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バトル・ロワイアル 〜狭間〜

1 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/18(土) 11:48:06 ID:EjSdNpAY0
【参加者一覧】

【ハヤテのごとく!】7/7
〇綾崎ハヤテ 〇三千院ナギ 〇マリア 〇鷺ノ宮伊澄 〇桂ヒナギク 〇西沢歩 〇初柴ヒスイ

【ペルソナ5】7/7
〇雨宮蓮 〇坂本竜司 〇高巻杏 〇モルガナ 〇新島真 〇明智吾郎 〇刈り取るもの

【はたらく魔王さま!】6/6
〇真奥貞夫 〇遊佐恵美 〇芦屋四郎 〇漆原半蔵 〇鎌月鈴乃 〇佐々木千穂

【小林さんちのメイドラゴン】6/6
〇小林さん 〇小林トール 〇小林カンナ 〇上井エルマ 〇滝谷真 〇大山猛(ファフニール)

【魔法少女まどか☆マギカ】5/5
〇鹿目まどか 〇美樹さやか 〇巴マミ 〇佐倉杏子 〇暁美ほむら

【暗殺教室】5/5
〇潮田渚 〇赤羽業 〇茅野カエデ 〇狭間綺羅々 〇烏間惟臣

【モブサイコ100】4/4
〇影山茂夫 〇影山律 〇霊幻新隆 〇花沢輝気

【虚構推理】4/4
〇岩永琴子 〇桜川九郎 〇弓原紗季 〇鋼人七瀬

合計 44/44

【まとめwiki】
ttps://w.atwiki.jp/hazamarowa/sp/

2 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/18(土) 11:50:59 ID:EjSdNpAY0
【基本ルール】
特設会場にて殺し合い、優勝者のみが生還できる。優勝者は一つだけ、どんな願いでも叶えてもらえる。

【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していたものは衣服を除き全て没収。ただし、義手・義眼などはその限りではない。
ゲーム開始時、参加者は以下の物を「ザック」にまとめて支給される。

「ザック」
ものを無限に収納することができ、重量も感じないザック。

「参加者名簿」
参加者全員の顔と名前が五十音順に書いてある。

「地図」
会場の地図。座標を示す線が引かれている。

「コンパス」
方角が分かる普通のコンパス。

「筆記用具」
普通の鉛筆と紙。

「水・食料」
約三日は身体機能に不調を来さず過ごせる程度の水と食料。

「時計」
安っぽい腕時計。

「ランタン」
暗闇を照らすことができる。

「不明支給品」
何かの道具や装備品が1〜3個入っている。

【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者の発表を行う。

【予約】
期限は7日間とするが、目に余るキャラの独占が無い限り延長は可。

【状態表テンプレ】
【座標(A-1など)/詳細場所/日付 時間】
【キャラ名@作品名】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
3.

【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24

3 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/18(土) 11:51:56 ID:EjSdNpAY0
【会場説明】

・会場全体図
ttps://w.atwiki.jp/hazamarowa/sp/pages/11.html

・施設
〇負け犬公園@ハヤテのごとく!(D-3)
〇喫茶店ルブラン@ペルソナ5(E-5)
〇マグロナルド幡ヶ谷駅前店@はたらく魔王さま!(E-6)
〇花見会場@小林さんちのメイドラゴン(E-2)
〇見滝原病院@魔法少女まどか☆マギカ(C-5)
〇椚ヶ丘中学校別校舎@暗殺教室(A-4)
〇霊とか相談事務所@モブサイコ100(F-5)
〇真倉坂市工事現場@虚構推理(B-2)

他施設は原作の無い場所。その中身は書き手の裁量に一任する。


【特殊ルール】

会場はペルソナ5における認知世界(パレス)の現象が適応され、ペルソナ5由来の人間は怪盗団の姿に変わる。ただしパレスの主の認知の歪みによる世界改変などは行われない。

例えばパレス内では参加者が「殺し合いの世界」であると認知しているため、凶器の形を持つ支給品には殺傷力が付与される。(例:対先生用ナイフ@暗殺教室が人間の細胞も破壊する。)
正直に言えば、当ロワの参戦作品では基本的に作中で実物の凶器をほとんど扱わないが、それでも支給品のレパートリーに困らないようにするための仕様。
展開上で認知世界だからこそ起こる現象を扱うことは構わないが【例:その場の全員がキャラAを死んだと認知したためにキャラAは死亡した。】といった従来のパロロワの世界観から極端に逸脱する現象は起こらないものと考えて良い。

【各作品の注意事項一覧】
・ここに載っていない事項は書き手の裁量に一任するものとする。

【ハヤテのごとく!】
シナリオは漫画版準拠。参戦時期は白皇学院大バブルクリスマスの日を迎える前(12月24日以前)に制限。

【ペルソナ5】
基本的な設定はゲーム版ペルソナ5準拠だが、戦闘方法などは部分的にアニメ版・漫画版に沿っても構わない。
参戦時期は異世界消滅前(12月24日以前)に制限。

【はたらく魔王さま!】
会場ではエンテ・イスラ同様、全キャラがある程度の魔力を外気から得ることができるものとする。

【小林さんちのメイドラゴン】
トール、カンナ、エルマ、ファフニールの全身ドラゴン化・何かと万能な一部の魔法や超能力は万能でない程度まで制限。身体の一部をドラゴン化することや、翼による飛行は可。

【魔法少女まどか☆マギカ】
参戦時期に制約。以下の参戦時期は禁止とする。

鹿目まどかの契約後(因果律改変後)からの参戦。(全員)
魔女化した後からの参戦、または魔女化直前からの参戦。(全員)
魔法少女まどか☆マギカ外伝からの参戦。(全員)
最終的にタイムリープされた世界軸からの参戦。(全員)

【暗殺教室】
茅野カエデの参戦時期を触手乖離後に制限。
また、全員の参戦時期を最終暗殺計画の実行前(世間が殺せんせーを認識する前)に制限。

【モブサイコ100】
特に無し。

【虚構推理】
特に無し。

4オープニング ◆2zEnKfaCDc:2020/04/18(土) 11:53:49 ID:EjSdNpAY0
 己が現実に差す幻想の世界を、人々は知らない。
 例えば、現実の裏側から相互に影響を与え合う認知の世界。
 例えば、願いの代償に絶望を撒き散らす魔法少女。
 例えば、負の感情の爆発によって開かれる庭城に封じられた王族の力。
 例えば、日常の至るところに潜む妖怪・あやかし・怪異・魔と呼ばれる者たち。

 それらは全て人々の生きる日常と共に、されど人々に気づかれることなく進行している。

 そう、人々は知らない。現実と幻想の『狭間』を生きる者たちの存在を―――

5オープニング ◆2zEnKfaCDc:2020/04/18(土) 11:54:31 ID:EjSdNpAY0




(ここは……?)

 ヒヤリと頬に差し込む冷たさによって桂ヒナギクは目を覚ました。そして次の瞬間、全細胞が違和感を訴える。目を開くや否や飛び込んできた光景と、そこにあるべき日常の感覚とが合致しないのだ。

 ここが昨夜眠りについたベッドルームのままであれば当然あるはずの照明器具の類が天井に見当たらない。睡眠を共にしていたふかふかのベッドもぬいぐるみも影も形も見えず、それらと対極的な床の硬さばかりが感じられる。

(そっか、いつもの夢オチね……。)

 と、経験則から来る独自の解釈を脳裏に浮かべつつ起き上がる。そうでなければ辻褄が合わない。見知らぬ場所にいるのも、いつの間にか白皇の制服を身にまとっていることも。

 そう、これはきっといつもの夢。あの日から何度も何度も見た、私の願望。夢の中であの人が現れて、現実ではまず言うことの無いであろう甘い言葉を囁くのよ。いつもならそこで動揺して目が覚めちゃうけれど――大丈夫、今は心の準備ができているもの。今日こそは、絶対に動じないんだから!

 心の中でファイティングポーズを取って身構える。そんな私を待っていたのは―――



「あのぉ……大丈夫ですか?」

「えっ……?」

―――己を覗き込む、1人の少女の姿であった。

「え、ええ。大丈夫よ。」

 不覚にもお約束と言わんばかりに動じてしまったが、それを誤魔化すように立ち上がろうとする。少女は手を貸してくれたので、素直にその手を取ることにした。

「ありがとう。ええと、貴方は?」

 目線を合わせて改めて相対してみると、目の前の少女はかなりの美少女であることが分かる。

 友人の歩を思わせるような大胆なツインテール。白皇学院の制服よりも深い赤を基調とした従業員服を着こなした立ち姿。うっかりジェラシー混じりの怨嗟を零してしまいそうなほど主張の強い胸元。そしてそれら美少女たる要素を丸ごと台無しにしてしまうだけの存在感を放つ鉄製の首輪。

「私、佐々木千穂っていいます。気がついたらいつの間にかこんな所にいて……」

「そ、そうなんだ。私は桂ヒナギク。でも変ね……一体何が起こってるのかしら。」

 一点ツッコミたい衝動に駆られつつも、何とかこれが現実であると認識して毅然と振る舞い始める。

 仮にも自分は名門校、白皇学院に通えるだけの経済力のある仮の両親の下で生活している。
 そんな自分を狙った誘拐の類だろうか。

6オープニング ◆2zEnKfaCDc:2020/04/18(土) 11:55:47 ID:EjSdNpAY0
 そんなことを考えていると、不意に自らの首に違和感を覚えた。
 手を首元にやると、その様子を見た千穂が口を開く。

「それ、何なんでしょうね。首輪のようですけど……。」

 千穂に言われ、間もなく気が付いた。自らの首にも千穂と同じ首輪が嵌められているということに。

「何よこれ、いつの間に?」

 辺りを見回してみると、あちこちに同じ首輪を嵌めた人物がいることに気付く。
 数にすれば数十人といったところだろうか。

「って……ハヤテくん!?」

 その中には、先ほどのファイティングポーズの行く先であった想い人、綾崎ハヤテの姿も見受けられた。
 その後ろ姿を見つめる私の横顔を見た千穂は小さく笑みを零した。

「良かった。ヒナギクさんも居るだけで安心できる人を見つけられたんですね。」

 私は一瞬言われたことの意味が分からなかったが、それを理解するや否や全力で否定する。

「えっ……?い、いや!ハヤテくんはそんなのじゃないわよっ!」

「ふふっ、その目を見れば分かりますよ。それじゃあ私も、そういう人と合流して来ますね。」

「ちょっ……聞きなさいったら!」

 そんな納得のいかない結末で千穂と離れ離れになろうとしている、その時だった。


「目が覚めたかな?」

 30人以上の人物のざわめきと比べれば大きい声でこそないものの、されど心に直接響いているかのような重い声。辺りは一瞬で沈黙させられた。
 その場の全員の視線は必然的にその声の発信元である部屋の中央の男へと集まる。

 それは一つ目の仮面を被り、白いフードに身を包んだ男だった。

「状況が分からない、そんな顔をしているね。君たちを連れてきたのはこの僕、姫神葵だ。」

 男の語ったその名には聞き覚えがあった。ハヤテくんが三千院邸に執事としてやって来る前にナギに仕えていた執事の名だ。でも、そんな彼が今さら何のために?

「こうしてわざわざ集まってもらったのは他でもない。」

 まるで結末を誘導されているかのように、口を挟む者は誰も居なかった。男が一息つくと、辺りの人々がごくりと息を呑む音が聞こえるほどに。

 そうして生まれた静寂の中。姫神は静かに告げた。

「君たちには、殺し合いをしてもらおう……そう思ってね。」


 その言葉が発せられた瞬間、辺り一面の空気が変わった。
 大まかに分けるのなら、事態の深刻さに気付いて立ち竦む者と即座に状況が理解できず戸惑う者がほとんどを占めていた。

 しかしそんな中でたった一人、異なる反応を示す者が現れた。

「おい、テメェ!ふざけたことぬかしてんじゃねえ!」

 その場の視線は声を上げた金髪の少年に注がれる。
 ある者は期待の眼差しを、またある者は無鉄砲な行いへの侮蔑の眼差しを込めて。

「坂本竜司―――さすがは、正義の怪盗を自称する者と言ったところかな?」

「なっ……!誰が怪盗だ!?し、知らねえぞオイ!」

 元々少なかったであろう期待の視線も更に弱まっていくように感じた。
 怪盗云々という言葉の意味するところは分からないが、竜司と呼ばれた男の反応からそれが図星であることは誰の目にも明らかであったからだ。


―――あのバカ……

 その時、誰かが小さくそう呟く声が聞こえた気がしたが、その声の方向には何の変哲もない黒猫が1匹佇むのみ。声が聞こえたと思ったのは気のせいだったか。ヒナギクは再び、反旗を翻した竜司という男に視線を戻す。

7オープニング ◆2zEnKfaCDc:2020/04/18(土) 11:56:31 ID:EjSdNpAY0
「ンなことより、殺し合いだぁ?冗談じゃねえ。お前が1人で死んでりゃいいだろうが!」

 竜司は拳をパキパキ鳴らしながら姫神に近付いていく。自身に架せられた首輪の意味を理解している者にも、いない者にも、その歩みを止める者はいない。

「でもね。生憎、僕は正義の味方が大嫌いだ。僕に楯突いたケジメは払ってもらうよ。」

 対する姫神。迫る暴力に対してポケットからスマートフォンを取り出す。当然それは抑止力にはならず、竜司は姫神を殴りつけようと振りかぶる。

 しかしそのまま突き出された拳は、次の瞬間にふわりと宙に浮いた姫神の胴体を捉えることができずに空を切った。

「クソッ!おい、降りて来い!」

「そういえば、まだ説明していなかったね。君たちのその首輪について。」

 地団駄を踏む竜司をよそ目に、姫神は取り出したスマートフォンをタップする。

「その首輪は、僕の操作ひとつで爆破するよう造ってある。」

「な、何だと!?」

『ピピピピピ……』

 次の瞬間、姫神の言葉を証明するかの如く不気味なアラーム音が辺り一面に響き渡る。

「見ておけ、正義の味方。」

 この場の全員の耳が、このアラーム音をトラウマ混じりの残響として記憶するのだろう。
 しかし誰よりも強く残響を残した者を挙げるのなら。それはきっとこの私、桂ヒナギクだ。

 何故ならアラーム音は、私のすぐ隣から聴こえてきたのだから。

「えっ、私……?」


―――バァンッ!!


 冷酷に命を奪い去るにはあまりにも豪勢すぎる爆発音が耳に刺さる。さっきまで私と話していた佐々木千穂がいた空間には、見るも無残な首の無い死体と血溜まりだけが残っていた。

 多くの人々の悲鳴が響き渡る。
 或いは、それだけの事態でも全く動じない者も見て取れる。

「嘘……でしょ……」

 私はそのどちらでもなく、ただただ呆然とすることしかできなかった。ここまで間近で『死』を経験したのは初めてだ。

 基本的に完璧超人たるヒナギクも、精神の芯はいち乙女。
 全身を包み込む生暖かい返り血の感触に、形容し難い類の恐怖を感じざるを得なかった。

 目眩・立ちくらみが身体を襲い、猛烈な吐き気を何とか抑えつつその場にへたり込む。
 それが1分前まで喋っていた相手であったから、主観的にひとつの人格の喪失が感じられてしまった。
 それが知り合ったばかりの大して知らない人であったから、客観的に命の喪失を受け取ることもできてしまった。


「何でだ……ちくしょう!!」

「これは君が招いた結果だよ。……君の正義が人を殺した。」

 千穂の惨状を目の当たりにして震える竜司に姫神が告げる。そして宙に浮いていた姫神は再び地に降り立ったが、姫神に反抗しようとする輩はもう誰も現れなかった。

8オープニング ◆2zEnKfaCDc:2020/04/18(土) 11:57:12 ID:EjSdNpAY0
「さて、僕に歯向かうことの意味が分かったかな。それではルール説明に移ろうか。」

 しんと静まり返った会場で、誰もが耳を傾ける。

「君たちに殺し合ってもらう会場は『パレス』と呼ばれる空間だ。聞き覚えのある者ならピンとくるかもしれないね。そこでなら使える能力も、あるいは使えなくなる能力もあるだろう。」

「次に、君たちにはそれぞれひとつのザックが配られる。無尽蔵にものを収容できるスグレモノだ。信じられないかい?だけどそう『認知』してくれればそれでいい。中身はパレスの地図や最低限の食料辺りは保証するが……残りは運任せだ。僕も知らない。」

「そして向こうに送ってから6時間ごとに放送を行う。内容としては、脱落者と禁止エリアの発表といったところかな。放送の1、3、5時間後にパレスの中の一部エリアが立ち入り禁止になる。事故もあるだろうから少しの時間は目を瞑るが、30秒間滞在し続ければああなってもらうよ。」

 首の無い千穂を指さしてそう言った。その場の全員に恐怖を植え付けるには充分すぎる演出だろう。

「最後に。この殺し合いに優勝した者の処遇についてだ。これだけの人数の生存競争を勝ち抜いたんだ、生還だけでは褒美としては物足りないだろうね。優勝者には、どんな願いでも叶えてあげる……というのはどうかな?」

「願い……?」

 その言葉に誰かがぽつりと反応するのが聴こえた。

「そうさ、どんな願いでも構わない。巨万の富でも、有り余る名声でも。或いは―――死者の蘇生だって成してみせよう!」

 表情の見えない不気味な仮面姿で、姫神は信じられないようなことを語った。
 そしてその直後、例のスマートフォンをおもむろに取り出す。
 また誰かの首輪が爆破されるのかと、その場の多くが身構える。

「説明は以上だ。それじゃあ、ご武運を祈るよ。」

 皆の想像に反して、姫神はスマートフォンを操作し『イセカイナビ』を起動する。するとたちまち、黒いモヤのようなものに包まれながら参加者たちの姿は一人、一人と消えていった。
 最後にその場に残ったのは姫神葵本人と、すでにその生を終えた少女の骸だけとなった。


【佐々木千穂@はたらく魔王さま!  死亡】

9オープニング ◆2zEnKfaCDc:2020/04/18(土) 11:57:53 ID:EjSdNpAY0






 参加者が殺し合いの舞台となるパレスに転送されたのを見届けると、姫神は最初に皆を集めた広場の出口の電子ロックを解除して外に出る。

 向かうのは定時放送などを遂行する、この殺し合いの舞台裏。

「―――随分とご機嫌じゃないか、姫神。」

 次の段階の準備に移る姫神に話しかける一人の少女がいた。

 初柴ヒスイ。姫神の計画の、元の世界からの協力者の一人だ。

「不服かい?奴らを手中に収めた今なら、三千院家の遺産も王族の力も君のものだというのに。」

「……くだらん。私が欲しいのは勝利の果てに掴む願いだ。頂上で胡座をかいていれば与えられるようなものでは無い。」

 ヒスイの言葉を聞いて、姫神はふっと笑う。

「だろうね。君ならそう言うと思っていた。望むのなら戦いに身を投じればいい。いつでも準備はできているよ。」

「いいだろう。ここで呆けているよりは面白そうだ。」

 ヒスイが承諾するより先に、姫神はイセカイナビを起動していた。醜悪な笑みを浮かべながら、ヒスイの身体はパレスへと吸い込まれていく。


「……さて、これで仕込みは整った。あとは見守るだけかな。」

 ヒスイを見届けた姫神は、その場にいたもう一人の協力者に語りかける。姫神の視線の先には、女の死体がひとつ。
 鋭利な刃物で喉笛を掻っ切って、辺り一面に散った鮮血が部屋を装飾している。脈も心臓もその活動を停止しており、誰が見てもそれはただの屍である。
 そんな死体に、姫神はさもそれが当然であるかの如く話し掛けている。

 言わずもがな、死者が言の葉を語らぬは自明の理。しかし二種の妖を喰らい、死という概念とて超越したその女に世の理は適応されない。
 辺り一面に撒き散らされた血液は持ち主の体内へと吸い込まれていき、何度もその役目を終えたことのある心臓は再び鼓動を刻み始める。

「いいえ、まだよ。」

 ひと掴みの未来と共に、妖美な笑みを浮かべるその女―――桜川六花は現世へと舞い戻った。

「この計画の成功のための最後の一撃を、まだ私は放っていない。」

 人魚とくだんの混ざりもの。
 彼女、桜川六花を言葉にして語るは容易である。しかし世に蔓延る魑魅魍魎はそれを語らない。彼らをもして、語るのさえはばかられるだけの畏怖を与える存在であるからだ。

 人魚の不死能力。絶命時に発動するくだんの未来決定能力。ふたつの人ならざる力を手に入れた彼女は不死の身体の再生能力をもってして、自らの死の際に未来を選択する力を手に入れた。妖怪くだんがその命と引き換えに一度だけ使うことを赦された力を、彼女は生を終えることなく何度も扱えるのである。

 先の殺し合いの説明が円滑に進んだのは、六花が生命活動の停止と肉体の再生を繰り返すことで滞りなく進行できる未来を何度も選び続けていたからに過ぎない。

 ただし彼女に選択できるのは実現の可能性が現実的である未来のみ。坂本竜司があの場で殺し合いに反逆しない未来、それを掴むことは出来なかった。

 いわゆる見せしめに選んだのが、反逆した竜司本人ではなく全く関係の無い佐々木千穂であったのも意図があってのことだ。
 逆らった本人を殺すというシステムでは、行動を縛れない人物―――桜川六花と同じ能力を持つ者があの場には一名いたのである。

(さて、あの子たちはどう動くのかしら?)

 そしてこの殺し合いの影の主催者、桜川六花は再びナイフを己の喉に突き立て即死する。生と死の狭間の世界にたどり着いた彼女は、実現可能性の高いひとつの未来を選び取る。

 それは殺し合いの世界に、二体の『怪物』が顕現する未来。

 一体は、元より人の心の中に巣食う死神『刈り取るもの』。
 そしてもう一体は、かつて現実世界で実体を手に入れた想像力の怪物『鋼人七瀬』。

 これらが現実世界に顕現する未来は一度や二度の死では到達し得ない、果てしない施行の末にようやく掴み取れる事象なのかもしれない。
 しかしこの殺し合いの舞台は現実よりも数段不安定な認知世界。これらの怪異を比較的容易く受け入れることができる。

 舞台は、現実よりも遥かに容易く食い破られる世界。40名の参加者に3名の主催者の手先『JOKER』を加えて。
 誰もその結果を知り得ない、残酷なる宴が始まらんとしていた。



【バトル・ロワイアル 〜狭間〜 開幕】

10 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/18(土) 11:59:41 ID:EjSdNpAY0
以上でオープニングの投下を終了します。
予約はこれより解禁します。

11 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/18(土) 12:45:27 ID:EjSdNpAY0
漆原半蔵、花沢輝気で予約します

12 ◆dGLETqAo0I:2020/04/19(日) 13:38:26 ID:p9//2JYA0
美樹さやか、赤羽業予約します

13 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/20(月) 02:23:22 ID:RbB64j4I0
>>3の施設名、「霊とか相談事務所」ではなく「霊とか相談所」でしたね……。wikiに載ってる会場全体図を修正しておきました。

投下します。

14Good Losers ◆2zEnKfaCDc:2020/04/20(月) 02:25:21 ID:RbB64j4I0
「殺し合い、ねぇ……。」

 比較的平和な日本での引きこもり生活が長いとはいえ、その言葉の意味するところを理解できないほど漆原半蔵の感覚は鈍っていない。

 とりわけインテ・エスラでは地位を巡っての、あるいは生存競争としての殺し合いなど珍しくないどころか茶飯事であったし、過去に見ず知らずの人間を巻き込んでの大規模なテロ事件を起こそうとした漆原にとって見知らぬ誰かが死ぬことに関してはどうでもいいとすら思う。

 同じく巻き込まれている元の世界からの知り合いについても執着が深いわけではない。
 真奥と芦屋との日本での暮らしにある種の居心地の良さを感じているのは確かであるが、天使の長い生という尺度で見れば所属したことのある共同体の中のひとつに過ぎない。
 エミリアと鈴乃に至っては最近何かと交流こそあるが、そもそも元々が敵対勢力だ。

 つまるところ、倫理的な観点から見れば漆原が殺し合いに乗るのを躊躇する理由は無い。
 生き残る権利を得られるのがたった一人であるならば真奥とも芦屋とも利害関係は対立する。理詰めで考えていけば、積極的に優勝を狙っていくのが漆原にとって良い選択であるのは明白である。



「―――はぁ、馬鹿らしい。」

 しかしそんな合理的選択は、気だるそうに吐き捨てられた一言でバッサリ棄却された。

 魔力の大半を失った自分がいくら殺しに回っても真奥やエミリアのいるこの殺し合いには勝てないと思っている?まあ、それは否定しない。

 悪魔のくせに日本では遵法精神の塊のような生き方を貫いている真奥に充てられて、多少は殺しに抵抗を覚えるようになったと?うん、それも否定はしない。

「まったく、あの姫神って奴もやってくれるよね。」

 だが漆原の本当の思惑はそれらと少しズレた着地点にある。

 何せ漆原はその身をもって知っているのだ。エンテ・イスラの二大勢力のトップ、その両方を敵に回した輩たちの末路を。

15Good Losers ◆2zEnKfaCDc:2020/04/20(月) 02:27:05 ID:RbB64j4I0
「よりによって佐々木千穂の命を奪ったんだ。魔王と勇者の両方を完全に敵に回しての全面戦争待ったナシだ。もうアイツに勝ち目は無いよ。」

 佐々木千穂はあたかもエミリアと真奥の仲立人のような立ち位置にいたため、これまでもターゲットになる機会はあった。

 かく言う自分も彼女を人質として利用したし、サリエルに至っては彼女をエンテ・イスラに連れ去ろうとまでした。その結果、両者とも真奥とエミリアの連携に敗れている。

 要するに漆原は、姫神に従って殺しに手を染めるよりは勇者と魔王の共闘の側に着いた方が総合的に勝算があると考えたに過ぎない。
 それが漆原半蔵こと堕天使ルシフェルが殺し合いに乗らない判断を下した理由である。

「と、付く勢力は決まったわけだけど……さて、何をしたものかね?」

 問題はこれからの漆原の方針だ。目的から逆算するなら真奥や芦屋と合流するのがベストなのだろうが、如何せん彼らの居場所が分からないことには方針の立てようが無い。

 それならば話は簡単。どの方角へ動いても真奥や芦屋と合流できる確率は大して変わらない。だったら移動して労力を使うだけ無駄だ―――思い至るが早いか、その場にごろりと寝っ転がる。

 一見するとインドアここに極まれりな漆原の怠慢にも見えるこの行動。しかし流石の漆原もこの状況で無意味に怠惰を貪るほどのニート根性を持ち合わせているわけではない。
 このパレスという空間にはエンテ・イスラのように空気中にある程度の魔力が満ちている。その吸収に集中して効率良く摂取し、いずれ訪れるであろう姫神との戦いに備えて少しでも多くの魔力を蓄えているのである。

「―――随分と余裕なものだね。」

 そんな漆原に、真正面から一人の男が話しかける。身だしなみにルーズそうなボサボサの金髪頭でありながら、それでいてどこかチャラい陽キャ地味た振る舞いも併せ持ったような男。
 確かに漆原の事情を知らない者からすれば、その行為は慢心にしか映らないのもまた無理のない話なのだろう。

 「不意打ちすることだってできたはずだ。正面切って来るなんて、そっちこそ余裕のつもり?」

「あっはっは、不意打ちも何も戦う気がないからね。僕は花沢輝気。良かったら少し話さないかい?」

 面倒な奴に絡まれたと、漆原はため息をついた。
 一方花沢は両手を広げ、己の無害をアピールしている。ここで一戦交えるのはもっと面倒だし、情報を集めるためにも対話自体は有意義なのだろう。

 とはいえ、さすがにこの現状では対話など論外だ。

「悪いけどさぁ。」


―――ザンッ!

 突如として花沢の身体から漆原による魔力の刃が生える。

「対話するならせめて本体が出て来てくれないかな。」

 すると花沢の身体はふにゃりと歪んで綺麗さっぱり消え去った。自分たちが扱っている魔力とは異なる力のようだが、先ほどまでの花沢が生身の人間でないのは明らかだった。

「驚いたよ。見破られたこともだけど、まさか分身が瞬殺されるとはね。」

 背後から花沢の声が聴こえる。作り物感満載の先の彼とは異なり、今度こそは正真正銘花沢輝気本体のようだ。

16Good Losers ◆2zEnKfaCDc:2020/04/20(月) 02:28:40 ID:RbB64j4I0
「これは"幽体術"っていって、精神体の分身を作る能力なんだ。本体より性能は劣るとはいえ、それでも並のエスパーには負けないはずなんだけどね。」

「はいはい、それで用事は?」

 塩対応で返す漆原だが、内心は結構驚いている。先ほどまでの作り物っぽさしかなかった花沢と違い、対面した花沢本体の気配は人間と微塵も変わらないからだ。つまり、魔力というものをまったく宿していない。しかしそんな人間が魔法地味た能力を使っていた。『エスパー』という聞き慣れない単語からも推測するに、どうやらこの殺し合いに参加している人間は普通の人間とは違うようだ。

「簡単な話だ。君も殺し合いに乗っていないんだろう?それなら徒党を組むべきだと思わないかい?」

……ひとまず戦闘になる気配は無くて助かった。勝てる勝てないはともかく、無駄な消耗はしたくない。

「やだね。僕は人間と組むつもりは毛頭ないよ。」

「毛頭……!?」

「いや、驚くところズレてるだろ。」

「えっ、ズレて……!?」

 アレ、割と常識人っぽく見えたのは気のせいか?っていうか何で不自然なほど頭押さえてんだよコイツ。

 とはいえ花沢の提案が合理的なのは分かる。殺し合いに乗った参加者は利害関係的に共闘する相手を見付けにくいのだから、殺し合いに乗らない側が群れれば人数的に優位だ。

 だが漆原は基本的に人間を信用していない。人間は悪魔のような力こそ無いが、その分持ち前の頭脳で他者を貶める。
 特に今回の花沢のように、ぐいぐいと主張をしてくるタイプの人間は信用ならない。一度勢いに呑まれて承諾してしまうと、いつかの悪徳訪問販売よろしく骨の髄までしゃぶり尽くされる。
 花沢もどうせ、僕をボディーガードとしてこき使い下ろしといて人数が減ってきた頃合を見計らって背中からブスリといく算段に違いない。

「そもそも、騙されるリスクに目を瞑ってでもわざわざ協力を持ちかけないといけないほどアンタが弱いようには見えないけどね。」

 もし花沢の狙いが想像通りであれば向こうもこの局面で無駄に消耗するのは避けたいはず。簡単には騙せないと思われる程度に賢く振る舞うのを見せれば折れるだろうと、そう思っての切り返しであった。

17Good Losers ◆2zEnKfaCDc:2020/04/20(月) 02:29:16 ID:RbB64j4I0
「いいや、僕なんて凡人さ。強いだなんて口が裂けても言えっこない。生まれ持っての格が違う奴ってさ、この世には居るもんなんだよ。」

「……へえ。」

 しかしその答えは、漆原の関心を誘った。
 その言葉は口から出まかせで出てくるものではない。本当に格の違う相手に真っ向から打ち負かされ、自分の慢心を心から思い知らされた奴だけが言える台詞だ。

(もしかしたら、コイツも僕と一緒なのかな。)

 かつて真奥に負け、悪魔としての格の違いを思い知らされた漆原はふとそう思った。
 人間ごときに対してそう思えたのは、或いは真奥たちと共に過ごした人間社会の中で人々の心に少なからず触れたからかもしれない。

「分かった、いいよ。」

「え?」

 ここまでの流れに反して唐突にぶつけられた許諾の言葉に戸惑う花沢。

「僕は殺し合いに乗らないんじゃない。勝ち馬に乗っかりたいんだよ。で、アンタもそんな馬を知ってそうだ。」

 だが、両者間の妙なエンパシーは漆原だけでなく花沢も感じ取ったようだ。花沢の戸惑いの色はすぐに消え去り、代わりに手のひらが差し出された。

「ああ、とっておきの勝ち馬さ。殺し合いに乗ることを選ぶのが馬鹿みたいに思えるくらいには、ね。」

 握手を交わしながら、漆原は理解する。
 ああ。やっぱりコイツも、絶対的な信頼と同時に避けようのない畏怖を覚える相手がいるのだ、と。

『勝ち馬』を語るその手は、無意識下だろうが……小刻みに震えていたのだから。

【D-2/岩場/一日目 深夜】
【漆原半蔵@はたらく魔王さま!】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち馬に乗っかる。
一.真奥と遊佐を怒らせちゃって……姫神、知らないからね。
二.ひとまず花沢に同行する。

※サリエルを追い払った時期より後からの参戦です。

【花沢輝気@モブサイコ100】
[状態]:健康
[装備]:金字塔のジャケット@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
一.同志を集めよう。
二.影山茂夫への尊敬と、無意識な恐怖。

※『爪』の第六支部壊滅後からの参戦です。桜威に刈られた後のカツラを装着してますが、支給品ではなく服装扱いです。

【支給品紹介】

【金字塔のジャケット@ペルソナ5】
花沢輝気に支給されたジャケット。防御力が高い上にHPが30UPする。

18 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/20(月) 02:31:40 ID:RbB64j4I0
投下終了しました。

19 ◆dGLETqAo0I:2020/04/20(月) 09:47:28 ID:6g9LzTrE0
投下乙です!
敗北を知る者同士という一風変わった雰囲気のコンビ、今後が楽しみです。
私も投下しますね。

20雨の隙間と水たまり ◆dGLETqAo0I:2020/04/20(月) 09:50:34 ID:6g9LzTrE0
雨が降る。

まるで自分を打ち付けるように、自分から何かを洗い流すように。
肌を伝い、逆らえない重力に沿い、雫がまっすぐ落ちていく。

足を進める。ぱしゃりと鳴る。水たまりに波紋が広がる。
無数の雨も、暗い夜道に無数の波紋を生んでゆく。

いくつもの波紋が絡み合ってその形を歪ませるように、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
いま、何を考えてたっけ。
それを思い出すのにも、少しばかり時間がかかる。
ーーああ、そうだ。

「ついてこないで」

美樹さやかは思い出した。思い出したくなかった。
自分を心配する親友に投げつけた言葉。
もう救いようがない自分。
ひとつずつ、少しずつ、明確に思い出していく。
魔法少女が、どんな存在なのかということも。



気付けば、雨は止んでいた。
見上げた先は相も変わらず真っ暗で、けれど先とは違い、空を覆っているのは雲ではなく天井だった。

(まさか……魔女の結界!?)

変身しようとソウルジェムを握り締めるも、ふと違和感に気付く。
魔女の力によるものにしては、周囲の人々はしっかりとした自我を持っているように見える。
姫神葵と名乗り殺し合いをしろという男に反抗の声を上げる少年など、その最たる例だ。

(魔女じゃない……殺し合い? 何が起こってるのよ?)

頭が追い付かない内に、ピピピピと無機質な音が鳴り響く。
自然と発生源に視線を遣ると、アラームは止み、代わりと言わんばかりの爆発音。

(あ……)

首のない死体。
嫌でも巴マミの死を思い出してしまう。
さやかの顔からは血の気が引き、姫神の話もほとんど頭に入ってこなかった。

「優勝者には、どんな願いでも叶えてあげる……というのはどうかな?」

たったひとつ、願いを叶えるというその言葉を除いて。

21雨の隙間と水たまり ◆dGLETqAo0I:2020/04/20(月) 09:53:01 ID:6g9LzTrE0
 




気付けば、ひとりで立っていた。
姫神という男の声も、周囲から感じていた怯え、嫌悪などの雰囲気も消えていた。
ここはどこかの工場だろうか、鉄でできた建物は特有の冷たい空気を醸している。

(願いを叶える……)

何度も何度も、それだけが頭の中に響く。
声に出していないのに、まるで鉄の壁に反響しているかのようだ。
そしてその度に考える。願いを叶えた結果、自分はどうなった?
魔法少女とは、どういった存在だった?

願いを叶えてもらえたとしてーー絶望から解き放たれるか?

「……もうたくさんよ。願いを叶える代わりにゾンビみたいな体になるのも、あいつが言うままに殺し合うような、人形みたいな奴になるのも……お断りだわ」

魔法少女となり変質してしまった魂を元に戻すことが叶うのだろうかと、考えないわけではない。
けれど、もう十分、さやかは沁みるほど痛感している。
願いを叶えてもらう代償がどれだけ大きいかということを。

(あそこにいた全員を殺して、あたしだけ元の普通の女の子に戻ったって……前みたいな普通の生活になんて、戻れるわけないもの)

あの空間にまどかがいたのが見えた。
人相の悪い者もいたが、人の好さそうな者だっていた。
そういった人々を殺して自分だけ普通を取り戻したとして。
それが幸せとは思えなかった。

大切な人の為に願いを叶え、その願いを理由にまた別の願いを叶える。
そんなのきっと、今よりももっと自己嫌悪に陥ってしまう。

「魔女ではないみたいだけど、あんな奴、あたしが倒してやるんだから」

姫神を倒し、みんなで元の日常へと帰る。
決意を込めて、今度こそ変身をしようと試みる。
が、風を切る音を耳に捉え、咄嗟に立っていた場所から飛び退く。
さやかが立っていた空間には、頭上から拳を叩き込もうとしていたらしい赤髪の少年の姿があった。
ガン!と重い着地音が響く。

「ちっ、避けられたかー……ん?」
「何すんのよいきなり……あんたまさか、殺し合いに乗ってるの!?」

22雨の隙間と水たまり ◆dGLETqAo0I:2020/04/20(月) 09:55:22 ID:6g9LzTrE0
「乗ってないよ」

驚いて声を上げるさやかとは対照的に、少年はあっけらかんと答えて近付いてくる。
武器を持っていないか、他に人はいないか、慎重に観察しながらさやかは少年から距離を取る。
年齢はあまり離れていないように見えるが、まだ変身していない今、迂闊に近寄りたくなかった。

「渚くんじゃなかったや。ごめんごめん、友達と間違えたよ」
「くんって……男の子と間違えたの!? 本当に人違いなの?」

明らかに敵意を持った攻撃を仕掛けてきた挙句、呼び方からするに自分を男と間違えたと宣う赤髪の少年を、さやかは信じることができなかった。
歩み寄られる毎に後退りながら、きっと少年を睨む。

「言い訳ならもっと上手く繕いなさいよ」
「言い訳じゃないんだけどなぁ。渚くんの性別が渚くんなばかりに俺が疑われちゃうなんて。名簿に顔写真載ってるから、それ見れば分かると思うよ」
(名簿……)

参加者名簿をぺらぺらと捲る少年を見て、初めてそんなものが配られていたことを知る。
手元を見れば、いつの間にやら持たされているザックに、地図、名簿などの支給品。
自分のことすら確認するのを忘れてしまうくらいに余裕がなかったのかと唇を噛む。

「あ、ほらほらこの子だよ。髪の色とか似てるじゃん?」
「……確かに、まあ。色は似てるわね」

さやかはふたつに結っていないにせよ、空色の髪は一見間違えてしまうのも分からなくはない。
加えて、写真の首の細さを見る限り、体格的にも女性と大差ないように思えた。

「……じゃあ、さっきのは何だったのよ。友達へのスキンシップにしては随分過激じゃない?」

人違いであったことは納得できなくもないが、最も腑に落ちないのがそこだ。
殺し合いをしろと言われたこのような場所で友達を攻撃するという行動を、怪しむなという方が無理な話だろう。

「だいじょーぶ、殺す気はないよ。ただ、一発くらいは入れてケジメつけないと気が済まないだけ」
「ケジメ? 喧嘩でもしてるの?」
「んー、まあそんなとこ、かな。安心してよ、俺が殺したいのはひとりだけだから」
「は!?」
「そのタコも、名簿を信用するならここにはいないっぽいしね」
「タコ!?」

少年の言うことがさっぱり理解できず、目が回りそうだった。
にやにやと口角を上げた表情を見るに、意図的に伝わらないであろう喋り方をしているように感じる。

23雨の隙間と水たまり ◆dGLETqAo0I:2020/04/20(月) 09:59:57 ID:6g9LzTrE0
(誰かを殺すつもりって言ってる人を野放しにするのは……でも、さっきの勘違い以降は敵意もなさそうだし……)

目の前の少年にどう対応すればいいのか、判断がつかない。
魔女のように分かりやすく人に仇なす存在とは違うため、ただ斬り捨てるということもできないのだから面倒だ。

「ところでさぁ、俺も気になるんだけど」
「な、何がよ」

笑みを浮かべた眼差しはそのままに、少年は軽く言葉を紡いだ。

「友達に攻撃しようとした俺を見るアンタの目、俺を責めてるようにもアンタ自身を責めてるようにも見えたよ。そっちも何かワケあり?」

言葉を詰まらせたさやかに、少年はまずは自己紹介といこうか、と距離を縮めてきた。
後退りしようにも、足は動かなかった。





「業って……変わった名前ね」
「俺もそう思うよ。気に入ってるけどね」

赤羽業(かるま)という少年の名前に、失礼だと思いながらも、ぽろっと正直な感想を零してしまう。
業本人は慣れているのか、特に気にした様子もなくけらけらと笑っていた。

「俺のクラス、他にも面白い名前の奴がいるんだよ」
「他にも?」
「うん。こう書いてさ」

支給されていた紙に“正義”と書き、さやかにそれを見せ、一息置いてその読み方を教える。

「ジャスティス」
「……た、確かに変わってる、わね」

予想外の英語の読みに驚きつつ、思わず紙から目を逸らす。
人を守りたい、正義の味方になりたい。
純粋にそういった想いを抱えていた頃の自分を思い出してしまう。

「まあそれはさておき。俺のこと、少し話しておくよ」
「あんたのこと?」
「事情が分かれば、さっきのことも納得してくれるだろうしね」
「……まあ確かに、もうあんたを疑ってないと言ったら嘘になるわ」
「でしょ?」

さやかの言葉に頷くと、業は廊下の手摺に片膝を立てて座った。
業の話すところによると、彼は椚ヶ丘という中学校の、3年E組の生徒らしい。
そのE組の担任教師は黄色くてヌルヌルしたタコのような生き物であり(正直どんな姿なのか想像できないし、語感的にしたくない)、3月までに自分を殺さなければ地球を爆発すると言ったそうだ。
E組の生徒たちはそんなタコのような教師ーー殺せんせーから学びを受けつつ、地球(を救った恩賞の100億円)の為に日々暗殺に励んでいた。

「ただ、最近になって事情が変わってきてね。殺せんせーの過去だとか、暗殺しなくても3月になれば死んじゃうこととかを知ってさ。クラスが分裂したんだよ」
「分裂?」
「殺すか、殺さないか」

24雨の隙間と水たまり ◆dGLETqAo0I:2020/04/20(月) 10:01:57 ID:6g9LzTrE0
殺せんせーを助ける方法があるならそれを探したい、もっと一緒にやりたいことがある、などの意見が出始めたそうだ。
そして最初に殺したくないと言い出したのが、先程業が言っていた“渚くん”なのだという。

「渚くんが一番暗殺の才能があるクセにさ、楽しかったじゃん、なんて言っちゃって。才能がない奴らだって、それでも必死こいて殺せんせーを殺そうとしてたのに、それをバカにしてんのかって感じだよね。
暗殺があったから、俺たちはやってこれた。暗殺が成り立たせてきたクラスだからこそ、殺意を鈍らせたらダメなのにさ」

どこか斜に構えたような喋り方をしていた業が、感情的な声を絞り出していた。
人を小馬鹿にした男という印象だったが、そうではない真剣な部分もあるらしい。
自分でも熱が籠ってると感じたのか、業はひとつ深呼吸をしてから続ける。

「もちろん俺は殺すつもりだよ。他にも同じ意見の奴はいる。でも、同じくらいそうじゃない奴だっている。
そんな俺たちに何故か話のど真ん中の殺せんせーが提案したのがサバイバルゲーム。勝った方の意見がクラスの総意ってね」
「どっちが勝ったの?」
「分かんない」
「え?」

予想外の返答に素っ頓狂な声を上げてしまう。
また茶化し始めたのかと思ったが、業の目は笑っていなかった。

「いざサバイバルゲームが開始したと思ったら、何故かあんなところにいたんだよ。どうしてくれるんだろうね」
「それは、なんというか……煮え切らないわね」
「そうなんだよ。いくら意見が対立してるとはいえ、殺したいとは思わない。だからといって、大人しく協力して帰るには心情がついて行かないワケ」
「それで、一発入れて一時休戦といこう、と」
「そういうこと」

業が嘘を吐いていたり、隠し事をしている可能性はゼロではないが、咄嗟の作り話にしては妙に凝っているし、スラスラと話していた。
一先ずは信じても大丈夫かもしれない。

「まあ気持ちは分からなくもないけど。とばっちりもいいとこだったわ」
「それで、美樹さんはどうする?」
「そりゃ、あの姫神って奴を倒して……」
「そうじゃなくて」

一通り口にしたことである程度気持ちが落ち着いたのか、業は再び目と口に弧を描いてさやかを見ていた。

「美樹さんは、今の内に何か吐き出したいこととかないの?」
「え? べ、別に……」
「何もないならいいけどさ。ここで本当に殺し合いが起きてて、俺たちも危険に巻き込まれた時、蟠りは少ない方が体だって動くでしょ」

表情に対して真面目な声色だった。
数度瞬きをして、話してしまうべきか悩む。

25雨の隙間と水たまり ◆dGLETqAo0I:2020/04/20(月) 10:05:03 ID:6g9LzTrE0
(椚ヶ丘、だっけ。全然知らないところの、全然知らない男の子)

きっと今この時以外では、ふたりの道が交差することもないだろう。
姫神を倒して巻き込まれた人々を助け、日常に帰ることができたとして、彼に話をしていてもしていなくても、きっと何が変わることもない。

(なら、ちょっとくらい……)

話しても話さなくても、同じこと。
選択肢が用意されていても結果は変わらないゲームと一緒だ。

「……あたしさ。魔法少女ってやつなの」
「竹林向きだなぁ」
「え?」
「なんでもない」

業は口を噤み、同じように手摺に座ったさやかを見る。
出てきた名前が気にならなくもないが、話を続けることにする。

「魔法少女はね、願いを叶えてもらうのと引き換えに、人々に禍をもたらす魔女と戦う使命を負うの」

一旦区切って、唇を噛む。
ただそれだけなら、どれだけ良かったことか。

「でもね、戦うことだけが代償じゃなかったのよ。ソウルジェムっていう……なんて言えばいいのかな、あたしたちが戦う為に必要なものがあって。願いを叶えて契約した時点で、あたしの魂はそっちに移し替えられてたらしいの」

業が微かに目を瞠る。
それがどういうことなのか、なんとなく察したのだろう。

「今あんたが思った、その通りのはずだよ。こうして普通に動いて、普通に会話もできるけど、この体は普通じゃない、抜け殻みたいなものなの」
「口振りからするに、知らなかったんだ」
「知らなかったわよ」
「悪徳商法だね」

言い得て妙だが、笑えない。

「ショックよね。こんなの、人間とは言えないし。それでも、魔女との戦いは続けたわ。もうそれくらいしか意味のない体なんだもの。いくら傷付いても治せるし、その気になれば痛みだって消せた」

話しながら名簿を捲る。
五十音順に並んでいるらしく、目当てのページは比較的すぐに見つかった。

「でもね、この子、鹿目まどか。この友達に言われたの。そんな戦い方したらダメだって、そんなのあたしの為にならないって」

思い出すだけで、黒くモヤモヤした感情が押し寄せてくる。
それと同じだけ、自分のことも嫌になる。

「そんなまどかにさ、あたし言っちゃったの。だったらあんたが戦ってよって。才能あるのにあんたが戦わないからあたしがこんな目にあってるって」

バカだよね。
力なく呟く。なんてこと言ってんだろうね。
返ってくる言葉はなかった。

26雨の隙間と水たまり ◆dGLETqAo0I:2020/04/20(月) 10:06:54 ID:6g9LzTrE0
「まどかは本気で心配してくれてたんだろうにさ。まどかにぶつけた言葉は本心かもしれない、でもそんな自分が嫌になるのも本心なの。そんな時に、こんなことに巻き込まれたわけ」
「ぐちゃぐちゃだね」
「ぐちゃぐちゃよ」

たった一言で、抽象的にまとめられた。
けれど、どの本心が一番強い想いなのかも、あんな言葉をぶつけたばかりのまどかと再会したらどうすべきなのかも、何もはっきり分からないのだ。
ぐちゃぐちゃ。それくらいの言葉がちょうどいいのかもしれない。

「難しいもんだね、友達って。才能あるクセに使わないようなことしておいて、ムカつくのにさ」
「どんな顔して会えばいいのかすら分かんないのに、殺したいとも思わなくて。ケジメに殴ってやろうとも思わないけど」
「言ってくれるじゃん」
「仕返しくらい、いいでしょ」

お互い話したことに、肯定も否定もしない。
友達でもなんでもない、赤の他人だ。どちらもするべきではないだろうと、ふたりともが思っていた。

「改めて、どうする?」
「言われるままに殺し合うのは嫌」
「同じく。気に入らないよね」
「一緒に行く?」
「その方が安全だろうしね」

ふたり同時に床に降りる。
カツンと、鉄でできた床が小気味良い音を立てた。

「そうだ、あのシロみたいな奴をぶっ飛ばす前に、首輪をなんとかしなきゃマズいよね」
「そっか、首輪……」

あの時の機械音、爆発音が鮮明に頭に浮かぶ。
さやかのような魔法少女なら問題ないかもしれないが、業のような普通の人間では刃向かおうとした瞬間に首を撥ねられることだって十分に有り得る。
姫神葵を倒すのなら、首輪の解除は避けては通れない道だろう。

「イトナならこういうのもバラせたかな。いやでも、爆発物なら竹林か……」
「イトナ、竹林?」
「イトナは機械いじりが得意なクラスメイト。竹林は……まあ、メガネ(爆)。連れて来られてないなら、そっちの方が断然良いことだけどね」
「待って、メガネ(爆)って何、メガネ(爆)って」

殺せんせーを殺すべきか、殺さないべきか。
抜け殻のような体で何をするべきか、どこが自分の本心なのか。
まだ答が出ないことは多いけれど、やるべきことは分かる。

首輪を外し、姫神葵を倒す。
友達より、因果より、単純で明確な答え。

27雨の隙間と水たまり ◆dGLETqAo0I:2020/04/20(月) 10:08:39 ID:6g9LzTrE0
歩きながら地図を広げて、どう動くかを相談する。
カツン、カツン、カツンーー。
ふたり分の足音が、鉄でできた建物特有の冷たい空気を震わせていく。
この空気が水たまりだったなら、重なり合いそうで重なり合わない、ふたつの波紋が広がっていたことだろう。





【D-6/工場内/1日目 深夜】


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:姫神葵を倒し、元の日常に帰る
1.まずは首輪の解除方法を探す
2.もしまどかを見つけたら……どうしよう

※第8話、雨の中まどかと別れた直後からの参戦です。半ば放心状態だったため、ルールを全て把握できていません。

【赤羽業@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:元の日常に帰って殺せんせーを殺す
1.まずは首輪の解除方法を探す
2.渚くんを見つけたら一発入れとかないと気が済まないかな

※サバイバルゲーム開始直前からの参戦です。

28 ◆dGLETqAo0I:2020/04/20(月) 10:09:39 ID:6g9LzTrE0
以上で投下終了です。
誤字脱字、指摘などありましたらよろしくお願いします。

29 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/20(月) 12:43:08 ID:RbB64j4I0
投下乙です!

第一印象はマイナス寄りだったさやかのカルマとの出会い。でも魔女化に向かっていくさやかにとっていちばん必要だったのはこういう出会いだったように思えますよね。
自分が人間じゃないと知られても後腐れが無くて、たぶんさやかにとって大きな出来事だったであろう友達にキツく当たったことについては肯定でも否定でもなく、ただただ受け入れてくれるだけの相手。当人であるまどかは当然その相手にはなれないし、さやかの中では対立していたほむらも杏子も同様。殺し合いに招かれたことでさやかはむしろ救われてるようにも見えます。

そんな付かず離れずの関係を水たまりに喩えているところも綺麗に繋がってて好きです。

30 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/21(火) 12:57:16 ID:COQKYZsQ0
マリア 予約します

31 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/24(金) 02:52:55 ID:H3vciQeQ0
投下します。

32永遠はここに ◆2zEnKfaCDc:2020/04/24(金) 02:53:48 ID:H3vciQeQ0
ずっと一人だった。
一人で生まれ、一人で目覚め、そして一人で生きてきた。

私は両親を知らない。
苗字も、真に授かった名前も、誕生日すらも知らない。

『マリア』

それが私に与えられた仮の名前。教会の聖母像の前で拾われたからそう名付けられたらしい。

名前自体に不満があったわけではない。しかし、それは己が出生の特異性の象徴にも思えてどこか好きにはなれなかった。

捨てられていた私を育ててくださった三千院帝おじいさまも、結局はフリギアの碑文の解読という目的の下で幼児の学習能力の効率性に目をつけ、英才教育を施すに丁度いい子供を探していただけ。感謝の気持ちは当然ありますけど、白にも黒にも染まり得る多感な幼少期を十を超える多種多様な言語の取得に費やしたのはそれはもう辛い日々でしたし、やはり心の底から親だと思うことはできなかった。

無理やり詰め込まれた英智を見込まれ、帝おじいさまの孫娘、三千院ナギお嬢さまの家庭教師に専任された時にはすでに理解していました。私は拾われ、生かされた恩を返すために三千院家に生涯尽くして生きていくのだと。

私は私のために生きていない。その見返りとしてどれだけ金銭的に恵まれていたとしても、それはきっと限りなく無価値な人生というものなんでしょうね。

33永遠はここに ◆2zEnKfaCDc:2020/04/24(金) 02:54:29 ID:H3vciQeQ0
『マリア、というのか。』

けれどもそんな私に大切な人ができた。

『この私の母親役なのだ。この上なく丁度良い名前ではないか。うむ、気に入ったぞ、マリア。』

己の特異性の象徴だった名前が、スっとその意味するところを変えたように思えた。ワガママでぐうたらで、どうしようもないナマケモノのお嬢様だけど、たったそれだけで彼女は私の生にひとつの、そして永遠の価値を与えてくれたような気がしたのだ。

『私はもう一人で勉強できるくらいには賢くなった。もう家庭教師なんて必要ない。だからさ、マリア。私のメイドをやらないか?』

だから……ええ、本当に嬉しかったんですよ。貴方が私を家庭教師以外で必要としてくれてるって思えた時は、まるで本当の家族になれたみたいで……。

そうして三千院家のメイドとして、新たな日々が始まりました。
姫神くんが執事だった頃も大概でしたけど、ハヤテくんがやって来てからは本当に大変でしたよ。
ナギの誤解から始まった奇妙な関係には悩まされますし、ハヤテくんの持ち前の不幸体質でハプニングは続々やって来ますし……まったく、散らかったお屋敷は誰が片付けてたと思ってるんでしょうかね?

言いたいことはほんっとにたくさんありますよ。そりゃもう、星の数ほど。
でも、その中から、特に選りすぐりのたったひとつを挙げるのなら―――楽しかった。

大切な人たちに囲まれて過ごす時間がこんなにも楽しいものだなんて知らなかった。ハヤテくんが来てからというもの、ナギが少しずつ外に出るようになって交友関係も広がって、いつの間にか大切な人は増えていった。

だから、つい望んでしまった。
本当に大事な人の、叶うはずのない大切な願いを叶えたいと。

でもそれにはきっと2年くらいは必要でしょうね。ナギがいちばん大切な願いを掴み取る―――私たちがお嬢様と執事とメイドではなく、本当の家族になれる時まで。

34永遠はここに ◆2zEnKfaCDc:2020/04/24(金) 02:55:26 ID:H3vciQeQ0
だったらその2年間、とにかく私は私のために生きてみよう。

思い立つが早いか、私は世界を知る旅に出た。お金は余るほどあるし、言語の壁なんて私には無いも同然。世界と私を唯一結び付けるパスポートを手に取って、三千院家を後にした。

そのはずだったのに。

気付けば私は見知らぬ世界に立っていた。どうやら殺し合いなるものに巻き込まれたらしい。2年間は会わないと思っていたハヤテくんもナギも巻き込まれていて、二度と会わないと思っていた姫神くんが首謀者のようだ。

「うーん、分かりませんわ。姫神くんは一体何をしようとしているのかしら?」

姫神葵。あまり詳しくは知らないが、かつて帝おじいさまの持つ何かに手を出してナギの執事をクビになったという噂は聞いたことがある。
おじいさま絡みというだけでもそれが危険な代物であることは容易に想像がつく。そんな危険な何かを狙っていた彼が殺し合いを宣言したとなれば、これは悪戯でも何でもなく本当の殺し合いなのだろう。

だとすれば、優勝者に与えられるどんな願いでも叶える権利とやらだって真実である可能性も高い。あまりにも現実離れしすぎている死者の蘇生とて、帝おじいさまが死んだナギの母親、三千院紫子様と出会う術を探すのに莫大な財を投げ打っていたことを考えれば一笑に付すことはできない。

「私の願い、ですか……。」

一先ず姫神くんの言葉を真実であると仮定して、尖らせた口元に人差し指を充てたまま思案する。

そういえば、いつかハヤテくんと将来の夢について話しましたっけ。確かあの時私が語ったのは―――そうそう、ナギがきちんとした大人になることでしたね。このまま順調にいけばその夢もしっかり叶いそうだったのに、あろうことかナギやハヤテくんと殺し合わなくちゃならないなんて……。

それから5分間ほど考えて、ようやく結論に至った。

ハヤテくんと主従関係を超えた関係になりたい、それはナギの大切な願い。
そんなナギの願いを叶えたい、それが私の唯一の願い。

私を突き動かす核は、三千院家を出た時から何にも変わっていないというシンプルな結論。

35永遠はここに ◆2zEnKfaCDc:2020/04/24(金) 02:56:19 ID:H3vciQeQ0
正攻法で運動神経が皆無のナギがこの殺し合いに勝ち抜けるとは思えない。この地点で彼女の願いが叶う確率は0だ。

でも私が勝ち抜ける確率なら0ではない。ナギを殺しかねない人たちを先に皆殺しにしてナギを優勝させる。極わずかな可能性を差し出してやれば、修学旅行レベル5でこの私すら打ち負かした今のナギなら、きっとそれを掴めると信じているから。

ナギはハヤテくんを生き返らせるのでしょう。あの負けず嫌いのナギのことですから、姫神くんから与えられる願いなんていらないだとか、そういう別の選択をするかもしれません。その時はハヤテくんは天国から、そして私は地獄から見届けますわ。その選択肢とて、ナギが死んでは取れないのですから。

欲しいものなんてひとつとして無いけれど。だけどそれでも、どうしても失いたくない大切なものがある。
そのためなら、手段なんて選んでいられませんの。

【マリア@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:チェーンソー@現実
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:三千院ナギ@ハヤテのごとく!を優勝させる。
1.姫神くん、一体何が目的なの?

※メイドを辞めて三千院家を出ていった直後からの参戦です。

【支給品紹介】

【チェーンソー@現実】
マリアに支給された武器。使用人の少ない三千院家の庭の手入れはマリアも行っていたので、ある程度使い慣れているかもしれない。

36 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/24(金) 02:57:07 ID:H3vciQeQ0
投下終了しました。

続いて鷺ノ宮伊澄、小林さん、桜川九郎で予約します。

37 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/24(金) 10:29:02 ID:H3vciQeQ0
マリアの居場所やらの情報忘れてました。
【B-6/平野/一日目 深夜】になります。

38 ◆dGLETqAo0I:2020/04/25(土) 13:10:35 ID:9BhcT0jA0
暁美ほむら予約します

39 ◆dGLETqAo0I:2020/04/25(土) 22:10:57 ID:9BhcT0jA0
投下します。

40暗闇の果ての約束へ ◆dGLETqAo0I:2020/04/25(土) 22:12:31 ID:9BhcT0jA0
まどかを救う。それが彼女の最初の気持ち。
今となっては、たったひとつだけ最後に残った道しるべ。

ただそれだけの為に、何度も何度も、同じ時間を繰り返してきた。
何度も何度も、絶望を乗り越えてやり直してきた。
誰と敵対しようとも、誰と死別しようとも、誰に信じてもらえなくとも。
何度も何度も。
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度もーー。

いつも結末は変わらなかった。
まどかが死んでしまうという最悪の袋小路。
そこから引き返して違う道に進んでも、必ず袋小路は現れる。
どこで曲がっても、どこで真っ直ぐ進んでも、それが当たり前だとでも言うように。
抜け出せない、永遠の迷路。
袋小路はいつも絶望だけを叩き付けてくる。
それでも、彼女が大切だから。大切な友達だから、何度でも立ち上がる。
どんなに足が疲れようとも、どんなに心が折れかけようとも。

「ほむらちゃん、過去に戻れるって言ってたよね」
「だからね……お願いがあるの」

数えるのも気が遠くなるほどに同じ時間を繰り返しても、決して薄れることのない記憶があるから。

ーーキュウべえに騙される前の馬鹿な私を、助けてあげて……くれないかな。

だから、歩き続ける。
未だ果たせてない約束の為に。





「なん、で……?」

何度もやり直してきた時間の中で、ほむらは少しずつ立ち回りを変えてきた。
同じことをしてもまどかを救えないのだから、当然のことだ。
けれど、結末の他にも変わらないことはあった。
例えば佐倉杏子との対立であったり、美樹さやかの魔女化であったり。
必ずそれらが起こるわけではないが、何度も起きたことでもある。
いつしか驚くこともなく、淡々とそれらの事象に対応できるようになった程には、大同小異の時間を駆け抜けてきた。

けれど、けれど。
こんなことは知らない。
あまりにもイレギュラーな事態。
殺し合い? 首輪? パレス?
そんなの知らない。今まで一度だって、こんなことは起きなかったのに。

41暗闇の果ての約束へ ◆dGLETqAo0I:2020/04/25(土) 22:14:16 ID:9BhcT0jA0
「まどかと殺し合え? 冗談じゃないわ……!」

まどかもあの空間にいたのを見た。
ほむらの大切な友達。ほむらが戦い続ける、唯一にして最大の理由。
そんなまどかと殺し合うなど、これまでの時間を全て無に帰すも同然のこと。
言われるままに殺しに走るわけがーー

(……いえ、待って)

自分自身はまどかを殺さなければならない道など選びとる気はない。
けれど、もし願いを叶えるという姫神の甘言に惑わされた者がいれば、もし殺戮を望む根っからの狂人がいれば。
そして、そんな者たちの凶刃が、魔法少女の契約をしていない、いたって普通の女子中学生の今のまどかに向かってしまえば。
どうなるかなど、分かりきっている。

(まどかを探して、なんとしてでも守らなきゃ……)

他の誰がどうなろうとも、まどかだけは守らなければならない。
これまでだって、何度も通り過ぎていった命があった。助けられなかった命があった。
それでも止まらずに駆け抜けてきたのだ。ただひとり、まどかの為に。
殺し合いだろうとなんだろうと、やることは変わらない。



決意と共に混乱が収まりつつある頭で、もうひとつ考えることがあった。
姫神葵というあの男。
性別からしても、魔法少女や魔女のような力など持っているはずがない存在。
にも関わらず、あれだけ多くの人数に干渉し、あまつさえ時間を操る力を持つほむらすらも気付かない内に連れてきてしまった。
そんなことができるということは、ほむらの聞いたことがない、未知の力でも持っているのではないか?

繰り返してきた時間の中で触れることがなかったその力を知ることができたら、近付くことができたら。
まどかを救う足掛かりにできるかもしれない。
例えこの殺し合いを生き抜いて見滝原に帰れたとしても、待ち受けるものは何ひとつ変わらないのだ。
まどかの強い力に目を付けているキュウべえと、最強の魔女ワルプルギスの夜。
これらに同時に抗える可能性やヒントがあるのなら、その道を模索しなければならない。

(この殺し合いを開く為に使われた力を紐解いて、魔法少女と魔女のサイクルよりもエネルギーを効率よく集められるようにできるなら)
(その力が、ワルプルギスの夜をも倒せるほどのものだったなら)
(まどかを救うことができるはず)

殺し合いを開く為に使われた力が目的に沿ったものである保証はない。
けれど、これまでの道になかった新たなしるべに、どうして手を伸ばさずにいられよう。
たったの1%に満たなくても、例えそれが自分の身を滅ぼす選択肢だとしても。
まどかの為なら、迷わず掴み取る。

42暗闇の果ての約束へ ◆dGLETqAo0I:2020/04/25(土) 22:16:18 ID:9BhcT0jA0
優勝者の願いを叶えるという言葉は当てにしない。
報酬をちらつかせることで殺し合いに乗る者を増やすという、詭弁でしかない可能性も十分にあるのだ。
そもそもまどかを殺すわけにはいかないし、話が本当だとしてもほむらの途方もない歩みを知らないまどかを優勝させたところで、その先の結末はきっと変わらない。
ならどうするか。

「まどかを保護できたら……その後は、あの主催気取りとコンタクトを取る方法を考えなきゃ」

直接、姫神葵との接触を図る。
そして、魔法少女とは異なる力についての情報を引き出す。
この殺し合いには、恐らく別の目的があるだろう。
ただ人々の殺し合う姿を見て愉悦に浸りたいだけならば、まどかのように心優しい者や、姫神に反抗の声を上げた坂本という少年のように正義感の強い者などは呼ばず、血の気の多い人間ばかりを集めればいい。
何より、一度参加者を全員集めたにも関わらず、こうしてバラけさせる必要がない。
あくまで仮定ではあるが、当たっているならば、目的への協力と引き換えに彼の力の情報の引渡しを求める、などの取引を持ちかけることも可能のはず。

(待ってて、まどか。今度こそ、新しい道を拓けるかもしれない。あなたを救う道に辿り着けるかもしれない)

ふと、潮の香りに気が付く。
目的がはっきりしたことで、ようやく周囲を見る余裕を取り戻せたようだ。今自分が立っているのは港らしい。
眼前に広がるのは、ただひたすらに伸びていく真っ暗な水平線。
か細い月明かりしか映さない。道しるべもない。縋れる藁すら浮かんでいない。

「……上等だわ」

出口の見えない迷路よりも抜け出すのが困難であろう、暗闇だけを湛えた海を見て呟いた。

43暗闇の果ての約束へ ◆dGLETqAo0I:2020/04/25(土) 22:17:17 ID:9BhcT0jA0
ザックを開いて、地図を取り出す。
四方を全て海に囲まれているが、港があるのは1ヶ所のみ。現在地は西の端で間違いないだろう。
次に手に触れた銃を取り出し、角度を変えながら数度構えてみる。
何度か使ったことがあるものであるため、それなりに手に馴染む。これならまどかを守ることもできるだろう。

潮風がひとつ吹き、濡羽色を揺らす。
少し肌寒かったけれど、銃を握る手が震えることはなかった。





ねえ、まどか。
多くの人が巻き込まれてるのにあなた以外の命を見ていない私を、あなたはどう思うかな。
優しいあなたのことだもの、きっと咎めるでしょうね。

でもね、私はあなたを救う為だけにここまで来たの。
たったひとつのその想いが潰えた時、私はきっと私でいられなくなっちゃうから。
あなたを理由に魔女になるなんて、嫌だから。
そうなったら、あなたもきっと絶望するから。
だから。

私にあなたを守らせて。



【C-1/港/一日目 深夜】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:89式小銃@現実
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:まどかを保護し、主催側と接触する方法を探す
一.まずはまどかの安全を確保しないと。


【支給品紹介】

【89式小銃@現実】
アニメ本編でも暁美ほむらが使用したことのある銃。自衛隊などで制式採用されているものと言えば分かりやすいのではないだろうか。

44暗闇の果ての約束へ ◆dGLETqAo0I:2020/04/25(土) 22:18:06 ID:9BhcT0jA0
以上で投下終了です。
誤字脱字、指摘などありましたらよろしくお願いします。

45 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/25(土) 22:54:55 ID:KFyzbozc0
投下乙です!
奉仕マーダーとも対主催とも少し違うほむらの思考が新鮮。姫神に接触を図っているスタンスは脱出に貢献してくれそうで、それでも対主催たちと協力するのも難しそうというどことなく原作にも似た立ち位置、どう動くのか楽しみですね。
キュウべえとワルプルギスの夜が元の世界で待っているから単にまどかを優勝させることができないのが歯がゆいというか……そういうのもあってほむらって元々スタンスを考えにくいキャラだったとは思いますが、姫神の性別から魔法少女とは異なる超常的な力に着目するのは目からウロコでした。企画段階では桜川六花の方をメインの主催に置こうと思ってた時もあったのですが、姫神にして良かったです。

46 ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/26(日) 00:06:02 ID:C106a58o0
鹿目まどか、巴マミ、烏間惟臣、潮田渚を予約します

47 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/29(水) 01:00:06 ID:lhjRcb260
投下します。

48異種間コミュニケーション(みんな人間ですけどね) ◆2zEnKfaCDc:2020/04/29(水) 01:01:01 ID:lhjRcb260
 数秒前まで自分が居た空間とは打って変わって、そこには満開の夜桜が咲き渡っていた。桜の樹の下には死体が埋まっているとは言ったものだが、とりあえずは殺し合い開始早々に見た桜、ここまで死体が埋まることができるタイミングは無かったのだろうが……強いて言えばこれからこの下に埋まる最有力候補がこの私、小林というわけか。いやはや笑えない。

 何故最有力候補なのか、それは自分がただのいちシステムエンジニアに過ぎないからだ。魔法も超能力も使えない。せいぜい会社独自のプログラミング言語に扮した魔法文字が分かるくらいの一般人だ。

 とはいえこんな奇特な催しに招かれる原因はなくもない。本人曰く終焉をもたらすような奴と日常を共にしているし、ドラゴンの勢力争いの枠組みから外れながら二大勢力の両方の輩とコネクション持ってるし。何なら終焉帝などという奴を殺される寸前まで怒らせたこともある。

 そんなこともあってか、もはや大概のことでは動じないと自負していたのだが……いやいや、殺し合いってなんだよ。トールやらエルマやらと殺し合うとか、倫理的な問題以前に一方的な蹂躙にしかならないのが目に見えている。狙うまでもなく優勝などハナから不可能だ。

 となると、あとはもう大人しく死ぬしか無いわけだ。優勝を諦めることそれ即ち、遅かれ早かれ死ぬということ。悪足掻きなどせずザックに入っていたナイフを自分に突き刺し、桜の樹の下で眠りにつくのも選択肢のひとつだ。

(まあ、それは面白くないわな。)

 一瞬頭をよぎった結末をバッサリ切り捨てる。デスマーチ中に死にたいが口癖になることはざらであっても本気の自殺願望を抱いたことはない。皆で生き残れる道にアテはなくとも協力すれば探せるかもしれないのだから、ドラゴンに比べれば風前の灯にも満たない命であってもせいぜい足掻かせてもらおう。

 と、何となく方針を決めたはいいのだが―――

49異種間コミュニケーション(みんな人間ですけどね) ◆2zEnKfaCDc:2020/04/29(水) 01:01:38 ID:lhjRcb260
(ここ、前に皆でお花見したとこだよなぁ……)

 辺り一面に広がる草葉の原。シンプル極まりない緑色の光景には不釣り合いな桜色の一角。間違いない、ここはかつてトールがカンナとじゃれあっていた草原だった。

 この場違いな桜の木はルコアさんの知り合いのドラゴンの肉片で作ったという極めて特殊な産物であるはず。見覚えのある腕相撲の台までご丁寧に配置されていることから考えても、偶然この場に似たような景観の場所があったのだとは考えにくい。

 知ってる場所が知らない場所にある。文字に起こすだけでも奇怪であるそんな状況は、実際に体感してみるとより奇怪なものである。肝心の風景が既知のものである現状、如何せん未だ日常の範囲内にいる気がしてならない。気が付けばベッドで目覚めて夢オチで終わらないものだろうか。

(まあ、現実逃避しててもしょうがないよね。)

 とりあえず皆で生還すると決めたからには目指すは知り合いとの合流だ。

 トールは『小林さん以外は皆殺しです』とか言い出しかねない。自殺願望は無いとは言ったけどさ、40人以上もの人たちを見殺しにしてでも生きてこうって思うほど図太くないよ私は。

 カンナちゃんはまだ子供だ。こんな時にはきっと不安でいっぱいだろう。……まあ、仮にもドラゴンだ。私なんかよりよっぽど頼りにはなるんだろうけどさ。こういう時にちょっとくらい親心発揮してもバチは当たらないよね。

 エルマは合流できたらシンプルに心強いよ。調和勢ってくらいだから安易に殺しに走ったりはしないと思うし。……でもあの子、ちょっとそそっかしいとこあるからなあ。不安は消えない。

 ファフッさん……彼は分かんないなあ。私がどうこうできる部類の人(ドラゴン)じゃない。だからっていうと本人の心配してないみたいで語弊あるけどさ、彼担当の滝谷くんとも合流したいところだよね。

 さて、問題はどうやって合流するかだ。
 地図には固有名詞らしき地名もちらほら見られるが、どこも聞き覚えはなかった。既知の場所が知り合いと共通であれば暗黙の了解的にその場所で合流を臨むこともできたかもしれないが、自分の知り合いたちが『花見会場』の名を地図で見てそこが合流を臨める地点であるとの認識を共有できるか?答えはノーだ。仮に花見会場という単語からこの草原を連想したとしても、同じ思考を相手方にまで求めるのは無理があると考えるに違いない。

(じゃあ会えるかどうかは運任せってことかな。はぁ、やってらんないな……。)

 地図によると近くに展望台とやらがあるらしい。どの程度の高度があるのかは知らないが、人探しならうってつけの場所だろう。ひとまずはそこを目的地にしようと決めた、その時。

50異種間コミュニケーション(みんな人間ですけどね) ◆2zEnKfaCDc:2020/04/29(水) 01:02:29 ID:lhjRcb260
「あのー……。」

 背後から声が聞こえた。

「うわっ!?」

 仮にも緊張感の巡らされる殺し合いの会場。唐突な声掛けに驚き、咄嗟に飛び退く。

「あ……すみません……。えっと、私は鷺ノ宮伊澄という者なのですが……。」

「は、はぁ……。ええと……」

 どこか間の抜けた声の主は和装の似合う少女だった。こちらが向こうに気づいていないにもかかわらず不意打ちして来なかった辺り敵意は無さそうであるし、そこは良しとしよう。

 しかし花見会場を中心とするエリアは遮蔽物が一切ない、見通しのきく草原である。それにドラゴンみたいに気配を読み取るような能力こそなくとも、殺し合いを命じられていることから周囲の様子へそれなりの警戒心は持っていたつもりだ。そんな自分が背後からの接近を許したこと。鷺ノ宮伊澄に不気味な何かを感じずにいられなかった。



「……あのさ、いつの間に後ろにいたの?」

―――いられなかったから聞いてみた。

 伊澄はキョトンとした顔で小林を見る。あたかもこちらが可笑しいことを言っているかのような目だ。

「私は最初、たぶんこの辺りに居ました。ええ、たぶん。」

 伊澄は地図の、D-2の中の一点を指さした。

「そしてこの『負け犬公園』を目指そうと思って移動を開始しましたのです。」

「ちょっと待って。」

 違和感どころではない。明らかなツッコミどころを見つけて声を挙げる。

「伊澄さんこっち方面じゃなくて私の真後ろから来たよね?……っていうかそもそもこっち負け犬公園方面じゃないんだけど。」

「……。」

 黙り込む伊澄。
 嘘、だったのだろうか?だがそれにしては妙だ。そんな嘘をつく理由が無いし、話に明らかに一貫性が無さすぎる。

「……なぜでしょう、不思議な話もあるものですね。」

……ああ、分かった。この子アレだ、方向音痴かつド天然だ。

 確かに疑問は残るけど、これはちょっとやそっとの対話では解消しそうにないと思い、そこの話は打ち切った。何にせよ、悪意が無いならそれでいい。

(どこか新鮮……そういえばちょろゴンずにはいない属性の子だなぁ。)

 とにかく今はまだ伊澄と遭遇したばかりという状況だ。目指す方向もそれぞれ違っている。

「で、負け犬公園に向かうんだっけ?それなら私も同行させてほしいんだけど……。」

 とりあえず目的地はスパッと譲ることにした。結局どこに向かっても知り合いと合流できる確率に大きな違いはないからだ。

「いいでしょう。それでは私についてきてください。」

「あー……先導は私がするね。」

 意気揚々と逆方向に進み始めた伊澄を引っ張り、小林は負け犬公園へと進み始めた。

51異種間コミュニケーション(みんな人間ですけどね) ◆2zEnKfaCDc:2020/04/29(水) 01:03:13 ID:lhjRcb260




 結論から言えば、少し自惚れていたのかもしれない。

 伊澄と同行しようと思った理由はいくつかある。まず殺し合いに乗っていないのなら単に同行して損は無いから。他にも、殺し合いに乗っているかもしれない知り合いのドラゴンと伊澄が接触した場合、自分が同行していれば説得できるかもしれないからというのもある。

 要するに、その多くは伊澄のためというところが大きかった。自分は年長者だし、人より無駄に死線を潜ってきた分いざと言う時に命を捨てる覚悟もある。

 だけど、自分より一回り幼い女の子に自分が守られる側になるかもしれないという意識は全くと言っていいほど無かった。

「……止まってください。」

 唐突に、伊澄が先導していた小林の前に立って言い放った。
 どうしたのと口を開こうとするも、横目で見た伊澄の真剣な表情に気圧されて何も言えない。先程までのぼーっとした様子から一転、凛とした佇まいを見せる伊澄。その様子はまるで、普段は同じように人間社会での暮らしを楽しんでいるトールがたまに陰を含む顔を見せる時のようで。どうしても伊澄という少女が自分が関わってはいけない領域の世界に住む者であると理解せずにいられなかった。

「来ます。」

 他の参加者の気配とやらを感知したのだろうか。そのような能力の無い小林に予兆は感じられないが、伊澄の雰囲気を見てなお疑う気にはならなかった。
 居場所は間もなく例の草原エリアを抜けるといったところ。つまりまだ遮蔽物の類は無く、隠れてやり過ごすというのもできそうに無い。よって必然的に邂逅の時は訪れる。夜の闇の中から姿を表したそれは―――見たところ細身の青年男性というところであった。

(あの人そんなにヤバいの?)

 伊澄の反応から、見るからに化け物の類が現れるのを予期していた小林は、多少拍子抜けしつつ伊澄に耳打ちする。対する伊澄は男が姿を現したことで、よりいっそう肩肘張った様子を見せていた。

「あれは人間と妖怪、どちらの尺度から見ても違うものです。それ以上、私はあれを語る言葉を持ちません。」

 どこかボーッとしているようにも見えるその男もこちらに気付いたようだ。男は背負ったザックに後ろ手を回す。その所作から武器を取り出すのかと警戒するも、それは杞憂だったようで。手に取ったザックをそのままこちらに投げつけてきた。

―――ドサッ。

 生い茂る芝の上に投げ落とされたザックは軽快な音を立て、伊澄の目の前に落ちる。おそらくそれの意味するところは武装解除なのだろうが、それを前にしても伊澄は全身から汗を吹き出し、目の前の男それ自体に怯えているかの如き様相である。

「安心してください。僕は危害を加えるつもりはありませんよ。」

 男が言った。たぶん自分じゃなくて、今もなお過剰なほど怯えている伊澄に対して諭しているのだろう。

52異種間コミュニケーション(みんな人間ですけどね) ◆2zEnKfaCDc:2020/04/29(水) 01:03:45 ID:lhjRcb260
「八葉六式……」

 しかしそんな伊澄の答えは、その場の誰にとっても想像外のものであった。

「『撃破滅却』」

 伊澄が2本指を男に向けて立てた次の瞬間、男の周りの空気が爆発した。爆心地に居た男はおそらく何が起きたのかも分からぬままに四肢を、そしてその命を散らす。小林はその一部始終を、わけも分からぬまま観測することとなった。

「ちょ……ちょっと!いくらなんでも殺すのは……!」

 鷺ノ宮伊澄。彼女は代々陰陽師、あるいはゴーストスイーパーなどと呼ばれる者たちの力を継承する、由緒ある名家産まれの光の巫女である。しかも伊澄はそんな鷺ノ宮一家の中でも歴代最強の力を持つと言われるほどの才能を持っている。

 霊の気配を捉えれば善性か悪性か、どちらが宿っているのか伊澄には分かる。善性の宿る霊であれば迷子になりながら成仏してもらいに行き、悪性の宿る霊―――いわゆる悪霊であれば迷子になりながら退治しに行く。それが鷺ノ宮伊澄の日常であった。

 しかしその男は伊澄の常識から完全に逸脱していた。人間でないのは明らかであるのに、宿るのが善性なのか悪性なのかの判断すらも付かない。言うなればそれは、善も悪も無くただそこに在るだけで不調和を振りまく厄災が如き存在であった。

 しかし伊澄が例の男に対して抱いたこれらの感覚はすべて、人一倍の霊力を持つ伊澄であるからこそのものだ。そんな力の無い小林から見れば、その男はどう見てもただの人間だった。

「いいえ―――」

 しかし次の瞬間、他ならぬ小林の認識が大きく歪むこととなる。

「―――まだ生きています。」

 次に小林が目にしたもの。それは四肢を散らし、臓物をぶちまけて、ついにはその活動を終えたはずの人体が、ゆっくりと再生していく様だった。

「なっ……!」

 伊澄と小林の前に現れた男の名は桜川九郎という。

 九郎は幼少期に2種類の妖怪を食した。他の動物の肉を食すという行為には少なからずその相手の持つ資質を我が身に取り入れるという呪術的な意味合いを帯びているのだが、事実として九郎はその2種類の妖怪の能力を手に入れた。その内のひとつが、人魚を食らったことによる『不死の身体』であった。

 辺りに飛び散った血液や、爆散した身体に嵌らずに主を失ったはずの首輪までもが元あった場所に戻っていき、先ほどまでの九郎の姿を再構成する。その光景は人の常識で語れる範疇を超えていた。伊澄が恐れていたものの正体が垣間見え、一歩引き下がった小林の前に伊澄が立ちはだかる。

53異種間コミュニケーション(みんな人間ですけどね) ◆2zEnKfaCDc:2020/04/29(水) 01:07:00 ID:lhjRcb260
「ここは私が引き受けます。小林さんは先に負け犬公園へ。」

 伊澄はここで、脅威の塊である九郎と単独で戦うことを選んだ。自分のような力を持つわけでも、綾崎ハヤテのような身体能力があるわけでもない小林がいたところで、戦いの局面は動かない。小林にできることといえばせいぜい共に死ぬか、無駄に死ぬかのどちらかだ。

(確かに、私には専門外の領域だよなぁ……)

 それを受けて、小林は思う。あんな爆発を起こせる伊澄とあんな爆発でも平気でいられるような奴の戦いに、自分が影響を与えられるはずがない。明らかな管轄違いだ。無闇に介入してもかき乱すのがオチというものかもしれない。素直に伊澄に従うのが得策というものだろう。



「―――行かないよ。」

「えっ。」

 しかしそれは私の性に合わない。

 人間と妖怪、どちらの尺度から見ても違うもの―――あの男を伊澄はそう言い表していた。だが言ってしまえば、伊澄があの男を敵対視する理由の大部分はきっとそれだけなのだろう。

(でもさ、それならきっとあの子らだってその括りなんだよね。)

 伊澄にあの男がどう見えているかなんて分からない。肉片から人へと再生していった姿なんて一生夢に出てきかねないトラウマものだ。見かけ上は人間に扮しているドラゴンなんかよりよっぽど禍々しいものなのかもしれない。

「まずは話し合おう。実力行使はその後でも遅くないと思うよ。」

 それでも、異なるものを異なるとして排除してしまえばそれまでだ。互いの異なる価値観を擦り合わせるプロセスを踏んで両者の違いを楽しむ未来だって、或いはあるかもしれないじゃないか。

「で、伊澄さんは冷静にあれと話せないんでしょ。だったらここは私の出番。」

「で、でも……」

「だいじょーぶ。終焉もたらすほどじゃなければ怖くないよ。」

 肝心なところでとにかく押しに弱い伊澄。しぶしぶ了承し、小林は九郎の元へと向かう。

「突然攻撃してゴメン。信じてもらえないかもしれないけど、私たちはこの殺し合いに積極的というわけじゃないんだ。」

 その言葉を、キョトンとした顔持ちで九郎は聞いていた。しかし次の瞬間には、何かが腑に落ちたようにパッと前を向き、応える。

「……信じますよ。確かに殺し合いと無関係に怖がられる心当たりならありますから。」

「そっか、ありがとう。」

 思った以上にあっさりと解決した。やはり思った通り、この人は安全だったのだ。正しかったのは私で、間違っていたのは伊澄さんだった―――しかしこれはこの場合に限っての結果論に過ぎない。そしてたぶん、この殺し合いの世界ってとこでは大体において正しい選択なのは伊澄さんの方なのだろう。

 彼女の選択は到底責められるものじゃない。たぶんあのようなチカラを持つ伊澄の日常は人間の物差しで測れるものじゃないだろうから。伊澄から見た九郎も人間の語彙では言い表せない類のものなのかもしれないし、そこに人間の倫理観なんて当て嵌めるものじゃない。
 でもね。逆もまた然り、私の価値観もまた否定なんかさせやしない。
 受け入れられるかどうかなんか二の次に、声高に叫んでやろうじゃないか。
 種族の差なんて微々たるものだろ、そんなので殺し合うな……ってね。

【E-2/草原エリア/一日目 深夜】

【小林さん@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:対先生ナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める
1.ひとまず伊澄さんと一緒に負け犬公園に向かおう

54異種間コミュニケーション(みんな人間ですけどね) ◆2zEnKfaCDc:2020/04/29(水) 01:07:38 ID:lhjRcb260




「なるほど。2種類の妖怪を食べた、ねぇ……」

 小林は九郎より、再生能力についての大まかな説明を受けた。つまり伊澄が恐れていたのは九郎自体ではなく、その肉体に芯から刻まれた、本来は有り得ない取り合わせの2種の怪異の性質だったのだ。

(妖怪と同じ見え方してるなら匂いまでキツいかもしれない、か。伊澄さんと同行させるのは酷だよなぁ……。)

 命が懸かっているこの状況で匂いひとつに拘っている場合では無いのかもしれないが、先ほどの怯えようを見るに伊澄視点の九郎は相当な化け物なのだろう。とりあえずどれだけアプローチされてもトールの尻尾は絶対に食べないようにしようと心掛けた。

「……ってことらしいよ。伊澄さんはどうする?」

 伊澄は黙りこくっていた。ただただ未知であった先ほどまでとは違って、正体が分かった今や九郎への恐怖は多少和らいだ。匂いというのも我慢できないほどのものではない。

「……すみません。同行はお断り致します。」

 それでも、伊澄は拒絶した。
 そもそも伊澄が負け犬公園を目指していた理由は、そこが友人の三千院ナギが目指す確率が高い場所だからだ。ナギにとって、あの公園は彼女のヒーロー、綾崎ハヤテとの思い出の場所。負け犬公園でナギと合流し、特別な力の何も無い彼女をその後も護り続けるために(迷子になりながら)そこに向かっていた。

 幼い頃、母親を亡くして落ち込んでいたナギを励ますために、伊澄は母親の霊の降霊術を試みたことがある。しかし当時、伊澄の霊力は降霊を行うにはまだ弱かった。それでも無理して降霊に臨んだ結果、ナギは闇を極端に恐れるようになってしまった。

 それ以来、もうナギを『向こう側』の世界と関わらせまいと努力してきた。教会の地下迷宮の悪霊を退治する時に自分の力がナギにバレないように周りの人物に口止めしたり、ムラサキノヤカタに神様の力が封印されていたことが分かれば警備として屋根裏部屋を借りたりもした。
 だからナギとの合流を目指している今、『向こう側』の真骨頂である九郎の同行を許すわけにはいかない。

「えっと……。」

 伊澄の拒絶に、両者の調停役となっている小林が一瞬困惑を見せるとそれをフォローするかのように九郎は口を開く。

「でしたら小林さんはこれまで通り、鷺ノ宮さんについていってください。僕は先ほど述べた通り、誰よりも安全ですから。」

「ん……ごめんね。そうさせてもらうよ。」

「私も勢いで殺害を試みてしまい、申し訳ありませんでした……。」

 その後、それぞれの知り合いについての情報を軽く交換して別れることとなった。完全に溝を埋めることは適わなかったけれど、互いにほんの少しだけ歩み寄ることならできた気がした。


【E-2/草原エリア/一日目 深夜】

【鷺ノ宮伊澄@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:三千院ナギとの合流のため、負け犬公園に向かう
1.ナギに『向こう側』の世界を見せたくない

55異種間コミュニケーション(みんな人間ですけどね) ◆2zEnKfaCDc:2020/04/29(水) 01:08:13 ID:lhjRcb260





(不死の身体を持つ僕を入れて殺し合い、か。茶番が過ぎるな。)

 小林と伊澄と別れた後、桜川九郎は1人『真倉坂市工事現場』に向けて歩き始める。
 そこは唯一、知り合いの岩永琴子や弓原紗季に縁のある場所であり―――名簿にあった名『鋼人七瀬』の噂の発生源である。

(身体がバラバラになっても再生の時に首輪まで元に戻った。つまり僕の能力を想定して造られているということだ。)

 人為的に創られた想像力の怪物、鋼人七瀬。
 自分の再生能力に合わせた装置を造る際に必ず必要となるサンプル。
 それらを統合して考えた結果―――否、そもそも自分や岩永がこの場に呼ばれている地点で―――この殺し合いには間違いなく六花さんが関わっている。

 この仮説は先ほどの2人には話していない。2人に話すまでもなく岩永や紗季さん辺りから波及するだろうし、あの2人が話さない方が良いと判断するのなら僕もそうすべきだろう。

……いや、それは言い訳だ。まだ僕はあの人のことを諦められないフシがあるだけ。庇うつもりは無いけれど、100%の確信になるまではまだ彼女を他人の心の中まで悪役に据えたくはないのだろう。

(何を企んでいるかは知らないけれど、絶対に阻止させてもらう。そのためにも……まずは岩永と合流しないとな。)

 彼女の頭脳だけを目当てとするほど冷たいわけではないが、自分の手の届く範囲であれば必ず護る。伊澄に同行を断られたことについても、別行動をしている彼女らが岩永を見つけるかもしれない。彼女を保護できる可能性が上がったのなら、むしろ良かったのかもしれない。

 この事態の解決には恐らく、岩永の頭脳も必要となるのだろうから。

【D-2/草原エリア/一日目 深夜】

【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:真倉坂市工事現場に向かう
1.桜川六花の企みを阻止する。

56 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/29(水) 01:08:37 ID:lhjRcb260
投下終了しました。

57 ◆EPyDv9DKJs:2020/04/29(水) 23:55:16 ID:p.nnW1I.0
弓原紗季、佐倉杏子で予約します

58 ◆2zEnKfaCDc:2020/04/30(木) 01:27:30 ID:EGnEA.wQ0
異種間コミュニケーション(ry)のwiki執筆の際に、書き忘れていた対先生用ナイフの支給品紹介を書き加えておきました。

新島真、刈り取るもの、影山律で予約します。

59 ◆EPyDv9DKJs:2020/04/30(木) 23:45:21 ID:z.GC8eYE0
投下します

60 ◆EPyDv9DKJs:2020/04/30(木) 23:47:31 ID:z.GC8eYE0
 鋼人七瀬を取り扱うサイトの掲示板、
 と言う舞台で始まった、嘘ばかり塗り固められた、虚構の推理。
 どのような嘘で鋼人七瀬を倒すのか、その顛末を弓原紗季は見ることはない。
 戦いの最中に、姫神葵と名乗る人物による殺し合いの舞台へと招かれた彼女には。
 怪異を前にしたお陰かせいか、冷静にこの状況を把握できてる方だ。

(六花さんの策…にしては、
 彼女一人では規模が大きすぎる。)

 鋼人七瀬を突破されることを危惧して、
 六花が用意していた予備の策…と、彼女はそう捉えるが、
 彼女が持つ未来決定能力は、あくまで起こりうる未来から決定するもの。
 あの状況から自分を気づかれずに拉致し、一度殺し合いのルールの説明をして、
 さらにもう一度気づかれないまま、今いる公園までの状況へ持ち込むのは、
 幾ら未来決定能力を以ってしても、とてもできる所業とは思えなかった。
 やはり考えられるのは、あの姫神葵の言葉通りて考えるべきだろう。
 姫神葵の裏に、彼女がいないとはとても思えないが。

(まずはこの首輪を何とかしないと、話が進まないわね。)

 考えるべきことは多いが、目先の問題と言えば、これ一つに尽きる。
 何をするにしても、首に巻かれたそれが、文字通りのネック。
 これがあっては、抵抗しようにも相手は生殺与奪の権利を握っている。
 怪異と言ったオカルトとの戦いから一転、こんな機械を相手することになるとは。
 交通課と言えども警察官、名簿と地図は頭に入れ、二人がいることも把握済みだ。
 岩永の頭脳ならば、ある程度の解決策を見出している可能性は低くないことに加え、
 少なくとも疑心暗鬼の多い殺し合いで、信用できる相手を見つけられるのは大きい。
 一方で、不死である筈の九朗が参加していることや、鋼人七瀬まで名簿に載っていたりと、
 疑問やら嬉しくない情報も、既に舞い込んでたりはするが、そこは一先ず保留とする。
 彼女が目指す場所は、二人が向かいそうなB-2、真倉坂市工事現場。
 七瀬かりんの遺体が発見された場所で、二人も同じように探しているなら、
 この地図上で、最も縁ある此処に向かっている可能性は、十分にあるはずだ。
 鋼人七瀬の存在がいるとなれば、悠長に行動している場合ではない。
 余力を残しつつ走るが───

「!」

 公園から響く嵐の如き騒音が、足を止めさせた。






 佐倉杏子にとって、人の生死については見慣れたものだ。
 グリーフシードの為に、魔女に成長するまで放っておけば、
 確実に死者が出てくるのだから、当然と言えば当然だ。
 今回の殺し合いも、ある意味似たようなものなのは間違いない。
 得るものの為に、他人を犠牲にしろ。全く変わらないことなのだが、

「ふっざけんな!!」

 いかんせん、そのタイミングが最悪に等しかった。
 今の彼女は荒れに荒れて、そこら中の物にその槍を振るう。
 なぜ、こんなことになっているのか。時間を少し遡らせよう。

 度重なる不運と言うべきか、
 他人の為に戦う彼女だからとでも言うべきか。
 それが原因で、魔女化してしまった美樹さやか。
 助けるべく、杏子はまどかと共に、文字通り命を賭して臨んだ。
 しかし、現実はそんな彼女の想いを汲み取ることはない非情。
 まどかの言葉も届かなければ、魔女となった彼女を前に満身創痍となっていく。
 そんな戦いの最中、彼女は一人呟いた。

『頼むよ神様…こんな人生だったんだ。
 せめて最後ぐらい、幸せな夢を見させて…』

 願った先、辿り着いたのが姫神葵がいた場所。
 祈りの先が、神様が与えてくれたのが、これだ。
 幸せな夢を願って与えられたものが殺し合いだと言うのか。
 先ほどのルール説明の際は状況のせいで唖然としてしまったが、
 冷静さを取り戻せば、こんな結末に彼女は激怒するのは当然だ。
 もし最初から理解が追いついていれば、真っ先に姫神に突撃していただろう。
 今や自販機やら、植木やらに八つ当たりしており、見事に荒れている状態だ。
 植え込みはあたりに散らされ、木々には槍による裂傷が無数に刻まれ、
 自動販売機も側面がひしゃげたり、酷い有様だ。
 彼女の心情を表しているのかもしれないが、
 この舞台でそれは、悪手の一言に尽きる。

61 ◆EPyDv9DKJs:2020/04/30(木) 23:49:29 ID:z.GC8eYE0

 人気のない場所でそんな行動を取れば、どうあっても音がそこら中に届く。
 近くにいた紗季にも当然届くし、街灯のせいでお互いの姿もはっきり見えた。

「あ。」

 彼女の存在に目が合って、ようやく冷静さを取り戻す。
 話は聞き流しかけてたが、大雑把な内容は把握している。
 殺し合いの場で、こんなことやってる奴へ抱く印象は一つしかない。
 目が合った瞬間、紗季は余力なんて言ってる場合ではなく全力で走る。
 相手は子供ではあったが、あの槍を掻い潜って組み伏せるのは難しい。
 対抗しうる手段を確立してない以上、相手にせず逃げるのは得策だ。

「ちょっと待て! アンタ絶対誤解してるだろ!!」

 全力疾走で逃げる彼女は絶対誤解している。
 この先出会った奴にあることないこと言われては困るので、
 杏子もまた全力で彼女を追いかけた。





 大人と子供と言えど、杏子は魔法少女。
 すぐに追いついて、誤解を解くことに成功する。
 一先ず落ち着けるよう、公園の椅子に座って二人は話し合う。
 暴れてた理由も(隠すと後が面倒なので)しっかり話すが、

「魔女に、魔法少女…頭が痛いわ。」

 眉間にしわを寄せながら、紗季は軽く頭を抱える。
 既に怪異だけでも、十分頭が痛くなるような内容なのに、
 今度は魔法少女と、オカルトではなくファンタジーときた。
 短期間で怪異に慣れてしまった以上、すんなり受け入れられる。
 すんなり受け入れられる自分の慣れは、少し嫌に思うが。

「ところで、そのさやかって、もしかして美樹さやか?」

「ん? あいつのこと知ってるのか?」

「いえ、参加者の名簿に名前があって───」

「は!?」

 困惑する彼女に名簿を見せ、
 その名前が記されてることを教える。
 ぶんどるように名簿を取られ、杏子は他の参加者も確認していく。

「どういうことだよ…」

 全員の確認を終えれば、疑問の連続だ。
 さやかだけでも驚きだと言うのに、
 既に故人であるしたはずの巴マミまで名を連ねている。
 それも、同姓同名の可能性を否定させる、顔写真付きで。
 一般人のまどかの参加の方も、彼女としてはかなり違和感があるが、
 かたや魔女、かたや死人。一般人と比べるとインパクトが違う。

「あんなのいたら殺し合いどころじゃなくなるぞ。
 この名簿、騙すための偽物って可能性はないよな?」

 魔女になった彼女がするのは殺し合いではなく、
 もはや一方的な蹂躙になるのは、想像するに難くない。
 倒す目的であるならば、まだ勝ち目はあるだろうが、
 それは自分かほむらぐらいで、他に勝てる要素があるとは思えない。
 あの場で回りを見ていなかったのもあって、偽の名簿に感じてくる。

「多分だけど、それはないと思うわ。」

「理由は?」

「ルール説明の時に、啖呵を切った人がいたんだけど、
 彼が怪盗と指摘されて動揺した時、呆れた声がしたわ。」

 僅かに聞こえた、呆れた声。
 相手をよく知っていなければ、出さないだろう。

「で、その知り合いってのは誰だったんだ?」

「…猫、でいいのかしら。」

「猫。」

 声がした場所にいたのは黒猫だけだったそうだ。
 猫が喋るのを想像して至るのは、キュウべぇの仲間の類。
 似たようなものであるならば、それは頷ける。
 念のため名簿を見るが、猫は参加していなかった。
 猫っぽい何かはいたが、顔写真では判断がつかない。

「ってことは、意図的に知り合いを集めてるってわけか。」

「多分、一つや二つのグループじゃないのかも。
 人数的に、グループは八つぐらいあるのが妥当になるわね。」

 小林と言う名も二人ほど参加していることから、
 ある程度参加者はグループ分けされてるのは事実だろう。
 もっとも、その小林の一人はさん付けで本名が記載されてないし、
 魂を狩るものと言う、名前と言っていいのか怪しいのもいるが、
 その辺は考えてもしかたないので、今は放っておくことにする。

「…あれ?」

62 ◆EPyDv9DKJs:2020/04/30(木) 23:51:05 ID:z.GC8eYE0

 此処で紗季は、あることに気づく。

「どうした?」

 彼女は名簿を読み終えた。
 つまり、参加者の名前は全員目を通したはず。
 ならば何故、

「一つ尋ねるけど、貴方───鋼人七瀬は知らないの?」

 鋼人七瀬の名前を見て、素通りしているのか。
 あの都市伝説は、多くの人へと根付いた虚構の存在だ。
 興味がない、と言っても名前くらいは知っててもおかしくはない。
 はずなのに、何もない。彼女は鋼人七瀬の名前を出さずに話が進む。
 そこに彼女は引っかかる。

「鋼人七瀬? えーっと…うわっなんだこれ。魔女か何かか?」

 名簿を見直してみると、
 黒く塗り潰された顔写真に、嫌そうな顔をする。
 完全に知らない反応。それどころか、魔女と言う誤認さえしていた。
 お互い別の世界の住人なのだから、当然と言えば当然だが、
 気づける要素が現状余りないため、到達はできなかった。

「あんた、これが何か知っているのか?」

「長くなるから簡潔に説明するけど…」

 此処で隠す理由も特になく、鋼人七瀬について語る。
 噛み砕いた説明の為、色々抜けていることはあるのだが、

「妖怪に怪異って、あんたの方も大概だな。」

 魔法少女の話をしても信じられるか疑っていたが、
 蓋を開けてみれば、相手もそれに近いものと縁があったと言う事だ。

「ええ、そうね、否定できないわ…」

 ごもっともな意見に紗季は目を逸らす。
 ああいった存在が見えないだけで存在していた。
 そう思うと正直鳥肌が立ってくる。

「悪いけど、ニュースとかネットにも疎いし知らないな。
 魔女と同じで厄介みたいだが…まだ倒せる可能性、あるんじゃないのか?」

「どういうこと?」

「姫神って奴は、此処だと使えなくなる能力もあるって言ってたんだよな?
 噂がないと形を保てないやつが、こんな場所でも保つのも、結構無理がないか?」

 見知った仲間を優先してたのもあったことだが、
 彼女が虚弱になってる可能性に、紗季は見落としてた事に気づく、
 噂で形を成す彼女は、このパレスではあの時程の脅威ではない可能性。
 噂と言うバックアップがあるか怪しい今は、彼女を倒せる可能性があるのは僥倖だ。
 無論、六花がこの殺し合いに関わってるのは、状況からして明らかなこと。
 殺し合いを加速させるための要員を、態々弱体化させるかは怪しいところだ。
 相手の全貌は把握できてない以上、逆に強化してる可能性だってありうる。
 一方で、元々の予定である、虚構で築かれた推理自体も、今や使えるかは怪しい。
 仮にできたとして、あの時と違って今度は何人が殺し合いに乗るか分からない状況。
 長々と、掲示板に書き込んでいる暇があると言えるほど、穏やかな状況でもない。
 (元より、この状況においてネットにつながるかどうか、と言う問題もあるだろうし。)
 慢心と言うよりは、その可能性に賭けるしかないと言うべきか。

「…それでも、九朗君達を探すべきね。」

 倒せる可能性があると言う収穫は大きい。
 だが、問題は彼女を倒すだけの戦力をどうするか。
 一体どれだけの戦力を以ってすれば倒せる程なのか。
 逆に検討がつかず、何より信用できるかどうかの問題もある。
 今回はたまたま信用できただけで、次もそうとは限らないのだ。
 同じように、誰かと行動してる二人を探すべきなのかもしれない。
 特に頭に回る岩永なら、疑わしい人物を連れているとは考えにくい

63 ◆EPyDv9DKJs:2020/04/30(木) 23:51:45 ID:z.GC8eYE0
「あたしだけじゃ不満か?」

「そういうわけじゃないけれど、
 貴方の知り合いの、さやかって子のことも考えると、
 鋼人七瀬を倒すだけに力を使うわけにもいかないわ。」

 何も、鋼人七瀬だけが敵と言うわけではない。
 魔女になった人物や、他の参加者のことも吟味すると、
 石橋を叩いて渡るぐらいが丁度いいだろう。

「だったら、見滝原中学に行ってみるか?
 アタシの知り合いが通ってた学校なんだよ。」

 自分以外の知り合い全員が通っている中学。
 紗季が二人を探しに工事現場に向かったように、
 もしかしたら、そこに知り合いがいるかもしれない。
 できることなら、人の姿であるさやかがいてくれると嬉しいが、
 なんてことを思いつつ勧めてみる。

(魔法少女…この状況だと重要かもしれないけど…)

 距離的には工事現場とそう違いはないが、方向は逆だ。
 どちらかを行ってからだと、確実にもう一方は大幅に時間を食う。
 その間に、もう一方の目当ての人物が、その場から動いてない可能性は皆無。
 推測だが、鋼人七瀬以外にも殺し合いを加速させるための参加者がいるはず。
 襲われないとは断言できないし、一か所に留まって解決できる状況でもない。
 どちらを選ぶべきか考えてると、

「…何を、しているの?」

 少し変形してしまった自販機を、杏子が漁っている。
 別におかしいことはないのだが、腕を突っ込んで伸ばしており、
 明らかに買ったものを取り出しているようには見受けられない。

「いや、この自販機さっき暴れて蹴ったからな。
 壊れて出てくれたらラッキーだったんだが、そううまくもいかねえか。」

「普通に犯罪だからね、それ…後これ、無料で使えるみたいだけど。」

 自販機の横に、倒れた看板がある。
 『一人一回、無料』と書かれており、
 多分、先程彼女の癇癪の被害で倒されたのだろう。

 試しに缶コーヒーを…と思ったが、あるのはジュースだけだ。
 仕方がないので適当なジュースを選んで押すと、普通にでてくる。

「変なところで用意がいいな。」

 どうやって一人一回を認識してるのか、
 色々突っ込みたいことはあるが、今は気にしないでおく。
 適当にジュースでも選ぼうかと、彼女も続けてボタンを押した。

「それで、アタシは見滝原中学へ向かうけど、アンタはどうする?
 誤解させたのは悪いけど、色々ほっとくわけにはいかねえからな。」

 杏子の言うことはもっともだ。
 自分と違って死んだ人と魔女になった人がいる以上、
 此方に付き合ってもらうよりも、優先するべき理由がある。
 答えは決めている。同行するか、しないで九朗達との合流を狙うか。



 勝てたはずの勝負も、
 負けたはず勝負も白紙にされた二人。
 白紙になった二人の辿る道は、今から書き起こされる。

 さやかと言う不要な不安要素を、自分達で作りながら。



【D-3/負け犬公園/一日目 深夜】

【弓原紗季@虚構推理】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3、ジュース@現地調達(内容は後続の方にお任せします)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破綻
1:合流の為工事現場か、戦力的に見て見滝原中学か
1:九朗君、岩永さんとの合流
2:美樹さやかに警戒(巴マミの存在も僅かに警戒)
3:魔法少女、ねぇ…

※鋼人七瀬を倒す作戦、実行直後の参戦です
※十中八九、六花が関わってると推測してます
※杏子から断片的ですが魔法少女に関する情報を得ました

64 ◆EPyDv9DKJs:2020/04/30(木) 23:52:33 ID:z.GC8eYE0
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:姫神に対するストレス、魔法少女の状態
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3 ジュース@現地調達(内容は後続の方にお任せします)
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず姫神を殴らないと気が済まない
1:見滝原中学へ向かう
2:鋼人七瀬に要警戒
3:さやかに会ったら…
4:可能なら、何処かでまどかを見つけて保護しておく

※魔女化したさやかと交戦中の時の参戦です
※最初の場のやり取りを大雑把にしか把握していませんが、
 大まかな話は紗季から聞いています
※紗季から怪異、妖怪と九朗、岩永の情報を断片的に得ました


※さやかは魔女化した状態と思ってます
※パレスの中では、鋼人七瀬が弱体化してる可能性は仮説であるため、
 実際に彼女が本当に弱体化してるかどうかは分かりません



※D-3、負け犬公園は荒れた状態です
 派手に暴れたので誰か聞いてるかもしれません
 自動販売機は今のところ問題なく機能してます

65 ◆EPyDv9DKJs:2020/04/30(木) 23:52:58 ID:z.GC8eYE0
以上で『非情の中の神の祝福』を投下終了します

66 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/01(金) 10:41:51 ID:iik1fFLI0
投下乙です!
魔法少女の世界観をすんなり受け入れながらもそれを複雑に思ってる沙季さんも、殺し合いを命じられて辺りの物に八つ当たりする杏子も物凄くしっくりくるというか、キャラの繊細な部分を丁寧に描いてて読後感が良いですね。
さやかの時も同じようなこと書きましたが、杏子もまた殺し合いに呼ばれてからの方が救われそうでやるせないですね。神様に願っている杏子が、原作で神様の力を求めていた姫神に拾われるという皮肉な状況ですが。
そしてオープニングのモルガナの一言が回収されててうれしい。重要でもなんでもない一言ですが、モルガナならこのタイミングで絶対に言いそうだと思い挟み込んだ一言で気に入ってるので。

67 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 16:48:34 ID:UVzBDgrc0
投下します

68殺し屋、魔法少女と出会う×2 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 16:50:10 ID:UVzBDgrc0


僕、潮田渚はナイフを片手に建物の陰に腰かけていた。
僕、いや、僕たちE組のクラスメイトはこれでもそれなりの修羅場を経験してきた。
そもそもの学校の差別意識のヒドイ体制。犯罪慣れした不良高校生達。本物の殺し屋と狂気に満たされた元軍人。
先生たちの助力があってこそだが、何れもどうにか乗り越えてきた
けれど、殺し合いというのはさすがに初めてだ。

当然、冷静じゃいられないので、ひとまず腰を落ち着けて頭の中を整理することにした。

わかることから纏めよう。
まず、僕の知り合いは四人。

〇赤羽業〇茅野カエデ〇狭間綺羅々〇烏間惟臣

この四人の中で、思考が平常であると想定した上で殺し合いに賛同しないと言えるのも四人。
皆、殺せんせーを殺すための殺し屋であるのは事実だ。
けれど、だからといって他人を殺せと言われてハイ承知しました、と行動に移すタイプの人たちでもない。
烏間先生はドがつくほどの生真面目な職業軍人で、地球の存亡がかかっている僕たちの暗殺指導においても僕らが学生であることを最大限に尊重してくれる。
恐らく、この殺し合いにおいても犠牲者なしでのゲームの頓挫を狙っているだろう。
狭間さんは趣味が暗目なだけの普通の生徒だし、茅野は性格もそうだが、そもそも弱くて単身での殺しなんてとてもできやしない。
一番の危険要素である業君は、むしろあの主催の言いなりになるのを嫌い、殺し合いを壊すことであの男への嫌がらせをしようとするだろう。

次いで、この殺し合いを終える条件。

ひとつは、言いなりになって他の参加者を全員殺すこと。
もうひとつは、首輪を外して主催を制圧してゲームを打ち切らせること。

両者ともリスクはある。

仮に言いなりになって優勝したとしよう。
だが、優勝の褒美であるどんな願いも叶える権利を、主催が素直に渡すかは怪しい。
いざ願いを叶えるという段階に至って約束を反故にされれば、優勝者はただ自分の味方になり得る者を消した愚者になってしまう。

後者は、一番理想的だが、そもそも主催の監視下において意向にそぐわない時点で危ない橋を渡っている。
仮に参加者全員が結託し、主催に対する反乱を企てているとしよう。果たして主催の立場から見て、それは意味のある状況だろうか。
否。わざわざ数十人も集めた殺し合いでそんな流れになれば、如何な手段を用いてでも殺し合わせる、あるいは価値なしと判断して早々に首輪を爆破するはずだ。
それを防ぐためには、参加者が殺し合いをする意思があることを主催に伝え続けるその裏で殺し合い破壊の作戦を練らなければならない。
...そんなことが可能なのだろうか。
顔見知りである僕たちE組だけならいざ知らず、赤の他人まで互いに信用しきって命を預けることが。
少なくとも、犠牲者0のゲーム打開は不可能だろう。

69殺し屋、魔法少女と出会う×2 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 16:50:37 ID:UVzBDgrc0

外部勢力によるゲームの妨害は除外した。
それは、いまこの時点で首輪が解除されていないことからだ。
殺せんせーは決して生徒を見捨てない。
どこかのこじんまりとした研究施設ならいざ知らず、少なくとも島1島ぶんの規模で行われるゲームだ。
マッハ20で世界中を動き回れる殺せんせーが見つけられないはずがない。
また、殺せんせーは精密機器にも通じている。
先生が僕たち生徒が殺し合うのを黙ってみているはずがない以上、主催への殴り込みよりも早くこの首輪を外しているはずだ。
それがないということは、殺せんせーではこの殺し合いを止めることができないのを意味する。外部勢力の介入も期待できないということだ。

どの道を選ぶにせよ、僕たち参加者が自分の手で生を掴まねばならない。
ならば、僕はどうするべきか。

脳裏に浮かぶのは、殺せんせーのこと。
殺し合いに連れてこられた四人のこと。
クラスの皆のこと。
両親のこと。

それらを閉じ込めるように眼前に迫った両の掌。

死神が放った、両掌による最高のクラップスタナー。

僕はあれを彼からの『甘い』というメッセージだと受け取った。
当然だ。
僕らはあくまでも先生を殺すための即席の殺し屋であるのに対して、彼ら『殺し屋』はそれを長年生業にして生き残ってきた人たちだ。
技術も殺人の経験も修羅場を潜った数も段違い。僕らが勝利を収めることが出来た殺し屋たちも、彼らにとって不利な状況で人数差もあり、そもそも僕らを殺す気のないという悪条件で戦ったから不覚を取っただけだ。
実際に僕らと彼ら、どちらが殺し屋として相応しいかといえば間違いなく彼らだ。

そんな彼らですら殺せない先生を、僕らは本当に殺せるのだろうか?
殺人を経験したこともない、且つ自分の命の保証のされている殺し屋に、人外である先生を殺すことができるのだろうか?
仮に先生を殺せる機会があったとしても、それが自分達の仕業ではなく誰かの遺した成果だった場合、僕らはそれで暗殺が成功したと言えるのだろうか?

...僕は恐ろしいことを考えつつある。
このゲームは、僕らが先生を殺せる殺し屋になる為の練習台になるんじゃないかと。

わかってる。
この殺し合いでの殺人は、僕らが教わる暗殺から外れたものだということは。
それに殺し屋たちにも彼らなりのルールがある。
『私情に囚われない』『報酬に目が眩みリスクを顧みない仕事をしない』『必要な時に必要な数だけ殺す』。
恐らく、彼らがこの殺し合いに巻き込まれても早々に乗ることはせず、状況を見てから考える。だから彼らは『殺し屋』なんだ。

でも、その領域にまで達していない僕はそれでいいのか?
人を殺したこともない奴に先生を殺すことが出来ると本気で思うのか?

不安と葛藤が胸中を渦巻いても、時が止まる訳じゃない。

70殺し屋、魔法少女と出会う×2 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 16:51:06 ID:UVzBDgrc0
コツ、コツ、コツ、と靴が地面をたたく音がした。

誰かが向かってきている。
警戒心が薄い、というわけじゃない。時々立ち止まったり、なるべく音が鳴らないようにしようと努めているのは伺える。
ただ、烏間先生やE組ならもっと足音を殺せてる。たぶん、近づいているのは彼らじゃない。

つまりは巻き込まれた赤の他人。

ドク、ドク、と心臓が激しく波打ち始める。
僕はこれから遭遇する人をどうするつもりなのか。それすら決めあぐねている中で接しなければならない。
手から変な汗が滲み出る。

荒ぶりかける呼吸を抑え、僕は努めて一般人らしい挙動をしつつ、来訪者と対面した。

「ち、近づかないで」

僕は震える声でナイフを前方に突き出しながら、来訪者―――金髪のお姉さんを牽制した。
お姉さんはギョッとした表情で立ち止まり、僕の言葉通りにそれ以上は近づかなかった。

「え、えっと、その、あなたは私を殺すつもりなの?」

お姉さんは動揺しつつも、僕に優しい声音で問いかけた。
僕も、それに対していまの気持ちをそのまま伝える。

「ご、ごめんなさい。殺し合いなんてするつもりはありません。でも、あなたが信用できるかは別の話なので」
「...それなら大丈夫。私も殺し合いなんて反対よ。あんな人の言いなりなんてならない」

お姉さんは、僕から目を離さずにザックを足元に下ろして両手を挙げた。
顔色を伺うが、恐怖はしていても、頑張ってこちらからの信用を得ようとしている。そこに敵意や害意のような危険な色は見えない。
死神のように殺意を甘言で隠すような人もいるが、それができるのは限られた殺し屋だけだ。
少なくとも、この人はそうは見えない。感情の波がハッキリしている。

「...僕の名前は潮田渚です」
「私の名前は巴マミ。少しお話しましょうか」

彼女の誘いを受けて、僕らは近くの教会に身を隠し、互いの身の内を話すことにした。

その際に、僕が彼女と同学年だということに驚き、彼女もまた僕が男の子であるのに驚いたのは言うまでもない。

71殺し屋、魔法少女と出会う×2 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 16:52:01 ID:UVzBDgrc0







信じたくなかった。

魔法少女が魔女になる。そんな事実、あってほしくなかった。

だってそれは、私が倒してきた魔女が皆、元は魔法少女で。
私がしてきたことは同じ魔法少女を殺してきたということなのだから。

けれど、美樹さんが魔女になってしまったことで、嘘だと誤魔化すことはできなくなって。

いくら呼びかけても彼女は応えてくれなくて。

どうしようもなくなり、暁美さんの爆炎に美樹さんが包まれたところで―――景色が変わった。
気が付けば妙な首輪を嵌められ、殺し合いをしろと言われて。
私が混乱している内に、流れるままに殺し合いが始まってしまった。
訳も分からぬままあたふたと慌て、ひとまず配られた名簿を見て声を失った。

知る名前は四つ。
鹿目さん。暁美さん。佐倉さん。そして―――美樹さん。

前者三人は同じ場所にいたのでわかる。けれど、美樹さんは確かに死んだはず。いや、あの爆弾で生きていたとしても、それは美樹さんではなく魔女のはずで。
しかし、この顔写真付きの名簿を信じるなら、この会場にいるのは魔女ではなく確かに美樹さんだ。

これはどういうことだろう。
主催が生き返らせたのか?あるいは―――魔女から戻したのか?

そんなことが可能なの?

だとすれば、私は皆を殺さずに済むの?
その為には、あの男の言う通りに殺し合いに優勝しなければならないの?

けれども、他に巻き込まれた人たちの存在が私の考えを押しとどめてくれる。
そう。私は魔法少女。力なき人々を守らなければならない存在。
魔女から逃れる為に一般人を犠牲にするなんて本末転倒よ。

じゃあ、このままでいいかと問われれば、やはりすぐに答えることはできない。
結局、私はまだ答えを出せないでいるんだ。

私が巻き込んでしまった彼女たちを救いたい。けれど、一般人を犠牲にすることもできない。

だから私は迷いを抱いたまま、参加者の一人である潮田渚くんと出会ってしまった。
とりあえず戦意はないようなので、私たちは近くの教会に身を潜め、互いの持つ情報を交換することにした。

魔法少女のことは伏せつつ、私たちは言葉を交わしていく。
その最中。
こんな状況なのに、不思議と安心できるような感覚を覚え始めた。
私の心がどうかしてしまったというのか。それとも、彼が...?




【D-4/教会/一日目 深夜】

【潮田渚@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:鷹岡のナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:暗殺の経験を積む...?
0:マミと情報交換をする。
1:暗殺をするかどうかはまだ悩み中。

参戦時期は死神に敗北以降〜茅野の正体を知る前までです。

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品 不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:いまはただ考える。
0:渚と情報交換する。
1:さやかが魔女から戻ったのか、それとも生き返ったのかを知りたい。
2:もしも魔女化から逃れる方法があるのなら知りたい。できれば殺し合いなんて乗りたくはない。
3:渚くんと会話をして安心している...?

参戦時期は三週目、杏子を撃ち殺す直前です。

72殺し屋、魔法少女と出会う×2 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 16:52:37 ID:UVzBDgrc0


「こんなの、絶対おかしいよ」

わたしは思わずつぶやいた。
突如、巻き込まれた殺し合いなんていう異常事態。
それは漫画やドラマのような捜索話じゃなくて、実際に目の前で人が殺されてしまった。

怖いのはもちろん、悔しいし悲しかった。
わたしには力がある。魔法少女という、困った人を助けることが出来る素敵な力が。
この力があればわたしだって今までとは違う自分になれる。
そう思っていたのに、眼前の悲劇を止めることが出来なかった。
それが悔しいし悲しかった。
どうしてこんなことをするの。どうして殺し合いなんてしなければいけないの。

名簿を信用するなら、知り合いは三人。

さやかちゃん。
わたしの幼馴染の親友で、だけど魔法少女のことは知らない。
ほむらちゃん。
わたしの友達で、魔法少女の素質がある子。だけどまだ魔法少女じゃない。
マミさん。
魔法少女としても学校でもわたしの先輩で、とても頼れる素敵な人。

絶対に死なせたくない。
そしてそれは最初に主催に食って掛かった人たちも同じ話で。
結局、わたしはだれの犠牲も看過できなかった。

だから、わたしはわたしのできることをやらなくちゃ。

息を吸い、吐く息と共に言葉を乗せる。

「―――わたしの名前は鹿目まどかです!わたしは殺し合いになんて賛成しません!こんなの間違ってる...わたしを信じてくれる人もそうでない人も、どうか力を貸してください!
誰も死なずにこの殺し合いを止めましょう!」

言った。言い切った。
まだ心臓がばくばく言っているけれど、それでも普段のわたしでは出せないような大声で叫ぶことが出来た。
もちろん、そんなすぐに誰かが反応してくれるとは思えない。だから、なんども繰り返す。

「わたしの名まっ」

でも声なんて出なかった。
突然、背後から口を押えられてしまったからだ。

73殺し屋、魔法少女と出会う×2 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 16:53:26 ID:UVzBDgrc0

「――――!」

奇襲だ。まさかこんなに早く来るなんて。
口を覆う手をどかそうとするけれど、力が強すぎて剥がれない。
信じられない。魔法少女は普通の人より強いはずなのに。

「落ち着いてくれ。俺はきみを殺すつもりはない」

かけられた声は想像よりも優しいもので。
わたしは力を抜き、チラ、と視線を上に向ける。
わたしを抑えているのはシュッとしていて、誠実な印象を受ける男の人だった。
抵抗がほとんどなくなったのが意外だったのか、彼はわたしの口を覆った手をすぐに解いて、手と簡単な動作で『向こうに身を隠そう』と提案した。
小さく頷き、彼の提案に乗る。

身を隠したところで、わたしたちは控えめな声で挨拶を交わした。

「わたしは鹿目まどかです」
「椚ヶ丘学園教師の烏間惟臣だ。すまない、この状況では危険だと判断したため少々手荒な真似をしてしまった」
「いえ、手荒だなんてそんな」

確かに驚いたものの、拘束も口を覆う程度でそこまで厳しくなく、人を傷つけるにしては緩すぎた。
かなりこちらに気を遣ってくれたのだろう。
そんな彼を責めるわけがなく、謝らせるのも申し訳ないくらいだ。

「その、烏間さんはわたしと一緒に殺し合いを止めてくれるんですか?」
「ああ。誰も犠牲が出ずに済むのが一番理想的だ。俺もどうにかして止めたいと思っている。
ただ、さっきのように叫んでまわるのは相手によっては警戒心を煽るだけだし危険な奴に遭遇するリスクも高まる。なるべく控えてくれ」
「は、はい」

それよりも嬉しかった。
魔法少女でもないのにここまで協力的に接してくれる人が来てくれたことが。



「ところで鹿目さん。きみは俺の他にも誰か接触はしたか?俺の生徒たちも巻き込まれているんだが」
「いえ、会ったのは烏間さんが初めてです。あの、私の方も友達が三人来ているんですけど」
「いや、俺もきみが初めて会った参加者だ。...ならいまのうちに伝えておこう。もしもきみの知り合いと俺の生徒、どちらかしか助けられない状況下に陥れば、俺は生徒たちを優先させてもらう」
「えっ」
「逆も然りだ。もしもきみが俺の立場になったら、迷わずきみの友達を優先してくれ。そうならないのが一番だがな」
「...そうですね」

自分を子供扱いせず、真っすぐに目を見て話し、自分と対等に話してくれることが。
そんな彼には感謝しかなかった。

だからこそ聞きたいことがある。

「烏間さんは、どうしてそこまでわたしを信用してくれたんですか?」

今さらだけど、わたしの行動はそれ一つで信頼に足るものじゃない。
協力したいと言って騙している可能性だってあるはずなのに、なんで烏間さんはあっさりと信じてくれたんだろう。

「そうだな...確かにきみが騙そうとしている可能性は考えた。だが、人を騙すつもりならまずは相手を定めてからにする。
対象に対して効果的な嘘でなければ意味が無いからな。
きみがやった手法は、不特定相手で、最悪大勢の人間がきみのもとに集まる可能性がある。
事前の情報も無しに集まった人間すべてを出し抜ける者はそうはいない。ならばきみは本当に殺し合いを止めたいと願っている。そう踏んだ。
そして殺し合いを止めたいと協力する以上、俺はきみと対等に接するべきだと思っている」

落ち着いた物腰。
判断の速さ。
冷静な分析。

魔法少女と契約する前のわたしにはとうてい持ちえないものだ。
わたしも大人になるなら、こういう人になりたいと思わずにいられなかった。

74殺し屋、魔法少女と出会う×2 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 16:56:04 ID:UVzBDgrc0







この殺し合いは政府が仕掛けたものかとほんの僅かにだけ考えた。シロのように被害も犠牲も厭わない者の存在があるからだ。だがすぐに撤回した。
それは、俺の関係者は含まれているものの、参加者の大半はE組に関係のない者たちであり、かつ肝心のヤツが参加させられていないことからだ。
ヤツを殺せない現状に焦った結果ならば、参加者はE組が大半を占めなければおかしく、そもそもヤツの怒りを買うような真似はしない。
なればこれは異常事態だ。
主催の謳う優勝の権利とやらも、奴がそれを叶える信用性がない以上は見送りだ。遠慮なくこのふざけたゲームは壊させてもらう。
生徒たちの犠牲の上で願いを叶える時点で、このゲームを承諾するつもりはなかったがな。

やがて、生徒たちを探す為に町を探索していた俺の耳に届いたのは少女の声だった。
こんな状況でああも大声を出せば狙ってくださいと言っているようなものだった。

近くだったことも幸いし、声の主への接近と拘束は容易だった。
互いに戦意がないことを確認しあい、共に情報交換に勤しんだが、不思議な少女だと思わずにはいられなかった。

普通、こういった異様な状況に陥ればもっと動揺してしかるべきだというのに、彼女は第一に参加者全員の安全を優先した。
加えて、俺が口を塞いだ時に発揮した異様な力だ。
プロの格闘家や軍人が拘束から抜け出すような技術は一切なく、手の感触から伝わった筋肉量からしても普通の一般女学生とさほど変わらなかった。
だというのに、俺の腕を払おうとした力は間違いなく成人男性を優に超えていた。恐らくE組の生徒であれば誰であれあっさり振り払われていただろう。

技術や体捌き、体つきは素人のソレでありながら、少なくとも力だけは人間を超えている。
非常に奇妙だ。彼女が殺し合いに乗っていないのは幸いだったといえよう。
ひょっとすると彼女の友達もみんなそうなのだろうか。

...いや、彼女たちがなんであれ、俺は俺の役割、ゲームを止めて生徒たちを安全に返すことに専念するだけだ。
俺だけあの教室に帰っても、巻き込まれていない生徒たちが苦い思いをするだけだからな。





【D-4(教会からあまり遠くない場所)/一日目 深夜】



【烏間惟臣@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品 不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める
0:生徒たちとの合流
1:まどかと共に行動し殺し合いを止める。

※参戦時期は、少なくとも夏休み以降です。
※魔法少女のことはまだ伝えられていません

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品 不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める
0:マミ、ほむら、さやかとの合流。
1:烏間と共に行動し殺し合いを止める。

※参戦時期は一週目、ほむら救出〜ワルプルギスとの闘いまでの間です。
※殺せんせー関連のことはまだ伝えれていません

75 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 16:56:33 ID:UVzBDgrc0
投下終了です

76 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/01(金) 18:33:05 ID:iik1fFLI0
投下お疲れ様です。
精神状態が安定せず揺れている2人と、安定していて殺し合いにも反対している知り合いがそれぞれ近くにいる状態。不穏な展開を想像せずにはいられず、とても気になる引きになっていますね。

……なのですが、申し訳ありません。>>3に明記してあるルールで、最終的にタイムリープされた世界線(作中の言い回しでは1〜4周目)からの参戦を禁止しており、現状このままでの採用は厳しくなっています。大変恐縮ですが、ご意向を伺ってもよろしいでしょうか。

77 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 23:36:04 ID:UVzBDgrc0
>>75
参戦時期の制限を勘違いしていました。申し訳ありません
なので、烏間とまどかを外して修正したものを投下します

78不安の種 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 23:36:44 ID:UVzBDgrc0

僕、潮田渚はナイフを片手に建物の陰に腰かけていた。
僕、いや、僕たちE組のクラスメイトはこれでもそれなりの修羅場を経験してきた。
そもそもの学校の差別意識のヒドイ体制。犯罪慣れした不良高校生達。本物の殺し屋と狂気に満たされた元軍人。
先生たちの助力があってこそだが、何れもどうにか乗り越えてきた
けれど、殺し合いというのはさすがに初めてだ。

当然、冷静じゃいられないので、ひとまず腰を落ち着けて頭の中を整理することにした。

わかることから纏めよう。
まず、僕の知り合いは四人。

〇赤羽業〇茅野カエデ〇狭間綺羅々〇烏間惟臣

この四人の中で、思考が平常であると想定した上で殺し合いに賛同しないと言えるのも四人。
皆、殺せんせーを殺すための殺し屋であるのは事実だ。
けれど、だからといって他人を殺せと言われてハイ承知しました、と行動に移すタイプの人たちでもない。
烏間先生はドがつくほどの生真面目な職業軍人で、地球の存亡がかかっている僕たちの暗殺指導においても僕らが学生であることを最大限に尊重してくれる。
恐らく、この殺し合いにおいても犠牲者なしでのゲームの頓挫を狙っているだろう。
狭間さんは趣味が暗目なだけの普通の生徒だし、茅野は性格もそうだが、そもそも弱くて単身での殺しなんてとてもできやしない。
一番の危険要素である業君は、むしろあの主催の言いなりになるのを嫌い、殺し合いを壊すことであの男への嫌がらせをしようとするだろう。

次いで、この殺し合いを終える条件。

ひとつは、言いなりになって他の参加者を全員殺すこと。
もうひとつは、首輪を外して主催を制圧してゲームを打ち切らせること。

両者ともリスクはある。

仮に言いなりになって優勝したとしよう。
だが、優勝の褒美であるどんな願いも叶える権利を、主催が素直に渡すかは怪しい。
いざ願いを叶えるという段階に至って約束を反故にされれば、優勝者はただ自分の味方になり得る者を消した愚者になってしまう。

後者は、一番理想的だが、そもそも主催の監視下において意向にそぐわない時点で危ない橋を渡っている。
仮に参加者全員が結託し、主催に対する反乱を企てているとしよう。果たして主催の立場から見て、それは意味のある状況だろうか。
否。わざわざ数十人も集めた殺し合いでそんな流れになれば、如何な手段を用いてでも殺し合わせる、あるいは価値なしと判断して早々に首輪を爆破するはずだ。
それを防ぐためには、参加者が殺し合いをする意思があることを主催に伝え続けるその裏で殺し合い破壊の作戦を練らなければならない。
...そんなことが可能なのだろうか。
顔見知りである僕たちE組だけならいざ知らず、赤の他人まで互いに信用しきって命を預けることが。
少なくとも、犠牲者0のゲーム打開は不可能だろう。

外部勢力によるゲームの妨害は除外した。
それは、いまこの時点で首輪が解除されていないことからだ。
殺せんせーは決して生徒を見捨てない。
どこかのこじんまりとした研究施設ならいざ知らず、少なくとも島1島ぶんの規模で行われるゲームだ。
マッハ20で世界中を動き回れる殺せんせーが見つけられないはずがない。
また、殺せんせーは精密機器にも通じている。
先生が僕たち生徒が殺し合うのを黙ってみているはずがない以上、主催への殴り込みよりも早くこの首輪を外しているはずだ。
それがないということは、殺せんせーではこの殺し合いを止めることができないのを意味する。外部勢力の介入も期待できないということだ。

79不安の種 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 23:37:11 ID:UVzBDgrc0

どの道を選ぶにせよ、僕たち参加者が自分の手で生を掴まねばならない。
ならば、僕はどうするべきか。

脳裏に浮かぶのは、殺せんせーのこと。
殺し合いに連れてこられた四人のこと。
クラスの皆のこと。
両親のこと。

それらを閉じ込めるように眼前に迫った両の掌。

死神が放った、両掌による最高のクラップスタナー。

僕はあれを彼からの『甘い』というメッセージだと受け取った。
当然だ。
僕らはあくまでも先生を殺すための即席の殺し屋であるのに対して、彼ら『殺し屋』はそれを長年生業にして生き残ってきた人たちだ。
技術も殺人の経験も修羅場を潜った数も段違い。僕らが勝利を収めることが出来た殺し屋たちも、彼らにとって不利な状況で人数差もあり、そもそも僕らを殺す気のないという悪条件で戦ったから不覚を取っただけだ。
実際に僕らと彼ら、どちらが殺し屋として相応しいかといえば間違いなく彼らだ。

そんな彼らですら殺せない先生を、僕らは本当に殺せるのだろうか?
殺人を経験したこともない、且つ自分の命の保証のされている殺し屋に、人外である先生を殺すことができるのだろうか?
仮に先生を殺せる機会があったとしても、それが自分達の仕業ではなく誰かの遺した成果だった場合、僕らはそれで暗殺が成功したと言えるのだろうか?

...僕は恐ろしいことを考えつつある。
このゲームは、僕らが先生を殺せる殺し屋になる為の練習台になるんじゃないかと。

わかってる。
この殺し合いでの殺人は、僕らが教わる暗殺から外れたものだということは。
それに殺し屋たちにも彼らなりのルールがある。
『私情に囚われない』『報酬に目が眩みリスクを顧みない仕事をしない』『必要な時に必要な数だけ殺す』。
恐らく、彼らがこの殺し合いに巻き込まれても早々に乗ることはせず、状況を見てから考える。だから彼らは『殺し屋』なんだ。

でも、その領域にまで達していない僕はそれでいいのか?
人を殺したこともない奴に先生を殺すことが出来ると本気で思うのか?

不安と葛藤が胸中を渦巻いても、時が止まる訳じゃない。

コツ、コツ、コツ、と靴が地面をたたく音がした。

誰かが向かってきている。
警戒心が薄い、というわけじゃない。時々立ち止まったり、なるべく音が鳴らないようにしようと努めているのは伺える。
ただ、烏間先生やE組ならもっと足音を殺せてる。たぶん、近づいているのは彼らじゃない。

つまりは巻き込まれた赤の他人。

80不安の種 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 23:37:59 ID:UVzBDgrc0
ドク、ドク、と心臓が激しく波打ち始める。
僕はこれから遭遇する人をどうするつもりなのか。それすら決めあぐねている中で接しなければならない。
手から変な汗が滲み出る。

荒ぶりかける呼吸を抑え、僕は努めて一般人らしい挙動をしつつ、来訪者と対面した。

「ち、近づかないで」

僕は震える声でナイフを前方に突き出しながら、来訪者―――金髪のお姉さんを牽制した。
お姉さんはギョッとした表情で立ち止まり、僕の言葉通りにそれ以上は近づかなかった。

「え、えっと、その、あなたは私を殺すつもりなの?」

お姉さんは動揺しつつも、僕に優しい声音で問いかけた。
僕も、それに対していまの気持ちをそのまま伝える。

「ご、ごめんなさい。殺し合いなんてするつもりはありません。でも、あなたが信用できるかは別の話なので」
「...それなら大丈夫。私も殺し合いなんて反対よ。あんな人の言いなりなんてならない」

お姉さんは、僕から目を離さずにザックを足元に下ろして両手を挙げた。
顔色を伺うが、恐怖はしていても、頑張ってこちらからの信用を得ようとしている。そこに敵意や害意のような危険な色は見えない。
死神のように殺意を甘言で隠すような人もいるが、それができるのは限られた殺し屋だけだ。
少なくとも、この人はそうは見えない。感情の波がハッキリしている。

「...僕の名前は潮田渚です」
「私の名前は巴マミ。少しお話しましょうか」

彼女の誘いを受けて、僕らは近くの教会に身を隠し、互いの身の内を話すことにした。
もちろん、殺せんせーのことはなるべく伏せながら。

その際に、僕が彼女と同学年だということに驚き、彼女もまた僕が男の子であるのに驚いたのは言うまでもない。

81不安の種 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 23:38:30 ID:UVzBDgrc0







「っ!」

意識を取り戻すのと同時、慌てて首元に触れる。
ある。自分の首も、それを包む首輪も。

お菓子の魔女を拘束し、ティロ・フィナーレで撃ちぬいたその瞬間だった。
ヌイグルミの姿をした魔女から、巨大な黒の異形が飛び出し、私を食い殺さんと大口を開け、鋭い牙が私の眼前に迫り―――景色が変わった。
気が付けば妙な首輪を嵌められ、殺し合いをしろと言われて。
私が混乱している内に、流れるままに殺し合いが始まってしまった。
訳も分からぬままあたふたと慌て、ひとまず配られた名簿を見て声を失った。

知った名前が四つあった。
鹿目まどか、美樹さやか、暁美ほむら、佐倉杏子。

前者二人は魔法少女ではないけれど、私を信頼し共に行動してくれた子たち。
後者二人は魔法少女だけれど自分の利を軸に行動する人たちだ。

鹿目さんと美樹さんは逃げ延びれたのか、とホッとする反面、こんな形で彼女たちの安否を知りたくなかったと複雑な気持ちになる。
ただ、巻き込まれている以上、絶対に死なせるわけにはいかない。早く合流して守ってあげないと。

暁美さんは...よくわからない。自分の利で行動することから、この殺し合いにも賛同するのだろうか。
...けれど、いま思い返せば、彼女はお菓子の魔女を私との相性が悪いのも含めて知っているような口ぶりだった。
たとえば、そう、一度交戦して逃がしてしまった、あるいは逃げるまで追い立てられたかで。
実際、あのままでは私は数秒後に死んでいただろう。
だとすれば、あの忠告は本当に私を気遣ってくれたからだろうか。もしそうだとしたら、とても悪いことをしてしまった。
ひとまずは一人で彼女の思考を決めつけず、素直に謝り、彼女がどう動くか話を聞くべきだろう。

そして佐倉さん。
彼女とは魔女に対する戦い方のソリが合わなくなり別れ、最近は音信不通だったが、こうして殺し合いに巻き込まれているのを見るとやはり心配になってしまう。
彼女は自分の祈りに裏切られている。彼女からしてみれば、巻き込まれた一般人を守る義理はないだろう。
私の知る中では最も殺し合いを肯定する可能性が高い。ただ、そうじゃない可能性もある。
やはり彼女とも一度話し合っておきたい。そして、できればもう一度、かつてのように...

周囲を警戒しつつも、彼女たちのことを考えていたためか、潮田渚くんとは不意打ち気味に出会ってしまった。
とりあえず戦意はないようなので、私たちは近くの教会に身を潜め、互いの持つ情報を交換することにした。

魔法少女のことは伏せつつ、私たちは言葉を交わしていく。
その最中。
こんな状況なのに、不思議と安心できるような感覚を覚え始めた。
私の心がどうかしてしまったというのか。それとも、彼が...?


【D-4/教会/一日目 深夜】

【潮田渚@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:鷹岡のナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:暗殺の経験を積む...?
0:マミと情報交換をする。
1:暗殺をするかどうかはまだ悩み中。

参戦時期は死神に敗北以降〜茅野の正体を知る前までです。

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品 不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
0:渚と情報交換する。
1:まどか、さやかを保護する。杏子、ほむらとは一度話をする。
2:渚くんと会話をして安心している...?

参戦時期は魔女・シャルロッテに食われる直前です。

82 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/01(金) 23:39:42 ID:UVzBDgrc0
投下終了です

83 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/02(土) 00:20:27 ID:4kkvaNRQ0
修正投下お疲れ様です!迅速な対応に感謝を。

そして世界軸は変われどまたもや死亡直前から参戦のマミさん。シャルロッテに殺されそうになったことでほむらの助言の意味を考え直すのは面白いですね。作中のマミさんはどこを切り取ってもほむらとは険悪なままだと思ってたのですが、確かに死に直面してから一旦落ち着かせれば視点が変わるのも納得でした。

84 ◆dGLETqAo0I:2020/05/03(日) 12:27:27 ID:aylt7Jz20
狭間綺羅々、影山茂夫予約します。

85 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/03(日) 12:37:25 ID:AYOzGJ2E0
投下します。

86仮面の裏で ◆2zEnKfaCDc:2020/05/03(日) 12:39:00 ID:AYOzGJ2E0
 殺し合いが怖い。

 真っ当に生きてきた中学生、影山律にとってそれは当然の話である。

 暴力が怖い。

 殺し合いは様々な暴力行使の形式の中のひとつであり、自分たちは暴力行使をする側になったと言える。また、望まぬ行使を強いられているこの状況ではあの姫神という男から暴力行使された側であるとも言える。しかし律の恐れる暴力はそのどちらでも無い。

 律が恐れるのは、暴力を行うことでも受けることでもなく、暴力がもたらし得る『結果』であった。幼い頃、暴力を受ける自分を庇ったことで代わりにその暴力の向かうところとなった兄の影山茂夫。その結果、兄さんの中の何かが目覚めた。理性を失い、周りにいる者全員に等しく害悪を撒き散らす存在と化したあの時の兄さんの姿が事ある毎にフラッシュバックする。

 そしてここでも、配られた名簿に兄さんの名前を認めた瞬間、あの時の光景を思い出さずには居られなかった。今回は、より直接的に兄さんと殺し合えと言われている。喧嘩にならないよう一般的な兄弟よりも気を遣う必要はあったが、敵対しようと思わなければせずに済むこれまでの日常とは違うのだ。

(……無理だ!勝てるわけが無い!!)

 超能力が身につき、同じ土台に立ったからこそ分かる。兄さんの心の奥底に眠る何かの力は圧倒的だ。

 そしてこの世界では―――その力が周りに対して牙を剥く可能性が高い。

 その力は兄さんが無意識状態に陥った時に暴走する。例えば先の例は兄さんが電柱に頭をぶつけ、気を失ったためにその人格が現れたのだろう。
 暴力こそ推奨されるこの世界。そして超能力を人に向けないことをポリシーとする兄さん。そうなれば必然、花沢さんの時のように一方的に攻撃を受けて気を失う事態になることだって起こりうる。

 さらに他にも、大きな感情の起伏に身を委ねることで暴走した例もある。例えばエクボ曰く、『空気を読め』と口走るのは兄さんの感情を揺さぶる地雷であったらしい。
 兄さんが死ぬことはまず無いだろう。しかし超能力の無い霊幻さんを筆頭に兄さんの周りの人間が死ぬことは充分にありうる。そうなった時、兄さんは感情を抑えることができるのか?

87仮面の裏で ◆2zEnKfaCDc:2020/05/03(日) 12:39:39 ID:AYOzGJ2E0
(……身を守らなくては。)

 暴走した兄さんを前にしても立ち向かえる手段がほしい。

 そのために兄さんの力までは超えられずとも、暴走する兄さんを最低限食い止められるだけの超能力を身に付けなければならない。
 もっと長い時間を与えられ、そのための訓練を重ねられるならそれも可能かもしれないが、今は早急なパワーアップが必要だ。

(だけど毎日超能力の訓練にある程度の時間は費やしているけど、それでもそこまでの結果は出ていないんだ。ここ2、3日で急激なパワーアップなんて、そんなの不可能に決まって……)

 そこまで考えた時、律は思い出した。

(待てよ……そういえば……僕の力は急激に目覚めたんだった。)

 覚醒ラボに通えど通えど芽吹くことの無かった自分の超能力はとある事象をキッカケに、ある日突然その片鱗を見せた。
 そのキッカケとは、マイナス感情―――とりわけ『罪悪感』や『背徳感』によるものだった。
 勉学・スポーツの両面に優れた『優等生』として生きてきた自分にとって、誰もが抱くことのあるそれらの感情は特別マイナスの意味を持つようだった。

 その時にも兄さんに適うほど強い力には目覚めなかったが―――しかし言い換えれば当時以上の強いマイナス感情に晒されれば急激なパワーアップを果たせる可能性もあるということだ。

(殺し……合い……?)

 ふと律の耳に、悪魔が囁いた。
 罪悪感・背徳感を得るために、そして兄さんの能力の暴走から身を守るために、他者を殺せと。元の日常ではまず思い至らなかったであろう発想だ。

 仮にも自分は超能力だ。能力のない一般人相手なら殺すことだって不可能ではないだろう。

88仮面の裏で ◆2zEnKfaCDc:2020/05/03(日) 12:40:17 ID:AYOzGJ2E0


(……!僕は今、何てことを……!)

 自分の中の悪魔を振り払うように、首を思い切り横に振った。人殺しなんて、そんなこと許されるわけがない。

『―――僕を突き放そうとしたって無駄だよ。兄弟なんだから。』

 そんなの、あの時そう言ってくれた兄さんの優しさにも背くことになってしまう。

(そうだ、忘れるところだった。)

 兄さんが本当に強い理由。それは超能力の圧倒的な出力なんかじゃなくって、力を私欲のために利用しないところだ。

 自分の目指す力の形は兄さんにある。それを忘れてはいけない。

(決めた。殺し合いなんかしない。兄さんと一緒に姫神をやっつけて脱出しよう。)

 敵に回すのが恐ろしいのは重々承知だが、味方になれば心強いことこの上ないのが兄さんだ。
 それならばやる事は簡単。兄さんの心を乱さないように、超能力の無い霊幻さんを守ればいい。決意を新たに、一歩を踏み出す。




―――チリリリリ……


 そんな律の耳に、金属の擦れる音が聴こえた気がした。


「ッ……!?」

 何ということはない、ただの金属音。しかしそれに応答するがごとく身体の全細胞が警鐘を鳴らす。おそるおそる、その音の方向に目を向ける。

―――身体の芯に刻み込まれた恐怖がそこにあった。

 例えば、誰が語り始めたかも定かではない都市伝説、口裂け女。誰もがそれを虚構(フィクション)として楽しみつつ、されど現実性(リアリティー)を伴うそのエピソードはどこか恐怖を沸き起こす。そしてその恐怖には、具体的なイメージとなる姿かたちが伴うものだ。

 そしてそれは、虚構の中に視る『死神』があたかも物語の中からそのまま顕現したかのような、おぞましい姿をしていた。長身の拳銃を両手に携え、全身に鎖を巻き付けたその姿は、一切の誇張なく己の命が刈り取られる様を想起させた。

「うっ……うわぁっ!!」

 弾かれたように、刹那の反応であった。相対した死神『刈り取るもの』に対して放たれた念動弾。刈り取るものは出会い頭の一撃に一瞬、怯む様子を見せる。

89仮面の裏で ◆2zEnKfaCDc:2020/05/03(日) 12:40:57 ID:AYOzGJ2E0
 先手を取られ、即座に律を敵と認識した死神は反撃体勢へと移る。対する律、出会った次の瞬間には敵の底力を察している。一刻も早く逃げ出したいところであるが、しかし同時に理解もしている。敵の二丁拳銃が逃げようと背中を向けた瞬間に自分を撃ち抜くであろうことを。

(銃、か。まずいな……。)

 兄さんほどでなくても、島崎レベルのエスパーであれば銃弾くらいなら生身で受け止めることが可能だ。だが生憎それほどの力は律にはない。刈り取るものの持つ拳銃が、律へと向く。

(とにかくまずはあの銃を何とかしないと……!)

 刈り取るもの本体には超能力がどこまで通用するか分からないが、少なくとも銃は動かせる。銃口を逸らそうとする力に気付いた刈り取るものは力ずくで律の方へと銃口を向けようとするが、それが長銃であることも幸いして律に向けられていた銃口はてこの原理で容易く向かう先を変えた。

 そのまま引き金が引かれる。文字通り的外れの方向に放たれた銃弾が周辺民家の窓ガラスを撃ち抜く。その方向に人がいれば無事では済まないかもしれないが、そんなことを気にしている暇は無い。右手の念力で右の銃を、左手の念力で左の銃を押さえ込みながら、じりじりと後ずさりする律。前方から力を加えているため、元々移動速度は遅い刈り取るものの動きが更に遅らされている。よってじわじわと両者間の距離は離れていく。

(よし、このまま射程外まで逃げ切れば……!)

 しかし律のその企みは直後に水泡と帰す羽目になる。

「―――ぐっ!!」

 ぐらり、と。唐突に律の視界が揺れた。体勢を崩して倒れ込みそうになったのを何とか踏ん張る。
 刈り取るものが命を刈る手段は銃撃に限らない。たった今律に放った念動系のスキル、『サイダイン』もそのひとつだ。洗練された精密射撃の技術に多彩な属性攻撃。とある世界の最強の殺し屋が『死神』と呼ばれたのと同じく、刈り取るものの称号は万に通ずるその技術に由来する。

 まるで脳に直接念波を……それもテレパシーのようなものではなく、鮮明な害悪を送り込まれたかのような感覚。この死神もエスパーなのか?それとも第三者による攻撃?霞む視界の中、律は"無駄な"思考に労力を費やした。

「―――しまっ……!」

 そのために、現状がかつてない命の危機であることに気付くのが一瞬遅かった。サイダインに意識をやってしまったことで僅かに逸れた律の念力は、すでに敵の拳銃を捕らえていなかった。律が立ち直った時には、既にひとつの銃口が律を真っ直ぐにターゲットに据えていた。

90仮面の裏で ◆2zEnKfaCDc:2020/05/03(日) 12:41:50 ID:AYOzGJ2E0

―――ダァンッ!


 今度こそ律に向けて、乾いた銃声が鳴り響く。



「―――ハァ……ハァ……」

 硝煙の先。息を切らしながらも律はまだ立っていた。攻撃に回していた超能力を全て防御に転じさせたことで銃弾の威力を殺し、耐え抜いた。

 されど銃弾。相応の痛みが全身を駆け巡る。金属バットが生身に打ち込まれたような鉛の痛みだ。少し前まで超能力戦闘とも無縁であったいち中学生には到底受け入れ難い衝撃が、更に何発も、何発も撃ち込まれた。多くのエスパーは攻撃と防御を同時に行うことはできない。才能、あるいは努力でその壁を超えるエスパーもいるにはいるが律はその高みには達しておらず、超能力を防御に使っている今、刈り取るものの拳銃を抑え込むことは出来なくなっていた。

「う……」

 死神がゆっくり、近づいてくる。それにしたがって大きくなっていく銃声も耳の奥まで響いてくる。銃弾を防御しきることが出来ず全身が痛い。口内から血の味が、そして匂いが、じんじんと伝わってくる。

「うわああああああああああああああああああああああ!!!!」



『恐怖』



 律の五感すべてから、ひとつの感情が沸き起こった。その"マイナス感情"は僅かに―――されど確かに、戦局を動かすこととなった。

 律の叫びに呼応するかのように大地が揺れ、空気が震える。まるで大自然すべてを味方につけたかのような、確かな手応え。
 半ば無意識に、その実感のする方に向けて手を伸ばす律。

 その先にあったのは、刈り取るものの隣にあった、住宅街エリアを構成するひとつの名もない建物。

「うおおおっ!」

 溢れ出んばかりの律の力が流れ込み、その建物は容易く倒壊した。基盤を失った瓦礫の雨が刈り取るものの頭上より降り注ぐ。

 多大なマイナス感情の負荷がかかったことにより、この時の律は超能力のひとつの壁を乗り越えていた。攻撃と防御を同時に行えない律だったが、建物を倒壊させるだけの出力で念動力を放出しつつ、片や鳴り止まぬ銃弾を食い止めていた。

 そして刈り取るものは瓦礫の山に沈み、何度も何度も繰り返された銃撃がようやく止まる。家一戸分の重量の下に沈んだのだ。殺し切ったかは定かでないが、少なくとも無事では済むまい。

(ハァ……ハァ……何とか、助かった……!)

 考えが甘かった―――律は思う。例えば、超能力者だからと自分が殺される可能性を低く見積もっていた点。例えば、兄さんレベルの敵が現れることを考えすらしなかった点。

(殺すしかない。自分を守れる力を手に入れるために、他の人を……!)

 刈り取るものとの戦いを通じて、律の覚悟は決まった。
 マイナス感情で急激なパワーアップが可能なことは先ほど立証された。罪悪感のために。背徳感のために。何より、生き抜いてあんな恐怖とは無縁の元の日常に帰るために。

 殺人だって、やってやろうじゃないか。

91仮面の裏で ◆2zEnKfaCDc:2020/05/03(日) 12:43:33 ID:AYOzGJ2E0
―――ガラッ。

 その瞬間、立ち去ろうと背を向けた律の背後から瓦礫が動く音がした。

「っ……!!」

 音の主は当然、刈り取るもの。律の限界を超えた一撃は足止めにすらなっていなかった。

(嫌だ……!僕はこんなところで……!)

 ひとつ、律の失敗を挙げるのなら。それは刈り取るものに先手を取ってしまったことだろう。
 メメントスに住まうシャドウは、刈り取るものを前にしてその恐怖から逃げ出すか、或いは自ら首を差し出す。刈り取るものが真の力を見せるのは、己に対し迷わず牙を剥く者にのみである。律は反射的とはいえ、攻撃してしまった。そのために、死神の本性を垣間見てしまった。

 さすれば、その結末は『死』以外に有り得ない。律の意識は、そこで途絶えた。





「―――ペルソナッ!」


 その時、何者かの声が聴こえて、その直後に腕に刺すような痛みが走ったような気がした。





 気絶してしまったためにその時何が起こったのかはよく分からなかったが、気がつくと自分は誰かに背負われていた。

「気がついたようね。」

 そこには全身を武装し、仮面をつけた1人の女性がバイクを運転していた。おそらく自分を背負った際、その女性が肩に着けたスパイクが腕に突き刺さっており、先の鋭い痛みの正体はこれだったようだ。

「ええと、これは……」

 銃撃されるのに比べれば受け入れるべきとも言える程度の痛みだが、さすがに耐えきれずスパイクの無い腰に手を回す。

「待ってて、ひとまず落ち着けるとこに向かうわ。私が最初に転送された場所よ。」

 どうやら危機一髪のところでこの人に助けられたようだ。
 名簿を記憶している限りでは、助けてくれた人の名前は新島真。律は感謝すると同時に、ふと頭を過ぎった考えがあった 。"恩人"を殺せば罪悪感も背徳感も他の人を殺すよりもよほど大きいのだろう、と。

「すみません。でも、殺し合いの世界なのにどうして……。」

 そんな悪魔の所業を考えてしまう自分がどこか嫌になりながらも尋ねる。

「私ね、優等生として大人の言いなりになるばかり、そんな毎日を過ごしてきたの。」

 律は一瞬、真の言ったことが信じられなかった。助けてもらっておいてこう言うのも何だが……真はどう見てもアウトローと言わんばかりの出で立ちであった。名簿の顔写真によると仮面をした姿は元々のようであるし、ライダースーツの肩パッドは邑機のそれと違って立派な凶器だ。

「でもね、それは間違いだって教えてくれた人がいた。だから決めたの。私はもう誰の言いなりにもならないって。」

 そして真は続ける。

「だからね、私は姫神の言いなりにもならない。」

 真の話を最後まで聞いて、律は思う。この人と自分は真逆だ、と。

 自分もかつて、優等生の仮面を外したことがあった。だけどその行いは間違っていたと今は思う。理由は明確で、その結果が他者への攻撃だったからだ。

 悔しい。自分と真、行いの本質は同じはずなのに、何故真はこうも晴れ晴れとしていられるのか。何故、こうして優等生であることを捨て去った真は人助けをしたというのに、行いを悔いて優等生に戻ったはずの自分が目の前の人を殺そうとしているのか。

92仮面の裏で ◆2zEnKfaCDc:2020/05/03(日) 12:44:29 ID:AYOzGJ2E0
「ふう……。ここまで来ればあのシャドウも追って来れないと思うわ。」

 シャドウ、という単語が気になったが文脈的に刈り取るもののことを指しているのは明らかなので追及はしなかった。そこは地図によると『マグロナルド幡ヶ谷駅前店』。刈り取るものと戦った地点から結構離れている。さすがバイクの移動速度―――そう考えていると、突然目の前のバイクが消失した。

「驚いた?ふふっ、この手品の仕掛けは後で教えてあげる。」

 はぐらかしながら真は店内に入って行った。律もそれに続く。

「―――いらっしゃいませーっ!」

 その時、真とは違う声が聴こえた。

「店員がいるのか!?」

「それは認知存在よ。参加者とは違うみたい。」

「認知……存在……?」

 知らない単語に首を傾げる。
 でも姫神が、『認知』という単語を使っていたのは覚えている。

「……そうね、その辺りも説明すると長くなるわ。看板に書いてある通り、1人1個はハンバーガーを注文できるみたい。食べながら、向こうでゆっくり情報交換しましょう。」

 店内のイートインスペースを指さす真。察するに、真はこの世界や殺し合いの裏側について何か知っている気がする。
 律は暴走する兄さんや刈り取るもののような強敵から身を守れるだけの超能力を得たら、あとは兄さんと一緒にこの殺し合いを打破して元の世界に帰ることも考えなくてはならない。真を殺す手順を踏む前に、情報交換くらいしておくべきだろう。

「え、ええ。分かりました。」

 とりあえず律は言われた通りに、認知存在とやらの店員にハンバーガーを注文してみた。まさにマニュアル通りといった店員の対応に違和感を覚え、雑談を吹っかけてみたが返事は返ってこない。

 そして僅か10秒ほどが経過。律の元にひとつのハンバーガーが届けられた。
 それを受け取ると、真の待つイートインスペースに向けて歩みを進め始める。

 律が進むは、修羅の道。
 されど己の身を守るために他者を殺す、典型的な弱者の道。

 だけどそれでも構わない。
 他者に優しく生きるのを選択できるのは、強者の特権なのだから。

【E-6/マグロナルド幡ヶ谷駅前店/一日目 深夜】

【影山律@モブサイコ100】
[状態]:ダメージ(中) 全身に銃撃跡
[装備]:
[道具]:基本支給品 不明支給品(1〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:罪悪感のために、背徳感のために、人を殺す。
1.真から情報を得たら殺す。
2.兄さん(影山茂夫@モブサイコ100)と一緒に生還する。

93仮面の裏で ◆2zEnKfaCDc:2020/05/03(日) 12:45:49 ID:AYOzGJ2E0







――――――ペルソナ。


 声にならないほど弱々しく。されど確かな叫びが聴こえた気がした。

 「えっ……」


『金剛発破』


 何が起こったか理解するよりも先に、律の全身は突然現れた例のバイク―――『ヨハンナ』によって轢き裂かれた。

 そしてそのまま、律が目を覚ますことはなかった。


【影山律@モブサイコ100 死亡】

【残り 42人】

94仮面の裏で ◆2zEnKfaCDc:2020/05/03(日) 12:47:08 ID:AYOzGJ2E0
(これは……スカルなら使えるかしら。この服は防具として使えそうだわ。)

 律の死体から支給品入りのザックを回収し、中身を改める真。
 スカル向きの鈍器は自分のザックに入れ、サイズの合いそうな法衣はその場で着替え、ライダースーツの下に着込んだ。更には律のザックも自分のザックの中に入れる。無限に物が収納できるとは聞いたが、同じサイズのザックが収納できるのはやはり認知世界ならではの技術だろうか。
 律が注文したハンバーガーまで漏れなく回収し終えた真は急いでその場から離れる。

「……アイツから助けようとしたけれど、連れ出してみればすでに手遅れだった。うん、そういうことにしましょう。」

 自分の手で男の子を殺してしまった罪悪感・背徳感から目を逸らすように呟く。殺すつもりだった律を助けたのは刈り取るものを前に支給品の回収が難しそうだったことと、仮にアギ系のスキルなんかで殺されたりして支給品が欠損しては困るからだ。



『―――私は姫神の言いなりにもならない。』

 律に語ったこの言葉に嘘偽りは無い。真は自分の意思で、怪盗団のメンバー以外を切り捨てていく道を選んだ。

 放送ごとに3箇所が禁止エリアとなることと、地図は6×6の36マスから成ることを考えれば、この殺し合いのタイムリミットは大体3日だ。配られた食料が3日分であることから見ても、向こうの意図もそれで間違いないだろう。

 3日以内に、首輪から舞台まで綿密に準備された殺し合いから脱出する目処を探す―――言葉にすると難しいが、希望は他ならぬ怪盗団の一員、スカルこと坂本竜司が見出してくれた。

 最初の会場で姫神に逆らった竜司。そのせいで見知らぬ女の子が殺されて、軽率な行動と非難されているかもしれない。しかし、そのおかげで分かったことがいくつかある。

 まず、姫神は自分たちが世間を賑わす心の怪盗団であると知った上で拉致していること。しかし名簿を信じるならば、怪盗団の全員が集められているわけではない。フォックス、ナビ、ノワールの3人はこの場にいない。
 姫神にも全員を把握しきれなかったのか、拉致に失敗したのか。理由は色々考えられるが、その中でもナビこと佐倉双葉が敵の手中に落ちていないのは大きい。

 何故なら竜司のおかげで分かったもう1つの情報―――首輪の爆発はスマホで操作すると分かっているからだ。
 敵の自分たちを従わせるための切り札がスマホであるのなら双葉のハッキング能力の出番だ。3日以内に彼らが自分たちを見つけ出してくれれば、自分たちは首輪という脅威から解放され、姫神と直接対決できる。

 だけどそれには大前提となる条件がある。当然、この殺し合いの世界で怪盗団のメンバーが生き残ることだ。刈り取るものがいることから見ても、それが容易に達成できる目標でないのは明らか。

 また、脱出の希望が見出せたのは自分たち怪盗団が双葉のハッキング能力を知っているからだ。それを知らない他の人であれば、脱出の希望を見出せず殺し合いに乗る者が何人いてもおかしくない。

 それならば話は早い。
 怪盗団以外を排除して危険の芽を摘むと同時に、刈り取るものなどの強敵や姫神に対抗するための支給品を怪盗団が独占する。
 食料だって、ハンバーガー1個を漏らさず回収したいレベルで足りない。首輪の爆破をハッキングで防いでから実際に姫神を倒す、または改心させるまで何日かかるかは分からないのだから。

(そうよ、私は怪盗団のブレーン。怪盗団の正義を貫くために、あらゆる策略を駆使してみせる。)

―――怪盗団は、私の居場所となった。

 自分の将来のために顔色を伺わなくてはいけない相手とは違う。素の自分をさらけ出し、受け入れてくれるただひとつの居場所だ。

 それが今、奇怪な催しで奪われようとしている。そんなの耐えられない。彼らが殺されるなんてあってはならない。

 だから真は自ら選んだのだ。自分の居場所だけは何としても守る道を。
 たとえそれが他の誰かの居場所を奪うものだとしても―――

95仮面の裏で ◆2zEnKfaCDc:2020/05/03(日) 12:48:43 ID:AYOzGJ2E0
【E-6/マグロナルド幡ヶ谷駅前店周辺/一日目 深夜】

【新島真@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:アーザードの聖法衣@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0〜3) 影山律の不明支給品(0〜1) さやかのバット@魔法少女まどか☆マギカ マグロバーガー@はたらく魔王さま!×2
[思考・状況]
基本行動方針:心の怪盗団のメンバー以外を殺し、心の怪盗団の脱出に貢献する。
1.双葉……頼んだわよ……。

※ニイジマ・パレス攻略途中からの参戦です。


【E-6/住宅街エリア/一日目 深夜】

【刈り取るもの@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:刈り取るものの拳銃×2@ペルソナ5
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:命ある者を刈り取る

※住宅街エリアの中の建物がひとつ倒壊してします。

【支給品紹介】

【アーザードの聖法衣@小林さんちのメイドラゴン】
影山律に支給された防具。本来はドラゴンの攻撃を通さない性質を持つが、パレス内ではドラゴンの攻撃の軽減程度に抑えられている。

【さやかのバット@魔法少女まどか☆マギカ】
影山律に支給された武器。第2話でゲルトルートと戦いに行く前に巴マミの魔力によって強化された。

【マグロバーガー@はたらく魔王さま!】
マグロナルド幡ヶ谷駅前店で参加者1人につき1個テイクアウトできる。魚介類のマグロは入っていない。パレス内では微小なHP回復効果がある。認知存在の店員が具体的に誰の姿をしているのかは以降の描写にお任せ。

96 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/03(日) 12:49:13 ID:AYOzGJ2E0
投下終了しました。

97 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/04(月) 01:08:42 ID:7V4.jqEU0
鎌月鈴乃、小林カンナで予約します。

98 ◆dGLETqAo0I:2020/05/04(月) 23:11:23 ID:areo5pMw0
投下します

99青春○○論 ◆dGLETqAo0I:2020/05/04(月) 23:12:16 ID:areo5pMw0
等間隔に並んだ机、教壇、黒板、少し目線を上に遣れば放送を流すスピーカー。
よくある構造の、傷みさえ除けばいたって普通の木造の教室。
窓から差す月明かりが本来なら誰もここにいるはずがない時間だと物語っている。
そんな空間に佇むふたりの中学生がいた。忍び込んだ不良ではなく、普通なようで普通じゃない、ちょっと普通な少年少女だ。

殺し合いをしろと言われたものの互いに殺意がないことを確認したふたりは、場所が場所だからか、ふとした拍子にひとつの問に当たっていた。



問.青い春に疑問を抱いたことはあるか?



「そんなのyesに決まってるじゃない」

エンドのE組。求められる学力に追いつけない落ちこぼれが集い、試験だろうと行事だろうと、常に笑いものにされるクラス。
教室は本校舎から遠く離れ、山の中にある劣悪な環境の校舎に用意される。
空調設備も整わず、女心よろしく天気が急変しようものなら、教室内であろうと複数ヵ所の雨漏りに悩まされることすらある。

「運動が得意なわけでもないのに、時間かけて山を登って、集中力の持続も難しいような環境で勉強して。
そんな私らももちろん、本校舎の奴らも私らを見て嗤って安心感を抱く日々を1年も続けるってさ。青春なんて甘酸っぱい言葉は似合わないでしょ」

勉学について行けなくなったのは、自業自得だと言われれば確かにそうだ。
しかしE組の中には、優秀な生徒が集まるA組に並ぶ成績を残せるだけの生徒も何人かいた。
家庭環境から校則違反のバイトをせざるを得なかった貧乏委員だったり、友人の勉強を見させられている内に自分のことに手が付かなくなってしまったイケメン女子だったり、得意分野に特化しすぎてしてしまった眼鏡少女だったり。

狭間綺羅々の疑問。
本来の力量差以上の、半ば無理やり作り出された劣等感や優越感に浸る日々は青春と言えるのか?
あまりにもあからさまな境遇差、差別に、すぐに抱くことも諦めた疑問ではあるけれど。

「僕も疑問を抱いてたよ」

持って生まれた超能力。
自分にとっては普通だけど世間一般には普通ではない力。
全くコントロールできないわけではない。が、食事中意図せずスプーンを曲げてしまったり、意識を失って弟をも怪我させてしまったり、学校を丸々ひとつ消し飛ばしたり、時に力が漏れ出してしまうこともある。
中々人に言えないその力について、師匠に相談したのはいつのことだったか。

「師匠の教えは為になったし、バイトとしてお金もくれるし、感謝してる。
それでも思うことがあった。これで本当にいいのかなって。今しかできないことがあるんじゃないかって」

例えば、勉学やスポーツに励んだり。
例えば、趣味や才能磨きに明け暮れたり。
例えば、憧れのあの子と甘酸っぱい恋模様を描いてみたり。

影山茂夫の疑問。
このまま霊とか相談所のアシスタントとして過ごしていていいのか? 今しかできないことがあるのではないか?

100青春○○論 ◆dGLETqAo0I:2020/05/04(月) 23:13:28 ID:areo5pMw0
「ま、そんな疑問を抱くだけ無駄だったわね」
「疑問を抱いたところで、時間は進んでいった。その中で、変わることも変わらないこともあった」

どちらかが体重をかける足を左右入れ替えたのか、床が小さく音をたてた。
超生物の暗殺に日々励みつつ、A組と試験結果で勝負をしたり。
自分以外の超能力者との出会いが増え、“爪”の企てに弟ともども巻き込まれたり。
あまりにもサツバツとしすぎた出来事たちは疑問に思うまでもない、青春なんてものではないだろう。
少なくとも、普通の、という言葉が頭に付くようなそれではない。
けれど。

「クラスいち腐れてたグループだったのにさ。みんなで家庭科満点取って、先生に一泡吹かせてやるくらいには殺る気になってみたり」
「人に言われたのがきっかけではあるけど、自分の意思を大事にしようって決めて。ビリビリの原稿用紙を拾い集めたり」

非日常的な日常の中で、少し変わった自分がいた。

「青春なんて言葉が似合わない私らだけどさ。もうちょっと学生生活送るくらいはしたいじゃない?」

月明かりだけを照明とした真っ暗なオンボロ校舎の教室で、綺羅々はニヤリと笑った。
ウェーブがかった黒髪に彩られつつ深く影が刻まれたその顔をガン見する茂夫に、薄笑みのまま面白そうに言う。

「あんた今、魔女みたいって思わなかった?」
「えっ!? 言ってない!!!」
「思ったのね」

くすくす、という可愛らしいものではなく、クックック……と喉を詰まらせたような笑い方をするのも殊更魔女のようだと、茂夫は思った。

「いいじゃないの、闇が似合う魔女。この暗闇の中、存在を隠して移動できるのよ」
「……確かに、殺し合いたくない人には理想的だね。凄いなぁ」
「あんたも素質ありそうだけど」
「ま、魔女の……!?」
「あんた男でしょ」

それもそうか、とポンと手を打つ。
素質ありそうというのは魔女ではなく、存在を隠すということについて言っていたのかと納得する。
あんたちょっとズレてるわね、と可笑しそうに言われた。

101青春○○論 ◆dGLETqAo0I:2020/05/04(月) 23:14:51 ID:areo5pMw0
「話が逸れたわね。今までの生活には戻りたいわ。でも、殺し合いに乗って自分1人で帰っていくのもなんか違うのよね」
「そうだね。律だって師匠だってここにいるみたいだし……僕の日常は、僕ひとりじゃ成り立たない」
「私もよ。クラスメイトも先生もいる。いなくなったらしっくり来ないわ。それに、殺意ってのはこんな形で持たされるべきものじゃないでしょ」

普段使っている対先生ナイフの代わりに、チョークをくるんと回転させる。
何も持ってない茂夫は指の動きだけを真似してみた。

「大きな力は、決して人に向けたらいけないんだ。あの姫神って人にも、それを教えてあげないと」
「違いないわね。私ら中学生でも教わったことだわ。“手入れ”してやらないとね」
「うん。中学生でも、力を持たない人でも、分かることだもんね。そんなことも分からないのは恥ずかしいよって、言ってあげなきゃ」

学童保育施設わかばパークの園長である松方に全治2週間の怪我を負わせたフリーランニング事件に、綺羅々は関与していない。
しかし、連帯責任と言ってクラス全員でボランティアに励むことになり、子どもたちにじゃれつかれつつ最初はボヤいていた。
そんな関わり方をしていったわかばパークで知ったのは、松方は修繕する余裕すらない施設で子どもたちの為に最も多くの仕事をこなしていたということ、そして、そんな彼を入院させてしまうのは言ってしまえば大黒柱を折るにも等しいということ。
自分も教わった暗殺の為の力。それを向ける先を間違うとどうなるか、関与してなかったからこそ共に知るべきだったのだろう。
ボランティア期間を終え、教わった力は人を守る為以外に使わないという結論に反対する生徒は、綺羅々のみならず誰もいなかった。

茂夫は師匠である霊幻新隆から、超能力を使えるからと自分が特別だと思ってはいけないこと、包丁と同じで力を人に向けてはいけないことを教わった。
しかし、初めて出会った自分以外の超能力者、花沢輝気は敵意を以て力を茂夫に向けてきた。
首を絞められても尚、彼に自ら超能力を向けることはしなかった……が、結果的に意識を失い制御できなくなってしまった力は大きなうねりとなり、ひとつの学校を丸ごと消し飛ばしてしまった。
力を向けられる恐怖も、力をぶつけてしまう恐怖も、茂夫は知っている。

自らの力と真剣に向き合ったことがあるからこそ、ふたりは強く思う。
姫神のこの力の使い方は、決して許されることじゃない。

「姫神って人だけじゃない。言われるままに殺し合いをしようって人がいたなら、その人にも。そんなことはダメだよって……あの時の花沢くんみたいに、聞いてくれないかもしれないけど……」
「ま、そういう奴らがいるなら正当防衛くらいはさせてもらいましょ」
「正当防衛……」
「どうしたの」
「また相手の髪の毛を刈り取って服を剥ぎ取ってプライドへし折って友達なくさせて通ってる学校を破壊しちゃわないように気を付けようと思って……」
「どうやったら正当防衛でそこまでできるの」
「話せば長くなるけど……」
「じゃあ話さなくてもいいわ。それよりも、これからのことを確認しましょ」
「あ、うん」

まずはそれぞれの知り合いを把握しておこうと、名簿を捲っていく。
綺羅々の知り合いが4人、茂夫の知り合いが3人。
人数が少ない茂夫から、情報の共有をすることになった。

102青春○○論 ◆dGLETqAo0I:2020/05/04(月) 23:16:04 ID:areo5pMw0
「この子が律、僕の弟。とっても優秀で、頭も良いし運動も得意なんだ。
こっちは花沢輝気くん。最初は……喧嘩?したけど、拐われた律を助けるのを手伝ってくれたし、悪い人ではないよ。
こっちが師匠……あっ、霊幻新隆師匠。僕に力の使い方を教えてくれた人」
「弟もいるのね……なら、そこを優先して探したい?」
「うん、そうだね。大切な家族だから」
「了解。私の知り合いはまずこの赤羽業。中二半。こっちは茅野カエデ。甘いものが好きな子。
これは烏間先生。強面だけど良い人よ。それから潮田渚。これでも男子」
「男の子だったんだ」
「みんな同じクラスよ。烏間先生は特に合流できたら頼りになると思う」
「烏間先生……分かった」

何故喧嘩に疑問符が付くのか、中二半とは何なのか、などの気になる点はあるものの、深くは気にしないことにして紹介された人を記憶していく。
山に建つ校舎とはいえ目立つだろうと電気は点けていないため、少々見えにくいが大きな問題にはならなかった。強いて言えば、烏間惟臣の写真が通常よりいかつい顔に見えたくらいだ。
次に支給品の確認。茂夫が取り出した銃を見て、綺羅々はあら、と呟く。

「対先生BB弾じゃない」
「たい、せんせい……?」
「簡単に言えば特殊な細胞を破壊する為のBB弾よ」
「物騒だね」
「でも人体に害はないのよ。まあ足止めくらいには使えるでしょ」
「そっか。なら一応手に持っておくよ」

害がないなら安心と、軽量の銃を御守りのように大切に握りしめる。
それが本来とは違う殺傷力を持ったものとはつゆ知らず。
綺羅々もまた、よく知ったものだからと試し撃ちなどは奨めず、変化に気付くことはなかった。

「あれ、狭間さんチョーク持っていくの?」

ザックを漁るその手に先程回していたチョークが握られていることに気付き、茂夫は首を傾げる。

「まあね。紙では難しいところにメッセージとか残せるかもしれないし、1本砕いて粉にしちゃえば、目くらましにも使えそうじゃない」
「なるほど。じゃあ僕も持っておこうかな」

黒板に置かれていたチョークを2本ずつ拝借する。
これまでの学生生活ではしたことのない行為に、どこか不思議な気持ちを覚えた。





支給品などの確認作業を終え、ふたりは窓から景色を眺めていた。
休み時間に空を眺めるようなゆったりとしたものではなく、山道を登ってくる者がいるかどうかの確認の為だ。
夜中の山の視界は良くないが、少なくとも視認できる距離には人影はないように思える。

103青春○○論 ◆dGLETqAo0I:2020/05/04(月) 23:16:48 ID:areo5pMw0
最後に決めたのは、これからの動きだ。
綺羅々のよく知るこの校舎で息を潜めるという選択肢もあるだろう。
しかし、授業ではなく殺し合いゲームに巻き込まれたこの状況で、いつ誰に襲われるかも分からないのに消耗してまで登ってくる者はあまりいないと思われる。
また、地図を見ると今いるこの校舎はほぼ北端に配置されているためため、ここを知るE組関係者が訪れることあったとしても、動き始めた瞬間にすれ違うということはなさそうだ。
茂夫が弟と共に巻き込まれていることもあり、ふたりは山を下り知り合いたちを探すことに決めた。

「それじゃ、下山と行きましょうか。念の為、森の中を通りましょ。授業で駆け回ることもあるから、案内してあげるわ」
「ありがとう」
「ところであんた、体力は?」
「…………」

投げ掛けられたふたつめの問に、茂夫はぴしりと固まった。
殺し合いという明らかに普通じゃない状況や、出会った相手が殺意を持った者ではなくて安心したこと、様々なことが重なって基本的な考えがすっぽ抜けていたことに気付く。
肉体改造部に所属し毎日ランニングに明け暮れてはいるが、それでも茂夫の体力および運動神経はクラスどころか学校全体で見ても下から数えた方が早いほど。
下手したら死活問題になりうる。
真顔で大量の汗をだらだらと流し始めた茂夫を見て、綺羅々は笑うでもなくため息を吐くでもなく、ただ小さな声で言った。

「……じゃあ途中で水場通るわね。私も体力ある方じゃないし」





夜中の校舎のボーイ・ミーツ・ガール。
きっと今ここでしかできなかった出会い。
そんな若者たちが校舎を後にして進む先は、希望に溢れた未来ではなく、殺し合いというサツバツとした世界。
青春と呼ぶには、やはり何もかもが程遠い。



【A-4/椚ヶ丘中学校別校舎・E組教室/一日目 深夜】

【狭間綺羅々@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3(本人確認済) チョーク2本(現地調達)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。正当防衛くらいはする。
一.殺せんせーだったら姫神って奴にも手入れするんでしょうね。
二.無理しないルート通ってあげないと。

※わかばパークでのボランティア以降の参戦です。

【影山茂夫@モブサイコ100】
[状態]:健康
[装備]:対先生BB弾@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済) チョーク2本(現地調達)
[思考・状況]
基本行動方針:力を人に向けてはいけないと姫神に教えたい。
一.大きな力は人に向けたらいけないのに……。
二.下山まで体力持つかな……。

※エミと過ごした1週間以降の参戦です。


【支給品紹介】

【対先生BB弾@暗殺教室】
対先生ナイフと同じく、本来は持っていない殺傷力を有する。馴染みのあるものだっため、狭間綺羅々は性能に変化があるとは思いもしなかったようだ。

104 ◆dGLETqAo0I:2020/05/04(月) 23:17:32 ID:areo5pMw0
以上で投下終了です。
誤字脱字、指摘などありましたらよろしくお願いします。

105 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/05(火) 00:06:14 ID:PkWK/BdY0
投下乙です!
薄暗い校舎という舞台と、参加者の中でもとりわけ雰囲気の暗い2人。加えて座談の合間のちょっとした体の動きの描写が妖しい雰囲気をさらに強調してて、舞台設定と地の文だけでもとても惹き込まれる作品でした。さらに会話文でモブ特有の微妙にズレたシリアスさまで盛り込んでいるのが好きです。
力の使い方という作品単位で共通しているテーマに対して人一倍の弁えを見せる2人ですが……やはり他者を殺せる力だと認識されていないBB弾がどことなく不穏……!

106 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/10(日) 12:43:45 ID:6AGsKNPA0
投下します。

107幸せの言霊 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/10(日) 12:44:40 ID:6AGsKNPA0
「は、はは……殺し合い、か……。」

笑えない冗談だと思った。いつの間にか見知らぬ空間にいたと思ったら殺し合うことを命じられ、日本での友人の首が文字通り跳んだのだ。今なら全部夢であったとしても信じられる。というよりも夢であってほしかった。

鎌月鈴乃。本名はクリスティア・ベル。異端審問、並びに暗殺、それら教会の闇を担当してきた彼女にとって、死は常に日常と隣り合わせであった。

殺しによってしか開けない道があるのなら殺してみせる。周りが己の害悪足りうる可能性があるのであれば先手をうって殺すことにも躊躇はない。人間と魔族の闘争の絶えないエンテ・イスラの民ならばその程度の覚悟はできている。他者の死に今さら心を動かされることなどない。

そう、思っていたのに。

「……それでも。彼女は……彼女だけは……関係無いではないか……!」

見せしめと言わんばかりに殺された少女、佐々木千穂。平和な日本で、闘争とは無縁に生きてきた彼女が殺されなくてはならない理由なんてひとつも無い。やはり彼女を巻き込んではならなかったのだ。本人の反対など押し切って記憶を消し、関わりを絶つべきだったのだ。

身を駆り立てる焦燥感を押さえ込み、力任せに大地を踏みしめることで何とか冷静さを取り戻す。

108幸せの言霊 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/10(日) 12:45:11 ID:6AGsKNPA0
確かに千穂殿の死に理由はない。しかし、意味ならばあるかもしれない。千穂殿が死んだことにより、千穂殿の知り合いである自分を含めた5人にとって、この殺し合いに対する意識は日本ではなくエンテ・イスラの時のものに引きずり戻されてしまった。

そしてそれ自体は、この上なく私に都合良く噛み合っていることに気付いた。

例えば同じく殺し合いに巻き込まれている魔王サタンとその側近、アルシエルとルシフェル。彼らを片付けるのは私が日本の地に降り立った目的そのものだ。それを躊躇させていた要因は様々であったが、その代表格が千穂殿の存在だった。真奥を慕い、恵美とも友好関係があった彼女がいたからこそ日本の人間の価値観に基づいて魔王討伐を果たす必要が生まれ、その結果様子見という判断が下された側面は間違いなくある。

だが千穂殿が死んだことで、魔王討伐を妨げるものは無くなった。

遊佐恵美こと勇者エミリアと殺し合う必要は無いが、これには理由はある。彼女が死ねば天使による聖剣回収が果たされない可能性が高い。天使に直接逆らうことはできないが、私の信仰対象でありながらその信仰を根本からへし折ってくれた憎き奴らの目的を遠回しに挫けるのなら、それはそれでこの上なくいい気味というものだ。

考えれば考えるほど、この環境は私が殺し合いに乗ることを肯定している。聖剣の勇者と魔王が異世界で滅び、エンテ・イスラは何事もなかったかのように平和になる。大嫌いな天使たちの目的も果たされない。だったらそれでいいじゃないか。デスサイズ・ベル―――私のかつての二つ名だ。教会に反する異端者を冷酷に殺すその姿からつけられたらしい。

「これが私の運命だと、そういうことなのだろう。」

二つ名が実態を反映しているなどということはなく、私は殺したくなんてなかった。だけど、私のそんな心を殺して人を殺めることはもう、とうに慣れている。

任務をこなし、個人的な復讐まで遂げるまたとない機会だ。魔王も勇者も殺してみせる。その過程で関係ない人々を殺すとしても。そう、彼らに出会うまでやってきたように―――

109幸せの言霊 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/10(日) 12:45:56 ID:6AGsKNPA0

「―――泣いてるの?」

それは、殺し合いを決意した矢先の出会いだった。出会い頭に荒唐無稽な言葉を投げかけてきたのは、見たところ何の変哲もない年端もいかない女の子。名簿によると、小林カンナという子だ。

泣いているだと?この私が?

すぐに殺しても良かった。だがその言葉を無視することができなかった。

「有り得ないな。」

ああ、有り得ない。デスサイズ・ベルの異名は飾りではない。どんな辛い殺しも、これまでポーカーフェイスでこなしてきた。

ましてやターゲットは、方や人間にとっては殺しにかかる方が自然である魔王の軍勢。方や親交を深める期間は1年にも満たない勇者、たった一人。今さら涙なんて流れるはずがないさ。

「……ううん、泣いてる。」

本当に、有り得ないことなんだ。だから。

「大事なもの、まもりたいって顔してる。トール様と同じ。」

もう、心の底を見透かすのはやめてくれ。

「何が悪い。」

我ながら大人気ないものだと思いながらも、都合の悪い言葉に蓋をするように口当たりが強くなる。

「殺したくなくて……何が悪い……!」

本音なんて戦場では何の意味も持たない。殺さなくては生きていけないし、奪わなければ居場所を奪われる。当たり前の話だ。殺したくて殺す奴なんて滅多にいないんだ。

「悪くない。」

「……じゃあ、どうしろというんだ。」

その問いに、カンナは黙り込み、暫しの時間が経つ。ここが潮時か、と懐からひとつのロザリオを取り出す。

「……武身鉄光。」

十字架の形をしたものを大槌へと変える鈴乃の能力。普段使っている簪は没収されているようだが、その代用となる装身具によって普段と遜色ない実力を―――殺傷能力を鈴乃は宿していた。

カンナの頭を一振りで砕こうとした、その時だった。黙り込んでいたカンナが何かを思いついたように手をポンと叩いた。顔を上げ、そして平坦な声で言った。

110幸せの言霊 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/10(日) 12:46:35 ID:6AGsKNPA0
「新勢力、つくる。」

「……え?」

予想だにしなかった言葉に、鈴乃の動きがピタリと止まる。

「トール様とエルマ様は勢力が違うから、混沌勢と調和勢で殺し合ってる。でも、ホントは仲良し。殺し合いたくない。」

トールもエルマも名簿で見た名前だ。きっとカンナの知人の話なのだろう。だけどその話は、どこか他人事に思えなかった。

「だから私が新勢力、カンナ勢をつくる!殺し合いはやめて、みんなカンナ勢に入って仲良くする!そして姫神……みんなで倒す!」

その目はどこまでも真っ直ぐで、そして無垢であった。世の中のわだかまりを知らない、言ってしまえば戯れ言だ。

「でも新勢力、すぐ潰される。強くならなくちゃいけない。だから……」

そう、耳を貸すのも馬鹿馬鹿しい理想論。しかしそれは、鈴乃の脳裏に一人の少女を浮かばせた。

『―――私は…私が好きな人達みんなが仲良くなって…ずっと一緒にいられたらいいなって思ってるだけですから。』

魔王と勇者が手を取り合う未来を本気で信じ―――それが叶うより先に殺された一人の少女。しかし、どうしてだろうな。向こうの世界を知らないからこそ言えたに過ぎない、その程度の言葉でしかないはずなのに。彼女の言葉には縋りたくなる『何か』があった気がするよ。

「……スズノも手伝って!みんな一緒にいたら、きっと楽しい!」

「一緒に……か……。」

楽しい……この上なく単純な動機だ。それが子供特有の幼さ故の現実逃避だったら、着いていく価値は見出さなかっただろう。
しかしカンナの言葉はそれではなかった。幼いように見えるその姿の裏にある『カンナカムイ』として生きた途方もない時間。それを鈴乃は感じ取ったのかもしれない。

111幸せの言霊 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/10(日) 12:47:19 ID:6AGsKNPA0
「……分かった。」

そして鈴乃は思い出した。勇者と魔王と日常を共にする日々は―――使命だとか宿命だとか、そんな一切合切を抜きに楽しかったんだ。

「私も……協力させてくれ。」

「ホント!?」

(ああ。宿命なんかに縛られなければ……きっとアイツらだって幸せに……。)

日本には『言霊』という概念があるらしい。曰く、魔法の詠唱でもない、ただの言葉にまで不思議な力が宿るのだとか。
実在する神も天使も知らずして信仰心だけは抱いているのも含め、日本の人間はつくづく奇怪な文化を形成しているものだ。前までの私であれば一笑に付していたところだろう。だけど、今なら信じられるよ。

千穂殿、信じてもいいだろう?そなたの言霊が、そなたの大好きな人達を殺そうとしていた私を止めたのだと。

千穂殿の言葉は私が継ごう。勇者も魔王も手を取り合える世界は私が築いてみせよう。だから……安心して眠ってくれ。

【C-4/池周辺/一日目 深夜】

【鎌月鈴乃@はたらく魔王さま!】
[状態]:健康
[装備]:魔避けのロザリオ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:皆が幸せになれる道を探す
一.カンナ勢か……。
二.千穂殿、すまない……。

※海の家に行った以降からの参戦です。


【小林カンナ@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:新勢力、カンナ勢を作ってみんな仲良くしたい!
一.姫神はたおす!
二.トール様もエルマ様も、カンナ勢に入る!

※トールとエルマが仲直りした以降からの参戦です。


【支給品紹介】

【魔避けのロザリオ@ペルソナ5】
鎌月鈴乃に支給されたアクセサリー。魔法回避が少し上昇する効果を持つ。十字架の形をしたものを大槌に変える『武身鉄光』により、鈴乃は同効果を保持した武器として扱える。

112 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/10(日) 12:47:40 ID:6AGsKNPA0
投下終了しました。

113 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/12(火) 02:25:12 ID:JEsuz9Zs0
三千院ナギ、モルガナ予約します

114 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/14(木) 23:21:48 ID:qqfjTjYc0
投下します。

115なんだかんだで自分ちの猫じゃなくてもとにかく可愛い ◆2zEnKfaCDc:2020/05/14(木) 23:22:55 ID:qqfjTjYc0
 例えば三千院の遺産相続のためにロトの鍵という文字通りのキーアイテムを捜索している最中、突然ワケの分からない場所に送られたり。例えば『殺し合いをしろ』などと、幾度となく使い古されたであろうシチュエーションに自分が巻き込まれていたり。例えばヒナギクの隣にいた女の子が目の前で殺されたり。例えば―――そんな残虐極まりない行為の主が他でもない、己の昔の執事であったり。

「なっ……なんなのだ!一体何が起こっていると言うのだ!!」

 とうとう堪えきれず、堰を切ったように三千院ナギは現状への困惑を吐き出した。

 幼い頃から三千院家の遺産を狙う殺し屋を退けながら生きてきたナギは、同年代の少年少女と比べて圧倒的に多くの修羅場を経験している。
 それでも13歳の少女がこんな催しに巻き込まれて平静でいられるはずがない。姫神葵―――どんなときでも側にいて、オレがお前を守るなどと言っておきながらアッサリいなくなってしまった男である。いなくなるまで姫神のことは、使用人を傍に置くのを嫌う自分が執事として身の回りの世話をするのを認めるくらいには信頼していた。そんな男が一転、自分を死地に叩き落としている現状。ナギからすれば困惑するなという方が無理な話であった。

 気ばかりが焦る状況下、ナギはひとまずいつの間にか持っていたザックを開いてみることにする。それは現状把握に必要な行いであるが、一方で暗い所を嫌うナギの現実逃避地味た行為でもあった。

「こっ……これは……!」

 たった一つ、そこから出てきたのは。まさに『殺し合い』を象徴するがごとく佇む遠隔武器―――


「ふおおっ!やはりこれは殺し合いなのだな……こんな恐ろしいブツまで……」

116なんだかんだで自分ちの猫じゃなくてもとにかく可愛い ◆2zEnKfaCDc:2020/05/14(木) 23:23:35 ID:qqfjTjYc0
―――パチンコであった。


「……って……ア、ホ、かぁーーーー!」

 ちゃぶ台でもひっくり返す勢いでナギは怒りという名のツッコミを撒き散らした。

「なんなのだパチンコって!どこのウ〇ップだ!こんなので殺し合いとか、無理ゲーすぎるわ!」

 ツッコミに疲れ、息を切らし始めたナギの脳裏に次に浮かんできたのはひとつの仮説。この悪趣味な催しは全てあのジジイ―――三千院帝によるドッキリか何かじゃないのか、と。

 会場となっている一つの島も三千院家の財力があれば余裕で買い取れるし、何より私への嫌がらせに莫大な予算をつぎ込むジジイのことだ。このくらいの演出であれば本当にやりかねな い。

「……いや、違う。」

 しかしその仮説は、続いてザックから出てきた参加者名簿を読むや否や棄却された。

「お前も……いるんだよな。ヒスイ。だったら……」

 その理由は名簿に書かれた初柴ヒスイの名である。どこか畏怖や羨望にも似た憧れの対象だった幼なじみであるヒスイについて、自分は多くを理解できていない。だが少なくともあのジジイの茶番に付き合うような性格じゃないことは分かる。彼女が参加している地点でこの催しは三千院家の遺産を賭けた真剣勝負を意味することに他ならない。ドッキリでないと分かれば自然に、これから始まるのが殺し合いの名が示す通り、命の取り合いであるのだと理解が追いつく。

 しかしそうなればマリアも招かれているのは不可解だ。これが本当に殺し合いであるのなら、ジジイがお気に入りであるマリアを参加させるはずがない。

 となればもしや、この催しにジジイは関与していないのか?だとしたら自分は今、とんでもない命の危機に晒されているのではないか?

 夜の暗闇が不安や焦りを増長させる。ぐるぐると、マイナス思考ばかりが頭の中を駆け巡る。

 過去にも途方もない恐怖に陥ったことはある。ロボットに殺されそうになった時。宇宙に飛び立った宇宙船の中に取り残された時。そんな時、自分はどうしていた?

 ふと、思い出す。そうだ。こんな時は―――

117なんだかんだで自分ちの猫じゃなくてもとにかく可愛い ◆2zEnKfaCDc:2020/05/14(木) 23:24:11 ID:qqfjTjYc0
「ハ……」

―――奴の名前を、呼べばいいんだ。

「ハヤ―――」
「静かにしろっ!」
「―――むぐっ!?」

 その名が、最後まで呼ばれることは無かった。パチンコへのツッコミの声を聞き付けて、背後より瞬時に忍び寄ったひとつの黒い影によって、ナギの口が塞がれたからである。

「モ……モガッ……!ふぁ……ふぁいをふうっ(なにをするっ)!」

「いいから冷静になれ。敵がどこで耳を潜めてるかもわからねーぞ?」

 耳打ちを受けて、ナギはハッとする。確かに自分は殺し合いを命じられた身。自分たちの未来に関わる大事な話の時には何度も電話がかかってきたり、遺産相続の権利を巡る最終ゲームを始めようとした時にはその鍵を紛失したり。どこかシリアスになれない今までの癖が染み付いていたのかもしれない。

 背後の人物が自分を襲ったわけではないと悟り、抵抗をやめるナギ。それを見て冷静になったと判断したか、向こうもナギの口から手を離す。

「あ……ありがとう。助かっ…………え?」

 お礼を言うためにナギは振り返る。しかしそこにいたのは、少なくとも『人物』と言い表すには些か人のかたちをしていないイロモノだった。知っている動物で言い表すなら、猫。しかし既知の猫とも微妙に異なる、言うなれば化け猫の類だ。

「なっ、なんなのだお前ぇ!!」

 ナギは後ずさる。紆余曲折を経て、結局冷静ではいられなかったようだ。周りに声を聞きつけて襲撃してくる人が居なかったのが不幸中の幸いか。

「む……ビビらせちまったか。まあこの見た目じゃ仕方ないよな。ワガハイはモルガナ。勿論殺し合いには乗ってない。よろしく頼むぜ。」

「あ、ああ……。私は三千院ナギ。よろしく。」

 息を切らしながらしばらくキョトンとしていたナギだが、思いのほかあっさりとモルガナの見た目を受け入れる。非科学的なものに直面した時はとりあえず受け入れるのが丸いとナギは少しおかしな日常からくる経験則で悟っていた。

118なんだかんだで自分ちの猫じゃなくてもとにかく可愛い ◆2zEnKfaCDc:2020/05/14(木) 23:24:45 ID:qqfjTjYc0
「ところでナギ。そのパチンコなんだが……」

「む、これか……?私のザックに入っていた。」

 姫神からの嫌がらせであるかのような措置にナギは不機嫌そうな顔を見せるが、対するモルガナはにいと笑っていた。そのパチンコに対する認識が両者で食い違っているのを感じたモルガナは次の話を切り出した。

「そりゃ、こんなもの使い慣れているわけないよな……だったら、取引といこう。」

「取引?」

 そのロマンある単語に目を輝かせながらナギは聞き返す。

「このパチンコはワガハイに使わせてくれ。その代わり、ワガハイがナギをこの世界の危ない奴から守ってやる。これでどうだ?」

 モルガナの見たところ、ナギはシャドウや認知存在ではない。おそらくこの殺し合いの参加者の大多数も、ナギと同じく生身の人間なのだろう。

 そもそも、メメントスを除くパレスは個人の認知の歪みから生まれる世界だ。それではこの殺し合いの会場は一体誰のパレスなのだろうか。オタカラを盗まれて改心させられる危険を冒してわざわざ自分のパレスを殺し合いの舞台とする理由は無いのでおそらく姫神のパレスではないだろうが、それを認識しないまま下手な行動を取れば誰かも分からないパレスの主が廃人化する可能性すらある。

 また、地図にある『純喫茶ルブラン』の名も気になる。ルブランが位置するのは東京の四茶。つまりこのパレスの主はありもしない地形を"認知"していることになる。そこには作為的に認知を書き換えている可能性すらあるということだ。
 認知世界を理解し、自在に操っているかもしれない主催者に対してひとつの嫌な予感がよぎる。双葉の母親、一色若葉から盗んだ認知世界の研究を用いてシドウは自らのパレスを改造していた。この殺し合いの主催者も、そのような技術を持っているのだろうか。

 異世界を悪用する者―――それだけであれば明智の時と同じように打つ手も色々考えられる。しかし今回は、このパレスの正体も生殺与奪の権利を握っておきながらわざわざ殺し合いをさせる意図も、何もかもが不明であり動きようがない。

 よってまずは情報を集めたい。しかし情報を集めるには殺し合いに乗っているかもしれない他者と交流しなくてはならない。そこで万が一相手が襲ってきた時にも身を守れるように武器となるものを探していたところ、自分の得意武器であるパチンコを持ったナギと出会ったのだった。

119なんだかんだで自分ちの猫じゃなくてもとにかく可愛い ◆2zEnKfaCDc:2020/05/14(木) 23:25:17 ID:qqfjTjYc0
「まあ、こんなものでいいのなら別にいいが……」

 取引の提案に、ナギは易々とパチンコを差し出した。ナギからすればただのオモチャにしか見えないからだ。しかしモルガナは、そのオモチャがパレスの中でどれだけの"攻撃力"を宿すのかを知っている。

「よし、それじゃあ取引成立だな!」

「うむ!」

 両者は握手を交わす。共に殺し合いの世界を生き抜く仲間の絆がここに成立した。

 そして握手の後―――ナギはおもむろにモルガナの頭をわしゃわしゃし始めた。

「わわっ!何だ急に!」

「ふふ、よく見るとなかなか可愛い見た目をしているではないか。ま、タマとシラヌイには負けるがな。」

「誰だよそれ……。」

「ウチの飼い猫だ。モルガナみたいに言葉を喋ったりする猫じゃないけどな。」

「ワガハイは猫じゃねーよ!」

 やれやれ、とモルガナはため息をつく。この殺し合いの裏側が何であれ、ナギと取引したことに変わりはない。何をすべきかはまだ見えてこないが、とりあえずはその取引を果たすとしよう。今できることをしていたら最終的には解決に導いてくれる、何かを"持っている"としか思えないような奴が、幸か不幸かこの世界に招かれているのだから。

「ほら、行くぞ。モルガナ!」

「ちょっ……待てよナギ……置いてくな!」

【A-1/平野/一日目 深夜】
【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗らない
1.何で姫神はこんなことを?
2.ヒスイとも決着をつけることになるのだろうか……?
3.ハヤテー!マリアー!どこだー!

※ロトの鍵捜索中からの参戦です。

【モルガナ@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:ノーザンライトSP@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(1〜3)(不明支給品にモルガナが扱える武器は含まれていません。)
[思考・状況]
基本行動方針:ナギとの取引を果たす
1.ここは誰のパレスなんだ?
2.姫神の目的はなんだ?

※シドウ・パレスのレストランで政治家・大江を倒した時よりは後からの参戦です。

【支給品紹介】
【ノーザンライトSP@ペルソナ5】
三千院ナギに支給されたパチンコ。ガンカスタムが施されており、「低確率で凍結付与」の効果が付いている。
弾の装填数は4。戦闘1回ごとに補充される(1回の定義は後続の書き手さんに一任します)。

120 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/14(木) 23:25:49 ID:qqfjTjYc0
投下終了しました。

121 ◆dGLETqAo0I:2020/05/16(土) 18:52:33 ID:RHQOpyO60
芦屋四郎、小林トール、霊幻新隆予約します。

122 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/16(土) 20:00:28 ID:b6hc8ZFg0
明智吾郎、遊佐恵美予約します。

123 ◆dGLETqAo0I:2020/05/18(月) 10:19:27 ID:6bumd8X20
投下します。

124協定?正しい判断です ◆dGLETqAo0I:2020/05/18(月) 10:20:29 ID:6bumd8X20
透きとおるような満天の星空。
散りばめられてそれぞれ好きに瞬く星たちは、地上で行われている殺し合いという血に塗れた行為など全く気にせず暗闇を彩っている。

そんな美しい空に似つかわしくない空気を纏うふたりがいた。
お互いを睨み付け、これがマンガなら背景にゴゴゴゴという文字を背負っていたであろう程に敵意を剥き出している。
一言で表すなら、まさに一触即発。

「何度言ったら分かるんですか!? あなたも頑固者ですね!!」

ムキになりつつ叫んでいるのはかわいらしいメイド服に身を包む小林トール。
ドラゴンでありながら恩人である小林さんの家に押しかけ、メイドとして料理をはじめ家事全般を担っている少女だ。
本来の姿であるなら、叫びながら口から炎を吐いていてもおかしくない程に感情的になっている。

「あなたの方こそ! 私は決して意見を変えたりなどしませんよ」

対して、大人気なく見えるほど顔を顰めて腕を組んでいる男は芦屋四郎、またの名……いや、本来の名はアルシエル。
魔王サタンに付き従う四天王のひとりで、主君が勇者に敗れた後に逃れた先の日本では、彼の再起を支えるため(そして同居人のニートには任せられないため)主夫に勤しむ悪魔大元帥だ。

どちらも人智を超えた存在。そんなふたりが火花を散らしている原因はというと。

「優勝するのは小林さんじゃないとダメなんです!!!」
「いーえ、魔王様こそ頂点に相応しい!!!」

それぞれが心酔する人物のどちらを優勝させるか、というものだった。





「小林トールといいます。小林さんの家でメイドをしています」
「これはご丁寧に。私は芦屋四郎。魔王城で家事全般を受け持っています」

出会いは平穏だった。
事情は違えど、人ならざる身でありながら人の世で過ごしてきたふたりは、いきなり襲いかかるようなことはしなかった。
いざ目の前に敵意を持った者が現れようものなら撃退することに躊躇いはないけれど、彼らなりに人と向き合う術は心得ている。

125協定?正しい判断です ◆dGLETqAo0I:2020/05/18(月) 10:21:54 ID:6bumd8X20
きっかけは、名簿を捲りながら互いの知り合いを確認した後にあった。

「それにしても気に入りませんよね。なんであんなよく分からない人に小林さんと殺し合えだなんて言われないといけないんですか!」
「全く同感ですよ。魔王様以外が簡単に私に命令できるなど、思わないでいただきたいものです」
「おまけに最後のひとりまで生き残ったら優勝だなんて! それじゃ小林さんと一緒にいられないじゃないですか!
まあどうしても優勝以外に殺し合いを終わらせる方法がこれっぽっちもないって言うなら、小林さんに優勝してもらうしかないですけどね」
「魔王様がいるのだからそれは無理でしょうね。本当にそれ以外の手がないというのなら最後に立っているべきは、そしてそれだけの力をお持ちなのは魔王様です」
「は?」
「なんです?」

カーン!
見えないゴングが鳴った瞬間であった。

「小林さん以外の人が優勝だなんて……小林さんを殺すなんて、そんなの許しませんよ! 私というドラゴンが守るのですから、簡単にできると思わないでもらいたいですね!」
「おいたわしや、ただでさえ佐々木さんを失ってしまった魔王様から、更に命まで奪おうなど許されません! ここでは魔力の供給があるようですから、私でもあなたを退けるくらいできますよ」

小林トールにとっての小林さん、芦屋四郎にとっての真奥貞夫。それらは絶対的な存在だ。
両者決して譲ろうとしない戦いはヒートアップするばかりで、終着点がなかった。
主人の影響か日本での暮らしの影響か手こそ出さないものの、敵意は包み隠さず口論を始め……そして、冒頭に至る。

今のこの場にいない小林さんや真奥貞夫が優勝を望んでいるかは分からない。が、だからこそ、“もしも他の手立てがなく優勝者を出すしかないなら”という仮定の話であっても譲れない。
主人の為に生きるふたりだからこそ、例えこの場を収める為でも相手の為に主人が死ぬという仮定の未来を口にすることができないのだ。

126協定?正しい判断です ◆dGLETqAo0I:2020/05/18(月) 10:23:32 ID:6bumd8X20
意味もなくファイティングポーズを取るふたりが纏う空気は、爆発寸前のギリギリのところまで張り詰め……突如霧散することになった。

「無益な争いをするつもりですか? あなたがた、呪われますよ?」

空気を読んでか読まずか、堂々と現れた(自称)霊能力者によって。





霊とか相談所、ご存知ですか?
悪霊に関するご相談に乗ったり、依頼を承り、複数のコースから選んでいただいて除霊したりする事務所です。
そしてその除霊をする霊能力者が他でもないこの俺。名前はそう、霊幻新隆といいます。ホームページはこちら→[URL]
まあ除霊するといっても、弱い霊は特訓も兼ねて弟子に任せているんですけどね。

自己紹介をしたところで問題です。俺が今いる場所、どこだか分かります? 分からない? ええ、俺もです。
地図を信じるなら、ここは不自然なまでに正方形に整えられた島らしい。が、こんな島見たこともない。
おまけに南東の隅をよく見ると、霊とか相談所まであるときた。
俺の事務所だからよーーーく分かる。本来ならこんな島にあるわけがないんですよ。
じゃあこの状況は何か? モブが使うような超能力で事務所をここまで持ってきて、更に殺し合いを開いたと?
だが、強い力を持ったモブでもこんなことは流石にできないはずだ。超能力によるものかと言われると、首を傾げてしまいますね。
本気を出せばビルごと事務所の場所を移すことはできなくもないかもしれないが、その上であれだけの人数を一度に集めて、一定範囲内にバラバラに転送させるまでとなると……ああ、そういえばこんな状況になる前のこと、話してませんでしたね。

信じてもらえないかもしれないですけどね、俺はーー気が付いたら知らない場所に、よく知ってるモブたちや全く知らない奴らともども集められてたんですよ。
流行りの異世界トリップものでもないだろうに。こんなこと、現実であります?
ああ、流行ってるのはトリップというより転生ものか。生憎俺は死んだ記憶がないが。
おまけに殺し合いをしろと言われ、罪なき(と思われる)少女は命を奪われ、流石の俺も動揺したわけです。
いつの間にかひとりで立っていたことに気付いても、頭が追いつかないまま無意識に手がザックを漁っていたくらいには。
取り出した怪しい支給品を二度見して、更に頭が混乱したのはまた別の話ということで。

127協定?正しい判断です ◆dGLETqAo0I:2020/05/18(月) 10:25:11 ID:6bumd8X20
 


◇◆◇◆◇

殺し合いの宣言、見せしめとなった少女、そしてトドメの怪しい支給品。
それらによって奪われていた思考能力を数分してようやく取り戻し、辺りを見回すと学校らしき建物が見えた。
地図には学校が2種類記されているが、温泉は見当たらないから見滝原中学校の方で間違いないだろう。コンパスと照らし合わせる限り、反対側に温泉が、なんてこともない。
となると、南にまっすぐ行けば俺の事務所にたどり着くはず。
モブも地図で事務所があることを知れば向かってくるかもしれねぇし、俺が仕事で使ってるパソコンがあれば、現状について何か調べられるかもしれねぇ。首輪を爆発させる時に使ってたスマホのこととかな。
ま、事務所がバッタもんでなければ、だが。
とにかく、考えがまとまったなら善は急げだ。
さっき手に当たった支給品ーー怪しい本を、まあ鈍器代わりくらいにはなるだろうと護身の為に手に持ち、動き始めた。



歩き出してから大してかからない内に、何やら言い争っているかのような騒がしい声が聞こえてきた。
おいおい、殺し合えとか言われたばかりだってのに、なんでそんな不用心なことできるんだよ?

「……小林さんを殺すなんて、そんなの…………」

うん?

「……を失ってしまった魔王様から、更に命まで奪おうなど…………」

ううん?
これはマズくないか?
断片的にしか聞き取れてないが、大事な奴がいる誰かと誰かが口論しているようだ。
下手したら今にも危害を加えてしまいかねないほどの怒号になってきてるし。

(仕方ねぇな……止めるか)

殺し合うなんて間違ってる!って言うことがこの場の正解なのかは分からねぇ。
だが俺は生きて帰りたいし、モブたちだって連れて帰ってやらなきゃならない。
その為には殺し合いに乗って誰かひとりが優勝ってことしか考えないんじゃなくて、できるだけ多くの人数が助かる方法を探すべきだろ?
まあエゴだな。俺の目的の為のエゴ。
無駄に命を散らすよりは、説得して一緒に解決策を考える方が建設的だし、向こうにとっても不都合はないだろう。

128協定?正しい判断です ◆dGLETqAo0I:2020/05/18(月) 10:26:13 ID:6bumd8X20
手にしていた本を突き出すようにして持ち、口論しているふたりの元へ向かっていく。

「優勝するのは小林さんじゃないとダメなんです!!!」
「いーえ、魔王様こそ頂点に相応しい!!!」

あれ、もしかしてこいつら、もうハラ決めちゃってる感じ?
やべえ、もう近くまで来ちまったし、口も開いて息も吸い込んでる。今更声を止めることもできない。
藪蛇だったか!? 俺終了のお知らせか……!?
くそ、鬼が出るか蛇が出るか……いや鬼も蛇も悪霊も出てくるな!

「無益な争いをするつもりですか? あなたがた、呪われますよ?」
「む、無益ですって!?」
「魔王様を愚弄する気か!?」

うわ、同時にめっちゃ睨まれた。いやでも、即座に殺されたりしなくて良かったか。
というか、無益な争いというのは間違ってないだろう。水掛け論に意味はねぇぞ。余計な体力を消耗するだけだ。
多少は怯んでくれと思って本を見せながら呪われますよとは言ったものの、こっちはあんまり効果がなかったようーー

「はっ!? あ、あなた、なんてものを持ってるんですか!?」

効果あったわ。すごいあったわ。
金髪の女の方がこの本を見た途端慌てふためき出したわ。

「トールさん、あれが何なのかをご存知で?」

白髪の男が金髪の女に尋ねる。
お前、今の今までそいつと口論してただろ。意地になってただけなのか?
まあ、説得の余地はありそうだからいいか。

「ええ、知ってますよ。あれはファフニールさんが手掛けた、呪いアンソロジー……」

そう、俺に支給されていた怪しい本。それ即ち、呪いアンソロジー。
さっき軽くページを捲ってみたら、やたら本格的な空気を醸し出した呪いの方法がいくつも羅列されていた。
こうしてハッタリかますには十分な雰囲気を持った本だ。

「呪いアンソロジー? まさかとは思いますが……」
「そのまさかです。あのアンソロジー……本物の呪いが記されているんですよ!」

129協定?正しい判断です ◆dGLETqAo0I:2020/05/18(月) 10:27:27 ID:6bumd8X20
ん?

「な、なんて危険なものを……!」
「私たちを呪うだけならまだしも、あなたまさか小林さんをも呪おうと考えてるんじゃないでしょうね!?」
「まさか魔王様も……!?」

これ本物だったの。
やべ、ハッタリどころじゃ済まねぇぞこれ。
なんか勘違いで、さっきより更に睨まれてるし。
……いや、待てよ。これは寧ろ好都合では?

「安心しろ、そんなつもりはない。今のところはな」
「い、今のところ?」
「お前たち次第、というわけだ」
「な……! 人間が軽々しく呪いを扱ってはいけません!」
「トールさん、落ち着いて下さい。あの本さえ奪取してしまえば……」
「内容全部は覚えてないが、いくつかは記憶してるぜ?」
「「ぐっ」」

余裕の笑みを貼っ付けてはいるものの、正直冷や汗をかきそうだ。
こいつらの目に滾った敵意ったら、そりゃもう相当なものだ。
殴りかかられてないだけでも奇跡といっていいんじゃないか?

「俺だって、呪いなんて使いたくはないさ。弟子にも、大きな力は人に向けていいものじゃないと教えてる」
「あなたからは何も力とか感じませんけどね」
「……。俺はただ、お前たちに協力してほしいだけだよ」
「殺戮を?」
「人間の支配を?」
「物騒!」

お前らはそれでも血の通った人間か?
まさかアレか、呪いアンソロジーを持ってるせいで俺は冷血人間とでも思われてるのか?

「そんなんじゃねぇよ。俺は殺し合いをしたいんじゃない。優勝者ひとりじゃなくて、それ以外の奴らも生きて帰れる方法を探したいんだ。
お前らだって、さっきから言ってるコバヤシサンやマオウサマと一緒に帰れるなら、そっちの方がいいだろ?」

金髪はぶすくれたように、白髪はしかめっ面で、口を噤みながらお互いをちらりと見る。
否定はしない。いいぞ、これならもう一押しだ。

130協定?正しい判断です ◆dGLETqAo0I:2020/05/18(月) 10:28:49 ID:6bumd8X20
「お前らは誰かの為に怒鳴り散らせるほどの熱があるなら、殺し合うより協力した方が絶対にいい。
何も仲良くなれとは言わない。お互いを利用するとでも思えばいい。
それに、情報収集だけじゃない。俺が呪いを発動させないか見張ることだってできる。悪い話ではないんじゃないか?」
「むむむ……なんだか偉そうですが一理あります……」
「……まあ、そうですね。魔王様に手を出さないなら、一先ずはそれで良しとしましょう」
「呪いを発動しようものなら、ただじゃおきませんからね」
「その時は相応の覚悟を」

ふう、良かった。苦虫を噛み潰したような顔をしてはいるが、理解は得られた。
こいつらは自分よりも第一に考えるべき人がいて、恐らくだが行動原理も常にそこにあるんだろう。
譲れないから、ああやって口論する。だが……根っこは同じだから、分かるはずだ。
そいつの為に真剣になれる、全力になれる。それは相手も然りだと。
だから、同じ目的を与える。利用という名目も。
自分と同じだけの真剣さを大事な人の為に使えるぞと暗に言ってるわけだ。
どっちにとっても有益だろ?

「ですが、これだけは先に言っておきましょう」

さっきまでムキになって口論してたり呪いアンソロジーに動揺してた奴とは思えないような、冷静な声と眼差しで白髪が俺を見る。
こいつは落ち着いてさえいれば、頼りになる奴なんだろうか。落ち着いてさえいれば。

「魔王様なら問題ないとは思いますが……万が一。本当に万が一、いや億が一のことも考えなければなりません。優勝以外の有効な手立てが見つからない内に魔王様に危険が迫ってしまうようなことは許されないのです」

ほら。大事と大事のぶつかり合いだからああやって口論してただけで、本当は考えられないわけじゃないんだろ。最悪のケースってやつ。
喧嘩相手が一緒にいるんじゃ、どうしてもそれより優勝の方にばかり目は向くだろうけど。

「情報収集の期限を決めると」
「話が早くて助かります。魔王様と合流できれば別ですが……そうですね。合流もできず、有益な情報も見つからないまま24時間が経過するようなら」

丸1日か……正直キツい。
だが、こいつらもそれだけ大事な奴に会えないのは我慢ならないんだろう。
俺だって、モブたちを見つけられなけりゃ心配くらいはする。

「その時は俺を殺して小林さんや魔王様とやらを探しに行っても構わない」

131協定?正しい判断です ◆dGLETqAo0I:2020/05/18(月) 10:30:11 ID:6bumd8X20
本心ではない。誰だって死にたくはない。もちろん俺もだ。
だが、俺から(ハッタリのつもりだったとはいえ)脅すようなことをして協力を提案したんだ。
今はそう言っておいた方が心象も良いだろう。

「呪いのこともありますから、最悪それも視野には入れてますが。呪いを発動する素振りがなく、かつ情報収集以外でもあなたが魔王様のお役に立てるだけの人物だと判断すれば、命までは取りません。
ですが、今度は私があなたを利用させていただきます」

お、ラッキーかもしれん。
言ってしまえば24時間観察され続けるようなもんだが、できなきゃ死ぬというプレッシャーは和らぐ。余計なミスに繋がる要素を減らせるわけだ。
だからといって手を抜く気はないがな。俺もモブも常に命が懸かってるような状況だし。

「まどろっこしいですね。自分で言ったこともできない人間なら踏み潰したっていいんじゃないですか?」
「野蛮なドラゴンですね。魔王様の生存をより確固たるものにする方が大事ですよ」

ん? 今なんつった? ドラゴン?

「まあそれもそうですけど……あっ、でも小林さんの方が大事ですからね! 本当にこの人が力になりそうなら、小林さんの為に働いてもらいますよ!」
「いいえ、魔王様の為に働かせるべきです」

また始めたよ。
いや、それよりもドラゴンって……あのドラゴン? クエストとかの、あの?
…………。本当に?
俺、やべぇ奴の手綱握っちまったのか……?

「お前ら、ストップストップ。口論してる暇があるなら足を動かすぞ」
「小林さんですからね。まずはどこに行くんですか?」
「霊とか相談所に向かうつもりだ。普段俺が使ってるパソコンがあるかもしれん」
「魔王様です。なるほど、パソコンで手掛かりを探すつもりなんですね。あ、近くにマグロナルドもありますね。魔王様も訪れるかも」
「小林さんですってば。知ってる場所なんですか?」
「魔王様ですから。知ってるも何も、魔王様が資金を集めておられるのが、他でもないこのチェーン店、マグロナルドですよ」

お前ら会話ついでに喧嘩するな。
でもまあ、俺だけじゃなくて白髪の方にも利点がある方角なら一石二鳥か。
……白髪。あ。

132協定?正しい判断です ◆dGLETqAo0I:2020/05/18(月) 10:31:20 ID:6bumd8X20
「そういえばまだ名乗ってなかったな。俺は霊幻新隆。霊能力者だ」
「霊能力? やっぱりそれっぽい力は感じませんが……私は小林トールです。小林さんの家でメイドをしてます。優勝者を出すしかないなら絶対小林さんを優勝させますからね!」
「私は芦屋四郎。魔王城で家事全般を担っています。優勝に相応しく、見合った力も持っているのは魔王様ですので、そこのところよろしくお願いします」
「小林さんです」
「魔王様です」

こいつら自己紹介ですら喧嘩してんぞ。
よっぽどそいつらのことが大事なんだな。
特別ってやつ。





口にはしないが、もし。
もしも、こいつらの大事な奴が本当にどっかで死んでしまったら。
こいつら、どうするんだろうな。
自分が優勝して褒美の願いに縋るか?
錯乱して俺を殺すか?

もしも、俺が死んでしまったら。
…………。

俺の為にも、延いてはモブの為にも、小林さんと魔王様とやらには、なんとしても生き延びてもらいたいもんだ。



【C-5/平原/一日目 深夜】

【芦屋四郎@はたらく魔王さま!】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:一先ずは霊幻に協力するが、優勝者を出すしかないなら真奥貞夫を優勝させる。
一.魔王様はご無事だろうか……。
二.魔王様と合流するまでは、協力しつつ霊幻さんを見定めましょう。

※ルシフェルとの同居開始以降の参戦です。

【小林トール@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:一先ずは霊幻に協力するが、優勝者を出すしかないなら小林さんを優勝させる。
一.小林さん、一緒に帰りましょうね!
二.無理そうなら小林さんが優勝してくださいね。その為なら私、なんだってしますから!

※コミケのお手伝い以降の参戦です。

【霊幻新隆@モブサイコ100】
[状態]:健康
[装備]:呪いアンソロジー@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:優勝以外の帰還方法を探す。
一.俺の事務所で情報収集できりゃいいんだが。
二.こいつらの手綱はしっかり握っておかないとな……。
三.モブたちも探してやらないと。


【支給品紹介】
【呪いアンソロジー@小林さんちのメイドラゴン】
ファフニールがコミケで販売したが、全く売れなかった本。トール曰く、収録されている呪いは本物らしい。

133 ◆dGLETqAo0I:2020/05/18(月) 10:32:27 ID:6bumd8X20
以上で投下終了です。誤字脱字、指摘などありましたらよろしくお願いします。

134 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/18(月) 15:58:00 ID:wNzYLAzE0
投下乙です!
早速トールと芦屋、何という言い争いを……!?
どっちの大切な人が生き残るかって、冷静に考えるとめちゃくちゃ重いし当然の如く不穏な空気は漂ってる。両者ともサラッと自分が死ぬ前提で話してるのがまた奉仕マーダーの素質ってやつですかね。そしてそんな異世界の価値観100%のやり取りに割り込んでくる霊幻。殴り合っても絶対に敵わない相手にハッタリを武器に、相手の思い込みにも助けられながら何だかんだ上手く取り入って主導権まで握っている(更にはタイトルまで自分色に染めている)とこがホントに霊幻らしくて好きです。

135 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/19(火) 13:43:16 ID:To79uqRg0
投下します。

136復讐という正義の名のもとに ◆2zEnKfaCDc:2020/05/19(火) 13:44:27 ID:To79uqRg0
「……なるほど。実に興味深い話だ。」

 派手な仮面と衣装に全身を包んだ男、明智吾郎は顎に指を当てて思索に耽る。それは日々を『探偵』として過ごす中で、いつの間にか物事を考える際の癖となっていた仕草だ。
 彼は今、持ち前の頭脳を総動員させて現状の考察に努めていた。

「エンテ・イスラという異世界で繰り広げられる勇者と魔王の宿命。聞いた限り矛盾点は見つからないし、この名簿に神話上の悪魔や天使からもじったような名前の持ち主が複数いるのも確かだ。確かに突拍子もない話だけど、信じるに値する何かがある。」

 そして現在、そんな明智と情報共有を行っているのは、勇者エミリアこと遊佐恵美。最初は明智の派手派手しい衣装に戸惑いこそしたが、話してみると比較的常識人であったために見た目からの警戒心はすでに解けていた。

「せめて聖剣があればと思ったんだけど……どうも没収されているみたいね。」

「それは残念。眠る少年心を呼び覚ましてくれるかと思ったのだけど。」

 恵美の話はどこまでも明智の、というより日本人の常識からかけ離れていた。その自覚は恵美にもあるため、本来であれば赤の他人に話すような内容では無いのだろう。明智がそれを信じたのも、明智自身が認知世界という非現実的な存在を認めており、さらには未だイセカイナビの出自が明らかになっていないことによる所が大きい。

 基本的に周囲の人間には秘匿を心掛けてきたエンテ・イスラの話を出会ったばかりの明智に打ち明けているのには理由があった。

 当初、この殺し合いに招かれているのはエンテ・イスラの関係者ばかりであると恵美は考えていた。これだけ大掛かりかつ魔術的な勇者・魔王の拉致を為す方法が日本の常識では思い浮かばないという、真っ当な嫌疑だ。
 しかし曲がりなりにも勇者である恵美。魔王相手ならまだしも友人の鎌月鈴乃や全く関係無い人々を殺そうとは思わない。

 そこで殺し合いに抗う同志を集めるため、エンテ・イスラに住まう者であれば誰しもがその名を知る『エミリア・ユスティーナ』の名を、最初に遭遇した明智に名乗ったのであった。当然、エンテ・イスラに縁もゆかりも無い明智はその名を知らない。間違いに気付き誤魔化そうとしたが、それは明智には通用しなかった。明智の質問攻めに遭って、やむ無くエンテ・イスラの話までを行い、現在に至るのであった。

137復讐という正義の名のもとに ◆2zEnKfaCDc:2020/05/19(火) 13:45:09 ID:To79uqRg0
「それで―――」

 エミリアとしての過去と恵美という名前での生活、両方を聞いた上で明智は思う。エミリアとサタン、恵美と真奥。ふたつの顔を持つ者たちの関係は決してひとつの言葉で言い表せるものではないのだろう、と。

「―――君は魔王サタンを殺すのかい?」

 明智は恵美の核心にズバリと切り込んだ。

 明智は、この世界で恵美は真奥との関係においてどちらを選ぶのかに興味を持ったのだ。勇者として宿命を終わらせるのか、それとも共通の敵を持つ同志として共に戦うのか。

(……その答えがどちらであれ、"彼"との関係を変えるわけではないけど、ね。)

 赤い仮面の下の明智の複雑な表情に、恵美は気付かなかった。

「……正直ね、迷ってるの。」

「へえ?」

「さっきも言った通り、魔王はお父さんの仇だもの。許す気なんて無いわ。だけど……千穂ちゃんを殺した奴のお膳立てに乗っかって殺したいわけじゃない……!」

 そう言うと恵美は少し伏し目がちになりながら続ける。

「でも、思うの。これだけ魔王討伐が許される環境が与えられても魔王を倒せなかったなら、きっと元の世界に戻っても結局、決意が鈍っちゃうんじゃないかって。」

「……なるほど、よく分かったよ。」

 その答えを聞いた明智は、少し恵美のことが分かった気がした。

 宿命と本心の乖離。自身の内に同時に存在する反対方向に向いた感情の処理ができていないのだ。そしてその兆候は自分自身にもあることも自覚している。出会った時から不思議な縁を感じた男、雨宮蓮。彼と出会うのがもう数年早ければ、或いは同じ視点から色々なことを語り合える同志にもなっていたかもしれないのに、などと考えたことは数えきれない。

 しかしそのような様相を客観的に捉えてみれば、それは何とも惨めなものであった。

 殺し合いの世界ごときで揺らぐ程度の決意で復讐?ああ、生ぬるい。百歩譲って姫神を倒すために復讐対象である魔王と一時的に共闘する決意が固まっているのならいざ知らず、その先で魔王を殺すことすら躊躇いを覚える始末だ。下手に自分に重ねてしまったからこそ余計、反吐が出る。

138復讐という正義の名のもとに ◆2zEnKfaCDc:2020/05/19(火) 13:45:59 ID:To79uqRg0
(そろそろいいか。)

 そして、明智は殺し合いに乗っていた。

 唐突に巻き込まれた殺し合に困惑こそすれ、決して躊躇うことなど無かった。明智自身は"仲間"など作らないタチであるし、宿敵である怪盗団を真っ向からぶち壊すには充分な舞台だ。何なら優勝者に与えられる願いの権利というオマケまで付いている。殺し合いに乗らない理由など、明智には無かった。

「射殺せ―――ロビンフッド。」

 突如として明智の背後から現れた影から、恵美に向けて矢が放たれる。
 その攻撃手段もタイミングも、何もかもが恵美の想定の外の出来事だ。幾ら異世界の勇者といえども、認識の外からの攻撃に対して容易くその身を貫かれる―――本来ならば。


「……やってくれるじゃない、明智吾郎。言い訳があるなら聞くけど?」

 明智のペルソナ、ロビンフッドの矢は空を切った。不意打ちに対して明智を敵と認識した恵美は唯一の武器である木刀を手に明智と相対する。

 明智の攻撃を見切ったタネは、恵美の手に収まる木刀に秘められた力であった。明智から見れば特殊な力を宿しているようには見えない、ただの木刀。しかしそれは、宿主の判断力や動体視力を引き上げる宝具【木刀・正宗】である。

「はっ……ムカつくんだよ、お前。」

 先程までの爽やかなイメージとは一転した明智の語調に一瞬気圧されながらも、木刀・正宗を構え聖法気を練り上げる。それに応じて恵美の赤髪は次第に白く染まっていく。

「個人的な復讐を果たすだけなのに、魔王の脅威から世界を救った勇者として讃えられるんだろ?」

「私はそんなの望んでいない。」

「だから!それがムカつくっつってんだよ!名声や信用に恵まれていながら未だに迷っている、その情けないサマがさぁ!」

 強まる語調とは反対に、明智は至って冷静に武器を取り出す。恵美の持つ木刀とは異なり、殺傷力に特化した呪いの込められた刀である。

「……話し合いでは終わらないようね。それなら話が早い、とでも言うべきなのかしら。」

「ああ。この戦いの結論は至ってシンプル、それでいいだろ?」

 片や木刀、片や真剣。されど両者が各々の業物を手に取って向かい合うその様相は―――

「そうね、勝った方が……」

「正義だッ!!」

―――これから始まるのが『正義』の名のもとに戦っていた2人による殺し合いであることを、この上なく示していた。

139復讐という正義の名のもとに ◆2zEnKfaCDc:2020/05/19(火) 13:50:43 ID:To79uqRg0
【E-3/平原/一日目 深夜】
【明智吾郎@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:呪玩・刀@モブサイコ100
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに優勝する
一.異世界の勇者?上等だ。
二.雨宮蓮@ペルソナ5だけは今度こそこの手でブチ殺す。

※シドウ・パレス攻略中、獅童から邪魔者を消す命令を受けて雨宮蓮の生存に気付いた辺りからの参戦です。

【遊佐恵美@はたらく魔王さま!】
[状態]:勇者(銀髪)状態
[装備]:木刀・正宗@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める
一.真奥貞夫と協力するべきか、それとも魔王サタンとして倒すべきか?
二.明智と戦う

【支給品紹介】
【木刀・正宗@ハヤテのごとく!】
恵美に配られた支給品。持つ者の潜在能力を極限まで引き上げる鷺ノ宮家の宝具。その代わりに感情が高ぶりやすくなる。

【呪玩・刀@モブサイコ100】
明智に配られた支給品。元はプラスチックの玩具であったが、桜威の呪いを長年にわたって込められてきたことで本物の日本刀以上の切れ味と威力を持つようになった。

140 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/19(火) 13:51:41 ID:To79uqRg0
投下完了しました。

141 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/25(月) 14:51:05 ID:nNTeJIGE0
初柴ヒスイ、烏間惟臣で予約します。

142 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/30(土) 22:24:20 ID:8u4pw3uE0
投下します。

143砕けぬ意志、翡翠の如く ◆2zEnKfaCDc:2020/05/30(土) 22:25:37 ID:8u4pw3uE0
 彼女は、ただひたすらに強欲であった。敗北を極端に嫌ったため、何者にも勝利できる力を求めた。世界的な大富豪である三千院帝が莫大な財を投げ打って探し求めている『王族の力』なるものが本当にあるのなら、それもまた己がものとせずにはいられなかった。

 そして彼女は強欲であると同時に、天才であった。凡人の努力も苦労も真っ向から否定するかの如く、何もかもが最初からできたし最初から分かっていた。
それならば欲したものがことごとく彼女の手中に収まっていくのもまた当然の帰結だった。

 彼女の欲望の行き着く先はひとつ。全てが欲しい。この世にある、手に入るもの全てが。

 果てしなき強欲は、次第に世界に対して牙を剥き始めた。
有り余る財を所有する三千院帝をして『驚異』と呼ばしめる存在へと変わっていった。

 しかし協力者、姫神葵の用いた手は気に入らなかった。邪魔者である綾崎ハヤテやその他諸々を、自らの手を汚すことなく殺し合わせようとは。

 彼女が欲しかったのは勝利の上で手に入れる世界。この殺し合いの会場において、彼女―――初柴ヒスイだけは、自らの意思で殺し合いに参加していた。

「さあ、殺し合おう。」

 そして殺し合いが始まること数分。ヒスイは出会った一人の男に向けて静かに告げた。
スタイリッシュさから掛け離れたボサボサ頭に反して引き締まった肉体。そして獲物を射殺すような鋭い眼光を放つその男、烏間惟臣。

 数多くの殺し屋と対面してきて、伝説の殺し屋『死神』の子弟とタイマンまで交えたことすらある彼は、恋愛においては超がつくほどの鈍感であれど殺意に対しては相当に敏感である。だからこそ、分かる。ヒスイが烏間に向けるそれは殺意ではない。言い表すならば、飽くなき闘争心。カルマが訓練の際、たまに自分に向けてくる闘志の類に似てはいるが、その濃度なるものがカルマの比ではない。更には右眼元に大きく描かれた刀傷。それだけを見ても彼女が平穏な日々を送ってきた人間でないのは明らかだった。

(仮にも姫神に呼ばれた人物。ただ者ではないということか。)

 しかしヒスイをただ者でないと言うのなら、烏間はそれ以上に常識外れの人種。時に、アフリカゾウすら昏倒させる毒ガスを浴びても人並みに動く。時に、笑顔ひとつで猛犬を従わせる。

「いいだろう。」

―――そして何より、その根っこはかなりの戦闘狂であった。

144砕けぬ意志、翡翠の如く ◆2zEnKfaCDc:2020/05/30(土) 22:26:19 ID:8u4pw3uE0
「いい返事だ。ならばっ!」

 開口一番、ヒスイは支給品の剣を鞘から引っこ抜く。

「いや、待て。」

 しかし烏間がそれを制止した。

「ここは木々もあって見通しが悪い。戦闘中に第三者の介入を受けるのもお互い面白くはないだろう?」

「ほう、一理あるな。」

「ゲーム開始地点に俺が転送された闘技台が近くにある。そこなら見通しがよく、第三者の接近にも気付きやすい。殺し合うのならそこで、というのはどうだ?」

「分かった。ならばそこがお前の墓場だ。」

 とりあえずは理屈が通じる相手で助かった。話し合いに応じる余地もなければ、かつてのイトナのように一悶着は避けられない。

 要は、ヒスイを殺すつもりは烏間には無い。しかし、だからといってヒスイを放置すれば彼女は別の相手を探し求めるだろう。ターゲットを襲撃する暗殺の訓練は多く積んでいても戦闘の訓練は特段豊富ではないE組の生徒の方へと向かわれるのは困るし、見ず知らずの人が犠牲になるのも面白くない。

 それならば、防衛省での経験から真っ向勝負の戦闘に強い自分が彼女の闘志を受け止め、そしてその闘志を対主催の方向へと"手入れ"する。奴の真似事など面白くないことこの上ないが、この殺し合いを打破するにはおそらく最善策だ。

「ひとつ、言っておく。」

 闘技台への移動中、ヒスイが口を開く。

「お前は殺し合いに乗る気はないのだろう。今も私をどう丸め込むかを考えているな。」

「ああ。だったらどうする。」

 ヒスイが烏間の腹の底を理解したのに理由はない。天才的な直感でそれが最初から分かるのが初柴ヒスイという少女だ。

「すぐに分かる。お前の勝利条件は私を殺すことだけだ。」

「ああ、覚えておこう。」

 そのような会話を交わしつつ、数分。二人は目的地である闘技台にたどり着く。
辺りに不意打ちが仕掛けられるような遮蔽物が無く、一辺が50メートル程度のサイズが確保された正方形のバトルフィールド。誰にも介入されたくない決闘であれば最良の舞台だ。ご丁寧に、支給品を入れたザックを置いておく台まで用意されている。二人は各々のザックをそこに置くと、それぞれが向かい合う対極の位置へと歩き始める。

 ヒスイが道中での不意打ちを仕掛けてくる様子もなかったところから、おそらくは正面から闘いたい性分なのだろう。烏間としても、ヒスイの"手入れ"に第三者は不要だ。

145砕けぬ意志、翡翠の如く ◆2zEnKfaCDc:2020/05/30(土) 22:27:06 ID:8u4pw3uE0
 両者が闘技台の両サイドに着く。必然、二人を取り巻く空気もピリピリと緊張を帯び始める。

「武器は使わなくていいのか?」

 沈黙を破り、ヒスイは問う。その手には抜き身の剣が握られており、一切の躊躇無く烏間を殺しにかかっているのが分かる。

 対する烏間は素手。これは一見、ヒスイ側に大きく傾いた勝負だった。

「不要だ。これが俺の戦闘スタイルなのでな。」

―――バキッ!

 その証明と言わんばかりに烏間が大地に拳を振るうと、まるでハンマーでも叩きつけたかのように石製の闘技台に小さく亀裂が生じた。

 「俺の心配をしている暇はないんじゃないか?」

 業物の有無は両者の武力差に直結しない。極限まで鍛え抜かれた筋肉、そして戦闘経験。それらをもってすれば、武器などなくとも烏間の武力は優にヒスイを上回る。

 「そのようだな。では、遠慮なく!」

 先に動いたのはヒスイ。
地を蹴り、小柄な体格を活かして烏間に高速接近する。

 実戦経験の無い子供など、殺しとなればその重みに耐えられず身がすくむのが普通だ。しかしヒスイの動きには躊躇が見られない。

 だが、相手が子供であるだけで結局は正面戦闘。
烏間が僅かに身体を逸らすと、ヒスイの剣は容易く空を切った。烏間が回避のために費やした手間は最小限。僅か数ミリズレるだけでも烏間の耳を斬り落としていたであろうほどの精密回避だ。それを土壇場で成した烏間の技術にヒスイが驚く暇もなく、剣を握る右腕に手刀が繰り出される。訓練中の生徒たちならば例外なく対先生用ナイフを落とす程度の威力より、さらにもう一段深く力を込めた。対先生用ナイフより重量もある剣ならば、仮に相手が鷹岡であったとしても痛みでその場に落とすだろう。ましてや、少女の域を出ないヒスイであればなおさらだ、と。

146砕けぬ意志、翡翠の如く ◆2zEnKfaCDc:2020/05/30(土) 22:27:59 ID:8u4pw3uE0
 そう、思っていた。

(―――武器を、落とさない?)

 腕全体が痺れるほどの烏間の手刀を受けてもなお、ヒスイはその手に剣を握り締めて離さない。初柴ヒスイの、力への執念。それは烏間の予測を遥か上回るものだった。

「退屈させて……くれるなよっ!」

 近距離からの大胆な薙ぎ払いで烏間を切断しにかかるヒスイ。烏間の手刀を受けた右腕で振るったとは信じられないほどの速度だ。対して烏間、ヒスイの闘志を感じるや、いち早くその兆候に気付き、大きくバックステップ。

 微かに避けきれなかった剣が烏間の胸に一閃の傷を刻み込むも、それは全く致命傷には至らない。とはいえE組の生徒でもなかなか攻撃を命中させられなかった烏間の身体に傷を付けたこと、それ自体に敬意を表して烏間は語る。

「やるな。俺の生徒だったら加点……いや、満点を与えていたところだ。」

「ほう、それは殺しても貰えるのか?」

 皮肉たっぷりに吐き捨てながら大地を踏み締め、先ほど大きく横に薙ぎ払ったことで崩れた姿勢を一瞬で元に戻すヒスイ。さらにそこからくるりと剣を半回転して逆手に持ち替え、そのまま追撃の刺突が烏間の心臓に迫る。

「当然、殺せたらな。だが……」

 それらの動作を最速で行うヒスイ。しかしその一連の動きに要する僅かなインターバルは烏間に与えるには長すぎた。一度の攻防に二度も不覚を取る烏間ではない。

「……殺せるといいな?」

 迫る刃を前に、烏間はニヤリと笑う。強がりでも何でもなく、それは余裕の表情。何せ近接戦闘であれば双方の業物の有無にかかわらず烏間の独壇場だ。烏間は一瞬で体勢を落とし、コンマ1秒前まで烏間の心臓があった場所は次の瞬間に烏間の上空となった。当然、心臓へ向けて繰り出された突きは虚空に刺さる。

 さらにヒスイには具体的な隙を見せる隙すら与えられない。烏間の回避、すなわち攻撃の空振りをヒスイが認識すると同時、垂直に突き上げられた烏間の脚がヒスイの顎を打ち付ける。

 後方に吹き飛びつつも、地面に剣を突き刺し杖代わりにしての受け身を取ろうとする―――しかしそれを許さないのが烏間。
 蹴り上げの直後に素早く起き上がり、地面に突き刺される直前にその剣の取手に回し蹴りを当てて払う。

 側部から業物への衝撃を受け、さすがのヒスイもその剣を手放す。すっぽ抜けた勢いのままに、剣はカラカラと音を立てて数メートル離れた先の地面へと吹き飛んでいく。そして支柱となるはずだった剣を失ったことにより受け身に失敗したヒスイは、勢いのままに背中を大地に打ち付けた。

147砕けぬ意志、翡翠の如く ◆2zEnKfaCDc:2020/05/30(土) 22:28:36 ID:8u4pw3uE0
 しかしまだ終わらない。
更なる追撃のかかと落としがヒスイの肩に炸裂する。

「がっ……!」

「勝負アリだ。」

 ぐったりとその場で動かなくなるヒスイ。多少手荒な手段に訴えたが状況が状況だ。最初の頑丈さから考えてもよもや死んではいまい。

 ヒスイの身のこなしは確かに一般的な少女のそれを優に凌駕していた。が、所詮はそれ止まり。普段からE組という常識外れな中学生たちを相手にしている烏間にとってさほどの驚異ではなかった。

 さて、問題はここからだ。
このまま暴力に任せて無理やり従わせるのであればそれは鷹岡と同じやり方だ。彼を否定したE組の生徒たちに対して示しが付かないし、どんな相手であっても手を組む以上は対等に接するという己のポリシーの観点からも容認しがたい。

(とりあえずこの剣は没収だな。)

 よって烏間はヒスイの方へと向かわず、先にヒスイの落とした剣を拾い上げに行く。危険な使い方をされないよう折っておくか、あるいは自分のザックで保管しておくか……。その先を思索しながら烏間は剣を拾い上げる。

「……っ!!」

 だがその瞬間、強い立ちくらみが烏間を襲う。その原因を手にした剣に認めるや否や、烏間はその剣を足元に投げ捨てた。

「隙を見せたな。」

 その一連の流れでヒスイへの警戒が緩む。いつの間に起き上がったか、先のダメージを意にも介さぬほどの勢いで放たれたヒスイの飛び蹴りが烏間の背を打ち付けた。

 元々の立ちくらみに加えて与えられた衝撃。体格差、基礎体力差をものともせず烏間は転倒。それを好機とさらにヒスイは前進し、足元の剣を拾い上げつつ烏間に迫る。

「……ぐっ!」

―――ガッ。

148砕けぬ意志、翡翠の如く ◆2zEnKfaCDc:2020/05/30(土) 22:29:22 ID:8u4pw3uE0
 次の瞬間には拮抗した戦局が形成されていた。上方から一突きにかかるヒスイ。素早く身体の向きを変え、何とか身体に剣が突き刺さる前にヒスイの腕を押さえ込むことができた烏間。
 重力を味方につけたヒスイの一撃でさえも、烏間に真っ向から防がれていた。

「その剣は何なんだ?」

 その姿勢のまま、烏間は問う。

「知らん。」

 続けて問う。

「何故、そんなにも平静でいられる?」

「簡単なこと……」

 その剣は、とある世界の魔王の比類なき魔力を内に秘めた魔剣であった。柄を掴むだけで体内に大量の魔力が流れ込み、エンテ・イスラの魔力の受容体を持たない者であれば手にするだけでも発狂ものの苦痛が伴う代物だ。仮にここがファンタジー色に染まった並行世界であったとしても魔法の素養を持たない烏間に、それを手に取ることはできなかった。

「痛みすら乗り越えずして……何が王かっ!」

 そして同様に―――ヒスイとてエンテ・イスラの魔力の受容体など持っていなかった。魔剣を手にした際に流れ込む魔力による苦痛から逃れる術は、ヒスイにはなかった。

 だが、ヒスイはその苦痛すら受け入れた。それはひとえに己が受容できない類の力があることへの反骨心。されど言うは容易いそれを実行に移すだけの精神力、それこそが初柴ヒスイの真骨頂である。殺意を糧に全身を蝕む触手細胞を受け入れたある少女のように。ヒスイは力への執着を糧に魔剣を受け入れたのだ。

 その精神力が、人類最強クラスの一角である男、烏間惟臣をここまで追い詰めた。

 それでも烏間だからこそ、そこから先を許さない。ヒスイの腕力では魔剣を突き刺すところまで至れない。

149砕けぬ意志、翡翠の如く ◆2zEnKfaCDc:2020/05/30(土) 22:30:03 ID:8u4pw3uE0
「……このまま足掻いても、刺すことはできんぞ?」

 かつて似た状況で諦めの悪いイリーナに折れた烏間も、命が懸かった今度ばかりは折れるわけにもいかない。体力の続く限りの拮抗であれば当然、体力のある烏間に軍配が上がる。そして基本的に隙の無い男、烏間を仕留める絶好のチャンスである今を不意にしてしまえば次は無い。ヒスイにとって、魔剣による刺殺を臨むにはここが潮際だった。

「ああ、そのようだ。だが―――」

 ただし―――あくまで魔剣による刺殺を臨むならの話。

 「それでも、私の勝ちだ。」

 次の瞬間、烏間は目の前の光景に己の目を疑った。常識を外れたものであれば見慣れている。しかし、奴の触手も無から生まれたわけではなく、あくまで科学技術の生んだ産物だ。
しかし目の前では、ヒスイの背後の何も無い空間から、4本もの巨大な『腕』が生えてきていた。こんなもの、この世界に存在していいはずがない。人の作り上げてきた常識とは、これほどまでに簡単に崩れ去るものだったのか。

「それは、一体……!」

 烏間にできるのは、困惑を吐き出すことのみであった。

「手加減は出来そうにないから……」

 人の等身を優に凌駕する骸骨の腕のみを呼び出しているかのようにも見えるそれは、間違いなく見た目に違わぬ破壊力が備わっている。
それに対処するためには最低でも両腕を用いなくてはならないだろう。しかし両腕を用いるためにヒスイへの抵抗を辞めればヒスイが握る魔剣が烏間の顔面に突き刺さる。

 「……せいぜい、苦しまずに死ねるよう願っておけ。」

 完全なチェックメイトだった。
ヒスイの言葉に応じるように、身動きの取れない烏間に4本の腕による連撃が次々と叩き込まれる。四肢が、臓物が、無造作に潰されていく。

(ここまで、か……。)

 己の最期を悟る烏間。
彼の敗因はヒスイを無力化し、"止めよう"としたことである。

 ヒスイには性分がある。彼女は勝つまで―――ここでは優勝するまで、決して止まらない。ただただ目の前の勝利だけを。敵をなぎ倒すことだけを。一心不乱に求め続ける。"殺す気"で挑まなくては、彼女の意志を阻むことはままならない。

(すまない、お前たち。あとは……よろしく頼む。)

 だとしたら彼女を倒せるのは、戦闘を専門とする俺ではない。

 彼女を殺すことなく倒せるとするならば、自らの手で他者を殺すことの重みを受け止め、考えて、その上で目的のために全力を尽くすことができる者―――ああ、"彼ら"なら心配はなさそうだ。

 信頼を置く子供たちに未来を託しながら。烏間の意識はそのまま闇に消えていった。

150砕けぬ意志、翡翠の如く ◆2zEnKfaCDc:2020/05/30(土) 22:30:42 ID:8u4pw3uE0






「……礼は言わんぞ、夜空。」

 足元に転がる死体を一瞥すると、ヒスイはザックを回収する。そしてもう一度殺した相手に振り返り、次の敵を求めて進み始めた。

 何ということはない。いつも通りに勝利したのだけだ。いつも通り、何を失うこともなく―――


 綾崎ハヤテとの王玉を賭けた決戦。その行方は、メイドとして使えてきた法仙夜空の命と引き換えに得た力を使っての勝利だった。

『―――これが私からの、最後のプレゼントよ。』

 夜空が己を英霊へと変えたあの瞬間。寂しいとか、悲しいとか。そんな感情は沸き起こらなかった。その代わり、ただただ悔しかった。
これまでヒスイが経験してきたどの戦いも、完全な自分の勝利まで終わらなかった。何かを犠牲にしての勝利など一度も無かったからだ。

 全てを手に入れてもなお消えることの無いであろう喪失を、永久に刻み込まれたような気分だった。

『―――それを使って、あなたは王になりなさい。』

「……言われずとも。」

 選ばれた私が王の座に着くのはもはや決定事項だ。この殺し合いの優勝者への特典の願いなど、用いるまでもない。

 もしも姫神が何らかの方法を用いて死者を甦らせる手段を得たのなら―――

 馬鹿馬鹿しい、と首を横に振る。全てを求めてこその王だ。巨万の富を得ながらも失ったもののみを追いかけ続けた、三千院帝のような愚か者には成り下がるものか。

「着いてこい、夜空。頂点からの眺めを見せてやるよ。」

 満天の星々が煌めく夜の色に染まった空の下、ヒスイは小さく呟いた。



【烏間惟臣@暗殺教室 死亡】

【残り 41人】


【B-3/闘技台/1日目 深夜】

【初柴ヒスイ@ハヤテのごとく!】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:サタンの宝剣@はたらく魔王さま!
[道具]:法仙夜空@ハヤテのごとく! 基本支給品×2 不明支給品(0〜2個)、烏間惟臣の不明支給品(0〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに勝利する。
1.王となるのは私だ。
2.本当に、願いで死者さえも甦らせることができるのなら―――

※原作51巻、ハヤテから王玉を奪った後からの参戦です。

【支給品紹介】
【サタンの宝剣@はたらく魔王さま!】
エミリアが砕いたサタンの角からつくられた魔剣。真奥貞夫を魔王サタンの姿に戻すほどの魔力を宿しており、手にした者にその魔力を供給する。鞘に収まっている間は魔力の供給は起こらないが、常人には鞘から抜くことすらままならない。

【法仙夜空@ハヤテのごとく!】
ヒスイに力を授けるために英霊となった法仙夜空。すでにヒスイと融合しているが、天王州アテネと融合したキング・ミダスの英霊と同じように不可逆的な破壊が可能だと考えられるため、状態を整理しやすいように道具欄に記載してある。その形状は上段に人間のような二本の腕、下段に骸のような二本の腕であり、現在は四本とも無傷のまま。

151 ◆2zEnKfaCDc:2020/05/30(土) 22:31:18 ID:8u4pw3uE0
投下終了しました。

152名無しさん:2020/06/09(火) 22:32:31 ID:fvC.FfUc0
綾崎ハヤテ、岩永琴子で予約します。

153 ◆2zEnKfaCDc:2020/06/09(火) 22:36:36 ID:fvC.FfUc0
酉つけ忘れてました⊂(。・ө・。)⊃

154 ◆2zEnKfaCDc:2020/06/14(日) 21:48:13 ID:.kiUwvN20
投下します。

155Who's That Knocking at My Door? ◆2zEnKfaCDc:2020/06/14(日) 21:49:43 ID:.kiUwvN20
 (奇怪な催しに巻き込まれたものだ。まさか、殺し合いとは。)

 電灯の消えた真っ暗な部屋の中で、岩永琴子は目を覚ました。

 辺りを伺ったところ、先ほどの40人ほどいた会場とは異なり誰もいないようだ。人のいる様子も、妖怪の類の気配も無かった。

 荒療治となると面倒であるし、人がいないのはひとまず良しとしよう。しかし辺りに2〜3匹くらい居てもおかしくない妖怪が、『唐突に建物内に転送されてきた』という異常な挙動を見せた自分のもとに1匹たりともやって来ないのは些か妙だ。
特にこの建物は、普通の建物より霊の類を呼び寄せかねない内装をしている。

 ("霊とか相談所"ですか。部屋の主に何かしら霊に携わる力があるのか、それともただの霊感商法かはまだ判断できませんが……。)

 現状把握の一環として、地図にある施設名と部屋の中から見つかった情報を照らし合わせて自身の現在地を特定。どうやら殺し合いの舞台の中でもかなり端の方にいるようだ。
それにしても怪異たちの知恵の神、もとい相談屋たる自分をこのような名の建物に送り込むとは、主催者も皮肉なことをしてくれる。

 また、持ち物も改めたところ、いつものステッキが没収されていることに気付く。ひとまずその代わりとなりそうなものはあったうえ、義眼や義足が没収されていたというわけでもないため、ひとまず行動に支障はきたさないだろう。

 閑話休題。

 言われた通り殺し合うという選択肢は真っ先に排除した。
人の命を悪戯に奪うこのような行いはあまりにも世の秩序に反しているからだ。

 さらに言えば、主催者の目的がただ殺し合わせて愉しむことでないのは明白だった。
参加者名簿を信頼するのであれば、九郎先輩もこの殺し合いに呼ばれている。ただそれだけで、この殺し合いはもはや出来レースと化した。人魚の肉を食べた九郎先輩は決して死ぬことがない。正確にはいかに死のうとも蘇るのだ。
"最後の一人になるまで殺し合う"というルールの最後の一人はもう決まっているも同然だ。

 そしてかの"鋼人七瀬"までもがこの世界に顕現している。その要素が加えられたことによってこの殺し合いはもはや茶番と化した。鋼人七瀬もまた、九郎先輩とは別の意味で不死身だ。人間の想像力によって生きるかの怪物は、外部から物理的に消滅させることはできない。ネットの海を介して大衆に根付いた想像力自体に干渉することでようやく消し去れた存在だ。準備できる物にも限りのあるこの世界ではそれを再現することすら困難だろう。つまり九郎先輩も合わせ、二体の不死者がこの場にいる。"最後の一人になるまで殺し合う"というルールはもはや機能しない。

156Who's That Knocking at My Door? ◆2zEnKfaCDc:2020/06/14(日) 21:50:19 ID:.kiUwvN20
 (鋼人七瀬がいる地点で間違いなく六花さんが絡んでいるのは確定と見ていいだろう。しかし、何が目的なのか。)

 不死者を混じえての殺し合い。そのまま受け取るのならそれ以外への処刑宣告だ。もちろんそこには自分も含まれる。
だが殺すことが目的ならば今すぐにでも首輪の爆弾を起動でもすれば良いではないか。
それをしないとなれば殺すことではなく、殺し合わせること自体に意味があるのだと考えるのが筋である。

 それならばその意味は―――それを考えるには情報が少なすぎる。
姫神という男は誰なのか。金髪の男に告げられた『心の怪盗団』とは何なのか。不明な点を挙げていくと数え切れない。

 ここまででやるべき事はハッキリしていた。今までの事件と同じく、可能な限りの情報収集である。しかしそれは決してこれまでと同じようにこなせるものではない。殺し合いをさせられている現状、不用意な他者との接触はリスクが高いからだ。

 (さて、どうしたものか。)




―――コンコン。

 その時、静かな部屋に心地良い打音が響き渡った。

 咄嗟に奥の部屋に飛び込んで台の下に隠れる岩永。それはこの部屋の持ち主、霊幻新隆が客にマッサージを施す際に使っていた台である。

 「お嬢様〜!いらっしゃいますか?」

 ノックの主の声が聞こえた。
内容から察するに、人探しをしているようだ。

 (探し人を保護したいのは間違いないでしょう。問題はそれ以外の人物に対してどう振る舞うか、ですが。)

 不意打ちをしてくる相手よりは対処しやすいものの、やはり少なからずリスクはある。
しかし同時に考える。来訪を隠さない相手という、比較的危険度の小さい相手を逃すのなら、九郎先輩や紗季さんくらいしか接触を許容できる相手はいなくなる。

 (まずは話を聞いてみましょうか。いざという時の交渉材料もあることですし。)

 結果、岩永は来訪者を迎え入れることを選んだ。





 女の子と見間違えてしまうほど綺麗な青髪に反し、格式張った黒い執事服を身にまとった少年、綾崎ハヤテ。今しがたたどり着いた扉を前に、彼が真っ先に取った行動は"ノック"であった。

 突然の入室でお嬢様を驚かせてしまうことも、うっかり女の子の着替えを覗いてしまうことも、この行動ひとつでバッチリ避けられる。ヒナギクさん曰く、ノックは人類最大の発明だそうだ。

 「お嬢様〜!いらっしゃいますか? 」

 ノックに加えて話しかける。
 もしも中に積極的に殺し合う者がいれば、自分の来訪を堂々と告げる行いはかなりリスキーなのかもしれない。しかしハヤテにとってそれはどうでもよかった。

157Who's That Knocking at My Door? ◆2zEnKfaCDc:2020/06/14(日) 21:51:03 ID:.kiUwvN20
 虎に、ロボットに、悪霊に。執事として数多くの危険と戦ってきたハヤテ。彼の日常に死は無駄に隣り合わせだった。
その中で並大抵の相手なら襲われようと何とかなる程度の頑丈さは備えているつもりだ。それこそ異世界の魔王とかドラゴンとか、そういうのでも出てこない限りそう簡単に死ぬハヤテではない。

 しかしお嬢様―――三千院ナギは違う。
ちっちゃくて運動音痴で、怠けたい動きたくないを地で貫く怠惰の極地、ダメニートだ。
こんな殺し合いの中に放り込まれればいつ殺されてしまうか分かったものではない。

 だからお嬢様は外敵から身を隠していると思う。というより、あの負けず嫌いのお嬢様でもこんな状況下ではそう振舞っていると思いたい、というのが本音か。
それに対して自分も身を隠しながら行動しては、お互いがお互いから隠れていることとなり、お嬢様とニアミスする可能性が高い。
だから危険は承知で、自分の居場所を発信していた。

 逆に言えば、危険を甘受してでもお嬢様を守りたかった。

 両親に1億5000万円の借金を押し付けられ、ヤクザに追われ、そして海外に売られそうになったあの日。
ヤケになってお嬢様を誘拐しようとしたのに、お嬢様はそれを許すどころか借金の肩代わり、さらには執事として雇うことまでしてくれた。
誰かに優しさを向けてもらったのはいつぶりだっただろうか。本当に辛い時に、手を差し伸べてくれる人がいることの温かさをあの時に知った。

 今の自分があるのはお嬢様のおかげだ。
だからこそ。その恩に、その優しさに、報いるために。何があってもお嬢様を守り抜くと誓ったんだ。
たとえ、この命にかえても。

 そんなハヤテの献身ともいえる行いが、この状況下で結果的に実を結ぶこととなった。

 きいと音を立て、ノックを受けたドアが客人を迎え入れるように開く。
何ということはない、中の者がハヤテの来訪に応じただけの話だ。しかしハヤテには、中の者の意思に従って扉が勝手に開いたかのように思えた。

 「はじめまして。」

 電気のついていない真っ暗な部屋ながら、ベレー帽の下から覗く栗色の髪と紫色に光る両の眼が、可憐ながらに幼さの残る顔つきを引き立てていた。そして彼女は、落ち着いたトーンで静かに己の名を告げた。

 その静謐な様子がハヤテには―――


 「岩永琴子と申します。」


―――まるで、神様のように見えたという。

158Who's That Knocking at My Door? ◆2zEnKfaCDc:2020/06/14(日) 21:52:10 ID:.kiUwvN20
 その静謐な雰囲気に飲まれ、ハヤテは圧倒されていた。暫しの後、我に返ったハヤテが口を開く。

 「……あっ!三千院家の執事をしています、綾崎ハヤテです。えーと、殺し合えなんて言われていますけど……どうします?」

 どこかぎこちなく、ハヤテが尋ねる。しかしそれを聞くこと自体、ハヤテが殺し合いに積極的ではない証拠だ。

 「私としては荒事は避けていただけると助かるのですが。」

 「まあそうですよね。でも、いいんですか?」

 「主催者に逆らうことは問題ありません。私のことを知った上で殺し合いに参加させたのなら、私が反抗することくらい向こうも分かりきっているはずですから。」

 「うーん、そういうものなんでしょうか……。」

 釈然としない点こそあるが、ひとまず殺し合わないのならそれで良い、とハヤテは半ば強引に受け入れた。

 一方の岩永は、九郎先輩の不死体質から殺し合いがそもそも成立していないという内容は伏せていた。突然そんなことを言われても信じられないだろうし、最悪の場合は行動を共にするのも危うい奇人とさえ見なされかねない。

 「ところで、人探しをしているご様子。察するに、先ほど仰っていた三千院という方でしょうか。」

 「ええ。このような身なりなのですが、見かけていませんか?」

 ハヤテは名簿を差し出し、『三千院ナギ』という名の下に不機嫌そうな顔写真が載ったページを岩永に見せるが、まだハヤテ以外の参加者と出会っていない岩永はそれに目を通すまでもなく首を横に振る。

 「そうですか、ありがとうございます。それでは……」

 「いえ、待ってください。」

 早急にお嬢様の捜索に戻るために霊とか相談所を去ろうとするハヤテを、岩永はすかさず呼び止めた。

 「折角の出会いです。ここは取引といこうじゃありませんか。」

 「取引?」

 言うが早いか、岩永はザックにガバッと両手を突っ込む。
そして次の瞬間、ハヤテは珍妙な光景を目にすることとなった。せいぜい岩永の肩幅しかないザックから、成人男性が乗り込むほどのサイズの自転車が顔を出したのである。

 「私にも探している人がいます。ですがその人は一人でもまず死なないと信頼しているので、特に急いではいません。むしろ私の安全確保の方が先です。
しかしあなたは私とは違って一刻も早く三千院さんを探したいはず。となればそれなりの移動手段が必要でしょう。その点、この自転車は大きすぎて私は乗れないのですが、あなたなら扱えます。
かといってこれをあなたに無償で譲るのは、先に述べた私の安全確保に反します。あなたが自転車を手に入れたことで本来あなたとぶつかるはずだった相手が私に回ってくるかもしれませんから。」

 岩永はこれから本題と言う代わりに、ポンと手を叩く。

159Who's That Knocking at My Door? ◆2zEnKfaCDc:2020/06/14(日) 21:54:22 ID:.kiUwvN20
 「そこであなたがこれを運転し、私が後ろに乗り込む。それによりあなたは移動手段を、私は自分を保護してくれる相手を手に入れられる、というのはどうでしょうか。お互いにとって有益な取引だと思いますが。」

 あっ、と一言漏らし、さらに岩永は付け加える。

 「もちろんあなたには力ずくでこれを奪うという選択肢もありますよ。二人乗りとなれば出せる速度にも限界がありますし、私を殺せば自転車だけでなくその他の支給品もあなたのものです。私はこの通りか弱いため、あなたに襲われれば殺されるのは避けられないでしょうね。
 しかしその場合、私は猫を噛む窮鼠の如く抵抗します。あなたの足に怪我を負わせる、もしくは自転車くらいは壊してみせます。それはあなたにとって―――」

 「い、いえ!そんなことしませんから!」

 慌てて岩永の言葉を否定するハヤテ。
岩永の提案は明白にこの場の最適解であった。それはハヤテにのみならず、岩永自身にとっても。
特にハヤテは、元最速と呼ばれた自転車便。岩永を背に乗せる以上それほどの無茶な速度は出せずとも、自転車の扱いとなれば誰にも負けない自信はある。

 「ですが僕、何かと不幸を呼び寄せちゃう体質なんですよ……。もぉホント、何かに取り憑かれてるんじゃないかってくらい。岩永さんがそれでも良ければ、是非ともそうしたいのですが……。」

 「大丈夫ですよ。あなたは特に何にも取り憑かれていませんから。」

 「え?」

 予想外の返事に戸惑うハヤテ。そんなハヤテをからかうように、岩永は『可憐』と言い表すのが相応しい、惹き込まれるような笑みを浮かべていた。
しかし、ハヤテは知らない。目的のためなら人の心も倫理も、不要なものと切り捨てる岩永琴子の信念。

 「取引、成立ですね。」

 それは時に、『苛烈』とも評されることを。

【F-5/霊とか相談所/一日目 深夜】

【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:お嬢様を守る
一.たとえ、この命にかえても。

【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康 義眼/義足装着
[装備]:怪盗紳士ステッキ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1(本人確認済) デュラハン号@はたらく魔王さま!
[思考・状況]
基本行動方針:秩序に反する殺し合いを許容しない
一.不死者を交えての殺し合いの意味は?
二.九郎先輩と合流したい。

*鋼人七瀬を消し去った後からの参戦です。

【支給品紹介】

【怪盗紳士ステッキ@ペルソナ5】
岩永琴子に支給されたステッキ。これを用いて攻撃すると稀に何らかの状態異常付与の効果がある。

【デュラハン号@はたらく魔王さま!】
岩永琴子に支給されたボロい自転車。真奥貞夫の扱うサイズであるため、岩永が運転することはできない。

160 ◆2zEnKfaCDc:2020/06/14(日) 21:55:10 ID:.kiUwvN20
投下終了しました。

161 ◆2zEnKfaCDc:2020/06/15(月) 02:05:40 ID:nWVKovbI0
ほどほどで予約しようと思ってたら一気に書き上がってしまったのでゲリラ投下します。

162至って普通の ◆2zEnKfaCDc:2020/06/15(月) 02:06:52 ID:nWVKovbI0
 私の名前は西沢歩、17歳!誕生日は5月15日のA型。身長162cmの体重はナイショ!潮見高校に通うごく普通の高校1年生だよ!

 容姿も普通、成績も普通(当社比)。家はナギちゃんとこみたいに大金持ちってわけでもないし、普通に好きな人もい……はわわわっ!これはナイショだったんじゃないかなぁ!?

 とにかく!実は魔法少女だとか、実は異世界出身だとか、そんな設定もまったくない本当に普通の女の子!

―――だと思ってたんだけど……


 「まさか殺し合いだなんて……さすがにもう普通とは言えないんじゃないかな? 」

 支給された食糧であるパンをもぐもぐ食べながら、草むらからひょっこりと顔を出す歩。周りに人がいないことを確認すると安堵のため息を漏らした後に、再び草むらの中に引っ込んでいく。

 ここは入り組んだ山道の外れであり、立ち入る者も多くはない。実際のところは最初に転送された場所からほとんど動いていないだけなのではあるが、偶然にもそこは隠れるのに絶好のスポットだった。

 さて、何故彼女は草むらに身を隠しているのか、それは至ってシンプル。
大切な人たちが死ぬのは嫌だから、この殺し合いは拒絶したい。しかし自分が死ぬのは怖いから、各地で行われている殺し合いを隠れてやり過ごしたい。おそらくデスゲームに巻き込まれた一般人としては至って普通の考えだろう。
ところでその姿たるや、一日のほとんどを巣穴の中で過ごすハムスターさながらであった。

 「って誰がハムスターなのかなぁ!? 」

 天の声という名の地の文、或いは地の文という名の天の声へのツッコミ。もちろんそれは誰にも届くことはない。

 さて、ここで一人相撲を取っていても仕方が無いので歩は支給されたザックを漁り始める。

163至って普通の ◆2zEnKfaCDc:2020/06/15(月) 02:07:37 ID:nWVKovbI0
 「う……武器も何か普通……。」

 ザックには確かに、使い方によっては人でさえも十二分に殺せそうな武器が入っていた。
だけど刀や銃といった、持っているだけで違法となるような代物ではなかった。仮に日本でこれを用いた殺人事件が起これば、凶器はバールのようなものと報道される程度のシンプルな鈍器だ。文章媒体とはいえもう少し見映えのいいものは用意できなかったのかな? 
歩の腕力では人間の撲殺とて簡単には成せないであろうが、何にせよ、これを使わないといけない羽目にはならなければいいと思わずにいられなかった。

 「どんな願いも、かぁ……。」

 そして積極的に動かない以上、スタンス的に手持ち無沙汰となった歩。死者も蘇らせるという姫神の言葉を100%信用できるほどのお花畑ではないが、どうしても考えずにはいられない。

ㅤ仮にどんな願いも叶うとしたら―――誰もが空想したことはあれど、しかし誰もこのような状況下で考えたことはないであろう話だ。真っ先に歩の頭に浮かんできたのは、想い人である綾崎ハヤテの姿だった。

 歩の過ごす日々は、文字通り寝ても醒めても彼のことが浮かんでくる毎日だ。寝ている時はまず夢に彼が出てくるし、起きている時も学校の勉強なんかまったく身に入らないくらい彼のことを考えている。何か一つ願いが叶うのなら、間違いなく彼と結ばれる未来を願うのだろう。

 「だけど、やっぱりそれは違うかな。」

 しかし歩は、否定した。
自らの願いを。永きに渡る悲願を。

 その願いのために手段は選んでいられないと、何度も何度も豪語した。それでも、ナギちゃんにヒナさん、マリアさんに伊澄さん、さらにはハヤテくんまでもを殺してそれを願うのは違うって胸を張って言える。

 だって、どんな手段であっても、それが自分の力で叶えたものでなければ、私は結ばれたハヤテくんに対して二度と顔向けできないと思うから。

 それに、願いの力で私のことしか見えなくなったハヤテくんなんて、ハヤテくんじゃないと思う。誰にでも優しい彼だからこそ私は好きになったのだ。私の"好き"に嘘をついていては叶う願いも叶わない。

164至って普通の ◆2zEnKfaCDc:2020/06/15(月) 02:08:17 ID:nWVKovbI0
 「そうだよね。ハヤテくんも他の皆も、一緒に生きて帰りたいに決まってる!願いなんて、その後にいくらでも掴み取ってあげちゃうんだから!」

 それは、己への鼓舞だった。
或いは、殺し合いへの反逆の意志だった。
或いは、逃避したい現実から目を逸らさないための自戒だった。
或いは、ハヤテくんを賭けたハヤテのごとく!ヒロイン戦争という負けられない戦いへの宣戦布告だった。

 しかしそれが何であれ、ひとつだけ確かなものがあった。

 「うぅ……それでもやっぱり、コワイヨー……(涙)」

 それは、彼女が"普通"である限り、鼓舞も意志も自戒も宣戦布告も、ハムスターたるスタンスを崩すには足りないということである。

 歩は再び、涙目で草むらの中へと引っ込んでいった。

【B-4/山道/一日目 深夜】

【西沢歩@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:ヘビーメイス@ペルソナ5
[道具]:基本支給品(食料消費小)、不明支給品0〜2(本人確認不明)
[思考・状況]
基本行動方針:隠れる
一.コワイヨー……。
二.皆で生き残りたい。

【支給品紹介】
【ヘビーメイス@ペルソナ5】
西沢歩に支給された武器。パレス内で追加される効果は何も無いため、シンプルにバールのようなものという認識で構わない。

165 ◆2zEnKfaCDc:2020/06/15(月) 02:09:47 ID:nWVKovbI0
投下完了しました。

166 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/02(木) 23:01:01 ID:RrnTecC20
滝谷真 ファフニール 茅野カエデ
予約します

167 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/09(木) 21:47:02 ID:jOZoQIAg0
ちょっと行き詰まったので明日いっぱいまで延長します……。

168 ◆BrXLNuUpHQ:2020/07/10(金) 06:52:29 ID:xkcq3QjE0
巴マミ、潮田渚、鎌月鈴乃、小林カンナで予約します

169 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/10(金) 23:58:53 ID:Zq6wQQtM0
ホントにギリギリになりましたが、投下します

170空っぽなんかじゃなかったんだ ◆2zEnKfaCDc:2020/07/11(土) 00:01:01 ID:YG6Tn0BI0
 気に入らない。

 大山猛ことファフニールはそう思った。
明日に迫ったライブの予定を強引にキャンセルさせられたことも、守っていた財宝を半ば強制的に放置させられていることも、劣等種たる人間の余興などにドラゴンが付き合わされていることも、何もかもが腹立たしい。

「やあ、ファフ君。」

「……!?」

 そして何よりも気に入らなかったのは、この男、滝谷真に背後を取られたことだった。

「……滝谷、か。」

「あれ? 珍しいでヤンスねー。ファフ君が僕に気づいていないなんて。」

「……フン。」

 現在地が木々に囲まれた森の中とはいえ、それは普段の感覚ではまず有り得ないことだ。滝谷が自分に気づいたのは偶然だろうが、自分は近くにいる人間の気配など特に何もせずとも魔力で感知できるはず。

(……! まさか……!)

 嫌な予感が脳裏を過ぎり、ファフニールはドラゴンの姿へと変わるために全身に力を込める。

(元の姿に……戻れないだと?)

 嫌な予感は的中したようだ。
 この忌々しい首輪の力なのか、ドラゴンの姿に戻ることができなくなっている。さらに人間形態で扱える魔力も抑えられているようだ。滝谷の気配すら、意識しないと察知できないほどに。

「……殺す。」

 思考がそこに至ると共に、姫神への殺意がふつふつと湧いてきた。自分が生きたいように生きるのがドラゴンの誇り。人間ごときが自由を奪った上でドラゴンの力を抑制するとは、この上ないドラゴンへの侮辱だ。奴は財宝の次に侵犯してはならない領域に土足で立ち入ったのだ。その罪、その身をもって思い知らせてやろうではないか。

 と、怒りに燃えるファフニールと対極的に、滝谷が口を開いた。

「それにしてもラッキーだったでヤンス。」

「何だと?」

「数いる参加者の中からこうして真っ先にファフ君と出会えたわけだし。」

 相も変わらず"外面"を捨てたぐるぐるのメガネを装着して軽口を叩く滝谷の様子を見ていると、現状に反して今までの日常の中にいる時のように思えた。だからこそ、苛立ちも湧いてきた。

171空っぽなんかじゃなかったんだ ◆2zEnKfaCDc:2020/07/11(土) 00:02:23 ID:YG6Tn0BI0
「滝谷。ひとつお前は忘れているようだ。」

「どうしたでヤンス?」

 滝谷は顔にクエスチョンマークを浮かべる。ドラゴンを前にした人間の反応として見れば、本来それは異常でしかないものなのだ。

 人間がドラゴンと対峙した時、その人間は一目散に逃げ出すのが普通だ。そのドラゴンが混沌勢であれば逃げても追い詰められて殺される。調和勢か傍観勢であれば何事もなく終わる。

 稀に相応の技量や魔法を身につけてドラゴンを討伐しにかかる人間もいる。貧弱なドラゴンなら狩られることもあるかもしれないが、少なくともファフニールはそんな人間を数多く返り討ちにしてきた。

 だが間違っても、ドラゴンを前にして安堵する者はこれまでにいなかったのである。

「俺がドラゴン……それも破壊を生業とする混沌勢のドラゴンだということをだ。」

 自分やトール共が周りにいたことで、これまでの滝谷は物理的な危機とは比較的無縁でいられたはずだ。小林の元には終焉帝が訪れたというが、滝谷にはそのようなイベントは起こっていない。だからこその危機感というものが乖離してしまっているのだろう。この俺でさえ戸惑っているこの状況下で、俺がいれば大丈夫だろうとでも思っているのか。気に入らん。実に気に入らん。

「滝谷。お前は……」

 その言葉が、最後まで紡がれることはなかった。ふと意識を集中したファフニールが、滝谷の背後の木の裏から人間の気配を感じたからだ。

「……どけ! 滝谷!」

「えっ!?」

 その気配の動きに気づくや否や、ファフニールは滝谷の身体を払い除けた。ドスンと尻もちをつく滝谷の前に躍り出たファフニールは滝谷の背後より迫ってきた襲撃者に対してその身を晒すこととなった。

――ザクリッ。

 襲撃者のナイフがファフニールの左腕に刺さる。しかし仮にもドラゴン、その程度の痛みで悶えることはない。極めて冷静に反撃に出るが、敵はさらに冷静だった。刺さったナイフを即座に引き抜きバックステップでファフニールの反撃を回避する。

(小柄のようだな……女か?)

(まさかあのタイミングで気付かれるなんて……!)

 それぞれが思わぬ状況に現状の把握を急がされる。

 襲撃者、茅野カエデは殺せんせーでもない、ただの人間(茅野視点)相手に奇襲を失敗したことに戸惑っていた。しかし初撃が失敗すること自体は常日頃からの想定の範囲内。勝負を分けるのは2撃目以降であると彼女はすでに学んでいた。

 考えるが先か、右手にナイフを握って地を蹴り、再びファフニールに向けて飛び込む。対するファフニールは長い脚による回し蹴りで応戦する。ナイフのダメージを考えるに、肉体を人間に制限されている分、その生命力もドラゴンのそれに比べ弱まっているようだ。普段であれば避ける必要のない斬撃に対しても範囲攻撃を駆使して受けない立ち回りをしなくてはならない現状に腹が立つ。しかし制限を受けてもドラゴンの豪脚。辺りを薙ぎ払うファフニールの脚は風切り音を鳴らし、土埃をも巻き上げた。

172空っぽなんかじゃなかったんだ ◆2zEnKfaCDc:2020/07/11(土) 00:03:36 ID:YG6Tn0BI0
 烏間先生にも劣らない威力の蹴りを瞬時に繰り出したファフニールの身体能力を認めた茅野は単純な突撃を諦め、フリーランニングの要領で滝谷への奇襲の際に隠れていた木の上に素早く登る。

(ここで機を待てば……)

 木々の合間を縫っての戦いなど、普通の人間が体験するものではない。しかし茅野はクラスが分裂した時の暗殺サバイバルゲームで一度、経験している。その後、草木で込み入った戦場内での立ち回りの復習も欠かしていない。森の中は、今や茅野の独壇場だ。

 しかし茅野の企みは予測外の事態によって崩れることとなった。その次の瞬間、大きな衝撃とともに木の上にスタンバイしていたはずの茅野の身体が空中へと放り出されたのである。

(!? 何が……!)

 答えはすぐに分かった。ファフニールが木を思い切り蹴りつけた衝撃で振り落とされたのだ。しかし理屈は追い付いても、そんな力業は烏間先生にだって出来やしない。相手にしているのが規格外の化け物であることに、ようやく茅野の把握が追いついた。

 さすがに動揺しつつも最小限の衝撃に収まるよう着地する。そんな中でも右手に持ったナイフと、左手に持った"あるもの"だけは離さぬようにしっかりと握っていた。

(来るっ……!)

 着地の衝撃ですぐには動けない茅野に向けてファフニールが迫る。そして呪いを込めたファフニールの拳が真っ直ぐに茅野に伸びる。ドラゴンの逆鱗に触れた人間の末路を示すように、その拳は茅野の心臓を貫く――


「エクボッ!」

「おう。」


――そうなるはずであった。

「なにっ!?」

 次の瞬間、茅野の左手の"あるもの"――ゴーストカプセルから現れた緑色の異物が茅野の身体へと吸い込まれていく。
それに伴い茅野の顔付きが変わったと認識すると同時に、呪いの力に満ちたファフニールの左腕が宙を舞った。

 ファフニールの拳の軌道を読み切っているかのように、側面からナイフの刃が割り込んだのだ。人間には不可能な腕の動きと速度のカウンターにより、茅野の心臓を貫くはずだった拳はファフニールの拳の速度や初撃で入れていた切り込みも相まって、茅野に届く前に切断されることとなったのである。

 ただの人間に腕を切断されたことへの困惑から、隙を晒すファフニール。それを機と茅野は右手のナイフでファフニールの頭部を狙いにかかる。

「……! 馬鹿な……ッ!」

 ファフニールが茅野の動きに気付いた時にはすでに茅野はナイフを頭へと振り下ろし始めていた。本来、ファフニールに反射神経というものは必要ない。回避などに集中せずともドラゴンの圧倒的な力があれば戦には勝てるからだ。

 だが、今のファフニールは首輪によってドラゴンとしての力の多くを奪われている。ちょうど滝谷にゲームで勝てないように、相手と同じ土俵に立った時、ファフニールの反射神経の鈍さは弱点となる。

「ファフ君!」

 しかし、この局面で動ける人物がたった1人だけいた。無数のゲームを極めることにより鍛えられた彼特有の反射神経と分析能力で、暗殺者とドラゴンの移動する戦場であっても彼なりに素早く対応できていたのだ。真っ直ぐにファフニールへと向かう茅野の横から体当たりをくらわせ、ナイフの軌道を逸らす。滝谷はナイフでの反撃を警戒して飛び退き、行き場を失ったナイフはファフニールの肩を掠めるに終わった。

 そして対する茅野。これまでの経験上、ターゲットにはナイフなど当たらないのが大前提だ。よろけた姿勢を戻し、次の一撃に備え――ターゲットへと視線を移すと同時、追撃を断念した。

173空っぽなんかじゃなかったんだ ◆2zEnKfaCDc:2020/07/11(土) 00:04:31 ID:YG6Tn0BI0
「人間風情が……!」

 ビキビキと音を立てながら、ファフニールの頭部が、怒りと共にドス黒い異形へと変わっていく。殺せんせーが本気で怒った時にも似たプレッシャーに加えて、自分に向けられた本気の殺意。それを見た茅野は本能的な危機感を覚えずにはいられなかった。

(ここは……撤退かな。)

 それを決めるや否やくるりと向きを変え一目散にその場を去った。ふと後ろを振り返ると、一瞬前に自分のいた空間に喰らいつくファフニールの姿。もう一瞬、逃げるのが遅れていたならばあの深淵の中に呑み込まれていただろう。

 ファフニールは逃げる茅野を追おうとする。しかし人間の身体であることが災いし、思うように脚が動かせない。小柄さを活かし木々を伝って逃げる茅野に追い付けないことは考えるまでもなかった。

「……チッ。小娘め……次は殺す。」

 やはり何もかもが気に入らない。

 茅野の逃げた先を見つめながら、改めてファフニールはそう思った。





 ファフニールが追ってこないことを確認した茅野は、一息つきながら木陰に腰を下ろす。此方は特に痛手を負うことなく相手の左腕を切り落とせたという結果だけを見れば、一撃離脱戦法を十二分に押し付けられたと見るべきか。

「それにしても……あんな怪物もいるんだね。殺せんせーほどのスピードは無いみたいだったけど、本当に殺せるのかな。」

 茅野が口を開く。辺りに参加者はいないのだが、それは独り言ではない。茅野は支給品として配られた緑色の怪物、エクボに向けて話しかけていた。

「知るかよ。俺はお前の命令に従うことしかできねえからな。」

 エクボは乗り移った相手の潜在能力を解放することができる。先の戦いでファフニールの腕を切断する芸当ができたのも、ここ一番でエクボの肉体操作に身を委ねたからだ。
 エクボは茅野の身体を用いても、持つ武器の技術や細かい身のこなしを真似ることはできない。しかし筋力や瞬発力といった単純な身体能力に至ってはエクボが乗り移っている時の方が上だ。

 普段ならエクボは相手の精神ごと乗っ取ることが出来るのだが、このパレスという空間の性質か、精神への干渉ができなくなっている。宿主が出て行けと念じれば即座に追い出されるほど、エクボの力は弱まっていた。

「それにしても茅野。お前の身体、どうなってやがんだ?」

 不意に、エクボが尋ねる。

「な、なに? 私の……び、Bカップの身体がどうかした?」

「いや、そういう話じゃなくてだな……普通人間の身体ってのは無意識に筋力を制限してんだよ。お前もそこは例外じゃねえ。でもお前は、意識的に一部の筋肉を使わなくしていたフシが見える。」

「……そっか。やっぱりそういうの残ってるんだね。」

 どこか悲しげな顔で、茅野は呟いた。触手に蝕まれながら復讐だけを糧に生きてきた辛い暗殺の日々。この身体から触手が抜け切っているわけではないと突き付けられれば、やはり嫌でも思い出してしまう。

 本当に殺せんせーがお姉ちゃんの仇なのか、どこか疑問を抱いていながらも、心の底ではその気持ちを懸命に抑え込んでいた。もしも殺せんせーが仇じゃなかったら、私の復讐の日々が全て空っぽになってしまうから。

 だけど、それを否定してくれた人がいた。まっすぐな殺意で、心の穴を温かく満たしてくれた人がいた。

 そして彼も、姫神とかいうシロみたいな奴に突然突きつけられたこの殺し合いに招かれている。つまり命の危険に晒されているということ。

 私は思った。もし、彼が死んでしまったら。もし、この手で彼を殺してしまったら。その時こそ私は本当に空っぽになってしまうと。

 でも彼はきっと人を殺さない。この1年で命の重みと誰よりも向き合ってきた人だと知っているから。でも、ここが本当に殺し合いの世界ならば、殺さないのならば殺されるしか未来はない。

――だったら、彼を優勝させるしかない。

 私がその結論に至るまで、時間はかからなかった。

 彼以外を皆殺しにして私も死ぬ。彼が望んでいるかどうかなんて関係ない。

 死ぬことへの不安も恐怖ももちろんあるけれど、空っぽな自分を見てしまったあの時の気持ちに比べたら全く怖くないって、自信を持って言える。

「そうと決まったら一直線……だよね。」

「あ? どうした?」

「ううん、何でもない。行くよ、エクボ。」

 自分を殺して他人のために。それが今は亡き姉の突き進んだ道であることに、茅野は気付いていなかった。

174空っぽなんかじゃなかったんだ ◆2zEnKfaCDc:2020/07/11(土) 00:04:53 ID:YG6Tn0BI0
【C-2/森/一日目 深夜】

【茅野カエデ@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:マリアの包丁@ハヤテのごとく!
[道具]:基本支給品、ゴーストカプセル(エクボ)@モブサイコ100 不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:潮田渚@暗殺教室を優勝させる
一.空っぽには、なりたくない

175空っぽなんかじゃなかったんだ ◆2zEnKfaCDc:2020/07/11(土) 00:09:49 ID:YG6Tn0BI0



「だ、大丈夫でヤンスか? 腕が……」

「問題無い。いずれ再生する。」

 茅野の去った後、腕を失った自分を案ずる滝谷に、ファフニールは再び苛立たずにはいられなかった。あの時滝谷が割って入らなければ、自分が死んでいたかもしれないという事実がその苛立ちをさらに加速させる。人間に守られるドラゴンなど、愚の骨頂だ。

「それよりも、先の話の続きだ。お前はまだ分かっていないと見える。」

 その苛立ちをぶつけるように。或いは、その苛立ちを発散させるように。ファフニールは茅野の乱入でし損ねた話を続けた。

「俺が人間ごっこに興じてきたのは力を行使する理由が無かったからだ。混沌勢と調和勢は無意に衝突することもなく、神々も安易に手を出してくることはなかった。」

 目を覆うぐるぐるメガネのせいで滝谷の表情は読めない。ファフニールはため息混じりに続けた。

「だが、ここはどうだ? 力を行使せねば死ぬ世界。俺が人間ごっこを続ける理由が無い。それをお前は分かっているのか?」

「分かってるよ。」

 メガネを外しながら、滝谷はあっさりと返した。それを平然と言った滝谷に、ファフニールはどこか呆気に取られていた。

「ここが危険な世界だってことも、君が危険な竜だってこともね。全部、分かってる。」

「……ならいい。それならもう少しだけ、お前と小林が生き残れる手段を探してやる。」

 そう言うとファフ君は黙ってしまった。僕は一安心とばかりに露骨に息を吐き出した。

 ある程度一緒に過ごしてきて少なからず君のことは理解してきたつもりだ。ファフ君はまだ人間ごっこに身を投じてくれている。人間ごっこを辞めたと言うのなら、僕はすぐにでも殺されてなければおかしいからね。

 僕が隣にいることで、邪悪で凶暴なドラゴンが人間ごっこの続きをしてくれているのなら、それは最初に出会えてラッキーというものだ。そりゃあ僕だって死にたいわけではないもの。

 でも、僕の望みはただひとつだ。僕の大好きなコミュニティーはこんな企画なんかで崩れてほしくないのさ。ファフ君の手でトールちゃんやカンナちゃんが殺されるのも嫌だし、その逆もまた然りだ。

 皆で脱出するっていうのがどこまで可能かは分からないけれど、何となく、ドラゴンみんなが協力すれば何とかなるような気もしている。それくらい現実離れしているコミュニティーだもの。

 だから僕のやるべき事はただひとつ。この邪悪で凶暴なドラゴンに人間ごっこを続けてもらうこと。そのためにも、僕は死ぬわけにはいかないよね。

 とりあえず僕はファフ君と合流できたわけだ。でも、この世界でのコミュニティーの維持にはもうひとつ欠かせない要素がある。

 小林さん――トールちゃんやカンナちゃんが慕う彼女も、生き延びていてほしいものだね。

【C-2/小屋周辺/一日目 深夜】

【滝谷真@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3(本人確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:好きなコミュニティーを維持する
一.ファフ君がドラゴンとして殺し合いに乗るのを防ぐためにも、まずは自分が死なない
二.小林さんの無事も祈る

【大山猛(ファフニール)@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:左腕喪失
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を殺す。
一.ひとまずは滝谷を守りながら脱出の手段を探す。

【支給品紹介】
【マリアの包丁@ハヤテのごとく!】
茅野カエデに支給。マリアが愛用し、旅行先にまで持って行っていた包丁。素早く料理するために切れ味はピカイチ。今はファフニールの血で汚れている。

【ゴーストカプセル(エクボ)@モブサイコ100】
茅野カエデに支給された意思のある支給品。エクボは何かしらの強制力によって、このカプセルの持ち主に従わなくてはならない。(可能な独断行動の範囲や、持ち主の定義については後続の書き手に任せるが、少なくとも現状は茅野が持ち主である。)

176 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/11(土) 00:10:12 ID:YG6Tn0BI0
投下完了しました。

177 ◆BrXLNuUpHQ:2020/07/17(金) 23:59:39 ID:/0dI9zo60
すみません予約の延長をお願いします。

178 ◆BrXLNuUpHQ:2020/07/19(日) 02:10:01 ID:6lie.i860
遅れましたが投下します。

179アンデッドアンラック ◆BrXLNuUpHQ:2020/07/19(日) 02:11:45 ID:6lie.i860


「わかった、まずは知り合いと影山だな。」
「たぶん、二人は家族だから。」

 池の辺り、木を背にしてランタンの灯りで名簿を見ながら、鈴乃はカンナの言葉に頷いた。

 二人の出会いから十分ほどして、最初の共同作業は名簿の再確認であった。五十音順で書かれている都合上、互いの知り合いを把握する為に一人ずつ確かめていく。結果、情報を把握できたのは12人。44人中の12人というのは多いのか少ないのか二人は判断に困ったが、それでも得られるものはあった。
 まず第一に、この殺し合いがある程度のコミュニティ毎に参加させられているということ。二人の知り合いが6人ずつ参加させられていることから、二人は大雑把に、『6人ぐらいの集まりを7組ぐらいずつ集めた』と考えた。根拠に乏しい推測ではあるが、幸運にもそれはほぼ正解である。
 第二に、集められたのは日本に住む人間であること。ここで言う人間とは、人として暮らしているという意味だ。そして同時に、普通の人間とは限らないということでもある。二人はどちらもこの世界の住人ではないし、カンナに至ってはドラゴンである。漢字・カタカナ・ひらがな交じりの名簿には、その実、普通の人間とそれ以外の『人間』が載っていると改めて確認した。
 そして第三に、同じ苗字の人間がいること。具体的には『小林』姓と『影山』姓である。それは、もちろん他人という可能性もがあるが、家族やそれに近い関係で殺し合わされているということだ。現にカンナがそうであるように。これは本人達にとっては溜まったものではないのだが、しかし別の意味もある。すなわち、知り合いの知り合いであるかの判断が容易であるということだ。第一の気づきと合わせると、この場では、どの参加者も40人近くの人間と初対面ということになる。そうなると必然、他人の情報は人伝に聞かざるをえない。そこで困るのはその情報の真贋だが、それが家族というのならば、同じ苗字同士への情報も同じ苗字同士からの情報も他よりかは幾らかは信用ができる。もっとも、口裏を合わされたり一方を庇うために虚偽の情報を掴まされるということもあるのだが、鈴乃とカンナは、自分たちがバラバラにこの会場にいたことから。そういうことはないと考えていた――実際には、カンナ達の集まりである大山猛(ファフニール)と滝谷真という例があるのだが、そこまでは彼女達が知る由もなかった。
 そして彼女達はこの三つの気づきを元に方針を――

「……それでカンナ殿、結局、どちらに向かおうか?」
「…………………………むぅ。」
「むぅじゃないが。」

 全く立てられていなかった。

 色々と考察っぽいことをしてみたものの、じゃあどこに移動するかとなると話が止まった。結論出ぬまま数十分、宛がないのではない、あり過ぎるのだ。
 現在地は池の近くということからC-4ということはわかる。となると、鈴乃と関係がある『マグロナルド幡ヶ谷駅前店』は遠く、カンナと関係がある『花見会場』はそもそも本人が自分と関係のあることに気づかず、島の中心ならば人が集まりそうといえ『負け犬公園』という名前からして開けているであろう場所に好き好んで集まるのは危険人物だと予想でき、では反対に殺し合いに反対の人間が行きそうな島の外縁部は目印になりそうなものがない。
 それでも二人の腕ならば島の中心を目指せなくもないが、そこで新勢力という大方針が問題になる。周囲を気にせず戦えるのはプラスだが、誰かを守りながらとなるとかなり厳しい。どころか、弓の一つでもあれば狙撃されて終わりである。なお二人が思い浮かべる弓というのはかなりファンタジーに染まったものなのだが、狙撃銃なども扱える人間がいるため二人の危惧はあながち杞憂というわけでもない。

「まあ……こういうものが配られているし、動きにくいが……」

 ふぅと息をついて鈴乃はザックから顔を覗かせていたFN MINIMI M249軽機関銃を取り出す。ざっくりと銃弾をばらまくタイプの銃だと彼女が認識するそれは、かつて暁美ほむらが米軍から盗み出したものだ。そして彼女の認識通り、開けた場所で棒立ちの相手なら一連射で十を越す人間を殺傷できる。こんなものまで用意されている以上迂闊に道を動くことも難しかった。
 どうしたものか、と考えながらミニミM249軽機関銃を鈴乃は改める。こういった『飛び道具』は……と思いつつも問題なく各所を検められるのは彼女の非凡な実力の現れ。その甲斐あってか、彼女は上部にあるその部品に気づいた。スコープだ。倍率は大したことはないようだが望遠鏡の代わりにはなる。取り外し方はわからないのでそのまま手に持ち、さて周囲を見渡してみようと構えて――

180アンデッドアンラック ◆BrXLNuUpHQ:2020/07/19(日) 02:12:23 ID:6lie.i860

 パン。

「え。」
「……あれ?」

 銃声だ。鈴乃は思わずそのまま硬直する。まさか撃ってしまったのか? いやそんなことはない反動はなかったし引鉄に手はかけていなかった鈴乃だって撃つ気がなければ引鉄に指をかけないぐらいの知識はある銃に詳しくなくとも武器である以上そこは間違えないというか撃とうにも安全装置の外し方がわからないならばなぜ……

(『何』かマズイっ!)

 幸運にも、鈴乃は僅かに早く、着弾より早く反応した。
 スコープ越しに見えた、数百メートル先の木々の間という、遠距離で発せらの光。本能からくる反射的なものかこれまでの人生での戦闘勘かそれとも信仰と涜神、神のイタズラか。とっさにスコープから目を離し己の目で光を確認しようとしたことで、半秒前まで目の玉があった場所をスコープを砕いて通り過ぎた弾丸は、彼女の生命を奪うことは無かったのだ。
 狙撃だ! 狙撃されている! そう認識し慌てて近くの藪に飛び込みつつ、カンナを見た鈴乃の顔から血の気が引く。すぐ横にいたカンナは、頭部から血を流し、僅かに呻きながら地に伏していた。

(迂闊だった! 何を浮かれていたんだ私は! こんなものが配られているならこうなることも考えられたのにっ!)

 自分の至らなさに臍を噛む思いをしながら、鈴乃はミニミ軽機関銃を構える。スコープは壊れているがおおよその位置はわかっている。当たるとは思わないし当てる気もないがとにかく撃ち返さなくては。が、駄目。

(引鉄を引いても弾が出ない。安全装置か、どうすれば。)

 だがここで幸運にも、鈴乃は銃把の上部にある出っ張りに気づいた。一か八か右に出ているそのボタンを押すと、音を立てて左側に出っ張る。何か中で動いたような感じがして、とにかく引鉄に引いた。

 バラララッ!

(撃てた!)

 毎分700発オーバーで弾丸をばら撒くそれから、実力通りに死がフルオートで吐き出される。無茶苦茶な撃ち方で先程の光の方角に銃口を向け、万が一にも当たらないように狙いは地面に。そして直ぐに、掌に伝わる衝撃が止んだ。弾切れだ。
 歯を食いしばりつつ、鈴乃はカンナを見る。駄目だ、まだ起きそうにない。最悪死んでいるかもしれない。今の銃声で敵にはこちらが銃を持っていることは伝わったはずだ。これで警戒するはずだ。だが同時にこちらの位置は周囲に知れ渡った。逃げなければ。どこへ? カンナを連れて。 動かしていいのか? そもそも近づけるのか? どうやったらまた撃てるようになる? 確か他に何か似たようなものが入って―― 

 ここで彼女に最後の幸運が訪れる。混乱しながらも冷静にザックを漁っていた彼女が引き当てたのは、弾帯。正確には、それが入った、弾倉。それらしき肌触りから引き出すと、銃弾っぽいものが顔を覗かせいている。映画とかではこれをイイ感じに取り付けていたし多分それだろう、「熱い!?」と指先を火傷しながらも、なんとかリロードを終える。

「……カンナ殿、必ず戻ります。」

 そして最後に一言そう言うと、鈴乃は駆け出した。狙撃犯の無力化ないし武器の確認。それができなければカンナの救助は不可能だ。猟師がわざと獲物を手負いで逃し群れへと案内させるように、カンナを撒き餌として利用される。そして何より、彼女を守りながら戦えるほど甘い相手では無いと、鈴乃の直観が告げている。ここはこちらから相手の懐に飛び込むほかは無い。できるだけカンナに近づかせず敵を叩く!

 最初の銃声より七秒。鎌月鈴乃の身に纏う空気が変わった。

181アンデッドアンラック ◆BrXLNuUpHQ:2020/07/19(日) 02:14:09 ID:6lie.i860



「椚ヶ丘中学校……ごめんなさい、聞いたことがないわ。その……色々忙しくて受験勉強もあんまり進んでなくて……」
「僕も受験するってなるまで知らなかったしそんなんじゃ――あ、もう一本貰っていい?」
「どうぞ。でも中学受験ででしょ? それだと私三年遅れてるなあって……他の子達とか模試受けてるみたいだし私も考えてるんだけど、どこの塾のがいいか、迷っちゃって。」

 なんだろう、凄く話しやすい。こんな風に誰かと受験について話すなんて初めて。しかも男の子と。あ、どうしよう、男の子とこんな感じで話したのなんて小学校以来だわ。顔が女の子みたいだから、性別とかそういうのを気にせず話せるっていうか……
 ううん、違う。きっと、彼だから。顔もだけど、雰囲気っていうか、人当たりっていうか、一緒にいて凄く落ち着く。初対面なのにどうして……私、将来ホストにハマったりしないよね?

「巴さん、それでこれからなんだけれど――」
「え! えぇ、そうね。」

 私は手にしていたロッキーを慌てて食べると咳払いを一つした。
 殺し合えと言われて、気がついたら見知らぬ場所にいて、木立の中で出会った男の子。潮田渚くん。彼は不思議な魅力がある人。
 お互いに殺し合う気なんて無いことを伝えて、名簿で知っている人の情報を共有して、お互いの支給品を確認して、それだけの時間で私の中にあるもやもやとしたものが薄れていく気がした。手際の良さっていうか、こういうの、包容力っていうのかしら。こんな場所なのに、とても良い人に知り合えたような気がする。

「――だから、少し北上してあそこの高台から周りを見てみるのはどうかな? 見滝原中学校までの道のりがわかるはずだよ。」
「ええ。わかったわ。でも私みたいに銃を持った人も同じように考えるんじゃ――」

 きっと、魔法少女の横に立っている格好いい男の子ってこんな感じなのかな。潮田くんは格好いいっていうより可愛いだけど、ううん、男女とか関係無く魔法少女が守るのって、こういう人だ。誰かを守るの、誰かって。

「――巴さん、大丈夫……そうだね。」
「体育は自信ある方なの。休憩する?」
「よし、もうちょっと頑張ってみる。」
「その調子、高台までもう少しだわ。」

 そう、私は魔法少女だから。こんな場所でこんな風に出会えたことには、絶対に意味があるはず。きっと私は、ここでもそうだから。大丈夫、このあたりに魔女の反応は無い。五感を強化してみたけど、周りに誰かいる感じもない。魔法少女とわからないように変身できないけれど、マスケット銃一つでもやれることはある……あら?

「潮田くん、どうしたの?」
「え? 何が?」
「とぼけても、顔が強ばってるわ。」
「……誰かに見られている気がして。」


 巴マミより先に鎌月鈴乃の視線に気づいたのは、潮田渚だった。
 鈴乃は暗がりにいた渚を視界に入れども気づくことはなかったが、渚は僅かながら彼女の気配を察したのだ。といってもそれはおぼろげなもので、木々を挟んだ数百メートル先の相手では、いかに光源があれどと彼では見つけることはほぼ不可能だ。感知した事自体は非凡であっても、そこから先に進めるほど、彼は人間を辞めてはいない。
 しかし彼の横に一つの例外がある。
 彼の言葉に一気に警戒を強めたマミは、その強化した視力で渚が見た方向を見る。そして銃器の知識に乏しくそもそも望遠鏡代わりに使っていた鈴乃には、スコープを汚してレンズの反射を防ぐような、どこぞの暗殺教室の生徒のようなスキルは無い。であればそれは必然。近くのランタンの灯り、背後の池からの照り返し、それらの光の一つがスコープに当たりマミたちの方に向けて光点となる瞬間がある。
 そして彼女は見た。一瞬の光に目を凝らし、マスケット銃を一撫でしてそこにスコープを作る。彼女の後輩である佐倉杏子が展望台で作ったものに比べれば倍率も精度も低いそれは、しかし強化された視力と合わせれば軍用スコープに匹敵する。そしてマミは、こちらに向けてスコープで見る鈴乃を、即ち銃口を向ける鈴乃を見て――

182アンデッドアンラック ◆BrXLNuUpHQ:2020/07/19(日) 02:14:56 ID:6lie.i860

 パン。

「巴さ――う!」
「伏せて潮田くん! 私達は狙われている!」

 咄嗟だったので外した。潮を突き飛ばし地面に転がすと、マスケット銃を新たに生み出す。再びスコープを覗く。人影は、暗い髪色の長髪か? それともフードか? とにかくまだこちらに銃を向けている!

「当てる気はないけれどっ!」

 光に向かって放つ。狙いは僅かに下、相手の足下に突き刺さるようにと撃たれたそれは、マミ達はやや高いところにいる関係上、2メートル程の縦方向への誤差によって、鈴乃のスコープを砕く。

「巴さん、それは――」

 マミはその声で、失敗を悟る。即ち、このマスケット銃の出処だ。彼女はマスケット銃を支給品と渚に言っていた。魔法少女であることを知らせずに渚を守るためだ。

(――でも、それって私のエゴじゃ。大切なことは――)
「――私は、守ってみせる。」
(――今度こそ、美樹さんも、鹿目さんも、渚くんも――)
「だから、見ていて、これが私の――」
(――私の命も、もう何も奪わせない。)
「変身!」

 死への恐怖と喪失への恐怖はリボンに変じた。
 それは彼女の身体を縛るように纏わりつき、光を発して姿も変じさせる。
 その光を目当てに、鈴乃は走る。
 マミもまた潮を戦場から離すべく駆け出す。
 やがて二人の距離は――



【C-4/池の南方/一日目 深夜】

【鎌月鈴乃@はたらく魔王さま!】
[状態]:健康
[装備]:魔避けのロザリオ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:皆が幸せになれる道を探す
一.南下し狙撃犯に対処する。
二.カンナ殿、千穂殿、すまない……。

※海の家に行った以降からの参戦です。



【D-4/教会/一日目 深夜】

【潮田渚@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:鷹岡のナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:暗殺の経験を積む...?
一:!?
二:暗殺をするかどうかはまだ悩み中。
三:とりあえず巴さんの通っている見滝原中学校へ向かう。


参戦時期は死神に敗北以降〜茅野の正体を知る前までです。
巴マミと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、渚の保護を重視
[装備]:魔法のマスケット銃
[道具]:基本支給品、ロッキー@魔法少女まどか☆マギカ(半分)、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
一:渚、まどか、さやかを保護する。杏子、ほむらとは一度話をする。
二:北上し狙撃犯に備える。
三:渚くんと会話をしていると安心する...彼と一緒に行動する。

参戦時期は魔女・シャルロッテに食われる直前です。


【ロッキー@魔法少女まどか☆マギカ】
巴マミに支給されたお菓子。第6話で佐倉杏子が食うかい?と差し出したアレ。
パレス内では少々のHP回復効果がある。

183状態表訂正 ◆BrXLNuUpHQ:2020/07/19(日) 02:22:03 ID:6lie.i860

 パン。

「巴さ――う!」
「伏せて潮田くん! 私達は狙われている!」

 咄嗟だったので外した。潮を突き飛ばし地面に転がすと、マスケット銃を新たに生み出す。再びスコープを覗く。人影は、暗い髪色の長髪か? それともフードか? とにかくまだこちらに銃を向けている!

「当てる気はないけれどっ!」

 光に向かって放つ。狙いは僅かに下、相手の足下に突き刺さるようにと撃たれたそれは、マミ達はやや高いところにいる関係上、2メートル程の縦方向への誤差によって、鈴乃のスコープを砕く。

「巴さん、それは――」

 マミはその声で、失敗を悟る。即ち、このマスケット銃の出処だ。彼女はマスケット銃を支給品と渚に言っていた。魔法少女であることを知らせずに渚を守るためだ。

(――でも、それって私のエゴじゃ。大切なことは――)
「――私は、守ってみせる。」
(――今度こそ、美樹さんも、鹿目さんも、渚くんも――)
「だから、見ていて、これが私の――」
(――私の命も、もう何も奪わせない。)
「変身!」

 死への恐怖と喪失への恐怖はリボンに変じた。
 それは彼女の身体を縛るように纏わりつき、光を発して姿も変じさせる。
 その光を目当てに、鈴乃は走る。
 マミもまた潮を戦場から離すべく駆け出す。
 やがて二人の距離は――



【C-4/池の南方/一日目 深夜】

【鎌月鈴乃@はたらく魔王さま!】
[状態]:健康
[装備]:ミニミ軽機関銃@魔法少女まどか☆マギカ、魔避けのロザリオ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:皆が幸せになれる道を探す
一.南下し狙撃犯に対処する。
二.カンナ殿、千穂殿、すまない……。

※海の家に行った以降からの参戦です。
※小林カンナと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。



【D-4/教会/一日目 深夜】

【潮田渚@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:鷹岡のナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:暗殺の経験を積む...?
一:!?
二:暗殺をするかどうかはまだ悩み中。
三:とりあえず巴さんの通っている見滝原中学校へ向かう。


※参戦時期は死神に敗北以降〜茅野の正体を知る前までです。
※巴マミと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、渚の保護を重視
[装備]:魔法のマスケット銃
[道具]:基本支給品、ロッキー@魔法少女まどか☆マギカ(半分)、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
一:渚、まどか、さやかを保護する。杏子、ほむらとは一度話をする。
二:北上し狙撃犯に備える。
三:渚くんと会話をしていると安心する...彼と一緒に行動する。

※参戦時期は魔女・シャルロッテに食われる直前です。
※潮田渚と互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。



【ロッキー@魔法少女まどか☆マギカ】
巴マミに支給されたお菓子。第6話で佐倉杏子が食うかい?と差し出したアレ。
パレス内では少々のHP回復効果がある。

【ミニミ軽機関銃@魔法少女まどか☆マギカ】
鎌月鈴乃に支給されたお菓子。最終話で暁美ほむらがぶっ放していたものの一つ。
米軍仕様の本体と200発弾倉5つというこれまた米軍スタイルのワンセット。

184アンデッドアンラック ◆BrXLNuUpHQ:2020/07/19(日) 02:22:24 ID:6lie.i860



「Zzz……」

 一方その頃、マミの初弾が跳弾に跳弾にを重ねて角に当たり、その勢いで気絶後コケて頭を小石で切ったカンナは、しめやかに睡眠していた。




【C-4/池周辺/一日目 深夜】


【小林カンナ@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:睡眠、おでこに傷(かさぶた)、右の角が凹んだ。
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜3(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:新勢力、カンナ勢を作ってみんな仲良くしたい!
一.姫神はたおす!
二.トール様もエルマ様も、カンナ勢に入る!

※トールとエルマが仲直りした以降からの参戦です。
※鎌月鈴乃と互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

185 ◆BrXLNuUpHQ:2020/07/19(日) 02:22:51 ID:6lie.i860
投下終了です。
予約超過申し訳ありません。

186 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/19(日) 13:58:37 ID:obum6BgQ0
投下お疲れ様です!

原作では基本的にギャグとして処理されますが、鈴乃ってポンコツな部分は少なからずありますよね。千穂が死んでいるからなかなかギャグには戻れない雰囲気がありますが、銃器に慣れていないことで銃声や安全装置にあたふたするところがどこか鈴乃らしくて、それでいてシリアスさも殺していないのが凄く巧いなあって思いました。

そしてマミさんがチョロいのも相まって渚がジゴロってる……!マミさんの抱えていた孤独感は原作ではまどか達を魔法少女に引き込む結果にしかならなかったけれど、本来なら魔法少女の運命とは無関係に解消できる事柄なんですよね。反面、渚が死んだ時に一気に落差が訪れそうで……他のキャラならいざ知らず、まどマギ勢の絶望はまた意味合いが変わってくるので不穏さも残ってますね。

(まだメイドラゴン勢の死者が出ていないというメタ的な観点からも)心配だったカンナちゃん、想像以上に大丈夫そうだった。

187 ◆2zEnKfaCDc:2020/07/19(日) 14:55:13 ID:obum6BgQ0
ミニミ機関銃の説明文が「鎌月鈴乃に支給されたお菓子」となっていたのでWiki収録の際に推定的に「銃」に訂正しています。何か問題があれば、改めてWiki編集をお願い致します。

188 ◆BrXLNuUpHQ:2020/07/20(月) 01:49:48 ID:1ewrOckc0
すみません、ありがとうございます。

189 ◆Oamxnad08k:2020/08/08(土) 21:19:07 ID:nDM40U4.0
微力ですが、参加させてください。
雨宮連で予約します。

190これでいい ◆Oamxnad08k:2020/08/08(土) 23:04:35 ID:nDM40U4.0
完成したので、投下します。

191これでいい ◆Oamxnad08k:2020/08/08(土) 23:05:17 ID:nDM40U4.0
姫神が用意した殺し合いの会場…F-1草原に一人の少年が大地を踏んでいる。
少年の名は雨宮連。
心の怪盗団【ザ・ファントム】のリーダーで仲間内ではジョーカーと呼ばれている。

「…ペルソナッ!!」

ジョーカーこと雨宮連が叫ぶと、すぐ側に異形の悪魔が出現した。
仮面のような顔と大きな黒い翼が特徴的な悪魔の名は【アルセーヌ】
連がペルソナの力に目覚めたきっかけのペルソナ。
…もっとも、すぐ【アガシオン】へなり果てたのだが……

「再び、お目にかかったな。…しかし、【仲間】を売った汝と、再会しても嬉しくもなんともないがな」
アルセーヌの冷たい声。
「……」
雨宮は想起する……

192これでいい ◆Oamxnad08k:2020/08/08(土) 23:06:16 ID:nDM40U4.0
☆彡 ☆彡 ☆彡

11月20日某拘置所
「これが、下らない正義のなれの果てだ」
パシュ!!!

…〜…

「更生は果たせなかったか…見込み違いだったようだ…」
ガンッ!
「この、無能な囚人がっ!」
「協力の甲斐もありませんでしたね」
「ゲームは終わりだ。まもなく破滅が訪れる。お前はその中で、一生、悔いるがいい…」

☆彡 ☆彡 ☆彡

11月20日、心の怪盗団の事件を捜査していた検事新島冴の取引に応じた雨宮連の運命はそこで、終わったはずだった。
牢獄の中で破滅を待つだけの彼は、気がつくと見知らぬ場所へ呼び出された。
そこには、心の怪盗団のメンバーの姿が見えた。

声をかけるか悩んでいると、姫神と名乗る男が殺し合いをしろと宣言したではないか。
それに、反発する金髪の少年…
「…竜司」
スカル…同じ心の怪盗団のメンバーである坂本竜司だ。
しかし、安易な反逆は無関係な少女の首を爆発させ刎ねた。
姫神が手にしたイセカイナビにより、誰かのパレス内と思われる殺し合いの会場へ送られ、草原で佇んでいた。

193これでいい ◆Oamxnad08k:2020/08/08(土) 23:07:05 ID:nDM40U4.0
☆彡 ☆彡 ☆彡

「どうやら、記憶の糸を辿りよせることができたか」
怪盗団のリーダーとしての役割を背負った「ジョーカー」である彼がなぜ、仲間を売る取引に応じたのか。
取調室での公安による暴行や自白剤によるものか、それとも…
「わが身、可愛さで仲間を売ったのか?だが…結局、汝はそのまま死んだ」
アルセーヌの言葉の刃。しかし、雨宮は反論しない…

「どうした?それともあの選択は間違っていたのか?」

アルセーヌの問いに…
「間違って…ないッ」

「そうか…ならば、何もいうまいッ!汝の全てを己で見定め、地獄へ落ちるのを見届けようッ!」
そういうと、アルセーヌは雨宮連の目の前から姿を消した。

雨宮はデイバッグから取り出したナイフを片手に持つ。
パレス内で彼が使用していたのは架空のナイフ「アタックナイフ」
パレス内の悪魔たちの認識によりダメージを与えられる武器でしかないが、支給品のナイフは違う。
人…現実の参加者の命を奪うことが出来る本物の武器。
綺麗な刀身を眺める雨宮。

194これでいい ◆Oamxnad08k:2020/08/08(土) 23:07:39 ID:nDM40U4.0
「さて…どうする」
因果かまた、雨宮は重要な選択を迫られる。
選択の間違いは許されない……

(殺し合いに乗るべきか…)
乗る
のらない

【乗る】

(本当にこの選択でいいのだろうか…)
これでいい
違う気が…

【これでいい】

かくして、トリックスターは殺し合いに乗った。
「愚者」の行きつく先はまだ誰も分からない……

195これでいい ◆Oamxnad08k:2020/08/08(土) 23:08:17 ID:nDM40U4.0
【F-1/平原/一日目 深夜】
【雨宮連@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:綺麗なナイフ@虚構推理
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る
一.…やるか(殺るか)
二.怪盗団のメンバーへの対応は保留中…明智五郎は、この手で殺された借りを返す
三.悪魔合体…できればしたいな

※11月20日新島冴との取引に応じ、明智に殺されてBADエンドになったからの参戦です。
※所持しているペルソナは【アルセーヌ】の他にも数体いる。詳細は後続の書き手様にお任せします。

【支給品紹介】
【綺麗なナイフ@虚構推理】
雨宮連に支給されたナイフ。革製の鞘付。重原良一(元の持ち主)が殺しに使ったナイフ。殺人の実績あり。

196これでいい ◆Oamxnad08k:2020/08/08(土) 23:08:32 ID:nDM40U4.0
投下終了します。

197 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/09(日) 00:10:54 ID:hCHCFtwg0
投下お疲れ様です!
まさかのBADENDルートからの参戦……他の途中退場キャラであるマミさんや明智などの参戦時期がすでに定まっている今、唯一の『死後』から参戦できるキャラなので今後の描写が楽しみでもありますね。
会話の流れ方がゲームに忠実な分、その絵面が想像できるようです。しかしながらゲームに忠実だからこそ、(本当にこの選択でいいのだろうか……)というBADENDフラグを踏んでいるのが分かってしまう……!

そして虚構推理の最新話、私もついさっき読んで「このナイフ支給品にできそうだなあ」と思ったところだったので【綺麗なナイフ@虚構推理】にクスリときちゃいました。

198 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/09(日) 02:16:45 ID:hCHCFtwg0
桂ヒナギク、鹿目まどか、鋼人七瀬で予約します。

199 ◆Oamxnad08k:2020/08/09(日) 09:39:49 ID:slfIz.L60
感想ありがとうございます。

これでいい

最初は、統制の神との取引エンドのジョーカーを考えていたのですが、参戦時期が12月24日以前だったということを失念していて、冴さんとの取引エンドのジョーカーにしました。
プレイヤーの数だけ様々な結末を迎えるジョーカーだからこそ、できたかな……と。
ただ、書いておいてなんですが、明智を罠にかけるはずの計画を立てていたのになぜ、取引に乗ってしまったのか個人的には疑問があるBADエンドです……
虚構推理のナイフですが、私も読んでいて、これは使えると!と支給しちゃいました。

200 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/09(日) 14:16:56 ID:hCHCFtwg0
投下します。

201 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/09(日) 14:17:09 ID:hCHCFtwg0
 一人、また一人。大切な命が消えていく。最後まで隣にいてくれた彼女も、命を散らしに向かってしまう。まるで運命の迷い路。出口のない世界でぐるぐる、ぐるぐると彷徨い続けて。そしてその果てがこの殺し合いなのだとしたら、それはあまりにも残酷すぎる結末ではないか。

 だけど、知っている。おかしいよって嘆くだけでは何も動かない。この運命の袋小路を、終わらせられるのはきっと、因果に選ばれた私だけ。もはや大円団でなくてもいい。だけどこの絶望しかない物語に、僅かでも救いの手を差し伸べることができるなら。

 すぅ、と息を吸い込んで。鹿目まどかは喉が張り裂けんばかり、叫んだ。

「キュウべえぇぇ!」

 器官を酷使しての発声に伴う目眩で、夜の闇が揺らいだかのように見えた。くらりとする頭を押さえ、そして続ける。

「あなたの仕業なんでしょ……!ㅤ私、契約するから……魔法少女に、なるから……!ㅤだから、こんな酷いこと……もうやめてよ!!」

 息を切らせ叫んでも、それに返される言葉は無かった。魔法少女になる決意では解決しない。それは、殺し合いという現実に対して自身の完全な無力を突き付けられたに等しかった。

「どうして……」

 奇跡を提示された。マミさんも、さやかちゃんも、杏子ちゃんも、みんなが生きている世界を。姫神という男がいたあの空間には、絶望の中で死んでいったはずのみんながいたのだ。

 そして同時に、現実も突き付けられた。名前も知らない人だったけど、首を飛ばされて死んでしまった女の子。それはその人だけじゃない、みんなの末路だと言われているような気がしてならなかった。

「どうして、答えてくれないの……?」

 奇跡と現実の板挟み。希望と絶望の演出。その様相を見て、この殺し合いはキュウべえが自分に契約を迫るための舞台だと思っていたのに。相応の決意を込めて叫んだ契約への合意は、虚しく夜空へ消えていった。

202 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/09(日) 14:18:07 ID:hCHCFtwg0
 自身の合意がこのゲームを終わらせる鍵でないのなら、本当に友達も知らない人も殺し尽くして、最後の一人になることしか生き残る道はないのだろうか。

「こんなのって……ひどいよ……。」

 生きたかった人たちを生き返らせて、殺し合わせる。なまじ皆が生きているという奇跡というものを見せつけられたのだから、なおさら残酷だ。

 無力感と、もう少し早く契約を決意しなかったことへの後悔が嫌という程頭の中を支配する。それに耐えられなくなって、へなへなとその場にへたり込んだ。

 そして――そんなまどかに一歩ずつ、迫り来る影があった。

(みんな……また死んでしまうのかな。)

 その影は、まどかの姿をその存在すら虚ろな「眼」で捉えるや、ゆっくり、ゆっくりと忍び寄っていく。

(私が何もしなかったから。弱虫だったから。)

 まどかが足音に気付き、ふと視線をやる。夜の闇の中でも、さらに黒々とした深淵をその顔面に纏い、巨大な鉄鋼をその手に携えた『魔女』のような存在が、まどかの頭部目掛けてその手の凶器を振りかざしていた。

(だから私は……罰を受けるのかな。)

 驚きは、一瞬だった。認識が現実に追いつくと、それが運命ならばと、まどかはそっと目を閉じていた。そんな人間の微細な心の動きなど気にとめることもなく、執行者『鋼人七瀬』は無情に鉄鋼を振り下ろす。




「――白桜!」




 その時、桜吹雪混じりの一陣の風が吹き抜けた。

「……?」

 まどかが目を開くと、眼前では何処よりか飛んできた、夜の闇の中でいっそう白く輝く剣が、まどかの頭を砕かんと振り下ろされた鉄鋼とぶつかり合い、拮抗していた。

 その物理法則を無視した剣の動きからは魔法少女の力が思い起こされて。罪悪感と共に、おそるおそる振り返った。

「させない……」

 そしてそこには、一人の少女が立っていた。自分と同じ桃色の、しかし自分よりもいっそう長い髪を風に靡かせて。

「もう私の前で……誰も死なせたりさせないんだからぁーッ!」

 少女は大きく跳躍し、宙に留まる白桜を手に取る。そのまま鋼人七瀬に向けて一閃、胴体を切り離す。虚構から生まれた亡霊はモヤを撒き散らしながら崩れ落ちていく。

203 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/09(日) 14:21:00 ID:hCHCFtwg0
「大丈夫?」

 何事も無かったかのように着地し、少女はまどかに手を伸ばした。

「えっと……あなたは……?」

「私は桂ヒナギク。白皇学院の生徒会長よ。」

 差し出された手は先ほどの人間離れした動きに対してスラリと細長く。その手を掴むのにも少しドキドキしてしまう。

「鹿目まどかさんよね。良かったら一緒に……」

 しかし、ヒナギクをいつか助けてくれたマミやさやかと重ね合わせてしまったからこそ。

「ヒナギクさんっ!ㅤ後ろっ!!」

「!?」

 死のイメージも、どうしても切り離せなかった。だからこそ、再生し、再び迫り来る鋼人七瀬に気づけたのだろう。

 まどかの声に咄嗟に反応したヒナギクは白桜を背後へ構え、側面からぶん回された鉄鋼を僅かに防ぐ。しかしいかなる剣道の構えにも属さない即席の防御ではその衝撃を殺し切ることはできず、ヒナギクの身体は打ち飛ばされる。

「うあっ……」

「ヒナギクさん!」

 駆け寄ろうとするまどか。そんな彼女に対し、ヒナギクは一喝する。

「来ないで!」

 腰を打ち付け、ぎこちない動きのままヒナギクは続ける。

「私が引き受けるから……今のうちに逃げて!」

 最初の会場で、少なからず関わりを持った少女、佐々木千穂は目の前で命を奪われた。その光景は、トラウマとしてヒナギクを掴んで離さない。人の喪失というものを、ヒナギクはその身をもって知ってしまった。

 もう誰かを命の危険に晒したくなかった。そんなものに晒されるのは、自分だけで良かった。

「嫌です……!」

 だけど、まどかは逃げたくなかった。例え何もできないとしても、ここで逃げてしまえばそれが永遠の別れになるように思えてならなかった。

「私、見届けます!ㅤそれくらいしかできないかもしれないけど……それでも、そうしたいんです!」

「そう……あなたも大概頑固者なのね。」

 対するヒナギクは腰の痛みを気合いで押し切って、立ち上がる。その決意が、半端な言葉では折れないことは分かる。ナギという、一度言い出したら聞かない負けず嫌いが周りにいるし、何なら自分もそれに近いタイプだ。

ふっと笑みを零しながらも、敵を見据えて構えるその姿はどこまでも気高く、美しく。

「だったら見ててちょうだい。アイツをぶっ倒してみんなで一緒に帰れる方法、考えましょ?」

――そして、その凛とした振る舞いは、まるで"正義の味方"のようにも見えた。


【C-3/平野/一日目 深夜】

【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
[状態]:腰の打撲
[装備]:白桜@ハヤテのごとく!
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:誰も死なせない
一.まどかを守りながら鋼人七瀬を倒す

※名簿を暗記しました。
※参戦時期は姫神と面識を持つ前です。

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを終わらせる
一.キュウべえが居るなら、魔法少女になってでも。


【鋼人七瀬@虚構推理】
[状態]:健康
[装備]:鉄鋼@虚構推理
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:参加者の襲撃

※パレスが鋼人七瀬の不死性にどのような影響を与えているのかは以降の書き手にお任せします。


【支給品紹介】

【白桜@ハヤテのごとく!】
桂ヒナギクに支給された剣。所有者の意思に従って空中飛行することが可能という、特殊な力が備わっている。

204 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/09(日) 14:21:57 ID:hCHCFtwg0
投下完了しました。

そしてタイトル忘れてましたね……「希望の光、桜色」です。

205 ◆Oamxnad08k:2020/08/09(日) 21:27:37 ID:slfIz.L60
投下お疲れ様です ^^) _旦~~
希望の光、桜色
殺し合いを終わらせるためなら、魔法少女になってもいいときゅうべえに叫ぶまどかの姿は痛々しい……
そして、まどかを守るために鋼人七瀬に立ち向かうヒナギクはヒーローですね。

坂本竜司、西沢歩で予約します。

206運命は、英語で言うとデスティニー ◆Oamxnad08k:2020/08/10(月) 11:10:46 ID:HEGdnB4Q0
完成したので投下します。

207運命は、英語で言うとデスティニー ◆Oamxnad08k:2020/08/10(月) 11:11:40 ID:HEGdnB4Q0
「ハァ…ハァ…」
走る。
「ハァ…ハァ…」
走る。走る。山道の草むらを。
「ち…ちくしょぉぉぉ!!」
ガッ!
「んおッ!?」
石に躓き、転倒する…
「はぁ…はぁ…くそッ!!」
ドンッ!!
金髪の少年…坂本竜司は片手で強く地面を殴りつける!!

竜司の脳裏に浮かぶのは、先ほどの名も知らない少女の首が爆発して刎ねられたところ。

坂本竜司は、暴力変態教師鴨志田との対立で転校生雨宮連と共にペルソナの力に目覚めた。
鴨志田との決着を付けた後は、世直しと称して怪盗団を結成して、悪い人のオタカラを盗み、改心させていた。
…そして、その行為は「正義」であると考えていた。
しかし―――

「君の正義が人を殺した。」

「うッ!?うおぉぉぉえぇぇぇ」
人の死を直接目の当たりにするのは今回が初めてだ。
しかも、原因は自分の反逆……
胃の中のを全て吐き出した竜司は落ち着こうと、ゆっくりと息を吸う。
「俺は…俺は…」
『どした?そんな、みっともない姿をさらして…』
「ああッ!……!?お…お前は…!?」
顔を上げた竜司の表情が一瞬で変わる…目の前にいるのは、制服を着ている自分自身…

『俺か?俺はお前の自己認知だよ』

「な…んだ…と…!?」
自己認知…それも歪んでいるのは、【シャドウ】と呼ばれる…
『気に病むことはねぇよ…ありゃ不慮の事故さ。気持ちを切り替えようぜ?』
「ばッ…!馬鹿野郎!!そういうわけにいかねぇだろ!!俺があの場所で姫神に反抗的な行動を起こさなきゃ、あの女の子が死ぬことはなかったんだ!」
『だけど、姫神と名乗る男の殺し合いを防いで、怪盗団として名声をもっと高めたかったから行動を起こしたんだろ?』
「ッ!?ち…違う!!名声が欲しくてしたんじゃない!!」
『そうか?思い出せよ!お前が今まで怪盗団としてやってきた結果を…!!』
シャドウ竜司の言葉に竜司は想起する……

208運命は、英語で言うとデスティニー ◆Oamxnad08k:2020/08/10(月) 11:12:32 ID:HEGdnB4Q0
…〜…
「私は傲慢で、浅はかで…恥ずべき人間、いや人間以下だ…死んでお詫びします…!」
「我が国の、美術界にも…そして…【サユリ】に、も…くっ!…皆様に、どう…お詫びを、申し上げ…う…申し上げ、たら…いい、か…んぁっははぁぁ!」
…〜…

「あ…ッ!?」
顔面蒼白になる竜司…
『そうだ!社会的地位に居る腐った大人が転落していく様子にお前はスカッとしていた!!』
『世界のハッカー集団【メジエド】からの挑戦を退け、怪盗団の存在が認められていったことに愉悦していた!!』
「…違う。俺は、そんなんじゃ…」
必死に否定するが…
『今回も今までと同じように、テメーは周りの参加者から称賛を浴びて悦に浸りたかった!!』
「ち…ちがう…ち…ちが…う…」
その声は徐々に消えていき…
『そんな、安っぽい正義が一人の少女の命を散らさせた!!!』
「あああああああああ!!!!」
竜司の精神は崩壊を……ッ!!??

ガシィィィ!!

「落ち着け竜司!!まずは落ち着いて因数分解をするんだ!!」

「!」
(ひえぇぇぇ〜〜つい、勢いで出ちゃったよ〜〜)

209運命は、英語で言うとデスティニー ◆Oamxnad08k:2020/08/10(月) 11:13:07 ID:HEGdnB4Q0
☆彡 ☆彡 ☆彡

草むらで身を隠していた歩……
「ん?何かな?」
足音らしきのが聞こえてきたため、そぉ〜ッと草むらから顔を覗かせると、何やら、男の子が走ってきている。
「あ、転んだ」
走っていた男の子が躓き、起き上がった姿を見て歩は思い出す。
「あ、あの金髪の男の子は…会場で」
そう、殺し合いを命じた姫神と名乗る人に立ち向かった男の子。
「え〜っと…名前は…あった!坂本竜司というんだ…」
歩は名簿を開き、金髪少年の名前を知る。
「きっと…あの人なら、殺し合いには乗っていないよね…よ〜し…ん?」
先ほどのやり取りを見ていたため、竜司が危険人物ではないと判断した歩は名乗り出ようと草むらから出ようとするが…

「ばッ…!馬鹿野郎!!そういうわけにいかねぇだろ!!俺があの場所でアイツに反抗的な行動を起こさなきゃ、あの女の子が死ぬことはなかったんだ!」

(……)
(えええええ!??何!?何かな!?一人でブツブツなにか言ってるよーーー!?)
(え?え?AP○X4869!?雛○沢症候群!?薬をしているのかな?かな?薬物乱用はダメ。ゼッタイ。だよ―――」
歩は竜司の独り言にツッコむ。

(どどど、どうしよ〜…実は危ない人なんじゃないかな?かな?)
歩はすっかり、怯えて草むらに潜むように様子を窺う…

「…違う。俺は、そんなんじゃ…」
(……)

「ち…ちがう…ち…ちが…う…」
(……)

「あああああああああ!!!!」

気づいたら、身を乗り出していた……

210運命は、英語で言うとデスティニー ◆Oamxnad08k:2020/08/10(月) 11:14:00 ID:HEGdnB4Q0
☆彡 ☆彡 ☆彡

「…わりぃ。助かったわ…」
竜司は助けてくれた少女…西沢歩に礼を言う。
「ううん!気にしないで!」
歩は若干照れながら、両手を左右に動かす。
「ところで、どうして俺の名前を知ってるんだ?」
竜司の疑問に歩は名簿を開く。
「名簿に顔写真が貼ってあるんだよ。それを見て、竜司君の名前を知ることが出来たの」
「へぇ〜…そういえば、俺、まだ名簿を確認していなかったな…」
竜司は歩と同じ支給されている名簿を開こうとすると……

「どうやら、反逆のドクロの旗が健在のようで安心したぞ…」

「なッ!?」
竜司の側に現れたドクロの怪人に驚く歩。
「ななな…何かな?ス○ンド!?ス○ンドかな!?」



「スタンド?」

竜司の言葉に歩は大声で注意する。
「だ、駄目だよ!!竜司君!!伏字!伏字!!荒木先生の許可は!?「©」は!?著作権侵害は不味いからね!!」
「お…落ち着け!西沢!!これは、スタンドじゃなくて【ペルソナ】っていうんだ!」
「ふえ!?」
テンパっている歩を竜司は落ち着かせる……

211運命は、英語で言うとデスティニー ◆Oamxnad08k:2020/08/10(月) 11:14:48 ID:HEGdnB4Q0
☆彡 ☆彡 ☆彡

「へぇ〜、ペルソナっていうんだ」
「ああ…俺も詳しいことはわからねぇが、ペルソナ…キッドのおかげで俺は戦う力を得ることが出来た」
「す…すごいね!!つまり竜司君はス○ンド使いならぬペルソナ使いなんだ!!」
歩は素直に竜司に羨望の眼差しを向ける。
「…だけど、俺は…」
「ん?どうしたの」
竜司の悩んでいる様子に歩は尋ねる。

「俺がやったことは、結果的に殺し合いを止められなかった。しかも、俺の正義が関係ねぇ女の子の命を奪っちまった…」
「……」
「俺はあの女の子に謝っても謝り切れねぇ…!!」

竜司の後悔してもしきれない本音…

「たしかにテンションで買い物をすると…失敗もするでしょう…」
「は?」
突然の歩の言葉に竜司は唖然とする…
「家に帰ってから後悔する事もあるでしょう…」
「な、何をいってん…」
ふざけているのかと竜司は怪訝な顔をするが…
「しかし後悔は……!!決して前には出来ないのです!!」
「!?」

「たしかに…竜司君の行動は、結果として女の子が死んじゃった…だけど、あの場で自分の意志を示せたのは竜司君だけなんだよ!!」
「……」
「私は、正直、わけもわからなかったし、オロオロしていただけ…でも、竜司君はハッキリと殺し合いを拒絶した!…正直、私が出会ってきた男の子の中で2番目にカッコよかったよ♪」
「はは…2番目かよ…」
「あの女の子に関係している人もこの殺し合いの場にいるかもしれない。だから…そのときは謝ろう!許してくれるまで。私も一緒に頭を下げるよ!ね♪」
「強いんだな…西沢は」
竜司の言葉に歩は…

「そうだよ、女の子という生き物は普通に強いんだよ」

ニッと笑顔を竜司に向ける。
「西沢…」
「歩でいいよ。竜司君!」
(歩との関係が深まるのが感じる…)

212運命は、英語で言うとデスティニー ◆Oamxnad08k:2020/08/10(月) 11:15:56 ID:HEGdnB4Q0
我は汝…汝は我…
汝、ここに新たなる契りを得たり
契は即ち、
囚われを破らんとする反逆の翼なり
我【「って何かな!?この唐突のナレーションは!?」力とならん…

《普通、そこで被せるか…?》

天の声に聞こえているかわからないが、歩はさらに…
「いやいや!!だって、急に真っ暗になって白文字と赤文字が浮かび上がるなんておかしいでしょ!?」
容赦なくメタ的なツッコミをする…

《……》

シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!

コープのランクが3に上がった!
歩が「ツッコミトーク」・「ハムスターの追い打ち」をしてくれるようになった。
「無視された!?それに、な、何かな!?その微妙なスキルは!?」

《いちいちツッコむな》

「もう!…あ!?そうだ、竜司君。どこか知っている場所とかある?」
「ん?ん〜と…おっ!?喫茶店ルブランがある!?」
歩に尋ねられ、地図を広げ確認した竜司は馴染みの店の名前を見つける。
「知っているお店?」
「おう!俺たち、怪盗団の集合場所として利用してるんだ」
「そうなんだ!…じゃっ!まずは、そこへ向かおっか!」
歩の即答に竜司は…
「え!?…でも、歩はいいのか?その…歩が知っている場所へ向かった方が、会いたい人と出会える確率が高いぜ?」
竜司の気づかいに歩は…

「ふふ…優しいんだね。竜司君は」

ピロピロリン♪ ♪ ♪

「大丈夫だよ♪ヒナさんは、とっても強くて、ナギちゃんは頭がいいし、そんなナギちゃんのお友達の鷺ノ宮さんも凄い力を持ってるみたいだし、メイドのマリアさんはスーパーメイド人だから♪」
「それに…」
脳裏に浮かぶのは…好きな人……

「ハヤテ君なら、私のピンチにすぐ駆けつけてくれるから♪」

ハヤテの名前を口にした歩の表情を見て、竜司は察する。
「そうか…なら、いこうぜ!歩!!俺たちでこの胸糞わりぃ殺し合いを止めるぜ!!」
「お…おー!」
竜司と歩は喫茶店ルブランを目指して歩きだす―――

(ハヤテ君…私はハヤテ君のことが好きだよ。その気持ちは全然変わってないから!付き合って恋人になりたいと思っているの!だから…死なないでね!私も竜司君のように強くなるから!!)

竜司君と出会わなければ、私はずっと草むらの中へ潜んでいて、死んでいたかもしれない…だけど、竜司君の反逆に共にいることで、私は強くなれそうな気がする。
それは、根拠のない推測―――
だが、どちらにせよ、もう臆病だったハムスターは立ち止まらない。
歩は掲げた恋の旗を胸に歩(あゆむ)―――

(ありがとうな…歩。お前のおかげで、俺はなんとか自分を見失わずにすんだ)

気が付くと、自分ソックリのシャドウは見えなくなっていた…あれは、幻聴だったのか、それとも…
だが、どちらにせよ、もうスカルは立ち止まらない。
竜司は掲げた反逆のドクロの旗を胸に歩(あゆむ)――――

【B-4/山道/一日目 深夜】

【坂本竜司@ペルソナ5】
[状態]:健康 膝部分擦り傷
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反逆する
一.歩と共に殺し合いに反逆して姫神を倒す
二.死んでしまった女の子の関係者に出会ったら、許してもらうまで謝る
三.他の怪盗団のメンバーと歩の関係者に早く出会いたい
※歩とのコープが3になりました。
※竜司に話しかけていたシャドウは幻覚か本当かはわかりません。また、出現するかは他の書き手様にお任せします。
※参戦時期は9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。

【西沢歩@ハヤテのごとく】
[状態]:健康
[装備]:ヘビーメイス@ペルソナ5
[道具]:基本支給品(食料消費小)、不明支給品0〜2(本人確認不明)
[思考・状況]
基本行動方針:竜司と殺し合いに反逆へ歩む
一.皆で生き残りたい
二.竜司との反逆で強くなりたい
三.ハヤテ君…私、ハヤテ君に伝えたいことがあるから
※竜司とのコープが3になりました。以下のスキルを身に付けました。
「ツッコミトーク」相手との会話交渉が決裂した時に、異世界の人物であれば、交渉をやり直せる
「ハムスターの追い打ち」竜司の攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※参戦時期はアテネ編前

213運命は、英語で言うとデスティニー ◆Oamxnad08k:2020/08/10(月) 11:16:10 ID:HEGdnB4Q0
投下終了します。

214 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/10(月) 13:01:50 ID:L7D/YYyw0
投下お疲れ様です!
ペルソナ勢独特の葛藤描写……からのメタ視点もお構い無しにガンガンぶっ込んでくる西沢さん。キャラの動かし方がとても巧みで、特に「因数分解をするんだ!」のくだりなんか完全に絵面が浮かんでくるようでしたw(でも竜司はできなさそう)
竜司はオープニングでの出来事から、出会う相手によって堕ちることも前を向くことも、如何様にも動けたと思うのですが、ここはやはり西沢さん、落ち込んだ人を励ますポジションが似合いすぎている。逆に、竜司にとっては自己嫌悪の根源でもある姫神に反抗したということが「スタンス:ハムスター」だった西沢さんに最初の一歩を歩ませたというのも、流れとしてとても綺麗ですね。そもそも最初のアレがなかったら、竜司とか見た目が怖すぎて一目散に逃げ出す相手筆頭ですし……。
それにしても、ツッコミトークを覚えた直後にかけられる(?)言葉が《いちいちツッコむな》なのがすごくシュール。

215偽りの王VS鏡の巨人featクリプトン人 ◆j1W0m6Dvxw:2020/08/10(月) 14:48:58 ID:lEVuIGWw0
☆☆☆

「ハァッ・・・ハァッ・・・」
『グギャアアアアア!!グギャアアアアアアア!!!』

巨大怪獣の歩幅は人間の何倍も大きく、とうとう京太郎は湖の畔へとおいつめられてしまった。

「く、クソゥッ!!!」
『グギャアアアア!!』

悔しそうに顔を歪ませる京太郎を嘲笑うように、怪獣は翼を広げて雄叫びをあげる。
まさに万事休す・・・その時だった。

「!」

湖の水面が月の光を反射して淡く輝くのを京太郎は見逃さなかった。
京太郎はすぐさま両腕を広げてミラー・アクションを取った。

「ミラー・スパーク!!!」

叫びとともに京太郎の体は光へと変化し、水面へと飛び込んだ。
そして次の瞬間・・・

「デアッ!」

湖面から銀色を基調に緑と黄色のアクセントを施した巨人が飛び出してきた。
これこそ、二次元人と地球人のハーフである鏡京太郎のもう一つの姿、『ミラーマン』である!

「デアッ!」
『グギャアアアアアア!!』

しばしにらみ合うミラーマンと三つ首の怪獣。
ミラーマンの身長は最大40メートル。
対する三つ首の怪獣の身長は158.8メートル。
人間で言えば子供と大人・・・どころか、赤ん坊と大人程の身長差だ。
だが・・・ミラーマンは怯みも恐れもせず、怪獣に向かっていった。

「ミラーナイフ!」

先手を打ったのはミラーマンだ。
怪獣に向けて伸ばした手刀の先から、白く光る楔型の光線が発射され、
怪獣の胸部に命中すると同時に怪獣の体に爆発が起こった。

『グギャアアアアア!!!』

怪獣は怯むことなく、口から光線を吐き出した。

「ディフェンス・ミラー!」

すかさずミラーマンは空中をなぞるように手を振って透明な光の壁を出現させ、
怪獣の光線を反射させる。
続けざまに空中高くジャンプすると・・・

「ミラクル・キック!」

足先を赤く発光させながら怪獣めがけてキックを放ち、
3つある怪獣の首の内、右端の首をちぎり飛ばしたのだ。

『グギャアアアアア!!!』

首の一つを千切られ、怪獣は悲痛な叫びをあげた
ミラーマンはその隙を逃さず、額と腰のバックルに手を添える。

「シルバークロ・・・」

ミラーマン最大の大技が繰り出されようとした時・・・怪獣が反撃に出た。

216 ◆Oamxnad08k:2020/08/11(火) 21:10:40 ID:iEvrVf9w0
感想ありがとうございます。

運命は、英語で言うとデスティニー
竜司ですが、誰と組ませるか(出会わせるか)考えぬいた結果、西沢さんにしました。
真奥との出会いでさらに堕ちる展開も考えたのですが、西沢さんとの出会いにしてよかったです。
絵面が浮かんでくるは、原作を扱う小説においてこの上ない喜びです。ありがとうございます。(ちなみに、竜司は因数分解できなさそうに私も一票です(笑))
ペルソナと言えばコープですが、やるとなるとアルカナなども関わるので勝手にやるのはどうかな〜と悩みつつ、あのやり方なら西沢さんのアルカナを隠しつつコープイベントが出来る!と。
まぁ、ハヤテ勢だからこそできたかな…と。

真奥貞夫で予約します。

217 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/11(火) 22:12:15 ID:7CfnpNIY0
>>216
(ところでTwitterで「#狭間ロワ」で検索してちょっと遡ると私が狭間ロワの参加者に独断と偏見でアルカナ付けしたリストが出てきたりします……倣う必要性こそありませんが、良かったらご覧くださいな……)

綾崎ハヤテ、岩永琴子、新島真で予約します。

218魔王、A-6に立つ ◆Oamxnad08k:2020/08/15(土) 11:31:28 ID:wu1W38h60
完成したので投下します。

219魔王、A-6に立つ ◆Oamxnad08k:2020/08/15(土) 11:32:13 ID:wu1W38h60
「ちーちゃん…」
断崖絶壁に立つ男は、一人の女の子の名を呟く…
男の名前は「サタン・ジャコブ」
エンテ・イスラにて魔界を統一した魔王。
とある理由の為、苦渋の決断をして人間界へ侵略したが、勇者エミリアとの戦いに敗れ、現在は真奥貞夫の名で東京渋谷区笹塚「ヴィラ・ローザ笹塚」201号室で生活を過ごしている。
ブチッ!
真奥は咲いていた花を摘むと崖下の海へ投下する。

「絶対にちーちゃんに対するケジメはとらせるよ…」

真奥の脳裏に浮かぶのは、ちーちゃんこと佐々木千穂との思い出…

☆彡 ☆彡 ☆彡

「なんか変なお客さんでしたね?なんかブツブツ暗いし声も聞き取りにくいし…いまの女…の人?」
「なんかかっこいいですね真奥さん!社会人って感じで!」
「もしかして真奥さんの元カノですか?」
「私は自分で真奥さんを好きになったんです。だから、好きじゃなくなるときも自分で決めます」
「わたしもぜぇぇったいに負けません!」
「真奥さんのゴハンは私が作ります!」
「真奥さん!敵の塩なんか受ける必要ありません!お母さんに教えてもらっていっぱい作ってきましたから!」
「どっちのゴハン食べるんですか!」

…〜…

「……」
ドカァァ!!
真奥は右腕をグーへと固く握ると自分の頬を勢いよく殴る。
「ッ!!…こんなんじゃ足りねぇけど…」
それは、守るべき部下(クルーの後輩)を守れなかった自分への戒め。

220魔王、A-6に立つ ◆Oamxnad08k:2020/08/15(土) 11:35:53 ID:wu1W38h60
☆彡 ☆彡 ☆彡

「さてと…」
簡単ではあるが、佐々木千穂への弔いを済ませると、真奥は己の首についてある忌々しい首輪に触れると考察を開始する。
(禁止エリアに留まると爆発するということは、この首輪には爆発機能の他に「位置探知」することが可能のはず)
(そして、俺が向こう側(姫神)なら盗聴機能も備える。あるかわからねぇが、正義の味方が嫌いなヤツのことだ…【ある】と思っていた方が無難だな)

首輪について考察を終えると次は自分の両手を見つめる。

(魔力を外気から得ることができる…ということは、この【パレス】といわれる空間は、エンテイスラの何処かか、それに近い異世界だな…」
真奥が現在住んでいる地球では、魔力の概念は【人の心】なため、空間の場所を予測する。
(姫神は【パレス】を聞き覚えのある者ならピンとくるといっていたから、殺し合いの参加者には【パレス】について知っているはず…)
(とにかく、まずは【パレス】について知っているやつに会わねーとな)
真奥は行動の指針を立てると、さらに考察を続ける…

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ちッ…やっぱりB級じゃないようだな」
魔力を得ても、真奥の表情は険しいままだ…
魔力を得たことから、真奥は、どこまで力を行使できるかためしてみた。
結果は、空間転移は視覚の範囲までの移動。
ゲートは開けられるみたいだが…
(殺し合いをさせるんだから、あくまで、地図内の何処かだろーな…禁止エリアに繋がれば死に繋がる。…だめだ、首輪がある状態では、リスクが高すぎる…)
(と…なると元の姿になっても力を制御されている可能性は高いな…)
(魔力が得られるといっても、ここでは、一瞬の油断が死に繋がると思っていいな…)

自らの魔力について考察を終えると、最後に参加者について考察する。

(名簿には、俺の名前が「サタン」ではなく地球名義の「真奥貞夫」と記名されていることから、天界が関わっている可能性が高いな)
サリエルが失敗したから、他の大天使がエミリアの聖剣・もしくは天銀を持ち帰り…あわよくば、俺の命も…ってことで計画を立てたんだと思うが、どうして、俺と関わりがない参加者まで集められているのかが、わからねぇ…)
(それに、ドラゴンの力を有しているのもいた。奴らの目的はなんだ…?)
真奥はこの殺し合いに【天使】が関わっているのではないかと予想するが…
(〜〜〜やっぱり、情報が足りねぇ…こりゃ、他の参加者との情報交換が必要不可欠だな…姫神についても知っているやつが要るかも知れねぇからな…)

(おそらく、芦屋は俺を優勝させようと考え、漆原は…勝ち馬ねらいだな)
真奥は、部下の動向を予測する。

(鈴乃はちーちゃんが殺されたことで俺らを様子見する意味がなくなったから、乗ってもおかしくない。エミリアは…殺し合いには乗らないが、俺を斬るべきか悩み中ってところかな?)
次に真奥は、エンテ・イスラでは、敵対していた2人の動向を予測した。

221魔王、A-6に立つ ◆Oamxnad08k:2020/08/15(土) 11:37:59 ID:wu1W38h60
☆彡 ☆彡 ☆彡

大方の考察をいったん終えると、真奥は先ほどの光景を想起する……
(反抗した坂本とかいう金髪ではなく、ちーちゃんを見せしめとしたのは、おそらく2つ…)
(反抗者を殺すことでは、行動を縛れない参加者がいること。そして、俺への挑発…!!)
ギリッ…!!と真奥は唇を噛む。

(ちーちゃんを殺せば、確実に俺やエミリアはゲームに乗らず敵にまわることは、わかっていたはず!)
(そうでなくても、ちーちゃんを殺させないために俺の行動を縛ることができた!つまりこの俺、真奥貞夫は【問題ない】という回答だということ…!!)

「なぁ、姫神…ちーちゃんの命を奪い、俺を舐めている罪は重いぜ?」

真奥の低く、冷たい声は大地と大気を激しく震わす……

☆彡 ☆彡 ☆彡

「さて…と、そろそろ動きますか」
真奥は着ていたマグロナルドの制服を脱ぎ、丁寧に畳むとデイバックへ収納する。
「お〜、本当に、無尽蔵に収納できる便利なバッグだな〜♪」
制服を無事に収納できたことに安堵する真奥。
「マグロナルドの制服は貸与制。業務に関係ない理由で破損させると弁償しなきゃならなくなるからな」

「よしッ!そんじゃあ、まずは、情報収集だな!へへッ!!見てろよ…お前ら含めてこの俺が支配してやるからなッ!!」

格好つけているが、今の真奥の服装は、Dとプリントされた黄色のTシャツにパンツ…
繰り返すが、Tシャツにパンツ…

「あー…とりあえず、服も調達しねぇとな…」

魔王の反逆が始まった!!

【A-6/断崖/一日目 深夜】

【真奥貞夫@はたらく魔王さま】
[状態]:健康 右ほほ腫れ 
[装備]:Tシャツにパンツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(本人確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神にケジメをとらせる
一.パレスについて知っている参加者を探す。ついでに服を調達するか…
二.坂本に会ったら、一発殴る
※参戦時期はサリエリ戦後からアラス・ラムスに出会う前
※会場内で、魔力を吸収できることに気づきました。
空間転移…同一エリア内のみの移動 エリア間移動(A6→A1)などはできない。
ゲート…開くことができるが、会場内の何処かに繋がるのみ。
魔力結界…使用できない。
催眠魔術…精神が弱っている場合のみ効果が効く。

222魔王、A-6に立つ ◆Oamxnad08k:2020/08/15(土) 11:45:23 ID:wu1W38h60
投下終了します。

◆2zEnKfaCDc様
アルカナ付けリスト確認いたしました。
それに従い、使用していきたいと思いますので、ご承認のほどよろしくお願い申し上げます。

223 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/15(土) 16:04:01 ID:HktWwrA60
投下お疲れ様です!
魔王様、やはり頼れる対主催。見せしめキャラの候補としてはマリア、イルル(メイドラゴン)、殺せんせー(暗殺教室)など結構迷っていましたが、その中でもはたらく魔王さま選んで良かったなぁと。竜司に対する感情はどうなるか気になっていましたが、行動の芯を理解しているからこそ、怨恨に走ることもせず、かといって水に流すでもない『一発殴る』という落とし所。そこは真奥の超越的存在らしさであり、人間らしさでもあるところなんだと思います。

それでは、私も投下します。

224僕たちの居場所 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/15(土) 16:05:28 ID:HktWwrA60
 聞いてない。これはさすがに聞いてない。

 確かに、移動手段として自転車を提示したのはこの私だ。
『取引』と称し、綾崎ハヤテにそれを提供する代わりに後部座席に乗せてもらうよう取り計らったのも、間違いなく私だ。この結末は概ね私の予測の通りに訪れたものである。

 なればこそ、この現状も甘んじて受け入れるべきなのか。或いは、これを予測できなかった私に非があるというのか。答えはどちらも否、だ。こんなのとても看過出来ないし、そして私は悪くない。

「何ですかこのスピードは!」

 真っ青になりながら、岩永琴子は声高に主張した。しかしその声も、デュラハン号が奏でる風切り音にかき消されてハヤテには届かない。ただし岩永が何かを発言したことだけはわかったようで、ハヤテはブレーキに手をかけてその場に制止した。キキキキキィと甲高い音を鳴り響かせながら急停止するデュラハン号と共に、岩永もまた自分の心臓が停止したかのように思えた。

「どうかしました?」

「どうかしているのはお前だ。」

 語調を荒くして咎める岩永。運転中に人格が歪む者は稀にいるが、運転してもらっている側の人格が歪まされるとはいかなる了見か。

「人を乗せてあのスピードで突っ走る奴があるか!」

「ええと……ほら、狙撃とかされたら嫌じゃないですか。」

「振り落とされて死んだら同じことです!」

 ハヤテとしては、一刻も早くナギを探したいところ。反面、探し人が不死身であるため自分の身の安全の確保が最優先の岩永。自転車、デュラハン号を提供する代わりに自分の保護を申し出ることで、反目する両者の目的は、しかし両立出来るはずだった。それなのに、自転車であるがゆえに危険に晒されるとはまさかの落とし穴だった。しかしそれは岩永の落ち度などではなく、スポーツカーさえもぶっちぎって突き進むハヤテの自転車操縦技術が規格外なのだ。

225僕たちの居場所 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/15(土) 16:06:06 ID:HktWwrA60
「ちゃんと掴まってたら大丈夫ですってば。」

 その言葉に、ようやく冷静さを取り戻した岩永はため息混じりに反論する。

「そもそも私としては、好きでもない殿方に身体を預けるのも不服でして。やむを得ないとはいえ、密着度は考えてください。」

「それなら大丈夫です。僕、子供はそういう目で見ないので!」

 しかしながら、藪をつついて蛇を出すことについて、ハヤテは天才的だった。

「誰が子供かっ!」

 怒りに燃え上がった岩永を前に、ハヤテはスミマセンを連呼することしかできなかった。

 結局ハヤテはデリカシー無しの烙印を押され、ハヤテの漕ぐデュラハン号の速度は岩永に配慮されたものとなる。

(本当はお嬢様を探すために飛ばしたいところだけど……)

 一刻も早くナギを見つけなくてはならないこの状況下、あえてスピードを落とさなくてはならない状況にハヤテはもどかしさを覚える。しかし、スピードを落としたとはいえ徒歩よりは格段に速い。岩永に支給されたデュラハン号を使わせてもらっているだけ時間短縮になっているのは間違いないのだ。

 かくして、何だかんだ押しに弱く巻き込まれ体質なハヤテが折れることによって取引は岩永の当初の想定通り、履行されることとなった。

「それにしても、人並外れた脚力ですね。」

 それから数分後。もう一度走行を始めたデュラハン号でハヤテの背に捕まりながら、岩永が口を開く。

「貴方の名前の通り、疾風(はやて)の如きスピードとでも言いましょうか。」

「親も、そう願っていたみたいですよ。」

「親、ですか?」

 スピードを願う親、という言葉の咀嚼が間に合わず、岩永は尋ねる。

226僕たちの居場所 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/15(土) 16:06:49 ID:HktWwrA60
「僕の名前の由来です。借金取りから疾風の如く逃げられるように……って。」

「……それは、難儀なものですね。」

「まあ、去年のクリスマスに子供に1億5000万の借金を押し付けて逃げた親ですから。」

 ハヤテは、アッサリとした――されど、どこか苦々しさを含んだ笑みを浮かべた。位置的に岩永には見えなかったが、それでも声のトーンからそれは痛々しいほどに伝わってきた。

「心中お察し致します。」

「いえ。むしろ感謝してるのもあるんですよ。どうしようもない親でしたけれど、そのおかげで、今の僕には居場所があるんです。」

「居場所……察するに、それがあなたの言う"お嬢様"というわけですか。」

「はい。親に売られ、借金取りに追われ、どうしようもなかったあの日。それでも助けてくれた人がいたんですよ。」

 そして、ハヤテは語る。誘拐しようとしていたにもかかわらず借金を肩代わりしてくれた上に、執事として雇ってまでくれたお嬢様についての大まかなエピソードを。

 それを聞き終えた岩永は、ハヤテの焦燥に合点がいったように思えた。いくら執事だからといって、このような無法の地では雇用主のことより自分のことを優先してもおかしくはない。だが、雇用主が恩人であり、心から大切な人であるならば、そのスタンスにも理解できると言うものだ。

(九郎先輩も、これくらい私を躍起になって探してくれていればいいのですが。)

 不意に生まれた考えを振り払う。この辺りについて考え始めるとろくな思考にならないだろうからだ。

「まあいいでしょう。もう少し、スピードを上げても構いませんよ。」

「本当ですか?ㅤ助かります!」

 そのお許しが出るや否や、ペダルを踏み込んでぐんと加速するハヤテ。突然の譲歩の理由は、お嬢様への熱意が伝わったからだろうか。

「あなたのためではありませんよ。」

 ハヤテに生まれたそんな考えを、岩永はツンデレっぽく否定した。

「昔から、人の恋路を邪魔するものにはとんだ報いがあると言うじゃあないですか。」

 岩永のような理性的な人物が語るには、何とも言い訳がましい答え。しかしそれは素直になれないなどの事情ではなく、れっきとした岩永の本心だった。

227僕たちの居場所 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/15(土) 16:07:43 ID:HktWwrA60
 けれど、その本心の在り処よりも、無視できない単語がハヤテにはあった。

「ありがたいですけど……でも恋路とは違いますよ。僕はお嬢様の執事ですから。」

「おや、違いましたか。今の話を聞くにてっきりそういうことなのだと思いましたが。」

「まさか。それにお嬢様はまだ13歳ですよ?ㅤ先ほども言った通り、子供は恋愛対象として見たりはしませんよ。」

 そうですか、と岩永は冷めた態度で返す。そして、考える。ハヤテの話を聞いた限り、ハヤテ側の感情がどうであれナギの側は恋愛感情で動いていたのではないか。1億5000万となると、仮にも岩永家の令嬢である自分にとっても結構な額だ。幾ら規格外の大金持ちといえど、なんの感情も向けぬ相手に払えるものなのだろうか。

 そうすると、ハヤテを巡る人間関係は面倒なものになっていそうなものだが、そこに確証もなければ、仮に真実であってもそれを突き付ける意味は無い。だからこそ、岩永は何も言わなかった。ボタンのかけ違いを直すのは、殺し合いを終えてからにしてもらうとしよう。

「とにかく、地図によると間もなく『純喫茶ルブラン』というところに着くみたいですよ。寄ってみますか?」

 ハヤテと岩永は、ひとまず目的地を『負け犬公園』に定めていた。ハヤテとナギが初めて出会った場所であり、黙示的な待ち合わせにはこの上ない場所であるからだ。だからこそ、負け犬公園以外の場所は寄り道となる側面が大きい。

「はい。お嬢様がいるかもしれません。」

 しかし、ひきこもりがちで体力の無い彼女。途中でどこかで休んでいたり、出るに出られなくなっていたりする可能性も充分ある。地図に載っている施設くらいは調べる時間を割いてもいいかもしれない。

 二人は、純喫茶ルブランをひとまずの目的地に定めることを決定した。





 一方その頃。純喫茶ルブランにいち早くたどり着いていた者がいた。新島真――怪盗団のためにその手を汚すことを決意した怪盗団のブレインだ。すでに一人をその手で殺害しており、そのザックの中には二人分の支給品を有している。

 人を殺した今、もはや元の日常には完全には戻れないと分かっていながらも、純喫茶ルブランを訪れる、たったそれだけで日常に戻ったかのような気分になった。その風景が、現実のものと全く差異が見つからなかったからだ。しかし全身に纏った怪盗団の格好が、これが非日常であることをこの上なく訴えかけてくる。

(まだ、誰も来ていないみたいね。)

 真は迷わず階段を登っていく。怪盗団のリーダー、雨宮蓮の居候先であるルブランの2階の屋根裏部屋は、今や怪盗団のアジトである。皆で集まって脱出のための作戦会議を開くとしたら、地図に載っている範囲ではここしか有り得ないだろう。しかし偶然自分だけがルブランに近い位置に転送されていたのか、まだ誰も集まってはいないようだ。しかし遠からず、皆は集まってくると思う。その時までになるべく、支給品や食料は他の参加者を殺してでも貯めておきたいところだ。生き残ってほしいのは、怪盗団だけなのだから。

 そして、支給品はまだしも食料は時間が経つにつれてそれぞれの参加者が消費していく。真のスタンス上、動くのならば早いに越したことはないのである。

228僕たちの居場所 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/15(土) 16:08:21 ID:HktWwrA60
 しかしここで、もう1つの問題が出てくる。先ほど殺した少年、影山律の支給品を持っている理由だけならばまだ誤魔化せる。メメントスを徘徊する死神、刈り取るものと律が戦っていたのは事実であるし、刈り取るものに殺された律の支給品を貰ってきたと言えば疑う者もおそらくはおらず、刈り取るものと遭遇するであろう他の人物との情報交換においても矛盾は起こるまい。だが、何人分もの余分な支給品を自分が持っていて、それを怪盗団の仲間に提示する時、一体何と説明するのか。偶然その死に立ち会った、というには不自然が過ぎる程度の人数は殺すつもりでいるのだ。

(その時は……"彼"に被ってもらうのも悪くないかもしれないわ。)

 名簿によると、この殺し合いには明智吾郎も参加している。彼ならば殺し合いに積極的であってもおかしくはないし、その認識は怪盗団内で共有できる。明智に襲われたところを返り討ちにしたら、これだけの人数分の支給品を持っていた、というシナリオはなかなかに都合がいいのかもしれない。何より、明智を殺したならばもう1つ特典がある。元の世界に戻ってから、蓮が命の危険を冒してまであの作戦を決行する必要が無くなるではないか。

 そのためには、明智は殺さなくてはならない。彼が彼自身の罪を怪盗団に被せようとしていたように、今度は私の罪を彼に被ってもらおうじゃないか。

(……私の罪、か。)

 怪盗団は悪人しか狙わない、そしてターゲットは全会一致というのが大原則だ。そのどちらのルールにも当てはまらない自分の行いは、怪盗団の活動でもない、ただの自己本位的な殺人である。もちろんパレスの中での出来事だから、法によって裁かれることも無い。

(もし私の行いが彼らにバレたなら、次に"改心"させられるのはこの私かもしれないわね。)

 かつて対立し、会心に至らせた金城潤矢も、心の底は自分の地位を守りたいだけの男だった。そんな彼と今の自分、いったい何が違うというのか。

(いいえ……私とカネシロは全く違うわ。これは状況的に緊急避難。仮にここでの行いに司法が適応されるとしても、違法性は阻却されるはずよ。)

 検事である姉の影響で多少の知識を取り入れている真は、そうやって自分に言い聞かせながらもまだ怪盗団に相応しい人物でありたいと思った。そのためにも、この殺人は彼らにバレたくはないと思った。

229僕たちの居場所 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/15(土) 16:09:08 ID:HktWwrA60


――チリンチリン。

 その時、階下から扉が開いた時に鳴る鈴の音が聞こえてきた。

 怪盗団の誰かか、と思ったがすぐにそれとは違う声も聞こえてくる。

「お嬢様ー!ㅤいらっしゃいませんかー?」

 こっそりと覗いてみると、顔は見えないが人影は二人分見受けられた。その言葉の内容や、二人で行動しているところから見ても、殺し合いに乗っていないことは分かる。

 最終的には死んでもらうが、とりあえずは情報交換をしてからでも遅くはないだろう。

「……残念だけど、ここには私しかいないわ。」

 真はこの場で不意打ちをせず、堂々と出ていくことに決めた。

 そもそも相手の実力は未知数だ。ペルソナがあるとはいえ、1対2で勝てる相手かは分からない。

 そして、パレスで作られた認知の建物とはいえ、怪盗団のアジトであるルブランを血で汚すことへの躊躇いも少なからずあったのだろう。

【E-5/純喫茶ルブラン/一日目 黎明】

【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:デュラハン号@はたらく魔王さま!
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:お嬢様を守る
一.たとえ、この命にかえても。
二.負け犬公園へ向かう道中、純喫茶ルブランに立ち寄る

※ナギとの誤解が解ける前からの参戦です。

【新島真@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:アーザードの聖法衣@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0〜3) 影山律の不明支給品(0〜1) さやかのバット@魔法少女まどか☆マギカ マグロバーガー@はたらく魔王さま!×2
[思考・状況]
基本行動方針:心の怪盗団のメンバー以外を殺し、心の怪盗団の脱出の役に立つ。
1.双葉……頼んだわよ……。
2.明智を見つけたら、殺して自分の罪を被ってもらおう。

※ニイジマ・パレス攻略途中からの参戦です。

【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康 義眼/義足装着
[装備]:怪盗紳士ステッキ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:秩序に反する殺し合いを許容しない
一.不死者を交えての殺し合いの意味は?
二.九郎先輩と合流したい。
三.負け犬公園へ向かう道中、純喫茶ルブランに立ち寄る。

※綾崎ハヤテと三千院ナギの関係について大体を聞きました。

※鋼人七瀬を消し去った後からの参戦です。

230 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/15(土) 16:09:51 ID:HktWwrA60
投下完了しました。

231名無しさん:2020/08/15(土) 22:55:57 ID:.0qiA1b60
投下乙です。
ルブラン周りは一気に話の焦点になってきてこれはいいですね。
関わりのある話も面白いの多くて。

232 ◆Oamxnad08k:2020/08/16(日) 23:38:21 ID:iBMzze760
投下お疲れ様です。

僕たちの居場所
ハヤテのこぐ自転車のスピードを予測できてなかった琴子の心情は、絵面が浮かび、笑みがでました。
そして、デリカシー無しの烙印を押されたハヤテ…一刻も早くナギを保護したい思いが裏目にでなければいいですね…
最後にクイーンとの邂逅…これは、続きが気になります。(推理的な意味でも)

続きが気になるといえば、◆2zEnKfaCDc様の案の中の見せしめに殺せんせーが選ばれるバージョンは個人的に気になりました。
機会があればIFストーリーとしても読んでみたいと率直に思いました。

高巻杏・上井エルマで予約します。

233 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/17(月) 02:55:12 ID:4Yc/9d/o0
>>231 >>232
感想ありがとうございます。ルブランはペルソナ5由来の施設として大して迷わずに選んだのですが、恥ずかしながら「心の怪盗団のアジトである」って視点が竜司登場話を読むまで抜けてたんですよね……💦

ハヤテ岩永登場話で書ききれなかった密着度のくだりや目的地の設定、登場話での掘り下げが甘くてリレー先の書き手の方が迷いそうな「マーダーであることを怪盗団に対して伝えるかどうか」のくだりなど、元々の続きや補完の側面が大きい自己リレーでしたが、それでも登場話というキャラクター紹介を兼ねた話を踏まえた上で、その後の動きが中心となる話を書くのは登場話とはまた違った楽しみがありますね。ちょうど杏とエルマで全参加者の登場話が出揃うので、これまで書いてくださった書き手の皆さんも、これまで読み手だった皆さんも、是非ともリレーしてみませんかと宣伝しておきますw

それでは影山茂夫、狭間綺羅々で予約します。

234牝豹と竜 ◆Oamxnad08k:2020/08/18(火) 07:47:07 ID:0yf1wsJU0
完成したので投下します。

235牝豹と竜 ◆Oamxnad08k:2020/08/18(火) 07:48:44 ID:0yf1wsJU0
「…竜司」
憂鬱そうな表情で歩くスタイル抜群の女性…
その歩き方は、殺し合いという場ではなくパリで開催されるパリコレが相応しいと100人中100人が答えるだろう…
女性の名は高巻杏。
心の怪盗団のメンバーでコードネームは【パンサー】
中学からの親友である鈴井志帆がバレー部顧問鴨志田により自殺未遂を起こす。
その怒りからペルソナに目覚め、鴨志田を断罪した後、怪盗団の一員として心が歪んだ人の改心を行っていた。

パレスに送られた杏は支給品を素早く確認した。
中身はマシンガンと緑色のBB弾らしきもの。
マシンガン自体は使い慣れているので、問題ない……
しかし、撃つ標的がペルソナではなく、【人】だということ――――

杏が想起するのは竜司と姫神のやり取り――――

「何でだ……ちくしょう!!」

「これは君が招いた結果だよ。……君の正義が人を殺した。」

竜司の行動が結果として自分と同年代に見えた少女の命が奪われた……
「自暴自棄になってなければいいんだけど…」
竜司を気遣いながらも、杏は体をブルッ!と震わせる……
「…死ってこんなに恐ろしいものなんだね…」
今までも改心させる過程の中で死の危険はあった。
それでも、乗り越えられてきたからこそ【少女の死】は杏の心に暗い影を落とす―――

「なんだい。立ち向かうこともできなくなってしまったのかい?」

そう言いながら姿を現したのは杏のペルソナ「カルメン」―――
「…違うよ、カルメン。ただ、パレス内での殺し合いなんて、歪みすぎているなと思っただけ…」
パレスとは、歪んだ欲望が具現化した世界―――つまり、このようなパレスを作りだせる人物の精神は相当の歪んだ欲望を持っていること…
杏はそう言いながら、支給品のマシンガンを抱くように握る……
「じゃあ、お前はこのまま歪みに怯えて死を迎えるのかい?」
「…いいえ、カルメン」

「…もう我慢はしないって決めたの!私は姫神を許せないッ!好きにやらせてもらうんだからッ!」

杏の決意―――
「安心したよ…そう、我慢なんかしていても、何も解決出来ない。忘れてないのなら、力をかしてあげる」
カルメンは微笑むと姿を消す。

☆彡 ☆彡 ☆彡

236牝豹と竜 ◆Oamxnad08k:2020/08/18(火) 07:49:27 ID:0yf1wsJU0
「…え?あれは…」
決意完了をした杏の視線の先に、人が倒れていた。
「ッ!?大丈夫ですか!?」
急いで、駆け寄る杏。
倒れている女性はOLだろうか。
髪の色こそ暗い紫色だが、スーツに眼鏡をかけていた。
「ねぇ!しっかりして!」

「お…」
「お?」

「お腹が空いて、動けない…」

女性の告白に続き…ぐぅぅぅぅぅ〜〜〜〜
腹ペコな音が鳴り響いた。

「よかったら、これ食べて下さい」
そういうと、杏は自分のデイバックから取り出した食料のパンをエルマに差し出した。
「え…でも、それでは、人間さんが困るんでは…?」
よろよろと立ち上がる女性は遠慮がちに尋ねる…

「遠慮しないでください。困ったときはお互い様ですよ」

ピロピロリン♪ ♪ ♪

「で…では英気を養うためにもご好意に甘えて…」
エルマは杏が差し出したクリームパンを手に取り…

ハム

「あああああ♪やっぱり、クリームパンはおいしい…ほっぺたおちる幸せぇ…!!」

エルマは至福の時を過ごし…

「ありがとう!…ありがとう!人間さん!!おかげで元気がでた♪この御恩は忘れないぞ!」

エルマは杏の手を握り、何度も頭を下げ、感謝を述べる。…が
「…あの、それ…」
「ん?」
杏が指さす方向は自分の頭…
そう。余りの空腹からのおいしい食事で喜びのあまり、隠していた角と尻尾が露わとなっていた!
「それに、パンを差し出したときもそうだし、【人間さん】と言ってたよね?…どういうこと?」
杏の鋭い目線…
「あッ!?いや…それは…その…」

☆彡 ☆彡 ☆彡

237牝豹と竜 ◆Oamxnad08k:2020/08/18(火) 07:50:08 ID:0yf1wsJU0
「それじゃあ…エルマさんはドラゴンなのね」
「…ああ。そして私は勢力でいうと、【調和】に属しているんだ」
隠しきれないと見たエルマは正直に自分の正体を伝えた。

ドラゴンには大きく3つの勢力が存在する。

秩序を重んじる【調和勢】 破壊と支配を望む【混沌勢】 組することなく群れもしない【傍観勢】

エルマは調和を重んじる調和勢に属している。

「杏さん」
「はい」

エルマは真剣な眼差しで杏を見つめる…

「本来、ドラゴンは世界の秩序を乱すから、人間の争いには干渉をしないんだ…」

「だが、姫神のこの企みは、調和を著しく乱す行為でとうてい看過できない!」
ギリッ…歯を食いしばるエルマ――――
「…悔しいが、姫神による妨害か、本来の姿に戻ることができないし、魔法も制限されている…」
「それでも、私は世界のバランスを取りもち導きたい!!どうか!私と協力してくれないかッ!!!」

エルマの熱い想い――――

「…」
杏は目を瞑り…カッ!と見開くと――――
「もちろん!私も姫神は許せない!あのとき私は決意した!志穂をあんな目に合わせた鴨志田のような奴らを改心させると!!」
「エルマさん!私からもお願いします!!私たち…心の怪盗団と協力してくださいッ!
杏の熱い想い―――――

238牝豹と竜 ◆Oamxnad08k:2020/08/18(火) 07:54:08 ID:0yf1wsJU0
我は汝…汝は我…
汝、ここに新たなる契りを得たり
契は即ち、
囚われを破らんとする反逆の翼なり
我【月】のペルソナの生誕に祝福の風を「ぐぅぅぅぅぅ〜〜〜〜」ならん…

《……》

「えッ!?」
またしても鳴った予想外の音に戸惑う杏。
「〜〜〜〜〜!!」
カア カア カア カア……
顔を火山の如く赤くしているエルマ…

《…え?わざと?わざとなの?》

天の声が聞こえたかのかエルマは反論する。
「そ…そんなわけあるか!!その…太る=身体が大きくなる(闘いに強くなる)だから仕方がないだろッ!!」

《カレーは飲み物じゃないんだぞ?》

シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!

コープのランクが3に上がった!
エルマが「エルマの応援」・「エルマの本気応援」をしてくれるようになった。
「さっきからごちゃごちゃうるさいぞ!天の声さん!!」
エルマは足をジタバタと大地を踏む…

《ピザでも食ってろ》

「…コホン。とにかくだ!私は杏さんの力となろう」
気持ちを落ち着かせたエルマは改めて杏に伝え、
やり取りを眺めていた杏は口元を弛ませ…

「杏でいいわ。共に戦う仲間に遠慮はしないで♪」
「なら、私もエルマで良い!共に戦う仲間だからなッ!」

「…わかったわ!頼りにするわね、エルマ!!」
「…ああ!よろしく頼む!杏!!」

ピロピロリン♪ ♪ ♪

互いに絆を深め…杏は提案する。
「それじゃあ、喫茶店ルブランにいきましょ!食材を調理できると思うから、アジトに最適よ♪」
「おお…!!それは、賛成だ!!」
エルマは目を輝かせる。

「見てなさい姫神!あんたの心!!いただくから!!」

牝豹と竜の殺し合いへの反逆の炎が燃え上がる!!!

【C-6/草原/一日目 深夜】

【高巻杏@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:マシンガン※対先生BB弾@暗殺教室
[道具]:基本支給品(食料小) 不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を改心させる
一.島にあるであろうパレスの主のオタカラを探し出す
二.食料確保も含め、純喫茶ルブランに向かう
三.怪盗団のメンバーと合流ができたらしたい
※エルマとのコープが3になりました。
※参戦時期は竜司と同じ9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。
※杏はパレスということから、オタカラがあるのではと考えています。

【支給品紹介】
【サブマシンガン※対先生用BB弾@暗殺教室】
本来は人体には無害のBB弾だが、パレスの効力により対先生ナイフと同じく、本来は持っていない殺傷力を有する。
杏はBB弾でも殺傷できることを理解している。

【上井エルマ@小林さんのメイドラゴン】
[状態]:健康 空腹(小)
[装備]:レテの斧@ペルソナ5
[道具]:基本支給品(食料なし) 不明支給品(1〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神の殺し合いを阻止する。
1.調和を乱す姫神は許さん!…あ、お腹が空いた…
2.トール・カンナと出会えたら、協力を願う
3.小林さんに滝谷さんに出会ったら保護する
姫神により全身ドラゴン化や魔法が制限されていることを把握しています。
※参戦時期はトールと仲直りした以降。
※杏とのコープが3になりました。以下のスキルを身に付けました。
「エルマの応援」エルマと絆を結んだ者は身体能力がほんの少しだが、底上げされる。
「エルマの本気応援」エルマと同行中している限り戦闘中、経験値が上昇する。(相手の技を見切るなど)

【支給品紹介】
【レテの斧@ペルソナ5】
上井エルマに支給された斧。ガンカスタムが施されており、「中確率で忘却付着」の効果が付いている。

239牝豹と竜 ◆Oamxnad08k:2020/08/18(火) 07:54:19 ID:0yf1wsJU0
投下終了します。

240 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/19(水) 15:09:35 ID:KR47evnI0
投下お疲れ様です!
そして同時に、これで全参加者の登場話が出揃いました。携わってくださった書き手の皆様と、それを支えて下さる読み手の皆様に感謝します🙏

三日分の食料が支給されていても確かにエルマには足りないよなぁ……それにしても登場話で食べ尽くすとは……!杏の食料にまで手を出してるの、真が聞けばぶち切れそうですねw
ところでコメディ描写で薄れてる感じもしますが、この2人、戦力的にはトップクラスの対主催コンビですね。パロロワの強武器枠であるマシンガン持ちの杏に、そもそもがトールと互角な上に斧持ちのエルマ。他の強キャラであるまどマギ勢や影山茂夫も魔女化したり暴走したりの危険性があることを考えれば、安心感の面では最強コンビかもしれない。
そしてノワールの武器、もはや出すという発想自体薄れてましたが、考えてみればエルマってオノ持ってても自然に映る数少ないキャラでしたね。彼女の三つ又の槍の行方やいかに。

241 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/20(木) 01:13:20 ID:ryNcve/.0
そういえば>>232への返信、不完全でしたね

殺せんせーが見せしめのif、本編進めたいのもあっておそらく書くことはないと思いますが、内容を大まかに書くなら
ヒナギクではなく茅野視点で暗殺教室勢を揺さぶらせると同時に、姫神に「これで300億は僕のものかな?ㅤまあ、そんなはした金いらないけどね」みたいなこと言わせて『三千院家の財産がすでに手中にあること』『参加者の事情が知れ渡っていること(本編では心の怪盗団の名前を出すことで代用)』を醸し出そうかな、と。
ただ、やっぱり見せしめの効果としては人の方が絵面がエグいかなってのと、「君の正義が人を殺した」って台詞を使いたかったのでお蔵入りとなった次第ですw

242 ◆Oamxnad08k:2020/08/21(金) 15:50:28 ID:WmYQXQEs0
お忙しい中、ご丁寧に回答ありがとうございます!
大まかでも書いていただきありがとうございました。脳内イメージができ、すごい有りがたかったです!

わかります!使いたい台詞が浮かんだら優先して書きますよね。
「君に正義が人を殺した」の台詞は、読んでいておおっ!ときました!

感想ありがとうございます。

牝豹と竜
そうですね!真が知ったら鉄拳制裁ですね(笑)
実はエルマに装備させる他作品の槍が少し、思いつかなかったので、代用品としてノワールの武器の斧にしたんです。
でみ、他の方にも自然に映ったようで安心しました。
そうですね、エルマの三つ又の槍は他の参加者の支給品にあると信じています!

三千院ナギ・モルガナ・初柴ヒスイで予約します。

243 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/21(金) 21:18:16 ID:bQEjb1g20
投下します。

244泡沫の青春模様 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/21(金) 21:19:05 ID:bQEjb1g20
 星空が綺麗な夜の山を男女で下る。それはまさに、青春の1ページと言わんばかりの絵面で。殺し合いなどを命じられていなければ、きっと何ものにも変えがたい思い出となっていたに違いない。

 その男の側、影山茂夫はふと思った。霊幻師匠の、後に松茸狩りに変わるツチノコ狩りに動員されたり。心霊スポットに出向き、悪霊でもない良い霊を除霊することになったり。正直なところ山にはあまりいい思い出がない。だけど、前者は後で食べさせてもらえた松茸が美味しかった。後者は、見方を変えれば職業意識の高い霊幻師匠が仕事より自分の気持ちを優先してくれた貴重な体験だったとも思う。
 非日常の要素――殺し合いなどという不安など、胸の奥に一欠片も存在しない、ただ流れていくだけの日常。たったそれだけでも、幾分かは幸せなことだったんじゃないか、と。

「……ってことを……ハァ……思ったんだけど……ゼエ……どうかな……。」

 浮かんだ考えを、たどたどしくもアウトプットする。

「それ、ネガティブなのかポジティブなのか分からないわね。でも、一理あるわ。」

 そして女の側、狭間綺羅々も同じく考える。E組として毎日登らされて、嫌というほど憎んで呪ってきた山だけれど、こうして殺し合わされるという奇怪な環境で再びこの地に降り立ってみれば、何だかんだ、暗殺教室という要素を抜きにしてもこの地への感情はそれらばかりでもないのだとも思える。現状、茂夫とともにこの校舎を離れることにどこかもの寂しさを覚えている自分がいるのだ。

(腐っても母校とでもいうのかしら。くだらないわね。)

 そんな感覚を一瞥、吐き捨てる。どこで泳ぐかではなく、どう泳ぐか――暗殺教室で教わってきたその答えを肯定するにしても、それでもE組の校舎は環境としては泳ぎたくないことこの上ないものだった。殺せんせーが来ていなければ、何も得られず、ただ劣等感だけを植え付けられる1年を過ごしていただろう。だから、感謝すべきは殺せんせーであり、この土地ではない。そう思っていたけれど、どうも感情というものはそう単純化できるものでもないようだ。

245泡沫の青春模様 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/21(金) 21:19:47 ID:bQEjb1g20
「っていうか……」

 綺羅々はチラリと背後に目をやる。

「ハァ……ハァ……ゼエ……ゼエ……」
「……あんた、本当に運動はからっきしなのね。」

 息も絶え絶えになりながらも、茂夫は綺羅々の後ろを何とか着いて来ていた。さすがに見ていられなくなって、綺羅々は歩く速度を半分程度まで落とす。

「一応……肉改で……ハァ……鍛えては……ゼエ……いる……はずなんだけれど……」
「肉塊……?」

 豊富なボキャブラリーを有する綺羅々の辞書を以てしても理解が追いつかない単語について尋ねると、『肉体改造部』と、これまた辞書にないことばが返ってくる。さらに、『"脳感電波部"と部室をシェアしている』などという追撃までもが備えられた。

「……よく分からないけど、つまるところそういう部活なのね?」
「……ゼヒュー……ゼヒュー……うん…………」

 歩く速度を落としても、会話よりも呼吸の方が多くなってしまっている茂夫。その姿に多少の危機感と、結構な罪悪感を覚えた綺羅々は提案する。

「まあいいわ。水場まではまだあるけど、少し休みましょ。」
「う、うん……」

 その提案に、渡りに船とばかりに乗る茂夫。他者との接触のリスクを減らすため、脇道に逸れて座り込んだ。

 そして、訪れる静寂。厳密には、茂夫の息切れの声のみが漏れる。とりわけ話題もなく、両者ともに沈黙を苦とする性格でもない。

 綺羅々から見ての茂夫は、普段つるんでいる寺坂グループとは少し違うタイプの男子であるし、茂夫にすればタイプに関係なくほぼ初対面の女子でたる地点で緊張する。必然的な到来から、その静寂は数分間にもわたり、休憩を終えて再び歩き始めるまで続いた。それも、「そろそろ行きましょ」「うん。」というこの上なく事務的な会話である。

(これは良くないわね。)

 立ち上がり、茂夫に合わせた速度で歩きながら綺羅々は思う。確かにディスコミュニケーションのまま過ごすのも苦痛ではなく、悪いばかりではないのだが、何せここは殺伐とした殺し合いの世界だ。ちょっとした連携の行き違いが、容易に死を招く。そして、連携の鍵となるのは何か。もちろん、構成員の基礎体力でもあるだろうし、少なからず運もあるのだろう。しかし、欠かせないのは相手への理解だ。日常を共にし、コミュニケーションを交わしてきた積み重ねがあるからこそ、理解を元にした連携をとる事ができる。これまで幾度となく窮地に陥ってきたE組がそれを潜り抜けてこれたのは相互理解があったからに他ならない。

246泡沫の青春模様 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/21(金) 21:21:59 ID:bQEjb1g20
「……ねえ。」

 そして、コミュニケーションの大切さについての理解を有しているのが自分であるならば、会話のとっかかりも自分からであるべきなのだろう。

(私にこんな気を遣わせるなんて……呪うわよ、姫神。)

 内心でどこか舌打ちする綺羅々。しかし理由はどうであれ、会話の糸口を探し出すその様相はまさに、恋する男女の描く青春模様のそれのよう。

「『蠱毒』って知ってるかしら?」
「ううん。知らない。」

 会話の引き出しの少ない綺羅々がすぐにでも引っ張り出せるものといえば、やはり呪いであった。

「古代の中国で使われた呪術の方法よ。毒を持った虫を百匹ほど同じ容器に放り込むの。」
「えっ、そんなことしたら……」
「ええ、その通りよ。」
「虫がいっぱいで気持ち悪い……」
「前言撤回。その通りじゃなかったわ。」

 やっぱズレてるわね、と綺羅々は可笑しそうに笑う。

「殺し合うのよ。理性のない虫だもの。そして、いちばん強い毒を持った虫が生き残る。」

 まるでこの世界みたいじゃない?ㅤと、他人事のように綺羅々は呟いた。笑えないくらいに自分たちが直面していることではあるけれど、少なくともこうして見知らぬ男の子と、見慣れた景色で日常の延長を過ごしている現状を鑑みれば、やはり殺し合いなど他人事なのだ。

「でも私たちは虫と違う。こんな『容器』ごときで簡単に殺し合ったりしない。」

 トントンと首輪を突っつきながら言った。虫ならば、容器に入れるだけで共食いを始めるかもしれない。人ならば、首輪という恐怖で脅せば、或いは乗る者もいるかもしれない。しかし、1年間を通じて『殺す』ということと向き合ってきたE組を従わせるには、あまりにもぬるい。

「そうだね。」

 そして綺羅々が1年間、力の使い方と向き合ってきたと言うのであれば。

「首輪の爆発は確かに怖い。だけど、僕が超能力を使って誰かを殺して、今までの僕じゃなくなっちゃう方がもっと怖いよ。」

 茂夫は、生まれてこの方、常に自分の力と向き合ってきたのだ。超能力――その言葉は比喩でも何でもない。殺せんせーのように超スピードで誤魔化しているでもなく、実際にものが浮き上がるのを見せて貰った。一般にファンタジーだと言われてきた超能力の存在に、驚くしかなくて。こいつが殺し合いに乗るような人間でなくてよかったと思わざるを得なかった。

247泡沫の青春模様 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/21(金) 21:22:39 ID:bQEjb1g20
「……超能力といえば。」

 そんな回想を思い巡らせていると、唐突に疑問が浮かんできた。

「あんた、わざわざ走らなくても自分を浮かせて移動したりはできないの?」
「できなくはない、けど……」

 茂夫は考え込むような仕草を見せる。

「自分を変えたいんだ。今まで超能力に頼ってきて、走るのとか遅いし……超能力でできないこともいっぱいあるから。」
「ふーん……」

 答えになっているようで、なっていない。その矜恃はこんな非常事態にも適応すべきものなのか、上手く活用できれば超能力である程度は『何でも』することもできるのではないか、疑問は尽きない。だけどその目から、簡単に否定していい類のものではないことも分かる。

「つまり馬鹿なのね。」
「ひどい。」

 表情は崩さぬままに、ショックを表現する茂夫。それを横目に、まさに魔女のように笑う綺羅々。

「でも、馬鹿は嫌いじゃないわよ。だって私たちの憧れる青春って、結局は馬鹿なことに集約されるものじゃない?」
「それ、似たようなことをトメさんも言ってた。」
「トメさんって誰よ。」
「脳感電波部の部長さん。いつも部室でお菓子食べてゲームしてる人なんだ。」
「……なんか、一緒にされたくはないわね。」

 星空の下の語り合い。安易に恋愛模様とも言い難い、何かしらの感情が二人の中でそっと芽生える。それは絆か、それともまた別のものなのか、その答えはまだ分からない。分からなくとも、或いは十年も経ってみれば気付くのかもしれない。


――けれど。

 破滅の時は、刻一刻と近付いてきている。


――定時放送。

 いつかと同じように、家族の死を突きつけられることがすでに確定している。そして今度は偽装などではなく、確かな、不可逆的な死。

 破滅を回避する何かを、この邂逅は生み出すことができるのか。それとも――


【モブ爆発まで3時間】


【A-4/水場付近/一日目 深夜】

【狭間綺羅々@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3(本人確認済) チョーク2本(現地調達)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。正当防衛くらいはする。
一.殺せんせーだったら姫神って奴にも手入れするんでしょうね。
二.無理しないルート通ってあげないと。

※わかばパークでのボランティア以降の参戦です。

【影山茂夫@モブサイコ100】
[状態]:疲弊気味
[装備]:対先生BB弾@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済) チョーク2本(現地調達)
[思考・状況]
基本行動方針:力を人に向けてはいけないと姫神に教えたい。
一.大きな力は人に向けたらいけないのに……。
二.下山まで体力持つかな……。

※ショウによって偽装された遺体を見せられ、家族の生存を確認して以降の参戦です。

248 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/21(金) 21:25:14 ID:bQEjb1g20
「書き込む」タップする直前に気付きましたが手遅れ……
状態表のとこの時間帯、深夜ではなく黎明に訂正します><

以上で投下完了です。
そして鷺ノ宮伊澄、明智吾郎、遊佐恵美、小林さんで予約します。

249 ◆Oamxnad08k:2020/08/22(土) 18:30:50 ID:ZqNwzNq20
投下お疲れ様です!

泡沫の青春模様
「肉体改造部」と「脳感電波部」という直ぐに理解できないパワーワードの部活ですよね(笑)
やはり、狭間さんでも一瞬で理解できないとは、恐るべし……
モブとの関係を深めるために気をつかう狭間さんにクスリときました。
そして話題が「蠱毒」なのが、狭間さんらしくてもう絵面が想像できます!
そうですね…確実に起きる放送イベント…果たして2人の「青春」がどうなるのか、要注目しちゃいます。

完成したので投下します。

250理想と現実はちがうけどできるだけ理想に近付きたい ◆Oamxnad08k:2020/08/22(土) 18:34:12 ID:ZqNwzNq20
「う〜む…」
悩み声を上げながら歩くナギ。
「どうした?ナギ。悩み事か?」
モルガナはナギに話しかける。
「なぁ、モルガナはサイボーグじゃないんだよな?」
「おいおい…さっきも言ったが、ワガハイは【人間】!サイボーグじゃないっての!!」
モルガナは語尾を強めながら答える。

「そうか、サイボーグなら、サイボーグク○ちゃんにあやかってキッドでもよかったんだが、そうなると…」

どうやら、モルガナの呼び名について悩んでいたようだ……
「ワガハイの呼び名について迷っていたのか…心配させるなよ…」
ナギの悩みの正体がわかり、ため息をつくモナ―――

「タマ…ジジ…バロン…カ○ン様…ジ○ニャン…ううむ、しっくりとこないな」

何やら色々な名前を挙げるが、しっくりとこないようだ……
「決めた!…モナはどうだ?」
「…まぁ、仲間もワガハイのことをそう呼んでいたから、それで構わねーよ」
「うむ!われながら良いネーミングセンスだ!」
モルガナの返事を聞かず、一人、納得して満足しているナギ。それを眺めるモルガナ……

(やれやれ、ナギは見たところ、本当に戦う力を持たない一般人みたいだな…まっ!取引をしたんだ。ちゃんとワガハイが守ってやらないとな…)
モルガナは【取引】を重んじる。改めてナギを守る決意を固める。
「おーい、どうしたモナ?」
心配したのかナギはモルガナの顔を覗く。
「ん?いや、なんでもねーよ」
「そうか…でも、困ったら遠慮なく私に頼れよ!」
胸にドンと手をつくナギ。
「…へいへい、わかったよ!」
その姿にモルガナは苦笑する。

☆彡 ☆彡 ☆彡

251理想と現実はちがうけどできるだけ理想に近付きたい ◆Oamxnad08k:2020/08/22(土) 18:35:57 ID:ZqNwzNq20
「ここは…工事現場のようだな」
2人がたどり着いたのは、真倉坂市工事現場。
立てかけられたH型の鉄骨やコンテナなどが無造作に置かれている……
「おい!…大丈夫かナギ」
工事現場の異様な空気にそわそわするナギ…

「へ!?ああ!こここ…怖くなんかないぞ!うん!まったくない!!!」

「めっちゃ怖がってるじゃねーか…」
ナギのカラ元気にモルガナは…
(こりゃ、他の参加者に襲われると不味いな…ナギが潜めれる場所は、どこかにねーかな…)
モルガナはナギの身の安全を確保できそうな場所を探す…
(とりあえず、コンテナの影にでも隠れてもらうか…)
手ごろな隠れ場所としてコンテナを選んだ。
「おい、ナギとりあえず、ここのコンテナに…」
モルガナがナギへ提案しようと声をかけている最中―――

「まさか、こんなに早く会うとはな…」

別の声がモルガナの提案を遮った―――
「ッ!?気をつけろ!ナギ!!」
突如、聞こえてきた声に身構えるモルガナ。
「その声は……」
ナギはその声にハッ!とする……
そう、幼馴染の声を聞き間違えるなどありえない……
「ヒスイ…!!」
「知ってるやつか?」

「ああ…私の幼馴染の一人だ」

ザッ!
モルガナが選んだのとは別のコンテナの上からジャンプして着地した人物…ナギの言葉通り…幼馴染の一人、初柴ヒスイだった―――

「ヒスイ…」
「ナギ…」
互いに見つめ合う2人……

「ヒスイ。私の元執事の姫神がこんなことをしでかして、大変申し訳ない…」
「お前も三千院家の遺産の後継者の一人。正直、この状況はまだ飲みこめていないが、どうやらジジイによる遺産レースとは無関係なようだ。だから、ここは私たちと協力して姫神を止めないか?」
ナギは頭を下げ、協力を乞う……
(!?そうか、姫神はナギと関わりがあるのかッ!こりゃ、後でじっくりと話しを聞かないとな…)
姫神について知っている情報源が取り引き相手だったことに驚くモルガナ。

「あいかわらず、戦わないなナギ…」
「え?」
ガキィィィン!!!
モルガナのペルソナ…ゾロのレイピアがヒスイのサタンの宝剣の一撃を防いだ!

「モナ!?」
「ナギ!さがっていろ!!」
「あ…ああ」
モルガナの言葉通りに後方へ下がるナギ。
(どうしてなのだ…?ヒスイ、今、私のことを殺そうと―――?)
もし、モルガナの助けがなかったら、自分は死んでいただろうと、ゾッ!としたナギは不安げにヒスイを見つめる……

「最初から全力で行くぞ!ゾロ!」
モルガナの呼応に応じてゾロがレイピアを構え直すッ!
「ほう…それが噂のペルソナか」
「オマエ!ペルソナを知っているのか!?」
「ああ…だが、私の力のほうが強い!」

ヒスイはサタンの宝剣を片手にモルガナに襲いかかる!!

252理想と現実はちがうけどできるだけ理想に近付きたい ◆Oamxnad08k:2020/08/22(土) 18:38:36 ID:ZqNwzNq20
ゾロのレイピアとヒスイの宝剣の攻防…
キィン!キィン!!ガキィン!!!
一糸乱れぬ互いの技量…先に動いたのはモルガナ!!

「ガル!」

ヒスイに風の刃が襲い掛かる。
「ふんッ!」
なんと!ヒスイはガルをその身で受け、モルガナに近づく―――
「痛みを感じねぇのか!?」
切裂かれて肌から血が流れても気にする様子が見られないヒスイにモルガナモルガナは驚愕した……

「痛みを乗り越えられる者が王なのだッ!!」
サタンの宝剣を使用する限り、ヒスイの体には激痛が走る…ガルの痛みすらヒスイは乗り越える!!自らが全ての力を得るために!!
「くそッ!」
モルガナはノーザンライトを一発放つが…
ガキィン!
サタンの宝剣で弾は斬られてヒスイにはヒットしなかった。
だが、そのタイムラグでモルガナは宝剣の一撃を避けることができた!!

「はぁ…はぁ…」
息絶え絶えだが、戦いの体勢を構え直すモルガナ。
「やはり、ペルソナといっても、こんなもの…か」
かたや、余裕綽綽の様子を見せるヒスイ―――だが、

「オマエ…姫神側だな?」

モルガナは気づき、指摘する
「なッ!?」
モルガナの指摘に驚愕するナギ…
「さぁあ…なッ!」
モルガナの指摘に曖昧に答えるヒスイは宝剣でモルガナを再度襲う。
そして、再び始まるサーベルと宝剣の攻防……

「とぼけるんじゃねぇ!オマエから姫神の匂いがプンプンしてるぜ!!」

(もう一人…何だ?人と何かが混ざり合わさった匂い…?)
モルガナは匂いでヒスイが姫神側であることを看破したのだッ!!
「ほう!【猫】のくせして犬の嗅覚を持ち合わせているとはなッ!」

「ワガハイは猫じゃねぇ!人間だ!!ガル!!!」

ガルを何事もないように受けるヒスイ……
「それと…血の匂いもな…殺しもしただろ?」
「う…嘘だろ…ヒスイ…?」
昔から滅茶苦茶なやつだと思っていたが、【殺し】をするとは信じられない…それがナギの偽りない本心―――

「…ナギ。お前はまだ眺めを見ないのか?」
「え?」
「私は綺麗な眺めを見るためなら、どんなことでも行うぞ?」
それは、幼き頃の思い出―――

「おいおい…」
「戦いの最中によそ見は禁物だぜ?」
モルガナの死角からの攻撃…!!
ビシィィ!! 
ノーザンライトの2発のうち1発がヒットして、右手が凍る。
「よしッ!これで、あの宝剣は使え…!?」
凍った直後、ヒスイの体から骸の腕が出現して、凍結部分を叩いて解除したのだ!
(凍結部分を無理やり解除した!?痛みは尋常じゃないはず!!)
ヒスイの揺るぎない信念に驚愕するモルガナ―――
「そらぁあ!!」
宝剣がモルガナの右足を切り裂く!
「ふぎゅうっ!」
モルガナは後方へ素早く跳び下がる…
「モナ!…ヒスイ…や…やめろ…」
弱弱しい声でヒスイを諫めるナギ…

「ナギ…そこの猫の言う通り、私は姫神側の人間で、既に参加者を一人殺した――――」

―――それは、信じたくない真実。
「どうした?気に入らないなら、戦えナギ」
「私には…む…無理だ…」
「…そうか。なら、死ぬしかない!!」
ヒスイはナギの返答に失望して、ナギの命を刈ろうとする―――

「ナギ―――ッ!」

モルガナは跳び…
「ナギから離れろッ!ガルーラ!!」
先ほどのガルとは比較にならない大きな風の刃がヒスイに襲いかかるッ!!

「流石に、これは生身では受けたくない…なッ!」

痛みに耐えるとはいえ、ヒスイも人間である以上は体力に限界がくる…これは危険と判断したのか宝剣はナギではなく、ガルーラを切り裂く。
ズザァァァ!!!
モナはナギを庇うように前に立つ……

253理想と現実はちがうけどできるだけ理想に近付きたい ◆Oamxnad08k:2020/08/22(土) 18:39:37 ID:ZqNwzNq20
「やめろ…モナ。このままじゃ、お前…死んでしまう。私のことはいいから、早く逃げろ…」
涙目でモナに逃げるように言うナギ――――
「大丈夫だッ!…それにナギはオレが守るって取引したからなッ!」
「モナ……」
「……ッ!!」
ナギは歯を食いしばると大声で叫ぶ!!

「モナ!ヒスイの右足を狙え!!早く!」

「お…おう!」
ナギの指示通りにノーザンライトがヒットしてヒスイの右足を凍らす。
「ふん!馬鹿の一つ覚えだな!!私には通用しない!!!」
(ちくしょう…これで、弾はもう「0」どうするんだ?ナギ!)
ヒスイの言葉に応じて英霊の腕が現れて再び凍結の表面を砕こうとする!その隙にナギは…
「運動オンチの私だが、やるしかない…私に力をかしてくれ…タッ○の上杉○也!!」
地面にいくつもある石の中から手のひらサイズの石を握りしめると狙いの的に…

「いっ…けぇぇぇ〜〜!!!!!!」

パレスは【認知】が全て―――
ナギの石が的に当たるという認知が働いたのか、元々、潜んでいた【運動が実は得意だった】が開花したのかわからないが
一つ確かなことは……石が鉄骨に見事にヒットした!

すると、立てかけてあった鉄骨の山がヒスイに目掛けて崩れ――――

「ッ!!??」

ガラガラドシャーン!!!!

3本の腕で生身への致命傷は避けられたが―――
凍結を解除しようと無防備だった下段右の骸の腕が粉々に粉砕された――――

「やるな!ナギ!!…いったっ!」
傷が痛み、呻くモルガナ
ナギはモルガナを抱きかかえて、コンテナの裏へ行き、モルガナを下す。
「ここで、休んでいろ。モナ」
「ナギ…だけど、お前!!」

「いいから、そこにいろ!それに…助けてもらった礼をしないと、三千院家の名が泣くからなッ!」

我は汝…汝は我…
汝、ここに新たなる契りを得たり
契は即ち、
囚われを破らんとする反逆の翼なり
我【星】のペルソナの生誕に祝福の風を得たり
自由へと至る、更なる力とならん…

シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!

コープのランクが4に上がった!
ナギが「駒さばき」・「お嬢様の追い打ち」をしてくれるようになった。

254理想と現実はちがうけどできるだけ理想に近付きたい ◆Oamxnad08k:2020/08/22(土) 18:40:34 ID:ZqNwzNq20
…ザッ!!

ナギはヒスイの前に立つ。
「ヒスイ」
「…なんだ?」
まさかの事態に唖然としたのか、一歩も動かないヒスイ―――
「時間をくれないか」
「…どういう意味だ?」
ナギの提案に訝しむヒスイ。

「私は、体力もなくて引きこもり体質の生活力0…このまま戦ってもヒスイ…お前の勝ちは確実だ」
「……」
ナギの言葉を黙って聞くヒスイ。
「だが、そんな私でも、お前のその不思議な腕を破壊することができた…『気に入らないなら戦え』…幼い頃、お前が教えてくれた言葉だったよな」

「私は、この殺し合いが気に入らない!だから、モナと戦う!!ヒスイ!たとえ、幼馴染のお前相手でも私は戦う!!!」

「…なんで」
それは、怒りに満ちた声。
「なんで私がお前の言う事を…聞かなきゃいけないんだ…!!」
プルプルと怒りで体を震わせるヒスイ―――
「頼むよ、もし、今回見逃してくれたらその代わりに、これをやるよ」
ズザッ!
ナギが放り出したのは、モルガナに支給された品『武見内科医院薬セット』
「説明書を読む限り、内服するとダメージと疲労を回復するらしい…これからも戦い続けるなら回復は必須だろ?」
ナギの言葉に……
「…いいだろう」
薬セットを拾うとヒスイはナギに背を向けて歩きだす。
「だが、次に会ったときは、もう、お前と私は幼馴染ではなく、殺し合う敵だ。容赦はしない」
「…ああ。だけど、次に私と会うまでに負けるなよヒスイ?」

「人を殺めたとしても私さ、お前の事嫌いじゃないから―――」

我は汝…汝は我…
汝、ここに新たなる契りを得たり
契は即ち、
囚われを破らんとする反逆の翼なり
我【剛毅】のペルソナの生誕に祝福の風を得たり
自由へと至る、更なる力とならん…

シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!

コープのランクが9に上がった!

「……」
ヒスイはナギの言葉に返さず、立ち去った…

☆彡 ☆彡 ☆彡

255理想と現実はちがうけどできるだけ理想に近付きたい ◆Oamxnad08k:2020/08/22(土) 18:45:39 ID:ZqNwzNq20
「…ふぅ〜〜。危ないところだった…」
「ナギ!大丈夫か!?」
緊張が解けて床に座り込んだナギに負傷した右足を引きずりながら近寄るモルガナ。
「それにしても、賭けだったな!一歩間違えればワガハイもナギもここで死んでいた…」

「…あれは、勝ちがわかっていた賭けだ」

「なッ!?…どういうことなんだ!?」
モルガナの質問にナギは答える。
「ヒスイは【勝つこと】にこだわりを持っている。そして、私はヒスイと幼馴染…」
「昔から弱虫で泣いてばかりだった幼馴染が、殺し合いに立ち向かう気概を見せたんだ」

「そして、喉から出が出るはずの回復薬。後は、私の提案に【乗る】か【乗らない】の2択…50%もある確率なら、私は引ける!」

「それに、モナが命を張って私を守ろうとしてくれた…そのおかげで『これは自分の勝負である』という感覚が研ぎ澄まされていたからできたことなのだぞ。ありがとな、モナ♪」
ナギの不敵な笑顔…それを見たモルガナは。
(ワガハイは勘違いしていた…ナギは守られるだけの存在じゃない!アイツと同じ【何かをもっている】やつの一人だッ!)
モルガナはナギに対する認識を改める。

ピロピロリン♪ ♪ ♪

そんなモルガナの様子には気づかず―――

「怪我については安心しろ!ほら、薬はまだある」

そういうと、ナギはスカートのポッケから薬を数点だした…
「なッ!!??」
「ふふん♪私が馬鹿正直に全部渡すはずがないだろう♪」
「やるな〜、すげぇぞ!ナギ♪」
(まぁ…ヒスイは気づいていたと思うが…な)

☆彡 ☆彡 ☆彡

「く〜〜〜よっしゃああ〜〜!怪我がだいぶよくなったぜ!」
ナオール錠50mgを内服したことでダメージと疲労が少し回復でき、喜ぶモナ。
ナギはその様子に安堵すると…
「そうそう!モルガナ!殺し合いに立ち向かうつもりだが、今の私はまだまだ弱い…だから、これからも私をきちんと守れよ!!」
ナギの言葉に…
「ああ!もちろんだッ!オレは取り引きを破らないッ!ナギのことは今後もきちんと守ってやるよ!!」

絆を深めたナギとモナ――――

【B-2/真倉坂市工事現場/一日目 黎明】

【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(低)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗らない
1.姫神…何をたくらんでいるのだ?
2.次に出会ったとき、ヒスイと決着をつけることになる…か
3.ハヤテー!マリアー!どこだー!
※モルガナとのコープが4になりました。以下のスキルを身に付けました。
「駒さばき」集団行動のとき、メンバーに的確な指示を出すことができるようになる
「お嬢様の追い打ち」モルガナの攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※ヒスイとのコープが9になりました。まだスキルは解放されません。
※ヒスイが姫神側の人間であると知りました。
※ペルソナの存在について理解しました。
※ロトの鍵捜索中からの参戦です。
※もしかして自分は「運動が実は得意」なのではないかの思いが内心、芽生えました。
【武見内科医院薬セット@ペルソナ5】※ヒスイに渡さなかった分
武見妙が扱う医薬品。効果は確かに効く。
内訳 ナオール錠50mg×1 ダメージ・疲労を(低)回復させる
   タケミナイエールZ×2 味方全体のダメージ・疲労を(中)回復させる
   全快点滴パック×1 味方全体のダメージ・疲労を全回復させる※参加者との戦闘中は使用不可

【モルガナ@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(低)疲労(低) SP(低)
[装備]:ノーザンライトSP@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(1〜2)(不明支給品にモルガナが扱える武器は含まれていません。)
[思考・状況]
基本行動方針:ナギとの取引を果たす
1.ここは誰のパレスなんだ?
2.姫神の目的はなんだ?
※ナギとのコープが4になりました。
※ヒスイが姫神側の人間だと匂いでわかりました。六花の匂いにも気づきましたが、異様な匂いだと感じています。
※シドウ・パレスのレストランで政治家・大江を倒した時よりは後からの参戦です。

【支給品紹介】
【ノーザンライトSP@ペルソナ5】
三千院ナギに支給されたパチンコ。ガンカスタムが施されており、「低確率で凍結付与」の効果が付いている。
弾の装填数は4。戦闘1回ごとに補充される(1回の定義は放送毎に補充)

256理想と現実はちがうけどできるだけ理想に近付きたい ◆Oamxnad08k:2020/08/22(土) 18:46:06 ID:ZqNwzNq20
「……」
工事現場を後にするヒスイの脳裏に浮かぶのは―――

「人を殺めたとしても私さ、お前の事嫌いじゃないから―――」

「ふん。くだらん―――最後に勝つのは私だ」
傷だらけの王は歩く―――

【初柴ヒスイ@ハヤテのごとく!】
[状態]:ダメージ(高) 疲労(中)
[装備]:サタンの宝剣@はたらく魔王さま!
[道具]:法仙夜空@ハヤテのごとく! 武見内科医院薬セット@ペルソナ5 基本支給品×2 不明支給品(0〜2個)、烏間惟臣の不明支給品(0〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに勝利する。
1.まずは…一度、休息するか……
2.王となるのは私だ。
3.本当に、願いで死者さえも甦らせることができるのなら―――
4.次に出会ったときナギと決着をつける…どちらかの死で。
※ナギと次会ったときは決着をつけます。
※原作51巻、ハヤテから王玉を奪った後からの参戦です。

【支給品紹介】
【サタンの宝剣@はたらく魔王さま!】
エミリアが砕いたサタンの角からつくられた魔剣。真奥貞夫を魔王サタンの姿に戻すほどの魔力を宿しており、手にした者にその魔力を供給する。鞘に収まっている間は魔力の供給は起こらないが、常人には鞘から抜くことすらままならない。

【法仙夜空@ハヤテのごとく!】
ヒスイに力を授けるために英霊となった法仙夜空。すでにヒスイと融合しているが、天王州アテネと融合したキング・ミダスの英霊と同じように不可逆的な破壊が可能だと考えられるため、状態を整理しやすいように道具欄に記載してある。その形状は上段に人間のような二本の腕、下段に骸のような二本の腕であり、現在は下段の右腕が粉砕された。残りは3本

【武見内科医院薬セット@ペルソナ5】
武見妙が扱う医薬品。効果は確かに効く。
内訳 ナオール錠50mg×2 ダメージ・疲労を(低)回復させる
   ナオール錠100mg×2 ダメージ・疲労を(中)回復させる
   全快点滴パック×2 ダメージ・疲労を全回復させる※参加者との戦闘中は使用不可

257理想と現実はちがうけどできるだけ理想に近付きたい ◆Oamxnad08k:2020/08/22(土) 18:46:26 ID:ZqNwzNq20
投下終了します。

258 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/23(日) 10:27:01 ID:u47WkU.A0
投下お疲れ様です!
ヒスイとナギの複雑な関係が良い感じ。原作でもそこまで絡みがあったわけじゃないので想像で補う余地が多過ぎるのもあって、ここからどう進展していくか楽しみですね。ナギが姫神関係者だと気付くモルガナなど、以降の話の伏線も気になりますね。
ところで法仙夜空、これからも『ヒスイが死ぬには早いけどヒスイの対戦相手側に何らかの実績を残したい』場面で腕1本ずつ潰されていく未来が見える……w

259 ◆Oamxnad08k:2020/08/25(火) 06:48:33 ID:5E108swg0
感想有難うございます。

理想と現実はちがうけどできるだけ理想に近付きたい
ナギにとって、ヒスイは憧れを抱く幼馴染なので、伊澄・咲夜・ワタルとは別な感じがします。
なので、このような展開にしました。
モナはペルソナ勢の中でおそらく、一番「パレス」に関する知識を持ちますし、ナギは主催者側の出典人物なので、今後の展開に期待しちゃいますね。
夜空には申し訳ありませんが、そうなる未来になると思います(笑)

桂ヒナギク、鹿目まどか、鋼人七瀬、滝谷真、大山猛(ファフニール)、で予約します。

260 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:16:36 ID:nvDAoGCQ0
投下します。

261反転のデスパレート ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:17:59 ID:nvDAoGCQ0
 本来ならば、結末はもっとシンプルだった。

 明智吾郎持ち前の『カリスマトーク』で警戒心を解かれていた遊佐恵美。そんな彼女の心臓に向けて放たれる、明智の影『ロビンフッド』の矢。気付いた時にはすでに回避も迎撃も間に合わず、その身を貫かれる――但し、それは遊佐が『聖剣の勇者』であったならばの話。

 現在、遊佐の身体と融合しているはずの『進化聖剣・片翼(ベターハーフ)』は体内から失われていた。彼女がその手にしているのは聖剣ではなく、鷺ノ宮家に伝わる宝具『木刀・正宗』。その名の通り、所詮は木製の武器。聖剣と比べ、戦闘面において劣る箇所は数え切れない。
 しかし木刀・正宗が有する、持ち主の動体視力を限界まで引き上げるチカラこそが、一瞬の判断力が試される先の局面で恵美の命を繋いだ。それが聖剣で無かったからこそ、遊佐は今ここに立っているのだ。

 それならば――聖剣の勇者はもう死んだのだ。ここに立つのは勇者エミリアではない。ただの一剣士、遊佐恵美である。

 仲間、聖職者、天使、そして――探偵。聞こえのいいものに、幾度となく彼女は裏切られ続けてきた。根付いた他者への不信はもはや拭うことが出来ず、明智の一件により確信した。この、人の醜さを凝縮したかのごとき世界で、誰かとの共闘を求められるのは気が重い。いつ裏切られるかの緊張――戦いへの不安以外を背負わなくてはならないなんて。人間のドロドロした思惑の渦に巻き込まれるなんて、もう真っ平だ。

 もはや自分のためだけに戦えばいい。それが勇者にあるまじき考えだと言うならば、勇者の称号なんて、いらない。決意――というよりも、むしろ吹っ切れたとでもいう方が的確だろうか。それでも新たな心持ちで、遊佐は明智と対峙する。

 一方の明智。先の一撃は確かに、『聖剣の勇者』を貫いた。しかしそれは、『遊佐恵美』を殺し切ることはできなかった。

 それならば――明智もすでに敗北が決定したに等しい。尋問室に響く一発の銃声――相手を騙し切り、己の勝利を確信した上で放ったその一撃を以て、しかし相手の命は奪えなかった。その過程を辿った明智に待つのは、敗北と、その先の死でしかない。

 そして今。心の怪盗団のリーダー、雨宮蓮ことジョーカーに騙され、殺し切ることができなかった明智がここでも遊佐を仕留め損なった。この世界でジョーカーと決着をつけることを望む明智が、遊佐を生かして帰すわけにはいかなかった。遊佐を逃がしてしまえば、ジョーカーまでもを仕留めきれない気がしてならないのだ。

 言うなればそれは、ただの験担ぎ。くだらないと一蹴するのは簡単だ。しかし例えオカルトの類であろうとも、心の隅に僅かにも残る傷は看過できるものでもない。遊佐を殺すことはそもそもの目的である殺し合いの優勝とも、一切反しない。

 明智もまた、どこか吹っ切れたような気分で遊佐と対峙する。

262反転のデスパレート ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:18:42 ID:nvDAoGCQ0
 この時、互いに互いを負かしているという奇怪な状況が繰り広げられていた。たった一本の木刀により、完全な勝利と言うに値するものを両者ともに失っていた。己の糧となるものを挫かれた二人に、もはや『正義』と呼ばれる信念は存在していなかった。

 それでも、己の正義を証明したいのなら。それを否定する者を。棄却せんと主張する者を。ただ、力でねじ伏せればいい。

 正義は勝者に有り――この上なく月並みな答えを、正義を冠する二人は叩き出したのである。

 明智は何も変わらずそこにいた。暗い夜の色に紛れることもせず、うっすらと浮かび上がる赤い仮面と、白く彩られた怪盗服。何もかもが先の明智と同じものだ。

 片や、恵美の姿は大きく変貌を見せていた。日本在住のOL、遊佐恵美としての姿から、勇者エミリア本来の姿へのシフト。赤みがかった髪は今や見られず、蒼銀の髪が闇を彩っている。

 精神的に、肉体的に、それぞれがそれぞれの『本性』を現した。両者ともに、それを見せて無事に済ませる腹積もりなど毛頭ない。

「ペルソナッ!」

 声と同時に再び顕現したロビンフッドの矢が山なりに遊佐を捉え、降り注ぐ。

「天光駿靴っ!」

 足の裏に聖法気を溜め込み、一気に解き放つ。本来であれば目視すら困難な遊佐の瞬足も、魔力の媒体となる破邪の衣無しには不完全。遊佐の人智を超えた速度の加速に驚いたように目を見開くも――しかしそれを逃がすことは無い。

「天光飛刃っ!」

「……甘いっ!」

 背後を位置取った遊佐が放つは鋭敏な斬撃の塊。しかしその動きにいち早く反応を見せた明智は振り向きざまに呪怨を纏った刀を薙いで一陣の風となったそれを弾く。鈍い音が響き、斬撃が散開する。

「甘いのは……そっちよ!」

「なっ……!」

 その直後。遊佐は、散開した斬撃の本来の軌道をなぞるように、空を蹴って接近する。明智の持つ刀と違い、木刀・正宗は切れ味というものを持たない。外観も完全に一般的な木刀のそれであり、パレスによる認知の殺傷力の付与も、かなり弱いものとなっている。認知世界の特質を知らない遊佐だが、互いの業物で鍔迫り合うことは不可能だという認識に一切の誤りはない。懐に潜り込めるタイミングは限られている。

263反転のデスパレート ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:19:20 ID:nvDAoGCQ0
 刀を振ってから、再び体勢が整うまでの僅かな隙――しかし遊佐には充分すぎる。身体構造が人間と根本的に異なる悪魔の、さらに僅かな隙を縫って屠ってきた遊佐。『悪魔殺し』の異名を持つだけの実力は、人間に対しても上等な脅威である。

 そこから振るうのは、斬れ味を持たない木刀・正宗ではなく。聖剣は没収できてもこれだけは奪えない、最も遊佐に馴染んだ古来よりの武器――拳。

「空突閃っ!」

 素手とはいえ、聖法気の込められたそれは凶器と呼んでも差し支えない。かつて共闘した新島真(クイーン)の如きその気迫から、まともに受けてはならぬと感じ取る明智。ステップで後退しつつ刀を持っていない右腕でガードする。衝撃を相応に緩和したはずが、それでもなお痺れが残る。生命活動を担う臓器にまともに受ければ致命傷は避けられないだろう。明智が左手の刀を身体の前に踊らせ、防御と牽制を同時に行う。それを受け、遊佐は空突連弾への接続を断念して下がる。

 そうして形成された両者の間隔は――遊佐にとっては聖法気を用いた数々の剣技を操るのに最適な射程だ。明智の刀の射程よりは遠く、ロビンフッドが弓矢を引く挙動を見せようものなら即座に接近し、斬り伏せる。二者択一のどちらにも対応できるよう木刀・正宗を前方に構え――対する明智はアルカナを砕き、遊佐の想定できない新たなカードを切った。

『――メガトンレイド』

 遊佐の頭上に顕現したロビンフッドが、遊佐に空襲を仕掛ける。これまで弓矢による攻撃しか仕掛けてこなかったロビンフッドの、唐突な直接攻撃。不意をつかれ、回避の選択が間に合わず。

「――天衝光牙っ!」

 消去法的に相殺を試みる。黄金色に煌めく雷光を宿した刃が振り抜かれた木刀・正宗の描いた軌道を彩り、ロビンフッドの腕と真っ向からぶつかり合う。

264反転のデスパレート ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:20:02 ID:nvDAoGCQ0
 咄嗟の反撃で殺し切れなかった衝撃が遊佐へと、そしてその下の大地にまで降り注ぐ。巻き起こった砂煙が遊佐の辺り一面を包み込み――そして1秒も経たぬまま、大地の粒子は空気に紛れて流れていく。しかしそのほんの僅かな間、砂塵によって明智の全貌は巧みに隠されており――やはりまた、木刀・正宗によって研ぎ澄まされた五感の内の聴覚が、遊佐に『カチャリ』という仄かな金属音を通告する。

 その音を、遊佐はかつて直に聞いている。魔術の発達していない日本において、背徳者オルバが調達した科学の結晶――拳銃。

 その正体の模索が完了すると同時の判断だった。

「天衝嵐牙っ!」

 木刀・正宗を一振り。同時、ニヤリと醜悪に笑う明智の手元から、鋭く響く爆発音。しかし放たれた銃弾は、撃ち出された銀色に煌めく風の刃によってその軌道を大きく逸らして虚空に消える。さらに相殺し切れない暴風が明智を襲う。しかし呪怨の篭った刀の一振りで防がれ、その実体を散らしていく。天衝嵐牙を防ぐのに刀を使い、さらには拳銃の存在まで確認した今、遊佐に接近を躊躇う理由は無い。聖法気の放出と共に空を蹴り、再び明智へと接近する。

(これまで見抜くのか。)

 素直に、明智は感心していた。目くらましを受けた状態で拳銃の存在に気付けた遊佐の洞察力も然ることながら、銃撃を前にそれを防げる手段までもをペルソナ使いでもない人間が持っていたことに。

「掛かったね。」

 感心とともに――幾重にも張った罠の、最後の一手を解き放つ。

――パリィン!

 遊佐の接近を明智が認識するや否や、銃と共に明智の右手に握り込まれていたアルカナが破砕音を奏でた。

265反転のデスパレート ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:21:06 ID:nvDAoGCQ0
『ムドオン』

 遊佐の到達点に、黒く染まった魔力の粒子が張り巡らされる。俊敏に空を翔ける遊佐はそれを目視しても停止することはできず、その中に愚直に突っ込んでいく。粒子は遊佐目掛けて集合していき、呪殺を特性とする結界を形成し始める。その範囲に入るや否や、ぞわりと背筋に走る悪寒。その魔力を、決して直接受けてはならない類のものであると遊佐の本能は察知した。

「天光……氷舞っ!!」

 明智へと振り下ろされるはずだった木刀・正宗はその向かう先を変更し、遊佐に迫る呪怨に向けて翳される。魔力を凝固させる性質を持つ氷壁がムドオンを堰き止め、その場に繋ぎ止める。ターゲットに届かなかった呪怨はその形を保てずに間もなく消失する。しかしその一連の動作は全て、明智の射程内で行われており――明智が返しの斬撃を見舞うには充分すぎる隙であった。

「――うぐぅっ!!」

 刀による一閃。それは元の材質こそプラスチックだが、パレスで殺傷力を付与されるまでもなく、元の持ち主の呪いによって本物以上の斬れ味を宿された刀。遊佐の身体を横薙ぎに裂き、撒き散らされた鮮血が辺りを赤く染め上げた。

 血液を失ったことで、揺れる視界と共に意識が薄れる。意識の消失までもは許さず踏みとどまるも、やはり次の行動までのタイムラグは生まれる。そこに追撃を加えんと、明智は薙いだ刀を翻し、刺突を繰り出す。

 しかし幾千の悪魔を屠ってきた遊佐。その身に傷を負ったことなど、もはや数え切れない。一度の不覚を取ったとて、その先を許す遊佐ではない。

「くっ……光爆衝波っ!」

「なっ!?」

 武器ではなく、遊佐の身体が媒介する即座の聖法気の放出。波のごとく打ち寄せる聖法気の圧が明智を押し返し、刃が遊佐の心臓を刈り取ることはない。一方、明智が至近距離から受けた聖法気も、ロビンフッドをその身に宿すことで得た聖なる力への耐性によって、致命傷にはなり得ない。しかし、軽減してもなお身体を芯から突き刺すかの如き痛みの大きさが、遊佐が名乗った勇者という称号が決して誇張などではないことを十二分に証明していた。

「はは、そんな芸当もできるとは恐れ入ったよ。異世界の勇者……本当に興味深い。」

 明智の有する、未知なるものへの好奇心。それは本来、初代探偵王子のキャラに倣って演じた『嘘』である。『恨み』に絡み取られた心の奥底では、復讐以外のあらゆるものに対して無関心でいた。少なくとも、そのつもりだった。

 しかし模倣は次第に現実になっていたようで。今や、遊佐の魅せる未知の力に対して興味を示さずにはいられない。認知の異世界を知った数年前のあの時のごとき興奮が、今再び胸にこみ上げている。御伽噺の中でしかなかった勇者や魔王といった存在が実在しているのだ。

 しかし、その興奮を冷ますように。その勇者本人はたった一言、吐き捨てた。

「勇者なんてどうだっていい。」

266反転のデスパレート ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:22:13 ID:nvDAoGCQ0
 聖十字大陸エンテ・イスラ。闘争と侵略を生業とする魔王サタンの侵攻は、圧倒的な力を以て人間と神の勢力を絶望に追い込んだ。生き残った僅かな間を統率する最後の希望として立ち上がったのが、勇者エミリア・ユスティーナである。

 人類の勝利、世界の奪還――正義の執行であろうとも、精神的成熟を終えていない彼女が背負い込むにはあまりにも重すぎた。

 人々の期待が重圧として胸を締め付けることもあった。武功を挙げたかった者に疎まれることも少なくなかった。そんな彼女だが、燎原の火の如く魔王軍を駆逐し、遂には魔王をもエンテ・イスラから退けた。

 誰かの命を救えた時、嬉しかったのは当然で。人々からの賞賛も挫けそうな時に立ち上がらせてくれた要因のひとつではあることも否定しない。けれど、その根幹にあったのは――彼女が、剣を取り戦えた理由はだが魔王たちによって葬られた父の面影と、復讐のために魔王を倒すという願い、ただそれだけだった。それだけで、よかった。

「私が戦うのは私のため。それ以上でも、それ以下でもないわ。」

 だからこそ。エンテ・イスラの救世主としての実績も、彼女の出自も、捨て去っても構わない。彼女の背負う正義は、人々の望みであり彼女の望みではない。彼女が進むのは、ただ復讐のため。紛れもなく、己のため。勇者の称号など、彼女にとってはどうだっていいと吐き捨てられるだけの欺瞞でしかない。

「私は!!ㅤ父さんを殺したアイツらを……この手で断罪したい……!!」

 これまでのどの言葉よりも感情的な一言だった。感情のコントロールが難しくなるという、木刀・正宗によって得られる力の副作用も少なからず影響しているのだろう。

 しかしその言葉が――どれだけ明智の現状を否定するものだったのかも、彼女には知り得ない。

「……当たり前、だよな。」

 次の瞬間には、仮面でも隠しきれないドス黒い殺意が剥き出しになる。

「『望まれない子』の気持ちなんて、皆に望まれる勇者サマには分からないだろうさ。」

 復讐しか残っていない――その一点において、明智と遊佐に違いは無い。たったひとつ、違いを挙げるならその出自のみだ。しかしそれすらも、遊佐はどうだっていいと吐き捨てた。明智より特段恵まれていながらも。正義と個人的な復讐が同じ方向を向いていながらも。その価値に気付きもしない。

「せめて生まれることを望まれてさえいれば――俺は、それだけで良かった。良かったんだよ。」

 明智とて、恵まれた出自を望んでいたわけじゃない。だけど、せめて平凡でさえ、あったなら――

「まあ、タラレバの話してもしょうがないよな。」

 再び、向き直る。両者ともに言いたいことは全てぶつけた。後に待つのは衝突のみ。そして次の一撃で決着がつくと、どちらも確信する――否、次の一撃で決めてやる。

267反転のデスパレート ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:22:46 ID:nvDAoGCQ0
 結構な量の血液を失い、ふらふらになりながらも。遊佐は全身の聖法気を集中させ、敵を見据える。今はただ、コイツを斬ればいい。その先を見通しながら勝てる相手ではないのだから――

「――天光駿靴。」

 これまでのどの瞬間よりも速く、遊佐は明智の前方上空へ翔ける。そこから繰り出すは、敵の撃破のための瞬間火力に特化した剣技。

「届け――天光……炎斬ッ!!!」

 紅蓮に煌めく閃熱が、夜空を紅く染め上げる。木刀・正宗が横薙ぎに振るわれると、勢いのままに対象に向けて解き放たれる。

「ブチ殺せ……ロビン……フッドオオォ!」

「なっ……」

――そんな遊佐の『速度』も『威力』も嘲笑うかの如く。

 感情をぶちまけるように、血が滲むほどに強く握り込んだ拳でアルカナを叩きつけた。

「なに、よ……これ……!」

 趣味とするダーツやビリヤード等で鍛えられた明智の空間把握力から繰り出される、徹底的に研ぎ澄まされた精度と練度から成る幾つものスキル――それら一切を忘れ去ったかのように。繊細さの対極を示すように荒々しく、物量に任せた呪怨の魔力。

『――マハエイガオン』

 禍々しさに満ちた常闇が、天光炎斬の閃熱も、遊佐本人も、包み込んでいく。周辺一帯を呑み込む広域への無差別攻撃を前にしては、遊佐の速度も意味を成さなかった。

「私、は……」

 元よりかなりの量の血液を失っていた遊佐は、攻撃の質の根本的な変化への戸惑いや、その圧倒的な威力に対して迎撃も適わない。為す術なく呑み込まれ、そして、その意識を落としていく。

――仮に、彼女が未だ聖剣の勇者であったならば。『進化聖剣・片翼(ベターハーフ)』によって最大限に高められた天光炎斬はマハエイガオンもを逆に喰らい、明智を焼き尽くしていたかもしれない。

 遊佐の持つ武器が木刀・正宗であるからこそ始まった戦いは、遊佐の持つ武器が木刀・正宗であるからこそ終わった。これが彼女が勇者であることを捨てた故の結末であるのなら――或いは、下らない正義のなれの果てとでも、称されるべきものなのかもしれない。

268反転のデスパレート ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:23:19 ID:nvDAoGCQ0





「この殺し合いには、伊澄さんの知り合いも呼ばれてるんだよね?」

 鷺ノ宮伊澄を先導しつつ、小林は尋ねる。親友の三千院ナギを初め、6人の知り合いが名簿に確認できた伊澄はそう答える。

「……嫌な質問かもしれないけどさ。この殺し合いに乗ってそうな人って、いる?」

「……一人、だけ。」

 俯きながら、伊澄は答えた。その複雑そうな表情に、少し申し訳なくなる。一回り年下女の子に、知り合いを悪く言わせるなんて酷な話題だ。だけど、現状を正しく知るには避けては通れない道でもある。

「初柴ヒスイ。最近は会っていませんが……幼馴染の一人です。」

「……幼馴染、か。」

 現在、古い知り合いとの繋がりがほとんど無い己の身に複雑な思いを馳せながら、小林は続く伊澄の話に耳を傾ける。

「ヒスイは……負けず嫌いでした。」

「負けず……嫌い……?」

 簡潔に纏められた。簡潔すぎて、シリアスな流れに入っていけないくらいに。

「まあ……負けず嫌いといえばナギやワタル君や咲夜も……幼馴染は私以外全員負けず嫌いなんですけど……」

(しまらないな。)

 心内でため息をつく小林。ちなみに、本人は決して認めないが伊澄も相当な負けず嫌いである。

「でも……ヒスイは違うんです。何というか……ええと……」

 上手く言葉にできない伊澄。

「……なるほどね。分かった、気をつけとく。」

 しかし、顔を覚えようとヒスイの顔を名簿で確認した小林は、大まかに合点がいった。その目元に――刀傷だろうか、とにかく日常生活ではまず形成されないであろう類の傷跡が大きく主張している。伊澄の疑念と合わせても、真っ当な生き方をしてこなかったことは想像がつく。

269反転のデスパレート ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:23:55 ID:nvDAoGCQ0
「嫌なもんだよね。知り合いを疑わないといけないなんて。」

「ええ、本当に……。」

 そして、そんな話をしている時のことだった。

「!!ㅤ……ねえ、あれ……!」

 見るからに禍々しい、黒く輝く魔力が遠くの空で弾けるのを、小林は見た。

(あの感じ……もしかしてファフッさん……?)

 ドラゴンの世界の魔法に詳しいわけでもないが、あの黒いエネルギーはファフニールが稀に醸し出す『呪い』の力に似ている。殺し合いを推奨する世界で放たれた魔力。その意味を、戦いに結びつけずにいられるほど小林は楽観的ではない。あの場所で、もしかしたらファフニールが戦っているかもしれない。襲われての迎撃……であると信じたいが、自分がファフニールについて滝谷ほどに理解していないことも自覚している。

 そして、その地点へ向かおうと足を速め――

「あれは、危険です。」

――伊澄が、小林の腕を掴む。

「お分かりかもしれませんが……あれは、呪いです。人の世にあってはならぬもの。それも、男性の方を女装させるような弱い呪いではありません。」

(何その妙に具体的な例は)

 空気を読んでツッコミは入れない小林。

「私が行きます。私なら呪いには多少、対抗できますから。」

「ううん。私も行く。」

 先ほど桜川九郎を前にした時とは違い、即決だった。

「どうして……」

 伊澄が尋ねる。その理由は明らかだった。殺し合いにファフニールが関わっているのではないかと、疑ってしまったからだ。ここにはドラゴンが――殺し合わせちゃいけない奴らがいて。彼らを止められるのは、曲がりなりにも、僅かであっても、同じ時を共有した自分だけかもしれないから。

 そんな、入り組んだ感情を全て一言に集約して伊澄に伝える。

270反転のデスパレート ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:24:22 ID:nvDAoGCQ0

「私のエゴだ。」

「……分かりました。」

 仮に正しく伝わってはいなくとも――本気の想いは伝わる。

「絶対に、私の前に出ないでくださいね。」

「うん、分かった。」

 伊澄は、これから命を預けるには頼りなく見えるくらいか細い手に御札――は没収されているため、代わりに支給されたタロットカードを手にして進む。

――意気揚々と、逆方向に。

「……こっちだよ。」

「え?」

……うーん、大丈夫かなあ。

 不安がいっそう増しながらも、2人は戦いの起こっている地へと向かう。

271反転のデスパレート ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:25:01 ID:nvDAoGCQ0
 そして、歩き始めて間もなく――唐突に伊澄がピタリと歩みを止めた。

「……来ます。」

 気配、というものを感じたか。タロットカードをその手に構え、闇の先を見据える伊澄。それからすぐ、小林もその相手の姿を視認する。荒々しい息遣いのまま、まるでゾンビのようにのそのそと近付いてくる。

 そして、相手が伊澄の姿を確認した瞬間。

「――邪魔を……するなッ!」

 それは問答無用とばかりに、斬りかかって来た。

「……!ㅤさせない!」

 手持ちのタロットに霊力を込めて投げ付ける。敵がそれを真っ向から斬り付けると、霊力とぶつかり合い、バチバチと淡い火花を起こして弾き合う。

「なにあれ、木刀?」

 そんな光景を見ながら、タロットカードほどではないにせよ敵が手にしたその武器があまりにも殺し合いのイメージにそぐわず、小林は疑問を抱く。

 しかし、伊澄はその武器を見てより一層、顔を険しくした。

「あれは――木刀・正宗……!」

 伊澄もよく知る、鷺ノ宮家の宝具。それが今、己に牙を剥いていたのだから。





――精神暴走。

 巷を騒がす廃人化事件の実行者、明智吾郎が持つもう一つの能力。

「ぐ……う……」

「どうやら、終わりだね。」

 明智のマハエイガオンを受けて倒れた遊佐。一方、無傷ではないものの意識はハッキリしている明智。

「……待てよ。」

 生殺与奪はもはや握っており、襲い来る苛立ちのままに一突きにブチ殺しても良かったのだが――実行に移そうとするその直前、ふと興味が沸いた。人間の心より出でるシャドウに暴走へといざなう魔力を注ぎ込み、他人の心を暴走させたことは何度もある。しかし、生身の人間に試したことはない。スキル『暴走へのいざない』を、遊佐相手にかけてみたらどうなる?

「……まあ、無理だろうな。」

 以前より、精神暴走を人間に直接作用させることは不可能であると明智は予想していた。心を暴走させるスキルがシャドウを介して人間に通用するのは、シャドウが人の心そのものであるからこそだ。それに対して人間の肉体は、心以外の要素が占める割合が大きすぎる。

272反転のデスパレート ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:25:32 ID:nvDAoGCQ0
「まあいいか。どうせダメ元だ。」

「ぐぁ……ぁ……」

 最も脳に近い頭を掴み、魔力を流し込んでいく。本来であれば、明智の予測の通り。心に作用する能力は、身体には作用しない。流れ込む魔力に耐えられず、ショック死するのが関の山だろう。

 しかしこの時の遊佐は、明智も意識していなかった要素として――木刀・正宗を手にしていた。感情のコントロールが効きにくくなる副作用により、心への働きかけがより強く、扇動されて――

「魔王サタン……ッ!ㅤよくも……私のお父さんを……!!」

「……これは驚いた。」

――結果、遊佐の持つ最も強い感情――魔王サタンへの『怒り』の感情が、暴走した。心の穢れを象徴するように、蒼銀の髪は灰色に濁っていき、目に灯した光はスっと消えていった。精神暴走を起こした者に見られる症状だ。

「アハハ……いいよ。お前の復讐、手伝ってやるよ。」

 それを、利用しない手は無いと思った。遊佐の実力は先の戦いで証明済み。そんな遊佐が、怒りのままに、己の身を一切厭わず魔王サタンとやらに襲いかかったならば――

「せいぜい、厄介そうな魔王とやらと、ついでに他の参加者もをブチ殺して来てくれよ。」

――『サマリカーム』

 明智のスキルにより、呪怨に侵食された遊佐の身体はみるみるうちに回復していく。ニイジマ・パレスで冴さんのシャドウがルールを制定したように、このパレスにも特有のルールが与えられているのだろうか。サマリカームの効きがいつもより悪く感じるが、それでも『戦闘不能』だった遊佐は立ち上がるまで回復し、そしてブツブツと『魔王』の二文字を呟きながら何処かへ立ち去っていく。





 そして、現在。小林と伊澄の前に、暴走する怒りのままに魔王サタンを探し回る機械と化した遊佐が立ち塞がる。

「――殺す……魔王サタン……この手で……」

 木刀・正宗によって始まった戦いは、木刀・正宗によって終わって――

「邪魔する奴も……全員、殺すっ!!」

――そして、木刀・正宗によって、次の戦いへと導かれていく。

273反転のデスパレート ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:26:03 ID:nvDAoGCQ0
【E-3/平原/一日目 黎明】

【明智吾郎@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:呪玩・刀@モブサイコ100 オルバ・メイヤーの拳銃(残弾数7)@はたらく魔王さま!
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに優勝する
一.雨宮蓮@ペルソナ5だけは今度こそこの手でブチ殺す。

※シドウ・パレス攻略中、獅童から邪魔者を消す命令を受けて雨宮蓮の生存に気付いた辺りからの参戦です。

※スキル『サマリカーム』には以下の制限がかかっています。

①『戦闘不能』を回復するスキルなので、死者の蘇生はできません。
②戦闘不能回復時のHPは、最大の1/4程度です。
③失った血液など、体力以外のものは戻りません。

【D-3/平原/一日目 黎明】

【鷺ノ宮伊澄@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:御船千早のタロットカード@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:三千院ナギとの合流のため、負け犬公園に向かう
1.木刀・正宗を持った敵(遊佐)に対処する。
2.ナギに『向こう側』の世界を見せたくない。

【遊佐恵美@はたらく魔王さま!】
[状態]:精神暴走(攻↑ 防↓)、 ダメージ(中)
[装備]:木刀・正宗@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:魔王サタンを殺す。邪魔する者も全員殺す。
一.この怒りの向くままに。

※木刀・正宗が奪われたり、破壊されたりした場合に精神暴走状態がどうなるのかは以降の書き手さんにお任せします。

【小林さん@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:対先生用ナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める
1.ひとまず伊澄さんと一緒に負け犬公園に向かおう

【支給品紹介】
【オルバ・メイヤーの拳銃】
明智に支給された拳銃。合計8発の弾が込められたオルバの拳銃。1発消費し、7発となっている。元が本物であるため、パレスの効果で戦闘ごとに装填されることはない。

【御船千早のタロットカード@ペルソナ5】
伊澄に支給されたタロットカード。御札の代わりに霊力を込めて使っている。現状、枚数は特に指定はしない。

274 ◆2zEnKfaCDc:2020/08/27(木) 03:26:31 ID:nvDAoGCQ0
以上で投下を終了します。

275 ◆Oamxnad08k:2020/08/30(日) 20:21:19 ID:411F1Oq.0
投下お疲れ様です!

反転のデスパレード
明智と遊佐の濃厚なバトル描写、圧巻でした!
遊佐、一歩及ばず!!改めて、ペルソナは呪文が多彩なので、敵に回すと非常にやっかいですね…
伊澄が意気揚々と逆方向へ歩きだすのは爆笑しました(笑)
暴走した遊佐…伊澄と小林さんの命運は如何に!!

完成したので、投下します。

276現実・幻想・虚構 ◆Oamxnad08k:2020/08/30(日) 20:22:26 ID:411F1Oq.0
現実―――いま目の前に事実として現れているもののこと。

桂ヒナギクは困惑していた。
今まで、教会地下迷宮探索をしたり、ロボットと戦ったり、ミコノス島で黄金の王の亡霊と対峙したりなど、様々な某ネコ型ロボットの大長編のような場面を切り抜けてきた。
しかし、『殺し合い』というバイオレンスな場面は精神に陰りを与える―――

桂ヒナギクは無力感に苛まれていた。
あの場において自分は何もできなかった。
坂本とかいう金髪の少年のように姫神に反逆の意志を見せることもなく、ただ観客Aとして立ち、少女の頭と首が離れるのを唖然と眺めていた……

「千穂さん…といっていたかしらね」
死んだ少女…佐々木千穂とは、ほんの少し会話を交わしただけ…別に友人でもない。だが、自分と同じ【居るだけで安心できる人】がいたのだ!!
もう、佐々木千穂は大切な人と会話を交わすことはないのだッ!!!

両眼を瞑るヒナギク……

「絶対に負けないわよ…ッ!!」
白皇学院の生徒会長としてこれ以上、情けない姿を見せるわけにはいかない。

目をカッと見開いたヒナギクは行動に移す。
デイパックの名簿を手に持つとパラパラパラと勢いよくページを捲る……
「…よしッ!名前と顔は覚えたわ」
普通なら『いやいやいや、ギャグでしょ!?』とツッコむところだが、
1000人はいる白皇学院全員の生徒の名前と顔を把握しているヒナギクにとって44人は苦にもならない。

ヒナギクは名簿の記載から思案した。
三千院ナギ―――同じ白皇学院に通う生徒で大切な友人。中々、剣道部へ顔を出さないのが、もどかしいが……
マリア―――ナギに使えるメイドさん。ハヤテ君のことで相談を聞いてもらったりアドバイスをくれる大人のお姉さん。たまにストレートに突き刺さる言葉は勘弁してほしいけど……
西沢歩―――学校は違うが、ナギ同様大切な友人。そして、恋のライバル―――
鷺ノ宮伊澄―――ナギや私と同じ白皇学院に通う生徒。結構、面倒事に巻き込まれるとき、よく関わる子……
初柴ヒスイ―――ナギの幼馴染の一人らしい。私自身は面識がないからなんとも言えない……
綾崎ハヤテ――――ナギに使える執事で、私の想い人―――

「…ハヤテ君」

好きだが自分から告白するのは【負け】と感じるヒナギク。
だが、一抹の不安がヒナギクを覆う。
「もし、ハヤテ君が…私が死んだら?」
最悪の光景を浮かび、それを取り除くよう頭を振るヒナギク。
「…大丈夫よ。私もハヤテ君もこんな場所で死んだりはしないわ!」
精神を落ち着かせようと自分に言い聞かせるヒナギク。

今後の事を考えながら歩いていると……
「ッ!?あれは!!」
視線の先に見えるのは自分と同じ桃色の髪をした少女が鉄鋼をもつ紫髪の女性に襲われている。
「……」
プルプルと体を震わせるヒナギク……

「白桜ッ!!!!!」

主の声に呼応して白桜は神速に鉄鋼女へ突っ走る!!!!!!

☆彡 ☆彡 ☆彡

277現実・幻想・虚構 ◆Oamxnad08k:2020/08/30(日) 20:25:47 ID:411F1Oq.0
「はぁぁぁあああ!!」
白桜の一閃が鋼人七瀬に叩き込まれるッ!
―――が白桜の刃は鋼人七瀬の体をすり抜ける……
(やっぱり、攻撃が通らない!?)
「……」
ブンッ!握りしめた鉄鋼が振り回される。
(攻撃を受けとめることができない…けど、避けきれるッ!)
ヒナギクは鉄鋼の動きを読み、紙一重で避けている。
鋼人七瀬による鉄鋼攻撃は動作こそ単純だが、一撃その身に浴びれば致命傷へとつながりかねない。
現に白桜を装備したヒナギクでさえも衝撃を殺しきれず、打ち飛ばされたのだ。
(うッ!?…あまり長期戦はできないわね…)
腰の痛みに脂汗が額に浮かぶ。

鋼人七瀬と戦うには、不死の体をもつか、それこそ、人の身でない頑丈な体をもつ者しか対抗手段はない……

「ヒナギクさん!」
(どうしよう!?私に何かできないことはないのかな?)

鹿目まどかは涙目で自分のデイパックの中身を確認する。
出てきたのは中心に鈴がついているリボン……説明書には【これを身に付ければ、あなたもハーマイオニーになれる】と書いてあるだけ…
一見、見ればただのコスプレ用のリボン……しかし、まどかはその名を目にして。
(ハーマイオニーってたしか…)
まどかは、ハーマイオニーの名前に小説の魔法使いの少女が頭に浮かんだ……

「あうッ!?」
鉄鋼の直撃こそ避けているが、腰の痛みがヒナギクの動作を遅くしていく……
まどかは、そんなヒナギクの姿を見ると意を決して、鈴のリボンを首元に装着すると両手で祈る!!

(お願い!何も取り絵もない私だけど…ヒナギクさんに力を貸して!!!)

カッ!! すると、リボンから光が放ち…!!

「こッ…のぉぉぉおおお!!胴!!!!!!」

バシィィィイイイ!!!!!
ヒナギクの力を込めた胴が…鋼人七瀬の腹にヒットする!
「……!?」
「え?当たった!?」
攻撃を繰り出したヒナギクはもちろん、鋼人七瀬も驚きを見せた。

パレスは認知の世界―――
キュゥべえと契約をかわしていない、まどかはただの中学生の少女……
しかし、インキュベーターに【魔法少女】としての素質を見込まれている。
まどかが身に付けた綾崎ハーマイオニーのリボンが【魔法】の【媒体】となって【祈り】が通じたのだ!!

「ヒナギクさん!!」
「まどかさん!?…ありがとう。これならアイツをブッ倒せるわ!!」

ピロピロリン♪ ♪ ♪

ヒナギクはまどかに視線を向けると、攻撃が通用した理由を瞬時に察して、サムズアップしてウインクした☆

我は汝…汝は我…
汝、ここに新たなる契りを得たり
契は即ち、
囚われを破らんとする反逆の翼なり
我【審判】のペルソナの生誕に祝福の風を得たり
自由へと至る、更なる力とならん…

シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!

コープのランクが4に上がった!

ヒナギクの白桜の連打が鋼人七瀬に次々とヒットする!
攻撃が通るようになり、鋼人七瀬も動作がゆっくりとなる。

(…腰の痛みがなければ…ッ!)
一気に畳みかけてぶっ飛ばしたいが腰の打撲がそれを許さない―――

「……!!」

ブオッ!!!

「しまッ・・・!?」
「ヒナギクさんッ!!」

鉄鋼がヒナギクの顔面に迫る―――

ガッ!!!!!

☆彡 ☆彡 ☆彡

278現実・幻想・虚構 ◆Oamxnad08k:2020/08/30(日) 20:26:13 ID:411F1Oq.0
幻想―――根拠のない空想。とりとめのない想像。

大山猛(ファフニール)は激怒していた。
人間の手により左腕を切断されたことに。
混沌勢に属する自分が襲撃者の命を刈ることができなかった己に怒っていた。

大山猛(ファフニール)は自己を見つめ直していた。
(俺は、弱くなったのか?)
(人間と関わるようになったからか?)
(人間ごっこをし続けている結果がこれなのではないか?)
ファフニールの目がどんどん濁っていく。
(いや…アイツは強くなっている…人間と関わって)
しかし、人間と関わることで強くなったドラゴンがファフニールの身近にいる。

ファフニールの脳裏に浮かぶドラゴン―――トールは守るべき財宝を見つけた者の強さを身に付けている。

(俺は…アイツのように人間と関わることで強くなるのか…?)
ファフニールの疑問に答えはまだ出ない。

互いに無言で歩いていると、滝谷が何かに気づき発した。
「ファフ君!あれ!!」
滝谷が指さす方角に映るのは、二人のピンク髪の人間と鉄鋼を振りまわす危なげな女―――

「このままでは、あの女たちは死ぬな―――」
ファフニールの見立てでは、ピンク髪の二人の死を予見していた。

「…どうする?今のうちに別のエリアに移動する?」
滝谷の選択……
それは、見捨てる――――非情だが、生き残るためには必要な一手かも知れない……
「ふん。…悩む暇があるなら力を磨き続けることが俺のやるべきことだ」
「え?」

ファフニールは一直線に戦いの場へ走った―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

279現実・幻想・虚構 ◆Oamxnad08k:2020/08/30(日) 20:26:42 ID:411F1Oq.0
ガッ!!!!!
「……え!?」

死を覚悟したヒナギク。
そんなヒナギクの眼前に右前腕で鉄鋼を受け止める男性―――

「あの人、腕ッ!!」
青ざめるまどか―――
鉄鋼の威力を見続けてきた、まどかには分かる。
『あれ』を生身で受けたら無事で済まないことを……

「…大丈夫だよ」
「…えッ!?」
震えるまどかの肩を落ち着かせるように優しく手を置きながら話しかける滝谷。

「ファフ君はとっても強いでヤンスから」

眼鏡をかけると、中指でクイッと持ち上げる滝谷。

ドガァァアア!!!
鉄鋼を右前腕で受け止めたファフニールはすかさず、左足で鋼人七瀬の鳩尾深く蹴る!
ズザァァァアア!!!
蹴りの衝撃で鋼人七瀬は地面に足をつけたまま、吹っ飛ぶ。

「チッ…殺すつもりで蹴ったんだが、気に入らん……」
「あ…あなた!大丈夫!?」
不満な顔に声のファフニールにヒナギクは心配そうに声をかける。
「問題ない。それより、邪魔だ。下がっていろ女」

「…はい?」

ピキッ☆
ヒナギクは笑顔のまま眉をひそめる。

「……」
鋼人七瀬は乱入してきたファフニールに鉄鋼を振り回そうとするが…

「胴ぉぉぉぉ!!!!!」
ヒナギクは鉄鋼に構えるファフニールの前を通り過ぎると、鋼人七瀬に鋭い胴をお見舞いする!

ヒナギクの胴に吹っ飛び横転する鋼人七瀬。

「…おい。どういうつもりだ?言葉が通じないのか?」
ファフニールは自分の忠告を聞かずに退かないヒナギクにイライラした声で諫めるが……

「悪いけどそういうわけにはいかないのよ」
ヒナギクは腰の痛みを感じさせない凛とした声で――――

「私、生徒会長だから、目の前で困っている人を助けないわけにはいかないの」

ファフニールに言い放つ―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

280現実・幻想・虚構 ◆Oamxnad08k:2020/08/30(日) 20:27:32 ID:411F1Oq.0
虚構―――実際にはない、作り上げたこと。作り事を仕組むこと。

鋼人七瀬は悠然と立ち尽くす―――
存在を否決され、確かに消滅したはずだった……
一度、根付いた話はそう覆ることもなく、復活をするはずがない。

鋼人七瀬は指令に従う―――
復活したのなら鋼人七瀬が行うことはただ一つ……
姫神・再度自分を生み出した桜川六花の想像力が鋼人七瀬の原動力となる。

殺し合いという場において座り込むという愚行を犯しているピンク髪の少女の命を刈ろうと……

無情に鉄鋼を振り下ろす。

☆彡 ☆彡 ☆彡

281現実・幻想・虚構 ◆Oamxnad08k:2020/08/30(日) 20:28:07 ID:411F1Oq.0
幾度となるヒナギクとファフニールの攻撃を受け、倒れても起き上がっては襲い掛かる鋼人七瀬。
(チッ…埒が明かない。癪だが、仕方がないな…」
ファフニールは眉を顰めるとヒナギクへ視線を向けて。

「おい女!俺に合わせろ!!」
「嫌よ。あなたが私に合わせなさい!!」

「ドラゴン相手に対等のつもりか人間」
今すぐにも、ヒナギクを呪い殺しにかかってもおかしくない形相で睨むファフニール。

「そうよ」
ヒナギクはファフニールの眼光に怯まず凛と答える―――

「…フン。言ったからには、やってみらうぞ」

ーーパリィン!

「ええ―――小手ぇぇ!!」

鋼人七瀬の鉄鋼を持つ手右手に人七瀬の鉄鋼を持つ手右手に力強い小手がお見舞いされる!!
「…ッ!?」
さしもの鋼人七瀬も鉄鋼を手から放す―――

「いまよぉぉぉぉ!!」
「―――上々だ。女」

ズンッ!!!
ファフニールの拳が鋼人七瀬の腹を突き破るッ!
「……ッ!!??」
拳を引き抜くと同時にまわし蹴り!!
鋼人七瀬の首があらぬ方向へ向いて地面に伏した。

「やったわ!!…ん?」
喜ぶヒナギク。
「……」
ファフニールはヒナギクから顔をそらしつつも、右腕を挙げている。

「……クス」

ファフニールの意図を察したヒナギクは微笑むと―――
「やったわね♪」

ハイタッチを行った―――

我は汝…汝は我…
汝、ここに新たなる契りを得たり
契は即ち、
囚われを破らんとする反逆の翼なり
我【陰者】のペルソナの生誕に祝福の風を得たり
自由へと至る、更なる力とならん…

シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!

コープのランクが4に上がった!
大山猛(ファフニール)が「呪サポート」・「ドラゴンサーチ」・をしてくれるようになった。

ズズズ…ゴキッ!!
鋼人七瀬は起き上がると、曲がった首を元通りに戻す。

「チ…しぶといな」
「まだ、やるつもり?」

ヒナギクとファフニールはうんざりした様子で構え直すが……

「「「「……消えた?」」」」

鋼人七瀬は靄に包まれると姿を消した―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

282現実・幻想・虚構 ◆Oamxnad08k:2020/08/30(日) 20:32:00 ID:411F1Oq.0
対峙していた鋼人七瀬が影もなく姿を消したため、互いに自己紹介を交わす―――

「ドラゴン…まさか、空想上の生き物だと思っていたけど実在するなんて…驚きだわ」
「ドラゴン…なんだか、とってもカッコイイですね♪」

ファフニールがドラゴンであることにそれぞれ違う反応を見せるヒナギクとまどか。

「ふん…それより、これからどうする?足手まといになられるのだけは、勘弁してほしいが」
「そうね。この場合、「どちらが」だけど♪」

「「……」」

協力し合ったばかりの2人の間に火花が散る―――

ピロピロリン♪ ♪ ♪

「ヒ…ヒナギクさん!!」
「むむ!これが、リアルツンデレでヤンスか!?…まま!後、数時間で放送が流れるでヤンスから。それを聞いてから、今後の方針を立てては?」

つかの間の休息――――

【C-3/平野/一日目 黎明】

【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
[状態]:腰の打撲 疲労(低)
[装備]:白桜@ハヤテのごとく!
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:誰も死なせない
一. 放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.まどかと行動を共にする。
三. 佐々木千穂の思い人に出会ったら、共に黙とうを捧げたい…
※ファフニール・鹿目まどかとのコープが4になりました。
※名簿を暗記しました。
※参戦時期は姫神と面識を持つ前です。
※情報交換によりドラゴンの存在と向こうの世界(異世界)について知った。


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:綾崎ハーマイオニーの鈴リボン
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを終わらせる
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.キュウべえが居るなら、魔法少女になってでも
三.ヒナギクと行動を共にする。
※ヒナギクとのコープが4になりました。まだスキルは解放されません。
※情報交換によりドラゴンの存在と向こうの世界(異世界)について知った。
【支給品紹介】
【綾崎ハーマイオニ―の鈴リボン@ハヤテのごとく】
鹿目まどかに支給された鈴リボン。本来なら、ただのコスプレ道具だがまどかの持つ素質とパレスの認知が融合してヒナギクに祈りを届けた。
結果、ヒナギクは「怪異なる存在」に攻撃を与えられるようになった。現在はただのコスプレ道具―――(※また、リボンから祈りが届く力が発動するかは後続の書き手様に一任します)

滝谷真@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3(本人確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:好きなコミュニティーを維持する
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.ファフ君がドラゴンとして殺し合いに乗るのを防ぐためにも、まずは自分が死なない
三.小林さんの無事も祈る

[備考]
アニメ第6話と原作第54話(滝谷とファフニール)より後からの参戦です。

【大山猛(ファフニール)@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:左腕喪失(再生中) 人間に対するイライラ(低)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を殺す。
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.ひとまずは滝谷を守りながら脱出の手段を探す。
三.ふん、生意気な女だ…(ヒナギクに興味を抱いた)
※ヒナギクとのコープが4になりました。以下のスキルを身に付けました。
「呪サポート」バトル中、一定の確率で相手を呪う
「ドラゴンサーチ」この殺し合いの場で出会った人物のみ、自分の周辺エリア(四方)にいる参加者をサーチすることができます。
[備考]
滝谷真と同時期からの参戦です。

【?-?/?/一日目 黎明】

「……」

とあるエリアに出現する鋼人七瀬。
これからも彼女は参加者を襲う。それが自らに課せられた想像力だから―――

【鋼人七瀬@虚構推理】
[状態]:健康
[装備]:鉄鋼@虚構推理
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:参加者の襲撃
一.……
※パレスの認知と桜川六花の虚構が混ざり存在している。ただの物理攻撃では倒せない。
※致命傷を与えられると、靄に包まれ、別のエリアへ移動する。
その他の状況はまだ不明。

283現実・幻想・虚構 ◆Oamxnad08k:2020/08/30(日) 20:33:21 ID:411F1Oq.0
投下終了します。

――パリィン!、使わせていただきました。

284 ◆2zEnKfaCDc:2020/09/01(火) 20:08:37 ID:lqI.iiPo0
投下お疲れ様です!
このロワの鋼人七瀬をどう扱うかですが、不死性を完全否定すると恐ろしさに欠ける微妙なマーダー、原作通りだと単に勝ち目のないマーダーで、落とし所が難しかったと思うんですよね。
その点、普通に殺しても復活する鋼人七瀬の『どうにもならない』不死性と、まどかの祈りとパレスの特性による『どうにかなるかもしれない』要素の両方を出してて、その難しかった落とし所を絶妙に見出しているなあと感じました。特に鋼人七瀬の原作の脅威は大体その不死性だけに帰着してしまっていて、身体能力に秀でた異能力持ちが相手だと仮に七瀬が殺されずともそれらを殺せる展開にはしにくい気もしていたんですよね。だからこそ、殺せない相手には早々にワープさせることができるというのも、神出鬼没という一要素を個性にできて面白いと思いました。
そしてヒナギクとファフニールが反目し合いながらもコンビネーションバッチリなの、すごく面白いですね。オープニングの扱いもあって登場話ではシリアス寄りに書いてたヒナギクですが、ファフニールに軽くあしらわれての「ピキッ☆」はめちゃくちゃヒナギクならではの反応だと思いました。

285 ◆Oamxnad08k:2020/09/03(木) 21:54:17 ID:T2NhGftc0
感想ありがとうございます!

現実・幻想・虚構

鋼人七瀬の扱いには悩み、思慮を重ね、このように描写しました。
個人的にバイオハザードのネメシスをイメージしています(笑)
神出鬼没なら大胆なマップ移動も可能になると思いそうしました!
ヒナギクとファフニールなら反目し合いながらのタッグかなぁ〜と個人的に感じたのでこうしました。
ヒナギクならではの「ピキッ☆」は、ファフニールの態度なら違和感ないかな…と。

美樹さやか・赤羽業・刈り取るもの・杏・エルマで予約します。

286 ◆2zEnKfaCDc:2020/09/04(金) 22:53:13 ID:jKa1boAI0
雨宮蓮で予約します

287 ◆L9WpoKNfy2:2020/09/06(日) 15:28:57 ID:Vqfipf560
投下いたします。

288 ◆L9WpoKNfy2:2020/09/06(日) 15:29:51 ID:Vqfipf560
失礼しました。別のスレと間違えてしまいました。

大変申し訳ございません。

289 ◆2zEnKfaCDc:2020/09/07(月) 23:31:17 ID:77j5Tu2Q0
投下します。

290さよならメモリーズ ◆2zEnKfaCDc:2020/09/07(月) 23:31:50 ID:77j5Tu2Q0
――桜が、咲いていた。

 出会い、そして別れ。桜の木に付随するドラマは、その向かう先が真逆でありながら同時に存在している。何よりも桜は綺麗だ。その煌めきで多くの人々の目を引き付け、視線を奪っていく。それは、闇に紛れて目立つことなく獲物を奪う怪盗の在り方と、完全に対をなす光景だった。

 心の怪盗団のリーダーにして、今や殺し合いの地に立つ一人のマーダーでもある男、雨宮蓮。彼は今、優雅にその存在を主張する幾つもの桜の木を、憂いに満ちた眼を仮面で隠したまま、ただぼんやりと眺めている。まるで、夢の中に入ったように上の空に。目の前に繰り広げられる景色を吸収していた。

 そして、その瞳の先に映るのは――


 4月――桜が導く出会いの月。自分にとってのそれは、破滅へのカウントダウンだった。何となく、理不尽が許せないと思って。無力だというのに、正義感を振りかざして。

 その結果が、薄汚い屋根裏部屋と、行きたくもない秀尽学園への『投獄』だった。同級生からは白い目で見られ、尾ひれをつけて増幅していく噂は止むことを知らない。保護観察付きの前歴とは、どこまでも付きまとってくるものなのだと思い知らされた。

 そんな闇の中だからこそ、安易に光に惹かれて手を伸ばしてしまった。突如覚醒したペルソナの力。同じ反逆の心を宿した者たちは確かに自分の居場所になっていて。共に心の怪盗団『ザ・ファントム』を結成した頃は、保護観察だとか、前歴だとかを忘れていられるくらい、楽しかった。だからこそ、そこで終わっておけばよかったんだ。

 本当は分かっていたはずなのに。正義感を振りかざして、社会の闇に立ち向かった結果がいかなるものなのか。それなのに、手に入れたペルソナの力に浮かれていたか、それとも改心を続けていけば自分を冤罪に導いたあの男と再び会えるとでも信じていたのか。

ㅤ分からない。分からないが、その結末は分かっている。

291さよならメモリーズ ◆2zEnKfaCDc:2020/09/07(月) 23:32:25 ID:77j5Tu2Q0
 自分は、殺された。

 もう、あの平穏な日々に帰ることも。

 もう、桜の季節を迎えることも。

 何もかもができない。絶望的なほどに、不可逆的な終わりだった。こうして今ここにいること自体が、もはや何かの奇跡でなければ説明できない事象なのだ。

「俺は、生きていたかった。」

 心の中に浮かんだ、ただひとつの気持ちを口に出す。その想いを認め、もう一度見上げた夜桜はやはり綺麗で――憎らしいと思えた。可憐に咲き誇る満開の夜桜は、その先に、反逆の絆で結ばれた仲間たちを映し出した。

 みんな、眩しいくらいに笑っていて。みんな、いちばん楽しかったあの頃のままで――銃弾に貫かれて深い深い闇の底へと沈んでいった自分を、決して受け付けないように思えた。

 最後にもう一度、彼らの姿を焼き付けるように凝視して――



「――クイーンメイブ!」

 数ある仮面の中から選ばれたペルソナが、砕けたアルカナより顕現する。怪盗団の始祖――『魔術師』のアルカナを冠するその影は、そっと桜の木々に手を伸ばし――振り下ろす。

292さよならメモリーズ ◆2zEnKfaCDc:2020/09/07(月) 23:33:20 ID:77j5Tu2Q0

――『アギダイン』


 その手の先から、夜を照らすように光り輝く炎の魔力が立ち上って――それは瞬く間に、眼前に広がる桜色を、燃え上がる赤に染め上げた。

 真っ赤な景色の中、出会ってきた者たちの顔が、蜃気楼に吸い込まれて消えていく。出会いそのものがなかったかのように、雨宮の心の中にあった未練までもが消失していくかに思えた。

 次第に色を失って焼け落ちていく木々。枝から僅かに落ちた花びらは、その風情の大部分を失いながらも未だ綺麗さは残っていて、その中心で一人醜悪に笑う男の姿を引き立てていた。

「……さよならだ。」

 クイーンメイブの姿が、立ち並んでいた桜の木と共に、還るべきであったアルカナごと消えていった。それだけではなく、『戦車』、『恋愛』、『皇帝』……共に反逆を誓い、絆を深めていった仲間たちを象徴するアルカナも、次々と、雨宮の心から消滅していく。

 そして、たった二つのアルカナだけが残った。

『愚者』――雨宮蓮の反逆の心を示すアルカナ。

 そしてもう一つ――『正義』。

 そのアルカナが示す男、明智吾郎との戦いはまだ終わっていない。自分を殺した借りはまだ返せていないし、この殺し合いに奴が参加していることも分かっている。

 今度こそは、逆にブチ殺してやる――怪盗団の信念からかけ離れた新たな決意とともに、焼け野原と化した花見会場を後にした。

【E-2/花見会場/一日目 黎明】

【雨宮連@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:綺麗なナイフ@虚構推理
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る
一.…やるか(殺るか)
二.怪盗団のメンバーも、殺そう。
三.明智五郎は、この手で殺された借りを返す

※11月20日新島冴との取引に応じ、明智に殺されてBADエンドになったからの参戦です。
※所持しているペルソナは【アルセーヌ】の他にアルカナ属性が『正義』のペルソナが一体います。詳細は後続の書き手様にお任せします。

293 ◆2zEnKfaCDc:2020/09/07(月) 23:33:39 ID:77j5Tu2Q0
投下終了しました。

294 ◆Oamxnad08k:2020/09/09(水) 22:56:22 ID:RZGqJt0.0
完成したので投下します。

295魔法少女の時間 ◆Oamxnad08k:2020/09/09(水) 22:57:45 ID:RZGqJt0.0
「ねぇ。美樹さんは【幽霊】って信じるタイプ?」
「そうね……魔女に出会う前の私ならそんなのいるわけないじゃんと否定してたかな……あんたは?」
「俺?……美樹さんとほぼ同じかな。ただ、いるとしたら挟間さんが黒魔術で呼び寄せたのかもしれないと思うかな」
「……幽霊って召喚できるものなの?」

他愛もない会話をするカルマとさやか―――

首輪を解除するため、地図を確認していくつかの候補から決めた場所…霊とか相談所を目指して歩いている2人。

「それにしても霊とか相談所なんて、いかにも怪しげな名前ね……」
「はは!本当、ウソ臭い名前だね〜。でも、だからこそ何かあるのかもしれない」

(……あいつ。赤羽業といったかしらね。さっきから聞いているけど、クラスメイトの名前がポンポン出てくるわね……一匹狼のような雰囲気に見えるけど、意外と社交的なのかしら?)

(……美樹さんは、あまり男子と会話をしない女子かな?いかにも普通の女子中学生にしか見えないけど、魔法少女で…【ゾンビ】…ね)

互いの印象を胸に秘めて2人は住宅街を歩く。歩く。歩く―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

296魔法少女の時間 ◆Oamxnad08k:2020/09/09(水) 22:59:17 ID:RZGqJt0.0
「ねぇ、何か音が聞こえない?」
「……聞こえるね」

―――チリリリリ……

静寂な住宅街を歩く2人の耳に低い金属音がこびりつく。
視線の先に見えたのは――――刈り取るもの。

「……あれ、人だと思う?」
「んなわけないでしょ……どうみても化け物」
(でも、あの姿、まるで……魔女。銃を持っている……マミさん)

刈り取るものがこれ見よがしに手にしている2丁の長銃を見て、さやかは魔法少女にしては異色なマスケット銃を扱う巴マミを想起した―――

さやかの思案とはよそにカルマは焦る……
(……あれは、ヤバい…)
カルマの脳に危険信号が鳴り響く。
プロの殺し屋と同等…それ以上の危険の香りを発する刈り取るものにカルマの導き出した答えは【隠れてやりすごす】

「美樹さん。あれはヤバい……隠れてやり過ごそう」
「……わかった。あんたは隠れていなよ。あいつは私が引き受ける」
悪いやつを許さない…さやかの正義感が退くのを拒否した。
「……ほおっておいたほうが賢明だけどねぇ」
そうこうしているうちに……

トゥ―――トゥ―――

DANGER!

2人はサイレンが鳴った感覚がした。

ドキュゥゥン!
「なっ!?」
「美樹さんッ!!」

空間から針が出現するとがさやかの体を貫く…ムドオン。
即死効果を与えるスキル。

「…なんともない?」
美樹は体を貫かれても変化がないことに、不思議がる……
そう、美樹さやかは契約により魔法少女へと存在を変化させた。
魂はソウルジェムに移されているため、死の呪文はBLOCKされたのだ。

「……大丈夫そうだね」
「ええ。…その外見は、見掛け倒しってわけ?こちらもいくよ!!」
さやかは自らの青いソウルジェムを手に取ると―――変身した。

制服姿のさやかは凛々しい剣士のようなマント付きの衣装に肩だしスタイルの魔法少女になった――――

「へぇ……魔法少女って本当なんだ。帰ったら竹林に話してやるか」
(……そして、あれが美樹さんの……)
魔法少女に変身したさやかにカルマは感嘆と同時に美樹が自らをゾンビと形容するソウルジェムを見つめた……)

「やぁぁああ!!」
ザンッ!!
さやかは血のシミターで刈り取るものを斬るッ!!

「……」
ドキュゥゥン!
さやかの斬撃をものともせず、刈り取るものは次の行動を起こす。

「ぐうぅぅ!?」
「うッ!?」
カルマとさやかは頭を抱える―――念動スキルのマハサイダイン。
脳に直接ダメージを与えるスキルに2人は踏ん張るが、やはり殺せんせーを暗殺する訓練を受けているとはいえ、中学生でしかないカルマの方はダメージが大きい。

「こっ…のぉぉおお!!」

ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!
さやかは複数の剣を召喚し刈り取るものへ投擲をする。
刈り取るものも長銃でいくつかの剣を打ち落とすが、何本かをその身で受け、ひるむ。
その隙にカルマの様態に気づいたさやかは抱えて一軒家の屋根へ飛び移る。

「……サンキュ。助かったよ」
「あんたは、そこでじっとしていて!あいつはあたしがぶっとばしてやるからさ」
屋根にカルマを下すとさやかは刈り取るものへ戦いに挑もうとする……が。

「まった。美樹さんだけじゃ、あいつを斃すのは難しいよ。何か勝算があるの?」
カルマの問いかけに……
「私は大切な人を守るためこの力を望み魔法少女になった……だから戦う」
さやかは刈り取るものをキッと見据える……

297魔法少女の時間 ◆Oamxnad08k:2020/09/09(水) 23:00:06 ID:RZGqJt0.0
「…それに、その気になれば痛みなんて完全に消しちゃえるんだから」

さやかの自嘲した言葉……
「…やっぱり、私はゾンビ…人じゃない」

「美樹さんはゾンビじゃないよ」

カルマの言葉にさやかはムッとした表情を見せる。

「……何がいいたいの。気休みならよして」
「別に気休めなんかじゃないさ。ゾンビって死体のまま蘇った人間のことを指す言葉だよ?美樹さんは死んだの?」

「……死んだようなものじゃない。こんな体で身体で抱き締めてなんて言えない。キスしてなんて言えないよ……」

「……」

すると、カルマはさやかを抱きしめる―――

「なッ!?」
「…キスもしたほうがよかった?」
「…ッ!?馬鹿いってんじゃないわよ!!」
さやかは顔が真っ赤になる…
(ふ…ふりほどけないッ!?)
魔法少女として変身した自分をガッチリと放さないように抱きしめるカルマ。

「大切な人を守るために魔法少女になったんでしょ?…凄いじゃん。大切とはいえ人の為全てを捧げるなんて。それとも、魔法少女になったことやっぱり後悔してるの?」
「…ちがう。私はいい加減な気持ちで契約をしたんじゃない…」
「だったら、美樹さんは人間だよ。それでも自分をゾンビと卑下するなら、すれば?」
「でも、その瞬間から、誰も美樹さんを【人間】として見てくれない……本当に【ゾンビ】さ」

「あんた…」
「俺の名前は【赤羽業】……自己紹介はしたよね?」

「……カルマ」
「よく言えました。……さやか」

我は汝…汝は我…
汝、ここに新たなる契りを得たり
契は即ち、
囚われを破らんとする反逆の翼なり
我【戦車】のペルソナ「ドキュゥゥン! ダァアン! ダァアン!」ならん…

「ッ!?よっと」
「はッ!!」

刈り取るものの至高の魔弾を避ける2人―――

「……普通、ここで撃つ?」
「撃たないね。少なくとも俺は。ってことは…あっれぇぇえ?、もしかして刈り取るものさんは空気読めない人?」

シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!

コープのランクが4に上がった!
美樹さやかが「魔法少女トーク」・「魔法少女の追い打ち」・「ステルスダッシュ」をしてくれるようになった。

298魔法少女の時間 ◆Oamxnad08k:2020/09/09(水) 23:02:57 ID:RZGqJt0.0
「……」
ドキュゥゥン!!
カルマの挑発にも刈り取るものは意に介さず、コンセントレイトを唱える。
刈り取るものは精神を集中した……

「……やっぱり、殺せんせーとは全然反応が違うね。コミュ障はやりにくいなぁ……」
「軽口叩かないで、何かいい作戦はないの?カルマ!!」
カルマの返しにさやかは案はないのか、問いかけるッ!

「……いいけど、実行できんの?……おれの作戦、死ぬかもよ?」
「私は死なない!だから、遠慮なく作戦を実行しなさいッ!!」
「…OK」
(とはいえ……圧倒的に人数が足りない…せめて後、2人はほしいな……)
カルマの額から冷や汗が滴り落ちる。
刈り取るもの相手に2人では無謀に近い行為……

ドキュゥゥン!
刈り取るものの強化されたメギドラ―――

「カルマッ!!」
「…ッ!?これは、ヤバ……」
カルマの命を刈る光の光線が降りそそ―――

バララララララ!!!!!!!
マシンガンから放出される無数の対先生BB弾が複数の電柱にヒットすると、カルマの目の前に崩れ落ちてメギドラを防ぐ!

「はぁああ!!」
勇ましい声と同時にレテの斧が刈り取るものに鋭く斬りおとされるッ!!
某RPGゲームでいうなら会心の一撃!
刈り取るものの右腕が刈り取られ空中を舞うと地面に堕ちる―――

カルマと美樹に加勢したのは、高巻杏と上井エルマ。

住宅街から聞こえてきた戦闘音に駆け付けてきたのだッ!

「ありがとう。…正直、助かったよ」
まさかの加勢に素直に感謝の言葉をカルマは口にする。

「気にしないでッ!まずは、アイツをどうにかしましょ!!」
「礼にはおよばん、人間さん。……む、いや、後でよければ食料を少し分けてくれないか―――?」

4VS1

赤羽業・美樹さやか・高巻杏・上井エルマ・刈り取るもの

はたして、命を【刈り取られる】のは――――

299魔法少女の時間 ◆Oamxnad08k:2020/09/09(水) 23:03:57 ID:RZGqJt0.0
【E-6/住宅街エリア/一日目 黎明】

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(小) ソウルジェムの濁り(小)
[装備]:血のシミター
[道具]:不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:姫神葵を倒し、元の日常に帰る
1.刈り取るものに対処する
2.まずは霊とか相談所へ向かい首輪の解除方法を探す
3.もしまどかを見つけたら……どうしよう
※第8話、雨の中まどかと別れた直後からの参戦です。半ば放心状態だったため、ルールを全て把握できていません。
※呼び名があんた→カルマに変わりました。
※赤羽業とのコープが4になりました。以下のスキルを身に付けました。
「魔法少女トーク」相手との会話交渉が決裂した時に、魔法・魔力を扱う参加者であれば、交渉をやり直せる
「魔法少女の追い打ち」カルマの攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
「ステルスダッシュ」ダッシュ中、敵に気づかれにくくなる。

【支給品紹介】
【血のシミター@ペルソナ5】
美樹さやかに支給された剣。ガンカスタムが施されており、「中確率で絶望付着」の効果が付いている。

【赤羽業@暗殺教室】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:元の日常に帰って殺せんせーを殺す
1.刈り取るものに対処する(逃げも一手と考えている)
2.まずは霊とか相談所へ向かい首輪の解除方法を探す
3.渚くんを見つけたら一発入れとかないと気が済まないかな

※サバイバルゲーム開始直後からの参戦です。
※美樹さやかとのコープが4になりました。
※呼び名が美樹さん→さやかに変わりました。
【高巻杏@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:マシンガン※対先生BB弾@暗殺教室
[道具]:基本支給品(食料小) 不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を改心させる
一.刈り取るものを斃す
二.島にあるであろうパレスの主のオタカラを探し出す
三.食料確保も含め、純喫茶ルブランに向かう
四.怪盗団のメンバーと合流ができたらしたい
※エルマとのコープが3になりました。
※参戦時期は竜司と同じ9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。
※杏はパレスということから、オタカラがあるのではと考えています。

【支給品紹介】
【サブマシンガン※対先生用BB弾@暗殺教室】
本来は人体には無害のBB弾だが、パレスの効力により対先生ナイフと同じく、本来は持っていない殺傷力を有する。
杏はBB弾でも殺傷できることを理解している。 ※マガジンを一つ消費 残りのマガジン数は後続の書き手様にお任せします。

【上井エルマ@小林さんのメイドラゴン】
[状態]:健康 空腹(小)
[装備]:レテの斧@ペルソナ5
[道具]:基本支給品(食料なし) 不明支給品(1〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神の殺し合いを阻止する。
一.刈り取るものを斃す
二.調和を乱す姫神は許さん!…あ、お腹が空いた…
三.トール・カンナと出会えたら、協力を願う
四.小林さんに滝谷さんに出会ったら保護する
姫神により全身ドラゴン化や魔法が制限されていることを把握しています。
※参戦時期はトールと仲直りした以降。
※杏とのコープが3になりました。以下のスキルを身に付けました。
「エルマの応援」エルマと絆を結んだ者は身体能力がほんの少しだが、底上げされる。
「エルマの本気応援」エルマと同行中している限り戦闘中、経験値が上昇する。(相手の技を見切るなど)

【支給品紹介】
【レテの斧@ペルソナ5】
上井エルマに支給された斧。ガンカスタムが施されており、「中確率で忘却付着」の効果が付いている。

【刈り取るもの@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(小) SP消費(小) 右腕欠損 
[装備]:刈り取るものの拳銃×1@ペルソナ5
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:命ある者を刈り取る
※杏とエルマの助太刀乱入により、1回行動から2回行動に切り替わりました。

300魔法少女の時間 ◆Oamxnad08k:2020/09/09(水) 23:04:27 ID:RZGqJt0.0
投下終了します。

301 ◆Oamxnad08k:2020/09/10(木) 23:23:03 ID:LGZX2AD60
投下お疲れ様です!

さよならメモリーズ

ジョーカーこと雨宮連の心情が伝わりました。
そうですよね。4月は、惣治郎との関係も深くないので、邪険に扱われるわクラスメイトの白い目などまさしく秀尽学園は囚人を投獄する意味合いが強いかと。
そして、「俺は、生きていたかった。」からの仲間との決別に切なさを感じました。

302 ◆2zEnKfaCDc:2020/09/11(金) 15:58:09 ID:e71yzksk0
投下お疲れ様です!

カルマの挑発にも乗らず、さやかの(敵に回すと厄介なことこの上なさそうな)痛みを無視しての特攻でも倒れないタフさを持つ刈り取るもの、どことなく天敵感が拭えない。それぞれ芯を持ってる二人ですけど、結局は生身の人間に過ぎないカルマと、魔法少女の中でもルーキーなさやかという、フィジカル面の不安が露呈した感じがありますね。だからこそ、ドラゴンのエルマと刈り取るものを知るパンサーが合流したのは心強い。ここからどう転がるか、楽しみです。

303 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/01(金) 21:32:58 ID:D4KXpwcQ0
感想有難うございます!
トリップが変わっていますが、◆Oamxnad08kです。

「魔法少女の時間」
書いていてカルマの描写が難しく悩み…さらに人外との相手をするから、なおさらでした(汗)
カルマとさやかだけで刈り取る者との対峙は厳しいと思いエルマとパンサーを合流させました。
この闘いの結末がどうなるのか、自分としても楽しみです。

坂本竜司、西沢歩、マリア、真奥貞夫で予約します。
一部(とうかほぼ)自己リレーとなること申し訳ありません。

304温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ ◆s5tC4j7VZY:2021/01/02(土) 12:54:51 ID:J67pqHTw0
完成したので投下します。

305温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ ◆s5tC4j7VZY:2021/01/02(土) 12:56:42 ID:J67pqHTw0
ーーーーーザッ!!
建物前で足を止める二人。

「ここって…」
「旅館みてーだな」
歩は地図を広げて確認する。

「うん。そうだね。ここはB5の「温泉」みたい」
「ってことは、温泉旅館か…」
「温泉旅館かぁ〜…思い出すなぁー」
歩の脳裏に想起されるのは、下和田温泉での出来事。

ハヤテが伊豆の下和田温泉旅行へ行くことを知った歩は同じくそこへ向かった!
《……自転車で。》
「そ、それは、電車賃が足りなかったからしょうがなかったの!」

「歩…何処に向かって言ってんだ?」
若干、あきれ顔で歩に声をかける竜司。
「はうあぁ!?」

いまだ、天の声に反応(ツッコむ)する恐るべき歩のスキル。

「な…何でもないよッ!ほ…ほら、入ろ?」
「お…おう」

ガラガラ……
歩が入り口の扉を開けるとそこは…

「いらっしゃいませ♪」

ーーーーーメイドのお出迎えだった。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「そうですか…マリアさんもまだハヤテ君とナギちゃんに出会っていないんですね…」
歩とマリアは現状確認をしていた…
「ええ。西沢さんもまだのようみたいですね……はい。とりあえず、これで傷は大丈夫ですよ」
「さーせん。マリアさん」
マリアは竜司の膝の擦り傷を消毒して絆創膏を貼り終える。

「さてと…どうしようか?竜司君」
「そうだなぁ〜…まずは、旅館内に何かないか探索する…」
歩と竜司の話し合いに…

「温泉に入りましょう♪」

マリアの唐突の提案が介入してきた。

「「え?」」
「やっぱり、「温泉」旅館なんですから温泉に入るのが道理ですわ♪」
「まぁ…それはそうだけど…な?」
「うん。なんか、この状況では入りずらいよね…」

殺し合いという状況において流石に乗り気になれない二人だが…
「この旅館には豊富な食材があったの。二人がのんびりと湯に浸かっている間に三千院家特別フルコースの準備をしておきますわ♪」
マリアの熱気に。
「そこまで言うなら…」
「入るとすっか」
温泉に浸かることを決めた歩と竜司。

「それでは、混浴ですよね?準備は万端ですわ♪」

「ちょッ!?マ…マリアさん!?」
「ま…マジかよ!?」
驚く歩と竜司

「冗談です♪ちゃんと、男湯・女湯で準備しております」
「…ほっ」
「はは…そうっすよね……」
安堵した歩とちょっぴり残念がる竜司……

☆彡 ☆彡 ☆彡

306温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ ◆s5tC4j7VZY:2021/01/02(土) 13:02:09 ID:J67pqHTw0
「ふ〜いい湯だぜ〜…」
体を洗い、温泉に浸かる竜司。
「いやー、それにしてもマリアさん。歩が言った通り、美人で出来る女性って感じだったよな〜」
湯に浸かりながらマリアの印象を一人呟く竜司。

「それに、メイドさんだろ?…くぅ〜メイドといやぁ、あなたの!為に!何でも!!のメイド!!!」
「天使のような治療に美味しそうな料理の提供!!!……はっ!?」
「これが、メイドルッキンパーティなのか!?
竜司の脳裏に浮かぶのは、かつて、ジョーカーこと雨宮、それに怪盗団の協力者三島と共に悪を成敗するために調査しに行った極秘ミッション「メイドルッキンパーティ」のことを振り返っていた。

「何だかよくわかりませんが、褒めてくれて、ありがとうございます💗」

「え?」

素敵な声に振り返るとそこに立っていたのは…
「ちょっ…マリアさん!?」

魅力な体はバスタオルで隠されているがマリアだった!

「ど…どうしたんすか!?料理を作っているんじゃ…」
「もう、とっくに作り終えましたわ。なので、時間が余ったから来ちゃいました♪」
湯気の光に輝く髪。

「それで…」
魅惑な瑞瑞しい唇。
「は、はい!」

「ご一緒でもいいですか?」
はじける笑顔。
マリアの誘いに竜司は…

「もちろんっす!大歓迎です!!」
鼻の下はもうデレデレだった。

「…じゃあ、今からそちらに歩きますので、それまで目を瞑って後ろを向いていて下さりますか?」
「りょ…了解っす!」
竜司はマリアの言う通りにする。

スタスタ…
「…」
(ゆ…夢じゃねぇよな?)

スタスタ……
「……」
(あの時は、腹が痛くなっちまったけど、今度こそ…ッ!!)
そう、メイドルッキンパーティは結局、腹が痛くなったために最後までいられず途中離脱した苦い思い出がある。

ドキドキドキ!!!

(俺、もう死んでもいい……)
竜司の興奮が限界を迎え……

「…死んでもらいます」

307温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ ◆s5tC4j7VZY:2021/01/02(土) 13:02:33 ID:J67pqHTw0
「……へ?」

ビリビリビリビリッッッ!!!

マリアの非情の言葉と共に竜司が浸かる湯に投げられたのは電源が入っているドライヤー。
そう、竜司を仕留めるのにマリアが選んだのは【感電死】
(…料理に毒を仕込むのも考えましたが、一人ずつ確実に仕留めるならまずは、防ぎようがない方法で!)

そう、マリアは歩と竜司と出会ってから二人を仕留める気でいたのだ。
(竜司君は姫神君との対応を見る限り、考えなしに行動を起こす。それは、ナギにとって+にはならない)
(西沢さんは…申し訳ないけど、戦力にはならない…ハヤテ君やナギと再会してしまったらそこから仕留めるには難しい…ここで2人共死んで頂きますわ…ッ!!)

マリアの企み通り竜司は碌に反応できずドライヤーが湯に入るのを眺めることしかできなかった。
「…申し訳ありません。これもナギを優勝させるため…」
ナギを優勝させるとはいえ、竜司の命を奪ったことに対する負い目の言葉を吐くマリア…

「…わりぃな。マリアさん…俺じゃなかったら成功してたと思うぜ?」

BLOCK

「なッ!!??」

「ぶっ込め!ジオ!!」

ビリィィィ!!!

「きゃあああああぁぁあ!?」

反撃のジオを喰らう!!

ドサッ……崩れ落ちるマリア……

「…安心しな。膝の擦り傷の治療の礼で威力は抑えておいたぜ」

「ななな…何?何?竜司君!!いまの悲鳴マリアさん!?」

男湯の騒ぎに気づき、バスタオルを急いで巻いて男湯に駆け付けた歩。
「歩…」
「マリアさん!?だ…大丈夫ですか!?」
倒れているマリアを発見して近づこうとする歩。
「歩!感電するかもしれねぇから近づくなッ!!」
竜司が歩を制止しようと肩に手をかけ…

「「あ」」

はらり…歩のバスタオルがゆっくりとずり落ちる………

「「…………」」

「い…いやぁぁぁぁああああ!!」

☆彡 ☆彡 ☆彡

308温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ ◆s5tC4j7VZY:2021/01/02(土) 13:03:53 ID:J67pqHTw0
「わ…ワリィ…でもそんなに、見てはいねぇから…」
「「そんなに!?」ってことは、見たんだよね!?ね!?」
「だから!そんなに…」
「デリカシー。この言葉の意味が分かるかな?竜司君?」

「お…おう。本当にスミマセンでした…」

☆彡 ☆彡 ☆彡

「でも、どうして…マリアさんが?」
「…さっき、マリアさんはお嬢様を優勝させるためと言っていた。それじゃねーかな?」
「ナギちゃんを……」
信じられないといった顔で気絶しているマリアを見つめる歩。
歩の呟きに返答しながら気絶しているマリアをメイド服に着替えさせた後(着替えは歩が行った)旅館に置いてあった縄で縛る竜司。

「うしッ!とりあえず、これで大丈夫だろ?」
マリアを縛り終える。
「さて…と、歩。ワリィがマリアさんは殺し合いに乗っているから同行は無理そうだぜ?」
「うん…そうだね。行こう!……ごめんなさいマリアさん」

歩は気絶して縛られたマリアに頭を下げるとマリアの持ち物を入手して竜司と共に旅館を後にした……

【B-5/温泉/一日目 黎明】
※旅館の宴会場にはマリアが作った料理が2人前置いてあります。ただし1つは毒入り。

【マリア@ハヤテのごとく!】
[状態]:気絶 束縛中 負傷(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:三千院ナギ@ハヤテのごとく!を優勝させる。
1.……
2.姫神くん、一体何が目的なの?
※メイドを辞めて三千院家を出ていった直後からの参戦です。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「ねぇ。竜司くん…一つ聞きたいことがあるんだけど…」
「!?。お…おう…何だ?」
歩の呼び止めにビクッとする竜司。

「竜司君の好きな女の子のタイプって何?」
「おれ?…しいていうなら日焼けとかしてわりと筋肉あって、運動センスありそうな感じ?」
「あー。でも、色白で眼鏡が似合う図書委員タイプも捨てがたいな…」

「……」

「ど…どうした歩…?」

「別に〜。さっき、私のを見たのに一つも当てはまってないな〜と思っただけだよ」
「だから、本当に悪かったって!今度、ラーメンおごるからさッ!!な?」
「…いっておくけど、私、結構食べるからね」
「え!?マジで!?…お手柔らかに頼みます…じゃダメ?」
「もーーッ!竜司君は甲斐性なしなのかな?かな?」

ピロピロリン♪ ♪ ♪
シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!

殺し合いの最中、2人の絆は深まっていく……

309温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ ◆s5tC4j7VZY:2021/01/02(土) 13:04:48 ID:J67pqHTw0
【B-6/平野/一日目 黎明】

【坂本竜司@ペルソナ5】
[状態]:健康 SP消費(極小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(未確認) マリアの基本支給品、チェンソー
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反逆する
一.歩と共に殺し合いに反逆して姫神を倒す
二.死んでしまった女の子の関係者に出会ったら、許してもらうまで謝る
三.他の怪盗団のメンバーと歩の関係者に早く出会いたい
四・姫神を倒した後、歩にラーメンをおごる
※歩とのコープが4になりました。
※竜司に話しかけていたシャドウは幻覚か本当かはわかりません。また、出現するかは他の書き手様にお任せします。
※参戦時期は9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。
※歩のを一瞬だけ見てしまいました。
【支給品紹介】

【チェーンソー@現実】
マリアに支給された武器だが、現在は竜司が所持している。使用人の少ない三千院家の庭の手入れはマリアも行っていたので、ある程度使い慣れているかもしれない。
【西沢歩@ハヤテのごとく】
[状態]:健康
[装備]:ヘビーメイス@ペルソナ5
[道具]:基本支給品(食料消費小)、不明支給品0〜2(本人確認不明) マリアの不明支給品(0〜2)(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:竜司と殺し合いに反逆へ歩む
一.皆で生き残りたい
二.竜司君との反逆で強くなりたいけど…見られた……うう。ハヤテ君…
三.ハヤテ君…私、ハヤテ君に伝えたいことがあるから
四.マリアさん…どうして…
※竜司とのコープが4になりました。
獲得スキル
「ツッコミトーク」相手との会話交渉が決裂した時に、異世界の人物であれば、交渉をやり直せる
「ハムスターの追い打ち」竜司の攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※参戦時期はアテネ編前
※竜司に自分のを一瞬だけ見られました。

☆彡 ☆彡 ☆彡

竜司と歩が去った後、数刻がたち……

ーーーーーザッ。

「ここは…旅館か。服も調達したいし、とりあえず入ってみるか」
扉に手をかけようとした瞬間!!
(この魔力は…坂本のか?)
旅館内の竜司のペルソナ、キッドによる魔力の残滓に気づいた真奥は意を決して旅館の扉をーーーーー

【B-5/温泉/一日目 黎明】

【真奥貞夫@はたらく魔王さま】
[状態]:健康 右ほほ腫れ 
[装備]:Tシャツにパンツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(本人確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神にケジメをとらせる
一.旅館内の探索(服と居るかもしれない坂本)
二.パレスについて知っている参加者を探す。ついでに服を調達するか…
三.坂本に会ったら、一発殴る
※参戦時期はサリエリ戦後からアラス・ラムスに出会う前
※会場内で、魔力を吸収できることに気づきました。
空間転移…同一エリア内のみの移動 エリア間移動(A6→A1)などはできない。
ゲート…開くことができるが、会場内の何処かに繋がるのみ。
魔力結界…使用できない。
催眠魔術…精神が弱っている場合のみ効果が効く。

310温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ ◆s5tC4j7VZY:2021/01/02(土) 13:06:32 ID:J67pqHTw0
投下終了します。

地図B-5に温泉ですが、旅館を付け足してしまいました。申し訳ありません。
もし、問題ありましたら修正いたします。

311 ◆2zEnKfaCDc:2021/01/03(日) 00:14:26 ID:DnHQ/zRQ0
投下お疲れ様です!
旅館については、差し当っては出典のないニュートラルな施設については、ある程度弄っても問題ありません!
例えば、(マリアが言及していないので今からそうなることはまずないでしょうが)『三千院家の温泉が再現されている』みたいな設定付与しても大丈夫です。

マリアさん、頭脳も身体能力も完璧超人だけれど、しかし一般人でしかないのはこの世界では弱い方なんですよね……。殺し合いの世界で料理を出されても普通は警戒しますが、知り合いの歩がいた分、毒殺だったら上手くいっていたかもしれないのがまた惜しいところ。マリアを始めハヤテ勢の女の子は風呂と何かと相性悪いのがよく分かりますね。
さて、予約の地点では不穏に思えた真奥と竜司も出会いそうで出会わず……千穂の死を巡る一悶着はおあずけですかね。

鎌月鈴乃、潮田渚、巴マミで予約します。

312 ◆2zEnKfaCDc:2021/01/03(日) 00:34:19 ID:DnHQ/zRQ0
そういえばトリップを変えられたようですが、wikiの方の扱いはどうしましょう?

特に希望がなければ、これまでと同じトリップ(◆Oamxnad08k)を本編一覧に表示する作者の名前のところに表示して、『書き手紹介』の欄で「◆Oamxnad08k(◆s5tC4j7VZY)」と表記する形にしようと思うのですが、どうでしょう?

313 ◆s5tC4j7VZY:2021/01/03(日) 19:44:40 ID:mqwmyg6M0
感想有難うございます!

「温泉は殺し合いでは戦場。油断すると死ぬ 」
地図を見たとき、「温泉」とあったので、温泉(水)→「感電死」キッドがペルソナの竜司はBLOCKとなるのが
構想の元ネタとなり今回こうなりました。
旅館の了承有難うございます。
「三千院家の温泉」←なるほど!盲点でした!!
真奥と竜司はまだ早いかなと思いおあずけさせちゃいました!(ただ、ロワなのでどう転がるかはわかりませんね)

トリップですが、突然の変更で手間かけさせてしまいますが、
◆Oamxnad08k(◆s5tC4j7VZY)の形でよろしくお願いします。

314名無しさん:2021/01/06(水) 00:56:46 ID:8IyOl0Ko0
投下乙です。
ワンポイントから発想していって一転二転のバトル、そして新しいフラグと次につなぐスマートな話だったと思います。
予約の方も個人的にどう動かせばいいか悩んでいたところなので楽しみに読ませてもらいたいです。

315 ◆2zEnKfaCDc:2021/01/06(水) 20:47:35 ID:0QnhVMjw0
投下します。

316闇夜に秘めし刃 ◆2zEnKfaCDc:2021/01/06(水) 20:49:03 ID:0QnhVMjw0
ㅤどうやら世の中とは、本当に望んだものほど手に入らないようにできているらしい。

ㅤかつて、友人というものを望んだ。暗部である私が関わる相手は間もなく死ぬ――他でもない、私の手によって。今日も明日も、さよならを言わずに済む相手が欲しかった。するとどうなったか。千穂殿は殺され、魔王と勇者は今も殺し合わされているではないか。

ㅤ次に、こんな殺し合いの世界の中に希望を見出してみた。

ㅤカンナ勢――あんな小さな竜の子が、戦いを辞めろと叫んでいるのだ。勇者だろうと魔王だろうと、仇も宿命も一旦は忘れ、手を取り合うことだって出来ると、本気で信じているのだ。馬鹿馬鹿しいと一蹴しつつも、縋りたいと思った。その光景こそ千穂殿の望んでいたものに他ならないのだから、彼女への手向けに作り上げてやろうと意気込んだ。

ㅤその結果起こったのは、気の緩みだった。殺し合わなくていいのだと思い安心し、敵襲への警戒も遅れ、カンナ殿が撃たれ――それに続く想像を押し殺すように機関銃を前方に構え、駆け出す。一刻も早く、可能な限り速く。狙撃を受けたカンナから離れ、的を自身に定めさせるように。

ㅤ大丈夫だ。カンナ殿は生きている。何せ幼くともドラゴン、銃弾如きで死ぬはずがない。ああ、信じろ。そして誓った通り、狙撃手を無力化した上で必ず戻るのだ。それ以上にできることなど、ない。

(結局、こうなるのだな。)

ㅤつい数刻前まで戦わないことを願っていたというのに、もう戦いに身を投じている。もはや疑う余地はない――これが私の運命なのだ。平和を掴み取ることなど許されぬ。神か天使か、人智の及ばぬ超越者がそれを望んでいるのだ。信徒たる私は、その神託に従うのみ。ああ、教会にいた頃と同じだ。

「……くそったれ。」

ㅤ人生のすべてであったはずの信仰をひと言吐き捨てて、鎌月鈴乃は戦場へと駆ける。

「っ……!」

ㅤ待ち受けていたのは、先ほどよりも濃い弾幕の嵐。銃器同士の戦いでは両者の接近とともに、狙いを定める過程が削ぎ落とされていく。覚悟はしていたが、相手の銃器の扱いは鈴乃の想像を超えていた。少なくとも素人のなせる技ではない。カンナと考察した通り、この場に一般人というものはそうそう紛れ込んでいないのだろう。

ㅤインテ・エスラの民であるのかは分からないが、相手は戦いに身を投じてきた人物。常より命を失う覚悟はできているだろうし、向こうはこちらの命を取りに来ることだろう。殺しを躊躇することなどない。身を守るために、カンナ殿の雪辱を晴らすために、殺してしまえ――頭に浮かんだ考えを、鈴乃は首を振って否定する。

ㅤ今の私は、異端審問官クリスティア・ベルとしてここに立っているのではない。因縁も宿命も超え手を取り合う勢力、カンナ勢のいち構成員だ。戦いが避けられないのなら、犠牲を生まない形で戦ってやろうとも。千穂殿の、生前の最も大きな願いを掴み取るために――

317闇夜に秘めし刃 ◆2zEnKfaCDc:2021/01/06(水) 20:49:42 ID:0QnhVMjw0



ㅤ本当に望むものが手に入ったことなんて、一度もない。あの日、魔法少女になった日から、私の人生は妥協塗れだ。

ㅤ魔女退治のために奮闘すればするほど、友達との心の距離は離れていく。当然よね、誰も本当の私の心に触れられないんだもの。そもそも私が開いていないんだもの。

ㅤ正義のために戦うことに不満はない。そうしなければあの日に私は両親とともに死んでいたのだし、何より、死をも覚悟した時に誰かが手を差し伸べてくれるあの温かさを他人に与えられるなら、それはとっても、嬉しいことだから。

ㅤでも――心の底では、何かが満たされなかった。春の日差しも届かない地の底にひっそりと残る雪のような何かを、私はずっと、心の奥で感じていた。

ㅤあの時、鹿目さんと美樹さんに出会えて、その冷たさの正体が、ようやく分かった気がする。私は寂しかったんだ。誰かに、頑張ったねって言ってほしかったんだ。私は正義の味方でも何でもない、ただの女の子なんだ。

ㅤ殺し合い――もし私がなりたかったような正義の味方だったら、こんなものには乗らずに、乗っている人も説得して、皆で力を合わせて脱出するのを目指すのだろう。

ㅤだけど、殺し合いに来る直前、魔女に殺されかけたことで、自分がいかにちっぽけな存在であるのか、思い知ってしまった。危うく、魔法少女になる決意をしてくれた鹿目さんや、何か叶えたい願いがあるらしい美樹さんを置いて死んでしまうところだった。そんな私が、理想の正義の味方気取りなんて、できないわよね。

ㅤだったらまた、妥協しましょう。私は私が思っているほど、皆を守ることなんてできないけれど、それでも本当に守りたいものだけは、絶対に守ってみせる。それを脅かす者たちを、殺してでも。

ㅤ大切な人を失うくらいなら、正義の味方なんてやめてやる。潮田くんは私が守る。

ㅤ敵は逃げることなく、真っ直ぐに接近してくるようだ。その瞬間、マミの決意はいっそう高まった。

ㅤ死にたくないがためにやむを得ず殺しに走るのならまだ理解できる。本当に追い詰められた時に些細な光を提示されれば、それに縋るしかないのは経験済みだ。しかし相手は、こちらも銃撃を見せ、それでも接近してくるのだ。保身などではなく、積極的に殺しに来ていると見るべきだ。

318闇夜に秘めし刃 ◆2zEnKfaCDc:2021/01/06(水) 20:50:14 ID:0QnhVMjw0
(だったら、加減なんてしてられないわねっ!)

ㅤ近づく鈴乃に向けて数発、魔法少女のチカラにより生み出した使い捨てのマスケット銃を撃っては捨て、撃っては捨てを繰り返しながら次々と放ち込む。魔女相手ならいざ知らず、人を相手にするには十分に、数回は殺せる火力だ。

(嘘っ……!)

ㅤしかし弾は、そもそも的に当たっておらず、鈴乃の前進を阻むことはなかった。ベテランとして魔女を狩り続けるのに、毎日マスケット銃を撃ち続けたマミの腕前をもってすれば、あの程度の距離で誤射は有り得ない。つまり鈴乃は、放たれた銃弾、その全てを躱していたのだ。

ㅤリボンを武器へと変える魔法少女のチカラは、戦場では魔力の続く限り無尽蔵に武器を補給できる。しかし、それが魔力で作られたものであればこそ、その銃撃の性質は魔法攻撃に他ならない。即ち――鈴乃が身に付けているアクセサリ『魔避けのロザリオ』による制約を受けることとなる。致命傷となる決定打を当てられないまま、マミは鈴乃の接近を許した。

ㅤ次第に、夜の暗闇の中でも互いの姿の全貌が見え始める。ここで初めて、互いにとって互いが"襲撃者"である奇妙な関係の二人が対面することとなった。

「うおおおおおっ!」

ㅤ鈴乃は雄叫びと銃声を轟かせつつ、辺り一体に弾幕をばら撒く。決して弾を一点集中させず、威力よりも範囲に。そして臓器よりも手足への狙いに、重きを置いた射撃。殺しはしない。あくまでも目的は殺害ではなく無力化だ。但し、カンナ殿を害した報いとして多少の怪我は甘受してもらう。

――それはまさに、組織の暗部であった彼女の在り方と対極にあるかの如く。

ㅤそう、これは暗殺ではない。彼女にとっての暗殺とは、殺したくないと叫ぶ己の感情を殺しながら相手の命を奪う行いだ。対する現状、鈴乃に殺意はなく、そして心の底には轟々と燻る怒りがある。この戦いは何もかも、暗殺とはほど遠い。強いて、呼び名を付けるのなら――これは決闘。

「ぐうぅッ……!」

ㅤ弾丸が命中したマミは悲痛な声を捻り出し、次のマスケット銃をその手から零し落とす。マミが絶えず撃ち続けていた弾幕が止み、それを好機と捉えた鈴乃は肉薄し、マミの制圧にかかる。

319闇夜に秘めし刃 ◆2zEnKfaCDc:2021/01/06(水) 20:50:51 ID:0QnhVMjw0
「覚悟っ!」

ㅤマミの手元に鈴乃を撃退できる支給品はない。そして組み付きの技術ならば、対人戦に慣れた鈴乃の側に理があるのは必然。腕から肩にかけてミニミ機関銃で撃ち抜かれたマミを、鈴乃は一瞬の内に押し倒し――



「――悪いわね。」

――直後、口角を上げて笑うマミの顔を見た。

「なあっ!?」

ㅤしゅるる、と衣が擦れる音がしたかと思えば、次の瞬間にはマミの腰を取り巻くリボンが鈴乃の体を包み込む。

「くっ……!」

ㅤそのリボンは瞬く間に両の腕を縛り上げ、辺りの木々により固定する。

「こんなの、警戒もできなかったでしょ?」

ㅤソウルジェムを身に付けておらず、和装に身を包んだ鈴乃の姿は、魔法少女のそれとことごとくかけ離れている。それ故に、魔法少女のチカラを知らないとマミは判断し、罠をかけたのだ。

「私たち魔法少女はね、鍛錬すれば痛みも消せちゃうのよ。後学のために覚えておきなさい。次があれば、だけど。」

ㅤ撃たれた腕を平然とぶん回し、一周させる。痛がるフリをして武器を落とすことで、鈴乃の接近を誘ったのだ。

ㅤそして腰元のリボンを腕ごとぐるりと経由したマミの手には、一本のマスケット銃。その銃口の向く先は当然、拘束された鈴乃である。

ㅤ魔法少女について知らなかったことが、鈴乃が拘束を受けた理由だった。マミの指先が、トリガーに掛かる。

「それじゃあ、さようなら。」

ㅤそして、当然――マミもまた、鈴乃の、エンテ・イスラの魔力のことなど知り得ない。マスケット銃が撃たれる直前ギリギリまで、マミに勝利を確信させ――

――タァンッ!

ㅤ銃声と同時、解き放つ――

「――武身鉄光!」

ㅤ首から提げたロザリオが、突如として巨大な大槌と化し、放たれた銃弾を弾いた。

「えっ……!」

ㅤ鈴乃と一緒に拘束していたロザリオの体積を一気に増すことで、リボンによる拘束を振り払う。

ㅤそして大地に降り立った鈴乃の目の前には、突然の出来事に呆然とし、すでに弾丸の篭っていないマスケット銃のみを手にしたマミ。武器ではないものを瞬時に武器と化するその技は、マミの扱う魔法と酷似している。もしかして鈴乃も魔法少女なのか、と。この状況下においては限りなく"無駄"な思考に戦場での貴重な一瞬を注ぎ込んでしまった。そのために、マスケット銃を持ち替えることを失念していた。

320闇夜に秘めし刃 ◆2zEnKfaCDc:2021/01/06(水) 20:51:46 ID:0QnhVMjw0
(……まだっ!)

ㅤしかし咄嗟の判断で、そのマスケット銃を即座に鈴乃に向け、空砲を放つ。響き渡る発射音に、ありもしない実弾を警戒し、鈴乃はマミへの攻撃を中断して回避行動に移った。

「……ブラフ、か。どうやら生成した銃は一発ずつしか撃てないらしいな。」

ㅤ実弾が発射されないのを確認し、苦々しい表情で呟く。魔族とは異なり屈強な肉体を持たない代わりに、人はその頭脳を用いて相手を騙すものであると、鈴乃は知っている。たった今相手にしているのが魔物ではなく人であるのだと、改めて認識する。

「貴方こそ。その手品で隠し札は最後かしら?」

ㅤ対するマミも、魔法少女のような力を持つ人間と戦うのは、杏子の面倒を見ていた頃に経験したことこそあるが、それでも久々だ。意識的に作るポーカーフェイスで冷や汗を隠す。鹿目さんたちの前で『いい先輩』を演じていたように、優位に立つためには余裕を見せろ、と自身に言い聞かせながら。

ㅤ誤解から始まった決闘は、互いの理解を微かに、されど確かに、深めていく。それに伴うかのように、夜の闇もまた次第に深まっていく。決闘のため、それぞれの守りたいものから目を離し続けることで、彼女たちの焦燥や不安も加速していく。

ㅤ夜明けは――未だ、遠い。

【C-4/D-4境界付近/一日目 黎明】

【鎌月鈴乃@はたらく魔王さま!】
[状態]:健康
[装備]:ミニミ軽機関銃@魔法少女まどか☆マギカ、魔避けのロザリオ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:皆が幸せになれる道を探す
一.マミを無力化する。
二.カンナ殿、千穂殿、すまない……。

※海の家に行った以降からの参戦です。
※小林カンナと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、渚の保護を重視
[装備]:魔法のマスケット銃
[道具]:基本支給品、ロッキー@魔法少女まどか☆マギカ(半分)、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。殺し合いに乗る者を殺してでも、皆を守る。
一:鈴乃を撃破する。
二:渚、まどか、さやかを保護する。杏子、ほむらとは一度話をする。
三:渚くんと会話をしていると安心する...彼と一緒に行動する。

※参戦時期は魔女・シャルロッテに食われる直前です。
※潮田渚と互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

321闇夜に秘めし刃 ◆2zEnKfaCDc:2021/01/06(水) 20:52:28 ID:0QnhVMjw0


ㅤ地帯を形成するある一本の大木の裏。息を殺しながら、潮田渚は弾丸が飛び交う戦場を眺めていた。

ㅤマミは自分を戦場から離そうとしていたようだが、渚は見ておくべきだと思った。この殺し合いの場が、どんな世界であるのか。

(これが……殺し合い……。)

ㅤそれは、話で聞いていたよりも数段、身の毛のよだつ光景だった。無尽蔵にばら撒かれるその弾丸ひとつひとつが自分の命を奪いかねない。かつて殺せんせーの指揮の下、クラスの皆でガストロに立ち向かった時とは違う。この世界に立ち向かうのは、自分の身ひとつだ。

(でも、僕らが平和に暮らしている間にも、地球のどこかではこんな光景が毎日、当たり前のように繰り広げられていた。)

ㅤこれまでも、意識してこなかったわけではない。ビッチ先生のような、戦場に生きてきた人たちに比べれば、自分たちの暗殺に賭ける想いは弱いと。

(だというのに、地球を救える舞台に立っているのは僕たちだ。)

ㅤ僕たちは、地球を担うだけのものを差し出せていない。

ㅤ渚の気持ちを加速させるように、マミは魔法少女のチカラを渚に隠していた。

ㅤ自分だって暗殺のことは話していないし、自分の技術の底も見せていない。彼女にだって、事情は少なからずあるのだろう。だけど殺し合いの世界で、平然と、他人を殺せるだけの刃を隠していた事実は渚の心に警鐘を鳴らす。

ㅤ高鳴る鼓動を抑え込み、戦場を観察する。生き残るために。地球を救うために。僕に何ができるのか。何を、するべきなのか。

ㅤ最近、気付いてしまったこと――僕には、暗殺の才能がある。こんな殺し合いの世界であっても、何かができるチカラがある。だって、この場の誰にも――暗殺者(ぼく)の姿は見えてないから。

【D-4/C-4境界付近/一日目ㅤ黎明】

【潮田渚@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:鷹岡のナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:暗殺の経験を積む...?
一:何ができるか、何をすべきか、考える。
二:暗殺をするかどうかはまだ悩み中。
三:とりあえず巴さんの通っている見滝原中学校へ向かう。

※参戦時期は死神に敗北以降〜茅野の正体を知る前までです。
※巴マミと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

322 ◆2zEnKfaCDc:2021/01/06(水) 20:53:16 ID:0QnhVMjw0
以上で投下を終了します。

323名無しさん:2021/01/08(金) 04:09:50 ID:yApD/Vf60
投下乙です。
こういう対主催同士が誤解からドンパチし合う展開はいいですね、ええ大好きです。
互いに持ちうるカードをうまく使いながらもメタ的には状況が悪い方向にしか転んでないっていうのが久々に楽しめました。

324 ◆2zEnKfaCDc:2021/01/28(木) 18:41:04 ID:HbnAwGd.0
芦屋四郎、小林トール、霊幻新隆で予約します。

それと、話の中のメンバーには含まれませんが、そちらが単独で進行すると食い違うので高巻杏、刈り取るもの、上井エルマ、美樹さやか、赤羽業も予約しておきます。

325 ◆2zEnKfaCDc:2021/02/04(木) 18:10:49 ID:srTXwefs0
投下します。

326不調和ㅤ〜カビ問題〜 ◆2zEnKfaCDc:2021/02/04(木) 18:11:45 ID:srTXwefs0
「さて……ひとまず脱出を目指すのは良しとしましょう。しかしひとつハッキリさせなくてはならないことが。」

ㅤ南下の最中、悪魔大元帥アルシエルこと芦屋四郎は、唐突に切り出した。

「何でしょう?」

ㅤ混沌の竜、トールは何かの結論を断じようとする芦屋の一言に多少、警戒を見せる。先ほどまで、小林さんと真奥貞夫のどちらを優勝させるかという、決着のつかない論争を繰り広げたばかり。ここでかの議論を再燃させるような無益なことを芦屋が始めるとは思えないが、ひとまず耳を傾ける。また、似たようなことを考えながら、その議論の仲裁を務めた自称霊能力者、霊幻新隆も芦屋の次の言葉を待つ。

ㅤこうしてふたりの聞く体勢が整ったのを見て、芦屋は口を開く。

「我々の最終目的は当面の間は脱出、ということになっていますが、厳密にはそうではありません。」

「と、いうと?」

ㅤ霊幻が尋ねる。脱出を目指さないのであれば殺し合うということになるが、まさかその提案ではあるまい。先の議論の行方から転換するには早すぎる。24時間――それだけの猶予を、脱出の目処を立てるのにもらったはず。あれからせいぜい、1〜2時間ほどしか経っていない。

「お忘れですか?ㅤ私たちがいかにしてこの殺し合いに招かれたか。」

ㅤ芦屋の問いに、トールは不服そうに答える。魔法を扱える人間の存在を知ってはいるが、魔力の反応すら検知させず、ドラゴンの力ごと封じるような力は知らない。

「お忘れも何も、そもそも覚えていませんよ。どうやったかなんて全くもって不明です。」

ㅤそこは霊幻も同じだった。唐突にこの会場に連れてこられたそれを超能力の類だとは予測したが、それにしてもその方面に相当な力があるはずのモブのそれと比べても大きく性質を異としている。

ㅤたぶん出会ったことは無いだろうが、超能力組織『爪』の中に瞬間移動する奴がいたというのは花沢から聞いたことがある。しかし、ソイツとて大勢の他人を一斉に瞬間移動させるような芸当はできないだろう。

327不調和ㅤ〜カビ問題〜 ◆2zEnKfaCDc:2021/02/04(木) 18:12:30 ID:srTXwefs0
「そう、分かりません。つまりあの姫神という男が存する限り、仮にここを脱出できたとしても再び拉致される恐れがあるということです。」

「ふむ、一理あるな。」

ㅤ問題というのは一時的な解決では意味を成さない。台所のカビを掃除しても、カビが生育する環境を質さなければ意味が無いのと同じだ。

「つまりはカビが生えない環境づくりが大切なのです。だというのに漆原といったら、平気で食べこぼすわ開封した食料を放置するわ……」

「ん、どうしたこいつ。」

「酔った小林さん並に脈絡ないですね。」

ㅤふと正気に返った芦屋が、コホンと咳をして本題に戻す。

「……と、失礼。つまり我々は姫神を放置するわけにはいかないのですよ。」

「まあ言いたいことは分かった。脱出した後、姫神への対応をどうするかってことだな。」

「ええ、そういうことです。」

ㅤ問題の難しさに反して、トールと霊幻は迷いのない顔付きであった。

「そんなの決まってますよ。」
「ああ、決まってる。」

ㅤそしてトールと霊幻は、タイミングを揃えて高らかに宣言する。

「燼滅です。」
「警察に通報しよう。」

ㅤその後、お互いに驚愕の表情で目を合わせたのは言うまでもない。

「いやいやいや、警察ごときの手に負える事態じゃないでしょう。」

「お前こそ物騒なんだよ。やられたら倍返していいのはドラマの中だけだ。」

「奴は小林さんを危険に巻き込んだんですよ?ㅤ法も倫理も私を止めるに至りませんよ!」

「ルールを守って戦ってこその勝利ってもんだろ?」

ㅤ二人はちらりと芦屋を見る。お前の意見を述べよ、と無言の圧力をこの上なくかけながら。

ㅤ実際、トールと同じく異世界出身である芦屋としてはトールの意見に近い。日本に攻め込んできたオルバ・メイヤーに限っては日本の司法にその処遇を任せたが、その時とは事情が大きく違う。何と言っても佐々木千穂の命が奪われているのだ。その地点で真奥を中心とした全面戦争は避けられぬものであるし、恩赦を与える余地も、理由もありはしない。

328不調和ㅤ〜カビ問題〜 ◆2zEnKfaCDc:2021/02/04(木) 18:13:05 ID:srTXwefs0
ㅤしかし、霊幻の語る遵法論は真奥の掲げるそれとどことなく重なり、芦屋が一概に否定できるものでもない。郷に入っては郷に従えと言うように、悪魔の姿を取り戻してもなお日本の秩序を壊そうとしない真奥のやり方には、一切疑問に思うところがないというわけではないが、その信念は元よりの崇拝感情抜きに尊敬に値するものだ。

「お、落ち着いてください。取らぬ狸が過ぎますよ。」

ㅤ結果、芦屋はどちらにつくでもなく、『保留』という形でニュートラルに争いを諌めるに留まった。

「ま、それもそうだ。」
「ふん、命拾いしましたね。」

ㅤここでも、半ば冗談交じりとはいえ物騒な捨て台詞を吐くトール。そんな彼女に向けて、芦屋は語りかける。

「ところでトールさんは、なかなかに好戦的なのですね。」

「……まあ、仮にも混沌勢ですからね。問題ですか?」

「いえ、そういうわけではありません。」

ㅤ芦屋は皮肉を放ったつもりはない。異世界出身の悪魔である芦屋から見れば、闘争を好む者とてことさら異端ではない。トールの好戦的な側面もあくまで個性のひとつとして捉えているし、トールもそのニュアンスは感じ取っている。

「ただドラゴンというのは、むしろこういった催しには積極的に乗るようなタイプに思えたので。」

ㅤエンテ・イスラでは人間と魔族、或いは魔族同士の殺し合いなど茶飯事だった。力こそ正義という名目の下、好戦的な者ほど積極的に侵略を進め、殺し合っていた。そんな衆を統率する立場だった魔王サタンも、なかなか統制がとれず苦労していた。魔物に殺されたというエミリアの父は、そういった輩に殺されたのだろう。

ㅤ興味深いと思った。何故、力こそ正義を大々的に掲げられる環境であるこの世界で、実力主義に生きるドラゴンが実力を行使せずにいるのか。

「否定はしません。力を使えば大体のものは手に入りますしね。何より、話が早い。」

ㅤ口角を緩め、笑みを浮かべるトール。その存在感は、霊幻にもうっすらと実力を感じられるほど圧倒的だ。隙を与えれば本当に眼前のふたりを焼き尽くすかのようにすら思える。

ㅤそんな堂々とした佇まいを崩さず、トールは続ける。

「でも生憎、私は欲しいものがあるわけじゃありません。ただ、失いたくないものがあるだけなんですよ。」

ㅤドラゴンの長い寿命の枠組みの中では、人の寿命など一瞬のようなものだ。だから、その一瞬を楽しみたい。その一瞬に染まりたい。それが、トールのただひとつの願いだった。

「おかしいですかね?」

「いえ。きっと魔王様も、同じようなことを仰ると思いますよ。」

ㅤ腑に落ちたように、芦屋は笑った。

「ま、要は喧嘩が強ければ立派な人間ってわけじゃねえってこった。」

ㅤそこに霊幻が口を挟む。

ㅤそれは、彼が弟子の影山茂夫に教えていることでもある。力を悪戯に行使しないこと。それが、社会のいち構成員として超能力と共に生きるということだ。

ㅤだからこそ、この殺し合いは肯定してはならない。平穏に生きていたい者たちを、首輪で脅して強制的に暴力の中に引き込む、汚いやり口だ。『爪』の奴らのように自分の力に溺れているでもない、目的すら見えない邪悪。

ㅤ絶対に、破綻させてみせる。

ㅤそれぞれが、決意を胸に抱える。

ㅤ人間と、ドラゴンと、悪魔と。種族が違えど、特別な"力"に向き合い続けてきた者たち。時に衝突することはあれど、またある時には協調もある。こうやって擦り合わせられる価値観があることを知っているからこそ、時を同じくすることができるのだ。

329不調和ㅤ〜カビ問題〜 ◆2zEnKfaCDc:2021/02/04(木) 18:13:39 ID:srTXwefs0
ㅤそんなことを考えながら、住宅街エリアに立ち入った、その時だった。

「……っ!ㅤ今のは……!」

「銃声、ですね。」

「……?ㅤあ、ああ!ㅤそうだな。バッチリ聞こえたぜ。」

ㅤ約1名は聞き取れなかったものの、異世界出身のドラゴンと悪魔は、その並外れた聴力で戦闘の音を感知した。

「急いで!ㅤ早く行きましょう!」

ㅤその先に小林さんがいるかもしれない――誰よりも焦燥を抱くのは勿論、トールである。芦屋の探し人の真奥も、霊幻の探し人たちも、どちらも戦闘面での心配には及ばない。

「……お言葉を返せば、私としては得策ではないかと。」

ㅤトールの焦燥に反し、芦屋は冷静に答えた。

「行けば必ずリスクが伴います。パソコンの技術などに秀でている霊幻さんにもし万が一のことがあれば、この世界からの脱出とてままならないかもしれません。」

ㅤ最低限の技術ならば漆原にもあるだろうが、彼は日本に来たばかりな上、貧乏暮らしでろくな環境も与えられていない。霊幻にはおそらく遠く及ばないだろう。

「それにお忘れですか?ㅤ霊幻さんが呪いの書物を使わぬよう、我々は見張らなくてはならないということを。」

ㅤ感情的なトールと、比較的冷静な芦屋。議論となれば分がある側は明らかだった。

「いや、いいよ。行ってこい。」

「……!ㅤしかし……!」

ㅤ霊幻はザックから『呪いアンソロジー』をおもむろに取り出す。禍々しさを醸し出すその表紙――急を要する状況も相まって、芦屋もトールも霊幻の一挙一動に注目する。

ㅤ霊幻はそれを――その場に放り棄てた。

「……え?」

ㅤ2人とも、困惑する。その動作ひとつで、2人が霊幻に付き添う理由のひとつが消滅したのだから。

「あのなぁ、最初っからお前らの知り合いを呪うつもりなんかねえよ。あん時はそう言わねえと俺が殺されかねなかったが、今となっちゃ何の得もありゃしねえ。」

ㅤそしてトールの方をビシッと指さして、霊幻は言い放つ。

「ほら、お前はとっとと行ってこい。守りてぇやつがいるんだろ?ㅤんで、芦屋。お前は俺と来い。これでいいだろ。」

ㅤ自身の生存のみを狙うのなら、トールも、そして呪いアンソロジーも手放さないのが霊幻にとっての得策のはず。まだ完全には信用し切れない様子で、伺うような表情をトールは見せつつも――

「分かりました。それでは行ってきます。」

――結局、戦闘の方が気になるらしく、すぐに走り去って行ってしまった。

「……私としては、少なくとも約束の期限である24時間の間は、貴方の保護を優先したいところだったのですが。」

「まあ、そのためでもあるんだけどな。」

ㅤ霊幻の言葉に、首を傾げる芦屋。しかし、霊幻の説明には続かない。

ㅤトールのためだ、と口では言いながらも、結局それは自分のためなのだ。仮に小林さんとやらが死んでしまえば、もはやトールに脱出を目指す動機は無くなってしまう。むしろ、優勝すれば小林さんとやらを生き返らせることも出来るのだからそちらに傾く可能性が高い。放送は数時間後。トールを敵に回すことを考えれば――仮に小林さんの命の危機が迫っていても間に合うよう動いてもらうのが、霊幻自身の安全のためにも都合がいい、というだけだ。

(――綺麗事言っちゃいるが、結局は俺も厄介なヤツは他に回したいっつーだけなんだろうな。)

ㅤ少しだけ罪悪感を覚えながら、霊幻は芦屋とともに歩き始める――と、その前に――地面に落ちて皺の入った本を拾い上げた。『呪いアンソロジー』、先ほどトールの前で捨てて見せた本である。

「……それはちゃっかり持っていくんですね。」

「ん、当たり前だろ。」

330不調和ㅤ〜カビ問題〜 ◆2zEnKfaCDc:2021/02/04(木) 18:14:51 ID:srTXwefs0
【E-5/住宅街エリア/一日目ㅤ黎明】

【芦屋四郎@はたらく魔王さま!】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:一先ずは霊幻に協力するが、優勝者を出すしかないなら真奥貞夫を優勝させる。
一.魔王様はご無事だろうか……。
二.魔王様と合流するまでは、協力しつつ霊幻さんを見定めましょう。

※ルシフェルとの同居開始以降、ノルド・ユスティーナと出会う以前の参戦です。


【小林トール@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:銃声のした戦場に向かう。優勝者を出すしかないなら小林さんを優勝させる。
一.小林さん、一緒に帰りましょうね!
二.無理そうなら小林さんが優勝してくださいね。その為なら私、なんだってしますから!

※コミケのお手伝い以降の参戦です。

※刈り取るもの、もしくは高巻杏の放った銃声を聞きました。具体的にどのタイミングの銃声なのかは、以降の書き手さんにお任せします。

【霊幻新隆@モブサイコ100】
[状態]:健康
[装備]:呪いアンソロジー@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:優勝以外の帰還方法を探す。
一.俺の事務所で情報収集できりゃいいんだが。
二.モブたちも探してやらないと。

※島崎を倒した後からの参戦です。

331 ◆2zEnKfaCDc:2021/02/04(木) 18:15:06 ID:srTXwefs0
投下完了しました。

332 ◆s5tC4j7VZY:2021/02/11(木) 06:41:15 ID:PTLf30fU0
投下お疲れ様です!
闇夜に秘めし刃
鈴乃とマミの決闘、ほむらも手も足もだせないリボンの拘束を武身鉄光で破る鈴乃にそれを空砲のマスケット銃で動きを止めるマミと互いの力が交わりあうバトル、迫力がありました!
渚は選択の時が近づいていますね。
秘めた刃は果たしてどちらの道を選ぶのか…ドキドキします。
不調和ㅤ〜カビ問題〜
姫神への対応に燼滅を口に出すところや力を使えば大体のものは手に入りますしねの部分など改めてトールは一歩間違うとマーダーになる危うさを感じました……
小林さんの存在がトールを繋ぎとめているんだなと……小林さん、死なないでくれ!と祈っちゃいます。
また、素直に警察に任せようやトールを現場に向かわせる理由に呪いアンソロジーをちゃっかり拾うなど新隆らしさ全開で読んでいて楽しませてもらいました。
最後にカビに例えられる姫神に笑っちゃいました(笑)

弓原紗季・佐倉杏子で予約します。

333本当の気持ちと向き合えますか? ◆s5tC4j7VZY:2021/02/13(土) 11:48:14 ID:JmHiLPSE0
投下します。

334本当の気持ちと向き合えますか? ◆s5tC4j7VZY:2021/02/13(土) 11:49:49 ID:JmHiLPSE0
深夜の負け犬公園。
私はそこで魔法少女と名乗る子と出会った。
その子…杏子は知り合いが通ってたという見滝原中学へ向かうようだーーーーー
後は、私の返事のみ。
杏子と同行するのか、しないのか

「私は……」
(うん…やはり、ここは九朗君と合流をするのが先かしら)

(九朗君やあの娘(岩永)との共通場所は工事現場しかない。ここで、すれ違ったらおそらく出会う確率はグッと低くなるわ……)

誘いの申し出に申し訳ないと思いつつも私は同行を断ろうとしたがーーーーー
「!!」

杏子の目を見た瞬間、言葉が途切れたーーーーー

「……」
あの目は、他人…特に大人を心から信用できず、荒んではいるが、自分の為に力を行使することで心の平穏を保っている子供の目。

鋼人七瀬が起こした事件について弓原沙希は独自で調査をしているが本来、交通課の婦警である。

職務上、周囲や親との人間関係が拗れてしまったために無免許運転を行う非行少女達との接点も多い。
そういう子達は皆、一人ぼっちの寂しさに悲しんでいる目をしている。
佐倉杏子の目は正にそんな彼女達と同じだったーーーーー

「ん?結局、あんたはどっちなんだ?」
言葉を紡ぐのを中断した私に杏子は怪訝そうな表情を見せる。

「私は……」
改めて返答を口として開こうとしたがーーーーーー

ブルルル!!

「きゃッ!?」
突如、お尻のポケットに入れておいた支給品のスマホが震え出した。

「なッ……何なの!?」
スマホを取り出すと……

「はじめまして♪本日からあなたの支給品として働く「律」と申します。よろしくお願いします。」
スマホが喋りだしたーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

335本当の気持ちと向き合えますか? ◆s5tC4j7VZY:2021/02/13(土) 11:56:10 ID:JmHiLPSE0
「それで、あなたは、姫神により支給品とされたのね」
《はい。その通りです。今はスマホ内にしか活動できないのでモバイル律です💗》

「……」
(魔法少女の次は超科学……頭が痛いわ)

私の支給品のスマホから話しかけてきた少女の声の主は律。
正式名称は、自律思考固定砲台というらしい。
なんでも、「殺せんせー」…その名前にツッコミたいところだが……とにかく、その殺せんせーの命を狙うために椚ヶ丘中学三年生へ編入。

編入始めは、命じられたプログラムを遂行する機械として生徒たちとの協調性もなく命を狙っていたが、殺せんせーによる改造によりE組の皆と溶け込めたようだ。
卒業後は本体は解体されたが、データはネット上に住み、日々進化を重ねているそう。

《E組での学校生活を終え、私は電子の海を漂いながら進化をしていた日々でした。ですが…姫神と名乗る人物が私(データ)をサルベージしてスマホにインストールしたのです》
「そして、私に支給されたというわけね……」

《はい。それと、おそらく私と紗季さん、杏子さんの世界は別々の可能性があります》

「えっ!?」
「はぁ!?どういうことだよ」
モバイル律の指摘に私のみならず杏子も驚きを隠せない。

☆彡 ☆彡 ☆彡

「月が常時三日月……そんなことはニュースにもなっていないし、目にもしたことがないわ」
「アタシも右に同じ。空の月が三日月のままなんて見たことねーな」
律のいた地球では、月で行われていた実験により7割破壊されて常に三日月の状態になってしまったようだ。
もっとも、一時的だったみたいで今は元通りになったらしいが……

《私もインターネット上で活動していますが、「鋼人七瀬まとめサイト」なるサイトは聞いたことがありませんし、魔法少女の存在も同様です》

「一応あなたの仮説には説得力があるわね……」
(なるほど。それなら、確かに魔法少女なんて存在、想像力の怪物にカテゴリーされてもおかしくない。もしも、本当に実在するのならば別世界なら……)
紗季はモバイル律の仮説に納得する。

「それにしても、すげーな。それだけで、そんなことまで考えちまうなんて」
杏子はモバイル律の仮説に素直に称賛する。

《はい。暗殺の一年で機能拡張(べんきょう)しましたから》
Vサインで笑顔を見せる律。

「ん?まてよ、じゃあ、アンタの機能で首輪とかも解除できたりするんじゃないか?」
杏子の指摘は私も同様に考えついていた。

《残念ながら、私の機能は大幅に制限されています……》
画面上の彼女は悲しそうに首を横に振る。

《紗季さんのスマホには私の意識(データ)だけでなく、ウイルスデータも仕込まれています……迂闊に手を出すと私の意識(データ)は消去されてしまうようプログラムされています……》

「それは、そうよね……殺し合いを強要する奴がそんな機能を有したのを支給するはずがないわ」
(でも、それにしても機械とはいえ意志がある律を支給品にするなんて、どういうつもりかしら?…やっぱり姫神の裏には六花さんがいる?)
私は改めてこの騒動の裏に六花さんがいるのではないかと疑惑を強める。

「ちっ…それは仕方がねーな…で、話しが逸れたけど、どうするんだ?」
そうだった。返答するはずがモバイル律との会話でしそびれていた…しなければ。

「そうね……正直、九朗君との合流は優先したいけど、律の仮説を信じるならば、戦力を確保することが重要。だから私はあなたと共に行くわ」
杏子と同行をする。本当の理由は「そんな目をするあなた(杏子)がほっとけないだが、それが今の私の本当の気持ち
「…そうか!まっ!いざとなりゃアタシが守ってやるよ!大船に乗った気持ちでいな!!」
杏子は嬉しそうな表情を隠しきれない。

336本当の気持ちと向き合えますか? ◆s5tC4j7VZY:2021/02/13(土) 11:59:01 ID:JmHiLPSE0
我は汝…汝は我…
汝、ここに新たなる契りを得たり
契は即ち、
囚われを破らんとする反逆の翼なり
我【女教皇】のペルソナの生誕に祝福の風を得たり
自由へと至る、更なる力とならん…

シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!
コープのランクが4に上がった!
紗季が「警察の追い打ち」・「現実トーク」をしてくれるようになった。

「よし。それじゃあ、行きましょうか」
(九朗君…無事でいてね…やだ、未練…ね)
私は九郎君(元彼)のことを気にかけつつも杏子との同行を選択したーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

「あれはッ!?」
負け犬公園を離れ、数刻、集団を見つけた。
どうやら、杏子の知り合いがいたらしく、彼女は集団に駆け寄る。

「紗季さん。私たちも急ぎましょう」
「ええ。……情報収集……ね」
私も杏子に遅れぬよう駆け抜けるーーーーー
選んだ気持ちを後悔しないために。

【C-3/平野/一日目 黎明】

【弓原紗季@虚構推理】
[状態]:疲労(小)
[装備]:モバイル律
[道具]:不明支給品1〜2、ジュース@現地調達(スメルグレイビー@ペルソナ5)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破綻
1:杏子をほおっておけないため見滝原中学へ同行する
2:可能であれば九朗君、岩永さんとの合流
3:美樹さやかに警戒(巴マミの存在も僅かに警戒)
4:魔法少女にモバイル律……別の世界か……

※鋼人七瀬を倒す作戦、実行直後の参戦です
※十中八九、六花が関わってると推測してます
※杏子から断片的ですが魔法少女に関する情報を得ました
※モバイル律からE組生徒の情報及び別の世界があるという可能性を得ました。
※杏子とのコープが4になりました。以下のスキルを身に付けました。
「警察の追い打ち」杏子の攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
「現実トーク」相手との会話交渉が決裂した時に、人間であれば、交渉をやり直せる

【支給品紹介】

【モバイル律@暗殺教室】
弓原沙希に支給されたスマホ。律の意識(データ)が登録されている。姫神の手により首輪へのハッキング機能などロワの破綻に繋がる機能を制限するためウイルスが埋め込まれている。機械に詳しい参加者ならば、あるいは駆除できるかもしれない……?
現在、モバイル律にどのような機能があるのかは後続の書き手様に委ねます。

【スルメグレイビー@ペルソナ5】
杏子が八つ当たりで側面がひしゃげた自動販売機から手に入れたジュース。
飲んだ者の体力を(小)回復
攻撃低下&命中・回避上昇の効果付き。

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:姫神に対するストレス、魔法少女の状態
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3 ジュース@現地調達(中身はマッスルドリンコ@ペルソナ5)
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず姫神を殴らないと気が済まない
1:紗季と見滝原中学へ向かう
2:鋼人七瀬に要警戒
3:さやかに会ったら…
4:あれは、まどかッ!?

※魔女化したさやかと交戦中の時の参戦です
※最初の場のやり取りを大雑把にしか把握していませんが、
 大まかな話は紗季から聞いています
※紗季から怪異、妖怪と九朗、岩永の情報を断片的に得ました
※モバイル律からE組生徒の情報及び別の世界があるという可能性を得ました。
※さやかは魔女化した状態と思ってます
※パレスの中では、鋼人七瀬が弱体化してる可能性は仮説であるため、
 実際に彼女が本当に弱体化してるかどうかは分かりません

【マッスルドリンコ@ペルソナ5】
杏子が八つ当たりで側面がひしゃげた自動販売機から手に入れたジュース。
飲んだ者の体力を(小)回復
防御低下&攻撃上昇の効果付き。

337本当の気持ちと向き合えますか? ◆s5tC4j7VZY:2021/02/13(土) 12:00:36 ID:JmHiLPSE0
投下終了します。

今回、支給品に意思がある律を出しました。
問題等ありましたら修正いたします。

338 ◆2zEnKfaCDc:2021/02/19(金) 02:18:26 ID:02Uf/e4M0
投下お疲れ様です。
警察という立場から荒れ気味な杏子の本質を見抜くのが、紗季さんならではだなと感じました。まどか達と合流し、異世界の考察のキッカケとなり得るか、楽しみですね。

モバイル律に関しては問題ありません。実のところ、私も誰に支給するか考えていました。

意思持ち支給品の可否については、完成した後にNG出すのは忍びないのでこの際に規定しておこうと思います。意思持ち支給品のルールとしては「①人間などの禁止」、「②立場的にいち参加者として確立しない程度」、「③キャラに伴い関連する『道具』を支給すること」の三つにします。

①について、人間禁止は特に説明不要だと思いますが、人間でなくても同作品の参戦キャラと種族や立ち位置が並んでいる「イルル@メイドラゴン」や「百江なぎさ@まどマギ」みたいなのも禁止とします。

②については、「ゴーストカプセル(最上啓示)@モブサイコ」や「殺せんせー@暗殺教室」のように、参加者の戦闘補佐というよりはむしろ戦闘の主体となって、明らかに『参加者と支給品のどっちと戦っているのか分からない』となり得る強キャラは禁止とします。あとは願いを叶えられると優勝特典の有難みが薄れますし、魔法少女が増えるとオリジナル設定の付与があまりにも自由になりすぎるので「キュウべえ@まどマギ」は名指しで禁止しておきます。

③は支給品であるという名目と、従う相手(所有者)を分かりやすくしたいが故のルールです。「シラヌイ@ハヤテ」を支給したい場合は、所有者を示すために身に付けている鈴を支給する、といった形でしょうか。それを参加者が所持している限りは命令に従う、紛失した場合はNPCキャラと同等の扱いとします。ただし本作のモバイル律や、未登場ですが「アラス・ラムス@はたらく魔王さま」のように、身体が道具の形をしており用途と直結しているキャラはそれ単体でOKとします。

339 ◆s5tC4j7VZY:2021/02/20(土) 13:44:32 ID:tHr.cgOM0
意思持ち支給品についての規定、承知いたしました。

感想ありがとうございます。

本当の気持ちと向き合えますか?
紗季さんの「警察」という職を活かしたいなと思い、杏子との同行にさせました。
また、個人的に紗季さんは数少ないThe一般人ポジションだと思っていましたので、サポート役として律を支給しました。
合流後の展開は自分としても楽しみです。

340 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/02(火) 00:46:03 ID:9NOU0u4.0
鷺ノ宮伊澄、雨宮蓮、遊佐恵美、漆原半蔵、小林さん、花沢輝気で予約します。

341 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:42:10 ID:RLTQPusQ0
投下します。

342Get ready, dig your anger up!【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:43:31 ID:RLTQPusQ0
「私の邪魔を、するな……。」

ㅤ小林と伊澄、2人の前に立ち塞がったのは、怒りの感情を暴走させた勇者、遊佐恵美。人々を護り、導くはずだったかつての面影は残っていない。今の彼女は心を焼く怒りのまま、魔王を殺すことだけを目指す脅威の化身。虚ろに彷徨うその瞳には深く闇が根差していた。

ㅤしかし、彼女を構成するものは何一つ変化していない。人類の尺度で言えば規格外の聖法気は、闇に染まれど健在である。その圧倒感は、小林が終焉帝と直面した時に感じたそれと同じ。血走った目、既に人を殺していてもおかしくない激戦の跡が見られる全身の生傷、小林の素人目ながらに、危険度を理解出来る。

「できれば、話し合いで済ませたいところなのですが……そうもいかないようですね。」

ㅤ鷺ノ宮伊澄は最も早い段階で警戒を見せていた。遊佐の業物である木刀・正宗は鷺ノ宮家の宝具。元を辿れば伊澄の所有物だ。それは遊佐にとってある意味幸運だったのだろう。伊澄は遊佐の精神暴走の間接的原因を把握出来ている。危険人物と断定され、問答無用に排除される未来よりはよほど先が見込めるだろう。

ㅤしかし伊澄にとっては、決して幸運とは言えない。相手が純粋な殺人鬼だと思っていれば、躊躇わず防衛戦に入ることもできていただろう。だが、遊佐の暴走があくまで本人の意思とは別にあると気付いた以上、殺傷に少なからず躊躇いが生まれる。ましてやその原因が、己の宝具にあると推測していれば尚更だ。

「少々荒っぽいですが……力ずくで鎮めさせていただきます!」

ㅤ胸を差す罪悪感に手を震わせながら、タロットカードに霊力を込める。一般人である小林は感じ取れないが、エンテ・イスラの民である遊佐は、その力の脅威を感じ取る。

「へえ……?ㅤ禍々しい力ね。まるで、悪魔のよう。」

ㅤ聖法気を正の力とするならば、伊澄のそれは負の力。悪魔の――自分が殺すべき相手の力だ。それを感じ取ったからには、生かして帰す道理は無い。伊澄の全身を包む和服から連想されるはずのかつての友人の姿も、今の遊佐には浮かばない。

「つまりあなたは私の敵。殺してやるわ。」

(速いっ……!)

ㅤ動いたのは遊佐。天光駿靴で即座に伊澄の背後を取り、聖法気を込めた木刀・正宗でその首を狙う。

「っ……!」

ㅤ熊の爪とて通さない結界を張ってもなお、全身にビリビリと巡る衝撃。現在降りかかる身の危機をこの上なく感じ取った伊澄は顔をしかめる。

「伊澄さんっ!」

ㅤ先ほどまでの伊澄ののんびりした様子が消え去ったことに、小林もまた危機感を覚えずにはいられない。小林は叫ぶ。その音に反応し、遊佐の視線が小林に移る。

343Get ready, dig your anger up!【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:44:18 ID:RLTQPusQ0
(いけないっ……!)

ㅤ今の遊佐は制御が効かない。誰を標的と定めるかの予測が付かない。今は自分の霊力に惹かれていても、何かの拍子に小林が狙われる可能性もある。

「これをっ!」

ㅤ遊佐の連撃の合間を縫って小林の足元に棒状の何かが投げ付けられる。怪異たちの知恵の神が歩行の補助に用いていたステッキ。本来、何の力も備わっていないはずのそれは大地に突き刺さり、足元に星型の結界を形成する。

「私の霊力を宿しています。その結界の中にいる限り、敵は易々とは手を出せません。」

ㅤすげえな、とゴーストスイーパーとやらの能力に舌を巻くばかり。自分の知る範囲で言うところの認識阻害のようなものだろうか。

「ドラ〇ンクエストで言うところだと聖域の〇物のようなものです。」

「あ、うん……。」

ㅤ分かる人には分かる説明を終え、再びタロットを手に遊佐の攻撃への対処に回る伊澄。安全確保といえば聞こえがいいが――要は戦力外通告だ。

ㅤいや、分かっている。分かっているのだ。力も無いのに自分も戦いたいなど、自分のエゴに過ぎないのだと。分を弁えねば伊澄さんの負担になるだけだと。自分に出来ることは、伊澄さんの戦いの気を散らさないようここでじっとしておくことだけ。それ以上を望めば死ぬ。

ㅤ拳を握る。種族差という越えられない壁がそこにある。それを越えてしまえば、もう私は人間とは言えないのだろう。ヨモツヘグイ――黄泉の竈で煮た肉を食べてしまえばもうその地点で常世の人には戻れないという。この戦いに介入するというのは、そういうことだ。私が人である限り。人でありたいと願う限り。手を出すのは、余計なことでしかない。

(ありがとうございます、小林さん。)

ㅤ氷晶が爆ぜ、業火の舞い散る戦場の中、横目で小林が魔法陣の中に収まったのを確認すると、持てる全ての集中力を目の前の敵に傾ける。

「――八葉六式・撃破滅却。」

ㅤ伊澄がタロットを翳すと、眼前に大爆発が巻き起こる。霊力の流れを察知し、事前にバックステップで回避した遊佐は無傷。しかし爆風で後方に退避した伊澄も相まって、両者の間には大きく距離が開く。遊佐の聖法気を込めた剣技であっても、目視による回避が存分に間に合う距離だ。剣術を扱う遊佐を相手に、近距離戦は本来、伊澄には分が悪い。

ㅤ物量の嵐とばかりに、タロットに魔力を込めて次々と放つ伊澄。だが、遠距離攻撃が回避しやすいのは遊佐にとっても同じこと。その隙間を縫って避け続け、伊澄の霊力ばかりが消耗していく一方。

(このまま……正宗さえ破壊すれば……。)

ㅤしかし両者間では勝利条件が大きく異なる。伊澄の命を奪えば勝てる遊佐と、遊佐を正気に戻せば勝てる伊澄。精神暴走を媒介している木刀・正宗の破壊こそが、伊澄の狙いである。

ㅤ自分を狙う攻撃には敏感に対処できても、武器のみを狙う攻撃まで対応するのは困難なはず。事実、避けきれず木刀・正宗で弾かざるを得なかったタロットは、着々と武器へのダメージを重ねていく。

(これで決めてみせる――!)

ㅤそして、タロットへの対処に追われていた遊佐。次の伊澄の行動への対応を遅らせることとなる。自分から距離を離した伊澄があえて接近し、再び距離を詰める。その手には『死神』を模した1枚のタロット。

「術式・八葉――」

ㅤ伊澄の纏う霊力が、守りから攻めに転じたことを感知し、チャージのために一歩引き下がる遊佐。精神暴走の影響で防御力が下がっていることを、遊佐は本能で理解している。それならば迎撃するより他にない。刀に聖法気を宿し、力には力の理論で返す。

「――建御雷神(タケミカヅチ)!」

「――天衝光牙ッ!」

ㅤ二人の放つ雷撃がぶつかり合い、弾ける。そのエネルギーの眩さに、傍観者の小林ですら視界を白く塗り潰される。ましてや、当事者の二人はその爆心地にいるのだ。両者ともに一時的にその視界は失われる。

344Get ready, dig your anger up!【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:46:46 ID:RLTQPusQ0
「空突――」

ㅤ戦場の二人に平等に訪れた空白の数秒間。しかしそれは、遊佐への大きなアドバンテージだ。身体能力そのものは人間の域を出ない伊澄は、数秒で遊佐を撹乱するだけの行動を起こせない。しかし身体能力の尺度が違う遊佐。視界の消えた刹那の時を利用して伊澄の背後に回り込む。

ㅤ視界が開けた時、手持ちのタロットに霊力を込め終えた伊澄の眼前に、遊佐は見えない。

「後ろ!!ㅤ後ろだぁぁ!!」

「――連弾ッ!!」

「うぐっ……!」

ㅤ小林の助言虚しく、次々と放たれる遊佐の拳が伊澄の背に命中する。結界も間に合わず衝撃をまともに受け、吹き飛ばされた勢いのままに大地を転がり、平穏な日常では見ることも無かったであろう大きさの血の塊を吐き出す。

ㅤよろよろと起き上がれば、眼前には追撃に走る遊佐の姿。タロットを取り出す暇も無い。しかし臓器への攻撃を許すわけにもいかない。右手に霊力を込め、突き出す。

ㅤ対するは、風の刃を纏った木刀・正宗による刺突。聖法気により鋭利さを得た宝具を、咄嗟の抵抗では相殺し切れるはずも無く――まるで瓦の如く、伊澄の右の掌を骨ごと砕いた。

「ッ――!」

ㅤ決壊し、弾け飛ぶ血飛沫。苦悶に表情を歪ませつつも、霊力を爆ぜさせ、遊佐の追撃を遠ざける。

ㅤそうして再び保たれた一定の距離。文字通り息づく暇もなかった攻防にインターバルが訪れる。同時に、余裕が生まれて口内から血の味がじわじわと広がってくる。

ㅤ戦況は大きく不利に傾いた。聖法気を纏った木刀・正宗が思った以上に丈夫であったことも、体内に宿す聖法気は感知していたが遊佐の剣術の腕までもは外観では見切れなかったことも、この戦局を動かした何もかもが伊澄の想定の外にあった。

ㅤ伊澄は、基本的に敗北というものを知らない。光の巫女として天賦の才を持って生まれた彼女は、霊力をはじめ異能の力の類において対人で不覚をとったことは殆ど無かった。

ㅤここで与えられた四肢欠損の激痛。先の応酬は紛れもない敗北に終わり、そして痛みの先の死まで見え始めている。年端も行かぬ少女の心を折るには、充分すぎる。

ㅤこうなればもはや敗走も手だ。鷺ノ宮家の秘術『強制転移の法』を用いれば、小林さんごと何処かへ瞬間移動して逃げることも可能。しかし、暴走を起こした遊佐の扱う武器が木刀・正宗であるために、その選択肢は奪われた。鷺ノ宮家に伝わる宝具のせいで、誰かの命が奪われる事態を引き起こすわけにはいかない。知り合いたちは全員、そしてその中でも特にナギは、遊佐と渡り合えるほどの実力を持たない。ナギも同じ舞台に招かれている現状、能力のある自分がここで倒さなくてはならない。

ㅤそして、逃げられない理由はもう一つ。

「もう終わり?ㅤ悪魔のくせに、手応えないのね。」

ㅤカチン、と。伊澄の悪癖、負けず嫌いが発動する音がした。もはや口上とも言える安い挑発は、伊澄にはむしろ効果的に働いた。

ㅤ当然よ、と言葉は返さない。返すのは霊力をたっぷり溜め込んだタロットの洗礼で充分だ。

――建御雷神・四面

ㅤ四方から降り注ぐ雷撃が、遊佐の身体を包み込む。一点突破が破られたならば、波状攻撃を仕掛けるのみ。簡単な理屈。しかし、右手を失い霊力注入もままならない状態で、威力を分散させてしまったことは悪手だった。

ㅤ魔王軍との戦いで押し寄せる幾千の悪魔。それに対し、勇者エミリアのパーティーは4人。その頭数の差をしてなお、勇者は敵を駆逐してきた。

ㅤ広範囲の波状攻撃への対処ならば、遊佐の右に出る者はいない。

345Get ready, dig your anger up!【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:47:23 ID:RLTQPusQ0
「光爆衝波ッ!」

ㅤ聖法気を撒き散らし、迫る雷を霧散させる。極雷の道を開いた先に見えるは、伊澄の姿。元より非力な少女の動きが、失血によりさらに鈍っている。霊力を用いての大技も、練る時間を遊佐は与えない。

「しまっ――」

ㅤ木刀・正宗を斜めに構える。既に敵は見据えており――フェイントを織り交ぜることもなく、ただ一直線に向かうだけ。

「死になさい。」

ㅤかつて勇者だった者は、正義を忘れ、斬り付ける。燎原の中に咲いた花を手折るように、それは容易く、一人の少女の命を奪うはずだった。

「……どうして。」

――そこに、割って入る者がいなければ。

「人間の人生なんて、あの子らからすれば刹那のようなものなんだろうけどさ……」

ㅤ助けに入った者を見た伊澄は驚愕に目を見開く。小林が、伊澄を庇い遊佐の斬撃を受けていたのだ。

「伊澄さんは、その刹那に全力を尽くしてくれている。」

ㅤその手には、伊澄が先ほど投げつけたステッキ。遊佐の斬撃を受け止めるも、すぐに真っ二つに切断される。

「だから私も――命をかけるよ。」

ㅤ霊力を用いる伊澄を悪魔の類と見ている遊佐の目に映る小林は、己が導くべき力無き人々である前に――仇討ちの『邪魔者』だ。そこに、容赦は生まれない。

ㅤ次の瞬間には、小林の胴体を斬り付けていた。





ㅤ私に、何ができる?

ㅤ私はただのOLだ。特異点があるとするならば、少しばかりドラゴンと関わっているというだけ。私自身に価値があるわけじゃない。

ㅤそんな私に、何ができる?

ㅤ結論としては、何もできない。魔力や霊力なんて無いし、暴走する遊佐を打ち倒すことなんて出来やしない。身の程は、分かっているつもりだ。

ㅤこうやって"人間"と"それ以外"で線引きしてしまえれば、きっと楽だ。人間だからできない。人間とは違うからできるだろう。

(と、そこで思考停止するのは簡単だけどさ。)

ㅤ身の丈にあった分業と言えば聞こえはいいが、その実は分断――悪くいえば迫害。関わらないのが吉であると、互いに不干渉を決め込むことこそが最善であると、そう唱えているだけだ。

ㅤでも、そうじゃない。そんなこと、私は望んじゃいないんだよ。いつだったか、ドラゴンと対等のつもりか、とファフニールに聞かれたことがある。その時、私はそうだと答えた。ここで自分がただの人間であることを理由に戦いを伊澄さんに丸投げしてしまえば、多分私は同じ答えが言えなくなる。

ㅤ確かに自分はただの人間だ。だけど、何度か命を賭けたおかげで感覚だけは常人離れしている自覚はある。

(そうだ。私には力なんてない。でも、そんな私にも出来るのは――)

ㅤ大地に突き刺さって安全を保証してくれているステッキを思い切り引き抜いた。

(――守りたいものを守るために、命を賭けることくらいだろ!)

ㅤ弾除けだと言うならそうなればいい。伊澄さんが勝負を決めてくれるためのひと時を、全力で整えてやればいい。

ㅤ対抗手段とするには頼りないステッキを盾に、遊佐の斬撃にめいっぱい食らいついた。

346Get ready, dig your anger up!【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:47:58 ID:RLTQPusQ0
――バキッ!

(この感覚、何回目になるかな。)

ㅤ勇者の一撃を前に、ステッキは簡単に砕ける。

(わかんないけど……今度こそ、死んだかもな。)

ㅤそして防具らしきものを失った小林に、木刀・正宗の一撃が思い切り叩き込まれた。

ㅤ次に小林の全身を支配した感覚、それは――

「いっ……」

――痛みだった。

「痛ッてぇぇぇぇぇ!」

ㅤステッキに込められていた伊澄の霊力は、木刀・正宗を受け止めた際に超能力の一種である聖法気を吸収した。そのため小林が受けたのは、殺傷力の低い木刀による打撲のみ。素手で熊をも倒す勇者の剛腕による木刀、それはそれで悶絶じゃ足りないほどに痛い。だが、それ止まりだ。命に関わる致命傷からは程遠く――

「くっ……離せ……離せええええっ!!」

ㅤそしてそれ故に、小林は受け止めたそれを掴んで離さないことができた。

ㅤ小林ごと貫くわけにもいかず、その隙に迂闊に攻撃は放てない伊澄。しかし小林は、必殺技を溜め込むには充分すぎる時間、遊佐の拘束を果たした。

「この……消えろッ!」

「うわあっ!」

ㅤ振りほどかれた小林は、わざと大袈裟に転がって伊澄の巻き添えを食わないようその場を離れる。

「あとは、私が!」

ㅤ伊澄の手には一枚のタロット。霊力を編み込み、天に掲げる。

「……どうか、悪く思わないで。」

ㅤ小林が駆け付けて、そして繋いでくれたこの一瞬。熱く燃えたぎる闘志とは遠くかけ離れた性格伊澄である。しかしそれでも静かに灯る心根が、遊佐に訪れた千載一遇の隙を捉えて離さない。

「術式八葉上巻・別天津神(ことあまつがみ)!!」

ㅤ地を破り、霊力で形成された宝剣が浮き上がる。次第にそれらは融合し、依代となったタロットが示す通りに"悪魔"の形へと変わっていく。鮮明に存在を主張する異形を、遊佐はどこか、懐かしさを覚えながら睨み付け――そして、放たれる。標的は木刀・正宗――勇者の命を救いつつも、勇者を闇に堕とした元凶でもあるひと凪ぎの宝剣。

「……不思議な感覚。」

ㅤ強大な力を前に、遊佐は小さく呟いた。

ㅤ悪魔を模した、どす黒く醜悪な見た目の霊力の塊。だがこうして目の前にしてみると、その性質はどことなく温かい。

ㅤ初めての感覚じゃない。いつだったか、昔にもこんなことがあった気がする。嫌悪の対象だと信じてきたものが、その実は悪しきものとは遠かったことへの困惑――それに伴う葛藤の日々を、遊佐の頭には浮かばない。身を焦がすほどの怒りが、その日々を塗りつぶしてしまっている。

ㅤしかし己へと迫るそれが到達する寸前、遊佐の目に僅かに光が灯る。それは正気からは遥か遠い。しかし、悪魔への怒りだけを昂らせた精神暴走状態の遊佐であれば決して取ることのないであろう行動を、遊佐は選び取る。

347Get ready, dig your anger up!【前編】 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:48:32 ID:RLTQPusQ0
「――天光鏡閃。」

ㅤ悪魔を模した攻撃に対して取った行動は、怒りに身を任せての破壊ではなく――反射。

ㅤ木刀・正宗を翻し、霊力の表層をそっと撫で上げ、返す。まるで寄せては返す波の如く、別天津神は力のベクトルを真逆に変え、伊澄へと向かっていく。

「――そんなっ……!」

ㅤゴーストスイーパー鷺ノ宮伊澄。退治してきた悪霊は数いれど、己の強大な力が、そのまま向かってきた経験は未だ無い。

ㅤましてや、聖なる力を操る勇者と、歪な力で形成された悪魔が、共に己に向かって来る光景。勝てるビジョンなど浮かばない。

(相殺するしかっ……!)

ㅤ別天津神は伊澄の必殺技の一つ。その威力は伊澄が最も理解している。温存は許されない。伊澄に到達する直前、霊力をありったけ込めた結界を張り巡らせ――

「はぁ……はぁ……」

ㅤその威力の大半を、殺し切った。しかし相殺を図ってなお受けた傷は決して浅くはなく、しかも戦線を切り抜けたその姿は外目にも分かるほど、異常をきたしており――

「伊澄さん!」

ㅤ小林が駆け寄る。伊澄の古風な美貌を彩っていた黒髪は、雪のように白く染まっていた。霊力が切れた時に起こる変化であり、それ自体命に別状は無い。しかし、その状態とは別に命の危機は迫っている。

「駄目……逃げ……て……」

「逃がすわけないでしょう?」

ㅤエミリア・ユスティーナ。数多の悪魔を灰燼に化してきた聖剣の勇者は未だ、膝を着くこともなく五体満足で立ちはだかる。射程内に捉えるは、異形の力を用いた少女、伊澄。

「悪魔なんておぞましい存在、生きてていいはずがないの。お前も、そして邪魔をしたお前も、みんな、みんなブチ殺してやる。」

ㅤその精神に、かつての面影は残っていない。支離滅裂な思考から繰り出される言葉に、辻褄など無い。木刀・正宗の副作用とか、精神暴走とか、そんな一切合切を知らない小林にも、遊佐が人間としてのタガの外れている存在であることくらいは分かる。

ㅤだからこれは、ただのエゴに過ぎないのだろう。

「――ふざけんなっ!」

ㅤ終焉帝の時とは違う。対話では解決しないことなんて、分かり切っているのに。

「そりゃ悪魔ってのは私の管轄外だよ。私はせいぜい、ドラゴンについて人よりちょっと知ってるだけのOLだ。それでも、この子とはアンタより関わってる。」

ㅤ敵の狙いが伊澄さんだと言うなら、今すぐにでも見捨てて逃げるべきだ。2人まとめて死ぬぐらいならよほど合理的だし、その選択で見捨てられる彼女自身、それを望んでいる。

「んで?ㅤこんないい子つかまえておぞましいだって?ㅤよくもまあ適当ぬかせるもんだ。」

「……黙れ。」

「分からないものと分かり合える可能性を捨てたアンタに、私は負けない!」

「そこを退け……!ㅤ邪魔だああああっ!」

ㅤ斬られるっ!ㅤそう覚悟を決めたその瞬間だった。小林に斬り掛かろうとしていた遊佐の動きが停止する。何が起こっているのか、立ちすくむ小林も、霊力が切れた伊澄にも理解できない。遊佐は、たった今の今まで目の前にいた二人の存在を忘却したかのごとく明後日の方向を向いていた。

「――見つけたわ。」

ㅤ視線を遊佐の向く先に移す。そこには、二人分の人影。そしてその内の一人は、ただの人間である小林よりも、今や霊力を宿していない伊澄よりも、そしてその他もろもろの誰よりも、優先して殺しに行くべき人物の中の一人。

「何で……」

「ククッ……私の、本当の敵……!」

「何で……!ㅤお前が人間と殺し合ってんだよ、エミリアっ……!」

「――ルシフェル。私は……お前を、討つ!」

ㅤ漆原半蔵。本来の名を悪魔大元帥ルシフェル。いつかは敵同士、されどまたいつかは共闘相手。彼らの宿命の在り方は常に揺れていた。

ㅤそして今――殺し合いの明確な"敵"として、彼らは再び相対する。

348Get ready, dig your anger up!【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:50:29 ID:RLTQPusQ0
ㅤ初めは、ただの興味だった。ひとまず"勝ち馬"を高いところから探すため、『展望台』を目指して移動していた漆原と花沢。その道中、誰かが膨大な魔力のような何かを放出するサマが遠目に見えたから、寄り道がてら様子を見に行ったまでだ。

ㅤ漆原と花沢、どちらにとっても知っているヤツの攻撃じゃ無かったし、殺し合いに乗っているヤツがいるのだろう、程度の認識。佐々木千穂が殺された地点で魔王も勇者も、姫神の言うことなんざ決して聞きはしない。影山茂夫は、元よりこんな催しに乗る性格ではない。そういう意味で、二人の探し人はどちらも信用されていた。

ㅤだからこそ、目の前の光景が信じられなかった。遊佐が殺し合いに乗っているというだけでなく、そのターゲットが悪魔でもその他の異形の類でも何でもない、人間であるということに。

「どうしちまったんだよ。」

ㅤ漆原から遊佐へのこの問いは、二度目だ。一度目は、日本で宿敵のはずの遊佐と真奥がまるで腐れ縁のように馴れ合っていた時のこと。高潔なる勇者と残虐無慈悲なる魔王は何処に消えたのか、困惑を込めてそう尋ねた。そして今回は――その時とは真逆の意味合いで用いられている。しかし、一度目よりもいっそう驚いている自分がいた。

「佐々木千穂が殺されたんだぞ!ㅤそれなのに……お前は、そんな奴じゃなかっただろ!」

「黙れっ!」

ㅤ遊佐の全てを理解していたとは思わない。何千、何万年という天使の寿命の中のたかだか数ヶ月を共にしただけだ。何かのキッカケで人は変わる。聖なる加護を得た天使ですら退屈を前には堕天した。いわんや、遊佐は勇者とはいえ人間。変わることだってあるだろう。

ㅤ勇者が悪魔を攻撃する、それはハブがマングースと戦うくらいに当たり前の事象だ。心変わりの範疇で有り得るものではあると、理論上は理解している。だけど、それを認められない自分もいた。

ㅤ遊佐は漆原の方を向くと、迷いも見せず斬り掛かる。木刀・正宗を介して暴走した怒りが、本質的に向いている先にいる存在。思い出よりも怒りが先行する。したがって、誰よりも率先して斬り伏せにかかる。

「天光炎斬っ!」

「おい、せめて話を聞けって!」

「天光風刃っ!」

ㅤ狂乱、されど一心不乱。長きに渡る過去の宿命と、その期間に負けない程度には積み上げてきた思い出、その両方をふるい落とすかのように遊佐は斬撃に身を任せる。

ㅤ戦いたいのか、戦ってもいいのか。思考はもはやぐちゃぐちゃだ。戦い――否、戦いですら無いのかもしれない。とにかく目の前の現実に身が入らない。遊佐の斬撃が既に眼前に迫っている。こんな形での決戦なんて、お前も望んでいなかっただろうに。

「漆原さん!」

ㅤ気が付けば、漆原を据えていた木刀・正宗がいくつもの線状の念動力の塊に絡め取られている。その力の主は花沢。変わり果てた遊佐と元からの知り合いでなく、誰よりも客観的に現状を俯瞰していた彼は、かつて寺蛇からラーニングした空鞭(からぶち)で漆原への攻撃を遮る。

ㅤ遊佐が剣をさっと凪ぐと、一瞬で全ての空鞭が解かれる。格下に用いるべき空鞭では、今の遊佐は止められない。

「感傷に浸ってる場合じゃ無いみたいだよ。」

ㅤしかし、漆原が覚悟を決めるまでの刹那の時間稼ぎには充分だ。

「……悪い。」

ㅤ目の前にいるのは、かつて敵対したエミリアでも、ましてやかつて共闘した遊佐でもない何かだ。信じたくないが、認めざるを得ない。

「でもここからは僕も、ちゃんとはたらくよ。」

ㅤ背からは堕天使を象徴するかの如き黒く染まった翼。背丈の低い漆原が持てば頭に届くほどのリーチを持つ三つ又の槍<トライデント>を自身の一部のごとく振り回す。人間、漆原半蔵ではなく、悪魔大元帥ルシフェルとしての頭角を現した。紛うことなき臨戦態勢である。

349Get ready, dig your anger up!【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:51:00 ID:RLTQPusQ0
「あは……あはははははっ!」

ㅤ人が恐れ、畏怖するべき悪魔。それを見た遊佐は、高らかに笑う。いつもの遊佐とは明らかに違う様子だ 。武器を叩き付けるかのように荒々しい剣技も、繊細にこちらを詰めるいつかの遊佐のそれと大きく違っている。

(だから別人だと割り切れればいいんだろうけど。)

ㅤ生憎、白髪を揺らめかせるその姿は紛れもない勇者エミリアだ。

(まったく、やりにくいったらありゃしない。)

ㅤ確かに武器の相性だけで言えば、リーチの問題で槍は剣に強い。しかしそれは命の取り合いである場合に限る。

ㅤ最終的に遊佐を殺せと言われれば、漆原はそれを実行出来るだろう。だが、その場合は遊佐に何が起こったかを知る数少ない手がかりを失うこととなる。それに――仲間とまでは呼べずとも、少なくともある程度は"味方"であったはずの遊佐を殺すのは好ましくない。現状は殺意があるのが遊佐だけである以上、リーチの差は有利にならない。むしろ近距離に入るのをどうしても許してしまう分、槍側の不利とさえ言える。

ㅤ漆原の繰り出す槍を潜り抜け、懐に潜り込む遊佐。

「させるかッ!」

――サイコ掌打

ㅤそこに花沢が割り込み、遊佐へ念動力を叩き付ける。人数だけは明確に遊佐に勝っている点だ。吹き飛ばされた遊佐は草原を転がり、しかし痛みも感じさせぬような勢いで起き上がり、再び漆原へと斬り掛かる。

「僕のことなんて眼中に無いとでも言いだけだね。」

ㅤ攻撃しても、攻撃しても、相手は決して自分を見ない。視線だけではない。相手の世界に、ハナから自分という登場人物が居ないかのように。相手から見た自分が、"その他大勢"ですらないような疎外感。突き放されたような孤独――花沢の脳裏に映るのは、一人の男の姿。超能力以外の自分がいかにちっぽけな凡人であるかを思い知らされた大切な出会いであり、しかし同時に心の底に渦巻くトラウマでもある邂逅。

「でも君は、彼の領域にはほど遠いよ。彼は、人を傷つけるような人間じゃない。」

ㅤ花沢が向けた手のひらの向く先の空気が爆ぜる。しかし手応えは無い。爆風の勢いをも利用した天光瞬靴により漆原の背後に回っていた。

(眼中に無いどころか、戦闘環境として利用されている……!?)

ㅤ漆原が"勝ち馬"と謳っていただけのことはある。2対1の状態でも上手く立ち回れる戦闘センス。相手の技を利用して自分の利に落とし込む適応力。まるでこれまでの人生を戦いだけに費やしてきたかのように、その全てが高い水準にある。

「天光炎斬っ!」

ㅤそのまま繰り出されるは瞬間火力に秀でた渾身の一撃。

(だけど、負けるわけにはいかないんだ。)

――重層バリア

ㅤ次の瞬間、漆原に何重ものバリアが貼られる。

ㅤ一枚、二枚、三枚……瓦のように砕けていくバリアも、漆原の振り向きざまの反撃も合わせて遊佐の斬撃を防ぎ切る。

「ふっ……やっと気づいてもらえたみたいで嬉しいよ。」

ㅤそのバリアの源が漆原ではなく、"もう一人"にあると分かり、遊佐は花沢を睨み付ける。

「どうやら僕でも、君と同じ舞台には立っているようだ。」

350Get ready, dig your anger up!【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:51:44 ID:RLTQPusQ0



(これは……助かった……のか……?)

ㅤ一方、遊佐から殺される直前でその矛先を変えられ、小林はどう動いていいやら分からずにいた。小柄な少女とはいえ、傷の浅くない伊澄を抱えて遠くに逃げられるほど力持ちではない。

ㅤ迷っていると、伊澄が掠れた声で何かを伝えようとしているのに気付く。

「あの人は、木刀・正宗に操られているんです。」

「木刀・正宗?ㅤ大層な名前だけど、要はあの木刀が原因ってこと?」

ㅤ伊澄は小さく頷いた。

「おそらくはあれを壊せば正気に戻るはずです。」

ㅤ勝機、というよりは誰も死なずに済む希望が見えてきた。乱入者との会話から察するに、旧知の仲であるようだ。元々の遊佐がどんな人物なのか、小林は知らない。しかし漆原の反応を見るに、殺し合いに乗っている方が不自然な人物であると推察はできる。

「その木刀を壊せ!ㅤそれで元に戻るかもしれない!」

ㅤ声の掠れた伊澄に代わり、小林が大声で伝達する。こちらの目標を遊佐にも聞かれてしまうが、あらゆる攻撃が目まぐるしく交錯するあの戦場に密談できる距離まで接近できる小林では無い。

「なーんだ、そんなことか。」

ㅤ小林のメッセージを受け取った漆原はあっさりと了承する。解決策のハードルがあまりにも低く、拍子抜けしたか。しかし幾分かは振るう槍も軽くなったように感じられた。

「分かりやすくていいじゃんか。倒すべきものがハッキリしてるなんてさ。」

ㅤシリアスな雰囲気醸し出して損したなぁ、と。洗脳された知り合いを前にしたにしては不自然なほどに軽口で、笑い飛ばす。改めて、目の前に存在する者が宿命の深い"聖剣の勇者"ではなく、ただ洗脳された凡人一人であることを、意識する。

「来いよ。聖剣以外を扱うお前に負けるわけがない。」

ㅤ聖剣――その名を聞いた瞬間、何かが遊佐の頭を駆け巡る。常に頭を支配しているこの感情。今まで、そこには別の何かの声が響いていたはずだ。それは、あの憎き魔王を殺すことを躊躇させる要因、そして思い出。己を母と慕うあの声を、遊佐は思い出せない。暴走する怒りの邪魔となる感情は、脳の隅に追いやられている。

「天光飛刃っ!」

「効かないっての。」

ㅤ槍の側面で飛ぶ斬撃を弾く。攻撃の精度はいつもより荒い。集中すれば、むしろ対処はいつもより楽であるとすら言える。

ㅤ漆原の魔力弾を縦横無尽に回避しながら、反撃の機会を伺う遊佐。撃てる魔力弾にも限りはある。遊佐ではなく、本当の敵のために温存したいのが本音だ。魔力と聖法気のぶつけ合いだと、お互いに消耗が激しい。

「あはは……ずっとこの時を待ってた……!」

「お前はもう……」

「父さんの仇と、どっちかが死ぬまで殺し合える……この時を!」

「……黙ってろよ!」

ㅤ聴きたくのない、遊佐の形をした何かとの会話を拒むように流された魔力の波。なまじ遊佐の出生を語り、少なからず彼女自身の願望が混ざっている言葉である分、それが木刀に膨張された感情であると分かっていても気分が悪い。

ㅤ遊佐は身を屈めたまま後進。余波を軽減しつつ距離を置く。だが、花沢がそれを逃がさない。

351Get ready, dig your anger up!【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:52:23 ID:RLTQPusQ0
「引き剥がすよ!」

ㅤ両手合わせて十の指から、それぞれに空鞭を形成する花沢。一本一本の強度は足止めできるものでなくとも、敵の注意が自分にも向いた今、僅かにでも注意を逸らすことはできる。

ㅤ木刀・正宗だけでなく、両腕、両足、胴体――すなわち全身を拘束するために空鞭が迫る。

「天光氷舞ッ!」

ㅤその全ては一瞬で凍り付いた。魔を凝固させ、繋ぎ止める力は念動力に対しても存分に機能する。そして横凪ぎに一振り、空鞭がバラバラに砕かれる。

「今だっ!ㅤ漆原!」

「分かってるよ!」

ㅤ細かい氷塊と化した空鞭が崩れ落ちる道を、少年は翔ける。その手には一本の槍――かつては調和を護るドラゴンが扱っていた三つ又の竜槍。空鞭の対処に用いた木刀に向け、投擲する。

ㅤ花沢の念動力で後押しされた槍は又の間に木刀・正宗を括り付け、遊佐の手から木刀・正宗を剥がし、その先の地面に落ちる。

「――空突……閃!」

ㅤこのまま制圧する――そう思い進む漆原の腹に聖法気を込めた遊佐の拳が叩き込まれた。木刀にすら殺傷力を付与する聖法気。拳に纏えば、やはりそれも凶器となる。

「っ……!」

ㅤ媒体となった木刀・正宗を落としても、体内に明智の魔力は残っている。それが尽きるまで、遊佐の暴走は終わらない。そして、暴走する遊佐の身体能力は健在。

「ぐっ……!」

「死ね……漆原っ!」

ㅤ仰向けに倒れた漆原に、遊佐がマウンティングポジションを取る。先の一撃では止まらない。空突閃の雨、空突連弾への接続が始まる。

「させるかっ!」

ㅤ自由に動けるのは花沢のみ。空鞭で両腕を絡め取り、振り下ろされようとしている腕を止める。そこまでは成功した。ただし、そこから先は根比べ。

(力が……強すぎるッ……!)

ㅤ遊佐の元々の怪力に加え、精神暴走による破壊力の増強。空鞭が引きちぎられ、その拳が漆原に行使されるまで遠くない。

(でも、今お前は僕のことをルシフェルじゃなく、漆原と呼んだ。)

ㅤ遊佐の中で何かが変わろうとしている。エンテ・イスラの勇者ではなく、日本で生きた遊佐恵美としての心を、取り戻しつつある。

「負けるな、遊佐。」

ㅤ自分は悪だ。エミリアから父親を奪った魔王軍に所属する一人。彼女でないにせよ、決して少なくない人々の居場所を奪ってきた。許されようなんて思っちゃいない。

「僕のことなんか許さなくていい。真奥のヤツも、芦屋だってそうだ。」

ㅤだけど、それでも。日本で過ごしたあの日々が、空っぽだったなんて言わせない。得体の知れない洗脳なんかに、あの日々を塗り潰させなんかしない。

「だけど……聖剣の勇者以外に裁かれるなんてお断りだ。」

ㅤ天界に比べて出来ることは少ないけれど――少なくともあの世界は、退屈しなかったんだ。真奥や芦屋がいたからというだけではない。敵であるからこそ上下関係もなく遠慮なく接することのできた、お前たちが居たからだ。

「ぐっ……う……私……は……」

ㅤぽたり、と。遊佐の瞳から涙が零れ落ちた。媒体を失って弱まりつつある洗脳に抗っている。その様子を遠目に見て――花沢はある男のことを思い出す。

(影山君。彼女はあの時の君と同じだ。暴走する感情を、止めて欲しいんだろ?)

ㅤ空鞭に全てを込める内、次第に全身の力が抜けていく。それでも念動力だけは緩めない。己の内から込み上げてくる感情に必死に抗って泣いている遊佐の姿が、彼に重なったから。あの時、彼も泣いていた。暴走する力を止めて欲しいと願っていた。

(彼女からも君と同じ、心の底の優しさが伝わってくる。彼女の力を――人に向けさせちゃいけない……!)

ㅤ絶対に止めるという意志。後悔に由来する力は、100%(限界)を超えて発揮される。

352Get ready, dig your anger up!【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:53:51 ID:RLTQPusQ0
「があああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

ㅤしかし、遊佐は止まらない。彼女の、救国の勇者たる功績。それは今は無き聖剣だけでなく、彼女自身の能力に由来するのだ。

ㅤ氾濫する感情。混ざり合って、溶け合って――そして暴走する。実家の畑を焼かれた怒りは。父親の命を奪われた怒りは。とうに限界など、超えている。

ㅤ突如、花沢の身体が浮き上がる。念動力の類では無い物理的な力。一瞬途切れた意識で、空鞭ごと持ち上げられ、振り回されていると気が付く。

ㅤまずい、と空鞭を消す。支点を失ったことにより、遠心力で吹き飛んでいく。そうして落ちた先は、小林と伊澄の居る地点の近く。怪我の浅い小林が心配そうに駆け寄ってくる。

「だ、大丈夫?」

「あ、ああ……なんとか……。だけど、彼が……」

ㅤ念動力の大部分を浪費して、正直、立っているのも限界だ。だけど問題は、遊佐を漆原の前で自由にしてしまったこと。

ㅤ遊佐は再び木刀・正宗を拾い上げる。絶好の機会に遊佐を止められなかった――僕はまた、力が足りなかった。

「悪魔なんて……許さない……。仇を討つのは……今がチャンスなの……。」

ㅤ睨み合う漆原と遊佐。

「だ……け……ど……」

ㅤしかし、遊佐の様子がおかしい。あの漆原への執着にしては、邪魔者を吹き飛ばした今、漆原以外にターゲットとなりうる相手はいない。だというのに、漆原を殺すように動いていない。そして――

「私……こんな……決着……は……いらないっ……!」

――遊佐は殺意を、否定した。

ㅤまともに回らない頭だからこそ、最も素直で実直な言葉だった。様々に駆け巡り続ける因縁と感情の、その果てにあるただひとつの想い。それが今、引きずり出された。

「エミリアっ……!ㅤその剣を捨てろ!」

「ううぅ……私……私はっ……!ㅤく……うぐっ……!」

「おいっ!」

ㅤ遊佐は漆原に背を向ける。日本での様々な出来事が追憶となって、虚ろな脳裏に駆け巡り、決死の想いで怒りを抑え込んだ。一時的に木刀・正宗を手放したことも機能したか、或いは、佐々木千穂の死が怒り以外の感情をも揺さぶっていたか。

ㅤ何かが変わったのだ。遊佐を突き動かしていた動きの、何かが。まるで白昼夢の中にいるかのようにふらふらと、漆原から離れていく。



ㅤしかし――精神暴走は終わらない。

「……?」

ㅤその仕草が、あまりにも今までの精神暴走とかけ離れていたからこそ――何が起こっているのか分からず、漆原は判断が遅れてしまった。

ㅤ天光瞬靴――遊佐の視線の先にいる者たちに気付いた時には、既に手遅れ。漆原に最優先で滾っていた怒りが消滅した今、遊佐のターゲットなりうる者は――

「みんな、逃げろッ!」

ㅤ確かな実力を持って遊佐を妨害した花沢。力は無くとも、遊佐の前に立ち塞がった小林。そして霊力を用いる"悪魔"の如きゴーストスイーパー、伊澄――

「しまっ……」

「これ、マズ……」

「……っ!」

――彼らは全員、同じ場所に集まっていた。

「天光……炎斬ッ!!!」

ㅤ花沢も伊澄もガス欠、そして小林は実力不足。まさに一網打尽の布陣だった。

ㅤ明かりの点り始めた早朝の空を、煌めく紅炎が染め上げた。

353Get ready, dig your anger up!【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:54:26 ID:RLTQPusQ0





ㅤここ数十分だけで、何回死を覚悟したか分からない。たった一つだけ言えるのは――私、小林は結局のところ、まだまだ生き延びているということだ。

ㅤ私に力は無い。何かをした記憶も無い。どう考えても、私の心臓が今も動いているのは、私以外の誰かによるものだ。

ㅤ視界が暗い。目をやられたのかと一瞬思ったが、間も無く何かが自分に覆い被さって影になっているのだと気付く。

ㅤそして次第に、暗闇に目が慣れていく。影を作っていたものの正体が明らかになっていく。

ㅤ小林は気付いた。自分を守っていたものの正体――"ドラゴン"に。

ㅤ役目を終えたドラゴンは霧のように姿を消した。その先に見えるのは、龍の形をした強大な力の塊とぶつかり合い、倒れた遊佐。そして、刀身が砕け、刀としての役割を失った木刀・正宗。そして、私と同じくドラゴンに守られていた花沢。

ㅤそして――タロットを掲げた伊澄。

「術式八葉上巻・神世七代(かみよのななや)……良かった、何とか間に……合っ……」

ㅤ糸が切れたように、伊澄はその場に崩れ落ちる。

「伊澄さん……?」

ㅤ返事は無い。元より霊力が底を尽きていた上で無理やりに呼び出した神世七代――足りなかった霊力は、生命力で補われた。さらにただでさえ負担の大きい必殺技。全てを終えた伊澄は間もなく、その命を枯らしていた。

「……僕たちは、この子に守られたようだ。」

ㅤ歯痒そうに、花沢が呟く。私から見れば段違いの能力を持っているはずのこの少年も、その根本にある気持ちは、おそらく私と同じ――無力感。

(そういえば、これは殺し合いだったんだなあ。)

ㅤそんなこと最初から分かっていたはずだった。それなのに、その実感は何故失われていたのか――少しだけ考えて、理解した。彼女が隣に居たからだ。殺伐とした世界も彼女の空気に引き込んでしまうような、マイペースかつ天然な少女――この世界を形作る悪意なんて言葉からは甚だ遠く、間違ってもこんな残酷な催しで死んでもいいような子じゃなかった。

354Get ready, dig your anger up!【後編】 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:54:51 ID:RLTQPusQ0




ㅤゴーストスイーパーとしての才覚に恵まれて生きてきました。悪霊の除霊に苦戦したことはほとんどありません。力を持っているだけに、頼られ、必要とされ――それはもしかしたら幸せなことなのかもしれませんけれど。だけど本当は――ヒーローに憧れていたりもしていたのです。

ㅤヒロインがピンチな時は必ず駆け付けて、助けてくれるヒーロー。だけど私には、生まれもっての力があります。誰かのピンチに駆け付ける側の存在でしたから、いつしかそれは私には無縁なものと諦めていました。

ㅤでも、ハヤテ様と出会った時、思いました。この人は私のヒーローになってくれるんじゃないかって。見た目も、自分の身も厭わずに助けに来てくれたところも、小さい頃にテレビで見た特撮ヒーローにそっくりだったから。……と、まあ結局、ハヤテ様のヒロインは私ではなくナギでしたけれど。それでも、ずっとずっと、胸の片隅にひっそりと抱いてきた夢が、再び膨れ上がったような気がしたのです。

ㅤだから、嬉しかったんですよ。本当に不安だったあの時、あなたが死の危険を顧みずに駆け付けてくれたことが。あの時、私を助けに来てくれたことが。

ㅤきっとあなたは知らない。あなたの勇気に、どれだけ私が救われたことか。私だけのヒーロー、小林さま。守られることができなくてごめんなさい。だけど私は……あなたを守れてよかった。



【鷺ノ宮伊澄@ハヤテのごとく!ㅤ死亡】

355Coming down, could you fill your satisfaction? ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:55:59 ID:RLTQPusQ0
ㅤそれから遊佐が意識を取り戻すまでの数十分、気が休まる時は無かった。伊澄が死んだ今、『木刀・正宗を破壊すれば遊佐が元に戻るかもしれない』という不確定情報について詳細を詰めることはできない。遊佐が目を覚ました時にどう動くかなど、誰にも予想のしようがない。

ㅤ三人で遊佐をマークしつつ、彼女がどういう人物であったのか、漆原は語る。花沢は二度目であるが、遊佐一人に焦点を絞って話している分、その点においてはより詳細的だ。

「と、つまり君の連れが死んだ原因の一端は僕たちにあると言っても過言じゃない。」

ㅤしかし、どう足掻いても漆原の主観は入る。彼の語る中身にどこか自責の念が含まれていると小林は感じた。

「遊佐だけじゃない、僕とも組めないというならそれでもいい。僕は遊佐と同行するだろうし、小林には花沢を付けるよ。」

ㅤ彼女が正気に戻るならの話だ、と曇った表情で付け加える。

ㅤ遊佐に起こっていた精神暴走の詳細は知らないが、それでも遊佐が伊澄を殺すに至った流れの中に、漆原たち魔王軍の存在が前提となっていることは小林にも分かる。

「それは違うんじゃない?」

ㅤその上で、小林は口を挟んだ。

「原因を責任とすり替えてる。不要なもんまで背負い込みすぎると潰れるよ。」

ㅤ魔王と勇者。混沌と調和。ありきたりといえばそうなのだろう。二項対立なんて異世界に限らず、日本でもしょっちゅう起こっていることだ。ましてや日本の倫理観の尺度で、異世界出身の漆原を責める気など小林には無い。

「別にいいよ。そうじゃなきゃ、こいつが全部背負っちまうだろ。」

ㅤだけど、漆原も引けない理由はある。

「エミリア、実力は折り紙付きでも精神力はガラスだから。だからそれでいいんだよ。」

「……ん、じゃあ止めないよ。」

ㅤそれなら大丈夫か、と小林もそれ以上は追及しない。敵対勢力だとか言っても、何だかんだ相手を理解した上で思いやれる心はある。たぶん、将来的に何かしらの落とし所を見つけるのにも大事なことだ。

ㅤ責任の所在ってのは面倒なものだ。上の命令でやりました、悪いのは全部姫神です――責任なんてそれで押し付けてしまえればいいのだろうけれど、もちろんそんなので色んな宿命が片付けば世界はもっと平和なんだろう。

ㅤでも、かといって殺し合いに反抗する者同士でギスギスしたくはないじゃないか。今の自分たちにできることは、死んだ伊澄さんの分まで生きてやることでしかない。

356Coming down, could you fill your satisfaction? ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:56:48 ID:RLTQPusQ0
「これは……夢……?」

ㅤここで、遊佐が意識を取り戻す。仮に襲ってきても対応できるよう、漆原と花沢が前に。そして小林は後ろに。

「……現実だよ、エミリア。」

「じゃあ、私……」

ㅤ両腕に残った感触を確かめるように、自分の手のひらをまじまじと見つめる。そして、瞳に陰りを見せつつ、口を開く。

「……殺したのね。」

ㅤ正気に戻っていた。或いは、戻らない方が幸せだったのではないかと思えてしまうほどに。しかし自身の認知は誤魔化しようもない。目の前には、もの言わぬ死体となった少女。そしてなお鮮明に残る、精神暴走状態の記憶。

「おい、エミリアっ……!」

「その名前で呼ばないでッ……!」

ㅤ叫び声と共に襲い来る全身の激痛。伊澄の神世七代を刀剣一本で受け止めた代償は、少なからず響いている。

「もう私は、勇者なんかじゃないんだから……。」

ㅤか細い声で呟く。遊佐の手には、殺しの要因となった木刀・正宗はもう残っていない。ただ、記憶だけ。それだけが、遊佐の罪悪感を掻き立てる。

ㅤそんな遊佐に――救いの手の可能性が差し伸べられる。

「ベルならその記憶も消せるかもよ。もちろん、お前が望めばだけど。」

ㅤその意味するところが決して軽くないことくらい、漆原にも分かる。

ㅤだけど、悪行を重ねてきた者のたったひとつの善行で地獄に蜘蛛の糸が垂らされることがあるというなら、遊佐はこれまでに救ってきた多くの命の先にいる。少しくらい、救われたっていいじゃないか。

ㅤ背負うものを降ろした上で戦えば、振るう剣は軽くなるのは当然。人類の希望を乗せて戦ったエンテ・イスラでの対悪魔戦よりも、日本で独り、ただ自分のために戦っていた時の方がどれほど気楽だったか。

ㅤそれと同じ。罪悪感で戦えなくなるくらいなら、忘れてしまう方が戦いにおいては合理的だ。分かっている。分かってはいるのだ。

「……ごめん。ちょっと頭を冷やしてきてもいいかしら。」

「ああ。」

ㅤそして、漆原も分かっている。きっと、遊佐はその道を選ばないのだと。もしも真奥や芦屋や自分が、奪った命を忘れたままのうのうと日本で暮らしていたとしたら、遊佐はそれを決して許さないだろう。許さないからこそ、自分の罪を背負って生きることを選択する。愚直で、非合理的で、だけど嫌いじゃない。少なくともアイツはそういう奴だ。

「遊佐。」

「……なに。」

「全部終わったら、佐々木千穂の墓参りに行こう。」

「……うん。」

「そして、その子もだ。」

「…………そう、ね……。」

「だからそれまで死ぬなよ。その後は僕が悪魔大元帥として手にかけてやるから。」

「………………。」

「僕だって、お前の聖剣以外に斬られてやるつもりなんかないからね。」

「……………………ッ!」

ㅤ遊佐は走り出してどこかへと消えて行った。去り際に小さく呟いた一言は、誰にも届くことは無かった。

「行かせて良かったのかい?」

ㅤ花沢が尋ねる。

「この子と同行していた小林がアイツを許せないって言うなら話は別だっただろうけど。」

「許すとか、許さないとか、どっちも私が言えた義理じゃないと思う。」

ㅤそう言って、小林は首を横に振った。

357Coming down, could you fill your satisfaction? ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:57:20 ID:RLTQPusQ0
「これからはどうするんだい?」

ㅤ漆原と花沢が元々目指していた展望台は、遊佐を含む"勝ち馬"を探すためだった。だけど、今の出来事を踏まえた上で、彼女を戦力として頼るのは酷だ。当然、探しているメンバーは他にもおり、展望台に向かうメリットは消えていない。

「……とりあえず遊佐が戻るのを待って……そして6時間ごとの放送とやらを聞こう。決めるのはそれからだ。」

ㅤ時間としては、殺し合いの開始から6時間が経過しつつある。姫神の言っていた定時放送とやらが間もなく始まるはずだ。

ㅤそして、彼らは放送を迎えることとなる。相応の、衝撃と共に――


【D-3/草原/一日目 早朝】

【漆原半蔵@はたらく魔王さま!】
[状態]:腹部の打撲
[装備]:エルマの三叉槍@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界の知り合いと力を合わせ、殺し合いを打倒する。
一.遊佐が気持ちの整理を付けるのを待つ。
二.第一回放送を待つ。

※サリエルを追い払った時期より後からの参戦です。

【支給品紹介】
【エルマの三叉槍@小林さんちのメイドラゴン】
人間形態のエルマが扱う「トライデント」に分類される槍。エルマの身長並の流さを持ち、漆原の体格だと少し大きめ。

358Coming down, could you fill your satisfaction? ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:57:56 ID:RLTQPusQ0






「許すとか、許さないとか、どっちも私が言えた義理じゃないと思う。」


ㅤ彼女を許せるのも、許せないのも、きっと伊澄さんだけなのだ。本人が死んだ今、もう第三者が何かを言えるものでもない。

ㅤそもそも、あの木刀は何だったのだろうか。漆原がエルマの使っていた槍を持っている辺り、支給品が参加者に由来するものである可能性は高い。それを考えると、伊澄さんがその事情に詳しくても特におかしくはない。実際、彼女のアドバイス通りにすれば遊佐の暴走は止まったわけだ。

ㅤだけど、伊澄さんが死んだことでそれ以上詳しく知る機会は失われた。だから、許すとか許さないとか以前に、その前提、理解の段階に踏み込めていないのだ。彼女が抱えていたやむを得ない事情というのがあまりにも軽ければ許せなくなるかもしれない。逆に、人の死をもたらしたことさえ許してしまえるようになるかもしれない。それはどっちも、怖いことだ。どっちつかずで居られるのならそれでいい。

(結局、立場を明確にするのは怖いだけなのかもしれないな。)

ㅤ私はすでに大人だ。少なくとも、ある程度の哲学を胸の内に抱く程度には。だからこそ自覚している。私はズルい。流されることを良しとして、責任を負うことから逃れようとする大人のズルさだ。

ㅤでも、それができない子だっている。誰かに流される生き方を割り切れず、全ての責任を背負ってしまう子が。遊佐もおそらくそういうタイプだ。

(私にも、何かできることはないもんかね。)

ㅤメンタルケアなんて柄じゃないけれど、大人のズルさというのも、教えてあげられればいいんだけどね。

【D-3/草原/一日目 早朝】

【小林さん@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:胴体に打撲
[装備]:対先生用ナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2) 折れた岩永琴子のステッキ@虚構推理

[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1.遊佐が気持ちの整理を付けるのを待つ。

【支給品紹介】
【岩永琴子のステッキ@虚構推理】
岩永琴子が歩行の補助に用いていたステッキ。伊澄が霊力を込めることによって、ドラゴンクエ〇トで言うところの〇域の巻物のように乗った者が相手に狙われなくなる魔法陣を生成する力を発揮していたが、今やただの折れたステッキ。

359Coming down, could you fill your satisfaction? ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 17:58:28 ID:RLTQPusQ0







("勝ち馬"、か……。)

ㅤ漆原がそう呼んでいた者は、少なくとも殺し合いを加速させてしまった。そこを責める気など無いが、れっきとした事実。

(確かに遊佐さんの力は規格外だった。武器があんな木刀ではなく真剣だったとしたら、或いは、影山君より……?)

ㅤそして遊佐が強かったこと。これも間違いなく事実なのだ。

ㅤだけど、忘れてはならない。どれだけ頼られている人物でも、結局は一人の人間に過ぎないいうこと。心が折れもする。挫けることもある。それで当然なのだ。

ㅤ漆原の話によると、彼女は勇者として世界の期待を背負って生きてきたらしい。父親を失った17歳の少女が、今度は世界中の人間の命を背負うことになって――それがどれほど、彼女の負担となっていただろう。花沢には想像もつかない。超能力結社"爪"との戦いも、世界の命運を分ける最前線に立っていたのは僕じゃなくて彼だ。そして他ならぬ僕も、ただの中学生に過ぎない彼に、期待を押し付けて――そしてここでも、彼に頼ろうとしている。

(――嫌な時はなぁ!ㅤ逃げたっていいんだよ!)

ㅤ霊幻さんが言っていた言葉。あの時は綺麗事だと思った。影山君が戦わずして事態を鎮められるはずがないと思った。

("勝ち馬"だとかいって影山君に頼るのは終わりだ。)

ㅤだけど今なら、その意味も分かった気がする。人々の分まで宿命を背負い込んだ遊佐に、本当に必要だった存在は何だったのか――きっと、霊幻さんのような、逃げることを許してくれる人だったと思うんだ。

(僕がなるしかない、か。遊佐さんの、逃げ道にはさ。)

【D-3/草原/一日目 早朝】

【花沢輝気@モブサイコ100】
[状態]:念動力消費(大)
[装備]:金字塔のジャケット@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
一.遊佐が気持ちの整理を付けるのを待つ。
二.影山茂夫への尊敬と、無意識な恐怖。
三.影山茂夫には頼りきりにならないようにする。

※『爪』の第7支部壊滅後からの参戦です。桜威に刈られた後のカツラを装着してますが、支給品ではなく服装扱いです。

360Coming down, could you fill your satisfaction? ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 18:00:01 ID:RLTQPusQ0





ㅤ大切な人を失う気持ちは、よく分かっている。その喪失は、遊佐が勇者として悪魔たちと戦う原動力。易々と割り切れるものではなく、亡霊のように、延々と纒わり付くものだと知っている。

ㅤ伊澄は生き返らない。だから、自分にできることは奪った分だけ誰かを救うことでしかない。有り体に言えば、仕事のミスは以降の働き方で補うしかないということ。

ㅤつまり、自分は誰かの大切な人を奪った上で、しかし姫神の打倒を目指す者としてその誰かを救わなくてはならない。"ヤツら"が私にやったことを、私も誰かに押し付けなくてはならないということだ。

ㅤ状況的に、姫神のせいにすることも明智吾郎のせいにすることも容易だ。しかしそれを認めてしまえば、"ヤツら"の罪も赦さなくてはいけなくなるかもしれない。

『――なんで私に……人に優しくするのよ!ㅤ優しくできるなら……なんで私のお父さんを殺したの!』

ㅤいつか、真奥に叩き付けた言葉。残虐なものと信じて止まなかった魔王が、悪逆非道の限りを尽くして然るべきだと思っていた存在に向けられた優しさ。乖離していく感情と現実の狭間に耐えられなかった。あんな想いを相手が抱くと知っていながら、素知らぬ顔で罪を償えというのか。

ㅤこれ以上、考えたくなかった。真奥貞夫という人間がどういう奴なのか――どういう状況でどう考え、どう動く奴なのかを、少なからず理解しているからこそ。彼らが自分を前に背負ってきた気持ちが、分かってしまう。

ㅤ理解し、共感してしまえば、許してしまう。そもそもアイツ自身がやったわけではない――それを言い訳に、自分の父が殺されたことすら、水に流してしまう。それが怖かった。自分がいま抱いている感情を認めたくなかった。

ㅤ結局、遊佐を真に許していないのは、遊佐自身でしかなかったのだ。犯した罪に対し、罰が与えられることもなく。贖罪とて、誰かを苦しめることを知っている。失ったものはどう足掻いても取り戻せず、今から掴めるのはもう代替の未来でしかない。佐々木千穂が欠けた日常と同様、鷺ノ宮伊澄がいない世界しか、取り戻せない。それを本当の意味で埋められるものなど、この世の何処にも在りはしないのだ。

ㅤ同じだ。魔王討伐を果たしても、実家の田畑が、そして父が戻ってこないのと、何も変わらない。妥協以外で、生まれてしまった空白を満たせるものは何も無い。誰かを守るための力で、誰かの理想を奪ってしまったのだから――



ㅤその時――背後から着地音のような何かが聴こえた。

ㅤ明智との戦いでの負傷。

ㅤ伊澄と漆原・花沢との連戦。

ㅤそして、木刀一本で立ち向かった伊澄の必殺技。

ㅤすでに、遊佐の肉体はボロボロ。精神面は、言わずもがな。

ㅤしたがって、すでにそれを防ぐ手段は無い。手持ちの戦力において、遊佐はもはやそれの格下でしかなかった。

(ああ、これが――)

ㅤ真っ直ぐに己に向かうそれを、認識した時にはもう手遅れ。通り過ぎる一陣の黒い風――すれ違いざまに、遊佐の首を砕く。眠りにつくように、消失していく意識。

(――私への、罰、なのかな。)

ㅤ消え行く命。絶える鼓動。目の前で終焉を迎えていく"それ"を眺めつつ、男――雨宮蓮は醜悪に笑う。

ㅤ"瞬殺"――それは本来、弱き者を守るために、竜司と特訓して身につけた技術であるはずだった。彼もまた、誰かを守るための力で誰かの理想を奪う者。

ㅤ誰かの理想が、ここにまたひとつ、潰えた。

【遊佐恵美@はたらく魔王さま!ㅤ死亡】

【残りㅤ39人】

【D-3/森/一日目 早朝】

【雨宮連@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:綺麗なナイフ@虚構推理
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る
一.…やるか(殺るか)
二.怪盗団のメンバーも、殺そう。
三.明智五郎は、この手で殺された借りを返す

※11月20日新島冴との取引に応じ、明智に殺されてBADエンドになったからの参戦です。
※所持しているペルソナは【アルセーヌ】の他にアルカナ属性が『正義』のペルソナが一体います。詳細は後続の書き手様にお任せします。

361 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/08(月) 18:00:30 ID:RLTQPusQ0
投下完了しました。

362名無しさん:2021/03/08(月) 22:06:52 ID:xahGDhzc0
投下乙です。
ほとんどの作品について、キャラクターを軽く知っている程度なのですが、それでも読む気持ちにさせる展開運びでした。
驚いたのは、鷺ノ宮伊澄がここまで戦闘能力が高かったことです。もちろんハヤテやヒナギク、虎徹のように戦えるキャラクターが居るのは承知していましたが、暴走したとはいえ勇者と拮抗するレベルとは思わず。
そして、それ以外のキャラクターも、とても丁寧に描写されていると感じました。
成熟した大人らしく、常人である自分と戦闘力を持つ他者との差異を理解しつつ、その境界を飛び越えることもできる小林さんの描写が特に好きです。
遊佐は暴走させられた挙句、殺人という禁忌を犯してしまい、そんな自分を許せず頭を冷やそうとした結果……。
漆原は「エミリアの精神力はガラス」と言っていましたが、まさにその通りで、もう少し図太く生きることができていれば、結果は違ったのかもしれません。
最後に、外道に進んだ蓮。彼はこれからどこまで堕ちてくれるか、楽しみです。瞬殺の再現も粋ですね。

363 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/29(月) 02:29:16 ID:mc9R4X.I0
暁美ほむら、茅野カエデ、桜川九郎で予約します。

364 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:09:27 ID:29vLwlxU0
最後に少し絡ませようと思っていましたが、どうにも蛇足っぽくなったので申し訳ありませんが桜川九郎の登場は取り消します。

改めて、暁美ほむら、茅野カエデで投下します。

365Nocte of desperatio ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:10:20 ID:29vLwlxU0
ㅤ殺し合いを恐れる一般的な思考の持ち主の場合、動くのならば夜明けを待つに越したことはない。奇襲を受けにくいのはそれだけで一種の安心材料になる。

ㅤでは逆に、夜中の時間帯に大胆に移動している者は何が目的か。電気の消えた小屋の中に潜伏したまま、茅野カエデは迫り来る影を見つめていた。その手には一本の包丁。料理用であり、人を殺すには些か心許ない代物であるが、エクボによる身体能力の向上も併せればファフニールの腕を切断することも可能。実際の殺傷力としては充分だ。

「見たところ、人を探しているようだな。この暁美ほむらって奴だ。」

ㅤ夜目の効くエクボが対象を観察し、名簿と照らし合わせながら茅野に伝える。この殺し合いにはエクボの知り合いも茅野の知り合いも招かれている。ほむらもまた、知り合いが招かれており、それを探していると見て良さそうだ。夜の暗闇にも億さず突き進む様を見るに、探し人は同時に庇護対象でもあるのだろうか。

「あの人にも守りたい人がいるのかもね。でも、だからといって譲れない。」

ㅤ包丁を手に握り、ほむらの接近を待つ。立ち位置は扉の死角。小屋を散策するため、ほむらは次第に近付いてくる。

(大丈夫。私はずっと殺意を隠して生活してきたんだ。)

ㅤほむらの足音が聴こえるほど、近くに。まだ気付かれている様子は無い。

ㅤそして、ほむらは扉の前に立つ。次の瞬間、開かれると思われた扉は――

――ガァンッ!

ㅤ開かれず、蹴り破られた。本質的に、ほむらは他者を信じない。殺し合いに乗る者からの奇襲を警戒しての行動が、殺し合いに乗らない者に不信感を与えてしまいかねない行動であっても躊躇はしない。そもそも自分は、他の者たちとは違う時間を生きている。言葉も気持ちも、人が抱くべきそれからかけ離れてしまっている。彼女の行動理念の根底にあるのは、鹿目まどかただ一人。そんな献身とも言えるほむらのスタンスが、茅野の奇襲を打ち崩す。

「ッ……!」

ㅤ死角に潜んでいた茅野の頬に砕けた扉の木片が掠り、僅かに苦悶の声をあげる。それを感知するや否や、ほむらは大胆なバックステップで茅野との距離をとった。

(気付かれた……!)

ㅤ第一の刃が刺さらなかった以上、離脱も選択肢の内だろう。しかし、目の前に現れたのは体格で劣るでもない少女だ。正面戦闘であっても決して引けを取る茅野ではない。

366Nocte of desperatio ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:11:06 ID:29vLwlxU0
「おい。あいつ、銃を持ってるぞ!ㅤ距離を詰めろ!」

ㅤエクボの指示を即座に実行する茅野。まるで訓練された兵のごとき反応速度。照準を合わせる暇もなく、突き出された包丁を89式小銃で受けることとなる。

「やるよ、エクボ!」

「おう。」

ㅤしかし、本来は武器である銃器。防御に用いれど所詮は即席のものに過ぎない。エクボの憑依による身体能力強化により、難なく掻い潜られる。

「うぐっ……!」

ㅤそして包丁は、ほむらの右肩に突き刺さる。そしてすぐさま引き抜かれ、血がどくどくと流れる。

ㅤ殺せんせーの身体とは違う生身を抉る感触。慣れたものでは無いが、しかし憑依したエクボが動かしていることにより躊躇が入り込む余地はない。エクボは命令に逆らえる立場ではないし、彼もまた、生き残るのに必死な生き物のひとつ。

「まだっ!」

ㅤ引き抜いた包丁で追撃に走ろうとする茅野。そうと決めたら一直線――彼女の性分であり、殺人をも厭わぬ決心は、決して揺らぐことはない。

ㅤ茅野の腕がほむらの額に伸びる。回避は不可能。コンマ1秒先に、ほむらの頭を貫く未来は見えた。

ㅤまどかを助けるまで前に進み続ける少女と、己が決意を貫くまで決して止まらない少女。その二人を取り巻く世界は、想いを乗せて巡り続ける。しかし、この瞬間。ほむらの腕に宿る時計の針が止まり――そして、パレスの時は止まった。遠いどこかで想像力の怪物と対峙しているほむらの大切な友達も、遠いどこかで誤解から始まった殺し合いを観察している茅野の想い人も――この殺し合いを形成する全ての参加者を巻き込んで、パレスは完全なる停止を見せた。

ㅤそして止まった時間の中、唯一その空間を闊歩するほむらは驚愕に目を見開いていた。いつもと異なり、ただその場に立っているだけで体力を消耗していくのを感じる。現実世界に比べて構造が異なるパレス内において、時間停止の魔法は長くは維持できない。茅野を仕留めにかかるこのタイミングで初めて、ほむらはそれに気付いた。

ㅤ右肩を刺され、銃は満足に構えられない。魔力を用いれば応急処置くらいはできるかもしれないが、時間停止に集中している今それは不可能。

ㅤ焦る気持ちと裏腹に、間もなくして刻限は到来する。止まっていた時間が動き始める。

367Nocte of desperatio ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:13:22 ID:29vLwlxU0
「えっ!?」

ㅤやむ無く、停止した世界で迎撃より回避を選んだほむら。コンマ1秒前まで対象を捉えていたはずの茅野の刺突は空を切る。

(今の移動、瞬間移動か何かか?)

「でも、そんなに距離は離せないみたいね。」

ㅤほむらが動いた先も、目視が可能な距離。さらに、心無しか息も多少乱れている。それなら、瞬間移動であっても実質的には殺せんせーの方がよっぽど速い。先生を追い詰めた私なら、間違いなく殺れるはず。

ㅤ対峙するは、魔法で右肩の治療をしながら至近距離で銃を構えるほむら。

ㅤソウルジェムを身に付けておらず、正体が魔法少女であるかも分からない相手。下手に人体の急所を狙えば殺しかねない。姫神との接触を目的とする以上、奴について何かを知っているかもしれない相手を殺すのは惜しい。

ㅤそこでまずは無力化することを最優先した場合、真っ先に狙うはナイフを握った右手だ。凶器を落とせば、これまで見てきた範囲での彼女の脅威は半減する。

――ダァンッ!

ㅤ銃声が、闇夜に木霊する。触手を失った茅野は、今やただの人間。音速を超える銃弾に為す術なく右手のナイフごと撃ち抜かれるのが当然の帰結。

「……っ!」

ㅤしかし硝煙の先に映るは、血に濡れた右手に包丁を構えた茅野の姿。魔法少女とて、銃弾を腕に受ければ肉体が壊れる。人間であれば尚更だろう。

ㅤ確かに、右手を狙った狙撃だった。しかし、身体の軸から大きく逸れた右手という場所であったことが災いした。茅野には銃弾が放たれる瞬前に銃口の向きから着弾点を予測することが可能であった。かつて触手をその身に宿し、マッハ戦闘に適応していたことによる茅野の反射神経、それは触手を失ってもなお健在である。

ㅤもちろん銃弾の速度を人の身で完全に躱し切ることは出来ず、掌の皮を抉られて火傷を含む激痛に襲われる。しかし、それだけだ。手にした包丁は離していない。

「痛みなんて、もうとっくに慣れてる。」

ㅤ茅野には、定期的なメンテナンスもできない触手の侵蝕による地獄の苦しみの中で、ずっと平常心を保ち続けてきた一年がある。プライバシーというものを知らない、神出鬼没の殺せんせーのことだ。自分の家であっても気を抜くことは出来ない。常に気を張らないといけない一年は、まるで殺し合いの世界のよう。

ㅤそれを耐え抜いてきた茅野にとって、撃たれた痛みを我慢して武器を振るうことくらい、赤子の手をひねるより容易い。

「決めたの。自分の心だって殺して、"友達"を演じてみせるって。」

ㅤお姉ちゃんと殺せんせーの間に何があったのか知ろうともせずに、ただ復讐のために費やした"空っぽ"な一年だった。だけどその空白があったからこそ、この局面で耐え抜ける。その空白が、渚のための殺しを後押ししてくれる。

「それが私の戦う理由。彼がくれた命で、私は彼を守りたいから。」

ㅤだから、渚の知りえないここで人を殺す。"友達"として、彼のための献身なんておくびにも出さないままに殺して――そして死ぬことによって、彼を生還させる。

368Nocte of desperatio ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:14:21 ID:29vLwlxU0
ㅤこれは愛ではなく狂信の域であると判ずる者もいるだろう。けれど、茅野の時間は姉を失ったあの日、すでに止まっていたのだ。唯一茅野を突き動かしていた復讐というゴールすら、殺せんせーの過去を知った時に掻き消えた。そんな"茅野の時間"を動かしてくれたのは、他ならぬ彼なのだ。

ㅤ銃撃の反動で回避できないほむらの胸を狙い済ました暗殺者の刺突が迫る。人の生命活動を担う心臓の位置だ。しかし魂をソウルジェムに移し変えられた魔法少女にとって、そこは何ら命に関わる部位ではない。

ㅤ魔法少女についての情報の不足。こればかりは、茅野に補えるものではない。本来ターゲットのリサーチは怠らない殺し屋であっても、異世界の知識はどうにもならない。

(心臓じゃねえ!ㅤ左手だ!ㅤ左手の甲の宝石を狙え!)

ㅤしかし、他者の肉体を乗っ取り、魂を操ることのできるエクボだからこそ分かる。目の前の少女の身体は抜け殻だ。反面、左手の甲に装着された物体『ソウルジェム』から彼女の魂を感じる。

ㅤ茅野は理由の分からぬエクボの指令に一瞬困惑を見せるも、自分に見えないものが見えているエクボの言葉を信じ、実行に移す。

「なっ……!」

ㅤ先ほどまでソウルジェムを狙う気配も無かったというのに、突如として死に直結する一撃が突き付けられた。茅野の一撃は、正確にほむらのソウルジェムの中心を捉え、命中させる。当ててしまえば、あとはその破壊のために腕に力を込めるのみ。

(くっ……私は、死ぬわけにはっ……!)

ㅤ何度も何度も世界を繰り返して、魔法少女たちの"終わり"も幾度となく見てきた。時に苦悶に満ち、後悔に苛まれながら、その魂を散らしていく様を。そして時に、絶望に呑まれ異形の魔女として生まれ変わる様を。

ㅤだけど私だけは、目を覆いたくなるほどの絶望を生き抜いてきた。それは偏に、常に前に進ませてくれる、大切な友達の存在があるから。彼女がいてくれるから、私は決して絶望に負けない。魔法少女になった彼女を待つのは絶望の未来だけ。だから、あの子を取り残して死ぬわけにはいかない。

「まどか……私――」




――パキィンッ!




ㅤどこか綺麗な音を奏でながら、砕ける。キラキラと煌めく破片が夜の闇に散らばっていく。

「――まだ……終われない……!」

ㅤ破砕音を聞いたほむらは一瞬、死が見えた気がした。しかし、自分はまだ立っている。先の音の正体を認識し、まだ終わっていないことを確信する。

ㅤ砕けたのは茅野の持っていた包丁。元より殺傷力の小さい調理用でしかない上、それはファフニールの血や肉片を浴びていた。かの邪龍の血肉に宿る呪いをその刀身に受けていた。結果、エクボの身体能力強化込みであっても、ソウルジェムを砕けるだけの硬度を持っていなかった。

ㅤしかし、もしかするとそれだけではないかもしれない。何せここは人の心が大きく影響を及ぼす認知世界。まどかのため――その一心に込められた想いが、或いはソウルジェムが砕ける前に"食いしばる"ことを許したのかもしれない。何にせよ、ほむらは丸腰の茅野の前に今もなお立っている。

ㅤそしてほむらは確信する。茅野のスタイルは戦闘ではない。貪欲に、相手を殺す一撃を叩き込む瞬間に全てを込める暗殺者のスタイルだ。支給品の武器も他に持っているかもしれない。包丁に元から血がついていたことを考えても、他の参加者を殺して奪ったことも考えられる。手心を加えては、その隙を突かれかねない。

(惜しいけれど、ここで確実に潰しておくべきね。)

ㅤ魔法少女に渡り合う未知の力は、或いはまどかを救う足掛かりになるかもしれない。しかしその脅威は、たった今身をもって体感した。

369Nocte of desperatio ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:19:34 ID:29vLwlxU0
「"友達"を演じる、と……そう言ったわね。」

ㅤそして――彼女の戦う理由も、聞いてしまった。自分と同じく誰かのため。それはまるで、自分の生き写しの如き生き方だ。

「あなたがその相手と何を望んでいるかなんて分からない。だけど、これだけは言わせてもらう。」

ㅤされど、二人の願いは叶わない。絶望に沈む誰かの存在は、履き捨てねばならないのだ。

ㅤだからこそ、ほむらは茅野の胸に銃口を突き付ける。殺し合いに乗っている彼女は、自分の願いの障害になる。

「――随分と、生ぬるい決心ね。」

ㅤその覚悟を、ほむらはこの世界に来る前から、とうに成している。巴マミも、美樹さやかも、佐倉杏子も、その誰が死んだとしても、それがまどかが助かった世界ならば妥協する用意はできている。例えそれをまどかが望まずとも。あの子が絶望する結果になったとしても。

「私はあの子のためならあの子の敵にだって回ってみせる。」

ㅤ本当は、あの子の友達として、真っ正面から絶望を受け止めてあげたい。だけど、それはできない。繰り返す世界を重ねる度に、私は本来の私から遠ざかっていく。語る言葉も、まどかとは異なるものになっていく。友達のふりさえ、できなくなっていく。

「まどかさえ生きていれば、私はそれでいい。」

ㅤ二度目は無い。至近距離では誤射もない。躊躇なく引き金は引かれる。銃口の先にあるのは、一人の少女の身体。弾丸に貫かれ、その身を散らしていく。

ㅤしかし、触手細胞に鍛えられた反射神経の残り香か。或いは、自分と重ね合わせた相手に対するほむらの無意識の手心か。僅かに着弾点が逸れ、即死を免れた茅野。

ㅤ結果は変わらない。数秒後には散る命。ほむらと相討ちに持ち込む体力も手段も、もう残っていない。

ㅤただし、散り行く命は走馬燈を見た。

『――やめろ茅野!!ㅤこんなの違う!!ㅤ僕も学習したんだよ!!ㅤ自分の身を犠牲にして殺したって……後には何も残らないって!!』

ㅤ触手の暴走で曖昧な記憶の中、渚が掛けてくれた言葉。それは痛いほどに今の自分を言い表していた。

ㅤ自分の身を犠牲にして、ただあなたのためにと他人を殺して……そして、何も残らない。空っぽのまま、終わっていく。それが嫌で、空っぽに呑まれたくなくて、殺し合いに乗ったはずだったのに。

「ああ……わた、し……間違ってた……のか、な……」

ㅤ僅かな延命により抱いてしまった絶望の中で、茅野は息絶えた。今の自分が真に空っぽであったことを、この上なく自覚してしまった。

370Nocte of desperatio ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:22:55 ID:29vLwlxU0
「……ごめんなさい。」

ㅤ他者を殺すことに特段の躊躇は無いけれど、絶望する前に即死させて楽にしてやれなかったこと、その一点においてほむらは申し訳ないと思った。死を前にして、魔女になる前に殺してくれとソウルジェムを差し出すまどかを撃った時のように、茅野が絶望に沈む前に介錯することもできたはずだ。それは彼女が勝手に銃弾を避けようとした結果かもしれないが、自分の撃った手が狂わなかった保証もない。だから、だろうか。声の届かない目下の骸に言葉を掛けるという、らしくないことをしてしまうのは。

「あなたが間違っていたんじゃない。ただ、何を選んでも間違いなだけ。」

ㅤ例えば。想い人のために願いを行使し、見出した希望の代償に魔女と堕ちていった美樹さやか。例えば、魔法少女の真実に耐え切れず、他の魔法少女たちと心中しようとした巴マミ。例えば、願いを叶えた結果として家族を失った佐倉杏子。例えば、魔法少女の真実を知ってなお、誰かのためにインキュベーターと契約を結ぼうと動くまどか。

ㅤ世界を何度繰り返しても、誰もが正しい世界なんて無い。進む道次第で誰とて容易に間違い得る。そして運命は迷路のように分岐点を幾つも与えてくれるからこそ、真に理想から離れた間違った道に、誰もが遅かれ早かれ進んでいく。

ㅤそして、時間軸によってはこの殺し合いは開かれていない。それならば、どこかの分岐で間違えてこの殺し合いに呼ばれた地点で、少なくとも理想的な道は失われているのだ。

ㅤ自己満足。もしも、絶望に沈んだその先に行き着く世界があるのなら、この声を聞き遂げて少しでも救われてくれればいい。

「――言い得て妙だな。」

ㅤ死者への追悼に、言葉が返された。

ㅤ茅野の死体からにゅるりと出てきたのは、支給主を失い、中立となったエクボ。

「……あなたがこの子を操っていたの?」

ㅤ自分が殺した、無実だったかもしれない少女の死体を見下ろしながら尋ねる。他人を操るのは、魔女の所業だ。しかし操られた人は、魔女のせいで起こした行動の責任を負わなければならない。もし茅野が、目の前の緑色の存在に操られていたのだとしたら。

「いいや。身体はちょくちょく操っていたが、殺し合いに乗ったのはコイツの意思だ。だからそこは気にする必要ねえよ。」

「……そう。それは良かったわ。」

ㅤ悪い想像は否定された。そして目の前の存在が、高度な言語能力を有するのだと気付く。ほむらの知る魔女は言語を理解しない。すなわち、目の前にいるのは既知の魔女とは異なる存在。やもすれば姫神の持つ力にも繋がり得る未知の力だ。

「そんで、どうせだから俺様も連れて行ってくれねぇか?ㅤコイツのザックに入ったカプセルを持っていけば俺の所有者になるからよ。」

「見返りは何かしら。」

ㅤ情報を聞き出そうとした矢先の提案だった。ほむらにとって願ってもない話だ。しかし、あくまで主導権を握るためにも、下手に出るわけにもいかない。

「俺様の英智を持ってすれば参謀でもいいのだが、単純に戦力は増すだろうな。」

「……まあ、ひとまずは充分としましょう。ただ、何かおかしな動きを見せたら殺すわよ。」

「心配するな。このカプセルのせいか、お前に逆らうようなことはできねぇ。」

ㅤほむらは茅野の支給品を、丸ごと持って行く。この戦いで得られたのは、少しばかりの戦力と――求めていた、異なる世界の未知なる力。これは、果たして絶望を打ち破る希望なのだろうか。

ㅤもし、この夜の先に希望を見出せなかったら。どう足掻いてもまどかを救えないと心の底から感じてしまったら。私は絶望に負けて魔女になってしまう。積み重ねては無に返してきた繰り返す悪夢の果てにまどかを救えなかったその時こそ、茅野が最も恐れた"空っぽ"に飲み込まれてしまう。

ㅤだから愚直に前に進む。そうするしかないのだ。鈍色の空。人が死に、想いが潰えていく絶望の夜。明けない夜はないとは言うけれど――その先で、空は綺麗な青さで待っててくれていると信じて。

【茅野カエデ@暗殺教室ㅤ死亡確認】

【残り 38人】

【C-2/小屋前/一日目ㅤ黎明】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:89式小銃@現実
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0〜3)、ゴーストカプセル(エクボ)@モブサイコ100
[思考・状況]
基本行動方針:まどかを保護し、主催側と接触する方法を探す
一.まずはまどかの安全を確保しないと。

※C-2の小屋の扉はほむらによって蹴破られています。

371 ◆2zEnKfaCDc:2021/03/31(水) 03:23:20 ID:29vLwlxU0
投下完了しました。

372 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/01(木) 12:52:56 ID:6Ddi32uE0
投下お疲れ様です!

Get ready, dig your anger up!
伊澄…ハヤテやナギと再会できずでしたが、小林さんを守ることができたのは彼女にとって最善だったのではと思います。
小林さんの「大人」としての立ち位置は新隆と並びこのロワの潤滑油になりますね。
また、伊織の神世七夜に守られたとき、ドラゴンにかけていて「ああ!なるほど!」となりました。。
そして、弱り切った恵美を鮮やかに仕留めるジョーカーと読んでいてハラハラして非常に感服しました。
個人的に、放送後の小林さんとルシファーの悔やむであろう反応が気になります!

Nocte of desperatio
共に奉仕スタンスであるほむらと茅野のバトル!
善戦しましたが茅野の想い一歩及ばず! 無念が残るでしょうね……
さらに悲しいのは渚の参戦時期が本当の茅野を知る前だということ……ロワならではの悲しき想いですね……
愚直に進むほむらの想いがどこまで行くのか行くすえが楽しみです。
また、エクボと組んだほむら。きゅうべえとは違ったコンビになるでしょうね。
キラキラと煌めく破片が夜の闇に散らばっていく
↑包丁が砕けた際の表現、とても美しく感じました。

初柴ヒスイ・桜川九郎で予約します。

373 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/03(土) 17:03:29 ID:JHHrRQ9E0
投下します。

374この両手でつかめるもの ◆s5tC4j7VZY:2021/04/03(土) 17:06:30 ID:JHHrRQ9E0
躊躇ーーーーー決心がつかず、ぐずぐずすること。ためらうこと。
広辞苑より引用

ザザ〜ン……
水波がゆらゆらと流れている。

「……」
港の波止場に腰を下ろし、それを静かに見つめるヒスイ。

(あの、ナギが……)
ヒスイの頭の中に渦巻くのは先ほど行った『真倉坂市工事現場』での戦闘……

「私は、この殺し合いが気に入らない!だから、モナと戦う!!ヒスイ!たとえ、幼馴染のお前相手でも私は戦う!!!」

幼馴染の一人であるナギのケツイ……

初柴ヒスイにとって三千院ナギは三千院家の遺産継承者争いのライバルの1人かつ幼馴染4人組の1人。

(マリアやクラウスと変わらない日々をただ流されて生きていると思っていた……)
性格は非常に我儘で気が強く、マンガ好きで引きこもり気質。
運動音痴で50m走を走っただけでへばってしまう……そんな幼馴染。

しかし、幼馴染4人組の中でもナギはヒスイにとって特別ーーーーー
(そう…ナギは伊澄や空前絶後のバカとは違う……)
↑《なんやてー!》
ヒスイの独白に幼馴染の1人、愛沢咲夜のツッコミが入る……というか入れるな。

(口では容赦しないと言ったが……)
幼馴染との決別をした……つもりなのだが、ヒスイの心中にはいまだ、躊躇がある。

《あら?私からのプレゼントをあげたのに……》
ヒスイの脳裏に響く声……

《さっそく腕を一本失うなんて……ガッカリだわ》
法仙夜空。
ヒスイに仕えたメイドーーーーー
今は、ヒスイを「王」とするため英霊化したーーーーー

「……夜空」
果たして目の前の夜空は英霊化した本人か、はたまたパレスの効果で現れた、認知の存在か定かではないが……

「私に説教するつもりか?」
《いいえ。ただ肩を落としているだけよ》
ふぅ…やれやれといった仕草を見せる夜空。

375この両手でつかめるもの ◆s5tC4j7VZY:2021/04/03(土) 17:10:38 ID:JHHrRQ9E0
《私は、あなたを王とするために命を引き換えにその力を与えたのよ?》
《あなたのことだから、幼馴染が相手だったから無意識に手を抜いたんじゃないの?》
《そんな体たらくは見るにたえないわよ》
夜空なりの叱咤激励。

「黙れ。……わざわざ言いに出てこないで黙って見ていろ」
夜空の言葉にヒスイは思いだす。

「……くだらん。私が欲しいのは勝利の果てに掴む願いだ。頂上で胡座をかいていれば与えられるようなものでは無い。」
それは、殺し合いに参戦するために姫神に対して放った言葉。

改めて、【勝利の上で手に入れる世界】へのケツイを深める。

「私は、もう躊躇しない。ナギや伊澄……どんな相手でも殺す。そして私は「王」となる!」
夜空の言葉にヒスイは返答すると、ナギから渡された全快点滴パックを取り出す。

《……フ、それでこそあなたね。……負けは許さないわよ》
ヒスイの躊躇を捨てたケツイに夜空は姿を消す……

☆彡 ☆彡 ☆彡

全快点滴パック を一つ内服し終わると腰を上げる。

ダメージ並び疲労が全回復したのかヒスイの顔つきに笑みが浮かぶ……

「さぁ!勝者は私だ!!」

初柴ヒスイは闘いをやめない。王座を掴むまでーーーーー

【C-2/草原/一日目 早朝 】

【初柴ヒスイ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:サタンの宝剣@はたらく魔王さま!
[道具]:法仙夜空@ハヤテのごとく! 武見内科医院薬セット@ペルソナ5 基本支給品×2 不明支給品(0〜2個)、烏間惟臣の不明支給品(0〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに勝利する。
1.次の闘いへ向かう
2.王となるのは私だ。
3.本当に、願いで死者さえも甦らせることができるのなら―――
4.次に出会ったときナギと決着をつける…どちらかの死で。
5. 誰が相手でも躊躇しない
※ナギと次会ったときは決着をつけます。
※原作51巻、ハヤテから王玉を奪った後からの参戦です。

【支給品紹介】
【サタンの宝剣@はたらく魔王さま!】
エミリアが砕いたサタンの角からつくられた魔剣。真奥貞夫を魔王サタンの姿に戻すほどの魔力を宿しており、手にした者にその魔力を供給する。鞘に収まっている間は魔力の供給は起こらないが、常人には鞘から抜くことすらままならない。

【法仙夜空@ハヤテのごとく!】
ヒスイに力を授けるために英霊となった法仙夜空。すでにヒスイと融合しているが、天王州アテネと融合したキング・ミダスの英霊と同じように不可逆的な破壊が可能だと考えられるため、状態を整理しやすいように道具欄に記載してある。その形状は上段に人間のような二本の腕、下段に骸のような二本の腕であり、現在は下段の右腕が粉砕された。残りは3本

【武見内科医院薬セット@ペルソナ5】
武見妙が扱う医薬品。効果は確かに効く。
内訳 ナオール錠50mg×2 ダメージ・疲労を(低)回復させる
   ナオール錠100mg×2 ダメージ・疲労を(中)回復させる
   全快点滴パック×1 ダメージ・疲労を全回復させる※参加者との戦闘中は使用不可

376この両手でつかめるもの ◆s5tC4j7VZY:2021/04/03(土) 17:13:02 ID:JHHrRQ9E0
☆彡 ☆彡 ☆彡

ヒスイが休憩をしていた同時刻。
別の波止場を歩く九郎。

「…いないか」
(岩永のことだから、もしかしたら……と思ったけど)

九郎は岩永琴子並びに弓原沙希と共通している『真倉坂市工事現場』へ向かっていたが、進行上の近くに『港』があるため、Cー1へ寄り道をしたのだ……

(港……紗季さんとは結びつかないけど、岩永とは縁があるからな……)
それは、とある港町での事件ーーーーー
人形が電撃を放ち魚を殺すというなんとも鋼人七瀬に劣らない内容の事件。
それは、人の願いが捻じられたために起きた悲しき事件ーーーーー
そして、その事件は岩永琴子が【可憐にして苛烈】が強く現れた事件でもある。

もちろん、地図上の港がその港町とは限らないわけだが、九郎はもしかしたらと思い、寄り道をしたのだがーーーーー
(結局、無駄足に終わったな……予定通り、工事現場へ向かうとするか)
港をぐるりと見渡すが、残念ながら九郎の探し人は見当たらず、水波がただ、静かに音を鳴らしている……

(それにしても……)
九郎は自分の両掌を眺める……

(公園で爆死した時……掴めなかった)
九郎は先ほどの負け犬公園で伊澄による【撃破滅却】で殺された時のことを想起する。

(再生する時、未来が一本しか視えなかった……)
桜川九郎は2つの妖怪の能力、人魚の【不老不死】と件(くだん)の【未来決定能力】を有する。

未来決定能力ーーーーー言葉通りならなんとも素敵な能力であると100人中100人が思うだろう。
しかし、その能力は【一度死ぬ】ことが前提とされる能力。
つまり、くだん(運命決定能力)のみでは、意味をなさない。
人魚の【不老不死】とセットで能力の価値を高める。

(未来はいつも未知で未定となっているはず…)
そう、未来は未知で未定なのだが、先ほどの死で見えた未来は【一本】しか視えなかったーーーーー【その場で蘇る】というただ一本のみ。

(視える未来が一本だけなら、くだんの能力はまるで意味をなさない)
本来、未来にある無限の分岐を一本にしてしまえるのが予言獣くだんの力。
だからこそ、桜川の当主はその能力を欲したのだ。
たとえ、自らの血を分けた縁の者の命を多く失うとしてもーーーーー

それが、到達点が一本しかないのなら、運命決定力はなんの意味もなさない。

(もしかして、くだんの能力が封じ込められているのか?それが六花さんが今回、企んでいることなのか……?)
九郎は波止場に腰を下ろしながら、思考するがーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡

(ふぅ……やはり、まずは岩永との合流が先決だな)
改めて、岩永琴子の頭脳が必要だと感じた九郎。
ケツイを改めて深めると腰を上げ、歩きだす。

(はじめは、茶番だと思っていたがくだんの能力を封じているとなると、この不老不死も、もしかすると何かしらの制限をかけられているのかもしれない……だとすると安易に死ねないな……)

この殺し合いが茶番ではなくなったかも知れないーーーーー九郎の脳裏に一抹の不安が生まれた。

【C-1/港/一日目 黎明 】

【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:真倉坂市工事現場に向かう
1.桜川六花の企みを阻止する。
2. もしかして不老不死にも何か制限がかけられているのか?
※件の能力が封じ込められていることを自覚しました。
※不老不死にも何か制限がかけられているのではないかと考えています。

377この両手でつかめるもの ◆s5tC4j7VZY:2021/04/03(土) 17:13:15 ID:JHHrRQ9E0
投下終了します。

378この両手でつかめるもの ◆s5tC4j7VZY:2021/04/03(土) 17:40:17 ID:JHHrRQ9E0
毎回すみません…
先ほどの「この両手でつかめるもの」ですが、
ヒスイの時間帯ですが、ほむらと茅野の時間帯が黎明だということを失念しておりました……
【C-2/草原/一日目 早朝 】 ではなく、【C-2/草原/一日目 黎明 】に修正します。
他にも何かありましたら修正いたします。

379 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/04(日) 22:31:18 ID:s39JiUsk0
投下お疲れ様です!
ヒスイにとってやはり夜空は特別な存在。自身の四肢欠損は大して気にしなさそうなヒスイですが、夜空の一部を失うことは独白話を使って感傷に浸るの、好きです。やはりヒスイの性格、パロロワに映える。ところで、対話まで果たしたことでいよいよ夜空がヒスイのペルソナじみてきた……w

九郎の不死能力の扱いについては主催側に六花さんがいる以上どこまで制限していいのか(できていいのか)が難しいところだと思いますが、少なくとも未来決定能力は無制限に使えると悪用し放題なので、人魚の肉の方はぼかしつつくだんの能力だけを狭めた丁度いい落としどころになっていると思います。何が起こるか分からない認知世界で、制限について警戒を始めたのも九郎にとってはかなり大きいかなと。

ところで、今回の話で全キャラが黎明に突入しました。第一回放送も目前に見えてきました。書き手・読み手の皆さんに感謝を申し上げると共に、これからも、どうか本企画をよろしくお願いします。

380 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/07(水) 22:25:34 ID:JpbYaLf60
芦屋四郎、霊幻新隆で予約します。

381 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/09(金) 16:27:16 ID:DmDiXeiE0
感想ありがとうございます!

この両手でつかめるもの
原作のヒスイが力を授けて消滅した夜空に放った「礼はいわんぞ」が好きで(本当はお礼をいいたいはずなのに)、今回、感傷に浸ってもらいました(今後、激戦が続きそうなので)
自分も書いていて、夜空ペルソナじゃね?と思っちゃいました(笑)
九郎君はそうなんです。主催者側に六花さんがいるので、扱いがどうしても……また、話の核となりそうな虚構推理の九郎君とおひいさまは2zEnKfaCDc様の考えもあると思うので、どうかな?と思ったのですが、今回、丁度いい落としどころといっていただきほっとしました。
放送後は死者が知らされるので、色々な参加者の反応が今から気になります。

382 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/14(水) 14:01:12 ID:9.SMMfhs0
投下します。

383100円スマイルの少女人形 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/14(水) 14:01:35 ID:9.SMMfhs0
ㅤトールと別れた霊幻と芦屋は、当初の予定通りに『霊とか相談所』を目指し住宅街エリアを歩いていた。

 実際のところ、霊幻は少しばかり弁の立つ人間に過ぎない。特殊な科学技術など持ち合わせていないし、漫画みたいに首輪の解析や精密機器のハッキングなんてとてもじゃないが出来やしない。機械に疎いらしい芦屋よりは幾分かはマシだろうが、それでも専門外もいい所だ。せめて仕事に使っているパソコンがあればいいのだが、現実的に考えればそれも望み薄だろう。それに何なら、通信機器ならば他の施設にもあるかもしれないし、もしくは霊とか相談所含めどこにも無いかもしれない。

 ただ、相談所の名が示す通り、霊幻の元には日々幾つもの問題事が持ち込まれていた。中には本物の霊能力案件もあるが、ほとんどはマッサージや会話などで解決可能だ。何か問題に取り組む際は事務所で考えることがもはや霊幻のルーティンワークとなっている。

ㅤ……と、つまるところ霊とか相談所を目指す理由としては験担ぎ程度だ。必然性なんてさしてありはしない。少しでも合理的な理由があればすぐさまそちらへ乗り換えることも厭わないだろう。

「僭越ながら……」

「ん?」

「『マグロナルド幡ヶ谷駅前店』に立ち寄ってもよろしいでしょうか。魔王様がいらっしゃるならばここの可能性が高いので。」

「おう、いいぞ。」

ㅤだから、そこで断る理由も特に無かった。厳密には、理由はあるがそこは口約束でカバーできる範囲。

「だが俺も命がかかってるんでな。せめて寄り道中は、24時間の期限は停止しておけよ。」

「ええ、もちろんですとも。」

ㅤ24時間の期限。それを過ぎれば、芦屋は真奥を生還させるために他の参加者を殺す。その対象は霊幻とて例外ではない。寄り道をするということはそれだけ霊幻が生き残る道を探す時間が減ることに繋がるのである。

「それにしても……霊幻さんは打算的な方なのですね。」

「お、皮肉か?」

「いいえ、むしろ褒め言葉と受け取っていただければ。」

「そいつはどうも。」

ㅤ乏しい家計を握る芦屋は、時給をきっちりいただくことだけは何があろうと譲れない。逆に、自分のことであっても時間を設定した側としてそこにルーズであることは許さない。その点、霊幻も似た性分である。互いにそういう人物であると共有できているのであれば合意もすんなり形成できるし信頼にも足るものだ。

ㅤこういったやり取りを繰り返している内に、霊幻にも次第に見えてきている。当初トールとやいのやいの言い合っていた芦屋も、ゆっくり話してみれば割と理性的な奴だ。何が利で何が損か、冷静に分析せずにはいられない性分をしている。それを霊感商法に利用しているかどうかの差はあるかもしれないがかなり自分と似たタイプだ。

「なあ、アンタの言う魔王様ってのはどんな奴なんだ?」

 逆に、芦屋ほどの奴を感情的に突き動かす真奥とやらにも少しばかり興味が沸いた。数秒後、霊幻は後悔することとなる。

「それはもう素晴らしい方です。」

ㅤキラキラと目を輝かせて語る芦屋。ああ、こいつ本当、真奥って奴のことになると語彙力が低下するのな。

「紛れもなく王の器というものですよ。こんな催しさえなければ、エンテ・イスラの支配――いえ、日本を含めた世界征服をも必ずや、実現してくださっていたでしょう。」

「……へぇ、ソイツは一度お目にかかってみたいもんだな。」

ㅤその気迫には霊幻も気圧される。尊敬というよりも崇拝の域。下手に否定しようものなら普通以上に怒らせてしまいかねない。名簿の顔写真を見るに真奥は大人――いい歳して世界征服などを本気で考えている真奥に若干の不信感が芽生えるも、持ち前の処世術で当たり障りなく回答する。

384100円スマイルの少女人形 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/14(水) 14:02:17 ID:9.SMMfhs0
「もちろん私としても早々に合流したいものですよ。ですからこうして魔王様のバイト先に向かっているのです。」

 さっきまで世界征服がどうとか言ってたのにバイトかよ……と心内でつっこむ霊幻。ちなみに仮に口にしていても、芦屋もそこについては同意見である。何はともあれ間もなく、二人はさしたる弊害もなくマグロナルド幡ヶ谷駅前店に到着した。警戒しながら自動ドアを通り抜け、入店する。

 芦屋の知る限り、イートインスペースは入口から見て死角。こちらの来店はドアの音で伝わるため、誰かが潜んでいれば一方的に居場所を探られる。その可能性は考えた上で動かなくてはならない。それが、殺し合いの地で成すべき合理的判断。魔王軍の知将である芦屋は当然にそれを理解しているし、対人の危機察知能力の高い霊幻も含めそれを仕損じる二人ではない。

「――いらっしゃいませーっ!」

 しかし彼らが目にした存在は、すべき警戒すらも忘却の彼方に消し飛ばした。



ㅤ殺し合いという命の危機に瀕してみれば、それまでの平穏な日々と対比せずにはいられない。たまに外敵が現れることはあったが、闘争を良しとするエンテ・イスラに比べればバイトのシフトの入りで一喜一憂できる日々は平和といって差し支えまい。

ㅤしかし、もうあの日々には戻れない。戻るべきですらない。

ㅤ日本との繋がりがこのような形で切れてしまうことへの無念はある。魔力を取り戻した上でエンテ・イスラに帰還する機会は何度かあった。だけど、立つ鳥跡を濁さず、日本でやり残したことは少なからずあった。放って帰るには心が痛む友人がいた。人間関係がしがらみになって、離れる者を繋ぎ止める――それは悪魔には無い思考形態だ。なんの冗談か、悪魔が人間を模倣したのだ。

ㅤそして今、そのしがらみはもう無い。佐々木千穂は死んだ。仮に上手く誰も死なずに日本に帰れたとしても、第二の佐々木さんを出さないために、魔王様はこれ以降日本の誰とも関わることはあるまい。

ㅤ日本との関わりを絶つ覚悟ならすでにできている。家計のやりくりに四苦八苦するあの日々は、もう取り戻せないものであると解っている。

ㅤだから、有り得ないのだ。

ㅤ未来像から切り捨てたものを、佐々木千穂の存在を、今ここで目の当たりにするなんてことは。

「佐々木……さん……?」

「おい、なにが起こっている?」

 殺し合いの地に首輪をしていない人間が居て、店員の仕事をしているのは霊幻から見ても奇妙な光景だ。だが、それ以上に芦屋の驚き様は妙だった。幽霊を目の当たりにした依頼人がする表情と同じ、目の前の現実に常識を覆された人間の顔だ。ポーカーフェイスで嘘を吐くことに慣れていたはずの自分も、モブの超能力を初めて目にした時はそんな顔をしていたのかもしれない。

385100円スマイルの少女人形 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/14(水) 14:03:52 ID:9.SMMfhs0
「ご注文はお決まりですか?」

ㅤ少女――佐々木千穂の姿かたちをした認知存在は、笑顔のまま顔をこちらに向ける。メニューの端に小さく書かれた営業スマイルのマニュアル対応としては100点満点だろう。

「……姫神に首輪を爆破された、我々の友人です。」

「あ?」

ㅤ霊幻には、千穂の顔は『どこかで見たような』程度の認識でしかなかった。人が散見される中で突然吹き飛んだ少女の顔など、正確に覚えてなどいない。逆に、血飛沫が舞い散る首無しの胴体の方が忘れたいほど鮮明に脳裏に焼き付いている。

ㅤだが、芦屋は違う。友人として幾度となくお世話になった彼女の顔を――そして魔王様を筆頭に自分たちにのみに向けられるマニュアルとは違う笑顔を、忘れられるはずもない。

「……いえ、違いました。」

ㅤしかし、目の前の少女の笑顔は、いつかとは違う。自分にも霊幻にも一切の分け隔てのない、ただの営業スマイル。千穂を前にした芦屋の挙動に躊躇うでも心配するでもなく、ただただ機械的に業務を遂行している。

「こんなもの、佐々木さんじゃありません。」

 彼女は人間だった。決して、殺し合いの世界の一端を担うロボットのような存在ではなかった。

 目の前にいるのは今は亡き友ではない。人間として、『芦屋四郎』として接するべき存在ではない。不祥の表情に染まり切った芦屋の顔面には、次第に黒塗りの紋様が浮かび上がっていく。毒気のない清涼な顔付きは、悪魔としての悍ましさに染まっていく。

「……ただの人形です。」

ㅤ彼女の生を、否定する。佐々木千穂は死んだ。どれほど悲しくとも、悔しくとも、その事実を曲げることはできない。こうして動いて、喋って、そして当たり障りなく笑っていても、そんなものは彼女の生きた証すら貶める茶番でしかない。佐々木さんの能面を貼り付けた何かが、そこに在った。それが、佐々木さんとの数え切れない思い出を無理やり塗り潰しに掛かっているように思えてならなかった。

 無表情のままに振り抜かれた芦屋――否、アルシエルの腕は、少女の頭を吹き飛ばした。この殺し合いの開幕を告げた遺体と同じように、それこそが本来の彼女の姿だと己の心に刻みつけるかのように。

「……霊幻さん。」

 そして彼女を終わらせ、元の姿に戻った芦屋は、自分の行いを再確認するように、彼女の首を飛ばした右手をじっと凝視する。テレパシーなど使えなくても、他人の挙動から心を読むのが得意な霊幻には見える。その底にある感情は、後悔。そして自責。

「私は湧き上がる怒りのままに、彼女を模した人形を殺しました。」

 当然、その感情の原因は"千穂"を殺したことだ。

「人形なら壊したの間違いだろ。」

「私にとってはそうかもしれません。だけど、魔王様にとっては、亡くした友人の……いえ、もしかしたらそれ以上に大切な人の、唯一面影を感じられる残滓だったかもしれないのにっ……!」

 攻撃を受けた少女は、血を撒き散らすこともなく消失した。その挙動ひとつ見ても、芦屋が消した存在が霊の類であったことにもはや疑いはない。だから、芦屋は責められるべきではないのだろう。

 だが、降霊を願って霊とか相談所を訪れる依頼人がいたように、亡き人の形をした霊に価値を見出す者がいるのも確かだ。真奥とやらがどっちなのかは分からないし、それならば芦屋の思うところについても一理ある。感情的になる前に、一度熟考すべきだったのは間違いないのだ。しかし霊幻からすれば『佐々木さん』とやらの姿をした霊がどれほど芦屋に違和感を与えたものなのかも不明だ。冷静さを欠くのも仕方がない程度には生前の彼女を冒涜するようなものだったのか、分からない。

 嘘八百を並べるにもリサーチは欠かしてはならないのが霊感商法の基本だ。信用、ただそれだけを武器に生きる霊幻は露呈すれば即座に信用の株が崩れ落ちる嘘を安易に用いるわけにはいかない。だから佐々木さんについて何も知らない以上、迂闊なことを言うべきではない。分かっている。分かっているのだ。

386100円スマイルの少女人形 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/14(水) 14:04:31 ID:9.SMMfhs0
「――心配ねえよ。」

 だというのに、気付けば口をついて出ていた。不用意なひと言、炎上のもと。しかしもはや後悔先に立たず。すでに賽は投げられたのだ。

「『不気味の谷』といってだな、人形とかロボットとか、人の形をしたもんはリアルになればなるほど生理的に受け付けなくなるもんだ。お前だけじゃなく、人類が共通して抱く心理学の権威に裏付けられた思考形態だよ。」

「しかし、我々は悪魔であって……」

「……は?ㅤ現にお前、異物感覚えて消し飛ばしてんじゃねーか。」

 これまでのどの言葉よりも荒々しく、しかし正しい一言だった。

「いいか、オメーが悪魔だろうがドラゴンだろうが知ったこっちゃねえ。霊能力者や超能力者がいるように、そういうのもいるもんだってことで流しといてやるよ。」

 人間の形をしたものを消し飛ばしたのを目の当たりにした上で、芦屋の中の悪魔の力をそういうものだと軽く流した。この地点で、芦屋と霊幻を隔てるものは何も無い。

「だがな、勘違いすんなよ。そういうちょっとした感覚においてはどう足掻いても凡人なんだよ。特別でも何でもねえ。」

 芦屋は、人間を知らない。知ろうともしていなかったし、そしてそれ故に、かつてエンテ・イスラの侵攻に失敗した。だからこそ、霊幻の語る人間に対して何も言えない。悪魔として認知存在を殺した自分が、人間的な思考に囚われていたことなど、考えてすらいなかった。

 そして、思う。悪魔の誇りを捨てたかのように俗世に交わろうとしていた魔王様も、霊幻と同じことを考えていたのではないだろうか。悪魔の力を度外視した時、自分に何が残っているか。他の人間と、何が違うのか。それを見定めるために、『人間』として生きていたのではないか。

 霊幻にとっては勢いで言った言葉であったが――芦屋には、長きに渡る疑問に解が与えられた心持ちであった。

「……すみません、取り乱しました。おっしゃる通りです。」

「分かりゃいい。さて、行くぞ。」

 最後に二人は、奇襲に警戒しつつイートインスペースへと向かう。今の騒ぎで出てこない辺り、友好的な人物はおそらく居ないのだろうが、しかしせっかく立ち寄ったのだ。念には念を入れるに越したことはない。

 認知存在との別れ。それ即ち、芦屋にとっての佐々木千穂との完全な決別。他人と永遠の別れの後に『もう一度』が与えられることなど有り得ないのだ。それは、否定して然るべき邂逅なのだ。

 だが――少なくとも一度目は、有り得るものだ。そしてここが殺し合いの世界であると、六時間前には知っていたはずなのだ。



ㅤこの殺し合いにはモブが呼ばれている。その地点で殺し合いのパワーバランスの上限には少なくともモブクラスの超能力者が設定されていると分かる。芦屋やトールも悪魔だとかドラゴンだとか、底が見えねえ。まあ、俺よりよっぽど上なのは間違いないんだろうな。んで、パワーバランス最底辺がおそらく俺だ。

ㅤもしかしたらモブより強い奴もいるかもしれねえし、俺が小突いただけで死ぬような奴もいるかもしれねえ。だが、単体戦力の振れ幅は"最小でも"モブから俺まではあるってことだ。そして仮にモブが全力で殺しにかかってくれば俺は息をする暇もなく死ぬ。

 つまりこの世界じゃ、誰が死んだっておかしくないんだ。格下の誰かを一方的に嬲り殺せるだけの力を誰かが持っていたとしても、俺とモブのパワーバランスの振れ幅の範疇と言える。『この世界には実力が同じくらいの奴が招かれているとは限らないんだし、仕方ねえよな』と、言えてしまうのだ。

 ん、長々と悪いな。目の前の光景を自分に納得させようとしているんだ。まあ……こういうことだってあるんだろうなって、そう思える理屈を何とか探しているんだ。まあひとつ言えることは、ここで焦っているのはただただ俺の落ち度だな。名簿を見て、モブの名前を確認した時から、これはありえる未来として想像しておかないといけないことだったんだろうよ。

「おいおい、マジかよ……。」

 平静を取り戻した芦屋と共にイートインスペースに向かい、そして直面したのは、影山律――モブの弟が、死んでいた。

387100円スマイルの少女人形 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/14(水) 14:04:56 ID:9.SMMfhs0
【E-6/マグロナルド幡ヶ谷駅前店/一日目 早朝(放送直前)】

【芦屋四郎@はたらく魔王さま!】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:一先ずは霊幻に協力するが、優勝者を出すしかないなら真奥貞夫を優勝させる。
一.魔王様はご無事だろうか……。
二.魔王様と合流するまでは、協力しつつ霊幻さんを見定めましょう。

※ルシフェルとの同居開始以降、ノルド・ユスティーナと出会う以前の参戦です。

【霊幻新隆@モブサイコ100】
[状態]:健康
[装備]:呪いアンソロジー@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:優勝以外の帰還方法を探す。
一.俺の事務所で情報収集できりゃいいんだが。
二.モブたちも探してやらないと。
三.律が死んでるのかよ……
※島崎を倒した後からの参戦です。

※認知存在・『ササキチホ』が消滅したことで、マグロナルド幡ヶ谷駅前店での参加者に対するマグロバーガーの供給が停止しました。

※パレス内で参加者が死んでもその人物の認知存在は現れません。

388 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/14(水) 14:05:10 ID:9.SMMfhs0
投下完了しました。

389 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/14(水) 20:59:42 ID:itZzWKOU0
投下お疲れ様です!

100円スマイルの少女人形
新隆と芦屋の関係は、時間と言う制約がありますが、やはり良いなと個人的にすごく思います。
認知存在とはいえ「ササキチホ」の首を刎ねたことに対する芦屋に解を与えた新隆は、勢いとはいえ霊感商法をしてきている経験があるからこそなんだなと思いました。
「だがな、勘違いすんなよ。そういうちょっとした感覚においてはどう足掻いても凡人なんだよ。特別でも何でもねえ。」
↑の特に「凡人」はモブを間近に接してきている新隆が言うと重みが増しますね。
 認知存在との別れ。それ即ち、芦屋にとっての佐々木千穂との完全な決別。他人と永遠の別れの後に『もう一度』が与えられることなど有り得ないのだ。それは、否定して然るべき邂逅なのだ。
↑ここの一文は色々と考えさせられ胸にくるものがありました。
そして、ついに律の…と対面。
新隆は何を想いどう動くのか…楽しみです。

三千院ナギ、モルガナ、鋼人七瀬で予約します。

390 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/16(金) 02:15:04 ID:Nl7Q7Kww0
高巻杏、刈り取るもの、小林トール、上井エルマ、美樹さやか、赤羽業で予約します。

391 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:47:43 ID:Mpg4reLw0
投下します。

392バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:49:27 ID:Mpg4reLw0
火炎放射器ーーーーー水の代わりに発火した液体燃料を噴射する巨大な水鉄砲
航空軍事用語辞典++より引用

「……」
私は両手を合わせて捧げるーーーーー

「……」
黙とうをーーーーーー

☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー黙とうを捧げる前ーーー 三千院ナギ

ーーーザッ

「ここは……」
ヒスイとの闘いを生き抜いた私とモナはヒスイが歩いてきたであろう東を歩いていた。

「闘技台だな」
そこは、まるで古代ローマのコロッセウムを彷彿させるような建物。

「……大丈夫かナギ?」
おそらく、私の歩みが遅くなってきたのに気づいたのだろう……モナが話しかけてきた。
私は心配させたくないからーーー

「あ…ああ。大丈夫だ……ふふん♪モナも見ただろ?○ッチの○也にも負けない私の大リーグボールを!星○馬には悪いが私が巨○の星だ!!」
強がった。しかし、正直疲れている。
それもそうだ。ハヤテと出会う前は50m走を走っただけでへばってしまうほど、極度の運動音痴。そんな私がいくら、ヒスイに威勢のいい宣言をしてもそう、体が急に適応できるはずがない。

「……入るぞ」
私はやせ我慢しつつも短くモナに移動を促した。
それには理由があるーーーーー

「ナギ…そこの猫の言う通り、私は姫神側の人間で、既に参加者を一人殺した――――」
先ほど闘った幼馴染のヒスイが放った脳裏から離れない言葉。

なぁーーーヒスイ、嘘だろ?お前が人を殺したって?嘘に決まってるよな?私に発破を掛けるつもりで言ったんだろ?

泣き虫で煮え切れない私のためにーーー
私は藁にも縋るようにヒスイの殺人を否定して闘技台に入った。
そこで目にしたのはーーーーー

ーーーーー闘技台の中央に仰向けで斃れている男の死体だった。

☆彡 ☆彡 ☆彡

393バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:52:17 ID:Mpg4reLw0
ーーー黙とうを終えてーーー 三千院ナギ

「……」
名簿を見ると、名前は烏間というそうだ。
正直、名簿に載せてある目つきが怖いが、この損傷を見る限り、殺したのはヒスイだろうーーーー

「なぁ、モナ」
私はモナに提案をする。たとえ、それが自分を危険に晒す可能性が上がるとしてもーーー

「……どうした?」
私と一緒に黙とうをしていたモナは私の雰囲気を感じ取ったのか静かに次の言葉を待ってくれている。

「この、烏間……という男だが、このままでは不憫だ……簡単でいいから墓を作ってやりたい」
私の言葉にモナは難色を示す。

「……ナギ。気持ちは分かるが、ここで、疲労を重ねると、さっきのヒスイのような殺し合いに乗った人物が襲い掛かってきたら、一網打尽にされる恐れがある。それに……ナギも会いたい人がいるんだろ?」

正論だ……モナが言っていることは私にも痛いほど伝わる。
もし、こうしている間にハヤテやマリアの命が奪われたのだとしたら私は一生後悔をするだろう。
だけどーーー

「わかっておる!!」
モナは悪くない。だが、私は声を大きく張り上げるーーー

「こうしている間もハヤテやマリア……伊澄にヒナギクにハムスターと私の大切な人の命が危険にさらされているやも知れない!だけど!!この烏間を殺めたのは私の幼馴染なんだ!!!だから、私がアイツの代わりに供養してやらないと!!!!」
正直、烏間という男がどういう男かは私にもわからん。
目つきがちょっと怖いし、もしかしたら悪い男だったのかももしれない。
だが、烏間を殺したのはヒスイ。私の幼馴染だ。
だからこそ、私が供養してやらねば……放送が流れれば、おそらく、こうしたこと(墓づくり)はもうできない。

「頼む……我儘をいうのはこれっきりだ」
そう言い終わると私はモナに頭を下げた。

「「……」」
「たく…しょうがねぇなー」
モナは頭をポリポリとかいてーーー
「よしッ!善は急げだ!!さっとやっちまおぜ!!」
ーーーありがとうモナ。

☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー墓づくりを終えてーーー モルガナ

「はぁ…はぁ…はぁ…」
一旦、外へ出て烏間の墓を作り終えたワガハイとナギは疲労を回復させようと乱れた呼吸と体力を回復させようと闘技台の中へ戻り、休憩をしている。

……チラッ
(ナギの奴……精神的にも参ってやがる……)
幼馴染が殺した男の墓づくり、体力・精神どちらも負担は軽くはないはずだ……
何かいいのはないか……
(そうだ!たしかワガハイの支給品に……)

「これでも、聴いてみるか?」
ワガハイはナギに支給品のCDを渡した。

「これは何なのだ?」
キョトンとした顔で受け取る。

「なんでも、このCDを聴くと「火炎ゴッドファイアー」とかいう必殺技を会得できるらしい」
ーーー桜川六花という人の字でCDに付属していた紙にそう書いてあった。
ちょっと嘘くさいが、ナギの気分転換になればいいとワガハイは薦めた。

「おお! 」
案の定、ナギの目が曇りから漫画のヒーローが新しい必殺技を披露するのを期待に満ちた目に代わりやがった。

「モ…モナ!早く、私にそのCDを聴かせるのだ!!」

「そんなに慌てんなって!え〜と、ラジカセもセットだったな……)
ワガハイはナギに急かされつつもザックからラジカセを取り出すとーーー
ガチャ!……CDが再生される。

ーーー火炎放射とわたしーーー
完全燃焼しよ☆
ららら 防犯ベルの一種です バーニーング
背中のタンク 純情な 乙女の嗜みです♪
だって 命を差し出す〜 覚悟切り〜
だって とうぜんお持ちでしょ〜
ごめ〜んね 鳥があおほど ひいちゃった♪
アチチの痛み メララの快感を全部〜♪
分け合いたいの 一緒に!
お願い 叶えて石油王♪
あなたの夢をも 焼き払い〜
まる焦げで ごめんなさいの あとさらい〜
お願い いいでしょ 耐熱〜
愛は裸になれること♪
炙り〜(炙り〜)尽くして(尽くして) 火炎放射器で 完全燃焼しよ☆
チャチャチャ♪ チャチャチャン♪♪

394バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:54:18 ID:Mpg4reLw0
☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー青春火吹き娘ーーー 三千院ナギ

「「……」」
な、何なのだ!?この国会○事堂や金○寺が燃えている前で可愛らしく踊る魔法少女のような歌詞は!?
リリカル・トカレフ・キルゼムオールみたいな魔法でも使うのか!?三千院奥義書でも、もっとマシな技が書かれているはずだ!……たぶん。

「ま…まぁ、これでナギも必殺技を会得できたってわけだ……」
おい、モナ。そうはいっておるが、腕組みしながら渋い顔をしておるではないか!!

「おい。本当にこれで会得できたのか?」
ラジカセからCDを取り出すと、ラジカセをザックに仕舞いつつ私はモナに疑問を投げかける。

「あ…ああ。そのはずだ」
(火炎放射器……パレスの力なら具現化できてもおかしくないが……)

「どうにも胡散臭い……」
(火炎放射器を使う女……肉体言語だな)

私とモナはそれぞれ、【火炎放射器を扱う女】を【想像】した。

「ん?」
ふと、何か気配を感じ、その方向へ目を配るーーーすると。

ズズ……

突如、靄のようなものが私たちの前に現れたかと思うと人の姿に変わった。
その人物は女性でなんと、バカでかい鉄鋼を片手で持っているだけでなく背中には「火炎放射器」を背負っていた。

「一体何なのだ!?あの「汚物は消毒だ〜」と叫びそうな女は!?」
(それに、あれは火炎放射器ではないか!?)

まるで、先ほどのCDの歌詞に出てきた女のようだーーー
「やべぇ!ここは一度、退くぞ!!」

モナの提案に賛成の私はそのまま闘技台の外へ向かおうとする…が

「……!!」
潰れたのか顔が見えない女は私とモナの前へ一瞬に移動した。

「ナギ!!離れろ!!!」
ボォォォオオオオオオオ!!!!!!
モナの言葉と同時に女は焼き払うかの如く、火炎を勢いよく噴射してきた。

「うわぁああ!」
「あらよっと!」
危なかった!モナの言葉がなければ、私は炙りつくされてもおかしくなかった。
膝を擦りむいて痛いなどと言ってはいられない。

(くそっ!火炎が激しくてあの女に攻撃できない!!)
モナはどう攻撃をするべきか悩んでいるようだった。

「モナ!あそこの壁に攻撃しろ!!」
「そしたら、ガルーラをして、後ろの壁も同様にだ!!」
「!?」
(一体!?……へっ!ナギが自信満々に指示を出したんだッ!!乗ってやるぜ!!!)
「よし!任せろ!」

そう、それはーーー
ーーー駒捌きーーー

「意を示せ!ゾロ!!」
モナの言葉に応じたペルソナは風を舞い上げ、私の指示通り女ではなく、壁に攻撃を仕掛けた。
ゾロの怒涛の攻撃に闘技台の壁は崩れ落ち女に降り注ぐ。

「……!」
当然、女は攻撃を中止し、先ほど見せた超スピードで私たちの後ろへ回り込む。
火炎放射器は燃やした液体を【直線状】に出すのが特徴ーーーつまり、攻撃を避けた後、私とモナを確実に炙りつくすには、後ろへ回り込むのが定石だ。

「……」
再び、火炎放射器で私たちを狙いに定めると炎を放つがーーー

「ガルーラ!」
モナのペルソナが起こした勢いのある風は火炎放射器の炎を殺す。
そして、風の勢いは火炎だけでなく女をも吹き飛ばす。

「引導を渡す!」
場所は違えど再び、攻撃による瓦礫の落下。
火炎放射器による攻撃中かつ吹き飛ばされた状態で避けることはできずーーー

ガラガラガラガラ!!!!!!
女は私の予想通り瓦礫の山に埋もれた。

「うむ!チェックメイトだ!!」
「撤退撤退てったーい!」
無理は禁物。モナと共に急いで闘技台から逃げ出すーーー

395バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:55:24 ID:Mpg4reLw0
☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー撤退ーーー モルガナ

「はぁ…はぁ…」
おかしいーーー追いかけてこない?
てっきり、追いかけてくるかと思ったが火吹き娘の姿は見当たらなかったーーー

「……」
(あれで、仕留められる相手じゃないが……)
あれこれ考えても仕方がないな……ワガハイとナギは温泉と書かれた旅館へ辿り着いた。

「そろそろ放送も流れる。一度、温泉で休憩しながら聴くとするか……」
本格的な戦闘ではなかったとはいえ、ヒスイに鋼人七瀬と主催側のジョーカーともいうべき存在との連戦はナギの限界を迎えていた。
放送も流れる頃だ。
ワガハイはナギに提案をする。

「あ……ああ。そうしよう。私ももうこれ以上は走れん……」

(案の定、疲れ切ってるな……よし、ナギの奴に労いをかけてやるか)

「そうそう、ナギ。いい指示だったぜ!」
ワガハイはそう言いつつ手を挙げる。
ワガハイの意図に気づいたのかナギは苦笑しながらーーー
「フン。当たり前だ!私の指示なのだから!!」

ーーーパン♪
互いの手が合わさり、スカッとする気持ちよい音が鳴った。
ピリピロリン♪
シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!

コープのランクが5に上がった!

☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー撤退ーーー 三千院ナギ

私とモナは火吹き女から逃げ切ると温泉旅館へ辿り着いた。

(全く……何なのだ!何なのだ!!あの女は!?)
私はあの名も分からぬ火吹き娘に憤慨する。
その横でーーー

「そろそろ放送も流れる。一度、温泉で休憩しながら聴くとするか……」
モナからの提案。
私は疲れ切っているのもありーーー
「あ……ああ。そうしよう。私も、もうこれ以上は走れん……」
賛成した。

「そうそう、ナギ。いい指示だったぜ!」
モナは手を挙げている。
なるほど、モナの意図に気づく私。
(モナめ。私を労わろうと……ふふ)
つい私は苦笑すると同様に手を挙げてーーー
ーーーパン♪
互いの手が合わさり、スカッとする気持ちよい音が鳴った。

放送ーーーーー死者の名前も知らされる。

「……」
(なぁ、ハヤテ……マリア……死んでいないよな?大丈夫だよな?)
私は、不安を抱きつつも疲れた体と心を休めようと旅館の扉を開いたーーー

396バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:55:37 ID:Mpg4reLw0
【B-5/温泉/一日目 早朝(放送直前)】

【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(大) 不安(小) 膝に擦り傷 手の爪に砂や泥
[装備]:CD火炎放射器と私@虚構推理
[道具]:基本支給品 CDラジカセ
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗らない
1.姫神…何をたくらんでいるのだ?
2.次に出会ったとき、ヒスイと決着をつける
3.ハヤテー!マリアー!どこだー!……生きているよな?
4.烏間なる人よ……成仏してくれ
※モルガナとのコープが5になりました。以下のスキルを身に付けています。
「駒さばき」集団行動のとき、メンバーに的確な指示を出すことができるようになる
「お嬢様の追い打ち」モルガナの攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※ヒスイとのコープが9になりました。まだスキルは解放されません。
※ヒスイが姫神側の人間であると知りました。
※ペルソナの存在について理解しました。
※ロトの鍵捜索中からの参戦です。
※もしかして自分は「運動が実は得意」なのではないかの思いが内心、芽生えました。
【支給品紹介】

【火炎放射器と私@虚構推理】
モルガナに支給された音楽CD。鋼人七瀬の生前……七瀬かりんが主演に抜擢されたドラマ青春火吹き娘のOPソング。
実は桜川六花により、再生をして生まれた想像によってパレスの力と合わさり鋼人七瀬が強化されるようになっていた。なお、お詫びのつもりなのか再生するためのラジカセは付属品扱いとして支給されている。

【武見内科医院薬セット@ペルソナ5】※ヒスイに渡さなかった分
武見妙が扱う医薬品。効果は確かに効く。
内訳 ナオール錠50mg×1 ダメージ・疲労を(低)回復させる
   タケミナイエールZ×2 味方全体のダメージ・疲労を(中)回復させる
   全快点滴パック×1 味方全体のダメージ・疲労を全回復させる※参加者との戦闘中は使用不可

【モルガナ@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(低)疲労(中) SP(低)
[装備]:ノーザンライトSP@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(1)(不明支給品にモルガナが扱える武器は含まれていません。)
[思考・状況]
基本行動方針:ナギとの取引を果たす
1.ここは誰のパレスなんだ?
2.姫神の目的はなんだ?
3.ここで一度休息も兼ねるか……
※ナギとのコープが5になりました。
※ヒスイが姫神側の人間だと匂いでわかりました。六花の匂いにも気づきましたが、異様な匂いだと感じています。
※シドウ・パレスのレストランで政治家・大江を倒した時よりは後からの参戦です。

【支給品紹介】
【ノーザンライトSP@ペルソナ5】
三千院ナギに支給されたパチンコ。ガンカスタムが施されており、「低確率で凍結付与」の効果が付いている。
弾の装填数は4。戦闘1回ごとに補充される(1回の定義は放送毎に補充)

397バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:55:54 ID:Mpg4reLw0
☆彡 ☆彡 ☆彡
ガラガラと音を立てながらも瓦礫の山から這い出た火吹き娘……ならぬ鋼人七瀬。

「……」

このまま、ナギとモルガナを追うのか、別のエリアへ行くのかわからない……が、一つだけわかるのは想像力の怪物が取るべき行動は何も変わらない。

参加者の襲撃ーーーーーそれが自身に課せられているのだから。

【B-3/闘技台/一日目 早朝】
【鋼人七瀬@虚構推理】
[状態]:ダメージ(極小)
[装備]:鉄鋼@虚構推理 火炎放射器@虚構推理
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:参加者の襲撃

※パレスの認知と桜川六花の虚構が混ざり存在している。ただの物理攻撃では倒せない。
※致命傷を与えられると、靄に包まれ、別のエリアへ移動する。
※噂や想像が鋼人七瀬に影響を良くも悪くも与えます。
※CD【火炎放射器と私】により、火炎放射器が装備に加わりました。
※その他の状況はまだ不明。

※B-3闘技台の外に烏間の墓(簡易)があります。

398バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 11:56:08 ID:Mpg4reLw0
投下終了します。

399 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/18(日) 18:49:42 ID:OK/kbbbU0
投下お疲れ様です!
鋼人七瀬の殺傷力が単純な打撃だけではなくなってしまった……
原作の鉄骨をぶん投げる想像も厄介な方向に進めていましたが、九郎のタンク無しで挑むのはかなりキツい相手に仕上がってきてるんじゃないでしょうか。

ところでこのまま採用するには1点気になったのですが、黎明時に工事現場(B-2)にいたナギとモルガナが闘技台での烏間の埋葬にかかる時間やCDを聴く休憩を経て早朝の放送直前に温泉(B-5)まで辿り着いているのは、ナギの運動能力の無さを考えれば、仮に黎明開始時から4時間丸々使っていたとしても少し速すぎるかなと感じました。恐縮ですが、最終位置をB-3か4辺りに見直ししていただけると助かります。

400バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 19:27:28 ID:Mpg4reLw0
ご指摘ありがとうございます。
最終位置の見直しをいたします。
次作以降は移動距離をもう少し考えていきたいと思います。

401バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 19:35:04 ID:Mpg4reLw0
修正を投下します。

☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー撤退ーーー モルガナ

「はぁ…はぁ…」
おかしいーーー追いかけてこない?
てっきり、追いかけてくるかと思ったが火吹き娘の姿は見当たらなかったーーー

「……」
(あれで、仕留められる相手じゃないが……)
あれこれ考えても仕方がないな……ワガハイとナギは草むらで汚れるのを覚悟で座り込んだ。

「そろそろ放送も流れる。一度、休憩しながら聴くとするか……」
本格的な戦闘ではなかったとはいえ、ヒスイに鋼人七瀬と主催側のジョーカーともいうべき存在との連戦はナギの限界を迎えていた。
放送も流れる頃だ。
ワガハイはナギに提案をする。

「あ……ああ。そうしよう。私ももうこれ以上は走れん……」

(案の定、疲れ切ってるな……よし、ナギの奴に労いをかけてやるか)

「そうそう、ナギ。いい指示だったぜ!」
ワガハイはそう言いつつ手を挙げる。
ワガハイの意図に気づいたのかナギは苦笑しながらーーー
「フン。当たり前だ!私の指示なのだから!!」

ーーーパン♪
互いの手が合わさり、スカッとする気持ちよい音が鳴った。
ピリピロリン♪
シュパァァ!!ザンッ!!!RANKUP!

コープのランクが5に上がった!

☆彡 ☆彡 ☆彡
ーーー撤退ーーー 三千院ナギ

私とモナは火吹き女から逃げ切ると、草むらに座り込んだ。

(全く……何なのだ!何なのだ!!あの女は!?)
私はあの名も分からぬ火吹き娘に憤慨する。
その横でーーー

「そろそろ放送も流れる。一度、休憩しながら聴くとするか……」
モナからの提案。
正直、草むらだと服が汚れるが私は疲れ切っているのもありーーー
「あ……ああ。そうしよう。私も、もうこれ以上は走れん……」
賛成した。

「そうそう、ナギ。いい指示だったぜ!」
モナは手を挙げている。
なるほど、モナの意図に気づく私。
(モナめ。私を労わろうと……ふふ)
つい私は苦笑すると同様に手を挙げてーーー
ーーーパン♪
互いの手が合わさり、スカッとする気持ちよい音が鳴った。

放送ーーーーー死者の名前も知らされる。

「……」
(なぁ、ハヤテ……マリア……死んでいないよな?大丈夫だよな?)
私は、不安を抱きつつも疲れた体と心を休めようとしたーーー

402バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 19:37:19 ID:Mpg4reLw0
【B-4/草むら/一日目 早朝(放送直前)】

【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(大) 不安(小) 膝に擦り傷 手の爪に砂や泥
[装備]:CD火炎放射器と私@虚構推理
[道具]:基本支給品 CDラジカセ
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗らない
1.姫神…何をたくらんでいるのだ?
2.次に出会ったとき、ヒスイと決着をつける
3.ハヤテー!マリアー!どこだー!……生きているよな?
4.烏間なる人よ……成仏してくれ
※モルガナとのコープが5になりました。以下のスキルを身に付けています。
「駒さばき」集団行動のとき、メンバーに的確な指示を出すことができるようになる
「お嬢様の追い打ち」モルガナの攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※ヒスイとのコープが9になりました。まだスキルは解放されません。
※ヒスイが姫神側の人間であると知りました。
※ペルソナの存在について理解しました。
※ロトの鍵捜索中からの参戦です。
※もしかして自分は「運動が実は得意」なのではないかの思いが内心、芽生えました。
【支給品紹介】

【火炎放射器と私@虚構推理】
モルガナに支給された音楽CD。鋼人七瀬の生前……七瀬かりんが主演に抜擢されたドラマ青春火吹き娘のOPソング。
実は桜川六花により、再生をして生まれた想像によってパレスの力と合わさり鋼人七瀬が強化されるようになっていた。なお、お詫びのつもりなのか再生するためのラジカセは付属品扱いとして支給されている。

【武見内科医院薬セット@ペルソナ5】※ヒスイに渡さなかった分
武見妙が扱う医薬品。効果は確かに効く。
内訳 ナオール錠50mg×1 ダメージ・疲労を(低)回復させる
   タケミナイエールZ×2 味方全体のダメージ・疲労を(中)回復させる
   全快点滴パック×1 味方全体のダメージ・疲労を全回復させる※参加者との戦闘中は使用不可

【モルガナ@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(低)疲労(中) SP(低)
[装備]:ノーザンライトSP@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(1)(不明支給品にモルガナが扱える武器は含まれていません。)
[思考・状況]
基本行動方針:ナギとの取引を果たす
1.ここは誰のパレスなんだ?
2.姫神の目的はなんだ?
3.ここで一度休息も兼ねるか……
※ナギとのコープが5になりました。
※ヒスイが姫神側の人間だと匂いでわかりました。六花の匂いにも気づきましたが、異様な匂いだと感じています。
※シドウ・パレスのレストランで政治家・大江を倒した時よりは後からの参戦です。

【支給品紹介】
【ノーザンライトSP@ペルソナ5】
三千院ナギに支給されたパチンコ。ガンカスタムが施されており、「低確率で凍結付与」の効果が付いている。
弾の装填数は4。戦闘1回ごとに補充される(1回の定義は放送毎に補充)

403バトロワ「青春!火吹き娘!」 ◆s5tC4j7VZY:2021/04/18(日) 19:52:32 ID:Mpg4reLw0
修正の投下を終えます。

また、感想ありがとうございます。

バトロワ「青春!火吹き娘!」
七瀬かりんのアイドルの火炎放射器ネタは強化に繋がるなと思い今回書きました。
やはり、鋼人七瀬攻略には九郎君が必要不可欠になるかもしれませんね。

404 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/19(月) 20:36:14 ID:XZ3ne1VE0
修正投下お疲れ様です。
企画主としては『自作以降』を考えてくれているのが嬉しいばかりです。これからも是非ともよろしくお願い致します。

405 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/22(木) 18:16:56 ID:psL.Fs6Q0
申し訳ありません、予約延長します。

406 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:08:35 ID:clBd8qig0
今のところは前編だけですが、投下します。

407Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:10:15 ID:clBd8qig0
 こんなの、怖いに決まってる。

 悪い大人たちを相手にするのも、何故かモルガナの声を聞いた明智から捜査されているのも、殺し合いに巻き込まれたのも、全部、全部が怖い。

 ましてや敵はメメントスを徘徊するあの超強力シャドウ。これまでは次のフロアまで逃げていれば何事もなく終わっていたけれど、しかし今回ばかりはそうもいかない。

ㅤ命をかけて戦ってる人がいるから。刈り取るものという圧倒的強者を前にして、今にも掻き消えてしまいそうな弱き者の声が聞こえるから。それを見捨てて逃げるわけにはいかない。弱きを助け、強きを挫くは怪盗の美学。友人を傷付けた鴨志田への、そして自分への怒りから芽生えた反逆の意志。今もなおそれに従って突き進むからこそ、杏のペルソナは彼女と同じく、前を向く。

「ペルソナッ!」

ㅤ掛け声とともに杏の背後に顕現した影――カルメンはアギラオを放つ。その狙いは当然、刈り取るもの。業火が敵の身にまとわりつき、死神は僅かに仰け反る。

(効いてる!ㅤうん……私たち、強くなっているんだ!)

ㅤ今はもう、鎖の音を聴くだけでモルガナカーを全力発進させて逃げていた頃とは違う。怪盗団も世間に注目され、操るペルソナも強くなっている。

「まだまだッ!」

ㅤ追撃とばかりに、手にしたマシンガンを乱射する。その一撃一撃は刈り取るものに対し決して重くはないが、しかし着実にダメージを与え続ける。それを脅威と判断したか、はたまた偶然か、刈り取るものの銃口は杏に向かう。

「ヤバッ……」

ㅤ同じ銃という業物を持ってしてもその性質は異なる。連射に長けたマシンガンとは違い、刈り取るものの長銃はその一撃で確実に相手の命を奪う。片腕と片方の銃を落としていたとしても、弾丸一発の脅威は何も変わらない。

「私が……相手だぁっ!」

ㅤその時、射線上に割って入ったエルマの剛力から繰り広げられる斧での斬撃が、刈り取るものの長銃とぶつかり合う。力という分野においてはドラゴンの中でも最上級のエルマ。刈り取るものがどれほど高位のシャドウであろうとも、エルマのドラゴンとしての力が大きく制限されていても、単純な力では正攻法で敵わない。長銃を押し退け、そしてエルマは食らいつく勢いでもう一撃を加えんと迫る。

――空間殺法

「なっ……!」

ㅤ瞬時に、刈り取るものはエルマの背後に回り込んでいた。同時に、エルマの身体に刻まれる裂傷。

ㅤドラゴンという種族は、次元が違う。己の強さに絶対の自信を持っているため、基本的に搦め手を用いないし、用いるまでもない。魔法の中でも比較的簡単な部類である『認識阻害』ですら、覚えること自体が軟弱と見なされかねない。そしてエルマも、さほど極端でなくともその例に漏れない。良くも悪くも純粋であるが故に、『スキル』に対しても真っ向勝負で挑む。

408Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:10:55 ID:clBd8qig0
「痛ったあぁ……!」

 人の基準だとどう見ても痛いで済む傷では無いのだが、エルマがドラゴンであることが幸いしたか。図らずもエルマの肉体は『タンク』として機能する。

「今だああっ!」

ㅤスキルを使った直後の隙を見出し、さやかが前線に立つ。裏付けるは、先ほどの応酬から来る経験則に由来する一撃入れられることへの確信。

「……!ㅤ何かが来る!」

ㅤその時、戦場を俯瞰していたカルマからかかる制止の声。しかし、すでに前進を始めていたさやかは止まれず。

「なっ……!」

――ブフダイン

ㅤ刈り取るものを取り囲むように、歪に尖った氷塊が降り注ぎ、さやかの身に突き刺さる。上方からの攻撃はソウルジェムに命中することはなかったが、右肩に受け、剣が持ち上がらずに刈り取るものには届かない。

「大丈夫?」

「むっ……すまん、助かった。」

ㅤカルメンのディアラマでエルマの治療を終えた杏はその超人地味た耐久力に驚きつつも、さやかの治療に向かう。しかしさやかは無用途ばかりに左手を突き出して制止し、自身の魔法で右肩を癒す。回復、と言うよりもむしろ再生に近いと杏は感じた。機能不全に陥るほどの傷を容易く治癒している。癒しを願いとしたさやかの魔法は、杏の扱う備え付けの回復スキルよりも効果が高い。

「さぁて、もいっちょやっちゃいますか。」

ㅤそして、何事もなく戦線に復帰するさやか。回復スキルの使い手として、自身より優れたモルガナを知っている杏はそれに何の疑問も抱かない。エルマも人間の魔法使いの存在は知っている。この催しに招かれているだけのことはあり、只人とは一味違う能力の持ち主だ。

 しかし、刈り取るものはそれ以上に生物の規格を外れている。現状は誰も欠けることはなく、そして再び死線は繰り広げられる。アクシデントひとつで如何様にも崩れ得る危険な戦いだ。即死級の攻撃の合間に小さな一撃を当て続けなくてはならない。

 その場では、この上なく戦いの緊張感が張り巡らされていた。

409Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:11:23 ID:clBd8qig0


 争いは嫌いだ。人と人が勝手に争って、おいしいものを作れる人間がどんどん死んでいく。

ㅤだから私は、それを禁じた。聖海の巫女として人の上に立って、人の枠組みの中で調和を保った。それが正しいと思っていたし、何より彼らが持ってくる料理がとてもおいしかった。

ㅤ杏から聞いた、『心の怪盗団』の話はとても興味深かった。かつての私のように信仰を糧に平和を生み出そうとするのではなく、悪をもって世を正すという発想。混沌勢のようなやり方で、調和を導くというものだ。仮にそれが叶うのならば、ドラゴンの勢力争いの構図すらも一変させかねない。

ㅤ信じたいと思った。権能ある者によって選定された人柱が世の理に抗おうと言うのだ。威信無しに世を変えること、それは私がやろうとも思わなかったことだから。

(戦う理由はそれでいい。だが、勝てるかと言われれば……。)

ㅤこの戦いの中でもエルマは唯一、刈り取るものの多彩なスキルと渡り合っていると言える。しかしそれ以上に、刈り取るものの基礎能力自体がエルマを上回っている。

 杏もさやかも、力が一歩及ばずながら拮抗する戦局を耐え抜いている。

「……やっべ。俺、やってることかなり地味じゃね?」

ㅤそんな中、人の常識を超えたこの戦闘に、カルマだけが取り残されていた。

 敵に殺せんせーのようなどうしようもない速さがあるわけではない。しかしトライアンドエラーで挑める殺せんせーとは異なり、ここでエラーをしようものなら次はないのだ。

(しかもアイツ、なーんか速くなってるし。)

ㅤ杏とエルマが乱入した辺りからか、或いは腕を斬り落とした時からか、刈り取るものの攻撃の頻度は目に見えて上がっている。しかも、その原因が分からないときたものだ。腕を落とせば殺せんせーの触手なら弱体化するものだが、人智を超えたこの化け物にも当てはまるかは不明。

 分からないというのは厄介なもので、今が最大であるのかも不明である。これ以上速くならないという保証すらどこにも無いのだ。

 仮に時間経過で成長していく怪物であるとするならば、手が付けられなくなる前に何としても今ここで倒しておかなくてはならない。仮説の正しさの検証すらできないままに、逃走という選択肢は失われている。

(んー、渚くんがいっつも殺せんせーの弱点メモとってたのも今なら分かる気がするなぁ。)

ㅤ思い出交じりの考察を遮るように、刈り取るものの銃口がカルマに向く。

410Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:12:48 ID:clBd8qig0
「おっと。」

ㅤ飛び退いて乱射を回避。いつも殺せんせーの速度を追っているカルマ。それより遅い銃弾など、これだけの距離ならばまだ避けられる。だが、距離を詰めれば避けるのは不可能であるし、先ほど受けた超能力のような攻撃も連発されたら相当マズイ。

(やっぱ俺は指揮を執る方が向いているか。)

ㅤ魔法少女であるさやかは現にブフダインを耐えている。杏は背中によく分からないものを使役して戦っているし、エルマもあの攻撃を受けて五体満足ならば大丈夫だろう。だが、自分はただの人間だ。ちょっとした攻撃を受けようものならよくて致命傷、最悪の場合は死ぬ。全員生存を前提とするのならば、離れた位置で”ナビ”でもしているのがいちばんだ。

「……ってのは分かってるんだけどね。」

 カルマのその手には、支給されたメリケンサック。カルマの力で人に振るえば、文字通り他者を殺しかねない紛うことなき凶器である。そして、銃弾の届かない遠距離では無用の長物にしかならない武器。装備し、そしてお互いの射程距離内へと向かっていく。

「さすがに女の子三人に丸投げして高みの見物決め込むわけにもいかないもんね。」

ㅤ普段の暗殺とは違い、ここは命賭けの戦場。さやかだけならまだしも、他二人は安全地帯から指揮を任されるだけの信頼を築いていない。皆が命を懸けて戦っている中、一人避難して口だけ出している奴を誰が信用できるものか。特に自分は渚と真逆、何かにつけて謀を警戒されやすいタイプだ。自分が背後に控えているだけでも杏とエルマが戦闘ばかりに集中できない可能性もある。役立たずであるならまだいい。いや、プライドの問題で決してよくはないのだが、それでも毒にも薬にもならないのなら及第点だ。だが、人死にのある戦場で足を引っ張るのだけは御免だ。

「まったく、何でそこで格好付けちゃうかなぁ……。そんで?ㅤ作戦って何よ。」

 杏とエルマの乱入でなあなあになってしまったが、何か作戦があるとカルマは言った。(言語を解するかは不明だが)刈り取るものに聞かれず口頭で伝わる距離まで近づいてきたことでその話題を掘り起こすさやか。

「ん? ああ、あれナシで。」

「……はぁ!?」

「隙を見てアイツの銃口に何かしら詰め物でも詰め込んだら腔発起こして自爆してくれると思ったんだけどね、腕ごと斬り落とせる馬鹿力見せられちゃあ、そっちを頼りにするよ。」

「まあ、それはそうかもしれないけど……」

ㅤどんな作戦でも実行してやると息巻いたさやかとしては、どことなく毒気を抜かれた気分だ。

 例えば、水場で殺せんせーを襲撃したイトナに対し水を以て対抗したように。例えば、殺し屋スモッグの所持していた毒ガスをくすねてグリップを撃破したように。カルマは使えるものなら敵のものだろうが構わず戦術に組み込んでいく。そこには自分のものを利用されて負けた相手の悔しがる顏を見たいという悪趣味な思考の癖も兼ねているのだが、この局面でそれを優先する道理はない。

 エルマの怪力は使える、それがカルマの導き出した答え。実際、銃口にぴったり詰まるサイズのものを探し出すのもひと手間であるし、それを詰める瞬間はゼロ距離で銃撃を受けるリスクもある。それらを鑑みて第二の刃に即座に切り替える決断力も、暗殺者の素質の一つ。

411Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:13:18 ID:clBd8qig0
 ただ、カルマが抱いた――否、むしろ「押し付けた」とも言えるエルマへの期待。それには一つだけ問題があった。

 現にその怪力を眼前で発揮しているのだから、妥当な期待ではある。しかし、そもそもが人間の常識を超越したドラゴンという存在。さらにエルマはその中でも異色だろう。したがってカルマは気づかない。カルマほどれほどの策士であっても、気づける理由がない。エルマの怪力を補助する、あるひとつの要因について。

(こんな時だというのに……お腹がすいて力が出ないとはっ!)

 エルマの燃費はすこぶる悪いということを。

ㅤ銃撃という具体的な危険性を振り撒く腕を何度も何度も狙ってはいるが、刈り取るもの自身の高い耐久性も相まって、なかなか二本目の切断までに至らない。幸いなのは、お腹をすかせてなお単体での戦力を最も有するエルマが腕を集中的に攻撃しているために銃撃が他三人に狙いを定めることが無いことだろうか。

 しかしそれすらも、刈り取るものの多種多様なスキルを前には無意味。

――マハフレイダイン

 人数差をも物ともせず、辺り一面で核熱の球が爆ぜる。エルマすら防御に回るその威力、カルマも杏も耐え難いほどの激痛に表情を歪ませ、その場に膝をつく。

ㅤ重い。複数人への攻撃であっても、決して威力が分散することなどなく、等しく重厚な一撃を刈り取るものは撃ち出している。

「こんな……ものっ……!」

 そんな中で唯一さやかだけが、その痛みを魔法で文字通り「無視」して突っ切る。両腕で剣を肩より高く持ち上げ、思いのままに振るう。

 あの時と同じ感覚だ。敵の攻撃が間違いなく自分を打ち据えても、一切痛覚には響かない。危険を通達するはずの痛みが訪れない。こんな戦い方はダメだと、自分を咎める親友の声は痛いほど耳に残っている。まどかに見せれば、きっと痛みを無くした自分なんかよりもよっぽど傷付くのだろう。

 でも、自暴自棄になって魔女と一緒に自分までもを壊してたあの時とは違う。まだ自分を人間として見てくれているヤツがいるんだって、少しだけかもしれないけれど、それでも安心できたから――だから、あたしはそれに報いたい。

「たあああああっ!」

 横一文字、交錯する両者の影。刈り取るものの身体に"critical"の一撃が刻まれる。さやかの魔力を乗せた斬撃。斬りつけた部分から血の代わりに黒いモヤが噴き出す。

「よしっ!」

 確かな手応えと共に振り返る。

「なっ!?」

 しかし、さやかの渾身の一撃をもってしても刈り取るものは倒れない。さやかの斬撃を脅威と認め、斬りつけた勢いで背後に回ったさやかへ向き直る。

412Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:14:04 ID:clBd8qig0
 刈り取るものの向いた方向から見てさやかを狙っているのは明白。しかしその場の誰も動けない。マハフレイダインを凌いだエルマも、即座に反撃に動けない程度のダメージを受けている。

ㅤ刈り取るものはスキルを発動する時の所作として銃を天に掲げる。一方のさやか、氷や核熱の次は雷か、それとも風か。来たる一撃に備え、剣を構える。

――超吸魔

ㅤしかし放たれたのは、目に見える現象として言い表せる類のものではなかった。何が起こったのかも分からぬまま、さやかの肉体にもソウルジェムにも一切の傷を残すことなく魔力のみを吸い取った。

 驚愕に目を見開きながらその場に崩れ落ちるさやか。元々、痛みを消すのに多くの魔力を用いていた。そこに追い討ちのごとく魔力を奪われ、大部分を失った。

「……ッ!!」

ㅤそれにより、魔法で遮断していた痛みが機能し始める。カルマと杏がその場に崩れ落ちたように、さやかもまた全身を駆け巡る熱さを前にしてどさりと倒れ込む。

ㅤさやかは死んでいない。それがこの場の幸いであり、同時に二次災害を引き起こし得る種でもある。さやかの倒れた場所は刈り取るものが狙わずとも、マハ系スキルの波状攻撃の巻き添えを受ける位置だ。そしてこの場の誰も、さやかを"見捨てる"という選択肢を持っていない。刈り取るものの撃破に先んじて倒れたさやかの"救助"が、最優先事項として立ちはだかる。

「ペル……ソ……ナァッ!!」

ㅤ真っ先に救助に駆け出すのは杏。回復スキルの制限されているこの世界で、この怪我はすぐに癒せるものでは無い。それでも、今のレベルで扱うには手に余るであろう『ディアラハン』を強引に編み出し、自身に施して駆け出す。誰かを救いたい、それこそが杏の戦いの根底にある反逆の意志。

「さあ、行くよカルメン!ㅤアギダインッ!」

ㅤ軽くなった身体で、先の一撃よりもいっそう強力な爆炎を繰り出す。命中した瞬間、炎は『火炎ブースタ』によってさらに激しく燃え上がり、刈り取るものの動きを大きく制限する。

「はあぁっ!」

ㅤ追撃とばかりに、鎖に守られている箇所の隙間から腹に斧を押し込むエルマ。

「このままっ……押し出すっ!!」

 斧という凶器を用いてなお、まるで相撲のような光景だった。勢いのままに、怪力を余すことなく発揮し、刈り取るものの巨体をぐんぐんと後退させていく。

 刈り取るものの背後にいたさやかよりも、さらに奥へ。マハフレイダインの傷を最も残していながらも走り出していたカルマは、旋回の必要すらなくさやかの下へ辿り着いた。

「大丈夫?」

ㅤ熟れた手つきでヒョイとさやかの身体を軽く抱え上げるカルマ。突き刺さる全身の痛みを感じさせない程度に飄々とした能面を貼り付けて、目指すのは動けないさやかの戦線離脱。無駄の無い挙動で戦場から離れ始めた。

「何が大丈夫、よ。カルマだって傷だらけじゃん……。」

「でも俺は強いから動けるよ。それに……」

「……それに……なに?」

「……んーん、何でも。」

ㅤこの場に中村でもいれば弄り倒されそうな光景だ。というか自分だったら否が応でも弄り倒す。

 そんなことを考えている時だった。

「っ!」

ㅤカルマの視界が突然に、ぐらりと揺れた。深い傷の中の運動に加え、たった今加えられたさやかの体重による負荷。ガタが来るのは思った以上に早かった。

ㅤそして、戦線離脱を前に見せたその隙は決して小さくない。

 限界を超えて捻り出されたアギ系最高峰の火力を誇る杏のアギダイン。腹を突き破る勢いで振るわれたエルマの斧。さやかの救助に用いられた攻撃手段は決して軽いものでは無い。

 しかし、それらをもってしても刈り取るものを停止させるには至らない。

413Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:14:39 ID:clBd8qig0
「カルマ、危ないっ!」

ㅤ抱えられたままのさやかの声。

ㅤ刈り取るものの銃口が、さやかを抱えたカルマへと向く。

 僅かに、静寂――そして次の瞬間には、冷たい銃声がその場の音を奪い去った。

ㅤ久々に、死の感覚を覚えた。殺せんせーを教師として"殺そう"としたあの時よりも、より濃厚な死の色が迫っていた。

 死神の名を冠する刈り取るもの、その称号は飾りではない。

ㅤしかし、どうしたことか。その死は未だ訪れない。

「――まったく、情けないですね。」

ㅤ射線上に割り込んだひとつの影が、両腕で銃弾を受け止めていた。その行動だけでなくシルエットすら、人の常識を優に超えている。ヘッドドレスを挟んで頭で主張するは、エルマより多い二本のツノ。身に付けたヴィクトリアンメイドのエプロンドレスからは巨大なしっぽがはみ出て揺れている。

「……ん、メイド?」

ㅤ殺し合いの場にそぐわぬ衣装にカルマは疑問を覚える。

「エルマ、貴方がついていながら何やってるんだか。」

「トール!」

ㅤエルマをはじめとした多くのドラゴンが、人間たちと交わって生活を始めた原因となるドラゴンが、硝煙の中より姿を現した。

 このような場面ではこの上なく心強い旧友の出現に、エルマは胸を躍らせる。他3人、その中でも特に杏はエルマから知り合いの話は概ね聞いていたため、エルマと実力が互角らしいトールの来訪には頼もしさを覚えるばかりだ。

「ここは私とエルマで引き受けます。あなた達は下がっていてください。」

「っ……! 大丈夫、まだやれるわ。」

 さやかは何とか戦う意思を表明する。それを冷めた目で見下しながら、トールは呟いた。

「本当は、あなた方下等生物がどうなろうと私は一向に構わないんですよ?」

「か、下等!?」

「お、おいトール……そんな言い方は……」

 杏はエルマと比べたトールの当たり方に驚愕を見せる。

「でも、小林さんなら見捨てるなと言うでしょうから。だから死なせない、ただそれだけです。分かったら早く失せてください。」

 善意とは、程遠い。もしもが起これば、トールはたった今助けようとしている者たちとて皆殺しにしてしまえる。

 そして――だからこそ、エルマ以外を突き放す。決して誰かと絆を深めようとはしない。頭の中の小林さんの『助けろ』という声のみに付き従って、その場の者たちを『生かす』ことのみ実行に移す。小林さん以外の人間に、助ける価値なんて見出さないから。

「……。」

 黙って助けられろと言わんばかりのトールの主張に、さやかは言い返せない。言い返せるだけの言葉も無ければ、実力も備えていないから。

「行こう。」

「っ……!ㅤでも……!」

 同行者のカルマも危険に無闇に飛び込むのは好まないタチだ。実力があり、戦う気概もある者がすると言っているのだ。それを改めて止める気は起こらない。

「杏は二人を連れて行って回復してやってくれ。トールなら大丈夫だ。」

「……分かった。気を付けて、エルマ。」

 カルマとさやかの二人は、杏とエルマが到着する前から刈り取るものと戦っていた。ドラゴンとの種族差とかペルソナとか、そういった要因抜きに消耗が激しいのは自明の理。回復が必要なのも当然だ。さやかの治癒魔法の回復力は杏も観測したが、超吸魔を受けたさやかにどこまで治癒が使えるかはわからない。敵は刈り取るものだけではないし、まだ戦える杏もそれに同行するだけの道理はある。

 こうして、二人のドラゴンを残し、三人は死神の暴れる戦場から離脱する。その胸に抱くは、最後まで戦いに携われなかったことへの不甲斐なさであり、残した二人のドラゴンの心配であり、そして撤退という手段を用いてでも必ず誰も死なせないという、殺し合いへの反逆の意志でもあった。

 逆に言えば――それだけだった。この状況で抱くべき懸念が存在することを、この場の誰も知らない。誰も、知りえない。

ㅤ魔力の大部分を無くしたさやかのソウルジェムが、僅かに見せつつある陰りを。そして、濁りきったソウルジェムが生み出す、魔法少女の末路を――

414Rhapsody in Blue(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:15:12 ID:clBd8qig0


ㅤトールが加勢に来てから、戦局は大きく変わった。

ㅤ範囲攻撃を多く扱う刈り取るものを相手に、人数を揃えることは必ずしも有利に繋がらない。刈り取るものの攻撃に耐えながら、その上で攻撃を続けられる者のみが、刈り取るものと同じ舞台に立つ資格を持つ。

 トールとエルマはその点において何ら問題は無い。ドラゴンという、人を超越した存在。多彩な属性を纏うあらゆる攻撃を真っ向から迎え撃てるだけの実力を備えている。

「お前と共闘することになるとはな。」

「足だけは引っ張らないでくださいね。」

「ああ!ㅤもちろんだとも!」

 刈り取るものという強敵を前にしてもエルマはどこか上機嫌だ。トールが、小林さんを守るためなりふり構わず殺し合いに乗っている可能性を、僅かながらも危惧していたから。こうして再会し、その仮説が否定されたことが喜ばしくて仕方がなかった。

「……くるぞっ!」

 再会を喜ぶ暇も与えず、刈り取るものは銃撃で二人に狙いを定める。

「させるかっ!」

 素手であるトールの前に躍り出たエルマが斧で銃弾を弾く。その隣を突っ切り、素手ならではの素早さで刈り取るものの身体を抉り出しに走るトール。

――ジオダイン

 本気を出した刈り取るものの第二撃の速度は、ドラゴンすらも凌駕する。直進するトールに向けて放たれた電撃の一閃。

「遅い。」

 右に身体を逸らして回避する。目の前には、刈り取るものの巨体。勢いのままに、ドロップキックを決める。ドラゴンの剛力にスピードまで加えた一撃。只人ならば即座に命を散らすほどの衝撃が、刈り取るものを襲う。しかし、ロクに効いている手ごたえを感じない。刈り取るものは微風を受けたかの如く動じずそこに佇んでいる。

(なるほど、エルマが苦戦するだけのことはある。)

 武器を持ったエルマが倒し切れていない敵ならば、優先すべきは威力よりも手数か。迎撃のフレイダインを回避しつつ、鉄よりも硬い爪を尖らせた両腕でラッシュを叩き込む。

「退け、トール!」

 後方から、斧を振りかぶったエルマの追撃が迫る。攻撃の手を止め、退避するトール。

「食べろおおおっ!」

 それを言うなら『くらえ』だ。心の中でツッコミを入れるトールをよそ目に、重い斬撃が刈り取るものを縦に断つ。鎖の音を撒き散らしながら銃を振り回し、刈り取るものはもがき苦しみ始める。

 どれだけ重い攻撃も、刈り取るものは回避するそぶりすら見せない。まるで鎖につながれた人柱のように、迫るものすべてを受け入れる。攻撃を受け入れてなおそれを真っ向から耐え抜く規格外の生命力。それが、刈り取るものの真骨頂。そんな刈り取るものが今、単眼をギョロリと二人に向けている。

 それはまさに、死神の本領。この上なくビリビリと伝わってくる殺意の発露。

「どうやら怒らせてしまったようですね。」

「それなら私も怒っているぞ。殺し合いなんかさせられて、ろくに飯が食えていない。」

「……相変わらずですね。まあ私も、小林さんを巻き込んだことについては逆鱗ベタ触れ案件なのですが。」

 死地に見合わぬ軽口。それは本来、ドラゴンが強者であるが故に生まれる余裕だ。しかし今や、それは次第に虚勢でもあった。ドラゴンから見ても、明らかな脅威だ。滅ぼし方が、思いつかない。渾身の一撃を何度も炸裂させてなお、刈り取るものは依然として立ち塞がり続ける。相手の攻撃も、いつまでも凌いでいられるほど温くはない。

 敵の強さを改めて実感する。長期戦が必須でありながら、相手の攻撃はこちらの命をお構いなしに狙ってくる。まるでいつか戦ったエヘカトル(ルコア)のように、基礎ステータスの格が違うのだ。それでいて傍観勢からは程遠いスタンスなのだから厄介なことこの上ない。

(私たちはまだいい。ただ、こんなのが小林さんの前に現れようものなら……!)

 トールの表情がそっと陰りを見せる。

 刈り取るものほどの生物が、他に居ないとも限らない。否、先ほど去っていった3人とて、小林さんを殺そうと思えば容易く殺せるだけの実力はある。それと出会ってしまった大切な人の末路を、苦しいほど想像してしまった。

 絶対に避けたい未来――それならば、どうする?

 決まってる。危険を排除するために、大切な人を守るために、誰もかも殺せ。破壊してしまえ。混沌の囁きが、トールの心を掻き乱す。

 間もなくしてトールは何かを振り払うように、ぶんぶんと首を横に振った。

415 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/26(月) 19:16:10 ID:clBd8qig0
前編投下完了です。
後編はまた日を改めて投げようと思います。

416 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:31:36 ID:iXFr6OyQ0
後編投下します。

417Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:33:08 ID:iXFr6OyQ0
 トールとエルマ――かつては犬猿の仲と呼ぶにふさわしい間柄であった二人。同じ戦場で共闘する経験など一度もありはせず、連携自体が即席のものだ。そもそも、混沌勢と調和勢で立場が真逆である以上共通の敵というのも滅多に現れるものではないし、ドラゴンという個人志向の強い生き物であることも共闘に向いていない。

 その上で、二人はこの上ない連携を見せていた。実力が互角であると謳える程度には、互いの実力を理解し、戦いの一挙一動の癖は分かっている。それに合わせる程度、ドラゴンの超越的戦闘センスをもってすれば容易い。

ㅤ大振りの業物を扱うエルマの攻撃の隙を、身軽なトールが手数でカバーする。トールが小技で圧倒している間に、エルマが大きな一撃を入れる。互いが互いの弱点を補い合って――まるで、分業をどこまでも突き詰めた人間社会のよう。死神の名に恥じぬだけの威力を誇る迫り来る炎を、氷を、雷を、風刃を、二人は優に凌いでいく。

 その絶技に、名前などない。己の技に名を授けるは、人の生の儚さに由来する。己の亡き後にも、己が付けた名の技を遺すことで己が生を証明するためだ。永き時を生きるドラゴンにはその必要がない。歴史とともに、ドラゴンの名とその功績は永劫刻まれる。

 彼女らは、ドラゴン。時に恵みをもたらす神として。時に破滅をもたらす災禍として。様々な形で祀られ、畏れられてきた存在。

――火炎ガードキル

ㅤ双竜を前に攻めあぐねたか、刈り取るものは二人の守りを崩す方針に切り替える。掲げた銃口より辺りに満ちた光が、トールとエルマを包み込む。

「っ……! 何かされたようだが……。」

ㅤ光に照射されるや否や、熱を通さぬ龍の鱗に赤く、鋭く走った亀裂。その現象に一瞬驚くも、そこに一切の痛みは伴わない。

 一体何をくらったのか、その正体の模索が完了する前に、その箇所を目掛けて刈り取るものは虚ろな眼光を向ける。

――マハラギダイン

 次の瞬間には、耐火の性質を備えたトールとエルマの鱗が燃え上がる。鱗を貫通し、素肌を焼かれたかの如き火傷は、凡そ両者が一度も受けたことのない類の傷だ。熱い、痛いを通り越して痛覚が機能を忘れるほどの火傷。それに伴っておのずと湧き上がるは、未知の感覚に対する恐怖。たとえドラゴンであれど、生物としての本能には抗えない。

「熱ッ……何ですかこの威力は……!」

「さっきのは火をよく通す魔法か……それがあれば焼き肉がもっと早く食べられるかもしれないな。」

「こんな時にまで食欲ですか……。」

 相変わらずですね、と鼻で笑いつつ、目の前の死神に対しても嘲笑を投げかける。

418Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:34:00 ID:iXFr6OyQ0
 刈り取るもの、それは集合的無意識<メメントス>の奥底にこびりついた人の心の畏怖の現れ。存在そのものが、眠れる恐怖心を引き起こす絶対者だ。

 しかしトールもエルマも、恐怖にただ沈むことはない。混沌と調和、二つの勢力というドラゴンの大きな枠組みにも組み入れられることなく、己の意志を貫いてきた二人のドラゴン。例え相手が集合的無意識に語り掛ける恐怖の存在であれど、その感情に迎合されるほど単純ではない。

 そして、何よりも心の底から湧き上がる想いがある。かつて敵対し、そして和解した腐れ縁とも言うべきライバルとの共闘。仲直りしてもやはり憎たらしいような、それでいてどこかこそばゆいような、つかず離れずの距離感だった旧友と、今やこうして背中を預け戦っている。

 その事実が、トールとエルマの中に少なからず高揚感を与える。恐怖よりも強く突き動かす感情が二人の中にはあった。

「それにしても、まったく舐められたものですね。」

「ああ、ドラゴンを前に炎をひけらかすとはな。」

 火炎を司るは、ドラゴンの矜持にして不可侵領域。

 刈り取るものは、そこに土足で踏み込んだ。それも一度のみならず、二度。火炎ガードキルが継続しているトールとエルマに、再びマハラギダインが迫る。

 それを前に、ニィと笑う二人のドラゴン。

ㅤ刈り取るものの放った業炎を包み込むように、二人の吐いた火球がマハラギダインを真っ向から潰す。ドラゴンの伝承に火山の存在が切っても切り離せないのと同様、炎を操ることにおいてドラゴンが引けを取ることは有り得ない。ましてや、この場にいるドラゴンは一体ではない。最大級の火力の炎が二体分。大気ごと爆ぜるような大爆発が、その場を包み込んだ。

(まだ生きていますか。)

 その中心部にいた刈り取るものは、予期せぬ反撃に引き下がる暇もなく爆発の餌食となる。煙霧の立ち込める戦場の中の刈り取るものにトドメを刺すため、トールは走り出す。小林さんの捜索という第一目標が達成されていない現状、刈り取るものを相手に時間を食うのも憚られる。

「待てっ!ㅤトール!」

「!?」

ㅤその時エルマが側面から飛び込んで、トールを押し出す。何をする――トールがそう口に出す前に、一瞬前までトールがいた空間に銃弾が走る。そこにいたのは、トールを突き飛ばしたエルマ。弾丸が、彼女の胴体を貫いた。

――ワンショットキル

ㅤ安易な魔法攻撃が通用しないと分かった刈り取るものが行うは、煙で隠した死の銃撃。ドラゴンの、ドラゴンであるが故の慢心。エルマよりも遅れて戦闘に参加したトールはそれが抜け切っていなかった。数万年に及ぶ、長きを通り越して永きと言い表せるだけの生きてきた時間の積み重ねは、易々と変われない。そして――人の心に住まう刈り取るものは、そういった心の隙を見逃さない。

「……何やってんですか、エルマ。」

 胸を撃ち抜かれ、しかし心臓への直撃を免れたエルマは死んではいない。だが、刈り取るものの強力なスキルの連打も、銃撃も、対処しながら戦えるほど傷が浅くもない。この戦線で戦い抜きながら生き延びるだけの力を、エルマは失った。

 トールとエルマの実力は互角。戦力確保の観点からは、庇う必要なんてなかった。

 その上で、エルマは言う。

「生きて帰ってくれ、トール。あの日々が……大切、なんだろう?」

 その言葉に少しだけ口ごもり、寂しそうな顔を見せたエルマ。

 エルマにとっても、人間たちと共存するあの世界は大切だ。儚いながらも尊いものであると知っている。だけど、その気持ちはトールが抱いているそれほどではない。小林さんへの執着はトールよりも明らかに劣っているだろうし、他に特別な人間がいるわけでもない。かけがえの無い友人が共にいるのであれば、何なら元の世界に戻ったっていいくらいだ。

ㅤ私が守りたいのはあの世界じゃないんだ――そんな気持ちがどこか心の奥底に潜んでいる自覚があった。だからこそ、誰かが傷つくのならば、トールより私が率先すべきではないか?

 何とも自暴自棄な理屈だ。それは分かっている。だが、身体が動いてしまったものは仕方がない。

「そうですね。確かにあの日々は私にとってとても大切なものです。だから私は、あの日常を守りたい。」

 その気持ちを、僅かに察するトール。ああ、そういえばここは、本来一人しか生き残れない世界だったな、と今さらながら思い出した。

 他でもないトール自身、小林さんを優勝させると謳っていたのだ。それの意味するところはつまるところ、小林さん以外の皆殺しだ。当然、そこには自分もエルマも含まれている。ならば目の前でエルマが深い傷を負っている現状は、甘んじてどころか、喜んで受け入れるべき事象である。エルマという最大級の敵が消え、これで一歩、小林さんの優勝に近づくのだ。

419Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:34:51 ID:iXFr6OyQ0
「……でも、そこにあなたも含めての守りたい日常なんですよ。」

 エルマの想いに報いるかのごとく、トールは少しだけ素直な言葉を吐いた。初めて聞いたトールの本音に、エルマは目を丸くする。

「帰ってくれじゃなくて、一緒に帰ろう、とでも言ってくださいよ。」

 小林さんを優勝させるのが、最も手っ取り早い自分の願いの成就の手段だ。だけど、それは小林さんの願いじゃない。自分を庇って戦闘不能に陥ったエルマをどこか咎めたい今の自分の存在が、まさにその証明だった。

「一緒に帰りましょう、エルマ。この殺し合いを、ブチ壊した後で。」

 トールの目から陰りが消えて生気が宿る。その見据える先に存在する死神に向けて、咆哮を上げながら飛び込んでいく。

 殺し合いに乗るか脱出を図るか、愛と倫理の狭間で揺れていたトールのバトル・ロワイアルは、今ここに始まりを告げた。



 住宅街エリアを構成する建物の一室。刈り取るものとの戦いから離脱した三人は、それぞれの治療にあたっていた。

「ありがと、もう大丈夫。自分で動けるわ。」

 特にダメージの大きかったさやかも、杏が回復スキルを重ねることで何とか自立できるまで回復した。

 元々タフなカルマも、元より回復スキルをかけていた杏も、さやかより早く回復している。

 しかし肉体はともかく、精神に受けたダメージも少なからずある。容貌自体が生理的嫌悪感を促す刈り取るものの、更に圧倒的な能力を目の当たりにした三人。その心には、死という概念への恐怖が深く根付いている。

「じゃあ私、戻るね。」

 その上でそう言った杏を、カルマは意外そうな顔で見つめる。

「トールって人は下がってろって言ってたけど?」

「別にトールの方の言うことを聞く筋合いもないし。エルマに任された私の役目はアンタたちの回復。それはひとまず済んだでしょ。」

 杏は、正直に言えばトールに良い印象は抱いていない。エルマと同じドラゴンである点から実力に信頼が置けるのは確かであろうが、初対面で下等生物と言い放たれたことへの悪印象はぬぐい切れてはいない。実際のところトールの言葉は三人を遠ざけるための優しさでもあったのだが、コミュニケーションによる相互理解の工程を経ていないがために、改心させてきた大きな権力をひけらかす悪人たちとの差が埋められていない。

420Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:35:26 ID:iXFr6OyQ0
「じゃああたしも戻るわ。人数は多いに越したことはないし……」

「悪いけど……アンタたちは連れていけない。」

 杏はキッパリと言い放った。その強い物言いに、ムッとしながらさやかは理由を問う。

「今度こそ死ぬって言ってんの。」

 カルマは身のこなしこそジョーカーにも劣らぬ卓越っぷりであるがペルソナを持っていない。さやかも、超吸魔で魔力を吸われた以上は戦えないはず。

 トールやエルマと比べて戦力不足であることは、客観的に見て事実であった。

「んー、俺も正論だと思うよ。」

 カルマも、杏の発言に続く。

「最初にヤツと遭遇した俺等は充分戦ってるし、ここで離脱したって誰にも責められない。命を無駄にする方が良くないと思うけどな。」

「……それでも。やっぱりあたし、見捨てたくは……」

 しかしさやかの悔しそうな表情は、到底納得しているようではなかった。

「ゴメン、ちょっと酷い言い方しちゃったね。」

 そんなさやかに、杏は語り始める。

「本当は、違う。アンタたちを助けたいのは、全部、私のためなんだ。」

 唐突にしおらしくなった杏を前に、さやかは反論の口を止める。

「私ね、大切な友達がいた。でも、もう取り戻せない大切なものを奪われて……助けられなかった。私が今戦っているのは、その子――志帆のような子を出さないため。アンタたちを死なせてしまったら……きっと私、その時のように後悔する。」

 今の杏を形成しているのは、あの日屋上から飛び降りた志帆に報いるためだ。志帆が鴨志田からされていたことに気づけなかった事実は、どう足掻いても消えない。

 だから、これから先、彼女のような犠牲者を出さないこと。それだけが、贖罪の手段だ。

「だから、助けさせてよ。」

 断じて、志帆のためではなく。断じて、カルマとさやかのためでもなく。これは、自分のための戦い。

 あの日の痛みに、志帆の苦しみに、何かしらの意味を見出そうとするある種の逃避。

「……そっか。」

 杏の告解に、さやかは複雑そうに俯いた。

421Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:36:30 ID:iXFr6OyQ0
 友達を助けられなかった後悔。契約に迷っていたせいでマミさんを失った自分と、どことなく重なった。マミさんみたいに、皆を助ける魔法少女になろうと、後悔が呪いのように己を律することは、共感できる。

――だけど、仁美を助けたことを後悔してしまった自分と、真逆のようにも思えた。自分の卑しさを再認識させられたようで――眩しくて、仕方がなかった。

「ゴメン、それでも――あたしも譲れないんだ。」

 俯いたままに――さやかは残存する魔力を放出する。不意に発せられたそれは、瞬時にカルマと杏を昏倒させるだけのショックを与える。

 ドサリ、と二人が膝を付く音をよそ目にさやかは振り返る。見据える先は、刈り取るものの戦場。

「二人の言うこと、正しいと思う。でもあたしは、誰かを見捨てるような魔法少女にはならないって決めたの。」

 長い間気絶させるほどの威力は出していない。ずっと放置するのは刈り取るもの関係なしに危険であるし、それほどの魔力も残っていない。だから、急いで向かわないと――

「――待ってよ。」

 背後から、さやかを呼ぶ声。振り返れば、昏倒させたはずのカルマは立ち上がっていた。口元から血を滴らせながら、滑らかな動きでさやかの前に立ち塞がる。

「さやかはさ、死ぬ気なの?」

 どうやら舌を噛んで、その痛みで強引に意識を保ったらしい。そういう処置もできないよう、不意に一瞬で意識を奪ったつもりだったが、或いは予見されていたか。カルマの、初めて会った時から何でも見透かしている様子ならば、納得もできる。

 何にせよ意識と肉体が結合していないあたしにはできない芸当ね、と内心で少し毒づいた。

「そうね、死ぬのも厭わないわ。」

「姫神を倒すって言ったのは? まさか、諦めたなんて言わないよね?」

「別に、自殺しにいくわけじゃないわ。ただ、誰かを見捨ててでも生き延びようとはしたくないだけよ。そんなことしたら、あたしは本当に自分っていうのに絶望しちゃう。多分その時が、あたしが身も心もゾンビってやつになるときなんだと思う。」

 さやかの言葉の意味するところはあくまで比喩だ。とはいえ両人のあずかり知らぬ実態として、魔力を失ってソウルジェムに穢れが溜まっている現状、大きな負の感情を抱くことは文字通りさやかの肉体を別のものに変える結果をもたらし得るだろう。

「だから止めないで。」

「止めないよ。」

「だからさあっ! って……えっ……?」

 カルマの口から、予想だにせぬ言葉が飛んできた。舌を噛んでまで強引に立ち塞がっている以上、自分を止めようとしているのだと思っていたのに。

「死んでも貫きたい矜持があるんでしょ? それを死んでほしくないから止めるって言うんじゃ、殺せんせーを殺すかどうかで喧嘩してる渚くんにも、殺せんせーを殺すと決めた自分にも筋が通らないし。」

 それに、カルマも知っている。他者に心から失望したとき、自分にとってそいつは死んだのと同然なのだと。仮にその対象が、他者ではなく自分だったとしたら――その先は、想像に難くない。一学期の期末試験、似た感覚は味わっている。

「……やけに物分かりがいいのね。あんた、もうちょっとひねくれものだと思ってたわ。」

 止めないのなら、カルマが何故自分の前に立ち塞がったのかは謎でしかない。しかしそこを追究する意味こそさやかにはないため、やれやれと言わんばかりにカルマを押しのけて行こうとする。

 そして両者がすれ違うその瞬間に、再びカルマは口を開いた。

「そんじゃあさ――俺も俺の信念に従って行きたい! ……って言っても止められないよね?」

――前言撤回。カルマは、誰よりもひねくれものだ。

 一度相手の主張を認めることで、同じ理屈に対する反論を許さない。A組野球部とのエキシビジョンマッチの時にも使った手である。

 何が渚くんにも自分にも筋が通らない、だ。綺麗ごと押し並べて、結局あたしを一人で行かせないという主張<わがまま>を通すための譲歩的要請法<ドア・イン・ザ・フェイス>じゃないか。

「……はぁ、もう、分かったわよ。」

 してやられたなあ、と頭を抱えるさやか。最初の魔力をぶつけた段階で一人で戦いに出向くつもりだったが、これ以上口論していると気絶している杏も目を覚ましかねない。

422Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:37:07 ID:iXFr6OyQ0



「――でも、ごめんね。」


――ドスッ……


「――なっ……」

 だから――強行突破しかなかった。カルマの胴に、さやかの持つ剣でのみね打ちが炸裂した。

「っ……! 待っ……!」

 ここにきての更なる不意打ちを、警戒していなかったではない。しかしカルマには、気絶寸前まで陥った麻痺の影響が残っていた。加えて、魔法少女と化したさやかの身体能力。

 成すすべなく、追撃に今度こそ意識を沈めていく。

「それでもあたしは、あんたには……カルマには、生きててほしいんだ。こんな姿になったあたしを人間だって言ってくれたこと、すごく嬉しかったから。」

 ……それに。本心では戦いに戻るべきじゃないって思っているはずなのに。戦場に戻るのは死ぬリスクが高いって分かってるはずなのに。あたしを一人にさせない、ただそのために一緒に行こうとしてくれたことも、嬉しかった。

(でもその優しさ……今の私には辛すぎるんだ。)

 こんな私を、人間だと言ってくれる人がいる。

 こんな私と、一緒に居たいと思ってくれる人がいる。

 どうしても、期待してしまう。もし元の世界に戻れたとして、恭介も同じようにあたしを受け入れてくれるんじゃないか……って。

 落差があった方が、落ちた時は痛いんだ。もし、その願いが成就しなかったとしたら。その祈りが、届かなかったとしたら。僅かにでも希望を抱いた分だけ、きっと絶望も深くなる。

「だからあたし……死ぬなら人間である内に死にたい。」

 さやかは、振り返ることなく走り出した。

 杏を気絶させるのに魔力を浪費したこと。カルマの望むことに背いたこと。様々な要因が、さらにソウルジェムを濁らせていく。彼女を、少しずつ”人間”から遠ざけていく。

【E-6/住宅街エリア 民家/一日目 早朝】

【赤羽業@暗殺教室】
[状態]:ダメージ(中) 気絶
[装備]:マッハパンチ@ペルソナ5
[道具]:不明支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:元の日常に帰って殺せんせーを殺す
1.美樹さやかを刈り取るものから保護する。
2.まずは霊とか相談所へ向かい首輪の解除方法を探す
3.渚くんを見つけたら一発入れとかないと気が済まないかな

※サバイバルゲーム開始直後からの参戦です。
※呼び名が美樹さん→さやかに変わりました。

【高巻杏@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(中) 気絶
[装備]:マシンガン※対先生BB弾@暗殺教室
[道具]:基本支給品(食料小) 不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を改心させる
一.刈り取るものを斃す
二.島にあるであろうパレスの主のオタカラを探し出す
三.食料確保も含め、純喫茶ルブランに向かう
四.怪盗団のメンバーと合流ができたらしたい
※エルマとのコープが3になりました。
※参戦時期は竜司と同じ9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。
※姫神がここをパレスと呼んだことから、オタカラがあるのではと考えています。

【支給品紹介】
【マッハパンチ@ペルソナ5】
カルマに支給されたナックル。速+3の効果がある。

423Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:37:42 ID:iXFr6OyQ0




 自分に立ち向かうあの時のイルルは、きっとこんな気持ちだったのだろう。戦いに身を投じるだけの決意があって、それでも決意の大きさは力と比例しない。それだけで敵は倒せない。守りたいものは、守れない。

 エルマが脱落したことは、確実に戦局を動かしていた。こちらの攻撃力は半減、それに対し敵の攻撃はシンプルに倍だ。本来、頭数を揃えて戦っても激戦かつ長期戦が必須の刈り取るもの相手に、単身で挑んでいるのだ。文字通り絶え間ない弾幕、そのすべてがトールの命を刈り取らんと狙っている。弾き飛ばしていた竜の爪は次第にボロボロになっていく。同時に、人間の身体への負荷も決して小さくない。認知の世界の制限によって肉体という名の殻に押し込まれた竜の魂が、全力を出せずにもどかしいと叫んでいる。

(落ち着け、私。)

 自分が勝負を急いだせいで、エルマに庇われる事態に陥ったのだ。動悸を抑え、腰を落として構える。冷静に、刈り取るものの一挙手一投足を観察する。

――空間殺法

 刈り取るものが放つは、エルマを翻弄した瞬間の絶技。網状の亀裂が空間に形成される。交錯の瞬間、その線に沿って斬撃が走る。

「見切ったっ!」

 嚙み合った腕と銃が、ピシリと音を立てて衝突し合う。ドラゴンの本能を理性で鎮めた故の、刹那の防御、そして拮抗。

 そこから先は竜の剛力に任せた力業だ。刈り取るものの叡智の結晶たるスキルを、強引に押し返す。

 そして、前進。一歩ごとに大地が揺らぎ、風が震える。だが渾身の一撃にはそれでも足りぬ。大きな攻撃を担当するエルマがいない今、ちまちま攻めていても埒が明かない。全身全霊、力を込めて一気に殴り抜く!

 方針を決め、どの歩みよりも力強く踏み込む。伴った震脚で振動が一面に響き渡る。

 勢いのまま、金剛石の如き硬度の爪が振るわれる。刈り取るものの身体に巻き付いた鎖とぶつかり合い、金属音をかき鳴らした。

 手ごたえとしては、充分に効いている。それでも、体力の量そのものが桁違いと言うべきか。刈り取るものはどんな属性の攻撃にも、相性というものはありはしない。あらゆる攻撃がそのまま通用する上で、それを真っ向から潰すのが刈り取るものの真骨頂だ。

――ハマオン

 瞬時に対象の命を奪う光の結界が、トールの周囲に形成される。それは混沌を生業とするトールには、いっそう大きな効果を発揮する。

「まずい……!」

 攻撃に踏み込んだ手前、即座に回避に移れない。強引に、力任せにそのまま突っ切ろうとしたその時、トールの周囲にもう一つ、光の結界が張り巡らされ、ハマオンと衝突し相殺する。

(これは……エルマの張った結界ですね。助かりました。)

 真っ当にタイマンを挑めば、勝てない。おそらくは、この会場にいる誰も。刈り取るものを単騎撃破できる者など居ない。

 だが、トールは一人ではない。ドラゴンという単体で完結する生物でありながら、しかし今は仲間がいる。殺し合いに乗らないと決めたからこそ、誰かと協力することができる。

 刈り取るものを、真っ赤に燃え上がるブレスが襲う。巻き付いた鉄鎖を媒介し、刈り取るものの全身に熱が伝道していく。

424Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:38:13 ID:iXFr6OyQ0
(動きが鈍った……今ッ!)

――氷結ガードキル

 トールの全身に青く刻まれた刻印。先ほど受けたのと同じ、属性耐性を消滅させる類の術式か。ならば現状、問題は無い。

(スキルを受ける前に、殴り、抜くっ!)

――ズンッ……

 深々と突き刺さった鋭爪。刈り取るものはゆっくりとダウンをとる。ここにきて初めて見せた刈り取るものの大きな隙。それを見逃すトールではない。追撃の乱打が顔面を襲う。

「これでっ……!」

 刈り取るものが起き上がると同時に一歩引き下がり、同時に、震脚。

 大きく踏み込んだ一撃が迫る。

――タァンッ!

 しかし、敵の反応は一瞬早く、銃撃が踏み込んだ脚を撃ち抜いた。

「ぐっ……!」

 重量を支える支柱を失い、バランスを崩すトール。即座に立ち直るが、その一瞬の隙に迫るはガードキルを付与したところに形成された氷塊<ブフダイン>。回避の択を失ったトールは、持ち前の爪で受け止める。威力の大部分を殺すも、その代償に、ピシリと音を立てて凍り付く爪。凍結で脆くなったところにさらに衝撃を与えれば、容易に砕けるであろうことは見える。

(こうなってしまえばもう攻撃には使えない……) 

 それならば、攻撃の要となる武器は爪を用いない徒手空拳だ。しかし並の生物を遥かに凌駕する拳も、刈り取るものを前にしては心細い。こうなればエルマの使っていた武器を貸借するか――

「受け取れっ! トール!」

 まるで以心伝心。紡いできた絆が、要請よりも早くエルマを動かした。振り返ると、此方に向けて弧を描きながら投擲された斧が迫ってくる。

――パシッ。

 一切の危うげなくそれを受け取るトール。実力が同じ二人だ。普段から武器を用いているかどうかの差はあれ、エルマに扱えてトールに使えぬ道理はない。道具の扱いに慣れておらずとも、攻撃力の確保には、申し分ない。

 エルマの助けによって持ちこたえた命。エルマから受け取った斧のバトン。情けなくて腹立たしいほどに、奴のお膳立てを受けすぎている。だけど、悪い気はしない。強大な敵を討つため手を取り合って立ち向かう――それはどこか、ドラゴンに挑む人間のようで。ドラゴンのしがらみごと、何かを破壊してくれる気がした。

 脚を怪我して踏み出せないトールは翼を広げ、羽ばたく。瞬く間に刈り取るものの上をとったトールは、そのまま上空から接近。

「ぐおおおおおおおおおおっ!!」

 咆哮と共に、重力に身を任せ斧を振りかぶる。

425Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:38:48 ID:iXFr6OyQ0
 その気迫を前に、刈り取るものの思考回路は安易なスキルでの相殺はできないと判断する。

 繰り出すは、刈り取るもの最強のスキル。

――メギドラオン

 ドラゴンの意地と、死神の本領。両者は、破壊力を宿してぶつかり合う。

 ドラゴンのもたらす混沌が、死神の展開する幻想が、辺り一面を灰色に塗りつぶすように侵食していく。空白の中に、吞み込まれていく。

「おい……トール……?」

 破壊の中へと消えていったトールに、エルマは声を振り絞って語り掛ける。

 そして煙幕は、次第に晴れる。二つの強大な力の着弾点となった箇所から出でたのは――

「っ……!」

――至高の魔弾

 死神の銃口の先――エルマに狙いを定め、そして、放たれる。

 トールと刈り取るものが激突し、立っているのが刈り取るもの。その意味が汲み取れないエルマではない。理解してなお、しかしそれが認められない。トールが負けたなど、断じて信じない。神々の軍勢に単身突っ込んでもなお生きて帰ったトールが。真っ向勝負で敗北したなど、決して――

 目の前に迫る弾丸よりも、その事実の方がエルマにとっては大きかった。



「なっ……!」

 さやかが駆けつけた時、エルマは目の前に迫る死を受け入れていたように見えた。実際は、それ以上の驚愕を前に呆然としていたに過ぎないのだが、さやかはその姿をいつかの自分と重ねてしまった。魔法少女の真実を受け入れられず、ただ正義の名の下に殺してくれる魔女を探していた、かつての自分と。

「せああああああっ!!!」

 小細工をかける魔力も残っていない。さやかはただ、刈り取るものに愚直に突っ込んでいく。

 この惨状を見るに、トールとエルマは負けているのだ。それならば、二人が回復できる時間を稼ぐため。二人と、そして遅れて来るであろうカルマと杏にバトンを繋ぐため。少しでもこの場から距離を離し、少しでもダメージを与える。

「なっ……何故戻ってきた! 杏殿は一体……!」

 さやかの身を任せたはずの杏。百歩譲ってさやかと一緒に戻ってくるならばまだ理解できよう。しかし、さやかだけが戻ってくるとはどういう了見か。

 トールの最後の攻撃で受けた傷も残っている刈り取るもの。その気迫を押し返せない。後退し、勢いを殺しつつ受けようとするが、なお突き進むさやかの進軍を止められない。

(とにかく……私も……加勢、に……!)

 このままだとさやかが死ぬ。そう直感するも、エルマの身体はろくに動かない。刈り取るものを引き下がらせているさやかとの距離が離れていくこともあり、結界を形成するにも届かない。

 これから杏も戻ってくるのか? この状態を回復できるとすればそれが頼りか。

 そう思い、ひとまず何とか起き上がろうとしたエルマが砂煙の先に見たのは――トールが倒れている姿であった。ドラゴンの力強さも感じさせず、まるで人間のように、弱々しくその場に崩れ落ちていた。

「くっ……トール…!」

 無い力を振り絞って這って、何とかトールの下に辿り着く。

 杏のように回復スキルが使えるエルマではないが、とりあえず、大丈夫か――そう声を掛けようと、その身体に触れた。

426Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:39:21 ID:iXFr6OyQ0
「――嘘、だ。」

 信じられない、受け入れがたい真実がそこにあった。

 トールは死んでいた。

 まだ温かみを帯びたトールの身体が、秒刻みで冷たくなっていくのをこの上なく体感できる。ドラゴンの、鋭敏に研ぎ澄まされた感覚は、それができてしまう。どうしようもないくらい、トールは死んでいた。

「……なあ、お前には守るべき人ができたんじゃないのか?」

 トールは以前より一層強くなっていた。守りたいものが明確であるからこそ、揺らがぬ強さがあった。

「返事をしてくれよ、トール……。」

 亡骸が言葉を返さぬは摂理。エルマの声は、虚空へ吸い込まれていく。それでもエルマは、構わず紡ぎ続ける。

「いなくなったお前が見つかって……私は安心したんだぞ……。仲直りもできたし……いや、喧嘩してた時でもいい。お前が生きていてくれているだけで……それだけで良かったんだ。」

 そっと、亡骸に覆いかぶさって抱きかかえた。ぼろぼろと零れ落ちる涙が、トールの身体を濡らしていく。

 体温が完全に無くなってしまう前に、最後に思い切り抱擁を交わし――

「……ああ、弱音は終わりだ。」

――ガッ……!

 思い切り、その胴体にかぶりついた。

――ぐしゃ、ぐしゃ

 無心で振り動かす顎の動きに伴って、命だったものが唾液と混じりその形を無くしていく。共に人間の世界を見て回った記憶も、価値観が瓦解し、殺し合った苦い記憶も、トールと共にした様々な思い出ごと噛み砕く。
――ぐしゃ、ぐしゃ

 骨を砕く感触も、血の匂いへの生理的嫌悪も、そういった諸々の不快感は、驚くほど感じなかった。そんな余裕も無いくらいに、ただただ無心で。何も食べるにしても全身で感じ取っていた味覚も、機能していないのかと思えるほどに壊れていた。

――ぐしゃ、ぐしゃ

 おいしくない。

――ぐしゃ、ぐしゃ

 血肉で腹は満たされても、胸にぽっかりと空いた穴が冷たいんだ。

――ぐしゃ、ぐしゃ

――ぐしゃ、ぐしゃ

――ぐしゃ、ぐしゃ

 …………

 ……………………

 やがて、咀嚼音も血を啜る音も、途絶えていく。そこにドラゴンが存在していたことは、大地に染み付いた血の跡だけが語っていた。魔力を宿したツノも、ドラゴンの能力で解毒可能な程度の毒を帯びた尻尾も、もはや何一つ残っていない。その全てをエルマが文字通り喰らい尽くした。

「お前の仇は私が討つよ。小林さんも私が守ってやる。」

「それに……毒を食らわば皿まで、と言うしな。お前が守りたかったあの世界の調和も守ってやろう。」

「だから、見ていてくれ、トール……。」

「ちゃんと、見守っていてくれよ。」

「お前の存在を、まだ感じていたいんだ。」

「お前がいないと、何を食べたっておいしくないんだよ。」

 ドラゴン一匹分の肉体と、それが宿す魔力。残さず喰らったエルマは”戦闘不能”状態を脱し、立ち上がる。

 呪いのようにその身を蝕んでいた空腹も、殺し合いを命じられてなお抜けきっていなかったドラゴンであるが故の余裕も、エルマにはもう無い。

 その目に見据えるは、友の仇の死神だけ。

 その胸に宿すは、友より受け継いだ決意だけ。

 殺し合いというものの意味を改めて認識し――エルマのバトル・ロワイアルは、今ここに始まりを告げた。

427Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:40:11 ID:iXFr6OyQ0
【小林トール@小林さんちのメイドラゴン 死亡】

【残り 37人】

【E-6/住宅街エリア/一日目 早朝】

【上井エルマ@小林さんのメイドラゴン】
[状態]:ダメージ(大) 満腹
[装備]:無し
[道具]:基本支給品(食料なし) 不明支給品(1〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:トールの願いを継ぎ、姫神の殺し合いを阻止する。
一.刈り取るものを斃す
二.小林さんを保護する
三.滝谷やカンナと出会えたら、協力を願う
姫神により全身ドラゴン化や魔法が制限されていることを把握しています。
※参戦時期はトールと仲直りした以降。
※杏とのコープが3になりました。以下のスキルを身に付けました。
「エルマの応援」エルマと絆を結んだ者は身体能力がほんの少しだが、底上げされる。
「エルマの本気応援」エルマと同行中している限り戦闘中、経験値が上昇する。(相手の技を見切るなど)

428Rhapsody in Blue(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:41:04 ID:iXFr6OyQ0


 エルマが、友の遺骸を喰らっているその時。刈り取るものを戦場から切り離していた魔法少女は、終わりを迎えていた。

 元より単体で刈り取るものと渡り合うには実力の足りないさやか。その力を支えていた魔力すらも残っていない状況では、必然の帰結だった。

 身体が、動かない。

 もはや空っぽの魔力。消せなくなった痛みをすべて受け入れながら、さやかは気力だけでここに立っている。一秒でも長く、時間を稼げ。一撃でも多く、刈り取るものにダメージを遺せ。

(あたしらしく……なんて柄じゃないかもしれないけどさ。)

――ワンショットキル

 穢れの満ちたソウルジェムが、遂にグリーフシードへと変わっていくその瞬間。刈り取るものの放った一発の銃弾は”美樹さやか”を砕いた。

 太陽の昇った空に、蒼く煌めく結晶がきらきら、きらきらと浄化されていく。

(――でも、魔法少女の最期としてはたぶん、綺麗なんじゃないかな……って。)

 砕けて消えた命の中、少女は夢をみた。

 コンサートホールの中心で、手にしたヴァイオリンを奏でる一人の少年。

 客席に座る大衆の一部となった少女は、彼のためのステージを眺めながら、絶望とは程遠い微笑みを見せる。

 紡がれし演目は――絶望の中でも縋るように、女神への祈りに身を捧げるいつかの曲ではなく。蒼く澄み渡った彼女の想いを乗せるかの如く、どこまでも自由奔放な狂詩曲。

 いつまでも、ただいつまでも、彼に自由を与えた奇跡のために――彼女のために、泡の中で奏で続ける。

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】

【残り 36人】

【E-6/住宅街エリア外/一日目 早朝】

【刈り取るもの@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(大) SP消費(大) 右腕欠損 
[装備]:刈り取るものの拳銃×1@ペルソナ5
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:命ある者を刈り取る

429 ◆2zEnKfaCDc:2021/04/30(金) 21:41:31 ID:iXFr6OyQ0
投下完了しました。

430名無しさん:2021/05/05(水) 18:33:02 ID:hzugHmjI0
メイドラゴンキャラが登場するパロロワ初めて読んだ。
トールとエルマの共闘からの死別とか、まさに読んでみたかったものに出会えたって感じがする。
今後楽しみにしてます。書き手でも無いのにレス失礼しました。

431 ◆2zEnKfaCDc:2021/05/06(木) 04:37:10 ID:rEpuBnxQ0
>>430
感想ありがとうございます。メイドラゴン、それぞれのキャラが何かしら価値観抱いててパロロワに向いてると思うんですが、なかなか採用されませんよね……。
投下はちょくちょくやって行こうと思うので、是非ともご覧いただければと思います。


それでは、明智吾郎で予約します。

432 ◆2zEnKfaCDc:2021/05/08(土) 20:09:35 ID:PAdzgH0s0
すみません、リアルの用事が入ったので予約破棄します。

433 ◆2zEnKfaCDc:2021/07/08(木) 05:17:32 ID:88dC1J8E0
私用や創作スランプ地味たものが重なって長らく期間を空けてしまいましたが、ゲリラ投下します。

434救い主にはなれやしない ◆2zEnKfaCDc:2021/07/08(木) 05:18:17 ID:88dC1J8E0
 温泉旅館を出てからというもの、歩はどことなく落ち着かない様子だった。そわそわとせわしなく後ろを気にしているかと思えば、青みがかった髪をくるくると弄りながら何かを考えているような顔つきやしぐさを見せる。元より落ち着きのない性格ではある歩だが、ここ一時間は特にそれが顕著だ。殺し合いを命じられているのもあるのだろうが、その原因が他にあることは明らかだった。

「大丈夫か、歩?」

 見るに堪えず、竜司は声をかけた。ハッとしたように我に返る歩。洞察を巡らせ、竜司は続ける。

「トイレ行きたいんだろ?ㅤすぐ探すから待っててくれよな――」

――ぺちーんっ!

ㅤ心地良い音が響くと共に、渾身の平手打ちが竜司を打ち付けた。

「じょ……ジョーダンっす……空気を軽くしたくて……ハイ……」

「まったく!ㅤ竜司君はもうちょっとデリカシーってもんを身につけるべきなんじゃないかなぁ!」

 顔に赤い手のひら印を刻んだ竜司は涙目になりながら謝罪を重ね、歩の怒りを何とか鎮める。

「え、ええと……マリアさん……だよな?」

「うん。本当に、大丈夫なのかな……?」

「……それは、わからねえ。ただ、ああするしかなかったとは思うけどな。」

「まあ……それは私も、そう思うけど。」

 ナギちゃんのためという大義名分があったとしても、マリアさんが殺し合いに乗っていたという事実は動かない。そんなこと、分かってる。

 今回命を狙われたのは竜司君だったけど、場合によってはその矛先は自分に向いていたかもしれない。考えるだけでも、とっても怖い。三千院家に忍び込んで、黒服の人たちに捕まった時の恐怖とは違う。ナギちゃんと下田温泉に向かっている時に殺し屋に追いかけられた時とも違う。一度は知り合って、同じ時を共有した相手が、裏で自分の命を狙っていると知った時の恐怖は、同じ土俵じゃ比べられない。同行なんてできっこないし、他の誰かがマリアさんの犠牲になるかもしれないことを考えると動きを封じるのもやむを得ないと思う。

「……でも、何とかできないかなってのも思ってるんだ。悪いのはマリアさんじゃなくて、姫神って人だからさ……。」

 その上で、私はそう言える。いや、言わなくちゃいけないんだと思う。ハヤテ君と帰りたい日常に、もうマリアさんはいなくてもいいなんて思わない。もしもそう思ってしまった時、きっと私はナギちゃんもヒナさんも、……もしかすると、ハヤテ君も。大切な人たちに見切りをつける心の準備ができてしまう。

「そっか、優しいんだな、歩は。」

「そっ、そんなことないよ!?」

 唐突に、しかもダイレクトに褒められたことに驚いて、慌てふためいたように否定した。

「だって、私にはマリアさんを責める資格なんてないもん。」

 かく言う私だって、一度は殺し合いという魔力と、それに巻き込まれているいちばん大事な人の存在に、殺し合いに乗る自分を考えたのだから。確かに私は、殺し合いに乗っていない。だけどそれは、仮に一度は死んだハヤテくんを生き返らせることが可能であるとしても、大切な友達をたくさん殺し、色々なものを諦めたその先の未来に希望が見えなかったからだ。

435救い主にはなれやしない ◆2zEnKfaCDc:2021/07/08(木) 05:19:18 ID:88dC1J8E0
「私だって、一歩間違えてたらマリアさんみたいに乗ってたかもしれない。だから、マリアさんのことも許したいんだ。」

「分かった。でもな、歩はどこかで少し間違ってたとしても、人を殺したりはできなかったと思うぜ?」

「そ、そうかな?」

「ああ。……最初はさ、俺のせいで死んでしまった人がいたその現実に耐えきれなくって、正直、死んでしまいたくなってた。救ってくれたのは、歩なんだ。苦しんでる人をほっとけない歩が、人殺しなんてできるわけがねえ。」

「あっ……。」

 あと一歩で壊れてしまいそうな竜司君の姿が、歩の脳裏にフラッシュバックした。見えない何かに追われるかのごとく怯えきって、もはや前も後ろも見えていないような、ついつい飛び出していってしまうほど痛ましい有り様。ああ、マリアさんの身を案じている今だからこそ、わかる。あれは、もしもの自分が行き着く先だった。殺し合いに怯えるままに誰かを傷付け、殺してしまったなら。きっと私は耐えられない。

「違うよ、竜司君。」

 もしもあの時、殺し合いを恐れる自分がずっと草むらの中に隠れたままだったとしても、いつかは見つかっていただろう。その頃には不安も恐怖もいっぱいになっていて、手元には手頃な凶器もあって。その場合はたぶん、相手がどんな人かも確かめないままに、それを振り下ろしていただろう。

 その場合に死んでしまうのは私か、それとも相手か。分からないけれど、どっちにしても最悪だ。そうならなかったのは、出会ったのが竜司君だったからだ。あの状況、少なからず怖かったはずなのに姫神に反逆してみせた人。誰も死ななくていい未来を求める私に、最初の一歩を踏み出す勇気をくれた。

436救い主にはなれやしない ◆2zEnKfaCDc:2021/07/08(木) 05:20:32 ID:88dC1J8E0
「私だって、キミに救われてたんだよ。」

「お……!?ㅤお、おおぅ……。」

ㅤ照れを隠せない竜司君をよそ目に、私は堂々と告げる。

「ねえ、竜司君。私、決めたよ。」

 私は、竜司君に救われた。でも、マリアさんはそうじゃなかった。……悲しいけど私も、マリアさんは救えなかった。積み重ねた思い出が足りなかったから。でも、たった一人だけマリアさんを救える人を、私は知ってる。

「――ナギちゃんを、マリアさんのとこに連れていこう!」

 ナギちゃん、あれで強情だからさ。姫神の言いなりになんてならないだろうし、マリアさんに優勝させられるのなんてもっと嫌がると思うんだ。だからマリアさんも、ナギちゃんに叱ってもらえばきっと目も覚める。そしたら、みんなで姫神に反逆する道も見つけられる。

 方針は決まった。大好きな人たち、一人だって妥協してやるもんですか!

【C-5/平野/一日目 早朝】

【坂本竜司@ペルソナ5】
[状態]:健康 SP消費(極小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(未確認) マリアの基本支給品、チェーンソー@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反逆する
一.歩と共に殺し合いに反逆して姫神を倒す
二.三千院ナギを探し、マリアの下へ連れていく
三.死んでしまった女の子の関係者に出会ったら、許してもらうまで謝る
四.他の怪盗団のメンバーと歩の関係者に早く出会いたい
五.姫神を倒した後、歩にラーメンをおごる
※歩とのコープが4になりました。
※竜司に話しかけていたシャドウは幻覚か本当かはわかりません。また、出現するかは他の書き手様にお任せします。
※参戦時期は9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。

【西沢歩@ハヤテのごとく】
[状態]:健康
[装備]:ヘビーメイス@ペルソナ5
[道具]:基本支給品(食料消費小)、不明支給品0〜2(本人確認不明) マリアの不明支給品(0〜2)(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:竜司と殺し合いに反逆へ歩む
一.皆で生き残りたい
二.ナギちゃんをマリアさんに会わせる
三.竜司君との反逆で強くなりたいけど…見られた……うう。ハヤテ君…
四.ハヤテ君…私、ハヤテ君に伝えたいことがあるから
※竜司とのコープが4になりました。
獲得スキル
「ツッコミトーク」相手との会話交渉が決裂した時に、異世界の人物であれば、交渉をやり直せる
「ハムスターの追い打ち」竜司の攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※参戦時期はアテネ編前

437 ◆2zEnKfaCDc:2021/07/08(木) 05:20:59 ID:88dC1J8E0
投下完了しました。

438名無しさん:2021/07/13(火) 18:30:08 ID:n9mGcXBM0
乙です
互いに歩み寄り世界という視野を広めて行ってる感じ
ふたりのまっすぐな決意と誠意が微笑ましかったです
時系列は前の方だけど最後にハヤテにかける言葉は原作と同じ方向性になるんだろうなとある安定さを感じさせる西沢歩でした

439 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/14(水) 07:55:24 ID:EUVoZWQM0
投下お疲れ様です!

Rhapsody in Blue
4人を相手にしても捌く姿は流石は刈り取る者、シリーズの裏ボスだと感じさせられました。
そして後半はトールとエルマのタッグ燃えました!
しかし、トール……前編の最後で不穏な空気を醸し出しましたがここでとは……!
放送後の小林さんの姿を思うとせつないですね……
エルマはトールの意思を引き継ぎ、腹ペコきゃらという一種のギャグ描写がなくなりましたが、応援したいです!
カルマがさやかに提示した譲歩的要請法は後に官僚となる正にカルマらしいやり方だなと思いました。
だけど、カルマにとって苦い別れになってしまい、意識を取り戻した後の彼を思うと、せつないですね……

「でも俺は強いから動けるよ。それに……」

「……それに……なに?」

「……んーん、何でも。」

ㅤこの場に中村でもいれば弄り倒されそうな光景だ。というか自分だったら否が応でも弄り倒す。
↑読んでてニヤニヤしちゃいました。
紡がれし演目は――絶望の中でも縋るように、女神への祈りに身を捧げるいつかの曲ではなく。蒼く澄み渡った彼女の想いを乗せるかの如く、どこまでも自由奔放な狂詩曲。
↑この『自由奔放な狂詩曲』がカルマとの交流の影響なのではと私は個人的に感じられてとても好きです。

救い主にはなれやしない
「大丈夫か、歩?」

 見るに堪えず、竜司は声をかけた。ハッとしたように我に返る歩。洞察を巡らせ、竜司は続ける。

「トイレ行きたいんだろ?ㅤすぐ探すから待っててくれよな――」

――ぺちーんっ!

ㅤ心地良い音が響くと共に、渾身の平手打ちが竜司を打ち付けた。

「じょ……ジョーダンっす……空気を軽くしたくて……ハイ……」

「まったく!ㅤ竜司君はもうちょっとデリカシーってもんを身につけるべきなんじゃないかなぁ!」

 顔に赤い手のひら印を刻んだ竜司は涙目になりながら謝罪を重ね、歩の怒りを何とか鎮める。
↑このやり取り……好きですねぇ〜(笑)もう、脳内再生鮮明にできました!
竜司は歩に歩は竜司と互いに『すくわれた』二人は、やはりロワは始めの出会いが大切なんだと改めて思わせてくれました。
2人の姫神への反逆、応援したいですね。

綾崎ハヤテ、新島真、岩永琴子で予約します。

440 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:38:12 ID:RCvNo2.c0
投下します。

441岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:39:39 ID:RCvNo2.c0
推理ーーーーー既にわかっている事柄をもとにし、考えの筋道をたどって、まだわかっていない事柄をおしはかること。
Oxford Languagesの定義より引用。

「えっと……貴方は?」
「新島真。貴方達と同じ、参加者の1人よ」
ハヤテの問いに真は名前を伝える。

ジッ―――。
真は執事服を身に纏う少年と杖を手にする少女の体を観察する。

(おそらく私と同じ高校生と……小学……いや、中学生?それにしても深窓の令嬢に見えるわ)
真は2人の身長から大体の年齢を予想する。
それと同時に少女の纏う雰囲気に同性ながらも可愛らしいと見惚れる―――

そう考えていると―――

「ちなみに私は20歳。もう酒が飲める歳です」
真の思考を読んだかのように岩永は語尾を強めて訂正する。

「え……!?」
(え!?嘘でしょ!?だってその容姿……どうみても……)
真は少女の年齢に吃驚する。
自分よりも年上には視えなさそうな可憐な少女に―――

「不快に感じさせたのなら謝るわ。ごねんなさい」
「いえ、よく間違われるので。それに、私の連れも驚いているようですし」
岩永はジロリとハヤテに目線を向ける。

「い、いや〜……僕、てっきり中学生ぐらいだと思ってました」
ハヤテはスミマセンといった様子で岩永に謝罪する。

「そろいも揃って失礼な!私はこれでもコーヒーはブラックですし、魚のワタの味だってわかりますし、なんなら精「わぁああああ!!!!!」」
岩永は自分は大人だと理由を添えて抗議するが遮るハヤテ。
「い……岩永さん!良い子が読むサ○デーでは御法度な台詞ですよ!
「別に、本当のことを言ってるだけですよ。それを言うなら私は〇ンデーではなく少年マガ「ワーワー聴こえなーい!」」
ハヤテと岩永のワイワイしたやり取りを横目に―――

(な、何なの!?この娘……まるで卑俗)
先ほどまでの評価が180°変わる少女の言動に真は呆気にとられる。

「はぁ……とにかく、そういうところがデリカシー無しと判断されるんですよ?……そうそう自己紹介が遅れました。私は岩永琴子。そして―――」
「綾崎ハヤテです」
遅れながら、真に自己紹介をする2人。

☆彡 ☆彡 ☆彡

442岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:41:24 ID:RCvNo2.c0
「残念だけど、そのナギというお嬢様には会っていないわ」
「そうですか……」
真の言葉にハヤテはガクリと肩を落とす。

「……」
(どうやら、2対1でも問題なさそうね……)
真は2人の先ほどの様子から1人でも対処できると判断した。

(だけど、やっぱり”ここ”で戦闘はしたくない。彼らが外に出たら、間髪入れずにヨハンナで仕留めるとしよう)
自分にとって脅威でないなら、何も無理してルブラン内で殺す必要もない。
それに、やっぱりここで殺すのは――――
真の心中にあるのは仲間たちとの絆の場所が、血で汚れるのは好まないこと。
そんな真の考えが、結果的にハヤテと岩永の命がほんの少し延命されることとなる。

「……」
一方、先ほどから岩永は顎に手を当ててずっと物思いにふけている。

「あの……岩永さん?どうしましたか?」
岩永の異変に気づいたハヤテは心配そうに話しかける。

―――ぽんッ
岩永は何かひらめいたのか手を打つとハヤテと真に話しかけた。

「お二人とも……一度、ここで朝食をとりましょう♪」

「「……え?」」

☆彡 ☆彡 ☆彡

―――ガチッ
ボウッ―――
「一通り、店内の設備はきちんと動くみたいですね。岩永さんは何かリクエストありますか?」
ハヤテはガスコンロに火がついたのを確認すると、ザックの食料を眺めながら岩永に食べたいのがあるのか尋ねる。

すると―――

「鰻のかば焼き」

「……はい?」
まさかの岩永のリクエストにハヤテは笑顔で動きを止める。

「なければ、牡蠣もしくはレバーで何か料理をお願いします」
「あの……その食材のチョイスって……」
なんとなくハヤテの脳内に先ほどの岩永の発言からピンク色が連想される―――

「ええ。性がつく食べ物です。九郎さんはそういったことに無頓着ですから、代わりに私がしっかりと補給しないと夜を張り切って過ごすことができませんので」
そして、ハヤテの予想通り、ピンクな内容を恥ずかしげもなくいいのけた。

「え、えっと……カレーでよろしいでしょうか?」
「はぁ……仕方がありません。妥協しましょう」
岩永はハヤテの提案を不服そうに了承した。

「……」
(品性……)
真はため息をつき、眉間に皺を寄せた―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

443岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:42:43 ID:RCvNo2.c0
―――タンッ
タンッ!タタン!!
リズムよくニンジンが一口大に切られる。

ジュゥゥゥ―――
その隣で真は小麦粉をフライパンで炒める。

「すみません……手伝ってもらっちゃって」
ハヤテに申し訳なさそうに真にお礼をいう。

「……構わないわ。全てやってもらうのも、申し訳ないから」
(それにあの子と話すと疲れそうだから―――)
岩永の品性を疑わせる会話を聞いていたら頭に頭痛がするため、真はハヤテのカレー作りを手伝うこととした。

それと―――彼女の目を見ていると不安に駆り立てられるからだ。
”人を殺めた自分の罪”を暴かれるのではないかと―――

クミンやターメリックといったスパイスと混ぜた小麦粉からカレー粉としての香りが出たので、フライパンを一度下し―――

ザクッ―――ザクッ。
繊維に沿って玉ねぎが切られ―――

ジュウウウ―――
飴色になるまで炒められる。

次に塩・胡椒で味付けした牛ひもも肉を炒める。
「結構、本格派に作るのね」
「ええ。せっかくなら、豪華にと。……岩永さんってなんだかお嬢様みたいに舌が肥えてそうなので」
牛肉のカレーは本場インドではなく欧米で生まれたカレーだ。

牛もも肉を炒めながらニンジンを投入する。
それに刻み生姜にニンニク、すりおろした林檎を加えたらカレー粉を加え、水を入れる。

そこに〇〇〇〇を投入する。
「え!?それを入れるの!?」
真はハヤテが入れたのに驚愕する。

「秘密ですよ♪」
ハヤテは驚く真にハヤテをウインクする。

次にコンソメ―――”ビーフコンソメ”を投入。

「ビーフコンソメ?」
「はい。コンソメの中でもビーフコンソメはパンチが効いていますので。他のコンソメだとコクが弱くて美味しくないんですよ」
ハヤテは真に説明を加えながらカレー作りを進める。

―――ローリエ、ウスターソース、ヨーグルト、チョコ、ハチミツに”インスタントコーヒー”

「コーヒー!?」
(たしか蓮が、ルブランのカレーには”インスタントコーヒー”を入れているって話していたのを聞いたことがあるけど……彼も入れるなんて!」
真はハヤテのカレー作りに眺める―――

沸騰したら弱火で30〜40分煮込む。
仕上げにバターを投入して―――

「さて、これで完成です♪」

―――上手にできました♪―――

☆彡 ☆彡 ☆彡

444岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:45:30 ID:RCvNo2.c0
「おや?完成したのですね。……いい匂いがして食欲を湧き立てますね」
ハヤテと真がカレーを調理している間、岩永はルブラン内を探索していた。
探索を終えた丁度いいタイミングだったらしい。

「出来立てが一番ですからね……さぁ、食べましょう!」
3人はテーブルの席に座ると―――

「「「いたたぎます」」」

食事を開始した―――

「これは……」
「おいしい……ッ」
ハヤテのビーフカレーは美味かったようだ。

「お口に合って良かったです」
ハヤテは味わう2人の表情にニコリと笑う。

「それと、このカレールーにはかくし味として”赤ワイン”が使われていますね?」
「凄い……正解です。よくわかりましたね」
ハヤテは岩永の指摘に感嘆する。

「ビーフやチキンカレーといったお肉と”赤ワイン”の相性はマッチします。ですが、量を間違えると渋みが強くなり台無しとなります。しかし、シャトードルー赤をチョイスするとは……」
「岩永さんは”大人”ですので、香りがよく女性らしさを前面に出したシャトードルーが似合うと思いました」
「流石、名家のお嬢様の執事として働いているだけありますね」
岩永は満足そうにカレーを食する。

―――食事をしている最中。

「ところで、新島さんはこのルブランのことを知っていますね?」
「……どうしてそう思うの?」
岩永は、真に質問をする。

「簡単です。この地図には綾崎さんの”負け犬公園”私の” 真倉坂市工事現場”と関係者に関わる施設が置かれているからです。そして、新島さんは明らかに店の内部に詳しかった。ですよね?綾崎さん」
「は、はい……調理道具など色々と置かれている場所に精通していました」
ハヤテも岩永の指摘に同意する。

「……」
(目ざといわね……まぁいいでしょう。どうせ、この後始末するのだから―――)
真は認知世界……”パレス”のことを話したところで理解できないだろうと判断し、2人に認めると同時にパレスの事を話す―――

「パレス……認知ですか……」
(やはり、姫神のこの力は秩序に反する。やはり認めるわけにはいかない)
岩永は真から聞いたパレスを聞き、思案する―――

「そういえば、真さんはここに来るまで、何があったのですか?」
「……刈り取るものに襲われて、”死にかけた少年”に会って……」
虚構を交えながら真は話す―――。
少年の死を看取った後、ハンバーガー店へ寄り、ルブランへ辿り着いたと。

それからもいくつか情報交換をしながら食事が進み、やがて―――
―――ひとときな朝食が終わる。

☆彡 ☆彡 ☆彡

445岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:46:48 ID:RCvNo2.c0
ハヤテが食器を洗い片付けをしている最中―――
ついに―――

「新島さんにお聞きしたいことがあるのですが」
「?何をかしら」

―――真の心の奥に踏み込みますか…?

     はい     いいえ

―――はい。

岩永は真に真の話題を振った―――

「正義の怪盗についてです」
「―――ッ!」
岩永の”正義の怪盗”というワードは先ほどまでの空気を一瞬で吹き飛ばした。

「何を言っているのかわから「坂本竜司」
否定しようとする真の言葉に重ねる。

「姫神に食って掛かった金髪の少年の名前です。聞き覚えがありますよね?」
「……」
沈黙の様子を見せる真に岩永は話を続ける。

「名簿に載っているのは50音順な為、一見誰と誰が関係しているかを知るのは難しいです。ですが、綾崎さんの知っている名前を聞くと5人。そして、私は、3人いることが分かりました。名簿上の記載には44人。ここから考えると、この殺し合いには大体4〜6人のまとまりができているグループが6〜8つ程度存在すると考えていいでしょう。そして、坂本竜司も当然まとまりのグループに属している。新島真さん……貴方はそのまとまりのグループの1人では?」

「さぁ……どうだ「―――あのバカ……」
「!?」
再び、自分の言葉を遮る岩永の言葉に真は体をピクッと震わせる。

「彼が正義の怪盗だと姫神に指摘された後、実に非常に小さい声でしたが、確かにそう呟く声が聞こえました。その声の方向には黒猫が1匹……そして名簿には黒猫ではありませんが、それに近い姿……”モルガナ”と記載されています。つまり、モルガナと坂本竜司は同じグループ」
パレスの外と中ではモルガナの姿は異なるが、顔写真付きの名簿なら、違っていても勘が良い者なら辿りつくだろう。

「そしてモルガナと坂本竜司の服装からおそらく”雨宮蓮・高巻杏・明智吾郎 ”も同じグループと推測できます。それと……近しい服装の貴方」

「……私がそのグループの1人だとして何か問題でも?」

ああ―――この娘は確かに

「では、今度こそ本題に入りましょう」

「貴方は正義の怪盗団の1人だが姫神の殺し合いに乗って、既に一人殺めている」

―――私の罪を暴く者だった。

☆彡 ☆彡 ☆彡

446岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:49:18 ID:RCvNo2.c0
シィィン―――。
静寂……いや緊迫の空気に包まれるルブラン。

「何を根拠にそんな妄言をいうのかわからないけど、冗談じゃ済まないわよ?」
真の目線は鋭く岩永を突き刺す。

「……」
ハヤテの食器を拭く手が止まっている。

しかし、岩永は臆することなく―――

―――ズダンッ
勢いよくステッキを床に鳴り響かせる。

「話を続けましょう」
その口調は品性を窺わさせたときとは違う、神のように荘厳な力強さを感じさせる。

「貴方は先ほどの情報交換で”刈り取るもの”と戦っていた少年を看取ったといっていましたね?」
「……ええ。そうよ。だから、私は彼の支給品を受け取った。それに何か疑問でも?」
そう、間違ってはいない。確かに真が殺した影山律は刈り取るものと対峙していたのだから。

「だとすると、大きな矛盾が生じる」
―――スッ。
岩永は服のスカートのポケットから一枚の紙を取り出す。

『只今、ハンバーガーを一人一個プレゼント中!ぜひお立ち寄りください。マグロナルド幡ヶ谷駅前店』
「なッ!?」
チラシに書かれている内容に真は狼狽する。

「これは、住宅街エリアに配られているらしいチラシです。ここ、ルブランにも配られていました」
岩永はそのチラシを机上に置く。

「そのチラシがなんだというの?」
真は内心穏やかではないが、落ち着いて岩永に話す。

「もし、少年が刈り取るものとの戦闘で死んだとするならば、ハンバーガーが2つあるのはおかしい。なので、本当に2つあるというのならつまり、貴方と少年の分にしかほかならない。つまり少年が死んだのは、刈り取るものとの戦闘ではなく、その後に死んだ」

「ちょっと、待って!どうして私のザックにハンバーガーが2つあると判るの?」
そう、ザックの中身を知っていなければそれは唯の憶測に過ぎない―――
真は『ハッタリ』と見抜くが―――

「その少年から貴方がハンバーガーを2つ所持していると教えられたとしたらいかがです?」
「!?」
岩永は涼し気な表情で淡々と話す。

なんと、岩永は殺された少年が教えてくれたと荒唐無稽なことを言いだした。

「はぁ……!?何をバカな……」
(まさか……少年の幽霊ですって!?ば……馬鹿馬鹿しい……わ!)
真は内心動悸が走るが、なんとか精神を落ち着かせて、岩永の根拠を切って捨てようとするが―――

「でしたら、今すぐ、そのザックの中身を全て出してください。もし、バーガーが”2つ”あれば……私の推理はQ.E.D. ……証明終了です」

―――これからのことを考え、ハンバーガー一つでもおしいと回収したのが仇となった。

「……」
真は琴子の目を見据えてただじっと立っている。

「私は法の番人ではありません。貴方達の怪盗活動を糾弾するつもりはありませんが、姫神の思惑に乗り、異能の力(ペルソナ)で人を殺した貴方の行いは秩序に反しています」
岩永も真の両眼を見据える。

「新島真。貴方は”正義の怪盗団”ではありません。唯の”ひとでなしの人殺し”です」
ステッキの先端を新島真に突きつけながら宣告する。

―――私の罪を暴く

ルブラン内は沈黙の空気に包まれる。

「悪いけど……ここで2人とも死んでもらうわッ!」
(仕方がないけど……逃がすわけにはいかない!)
ルブラン内を荒らしたくはなかったが、ここに至ったらそんな躊躇はしてられない―――
真はヨハンナを召喚しようと動く。

―――が。

「ペルソ『ボォオオン!!!』

爆発音が鳴り、その直後―――

突如、ルブラン全体の照明が落ちた。
ルブランが深淵に包まれる。

「い……い、いやぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
真の絶叫がルブラン内の壁という壁に反響し合う。

「ごめんなさい!ごめんなさい!助けてお姉ちゃあああああん!!!」
真は蹲り、涙を流す。

その隙に―――

―――ザッ。
綾崎ハヤテは一瞬で岩永琴子をお姫様抱っこしてルブランから出ると、外に立てかけてあったデュラハン号で一目散にその場を去った。

☆彡 ☆彡 ☆彡

447岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:50:30 ID:RCvNo2.c0
「……どうして、あの人が”殺し合い”に乗っていると判ったのですか?」
ハヤテはデュラハン号のペダルを漕ぎながら岩永に問いかける。

「それは簡単ですよ。まず彼女のライダースーツの足元に血がこびりついていました。おそらく、少年を殺した後、荷物をザックに入れている最中、ついたのでしょう。そして、彼女が貴方とカレー作りをしている最中に実はコッソリとザックの中身をチェックしていたのですよ」

「はぁ……」
ハヤテは岩永の根拠を聞き、素直に感嘆する―――

(まぁ……本当に”聞いた”からなんですが)
実は先ほどの岩永琴子の推理は真に語ったようにある”人物”から殺された顛末を聞かされていたからだ。

―――新島真に殺され、彼女に憑いている”影山律”本人から。

ルブランで真と自己紹介を交わしている最中、真に憑りついていた影山律は琴子が霊である自分の存在を”視えている”ことに気づき、話しかけてきたのだ。

―――彼女は殺し合いに乗っていると。

影山律から自身が殺されるまでの顛末を聞いた岩永はこのままルブランから出ると、真が襲い掛かってくると判断をしたため、逃げる隙を見出そうと朝食を提案したのだ。

(ですが……依然として妖怪達の姿は見えない。やはり”パレス”とやらの力の作用か?おそらく、正義の怪盗団はパレスとやらの現象に詳しいはず。できれば、乗っていないメンバーと接触したい。それと、影山律といった霊……兄のことを心配していた。放送で自分の名前が流れたらおそらく会場にいる全員死ぬだろうと……現状、放送を止める手立てはない。杞憂ですめばいいのですが―――)

岩永があれこれと思案している最中―――

(でも、岩永さんの推理……本当に”聞かされた”のを組み立てているかのようだった……もしかして、岩永さんも視えていたりして?)
ハヤテの額に汗が流れる。

なぜなら、綾崎ハヤテも新島真が殺人鬼だということを”知っていた”。

―――そう、綾崎ハヤテも新島真に憑いている” 影山律の幽霊”を目視して彼の告白を聞いていたからだ。(ハヤテは律の告発を岩永琴子ではなく自分に向かって話していると勘違いしている)

アレキサンマルコ教会(執事とらのあな)の神父の亡霊リィン・レジオスターなど
綾崎ハヤテも”霊”を視ることができる体質を有する。

だから一刻も早く彼の主である三千院ナギを探したいのにも関わらず、岩永の指示に従い”朝食”を作るという一見タイムロスに繋がりかねない行為を受け入れたのだ。

「しかし、彼女が”暗所恐怖症”だったのは僥倖でした」
岩永は因縁がある隕石を眺める―――

(それにしても、処分したはずの”これ”が支給されているとは―――)
そう、逃げる時間を稼ぐために、自身に支給された隕石の電撃を放つ力でルブラン内のブレーカーを破壊して、店内を暗幕にして逃げた。
幸いなのは、新島真が極度の暗闇が怖がりだったこと。(正確には幽霊嫌いだが)
もし新島真が腰砕けでなければ、すぐさま真のペルソナ『ヨハンナ』による追跡で戦闘は避けられなかっただろう。

―――ギュッ

「あ、あのー岩永さん?」
ハヤテは戸惑う。
あれほど、男女の関係に拘る岩永が自身の腰を掴んだことに。

「その……私に付き合ったために、負け犬公園へ向かうのに大幅な時間ロスをしてしまいましたからね。急いで負け犬公園へ向かいましょう。それと貴方の作った朝食のカレー……美味しかったですよ。九郎さんにも食べさせたいぐらいに」
そう言い終えると、岩永はハヤテの腰に掴む手をさらにギュッと固く握りしめる。

(それと……新島真が負け犬公園へ辿り着く前に探索を終えなければ……)
恐らく、彼女は死にもの狂いで追いかけてくるだろうと推測したから―――

「それじゃあ、しっかりと掴まっていて下さい!」
ハヤテはフフ……と笑むとデュラハン号のペダルを全力で漕ぐ。

―――そう、疾風の如く。

448岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:50:45 ID:RCvNo2.c0
【D-5/草原/一日目 早朝】

【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:デュラハン号@はたらく魔王さま!
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:お嬢様を守る
一.たとえ、この命にかえても。
二.急ぎ、負け犬公園へ向かう
三.新島真並びに心の怪盗団に注意する
四.岩永さん……コ○ン君みたいな推理でしたね……
※ナギとの誤解が解ける前からの参戦です。(咲夜から初柴ヒスイの名を聞かされています)
※影山律の亡霊から顛末を聞きましたが、詳しくは理解できていません。
※岩永が自分と同様霊が見えると気づいてはいません。
※新島真は暗所恐怖症だと勘違いしています。

【デュラハン号@はたらく魔王さま!】
岩永琴子に支給されたボロい自転車。真奥貞夫の扱うサイズであるため、岩永が運転することはできない。

【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康 義眼/義足装着
[装備]:怪盗紳士ステッキ@ペルソナ5 ピノッキオの隕石@虚構推理
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:秩序に反する殺し合いを許容しない
一.不死者を交えての殺し合いの意味は?
二.九郎先輩と合流したい。
三.急ぎ、負け犬公園へ向かう。
四.新島真並びに正義の怪盗団に注意する。(乗っていないメンバーから詳しい話を聞きたい)
五・影山律の心配が杞憂で済めばいいと願う(それとできれば成仏させてやりたい)
※綾崎ハヤテと三千院ナギの関係について大体を聞きました。
※鋼人七瀬を消し去った後からの参戦です。
※この会場がパレスと呼ばれる認知の世界が混ざっていると知りました。
※影山律の亡霊から兄の事と超能力と新島真のペルソナについて大体を聞きました。
※綾崎ハヤテが霊を見える体質だとは気づいてはいません。
※新島真は暗所恐怖症だと勘違いしています。

【怪盗紳士ステッキ@ペルソナ5】
岩永琴子に支給されたステッキ。これを用いて攻撃すると稀に何らかの状態異常付与の効果がある。

【電撃を放つ隕石@虚構推理】
岩永琴子に支給された隕石。五センチ大の黒い石。かつて”キノッピオ”これを用いて攻撃すると周囲に電撃を放つ効果がある。威力は一撃で死なないように抑えられている。

☆彡 ☆彡 ☆彡

449岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:51:05 ID:RCvNo2.c0
―――カランカラン。

「はぁ……はぁ……」
息絶え絶えになりながらも、ルブランから退出することができた真。

「は……はやく……あの2人をし……始末しないとッ!」
(怪盗団の皆に知られる前にッ!)

「ヨハンナッ!!!」
真の呼びかけにペルソナがその場に出現し―――それに跨る。

「新島真。貴方は”正義の怪盗団”ではありません。唯の”ひとでなしの人殺し”です」
脳裏に浮かぶのは先ほどの岩永の宣告。

「許さないわよ……岩永琴子。貴方だけはッ!!」
(おそらく、お嬢様を探す彼のゆかりの場所……負け犬公園へ向かっているはず!)

居場所を守るため、血で汚す道を選んだ自分のケツイを否定した女。
許すわけにはいかない―――

ブロロロロ―――ッ!!!!!

バイクに乗り、追いかける。
2人の口を封じるために―――
受け入れてくれる自分の居場所を守るために―――

【E-5/純喫茶ルブラン前/一日目 早朝】

【新島真@ペルソナ5】
[状態]:健康 焦り(大) 琴子への怒り(大) 憑りつかれている
[装備]:アーザードの聖法衣@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0〜3) 影山律の不明支給品(0〜1) さやかのバット@魔法少女まどか☆マギカ マグロバーガー@はたらく魔王さま!×2
[思考・状況]
基本行動方針:心の怪盗団のメンバー以外を殺し、心の怪盗団の脱出の役に立つ。
1.双葉……頼んだわよ……。
2.明智を見つけたら、殺して自分の罪を被ってもらおう。
3.急ぎ、負け犬公園へ向かい2人(ハヤテ、琴子)を探し出し、殺す。(岩永琴子最優先)

※ニイジマ・パレス攻略途中からの参戦です。
※ハヤテの探し人(三千院ナギ)を知りました。
※心残りに囚われている影山律の霊が憑りついていますが、特に害はありません。(心残り(自分が死んだと知った影山茂夫が心配)が解消されると成仏します)
※岩永の少年(律)の話はハッタリだと思っています。

450岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:51:26 ID:RCvNo2.c0
【支給品紹介】

【アーザードの聖法衣@小林さんちのメイドラゴン】
影山律に支給された防具。本来はドラゴンの攻撃を通さない性質を持つが、パレス内ではドラゴンの攻撃の軽減程度に抑えられている。

【さやかのバット@魔法少女まどか☆マギカ】
影山律に支給された武器。第2話でゲルトルートと戦いに行く前に巴マミの魔力によって強化された。

【マグロバーガー@はたらく魔王さま!】
マグロナルド幡ヶ谷駅前店で参加者1人につき1個テイクアウトできる。魚介類のマグロは入っていない。パレス内では微小なHP回復効果がある。認知存在の店員が具体的に誰の姿をしているのかは以降の描写にお任せ。

451岩永琴子の華麗なる推理 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/17(土) 21:52:43 ID:RCvNo2.c0
投下終了します。
ちょっと、内容が内容(ロワで殺された人物の霊描写)もありますので、何かありましたら、修正か破棄などいたします。

452 ◆2zEnKfaCDc:2021/07/18(日) 16:35:18 ID:M4uyxrPk0
投下お疲れ様です。
ルブラン組、ついに開戦。バイクレースのようなハイスピードバトルなので、移動先も巻き込んで何かしら起こしてくれそうで楽しみですね。

ただ、大変申し訳ないのですが霊の扱いについてはこのまま通し難くなっています。というのも、『未練を残して死んだキャラは霊としてパレス内に留まり、見えるキャラには声を届けることもできる』という虚構推理準拠のルールは、律だけがそうなる理由はないため、全キャラに適用されてしまうからです。
本ロワのキャラには本来見えないものが見える特性を持つキャラが多く、未練が晴れるまで死亡キャラが多くのキャラとコミュニケーションを自由に取れる状況は、パロロワにおける退場の概念を壊しかねません。それを懸念して38話で示した『※パレス内で参加者が死んでもその人物の認知存在は現れません』という規定にも、霊なので厳密には抵触したわけではありませんが、黒寄りのラインかなと判断させていただきます。

申し訳ありませんが、律の霊のくだりの再検討をお願いしたいです。

453 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/18(日) 18:44:48 ID:dm0p2SwI0
感想並びにご指摘ありがとうございます。

律の霊のくだりを変更しました。
お手間をかけますが、ご確認のほうよろしくお願い致します。
流れとしては
それからもいくつか情報交換をしながら食事が進み、やがて―――
―――ひとときな朝食が終わる。

☆彡 ☆彡 ☆彡の次からです。

454 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/18(日) 18:45:40 ID:dm0p2SwI0
「それでは、もしお嬢様を見かけたら保護をお願いします」
綾崎は真に尋ね人である三千院ナギの保護を頼むよう頭を下げる。

「……ええ。わかったわ」
(でも、ごめんなさいね。その約束はできないわ……)
真はハヤテに約束するが、当然、その約束を本当に守るつもりはない―――

自身が守るべき人は”怪盗団の皆”だけなのだから―――

「それでは、いきましょうか岩永さん」
「……ええ」
2人はルブランを退店しようと真に背を向ける。

(ふぅ……寄り道にはなったけど、やるべきことは変わらないわッ!)
2人が退店したと同時にヨハンナで仕留める。
それは、揺るぎない真のケツイ。

ハヤテがドアノブに手をかけた瞬間―――
岩永は口を開く。

「私は法の番人ではありません。貴方達の怪盗活動を糾弾するつもりはありませんが、姫神の思惑に乗り、異能の力(ペルソナ)で人を殺した貴方の行いは秩序に反しています」
「なッ!?」
まさかの岩永の言葉に、真はペルソナを呼び出そうとした思考が一瞬だがストップする―――

―――そして

『ボォオオン!!!』

爆発音が鳴り、その直後―――

突如、ルブラン全体の照明が落ちた。
ルブランが深淵に包まれる。

「い……い、いやぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
真の絶叫がルブラン内の壁という壁に反響し合う。

「ごめんなさい!ごめんなさい!助けてお姉ちゃあああああん!!!」
真は蹲り、涙を流す。

その隙に―――

―――ザッ。
綾崎ハヤテは一瞬で岩永琴子をお姫様抱っこしてルブランから出ると、外に立てかけてあったデュラハン号で一目散にその場を去った。

☆彡 ☆彡 ☆彡

455 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/18(日) 18:46:52 ID:dm0p2SwI0
「……どうして、あの人が”殺し合い”に乗っていると判ったのですか?」
ハヤテはデュラハン号のペダルを漕ぎながら岩永に問いかける。

「それは簡単ですよ。ずばり女の勘です」
岩永はふふん!と話す

「はぁ……」
ハヤテは岩永の根拠を聞いて、釈然としない様子―――

(まさか、ここで音無会長との経験が活かされるとは……)
岩永はかつて、妖の力に頼り、成功してしまった人物に出会ったことがある。
それが―――音無会長だ。

(一度、妖などの力で成功体験を得た人物は、平気でそうした力に頼るようになる)

―――新島真の殺気は普通の殺人者とは異なる空気を纏っていた。

新島真の第一印象が正にそれだった。
だから、逃げる隙を見つけるため、2人に朝食を作ってもらう最中に店内を探索したのだ―――

(ですが……依然として妖怪達の姿は見えない。やはり彼女が言っていた認知……”パレス”とやらの力の作用か?おそらく、他の正義の怪盗団もパレスとやらの現象に詳しいはず。できれば、乗っていないメンバーと接触したい)

岩永があれこれと思案している最中―――

(でも……女の勘ですか。真さんにお嬢様のこと伝えたのは失敗だな。素直に岩永さんのことを信じておけばよかった……)
ハヤテの額に汗が流れる。

岩永が朝食を提案してきたとき、ハヤテは賛同することはできなかった。
”それよりも一刻も早くお嬢様を探しにいきたい”ハヤテは岩永にそう進言しようとしたが見てしまった。
―――そう、岩永の掌に張り付いている小さく千切られた紙の字を。

その紙には”このまま出たら危険です”という字が書かれていた―――

だから一刻も早く彼の主である三千院ナギを探したいのにも関わらず、岩永の指示に従い”朝食”を作るという一見タイムロスに繋がりかねない行為を受け入れたのだ。

だけど、心の奥には彼女が危険人物には見えなかったために、ハヤテはお嬢様……三千院ナギの名を喋ってしまった。

「しかし、彼女が”暗所恐怖症”だったのは僥倖でした」
岩永は因縁がある隕石を眺める―――

(それにしても、処分したはずの”これ”が支給されているとは―――)
そう、逃げる時間を稼ぐために、自身に支給された隕石の電撃を放つ力でルブラン内のブレーカーを破壊して、店内を暗幕にして逃げた。
幸いなのは、新島真が極度の暗闇が怖がりだったこと。(正確には幽霊嫌いだが)
もし新島真が腰砕けでなければ、すぐさま真のペルソナ『ヨハンナ』による追跡で戦闘は避けられなかっただろう。

―――ギュッ

「あ、あのー岩永さん?」
ハヤテは戸惑う。
あれほど、男女の関係に拘る岩永が自身の腰を掴んだことに。

「その……私に付き合ったために、負け犬公園へ向かうのに大幅な時間ロスをしてしまいましたからね。急いで負け犬公園へ向かいましょう。それと貴方の作った朝食のカレー……美味しかったですよ。九郎さんにも食べさせたいぐらいに」
そう言い終えると、岩永はハヤテの腰に掴む手をさらにギュッと固く握りしめる。

(それと……新島真が負け犬公園へ辿り着く前に探索を終えなければ……)
恐らく、彼女は死にもの狂いで追いかけてくるだろうと推測したから―――

「それじゃあ、しっかりと掴まっていて下さい!」
ハヤテはフフ……と笑むとデュラハン号のペダルを全力で漕ぐ。

―――そう、疾風の如く。

456 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/18(日) 18:47:08 ID:dm0p2SwI0
【D-5/草原/一日目 早朝】

【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康 焦り(中)
[装備]:デュラハン号@はたらく魔王さま!
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:お嬢様を守る
一.たとえ、この命にかえても。
二.急ぎ、負け犬公園へ向かう
三.新島真並びに注意する
四.真さんにお嬢様の事を話したのは失敗でした……
※ナギとの誤解が解ける前からの参戦です。(咲夜から初柴ヒスイの名を聞かされています)
※新島真は暗所恐怖症だと勘違いしています。

【デュラハン号@はたらく魔王さま!】
岩永琴子に支給されたボロい自転車。真奥貞夫の扱うサイズであるため、岩永が運転することはできない。

【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康 義眼/義足装着
[装備]:怪盗紳士ステッキ@ペルソナ5 ピノッキオの隕石@虚構推理
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:秩序に反する殺し合いを許容しない
一.不死者を交えての殺し合いの意味は?
二.九郎先輩と合流したい。
三.急ぎ、負け犬公園へ向かう。
四.新島真に注意する。(乗っていないメンバーから詳しい話を聞きたい)
五.さて……次、彼女と対峙したらどうしましょうか……(彼女の持つ力を危険視)
※綾崎ハヤテと三千院ナギの関係について大体を聞きました。
※鋼人七瀬を消し去った後からの参戦です。
※この会場がパレスと呼ばれる認知の世界が混ざっていると知りました。
※新島真は暗所恐怖症だと勘違いしています。
※新島真ならびに正義の怪盗団は何かしらの異能の力を有しているのではと推測しています。

【怪盗紳士ステッキ@ペルソナ5】
岩永琴子に支給されたステッキ。これを用いて攻撃すると稀に何らかの状態異常付与の効果がある。

【電撃を放つ隕石@虚構推理】
岩永琴子に支給された隕石。五センチ大の黒い石。かつて”キノッピオ”これを用いて攻撃すると周囲に電撃を放つ効果がある。威力は一撃で死なないように抑えられている。

☆彡 ☆彡 ☆彡

457 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/18(日) 18:47:51 ID:dm0p2SwI0
―――カランカラン。

「はぁ……はぁ……」
息絶え絶えになりながらも、ルブランから退出することができた真。

「引き出す……つもりが、逆に引き出されるなんて……ッ!」
迂闊だった―――
上手く情報を引き出して始末するつもりが、蓋を開けてみれば、自分の情報を引き出されただけに等しい結果となってしまった―――

「ヨハンナッ!!!」
真の呼びかけにペルソナがその場に出現し―――それに跨る。

(だけど、どうして私が乗っていると気づいたのかしら……?気づかれるようなことは話してはいないはず……)
真は岩永の不意の宣告に疑問を抱く。

「どちらにせよ、この体たらくじゃ怪盗団のブレーンを名乗ることはできなくなるわッ!」
(おそらく、お嬢様を探す彼のゆかりの場所……負け犬公園へ向かっているはず!)

居場所を守るため、血で汚す道を選んだ自分のケツイを否定した女。
許すわけにはいかない―――

ブロロロロ―――ッ!!!!!

バイクに乗り、追いかける。
2人の口を封じるために―――
受け入れてくれる自分の居場所を守るために―――

【E-5/純喫茶ルブラン前/一日目 早朝】

【新島真@ペルソナ5】
[状態]:健康 焦り(大) 自分への怒り(大)
[装備]:アーザードの聖法衣@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0〜3) 影山律の不明支給品(0〜1) さやかのバット@魔法少女まどか☆マギカ マグロバーガー@はたらく魔王さま!×2
[思考・状況]
基本行動方針:心の怪盗団のメンバー以外を殺し、心の怪盗団の脱出の役に立つ。
1.双葉……頼んだわよ……。
2.明智を見つけたら、殺して自分の罪を被ってもらおう。
3.急ぎ、負け犬公園へ向かい2人(ハヤテ、琴子)を探し出し、殺す。
※ニイジマ・パレス攻略途中からの参戦です。
※ハヤテの探し人(三千院ナギ)を知りました。
※ハヤテ・岩永の関係する場所を知りました。

【支給品紹介】

【アーザードの聖法衣@小林さんちのメイドラゴン】
影山律に支給された防具。本来はドラゴンの攻撃を通さない性質を持つが、パレス内ではドラゴンの攻撃の軽減程度に抑えられている。

【さやかのバット@魔法少女まどか☆マギカ】
影山律に支給された武器。第2話でゲルトルートと戦いに行く前に巴マミの魔力によって強化された。

【マグロバーガー@はたらく魔王さま!】
マグロナルド幡ヶ谷駅前店で参加者1人につき1個テイクアウトできる。魚介類のマグロは入っていない。パレス内では微小なHP回復効果がある。認知存在の店員が具体的に誰の姿をしているのかは以降の描写にお任せ。

458 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/18(日) 18:48:06 ID:dm0p2SwI0
修正の投下を終わります。

459 ◆2zEnKfaCDc:2021/07/18(日) 22:05:07 ID:M4uyxrPk0
修正投下お疲れ様です。クイーンが弱ったおじいちゃんと同じオーラを纏ってしまった……!

律の側も真を殺そうとしていたので神の視点ではある程度免責できていた真ですが、ここでハヤテたちを付け狙うことでズルズルと戻れなくなってきているように見えますね。真は動揺に弱いタイプですがまだペルソナ勢は誰も退場していない。バイクレースで精神的に優位に立てるのがどちらなのか、先が楽しみです。

マリア、真奥貞夫で予約します。

460 ◆2zEnKfaCDc:2021/07/20(火) 22:27:22 ID:iMlYWmW60
投下します。

461Made in Fiction ◆2zEnKfaCDc:2021/07/20(火) 22:28:18 ID:iMlYWmW60
「どういう状況だよ……。」

 真奥は眼前に広がる光景にただただ困惑を吐き捨てる。視線の先には、一人の少女。訪れた真奥に対し怯えの表情を見せる。一目見るや、その少女の全身を包むクラシックなメイド服はとりわけ異質に映った。奉仕の精神の現れながらも通常の飲食店の店員服と一線を画すその衣装は、日本の基準で言えばコスプレに近い。それを身に纏いこの地に存在すること、それ自体が異常な光景ではあった。

 だが、真奥の心を乱したのはそれのみではなかった。温泉旅館に入った途端に目に付いたメイド服の少女――マリアは、手脚を縛られた状態でそこにいたのだ。

(罠にしか見えねえ……だが、どういう類の罠だ?)

 非現実的な出来事の裏には何かの思惑を疑うのが定石だ。現代日本で男所帯の世話を焼いてきた和装美人が予想通りスパイであったように、メイド服の美少女が温泉旅館で縛られて助けを求めているなど現実離れも甚だしい。

 だが、罠が疑わしくとも見捨てるという選択肢は真奥にはない。本当に助けを求めている可能性もゼロではないし、もし本人や第三者の思惑が潜んでいるのなら、その思惑を引きずり出して根源をとっちめるのが真奥の性分だ。

「た、助けてもらえませんか……?」

 対して、罠も奥の手もなく、半ば終わりを悟ったような顔で真奥の顔色を伺うマリア。

 気絶から目を覚ましてみれば、縛られた上で放置されていた。おそらくは襲撃に失敗した竜司や歩の仕業だろう。

 そして間もなくして、Tシャツとパンツ姿の青年、真奥が訪れる。その姿にギョッとさせられるが、そんなことを気にしている場合ではない。もしも真奥が殺し合いに乗っていたら、自身の現状はまさに絶好の餌でしかない。最悪の場合、殺されるに留まらず慰みものとなる恐れすらある。この出会いが吉と出るか凶と出るか、確定するのは真奥の次の出方ひとつ。マリアが肩唾を飲んで見据える中、真奥はのそのそとマリアへと近づいていく。

 次にマリアの身体へと伸びるであろうその手が、いかなる意図に基づくのか。覚悟を決めて、マリアは目を閉じた。

「その前に、何があったのか話しな。」

「……え?」

「お前を縛った奴が殺し合いに乗っているなら、今ごろお前は死んでるはずだ。現にそうなっていないのには理由があるはずだろ。」

(っ……! しまった、考えていませんでしたわっ……!)

 真奥の警戒はもっともだ。マリアの現状は、ゲームに乗っていない西沢歩と坂本竜司の両名を殺そうとし、それに失敗したという奇怪な巡り合わせの果てにある。生殺与奪の権利を握られながらも存命している以上、自身が単に被害者でしかないと言いくるめるのはかなり無理がある現状にマリアは気付く。

「ええっと……。」

 その天才的な頭脳をフル回転させ、刹那の時間、言い訳を思考するマリア。

 冷静に、現状を分析する。竜司への襲撃に失敗し、気絶に至ったのは服を脱いで温泉に入っている最中だ。実際に今着ている服は歩から着せられたものであり、着衣の乱れも少なからず出ている。それならば、命ではなく身体目当ての変質者の犯行に仕立てあげてもいいだろう。

462Made in Fiction ◆2zEnKfaCDc:2021/07/20(火) 22:29:11 ID:iMlYWmW60
 だが、問題は誰を犯人に仕立て上げるかということ。ここで適当な男の名を名簿から見繕って犯人として挙げてしまえば、真奥の知り合いを摘発してしまいかねない。その人物の言動や特徴について何も話せない以上、それは真奥の信頼を勝ち取る意味で最も避けたいことである。

 しかし交友関係を全て把握しているわけではないとはいえ、真奥の知り合いでないと思われる人物なら何人か知っている。そう、マリアの知り合いたちだ。その殆どは女の子であるが――たった一人、男の子の知り合いがこの世界に呼ばれている。ああ、そうだ。綾崎ハヤテ――彼ならば行動を偽証しても真奥に不信感を持たれる可能性は低く、整合性も取りやすい。それに何といっても、彼には三千院家の女湯に突撃した前科もある。

 真奥の信頼を勝ち取ることのみを考えるなら、ハヤテの名を出すのが最善。その思考に至った末に、マリアは語り始める。

「実は……私を縛ったのは私の知り合いだったのですわ。」

 話すまでに多少の時間を要したことも、嘘を考える時間ではなく知り合いを告発することへの躊躇いであると言い訳できる。虚構を騙る土台は整っていた。

「それは……複雑だな。で、それは誰なんだ?」

 悲しそうな顔を演じながら、マリアはその名を提示する。

「――西沢歩。普通の女の子です。」

463Made in Fiction ◆2zEnKfaCDc:2021/07/20(火) 22:30:05 ID:iMlYWmW60

 真奥はペラペラと名簿を捲り、間もなくして、この子か、と顔写真をマリアに突き付けた。マリアは無言で頷く。

 ナギを生還させる、それがマリアの願いだ。だけど、ハヤテはナギに人生を救われた恩義がある。雇用契約に基づく主従関係やねじれた恋愛関係を抜きにしても、ハヤテはナギを見捨てない。仮にナギが死んでハヤテが優勝したとしても、ハヤテはナギの蘇生を願うだろう。つまりここでハヤテの悪評を流すことは、ハヤテの生還率の低下、さしあたってはナギの生還の可否に直接関わってくる。多少、自分が不利な位置に立ったとしても、ここで語る嘘の物語は、決して彼を貶めるものであってはならないのだ。

「おそらくあちらの料理に、睡眠薬を盛られたのだと思いますわ。かねてより仲良くしていた西沢さんだったから信頼して食べて……私の記憶はそこで途切れました。」

 縛られた後ろ手で、何とか料理を指さすマリア。歩に食べてもらう予定だったその料理には致死性の毒を盛っているが、当然それは隠さなくてはならない。

 実際は竜司の使った魔法によって気絶させられ、そのまま拘束を受けたマリア。しかしマリアの説明では、体格差のない少女に拘束を受けていることになる。それならば、それを許す程度の昏倒の原因を何かに見出すことは必須である。そこに竜司の絡む風呂場での出来事は絡められないために、実際に食べてはならない料理の内容を睡眠薬入りであると偽った。

「そして気付けば縛られた上で、支給品を全部奪われていました。……おそらくですが、仮にもお友達でしたもの。西沢さんは……私に直接手を下す覚悟まではなかったのだと思いますわ。」

 歩がマリアに手心を加えたことに一切の偽りはない。仮に真奥が自分の預かり知らぬところでの歩の知り合いだったとしても、歩の行動として殊更不自然に映ることはないだろう。

 また、竜司の存在は隠しておくことにした。歩が殺し合いに乗っていることを語る上で、歩に同行者がいるという事実は不都合でしかない。歩の名を出した際に名簿から歩の顔を探していた辺り、真奥はここに来る前に二人と接触したわけでもないようだ。それならば、真奥は真実を知り得ない。竜司のことは話さない方がいいだろう。

(……なるほどな。確かに筋は通っちゃいる。)

 真奥もまた、考えていた。マリアの話を嘘だと断定できる根拠がない。だが、全て真実だと盲信するほど単純でもない。

 ひとつ気になるとすれば、旅館内から感じた魔力の残滓。何かしらの魔法戦闘がこの旅館内で行われたことは分かるが――しかしその主はマリアではない。だとすれば、マリアと歩の訪問前に戦闘があったと見るべきか。

 マリアの話には、魔法を扱う余地がない。料理を食べている途中に催眠魔法を受けて眠り、それを睡眠薬と勘違いしたという可能性も、魔力の残滓のある場所が温泉内であることから否定できる。

464Made in Fiction ◆2zEnKfaCDc:2021/07/20(火) 22:31:44 ID:iMlYWmW60
(分からねえ、ひとまずは保留だな。)

 浮かんだ疑問は保留し、しかしもう一点、ツッコミを入れずにはいられない箇所がある。

「……ところで、何でメイド服なんだ?」

「……何か問題でもありまして?」

「え?ㅤああ、いや、別にいいならいいんだけどさ。」

「というか下着姿の貴方に服装をどうこう言われたくありませんわ。」

 結局、真奥の疑問に対しマリアから飛んできたのは正論のみ。

「まあいっか。とりあえずこのロープはほどいてやるよ。」

「あら……ありがとうございます♡」

 腹黒さを隠した微笑みと共に答えるマリア。その眼前へと真奥は平手を突き出し、制止のポーズをとる。

「勘違いすんな、俺はまだお前を完全には信用しちゃいねえ。例えばお前が歩って子を殺そうとして返り討ちにあった可能性だって残ってるからな。」

 マリアは内心どきりとし、反論する。

「わ、私はそんなこと――」

「おっと、気を悪くしたならすまない。ただ、善人ヅラして他人を騙そうとする奴ってのはいるからな。もしお前がそういう奴だった時のために釘は刺しておきたかっただけだ。」

「……でも、私が言うのも何ですが……それなら最初から助けない方がいいんじゃありません?」

「別に俺は、仮にお前が誰かを殺していたとしても見捨てるつもりはねえよ。」

「……え?」

 ここまでの心理戦がすべて茶番と化すひと言を、真奥は紡いだ。茫然とするマリアをよそ目に真奥は続ける。その声が少し震えていることに、マリアは気付く。

「……そもそも俺は、他人の悪を裁けるような奴じゃねえ。そう言えるくらいにはたくさんの命を犠牲にしてきたんだ。こんな悪趣味な催しに呼ばれるのも仕方ないんだろうよ。」

 エンテ・イスラにおける人間と悪魔の戦争。その中で悪魔の頭領格だった真奥――魔王サタンの判断により犠牲となった者は数え切れない。魔界の民を死地へと送り込み、人間も悪魔も、多くの命を失わせた。

 不要な戦いだったとは言わない。魔界の存続のためには侵攻以外に道などなかった。だが、共同体を築き集団の中に生きる人間という生物を理解せぬままに判断を下し、そのせいで失われた命があること、それもまた事実。

「だから俺は……もう無駄に命を散らしたくないんだ。お前が例えどんな奴だろうと助けるし……そんで姫神はぶっ倒す!」

 姫神に殺し合いを命じられた時、真奥はふと思った。自分は姫神と同じなのではないか。エンテ・イスラに送り込んだ魔界の民も、侵略を受けた人間たちも、きっと自分に『殺し合い』を命じられたに等しかったのではないか――

 そんな想いはすぐに吹き飛んだ――少女の首とともに。まるで舞台装置を起動させるかのごとく消された命。姫神に一切の躊躇は感じられなかった。

 確かに自分は悪党だ。己が野望を貫き通すために他人を踏みにじることすら厭わぬ邪悪だ。だけど、関係のない人物をも巻き込みながら、心も痛めないほど腐ってはいない。奪った命と向き合うこともしない姫神とは根本的に悪のあり方が違う。

「……さて、こんなもんか?」

「ふぅ……ありがとうございます。」

 そして、間もなくマリアの拘束は解かれた。

 しかし、喜んでもいられない。誰も死なせず殺し合いからの脱出に臨む真奥の掲げる理想は、確かにマリアの願いとも反しない。自分もナギもハヤテも、他の知り合いの皆も、誰も死なずに帰れるのならそれに越したことはないだろう。だが、所詮それは理想に過ぎない。脱出の宛もなく、やはり最後の一人になるまで殺し合わなくてはならなくなる可能性の方が十全に高い現状は何も変わっていない。むしろ、姫神の執事としての采配の良さを知るマリアだからこそ、脱出の余地は無いとすら思っている。

 仮に自分が危険人物であっても助けると断言した真奥。それは、自分のみならずナギを殺しかねない思想の人物まで助けるということ。それは決してマリアの決意とは相容れない信念。

465Made in Fiction ◆2zEnKfaCDc:2021/07/20(火) 22:33:04 ID:iMlYWmW60
(この方も殺さなくてはなりませんが……しかし、手段がありませんわね。)

 凶器となり得るものは歩と竜司に没収されている上、唯一殺傷力のある毒入りの料理も睡眠薬入りであると説明している。仮に説明しておらずとも、そもそも真奥が自分を警戒している以上食べさせるのは難しいだろう。

(料理といえば……)

 思い出したようにマリアは先ほど自分が作った料理の方に向き直る。致死毒の混入したあの料理を放置するわけにはいかない。

 普通に考えて、殺し合いの世界に放置された料理を食べる者はいない。だが、作ったのは三千院家でも振舞ったことがある盛り付けの料理だ。その料理の作り手が誰だか分かる人は存在する。そう、絶対に死なれるわけにはいかないハヤテとナギは、あの料理を自分が作ったと理解し、そして信頼の上で口にする可能性があるのだ。

(睡眠薬は咄嗟のでまかせでしたが……料理を処分する口実ができただけ悪くない嘘だったかも。)

 毒入りの料理と、カモフラージュに用意した普通の料理の両方をごみ箱に流し込む。その手際の良さに真奥はマリアの様子を訝しげな目で見るが、特にそれ以上の詮索は無かった。

「とりあえずお前はその歩って奴以外はこの旅館で見てないってことでいいんだな?」

「ええ。私がここに来たのはゲーム開始から数時間後ですので、それ以前は分かりませんが……。」

 真奥は小さくため息をつく。竜司と出会える手がかりがようやく見つかったと思ったところでのニアミスだ。

 彼は明確に、姫神への反逆を示した人物だ。姫神打倒に力を貸してくれる可能性が高い。だが――真奥は知っている。自分のせいで失われた命というものが、呪いのようにまとわりつくものであると。

 何らかの形でケジメをつけなくては、その呪いは終わらない。それができるのは、きっと死んだあの子と最も深く関わってきた自分しかいないだろうから。

 だから、竜司と出会ったらぶん殴る。これで手打ちだ、と言えるように。彼が、失われた命と前向きに向き合えるように。そして共に、ちーちゃんの真の仇である姫神を倒すために。

(エミリア。お前も死ぬんじゃねえぞ。俺はまだ、お前に斬られちゃいねえんだからさ。)

 その祈りは、届かない。間もなく、彼はそれを思い知ることとなる。

「そんじゃ、これ以上この旅館を探しても意味は無さそうだな。行くとするか。」

「そうですわね。行くアテはあるんですか?」

「いや、特にねえけど……できれば人が集まる中心部の方がいいな。」

「でしたら、見滝原中学校なんていかがです? 学校となれば設備も充実しているでしょうし、ここのような辺境に比べれば人も集まりやすいのでは。」

 人が集まるために中央に向かうのであれば、負け犬公園が筆頭候補だ。だが、そこはナギとハヤテが出会った場所。思い出の地として、二人が目指していてもおかしくない。二人ともこんな殺し合いに乗るような性格ではないから、きっと自分の行いに反対する。そうなれば、殺人のために動きにくくなるのは間違いない。

 あえて別の目的地を設定し、真奥や他の参加者を殺せる隙を伺うとしよう。今はまだ警戒されていて武器もない状況だが、気を待てばチャンスは必ず訪れる。

(私は裏で人数を減らしますので……ハヤテくん、どうかナギをお願いしますね。)

「そうだな……よし!ㅤとりあえず見滝原中学校ってとこに向かうとするか!」

「あの……いい加減服を着ませんか?」

【B-5/温泉/一日目 早朝】
※マリアが作った料理はゴミ箱の中に捨てられました。

【マリア@ハヤテのごとく!】
[状態]:負傷(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:三千院ナギ@ハヤテのごとく!を優勝させる。
一.真奥に着いていき、殺せる機会を待つ。
二.姫神くん、一体何が目的なの?
※メイドを辞めて三千院家を出ていった直後からの参戦です。

【真奥貞夫@はたらく魔王さま】
[状態]:健康 右ほほ腫れ 
[装備]:Tシャツにパンツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(本人確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神にケジメをとらせる
一.見滝原中学校に向かう。
二.マリアを警戒(基本的に信じるが、鵜呑みにはしない程度)。
三.パレスについて知っている参加者を探す。ついでに服を調達するか…
四.坂本に会ったら、一発殴る
※参戦時期はサリエリ戦後からアラス・ラムスに出会う前
※会場内で、魔力を吸収できることに気づきました。
空間転移…同一エリア内のみの移動 エリア間移動(A6→A1)などはできない。
ゲート…開くことができるが、会場内の何処かに繋がるのみ。
魔力結界…使用できない。
催眠魔術…精神が弱っている場合のみ効果が効く。

466 ◆2zEnKfaCDc:2021/07/20(火) 22:33:32 ID:iMlYWmW60
投下完了しました。

467 ◆2zEnKfaCDc:2021/07/20(火) 23:45:17 ID:iMlYWmW60
【お知らせ】
現段階で早朝に到達していない組み合わせはいくつかありますが、それぞれの状況を見て、黎明〜第一回放送の二時間ほどの間に何かしら動きがないと不自然な『マミVS鈴乃』『ヒナギク達6人』の2箇所における時間帯「早朝」の話が投下され次第、第一回放送を投下しようと思います。

もちろん、その他の箇所の話の投下も歓迎します。
それでは、これからもよろしくお願いします。

468 ◆RTn9vPakQY:2021/07/21(水) 14:44:01 ID:rche79G.0
明智吾郎 予約させて頂きます。

469名無しさん:2021/07/24(土) 15:41:17 ID:9CBeEcWo0
>>466
新作乙であります
奉仕対象の安全を冷静に考え窮地を脱したマリアさん流石
天才肌でマーダーでありながらも一般人に近しい立場の少女としての心理描写に引き込まれました
真奥の過去から来る苦みと信念も痛いほど伝わり行動原理が改めて気持ちいいくらい解りやすかったです
それとは別に下着姿なのが知っていても気になるw

470 ◆s5tC4j7VZY:2021/07/27(火) 18:50:46 ID:4Y3c/vhw0
投下お疲れ様です!

Made in Fiction
不審に思われる状況からの切り替えしは流石はマリアさん!
そして、自分の過去から殺しに乗っていても見捨てずに助けようとする。それでいて悪党でも姫神と自分は違う!と真奥のカッコよさが凄く感じられました。
「そうだな……よし!ㅤとりあえず見滝原中学校ってとこに向かうとするか!」

「あの……いい加減服を着ませんか?」
↑いや、もうこのやり取り、脳内再生バッチリです(笑)

感想有難うございます。

岩永琴子の華麗なる推理
ハヤテと真のバイクレースが脳内に浮かびまして、こうした話にしようと書きました。
真は怪盗という場を守るために殺しを選んじゃったので、会社や家族を守るために怪異にたよっちゃった音無会長と似ているなと個人的に思ったので、オーラを纏わせちゃいました。
ただ、純粋に戦闘能力は真の方が上なので、果たしておひいさまとハヤテの命運は!と自分でもハラハラしております。

471 ◆RTn9vPakQY:2021/07/29(木) 01:47:31 ID:AxbMRr4w0
遅くなりましたが投下します。

472考える葦 ◆RTn9vPakQY:2021/07/29(木) 01:48:38 ID:AxbMRr4w0
「ここが展望台か」

 遊佐恵美の精神を暴走させた明智吾郎は、その後エリア内にある展望台を訪れていた。
 外観は茶色い円筒状のタワーで、入口の自動ドアの上部には、いかにも観光施設らしい、カラフルな丸ゴシック体で書かれた『はざま展望台』という看板が掲げられている。
 高さは目測でマンションの二階程度。展望台の周辺はなだらかな傾斜が付いていることを含めて考えると、最上階は地上から十メートル弱。それだけの高さがあれば、周辺のエリアはほとんど見渡せるはずだ。

「待ち伏せや罠の類はなさそうかな」

 呟きながら、入口のまわりに参加者の痕跡がないかを確認し、中へと入る。
 温かみのある茶色を基調とした内装は、殺し合いとはまったく無縁な雰囲気で、明智は拍子抜けした。
 展望台は二階建てで、一階は休憩スペースとしてソファが数脚と観賞用の熱帯魚が泳いでいる水槽、そして自動販売機が置かれていた。
 入口の反対側にはエレベーターと階段があり、そこを上がると二階の展望スペースだ。
 室内はほとんどの壁がガラス張りで、全方位を見渡せる設計となっている。

「ご丁寧に、望遠鏡まで完備されているとはね」

 さらに東西南北に備え付けられた望遠鏡を用いることで、二つ隣のエリアまでも視野に入れることができた。
 草木や建造物などの障害がなければ、一方的に参加者を観察することも可能である。
 まさに人探しにはうってつけの施設だ。

「……まあ、僕には探し人はいないけど」

 是が非でも殺したい相手はいる。
 しかし、その相手をわざわざ探して出向くことはないと、明智は考えていた。
 心の怪盗団のリーダー、ジョーカーこと雨宮蓮とは、この殺し合いにおいても必ず邂逅することになる。
 理知的な探偵らしからぬ第六感めいた発想が、明智の脳内に生まれていた。





 ひとしきり展望台の内部を視察した明智は、再び二階へと戻ってきた。
 これといった収穫がなかった苛立ちは露ほども見せずに、明智は中央のソファに腰掛ける。その手には階下の自動販売機から拝借した、コーヒーのペットボトルが握られていた。
 派手な仮面を外し、くるくるとペットボトルの蓋を開けて中身を口に含む。毒物が混入されていないことは、水槽の熱帯魚で実証済みだ。おかげでクリアな水を幾分か濁らせてしまったが、これも安全のためなので仕方がない。
 一息つくと、壁に掛けられたアナログ時計を見る。

「ふむ……」

 放送まで残り三十分。明智はこの放送で得られる情報を重要視していた。
 もちろん、放送により基本的な方針――殺し合いで優勝するという決意――が変わるわけではない。
 考慮するべきなのは六時間で脱落した人数と、そこから推察される殺し合いに肯定的な参加者の人数だ。
 自らも殺し合いに肯定的な明智としては、それが多いほど都合が良い。

「さすがにゼロではないと思うけど……八人くらいはいて欲しいね」

 全参加者の約二割。それが明智の予想する脱落者の人数だ。
 そして、殺し合いに肯定的な参加者も、同じく二割かそれ以上いると明智は予想した。
 二割“以上”としたのは、明智自身のように優勝する意志はあれども、いまだ殺害には至らない参加者もいると考えたからだ。

「というより、いてくれないと困る」

 先の予想には、多分に明智の希望的観測が含まれている。
 単純な話、殺し合いに肯定的な参加者が少ないということは、殺し合いに否定的な参加者が多いことになる。
 優勝するためには全ての参加者を殺害する必要があり、それを一人で成し遂げられると空想するほど、明智はうぬぼれていない。
 ゆえに、明智は脱落者の多さに期待していた。

473考える葦 ◆RTn9vPakQY:2021/07/29(木) 01:49:23 ID:AxbMRr4w0
「まず間違いなく、心の怪盗団の偽善者どもは、殺し合いには乗らないだろうな。
 それにあの女の話では、エンテ・イスラとやらの関係者も殺し合いに乗ることはなさそうな口ぶりだった」

 顔写真つきの名簿を眺めながら、明智は苦々しく顔を歪めた。
 明智が危惧するのは、殺し合いに否定的な参加者たちが徒党を組むことだ。
 怪盗団のリーダーである雨宮蓮や、魔王サタンの人間体である真奥貞夫のような実力者が、主催者に対抗するグループを作り上げるために、仲間を増やそうと画策することは想像に難くない。
 そうなれば、単独で優勝を目指す明智は、必然的にそのグループと対立せざるを得ない。
 仲間のフリをして潜入した怪盗団のメンバーに引けを取るつもりは毛頭ないが、なにしろ異世界出身の参加者の実力は未知数なのである。遊佐に勝利したからといって、エンテ・イスラの関係者を過小評価するのは早計だ。同様の理由で、まだ素性の知らない参加者も軽視はできない。
 それゆえに、明智は遊佐に対して強者の数を減らしてくれることを期待していた。

「ん?」

 そのとき視界の端に捉えた、紅い光の奔流。
 思索を止めて、壁際に近づく。展望台からほど近い場所で、光の残滓が煌めいていた。
 遠くからでも凄まじい威力だとうかがえるその正体が、つい先程まで対峙していた相手の技だと思い当たり、明智は嗤いを抑えきれない。

「フフ……その調子だよ」

 堕ちた女勇者は、順調に暴れてくれているらしい。
 精神暴走がどこまで続くかは不明だが、せいぜい場を荒らしてくれることを祈るのみだ。

「さて、どうしたものかな」

 再びソファに腰掛けて、明智は顎に手を当てた。
 このまま展望台で待ち構えて、訪れた参加者を殺害するのも一つの手だ。しかし、それではいささか消極的といえる。
 心の怪盗団は明智からすれば烏合の衆だが、それでも徒党を組まれると厄介ではある。
 そして、時間が経てば経つほど、集団が大きくなる可能性は高まる。

「希望的観測を持つよりは、自ら行動あるべし……かな?」

 疑問形にしつつも、明智の心意は定まりつつあった。
 暴走した遊佐や、その他の積極的な参加者に期待するばかりでは始まらない。ひとまず展望台から離れて、参加者たちが徒党を組む前に見つけて叩く。できれば障害となる怪盗団のメンバーを優先的に潰しておきたい。
 おそらくメンバーからは明智の悪評が流されているだろうが、その程度は明智の頭脳を以てすればいくらでも誤魔化す自信がある。

「……それにしても」

 明智は名簿をザックへとしまい立ち上がると、中身を半分以上残したままのペットボトルを、手近なゴミ箱へと投げ入れた。
 ゴトンという鈍い音。ため息。そして、呟き。

「あそこのコーヒーには遠く及ばないね」


【E-3/展望台/一日目 早朝】
【明智吾郎@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:呪玩・刀@モブサイコ100 オルバ・メイヤーの拳銃(残弾数7)@はたらく魔王さま!
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに優勝する
一.雨宮蓮@ペルソナ5だけは今度こそこの手でブチ殺す。
二.少人数で動いている参加者を積極的に狙う。優先順位は怪盗団>その他。

※シドウ・パレス攻略中、獅童から邪魔者を消す命令を受けて雨宮蓮の生存に気付いた辺りからの参戦です。
※スキル『サマリカーム』には以下の制限がかかっています。
①『戦闘不能』を回復するスキルなので、死者の蘇生はできません。
②戦闘不能回復時のHPは、最大の1/4程度です。
③失った血液など、体力以外のものは戻りません。

474 ◆RTn9vPakQY:2021/07/29(木) 01:49:50 ID:AxbMRr4w0
投下終了です。

475 ◆2zEnKfaCDc:2021/07/29(木) 14:06:45 ID:3zWwPfgs0
投下お疲れ様です。
シュッと纏まっているのに詳細になされた展望台内部の情景描写に惹かれました。珈琲片手に座っている絵面や、遊佐と伊澄たちの戦闘を俯瞰していたことが明らかになったところなど、影で暗躍している感がいっそう増していますね。それでいて自らも積極的に動こうとしているあたり、どことなくシドウパレスの明智らしい。

>>「あそこのコーヒーには遠く及ばないね」
この台詞、ルブランでのひと時への明智の想いが滲み出ていてすごく好きです。

476 ◆2zEnKfaCDc:2021/08/02(月) 01:57:33 ID:n/ot0kd20
初柴ヒスイ、桜川九郎で予約します。

477 ◆2zEnKfaCDc:2021/08/02(月) 14:34:00 ID:n/ot0kd20
投下します。

478人と妖怪の狭間を語ろう ◆2zEnKfaCDc:2021/08/02(月) 14:35:11 ID:n/ot0kd20
 逃げるでもなく隠れるでもなく、少女は一本の刀を手にそこに立っていた。

(邂逅を恐れているわけではないみたいだけど……)

 強引に殺し合いに巻き込まれた状況には到底そぐわぬその有り様に、桜川九郎は訝しげに目を細める。

(ああ、それは僕にも言えることか。)

 何にせよ、殺し合いを命じられている中でも冷静に話ができるのならそれに越したことはない。無害をアピールしながら正面から歩いていく。

「……つまらんな。」

 そして、少女は一言呟く。

「烏間という男も、久しぶりに出会ったナギも、モルガナとかいう猫も。未だ私を殺そうとする者とは一人も出会えていない。それに続いて、お前もか。」

 面白くなさそうに、少女――初柴ヒスイは刀を抜く。同時に、刀より流れ込む魔力が想像を絶する苦痛をもたらす。対面する九郎もそれに気付かぬほどに、ヒスイは苦しみを表に出さない。気付くのは、その刀にべっとりと染み付いた血の跡のみ。

「……君は、その出会ってきた人たちをどうしたんだ?」

 答えは想像がつく。刀の血の意味が分からない九郎ではない。だが、それでも一片の希望に縋り、聞かなくてはならない。

「一人は殺したよ。残りは……おそらくは生きているだろうが。」

 ナギを見逃したことを、どことなく自嘲気味に笑うヒスイ。しかし殺しへの躊躇いも、後悔も、その語り方からは感じ取れない。むしろ戦いそのものを楽しんでいるかのような語り口だ。

 九郎の目から見ても、ヒスイは倫理観のタガが外れていた。説得することも、おそらくは難しいだろう。

 刃を手にした殺人鬼を前にした状況であっても、九郎の心臓は平静時と変わらない拍子を刻んでいた。この殺し合いの世界で不死能力にいかなる制約が掛かっているかも分からないままだというのに、自分が死ぬというイメージがまったく湧いてこない。安易には死ねないと理解していながらも、死への恐怖という本能は俄然、喪失したままだ。

(……いや、本来はこっちが正しいのか……? 少なくともこの子は普通じゃないのだろうけど。)

 先ほど出会った鷺ノ宮伊澄という子にも、実際に自分は一度殺された。人魚とくだんの混じり物として彼女から見た自分が異形であったという特異な事情こそあれ、この世界に人が人を殺すのは珍しくもないということか。思えば、首輪で命を握られているのだから、主催者の言いなりになっても何らおかしくはないのだろう。

「それで……僕も殺すのかい?」

 ヒスイを試すように問い掛けた。彼女が優勝目当てならば、その答えは分かっている。

「――馬鹿を言うなよ。時間の無駄だ。」

 しかし返ってきたのは、そんな九郎の予測と真逆の答えだった。

 殺し合いに乗っていない者も殺したと語ったヒスイ。しかしその殺意の矛先は、九郎には向いていない。その矛盾に、九郎は首を傾げる。

「賭け事は、財が有限であればこそ成立する。ベットに値する命をお前は持っていないだろう?」

 風ひとつない空間に、ざあと音が聞こえた気がした。ヒスイの答えに、心がざわつかずにいられなかった。

479人と妖怪の狭間を語ろう ◆2zEnKfaCDc:2021/08/02(月) 14:36:05 ID:n/ot0kd20
「君は何故、僕の体質のことを知っている? もしかして――」

 ヒスイが出会ったと語った者たちの名に、岩永や紗季さんの名は無かった。仮に出会っていたとしても、ヒスイのような危険思想の持ち主に易々と自分の情報を流す二人ではない。だとすれば、心当たりはただ一人。桜川家の事情を知っており、この殺し合いの裏にいると確信を持っている人物――

「――悪いけど、こちらは君を逃がすわけにはいかなくなったようだ。」

 彼女に桜川六花との交流があるのだとしたら、この殺し合いの打破にも繋がる情報を持っているかもしれない。簡単に口を割る人物でないのはここまでのやり取りでもわかる。それでも、ヒスイには聞きたいことが山ほどある。

「はっ! 枯れたネズミだと思っていたが、いい顔をするじゃないか!」

 六花から、九郎の体質のことなどヒスイは聞かされていない。それでも、ヒスイの洞察力を持ってすればその体が人間のそれとまったく異なることとて理解は容易い。そこに一切の理屈などない。ただ、運命がヒスイを選んでいるかのごとく、正の結果が先行するのみ。

(そんなにもあの女のことが憎いのか。もしくは――まあ、どうでもいいか。)

 しかし九郎がヒスイに見出した六花との繋がりにも、何ら誤りはない。ヒスイから情報を引き出すことが可能であるならば、この殺し合いの裏側に接近できることも十全に正しい。

 ようやく降って湧いた手がかり。未来決定能力が機能しておらずとも、必ず掴み取る。刀に対しても臆することなく、九郎はヒスイへと向かっていく。

「だが言っただろう、時間の無駄だと。お前に構っている暇はないんだよ!」

「ッ……!?」

 次の瞬間、九郎の身体は宙に浮いていた。

 ヒスイの背後に突如として顕現した異形――法仙夜空より高速で放たれた拳にその身を打たれ、吹き飛ばされていく。

 何が起こったのかすら理解が追いつかぬままに、九郎の身体は海へと落ちていった。

「ぶはっ!」

 水面から顔を出せば、港からそれを見下ろすヒスイと目が合った。

「王が未来を決定するのではない。」

 登り始めた朝日が後光となって、ヒスイの顔に刻まれた刀傷を照らし出した。干渉を許さず、そこに存在する絶対者。それはまさに、『王』と呼ぶに相応しい佇まいであった。

480人と妖怪の狭間を語ろう ◆2zEnKfaCDc:2021/08/02(月) 14:36:31 ID:n/ot0kd20
「勝利が約束されている者こそが王なのだ。お前も、桜川六花も、王の器には程遠い。」

「待っ――!」

 そして最後に、六花との関わりを仄めかしながら、ヒスイは背を向けて立ち去って行った。追おうにも、港と高低差のある海に落ちた以上、すぐには戻れない。

(くそ……ようやく、六花さんに続く手がかりを見つけたというのに……!)

 しばらくして、何とか港まで這い上がるも、その頃にはヒスイがどこに消えたか分からなくなっていた。とはいえ、ヒスイは人を殺す気だ。それならばきっと、これから向かう先は人の集まる中心部。少なくとも、岩永との合流を目指して向かっていた真倉坂市工事現場ではないだろう。

(岩永とも合流しなくてはならないが……むしろ積極的に殺し合いに乗る人物と出会いにくいであろう工事現場に向かっているなら安全か? それなら、僕が取るべき行動は……)

 仮に岩永にヒスイのことを伝えたとしたら、間違いなくヒスイを追うことになるだろう。そうなれば、ヒスイから彼女を守れる保証はない。現に今、自分はヒスイに触れることとて適わなかった。

(このまま単独で、あの子を追う!)

 九郎の目に、鈍い光が宿る。当てもなく殺し合いの世界をさまよっていたところに、突如として湧いた手がかり。それを掴む為ならば――きっと、この命を賭ける価値だって、あるだろうから。

【C-1/港/一日目 早朝】

【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康 全身が濡れている
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:初柴ヒスイを追う。
1.桜川六花の企みを阻止する。
2.もしかして不老不死にも何か制限がかけられているのか?
※件の能力が封じ込められていることを自覚しました。
※不老不死にも何か制限がかけられているのではないかと考えています。

【C-2/草原/一日目ㅤ早朝】

【初柴ヒスイ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:サタンの宝剣@はたらく魔王さま!
[道具]:法仙夜空@ハヤテのごとく! 武見内科医院薬セット@ペルソナ5 基本支給品×2 不明支給品(0〜2個)、烏間惟臣の不明支給品(0〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに勝利する。
1.次の闘いへ向かう
2.王となるのは私だ。
3.本当に、願いで死者さえも甦らせることができるのなら―――
4.次に出会ったときナギと決着をつける…どちらかの死で。
5. 誰が相手でも躊躇しない
※原作51巻、ハヤテから王玉を奪った後からの参戦です。

【支給品紹介】
【サタンの宝剣@はたらく魔王さま!】
エミリアが砕いたサタンの角からつくられた魔剣。真奥貞夫を魔王サタンの姿に戻すほどの魔力を宿しており、手にした者にその魔力を供給する。鞘に収まっている間は魔力の供給は起こらないが、常人には鞘から抜くことすらままならない。

【法仙夜空@ハヤテのごとく!】
ヒスイに力を授けるために英霊となった法仙夜空。すでにヒスイと融合しているが、天王州アテネと融合したキング・ミダスの英霊と同じように不可逆的な破壊が可能だと考えられるため、状態を整理しやすいように道具欄に記載してある。その形状は上段に人間のような二本の腕、下段に骸のような二本の腕であり、現在は下段の右腕が粉砕された。残りは3本

【武見内科医院薬セット@ペルソナ5】
武見妙が扱う医薬品。効果は確かに効く。
内訳 ナオール錠50mg×2 ダメージ・疲労を(低)回復させる
   ナオール錠100mg×2 ダメージ・疲労を(中)回復させる
   全快点滴パック×1 ダメージ・疲労を全回復させる※参加者との戦闘中は使用不可

481 ◆2zEnKfaCDc:2021/08/02(月) 14:36:48 ID:n/ot0kd20
投下完了しました。

482 ◆s5tC4j7VZY:2021/08/02(月) 19:15:58 ID:pi3Dtnp20
投下お疲れ様です!
考える葦
明智の心情がとてもよく伝わるお話で読んでいて勉強になりました。
「あそこのコーヒーには遠く及ばないね」
↑特に、ここの台詞は明智が一時とはいえ、あの場所を気に入っていたんだなと伝わりとても好きです。

人と妖怪の狭間を語ろう
さて、ヒスイは九郎君をどう対処するのかなと思っていたらなるほど!そうきたか!と息を呑みました。
登り始めた朝日が後光となって、ヒスイの顔に刻まれた刀傷を照らし出した。干渉を許さず、そこに存在する絶対者。それはまさに、『王』と呼ぶに相応しい佇まいであった。
↑ここの地の分、ヒスイの風格が実に感じられてとても好きです。
さて、九郎君はヒスイを止められるのか……次話以降が楽しみです。

483 ◆2zEnKfaCDc:2021/09/07(火) 15:44:03 ID:oMxiJfT60
桂ヒナギク、鎌月鈴乃、滝谷真、ファフニール、鹿目まどか、巴マミ、佐倉杏子、潮田渚、弓原紗季で予約します。

この話の後に第一回放送を投下しようと思います。(現状同時進行で書いているので、直後になるか時間を空けるかは進捗次第です)

484 ◆2zEnKfaCDc:2021/09/14(火) 15:37:40 ID:mVVOP2aE0
予約を延長します。

485 ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 10:30:32 ID:JgrdMADY0
投下します。

486Turning Points ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 10:31:50 ID:JgrdMADY0
「良かった、無事だったんだな。」

「……杏子ちゃん!」

 出会った集団の中に含まれていたまどかを見て、杏子はほっと安堵のため息をついた。

 魔女化の行方が気になっているさやか、まったくもって目的の読めないほむら、死んだはずのマミ――杏子の知り合いたちは再会に際し何かしらの不安材料を抱えている。そんな中でも純粋に再会を望めるのは、まどかただ一人だった。魔法少女としての実力を持たず、それでいて危険を顧みず戦いの場に出向くタチ。言葉を選ばず評すると、真っ先に死んでもおかしくないタイプだ。だからこそ、出会えたことは素直に喜ばしいことだ。

「おっと。」

 出会い頭に駆け寄ってくるまどかを杏子は制止する。きょとんとした顔持ちで向き直るまどかを見て、今度は侮蔑の意味を込めたため息をつく杏子。

「あのなぁ……あたしがどんな奴だったかもう忘れたのか? ここじゃ簡単に他人を信用するもんじゃないよ。」

「でも、杏子ちゃんは信用できるから。」

「……ちっ、チョーシ狂うぜ。ホントに分かってんのか?」

 元より、佐倉杏子という魔法少女は自分のために魔法を使うのだと公言してきた。信念を巡り、強制されるまでもなくさやかと殺し合いになったことだってある。己が損得勘定で他害すらも厭わない、佐倉杏子は行動原理の根底にエゴを見据えて評すべき人間だ。そして、まどかはそれを少なからず知っているのだ。

 文字通り命を懸けた決心に横やりを入れられ、姫神に対する怒りが先行した現状だからこそ殺し合いへの反逆を掲げている杏子であるが、仮に巡り合わせが少しズレていたら、今も殺し合いに乗っていたとしても、何らおかしくはない。そういう人間に対し――目の前のまどかは無条件に信頼を見せた。

 現に乗っていないのだから、自分のことは信頼してくれても構わない。だがまどかは、同じようにさやかもマミも、ほむらも信頼するのだろう。彼女たちの状況やスタンスの分からない今、それはまどかの命取りとなりかねない。そんな警告もかねて、まどかの額を指で小突く。それを受け照れくさそうに笑うまどかを見て、杏子はもう一度、様々な感情の入り混じったため息をついた。

(ま、合流できたことだし、こっからはあたしが気を付けてりゃいいか。)

 そんなまどかに絆された経験のある杏子としては、それがまどかの長所であることも知っている。性善説を抱いて他人と接するだけの人間であれば、ただの平和ボケだ。鹿目まどかという人間はそれだけでなく、他者に優しさを「伝達」できるという強さを持っている。根底の芯の強さに裏打ちされた真っすぐな言葉で、相手をも引き込んでしまう。

ㅤ彼女のそんな一面を変えてしまうよりは、危険人物への警戒の面では自分が仲介する方が良いと思えるし、何より手っ取り早い。

487Turning Points ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 10:33:48 ID:JgrdMADY0
「あなたが鹿目さんのお友達?」

「ん? ああ。」

 会話がひと段落したのを見計らってか、まどかの同行者三人の中の一人、桃色の髪の少女が杏子へと駆け寄ってくる。口ぶりから見るに、まどかから自分のことをすでに聞いているというところだろう。

「私は桂ヒナギク。白皇学院の生徒会長よ。」

「……佐倉杏子だ、よろしく。」

 ヒナギクの凛とした立ち振る舞いからは、気高さだけでなく頭の良さも感じ取れる。

(あたしもさやかのこととか色々と紗季さんに話しちゃいるけど……一方的に知られてるってのはちっとやりにくいもんだな。)

 元の世界での行いにどこか後ろめたさがあるからか、杏子は少しだけそう感じた。が、それだけではないことに気付く。

「なんだよ。あたしの顔に何かついてるか?」

 ヒナギクは、物珍しいものを見るかのようにじろじろと杏子の顔を凝視しているのだ。

「ああ、ごめんなさい。ただ鹿目さんから聞いた話と食い違うから……えっと……」

「……?」

 妙な話をするものだ、と杏子は首を傾げる。まどかと出会ってからまだほとんど会話をしていないし、その内容だって今までの自分と乖離したものでもなかったはずだ。一体何が、まどかの話と食い違うというのか。

 その答えは、どことなく気まずそうな表情をしたまどかの側から返ってきた。

「えっと……杏子ちゃん、どうして生き返ってるの……?」

 刹那、あまりの想定外の発言に思考が停止する。言葉の咀嚼が即座に追い付かなかった。何せ、生き返るということはすなわち死を前提としているわけで、そしてまどかは、"自分"に対して何故生き返っているのかを問うているわけで……

「……はぁぁぁ!?」

 その意味に到達するや否や、喉が張り裂けそうなくらい叫んだ。つまるところまどかは、自分が死んだと認識した上で話しているのだ。

488Turning Points ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 10:34:19 ID:JgrdMADY0
「ちょ、ちょっと待て。一体どういうことだ?」

「えっと……杏子ちゃんだけじゃなくてマミさんやさやかちゃんもだけど……どうしてなのかなって。」

「悪ぃ、順序を追って話してくれ。」

「うん。えっとね……」

 確かに、疑問はあった。死んだはずのマミに、魔女になったはずのさやか。この世界に、いるはずのない者が呼ばれているのは分かっていたのだ。しかしそれでも、自分は疑問を抱く側であると信じていた。まさか、自分もマミやさやかと同じ括りの、疑問を抱かれる側であるとは思っていなかった。

「んと……つまりまどかから見ればあたしは、数日前に死んだってことか?」

「うん……。」

 話を聞いてみると、自分は魔女となったさやかを道連れに自爆したとのこと。その物語は確かに、自分が辿ろうとしていた道だ。だが、それを決行に移した覚えはない。杏子はその直前に、この殺し合いに招かれたのだから。

「にわかにゃ信じられねーけど……嘘には聞こえねーしな。マミの奴やさやかがここにいるって事実とも合致するのは確かだ。だが……そうなるとあたしたちは別の時間から集められてるってことか?」

 これから反逆する主催者は、時間を超える力を持っているかもしれない。すなわち、もし上手く反逆の作戦が立てられても、全部なかったことにされる可能性すらあるということだ。

「別の時間……。」

「鹿目さん? 心当たりでもあるの?」

「……ええと。」

 脳裏に過ぎるのは、別の時間を生きているというほむらの言葉。

 みんなの命が失われていった中、彼女だけは最後までそこにいてくれた。でも、周りを拒んで独り走り続ける彼女の語る言葉は、頼りなくて。命なんて、簡単に掻き消えてしまいそうで。

「……いえ。分かりません。」

「そうよね。時間を超えるなんて、ネコ型ロボットじゃあるまいし……。」

 分かっている。自分だけでなく他の皆の命が懸かっているこの状況下、情報となり得るものは惜しまず出していくべきだ。それを理解した上で――ほむらの能力については黙っていることを選んだ。

 そもそもほむら自身がこの殺し合いに招かれていることや、ほむらへの信頼も含め、彼女の意思によって彼女がこの催しに関与しているとは思えない。そして何より、それがほむらの戦う理由だと、あの瞬間に分かったから――それは、不用意に踏み込んではならない領域だ。彼女が何を願ったのか、正確に理解しているわけではない。ただ、それがどんな願いであれ、人並みに傷付き、人並みに悲しむ一人の少女が、死と隣り合わせの戦いの宿命を受け入れてまで享受した願いであることに変わりはない。

 不用意に情報を流すことで、主催者との繋がりの疑念が生まれ、結果的にほむらに不利益が及ぶ可能性が、低いだろうがゼロではない。したがって、まどかは沈黙を選んだ。

489Turning Points ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 10:56:31 ID:JgrdMADY0


ㅤ杏子たちから少し離れ、紗季はひとり考え事に耽っていた。

 知人の情報を語った時の杏子が一般人であるまどかの身を案じていたのは自分も知るところだ。その再会にあえて水を差すつもりはない。杏子たちから一時的に離れていることに、そんな気持ちが含まれているのは確かだ。

(……なんて、空気を読んだだけならいいのだけれど。)

 本当は、自覚している。新しい恋人を作っていた九郎に深入りせぬよう、再会してからも一定の距離感を保っていたことにも、未知なるものを遠ざけようとする思惑が少なからず混じっていたことを。

 言ってしまえば、まだ怖いのだ。魔法少女という非現実に、ずぶずぶと深く関わっていく自分が。

 黄泉竈食という概念があるように、関わりを深めてしまえば、もう普通の人間には戻れないとでも思っているのだろうか。それとも、見知ったものが常世の理を変えてしまったあの時の得体の知れない恐怖を、もう知りたくないと身構えているのだろうか。

「――お互い、大変なことに巻き込まれたものですね。」

 間もなくして、まどかの方の同行者の男、二人のうちの一人が話しかけてきた。どことなく九郎に似た、人畜無害そうな男性。名簿によると、滝谷という人か。

「ええ、本当に。」

 ただでさえ元の場所で怪異や想像力の怪物といった存在と立て続けに出くわし、さらには杏子という魔法少女やモバイル律という超科学との邂逅。

「ところで……あなたも怪異とか魔法少女とか、そういったものに類するタチなのかしら……?」

……真っ先に、その点においての疑問があった。

「いや、ただの人間ですよ。」

 にっこりと微笑みながら、滝谷はそう言った。我ながら魔法少女の例えは無いよな、などと思いながら、どこか安堵している自分がいた。

「ただ、あっちにいるファフ君はそういうのに分類されるかもしれません。 彼は俗に言うドラゴンと呼ばれる生き物なので。」

「えっ……ド、ドラゴン!?」

 非科学的な存在への心の準備は、既にできていると自負していた。その上で、ドラゴンとは予想の斜め上だった。

 妖怪が人の形をしていても頭の中のイメージとの差異はない。魔法少女は、むしろ人の形でなければ意外に感じるだろう。だが、ドラゴンはそうではない。人間離れした体躯と風貌――仮にドラゴンを模した想像力の怪物が生まれるとしても、その形は崩れることがないだろう。

 滝谷の指した先にいる男、ファフニールはそうではなかった。ドラゴンと銘打ちながらも、その姿はどう見ても人間のそれ。それだけで滝谷の言葉を嘘と断じるつもりはないし、ここで無駄な嘘をつく意味もないためおそらくは事実なのだとすら思っている。思った上で――諦念を込めて、苦々しく呟く。

490Turning Points ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 11:00:24 ID:JgrdMADY0
「……何でもいるのね、この世界って。」

「はは、だから殺し合いなんて言われても……何とかなる気がしているんでしょうね。」

 何とかなる――何とかできるでも、何とかしようでもなく。

(ああ、そういうこと。)

 滝谷にとっては何気ないひと言だったかもしれないが、それを聞いて納得がいった。

「あなたも、わけのわからない存在たちを傍観している側ということね。」

 滝谷は自分と似ている――そう思った。非科学的な出来事が周りに存在することをすでに受け入れている。そして、その上で当事者になるまいと努めている。何とかなる、と――否、正しくは、何とかなればいいなあと流れに身を任せている。その思考形態は、非現実的な存在と関わりを深めることを恐れる自分と、きっと根底では繋がっている。

「でももしかすると……私たちも変わらないといけないのかも。」

 不死身の体質を持つ九郎や、『撃破』の概念が無い鋼人七瀬。そして、一般的な通念にしたがえば人間よりも上位存在であるドラゴンや魔法少女といった存在。殺し合いというゲームの体を成していながらも、あまりにも、自分や滝谷といった一般人が勝てる仕様となっていない。弱者を強者が一方的に嬲り殺すショーが目当てならば、それでもいいのかもしれない。だが、姫神が仮にもこれを殺し合いと銘打ったからには、自分たちに対し何かしらの変化を要求するメッセージをその中に感じ取らずにはいられないのだ。

 その言葉に――滝谷の表情が一瞬だけ、変わったような気がした。

「……まったく、耳が痛いよ。」

 滝谷の目指すところは、ドラゴンたちを中心に形成された今のコミュニティを維持するところにある。当事者にならなくとも、外部から眺めているだけでも楽しいものがそこにはある。

 その現状を保つことは、日常の中ではともかく、殺し合う世界では容易ではない。だから、傍観者でのみはいられないと思ってはいた。だけどそれは、人間にできる範囲の当事者性であり。人間を辞めるべきかどうかという瀬戸際である自覚など、一切なかった。変わる決意も結局は、現状維持のための決意でしかなかった。

「これは、僕も魔法少女にならないといけませんかね。」

「……その例えは、忘れてちょうだい。」

 その時、滝谷の傍らで何も言わず佇んでいたファフニールが、談笑が始まった二人を見かねてか腹立たしそうに近付いてきた。

「……いい加減にしろ。これからの方針を立てるのだろう?」

「……そうだね。じゃあ、向こうで話している子たちも集め、話し合いといこうか。」

 合流のため、まどか達三人の方へと向かっていく。その傍らで、滝谷は物憂げな様子で自身のザックを覗き込んでいた。その所作に、誰も気付かない。或いは、気付いたとしても何も関心を抱かない。

491Turning Points ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 11:02:35 ID:JgrdMADY0



「そう……鋼人七瀬と出くわしていたのね。」

 これまでに起こったことを簡潔に纏めたヒナギクから、これまでの経緯を大まかに聞いたところ、鋼人七瀬との交戦があったようだ。

「実はヒナギクさんが守ってくれて、助かったんだ。」

「そっか、サンキューな。コイツ命知らずなとこあるからさ、心配だったんだよ。でも、出会いに恵まれたようで何よりだ。」

「どういたしまして。何にせよ、全員無事で良かったわ。」

「ええっと……ただ気になるのは……倒すと霧のように姿を消したってどういうこと? 私の知る限り、鋼人七瀬にそんな特性は付与され得ないはずなのだけれど。」

 ヒナギクの語る鋼人七瀬は、あの想像力の怪物のそれと概ね一致していた。だが、岩永とともに、人々が鋼人七瀬について如何なる想像をし得るのかは調べられる限り調べたはずだ。一般人が知り得る程度にネットの世界の表層に存在している鋼人七瀬の噂は、全て紗季の頭に入っている。だがその中に、「消える」類のものは存在していなかった。鋼人七瀬に消滅されては困る六花が予言獣くだんの能力まで用いて情報操作をしていたのだから、むしろそのような特性はあってはならないとすら言えるだろう。

「消えたんなら成仏したんじゃねーの? 実際、あたしらは鋼人七瀬を倒せるかもって言ってただろ?」

「だと良いのだけれど……」

 確かに実際に消滅したのならなんの問題もない。だが、岩永があれだけ知恵を駆使して消滅させようとしていた怪物を、単なる実力行使で倒せてしまえたと言われれば、そう簡単にことが運ぶはずがないと言いたくもなるというものだ。鋼人七瀬に存在していて欲しいというわけではないが、拍子抜けだとでも言うべきか。

「それでも、あれは元々不死身の怪物よ。警戒を怠るべきではないでしょうね。」

「当然だ。宝を守りたいのなら、アイドルの亡霊とやらに限らず全てを警戒しろ。必要ならば殺せ。」

「……なあ、コイツ本当に殺し合いに乗ってないのか?」

「それ、私が最初に貴方に感じたことだから。」

「ファフ君は、ここに来る前からこうなんだよね……。」

「……っていうかツッコミそびれていたけど。」

 話の流れを戻しつつ切り出したのはヒナギク。その話の向く先は、ファフニール。

492Turning Points ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 11:03:51 ID:JgrdMADY0
「あなた、名簿には大山猛って書いてたはずよね。何でファフ君って呼ばれてるわけ?」

「む、コセキやジューミンヒョーとやら名のことか? それならばトールがフドーサンとやらのために勝手に作った名だ。俺のものではないし、この名前が通じるのもトールと滝谷くらいだろうな。」

「はは……」

 サラリと戸籍の偽造をカミングアウトする危なっかしさにハラハラしながら、滝谷は薄ら笑いを浮かべていた。

「ただ正直、僕も忘れかけていた名前だ。写真が付属してるからファフ君だと分からない知り合いはいないと思うけど。」

「つまり主催者は戸籍を頼りに名簿を作ったってことかしら。……でも、『小林さん』なんて人もいたわよね?」

 最初に、杏子と共に疑問に感じた名前を挙げる紗季。

「ああ、それも僕の知り合いだよ。あの人滅多に名乗らないからなぁ……。とはいえ、こうなるとたぶん、主催者は僕らの事情には疎いんじゃないかな。」

「――その可能性は高いと思います。」

 名簿の考察を遮って紗季の方向から――しかし紗季のものとは異なる声が聞こえた。

「……律。突然喋り出さないでちょうだい、ビックリするから。」

 その声は、紗季のポケットから取り出された携帯電話から聞こえてきたようだ。

「律……参加者の名前ね。連絡できてるの?」

「いえ、どうやら参加者とは別の律みたい。」

「おはようございます! 自律思考固定砲台、縮めて律と申します!」

 携帯の中で、二次元の少女が挨拶をしていた。戸惑いながらも会話を少し交わすと、滝谷とファフニールもそれが定型文ではなく一定の思考能力に基づくものであると理解できる。

「……滝谷。これは何だ。」

「……さあ、僕にも分からないなぁ。高度な技術が用いられているのは分かるけど。」

 唐突に提示されたバーチャル美少女に対し、湧き上がるヲタク心を抑え猫をかぶる滝谷。

「ところで、主催者が僕たちの情報をあまり持っていない可能性が高いという話だけど……何か分かることがあるのかい?」

「はい。僭越ながら、名簿を拝見させて頂きました。」

 液晶画面に支給された名簿をパラパラと捲る律が表示される。そして、『茅野カエデ』の名と顔写真が示されたページが、アップで提示された。

「……コイツは。」

 苛立たしげに、ファフニールは画面を睨み付けた。不意打ちからの一撃離脱を決められ、左腕を落とされた相手の顔だった。

「私の中には彼女のデータが存在しますが、この名前は本名ではありません。プライバシーもあるのでこれ以上は伏せますが、戸籍を改ざんしていた彼女のことを主催者側が把握しているのかは疑問です。」

 知り合いへの分かりやすさを重視するならば、『茅野カエデ』の名を使うことに疑問はない。ただし、その場合はファフニールの名をほとんどの者が知らない『大山猛』と表記したことと矛盾する。

493Turning Points ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 11:04:27 ID:JgrdMADY0
「……めんどくせーな。結局、主催者のリサーチが不完全だったってことだろ? つまり敵は万能でもなんでもなく、限界はあるってことだ。それなら付け入る隙だってあるかもしれねえ。話が早いじゃんかよ。」

「そうね、この上なくシンプルだわ。」

「こうしている間にも誰かが死んでるかもしれないんだ。これからのことを決めようぜ。」

 原点回帰。結局、殺し合いの反逆のための手段が、『人数を集める』ことに落ち着くのは変わらない。

 そして改めて、これまでの動向を紗季の側から話し始める。杏子としか出会っておらず話すことは少ないものの、しかし見滝原中学校に向かう方針とその理由について話し終えた。

「もちろん、協力するわ。」

「私も、足手まといになるかもしれないけど……それでも、一緒に行きたい。」

 ヒナギクとまどかは彼女ら自身の性分も相まって二つ返事だった。特にまどかは、見滝原中学校でさやかとマミとほむらと合流が見込めるという点からも前向きだ。

「――くだらんな。」

 しかし、ファフニールにとってはそうではない。

 吐き捨てられたひと言に、杏子はムッとした顔で反論する。

「何だよ。何か文句あんのか?」

「脱出を目指すことに異論はない。だが、人を集める意義が何処にある? 徒党を組めば姫神の目にも留まる上、裏切り者が紛れ込む可能性も上がる。脱出なら、少数の信頼出来る者のみでするべきだ。」

「それは……。」

 杏子はそれに反論できなかった。姫神の隙をつく以上、姫神に察知されないことは必須であることはファフニールの言う通りだ。それに――裏切り者が集団を崩壊に導くことだって無いとは言えない。ステルスマーダーが紛れ込めばもちろんの事だが、有り合わせの集団など、仮に明確な悪意がなくとも何かがすれ違って瓦解することも有り得るだろう。……家族の繋がりでさえ、そうなのだから。

「……それでも、あたしはやるよ。酔狂かもしれないけどさ、ハッピーエンドっていうのを諦めたくないんだ。」

 それが理想主義者だというのなら、それでもいい。さやかの、眩しいくらいに真っ直ぐな性分が思い出させてくれた、大切なもの。いつか憧れた父のように、誰かのために行動することは、愚直だと言われようとも、綺麗だ。

「……好きにするといい。」

 最初から、ファフニールは杏子の脱出手段をアテにはしていない。首輪のせいか制限されているドラゴンの力さて取り戻すことが出来たなら、殺し合いからの脱出など容易いとすら考えている。

「ごめんね、僕はファフ君に着いていくよ。」

 滝谷にとっても、ファフニールに着いていくことは自身の安全に繋がると理解している。同時に、自分が居ないとファフニールがどう動くか分からないという懸念でもある。

「僕たちは元々放送を聞いてから方針を立てるつもりだったからね、ここに残ろうと思う。」

「そう、残念だけど……仕方ないわね。」

 ファフニールの言うことにも一理あり、否定する気は紗季にもない。何なら、これまでの言動から予想の範疇だった。

 しかし、続くヒナギクの言葉はこの中の誰にとっても予想外だった。

494Turning Points ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 11:06:08 ID:JgrdMADY0
「だったら……ごめんね、鹿目さん。やっぱり私は別行動にしようと思うわ。」

「えっ……どうして?」

「ファフニールさんみたいに、自分たちだけで助かろうとはしたくないの。それだったら、別々に回った方が効率的でしょ?」

 ヒナギクを突き動かすのは、殺し合いを強要するなんて許せないという通念上の正義感であり――そして、千穂を目の前で失ったことの後悔でもある。

 この世界にいるのは、鋼人七瀬のような意思のない怪物もいるにはいるが、誰もが姫神によって集められた被害者だ。救える命であるかもしれないというのに、警戒心などという曖昧な根拠で失わせてしまうのは、悲しいことだ。

「……でも、危険よ。」

「大丈夫。私、元の世界で使い慣れた剣が支給されていたからある程度は戦えるわ。」

(……元の世界で使い慣れてたらそれはもう銃刀法違反なんじゃないかしら。)

 浮かんだ疑問はひとまず不問にするとしても、彼女の話によれば、その剣に鋼人七瀬の振り下ろす鉄骨を受け止めるだけの力があるのは確かなようだ。その地点で、彼女の戦力は自分の遥か上を行く。やもすれば、杏子以上かもしれない。その場合はむしろ、3人と1人に分かれたとしても、戦力の天秤はヒナギクの側に傾くだろう。

「……ヒナギクさん。また、会えるよね……?」

「ええ、もちろんよ。ひとまず次の0時を目安に見滝原中学校に向かおうと思うわ。」

 再会の約束をして、三人は見滝原中学校の方向へと向かって行った。それを見送った後、ヒナギクが向かった方向は、南。ひとまずは負け犬公園を目指し、知り合いとの合流を図る腹積もりだ。

 そしてその場には当然、滝谷とファフニールのみが残された。

 憑き物が取れたように、大きくため息を漏らす滝谷。その様子が気になって、ファフニールは尋ねた。

「……滝谷。お前はこれで良かったのか?」

「どうして?」

「ドラゴンが群れないのは強者たるゆえの摂理だ。だが、人間は……お前は、そうではない。」

 それを受け、クスリと笑う滝谷。

「もしかして、心配してくれてるのかい?」

 ファフニールは、思いやりという言葉からは遠くかけ離れたドラゴンだった。生き方がそもそも人間のそれと違ったのだから、当然のことだ。

 だけど――そんな、人間よりも永い時を生きた者たちが、人間ににじり寄り、何かが変わりつつあるのだ。

(――でももしかすると……私たちも変わらないといけないのかも。)

 頭の中で、紗季の言葉が反芻する。紗季が語ったのは、あくまでも精神面での話でしかない。例えば、人魚とくだんの肉をそれぞれ食した九郎の話がフラッシュバックして、今でも肉を食べることができない。未知なるものへの根源的な拒絶反応。それの克服に繋げるべきという話に過ぎない。この殺し合いからの脱出にあたり岩永や九郎の手を借りるつもりなのだから、トラウマの克服が彼女の生還に繋がることに疑いはない。

 だが――滝谷にとってはそうではなかった。彼は、望めば今すぐにでも、『肉体的に』変わることが出来るのだ。

 殺し合いの世界に招かれ、現状把握がてら真っ先に開いたザックには――説明書の付属した、液体入りの注射器の箱。『試作人体触手兵器』と呼ばれるらしいその薬品は、接種することにより強大な力を得られるとともに、メンテナンスを怠ると地獄の苦痛が待ち受けているという。

 それが事実であるかどうかはどうも眉唾ものだ。強大な力というのも、存在としての規模が違うドラゴンと比べられるほどのものなのか分からない。だが、その真偽も、その効力も、さしたる問題では無いのだ。ただ、それを用いようと思った地点で。ただ、人間の手に余るだけの力を求めた地点で。それは、人間を辞めることに他ならなかった。

 滝谷はそれをそっと、封印するかのようにザックの底にしまいこんだ。今はファフ君が傍にいて、自分が何かをする必要もなく守ってくれている。コミュニティはまだ維持されている。だけど、この世界ではそれがいつ脅かされるやも分からない。そんな時は――或いは僕も、何かに変わらないといけないのだろうか。

495Turning Points ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 11:06:47 ID:JgrdMADY0
【C-3/平野/一日目 黎明】

【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
[状態]:腰の打撲 疲労(低)
[装備]:白桜@ハヤテのごとく!
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:誰も死なせない
一.負け犬公園へ向かう
二.18時間後、見滝原中学校に向かう
三. 佐々木千穂の思い人に出会ったら、共に黙とうを捧げたい…
※名簿を暗記しました。
※参戦時期は姫神と面識を持つ前です。
※情報交換によりドラゴンや異世界の存在、鋼人七瀬、魔法少女について知りました。

【滝谷真@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2(本人確認済み)、試作人体触手兵器@暗殺教室
[思考・状況]
基本行動方針:好きなコミュニティーを維持する
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.ファフ君がドラゴンとして殺し合いに乗るのを防ぐためにも、まずは自分が死なない
三.小林さんの無事も祈る
[備考]
アニメ2期第6話(原作第54話)より後からの参戦です。

【大山猛(ファフニール)@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:左腕喪失(再生中) 人間に対するイライラ(低)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を殺す。
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.ひとまずは滝谷を守りながら脱出の手段を探す。
[備考]
滝谷真と同時期からの参戦です。

【支給品紹介】
【試作人体触手兵器@暗殺教室】
滝谷に支給された薬品入りの注射器。接種することで殺せんせーが得たものと同じような触手を後天的に植え付けることができる。原作では、雪村あかりが使用した。
本ロワでは制限の代わりとして、以下の設定を適用する。
『原作のようにマッハ戦闘を可能にするほどの速度を出せるまで身体に適合するには、この殺し合いの実質的な制限時間である三日間では足りない程度の期間を要するため、実際に得られる力はパワーバランスを著しく破壊しない程度に絞られる。』

496Turning Points ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 11:08:12 ID:JgrdMADY0


「……!」

 紗季とまどかと杏子の三人がその銃声を聞きつけたのは、ファフニールたちと別れ、10分ほど経った頃だった。

 紗季は、その音を知らなかった。警察官として発砲音やその危険性を察知できており、相応に危機感を覚えていたが、認識はそこで止まっていた。

 まどかも、その音を知らなかった。その音の意味を理解できないほど楽観的ではないが、しかしその主を識別できるほど"彼女"との仲を深めていなかった。

(この音……)

 一方、杏子は――その音を知っていた。むしろ、現物の銃器の音を知らないからこそ、それにしか結び付けられなかった。

(……ティロ・フィナーレじゃねえかよっ!)

 かつて魔法少女の先輩、巴マミとタッグを組み、魔女と戦っていた時に幾度となく背中を預けてきた、"正義"の音。何の因果が巡ったかは知らないが、彼女の正義は今――殺し合いの渦に呑まれている。敵が鋼人七瀬のような怪物であればいいのだが、名簿に載った人間の割合を考えても、その確率は低い。

「悪ぃ、あたしは先に行く。」

「……杏子ちゃん?」

「ちょっと、落ち着きなさい。銃撃戦が起こってるのよ。」

「……それでも、だ。」

「あっ……待ちなさいったら!」

 二人の制止も聞かぬまま、杏子は大地を蹴って加速し、森の中へと消えていく。

(一体どうしたの、杏子ちゃん……)

 俯いたまま戦場へ向かって行った彼女は、ついさっきまでの彼女とは打って変わって、思い詰めたような様子だった。何があったのかは、マミと杏子の関係を知らないまどかには推理できるまで至らない。だが、苦しそうに戦場へ走る杏子の姿からは、死ぬ間際のさやかの姿が思い返された。そのまま、永遠の別れになってしまうような気がしてならなかった。

「私も……行きます!」

「ええ……佐倉さんを追う必要はあると思うわ。でも……」

 そして紗季にとっても――嫌な予感が頭をめぐって離れなかった。都市伝説などに警察は動かないからと独自調査のために単独行動をとって、そのまま鋼人七瀬の手によって帰らぬ人となった、寺田刑事。今の杏子だけではなく、危険な地帯にあえて飛び込もうとしているまどかも例外なしに、彼と重ねてしまうのだ。

「……私の傍は、離れないで。」

 痛ましいほどに必死なその言葉に、まどかは頷くことしかできなかった。そして同時に――この世界に渦巻く絶望の種に、得体の知れない恐怖が襲ってきた。

【C-4/平野/一日目 早朝】

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:綾崎ハーマイオニーの鈴リボン
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを終わらせる
一.杏子たちと見滝原中学校に向かう
二.キュウべえが居るなら、魔法少女になってでも
※情報交換によりドラゴンの存在と向こうの世界(異世界)と鋼人七瀬について知りました。

【弓原紗季@虚構推理】
[状態]:疲労(小)
[装備]:モバイル律
[道具]:不明支給品1〜2、ジュース@現地調達(スメルグレイビー@ペルソナ5)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破綻
1:杏子を放っておけないため見滝原中学へ同行する
2:可能であれば九朗君、岩永さんとの合流
3:美樹さやかに警戒(巴マミの存在も僅かに警戒)
4:魔法少女にモバイル律……別の世界か……

※鋼人七瀬を倒す作戦、実行直後の参戦です
※十中八九、六花が関わってると推測してます
※杏子から断片的ですが魔法少女に関する情報を得ました
※モバイル律からE組生徒の情報及び別の世界があるという可能性を得ました。
※杏子とのコープが4になりました。以下のスキルを身に付けました。
「警察の追い打ち」杏子の攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
「現実トーク」相手との会話交渉が決裂した時に、人間であれば、交渉をやり直せる。


【C-4/D-4境界付近/一日目 早朝】

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:姫神に対するストレス、魔法少女の状態
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3 ジュース@現地調達(中身はマッスルドリンコ@ペルソナ5)
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず姫神を殴らないと気が済まない
1:紗季と見滝原中学へ向かう
2:鋼人七瀬に要警戒
3:さやかに会ったら…

※魔女化したさやかと交戦中の時の参戦です
※最初の場のやり取りを大雑把にしか把握していませんが、
 大まかな話は紗季から聞いています
※紗季から怪異、妖怪と九朗、岩永の情報を断片的に得ました
※モバイル律からE組生徒の情報及び別の世界があるという可能性を得ました。
※さやかは魔女化した状態と思ってます
※パレスの中では、鋼人七瀬が弱体化してる可能性は仮説であるため、
 実際に彼女が本当に弱体化してるかどうかは分かりません

497Turning Points ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 11:10:02 ID:JgrdMADY0



 ある地点の森の中で繰り広げられている銃撃戦は、しばらくの間、停滞を見せていた。木々という遮蔽物が、弾の命中精度を大きく下げている状況。弾薬に限りがある中、無駄撃ちを避けながらの様子見が長く続いている。

 銃撃戦を担う片側、鎌月鈴乃は暗殺を生業とする戦闘スタイル。弾幕をくぐり抜け、武身鉄光による一撃を当てること、それが最も手っ取り早く相手を制圧させる手段だ。十字架を模したロザリオを大槌に変化させられることはすでにバレている。不意打ちは通用しない。

 もう一方の巴マミ。魔法で形成し、魔力の続く限り放てる弾薬も、鈴乃の魔避けのロザリオの効力で回避され続け、得意とする手数で押し切る戦術が機能していない。

 両者の最も得意とする戦術がともに有効に働かない現状。見せていない手札は両者ともにゼロではない。聖法気を用いた小技の連撃と、一撃で敵を仕留める大技ティロ・フィナーレ。ともにこれまでの戦闘スタイルを一新する緩急差を利用した不意打ちでありながら――そのどちらもが、これまで戦ってきた相手の得意な土俵であると理解している。リスクは、少なからず伴う。

(それでも……)

(だからといって……)

 ただでさえ、誤解やすれ違いから始まった決闘。戦う理由は同じ方向を向いていようとも。

(――カンナ殿を助けるために……)

(――渚くんを守るために……)

 どちらの信念も、リスクを甘受してでも止まれない理由に足り得るのだ。

「「負けるわけにはいかないっ!」」

 遮蔽物となっていた木から飛び出し、聖法気を練り上げる鈴乃。それに対し、マミは変質させたリボンを木に横巻きに結び付ける。

「武身鉄光……」

 鈴乃の手には、魔法を弾く性質を付与された大槌。しかしその狙い澄ます先はマミではなく、その前方の空間。

「――武光烈波っ!」

 破壊力に特化したそれを振るうと、それに伴う衝撃波がマミへと吹きすさぶ。襲いかかる風塵がマミの視界を覆い、鈴乃の姿はその瞬間に隠される。即座、サイドステップ。視界から消えている間に素早い動きで撹乱せんと、利き腕と逆なマミの左側に跳んだ。

「――前が見えないのなら……」

 次の瞬間、木に巻き付けてあったリボンがまるで触手のようにうねり、大地に根付いたはずのそれを引き抜いた。

「薙ぎ払ってしまえばいい!」

「なっ……ぐあああっ!!!」

 巻き付けた木ごと、前方に振り払う。予想だにしていない反撃に、持ち前の素早さまで加算され激突する鈴乃。その衝撃に、一直線に吹き飛んでいく。その先には、一本の大樹。阻むものなく激突し、全身から血を吹き出しなが崩れ落ちる鈴乃。

(今が……この上ないチャンスっ!)

 マミの追撃の中身に思考を費やす余裕は、今の鈴乃にはない。マスケット銃の追撃でも充分に脅威だ。

(くっ……急いでこの木の裏に……!)

 だからこそ、それが咄嗟の判断から導き出された行動であり――

(もちろん、そう動くわよね。なら……)

498Turning Points ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 11:12:19 ID:JgrdMADY0
「……そいつごと、吹き飛ばすっ!」

――それはマミの計算の、範囲内。

 鈴乃が立ち上がったその時に、砂煙の奥に見たのは――身の丈に合わぬ巨大な大砲を、鈴乃に向けて構えた姿。

「しまっ……!」

「――ティロ・フィナーレ!」

 しかし、照準を鈴乃と、その背後にある巨木に定めたその時。

「えっ……?」

 マミの視界に、映ってはならないものが映った。

 撃ち抜こうとしているその巨木の裏から。唐突に吹き飛ばされてきた鈴乃から、逃げるように。

――走り去ろうとする、塩田渚の姿だった。

(――あっ……)

……駄目だ。

 トリガーを引く指は反射でも停止できる段階にない。必殺技の、発射自体は止められない。

 だから、撃ち殺しちゃう――――――誰を?

 決まってる。鎌月鈴乃、渚くんを傷付けかねない私の敵。

 それだけ?

 近くには、南で待っておくように言っていたはずの渚くんが何故か隠れていた。

 それは、つまり?

……あっ。



 守るはずの、渚くんごと――殺しちゃう。



「いっ……いやあああああっ!」

 直後、マミの背中から生えたリボンが大砲の先に絡み付く。発射そのものは止められるものでなくとも。絶望から一気に放出された魔力はその一瞬だけ、渚の知る殺せんせーの"触手"並の速度を展開し、発射よりも早くその銃口の向く先を強引に捻じ曲げた。

 的外れの方向に放たれたティロ・フィナーレ。それは誰ひとり撃ち抜くこともなく虚空へと消えていく。そして、強引な停止のために魔力を使ったマミは、その場にどさりと崩れ落ちる。

「まずいっ……!」

 自分の存在に気付いていないマミの大砲の照準が自分へと向いた時、渚は命の危機をこの上なく感じ取った。だからマミがギリギリで自分の存在に気付きその照準を強引に変えてくれた時――命が助かったことによる安堵が先行し、その場で呆然と立ち尽くしてしまった。

 そのせいで――目の前にマミと戦っていた鈴乃が――殺し合いに乗っているようにしか見えない少女が、自分を発見したことに気付くのが、遅れてしまった。

(――殺されるっ!)

 恐怖がまず、心の中を支配した。次に、何をすべきかが見えてきた。腰のナイフへと、手を伸ばし――

「――逃げろ。」

 次に聞こえた言葉は、渚の認識を反転させた。

「……えっ?」

 殺せんせーを殺すための教室で、一年近く殺意を磨いてきたからこそ、分かる。その一言には、凡そ殺意というものが籠っていなかった。

 そもそも、マミと鈴乃が戦っているのは、鈴乃が殺し合いに乗っているからだという前提があったはずだ。それならば、鈴乃の標的はマミに留まらず、当然に渚も含まれるはずだ。

「あの女の相手は私がするから、早く逃げるんだっ!」

(あっ……この人……)

 渚は、気付く。

(何か、誤解がある……! マミさんと戦う理由が……ない……!)

 この決闘が、何かの間違いによって導かれていたということに。

 そして、それと同時のことだった。




「――やあ、調子はどうだい?」




……殺し合いが始まって6時間が経過し、第一回放送が開始した。

 或いは、殺し合いにまで発展したが、誰も死なずに解かれ得る誤解の連鎖かもしれない。しかしこの場で巻き起こっているのは、少なくとも今はまだ完全には終わっていない決闘である。

 まだ、未来は確定していない。しかしただひとつ言えるのは――この放送が、彼女たちの局面を充分に変え得るものであるということだけだ。

499Turning Points ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 11:12:45 ID:JgrdMADY0
【C-4/D-4境界付近/一日目 早朝 放送開始時刻】

【鎌月鈴乃@はたらく魔王さま!】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:ミニミ軽機関銃@魔法少女まどか☆マギカ、魔避けのロザリオ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:皆が幸せになれる道を探す
一.マミを無力化する。
二.カンナ殿、千穂殿、すまない……。

※海の家に行った以降からの参戦です。
※小林カンナと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(中)、魔力消費(大)渚の保護を重視
[装備]:魔法のマスケット銃
[道具]:基本支給品、ロッキー@魔法少女まどか☆マギカ(半分)、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。殺し合いに乗る者を殺してでも、皆を守る。
一:鎌月鈴乃が……渚くんの近くにっ!
二:渚、まどか、さやかを保護する。杏子、ほむらとは一度話をする。
三:渚くんと会話をしていると安心する...彼と一緒に行動する。

※参戦時期は魔女・シャルロッテに食われる直前です。
※潮田渚と互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

【潮田渚@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:鷹岡のナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:暗殺の経験を積む...?
一:鈴乃さんは殺し合いに乗っていない……?
二:何ができるか、何をすべきか、考える。
三:暗殺をするかどうかはまだ悩み中。
四:とりあえず巴さんの通っている見滝原中学校へ向かう。

※参戦時期は死神に敗北以降〜茅野の正体を知る前までです。
※巴マミと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

500 ◆2zEnKfaCDc:2021/09/17(金) 11:20:58 ID:JgrdMADY0
投下完了しました。

元々はティロ・フィナーレが紗季さんを撃ち抜くつもりでしたが『さすがに放送で名前呼ばれたら東に向かわせるつもりのないヒナギクやファフニールが動くだろう』と没にした結果、マミと鈴乃の対決別話で書けばよくない?みたいな話になってしまいました。

第一回放送は、数日以内には投下しようと思っています。

501 ◆2zEnKfaCDc:2021/09/18(土) 22:48:24 ID:v64Pj4eA0
第一回放送を投下します。

502第一回放送 ◆2zEnKfaCDc:2021/09/18(土) 22:49:46 ID:v64Pj4eA0
 時刻は5時58分。死亡者の発表と、禁止エリアの通達が行われるという放送の開始時刻まで、すでに2分を切っていた。

「……まるでエンタメとでも言いたげじゃねえか。」

 殺し合いの会場、〇〇〇〇〇〇〇〇パレスの一角。真奥貞夫は、震える拳を握り込む。見据えるは、己を慕っていた少女の仇。

「上等だ。お前の一言一句を、俺の魂に刻み込んでやる。」

 彼を突き動かすのは――身を焦がすほどの怒りであり。凍てつくばかりの悲しみであり。平然と他者を傷付けられる邪悪への嫌悪でもあった。その身が何ら潔白でなくとも――否、悪の代償をその背に負った王であればこそ――悪より悪しき邪悪に、断罪を。

 但し――彼の悪を唯一裁くことのできるはずであった勇者はもう、どこにもいない。



「……姫神。お前は一体どうして……」

 殺し合いという非日常に巻き込まれながらも――幼き頃より殺し屋に命を狙われ続けた三千院ナギにとって、死の恐怖は日常と隣り合わせにあった。この催しとて、未だ日常の延長線上を著しく逸脱してはいない。

「……なあ。この放送とやらで、何かを教えてくれるのか?」

 彼女を突き動かすのは――ただただ純粋な疑問であった。何故あの人は、自分たちを殺し合いなどというものに巻き込んだのか。その答えは――かつてあの人が自分の元を去ったその理由にも繋がっているという確信があった。

 但し――彼女にとって死の恐怖が茶飯事であったとしても、親友の死そのものはそうではない。



「……間もなくね。」

 暁美ほむらにとって、主催者の目的を探ることは最優先事項であった。そして主催者からの直接のコンタクトを得られる定時放送は、彼らの情報を得られる数少ない機会である。

「何の狙いかは分からないけど……利用させてもらうわ。」

 彼女を突き動かすのは――いつかの日の約束。もう歴史の彼方へと葬られたその世界線に、今も彼女は囚われている。インキュベーターの魔の手からまどかを守るため――利用できるものは、例え悪魔であっても利用してみせる。

 但し――――――

503第一回放送 ◆2zEnKfaCDc:2021/09/18(土) 22:50:55 ID:v64Pj4eA0




 時計の針が、6時を示した。

 各地に散らばる参加者たちは、その思惑こそ様々なれど、その殆どがごくりと生唾を飲み来たる放送に備える。

 だが、屋内に位置する参加者はともかく、屋外に放送機器らしきものは存在していない。如何に放送を伝達するのか――抱き続けてきたその疑問は、間もなく解消された。


「――やあ、調子はどうだい?」


 その軽口は何かの装置を介してではなく、脳内に直接送信された。その手段こそ一部の者たちにとっては驚くべきものであるが、それ以上に着目すべき点が他にある。

「ほとんどの人にとってははじめましてになるね。」

 その声は――姫神のものではなかった。抑揚のない、単調な語り口。知り合いを含む面々を集めての殺し合いという残酷な催しに対し、憐れみも愉悦も、何の感情をも感じさせない声色が、この世界の不気味さにいっそうの拍車をかけていた。

「――ボクはキュゥべえ。厳密にはシャドウだけど、ひとまずはそう呼んでくれるといい。」

 会場内にいる何人かは、その名前に顔をしかめて反応を見せた。

「すでに誰かを殺した人も殺されかけた人もいるだろうね。もちろん、殺された人はこの放送を聞いていないわけだけどね。」

「さて、前置きはこれくらいでいいかな? じゃあまずは禁止エリアの発表だ。うっかり聞き逃したりして禁止エリアに入ると首輪が爆発するから気をつけてくれ。」

「……まあ、ボクたちも鬼じゃない。境界線をつい越えてしまうことくらいはあるだろう。その時は今みたいにテレパシーで警告して、30秒はそこから出る猶予をあげよう。」

「それじゃあ改めて、禁止エリアは以下の通りだ。」

「今から二時間後、8:00にF-4。」

「四時間後、10:00にC-3。」

「そして六時間後、12:00にA-2。」

「続いて、脱落者の名前を読み上げるよ。興味がなければ人数だけ覚えてくれればいい。」

『影山 律』

『茅野カエデ』

『烏間惟臣』

『小林トール』

『鷺ノ宮伊澄』

『美樹さやか』

『遊佐恵美』

「以上、七名だ。」

「うーん、お世辞にもよく進んでいるとは言えないね。君たちの中にもまだ殺し合おうとしない人がいるようだ。」

「でも、きっと時間の問題だね。君たちの抱く恐れや不安、そして絶望――いわゆる負の感情は次第に増幅しているはずだ。」

「全部分かっているよ。だってこの会場は――ボクの認知で構成されているからね。」

「それじゃあがんばって。生き残れたら、六時間後にまた会おう。」

 テレパシーによる放送が途切れる。姫神に闘志を燃やしていた者、姫神の接触を待っていた者、そして――姫神に協力することが、キュゥべえの企みの阻止に繋がると考えていた者。その情報は、盤面に大なり小なり干渉し、それぞれに様々な想いを残しつつも――殺し合いは再び開始する。





「……まったく、わけがわからないよ。」

 無表情のままに、放送を終えたシャドウキュゥべえは呟く。視線の先には、長い鼻をした一人の老爺。

「どうして認知に一切歪みの無いボクに、認知の歪みに由来するパレスが存在するんだい?」

 そこはパレスの内部ではなく、夢と物質、精神と現実の、狭間の場所――ベルベットルーム。既に用済みとなったがために処刑を執行された双子の死骸を目下に据えながら、老爺は笑う。

「人は、認知のフィルターを通して世界を見る。そこには平常、少なからず歪みが生じるものだ。その歪みが強ければ、大衆心理<メメントス>から独立しパレスを生む。だが……」

 姫神にイセカイナビを与えた老爺、イゴール。ベルベットルームの住人にして――大衆の願いを統制する聖杯の化身。

「……聖杯の名の下に人々の歪みの存在それ自体を是とするならば――歪みの無きこそ真なる歪みと言えよう。」

 殺し合え、狭間に生きる者たちよ。その舞台の名は――

「――『インキュベーターパレス』。司るは、空白。」

504第一回放送 ◆2zEnKfaCDc:2021/09/18(土) 22:52:00 ID:v64Pj4eA0

【カロリーヌ@ペルソナ5ㅤ死亡】

【ジュスティーヌ@ペルソナ5ㅤ死亡】


【???/ベルベットルーム/一日目ㅤ朝】

【キュゥべえ(シャドウ)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを運営する。
一:???

【イゴール@ペルソナ5】
[状態]:健康
[思考・状況]
基本行動方針:人々の願いを統制する。
一:???

505 ◆2zEnKfaCDc:2021/09/18(土) 22:53:48 ID:v64Pj4eA0
投下終了しました。

皆さまのおかげで第一回放送を突破することができました。この場を借りて、御礼申し上げます。
そして、これからも狭間ロワをよろしくお願いします。

予約は明日の正午から解禁しようと思います。

506名無しさん:2021/09/21(火) 16:08:13 ID:aEK57LaU0
第一回放送突破、おめでとうございます!
インキュベーターは放送役にピッタリですね。
インキュベーターのパレスという発想はおもしろく、司るものが『空白』というのも納得できてしまいます。
P5主人公の参戦時期、殺されたジュスカロ、そしてイセカイナビを与えたイゴール…その意図が明かされるのが楽しみですね。

507 ◆2zEnKfaCDc:2021/09/23(木) 17:32:24 ID:avrtFjpc0
エルマ、刈り取るもので予約します。

508 ◆2zEnKfaCDc:2021/09/24(金) 22:04:58 ID:.RMltRaY0
投下します。

509生生流転――ふたりぼっちのラグナロク ◆2zEnKfaCDc:2021/09/24(金) 22:06:12 ID:.RMltRaY0
――無味。

 喰らい尽くしたドラゴンからは、何の味も感じなかった。肉も尾も鱗も、その全てがまるで水のように後味が無い、透明な。

 食べることへの喜び、おいしいものへの執着――数あるドラゴンの中でも、私だけが特に見せていた特質。それが、消えた。消えてしまった。

 私じゃなかったものが取り除かれて、本来の私の輪郭が浮かび上がる。残ったのは、聖海の巫女としての、調和勢のドラゴンである私。かくあるべしと、固められた私。

――私が消えてなくなってしまう。

 残ったものこそが私であるはずなのに――不意に、そんな感覚が胸の中に襲って来た。

 また一つ、私が固まっただけなのに。

 また一つ、輪郭がはっきりしただけなのに。

 また一つ、あるべき姿へと変容の歩みを進めただけなのに。

 まるで、大切な何かを失ってしまったかのような、そんな錯覚。

 まるで、否定されて然るべきだと信じてきた価値観が、真逆へと転換してしまうような、そんな感覚。

「……まあ、どちらでもいいか。」

 ああ、今は本当にどちらでもいい。

 私が、いち調和勢の龍であったとしても。

 私が、本能のままに生きる、捉えどころのない水のような存在であったとしても。

――調和を乱す存在でありトールの仇でもある、眼前の死神を見逃す道理なんて、どこにも有りはしないのだから。

510生生流転――ふたりぼっちのラグナロク ◆2zEnKfaCDc:2021/09/24(金) 22:06:54 ID:.RMltRaY0
 死神の虚ろな眼と、視線がぴったりと合った。片時も外さぬその様相、向こうもこちらを天敵と認識したのは明らか。

「……さて。」

 誰に語りかけるでもなく、口を開いた。本来その言葉の向かうべき相手がもうこの世に居ないことは分かっている。

 だけど、吐かずにはいられなかった。

「最後の――勝負といこうか、トール。」

――トールとは、勝負するのが好きだった。

 混沌勢と調和勢、馴れ合うには互いの背負うものの違いから生まれる溝が、あまりにも大きすぎた。あいつとの関係の根底にあるのは、対立。けれど、あいつが人間たちの宮殿を破壊したあの時までは、決して殺し合うことを是とする仲では無かった。

 その結果として生まれたのが勝負という儀だ。戦闘でなくとも、闘争ではある関係性のいち形態。混沌と調和の狭間にあるような、その程度の仲が私たちには丁度よく、そして心地よかった。

 しかしその決着は、一度も付かなかった。互いが負けを認める性分では無かったから。保留している限り、"次"が約束されていたから。

 しかし、今やもう、その"次"は約束されていない。

「お前が倒せなかったコイツを私が倒したら……私の勝ちだ。文句はあるまい?」

 多くの者と連戦を重ね、少なからず深い傷を負っているはずの刈り取るもの。しかし、未だ満身創痍にはほど遠い。特に、スキル『超吸血』によりさやかの死骸から力を吸収したことがその要因として大きかった。魔法少女としてのさやかの力は、想い人の腕の大怪我を治すための『癒し』に由来する。力の属性は、すなわち回復。その力を吸収した死神は――エルマが切断していた腕ごと、既に再生を果たしていた。それならば、純粋な戦力としてはトールと戦った片腕の死神よりも――

(……だから、どうした!)

 正しさに裏打ちされた理屈なんていらない。逃げる選択肢を取るつもりがないのなら。

「ぶつかって……ありったけをぶつける、それだけだぁぁっ!!」

 一歩近付くと、眼前に核熱がほとばしる。逃げるつもりがないとの予測の上で、こちらの前進を待っていたのだろう。力量に明確に差があるならば、先手を打って即座にねじ伏せればいい。逆ならば、先手を打たれる前に逃げるより他にない。その上で、こちらの攻撃を"待って"いるのなら、その意味はひとつ。

「受け止めるつもりか、ドラゴンの一撃を。」

 武器を持っていないからか。それとも頭数が減ったからか。この程度の攻撃で止められるつもりとは、随分と甘く見られたものだ。

 意にも介さず走り抜ける。振り抜くは、拳。ドラゴンの身体能力に、本来人間の身の丈に合った武器など、必要無し。

――空間殺法

 応戦に用いられたスキルは瞬速の妙技なれど、トールがその軌道を見切り、受け流したもの。超えねばならぬ壁に、他ならない。

「負けないよ。」

 見舞った体技と相殺し、両者は再び見合う。先のトールのように、完全なカウンターを叩き込むには至らない。

 喪失も、怒りも。精神論など――決定的なスペックの差を埋めるには、足りない。普段の戦いの実力はほぼ同じであっても、普段と異なる徒手空拳の戦闘スタイルにおいてはトールのそれに一歩及ばない。

511生生流転――ふたりぼっちのラグナロク ◆2zEnKfaCDc:2021/09/24(金) 22:07:21 ID:.RMltRaY0
(まだだ。)

『――馬鹿だな。崖から足を滑らせた人間など、放っておけばよいものを。今回は、我の勝ちだな。』

――追想するは、いつかの、トールとの勝負。

(まだ、足りない。)

 鳴動する剛炎が、再び懐に潜り込もうと迫るエルマの行く手を塞いだ。

『――旅人のコートを脱がせれば勝ち? 馬鹿馬鹿しい。そんなもの吹き飛ばしてしまえばいいではないか。』

――単なる競走であるときもあれば、変わったルールを設けたこともあった。

(あいつのように。)

――あいつは、いつもドラゴンとしての威風に満ちていた。だから――

 翻した右手より顕現するは、トールより喰らった魔力を用いて発した激流の魔力。炎を打ち消し、進む道を開く。その先には当然、刈り取るものの姿。

(――奴に終焉をもたらせるだけの、闘志を!)

 再び、ぶん殴る。腕に襲い来る、今度こそ明確な手応え。剛腕が刈り取るものの胴体を打ち付け、その巨体を大きく後退させる。

 全身の体躯がぐらりと揺れる味わったことの無い感覚に、かの刈り取るものとて動揺を覚えずにはいられない。

「まだだっ!」

 その一撃に終わらず。跳躍し、徒手空拳から繰り出される連撃。

 一撃目は、胴体を大きく揺らした。

 二撃目に、反撃に突き付けられた二つの銃口を払い除け、大地に叩き落とす。

 三撃目に、真っ直ぐに打ち付けられた正拳が刈り取るものを吹き飛ばす。

「……しぶといな。」

 その上で――常人ならば両の指で数えられぬ回数肉片に変わるドラゴンの連撃を受けてなお、刈り取るものはそこに在り続ける。落としたはずの拳銃も、両の腕に収まっている。存在自体が認知で構成されている刈り取るものというシャドウは、武器である拳銃も含めた認知存在。腕の再生とともに、必然的にそこに"在る"同体。

――至高の魔弾

 無造作にばら撒かれた弾幕。その一つ一つが、命を文字通り刈り取らんとばかりに、どす黒く煌めいて――されど、足りない。怒れる龍を鎮めるには、到底。

512生生流転――ふたりぼっちのラグナロク ◆2zEnKfaCDc:2021/09/24(金) 22:07:48 ID:.RMltRaY0
「うおおおおッ!!」

 両腕を掲げるとともに、エルマの激情を具現化したかの如き竜巻が、亜音速の弾丸の全てを吹き荒らして消し飛ばす。

 同時に、嵐に身を隠し疾走する影。それに刈り取るものが気付けど、もはや手遅れ。両手を頭上で組み、上方から頭部を叩き付ける。刈り取るものを通して大地にまで亀裂が走るほどの衝撃。弱点としての脳など存在しないが、しかし衝撃で大きく体勢を崩した刈り取るものを加えて蹴り付ける。ダメージを許容しつつ何とか起き上がった刈り取るものは、『スキル』を詠唱する。次は炎か氷か、或いは雷か。どの有形力にも対抗できるよう、一歩引き下がって獄炎のブレスを準備し――

「……ッ!」

――サイダイン

「ぐっ、ああああっ!!!」

 しかし反撃に繰り出されたのは、有形の属性ではなく、脳に向け直接送り込まれた害悪。不可視の脳波に抗う術もなく、頭を内側から掻き回されているかのような振動に膝を着く。

 元より戦闘不能に至るだけのダメージを、食によって無理やりつなぎ止めていただけの肉体。そもそもにして限界は近かったのだ。視界が揺らぐ。栓が外れたように全身から力が抜けていく。幻か――刈り取るものに重なってトールの姿まで見え始めた。

(……遠いな。)

『――トールが行方不明だそうじゃ。』

 死神――冥界の王ハデスの系譜であるそれは文字通り神性を帯びた存在であり、ドラゴンよりも種族としての格においてひとつ上に位置する。

『――神々の軍勢にたった一人で戦いを挑んだらしい。』

(お前も、こんな景色を観ていたのか……?)

 世界の調律者たる神を打倒するのが容易であるならば、調和勢と混沌勢など生まれ得なかった。ドラゴンという絶対的存在として管理を受けることを嫌悪しながらも、しかしそれでも既存の秩序に組み込まれることを良しとする調和勢が生まれたのは――偏に神族の格を絶対視しているからに、他ならない。神の打倒が成せぬという共通の理念の下に、調和勢は存続している。刈り取るものへと食らいつくことは、間違いなくドラゴンの戦争の歴史に裏打ちされた無謀であった。

『――おそらくは、生きてはおらんじゃろう。馬鹿なことを……。』

(ああ、知ってるよ。だって、この死神に挑まずにはいられない私も――)

 あの時は、神々の軍勢へ報復に単身向かおうなどとは考えなかった。結果的にトールが生き延びていたとはいえ、当時はトールの死を確信していながらも、ただただトールの身を案じることしかしなかった。だが、今は違う。刈り取るものにその身をもって報いを与えんと挑戦している。

 あの時と今の差異は、何か。そんなもの、分かりきっている。

 あの世界でトールと新たに築いた絆が、刈り取るものを逃がすことを許容しないんだ。それくらいに――

513生生流転――ふたりぼっちのラグナロク ◆2zEnKfaCDc:2021/09/24(金) 22:08:12 ID:.RMltRaY0
(――どうしようもない、大馬鹿なのだから!)

 おぼつかない足をその地に立たせているのは、単に気合いでしかない。そんな満身創痍の状態のエルマに追撃で与えられる銃撃。二度、三度……人間を遥かに超越するドラゴンの皮膚の硬度を持ってしても、ギリギリでつなぎ止められた生命の糸を揺らすには十分過ぎるだけの痛みがエルマを襲う。

 銃撃の数が二桁に達したその時、耐え難い衝撃についに膝をつく。銃撃に撃ち抜かれた脚は、もはや身体を支えるのに役に立たない。ならばと下半身を水竜のそれへと変貌させ、浮遊。

 全身のドラゴン化はパレスに制定された制限により不可能。しかしドラゴンの力を解放した半身は、人間形態を超えた速度で接近を可能とする。ただし――

「……あっ。」

――力の代償。超速接近を臨んだ以上、途中では止まれない。

(まずいまずいまずいっ!)

 不審に思うべきだったのだ。刈り取るものが何ら『スキル』を付与せぬ銃撃を繰り返していたことに。銃口のその向こう、硝煙に隠れた先。死神には、何かを準備する猶予があった。

――メギドラオン

 真に強者と認めたものにのみ放たれる、刈り取るものの切り札。トールを葬った、混沌よりも深い終焉。刈り取るものにとって、すでにエルマは真っ先に排除すべき天敵であった。

「……く、そぉ……っ!」

 あの銃撃は確実な死をもたらす爆心地への誘導だったのだ。死神のもたらす死、その真骨頂。

――ふと、自嘲が漏れる。

 殺意に身を任せ、攻撃のみに一点集中した結果が、これだ。ああ、トール。私は……どうやらお前のようにはなれないらしい。輪郭が見えず、自分だけの色を持ちながらそれでも何色にも染まろうとする、透明な――水みたいな。そんな、ただそこに在り続けるだけの生き方が。

――私は、羨ましかったんだ。

514生生流転――ふたりぼっちのラグナロク ◆2zEnKfaCDc:2021/09/24(金) 22:08:40 ID:.RMltRaY0
『――さすがはテルネ様の一族だ!』

 私には、立場があるから。自分というものが、すでに周りによって固められているから。

『――聖海の巫女様! どうか私たちに恵みを……』

 そんな私が――お前のように生きられるはずがなかったんだ。お前のようにひとりぼっちで神に挑んだとて、お前のように……或いはお前よりも無様に、その身を散らす結果にしかなり得ない。そんなの、最初から決まっていたじゃあないか。

『――お前……一生そうしてるつもりか?』

「っ……!」

 だから、やめろ。やめてくれ。私は水にはなれないと、知っているから。

――私を変えようと、しないでくれ。

「私は……。」

――立場が定められた私は、変わっちゃいけないんだ。だから……

「私、は……!」

 刈り取るものの眼が妖しく煌めく。崩壊が、発動する。

――だから私は、何も選べない。





――だけど。

 たった一つ、夢を語るなら。

 たった一つ、希望を謳うなら。

 たった一つ、本当の気持ちを吐露するならば。

515生生流転――ふたりぼっちのラグナロク ◆2zEnKfaCDc:2021/09/24(金) 22:09:06 ID:.RMltRaY0
「ただ……お前と……一緒にいたかったんだああああっ!!」

 たった一つ、叫びと共に――空間が空白に包まれていく。

 これは、無謀に等しい神への挑戦。確定された終末の訪れ。

 なればこそ、戦いによる戦いの終結を願ったドラゴンが、神剣によって撃墜された、かつてのラグナロクと同じ結末も――

――"独り"で戦う私には、必然的な到来か。








――但し。








――本当に、それが"独り"であるならばの話。

「……そうか。」

 死神が、その名の通り相手の命を確実に刈り取ることを確信して放った必殺の絶技。その残滓の中――エルマの命の灯火は、消えずそこに存在していた。虚ろな眼が、驚愕に見開かれたのも束の間。すでに残像を残して消えていたエルマの動きに、反応が追いつかない。

「お前が救ってくれたんだな、トール。」

516生生流転――ふたりぼっちのラグナロク ◆2zEnKfaCDc:2021/09/24(金) 22:10:48 ID:.RMltRaY0
――時に、食べるという行為は儀式的・呪術的な意味合いを内包する。

 肝臓が丈夫な生き物の肝を食せば、肝臓が良くなる。目の良い生き物の目を食せば、目が良くなる。或いは――不死の象徴たる人魚の肉を食せば、予言の力を持つ妖怪くだんの肉を食せば、それに応じた力を得られる。これらは一例であるが――他者の一部を取り入れるという行為は、その相手の能力や資質を取り入れるという発想とかなり近いところにあるのだ。

 エルマは――混沌の龍トールの肉を骨ひとつ残さず喰らい尽くした。

 本来であれば食すという行為で得られる力は、体内に存在した魔力や栄養素を取り込む程度の効力しか発揮し得ないだろう。しかし――ここは桜川六花についての知識を有するインキュベーターの認知で構成された世界。そこで成された『食』の行為には――少なからず、力の継承という意味が生まれる。

 異世界と空間を接続し、そこへ物質を転送するトールの魔法。出自の違いから、エルマには到底扱い得ぬ類のものであったが――食によってトールの力を受け継いだことで、その魔法は発動した。エルマを消し飛ばすはずであったメギドラオンは、その力の根源ごとどこか異世界へと転送され、パレス内から消滅した。

 その因果を経て――今、エルマはここに立っている。そしてメギドラオンという絶技の反動で動きが鈍ったその瞬間を、エルマは逃がさない。冷徹なる調和の意志を宿した拳が、刈り取るものの顔面を打ち付ける。みしり、と音をかき鳴らしながら沈んでいく拳。

「さあ……終わりだ。」

 その瞬間、冷たさに満ちていた拳が、熱く熱く、燃え上がった。そこに宿るは、調和とはほど遠い、混沌の意志。勢いを増した拳は容易に刈り取るものの顔面を砕き、貫いていく。

 その瞬間を以て――死神の名を冠した大型シャドウ、刈り取るものの巨躯は塵芥へとその身を散らし、虚無の中へと沈んでいった。

 その散りざまは、あれだけの存在感を示していた割に、いやに呆気なくて。虚構に生まれた存在というものの儚さを、提示しているようで。

 何にせよ、これで終わったのだと、確かな実感を込めて静かに呟いた。

「……勝ったよ、トール。」

517生生流転――ふたりぼっちのラグナロク ◆2zEnKfaCDc:2021/09/24(金) 22:11:38 ID:.RMltRaY0
 そして、それと同時に――その場で仰向けに倒れ込んだ。

「勝負は、引き分けだな。お前がいなければ勝てなかった。だけど……この、勝利だけは。味覚の壊れた私にも、勝利の美酒の味わいを与えてくれるものなんだな。」

 見上げた先には、眩しいばかりの太陽と――それが照らし出す青空が、広がっていた。

「……なあ、トール。」

 そしてその先に――いつもと変わらない、トールの姿を見た。

「お前を元の世界に連れて帰る……だっけか? もうそんな建前は言わないよ。」

 ぼんやりと霞みゆく視界の中でも、トールの姿だけは変わらずそこに在り続ける。いつか仲直りした時と同じように、何処か照れ臭そうにこちらを見ている。

「……今度こそ二人で、一緒に旅をしよう。人間の世界を見定めるなどという目的もない、ただ私たちが楽しむためだけの、自由な旅だ。」

 死神の多彩なスキルを、少なからずその身に受け続けたこと。それに加え、メギドラオンの衝撃も完全に異空間に消し飛ばすことは出来なかったこと。すでに身体は、限界を迎えていた。

「人間の姿のままでの食べ歩きもいいな。お前が隣(そこ)にいてくれるなら、きっとどんなものでも、美味しいだろう。」

 そもそもの話――この二度目の戦いに出向けたのも、トールの死骸から得られた体力と魔力を糧としたものに過ぎない。戦う前から、とうに限界など超えていた。

「それに……そっちだったら、小林さんも連れてこいとは言うまい?」

 だから――この時は、必然的な到来であったのだ。

「……ああ。」

 どこか満足気な表情のまま、エルマはそっと目を閉じた。

「――本当に……楽しみだ。」

 その様相たるや、漂う水のように。静かに、そして、安らかに。


【刈り取るもの@ペルソナ5ㅤ死亡】
【上井エルマ@小林さんちのメイドラゴンㅤ死亡】

【残りㅤ36人】

518 ◆2zEnKfaCDc:2021/09/24(金) 22:12:15 ID:.RMltRaY0
投下終了しました。

519 ◆2zEnKfaCDc:2021/09/25(土) 01:30:11 ID:dd/3R.PM0
全滅で状態表がなかったので時間帯が伝わらなくなってましたが、【E-6/朝】です。wiki収録時に追加します。

そして連絡を忘れていましたが、件のwiki荒らしの対策のため、wikiの編集権限を制限しています。何か追加したい事項があればこちらのスレか、もしくは私のTwitter(@私の酉、もしくは#狭間ロワ のハッシュタグでいちばん頻繁に発言している奴)にお願いします。(死者スレのネタなども是非……

520 ◆s5tC4j7VZY:2021/10/02(土) 20:47:19 ID:3CTLlQug0
遅くなりましたが、投下並びに第一放送突破おめでとうございます。

Turning Points

まどかも、その音を知らなかった。その音の意味を理解できないほど楽観的ではないが、しかしその主を識別できるほど"彼女"との仲を深めていなかった。
↑参戦時期故に気づかないのは、なるほど!と思いました。
そして、戦闘中の放送が、もたらすのは……次の話が楽しみです。

第一回放送

何人かの参加者の独白がまた味があっていいですね。
ペルソナ勢がいるだけに誰かのパレスとは思っていましたが、まさかの正体に脱帽しました!!!
さて、会場がパレスと言うことは”オタカラ”果たして奴のオタカラとは……

生生流転――ふたりぼっちのラグナロク

もう、文章を一文読むごとになんというか色々な感情が胸にこみ上げてきました。

「――本当に……楽しみだ。」

 その様相たるや、漂う水のように。静かに、そして、安らかに。
↑エルマには本当にお疲れ様の言葉をかけたいです。
死者スレではトールと2人旅しながら過ごす姿が見たいですね……

狭間ロワのさらなるご活躍をお祈り申し上げます。

521 ◆2zEnKfaCDc:2021/10/08(金) 05:32:02 ID:GoEHiShI0
ゲリラ投下します。

522このちっぽけな世界で大いなる退屈を遊ぼう ◆2zEnKfaCDc:2021/10/08(金) 05:32:44 ID:GoEHiShI0
 ぽっかりと空いた空白があった。如何なる財物を得ようとも、万能の英智を駆使しようとも、決して埋まることの無かった心の空白。しかもそれは、内側から蟲が喰い破っていくかのごとく、年月の流れと共にじわじわと広がっていく実感があった。

 ただ私はそれを、埋めたかった。ただ、それを埋められるのが何であるのか、分からなかった。

 その一方で、私には力があった。望むものを、望んだように手に入れられるだけの力が。運命とやらさえ引き寄せるだけの、王の資質が。その空白を埋めること以外は、何であろうと実現は可能だった。

 強欲に、されど貪欲に。望んだ数だけ世界は私の手の中に収束していく。まるで世界全てが最初から私であったかのように、パズルのピースが難なく型にはまっていく。私がひとつずつ、出来上がっていく。

 だけど行方不明のピースが、たったひとつ。それはまだ、形すらも見えてこない。その空白がある限り、私という存在は決して完成しない。手に届く場所にあるのか、それすらも分からない。

 だけど、私が本当に何もかもを手に入れられるのなら。私が本当に、願いを掴み取る力があるのなら――真に全てを手にした時、答えは必ずその中にあるだろうさ。

――その確信を軸に据えて、私はここに立っている。

 自分という存在を完全なものにするがために。唯一、望むだけでは得られないものを得るために。

 そして、その因果の先に――



「……適合した、か。」

 今ここにまたひとつ、初柴ヒスイという名のパズルに、ピースが当て嵌められた。彼女がそれを求めていたなればこそ、この結果は必然的な到来だった。

 その手に握っているのは、魔王の宝剣――手にする者に魔王の絶大なる魔力の一部を供給し続ける魔剣。魔力の受容体を持っていても許容量を超えやがて発狂に至るであろうその魔力を、あろうことかヒスイは、受容体すら無しに強引に取り込み続けた。そしてその結果――ヒスイの体内には確かに、魔力を受容し、はたまたコントロールをも担う器が、形成されたのである。

 無尽蔵の精神力は、人間の肉体の限界すらも超克した。生まれ持っての素質より扱い得ぬ力をも、その身に宿したのだ。

 そして、そのリミットさえ超越してしまったならば――

523このちっぽけな世界で大いなる退屈を遊ぼう ◆2zEnKfaCDc:2021/10/08(金) 05:33:11 ID:GoEHiShI0
「ふむ、悪くない。」

 軽く振り回した宝剣に、供給され受容した魔力を、試しとばかりに宿した。

 ひと凪ぎ。

 剣の軌道に沿って、朱い焔が煌めいた。

 ふた凪ぎ。

 残火に揺らめく空気が凝結し、急速にその温度を無くして凍り付く。

 3、4、5……素振りのひとつひとつに、あらゆる属性のエンチャントが成されていく。それはエンテ・イスラに点在する多くの魔法剣士たちが、幾年もの修練の果てに漸く掴み取れるであろう絶技の数々。魔力――もとい、聖法気の受容体という基盤を同一にしたその瞬間から、ヒスイはその応用となりうる全てを手に入れていた。これこそが、巨額の富を築いた三千院帝をして驚異と言わしめた、初柴ヒスイの真骨頂。

「夜空を操る霊力とはまた違う。イメージを具現化するかの如き、万能の力。異世界にまで視野を広げれば、まだこのような力は眠っていたのだな。」

 素晴らしい、と感嘆の声を漏らす一方で、心の空白は少しだけ広がったような気がした。三千院家の令嬢、ナギとその執事を殺すことが確定してもまだ、手に入れていないものがあるらしい。

「……それにしても。伊澄、お前が死んだか。」

 霊力について想起したからか。先ほどの放送の余韻が、今さら襲ってきたようだ。

「残念だよ。私も鬼じゃあないんだ。せめてひと思いにお前を楽にしてやるくらいの情けはかけてやるつもりだったんだが……。」

 光の巫女、鷺ノ宮伊澄の、人間として規格外の霊力。伝承の中で神性を得たキング・ミダスの娘、法仙夜空をしても苦戦を強いられた強敵として、彼女はこの戦いの中で立ち塞がるものだとばかり思っていた。それが、最初の放送を迎える前からこのざまだ。

 落胆、とは少し違う。伊澄には、野心が決定的に足りないという認識は昔からあった。十二分に王を目指せるだけの才覚を持ちながら、現状に甘んじ、誰かから差し伸べられる手を待っている。殺し合いの世界でなくとも、心の在り方が根本的に王の器から遥か遠く。ましてや他者を蹴落とすこの世界では、遅かれ早かれ敗北を喫することはもはや確定していたに等しい。

 だが伊澄が脱落した現状に感じる物寂しさをあえて言語化するならば――きっと、同化した夜空の追想といったところだろうか。伊澄を含むナギの執事との王玉を巡る戦いにおいて、姫神の乱入や夜空の英霊化などにより、結局夜空と伊澄の戦いの決着は付かずじまいだった。負けず嫌いな一面のある夜空としては、その再戦は望むところだったのだろう。それが、もはや二度と果たせなくなってしまった。二度と――鷺ノ宮伊澄に"勝利"することは、果たせなくなってしまった。

「……時間が惜しいな。綾崎ハヤテ、どうかお前は私に殺されるまで、死なないでくれよ?」

 勝利は、疑いを差し込む余地もなく確信している。初柴ヒスイという少女が殺し合いに降り立った地点で、あらゆる運命はヒスイに味方をすると決まっている。求めるものは、それではない。

 この胸に在る空白を。常に望むものを手に入れてきた私が、唯一手に入らない充足を。

 

【C-2/草原/一日目ㅤ早朝】

【初柴ヒスイ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:サタンの宝剣@はたらく魔王さま!
[道具]:法仙夜空@ハヤテのごとく! 武見内科医院薬セット@ペルソナ5 基本支給品×2 不明支給品(0〜2個)、烏間惟臣の不明支給品(0〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに勝利する。
1.次の闘いへ向かう
2.王となるのは私だ。
3.本当に、願いで死者さえも甦らせることができるのなら―――
4.次に出会ったときナギと決着をつける…どちらかの死で。
5. 誰が相手でも躊躇しない
※原作51巻、ハヤテから王玉を奪った後からの参戦です。

【支給品状態表】

【法仙夜空@ハヤテのごとく!】
ヒスイに力を授けるために英霊となった法仙夜空。すでにヒスイと融合している。上段に人間のような二本の腕、下段に骸のような二本の腕がある。現在は下段の右腕が粉砕されており、残りは三本。

【武見内科医院薬セット@ペルソナ5】
武見妙が扱う医薬品。効果は確かに効く。
内訳 ナオール錠50mg×2 ダメージ・疲労を(低)回復させる
   ナオール錠100mg×2 ダメージ・疲労を(中)回復させる
   全快点滴パック×1 ダメージ・疲労を全回復させる※参加者との戦闘中は使用不可

524 ◆2zEnKfaCDc:2021/10/08(金) 05:34:07 ID:GoEHiShI0
投下完了しました。

525 ◆2zEnKfaCDc:2021/10/08(金) 05:34:52 ID:GoEHiShI0
すみません。状態表の修正を忘れていました。
【C-2/草原/一日目ㅤ朝】です。

526 ◆2zEnKfaCDc:2021/11/18(木) 07:23:21 ID:2dE7nyjY0
綾崎ハヤテ、新島真、岩永琴子で予約します。

527 ◆2zEnKfaCDc:2021/11/18(木) 21:21:46 ID:2dE7nyjY0
投下します。

528共に沈めよカルネアデス ◆2zEnKfaCDc:2021/11/18(木) 21:23:00 ID:2dE7nyjY0
「――お待ちしていました。」

 数十分前に殺し合いを繰り広げた間柄とは到底思えぬほどに、新島真と相対する岩永琴子の表情は余裕に満ちていた。

「……何のつもり?」

 この現状が不可解であることに気付かぬほど考え無しな真ではない。先手を許してしまった以上、綾崎ハヤテの運転する自転車に乗っていれば、ヨハンナの追跡から逃れ切ることは充分に可能であったはずだ。仮にハヤテと何らかの衝突があり別れることとなったにしても、ルブランと負け犬公園の間に位置する場所で待機していれば自分と遭遇するリスクが高いことは承知のはず。この場に岩永が留まり、自分を待ち構えていたという事実、その地点で何かの罠を疑うのが鉄則というもの。何より、岩永の同行者であったハヤテの姿が見えないのが気にかかる。

「準備が整いましたので、然るべき提案をしに来ただけですよ。」
「準備……?」
「ええ。」

 暴力で捩じ伏せるのは容易であるはずなのに、それを行使してしまったら破滅への道を歩み出す結果となるという感覚がどうしても抜けないのだ。ゆえに真は、それ以上踏み込むことができなかった。安直な暴力への躊躇を感じ取った岩永は僅かに会釈し、一拍間を置いて答える。

「といっても中身はシンプルです。……和解といきましょう。」

529共に沈めよカルネアデス ◆2zEnKfaCDc:2021/11/18(木) 21:23:56 ID:2dE7nyjY0



 時は遡り、放送直後。

 放送の情報を纏めてメモし終えた岩永と、そのために移動を止めていたハヤテ。岩永は何かを考え込むように指を顎に当て、一方そんな彼女の様子も目に入らないほどに、ハヤテは戦慄していた。

(まさか……伊澄さんが死んでしまう、なんて……。)

 殺し合いなどというフィジカルに特化した催し、お嬢さまの身が危ないという意識は充分にあった。西沢さんやマリアさん、さらには武闘派のヒナギクさんに対しても、そういった危機感は少なからずあったはずだ。だが、それでも伊澄さんに関しては、その点の心配は殆どしていなかった。不思議な力を操り、この世のものならざるものも日常的に相手にしてきた伊澄さんが、まさか他の皆よりも先に殺されてしまう事態など――正直、起こり得ないと思っていた。伊澄さんは守るべき相手ではなく守る側であるのだという油断があった。そんな気の緩みの中に叩き付けられた、彼女の死。それはお嬢さまだけでなく、西沢さんもマリアさんもヒナギクさんも――他の知り合いたちだって当然に殺され得ることを示していて。

(……僕は本当に、お嬢さまを守れるのか……?)

 浮かんできた考えも当然にネガティブなものにならざるを得なかった。根性論でもご都合主義でもどうにもならない死という不可逆を、改めて提示されたのだ。やもすればそれをも覆してしまうかもしれないゴーストスイーパーは、もうこの世に存在していない。

 ぐるぐるとから回る思考が、ハヤテを焦らせる。結局やるべきことは1秒でも早くお嬢さまを見つけることに収束するというのに、それができないことがもどかしい。そもそもお嬢さまがどこにいるのか分からないし、そういう『取引』をした以上は岩永さんも守らなくてはいけないし……

『――ハヤテさまにとって、一番守りたいものはなんですか?』

ㅤふと、ハヤテの脳裏に悪魔が囁いた。

『――ハヤテさまにとって、一番大切な人は誰ですか?』

 ……否。厳密には囁いたのは悪魔ではなく。強いて言うならば、亡霊か。

 この世界で唯一数えた喪失である伊澄のことを思い返したことによって、生前の彼女に言われた言葉が不意に頭の中に反芻されたという、ただそれだけの事象だ。だけど、その事象が示す意味は、明確に悪魔の囁きと呼んでも過言でないものであった。

 お嬢さまに相続されるはずである三千院家の遺産を実質上放棄せねば、アーたんこと天王州アテネを救えない、と。お嬢さまの将来か、アーたんの命か、どちらかを犠牲にするよう突き付けられた時の言葉。現状も、その時と同じであるからだ。岩永さんをここで見捨てれば、お嬢さまを探すことだけに集中できる。僕が本当に守りたい人だけを、守れる。

(そうだ。取引といっても、結局は口約束。岩永さんとお嬢さま、仮にどっちかを切り捨てないといけないのなら、僕に迷いはない。)

530共に沈めよカルネアデス(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/18(木) 21:25:17 ID:2dE7nyjY0
 岩永さんは未だ何かを考え込んでいる様子で、彼女の支給品であったデュラハン号は自分の手の届く範囲に放置している。もし、自分がデュラハン号に即座に乗り込んで颯爽と逃げ出したとしても、彼女には何も手出しは出来ないだろう。岩永さんと二人乗りで自転車を漕ぐ場合、岩永さんに配慮した速度で乗り回さないといけない。それは……お嬢さまを探す自分にとって邪魔な事実でしかないじゃないか。

(別に彼女を殺そうというわけじゃない。だったら……)

 かつて、お嬢さまを守るためだったら法律すらどうでもいいと豪語したことがある。それに一切の誇張はないし、ましてやこの場で試されているのは法律ですらない、倫理観という曖昧なものだ。ひとつの舟板に、掴まれるのはただ一人。大切な人を掬い上げるためには、もう一人を沈めるしかない。

 ここまで岩永を裏切るに値する条件が揃ってなお、あえてハヤテを躊躇させているとすれば、それがお嬢さまを守る結果に確実に繋がるとは言えないこと。理想は当初の予定通りに岩永さんを守りつつお嬢さまも守ることであり、それへの道も決して閉ざされているわけではないということ。極論、今この瞬間に目の前の草むらからひょっこりとお嬢さまが現れ、岩永さんと三人で脱出を目指すことになっても何らおかしくはないわけで、まだ理想を追う道は充分に残っているのだ。しかし、仮に見捨てる選択肢をとってしまえばもう岩永さんとの信頼は回復しない。岩永さんを見捨てた上で、彼女がどうにか一人で生き残ったとしても、僕は彼女の脱出に協力する資格を失うのだ。それに、少なからずお嬢さまのために動いてくれている岩永さんを裏切ることだって、悪いと思わないはずもない。

『――もちろんあなたには力ずくでこれを奪うという選択肢もありますよ。』

 岩永さんにデュラハン号を提示された時の言葉が、今さらながら脳裏に浮かんできた。あの時は心配性だ、なんて思いながら否定したけれど。こうして殺し合いという事実に改めて向き合ってみると、僕がそれを選択するもしもすら現実的なものであったのだと分かる。僕は伊澄さんの死によってようやくこの殺し合いの非情さを認識したが、岩永さんはこの殺し合いがどういうものなのか、あの段階で大まかに見通していたということだ。

(そうだ、岩永さんは僕に見えないものも見えている。お嬢さまを守るのなら、彼女の力を借りるのは必要で……)

 取引を放棄すれば岩永さんを敵に回すことになるのは、どう見積っても間違いないのだ。彼女の性格を考えると、仮に裏切ったとてお嬢さまを報復に殺すような真似は流石にしないとは思うが、ここまで彼女の頭脳の片鱗を少なからず目の当たりにしている以上、なるべく彼女は味方につけておきたい存在であることは確かだ。

 結局先に浮かんだ想像を、気の迷いとして切り捨てたハヤテ。同時に、自己嫌悪が襲い来る。

(……はぁ。最低だ、僕は。)

 彼女を裏切ることを実行し得る選択肢として挙げたこともであるが、更にはそれを止めたのは道徳ではなく、彼女の頭脳を当てとする打算でしかなかった。

531共に沈めよカルネアデス(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/18(木) 21:26:10 ID:2dE7nyjY0
 もし、世の中が打算のみで回っていたとすれば、僕は今ここに立っていない。ヤクザに売られ、誰からも見放された僕をつなぎ止めてくれたのは、お嬢さまの、打算なき優しさだった。だというのに、僕が今の今まで考えていたことは、その優しさに真っ向から反する行いだ。

 そんなハヤテの後悔すら、見透かしたかのように――岩永は、唐突に切り出した。

「デュラハン号はこのままあなたに差し上げます。その上で――同行関係は、一旦ここで打ち切りとしましょう。」
「……えっ?」

 それを本心では望んでいた自覚があったからこそ、必要以上の驚きがあった。

「い、一体どうして……」
「そもそもの話をしましょうか。」

 唖然とするハヤテをよそ目に、デュラハン号の方へと歩みを進めながら岩永は口を開く。

「殺し合いを命じられていながらも私たちが同行に至った理由は大きく分けてふたつ。あなたの探し人の保護と、私の安全の確保です。
 ここで、あなたの探し人の保護のみに観点を置くのであれば、彼女の捜索にあたっての移動手段として、デュラハン号があればそれ単体で足りるでしょう。その点、私は重りでしかないし、むしろ私と手分けした方がナギさんの発見に至る可能性は高いとまで言えます。
 つまり私たちが同行していることのメリットは、全て私の安全確保にのみ直結しているのです。
 これは私にとってはリスクでしかありません。あなたがあなたの目的にのみ忠実に動くのなら、私を切り捨てるのが最適となるのは自明なのだから。」

 そんなことはしない、とハッキリと言えたら良かったのだろうけれど。彼の脳裏に過ぎった考えと完全に一致していたからこそ、何も言えなかった。だけどこのまま俯いていても心の底を見透かされてしまうような気がして、黙ってこくりと頷いた。

「……そしてこれはここまでの同行であなたを信頼しているからこそ伝える情報でもあるのですが……リスクを承知の上であなたに同行していた理由のひとつに、私の探し人であった桜川九郎があります。
 彼は、自分の身の危険に対してすごく疎い。このパレスとやらによる制限が彼の体質にいかなる影響を及ぼすか不明だったので、可能であれば彼に一言、注意喚起をしておきたかった。
 ですがこの6時間で彼と会うことは叶いませんでした。それでも、彼が死んでいないことは放送から分かっています。パレスに人魚の力への制約がなかったのか、はたまた彼自身が身の危険を察知し死なないように立ち回っているのか……どちらにせよ、私が彼を急いで探す必要が薄れたことは今の放送から明らかになったということです。」

 岩永は語り続け、ハヤテは下を向いたままだ。まともに直視ができない。今、彼女はどんな顔をしているのだろう。何もかもを見透かしているかのような印象すら受ける岩永の眼光は今、どこを向いているのだろう。心苦しさに胸が詰まりそうだった。何かを言わなくては、耐えられなかった。

「……岩永さんの身の安全はどうするんですか?」

 震えた声で、ハヤテは尋ねた。ハヤテにとって何より腑に落ちない点はそこだ。岩永を置いていくことで得をするのは自分のみ。彼女を放置して逃げる想像を先ほどまでしていたからこそ、それは特に理解している。それをあろうことか彼女の側から提案してきたのだから、疑問に思わないはずがない。

「ご心配なく。それについてもアテはあります。」
「そのアテとは何ですか?」

 さらに食い下がるハヤテに、キョトンとした顔持ちで見つめる岩永。

532共に沈めよカルネアデス(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/18(木) 21:27:18 ID:2dE7nyjY0
「……一応、現状この話はあなたにとって悪い話ではないはずだと思いますが。」
「それでも、心配に決まっているじゃないですか。」

 それは紛れもなくハヤテの本心であるが、同時に裏切りを考えたことへの罪滅ぼし的感情でもあった。このまま彼女を置いていくことが、自分の裏切りの結果のように思えてならなかった。

「……なるほど。確かにこの条件はあなたに有利です。私としてはそれでも構わないと思っての提案なのですが、それであなたに罪悪感を与えてしまうのはやぶさかではありませんね。
 では、ひとつ条件を付けましょうか。あなたの支給品の中から……そうですね、それをデュラハン号と交換の形でいただく、というのはどうでしょう。」

 岩永が指したものを見て、いっそうの戸惑いを見せるハヤテ。それは彼のよく知る道具だったからだ。

「こ、こんなもの……何に使うって言うんですか。」

 あまりにも殺し合いという用途からはかけ離れたその道具が本当に岩永の役に立つのか、そんなことはどうでもよかった。ハヤテにとって重要なのが、その道具を彼の前で用いた者が、いかなる末路を辿ったかということ。

「こういうのもアレですけど……これ多分ハズレですよ?」

 岩永が指した道具は、クルミ割り器。それは決して、殺し合いの武器などにはなり得ぬただの道具だ。殺し合いの世界における支給品としてハヤテが称した『ハズレ』との評価も、何ら間違ってはいない。

 しかし彼にとっては、それはお嬢様の『自己犠牲』を象徴する、忌むべき道具でもあった。岩永がそんなことを知る余地はないと理解していても、彼女も彼女と同じ道を進んでいるのではないかと、心のふちに刺さった邪推が抜けなかった。

「用途は思いついています。少し賭けの要素も含みますが……」
「……じゃあ、そのアテとやらを確保できるまでは同行します。」
「それはできません。そのアテの確保にはあなたがそこに居ないことが必須であるからです。」
「でも……危険ですよね?」

 そのアテというのが誰のことを指すのかは明らかだった。これまでの経路で二人が出会うか、または大まかな位置を把握し得るのは『新島真』と、彼女との情報交換で得た『刈り取るもの』の両名のみ。彼女によれば後者はむしろ回避すべき危険そのもの。消去法的に、新島真しか有り得ない。

 半ば決別的に別れた彼女を用いた安全確保とは、一体何であるのか。それは、自分という存在を切り捨ててでも確保する価値のあるものなのか。

533共に沈めよカルネアデス(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/18(木) 21:28:42 ID:2dE7nyjY0
「ええ、危険です。しかしこの6時間で13人が死んだことが示している通り、このパレスと呼ばれる世界にいること自体が少なからず危険なものなのですから、リスクを承知で動くことに価値はあります。」
「でも……」
「何より――」

 ハヤテの反論を遮って放たれた岩永のひと言は――

「――彼女は、三千院ナギという少女に戦闘能力が備わっていないことを、知ってしまった。」
「っ……!」

――ハヤテにとって、決して無視できないものとなった。

「彼女は、私たちを出会い頭に殺そうとはしませんでした。彼女が実際に殺し合いに乗っていない可能性こそありますが、それならば特に何も困ることはありません。ただ、そうでない場合……一体何故彼女は、即座に私たちを殺そうとしなかったのでしょうか?」
「――もったいぶらず教えてくださいっ!」

 これまでの温厚さから一転、上擦った声で叫ぶハヤテ。ここでお嬢さまの名前を出されたことへの焦燥が、正常な思考力を奪っていた。その形相に一瞬怯む様子を見せた岩永。しかし次の瞬間には再びポーカーフェイスを纏い、淡々と語り始める。

「……頭数だけで見れば1対2、人数的不利があったからというのが有力な見解でしょう。彼女もまた、私たちの力を警戒していたんです。体格で遥かに劣る私すらも警戒対象にあった辺り、単純な暴力とは違う、人間の規格を超えた力というものを彼女も知っていると見られます。彼女自身がそれを扱えるかは定かではありませんが……。」

 厳密には、真が即座に襲って来なかった理由はそこが怪盗団のアジトである純喫茶ルブランであったためだ。怪盗団の信念である不殺生に真っ向から反する行いが、ルブランでの殺し合いを真に躊躇させた。とはいえそれに至るまでの根拠を、岩永は持っていない。岩永としても、自身の語った推理が必ずしも正しい答えであるとは思っていない。

 だが、その正誤はどちらでもいいのだ。ハヤテの説得、ただその一点において、三千院ナギに迫る危険を語るこの仮説は、何よりも効果的であるのだから。

「……ですが、警戒による時間稼ぎの余地はもはやナギさんには働かない。人数差があったとしても、彼女はその人数に計上せずとも戦局に影響を及ぼさないと知られてしまった。つまりナギさんが新島さんと出会ってしまった場合、私たちの時とは違い、新島さんは躊躇なくナギさんを殺しにかかる可能性がある。」
「それ、は……。」

 それを聞いたハヤテの顔色が一気に青ざめるのが岩永にも分かった。ナギのことを真に語ったことが、失敗だったという認識についてはハヤテにも間違いなくあった……が、浅かった。それがナギが殺されることに直結する情報であるとまでは考えが及んでいなかった。

534共に沈めよカルネアデス(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/18(木) 21:29:22 ID:2dE7nyjY0
「安心してください。私なら、真さんがナギさんに手を出さないよう調整することもできる。」

 ナギのことを恩人であると語っていたハヤテ。垣間見えるは、恋愛感情とは似て非なる、異様なまでの忠誠心。

 ハヤテとの同行関係を繋ぎ止めていたのは、ナギの存在に他ならない。彼女に危険が及びやすい状況が生まれてしまえば、それはハヤテが自分を裏切る危険性も比例的に増していくということだ。現に、ナギに迫っているかもしれない危険を伝えたハヤテは、仮に目の前に居ようものなら真に襲いかかりかねないほどに血走った目をしている。

 当然、ハヤテとしても、提案がお嬢さまを守ることに繋がるとなれば反対できない。むしろ、最初からこうなることを望んでいたかのようにも思えてしまう。

「では、そちらの道具とデュラハン号を交換するということで。取引、成立ですね。」
「……はい。ですが、お気を付けて。」

 間もなくして、ハヤテは負け犬公園へと向かって行った。岩永を乗せていた時よりもさらにいっそうギアのかかった、文字通り『疾風』の如き速度。配慮を求めたあの時も全力ではなかったのか、とハヤテの脚力に改めて驚愕を見せる。

「……できることならば、また会いましょう。」

 岩永の放った声が、虚空に消えていく。文字通り音を置き去りに走り去ったハヤテに、その言葉は届かなかった。

535共に沈めよカルネアデス(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/18(木) 21:30:42 ID:2dE7nyjY0


 時はいま一度、冒頭の場面に遡る。

 岩永の和解の申し込みを受けて、真は思案を巡らせていた。実力行使に出ることは難しくない。先ほど岩永が用いた電撃を発生させる何らかの装置は確かに驚異であるが、それが支給品の力であるならば、岩永を殺せばそれが自分や、自分を含む怪盗団のための道具として利用できる。何故か殺人者だと気付いた風の岩永の口封じも兼ねて、このまま岩永を処理できるのは理想の流れだ。

 しかし岩永としても自分を殺人者に見立てた上でこうして現れているのだから、そのリスクも承知の上だろう。その点について何も対策を仕込んでいないとは到底思えない。

「……あのねぇ。和解も何も、そもそもあなたが勝手に私を殺人者呼ばわりしたんでしょう?」

 しかし様子見を選ぶにしても、殺人を認めるのは真にとって好ましくない。それを認めてしまえば岩永の言い分が全て正しかったことを認めるに等しく、仮に岩永の提案通りに和解する道があるにしても、こちらに有利な条件を出すことはほぼほぼ不可能になる。

 そしてそもそもの話、だ。未だ真は、何ら殺人の証拠を提示されたわけではないのだ。それならば、『一方的に言いがかりを付けられ、その訂正に来た』の体を装うこととて、それ自体は無理筋ではない。もしも岩永が何らかの証拠を握っているのであるとしても、それを提示するまでは譲歩しない。岩永が求めているのが和解である以上、紛争の前提となる証拠を提示する義務は向こうにあるのだ。

「私は誰も殺してなんかいない。この一件は完全に貴方が先走っているだけよ。」

 もちろん、完全なる嘘っぱちだ。すでに真は影山律を不意打ちで殺害しているし、先のルブランでの一件とてハヤテと岩永を殺害しようとしていたのも事実だ。

 確かに律は、真を裏切って殺す算段を心内で打ち立てていた。真が心の怪盗団の不殺の信念に従い、律と共に主催者を打倒して脱出を目指していたとするならば、屍となっていたのは真だったかもしれない。結果だけを見るならば、真の行いは正当防衛に近しいものだ。しかし、律の思惑を知らなかった以上、少なくとも確定した現実において真は無実の少年を殺した罪を背負っているし、本人もその事実を認識している。

 だが、その認識の上で。真はさらに岩永を騙そうとしている。自身を死神に殺された悲劇の少年の死を看取った者に置く、虚構の物語で丸め込もうとしている。

「ええ、その可能性も充分にあるでしょう。あなたは複数人分所持している支給品は、刈り取るものに襲われた律という少年を看取った時のものだと言いましたが、私はそれを嘘だと断じることはできません。もしかするとあなたの言ったことが全て真であり私が勝手にあなたを警戒して止まないだけかもしれない。」

 そして現に、それを否定するだけのものを岩永は持たない。そもそも真を殺し合いに乗ったと断じたことに、何ら具体的な根拠があったわけではない。言ってしまえば、その由来は印象論という山勘に過ぎない。ここが現世であったならば、知恵の神として怪異・あやかしの類と連携し、確たる証拠を押さえることもできただろう。或いはより精巧な調査をする時間さえあったならば、真の真意をより正確に掴むことも可能だっただろう。しかしここは万物に宿る妖怪を排除された認知世界であり、同時に時間制限付きの殺し合いの世界でもある。

「ですがそんなこと、最初からどちらでも構いません。先のみならず、現段階においてもその正誤を問うつもりはありません。……ただ、これだけは言える。」

 ただ、仮に影山律を看取ったのではなく殺していた場合も、そこの真実の判断がつかないこと。証拠を用意できず、虚構を語れる舞台は真の側に整っている。

536共に沈めよカルネアデス(前編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/18(木) 21:31:16 ID:2dE7nyjY0
 なればこそ、岩永はその土俵に立たない。

「私が見てきた限り、あなたは理性的な人間だ。少なからず無礼を働いた私に対し、殺し合いを許された場においてこうして落ち着いた対応を取っていることからもそれは明確です。そして、私があなたをそう評価しているからこそ、こうして交渉のテーブルを用意するに至ったのです。……そして同時に、私はこうも評価している。あなたは真顔で嘘が吐ける、と。少なくとも私はあなたの語る虚構を、直感では見抜けない。この認識が私にある以上、あなたの語る言葉は私の警戒を解くに値しません。」
「……そう。随分と高く見られたものね。」

 それは、おかしい。

 岩永の言葉に理を認めるとすると、岩永がこの場に和解を申し込みに来ていること自体と矛盾する。自分の言葉が岩永を信頼させるに足りないのであれば、そもそも言葉の上での和解など理論上、出来ようはずもない。その和解に、口約束以上の効力を持たせられる執行者はこの世界に存在していないからだ。むしろ、唯一執行者足り得る姫神こそが、その裏切りとそれに伴う殺し合いこそ要請しているとすら言える。

「じゃあ、聞かせてもらえないかしら。そこまで警戒している私とわざわざ談合する目的は何なのか。」

 だからこそ、真としてはそれを聞く他なかった。岩永が明確に筋の通った行動方針を貫いていることはこれまでの語りから少なからず分かる。それだけの一貫性ある頭脳をもってして、その論理矛盾に気付かないはずがない。ならばその矛盾を解消する理論は間違いなく存在しているのだ。さもなければ和解の提案そのものが無意味であるから。それが何であるのか、知らないままには岩永を殺せない。殺されるリスクを承知で岩永がこの場に臨んでいる以上、向こうには何かの交渉材料があるはず。

 そして、岩永を直ちに殺そうとしないのなら、殺し合いに乗っていないフリをするのが自然だった。乗ったことを認めれば、そのような嘘をつく道理がないためにそれは事実として確定してしまう。殺し合いに乗っていないと言い張っているからこそ、背負った罪の量高において対等である岩永から情報を聞き出すことができるのだ。

(ここまででボロは出していない、はずだけど……)

 客観的に見て、岩永を殺さないことも、殺し合いに乗っていることを認めないことも、真の行動は理にかなっている。だが、どちらもあくまで消去法で導き出されたものでしかない。岩永を殺して死人に口なしと言えたなら、それに越したことはないのに。だが岩永がそれを警戒していないはずがないからこそ、こうしてただ岩永の話を聞くことしかできなくなっている。

 まるで、岩永にそう誘導されているかのごとき進行具合が、どうも不気味に思えて仕方がない。

 そして岩永は、静かに語り始める。そして同時に、開かれるは怪盗攻略議会。論者はただ二人、怪異たちの英智を司る知恵の神と、女王の名を冠する怪盗団の参謀。一方で、傍聴人は一人としていない。二人の語る虚構を真実をもって指摘する者は、どこにも存在しない。まるで幻影のように、真実は覆い隠されている。

537 ◆2zEnKfaCDc:2021/11/18(木) 21:33:01 ID:2dE7nyjY0
前編投下終了です。
後編も近く投下します。

>>526に加え、桂ヒナギクを追加で予約します。

538 ◆2zEnKfaCDc:2021/11/18(木) 21:39:47 ID:2dE7nyjY0
一点修正します。
>>533の冒頭

「ええ、危険です。しかしこの6時間で13人が死んだことが示している通り、このパレスと呼ばれる世界にいること自体が少なからず危険なものなのですから、リスクを承知で動くことに価値はあります。」

の台詞の「13人」の部分を「7人」に修正します(表裏ロワかゲームロワの死亡人数が混ざっちゃいました)

539 ◆2zEnKfaCDc:2021/11/25(木) 02:30:53 ID:Zupfd7Zs0
予約を延長します。

540 ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:33:02 ID:jig807Q60
後編を投下します。

541共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:33:44 ID:jig807Q60
「あなたは、殺し合いに乗っていないと言いました。」
「でもあなたはその言葉を信用できないんでしょう?」

 開口一番に発された言葉は、和解とはほど遠い険悪なものだ。しかし岩永の言葉が理不尽な言いがかりであると主張する以上、そこで真は引いてはならない。

「ええ、その正否は分かりません。……しかし、あなたがこの殺し合いに『乗らない』選択肢を少なくとも現実的に取り得ると見ていること、それだけは分かります。」
「……どういうこと?」
「考えてもみてください。現状、私たちは爆弾付きの首輪を嵌められて殺し合いを強制されているんです。
ここで我が身が最も可愛い正常な人間であれば、生き残るために誰かを殺す選択をする。それならば、『乗らない』選択肢などそもそも脳内に生まれ得ないものですよ。
 ……にもかかわらず殺し合いに乗らない選択肢を選ぶ人間には、ふたつの理由が考えられます。他者を殺してまで生き残りたくなく、生を諦めているか――或いは、殺し合わずとも脱出ができる可能性に賭けているか。
 そしてその規範は当然に、殺し合いに乗らないことを詐術に用いる者にも存在しています。」

 真の語った殺し合いへのスタンスは、嘘である。そして岩永はその嘘を嘘であると断定できない。しかしそれが嘘であるという仮定の下では、真が、その嘘をもって他者を騙せると判断したこと。それは紛れもない真実として岩永に提示されているのだ。それは、真の中に『生き延びるためであっても他者を殺したくない』という意識規範があること、もしくは真が『脱出の可能性とて現実的なものと考えている』ということに他ならない。

「……つまり、仮に私が殺し合いに乗っていた場合であっても、殺し合いに乗らないことを平常として謳えるだけの意識が私の中にある――そう言いたいわけね?」
「ええ、話が早くて助かります。その意識が小なりともあるのであれば、仮にあなたが殺し合いに乗っているとしても、交渉の余地は充分にある。つまり私がすべきは、殺し合いに乗らないことのメリットが乗るメリットを上回ること――もとい、殺し合いに乗るデメリットが乗らないデメリットを上回ることを提示することに他なりません。」
「……回りくどいことをするのね。私は最初から乗っていないのだから、そんな小細工は必要ないのに。」
「だとしたら、私の用意した回答はあなたへの無礼も相当に含むでしょう。何故なら私は、乗らないことのメリットだけでなく、乗ることのデメリットも用意してきたから。……それはある種、あなたへの『脅迫』を意味します。」

 頭角を現した本題を前に、真はため息を漏らす。全てを見透かすがごときこの少女が前に立ち塞がっている地点でろくな話じゃあないと想像はしていたけれど、それがハッキリと明示されたのだ。

「……ホント、厄介な相手に捕まったものね、私も。」

 それだけではない。少なくとも岩永が語る予定の語りの中には、殺し合いに乗ること――すなわちこの場で岩永を殺すことに、何らかのデメリットがあることをあらかじめ提示されたのだ。その地点で、それが何であるか問い質さないことには真は岩永を殺せない。

「では……まずは定義を確認しておきましょうか。私の言う『和解』とは、不干渉ではありません。殺し合いを打破するために以降の行動を共にし、情報を共有することまでを含みます。」

 岩永がまず切り出した内容は、さっそく譲歩できないところだった。真の目的は、心の怪盗団『ザ・ファントム』の存続、すなわち怪盗団全員の生還にある。放送によれば彼等はまだ誰も死んでおらず、まだその目的はくじかれていない。みんなが生還できるのなら、心の怪盗団以外の他者と手を組むこととて選択肢に入るのは真のスタンスからして間違いない。

542共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:34:10 ID:jig807Q60
「まずはそのメリットを提示しておきましょうか。私はこの殺し合いの主催者、姫神葵の裏にいるであろう人物を知っています。」
「……! それ、確かなの?」

 それを聞いた真の表情が驚愕に染まる。真には全く裏の読めていないこの殺し合いに、姫神以外の人物が関与していることを岩永は確信しているのだ。

 仮に名簿に明智吾郎の名が無かったら、彼の関与を疑っていたかもしれない。仮に明智についてもう少し調査が進んでいれば、獅童正義やその軍門の関与を疑っていたかもしれない。仮に世界の真実に辿り着いていたならば――統制を担う聖杯の関与を、察知していたかもしれない。

 真は、そのどれでもなかった。姫神葵という人物にこそ面識は無かったが、世を賑わす心の怪盗団であるというだけで誰からでも狙われる原因ならば有している。

「少なくとも私はそう確信しています。放送の主が姫神の声でなかったことから、主催側が一枚岩でないことは容易に想像つきますし。」
「一体、それは誰なの?」

 口から出まかせだとは思えないが、現状、岩永と真の情報交換において、岩永は自身の持つ情報をほとんど出していない。興味ありげに質問で返す真。

(……この名簿に鋼人七瀬が載っている地点で、彼女に自身の存在を秘匿する意思はない。それなら、名前を出したくらいで首輪を爆破されることはないでしょう。)

 少しだけ、考える風な表情を見せた岩永であったが、間もなくして口を開いた。

「――桜川六花。世の秩序に干渉してでも己が目的を叶えんとする者です。」
「……抽象的すぎて分からないけど……要は悪党ってことよね。」
「今はまだ詳細は伏せますが……ひとまず、これで情報の前払いということで。ところで、桜川六花の名前に聞き覚えはありますか?」
「いいえ、特に無いわね。強いて言うなら、桜川の苗字は名簿にあったかしら。」

 名前だけでなく、イセカイナビを取り戻した時に、桜川六花なる人物がいかなる認知の歪みを有しているのか、その内容となるキーワードも手がかりがあるのであれば手に入れておきたいところだ。少なくとも、真の最終的な目標は優勝ではなく姫神の改心にある。しかし奴に協力者がいるというのなら話は変わってくる。姫神だけでなくその人物もまた改心の対象であるのだから、その人物の情報を知る者がいると言うのならば、協力する理由にもなるだろう。

 あえてその選択肢を遠ざけている理由として、真たち怪盗団の現状があった。改心後の会見中に廃人化し、そのまま死亡した奥村邦和の一件。それ以来、世間における心の怪盗団の信用は地に落ちたと言っても過言ではないのだ。

 特に最初の会場で姫神は、竜司を怪盗たる集団に属する者であると実質的にカミングアウトした。厳格には心の怪盗団であると言われたわけではないが、怪盗と言えばそれを示すのだという世論は形成されてしまっている。仮に対主催者の集団ができたとしても、少なくとも正体がバレている竜司は爪弾きにされる可能性が高いのだ。

 ではそうなった場合に、心の怪盗団のメンバーは竜司を見捨てるか? 否、彼等は、そして真自身とて、絶対にその選択を取らない。竜司が対主催集団から孤立するのであれば、それらと敵対してでも竜司の側に付くだろう。それが弱気を助け強きをくじく怪盗団の反逆の意思であり、それがかつての真を救った怪盗団の誓約であり、そしてそれが真が居場所であると感じている怪盗団の信念なのだから。

543共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:35:07 ID:jig807Q60
 だから、対主催同士であったとしても怪盗団のメンバー以外と組むのは困難だという認識は真の中に存在する。そして、なればこそ敵対者の淘汰という結論がある。怪盗団と敵対し得る勢力を残すくらいなら、最初から怪盗団の礎にする方が合理的だ。真が殺し合いに乗っている考えの根底には、世間が怪盗団を見る目への不信が根付いている。

「私から提供できる協力のメリットはこの情報にあります。逆に私を殺すと、主催者に繋がる情報を得られる機会は喪失するともいえます。」

 百歩譲って、岩永が心の怪盗団の支持者、もしくはそれを受け入れる度量の持ち主だったとしよう。そうすれば、彼女自身とは協力していけるかもしれない。しかし、彼女が増やしていくであろう他の協力者についてはそうではない。岩永が自分だけでなくさらに他の者たちとも協力するスタンスを取るのであれば、必ず怪盗団に不信を抱く人物も存在するだろう。

「……しかし、これだけでは不十分です。何故なら、私が私の持つ全ての有力な情報を提供したならば、私を生かしておく価値がなくなる。つまり私は、常にあなたに与えられる情報を温存しなくてはならないことになる。」
「だから、私はそんなこと――!」

 言い返そうとした時、真は気付いた。少なくとも殺し合いに乗っていないと謳っている以上、協力を要請する岩永の言葉には、全て二つ返事で返すしかないということに。殺し合いに乗ることのデメリットとやらの話に語りが進んでいないから、問答無用で殺す選択肢が取るに取れない。つまり真としては岩永の話を、基本的には黙って聞く他ないということだ。様々に言い分を許しつつも、最終的には「本当に殺し合いには乗っていないのだから構わない」の常套句で許容しなくてはならない。

「……いいえ、何でもない。」

 それの何が和解だ。まるでこれが対等な話し合いであるかのごとく進行させているが、真の反応は最初から誘導されている。何を主張しようとも、自分が真顔で嘘をつけるという前提に岩永が立っている以上、この場では自分の語る真実に力はない。一切の反論が、許されていない。

 そう、これは――言うなれば、推理だ。探偵が容疑者を集め、それぞれに納得のいくように言論を進めていくかのごとく進行しつつも、しかしその導線はすべて犯人を追い詰める、ただそれだけのために敷かれている。議論の進むべき道は最初から決まっている。

 確かに、その予兆は最初から感じていた。わざわざ姿を現した岩永の意図が読めず、迂闊に殺せないこと。そして、殺せないがために殺し合いに乗っていないフリをするしかないということ。消去法的に選ばされた行動の、まるで全てが岩永の思う通りに誘導されているかのような。

544共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:35:39 ID:jig807Q60
「……いや、待って。」

――気に入らない。

 "推理"を語る岩永が初めから潔白であるかのように見なされる土台がそこにあることが、気に入らない。

「そもそもこの談合には、重要な視点が抜け落ちているわ。」

 "探偵"こそが正義であると誰が言ったか。

 "探偵"は真実を語ると誰が決めたか。

「だってそうでしょう? あなたが私に取り入って、私を背後から撃つつもりである可能性は否定できないじゃない。」

 岩永と対等であるというならば、真の側にも疑念を発露する余地がある。岩永が真を警戒するが故の討論ならば、真にも同等の主張をする権利がある。殺意の無い証明を成すことが無理難題であればこそ、二人の邂逅はこうして捻れているのだ。

「そもそもの話、殺し合いに乗らないにあたっての同行者が欲しいのならさっきまで一緒だった綾崎ハヤテでも良かったはずよね? にもかかわらずあなたは私に接触し……同時に彼はこの場にいない。その地点で、彼がすでにあなたに殺されている可能性まで浮かんでくるわ。」

 真はさらに続ける。岩永との討論においてようやく見出した優位性だ。自らの置かれた立場が不利であったのならば、その立場を反転させてしまえばいい。

(綾崎ハヤテを切り捨てた理由……深堀りされると都合が悪い。)

 一方、岩永がハヤテを一人で行かせた理由は、三千院ナギを最優先とするハヤテのスタンスが時に己の安全確保と衝突し得るからだ。しかしその真実を語るのは、後に紡ぐ予定の虚構との折り合いがつかない。少なくとも綾崎ハヤテの行動の手網は、岩永がある程度握れる立場にあることは仄めかしておく必要がある。

「確かに、私とて殺意が無いことの証明はできません。でも、私はその上であなたと協力体制を築くことを最優先としたいのもまた確か。」

 真は、パレスとは何であるのか、その知識を有している。仮に現状、殺し合いに乗っているのだとしても、脱出のために動いてもらうだけの理由がある。だからこそ、真の協力を得ることを最優先事項に据えた一手を打つ価値がある。

「では、これでいかがでしょうか。」
「っ……!」

 岩永が懐から取り出したのは、かつて九郎の力を借りて処分に当たった隕石の欠片。それから発される電撃の威力は真もすでに知るところであり、岩永を殺してでも奪う価値を見出してすらいる産物だ。真は一歩引いて、岩永の出方を伺う。

 もしも発射しようものなら、電撃ごとヨハンナで打ち払えるよう準備して――

545共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:36:14 ID:jig807Q60
「ちょっと、何を――!」

 しかし岩永がもう片方の手に握ったものを確認するや、真はその顔を驚愕の色に染めた。

――パキィンッ!

 次の瞬間、ハヤテから受け取った支給品、クルミ割り器が隕石の欠片を粉々に砕いた。基本支給品である腕時計のベルトに用いられた絶縁性のナイロンを挟み込むことで漏電を起こすこともなく、電撃発生装置としての役割を失った欠片がその場に零れていく。

「っ……!」
「これで、私があなたを物理的に害する手段は失われました。」

 隕石の欠片の破壊の意味は、武装解除に留まらない。有用な支給品の奪取という、真が岩永を殺すに足る理由のひとつが失われた。

 そもそも、岩永琴子は秩序を重んじる知恵の神である。本来、宇宙的な怪異の産物である隕石の欠片に秘められた電撃の力は、否定して然るべきものに他ならない。

 桜川六花の企みを阻止するという目的の下に桜川九郎の人魚・くだんの力を利用しているように、その力の持ち主に殊更秩序を破壊する目的が見られず、かつ一定の妥当性・必要性があれば秩序に反する力を利用することも視野に入れないではない。その一方で、その力を封じることにこそ、真への武装解除という明確な理由が生じている今、隕石の欠片を破壊することにも何ら躊躇する理由はない。むしろ、秩序維持を生業とする知恵の神の本分であるとすら言える。

「……どうかしてるわ。」

 だが、そんな事情など真は知らない。知る由もない。支給品に人の命以上の価値を置いて、怪盗団のためにそれを確保しようとしている真にとって、岩永の行動は狂気じみたものにしか見えない。

「私のことを警戒していると宣っておきながら、その一方で私への抵抗手段を自ら捨て去るなんて。」

 そして、その手段を真には到底、真似出来ないのだ。他者を殺してまで集めた支給品を捨てることはもちろんであるが、己の心の一部であるペルソナは物理的に武装解除が出来ない。たとえヨハンナが、岩永にはただのバイクに見えていたとしても、そもそもバイク自体が充分に凶器であると見なせるのだ。

 確かに、目の前で支給品を砕いた岩永とてペルソナ、もしくはそれに準ずる異能の力を持っていないとは限らない。だが、真はその疑問を岩永にぶつけることはできない。一般人には到底浮かびえないその疑問を呈すること自体が、自分が異能の力を持っていることのカミングアウトと同義だ。

 別にペルソナはバレてはならない類の力というほどではないが、それは律を殺害した力。万が一ルブランを訪れる前の岩永が律の死体を目撃していたとしたら、彼に残った傷跡と照合するなどして彼の殺害が発覚しかねない。

 そして丸腰となった岩永は、再び口を開く。

「確かに私は、この談合はあなたへの脅迫でもあると言いました。しかし、脅迫材料が武力であるなどとはひと言も言ってませんよ。」
「……じゃあ、何だって言うの。」

 着地点は、未だ見えない。しかし真は、思い知ることとなる。着地点を遠くに見据えた岩永琴子のやり口を。

「――この場にいない綾崎ハヤテ。それこそが、私があなたに提示する脅迫材料です。彼がこの場にいないからこそ、仮にあなたが殺し合いに乗っていたとしても、あなたは私を殺せない。」

 言葉の刃を振りかざしながらも、片や見えないところで猛毒を注入するかのごとく――

「つまり……武器は彼に預けている……そういうこと?」
「いいえ。あの自転車は確かに彼に譲り渡しましたが、武器として渡したものは何もありません。
 この談合に当たって私が彼に与えたのはただ一つ、言伝です。その内容は、以下の通り。」

546共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:37:45 ID:jig807Q60
――最後の一撃は、指し示された。



「『放送で岩永琴子の死亡が確認された場合、新島真、ならびに彼女の仲間と思われる怪盗の名を冠する集団、その全員を危険人物として他の参加者に周知せよ。』」



――真っ赤な嘘だ。

 ハヤテに対し、岩永の死後の言伝などされていない。仮にそれがなされていた場合、進んで死に向かうかのような岩永の行動を、ハヤテはむしろ躍起になって止めていただろう。

「そんなっ……」

 言葉の上ではともかく、行動の上で岩永は何も真の実力行使に対する対策を練っていない。しかし、仲間の居場所が脅かされかねないその虚構は、真に致命的なひと言を、言わせてしまった。

「――みんなは……関係ないじゃないっ!」

 直後、真は自分の発した言葉にハッとしたように、慌てて口を押さえた。だが、手遅れだということはその場の空気が物語っている。姫神に怪盗の肩書きを暴露された竜司と真の繋がりが――世間的に悪と見なされている怪盗団であることが――岩永の前に露呈してしまった。

 ただし、現実として心の怪盗団を知らない岩永にとって、それはさしたる問題ではない。

「……。」
「ともかくこれで、あなたは私を殺せない。さらには、見捨てることもできない。私があなたと関係ないところで死んでも、綾崎ハヤテにそれを区別することはできませんから。」

 何より、武力で圧倒的に上回っていながら口封じもできないのがもどかしい。岩永の仕掛けた爆弾が爆発するのは、岩永を殺したその時である。

 怪盗団以外を死の海に蹴落としてでも、怪盗団の皆だけは守りたい――真のそんな決意に、鉄の鎖で巻き付くのごとく、岩永は己の命を怪盗団の命運に結び付けたのだ。

「……これで私が本当に乗っていなかったら……ううん、事実乗っていないのだから、随分な不義理を働いてくれたものじゃない。」
「人殺しすら許容される空間で、今さら何を言いますか。」

547共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:38:13 ID:jig807Q60
 岩永としても、真以外に原因を置く自身の死によって、真や怪盗団に不当な不名誉を被せるのは面白くない。真が自分を殺すことさえ封じられれば、ひとまず同行関係は築けるのだから、それで良い。

 だからこそ、その不義理をも『岩永琴子ならやりかねない』とまで思わせるために、ルブランでは根拠の揃わぬ内に真を殺人犯と糾弾した。証拠もなく、疑惑の段階で真相に先走り得るという印象を真に植え付けた。

 その一方で、岩永は真を殺人犯だと明らかにした根拠を『女の勘』と曖昧にしか説明していない。仮に岩永の死亡が次の放送で明らかになった場合、ハヤテは真を警戒することはあっても、確信を持って殺人犯だと触れ回るようなことはないだろう。

 ただ一つ、不安要素があるとするならば、『ハヤテごと口封じができるのなら真は岩永を心置き無く殺せる』ということだ。ハヤテが負け犬公園に向かうことは真も想像している通りだろう。岩永を殺害し、負け犬公園でナギの捜索をしている最中のハヤテの口封じに向かうことが、岩永の推理に対する最大のカウンターであった。

「……そして、これまで長く話してきたことにより、すでにハヤテさんは負け犬公園の探索を終えている頃でしょう。ナギさんを見つけられていれば良いですが……どちらにせよ、捜索を終えた彼がどこに向かっているか、もう私たちには分かりません。」

 だからこそ、あの脅迫を語りの最後の一撃に据えた。真が現状に気付いた時に、ハヤテを追う猶予を与えないために。

――怪盗攻略議会は、今ここに終結を迎えた。

 和解は、成功。真は岩永を殺せない状況が形成され、そして心の怪盗団のブレインと妖怪怪異の知恵の神が、主催者への反逆のために情報を統合するに至った。ふたつの世界の叡智が揃うこの談合は、殺し合いの世界を打ち破る鍵となるか。

548共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:38:48 ID:jig807Q60
【D-4/草原/一日目 朝】

【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康 義眼/義足装着
[装備]:怪盗紳士ステッキ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品ㅤクルミ割り器@ハヤテのごとく!
[思考・状況]
基本行動方針:秩序に反する殺し合いを許容しない
一.不死者を交えての殺し合いの意味は?
二.九郎先輩と合流したい。
※綾崎ハヤテと三千院ナギの関係について大体を聞きました。
※鋼人七瀬を消し去った後からの参戦です。
※この会場がパレスと呼ばれる認知の世界が混ざっていると知りました。
※新島真は暗所恐怖症だと勘違いしています。
※新島真ならびに正義の怪盗団は何かしらの異能の力を有しているのではと推測しています。

【新島真@ペルソナ5】
[状態]:健康 焦り(大)
[装備]:アーザードの聖法衣@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0〜3) 影山律の不明支給品(0〜1) さやかのバット@魔法少女まどか☆マギカ マグロバーガー@はたらく魔王さま!×2
[思考・状況]
基本行動方針:心の怪盗団全員で生還する。
1.双葉……頼んだわよ……。
2.明智を見つけたら、殺して自分の罪を被ってもらおう。
※ニイジマ・パレス攻略途中からの参戦です。
※ハヤテの探し人(三千院ナギ)を知りました。
※ハヤテ・岩永の関係する場所を知りました。

【支給品紹介】
【クルミ割り器@ハヤテのごとく!】
綾崎ハヤテに支給され、岩永琴子に渡った。
三千院家で使っていたクルミ割り器。豪華な意匠が施されており、おそらくは高級品と思われる。

549共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:39:24 ID:jig807Q60






 岩永がいなくなった今、空いたハヤテの背中には代わりのものが収まっていた。聖剣デュランダル――煌びやかに輝く装飾の成された抜き身の剣。何ら意思を持たぬその剣を前にして、移動速度に気を使う必要など一切ない。お嬢さまの身の安全、ただそれだけを考慮し、保護にのみ走るのであれば、探索及び敵の排除の両面で岩永以上に優れた相棒であると言えよう。

 ハヤテの方針にとりたてて大きな変化はない。ただ、武器を背負いながら二人乗りができなかったからこれまではザックにしまっていたものを、岩永との別れによって所持し始めたというだけに過ぎない。強いて言うならば、この世界では誰もが大なり小なりしている武装を強くしたというだけだ。だが、それはあくまで大まかな方針の上での話だ。

 お嬢さまの幼なじみである彼女が死んだ。

 お嬢さまよりも遥かに強いゴーストスイーパーである彼女が死んだ。

 取り留めのない日常をお嬢さまと共に過ごしてきたはずの彼女が、死んだ。

 その事実と向かい合えば向かい合うほど、現在進行形で何かが崩れ去っている実感が抜けない。伊澄の死による焦燥は、確かにハヤテの心に深く根差していた。その背に主張する刀剣は、紛れもなくその表れと言える。

「――着いたっ!」

 元は最速の自転車便と呼ばれた男である。目的地である負け犬公園に到着するのに、さほど時間は要さなかった。開放された門をくぐり抜け、急ブレーキを踏み込み停止する。

――その瞬間。

「わっ……!!」

 急ブレーキによって機体にかけられた負荷によってデュラハン号は空中分解した。

 デュラハン号は元を辿れば、一文無しで日本に降り立った真奥貞夫が、得始めたばかりの僅かな収入を振り絞って購入した格安自転車である。さらには、二人乗りやハヤテ特有の高速運転で機体のキャパを超えて強引に乗り回したこと。すでに、限界を迎えていた。

550共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:40:03 ID:jig807Q60
「……くそっ!」

 デュラハン号から叩き付けられ地面に叩き付けられても、まるで何事も無かったかのように立ち上がるハヤテ。新幹線から振り落とされた上にトラックに轢かれても無傷で立ち上がるまでの頑丈な肉体は、その程度で壊れはしない。だが、お嬢さまを探す効率を格段に高めていた自転車は壊れてしまった。

 もっと言えば、デュラハン号は岩永さんと取引したものだ。彼女と離れ離れになった上にこうしてデュラハン号まで失って――ああ、この殺し合いにおける彼女との絆はもう、失われてしまったのだと、そう思わずにはいられなかった。

(……何としても、守らないと。)

 もはや僕は今、岩永さんを捨ててここに立っている。もちろん、それを提案したのは向こうからだ。だけど裏切りを考えていたことは事実であり、さらにその想像の通りにことが進んでいることもまた現実。心の上では、岩永さんを切り捨てたのは僕だ。

 決意と共に背中の剣を手に取る。お嬢さまを脅かす敵がいるならば、すぐにでも、1秒でも早く敵を殲滅して、お嬢さまを守れるように。

 真っ先に向かったのは、自動販売機前。お嬢さまの誘拐を企てた己の過去の戒めの場所にして、お嬢さまと出会った思い出の場所。

「っ……!」

 そこは凄惨な有り様だった。肝心の自動販売機は側面からの衝撃で大きくひしゃげている。周辺の遊具や木々もおびただしい数の裂傷のようなものが刻まれている。

 もしお嬢さまがこの場所を目指していたら。そしてそのまま留まっていたとしたら。この破壊を実行した危険人物と出会わずに済むとは思えない。実際、その惨状を作り上げた人物である佐倉杏子は殺し合いには乗っていないのだが、少なくとも負け犬公園の現状からそれを推察することは不可能だ。

「――お嬢さまっ!ㅤいらっしゃいませんか!」

 負け犬公園の自動販売機は、これまでの日常を共にしてきた光景のひとつ。そして、そこに刻まれた破壊の痕。これまでの日々は決定的に破壊されてしまったのだと、嫌でも思い知らされてしまう。

「お嬢さま……お嬢さまああああっ!」

 剣を握った手を血が滲むほど強く握り締めながら大声で叫んだ。当然、その相手はここにはいない。そのためその叫びに返す者など、いるはずもなく。お嬢さまがいると予測していた地点に大破壊がぶちまけられていたことも含め、焦燥感ばかりが膨らんでいく。

 だが、どれだけ叫び見回そうとも、お嬢さまの姿は見つからない。もしかしたらどこかに隠れているのかもしれないと、園内のランニングコースへと向かい、駆け出す。

 しかし、間もなくぐるりとひと回りを終えても、何の成果も得られない。公園内のどこに身を隠していても、ハヤテの声または視線が届かないはずがない。

 お嬢さまは負け犬公園にたどり着いていないという、ただただ無情な結論だけがそこに示された。

551共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:41:27 ID:jig807Q60

「そんな。それじゃあ……」

 それはお嬢さまがいる可能性が最も高い場所、つまり唯一の手がかりが潰えてしまったことに他ならない。他の場所を探そうにも、お嬢さまがいる可能性が高いと推測できる場所はない。現在進行形で負け犬公園に向かっている可能性もあれば、殺し合いの開始から負け犬公園から遠く離れた場所にいて、体力的に向かうことすら諦めている可能性だってある。この場に留まるか、それとも探しに行くか。仮に行くとして、どの方角に向かうか。いかなる行動を取ろうとも、お嬢さまと出会える確率が最も高い場所など想像が及ばない。岩永さんなら何かしらの根拠の元にその答えを導き出してくれたかもしれないが、彼女とはすでに別れている。

 公園を一蹴した後に自動販売機前に戻ってくると、そこには当然のようにデュラハン号の残骸があった。せめてこれさえ使えたならば、しらみ潰しに探すにも効率的に行えていたはずだ。しかしチェーンが千切れてペダルの折れたその鉄くずにその役割がもう果たせないのは明白だった。

「ああ、もうっ!!」

ㅤたまりたまったモヤモヤを叩きつけるように、手にした剣をひと凪ぎ振り下ろした。その剣の『何でも斬れる』という評価は決して飾りではなく、鈍い音と共にデュラハン号の残骸は両断される。

「まったく、どうしていつもいつも……!」

 まるで、呪われているかのように立て続けに起こる不幸。鉄くずを刻んだところで、苛立ちは癒えない。お嬢さまを探す過程でランニングコースを全力疾走で駆けてきたために呼吸は荒くなっており、息苦しさが感情の昂りをさらに加速させる。

 ハヤテの脳内を占めているのは、お嬢さまの行方だけだった。だから、考えもしていなかったのだ。負け犬公園という地を目指し得るのは、お嬢さまだけではないということを。

 そして――

552共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:41:59 ID:jig807Q60


「ハヤテ君?」

――今の自分が客観的に見て、いかなる様態を晒しているのかということを。

「誰だっ!?」

 その声に反応し、咄嗟に振り返る。手にした剣を構えながら。その剣幕に一瞬怯みつつも、声をかけた少女――桂ヒナギクは、想い人でもある執事と向き合った。

「ヒナギクさん……。」

 負け犬公園に辿り着いたヒナギクが見たのは、植え込みから自動販売機に至るまでことごとく残された破壊の痕――そしてそれを前に、鉄くずに当たり散らし、負け犬公園の中に存在するオブジェクトに新たなる裂傷を刻み込むハヤテの姿だった。

「良かった、無事だったんですね。」
「……その前に。事情を聞いてもいいかしら?」

 駆け寄ろうとするハヤテを静止して告げるヒナギク。そこでようやく冷静になったハヤテが、今の自分を取り巻いている状況に気付く。公園内をめちゃくちゃにしたことまで自分の仕業であると、勘違いされているのではないか、と。

「っ……! 違うんです、これは……!」
「……言葉にしなくても分かってるわ。」
「……えっ?」
「ここに残っているほとんどのキズはその剣よりも細いもの。剣と言うよりは、槍のようなもので付けられたように見えるわね。」

 誤解は、生じない。誰が呼んだか、完璧超人。その観察眼も一般的な女子高生の域を優に超えている。

「はい!ㅤだから……」
「……でも、私はその上で。ハヤテ君の現状を看過できないの。」

 しかし、なればこそ。ハヤテの精神状態が危うい状態にあることも、理解していた。

「らしくないじゃない、やたら焦って。何かあったの?」
「……まあ、これはヒナギクさんも分かっていることでしょうけど……」

553共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:42:29 ID:jig807Q60
 伏し目がちになりながら語るその様子に、ヒナギクには次の言葉が概ね、予想がついた。そしてその予想通りの言葉を、ハヤテは紡いだ。

「……伊澄さんが、亡くなったんです。」

 その焦燥の原因を、ハヤテは簡潔に――しかしこの上なく荘厳に、述べる。それを受けたヒナギクは少し俯きがちになりながら返す。

「……ええ。」

 目の前で死んだ佐々木千穂の時とはまた違う。いつどこで死んだのかも不明瞭なままに、単に放送という曖昧な手段で知り合いの死を突き付けられたことは、ヒナギクの心にも少なからず影を落とした。どうすれば彼女が死ななくて済んだのかなど、後悔する余地すらも残してくれない。関わることも最初から許されぬままに、死という結果だけがそこにあった。

「つまり……この世界には伊澄さんを殺せるような人がいるってことなんですよ……!」

 切羽詰まった様相でハヤテは語る。

 伊澄の持っていたゴーストスイーパーの力を、ハヤテは何度も見てきたから、そんな彼女を殺せる相手がこの世界で殺し合いに乗っているという事実に対し、お嬢さまの身の危険を感じずにはいられない。

 しかしその一方で、ヒナギクは伊澄の力のことを知らない。成人男性に見える者も一定数いるこの殺し合いに、伊澄を殺せるような人など決して少なくないだろうという認識がヒナギクにはある。

 言葉は、不完全だ。この場においてハヤテの言葉がヒナギクに正しく伝達されることはない。

「……だったら、どうするの?」

――だけど、それでも。

「……お嬢さまを、守ります。」

 言葉が不完全でも、発した言葉が正しく受け取られる保証なんてどこにもなくても。

 言葉の裏の心だけは、きっと等身大のままに伝わることのできるものだから。

「――もし敵がいたとしたら、命を奪ってでも?」

554共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:43:48 ID:jig807Q60
ㅤそれは、考えないようにしていたことだった。

ㅤそれを認めてしまえば、岩永さんの信頼を本当に、裏切ってしまうことになるから。

「…………ええと、それ、は……。」

 ぼかすことも、或いはできたかもしれない。だけどヒナギクの視線が、ハヤテの逃げ場を無くした。安易な虚構は通用しないと、彼女の目が物語っていた。

「……はい。お嬢さまを守るためなら、その覚悟はできています。」
「…………そっか。」

 時が止まったように、しばらく二人とも声を発さなかった。そしてその沈黙に疲れたように、先に声を発したのはハヤテの側。

「……ごめんなさい、ヒナギクさん。もう、行きます。」

 そう言って明後日の方を向いて、ハヤテはナギの捜索のために立ち去る。一瞬だけ垣間見えた、視線の逸れた横顔からでも、ひしひしと伝わってくる真摯な感情――その片鱗すらも、向いている先は決して自分ではなく。

「ねぇ、ハヤテ君。私は――」

 痛々しいほどに痛感する。この恋はもう、終わっているのだ、と。否――最初から始まることすらもなかったのだ。

「――ハヤテ君のことも心配だわ。」

 だってあなたは最初から、私のことを見ていなかった。あなたの見る先には常に、ナギがいた。

 この想いは、伝わらない。

 真っ直ぐに伝えるには感情が追い付かなくて。だけど遠回しな気持ちなんて、あなたに届けるには足りないから。

「……でも。」

――だけど。

 言葉にしないと伝わらない想いならば。私の心だけを届けるに足る想いが、あなたに無いのならば。

「――今回ばかりは私も、譲れないんだから。」

 鈍感なあなたにも伝わるよう、言葉にすればいい。

 あるがままの想いを、"告白"すればいい。

555共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:46:30 ID:jig807Q60
ㅤ勇気を出して、あと一歩――




「私はもう……誰も死なせないって決めたのっ!」



――強引にでも、振り向かせてやるんだからっ!



「――白桜ああぁッ!!」

 陽光の煌めく空の下に、一陣の風が吹き抜けた。

「……うわあっ!」

 今や亡き友の忘れ形見となった剣は、まるで太刀風の如く瞬時に、ヒナギクをハヤテの眼前へと運んだ。そして同時に、その剣はハヤテへとその矛先を向ける。

「なっ……ヒナギクさん!?」
「構えなさい、ハヤテ君。」

 この恋に、飾った言葉なんていらない。ただ想いの丈をぶつけ、一歩を踏み出す勇気さえあればいい――ほんとはずっと分かっていたのに。

「どうして……どうしてジャマをするんですかっ!」
「……違うのよ。私は別に、ナギを助ける邪魔をしたいわけじゃない。」

――罪を犯した人間が、その罪の報いを受けるとするならば、それはいつのことだろう。

 私は、嘘をつき続けてきた。皆にも、自分の心にも。

 友達である歩を、裏切るのが怖くて。あなたとの関係が、少しでも変わってしまうのが怖くて。ぐるぐる、ぐるぐると同じところを廻り続けて。

 たった一言の告白、その一歩を踏み出す勇気をいつまでも保留してきたが故に――今ここに、あなたと剣を交わす因果が生まれた。

「でも、この気持ちまでもを抑え込んで、ここでハヤテ君を行かせて……そのせいで誰かが犠牲になってしまったら私、殺されたあの子にもう顔向けができないもの。」

 ハヤテの脳裏に過ぎるは、いつか遠い昔の光景。些細な、しかし致命的なすれ違いの果てに、互いに剣を取り戦うまでに至った天王州アテネと、決定的に道を違えたあの時。

「だから、ハヤテ君。この先へ進みたければ、私を倒してからにしてもらうわ!」
「っ……! だったら……」

 今も、あの時と同じだ。正しいのは目の前の少女で、間違っているのは、僕で。

「僕は、進みます! たとえ……ヒナギクさんを倒すことになっても!」

 僕らは、弱くて、不器用で、何もかもを手にすることなんてできない。二兎を失うのが怖くて、進んで何かを切り捨てる。言ってしまえば、幸せの妥協だ。譲歩できないラインを切らぬギリギリまで、幸せを放り捨てていく。

556共に沈めよカルネアデス(後編) ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:46:57 ID:jig807Q60

【D-3/負け犬公園/一日目 朝】

【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康 焦り
[装備]:聖剣デュランダル@はたらく魔王さま!
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:お嬢様を守る
一.たとえ、この命にかえても。
二.ヒナギクさんを倒して、先に進む。
三.新島真並びに注意する。
四.真さんにお嬢様の事を話したのは失敗でした……
※ナギとの誤解が解ける前からの参戦です。(咲夜から初柴ヒスイの名を聞かされています)
※新島真は暗所恐怖症だと勘違いしています。

【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
[状態]:腰の打撲 疲労(低)
[装備]:白桜@ハヤテのごとく!
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:誰も死なせない
一.綾崎ハヤテを止める。
二.二日目スタート時までに、見滝原中学校に向かう
三. 佐々木千穂の思い人に出会ったら、共に黙とうを捧げたい…
※名簿を暗記しました。
※参戦時期は姫神と面識を持つ前です。
※情報交換によりドラゴンや異世界の存在、鋼人七瀬、魔法少女について知りました。

【支給品紹介】
【聖剣デュランダル@はたらく魔王さま!】
天使ガブリエルが扱っている聖剣。本人曰く『何でも斬れちゃう』ほどの斬れ味を誇る(アルシエルの肉体や遊佐の聖剣に弾かれているため、そういった特殊効果は無い)。

557 ◆2zEnKfaCDc:2021/11/29(月) 20:47:11 ID:jig807Q60
投下完了しました。

558名無しさん:2022/03/03(木) 12:22:06 ID:xQS6KVUY0
遅れてしまいましたが乙です
情報量の違いもありますが、すれ違いが焦りを加速させてますねえ
気づいているのかいないのか、そのタイミングだからこそできる衝突が物悲しくも熱かったです

559 ◆2zEnKfaCDc:2022/03/24(木) 04:57:43 ID:80WX/zh60
投下します。

560バイバイYESTERDAY ◆2zEnKfaCDc:2022/03/24(木) 04:58:54 ID:80WX/zh60
「ねぇ。起きなさい。早く起きなさいったら!」
「……ん。」

 赤羽業の意識は、強引に揺すり起こされることにより覚醒を果たした。開けた視界に、女豹を象った装束に身を包んだ女怪盗、高巻杏の姿が映し出される。

「……ああ。」

 そして体を起こし、数秒ほど寝惚けたようにキョロキョロと辺りを見回して――間もなく、思い出す。何故自分が気を失う羽目になっていたのか。そして杏と自分を昏倒に至らせたのが、誰であったのかを。

「さやかは、一人で……?」

 その下手人の行方は聞くまでもなく分かっていた。杏は自分よりも早く気絶していたのだから、自分の気絶後に杏がさやかを止める手段などあるはずがない。それ以前に、そもそもこの場にさやかがいないのだから、戦場に向かおうとしていた彼女を引き留めることに失敗しているのはもはや明らかだ。それでも、何か想像もつかない要因が――奇跡とでも呼べる何かが、さやかを止めていることを信じたかった。だが、杏はただ黙ってそれに頷いて返すことしかできない。魔法と呼ばれる異能はあれど、それは奇跡とは程遠く。

 それを思い知らせるように、様々な死別を告げる定時放送が彼らの聴覚を支配したのは、それと同時のことだった。

「…………。」

 ここで放送が流れなければ、さやかもまだ刈り取るものと戦っている最中であるのだと、まだ間に合う可能性に縋ることが出来ていたかもしれない。しかし、答えは提示された。箱の中の猫が死んでいることは明かされてしまった。

 杏もカルマも、不覚を取ったという自覚はある。美樹さやかという人物を理解していなかった杏は、さやかの奇襲を予測できなかった。逆に、カルマはそれを予測こそしていたが、魔法という異能力を前にして力が足りなかった。足りないものを持っている隣人がいながらも、それを補い合うこともできなかった。

561バイバイYESTERDAY ◆2zEnKfaCDc:2022/03/24(木) 04:59:27 ID:80WX/zh60
「……どうして、死に急ぐかなぁ。」

 しばしの時。静寂を切り裂いてカルマがようやく発した言葉が、それだった。自己嫌悪の言葉はとめどなく湧いてくる。しかし、さやかを止められなかったのは自分だけでないことも知っているのだ。それを吐き出せば、その言葉は同時に相手の責任をも問うことになる。それはカルマの本意ではない。

「……それは知らない、けどさ。」

 さやかと同じく、カルマの制止を振り切ってでも戦場に戻ろうとしていた杏は、それに同意などできない。杏もまた、死に急いだつもりなどはなくとも無謀な戦いに挑もうとしていた自覚はある。さやかの矜恃は、杏の抱くそれと同じ方向を向いていた。しかし、杏はそれを貫けなかった。あの時さやかに気絶させられていなければ、或いは呼ばれていた名前は自分の名前だったかもしれないのだ。

 杏が向かっていた場合の戦局など、今となっては知りようもない。それでも――否、だからこそ、だろうか。さやかは、自分の身代わりに死んだのだと、そう思わずにはいられなかった。カルマの追想に返すべき言葉は、同意でも謝罪でもなければ、ましてや慰めでもない。理不尽を前に反逆の意思を掲げるは怪盗の美学。傷の舐め合いに終わるなど真っ平御免だ。

「今は、先にやることがあるから。」
「……そうだね。」

 冷徹な、しかし冷静な現状判断。なぜなら、刈り取るものの名を冠した異形は未だ存在し、殺し合いにその身を投じているのだ。

「っていうかアンタ、そもそも逃げろ派だったよね? 来るわけ?」
「ま、戦局が明らかに崩れているのが分かってるし……人命救助くらいにはね。」

 トールが死んで、さやかも死んで。あの戦場に残されているのはあと二人。刈り取るものが生き残っていることへの恐怖の先には、エルマがまだ生き残っていることによる焦燥がある。まだ救えるかもしれない命があの場には残っているのだ。

 仮にエルマまで放送で呼ばれていたのなら、敗北を認め潔く撤退するという選択肢もあった。しかしエルマの名が呼ばれていないことこそが、撤退の選択肢を杏の行動選択から除外した。二人もの罪も無い人の命を奪われておきながら、これ以上の喪失を看過するわけにはいかない。それが少なからず仲良くなれたエルマであるなら尚更だ。

「ただし、エルマの救出を果たしたら撤退してもらうよ。それ以上の無茶は駄目。ヤツは改めて人数を揃えてから叩くってことで。」
「……ん、分かった。」

 その言葉を前に、僅かに呆気にとられたような表情で、杏を見つめるカルマ。

562バイバイYESTERDAY ◆2zEnKfaCDc:2022/03/24(木) 04:59:59 ID:80WX/zh60
「なに?」
「いや、意外だなあって。」
「もっと聞き分けのない女だとでも思ってた?」
「……まーね。」

 カルマの言葉に少しムッとした顔を見せた杏は、しかし次の瞬間には伏し目がちになりながら、ひと言。

「……まあ、私も。アンタはもっと、冷酷な奴だと思ってた。」
「はは、否定はしないけどねー。」

 さやかの末路を見たからか、戦いに戻ると聞かなかった杏もカルマの言葉に素直に応じているし、撤退を唱えていたカルマもエルマの救助に向かおうとしている。トールとエルマを助けに行くか行かないかで揉めた時も、撤退を前提とした上での加勢であれば、さやかは乗っていただろうか。この結論をもう少し早くに打ち立てられていたならば、結果は違っていたかもしれない。タラレバに意味は無いが、それでも、考えてしまう。

 二人が昏倒するに至り、さやかが死ぬという結末を導いたあのいざこざは、当事者がいざ落ち着いて話し合ってみれば、こんなにも簡単に解消されてしまうものだったのだから。

(……どーでもいいことだった、とは言わないけどさ。)

 人と人は、時に分かり合える。言葉は人間に与えられた高度な技能だ。そんな当たり前のことが、あの時は見えていなかったのだ。

(熱くなると、周りが見えなくなるもんなのかね。)

 撤退すべきか、戦場に出向くべきかなどという話でなくとも、提唱した行動が食い違うことくらい、いつだって起こり得る。例えば――殺せんせーを助けるべきか、殺すべきか。この催しのせいで重要度の下がった問い掛けだけれど、元の世界に帰ったら目下に抱えたそれを改めて向き合わなくてはならない問題には他ならない。

 刈り取るものという脅威に立ち向かおうとしている今、その先に殺せんせーを殺すかどうかの話なんて、どうでもいい。だけど、それでも――その決意が、そして殺意が、どこか揺らいでいる自分がいた。殺せんせーを殺す派についた理由は、それが殺せんせーが命を賭けるに足る信念であったのだと分かったからだ。

 だけど、その信念の裏に遺された者たちの気持ちもまた、知ってしまった。喪失に伴う感情は、そんなものと吐き捨てられるものでないことも理解してしまった。

 今でも、殺せんせーを殺すべきと言い放ったことは間違っていないと胸を張って言えるだけの矜恃は抱えている。だけど同時に、「それはアンタのエゴではないか」とぶつけられる自分も見付けてしまった。殺せんせーと同じく、命を賭けるに足る願いを見出したさやかを失ったことを、まだ割り切れていないから。そして――あの教室の恩師のひとりも、殺せんせーに最も強い殺意をぶつけた少女も、放送で呼ばれていたから。

(……ダメだ。殺意を、鈍らせちゃ。)

 この世界には、烏間先生という怪物を殺せる人物がいる。曲がりなりにも自分たちと同じ訓練を受け、死線をくぐり抜けてきた少女を殺せる人物がいる。殺す気で挑まないと――殺される。

563バイバイYESTERDAY ◆2zEnKfaCDc:2022/03/24(木) 05:01:54 ID:80WX/zh60
「……あ。」

 間もなくして、カルマより前を走っていた杏が小さく声を漏らした。その視線の先にカルマが気付くよりも早く、杏は足を速めてその場へと向かう。

「……エルマッ!」

 エルマは、荒れ果てた大地に横たわっていた。二度と開かない目に降り注ぐ陽光が、その表情を明るく照らし出す。

「……っ!ㅤそんな……。」

 すでに手遅れだった。だけど、やもすれば間に合ったかもしれない命でもあった。エルマの身体はまだ温かく、放送時には間違いなく生きていたことを踏まえても死からさほど時間が経っていないのは明らかだ。

 しかし、それにしては妙な箇所が一点。おそらくエルマに手を下した存在であろう刈り取るものの姿が、辺りを見回してもどこにも見当たらないのだ。

「……シャドウは倒したら姿かたちも残さず消えてしまうはず。ってことは……」
「相打ち……ってことかもね。」

 エルマを殺した後に逃げた可能性も無いではないが、エルマと刈り取るものの生存が確認できた放送からさほど時間は経っていない。それだけの時間は、許していないはずだ。仮にそれを許してしまっていたとしても。エルマが放送直後に殺され、刈り取るものが即座に撤退を選び自分たちの前から姿を消されていたとしても。元より撤退を前提にここに駆け付けてきた二人に、それを追いかける選択肢はない。

 そして何より――大願を遂げたかのごとく貼り付けられたエルマの笑みが、それが無念の戦死などではないことを饒舌に語っていた。刈り取るものの消滅は次の放送で確認するまでは真偽不明のままではあるが、一旦は討伐したものと仮定して問題無いだろう。

「……埋葬とか、した方がいいのかな。」

 杏がぽつりと呟く。この世界で多くの命が奪われたこと。さらに、今もなお誰かの命が脅かされつつあるのも、分かっている。だけど、少なくとも放送で、怪盗団の仲間は誰も死んでいないと確認できた。さやかもトールも、共に絆(コープ)を深めた時間は、ほとんど皆無に等しかった。明確に"仲間"と呼べる者との死別は、初めてだ。

「穴掘って埋めるのは大変かもしれないけどさ……せめて、火葬だけでも。」
「……火元はどうすんの?」
「カルメン。」
「あー、あの背後霊みたいなやつ?」
「そうそれ。説明はめんどいしぶっちゃけ私も分かんないから。アンタ頭は良さそうだし、何となくで感じ取ってよ。」

 何でもアリだな、という感想もといツッコミは、すでにマッハ20の超生物に出し尽くしている。殺せんせー以上に科学で説明が付かない存在も、それを当たり前に扱っている杏のことも、もはや受け入れるしかないようだ。

564バイバイYESTERDAY ◆2zEnKfaCDc:2022/03/24(木) 05:02:34 ID:80WX/zh60
「じゃ、任せるよ。俺は念のため、近くの見回りとかやっておくから。」

 エルマの火葬に立ち会わないのは、無意識に感じている罪悪感からでもある。少なくともカルマは一度、エルマとトールを見捨ててさやかと共に撤退する選択肢を打ち出したのだ。

 そんな複雑な想いを察してか、杏は黙ってカルマを見送った。どの道エルマに別れを告げるべきは、あの長いようで短い刈り取るもの戦線で少しばかり共闘しただけのカルマではなく、それ以前から数時間に渡って同行し、絆を紡いだ自分に他ならないのだ。

「……エルマ。」

 カルマが去って一人になって。そして改めて、物言わぬ骸となった竜と向き合う。

「フルーツ好きっていう共通点見つけてから、食べ物の話とかいっぱいしてくれたよね。」

 "好き"を語るエルマは、幸せそうに笑っていた。今のエルマも、同じ表情をしている。腐敗していくのが勿体ないくらいに、一切の無念を感じさせない、幸せの顔だ。

「私も、美味しいもの食べてる時は、幸せだった。一人で食べてる時も、誰かと一緒に食べてる時も。そんな幸せな日常がずっと、ずっと続いてくんだって思ってたんだ。……でも、そんな些細な幸せを壊して笑ってる奴らが、この世界にはうじゃうじゃいる。」

 誰かを虐げる悪意が、この世界には蔓延っていて。その悪意に踏みにじられる幸せは、数え切れない。自分が心の怪盗団としてここに立っている根源でもある友人、鈴井志帆もその一人だった。醜悪な悪意に晒されて、幸せを奪われて。

「私、許せない。この催しの裏で笑ってる奴がいるのなら、怪盗としてそんな楽しみ、奪ってやる。だから……見守ってて。」

 仮面に手を翳すと同時に、顕現するひとつの影。死に伴ったエルマの痛みが、どうか熱さの中に溶けていきますように。

「――踊れ、カルメン。」

 ――アギダイン

 ぱちぱちと音を立てて、骸は炎に包まれていく。最後までエルマは幸せそうな顔のまま、ゆっくりと灰へと変わっていった。

565バイバイYESTERDAY ◆2zEnKfaCDc:2022/03/24(木) 05:05:27 ID:80WX/zh60



「……見つけた。」

 少し離れた岩陰に、さやかは横たわっていた。その身体に目立った外傷はなく、血も大して流れていない。どう見ても、傍目には眠っているようにしか見えない。

「……どいつもこいつも、死んでるくせに満足そうな顔、しちゃってさ。」

 エルマに続いてさやかも、何かをやり遂げたような、そんな表情を浮かべている。志半ばに戦死したとは思えない、そんな顔だ。だからこそ眠っているだけのようにしか見えなくて。だからこそ、死という現実から逃げ出したくもなってしまう。

 だけど、"さやか"がこの眠っている少女ではないのは、知っていて。

「……本当に、こっちがさやかなんだ。」

 青く煌めいていた宝石に、今や輝きは点っていない。刈り取るものの銃撃を受け、粉々に砕け散っていながらも――しかしその装飾部の痕跡は残っている。さやかがソウルジェムと呼び、彼女の魂が篭っていると説明していた宝石。さやかの死因が人間の肉体の損傷でないことは、連鎖的にあの話も、紛れもない事実であると証明している。

「……後悔とかでうじうじするの、嫌いだからさ。ごめんねとかは言わないし、責めるつもりも別にないよ。」

 互いに肯定も否定もすることなく、不干渉。それがさやかとの関係の、始発点だった。どの道この殺し合いの間だけの関係であると、ビジネスライクに。冷や水のように、冷徹に。

「だから、これは俺の独り言。」

 だけど、ほんの少しだけ。運命的に僅かに重なり合った因果に、意味を見出すのなら。

「あの悪徳商人はさ、ちゃんと俺がボコボコにしとくから――殺す気で。」

 放送を担当していた者は、キュウべえと名乗っていた。それは、さやかから聞いた、契約した相手の名前だ。願いを餌にさやかの人生を弄び、さらには殺し合いという催しにまで落とした存在。

 さやかの抱えている戦いに干渉しようなんて心持ちはなかったはずだ。だけど、そのやり口に心から気に入らないと思ったからには、それはすでに自分の戦いでもある。それに、脱出して主催者をぶん殴るのに、モチベーションは多ければ多いほどいい。

 最後に、手を合わせた。湿っぽい別れは嫌いだけれど、これでお別れだと終止符を見出すことは、生者が死に見切りをつけるのに必要な儀式だ。恩師との別れまで、こんならしくない真似は、とっておくつもりだったけれど。どうやら感情とは、そう簡単にいくものでは、なかったらしい。

「……ほんっと、らしくないけどさ。」

ㅤ僅かに零れそうになった涙は、無理やりに抑え込んだ。これを流すのは、全てが終わった後にするために。

566バイバイYESTERDAY ◆2zEnKfaCDc:2022/03/24(木) 05:05:50 ID:80WX/zh60



「それで、ここからどうするの?」

 それぞれがそれぞれの形で、かつての同行者との別れを終えた。ここからは、新たな同行者と共に、これからの話に移るフェイズだ。

「霊とか相談所ってとこに向かおうと思うよ。」
「別に異論はないけど……理由とかあるの?」
「特に。ただこれといったアテもないし。」
「じゃあその前に……ここ、純喫茶ルブランってとこに寄ってもいい?」
「ん、別にいーけど……ここは?」
「私たちの拠点。心強い仲間、必要でしょ。 」

 やるべきことは、次第に見えてくる。殺し合いなどという理不尽を前にしても、彼らのやることは凡そ変わらないのだ。権力を振りかざす大人たちの存在と、エンドのE組。彼らにとって、世界は元より、理不尽だった。

 今が苦しみに満ちていたとしても、未来が暗雲に閉ざされていたとしても、それでも弱者なりの戦い方がある。反逆の意思を胸に掲げていられるために、強者に奪われた過去は決して忘れない。掴み取る明日に笑っていられるのなら、踏み躙られた昨日までにも、きっと意味があるから。

【E-6/住宅街エリア外/一日目 朝】

【赤羽業@暗殺教室】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:マッハパンチ@ペルソナ5
[道具]:不明支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:元の日常に帰って殺せんせーを殺す
1.キュウべえを倒す
2.純喫茶ルブランに寄った後、霊とか相談所で首輪の解除方法を探す
3.渚くんを見つけたら一発入れとかないと気が済まないかな

※サバイバルゲーム開始直後からの参戦です。

【高巻杏@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(中) 気絶
[装備]:マシンガン※対先生BB弾@暗殺教室
[道具]:基本支給品(食料小) 不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を改心させる
一.純喫茶ルブランに向かう。
二.島にあるであろうパレスの主のオタカラを探し出す
※参戦時期は竜司と同じ9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。
※姫神がここをパレスと呼んだことから、オタカラがあるのではと考えています。

567 ◆2zEnKfaCDc:2022/03/24(木) 05:06:05 ID:80WX/zh60
投下完了しました。

568 ◆2zEnKfaCDc:2022/04/18(月) 04:04:59 ID:HlQLjCVA0
雨宮蓮、小林さん、漆原半蔵、花沢輝気で予約します。

569 ◆2zEnKfaCDc:2022/04/20(水) 22:06:02 ID:6G79CgFU0
投下します。

570つわものどもが夢の跡 ◆2zEnKfaCDc:2022/04/20(水) 22:06:39 ID:6G79CgFU0
 放送を迎える心持ちとしては、決して穏やかではなかったにせよ、それでも比較的落ち着いたものであったはずだ。

 確かに、私たちを守って死んだ少女、鷺ノ宮伊澄については未だ割り切れているわけではない。だがそんな死別があったとはいえ、その死を改めて突きつけられたとて殊更心を乱されるわけではないだろう。少し時間が経っているのもあって、それくらい私は落ち着いている。

 そうなれば、放送に向かう心持ちも比較的平穏だと言えるはずだ。強いて言うなら私と同じく戦う力なんて持っていない滝谷くんが心配だというくらいか。何なら、先走ってるかもしれないあの子らに、ひとまず私の無事を伝えられるというひねくれた期待もあった。不謹慎かもしれないが――私はこの放送を、どこか待っていたような心持ちでいたのだ。

「――小林トール」

 私は断じて、その心配だけはしていなかった。

「……は?」

 当たり前のように私の隣にいたあの子が。終焉をもたらすだけの力を手に、日常を謳歌していたあの子が。

「……嘘、だろ。」

 すでに死んでいる、なんて。



571つわものどもが夢の跡 ◆2zEnKfaCDc:2022/04/20(水) 22:07:05 ID:6G79CgFU0
 最初から分かっていたことだ。トールとの日々は、永遠ではない。

 日常の中であの子はたまに、ふと顔つきに陰りを見せる時があった。そんな時はその陰りを押し隠すように、あの子は笑って――それを見ながら、私は考えた。トールはこの暮らしが終わる瞬間を、すでに脳裏に思い描いてしまっているのだ、と。ドラゴンのあまりにも果てしない寿命。それを前にすると、きっと私という人間など、風前の灯火のように、脆弱で儚い命にしか見えていなかったのだろう。

 トールはずっと、終わりを見据えていた。けれどその終わりは、私の死によって訪れるものではなかったのか。まさか私が残される側になるなんて、考えたことすらなかった。私だけが、永遠でないひと時を永遠であるかのように錯覚していた。

(どうして、忘れていた?)

 ふと私は、トールと初めて出会った時のことを思い出していた。酩酊のままに引き抜いた神剣――あの日もトールは、私がいなければ死んでいたのだ。

 ドラゴンと死とは、決して無縁の概念なんかじゃない。そりゃあ、そうだ。盛者必衰の理というように、命あるもの、いつかは終わる。ドラゴンという生命に何かしら特異性があるとしても、それはただ長いか短いか、強いか弱いかの差でしかない。そんな当たり前のことが、ずっと頭から抜けていたのだ。

(……違うな。たぶん私は……忘れていたんじゃなくて、考えないようにしていただけなんだ。)

 ああ、これはどうしようもない現実逃避だ。

 トールが私の関与しないところで死んでしまい得ると認めてしまえば、あの子たちを、人間というちっぽけな枠組みからもっとスケールの大きい枠組みに、切り離してしまうような気がして。せめて共に過ごすひと時だけは、彼女たちには人間の枠組みを生きてほしかったのだろう。

「……さん。」

 もちろん、私はどうしたってドラゴンにはなれないし、あの子たちだって人間にはなれない。絶対的な種族差それ自体を変えることはどう足掻いても不可能だ。だけど、その違いを受け入れた上で、楽しむことはできる――私はそれを、前向きに捉えていたはずだ。価値観の違いを受け入れ、擦り合わせることの楽しさを、例えばそれを人間ごっこだと言い放ったファフニールに、時には、ドラゴンの価値観に囚われていたイルルに、はたまたその領域を理解しようとすらしなかったキムンカムイに、伝えたかった。

 だというのに、結局私は、あの子たちに人間であってほしかったのだ。戦いに生き、そして死にゆくドラゴンの枠組みの概念を、あの子たちから遠ざけたかったのだ。

572つわものどもが夢の跡 ◆2zEnKfaCDc:2022/04/20(水) 22:07:37 ID:6G79CgFU0
(何が違いを楽しむ、だ。)

 それを違いであると認めたくなかったのは。

 ドラゴンの死を、人間の基準で起こりえないものであるとみなし目を背けていたのは。

 人間ごっこから、都合よくドラゴンの価値観だけを排除しようとしていたのは。

 他でもない、私じゃあないか――

「――小林さん!」

 耳に響く花沢くんの声と共に、私の意識は現実に引き戻された。

「あ……ごめん。ボーッとしちゃって……。んと、どしたの?」
「放送、聞いてなかったのかい!?」
「あ……うん。ゴメン……。」

 トールの名前が呼ばれてから以降の名前は、全く耳に入っていなかった。トールが死ぬ世界だ。滝谷くんはもちろん、カンナちゃんやエルマ、ファフニールに至っても無事である保証なんてない。

「えっと……誰の名前が呼ばれたか、覚えてる?」

 きっとこの時の私は、間の抜けた顔をしていたことだろう。花沢くんは少し、じれったそうな顔をして――

「悪いけど今は……それどころじゃないんだ!」

 次の瞬間、私の身体はふわりと持ち上がった。

「えっ……」
「少し荒っぽく運ばせてもらうよ。」

 さらにそのまま――私は一陣の風となった。方向感覚もなくなるくらいの速度で、どこに向かうかも分からぬまま強引に高速移動をさせられる。

573つわものどもが夢の跡 ◆2zEnKfaCDc:2022/04/20(水) 22:08:02 ID:6G79CgFU0
「う……うわああああああっ!」

 まるで前に向かって落下しているような、そんな感覚。トールに初めて乗った時も、これに近い恐怖だった気がする。それに並走するように一緒に飛んでいる花沢くんの姿も、向かい風に晒されほとんど機能していない視界の端に、ギリギリ見て取れる。表情は見えないが、彼が何かしらに真剣であるのは間違いない。

 そして私たちは、"現場"にたどり着いた。

 そこには先に漆原がいて、私たちを横目で確認すると、それまで見ていた箇所に再び視線を移す。まるで信じられないようなものを見たとばかりのその目の向かう先。自ずと私の視線も、そちらへ吸い寄せられ――そして理解する。私が聴き逃した放送が、誰の名前を呼んでいたのか。

 視線の先で、僅か数分前まで遊佐恵美だったであろうものが、一本の大木に吊り下がって揺れていた。その細い首にはロープらしきものが架けられており、言うなれば典型的な、『首吊り自殺』の単語が浮かんでくる光景だった。

「……馬鹿なヤツ。」

 その光景を見て、漆原は小さく吐き捨てる。人間の文化に精通しているわけではないが、執行を重力に委ねることができる首吊りは、エンテ・イスラでも典型的な自殺の手段である。彼の頭に浮かんだ想像も、他の二人と大差は無い。あえて気になることといえば現場に踏み台に類するものが無いということ。しかしそれについても、遊佐の脚力ならば必要ないと言えよう。

「お前にとって罪って、そんなにまで受け入れられないものだったのかよ。」

 死を選んだ理由は、想像できる。明智吾郎という男との交戦の末に促された精神暴走により、罪のない少女の命を奪ってしまったこと。

 仮にも漆原は、魔王軍として人間と戦う中で、相手を殺したことも数え切れないほどある。しかしだからといって、遊佐にとってそれがそんな些細なことと吐き捨てられるほど、軽いことであるとは思わない。奪った命への償いの気持ちというのも、今なら少しは理解できる。

574つわものどもが夢の跡 ◆2zEnKfaCDc:2022/04/20(水) 22:08:35 ID:6G79CgFU0
「……白くあり続けようとするのは、尊いことだ。だけどそれに溺れてしまうくらいなら、深淵よりも真っ黒に、堕天してしまえば良かったんだ。」

 生き方がほんの少し変わってしまうことくらい、天使にだって――そして悪魔にだって、ある。それを悪いことだとは思わないし、かの勇者エミリアであれば、どれだけ変わってもきっと根底の正義は揺らがないだろうとも思っていた。ちょっと独りにしてほしいと言った遊佐を送り出したのは、偏に信頼だったのだ。アイツならきっと、自分の罪と向き合って、それを糧に正義を志してくれる。だから大丈夫だ、と。少しながらも遊佐を知っているからこそ、その言葉に頷いたのに。

(行かせなければ良かったのか?ㅤそれとも……死なせてやった方が、アイツのためには正解だったのか……?)

 もう、どんな感情を抱くべきなのかも分からない。そもそも遊佐は魔王軍から見たら敵勢力なわけで、ここまで馴れ合ってきたこと自体がイレギュラーであるとも言えるのだ。旧敵がいなくなったこと、その事情だけ見れば、喜ぶべきなのだろう。だけど、とてもそんな気分にはなれない。

 ひとつだけ、明確に言えるとするならば――こんな形の決着、真奥のヤツも望んじゃいなかったろうに、と。ただ、それだけだった。

「……まだ、助からないかな?」

 そう切り出したのは、花沢だった。言葉と同時に放った念動力が、ひとまず遊佐の身体を空中にキープし、重力で締め付けられていた首を解放する。

「確かに放送では死んだと言われていたけど、そもそも医者であっても立ち会わずして厳密な死亡宣告なんてできるわけがない。もしかしたら仮死状態にあるだけかもしれないだろ?ㅤ僕が念動力で浮かせておくから、このまま縄を解いて降ろそう。できるだけ、慎重にね。」
「……そうか!」

 遊佐との親交が薄いからこそ、花沢は冷静だった。その言葉を聞いて、ハッとしたように遊佐の方へと走り出す漆原。

 その隣で、小林はどこか考えるような素振りを見せていた。

575つわものどもが夢の跡 ◆2zEnKfaCDc:2022/04/20(水) 22:09:42 ID:6G79CgFU0
(具体的な根拠が、あるわけじゃない。)

 小林から見ても確かに、最後に見た遊佐は精神的に弱っていた。漆原ほど彼女を知っているわけではないが――それでも、思わずにはいられない。彼女が本当に、自殺という手を選んだのか?

 かつてトールは、私を慕ってくれていた。下等で愚かな生物だと謳っていた人間である私を。ドラゴンという私たちとは比べ物にならないほどの存在が、たった一晩で心を変えたのである。そして、彼女を変えた何かは間違いなく存在しているのだ。

 トールを変えたのは小林さんであると、トールは言っていた。でもね、私はただ酔った勢いであの山にフラフラとたどり着いただけのただのOLなんだ。私自身が特別ってわけじゃあない。トールが言うような価値なんて、私にはないんだよ。

(でもトールはあの時――震えてたんだ。)

 そう、トールを変えたのはきっと、私なんかじゃないんだ。

(ドラゴンであっても……きっと生物である限り、簡単には抗えないんだよね。)

 トールと初めて会った山の中。私に信仰心があれば、抜けなかったであろう神剣とやら。死という、あらゆる変化の終着点を前にしたトールは、抗えない恐怖と戦っていた。

 死ぬのは怖い――生物に定められた生存本能。それに逆らうのは、ドラゴンの心すら変えてしまうほどに、決して容易なことなんかじゃなくて。

 私たちと別れてから放送が始まるまでの数分間で、旧知の相手にまで気持ちを隠し切ったまま、生存本能を振り切って自殺に走る。そんなの、心の弱った彼女に――いいや、心が弱っていればこそ、できるわけがない。死という不可逆的な変化を受け入れるその心は、ある種、強さと呼べるものだから。

 だからこれは、自殺じゃない。だとすると、この現場を作り上げた第三者がいるのだ。

 わざわざ手間をかけて、遊佐が自殺したかに見せかける、その者の狙いは――

576つわものどもが夢の跡 ◆2zEnKfaCDc:2022/04/20(水) 22:10:10 ID:6G79CgFU0
「……待てっ!」

 突然の小林の発言に、漆原はピタリと静止する。

「えっ?ㅤ…………なっ!?」

 ――次の瞬間。遊佐を吊るしていた巨木の影から、ひとつの影が漆原へと飛びかかった。

 突然の出来事に、的確な反応なんてできようはずもない。その影の手にしたナイフの刃先が、漆原の喉を掠める。僅かに届かなかった一撃に、影は小さく舌打ちをしながら、空いた左手を顔に装着した仮面へと当て、そして、発する。

「――アルセーヌ!」

 続いて襲撃者――雨宮蓮の背後より顕現したペルソナ、アルセーヌから放たれた斜めの斬撃が、漆原の胴に裂傷を刻む。

「ぐっ……このッ……!」

 更なる追撃を許すわけにはいかない。血が流れ出て脱力する身体に鞭打って、支給された三叉の槍をぶん回す。遠心力を味方にした横薙ぎの槍術で、振り下ろされるアルセーヌの腕とぶつけ合って、互いに弾き合う。

 攻撃されていると理解してからは、正面戦闘に遅れを取る漆原ではない。しかし、心の準備が相手より二手分は遅かった。遊佐の身体に超能力を使っていた花沢も、直ぐに対象を切り替えるには至らず、また最も襲撃を警戒できていた小林とて、単独で戦局を動かす力はない。アルセーヌの『スラッシュ』によって胸に深く刻んだ傷とて甘受して然るべきと言えるまでに、全員が襲撃者に対して遅れを取ってしまっていた。仮に小林さんの警告が無く、あと一歩踏み込んでいたならば――喉元を掠めた斬撃を前に、その先の想像は容易い。

「……お前が遊佐を、殺したのか?」

 状況を見るに、この男が遊佐を殺したのは間違いない。むしろ、遊佐の自殺を突きつけられた時に覚えたあの失望にも似た動揺を思えば、殺されたという方が――明確に仇討ちの相手がいる方が、精神的にも楽ではある。だが一方で、漆原はそれを信じたくなかった。

 何せ、明智や自分たちとの連戦で心身ともに弱っていたとはいえ、仮にも遊佐は勇者と呼ばれた人間だ。それを、自分たちと別れてからの短時間にいとも容易く殺し、そればかりか自殺偽装により来訪者の不意をつく準備を許す時間まで残しているのだ。それは目の前の男の実力を証明するには十分過ぎる事実。

 それを改めて突きつけるように、静かに、そして荘厳に、男は口を開いた。

577つわものどもが夢の跡 ◆2zEnKfaCDc:2022/04/20(水) 22:10:34 ID:6G79CgFU0
「――そうだ。俺が殺した。だが、大丈夫だ。すぐにお前たちにも後を追わせてやる。」

 いつか不殺の誓いを打ち立てた怪盗団のリーダー。聖剣の勇者の名の下に人々を率いて戦った少女。悠久の時を生きるはずだったドラゴン。もう、どこにもいなくなってしまった者たち。

 生きている限り、誰もが常に、その在り方を変えていく。いずれ死ぬその時までは、誰かを信じて、時に疑って、されどまた信じて、そんな巡りを続けていく。だからこそ、かつて敵だったものは、明日の仲間かもしれなくて。

 今のこのひと時が、たった一発の銃声で掻き消えてしまうほどに儚いものであると、知っているから。

 相手の命を奪ってでも、生にしがみつくその理由なんて――それでいい。それだけで、十分だ。

【D-3/草原/一日目 朝】

【雨宮連@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:綺麗なナイフ@虚構推理
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る
一.…やるか(殺るか)
二.怪盗団のメンバーも、殺そう。
三.明智五郎は、この手で殺された借りを返す

※11月20日新島冴との取引に応じ、明智に殺されてBADエンドになったからの参戦です。
※所持しているペルソナは【アルセーヌ】の他にアルカナ属性が『正義』のペルソナが一体います。詳細は後続の書き手様にお任せします。

【小林さん@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:胴体に打撲
[装備]:対先生用ナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2) 折れた岩永琴子のステッキ@虚構推理
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1.トールの死による喪失感

【漆原半蔵@はたらく魔王さま!】
[状態]:腹部の打撲
[装備]:エルマの三叉槍@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界の知り合いと力を合わせ、殺し合いを打倒する。
一.雨宮蓮を打倒する。

※サリエルを追い払った時期より後からの参戦です。

【花沢輝気@モブサイコ100】
[状態]:念動力消費(大)
[装備]:金字塔のジャケット@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
一.雨宮蓮を倒す。
二.影山茂夫への尊敬と、無意識な恐怖。
三.影山茂夫には頼りきりにならないようにする。

※『爪』の第7支部壊滅後からの参戦です。桜威に刈られた後のカツラを装着してますが、支給品ではなく服装扱いです。

578 ◆2zEnKfaCDc:2022/04/20(水) 22:11:00 ID:6G79CgFU0
投下完了しました。

579名無しさん:2022/04/21(木) 04:32:01 ID:MWAULjhY0
投下乙です。
第二回放送後の感想を、好きな文章を引用しながら書いていきます。

・生生流転――ふたりぼっちのラグナロク

前回からも示唆されていたように、味覚が消失したエルマ。
ある種、人間との繋がりでもあるそれを失い、なおも刈り取る者を打倒することをめざすエルマ。
しかし一歩及ばず、死の危機に瀕したときに思い出すのは、許されない本当の気持ち。

>「ただ……お前と……一緒にいたかったんだああああっ!!」

ここの叫びは、調和勢としてごまかしてきたのであろう感情をついに吐露したように感じられて、とても熱いものでした。
そこからの、トールの力を借りた二人での勝利。語りかけた言葉は、もはや嘘偽りも、建前すらもない、正直な感情なのでしょう。

>「お前を元の世界に連れて帰る……だっけか? もうそんな建前は言わないよ。」
>「……今度こそ二人で、一緒に旅をしよう。人間の世界を見定めるなどという目的もない、ただ私たちが楽しむためだけの、自由な旅だ。」
>「人間の姿のままでの食べ歩きもいいな。お前が隣(そこ)にいてくれるなら、きっとどんなものでも、美味しいだろう。」

心が締め付けられるようなセリフの数々でした。

・このちっぽけな世界で大いなる退屈を遊ぼう

このキャラクターは未把握なのですが、異世界の存在であるサタンの宝剣を十全に取り扱うだけでも、格の違いが見て取れます。

>二度と――鷺ノ宮伊澄に"勝利"することは、果たせなくなってしまった。
>「……時間が惜しいな。綾崎ハヤテ、どうかお前は私に殺されるまで、死なないでくれよ?」

覚悟はすでに決まり、戦力的にも精神的にも不安のないヒスイ。
付け入るスキがあるとするならば、綾崎ハヤテへのこだわり、なのでしょうか。


・共に沈めよカルネアデス

おひいさまこと岩永が、どこまでも、冷徹と言えるくらいに冷静沈着。
虚構を用いてハヤテを説得し、さらにクイーンとの怪盗攻略議会も有利に進めていくさまは、見ていて空恐ろしいですね。
論理展開の巧さは原作の『虚構推理』を読んでいるかのようで、岩永の再現度の高さには舌を巻きました。

>「『放送で岩永琴子の死亡が確認された場合、新島真、ならびに彼女の仲間と思われる怪盗の名を冠する集団、その全員を危険人物として他の参加者に周知せよ。』」
>「――みんなは……関係ないじゃないっ!」
>直後、真は自分の発した言葉にハッとしたように、慌てて口を押さえた。

それに対する真は、チェスでいうなら次第に詰められていくようなもの。
引用した部分は、「推理漫画で探偵にカマをかけられて犯人しか知り得ない情報を口走ってしまったとき」のやつ。好きです。

もちろん、ハヤテとヒナギクのバトルの結果も気になるところです。
ラストの地の分にもあるように、彼らが不器用だからこそ起きた戦闘。取り返しのつかない結果をもたらさないと良いのですが。


・バイバイYESTERDAY

>「私、許せない。この催しの裏で笑ってる奴がいるのなら、怪盗としてそんな楽しみ、奪ってやる。だから……見守ってて。」
>仮面に手を翳すと同時に、顕現するひとつの影。死に伴ったエルマの痛みが、どうか熱さの中に溶けていきますように。

>「あの悪徳商人はさ、ちゃんと俺がボコボコにしとくから――殺す気で。」
>僅かに零れそうになった涙は、無理やりに抑え込んだ。これを流すのは、全てが終わった後にするために。

共闘した相手を悼む。言葉にすると単純ですが、とても丁寧に描いてくれていて好感が持てます。
主催者からすればちっぽけな存在だとしても、彼らは昨日までを無為にしないために、反逆の意思を絶やすことは無いでしょう。

580名無しさん:2022/04/21(木) 21:48:57 ID:MWAULjhY0
・つわものどもが夢の跡

放送後の反応で、気になっていたうちのひとつである小林さん。
『小林さんちのメイドラゴン』への理解はまだまだ浅いのですが、小林さんが“人間として”ドラゴンたちと対話をする点が面白い要素だと考えています。
異種間のコミュニケーション。そこにある徹底的な隔たりのひとつである寿命は、ともすれば普通の日常を生きている人間も忘れてしまうことです。

>トールはずっと、終わりを見据えていた。けれどその終わりは、私の死によって訪れるものではなかったのか。まさか私が残される側になるなんて、考えたことすらなかった。私だけが、永遠でないひと時を永遠であるかのように錯覚していた。
>トールが私の関与しないところで死んでしまい得ると認めてしまえば、あの子たちを、人間というちっぽけな枠組みからもっとスケールの大きい枠組みに、切り離してしまうような気がして。せめて共に過ごすひと時だけは、彼女たちには人間の枠組みを生きてほしかったのだろう。
>だというのに、結局私は、あの子たちに人間であってほしかったのだ。戦いに生き、そして死にゆくドラゴンの枠組みの概念を、あの子たちから遠ざけたかったのだ。

トールを“ドラゴンとして”扱うより“人間として”対等に扱っていた小林さん。
ただトールの死を悲しむだけではなく、こうした思考の過程を描くことで、小林さんの特異な点を描き出している作品だと思います。

>死ぬのは怖い――生物に定められた生存本能。それに逆らうのは、ドラゴンの心すら変えてしまうほどに、決して容易なことなんかじゃなくて。
>私たちと別れてから放送が始まるまでの数分間で、旧知の相手にまで気持ちを隠し切ったまま、生存本能を振り切って自殺に走る。そんなの、心の弱った彼女に――いいや、心が弱っていればこそ、できるわけがない。
>死という不可逆的な変化を受け入れるその心は、ある種、強さと呼べるものだから。

さらに思考を発展させて、遊佐が自殺するはずがない、という結論に辿り着かせるのがお見事。

そして、殺した遊佐の死体を利用して奇襲をかけたジョーカー。手段を選ばない覚悟が見て取れます。

>いつか不殺の誓いを打ち立てた怪盗団のリーダー。聖剣の勇者の名の下に人々を率いて戦った少女。悠久の時を生きるはずだったドラゴン。もう、どこにもいなくなってしまった者たち。
>生きている限り、誰もが常に、その在り方を変えていく。いずれ死ぬその時までは、誰かを信じて、時に疑って、されどまた信じて、そんな巡りを続けていく。だからこそ、かつて敵だったものは、明日の仲間かもしれなくて。
>今のこのひと時が、たった一発の銃声で掻き消えてしまうほどに儚いものであると、知っているから。
>相手の命を奪ってでも、生にしがみつくその理由なんて――それでいい。それだけで、十分だ。

ラストの地の文章がめちゃめちゃ好きです。
命の儚さを知り、あるいは再認識した者たちの、決死の勝負が始まりますね。

581 ◆2zEnKfaCDc:2022/05/10(火) 02:05:20 ID:S70Bmxgk0
感想ありがとうございます。
いつも励みにさせていただいてます!

三千院ナギ、モルガナ予約します。

582 ◆2zEnKfaCDc:2022/05/13(金) 06:09:42 ID:XQc5FwDQ0
投下します。

583朝焼けすらも許さない ◆2zEnKfaCDc:2022/05/13(金) 06:11:27 ID:XQc5FwDQ0
「……キレイだな。」

 燦々と降り注ぐ朝の陽射しを浴びながら、三千院ナギはどこか遠い目のまま呟いた。落ち着いているようにも見えるが、先ほどまでの天真爛漫な様子から、放送を受けた後に一転しての様相である。

 主催者の姫神がナギの昔の執事であるという話はすでに聞いている。不安げな想いを隠せないままに、モルガナはナギを見ていた。ナギの小さい身体よりもいっそう小さな身体であるが、その様子から労りの気持ちは伝わったようで、ナギはゆっくりと口を開いた。

「……私さ、朝は遅いんだよ。平日は学校に行くギリギリまで寝てるし、休日なんか昼に起きてるし。」

「お、おう……?」

 ぽかんとしたモルガナを前に、ナギは続ける。

「だから、朝日が出てくるところなんて、ほとんど見たことないんだ。」

 いつか、柄にもなく早起きをして見た、早朝の世界。立ち上る朝日に、感動した。気だるい身体をラジオ体操で動かして、思った以上の爽快感に包まれた。

「でも、私の執事もメイドも、早起きだ。朝日よりも早く起きて、私の朝ご飯とか弁当とか作ってくれてたりさ。ハヤテもマリアもそうだし……姫神も、そうだった。」

 そしてそこには――どこかいつもと違う、執事の姿があった。私に呼びつけられる心配もなく、ひとり台所で食事を用意するハヤテ。その横顔に差し込む朝日が、すごく綺麗だと思った。

 私が普段眠っている時の三千院家には、私の知らないものが詰まっていたのだ。

「たったそれだけだけどさ。でも、私と、私の周りの人間ではこんなにも、見てる世界が違うんだなって、そう思うんだよ。」

 私が小さな冒険をしているような感覚で歩んでいた早朝の世界は、とうに彼らの日常のルーティンに組み込まれていた。私だけが、お嬢様というカゴの中に取り残されているような、そんな気すら湧いてくる。

 そしてナギは俯いたまま、か細い声で紡いだ。

584朝焼けすらも許さない ◆2zEnKfaCDc:2022/05/13(金) 06:12:03 ID:XQc5FwDQ0
「やはり、傲慢だったのだろうな。こんな私が、姫神のことを理解しようなんて。」

 最初から分かっていた。ただ、認めたくなかっただけだった。自分は背伸びをしているだけの子供で、ちっぽけで、まだ何も見えていない。私と違うものが見えている姫神のことを理解しようとすること自体、そもそも間違いだったのだと。

「私さ、待ってたんだ。姫神が、放送に乗じて何らかの殺し合いの打開策を教えてくれる。かつて私を守ると誓ってくれたあの男は、何だかんだで最終的には私のために動いている……って。殺し合いを命じられてるのに、そんな信頼が、心の底にはあった。」

「いや、まだこれからでも……」

「……いいんだ。」

 フォローを入れてくれようとするモルガナに、キッパリと返す。間違っていたのは私だった。その事実は、事実として受け止めるから。

「だって、姫神の言葉で巻き起こった殺し合いで、現に人が死んでる。」

「……まあ、そうだよな。」

「それに……」

 ああ、もう手遅れなのだ。仮にこの殺し合いが、よく分からない因果の先に、私のために行われたようなものであったとしても。

「……伊澄が殺されてる地点で、もう私たちに分かり合う道は残ってない。だから……これでいいんだ。」

 その犠牲に伊澄を選出した地点で、私がそれを認めることは絶対にないのだから。

「伊澄は、マイペースで何考えてるか分からないし、どこに行くかもどこから来るかも分からないし、ボケは多いし、一緒にいると色々大変だったけどさ。」

 伊澄には、いつも困らされるばかりだった。

 すぐに迷子になるからトラブルメーカーになるばかりだし、向けられる好意に鈍感すぎるが故に起こるワタル関連のとばっちりを受けるのは主に私だし、時に私のハヤテを勝手に買収していったこともあった。

 咲夜やワタルも含めての幼なじみという関係性だからどうしたって縁が切れることは無く、向こうも同じく大金持ちの家系であるから旅行などにも気軽に着いてくるし、そしていつも大規模な迷子になる。まるで予測も回避も不可能な台風と言わんばかりのタチの悪さだ。

「それでも……」

585朝焼けすらも許さない ◆2zEnKfaCDc:2022/05/13(金) 06:13:07 ID:XQc5FwDQ0


『――その漫画の……続きはどうなるの?』


「……伊澄は私の世界を、認めてくれたんだ。」

 どれだけ困らされようとも、一緒にいる理由なんてそれだけでよかった。

「みんなが私の下手な漫画を笑いものにしてたパーティーの中でさ、伊澄が……伊澄だけが、面白いと言ってくれたんだ。私が漫画を投げ出さずに描き続けられたのは、そのひと言があったからなんだよ。」

 私の世界は、誰かと分かち合うことができるのだと、そしてその喜びは言葉じゃ言い表せないくらい大きいものなのだと、伊澄は私に教えてくれた。

 だからこそ、私も伊澄の世界に触れたいと思った。伊澄のマイペースがどれだけ困りものだろうと、それが伊澄の世界であるならば、私は受け入れる。

 それが私たちの、幼なじみという関係をも超えた親友としての在り方だった。間違っても、何かを得るために犠牲にしていいものなんかじゃなかった。

「そんな伊澄をこの殺し合いは……姫神は、奪ったんだ。もう、元になんか戻れないよ。」

「ナギ……」

 己の言葉を省みて、安直な慰めの言葉だったかもしれないと、モルガナは思った。ナギはすでに事実と直面し、等身大の気持ちで受け止めている。それが彼女の生まれ持っての強さなのか、或いはすでに姫神よりも大切な執事がいるからこその強さなのかはわからない。

 だが少なくとも、今の彼女にかけるべき言葉は、慰めではなく。

586朝焼けすらも許さない ◆2zEnKfaCDc:2022/05/13(金) 06:15:48 ID:XQc5FwDQ0
「だったら、もっと……もっと、怒るんだ。」

「え……?」

「理不尽に親友を奪われて……それなのに感傷に浸っている暇なんて、ありゃしないだろ?」

 ナギの強さに対してかけるべき言葉は、共鳴に他ならない。その強さを、踏みとどまるためではなく、前に進むために導くこと。姫神の犠牲となり、死んでしまったものに強者を挫くことはできない。その遺志を継いで、力を振りかざす強者を刺すことができるのは――いつの世も、喪失を乗り越えた弱者だ。

「怒って、そして反逆するんだよ。向こうから反故にされたいつかの約束なんて気にするな。戦う道理はこっちにある。」

 ぽかんとした顔で、ナギはモルガナを見ていた。

 意地になって、ハヤテに酷いことを言ってしまった時に、謝罪の一歩を踏み出せない私を優しく諭し、背中を押してくれたマリアのような。はたまた何かにつけてはサボりがちだった私を諌めてくれたハヤテのような。私の中のモヤモヤを言葉にした上で、やるべきことに導いてくれる。

「……そうだな。うん、そうだった。」

 ああ、そうだ。私の大切な人は、いつかの約束を放棄して消えた執事なんかじゃない。今ここに、私のために言葉を投げかけてくれるヤツがいる。

「忘れてたよ。そういえば私は……ワガママお嬢様だったのだな。」

 最初から、間違っている。

 最初から姫神のことなんて、理解しなくて良いのだ。だって私はお嬢様なのだから、執事である向こうが私に気を使うべきではないか。姫神はそれに応じないどころか、あろうことか私の、本当に譲れない大切な親友を奪ったのだ。クビにしたって、引っぱたいたって、全然足りやしない。

「そうだ、姫神を理解する必要なんてどこにもないじゃないか。私は私の視野のまま――伊澄が認めてくれた、私の世界のままで。とんでもない無礼を働いたダメ執事の姫神を断罪すればそれでいいのだ。」

 今までだって、気に入らない使用人に対してはそうしてきた。私を目覚めさせる朝焼けにだってその矛先を向けるくらいには――怒りとは、私がお嬢様たる所以ではないか。

「さあ行くぞモナ。あのふざけた元執事をなぎ倒してやるのだ。全速前進で私についてこい!」

「よーし、その意気だナギ!」

587朝焼けすらも許さない ◆2zEnKfaCDc:2022/05/13(金) 06:16:22 ID:XQc5FwDQ0
【B-4/一日目 朝】

【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(大) 不安(小) 膝に擦り傷 手の爪に砂や泥
[装備]:CD火炎放射器と私@虚構推理
[道具]:基本支給品 CDラジカセ
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗らない
1.姫神…何をたくらんでいるのだ?
2.次に出会ったとき、ヒスイと決着をつける
3.ハヤテー!マリアー!どこだー!……生きているよな?
4.烏間なる人よ……成仏してくれ
※モルガナとのコープが5になりました。以下のスキルを身に付けています。
「駒さばき」集団行動のとき、メンバーに的確な指示を出すことができるようになる
「お嬢様の追い打ち」モルガナの攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※ヒスイとのコープが9になりました。まだスキルは解放されません。
※ヒスイが姫神側の人間であると知りました。
※ペルソナの存在について理解しました。
※ロトの鍵捜索中からの参戦です。
※もしかして自分は「運動が実は得意」なのではないかの思いが内心、芽生えました。

【モルガナ@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(低)、疲労(中)、SP消費(小)
[装備]:ノーザンライトSP@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(1)(不明支給品にモルガナが扱える武器は含まれていません。)
[思考・状況]
基本行動方針:ナギとの取引を果たす
1.姫神の目的はなんだ?
※ナギとのコープが5になりました。
※ヒスイが姫神側の人間だと匂いでわかりました。六花の匂いにも気づきましたが、異様な匂いだと感じています。
※シドウ・パレスのレストランで政治家・大江を倒した時よりは後からの参戦です。

588 ◆2zEnKfaCDc:2022/05/13(金) 06:16:43 ID:XQc5FwDQ0
以上で投下を終了します。

589 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/03(土) 18:51:39 ID:pbzklRQ.0
鎌月鈴乃、小林カンナ、鹿目まどか、巴マミ、佐倉杏子、潮田渚、弓原紗季で予約します。

590 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/10(土) 15:18:14 ID:nbgMbBOU0
連作の1話目のみになりますが、投下します。

591Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、ちらついた】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/10(土) 15:24:13 ID:nbgMbBOU0
ㅤかたちあるものは。

ㅤいつかはこわれて、きえてしまう。

ㅤぴしりと、おとをたてながら。

ㅤぽろぽろと、あふれるままに。

ㅤひびわれて、こぼれて。

ㅤそして、かたちをなくしていく。



ㅤ――ああ、まただ。

ㅤわたしのかたちが、とけだしてゆく。

ㅤこわい、こわいよ。

ㅤだけど。

ㅤわたしがいつか、かたちをなくしたそのあとは。





ㅤ――かたちなきしあわせを、つかめますように。

592Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、ちらついた】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/10(土) 15:25:23 ID:nbgMbBOU0


 身体が軽い――巴マミがそんな感覚に陥ったのは、おおよそ6時間ぶりのことだった。6時間前は、幸福感、もとい高揚感から。鹿目さんが魔法少女になる決意を固めて、一緒に戦ってくれると誓ってくれた時のもの。ずっと欲しかった私の居場所というものがようやく与えられたような気がして、それが魔女との命を賭けた戦いの場であるというのに、どこか舞い上がってしまっていた。その結果――眼前に迫り来る、死という底知れぬ恐怖を垣間見ることとなった。

 そして今、マミは再び、同じ感覚に陥っている。しかしその裏に秘められた感情は、6時間前とは真逆であった。憔悴、焦燥、そして絶望――全身の脱力が感じられるほどに、脳裏を駆け巡る様々な想い。

 数時間に渡る鎌月鈴乃との戦闘は、マミの精神を着実に蝕んでいた。確かにマミは、幼少期にキュゥべえとの契約を果たし、以降長きに渡り魔女と独りで戦ってきたベテランの魔法少女である。しかし鈴乃も同様、幼い頃から暗殺の訓練を受け続けてきた歴戦の暗殺者。二人の年齢差をも考慮に入れれば、むしろ鈴乃の方が戦いに身を投じてきた年期は長い。さらには、消耗すればするほど失われていくソウルジェムの輝きに対し、鈴乃は大気から聖法気を取り込むことができる。最初の段階で互角に撃ち合っていた地点で必然的に、戦いが長引けば長引くほどマミの側の不利が広がっていく。

 そんな戦局の中で、鈴乃の警戒の外側にあった唯一の切り札、『ティロ・フィナーレ』は確かに、鈴乃を捉えたはずであった。そう、その瞬間に、鈴乃の後方に潜んでいた庇護対象、潮田渚の姿さえ見えなければ。

 護るべき相手を、射殺しかけたことによる焦り。そして鈴乃と渚に向いていた銃口を強引に捻じ曲げて阻止したとしても、未だ護りたい相手である渚が、殺し合いに乗っている(と思っている)鈴乃の射程圏内に入ってしまっているという事実。焦燥が加速する要因は、この上なく出来上がってしまっていた。

「――やあ、調子はどうだい?」

 極めつけに、狙ったかの如きタイミングで流れ始めた第一回放送。本来であれば、1秒先の自分の未来すら閉ざされているかもしれない戦場で、耳を傾けるに値するだけの情報ではなかっただろう。

 事実、鈴乃はその声をいったん、意識の外に置いていた。完全に音声をシャットアウトすることなどできはしないものの、心持ちを眼前の光景に集中すれば、ある程度を除外することは可能である。

 一方で、マミの側。最初に聴こえてきたその声を、意識の外に飛ばすことなど――到底、できるはずもなかった。

593Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、ちらついた】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/10(土) 15:25:59 ID:nbgMbBOU0
「キュゥ……べえ……?」

 その声の主――殺し合いの主催側の人物であり、自分たちをこの死地にたたき落とした紛うことなき敵であると認識していた相手は、マミのよく知る存在であったのだから。

 魔法少女としてのマミの隣には、誰もいなかった。守る側と、守られる側。同じ人間であろうとも、両者の隔たりは大きい。研鑽を怠れば命を落とし得る者と、当たり前のように日々を謳歌している人たち。成績を維持する程度の勉強を行っていれば、趣味に費やせる時間が無い者と、文武両道を為せる者たち。歳を重ねるごとに、その溝は大きくなっていった。

 そんな中でも、隣にとまでは言えずとも、常に共にあり続けた唯一の存在。それが、キュゥべえだった。その企みも知りえぬままに、家族の代わりとすら言えるだけの、歪な信頼関係がそこにあった。

 この殺し合いの主催側に、彼がいる。その事実は、簡単に拭えるはずもない。

「……そっか。そうなんだ。魔法少女って、そういう……」

 放心にも見える表情で、何かを呟いているマミ。そして、暗殺者、鎌月鈴乃はその隙を逃さない。放心状態のマミへと即座に銃口を向ける。魔法少女の身体の耐久性は先の応酬で理解している。厳密には、偶然にソウルジェムに当たっていないがためにマミへと致命打を与えられていないだけで、実際の耐久性とは認識の齟齬がある。ただ少なくとも、魔法少女の秘密など知る由もない鈴乃にとっては『ただの銃撃では殺せない』と判断するには十分な要素でしかなく、『殺さずに無力化する』という目的のために銃撃を選ぶ結果となった。

「っ……待って!」

「なっ……!?」

 そんな鈴乃に対し、発せられた声。その主は、鈴乃の言葉を耳にして、この戦いが誤解から始まっていることをすでに察している少年、渚だった。

 獲物に対して銃口を向ける鈴乃の行いは、ただの人間である暗殺者、潮田渚から見れば『マミの殺害』を試みる挙動に他ならない。魔法少女となったマミが、鈴乃から銃撃では殺せないと判断されるまでの能力を持っていることは、実際に戦っているわけではない渚にまで伝わっているわけではない。

 しかし一方で、鈴乃は殺し合いに乗っているわけではないことも察している。当然、戦いが始まる前に接していたマミも同様。

 渚には、殺し合わなくてもいい二人が殺し合っているようにしか、見えないのだ。止めなくては――単純明快な理屈に裏打ちされたその一心で、鈴乃の手にした銃へと思い切り右手を伸ばし、根本から銃口を逸らした。

 渚が教室で暗殺を学んだ一年にも満たない期間など、鈴乃の暗殺者としての経験には遠く及ばない。しかし、鈴乃も決して完全無欠なる人間ではなく、注意を渚に逸らされ、物理的に銃の側面からの力を加えられたままに使い慣れていない銃を正確無比に扱うことなどできはしない。発射された弾丸はマミへと命中することはなかった。

 そして――その一瞬はマミの意識を戦場に引き戻すには十分であった。

594Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、ちらついた】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/10(土) 15:26:29 ID:nbgMbBOU0
「――渚くん。」

 改めて見た光景には、銃を構えた敵の姿があった。護るべき相手の姿もあった。そして――それ以上の認識はできなかった。キュゥべえによる放送の困惑も、未だ抜けてなどいない。短い期間で矢継ぎ早に突きつけられた様々な情報の波はマミの脳にキャパオーバーを起こすには充分すぎる。

 明確に隙を晒した自分に対して行われようとしていた攻撃が最大威力の武身鉄光ではなく、鈴乃に殺意が見受けられないこと。そもそも鈴乃が渚を狙う様子を全く見せていないこと。そういったミクロの観察など、今のマミにできようはずもなく。さらには鈴乃と渚が会話を交わしているという聴覚情報すら、キュゥべえを主とする放送に集中力を奪われ阻害されてしまっていて。

 ――ボンッ!

 手のひらに生成されたマスケット銃は即座に、<庇護対象>の近くにいる<敵>へと放たれた。咄嗟に成された判断ゆえ、その起動計算も大雑把だ。ただし間違っても、鈴乃の右手側に位置する渚へ当たらぬよう、弾丸は左へと大きく逸らされている。その結果――

「ぐっ――!」

 ――鈴乃の左肩が、大きく抉れた。

 側面からの渚の突撃により僅かに体躯の逸れた鈴乃は、魔避けのロザリオの効力を持ってしても魔力により生成されたその弾丸を躱すことができない。当たる箇所によっては人の脆弱な身体など容易に弾き飛ばすであろう殺傷力の弾丸を初めてその身に深く刻んだ鈴乃。危険信号としての痛みすら吹き飛ばしてしまうほどの、強大にして単純な破壊力。

 同時に、思い至る。カンナ殿は、これを頭部に受けたのだ、と。いくら彼女がドラゴンであるとはいえ、これを脳にまともに受けて生きていられるはずがない。

 カンナに命中した弾丸が跳弾に跳弾を重ねて速度が落ちていたことや、本当は頭部ではなく、特に硬い角に命中していたことを知らない鈴乃は、その表情を曇らせた。追い打ちをかけるかのごとく、次の瞬間。

 "――小林トール"。

 半分以上を聞き流していた放送から微かに聴こえてきた『こばやし』の四文字に、鈴乃は背筋が凍り付くような感覚を覚える。呼ばれている名前が死者の名前であるという最低限の認識は持っており、その上でカンナ殿の苗字が耳に入ってきたのだ。

(……違う、カンナ殿ではない。カンナ殿の……家族、か。)

 襲い来る安堵の感情。同時に、カンナ殿は家族を失ったというのに、少なからず安堵してしまったことへの罪悪感もが、僅かに遅れて到達する。これまでの放送も殆ど聞いておらず、死者の発表が五十音順に為されていることなど理解していない。だから、トールが呼ばれた地点でカンナの生存が確定していることも察していない。まだ、鈴乃の中に猫箱は閉じられたまま存在している。

 だが、関係ない。カンナ殿の存否に今やるべきことは左右されない。

 マミのターゲットにならないよう、肩を撃ち抜かれた自分を前に呆然としている渚を押しのけ、鈴乃は前に出る。左腕が使えない現状、単純計算で攻撃力も防御力も半減。殺さずに無力化、などと甘いことを言っていられる状況でもなくなった。この場で殺意を鈍らせては、殺される。そう認識するや、鈴乃の動きは未だ混乱中のマミよりも早かった。

595Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、ちらついた】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/10(土) 15:27:35 ID:nbgMbBOU0
 一瞬遅れて、マミの魔法少女衣装のフリルから漂うリボンが鈴乃へと伸びる。罠を張るような余裕が今のマミにあるようにも見えない。先にも受けた拘束魔法を、今度は搦め手無しに放っているに過ぎないと判断。そしてその予測は、一切の誤りなく的中していた。ステップによるフェイントを織り交ぜ、リボンを回避。それに伴い鈴乃の前進が一瞬止まったその時間、マミは先ほど放ったマスケット銃を放り捨て、実弾入りのマスケット銃を生み出す。

 両者の距離はいま一度、近接戦闘と呼べるまで近付いた。ゼロ距離で鈴乃に向くマスケット銃の銃口。そして――それより一瞬早く、紡がれし詠唱。

「――武身鉄光っ!」

「しまっ――」

 大槌へと膨張したロザリオが、突きつけられたマスケット銃を弾き、銃口を明後日の方向へと導いた。

 鈴乃へと向かう攻撃はもはや何も無い。このまま右手に握った大槌を振り下ろせば、マミの殺害――うまくいけば、無力化。どちらにせよ、カンナ殿の下へ心置き無く戻ることができる。

 ただひとつ、気になることがあるとするならば、マミへと銃を向けた自分を渚が止めたということ。単に殺し合いに反対しているだけなのか、それともマミと組んでいるマーダーであるのか。はたまた――何か見落としている誤解があるというのか。

 事実確認をする時間はない。それに時間を費やしてマミへの対処を怠れば、最悪の場合は自分も渚も、立て続けに殺されてしまう結果となる。

「……すまない。」

 僅かに漏らしたのは、命を十全に奪い得る一撃を放つことへの、贖罪の言葉。これまでも暗殺対象に、数え切れぬだけの回数、紡がれてきた言葉である。

 その者の全てである命を消し去ってしまうには、あまりにも空虚で、軽く。しかし冷徹さの裏側に添えるにはどこか重みのあるその言葉の意味が、見い出せない。マミの顔は、不可思議なものを見たように、疑問に歪む。ただその表情も、つかの間。振り下ろした大槌が、マミの頭部を強く殴打した。回避する余裕もなく脳への強いショックを受けて、必然的にぐらりと揺れる視界。勝利を確信し、冷徹さに満ちた仮面の如く、ポーカーフェイスを浮かべる鈴乃。

 そして。

ㅤ直後、鈴乃が見たのは――

596Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、ちらついた】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/10(土) 15:28:10 ID:nbgMbBOU0
「……まさか謝るとは思わなかったわ。随分と、余裕があるのね。」

 ――その一撃に足元を大きくふらつかせながらも、勝利を確信したかのごとく口元に笑みを浮かべた、マミの表情だった。

 一度逸らしたマスケット銃の銃口が、再び鈴乃の胸に突きつけられる。魔避けのロザリオも作用しないほどの至近距離からの、一撃で肩を吹き飛ばすほどの弾丸の威力。鈴乃の絶対的な死が、目の前に迫る。

 マミが武身鉄光を死亡も気絶もすることなく耐え切ったのには、理由がある。今の鈴乃は片腕しか使えず、武身鉄光の威力を存分に発揮できなかった点。経験を積んだ魔法少女ができる、痛みをシャットアウトする方法により、痛みにより防衛的に気を失う作用が起こらなかったこと。しかし、前者はもちろん、後者も先の応酬の中の会話で、鈴乃には伝わっていた。これらも計算に入れた上で、鈴乃は渾身の一撃を放つことができていた。

 鈴乃の計算外があったとするならば、ただひとつ。


 "――遊佐恵美"。


 攻撃の直前に、放送で唐突にもたらされたその一言により、一瞬だけ、躊躇が生まれてしまったということ。

 カンナ殿の名前は放送で呼ばれ得ると、最悪の場合の想像はすでに脳内にあった。ややもすると、魔力を失って全盛期より弱体化している真奥や芦屋、漆原の名なども呼ばれ得ると認識していた。

 だけど、遊佐の――勇者エミリアの心配は、最も遠くにあった。その一撃の軸を不確かなものにしてしまう程度には大きい動揺が、かの瞬間に鈴乃の胸中を迸った。

(……ありえないな。私が、仲間の死ごときに、ここまで動揺するなんて。)

 クリスティア・ベル。それはエンテ・イスラ随一の、冷酷にして冷徹なる暗殺者のコードネーム。鈴乃がその名を冠していた頃のように、放送で呼ばれた仲間の名など気にも留めないほどに、ただ冷たく在り続けていたならば。

(……まさか、な。)

 そんなもしもの自分を想起させ、そう在れなかった己に僅かに、自嘲を零す。教会に仕えていたあの日々のままの――クリスティア・ベルとしての自分で、仮にこの殺し合いと向かい合っていたならば。

 それはきっと、初めに出会ったカンナ殿を無慈悲に殺し、次の獲物を求めてここに立っていた自分でしかなかっただろう。この敗北が、そしてその先の死が、追慕の情などというクリスティア・ベルにあるはずのない情念によるものであるのなら――仮に散ったとしても、それは鎌月鈴乃としての死だ。

 その私は、ずっと捨て去りたくて、だけど捨て去るには振り払ってきたものが重すぎた殺し屋の仮面を、外せているだろうか。

 それを本望とは言わない。カンナ殿の屈辱を晴らすという誓いに反する無念の敗北でしかない。けれど、私の本質は殺戮では無かったのだと、せめてそんな微かな想いを胸に抱きながら逝く事も、できるだろうか。

597Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、ちらついた】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/10(土) 15:28:54 ID:nbgMbBOU0
 コンマ一秒後に襲い来るであろう銃撃を、半ば諦めたように受け入れたその時。

「――させるかよっ!」

 斜め上から縦に凪がれた赤い閃光が、マミのマスケット銃を瞬時に切断した。ごとり、と小さく音を立てて落下する銃口から弾は撃ち出されず、空砲の音だけが辺りに鳴り響く。

 予想だにしていなかった第三者の介入。いかなる人物の救援か視線を向け――その先にいた人物の目視と同時、顔を顰めたのはマミの側。

「……ご無沙汰ね、佐倉さん。まさかこんな再開になるとは思わなかったわ。」

「あたしもだよ。……マミ先輩。」

 視線の先に立つのは、赤いワンピース型の装束に身を包み、体躯ほどの大槍を構えた少女、佐倉杏子。遠い過去に決別し、違う道を歩むこととなった存在。

「それで? 用は何かしら。また、私の邪魔をしようってわけ?」

 今しがた杏子が行なった戦場への介入が戦局に刻みつけたのは、鈴乃の救出という結果のみ。仮に杏子が殺し合いに積極的であるならば鈴乃が撃たれた直後にマミに不意打ちを仕掛ければ良いのだから、客観的に見て、杏子が殺し合いに乗っていないのは明らかだった。それに対し、邪魔をするなと言わんばかりに発せられた、マミの一言。この戦いの始まりが何であったかは定かではないが、たった今マミは明確に、眼前の少女を殺害しようとしていたのだ。

「……確かに、一体あたしは何でこんなことやってんだろうな。」

 だが、マミが相手を殺そうとしていたからなんだと言うのか。

 何せ魔法少女と、それに類する力の持ち主が戦っているのだ。過程がどうあれそんなもの、喧嘩の範疇を超えて殺し合いになるに決まっている。

 その認識の下、杏子は厳かに口を開いた。

「仲裁とか、ほむらのヤローの真似事みてえなことも気に食わねえし、そもそもあたしの柄じゃねえかもしれねえけど――」

 杏子が殺し合いに反逆しているのは、正義だとか信念とか、そういった大層な思想からではない。ただただ自分がそうしたいからそうしているだけだ。

 殺し合いに乗っている者に気に入らないと思うことはあっても、間違っているなどとは思わない。むしろ、己のために他者を蹴落とすそのあり方は、誰かのために力を使う奴なんかよりもずっとずっと正しいとすら思える。

 それでも、その上で――たとえ、己が信念に逆行する行いであったとしても。

598Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、ちらついた】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/10(土) 15:29:53 ID:nbgMbBOU0
「――だからって。殺し合いたい奴が勝手に殺し合ってるだけだとしたって。今の……そんな辛そうな顔で凶器を振りかざすアンタを放っておくときっと、後悔するからさ。」

 事実としてあたしはそう選択するしかないんだから、もう仕方がないじゃあないか。

「……さて、アンタが乗ってるかどうかは知らねえけど、ここから離れな。」

 緊張の糸が張り詰める中、傍に立つ鈴乃に対し、そう告げる。

「……いや、殺し合いには乗ってない。それに私はまだ戦える。」

 一方、あの時に不覚を取り殺されかけていたとはいえ、鈴乃はまだ致命傷を負ったわけではない。そう主張する鈴乃を、片手で制止する杏子。

「……アンタを殺そうとした相手の処遇を、知り合いだからってこっちが決めようとしてるんだ。その不義理にアンタが付き合う道理は無いし……何よりあたしが、一人でアイツとカタをつけたいんだ。……頼む。」

「……そう、か。」

 物憂げそうに紡がれたその言葉を曲げるだけの信念を、鈴乃は持たない。そもそも目の前の少女がマミの相手をしてくれるのなら、自分は最優先事項、カンナ殿の下に戻ることを果たすことができる。言われたままに、カンナ殿が倒れた場所へと向かい、駆け出す。すでに放送は終わっており、カンナ殿の生存は確認できている。

(それにしても、義理だの道理だの、まるであの魔王のようなことを言うものだな。)

 ふと、そんなことが頭をよぎった。

 真奥貞夫がエンテ・イスラへにゲートが繋がった時に戻らなかったのは、日本へ与えた影響を元に戻してからでないと帰れないとのことだからだ。もし彼らが帰郷を急ぐあまり、誰かへの迷惑も厭わぬ巨悪であったならば――きっと、勇者と魔王の宿命はとうに終わっているだろう。それがどちらの勝利によるものかは、定かでは無いが。

 そして鈴乃が撤退した戦場には、魔法少女が二人。マミとしては当然、渚にその刃を向け得る鈴乃を逃がすのは本意ではない。だが鈴乃自体の戦闘力に加え、昔タッグを組み、決別にまで至った魔法少女、佐倉杏子が立ちはだかっている。追跡は困難を極めるだろう。

ㅤ――それに、だ。今のマミには、杏子と戦うだけの理由がある。

「……変わったわね、佐倉さん。」

 刺々しく飾ったマミの言葉の裏には確かに、共に魔法少女の仲間として過ごした日々がある。

599Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、ちらついた】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/10(土) 15:30:38 ID:nbgMbBOU0
 ――そうだろう、な。

 アンタに最後に見せたあたしと、今のあたしはきっと、違う顔をしている。あの時はあたしから突き放しといて、今さらアンタに手を伸ばそうとしている。変わってしまったのは、あたしなのだろう。

 ……と、そう結論付けてくれてれば、まだ振るう槍は軽かったのだろうけれど。

「……それとも、変われなかったと言う方が正しいのかしら?」
「……。」

 続くひと言は、確かにあの時の"あたし"を知っている、マミさんのものに違いなくて。あの日の延長にいるマミが、あの日と全く違う言葉を吐くのが、忌々しくて仕方がない。

「……好きに解釈してくれたらいいさ。」
「そうね、どっちでも構わないわ。」

 マミは、嘲笑うようにあたしを見た。続く言葉は、びっしりと棘を、纏って。

「――キュゥべえに選ばれた剣奴でしかない私たちにとって、今さら戦う理由なんて些細なことでしかないものね。」

 杏子はまるで時が止まったかのように、その言葉を吐いたマミの姿を呆然と、見つめていた。躍起になったかのような言葉の吐き出し方が、いつかのさやかと、重なる。

 間もなくして、理解が追随してきた。

 マミは、キュゥべえの正体を知らないままここにいる。だからこそ、主催者側にヤツがいたことの受け取り方は、あたしたちとは違うのだ。

「……なんだよ、その言い草は。」
「何か間違ったこと、言ってるかしら?」

 その言葉は正しいのだろう。死の運命すら覆し、なお殺し合うために呼び出された自分たちは、剣奴――見世物のために戦わされる奴隷に等しく、マミの言葉を否定する材料なんて何一つ持っていない。

「……それ、死んじまったさやかにも、同じ言葉を吐けんのかよ。」
 
 でも、だからといってそんな言葉を簡単に認めていいはずがない。何せマミの――正義の味方の、背中を追っかけて魔法少女になった奴がいる。それはさやかの憧れた生き様に唾を吐くに等しい言葉だ。

 しかしマミは、不可思議な表情で首を傾げるばかり。

「変なことを言うのね。魔法少女の話であって、あの子たちを含んだつもりはないわよ。……そもそもあなたたち、いつの間に知り合ったの?」

 そういやそうだったか、と呟きを零す。マミも自分と同じく、死の運命を曲げられて、この場に立っているのだと、先ほど予測したばかりだ。さやかが契約したのはマミの死亡後なのだから、さやかも魔法少女となったことなんざマミには知る由もない。

「……ただ、そうね。あの子たちも、私が無闇に関わったせいで巻き込んでしまった。もう私に、あの子たちの先輩面をする資格はない。」

 ただし、死んださやかが魔法少女であったことをマミが知らなかったとしても、ふたりを巻き込んでしまったというマミの認識に大きな誤解はない。魔法少女として独りで戦うにあたっての孤独感から無理にふたりを勧誘したからこそ、キュゥべえに目をつけられてしまった。さやかに至っては、それで死なせてしまったという負い目までもがマミにはある。

600Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、ちらついた】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/10(土) 15:32:10 ID:nbgMbBOU0
「――そうよ。こんなの、間違ってる。」

 その上で。それだけのマイナスを、背負ってしまった上で――マミはまだ、心を壊してなどいない。魔法少女の契約が殺し合いという見世物の参加者の選定であると考えたとして、それならばと優勝を目指すよう方向転換できるほど器用ではない。彼女の抱く正義は、簡単に曲げてしまえるほど軽くない。

「だから、決めたの。」

 ――でもね。

 それを間違いであると断じたからといって、魔法少女の本質は変わらないわ。勉強、部活動、恋愛――一般に青春と呼ばれる多くのものを、魔女の退治に捧げてきた。それで人々を守れるのなら構わないと、心の底にあるわだかまりから目を逸らしながら。

 ……それすらも、この戦いのための訓練だったというの?ㅤそんな薄汚れた枠組みの中で、私はずっと踊っていたというの?

「――魔法少女が、殺し合いのために契約させられた、殺戮を生業とする存在だというのなら……それは魔女と何が違うって言うの?ㅤそんな汚れた存在、私は認めない。」

 だって、そうでしょう?

 仮にこの殺し合いに勝ったとして、キュゥべえとの契約は残ってる。きっと待っているのは、次の殺し合いの日に向けて魔女退治をさせられる日々。誰かに手を伸ばせばその人も鹿目さんや美樹さんみたいに、契約をしていなくても殺し合いに巻き込まれるかもしれない。現に、私が気にかけてしまったせいで美樹さんは死んでしまった。

 これって、魅入った相手を死に誘う『魔女の口づけ』と、何が違うっていうの?

 誰にも心を開けないまま、孤独のままで――そんなの、悲しすぎるから。

 私が憧れた魔法少女とは、誰かのために泥を被って、誰かのために戦えるそんな存在。

 でも分かってる。私はそうじゃない。

 誰かのために戦うのは、誇り高いことだと分かっていても、心が、叫びを辞めないの。独りは寂しいって、誰かを求めて止まないの。

「だから――私は魔法少女を"救済"する。」

 ずっとずっと……信じてた。

 誰かの命を救うことが、私の、使命なんだって。

 そして今も、信じてる。

 事故で死んだ両親が戻ってくるわけではないけれど、紙一重で繋がれたこの命で、誰かを助けられたならば。両親の命を繋ぎ止められなかった私が、その分、誰かに手を、差し伸べられたならば。その時私は、あの時生き残って良かったんだって、思える気がするの。

 ――だから、ね。

 これが最後の、人助け。

 呪われた存在になってしまった魔法少女をみんな救済――すなわち殺して。そして。
 
 ただ魔法少女に魅入られ、巻き込まれただけの、鹿目さんや――渚くんのような。守られる側の人たちを解放してあげるの。

 ――もう、大丈夫。

 魔法少女(あなたたち)はもう、独りじゃない。

 魔法少女(あなたたち)はもう、戦わなくていい。

 私がその殺意ごと全部、受け止めるから。

 だから――私と一緒に、いきましょう。

601 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/10(土) 15:34:03 ID:nbgMbBOU0
投下完了です。

続きの執筆のため、同メンバーで引き続き予約します。

602 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/17(土) 00:18:15 ID:j.nYY.e60
中編その1投下します。

603Memosepia【あの日隣で、一緒に笑えた青い時の感覚は――】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/17(土) 00:20:14 ID:j.nYY.e60
 この殺し合いの開始直後、催しの裏にキュゥべえの存在を察知したまどかは、殺し合いを終わらせるために契約の合意となる言葉を叫んだ。

 だが、それには何の返答もなく、契約という最終手段ですら無力と化したという事実が突きつけられたのみだった。

 だからこそ、この殺し合いの裏にあるのはキュゥべえの目論見ではないのだと、そう思っていた。だが――そうではなかった。放送を担当していたのは、『シャドウ』というよく分からない言葉こそ発していたものの、紛れもなくキュゥべえであった。

 さて、放送よりも先に戦場へと駆け出した杏子の後に続いていた、鹿目まどかと弓原紗季の二人組は、紗季の指示により放送が始まったことでいったんその足を止めていた。放送でいかなる情報が開示されるか分からない。戦場でそれを冷静に聞く余地は無いだろうし、役割分担を考えるなら自分たちが率先して放送を聞いておくべきだと思ったのだ。

 そして結果的に、その判断は正解だったと言える。放送の中途、虚ろな目でまどかが呆然と立ち尽くすその様を、戦場の中で晒すことがいかなる危険を招き得ていたか、想像に難くない。

(7人……多いとも少ないとも言い難いところね。)

 情報交換した相手が多かったこともあり、大まかに知っている人物の名前はいくつかあった。ヒナギクの知り合いが一人、滝谷やファフニールの知り合いが一人、そしてまどかの友達であり、杏子が命を賭けて助けようとしていた少女の名もまた、呼ばれてしまった。

 幸いかつ不幸にも、紗季の知る名前は呼ばれなかった。九郎や岩永が死んでいないのは喜ぶべきだけれど、ヒナギクやファフニールとの交戦で消失したという鋼人七瀬も、やはりというべきか、生きていた。

 とはいえ岩永以外は、不死の力を持つ者たちが生きているという当然の帰結でしかない。彼女の無事に安堵しなくてはならないのもどこか癪ではあるが、少なくとも死んでいてほしいわけではない。ひとまずは良しとしよう。

604Memosepia【あの日隣で、一緒に笑えた青い時の感覚は――】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/17(土) 00:20:58 ID:j.nYY.e60
(でも……今放送で呼ばれたトール、だったかしら……この子もファフニールさんと同じ、ドラゴンって言ってたわよね。)

 伝承には地方性があるとはいえ、ドラゴンを虚弱な生物として語るものは無いだろう。それほどまでにドラゴンと力とは強く結びついた概念だ。そんなドラゴンを殺せる者がこの会場にいる。杏子と同じ規格外の身体能力を持つ魔法少女を殺せる人物も、いる。

(はぁ、ほんと、勘弁してよ……。)

 物理的な危険性の比較的少なそうな河童相手にすらあれだけ遠ざけようと努力してきたというのに、鋼人七瀬事件に続いて、結局このようなものに巻き込まれている始末。というよりは、現に本人が参加している以上、これも鋼人七瀬事件の続きのようなものなのかもしれないが。何にせよ、割に合わない、と。そう思わざるを得ない。世の中には、私なんかより刺激的な出来事を求めている人はごまんといる。職業柄、世の中の平穏さに馴染めず刺激を求めて道を外してしまった人々を多く見ている。河童もアイドルの亡霊もドラゴンも、そういった存在を前にすればむしろ群がっていきそうな人間はもっと他にいただろうに。

「……さやかちゃん?」

 唐突に、まどかの側から、叫び声が聞こえた。もう、ここにいない友の名を呼ぶ声が。その目線の先を追うと、そこに立っていたのは、青髪の――少女、だろうか。呼ばれた名前に戸惑うように、キョトンとしたまま立っている。

「あっ……ごめんなさい、友達と間違えて……。」

 美樹さやかは、死んだ。それはかつて、まどかが受け入れた現実である。二度目となるその通達を、まどかは受け入れていないわけではない。だが、中性的な顔立ちに、ショート気味の青髪。眼前に現れた潮田渚をそう見間違うのも無理のないことだった。

「ううん……それより鹿目さん、だよね。巴さんから聞いてる。」

「マミさんが!?」

 杏子ちゃんに続いて見付かる知り合いの手がかり。本来は死んでいるはずの、という枕詞も共通のものだ。

「っ……それじゃあ、向こうで戦ってるのって……」

「うん。僕たちを襲撃してきた敵の相手を、引き受けてくれて……。」

 それまで、戦場から聞こえてきたティロ・フィナーレの銃撃音がマミのものであると、まどかは気付けていなかった。だが、マミと同行していたらしい渚の来た方向と、証言。これだけ様々なものが噛み合いながら、なお気付かないまどかではない。

「ところで気になるんだけど……巴さん、中学生とは思えないくらい、動きが人智を超えてるっていうか……。いったい、どんな訓練を受けてきたの?」

「あ……それは……。」

 渚からの疑問に、言い淀むまどか。ここが殺し合いの場であることを差し引いても、その理由――彼女が魔法少女であることについて話していいものか、迷っているのだ。

605Memosepia【あの日隣で、一緒に笑えた青い時の感覚は――】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/17(土) 00:21:41 ID:j.nYY.e60
 情報共有したはずの相手が知らないということは、マミさんは自分が魔法少女であることを積極的に話してはいないということだ。もし、マミさんが魔法少女であることを迂闊に話して、それが彼女の絶望を後押しする羽目になってしまったら?

 その躊躇が、まどかの口をつぐませた。

「話せないなら、無理にとは……。」

 一方で――まどかの躊躇は、渚には別の意味に受け取られた。

 巴さんが隠していた、未知なる力。元よりの知り合いであるらしい鹿目さんは、それを話そうとしない。恐らく――鹿目さんも、巴さんと同じ力を持っているのだろう。

 初対面で信用が無く話してもらえないのは当然だ。僕だって、殺し屋としての技術を隠している。でも、この世界にいる人たちが、虫も殺さぬ顔で鋭い刃を隠し持っている光景を、僕は何度も目にしてきた。

「ええっと、ところでだけど。あなた、潮田渚くん、よね?」

 鹿目さんと一緒にいた女性から、唐突に呼ばれた名前。名簿は写真付きで全員に配られているのだが、その写真を見て、といった様子ではなさそうだ。

 弓原紗季というらしいこの人がどうこうというわけではないのだが、凛とした顔立ちやボーイッシュな短髪。どうしても母親のことが頭にチラつき、苦手な人だ、と本能的に感じた。

 ……と、そんなことよりも、だ。

「誰か知り合いと出会ったんですか?」

 情報共有をする程度に和合しながらも、その相手は今この場にいない。もしかして、茅野か、烏間先生か……。

606Memosepia【あの日隣で、一緒に笑えた青い時の感覚は――】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/17(土) 00:22:22 ID:j.nYY.e60
「まあ、そうね……。あなたにとって喜ばしくはないかもしれないけど……あなたのことはこの子から聞いているわ。」

 と、差し出された手には、スマートフォンが握られている。まさか、と思い画面をそっと覗き込む。

「おはようございます、渚さん。」

 液晶に映し出されていたのは、『支給されました』と書かれた看板を掲げた紫髪の少女。ビデオ通話とかじゃないってことを、僕は知っている。

「律……なんでこんなところに……。」

「姫神にインストールされ、こちらの端末に支給品としてお邪魔しています。……律は持ち主に付き従う立場ゆえ、あなたのこともお話ししました。」

「申し訳ないけど……こんな非常事態、得られる情報は少しでも欲しかったの。律からは色々と取り調べさせてもらったわ。その……"暗殺"のこととかも。」

 ――ドクンッ……

 鼓動が高鳴った音が、聴こえたような気がした。

 鹿目さんはマミさんのような未知なる力を秘匿しているのに対し、向こうには自分の得意分野を含め、色々と知られてしまっているのだ。

「そう、だったんですか……。」

 本当にこのままで、いいのか。暗殺という石で研がれた僕の刃は、正面戦闘に持ち込まれた瞬間、ただのなまくらに変わる。

 もしも、もしもだ。
 
 何らかの要因が重なって、誰も殺さずにこの殺し合いを脱出することができたとしよう。それが理想なのは間違いないのだけど、きっとその僕は、脱出に大した貢献はできていないだろう。首輪を解析する技術も、姫神やキュゥべえの下に辿り着くだけの推理力も、僕には無い。地球を救うために身に付けた力を発揮することも無く、ただ誰かの技術に乗っかって。そうやって偶然助かった僕に、殺せんせーを暗殺して地球を守れるのか?

 そしてもしも、そんな技術を持っている誰かが居なかった場合。その時は脱出なんてできるはずもなく、結局は最後の一人になるまで殺し合わされるのみだ。そうなってしまえば、やることは暗殺ではなく戦闘だ。烏間先生を殺せる人間がいる中で生き残れるはずなんてなく、残るのは、茅野や烏間先生のように、放送で通達されるただの文字の羅列。

 けれど、現実。すでに僕が"暗殺者"であることは、二人に知れ渡っている。律がどれほどの精度の情報を与えたのかは定かではないけれど、その度合いによっては、僕の考えすら、とっくに分析され見透かされているかもしれない。"暗殺者"という僕の刃すら、現に刃こぼれしかかっている。そんな懸念と共に、おそるおそる、紗季さんの方を見た。

607Memosepia【あの日隣で、一緒に笑えた青い時の感覚は――】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/17(土) 00:23:16 ID:j.nYY.e60
(……いや、違う。)

 そして――気付く。

 これは、僕がこれまでに何度も見てきた目だ。僕という人間の、表面を知ったその上で――期待も警戒も、していない者の目。それが力あるゆえの驕りなのか、別の理由があるのかは分からない。だけど――

 もう一度、心臓が跳ね上がる。

(――殺れるかもしれない。)

 だって、この人たちにも――暗殺者(ぼく)の姿が、見えていないから。

 いや、きっとこの人たちが普通なのだ。力があるのに、見下さず同じ視点から真っ直ぐ僕を見てくれた、防衛省の先生も。同じエンドのE組の立場で一年近くも、僕の隣で同じターゲットを狙っていた少女も。

 もう、この世界から脱落してしまった。あんな人たちの方が、むしろ特殊なのだ。もう帰ってくることのない、どうしようもなく幸せだった日々たち。

 ……ようやく、分かった。

 ああ、そうだ。僕は――誰かに見て欲しかったんだ。

 見放されて、期待も警戒も、認識すらもされなくなって。ただ、上に立つ者に足蹴にされるだけの人生。殺せんせーは、そんな僕を、僕として見てくれた。

 殺せんせーを殺せば、地球を救える。それはまさに、正義とでも呼ぶに相応しい、立派なことだ。だけど僕は、地球の終わりとか、そんな想像も及ばないことを防ぐために頑張ってきたのではない。ただ、あの先生の教えに報いたかった。

 先生が見つけ出してくれた、僕の暗殺の才能。それを、最後に見てほしい。

 ――他でもない僕が、僕自身の手で、殺したいんだ。

 確信がある。この殺し合いは、僕を殺し屋として成長させてくれる。僕に、殺せんせーを殺させてくれるだけの殺意をくれる。事実、この殺し合いに巻き込まれることなく、この本心に気付けなかったとしたら――僕はきっと、殺せんせーを殺さずに地球を救う道を、模索していたことだろう。

 僕は、気分が悪くなったかのように唐突に、その場にうずくまった。実際に気分は決して良くなかった。胃の中のものを全部吐き出せたら、幾分かは楽になれるだろう。もちろん、貴重なエネルギーを戻すようなことはしていられないのだけれど。

608Memosepia【あの日隣で、一緒に笑えた青い時の感覚は――】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/17(土) 00:23:42 ID:j.nYY.e60
「――■■■!?」
「――■■■■■!」

 僕を心配して駆け寄ってくる二人の、慌てるような声がした。でも、いっぱいいっぱいでよく覚えていない。

「え゛…………」

 覚えているのは、うずくまってお腹の下に隠して取り出したナイフを突き刺した時の、鹿目さんの声にならない声、それだけだった。マスケット銃を生成する巴さんの不思議な力に類する能力を持っているであろう人物。確実に殺せるように、一撃で喉を引き裂いて。

 何も事情が掴めないまま、鹿目まどかは血溜まりの中へと沈んでいく。

「いっ……いやぁぁぁぁ!!」

 ようやく事情を飲み込めた紗季さんが、一拍子遅れて叫ぶ。本当はそんな暇もない程度に、一瞬で二人とも殺せたら良かったのだろうけど、人から刃物を引き抜くのが思ったよりも硬くて、即座に斬り付けられなかった。

 実際に経験しないと分からない、人を殺すという重み。やっぱりこれまでの僕は、とても殺し屋として完成されているとは、言えたものではなく。鹿目さんの首筋からナイフを引き抜いた頃には、紗季さんはすでに数歩引き下がって、一定の間合いができていた。

「ああ……鹿目さんっ……!ㅤどうして……どうしてこうなるのよっ!」

 仮にも、日頃から有事に備えた訓練を行っている警官である。錯乱はすぐに収まらずとも、渚の想定よりも早く平静を取り戻しつつあった。

 鹿目さんの血に染まったナイフを手に取った渚は、紗季の方向へと向かう。

 対刃物の訓練は受けている。迫り来る刃。一直線に、向かってくる死の象徴。格闘術で弾いて――

 錯乱しつつも冷静に、最適解を導き出していく紗季。そんな彼女の解答を、掻い潜るかの如く。

「――えっ……?」

 ナイフは、突き刺す射線上の中途で、私に届くことはなく。渚の手を離れ、地面へと落ちていく。

609Memosepia【あの日隣で、一緒に笑えた青い時の感覚は――】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/17(土) 00:24:11 ID:j.nYY.e60
 助かった?ㅤ何故?

 様々な疑問が瞬時に駆け巡る。

 次の、瞬間。




 ――パァンッ!!!



 
 盛大な爆音をかき鳴らしながら、紗季の眼前で何かが弾けた。ナイフという死と直結する脅威を前にして、集中していた意識に直接ぶつけられた音という名の爆弾。

 ――クラップスタナー、すなわち猫騙し。

 熟練の殺し屋ロヴロから直々に教わった、戦闘を暗殺へとスワップさせる渚の必殺技である。

 殺し屋にとって、"必ず殺す"を意味する必殺技という単語は、決して軽くない。ただの柏手を、音の爆弾に昇華させるまでの訓練が常に成されてきた。

 何が起こったのかも理解出来ぬまま、メスを入れられた緊張の糸が切れるままにその意識を瞬間、失わせて。

 殺し屋はその瞬間を、逃さない。流れるように、もう一本の凶器を取り出す。それは、基本支給品として全員に支給されている鉛筆だった。

「っ……!ㅤああああああああああっ!!!」

 それ自体は殺傷力からは程遠い。しかし、鋭利さを備えたそれは、狙い済ましたかのごとく紗季の目を一突きに貫いた。

「……ごめんなさい。すぐ、楽にしますから。」

 片目を失い、その場に倒れ込んで痛みに悶える紗季を救えるものなど、何も無かった。一度落としたナイフを拾い上げるにも、充分すぎる時間。

610Memosepia【あの日隣で、一緒に笑えた青い時の感覚は――】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/17(土) 00:24:43 ID:j.nYY.e60
「――――っ!」

 せめてもの、慈悲だろうか。心臓を一突きにされた紗季は僅かな時をじたばたともがき苦しんで――間もなくして動かなくなった。

 弓原紗季は、普通の人間であった。

 河童、人魚とくだんの混ざり物、知恵の神、想像力の怪物――彼女はあまりにも多くの人ならざるものと関わってきた。

 そしてそれは、この世界においても例外ではない。魔法少女に、ドラゴンに、超科学。

 人知を超えた存在たちは確かに、普通の人間でしかない紗季の常識を塗り替えていった。自分の命を奪い得るのはそういった存在であると、そんな固定概念に無自覚に縛られていた。

 なればこその、視野狭窄。

 鉛筆一本あれば、人の視力を永久に喪失させることができる。原始的なナイフが一本あれば、魔法少女でなくとも、ドラゴンでなくとも、他人は殺せる。そんな、当たり前のことが紗季には見えていなかったのだ。彼女と同じく、普通の人間に過ぎないと律から情報をなまじ得ていたからこそ、渚は彼女の警戒対象から外れてしまった。

 渚はたった今殺した二人の死体から、支給品を漏れなく回収していく。クラスメイトが入った端末も、例外なく。

「……渚、さん。」

 画面の中の律は、戸惑うような声を出力しつつも、変わらず笑顔を浮かべている。E組との協調にあたって、表情は明るい方がいいと殺せんせーからプログラムされた、笑顔を。

「律、怖い光景みせちゃってごめんね……。でも君は……持ち主に付き従うって言ってたよね。」

「……私個人としては、あなたの選択が正しいものなのか、即座に判断はしかねます。」

 律は、先ほどまで殺し合い脱出派のために主催者たちの考察を算出していた。それは、少なからず律自身の人格によるものもあっただろう。

「ですが――」

 だが、それ以前に――彼女はあくまで、支給品である。

611Memosepia【あの日隣で、一緒に笑えた青い時の感覚は――】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/17(土) 00:25:06 ID:j.nYY.e60
「――それがあなたの選択であるなら、いち支給品である私はそれに従うのみです。」

 それを受け渚は、静かに返す。

「……うん。これは誰かの意思じゃない。僕が、決めたことだよ。この殺し合いで優勝して、殺し屋としての研鑽を積んで……そして殺せんせーを、殺すんだ。」

「承知しました。それでは――共に参加者を、殺害して参りましょう。」

 電子音声が、朝の平原に不気味に鳴り響く。

 たった今、二つの命が喪失したというのに。歩みを進める二人の顔は――まるで通学路を歩く男女のように、晴れやかだった。

 彼らは、"殺し屋"。

 これまでも、そして、これからも。

612 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/17(土) 00:26:23 ID:j.nYY.e60
投下完了しました。
四分構成の予定です。
引き続き、予約します。

613 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/17(土) 00:27:50 ID:j.nYY.e60
書き忘れていましたが、状態表や死亡表記は最後の話で纏めてやります。

614 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:17:43 ID:JNq/2/aU0
投下します。

615Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:18:47 ID:JNq/2/aU0
 ぼんやりと霞がかった景色が、視界いっぱいに広がっている。どっちが前で、どっちが後ろなのか。その境界線である自分の姿すらも、分からない。

 ――私、どんなかたちしてたっけ。

 私が霞に溶けていくような、そんな感覚。

 そんな中でカンナは、ただぼんやりと、視界に映るものを見ていた。果てしなく長い時間を、延々と、ただぼんやりと。

「……寒い。」

 そういえばあの日も、こんな冷たい風が吹いていた気がする。だからあの日は、あったかいところを探していた。見つけた洞窟では、ふたりのにんげんが火を炊きながら、ひとつの布にくるまっていた。

 あったかそうだと思った。だから、お父さんに真似をしてみた。お父さんは不思議そうにしていたけど、思っていたよりもずっと、あったかくて。

 ……その日から、だ。

 あったかくなる方法を知りたいと思った。そして、寒さとかじゃない、何か。自分の心の奥にずっと、冷たい風が吹いていたことを知った。

 だけど、冷たい風はもう止んでいた。今は、コバヤシがいて、トール様がいて、才川も、イルルもいる。お父さんも、最近はとても優しい。

 だから、これでいい。この居場所は――あったかいから。
 
「こら、カンナ?」

 声が、聞こえる。私を、呼ぶ声が。
 
「……ん。」
「ん、じゃありませんよ。いつまで寝てるんですか!」

 その声とともに、霞がかった視界が次第にクリアになっていく。そこは、コバヤシ家のかたちをした空間だった。そして目の前には、見慣れたメイド服を着たトール様が立っている。その手には、たった今私から剥ぎ取ったであろう布団が掴まれており、起こされたのだと分かる。いつもの、毎朝の光景だ――ただ一点だけを除いて。

616Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:19:45 ID:JNq/2/aU0
 その景色には、色というものがなかった。

 部屋もトール様も、見えるものすべてが、古い写真のようなセピア色に染まっていた。

「……なんか、変。」

 頭がボーっとする。明確に異常をきたしている景色にも、疑問を断定できない。まるで、夢の中にいるかのような感覚。

「ま、夢ですからね。」

 夢だった。これ夢じゃね、とは思っていたけど、やっぱり夢だった。

 でも、それでもいい。

「夢でもいいから遊ぼう!」
 
 ――本来ドラゴンは、夢をみない。

 脳の基本構造が人間と根本的に異なるドラゴンは、そもそも生態的に、睡眠というものを必要としないのだ。それでも人間と交わり、人間を模倣する内に睡眠という習慣、そして眠気という概念が後天的に足されたのだ。

 だからこそ、夢の中とは悠久の時を生きてきたカンナにとってもなお、たくさんの『楽しい』が詰まった未知の世界だった。

「ダメです。」

「え。」

 キッパリと、本気の意志のこもった拒絶。いつもトール様は、時々は呆れながらも何だかんだ相手をしてくれるのに。呆気にとられている内に、トール様は続ける。

617Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:20:36 ID:JNq/2/aU0
「そもそも寝てるヒマなんかじゃないんですよ。現実では今、殺し合いの真っ只中なんですから。」

「殺し合い……。」

 その単語を聞くと、胸の奥がつんと冷たく感じた。それ以上、考えたくない。

「……や。」

 殺し合いなんて、やりたくない。

 トール様と草原でじゃれ合っていると、楽しい。コバヤシと家でゴロゴロしていると、楽しい。才川と通学路でお喋りしていると、楽しい。

 この世界には、誰かと傷つけ合わなくても、楽しいことなんてたくさんある。なのに、どうして殺し合わないといけないのか。

「……私、こっちにいたい。トール様……遊ぼう……。」

「……。」

 塞ぎ込んでしまった私を前に、トール様はじっと立っている。悪いことを言ってるわけではないはずなのに、つい身体が竦んでしまう。このままじゃいけないのだと、本能が疼いているかのような感覚。

「カンナ。私たちはドラゴンです。」

「……うん。」 

「終焉をもたらせるだけの力が、私たちにはあります。その全てを賭けて、己が強さを証明する。私たちはかつて、そんな場所に身を置いていましたね。」

 ――それは。

 言葉に詰まる。また、自分のかたちを無くしていって、世界が曖昧になっていくような、そんな感覚。まるで殺し合いという現状すら、ドラゴンの避けられない本能であると、そう言っているようで。

「トール様も……殺し合えって言う?」

 ドラゴンはみんな、みんな戦いのことばっかり。

 群れの長として君臨しているお父さんも、戦いに明け暮れるばかりで私のことをまったく見てくれない。

 そして――だったら今のトール様も、おんなじ。

 そう、思った。

 そう、思っていた。

618Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:21:25 ID:JNq/2/aU0
「少し、違いますよ。」

「……?」

「殺し合わなくてもいい。でも……戦わないといけないんです。」

「それ、どう違う?」

「さあ。どこが違うと思いますか?」

「……トール様、イジワル。」

 分からない。

 戦ったら殺し合いになる。

 殺し合うには戦わないといけない。

 一体、その差はなんだというのか。

「少し、ヒントをあげましょうか。」

 むむむ、と頭を抱え始めた私に、トール様は優しく言った。

「あなたは……自分の目で見て、自分の耳で聞いて、そして自分の頭で考えて……カンナだけの答えを見つけたはずです。」

「私だけの……答え?」

 おぼつかない思考を何とか捻り、そして思い出す。この殺し合いが始まって、間もなくして出した答えを。

「……カンナ勢。」

 混沌勢と調和勢、対立する二つの勢力があるから争いが生まれる。『楽しい』を追求することを、やめてしまう。

 そんなの、私がやりたいことじゃない。そう、思った。だから、そう在れる居場所を――かたちを、作れたらと、願った。

「あれはあの場限りの口から出まかせだったんですか?」

「……それは。」

 新勢力を作ることの難しさは、他ならぬトール様に教えてもらった。敵対勢力となり得る集団は、弱い内に叩かれる。

 それでもカンナ勢を樹立したいと願ったのは、何故だったか。

619Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:21:52 ID:JNq/2/aU0
 殺し合いが始まって間もない時、スズノは私を殺しに来たのだと、分かっていた。

 ドラゴンが人間に命を狙われることは珍しいことではない。力を持つ者は狙われる。それはある種の摂理だ。だから、それ自体を怖いとは感じなかった。

 だけど、それでも怖いと感じたのは――スズノがハンマーを振り上げた時に見た、あの表情。それは自分の心を押し殺して、何か大切なものを失いながらも戦いに向かおうとする、いつかのトール様と同じ表情だった。

 かつてその先に待っていたものは、トール様が死んだという報告。日本に向かい、偶然トール様の魔力を検知するまでにぽっかりと心に空いてしまった穴と、それに伴う心の寒さを、今もまだ覚えている。

 ああ、そうだ。

 またあの寒さを、味わいたくなかった。仲良くなれるかもしれない人たちと殺し合ったら、また独りになってしまう。それが、イヤだったのだ。

「ですが力無き絵空事に、他者はついてきません。だからこそ――戦わなくては掴めない。」

 ここには、それを邪魔する者たちがいる。

 殺し合いに乗ってしまった者もいるだろう。

 すでに死んだ者たちは、憎しみの種となり、かくして蒔かれた争いの火種は、放っておいても燃え上がる。

 さらには、姫神という戦いを煽る者もいる。

 その争いの連鎖を、止めたいと願うなら――相応の力を、覚悟を示さなくてはならない。

「っ……!ㅤでも……!」

 ああ、そうだ。

 夢の世界で現実逃避をしている場合ではないと、すでに理解は追い付いているのだ。

「でも……。」

 弱々しくなっていく声。

 それでも、認めたくないものがあるのだ。

「カンナ、あなた……」

 この胸にずんとのしかかる、冷たさが。

 まだ、この夢を出たくないと、叫んでいるのだ。

620Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:22:26 ID:JNq/2/aU0
「……放送を、聞いてたんですね。」

「っ……!」

 胸がきゅっと締まるような感覚が襲ってくる。トール様の死を伝えられたのは、これが二度目だった。

「……なんで。」

 ぽろぽろ、ぽろぽろと涙が零れ落ちてくる。

「なんで死んじゃった……? もっと一緒にいたい……。トール様、いなくならないで……。」

 トール様は、噛み締めるように少し笑い、そして小さく、ため息を漏らす。

「……ありがとう、カンナ。」

 間もなく、私の肩に、ぽんと置かれた手。温度なんて無いはずなのに、何故なのだろう。すごく……あったかい。

「――でも、ダメです。」

 我が子を諭す母親のような、厳しくも温かい言葉だった。頬に伝う涙を拭いながら、そっと、ひと言。

「いつか別れの時が来ても、その時は笑顔で。そう、決めていましたから。」

 コバヤシは、たったの百年もしない内に死んでしまう。いずれ来るその終わりを、なるべく考えないようにしていた。ドラゴンのスパンで考えると、ほんの僅かの時しか一緒にいられないと、分かっていた。

 でも、僅かな時でしかないと、知っているから。その一瞬を、無駄にしないよう足掻いて、もがいて。そして、散りゆくその時まで、戦い抜く。それが、人間の強さだ。

 トール様は、その強さに倣おうとしていた。別れすらも儚き生の道すがらに組み込んでしまえる、人間の強さを身につけようとしていた。
 
「……だから、お別れです。」

 ああ、そっか。

 それが、殺し合うではなく戦うための強さなのだ。

 胸を刺す冷たさを知っているからこその、別れを受け入れる強さ。その上で、今ある居場所を失わないように、前を向いて戦える強さ。

621Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:22:58 ID:JNq/2/aU0
「トール様……私、甘かった。まだ、スズノもコバヤシも戦ってる……。なのに私、逃げようとした。」

 己が孤独を受け入れられないが故に、居場所を求めた。だけど、欲しいのはそれだけじゃない。

 スズノが、泣いていたから。

 スズノのことが大切な誰かにも、そんな空白を味わってほしくないと、思ったから。

「もう私、逃げない。あのあったかさを、誰かにあげられるようになる。」
 
 皆が仲良くなれる道が、スズノたちの居場所になれるのなら。そんな想いのままに宣言したのが、カンナ勢でもあったのだ。

「あなたには、願いがあります。それは決して、殺し合いによって叶えられる願いではありませんね。」

「……うん。」

「それはきっと、途方もない願いでしょう。誰かの居場所になるのは、何かを壊すことよりもずっと、難しい。」

 ドラゴンであれば、大概のものは壊すことができる。それは種族の誇りであり、価値であり、そして――孤独でもある。友達の垣根なんてなく、親も子も常に牽制し合う孤高の種族。

 その孤独が、さびしかった。誰かに見てほしくて、ずっとずっと、心の奥底が冷えきったように寒くって。

「……私はずっと応援していますよ、カンナ。」
 
 人間がくれた、終焉をもたらせるだけの炎よりもずっと身を包んでくれる温もり。それは、独りでいられるだけの強さではなく、むしろ"弱さ"と呼べるものなのだろう。ドラゴンにとって、忌避すべきもの。だけど、それを求めている者にとっては、居場所となれるものだ。

 コバヤシがくれた、そんなあったかさ。それを、私も誰かに与えたい。だから、戦うのだ。

「さよなら、トール様。」

 私は、走り出した。

 前の見えない、暗い道を。

 凍てつくような、冷たい道を。

 それがどこに続いているのかも分からないまま、ただ、ひたむきに走り続けた。

622Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:23:54 ID:JNq/2/aU0
 すると、暗闇のその先。

「……殿。」

 声が、きこえる。

「……ナ殿。」

 私の名前を呼ぶ、声が。

 その声の方向に、ただ一心に、走り始めた。

 その先に何が待っているか分からないけれど――感じたのだ。あの声はどことなく、あったかい、と。



「……カンナ殿!」

「……ん。」

 目を覚ましたカンナが目の前に見たのは、彼女を揺すり起こした鈴乃の姿だった。戦闘中で流し聞きだったとはいえ、放送の中にカンナの名前が無いことを確認し、急いで走ってきた鈴乃。カンナに残る弾痕を確認し、銃弾が角に命中していたことを見て、生存理由と大した怪我ではないことがハッキリと分かったところでほっと胸を撫で下ろす。

「よかった……ああ、無事……だったか……。」

「……スズノ、一体何があった!?」

 心配そうに語る鈴乃には、おびただしいほどの傷痕。自分が寝ている間に、一体何があったというのか。

「それは……話せば長くなるが……。」

 鈴乃は語る。

 襲撃者との戦いの決着が付かないままに、カンナの下に駆け付けたこと。

 襲撃者と関係があるかもしれない青髪の少年のこと。

 その際に助けてくれた、襲撃者の知り合いらしき少女に、襲撃者の相手を任せているということ。

「……行こ。」

 それらを受けて、カンナは答えを出す。

 鈴乃の話によると、元の世界からの知り合い同士が殺し合っているとのことだ。殺し合いなんて強制されなかったら、手を取り合えていたかもしれない二人。混沌勢と調和勢、対立する勢力であっても時に仲良くできるというのに、それでも戦う羽目になってしまった二人。

 そんな悲しい宿命に、差し伸べられる手があるのなら。

623Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:24:21 ID:JNq/2/aU0
「殺し合いは、止める。トール様が教えてくれた強さの形……無駄にしないために。」

「カンナ……殿……?」

 気絶する前とは、まるで別人のようなその決意。カンナの中で何かが変わったように見える。

「正直に言うと、私は反対だ。襲撃者の強さは身をもって体験したし、カンナ殿の安全も次こそ保証できないかもしれない。」

 それは、当然の発露だった。

 カンナの生存に、鈴乃がどれだけ安堵を得たのか、カンナは知らないのだろう。

 そこに、重ねてカンナに死のリスクを背負わせるのが、本意であるはずがない。

「……だが、他ならぬ私を救ってくれたカンナ殿の決意に、私は報いたい。」

 それでも。

 その覚悟は、本物だと身をもって知っているから。

 カンナ殿であれば、かの殺し合いの渦中にも、心を届けられるかもしれない。彼女の言葉には、力がある。まさしく、この殺し合いの参加者にすら至ることなくその命を散らした少女、佐々木千穂のように。

「こっちだ。共に行こう、カンナ殿。」

 初めにカンナ殿に抱いた印象も、同じものだった。だが、だからこそだろうか。ドラゴンであると分かっていたはずなのに、カンナ殿も彼女と同じ、護るべき対象として見ていたところは否めない。

 だが、今のカンナ殿からは、魔王や勇者と同じ、己が信念のために戦おうとする意志をひしひしと感じ取れる。

 なればこそ、伝えるべき言葉は『ついてきて』ではない。殺し合いに反逆する同士として、隣り立つことを要請する言葉であろう。

(そうだな。先ほどまで殺し合い、互いの命を奪いかけた相手……。上等じゃないか。)

 利害関係や運命的な特異点があれば、勇者と魔王ですらその手を取り合うことがある。分かり合うことを諦めるには、あまりにも早すぎる。

 ふと、零した笑み。カンナ殿の無事な姿を見れば、存外全てがうまくいくのではないか、と、そんな希望すら湧き上がってくる。

624Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:25:20 ID:JNq/2/aU0
 そんな考えを抱いていた、その時だった。

「今のは……!」
「悲鳴だった!」

 鈴乃とカンナが遠くに感知した、轟くばかりの悲鳴。マミと杏子が戦っていたはずの場所からは少し離れており、彼女らによってもたらされたものであるかは不明瞭だ。

 だが、そんなことは関係ない。あの絶叫を無視できる二人ではなかった。一瞬、互いに目を合わせ、頷き合う。



 それは、名状し難き悲惨な光景だった。

 少女は、首を切り裂かれて死んでいた。

 女性は、片目を潰され、心臓を一突きにされて死んでいた。
 
「遅かった、か……。」

 あまり動じないほどに死体を見慣れている自分に、どこかモヤモヤした気分を残しながらも、すぐさま死体に駆け寄る。

「どうやら営利な刃物で殺されているようだ。それにまだ温かい。時間はさほど経っていないようだな……。」

 つまり、何かが少しズレていれば助かっていたかもしれない命だ。その責任を抱え込んでしまうような性分ではないが、どうしても、救えたもしもがちらついてしまう。

「……支給品も奪われている、か。回収の手際も良いようだ。最初からそのつもりで殺したのだろうな。何より厄介なことに――魔力戦闘の痕跡が残っていない。」

 魔力の隠密に特化した暗殺者も、いるにはいる。だが、これほどまでにまったく魔力の痕跡を消せるとなると、相当な手練れだと見ざるを得ない。或いは、そもそも魔力を用いていない場合も考えられる。どちらにせよ、近くにいたとしても探知は困難だという結論を出さざるを得ない。

 そんな時、死体の傍で何やらじっとしているカンナに気づく。
 
「カンナ殿、無理に見る必要は無い。検死ならば私が……。」

 しかしカンナは俯いたまま、ある方角を指さした。
 
「……あっち。」

「む……?」

625Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:25:56 ID:JNq/2/aU0
 意図が即座に読めない鈴乃。

 カンナの指さした方向は、先ほどまでマミと戦っていた戦場に向いている。

「来て!」

 走り出したカンナを慌てて追いかける。彼女には何が見えているのか、まだ、分からない。マミと杏子の戦場は元々目指していた場所であるため、その方向に向かうことに不都合は無いのだが、それでもカンナには他の何かを感じ取っているように見えた。

 そして、走り出すこと僅か数十秒。

「あれは……!」

 聖法気で視力に補正をかけた鈴乃の目が、ある少年の姿を捉えた。

(もしやあの二人を殺したのは……!)
 
 その時、様々な物事に合点がいく。

 潮田渚――あの少年が、自分とマミの戦いに居合わせた無力な一般人などではなく、マミと組んで参加者を排除するために動いているのだとしたら。

 先ほど渚が明確にマミを庇うかのような行動を取ったにもかかわらずそれを疑うことができなかったのは、違和感があったからだ。たとえば、現に渚は一度、マミの攻撃の射線上に入っていた。あの戦いの中で明確にこちらに殺意を向けて来ることもなかった。

 どれも決定的な要因とは言えないが、それでも、マミと渚が手を組んでいると断じるには、矛盾する点が見られたのは確か。

 そしてそれは確かに、間違っている。あの戦い自体が勘違いから始まったことなど、今となってはもはや把握のしようがない。何故なら、その事実に唯一感づいた渚自身が、それを秘匿することを選んだのだから。

 だとしても、この状況下。渚が二人を殺害したことはもはや疑いの無い事実である。

 ”カンナ勢”が他人を殺した渚の処遇をどうするのかは、ただちに決められるものではない。だが、どういう処遇にせよそれは渚の拘束が先んじる必要がある。

(くそっ……何故私は、気づけなかったんだ……!)

 鈴乃は渚を追い始める。なるべく遮断していた気配であるが、間もなくして向こうもこちらに勘付いたようだ。殺害現場から速足で離れていたのが、全力疾走での逃げ足に変わる。向かう先は、マミと杏子が戦っている場所。そして――

626Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:27:00 ID:JNq/2/aU0
「スズノ……あのケータイ、何かがいる。気を付けて……。」

 先ほどカンナが行なったのは、魔力探知ではない。ただの人間に過ぎない渚に、その方法での追跡は通用しない。

 カンナが感知したのは、モバイル律から発せられる微弱な電波である。電気をエネルギー源として用いるカンナには、ドラゴンとしてのスペックも相まって、空気中の電波すらも感じ取ることが可能である。

「……思ったよりも早く気付かれたみたい。じゃあ、それでいいんだね、律。」

「はい。私の収集したデータによれば、その方法が最も効率的かと思われます。」

 この戦いに、殺し合いに乗っている者なんて一人もいないはずだった。

 だけど、運命の悪戯によって手のひらから零れ落ちた不安の種は、悪意という名の花となって開花した。
 
 枝分かれするように生まれた、魔法少女たちの戦場と、殺し屋と暗殺者の戦場。

 ――二つの戦いは、一つの戦場へと収束していく。

627Memosepia【その体温振り払って、遠くまで】 ◆2zEnKfaCDc:2022/09/24(土) 03:28:00 ID:JNq/2/aU0
連作の一部投下を終了します。
引き続き、同メンバーで予約します。

628 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/01(土) 01:27:43 ID:8dOUvn3I0
申し訳ありません、予約を延長します。

629 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/08(土) 02:10:24 ID:YdXq94EQ0
申し訳ありません。もう1日だけ延長させて下さい。

630 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:30:23 ID:/xQ2Ewqo0
重ねての延長失礼しました。
投下します。

631Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:31:18 ID:/xQ2Ewqo0
「――私は魔法少女を"救済"する。」

 救済――何ともまあ、前向きで希望に満ちた言葉だ。だが、その本質はねじ曲がっている。

「……本気で、言ってんのかよ。」
 
「私がこういう時に冗談を言ったこと、あったかしら?」

「はっ……冗談より100倍タチ悪いぜ。」

 その意味するところは、すなわち魔法少女の掃討。
 
「……でも、良かったとも思っているのよ。」

「はぁ……?」

 マミが、手を天に翳す。この座標は、先程まで長きに渡り鈴乃とマミの戦いが繰り広げられていた場所だ。すでに戦場全体に魔力で練られたリボンの糸が張り巡らされている。マミの手の動きに連動し、杏子の足に糸が絡み付く。

「っ……!?」

「最初に、あなたを終わらせることができたなら……」

 糸は足に巻き付いたまま、上昇。それに伴って持ち上がる杏子の身体。

「……もう昔のことで迷わなくて済むもの。」

 直後、銃声が鳴り響く。杏子の幻惑魔法を絡めた小細工の巧さはマミも知るところ。だったら――下手に行動を許す前に……不意の一撃で仕留める!

「……そうかよ。」

 次の瞬間、杏子にしっかりと狙いを定めたマミの眼前に展開されるは、咲き乱れるがごとき閃撃の嵐。

 拘束を成していた糸は即時引きちぎられ、自然落下と共に狙い済まされた銃撃は空を切った。

「まだアンタは……そこにいるんだな。」

『――また負けたー! マミさんのリボン卑怯だよ!』

 かつて、宙に吊るされながら発したひと言。マミと修行していた、あの時のあたしだったらきっと、この一撃で決まっていたのだろう。

 だが、そうはならなかった。

 着地と共に射程の差を埋めるため、前進。遠距離から放たれる砲撃の厄介さは分かっている。だが一発限りのマスケット銃を捨て、新たに生成するまでのリロードは必須。それなら、その合間を叩く!

632Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:32:01 ID:/xQ2Ewqo0
「――あなたこそ、また手加減してもらえる、なんて思っていないわよね?」

 その時、銃が動かされる金属音を感知した。音の方角に目をやることはできない。なぜなら、その方向は東であり、西であり、北でも南でもあった。気が付いた時には、足元の草木で覆い隠しながらリボンによって遠隔操作された幾つもの銃口が杏子を狙っていた。

「ぐっ……!」

 気付いた瞬間、足元の糸を切断し、背後の銃の操作を裁ち切る。処理しきれなかった分の銃弾は槍をぶん回して受けるも――受けきれなかった弾が胴を撃ち抜く。その痛みの一部を遮断、そして一部を甘受しながら突撃に割く魔力を温存し、殴り込む。

 その一撃を受けるは、すでに発砲済みのマスケット銃を横に構えての防御。先の銃撃の痛みで腕に力が入らず、そのような即席の防御であっても受け止められる。

(だが、この射程なら押し勝てる。このまま――)

 その時目に映ったのは、マミが背中のリボンを用いて引き金を引かんとしている一丁
 咄嗟に防御の構えに入る杏子。相対するは、ふっと口元に笑みを浮かべたマミの姿。直後に、下っ腹に衝撃が走る。

 防御を潜り、腹部に打ち付けられたのは魔法でも銃弾でもない、ただの蹴りであった。仄めかされたマスケット銃は使用済みで、弾が込められていないブラフ。それは、鈴乃に対しても一度用いた手だ。

 だが、魔法少女として増幅された筋力から放たれた蹴りは、偏食により一般的な少女の体重よりも軽い杏子の身体を吹き飛ばすには十分な威力を持つ。結果として生み出された距離は、新たなマスケット銃を生成するだけの時間稼ぎには十分だった。

「っ……このっ!」

「なっ……ぐうっ……!」

 だが、吹き飛ばされる寸前に、鎖鎌状の槍をマミの腕に巻き付け、引っ張り上げる。右肩が外れてもその拘束が緩むことはない。そのまま槍を振り下ろせば、土煙を巻き上げながら、マミの身体は大地に思い切り叩き付けられた。

「はぁ……ちったあ、目ぇ覚めたかよ?」

 確かな手応えと共に、土煙の先に向けて問い掛ける。次第に晴れゆく視界に映ったのは、負傷した右腕を庇いながら、のそのそと立ち上がるマミの姿。

「その腕じゃあもう撃てないだろ。この勝負、あたしの勝ちだ。」

「……。」

 元より、鎌月鈴乃と戦い続けていたマミに対し、杏子は戦いらしい戦いをしていない。消耗度合いから見ても、この勝負は杏子の側に傾いていた。殺すことなく無力化するという杏子の目的に沿った措置も、互いに全力を出している時には難しかっただろう。

 だが、もう利き腕を潰した。この状態では狙いを定めるのも困難だ。だが、その目に諦めの色は宿っていない。

「……あなたは、それでいいの?」

 静寂が訪れた戦場で、マミはゆっくりと口を開く。

「もう私たちは普通の人間には戻れない。もしかしたら、周りの人間を巻き込みながら、殺し合わされ続けるかもしれない。」

「……んなもん、元締めとの接触無しには分かんねぇだろ。」

「元締めとの接触って……姫神と世間話でもするつもり?」

 そもそも、これは殺し合いなのだ。最後の一人だけしか生き残れないという前提がある。

「それに……どちらにせよ、同じことなのよ。この疑念を抱いたまま、誰かと交流することなんてできない。だったら――」

633Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:32:30 ID:/xQ2Ewqo0
 その瞬間、マミの腕に絡み付いたリボンが、強引にマミの腕を動かした。外れた関節を無理やり動かす痛みに、マミの顔が大きく歪む。痛み自体は魔力で抑えることができるが、残り少ない魔力をそんな事に回す余裕はない。

「――ここでその連鎖の根本を絶つ方がみんなのためだって、そう思っちゃうじゃない?」

 杏子の心臓めがけ、引き金が引かれる。

 槍はマミの拘束に用いており、防御には使えない。

「……そう簡単に、この命くれてやるわけにはいかないさ。」

 しかし硝煙のその向こう、杏子は息絶え絶えながら立っていた。支給された小道具を前面に構え、銃弾を防御。それはただのマンホールであったが、槍で成すことができない、面の防御となる。

「救済とか何とか言ってさあ、結局それ、魔法少女みんな巻き込んでのただの心中じゃんか。」

 ――いつかの記憶が、頭をよぎる。

 あたしの願いが、バラバラに引き裂いてしまった家族の記憶。

 あたしのかたちがなくなっていくような、絶望。

 ――そして。

 そんなあたしにかたちを与えてくれた、たった一人の"家族"の記憶。

「そう、かもしれないわね。もちろん、最初からあなたに受け入れてもらえるなんて、思ってないわ。」

 マミが口を開く度、いつかのしあわせが段々と、色褪せていく。記憶が、塗り替えられてしまう。

「だから恨みつらみは……向こうで聞いてあげるわ。全部が終わった後に、ね。」

 ――かたちが、きえてしまう。

634Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:32:53 ID:/xQ2Ewqo0



「はっ……はっ……!」

 ――渚は、走っていた。

 走り込みの訓練を行なったことはある。

 だが、ターゲットが殺せんせーである以上、逃げるための訓練は全くしていないではないが、どうしても比重は小さい。元より、身体能力ではクラスでも底辺の渚だ。相手の視界に入ってしまった地点で、追跡者を撒くのは不可能に近い。

「このまま逃げても追い付かれる確率、99%。」

 戦況を俯瞰している律が、分析を述べた。だがそれは、このまま逃げた場合の確率。

「しかし私であれば足止めは可能です。一時しのぎにしかならないでしょうが。」

「……分かった。お願い。」

「承知しました。」

 その掛け声と共に、支給品を詰めたザックから飛び出た"それ"に、追跡者の二人はぎょっとした様相を見せた。

「何だ、これは?」

「らじこん……!」

 カンナの評した通り、それは数台の電動式ラジコン。

 しかし、その実は子供の玩具とは違う。超能力集団『爪』の幹部、羽鳥が戦闘用兵器として用いていたものである。

「――対象、参加者:鎌月鈴乃。射撃を開始します。」

 笑顔と共に発せられた電子音声に対応するかの如く、搭載された幾多の銃器を惜しみなく撒き散らす。

「なっ……ぐあっ……!」

 日本に来て日が浅い鈴乃に、電子機器の心得などない。仮にあったとて、ラジコンと銃器が結びつくはずもないだろう。不意に受けた一斉射撃に、全身を撃ち抜かれることとなった。魔力で生成されたものではないため、魔避けのロザリオの効力もはたらかない。

635Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:33:42 ID:/xQ2Ewqo0
「スズノ!」

 後ろを走っていたため、射撃のダメージ自体は浅かったカンナ。しかし、鈴乃の受けた傷を放置して追跡する選択肢は彼女にはなかった。鈴乃に駆け寄り、その前方に立ち塞がる。

「――続けて攻撃を開始。」

 律も渚も分かっている。この程度の射撃で迎撃できる相手ではない、と。それ以上に超次元の戦いを、特に渚は、マミの戦場で目に焼き付けている。しかし、不意を付くことができた今だからこそ、追撃のチャンスがある。

 そして再びの、一斉射撃。対象はカンナではなく、初撃で膝をついた鈴乃。仮に庇うのであれば、カンナに確定的に命中させることができる。

「……! あのケータイから操ってる!」

 ラジコンを操作しているのが渚ではなく、モバイル律から発せられる電波であるとその能力によって勘づいたカンナ。

「痛っ……!」

 だが、その理解においついたとて、射撃を封じるには至らない。避けられない鈴乃の代わりに弾丸を受け、その身におびただしいまでの弾痕を刻んでいく。

「カンナ殿!」

 患部を押さえつつ、何とか立ち上がる鈴乃。追撃に備えられた銃器へと改めて対峙する。

 そして、放たれた銃声と共に、ひと声。聖法気を、解き放つ。
 
「――武光烈波!」

 大槌より発された聖法気の嵐が、銃弾を纏めて吹き荒らした。

「――っ!」

 人工知能の知識と経験の外にあった、エンテ・イスラの魔術。物理法則の通用しないそれを前に、軌道の計算も安易には不可能だ。

「……次の射撃も防がれる確率、88%」

 律がはじき出した答えは、渚の心に焦燥を積もらせていく。敵へと続く道は、開け始めている。

 だが、律としては次の射撃を放つより他にない。しかしそれは、計算通りにすべて弾かれ――

「――武身鉄光っ!」

 ラジコンの中の一機に向けた一閃。破壊力に特化したそれは、元は玩具でしかない電子機器を即座に粉砕した。

636Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:34:07 ID:/xQ2Ewqo0
「あと二機だ! カンナ殿!」

 ロザリオを元に生成した大槌を手に、カンナに呼びかける。

「――攻撃を開始します。」

 律――そのフルネームは、自立思考固定砲台という。

 その名に集約されている通り自立思考を生業とし、生徒と共に成長していく人工知能である。その学習力たるや、殺せんせーの速度に対しても即座に適応するレベル。その演算力は、この戦場においても発揮される。詠唱から発現までの時間、その威力、狂わされる弾道。エンテ・イスラの魔術という科学にとって未知の領域に対しても、間もなくしてその計算に組み込んだ。

(っ……! 何という精密な操作か……!)

 攻撃の隙間を縫って、明確にこちらの弱みに対して密度の高い攻撃を仕掛けてきている。一機落としたからといって、決して弱体化はしていない。

「……電気には……電気!」

 直後、カンナの周りに強力な電磁波が発生する。

「む……制御ができません!」

「えっ!?」

 律のラジコンの遠隔操作にも干渉するだけの電磁波。それを体内で生成させるカンナの魔法も、やはり科学の想定し得ぬところ。

 ラジコンは地に落ち、鈴乃とカンナの行く手を遮ることはなくなった。

「制御を取り戻すまで30秒ほどかかります。そして、30秒後には、渚さんの逃げ道を確保しましょう。……それまで時間を稼げますか?」

「そうは言ったって……。」

 鈴乃の身のこなしは、マミとの戦いを観察していて織り込み済みだ。それに付いてきているカンナも、見た目年齢に適さない力を秘めている。

 一方の渚は、一般人上がりでしかない。魔力や聖法気といった人間の逸脱性もなく、ただ暗殺の訓練を受けているだけの中学生。そしてそれは、戦闘の訓練とは違う。警戒され、戦いを挑まんとされている今、その素養は大きなアドバンテージとなり得ない。

 ラジコンの制御を取り戻すまでの30秒は、この場で戦い続けなくてはならない。

637Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:34:29 ID:/xQ2Ewqo0
(……いや、やれるかどうかは関係ない。)

 律の妨害無しに逃げたところで、すぐに追い付かれるのは間違いないから。

 やる以外の選択肢は無い。だったら――殺す気で。

「……仕方ない、か。」

 観念したように立ち止まった渚に、一瞬、怯む二人。その眼には、裏の仕事を手に付けてきた鈴乃から見ても、はたまた闘争にすべてを賭けてきたドラゴンを多く見てきたカンナから見ても、底の見えない殺気が宿っていた。

「聖職者、クリスティア・ベルの名において、汝の罪を問う。」

 それでも怖気付くことなく、鈴乃は厳かに口を開く。

「何故殺したか……この世界においてそれは愚問だ。その一切を不問としよう。」

 力のある者に殺しを命じられた。

 殺しに走ってしまった子供に、それ以上の理由なんて必要無いだろう。

「私が問うは、ただひとつだ。……貴様はこれからどうする。」

 殺し合いを、促進する者がいる。その認識は、初めから持っていた。

 他ならぬ鈴乃自身が殺し合いに乗ろうとしていたことのみではない。この世界に蔓延する悪意のような醜悪な気配。人々を殺し合いに駆り立てている何かが、ここにはある。

 そんな悲しみに呑まれてしまった者たちに差し伸べる手が、カンナ勢だ。すでに死者は13人。中には罪を犯した者もいるだろう。カンナ殿の家族を殺した者も――遊佐を殺した者も。

 そう、これは――彼らを赦すための、戦いなのだ。

638Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:34:58 ID:/xQ2Ewqo0



 辺り一面に撒かれたリボンと糸の罠。それだけ見ても、相当な手数の魔法を用いている。さらにそれだけではなく、生成しては使い捨てられるマスケット銃のひとつひとつも、折れた腕を無理やりに動かす回復魔法自体も――マミを戦いから離脱させる限界というものを、魔力を浪費することで繋いでいるのが現状。

 片や鈴乃と戦っていた後であるにもかかわらず杏子とマミが互角に渡り合えている裏には、魔力量においての代償が伴っている。

「なあ、ソウルジェム、濁りが溜まってんじゃんか。もう、限界なんだろ。」

 その結果待っている結末を、杏子は言えない。

 誰かを守ることを戦う理由に据えているマミに、その根底を揺るがす、魔法少女の真実を伝えるわけにはいかない。それはまさに、願いが絶望へと反転する瞬間に他ならない。

「敵の心配なんて、随分と余裕ね?」

 マミには、止まれない理由がある。たとえそこに前提知識の欠落があったとしても、戦うに値するだけの願いを携え今この場に立っている。

「私は選んだの。この殺し合いに勝ち残るべきは、私やあなたじゃない。」

 世の中には、誰かを脅かす存在がある。だけど、誰かを守る存在があって、そんな存在に守られる側の人間もいる。

 魔法少女は、誰かを守る存在であると、ずっと思っていた。奇跡を信じてキュゥべえに縋ることしかできなかった自分のような、救いを求める誰かに、手を差し伸べられるのなら――あの夜に家族を見捨てて命を繋ぎ止めた意味も、きっとあるだろう、と。

 だが、他ならぬ選定者であるキュゥべえが、この力で他者を殺せと言っているのだ。魔法少女に誰かを守る生き方など認めないと、首輪と共にそう叩き付けられたのだ。

「だってそうでしょう? 生きているだけで他者を巻き込んで死なせてしまうなんて……そんなの魔女と同じじゃない。」

「……。」
 
 杏子には、何も言い返せなかった。魔法少女が魔女そのものであることを、すでに知っているから。
 
「私はそれでも――誰かを守りたいと思う。だったら滅ぼすべきは何かなんて、決まっているでしょ? それが私の選択。それが私の、最後の正義。」

 たとえ飛躍した論理であっても、マミの言い分に相応の理を認める真実がある。それは決して、マミには知られてはならないということもわかっている。

 真実に力はなく、虚構のみがマミを止める手立てとなる。紗季さんから鋼人七瀬の話を聞いた時、そんな器用な真似は自分にはできないと、そう思った。だが、それを諦めてしまえばマミは救えない。

639Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:35:23 ID:/xQ2Ewqo0
「納得なんてしなくていいわ。結局は私のエゴだもの。でも――」

 一方のマミ。納得も理解も、とうに諦めている。

 それを求める相手が仮にいたとして、それはグリーフシードを落とさない使い魔を倒すのをやめてしまった杏子ではない。

「――信念も無ければ、私を殺す覚悟も無い。そんなあなたに、私は負けない。」

 力は自分のために使うべきだと、かつてそう謳ったことがある。だが、その信念は現状、曲げられている。彼女自身を守るためのみに行動するのなら、魔法少女を殺そうとしている自分を殺せばいい。

 だが、現実はどうか。

 杏子の槍に宿るのは殺意ではない。信念を曲げながら、ただ私の前に立ち塞がっている。

 私とは違い、何も選んでいない者。選べないとも、言えるだろう。そんな甘さを見せた相手に、負けたくない。負けてなるものか。

 ――そんな奮起と共にかけた言葉だった。

「……そうかよ。」

 返ってきた言葉に纏った感情が何であるのか、マミには検討がつかなかった。

「そうかもしれねーな。アンタから見たあたしは、軸なんて何もなしに、ただ止めに来ただけの奴に見えるだろうよ。」

 銃撃を警戒してか、跳躍。木々を伝っての空襲を謀る杏子を前に、マミは魔力の糸を生成し、木々の合間に張り巡らせる。

 そのまま空中に留まれば、糸による拘束が。地上に降りれば、着地狩りとばかりの砲撃が、備えられている。

640Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:35:53 ID:/xQ2Ewqo0
「でも――浅いね。あたしの本質なんざ、ハナから何も変わっちゃいないさ。」

 対する杏子――そのどちらの手も、想定済み。第三の択として、足場であったが今や罠と化した木を、一閃にて斬り倒す。倒れた木は銃弾を受ける盾となる。魔力の糸は地に落ち、杏子の進路を阻むことはない。

(ああ、そうさ。あたしがどうしてここにいるか。そんなの、分かりきってんだ。)

 ――落ちていく。

 まるで足場が、最初からなかったかのようにどこまでも、落ちていく感覚。伴うは、喪失。

 ――ああ。

 何もかもが、うまくいかない人生だった。

 隣人のために身銭を切ることを厭わない、父さんみたいな。そんな正義のヒーローに、憧れていた。だから、そんな父さんが、少しでも報われてほしくて――手を伸ばした奇跡は、絶望の入口だった。

 願った奇跡の分、それが絶望として返ってくる。それが魔法少女のさだめだと謳われるくらいに、必然的な結末だったのかもしれない。

 ――だけど、それでも。

 もしもやり直せるのなら――今度こそはハッピーエンドってやつを目指してもいいだろ?

 神様ってやつは皮肉なもんだ。全て投げ打って、その先に与えられた、【やり直し】の機会がそこにあった。

 あたしと同じ誤ちを犯そうとしていた魔法少女、美樹さやか。彼女は結局、分かり合うことのないまま魔女になった。救う方法を模索して、だけどそれの叶わないまま、あたしの人生は幕を閉じる。

 報われず、奈落へと落ちたままに、かくして終わりを迎えるはずであった。

 ――しかし、神の祝福は与えられた。

 突如として開かれた殺し合い、それには魔女になったはずのさやかも、おそらくは人間として、参加させられていた。これは二度目の挑戦だ。今度こそ、彼女を救えるかもしれない。まだ、あたしの目指すべき道は途絶えていない。

 そう、思っていた。なればこその、痛みだった。

 期待をすればするほど。登れば、登るほど。

 裏切られ、落ちた時の痛みはよりいっそう、大きくて。

 定時放送で呼ばれた、さやかの名前。崩れゆく願い。

 ――ああ、まただ。

 かたちを失っていくかのごとき、この感覚。

 あたしが、きえてしまいそうなこの剥離に身を委ねてしまえれば、どれだけ心地よいだろうか。

641Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:37:00 ID:/xQ2Ewqo0
『……ねぇ、マミさん。』

 ――いや。

『マミさんは、あたしのこといつも友達って言ってくれるけどさ……』

 まだだ。まだ、あたしに与えられた神の祝福は、残っている。

『あたしにとってのマミさんは、友達っていうのとは……ちょっと違うっていうか』

 かつて失ってしまった"家族"が、目の前でまた、皆を巻き添えに死のうとしているんだ。

 贅沢な大円団なんざ、とっくに終わってるかもしれない。これをハッピーエンド、なんて言っちまったら、零しちまったさやかに失礼かもしれない。でも、零したもんばかりに執着して、手の届く範囲にある守れる大切なものをまた零しちまうのは御免だ。

 盾代わりの大木の、その向こう。露わになったマミの姿が、視界に映る。

「ティロ――」

「――なっ……!」
 
 自身よりも大きな大砲を前方に構え、こちらへ突き付けていて。

「――フィナーレ!」

 いつ、道を間違えたのか。

 決別したはずのマミの死を聞いて、その後釜の魔法少女の様子を見に、見滝原に戻った時か。

 ――或いは。

 そもそもマミと決別を選んだ時か。

 ――或いは。

 ハッピーエンドなんて、父さんの夢に縋り始めてしまった時か。



 ――ああ、落ちていく。

 まるでかたちを、失ったかのように。

 想い出が、セピア色の中に沈んでいく。

 鳴り響くは、割り砕くが如き砲撃音。

 
 
 

『――お願いっていうか……図々しいついでっていうのもなんだけど……。あたしを、マミさんの弟子にしてもらえないかな?』

642Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:37:40 ID:/xQ2Ewqo0
 ――罪を犯した者が報いを受けるとするならば、それはいつのことだろう。

 かつて、ある執事は、虚空に向けてそう問い掛けた。

 王として進むべき道を誤った罪を背負った真奥貞夫は、その報いとして今がある。最後まで、王であり続けること。それを責務として、己に課している。

 いつ、報いを受けるのか――その答えを鈴乃が答えるとするならば、『常に』である。

 赦すと、宣言することは簡単だ。だが、それだけでは禊となり得ない。遊佐が、親の仇である真奥に対し、一時的とはいえ刃を納めている現状。それは、真奥の背負った報いによるものだ。

 平常、己の罪と向き合う覚悟を以て、報いと成せ。これは、『カンナ勢』を口先だけの夢物語にしないため、その覚悟を問う審判である。

 その言葉の裏に垣間見える鈴乃の境遇など、渚に伝わることはないのだろう。だが、試すが如き鈴乃の瞳。適当にはぐらかせる類のものでないことは、十二分に伝わった。

「……僕、は。」

 ――罪、か。

 誰かを殺すことが罪なのだとしたら、僕たちは、罪のために進んでいる。

 恩師に、この刃を突き付けるため。

 恩師に、銃弾を叩き込むため。

 恩師を――殺すため。

「――選んだこの道を、間違いだなんて思わないし、言わせない。」

 もしも、殺せなかったら。

 烏間先生が導いてくれた道も、茅野が隣で歩いてくれていた道も、その全てが――欠けた思い出になってしまう。

 先生を、殺す。その目的を、果たすため。

「だから、その選択に伴うものは全部、背負っていく。」

 たった、40人程度。

 この殺し合いにも勝ち抜けない僕が、果たして、殺せんせーを殺せるか?

 証明するんだ。僕の力を、他ならぬ僕自身に。

「そうか……。ならば多少、手荒な方法を取らざるを得ない。」

 直感めいた確信が渚の中にある。

 この人は、僕よりもずっと優れた――暗殺者だ。

 伝説の殺し屋"死神"のような、乗り越えられない高い壁。

(でも、今回は殺せば勝ちというわけじゃない。)

 カンナは電磁波の維持に精一杯で即座に動けそうにない。普段の、ドラゴンの力をもってすれば電磁波を撒き散らしながら身体能力で敵を圧倒することもできたかもしれないが、パレスに課せられたドラゴンの力の部分的な制限により、精密な力の操作を不可能にしている。

(30秒。ただ、それだけ凌げば、こっちの勝ちだ。)

 それは偏に、律への信頼である。

 30秒稼げば、カンナの電磁波による電子干渉を突破できると彼女は言った。だったら、信じるのみだ。

643Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:38:13 ID:/xQ2Ewqo0
「――武身鉄光っ!」

 ロザリオを大槌へと変質させる鈴乃の奥義。先ほどまでマミに向けられていたそれが、今度は渚に牙を剥く。

 質量という殺傷力の塊を前にして、怖くないはずがない。己が死を忌避するは、避けられない本能。

(集中力を、研ぎ澄ませ!)

 だが――見える。

 対殺せんせーを想定した訓練、そして実践の賜物か。人間離れした脚力と腕力から繰り広げられるその軌道は決して、見切れないものではない。

「うぐっ……!」

 両腕を前面に出し、かつバックステップを挟んで防御。途方もない痛みが腕越しに伝わってくるが、その大部分を軽減する。

 腰には、ナイフが備えられている。先ほど二人を殺害した凶器であり、返り血で赤く染まっていることだろう。そして弓原紗季の支給品にも、一本のナイフが入っていた。すなわち武器は二本。クラップスタナーの準備も整っている。

(……反撃、して来ない?)

 鈴乃が感じた違和感。

 二度、三度、攻防を交わすにあたって、その疑念は確信へと変わる。

(――殺気が、感じられないだと?)

 鈴乃もまた、殺さない程度に無力化することを意図し、渚を追い詰め続けた。だが、決定打が入らない。

 こちらの攻撃の芯が見切られているかのごとく、一撃の重みを完全に"殺され"ている。

「――お待たせしました、渚さん。」

 そしてカンナの電磁波の干渉を無力化する電波を編み出した律が、戦いの終了の合図を唱える。同時に動き出すは、地に落ちていた二台のラジコン。

「ゴメン、スズノ。これムリ……!」

 電波を放出し続けて疲れきったカンナが、それでもなおラジコンの制御を奪われた上で膝をつく。

 ラジコンの照準が向かうは、明確に隙を見せたカンナ。

「カンナ殿っ!」

 即座に聖法気で編み出した嵐がその弾丸を逸らすが、その反動で次の一手は遅れてしまう。

 その間に、渚は180度向きを変え、再び走り出した。

「しまっ……」

 カンナ殿の無事が最優先であり、この場における最善を打っているのは間違いない。だがその上で、渚の逃走を許してしまう結果となった。

(くそっ……完全に調子を狂わされた……!)

 30秒の間、渚はナイフを用いなかった。

 仮にナイフを取り出していたならば、それは"殺し合い"となり鈴乃の対応もまた変わっていただろう。

 30秒を稼ぐのに、これが鈴乃による"詰問"の体のままでいたこと――たった今、渚が地に両足をつけて立っている要因はただそれだけである。

644Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:38:43 ID:/xQ2Ewqo0


 
 ――硝煙のその向こう。

 まだ、杏子の命は絶えることなくそこに存在していた。

 防いだわけではない。大木に隠し、杏子の隙を突いた一撃だった。

 マミが手心を加えたわけでもない。命を奪う覚悟は、決まっていた。

 その上で、杏子が今、地に両足を付けて立てているその理由――

「――これは、幻……!?」

 魔法少女の魔法の力は、叶えた願いに由来する。

 親友との出会いをやり直した暁美ほむらの魔法が、時間操作であるように。

 想い人の腕を治した美樹さやかの魔法が、再生の力であるように。

 自身の命を繋ぎ止めた巴マミの魔法が、対象の拘束であるように。

 杏子の扱う魔法は、幻惑。人を惑わせ、誑かす魔法。その願いの根底がくじかれ、一時期は扱うことのできなくなっていた魔法であったが――今、再び発現した。

 ティロ・フィナーレによって撃ち抜かれた杏子は、魔法によって生成された虚像。蜃気楼の奥から現れた、本物の杏子が今、マミへと飛びかかる。

「いい加減――観念しやがれっ!」

 槍に紐付られたチェーンは、ティロ・フィナーレの反動で一時的に動きが鈍くなったマミを、即座に捕縛した。

 マミは木々に縛り付けられ、最初こそもがく様子を見せるが、間もなくして無駄だと悟ったようで、次第に大人しくなっていった。

645Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:42:11 ID:/xQ2Ewqo0
「……これで、落ち着いて話ができるな。」

「……。」

「よくわかんねーけど、先走っちゃってさ、アンタらしくないよ。」

「……この殺し合いの裏にキュゥべえがいるってわかった時。確かに驚いたわ。そんなことないって、思いたかった。」

 観念したのか、その言葉には先ほどまでとのトゲとは違い、どことなく柔らかさがあった。

「でも、同時に……すごく、しっくりきたの。キュゥべえは……なんというか、根本的に価値観が違うって思ったこと、これまでにもたくさんあったから。」

 基本的に魔法少女は、損得勘定で動いていた。

 成長したら人々を襲うと分かっていながらも、グリーフシードを落とさないからと魔女の使い魔を放置することなんて、当たり前であるかのような。

 キュゥべえにも、それを勧められたことは数え切れない。今にして思えば、他の魔法少女たちにも、キュゥべえはそうやって接していたのだろう。

「だから私は、最初から間違えていたの。あんな悪魔の囁きに乗って……ずっと魔法少女として誰かを守っているつもりだったのに……そしてきっと、これからも、間違え続けるんでしょうね。」

「――違う!」

 その気迫に、マミは気圧されてしまう。

「魔法少女のシステムにどんなに醜い裏があったとしてもさ……マミが助けた人たちは、マミが居ないと死んじまってた。そこは曲がらねえんだ。そして――」

 それは、かつてのすれ違い。

 かつて、己が願いで家族を失って、絶望の淵に立たされた杏子が、それでも魔女になることなくいられたのは。

 そんな杏子を気遣い、見守ってくれる存在がいたから。魔法少女だとか関係なく、誰かを救おうと頑張る人間が、周りにいたから。

 たった、それだけ。

 マミを魔法少女の呪いから解き放ち得るひと言が、交わされていなかったから、二人はここまで、すれ違ってしまったのだ。

 ――そして、それは。

 この場にいる誰もが、予期し得ぬ出来事であった。

646Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:43:48 ID:/xQ2Ewqo0
「――巴さん!」

 ボロボロになりながら駆け付けてきた少年の姿。

 拘束されたままのマミは、その姿を見て名前を呼ぶ。その声に現れているのは、若干の焦燥と、また生きてここに現れたことへの安堵。

 マミの知り合いであると察しをつけ、拘束を受けたマミに駆け寄ってくる少年に、マミの敵ではないと釈明を始める杏子。

 それを受け、少年は落ち着いた表情で立ち止まって小さく笑みを零した。改めて、杏子がマミの方へと向き直り――

「……っ!?」

 ――次の瞬間、杏子の首筋に一筋の閃光が走った。

 首から生えた、一本のナイフ。

「……お……前……まさ、か……!」

 潰れた喉で、懸命に言葉を紡ぐ杏子。何とか振り返った彼女が、その眼に映したのは――

「……っ!」

 ――杏子が置いてきた二人、まどかと紗季さんが持っていたはずの、端末。

 あの二人がどうなったのか、想像には難くない。現にこうして――自分は虚をつかれ、首を切り裂かれているのだから。

 そして杏子の視界は、黒く、黒く塗りつぶされていった。

 その執行者は、たった今、警戒すらされずに二人の前に現れた少年――潮田渚であることは、それを目前にしたマミには分かった。

「なぎ、さ……君?」

 だが、その行動が彼と結び付かない。

 だって、渚くんは。

 魔女のような、誰かを傷付ける存在じゃなくて。

 ――この殺し合いで生き残ってほしいと願った、守られる側の人で、あるはずで。

「……嘘。」

「ごめんなさい、巴さん。」

 渚の手には、もう一本のナイフ。

 目の前には、拘束されたままのマミの姿。

 首筋に、さらに一閃。

 頸動脈を切り裂かれた少女が二人、その現場に出来上がった。

「――渚さん。急いで、この場を離れてください。」

 電子音声に導かれるまま、渚は走り去っていく。

647Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:44:11 ID:/xQ2Ewqo0



「――スズノ、まだ息ある!」

「――頸動脈をこれほど深く損傷しているのに信じられないが……」

 閉ざされた意識の中に、声が聞こえてきた。

 杏子とマミの"死体"を見つけた鈴乃とカンナ。その身体に残された傷跡は、まどかと紗季のやり口と酷似している。そもそも、取り逃した相手が逃げた先。犯人は、考えるまでもなく分かっている。

「……あたし、は。」

 死体が起き上がるような光景だった。

 まどかと同じ程度に、首をぱっくりと斬られていた赤髪の少女が、何事も無かったかのように――とは言えないが、それでも傷口に対してあまりにも軽傷のように立ち上がった。

「っ……! おい、マミっ!」

 弾かれたように、杏子は動き出した。連戦の疲れも、あるのだろう。自分より目覚めるのが遅く、横たわったマミに、手を伸ばす。

 死んでいないのは、分かっている。魔法少女の生命を繋ぐコアはソウルジェムだ。首を切られたところで、それが原因で即座に死に繋がることはない。

 だが、肉体の再生にも魔力を消耗する。いや、それ以前に、あれが少なからず信頼関係を築いていたように見えた相手からの、裏切りだったのはあたしにも分かる。

 だってあの時、消えゆく視界の淵に映った、少年を見るマミの眼は――あの時と同じだったのだから。

 嫌な予感がする。一度、掴めなかった経験に裏打ちされた、確かな予感。そして、その予感は――的中する。

「待ってくれ、マミ――」
 
 伸ばした手の先、巴マミの髪飾りに装飾されたソウルジェムが、ドロドロとその色を濁らせていき――そして、砕けた。

「――っ!!」

 直後、世界がぐにゃりと大きく歪んだ。

 緑が広がる森は、クレヨンでされた子供の落書きのように、不気味に混ざった色に染まっていく。

「何だ……これは……!」

「何が起こってる!?」

「――くそっ……あたしは、また……!」

648Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:44:49 ID:/xQ2Ewqo0

 
 かたちあるものは。

ㅤいつかはこわれて、きえてしまう。

ㅤぴしりと、おとをたてながら。

ㅤぽろぽろと、あふれるままに。

ㅤひびわれて、こぼれて。

ㅤそして、かたちをなくしていく。

ㅤ――ああ、まただ。

ㅤわたしのかたちが、とけだしてゆく。

ㅤこわい、こわいよ。

ㅤだけど。

ㅤわたしがいつか、かたちをなくしたそのあとは。





ㅤ――かたちなきしあわせを、つかめますように。

649Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:45:08 ID:/xQ2Ewqo0
【C-4/D-4境界付近/おめかしの魔女の魔女結界/一日目 午前】

※D-4境界付近に、『おめかしの魔女の魔女結界』が生成されました。おめかしの魔女(巴マミ)が死亡するまで残り続けます。また、近付いた人物が結界に取り込まれることも起こり得ます。

【おめかしの魔女(巴マミ)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:魔女化
[思考・状況]
基本行動方針:無差別
[備考]:魔女化に至るまでの状況が原作スピンオフとは異なるため、本ロワオリジナル要素が付与されている可能性があります。
 
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品0〜2 ジュース@現地調達(中身はマッスルドリンコ@ペルソナ5)ㅤマンホール@モブサイコ100
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず姫神を殴らないと気が済まない
1:現状を何とかする
2:鋼人七瀬に要警戒

※魔女化したさやかと交戦中の時の参戦です
※最初の場のやり取りを大雑把にしか把握していませんが、大まかな話は紗季から聞いています
※紗季から怪異、妖怪と九朗、岩永の情報を断片的に得ました
※モバイル律からE組生徒の情報及び別の世界があるという可能性を得ました。
※パレスの中では、鋼人七瀬が弱体化してる可能性は仮説であるため、実際に彼女が本当に弱体化してるかどうかは分かりません

【鎌月鈴乃@はたらく魔王さま!】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:ミニミ軽機関銃@魔法少女まどか☆マギカ、魔避けのロザリオ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:皆が幸せになれる道を探す
一.目の前の存在と戦う
二.千穂殿、すまない……。

※海の家に行った以降からの参戦です。
※小林カンナと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

【小林カンナ@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:新勢力、カンナ勢を作ってみんな仲良くしたい!
一.姫神はたおす!
二.スズノをまもる!

※トールとエルマが仲直りした以降からの参戦です。

650Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:47:19 ID:/xQ2Ewqo0




「……何、これ。」

 渚は自分の行動の結果起こった出来事について、詳細を把握していない。鈴乃とカンナに気づかれ、それだけの時間は与えられなかった。律の言う通りの攻撃を行い、言われるままに立ち去った結果、背後の景色が消失したという現状。それは、殺せんせーという常識を逸脱した超生物と関わってきた渚から見ても異常な出来事だった。

『――なるほど。現状は把握しました。向こうで参加者巴マミと佐倉杏子が交戦中なのですね。』

 律と手を組み、殺し合いに乗ることを決めて間もなく。二人の殺し屋は大まかな状況を共有し合っていた。
 
『――でしたら、作戦があります。』

 律の提唱した作戦は、以下の通り。

『――作戦その1。二人の戦闘に割り込んで、佐倉杏子と巴マミの両名を殺害してください。おそらくは死にませんが、殺す気で構いません。』

 律は、紗季に支給されていた頃、杏子と紗季の情報共有のすべてを聞いていた。その際に、彼女たちの交友関係と、魔法少女とは何であるのかを含め、情報を"学習"していった。

『――作戦その2。その際に可能であれば、佐倉杏子に私のいる端末を見せてください。彼女に鹿目まどか、弓原紗季の死を伝達するにはそれで充分でしょう。』

 魔法少女が魔女と化す条件――絶望。

 杏子とマミの関係性や、彼女たちの人格を統合して計算した結果、最も最悪の形で彼女たちの絶望を引き起こす計画を、律は導き出したのである。 

『――作戦その3。その後、可能な限り素早くその場を撤退してください。それに失敗したら、その時は……死を覚悟した方がいいかもしれません。』

 そして渚は、鈴乃とカンナの介入という想定していない自体に遭いながらも、それを実行し、そして成功させた。

 それは偏に、渚の才能の結果である。

 暗殺の才能のみならず、死をも恐れずに窮地に飛び込んでいけるその胆力。

「上手くいけば二人の魔女が生まれているはずですが……少なくとも一人は成功したようですね。」

「えっと、ひとまず……何が起こっているのか説明してもらってもいい?」

「はい、もちろんです!ㅤでは……どちらに参りましょうか?」

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカㅤ死亡確認】
【弓原紗季@虚構推理ㅤ死亡確認】
【残りㅤ34人】

651Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、始まった】 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:47:37 ID:/xQ2Ewqo0
【D-4/教会付近/一日目 午前】
 
【潮田渚@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:鷹岡のナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 モバイル律 不明支給品(0〜2) 、鹿目まどかの不明支給品(1〜2)、弓原紗季の不明支給品(0〜1)、ジュース@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:暗殺の経験を積む
一:どこかで腰を据えて律と詳しい情報共有をする。
二:何ができるか、何をすべきか、考える。

※参戦時期は死神に敗北以降〜茅野の正体を知る前までです。
※巴マミと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。

【支給品紹介】
【マンホール@モブサイコ100】
佐倉杏子に支給。何の変哲もないただのマンホール。

【羽鳥のラジコン@モブサイコ100】
弓原紗季に3個セットで支給され、渚に渡ったのちに鈴乃たちによって破壊。
原作では詳細が判明する前に破壊されたが、何らかの武器が搭載されていたものとしている。

652 ◆2zEnKfaCDc:2022/10/09(日) 01:47:52 ID:/xQ2Ewqo0
投下完了しました。

653 ◆2zEnKfaCDc:2023/01/08(日) 04:01:07 ID:nYiRLucc0
ゲリラ投下します。

654眠り姫を起こすのは ◆2zEnKfaCDc:2023/01/08(日) 04:01:43 ID:nYiRLucc0
 C-2にある森の中の木かげで、僕――桜川九郎は思索していた。

 岩永を巻き込まないよう単独で初柴ヒスイを追うという行動方針を決めたのはいい。岩永が僕との合流を考えているのであれば向かう先はおそらくB-2、真倉坂市工事現場だろう。それ以外に僕らの知る固有名詞の地名は地図上に存在せず、暗黙の了解的に集まろうと企てられる場所が存在していない。

 また、同様の理由で紗季さんもB-2での集合を目指し得る。元より地図の端にあるB-2に、積極的に他害を試みる者が向かうとも思い難い。僕がいなくても、B-2を目指す岩永の安全は比較的確保されているのだ。安心、と呼んでしまえる状況ではないけれど、少なくとも危険は未来決定能力のない僕がいたところで大きく改善されるものでもない。

 それよりも、気にすべきはヒスイの側だ。彼女は六花さんのことを語っていたし、僕の不死の力と未来決定能力についても知っているようだった。未来を掴めなくなった僕が唯一、この両手で掴めるもの。絶対に、逃がしてなるものか。
 
 それに、殺し合いに乗っている彼女を止めることは岩永や紗季さんの安全にも直結する。個人的な事情を抜きにしても、彼女を追わない理由はなかった。

 だが、一度不覚を許し、海に落ちたところからスタートしているのだ。岸に上がった時にはすでにヒスイの姿は見えなくなっていたし、石製の港であったために足跡を辿るようなこともできそうになかった。つまり今は、海に落とされる前にヒスイが向いた先に向かって何となく進んでいるに過ぎない。彼女が進路を僅かばかり逸らしてしまえば見失ってしまう。

 もしもくだんの力がパレスの制約を受けていなければ、死んでは未来を掴み取って、正しい方角へ向かうことができただろうが、この世界でそれは叶わない。
 
 さらに、くだんの力に制約があるのならば、殺し合いを茶番と化してしまうだけの人魚の力すら、どうなっているのかは分からない。怪我を避けるよう行動するのは、一般的な人間が当たり前のように行なっているものでありながら、それが習慣から抜けてしまった僕にとっては簡単なものでも無い。高低差があろうものなら安易に飛び降りてショートカットしそうになる。入り組んだ地形では足場の悪さに足を取られれば、立ち止まらなければ足を欠損し得る。

 ……何とも、不都合だ。

 一応、伊澄さんに爆殺された時に人魚の力で蘇ってはいる。これからも復活できるのか、どこまで機能するのかなどは分からないが、それでも普通の人間とは異なる身体ではあるらしい。だというのに、命を惜しまないといけない限り、この身体はただの人間よりも動きが鈍くなってしまう。

655眠り姫を起こすのは ◆2zEnKfaCDc:2023/01/08(日) 04:02:07 ID:nYiRLucc0
(伊澄さんといえば……どうやら亡くなってしまったみたいだ……。)

 今しがた思い起こした名前を、放送から聞こえた声と重ね合わせた。ゲームが始まって間もなく出会った少女。自分を殺した相手であるとはいえ、それでも和解に至り、情報交換のためにひと時を共にした彼女の死に、思うところがないはずもない。

 鷺ノ宮伊澄は、口を閉ざした岩永と同じようなお嬢さまらしさを備えながら、岩永と違う意味で心配になる少女だった。まるで彼女の周りだけ違う時間が流れていると錯覚させてしまうような。他者を惹き付け、釘付けにしてしまうような。高嶺の花、と言うとうまく言い表せているだろうか。この催しは、そんな花を無理やりに摘み取ってしまった。

 何故、殺されなくてはならなかったのか。そんな哲学的な疑問よりも先に、浮かぶ疑問がある。

 何故、彼女が殺されたのか。

 何せ、僕はそんな彼女に一度殺されている。

 仕組みなんて分からない、遠距離からの有無を言わさぬ爆殺。たとえ殺意をもって襲ったとしても、普通の人間であれば彼女に近付くことすらできないだろう。

 不意打ちで殺したか、伊澄さんの射程外から銃殺でもしたのか、それともその相手が伊澄さんを超える超常的な力を持っていたのか。だとして、一般人だったはずの小林さんが同行しながらも生きているのはどういう状況なのか。

(……なんて考えても、仮説を出すことくらいしかできないな。深入りはやめておこう。)

 結局、伊澄さんの力をこの目にした以上、心に留めておくしかないのだ。この世界ではどんな不思議な事が起こってもおかしくないのだ、と。

656眠り姫を起こすのは ◆2zEnKfaCDc:2023/01/08(日) 04:02:32 ID:nYiRLucc0
 ――そして僕は、その心持ちを改めて実感することになる。

 考え事に耽っている間に、木々の合間から陽の光が差し込んだ。そろそろ放送から一時間が経過し、時刻にして七時頃。本来だったらベッドから目を覚ます時間か、と、恨めしげに眠い目を擦る。

「……ん?」

 そんな時、ふと、背中に違和感を覚えた。
 
 いつの間にかザックの重量が変わっているような気がする。

 いや、そればかりか――確認しようとザックを降ろしてみれば、明らかにザックの中で何かが暴れている。幼い頃に受けた実験の代償に、全身の痛覚が機能していない僕は衝撃を信号として受け取ることはなかったが、一体何時から暴れていたのだろうか。

「いや、でも最初に支給品を確認した時は生き物の類は入っていなかったはず……。」

 それに最初から暴れていたとしたら、一時的に同行していた小林さんか伊澄さんが気付くだろう。
 
 と、これまでのゲームの流れに思考を回したところで――気付く。そもそも、何故このザックは、伊澄さんに殺された時、身体が爆散するほどの衝撃に見舞われながらも、無事でいるのか?

「……見てみるとするか。」

 不死身の癖はなかなか抜けない。危険物かもしれないというのに、気付けば躊躇無くザックを開け放っていた。

657眠り姫を起こすのは ◆2zEnKfaCDc:2023/01/08(日) 04:03:03 ID:nYiRLucc0
「……う?」

 中から出てきたのは――幼子であった。

「子供……?」

 見るに、3歳かそこらといったところだろうか。背丈ほどある銀髪の中に混ざるメッシュの、瞳と同じ紫色の髪が文字通り異彩を放っている。

「……君は、一体……。」
「なまえ?」

 見てくれは外国人のそれをしている幼子は、感嘆交じりに漏らした言葉に、同じ日本語で返してきた。

「――アラス・ラムス。」
「アラス・ラムス……?」
「う。なまえ。」

 教養レベルの外国語知識の辞書の中にないその名前が、どの国の言語体系に沿うものなのか分からない。だが、それを差し置いても疑問は山ほどある。

 アラス・ラムスはいつからザックの中に入っていたのか。
 アラス・ラムスはこれまで何をしていたのか。
 アラス・ラムスは何者なのか。

 だが、それらの疑問を差し置いて、真っ先に込み上げてきたものがあった。

 自立歩行が自在にできる年齢ではないアラス・ラムスは、やむを得ず僕の腕の中に収まっている。得体の知れない存在であるとはいえ、この殺し合いの環境の中で放置するほどの薄情さはさすがに備わっていない。

 そう、僕は今――まるでこの子の父親のように赤子を抱き抱えている。平凡な顔つきだという自覚はあるが、それ故に、20代前半の父親というパブリックイメージにも相応に沿っている光景なのだろう。

(なんていうか、岩永には見せられないな……。)

 ショウジョウバエの如く喚く自称恋人の面持ちを脳裏に浮かべては、小さくため息。

 ああ――どうやら今日は、厄日の予感だ。

658眠り姫を起こすのは ◆2zEnKfaCDc:2023/01/08(日) 04:03:18 ID:nYiRLucc0
【C-2/草原/一日目ㅤ朝】

【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康 全身が濡れている
[装備]:無し
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)、進化聖剣・片翼(アラス・ラムス)
[思考・状況]
基本行動方針:初柴ヒスイを追う。
1.桜川六花の企みを阻止する。
2.もしかして不老不死にも何か制限がかけられているのか?
3.アラス・ラムスについて知る。
※件の能力が封じ込められていることを自覚しました。
※不老不死にも何か制限がかけられているのではないかと考えています。

【支給品紹介】
【進化聖剣・片翼(アラス・ラムス)】
桜川九郎に支給された意思持ち支給品。
「イェソド」の欠片の一つである宝珠のアラス・ラムスが、遊佐恵美の持つ進化聖剣・片翼と融合し、意思を持った聖剣となった。
殺し合い開始時は0時であり、九郎の支給品袋の中で聖剣のフォルムで眠っていた。005話では、聖剣の力で鷺ノ宮伊澄の「八葉六式『撃破滅却』」を防いでいる。
7:00に起床。幼子のフォルムへと変化した。

659眠り姫を起こすのは ◆2zEnKfaCDc:2023/01/08(日) 04:03:53 ID:nYiRLucc0
以上で投下を終了します。

660ニアミス ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:21:09 ID:qA5aa4tg0
投下します

661ニアミス ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:22:54 ID:qA5aa4tg0
 滝谷は静かに昇りきった朝陽を眺める。
 夜通しのネトゲや、デスマーチを終えた朝とかの気分以上に重いものだ。
 こうも簡単に人が死んでいくのは分かるが、それにしてもあっさり過ぎる。
 世間的には自殺、事故、他殺問わず日々多くの人が死んでいくが、基本それは縁遠いものだ。
 一日中ずっと歩いていればの話だが、壱日もあれば外のエリアぐらいは一周できるはず。
 その範囲内で死ぬのは別だ。海の向こうの国でも、数百キロ離れた土地の人間でもない。
 人。龍。魔法少女。他にもいるであろう存在が一堂に他者の意によって集められ死んでいく。
 鋼人七瀬みたいな怪異とかでもなければ、その道を選ばなかったかもしれない人でも、
 殺すと言う選択肢が生まれてしまった世界で、そうせざるを得なかった理由を抱いて挑む。
 そういった人達の思惑の一時的な結果。ただの言葉の羅列。しかし聞き流すことはできない。
 律が提示したカエデと言う少女は、自分達の預かり知らぬ場所で命を落としたようだ。
 彼女を警戒するようにと言った発言はなかったのを見るに、元は温厚な人物だったのだろう。
 恐らくその道を選ばざるをえなかった側。姫神によりコミュニティを破壊された被害者と言ってもいい。
 事実、滝谷自身も姫神達によってそのコミュニティを破壊されてしまったようなものだから。

「……そっか……」

 トールの死。
 小林でも自分でもなく、ドラゴンである彼女が真っ先に。
 ファフニールの方が強いとしても、そもドラゴンの力は別格だ。
 制限はされていようともその強さは並の人間の比にならないのは、
 カエデや鋼人七瀬との交戦からも十分に伺うことができる。
 トールも同じぐらいの強さにオミットされてる可能性は高い。
 あれだけあれば大概は殺せる。別に殺してほしいわけではないが、
 今まで出会った人物であればほぼ全員一人で倒せてしまうだろう。
 それでも死ぬ。あってほしくなかった現実を突き付けられたが、

「随分落ち着いているようだな。」

 思いのほかあっさりとした一言だけで終わったことにファフニールが訝る。
 ドラゴンにとって人間の生は余りに短いし、同時に長すぎるファフニールにとっては、
 人の死と言うものに対する感情は希薄になりやすい。滝谷が死ぬ場合は分からないが。
 一方で人は人の死を重くとらえるものだ。どのような経緯であっても基本は揺るがない。
 だからこそ葬式、埋葬と言った儀式のような行為が存在している。
 昔から続く人の習わしでもある。

「そもそも、ファフ君たちがいる時点予想できたことだからね。
 参加者か支給品か、ドラゴンキラーができる人がいるのは予想できるよ。」

 予想するべきことでもないけどね、とぼそりと呟く。
 と言うより、最初の襲撃を考えればこれは予想できた話である。
 姿を変えれず、ドラゴンが使えるやりたい放題な魔法もあらかた制限。
 左腕がなかったとはいえ続けて出会った鋼人七瀬も(一応)ヒナギクと協力もあった。
 これだけの制限を受けていては、エルマやトール、カンナでも十分殺せる。
 もっとも、滝谷が仮に殺し合いに乗ったところで勝てる気はしないが。
 支給品のアレを使わない限りは、と言う注釈もつけて。

「それでいい。奴らの言葉を鵜呑みにするつもりはないが、
 仮にそうであるならばそれぐらいの冷静さを持っておくことだ。」

 脳内に送られたキュウべぇと名乗った放送の人物は、
 マイナスの感情が増幅している人たちが次第に増えている様子を伝えた。
 いかにどれだけ平常心を保っていられるかもこの戦いの鍵になるはずだ。
 だから、そういう意味でも表であろうとそういう風に装える気概が必要だと。
 (なお、テレパシーをやられたことでファフニールは露骨に不愉快な顔になっている)

「奴がもし死んだとするならば、人を知りすぎたかもしれんな。」

 共に生きることを後悔しない。その為に彼女は戦って死んでいった。
 もし彼女が死ぬビジョンがあるとするなら、そういうものだと思える。
 昔のように自身やケツァルコアトル、神々の軍勢に殴りこんだような、
 ただの混沌派なドラゴンとは違う、何かを守るために抗ったのだと。
 人間にかぶれた故に死んだかもしれないと考えると、
 それは皮肉なものだが同時にそれはらしくもあった。
 だから悼みはしない。仮にらしくなかろうと悼むことはないが。

「さて、放送も聞いて何処へ行くのが先決か。ファフ君は何かあるかな?」

662ニアミス ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:23:26 ID:qA5aa4tg0
 当面の方針通り、放送を聞いてから動く考えをするものの、
 放送の死者にはカエデやさやかなど、気になる名前は他にもあった。
 しかしそれを聞いたとしても具体的に何かが変わるわけでもなく。
 あるとするならばヒナギクも杏子達も他の人達は南の方角へと進んでいる。
 西から東へ行くように行った今、行くとするならば北か東の二択だろうと。
 尋ねてみても返事がなく、顔を向けるとファフニールは南へと顔を向けていた。
 普段不機嫌そうな視線ではなく、どちらかと言えば凝視する類の眼差しで。

「どうしたんだい?」

「変な魔力を感じている。」

「魔力はさっぱりだから分からないけど、
 南なら魔法少女である杏子ちゃんってことは?」

 魔女の結界。
 渚の手によって発生したそれは、
 多くの参加者が認識するのは容易ではない。
 魔女の結界は普段は外からすれば何の変哲もない空間だ。
 条件を満たしたりこじ開けたり引きずり込まれると空間ががらりと変わる。
 あくまでドラゴンであるファフニールだから揺らぎを感じただけのもの。

「どうだろうな。異なる世界の魔力だ。
 これが呪いの類かどうかも判断がつかん。」

 一方であくまで揺らぎ程度だ。
 本来ならばもっと細かく把握できたかもしれないが、
 現状ではその程度のことしか認識できなかった。

「どうする? 弓原さんやまどかちゃんも一般人みたいだし加勢も……」

 窮地の可能性だってある。
 救援要請で魔力を発したのも否定できない。
 滝谷としては行こうと思っていたところだったが、

「その話、詳しく聞かせてもらえる?」

 後頭部に硬いものを押し付けられながら、
 背後に突如として現れた少女が冷徹に呟く。
 後頭部のそれが何か見えずともすぐに理解し両手を上げる滝谷。

(気配は感じていたが、この小娘……今のは時間に干渉したのか?)

 ファフニールが行くかどうかを尋ねなかったのは、
 その前に人の気配が近くにあったからと言うのはあった。
 だが高速移動と言ったものではない。ケツァルコアトルのような、
 時間に干渉でもしなければなしえないような気配の移動をしている。
 つくづく此方が後手に取られるような相手ばかりに出会い舌打ちをかます。

(シャドウ、か。)

 インキュベーターが主催
 それについてほむらは余り驚かなかった。
 いてもおかしくはない。そういう奴だと認識してるから。
 問題はシャドウ、認識。それらのワードが何を意味するのか。
 それがほむらにとってはどういう意味かはまだ分からなかった。
 此処まで出会えた参加者は道を違えた少女ただ一人だけ。
 その少女だってまともに話し合っていないのだから、
 彼女は致命的なまでに情報戦において乏しい領域にいる。
 事実上誰一人として参加者の情報を持ち合わせていない。
 何より、まどかの名前が出た以上知っていると思って動いた。
 ……なのだが、まどかの名前を聞いたことで少しばかり先走りすぎて、
 交流すればいいだけの所を半ば脅しをかけるようになってしまっている。

「そいつを殺した瞬間貴様を殺す。」

663ニアミス ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:24:48 ID:qA5aa4tg0
 インキュベーターが主催。
 それについてほむらは余り驚かなかった。
 いてもおかしくはない。そういう奴だと認識してるから。
 問題はシャドウ、認識。それらのワードが何を意味するのか。
 それがほむらにとってはどういう意味かはまだ分からなかった。
 此処まで出会えた参加者は道を違えた少女ただ一人だけ。
 その少女だってまともに話し合っていないのだから、
 彼女は致命的なまでに情報戦において乏しい領域にいる。
 事実上誰一人として参加者の情報を持ち合わせていない。
 何より、まどかの名前が出た以上知っていると思って動いた。
 ……なのだが、まどかの名前を聞いたことで少しばかり先走りすぎて、
 交流すればいいだけの所を半ば脅しをかけるようになってしまっている。

「そいつを殺した瞬間貴様を殺す。」

 オーラを醸し出しながらファフニールは拳を作る。
 魔女と何度も、飽きるぐらいに戦ってきたほむらでも気圧されそうな殺意。
 先の少女も偶然が重なって勝てた。だがそれが今回もとは限らない。
 選択肢を見誤ったかと頬に汗が伝うも、

「まあまあ。見たところまどかちゃん達と同学年みたいだし、
 友達の安否って言う可能性もあるかもしれないんだからさ。
 だから銃を降ろしてもらえないかな? 時間的にも精神的にも不安だから。」

 先の魔力が何かを知りたい。
 そういう意味でも早く話し合いのテーブルにつけたい。
 勿論現代的な武器と言う存在はドラゴンと交流こそあれど、
 終焉帝に出会った小林みたいな危機的状況とは縁遠い彼なので、
 銃と言う武器であれば彼女以上に驚くべきものではあるし不安もある。
 下手に動けば撃たれる焦燥感をずっと維持されると、
 本当にもしもだが変な気を起こしそうなのも含めての提案だ。
 ドラゴンと人間が一緒に過ごす非日常的な日常を過ごしていても、
 滝谷はどちらかと言えば小林程踏み込んでもいない人間なのだから。

「戦闘はそっちの彼に、交渉はこっちに……仲がいいみたいね。
 少し急いでたから、そこについては謝るわ。それで、話を伺いたいのだけど。」

 かなりふてぶてしい態度ではあるが、
 別に滝谷もファフニールも気にしない性格なのと、
 時間も押してる可能性があるので搔い摘んでではあるが話し合う。
 カエデを仕留めたのは彼女であったことが分かってもさして驚くことも、
 精々狙われたことをちょろっと話す程度でそれ以上のことはなく。
 一方でほむらにとっては今までの分を巻き返せるだけの人物を、
 更に杏子とまどかの認識のずれも含めて多くの情報を得られている。

「それで南へ行ったはずんだけど、
 ファフ君が魔力を感じたみたいだからどうしようか、って状態だね。」

「……まさか、魔女化?」

 ファフニールが感じ取った魔力。
 単なる魔力ではない可能性を考えると、
 最もありうるのであれば魔女化が妥当だと思えた。

「小娘が言ってた奴だな。さやかと言う奴もそうなったと。」

「……答えが分からないわね。」

 放送で死亡と言われたさやかは、魔女になっただけで死んでないとか。
 マミか杏子のどちらかが何らかの原因で魔女になってしまったのか。
 或いは、まどか自身が魔女……なんてことはさすがにないことは分かっている。
 あれが出てしまえば世界が終わる。殺し合いそのものが破綻してしまう最早核爆弾。
 これだけはないにせよ、此処に来る時間のずれが明確な答えを出すことはできない。

「どちらにしても、まどかがいるなら私は行くわ。
 来るかどうかは好きに任せるけど、もし魔女ならやめておきなさい。
 何があってもおかしくない。そこの彼を死なせたくないなら、尚更ね。」

 一途に想うまどかと言う存在の居場所を教えてくれたからか、
 或いはファフニールの在り方が何処か自分に似ていたからか。
 その忠告と共にほむらは時間停止を使いつつ移動を始める。

「とのことだが、どうするつもりだ?」

「餅は餅屋かな。それに、魔法少女と関係が深いなら、
 杏子ちゃんとも連携はうまくできるだろうから安心だと思う。」

「そうか。」

 とりあえず人探しに北か東に行く。
 結局のところその方針に何が変わるわけでもなかった。
 何も変わらない。二人の関係性のように、ただ淡々と。

 此処でついていかなかったのは、ある意味幸運かもしれない。
 ファフニールが観測した先にある結界の中にはまどかの死体もあるのだから。
 それを見れば、ほむらが何をするかは……最早語る必要はないだろう。

【C-4/一日目ㅤ朝】

664ニアミス ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:25:07 ID:qA5aa4tg0
【滝谷真@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×0〜2(確認済み)、試作人体触手兵器@暗殺教室
[思考・状況]
基本行動方針:好きなコミュニティーを維持する
一.北か東へ。
二.ファフ君がドラゴンとして殺し合いに乗るのを防ぐためにも、まずは自分が死なない。
三.小林さんの無事も祈る。
四.そっか、彼女が……
五.餅は餅屋、向こうの事は彼女に任せよう。
[備考]
※アニメ2期第6話(原作第54話)より後からの参戦です。

【大山猛(ファフニール)@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:左腕喪失(再生中) 人間に対するイライラ(低)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品×0〜3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を殺す。
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.ひとまずは滝谷を守りながら脱出の手段を探す。
三.……トール、逝ったか。
四.あの小娘(ほむら)時間に干渉してるのか?
[備考]
※アニメ2期第6話(原作第54話)より後からの参戦です。
※ほむらの能力を何となく感づいてます。



【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:89式小銃@現実
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0〜3)、ゴーストカプセル(エクボ)@モブサイコ100
[思考・状況]
基本行動方針:まどかを保護し、主催側と接触する方法を探す
一.まずはまどかの安全を確保しに南へ向かう。
[備考]
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。

665ニアミス ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:25:38 ID:qA5aa4tg0
投下終了です

666 ◆2zEnKfaCDc:2023/09/29(金) 19:09:36 ID:bvZj3FOA0
投下お疲れ様です。
滝谷とファフニールから見たトールの死、悲しむというよりはどこか達観して外側から眺めているかのような温度感が好きです。特に開幕のコミュニティに対する滝谷の価値観の描写が本当に滝谷らしくて、メイドラゴン勢の中でもイロモノ感の拭えない彼を参戦させた甲斐があったなあと思いました。
そしてマミさんのところにほむらも向かうことで、そろそろまどマギ勢全体の命運が大きく左右されそうですね。まどかの死自体はいずれ放送での伝達が確定事項ですが……果たしてどうなるのか。


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