンダガのダメージを甘受せねばならなかったし、早季殿のお膳立てがなければゴルベーザに食らいつくことも難しかっただろう。この応酬でゴルベーザを倒さねば、もう一度この状況に持ち込むことすら困難を極めるのは間違いない。

 さらには、拮抗を長く続けることは明確にメルビン側の不利だ。へんてこ斬りの追加効果で混乱を与えた黒竜であるが、決して倒れたわけではない。いずれ、混乱が解けてこちらを襲ってくる瞬間は訪れる。

(できるか……ではないでござるな。やらねばならぬ。)

 実現可能性は、考えたとてノイズにしかならない。それができなかった時はすなわち、敗北とその先の皆殺ししかないのだから。この策は元より策ですらなく、糸を手繰るかのごときか細い道を強引に渡っているだけだ。僅かに運が敵の側に傾こうものなら――


671 : 切望のフリージア(中編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:35:37 jHMDvFiY0
「グオオッ……!」
「なっ……!ㅤしまっ……」

 背後から黒竜の咆哮が耳に入る。メルビンの想定よりも、へんてこ斬りの混乱から立ち直るのが一手早い。しかしゴルベーザと至近距離で打ち合っている今、黒竜に回せるリソースは無い。

「あなたの相手は……わたしがっ!」

 そんな中で唐突に、黒竜の動きが止まった。

 メルビンとゴルベーザの距離が縮まりつつあることを見て、すでにストックもほとんど無くなりつつあった岩石の投擲を中止した早季は、呪力の向ける先を黒竜に変えていた。愧死機構が抑制されてなお残る人間への攻撃の躊躇は、黒竜という異形の怪物には働き得ない。メルビンへと黒き牙を突き立てようと迫る黒竜の首を呪力が捉え、絡め取った。

(あれは……)

 背後から感じた力から、その様相を察知したメルビンは、再び眼前のゴルベーザへと集中力を戻す。

「ふぅ……首の皮一枚、でござるか。」
「なに、ただの延命に過ぎんさ。」
「そうかもしれぬな。それでも……」

 再び訪れた、ゴルベーザとの一騎打ち。まるでそれが運命の導きであるかのごとく、この瞬間は必然の到来であったのだ。

「……その延命が、魔王を滅ぼす刃となるのならば、本望!」

 遥か昔に繰り広げられた、神と魔王の頂上戦争。いつか未来の世界に一人の英雄を希望として託しながらも、その結末は神の敗北に終わった。永きときの中で、戦火に倒れていった友の無念は常に胸に在り続けた。

 そして、現代。ホットストーンから復活した英雄メルビンは、新たなる仲間たちと共に、ついに魔王オルゴ・デミーラを討ち滅ぼした。亡き友と創造主たる神の願いにひとつのピリオドを打った今、遥か昔の友に再び会えるその時を待ちながら、平穏な余生を過ごす……そのはずだった。それがメルビンの帰る場所であるはずだった。

 だが、如何なる運命の悪戯か。魔王オルゴ・デミーラはいま一度蘇った。そして開いたのは、人間同士――それも仲間や友達同士で殺し合わせるという、悪辣な催しだ。

 そして魔王は、その催しに際し一人の男に呪われた剣を授けた。それが魔王の歪んだ意思によるものなのか、それともその軍門の誰かの思惑なのか、はたまた無作為抽出の結果であるのか、それは知り得ない。それでも、現にゴルベーザが殺し合いを加速させる"舞台装置"として選ばれたのは事実。

 それならば、神に選定された英雄と、魔王に踊らされる傀儡が戦いを繰り広げるこの構図は、紛れもなく神と魔王の代理戦争と言えるだろう。太古に行われしラグナロクを模した戦いの、その最前線はこの地だ。

 大昔の大戦は、神の敗北という形で幕を閉じた。その歴史を目で見てきたメルビンであるからこそ、あの時の結末までもを再現させるわけにはいかない。ただでさえ死にかねないほどの大怪我を負っていてもなおまだ戦い続けるメルビンの原動力は、その使命感である。呪われた剣から転写された狂気では、その志を真似ることはできない。この心だけは、明確にゴルベーザに勝っている。あとは――両者の刃だけが、その結末を導き出すのみ。


672 : 切望のフリージア(中編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:36:06 jHMDvFiY0





 呪力は、イメージを具現化させる万能の力である。愧死機構の妨害がなければ、人を殺すこととて容易いだけの破壊力をも帯びている。同族以外に対しては、人間はあらゆる生物よりも強い。バケネズミに人間を神と奉る文化が存在するのも、他の追随を許さない呪力の絶対性に由来する。

 しかし目の前の敵、黒竜にその絶対性は通用しない。殺すこととて厭わぬとの決心の下、呪力を全力で行使してもその身体を破壊できず、せいぜい外から内に向けた力でその身を拘束するのが精一杯だ。この殺し合いの世界による制限があるとはいえ、その地点で黒竜は、人間が他生物に対して抱いてきた規格を明らかに超えた存在であるのは明らかだ。

 ドラゴン、それは上位種であれば神性をも帯びるだけの位を有する神話生物。偽りの神性を掲げ、その力を同族に向けてきた人間よりも、その格を遥か上とする。本来早季が出会うはずのなかった、呪力を行使しても殺傷できない人間以外の生物。生死を分ける戦いの経験すらない早季が直面するにはあまりにも強大すぎる相手だ。しかし曲がりなりにも、偽りの神性を掲げられるだけの力、それが呪力でもある。内向きの力による阻害に打ち破られずとも、一方で打ち破ることもできない黒竜は、メルビンへの接近を一旦、断念。

「っ……!」

 しかしそれが内向きに働く力であればこそ、そのベクトルに沿って首を回転させるだけであるならば、容易い。自らに向いた力の源を察知した黒竜は、早季の方へと向き直る。視線がぴったりと合った時、その鋭い眼光は早季の心臓を高鳴らせた。

 それでも、視線は逸らせない。視界内に働く呪力は、黒竜から目を逸らせば消えてしまうから。己の恐怖に、打ち勝て。強く気を保て。この拘束を解いてしまえば、メルビンさんの方へ向かわれてしまう。



 ――呪縛の冷気



 黒竜の口から放たれた凍てつかんばかりの極寒の吹雪が、早季へと駆け巡る。眼前の大地に到達したそれは、連なる氷刃と化して早季の身体へと走り始める。

「っ――――!」

 叫びたかった。嫌だ、とか、来ないで、とか。絶対的な恐怖を前にした少女が当然に口に出すであろう言葉を、わたしもまた叫びたかった。

 でも、それを口にしてしまうと今度こそ、恐怖が勝ってしまいそうで。

(……気張れ、わたし。)

 呪力を用いれば、目の前の吹雪を散らすことは、可能かもしれない。一瞬の後に必然的に襲い来る痛みだけは、避けられるかもしれない。

(アイツだけは……絶対に離すなっ!)

 それでも早季の視線は、吹雪の先にある黒竜を捉えていた。吹雪が到達し、全身に痺れるばかりの凍傷を刻みながらも、常に呪力は黒竜を捕らえ続けた。絶対に、メルビンさんの下へ向かわせはしない。


673 : 切望のフリージア(中編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:36:59 jHMDvFiY0
「痛っ……!」

 全身にまとわりつく、冷たさすらも感じないほどの痛み。足に、そして腹に突き刺さった氷刃は早季の身体から多くの出血をもたらす。血を失ったことによって、ぐらりと揺れる視界。死線を潜ったことのない12歳の少女の心を折るには充分すぎる苦痛だった。

 それでも、黒竜から一時すらも視線を外すことは無い。日常から大きく乖離した痛みを受けてもなお折れぬは、偏に早季の誰よりも突出した才能、精神力の賜物だ。

「う……ぐっ……それ、でも!」

 なぜなら、その決意の先に――雪解けが待っていると信じているから。誰かを守るために戦うメルビンさんの矜恃を、わたしも抱いていきたいと、そう思ったから。

「わたしたちは……絶対に負けないっ……!」

 我が身可愛さに他者の命を妥協することを、許さない。それが、後に世界を変革に導こうとするリーダー、渡辺早季の信念である。彼女を真に突き動かした友との離別を未だ経ていないとはいえ、その根底となる思想は、すでに宿している。

 しかし、そんな早季の宣誓を嘲笑うかのごとく――黒竜は再び息を吸い込んだ。意味するところは明らか。呪縛の冷気――人間の命を摘み取るには充分すぎるだけの氷点下。それがもう一度、放たれようとしているのだ。

「っ……!」

 どれだけ強い決意を抱いたところで、精神力で耐え抜いたところで、生命力は誤魔化しようもない。まるで人間は無力だと突き付けられているようで。有り余る無念を噛み締めながら、早季は黒竜を呪力で縛り続けた。


674 : 切望のフリージア(中編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:37:37 jHMDvFiY0
「――ごめんなさい、ふたりとも。」

 そんな時、背後から声が聞こえた。その声の主を早季が思い出すと同時に眼前に燃え盛る業火が走り、壁となって早季を襲う吹雪を防いだ。

「アタイ、マリオのことをわるく言われて……何か誤解があったかもしれないって、考えられなくて……ふたりのことも、こうげきしちゃった。」
「ビビアン!?」
「アタイは……アタイのせいで死なせてしまったドラえもんのこと、わすれないわ。」

 ビビアンの"まほうのほのお"で形成された炎の壁に阻まれ、黒竜の姿を視認することができなくなった早季。そのせいで呪力が届かなくなってしまったが、受けた呪縛の冷気の麻痺効果によって視認できる場所に移動することもできない。

 たとえ黒竜を倒しきることまではできずとも、せめて動きを止めないとメルビンさんの方へと向かわれてしまう。そんな早季の焦燥に対し、分かっていると言わんばかりにビビアンは黒竜の方へと向かって行った。

「だからまずは……ドラえもんのカタキをとるの。マリオに……ううん、自分に顔向けができるアタイであるために!」

 ビビアンの手に握られているのは、先端に三叉の刃が取り付けられた深緑色のムチ。カゲに紛れて黒竜の背後へと顕現し、一振りでその細い首に何重にも巻き付けていく。

 まほうのほのおが消えた時に早季の眼前に映ったのは、身体に巻き付けた鎖で、呪力ではなく物理的に黒竜の動きを封じているビビアン。メルビンとゴルベーザの、常に動き回り一瞬の交錯が繰り返される戦場とは対をなすかのごとく、その戦局は完全に硬直していた。

 しかし黒竜の身体に巻き付けられているのは、ある世界の富豪がその富と財を用いて集め回った宝具の中でも、特に絶品と評される神具『グリンガムのムチ』。伸縮自在の鞭の先に取り付けられた刃は黒竜の硬い皮膚にも傷をつけて刺し込まれ、そのまま締め付ける力によってその傷口を広げている。苦悶の声を上げる黒竜、硬直した戦闘の中でも、分は明らかにビビアンの側にあった。

 さらに麻痺の影響が抜け始め、少しであれば身体を動かすことも可能になった早季。

「わたしも、ごめんなさい。」

 拘束は、すでにビビアンが成している。早季が行うべきは、黒竜の身体にくい込んだ刃をさらに身体の芯まで深く、くい込ませること。傷口に呪力を行使し、ムチの刃先を深く深く沈めていく。

「放送でドラえもんの名前が呼ばれた時にね……ビビアンのこと、疑っちゃったの。」
「……状況が状況だったもの。アタイがドラえもんを殺したって思われてもしかたないわ。」
「ううん、違うの。もちろん、状況を見て思ったのもあるんだけど……」

 ドラえもんの死を知った時にビビアンを疑ったのは、ドラえもんがビビアンを追っていたからという状況証拠によるものだけではなかった。

「それよりも、人間が他の人を殺すなんて、思っていなかった。ビビアンが人間とは別の生き物だっていうだけで、ビビアンがやったのだと思い込んでしまった。」


675 : 切望のフリージア(中編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:38:01 jHMDvFiY0
 確かにビビアンはドラえもんと喧嘩をしていた。ここが殺し合いの場だからこそそれが決定的な不和に映っていたけれど、だけど些細な意見の食い違いから言い合いに発展することくらい、人間にだってあるじゃないか。わたしだって、わたしに似て意地っ張りなところがある覚とは、たびたび喧嘩をする。そう、誰にだって起こり得ることなのに、それを安直に"殺し合い"に結び付けてしまったのは、人間に対する理屈のない信頼と、それ以外への根本的な不信に他ならない。ビビアンを疑った理由は、ビビアンが人間ではないという、ただそれだけの理由でもあったのだ。

 もしも運命の歯車が極わずかに食い違っていて、ゴルベーザに殺されたのがビビアンの方であったならば――わたしはきっとドラえもんのことも、ビビアン同様に疑っていただろう。彼の優しい心には、少なからず触れていたはずなのに。

「だからわたしも、ビビアンに謝るわ。」
「……わかった。……向き合ってくれて、ありがとう。」

 ビビアンがドラえもんに言った、謝罪の言葉。その答えは、返ってくることはなかった。ドラえもんの亡き今、彼を真に許せる者など、この世にはいないのだろう。仮に居たとしても、それは早季ではない。それ以上に彼と、短いようで長い時間を共にした少年がこの世界にいる。

 しかしそれでも、早季とビビアンの邂逅は、両者の心に蟠っていた罪悪にひとつの答えを差し出した。まるで呪われているかのようにから回った関係性の負の連鎖は、今ここにひとつの解呪を迎えた。

「グギャアアアッ!」

 そんな早季たちに、黒竜は三度目となる呪縛の冷気を放つ。身動きを封じられている現状、それが黒竜に許された唯一の抵抗だ。しかしそれは、早季が一人で黒竜を足止めするならば決定的な致命打でもあった。

 だけど今はもう、一人じゃない。

 わたしが黒竜を縛り付けている呪力を解いたとしても、その進軍をビビアンが止めてくれる。


676 : 切望のフリージア(中編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:38:32 jHMDvFiY0
「大丈夫、わたしに任せて!」

 吹雪に真っ向から呪力をぶつける。二度に渡って早季に命の危機を訴え続けた冷たさはその力を微塵も発揮することなく、早季の眼前数メートルの地点で霧散する。

 呪力は、万能の力と呼ぶに足るだけの特異的な力だ。殺傷への躊躇が想像力を阻害し、愧死機構がなくとも簡単には人体を爆散できないこと。同じく呪いの力を秘めた皆殺しの剣への干渉ができないこと。種族として格が違う黒竜を即座に破壊できなかったこと。この戦いにおいて早季を苦しめたそれら全ては、あくまで例外である。

 それらの要素から乖離した冷気それ自体への対処であるならば、呪力の強みをもってすれば、赤子の手をひねるよりも容易い。

 そして眼前には、刃をその身にくい込ませた一匹の竜。呪力で滅ぼすには強靭すぎる身体を持つ、人間を超えた存在。けれど、その身体に少なくとも物理法則は通用する。傷の付いていない外殻を破るよりも、傷の入った殻をその部分から引き裂く方が、より小さい力で大きい破壊を成せるのは自明である。

「……あなたも、もしかしたらあの男の力に無理やりに従わされているだけなのかもしれない。」

 グリンガムのムチの刃がくい込み身体の内部が裸出している箇所へと、呪力を集中し――その箇所を中心に、外側に放出。

「あなたを滅ぼすことが正しいのかどうかは分からない。あなたにも、家族や守りたい存在がいるのかもしれない。だけど……」

 固い甲羅によって身を守る亀も、いったん甲羅にひび割れを作ってしまえば、そこからの虫の侵入を食い止める術がないように――

「それでもわたしはわたしの守りたい人のため、あなたを倒す。」

 ――黒竜の首は、ぶちぶちと音を立てながらちぎれ飛んだ。思わず目を背けたくなるほどの流血を切断面から吹き出しながら、切り離された首も魔力で浮遊していた胴体も、重力に任せてその場に落下する。改めて生死確認などするまでもなく、絶命したとひと目で分かる有り様だった。

「……すごい。やったわね、早季!」

 まだ幼い早季が見せた異様なまでの出力の魔法に、ビビアンも驚きを隠せない。その使い手が早季のような優しい者でなかったとしたら――続く想像を振り払うように首を横に振った。

 さて、黒竜を倒したのなら、次の方針は語るまでもない。メルビンが黒竜戦に巻き込まれないように、そして早季たちを巻き込まないように意識的に戦場を離したからか、戦場は大きく移動して呪力の影響を直接及ぼしにくい程度に離れている。方角と距離を考えるに、地図上で言うところのF-5にまで移動しているようだ。

「……ねえ、ビビアン。」
「なにかしら?」
「ひとつ、作戦があるの。」

 黒竜を倒しながらも、その一方で組み立てていた思考。ゴルベーザに聴かれる距離にたどり着く前に、メルビンたちの方へと向かいながらその作戦内容を簡潔にビビアンに話す。


677 : 切望のフリージア(中編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:38:59 jHMDvFiY0
「……どうかな?」
「……そういえば、わすれていたわ。これを実行するとなるとアタイたちも危険だけど……たしかにそれが最善だとおもうわ。」

 おそらくその計画の根底にある事実には、メルビンさんも敵も、気付いていない。そんなことに気を回していられるはずもないだろう。

「それじゃあ、メルビンさんの加勢に……」

 そして、その時。

「っ……!」

 呪力の要である視力に長けている早季は、その先の光景がはっきりと、見えた。見えてしまった。

「どうやら、ここまでのようだな。」
「ぬぅ……無念っ……!」

 長きに渡る斬撃の応酬の果てに、メルビンが敗れ、その場に崩れ落ちる光景を。

 戦闘開始前から、限界は近かった。むしろ、ここまで耐え抜いたことこそが奇跡と言えるほどだ。その確定された結末が、当然に訪れたに過ぎない。長期戦になればなるほどメルビンの側が不利であることは、最初から分かっていたのだ。

 そしてゴルベーザは静かに、膝をついたメルビンに向けて皆殺しの剣を振り上げる。

「メルビンさんっ……!」

 咄嗟にメルビンの方へと駆け寄ろうとするが、呪力で止められるほどの距離を詰める時間など、無い。また、仮に届いたとしても、皆殺しの剣を止められないのは分かっている。

 早季にもビビアンにも、確定された死刑の執行を、もはや見守ることしかできない。

 片や、世界の命運を背負った英雄。片や、世界に大厄災をもたらした月の民。その二人の決着に割り込める者など、いるはずがない。

 仮に、そのような者が居るとするならば。


「――プギーッ!」


 その者はきっと、後の世にひとつの称号と共に語り継がれることとなるだろう。――『勇者』という、称号と共に。

「なんだこれは!?」

 どこからか吹き出してきた糸がくるくると、ゴルベーザの腕に巻きついた。その糸の出処へとゴルベーザが振り返ると、そこにいたのは一匹の小さな虫の姿。

「チビィ!?」

 早季には、ゴルベーザの背後からにじり寄るその存在が真っ先に視界に入った。同じ姿の別の生き物の可能性も一瞬よぎったが、先ほどまで常にあり続けたザックの中で蠢いている気配が無くなっている。チビィが窒息しないようザックを開きっぱなしにしていたため、いつの間にかそこから外に出ていたのだろう。


678 : 切望のフリージア(中編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:39:45 jHMDvFiY0
「おのれ……虫けらごときが……邪魔をするなぁっ!!」
「いやっ……待っ…………」

 今度こそ、その死刑執行を止める手段はなかった。しかし、その受刑者はすでに倒れたメルビンではなく、現在進行形でゴルベーザの歩みを阻害していたチビィ。

 ゴルベーザの手のひらから放たれた火の粉は、絡み付いていた糸を伝ってその先にいるチビィの身体へと到達すると、轟々と音を立てて燃え盛る火柱へと変わった。

 その火柱の中心で、チビィはそれ以上抵抗することもできずに燃え尽きていく。心做しか、その顔は――最後の一瞬まで満足そうに、笑っているようにも見えた。

「あ……。」

 ドラえもんの時とは、また違う。名前だけが呼ばれた放送と違い、目の前で命が命だったものに変わっていく瞬間。悲しいとかよりも、怖いと思った。

 これは、殺し合いだ。オルゴ・デミーラと名乗ったあの存在は、これを望んでいるのだ。

 悪趣味だとか、そういった言葉で断ずるのは違う。わたしたちはそれを楽しむかどうかの判断を下す以前に、人が人を殺すという発想自体が生まれ得ない世界で生きているから。

 わたしが黒竜の命を奪ったように。ゴルベーザがチビィの命を奪ったように。わたしの生きる上での価値観に、すでに殺しという概念は、入り込んでしまった。

(わたし、は――)

 そんなわたしは元の世界に、帰れるのだろうか。頭をよぎるのは、存在しないはずの姉の記憶。"何か"が世界と適合しなくて、生きることを許されなかった者。帰る場所を否定するその記憶に――たった、一言。

(――それでも、未来を諦めたくない。)

 涙は、流れなかった。チビィが稼いだその一瞬は、わたしたちがゴルベーザに追い付くには充分すぎる一瞬で、"託された"のだと、そう思ったから。涙に立ち止まっている暇なんてない。涙で視界を霞ませ、呪力の範囲を絞るわけにはいかない。

 呪力を行使できる程度の距離まで接近した早季は呪力をゴルベーザへ向ける。もう、殺傷それ自体への躊躇はなかった。抱いたイメージは、体内からの爆破。


679 : 切望のフリージア(中編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:40:10 jHMDvFiY0
「っ……!」

 しかしゴルベーザへと到達した呪力は、皆殺しの剣を狙っていたわけでなくとも、虹色の蜃気楼を発しながら弾けて消えた。皆殺しの剣の呪いは、すでにゴルベーザの全身に回っている。全身を包む呪いが、ゴルベーザを呪力から守っているのだ。それでも、衝突し合った呪いの力は弾ける際に衝撃を生み、ゴルベーザの身体を少しだけ押し出した。その一瞬に、周囲のオブジェクトのカゲを伝い、ビビアンもまたゴルベーザの眼前に到達してカゲぬけパンチで殴り付ける。

「早季! この人をお願い!」
「……うん!」

 それ以上丁重に運ぶ暇は無いとばかりに、後ろ手でメルビンを早季の方へ放り投げるビビアン。呪力とカゲぬけパンチの連撃に怯んでいたゴルベーザもすぐに立ち直り、ビビアンへと斬り掛かる。

 すかさずグリンガムのムチの刃先で勢いだけを殺しつつ、回避。

 その応酬の間に、メルビンの身体を呪力でキャッチした早季は、そのまま戦線から離れ始める。

「かたじけない、早季殿。ビビアン殿と……そして、チビィも……。くっ、この身体があと少し、動こうものなら……。」

 誰かの命を守るのが英雄の役目であるのなら、チビィは紛れもなく、英雄だった。そして、明らかに自分よりも強い相手にも億さず立ち向かうその勇気は、後世に勇者として名を残すに相応しく。

「……メルビンさんは、ずっと戦っていてくれていたんです。今は、わたしたちに任せて休んでいてください。」
「しかし早季殿、奴は相当のやり手。むやみに戦うのは……」
「かもしれません。でも……だからこそ倒すなら、今しかない。」
「……? それは、どういう……」
「よし……ここなら、大丈夫だと思います。」

 早季はメルビンを戦場から50メートルほど離れたその地点に下ろす。そしてザックから地図と時計を取り出し、辺りを見回しながら眺める。

「早季殿?」
「今の時刻は、7時55分。」
「……! そうか、つまり……」
「はい。今ビビアンが戦っているあの周囲は、あと五分で禁止エリアになります。危険な賭けにはなりますが、あの男を倒すまたとないチャンスです。」


680 : 切望のフリージア(中編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:40:35 jHMDvFiY0
 早季は、この場の誰よりも冷静に戦場を俯瞰していた。息づく暇もない戦闘の中でも二時間前の禁止エリアの情報を常に意識し続け、そして戦術に組み込もうとする。一度も実戦経験の無い時からこの素質、紛れもなく軍師としての才である。否、その力の使い道は戦闘に限らず、どの分野で発揮したとしても指導者として有望な芽であろう。

「……何故、そうまでして頑張るのでござるか?」
「え……?」

 だからこそ、疑問が浮かぶ。呪縛の冷気を全身に受けて、傷だらけになりながらも、まるでそれが当然とばかりに立ち上がって、敵に立ち向かう。

 神兵として訓練を受けた者たちとは違う、人の心の弱さというものをメルビンは知っている。だからこそ、早季殿の強さが異常と呼べるまでの域であることも分かる。

「早季殿は拙者と違い、戦わねばならない理由はないはずでござるよ。」

 自分には、神より賜りし宿命がある。同時にそれは、亡き友の無念を晴らすという目的でもある。それが、ゴルベーザに立ち向かわねばならない理由だ。魔王の傀儡と化したかの強敵を、宿命のために討ち取らねばならない。

 しかし、早季殿はそうではない。友達を守るという動機も、その主体は必ずしも早季殿でなくともよい。ゴルベーザという魔王の驚異から逃げたところで、誰も彼女を責めることはあるまい。

「……確かに、メルビンさんに……大人の方に任せていれば、楽だと思います。」
「いいや、それを楽な道に逃げたと言える者は、どこにもいないでござろう。時には逃げることこそが正解の時もあるでござる。そうでなくとも……そもそも大人は子供を守るものなのでござるよ。」
「……それでも、わたしは――」

 世界は優しさで構成されていないのだと、知った。人間同士を殺し合わせて悦びを感じる者がいるし、誰かを殺すことに躊躇いのない人もいる。大人が子供を守るものだというだけでその世界から目を背けていられるのなら、それはただ仮初めの優しさに溺れているだけだ。

「――誰かがくれた水で、誰かの花壇に行儀よく咲いた花よりも、雪の中でも耐え忍びながら歪に咲いた一輪の方が、より美しいと思えるから。」

 わたしは、向き合いたい。たとえそれが苦しい道でも。そうやって、血や泥に塗れながら戦って勝ち取った世界こそ、優しさで舗装できるものであると信じているから。


681 : 切望のフリージア(中編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:40:57 jHMDvFiY0
「……仕方ない、でござるな。」

 正直なところを言うと、早季殿にはこのまま、自分もビビアン殿も放って逃げ出してほしいと思っている。ビビアン殿の実力は未知数であるが、ゴルベーザを上回るような歴戦の猛者はそうそういるものではないだろう。少なからず戦えていた自分が倒れた今、早季殿の安全は以前にも増して保障できない。

「早季殿……三分でござる。」
「……?」
「拙者はこの三分、身体を休め――その後は意地でも起き上がり、奴を禁止エリアに必ずや留めてみせるでござる。」

 だけど、早季殿の信念を挫く言葉を、メルビンは持っていない。早季殿は『誰か』になろうとしている。自分の生に、意味を与えようとしている。その答えを見出した時に、その瞬間が彼女の帰る場所となれるのなら。この無謀とも呼べる勇気にも、意味が与えられるのであれば。それは彼女が、命を賭けるにも足る願いだ。老いぼれが安易な言葉でねじ曲げてはいけない、若き芽の決意だ。

「だからそれまで……必ずや、生き延びてくだされ。そこから先はこの命に代えても、奴を――」
「……分かりました。必ず。」

 メルビンの言葉が終わると同時に、早季はビビアンの方へと走り出した。その背についていけない自分をもどかしく思う。肝心な決着の時にその場に居合わせることが出来ないことだけは嫌だ。戦友皆が死地へと向かう中で、己だけがホットストーンの中に眠ることになったあの無念を、もう一度繰り返すわけにはいかない。

(頼みましたぞ……早季殿……ビビアン殿……!)

 傷を癒すのに使える時間は、僅か3分。宿屋で泊まる時の、僅か200分の1。そんな僅かな時でもう一度立ち上がれる保障なんてどこにもない。

 できるのは、信じること、ただそれだけ。根拠なき信仰に、命すら張って――やはり彼らは、狂信者なのだ。散りゆく最後の瞬間まで、いつか帰る場所を信じながら戦い続ける。


682 : ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:41:19 jHMDvFiY0
中編投下完了しました。

以下、後編です。


683 : 切望のフリージア(後編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:42:07 jHMDvFiY0
 キレイなままで摘まれたい、なんて思わない。

 穢されても、踏み躙られても構わない。

 照らすものが、照明器具でないのなら。あの太陽の下で、咲けるのなら。


684 : 切望のフリージア(後編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:43:02 jHMDvFiY0




 メルビンさんのいなくなった戦場には、縦横無尽に斬撃が飛び交っていて。あの人の背中の頼もしさを、改めて実感することとなった。自分の力で生き延びてきたような気にもなっていた。だけど、わたしを直接庇ってくれた時だけではなく、わたしの気づかない内にも、わたしはあの人に幾度となく守られていたのだ。

 別に、ビビアンが頼りないなどというわけではない。だが、少なくともメルビンさんの戦い方とは根本的に異なっている。カゲからカゲへと移りながら、相手の攻撃を受けるのではなく避けることによって流していく、トリックスターばりの相手を翻弄する技術。それは確かに戦いを有利に運びこそすれ、しかしそれ自体はわたしへの攻撃を防ぐことはない。だからこの場では、自分の身は自分で守らなくてはならない、と――その認識は充分にあったはずだった。

 振り抜かれた斬撃は何の干渉を受けることも無く最後までビビアンを狙い済まし、しかしその最後の瞬間にビビアンの姿は消え、どこか別のカゲに現れる。それを繰り返している内に、ふと敵の視線が、こちらへと向いた。

「早季っ!」

 刹那、ビビアンの声。同時に、横に薙ぎ払われる剣が視界に映ったかと思えば、視界がぐらりと揺れてブラックアウトする。

 ああ、もしかしてわたしは斬られた……のだろうか。刹那浮かんできた真っ当な思考は、しかし次の瞬間に差し込まれた光によって遮られる。

「今のは……?」

 その視界の先にあるのは、横薙ぎに剣を『振り終えた』ゴルベーザ。その射線上にわたしは間違いなく居たはずなのだが、斬撃による痛みは一切受けていない。

「カゲの中のせかいよ。」

 背中からビビアンがその答えを教えてくれた。いや、決して疑問の根幹を解消してくれたわけでもないのだが、それでも一つだけ分かった事実がある。たった今ビビアンにも、わたしは守られたのだということ。

 これまで何十分と戦い続けている中の、たったの三分。それだけでいいのだ。しかも相手を倒す必要もなく、ひとまずは生き延びればそれでいい。もちろん、やれるだけの消耗を促せばメルビンさんの負担を減らすことに繋がるし、倒しきれるのならそれに越したこともないのだけれど、それでもメルビンさんに頼まれた最低限の仕事は三分間持ちこたえることだ。

 しかしその三分を生き延びることが、こんなにも難しいとは思っていなかった。一瞬でも気を抜こうものなら、あの剣が即座にわたしの首を狙いすまし、そして刎ね飛ばすだろう。

 今は何分、経っただろうか。ああ、メルビンさんとの約束から、まだ30秒も経っていない。


685 : 切望のフリージア(後編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:43:41 jHMDvFiY0
(――メルビンさんは、こんな死線を何度も……!)

 わたしはどこか、大人に近付いているような、そんな気分に陥っていたと思う。全人学級で、なかなか上手くいかなかった呪力のコントロールが段々とできるようになっていった時。禁則に触れながらも、溺れているバケネズミを助けた時。真里亞との関係に、より深く歩みを進めた時。なんでも出来るとまでは言わずとも、自分という世界はどこまでも広がっていけると、それが井戸の中であるとも知らずに根拠の無い全能感に溺れていた。

(まだ、だ。)

 だけど、殺し合いを押し付けてくる残酷な現実は、頼りになる大人がそこにいないというだけで、これほどまでに心を掻き乱してくる。

(まだわたしは……守られてる。)

 剣という危険から物理的に守られているというだけではない。それを守ってくれる人がいること自体に、精神的にも守られている。

 誰かに守られること自体が、悪いというわけではない。むしろ、誰かと助け合うことは美徳だ。班対抗の搬球トーナメント、班単位で取り組む夏季キャンプの課題など、全人学級でも人と人の繋がりを強めるためのカリキュラムは数多く組まれている。そもそも、交合う相手もおらず独りで生きていく人間の方がよほど稀な存在だと言えるだろう。

 それでも――いや、だからこそ、だろうか。わたしも、誰かを守れるようになりたい。誰かどころか、自分すらも守れない今の私から、脱却したい。

 だから――

「――もう、吹っ切れた。」

 呪力を全力で放出。ゴルベーザへと叩き付けられたそれは、やはり虹を生んでかき消える。しかしそれに伴い生まれる衝撃は明確にゴルベーザを前方から打ち込み、怯ませる。そしてその力は――先ほどよりも明確に、強くなっている。

「ぐっ……!?」
「この力で誰かを傷付けるのが、怖かった。だけど……」

 これまでは、皆殺しの剣の呪いなど関係なしに、メルビンさんを巻き込まないために戦闘中のゴルベーザへの呪力の干渉はできなかった。もちろん、それは戦略的に見ても妥当と言える考え方だ。誤って味方を背後から打ってしまおうものなら、陣形なんて一気に崩れ去る。

 だからといって、リスクを負わずとも生き残れるという状況は、とうに終わっているのだ。呪力という便利な力は、少なくともこの三分間を生き残るのには必須である。ビビアンのカゲがくれの力は、ゴルベーザをこの場に留めておく力はない。ターゲットを変更されてメルビンさんの方に向かわれようものなら、その地点でメルビンさんは殺され、さらにはゴルベーザを禁止エリアに留めておく作戦も失敗する。

 だから、ゴルベーザを留めるのに必要な力は、わたしの呪力に限られるのだ。


686 : 切望のフリージア(後編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:44:04 jHMDvFiY0
「……力を使わずに誰かを失う方が、よっぽど怖いんだ!」

 そしてわたしは、知識として知っている。呪力は、心の力。恐れを抱きながら行使しようものなら、心の乱れが反映されてその出力も弱まってしまう。

 だったら、意識的に吹っ切れてやる。呪力同士の干渉に伴う虹色の蜃気楼が、周りに何かしらの悪影響を及ぼす危険性などという曖昧な脅威は、もはや考慮なんてしていられない。倫理規定違反だとか、幾度となく死に直面している今やどうでもいい。

 撃てる限りの呪力をこの三分間に込めて、どんどん撃ち込む!

「おのれっ! それならば……」
「――その意気よ、早季。」

 ファイガによる空襲により、火球を対処しようとすると剣で、剣を縛り続けると魔法で――その二択を迫ろうとするゴルベーザ。その行使を止めるために、ビビアンが割って入る。魔力を込めた右腕に、グリンガムのムチが巻き付いた。そのまま、思い切り引っ張って手のひらの向く方向から早季を外す。

 それは、黒竜の拘束にも使った手段だ。しかしゴルベーザは、改めて魔法を詠唱し直し――

「無駄なこと、ブリザガッ!」
「えっ?」

 ――対処法の有無という点において、黒竜の時とは違う。ムチを凍結させながら伝う氷刃が、ビビアンの腕まで到達し、ムチと連結させた状態で凍り付かせる。

「っ……! しまった!」
「これならば、影に紛れる妙技も扱えまい。」

 ムチによるゴルベーザの拘束は、一転してビビアンの拘束へと変わる。一方のゴルベーザ、余った左腕で皆殺しの剣を縦に振り下ろす。地上に繋ぎとめる氷の楔でカゲがくれを封じられた今、ビビアンにゴルベーザを制するだけの体術は備わっていない。

 ――ガッ!

 しかしそれと同時、ビビアンの方へと首を向けていたゴルベーザの側頭部に、高速で飛来してきた何かが衝突した。呪いで防御力を失った肉体。さらには人体の急所に当たったそれはゴルベーザの視界を大きく揺らし、膝をつく。

 早季が呪力で投擲したのは、彼女に支給された『トアルの盾』。本来の用途は防具であれど、呪力の出力で投擲すればそれは相応の質量を宿した武器である。


687 : 切望のフリージア(後編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:44:37 jHMDvFiY0
「……!」
「助かったわ、早季。」

 そしてゴルベーザの起き上がった先には、まほうのほのおでブリザガによる凍結を溶かし、拘束を解いたビビアン。

「ここからは、アタイがっ!」

 そのまま、カゲぬけパンチが炸裂した。その拳に宿したやけどの追加効果によって即座に反撃に移れないゴルベーザを尻目に、木陰へと移動する。その位置から、まほうのほのおで遠隔攻撃に移る。

「ファイラ!」

 その移動先を見切ったゴルベーザはその先へと右腕を突き出して、同時に繰り出された炎魔法によってまほうのほのおを相殺。

 しかしそれで、構わない。目的はゴルベーザをなるべく足止めすること。こちらの殺傷ではなく攻撃の相殺にリソースと時間を割かれるのであれば、その一手には意義が生まれる。

 だからこそ、現状はうまくいっているという認識が根底にあった。カゲがくれの移動先に対する相手の反応速度が明らかに速くなっていることについて、危機感もないままに――ゴルベーザのカゲへと移り背後から現れたビビアンが、拳を突き出す。

「甘いっ!」
「っ……あああっ!」

 一方のゴルベーザは、その瞬間を待っていたのだ。これまでのやり取りでビビアンの攻撃のクセは少しずつ分かっていた。

 ビビアンも意識的にタイミングをズラしていたことによって、明確にいつであるかは分からなかったが、定期的に放つカゲぬけパンチの瞬間は間違いなく刃の射程内に入ってくる。

 その瞬間を突く準備を、常に意識し続けた。そして、まほうのほのおとファイラの衝突が生み出す爆炎は、両者の間に煙幕を生み、互いの動きを見えなくするのには十分すぎた。だからこそ、カゲがくれの瞬間を視認できず、気付かれないままに背後に現れる絶好の機会であり、同時にゴルベーザにもその接近が予期できる瞬間でもあった。ファイラの発動と同時に己が作り出すカゲの方へと向き直り、斬撃を向ける準備を完了させていた。

 炎を纏った拳と、皆殺しの剣が真っ向からぶつかり合い、競り勝ったのはゴルベーザの側だった。ビビアンの拳は魔法の力でやけどを負わせることによって足りない威力を補っているに過ぎない。斬撃の威力と範囲に特化した剣との真正面からの衝突としては、当然の結果だ。

 刃が正面から突き刺さった拳からは、赤い血が溢れるように流れ出す。

「はぁ……はぁ……。」

 これ以上の攻撃は臨めないと判断したビビアンは、咄嗟に近場のカゲに飛び移りゴルベーザの追撃の回避に移る。だが、すでにゴルベーザに対して手の内を明かしすぎている。直前に動いたビビアンの視線を、ゴルベーザは見逃さなかった。

「――そこか。」
「えっ……? うぁっ……!」

 咄嗟の判断に、攪乱までを計算に入れたカゲとカゲの移動などできようはずもなく、それ故に、最も読みやすい。ゴルベーザが手のひらを向けた先に放たれるは、詠唱速度を極限まで高めたサンダラ。瞬時に電流がほとばしり、ビビアンの全身に駆け巡った。


688 : 切望のフリージア(後編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:45:02 jHMDvFiY0
「う……ぐ……。」
「ビビアンッ!」

 その電撃で一時的な麻痺に陥り、ビビアンは続く斬撃を躱すこともできそうにないのは早季にも分かった。そのため、ゴルベーザにかけ続けていた呪力を、一旦解除。安全な場所に避難させるために、ビビアンへと呪力を向ける。

「――隙を、見せたな。」
「えっ……?」

 結果から言えば、それは悪手だった。

 それまでゴルベーザが早季を狙わなかったのは、呪力による向かい風方向の力が常に働いていたからだ。それを無視して強引に早季を斬りつけようとしても、力の波に押され動きが鈍くなる間に、ビビアンのカゲがくれが先に早季の身体を保護するのは分かっていた。

 だが、その呪力が消え去ったとなれば話は違う。手負いのビビアンよりも『逃げ得る相手』を狙うのは、少なからず合理的だ。

 だが、その合理性以上に――

『――力を使わずに誰かを失う方が、よっぽど怖いんだ!』

 ――あの言葉が、何故か頭から離れなかった。

 皆殺しの呪いは、全ての者に等しく及ぶはずであるのに。あの瞬間から、皆殺しの思念すら振り切るほどに、早季の言葉を遠ざけたくなった。

 自らがもたらした黒魔法の技術によって殺された男、クルーヤ。彼は、暴徒と化した月の民に襲撃を受けた時、黒魔法の力を持っていながらも、抵抗しようとしなかった。それは、セオドールという心優しき青年が、ゴルベーザとしての歩みを進める瞬間となった事件。今の彼の心に、その記憶は残っていない。けれど、残滓のように微かに灯る憎しみが、彼を突き動かした。

 その結果――


689 : 切望のフリージア(後編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:45:25 jHMDvFiY0
「あっ……。」

 ――皆殺しの剣が、斜めに早季の身体へと走った。

 ビビアンのカゲがくれによる視界の暗転とは、違う。目の前が、むしろ真っ白に染まっていく感覚。胸から紅い鮮血を散らしながら、意識を消失させていく。

「早季いいいぃっ!!」

 駆け寄ろうとするビビアンに、返しの太刀が迫る。ああ、すでにゴルベーザは早季への興味を無くしている。ドラえもんのように身体を両断されたわけではない。まだ生きている可能性は十分にあるし、治療次第では助かるだろう。だが、仮に早季が生きているとしても、駆け寄ろうものなら共に斬られる。僅かな希望さえも、引き裂かれてしまう。

 ビビアンは立ち止まりながら一瞬カゲに潜り、回避。僅かな時とはいえ心を交わした優しい人を、治療にあたってやれないのが歯がゆい。

「……っ! こっちよ!」

 カゲの身体を縦に伸ばし、上方から重力を乗せたムチを走らせる。その一撃の重さに、皆殺しの剣を横に構えて防ぐゴルベーザ。

 さらに空いた片手で、まほうのほのおを降り注がせる。ゴルベーザはそれを回避しようとはしない。これまでの応酬でその威力を把握している。中級魔法のファイラで相殺できる程度の魔法。月の民の黒魔法の真髄には、遠く及ばない。

 それを甘受しながら、横薙ぎに薙ぎ払う。カゲを縦に伸ばしているビビアンは、即座にカゲに潜ることができない。

「うっ……!」

 咄嗟に身体をくの字に曲げて、回避。しかし完全には避けきらず、剣の切っ先がカゲの身体を掠めて大きく切り傷を残す。

(痛い……だけど……)

 ビビアンのチカラをもってすれば、回避に専念すればゴルベーザから逃げ切ることも不可能ではない。

(早季たちにこれ以上、ダメージを重ねられるわけにはいかないわ!)

 そうなれば早季に、はたまたメルビンに、トドメを刺されてしまう。彼らが生きていること、それは喜ばしいことでありながら、しかし同時にそれ自体が『人質』を取られているのと同等である、最悪の状況でもあった。


690 : 切望のフリージア(後編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:45:54 jHMDvFiY0





 すでに身体はボロボロ。死んでいてもおかしくないだけの傷跡を全身に刻みながらも、それでもメルビンは立ち上がった。

 戦場の様子は、音だけでも伝わってきた。早季殿が斬られたという事実が、メルビンの後悔を駆り立てる。守りきることができなかったこと。そこに居ることすらできなかったこと。遥か昔の魔王との戦いの結末と同じ雪辱が蘇ってくる。

 早季殿が血塗れで倒れていたのが真っ先に目に入る。まだ辛うじて生きてはいるが、このまま何の治療も施せなければ命は無いだろう。そもそも、早季殿が倒れている場所は2分後に禁止エリアへと変わる。治療ができるかどうか以前に、場所の移動を行う必要がある。

 そして早季殿ほど深い傷ではないものの、ビビアン殿も満身創痍という様子だった。早季殿や拙者へと攻撃が向かわぬよう、回避よりも受け止めることを中心に戦った結果であろう。

「よく持ちこたえてくれた、ビビアン殿!」
「……メルビン! えっと……」

 どこかぎこちない様子でビビアンは返す。再び立ち上がってくれたことへの感謝、攻撃してしまったことへの謝意、そして早季を守りきれず、危篤に追いやってしまったことへの落ち目。そのような場合でないと分かっていても、様々な感情がぐるぐると駆け巡ったが故の反応。

 だが、そんな感情一切を吹き飛ばすかのごとく、メルビンはただ敵のみを見据え、斬り掛かる。刹那、巻き起こるは金属音。剣と剣がぶつかり、弾き合う。

「しぶといな。拾った命を、捨てに来たか。」
「否……こぼしかねない命を、拾いに!」

 おびただしい傷跡、吹き出ている血の量。それは今立ち上がり、ましてや剣と剣の応酬ができていることそれ自体が奇跡と思えるほどの大怪我だった。たった三分間の自然治癒力で得た力など、底が知れている。メルビンがまた倒れるのは時間の問題だなんて分かっている。そしてそんなメルビンに比べて、アタイの傷はまだ浅い。まだできることはある。まだやるべきこともたくさんある。


691 : 切望のフリージア(後編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:46:21 jHMDvFiY0
 アタイがここに来た目的は、ドラえもんの仇を取る事だ。ゴルベーザを倒すことを考えるなら、いつ倒れてもおかしくはないメルビンに加勢することが最善である。

 だけど――これまでマリオのためにやっていた行動が、結局はアタイのためでしかなかったように。その積み重ねが、自らの愛に疑念を挟む結果を生んでしまったように。アタイがやるべきはアタイがやりたいことをすることではなく、アタイが報いたい気持ちに、報いること。

 あれだけ傷つきながらも、メルビンが戻ってきた理由。それはきっと、ゴルベーザへの恨みや憎しみといった、マイナスの心ではなくて。

(わかってるわ。だってアナタも……マリオとおなじ、やさしい人。)

 その心を、汲み取りたい。命を賭けてまで、早季のために戦いにきてくれた人がいるのなら――アタイがやるべきは、メルビンの望みを――早季の命を、最優先で守ること。

 メルビンとゴルベーザの戦いをよそ目に、倒れた早季の元へと向かっていく。ビビアンに傷の治療の造詣なんてない。だけど、この一帯が禁止エリアになっても早季の首輪が爆発しないように場所を移すのは、誰かがやらねばならないことだ。それに、倒れた早季が人質のようにこの場にいることで戦い方に制限が課せられるのは、先ほどビビアン自身が経験した通り。早季の安全を確保するのは、メルビンの助けにも少なからず繋がっている。

 そんなビビアンの行く手を遮るように――

「――えっ……?」

 ――小さな爆風が、ビビアンを襲った。

 その爆発に吹き飛ばされる形で、早季のいる場所から弾き出されたビビアン。何が起こったのか理解するために、瞬時に思考を巡らせる。

 ゴルベーザに止められた? それならばメルビンはもう倒れたのか? 疑問と共に振り返るも、二人はまだ戦っている。手練同士の戦闘、直接危害を加えようとしているわけでもないアタイに攻撃する暇なんてあるはずがない。

 ならば、第三者の襲撃? 否、禁止エリアへと変わる時間を目前にして、このような場所に張り込む物好きなんているはずもない。ゴルベーザとの戦闘がなければ、とっくに脱出していてしかるべき場所なのだ。殺し合いに乗った者が獲物を求めてやってくるには不合理がすぎる。

 そうなれば残る可能性は、ひとつ。理由も目的も分からないけれど、現実として起こり得るのはそれしかない。何よりも――目の前で起こった爆発は、黒竜を撃破した時に目にしたそれと酷似していた。


692 : 切望のフリージア(後編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:46:42 jHMDvFiY0
 ビビアンの前で、倒れていた人影がのそのそと立ち上がる。その身体は血塗れで、意識が朦朧としているのか、虚ろな目を地に向けながら、糸の切れた人形のように歩いてくる。

「早季っ……! いったいどうしたの!?」
「……ビビアン!? わ、わたし……。ご、ごめんなさい!」

 ビビアンを攻撃した者の正体は、早季以外に考えられなかった。だけど決して正気を失っているというわけではないようで、自分がたった今ビビアンに向けて発した呪力の跡を、得体の知れないものを見るような目でまじまじと見つめていた。

 そして、早季の異常はそれだけではなかった。

「それよりも早季、傷は……」
「えっ……?」

 流れ落ちる血の、その下に――身体に斜めに走っていたはずの裂傷が消えていた。それを指摘され、あるはずの痛みも無いことに気付く。

「……分からない。わたしは確かに、斬られたはず……なのに……。」

 浮かんだ疑問は、次の瞬間に弾き出されることとなる。考える暇なんて、与えられないくらいに――

「わっ……!」

 ビビアンの足元の草木が、急激に生い茂りビビアンの身体に纒わり付く。咄嗟にまほうのほのおで焼き切り拘束を脱するが――その様子を見ながら、早季は何かに気付いた。

「えっ……、もしかしてこれ……わたしの呪力……なの……?」

 彼女は、まだ知らない。己の身に起こっている事象の名前を。いや、知らない方が、幸せなのかもしれない。彼女の帰る場所を失う、この"病気"のことは。


693 : 切望のフリージア(後編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:47:08 jHMDvFiY0
『橋本・アッペルバウム症候群』

 それが、早季の現状を示す病名である。呪力の無意識の暴走により、本人の意思に依らず周囲に破壊的な影響を与え続ける、呪力を司る機構の疾患。もしもの未来で早季から想い人を奪うこととなる、世界の"裏"側。そしてその病気は、大人たちによる子供の処分に脚色を加えた"表"側では、こう呼ばれている――『業魔』、と。

「どうして……呪力が際限なく、漏れ出ているみたい。」
「それは……だいじょうぶなの?」
「分からない。だけど……」

 早季の業魔化の原因に、如何なる要素が含まれているのかは定かではない。

 僅かな時間に休まることなく与え続けられた死の恐怖というストレスを、持ち前の人格指数の高さ故に人格が壊れることなく感じ続けたためか。

 或いは、皆殺しの剣で斬られたことにより、複数の呪力やそれに類する力が体内で干渉し合った影響か。

 或いは、この殺し合いの茶番化を防ぐために愧死機構をDNAから取り除く際に、本来ならば起こり得なかった反応が現れたためか。

 或いは――

「それよりも今は、行かないと……。」

 様々な可能性や再現性、その何もかもが、現に業魔と化している現実を前にしては、どうでもいい。業魔となった想い人の末路に立ち会っていない今の早季にとって重要なのは、自分の身体に起こっている謎の現象ではない。この力によってビビアンを傷付けかねないことと、ゴルベーザとメルビンが今なお戦っているという事実そのものに他ならない。

「早季……ちょっと……!」
「近付かないで!」
「っ……!」

 こちらへ心配そうに駆け寄ってくるビビアンに、一喝。同時に、ビビアンの眼前で小規模な爆発が巻き起こり、それに萎縮するかのようにビビアンは立ち止まった。呪力は、心の力。コントロールできなくとも、強い感情を向けた先に無意識的に強く、発現する。

 だとしたらこれ以上、わたしのせいで物理的に傷つくビビアンを見たくなかった。この現象に、誰も巻き込みたくなかった。

「でも、ケガが……」
「それが……どうしてだかは分からないけど、全然痛まないの。」

 業魔化に伴って発現した、早季本来の呪力の才能。DNAの中でも寿命を司る『テロメア』の部分に至るまで効力を及ぼせるだけの、『再生』の力。黒竜による呪縛の冷気と、皆殺しの剣によってもたらされた傷は、すでに再生を果たしていた。


694 : 切望のフリージア(後編) ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:47:30 jHMDvFiY0
 周囲にじわりじわりと破壊を及ぼしているこの現象が良いものであるとは、思えない。だけど、そのおかげでわたしはまだ立ち上がれる。メルビンさんやビビアンだって、守れるかもしれない。解決策を探すのは、ゴルベーザを倒してからでもきっと、遅くはない。

 一歩前に進む度に、残す足跡の代わりに歪な形をした植物が顔を出す。破滅がじわじわと広がっていくかのごとく、その周囲の草原の色も、禍々しい紫色へと変わっていく。ビビアンの悲しげな視線を背後から感じながら、わたしは進み始めた。

 そして――それと同時のことだった。じれったいほどにゆっくりと進んでいた時計の針がついに、8:00を示す。

「――禁止エリア内に滞在しているようだな。」

 全員の首輪から、終末を告げるおぞましい声が鳴り響いた。

(――オルゴ・デミーラ……!)

 その声の主を、メルビンは知っている。戦いの決着を魔王の裁量に委ねなくてはならないことは雪辱の極みであるが、催しとしての平等性を信じる他に無いのも事実。というよりも、奴が不平等なジャッジを行うというのなら、そもそも首輪によって生殺与奪を握られた地点でこちらの勝ちはないのだ。

「この警告が終わった後、30秒の猶予を与えよう。それまでに禁止エリアを出なければ命はない。」

 数十秒の猶予があることは、すでに第一回放送で把握済み。早季のみならず、ビビアンもメルビンも心の準備はできている。そればかりか、福音と呼んでも差し支えないだろう。

「そうか、貴様らの狙いはこれだったか。」

 したがって、この放送で最も計算を狂わされているのは必然的にゴルベーザとなる。だが、禁止エリアとなるF-5と隣接するE-5の境界線まで、走れば数秒の距離だ。ここからゴルベーザを禁止エリアに留め続けることこそが、この戦いにおける最後の関門。

「――それでは、スタートだ。」


695 : ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:48:36 jHMDvFiY0
後編投下完了しました。

続けて、投下します。


696 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:49:26 jHMDvFiY0
 わたしは、狂信者。

 どれだけ蹴落とされても、どれだけ地に這いつくばっても、それでも光を信じてた。

 その陽だまりこそが帰る場所であると根拠もなく信じ込んで、そしてその望郷こそが、前に進む活力となってくれた。

 けれど、その先に待っていたのは、偽りの太陽で――その花はまるで異形のごとく醜く、歪んでしまった。



 ――ねえ。

 それでも綺麗だと、囁いてくれますか。

 それでもまだ、未来を信じていいですか。

 それでもわたしに、帰る場所はありますか。


697 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:50:24 jHMDvFiY0





「このエリアからは逃がさぬでござる。」
「小癪な……。」

 ゴルベーザにも、焦りが見え始める。ゴルベーザに植え付けられた唯一の目的、皆殺しには未だ遠い。矛盾に満ちた行動理念であろうとも、己の死を忌避するは本能。ここで歩みを止めるわけにはいかないという気持ちは、ゴルベーザにも宿っている。

 再び交錯する剣と剣。手に跳ね返る衝撃は両者の命を着実に削り取っていく。

(くっ……ここに来て、さらに重く……!)

 このタイミングで、さらに一撃の重みが増したゴルベーザ。これまでの応酬の際にも、決して手を抜いていたわけではない。だが、キングブルブリンを下僕として用いた点、マリオのトドメを黒竜に任せた点など、『次の戦い』を見据えて力の消耗を抑えながらの戦闘は少なからず行っていた。しかしこの局面で、その無意識のリミットをも解除。この30秒を制さねば、次の戦いは無い。

「どうやら光は……」

 一方のメルビンは、半ば気合いだけで立ち上がっている身体だ。限界なんてとうに超えている。ただでさえ互角であった打ち合いを、制することなどできるはずもなく――

「……微笑まなかったようだな。」

 ――しかし、その瞬間。


698 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:52:16 jHMDvFiY0
「……!?」

 ゴルベーザの体躯が唐突にぐらりと揺れた。斬り込まんと踏み込んだ脚は大地を踏み締めることも叶わず、膝をつく。

 明確な妨害によるものではない。その原因はこの上なくシンプルで、これまで積み重なった疲労やダメージが、ゴルベーザの動きを鈍らせたという真っ当なものだ。消耗戦の中、メルビンが、早季が、ビビアンがそれぞれ放った攻撃が、この段階にきてようやく重要な一瞬を繋いだ。

 そしてその一瞬の間に――業魔が、戦場に襲来する。

「……早季、殿?」

 全てを敵として認知しているゴルベーザのみならず、メルビンにも早季に起こっている異常は察知できた。彼女の歩みに伴って、波紋が広がるように周囲を包み込む破滅の色。まるで毒の沼を生み出しながら歩いているかのような禍々しさを纏いながらも、早季は凛とした様子でゴルベーザを睨み付ける。

(落ち着いて……攻撃を、イメージ。)

 刹那、早季に制御できる範囲の呪力による攻撃が炸裂する。もはや、他害への迷いなんてない。全身の至る所から虹色の蜃気楼を生み出しながらも、それでも皆殺しの呪いに守られ、何とか立ち上がるゴルベーザ。

「ぬわっ!」
「……っ! ごめんなさい!」

 その一方で――制御不能となった呪力の漏洩は、禍々しい色合いに染まった大地から草木型の異形を生み出し、ゴルベーザとメルビンを包み込んでいく。

(だめだ……メルビンさんまで、巻き込んじゃう……!)

 業魔が、神栖66町における恐怖の象徴の一角を担う所以。早季特有の高い値を誇る"人格指数"も、症状の制御を行うことができる要素になどなり得ない。原因が不明であれどその症状は先行研究の通り、安易に試せる方法などで呪力の漏洩は止まらない。

 業魔となった者は、身近な人すらも傷付けてしまう。元の世界は、もはや帰る場所ではなくなったのだ。仮にこのまま早季が生還を果たしたとしても、業魔となってしまった現実は変えようがなくて。止める方法は、元の世界の大人たちも把握している通り、ただひとつ――その命を、奪うこと。それを早季が知らないことは、きっと幸せなことなのだろう。まだ、この雪の先の陽だまりを信じていられるならば。


699 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:52:43 jHMDvFiY0
「――残り、20秒。」

 オルゴ・デミーラがカウントを進める声。まだゴルベーザは、一歩も動けていない。

「構わないでござる。奴を、この力で留めておけるのであれば……。」

 ヘルバオムのねっこのような異形化した植物に、全身を絡め取られながらも、メルビンはその手に魔力を込め始める。ゴルベーザがこの30秒を生き延びるために真っ先に排除せねばならない障害は、もはやメルビンではなくなった。そして早季殿を狙うためには、目先の植物を何とかするのに一手を消耗せねばならない。

 すなわちメルビンにはゴルベーザよりも一手分、余裕がある。この戦いに命を捨てる覚悟すらあるメルビンは、必ずしもこの植物を抜け出す必要はないのだから。

「――ファイガ!」

 ゴルベーザの紡いだ炎は、己を拘束する植物へと点火するや否や可燃性の草葉を伝ってメルビンを覆っていた植物までもを焼き切る。

(ぬう……ここまで、でござろうか。だが、それでも……)

 その植物に包まれていたメルビンも全身を炎に包まれ、意識を保てる許容量を優に超えるダメージをその身に刻んだ。次第に再び、消失していく意識。

(この一撃だけは、必ず……!)

 それでも、早季と約束したのだ。ゴルベーザを必ず、禁止エリアによる罰の時間までこの場に留める、と。その約束を果たさぬままに倒れては――亡き友に合わせる顔など、ありはしない。

 霞む視界の中でも、何とかゴルベーザの姿を捉え――震える指で、十字を切った。その軌道をなぞるように生ずるは、聖騎士の奥義。

「――グランド……クロス!!」

 眩いばかりの閃光が、ゴルベーザの身体を包み込む。それを受けるは、横に構えた皆殺しの剣。


700 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:53:13 jHMDvFiY0
「ぐっ……ぐおおおおっ!!!」

 しかし仮にも聖騎士の極意。即席の防御などで守りきれるはずもなく、グランドクロスの余波がゴルベーザの全身を焼き、おびただしいまでの傷痕をその身体に刻みながら――しかし未だ、ゴルベーザという脅威は健在である。

「この、光、は……。」

 しかし一瞬、ほんの一瞬だけ。

 傀儡は光の中に、何かの面影を見た。その何かを振り切るように、ゴルベーザは大きく首を横に振った。

 これは、やもすれば有り得た物語なのかもしれない。聖騎士の奥義が、皆殺しの呪いを打ち破って、傀儡としての生しか与えられなかった男に、光の道を示す結末。

「――皆殺しだ……! まだまだ、殺し足りぬ……!」

 されど呪いを打ち破るには、あまりにも遅すぎた。彼の弟を最も強く想起させるはずであった聖なる閃光とて、彼の償いを呼び覚ますには足りない。放送で呼ばれたセシルの名に、一切の想いを馳せることすらなかった瞬間から、彼にセオドールの生を許される未来は潰えてしまったのだから。

 今や――

 私を優しく包み込むかもしれなかった閃光は、もはや私を殺すためだけの凶器で。

 私の前に立ち塞がった英雄は、かつて私が歩めなかった道そのもので。

 私に立ち向かうカゲの魔物は、私が信じられなかった愛という名の光を、希望に変えていて。

 そして――禍々しき呪いの力に侵食されながらも、それでもなお、心は光のごとく綺麗に在ろうとする少女が、虹を放つ。

 私の前に立ち塞がるは、私に無かった光を持つものばかり。憎しみに支配され、闇の道を歩むことしかできなかった私を、否定するものばかり。

 ああ、そうだ。

 最初から、そうだったのだ。

 誰にも受け入れられぬ"毒虫"を意味する『ゴルベーザ』の名が名簿トランプに刻まれているように――私は最初から、この世界に弾劾されるべくして降り立っていたのだから。私には最初から、闇の道しか提示されていなかったのだから。

 ならば再び――私の闇を、憎しみに変えよう。

 私に"毒虫"の生き方しかないと提示したこの世界ごと、全てを憎もう。

 我が道に光を差す者たちを――"皆殺し"にせよ、と。私が私でなかった頃から私の中に在り続けた何者かが、囁くのだ。

 ――ああ。

 いつか、どこかの、遠い記憶。

 償いを、求めた時があった。

 光がいつか、闇の中の私にも微笑んでくれる日がくるのだと。根拠もなく、ただただ愚直に――


701 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:53:33 jHMDvFiY0




「森羅万象、灰燼に消えよ――メテオ!!!!」




 ――そう、信じていた、はず、だったのに、なあ。





 太陽光を覆い隠すように――天から無数の隕石が、降り注いだ。


702 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:54:01 jHMDvFiY0









「なに、これ……」

 終末という概念を、そのまま絵にしたような光景だった。天からは、まるで月がそのまま落ちてくるかのごとき流星が群をなして降り注ぎ、地は、生とは真逆の様相を示す毒々しい植物に覆われていた。

「……アタイが、助けないと。」

 この場にいる者全員に等しく降り注ぐあの流星は、これまでゴルベーザが仕掛けてきた攻撃のどれよりも強力な魔法であるのは、ひと目で分かった。

 だけど、アタイのカゲがくれは攻撃がどれだけ強力であっても、関係ない。カゲのせかいは、表の世界からはいかなる干渉もできないからだ。

 だけど――カゲがくれで守れるのは、アタイを除けば一人だけ。早季かメルビンか、そのどちらかしか助けることはできない。

「……こんなの、ざんこくな選択だわ。」

 決められるはずがない。というよりも、決めていいはずがない。だけど、決められないままどちらも死んでしまうという未来だけは、絶対に訪れてはならない。時間を割けないことも、この選択をより残酷なものにしていた。

「……メルビン。ごめんなさい。」

 選んだのは、早季の命だった。単純に若い命であること。そしてすでに重体であるメルビンに比べ、力の制御ができていない症状こそあるものの、早季の方が助けた後に生き残れる可能性が高いということ。

 逆に言うと、たったそれだけの理由だ。メルビンが死んでいい理由なんてひとつもない。相対的な命の価値をアタイがジャッジするなんて、烏滸がましいにも程がある。怨まれたって、文句は言えない。だけど、平等に救わない選択肢なんて、あるはずもなく。

 ……時間が、無い。アタイは、早季のカゲへと移り、顕現する。そのまま早季を押さえ込んでカゲのせかいへと、連れていこうとして。


703 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:54:35 jHMDvFiY0
「うっ……!」

 身体に重くのしかかる、自分が自分じゃなくなってしまうような感覚。早季の身体から、30センチ。それ以上は先に進めなかった。

 早季の身体から無尽蔵に流れ出る呪力が、ビビアンを通さない。もし早季の身体に触れてしまったらその時は――嫌なイメージが頭の中を駆け巡る。自分が、まるでカゲそのもののようなおぞましい存在へと成り果ててしまう光景だった。

 そんなアタイを見て、早季は小さく、首をフルフルと横に振った。どこか悲しげな表情が、いやに心にのしかかる。

「ねえ、ビビアン。」

 分かってしまったから。その悲しみの向かう先は、メテオへの――死への絶望などではなくて。

 アタイに触れられないこと。もう他人と、これまでのように触れ合えないこと。それを知った絶望だった。それはすなわち――帰る場所を失ってしまったことへの悲しみだった。

「わたしの友達のこと、お願い。」
「どうして、そんなこと言うのよ。」
「……。」
「アタイなんかにたのまなくったって……生きて、早季が守ればいいでしょ!」

 次の瞬間には、その言葉を否定するように――

「……っ!!!」

 ――眼前の空気が、爆ぜた。大地には亀裂が走って、ボコボコと音を立てながら生み出された雑草が刃となってアタイの背中に突き刺さった。だけどその光景を悲しそうに見つめる早季の視線は、刃の何倍も、痛い。

「だって、わたしは……」
「いわなくていい! だから……生きて!」
「……うん。」

 アタイは、涙を流しながらも、早季に背を向ける。

 もしもアタイが、近付くだけで他人に害をなす存在になってしまったら。もしもアタイが、マリオに近づくことすらもできない、そんな魔物に、なってしまったら――考えたくもなかった。その先を考えてしまうと、もしかすると、ドラえもんから示唆されたマリオの現状に、たどり着いてしまうかもしれないから。

 そして次の瞬間には、メルビンのカゲに移動。

「――ありがとう。」

 そんな声が、背後から聞こえる。そのままメルビンを押さえ込むように、カゲの世界へと引きずり込んだ。


704 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:55:15 jHMDvFiY0
「――残り、10秒。」

 終わりまでの時を刻む声と共に、アタイとメルビンは、降り注ぐ流星をやり過ごした。





 それは、確定的に訪れた終わりであった。

 相対するは、月の民が繰り出した伝説の黒魔法。まだ幼い早季が、呪力で止められる規模を優に超えていた。

 何故か、実感があった。ビビアンが近付くことすらできなかったこの症状はきっと、もう治らない。

 わたしは、わたしの大好きな人たちと、ずっと一緒にいたい。それがわたしの帰る場所。それが脅かされる予感なんて、全くなかった。すでに一人が消えているなんて、思ってすらいなかった。

 だから、誰かと触れ合うことすらできないこの症状は、帰る場所の喪失だった。この力で大切な人を奪ってしまえば……わたしはきっと、耐えられない。それ以上誰かを傷付けないように、自ら命を絶つことだって、きっと受け入れてしまうほどに。

「――ありがとう。」

 最後に遺したのは、この上なく月並みな、一言。

 もう一度、皆と会いたい。たったそれだけの願いすらも許さない、この呪いだけれど。たとえ傷ついても触れようとしてくれたあの手の温もりは、30センチ先からであっても、充分に伝わってきたから。

 そして業魔は、流星雨に消える。降り注いだ隕石と、それに伴う破壊の嵐が、再生の余地すらもないほどに少女の身体を砕いた。

 せめてその最後の瞬間まで、辺り一面に呪いを撒き散らしながら。呪われた月の民に、異形化した植物の呪縛を、施しながら。

 そして、少女が倒れ伏したその先に――小さな虫型の魔物の、遺骸があった。

(――チビィ。)

 殺し合いに巻き込まれ、不安に駆り立てられている中でも、この子はずっと、傍にいてくれた。毒を持つ性質を恐れていたが故に、一度も触れることすらなく、別れることになってしまったけれど。

 灰になった身体へと、そっと手を伸ばした。

(――ああ。)

 死後に時間が経っているその身体は、冷たいはずだ。だけどそれでも、陽だまりよりも温かいようで――

(やっとあなたに、触れられた……ね……。)

 ――凍てつくばかりの雪だって、溶かしてしまいそうな気がした。


705 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:55:45 jHMDvFiY0







『――大丈夫。』


『いつかの時代、その命にかえても帰る場所を守るために戦った、たった一匹の勇者のように』


『時間だって、超えてみせる。』


『生と死すら、僕らを分かつには足りやしない。』


『君が守ろうとした人たちは、僕が守るから』


『だから、早季――僕の、愛する人。』


『どうか未来を、諦めないで。』


『いつか帰るところを、信じて。』


706 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:56:08 jHMDvFiY0







 これが、ビビアンとメルビン、そしてゴルベーザの命運を分ける最後の瞬間であることは明らかだ。すでにカウントダウンは10秒を切っている。

 勝利のためにも、まずは禁止エリアからの脱出。それ無しに生還は、有り得ない。

 そして、ゴルベーザを禁止エリアに留めること。メルビンが気絶し、ビビアンも満身創痍な今、ゴルベーザと戦って勝てる見込みは万に一つもない。だから、首輪の爆発以外の勝利はもはや、考えられない。

 そのゴルベーザは今、早季が遺した異形化した植物に絡め取られている。ただでさえ伝説の黒魔法を発動した反動がその身に降り掛かっているのだ。先ほどのようにファイガで即座に燃やし尽くすこともできず、皆殺しの剣によって切断するという、この1秒が生死を分ける状況下であっても原始的な対応しか取れなかった。

 したがって、先に動き始めるのはカゲがくれを脱したビビアンとメルビンの側だった。メルビンを抱えたまま、カゲからカゲへの移動はできない。さらにメルビンは、更なる衝撃を与えればそれが致命打となって死にかねないほどの傷を負っている。

 ゴルベーザよりも先に、メルビンを抱えた上でビビアンが動き出せたこと。それは明確に、二人の命を繋いでいた。最悪の場合、意識の無いメルビンの身体を禁止エリア内に捨て置かなければ、ゴルベーザを止められない状況に陥っていたかもしれなかったのだから。

「――禁止エリアからの脱出を確認した。」

 ビビアンとメルビンの首輪から、憎々しい声が響き渡る。ここが、禁止エリアと通常エリアの正確な境界線。その数センチ先に気絶したメルビンを寝かせておいて、ビビアンは最後の戦場へと顔を向ける。


707 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:56:26 jHMDvFiY0
――残り、5秒。

 植物の拘束から脱したゴルベーザが、通常エリアへと向き直る。僅か、10m。

「アタイはぜったいに、ここを通さない。」
「そこを退け! 我が殺戮の、礎となれ!」

――残り、4秒。

 ビビアンが牽制に放ったまほうのほのおを、意にも介さず通り抜けるゴルベーザ。ビビアンの側も消耗が激しく、まほうの威力も落ちている。そんな小技を前に足を止める暇など、ありはしない。

 しかし同時に放たれたグリンガムのムチの一閃は、そうはいかない。伝説の宝具による一撃をまともに受けようものなら、非力なビビアンによるものであってもその場に膝をつくことは避けられない。皆殺しの剣で受け、そしてその行く先を流す。

(これでも、足りないっていうの……!?)

 ゴルベーザ自身も、一度は立ち上がることことすら困難に陥っていた程度に、相当のダメージを負っているはずだ。だというのに、この1秒を、止められない。

――残り、3秒。

 残る手札は少ないが、出し惜しみなんてもってのほか。もう一度振りかぶる時間なんてないグリンガムのムチから、手を離す。その拳に燃え盛るほのおを込めて、正面から殴り込む。

「ぜったい、とおさない……!」

 ゴルベーザとしても、グリンガムのムチへの対処に剣を用いた以上、残る武器は拳のみ。武道の心得などないのは、両者ともに同じ。根本的な力量の差を、ビビアンのまほうで補って――

――残り、2秒。

「っ……! しまっ……」

 拮抗の果て、ゴルベーザが押し勝つ。殴り飛ばされた身体がひらりと宙に舞って。

 早季やチビィがその命と引き換えに繋いだこの戦線は、アタイのチカラが足りないが故に、終わってしまう。

 メルビンも、気絶から立ち直ることはできない。ゴルベーザの歩みを、止めるものは、もういない。


708 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:57:13 jHMDvFiY0
――残り、1秒。首輪から、点滅音が鳴り響く。

 禁止エリアの脱出への、最後の一歩を踏み出そうとしたその瞬間――その脚に、何かが絡み付いた。

 予想だにしなかった感触は、振り払えない。その正体を振り返って、見極める。

 そこに居たのは。ゴルベーザの左脚を掴んで、ギリギリで禁止エリアに留めていたのは。

「……貴様……何故……!!」

 ――確かに殺したはずの、チビィの姿だった。

 奴がここにいる理由など、もはやどうでもいい。重要なのは――未だ、最後の一歩を踏み出せていないということ。

「おのれ……この……毒虫がぁぁーーーッ!!」

 それは、最後の引き金となった勇者への言葉か。それとも――

 ――残り、0秒。

 首輪の点滅音が、止まった。同時に聞こえるは、命が、爆ぜる音。首から上が消失した死体だけが禁止エリアの中に残され――それを呆然とした目で眺めながら、ビビアンはハッとしたようにメルビンへと駆け寄る。


709 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:58:01 jHMDvFiY0
「良かった……生きている……。」

 その心音を聞いて、ほっとしたように胸を撫で下ろす。そして改めて、ゴルベーザのいた方向へと向き直って。

「ドラえもん。あなたのカタキ、討ったわ。だから……安らかに、ねむってちょうだい。」

 最後の瞬間、ゴルベーザの歩みを止めたのは、死んだはずのチビィだった。何が起こっていたのか、厳密には分からないけれど――

 早季の持つ呪力の特質である、再生の力。それは決して、失われた命を戻すものではない。ネクロマンシーのような屍術とも違う。チビィの遺骸――『チビィのかたみ』という無生物(アイテム)を異形化させ、チビィの形を復元しようとも、そこに失われたチビィの魂は宿らない。

 そこに、何らかの魂を、感じられたのなら。死者すらも動かすその奇跡に、名前を付けるなら――それはきっと、『愛』とでも呼ぶべきものなのだろう。

「……ビビアン、殿。」

 間もなくして、朧気な意識のまま、メルビンが目を覚ます。まだ立ち上がれないままに、顔の動きだけで周りにビビアンしかいないことを、確認して。

「……これで、全員でござるか。早季殿、は……守り切れなかった……。」
「……ううん。違うわ。早季は――」

 ここがあの世でないのなら、もはや答えの分かりきっている。それは、ただの事実確認のつもりだった。しかしビビアンは、それを肯定しない。

 早季の死んだ場所に、静かに視線を送りながら――たった、一言。


710 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 01:58:24 jHMDvFiY0
「――帰るべき場所に、帰ったのよ。」

 ビビアンの視線の先。

 業魔と化した少女の、死体の隣。

 そこには、一輪の花が咲いていた。

 それは、かつて家族を奪われた憎しみに囚われ、人を脅かす魔物となってしまった少女のための、追悼の花。

 早季に支給された花のタネが、早季の呪力の影響を至近距離で直に受け続けた結果、異常な速度で成長を遂げたものだった。

 呪力は、その者の精神世界を具現化する力である。なればこそ、呪力によって咲いたその花は、早季の心の在り方を象徴するように、一切の歪みなく咲き誇っていた。降り注ぐ流星群の中でも、折れることも、曲がることもなく。

 だからこそ、そうして咲いたその一輪は――これまでに見たどの花よりも、綺麗だった。

【黒竜@FINAL FANTASY IVㅤ死亡】
【チビィ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち  死亡】
【渡辺早季@新世界より  死亡】
【ゴルベーザ@FINAL FANTASY IV  死亡】

【残り 30名】


711 : 世界に一つだけの花 ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 02:01:00 jHMDvFiY0
【E-5南/一日目 午前】

【メルビン@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:瀕死の重体
[装備]:勇気と幸運の剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜5(一部ノコタロウの物)
[思考・状況]
基本行動方針:魔王オルゴ・デミーラの打倒、ガノンドロフは今度会ったら絶対に倒す 
1.自分とノコタロウと早季の仲間を探し、守る
2.ボトク、バツガルフ、クッパには警戒
3.マリオに不信感
※職業はゴッドハンドの、少なくともランク4以上です。

【ビビアン@ペーパーマリオRPG】
[状態]:重傷 疲労(大)
[装備]:グリンガムのムチ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針 マリオと共にこの殺し合いの世界を脱出する。
1. マリオに会って、本当のことを知りたい
2.自身とメルビンの治療をどこかで行いたい

※本編クリア後の参戦です
※ザックには守の呪力で描かれた自分とマリオの絵があります。

【支給品紹介】

【グリンガムのムチ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たち】
ビビアンに支給された、最高位の攻撃力を誇るムチ。先端に三叉に分かれた刃が取り付けられている。

【花のタネ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たち】
過去のウッドパルナ地方で、マリベルがマチルダに渡した花のタネ。早季の呪力の影響を濃く受けたことにより、F-5の早季の遺体の傍に一輪、咲いている。


712 : ◆2zEnKfaCDc :2022/01/19(水) 02:01:19 jHMDvFiY0
連作、投下完了しました。


713 : ◆vV5.jnbCYw :2022/01/19(水) 14:35:30 tHlQ30b60
投下お疲れ様です。
どこから書けばいいのか分かりませんが、最ッッッッッ高に面白かったです!!
既に何かを失っていたメルビンたち3人に、戦いの途中で何かを失っていく早季
そしてどのキャラもそのキャラ特有の矜持が伝わってきました。
でもって業魔になってしまってからの早季の展開が……もうね……。
まさか魔王決戦を書いた次にこれほど凄いssが投下されるとは思わなかったです。

このssが読めただけでも、表裏ロワを立てて良かったと思ってしまうぐらいです。
寂しい余韻の残りながらも、残った者の力強さを感じさせてしまう、素晴らしい投下をお疲れ様です。


714 : ◆vV5.jnbCYw :2022/01/19(水) 14:35:32 tHlQ30b60
投下お疲れ様です。
どこから書けばいいのか分かりませんが、最ッッッッッ高に面白かったです!!
既に何かを失っていたメルビンたち3人に、戦いの途中で何かを失っていく早季
そしてどのキャラもそのキャラ特有の矜持が伝わってきました。
でもって業魔になってしまってからの早季の展開が……もうね……。
まさか魔王決戦を書いた次にこれほど凄いssが投下されるとは思わなかったです。

このssが読めただけでも、表裏ロワを立てて良かったと思ってしまうぐらいです。
寂しい余韻の残りながらも、残った者の力強さを感じさせてしまう、素晴らしい投下をお疲れ様です。


715 : ◆vV5.jnbCYw :2022/01/19(水) 17:41:15 tHlQ30b60
クッパ、スクィーラ予約します。


716 : ◆vV5.jnbCYw :2022/01/23(日) 16:49:34 Xboz9VUg0
投下します


717 : 冷たい日だまり ◆vV5.jnbCYw :2022/01/23(日) 16:50:10 Xboz9VUg0
『人間の洞察力が最も低下するのは、どんな時だと思いますか?』







この殺し合いの会場では、どこにいても放送が届くようになっている。
そして、打ちひしがれたかつての大魔王の所にも届いた。

『♢12 ピーチ姫』

大切な人の死を告げられた瞬間、クッパの視界からは色が消えた。
市街地の色とりどりの屋根も、草原の緑も、土の茶色も、自分が吐いた炎による焦げ後の黒も、全て映らなくなってしまった。
実際に喪ったのは色だけでは無いのだが、それに気づく余裕は彼にはない。
彼の視界から色が失われると、何か思い出したかのようにクレーターから抜け出し、クッパはおぼつかない足取りで歩き始める。
クレーターの中で蹲っていた方が回復はこれ以上体力を消耗しなくていいはずなのに、なぜそのようなことを始めたのかは、誰も分からない。


東から登った太陽が、ふらふらと歩く傷だらけの怪物を照らす。
綺麗に浮かんだ太陽が照らす表情からは、何も浮かんでなかった。
ボトクに利用された挙句捨てられた怒りでもない。
ガノンドロフにひたすら暴行を受け続けた苦しみでもない。
死への恐怖でもない。
大切なピーチ姫を失った悲しみでもない。
何も、沸き上がってこなかった。


一歩前に踏み出すだけで、身体のあちらこちらが悲鳴を上げた。
ただ、ゆっくりゆっくりと、文字通り亀の歩みで無人の市街地を進んだ。
歩くたびに、チャラリチャラリとチェーンハンマーの鎖が振動する音が響いた。
それをザックに仕舞うつもりもなく、鎖の為すがままにして歩き続ける。


不意に胃の中の痛みが強くなり、反射的に口を大きく開けた。
それはかつて得意としていた、ファイヤーブレスの前動作だった。
しかし、鋭い牙の隙間から吐き出されたのは、酸っぱい味のした良く分からない液体だった。
今の彼の身体の中身はぐちゃぐちゃで、骨は何本も折られている。
酸味のきつい液体で汚れた口を拭おうともせず、鎖鉄球を仕舞おうともせず、汚れた傷だらけの身体を自分で手当てしようともせず、ただのそりのそりと歩き続けた。
どこかそれは引きずられた鎖鉄球も相まって、足枷を付けられた死刑囚の姿を連想させられた。


かつて喜怒哀楽が豊かだった彼の表情から、嘘のように感情が抜け落ちていた。
光を失った瞳に映る光景は、色が抜け落ちている。
どこに行っても、何も変わらないことは、理屈でないにしても分かっていた。
けれど、何の目的も無く、何の意味も無く、歩き続けた。


歩いても、歩いても、何も変わらなかった。
全てを失ったクッパにとって、何かを変えたいという意思は無いのだが。


718 : 冷たい日だまり ◆vV5.jnbCYw :2022/01/23(日) 16:50:29 Xboz9VUg0



デパートを後にしてからしばらくした後、スクィーラは異変に気付き、耳を澄ませた
(ん?)
少し離れた場所から、ドスンドスンという足音と、ズズズと何か重い物を引きずるような音が聞こえて来た。
建物の影に隠れ、スクィーラは音の主の様子を伺った。


(あれは……もしや、最初に襲って来た怪物?)
建物の影から大きな身体を見て、思い出すのに僅かながらの時間を要した。
あれは、山奥の塔で襲って来た変異主(ミュータント)だった。
後になり、その名前がクッパだということは名簿を見て知った。
しかし、初めて出会った時とあまりにも雰囲気が違っていた。
塔で追いかけられた時は、所かまわず吠え散らす猛虎のような印象を受けたが、今はまるで住処を追放され、死に場所を探す老いた虎のようにしか見えない。


(先の放送で誰かが呼ばれたか……)
遠くから見てもクッパは身体のあちこちを怪我していたことが分かったが、それだけではないような気がした。
あの変異主にとって、大切な人がどの参加者に該当するのかは分からないし、見当のつけようもない。
その時クッパの足元がふらつき、地面に崩れ落ちた。


(ここで殺しておくべきか?)
スクィーラは今にも死にそうなクッパをどうすべきか悩んだ。
手負いの獣とはいえ、迂闊に刺激すれば手痛い反撃を食らいかねない。
放置しておいても別の参加者に殺されてしまいそうだし、なんなら無意識のうちに禁止エリアに入って首輪を爆破されるかもしれない。
しかし、どこかの物好きが回復をさせてしまうかもしれない。
そうなれば、折角の強力な参加者を蹴落とすチャンスを棒に振ることになる。
それに、ニトロハニーシロップの起爆剤になるカルシウムで造られた何かを支給されているかもしれない。


地面に突っ伏したクッパに、スクィーラはゆっくりと近づく。
彼が近づいても、これといった反応は無かった。
両の目は光を失い、2つの穴ぼこになっていた。
使い古されて捨てられた大きな人形と紹介しても、何人かは騙せると思ってしまうほど、クッパの表情から生気は失われていた。


719 : 冷たい日だまり ◆vV5.jnbCYw :2022/01/23(日) 16:50:56 Xboz9VUg0

そして近くに寄りながらもなお、反応が無いクッパに対し、スクィーラはある者を連想した。
自分達の塩屋虻コロニーの女王のバケネズミだ。
彼女もまた、かつては目の前に立つ者に対し、誰彼構わず攻撃を仕掛けるほど粗暴な性格だった。
だが、ロボトミー手術で前頭葉を削除されてから、借りてきた猫のように大人しくなった。


その時、スクィーラはあることを思いついた。
自分たちが主たる女王を、同胞を産む機械にした時と同様、この変異主も好きなように出来るのではないかと。
流石に、この場所でロボトミー手術をすることは難しい。
手術場所の環境、手術器具の欠如、そしてクッパとバケネズミの脳構造の乖離など、思いつく限り手術を不可能たらしめる要素はいくらでもある。
そもそも、女王に施した手術でさえ、不完全なものであったため感染症が発生してしまった。


だが、そんな大それた技術を用いる必要は無い。
ただほんの少し、トンと背中を押すだけでいい。


さらに近づき、囁く。
「神様。今、手当てしますよ。」
その言葉をかけた時、クッパはピクリと動いたようだったが、それ以上反応は示さなかった。

ザックからボトルを取り出し、花に水でもやるかのようにクッパの口の隙間から流し込む。
内臓も痛めつけられているため、急に咳き込んで吐き出してしまった。

しかも、スクィーラのことなど眼中に無いかのように、再び項垂れる。


「神様。お身体の調子はいかがですか?」
「…………。」
繰り返し、スクィーラは優しく声をかけるが、反応は猶も無いままだ。

「粗末ですがお食事もあります。それとも先に治療なさいますか?」
「……………。」
「はぁ……。」

スクィーラはクッパの有様を見て、少しばかり落胆した。
やはり無駄に生きてしまった独活の大木でしかないと捨て置こうとした所……。


「おまえは……わがはいの、ぶかか?」
今にも消えてしまいそうな、かすれた声で言葉を発した。

「ええ、ええ。その通りでございます。まずはその酷い怪我を治しましょう。
布と水ぐらいしかありませんが、無いよりはましなはずです。」

スクィーラの口元は、忠実な部下とはとても思えないほど歪んでいた。
クッパの反応を聞いてから、デパートの衣服コーナーから調達した布を破り、水を濡らしてクッパの傷口に貼り付ける。
傷口が深い所は直接包帯のように布切れを巻いていく。


720 : 冷たい日だまり ◆vV5.jnbCYw :2022/01/23(日) 16:51:35 Xboz9VUg0

「わがはい……ぴーちひめ、たすけないといけない。わがはいのつま。」
治療中に、クッパは呻くように、酷く覚束ない口調で話した
「???」
この変異主の妻だというのに、ピーチ姫の姿はまるっきり人間なのはどういうことなのか、一瞬スクィーラは首を傾げた。
もしやこの変異主は、自分達の先祖と同様呪力を持った人間に姿を醜い姿に変えられ、それでいて人間の女性に恋をしているのかと、様々な考察を掻き立てられてしまう。
ともかく、放送でその名前が呼ばれ、それゆえにこのような有様なのだろうと察しがついた。
そして、その事実を受け入れられずに、こうなってしまったのだと。


「承知いたしました。不肖スクィーラ。精一杯神様の部下として、共に神様の妻を探しましょう。」
そう言いながら、クッパの応急手当は終わった。
大きすぎる傷や体内のダメージはどうにもならないが、死神の鎌の刃先からは大きくは慣れられたようだった。
クッパが今までより大きく体をゆすったため、踏み込み過ぎた発言だったかもしれないと焦ったが、自分に対する疑念は生まれていなかったようだ。


「それと私が利いた話ですが、神様の妻は、私の調べによると危険な者達に囚われているそうです。まずはその者達を殺しましょう。」

「わがはい、そいつら、ゆるさない。ぴーち、さらうの、わがはい。」
クッパはよろめきながらも立ち上がった。
その表情からは、ほんの僅かな生気が宿ったようだった。
あくまでそれは、造り物の生気でしか無かったが。
それを見たスクィーラの顔に邪悪な笑みが、悪臭放つラフレシアが咲くかのごとく広がった。
彼らの姿は、スクィーラが来ている服も相まって、理性を失った魔獣とそれを従えた魔導士の様だった。


721 : 冷たい日だまり ◆vV5.jnbCYw :2022/01/23(日) 16:52:04 Xboz9VUg0

「神様。よろしければ道具を拝見したいのですが。もしかすると、私に使える道具があるかもしれませんし、何より神様の妻を助けるために役立つかもしれません。」
クッパは黙って支給品袋を渡した。


何の因果か、スクィーラ達バケネズミの駆除係である、ある男が知っていた。
状況が最悪な時、絶望的な時こそ、誰もが儚い希望を探し求めるあまり、危険な兆候や獅子身中の虫をあっさり見逃してしまうと。
事実、その通りだった。
絶望的な状況に押しつぶされ、疲弊しきったクッパの脳には、スクィーラの邪悪なたくらみを看破する力は最早残されていなかった。
今のクッパは、どんな言葉でも平然と受け入れてしまうほど精神状態が脆くなっていた。




【F-2/市街地/一日目 午前】

【クッパ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(大) 腹に刺し傷、全身の至る所に打撲、深い裂傷 両手に切り傷(応急処置済み) 精神の衰弱(大)
[装備]:チェーンハンマー @ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(名簿焼失)、ランダム支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針: ぴーち、とりもどす。さらったやつら、ゆるさない

※ステージ7クリア後、ピカリー神殿を訪れてからの参戦です
※スクィーラの言葉により、ピーチ姫が生きていると錯覚しています。




【スクィーラ@新世界より】
[状態]:健康 高揚
[装備]:毒針セット(17/20) @無能なナナ 黒魔導士を模した服@現地調達
[道具]:基本支給品、ニトロハニーシロップ@ペーパーマリオRPG 指輪? 金のカギ?@調達
[思考・状況]
基本行動方針:人間に奉仕し、その裏で参加者を殺す。
1:バロン城へ行こうと思ったが、どこへ向かうべきか?
2:クッパを操る
3:ニトロハニーシロップで爆弾を作る。その為にカルシウムになり得るものを調達する。
4:朝比奈覚は危険人物として吹聴する。また、彼を倒せそうな参加者を仕向ける
5:金のカギを爆薬として使うべきか?
6:優勝し、バケネズミの王国を作るように、願いをかなえてもらう


722 : 冷たい日だまり ◆vV5.jnbCYw :2022/01/23(日) 16:52:27 Xboz9VUg0
投下終了です。遅れましたが2022年もよろしくお願いします。


723 : ◆vV5.jnbCYw :2022/02/01(火) 23:56:29 GccK57aE0
デマオン、満月博士、柊ナナ、クリスチーヌ、ミドナ、アイラ予約します


724 : ◆vV5.jnbCYw :2022/02/07(月) 21:46:50 Ix3Wn6UQ0
投下します。


725 : It is no use crying over dropped moon ◆vV5.jnbCYw :2022/02/07(月) 21:47:25 Ix3Wn6UQ0
既にその建物は戦火を余すところなく受け、図書館と呼ぶにはとてもではないが不可能になっていた。
呪力と魔法の争いと、それに伴って広がった炎は、図書館を図書館だった廃墟にしてしまうには充分だった。

「何をしているんだ。あの窓から出るんだ。」
その荒れ果てた図書館の2階で、影の女王は同行者の二人に吐き捨てるかのように言った。
普段のミドナなら、そのセリフの後に『丸焼きになっても知らないぞ』といった軽口を付け足していただろう。
だが、彼女はそのような軽口を紡ぐ余裕は露ほどもなかった。
自分の判断ミスが、自分の命の恩人を殺したのだから。


「ミドナさん。」
ゼルダの死骸の近くにあった道具を回収していたアイラが、そっと声をかけた。

「どうした。」
短い言葉を短く返す。
ゼルダのことでの同情ならば聞かないぞとばかりに目を吊り上げた。

「図書館の外から、何か聞こえないかしら?」
ミドナにとって最も嫌がる言葉では無かったが、どうやら別方向に厄介な言葉だったようだ。

「え?これ、どういうこと?」
いち早く窓の外を見たクリスチーヌが、驚嘆の声を上げた。

「何があったの?」
「満月博士が……!!」

その言葉に合わせるかのように、アイラとミドナも図書館の窓から下を見る。
そこには衝撃的な光景が広がっていた。
蹲っているデマオンと満月博士。そして満月博士を攻撃し続ける柊ナナが3人の目に入った。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


時は遡り、まだ廃墟が図書館の姿を辛うじて保っていた頃。


燃え盛る図書館の入り口では、一人の人間と魔王が睨み合っていた。
しかし、形勢は完全に人間の方に傾いていた。
人間の方は両目の焦点が合ってないが、目立った外傷はない。
一方で、魔王の身体はあちこちに裂傷や凍傷、火傷や打撲が出来ていた。


「立てよ!火柱!!」
(身体が動かん……あの奇妙な剣のせいか……。)
地面から湧き出た炎の蛇が、デマオンに絡み付く。

元々デマオンは銀のダーツを受けねば死なず、それも遠く離れた星にある心臓を刺さねば意味が無いという二重の不死の術をかけていた。
だが、この殺し合いでそのどちらも制限されている今、傷も負うし攻撃の威力によっては命に関わる。
今のデマオンの生命力は、並の人間や悪魔を優に上回っているが、無限という訳ではない。


「落ちよ!水柱!!」
そこを、満月博士の水魔法が、さらに襲い掛かる。
巨大な水の塊が滝のように、デマオンに降り注ぐ。


726 : It is no use crying over dropped moon ◆vV5.jnbCYw :2022/02/07(月) 21:47:51 Ix3Wn6UQ0
(くそ……身体が動かぬ上に、魔法も使えぬとは……)
今の魔王の状況を例えるなら、鎖につながれたライオン。
虚脱を齎す魂の剣と、魔力を封じる魔封じの杖により、地球を恐怖に陥れようとしていた魔王は、格好の的にしかならなくなった。
魔封じの力は時間経過で切れるが、それを知ってか知らずか、常に掲げ続けてそれが切れることは無い。


「まだだ……まだ終わらさん。これで美夜子の仇を討ってくれる。美夜子の苦しみを味わってもらう。」
邪剣に魂を侵された満月は、支離滅裂な言葉を呟きながら、魂の剣で斬りかかろうとする。
両者の目だけを見れば、どちらが悪魔なのか全く分からない。


「舐めるな!!」
鎖につながれた獅子は、間合いに狩人が入ってきた瞬間を逃さず、自らの爪で引き裂こうとした。

「ぬぐぅ……!」
しかし、先手を打った満月はデマオンの手を魂の剣で斬り裂き、更なる虚脱感を与える。
魔王の片手は、満月博士に当たることが無かった。
お返しとばかりにもう一撃魂の剣で魔王を斬りさく。
出血は無い。斬られたのは、命の核となる魂だ。
異なる世界の似たような状況で使われていた魔剣は、かつてほどの力を発揮し無いが、存分に魔王の魂を刻んで行った。


「立てよ!火柱!!」
そして、デマオンの攻撃範囲内から出ると満月は再び魔封じの杖を掲げ、魔法を唱え始める。


しかし、この場のどちらもが気づいていない存在が、いつの間にか目を覚ましていた。



〇〇〇



(くそ……やられた!!警戒していたというのに……!!)
柊ナナは、満月博士とデマオンが戦っている場所から少し離れた所で、様子をうかがっていた。
図書館の外から襲って来た敵のことを考えすぎていたせいで、内部の争いに気付いていなかった。
そんな自分の間抜けさに、嫌気が刺してきたが、今はそれどころでは無い。

図書感からは、なおも煙が上がっている。
あの場所に留まると行った4人の無事は分からないし、周りにはまだ襲撃者がいるかもしれない。

(ダメだ、こんな状況で全体を一度に俯瞰するのは逆効果だ。まずは問題を脳内で箇条書きして、それぞれの優先度とどうするかを考えよう
随分と時間をロスしたが、誰も私に気付いていない今が考えを纏めるチャンスだ。)


Q1:図書館に放火した襲撃者が辺りにいるか?
Q2:デマオンか満月博士か、どちらに加担するか?あるいは中立の立場を取るか?
Q3:図書館に取り残されたであろう4人はどうするか?


ナナは即座に、脳内で目下の疑問を大雑把に3つまとめる。

彼女はここで最も優先して答えを探るべき問題として、Q1を選んだ。
何故なら後の二つの問題は極端な話、優先順位を後回しにしても死に直結することは無い。
だが、それを優先するあまり、他の味方を全て捨ててしまうのは後々厄介になることも分かっていた。

(Q1のメリットは、他のこととも並行して出来る……)
常にナナは姿勢を低く、気絶した時の体勢のまま辺りを伺った。ただし空気砲を付けた右手はいつでも動かせるようにしておいた。
そして同時並行的に、満月とデマオンの戦いも観察し初めた。


満月博士の超能力で木にぶつけられたため、まだ頭はズキズキするが、思考や活動に差し支えるわけではない。
しばらく気絶していたため、ナナが見た戦況はほんの一部だが、それだけでデマオンの旗色が悪いことは伝わった。


727 : It is no use crying over dropped moon ◆vV5.jnbCYw :2022/02/07(月) 21:48:08 Ix3Wn6UQ0
(くそ……身体が動かぬ上に、魔法も使えぬとは……)
今の魔王の状況を例えるなら、鎖につながれたライオン。
虚脱を齎す魂の剣と、魔力を封じる魔封じの杖により、地球を恐怖に陥れようとしていた魔王は、格好の的にしかならなくなった。
魔封じの力は時間経過で切れるが、それを知ってか知らずか、常に掲げ続けてそれが切れることは無い。


「まだだ……まだ終わらさん。これで美夜子の仇を討ってくれる。美夜子の苦しみを味わってもらう。」
邪剣に魂を侵された満月は、支離滅裂な言葉を呟きながら、魂の剣で斬りかかろうとする。
両者の目だけを見れば、どちらが悪魔なのか全く分からない。


「舐めるな!!」
鎖につながれた獅子は、間合いに狩人が入ってきた瞬間を逃さず、自らの爪で引き裂こうとした。

「ぬぐぅ……!」
しかし、先手を打った満月はデマオンの手を魂の剣で斬り裂き、更なる虚脱感を与える。
魔王の片手は、満月博士に当たることが無かった。
お返しとばかりにもう一撃魂の剣で魔王を斬りさく。
出血は無い。斬られたのは、命の核となる魂だ。
異なる世界の似たような状況で使われていた魔剣は、かつてほどの力を発揮し無いが、存分に魔王の魂を刻んで行った。


「立てよ!火柱!!」
そして、デマオンの攻撃範囲内から出ると満月は再び魔封じの杖を掲げ、魔法を唱え始める。


しかし、この場のどちらもが気づいていない存在が、いつの間にか目を覚ましていた。



〇〇〇



(くそ……やられた!!警戒していたというのに……!!)
柊ナナは、満月博士とデマオンが戦っている場所から少し離れた所で、様子をうかがっていた。
図書館の外から襲って来た敵のことを考えすぎていたせいで、内部の争いに気付いていなかった。
そんな自分の間抜けさに、嫌気が刺してきたが、今はそれどころでは無い。

図書感からは、なおも煙が上がっている。
あの場所に留まると行った4人の無事は分からないし、周りにはまだ襲撃者がいるかもしれない。

(ダメだ、こんな状況で全体を一度に俯瞰するのは逆効果だ。まずは問題を脳内で箇条書きして、それぞれの優先度とどうするかを考えよう
随分と時間をロスしたが、誰も私に気付いていない今が考えを纏めるチャンスだ。)


Q1:図書館に放火した襲撃者が辺りにいるか?
Q2:デマオンか満月博士か、どちらに加担するか?あるいは中立の立場を取るか?
Q3:図書館に取り残されたであろう4人はどうするか?


ナナは即座に、脳内で目下の疑問を大雑把に3つまとめる。

彼女はここで最も優先して答えを探るべき問題として、Q1を選んだ。
何故なら後の二つの問題は極端な話、優先順位を後回しにしても死に直結することは無い。
だが、それを優先するあまり、他の味方を全て捨ててしまうのは後々厄介になることも分かっていた。

(Q1のメリットは、他のこととも並行して出来る……)
常にナナは姿勢を低く、気絶した時の体勢のまま辺りを伺った。ただし空気砲を付けた右手はいつでも動かせるようにしておいた。
そして同時並行的に、満月とデマオンの戦いも観察し初めた。


満月博士の超能力で木にぶつけられたため、まだ頭はズキズキするが、思考や活動に差し支えるわけではない。
しばらく気絶していたため、ナナが見た戦況はほんの一部だが、それだけでデマオンの旗色が悪いことは伝わった。


728 : It is no use crying over dropped moon ◆vV5.jnbCYw :2022/02/07(月) 21:48:29 Ix3Wn6UQ0

そして満月博士がデマオンを圧倒しているタネもすぐに気づいた。
片手に持っている杖と、もう片方の手に持っている怪しく光る剣。


(やはりあの禿げ頭の男も、『アイツら』と同じか。)
柊ナナは満月博士の、ド素人と言っても過言ではない太刀筋を見て、連想するものがあった。
自らの力を絶対的なものと過大評価するあまり、殺された能力者のクラスメイトのことだ。
満月に至っては支給された道具であり、自分の力でさえ無いから、より付け入るスキはあるはず。


(Q2は……当たり前だがデマオンに加担すべきだな……)
Q1は、これだけ隙を晒しておいて殺気一つ感じないことから、「もう襲撃者は辺りにいない」をファイナルアンサーにすることにした。
同時に、Q2もデマオンに加担するというアンサーでほとんど固まった。
武器に頼った上での感情論に動いている満月は論外だとして、この場からリスクを捨てて逃走をしてしまうのもありだと考えた。
信頼の価値が元の世界以上に高いこの場所で、これだけいる対主催との信頼感を溝に捨ててしまうのは勿体ない。
主催者を倒すにしろ、生還するにしろ、仲間(しんらいのかくれみの)は1人でもあるに越したことは無い。
デマオンもデマオンで、人間らしからぬ(そもそも人間ではないのだが)考えを抱いていることは察することは出来たのだが、「彼女の世界の能力者」ではない以上問題はない。
柊ナナの目的とは、あくまで「彼女の世界の能力者の殺害」のみである以上、この殺し合いが終われば他の世界の人間などどうなろうと知ったことではない。


(Q3は……一度保留にすべきか……)
2階の方から立て続けに物音が響くということは、少なくとも全滅はしておらず、戦いが何らかの形で起こっているということだ。
満月とデマオンのような内輪揉めの可能性も無いわけでは無いが、自分の力で炎燃え盛る図書館の2階まで行くのは無謀なことこの上ない。
デマオンを救助した後、どうするか相談した上で決めることにした。


方針が定まると、即座に如何にして満月博士を攻略すべきか思考する。
とは言っても、あの禿げ頭の男が能力者達と同じような相手だと考えれば、すぐにどうすべきか決めることにした。


「ドカン。」
「うわっ!」

ナナの掛け声と共に、銀の砲口から空気の弾が飛ぶ。
それ一発で殺すことは出来ないが、完全に予想外の方向からの攻撃を受けた満月は吹き飛んだ。

「邪魔を………。」
「ドカン。ドカン。」
それでもなおナナは満月に攻撃を加える。

「立てよ、火………」
「ドカン。ドカン。」


729 : It is no use crying over dropped moon ◆vV5.jnbCYw :2022/02/07(月) 21:48:55 Ix3Wn6UQ0

思考の末に柊ナナが選んだ戦術は、極めて単純なもの。
不意を突き、持っている道具で反撃を受ける前に徹底攻撃して、殺すか抵抗の意欲を奪うまで攻め続ける。
彼女が孤島の学園で能力者を殺害する際に取っていたやり方とさほど変わりはない。
満月がデマオンに対し、ヒット&アウェイを繰り返していたことから、生命力や防御力が強化されているわけではないと結論付けた。


「ぐ……。」
「これで終わりだな。オマエは最期に言い残すことはあるか。」
誰もが身を竦めてしまうほど冷たく鋭い視線を、泥だらけになり倒れた満月に投げかける。
勿論、魂の剣の届かない範囲に立ちながら。


「魔法を使おうとするな。その素振りを見せたらその口に空気の弾を打ち込む。」
このまま言葉を聞かずに殺しても良いとも思ったが、空気砲はかつて彼女が愛用していた毒針と異なり殺傷力に欠けるので、時間がかかる。
それに、殺す場合は最低限デマオンにどうするか確認しておいた方が、信頼を維持出来るかもしれないと考えた。

「私は……美夜子のためにあの魔王を殺さねばならんのだ!!」
黒い服がボロボロになりながらも、殺気立った目でナナを睨みつけた。
その言葉を聞いたナナは小さくため息をついた。
この男は、自分勝手な理屈を立てて、それを侵害して来る相手は殺しても構わないと考えている点で、佐々木ユウカと同じなのだと分かってしまった。
最もユウカの場合は元から破綻した性格の持ち主だったのに対し、満月はこの世界の魔剣によって変わってしまったのだが、ナナにとってはどうでもいいことだった。


「そうか。」
短く返答すると、満月が反撃をしてくる前にナナは空気砲を発砲しようとする。


「オマエ!!何やってるんだ!!」
上空からミドナが飛んできて、柊ナナを止めようとした。
彼女の仮面に付いている手が、ナナの空気砲を奪った。

「な、何をやっていたのですか?心配しましたよ?」
「こっちのセリフだ!!アンタら、この大事な時に外で揉めていたというのか!?」

ミドナは、図書館の外で起こったことは柊ナナが満月を集中攻撃していたという事しか分からない。
普段の軽口を叩きつつも冷静な彼女ならば、いきなり柊ナナに食って掛かることも無かったかもしれない。
だが、今の彼女には「外で揉めている暇があったのなら、どうして姫を守るのに加勢しなかったんだ」という怒りが胸にあった。
勿論、それが理にかなった怒りではないし、ゼルダを殺してしまった原因は自分であることも分かっていた。
それでも、ミドナの心に巣くっていたやりきれなさが、その行動へと駆り立てた。


730 : It is no use crying over dropped moon ◆vV5.jnbCYw :2022/02/07(月) 21:49:11 Ix3Wn6UQ0

「ち、違います!!満月さんが……」
「うわあああああああああ!!!」
ミドナと柊ナナの言い争いの間に、満月博士は雄たけびを上げて、剣と杖を携えて走って行く。

「おのれ……満月……!!」
なおも入らない力で、抵抗を試みようとする。

「大魔王よ、これで終わりだ!!」

だが、チャンスは今しか無いと判断した満月が、魔封じの杖を柄の方を先に向け、ダーツのごとく投げた。

「チンカラ・ホイ!!」
投げた杖を自らの魔術で加速させる。
それはかつてデマオンの心臓へと投げられた、銀のダーツを彷彿とさせる軌道だった。
緑の杖が、黒の魔王の胸へと吸い込まれていく。


「グェーッ!!」
彼の心臓は、この殺し合いの制限によってありふれた武器でも刺さるようになっていた。
急所を貫かれた黒の魔王は、炎に包まれて崩れ落ちる。



「ウソ……だろ?」
「しまった……!!」
ミドナも柊ナナも、唖然としていた。



「ははは……やったやった!!美夜子!!仇は取ったぞ!!ハハハハハハ!!」
満月は猶も持ち続けている剣を掲げ、高笑いをしている。
その笑いは、感情的になる所はありながらも穏やかな彼のものとはとても思えなかった。



「返せ!!ドカン!!」
ナナはすぐに唖然としていたミドナから空気砲を奪い返し、満月目掛けて空気の弾を撃つ。
しかし、時すでに遅し。
満月は空気の弾を受けてしまうが、既にデマオンの命を奪ったことを確信した満月は笑っていた。

その時、アイラがクリスチーヌを抱えて、2階から猫のようにひらりと降りて来た。
スーパースターの経歴を積んだ彼女のバランス感覚なら、この程度の高さは少し足を痛める程度で済む。

「ねえ、ちょっとこれ、どういうことよ?」
「満月博士!!あなたは何をしているのですか!!」


戦いの舞台に遅れてやって来たアイラとクリスチーヌも、満月博士に物申す。
「何を言うか。私の娘を殺した魔王を倒し、仇を討ったことの何が悪い……。」


その時、ミドナも、他の者達も気づいた。
満月博士の異常と、持っている剣が放つ怪しい光を。
元からデマオンを憎んでいたこの男が彼を襲い、ナナ達はそれを止めようとしていたのだと。
(………ワタシは、また間違えたというのか?)
ミドナは、自分がした間違いと、いかに自分のしたことが短絡的だったか気付いた。


731 : It is no use crying over dropped moon ◆vV5.jnbCYw :2022/02/07(月) 21:49:28 Ix3Wn6UQ0

「胸が苦しい……だが、私のやったことを否定するなら、君たちも許さないぞ……。」
満月博士はナナ達に剣を向ける。


「岩よ。雷となり、地球人を打ち砕け。」
その時、野太い声が辺りに響いた。
その声は、女性が出せるものでも、満月博士が出せるものでもなかった。

「ウロ〜〜〜〜〜〜ン!!」
魂の剣の色に似た怪しい光を帯びた岩は、不気味な声を上げて満月に襲い掛かった。
人の胴体の大きさぐらいある岩の邪精霊が、満月に襲い掛かる。
邪悪な魔力を籠めた岩は、流星の様に炎を纏って飛んできて、満月を圧殺した。

「私は……私は……!!」
掠れた言葉と、両手に持った武器もろとも、彼の命は焼失した。


「アンタ……生きていたのか!!」
魔王と言え度心臓を穿ち抜かれば死ぬと思っていたので、ミドナは驚いた。
炎から再誕する不死鳥の様に、デマオンは炎の中から立ち上がった。

「ワシの力ではない……。不死の魔法はここでは封じられていたはずだ。」
「じゃあ、何か支給された道具を持っていたのか?」

ミドナの世界における妖精や、アイラの世界における世界樹の葉、はたまたクリスチーヌの世界におけるきんきゅうキノコの様に、一度きりだが死から身を守ってくれる道具はある。

「なるほど。あの葉か……。」
この世界にある大魔王の城を出る時に確認した道具の中で、名前も知らぬ葉が一枚あった。
どう見ても不要な道具だったが、魔力が勿体ないので燃やさなかった。
何の因果か屈辱か、不死の力を奪われた自分が、他者から与えられた道具で蘇ってしまった。
また、世界樹の葉は死した者にかけられたいかなる呪縛も蘇生と同時に消し去ることが出来る。
魔法を封じられていたのにも関わらず、蘇生後魔法が使えたのもそれが理由だ。


「皆さん、無事で良かったです。」
ナナは朗らかに見える笑顔を浮かべ、3人の無事を祝福する。
それは演技ではない。


「良いワケ……ないわよ。」
しかし、ゼルダの犠牲をクリスチーヌは嘆く。
「それに、この図書館を攻撃した敵を、逃がしたしね……。」
アイラも同じ表情をしていた。

それから、誰も言葉をしばらく話さなくなった。


近くに燃えている建物があるとは思えないほど、冷たい空気が覆っていた。
そして、先程まで大規模な争いをしていたとは思えないほど静かだった。
「ククク……アッハハハハハハハハハ……」
その時、静寂を破るかのようにミドナは突然高笑いをし始めた。
彼女がかつてリンクと共に冒険をしていた時、よくしていた笑いとは異なる、どこか乾いた笑いだった。
自分の判断を誤ったがために守るべき姫を殺してしまい、そして今度は頼れる王を殺してしまった。
王は世界樹の葉で生き返ったのだが、それはあくまで結果論でしかない。
もしあの時、満月博士が呪われた武器を持っていたことに気付けば、柊ナナではなく満月博士を止めようとしたら、デマオンが彼を殺さずに済んだのかもしれない。
判断が、決断が、行動がひたすらに悪い結果を呼び続ける、自分の間抜けさに、怒りを通り越して乾いた笑いがこみあげてきた。


732 : It is no use crying over dropped moon ◆vV5.jnbCYw :2022/02/07(月) 21:49:49 Ix3Wn6UQ0

「気でも触れたか。」
デマオンが声をかける。

「別に。ワタシは全くの正気さ。アタマがおかしくなるほどぶつけた訳じゃないし、変な病気も貰っちゃいない。
その方がずっと良かったんだけどな。」
先程と違って、口を吊り上げて軽口をタイプライターの様に叩くミドナ。
だがその目は笑っていなかった。
「そうか。」
「それとピンク髪、謝って済むことじゃ無いが、早とちりして悪かったな。」
「いえ、良いですよ。あの状況ならば仕方が無いことです。それよりも皆さんこれからどうするのですか?」

柊ナナは先の冷徹な表情とは全く異なる顔をミドナに見せつけ、その後周りにどうすべきか案を募った。

「拠点と何人かの部下を失ったのは痛いが、このまま残された者だけでデパートへ向かう。動きに差し支えるものはおらぬようだしな。」
デマオンは世界樹の葉の治癒力のおかげで、満月から受けた傷は残っていない。
ミドナ達はゼルダの死ぬ間際の力により、傷は全てでは無いが回復した。


「悪いけど、ワタシは行かない。」
デマオンの提案を、ミドナは静かに拒絶した。

「馬鹿者が!!己の感情に身を任せて、足並みを乱すことが良いと思っておるのか!!」
全体のリーダーとして、ミドナの集団行動に反した発言を咎める。


「そうですよ。さっきのことなら、私は怒ってませんから。」
(違うんだよ。)

2人共も、自分の感情に任せたせいでデマオンを殺してしまったことや、大口をたたいていた自分がゼルダを死なせてしまったことは全く責めてこなかった。

(ワタシがいれば、アンタたちもワタシのせいで死ぬかもしれないんだぞ。
なぜそれを言おうとしないんだ。)
それが、彼女にとってただただ腹立たしかった。

「どこへ行こうとしてるのですか?」
1人で背を向けるミドナに対し、アイラが声をかけた。

「姫さんを殺した奴を殺しに行く。」
それで償いにならないのは分かってはいたが、そうせずにはいられなかった。
「……好きにするがよい。感情に己を委ねる馬鹿者は我がデマオン軍には必要ない。」
(そうだよ。それでいいんだ。)

またしても一喝するかと思いきや、ひどく力の抜けた言葉を返した。
魔界星にいた時代、部下の悪魔たちが失敗するたびに怒鳴り散らしていた彼とはとても思えぬ態度だった。
デマオン本人としても、今度ばかりは自分にも非があったと考えていたからだ。


733 : It is no use crying over dropped moon ◆vV5.jnbCYw :2022/02/07(月) 21:50:09 Ix3Wn6UQ0
襲い掛かって来た満月博士を殺したことは、正当防衛だと考えれば仕方が無いことだと分かっていた。
だがあの時、満月が持っていた武器を確認していれば、
外からの敵にばかり警戒していなければ。
それ以前に、一時のこととはいえ図書館に見張りを付けずに、全員集めることをしなければ。
大魔王の胸の内に、初めて水たまりのような後悔の念が生まれ、それがアメーバのように増えて行った。


ミドナの姿が見えなくなってしばらくした後、彼ら5人の近くにあった図書館が、ゼルダと重清を残したまま音を立てて崩れた。
まるでそれは、主催に反旗を翻す8人の団結の崩壊を表しているかのようだった。


「行くぞ。」
「はい!!」
「ええ。」
「…………。」

残された者達は、それぞれの目的地を目指して、歩き始めた。
この図書館で起こったことが、この殺し合いにおける最悪の瞬間だったと信じて。




【満月博士@ドラえもん のび太の魔界大冒険 死亡】
【残り 29名】



【B-5西/一日目 午前】





【柊ナナ@無能なナナ】
[状態]後頭部に打撲 
[装備]空気砲(80/100)@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)、名簿を七並べ順に書き写したメモ、
[思考・状況]
基本行動方針:最低でも脱出狙い。可能ならオルゴ・デミーラ、ザントの撃破。最悪は優勝して帰還。
1.デマオン、アイラと共に、デパートへ向かう
2.殺し合いに乗っていない参加者と合流を目指す。
3.回復能力を持つ東方仗助と合流したいが、1よりは優先順位は低め
4.小野寺キョウヤはこの殺し合いの中なら始末できるのか?
5.佐々木ユウカは出会ったら再殺する。
6.スタンド使いも能力者も変わらないな
7.満月博士、デマオンの関係に警戒
※参戦時期は20話「適者生存PART3」終了後です。
※矢安宮重清からスタンドについて、東方仗助について聞きました。
※広瀬康一、山岸由香子、ヌ・ミキタカゾ・ンシをスタンド使いと考えています。
※異世界の存在を認識しました。



【デマオン@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:健康 魔力消費(小) 精神疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:不遜なるデク人形(オルゴ・デミーラ、ザント)をこの手で滅し、参加者どもの世界を征服する
1.デパートへ向かい「鍵」の正体が何なのか調べる
2.何だ……この気持ちは……。
3.デマオン軍団の一員として、対主催の集団を集める。
4.刃向かうものには容赦しない


【アイラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:ダメージ(小) 軽い火傷 職業 調星者 (スーパースター)
[装備]:ディフェンダー@ FINAL FANTASY IV
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1モーテン星@魔界大冒険 魔法の盾@ドラゴンクエストVII、イツーモゲンキ@ペーパーマリオRPG、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラを再度討つ
1.デマオン、ナナと共にデパートへ向かう
2.アルスとメルビンが心配
※職業は少なくとも踊り子、戦士、武闘家・吟遊詩人・笑わせ師は極めています。
参戦時期はED後。

※満月博士の支給品、魔封じの杖、魂の剣は焼失しました。


734 : It is no use crying over dropped moon ◆vV5.jnbCYw :2022/02/07(月) 21:50:47 Ix3Wn6UQ0



影の世界の女王は行く。
図書館で自分がしでかしたことへの後悔と、秋月真理亜を殺して自分勝手な償いをしようという決意のみを胸に秘めて。
すでに行動を共にした者達のことは全く考えていない。
頭の中にあるのは、図書館からいなくなった真理亜がどこにいるのかということだけだった。


そのはずだったのに、今この場所にいない仲間の顔を思い出してしまう。
(リンク……教えてくれ……私はどうすればいいんだ?)
一人で良いと思ったはずなのに、心のどこかで信頼できる仲間を頼ってしまう。
矛盾だらけの自分を、どうしようもなく憎く思った。


1人で道なき道を行くミドナの背後に、足音が聞こえてくる。
「何しに来たんだ。オマエはデマオン達とデパートに向かえばいいだろ。」
「…………。」
共に行かせろとも言わず、理由も話さず、クリスチーヌはミドナの後ろについていく。


「ワタシに付いてきたら、姫さんみたいなことになるって分かってるのか?」
半ば八つ当たり気味に、棘の含んだ言葉を投げつける。
「分かってるわよ。でも、私だって間違えたせいで、モイさんがあの女の人に殺されてしまった。
償いなら私もしなければならない。」
「死にたいのなら好きにしろ。」


刺だらけの言葉のボールは、ぶつけた相手よりも投げた者を傷付けた。
それからはどちらも話をせず、青空の下を進んでいった。
辺りを氷柱のような刺々しく冷たい空気が、辺りを包んでいた。



【B-5東/一日目 午前】



【ミドナ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 】
[状態]:ダメージ(小) 精神疲労(大) 後悔(大)
[装備]:ツラヌキナグーリ@ ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:ザントを討ち、光と影の両世界を救いたい
1:………。
2:秋月真理亜を殺す
参戦時期は瀕死の状態からゼルダにより復活した後
陰りの鏡や影の結晶石が会場にあるのではと考えています。



【クリスチーヌ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:HP1/2 悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 アイアンボーガン(小)@ジョジョの奇妙な冒険 キングブルブリンの斧@ゼルダの伝説
[思考・状況]
基本行動方針:首輪解除のヒントを見つける
1.ミドナに付いていく
2.モイやゼルダへの償いの為にも、秋月真理亜を倒す
3.仲間(マリオ、ビビアン)を探す
4.クッパ、バツガルフ、真理亜に警戒
5.モイやノコタロウ、ピーチの死を無駄にしない
6.首輪のサンプルが欲しい。
※図書館の本から、DQ7.FF4にある魔法についてある程度の知識を得ました。
※首輪についてある程度仮説を立てました。
• 爆発物ではないが、この首輪が原因で死ぬ可能性は払拭できない。
• 力を奪うのが目的


735 : It is no use crying over dropped moon ◆vV5.jnbCYw :2022/02/07(月) 21:50:57 Ix3Wn6UQ0
投下終了です


736 : ◆2zEnKfaCDc :2022/02/09(水) 21:37:39 J6/8m.yM0
鶴見川レンタロウ予約します


737 : ◆2zEnKfaCDc :2022/02/15(火) 00:39:39 zeW9FMSw0
すみません、うまく纏まらなかったので予約を破棄します。


738 : ◆vV5.jnbCYw :2022/02/18(金) 21:17:13 1qnBZfoo0
仗助、キョウヤ、ローザ、メルビン、ビビアン予約します


739 : ◆vV5.jnbCYw :2022/02/20(日) 20:57:11 vAYfRnzA0
投下します


740 : ここは裏の一丁目 名物は可能性の扉 ◆vV5.jnbCYw :2022/02/20(日) 20:57:52 vAYfRnzA0
バロン城から出てすぐの場所。
地図で言うとF-5の南。
残り1時間足らずで、この場所は禁止エリアになる。
しかし、ローザはこの時知る由も無かった。
彼女が渡っている木の橋は、放送前にビビアンの炎を受け、その後も遠い場所の戦火の巻き添えを食い、少しずつ脆くなっていたことを。


バキ、という音が下から聞こえた時は、もう遅かった
(しまった……!!)
元々早めていた足を、更に速く動かそうとするが、その足の付く場所は無い。


「きゃああああ!!!」
下でローザを待っているのは、青い青い海。
醜い化け物の姿になっている彼女を助ける者もおらず、下へ、下へ、下へ。
手足の長さや等身が異なるボトクの姿でも、歩きにはさして不都合が無かったが、全身をバランス良く使う泳ぎになると話が変わって来る。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


場所は変わり、ローザが落ちた場所から少し離れた【F-6】。
東方仗助と小野寺キョウヤの二人を乗せたバイクは、海沿いを疾走していた。
「まだっすかね例の場所(禁止エリア)は。」
高校1年生ながらも手慣れた様子でバイクを運転する仗助は、バイクの後ろで地図を広げたキョウヤに尋ねる。

「地図が正しいと海の上の橋が見えてくるはずだから、まだだな。」
「あ〜あ、このバイク、おっせえなあ。これじゃハイウェイ・スターにも勝てねえよ。」
仗助はかつてスタンドとやったバイクチェイスを思い出しながら、エンジンを踏み続ける。

「ん?あれは……」
仗助は海で藻掻いている異形が目に入り、慌ててバイクを停める。

「おい、東方……。」
「ゴチャゴチャ言ってる場合じゃねーっすよ!!」
目的を放り出して、異形を助けようとする仗助に一言申そうとするキョウヤを無視して、仗助は助けようとする。
海流に流され、溺れかけている怪物の姿は、どこか虹村慶兆の父を彷彿とさせる姿だった。
それ以前に、どんな姿であれ溺れている相手を見捨てるような人間を、あのリーゼントの不良は助けたくは無いはず。


「着衣水泳の訓練は積んでるのか?」
イマイチ論点の合わない指摘をするキョウヤに対して、彼の使った助け方は意外なものだった。

「ンなもん経験も必要もねーっす。ドラァ!!」
2人の位置からして、クローショットではあの場所に届かない。
だが仗助は地面に生えていた木から、一本の枝をへし折り、それを怪物が溺れている方に投げた。

「おい、聞こえるか?それに掴まってくれ!!」
話の要点が掴めないが、話は通じたようで海流に流されている怪物はどうにかその枝を掴んだ。
そこで仗助はクレイジー・ダイヤモンドのスタンドを木に使う。
人の傷のみならず、折れた木の枝も再生できるスタンド能力に沿って、海の方に投げられた枝は元の木の方向に戻っていく。
勿論、それを掴んでいる者も同じだ。


741 : ここは裏の一丁目 名物は可能性の扉 ◆vV5.jnbCYw :2022/02/20(日) 20:58:08 vAYfRnzA0

「なるほど。そんな使い方も出来るのか、流石だな。」

「誉めても何も出ねーっすよ。んおお?」
その時助けられた怪物が突然、セクシーなドレスを着た美女の姿になった。

「こ、これはアレっすかね?『私は呪いで怪物にされてた所を助けられました。心優しい若者よ、どうか私と結婚してください』って奴っすかね?」
「違うだろう。キスはしてないし。」

怪物が女性の姿になった、正確には戻った理由は単純にして明快。
姿を変える魔法をかけていた術者の死が理由だ。

「私……戻っている?」
ローザは仗助とキョウヤのやり取りから、自分にかけられた魔法が解けたのかと考える。
彼女の目には、緑色で長い爪の生えた歪な手ではなく、人間の手が入り込んできた。

「戻っているも何も、カワイイ姉ちゃんの姿をしてるっすよ。」
「そう……良かった。」
「何が起こっているのか、今一つ分からん。俺達に説明してくれないか?」


ローザは助けてもらった礼も兼ねて、ボトクやガノンドロフのことも教えようとした時だった。
仗助達が向かおうとしていた方向に、流れ星のようなものが降り注いだ。

「えええ?アレが禁止エリアのペナルティっすか?」
いつの間にか時刻は8時を過ぎている。
隕石を降らせるスタンドなど、杜王町で様々なスタンドを見てきて彼でさえ知らなかったので、そう思っても仕方がないだろう。
仗助が彼より未来の、とある国の刑務所にいれば考えも変わっていたかもしれないが、それはあくまでもしもの話でしかない。


「落ち着け。向こうで誰かが戦っているかもしれん。」
比較的落ち着いているキョウヤも内心は仗助と同じことを考えていた。
孤島の学校で様々な能力者を見た彼でさえ、隕石を落とす能力を持つ者には会ったことが無かった。


「あれはメテオよ。」
3人の中で唯一その力を目の当たりにしたことのあるローザが呟いた。

「良く分らないが、アンタの知り合いがいるってことで間違いないな。」
「そうよ。急ぎましょう!!」
「突っ走るっすよ。振り落とされんなよ!!

3人乗りは流石に狭かったが、そのまま禁止エリアの近くへ行く。
場所は殆んど【F-5】と【F-6】の境目。
それからしばらく西へと走った所でバイクを停め、そのままゆっくりと近づく。


742 : ここは裏の一丁目 名物は可能性の扉 ◆vV5.jnbCYw :2022/02/20(日) 20:58:29 vAYfRnzA0

「うわ……」
「ひでえな……。何があった?」

放送によれば、禁止エリアに入っても数十秒は死ぬことは無いらしい。
しかし、たとえ禁止エリアに入ることが即死で無いにしても、3人は近寄ることを躊躇ってしまう理由があった。
目の前には、地獄と表現しても大げさにならない光景が広がっていた。


隕石の魔法により、月のようにクレーターが出来た大地。
焼け焦げた大地の中でも、生えている草や木があるが、それらは決して生命の力強さを感じさせるものではない。
自然の色とはとても思えない極彩色の草が、異様なほど伸びていたり。
枯れ木のような姿になっている木が、葉もないのに真っ赤な花を付けていたり。
地面から木というより、生き物の触手のような形をした枝がとぐろを巻いていたり。
隕石の魔法と暴走した呪力のぶつかり合いは、戦場から少し離れた場所でさえ、悍ましい姿に変えていた。



「これが……『ここは禁止エリア』だってメッセージっすかね?」
「かもしれないな。断定は出来ないが。」
「ゴルベーザ?いたら返事して?ローザよ?」

何をどうしたらこのような世界が生まれるのか、想像もつかなかった。
まるで幻覚に寄せられるかのように、異様な光景の中にふらふらと歩いていく仗助。


「――禁止エリア内に滞在しているようだな。」
最初の会場と、6時間後の放送で2度聞いた低い声が首輪から鳴り響いた。


「うわわわわわ!!」
分かっていたことだが、それを告げられると焦ってしまう。
「東方、奥へ行きすぎだ。戻れ。」
キョウヤは呆れながら、ローザは心配そうにそれを見ていた。


「――禁止エリアからの脱出を確認した。」
その言葉を聞いて、安堵する仗助。

「まあ大体、ここからここまでが禁止エリアってことか。お前さんが思い切ったことをしてくれたおかげで良く分かった。」
キョウヤはなおも冷静に、ドッジボールのコート作りでもするかのように、木の枝で境界線を引く。


その時、北の方角から、二人組の姿が見えた。
仗助達3人はその出方を伺う。
その人影のどちらかがゴルベーザかと思いローザは期待に胸躍らせるも、その当ては外れた。
2人の人影の正体は、1人は老兵。もう一人は赤と白の大きな帽子をかぶったカゲの男。
しかし、それどころではないことに仗助は気づいた。


「ちょ、ひでえ怪我してるじゃねーっすか!!大丈夫っすか?」
人間ではない方は今一つ分からなかったが、老兵の方には身体のあちこちに怪我が見られた。
よく見れば、帽子の方の肩を貸してもらって歩いている。


「東方。敵かもしれんぞ。」

気さくな態度で近づこうとする仗助に対し、キョウヤはなおも警戒していた。
「いや、あの怪我は早く治すべきっしょ?」
「あの……ごめんなさい。あなた方の中でゴルベーザという男を見ていませんか?」

回復すべきかしまいか話し合っている仗助とキョウヤに対し、ローザは二人組に尋ねる。

「なんと……そこな女子(おなご)の知り合いでござるか?」
「はい。私の夫の兄でした。」
「すまんでござる……。拙者はお主の知り合いを助けられなかった……。」
メルビンは深々と頭を下げた。


「ちょ……救えなかったって、どういうことっすか!!」
話の文脈からして、ローザの知り合いのゴルベーザは老兵士が原因で死んだということだ。
だが、態度からして二人が悪人だとは思えない。


「ねえ、ここはアタイ達で話を整理しない?」
「ふむ。それがよさそうでござるな。」


743 : ここは裏の一丁目 名物は可能性の扉 ◆vV5.jnbCYw :2022/02/20(日) 20:58:47 vAYfRnzA0

メルビンとビビアンの提案で、5人は情報を整理することにした。
その間に、ゴルベーザとの戦いで負傷した二人を、仗助のスタンドとローザの白魔法で治しながら。


「まずは私から話してもらうことにするわね。」
メルビンにケアルをかけながら、最初にローザがあったことを話した。

デパートでボトクという怪物に出会い、その姿を奪われてしまったこと。
続けて出会ったガノンドロフに襲撃を受けたこと。
どうにかしてこの場所へ行こうとしたが、橋が崩れて海へ転落した所を、仗助達に助けられたこと。

「おのれ……やはりボトクの奴、ここでも悪事をなしておるのか……。」
レブレサックで倒した外道の名を聞き、メルビンは怒りを露わにする。
「でもさ、ローザが元に戻れたってことは、そのボトクは誰かに倒されたんじゃない?」
ビビアンがそう考えるが、メルビンの表情は固いままだった。
「奴のことだ。ローザ殿の姿を捨て、別の参加者に化けたのかもしれぬ。」


「では次はアタイの番ね。」
仗助のクレイジー・ダイヤモンドで粗方の傷が癒えると、今度はビビアンが説明し始めた。


ここより西で、伊東守という少年に出会い、鞄にマリオの絵を描いてもらったまま別れたこと。

「マリオだってえ?」
ビビアンの話の途中で、仗助は驚いた顔をしていた。
よく見ればビビアンの鞄にはマリオの絵が描いてあったので、彼と仗助達を襲ったヒゲ男が知り合いだという事実は、嘘では無いということも分かった。
「知ってるの?」

「ああ。」
キョウヤは、自分と仗助が放送前にゴロツキ駅で襲われたことを話した。
「ウソ……。」
「ビビアン殿!!」


メルビンは放送前の悲劇の再来になることを恐れて叫ぶ。
「……いえ、続けていいわ。何があったの?」
ビビアンは話の途中になってしまったが仗助達に出会ったことを聞かせて欲しいと言った。
仗助やキョウヤには知る由も無いが、彼もまた早季と共に戦ったことで、彼女の精神の強さに影響されていた。


「じゃあ、今度は俺と東方に起こったことを話そう。」
今度は長らく口を開いていなかった小野寺キョウヤが説明した。
キョウヤは戦いが始まってすぐにバツガルフというロボットのような風貌の男に襲われたことを話した。

「そいつは、アタイらの敵ね。」
ビビアンは怪訝な表情を浮かべるが、彼としてはマリオの話を聞きたかった。

その後は仗助に出会ったのち、列車に乗りゴロツキ駅へ向かったが、その後すぐにマリオに襲われたことを話した。

「なあ、もう一度聞くが、マリオって奴はいきなり俺達を襲う奴だったか?」
「そんなことはないわ!マリオは、いじめられていたアタイを助けてくれたのよ!!」
「誰かに吹き込まれたんじゃないかしら?『東方仗助と小野寺キョウヤは悪人だ』とか」

ローザはマリオが二人を襲った理由を考えた。

「……だからと言って、いきなり攻撃したりはしないはずよ。」
ビビアンはマリオの優しさを強調しようとする。

「それはアンタがマリオのことを贔屓目で見ているからじゃないのか?」
キョウヤがそのことをビビアンに聞くが、なおも否定するビビアン。
「キョウヤ殿!それは言い過ぎではござらんか?」
「ああ……すまなかった。」

メルビンの注意を受け、自分の失言を謝罪するキョウヤ。


744 : ここは裏の一丁目 名物は可能性の扉 ◆vV5.jnbCYw :2022/02/20(日) 20:59:08 vAYfRnzA0

「なあ、一つ聞くが、アンタが知ってるマリオは、黒い雷を落としてきたり、地震を起こしてきたりしたっすか?」
今度は仗助がビビアンにその変化について尋ねた。

「黒い雷!?」
どうやら、ビンゴだったようだ。

「ウソよ……それって……まるで……。」
「心当たりがあるでござるか?」

ビビアンはその技が、かつて死闘を繰り広げたカゲの女王の技だったということを話した。

「カゲの女王たあ、そいつぁまた恐ろしいバケモンと戦ったんっすねえ。」
仗助はスタンドを操る犯罪者と戦ったことはあるが、彼らはあくまで人間だった。
だが彼は、吸血鬼と戦った承太郎のように、魔物と戦い倒したという。
「でも、アイツはアタイとマリオと仲間たちで倒した。ここにいるのはおかしいわよ。」
「オルゴ・デミーラだってかつて拙者らが倒したでござるよ。」
「たとえその女王が生きていたとしても、なぜマリオがその力を使っている訳?」

ローザがその疑問を投げかける。
ビビアンがその言葉を返そうとするその時だった。


――――どうするの?マリオ!?もちろんしもべに何かならないよね?
――――なかなか、ききわけの、いいヤツじゃのう


その時、ビビアンの脳裏に、あり得たかもしれない過去がよぎった。
同時に、脳天から雷を落とされたかのような激痛が走った。
「うう……頭が痛い……。」
「大丈夫でござるか!ビビアン殿?済まなかった……。」
メルビンが彼を気遣う。
「頭痛じゃ俺のスタンドでは治せねえっす。すまねえ。」


しばらく他の4人はビビアンに気を遣う。
彼の頭痛が治まった後、再びメルビンが話を切り出した。
「ビビアン殿が嘘をついているとは思えん。
マリオ殿の異変は、ゴルベーザのように、呪われた武器を持たされたからかもしれぬ。」
「それが妥当な所か……あのハンマーに何かからくりがあったのかもしれんな。」
「この殺し合いの会場に誰かを操る者がいたんじゃないかしら?」

ローザは、ゼムスに操られて悪事を重ねていたカインやゴルベーザを思い出し、第三者が手ぐすねを引いている可能性を挙げる。

「マリオがそんな風になったのなら……絶対に助けないと……。」

結局の所マリオがなぜそのようになったのかは分からずじまいだったが、その後も情報の交換を行い、多くの知り合いを纏めることになった。


「こんな所だな。」
「最初の場所でアイツらに矢を撃った緑フードの人も入れていいんじゃないっすか?」
「マリオの件もある。どうなっているかは分からん。」

キョウヤがメモ帳に、先の放送で呼ばれなかった参加者の情報をまとめていく。
メルビンやビビアンは、ドラえもんや早季と情報交換できなかったことを少し惜しんだ。

味方:アルス、アイラ、シャーク・アイ、川尻早人、ヌ・ミキタカゾ・ンシ、矢安宮重清、クリスチーヌ、カイン、ヤン、エッジ、伊東守、のび太
不明:マリオ、柊ナナ、クッパ、リンク
危険:バツガルフ、吉良吉影、ルビカンテ、ユウカ、レンタロウ、ボトク


745 : ここは裏の一丁目 名物は可能性の扉 ◆vV5.jnbCYw :2022/02/20(日) 20:59:25 vAYfRnzA0

「22人か……大分情報が集まったでござるな。」

リストにマリオが『味方』ではなく『不明』の位置にあることがビビアンにとっては悲しい事だった。
それを感謝こそすれど、反対することは出来ない。
仗助達が気を遣ったからこそ『危険』ではなく『不明』の欄に入っている。


「マリオは何処へ行ったか覚えている?」
情報の交換が終わると、早速ビビアンは仗助達から聞き、マリオを追いかけようとする。

「う〜ん、ゴロツキ駅で襲われてから、逃げたっきりっすね。」
「それから追ってこなかったってことは、ここから北東の方へ向かった可能性が高いな。」
「じゃあ早速……。「おい、東方。」

仗助はバイクを使ってマリオを追いかけようとしたが、そこでキョウヤが呼び止めた。

「お前さん、俺達がここへ来た目的を忘れちゃいないか?」
「あっ、そういえば!!」
呆れながらも、キョウヤはザックからセシルの首輪を取り出す。
元々この場所に二人が来た理由は、首輪と禁止エリアの整合性だ。
「それは?」

ローザが彼が持っていた首輪に驚く。
「そういや、コイツはお前さんの旦那から貰った。既に死んでいたとはいえすまないことをした。」
「いえ……良いけど……。」
キョウヤは謝りながらも、その首輪を禁止エリアに投げ入れる。


何かが起こるかと5人は期待をしていたが、首輪は何事も無かったかのように大人しいままだ。

「おかしいわね……あの時は確かに動いたはずなのに。」
5人の中で唯一、首輪が爆発する瞬間を目の当たりにしたビビアンが呟く。
彼は確かにその目で見た。
自分達の決死の妨害により、禁止エリアでタイムオーバーとなったゴルベーザの首輪は、確かに爆発した。


だが、セシルの首輪は何の反応も示さない。
まるで何の変哲もない金属の輪を入れたかのようだ。
しばらく5人の中で沈黙が続くが、キョウヤが思い出したかのようにザックから本を取り出し、突然その中に書き始めた。
この世界のキョウヤの部屋にあった、文字が消えている本だ。


「お前さん、聞きたいことがあるんだ。それはどんな感じで動いた?」
『首輪が爆発した時の様子は、どんなものだった?』
仗助とキョウヤが寮でやった通り、メモ帳にしかなってない本を使って筆談で行う。
ビビアンはその本を受け取り、返事を書く。


746 : ここは裏の一丁目 名物は可能性の扉 ◆vV5.jnbCYw :2022/02/20(日) 21:00:06 vAYfRnzA0

「よく覚えているわ。」
『首より上が無くなっていた。文字通り』

それを聞くと、キョウヤは何かを閃いたかのような表情で、ビビアンから本を受け取り、新たに書き始めた。


『爆発が原因で死んだんじゃない』
「「「「!!!!」」」」

「どういうことでござるか?」
メルビンが内容をぼかしながらも、詳しいことを尋ねる。


『首より上が『無くなる』というのがおかしい。どれほど爆発が強くても、肉片ぐらいは残るはず。
『首より下』は無事だったんだな?』
『そこまで見てないけど、無くなってはなかった。』

確かに、首輪より上が肉片も残らないほど消し飛ぶ爆発で、首より下が無事なのはおかしい
「けれど、キョウヤ殿の主張にはおかしい話があるでござる。」
メルビンがキョウヤの主張に反駁した。
『最初の場所で、デミーラ自身が少女を爆殺した』
「それはコレの力じゃなくて、アイツが魔法を使ったのだと考えても良くないか?」


この場にいる誰もが知っての通り、最初の場所でイリアは首輪の爆発によって死んだ。
だが、考えてみれば『首輪の音と爆発の関係』があるという保証は何処にも無い。
デミーラが手をかざしたのは、首輪を作動させるためではなく、魔法を使ったという可能性も十分考えられる。
それはキョウヤ以外の4人も納得のいく話だった。


確かに一理ある話だ。
だがゴルベーザの死の原因は何なのかという疑問が残る。

次はローザが本に書き込む。

『ロストバブイル』
「月世界の巨人の力」
「何だソレは?」
「巨人とはまた、ジャ〇プの俺たちの前にたいそうな言葉が出てきたっすね〜、そいつがどう進撃するんすか?」

かつてローザ達がいた月の巨人の名を書いた。

『異次元に消す技を持つ』

「「「消す!?」」」
メルビンに関してはニフラムという例があったのでさほど驚きはしなかったが、仗助とキョウヤ、それにビビアンは驚きを隠せなかった。
月世界の巨人、ロストバブイルは敵を異次元へと送る技や異次元から呼び出した物体で敵を圧殺させる力を持っていた。
「そいつは能力の持ち主でござるな。」
「ブラックホールみたいなものっすか?」
「………。」

その話を聞いて、一理あるとキョウヤも思った。
首の骨を折られても、ガス爆発に巻き込まれても不死の能力で蘇ることが出来るが、姿を消されてしまえばどうなるかは分からない。


「ローザ殿はどうやってその力に対抗したでござるか?」
「白魔法を使えばよかった。全身を余すところなく消されでもしなければ、生き返ったわ。」
だが、この世界では蘇生魔法は軒並み封じられている。


747 : ここは裏の一丁目 名物は可能性の扉 ◆vV5.jnbCYw :2022/02/20(日) 21:00:42 vAYfRnzA0

「だとすると、お前さんの世界の月の力とやらが、向こうと関わっているかもしれんな」
キョウヤが本に続きを書き込む。

『ゼムスがデミーラのように復活しているかもしれないわね。』
ローザはかつてセシルの兄のゴルベーザを操り、青き星に侵略しようとしていた月の民のことを思い出した。

『ゼムスとはワシらの世界のデミーラのような者でござるか?』
『その通りよ』


情報は繋がっていく。
首輪は爆発をしたと見せかけて、何か別の力を使い、首より上を消すことで参加者の命を奪っていることが、5人の話で分かることになった。


まだ必要な情報は多くある。
禁止エリアにいることで、どういったからくりで消滅術、あるいは消滅魔法は作動するのか
また蘇生術が使えない中で、首輪からの攻撃をどうやって凌ぐか
そもそもどうすればこの世界から脱出できるのか。
だが、首輪の謎に関しては1つ進展があった。


「さて、これからどうすっかだな。全員でマリオとバツガルフの野郎を止めに行きたいところだが、俺のバイクは、5人も乗れねえぞ。」
「ワシらの飛空石のようなものでござるな。」
「アタイは絶対に行くわ。マリオが間違っていたことをしているなら、止めないといけない。」
「ごめんなさい。私も行かせて。彼を止めることがセシルのためにもなると思うし。」
「というと、北へ向かう連中は決まりだな。」
仗助は早速バイクに乗ることにする。


「ワシとしては若い者のみで行かせるのは心苦しいが、仕方あるまい。キョウヤ殿はどうするでござるか?」
「俺としてはマリオ以外にも探したい奴はいるし、もう一つ向かいたい場所がある。図書館だ。」

キョウヤの寮にあった本は、全て白紙になっていた。
図書館の本も同じなのか、はたまた字が書かれているのか、キョウヤとしてはそれが気になった。

「恐らく俺以外にも同じことを考えている参加者がいるはずだ。メルビンさんもついて来てくれるか?」
「うむ。しからば共に向かうでござる。アルス殿やアイラ殿もいるかもしれぬ。」


残ったメルビンとキョウヤの2人は、北の図書館へ向かうことになった。
「メルビンのジジイ!キョウヤを頼んだぜ!!」
「いかにもワシはジジイでござるが、そこらの若者には劣らぬでござるよ。」
「東方。アンタも気を付けろよ。」

早速後部にビビアンとローザを乗せた仗助は、北東へと進んでいく。
いつかまた、再会できると信じて。





【F-6とE-6の境目/一日目 午前】


【メルビン@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:HP ほぼ全快 
[装備]:勇気と幸運の剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜5(一部ノコタロウの物)
[思考・状況]
基本行動方針:魔王オルゴ・デミーラの打倒、ガノンドロフは今度会ったら絶対に倒す 
1.自分とノコタロウと早季の仲間を探し、守る
2.小野寺キョウヤと共に図書館へ向かう
2.ボトク、バツガルフ、クッパ、レンタロウ、ユウカ、吉良には警戒
3.マリオに不信感
※職業はゴッドハンドの、少なくともランク4以上です。
※ジョジョ、無能なナナ、FF4、ペーパーマリオの参戦者に関する情報を得ました。


【小野寺キョウヤ@無能なナナ】
[状態]:健康
[装備]:モイのバズーカ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス (残弾2/5)
[道具]:基本支給品(切符消費)、替えの砲弾×5 ランダム支給品(×0〜2 確認済) セシルの首輪 首輪に関するメモを書いた本@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:主催者が何を考えてるのか。少なくとも乗る気はない。
1.メルビンと共に図書館へ向かい、首輪や主催に関する更なる情報を得る
2.バツガルフ・マリオへの対策の考案。
3.知人の捜索。優先順位は佐々木=鶴見川>柊。
4.東方仗助は信用してもよさそうだ。
5.吉良吉影、柊、バツガルフに警戒。
※参戦時期は少なくとも犬飼ミチルの死亡を知った時期より後です。
※不老不死の再生速度が落ちています。少なくともすぐには治りません。
※死亡した場合一度死ぬと暫くは復活できません。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。
※ジョジョ4部、DQ7、FF4、ペーパーマリオの情報を得ました。


748 : ここは裏の一丁目 名物は可能性の扉 ◆vV5.jnbCYw :2022/02/20(日) 21:01:09 vAYfRnzA0

【F-6北東 /一日目 午前】


【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:ダメージ(小)ほぼ治療済み 覚悟 疲労(中)
[装備]:クローショット@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(切符消費)、ランダム支給品(×0〜1 確認済) 承太郎が盗んだバイク@ジョジョの奇妙な冒険(ガソリン消費 大) いくつかの食糧
[思考・状況]
基本行動方針:乗るつもりはない。主催を康一たちの分まで殴る
1.ローザ、ビビアンと共に北東へ向かい、マリオを探して止める
2.バツガルフ・マリオへの対策の考案。
3.仲間を探す。生き返ってる重ちー、一般人の早人を優先したい。
4.吉良吉影を探す。乗ってるかどうか関係なしにぶちのめす。
5.佐々木ユウカ、鶴見川レンタロウに警戒。
6.クローショットがちょっと楽しい。
※参戦時期は少なくとも最終決戦、億泰復活以降です。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。
※マリオはバツガルフに操られている(DIOの肉の芽を植え付けられた虹村家の父の様に)と思い込んでいます
※無能なナナ、FF4,DQ7、ペーパーマリオに関する参加者情報を得ました。





【ビビアン@ペーパーマリオRPG】
[状態]:軽傷 疲労(中)
[装備]:グリンガムのムチ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針 マリオと共にこの殺し合いの世界を脱出する。
1. マリオに会って、本当のことを知りたい
2.自身とメルビンの治療をどこかで行いたい

※本編クリア後の参戦です
※ザックには守の呪力で描かれた自分とマリオの絵があります
※無能なナナ、FF4,DQ7、ジョジョに関する参加者情報を得ました。
※マリオはカゲの女王に操られている、あるいはこの殺し合いにカゲの女王が関係していると考えています。


【ローザ・ファレル@Final Fantasy IV】
[状態]:HP ほぼ全快 MP:1/2 決意
[装備]:勇者の弓@ゼルダの伝説+矢30本 トワイライトプリンセス ふしぎなぼうし@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:東方仗助、ビビアンと共に北東へ向かい、マリオを止める。
1.仲間(カイン、エッジ、ヤン)を探す。
2.ガノンドロフ、ボトク、バツガルフ、ユウカ、レンタロウ、吉良に警戒
※参戦時期は本編終了後です。
※この殺し合いにゼムスが関わっていると考えています。
※ジョジョ、無能なナナ、DQ7、ペーパーマリオの参戦者に関する情報を得ました。


749 : ここは裏の一丁目 名物は可能性の扉 ◆vV5.jnbCYw :2022/02/20(日) 21:01:21 vAYfRnzA0
投下終了です


750 : ここは裏の一丁目 名物は可能性の扉 ◆vV5.jnbCYw :2022/02/20(日) 21:45:55 vAYfRnzA0
>>746
すいません。ロストバブイルではなく、プロトバブイルです


751 : ◆vV5.jnbCYw :2022/03/01(火) 18:50:05 z6YVrXAU0
鶴見川レンタロウ、意思持ち支給品枠で写真のおやじ予約します。


752 : ◆vV5.jnbCYw :2022/03/02(水) 00:42:18 m2CkowfY0
投下します


753 : スタンド使いとシリアルキラーは惹かれ合う ◆vV5.jnbCYw :2022/03/02(水) 00:44:01 m2CkowfY0
「一旦情報を整理しましょうか、写真のおじさん。」
「ふむ。おまえにしては良い考えだな。」

場所はF-8、山岸由花子の家の中。
ひょんなことから出会った鶴見川レンタロウと写真のおやじは、その中で情報交換をしていた。
本当は部屋の奥に入るはずだったが、どういう訳かその扉には南京錠が幾重にもかかっていた。
南京錠に書いてある英単語からして、暗証番号を知らずとも、高校生レベルの英文法を解ければ部屋に入れるようだ。
部屋に入ったらまた鍵のかかる仕組みで、閉じ込められたりする可能性もあったので、扉の前で話をすることにした。


レンタロウは早速、鞄から名簿カードの束を取り出し、床に並べた。
「おじさんも知っている名前があれば、言ってくださいね。」
「うむ。」


そしてレンタロウはカードをめくり、地面に並べながら情報の交換をしていく。
「佐々木ユウカ!?」
「なんじゃ?知っている者がおったのか?」
「昔俺のクラスで死んだ人がいたのですよ。」
「死人が出る学校など、恐ろしくて吐き気がするな……吉影がそんな学校に行かなかったことを幸運と喜ぶしかないが……。」

写真の男は顔をしかめながら、レンタロウの話を聞いていた。
逆にレンタロウは楽しそうな笑顔を浮かべ、ユウカの写真を眺めていた。
自分がクラスの混乱に紛れて同級生を殺そうとする前に、いち早く殺されてしまった彼女を、折角蘇ったのなら自分で殺してやろうという邪な笑みを浮かべながら。


続いてレンタロウの目に留まったのは、ピンクのツインテールの少女だ。
「コイツもおまえの知り合いか?」
「ええ。あくまで同級生というだけですが。」

ある日突然自分の学校に転校してきた少女、柊ナナ。
彼女は『人の考えが読める能力を持っている』と虫も殺さぬ笑顔で言っていた。
レンタロウはどこか裏表がありそうな彼女を、殺そうと考えていた。
もっとも、殺す場所が学校かこの会場か変わったぐらいなので、いたとしても問題は無いと思っていた。


「次はおじさんが知り合いのことを教えてください。」
「うむ。先も教えた通りだ。この東方仗助と、放送で呼ばれたが広瀬康一というガキは、わしの息子の命を狙っておる。
ついでにこのミキタカという男も、せっかくわしが新しい能力を授けてやったというのに、あろうことか仗助たちの味方になりおった。」

(能力を授けた?)
写真の男の言葉に、首をかしげるレンタロウ。
彼の「幽体離脱の能力」は他者の力によって承ったものではない。
一体どのような力を持てば、無能力者を能力者に出来るのか。
その話も気になったが、それよりも聞かなければいけないことがある。


754 : スタンド使いとシリアルキラーは惹かれ合う ◆vV5.jnbCYw :2022/03/02(水) 00:44:18 m2CkowfY0
「それは分かりました。ですがあなたの息子のことを教えてくれませんか?」
「残念だがそれは出来ぬ話だ。まだわしはおまえのことを信用しているわけでは無いからな。」

これ以上問い詰めても返してくれないと考え、はあ、とレンタロウはため息をついた。
その時、死者の名と禁止エリアを告げられる放送が響いた。
レンタロウとしては、殺された困る参加者などこの戦いに呼ばれていないし、むしろ禁止エリアの方が気になるぐらいだった。
死者のことに敢えて言うならば、自らの手で殺してやろうと思っていた犬飼ミチルの名前が呼ばれたくらいだ。


しかし、吉良吉廣は別であった。

(13人んんんんんンンンン〜〜〜〜!!?いくら何でも多過ぎないか!!
全参加者の4分の1だぞ!?これほどまでに人殺しを好む者が多い場所など、どうかしているッ!!)
写真の中に居ながらも、男は冷や汗垂らしてうろたえる。
写真が汗を流すのはどういうからくりかは分からないが。


(奴等はわしのかわいい吉影をこのような不浄の場所に送り込んだ……それだけで憎くて仕方がない!!)
確かに彼らの故郷、杜王町も行方不明者が多い町だった。
だが、この世界はそれどころではない。
吉影は植物のような平穏を望み、争いをとにかく嫌うせいかくの持ち主だ。
ここはそんな息子とは予想していた以上に合わない場所だと改めて分かった。


「どうかしましたか?」
レンタロウは地図に禁止エリアをメモしながら、何食わぬ顔で写真のおやじの顔を覗き込む。
「は、早く息子に会いに行くのだ!!こんな狂った世界にいては、どうなるか分かったものではない!!」
「落ち着いてくださいよ。どこにいるのかも分からないじゃないですか。それなら二手に分かれて探した方がいいんじゃないですか?」
「い……いや、お前がわしの息子に手を出さないという保証はどこにもない!!共に行かせてもらうぞ!!」


そう言ったレンタロウとしても、写真の男には好き勝手に動いて欲しくはなかった。
勝手に移動されれば、知らず知らずのうちに自らの悪評を広められるという可能性も無いわけではないからだ。
写真の男に言われた通り、山岸由花子の家を出て南西へ向かう。


「おい……どこへ向かおうとしているのだ?」
写真のおやじはレンタロウの進行方向に疑問を抱いた。

「見て分からないのですか?ここから西へ行ったバロン城ですよ。」
「ま、待て!違う!!そっちへ行ってはならん!!」
「何処へ行くかぐらい、好きに決めさせてください。」


755 : スタンド使いとシリアルキラーは惹かれ合う ◆vV5.jnbCYw :2022/03/02(水) 00:44:35 m2CkowfY0

彼の目に映っているのは、ここからでも見える白くて荘厳な城。
学校以外の大きな建物を長らく目の当たりにしてないレンタロウにとって、その城は惹かれる姿をしていた。
勿論、城へ行こうとしている目的は建物のデザインに魅入られたからではない。
あのような場所に行く者は、得てして自分をあの城に似つかわしく綺麗だと思い込んでいるはずだ。
その胸の内に、あの城には似つかわしくない汚らしさを秘めながら。
綺麗な城に集まる綺麗な者達を汚す。
それにあれほど大きい建物なら、自分の能力を使うのに適した死角になり得る場所もあるはずだ。
あの城は彼にとっては自分の欲求を満たすのに、最上のステージだと感じた。



「恐らくそっちの方向にわしの息子はおらん!!」
息子は間違っても城のような人々の目の届きやすい場所に行きたがるような性格ではない。
行くとするなら「トアル牧場」や「清浄寺」のような聞こえが穏やかそうな場所だ。


「じゃああなたの息子さんはどこにいるか分かるんですか?」
「分からんが……とにかく静かな場所を好む性格だ!そんな人が集まりそうな場所にはおらん!!」

武器は潤沢にあるし、3つあるバロン城をつなぐ橋のうち、1つが閉鎖されるから獲物の逃げ道も減る。

「まあまあ、そう大声を出さないでください。」
「やめろ!迂闊なことをするな!!わしの言うことを聞け!!」
写真の男が勝手に逃げたりしないように、ザックから出し、自分の制服の内ポケットにしまう。

「安心してください。あなたの息子さんには手を出しませんから。」
心にもないことを言いながら、レンタロウは目的地へと足を進める。
あの家に籠っていてもいいが、あまり人がいない場所にいれば、殺したい参加者が殺されてしまうかもしれない。

「ま、待つんだ!!おまえが逆に襲われないという保証はどこにある!!」
「あなたの息子さんを探している間は襲われることは無いというのですか?」


次なる獲物を求めて、鞘に仕舞ったナイフを片手で弄りながら、大股で歩く。
彼の手足に込められた力は強くなり、城にいる者をどう汚すか楽しみにしながら歩いた。

(コイツに吉影の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい……!激しい快楽など必要なかろうに……!!)
レンタロウの制服の中で写真のおやじは、歯ぎしりしながら彼を苦々しく思っていた。



【G-7 橋 朝】

【鶴見川レンタロウ(@無能なナナ】
[状態]健康
[装備]ダンシングダガー@FINAL FANTASY Ⅳ
[道具]基本支給品×2 オチェアーノの剣@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち、ゾンビキラー@ドラゴンクエストVII、石ころ帽子(エネルギー切れかけ)@ドラえもん、スパイ衛星@ドラえもん のび太の魔界大冒険 サイコ・バスター@新世界より 写真のおやじ@ジョジョの奇妙な冒険 不明支給品0〜1、美夜子の支給品0〜1、 
[思考・状況]
基本行動方針:参加者がキレイな内に"表現"する。
1.バロン城へ向かい、新たな獲物を見つける。
2.吉良吉影は是非とも殺してみたいが、積極的に探すつもりはない。
3.急かす写真のおやじに苛立ち
4.サイコ・バスターに興味。ナイフで切り刻むのも良いが、病気で苦しむ姿も悪くないかも
5.あの二人(仗助、キョウヤは割とどうでもいい)
6.写真のおやじは自分の目的のために利用するつもりだが、邪魔になるなら捨てる。
7.柊ナナや佐々木ユウカなど、かつてのクラスメイトの女子も殺したい

※少なくともアニメ12話で犯行をキョウヤに明かされる前からの参戦です。
※肉体に瞬時に戻ることができますが、その場合所持品はその場に放置されます。
※写真のおやじから東方仗助、広瀬康一、ヌ・ミキタカゾ・ンシの話を聞きました。


756 : スタンド使いとシリアルキラーは惹かれ合う ◆vV5.jnbCYw :2022/03/02(水) 00:44:46 m2CkowfY0
投下終了です。


757 : 名無しさん :2022/03/03(木) 06:36:36 3/9yTX2A0
乙です
吉廣の親心からの焦燥がグダグダ以外の何物でもないw
反面レンタロウの思考がまさに純度の高いシリアルキラーぷりで寒気がしました
コンビがどうなるにしても末路が面白そうです


758 : ◆vV5.jnbCYw :2022/03/03(木) 21:01:38 5VVNvpmE0
感想ありがとうございます。
今回は短かった割に二人のやり取りを書くのに時間がかかったので、そう仰って下さるとうれしいです。

マリオ、野比のび太、朝比奈覚、ダルボス予約します。


759 : 名無しさん :2022/03/04(金) 19:08:17 Cusyr6pk0
すみません、レンタロウの話でちょっと気になったことがあったので指摘します
写真のおやじが知り合いの名前をレンタロウに伝える際、放送前なのに康一が放送で呼ばれたことに言及してます


760 : ◆vV5.jnbCYw :2022/03/04(金) 22:13:53 feSm8Quk0
ご指摘ありがとうございます。

訂正前
「うむ。先も教えた通りだ。この東方仗助と、放送で呼ばれたが広瀬康一というガキは、わしの息子の命を狙っておる。

訂正後
「うむ。先も教えた通りだ。この東方仗助と、広瀬康一というガキは、わしの息子の命を狙っておる。

wiki編集の際にも変更しておきます。


761 : ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:12:26 9Bxkftno0
投下します


762 : みらいのないかいぶつ ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:12:53 9Bxkftno0
ザクザクと草原を歩く音のみが響く。
それまでの穏やかな雰囲気とは異なり、ひどく殺伐とした空気が覚たち3人の周りにまとわりついていた。
3人共こういった場は好きなわけでは無いが、何か言葉を紡ぐ気にもならなかった。
何か言葉を発せば最後、辛うじて保っているこのつながりが一気に壊れてしまう恐ろしさがあったからだ。
ただ、行く宛も無いまま黙って歩くだけ。
いつ殺し合いに乗っている者に襲われるか分からない以上、そうするのが最適解と言えば最適解だ。
だからといって、その最適解とやらが必ずしも精神上よろしいわけではない。
むしろ、恐怖やストレスを増幅させることになった。


神栖駅から南にしばらく歩くと、荒れ地が広がっていた。
地面は草一本生えない焦土と化しており、倒れていない木は一本もない。
そして爆発でも起こったのか、大きなクレーターが1つ出来ている。
その場所は、数時間前マリベルが放ったビッグバンと鳴動封魔によって作られたものだとは分からなったが、戦いの場だったとはすぐに分かった。
既に緊張していた空気が、一層重くなる。


「ノビタ……サトル……。」
十数分ほど続いていたが、ダルボスに破られた。
「心配するな。」
それに対して覚が短くだが返事をした。
「火が消えているし、煙も出ていない。ここで戦いが起こったのはずっと前だ。」
いち早くダルボスが何を言いたかったのか察し、敵襲の心配はいらないと指摘した。
だが、覚が心配したのはそれだけではない。
戦いが、しかも辺り一面が草一本生えない荒れ地になるほどの戦いが起こったということは、ここに死者がいるということだ。
それが、のび太の友達だったら?


本当ならば生存者の確認のために大声を出したいが、そんなことをするのは自殺行為でしかない。
それから3人は荒れ果てた森林に入り、辺りを見回しながら歩いたが、死者も生者も見つかりはしなかった。
ここで戦った者は、全て地割れに飲み込まれたのだから、犬でも連れていない限りは見つけることは不可能なのだが。


はぁ、と朝比奈覚は小さくため息をついた。
そのため息は、自分のみならず子供の安全を見守らなければならないことへの気疲れか、はたまたのび太の友達の死体が見つからなかったことへの安堵か。

「のび太、疲れてないか?」
「大丈夫だよ。早くドラえもんや美夜子さんを探さないと。」

神栖駅を出発してから、2,30分ほど経過していた。
小学5年生、しかもその中でも体力が無い方ののび太がそれでも歩き続けられるのは、ひとえに友人が生きていることを信じ、絶対に助けたいという意思があったからだ。


763 : みらいのないかいぶつ ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:13:08 9Bxkftno0

(もし、のび太が友達の死体を見つけてしまったら?)
何度目か覚の頭に、いつ起こるか分からない、しかしいつかは起こりそうな仮定が浮かび上がった。

(もし、のび太が真実を知ってしまえば?)
暴走して、今腰に差している銃を乱射することだって起こりかねない。
覚はニセミノシロモドキから学んだことだが、呪力が生まれる前は、子供が銃を乱射してする事件が問題になる国もあったことを知っている。
だが、それでも彼は銃を奪おうとはしなかった。
それはのび太からの信頼を無下に扱う行為だと考えていたから。


(早季……俺はどうすればいい?)
答えなど返ってこないし、考えた所でどうなるわけでもないことは分かり切っていても、こうした状況だと考えてしまった。
ずっと同じ町で過ごし、共に町を救った幼馴染ならばどうするか考えてしまう。
彼女は14年前の搬球トーナメントの時から野狐丸率いる悪鬼に追い詰められた時まで、常にアイデアを出してくれた。


(こんなサマを奇狼丸に見られれば、どやされるだろうな……。『泣き言は墓に入ってからウジ虫に聞かせろ』だったか?)
かつての戦いで死に、そしてこの戦いでも死んだバケネズミの戦友のことを思い返す。
バケネズミの将軍の彼ならば、こんな行き当たりばったりなことをせずに、先頭に立って指揮を執ってくれるはずだ。


その時、3人の目の前に赤い点が入り込んできた。
彼らの中で一番視力が優れている覚が、その姿を目の当たりにする。
その姿は見た目も体格も普通な成人男性だった。
だが、その男に対して妙な胸騒ぎを覚えた覚は、叫んだ。


「逃げろ!!」
言うが早いか、目の前の男はハンマーを取り出す。
まだ距離は離れており、武器のリーチからして攻撃は届かない。
しかし、闇に落ちたマリオはそれを地面にたたきつけた。


ズウウウンと重たい衝撃が、3人を飲み込もうとする。
「くそっ!!」
ハンマーが地面を殴った瞬間、いち早く覚は呪力でのび太を上空へと逃がした。
その動きは、神栖66町の呪力の最たる使い手、鏑木肆星が地割れから町民を守った瞬間に酷似していた。
しかし、それを行った覚は地震攻撃から逃げることは出来ない。
立つことが出来ず、地面に背中を付けることになった。
そして呪力もバランスが崩れたことで、のび太を浮かせることが出来なくなってしまう。


「危ねえ!!」
ダルボスが慌ててのび太をキャッチする。
岩と見紛うくらいの巨体と、相撲で培った体幹のおかげで、彼も転ばずに済んだ。

だが、安心するわけにはいかない。
のび太が礼を言う暇もなく、獲物を見つけたマリオは加速し、ハンマーを振りかざす。
そして、殺すならば断然、弱い方だ。
先程までかなり距離が離れていたはずのマリオは、もう距離を詰めてきた。
ハンマーを振り回し、ダルボスに抱えられたのび太を叩き殺そうとする。


764 : みらいのないかいぶつ ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:13:28 9Bxkftno0

「危ない!!」
しかし、覚は咄嗟に呪力で見えない壁を作り出し、マリオを弾き飛ばした。
堕ちた勇者は、ゴロゴロと地面を転がって行く。
動きが止まった瞬間、彼は地面に尻を付けたままハンマーを持ってない方の手を掲げた。
何をしたのかと疑問に思うと、突然黒い雷が覚に落ちた。


「ぐあっ……!!」
幸いなことに、それは本物の雷とは異なる。
電気特有の熱さや痺れこそあるが、一撃で人を消し炭にすることは出来ない。
だが、それでも呪力以外はありふれた成人男性と変わらない覚にとって、決して小さくはないダメージだった。

「うわああああああ!!!」
地面に崩れ落ちた覚と共に、のび太は恐怖の声を喉が保つ限り上げる。
普通の子供にとって、雷は恐ろしいものだ。
安全な場所にいてさえそう感じるが、間近で聞こえてしまったらその恐怖は比べ物にならない。
勿論生身の人間など一瞬で消し炭にしてしまう数千万ボルトの雷には遠く及ばないが、迫力はそれと何ら変わりはない。


「大丈夫だ……。落ち着いて自分の身を守ることだけ考えろ!!」
その声は震えていた。その会話だけで、覚が大丈夫では無いことがのび太にも伝わった。
だが、すぐに立ち上がったマリオはハンマーを振りかざして、崩れ落ちた覚に襲ってくる。
その容赦のない攻撃をする堕ちたヒーローは、神栖66町を襲った悪鬼のようにも見えた。


「そうはさせねえぞ!赤ヒゲ野郎!!」
(地震に雷を使うヒゲ親父ってか?……次は火事でも仕掛けてくるのかよ!!)
しかし、ダルボスの拳がその間に割って入る。
マリオのハンマーが、岩のように固いゴロンの拳に止められる。
(くっ……。)
ブロックを容易に砕く殴打を受け、ダルボスは痛みに顔をしかめる。

「オラァ!!」
だが、痛みも無視して力一杯持ち主ごとハンマーを殴り飛ばす。


岩壁をも砕くゴロンの族長の拳を受け、マリオは再び数メートル吹き飛ばされる。
しかし、油断は出来ない。
近付かれればハンマー、遠ざかれば雷の餌食になる可能性があるからだ。


マリオは猫のように上空で身を捩り、ひらりと着地する。
両脚を地面に付けて最高得点を決めた体操選手のように着地をするとすぐに、ハンマーを抱えて身体を捻り始めた。


(僕が、僕が何とかしないと!!)

その時、のび太が銃の引き金を引いた。
彼は普段は気弱な小学生だが、ドラえもんや他の仲間たちと5度も死地を乗り越えてきた。
恐怖を押し殺し、覚を守るためにマリオ目掛けて発砲した。
殺すつもりで撃ったわけではない。
ハンマーを持った腕を撃つことで、少なくとも半分は脅威を減らすことが出来ると考えた。
一発は雷によって動揺していたのもあり、銃弾はマリオの横を素通りする。
だが、二発目はマリオの右腕を捕らえていた。
しかし、忘れるなかれ。
この殺し合いは、勇気だけでは生きることも守ることも出来ないことを。


のび太の放った銃弾がマリオの腹に吸い込まれる直前のこと。
マリオは思いっ切りハンマーを振り回した。


765 : みらいのないかいぶつ ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:13:50 9Bxkftno0
彼が女王のしもべになる前から得意としていた回転ハンマーは、単純なハンマーとしての殴打だけではなく、弾き飛ばしたものをぶつけることでダメージを与えることも出来る。
弾いて武器に出来るのは、敵でなく、物体も同じだ。
勿論、飛んでくる敵の攻撃を跳ね返すのは、卓越した反射神経とコントロールが必要だ。
だが、マリオはどちらもそれを備え、さらに女王の力により身体能力を強化されている。
彼はかつて、身体を飛ばしてくるサボテンの怪物、サンボの攻撃を跳ね返して逆にぶつけたこともあるぐらいだ。
流石に銃弾が届くタイミングを1発で見抜くのは無理だが、2発目は彼にとって可能な次元だ。
スーパーガードと回転ハンマーの合わせ技は、銃弾のベクトルを反転させた。


「うああああああっ!!」
絶叫。
その声から、起こってはいけないことが起こったことを、ダルボスも覚も知ってしまった。
弾かれた弾丸が、のび太の胸を貫いたのだ。


「ノビタ!!しっかりしろ!!」

ダルボスがそのつぶらな瞳を大きく見開いて、吹き飛ばされたのび太の方向に走って行く。
不幸中の幸いと言うべきか銃弾が突き抜けたのは右の胸だったため、即死はしていなかった。
だが、彼のTシャツは銃弾を受けた場所を中心に真っ赤に染まっている。
このままでは出血多量で死んでしまってもおかしくはない。
その時、ダルボスでさえも恐ろしく感じるほどの慟哭が響いた。


「くたばれ!!」
感電の痛みが時間の経過により、わずかながら和らいだ覚は、自分の怒りを呪力に変えて、マリオに打ち付けた。
今度はマリオを吹き飛ばす呪力ではない。
かつて彼が神栖66町に襲撃したバケネズミの大群のうちの一団を鏖殺した、爆発の呪力だ。
呪力により空気が爆ぜ、マリオが吹き飛ばされる。
この世界では彼らの呪力に対する愧死機構は取り払われ、攻撃抑制の機能も幾分か失っていることを彼は知らない。
だが、そんなことは気にせず、怒りのままに呪力をマリオ目掛けて撃った。


766 : みらいのないかいぶつ ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:14:07 9Bxkftno0

マリオは女王の力で強化されているとはいえ、覚の呪力も弱くなっている。
爆発の一発では、殺すことは出来なかった。

「よくも……人の姿をしたケダモノめ!!」
爆発、爆発、そしてまた爆発。
マリオを中心として度重なる小型の爆発が起こり、青いツナギも赤い服も焼け、ヒゲもチリチリになっている。
それでも、マリオは攻撃を止めるつもりはなかったし、覚も敵が動かなくなるまで攻撃を続けようとしていた。


(な……何だあれ……。)
豹変した覚の態度は、歴戦のゴロンの族長であったダルボスでさえも恐ろしく感じてしまうほどだった。
まるで彼自身が、殺し合いに乗った者かと勘違いしてしまうほどに。


(そうだ……今のうちに!!)
だが、何にせよ勝負が自分達の方に傾いたことは確かだった。
ダルボスは倒れているのび太の呼吸が荒いながらも途切れていないことに気付くと、すぐに治療をしようとする。
「ノビタ!!しっかりしろ!!死ぬな!!」
ダルボスがそう言っている間も、のび太の服はどんどん朱色に染まっていく。
彼は昔はゴロン族の族長として、カカリコ村のルダを始め、人間の子供との交流はあった。
だが、そういった子供たちの怪我の治療は、牧師のレナードがしていたこともあって、ダルボス自身は全くしたことは無かった。
何をどうすれば怪我をした子供を延命することが出来るのか、彼に知識はない。
ザックから支給品を出したが、目ぼしい治療道具や、傷を回復する薬などは無かった。

(くそ……ザックの中は一度確認したはずなのに、何やってんだよ!!)
これでは精々が水で傷口を洗うぐらいしか出来ない。
自分が持っているのはタイムふろしきだけだ。


(いや……待てよ)
彼は一つ閃いた。

(……コイツが時間を巻き戻せるなら、さっき受けたダメージも無かったことに出来るんじゃねえのか?)


これは元々、首輪解除のための切り札だった。
だが、情に厚い彼は子供を見捨てることなどとてもできなかった。
(早くしねえと……死んだらどうしようもねえ!!)
説明書に書いてあったが、死者の時間を巻き戻して生き返らせることは出来ないという。
善は急げということで、早速風呂敷を広げ、のび太の身体に覆いかぶせようとする。


767 : みらいのないかいぶつ ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:15:02 9Bxkftno0

「うおっ!!」
しかし、それは戦場のど真ん中で負傷兵の手術をするような行為だ。
簡単に許してくれるはずがない。
吹き飛ばされた覚が、ダルボスの背中にぶつかり、あやうくタイム風呂敷を落としてしまいそうになる。
覚が押していたように見えた戦いの最中では、マリオは何度も呪力による爆発攻撃を受けながらも、着地した瞬間に強く地面を蹴り、覚にダイビングヘッドバットを見舞った。
戦況は再びマリオの方に傾く。

「すまない。ダルボス。」
「気にするな。でも落ち着いてくれ。ノビタは死んじゃいねえ!!」


そのチャンスを逃さず、マリオはハンマーを地面に叩く。
「くそ……また地震か!!」
ジシーンアタックの攻撃は範囲が広い反面、威力そのものは直接の殴打や蹴撃、雷などには劣る。
だが、その攻撃はある意味で雷以上に厄介な技だった。


覚は先程頭突きを食らい、痛む下腹部を無視してのび太を再び呪力で浮かばせる。
今度はのび太は重傷を負っているので、一度目以上に慎重に浮かばせる――――訳にも行かなかった。
地震攻撃により、バランスを保つことが難しくなり、呪力のコントロールもそれ相応に難しくなる。


「のび太はオレの方に任せろ!!」
浮かんでいるのび太をそのままダルボスが掴む。
しかし、ダルボス目掛けて雷が落ちて来た。


「ぐあああああ!!」
激しい痺れと熱さがダルボスの背中を襲う。
いち早く地面にのび太を降ろしていたため、雷撃がのび太に伝わることは無かったが、ダルボスは崩れ落ちた。


「手に負えねえ……のび太の傷をタイムふろしきで治す時間さえ作れねえじゃねえか……」
ダルボスが最悪の状況下で、悪態をつく。
しかしそう言っている間でさえ、マリオは大きくジャンプして、隙が出来たダルボスに襲い掛かる。
戦いという物は時として仲間を守ろうとする考えが、足を引っ張ることになる。
事実、覚もダルボスも負傷したのび太を守ることを第一に考えていた。
しかし、マリオは違う。
かつての仲間や恋人を大切に想う気持ちは一切奪われ、破壊と殺戮に身を委ねている。
獲物が全て死ぬか、あるいはその身が朽ち果てるまで、一瞬たりとも攻撃の手を休めることはない。
疲れることもなく、躊躇うことも無く、過去も未来も無いがゆえに最高のコンディションで戦いを挑んでくるのが、今のマリオだ。


「させるか!!」
その時、眩しい閃光がマリオの両目を照らした。
覚が空間に鏡を作る呪力を用いて、太陽光を反射させたのだ。
そのような小細工で稼げる時間はほんの一瞬。


768 : みらいのないかいぶつ ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:15:26 9Bxkftno0
だが、ダルボスが守りの体勢に入るまでの時間ぐらいは稼げる。

しかし、マリオは視界を奪われた瞬間、ダルボスへの攻撃を諦め、代わりにジシーンアタックを行った。
例えカゲに飲まれたとしても、豊かな戦闘経験による最適解を瞬時に見出す力はその神経に刷り込まれている。
攻撃範囲の広い地震攻撃ならば、視界を奪われようと関係なく威力を発揮できる。

「のび太!!」
呪力で三度のび太を宙に浮かすことで、犠牲者が出ることは抑える。だが、いつまでこれが維持できるか分からない。
地震攻撃が来るたびに、覚自身はその攻撃を受け、ダルボスもまた同じだからだ。


視力が回復すると、ハンマーを振り上げ、覚を近くで浮いているのび太諸共叩き殺そうとする。

「うおおおおお!!!」
しかし、ダルボスの伸ばした腕が、二人を守る。

「く……いてえ……。」
ハンマーによる強烈な一撃が丸太のような腕を苛むが、ダルボスは腕を引こうとしない。
そのままもう片方の腕で、マリオを殴り飛ばそうとする。


マリオは姿勢を限界まで低くし、その一撃を躱した。

「な?」
普通の人間ならばあり得ないほど身体を縮めたことで、ダルボスも対応できなかった。
そしてその動作は回避の為だけのものではない。
ジャバラジャンプと呼ばれた技で天を突くほど高く跳び上がった。
そして最高到達点を過ぎると、隕石のごとき勢いでダルボス目掛けて急降下を始めた。


どうにかして呪力で、その軌道を逸らそうとする。
だが、マリオはジャンプ攻撃を加える直前、覚目掛けてハンマーを投げた。

「危ねえ!!」
後ろに下がり、投擲物から覚たちを庇うダルボス。
しかし、勢いの付いたハンマーを直接腹に受け、ダメージは決して小さくない。
そこへ、マリオの痛烈なジャバラジャンプの一撃が襲い来る。


「ぐああああっ!!」
「ダルボス!?」

そのままゴロゴロと地面を転がって行く。
彼はまだ死んではいない。
だが、死とは別の最悪の状況が訪れた。


「タイムふろしきがっ!!」
覚は叫んだ。
ひらひらと風に乗り、軽い風呂敷は飛んで行った。
あれが無ければ、のび太を負傷したまま治すことも、首輪を元の素材に戻すことも出来ない。


咄嗟に覚は呪力で手繰り寄せようとする。
だが、よく見ればマリオはジシーンアタックの動作に入っていた。
吹き飛ばされた風呂敷を取らないといけないが、これ以上負傷したのび太にダメージを与えるわけにも行かない。


769 : みらいのないかいぶつ ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:15:44 9Bxkftno0

「くそっ!!」
四度目になるが、風呂敷を諦めてのび太を優先して、地震攻撃から守る。
のび太はなおも目を覚まさないままだ。
呼吸は途切れていないが、いつ途切れるか分かったものではない。
下手に動かすと傷口が悪化し、本当に死んでしまうかもしれない。

そんな状況を知ってか知らずか、マリオは地震攻撃を受けて立てず、その状態でのび太を守っているため呪力も打てない覚を攻撃しようとする。


(くそ……ここまでか……。)

「サトル!ノビタ!!」
地面を転がされたはずのダルボスが、岩のような姿になりマリオ目掛けて転がって来た。
戦慣れしたゴロン族なら誰もが出来るほど単純な回転攻撃だが、単純ゆえに高い攻撃力と速さ、そして防御力を持つ。
マリオはすぐに跳び越えようとするが間に合わず、思いっきり吹き飛ばされた。


「無事だったか。」
「あたぼうよ。あれぐらいで死んでたまるか。それよりあんたらは早く逃げろ。」
「無茶言うな!!俺達2人でやっとの状態じゃないか!!」
「心配すんな!!俺もすぐに逃げる!それまでの時間を稼ぐだけだ!!」
覚としても薄々分かっていた。
このままだと、のび太を守ることも、マリオを倒すことも出来ないまま、段々と追い詰められて全滅の道しかないことを。
ダルボスを見捨てるのは忍びないが、全滅するよりかはマシだ。
それに、ダルボスが死ぬことが確定しているわけではない。
頼みの綱のタイムふろしきが無い今、一刻も早くこの戦場から出て、のび太の治療をしないといけない。

気が付くとマリオは起き上がり、再びハンマーを振りかざしている。


「あんたの相手はオレだ!!」
マリオの前に、横綱のような姿勢で立ちはだかるダルボス。
彼の得意分野は相撲。
すなわち、1対1での戦いが彼の本領という訳だ。


「ダルボス、死ぬなよ!!」
「勿論だ!!ノビタを頼む!!」

覚は呪力でのび太を抱えながら、戦場を去ろうとする。
そのすぐ近くを、黒い雷が襲った


(危ない!!ダルボスを相手にしながらこの距離まで……。)
一刻も早くマリオの目の届かない所に離れようと、痛む足に鞭打って走る。
せめてタイム風呂敷だけでも回収したかったが、結局どこにあるかは分からずじまいだった。


770 : みらいのないかいぶつ ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:16:09 9Bxkftno0

(くそ……ダルボス……すまない……)
後ろで何度か雷の音が響いている中、覚はのび太を呪力で浮かばせたまま走る。

「のび太……無事でいてくれよ……。」
少年の呼吸は先ほどよりも荒くなり、顔は真っ白になっていた。
今はただ、彼の無事のみを願った。


(これは……あの時と同じだな……。)
思えば彼は、何度も何度も仲間の無事を願っていた。
12歳の時に筑波山でバケネズミの大群に追われ、仲間とはぐれた時も。
14歳の時に行方不明になった守を探した時も。
26歳の時に廃墟となった東京で早季と別れた時も。


(くそ……俺は変われないままかよ!!くそおっ!!)
今の自分は、悪鬼に頸をへし折られた鏑木肆星を見捨てて、地下洞窟を走っていた時と何も変わっていない。
そんな自分が、悔しくて仕方が無かった。





ダルボスの瞼に、火花が散った。
顔面にハンマーを叩きこまれ、大きく転がって行く。
既に何度も雷を受け、ハンマーでの殴打や蹴撃を食らい、いつ死んでもおかしくないほどダルボスはボロボロになっていた。


「うおおおおっ!!」
相撲の要領で、マリオを捕まえようとする。
しかし持ち前の素早さで難なくダルボスを躱し、ハンマーの一撃を見舞う。
まだ覚たちが戦場を去ってから、30秒と少ししか経っていない。

(まだだ……テメエみたいな奴に負けるかよ!!)
ゴロン族は、自然と力を重んじる性格の持ち主だ。
だが、間違っても誰かを私利私欲のために傷付け、殺すために力を持とうとするのではない。
だからこそ、邪な力の使い方をするこの男が許せなかった。


度重なる火傷と打撲に苛まれる全身を叱咤して、ダルボスは立ち上がる。
相撲と同じで、土俵際に追い込まれたからが勝負だ。


「これぐらいか……やってみろよ!!」
啖呵を切る。
だが、マリオを倒す方法は全く見つからない。
それでも、覚たちが逃げ切るまで時間を稼がねば。


その時だった。
(しめた!!)
ダルボスの目に、向こうからやって来る列車が入った。
彼にとって列車とは、のび太から聞いただけでしかなく、詳しいことは知らない。
だが、線路の上に誘導して、マリオを列車にぶつけるということを考えた。


(本当ならこの手でコイツをとっちめたいが、こだわってる場合じゃねえ!!)
自分の力で倒さずに相手を嵌めるなど、自分の流儀に反する。
だが、覚と生きて戻ると言ってしまった以上は、それどころではない。
線路の上でマリオの波状攻撃から身を守りつつ、列車が近づく瞬間を待ちわびる。


(!?)
マリオは、列車の音が聞こえるとさっと身を引き、線路から降りた。
かつて最初の放送の前に、ゴルベーザとの戦いで、列車が邪魔になり敵を殺せないことがあった。
そのため、この会場での列車が時に厄介なギミックになることを学んでいた。


771 : みらいのないかいぶつ ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:17:10 9Bxkftno0

(し、しまった!!)
ダルボスも咄嗟に身を逸らし、列車にはねられること自体は避けられたが、即興で練った作戦はあっさり破綻してしまった。

移動する列車によって、二人はそれぞれ左右に分かれることになった。
しかし、マリオは列車が去るまでの間、ダルボスを倒す為の技の構えを取る。


列車が去った時、マリオはストレッチでもするかのように大きく伸びを始めた。
「余裕のつもりか……!?」
ダルボスの背筋に、ゾクリと寒気が走った。

(冗談じゃねえ……このオレが怯えている!?)
さらに高まったマリオの邪悪な気配は、彼でさえ竦んでしまうほどのものだった。

「怖がっていられるかよ!!」
ダルボスは震える拳で、マリオに一撃を見舞う。
だが、攻撃力と防御力が強化されたマリオにとって、岩をも砕く一撃でさえ襲るるに足るものではなかった。

「!?」
自分の拳に、岩でも殴ったかのような衝撃が襲い来る。
先刻マリオを殴り飛ばした時とは、比べ物にならない衝撃が返って来た。

(敵わねえ……敵う訳がねえ、こんなバケモノに……!!)



ダルボスが驚くのも他所に、そのままマリオはハンマーを振りかぶり、万全のタイミングで岩のようなゴロン族を吹き飛ばした。
ドォンと爆発したかのような轟音が空気を揺らす。
戦の渦から、ゴロンの族長ははじき出された。

それはまるで大砲から打ち出された弾丸のように吹き飛ぶ。
バキバキバキと、最初に3本の立ち木を冗談のようにあっさりと打ち倒す。
それでも弾丸と化したダルボスは止まらず、4本目の木の幹をぶち抜き、5本目の木にぶつかった所でようやく止まった。


「チ……チクショウ……。」
満身創痍のダルボスにとって、まずいのはこれだけではなかった。
マリオは吹き飛ばされた自分ではなく、覚たちの方に走って行った。


(ま……待ちやがれ……。)
だが、今度こそ立つことは出来なかった。
虫けらか赤子のように這いつくばることしかできない自分など、後で殺せば問題は無いということだった。

「サトル……ノビタ……!!」
彼は間違いなく逃げた二人に追いつき、殺すことを優先しようとしていた。
ダルボスはそれを追いかけようとするが、身体が動かない。
その時、木の上から何かが落ちて来た。


それは、戦場の中で吹き飛ばされてしまったタイムふろしきだった。


772 : みらいのないかいぶつ ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:17:27 9Bxkftno0

「へへ……最後の最後で、幸運に恵まれたみてえだな……。」
ニヤリとダルボスは笑みを浮かべた。

(これで……オレの傷を治せれば……。)


その時、ダルボスは思い始めた。
(違う……。)
例え万全の状態でも、あのバケモノには敵わない。
精々稼げる時間が僅かに伸びるくらいだ。


ならばこれをあの男にかぶせて、赤ん坊にするか?
どんな相手でも、生まれた直後なら簡単に無力化できる。
それも駄目だ。あの男を風呂敷で包めるなど無理な話だし、そもそも自分はダメージが大きすぎて動くことさえままならない。


(……………………!!)
ダルボスは閃いた。閃いてしまった。
あの男の凶刃から仲間を守るための、唯一残っている、最低最悪極まりない回答を。


(バケモノにはバケモノをぶつけてやりゃあいいんだ!!どっちみち、こうでもしなきゃアイツを止められねえ!!)

これが正しいかどうかは、ダルボスにも分からない。
むしろ、これは問題解決どころか、自分の首を絞め、問題をさらに悪化させてしまう正しい回答ではないとも思う節はあった。
だが、今最悪の状況ならば、少しでも可能性のある最悪を選ぶしかない。


「これで良かったんだよな。これで…………。」
ダルボスは頭から、タイムふろしきをかぶった。
影の結晶石に触れ、暴れていた時のことははっきりと覚えていないし、ドン・コローネに話してもはぐらかされるばかりで本当のことを教えてくれなかった。
それでも、周りのゴロンたちの態度から、自分が良からぬことをしていたことだけは分かった。


チクタクチクタクと、ふろしきには似合わない秒針音が響く。


773 : みらいのないかいぶつ ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:17:43 9Bxkftno0


これで良かったんだよな、これで………………。
敵わねえ…こんなバケモノに、敵う訳がねえ!!
ノビタ!!しっかりしろ!!
何だよこいつ、本当にニンゲンか?
ノビタ、すまねえ。あんたの仲間を助けられなかった。


あれ?オレ、何をしているんだっけ?
でも、このふろしきを取っちゃいけないんだよな?



チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク




オレに巻いたら、過去の自分に戻れるのか?
こんな所でウマイ岩が食えるなんて思わなかったぜ!!
サトル!大丈夫か!?ノビタ、あんたは頼れる奴だな!!
ノビタもサトルも、いい奴で良かったぜ。


あれ?ノビタ?サトル?誰のことだっけ?




チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク




あいつら何てことしやがるんだ!!よくもイリアを!!
イリアの記憶が戻って、良かったな!


イリア?死んだ?どういうことだ?記憶が戻って、今リンクと仲良くしているはずだぞ?




チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク



最後に、奴ラと戦うコツを教えてやる。見つかる前に、やれ!
長老たちは、忘れられた里とも呼んでいたゴロ


そもそも、イリアって誰だっけ?


チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク



うう、頭が痛い…………なんでこんなトコに?



ごめんな、みんな。



チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク




ダルボスとは似ても似つかぬ紅蓮の巨人の咆哮が、辺りに響き渡った。


774 : みらいのないかいぶつ ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:18:03 9Bxkftno0


【C-7/一日目 草原 午前】

【野比のび太@ドラえもん のび太の魔界大冒険】

[状態]:気絶 ダメージ(大) 出血多量  情緒不安定
[装備]:ミスタの拳銃(残弾3)@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ダルボス、覚と共に脱出する
0.…………。
1. 仲間(ドラえもん、美夜子、満月博士)を探したい
2. デマオン、スクィーラ、ガノンドロフには警戒
※参戦時期は本編終了後です
※この世界をもしもボックスで移った、魔法の世界だと思ってます。
※主催者はもしもボックスのような力を持っていると考えています。
※放送は主催が危機感を煽るために嘘だと考えています。
※出血多量で危険な状態です。治療がされない場合は時間経過で失血死します。


【朝比奈覚@新世界より】
[状態]:ダメージ(中) 早季への疑問
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、北風のテーブルかけ(使用回数残り17/20)@ドラえもん のび太の魔界大冒険 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探し、脱出する
1. のび太を連れて、マリオから逃げる。
2. のび太の治療できる人を探す。のび太の仲間を探す。生きていても死んでいても。
3. 神栖66町の仲間(早季、守、真理亜が心配)
4. 仲間を探す過程で写真の男を見つけ、サイコ・バスターを奪い返す
5. デマオン、スクィーラ、ガノンドロフに警戒

※参戦時期は26歳編でスクィーラを捕獲し、神栖66町に帰る途中です。



【C-7とB-7の境目/一日目 森跡 午前】



【ダルボス@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:覚醒火炎獣マグドフレイモス化 首輪解除
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:破壊

※「元々の」参戦時期は少なくともイリアの記憶が戻った後です
※タイムふろしきでマグドフレイモスだった頃に戻りました。従って、これまでの記憶やリンクやイリアのことを覚えていません。
※影の結晶石まで再現したわけではないので、何もしなくてもいずれ魔力が切れて元の姿に戻ります。
※また、タイムふろしきの影響で、素材に戻った首輪が【C-7/森跡】に転がっています。何が素材なのかは不明です。



【マリオ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(大) FP消費(中) 腹部、背中に打撲 全身に火傷
[装備]:折れた大型スレッジハンマー@ジョジョの奇妙な冒険  ジシーンアタックのバッジ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品×2 ランダム支給品0〜3 
[思考・状況]
基本行動方針:殺す
1:のび太と覚を追いかけ、殺す。
2:その後動けなくなったダルボスも殺す
3:???

※カゲの女王との選択で「しもべになる」を選んだ直後です
※カミナリなど、カゲの女王の技もいくつか使えるかもしれません。


775 : みらいのないかいぶつ ◆vV5.jnbCYw :2022/03/05(土) 23:18:14 9Bxkftno0
投下終了です


776 : 名無しさん :2022/03/06(日) 16:12:14 rwP0zjXo0
感想です
冒頭の荒んだ空気も何のその、最大級の危機を相手に懸命に立ち向かう3人に
悲壮ながらも心打たれるものが
それぞれに力及ばずとも優しさと結束が感じられたのも良かったです
首輪解除の一手を禁断の業と同時に実行するとは……絶体絶命の窮地を存分に描写した話乙でした


777 : ◆vV5.jnbCYw :2022/03/29(火) 18:58:15 h1LhJvnQ0
ヤン、守、シャーク、カイン、早人、ミキタカ予約します


778 : ◆vV5.jnbCYw :2022/03/29(火) 19:02:36 h1LhJvnQ0
>>776
それと感想ありがとうございます。
前半の重苦しさと後半の危機感を描写したかった話なので、そう仰って下さるとうれしいです。


779 : ◆vV5.jnbCYw :2022/03/30(水) 16:56:06 P9lOwoV60
投下します。


780 : 集合、そして散会 ◆vV5.jnbCYw :2022/03/30(水) 16:56:36 P9lOwoV60

そこは草原というには、あまりにも荒れ果て過ぎていた。
力の魔王と、それに対抗する人間達の戦いは、辺り一面を焦土と変えてしまうには充分な結果を遺した。


「クソッ!!!」
戦いが完全に終わったことを認識した後、カイン・ハイウインドは精いっぱいの力で悪態をついた。
折角仲間と再会できたというのに、自分の判断ミスのせいで、その仲間を殺してしまった。
バロンの竜騎士団長として、辞任してもおかしくないほどの失態だ。


だからといって、その結果を悔やんでいる暇さえない。
森の中へと消えて行ったローザは、本当にローザだったのか確かめねばならない。
もしあのローザが、マーダーが化けた偽物ならば、更なる犠牲が出てもおかしくない。
急いで追いかけようとする。

走り始めると、身体の節々が痛んだ。
ガノンドロフとの戦いで受けた傷は、当然ながら癒えていない。
だからといって、ローザを偽物か否か確かめないわけにも行かない。
もしかすると、かつての自分のように何者かに操られている可能性だってある。


森に入って行った所で、カインはミキタカ、シャーク、早人の3人と再会できた。

「良かった……無事だったんですね。カインさん!」
その3人の中でも、ミキタカが嬉しそうな表情を浮かべる。
「ああ。お前たちも無事で何よりだ。」


「エッジはどうなった。」
対照的に浮かない顔を続けているシャークが問う。
「すまない。エッジが殺されただけじゃなく、あの赤髪の男を取り逃した。」

カインは3人の前で深く頭を下げた。

「でも、生きてて何よりだ。あの状況だと全滅していたかもしれない。」
川尻早人は傷を負いながらも、カインと無事に再会できたことだけは喜ぶ。

「それより聞かなければいけないことがある。ローザはどうなった?」
彼女が本物にせよ、偽物にせよ聞いておかねばならないことだ。


「ローザは偽物だった。僕が襲われそうになった所を、どうにかしてシャークさんとミキタカさんが助けてくれたけど……。」
嫌な予感が的中したことに、カインは顔を曇らせた。

「だが、あと少しの所で奴を逃がした。すまない。」
「そうか。謝る必要はない。」


シャークの謝罪に対し、お前は悪く無いと否定するカイン。
自分だって、仲間を犠牲にした挙句に、ガノンドロフを倒せなかった。
代わりに、4人の間に漂うのは虚無感だ。
いくら他人に悪く無いと言われても、自分への苛立ちや、やるべきことが出来なかった喪失感はいくらでも湧いてきた。


「ねえ……何か聞こえない?」
僅かな沈黙を破って、川尻早人が声を出した。
言われてみれば、森の木の葉が揺れる音に混ざって、離れた場所で何かが聞こえてくるのを感じた。
他の誰かが偽ローザに襲われているのではないかと考え、急いで4人は音の方向に向かう。


その瞬間、爆音が響いた。


781 : 集合、そして散会 ◆vV5.jnbCYw :2022/03/30(水) 16:56:58 P9lOwoV60



「コッチヲ見ロォ!!」
自動追尾の爆弾型スタンドは、ヤン達に迫って来る。

「そうは行くか!!」
ヤンは身を縮め、ロケットのような勢いでシアーハートアタックを蹴りつける。
その威力は、彼が付けていたガツーンジャンプのバッジによって、従来よりも増していた。


「………!!」
だが、痛みを被ったのはスタンドではなく、ヤンの足の方だった。
爆弾スタンドは遠くに吹き飛ばされるも、ダメージなど無かったかのように走り始める。
シアーハートアタックの恐ろしさはその防御力にある。
このスタンドは最強格のパワーを持つ、スタープラチナのラッシュでさえも砕けなかったほどだ。


今度は守が、呪力で石を飛ばし、爆弾スタンドにぶつける。
だが、効いている様子はない。

「コッチヲ見ロォ!!」
「打撃が効かない……ならば……!」

ヤンは炎の爪を高く掲げる。
彼がミドナから渡された武器は、道具として使うことで、魔法攻撃が出来る。
ファブールのモンクであった彼は格闘技を尊重するが、決してそれだけで全ての敵と戦おうとするほど短慮でもない。
現に彼がセシル達と冒険した時、物理攻撃が効かない敵とも戦ったことがある。
例えば、剣や拳と言った物理ダメージを、持ち前の柔らかさで吸収してしまうプリン系などが良い例だ。
そんな時彼は道具を使うなど、魔法が出来ない自分がどうすべきか代替案を考えていた。


魔法武器の爪の先から火球が飛び、爆弾スタンドに襲い掛かる。
「オイ……コッチヲ見ロト言ッテルンダゼ!!」
その時、爆弾スタンドはヤン達の方角ではなく、炎目掛けて飛んで行った。


カチ、とスイッチが作動する音がして、大爆発が起こる。
爆心地から少し離れていたのが不幸中の幸いだが、それでも飛び散った木片や砂塵がヤンを襲う。
「ヤンさん!」
爆音に紛れて、聞こえにくい中で守が声を上げる。


(だが……自爆さえしてしまえば………!?)
「今ノ爆発ハ人間ジャネェ〜」
煙に紛れて、そのままヤンの右手に向かってくる。
シアーハートアタックは爆発して終わりという訳ではない。
熱で感知できる獲物を狩り尽くすまで、自動で動き続ける。
守が呪力で動かそうとするが、それでも止まることなく、ヤンを狙ってくる。


(ボムのように、爆発して終わりという訳では無いのか!!)
ヤンの場合は、ファブールの山でマザーボムという敵と戦ったことがある。
その敵は自爆と共に大量のボムを生み出す力を持っていた。
だが、このシアーハートアタックというスタンドは、ヤンが戦ったモンスターとは完全に異なっていた。
自爆したと思いきや、それからも何事も無かったかのように、走り続けるボムなど、彼でさえ見たことが無かった。


782 : 集合、そして散会 ◆vV5.jnbCYw :2022/03/30(水) 16:57:19 P9lOwoV60


今度は、ヤンの炎の爪を中心にした至近距離での爆発。
「ぬわああああ!!」
吸血鬼の王を倒したスタンド使いでさえ重傷を負わせた爆発は、ファブール最強のモンク僧を吹き飛ばした。


「ヤンさん!!!そんな……。」
守は信じられない状況に慌てふためくも、爆弾スタンドは待ってくれない。
ヤンを吹き飛ばしたシアーハートアタックは、今度は守にも襲い掛かる。


その時、守の後ろから火の玉が飛んで来た。

「大丈夫ですか?」
いたのは、杖を持ち、黒い服と腰まで伸びた金髪が印象的な男。
魔導士の杖から放たれた火の玉は爆弾スタンドには当たらず、明後日の方向へ飛んで行った。
だが、それが功を奏した。


熱に反応して追いかけるシアーハートアタックは火の玉の方向に飛んでいく。
「ミキタカさん!そのまま遠くに火の玉を飛ばして!!あのスタンドは熱に反応して追いかけるみたいだ!!」
清浄寺でシアーハートアタックのスタンドを見たことがある早人は、吉良のスタンドがどこに向かって走って行くか察しがついていた。
あの時、発砲したばかりで発熱していた銃に目掛けて走って行ったから、熱に反応すると仮説を立てていた。


「ヤンじゃないか!しっかりしろ!!」
遅れてやってきたのは、銀仮面に槍を持った男に、海賊風の男、それに守より少し背が低いぐらいの少年だ。

「カイン殿……息災なようで何より……。」
後ろの景色が見えてしまいそうなほど傷を負ったヤンは、知り合いの姿を見て安堵の表情を浮かべる。
その4人は安心できる人物だと分かった守も、同じように表情筋を緩めた。


合流した6人は、そのままシアーハートアタックから逃れるように、森を出る。
負傷し、動けなくなったヤンはシャークとカインが抱えて行くことになった。


「あの……ヤンさんを治すことが出来る物を誰か持ってませんか?」
守は不安気に他の4人に尋ねる。
「すいません、薬があるのですが……。」
ミキタカは申し訳なさそうな口調で、ザックから薬入りのビンを出す。
「は、早く飲ませてあげてください!」
「それが……飲んでも治るかどうか分からないそうです。悪ければ、より傷が深くなるとか……。」


ミキタカが言う通り、紫の薬は傷が治るか悪化するか分からない。
そして、最もよい場合は傷が完全に治るが、最悪の場合は死の一歩手前までのダメージを受けるという。


「それでいい。飲ませてやれ。」
「良いんですか?カインさん。」
「ああ。彼の生命力を信じるしかない。」

自身が操られた時は敵として、ゴルベーザの洗脳が解けた時は味方として、共に戦ったカインだからこそヤンの生命力を信頼出来た。
ミキタカは申し訳なさげに、ヤンに薬を飲ませる。


ヤンは顔を顰めるが、それから僅かに呼吸が落ち着き、傷口が塞がった。
最悪の事態は免れたことを知り、他の4人も安堵する。
それから6人は、南の杜王駅を目指す。
本当は何人かで偽ローザやガノンドロフを追いかけたかった。
そんな時に彼らとは逆方向に向かうのは悪手だが、追いかけてもこの状況ならば返り討ちにされかねない。


783 : 集合、そして散会 ◆vV5.jnbCYw :2022/03/30(水) 16:57:44 P9lOwoV60

「ここは……。」
杜王駅の周辺は、無事な建物の方が少なかった。
誰がやったかは誰も分からない。
分かったのは、既に戦いは激化しているということだけだった。


「この建物は比較的壊れていません。ここで休憩しましょう。」
ミキタカが指した方向に6人は集まる。
ひとまずカインはヤンを降ろし、シャークが応急手当てをする。
この中で回復魔法を使えるのは彼だけだが、僧侶や賢者と違い、回復魔法ならばお任せあれという訳ではない。
ましてや、回復魔法が制限されている中で、彼の魔法も気休めにしかならない。


「こうして6人集まったのなら、情報の交換をしませんか?」
その中で話を切り出したのは、川尻早人だった。
一瞬見たあのスタンドは、吉良吉影のものに間違いない。
だから一刻も早く、彼の危険性を伝えねばと考えていた。
まず早人は、吉良吉影と自分の関係について話した。
実の父を殺し、その父に姿を変えて彼の家にやってきた殺人鬼のだということを。
東方仗助やその仲間たちと共に追い詰められ、最後は救急車に轢き殺されたが、なぜか生きてこの場にいたということも。


「死んだ人間とは……あの魔王がやりそうなことはあるな。」
唯一オルゴ・デミーラと面識があったシャーク・アイが呟いた。
カインだけはバブイルの巨人で戦ったルビカンテが参加していることから、さして驚きはしなかった。
だが、それ以外のメンバーは死者が蘇ってこの殺し合いにいたということに驚いた。
また、その際にミキタカと早人が同郷の者だということも分かった。


次いでカインが山奥の塔で起こったことを話した。
スクィーラというネズミは何を考えているか分からないが、殺し合いの優勝を目指している可能性が高いことも。
ただし、塔の渦巻から、謎の場所へ行けた話は伏せておいた。
既にあの渦は消えてしまっている以上、話してもどうにもならないし、不確定な会場脱出の可能性を迂闊に仄めかせてパニックになるのを避けたかったからだ。



「済まぬ、早人殿。私が早くあの男を捕らえておけば良かった。そうしていればエッジ殿だって死なずに済んだかもしれぬ。」
ダメージが大きいため、地面に蹲っているヤンが、早人に詫びの言葉をかける。
彼としても、最初は挙動不審な吉良を疑っていたが、清浄寺に何も証拠が無かったから、警戒心が薄れていた。

「いや、それは俺の責任だ。あの寺に何か奴が危険だというメッセージでも書いておけば良かった。」
今度はシャークが申し訳なさそうな言葉をかける。

「いいえ、僕が悪いんです。僕の失敗で、あの男を助けてしまい、挙句ヤンさんを……。」
次に謝罪の言葉を口にしたのは伊東守だ。
「下らん。」
しかし、その言葉をカインが一蹴した。


784 : 集合、そして散会 ◆vV5.jnbCYw :2022/03/30(水) 16:58:02 P9lOwoV60

「みんなで謝罪大会でも開くつもりか?やめろ。不愉快だ。」
カインは舌打ち交じりに、そのムードを露骨に嫌悪する。

「カインさん、その言い方は……。」
ミキタカが諫めようとするが、カインは言葉を続ける。


「俺達がやるべきことは、自分が悪い自分が悪いと主張し合う事か?」
そう言いながら彼が持ってきたのは、空き家のクローゼットから取って来た服。
着るにしては凡そ使えそうにない布切れに等しいぼろだが、包帯としては使えそうだ。
カイン自身も、自分がゴルベーザに操られた時は、その洗脳が解けた時仲間の前で謝罪した。
だが、今は違う。
判断を重ね、その上でなるべくして、このような悪い結果が起こってしまった以上は、誰にも責任はない。


そう言いながら槍で布を切り裂き、包帯代わりにする。
彼自身もガノンドロフとの戦いで傷を負っているが、シャークの回復魔法に頼るわけにも行かない。





「これで、ひとまずは終了だ。」
「かたじけない。カイン殿。」

ヤンの一通りの処置が終わると、今度はカインが自分の手当てを行う。
それが終わると、ついでとばかりに転んで膝を擦りむいた早人の傷も手当てした。
魔法が使えぬ竜騎士である彼にとって、戦いで負った傷の手当てなどお手の物。
いつ白魔導士による援助が来るか分からない戦火の中では、魔法に頼らない治療法を覚えておかねばならない。
彼が隊長を務める竜騎士隊の中では、この程度の応急手当など誰もが身に着けていることだ。


全員の手当てが終わると、今度はカインが提案し始めた。
「散会するのは不安を伴うが、これから俺達は3手に分かれようと思う。
東へ向かい吉良を追いかける組、北へ向かい偽ローザや赤髪の男を追いかける組、そして避難する組だ。」

カインの言うことは最もだ。
偽ローザにしろ、吉良にしろ、厄介なのは何食わぬ顔で対主催集団に紛れ込んでいるということだ。
出来るだけ早く追いつき、その悪行を食い止めなければ、もっと被害が増えてしまう可能性がある。
ガノンドロフは対主催集団に紛れ込むような行為はしそうにないが、圧倒的な力で全てをねじ伏せようとする危険人物だ。
だが、追いかけるのに関して、怪我人や子供と共に行動すれば、如何せんペースが落ちる。
そこでカインは単独でどちらかを追いかけ、もう1人か2人に自分が追いかけない方を。


「避難場所としては、ここからそう遠くないデパートが良いと思う。勿論、危険を感じればすぐにここに引き返してくれ。」

残ったメンバーはここよりすぐ近くのデパートへ隠れるという考えに達した。
避難場所ならここでも良いが、この辺りは崩れている建物が多すぎる。
あまり隠れ場所にしておいて気持ちのいい場所ではない。



「それに関して意見があるんだ。カインさん。」
そこで意見を出したのは川尻早人だった。

「誰がどちらへ向かうんだ?僕はあの殺人鬼を追いかけたい……。」
彼の日常を壊した張本人である吉良を追いかけたいというのは良く分かる話だった。
だが、もし追いかけるならば、単独で追いかけたいと考えるのがカインの心情だった。
いくら勇気があれど、この殺し合いでは生き残ることは出来ない。
それは彼の無二の友人であるセシルがこれほど早く呼ばれてしまったことが何よりの証拠だ。

「本当はお前はデパートの方に避難して欲しい人間だが……。」
「けれど!僕はアイツのことを知っている!!」
「その知っていることは先ほど聞いた。報告者は迂闊に敵と白兵戦を行うべきではない。」


バロン竜騎士隊隊長であったカインだからこそ分かることだが、戦争という物は、得てしてそれぞれの役割がある。
ただ戦うのみならず、衛生兵や情報の伝達者、そして兵站を担う兵士など、様々な役割の担い手がいる。
そして川尻早人は、偽ローザの襲撃から大きな傷も負うことなく生還したにせよ、最前線で戦うべき人間ではない。


785 : 集合、そして散会 ◆vV5.jnbCYw :2022/03/30(水) 16:58:22 P9lOwoV60

「もう1つ聞きたいことがある。」
今度質問したのは、シャーク・アイだった。

「この際デパートが壊れておらず、かつ危険人物に占領されていないとしよう。だが、その場所の護衛は誰が行う?」

シャークが言うのも最もだった。
仮にこの中で最も機動性に優れたカインが吉良を追いかけ、シャークが偽ローザを追いかけたとする。
だが、残っているのは負傷したヤン、戦い向きな性格ではない守にミキタカ、戦う力を持っていない早人だけだ。
どう考えても、護衛が務まりそうな者がいない。


「なるほど。それは考えていなかったな……。」
カインは軍事国家生まれの経験上、竜騎士隊に所属していた時も、セシル達と共に冒険していた時も、周りに戦える者が常に多くいた。
だが、今回はそういった状況とは勝手が違ってくる。
安心して背を預けられる仲間はシャーク・アイぐらいで、残りは言ってしまえば守らなければならない相手だ。


逆にシャーク・アイは海賊として、常に限られたリソースで船を動かし、魔物と戦わねばならなかった。
職業柄、負傷者が出ても簡単に治すことは出来ず、メンバーの補充も難しい。
従って彼は、支出と収入の兼ね合いから、出来ることの優先順位を付けることは常に慣れていた。
例えば、魔王軍が接近しているという理由で、ラグラーズ王国に構わずにコスタール王国を助けに行くなど。


「北へ行った奴らは諦めるべきだ。デパート組の護衛役は俺がやる。」
まだ人の足で逃げる吉良ならともかく、赤髪の男や、偽ローザを追うのは困難だとシャークは判断する。
赤髪の男は巨大な魔獣の姿、すなわちより速いスピードで北へ向かい、偽ローザに至ってはそもそも今もローザの姿をしているのかさえ分からない。


「そうするしかないか……ならば護衛を頼む。」

カインは銀仮面に覆われた顔を顰めながら、シャークにそう頼んだ。


「ここを出るなら、僕は清浄寺へ戻りたいので、その場所まで一緒に行こうと思っています。」
吉良の件で有耶無耶になってしまったが、あの場所には守が恋人に宛てたメッセージがある。
真理亜が待ちぼうけを食わないためにも、守としてはあの場所へ戻りたかった。


「守さん、いいのですか?あの吉良という男がまだいるかもしれないのですよ。」
ミキタカが守に釘を刺した。
「ありがとうございます。ですが、早人君が言うような危険な男を真理亜に会わせたくないんです。」

「どうしてもと言うなら無理に止めたりはしないが……その先ではお前は1人になるんだぞ?それでもいいのか?」


786 : 集合、そして散会 ◆vV5.jnbCYw :2022/03/30(水) 16:59:21 P9lOwoV60

カインの問いかけに、守は一瞬俯く。
「それでも……僕は真理亜に会いたいんです。連れて行ってください。僕には呪力があるので、戦えない訳ではありません。」
「では私も守さんにお供しましょう。それならば問題ありませんね?」
「好きにしろ。」


こうしてカインと守、ミキタカの3人は北東へ、それ以外のメンバーは南西へと向かう。
「とりあえず陽が沈むころには俺達もデパートへ向かう。守達もその時間までに探し人が来なければ、書置きでも残して戻れ。」
「はい。それと……ありがとうございます。」

集合予定時刻は午後6時。集合場所はF-1のデパートか、E-2の杜王駅から離れた空き家。
6人はそれぞれの目的地を目指して歩き始める。






【E-2/市街地 北東/午前】

【カイン@Final Fantasy IV】
[状態]:HP7/10 服の背面側に裂け目 疲労(小)
[装備]:ホーリーランス@DQ7  ミスリルヘルム@DQ7
[道具]:基本支給品 
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーを殺す。
1.守、ミキタカを清浄寺に送り、それから単身で吉良を追いかける
2.ローザとも集合したい。
3.出来るならばガノンドロフ、スクィーラ、偽ローザ(ボトク)、吉良吉影の危険性を広めたい
※参戦時期はクリア後です



【ヌ・ミキタカゾ・ンシ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(小) 
[装備]:魔導士の杖@DQ7 
[道具]:基本支給品 バッジ?@ペーパーマリオRPG 紫のクスリ(残り半分)@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[思考・状況]
基本行動方針:カインやシャーク、早人に協力する
1.守、カインと共に清浄寺へ向かう。
2.ガノンドロフ、ローザの偽物に警戒

※参戦時期は少なくとも鋼田一豊大を倒した後です。




【伊東守@新世界より】
[状態]:健康 疲労(小) 不安(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:
1.真理亜を探す。
2.カイン、ミキタカと共に清浄寺へ

※4章後半で、真理亜と共に神栖六十六町を脱出した直後です
※真理亜以外の知り合いの参加者がいることを知りません。


北東へ向かう3人は、第三回放送までにF-1のデパートで合流するつもりです


787 : 集合、そして散会 ◆vV5.jnbCYw :2022/03/30(水) 16:59:37 P9lOwoV60


【E-2/市街地 南西/午前】


【ヤン・ファン・ライデン@FINAL FANTASY IV】
[状態]:ダメージ(大) 疲労(中)
[装備]:ガツ―ンジャンプ@ ペーパーマリオRPG 炎のツメ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラ並びにザントを討つ
1:シャーク・アイ、川尻早人と共にデパートへ向かう。
2:早く傷を治したい
3:セシル、エッジへの喪失感
4:吉良を逃がしたことへの後悔
参戦時期はED後
満月博士との情報交換で魔法世界についての情報を得ました。


【川尻早人@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康 疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2(武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:シャーク・アイ、エッジと共に杜王駅へ向かう
1.ヤン、シャーク・アイと共にデパートへ向かう。
2.自分も本当は吉良吉影を追いかけたい
※本編終了後です
※名簿は確認しました。



【シャーク・アイ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:ダメージ(小)  MP:ほぼ0
[装備]:ブロンズナイフ@DQVII
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2(武器ではない)
思考・状況: 犠牲者たちに対する罪悪感
基本行動方針:アルスを探す、その過程で危なっかしい人物を倒す。殺し合いに乗る気はないが、最悪殺害も辞さない。
1.ヤン、川尻早人ともにデパートへ向かい、その場所で護衛を務める。
2.どうにかしてアルス達とも合流をしたい。
※少なくとも4精霊復活後です
※少なくとも船乗り、盗賊、海賊の技は使えます。


※D-3 森林が一部焼失しました。


788 : 集合、そして散会 ◆vV5.jnbCYw :2022/03/30(水) 16:59:47 P9lOwoV60
投下終了です


789 : ◆vV5.jnbCYw :2022/04/06(水) 21:58:47 k3bl8gvA0
スクィーラ、クッパ、鶴見川レンタロウ、支給品枠で写真のおやじ予約します


790 : ◆vV5.jnbCYw :2022/04/07(木) 01:45:02 8OthzyWI0
投下します


791 : 見えざる刃 ◆vV5.jnbCYw :2022/04/07(木) 01:45:53 8OthzyWI0

バロン城地下1階 牢獄


「人がいるのかと思いきや、全然いないな……」
薄暗く、じめじめとしており、カビと鉄錆の臭いが混ざった臭いがするこの場所には、好んで居座る者はいない。
だが、それ故に隠れるのに向いている。
罪人たちが収監されていたはずの牢屋の奥に、鶴見川レンタロウは座っていた。


「だから言ったはずだ!別の場所へ向かえと!!」
その服の中から、彼に話しかける者がいる。
彼の同行者、写真のおやじこと吉良吉廣だ。


「うるさいな……本当にいないかどうかは……、まだ分からないじゃないですか……。」
レンタロウはザックからスパイ衛星を取り出し、発射させる。
超小型の衛星を模した監視カメラは、城内を走り回る。
かつてこの道具は、とある世界の大魔王の城に囚われている人間を探すのに使われたことがある。
バロン城のような大きな建物を探るのには極めてうってつけな道具だ。


しかし、そうした努力も空しく、小型衛星が参加者を捕らえることは無かった。
「やめておけと言ったのに……そもそもこの城の入り口が壊れているのが分かった時点で、別の場所へいくべきだったんだ!!」
「あなたってアレですよね。代替案も出さないくせに、人のやることが上手く行かなかった瞬間、『ほれ見たことか』って得意げな顔するタイプ。」


うるさく言う写真の親父をレンタロウは流している。
彼としても、獲物がやってこないのは不満だった。
橋を渡り、川を越えて遠路はるばるやってきたこの場所に、人がいないのはおかしい。
常人ならばここに隠れようと考えるが、彼はそのような心持ではない。
モタモタしていれば、自分が殺したい、汚したい相手もどんどん殺されてしまうかもしれない、ということしか考えていなかった。


すぐにこの城を抜けるか、はたまたもう少しだけ待とうか、そう考えていた所、待ちかねていた来訪者がやって来た。


792 : 見えざる刃 ◆vV5.jnbCYw :2022/04/07(木) 01:46:14 8OthzyWI0



??? 大広間


それは、いつかの記憶。



――――クッパ様!!
――――クッパ様 バンザイ!!
――――クッパ様 かっこいい!!
――――クッパクッパ やっぱり強い クッパ様!!

誰かが、もう覚えていない大勢の誰かが声を上げる。


――――静粛に!!今からクッパ様が、ありがた〜い話をするのですじゃ!!皆の者、良く聞いておくのじゃ!!ゼーゼー……

引退まで間もないというほど、しわがれた声が響く。
隣にいたのが誰だったのか、そこにいるのは自分なのか分からない。


「今から我は、全軍を率いてピーチ城へ向かう!!今日こそあのにっくき×××を倒し、ピーチ姫を我が妻とするのだ!!!」


決して止むことのない、広い城内にも響き渡る歓声。
それは、遠い遠い世界の記憶。



バロン城 入口


「神様、如何なされました?」
ぼんやりと壊れかけた城を見つめているクッパを、同行者スクィーラが呼びかける。
見た目もクッパの方が大きく、スクィーラはそのクッパを神様と呼んだが、実の所はスクィーラが主であり、クッパが従だ。


「しろ……」
「はい?この建物がどうかなされました?」
「わがはい、しろにいた。けど、このしろじゃ、ない。」
「……では神様が御殿に帰られるよう、このスクィーラ、尽力致します。」


彼がクッパ城にいた時のことを思い出したのは、すぐ目の前にあったバロン城からの連想だろうか。
だが、思い出しただけで、何かが変わったという訳ではない。
それは、もう遠い遠いものになってしまった、クッパ大王の記憶であって、クッパ大王だった何かの記憶ではないからだ。
彼が覚えているのは、ピーチ姫という最愛の女がいたということ。
やがては将来の妻にするはずだった、その女を取り戻さねばならないということ。


(一瞬正気に戻ったかと思ったが、そうではなかったか。)
クッパの異変に気が付いたスクィーラは、聊か驚くも、特に大した変貌は無いと分かり安堵した。
この変異主(ミュータント)の表情は相変わらず虚無そのもので、牙を生やした口周りだけがモゴモゴと動いている。

「では神様。この城に向かいましょう。神様の妻を攫った不届き者が、ここにいるかもしれません。」
クッパはこくりと頷き、スクィーラの後に付いて行った。


スクィーラはクッパを手駒に加えてから、彼の持ち物を探ってみた。
だが、カルシウムが含まれていそうな物は見つからなかった。
やはり他の参加者を探すなり、そのような物を調達するなりしなければならないと考え、城に入ることにした。


「神様、こちらではありません。」
勿論、正面から入るような真似はせず、どこか別の場所から入ろうと考える。
このような大きい建物は、籠城している者がいる可能性は十分にある。
そんな場所に正面から突撃するということは、どうぞ攻撃してくださいと言っているようなものだ。
かつてのクッパならば、うるさいと言って正面から突撃している所だが、借りてきた猫のように大人しくスクィーラに従う。


ガノンドロフとノコタロウの戦いの中で開けられた壁から、城内へと入る。
この城はもともと正面以外の侵入を防ぐために、周囲に堀が作られていたが、この世界ではそれが埋め立てられている。
なので、壁に穴でも開いていれば横から入ることも可能だ。
クッパは少し窮屈そうにしていたが、どうにか身体を縮めて入った。


793 : 見えざる刃 ◆vV5.jnbCYw :2022/04/07(木) 01:46:34 8OthzyWI0


バロン城 地下1階 牢獄


残念ながら、スクィーラの策略は意味を為さなかった。
スパイ衛星は城内を余すところなく駆け回り、城内の情報を余すところなく持ち主に伝える。
しかし、レンタロウにもレンタロウで失望することがあった。
最もそれは、ようやく獲物が来たと思ったら、醜いネズミとカメの化け物だったという、極めて自分勝手な失望だったが。


しかし、長らく獲物を見つけていなかったから、奴等を甚振り殺し、もっと醜い姿にしてやろうと意気込んだ。
モニターを見てみると、亀の怪物とネズミの怪物は2手に分かれた様だった。


「おい……まさか奴等を……。」
「そのつもりですよ。」

レンタロウは意気込み、スパイ衛星を仕舞うと牢屋のベッドの下に隠れて石ころ帽子をかぶる。
そして、肉体と霊体を分離させ、上のフロアへ向かおうとする。
片手にはダンシングダガー、もう片方の手には写真の男。


「やめろ……離せ!」
幽体に握りしめられる吉廣は、写真だけに手も足も出せずに連れて行かれる。
「あなたが俺の場所をバラすかもしれません。
良からぬことをした時に、即座にビリビリに破れることが出来るじゃないですか。」
(くそ……せめてコイツらが相打ちになってくれればいいのだが……。)


写真の姿をしているとはいえ、不死身という訳ではない。
破られたり、燃やされたりすればそのまま死んでしまうことになる。



バロン城 1階 西


「では神様。人がいるか探しましょう。」
「……。」

クッパは黙って、歩いていく。
その後ろ姿は、本当に長年生きたがゆえに目的を失っている老亀のようだった。

(だが、あんな変異主でも役に立つことはある。)
スクィーラとしては、敵を抉り出すことが目的だった。
もしもこの城に殺し合いに乗った者がいれば、クッパのように大きくて遅い相手など、即座に攻撃を仕掛けるだろう。
逆に殺し合いに乗っていなくても、クッパの図体と外見を見れば、逃げようとしたりするはずだ。
クッパという存在は、力の誇示という意味で極めて重要な交渉材料になる。


この時、スクィーラは感づいていた。
戦場を経験した者なら誰もが感じることが出来る殺意を。
だが、殺意は確かに感じているのにその出所は分からない。
何か、重要な見落としをしているような感覚を覚えた。


彼らの不運は、力など関係なしに襲ってくる相手がいるということだ。


「おらあっ!!」
「!!?」


突然、ぼんやりと空間に浮かぶ何かが、ナイフと写真を持って襲い掛かって来た。
スクィーラは持ち前のすばしっこさと戦で培った反射神経で、レンタロウの斬撃を躱す。


「な、なんだこいつは?」
反撃とばかりに毒針をケースから取り出して投げるが、幽体化したレンタロウには当たらず、突き抜けてしまう。


貴重なアタッカーと距離を離した瞬間の奇襲。
かつて東京で呪力を持った人間と戦った時にも、しでかしたミスであった。
最も、壁をすり抜けて襲ってくる相手を警戒しろと言われる方が理不尽なのだが。


「ああ……その顔、いいですね。醜い顔がもっと醜くなっている。」
「く……くそ!!」

勢いづいて、ナイフを嬉々として振り回すレンタロウ。
スクィーラは慌てて逃げようとするも、黒魔導士の服や皮膚を僅かに裂かれてしまった。


794 : 見えざる刃 ◆vV5.jnbCYw :2022/04/07(木) 01:47:22 8OthzyWI0

ワンサイドゲームにしか見えない戦いが広げられる。
だが、かつてスクィーラが革命を起こした人間も、予想もつかない攻撃をしてくる相手だった。
これしきの相手一人殺せずして到底優勝など望めない。


「神様!!神様!!」
とはいえ、自分ではこの男をどうにもできない以上、クッパに頼るしかない。
自分たちバケネズミの力を超越する力を持つ人間とも戦って来た彼だが、攻撃が当たらない相手など対峙したことが無かった。
クッパでも対処できるか分からないが、時間稼ぎぐらいにはなるだろうと考える。



バロン城1階 大広間


逃がすものかとスクィーラを追いかけているレンタロウ。

「ぶかに、てをだすなあ!!」
「!?」
しかし、そこに彼の傀儡と化したクッパが立ち塞がった。


「ぶかにてをだしちゃだめだ!!わがはい、つま、みつけられない!!」
大王とは思えないほど覚束ない口調で、鉄球を投げ飛ばす。
だが、その鉄球も先程スクィーラが投げた針と同様、当たることなく突き抜けていく。
壊すことが出来たのは、レンタロウの後ろにあった壁だけだ。

「無駄ですよ。」
チェーンハンマーを難なく躱したレンタロウは、鉄球が戻ってくる前にクッパ目掛けてナイフを振りかざす。


レンタロウのナイフと、クッパの爪がぶつかり合い、黒板を引っ掻いたような高音が響く。
「く……なんて力だ……けど、そんなの意味が無いんだよ!!」
いくら強い力で殴られても、強い武器で攻撃されても、幽体化している以上は全く意味が無
い。
クッパは怒りのまま腕を振り回す。
そこに思考は無い。正しいか正しくないかの分別も無い。
ただ、降りかかる火の粉は払うという昔から培ってきた意思と、恋人を救わねばならないという偽りの意志があるだけだ。


「意味が無いのが分からないのですか?」
レンタロウはナイフで、クッパの腕を切り裂く。
その傷は浅いが、太い腕にダメージを与えた。


「うがーーーーッ!!」
クッパの口から、高温のブレスが吐き出される。
例え心が壊れても、かつて得意としている技は覚えている。
長らく乗っていなくても、一度乗り方を覚えれば忘れずに済む自転車のようなものだ。
だが、炎もまた突き抜けるだけ。
レンタロウを焼き殺すことなど出来はしない。
それでも、クッパは炎を辺り一面に吐き続ける。


「バカだなあ。効くわけがないじゃないですか。」
だが、物理ダメージのみならず、炎による高温もレンタロウには通じない。
炎に満ちた空間を何もなかったかのように潜り抜け、クッパの腹をナイフで斬りつけた。
勿論、その程度の一撃でクッパは倒れることはない。
大魔王の名を冠する者だけあって、ギガスラッシュをまともに受けても倒れなかったほどだ。
ましてや、武器を持って喧嘩をしたことさえない素人のナイフなど、ほとんどダメージが無いようなものだ。


795 : 見えざる刃 ◆vV5.jnbCYw :2022/04/07(木) 01:47:40 8OthzyWI0

「がああああああ!!!」
突然暴れ出し、両足を踏み鳴らし、鉄球を辺り一面に振り回す。
腹を裂かれた痛みで思い出したのは、かつて緑の帽子の×××に、死の恐怖を感じさせられたこと。
まるで子供が怖い物を寄せ付けまいとおもちゃを振り回すかのように暴れるクッパ。
だが、どんな威力がある攻撃も、幽体化しているレンタロウには効かない。
いとも簡単にクッパの懐、チェーンハンマーの死角に潜り込み、クッパの胸をナイフで斬りつけた。
そして痛みに悶え、クッパはまたも暴れ続ける。


その時、レンタロウのナイフが鎖に当たり、明後日の方向に飛んでいく。
(チッ……。)
幽体離脱しているとはいえ、持っている武器にまで攻撃が及ばない訳ではない。
だが、ナイフは見えない糸で操られているかのように宙を舞い、クッパに襲い掛かって来る。
まさに、ダンシングダガーの名をあるがままにしている。
クッパは狭い通路でチェーンハンマーを振り回すが、相も変わらず壊せたのは城壁のみだ。


その時、人の頭ほどもある瓦礫が、レンタロウ目掛けて降って来た。
最も、彼はそんなものなど恐れもしない。
殴打だろうと炎だろうと瓦礫だろうと、幽体では痛くも痒くもない。
だが、こうしている間にネズミの方に逃げられると厄介だと思ったので、スクィーラを先に追いかけて殺そうとする。
そこへ、またも瓦礫が落ちて来た。

既にこの城は一度戦いがあったため、クッパが暴れたことも相まって西側が壊れ始めていたのだ。


「ま、まずいぞ!!早く逃げろ!!」
レンタロウに握られている写真の親父は、急に叫び始めた。

「問題ありませんよ。何が起ころうと俺の能力は無敵ですから。」
彼とは対照的に、涼しい顔のままのレンタロウ。
「分からんのか愚か者め!!このまま城が崩れれば、おまえの肉体も駄菓子屋で量り売りにされているスルメのようになるのだぞ!!」


ゴンゴンゴンと、城内の壁が壊れる音が何度も響く。
写真の親父はその音に負けず大声でレンタロウに怒鳴る。
彼としてはレンタロウに死んでほしく無いという気持ちは微塵も持ち合わせていないのだが、自分がこの城の生き埋めになり、吉影を助けに行けないのは忍びなかった。


「おのれ……!!クソどもが……!!」
レンタロウは初めて自分が鼻持ちならぬ状況に陥っていることに気付き、慌てて地下へと走る。


そして、その言葉を聞き逃さなかった者はレンタロウだけに非ず。
(そうか……奴の弱点は……!!)
どんな強力な能力の持ち主でも、弱点はどこかにある。
かつて彼の世界にいた呪力を持った人間は、同胞の姿をした者を殺せなかったように。
もし殺せば、戒めがその身に降りかかるように。
そして、写真の男が『肉体』と言ったことから、それがあの男の弱点なのだと気づいた。


レンタロウはクッパとスクィーラに背を向け、文字通り我が身を守りに走る。
肉体を取り戻せば無防備になるが、そんなことは考えずに階段を駆け下りる。


796 : 見えざる刃 ◆vV5.jnbCYw :2022/04/07(木) 01:47:59 8OthzyWI0


スクィーラには知る由も無いことだが、レンタロウは殺戮を嗜みながらも、自身の安全を第一に置く。
良く言えば慎重派、悪く言えば小心者な性格の持ち主だ。
だから小動物や同級生を殺害する時も、トイレの中や親分の説教中など、アリバイ作りが出来るタイミングでしかしてこなかった。
だから、獲物を無視して一目散に自身の肉体の下へと向かう。



(なるほど……そこか……!!)
既に城の崩壊が始まり、階段が揺れて危なっかしい。
スクィーラは態々追いかけるような真似はしなかった。

「まて!!にげるな!!」
クッパは逃げるレンタロウ目掛けて鉄球を投げる。
その一撃は彼にとって脅威ではない。だが、その余波で城の崩壊が進む方が脅威だ。


「神様。もっとここで暴れてください!!」
クッパに指示を出す。地下まで行く必要は無い。
かつて大魔王だった男は、スクィーラの指示に疑問を抱くことも無いまま、そこら中に鉄球をぶつけ、炎をまき散らす。
柱や壁や天井が、炎に包まれ、壊れていく。
自身の船や拠点に火をつけ、襲撃する敵を嵌める戦術はバケネズミ時代に、ニセミノシロモドキから学んでいた。


(これで奴は生き埋めになるはずだ……。)
このバロン城は自分の拠点ですらないので、拠点崩壊の損失を考える必要でさえない。
ただ敢えて文句を言うとするなら、巨大な城に巻き込んだのがレンタロウ1人しかいないということぐらいだ。
そう思っている内に、本格的に城の崩壊が始まった。


「神様、すぐに逃げましょう!!きっと奴は瓦礫に押しつぶされているはずです。」
「わかった!そうする!!」
スクィーラはクッパを連れ、正門から逃げ出した。


外から見ると、その崩壊の様が良く分かった。

クッパが破壊した場所は、バロン城内の一部だったが、それでもドミノ式に壊れていく。
炎が燃え広がり、崩壊が崩壊を呼び寄せる。
左の塔が倒壊し、城内の真ん中に刺さる。
既に城としての役割を半分放棄していたが、右部分を除いてバロン城は崩壊した。


797 : 見えざる刃 ◆vV5.jnbCYw :2022/04/07(木) 01:48:20 8OthzyWI0


「さて……あとは奴から支給品を回収するか。」
瓦礫の山へ向かうスクィーラ。
ここまで来てそれが手に入らないのは無駄骨というものだろう。
辛うじて生き残っている可能性も考え、毒針を出しておく。



その時、スクィーラの鼻孔が、何かしら嫌なものを捉えた。
レンタロウは小動物を殺していた経歴から、その服には洗っても消えぬ悪臭が染み付いており、この殺し合いで殺害した美夜子の血の臭いも付いていた。
それは、ただの悪臭に非ず、鼻が鋭い物からすれば、悪臭を何枚重ねにもしているような臭いだった。
その饐えたような死臭のおかげで、スクィーラは事なきを得たのだが。


「ひっ!!」
「ちっ、外しましたか。」

間一髪、だがダンシングダガーが可愛らしい針のケースを弾いた。
家庭科の授業中に裁縫セットを落とした時のように、針がバラバラと地面に転がる。


「は、ははは……かなり肝を冷やしましたが、畜生ごときが敵う訳が無いんですよ。」
額に汗を浮かべながらも、再び笑みを浮かべるレンタロウ。
地下牢に戻った彼は元の肉体に入ると、支給品の1つであった通り抜けフープで、地下からの脱出に成功したのだった。


「ゆるさない!!わがはい!!おまえをころす!!」
だが、レンタロウの魂は肉体に戻っている。
石ころ帽子も、バッテリーが切れて本来の役割を発揮していない。
クッパの言う通り、今が彼を殺す千載一遇のチャンスだ。
しかし、レンタロウは慌てず騒がず、高々とある道具を掲げる。
クッパが炎を吐こうとした瞬間、その炎を出せなくなった。


「くそ!!うごけない!!」

だが、レンタロウはすぐに肉体が持っていたザックから、道具を一つ出した。
みるみるうちに王の間の温度が下がり、あっという間に氷点下を越える。
クッパは炎を吐くのを諦め、レンタロウに突進しようと考えていたが、既に全身が凍てつき、動けなくなってしまった。


「本当は透明のまま、じっくり嬲って汚して殺すのが良いんですが、まあ仕方がありませんね。」

彼が使ったのは「こおりのいぶき」というアイテムだ。
辺りに絶対零度の空気を走らせ、炎の力を持った魔物にさえも威力を発揮する道具だ。

レンタロウは硬直した二人を、邪な笑みを浮かべてまじまじと見つめながら、ナイフを強く握りしめる。
念には念をと、スクィーラが落とした針とその箱を拾って回収しておく。


「まずは、大きい方が殺し甲斐がありそうなので、あなたにしましょう。」
クッパに標的を絞り、頸動脈を斬り落とそうとする。


798 : 見えざる刃 ◆vV5.jnbCYw :2022/04/07(木) 01:48:39 8OthzyWI0

「さあ、汚いカメの怪物は、どんな風に汚く表現できるかなあ!!」
ナイフを振りかざした瞬間。


「は!?」

唐突に、レンタロウの全身から力が抜けた。
口をパクパクとさせる。
なんでというつもりだった。だが、声はもう出せなかった。

頸には、奪ったはずの毒針が刺さっていた。
氷漬けにされたはずのスクィーラが、毒針でレンタロウの首筋を刺していた。


(表現の材料のクセに……!!)
ドサリとレンタロウは地面に倒れ、動かなくなる。
彼は体力そのものは人間と同じか、平均より下ぐらいだ。
猛毒の針を首筋に刺されて、生きることは出来ない。


「神様、危ない所でしたな。」
軽い凍傷は見られど、スクィーラは普通に動いている。
こおりのいぶきを受けたはずなのに、なぜ普通に動けたのか。


彼が付けていたのは、「守りの指輪」
元々持っていた道具で、氷属性を始めとする幾つかの攻撃への耐性が出来る指輪だ。
この力で、凍結状態を自分だけ防ぎ、勝手に凍り付いたと思っていたレンタロウの隙が出来るのを待っていたのだ。


また、それだけではない。
元々スクィーラは針をケースのみならず、黒魔導士の服の裏側に数本仕込んでおいたのだ。
そもそもなぜ印象的なピンク色をした箱に入れていたのかというと、それはあくまでフェイクの為だ。
そしてレンタロウはその箱と、散らばった針を奪っただけで安心してしまった。


しばらくするとクッパの周りの氷が溶け、動けるようになる。
そうしてレンタロウの支給品を集める。


ここでも残念ながらカルシウムになり得る道具は見つからなかった。
レンタロウの死体を解剖して、その骨からカルシウムを抽出するのもありかもしれないが、時間がかかりすぎる。
また、城の石材となる石灰岩にもカルシウムは含まれているので、瓦礫を起爆剤にすべきかとも考えた。
だが、この城の石材の含有物が何なのかは分からない上に、彼の見知らぬ物質という可能性も考え、瓦礫を使う考えもすぐに切り捨てた。


だが、ニトロハニーシロップに及ばないにしろ、優れた素材は見つかった。
それは、かつて自分と敵対していた人間が探していた、呪力を持った人間を殺すための兵器。
あの時は呪力を持った人間に渡ってしまったが、この武器は自分が使うべきではないかと考え、ザックに仕舞いこむ。


799 : 見えざる刃 ◆vV5.jnbCYw :2022/04/07(木) 01:48:56 8OthzyWI0


「ぴーち、どこだ?わがはい、ぴーち、さがす。」
「神様。ここにはおらぬようです。ですが神様の妻を攫った者がいる宛はあります。」




[鶴見川レンタロウ@無能なナナ 死亡]
[残り 28名]




【G-4 バロン城外/一日目 昼】


【クッパ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(大) 凍傷 腹に刺し傷、全身の至る所に打撲、深い裂傷 両手に切り傷(応急処置済み) 精神の衰弱(大)
[装備]:チェーンハンマー @ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(名簿焼失)
[思考・状況]
基本行動方針: ぴーち、とりもどす。さらったやつら、ゆるさない
1.すくぃーらにしたがう

※ステージ7クリア後、ピカリー神殿を訪れてからの参戦です
※スクィーラの言葉により、ピーチ姫が生きていると錯覚しています。




【スクィーラ@新世界より】
[状態]:軽い凍傷 体の数か所に裂傷 
[装備]:毒針セット(13(うち5本を服の中に、残りをケースに)/20) @無能なナナ 黒魔導士を模した服@現地調達 守りの指輪@Final Fantasy IV
[道具]:基本支給品×3(レンタロウ、美夜子の分)、ニトロハニーシロップ@ペーパーマリオRPG  金のカギ?@調達 ダンシングダガー@FINAL FANTASY Ⅳ オチェアーノの剣@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち、ゾンビキラー@ドラゴンクエストVII、スパイ衛星@ドラえもん のび太の魔界大冒険 サイコ・バスター@新世界より  こおりのいぶき@ペーパーマリオRPG 通り抜けフープ@ドラえもん のび太の魔界大冒険 クッパの支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:人間に奉仕し、その裏で参加者を殺す。
1:どこへ向かうべきか?
2:クッパを操る
3:ニトロハニーシロップで爆弾を作る。その為にカルシウムになり得るものを調達する。
4:朝比奈覚は危険人物として吹聴する。また、彼を倒せそうな参加者を仕向ける
5:金のカギを爆薬として使うべきか?
6:サイコバスター。どこで使うべきか。
7:優勝し、バケネズミの王国を作るように、願いをかなえてもらう



※G-6 バロン城が一部分を除いて倒壊しました。






「吉影!!吉影!!」
城が倒壊する寸前、いち早く写真の親父は逃げおおせることが出来た。
折角レンタロウから解放されたので、そのまま空を飛んでスクィーラからもクッパからも逃げる。
サイコ・バスターの回収が出来なかったのは残念だったが、それは諦めて息子を探すことにした。


【写真のおやじ@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:スクィーラとクッパに対する恐怖(小)
[思考・状況]
基本行動方針: 吉影を探して守る



【支給品紹介】

【守りの指輪@Final Fantasy IV】
スクィーラに支給された指輪。
装備すると防御力・魔法防御が上がるだけではなく、氷、雷。炎属性の耐性が上がる。


【こおりのいぶき@ペーパーマリオRPG】
美夜子に支給されたアイテム。使うと周囲に吹雪をまき散らし、凍結状態にする。
もし相手が氷属性を吸収する力、あるいは装備があれば回復してしまう。


【通り抜けフープ@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
鶴見川レンタロウに支給されたひみつ道具。
壁に付けると、通り抜けることが出来る。大長編では牢獄から美夜子たちを救うのにのび太が使った。
原作では地面に置いて落とし穴にすることも出来たが、本ロワでは床や壁、天井などにしか使えない。


800 : 見えざる刃 ◆vV5.jnbCYw :2022/04/07(木) 01:49:14 8OthzyWI0
投下終了です


801 : ◆vV5.jnbCYw :2022/04/15(金) 21:23:49 NgD1Jqbc0
ゲリラ投下しますね


802 : ◆vV5.jnbCYw :2022/04/15(金) 21:24:08 NgD1Jqbc0

夢を見た。
どんな夢だったかは目を覚ました時に忘れてしまったけど、悲しい夢だったのは分かった。
私の顔は、涙で濡れていたからだ。


(あはは……酷い顔。)
そんなことをしている場合じゃないのは分かるが、ラーの鏡を覗く。
血と涙で顔は、ぐしゃぐしゃになっていた。
髪も色んな血を吸って、斑に染まっている。

(あーあ。これじゃ早季に会えないな。)
はあ、とため息をついた。
流石にこの格好は自分でも引いてしまう。
不思議な話だ。
私はもっと悍ましいことをしてきたはずなのに、その行為よりも今の恰好に嫌悪してしまうとは。


まだ疲れは取れていない。
あれほどのオーバーワークで消耗し切った体力は、1時間少しの睡眠と支給品の不思議な料理では到底補えない。
この場所が禁止エリアになるまでは、まだ少し時間があるから、もう少し休んでおきたい。
だが、どうにも寝る気にはなれなかった。


その時、私は急に胸騒ぎを覚えた。
辺りには誰もいない。
それは確かで、見落としなど無いはずなのに、何か取り返しのつかないことになってしまった。
例えば瞬が消えてしまった時のような、守がいなくなってしまった時のような、私のあずかり知らぬ所で何か決定的なことが動いている感覚。
そんな感覚を私は覚え、居ても立っても居られない気分になった。


しばらくすると、胸騒ぎは収まった。
既に禁止エリアになることが予告されているため、誰もおらず、近付きもしない場所を歩く。
先程まで人が集まっていた図書館にいたのが嘘であるかのように、辺りは静かで人気が無い。
まるで自分一人だけ、知らない星にいるかのような気持ちになる。


803 : これは呪いか、それとも罰か ◆vV5.jnbCYw :2022/04/15(金) 21:25:21 NgD1Jqbc0

不意に思い出したのは、ある一曲の歌。

『泣きそうな青リンゴ
抱えてる胸の奥
転がって 強がって
窮屈な空睨む  
運命に 従順に
熟すのを 待つもんか♪』


確か、いつだったか早季が口ずさんでいた歌だ。懐かしいな。
最後に聞いたのはいつだったか。物凄く昔のことのような気がする。


彼女はニセミノシロモドキから人間の醜悪な歴史を教わっても、尻込みすることなくさらに世界の深淵を知ろうとしていた。
傷つきやすくて、涙もろいのに、それでも鳥かごで飼い主に生殺与奪の権を握られながら籠ることを良しとしなかった。
地球上にどれほど多くの人間が産まれたか分からないが、そんなことが出来る人間が、何人いるだろう。
彼女は世界の窮屈さを知り、傷つきながらも前を見ながら新世界を目指し、それを作れる人間だ。
それが出来ることに比べれば、頭がいいとか才能があるなんてことは塵芥でしかない。


『千の風 吹け吹け
わたしは しゃぼん玉♪』


彼女はシャボン玉だ。
簡単に弾けてしまうほど弱いが、風に乗って、何処までも何処までも、屋根より高く飛んでいける。
呪力で空を飛べる私などより、ずっと遠くまで行ける。
だからこそ彼女が割られることは、絶対に止めないといけない。


『予期せぬ(上昇して) 嵐に(下降して) あらがう(それでも) しゃぼん玉(生きてく)♪』


私が合いの手を入れると、嬉しそうな顔をしてくれた早季の顔を思い出す。
願う事なら私もしゃぼん玉となって、彼女と一緒に飛んで、新世界を見たかった。
けれど私は、地面から彼女の行く末を、離れていく所までしか見ることが出来ない一輪の花でしかない。


『弾ける瞬間 虹、放て♪』


私は生きることは死ぬことだと思う。
例え不浄猫によって間引かれずとも、八丁締の外に出て外来種のバケネズミに殺されずとも、こんな殺し合いに巻き込まれずともいずれ死ぬ。
リンゴが熟して木から落ちて割れるか、熟すことなく青いまま割れるかの違いだけだ。
だからこそ大切なのは、どこで死ぬか、死ぬときどれほどの人の目を惹くかだと思う。
弾ける瞬間、どのシャボン玉より多くの人の目を惹き、忘れることのないほど綺麗な虹を放って欲しい。


人気のない草原を歩くと、目の前に湖が広がり、その中心部に見張り台のような建物が聳え立っていた。
あの場所から早季を見つけることが出来るかもしれないと思って、身体を浮かせて湖を越えていく。
そのまま2階に入り、階段を使ってもう1つ上の階へと上がる。


804 : これは呪いか、それとも罰か ◆vV5.jnbCYw :2022/04/15(金) 21:25:49 NgD1Jqbc0

『参加ナンバー♡A 秋月真理亜様ですね。この度は展望台へお越しいただき、誠にありがとうございます。』
「!?」

まるで筑波山にキャンプへ行った時、ニセミノシロモドキから声をかけられた時のような気分になった。
この機械も人離れした姿をしながら、どこからか人間の女性の声を出している。
神栖66町にもありそうなデザインをした展望台に不似合いなだったのもあり、思わず声を漏らしかけてしまった。


『当システムは、6時間ごとにこの戦いを有利に進める道具を、提供することが出来ます。』
参加者や、他にも害を与えてくるものではないと分かり、私は少しだけ安堵した。


『今回秋月真理亜様が選ぶことが出来るのは、以下のうち2つです!どちらも地中に封印された道具を、再利用させていただきました!』

地中に封印されたという言葉に、一瞬引っかかった。
一体どんな呪力を使った者がいたのか、疑問に思ったからだ。

   •鋼をも砕けるほどのハンマーと、大木をも貫ける大弓
   •風の精霊の力を借りたブーメランと、魔法を封じる矢。

どちらでございますか?』


この機械は何なのか、一体だれがどのような呪力を用いてこれらの道具を地中の奥底に追いやったのかは分からずじまいだが、武器が手に入る貴重な機会だということにした。
力の足りない現状を鑑みれば願ってもみない幸運だ。


「ブーメランと矢を頂戴。」
弓とハンマーは、呪力を使っても使うのに難儀しそうなほど大きかった。
だから、後者を選んだ。
私の呪力とは違う魔法(図書館で戦った赤い女性が放った炎のようなものだと解釈した)を封じられるなら、是非とも欲しい武器だ。
矢だけでも銀のダーツの様に、呪力に乗せて飛ばすことが出来る。


それに、風の精霊の力を秘めたブーメランというのも気になる。


『ありがとうございました。なお清き力を持つ者しか風の力を借りることは出来ませんので、ご了承くださね!!
それでは、生きていればまたお会いしましょう!!殺し合い、頑張ってくださいね!!』


しまったな、と思った。
清き力とは何たるか分からない。
けれど自分の願いを人に押し付ける為だけに人を殺した私が、そんなものを活用することは出来るはずがない。
でも注文を変更することは出来ないようで、機械はそれっきり反応を示さなくなった。
機械から吐き出された数本の矢と、白鳥の翼のようなデザインのブーメランを握り締める。
矢はそれこそバケネズミの外来種が戦争に使っていそうな、羽の付いた棒きれの先に刃が付いた原始的な矢だ。
これで魔法を封じることが出来るのかと奇妙な感覚を覚える。
私が矢をまじまじと見つめていると、右手から風が吹いた。


805 : これは呪いか、それとも罰か ◆vV5.jnbCYw :2022/04/15(金) 21:26:05 NgD1Jqbc0

何が起こったのか、と右手を見ると、何かが語り掛けて来た。
―――私はこのブーメランに宿る風の妖精です。
―――貴方のお陰で、地中から解放されました。これで真の力を使うことが出来ます。
―――清き少女よ。我が力が宿る、このブーメランをお使いください。


(……え?)
信じられなかった。
風の精霊が宿り、風を起こすことが出来るブーメランより、私を清き少女と言ったことだ。
そこから先もブーメランが語り掛けてきたが、それから何も言葉を話さなくなるまで、言葉は頭に入ってこなかった。


私は既に6人を殺している。
全人学級で聞いた悪鬼のような行いをした私を、清い少女と呼ぶなんて、風の妖精とやらも分かってないなと思った。
不思議な話だ。否定される覚悟も悪鬼と罵られる覚悟もあったはずなのに、清き少女と言われると、その言葉を否定したくなる。


だが、ブーメランは私の胸の内とは裏腹に、くすみ一つない真っ白な光を放っていた。
神栖66町の林の奥のような、涼し気な風を放ちながら。


「ねえ、もし私があなたの力で、人を殺したら、それでも清いと言い続けるの?」
ブーメランは答えてくれなかった。
まるで先程まで語り掛けてきた事実が、嘘であったかのように。
この鼻持ちならない武器の正体も分かるのではないかと思って、ラーの鏡にかざしてみる。
だが、出てきたのは血と涙に汚れた私と、真っ白な光をぼんやりと放つブーメランだけだった


私がやっているのは誰の為にもならない、早季の為にさえならないことなのは分かっている。
今の私の姿は、そんな私への呪いであり罰だ。
だから、誰からも正しいと思って欲しくないし、例え早季が私をそうだと思おうと、私は私を正しいと思わないし、私達をこうさせた世界はもっと正しくないと思う。
正しくなくても、清く無くても、私は彼女が作る新世界の礎になれればそれでいい。


そう言えば、あの歌の続きが思い出せないな。
早季の歌に合わせて、合いの手を入れられたくらいなのだから、覚えてない訳がないのだけど。
まるで私の脳が、思い出すことを拒絶しているような、変な感覚を覚えた。
そんなものを気にしても仕方がない。


806 : これは呪いか、それとも罰か ◆vV5.jnbCYw :2022/04/15(金) 21:26:19 NgD1Jqbc0

展望台から、少し離れた場所に煙が上がっていたのを見えた。
あの場所に早季がいるかもしれない。
このブーメランを使えば、火を消すことが出来るかもしれない。
早季を守ることが出来るかもしれない。


そう思いながら橋を渡る。
悪鬼の物語と違って、つり橋が切れることは無かった。



【D-6/一日目 早朝】

【秋月真理亜@新世界より】
[状態]:ダメージ(小) 疲労(中) 全身に軽い火傷 返り血
[装備]:銀のダーツ 残り5本@ドラえもん のび太の魔界大冒険 
基本支給品×2ラーのかがみ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たちㅤモイの支給品0〜1
疾風のブーメラン@ゼルダの伝説 トライライトプリンセス 口封じの矢×5@Final Fantasy IV
基本行動方針:渡辺早季@新世界よりを優勝させる。
1.煙の方向へ向かう

※4章後半で、守と共に神栖六十六町を脱出した後です

※ラーのかがみにより書き換えられた記憶を取り戻しています。

※呪力は攻撃威力・範囲が制限されており、距離が離れるほど威力が弱まります。ただし状況次第で、この制限が弱まります。


807 : これは呪いか、それとも罰か ◆vV5.jnbCYw :2022/04/15(金) 21:26:30 NgD1Jqbc0
投下終了です


808 : これは呪いか、それとも罰か ◆vV5.jnbCYw :2022/04/15(金) 22:55:02 NgD1Jqbc0
すいません。
誤:【D-6/一日目 早朝】

生:【D-6/一日目 昼】です


809 : ◆vV5.jnbCYw :2022/05/02(月) 14:04:07 39jngyno0
デマオン、アイラ、ナナ、吉良吉影予約します


810 : ◆vV5.jnbCYw :2022/05/02(月) 23:07:48 39jngyno0
投下します。


811 : イントゥ・ザ・ウッズ ◆vV5.jnbCYw :2022/05/02(月) 23:08:27 39jngyno0

デマオン、アイラ、ナナの3人は焼け落ちた図書館を捨て、デパートへ向かっていた。
しかし、その3人の間には沈黙が支配していた。
図書感へ向かう時の行脚とは異なり、デマオンもその沈黙に関して物申さなかった。
3人がそうなった理由は、言うまでもなく図書館での惨劇だ。
拠点のみならず、殺し合いを打破するために集った8人のうち、3人が拠点と共に荼毘に付されたからだ。


ただし、それはあくまで『共通の』沈黙の要因になっていること。
3人の内の中でアイラは、別の理由でも沈黙を貫いていた。
それは、同行者の柊ナナに対する疑惑の感情だ。
先程の乱戦の中、彼女は今までとはまるで違う態度で、満月博士を襲っていた。
勿論悪かったのは満月博士、正確に言うと彼の憎しみを増幅させた剣なのだが。


図書館で出会った時からそうだったが、どうにも柊ナナという少女には、裏表がある印象だった。
この殺し合いから脱出しようとしているのは確かではあるが、どうにも信用できなかった。


(もしかすると、図書館の襲撃も……?)

あの赤髪の少女とベビーゴイルのような魔物だけではなく、内通者によって図書館の襲撃は行われたのではないか。
そこまで考えて、思考をいったん止めた。
過剰なまでの疑心は、対主催の輪を不必要に壊してしまうことになる。
アイラ一人で首輪を解除することが出来ない今、そうなるのは致命的だからだ。
その内がどうであれ、柊ナナという少女は、殺し合いに乗るつもりはないのは確かだ。確かなはずなのだ。
だから、隠し所の1つや2つ大目に見てやろうと考えた。





(これは……策を変えた方が良いかもしれないな。)
一方で柊ナナも、3人の中で気付かれることなく思考を巡らせていた。
拠点が壊れ、半分近くの仲間を失い、この対主催勢力は半ば崩壊しているようなものだと考えていた。
ならば他の対主催陣営に移るか、と考えていたが、その考えもすぐに破棄した。
その懸念となったのが、自分の世界から参加させられ、今も生きている3人。
彼らが陣営を組んでいるかいないかは分からないが、誰かに何らかの形で自分が鼻持ちならない人物だと吹聴しているだろう。
特に小野寺キョウヤなどは、自分が危険な存在だと同行者に吹聴している可能性が著しく高い。
だから、安易に他の対主催陣営に入ることは出来ないと考えた方がいい。
今いる対主催陣営は、半壊とは言え、自分が怪しい者ではないことを示す隠れ蓑になる上でも捨てられない。


ならば、もしこの陣営が完全に壊れてしまえば?
流石にデマオンやアイラが簡単に殺されるとは思えないが、先のようなケースもある。
仮に自分だけが助かったとしても、自分は他の陣営に入れてもらえないかもしれない。
そして自分一人では、首輪を解除することは出来ないため、この陣営が壊れればやることは一つ。


812 : イントゥ・ザ・ウッズ ◆vV5.jnbCYw :2022/05/02(月) 23:08:54 39jngyno0

残る参加者を皆殺しにして、この会場から脱出する。


それに関しては彼女にとって問題は無かった。
この殺し合いが始まる前から、彼女は似たような状況下にいたし、殺すことに躊躇は無い。
デマオンのような能力だけではなく、生命力まで人とは一線を画す相手でさえ、弱点を付けば殺せることが分かった。
難しくはあるが、脱出も不可能では無いと考えていた。
毒針が無いのが残念だが、どこかでもう少し殺傷力のある武器を調達して――――


そこまで考えて、思考のベクトルを変えた。
優勝はあくまで彼女にとって、最後の手段だからだ。
流石に参加者が多く生き残っている中、それは考えが早すぎる。
状況によっては、1対30数人という状況にだってなりかねない。


死亡者が呼ばれる放送で残りの参加者が何人か知って、かつデパートにあるという『かぎ』が何なのか知ってから行動に移しても遅くはない。


燃える図書館から出る時に、本を数冊持ってくればよかったと、今になって後悔した。
少しでも首輪を解除できる手掛かりを持っておけば良かったし、別陣営で信頼を掴む手段にもなり得る。


「森を抜けるぞ。危険かもしれぬが、時間が無い。」
先頭を歩いていたデマオンが、そう呼びかけた。
本当は昼頃にはデパートにたどり着いていたはずだった。
だが、図書館で一悶着も二悶着もあったがために、大幅に時間をロスしてしまった。
この殺し合いにタイムオーバーは示されておらず、あるとすれば会場全てが禁止エリアになった時だが、それは大分先になるはず。
だが、最初の6時間での死者の多さから考えても、モタモタすれば参加者の全滅もそう遅い事ではない。


その時、森の方から一人の男が走って来た。
白いスーツで趣味の悪いネクタイをした、仕事の慣れたサラリーマンと言った印象の男だ。


「止まれ!!ワシらは殺し合いに乗るつもりはない!!」
(あんな剣幕で言われたら、恐怖で止まるかもしれないわね……)
(これはこれで、交渉には向いているかもしれないな……。)

デマオンの警告と、その仰々しさに呆れるアイラとナナを前に、男は立ち止まった。
立ち止まった、というより尻もちをついたのだが。
「私は吉良吉影といいます……私を襲った者から逃げてきました……。」
その男は、上司に頭を下げるかのようにへりくだった態度を取った。


813 : イントゥ・ザ・ウッズ ◆vV5.jnbCYw :2022/05/02(月) 23:09:12 39jngyno0


「私は殺し合いには乗っていません!!なので、そう睨まないでください……。」
「面を上げよ、地球人よ。」


それに対し、いつもと変わらぬ傲岸不遜な態度でデマオンは返した。


「ワシらはこの殺し合いを壊し、あのデク人形共の鼻を明かそうと考えている。
最も、歯向かう場合なら話は別だが。」
「とんでもありません!!私もこの殺し合いを壊そうと考えていました。」
「なら良い。きさまもこれからデマオン軍の一員……と言いたい所だが、どのような力を持っておるのか?」


王たる者、配下の能力や何が出来るかは知っておくべきだ。
大魔王の城でゼルダとアイラを加えた時は、彼女らが何が出来るのか前もって知ることが出来たので、聞く必要は無かった。
だが、この男が何者か知っておくためにも、それを聞いておきたかった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★


(何だコイツは……!?)
吉良吉影がデマオンに抱いた第一印象は、それ以上でもそれ以下でもなかった。


175センチの吉良を優に凌ぐ巨体。
両の眼孔はメラメラと炎のように燃え盛り、口は大きく裂け、牛鬼もかくやというほど立派な角を2本持っている。
その男に止まれと警告されて、前のめりに走っていたというのに、尻もちをついてしまった。
だが、それぐらいは許して欲しいと思った。
それほどまでに、この男は禍々しい気迫を放っていた。

植物のような生活を営むためには、絶対に関わってはならない存在だと、第六感が告げていた。
そして、キラークイーンを使ったとしても勝てるかどうか怪しい相手だということも。
無敵のスタンド使いである承太郎は殺せても、この男は殺せないだろう。


吉良吉影とは、杜王町の裏に潜む殺人鬼であると同時に、ただの平穏な生活を夢見る凡庸な男の面もあるのだ。
故に、自分とデマオンには越えられぬ壁があるということを、あると認識した上で生きねばならないことを即座に知ってしまった。
尻もちをついたまま、殺し合いに乗っていないことを主張し、頭を垂れるという大嫌いな行為でさえ平然とやってのけた。


こんな風貌だというのに、殺し合いに乗っていないというのは聊か驚いたが、それでも安心は出来なかった。
殺し合いに乗っていないというのなら、それはそれで問題はある。
この男が、自分が人殺しだと気付いたら攻撃してくるだろうと考えたからだ。


814 : イントゥ・ザ・ウッズ ◆vV5.jnbCYw :2022/05/02(月) 23:09:30 39jngyno0

(待てよ……)

デマオンの大魔王の風格に圧倒されて、思考停止に陥っていたが、少し冷静になると思考の幅が広がる。
1たびこの輪の中に入ってしまえば、これほど安全な場所もそう多くは無いとも思った。
この男以外にも、殺し合いに乗っていない者が2人もおり、なおかつ3人共自分が人殺しだとは考えてもいないからだ。
加えて、デマオンと一緒にいるピンクのツインテールの少女は、寺で殺した少女、犬飼ミチルが言っていた少女だ。
頼りになるリーダーとして尊敬していた、柊ナナだとも気付いた。
あの少女の言っていることがどこまで正鵠を射ているのかは分からないが、この陣営は安定しているのは間違いないと考えた。
この陣営は、多少不都合を考慮しても、安全な隠れ蓑になり得るのは間違いない。


などと思ったのが間違いだと感じた。


この男は勝手に自分をデマオン軍団の一員とか宣い、挙句の果てに面接でもするかのように自分の出来ることは何かと聞いてきたのだ。
しかし、言われてみるとどうすべきか困る。
自分に能力があることを明かすべきではあるのだが、迂闊にスタンドのことまで言うべきではないとも思った。
スタンド、しかもその能力を見せつけるということは、自分の尻の穴を見せつけるような行為だ。
だが、この会場では自分のスタンドはスタンド使いで無い者でも見ることは出来る。


「このような力を持っています。キラークイーン。」
スタンドを具現化させることにした。
その右腕を振り下ろし、近くにあった岩を殴り潰した。


「この力で私の力ではどうにも出来ないほど大きい物でも壊せるのです。」
ただし、触れたものを爆発させるという真相には触れず。
「重清君の能力に似てますね。」


(………!!!!!!!!)

しまった、と吉良は思った。
ピンクのツインテールの少女が言う重清君とは、以前殺した中学生だというのは間違いない。
既に名簿でどういうわけか参加させられているのを見たが、まさかこの少女と会っていたとは。


「はて……誰のことでしょうか……。」
「ナナちゃん、もしかすると同じ世界出身ってことだけじゃない?」
赤い服の女性がそう聞いてきた。
「そう言えば、重清君も吉良さんのことは話してなかったですね。私ってばうっかりしました!」

頭に手を当て、てへ、と言った様子でナナと呼ばれた少女はポーズをとった。


815 : イントゥ・ザ・ウッズ ◆vV5.jnbCYw :2022/05/02(月) 23:09:46 39jngyno0

「知り合いがどうのと話をしている場合か。早くデパートへ向かうぞ!!」
デマオンは森に入って行く。
「あの……」
そっち側に行けば、自分を敵だと知ってる連中に遭ってしまうので別の方向へ行ってください、とは言えない。
森の中なので、鉢合わせする可能性自体はそれほど高く無いが、それでも敵がいる方向に向かうのは心臓に良くない。

「言いたいことがあるなら早く言え。」

どうにかしてこの先には危険な男たちがいるので、迂回して行って欲しいと頼みたかったが、迂闊な申し出で波風を立てたくなかった。
「いえ、何でもありません。」

「吉良さんは向こうの場所で襲われたから、森の中へ戻りたくないんじゃないですか?」
ナナが妙に聡く訪ねて来た。

「ええ、そちらのお嬢さんの仰る通りです。あの森では私を襲って来た人間がいたので、あまり戻りたくはないなと。」
「それは大変でしたね。どんな人だったんですか?」
(…………。)


ここで吉良が面倒だと思ったのが、迂闊にその名前を言いたくなかったということだ。
もしもこの3人の内いずれかが、自分が犯人に仕立て上げようとした者と知り合いならば、悪いのは自分だと露見してしまう。
少し前シャーク・アイと川尻早人を、ヤンと伊東守に犯人に仕立て上げようとしたが、それも上手く行かなかった。

なので、こう答えることにした。


「それが、森の木に隠れて私の背中を狙って来たので、どのような風貌だったかまるで分かりません。」


「モタモタするな。早く行くぞ。」
デマオンは森の中に入って行く。

「は、話を聞いていたのですか!?」
「襲ってくる不届き者がいるなら、返り討ちにすれば良いだけ。
その為だけに遠回りなど、意味のないことだ。」


一瞬この男から離れようかとも思ったが、この先入ることが出来る陣営が無いかもしれない以上は、入らざるを得なかった。
デマオンを利用することの安全と、ここを抜けることの危険を天秤にかけて、吉良は付いて行くことに決めた。


816 : イントゥ・ザ・ウッズ ◆vV5.jnbCYw :2022/05/02(月) 23:10:08 39jngyno0


★★★★★★★★★★★★★★★★★★


それからは、吉良が加わり、4人で森の中を進むことになった。


(どうにか方向転換してくれないものか……)
鬱蒼とした森の中なので、可能性はさほど高く無いが、この方向に海賊男や川尻早人、あの禿げ頭の男がいるかもしれないと考えると、気が気ではなかった。


森は鬱蒼としており、しかも様々な種類の樹木が立ち並んでいた。
太陽が出ていたので夜よりかは快適に進めたが、それでも進みにくいのに変わりは無かった。
ただし、それはあくまで杜王町から滅多に出ない吉良の話。
魔界星の過酷な環境に適応して来たデマオンや、世界中を冒険して来たアイラ、小柄さを活かせるナナにとっては、そこまでの悪路でも無かった。


「吉良さん、もう少し早く歩けませんか?」
「す、すいません。ですが警戒はした方が良いのではないでしょうか?」

腸の煮えくり返る思いで、ナナに謝罪する。
こんな場所では、『森の中で木々に隠れて襲ってくるものがいる』という自分の付いた嘘が、誠になりかねない。


何度目か、ひときわ大きな大木を曲がった時だった。
バキバキ、と何かが木々を倒す音が聞こえた。
「止まれ!!わしらは殺し合いに乗るつもりはない!!」
「ウガー!!」


デマオンの警告も空しく、機械兵バルナバは4人に襲い掛かった。

「ブリキ人形ごときが、わしに敵うと思うな!!」
かつてのび太たちを纏めて城のてっぺんから吹き飛ばした魔法を受け、バルナバは大木に叩きつけられる。
吉良とナナはデマオンより後ろに立って、それぞれスタンドと空気砲で準備をしているが、これは自分にはやることないなと思っていた。
だが、機動力には難あれど、力と耐久力は補って余りあるのがバルナバだ。


「ウガガガ!!」
ムクリと起き上がり、襲い掛かろうとする。
しかし、アイラがディフェンサーを掲げて襲い掛かった。
バルナバの拳が彼女を襲うが、いとも簡単に躱す。


彼女はプロトキラーやポンコツ兵など、機械系の魔物との戦いには慣れていた。
その点に至っては、科学や工学に関して門外漢であるデマオン以上に優位に戦えた。
(こういう奴らは動きが大振りだから前もって懐に潜っておいて……)
バルナバは拳が意味のない場所に潜りこまれるが、もう遅い。
(そして関節の部分を狙う!!)


アイラの斬撃が、バルナバの右脚の関節に入った。
「からの……剣の舞い!!」
続けざまに、目にもとまらぬ速さで左脚の関節も斬りつける。
それだけではない。踊るように繰り出す4連撃は、デマオンやナナが援護射撃を入れる間もなく、バルナバの四肢を壊した。
戦士としての力強さ、踊り子としての身軽さを兼ね揃えたアイラの身が出来る技だ。
図書館で戦った秋月真理亜とは異なり、バルナバはまごうとなき危険な魔物だったので、アイラには躊躇う必要は無かった。


817 : イントゥ・ザ・ウッズ ◆vV5.jnbCYw :2022/05/02(月) 23:10:29 39jngyno0

「実に見事なり。流石デマオン軍の幹部だけある。」
「話半分聞かなかったことにして、ありがとうございます……。」
アイラはデマオンの称賛を流し、先へ進もうとする。


「あの……一つお聞きしたいのですが、吉良さんを襲ったのはあのロボットさんじゃないでしょうか?」
「……分かりませんが、恐らくそうでしょう。」

吉良は、生きているか死んでいるか分からない参加者よりも、壊れたロボットを犯人へとすることにした。
死人に口なし、もとい、壊れたロボットには口なしということだ。


「犯人探しをしている場合ではない。行くぞ。」
デマオンの呼びかけで先へ進もうとした所で、バルナバが何か呟いた。
「ウ……ガ……ガ……」
「まだ動いているのでしょうか?」

吉良が遠くからも、訝し気に眺める。


「もう動くことは無いだろうし、捨て置……」


デマオンがセリフを言い終える前に、バルナバが自爆した。
辺り一面に、炎と鉄の欠片がぶち撒けられる。
一番バルナバの近くにいたアイラが吹き飛ばされる。
慌ててゼルダから承った魔法の盾でガードするも、風圧までは凌ぎ切れない。


「く……。」
吹き飛ばされても、スーパースター特有のボディーバランスでひらりと着地する。
だが、その様子を後方の者達は煙に遮られて分からない。

「アイラさん!!」
ナナが声を上げる。
後方に構えていたナナと吉良吉影は、風圧に煽られ、巻き上がる煙によって視界を遮られるるだけだった。
だが、被害はそれだけではない。
そして、この場所は木々が立ち並ぶ森。
そんな場所で炎が散布されれば、木に火が付くという常識を知らぬ者以外は、どうなるか一目瞭然だろう。



「吉良さん!!デマオンさん!!危ないです!!」
すでにバルナバの暴虐によって倒れかけていた大木が、自爆によって倒れて来た。
そのまま、密林の木々が続けざまに倒れ、ナナと吉良、デマオンとアイラが完全に分断されてしまう。


「デマオンさん!!アイラさん!!無事ですか?」
ナナは木々の倒れた所に向けて声を上げる。
アイラは言わずもがな、デマオンとてどうなるか分からない。

「私は無事よ!そっちは!?」
「ワシも気にするな!それよりワシから出来るだけ離れろ!!西側の森の出口で合流する!!」
倒れた木の上から首だけが見えるが、逆に大丈夫なんだと

「はい!」
「分かりました!!」

デマオンの意図は分からなかったが、ナナと吉良はその場から離れる。
この殺し合いで、誰かに殺されずに一酸化炭素中毒で死ぬほど間抜けな話は無い。


818 : イントゥ・ザ・ウッズ ◆vV5.jnbCYw :2022/05/02(月) 23:10:56 39jngyno0

2人が火の元から走ってなお炎は広がり続け、森火事は止まらぬ様子はない。
そこに誰かの手が加えられなければ。


「落ちよ 水柱!!」
水魔術は1つ星クラスの悪魔、なんなら多少魔法を嗜んだ人間でさえ出来る簡易的なものだ。
だが、それを悪魔族の首魁たる者が使うことによって、大滝にも見紛うほどの水を落とせる。
図書館の時と違い、密閉空間ではない以上は味方を巻き込むことを恐れる必要もない。
展から降り注いだ水は、今度はデマオンの周りを流れ、青い大蛇、あるいは龍のように暴れる。
それはうるさく広がる炎を、瞬く間に飲み込んだ。
彼が柊ナナと吉良吉影を出来るだけ遠ざけたのは、水魔法に巻き込まないためだ。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★



黒い煙が消えた時、大雨の時の川のような音を聞いた時、離れた2人もデマオンが魔法で火を消したのだと確信する。
既に彼が見えないほど離れてしまったが、2人で西へと進むことにした。
幸いなことに、支給品にはコンパスもあるため、森で迷うことは無い。


「さてナナさん。早くこの森から出ましょう。いつ新たな敵が現れるか……」
吉良吉影がコンパスをザックから取り出し、西向きを確かめようとする。
「いや、それを恐れる必要は無い。」


819 : イントゥ・ザ・ウッズ ◆vV5.jnbCYw :2022/05/02(月) 23:12:21 39jngyno0

簡単に柊ナナは、吉良の言葉を遮った。
「私にとっての敵は、お前だからだ。」
ナナは吉良の後ろで、空気砲を向ける。
「いえ……あの機械兵が……。」
「アイツに不意打ちのような器用な真似が出来ると思ったのか?」


「お前は後ろから襲われたと聞いたが、背中にそれらしき傷は無い。何故嘘をついた?」
この時、吉良という男は知らなかった。
最もこの陣営の中で警戒すべきは、大魔王デマオンではなく、柊ナナという少女だということを。


【D-4 森 昼】

【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:ダメージ(小) 困惑(大) 苛立ち(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:脱出派の勢力に潜り込み、信頼を勝ち取る。
1.名簿に載っていた、仗助、康一、重ちー、隼人、そしてシャークに警戒。争うことになるならば殺す
2.早人やミチルにもスタンドが見えたことに対する疑問
3.ヤン達からは距離を置きたい。
4.絵の中の少女、秋月真理亜の手が欲しい
5.柊ナナをどうする?
※参戦時期は川尻耕作に姿を変えてから、カップルを殺害した直後です



【柊ナナ@無能なナナ】
[状態]後頭部に打撲 吉良吉影への疑い(大)
[装備]空気砲(80/100)@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)、名簿を七並べ順に書き写したメモ、
[思考・状況]
基本行動方針:最低でも脱出狙い。可能ならオルゴ・デミーラ、ザントの撃破。最悪は優勝して帰還。
1.デマオン、アイラと共に、デパートへ向かう
2.殺し合いに乗っていない参加者と合流を目指す。
3.回復能力を持つ東方仗助と合流したいが、1よりは優先順位は低め
4.小野寺キョウヤはこの殺し合いの中なら始末できるのか?
5.佐々木ユウカは出会ったら再殺する。
6.スタンド使いも能力者も変わらないな
7.吉良と重清、能力は似ているが何か関係があるのか?
8.吉良吉影を……?
※参戦時期は20話「適者生存PART3」終了後です。
※矢安宮重清からスタンドについて、東方仗助について聞きました。
※広瀬康一、山岸由香子、ヌ・ミキタカゾ・ンシをスタンド使いと考えています。
※異世界の存在を認識しました。



【C-4 森 昼】

【デマオン@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:健康 魔力消費(小) 精神疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:不遜なるデク人形(オルゴ・デミーラ、ザント)をこの手で滅し、参加者どもの世界を征服する
1.デパートへ向かい「鍵」の正体が何なのか調べる
2.何だ……この気持ちは……。
3.デマオン軍団の一員として、対主催の集団を集める。
4.刃向かうものには容赦しない
5.アイラと共に、森の西側でナナ、吉影と合流


【アイラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:ダメージ(中) 火傷(中) 職業 調星者 (スーパースター)
[装備]:ディフェンダー@ FINAL FANTASY IV 魔法の盾@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1モーテン星@魔界大冒険 、イツーモゲンキ@ペーパーマリオRPG、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラを再度討つ
1.デマオン、ナナと共にデパートへ向かう
2.アルスとメルビンが心配
3.柊ナナに対する疑い
4.森の西側で、ナナ、吉影と合流
※職業は少なくとも踊り子、戦士、武闘家・吟遊詩人・笑わせ師は極めています。
参戦時期はED後。


※C-4、D-4の境にバルナバ@FINAL FANTASY IV の残骸があります。


820 : イントゥ・ザ・ウッズ ◆vV5.jnbCYw :2022/05/02(月) 23:12:33 39jngyno0
投下終了です。


821 : ◆vV5.jnbCYw :2022/05/07(土) 12:57:53 TZqWho4c0
カイン、守、ミキタカ、デマオン、アイラ、ナツガルフ、ユウカ予約します。


822 : ◆vV5.jnbCYw :2022/05/08(日) 12:10:04 Pb8y.TAE0
投下します


823 : あいつをさがせ!! ◆vV5.jnbCYw :2022/05/08(日) 12:10:30 Pb8y.TAE0

ヤン達と別れてから、カイン達は再び清浄寺を目指していた。

「そろそろ森へ着くぞ。守、ミキタカ。常に辺りを警戒しておけ。」
「はい。」
「わかりました。」


これは例え安全な場所でもそうでない場所でも、周囲の者の集中を解かぬために必要な呼びかけ。
元竜騎士隊長という職業柄、そうした合図は意識せずとも行ってしまう。
だが、広がる森を目の前にして、何とも言えない嫌な予感がカインの胸の内に過った。
カインは一度この森にはシャーク達を追って、入ったことがある。
だが、二度目のこの森はその時とは違う。
森ではなく、苔むした怪物の口の中に自分から飛び込んでいくような気分を覚えた。


確かに今から飛び込むのは、奇襲を受ける可能性が高い、見通しの悪い場所だ。
しかも、ヤンに怪我を負わせた者がまだいる可能性があるのだから猶更危険だ。
だが、カインが抱いた感覚は、そう言った根拠から来るものではなかった。
なぜこのような気分を覚えるのか歩きながら考えてみたが、終ぞその根源は分からないままだった。
守はこの違和感に気付いているのか、ミキタカはこの違和感に気付いているのか。
口に出して、問うてみたかったが、今さらここへ来て戻ろうと言う気にもなれず、そのまま森に入ることにした。


「絶対にはぐれるな。迂闊な単独行動は死につながると思え。」
「勿論ですよ。カインさん。」
「はい。」


後ろを向いて2人に指示を出すカイン。
最初の放送まで能天気だったミキタカの表情も険しげだったのは、カインにも伝わった。
殺し合いに乗った者を目の当たりにし、その被害を受けた者の治療も行ったのだから、能天
守の方は言わずもがな。
彼も呪力というカインの知らぬ力を持っているのは聞いたが、だからと言って一人にするわけにはいかない。
そもそもどちらも戦闘には向かない性格だと、カインは見抜いていた。


何度も後ろを伺いながら、二人を気に掛ける。
こんなに同行者を気にしたのはいつ以来だろうと、考えなくても良いことを考えてしまった。
彼は旅の間、面倒ごとの大半は亡きセシルが引き受けていた。
なので戦いに向かない者の前に立つことなど、新鮮な経験だった。


――さあ、ここは危険だ。僕らと一緒に…
――やむをえん!無理矢理でも!


不意に思い出したのは、ミストの村での出来事。
周囲の人間が全て殺され、錯乱状態になっていたリディアを保護しようとしていた時だ。
セシルはどうにかリディアを宥めて連れて行こうとしたが、カインは言うことを聞かない彼女を無理矢理連れて行こうとした。


824 : あいつをさがせ!! ◆vV5.jnbCYw :2022/05/08(日) 12:10:58 Pb8y.TAE0

(俺とセシルの違いは、そんな所だったのかもしれないな。)
それからしばらくの間、二人の道は大きく分かれた。
セシルはリディアと共に茨の道を歩み、カインはゴルベーザに洗脳された。


彼は、誰に対しても感受性が豊かで優しかった。
己が傷つくことよりも他人が傷つくことを忌避し、常に仲間に対して励ましの言葉をかけることを忘れず、悪に苦しむ者がいれば誰よりも早く助けに行く。
言ってしまえば、パラディンになるべくしてなった人物だった。
そして、誰よりもローザに似合う男だった。

カインは違う。
リアリストを追及してしまうあまり、初めてリディアに出会った時のように、セシルが踏み出せる一歩をどうしても踏み出せない。
踏み出せなかったゆえに、ゴルベーザの魔の手に囚われることになった。
やがてセシルと再び共闘することになったが、それは結果論でしかない。


自分とセシルの差は力以前に、もっと小さく、そして埋めがたい溝にあったのではないか。
今更亡き友と自分の違いを考えたりしていた。
きっと自分がセシルならば、後ろにいる二人を気遣う言葉の一つもかけてやれるんじゃないか。
そんな考えても意味の無いことを考えていたりした。


今更セシルに対して劣等感を抱いたわけではない。
ただ、彼が死した今、代わりにやらねばならないことを出来ない自分が歯がゆかっただけだった。


寺の入り口まで来て、そのまま守達を置いていこうとした所で、突然心臓を握り潰されるような圧迫感が襲って来た。
(これは……。)
つい数時間ほど前味わったものに似た感覚。
あの赤髪の魔王と対峙した時の圧迫感だと、カインはすぐに認識した。


「ミキタカ、守、下がれ。」


カインは後ろの二人に指示を出す。
木々の隙間からぬっと顔を出したのは、どう見ても人と思えない大男と、むしろ人以外の生き物と判断するのが難しい人間の女性。


「先に言っておこう。俺達に戦う意思はない。」
カインはホーリーランスを地面に刺して、デマオン達に話を切り出した。

「地球人にしては度胸がある様だな。褒めて遣わそう。」
「チキュウ?ああ、青き星のことか。それでそちらも、戦う意思は無いという事でいいのだな?」

カインはデマオンに対しては、さして恐怖感を抱かなかった。
なぜならこの男は、圧迫感はあるが殺意は感じられなかった。
勿論、殺意を感じさせなくとも襲ってくる敵はいるし、完全に警戒を緩めた訳では無いが。


825 : あいつをさがせ!! ◆vV5.jnbCYw :2022/05/08(日) 12:11:21 Pb8y.TAE0

「そちらではない。わしの名前はデマオン。隣におるのは我が軍の幹部、アイラだ。」
隣の女性の怪訝な表情からして、後半は勝手に言っているだけだろうと思った。
ともあれ、戦う気が無いということから、カインの後ろの2人も安堵したようだった。
背後の空気が幾分か緩んだのは、簡単に伝わった。


「俺はカイン。後ろにいるのが守とミキタカだ。名前ついでにもう1つ教えて欲しいことがある。」
「欲深いな。」
「俺達は今、吉良吉影という白スーツの男を探している。知らないか?」
「知っておるのか。」


デマオンの表情がさらに険しくなった。
カインが吉良の名を呼んだ際に浮かべた表情から、鼻持ちならぬ男だということが伝わったらしい。
ようやく手掛かりが掴めたことで、銀仮面の裏から笑みがこぼれる。


「俺は直接対面したことは無いのだがな……。」

そしてカインは川尻早人達から聞いたことを説明した。
この殺し合いで1人の少女を殺し、カインの仲間を傷付けた殺人鬼だということを。


「おのれぇ!!地球人の分際で、わしを謀りおって!!」
カインが吉良の説明を全て終わらせる前に、デマオンは怒鳴り声を上げた。
そのけたたましい声が、森の木の葉を揺らした。
それだけではなく、近くにあった寺の屋根まで、ガタガタと揺れた。

「このデマオンを騙すなど不届きなことをしおった暁には、是が非でもわしの手で断罪せねばならん……!!」
拳を握り締め、もう片方の手には業火が灯る。
殺し合いに乗った者として襲って来るならいざ知らず、大魔王たる自分を隠れ蓑として利用するなど、自分のプライドが許せなかった。


「それもそうですが、一緒に行動しているナナが危ないんじゃないでしょうか?」
デマオンの隣にいたアイラが心配したのは、吉良と共に行動している少女のことだ。
吉良吉影がそんな危険人物ならば、その魔の手がいつ彼女に及ぶか分からない。
アイラは柊ナナという少女のことは半信半疑だが、知らず知らずのうちに殺されてしまうのは忍びなかった。
むしろ疑わしいからこそ、この目でしっかりと彼女の正体を見極めたかった。


「あの地球人の少女に何が起ころうと関係ない。我らが魔族に逆らった地球人がどうなるか、目にもの見せてやろう。」
デマオンが思い出したのは、かつて魔族の味方になると称して魔界星にやって来て、魔族の弱点を探っていたナルニアデスのこと。
あの時の地球人のように、この手で八つ裂きにせねばならぬと意気込む。


「そうだ。奴のことを教えた礼代わりと言えばなんだが、わしの方からも情報を伝えねばな。
空を飛ぶ赤髪の地球人の女に気を付けろ。図書館を燃やした奴だ。」

その言葉を聞いて一番青ざめたのは、伊東守だった。

「あの……もしかしてその人って……僕と同じくらいの……。」
守は名簿を呼んでいない。だが「空を飛ぶ」と「赤髪」という2つの要素を聞けば、想い人のことを考えずにはいられなかった。
「地球人の顔など皆同じに見えて仕方が無いが、長い赤髪だっ……」
「嘘だ!!」


826 : あいつをさがせ!! ◆vV5.jnbCYw :2022/05/08(日) 12:12:02 Pb8y.TAE0

彼は叫んだ。それこそ吉良に対して怒るデマオンと大差ないほどの剣幕で。
気弱な性格の彼とは思えないほどの大声だった。
あり得ない。
あり得てはならない。

「真理亜は僕の……僕の大切な人なんだ!!」
いくら相手が大魔王であれ、言い返せずにはいられなかった。
そもそも伊東守という少年は、不浄猫に追われた時に町から一人で逃げ出したように、気弱なのに突発的な行動に出てしまうという所はある。


「建物に火をつけて……人を殺したって……まるで……。」
まるで神栖66町に伝わる悪鬼じゃないか、そう言おうとした。

「地球人の分際で、わしの言うことを否定するか!!」
そう言われれば、デマオンも黙っていることは出来ない。
元々デマオンは地球人と殺し合うつもりは無いというだけで、地球人を自分と同等に扱うつもりは無かった。
現に彼はこの殺し合いが終われば、彼の世界の地球のみならず、他の参加者の故郷までも征服しようと考えている。
なので、初対面の地球人に自分の見たものを否定されることは、どうにも我慢が出来なかった。



猛牛もかくやと言うほどの大魔王の勢いに負け、守は黙ってしまう。
「落ち着け。コイツが嘘を言っているとは思えん。」
「ひとまず落ち着きましょう。ここで戦うべきでは無いと思います。」

しかし、カインが守を、アイラがデマオンを宥めることで、一先ず場は収まる。


「………まあいい。まずはキラを見つけるのが先だ。この地球人の少年の処遇は、その後考えるものとする。」
「………。」

『処遇』という言葉を聞いて、守は震えあがった。
そして、自分は先ほどとんでもない相手にとんでもない口をきいてしまったのだと分かった。
この男は胸先三寸で自分を跡形もなく消し去ることが出来る。
神栖66町の大人達のように。


827 : あいつをさがせ!! ◆vV5.jnbCYw :2022/05/08(日) 12:12:33 Pb8y.TAE0

「守、落ち着けと言っただろ。いざとなれば俺がこの男を止める。」
「この場で揉めることよりも、キラを捕まえる方が先でしょう。」

話が少しもつれたので、アイラは早く吉良とナナを探すことを提案する。
カインも動揺している守を宥めた。

「……然り。アイラ、貴様は1人でこの森の出口へ向かえ。ワシは1人で奴を殺す。」
デマオンとしては、自分達の陣営に土足で入り込まれたという事実が許せなかった。

「え?手分けして探した方が……。」
アイラは口を挟もうとするが、聞く耳を持たぬようだ。
「くどい。あの地球人には何をしたか教えねばならぬ。それが終わった後すぐにそちらへ向かえば良かろう。」


早速、デマオンは5人の中から抜け、吉良吉影を探しに行く。


彼がいなくなると、空気の重さが軽くなったのが、残った4人全員に伝わった。
「あの……申し訳ありませんが、真理亜は何処へ行ったのでしょうか。」
ようやく手掛かりを掴めたが、彼女が殺し合いに乗っていると知った守は、アイラに問いかける。
信じたくは無いが、彼女の手掛かりを捨てたくはないし、彼らが嘘をついているにも思えなかった。


「図書館から東の方に飛んで行ったわ。どうするの?」
『飛んで行った』ということを聞いて、いよいよ彼女だという確信が強まった。
「彼女に何故殺し合いに乗ったか理由を聞きたいし、出来るなら説得したいです。」

そうだろうな、とアイラは思ってしまう。
だが、それを考えたがために、殺されてしまったゼルダのことを思い出した。


「きっと、彼女を止めるのは不可能よ。もしかするとキミも殺されるかもしれない。」
アイラだって死ななかったのは結果論でしかない。
この伊東守という少年と、秋月真理亜がどのような関係なのかは漠然としか分からないが、それでも止めなければいけないと思った。


「それでも……。」
「いくら同郷だからと言って、説得できるとは思えないわ。」
「でも、僕は彼女に会いたいんです。」

守の声は上ずっていた。
彼は戦いという物を好んでいない性分だということは、このやり取りだけでアイラも容易に察した。

「俺達が一緒に行く。それで問題なかろう。」
見かねたカインが、アイラを説得する。

「………仕方がないわ。でも、無事に戻ってくるのよ。デマオンには私の方から説得しておくから。」
「勿論です。」
そこまで言われて、アイラも止めようが無くなった。
許されざる恋と言うのは、言葉で言ってもどうにもならないのは彼女自身でも知っていることだ。
彼の遠い先祖であり、自分の名前の由来にもなったユバールの歌姫ライラと、その彼女に恋をしていたジャンの関係のだってそうだ。
ジャンもまたユバール族のおきてを破ってなお、ライラと結ばれることを望んだ。
結局その望みは叶わず、ジャンはユバール族を出ることになり、ライラは別の人と結ばれることになったのだが。


828 : あいつをさがせ!! ◆vV5.jnbCYw :2022/05/08(日) 12:18:01 Pb8y.TAE0

「俺達も行くぞ。早くしないと取り返しのつかないことになるかもしれん。」
アイラがいなくなると、カインは急いで守達に呼びかける。

「勿論です。」
守はうなずいた。彼の瞳には、より強い意志が現れていた。

それを見ると、カインの胸の内には不安がよぎった。
自分が、伊東守の恋人を殺してしまうのではないかと。
彼女のことは知らないが、それでも彼女が殺し合いに乗った理由など、カインにとってはいくらでも思い当たる。
かつて自分を洗脳したゴルベーザのような存在がこの世界にいるのかもしれないし、恐怖に駆られて人を殺しているのかもしれない。


セシルならば殺さずに助けることが出来るかもしれないが、自分にはそれが出来る自信が無かった。
何でも真理亜という少女は、『空を飛ぶ』ことが出来るらしい。
だとすると、空中戦に手慣れた竜騎士の出番だが、殺さずに無力化するとなると、話は別になって来る。


(セシル……お前なら、どうする?)
カインはそんな考えても意味の無いことを考えながら、先頭を走った。



集まった5人は、それぞれの目的地へと向かう。
デマオンは罪人を処刑するため。
アイラは孤立した同盟相手の真実を探るため。
そして守達は、彼の想い人を探す為。



【C-3/清浄寺より少し南/一日目 昼】



【カイン@Final Fantasy IV】
[状態]:HP7/10 服の背面側に裂け目 疲労(小)
[装備]:ホーリーランス@DQ7  ミスリルヘルム@DQ7
[道具]:基本支給品 
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーを殺す。
1.守、ミキタカと共に秋月真理亜を探す。
2.ローザとも集合したい。
3.出来るならばガノンドロフ、スクィーラ、偽ローザ(ボトク)、吉良吉影の危険性を広めたい
※参戦時期はクリア後です



【ヌ・ミキタカゾ・ンシ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(小) 
[装備]:魔導士の杖@DQ7 
[道具]:基本支給品 バッジ?@ペーパーマリオRPG 紫のクスリ(残り半分)@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[思考・状況]
基本行動方針:カインやシャーク、早人に協力する
1.守、カインと共に秋月真理亜を探す
2.ガノンドロフ、ローザの偽物に警戒

※参戦時期は少なくとも鋼田一豊大を倒した後です。




【伊東守@新世界より】
[状態]:健康 精神的疲労(大) 不安(大) 真理亜が心配
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:
1.真理亜を探す。見つけたら絶対に止める。


※4章後半で、真理亜と共に神栖六十六町を脱出した直後です
※真理亜以外の知り合いの参加者がいることを知りません。
※デマオン達から真理亜が殺し合いに乗っていることを聞きました。

北東へ向かう3人は、第三回放送までにF-1のデパートで合流するつもりです


829 : あいつをさがせ!! ◆vV5.jnbCYw :2022/05/08(日) 12:18:17 Pb8y.TAE0


【デマオン@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:健康 魔力消費(小) 精神疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:不遜なるデク人形(オルゴ・デミーラ、ザント)をこの手で滅し、参加者どもの世界を征服する
1.吉良吉影を見つけ、殺す。
2.デパートへ向かい「鍵」の正体が何なのか調べる
3.何だ……この気持ちは……。
4.デマオン軍団の一員として、対主催の集団を集める。
5.刃向かうものには容赦しない
6.アイラと共に、森の西側でナナ、吉影と合流


【アイラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:ダメージ(中) 火傷(中) 職業 調星者 (スーパースター)
[装備]:ディフェンダー@ FINAL FANTASY IV 魔法の盾@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1モーテン星@魔界大冒険 、イツーモゲンキ@ペーパーマリオRPG、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラを再度討つ
1. 吉良吉影、柊ナナを探す。
2.デマオン、ナナと共にデパートへ向かう
3.アルスとメルビンが心配
4.柊ナナに対する疑い
5.伊東守が心配。無事に戻って来て欲しい。
※職業は少なくとも踊り子、戦士、武闘家・吟遊詩人・笑わせ師は極めています。
参戦時期はED後。






実はこの場にいたのは、5人だけではない。
もう2人、寺の中に隠れて情報を聞き取っていた。
カインはこの森の中に入る時、どうにも言えない嫌な予感を感じたが、その正体はこの2人なのかもしれない。


★★★★★★★★★★★★★★★


時は少し遡る。
休憩場所を探していた佐々木ユウカとバツガルフは、清浄寺に滞在していた。
ガノンドロフに出会った場所のような草原では、誰に見つかるか分かったものではないので、少し休憩すると森の中へ入って行った。
これといった会話も無い、張りぼての同盟のまま、壊れかけた清浄寺に座っていると、外から声が聞こえて来た。


バツガルフは寺の本堂で座っていたが、ユウカはどうにもじっとしていられなかった。
寺の中をぶらぶら歩いていると、外から声が聞こえて、人が集まっているのだと察しがついた。
どうしようか考えていると、外にいるうちの一人が「ナナ」と言ったのが聞こえた。


ついにシッポを掴んだと、口角が歪む。
だが、実際に負けたので知っているが、柊ナナは能力が無くても十分強い。
加えて、今の自分がネクロマンサーの能力を使えるまで、あと6時間と少しあるので、あの時よりも状況は不利だ。
従って、いかにナナに自分の存在を感づかれず、彼女を追い詰めるかを考えていた。


「小娘。ここから出るつもりか。」
寺から外を見ていると、バツガルフがユウカに小声で聞いた。
「そうよ。あたしの嫌いな奴の手掛かりをようやく掴んだからね。」
「やめておけ。1人か2人なら騙せるかもしれぬが、あの人数なら誰かにバレる可能性がある。」
「う………そうね……。」


この時はバツガルフの判断が正しかった。
最初の放送直後の会話で、『どっちも敵という情報をどっちも敵と言う情報持ってる参加者は限られている』と話していた。
しかし、デマオンの陣営はユウカ、バツガルフ共に悪評が知れ渡っている。


バツガルフの提案に従って、話し合いの中ではユウカとバツガルフは寺の中で息を潜めていた。
この時、デマオンがあまりに強力な存在感を放っていたことや、真理亜や吉良が殺し合いに乗っているという衝撃の事実のせいで、5人は誰も彼らの存在に気付かなかった。


830 : あいつをさがせ!! ◆vV5.jnbCYw :2022/05/08(日) 12:18:33 Pb8y.TAE0

やがて話し合いが終わったようで、5人が3人と1人と1人に分かれて散会すると、ユウカとバツガルフも寺を出て行く。
「どうするつもりだ。」
「決まってるでしょ。アイツらがナナを見つける前に、あたし達で殺すのよ。」
「話の様子じゃ、その少女はどうやら悪人に追われているようだぞ。放っておいても良くないか?」
「ダメよ。あいつはあたしが殺す。」


誰が殺そうと結果は同じでは無いのかとバツガルフは首を傾げるが、好きにさせることにした。
極端な話、ユウカが返り討ちに遭えば、一人殺す手間が省けるだけなのだから。
何なら彼女が倒されれば、後ろからナナやキラという殺人鬼も殺すのもありかもしれない。


先にナナに追いついたらどうするか、はたまた黒い怪物と赤い女の方が先にナナに追いついたらどうするか、場合を分けながら考えていた。


一方で、ユウカ本人はナナに対して憎悪を燃やしながらも、どうすべきか悩んでいる節があった。
誰にも殺させず、自分の手で彼女にトドメを刺したいのは事実だが、武器らしい武器はバツガルフに貰ったPOWブロックとボロボロのフライパンだけ。
手ごろな大きさの石で頭を割る、素手で首を絞めるといったやり方も無くは無いが、相手が相手である以上接近戦は避けたかった。


この森の中では、吉良を追いかける者が2人。ナナを追いかける者が2人。
どちらが先に追いつくか、それとも追われる方が逃げおおせるか。


そしてもう1つ、この場にいる誰もが忘れていることがある。
それは、次の死者が呼ばれる放送まで、もう少ししか無いということだ。
次の放送を境に、ある者の状況が大きく変わるのだが、それが何なのか、まだ誰も知らない。



【C-3/清浄寺裏/一日目 昼(放送直前)】



【佐々木ユウカ@無能なナナ】
[状態]:ナナへの憎悪(極大) ガノンドロフへの恐怖
[装備]:POWブロック@ペーパーマリオRPG
[道具]:イリアの死体@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、基本支給品×2(自分、ピーチ)、遺体収納用のエニグマの紙×2@ジョジョの奇妙な冒険 陶器の馬笛@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、虹村家の写真@ジョジョの奇妙な冒険、ランダム支給品×1(彼女でも使える類)、愛のフライパン@FF4
[思考・状況]
基本行動方針:シンジと添い遂げるために優勝する
1:キラがナナを殺す前に、森の中にいるはずのナナを見つけて殺害する。
1:暫くはバツガルフと行動。集団に紛れ込めればいいんだけど。

※参戦時期は死亡後で、制服ではありません。
※次の夜まで死体操作は出来ませんが、何らかの条件で出来る可能性もあります。
※死体の記憶を共有する能力で、リンク、仗助、ピーチ、マリオの情報を得ました。
 イリアの参戦時期は記憶が戻った後です。
※由花子との情報交換でジョジョの奇妙な冒険の参加者の能力と人柄、世界観を理解しました。
 但し重ちー、ミカタカ、早人に対する情報は乏しい、或いはありません(由花子の参戦時期で多少変動)



【バツガルフ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(中) 至る所に焦げ付き 愉悦 
[装備]:えいゆうのつえ@ドラゴンクエスト7
[道具]:基本支給品&ランダム支給品(×0〜1 確認済み)、POWブロック@ペーパーマリオRPG まだら蜘蛛糸×3@ドラゴンクエストVII
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し世界征服を叶え、ついでに影の女王へ復讐する。
1:佐々木ユウカと共に、柊ナナを追いかける。トドメは彼女に任せるが、状況次第では自分の手で彼女を殺す。
2:打倒マリオ。その為の支給品集め。
3:マリオを味方と偽る形での悪評も考えておく。
4:ユウカの提案には一先ず乗ってみるか。
5:ユウカの能力とは?

※参戦時期は影の女王に頭だけにされて間もなくです。


831 : あいつをさがせ!! ◆vV5.jnbCYw :2022/05/08(日) 12:18:47 Pb8y.TAE0
投下終了です。


832 : ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 01:26:00 SMVHNdwk0
野比のび太、朝比奈覚、東方仗助、ローザ・ファレル、ビビアン、ダルボス(マグドフレイモス)、マリオ、ミドナ、クリスチーヌ予約します。


833 : ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:49:50 SMVHNdwk0
投下します


834 : 血と灰の世界1 炎獄の戦場へ ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:50:31 SMVHNdwk0

「誰か……誰か……」

朝比奈覚は、負傷したのび太を呪力で抱え、必死で走っていた。
前を見たり、のび太の顔を見たりする。
眼鏡の少年の顔を見る回数が増えるたびに、彼の顔の青白さも比例していった。


「誰か……この子を助けてくれ!!」

別のマーダーに襲われる危険性も厭わず、叫び続ける。
このような状況になると、思ってしまう。
何故呪力で生き物を傷付ける方法はごまんとあるのに、人の傷を癒す方法は全然ないのかと。
呪力を一通り学んだ者でさえ、薬や包帯のような前時代的な治療法に頼らざるを得ない。
廃墟と化した東京で、肩をチスイナメクジに食われた時の自分がそうだったし、神栖66町に病院があるのも、それが理由だ。


何度か後ろを振り返る。
マリオの姿も、ダルボスの姿も見えない。
先程まで居た場所が火事になっており、濛々と黒い煙が上がっていた。


(すまない……ダルボス……すまない!!)
何度も何度も胸の内で、彼に謝罪の念を唱える。
まだ赤帽子の悪鬼の姿は見えないが、ダルボスはあの炎に飲まれて死んでしまっただろうと考える。
その思考は真っ当ではあるが、事実としては間違っている。



進行方向から見慣れないものに乗った二人組が、前方からやって来た。
あれは呪力を持たぬ者達が使っていた機械だろうか、とどうでもいいことを思ってしまった。


「おー――い!!止まってくれ!!」
覚は助けを求める。
あの二人組が殺し合いに乗っているか否かは分からないが、それでも賭けてみることにした。
幸いなことに、その賭けは成功した。


835 : 血と灰の世界1 炎獄の戦場へ ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:51:01 SMVHNdwk0

「おい!!あんたら大丈夫か?」
独特の髪型をした男は、乗り物を停めて覚の所へ走って来た。

「俺は大丈夫だ。けれどこの子が危ないんだ!!何か薬とか持ってないか?」
呪力でなおも目を覚まさないのび太を、男の前に動かす。


「任せてくれ……クレイジー・ダイヤモンド!!」
「ケアル!!」
後部座席に座っていた、金髪の女性ものび太を助けるのに協力する。
スタンドに白魔法という、彼の世界とは異なる力に聊か驚くも、のび太の傷が閉じていったことに安堵する。
呼吸も落ち着いたものになっていた。
だが、安心は出来ない。
傷は癒せても既にかなりの量の血を失ってしまっていたので、顔色は青白いままだ。


「ありがとう……。凄い力だな……。」
「礼には及ばねーっす。それより1つ聞きたいことがあるんだが……。」


男、東方仗助はどこか照れくさそうにするが、表情は強張ったままだった。
「のび太を助けてくれた礼だ。知りたいことがあるなら教えるよ。」
「その子を傷付けた奴は、赤帽子でヒゲの男じゃなかったか?」
「そうだが……知っているのか……うわ!!」


バイクのカゲからぬっと何者かが現れ、覚は驚く。
「やっぱり……マリオなのね……。」
かつてとある世界の街を滅ぼしたマモノの走狗だった彼、ビビアンは、そう呟いた。


「あんたたちは……あのバケモノの知り合いなのか。」
少し緩んだはずの覚の顔はまたも強張る。
助けてくれたことは事実だが、自分達3人を襲った悪鬼の知り合いだと、恐れてしまう。


「違うわ。私達は殺し合いに乗っていない。これから彼を止めに行く所よ。」
ローザは害はないと主張する。

「マリオはアタイを助けてくれたの!だから……」
すぐに覚が来た方向へ向かおうとするビビアン。
「あいつの所へ行こうというのか?冗談じゃない!!話し合いでどうにか出来る相手じゃないんだぞ!!」

ビビアンとマリオの間に、何があったのか覚は知らない。
だが、いきなり子供であるのび太を殺そうとする者が、話し合い程度で止められるとは到底思わなかった。
呪力を使って、無理矢理ビビアンを引き戻そうとする。


「俺達もいるから、心配する必要はねーっす。」
覚の肩をポンと叩いたのは、仗助だった。
「じゃあ、俺も行こう……。」

背丈こそは仗助の方が高いが、年齢は覚よりいくつか下に見えた。
自分一人だけで逃げる訳には行かない。


「あなたまで行ったら、その子はどうするのよ。それに、あなたも怪我をしているわ。」
ローザは覚を止めながらも、回復魔法で彼の傷を癒す。
「もう一人助かってない奴がいるんだ……ダルボスっていう……岩みたいな姿をしたヤツなんだけど……。」


朝比奈覚自身は、ダルボスが生きているとは思っていなかった。
けれど、それでも見捨てたくは無かった。


836 : 血と灰の世界1 炎獄の戦場へ ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:51:39 SMVHNdwk0

「その人のこともアタイらが何とかするわ。だから今は逃げて!」
ビビアンも覚を説得する。
「分かった。その代わりに生きて戻って来てくれ!!まだのび太を助けてもらった恩も返せてないからな!!」


心配を胸に抱きながらも、3人を見送る。
覚はのび太を抱え、さらに南へ向かう。


★    ★    ★


オレは何のためにここにいるんだっけ?
確かふん火した山をしらべるために、来たんだよな……
でも、あたりはまっくら。ゴロンこう山じゃない。
わからない。
おれはダるボす。
ごろンぞくのぞく長。
でも、だれかほかの人のために、やらなければ 壊せ いけないことがあった 壊せ んじゃないかか?
おもい 壊せ だせない。
なに 壊せ かまっ 壊せ くろ 壊せ なものに 壊せ の 壊せ みこ 壊せ まれて 壊せ 壊せ い 壊せ く。


壊せ壊せ壊せ壊せ や 壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ め 壊せ壊せ壊せ壊せ て 壊せ壊せ壊せ く 壊せ壊せ れ 壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ



タイム風呂敷の力で、情に厚いゴロンの族長は、再び覚醒火炎獣マグドフレイモスへと化した。
その姿は、岩の塊のような姿をしたゴロン族とは、全く異なっていた。
全身が炎に包まれた大熊のような姿をして、額には魔力の源が爛々と輝いている。
四肢には鉄の枷が付けられているが、それらは拘束する役割を放棄している。
枷に付いてあった鎖は鞭のように振り回して攻撃する武器となっている。
事前情報が無ければ、とてもゴロンが変わった姿だと分からないだろう。
破壊と殺戮しか頭にない怪物は、マリオに殴り掛かる。
大理石の柱をも石ころの大きさに砕いてしまうその拳は、当たれば大したただでは済まない。
しかし、相手も闇に落ちたとはいえ、キノコ王国を何度も救った英雄。
ひらりとその殴打を躱し、反撃のハンマーを叩きこむ。


「ウオオオオオオオオ!!」

しかし、当たりはしたが、効いた様子は無かった。
ならば雷ならどうかと手を掲げるマリオだが、その隙を許してくれる相手ではない。
反撃にとマリオ目掛けて、拳が振るわれる。
どうにかハンマーでガードするマリオだが、その威力を殺しきれず、大きく後方に飛ばされる。


837 : 血と灰の世界1 炎獄の戦場へ ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:52:04 SMVHNdwk0

〇〇〇



「な、何だよアレは?」
東方仗助は戦場に行きつくなり、驚嘆の声を上げた。
辺りは炎の海になり、その中心部で炎に包まれた怪物が声を上げている。
その地獄のような風景に驚いたということもあるが、その原因らしき怪物が、参加者名簿の何処にも載っていなかったということだ。


「アレが……ダルボスって人?」
震えた声でビビアンは聞いた。

「違うと思うわ。名簿にもあんな姿は無かったし。」
「ゴチャゴチャ言ってる場合じゃねえっすよ!!」


バイクから降りて、3人はマグドフレイモスとマリオが戦っている場所へ近づく。
あの怪物が何者なのかは分からないが、放っておけばろくでもないことになることだけは分かった。


「いたわ!!マリオよ!!」
ビビアンは歓喜と不安が綯い交ぜになった様な、震えた声を上げる。

「ウオオオオオオオオオ!!!」
怪物は雄たけびを上げ、マリオに襲い掛かっていた。
この様子だけを見ると、どう見ても人間が凄まじい力を持った怪物に襲われているようにしか見えない。
既にゴロツキ駅で襲われた経験がある仗助は、マリオはただの被害者だとは思わなかった。
それはそうとして仗助としても、マリオはビビアンの仲間である以上は、殺されて欲しくはない。
ローザの恋人の仇だったとしても、罪を受け入れた上で償って欲しかった。


そんな仗助達の思いをよそに、怪物マグドフレイモスはマリオへ炎の拳を振り下ろす。

「ドラァ!!」
パワーとスピードだけなら、最強のスタンドのスタープラチナに勝るとも劣らないクレイジー・ダイヤモンドの力は、怪物の拳さえ弾き飛ばす。
しかし、拳を交わした時、仗助は異変を感じた。


838 : 血と灰の世界1 炎獄の戦場へ ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:52:42 SMVHNdwk0
(何だこの手ごたえは……?)
外れた様子も無いのに、殴った手ごたえも無い。
今までにない感覚を覚え、うっすらと嫌な予感をした。
そして、この場にいる敵はマグドフレイモスだけではない。


仗助の背後にいたマリオにとって、この場では動く者すべてが敵であり、獲物なのだ。
故に、助けてくれた者であろうと、ハンマーを叩きつけようとする。


「やべっ……!」
クレイジー・ダイヤモンドの数少ない弱点は、異なる方向からの複数の敵に対処し辛いことだ。
事実、仗助はほとんど1対1での戦いしかしたことが無いので、1対多の戦いに対する経験不足もある。


「マリオ!!」
しかしその一撃は、マリオの旧友のグリンガムの鞭による攻撃のため不発に終わった。
標的を仗助からビビアンに変え、ハンマーで彼の武器を弾こうとするも、不規則な動きの鞭はハンマーでは捕らえづらい。
やむなく後方に下がり、鞭のリーチ範囲外まで避ける。


「マリオ……やめてよ……。」
ビビアンの懇願も空しく、マリオは鞭の隙間を縫って攻撃しようとする。
だが、ローザがマリオ目掛けて矢を放った。
その矢もまたマリオを傷付けることが出来なかったが、彼の接近を一時的に食い止めた。

「プロテス!!」
盾を模した結界が、3人を包み込む。
剣戟や殴打のような、物理的な衝撃を和らげるローザの白魔術だ。


「ジョウスケ!こっちは私とビビアンがどうにかするわ!!あなたはそっちの怪物を倒して!!」
「ありがてえ。今のは危なかったぜ。」
済んでの所でビビアンとローザに助けられた仗助は礼を言う。


「グオオオオオオオオオオオ!!」
「やる気満々って所だな。行くぜ!!」

雄たけびを上げるマグドフレイモス相手に、クレイジー・ダイヤモンドのラッシュが飛ぶ。
いくら恋人がいる女性とは言え、美女に任務を託されれば、引き下がるわけにはいかない。
炎に包まれた戦場で、仗助とマグドフレイモス、ビビアンとローザとマリオが対峙する。


炎が激しく燃え盛るこの戦場には、悪はいない。
影に魅入られたものと、それに抗う者だけの戦いだ。


839 : 血と灰の世界2 英雄として、リーダーとして ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:53:42 SMVHNdwk0

その瞳を見た時、それがマリオだとはっきりとわかった。
あの時と違い、優しさが一欠片も見えなかったが、それでもビビアンにとっての大切な人だった。


「マリオ。会いたかったよ。」
目が合った時、ビビアンの胸の内に熱いものが流れた。
同時に、走馬灯のように色々な思い出が脳裏に浮かんで来た。
ふしぎの森で初めて出会った時のこと。
ウスグラ村でイチコロバクダンを一緒に探してくれた時のこと。
闇の宮殿で、一緒に袂を分けた姉達を倒したこと。


言いたいことは山ほどあった。
でも、一番言わなければいけないことは分かっていた。


ビビアンとマリオの視線が交わされた時、そのハンマーを止める手が止まった。
「…………。」
「マリオ、ゴメンなさい。あなたを苦しめて。」


彼はこの殺し合いの世界で分かってしまった。
ヒーローとして、誰よりも先へ、前へ進まなければならないことの苦しさを。
かつてマジョリンの下で、その後もマリオの仲間として冒険していた時は、ずっと分からないままだった。
この世界で、マリオがいない中、何が正しいのかそうじゃないのか一人で悩み続けた。
ドラえもんやメルビンを傷付け、渡辺早季という少女を失って。
そんな中、一人で何をすべきか決めることの重さを、何度も知らされた。


どうして今目の前にいるマリオがこんなことをしているのか、カゲの女王の取引に応じなかった世界線のビビアンには分からない。
けれど、マリオは誰かに救いの手を差し伸べたが、本当に救いの手を差し伸べてくれる人がいなかったことが原因なのは分かった。
その両目から光を奪われた彼は動かず、表情を変えることも無い。


「マリオ。間違った決断をしたらね。」
「………。」
「やり直せばいいんだよ。」


――気にしなくていいよ。さ、メルビンさんの所に戻って、一緒に謝ろう。

ドラえもんというこの世界で会ったロボットは言った。
たとえ仲違いしても、友達が間違った方向に進んでも、きっと仲直りできると。


――誰かがくれた水で、誰かの花壇に行儀よく咲いた花よりも、雪の中でも耐え忍びながら歪に咲いた一輪の方が、より美しいと思えるから。

早季という少女は貫いた。
あの中で誰よりも戦いの経験など浅かったはずなのに、死ぬことよりも力を使えぬことを恐れて戦い抜いた。
たとえ死しても、その矜持を歪めることは決してなかった。


840 : 血と灰の世界2 英雄として、リーダーとして ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:55:22 SMVHNdwk0

彼も、未来を貫くため、大切な仲間を守るため、その目を逸らすことは無かった。

マリオにだけ時間が止まったかのように、ハンマーを振りかぶる腕が硬直した。


「ねえ、マリオ。あの時アタイのためにバクダンを探してくれた時のことを覚えてる?」
カゲのマモノの走狗となり果ててしまったマリオは、光を求め、光の下で生きる生き物の声は届かない。
だがかのマモノと同じ、カゲに生きる者なら?


その言葉は通じた。
今までは虫のさざめきくらいにしか聞こえなかった人の言葉が、確かにマリオに届いた。
だが、通じたからと言って攻撃を止めてくれるとは限らない。
首を横に振るい、その言葉を拒絶する。

「ウアアアアアアアアアアア!!!!!」
獣のような慟哭。
それと共にハンマーを振り回す。
その姿は、ヒーローではなくバーサーカーと言った方が近い。


「危ない!!--」
ローザの叫びももう遅く、その一撃はビビアンの身体に刺さった。
幸いなことに、先程彼女がかけた防御魔法により、その一撃は防がれた。
彼女の恋人と二の舞になることこそは防げたが、即死しなかっただけ。ダメージは少なくなかった。
大きく吹き飛ばされ、後ろへ後退させられる。
かつての仲間でさえも殺そうと、カゲに堕ちた英雄はハンマーを振りかざして突進する。


ローザはマリオ目掛けて矢を放つ。
この状況で詠唱に時間がかかる魔法よりも、攻撃をした方が時間を稼げると考えた。
彼女は魔法を使わない攻撃には長けていないが、時間稼ぎにはなった。


どうにか危機を脱したビビアンだが、飛ばされた先がマグドフレイモスの近くだったのが彼の不運だ。


「グオオオオオ!!」
標的を仗助だけではなく、ビビアンにも定めたマグドフレイモスは、攻撃手段を変更する。


「グウウウウウ……。」
両腕をXの字にさせ、表面を覆っていた怪物の炎が、その中心に集まっていく。


「やべえ!!」
マグドフレイモスが何をしてくるか分からなかったが、仗助とビビアンの第六感が危険信号を出した。

「ドラァ!!」
仗助は己のスタンドで地面を殴る。
攻撃の為か?否。


そんなことはどうでもいいとばかりに、怪物は炎を自身の周りに放つ。
まさに炎の津波と言うべきか、ビビアンのまほうのほのお程では無いが、激しく燃え盛る火炎が二人に襲い掛かる。


841 : 血と灰の世界2 英雄として、リーダーとして ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:56:09 SMVHNdwk0

「そうは行くかよ!!」

いつの間にやら、仗助とビビアンの前に岩が現れ、炎から2人を守った。
既にあちらこちらの岩や木が、マグドフレイモスやマリオによって壊されていた。
それに気づいた仗助は壊された手ごろな大きさの岩をスタンドで修復し、即席の防火壁にした。


「ありがとう!でも、アタイのことは気にしないで!!」
ビビアンは影に潜り、再びローザとマリオの戦っている場所へ向かう。


「さて、なら俺はコイツをどうにかしねえとな。」
仗助はあろうことか、マグドフレイモスに背を向けて走り出した。
「ドラララララララ!!」
スタンドのラッシュが、炎と影の怪物に叩きこまれる。
パワーならばクレイジー・ダイヤモンドが勝っている。
決してマグドフレイモスが非力なわけではない。最強スタンドのスタープラチナにも抵抗できるクレイジーDのパワーが凄まじいだけだ。


「グオオオオオオオオ!!」
怪物は反撃と拳を振るう。
拳のみではない。手枷に付けられた、千切れた鎖も武器になっている。
技術などあったものではない、おもちゃを振り回して暴れる赤子のような攻撃の仕方だ。
その一撃が仗助の急所に直撃する前に、拳をぶつけて弾き飛ばす。
スピードも同じだ。
クレイジーDはあらゆるスタンドの中でもかなりのスピードを持つ。
だが、高校1年にしては恵まれた体格を持つ仗助とは比べ物にならないほど、マグドフレイモスは大きい。
例え動きが鈍くても、巨体から繰り出される攻撃は極めて広い範囲を刈り取ることが出来る。


(チッ、拳を凌げば鎖が、鎖を凌げば拳が厄介ってことか!!)
そして、一番問題なのは持久力の差。


(それにこいつ……とんでもなくタフなヤローだぜ……。)
影の呪いに侵された怪物は、疲れを知ることなく暴れ続ける。
それに対し、仗助はいくら強かれど人間だ。
スタンドを使うのにも体力を消耗するし、四六時中休憩を取らずに戦い続けることは出来ない。
おまけに周囲の暑さや植物が燃えたことにより薄くなった酸素が、いつもより体力の消耗を速めている。
ならば短期決戦でケリをつけるべきだが、殴っても殴っても手ごたえが無い以上はそれも出来ない。


もしこの場に、リンクのような影の結晶石の力に取り込まれた怪物と戦った者がいれば、その理由も分かるはずだ。
影の結晶石により変異した生き物は、魔力の源となっている部分以外は、いかなる攻撃も効果を示さない。
覚醒多触類オクタイールの目玉や、覚醒寄生種ババラントの舌のような部位である。
だが、そんなことを仗助は知る由もない。
例え分かったとしても、近距離パワー型のクレイジー・ダイヤモンドではマグドフレイモスの弱点たる額に届かない。
すぐ近くに、かつてマグドフレイモスの額を打ち抜いた弓矢を持ったローザがいるが、残念ながら彼女は別の敵と交戦中だ。


「こっちだぜ!デカブツ!!」

仗助はあろうことか背を向け、走り出した。
逃げながら策を立てる。
彼の父、ジョセフが対処法が分からぬ敵を見つけた時に、良く取っていた戦法だ。
マリオの相手をビビアンとローザに任せきりにするのは彼とて心苦しかったが、この怪物がビビアン達の戦闘を邪魔する危険性を天秤にかけて、彼らに任せることにした。


842 : 血と灰の世界2 英雄として、リーダーとして ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:56:37 SMVHNdwk0

仗助は打開策を見つけたわけではない。
だが、先のビビアンとのやり取りで、それより前に彼自身がマリオから攻撃を食らいかけた時に1つ分かったことがあった。
この怪物を、ローザとビビアンに近づけてはいけないということだ。
マリオと怪物、両方を相手にするのは自殺志願者以外の何者でもない。
片方を対処しようとしている内に、背後からその背を突かれてお陀仏というのがオチだと分かってしまった。
勿論、そうなったらローザとビビアンだって無事に居られる可能性は低い。


攻撃を受けるほど近づきすぎず、かといって怪物がターゲットを変更してしまうほど遠ざかり過ぎず。
口で言うのは簡単だが、敵の攻撃を弾きつつこれを行うのは簡単ではない。


「へへ、鬼さんこちらってヤツだぜ!!」
「グオオオオオオ!!」
マグドフレイモスは辺りを殴り飛ばしながら、仗助を追いかける。
敵との追いかけっこという類似性から、ハイウェイ・スターとの戦いを思い出させた。
あの時程敵は早くは無いが、殺意は全く違う。


しかも炎に包まれた草の塊を飛ばして追いかけてくるものだから、それらの対応も迫られる。

「うわっちい!」
誤って地面が燃えている部分を踏んづけてしまう。
既にこの戦いの場所では、草原や茂みの至る所が燃えている。
間違っても人間が戦うのに適した戦場ではない。
敵にばかり気がかりになっていると、足元に気を配ることが出来なくなる。


(くそっ、折角買ったばかりのブランド物の靴が……)

そこへ、マグドフレイモスの鎖が鞭のように飛んでくる。
「ドラァ!!」
スタンドの拳で弾き飛ばす。
だが、鞭のようにしなる鎖は、軌道を読みにくい。
弾き飛ばしても生き物のようにうねり、また攻撃して来る。


843 : 血と灰の世界2 英雄として、リーダーとして ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:57:04 SMVHNdwk0

☆ ☆ ☆

時は少し遡り、場所はローザとマリオの戦場の中。


マリオは己の身軽さを最大限生かし、ハンマーを振り回して襲い掛かる。
当たればプロテスが掛かっている身であれど、致命傷は免れないことをローザは悟る。


「ブリンク!!」
少しでも状況を有利にするために、さらに魔法を自身にかける。
マリオの一撃は空を切る。
回比率を上げる白魔法による力だ。


「マリオ!!目を覚まして!!お願い!!」
ビビアンの叫びも空しく、マリオの猛攻は止まらない。
今度はハンマーを地面に叩きつける。
それは決して外れた攻撃ではない。
纏めて敵を攻撃する手段が少ないハンマーの弱点をカバーした技だ。


「なら……レビテト!!」
ローザが唱えた、地面に浮遊するための白魔法を2人に使う。
既にローザは自身を起こして攻撃してくる敵と戦った経験があるため、マリオの動作から何をしてくるか見抜いていた。


「うわっ!!」
上がるのは自身の攻撃を受けたビビアンの悲鳴。
(レビテトが効いていない?)
至極当然の話だ。
レビテトは人間や動物など、地に足が付いた相手を前提として使われる魔法。
宙に浮かぶ影など、存在するはずがないだろう。


隙を見せたビビアン目掛けて、マリオは自身をばねのように縮めて、高く跳び上がった。
ジャバラジャンプの一撃が、ビビアンに突き刺さろうとする。
しかし、咄嗟カゲの世界に避難したビビアンに、その攻撃が当たることは無かった。


その隙を見せた瞬間、ローザは新しい魔法を紡ぐ。
淡い光が、マリオを照らすが、特に効いている様子はない。
それもそのはず。ライブラは敵にダメージを与える魔法では無いから。


844 : 血と灰の世界2 英雄として、リーダーとして ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:57:23 SMVHNdwk0

(なるほど……やはりそういうことね……)
ライブラは、敵の弱点と体力を見抜く魔法だ。
マリオがなぜこのようなことになっているか、そんな情報は伝わってこなかった。
だが、何の力を弱点としているかははっきり掴めた。
そして、カゲの力に飲み込まれた英雄にこの上なく効果覿面な魔法を、ローザは覚えている。
最強の白魔法、ホーリー。
数少ない白魔導士の攻撃魔法にして、不浄の者を滅するのに最も適した攻撃の一つだ。
英雄の心の芯まで覆いつくす闇とカゲを、曇り無き光で払おうとする。


しかし、そこにマリオが右手を掲げる。
「まずい……シェル!!」
それが何かしらの魔法を放つ前動作だと察したローザは、ホーリーの詠唱を中断し、魔法のバリアを張る。



ローザの予想通り、彼女の頭上から黒い雷が落ちる。
緑色の光の壁が、その一撃から彼女を守った。
しかし、雷の攻撃が終わると、すぐにマリオはハンマーで攻撃して来る。
その一撃は、グリンガムの鞭により止められた。


「ホールド!!」
金色の光の輪が、マリオの周囲に現れる。
やがてその輪は縮まり、動きを止めようとするが、マリオには通じなかった。
マリオにかけられたカゲの呪いは、身体能力の向上やカゲの雷などの技を伝授させただけではない。
即死や金縛り、眠りと言った一発で戦いを左右する魔法を、軒並み受け付けなくした。
今のマリオでなくとも、その主たるカゲの女王や、この殺し合いのオルゴデミーラなど、邪悪な力を持つ首魁ならほとんどが備えている能力である。


(やはり、ホーリーでいくしかないのかしら……。)


ホーリーもグリンガムの鞭も、実際の威力はお墨付きだ。
だが、使用する者が躊躇っていれば、その威力は半減どころではなくなる。


ローザはマリオを攻撃するのを躊躇っていた。
ホーリーを撃てば、マリオを助けられるかもしれないが、もしかすると殺してしまうかもしれない。
そんな結果をビビアンは言わずもがな、マリオに殺されたセシルだって望んでいないことは、ローザには分かっていた。


ビビアンとて同じこと。
目の前の相手が、ローザの恋人を殺したというならば、たとえマリオを助けてもこれまで通りの関係に戻れるか、それが怖かった。
かつてビビアンは、闇の宮殿でカゲの女王の依り代にされたピーチ姫と戦ったことがある。
でもあの時ピーチ姫は誰も殺さなかった。


845 : 血と灰の世界2 英雄として、リーダーとして ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:57:54 SMVHNdwk0

「危ない!!ブリンク!!」
「!!」

ローザのアシストもあったとはいえ、間一髪でマリオの攻撃を躱すビビアン。
だが、彼の動きにはゴルベーザとの戦いほどキレが無かった。


もし彼が元の優しい心を取り戻せば、たとえセシルを殺したことを覚えていてもいなくても、間違いなく苦しむことになる。


(自分の意志で戦うって、こんなに辛いことなのね……)
ビビアンがそう悩んでいる間にも、マリオはどんどん攻撃して来る。


★★


(とりあえず、あの2人とは距離を離せたみてえだな……)
そして仗助が逃げたのは、怪物の攻撃範囲からビビアン達を遠ざけるためだけではない。


(やっぱり炎の弱点と言えば水だろ!)
【C-7】の湖付近まで誘い込むことに成功する。
この周辺なら地面が燃えていることは無いし、いざとなれば飛び込むことも出来る。
最も、彼にとって湖に飛び込んで逃げるというのは最後の手段だ。
どうにかしてこの怪物を倒し、ビビアン達を助けに行くことを望んでいる。


「グウウウウウ……」
怪物の動きが止まる。
またあの炎の衝撃波を撃つのかと思いきや、怪物の懐から炎に包まれた蝙蝠が現れる。
10匹ほどのファイヤキースは、キイキイと不快な声を上げて仗助に襲い掛かる。

「こんな芸当も出来るのかよ?びっくりショーだったら蝙蝠じゃなくて鳩を出せよ!?」
一瞬マジックとも見まがうようなスタンドを幾つも見て来仗助も驚く。
生き物を作る力を持った敵など、仗助でさえ見たことが無い。


「ドララララララララララァ!!!」
だが、誰が来ても同じとラッシュで打ち落とす。
体力そのものはパチンコ玉でも倒せるほどのファイヤキースは、ボトボトと地面に落ちていく。

「ドラァ!!」
その後すぐに湖にスタンドの拳を突っ込み、水しぶきを飛ばす。
かつて吉良吉影との戦いで、自分の血をスタンドで固めて撃ち飛ばした時と同じやり方だ。


846 : 血と灰の世界2 英雄として、リーダーとして ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:58:15 SMVHNdwk0

「危ない!!ブリンク!!」
「!!」

ローザのアシストもあったとはいえ、間一髪でマリオの攻撃を躱すビビアン。
だが、彼の動きにはゴルベーザとの戦いほどキレが無かった。


もし彼が元の優しい心を取り戻せば、たとえセシルを殺したことを覚えていてもいなくても、間違いなく苦しむことになる。


(自分の意志で戦うって、こんなに辛いことなのね……)
ビビアンがそう悩んでいる間にも、マリオはどんどん攻撃して来る。


★★


(とりあえず、あの2人とは距離を離せたみてえだな……)
そして仗助が逃げたのは、怪物の攻撃範囲からビビアン達を遠ざけるためだけではない。


(やっぱり炎の弱点と言えば水だろ!)
【C-7】の湖付近まで誘い込むことに成功する。
この周辺なら地面が燃えていることは無いし、いざとなれば飛び込むことも出来る。
最も、彼にとって湖に飛び込んで逃げるというのは最後の手段だ。
どうにかしてこの怪物を倒し、ビビアン達を助けに行くことを望んでいる。


「グウウウウウ……」
怪物の動きが止まる。
またあの炎の衝撃波を撃つのかと思いきや、怪物の懐から炎に包まれた蝙蝠が現れる。
10匹ほどのファイヤキースは、キイキイと不快な声を上げて仗助に襲い掛かる。

「こんな芸当も出来るのかよ?びっくりショーだったら蝙蝠じゃなくて鳩を出せよ!?」
一瞬マジックとも見まがうようなスタンドを幾つも見て来仗助も驚く。
生き物を作る力を持った敵など、仗助でさえ見たことが無い。


「ドララララララララララァ!!!」
だが、誰が来ても同じとラッシュで打ち落とす。
体力そのものはパチンコ玉でも倒せるほどのファイヤキースは、ボトボトと地面に落ちていく。

「ドラァ!!」
その後すぐに湖にスタンドの拳を突っ込み、水しぶきを飛ばす。
かつて吉良吉影との戦いで、自分の血をスタンドで固めて撃ち飛ばした時と同じやり方だ。


847 : 血と灰の世界3 壊れた世界で彷徨ってた■■は ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:59:07 SMVHNdwk0

「チッ、よりによってなんでアイツがいるんだ……。」
図書感を抜け、真理亜を追いかけていたミドナ達の目に入ったのは、かつて戦った怪物だった。
元々その辺りから煙が上がっていたことから、図書館に放火した真理亜がいるのではないかと考えていたが、その当てが外れた。
「知っているの?というかあの変な髪型の人を倒さないと!!」
クリスチーヌは急いで向かおうとする。
幸か不幸か、彼女らの言葉はマグドフレイモスとの戦いに集中している仗助には聞こえていない。


「ワタシたちの相手はあの赤髪女だろ。無駄に戦う必要あるか!?」
「それでも助けに行く。きっと私の大切な人ならそうしていると思うから。」
「おい!待て!!」

ミドナだって助けたかった。
暴走している怪物を戻す方法や弱点、戦い方を知っているのはミドナだけだから。
そして、クリスチーヌはマリオならそうしていると思うと言ったが、ミドナだってリンクならそうしていると思ったから。
道行く人々の悩みを聞くリンクを、ミドナはおせっかいだと思っていたが、いつの間にか彼女もそんなリンクに絆されていた。


「こっちだよ、デカブツ。」
ミドナは仗助にかかり切りになったマグドフレイモスの額に、影の手で思いっきり一撃を浴びせる。

「た、助かったっすよ。ありがてえ。」
人間というよりむしろスタンドのような姿をした2人組に驚くも、助けてくれたこと礼を告げる仗助。

「オマエ、ジョウスケだろ?ワタシはミドナ。シゲキヨから聞いてる。」
「重ちーに会ったんすか?」
仗助は重ちーの死を知っていない。
仲間の手掛かりを掴めたことに喜ぶが、すぐにそれどころじゃ無いと気付く。


「ウグオオオオオオ!!」
額を押さえ、標的を定めることなくマグドフレイモスは辺りをふら付いている。


「やっぱり、あの額が弱点なのは変わらないみたいだな。」

かつてリンクと共にマグドフレイモスと戦った経験のあるミドナは、敵を睨みつける。
「もしやあのバケモンと知り合いっすか?」
「そんなんじゃない。けれどワタシ達はアイツを元に戻したことがある。」

マグドフレイモスの元の姿、すなわちダルボスを仗助は見たことが無い。
けれど、ミドナの口ぶりからして、無害化させることが出来るのだと察した。


「どうすりゃいいんだ?」
「あの額の光っている所をひたすら攻撃するんだ。アイツにそれ以外の攻撃は効かない。」


要は敵の弱点を何度も攻撃する。
これもまた言うのは易いが、敵の攻撃を凌ぎながら4m近くある敵の頭部を攻撃するのは難しい。


848 : 血と灰の世界3 壊れた世界で彷徨ってた■■は ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 21:59:27 SMVHNdwk0

「そいつはハードっすねえ。」


「あの敵には私の頭突きは通用しそうに無いわね……。」
その話を聞いたクリスチーヌは顔を顰める。
空中戦か地上戦かで言われれば、前者の方が得意の彼女だが、バサバサのように高すぎる場所にいる相手も不得意だ。
おまけに敵はバブルやエルモスのように炎に包まれている。
未知の敵である以上、『ものしり』も出来ないので、出来ることと言えば道具を使ったサポートぐらいになってしまう。


「なら、向こう側へ行ってくれねえか?ビビアンって奴が戦っているんだ!加勢してやってくれ!!」
「ビビアン!?分かったわ。それと代わりにこれを使って!!」

仲間の名を聞いたクリスチーヌはザックを地面に置くと、すぐに仗助が指した方に走って行く。
ダメージを回復させたマグドフレイモスが、彼女を襲おうとするが、そこに仗助が立ちはだかる。


「さぁて、俺達も早くコイツをどうにかしねーとな!!」
仲間が来てくれるというのはこの上なく嬉しいことだ。
吉良との最後の戦いで、死んだと思えば駆けつけてくれた億泰のように。
それが人間でなくとも、初めて出会った相手だろうと、東方仗助にとって変わりはない。

「ジョウスケ!!右から来るぞ!!」
すぐにミドナは仗助に指示を出す。
パートナーは違えど、一度は戦った敵だ。どうすればいいか、どんな攻撃をしてくるかはすぐわかる。
いくら軌道が読みづらい鎖の攻撃と言えど、来る方向を聞けば対処は難しくない。


「ドラァ!!」
仗助はスタンドを出して、その攻撃を打ち返す。

「次は蝙蝠を出してくる!!」
ミドナが言う通り、次にマグドフレイモスはファイヤキースを10匹出してきた。
「ドラララララララァ!!」
その攻撃は、先程よりも素早くファイヤキースを打ち落とす。
1人が2人に増えただけでも、戦いは一気に楽になる。
敵は集中力を半減することになるからだ。


「ほら、オマエの相手はこっちにもいるぞ?」
ミドナは、空から敵の弱点を積極的に狙う。
かつてマグドフレイモスと戦った時とは違う戦法だが、今度は影に隠れてばかりいるわけにもいかない。
怪物は蚊でも払うかのように、腕と鎖を振り回すが、難なく躱される。


849 : 血と灰の世界3 壊れた世界で彷徨ってた■■は ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:00:14 SMVHNdwk0

怪物がミドナにも攻撃をしようとしたため、攻撃の手数が明らかに少なくなったのは、仗助にも伝わった。
仗助とミドナ、2人まとめて薙ぎ払おうと衝撃波を打つ構えを取る。
先程と違い、防火壁代わりに出来る岩が無い。今から湖に飛び込むか?否。

(よし、今だ……!!)
クリスチーヌのザックから1つ武器を取り出す。
かつて仗助の父を追い詰めた小型ボーガンを彼が使うことになるとは、何かの縁だろうか。
遠距離攻撃のコントロールは、かつて承太郎と共にハンティングへ行った際に身に着けていた。
アイアンボーガンから放たれた鉄球は、炎裂き風を断ち、その先のマグドフレイモスの額に命中した。


★   ★


辛うじて保たれていた均衡は、ほんの少し油断をしただけでも崩壊しそうになっていた。
マリオがカゲの力を自身に集中させ、攻撃力と防御力を増大させる。
敵の圧迫感が強まったことに気付いたローザは、すぐに解除させようとする。


「まずい……ディスペル!!」
ローザは咄嗟に強化魔法を打ち消す白魔法を打つ。
危機は脱したが、ローザの魔力も無限にある訳ではない。
それに対し、マリオは疲れを見せずに襲い掛かって来る。
そして、そろそろ最初にかけたプロテスが切れてくる頃だ。
ローザは気づいてない訳じゃ無いが、回復に力を注いでいるため、その機会が中々回ってこない。


850 : 血と灰の世界3 壊れた世界で彷徨ってた■■は ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:00:41 SMVHNdwk0

「マリオ……許して!!」
ビビアンのまほうのほのおが、マリオに襲い掛かる。
だが、マリオはハンマーを振り回して、その炎を薙ぎ払った。
かつてこの殺し合いの会場で、ルビカンテの火焔流を打ち払った時と同じやり方だ。
そのまま天高く跳び上がり、ローザ目掛けて攻撃する。


しかし、空中の敵を打ち落とすのは、魔法の役目だ。
この機を逃すまいと、ローザはホーリーを放つ。
既に詠唱は、マリオがまほうのほのおをハンマーで薙ぎ払った時から始めていた。



ローザの両手に、真珠のような淡い光が集まって行く。
このまま戦いを続けていても、そう長くは続かないと考えたローザは、切り札を切ることにした。

「悪しき力を浄化せよ!!ホーリー!!」
やがて光り輝く白球となったそれは、天へと昇る。
光の雨としてマリオに降り注ぐ。
その力はマリオにかけられた呪いを浄化する……はずだった。



「!?」
真っ黒な糸のような黒い力が、白銀の光を飲み込んでいく。
マリオが放った、カゲの力を秘めた雷が、光の雨を打ち消した。
彼女の世界の究極の白魔法は、カゲの走狗にさえ劣るのだろうか?
それが真実かは不明だ。
だが、ホーリーでマリオを殺してしまいたくないというローザの心の迷いは、確実に魔法の威力を鈍らせた。
どんなモンスターマシンに乗っても乗り手の迷いが無ければ大した速度で進めないように、究極の白魔法であれど術士の迷いがあれば、凡百の魔法と威力は変わらない。


そして、威力が減退した魔法でも、詠唱後の守りが手薄になるのは変わらない。
すかさずマリオはローザ目掛けて、ジャバラジャンプの一撃を撃とうとした。
しかし、天から降り注ぐ槍と化したマリオが貫いたのは、白魔導士ではなく地面だった。
彼女が少し前にはなったブリンクで、九死に一生を得たのだ。


だが、戦いが依然として不利なのは変わらない。


「マリオ!?」
だが、この戦場に誰かが入ってくれれば、話は別だ。


851 : 血と灰の世界3 壊れた世界で彷徨ってた■■は ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:01:21 SMVHNdwk0

「クリスチーヌ!?」
それは、間違いなくビビアンの仲間のクリボーだった。

「どういうことなの?これは……。」
ビビアンとマリオ、仲間同士が戦うという異様な光景を見て、クリスチーヌは開いた口が塞がらなかった。
勿論ビビアンは敵の刺客として、マリオ達とも戦ったことはあるが、そうでもないようだ。
むしろマリオの方から、殺意や邪気を感じた。
そう、闇の宮殿に入った時に感じたような、カゲの女王が蘇った時のような、背筋が寒くなるような感触だ。


驚いている暇もなく、マリオは新たに現れた獲物目掛けて、ハンマーを振るう。

しかし、その間を一本の矢が割って入る。
「聞いて!マリオは何か悪い力に囚われているの!!こんなのマリオじゃないよ!!」
ローザの叫びと共に、クリスチーヌも自分の感覚が正しかったことに気付く。
そして、気付いたのはそれだけではない。
彼女はその目で、マリオの異変を見つけた。


(泣いている……。)
光を失ったマリオの両目から、確かに涙が零れ落ちていた。


1度言ったことだが、この戦場に完全な黒は無く、また完全な白も無い。
正義、救う、絆、仲間といった綺麗なお題目を上げる者達もまた、白一色で生きているわけではない。
だからこそ、完全な黒に身を委ねようとした者を助けようと考える。
その比率が異なれど、誰もが灰色の世界で足掻き続けている。


この場で言葉にせずとも、3人は分かった。
マリオは自分達に攻撃されるより、自分達を攻撃する方が何倍も辛いのだと。

「迷ってばかりじゃ……いられないようね。」
ビビアンやローザだけではない。
クリスチーヌもまた、この殺し合いの中で、誰かのために殺しの道を選んだ秋月真理亜や、協力より復讐に身を委ねた満月博士を見て、何度も悩んだ。
何が正しいのか、何をすべきなのかと。


けれど、今はそれどころではないことがはっきり分かった。


「ビビアン。さっきの炎魔法、もう一度打てる?」
同じように覚悟を決め、マリオを救おうとするローザがビビアンに問う。
「勿論よ。」
「ならば私がもう一回ホーリーを使うから、それに合わせて撃って。」
「じゃあ私が時間を稼ぐわ。」

この場にいた3人は、常に戦場では誰かの後ろからサポートをしていた者ばかりだ。
だからこそ、敵が対応しきれない新しい戦術を生み出すことが出来る。
1つのリーダーに従って動くのではなく、3つの個性によって織り成される戦術。


852 : 血と灰の世界3 壊れた世界で彷徨ってた■■は ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:01:44 SMVHNdwk0

先陣を切って走って行くのはクリスチーヌ。


「オドロン寺院以来ね。あなたと戦うなんて」
マリオの姿を奪ったランペルに騙されて、本物のマリオと戦った時のことを思い出す。
赤い帽子のリーダーに頼り切っていた故に、騙されたあの時とは違う。
自分もビビアンも、「マリオを助けたいために」戦う。



それをマリオが迎え撃つ。
高く跳躍したマリオは、彼女をも凡百のクリボーと同様に踏みつぶそうとする。
「これを使って!!」
ローザはクリスチーヌに「カチカチこうら」を投げる。
防御力を上げる道具は、プロテスよりも手早く使うことが出来る。


「私だって、マリオの戦いを研究しているんだからね!!」
味方だった時にマリオを戦いやすくさせるために身につけた知識は、相手が敵になった時も役に立つ。
躱しきることは出来ない。だが、ダメージを大幅に防いだ。


続いてくるのは、後方にいる2人もまとめて攻撃できるジシーンアタック。
だが、跳び上がった先に頭突きを食らわせたため、その攻撃は不発に終わる。


「マリオ。結局何がしたかったの?」
クリスチーヌが問いかける。

「ここに居る人たちを傷付けてさ、自分も涙を流すくらい苦しんで、それでもやりたいことがあったんでしょ?」

マリオは言葉を振り払うかのようにハンマーを振り回す。
クリスチーヌもまた、マリオがカゲの女王の交渉に乗らなかった世界からやって来た者だ。
ゆえに、マリオが女王のしもべになったという事実を知らない。
でもそんなことは彼女にとって些末なことでしかない。
クリフォルニア大学で研究していた時と異なり、必要なのは目の前の仲間が助けを求めているという事実であって、その根拠は必要ないから。
「あなたは人を助けてばかりじゃないよ!!助けてくれる人だっているのよ!!」


クリスチーヌは言葉を放ち続ける。
「もし本当にヒーローだというなら、私達の手を掴みなさい!!勇気を見せるのよ!!」


853 : 血と灰の世界3 壊れた世界で彷徨ってた■■は ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:02:29 SMVHNdwk0

カゲの眷属であるビビアンの言葉とは異なり、クリスチーヌが何を話してもノイズにしかならない。
そのはずなのに、どんな魔法よりもマリオの精神を抉って行った。


「マリオ、ちょっと痛いけど、我慢してね!!」
ビビアンの指先に、魔力が籠もる

「天の光よ!!」
ローザの両手に、聖なる光が灯る。
やがて光は一つの球体を作っていき、天へと飛ぶ。
ここまでは先ほどのホーリーと同じ。

クリスチーヌを突き飛ばしたマリオは、聖なる光を迎え撃とうと片手にカゲの力を蓄える。


「今よ!!ビビアン!私が出した魔法に炎を撃って!!」
「分かったわ!!」

ローザの合図に合わせて、ビビアンが魔法を唱える。
仲間と共にタイミングを合わせて攻撃するやり方を、ビビアンは早季と共に覚えていた。
「悪しき力を浄化せよ!!ホーリー!!」
「これを食らいなさい!!まほうのほのお!!」


「「ホーリーバースト!!!」」

太陽とは異なる眩しい光が、辺りを真っ白に照らした。
この場に居てはまずいとその身体を紙のようにして、ロールモードへと変わり、その攻撃から逃れようとする。
だが、紙のようになろうとした体は、急に元の姿に戻された。
忘れるなかれ。彼が無意識に使っていたその技は、元はカゲの女王を封印した勇者の力によるもの。
カゲの力を使っておいて、勇者の力をそう何度も使うことなど、許されるわけではない。
マリオはロールモードではなく、その足で逃げようとするが、時すでに遅し。
聖なる力をまほうのほのおのエネルギーでローザの世界にあるフレアのように濃縮させ、大爆発を起こす。
ビビアンの魔法だけではマリオのカゲを祓うことが出来ず、ローザのホーリーでは力が足りない。
ならばその2つを合わせることが出来れば?
互いの心の弱さを、互いが補うことが出来れば?


その魔法は、ローザの世界の未来で、ホーリーとフレアを合わせることで使えるようになる技。
ぶっつけ本番で作った技ゆえ、それと比べても威力は落ちるが、聖なる力を秘めたまま確かにその威力を発揮した。


854 : 血と灰の世界3 壊れた世界で彷徨ってた■■は ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:02:52 SMVHNdwk0

大爆発と共に大きなクレーターが出来て、マリオはその中心に伏した。


「マリオ……。」
爆発が止んだ後、ビビアンはすぐにマリオの所へ駆けつける。
強すぎる光を間近で見てしまったため、視界ははっきりしないままだが、そんな中でも大切な人の名をは呟いた。
その言葉には、どうして敵であった自分さえ助けたマリオがこうなってしまったのだという嘆きが籠もっていた。


マリオは何処か混乱している様だったが、ムクリと起き上がった。
「マリオ、もうやめて!!そんなことをしても誰も喜ばないよ!!」


――――このまま殺し続けていても、何も残らないよ。
闇と影の中で、『マリオ』から聞いた言葉を思い出した。
(そうだ、僕は。)

ハンマーを落とす。
その手を誰かを握り潰すためではなく、握りしめるためにその手を差し伸べようとした。


「あのね、マリオ。アタイ、あなたに言いたいことがあるの。マリオは……。」

しかし、肝心なことを忘れていた。
この場には、もう1人影に魅せられた者がいることを。


「ビビアン!!危ない!!」
マリオと交わされるはずの手が、急に力を失った。



「ウオオオオオオオオオ!!!!」
マグドフレイモスがいつの間にかビビアン達に近づいていた。
彼が投げた炎燃え盛る草の塊が、彼の後頭部に命中した。


855 : 血と灰の世界4 それでも ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:07:49 SMVHNdwk0

ボーガンの弾が命中した後、額を押さえたマグドフレイモスは、逃げていく。
「やったぜ!!」
仗助は拳を握って喜ぶが、ミドナの表情は強張ったままだった。
「まだだ!!アイツを転ばせるんだ!!」
ミドナはかつてマグドフレイモスを倒した時の手順を思い出す。
額にダメージを与えた後は、地面に倒してさらに追加攻撃を加えねば、あの怪物は倒せない。


「ど、どうするんだ?」
「早くアイツの鎖を引っ張るんだ!!」

ミドナの言う通り、スタンドでマグドフレイモスを足枷の鎖を引っ張ろうとする。


(コイツ……すげえ力だ!!)
鎖を掴んだ瞬間、手負いの怪物の凄まじい力がスタンド越しに伝わって来る。
だが、岩のような重さになれるアイアンブーツを履いた上で、磁石の床にでも経っていない限り、巨体のマグドフレイモスを転ばせることは出来ない。
クレイジー・ダイヤモンドでさえ、少しでも力を抜けば負けてしまいそうだ。
仗助ごと引きずられていく。



「だったら……ワタシが!」
マグドフレイモスに回り込み、ミドナがその額を打ち叩こうとする。
かつては光の世界では影の中でしか行動できなかったから出来なかったが、今はゼルダから力を承ったために出来る。


苦し紛れに怪物は地面を殴り、草原の一部を地面ごとむしり取る。
かつてマグドフレイモスが封印された部屋は、鉄の床で出来ていたため、それは出来なかった。

「!!」
ミドナは見たことのない技を食らいそうになり、慌てて躱そうとする。
しかし、その後ろから悲鳴が聞こえた。


「ビビアン!!」
クリスチーヌはビビアンとマリオがいる方に慌てて走る。
怪物の相手をしていた仗助とミドナも、ビビアンの方へ走った。
「くそっ……どうしてあいつが!!」


ローザはマグドフレイモスの額目掛けて、矢を放つ。


「マリオ……。」
炎の塊に押しつぶされながらも、ビビアンは口を開く。
マリオはこれまでビビアンにも攻撃していたのが嘘であるかのように、自らが焼けるのも厭わずその塊をハンマーで払い続けた。
ローザは慌ててケアルガをビビアンにかけようとする。

しかし、既にマリオの攻撃を受けていたビビアンには、もう遅かった。
いくら炎の魔法を使えるとは言え、炎の力に耐性が無いわけではない。


856 : 血と灰の世界4 それでも ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:08:17 SMVHNdwk0
力を込めても、仗助ごと引きずられていく。



「だったら……ワタシが!」
マグドフレイモスに回り込み、ミドナがその額を打ち叩こうとする。
かつては光の世界では影の中でしか行動できなかったから出来なかったが、今はゼルダから力を承ったために出来る。


苦し紛れに怪物は地面を殴り、草原の一部を地面ごとむしり取る。
かつてマグドフレイモスが封印された部屋は、鉄の床で出来ていたため、それは出来なかった。

「!!」
ミドナは見たことのない技を食らいそうになり、慌てて躱そうとする。
しかし、その後ろから悲鳴が聞こえた。


「ビビアン!!」
クリスチーヌはビビアンとマリオがいる方に慌てて走る。
怪物の相手をしていた仗助とミドナも、ビビアンの方へ走った。
「くそっ……どうしてあいつが!!」


ローザはマグドフレイモスの額目掛けて、矢を放つ。


「マリオ……。」
炎の塊に押しつぶされながらも、ビビアンは口を開く。
マリオはこれまでビビアンにも攻撃していたのが嘘であるかのように、自らが焼けるのも厭わずその塊をハンマーで払い続けた。
ローザは慌ててケアルガをビビアンにかけようとする。

しかし、既にマリオの攻撃を受けていたビビアンには、もう遅かった。
いくら炎の魔法を使えるとは言え、炎の力に耐性が無いわけではない。
「いっしょに、かえろ。」
そう一言告げると、彼は息絶えた。


857 : 血と灰の世界4 それでも ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:08:37 SMVHNdwk0

その瞬間、それまで騒がしかった戦場が嘘のように静まり返った。
伸ばした手はまたしても掴めなかった。
そして、一瞬の沈黙が訪れた後。
全員の鼓膜を破るかのような、慟哭が響いた。


「アアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」


今までとは比べ物にならないほど、カゲの力と殺意が増してくる。

「やべえ!!」
仗助の叫びも最早遅い。


「シェル!!」
ローザが全員に防御魔法をかける。だが、焼け石に水にしかならない。


辺り一帯を、凄まじい影の力が襲った。
黒の衝撃波。
かつてカゲの女王が使っていた最強の技を、マリオも使った。
元々女王から渡されたカゲの力に、産まれたばかりの怒りと憎しみを込めて。

かつてマリオ達はこの技を、ビビアンのカゲがくれで凌いだが、今回はその術者は息絶えている。


何もかもを、影と絶望が真っ黒に飲み込んでいく。
そこにはいかなる光も生きることを許さない。


「ちくしょう……、何で?」
吹き飛ばされた時に頭をぶつけたからか、顔に血が垂れた。
身体中が痛くて痛くてたまらない。
体重が何かの間違いで数十倍になってしまったんじゃないかと錯覚するぐらい重くなった体を鞭打って立ち上がる。
そこに広がっていた光景は、地獄だった。


858 : 血と灰の世界4 それでも ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:09:08 SMVHNdwk0

それまででさえ至る所が燃え盛り地獄か何かと思っていたが、この風景は少し前のそれよりはるかに悍ましかった。
地面の全てが抉り取られている。
もしも仗助が別の時空の杜王町に産まれていれば、「壁の目」というものを連想していたかもしれない。


「アアアアアアアア!!」
その真ん中で、マリオが叫びながら、動かなくなった怪物を、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も叩いていた。
怪物も黒の衝撃波にやられたのか、体を覆っていた火は消え、倒れたまま抵抗の意志を見せない。
生きているのか死んでいるのか分からないが、それでも壊れ切った英雄はその怪物を叩き続けた。
仲間を殺された復讐心か、それとも本当に壊れてしまったのか。


先程までは恐ろしい相手だと思っていたマグドフレイモスが、哀れな何かにしか思えなかった。
そして動かなくなった怪物を何かに憑りつかれたかのようにひたすら殴っているマリオもまた、哀れさを感じた。
これまで仗助は杜王町で、アンジェロから始まり、果てには吉良吉影と裁かれてしかるべき悪とばかり戦っていた。


だが、目の前にいる男は、これほど人を傷付けておいてなお、悪だとは言い切れなかった。
大切な人を失った時の悲しみは、祖父をアンジェロに殺された時、重清を吉良に殺された時に知っているから。
きっとその前に自分とキョウヤを襲ったのも、然るべき何かを失ってしまったのだと分かった。


「うああああああああ!!!!」
だからこそ、マリオを止めないといけないと思った。
仗助はビビアンやクリスチーヌと違い、元の世界ではマリオと無関係の人物だ。
ローザと違い、大事な人がマリオに殺されたわけでもない。
誰かの為などという大義名分ではない。


859 : 血と灰の世界4 それでも ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:10:29 SMVHNdwk0

「こんなことになったら、ヤケの1つでも起こすよなあ!!」
自分の後悔とやるせなさ、そして敵への哀れみが綯い交ぜになった、黄金の精神とは限りなく程遠い感情を爆発させる。


「分かるんだよ!!だからこそ、やったらいけねえんだよ!!」
スタンドも出さず、走って素手でマリオの顔面を打ち抜く。
思ったよりも軽く、マリオは吹っ飛んで行った。


「もういいだろ……。」
マリオもまた、ひどくボロボロの状態だった。
既に1人で5度戦い、ローザとビビアンの合体魔法を受けたので当然だ。
それでもハンマーを振りかざして、仗助に襲い掛かって来る。


またも仗助の拳がマリオの団子鼻にヒットする。
だが、マリオはそんな痛みは無いとばかりにハンマーを振り回そうとする。
「こんなのでいいのかよ!!何もかもを壊し尽くせば、オメーはそれで満足なのかよッ!!」
クレイジー・ダイヤモンドと、ハンマーが同時にぶつかる。
最早、誰もがなんのために戦っているのか分からない有様だった。
そこは正義白も悪の黒も、他の色も完全に入り混じってしまった、灰色の世界。
表も裏も関係ない殺し合いだ。


「そんなことを許してたまるかあッ!!!」
クレイジー・ダイヤモンドのラッシュがマリオに刺さる。
強化魔法を使わせる隙も与えない。
何度目か、マリオは吹き飛んだ。


「ぐあっ……!!」
仗助の頭上から雷が落ちる。
防御する体力は残されておらず、膝をつく仗助。
何度も攻撃を受けてなお、マリオはまだ立ち上がる。


「これだけやって……これだけやってもまだ足りねえのかよ!?」
破壊を繰り返す欲望も目的も何なのか、マリオ本人にすら分からないというのに、立ち上がる仗助は驚きを隠しきれなかった。


「マリオ!!」
気が付くと仗助の後ろで、クリスチーヌが立っていた。
彼女もまた、マリオの技を受けて立っているのもやっとという状態だ。


「分かったわ。答えが。」
クリスチーヌはただその一言だけ言った。


860 : 血と灰の世界Final  ザ・ワンダー・オブ・ユー ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:12:30 SMVHNdwk0
「生きていてよかった……けど、もうアイツはどうしようも……。」
「今のマリオを否定しても、きっと彼を救うことは出来ないわ。それに何より、考古学者の卵の私が、解明出来ないことを出来ないままにしておくことはできないのよ。」


今、仗助とクリスチーヌの目の前にいるカゲの怪物は。
ゴロツキタウンで悪党に絡まれていた見ず知らずのクリボーを助けてくれる、優しい人なのだ。
いくらマリオがこの場で破壊の限りを尽くしたとしても、マリオは壊れてしまったからという否定だけで終わらせたくは無かった。


「そいつは、グレートっすね。」
その言葉をかけられ、仗助はどうにも出来なかった。
彼女の決意には、大昔に彼を彼たらしめる所以になった、大雪の日の不良と同じ物を感じたから。
そんな彼女の想いを、部外者でしかない自分が否定することは出来ない。

「ありがと。心配しないで。誰よりも英雄を倒してきたのは、クリボーなんだから。」
ただ、僅かでも力になればよいと、スタンドで彼女の傷を僅かながら回復した。




「マリオ。」
向かってくる堕ちた英雄に、彼女は優しく声をかける。
彼女が話すのは、同じ仲間でマリオを想っていたビビアンの言葉の続き。
「覚えている?初めて出会った時のこと。」
彼女が発するのは、言葉の弾丸だけではない。
かつて戦い方を教える時に、マリオに放った頭突きを食らわせる。


「あなたに何があったのかだけは、私には分からない。けれど、私にとって分かることは、あなたが私を助けてくれた人ことなのよ。」


861 : 血と灰の世界Final  ザ・ワンダー・オブ・ユー ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:12:55 SMVHNdwk0
「生きていてよかった……けど、もうアイツはどうしようも……。」
「今のマリオを否定しても、きっと彼を救うことは出来ないわ。それに何より、考古学者の卵の私が、解明出来ないことを出来ないままにしておくことはできないのよ。」


今、仗助とクリスチーヌの目の前にいるカゲの怪物は。
ゴロツキタウンで悪党に絡まれていた見ず知らずのクリボーを助けてくれる、優しい人なのだ。
いくらマリオがこの場で破壊の限りを尽くしたとしても、マリオは壊れてしまったからという否定だけで終わらせたくは無かった。


「そいつは、グレートっすね。」
その言葉をかけられ、仗助はどうにも出来なかった。
彼女の決意には、大昔に彼を彼たらしめる所以になった、大雪の日の不良と同じ物を感じたから。
そんな彼女の想いを、部外者でしかない自分が否定することは出来ない。

「ありがと。心配しないで。誰よりも英雄を倒してきたのは、クリボーなんだから。」
ただ、僅かでも力になればよいと、スタンドで彼女の傷を僅かながら回復した。




「マリオ。」
向かってくる堕ちた英雄に、彼女は優しく声をかける。
彼女が話すのは、同じ仲間でマリオを想っていたビビアンの言葉の続き。
「覚えている?初めて出会った時のこと。」
彼女が発するのは、言葉の弾丸だけではない。
かつて戦い方を教える時に、マリオに放った頭突きを食らわせる。


「あなたに何があったのかだけは、私には分からない。けれど、私にとって分かることは、あなたが私を助けてくれた人ことなのよ!!」


862 : 血と灰の世界Final  ザ・ワンダー・オブ・ユー ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:13:23 SMVHNdwk0

「来るなら来なさい!!何があっても私はマリオを信じるわ!!」
黒い色をしたエネルギーが、大津波のように彼女に押し寄せた。
だが、凄まじい力を前にしても、クリスチーヌは彼を否定しなかった。


「ホーリー!!」
カゲの力が1人のクリボーを飲み込む寸前、女性の声が響いた。
ローザが最初の黒い衝撃波に対して使ったシェルのおかげで、2人は死を免れたのだ。
彼女が放った聖なる魔法が、衝撃波を食い止める。
「ワタシも生きてるってことを忘れるなよ!!」
ミドナが影の力をその手に集め、小さな衝撃を打ち出す。


2人の力は、クリスチーヌを死から守る。
だが、マリオの全てを使った力は、それだけでは止まらない。


「馬鹿野郎――ッ!!決意したんだったら!早く行けえーーーーーッ!!」
彼女の守るために、スタンドを出した東方仗助が立ちはだかる。
だが彼でさえも、カゲの力には勝てず、吹き飛ばされる。


(ダメ……せめて何かあと一手……誰でも、何でも良いから!!)
圧倒的な力の前では、説得も彼女の力も無意味でしかない。
そして彼女までも、その力の餌食になろうとしたその時。


奇跡は起こった。


「ウオオオオオオオオオ!!!」
怪物からゴロンの姿に戻ったダルボスが、その身体を広げ、岩のような巨体でクリスチーヌを守ったのだ。
今の彼は、この殺し合いのことさえ知らない。
最早その命さえ無かったはずなのに、なぜそんなことが出来たか分からない。
ただ分かることは、のび太や覚の記憶を時間が巻き戻されたことで失っても、ゴロンの族長の矜持は失わなかったことだ。
そして、自分は取り返しのつかないことをしてしまったのだと、償いをしなければならないと、その心で分かっていた。


「ありがとう!みんな!!」
全ての力を耐えきり、クリスチーヌは最後の一撃の頭突きをマリオに見舞う。
それは今まで仲間だったクリスチーヌではなく、この戦いで英雄を救う彼女としての一撃だった。


863 : 血と灰の世界Final  ザ・ワンダー・オブ・ユー ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:13:44 SMVHNdwk0

それは、新たに生まれたヒーローが撃った一発にしては、ひどく弱かった。
だけれど、確実にマリオの心に救っていたカゲを確実に討った。



――――ようやく、気付いたようだね。
――――君は、肯定されたかったんだよ。
――――君はやったことを肯定されたいんじゃない。君自身を肯定されたかったんだ。


かつてピーチを失った時に出会った、もう一人の『マリオ』が言う。


――――君は、助けてばかりじゃない。助けられる人だっているんだ。
――――白か黒かだけで生きる必要は無いんだ。


ずっと真っ暗な世界をさまよってたマリオの視界が、急に明るくなる。
「あの……マリオさん、おつかれさまです。」
「マリオ、会えてうれしいよ。でももう一人、マリオに会いたがってた人がいるんだ。」
その世界で、ビビアンが、ノコタロウが手を差し伸べてくれる。
マリオはその手を優しく握り返す。

「アタイも、やっと誰かを助けることが出来た。やったよ、早季。」
「ふふ、ビビアンさん、やっぱりすごいですよね。それとマリオさん、もう一人、会いたがってた人がいるんですよ。」


仲間達は満足した様子で消えて行く。


マリオの目の前に現れたのは、ピーチ姫だった。


「ぴー……ちひめ?」
声を絞り出すように発する。目の前に、大切な人がいる。
白くて綺麗な手は、そっとマリオの両手に触れた。


それを拒絶するマリオ。
血で汚れ切った自分は、美しい姫が触ってはいけない。
「あなたはね、どうなっても私のヒーローなのよ。」

にも関わらず、ピーチは優しく彼を抱きしめてくれる。
マリオはその言葉を待っていた。
あの時、女王に乗っ取られたピーチを傷付ければ、白のままでいることは出来ない。
だから、黒として生きる道を選んだ。
けれど、どちらでもない灰色の英雄でも、灰色の人でも許してくれる者がいる。
もう、誰かを殺す必要も、リーダーとして常に選び続ける必要もない。


「さあ、帰ろう、マリオ。」
手を繋いで、光の方へ歩いていく。


仲間とも、恋人とも。
ずっと、ずっと一緒だ。


864 : 血と灰の世界Final  ザ・ワンダー・オブ・ユー ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:14:17 SMVHNdwk0



「う………」
クリスチーヌは意識を取り戻す。
気が付くと、マリオが彼女自身に触れていた。
もう息は無かったが、これまで破壊の限りを尽くしていた彼とは思えないほど優し気な笑みを浮かべていた。


「目が覚めた?」
ローザが、傷ついた人たち全員に回復魔法をかけ続けていた。
「みんなは?」


「ミドナと私は無事だったけど……黒い髪の男の人は……もう……。」
ミドナは気絶しており、東方仗助とダルボスはもう生きていなかった。
本当ならば黒い衝撃波を受けた時、全滅していてもおかしくなかった。
3人生きているだけでも、おつりがくるほどの奇跡だ。


全ての力を使い果たしたマリオは光に包まれ、消えて行った。
残されたのは、彼のトレードマークの、赤い帽子だけ。
「これで……良かったんだよね。さようなら。マリオ。」

最後に、同じように動かないビビアンの、ほとんど煤けてしまった帽子をザックに入れる。
「ビビアン、あなたが手伝ってくれたおかげで、マリオを取り戻せたよ。」


「次は私がこの殺し合いを止めるわ。だから安心して。今まで頑張った分もゆっくりやすんでね……。」
その言葉をかけた時、次第に涙が出てきた。


「マリオ………マリ……オ………うわああああああぁぁぁぁぁああああ!!!!」


本当は、マリオと一緒に帰りたかった。
ああしてマリオを何度も攻撃して、救うことがベストアンサーだったかもしれない。
けれど、本当は正義も何もかも捨てていいから、マリオと一緒に居たかった。
それが、一緒に破壊の限りを尽くすことでも。
彼女もまた、白一色のクリボーではないのだから。


865 : 血と灰の世界Final  ザ・ワンダー・オブ・ユー ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:14:38 SMVHNdwk0

(お願いです。今だけ、今だけで良いので、こうしてそばにいさせてください。
それが済んだら、マリオの為にこの殺し合いを壊しますから。)

堕ちた英雄を救った者ではなく、一人のクリボーの少女として、彼女は泣き続けた。




【ビビアン@ペーパーマリオRPG 死亡確認】
【ダルボス@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 死亡確認】
【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 死亡確認】



【マリオ@ペーパーマリオRPG 消滅】
【残り 24名】





【C-7 荒野 昼】

【ミドナ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 】
[状態]:ダメージ(特大) 精神疲労(大) 後悔(大) 気絶
[装備]:ツラヌキナグーリ@ ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:ザントを討ち、光と影の両世界を救いたい
1:………。
2:秋月真理亜を殺す
参戦時期は瀕死の状態からゼルダにより復活した後
陰りの鏡や影の結晶石が会場にあるのではと考えています。



【クリスチーヌ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:HP1/10 悲しみ(特大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品@ジョジョの奇妙な冒険 キングブルブリンの斧@ゼルダの伝説 マリオの帽子 ビビアンの帽子 グリンガムのムチ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士 ビビアンの基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み) クローショット@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス ランダム支給品(×0〜1 確認済) ジシーンアタックのバッジ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品×2(マリオ、セシル) ランダム支給品0〜3 
[思考・状況] 
基本行動方針:首輪解除のヒントを見つける
0.マリオ……。
1.ミドナに付いていく
2.モイやゼルダへの償いの為にも、秋月真理亜を倒す
3.仲間(マリオ、ビビアン)を探す
4.クッパ、バツガルフ、真理亜に警戒
5.モイやノコタロウ、ピーチの死を無駄にしない
6.首輪のサンプルが欲しい。
※図書館の本から、DQ7.FF4にある魔法についてある程度の知識を得ました。
※首輪についてある程度仮説を立てました。
• 爆発物ではないが、この首輪が原因で死ぬ可能性は払拭できない。
• 力を奪うのが目的



【ローザ・ファレル@Final Fantasy IV】
[状態]:HP 1/10 MP:0 決意
[装備]:勇者の弓@ゼルダの伝説+矢20本 トワイライトプリンセス ふしぎなぼうし@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:一先ず休む
1.仲間(カイン、エッジ、ヤン)を探す。
2.ガノンドロフ、ボトク、バツガルフ、ユウカ、レンタロウ、吉良に警戒
※参戦時期は本編終了後です。
※この殺し合いにゼムスが関わっていると考えています。
※ジョジョ、無能なナナ、DQ7、ペーパーマリオの参戦者に関する情報を得ました。


※D-7には、承太郎が盗んだバイク@ジョジョの奇妙な冒険 があります。


866 : 血と灰の世界Final  ザ・ワンダー・オブ・ユー ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:14:57 SMVHNdwk0

【E-7 草原 昼】


【野比のび太@ドラえもん のび太の魔界大冒険】

[状態]:気絶 ダメージ(小) 出血多量  情緒不安定
[装備]:ミスタの拳銃(残弾3)@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ダルボス、覚と共に脱出する
0.…………。
1. 仲間(ドラえもん、美夜子、満月博士)を探したい
2. デマオン、スクィーラ、ガノンドロフには警戒
※参戦時期は本編終了後です
※この世界をもしもボックスで移った、魔法の世界だと思ってます。
※主催者はもしもボックスのような力を持っていると考えています。
※放送は主催が危機感を煽るために嘘だと考えています。


【朝比奈覚@新世界より】
[状態]:ダメージ(小) 早季への疑問
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、北風のテーブルかけ(使用回数残り17/20)@ドラえもん のび太の魔界大冒険 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探し、脱出する
1. 安全な場所を探す
2. のび太の仲間を探す。生きていても死んでいても。
3. 神栖66町の仲間(早季、守、真理亜が心配)
4. 仲間を探す過程で写真の男を見つけ、サイコ・バスターを奪い返す
5. デマオン、スクィーラ、ガノンドロフに警戒

※参戦時期は26歳編でスクィーラを捕獲し、神栖66町に帰る途中です。


867 : 血と灰の世界Final  ザ・ワンダー・オブ・ユー ◆vV5.jnbCYw :2022/06/15(水) 22:15:07 SMVHNdwk0
投下終了です


868 : 名無しさん :2022/06/16(木) 10:09:59 TUtUuyHE0
投下お疲れさまでした。

仗助が取ってつけたような死亡判定をされていますが、文章が抜けているのでしょうか?ところどこら重複している箇所があるみたいですし。
何度読み直しても、死亡にいたるプロセスがわからなくて…上から目線で申し訳ございません


869 : 血と灰の世界Final  ザ・ワンダー・オブ・ユー ◆vV5.jnbCYw :2022/06/16(木) 10:39:44 fzI/MU4k0
すいません。
良く読み返してみると、血と灰の世界Finalに記入漏れがありました。
他にも描写不足は否めなかったので、加筆しました。





「馬鹿野郎――ッ!!決めたんなら!早く行けえーーーーーッ!!」

彼女の守るために、スタンドを出した東方仗助が立ちはだかる。
クレイジー・ダイヤモンドは回復の為ではなく、今度は両腕をクロスさせて、防御のために使う。


「嘘?やめて!!」
「やめねえよ……そんなことよりどうしたいか考えるっすよ……」

遠くからならいざ知らず、ゼロ距離で最強の技を受ければ、ただでは済まない。
スタンドのダメージのフィードバックが容赦なく来る。
既に何度も攻撃を受け、元々限界寸前だった。
それでも、彼はグレートだと認めた仲間を、その命尽きるまで守り続けた。
スタンドは消え、凄まじいエネルギーの濁流が、杜王町のヒーローを飲み込む。
それは真っ黒い色をした津波に人が抗うようなものだ。
いくら人が鍛えても、災害とまともにぶつかりあえば死ぬのも道理でしかない。
両腕が千切れ飛び、彼のアイデンティティーの1つである学ランも破け、その身体もカゲの力には勝てず、吹き飛ばされる。


(ダメ……せめて何かあと一手……誰でも、何でも良いから!!)
圧倒的な力の前では、説得も彼女の力も無意味でしかない。
そして彼女までも、その力の餌食になろうとしたその時。


870 : ◆vV5.jnbCYw :2022/06/24(金) 18:09:22 bi58G1Tk0
前回で参加者がヤン達のパート、キョウヤ達のパートを除いて昼まで行きました。
他の方で上の2つのパートを予約する方もいないようなので、これから第二放送予約します。


871 : 名無しさん :2022/06/25(土) 11:27:26 VPfcgMrY0
nicovideo.jp/watch/sm40673291


872 : ◆vV5.jnbCYw :2022/06/27(月) 18:05:52 5eOnTimI0
それでは第二放送を投下します。


873 : ◆vV5.jnbCYw :2022/06/27(月) 18:06:28 5eOnTimI0
太陽が一番高くに昇った時、再び殺し合いの会場に声が響いた。
その声には、かつてないほどの高揚があった。
それもそのはず。かつて自分を殺した勇者が、ついに倒れたのだから。



『―――――諸君、殺し合いを楽しんでおられるようで何よりだ。』


その皮肉を混ぜたオルゴ・デミーラの言葉が、参加者たちに12時を告げた。


『この殺し合いが始まって、12時間が経過した。
お楽しみの所水を差す用で悪いが、これより最初の放送から今まで死したデク人形の名を告げることにする。
心して聞くがよい。



♢4 矢安宮重清
♡11 エッジ
♤9 ボトク
♡12 ゼルダ
♤13 ガノンドロフ
♤A アルス
♡10 渡辺早季
♢11 ゴルベーザ
♢5 満月博士
♤4 鶴見川レンタロウ
♡4 ビビアン
♢13 東方仗助
♢6 ダルボス
♤7 マリオ


以上、14名!!


フ…………フハハハハハハハハハハハハ!!!!

すまない。放送中というのに失礼した。
この殺し合いがここまで順調に進み、これほど早く参加者が半分を割るとは、われとしても予想外だったのでな。


実に、実に素晴らしい!!
デク人形共はこの世界で己が才を一番発揮しているのではないか?
まあいい。ひとまずここまで生き残れたことを喜び、そう遠くない優勝を楽しみにしておくがよい。


われの忘れぬうちに、禁止エリアを伝えねばな。
積極的に殺し合いを進めているデク人形共の熱意に応じて、今回はその数をさらに増やそう。


まずは二時間後、14:00に[A-6]、[G-3]
続いて四時間後、16:00に[C-4]、[D-9]
最後に六時間後、18:00に[E-4]、[B-2]


874 : ◆vV5.jnbCYw :2022/06/27(月) 18:07:07 5eOnTimI0

以上6か所を2時間ごとに2つずつ閉鎖する!!
乗り物を使っている間は禁止エリアに抵触しても問題は無いが、迂闊に土足で踏み込まぬようにな。


最早われがこのような手を打たずとも、自ずとこの殺し合いはそう遠からず終わりそうだが、規則ということで伝えることにした。
さあ、戦え!!この殺し合いの終焉まで戦い抜け!!それこそがわれらの未来にも、最後に残ったデク人形の未来にも繋がる!!
正義など聞いてあきれる。この世は闇とカゲが全て――――――――


その時、オルゴ・デミーラの放送が、凄まじい地震によって遮られた。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼



時は少し遡り、場所は闇の魔王が放送を行った場所より下の階。
かつてカイン達が偶然立ち寄った、あの大量の石像と蝋燭がある部屋だ。


「いよいよか……」
二度目の放送が流れる中、そこに一人、黒い衣と尖った仮面をつけたザントが現れる。
その手に抱えられているのは、意識を失っている少女。

(こやつの想い人は、既にこの戦いで死している。故に、あの時と同じ失敗は起こるまい)


その部屋の最奥に、異様な物質が2つ。
1つは電話ボックスのような姿をした、異なる世界への架け橋、もしもボックス。
そしてもう1つは、とある世界を闇に落としたマモノを封印した棺。


「さあ、女王様。表裏の深淵にて蘇りください。」

その瞬間、部屋にある赤い光を放つ蝋燭が一斉に消え、代わりに真っ黒な炎が灯る。
凄まじい地震と共に、真っ黒な棺の蓋が音を立てて開いた。
同時に、途轍もない勢いで邪悪な魔力が放出される。
さしずめ黒い嵐のようであった。


自信が静まると、空いた棺の奥から漆黒の身体をした、輝く冠を付けた何かが現れた。
彼女こそが、1つの街を滅ぼした災いの元凶。
災いの魔女。
世界をカゲに包み滅ぼす魔物
「ダレじゃ……わらわを呼び起こす者は……。」
「私でございます。女王陛下。」
ザントは棺から現れた、凡そ人間とも、命を持った生き物とも思えぬ姿をした女王にひれ伏す。

「そちか……まあ、よい。わらわの魂の入れ物はいずこじゃ?」
「この娘が、そうです。」


カゲの女王の目の前に、緑のレオタードを付けた、緑の髪の少女が差し出される。


「………かつての娘子ほどではないが、なかなかのものじゃな……。しかも魔力も潤沢に見える。」
「はい。しかもその伴侶は既にこの戦いで死しております。故に反逆することは無いかと。」


女王は黒い紙のような手で、緑の召喚士リディアを握り締める。
同時に凄まじい衝撃が走り、既に闇を内包していた始まりの場所が、更なる闇に包まれた。


875 : 第二回放送 ◆vV5.jnbCYw :2022/06/27(月) 18:07:38 5eOnTimI0

「これにて、わらわは復活したわけだ。どうにかしてこの少女が持っている魔法や、特別な力を使ってみたいものだな……。」
明るい緑色だった髪も、服も真っ黒に染まったのは、まさに彼女が憑りついた証左。


「一体これはどういうことだ。」
その時、空間が歪み、放送を中断したオルゴ・デミーラが現れた。


「デミーラ卿。彼女こそが8つの世界をカゲと闇に包んでくれる者です。」
「………万物の長は我以外になし。我に先立って全てを闇に飲み込むなど許さぬ。世の闇は我がものなり。」


その瞬間、闇の光を纏った雷が、闇の魔王に落ちた。
「身の程も知らずにわらわに歯向かうとはなんたる無礼!!」
彼女もまた、世界の征服まで王手をかけた魔物だ。
当然、反撃の手を打つ。


「あくまでわれに逆らうか。光の人間であれ、闇の人間であれ、我に逆らうならば……。」
しかし、デミーラは気づかなかった。
ザントが彼の胸に、2本の剣を突き立てていたことを。


「デミーラ卿。あなたはよくやって下さいました。ですが女王様に逆らうというのならば、致し方あるまい。」
「愚かな……。」

デミーラは竜から人へ姿を変え、串刺しの刑から逃れようとする。
ゼリーのようにドロドロになった瞬間、柔らかくなった部分が固まった。


「ウロ〜〜〜〜〜〜ン。」
「姿を変われれば厄介。ですが、その姿を変えさせなければただの強い魔物と何ら変わりない。」
徐々に変身の要になる部分が、石へと化していく。
いつの間にか現れたメジューサが、石化光線を浴びせていた。


人間なら一瞬で石像へと変えてしまう魔法も、魔王相手にはさほど通用しない。
石になって行くのは、身体の一部だけだ。
だが、その一部だけで十分だった。


再び、魔王の頭上に雷が落ちる。
石になった部分は砕け散った。

「おの………れ…………。」
変身を封じた直後、ザントがその頭を剣で突き刺す。




[オルゴ・デミーラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち 死亡]


876 : 第二回放送 ◆vV5.jnbCYw :2022/06/27(月) 18:08:38 5eOnTimI0
「ふむ。これでわらわの邪魔をする者はいなくなったか………。」
カゲの女王は、元の少女からは想像もつかないほど、邪悪な笑みを浮かべた。
ザントは剣を仕舞うと、再び女王に頭を垂れた。


「そう固くならずともよい。わらわの器を差し出してくれた恩もある。
改めて聞くが、星の石の力で『二度』封印されたわらわを復活させてくれたのはそちで間違いあるまいな?」


頭を上げ、ザントは震えながら言葉を発する。


「その通りです。我々は光と影を一つの闇にするために、それを成せる者を探しました。」

ザントの目的達成に一役買ったのは、メジューサだった。
彼は時間の流れに逆らうことも出来、そしてもしもボックスを通して正史と異なる世界、さらにはドラえもんが関係さえしていなかった世界にも横断することが出来た。
デマオンが倒されても、彼は時間と空間の狭間にいたため、他の悪魔と同じように死ぬことは無かったのだ。


やがて、世界を巡りデマオンに匹敵するほどの力を集めようとし、最初に出会ったのがザントであった。


「そして女王陛下が、英雄を配下に加えた世界を、こちらのもしもボックスを通じて見つけたのです。
無論器となる乙女と新たな力の源になる、28の魂。それに殺し合いの最中に生まれた闇も献上いたしました。」
「ふむ、大儀であった。褒めて遣わそう。」
「勿体ないお言葉……。」
「それとこの儀式は、まだ途中であったな。わらわもこの闇と影の遊戯を最後まで楽しみたい。この殺し合いの管理を頼むぞ。」
「仰せのままに。」


新たな主をむかえ、ザントは喜びの言葉を口にする。
だが、その口元は緩んではいなかった。
彼の脳裏には、2つ問題が残っていたからである。


877 : 第二回放送 ◆vV5.jnbCYw :2022/06/27(月) 18:08:51 5eOnTimI0

1つは、新たなる主の存在。
まさか復活して早々、デミーラを殺すとは思っていなかった。
最初の主であったガノンでさえも見切りをつけた以上、彼が死したことに対する同情の念は無い。
だが、その手が自らにも及ぶかは分からないという懸念だ。
両方が共倒れになり、殺し合いが瓦解するのが最悪の結果であるため、デミーラを消すことにした。


そしてもう1つ。
彼の目的は、光と影を1つの闇にすること。
デミーラやカゲの女王をメジューサと共に探したのも、それが理由だ。


だが、あと一手足りない。
時間も空間も超えて全てを闇に塗りつぶすためには、もう1人必要な人物がいる。
正史でも死んだことになり、その死はたいていの人間から忘れられている人物だ。


幼き頃から優秀な呪力を備えながらも、その暴走により存在するだけで正常を異常に変え、理を不条理へと帰す存在。
ゆえに、異なる次元からの干渉も受け付けなかった存在。
彼の暴走する呪力を、時空を移動できる力に組み込めば、原因も結果も、過去も未来も、本来なら僅かな交わりさえ許さぬ時空も、そして表も裏もめちゃくちゃになる。


「私はお前が欲しい、青沼瞬。」




NEXT Double Game Battle Royale Third Stage


残り 24人



※放送直後に、会場全土に一時的に大地震が起こりました。
※カゲの女王の復活により、殺し合いの会場全てがカゲに包まれました。そのため、太陽や月の干渉が一切なくなります。


[??? 一日目 昼 ] 


【カゲの女王@ペーパーマリオRPG】
[状態]:健康 愉悦 リディア@FINAL FANTASY IVに憑依
[装備]:???
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:全てを影に飲む
1.???

※本ロワのマリオと同じ、マリオが『しもべになる』を選んだルートからの参戦です。


【ザント@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:健康 女王に対する懸念
[装備]:ザントの双剣
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを見届ける。
1.カゲの女王と共に光と影を1つの闇に
2.まだ見つからない侵入者を殺す
3.青沼瞬@新世界より を?

※少なくとも影の宮殿で敗れてからの参戦です。


【メジューサ@ドラえもん のび太の魔界大冒険】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを管理する。
1.ザントに仕える

※デマオンが死んでからの参戦です


878 : 第二回放送 ◆vV5.jnbCYw :2022/06/27(月) 18:12:11 5eOnTimI0
放送投下終了です。
何らかの理由でこの放送の投下を取り消さない限り、放送後の予約・投下は明日の18:00から解禁となります。


それと皆様のおかげで、表裏バトルロワイヤルはいよいよ佳境へと入ることが出来ました。
ここまで読んでくれた皆様方、およびリレーして下さった書き手様方、ありがとうございます。
未熟者なりに完結まで進めて行こうと思いますので、これからもこのロワを何卒宜しくお願い致します。


879 : ◆vV5.jnbCYw :2022/06/30(木) 00:02:50 eLtkFXzQ0
期限過ぎたので予約しますね。
スクィーラ、クッパ予約します。


880 : ◆vV5.jnbCYw :2022/07/01(金) 22:03:52 CiIzJn0M0
投下します


881 : ネズミは路地裏を行く ◆vV5.jnbCYw :2022/07/01(金) 22:04:58 CiIzJn0M0

殺し合い開始から半日が経過した。
その事実を告げる放送が、流れ始める。
最初に流れたのは、犠牲者の名前。


脱落したのは14人。前の放送と合わせれば27人。
これにて残り参加者は半分を割り、中には最初に殺し合いで出会った白装束の男や、かつて自分を捕らえた渡辺早季もいた。
余りにも順調すぎるペースである。
このペースが維持されれば、そう遠くない内に決着はつくだろう。
数少ない懸念点は、自分のことを怪しんでいたカインと、元の世界で自分の目的を知っている朝比奈覚がまだ生きていることだ。
彼らが自分のことを吹聴しているかどうか、それが気になった。


続いて禁止エリアが知らされる。
一気に増えた禁止エリアを忘れることのないように、地図を開き、爪で印をつけていく。
その時、放送に混ざって、何かが聞こえてくると思ったら、隣にいたクッパのうめき声だった。


「ウウウウウウ……。」
頭を抱え、何やら頭痛に苦しんでいる様子だった。


「あ……あたま……いたい、われそう…うがあああああああああああああ!!!!!!!」
(!?)

突然、クッパだった怪物は叫んだ。
ピーチに続いて、マリオというクッパを彼たらしめた者が死んだからだろうか。
咽喉が枯れるまで、叫び続けた。


そして、間髪入れずに地震が起こる。
(こ……これは……)
バロン城に避難しようと考えたが、壊れかけの城に地震が起きている間に避難するなど自殺行為以外の何でもないと判断した。
真っすぐ立つことも敵わず、腰を抜かして背中に土を付けることになった。
スクィーラは、最初はこの地震がクッパと関係のある何かだと思っていた。
今の放送で、何かのはずみで記憶を取り戻してしまい、自分が何をしたか気付かれてしまう恐怖感を胸に抱く。


(今度はなんだ……?)
地震が収まるとすぐに、空がカゲに覆われた。
字面で表すと奇妙な表現に見えるが、文字通り真っ黒に染まったのだから仕方がない。
辺りは真昼なのに、太陽の光が届かないほど深い森の奥にいるかのような気分になった。


882 : ネズミは路地裏を行く ◆vV5.jnbCYw :2022/07/01(金) 22:05:23 CiIzJn0M0

クッパの雄たけびと、大地震、それにカゲに覆われた空。
出来事が矢継ぎ早に起こりすぎて、スクィーラは悲鳴も上げる暇さえ無かった。


一体何が起こったのか。
もしもの話、スクィーラが放送を最後まで聞けていれば、主催者側に何か異常があったのだと感づいていただろう。
しかし、クッパの雄たけびが原因で、放送が途切れた瞬間を捉えることが出来なかった。
主催者が、この殺し合いが折り返し地点にたどり着いた記念を表したものなのか。
それにしては、大げさなパフォーマンスかと思ったが、結局答えは出ないままだった。


考えても答えが出ないことだと割り切り、思考を未来の方向に舵を切る。
クッパは先ほどの慟哭の後、何事も無かったかのように項垂れたままだった。


「神様。」
「ぴーち、たすけないといけない。ぴーち、どこ?」
「申し訳ございません。このスクィーラ、神様の細君を見つけるのに尽力していますが、まだ手掛かりが掴めておりません。
彼奴等は姫を攫った上で、巧妙に姿を隠しているようです。」


先程までと全く変わってないようで何よりだと安堵する。
辺りが暗くなったのは別に問題ではない。
視界に差し支えるほど真っ暗になったわけではないし、むしろ暗い場所なら鼻が利くバケネズミにとって追い風だ。


次に、ここから何処へ向かうべきか考え始めた。
とりあえずデパートに戻ることにしたが、そう遠くない内にデパート方面とこの島を繋ぐ橋が禁止エリアになる。
今から動けば問題なく時間までにデパートへたどり着けるが、橋という一本道は往々にし戦いが起こりやすい。
のんびり戦っている間に、禁止エリアによる首輪爆破という事態だけは避けたかった。


「では神様。デパートへ向かいましょう。大きな建物なので、もしかすれば神様の伴侶も向かっているかもしれません。」


あのデパートは灯りが付いていた。
辺りが暗くなれば、虫も人間も明るくて大きな建物に集まって行くのが自明の理。
外に命を狙ってくる鼻持ちならぬ輩がいるのなら猶更だ。
その集まっている人間の中に、朝比奈覚やカインがいるかもしれない。
だが、その時はクッパをなだれ込ませて、建物を崩壊させれば良いだけだ。


行先が決まると、二人は颯爽と歩き出す。
その間もスクィーラは思考の回転を怠らなかった。


参加者を建物などの明るい場所に誘導する行為に、禁止エリアが9つに増えたことで一気に狭まったフィールド。
恐らく、より狭い範囲で殺し合いを加速させる試みだとスクィーラは考えた。
彼の理想としては、決まった箇所に出来るだけ多くの参加者が集まってくれることを考える。
ニトロハニーシロップの爆発範囲はどれほどのものか分からないが、決まった箇所に集まってくれるならば朗報だ。
とはいえ、起爆剤に必要なカルシウムを見つけなければ絵に描いた餅でしかないが。


883 : ネズミは路地裏を行く ◆vV5.jnbCYw :2022/07/01(金) 22:05:40 CiIzJn0M0

丁度橋を渡り終わった時、クッパが呟き始めた。

「まりお……わがはいの……だれだっけ?」
「………。」
またこのクッパという男の知り合いが死んだのだろう。
先程の雄たけびとも、何か関係があったのか。


それとスクィーラはもう1つ考えることがあった。
このクッパという強すぎる武器を、どう捨てるかということだ。
優勝できるのは1人だけなので、勝利を前提に入れるならばクッパもやがて死ななければならない。
もし正気に戻れば、山奥の塔の時の様に襲ってくるはず。
ベニトロハニーシロップの爆発にクッパごと巻き込めばいいが、起爆剤が見つからない可能性も考慮しないといけない。
また、クッパが爆風に飲まれても、生きている可能性だってある。
毒針は効かず、ちょっとやそっとの策では簡単にねじ伏せられてしまう。


なるべくなら他の参加者に倒してもらい、その人物がクッパとの戦いで瀕死になった所を毒針で殺すのが一番だ。
だが、今自分が考えている作戦はどれも、不確定要素があるものばかりだ。


それと、もう1つ不確定な存在がいたことを思い出す。
先程城で殺した男の服に潜んでいた、空を飛ぶ写真。
人工物の姿をしていながら、まるでニセミノシロモドキの様に人の言葉を話していた。
いや、言葉を話す仕組みがニセミノシロモドキそっくりというのは、語弊がある。
あのからくり人形は、データにインプットされた言葉を話しているだけだが、あの写真は様々な言葉を話していた。
それこそ、自分達と同じで意思があるかのように。

だが、スクィーラが彼を不確定な存在だと考えたのは、それだけではない。
あの写真の男に、首輪が付けられていなかったということだ。
名簿も見落としただけかもしれないが、あの男の絵は無かった。
最も、あのデザインでどう首輪をつけるのだと聞かれれば、返答に困ってしまうが。

(もしかすると、あの男はこの殺し合いの監視役ではないのか?)


この殺し合いの進行状況は、放送内容からして監視されているのは間違いない。
だが、それが何なのかは分からなかった。
首輪が監視装置の役割も兼ねていると仮定していたが、それだけでは無いのではとも考えた。
あの写真だけではなく、他にも意思を持った道具が、主催者の目や耳の役割を担っているのではないか。
そう結論を出すと、新たな疑問がバケネズミの大きな脳に浮かび上がった。


884 : ネズミは路地裏を行く ◆vV5.jnbCYw :2022/07/01(金) 22:06:20 CiIzJn0M0

『この殺し合いは、実は裏で参戦者を戦わせること以外に大きな目的があるのではないか』、ということだ。
まず、殺し合いをさせたいのなら、いくらなんでもやる気が無いのではないかと考えた。
何処にいるか分かりにくい監視装置や、52人の生殺与奪の権を握るにしては嫌に小さな首輪以上に、引っかかることがあった。


彼の喉に引っかかった点は、『なぜ呪力を持った人間を、この殺し合いに入れたのか』である。
スクィーラの世界の呪力を持っている人間は、同胞での殺し合いを避けるために、互いに呪力で殺すことが出来なくなっていた。
彼はその仕組みを利用して、人間から呪殺されず、それでいて人間を殺すことが出来る悪鬼を作った。
掻い摘んで言えば、彼ら彼女らは、人間同士で殺し合いをさせるには不向きな存在なのだ。
せめて人間以外の参加者がもう少し多ければ、その呪力を殺戮に有効活用出来たかもしれない。
だが、クッパの様に人間らしからぬ姿をした参加者もいたが、名簿で見た限りは半分以上は確かな人間の姿をしていた。


呪力を持った人間は、攻撃抑制と愧死機構を取り除かれた状態で参加しているかもしれない。
だが、その能力は遺伝子レベルで組み込まれている。
もし彼らからそういったストッパーを取り払うなら、一手間どころでは済まないだろう。
態々自分にチャンスをくれた相手にこんなことを言うのもなんだが、自分達ではなく、別世界の血気盛んな者達を呼んでくる方が、殺し合いの設営は全然楽ではないか。
さらに身も蓋も無いことを言えば、こんな技巧を使えるなら、殺し合いなど開かなくとも大抵の願望は達成出来る。


以上の疑問から、野狐丸は結論付けた。
主催者は殺し合いの完結以外に、自分達の世界と深い関係がある何かを求めていると。
それはやはり呪力に関する何かかもしれないし、それとも全く異なる何かかもしれない。


歩きながら考えていたら、迷える船を導く灯台のように、明かりの付いたデパートが佇んでいた。


スクィーラが出した結論は、主催者の目的が殺し合いの完遂ではないと考えた。
だが、あくまで彼の目的は優勝である。
ただ、確実にバケネズミ社会の復活を目指すために、代替手段も並行して探ると言うだけだ。
主催者がこの殺し合いで求めている何かを、先回りして見つければ、殺し合いの優勝より大きな利益が手に入るかもしれないから。


そこまで考えると、あの写真の男を逃がしたのは惜しいことをしたと考えた。
今までのスクィーラの仮説が正しいとなると、彼、もしくは彼らは参加者以上に主催者とつながりが深い人物だ。
そう簡単に一切合切を吐くとは思わないが、手掛かりの1つくらいあってもおかしくない。


885 : ネズミは路地裏を行く ◆vV5.jnbCYw :2022/07/01(金) 22:06:35 CiIzJn0M0

ニトロハニーシロップの起爆剤探しに加えて、新たな目的を見出し、デパートへ向かった。
野狐丸は裏の世界の道を歩きながら、策を練り続ける。
勝利をより確実なものにするために。





【F-2 デパート近く/一日目 日中】


【クッパ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(中) 凍傷 腹に刺し傷、全身の至る所に打撲、深い裂傷 両手に切り傷(応急処置済み) 精神の衰弱(特大)
[装備]:チェーンハンマー @ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(名簿焼失)
[思考・状況]
基本行動方針: ぴーち、とりもどす。さらったやつら、ゆるさない
1.すくぃーらにしたがう

※ステージ7クリア後、ピカリー神殿を訪れてからの参戦です
※スクィーラの言葉により、ピーチ姫が生きていると錯覚しています。




【スクィーラ@新世界より】
[状態]:軽い凍傷 体の数か所に裂傷 この殺し合いへの疑問
[装備]:毒針セット(13(うち5本を服の中に、残りをケースに)/20) @無能なナナ 黒魔導士を模した服@現地調達 守りの指輪@Final Fantasy IV
[道具]:基本支給品×3(レンタロウ、美夜子の分)、ニトロハニーシロップ@ペーパーマリオRPG  金のカギ?@調達 ダンシングダガー@FINAL FANTASY Ⅳ オチェアーノの剣@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち、ゾンビキラー@ドラゴンクエストVII、スパイ衛星@ドラえもん のび太の魔界大冒険 サイコ・バスター@新世界より  こおりのいぶき@ペーパーマリオRPG 通り抜けフープ@ドラえもん のび太の魔界大冒険 クッパの支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:人間に奉仕し、その裏で参加者を殺す。
1:デパートへ向かって、参加者を探す。敵対するならクッパを使って殺す
2:クッパを操る
3:ニトロハニーシロップで爆弾を作る。その為にカルシウムになり得るものを調達する。
4:主催者と関わり深いかもしれない意思持ち支給品を探す(写真のおやじなど)
5:朝比奈覚は危険人物として吹聴する。また、彼を倒せそうな参加者を仕向ける
6:金のカギを爆薬として使うべきか?
7:サイコバスター。どこで使うべきか。
8:優勝し、バケネズミの王国を作るように、願いをかなえてもらう
9:主催者が求めている『何か』を探す


886 : ネズミは路地裏を行く ◆vV5.jnbCYw :2022/07/01(金) 22:06:49 CiIzJn0M0
投下終了です


887 : ◆vV5.jnbCYw :2022/07/06(水) 19:04:25 kP/QmndA0
リンク、ルビカンテ予約します


888 : ◆2zEnKfaCDc :2022/07/07(木) 05:52:38 ReZLl9xU0
ゲリラ投下します。


889 : 悪鬼 ◆2zEnKfaCDc :2022/07/07(木) 05:54:21 ReZLl9xU0
ㅤそれは、はじめから、薄氷のような道だった。今にも割れて、足元から掬われてしまいそうな。

 足元の危うさを、私は知っていた。それでもあえて踏み出したのは――そこにしか、歩む道がなかったからだ。

 ラーの鏡で取り戻した、亡くした友人たちの記憶。大人たちに騙されていたという事実。この真実に、私たちはきっと耐えられない――ただ一人、早季を除いて。だから、早季を優勝させるしか、道は残されていなかった。子供たちを犠牲にしなくてもいい新世界を彼女が作り上げてくれるなら、私は喜んでその礎となるから。

 それでも、この世界に集められた人たちの、最後の一人に早季が選ばれるなど、ただでさえ50分の1の勝機しかない戦いだった。

『――渡辺早季』

 なればこそ、その道が崩れたとしても。死のルーレットが選んだ先が、彼女であったとしても。

「……今、なんて?」

 訪れるべくして訪れた、運命なのだろう、と。割り切るしかないのは、当然なのだ。

「……嘘よ。」

 流れる水がその行く先を分かつように、潮の流れや風向き、何かが僅かに逸れるだけで、安易に訪れる帰結であった。その結果は、必然でなくとも、起こりうるものであるのだと――私は、認識していなくてはならなかった。

 他害感情を抱かぬよう、ボノボ型社会という箱庭の中で育てられたというルーツを持っていたことが、親しい者の死を自身の感覚から遠ざける言い訳になったとしても、私だけは。この殺し合いで現に人を多く殺してきた私だけは――当然に起こり得る早季の死に、動揺する権利なんてありはしないのだ。
 
「嘘……そんなの、嘘よ……!!」

 だというのに。こんなにも、心が乱れてしまう。

「早季に、生き残ってほしかった。」

 前を向けていた、その理由――前方に常にあったはずの到達点。放送という曖昧な伝達手段による、たった6文字の通達は、その道の先の希望をかき消してしまった。

「なのに……早季は死んで、汚れてしまった私だけが、今ここに立っている。」

 これは、殺し合いの世界。綺麗なままの手では、生き残れない。それは幾度となく、実感してきたことだ。何かを掴もうと、懸命に伸ばしていた手も。私へと、差し伸べられた手も。綺麗なままの手を、私は常に振り払って、破壊し尽くしてきた。そして残るのは、汚れた手をした私だけ。

 信じた者が割を食い、殺した者が生き残る。それが摂理なのだと、もはや理解するしかない。


890 : 悪鬼 ◆2zEnKfaCDc :2022/07/07(木) 05:55:22 ReZLl9xU0
「だったら私は、何のため――」

 ――人を、たくさん殺したというの?

 その先に紡ごうとした言葉の恐ろしさ。それはこの殺し合いの中で、幾度となく割り切った言葉だったはずだ。しかしその割り切りには、『早季のため』という前提があった。

 もう、何人も殺してしまった。すでに後戻りはできない位置にいる。その中で、その前提が喪失してしまったのなら。

「いやっ……私……私はっ……!!」

 残るのは、集団洗脳的なボノボ型社会の中で育った真理亜でなくとも、当然に浮かぶ感情。ましてや、その環境下であれば、なおさらだ。

 殺すのは、怖い。

 殺されるのは、もっと怖い。

 愧死機構という後発的なものよりも、より強く、生物の本能として刻まれている。

 眼前の光景ごと拒絶するように、頭を抱えて塞ぎ込む。近くに参加者がいなかったことが幸いか、それだけの隙を晒しても襲撃を受けることはなかった。

 ……そうして過ごすこと、10分ほど。

「……早季。私はこれから、どうしたらいいの?」

 ようやく落ち着いてきた頭で、それでも縋るのなら、私の落ちた先――奈落の底には糸があった。

『――このように、死んだ者も生き返らせる。』

 オルゴ・デミーラが提示した、死者の蘇生すらも可能とする奇跡。ほんの一筋かも、しれない。それでもまだ、希望は残っている。喪失した早季を取り戻すという道は、まだ途絶えてはいないのだ。

 ――けれど。

 同じ日常を、共に笑って過ごしてきた大人たちだって、信用できない。いつも優しくて、小さい時から私を育ててくれたお父さんも、お母さんも皆、私たちが消されてしまう事実を知っていた。だというのに、他人に殺し合いを強要するような、そんな存在を。そのためには人の死をも利用するような、そんな人の皮を被った怪物を。何故、信じられるというのか。

 優勝すれば、この催しを企画した悪魔のような者たちが本当に早季を生き返らせてくれるのかどうか、という点のみではない。何せ、命は不可逆だという前提は、覆せるはずがない。それができるのであれば、悪鬼や業魔など、それがもたらす災禍すらも可逆的なものであるということであり、恐れる必要なんてないのだ。

 呪力を用いて死体を動かし、全身の筋肉を精密操作しようものなら、最初の会場でオルゴ・デミーラが見せたイリアの蘇生という奇跡の演出は、もちろん容易でこそないものの、可能だ。あの演出ひとつで信用するには足りない。この殺し合いに私が優勝したとて、本当に、早季の蘇生が可能であるのか。

「……生き返らせるなんて、そんなの、できるわけがない。」

 少なくとも、私にはそうとしか思えない。そしてそれは同時に――早季の生還を、結局は不可能なものとする思考に他ならない。この手を血に染めてまで歩んできた道はすべて、無駄だったのだ、と。そう私に叩き付けるものでしかない。


891 : 悪鬼 ◆2zEnKfaCDc :2022/07/07(木) 05:56:10 ReZLl9xU0
 早季には、できることがあった。

 もう守や、瞬や、麗子のような、犠牲となる子どもたちを生み出さなくてもいい、そんな新世界を作り上げること。

 小さい頃から、私たち6人の中でも特に、物事を諦めない心を持っていた早季。それは周りの大人たちと比較しても引けを取らない性分で、きっと早季は将来、見つけ出した夢を無理やりにでも掴むのだと、常々そう思っていた。そして、そんな早季だからこそ、この殺し合いの中での私たちの死に、意味を見出してくれると期待していた。

 しかし早季は、もういない。

 私たちの死を無駄にしまいと奔放し、新世界を作り上げるリーダーとなるはずだった少女は、その時を待つことなく死んでしまった。

 薄氷を踏むような、崩れかけだった道はもう、壊れてしまった。先は閉ざされ、しかし帰る道もなく。私は独り、落ちていく。

「……だったら。」

 それでも。私は、飛べるから。

 足元が崩れ落ちたとしても、前に進めるよ。

 怖いけれど、苦しいけれど。薄氷が如き道すらも、すでに消えてしまったけれど。それでも、汚れてしまった私はもう前に進むしか、ないのだから。

「――私があの世界を、変えてみせる。」

 私には、何も無い。瞬のような特別な呪力も、覚のような元の世界における立場も。

 だけど、今はもう、あるじゃないか。元の世界においても、私だけのものと言えるだけの特質が。

 ――愧死機構の不動作。

 もし、元の世界に帰っても同様に、誰かを殺しても平静でいられるのだとしたら。大人たちに対する、圧倒的な優位性となる。この力をもって強制すれば、子どもたちを間引く制度を、強引にでも変えられる。もし、逆らおうものなら――


892 : 悪鬼 ◆2zEnKfaCDc :2022/07/07(木) 05:56:46 ReZLl9xU0
「……早季。私は……あなたの死を、無駄になんてさせない。早季みたいな才能なんてないけど……それでも、その道を進んでみるね。」

 ラーマン・クロギウス症候群――別名、『悪鬼』

 愧死機構を持たない人間を指す病気の名前である。

「そのためなら――万の屍すら、超えてみせるわ。」

 それはまさに、彼女の現状を指すに相応しい状態であり――そして、この症状を持つものは高い確率で、他者に対する暴力性を、発揮するという。

【D-6/一日目 日中】

【秋月真理亜@新世界より】
[状態]:ダメージ(小) 疲労(中) 全身に軽い火傷 返り血
[装備]:銀のダーツ 残り5本@ドラえもん のび太の魔界大冒険 
基本支給品×2ラーのかがみ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たちㅤモイの支給品0〜1
疾風のブーメラン@ゼルダの伝説 トライライトプリンセス 口封じの矢×5@Final Fantasy IV
基本行動方針:優勝して愧死機構の制限を維持したまま生還し、元の世界で革命を起こす。(万が一可能であるなら、早季を生き返らせる。)
1.煙の方向へ向かう

※4章後半で、守と共に神栖六十六町を脱出した後です

※ラーのかがみにより書き換えられた記憶を取り戻しています。

※呪力は攻撃威力・範囲が制限されており、距離が離れるほど威力が弱まります。ただし状況次第で、この制限が弱まります。


893 : ◆2zEnKfaCDc :2022/07/07(木) 05:57:17 ReZLl9xU0
投下完了しました。


894 : ◆vV5.jnbCYw :2022/07/07(木) 10:55:47 0PKlYCb20
久し振りの他書き手の投下!!もうこれだけで嬉しいばかりです。

文章が流麗でどこか儚さも含んでいて、読みごたえがありました。
早季を失った真理亜がどうリアクションするのか気になりましたが、まさかそういう方向に舵を切るとは。
力による恐怖政治で全てを従えようと考える姿はまさに悪鬼ですね。


895 : ◆vV5.jnbCYw :2022/07/09(土) 17:44:45 USdi8W7U0
投下します。


896 : ◆vV5.jnbCYw :2022/07/09(土) 17:45:04 USdi8W7U0

辺りは、つい先ほどまでの魔王との戦いが嘘であるかのように静まり返っていた。
アルスの遺体が荼毘に付されて、その火が消えてからも、ただリンクは空を見上げて座っていた。
ガノンドロフとの戦いは、全てを擲って、それでいてほんの紙一重の勝利だった。
今の勝者たちは、休憩を取らなければ満足に動くことさえ出来なかった。


「ルビカンテ、さっきの回復魔法は出来るか?」
同じように座っているルビカンテに、傷だけでも回復してもらおうとする。
「無茶を言うな。」
赤マントの男はにべもなく切り捨てた。


他にもマーダーはまだ生きているのは分かっているが、とても動けそうな状況では無かった。

(腹……減ったな……)
腹にもいくつか怪我を貰っているが、それでいて食欲は正直だった。
ザックを開け、パンと水を取り出す。
辺りには人が燃える臭気が漂い、お世辞にも食事に適した場所では無いが、腹に詰め込む。
本当はよく熟れたトアルカボチャを潰して、隠し味にトアル山羊のチーズを一欠けら入れたスープに、コッコの生みたて卵の目玉焼きを堪能したい所だったが、贅沢は言えない。
粗末な食事だったが、体力は幾分か回復した気がした。


次にやったのは、ガノンドロフが持っていた道具を回収することだった。
その身体は、立ったまま石になってしまったので、鎧を外すのは難しそうだった。
だが、それ以外のアイテムはありがたく頂戴することにした。


彼が持っていた魔法剣はザックに入れ、氷の力を持ったバッジは付けてみることにした。
そして魔王が持っていた鞄の中身を開けてみることにする。
何が入っているのか開けてみようとした時、放送が流れ始めた。


2度目の放送なので、何を知らされるかは嫌でも分かった。
感情の無い言葉が、島全土に広がる。


『ゼルダ』


897 : ◆vV5.jnbCYw :2022/07/09(土) 17:45:23 USdi8W7U0

さあっと顔から血の気が引いていくのを感じた。
自分はまたかけがえのない人を失ってしまったのだと、改めて分かった。
その時に胸をよぎったのは、『あの時火のついた図書館に向かっていれば』という後悔だった。
ゼルダは図書館で戦死したことはリンクは知らない。
けれど、そうした後悔は押し寄せてきた。


それでも放送は止まらず、先程まで共に戦った戦友アルスや、ゴロンの族長ダルボスなど、彼の仲間の名前が次々に告げられた。
魔王は倒した。けれど、その為に払った代償はあまりにも大きかった。


「彼女を、助けられなかったのか。」
まるで確認するかのように発したその言葉は酷く乾いていた。


そして、放送が途切れ、世界が変わる。
地面が大きく揺れたと思ったら、まるで雨でも降るかのように、空が暗くなる。
瞬く間に、空が影に包まれた。
これから一番明るくなる時刻なのに、太陽は遮られた。
まるで、2人の気分を表しているかのような、そんな空へと早変わりしてしまった。


「リンク。」
地震が止んだと思ったら、後ろで低い声が響いた。
振り向くと、ルビカンテが地図に禁止エリアをメモしていた。

「すまないな、少し考え事をしていた。アンタはどうなんだ?」
おおよそ人間らしい、少なくとも正義に与する者とは思えない姿をしたルビカンテだが、先の戦いでは彼の熱い心に助けられた。
そんな人間らしさを持った彼に、リンクは何か言葉をかけてやりたかった。
元々口数が多い方ではなかったし、こんな時に何を言えば良いのかよく分からなかったが。


「呼ばれた。私の主が。」
その声は先の言葉よりも、静かに聞こえた。
「……そうか。」

ルビカンテが知っているゴルベーザは、ゴルベーザではない。
彼と同様、ゼムスに操られた偽りのゴルベーザだ。
ましてや、この世界で彼が何をしたかなど、知る由もない。
それでも、彼にとって道しるべになってくれた人物ではある。
少なくとも自分より早く死ぬべきでは無いと思っていた。

また、彼の知っている者の中には、かつて自分を討ったエブラーナの忍者や、いずれ借りを返そうと思っていた赤帽子の男の名も含まれていた。
例え分かち合える相手で無いと分かっていても、雌雄を決することの出来ぬまま、その名が呼ばれていくのは気分の良いものではなかった。


「気を遣う必要などない。」
どう声をかけるべきか、口ごもっていたリンクに対し、ルビカンテはにべもなく返した。
そもそも彼は他者からの同情を好む性格ではない。
彼が火のルビカンテになり、闇の道を歩むことにした時点で、差し伸べられた手はすべて払ったようなものだから。
だから、主の喪失を同情してもらうつもりなど無いし、悲しまれる権利さえないと思っていた。


898 : 影濃くなれども ◆vV5.jnbCYw :2022/07/09(土) 17:46:38 USdi8W7U0

「私のことなど気にするくらいなら、他のことをすべきだ。
先の戦いで呼ばれた強者達の為にもな。」

ルビカンテの言う通り。
2人共、この殺し合いで死した誰かから託されている。
リンクはアルスという勇者から、ルビカンテはセシルというパラディンから。
だから、彼らは失っても、ここで終わることは無い。
まだ、使命を遂げていないから。
それにリンクが駅の構内で戦ったバツガルフはまだ生きている。
イリアの死体を弄んだ死霊使いだって、どうなったか分からない。



さっきの地震の影響で、ガノンドロフのザックの中身が、地面に散らばっていた。
そして、その中に一際リンクの目を引いた物があった。


カゲの中でもくすみの無い光を放っている一本の剣。
どんなことが起ころうと、汚れ1つ付かない白銀の刃。
鳥が翼を広げた形の青い柄。
かつてフィローネの森の最奥で見つけた、彼が良く知っている退魔の剣だった。


「その剣を知っているのか。」
既にリンクが持っていた聖剣、正宗とは違う輝きを放っていた。
マスターソードを見たことが無いルビカンテでさえも、それが武器屋で値札を付けられているような剣ではないと一目で分かった。


リンクは左手でその剣の柄を握り締めた。
その瞬間、彼の左手の甲の、三角形の痣が光る。

「ああ、コイツは俺の知っている、呪いの剣さ。」
「………。」

その剣は、呪いが込められたとは思えないほど、綺麗な輝きを放ち続けていた。
だが、彼が言ったことは紛れもない事実。
マスターソードは、リンクという人間を無理矢理勇者にした。


899 : 影濃くなれども ◆vV5.jnbCYw :2022/07/09(土) 17:46:59 USdi8W7U0

本当は光と影との戦いなどどうでもよかった。
光だけを見つめて、ずっと生きていたかった。
ジャガーの畑のカボチャを投げて遊んだり、グリーンギル釣りに熱中する毎日を送りたかった。
悩みなんて、ファドの家のハチの巣が鬱陶しいとか、中々山羊が小屋に戻ってくれないとか、そんなことで良かった。
村の外に出ることなく、牧童として子供たちと過ごし、やがては大人になって一生を終わらせたかった。


影の侵略は、そして何より自分は勇者だという事実は、そういった願望を一切合切奪って行った。
黄昏の黒雲の中で、自分だけ人魂として怯えながら助けを待つことを許されなかった。


最初の内は、たまたま貧乏くじを引いただけで、巡り巡ってミドナに振り回されているだけだと思っていた。
フィローネの精霊から緑の服を承った時も、自分が勇者だとは信じられなかった。いや、信じたくなかった。
けれど、森の奥で見つけた聖剣は、偶然ではなく必然だったという答えを容赦なく突き付けた。


自分を唯一無二の勇者と認める、こんな腐った剣がなければ。
仲間の喪失の罪を感じることも、恐怖と戦う必要も無かったのに。
勇者ではなく、1人の人間として村の子供たちと心を交わすことが出来たのに。
もしかすると、殺し合いに巻き込まれることだって無かったし、イリアやモイが死ぬことも無かったかもしれない。


「でも、呪われていようが何だろうか、切れ味だけは折り紙付きだ。
それこそ、影でも祓えるぐらいにはな。」
「そうか。ならば良かろう。剣など斬れれば問題あるまい。」


柄を握り締め、横に1振り、2振り。
クルクルと振り回して、鞘にしまい込む。
その顔から、一際覚悟が表れていた。


900 : 影濃くなれども ◆vV5.jnbCYw :2022/07/09(土) 17:48:05 USdi8W7U0

その後、灰になったアルスの遺体を埋葬し、墓碑代わりに折れた彼の剣を刺す。
キングブルボーとガノンドロフの遺体は大きすぎたし、後者に至っては石化していたため、埋葬は諦めることにした。


「行くぞ。リンクよ。」
「一緒に行ってくれるのか?」
「この殺し合いが終わるまでの間だけだ。いずれは私と刃を交えることを忘れるな。」
「そうか、なら、その間だけ期待してるぜ。」


リンクは退魔の剣を、そして自分が勇者であることを憎んでいたが、1つだけ感謝していたことがあった。
それは、光と影の戦いを通じて、そして今回の殺し合いで頼れる仲間に出会えたということだ。
だから、リンクは憎んでいる剣を振るい続ける。
今もどこかで戦っているはずの仲間(ミドナ)のために。
自分に未来を託した戦友(アルス)のために。
太陽が隠れた世界でも、彼の手の甲の勇気の証は光っていた。


ところで、少なくとも今はどうでもいい話だが。
黄昏の勇者が生まれ育った世界には、勇気、知恵、力を司るトライフォースがあった。
1つはリンクに宿っている。
しかし、残り2つ、知恵と力の持ち主はそれぞれこの戦いで命を落としている。
ゼルダもガノンドロフも亡き今、それらの黄金三角形は何処に向かうのだろうか。




【B-3と4の境目/草原/一日目 昼】

【リンク@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:ハート1/6 肋骨一本損傷 服に裂け目 所々に火傷 凍傷(治療済み) 疲労(中) 死霊使い(佐々木ユウカ)に対する怒り(大)
[装備]:マスターソード@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス トルナードの盾@DQ7 アイスナグーリ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜2  水中爆弾×5@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス アルスのランダム支給品1〜2 (武器ではない) 正宗@Final Fantasy IV  柊ナナのスマホ@無能なナナ 火縄銃@新世界より 美夜子の剣@ドラえもん
[思考・状況]
基本行動方針:主催を倒す
1.イリアを操っているはずの死霊使いを殺すか。
2.ピンクのツインテールの少女(彼女が殺し合いに乗っているかは半信半疑)から、可能ならば死霊使いの情報を聞く
3.アルスの想いを継いで、仲間を探し、デミーラを必ず倒す

※参戦時期は少なくともザントを倒した後です。
※地図・名簿の確認は済みました。
※奥義は全種類習得してます



【ルビカンテ@Final Fantasy IV】
[状態]:HP 1/10 魔力:小 疲労(中)
[装備]:炎の爪@ドラゴンクエストVII フラワーセツヤク@ペーパーマリオRPG 
[道具]:基本支給品 
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを終わらせて受けた屈辱を晴らし、生き延びた者と闘う
1.リンクと共に、殺し合いに乗っている者を倒す


※少なくとも1度はセシルたちに敗れた後です。


901 : 影濃くなれども ◆vV5.jnbCYw :2022/07/09(土) 17:48:15 USdi8W7U0
投下終了です。


902 : ◆vV5.jnbCYw :2022/07/17(日) 16:41:12 RWBqEZbY0
アイラ、デマオン、バツガルフ、ユウカ、ナナ、吉良吉影予約します。


903 : ◆vV5.jnbCYw :2022/07/18(月) 13:27:18 FtEEz6gg0
投下します


904 : 炎と森のカーニバル ◆vV5.jnbCYw :2022/07/18(月) 13:27:47 FtEEz6gg0
さてさて、物語もいよいよ佳境に差し掛かってまいりました。
ここは、悪鬼が好んで住み着きそうな、人と相容れぬ者が好みそうな森。
昼でも夜の様に深く、日の光をほとんど受け付けないこの森は、もうじき一層の闇を帯びることになります。
そこに招かれし六つの魂は、はてさてどうなることでしょうか。
ですが、まだイベントは始まったわけではありません。
明転、これから暗くなるのに明転というのはおかしな話ですが、その幕間でも楽しんでいただければ何よりでございます。
では、森の南東。生まれも育ちも年齢も、そして経歴さえも異なる2人の暗殺者の物語からどうぞ。





「聞かれたことにだけ答えろ。何故嘘をついた。」
能力者にとっての暗殺者である、柊ナナは冷たく言い放った。
その声量は決して大きくはなかったが、臓腑に響くほど凄味があった。


(このガキ……しかし、迂闊に動けばあの道具で攻撃されそうだ……どうする?)
空気砲を突き付けられた吉良吉影は、どう答えるべきか頭を回転させていた。


「すいません、許してください。私はこの殺し合いから安全に脱出したくて、あなた方の輪に入れてもらえる口実が欲しかったのです。」

彼は波風を立てない平穏な生活を望む人間だが、上司にヘコヘコするのも好まなかった。
ましてや、柊ナナのような少し自分の状況が傾いただけで舞い上がるような年頃の少女に主導権を握られる状況など、真っ平ごめんだった。
だが、懸念すべき相手は彼女ではなくデマオンという大魔王。
あのような男を敵に回して、逃げられることなど到底思えなかった。
少なくとも一時しのぎだけでも、この少女を懐柔させねば、脱出は難しいと判断した。


「ドカン。」
「がっ……。」
スタンドを出す間もなく、柊ナナの右手の空気砲から弾が放たれた。
背中に当たった空気の弾丸は、殺しはせずとも吉良を弾き飛ばした。


「嘘だ。それなら嘘をつかずに、最初から入れて欲しいとだけ言えばよかっただろう。
他にもその御大層なスーツがボロボロになった理由を話すなど、方法はあったはずだ。」

吉良がそうしなかった理由は、少し前にそのことをヤンに話し、その結果疑いを強められたからだ。
背中を攻撃されたと言えば、犯人の姿を話さずに済む。
しかし、柊ナナという少女はヤンと思考方法が異なる。
すなわち自らの勘を頼りにするタイプか、前後関係のロジックを頼りにするタイプかということだ。


905 : 炎と森のカーニバル ◆vV5.jnbCYw :2022/07/18(月) 13:28:22 FtEEz6gg0
「変なことをするな。黙って私の話だけ聞くんだ。」
「………。」

何を話すのかは分からないが、どうせ自分にとって良い事ではないのだろうと考えながら、彼女が言葉を話すのを待つ。
次に口から紡がれた言葉は、吉良にとっても予想外な物だった。


「取引をしないか。」
「!?」

そして、さらに予想外の言葉を出してくる。

「もしも今いる陣営が崩壊すれば、わたしと一緒に参加者を殺せ。」
「は?」

柊ナナとしては、脱出さえ出来ればその過程はどうでもいい。
ただ、脱出手段を1つでも多く用意しておきたいということだ。
全員で脱出するのならばアイラやデマオンと組んでも構わないが、代替案を取らざるを得ない場合は、吉良と組んでも構わない。
その場合吉良とも戦わねばならないが、少なくともそれまでは協力関係を築け、戦わねばならない相手を減らせる。


「聞こえなかったのか?今の取引に乗らないなら、おまえのことをアイラやデマオンにも話す。」
「わ、私は……。」

何が悲しくてこんなガキの言うことを聞かないといけないのか、という考えを必死で抑える。
その時、森に魔王のけたたましい声が響いた。


「キィィィラァヨシカゲェェエェェェェエエエエ!!隠れても無駄だ!!出てこい!!」
「「!!?」」

声からして、まださほど近くはない。
だが、それだけ離れても聞こえるほど、大魔王の声は凄まじかった。


「地球人の分際でわしを謀っておいて、隠れ続けるつもりか!!出て来ねば森を焼き払うぞ!!」

雄たけびと共に、ナナ達から離れた場所で、何かが爆発した。
それがデマオンが放った魔法だということは、想像に難くなかった。

「取引は無しだ。何故かは分からないが、デマオン達もおまえの正体を気づいたようだな。」
「く……くそ……。」


『―――――諸君、殺し合いを楽しんでおられるようで何よりだ。』


906 : 炎と森のカーニバル ◆vV5.jnbCYw :2022/07/18(月) 13:28:47 FtEEz6gg0

その時、放送が鳴り響く。
だが、放送程度では、ナナの集中力がかき乱されることは無い。
彼女がかつていた孤島では、僅かに集中力を切らしたばかりに、馬脚を顕わした能力者がいた。
自分が殺した相手の二の足を踏まないように、死者の名前に耳を傾けながらも、吉良吉影が何か鼻持ちならぬことをしでかさないか、冷静に睨みを利かせる。


(どうにかしてこの場から脱出せねば……)
それは吉良吉影も同じだ。
だが、キラークイーンを出そうとすれば、即座に撃たれると思っていた。
おまけにデマオンも近づいてくる。
東方仗助が呼ばれたのは彼にとって朗報だが、今の状況は到底喜べない。


しかし、そこから先の出来事は、2人には予想できなかった。


「「うわっ!」」
空が闇に包まれ、大地が大きく揺れる。





これにて、幕間は終わり、第三幕の開演です。
次からは、この森という名の舞台にいる演者たちを見ていきましょう。





別に誰が死のうとどうでも良かった。
佐々木ユウカにとって大切な人物は、この会場にいないのだから。
何処が禁止エリアに選ばれようと、関係なかった。
そんな所に入らなければいいだけだから。

(プレゼントはありがたいけど、渡すタイミングを考えて欲しいんだよね……)

だが、空を覆った闇は、彼女を悩ませた。
夕立でも起こるかのように、青から黒に早変わりした空を見つめる。
プラスかマイナスかと言えば、間違いなくプラスの出来事だ。
太陽の干渉が無くなったことにより、ネクロマンサーの能力を予定より6時間早く使えるようになった。
とはいえ、肝心の死体が無いのでは、ユウカは無能力者とは変わらない。
先程までに滞在していた清浄寺に、犬飼ミチルを埋葬した墓があったが、命の摩耗を代償とする彼女の能力が、死後も活用出来るのかは分からなった。


「小娘。何かあったのか。」
「……何でもない。早くしないと、ナナちゃんを殺すチャンスを逃がしてしまう。」


907 : 炎と森のカーニバル ◆vV5.jnbCYw :2022/07/18(月) 13:29:23 FtEEz6gg0

そう声をかけたバツガルフも、1つ胸に引っかかるものがあった。
マリオにビビアン、先の放送で自分の敵が2人も死んだのはいい。
最初に戦った妙な髪型の男、東方仗助もあの歩いていただけで強さが滲み出ているような赤髪の男、ガノンドロフも死んだ。
残る彼の敵はクリスチーヌと、あの時邪魔をしてきたトゲトゲのカメだけ。
優勝もさして非現実的では無くなってきた。
だが、問題は放送の後のことだ。
あまり自らの第六感と言うものを当てにしないバツガルフだが、それはそうとしてあの出来事は身に覚えがありすぎた。


なんせ、この殺し合いに招かれるすぐ寸前に味わったことなのだから。
突然響く自身も、空が影に覆われたことも、あの状況と一致している。
カゲの女王が棺から現れた時のことだ。


(もしかすると、この殺し合いの真の黒幕はヤツなのでは?)


バツガルフが元々この殺し合いに優勝する目的は、世界征服という願いをかなえてもらうことだ。
この殺し合いに参加させられる前に、カゲの女王を復活させたのも同じ理由だ。
だが、彼女はバツガルフの言うことを聞かず、あろうことか彼に攻撃を加えた。
そのため、彼女が主催者だというのなら、よしんば優勝したとしても、願いをかなえてもらえる確率は極めて低い。


(だが……どうする?)


優勝しても願いをかなえてもらえない可能性が出たからと言って、方針の転換も難しい。
この会場には、自分を悪だと認識している者がまだ残っている。
方針を変えたと言っても、はいそうですかと受け入れられるとは思っていない。
元々しばらくの間は戦いを避け、身を潜めておくべきだと考えていたが、ゲームの終わりまでそれを続け、他の対主催組と共に脱出するのも難しい。
やがてボロが出るはずだし、何より今の同盟はどうするのかということになる。


(今は小娘と同じことをすればいいか。)

代替案も出ないので、一先ずはこれまでと同じようにする。
これまで通り南東へ向かい、デマオンが走った方向へ向かう。





アイラもまた、仲間を一人失った。
しかも、それはまるで大切に想っていた幼馴染を追って行ったかのように。
既に生死が分かっている重清やゼルダ、満月博士の喪失を改めて聞かされたのも、精神的な疲労が積み上がる一因だった。
図書館で別れたクリスチーヌやミドナ、まだどこかにいるメルビンやシャークがまだ生きているのは朗報だ。
ボトクの名が呼ばれたのも、悪くない知らせだ。
けれど、彼女が積み上げてきたような何かが、音も立てずに崩れていくような気がした。


(そういえば、私、独りになったのは初めてかしらね……。)
彼女はユバール族の一員として生まれ、常に周りには誰かがいた。
初めてアルス達に出会い、所属が変わってからも、誰かと共に旅をしていたことは変わらない。
この殺し合いに巻き込まれてからも、すぐにゼルダと出会ったため、独りだった時間は今までほとんど無かった。


ゆえに、彼女は気づかなかった。一人で暗闇の森の中を歩く心細さに。


908 : 炎と森のカーニバル ◆vV5.jnbCYw :2022/07/18(月) 13:29:44 FtEEz6gg0

(ええい、だらしないわ。暗い場所でこそ皆を照らすのが、スーパースターでしょ?)
自分を奮い立たせるアイラ。
だがそれでも、精神の疲弊から起こる短絡さには気付けなかった。


――何でもないわ。早くしないと、ナナちゃんを殺すチャンスを逃がしてしまうわ。

(どういう事よ……しかもナナを殺すって言ったわね?)
だが、己を鑑みる暇さえほとんど与えられなかった。
なんせ森の中、聞き覚えの無い声が聞こえたと思いきや、その先に要注意人物として聞かされた2人がいたのだから。


片方は柊ナナから聞かされた、ストーカーの少女の佐々木ユウカ。
もう片方はクリスチーヌから聞かされた、世界征服を企もうとしている男のバツガルフ。
いずれ相まみえることになるかもしれないとは思っていたが、まさか2人が徒党を組んでいるのは彼女も予想できなかった。


(どうする?でも、今はナナちゃんの方が先よね……。)
幸いなことに気が付いていない様子なので、不意を突いて一気に2人を倒すというのもあるかもしれない。
懸念すべきは、吉良吉影という男と戦っている間に、背後から攻撃を受けるということだ。
魔界の王デマオンでさえも、死ぬときは死ぬということは既に知っている。


(迷っている場合じゃないわ!)
少し悩んだ末に、彼女は地面を蹴り、2人に向かって行った。
彼女が吉良ではなく、バツガルフ達と戦うことを選んだのは、決して背後からの攻撃を警戒したわけではない。
元の世界の仲間を失い、そしてこの世界でゼルダを失ったこの喪失感を、紛らわせたかった。
戦いでも友好でも、とにかく誰かと何かをしたかった。
モーテン星を付けることも忘れ、空高く舞い上がり、上空で身体を捻る。





地震は、完全に柊ナナの予想の範疇外の出来事だった。
とはいえ前後上左右、あらゆる方向を警戒出来ていた人物に限って、足元の警戒を怠るというのはよくある話だ。ゆえに、柊ナナが悪いわけではない。
事実、敵対していた吉良吉影も、地震によって尻もちをついたのだから。
ただ相手が悪かった。
なぜならスタンドは、持ち主が立っていようと座っていようと、はたまた地面に寝転がっていようと精神に異常でもない限り自由に動かせるのだから。


人間が身体を自由に動かせない中、スタンドのみが彼女の右手から空気砲を奪った。
先程までとは打って変わって、余裕の満ちた静かな笑みを浮かべている。
だが、陶酔や慢心と言ったものは見られず、冷静にナナを見つめている。

「ふむ。武器を取ってみたら、君もまたきれいな手をしているね。」
空気砲が外れたナナの右手を、舐めまわすように見つめる。

「……!返せ!!」
「私の名は『吉良吉影』 年齢33歳。自宅は杜王町北東部の別荘地帯にあり結婚はしていない。仕事は『カメユーチェーン店』の会社員で 毎日遅くとも夜8時までには帰宅する。
タバコは吸わない。酒はたしなむ程度。夜11時には床につき、必ず8時間は睡眠をとるようにしている。」

低く、穏やかな口調で訥々と語る。
ナナに空気砲を突き付けられたり、デマオンに睨まれたりした時のおどおどしていた態度が嘘であるかのように。
殺し合いの場所に不似合いな自己紹介を、唐突に初める。
なぜそんなことをし始めたのか、ナナは聞きはしなかった。
内気な人間が個人情報を聞かれてもいないのにさらけ出す意味は2つ。
目の前の相手に心を開いたという純白の意志か、はたまた、相手を生かして帰す気はないという漆黒の意志の顕れだと分かっていたから。


909 : 炎と森のカーニバル ◆vV5.jnbCYw :2022/07/18(月) 13:30:05 FtEEz6gg0

「そして安心して眠るためにはね。上司の言うことに耳を傾け過ぎてはいけないのだよ。
特に僅かな力を手にしただけで悦に浸っている無能の言葉などに耳を傾けてはならず、ハイハイそうですねと聞き流さなければならない。」


形勢は、完全に逆転した。
空気砲は奪われ、重清から貰ったダイナマイトは図書館で使ってしまった。
こうなれば、彼女にとっての手段は逃走しかない。
かつてユウカが率いたネクロマンシーの軍団に追われた時の様に、彼女はいざという時逃げる判断力もある。
だが、何処へ逃げようと無意味だ。


「君の方から交渉を決裂させるのか。もう遅いがね。『キラークイーン』は君に触れている。」






「うわっ!」
暗い森の中、少女の声が響いた。
森の中から、空中を舞う独楽の様になったアイラが、二人に飛びかかった。
スーパースターのダンスを応用させた、曲芸とも見紛う回転攻撃は、完全に相手の不意を突いた。
その回転体当たりはバツガルフを攻撃し、続いてユウカにもぶつかりそうになった時……。


「タイムストップ!!」


バツガルフの時止め術が、空中で回転する彼女の動きを止めた。
1つの竜巻になった彼女も、時間が止まれば意味が無い。
捻った体勢のまま、空中で凍り付いたかのように固まる。


「ソイツをお願い!私はナナちゃんを殺しに行くから!」

アイラの時間が動き出す前に、ユウカはいち早く駆け出す。
バツガルフは勝手な行動をするなと言いたかったのだが、足手まといの彼女が邪魔なので、ある意味で丁度良かったとも思った。

「ジャマする奴はここで排除してくれる。バツバリアン展開!!」
「やってみなさいよ。」


910 : 炎と森のカーニバル ◆vV5.jnbCYw :2022/07/18(月) 13:30:24 FtEEz6gg0

バツガルフは戦闘態勢に入り、防御生命体を召喚。
対してストップ状態から解放されたアイラはディフェンサーを抜き、バツガルフと対峙する。
向こうへ走ったユウカを優先して倒したいところだが、そう簡単に通してくれる相手では無さそうだ。
再びバツガルフは杖を垂直に構え、エネルギーが溜まるとアイラの方向に向ける。


「ファイアーウェーブ!!」
「そうはいかないわ!!」

それに対応するかのように、アイラが指をパチンと鳴らすと、地面から火柱が立った。
バツガルフの放った青い炎と、アイラが放った赤い炎がぶつかり合い、その中心で爆発が起こる。


【C-4 森・北 日中】


【アイラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:ダメージ(中) 火傷(中) 精神的疲労(大) 職業 調星者 (スーパースター)
[装備]:ディフェンダー@ FINAL FANTASY IV 魔法の盾@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1モーテン星@魔界大冒険 、イツーモゲンキ@ペーパーマリオRPG、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:オルゴ・デミーラを再度討つ
1. バツガルフを倒す
2. その後ユウカと吉良吉影も倒す
3. デマオン、ナナと共にデパートへ向かう
4. メルビン、シャークが心配が心配
5. 柊ナナに対する疑い



※職業は少なくとも踊り子、戦士、武闘家・吟遊詩人・笑わせ師は極めています。
参戦時期はED後。



【バツガルフ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(中) 至る所に焦げ付き 愉悦(中)
[装備]:えいゆうのつえ@ドラゴンクエスト7
[道具]:基本支給品 POWブロック@ペーパーマリオRPG まだら蜘蛛糸×3@ドラゴンクエストVII
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し世界征服を叶え、ついでに影の女王へ復讐する……つもりだったが?
1:まずはアイラを倒す
2:佐々木ユウカと共に、柊ナナを追いかける。トドメは彼女に任せるが、状況次第では自分の手で彼女を殺す。
3:ユウカの提案には一先ず乗ってみるか。
4:ユウカの能力とは?


※主催者がカゲの女王ではないかと疑いを持っています。。





「キラークイーン!第一の爆弾!!さあ、点火しろ!!」
人差し指側面には点火スイッチを作動させ、安眠の邪魔をする無粋物を爆殺しようとする吉良。
カチリという、スイッチが作動した音がする。
だが、彼女が爆死することは無かった。


「な、何故?」
口を四角にさせ、両目を見開き、表情はまたもナナに背後を取られた時に逆戻り。
「危ない所だった。もしもの時のために使っておいて良かった。」

柊ナナがもしもの時に備えて、図書館で他人に見せずに取っていたアイテムの名は「テキヨケール」
マントの形をしたそのアイテムは、使った者を触れさせにくくする。
柊ナナは吉良吉影に空気砲を突き付ける前に、もしもの時に備えて既に使っていた。
最も確実に攻撃を躱せるという訳では無いが、キラークイーンの接触を回避することが出来た。
空気砲を取られてしまったのは不覚だったが、爆弾に変えられることは避けられた。


今度は吉良に最悪の状況が訪れた。

「岩よ。雷となり、地球人を打ち砕け。」


911 : 炎と森のカーニバル ◆vV5.jnbCYw :2022/07/18(月) 13:30:43 FtEEz6gg0

邪悪な岩の精霊が、吉良吉影目掛けて襲い掛かる。
「ウロ〜〜〜ン!!」
「くっ……キラークイーン!!」
満月博士の時とは異なり、距離はまだ離れていたため、スタンドで殴り飛ばすことが出来た。


岩が飛んできた方向を見れば、木の間からぬっと、人ならざる巨体が表れる。
「しばらく顔を見せていないと思ったら、随分と青白くなったものだ。」
「………!!」
だが、状況が最悪であることには変わりはない。
この会場で吉良が最も恐れていた相手を敵に回したというのだから。


「デマオンさん!危ない所を助かりました!!」
「馬鹿者が。このような地球人に殺されかけるとは、きさまそれでも我が部下か!」
「申し訳ありません。(私もその地球人なんだがな……)」

何を考えているのか分からない男だが、この場にいてくれれば最も頼りになる男の到来を歓喜するナナ。

「なぜ……なぜそうまでして、私の安眠を妨げようとする……。」
吉良は自分の左手に血が滲むのも厭わず、自分の手を爪を立てて握った。
「そんな疑問などどうでもよかろう。大魔王たるわしを虚仮にしてくれた罪として、永遠の眠りにつくことが出来るのだからな。」


(頼む……デマオン、こいつが余計なことを言う前に、早く倒せ。)
どうにか助かった柊ナナだが、まだ1つ懸念があった。
それは、自分がデマオンやアイラを裏切って、吉良と組もうと考えていたことを言いふらす可能性だ。
自分と吉良では信頼感が異なるのは分かっているが、それがあらぬ疑いでは無いというのが厄介だ。


この隙に逃げるべきか、それともこの場で戦いの集結を待つべきか考える。



【D-4 森・南 日中】

【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:ダメージ(小) 困惑(特大) 苛立ち(大)
[装備]:空気砲(80/100)@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]:基本支給品 ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:脱出派の勢力に潜り込み、信頼を勝ち取る。
1.邪魔者を殺し、この場からさっさと逃走する。
1.名簿に載っていた、仗助、康一、重ちー、隼人、そしてシャークに警戒。争うことになるならば殺す
2.早人やミチルにもスタンドが見えたことに対する疑問
3.ヤン達からは距離を置きたい。
4.絵の中の少女、秋月真理亜の手が欲しい
5.柊ナナをどうする?
※参戦時期は川尻耕作に姿を変えてから、カップルを殺害した直後です



【柊ナナ@無能なナナ】
[状態]後頭部に打撲 吉良吉影への疑い(大) ヨケヨケ状態
[装備]なし
[道具]基本支給品、名簿を七並べ順に書き写したメモ、
[思考・状況]
基本行動方針:最低でも脱出狙い。可能ならオルゴ・デミーラ、ザントの撃破。最悪は優勝して帰還。
1. デマオンに加勢すべきか?逃げるべきか?
2. この騒動が終わればデパートへ向かう
3. 殺し合いに乗っていない参加者と合流を目指す。
4. 小野寺キョウヤはこの殺し合いの中なら始末できるのか?
5. 佐々木ユウカは出会ったら再殺する。
6. スタンド使いも能力者も変わらないな
7. 吉良吉影、余計なことを言うなよ
※参戦時期は20話「適者生存PART3」終了後です。
※矢安宮重清からスタンドについて、東方仗助について聞きました。
※広瀬康一、山岸由香子、ヌ・ミキタカゾ・ンシをスタンド使いと考えています。
※異世界の存在を認識しました。



【デマオン@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:健康 魔力消費(小) 精神疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:不遜なるデク人形(オルゴ・デミーラ、ザント)をこの手で滅し、参加者どもの世界を征服する
1.不届きな地球人(吉良吉影)を殺す
2.デパートへ向かい「鍵」の正体が何なのか調べる
3.何だ……この気持ちは……。
4.デマオン軍団の一員として、対主催の集団を集める。
5.刃向かうものには容赦しない


912 : 炎と森のカーニバル ◆vV5.jnbCYw :2022/07/18(月) 13:31:52 FtEEz6gg0



(遅かったか……やっぱりもう誰かいる……)
いち早く遅れて、柊ナナがいる場所にたどり着いたユウカ。
この戦場では、誰もがデマオンに注目していたため、木陰の裏にいるユウカのことなど誰も気づいていなかった。



(ナナちゃん、待っててね……私とシンジの恨み、今度こそ思い知らせてあげるから……。)

彼女らがいる場所は、デマオンが放った魔法の余波で火が燃えており、暗い森の中でも良く映っている。
既に自分の見える所に柊ナナがいるというのに、迂闊に飛び出すことが出来ないのは何とももどかしい。
誰も自分のことに気付いてないのはチャンスだったが、今戦場に飛び込めばデマオンの魔法の巻き添えを食うことは分かっていた。


(せめて誰か1人でも死んでくれれば良いんだけど……)
折角能力が使えるのようになったのだが、辺りにはまだ死体はない。
確実に復讐を成し遂げるために、そして優勝し、恋人と結ばれるために思考を凝らす。
ハイラル駅の時と同様、誰も気づかれていない場所でひっそりと。





いよいよこの森でも、戦いが始まりました。

私が皆さまにお話しできるのはここまでです。
この先どうなるのかは、私にもお話しできません。
ただ言えるのは、一つだけ。





この戦いで誰かが何かを失うという事だけです。




【D-4 森・南 日中】


【佐々木ユウカ@無能なナナ】
[状態]:ナナへの憎悪(極大)
[装備]:POWブロック@ペーパーマリオRPG
[道具]:イリアの死体@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、基本支給品×2(自分、ピーチ)、遺体収納用のエニグマの紙×2@ジョジョの奇妙な冒険 陶器の馬笛@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、虹村家の写真@ジョジョの奇妙な冒険、ランダム支給品×1(彼女でも使える類)、愛のフライパン@FF4
[思考・状況]
基本行動方針:シンジと添い遂げるために優勝する
1:どうにかしてナナを殺す

※まだ昼ですが、太陽が隠れたため、ネクロマンサーの能力を使えるようになりました。
※参戦時期は死亡後で、制服ではありません。
※死体の記憶を共有する能力で、リンク、仗助、ピーチ、マリオの情報を得ました。
 イリアの参戦時期は記憶が戻った後です。
※由花子との情報交換でジョジョの奇妙な冒険の参加者の能力と人柄、世界観を理解しました。
 但し重ちー、ミカタカ、早人に対する情報は乏しい、或いはありません(由花子の参戦時期で多少変動)



【支給品紹介】
【テキヨケ〜ル@ペーパーマリオRPG】
柊ナナに支給されたアイテム。使えば、敵の攻撃を50%の確率で躱せる「ヨケヨケ」状態になれる。
ただし、魔法攻撃など、攻撃範囲の広い技には通用しない。


913 : 炎と森のカーニバル ◆vV5.jnbCYw :2022/07/18(月) 13:32:04 FtEEz6gg0
投下終了です。


914 : ◆vV5.jnbCYw :2022/08/06(土) 00:21:57 qysDMF7E0
クッパ、スクィーラ、ヤン、シャーク・アイ、川尻早人予約します。


915 : 崩壊の足音1 疑心、悪鬼を生ず ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 19:54:46 u/SiVU9I0
投下します。


916 : 崩壊の足音1 疑心、悪鬼を生ず ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 19:55:23 u/SiVU9I0

「シャーク殿、もう私を背負う必要は無い。
元より鍛えた身である以上、手負いでも歩くことぐらいは出来る。」
「そうか。ならばハヤトに遅れないぐらいの速さで歩いてくれ。」


カイン達と別れてしばらくした後、シャーク、ヤン、早人の3人はデパートへ向かって歩き始めた。
ヤンの気持ちを汲んで彼を背中から降ろすシャーク。
彼の胸の内にあるのは、未だに行方不明の息子アルスのことだ。
遥か遥か昔の時代、まだあの子が子宮以外の場所で生活出来なかった頃、魔王軍の決戦に行く前にコスタールに置いてきた。
だが、妻と息子が待っている地に帰ることは出来ず、呪いの氷に閉じ込められ、悠久の時を過ごすことになった。
だが、それから幾重もの時が流れた先に出会ったのは、水の精霊の力を受け継ぎ、成長した息子だった。


(アルスきっと無事だ。オレが信じなくてどうする。)


確証は無い。ただ自分がそう信じたいだけだ。
だが時を越え、闇の封印を越えて自分に会いに来た。
水の精霊の力を承ったから強いのではない。彼自身が何物にも屈さない強さを持っている。
でも、自分が父親らしいこともろくにしてやれずに死んだ、なんてことにはなって欲しくなかった。
たとえ彼には、ボルカノという別の父親がいたとしても。
だから信じようとした。
あの時偶然とはいえ闇の封印を破って自分たちの海賊船にやってきたように、この世界でもまた会えると。


「これはまた、奇怪な建物ですな。」

しばらく歩くと、ヤンが口を開いた。
細めた目が『うわ、なんだこの街並みに不似合いな建物は』と語っている。
なんせ中世風の石造りの街並みの真ん中で、コンクリートの建造物がでんと構えているのだ。

「ハヤト。デパートとはこんなデザインなのか?まるで城か神殿のような大きさだ。」

同じようにデパートという建物を見たことが無かったシャークも、怪訝そうに聞く。

「そうだよ。」

川尻早人は短く回答する。
この殺し合いの会場にあるデパートは、彼の地元にあるカメユーデパートにそっくりな外見をしていた。
屋上でその存在を強調しているカメのマークの看板こそ無かったが、それ以外の外見はほとんど変わりはない。


「それは分かった。けれどデパートには休憩する場所はあるのか?」
「休憩向けの施設じゃ無いけど、外やさっきの空き家よりかはあるはずだ。」

座る所の1つくらいはあるはずだし、家具店があれば、行儀作法はなってないが、展示品のベッドで眠ることだってできるはずだ。


917 : 崩壊の足音1 疑心、悪鬼を生ず ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 19:56:13 u/SiVU9I0
「これだけ高い建物なら、上から人探しが出来るかもな。」
海賊船のメインマストより高いデパートを見て、シャークが呟く。
馬鹿と煙は高い所が好きというが、海賊はその高い場所から、敵船や島の場所を探す。
望遠鏡が無いのは心もとないが、地上とデパートの屋上と、どちらが人探しに向いているかと聞かれれば、彼にとっては後者の方だ。


3人が近づくと、ウィインと独特な音が響き、ガラス張りのドアが勝手に開いた。
彼らを迎え入れるのは、蛍光灯の光に照らされたクッションフロアの床に、所狭しと並んでいる陳列棚。
それらの上に置いてあるのも、化粧品など特に珍しい物ではない。
この物語を読んでいる者がイメージする、デパートの風景そのままだ。


(デパートに来るのはいつ以来だろう。)

ふと、そんなどうでもいいことを早人は思い出した。
殺人鬼、吉良吉影が父親を殺して彼の家に来る前も、父と母は疎遠だった。
朝食以外を家族3人で過ごした時間など、中々思い出せない。
この場で思い出す必要はないと分かっていても、そんなことを考えてしまった。

そもそもの話、ここは家族向けの場所なんかではない。
早人がいた世界のデパートでは、休日であろうと平日であろうとひっきりなしに喧噪が響いてきた。
だが、ここでは聞こえてこないことが何よりの証明だ。


「2人共ま入り口で待ってろ。待ち伏せしている者がいるかもしれん。」


そう言うとシャークはデパートの中へ走り、口笛を吹いた。
彼は羊飼いの職に就いたことは無いので、それだけで敵をおびき寄せることは出来ないが、注意を引くことぐらいは出来るはずだ。
その口笛を聞く者は2人を除いておらず、デパートの天井にぶつかって、木霊となって返って来た。
続いて、すぐ近くの商品棚に陳列してあった化粧品のポーチを手に取り、適当な方向に幾つか投げる。
だが、中身が散らばるだけで反応は無かった。


「少なくともこの階には誰もいないようだ。入っても良いぞ。」
入り口で待機している者達に呼び掛けると、彼等も中に入る。


918 : 崩壊の足音1 疑心、悪鬼を生ず ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 19:56:54 u/SiVU9I0

「何だこれは……。」
ヤンが、デパートに入ってすぐの受付の机にあった書置きを見つける。
『ここにあった鍵を拝借いたしました。必要ありましたらバロン城に来てください』

「カギ?」
一体何のことやら。2人の頭上に?マークと、それを囲んだ吹き出しが浮かんだ。
何を読んでいるのか怪しんだシャークも、すぐに2人の所にやって来る。


「シャーク殿はカギとは何のことか、見当がついてますか?」
「……分からん。ここへ来るまでに鍵穴らしきものも見ていない。」

そもそもの話、ここにメモしてあった『鍵』が、錠前を開く文字通りの鍵なのか、はたまた何かのメタファーである『カギ』なのかさえ分からない。
あればこの殺し合いにおいて不利になることは無いだろうが、有利になるか決まっているわけでは無いし、ましてや有効活用できない可能性もある。


「バロン城か…。私の戦友の城ですな。」
この殺し合いの会場において、唯一ヤンが知っている場所だ。
その戦友は早いうちに死んでしまったが、それでもその戦友の恋人であるローザが向かっている可能性だって捨てきれなかった。


「向かうつもりか?あんたはここへ来た目的を忘れるな。」
デパートを出ようとするヤンを、シャークが咎める。
もしバロン城へ3人が向かい、その間にカイン達がデパートに来たら、入れ違いになってしまう。


「せめてもう少し休憩してから向かうべきだ。怪我人だということを忘れるな。」
「かたじけない。」

ヤンはシアーハートアタックの爆撃を受け、今も手負いの身だ。
シャークから回復魔法をかけてもらったとはいえ、連戦は難しい。
ここは補給源のない中、限られた手札のみで戦いを強いられる。
そんな状況で、常に自身の怪我を気にかけるのは当然のことである。
説得を受け、しばらくはこの場で傷を治すことに専念した。


「それより、休憩できそうな所があったよ。」

早人はデパートの中の家具店の方に向かう。
そこには座るための椅子や、ベッドまで展示してあった。
本来ならそれらは売り物なので、使うべきでは無いが、そんなことは関係ない。


「これは素晴らしい寝心地ですな。早人殿の世界には、こんなものが売られているのか?」
ファブール城のそれよりも柔らかさが違うベッドを楽しむヤン。
そして早人も、商品の机に突っ伏して眠ることにした。
この3人は見張りであるシャークを残して、しばらく休むことにした。




それからしばらくの間は、静寂が3人を包み込んだ。
殺し合いの場とは思えぬほど、穏やかな空気が流れた。
だが、そんな空気の中でも、シャークはアルスを心配し続けた。
休んでいる2人に悪いと思いながらも、1度だけデパートの3階へ行き、そこから辺りを見渡した。
誰も見つけることは出来ず、徒労に終わったが。


そして、2回目の放送と共に、静かな時間は終わりを告げる。


919 : 崩壊の足音1 疑心、悪鬼を生ず ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 19:57:16 u/SiVU9I0

オルゴ・デミーラの声がデパートの館内放送のように響き、眠っていたヤンと早人も目を覚ます。
ヤンの知り合いは、既に死亡を知らされていたエッジだけだったから、まだショックは少なかった。
だが、あとの二人にとっては、ショックどころでは済まない事実を突き付けられた。


シャークにとっての息子であり、彼を助けてくれたアルス。
川尻早人にとっての命の恩人であり、殺人鬼をも倒した東方仗助。

その二人が呼ばれたのだ。
この殺し合いそのものが大概だが、この事実は到底信じられなかった。
それを聞いたシャークと早人は怒りもせず、悲しみもせず。
目を見開き、口をぽかんと開け、ただその事実を受け入れるしか無かった。


だが、この放送はそうした思考の放棄さえ許さなかった。
唐突に地震が起こり、棚の上に置いてあるものがいくつか落ちる。
早人は反射的に机の下に隠れ、ヤンやシャークも周りに気を配った。


地震が止み、静かになった後、最初に口を開いたのは、普段は口数の少ないヤンだった。

「今のは何でしょうか……。」
「さあな。大方この殺し合いが進んだ記念に上げた花火のようなものじゃないのか?」

荒療治とは言え、3人は放送のショックから冷静さを取り戻すことが出来た。
だが、別の出来事が3人を驚かせた。


「あっ!外を見て!!」

それに一番早く気付いたのは、川尻早人だった。
このデパートの中はずっと蛍光灯が付いているので、中からでは変化が分かりづらい。
外は、丁度真昼になったばかりだというのに、大雨の予兆でもあるかのように、暗くなっていた。
いや、大雨の予兆という言葉はおかしい。
空は相変わらず雲一つないのだから。


一体どういうことなのか、気になった一行はデパートの3階まで上がってみた。
そこから見える景色は、放送前までと大して変わりはない。
どこかにとてつもなく大きな樹でも生えたかのように、辺り一面が影に覆われていることを除けば。


920 : 崩壊の足音1 疑心、悪鬼を生ず ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 19:58:05 u/SiVU9I0

「面倒なことになったな。」
そう呟くシャークに対して、ヤンが問いかける。
「どちらの方ですかな?」
「外も中もだ。」

彼が言った「外」というのは、デパートから見える方面だ。
ここから北西に位置する森の方角から、煙が上がっていた。
それはすなわちカイン達が向かった方向に、何か良からぬことが起こっているということだ。
先の放送で別れた3人は誰も呼ばれていなかったが、まだあの辺りをうろついている可能性も否定しきれない吉良吉影だって呼ばれていない。


彼が言った「中」というのは、当然デパートのことだ。
外が暗くなったということは、灯りが付いているデパートに人が寄ってくるという事でもある。
ここは夜間の船にとっての、灯台のような存在に早変わりしたのだ。
勿論頼れる仲間が来るかもしれないが、殺し合いに乗った者が蟻のように群がって来る可能性も捨てきれない。
勿論、当初向かう予定としていたバロン城も気になる。


「心配なさるな。休めたのでもう心配いらぬ。」
ヤンはそうは言ったが、爆撃を受けた直後よりかはマシというだけで、万全の状態ではないのは2人の目にも明らかだった。
留まるか出るか、出るとしてもどこへ行くか、決断に迫られる。
1人がバロンへ向かい、1人が森へ、1人が留まるという考えは論外だ。
戦闘向けの能力のない早人に、手負いのヤンが正面から戦えば分が悪すぎる。


そのため、3人はデパートの窓際で、早速どこへ向かうか話を進めることにした。


「オレはカイン達の所へ行くべきだと思う。たとえ放送で呼ばれなくても、無事だとは限らん。」
シャークは今にもデパートを出ようとする勢いだった。



「僕もそうした方がいいと思う。それにもうじき、こことバロンをつなぐ橋が封鎖される。」
早人もその案に賛成する。
バロン城へ向かった所で、望みの相手に出会えるか分からない。
それに、バロン城のエリアは北と西が封鎖され、もうじき袋小路になる。
わざわざ迎えに行かなくても、向こうの方から出てくるのではないか、そのように考えた。


「そうだ、御二人が気付いているか分かりませんが、一つお伝えしたいことがあります」

いざ出発という時に突然、ヤンが紙切れを取り出して床に置き、書きなぐった
『この殺し合いの主導権を握る者が変わった。』


「「!!?」」
先ほど地震が起きた時、あるいはそれ以上に2人は驚いた。

「どういうことだ。」
『放送 言い終わる前 打ち切られた。』

シャークの質問に対し、ヤンは簡潔に書き殴っていく。
あの時頼れる仲間の予想外の訃報を

「そう言えば……だからといって、そう決めるのは早急なんじゃないか。」
早人はヤンの主張に対し、半信半疑と言った表情を浮かべている。
実際に元居た世界で、ラジオやトランシーバーといった音声機器を使った経験のある早人は、機材のトラブルか何かだと思っていた。
あの時既に必要事項は粗方報告されていたので、態々改めて報告するほどことでもないはずだ。
件の地震のせいで一時的に接続が切れてしまったということも考えられる。


921 : 崩壊の足音1 疑心、悪鬼を生ず ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 19:58:41 u/SiVU9I0
『地震 起こした 理由 分からぬ』


「それはただのパフォーマンスでは無いのか?」

シャーク・アイとしても、めでたいことがあれば海賊船の上で花火を上げたことがある。
アレと一緒にしてしまうのは癪だが、この殺し合いが進んだことを祝して行っただけのものだと考えた。

「そうかもしれませぬ。ですが私としてはどうにも引っかかるモノがある。
とはいえ、予想がどうであれ奴等を倒さねばならぬことには変わりはありませぬが。」


ヤンの話は終わり、今度こそデパートを出ようとしたその時だった。
入り口に、二人組がいた。
大小の人ならざる姿をした者たちだった。
小さい方は黒魔導士の服を纏ったネズミ。もう片方は頭にトサカと角を生やし、トゲトゲの甲羅を背負った亀の怪物。


この2人が殺し合いに乗っているかは不明だ。
どちらも美しいとは言い難い外見だが、3人の中で見かけのみで差別や判断をする者はいない。
殺し合いに乗っているかもしれないし、そうでないかもしれない。


「私はスクィーラと申します。こちらの方はクッパ様といいます。
あなた方の中で、クッパ様を治療を出来る方はいませんか?」

最初に言葉を発したのは2人組の小さい方、スクィーラだった。
隣にいたクッパは全身の至る所に傷を負っており、よくここまで歩いてこれたなという有様だった。
身体には申し訳程度に包帯を巻かれているが、それだけでは到底完治しそうにない。


「回復魔法には僅かながら心得がある。だがそれをした所で俺達に得があるのか?」

シャークは決して、己の保身のためにこの台詞を吐いたのではない。
彼の魔法はこれから向かった先で、傷ついた仲間に使うつもりであったこと。
そしてこの2匹の方に非があり、殺し合いに乗った者の片棒を担ぐ恐れがあったことで、そう返した。


「そ、そんな殺生な!!分かりました。こちらのカギでどうでしょう。何か重要な物らしいですが、命には代えられません。」
スクィーラはデパートの三階で拾った、金色の鍵を見せる。
「使い方も価値も分からないモノを金替わりにするつもりか。」


シャークの表情は解れることは無かった。
カイン達が負傷した可能性もある中、貴重な魔力を使ってまで治療したい相手では無かった。
決して相手が醜い獣たちだからという訳ではない。
スクィーラの隣にいるクッパは負傷しているのは間違いないようだが、どこか虚ろな目をしており、何とも言えず嫌な予感がした。


922 : 崩壊の足音1 疑心、悪鬼を生ず ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 19:59:31 u/SiVU9I0

「まあまあシャーク殿。そう凄むのも良い事ではないでしょう。
ただし私達はこれから行かねばならぬ所があり、全ての魔力をあなた方に使うことは出来ませぬ。」

ヤンもヤンで、決して同情心からそう言ったのではない。
この2人組、特にスクィーラの方から何とも言えず嫌な感じがした。
確かにクッパは怪我をしているようだが、このネズミは彼の怪我を治してもらう以外に何か別のことを考えているような気がした。
言ってしまえば、森で出会った吉良吉影の不審な態度と同じものを感じたのだ。
だからと言って迂闊に刺激したりせずに、適当に感知しない程度に回復魔法をかけてやり、そのまま別れようと考えた。
なんなら根掘り葉掘り相手のことを聞いても良いが、そこまで時間をかけた挙句、カイン達を助けることが出来なくなるのは避けたかったからだ。


「それで十分です。ありがとうございます。」

シャークと呼ばれた男がクッパに魔法のようなものをかける。
レンタロウにつけられた傷が癒えていく様子から、それは人を癒す呪力のようなものだとスクィーラは解釈した。

(さて……これからどうしますかな。)
彼としては、話し合いの段階に入るという第一のステップは踏んだ。
鍵は別に渡しても問題は無い。
既に鍵の一部を削り、金粉として別の形で保管している。
交渉を円滑に進める為ならば、鍵はあげてしまっても構わない。
ここから如何にして彼らの鞄の口を開けさせ、ニトロハニーシロップの起爆剤になる物を探すか。

手っ取り早くサイコバスターを使うことも考えたが、すぐにまだ早いと判断した。
おまけにこの世界は特殊な力を持つ者がいるので、使った所で無毒化される可能性も否定できない。



その時、クッパが口をもごもごとさせて呟いた。
「まりお……ぴーち……どこにいる?」
「クッパ様、ここにいるかどうか、ここの方々と話をしてみます。しばしお待ちを。」


その様子を見て、3人は何とも言えず嫌な物を感じた。
どちらも、放送で呼ばれた名前ではないか。
弔うために彼らの死体を探しているのか。
もしくは放送を聞いていないのか。
あるいは、放送そのものを信じていないのか。


「こちらがその鍵です。どこで使えるのかは分かりません。これより手分けしてその鍵穴を
探そうと思います。」
「話を聞いていたのか?オレたちはこれから戦いに行こうと考えているのだぞ?」
「いえいえ、第一優先でやれというわけではありません。ただお仕事のついでで探して下さればいいのです。」


923 : 破滅の足音1 疑心、悪鬼を生ず ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:00:29 u/SiVU9I0

ヤンは屈んで、スクィーラが握りしめている鍵をまじまじと見つめる。
特に何か罠らしきものは無い。
顔を近づけてみても、火薬らしき匂いは感じず、呪いのように胸が悪くなる感じもしない。
これは紛うことなき金の鍵で、スクィーラは少なくともこれで自分達に害を与えるつもりはないのだと判断し、ザックに入れる。


「一つ聞きたいことがあるんだ。」
川尻早人が口を開いた。
「はい。何でしょうか。」
「それは、支給されていたんじゃなくてここで見つけたんだよね?」
「そうですが、何か問題でも?」
「もしかしたらそれで脱出出来るかもしれない。見つけたのなら限定品のケーキぐらい大事にしておくべきじゃないのか?」


早人としては『なぜスクィーラがそんなに大事なものを第一に渡そうとするのか』ということが疑問に思っていた。
クッパの怪我を治したいのだとしても、そうやすやすと交渉の材料に使うべきではないだろう。
ヤンとシャークは、スクィーラは『鍵の価値も使い道も分からないから渡しそうとした』のだと考えた。
だが、川尻早人という疑り深さで生き残った少年は、『鍵の価値が分かった上で、渡そうとしている』と判断した。
つまり、鍵を最初から交渉カードとしか考えていないことに、違和感を覚えたのだ。


鍵が支給品ではなく、かつ何の力を発揮するのか分からないということは、ただの支給品とは一線を画す存在でないかと考えることが妥当だ。
そして、鍵という脱出の可能性をあっさり他者に譲渡しようとしていることは。
スクィーラは脱出による生還に、あまり重きを置いていない。すなわち殺し合いの優勝を目指しているのではないかとも考えた。


「いえ、クッパ様の怪我を治すのが最優先だと考えたのです。」
「だとしても、脱出の可能性がある道具を一番最初に出すのはおかしくないか?他の支給品じゃダメなのか?」

切り札は隠し持っておくのが常識だ。
それこそ屋根裏でもランドセルでも。肝心なタイミングまで存在すら他人に知られずに隠しておくのが当然だ。


(この早人というガキ、頭が回る様だ……)
まさかスクィーラは、3人の中で一番小さい早人がそのようなことを言って来るとは思わなかった。
彼らバケネズミにとって子供、特に法と秩序の無い場所での子供は格好の得物だったから。


「それとも、他に見られたら困る道具があったのか?」
そこまで言うのに躊躇いは無かった。
かつて自宅の風呂で川尻耕作を騙った吉良吉影を詰めた時は、力が無かったが故に逆に良いようにあしらわれてしまった。
だが、今回はそれは考えなくていい。
危害を加えようとすれば、頼れる大人が、この人の言葉をしゃべるネズミを一瞬で物言わぬネズミに変えるはずだから。


924 : 破滅の足音1 疑心、悪鬼を生ず ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:00:48 u/SiVU9I0

「!!?」
いかにして相手のザックを探るか考えていれば、いつの間にか自分の方が探られる立場に回っていたとは。
ザックの中には細菌兵器と起爆剤が眠っている。
どう誤魔化そうか考えていた時、シャークが口を開いた。


「ダメだ。」
「ど、どういうことですか?」
「傷が多すぎる。オレ一人じゃ治しきれない。」

シャークはにべもなく回復魔法を止めた。
回復魔法が制限されている中で、ベホイミだけでは治すことはできない。
本職の僧侶や賢者に比べて、魔力が決して潤沢ではないシャークなら猶のことだ。


「ローザ殿がいれば……。」
ヤンはそう呟いた。
それはただ、白魔法に長けた者の名前を呼んだだけだ。
崩壊につながることも知らずに。


ヤンの言葉がトリガーとなり、クッパは一つ思い出した。


925 : 破滅の足音2 宵闇花火 ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:01:36 u/SiVU9I0

――あの……私、ローザと言います。
――あ……あの緑の男、アルスは悪党なんです!


濁流の中から、ほんのわずかだけ記憶の欠片を拾い上げた。
自分の崩壊の発端になった原因を。
散々利用された挙句捨てられたあの女性の名前を。
思い出したからと言って、彼の心が元通りになる訳ではない。
ただ、一つだけ感情を取り戻した。
怒りという感情だ。
最も、理性も判断力も取り戻せていないのだが。



「うがああああああああああああ!!!!!」
怒りの感情を取り戻した者に、理性も思考能力も無ければ。
巣をつつかれた蜂のように、不快な相手を追い払うために、ただ感情の赴くままに暴れることしかできない。


「ひいいいい!!クッパ様、何かお気に召さぬことでもありましたか?」
「クッパ殿!落ち着いてくだされ!!」
突然暴れはじめたクッパを、どうにか宥めようとする。
突然目に光を取り戻したクッパは、辺りに炎を吐いた。
灼熱の炎は、ヤンを狙い、その後ろにいた早人とスクィーラも燃やそうとした。


「させるか……バギマ!!」
シャークが放った竜巻の魔法が、クッパの炎の威力を弱める。

「もしや、ローザ殿と何か……。」
「うがあああああああ!!!」

クッパはヤンに対して、両腕を振り回す。
至近距離にいたため、躱すのが遅れて爪で肩を切り裂かれた。


(この怪物、爪に毒を含んでいるのか……しかしカイナッツォに似ているかと思いきや、力はそれ以上、まずいな……。)
右肩に、切り裂かれた痛みとは異なる火傷のような痛みを感じた。

「ローザ!ゆるさん!!」

第二撃が頭上から来る。だが、ヤンはバック宙で後ろに躱した。
しかし、クッパは武器を持っている。
離れた所から、チェーンハンマーを投げて来た。
背を低くして躱せば、早人に当たってしまう。


「然らば……。」

ヤンは全身の筋肉の密度を上げ、地面にどっしりと構えて、全身の骨と筋肉を、臓腑を守る鎧に変えた。
さらに筋肉の膨張により、丸太のようになった両腕をクロスさせる。
ファブールのモンク僧でも出来る者は少ない『がまん』は、防御魔法プロテスと同じくらい敵の物理攻撃を軽減できる。
ヤンのクロスした両腕の真ん中に鉄球が直撃する。
鋼鉄の鎧や岩の塊でさえ砕く一撃を、ヤンは受け止めた。


926 : 破滅の足音2 宵闇花火 ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:02:00 u/SiVU9I0
ズン、と両腕に鈍くて重い衝撃が骨まで響く。
受け止めたが、その時の衝撃から2度は出来ぬ、2度目は腕が砕けると判断した。
『がまん』は攻撃の威力を軽減できるが、無力化は出来ない。




「ガアーーーーーッ!!」

そしてすぐに、クッパは炎の息を吐いてくる。
物理攻撃ではないファイヤーブレスは、ヤンの力では防御出来ない。
しかし、町一体を襲った津波が、彼を炎から守った。
それは決して偶然ではなく、海賊を極めたシャークが起こしたものだ。
自然によるものではなく、人の手により起こされたものなので、威力は大したものではないが、炎には水。
津波と炎がぶつかり、ジュウウという音とともに、潮臭い煙が巻き上がる。


「キアリー。」
爪の攻撃を食らった箇所が紫に変色したのを見て、シャークは解毒魔法をヤンにかける。
毒が消えたことで、全身の痛みも幾分かは治まった。

「かたじけない。」
「ヤン、ハヤトを連れて逃げろ!!」
「無茶を言ってはならん!あの怪物は私達2人でやっと止められる相手だ!!」


そこへ再び、クッパが鉄球を投げてくる。
もうヤンでは受けきれない。
だが、今度受けるのはシャーク・アイだった。

「そうはいくか!」

鉄球を目の前にしても、シャークは笑みを浮かべていた。
何も強すぎる攻撃を、防具と筋肉で受け止めることばかりが、防御の手段ではない。
先ほど鉄球攻撃をガードしたヤンとは対照的に、シャークは全身の力を抜き、襲い来る鉄の塊の衝撃を逃がす。
ヤンや、彼の仲間のセシルが剛の強さを持っているというのなら、シャークら海賊は柔の強さを備えている。
戦いのみならず、海を知り尽くし、時に水や嵐を操る力も手に入れた海賊の特技『大防御』だ。
水を潰すことが出来ないように、シャークもその攻撃で潰されることは無かった。


「頭を冷やしな、ハリケーン!!」
シャークが手を頭上に掲げると雨雲が集まり、豪雨と強風がクッパを襲う。

「ガアアアアアアア!!」
雨に打たれ、強風に晒され、クッパはその中で暴れる。

しかし、似たような姿をした海の守りガメは風や氷の技を無効化する。
シャークは余りこの技も大して効果を発揮しないのではないかと考えた。


927 : 破滅の足音2 宵闇花火 ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:02:23 u/SiVU9I0

「まて!ローザのなかま、にげるな!!」
シャークの悪い予想通り、大したダメージも受けぬまま嵐の中から抜け出し、クッパはヤンに突進しようとする。
当たればどうなるかは、殺し合いの序盤、杜王駅で戦ったアルスが証明している。


「あんたの相手はオレだ!」
「が!?」
シャークがクッパの横っ面を蹴とばしたので、突進を食らわずに済んだ。

「オレ一人じゃどこまで守りながら戦えるか分からん!早くしろ!」
「承知した!だが、ハヤト殿をここから逃がしたらすぐに戻る!!」


そう言ってヤンは早人を背負い、走って行った。

「ハヤト殿、行きますぞ!」
「……分かった!シャークさん、無事でいて!!」

ヤンに抱えられた時、早人は気づいた。
あのねずみ男は、このどさくさに紛れてどこに行ったのかということだ。
クッパよりも、スクィーラに警戒した早人は正しかった。
残念なことは、それを警戒していたのは、早人だけだったことだが。





クッパが大口を開けて、シャークを噛みつこうする。
素早さはシャークの方が上だ。
大振りで前動作も分かりやすい噛みつき攻撃など、当たることはない。

「水面蹴り!」

そして上半身を使った攻撃をした後は、下半身が無防備になりやすい。
姿勢を低くして、身体を独楽の用に回してキックを放った。


「ガアアアアア!!」
ダメージを受けたクッパは、腕を振り回し、炎を吐き散らし、鉄球をぶん回す。
全てシャークに当たることはないが、街のあちこちが壊れていく。


(この怪物……手負いの身とはとても思えん!大したヤツだ……)


いくら攻撃しても、倒れる様子の無いクッパ相手に、シャークは焦りを覚える。
それもそのはず。クッパはエデンの戦士アルスの最強技たるギガスラッシュを、まともに受けても倒れることが無いほどだ。
素早さと手数は間違いなくシャークが勝っているため、攻撃を食らって負けるとは思わなかった。
だが生命力も防御力も攻撃力も、全てクッパが勝っているため、倒せるビジョンも見えてこない。


攻撃を躱して躱して、隙が出来た瞬間にナイフで斬りつける。
シャークが持っているブロンズナイフは、軽さを重視する以上、スピードが命のこの戦いでは悪くはない。
だが、切れ味は市販の野菜や果物を切るためのナイフに毛が生えた程度。
よほ深くまで踏み込まねば、鱗とコウラの鎧に覆われているクッパに大したダメージを与えることは難しい。
マール・デ・ドラゴーンの海賊のリーダーとして、これまで戦った魔物との経験を総動員して、効果的な解答を探る。
はっきり言って、短期決戦が望ましいこの状況に置いて、最悪の戦術に近い。
シャークも分かっているが、それが最適解な以上はそうするしかない。


「ウガアアアアア!!」


クッパが突進してくるが、それをシャークは最低限の動きで横に飛び退く。
建物にぶつかり、壁に怪物をかたどった穴が開く。
それでも懲りず、再びクッパは突進してくる。


928 : 破滅の足音2 宵闇花火 ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:03:05 u/SiVU9I0

「させるか!メイルストロム!!」

先程のハリケーンより、二回りくらい広い範囲を洗い流す、水の竜巻がクッパの中心に現れる。
大渦はクッパを飲み込もうとするが、巨大な亀の大魔王は、突進でとぐろを巻く水龍を突き破った。
しかし、シャークは彼の息子と同じ轍を踏むことは無かった。
元々自分の技が効きにくいと踏んでいたシャークは、メイルストロムではクッパを倒せないと考え、突進攻撃を躱す準備をしていた。


(楽観視していたわけではないが、これでも大したダメージにならないとは……。)


だが、相も変わらずナイフと海賊の技だけで倒す方法は見いだせなかった。
元々海賊とは魔力に難がある職業なので、メイルストロムも何発も打てる技ではない。
デパートで休憩したことで魔力は幾分か回復できたとは言え、完全に回復したわけでもない。
この怪物を回復させるんじゃなかったな、とどうでもいい後悔を胸の中でしてしまう。


(とにかく正面からぶつかり合うべき相手ではない……ならば!)

石畳が捲れたことで、剥き出しになった地面を蹴る。
砂煙でクッパの視界を奪う。
鉄球を投げるが、ただでさえ命中率が低い攻撃を、視界を遮られた中では当たらない。
だが、例え理性を失っていたとしても、どう戦えばいいかはマリオとの度重なる戦いで、脊髄に刷り込まれている。
百聞は一見に如かずということわざがあるが、戦いというのは100の知識よりも1の経験がものを言う。
シャークの姿が見えないとなると、砂煙の届かない上空に飛び上がる。


「何!!?」
あの巨体で、跳躍して三次元的な戦い方をしてくるのは予想外だった。
クッパはそこに浮かび上がった影目掛けて飛びかかる。


「ぐわあっ!」
クッパのドロップキックが、シャークの腹に命中し、壁に命中する。
その一撃で内臓が潰れたわけではないが、骨の1本は持っていかれたのは痛みで分かった。
今のままではまずいと、砂煙をもう一度上げようとするが、それは出来なかった。
何かおかしいと、ハリケーンを食らわせようとするが、それもまた不発に終わる。


(どういうことだ!!)


929 : 破滅の足音2 宵闇花火 ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:03:33 u/SiVU9I0

シャークが気付かないのも無理はない。
どういう理屈か分からぬが、クッパのヒップドロップや踏みつけなどの技を受けた者は、一定時間使える技が制限される。
それは時に応じて道具が使えなくなったり、防御が出来なくなったりと様々だ。
運の悪いことに、シャークが使えなくなったコマンドは特技。
彼の世界には、あやしいきりやマホトーンなど、魔法を封じる魔法や特技は数多くあったが、特技を封じる技は無かったので、対処のしようがない。


「ゆるさん!じゃましたおまえもたおす!!ギッタギタにする!!」


クッパが大口を開ける。
海の暴れ者ギャオースにも劣らぬ、灼熱の火炎が吐き出される。
だがもう抵抗手段は何も残されておらず、支給品を出そうにも間に合わない。

「おわっ!?」

クッパがシャークを焼き尽くそうとした時、今度はクッパの方が足技を食らった。
予想外の方向からキックを受け、クッパはゴロゴロ転がって行く。

「危ない所でしたな、シャーク殿!!」
「ヤンどの。危ない所だった。感謝する。」


「ローザのなかま!わがはいをけりおって!!ボコボコにする!!」
再会を喜ぶも、クッパは立ち上がりまた襲い掛かって来る。
ガツーンジャンプのバッジによって強化されたヤンの蹴りといえど、それ一発でクッパを倒すことは出来なかった。


「来ますぞ!シャーク殿!!」
「分かっているさ。早くこのデカブツを倒して、カイン達の所へ行くぞ。」


この2人は負ける気はしなかった。
クッパという怪物はあくまで通過点。
彼等にとっての敵は吉良吉影であり、そしてこの殺し合いの主催者なのだ。
それゆえ、気付かなかった。いや、忘れてしまった。
先刻までクッパの隣にいた小さき者を。
クッパや吉良吉影とは比べ物にならないほど小さい脅威は、少しずつだが着実に2人の下へ迫っていた。


930 : 破滅の足音3 宵闇花火 ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:05:28 u/SiVU9I0

「ウガーーーーーーッ!!」
クッパの口腔から、灼熱の炎が吐き出される。
ブレス攻撃の厄介な所は、大して魔力も使わずに、呪文並みに広範囲を攻撃できることだ。

だが、スピードではクッパに勝る二人は、左右にジャンプして躱す。


敵が吐いた炎が消えると、すかさずヤンはクッパの懐に潜り込む。
その拳が顔面に刺さり、追加で炎の爪から出た小さい火の玉が、クッパを焼く。


「うあああああああ!!」


苦しみと怒りが綯い交ぜになった声を上げる。
ヤンの炎の爪での攻撃を受けた時に思い出したのは、かつてマリオに雨あられと食らったファイアボール。
それを投げたのは誰か分からない。だが、敵だった者から似たような痛みを被ったことだけは覚えていた。


怒りのまま、チェーンハンマーを振り回す。
そんなものはヤンの瞬発力をもってすれば当たりはしないが、厄介なのは鉄球だけではない。
市街地のあちらこちらが、鉄球により壊され、その瓦礫がヤンの逃げた先に降り注ぐ。


「バギマ!」


シャークが唱えた竜巻の魔法が、瓦礫を吹き飛ばす。
クッパの攻撃により、特技はまだ使えなくなっているが、魔法は使える。

「かたじけない。」
「礼なら勝ってから言うと良い。」

瓦礫の雨が止み、今度はクッパは突進攻撃をしてくる。
それを先程炎を躱したように横っ飛びで避け、ヤンは蹴りを顔面に、シャークはナイフの斬撃を肩に入れる。
一人から二人に変わることで、攻めも守りも、格段に良くなっていた。


「ガアアア!!」
「来ますぞ!シャーク殿。」
「ああ。」


怒るクッパは両腕を振り回すが、それもまた当たらない。
今度は人間2人が、クッパ相手に攻め続けていた。
船頭多くして船山に登るという諺があるが、マール・デ・ドラゴーンの船長と、ファブールのモンク僧のリーダーの間では、全くそんなことは起こらなかった。
互いをカバーしつつも最適なタイミングで攻撃のチャンスを作っていく。


だからといって、このまま勝てるとは二人も思っていなかった。
たとえヤンが新たに戦闘に加わってくれたとしても、巨大な亀の怪物を倒せるビジョンは見えてこない。
2人はその名を知らぬが、クッパを手負いまで追い詰めた者の凄さを実感してしまう。
そして持久戦に持ち込まれれば、力比べに持ち込まれれば、身体の大きいクッパの方に戦況が傾いてしまう。
何か、瞬間的な破壊力に富んだ一撃が必要とされる状況だった。


931 : 破滅の足音3 シオヤアブのなく頃に ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:08:35 u/SiVU9I0

「ウガーーーーーーッ!!」
クッパの口腔から、灼熱の炎が吐き出される。
ブレス攻撃の厄介な所は、大して魔力も使わずに、呪文並みに広範囲を攻撃できることだ。

だが、スピードではクッパに勝る二人は、左右にジャンプして躱す。


敵が吐いた炎が消えると、すかさずヤンはクッパの懐に潜り込む。
その拳が顔面に刺さり、追加で炎の爪から出た小さい火の玉が、クッパを焼く。


「うあああああああ!!」


苦しみと怒りが綯い交ぜになった声を上げる。
ヤンの炎の爪での攻撃を受けた時に思い出したのは、かつてマリオに雨あられと食らったファイアボール。
それを投げたのは誰か分からない。だが、敵だった者から似たような痛みを被ったことだけは覚えていた。


怒りのまま、チェーンハンマーを振り回す。
そんなものはヤンの瞬発力をもってすれば当たりはしないが、厄介なのは鉄球だけではない。
市街地のあちらこちらが、鉄球により壊され、その瓦礫がヤンの逃げた先に降り注ぐ。


「バギマ!」


シャークが唱えた竜巻の魔法が、瓦礫を吹き飛ばす。
クッパの攻撃により、特技はまだ使えなくなっているが、魔法は使える。

「かたじけない。」
「礼なら勝ってから言うと良い。」

瓦礫の雨が止み、今度はクッパは突進攻撃をしてくる。
それを先程炎を躱したように横っ飛びで避け、ヤンは蹴りを顔面に、シャークはナイフの斬撃を肩に入れる。
一人から二人に変わることで、攻めも守りも、格段に良くなっていた。


「ガアアア!!」
「来ますぞ!シャーク殿。」
「ああ。」


怒るクッパは両腕を振り回すが、それもまた当たらない。
今度は人間2人が、クッパ相手に攻め続けていた。
船頭多くして船山に登るという諺があるが、マール・デ・ドラゴーンの船長と、ファブールのモンク僧のリーダーの間では、全くそんなことは起こらなかった。
互いをカバーしつつも最適なタイミングで攻撃のチャンスを作っていく。


だからといって、このまま勝てるとは二人も思っていなかった。
たとえヤンが新たに戦闘に加わってくれたとしても、巨大な亀の怪物を倒せるビジョンは見えてこない。
2人はその名を知らぬが、クッパを手負いまで追い詰めた者の凄さを実感してしまう。
そして持久戦に持ち込まれれば、身体の大きいクッパの方に戦況が傾いてしまう。
何か、瞬間的な破壊力に富んだ一撃が必要とされる状況だった。


932 : 破滅の足音3 シオヤアブのなく頃に ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:08:58 u/SiVU9I0
「シャーク殿、頼みがあります。」
「手短に話せ。」


クッパの鉄球が当たらないギリギリの距離で、ヤンはシャークに話した。


「もう少し。いや、一手でよろしい。時間を稼いでもらえぬかな。」
「任せろ。今さら一手や二手ぐらいどうということはない。」
「ありがたい限りです。」
「ついでにこれも餞別代りにやるよ。」

シャークは攻撃力を上げる魔法、バイキルトをヤンにかける。
会話が終わると、すぐにヤンは後方に下がり、呼吸を整える。

「まて!にげるな!!」

クッパがヤンめがけて突進するが、そこは先ほどと同じように、シャークが蹴りを入れたことで攻撃を止める。
それがクッパが言う逃げではないと、王と言ってもコスタール王のような強さと優しさを兼ね揃えた者だと信用していた。
なので、彼は頼まれたことをするだけだと心に決めた。


そしてヤンも、クッパがシャークに掛かりきりになった瞬間、もう一つのモンク僧の技を使い始める。
集中力を外から内へ。敵を警戒するために広くしていた空間を、より集中するために狭める。
まずは全身の力を抜き、二酸化炭素を吐き出し、心を波一つない朝ぼらけの海のように沈める。
そこから息を深くゆっくりと吸い込み、徐々に力を溜めていく。


シャークの健闘もあって、今までで一番力を溜めることが出来た。
元の世界には無かった攻撃力を上げる魔法の加護もあり、かつてセシル達と戦った以上に力がみなぎって来るのを感じる。
このまま、クッパは愚か、デパートでさえも拳一発で壊せる自信があったぐらいだ。
さあ後は怪物にこの拳を突き出すだけ。


その時、足音が聞こえた。
極めて静かで、軽い足音。
だが、彼は標的をクッパに絞っていた。今さらそんなものなどどうでもいい。
いや、どうでもいいものとしか扱えない。たとえそれが命を狙ってくる存在であっても。


933 : 破滅の足音3 シオヤアブのなく頃に ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:09:36 u/SiVU9I0

それがすぐ近くに来た瞬間、ヤンはその気配に気づき、ようやく疑問を抱くことになった。
スクィーラ、何故来たのだ。
違う、それじゃない。
なぜ針なんぞを、しかも自分の方に向けているのだ。



「あなた怨みはありませんが、私たち人間のためなのです。」


ぶすりと、猛毒の針がヤンの背中に刺された。
彼の表情に表れたのは、憤怒か、驚嘆か、それとも苦悶か。
毒の影響でみなぎっていた全身の力が、嘘のように抜けていく。






「ヤン!どうしたんだ!!」

いつまでもヤンが来ないことを案じ、踵を返して彼が離れた方向に走るシャーク。
その時クッパの爪が当たるが、自身が被った毒も気にすることは無く。
そして先程デパートで出会い、どこかへ逃げたネズミがヤンを刺していた瞬間を目にする。


「スクィーラ!!」

あの武器の攻撃力が毒に頼ったものなら、キアリーをかければいい。
制限されている間とは言え、ベホイミを使えばまだ延命が出来るかもしれない。
それに、あのネズミの魔物を許しておけない。
ナイフを振りかぶり、彼をも串刺しにしようとした時。
後ろからクッパの炎が、シャークを焼き尽くした。
炎はシャークの海賊の服や、キャプテンハット諸共、彼の肉体を焼き尽くした。


「キア……り……。」
あと一手、解毒魔法を唱えるまであと一手足らず、彼は息子と同様、炎に包まれて天に昇ることになった。




「そう………か……。」
幸か不幸か、ヤンはシャークが焼き尽くされる瞬間を見ずに済んだ。
ぼやける視界に映っているのは、醜悪なバケネズミの顔のみ。


身体中が痺れ、言葉を発するのも億劫だった。
その時、ようやく思い出した。
自分はクッパだけではなく、このネズミにも警戒していたのだと。
折角警戒していたというのに、自分の間抜けさを呪いたくなった。
いつだってそうだ。
ゴルベーザに操られたり、パロム達やテラを助けられなかったり、ドワーフ城でクリスタルを奪われたり。
自分はここ一番でいつも失敗し、いいように騙されている。



彼は能力に頼った孤島の学園の子供たちに比べ、体力はずっとあった。
猛毒の針を何本も刺されても、それでも地面に尻を付けなかった。
せめてこのネズミだけでも倒さねばと、残った力を全て右手の拳に集める。
悪を滅する正義の役を最後まで全うするとか、吐き気を催す邪悪であるスクィーラを刺し違えてでも殺さねばならないとか、そんな御大層な意志ではない。


934 : 破滅の足音3 シオヤアブのなく頃に ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:09:59 u/SiVU9I0

「ま、まさか?」


もう立つことさえ出来ぬはず。
その効力は、バロン城で戦った際にレンタロウで試している。
クッパのような怪物ならともかく、人間なら多少鍛えたぐらいではどうにもならない。
そんなことは露ほども感じさせないヤンの気迫を見て、スクィーラは慌てふためいた。


ヤンははっきりとわかった。自分はもう死ぬと。
辺りはクッパが吐いた炎の熱気が充満しているのに、身体は氷のように冷たい。
だというのに、全身からは滝のように汗が流れている。
自分がすることは一つだというのに、脳裏に浮かんだのは、どうでもいいことばかりだった。
そういえばメテオを撃つ前のテラ殿もこんな感じだったのか。
そう言えば、ここ最近弟子に稽古を付けたいないな。
役に立ちそうにないが、支給品のあの道具を、帰りを待っている妻の土産にしたかった。


炎の爪も、バッジ以外の他の支給品も奪われてしまったが、入らない力で振りかぶった拳をスクィーラに突き出す。
その時、スクィーラの懐から、ナイフが飛び出た。
彼が投げたのではなく、ナイフそのものに意識があるかのように飛び、ヤンの右手首を切り裂いた。
それは彼がレンタロウから奪ったダンシングダガーだった。
ヤンが元の世界にいた時から知っていた武器とは言え、どこから出るか分からなければ対応が出来ない。
全く持って予想外のナイフに深く斬り裂かれ、腕をぶらんとさせる。
それでも、両脚で立ったまま、両目を見開いたまま。
ファブール最強のモンク僧は、戦いの構えを崩さぬまま死んだ。

スクィーラはこの殺し合いに参加させられる前は「塩屋虻」というバケネズミのコロニーの将軍だった。
木の枝や葉の裏側でじっとして獲物が通りかかるのを待ち続け、時が来ればひっそりと近寄り、獲物の神経を切り裂くのが塩屋虻のスタイルだ。
今の彼は、まさに塩屋虻のごとし。



「ローザのなかま!!これでおわりだ!!」

クッパの炎が、ヤンの死体を焼き尽くした。
間違った復讐が終わると、クッパは借りてきた猫のように大人しくなった。
焦点の合わない、光を失った瞳でどすんと座り込む。


一先ずは落ち着いたようだが、それを見て、スクィーラはこの怪物をどうするか悩んだ。
先ほどは結果的に良かったが、やはり指示通りに動かない怪物は、いつ自分に攻撃の矛先を向けられるか分からない。
おまけにヤンの支給品は事前に奪えたから良かったが、シャークの支給品は炎に巻かれて、灰になってしまった。
さらに子供とは言え、一人逃がしたのも気になる。
まあ、殺人現場を見られたわけでは無いし、今度会えば自分は悪くないを突き通せばいいかと考える。


935 : 破滅の足音3 シオヤアブのなく頃に ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:10:21 u/SiVU9I0

「助かりました。クッパ様。神様の奥様をまた探しましょう。」
「………ピーチ、さがす。ピーチ、どこ?ローザ、わがはい、だました。」


スクィーラはヤンから奪った支給品を探す。
見つけたのは、貝殻のピアス。
とあるウェイトレスのお気に入りで、何の因果かかつても起爆剤に使われそうになった道具だ。
カードはそろった。後はこれをどこで使うか。


「ま、待って下さい!!」

先に勝手に歩こうとするクッパを慌てて追いかけながらも、頭の中ではそのタイミングを考えていた。





[シャーク・アイ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち 死亡]
[ヤン・ファン・ライデン@@Final Fantasy IV 死亡]

[残り 22名]


【F-2 デパート近く/一日目 日中】


【クッパ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:ダメージ(大) 凍傷 腹に刺し傷、全身の至る所に打撲、深い裂傷 両手に切り傷(応急処置済み) 精神の衰弱(大)
[装備]:チェーンハンマー @ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス
[道具]:基本支給品(名簿焼失)
[思考・状況]
基本行動方針: ぴーち、とりもどす。さらったやつら、ゆるさない
1.すくぃーらにしたがう
2.わがはいをだましたローザはころす

※ステージ7クリア後、ピカリー神殿を訪れてからの参戦です
※スクィーラの言葉により、ピーチ姫が生きていると錯覚しています。
※僅かだけ記憶が戻りました。




【スクィーラ@新世界より】
[状態]:軽い凍傷 体の数か所に裂傷 この殺し合いへの疑問
[装備]:毒針セット(8(うち5本を服の中に、残りをケースに)/20) @無能なナナ 黒魔導士を模した服@現地調達 ダンシングダガー@FINAL FANTASY Ⅳ 守りの指輪@Final Fantasy IV 
[道具]:基本支給品×4(レンタロウ、美夜子、ヤンの分)、ニトロハニーシロップ@ペーパーマリオRPG  金のカギ?@調達 金の鍵?から取った金粉 オチェアーノの剣@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち、ゾンビキラー@ドラゴンクエストVII、スパイ衛星@ドラえもん のび太の魔界大冒険 サイコ・バスター@新世界より  こおりのいぶき@ペーパーマリオRPG 通り抜けフープ@ドラえもん のび太の魔界大冒険 炎の爪DQVII貝殻のピアス@ペーパーマリオRPG クッパの支給品1〜2 ヤンの支給品0〜1(ヤンに適した武器ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:人間に奉仕し、その裏で参加者を殺す。
1:デパートへ向かって、参加者を探す。敵対するならクッパを使って殺す
2:クッパを操る
3:ニトロハニーシロップで爆弾を作る。その為にカルシウムになり得るものを調達する。
4:主催者と関わり深いかもしれない意思持ち支給品を探す(写真のおやじなど)
5:朝比奈覚は危険人物として吹聴する。また、彼を倒せそうな参加者を仕向ける
6:金のカギを爆薬として使うべきか?
7:サイコバスター。どこで使うべきか。
8:優勝し、バケネズミの王国を作るように、願いをかなえてもらう
9:主催者が求めている『何か』を探す






※【F-2 デパート近く】にヤンの死体の近くに、ガツーンジャンプのバッジ@ペーパーマリオRPG ひそひ草@FF4が落ちています。




(やっぱり……あいつらは殺し合いに乗っていたのか!!)


936 : 破滅の足音3 シオヤアブのなく頃に ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:10:55 u/SiVU9I0

ひそひ草に耳を傾けながら、事の端末を聞き取っていた。
彼が今持っている草は、いわゆる盗聴器のような役割を果たす。
しかも外見はただの一輪の花なので、カモフラージュの点から見れば盗聴器異常に優秀だ。
早人はヤンのズボンに、ひそひ草のスペアを入れていた。
かつてカメラで、川尻耕作に擬態した殺人鬼の動向を窺っていたように。


『ローザのなかま!これでおわりだ!!』
その瞬間、音声が切れた。シャークもヤンも助からないだろうと、考えてしまう。
本当ならすぐに戦いに戻りたい。
だが、あのネズミだけならともかく、クッパまでいるなら返り討ちに遭うのは目に見えている。
だから、逃げることにした。
森へ行き、カイン達を探そうと。
何度か振り返りながらも、能力を持たざる少年は走り続けた。




【E-2 市街地】


【川尻早人@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康 疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0〜1(武器ではない) ひそひ草×1@FF4
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗ってない者を集め、なぜか生きている吉良吉影、およびスクィーラとクッパを倒す
1: 森まで逃げ、カインにデパートで会ったことを話す
※本編終了後です
※名簿は確認しました。
※ヤンから主催者が変わったという説を考えています。



【支給品紹介】

【ひそひ草@FF4】
川尻早人に支給された道具。
2つペアになっているアイテムで、言語の伝達、盗聴、録音などが出来る。
盗聴器と携帯電話を兼ねている。


【貝殻ピアス@ペーパーマリオRPG】
ヤンに支給された道具。
高級品で、リッチリッチエクスプレスの食堂のウェイトレスのお気に入り。
着けても特に守備力が上がったりしない。


937 : 破滅の足音3 シオヤアブのなく頃に ◆vV5.jnbCYw :2022/08/07(日) 20:11:08 u/SiVU9I0
投下終了です


938 : ◆vV5.jnbCYw :2022/08/13(土) 23:26:50 y54EpiPI0
のび太、覚予約します


939 : ◆vV5.jnbCYw :2022/08/14(日) 22:37:39 WyJj9A7g0
投下します。


940 : 忘却も、思い出も ◆vV5.jnbCYw :2022/08/14(日) 22:39:04 WyJj9A7g0
朝比奈覚は、ローザ達と別れた後も走り続けた。
のび太の呼吸は段々穏やかになってきたが、それでも安心は出来なかった。
走って、走って、疲れて倒れそうになりながらも走って。
その先に見えてきたのは、神栖駅とは違う駅だった。


呪力でのび太を抱えたまま、駅の中に入った。
あの時病院に入った時のように、常に自分を狙ってくるものがいないか伺いながら、彼をベンチに寝かせる。
のび太の傷は、仗助とローザの力によってほとんど塞がっていた。
自分が出来ることはもうあまりなく、あとは彼の体力次第、そう言った所だった。


彼を寝かせると、ずっと見張っておこうかと思ったが、彼自身も精神的な疲労のために、ドサリと隣に座り込んだ。
呪力をそれなりに使ったのもあり、最初の放送前に神栖駅で眠ったのにも関わらず、また眠気が襲って来た。
眠ったら大変なことになると言い聞かせながらも、眠りに落ちてしまった。





目を覚ますと、眠っていたのは1時間ほどだと時計の短針が語っていた。
のび太はまだ目を覚まさない。
このままここにいてもいいのだが、居ても立っても居られず、のび太を運んで駅の入り口で待つことにした。
空のてっぺんに太陽が昇ろうとしている間、覚は1人で色々なことを考えていた。
あの独特な髪型の少年は無事だろうか。金髪の女性にはお礼を言いたい。赤帽子のオンナのコは、きちんとマリオと話が出来たか。
そして、ダルボスは無事でいて欲しかった。もう助からないと思っていたが、そう考えてしまった。
あの地平線から、のび太を助けてくれた優しい少年たちが現れるのを、待ちわびていた。そうすることしか出来なかった。


そして、放送が鳴り響く。
一度目の放送とは違い、彼にとって到底耐えられるものではなかった。
ダルボス、仗助、ビビアン。
そして、一番聞きたくなかった、聞くとは思っていなかった名前、渡辺早季。


放送を全て聞き終わると、貝のように口をぽかんと開けて、力無くその場に膝をついた。
早季が死んだ。
ずっとずっと隣にいた早季。
どんな時でも決してあきらめなかった早季。
ただ、彼女を失った事実のみが、ひび割れた彼の胸に染み渡る。
身体が氷のように冷え切って行き、視界が真っ白になり、耳鳴りだけが妙にうるさく響いた。


941 : 忘却も、思い出も ◆vV5.jnbCYw :2022/08/14(日) 22:39:25 WyJj9A7g0
「うあああぁぁ………!!」

人は悲しい時、涙がこぼれないように天を仰ぐと聞いたが、今の覚はまさにその通りだった。
違うことは、上を向いても涙が止め処なく零れることだけだった。
空に向かって、綯い交ぜになった感情を、慟哭に変えて吐き出した。
影が力無く項垂れた彼を、残酷に包んだ。

その後にやってきたのは、罪悪感。

(ごめん……早季、ごめん……ダルボス、仗助、ビビアン……。)

せめてもの罪滅ぼしにと仇を取ろうにも、その相手であるマリオも既に死んでしまっている。
どうして神栖66町の大人達が、居なくなった子供たちの記憶を奪ったのか、少しだけ分かった気がした。
彼女を失った事実は、真理亜や守の訃報を知らされた時以上に彼の心を抉った。
いつだって、彼は大切な人の死に目に会えない。


その時、いつの間にか目を覚ましていたのび太が、突然西に向かって歩き始めた。

「おいのび太、どこに行くんだ!?危ないぞ!」

さっきまで自身の無防備を晒していたことも棚に上げて、彼の挙動を訝しむ覚。
彼が放送を聞いたのか聞いてないのか分からなかったが、ただ真っすぐに歩いていた。


「のび太、どうしたんだ!」

本当なら怪我が治り、目を覚ましたことを喜ぶべきかもしれない。
だが、そんな余裕は精神が摩耗し切っていた覚に無かった。


「すぐ近くにドラえもんがいる。僕にはわかるんだ。」

酷く静かな声でそう答えた。
彼がなぜそれを分かったのかは不明だ。
だが彼がドラえもんに会いたいという意思が、そうさせたのだと覚は解釈した。

のび太は迷いなく、真っすぐに走った。
道路光線で照らされた帰らずの原を突き進むように。
覚は止めもせず付いて行く。彼が親友の存在を感じる方に。

道なき草原を、道があるかのように走り続ける。
マラソン大会で万年ビリッケツの彼から、荒い息が漏れる。
それでもペースを落とすことなく、ただひたすらに前を目指した。


やがて二人の視界に、一つの人工的な青が飛び込んできた。


942 : 忘却も、思い出も ◆vV5.jnbCYw :2022/08/14(日) 22:39:57 WyJj9A7g0

「ここにいたんだね。探したよ。」


のび太はこの世界で、ついに親友と再会した。
返事はされなかったが、やさしくのび太は壊れた親友を抱きしめた。


「僕さ、ずっときみのことを探したんだよ。怖い人に追いかけられたりしたけど、朝比奈さんもダルボスもとてもいい人でさ。」

一見、子供が動かないブリキで人形遊びをしているようにしか見えない。
それでも、彼の中ではその青いロボットは確かに生きていた。

「もう大丈夫だよ。だから、一緒に帰ろうよ。」

壊れた戦士から氷の魔法と斬撃を受け、壊れたドラえもんは何も答えない。
それを見ていた覚は、ずっと考え続けていた。
現実を見ろと叱咤するか、彼の人形遊びに付き合うか。
少しでも壊れたのび太を、完全に壊れる前に戻すか、それとも彼のしたいようにさせるか。
もし彼が完全に壊れてしまえば、一番近くにいる覚が責任を取るしかない。
神栖66町の大人たちが、怪物をその身に宿している子供たちを間引いてきたように。


朝比奈覚という男に、一緒に喪失を嘆く資格は無い。
それは彼が一番わかっていた。
なんせ喪失を受け入れず、自分の判断でないことだが。
友達の喪失を忘却という手段で、苦しみから自身を守っていたのだから。


のび太にそっと近づく。
彼の顔からこぼれた雫が、ぽたりぽたりとドラえもんに流れるのを見る。

泣きながらのび太は、色んな思い出を語る。
初めで出会った時、喧嘩した時。一度別れてまた会えたこと。
一緒に首長竜を育てた思い出。
一緒に時空の狭間から崩壊するコーヤコーヤ星に乗り込んだ思い出。
一緒に930万枚、世界中の写真を空から集めた思い出。
皆で行った海底キャンプ。
そして、皆を助けに魔王城へ乗り込んでいったこと。
どんな冒険だったかは、後ろで聞いていた覚にも分かった。


彼の思い出を聞きながらも、のび太をどうするか考えていた。
子供に対してそんな残酷な考えを抱ける自分が、どうにも憎かった。
まだ覚は知らぬことだが、それが偽り神々と人間の間の溝なのかもしれない。

語り続けた後、急にのび太は静かになった。


「大丈夫。」
のび太は静かにそう言った。

「ドラえもんが僕に勇気をくれた。もう大丈夫だよ。」

その声の震えは、とても大丈夫とは思えなかった。
けれど、覚は彼を信じた。
信じようとした。自分が忌み嫌っていた神栖66町の教育委員会の人達と同じことをしたくないから、それだけではない。
彼の瞳には曇りのない光が宿っていた。
それは14年前、呪力を失った上にバケネズミに追い立てられても、活路を見出そうとしていた早季の瞳に似ていた。

彼の目を見て、覚は分かった。
のび太という少年は、傷つきやすいけど、壊れることは無い少年だと。
それを知った彼は、のび太の手をただ優しく握った。


943 : 忘却も、思い出も ◆vV5.jnbCYw :2022/08/14(日) 22:40:13 WyJj9A7g0

「行こうよ!僕はやらなきゃいけないことがあるんだ!」
のび太はその手を握り返す。


「ごめんな。のび太。」
覚は勇敢な彼に謝った。

「いいよ。気にしないで。それに僕を守ってくれてありがとう。」


そうじゃないんだ、と心の中で付け足した。
でも、話す必要が無いしもう考えていないから言わなかった。
今彼がすべきことは、のび太というどこか早季に似た少年が、無事に帰れるその日まで守ることだから。


「じゃあね、ドラえもん。」

それから二人で地面を掘り、墓を作ることにする。
一人だけでは誰かを埋葬するほど大きな穴は作れないが、覚が呪力で地面に穴をあける。
ドラえもんに土をかぶせた後、のび太は優しく言葉をかけた。
彼は死した者に引きずられることは無い。死を否定することもない。
たとえ彼の胸に親友を失った事実が刻み込まれたとしても。
それが足を止める理由にならないから。


のび太は足を進める。
親友の墓場から離れていく。
彼にとっての、最期の思い出を作った場所から遠ざかって行く。
最後にもう一度だけ、呟いた。


「さようなら。」


またのび太の後ろを歩きながら、覚は祈った。
ここには仏像などないし、空は流れ星どころか、太陽も月も隠れてしまうような空の下だが祈った。

どうかこの子の、ドラえもんとの思い出が奪われませんように。


【E-6北/一日目 日中】

【野比のび太@ドラえもん のび太の魔界大冒険】

[状態]:ほぼ健康 決意
[装備]:ミスタの拳銃(残弾3)@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:覚と共に脱出する
1.ドラえもんとの思い出は無駄にしない
2. デマオン、スクィーラには警戒
※参戦時期は本編終了後です
※この世界をもしもボックスで移った、魔法の世界だと思ってます。
※主催者はもしもボックスのような力を持っていると考えています。
※放送内容による仲間の死を受け止めました。また、第二放送も聞いています。


【朝比奈覚@新世界より】
[状態]:肉体ダメージはほぼ全快 早季喪失の精神ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、北風のテーブルかけ(使用回数残り17/20)@ドラえもん のび太の魔界大冒険 ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探し、脱出する
1. 安全な場所を探す
2. のび太の思い出を守る
3. 神栖66町の仲間(早季、守、真理亜が心配)
4. 仲間を探す過程で写真の男を見つけ、サイコ・バスターを奪い返す
5. デマオン、スクィーラに警戒

※参戦時期は26歳編でスクィーラを捕獲し、神栖66町に帰る途中です。


944 : 忘却も、思い出も ◆vV5.jnbCYw :2022/08/14(日) 22:40:25 WyJj9A7g0
投下終了です。


945 : ◆vV5.jnbCYw :2022/08/19(金) 16:01:47 nlxEHBW60
真理亜、ミドナ、クリスチーヌ、ローザ予約します。


946 : ◆vV5.jnbCYw :2022/08/20(土) 00:44:09 PKxOAo1w0
投下します


947 : 未来へ ◆vV5.jnbCYw :2022/08/20(土) 00:45:05 PKxOAo1w0
「終わったのね。」

ローザが辺りを見渡すと、そこには地獄が広がっていた。
草原は炎と魔法で抉れて真っ黒になった土と泥が散乱する荒れ地と化した。
まるで戦争の後に、その土地を忌み嫌った勝者が馬の大群を走らせたかのようになっていた。
今後100年は草一本生えそうにない。
そして、辺りにはダルボスと仗助の遺体が転がっていた。


「……終わったのか。まだ終わりじゃないが…な。」
先程まで気絶していたミドナは目を覚ました。


「痛……。」

起きるとすぐに、痺れるような痛みがミドナを襲った。
身体は痛くて痛くてたまらなかった。
むしろ痛みを感じない箇所の方が少ないぐらいだ。
かつてザントに嵌められ、光の精霊の力をまともに受けた時よりかはマシだが。
ローザの回復魔法に頼ろうにも、彼女の魔力はとうに切れている。


「アンタたちも食事はとっておいた方が良いんじゃないか。」


ならばせめて体力だけでも回復しようと食物を口にしようとする。
鞄からパンを出して食いちぎると、パンに僅かに血がしみ込んだ。
ミドナが声をかけると、相槌だけで返答は無かったが、クリスチーヌもローザもモソモソとパンを食べ始めた。


食べ終わるとすぐに、二度目の放送が始まった。
告げられる死者の数の名前、禁止エリア、そして地震と影に包まれる空。
改めて多くの人間が死んだんだな、というひどく当たり前のことを認識させられた。
3人の内2人が死んだ北上組の生き残りであるローザは、特にそう思わされた。
確かに彼女らが知っている危険人物の何人かも呼ばれた。だが、それを喜ぶには喪失が多過ぎた。


「ぼやぼやしてる場合じゃない。すぐに動くぞ。」

ミドナがローザとクリスチーヌに声をかける。
カゲの力に飲まれた英雄は救われた。
だが、払った代償は大きかった。
彼から手に入れた支給品などでは、到底割に合わない。
まだこの殺し合いの会場に、何人マーダーが残っているのか分からない中、1か所に固まって留まるのは危険すぎる。


948 : 未来へ ◆vV5.jnbCYw :2022/08/20(土) 00:45:36 PKxOAo1w0
「ええ、分かってるわ。それにあの子供を連れた男の人がどうなったかも気になる。」

ローザは朝比奈覚と、彼に抱えられていたのび太のことも気にかけていた。
放送によると二人とも無事なようだが、だからと言って放っておいても良いわけにはいかない。


「ちょっと待って。これ、回収しておかないと。」
「早くしろ。置いていくぞ。」

クリスチーヌはマリオの首輪を回収する。
こんな戦いになってしまったからこそ手に入った首輪のサンプルを、ザックに入れる。
元々図書館から外に出たのは、真理亜を止めることが第一目的だったが、首輪の捜索、回収も忘れていたわけではない。
1つだけで済むわけじゃないので、先の戦いで頭を潰されたダルボスの首輪も貰っておこうと考えていた。


「あれ?どういうことかしら?」


すぐにクリスチーヌは異変に気が付いた。
ダルボスの遺体には、首輪が付けられてなかったからだ。

「オイ、何をやってるんだ?」
「この人、首輪を付けられてないのよ。」


ひょっとしたらひょっとして。
このダルボスという男は、何らかの手段で首輪を解除していたのではないか。
そんな希望がクリスチーヌの胸をよぎるが、すぐにその希望は否定された(こらそこクリボーの何処に胸があるんだよとか言ってはいけない)。


「大方コイツが変身した時に無くなったんだろう。そう期待するほどのモノでもないだろ。」

彼女の希望をミドナは、にべもなく切り捨てる。
ダルボスが変身した姿を元の世界でも知っているからだ。


「そ、それじゃあどうしてこの人は変身したの?そもそも変身ぐらいで首輪が取れたりするかしら?」
「この殺し合いはザントが作った鳥かごのようなモノだ。参加者の誰かがカゲの力に当てられてバケモノになってしまってもおかしくない。」

ミドナはザントの魔力を受けて、怪物になってしまった影の世界の住人を知っている。
かくいう彼女もまた、理性こそは失ってないがザントに姿を変えられた被害者の一人だ。
ダルボスが再び怪物になってしまったのも、殺し合いを円滑に進めるための罠が原因。その考えに何ら不自然なことはない。

「じゃあ、私がヤミクリボーにならないのはどうしてよ?」

クリスチーヌの言うこともまた、道理である。
彼女の世界にも、気さくに話が出来るクリボーと、対話をすることも敵わず襲い掛かって来るクリボーと二種類がいる。
見もふたもないことを言うと、この殺し合いの打破しようなどと小賢しいことを考える者を、全員凶暴な怪物にしてしまえばよくないか。


949 : 未来へ ◆vV5.jnbCYw :2022/08/20(土) 00:46:14 PKxOAo1w0

「え?何アレ………。」
今度口を開いたのは、離れた場所にいたローザだった。
3人の中で、比較的ダメージを負ってなかった彼女は、辺りを見張っていた。
そんな中彼女は何かを見つけた。
1つは闇と影を固体にしたような、真っ黒な石。
もう一つは光り輝く石。
その内後者は、ローザの知っているものだった。


「それに触るな!!」

ミドナは大声でローザに警告する。
地面に転がっていた素材の内、黒い方はミドナ見覚えがある結晶だった。
それを見たのは一瞬だったが、何なのかは確かに脳裏に焼き付いている。
ラネールの精霊の泉で、リンクを狼の姿に変えた、ザントの魔力の塊。
本来ならリンクはトワイライトの世界でしか狼になることはなかったが、呪いの塊はその道理を無視した。
この世界でローザやクリスチーヌが触れれば一体どうなるかは分からないが、良からぬことになるのは間違いない。


「え?ミドナはクリスタルを知っているの?」
「違う。白い方じゃなくて黒い方だ。絶対に触るなよ。」


ミドナは仮面についてある手で、影の塊を掴み、そっとザックに入れる。

「何でこんなものがここにあるんだ……。」

彼女の表情は酷く訝しげだった。
その後ろにいたクリスチーヌもまた、似たような表情を浮かべていた。


「ミドナは今の黒い石、知っているの?」

ローザは質問をせずにはいられ無かった。

「ああ。アレはザントの呪いと影の魔力を固めたおぞましい代物さ。でもどうしてこんな所にあるんだ?」
「もしかすると、ダルボスさんはその結晶が原因で怪物になっちゃったんじゃない?」

罠か何かのように置いてあって、うっかり触れたダルボスが怪物となってしまったと考えるのが妥当だ。
マリオも同様に、同じ原因で影の走狗となり果てたと考えてもいい。


「でも、それじゃ説明がつかないことがあるわ。」

今度はローザが、白い結晶を拾い上げる。

「やっぱりこれは、私の世界にあった……それのまがい物ね。」
「何なんですか?ローザさん。勿体着けずに教えてください!」

クリスチーヌの探求心と好奇心は抑えられず、早く説明しろと急かす。
ローザは説明した。
彼女の世界には、表の世界に4つ、裏の世界に4つ魔力を内蔵するクリスタルがある。
例えば表の世界の土のクリスタルが土壌に恵みを与えたりすることが出来るように、1つ1つでも人間の魔導士を優に超える力を秘めている。
だが、8つ集めると無理すらも道理に変えてしまうほどの力を使うことが可能だ。
それこそ、青き星と月を繋ぐエレベーターを稼働させたりするような。

そんなものがどうしてこんな場所に転がっているのか、甚だ疑問である。


950 : 未来へ ◆vV5.jnbCYw :2022/08/20(土) 00:46:33 PKxOAo1w0

「ここから流れてくる魔力で分かったけど、これはただのまがい物。私の世界にあったクリスタル程の力はないわ。」
「でも、魔力の結晶ってことで間違いないですね?」
「そういうことよ。でもこんなものを置いておく理由が……。」
「誰かの支給品だった……そんなところか?」

先程まで、ここから移動しようとしていたというのに。
荒れ地と化した草原に転がっていた物体に吸い寄せられるように、3人は留まっていた。

そこでクリスチーヌが、おもむろに紙を取り出し、何か書き始めた。


『首輪の素材かもしれない。』

ダルボスだけ首輪が見当たらない点。
そして、鼻持ちならない素材が前触れもなく2つも落ちてある理由。
彼が過去に出会った姿になっていることは、ミドナから聞いている。
その事実を噛み合わせると、何らかの方法でダルボスだけが時間が巻き戻り、その影響で首輪も素材に戻ったのだと考えた。


ミドナとローザは何も言わず、ただ丸くした目を瞬きさせたのをよそに、クリスチーヌは新しい質問をする。


「ミドナさん、ローザさん。あなた達の世界で『物体の時間を巻き戻す技術か道具』はある?」

クリスチーヌの世界にも、ストップウォッチという敵の時間を一時的に止める道具がある。
他にも、バツガルフの時間停止能力に煮え湯を飲まされたこともあった。
だが、時間を巻き戻すとなれば話は変わって来る。
物体の時間を止める技術がある彼女の世界でも、巻き戻しは机上の空論でしかない。


「残念だがワタシの世界に心当たりはないな。時間停止でさえ想像できない。」
「ヘイストやスロウやストップは……全部巻き戻しとは違うわね。」
「でも、停止や早送りがあるというなら……。」
「それは違うんじゃないか?」


ミドナは彼女の考えを否定した。

「それなら殺し合いで死んだ人間だって生きた人間に戻せるはずだ。いくらなんでもそんなものを入れるワケないだろ。」
「かもしれないわ。でもそれが無限に使えないとしたら?」
「どういうことだよ……。」


951 : 未来へ ◆vV5.jnbCYw :2022/08/20(土) 00:47:35 PKxOAo1w0

クリスチーヌもトロピコアイランドで漂流した時のことだ。
食糧や生活品が、枯渇しない訳でないにしても限られ、帰ろうにも帰れない中で、不必要なもめ事が起こったことを忘れてはいない。
物品が限られたものしかなく、脱出方法すらわからぬ閉鎖空間、そしてどこから襲ってくるかわからない敵。
まさにあの状況と同じではないか。

また、ミドナやローザは知らないようだが、図書館で読んだアイテム図鑑に、「時の砂」や「タイムふろしき」のような時間を巻き戻す道具があることも知っている。


「使い捨て、だけど起死回生の可能性を齎す道具を巡って、争いがひどくなることよ。」

現に、ローザのレイズやアレイズは使えないようにされている。
図書館で話をしたことだが、アイラの精霊の歌も効果を発揮しなくなっていたそうだ。
だが、ローザの魔法のような、魔力さえあれば理論上無限に仕える魔法ではなく。
時間捲き戻しや蘇生の道具が、クリスチーヌの世界のきんきゅうキノコや、ローザの世界のフェニックスの尾のように、使い捨てならば。
それを巡って、争いを加速させることが出来るのではないか。


クリスチーヌが導き出した結論はこうだ。
ダルボスには時間を巻き戻す何かが支給されていた。
それを使って、首輪を素材に戻したのだが、同時に自分も過去の姿、即ち怪物の姿に変わってしまった。


『素材が分かったのは朗報ね。でも、どうやって首輪を解除するのかしら?』
ローザがクリスチーヌの紙に書き込んでいく。
料理の素材が分かったからと言って、その作り方まで分かる訳ではないのと同じように、首輪が何で出来ているかが分かっても、解除方法は分からない。

『マスターソード』
今度は紙に書き込んだのはミドナの方だ。

「もしかして、聖剣の類?」
「アンタが言ってることは分からないが、そう思うならそういうことでいい。」

ローザの世界には、正宗やエクスカリバーのように、聖なる力を秘めた剣がある。
ただ切れ味に優れただけではなく、持ち主やその仲間の能力を向上させ、邪悪な力を秘めた相手に更なる力を発揮する。
反面、その剣が認めた相手しか振ることは出来ないが。


――そこには、古の賢者たちに造られた退魔の剣、マスターソードが眠っています。
――貴方ならその剣によって、その身を覆う魔を斬り裂くことが出来るはずです。


この殺し合いに呼ばれる前、死に瀕したミドナが、ゼルダから教えてもらった剣。
ゼルダは、影の魔力を受けて狼にされたリンクはマスターソードの力で人間に戻ると言っていた。
もしこの世界にその退魔の剣、あるいはそれに近しい力があれば。
影の結晶と魔力で造られた首輪を、破壊することが出来るのではないか。


952 : 未来へ ◆vV5.jnbCYw :2022/08/20(土) 00:48:53 PKxOAo1w0

(マスターソードを使えるとするなら、リンクか……。アイツは今どうしているんだ?)

まだ放送に呼ばれていない。されどどこにいるかも分からない仲間のことを思い出す。

「とりあえず、この場所から……。」
ローザの提案にミドナとクリスチーヌも乗ろうとした時、だった。


3人は突然、敵意を感じた。
そこから伝わって来る圧力は、彼女らが戦って来た敵に比べればそれほどでもない。
ザントやカゲの女王、ゼムスなどから比べれば子供騙しもいい所だ。
だが、伸び始めた希望の芽を、確実に摘み取ろうとする者がそこにいた。


「生きていたのね。」

燃えるような赤髪の少女は、ゆっくりとミドナ達の方に歩いて来た。
鬼は北東から到来するというが、この悪鬼は南からやって来た。
その歩みは早くは無かったが、決意に満ちていた。
彼女の黒曜石のような瞳から、氷のような冷たさを感じた。
殺さないことへの諦念と、殺し続けることへの決意。
どこまでも絶望的な彼女の表情から、その二つが表れていた


(何なのよ……この子……)

3人の中で、初対面のローザは特に表情が引き攣っていた。
年齢は自分より下だというのに、幾度も地獄を経験したかのようにその目が座っていたからだ。

「ああ、そうだよ。亡骸くらい確認しておくべきだったな。クククッ。」

勿論軽口を叩いたミドナも、クリスチーヌもその背が冷えなかったわけではない。
彼女は、図書館で離れてから今までの僅かなに変わっていたのが、2人に伝わったからだ。
その目には、モイを殺すときに浮かべていた恐怖も、ゼルダを殺した時の怒りも無かったことが伝わった。
冷静に、自分達を殺すという決意のみがそこにあった。


血の紅と、髪の赤。二つの赫に染まった彼女は、かつてと決定的に違っていた。
それはさしずめ古今東西の物語に登場する、自らの願望の為に人を捨てた悪鬼。


「クリスチーヌ、ローザ、早く行け。」


先にミドナが、真理亜に飛びかかって行く。
彼女の声は恩人の仇を目の前にしたとは思えないくらい、冷たくて静かな声だった。
不意を突かれたのにも関わらず、呪力で彼女を吹き飛ばす。


「何言ってるの!早く逃げなさい!!」
「私だってモイさんの仇を取ってないのよ!」

そんなミドナを案じた二人が、声をかける。


「分からないのか!ここで全滅したら、この殺し合いでの希望も無くなるかもしれないんだ!!」

呪力による強風に煽られながらも、ビュウビュウという風の音に負けないぐらい大声で叫ぶ。
その叫びは、戦乱の中でも怖気づくことなく、部下や国民に指示を出す女王のものだった。


953 : 未来へ ◆vV5.jnbCYw :2022/08/20(土) 00:49:25 PKxOAo1w0

「オマエたちは早くリンクを探せ!最初の会場でデミーラに斬りかかった緑帽子だ!!」
「分かったわ!!なら、これを使って!!」

クリスチーヌは帽子と首輪を除いた、マリオが持っていた支給品、正確にはセシルとマリオの道具をミドナの近くに投げた。
一人の女王を慮りながらも、クリスチーヌとローザは、西へと走って行く。
彼女の言う通り、一番首輪の情報を持っているのは、知っている限り自分達だけだ。
3人全滅という最悪のシナリオを確実に回避するためにも、2人はひたすら走る。
彼女らは失った痛みを知らない訳ではない。失った痛みを痛いほど知っているからこそ、ミドナを置いて走ったのだ。


「待ちなさい!」
「オマエの相手はワタシだ!!」


彼女の仮面から伸びるオレンジ色の手が、赤の悪鬼を襲う。
遠くにいるローザとクリスチーヌに呪力をぶつけようと考えたが、慌ててキャンセルし、呪力を向ける相手を自身に向ける。
不意に彼女の周りだけ無重力になったかのように身体をふわりと浮かせて、攻撃を躱す真理亜。


「ワタシ達は、失ったもののために手に入れなきゃいけないんだ。」
「奇遇ね。私も同じことよ。」


カゲの世界の礎だったミドナと、新世界の礎になろうとする真理亜。
この世界から脱出するための鍵を探そうとする黒の女王と、新世界の可能性を掴もうとする未来の赤の女王。
その戦いの先にある世界が、何色だろうと彼女らは戦うしかない。



【C-7 荒野 日中】


【秋月真理亜@新世界より】
[状態]:ダメージ(小) 疲労(中) 全身に軽い火傷 返り血 覚悟
[装備]:銀のダーツ 残り5本@ドラえもん のび太の魔界大冒険 
基本支給品×2ラーのかがみ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士たちㅤモイの支給品0〜1
疾風のブーメラン@ゼルダの伝説 トライライトプリンセス 口封じの矢×5@Final Fantasy IV
基本行動方針:優勝して愧死機構の制限を維持したまま生還し、元の世界で革命を起こす。(万が一可能であるなら、早季を生き返らせる。)
1.まずはミドナを殺す

※4章後半で、守と共に神栖六十六町を脱出した後です

※ラーのかがみにより書き換えられた記憶を取り戻しています。

※呪力は攻撃威力・範囲が制限されており、距離が離れるほど威力が弱まります。ただし状況次第で、この制限が弱まります。




【ミドナ@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 】
[状態]:ダメージ(大) 精神疲労(大) 後悔(大)
[装備]:ツラヌキナグーリ@ ペーパーマリオRPG ジシーンアタック@ペーパーマリオ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1 ランダム支給品(マリオ、セシル)0〜3  影の結晶@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:ザントを討ち、光と影の両世界を救いたい
1:秋月真理亜を殺す
参戦時期は瀕死の状態からゼルダにより復活した後
陰りの鏡や影の結晶石が会場にあるのではと考えています。


954 : 未来へ ◆vV5.jnbCYw :2022/08/20(土) 00:49:38 PKxOAo1w0

【C-6 草原 日中】

【クリスチーヌ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:HP3/10 悲しみ(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品@ジョジョの奇妙な冒険 キングブルブリンの斧@ゼルダの伝説 マリオの帽子 ビビアンの帽子 グリンガムのムチ@ドラゴンクエストⅦㅤエデンの戦士 ビビアンの基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み) クローショット@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス ランダム支給品(×0〜1 確認済)
[道具]:基本支給品×2(マリオ、セシル) 
[思考・状況] 
基本行動方針:首輪解除のヒントを見つける
0.マリオ……。
1. ミドナの為にも、リンクを探す
2.マスターソードを見つけ、首輪を解除する。

※図書館の本から、DQ7.FF4にある魔法についてある程度の知識を得ました。
※首輪についてある程度仮説を立てました。
• 爆発物ではないが、この首輪が原因で死ぬ可能性は払拭できない。
• 力を奪うのが目的
・素材は影の結晶(トワイライトプリンセス中盤でザントによってリンクの額に埋め込まれたもの)と、クリスタル@ff4に似た魔力の結晶。



【ローザ・ファレル@Final Fantasy IV】
[状態]:HP 3/10 MP:1/10 決意
[装備]:勇者の弓@ゼルダの伝説+矢20本 トワイライトプリンセス ふしぎなぼうし@ドラゴンクエストVII
[道具]:基本支給品、 カチカチこうら@ペーパーマリオRPG×2ランダム支給品0〜1 偽クリスタル@現地調達、その他首輪の素材
[思考・状況]
基本行動方針:クリスチーヌと共に、リンク、およびマスターソードを探す
1:ミドナ…無事でいて……。
2:どうして首輪の素材に、クリスタルのようなものがあるの?
※参戦時期は本編終了後です。
※この殺し合いにゼムスが関わっていると考えています。
※ジョジョ、無能なナナ、DQ7、ペーパーマリオの参戦者に関する情報を得ました。


955 : 未来へ ◆vV5.jnbCYw :2022/08/20(土) 00:49:49 PKxOAo1w0
投下終了です。


956 : 名無しさん :2022/08/20(土) 15:09:34 HJ.jFC1Q0
矛盾があります。クリスチーヌたちの場所がC-6は禁止エリアで行くことができないのでは?


957 : 未来へ ◆vV5.jnbCYw :2022/08/20(土) 15:33:44 PKxOAo1w0
ご指摘ありがとうございます。
地図を見間違えてました。

一人の女王を慮りながらも、クリスチーヌとローザは、西へと走って行く。

一人の女王を慮りながらも、クリスチーヌとローザは、北へと走って行く。

および

クリスチーヌ、ローザの居場所を
[C-6]→[B-7]

以下の通りにウィキに変更します。


958 : ◆vV5.jnbCYw :2022/08/26(金) 21:17:32 HW1cqOaw0
カイン、ミキタカ、守予約します


959 : ◆vV5.jnbCYw :2022/08/26(金) 23:33:13 HW1cqOaw0
投下します。


960 : たとえ弱い環であっても ◆vV5.jnbCYw :2022/08/26(金) 23:34:09 HW1cqOaw0
カイン達が森を抜けた瞬間、二度目の放送が流れた。
その内容は、3人にとって1度目以上に衝撃的なものだった。
野太い声に告げられた名前の中に、彼らの知っている名前がいくつもあったからだ。


渡辺早季

伊東守と同じ班のメンバーの一人で、彼の想い人の秋月真理亜が大切に想っていた人。
彼が神栖66町から脱走した後ぐらいしか、話す機会はあまりなかったけれど、自分なんかよりよほどタフだとは思っていた。
だからこの殺し合いでも生き残っているんじゃないか。2年前の筑波山の時のように、ひょっこり仲間を連れて出てくるんじゃないか。そうだとばかり思っていた。


ビビアン

この殺し合いが始まってすぐに、伊東守が出会った参加者。
口調から女の子かと思いきや、男の子だったのは驚いた。
結局一緒にそれぞれの恋人を探しに行くことは出来なかったが、無事に会って欲しかった。
そう言えばあの人の恋人も呼ばれたけど、たとえ死んでいてもその最期は見届けることが出来たのか。


満月博士

守がビビアンと別れてからすぐに出会った、正義感の強いおじさんだった。
話をした時間はそう長くなかったけど、彼の善良な人となりは良く伝わった。
あの後もきっと悪と戦い抜いて、死んでしまったのだろう。


東方仗助

ミキタカが地球に来た時に最初に出会った地球人の一人で、色んな物を教えてくれた。
彼が地球人に興味を持ったのも、彼に出会ったのが発端の一つだ。
グレートな強さを持つ彼こそが、この殺し合いを止める存在だとばかり思っていた。


ゴルベーザ

カインの友の兄にして宿敵の男。
かつては許されざる罪を犯した男だったが、この場でこそ協力関係を築けるとカインは思っていた。
勿論、洗脳するされるの関係ではなく、心から協力できる相手になると。
だが、その願いも叶わず、弟の後を追うかのように死んでしまった。


エッジを殺したガノンドロフの名が呼ばれたのは朗報ではあったが、逆に考えれば彼さえも殺すほど力を持った参加者がいるということだ。
もしその人物さえもこの殺し合いの優勝を目指していれば。そう考えるとカインの表情は暗くなった。

残る参加者は半分を割った。
この殺し合いは3人の想像以上のペースで進行している。
おまけにその下手人の一人に、守の恋人が関わっているというのだから猶更質が悪い。

森を出た後、背後から爆音が聞こえて来た。
デマオンか吉良の攻撃が始まったのだと容易に想像がつく。

だが、カインは戻ろうとはしなかった。
今の彼の目的は、守を真理亜の下に届け、もし彼女がそれでも殺し合いを続けようとするならば、止めることだからだ。


961 : たとえ弱い環であっても ◆vV5.jnbCYw :2022/08/26(金) 23:34:30 HW1cqOaw0
(すまんな。)

戦いを生業とする竜騎士が、肝心な時に戦えぬことを申し訳なく思う。
それからしばらく歩くと、3人の目に何かが入り込んできた。
それは、火事で倒壊した図書館だった。


「惜しいことになったものです。ここが焼けていなければ皆さんのことについて書いてあった本をよめたかもしれません。」

あろうことかそこに内蔵されたであろう本の焼失を嘆くミキタカ。
だが、カインと守は別のことを憂いていた。
真理亜という少女が、この図書館を焼き払ったという話が事実だということだ。
まだ彼女がやった瞬間を見ていないが、デマオンが嘘をついたとは思えないし、呪力を使えば建物1つ焼くことぐらいはどうということはない。
守は2年前、呪力を用いて同胞を殺すことは出来ないことを教わったが、ここではそういったリミッターが外されているのだろうと察しがついた。



「どうして……。」

守はそう呟く。彼が何を疑問に思っているのかは、その先の言葉を聞かずともわかった。
しばらく彼は項垂れていたが、何か決意したかのように面を上げた。


「ミキタカさん。お願いがあります。」
「はい、どうしましたか。」
「前やったように、空飛ぶ靴に化けて、僕を東に運んでくれませんか?」

伊東守は吉良やヤンと清浄寺へ居た時、シャークが空を飛んでいる瞬間を、その網膜に焼き付けた。
後で彼と合流した際、それはミキタカの能力によるものだった。


「無茶なのは分かっています。でも、僕はすぐにでも彼女に会いたいんです。」

時は一刻を争う。
今彼は、安全性など二の次でとにかく早く真理亜のもとに辿り着ける手段を必要としていた。
二度目の放送を聞いて、図書館の成れの果てを見て、逸る気持ちは一層強くなった。
彼女に会いたかった。会って、何故こんなことをしたか聞きたかった。
聞いた所で絵しか描けない自分は、彼女を止められるかどうかは分からないが、それでも止めたかった。
ミキタカの力、アース・ウィンド・アンド・ファイヤーならば、空を飛んでいても真理亜の所へ行けるし、彼らが歩くよりずっと早い。
危ないことを承知で、ミキタカに懇願した。


962 : たとえ弱い環であっても ◆vV5.jnbCYw :2022/08/26(金) 23:34:50 HW1cqOaw0

「出来ますが、運べるのは守さんだけですよ。」
「分かっています。お願いします。」

「正気か……?」

仮面の裏で、カインの表情がさらに歪んだ。
殺し合いに乗って、少なくとも参加者を2人殺した相手に会いに行くというのだ。
それでもまだ、彼らを守ることが出来る自分がいるから、仕方なく彼女を追うことを許していた。
ところが、この少年はあろうことか自分なしで彼女に会いに行くというのだ。


「人の話を聞いていたのか?彼女は殺人を犯している。お前とミキタカだけで会いに行くなんて許すわけないだろ!」

カインの剣幕に気圧されるも、それでも守は答える。

「でも、僕は彼女に会いたいんです!」
「会ってどうする気だ。」
「間違ってることをしているなら、止めます。」
「間違っていることを間違っていると言って止められるなら、この殺し合いはここまで進んでいない。現実を見ろ!!」


カインは守の胸倉を掴む。
上を向かされており、呪力を使おうにも視界にカインが入らないので何も動かせない。
自分はヤンとシャークに、この2人を守るように頼まれている。
個人の願望を優先させ、その結果みすみす二人を死なせてしまえば、あの二人にも顔が立たない。
傍から見れば、強者が弱者を力で脅しているようにも見える。
強い者は間違った選択をする弱い者を、無理矢理でも正しい方向へ動かすべきだ。
それこそ、泣いたまま動かないミストの村の少女を、無理矢理引っ張って行こうとした時のように。


「カインさん!やめてください!」

ミキタカが竜騎士の片腕を掴み、彼を止めようとする。

「……お前まで、俺が間違っていると言いたいのか。」

ドサリと守を落とし、今度は彼の方を向いて睨む。


963 : たとえ弱い環であっても ◆vV5.jnbCYw :2022/08/26(金) 23:35:45 HW1cqOaw0
「違います。でも間違っているとか間違っていないとか、校則を破った生徒を叱る生徒指導の先生のように、守さんの気持ち抑えつけてはいけないと思います。」
「……コウソク?セイトシドウ?……お前は何が言いたいんだ。」
「私は守さんの想いを尊重して、大切な人に会わせてあげたいです。」

守とミキタカ、そしてカインの口論は完全な平行線をたどる。


「カインさんには話をしましたが、マゼラン星雲の私の故郷の人達は、皆死んでしまいました。
だから私は会いたい人がいる守さんが羨ましいんです。出来るなら守さんの力になりたい。」
「ありがとう。ミキタカさん。」


守にとって、このミキタカという男の言うことは半分くらいよく分からなかったが、それでも彼の要望を承ってくれたことは分かった。

「仕方がない……だが、二人共必ず帰ってこい。都合が悪いと分かればすぐに逃げろ。」

カインは結局根負けした。


(分かっていない弱い奴は、俺なのかもしれないな。)
こんな所で不毛な言い争いをしているのが嫌だからという訳ではない。
この場に想い人がいるのは守だけではない。
彼もまた、ローザという白魔導士に思いを寄せていた。
だが自分は、洗脳されて悪事を為すような弱い心の持ち主だから、彼女はセシルに思いを寄せているからという理由で、彼女からは離れた。
言い争いをしている内に、そんな弱い自分が彼を止める資格など無いと思い始めたからだ。


「……ありがとうございます。カインさん。」
守は頭を下げてお礼を言う。

「礼ならそいつに言え。」
「分かりました……ミキタカさん、ありがとうございます。」
「礼ならいりません。ただ……。」

ミキタカが何やら言い淀むが、次に言いだしたのは二人が予想もつかないことだった。


「もし無事に生きて戻ってこれたら、私にティッシュをご馳走してくれませんか?」
「「!!!?」」


964 : たとえ弱い環であっても ◆vV5.jnbCYw :2022/08/26(金) 23:36:12 HW1cqOaw0

彼が仗助たちがいる地球に、初めて来たときに仗助から貰った、白くて四角いモノ。
人間にとって食べ物ではないそれは、宇宙人である彼にとってフワフワとしていてとても美味しいものだった。

「ティ、ティッシュというとあの白くて四角くて、箱に入ってるアレか?」

カインの顔がさっきとは別ベクトルで引き攣った。
彼がティッシュを見た場所は、ドワーフの城の隅にあった、恐ろしい部屋だった。
自分たちとはまるで違うおかしな名前の人達やモンスターが、『〆切』という名の何かを恐れながら、光る箱や真っ白な紙に向かって鬼の形相で作業していた。
中には涙や鼻血を出していた者もいて、その人達が別の人に『ティッシュをくれ』とねだっていた。
そこにいた者達の見た目は普通の人間や魔物だというのに、彼らがどこか神々しく見えたのもまた恐ろしかった。
あたかも彼らが自分達の世界の人間を創造した神様でもあるかのように。
カインがティッシュを見た場所である『開発室』は、下手なダンジョンよりも恐ろしい場所だった。


「私が初めて食べたティッシュは、箱ではなく布に包まれていましたが……。白くて四角いですね。」
「何でもいい。あんな恐ろしいものを好んで食べるというのか?」
「え?え?何の話をしているんですか?」

呪力の到来に伴って、化学製品が国から姿を消した守の故郷では、知らないものだったので、なんのこっちゃという話である。
それでも、デマオンから真理亜のことを聞いて以来、ずっと重くなり続けた空気が少しだけ軽くなったのは良い事だったが。


「では守さん。行きましょうか。」

しばらくティッシュのことで盛り上がった後で、ミキタカが呼びかけた。
本当は彼も1人で危険な場所に向かいたくない。
もっと色んな人から色んな物を学びたいというのは事実だ。
でも、伊東守という自分が持ってない気持ちを胸に抱く人間が、最後に何を見つけるのか見届けたかった。

「はい。お願いします。」
「俺もすぐに追いつく。たとえマリアを止められなくても良い。俺が行くまで時間を稼いでいてくれ。」

かつて仗助やシャークにやったように、ミキタカは身体の形状を変えて、守の足に巻き付く。
瞬く間に真っ白なスニーカーへと姿を変える。

「全力で飛ばしますんで、振り落とされないでください。」
「はい……うわああああああああ!!」


965 : たとえ弱い環であっても ◆vV5.jnbCYw :2022/08/26(金) 23:36:51 HW1cqOaw0

高く、高く、高く。
ミキタカは守を連れて、そのまま東へと飛んで行く。
仲間の恋路を見届けるために。

前へ、前へ、前へ。
守は空気抵抗を浴びながらも、辺りを見渡す。
不安定な空中でも、自分の視界に彼女のシンボルカラーの赤が入ってこないか必死で地上を見渡す。
あの時手を掴んでくれた彼女の手を、今度は自分が掴むために。

早く、早く、早く。
カインはミキタカを追いかけ続ける。
先に行かせることになってしまった彼らを追いかけるために。


【B-5 図書館跡地  /一日目 日中】



【カイン@Final Fantasy IV】
[状態]:HP7/10 服の背面側に裂け目 疲労(小)
[装備]:ホーリーランス@DQ7  ミスリルヘルム@DQ7
[道具]:基本支給品 
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーを殺す。
1.守、ミキタカを追いかける。
2.ローザとも集合したい。
3.出来るならばスクィーラ、偽ローザ(ボトク)、吉良吉影の危険性を広めたい
※参戦時期はクリア後です


【B-5 東 空中  /一日目 日中】


【ヌ・ミキタカゾ・ンシ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(小) スニーカーの姿
[装備]:魔導士の杖@DQ7 
[道具]:基本支給品 バッジ?@ペーパーマリオRPG 紫のクスリ(残り半分)@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス
[思考・状況]
基本行動方針:カインや守に協力する
1.守を真理亜の下に届ける

※参戦時期は少なくとも鋼田一豊大を倒した後です。




【伊東守@新世界より】
[状態]:健康 精神的疲労(大) 不安(大) 真理亜が心配
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:
1.真理亜を探す。見つけたら絶対に止める。


※4章後半で、真理亜と共に神栖六十六町を脱出した直後です
※真理亜以外の知り合いの参加者がいることを知りません。
※デマオン達から真理亜が殺し合いに乗っていることを聞きました。


966 : たとえ弱い環であっても ◆vV5.jnbCYw :2022/08/26(金) 23:37:08 HW1cqOaw0
投下終了です。


967 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:22:34 bD2UUm7E0
1スレ目完走間近なので、1スレ目の感想です


0.終わりの始まり
OPの最初の文章が意味深すぎるなあ。

連れてこられる前の描写があるOPって地味に珍しくない??
他の人たちは後々石化で描写されたけど、ターゲットのまわりも巻き込むあたり本当にロクでもないな。

そしてロクでもない筆頭がデミーラなら納得。あいつは主催をやる。絶対やる。ダーマで似たようなことやってたし。
デク人形呼ばわりしてくるキャラなんだから当然なのだが、
一度殺害して、生き返らせた後にもう一回首輪で殺害するあたりに、こいつら他人の命のことを何とも思ってないなってのがよく見えて悍ましい。

1.頭を使おう、物理ではなく
これ読んだときペパマリの知識ゼロだったんで頭突きキャラかよwと思ったら頭突きキャラだったわ。
派手さはないけれど堅実な一話目。
ある程度進んだ時点で読み返してみれば、クリスチーヌの行動指針がこの話からずっと生きてると思うし、
ゴリゴリの戦闘員とはちょっと違う、サポート寄りの立ち位置ならではの行動方針だよなあ。
激おこクリスチーヌ、人がいるのに気づいておしとやかモードに切り替わるのちょっとかわいい。

2.影に飲まれるな
影の女王、不浄猫、影の世界、カゲ繋がり。

この展開で同行しないのかー。
ビビアンのぐらつき具合も結構なものだけど、心を許しあえた仲間だと思ってた守の梯子の外されぶりもなかなかのものがあるなあ。
いざビビアンが守を殺すとなったら、そのザックの絵は間違いなく枷になるでしょ。
守はビビアンから拒絶くらって、より影に飲まれそうな感じに見えた。

3. 背けた視線の先のカエサル
キョウヤも仗助も決して弱くないだけに、バツガルフの強者感がさらに引き立てられる。
手札の多彩さ、態度、頭のキレ、バリア破った後の反射の二段構えに、最低三属性の攻撃魔法といった底の見えなさ。
一撃食らうのを嫌がる素振り見せておきながら反射の罠を仕掛けるとか、ブラフも自然でうまい。
トランプのジャックの解説とともに仗助が助太刀に来た時はバツガルフが逃げると思ったんだが、この予想を覆してさらに優勢になるのも強者感十分。
逃げる相手には敵の悪評をバラまくのも面白くて、一筋縄ではいかない曲者だ。たぶんバトル書くのが楽しいキャラだろうな、と。


4.魔王を貫け
魔王の立場を揺るがさず主催も参加者も血祭りにあげるべく動くガノンドロフ、
魔王オルゴ・デミーラを討つべく、そして魔王ガノンドロフを退けるために戦うメルビン、
メルビンを救うためツラヌキコウラの一撃に賭けるノコタロウ、それぞれの貫き。
ガノンドロフはバツガルフに続く強マーダーだけど、自分の勝利を疑っておらず、お遊びがすぎて隙がある感じはするね。
最初から剣使わない、ノコタロウのツラヌキコウラをしばらく黙認する、そしてメルビンにトドメ刺しに戻らないなどなど。
基本戦闘スタイルがプロレスなんだな。
だからこそ対戦相手に確実に大技を出させられると考えれば、バトルシーン向きな参加者な気がしてきた。

5.怪物
ローザが死体で登場しなかった!?と書いておくのがお約束。
野暮なことは言わない。

一応スピンオフで大幹部だったボトクくん。
デミーラも作者も読者も、君に求める仕事はこれしかない。
正体知ってる身としては、あまりの白々しさに、これ本当にバレないのか?の不安の方が大きいw

> 魔物は東のバロンへ。美女は北へ。
原作知ってれば分かっちゃいるが、この一文はにやっとするよなあ。
初見なら「!?」が入るポイントでしょう。
そりゃボトクならこうやるでしょうし、ローザの姿でどんな悪さをしてくれるだろうとニヤニヤが止まらなかった。

6. ここから先は語り部なき物語
退廃的でカッコよくて好きなタイトル。
『新世界より』の叙述形式を鑑みると確かにその通りなのだが、すこぶる冒涜的で好き。
主催は何をやったのだろう? タイムふろしきか?

チビィはポストアポカリプス世界にいそう。というか1000年後の日本にこんなのうろついてそう。
彼、頭いいし聞き分けもいいんで支給品としては当たりなんだろうな。
希少種チビィの説明書に一般ヘルワーム種の説明載せて嫌わせてるの、デミーラの嫌がらせっしょ?


968 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:23:34 bD2UUm7E0

7. デマオンの表裏バトル・ロワイヤル
デマオンがバチクソにキレてて笑う。
そうかこれが大魔王同士のケンカか。
デミーラのことを逆にデク人形と言い出すのは子供のケンカみたいでちょっと親しみを持ててしまったぞ。
危険人物筆頭みたいな思想のくせに思考がかわいいのでがんばれと応援したくなってくる謎の魅力があるわ。
逆にアイラとゼルダは、彼女ら絶対苦労人ポジでしょというのがこの時点で分かるよね。

8.闇に身を委ねた者
影堕ちマリオ、割と衝撃的。
アクションゲームでいつも『イヤッホー』『ヒアウィーゴー』『フゥーイ』とか言ってる先入観があるんで、終始無言の殺戮マシンになってるだけで情緒がバグる。
他の知り合いがやさしいマリオと認知してる分、断絶はでかそうだなあ。

ルビカンテ、強情にセシルの提案突っぱねた結果、横槍入って敵対相手に助けられて一人逃亡とかいう決闘台無し三連コンボ喰らって草すら生えぬ。
殺し合いを殺試合とみなしていた代償でかすぎてかわいそうに思えてくる。

9. ◇のフラッシュは揃うのか
ナナが出てくるとだいたい内心の自由を謳歌する展開になるよね。

重ちー、いいヤツだよな。
ナナに表裏ありすぎるぶん、重ちーの純朴さが際立ってくる。
ナナは彼を大事にするべきだと思うぞ?
それはそれとして、本性を隠している分にはこの二人は安定したコンビっぽいんだよね。
ナナは早まらず、重ちーは強欲にとらわれずにうまいことやってってほしいまである。

10. MINIMUM BOYS〜真実照らす光〜
出会い頭のマジャスティス笑ってしまう。
そんなに怒らないでというけど、これ怒っていいやつだわ。
アルスがあまりの説明不足とマイペースぶりで押し切っただけだなw
オルゴ・デミーラを倒しきれてないことへの謝罪といい、康一が理解しないままに自分の冒険譚を進めるところといい、アルスちょっとコミュニケーション苦手っぽい?
マリベル級のツッコミ役はよはよ。

11. 始まりは1枚の支給品から
一枚、そうか一枚かあ。写真だけじゃなくて風呂敷もだったかあ。今見ると感慨深いタイトルだ。
どっちのひらひらも持ち主にたいしてロクなこと起こしてないね。

その時が来るまで想像もしなかった一方で、最初から想定してたと言われれば確かにその通りだと納得できてしまう。
タイムふろしきの使い方、首輪をメイン対象に使うのはミスリードだったのか。今になって思うのは、うまい思考誘導だなって。

12. 月光のシンデレラケージ
タイトルも美しければ、美代子の心根も、キャラクターのセリフも情景も、どこか儚く美しく見える作品。
そんな舞台でレンタロウがはりきって『表現』しようとしてるけど、彼の外面も含めて作品全体がどこか幻想的。
二人とも汚い言葉使わないんで、雰囲気が汚されることもなく。
……初手の『おらあああっ』は衝撃のインパクトあったがw
魔法切れのリミット付きバトルというのも乙なもの。
とまあ、そんな感じで幻想的な作風だからこそレンタロウの内面の醜悪さが映える映える。
こういうの読者に与える効果を狙って書いてるんだろうな。

13. 罪人と宇宙人と
敢えて憎まれ役を引き受けるカイン。
原作で裏切りキャラだったことを考えると、絶対自分を追い込んだ結果の選択だろって思っちゃう。
ただ、少なくとも腑抜けかけていたリンクの心を取り戻せはしたのだから、今のところは大成功というべきなのだろう。
死亡確定のセシルによる影響、そしてローザの生死がどう影響してくるのかは気になるところですわ。

14. ある男の帰還
放送を待つまでもなく早速セシルの死に触れてよがり狂う人が一名。
首輪レーダーのサーチ→美代子の炎→みなごろしの剣の精神攻撃三連コンボがあまりにも華麗に決まりすぎた。洗脳するなら畳み掛けろとな。
ゴルベーザにカインにローザにルビカンテと、セシルの死に、際立って動揺するキャラ候補多すぎだろ。主人公かよ主人公だわ。


969 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:24:08 bD2UUm7E0

15. 新世界の礎に
真実の濁流に呑まれる描写が好き。殺し合いに抗うも呑まれるも絶望のみ、という正視できない残酷さが好き。
鏡が映す真実を知るべきではなかったのか。
心が折れて覚悟が決まるという一見して矛盾しているような状態、こんなの救いがないです。
生半可な説得じゃ彼女を救うどころか激昂させるところまでありありと見えるやね。
いきなり詰んでる彼女に誰か安らぎを与えてあげてほしい。

16. 自然の摂理
キングブルブリンの強キャラ描写すごいなあ。
明らかに一撃受ければ即死するであろう暴力の描写、マリベルに一瞬たりとも隙を作らせない緻密な戦闘運び、
ささやかな反撃を全力で叩き潰してくる油断のなさに、大技をぶち込んでも倒れない絶望感。
読めば読むほど、いやこれ無理ゲーでしょ? という詰み詰み感が叩き込まれてくる。
マリベルがメラゾーマ叩き込むまでの駆け引きがしっかりしてるぶん、余計にこんなの勝てるわけないという諦念に襲われる。
そんなキャラをワンパンで倒すとか本当に何者よ? となる、絶望多段作品。いやー、すごかった。

17.無能なネズミ
クッパ支給品に八つ当たりしてるw
絶対話が通じないよこれ。こんなのドン引きだわ。
クッパは話聞こうな、と言いたいけどスクィーラ相手にこの対応は正解なのがふふっとなる。

この追いかけっこ、コミカルタッチに書かれてるから笑えるけど、それこそ一話前のキングブルブリンみたいなタッチで書かれたらガチ絶望でしょ。
マリベルもスクィーラも絶望感は大差ないぞ。
とはいえ、転んでもただじゃ起きないし、他力一辺倒じゃなくて自分でも機会作って殺しに行くスクィーラはがんばってて好印象だなあ。

18. 扉1枚隔てた先に
なんかあんまり本筋に関係なくて悪いんだけど、どうも吉良本人関係ないところで次々襲い掛かる受難には笑うんだよな。
名簿でいきなり変装をお出しされるわ、速攻で早人に見つかるわ、シャークアイにも監視されてるわといきなりリーチかかってるのほんとひどい。
そんな大ピンチ真っ最中なのに、暢気にも、興味ゼロな寺に対していい寺だなとか言い出してる吉良に笑ってしまう。いい寺じゃねーよ早く逃げろw
危険人物を中心に思惑異なる複数勢力が鎬を削ってるのはやはり面白いし、次回どんだけこじれるんだろう、みたいな期待は持てる話ですわ。

19.
光と影
このタイトルで光=光頭とは思わんです。
巨乳キャラ二人とウブな男の子出して絡ませる話と思考レベル変わらんのだけど、
毛髪の形状でそれやってるの考えると面白すぎるしミドナの正体考えるとセクハラそのものなんだよな。
満月博士もヤンもミドナも一切おふざけなんてないのに禿を起点に集まる対主催ってだけでまた髪の話をしている感じになる。
ミドナ自身はザントと同質の魔力に口の悪さ、見た目の異形さと、主宰の手下に見られそうな要素てんこもり。
そんな彼女が受け入れられたのも、やはり光のお導きがあったのだろうと思える。

20.武人と姫と
いかにも姫と騎士のような関係性の二人。大体合ってるしいかにも映える。
互いに思惑ありつつもいい関係性を築けそうな組み合わせ。
一応日本とはいえ、奇狼丸のほうからパラレルワールドの言葉が出てくるのはインパクトあるけど、キノコ王国は異世界なんですよ。

21.ハートの道は憎悪で舗装される
見せしめの死体が支給品はやべーな。
リンクあたりに配られてたらハートクラッシュ起こしそうな悪趣味さだ。
ユウカ以外に支給されたら悪意以外の何物でもないが、まあさすがに主催が手を加えたんだろうなあ。

由花子が全体的にユウカの話に興味なさそうなのが笑ってしまう。
ユウカも由花子の話自体には興味なさげだけどさあ。
お互いにめんどくせー女と関わったなーくらいにしか思ってないでしょ。
そしてめんどくせーからさっさと話切り上げようぜを前面に押し出して、よくよく考えるとヤバげな交渉が成立したの、冷静に考えると笑えるわ。


970 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:24:47 bD2UUm7E0

22.狼、猫、人間、そして……?
間違ってもガボのせいじゃないのに、ガボが投げ出した感が出るのはままならんなあ。
この話だけなら仲間がいるかも、程度の不確かな精度だけど、本当に仲間がいるんでガボの取った行動は誤りとは言い切れないのがままならない。
美代子とガボはさっさとレンタロウを殺害すべきだったんだろうけど、そこを責めるのも酷よな。
結局のところ、色々な複合要素の結果、レンタロウは生を拾ったんだなあ、という結論になるし、美代子に運命は微笑まなかったんだな。

23.ペナルティ
電車に飛び乗った二人のフォロー話といった感じだろうか?
細かいっちゃ細かいんだけど、こういうところの放置が積み重なるとあとでドえらい矛盾が出てくるのでこういう話は気遣いを感じる。
同時に切符消滅してない理由もちゃんとつけたのは気配りがこまやか。
その結果、主催者陣営がカップラーメン待つ三分を大事にしそうな価値観を持った連中になったのは笑った。

24.紅色の願い
このバトル、テクニカルだなあ。
殺しの能力だけ見るなら真理亜が一番強そうに見えるけど、
人間と人外の二人組を相手取るがために攻撃対象に傾斜がかかり、
愧死機構があると信じるがために行動に抑制がかかり、
その抑制があるが故にクリスチーヌの考察がバッチリかみ合い、
そしてモイが身体能力を生かして糸口を開く。きれいにつながって気持ちいい。
真理亜の逆転の理由は使い魔だけど、これはもうどうしようもない事故みたいなものなので。
モイは命を落としたけど、この人この話の間ずっと全力疾走してるようなイメージで好感度高かった。

25.Tragedy or Comedy?
クッパwww
タマゴをいきなり卵焼きにしようとするのも狂ってるし、ヒッチハイク無視されたからって火球吐き出すのもイカれてるw
話の通じる相手じゃない。
クッパが何か行動をするたびに虚空に『!?』が浮かんでそう。

ボトクはボトクで、チェーンハンマー並にクッパに振り回されてるのも笑えれば、
デミーラの心が歪んでること認めてるのとかクソ笑うわ。お前が言うなよw

スクィーラといい、ボトクといい、扇動系マーダーに対するクッパのここまでの対応は満点なんだわ。
こんな扇動者泣かせのキャラはほかにいないというのに、どうしてこのあと、この二人にいいように操られてしまうのか……。

26.とある王家の話
出番の少ないキャラに設定を増やすのは定石だけれど、デマオンが味のある魔王になってて好感度が上がった。
映画だと強大な悪役でしかなかったけれど、信念のあるバックグラウンドが語られると一気に好きになるなあ。
勝手に自軍の一員にしてくるあたり、クッパと根底が同じ気がするので、この二人が会話したらどうなるんだろうなーと気になったりはする。
威厳ある言動を崩そうとはしないけど、デマオンは間違いなくおもしろ魔王だよ。

27.命、擲って
バツガルフって、こいつ正面から倒すの無理じゃね? ってくらいオールラウンドな強マーダーやってるなあ。
やっぱりつええわ。格が落ちない。

奇狼丸に触発されてピーチが奮闘する……という形式を取っているけれど、この二人絶望的なまでに価値観の断絶がある気がする。
ピーチは何度も囚われるけれど、クッパは紳士的だしマリオは絶対に助けに来る、
一方でバケネズミは永遠の虜囚ともいうべき環境におかれて救いなど望むべくもない。

> 「それ(独立)が、何だと言うの!?命さえあれば何度でも機会は訪れるわよ!」

この辺とか奇狼丸の逆鱗に触れてると思うんだけど、それでもバツガルフの軍門にくだらず、ピーチも見捨てない奇狼丸はすごいわ。
それこそ、後の話でゼルダが真理亜の逆鱗に触れたのを考えるとなおさら。
ピーチは奇狼丸の誇りに触発されてバツガルフに抗ったけれど、それらもすべて見たうえで奇狼丸がこの死を無意味だと断じるのがただただ悲しい。
リンクの救援は僥倖ながら、ユウカの横槍がものすごく不安要素よなあ。


971 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:25:27 bD2UUm7E0

28.過去も未来も、巨悪も超えるから
早季がこの世界についていろいろと考えてるけど、
のび太が呪力を使えると思ってるし、昔のネコがタヌキ型だと誤解されてるし、ドラえもんは未来のロボットだと思われてるし、いろいろとずれすぎている。
けれどドラえもんがどんどん話進めていくせいで違和感に全部蓋しちゃってる感じになってるな。
まずドラえもんは落ち着こ?
こういう割と本筋に関係なさそうな勘違いってノリノリで書いてそう。
外の世界はとんでもない魔境があるとすら思われてるわ。

29.心を照らす光
クッパの迷惑ぶりがまたしても遺憾なく発揮されている。
出番なくてもトラブルメーカーなのがクッパというかなんというか。
これを踏まえて結論を付けると、
> 絨毯は燃えてしまったが、若き少年との新たな出会いがあり、結果的には直で図書館へ向かうより良いことがあったと3人は思う。
クッパのおかげってマ?

影に呑まれそうだった守くんだけど、照らしてくれる光を見つけたのでしばらくは大丈夫そうだな。
『影に呑まれるな』→『光と影』→『心を照らす光』のタイトルコンボの妙技よ。
ついでに時系列順だと『意外!それは髪の毛ッ!』になるので、また髪の話をしていることになる。

30.頭隠して身体隠さず
うん、まあバレるよな。身体どころか、自分の頭部ですら鼻や唇くらいなら見えるもんな。
見た目以外に害はないけど、見た目が第一印象を左右するのはそのとおりなので順当に厄介。
仲間との合流を阻害するという意味ではちゃんと仕事はしているんだよな。

レブレサックの神父ってなんでしゃべらなかったんだっけ?
あれが当時のボトクと神父の契約だったとしたら、今回はその場で返り討ちにされないことを選んだ結果といえるんだろうなあ。

31.意外!それは髪の毛ッ!
ラブ・デラックスは初見殺しだけど、タネ割れたらさすがにアルスには勝てないというか、アルスやっぱ強いのな。
今回悪いのは100%アルスが原因だと思う。マリベルがいたらアルスにその場で土下座させて謝らせるレベル。
いきなりマジャスティスかけてきて、由花子も応戦したとはいえ髪の毛斬り裂くの印象悪すぎる。

アルスが100%悪いことは承知のうえで、康一は由花子の性格とアルスの初手のフォローをしてあげるべきだったのだ。
なんでそこまで康一がしないといかんのかという話になるがw

32.薄っぺらな人形劇
道化系地の文は登場人物を嘲るような文体になるので使い方が難しいんだけれど、この二人ではそうなるのも宜なるかな……。
黒竜だの列車だの色々出てくるけど、自分の意志を持っているものがひとつも出ていないので最初から最後まで災害がぶつかってるだけ、みたいなことに。
片や皆殺しの剣に操られる人形、片やカゲの女王の操り人形。
どちらも元は善性に満ちた人間であったぶん、今のあなたたちは本当に何をしているのでしょうねと言わざるを得ない。

バトル面だとこのロワの最高峰の二人がぶつかってる感じ?
ゴルベーザが前話であれだけ強そうだったのに、単純な身体能力はゴルベーザの上を行くマリオ。
ゴルベーザと違って感情表現すら一切ないので恐怖の殺人鬼みたいになってるんだよな。
一応勝利したのはゴルベーザだけれど、マリオが列車をひらりとやり過ごす描写は激ヤバで、
地の文の語り口もあって都市伝説に出てくる殺せない化け物みたいになってて怖かった。

33.ゲームはまだ始まったばかり
みんなガッツリ対主催なのに人並み以上に頭がまわるのが複数人いると微妙に結束しきれない、この感じまさに対主催集団。
一番危険人物なナナが協力的で、常識人寄りのアイラとゼルダが疑心暗鬼抱いてるのもいかにもそれっぽい。
アイラが特にナナを怪しむのは、デミーラの性格が悪くて人の悪意を色々見てきたからだろうなあ。
けれど結局この集団はこの時点での仲間同士で殺し合ったりはしていないので、みんながんばったということなのか、とか思ったりする。


972 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:26:06 bD2UUm7E0

34.うずまき
スクィーラの小賢しさとカインの警戒心の高さとがかみ合って面白い。
なんとか逆転のための支給品が欲しいスクィーラと、一部たりとも隙を見せまいとするカインの、
視界の外で殴り合うような関係がいい感じにバトルしてて好き。

正直スクィーラはこの時点ではあまりうまく行ってないんだけど、そこからどうにか有利を手繰り寄せようとするので見てて楽しいな。
カインがスクィーラの目論見をことごとく看破するのは、やっぱり裏切りキャラやってたから思考回路が分かるんだろうかという身も蓋もない考えが浮かんだ。

35.少女、楽園へ至る
地の文がめちゃくちゃ独特でインパクト強いんだわ。
パロロワでゴリゴリの一人称は結構珍しくて、かつ思考そのもののように文章があちこちに寄り道する一人称は余計に珍しいので。
言ってることと考えてることが結構違うんで、読み比べてると楽しいよね。

マリベルはキングブルブリンに何度も追い詰められたけれど、最後まで折れなかったな。
というか彼女が折れたロワは見たことないので、そういうキャラでコンセンサス一致しているのだろう。
一方でキングブルブリンも最後まで優勢に戦いを進めてて、出番は短いながらも強マーダーとして印象深かった。

36.リスタート
ザコと侮ったのび太に足を掬われる形のルビカンテ。
さらなるダメ押しが入りました。

これのび太の実力を見抜けず、しかもトドメを刺されなかった形になってて、生き恥というほかない。
このカッコ悪さと惨めさ、狙って書かれているのだろうけれど、やっぱカッコ悪いわ。
もうここから落ちることはないだろうから頑張ってほしいと思ったなあ。

37.再会、対策、火種
用語集にすらなっていたいきなりマジャスティスへの苦言がついに……。
由花子の性格把握してるとはいえ、恋人気絶させて怒らないのもはや聖人でしょ。
それでいて、康一の由花子の扱いが慣れてるというか、由花子に向ける顔と外に向ける顔をうまく使い分けてるというか。
由花子の気持ちを軽視せずにちゃんとご機嫌取れるのが円満の秘訣なんだろうなあ。

アルスはほんと自分のペース崩さんけれど、絶対メルビンとアイラに負担かけてたと思うわ。
やっぱアルスにはマリベルが必要。そしてアルスは宏一を大事にすべき。

38.憤懣焦燥
バツガルフがついに膝を付いたけれど、それでも倒れる気配はまるでないな。
一対ニの不利を有利に変えてリンクを追い詰めるバツガルフの戦術が光る。
対応力の鬼のオールラウンダー、リンクを相手にあと一歩のところまで追い詰めた手腕も、
勝敗と生死の分かれ目が認知外の支給品と場外での爆発音だったところも含めてまだまだやれるといった感じ。
ガノンドロフとは違った意味で絶対的な自信を持つマーダーって感じで今のところ好感。

ユウカ怖えわ、前回の話の分かりそうな人間ってイメージがひっくり返った。
それでいてしっかりとした会話ができるってあたりが危険度を上げてるなあ。

ラストシーン、ピーチからイリアの名前が出たときにすべてを察してしまって、ああ〜、と深く息をついてしまった。
『OPでイリアが一度生き返った』のがリンク視点ではイリアが生きている疑問の解消になるので、そういう意味でもうまい。


973 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:26:41 bD2UUm7E0

39.Seek for my change
ガノンドロフの威圧感すごいよね。まさに覇道を歩むキャラって感じ。
こいつに出会ったら終わりみたいな危険さがぷんぷん漂ってて、徘徊型の野生の魔王みたいになってる。
ローザ自体は決して弱くないのに、悪党に攫われるかよわいお妃様みたいになってるもんな。

ローザは運がないと言えばいいのか、あるいはこんなヤツに出会っても生き残れるのは運がいいと言うのか。
三下みたいな動きになってるけどもうこれは仕方ないよね……。

40.想いは呪い呪われ
ビビアンは自分が乗る側にまわることを考えられてても、マリオが乗る側にまわることは考えられなかったんだなあ。
そのメンタルはたぶんマーダーには向いてないやつだぞ?

守の絵の役割、前話の穏やかさから、ビビアンが道を踏み外したときのストッパーになるかなーって思ってたけど、
よりにもよってこの絵が状況をこじらせるなんてなあ。
ドラえもんよ、メルビン・早季と穏健に終わらせられるメンバーそろってるところにその糾弾は悪手だぞ。
ほんと、誰も間違ってはいないのに不穏へと突き進む感じがまさに呪いだわ。

41.パパは僕のパパじゃない
吉良が大暴れしてんなあ。なかなか不利だったはずの状況をあっという間に制圧してしまった。
シアーハートアタックに哨戒させるアイデアは鬼才だわ、どこまでも追ってきてかつ頑丈な哨戒は初見殺しかつ強すぎる。
それでいて、一人犠牲を出して未だ底を割られてないのは倒すのには難儀しそう。

早人が想定外の事態に焦って、救えるかもしれない人を救えなかったというのが雰囲気を重苦しくしてて、
それを何も言わずに抱き留めるシャークアイが渋い格好良さと優しさがあるように思った。

42.交錯した想い
図書館の本が各作品で読める本になってるサービス。
民明書房が男塾だけじゃなくてジョジョにもあったの知らんかった。

参加者の能力制限をダーマの特技封印吸収と絡めてくるのはうまいと思った。あれまさに能力制限だもんね。
というかダーマ編でやってたことで7割くらい説明つけることもできるんだな。
首輪のくぼみとか、絶対特定の何かと組み合わせたらパカッと開くでしょと思わざるを得ないw

首輪解除の試みが一歩進んでるけど、満月とデマオンという特大の因縁持ちは不穏すぎる。
脱出潰す派の真理亜まで来ちゃったのはうわーってなる。

43.Crazy Noisy Bizarre Station
写真のおやじとレンタロウなんて悪知恵はたらきそうなコンビだなあと思ったら、いきなり連携取れてなくてわろす。
ラストの口論とか、この二人お互いに足引っ張るしかしないだろというのが見え透いてるのわろす。
ぐだぐだすぎて遠くでちょっと見ていたいコンビになってしまったわ。

マリオは相変わらず暴れてるなあ。
武器破壊したところで勢い攻勢変わらず、あっさりキョウヤをワンキルしてるんでどーすんだこれみたいな気持ちになってくる。
ほぼ100%不意を突ける不死身も大概っちゃ大概だけれども、マリオは単純にフィジカルお化けで圧倒してるんでやっぱヤバいわ。
ただ、意思が少しだけ戻ったのはまた違う展開を期待できそう。
マリオを出し抜く方法は、なかなか考えたなあって思った。穴を治して生き埋めとかなかなか思いつかないわ。


974 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:27:36 bD2UUm7E0

44.カゲが呼び寄せるものは
ドラえもん、悪いヤツじゃないんだけど何から何まで間が悪いとしか言いようがない……。
子守用ネコ型ロボットの役割上、できるだけ何でも自分でなんとかしようとする性質なんだろうなあ。

一番センシティブな立ち位置ながら一人追ってきたのも、自分を犠牲にビビアンを逃がそうとするのも、結果的に悪手を引いたというかなんというか。
ビビアンを正道に引き戻せそうだったのに、結果的により突き落としたことになるし、
こうなったらビビアン一人でメルビンらのところに戻るのも憚られるしで、マイナス要素ダダ盛りで積み重なるの不憫すぎる。
ゴルベーザについては完全に不意を突かれた。
こんなの予想しろってほうが無理なのでほんとどうしようもない。

45.最高の恋人
冒頭のキスはフラグだったんだなあ。康一の男気がすごい。
益と情で迷わず情を取れるのは紛れもない由花子の彼氏で、好感度がストップ高に達したわ。
童貞よ、これがカップルだ、みたいなアオリ文が枠外に書かれているのでは?
二人とも脱落したけど印象に焼き付く。

ボトクは苦し紛れにテキトー言ったらクッパが大暴走して大勝利でお前何もしてないのでは……と思ったら猛毒吐いてるのはちゃっかりしてんなあ。
小悪党丸出しながら成果で黙らせた感じと、心の底から楽しそうにラップにスキップしてるのめちゃくちゃ好き。

クッパは話全然聞かないのが完全に裏目に出て悲惨なことになってしまったなあ。
あんなにボトクの策をことごとく無力化していたのに神通力が切れてしまった……。
誰か祈ってあげて。

46.「もしも」
もしもボックスのことに見せかけて、マグドフレイモスのフラグ補強だったのか。
結構定期的に補強入れてるんだなあ。
そこを除くとこの三人トリオはすごくまったりしていていい感じ。
テーブルかけの許容範囲地味に広いのも好きだし、
のび太が授業してダルボスが寝るのもお前が寝るのかよって感じで好きだし、
俺のは出来ないだろうがって言いながら特上ロース岩を注文するの、もしかして食べ物じゃない自覚ある……?

47.ある忍者の葛藤
エッジとシャークアイ、裏世界に根ざすジョブだからなのか、警戒心MAXでまったく相手を信用していないな。
武器を盗み、それを盗み返すシーンはまさに忍者(?)と海賊らしくて好き。
邂逅からの警戒、そのまま殺し合いに入る流れ、バトロワらしくて好きだなあ。
本気出してないと書かれてたけど戦闘描写がガチすぎてちょっと怪しいw
早人なしで和解できたんだろうか?

48.暴走と言う名の救い
全然救われてない……。

クッパのキャラでカモフラージュされてるけど、
都合が悪くなると暴力にはしって全部なかったことにしようとするの、マーダーそのものなんだよなあ。
そしてその暴力すら折られてしまって寄る辺もなし。
哀れで惨め、だけど自業自得。
誰か楽にしてやれよと思うんだけど、本人は実は犬死にしたくないのと、散々描写されてきた異常な生命力もあって、死を拒み続けてるの、哀れながら醜いことになってる。

ガノンドロフがボトクの痕跡見つけたけど、足跡で分かるくらい浮かれてるって、どんだけ浮かれてるんだろうw
前の話の楽しそうな小悪党ぶりがそのままフリになってしまったなあ。
特大の死亡フラグ、まことにご愁傷様です。

49.七転八起
ルビカンテのくだりは裏設定のやつだっけ。
四天王筆頭だったころとはまた別の激情家の面、こっちの裏設定のほうも加味したら跳ねっかえりの地が出てる感じになるんでいい補強。

プライドを砕かれたクッパの直後にこの話が来ているのがいい対比になってる。
二人とも人の話聞かないで暴走して、信条ごと一度はへし折られたイメージだけど、
ルビカンテは立ち直ってクッパは沈んだままなの、
クッパはかかわってきた相手が自身を殺すか使い捨てる前提だったのに対して、
ルビカンテのほうは一貫して高い誇りを持った参加者だったところが分岐なのかな、とか思った。


975 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:28:46 bD2UUm7E0

50.闇よりも
なんだろう、ユウカやスクィーラと比べると吉良の語るストーリーはどことなくわざとらしさがあるように思うw
妙に説明口調だからか、それとも強者の驕りを隠しきれないのか。

ヤンは信頼できる人間なんだけど、吉良相手にも毅然とした態度を取ってるのがちょっと不安を煽るなあ。
よくいえば真面目、悪く言うなら堅物って感じがよく出てる。
近接キャラ故にキラークイーンと絶対相性悪いし、守もメンタル安定してないが故に不安だけど、
吉良は手首が絡まなければ保身寄りなんで変にかみ合ってんなあ。
清浄寺までの道のりが極度に張り詰めてそうで、行く先不安しかない感じのお話だった。

51.Grand Escape
カーテンに巻き付いてぐるぐるする遊びとか確かにやったのに記憶から抜け落ちてたなあ。
想像したらすごく頭痛くなってきた。

とことん慎重派なカインとスクィーラ、そして興味を先立てて考察するミキタカ、それぞれの考察に性格がよく現れてるのがいいね。
明らかに異常な事態に巻き込まれたにも拘わらず、
ちゃっかり炎を確保してあぶり出しを読み、カインたちを出し抜いて一撃食らわせようとしたスクィーラの格は高い。

石像だらけの部屋と大量の蝋燭、そして棺はあまりにも不気味で、緊張感を一段高めてくるし、
そこにぽつんと佇む電話ボックスはあまりにも異様で、誰も出ていないのにホラーの香りがする。
絶対復活しちゃいけないものが入ってるの分かるし、このタイミングで出てくる足音もハラハラする。
というか主催者の拠点って闇の神殿なんだろうか。

52.第一回放送
キーファw
えっ、お前がいるの?w
そして第二回放送では出ないんだがお前はどこにいったのw

ボルカノ像があるところからするに、地下の石像群は、たぶんOPで出てきたアミット号の船員なんだろうな。
あの感じからすると、他の参加者にも一緒に巻き込まれてここで石像にされてる縁者がいるんじゃないだろうか?
旅の扉の件が故意だったっぽいあたり、裏で陰謀が渦巻いてる感じだけど、まだまだ謎が多い感じだなあ。

53.おんぼろ
なぜかクッパの話だと思ってしまった。前話ほんとボトクしか得してないんだな。
戦闘離脱が自分の意志じゃないうえに、放送で同行者も古参の仲間も呼ばれてしまうのはきついなあ。
アルスに自惚れがあったかというなら、まあそうだねとなってしまうんだけど、
なまじ自信があっただけに反動もでかいんだろうな。
しかしこの状態で参加者の損壊した死体を次々と見せつけられるの、ボロ雑巾がさらに壊れていくようでエグいなあ。

54.悪意の火種が笑った時
満月……。お前ここで裏切るのか。
フラグ立ってたとはいえ、反撃までもう一歩なところまで行ってたところでこの仕打ちはうなだれてしまう。
満月視点だと、図書館炎上の機に乗じてデマオン討つほうに傾くのも分からなくはないのよ。
娘死んだのによりにもよってデマオンと一緒に脱出するのか? って葛藤は当然あるものね。
真理亜も満月もこのまま元の世界に戻ったところでどうすんのって感じなので、ここで戦うしかないのよね。
しかしタイミング的に本当に悪意に笑われた気になるよなあ。

55.解答まであと一歩
スクィーラは油断も慢心もしないやつなのに、デパートで最初に向かうのがデパ地下というのが、あ〜っ……となる。
そういう世界出身で、そういう扱いをされて、かつ旧時代の知識があるなら、デパ地下の高級お惣菜食べたいよな。
本物のメシくらい用意してあげなよと思うんだけど、うまい飯食うと満たされて余裕ができるんで致し方なし。
結果的にはこれ自体は意味なかったとはいえ、この時点では、
よりにもよってカギがこいつの手に渡るのは大惨事の予感しかせず、
しかもきっちり書き置き残しておくあたりはイヤな手を打ったな、と。

ずっと思ってて結局成りはしなかったけれど、カルシウムって死体、それも歯あたりから調達できそうだよなあとか思ってた。


976 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:29:34 bD2UUm7E0

56.エンドロールは止まらない
冒頭の地の文がすごくかっこいい。
単語選びがいいんだろうけど、固めの言葉で現状を淡々と語るその語り口、
ゴルベーザの道を誤った感じを突きつけつつ戒めとか訓戒のような形でまとめてきてる気がする。
落ち着いた声質の男性の声で読まれてそう。
セシルのことも彼を動かす理由足りえないとなると、そっか、もう救いはないんだなと思う。

弟の名を呼ばれても何も変わらないゴルベーザ、状況を検め直して自分を取り戻したビビアン
放送の意味は分かるけど実感としては文字の羅列以上の認識ができない早季、放送で素直に悲しむメルビンと、全員の反応が違うのもいいなあ。
原作に根ざした心情をこと細やかに描写出来ている作品だと思う。

57.月はなくともMOONはある
ユウカの腹芸はスクィーラとはまた違った趣があるなあ。
あまり腹芸しなさそう、なんなら頭の緩そうなキャラを演じてて、こいつここでウソついたなってのを見落としてしまいそうになる。
ユウカの情報の小出しぶりも絶妙で、手札を全公開したように見せつつ切り札を複数隠してるのはやり手だなあと思う。
逆にバツガルフ側もPOWブロック一個だけ渡して同盟の体裁整えて、POWブロックもう一個隠して切り札にするのはやり手って感じ。
二人とも転んでもただでは起きない感じのキャラかつ現実的な行動を取れるキャラで、油断できないコンビが生まれたなあ。

58.炎の裏で思考する者達
前話でルビカンテ覚醒したかと思ったのにキングブルボーに振り回されるのかっこ悪すぎるw
四天王最強がイノシシのご機嫌取ってるの面白すぎるでしょ。

なお一人じゃなければ冷静で理知的であれる様子。
ネクロマンシーと術者の思惑を見抜いてリンクの拙速をなだめて的確な助言をおこない、適所へと向かうルビカンテはさすが四天王筆頭ですわ。
このまま三枚目キャラと頼れる武人を交互にやっていく気か?

59.死刑執行中脱獄進行中
カインとエッジは手を替え品を替え挑んだけれど力及ばず、か。
この二人で第二形態を引き出すところ止まりとなると、地力で勝つのは無理くさいなあ。
ガノンドロフはやっぱりプロレスしてるでしょ。
対戦相手がなんかやるたびに対抗して実況して、楽しんでるように見えるあたりも力の差が大きいという感じ。
一応奥の手引き出したとはいえ、それでも底が見えないんだよなあ。

ボトクはレブレサックの一件にこだわりすぎて大局を見誤ったというのはナイスな解釈。
早人を軽く見てしっぺ返しをくらったり、シャークアイに出し抜かれたり、基本的に他者を見下しすぎてるんだよな。
何より自身が卑劣な小悪党であるが故に、ガノンドロフにすらその定義を当てはめて、最初の問答でも最終通告でも自ら袋小路に入ったのは痛かった。
結果論だけを言えば、ローザに化けてクッパを唆したという二点だけでお釣りがくるほど仕事しているようにも見えるが……。

60.影の迷い子
もう一人のマリオとの対話、いいなあ。
影のマリオを一人の人格として認めて、拒絶でも許容でも肯定でも否定でもなく、手を差し伸べられる、
まさにビビアンたちが語る優しいマリオの姿なんだろうね。
影のマリオでさえも一時は聞き入るもう一人のマリオの言葉が、影のマリオをどう変えていくんだろうという一筋の希望が見える話だと思った。

>だから自分で選択しなければいけない時に、あの答えを選んでしまった。
世界の半分をもらってしまった理論がとてもらしくて好き。


977 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:30:16 bD2UUm7E0

61.unbelievable
当然出る、放送がでたらめだと解釈する参加者。
そういえばのび太と映画ゲストの別れは確かに円満な別れがほとんどだったよなあ、と思うとちょっと感傷に浸れる。
そしてありがとうの言い方からするに、のび太はこれ自分がドラえもんの死に目を背けてることに薄々気付いてるな?
いずれにせよのび太の心の整理は絶対に解決しないとダメな問題になったね。

現実を見れない子供に叱咤したうえで、事情を汲んでのび太に寄り添うのは大人だと思うんだよな。
自分の選択に葛藤し、プレッシャーを感じるのも含めて、なんか覚にはがんばってほしくなる。

62.表の終わり、裏の入り口
ゆっくりとだが確実に脱出へと進んでいく二人組。
考察もそうだし、覚悟という面でもそうだよな。
敢えて禁止エリアに近づいて首輪を調査するのはよさそうなアイデアに思えるね。
ここの本の中身だけ白紙な理由はまださっぱり予想がつかないんだけど、何かしら会場の作られ方に関係してくるのかな。

各作品のクローズド、並ぶと圧巻だなあ。
どれもこれも秘密を解き明かして脱出してると書かれると、この会場もそうなるのかなという説得力がある。

63.白魔導士の決意
ローザの巡り合わせ悪すぎるよ。
ボトクとガノンドロフにしか会ってないうえに、セシルは放送で呼ばれるし、その先にいるのはゴルベーザとロクでもない人物にしか会わないなあ。
もはや一人取り残されてしまっている感すらある。
そのうえで意気消沈せずにはっきりと主催に反旗を翻す様は気持ちよくすらあり、前話の閉塞感を完全に打ち消した感じ。
ぜひともここから巻き返してほしいと思った。

64.明日へと向かう帰り道〜帰り道を無くして
どこか声に出したいタイトル、そしてタイトルの対比えっぐ。
帰る場所がある人とない人で目に見えない隔絶ができていたのに、ゼルダはそこに不用意に触って大火傷負ってしまった。
真理亜の軌跡を見ているからこそ、ゼルダの説得がひどく筋違いの薄っぺらいものに見えてしまうし、
すなわち真理亜の言うところの優しい言葉を吐くだけの大人になってしまったのが哀しい。
ミドナやアイラ、クリスチーヌの視点から見れば立派な指導者なので、まさに視点による価値観の断絶、
てか真理亜が顕著だけどほかのキャラも多かれ少なかれ価値観異なるしなあ。
エンディングが待つRPG作品と、銀の弾丸など存在しないポストアポカリプス作品の差異が浮き彫りになった感じがする。

65.ジジ抜きで警戒するカード
強者がハッタリと深読み効かせて腹の底を探り合う読み応えのある作品。
ガノンドロフの洞察力と貫禄はさすが、一方でバツガルフ→ユウカの評価が妙な方向に吹っ飛んでるなあ。
何もしてないのにバツガルフからの警戒心をぐんぐん上げるユウカは気の毒で笑ってしまう。
勝手に評価上げられて怖がられるのも、どこからどこまでが本気か分からないのも、全部ひっくるめて道化になってるなあ。
ただ、バツガルフからの評価は紛れもなくユウカの殺害実績に基づくものだし、厄介さは確かにその通りなので、
この二人組は今後も要注目だと感じた。

66.愛する人へ
>「フゥゥゥゥゥ〜。」
ここ心底気持ち悪かった。

吉良節操なくない? 次から次へとほかの女の手首に浮気して、賢者タイムという言葉を知らない?
ミチルの手を持ちかえるの失敗したのはその通りだけどさ。
守が穢れなき意志で真理亜にメッセージ託したのに、吉良が穢れ100%でアプローチしてるよ。
絶対ヤンが吉良のストレス溜めまくったからだよ、その反動だよ。

ヤンの言ってること、吉良が悪党だと薄々感づいてて監視してると考えれば不自然ではないんだけど、
この話は吉良寄りの視点なんでヤンがめちゃくちゃイヤなヤツに見えるなあ。
精神論でイヤな仕事振ってくるブラック上司みたいに見えるよね。


978 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:31:03 bD2UUm7E0

67.魔王決戦
ガノンドロフ相変わらず緒戦を余興として楽しむ男。
> まだ手札があるならば使ってみるがよい!!
とか、不興を買っても大技出したら興味持ってくれるところとか、リンクが出てきて興奮するところとか、
キングブルボーに乗って騎乗戦を仕掛けてみるところとか、絶対バトロワ満喫してるわ。
挑発を施しと言い張ったり、俺自身が獣になることだをやったりとか、ひとつひとつ見ていくと面白い男だよ。
そもそもアイスナグーリとかいう強力支給品が飛び出してきたってことは、やっぱり今まで手を抜いてたんじゃないか!

アルスの風属性魔法を使って自由自在に戦場を舞う戦いは見ごたえあるんだけど、
ガノンドロフの憎らしいまでのその唯我独尊の暴君ぶりとどんな攻撃も正面から打ち破る戦法が噛み合って、最期までこいつ本当に倒せるのかって疑問が湧くんだよな。
そこからのルビカンテ、リンクの援軍があってまだ勝てる気がしない。
黄金長方形を描いて獣を駆れるのはジョニィもびっくりだよ。タイトルがまんまそれだとはいえ。
マジャスティスで変身を解くところなんて、ほかの話ならこれで決着!ってシーンなのに、
そこからキングブルボーの牙を力ずくでへし折ってぶっ刺してくるのとか、はっ?って感じに呆然とするし、
アルスが敵側にまわるのは絶望的な気持ちになる。

アルスの心の世界なあ、マリベルが妙にしおらしいのはアルスが死んだからかと思ってたんだけど、ニセモノか〜。
マリベルって本当に落ち込んでる人には優しいんで、リンクたちのほうの描写がなければ分からなかったかもしれない。

蘇ったアルスが不意のギガスラッシュを食らわせてからは流れが一気に変わったなあ。
ギガクロススラッシュはどう見てもギガクロスブレイクのオマージュだ。
ギガスラッシュを起点に、これまで圧倒されてきた分の反動を全部詰め込んだみたいな怒涛のラッシュは圧巻。
敗れてからも爽やかに終わった感じがする。

なんかガノンドロフが負けたの、ザントのせいに思えてきた。
ザントからすればガノンドロフ生きてるの都合悪そうだけどわざとではないよね? とかちょっと思ったり。

68.切望のフリージア〜世界に一つだけの花
タイトルも美しければ、各パート冒頭の詞も言葉ひとつひとつが美しい。
この詞集、早季のことを謳っているのは間違いないのは分かる。
ただ、ラストの詞なんか顕著だけどゴルベーザの境遇と心情が裏にちらついてるのが見えて、あ〜〜ってなる。

早季はこの回だけでも戦闘、他人を傷つける覚悟、業魔化、とどんどん変わっていくけれども、早季としての人格は失われない一方で、
ゴルベーザは何度もセオドールを呼び起こそうとする声を聞きながらも、与えられたゴルベーザの名から決して抜け出せないのはつらいなあ。
ゴルベーザに抱いた印象、お日様の元に出られず、闇の中に生者を引き込むしかない怨霊が、
太陽の下を歩む生者たちを、いいなあと羨む、そんなイメージを持ってしまった。

ファイナルファンタジーのテーマのひとつ、光と闇の鬩ぎ合いの要素があって、
メルビンをパラディンと例えればセシルとゴルベーザの兄弟の争いとなって、
メルビンとゴルベーザ自体は神と魔王の代理戦争の面もあって、と一つの戦いに色んな意味を持たせてるなあって感じる。

単純な戦闘としても、五分間の攻防、焦燥に駆られる三十秒の攻防、息もつかせぬ五秒の攻防、
禁止エリアをめぐる三段階のタイムリミットバトルは純粋な攻防としてとても面白かった。


69.冷たい日だまり
クッパ;;
形容するなら、生きた屍。
今にも死にそうながら、決して斃れない怪物のよう。
彼の境遇が哀れにすぎて、スクィーラのかける言葉一言一言が慈愛に満ちているように錯覚する。
スクィーラの言葉は決して飲んではならない毒なのにどこまでも甘美で、心まで朽ち果てたクッパの救いとなるのを見ると、これでよかったんじゃないかとすら錯覚してしまう。
スクィーラは紛れもない奸臣、だけどクッパにとっては不慮の窮地に手を差し伸べてくれた部下という袋小路。
どこまでもどこまでもクッパが哀れ。


979 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:31:57 bD2UUm7E0

70.It is no use crying over dropped moon
魂の剣を手に取った時から、満月博士はもう変わってしまったんだな。
デマオンは美夜子の仇ですらないし、じゃあ百歩譲って美夜子の仇だったとして、ほかの人たち関係ないし、
あんなに仲の良かったミドナにまで剣を向けてる時点で彼の意志はほとんど塗り潰されてたんじゃないだろうか。

ミドナは選択を間違えたというけれど、状況的に仕方ないよ。
この世界じゃ一番彼と行動してきて、優しい面も穏やかな面もお茶目な面も激情に駆られる面も見てきたんだから、彼の味方をしたくなって然るべき。
そしてゼルダ、満月と縁ある人々を一気に失ったからこそ、元凶の真理亜と決着を付けないと先に進めないんだと思う。
クリスチーヌも真理亜と因縁があるとはいえ、彼女が同行してくれるのはミドナにとって少しだけ救いになってそうに思う。

71.ここは裏の一丁目 名物は可能性の扉
裏への入り口から一丁目に入ったことで少し考察が進展したんだな。
次は二丁目がくるんだろうか。

ローザの変身が解け、ビビアンの精神力も回復してと、問題が着々と解決していくのは新たなフェーズに入ったって感じがするね。
首輪の考察も順調、一気に有力な対主催勢力に化けたし、メルビンとキョウヤには頑張ってほしい。
というか首より上に9ディメンジョンはエグい。

すんげえどうでもいいけど、禁止エリアに入ったときの忠告は録音なんすかね?
録音機に向かって一人さびしく声を記録するデミーラの図、くっそ笑えるんですけど。


72.スタンド使いとシリアルキラーは惹かれ合う
はっきり言ってこの二人好きです。
なんかもう目に見えて分かるグダグダさ、致命的なまでの相性の悪さ、性格と嗜好の合わなさ。
自分のこと棚にあげて危険だ物騒だと喚き立てる親父と、その話聞くだけ聞いてガン無視するレンタロウは面白いカス野郎だよ。
お前らなんで一緒に行動してるんだというくらい相性悪くて、かといって別れればそれはそれで都合が悪くて、始末するにはもったいなくて。
鶏肋スパゲティというどうでもいい造語が浮かんだ。

73.みらいのないかいぶつ
ああぁぁっっ…………ってなる。
時計のチクタク音の演出やばいね。
表裏ロワ・原作のセリフがさかのぼって巻き戻されていくのがあまりに無情。
ダルボス本人が選んだとはいえ、他に方法はなかったのかと思ってしまうけど、
これまでも散々描写されてきたマリオの強さが、これが唯一の対抗策だという説得力を補強するんだよな。
だって三対一の圧倒的不利、それで覚の呪力ものび太の狙撃も生半可な技じゃないのに負ける気配が見えないのやばいでしょ。
ダルボスの覚悟と非情な現実、閉ざされた未来と凄惨極まる鬱話だったと思う。
タイトルはダブルミーニングかな? マリオもダルボスも未来がもうない。

74.集合、そして散会
カインが頼りになるなあ。
最初こそ対主催を結束させるためにマーダーのフリをしてたけれど、
セシル死亡だの旅の扉問題だの仲間との再会だのでそこらへんの方針は転換したのだろうね。
指示が明確、粗はすぐに修正、意見をしっかり聞いて適切な解を出す、これはリーダーですわ。
吉良に執着が見える早人をデパートに引き離すのも悪くない判断だと思うし、
> 報告者は迂闊に敵と白兵戦を行うべきではない
これを言い切ってくれるの好き。プロジェクトのリカバリは報告者が全部やるんじゃないんですよ。

ところでシアーハートアタックって結構厄介だと思うんだけど割と容易く突破されてるなあ。
というかこの爆弾戦車処理してないけれど、吉良が死なない限りまた誰かを襲うのでは……。


980 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:32:28 bD2UUm7E0

75.見えざる刃
城は吹っ飛ぶもの。
レンタロウが負けるのは、言っちゃ悪いけど順当だよ。
ケンカしまくり脇甘すぎのお互いに足引っ張りまくりで、これでスクィーラを出し抜けるわけないだろ!
それとやっぱり『おらあっ!!』なんだなw
写真のオヤジは次は誰のお荷物になるんだろうか。

スクィーラは順調にキルスコアを伸ばしてるし、地味に武装がやばいことになってるので、
単独でとにかく強いガノンドロフやゴルベーザ、マリオとは別のベクトルで危険なマーダーだよ。

過去の栄光の夢を見続ける残骸となったクッパ、とても物悲しい。
たどたどしい口調、おぼつかない動作、
もう終わってしまった老人が走馬灯の中を生きるようで、色あせた世界が広がってる。
彼も彼で未来のない怪物なんだよなあ。
スクィーラもセリフだけなら老人を気遣う従者なので、余計にそう見える。


76.これは呪いか、それとも罰か
> 彼女は世界の窮屈さを知り、傷つきながらも前を見ながら新世界を目指し、それを作れる人間だ。
> 彼女が割られることは、絶対に止めないといけない。
> 弾ける瞬間、どのシャボン玉より多くの人の目を惹き、忘れることのないほど綺麗な虹を放って欲しい。

早季が死んだあとにこの重い感情を披露されると、あぁ〜〜ってなるなあ。
胸騒ぎも歌の復唱も早季の死亡とリンクしてるし、
歌の続きを思い出せないのもそういうことでしょう?
なんなら、早季登場話の『思い出せない』をもう一度辿るようですらあり、不穏極まりない。
そしてこの話を出してからの82話は……見事なフラグ擁立と昇華。

77.イントゥ・ザ・ウッズ
タイトルはそのまま訳すと森の中へ、だけど、要は木を隠すなら森の中、ということでしょう?
すでに殺しをおこなっておきながら対主催に紛れ込む吉良のことであり、
最も警戒すべきながらデマオンの威圧感に押されてその厄介さが現れないナナのことであり。

というか吉良は未だに森から出られてないの笑うんだけどw
森から出ようとすると他の参加者に会って森の中に逆戻りする吉良、清浄寺に足でも掴まれているのでは?
そりゃストレス溜まるし、姑息な言動で自爆もするわ、と妙な解像度がある。

78.あいつをさがせ!!
保護者カイン、相変わらず冷静で頼れる男。
リアリストに徹する自分と比べた末にセシルを羨んでるけど、人情家だらけのFF4最終パーティならばカインの存在こそが引き締めなんだわ。
このパーティでも感情に奔りがちな守と能天気気味なミキタカの二人に対する重しになってると思うので、カインが要なんだよ。

Noマーダー宣言してるのに腰抜かされるほどビビられるわ、アイラにジト目くらうわで
萌えキャラ化が止まらなかったデマオンが久しぶりに本文で大魔王やってるな。
やっぱお前は悪の大魔王だよ、満月は正しかった。
あとアイラさん、だんだんデマオンのご機嫌取りに慣れてきてないです?
ジト目してるけどやはりキミはデマオン軍の大幹部だ、デマオンにはキミがいないとダメだ、しっかり支えてあげてくれ。

デマオン軍の内紛にバツガルフとユウカまで絡んでくるのはびっくり。
アイラ以外曲者しかいなくて、この森は相当こじれそうだなあ。


981 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:32:48 bD2UUm7E0

79.血と灰の世界
ダルボスもマリオも、誰かを守るために選択し、間違えた者同士。
どちらも根は善人で、今を後悔している。だからこそ、

> 間違ったらやり直せばいいんだよ
この言葉が響くなあ。
ダルボスにもマリオにも、さらに前話でそこを気にしてたミドナにも響く言葉だわ。

誰よりも英雄を倒してきたクリボー族、1-1のメタネタでありながら、ここでクリスチーヌが吼えるのはめちゃくちゃアツくていいね。
これまでも要所要所で言及されてきたマリオの優しさと選択肢の件、
過ちを分かっていながら止まれないマリオに優しく寄り添う仲間たちと、それを支える仲間たち。
マリオがこれまで仲間たちに与えてきた優しさの恩返し。
血と灰の世界という終末感すらただようおぞましいタイトルでありながら、その実はとても優しい世界だった。

80.第二回放送
あのしぶといデミーラがここで死ぬとは。
カゲの女王は満を持しての登場だけどあくまでオブザーバ、ザントこそが黒幕なんだな。
とはいえザントも危ない橋を渡っているようだし、どこでパワーバランスが変わるかもまだまだ分からんってところなのか。
FF4とペパマリ、新世界よりの主催要素も出てきたけど、ジョジョと無能なナナの要素もいつか出てくるのかな。

ところでキーファは一体どこいった?

81.ネズミは路地裏を行く
写真のオヤジにとんでもないとばっちりがw
変なガバもあるけれど、スクィーラの考察はおおよそ的を外してなさそうなんですよね。
呪力を持った人間がいるという僅かなヒントからそこにたどり着くのはさすがの頭脳派、
優勝を狙いながらも、主催者を出し抜けないか思考を止めないところに彼の本気度が見える。
そして地震に腰を抜かしたり、怒れるクッパに肝を縮こまらせたり、影に覆われた世界で悲鳴をあげそうになったりするの、
不覚にもかわいいと思ってしまった。

82.悪鬼
76話で立てまくったフラグが大きく花開いたね。
早季に語りかけるような真理亜の物腰柔らかな口調、
ともすれば一作品の主人公のような壮絶な決意の表明、
それらとこれからやろうとしていることのギャップ、情緒がぐちゃぐちゃになる。
悲哀に塗れた末の決断に症状名がバンと提示されてるところなんか、『手遅れ』そのものでもう一段階情緒をかき混ぜられる。

理想の未来を創るために殺戮を繰り広げるその様、まさに悪鬼。
それでも血に塗れた彼女が美しいと思ってしまった。

83.影濃くなれども
闇の道を歩んで、差し伸べられた手はすべて払うつもりだったというルビカンテにゴルベーザのIFが見えたような気がするんだよな。
ルビカンテは星の巡り合わせがいいんだろうなあ。
リンクとライバル兼パートナーのような関係になったけど、言動がまんまツンデレのそれだもんな。
そして憎しみさえある退魔の剣をそれでも振り続け、それが紡いだ縁に感謝するリンクはやっぱり勇気ある者のそれだと思う。
そしてマスターソードとトライフォースでリンクの重要度が一気に上がったね。
マーダーは近くにいないし、うまく同志と合流を果たしてほしいところ。


982 : 名無しさん :2022/09/06(火) 21:33:47 bD2UUm7E0

84.炎と森のカーニバル
この乱戦は絶対に面白くなる。
ごく近い場所でおこなわれる局地戦×2というだけでも不確定要素多すぎなのに、
誰が誰に気付いているか、誰が何を知らないかが錯綜していて、どういう展開になるのかがまったく読めない。
フィールドは森で障害物は多く、爆弾や炎で炎上し、辺りも暗くて視界もよくない。
この環境下において、吉良がナナとの裏取引を暴露するのか、ユウカがいつ襲い掛かるのか、デマオンの怒りがどこまで波及するのか、
バツガルフとアイラだって、願いを叶える黒幕の正体という重要情報を握っててどう転がるか分からない。
ただ、面白くなると思うけどこの続きを書くのはパワー使いそう。がんばって。

85.破滅の足音
早人はさすが吉良の変装に気付いただけのことはあって、なんとかスクィーラの正体だけははぎ取れたね。
ただ、向かってる先はスクィーラどころか吉良がいるうえに大乱戦やってるからめちゃくちゃ危険だぞ?
ほんと気が抜けないのでがんばれ。


いくら攻撃しても倒れないクッパ、HP1から減らない疑惑をかけてもいいかな?
今のところスクィーラはギリギリで制御できてるけど、いつ自分に向くかはそりゃ怖い。
それこそ、遠いとはいえピーチの死体なんて見つけた日にはどう暴れるかまったく予想できない訳で。
というかできるだけ穏便に切り抜けようとしたの台無しにしてマーダーバレするのはちょっと気の毒。

ヤンとシャークアイ、これはどうしようもないよなあ。
攻撃は強力だけど見た目は死にかけなので最初に狙われるヘイトタンカー・クッパ。なのに固いしぶとい倒せないのまさに浮沈艦、
沈めるなら大技必須で、そのためにパワーを溜めればスクィーラが後ろから刺してくる。
初見殺しのギミックじみててきっついなあ。
キアリー不発、最期に一矢報いようとすればダンシングダガーの不意打ち、執念をすべて潰されて完敗、うわあぁぁぁ……ってなる。

86.忘却も、思い出も
傷つきやすいけど決して壊れないというのび太の表現が好き。
のび太は勇気のトライフォース宿せそうだもんな。
ドラえもんに導かれるように歩み、彼ら二人で心ゆくまで話し、大丈夫だと言い切る。
のび太以外には決して分からないけれど、二人の間には確かな繋がりがあって、決してなくなることはないんだな。
のび太も、のび太を理解して見守る覚も、確かな次の一歩を踏み出した気がするね。

87.未来へ
ダルボスだけが巻き戻ったと思い込んでいたから、首輪ごと素材に戻ったのは予想外かつ、よかった、と思う。
影の結晶、クリスタル、マスターソードとピースも徐々にそろってきたね。
ミドナもクリスチーヌも真理亜と因縁浅からぬ関係だけれども、私怨を超えた先を見据えたのがまさに『未来へ』という感じでいいなあ。
ただ、ミドナがやってること、『ここはワタシに任せて先に行け』なので特大の死亡フラグにしか見えないけれど。
悪鬼相手ですごぶる分が悪そうだけど、次話からするに守も向かってきてるから、なんとか足掻いてほしいところ。

88.たとえ弱い環であっても
カインは現実主義者以外になれないところにコンプレックス持ってそうだけど、
意見の違う相手ときちんと言葉をかわして、歩み寄って、できることを最大限やれるなんて、こんなに話の分かる相手はそうそういないぞ?
守やミキタカからの信頼は割とカンストに近いし、パーティとしての雰囲気もすごくいい。
東にはローザも真理亜もいるし、ぜひとも間に合っていただきたいところ。
もっとも、近くにいるリンクやルビカンテと食い合わせが悪くてどう転がるか分からんのがまだ怖いところだね。

そんでな、シリアスやってるところに突如ぶち込まれたティッシュと開発室は衝撃でしょ。
これは困惑する、一体なんの話をしているのだ……ww



続きも応援してます。


983 : ◆vV5.jnbCYw :2022/09/07(水) 00:19:33 zLcq2YL20
感想ありがとうございます。
1話だけでも十分嬉しいというのに、88話まで重厚な感想を書いてくださって本当にうれしいです。
今まで書いていた内容を思い出して、懐かしい気持ちになりました。
特に24話、55話、67話、68話、82話の感想が好きです。
このようなものを書いてくださって、この企画を立てて今まで書いて来てよかったという気持ちになりました。

本ロワが何話で終わるのかはまだ未定ですが、このまま最終話まで楽しみにしておいてください。


984 : ◆vV5.jnbCYw :2022/09/16(金) 00:20:57 5xVrWERg0
メルビン、キョウヤ予約します。


985 : ◆vV5.jnbCYw :2022/09/18(日) 17:33:32 2inTxccU0
投下します。


986 : 2丁目にあるのは廃図書館 カギがあるのは天か地か ◆vV5.jnbCYw :2022/09/18(日) 17:34:44 2inTxccU0
バイクで去って行った仗助達を見送ってから、メルビンとキョウヤは北へ歩き始めた。
幸か不幸か誰とも会うことは無く、襲われることも無かった。
1時間と少し歩き続けることになったが、神の兵隊だったメルビンと、不死の回復力があるキョウヤは、その程度の行脚でへばることは無い。


ただ一つ、図書館へ向かう道すがら、奇妙なものを見つけた。
それは空に霞んで見えた、湖の上を飛ぶ赤髪の少女だった。

「じいさん、アレが見えるか?」

キョウヤはおおよそ人間がいる場所ではなく、鳥や蝙蝠がいる方向に目を向ける。
メルビンもそれに同調するかのように、同じ方向を見た。

「わしはそこまで耄碌しておらぬぞ。上からボン、キュッ、ボンの女子(おなご)じゃな。
アイラに比べると発展途上だが、もう1,2年もすれば効果覿面なパフパフが出来るじゃろう。」
「……。」

メルビンの謎の品評を無視して、キョウヤは大声を出す。

「おーい、聞こえるか!俺達は殺し合いに乗ってないぞ!」

キョウヤとしては見ず知らずの彼女をどうしても仲間に引き入れたいという訳ではない。
だが、彼女が向かおうとしている方角には、マリオという危険人物がいる。
殺し合いに乗っているにせよいないにせよ、向かわせれば良いことが起こるとは思えない。

それに、他に同行者はいないようだが、ナナやユウカ、レンタロウの情報を持っているかもしれないので、話しかけておいて損は無いと思った。

「寂しいでござろう!わしの胸に飛び込んでくるでござるよ!!」


しかし、距離が離れすぎていたため、そのまま見えなくなってしまった。
彼女、秋月真理亜は見えない所まで行ってしまった。
彼ら二人は空を飛べる能力を持っておらず、船のような道具もない。

「せ、折角可愛い女子に会えたのに、残念でござる〜。」

不屈の老兵は、スロットで大外れを引いたばくち打ちのように、へたり込む。およそ伝説の英雄とは思えないふるまいだ。
何もそこまで落ち込まなくても良いんじゃないかと言おうとしたが、敢えて言わないことにした。
代わりに別の皮肉を言うことにした。


「じーさんを恐れたんじゃないのか?」
「……キョウヤ殿は女子に振られた気持ちは分からんでござるか?」
「そう言う問題じゃない。」

その後は特に目ぼしい物さえないまま、図書館にたどり着いた。

「図書館はどこだ?地図を見たらこの辺りのはずなんだが……。」

確かにこの辺りのはずなのに、それらしき建物は見えない。
二人の目の前には巨大な消し炭の塊が転がっているが、これじゃなかろうと。
このまっくろくろすけレベル99のどこに、本を内蔵する力があるのかと。
怪訝な表情で、目の前の図書館とは思えない姿の何かを見つめる。


987 : 2丁目にあるのは廃図書館 カギがあるのは天か地か ◆vV5.jnbCYw :2022/09/18(日) 17:35:12 2inTxccU0

「恐らく、ここのことでござるよ。」


後ろには線路、南西には森、南には大魔王の城。
位置関係からしてこれこそが図書館、その成れの果てだと考えるのが妥当だ。
キョウヤ自身も薄々感づいてはいたが、これが図書館だったら、自分たちの目論見は水泡に帰すことが確定している

彼らは知らない。
本を読む場所だったここは、激しい戦いの果てに、見るも無残な姿になってしまったことを。
ましてや先程姿をちらりと見えた少女が、この惨劇の下手人だったことなど、知る由もない。


「ガス爆発でも起こったか?」

キョウヤが思い出したのは、かつて自分の寮で起こった事故。
鼻が利かないことが原因で、ガス漏れに気付かず、不注意に付けた火が原因で起こしたことだ。
最もそれは不死の能力により事なきを得たのだが。


「火事の下手人は近くにおらぬようだが……それよりも、炎を使う者がいた可能性が高いでござる。」
「俺と同じ学校にいたモグオって奴みたいにか。」

この殺し合いにはいないクラスメイトのことを考えながら、キョウヤは瓦礫と化した図書館の敷地に入る。

「キョウヤ殿?流石にそこには何もないはずでござるが……。」


キョウヤは瓦礫を持ち上げ、外側に投げ捨て、また次の瓦礫を持ち上げては捨てる。
これまでの頭脳担当から打って変って、土木作業の従事者のような行為をしていることに、メルビンも面食らった。


「わしも手伝うでござるよ。」

何度かその工程を繰り返すと、そこからは小太りの少年と思しき焼死体が現れた。
右手だけは瓦礫から外に出ていたため、そこに埋められていたのだと察しは付いていた。
焼死した少年、矢安宮重清の遺体を掘り出したのは、勿論弔ってあげるような仏心から来たものではない。
一つでも多く、首輪を回収したいからだ。


988 : 2丁目にあるのは廃図書館 カギがあるのは天か地か ◆vV5.jnbCYw :2022/09/18(日) 17:35:50 2inTxccU0
「妙でござるな……。」

重清に付けられた首輪を見たメルビンは、眉を顰める。

「奇遇だな、じーさん。俺も同じことを思ってた。」

2人は疑問に思った。
首輪に上から圧力がかかった場合、その衝撃で首輪が誤作動を起こすのではないかということだ。
そもそもの話、メルビンやキョウヤを含めた大半の参加者が力づくで首輪を解除しようとしなかったのも、それを恐れてのことだ。
だというのに、死体に付けられた首輪は作動することもなく、瓦礫の下で惰眠を貪っていた。
首輪は焦げ目は付いており、あちこちに傷が入っているが、ゴルベーザの時のように作動した名残は無い。
作動しておれば、彼の首より上は丸ごと消えているはずだ。


キョウヤは早速首輪について話をしようと、寮にいた時と同様に本棚から本を取り出す。
しかし、中はボロボロに炭化しており、メモなど取れる隙間は無い。
仕方がないので、寮から持って来た本をザックから出し、書きこんでいった。


『燃えた本棚に潰されるほどの圧力がかかった上で首輪が作動しないのはおかしくないか?』
『ワシが思うに、2つほど仮説があるでござる。』

メルビンは思い当たる節を纏めていく。

・首輪は高熱に弱い。長時間炎に当てられると機能を停止する。
・首輪の持ち主が死した瞬間、首輪としての役割を放棄し、ただの金属の輪に戻る。

前者はプロトキラーのような機械系モンスターからの連想だ。
金属の身体を持つ彼らは防御力が高く、剣や拳などの物理攻撃では倒すのに苦労するが、炎の攻撃は普通に通る。
金属の首輪ならば燃えることはないが、それでも機能を著しく低下させることが出来るかもしれない。

後者は、キョウヤがセシルの首輪を、禁止エリアに投げ込んだ時から連想した。
あの時の首輪は、禁止エリアに入ったというのに警報は鳴らなかった。
この少年は首輪が作動する前に火事に巻き込まれて死んだ。
即ち、首輪が作動するほどの衝撃を受ける前に、動かなくなったということだ。


『どちらにせよ、首輪を解除するカギになるかもしれないな』

その時、キョウヤは閃いた。
付けている者の死に応じて、あるいは高温に応じて動かなくなるというのなら。
『首輪作動の瞬間』を何らかの手法でやりすごせば、解除につながるのではないか。


自分の寮の本棚にあった一冊の書物を。
この世界では、中身が真っ白になっていた本を。
様々な分野の本の中には、『人体解剖学』や『東洋の医学書』など、医学に関係する本も沢山あった。


989 : 2丁目にあるのは廃図書館 カギがあるのは天か地か ◆vV5.jnbCYw :2022/09/18(日) 17:36:20 2inTxccU0

『仮死状態にする方法を知っているか?』


キョウヤが思い浮かんだことはいたってシンプル。『死を偽装する』ということだ。
首輪が参加者の死に伴って活動を停止するというのなら、仮死状態になった後何らかの手段で生き返れば、首輪は勝手に動かなくなるのではないか。
かつて彼が読んだ漫画にも、死んだと見せかけることで殺し屋の魔の手から逃れる男が出たことがある。

この図書館にある本は、全てがボロボロに炭化しているが、辛うじて文字が書いてあったことだけは分かった。
この図書館の本に文字が書いてあって、寮にある本には文字が書いてない。
その違いを考えると、寮にある本は、この殺し合いに関する何かが書いてある可能性が高い。
そして自分は、全て覚えているわけではないが、何冊かはどんな本だったか思い出すことが出来る。


『戦うことが出来ぬ状態のことを指すなら、その通りでござる。』
『俺のイメージとは違うが……どうすればいいんだ?』
『体の許容量を超えた攻撃を受け続けるか、あるいはザキ系の呪文を受けるかでござるな。』

明らかに自分が考えている仮死状態とは違うと思ったが、筆談を続けた。
キョウヤの仮死のイメージは、あくまでコールドスリープや薬による、休眠状態のことだ。
例えるなら変温動物の冬眠のように、相手からの外傷を受けることなく、身体の機能をストップさせることである。
残念なことに、キョウヤもメルビンも恒温動物たるヒトであるため、冬眠は出来ない。
従って何らかの外的手段で仮死状態に入り、尚且つ戻る外的手段なり道具なりが必要ということだ。


『じゃあ、どうすればその状態から元に戻ることが出来る?じーさんやローザって女の回復魔法で出来るか?』
『戦闘不能は負傷とは違う。蘇生魔法か、世界樹という木の葉が必要でござるな。』

その文字を読んで、キョウヤは落胆を覚えた。
前者が使えないことが分かっているし、後者はこの会場にあるかさえ分からない。
仮死状態になることで首輪を無効化させる案が現実的でないと分かった瞬間、もう一つ思い付くことがあった。


(あの時、首輪はどうなった?)


小野寺キョウヤは、この殺し合いの最中に一度死んでいる。
杜王駅でマリオのジャバラジャンプを顔面に食らった際に、首の骨を折られた。
あの時、激痛と共に真後ろの光景が見えたのは今でも覚えている。
だが、心臓が止まった訳でも、脳が停止したわけでも無かったので、死んだ判定をされなかったとも考えられる。
不死身の能力が制限されている中、流石に自分で死ぬわけにはいかないし、実験しようにも不死者というサンプルが少なすぎる。


990 : 2丁目にあるのは廃図書館 カギがあるのは天か地か ◆vV5.jnbCYw :2022/09/18(日) 17:37:15 2inTxccU0
(生命反応を感じなくなればすぐに首輪が停止するのではなく、一定の時間が必要なのかもな。)


『キョウヤ殿としては、その仮死状態とやらで心当たりがあるでござるか?』
『こっちも道具なしでは無理でござるな。』


少なくともキョウヤの考えた『死を偽装して首輪を無力化する』という案は、実践するにはハードルが高すぎるようだ。


「ところでキョウヤ殿、どうして最後にござると書いたのでござるか?」
「じーさんが態々書いている理由が気になってな。俺も書いてみれば分かるかもしれないと思ったんだ。
俺はよく人当たりが悪いと言われているから、どうにかして仲良くなれる方法を探していてな」
「……別に気にしなくても良いと思うでござるよ。それと無理して口真似をする必要もないでござる。
キョウヤ殿は理知的で良き若人でござるよ。」
「そうか。」

キョウヤはどことなく嬉しそうな顔を浮かべる。

「他にも手掛かりになりそうな物はないでござるか?」

メルビンも、瓦礫にザクザクと音を立てながら、歩き続ける。


キョウヤとしては、もう1つ気になることがあった。
疑問の発端は、ここへ来る途中に、あの空を飛ぶ少女を見たことだ。
空を飛ぶことで、この殺し合いから逃れる、あるいは脱出することが可能なのではという疑問だ。


大分今更の話だが、キョウヤは空を飛ぶことは出来ない。
メルビンもまた同様だ。ルーラなどの移動魔法は、この場所では制限されている。
戦いに関しては弓矢や魔法で迎撃することが出来るにしても、逃げに関してはこれほど便利な能力は無い。
殺し合いに乗った危険人物から逃げるどころか、この殺し合いからも逃げることが出来るはずだから。


991 : 2丁目にあるのは廃図書館 カギがあるのは天か地か ◆vV5.jnbCYw :2022/09/18(日) 17:38:22 2inTxccU0

『もう一つ聞きたいことがある。じーさんの世界には空を飛ぶ方法があったか?』

キョウヤの世界ならば、飛行機やヘリコプターがある。はたまた空を飛ぶ能力の持ち主だっているかもしれない。

『飛空石というものがあるでござる。』

天上の神殿にあった、世界を自由に飛行できる魔法の石。
神の力を使えば、重力の楔を打ち払うことが出来る。

「誰かの支給品には……無いだろうな。」

ルーラさえ使えなくなっている世界だ。
そんなものが置いてなくても、何ら不思議ではない。


「どうして聞いたでござるか?」
『この殺し合いに来る前に、俺達が集められた場所は、海の向こうにあるかもしれないと思ったんだ』


キョウヤはかつて、孤島の学校で能力者だけで集められた。
その場所が人類の敵に襲われ、人が次々に死んでいった。
人類の敵だけではなく、その騒ぎに乗じて人を殺す能力者も現れた。
まさしく、この殺し合いのような状況だった。

だが、あの学校、はたまた能力者を1か所に固めるプログラムを作った第三者が、本土、即ち海の向こうにいるのかとも考えていた。

彼としては、首輪のみならず、この殺し合いの場からの脱出も念頭に入れていた。
いくら首輪を解除できても、元の世界に戻れなければ、主催者は殺し合いを進めるための第二第三の手段を打って来るはずだ。


『空を飛べたとしても、恐らく地図の外側は禁止エリアになっているから、その先に行くのは難しいでござるよ』


その時だった。
何歩か歩いたのち、彼の足裏に、これまでとは違う感触が伝わった。

「イオ。」

彼が突如魔法を地面に放つ。
小規模ながらも、爆発が瓦礫を吹き飛ばした。

「じーさん?」

突然魔法を放ったことに驚きを隠せなかった。
だが、キョウヤはそれ以上に驚くことが、メルビンがいる方向にあった。


「イオ」

彼がもう一発、爆発魔法を放ち、倒れた本棚を吹き飛ばす。
そこには、空洞が開いていた。


(地下道!!?)

誰が気付くだろうか。
図書館と聞くと、誰もが本に夢中になりがちで、本棚にはあまり気付くことはない。
ましてや本棚のしたにある隠し階段など、分かるはずもない。
何の皮肉か、図書館が火事になったことで、カモフラージュの絨毯と本棚が焼け焦げたことで、空洞が露わになったのだ。


992 : 2丁目にあるのは廃図書館 カギがあるのは天か地か ◆vV5.jnbCYw :2022/09/18(日) 17:39:29 2inTxccU0

(まさか、殺し合いの鍵は、天ではなく地にあるのか?)


『キョウヤ殿、入ってみるでござるか?』
『ああ。折角見つけたというのに入らない訳にもいかないだろう。それと危なくなったら、互いにこれを投げるぞ。』

念には念を入れ、筆談の後入ってみることにする。
そのついでに、キョウヤはメルビンに『鬼は外ビーンズ』を2粒渡した。
何でも投げると、建物の外に出ることが出来るらしい。
今まで屋外にばかりいたので、しばらく使うことは出来なかった。

降りるとすぐに、とても長い階段になっていた。
通路を壁に掛けられた燭台が照らしている。
ご丁寧に両サイドには手すりまである。


火が付いていることから、毒ガスが充満していたり、空気が無かったりすることはないようだ。
長い階段をゆっくりと降りていく。


この先には一体何が待ち受けているのか。
そんなことを考えている途中で、オルゴ・デミーラからの放送が流れた。
そして、この場所でも関係なく地震が起こる。


「キョウヤ殿、捕まるでござるよ!!」

地震のせいで階段から落ちて首の骨を折って死ぬなんてシャレにならない。
しゃがんで手すりに捕まり、重心を出来るだけ低くする。

辺りが静かになると、メルビンが最初に声をかけた。
キョウヤの数倍、封印されていた時間も加算すると数十倍の人生を歩んできたメルビンとて、たった今起こったことは受け入れ切れなかった。
自分を復活させてくれた少年アルスの死。そして、東方仗助とビビアンの死。


(すまん……!ジョウスケ殿……ビビアン殿……それにアルス殿まで……!!)


長年生きるにつれて、様々な後悔を吞み込んできたメルビンでさえも、これには堪えた。
自分も仗助達を追いかけていれば、いや、そもそも無理矢理でも止めていれば。


だからこそ、キョウヤに話しかけた。
もしもこの場に誰も居なければ、膝を屈し、自分より長く生きるべき盟友達の喪失を嘆き続ける哀れな老人になっていたからだ。
キョウヤこそが、正確に言えば彼の視線こそが彼を英雄たらしめる人間だった。


「じいさん。無理しないでくれ。」


対照的に、キョウヤはあまり放送に関してはあまり思う所が無かった。
東方仗助とは確かに6時間以上一緒にいた同盟ではあるが、だからといって無二の友という訳でもない。
ほんの一時しか共に過ごしていないビビアンは猶更だ。
そして元の世界で呼ばれた知り合いも、さほど思い入れのある人物でもないレンタロウのみ。
むしろ図書館の焼失と、まだ名前を呼ばれていないバツガルフの方が気がかりだった。


「言われずとも、無理などしておらぬでござるよ。」


その会話の後、なおも2人は階段を降りていく。
永遠に続くとも思われた階段も、やがて終わりが見えた。


993 : 2丁目にあるのは廃図書館 カギがあるのは天か地か ◆vV5.jnbCYw :2022/09/18(日) 17:39:57 2inTxccU0

その先で2人を迎えたのは、巨大な扉だった。
高さは優に3mを越え、渕は金色に彩られ、右と左で赤と緑の龍がそれぞれとぐろを巻いている。
その両隣りには、奇妙な姿をした人間の石像が構えている。
『ここから先はお偉方しか入れませんよ』と語っているかのような造りだ。
キョウヤは早速開けようとしてみたが、残念ながら押しても引いてもびくともしない。
大きさからして、剣や魔法などでこじ開けられそうもない。


よく見れば、鍵穴のようなものが真ん中にある。
だが、2人の支給品には鍵も、その代理品になりそうなものもない。


ここまできて無駄足だったかと考え、鬼は外ビーンズをポケットから出す。
しかし、門にばかり目を向けていたキョウヤとは対照的に、メルビンが注目していたのは、石像の方だった。


「じーさん……」
「静かにするでござる。」


すぐにメルビンは門に手を触れ、白髭に覆われた口をパクパクさせる。
キョウヤはただそれをキョトンとした目で見ることだけしか出来なかった。


「終わったでござる。キョウヤ殿、さっきの豆を。」

あの階段を上るのは面倒なので、互いに鬼は外ビーンズを投げ合うことで、図書館の外に戻った。


「じーさん。さっき何をしていたんだ?」
「門の隣にあった石像に、メッセージを吹き込んだのでござるよ。」
「そういう……能力を持っていたのか?」
「伝説の英雄の力と思えばいいでござる。」


メルビンはかつて、エスタード島の魔法の石像を通じて、遠い場所からメッセージを送った。
その時と同様、廃図書館に来た者、特に鍵らしきものを持っている者にここの地下にある階段のことを伝えようとした。


994 : 2丁目にあるのは廃図書館 カギがあるのは天か地か ◆vV5.jnbCYw :2022/09/18(日) 17:40:14 2inTxccU0

だが、あの場所は紛れもなくこの殺し合いの軛から外れた場所。
最初の一度だったからたまたま首輪の作動もしなかっただけで、次に誰かが入れば、禁止エリアに入ったと見なされるかもしれない。
仗助達を見送った時と同様に、自分たちの判断が間違っているのではないか。


「ひとまず、鍵を持っている者を探すでござる。」

しかし、鍵は本当にあるのか。
そして、たとえ出られても首輪を解除できないと、その先で首輪を爆破される可能性がある。
下手をすると、鍵を開けた瞬間ドカンと行く可能性だって少なくない。


自分たちのやっていることが正しいのか、ただそれだけが気になった。



【B-5 図書館跡/一日目 日中】



【メルビン@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち】
[状態]:健康 喪失感(中)
[装備]:勇気と幸運の剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜5(一部ノコタロウの物)
[思考・状況]
基本行動方針:魔王オルゴ・デミーラの打倒
1.自分とノコタロウと早季の仲間を探し、守る
2.小野寺キョウヤと共に、扉の鍵の場所を探す
3.バツガルフ、クッパ、ユウカ、吉良には警戒

※職業はゴッドハンドの、少なくともランク4以上です。
※ジョジョ、無能なナナ、FF4、ペーパーマリオの参戦者に関する情報を得ました。


【小野寺キョウヤ@無能なナナ】
[状態]:健康
[装備]:モイのバズーカ@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス (残弾2/5)
[道具]:基本支給品(切符消費)、替えの砲弾×5 ランダム支給品(×0〜1 確認済) 鬼は外ビーンズ×8@ドラえもん のび太の魔界大冒険 セシルの首輪 首輪に関するメモを書いた本@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:主催者が何を考えてるのか。少なくとも乗る気はない。
1.首輪や主催に関する更なる情報を得る
2.バツガルフ・マリオへの対策の考案。
3.知人の捜索。優先順位は佐々木>柊。
4.メルビンのじーさんはおもしろい人だな
5.吉良吉影、柊、バツガルフに警戒。
6.あの扉は何だったんだ?脱出経路だといいが…。
※参戦時期は少なくとも犬飼ミチルの死亡を知った時期より後です。
※不老不死の再生速度が落ちています。少なくともすぐには治りません。
※死亡した場合一度死ぬと暫くは復活できません。
※別の世界の存在があると理解しました。
※この殺し合いが強力なスタンド使いを作るため、と言う仮説を立ててます。
※ジョジョ4部、DQ7、FF4、ペーパーマリオの情報を得ました。



※図書館焼け跡から、地下に行けるようになりました。また、図書館跡に来ると、メルビンのメッセージを聞くことが出来ます。
※首輪は付けている者の生命反応に応じて動きます。逆に、生命反応が一定時間見られなくなると、停止します。


[支給品紹介]

鬼は外ビーンズ×10@ドラえもん のび太の魔界大冒険

小野寺キョウヤに支給された秘密道具。
投げると建物の中から外へ瞬間移動できる。勿論この殺し合いの会場から脱出することは出来ない。
大長編では、のび太が猫になった美夜子を、野良猫と間違えて追い出してしまう時に使った。


995 : 2丁目にあるのは廃図書館 カギがあるのは天か地か ◆vV5.jnbCYw :2022/09/18(日) 17:40:27 2inTxccU0
投下終了です。


996 : ◆vV5.jnbCYw :2022/09/18(日) 18:08:42 2inTxccU0
もう少しで1レス目が1000レスになりそうなので、2レス目を立てました。
これからは投下などは表裏バトル・ロワイヤル 2nd Stageにしていくつもりです。


997 : 名無しさん :2022/09/20(火) 09:41:58 iJ9HLfLM0
投下乙!


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