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願望成就バトル・ロワイアル

1 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 18:54:05 aRPst19E0
【Fate/stay night】4/4
○衛宮士郎/○セイバー/○アーチャー/○間桐桜

【魔法少女まどか☆マギカ】4/4
○鹿目まどか/○暁美ほむら/○美樹さやか/○巴マミ

【アイシールド21】3/3
○小早川瀬那/○蛭魔妖一/○栗田良寛

【アベンジャーズ】3/3
○スティーブ・ロジャース/○トニー・スターク/○ピーター・パーカー

【スクライド】3/3
○カズマ/○劉鳳/○ストレイト・クーガー

【魔法少女リリカルなのはシリーズ】2/2
○高町なのは/○フェイト・T・ハラオウン

【武装錬金】2/2
○武藤カズキ/○津村斗貴子

【ブラック・ジャック】1/1
○ブラック・ジャック

22/22



※当ロワは非リレーになります。


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2 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 18:54:42 aRPst19E0
オープニング投下します。


3 : 惨劇の始まり ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 18:55:19 aRPst19E0
 それは、偶然だった。
 観測の中で発見した争い。
 とある島国の片隅で行われていた、願いを叶えるための戦い。
 過去に死した者を現象化する、奇跡の如く事象。魂の具現化。
 それはまさに、彼女が長きに渡る研究の末に追い求めてきたもの。
 ここに、道が決定づけられる。
 一つの奇跡で足りないのならば、二つの奇跡を組み合わせれば良い。
 それのプランは大きな転回を迎え、その果てに―――、










「おはよう、目が覚めたようね」


 人々は、目覚めと共にその声を聞いた。
 全てが白色に染められた室内。天井も床も壁も全てが白色の世界で、唯一を鮮やかな色を持つ人々。
 空間には十数の人物がいる。
 固められた集団と、その集団から少し離れた所に妙齢の女性が一人。
 女性は少し高い壇上の上から人々を見下ろしていた。
 人々の表情には一様に困惑や驚愕があった。
 それもそうだろう。
 皆、『気付けば』その空間にいたのだ。
 直前には、それぞれが思い思いに何かをしていて、だが一瞬の後に見知らぬ空間に飛ばされていた。
 瞬きの間に、世界が変貌したのだ。
 戸惑うなと、驚くなというのは無理な話だ。



「これから貴方達には殺し合いをして貰うわ。何をしても構わない。最後の一人を元の居場所に戻してあげる」


 そんな人々に気を掛ける様子もなく、女性は告げる。
 その瞳はただひたすらに冷たく、情というものの一切を感じ取る事ができない。
 まるで氷の如く冷徹な瞳。
 加えて、言の葉は冷酷。余りに突飛過ぎて、人々の理解が追い付かぬ程だ。
 殺し合い。
 言われたところで、現実感など湧きやしない。
 それは余りに日常から掛け離れた言葉であり、現実と結び付ける事が出来ない。


「勿論報酬はあげるわ。生還者にはどんな願いでも一つだけ叶えてあげる」


 人々の戸惑いを無視して、女は進めていく。
 何も映さぬ瞳で、ただ一つの特典を口から零す。
 たったそれだけしか語らず、女性は人々から背を向けた。
 これ以上の話はないと、その背中が語っている。


「さぁ、頑張って殺しあってちょうだい」


 前を向いたままに、女は最後に言葉を残す。
 本当に、それだけ。
 それで全ての説明は終わり、白色の世界が一瞬で暗闇に染まった。
 この暗闇が掻き消えた時、遂にそれが始まる。。
 命を賭けた戦い。
 感情と感情がぶつかり合い、怨嗟となって全てを蝕む殺し合い。
 バトルロワイアルが、今、始まる―――。


4 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 18:56:11 aRPst19E0
以上で投下終了になります。

ゆっくりと更新していければと思いますので、よろしくお願いします。


5 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 19:24:34 aRPst19E0
小早川瀬那、フェイト・T・ハラオウン、セイバー、ストレイト・クーガーで1話目投下します。


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6 : 速度の必要性 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 19:27:25 aRPst19E0
「な、ななななな、なにがどうなって……」


 一言で言ってしまえば、小早川セナはビビっていた。
 身体はガクガク、冷や汗はダラダラ。
 顔は真っ青に血の気が引いている。
 突然、訳の分からない殺し合いに巻き込まれたのだ。
 生来の臆病な性格もあって、彼は心底からビビり倒していた。
 風が吹けば叫び声をあげ、虫の鳴き声がすれば飛び上がる。
 箸が転げてもビビってしまうであろう状態が、今の彼であった。
 周りを見回すが、まるで見覚えのない市街地。
 月明かりと街灯でそう暗くはない。夜中であってもある程度の見通しはある程だ。
 見たところ何ら変哲もない、どこにでもあるような街並みだった。
 そんな市街地の真ん中で、セナは一人怯え続ける。
 そうこうして、どれ程の時間が過ぎた時だろうか。

「ひっ……!」

 不意に、足音がした。
 カツン、カツンと甲高い音が静寂を裂いて届く。
 何やら金属が擦れ合うような音も、同意に聞こえてくる。
 誰かが、いる。
 セナは飛び上がる様に物陰へと隠れた。
 凄まじい速度。
 まるで害敵と遭遇した小動物が如く俊敏性だった。
 それが功を奏したのか、足音の主はセナの存在に気が付かない。
 規則的な足音が段々と接近し、遂にその姿を見せた。
 
(お、女の子……?)

 現れたのは女性だった。
 いや、その体躯からして、少女と言ってもいいかもしれない。
 何せ女子ばりに小柄で知られるセナよりも、更に一回り小さい。

(すごい、美人さんだ……)

 女性の淡麗な顔立ちは、セナをして、現状すら忘れて見惚れる程だ。
 彼の幼馴染を美人で知られるが、その更に上をいっているかもしれない。
 まるでお伽話からそのまま抜け出したかのような女性に、セナの警戒心も無意識の内に解けようとしていた。
 だが―――、

(っ……!!?)

 その瞳を見た時、だった。
 セナが呼吸すら忘れて、動きを止める。
 ビビリで小心者な彼は気付いてしまったのだ。
 女性の瞳が、何も映していない事を。
 虚ろな瞳だった。
 疲れ切ったような、諦めきったような、感情の色が感じ取れない瞳。
 心が警鐘を鳴らす。
 彼女に近付いてはいけないと、自分の存在を気付かせてはいけないと、訴え続ける。
 息を殺し、女性が去るのを待つ。
 幸運な事に、女性はそのまま歩いて行ってくれた。

(こここ怖! 恐ろしすぎる!)

 女性が姿を消して、たっぷり十分はたった位であろうか。
 セナはようやく物陰から出て、走り出す。
 もちろん女性が過ぎていった方角とは真逆の方へ。
 『アイシールド21』の冠を持つ光速の脚でもって―――


「に、逃げよ……!」


 ―――凄まじい速度で、彼は走り去っていった。


7 : 速度の必要性 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 19:28:04 aRPst19E0



 目の前に現れた母。
 忘れる筈がない。間違える筈がない。
 あの時、あの場にいたのは母だった。
 プレシア・テスタロッサ。
 二年前に失った筈の、虚数の海に沈んでいった筈の母。
 なぜ母が生きていて、なぜこんな事をするのか。
 分からない。分からない事だらけだった。
 フェイトは、呆然と立ち尽くす。
 疑問と困惑に、足が地面に縫い付けられているかのようだった。
 分かるはずのない答えを見つけようと、フェイトは、考え続ける。
 身を隠すという考えすら浮かばないのだろう。
 ビル街の真ん中で立ち尽くし、唐突に訪れた過去との邂逅に身を焦がす。

 だから、それは必然だった。
 既に始まった殺し合いの中で、隠れもせずに立ち尽くす行為。
 致命的な隙。
 余りに危険で、余りに無謀な思考の空白。
 その間を縫って、それは現れた。

 ダン、と地面を蹴り抜く音が響く。
 フェイトが我に返った時には、寸前にそれがいた。
 白銀の甲冑と青色の麗装に身を包んだ女性。
 数分前に小早川セナが見た女性その人だ。
 セナの時と違うのは、彼女がフェイトの存在に気付き、既に攻撃態勢に移行している事。
 寸で、フェイトの反応が間に合う。

「バルディッシュ!」

 掲げた右手から金色の魔法陣が現れ、盾となりフェイトを守る。
 炸裂音が世界を染めた。


「くぅっ!!」


 盾から伝わる凄まじい衝撃。
 腕が根本から千切れたと錯覚する程だ。
 魔導師として様々な敵と戦ってきたフェイトであったが、その一撃には目を見張る。


(武器が見えない―――!?)



 盾に触れている筈の得物を視認すらできない。
 女性の握り手から何かしらの武具を振るっているのだろうが、その正体が見えない。

「良く受けました。ですが―――」

 瞬後、二つの暴風が吹き荒れた。
 一つは女性が振るった不可視の武具によるもの。
 女性が踏み込み、下から上に両の手を振り上げただけで、今度こそ抗いきれぬ程の圧がフェイトを襲う。
 一撃は空気を震撼させ、突風すら巻き起こす程だ。
 もう一つは―――魔力。
 女性の一挙動には、それだけで凄まじい魔力が伴っていた。
 管理局の魔導師として活躍するフェイトをして寒気すら感じる程の、膨大な魔力。
 それが女性の身体能力を爆発的に引き揚げていた。
 魔力を炸裂させ、その勢いでもって身体を稼働させる。
 技術も何もない、デタラメなブースト。
 常人ならば、いや超人的な魔力を保有するフェイトの親友であってしても、こんな魔力運用をすれば数分と保たない筈だ。
 だが、それを少女は易々と行使し続ける。
 見えない太刀筋を何とか避けるフェイトであったが、その表情には焦燥が浮かんでいる。


「待って……落ち着いて下さい! こんな事をしても何も―――」
「何もならない訳ではない。あの魔術師は言いました。勝者の願いを叶えると」
「そんな甘言……」
「甘言だろうと虚言であろうと構わない。私の願いを叶える可能性が微塵でもあるのなら、この剣を振るう万の理由となる」
「っ、あなたは……!」

 女性は、既にどこかが破綻していた。
 プレシアの言葉を信じるでもなく、ただ可能性に手を伸ばす。
 可能性があるからというだけで、凶刃を振るい、他を殺そうとする。
 プレシアとの邂逅に折れかけていたフェイトの心が俄かに滾る。
 目の前の女性を止めようと、義憤に燃える。

「私はフェイト・T・ハラオウン。―――貴方を止めます」

 宣言と共に閃光が走った。
 直後に現れたフェイトの姿は、直前までのそれとは変わっていた。
 黒いレオタードに白の外套。
 腰まで届く長髪は、二つに結われ風にたなびく。
 手には黒色の長杖が握られ、その矛先は女性へと。


「私はセイバー。貴方殺すものだ」


 対する女性の声は、凍て付いていた。
 冷徹な声で、それだけを告げる。
 交わる二つの視線。
 少しばかりの静寂の後、二つの影が動き出した。


8 : 速度の必要性 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 19:28:38 aRPst19E0







「ハァ、ハァ……ここまで来れば大丈夫かな」


 フェイトとセイバーが戦闘を開始したのと同時刻、小早川セナはそこから数百メートル離れた地点で息を整えていた。
 距離としては十分に離せた。自分の脚を鑑みれば、逃げ切ったと言って良い。

「……あの人は何だったんだろう」

 全力で身体を動かしたためか、少し冷静な思考が戻る。
 先程見かけた女性。
 空虚な瞳で幽鬼の如く歩いていってしまった。
 これまでに暴力的な人達は何人も見てきた。
 ヒル魔のような、狡猾に人の弱みに付け込み、我を通す者。
 阿含のような、暴力を非と思わず、他者を傷付ける事に躊躇いを覚えない者。
 峨王のような、超然の力を誇示し、刃向う全てを踏み潰す者。
 セナにとっては時に恐ろしく、時に頼もしくもあった者達。
 だが、そのどれらとも、あの女性は違って見えた。
 暴力を是とするのではない。時とすれば殺人すらも是としてしまうような雰囲気。
 純粋な闇が、その瞳からは伺えた。

「……殺し、合い……」

 最初の場にて語られた言葉が、如実に真実味を帯びてくる。
 嘘やハッタリではなく、真実の、言葉。
 それを認識すると同時に、心胆が凍えるような、強烈な寒気を伴う恐怖が這い上がってくる。

「……に、にににに逃げよう……もっと、もっともっともっと遠くに……!!」

 もはや何から逃げようとしているのか、セナ自身も分からない。
 先程の女性から逃げるつもりなのか、それとももっと大きな、漠然とした何かから逃げようとしているのか。
 とにかく、と。
 逃げる為に再び光速の脚を動かそうとする。
 ―――その時、だった。

 遥か遠くから何かがぶつかり合うような、激しい金属音が聞こえてきた。
 ついさっき女性が消えていった方角。
 セナの脳裏に、ある光景が過る。
 先程の虚ろな目をした女性が、誰かを傷付けようとしている光景。
 セナの動きが止まる。
 恐怖に震える身体で、恐怖に荒げた呼吸を吐き、それでも音のする方角を見る。
 両の拳を強く握り、堪えるように歯を食いしばり―――彼は走り出した。
 音のする方に背中を向ける……ではなく、音のする方へ。

(す、すすすすぐ逃げよ! 襲われてる人を助けてたら、すぐに!! 全力で!!)

 ビビリで小心者な男が、それでも一端の正義心を掲げて、走り出す。









(―――速い……!)


 何度目かの交錯を終え、フェイトは充分に開いた間合いからセイバーを見詰める。
 既にバリアジャケットの端々は切り裂かれ、その下の肉体にも小さな傷をつくっている。

(正面からの斬り合いじゃ話にならないな。技量も、力も、違い過ぎる……)

 近接戦に於ける、彼我の戦力差は甚大と言えた。
 見えない武具、流水のような澱みない挙動、そして膨大な魔力放出からなる剛力。
 単純な技量で言えば、フェイトが知る中で一番とも言えるシグナムですら圧倒するだろう。
 今、フェイトが両断されずに済んでいるのは、距離を取っての射撃魔法を主に戦っているからに過ぎない。
 相手に飛行手段がない事も大きい。
 爆発的な加速で急接近されても、空に逃げてしまえば攻撃は届かない。
 地面を蹴り追いすがって来る事もあるが、自在に空を駆けるフェイトには追い付けなかった。
 それでも尚、ほんの一瞬追い縋られた際の僅かな交錯で、セイバーは確実にフェイトへ傷を負わせていく。
 逆に、フェイトの攻撃はと言うと、セイバーに僅かなダメージすら与えられてはいない。
 セイバーが有する高ランクの『対魔力』スキルの恩恵だ。
 高速戦闘の最中での溜めの無い魔法では、セイバーの身体に届く程の攻撃は与えられない。
 優劣は明確だった。
 徐々に傷付いていくフェイトと、傷を負わないセイバー。
 宙空で息を荒げるフェイトを、セイバーは獲物を狙う肉食獣のように冷淡な瞳で見詰めている。


9 : 速度の必要性 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 19:29:38 aRPst19E0


(……あの防御を突破できる一撃を……!)


 距離を取り、砲撃魔法クラスの一撃を直撃させる。
 フェイトの思考は、だがしかし実行するには遥かに難しい。
 セイバーが再び地面を蹴り、宙に迫る。
 挽回の策を練っていた、意識の虚を突かれる。
 まるでフェイトの思考、フェイトの焦りを先読みしたかのように、剣の英霊が跳び上がった。
 不可視の横薙ぎ。
 何とかバルディッシュを合わせるが、受け切れない。
 身体が傾ぎ、吹き飛ばされる。
 対するセイバーは未だ宙空に身を置き、次なる一撃を放つ。
 ―――が、そこでセイバーの動きが止まる。
 その両手を金色の光輪が拘束していた。
 バインド。フェイトが持つ拘束系統の魔法。


「それでは私を止められない」


 本来ならば解除に相応の時間が掛かる筈のバインドも、難なくセイバーは弾いてしまう。
 魔術系統を変えた所で、『対魔力』スキルの前には意味を成さない。 
 拘束は一瞬で終わってしまう。


『Sonic move』


 だが、その一瞬こそがフェイトの欲していたもの。
 セイバーすら目を見張る程の速度で、フェイトは彼女から距離を離す。
 追い縋りたくても、セイバーの身体は重力に引きずられ落下中。
 着地し、再度跳躍するまでは、フェイトに手を出す事は不可能。


「バルディッシュ!!」
『Jawohl.(了解)』


 内部のカートリッジを消費して、膨大な魔力がバルディッシュに流れる。
 それら全てを使用して、バルディッシュが変形を果たす。
 現れるは、魔力で生み出された光の刃。
 尚も魔力を注ぎ込み刃を更に大きく、固く、鋭く生成する。
 光刃は、遂には天に聳えるように巨大なものとなった。


「―――切り裂け! ジェット・ザンバー!!」



 セイバーの着地と同時に、刃が振り下ろされた。
 それはもはや金色の奔流となって、セイバーを飲み込むかのようだった。



「見事です。幼き魔術師よ」


 迫りくる刃を前に、セイバーは心からの賛辞を贈る。
 幼き身にして、セイバーに届くやもしれぬ魔術を放った少女。
 驚愕にすら値する。
 セイバーは、剣を掲げた。
 これまでのような不可視の刃ではなく、突風と共に―――金色の刃を。
 煌々と輝くそれは闇を切り裂き、世界を照らす。
 まるでもう一つの太陽が其処にあるかのように、世界に色を取り戻させる。
 星の内部で精製されたとされる最強の幻想。
 それが、烈風の鞘から解き放たれた。
 真明の解放はない。
 ただ真身でもって、刃を振るっただけ。
 金色と金色がぶつかり合う。
 拮抗はない。
 魔力で編まれた刃が、音もなく砕け散る。
 同時に再度の跳躍をしたセイバーが、渾身を破られたフェイトに迫る。
 一閃の後に、魔導士は羽根をもがれた鳥のように墜落した。


10 : 速度の必要性 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 19:30:39 aRPst19E0


 地面に倒れ伏すフェイトへと、悠然とした歩みでセイバーが近付く。
 刃は再び不可視となり、だがそれでも極上の切味でもって、最後の一撃を見舞わんとする。
 フェイトは立ち上がる事ができない。
 最後の斬撃は、バルディッシュがオートで起動した防御魔法も、バリアジャケットすらも容易く切り裂き、フェイトを斬った。
 それでも命があるのは、刹那の中で高速移動魔法を発動できたからだ。
 ほんの半身、数十センチの移動が、フェイトの命を僅かに生き長らえさせていた。
 だが、それも儚い抵抗でしかない。
 もはやフェイトは動く事も出来ず、痛みと失血にぼやけた瞳で剣の英霊を睨むだけだった。


「魔術師(メイガス)―――いえ、フェイト・T・ハラオウン。貴方は誇り高き戦士でした」


 再びの賛辞と共に、騎士王は刃を振るわんとした。
 フェイトは瞳を固く閉じ、親友の姿を思い浮かべる。


(なのは―――――)


 瞼の裏に少女の笑顔が浮かび、そして―――。






 そして、セナは駆けだしていた。
 闇を切り裂く極光。
 その先に辿り着いた彼が見たのは、倒れ伏す少女と、先程見た女性。
 女性は何かを掲げるような姿勢で、少女の前に立っていた。
 その一瞬、セナは恐怖を忘れた。
 ただ助けなくてはという想いが、彼を突き動かす。
 急激な加速でもってセイバーの背後へ移動。
 同時に自身の両膝を、相手の膝裏に合わせるように突き出す。
 曰く、膝カックン。
 そして、相手が態勢を崩した隙に少女と共に逃げ出そうという作戦だった。


(―――僕に気付いてない、いける……!)


 目論見通り、セイバーの背後に回り込む。
 そして、膝を付きださんとしたところで―――


(……へ……?)


 セイバーの姿が掻き消えた。
 確かに眼前にあったその姿が、まるで幻想であったかのように消えてしまったのだ。


11 : 速度の必要性 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 19:31:24 aRPst19E0


「何者だ」


 後ろから、声が響いた。
 その声に、セナの額から冷たい汗が噴き出す。
 確かに取った背後。確かに見た隙だらけの背中。
 なのに、気付けばセイバーは自分の後ろにいて、冷ややかな言葉を投げかけている。

(……速、い―――)

 セナとてアメフトの選手としてトップクラスの『速さ』を持つ。
 だというのに、セイバーの動きを一切捉える事ができなかった。
 人間とサーヴァントとの隔絶された『速度』の差。
 セナの前に、その現実が突付けられる。
 振り返ると、目が合った。
 少し前と同じ、感情の灯らぬ瞳。
 冷や汗が止まらない。心臓が痛いくらいに強く鼓動する。
 死、という一文字が脳裏を過ぎる。


「邪魔をするというのならば、相手になりますが」


 見えない何かを掲げて、淡々と語る。
 蛇に睨まれた蛙のように、身体は動きを止めていた。
 喉が干上がり、瞳孔が開く。
 恐怖に震える事も、命乞いを言う事すらも、セナはできなかった。
 一歩、セイバーが近付く。
 セナは、動けない。
 もう一歩、セイバーが近付く。
 セナは、動けない。
 更に一歩、セイバーが足を踏み出したところで、


「……逃げ、て……」


 声が、聞こえた。
 弱々しく、小さな声が、セナの鼓膜を叩く。
 同時に金色の魔力弾がセイバーへと放たれていた。
 セイバーは、回避も防御もしない。
 魔力弾は直撃し、だが一切のダメージを与える事もなかった。


「私の、こと……は、いいから……早く……!」


 再び、声がする。
 セナの後ろから、震えた声が。
 見ると、フェイト・T・ハラオウンが倒れたまま指先をセイバーへ向けている。
 守ろうとしているのだ。
 瀕死の身体でありながら、それでも彼女を救おうとしてくれたセナを。
 セナの目が見開かれる。
 フェイトの姿に、セナの顔付が変わった。
 恐怖に蒼ざめていた表情に、強い意志が灯る。
 剣の英霊を正面から見据え、腰を落した。


「なっ……!?」


 驚愕を零したのは、フェイトだった。
 セナが逃げるでもなく、フェイトを担ぎ上げたのだ。
 決して大きくない背中に彼女を乗せ、セイバーと対峙する。


「なにを、してる、の……私を、置いて、いって……!」


 フェイトの必死の呼びかけに、セナは首を横に振った。


「逃げるよ、もちろん。でも、僕一人じゃない」


 凛とした瞳でセイバーを見詰めて、告げる。


「逃げよう、二人で」

 きっぱりと、そう言い切った。。
 動いた事により傷が開いたのか、セナの背中に温かい液体がジワリと広がっていく。
 それでも尚抗議の声をあげるフェイトだが、既にセナは聞いていなかった。
 正面のセイバーへと、意識を集中させる。
 アメリカン・フットボールの試合さながらだ。
 1対1で対峙する相手を抜き、その後方のゴールラインへと走り去る。
 同じだ。
 眼の前の女性を抜き、安全な地点まで逃げ切る。
 逃げ足なら……違う、『疾さ』なら、誰にも負けない。
 アメフトを始めて一年間の積み重ねに、セナは全てを賭けようとしていた。


12 : 速度の必要性 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 19:32:02 aRPst19E0

「……良い目だ」

 知らずセイバーが言葉を投げた瞬間、セナは駆け出していた。
 観念したフェイトは口を閉じ、せめてもと魔法を己に掛ける。
 飛行魔法の要領で、己の体重をセナに感じさせないようにした。


 ―――その速度は、確かに驚嘆に値する。
 『40ヤード走・4秒2』の光速の脚。
 アメフトのプロであるNFLをしてトップレベルとされる、まさに人類最速の脚。
 常人であれば、確かに逃亡も果たせただろう。
 だが、対峙するは古き伝説として名を馳せる騎士の王―――アルトリア・ペンドラゴン。
 常識とは隔絶した戦いを繰り広げてきた彼女にとっては、例えセナの光速の脚であってしても反応可能の範囲内だ。
 人間としては驚くべき脚力でも、サーヴァントの域には遠く及ばない。
 セナの『速さ』で、彼女の反応を上回ることは不可能である。
 だが―――彼の武器は『速さ』だけではない。
 

(―――抜け……抜くんだ!!)



 まず初めにセナが繰り出したのは、減速のないクロスオーバーステップ。
 その特殊な走法に瞠目するセイバーであったが、完全に惑わされはしなかった。。
 幻影の影にいるセナ本人に狙いを定め、不可視の聖剣を振るう。
 ―――寸前で、見た。


(これは……)


 まるで時が巻き戻るかのような光景。
 剣を振り上げた一瞬、彼が一歩だけバックステップをしたのだ。 
 全く同じ姿勢、同じ速度でもって後ろへ跳ぶ。
 それは通常の戦闘では見る事のない、『相手を抜く』ためだけに編み出された走法―――『デビル4thディメンション』。
 長らく戦に明け暮れた騎士王であってしても、初めて見る特殊な動き。
 セナの―――最強のランニングバック・『アイシールド21』が誇る究極のランテクニック。
 そう、これこそが彼の真なる武器だ。
 『足さばき』―――走りながら繰り出されるその足の動きこそが、数多の相手を越えてきた彼の真価であった。
 巻き戻った時が、再び刻まれる。
 セイバーの横薙ぎはタイミングがずらされ、空振りに終わった。

(だが―――)

 確かに一度はタイミングをずらされた。
 常人であれば、セナのスピードも相まって、取り返しの効かない隙となる。
 だが、最優とされる剣の英霊を相手するには、まだ足りない。
 既に彼女は態勢を立て直し、二撃目を振るおうとしていた。
 直進してくるセナへ逆薙ぎの斬撃を見舞う。
 聖剣は、背負われたフェイト諸共に、二人の人間を切り裂き、


(――――!)


 今度こそ、セイバーの両目が見開かれた。
 確かに当てた筈の斬撃が、空を凪いだ。
 切り裂いたのは幻影のみ。
 セナは逆サイドから、空振りをしたセイバーを抜き去り、駆け抜けていた。
 刻み出した時の中でセナが繰り出したのは、再びの減速のないクロスオーバーステップ―――『デビルバットゴースト』。
 『デビル4thディメンション』からの『デビルバットゴースト』の複合技。
 時を巻き戻し、再び刻まれる中での、究極のフェイント。
 それはセイバーであってして、攻撃を外してしまう程だった。


(……まさか、ここまでとは)


 セイバーは素直に驚嘆していた。
 ただの人が見せた、驚異的な走法。
 僅かな油断があったのは事実であるが、まさか本当に抜かれるとは思いもしなかった。
 走り去る背中を見詰め、感心するセイバー。
 だが、


「ですが、無意味な事です」


 それは―――彼等の命をほんの数秒長めたに過ぎない。


13 : 速度の必要性 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 19:32:42 aRPst19E0
 セイバーは一足飛びに、セナへ追い付いた。
 セナの努力を嘲笑うかのように、容易く。
 ただの一歩で、セイバーとセナの距離が縮まった。

「っ……!!」


 セナの顔が苦渋に歪む。
 確かに一度は抜き去り、振り切ったのだ。
 なのに、一瞬で追い付かれた。
 サーヴァントと人間の根本的な速度の違い。
 どれほどの『足さばき』でもって幻惑し、抜き去ったとしても、追い付かれてしまえば意味はない。
 絶望を伴う諦めが、セナの脳裏に過る。


「見事な走法でした。只人の身であそこまで練り上げたのだ。賞賛に値します」


 それでも、とセナは必死に脚を前へ漕ぐ。
 本当に斬られてしまう一瞬まで、敗北ではない。
 確率はゼロではないんだ。
 なら、
 

「ですが、貴方には足りない。そう、何よりも―――」


 視界の中で、セイバーが見えない剣を振り被る。
 そして、言葉と共に剣が振り下ろされ、



「―――そう!! 速さが足りない!!」 



 ―――寸前、紫電が奔った。
 

 気付けば衝撃と共にセイバーの痩躯が宙を舞っていた。
 鈍痛が側頭部に走り、視界が明滅する。
 なにが起きたと、とぼやける視線で見ると、其処には見知らぬ男が一人。
 両脇にセナとフェイトの二人を抱えて、立っていた。


「世界が分かってるなぁ。小さな騎士さんよ。だが、残念だな。あんたの『速さ』じゃ、俺は捉えられんよ」


 言い残し、男の姿が消える。
 いや、走り去ったのだ。
 かの騎士王を前にして、正面から堂々と背中を向けて。
 だが、そこには速さがあった。
 セイバーであってして、捉え切れぬ程の速さが。
 ここまでの『速さ』を持つ存在は、今までの争乱の数々の中ですら終ぞ出会った事はない。


「……逃げられましたか」


 ダメージは抜けたが、今更追い付けやしない。
 とはいえ、惜しむ事はなかった。
 この殺し合いの現状。
 かつてあった、あの殺し合いと同様の状況。
 自分が殺さねど、誰かが彼等を殺す。
 もし、誰にも殺さなかったのだとしたら、今度こそ自分が殺せばいい。


14 : 速度の必要性 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 19:34:02 aRPst19E0


「それにしても、また一からとは。中々に面倒な事をさせてくれる」


 セイバーはさも当然のように、そう思考する。
 どうすれば、効率的に参加者の全滅させられるか。
 どうすれば、自分が優勝できるか。
 どうすれば、自分の願いが叶えられるのか。

 それは、本来の彼女であれば有り得ぬ思考。
 少なくとも、『衛宮士郎と出会った後の』彼女であれば、到底辿り着き得ぬ選択。
 だが、彼女はそう思考し、そう選択する。
 答えは単純だ。
 彼女は、とある戦いでの記憶を有しているからだ。

 星の数程ある平行世界の中の、とある一つの事象。
 数多の次元世界から収集された参加者による、最悪の殺し合い。
 彼女の最後の記憶は、何処にでもいそうな平凡な青年を切り裂き、窮地からの脱出を図ったその時まで。
 背後から獣の如く男の存在を感じながら、逃亡し―――気付けば、先程の場にいた。


「やるべき事は変わらない。我が国のため、剣を振るうのみ」


 言い残し、セイバーは歩みを再開する。
 血塗られた騎士王が、再びのバトルロワイアルに君臨する―――。



【セイバー(アルトリア・ペンドラゴン)@Fate/stay night】
[状態]:健康
[装備]:エクスカリバー@ Fate/stay night
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:絶対に生き残り、願いを叶えて選定の儀式をやり直す。
1:参加者を殺す
2:フェイト、謎の男(クーガー)を警戒

※アニロワ1stの記憶を持っています。


15 : 速度の必要性 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 19:34:28 aRPst19E0





「あぁ、やはり俺は最速だ。誰も俺に追い付けない……」


 己に……いや己の速度に酔いしれながら、男はようやく立ち止った。
 場所は病院。
 高速で市街地を駆け抜けた男は、高速で休める施設を探して、高速で病院を発見し、高速で駆けあがった。
 脇に抱えた二人の人物をベッドへと寝かせて、乱れた髪を整える。
 ほんの少しも息を乱さず、自分が駆け抜けた市街地を、恍惚の表情で窓から見下ろしていた。

「あな、たは……」

 すると、寝かしつけた内の片方―――フェイトが声を上げた。
 フェイトは全てをセナの背中から見ていた。
 セナがセイバーを抜き去り、だが追い付かれ、次いで男が現れ、驚く速さで逃亡を成功させてしまった。

「おっと、まだ意識があったか。ガッツのあるお嬢ちゃんだ」

 男はニヒルな笑みを携えて、フェイトの方を向いた。
 流線型の髪型と細い紫のサングラスが印象的な男だった。
 
「私、はフェイト・T・ハラオ、ウン……管理、局の魔導士、です……」
「おいおいおい、無理するな。今は素直に休んどきな。出来るだけの手当てはしてやるさ」

 警察機構の者としての責任感から尚も動こうとするフェイトを制止し、男は安心させるように語り掛ける。
 
「俺はストレイト・クーガーだ。よろしくな、シェイト」
「シェイトじゃ、あり、ません……フェ、イトです……」

 それだけ言って、フェイトは力尽きるように意識を失った。
 クーガーは苦笑し、フェイトとセナを見る。
 強い奴等だった。
 あれだけの傷を押して動こうとするフェイトも、―――あれだけの走りを見せたセナも。
 戦闘音に気付き、駆けだし、辿り着いた時に見た光景。
 セナが、セイバーを抜き去ったその瞬間。
 その一部始終を、クーガーは駆けながらも見ていた。

「……世界を変えたな、少年」
 
 セナの行動がなければ、如何なクーガーと言えど救出には間に合わなかった。
 それを変えたのはセナの選択であり、行動だ。
 クーガーは感心しながら、二人を見詰める。

「さて、やる事は山積みだ。一丁こなしてやりますかね、俺の『速さ』で」

 言い残し、クーガーの姿が掻き消える。
 まずは病院内を隈なく探索し、治療品を回収。
 二人の手当てをし、次にこの殺し合いをどうにかする。
 クーガーに迷いは無い。
 己が『速さ』で成し得ぬ事はないのだから。
 



【小早川瀬那@アイシールド21】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、セナのアメフト装備一式
[思考・状況]
0:気絶中
      

【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:腹部に切傷(ダメージ中)
[装備]:バルディッシュ@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:気絶中
1:母さん、どうして……。
      

【ストレイト・クーガー@スクライド】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:世界を縮める。
1:シェイト(フェイト)と少年(セナ)の手当てをする。
2:金髪の騎士(セイバー)を警戒


16 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 19:36:16 aRPst19E0
投下終了です。
フェイトは健気で書いてても可愛らしく感じます。


17 : 名無しさん :2018/11/07(水) 22:09:28 yXkRVRi20
投下乙です
参加者名簿を見た時にアイシールド勢が可哀想と感じたのですが初っぱなから熱い展開を見せてくれましたね
今後も期待して応援させていただきます


18 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/07(水) 22:34:34 aRPst19E0
感想ありがとうございます。
ご期待に添えるよう、頑張っていきたいと思います。

それと参加者を一人追加するのを忘れていました。
サノス@アベンジャーズを追加します。


19 : 名無しさん :2018/11/07(水) 22:51:19 CopQjpjw0
ヤベーのが追加されましたね…
インフィニティウォー同様の暴れっぷりに期待


20 : 名無しさん :2018/11/09(金) 19:43:05 eqQ5asbY0
新ロワ期待です
そしてセイバー、アニロワ1stから参戦とは…
完全に同じ道を進みそうだな


21 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/10(土) 20:37:42 iZl2.UaA0
衛宮士郎、ピーター・パーカー、津村斗貴子、武藤カズキで2話目投下します。


22 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/10(土) 20:38:30 iZl2.UaA0



 衛宮士郎は、思考する。
 あの日、永劫の別れとなった人。
 たった十数日を、だが共に全力で駆け抜けた。
 助け合い、寄り添い、手を取り合い―――果てにあった結末。
 悲しいとは思わない。虚しいとも思わない。
 それが生涯の離別であっても、自分と彼女は確かに通じ合う事ができたのだから。

『シロウ、貴方を―――』

 今でも鮮明に思い出せる。
 彼女が、最期に、遺した言葉。
 もう二度と聞くことはないであろう、澄んだ声。

「セイバー……」

 だが、衛宮士郎は見た。
 先程連れられた謎の空間で、確かに彼女の姿を。
 他人の空似ではない。
 見間違えるなんてある訳がない。
 彼女は、自分の―――なのだから。
 会いたい気持ちはある。
 会ってもう一度話がしたい。
 もう一度、あの凛とした声で名を呼んでほしい。
 シロウ、と。
 もう一度、彼女の声が聞きたかった。


「……でもさ、違うよな、セイバー」


 だが、と士郎は己の想いを押し付ける。
 自分と彼女は、別れたのだ。
 全てを成し遂げ、全てを終え、あの最期があって、別の道へ行った。
 そう、全てがあったのだ。
 あの日々に、あの夜に、あの朝焼けに、何もかもが凝縮されていた。
 だから、自分はこれ以上の何かを望まない。
 あいつのマスターとしてではなく、衛宮士郎として、この戦いに臨む。
 その中で、もし彼女とまた手を取り合えたのなら、道が交わったのなら、それはとても素敵な事だろう。
 だから―――、

 士郎は一人前を向く。
 殺し合い。
 訳の分からない事ばかりの中で、唯一変わらないもの。
 誰かを救う『正義の味方』として、衛宮士郎は進み始める。

 手には、ある道具が握られていた。 
 士郎のものではない。
 おそらくは主催者の支給品なのだろう。それは最初から士郎に持たされていたものだった。
 士郎は適当なビルに目を付け、中に入る。
 電灯全て消されているが、電気は通っているようでエレベーターも問題なく使えた。
 施錠などはされていなく、屋上にも入る事が出来た。
 小さく息を吸い、それのスイッチを入れる。
 そして、士郎はそれに向かって語り出す。

『皆、聞いてくれ。俺の名前は衛宮士郎』

 声は何倍にも大きな音となって排出される。
 拡声器。
 それが士郎に渡された支給品だった。



『俺は、この殺し合いを止めたいと思っている―――』



 市街地に、正義を目指す少年の声が響き渡る―――。


23 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/10(土) 20:39:32 iZl2.UaA0




 ピーター・パーカーは、何故自分がこの場にいるのか理解できなかった。
 他の参加者のように、元の世界から唐突に連れてこられたからではない。


「僕は……あの時……」


 彼は一度、死んだ筈だったからだ。


 ―――今でも容易く思い出せる。
 身体の奥底から湧き上がる喪失感。
 自分の存在が消えていく感覚。
 他の人達が塵となって消えていくのを、見た。
 あれと同じ事が自分にも起きているのだと理解できた。
 怖かった。
 怖くて、堪らなかった。
 メイおばさんを残して消えてしまうのが、友人達ともう二度と会えないのが―――死ぬ事が。
 怖くて、怖くて、怖くて。
 だから、縋った。
 自分を導いてくれた人に。
 助けてと、縋った。
 安心しろ、大丈夫だと、彼は言った。
 分かっている。
 それが、せめてもの慰めに過ぎない事を。

 自分をヒーローの道に進めてくれた人。
 憧れの、存在―――トニー・スターク。
 彼はまた思い悩むのだろう。
 今回の敗北を、今回あった死の数々を。
 その一つに、多分自分の死も含まれるのだろうと。
 巻き込んでしまったと、苦悩するのだろう。
 違う。
 今回の事は、自分が自分の判断で動いた事だ。
 『親愛なる隣人』として、そう動かなくちゃいけないと感じたから、そうしただけ。
 その結果の死は、誰のせいでもない。
 自分自身の責任だ。
 それでも、トニーは背負い込むのだろう。
 今まで背負い込んだ沢山の出来事と同様に、一人で抱え込もうとする。
 だから、せめて伝えたかった。

 ごめん、と。

 その一言が告げられたかどうかは分からない。
 喪失感が全身を包み、意識が途絶えてしまったから。
 そして、気付けば―――先程の場にいた。
 

「……僕は」


 恐怖が湧き上がる。
 ヒーローの自覚を持ち、ヒーローとして戦うと決め―――その矢先に出会った強大な敵。
 何人ものヒーローが集結し力を合わせて尚も、それを粉砕する圧倒的な力。
 理由も原理も分からないが、今回は幸運にも助かった。
 だが、またサノスのような凄まじい力をもった敵が現れるとも限らない。
 その時、自分はまた戦えるのか。
 今度こそ死ぬかもしれないのに、戦い続ける事ができるのか。


「……僕は……!」


 気付けば、走り出していた。
 何かから逃げるように、暗闇の市街地を走り抜ける。
 怖い。怖い。怖い。
 あんな想いは、もう二度と嫌だ。
 自分が消滅する感覚。
 死が、迫る感覚。
 あんなのは、あんなものは、もう二度と……!


「うわっ……」


 足がもつれ、灰色のアスファルトに転がる。
 衝撃はあったが、痛みも、傷を負う事もない。
 身体を見る。
 そこには、あの時と―――最期の時と同じ物があった。


24 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/10(土) 20:40:30 iZl2.UaA0
 はっ、と何かに気付かされる。
 立ち上がると、ビルの窓に自分の姿が反射していた。
 赤と紺を基調としたスーツ。
 宇宙人との戦いの最中、トニー・スタークから託されたスーツだ。
 ある言葉が、頭の中に響いた。
 あの時、トニー・スタークから告げられた言葉。


『―――坊主、今日から……アベンジャーズだ』


 思い出す。
 そう、あの時覚悟したのではなかったのか。
 万感の想いと共に、誇らしい気持ちと共に、『ヒーロー』として戦うと。
 命懸けなのは当たり前だ。
 戦いの最中、命を落とす事だってあると、分かっていた筈じゃないか。
 それでも、と。
 それでも戦いたいと思ったから。
 誰かの為に、この大いなる力を振るわなくてはと思ったから。
 だから―――!


「そうだ、僕は……!」


 右手を掲げ、粘着糸を飛ばす。
 反動を利用して宙へ舞い、振り子の原理を利用してビル街を駆ける。
 恐怖はある。死にたくないとも思う。
 それでも、もう迷わない。
 『親愛なる隣人』として、『アベンジャーズ』の一員として、


「行くぞ、行くんだ……スパイダーマン!」


 ピーター・パーカーが―――スパイダーマンが、進みだす。










 津村斗貴子は、ビルの屋上から夜の市街地を見下ろしていた。
 これまでの出来事を反芻するように思い出す。
 突然現れた女。
 殺し合いを強制し、報酬をひけらかし、それだけで消えていった。
 そして、世界が闇に包まれ―――気付けば、この場にいた。

(見知らぬ市街地……人の気配はないか)

 ビル街の全ては死んだように、沈黙している。
 電灯の一つとしてついてはいない。
 この世界にある光源は、夜天に輝く満月と街灯のみ。
 音はない。
 人がいないだけで、世界はこんなにも静寂に包まれるのかと驚く程だ。


(核金はある。存分に殺しあえとでも言うつもりか)


 彼女の右手には、六角形の金属体が握られている。
 核金。
 彼女の主たる武器たる、人類の叡智の果てとされる物体だ。


(カズキ……君は大丈夫だろうか)


 ふと、脳裏に先程の場にいた青年が思い出される。
 武藤カズキ。
 斗貴子の盟友にして、恋人でもある存在だ。
 彼は、強い。
 今となっては、おそらく自分以上に。
 心配など必要ないのかもしれない。
 だが、それでも不安は募る。

(……頼む、無事でいてくれ)

 強い、弱いではない。
 ただ恋人として、愛する者として、彼を心配に想う。
 こんな事に巻き込まれ、二度と再会できないのではと思うと、胸が張り裂けそうになる。
 数瞬の逡巡。
 彼を探しに走り出してしまおうかと、思わず考えてしまう。
 だが、と彼女は自戒する。
 冷静に今成すべき事を、成さねばならぬ事を、判別する。
 今は一人でも多くの人を保護し、殺し合いを止めること。
 それが、最優先だ。


25 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/10(土) 20:41:02 iZl2.UaA0


「―――武装錬金」


 言葉と共に、核金が姿を変えた。
 現れるは4枚の刃。
 刃はアームによって彼女の太腿に繋がれ、彼女の意志に従って自在に稼働する。
 バルキリースカート。彼女を体現した武装であった。
 刃でもって勢いをつけ、ビルからビルへと飛び移る。
 同時に他の参加者がいないか探るが、人の気配はなかった。
 そうして少しばかりの時間が経った後、斗貴子は聞いた。



『皆、聞いてくれ。俺の名前は衛宮士郎』


 少し離れたビルより聞こえた、その声を。
 思わず声のした方角に視線と意識を移す斗貴子。
 その、瞬間だった。



「うわっ!?」
「ぐぅっ!?」


 身体に衝撃が走った。
 何かが激突したのだ。
 宙空という本来人が身を置けない空間にあって、何かとぶつかった。
 姿勢が崩れ、錐揉みをしながら地面へ引っ張られる。
 揺れる視界で、斗貴子は何とかそれを見た。
 全身をタイツに包んだ、特異な恰好の人物。
 顔すらも、吊り上がった巨大な瞳が模られたマスクで覆われている。

(敵襲―――!?)

 何とか刃を振るうが、相手のマスクを掠めるに終わる。
 それどころか、もはや自身の制御すら難しかった。
 ぐるぐる回転しながら、地面へと真っ逆さまに落ちていく。
 バルキリースカートを伸ばすもビル壁には届かない。
 そうしている内に、見る見る地面が接近していき―――激突する直前で身体が止まった。
 腰の辺りに何かが張り付き、落下を止めたのだ。

「ご、ごめん! 余所見してた!」


 声変わり前の、少し高めの声が響く。
 視線を向けると、先程の全身タイツの存在が一人。
 斗貴子の一撃でマスクは破れ、その顔が半分ほど見えている。


「僕はピーター・パーカー。えっと、君は?」


 全身タイツの変態男―――ピーター・パーカーは思いのほか人懐っこい微笑みで手を伸ばしてきた。







「それで空を舞って移動していたが、余所見をして私にぶつかったと」
「そうそう。ごめんね、本当に悪気はなかったんだけど。怪我はない?」
「大丈夫だ。そうヤワな鍛え方はしていない。それに私も似たようなものだ。君と同じ様に『声』に気を取られていた」


 それから数分後、斗貴子とピーターはビル街の隙間に身を隠して、互いを紹介していた。
 話してみると、その恰好からは似つかわしくない程、ピーターはまともな好青年であった。
 破れたマスクを取り払われ、その素顔が覗いている。
 おそらく斗貴子と同年代であろうか。
 少し多弁気味な所もあるが、この殺し合いの中でも冷静に行動できているように見える。
 それに日本語も流暢であり、会話で困る様子はなさそうだった。


「何だろうね、この声は」
「衛宮士郎と言ったか。どうやら殺し合いの停止を呼びかけているようだが」
「行ってみる?」
「その方が良いだろうな。これでは襲って下さいと言っているようなものだ」


 自己紹介もそこそこに、二人は走り出す、
 尚も呼びかけを続ける声。
 危険は、今すぐにでも迫っているかもしれないのだ。


「じゃあ、背中に乗って。こういうビル街を飛び回るのは慣れてるからさ」
「分かった。よろしく頼む」


 斗貴子を背負い、ピーターは再び振り子のようにビル街を進み始める。
 声の主を守るため、二人の戦士が進んでいく。


26 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/10(土) 20:41:41 iZl2.UaA0



「これは……」

 そして、武藤カズキは市街地にてその声を聞いていた。
 機械により拡大された、殺し合いを止めたいという声。
 誰が敵かも分からない状況で、確かに皆に呼び掛けられるこの手段は有効かもしれない。
 殺し合いに恐怖する者がいれば、この行動は一筋の光明に見えるだろう。

「……すごい」

 カズキは心底から感服する。
 声の主に、怯えた様子はない。
 淡々と、殺し合いを止めようと語りかけてくる。
 その行為に、どれだけ大きなリスクが伴うのか。
 恐らくは、全てを理解しているのだろう。
 自分の居場所を知らせるのだ。
 殺し合いに恐怖する者にも、殺し合いを止めたいと思う者にも―――殺し合いに乗った者にも。
 危険で、向こう見ずな行為。
 だがそれは、武藤カズキにとっては称賛に値する行動だった。

「……なら、行かなくちゃな」

 そう言ってカズキは、走り始めた。
 こんな行動を取れる奴を、死なせたくはない。
 だから、助ける。
 もし殺し合いに乗った者が集まってきたとしても、自分が守る。
 幸い、声がするビルは直ぐ近くだった。
 駆け寄り、ビルの麓で立ち止まる。

「最短で―――突っ切る!」

 声の主にいつ危険が及ぶかも分からない今、悠長な事は出来なかった。
 最速で声のする屋上まで向かう。
 その為には―――、


「―――武装錬金!」


 言葉と共に、山吹色の閃光が市街地に走る。
 現れたのは白銀の槍。
 閃光は、槍の石突き部分から噴出し、推進力となってカズキの身体を舞い上げた。
 これこそが彼の分体とも言える武装―――『サンライト・ハート』。
 核金と呼ばれる錬金術の果ての産物が、彼の闘争本能に呼応して変形した姿だ。
 石突きから放たれるエネルギーにより、一瞬でビルの屋上すら越える高さへと至る。

(あれは……!)

 宙にあってカズキは見た。
 呆然とした表情でこちらを見上げる青年と―――自分と反対側から、自分と同じように屋上へと跳び上がってきた人影。
 青年が、恐らく衛宮士郎なのだろう。
 手には拡声器を持っていて、その姿はどこか若さを感じる声色と違和感もない。
 だが、自分とほぼ同時に現れた人影は誰なのか。
 薄暗でよく見えないが、その両手は不思議な構えでもって前へ突き出されている。
 先には衛宮士郎が、いる。
 瞬間、カズキは見た。
 謎の影の両手から、何かが放たれたのを。

「っ、うおおおおおおおお!!!」

 思考が、爆ぜる。
 考えるより先にカズキは動いていた。
 構えを取り、石突きを後方へ向ける。
 同時にエネルギーを噴出させ、士郎の前へ着地。
 彼を守るように立ち、サンライト・ハートの矛先を人影へと突き出す。


「―――貫け、俺の武装錬金!!」


 相手が射出した何かを貫く為に、裂帛の気合いを込める。
 呼応したサンライト・ハートの矛先が、エネルギーの拡大と共に凄まじい勢いで前へと進む。


27 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/10(土) 20:42:11 iZl2.UaA0


「ッ、ウェブグレネード!」


 人影の反応は、カズキの動きを読んでいるかのように俊敏だった。
 両手からの射出を止めて何かを投げつける。
 同時に片手を明後日の方に向けたかと思うと、引っ張られるようにそちら側へ移動を始めた。
 飛来するは二つ球体。
 それは、まるで手榴弾のような―――、


(―――まとめて吹き飛ばす!!)


 エネルギーを拡大させ、その余波でもって球体を弾き飛ばさんとするカズキ。
 目論見通り一つは弾き飛ばし、相手の側へと落下した。
 が、残りの一つには届かず、球体がゆっくりと近づいて来る。

(くそぉっ!)

 唇を噛み、飛来物を睨み付ける。
 エネルギーも放出させ続けるが、その球筋を揺らがすには至らない。
 球体はカズキと士郎の足元へと落ち―――そして、爆発した。









 視界が白色に染まっていた。
 息苦しく、身動きも取れない。
 これが死後の世界なのかと思いつつ、カズキは必死にもがき続ける。
 そして、ようやく白の世界から抜け出した。
 同時に見た。


「カズキ! 君という奴は!」



 ―――大きな白色の塊から、頭だけを突き出した恋人の姿を。



「斗貴子さん!」
「斗貴子さん! じゃあない!」


 再会に対する歓喜の言葉は、怒声に一蹴される。


「良かった、無事だったんだね!」
「無事じゃ! ない! この状況をよく見てみろ!!」

 それが聴こえているのかいないのか、尚も歓喜浮かべるカズキだったが、斗貴子の言葉に周りを見やる。
 ビルの屋上は、白色の粘着物で覆われていた。
 粘着物の塊は二つ。
 斗貴子が巻き込まれているそれと、カズキが巻き込まれているそれだ。


28 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/10(土) 20:42:46 iZl2.UaA0

「あれ、何だろこれ」
「君から身を守る為に彼が放ったものだ! ピーター・パーカー、私がこの場で出会った青年だ!」
「……あはは、どうも」

 よくよく見ると、斗貴子の側にもう一つ飛び出た頭がある。
 カズキと同年代の西洋人。
 ピーターと呼ばれた青年は、何とか作ったぎこちない笑みでカズキを見ていた。

「私達も君と同じだ。拡声器の声を聞き、危険が迫ると判断して屋上へと向かったんだ」
「で、でも、拡声器の人に向かって何か撃とうとして……」
「そういう移動法だ。手首から粘着糸を射出して、それを引っ張るなりして移動する。私は彼の背中におぶらせて貰っていたんだ」
「そういう事。その拡声器の人の側に着地しようとしただけだ」
「見るや否や襲ってくるとは……直情的なのは君の長所でもあるが、時として考えものだな」
「ま、まぁまぁ、紛らわしかったのは事実だし。トキコもそう怒らないでさ」


 二人の言葉に、カズキの表情は見る見る青ざめていった。
 そんなカズキの様子に言い過ぎたと思ったのか、斗貴子も沸き上がる小言の数々を飲み込んだ。


「……斗貴子さん……」
「……分かっている。君は君の思うままに動いただけだ。今回はたまたま悪い方に傾いただけで―――」


 斗貴子の言葉を遮るように、カズキが口を開く。
 悲しげな表情で、



「……おぶらせて貰ったって、どういう事?」
「そっちじゃない!!」



 ―――そう、問うた。



「というか他意はない!! バルキリースカートで移動するより、早いと判断しただけだ!!」
「でも密着したんでしょ。俺以外の男と……」
「い、言い方が悪いぞ。ハグをした訳でもあるまいし……!」
「そ、そうそう。背負ってても感触なんてなかったし!」
「嘘だ! 斗貴子さんは痩せてるけど、しっかり出てる所は出てるんだぞ―――」
「―――言うな!! ブチまけるぞ、臓物(はらわた)を!!」
「ト、トキコも落ち着いて!」


 仲良く、粘着糸の塊から頭を突き出しあい、ギャーギャーと喚き合う3人。
 その少し傍で、同じように頭を突き出した青年が1人いた。
 衛宮士郎。
 今回の騒動の元凶であり、言ってしまえば巻き込まれただけの男。
 決死の覚悟で拡声器を使った筈が、何故だか粘着糸塗れになって、知らないカップルの痴話喧嘩を聞いている。


「えー、とりあえず………………何でさ?」


 思わず溢れた疑問は、誰にも聞こえる事なく風に吹かれて消えていった。





【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:健康
[装備]:拡声器@現実
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:殺し合いを止める。
1:……何でさ。
2:セイバーと会えたら、共に戦いたい。


【ピーター・パーカー@アベンジャーズ】
[状態]:健康
[装備]:アイアンスパイダースーツ@アベンジャーズ、破れたアイアンスパイダーマスク@アベンジャーズ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:『ヒーロー』として行動する。
1:誰か何とかして…。
      

【津村斗貴子@武装錬金】
[状態]:健康
[装備]:核金(バルキリースカート)@武装錬金
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:殺し合いを止める
1:少し静かにしていてくれ、カズキ!
      

【武藤カズキ@武装錬金】
[状態]:健康
[装備]:核金(サンライトハート)@武装錬金
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:殺し合いを止める
1:斗貴子さん…。


29 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/10(土) 20:44:57 iZl2.UaA0
投下終了です。
タイトルは『4人の高校生』となります。
スパイダーマンはMCU内でも本当に好きなキャラクターです。


30 : 名無しさん :2018/11/10(土) 22:41:01 80CiwiZI0
投下乙です
いいなぁ、実に爽やかな連中だ
アメコミは殆ど触れたこと無いんだけどサノスってのがかなりヤベー奴だということはヒシヒシと伝わってきました


31 : 名無しさん :2018/11/11(日) 01:42:47 IKx6CZKI0
投下乙
これはバランスの良い?パーティだな…


32 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/11(日) 21:36:59 AFYP41BU0
感想ありがとうございます。
バトルパート以外は苦手なので、上手く書けてるか不安です。


巴マミ、サノス、高町なのは、アーチャーで3話目投下します。


33 : 魔法少女と宇宙の帝王 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/11(日) 21:38:05 AFYP41BU0
(これは、一体……)

 巴マミは困惑の中にあった。
 突然始まった殺し合い。
 何もかもが唐突で、理解が追い付かない。

「魔法は……問題なく使えそうね。これなら戦えるけど……」

 魔力でマスケット銃を創り出し、僅かに安堵するマミ。
 巴マミは、魔法少女である。
 己が願いと引き換えに、魔女と戦い続ける宿業を背負った少女。
 魔法少女としての日々は辛く苦しく、その力を疎ましく思う事もあった。
 だが、このような状況で、これ以上頼もしいものはなかった。
 魔女と言う超常の存在と戦うための力だ。人間が相手であれば敗北など有り得ない。
 ただ唯一、相手が同じ魔法少女であれば話は変わってくるが……。


「……どうすれば良いのかしらね」


 自分がどう行動すれば良いのか、分からない。
 誰かを殺すなんて出来る訳がない。
 でも、死にたくなんてない。
 辛い日々であったとはいえ、掛け替えのないものだってあったのだ。
 出会ったばかりの後輩たち、仲違いをしてしまったがかつて共に戦った魔法少女。
 それが苦難に満ちたものであっても、日常に戻りたいという気持ちは確かにマミの中にあった。


「とにかく他の人達を探しましょう。しっかりと話して協力してもらえれば……」


 顔をあげ、前を向く。
 戸惑いはあるけど、脚を止める訳にはいかない。
 何かしなくてはと、彼女は歩き始める。
 暗い市街地。
 音もなにもしない。
 まるで殺し合いなんて嘘っぱちで、世界に自分一人が取り残されたかのよう。


(心細くなんてないわ……私の戦いはいつもこうだったんだから)


 最近は魔法少女に興味を抱く後輩もできたが、魔法少女の活動は殆ど一人で行っている。
 己のためじゃなく、人々を守るために、戦う。
 その行動を、殆どの魔法少女が白い目でみたものだ。
 唯一行動を共にしてくれた人も、いつの日か愛想をつかして自分の前から消えてしまった。
 孤独な戦い。
 そう、いつだってそうだったのだ。
 今さら、何も恐れる事なんてない。

(……ん、誰かいるわね)

 魔力で強化された視力でもぼんやりとしか見えない距離だが、確かに誰かがいた。
 とても大柄な人だ。
 手に何か派手な装飾をつけていて、はめ込まれた何個かの宝石が怪しく光って見える。
 近付き、声を掛けようとマミが走り出したその時だった。


(―――ッ!?)


 遠くの人影から、何かが迸った。
 紫色の閃光。
 反応はギリギリで間に合った。
 魔力で強化した両脚で地面を蹴り、十数メートルの距離を移動。
 着地と同時に魔法少女の姿に変身する。
 紫の光は後方のビルへとぶつかり、凄まじい爆発を発生させた。


(今のは……!? いえ、それよりあの人影は殺し合いに乗って……!?)


 的を散らすよう走りながら、思考を巡らす。
 謎の光を放ってきた相手。威力は絶大で、直撃すれば魔法少女であっても大きなダメージを負うだろう。
 マミには戸惑いがあった。
 この正体不明の力もそうだが、こうも簡単に人を殺そうとする輩がいる事に、何より戸惑う。


34 : 魔法少女と宇宙の帝王 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/11(日) 21:38:41 AFYP41BU0


「くっ……!」


 黄色のリボンを振るい、宙空に甚大な数のマスケット銃を精製する。
 マミの意志に従って、銃から何十もの魔力弾が照射された。
 弾丸の数々は、人影を避けるようにしてその周囲を撃ち貫く。

「これは警告です、攻撃を止めてください! 私は殺し合いには乗っていません!」

 マミの呼びかけが聞こえたのか、次発はない。
 再びの静寂に包まれた世界に、唯一足音が響いた。
 人影が近付いてきたのだ。
 宙に浮いた銃口はそのままに、マミは待つ。
 ようやく視認できる距離に人影が来たとき、彼女は思わず息を呑んだ。

「っ……!?」

 その姿は、人間のそれとは大きく掛け離れていた。
 3メートルはあろかという身長に、それに見合う筋肉質な肉体。
 肌の色は青色で、どう見ても人類のものとは思えなかった。

「光栄に思え、女。お前はこのサノスの手に掛かって死ぬ事ができるのだ」

 数十もの銃口の前に身を晒しておきながら、巨人―――サノスは怯む様子はない。
 背筋に冷たいものが伝う。
 先程の攻撃を見て、魔法少女の力を見て、尚も余裕に満ちた表情。
 敗北を、死を、一切と考えてない。己の実力に自信があるのだ。

「っ、ああああああああ!!」

 マミの行動は、防衛本能にも似たそれだった。
 強大な害敵を前にして、意志より先に身体が動く。
 戦わなくては、倒さなくては、生き残れない。
 純粋な恐怖が、マミの思考を染めていた。
 銃口の全てが火を噴き、今度こそサノス目がけて弾丸を放つ。
 その全てが直撃し、火花を撒き散らした。
 が―――サノスは止まらない。
 弾丸の斉射を受けながら、その右手を振るう。
 マミの上半身ほどはあろうという、巨大な拳。
 地面から伸びた数本のリボンがその手に絡みつくが、ほんの少しの勢いも削ぐ事は出来なかった。
 マミが起動した拘束魔法を引きちぎり、拳は直進する。
 次いでマミが創り出したのは盾。
 魔法のリボンを幾重にも編んで、その衝撃を受け切らんとする。
 結果は、


「がっ―――」


 マミの身体が宙を舞って終わった。
 渾身の魔力を組み込んだ盾は、まるでガラス細工のように砕けて散った。
 もちろん威力の相殺などできる訳もなく、拳が直撃。マミは後方へと吹き飛ばされた。
 無機質なアスファルトをごろごろと転がり続け、上も下も分からなくなった頃にようやく動きが止まる。
 凄まじい一撃だった。
 魔女の攻撃にすら耐える魔法少女の身体が、もはやピクリとも動かない。


35 : 魔法少女と宇宙の帝王 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/11(日) 21:39:28 AFYP41BU0


(……あ、はは……私、こんなところで……)


 ぼやけた視界で、悠然と近付いてくるサノスを見る。
 死を感じる。
 恐怖に絶望してもいい筈なのに、何故だか笑いが込み上げる。
 余りの力の差に、心が折れてしまったのだろうか。
 死ぬ。
 殺される。
 だけど、もう何もできない。
 あの時は、彼がいた。
 魔法少女を生み出す存在。
 彼の力を借りて、自分は死なずに済んだ。
 今は、誰もいない。
 いや、誰かいたところで、こんな怪物に勝てる訳がない。
 全ては無駄だ。
 こんな殺し合いも、どれ程の抵抗も。
 この怪物に勝てる訳がないのだから。


(不思議ね……もう……何も、怖く……)


 諦めてしまえば、恐怖もない。
 マミは瞳を閉じた最期の瞬間を待つ。




「―――止まってください」

 


 ―――そして、彼女は聞いた。
 目を開くと、そこには小さな背中がある。
 間に割って入るように、何時の間にか少女が一人立っていた。



「私は時空管理局嘱託魔導師・高町なのはです。少し、お話しませんか?」



 少女の言葉を聞きながら、マミの意識は暗闇に吸い込まれていった。












 高町なのはは、凛とした瞳でサノスを見上げていた。
 虚数空間に落ちた筈のプレシアが生きていて、突然に殺し合いをしろと告げられて。
 何もかもが分からない中で、それでも誰も傷付かないようにと空を駆けた矢先に、彼女は見た。
 青色の男と、少女との戦い。
 いや、戦いになってすらいない。
 なのはですら初めて見る魔法の数々を、まるで微風のように受け流し、無視し、蹂躙した存在。
 戦慄する。
 魔法少女となって数多の戦いを経験してきたが、それでも尚この相手は危険だと、警鐘が鳴った。
 だが、なのはは躊躇わなかった。
 その前に立ち塞がり、少女を守る様に対峙する。
 武装は既に展開している。
 新たに改修され、エルトリア式のフォーミュラ・システムを組み込んだレイジングハート。
 膨大な魔力が膨れ上がり、これまで以上の力を感じる。



「……いいだろう。何を話す、魔導師とやら」



 理知的な声が響く。
 なのはは僅かに表情を崩して、口を開いた。


36 : 魔法少女と宇宙の帝王 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/11(日) 21:40:19 AFYP41BU0


「応じてくれて、ありがとうございます。最初に貴方の名前を聞いてもいいですか?」
「面白いな、少女よ。私の前に立ち、武器を持ち、名前を聞くか」
「はい。お互いの名前を知らなくちゃ、何も始まりませんから」


 にゃははと笑うなのはに、サノスは目を細めた。


「……サノスだ。これで良いか、タカマチ」
「! ありがとうございます、サノスさん」


 己の名を呼んだサノスに、なのはは目を見開いた。
 こちらの名前を呼んだという事は、対話の意志があるということだ。
 それは気紛れなのかもしれないが、なのはにとってはとても嬉しい事であった。



「まず初めに聞かせてください。何でサノスさんは殺し合いに乗るんですか?」
「野望のためだ。私には命を賭しても成さねばならない事がある」
「……その為に、誰かを傷付けるんですか?」
「必要ならば。これまでも私はそうして来た」



 言い切るサノスの瞳には強い灯があった。
 信念が、あるのだ。
 それに伴う、強い意志も。



「……皆で話し合って、手を取り合って、解決する事は出来ないんですか?」
「無理だな。宇宙の住人達が自ら命を絶つというのなら話は別だが、そんな者はいない。いる筈がない」
「サノスさん、貴方の野望は―――」
「宇宙の人口を半分にする事だ。もはや宇宙の資源は底を付きかけている。これは必要な処置だ」



 なのはには、サノスの言葉の殆どが理解できなかった。
 宇宙の人口、宇宙の資源。
 全てが、時空を管理する組織に身を置くなのはをして、規模が大き過ぎる。
 ただ、その意志の強さは分かってしまった。
 それが狂気に満ちた選択にしか思えなくとも、彼を言葉で止める事は難しいのだろうと。


「……止まれ、ないんですか」
「止まれんな。止まるつもりも、ない」



 鉄のような意志が、そこにあった。
 


「私の野望は完遂寸前だった。全てのインフィニティ・ストーンを手に入れ、その瞬間にこの殺し合いがあった。
 もはや足を止める暇はない。お前達全てを滅ぼし、インフィニティ・ストーンを奪い返し、野望を果たす」


 掲げられるガントレット。
 金色を基調としたそれには、蠱惑的な雰囲気の宝石がはめ込まれている。
 紫と青と緑。
 それらの石の意味する所を、なのはは分からない。


「話は終わりだ、タカマチ。私を止めたければ、戦え。そこの女を救いたければ、戦え。戦う以外に、もはや選択肢はない」
「……分かりました」


 一言、なのはは呟いた。
 分かっている。
 世界には対話で解決できない事も、山程ある。
 互いの意思がぶつかり合い、悲しい争いになる事もある。
 だから、



「貴方を止めます、サノスさん」



 高町なのはは、決意していた。
 悲しい争いを、悲しいままに終わらせないために。
 そのために、この力を振るうのだと、決めていた。


37 : 魔法少女と宇宙の帝王 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/11(日) 21:40:49 AFYP41BU0
 レイジングハートの矛先が、サノスへと向けられる。
 ぶつかり合う視線。
 もはや互いに迷いはなかった。



「やってみろ……!」



 にやりと笑い、サノスが吼える。
 同時に放たれる紫の極光。
 対するなのはも、レイジングハートの引き金を引く。
 放たれるは桜色の魔力砲。
 巨大な砲撃は極光ごと、サノスを呑み込む。


「ク―――!」


 だが、止まらない。
 紫電が、一切の減衰もなしに、桜色の砲撃を突き抜ける。
 寸前で宙に飛び、回避するなのは。
 そこには、


「どうした、そんなものか!」


 サノスが待ち受けていた。
 砲撃に対するダメージは感じられない。
 レイジングハートが管制する自律稼働シールドが、前に出る。
 同時に放たれた拳は、マミの時と同様に容易くシールドを粉砕した。


「レイジングハート!!」
『All right.Master』


 盾に隠れ、自身が死角となった隙に、なのははレイジングハートを前方へと構えていた。
 瞬間、なのはの身体が加速。
 矛と化したレイジングハートを、飛行の勢いそのままにサノスへ突き出す。
 刃は、刺さらない。
 寸前でサノスが指の間で摘み取ったからだ。
 突撃も、止められる。
 宙空にあって地面に踏ん張る事も出来ない今、サノスは片手の力のみでなのはの直進を止めていた。


「―――まだ!」


 突撃が止められたのならば、次の手を。
 内部カートリッジを消費し、魔力を込める。
 矛先から放たれるは、ゼロ距離からの砲撃魔法。
 桜色の爆炎が、市街地を揺らす。



「それで、終わりか?」



 爆炎の中から、サノスが姿を現す。。
 なのはの渾身は、それでもダメージを与えられない。
 多少の傷はあれど、彼を止めるには至らない。
 唇を噛むなのは。
 通じない。
 積み上げてきた力が、一切と。
 それでも、なのはの眼光は揺らがなかった。
 至らずとも、立ち止まる訳にはいかない。
 そこに守るべき者がいる限り、彼女は空を舞い続ける。


38 : 魔法少女と宇宙の帝王 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/11(日) 21:41:32 AFYP41BU0




「……アクセラ――――」







 切り札を、最後の手段を、なのはは躊躇いなく切ろうとしていた。
 フォーミュラシステムが誇る最強の機能―――『アクセラレータ』。
 体内のナノマシンを活性化させ、限界以上の力を引き出す機能。
 なのはの身体が桜色に包まれる。


『―――退け、援護する』


 その瞬間、声を聞いた。
 魔力を通した念話。
 それが音もなくなのはの脳に響いたのだ。







「――――レータ!!!」





 なのはの身体が、光と化す。
 魔導師の高速戦闘。
 その限界点すらも超越した速度で、なのはが動く。
 サノスに向けてではなく、地面で倒れるマミの方へ。
 彼女を抱き上げると共に、なのはは空を駆けた。



「逃がすと―――」



 サノスがガントレットを掲げる。
 その拳が握られ、埋め込まれた紫の宝石が光り輝く―――寸前。
 音を越えて、それは来た。
 掲げられたガントレットを目がけて、何かが撃ち込まれたのだ。
 なのはが放ったものではない。
 高速移動に全魔力を集中させている。とても攻撃などできはしない。
 射撃が、続く。
 それは、凄まじいまでの魔力が込められた弓だった。
 音速を超えて連発されたそれが、サノスの動きを阻害する。



(狙撃か―――)



 ビル街の果てから、その射撃は続けられていた。
 そこには、弓兵がいた。
 紅い外套に身を包んだ男が一人、矢継ぎ早に狙撃を繰り返す。


「―――なめるな!」


 サノスが、弓兵へと標的を移したその時だった。
 ガントレットに、サノスの身体に弾かれ、地面に突き刺さる矢が、一斉に光った。
 直後、巨大な爆炎が巻き起こる。矢が、爆発したのだ。
 それはなのはが起こしたものもかくや、と思われる程の大きな爆発だった。


「ちぃ……!」



 ガントレットの力を防御に回すサノス。
 赤色の石が光り、炎と煙を何処へなりと吸い込み、霧散させる。
 だが、既に事は終わっていた。
 なのはの姿も、遥か遠くにいた弓兵の姿も、何処へなり消えていた。


39 : 魔法少女と宇宙の帝王 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/11(日) 21:42:02 AFYP41BU0


「……逃げ果せたか、このサノスから」


 無人となった市街地を見詰める。
 サノスの力をして、ガントレットの力をして、逃がしてしまった。
 詰まらぬ介入があったとはいえ、まさか逃げられるとは思わなかった。
 不意に、笑みが零れる。
 サノスの名を問い、想いを問い、立ち向かい、逃げ果せた少女。


「……タカマチナノハ、か」


 その名を胸に刻み、彼は歩き始める。
 己が野望の為、孤高の帝王が一人進んでいく。



【サノス@アベンジャーズ】
[状態]:身体全体にダメージ(小)
[装備]:インフィニティ・ガントレット@アベンジャーズ、パワー・ストーン@アベンジャーズ、リアリティ・ストーン@アベンジャーズ、タイム・ストーン@アベンジャーズ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:元の世界に戻り、野望を果たす。
1:参加者を全滅させる
2:タカマチナノハへの興味。













「何とか……逃げ切れた、みたいだね……」
『良い判断でした、マスター』


 サノスから数キロ離れた市街地。
 その一角のビルに、なのはは着地した。
 背負っていたマミを下ろし、自身もまたその場に倒れ込む。
 『アクセラレータ』による限界を越えた稼働に、なのははもはや動く事が出来なかった。


「……ありがとう、ございます……貴方のおかげで、助かりました……」


 視線の先には一人の男がいた。
 紅い外套を纏った、褐色肌の男。
 先程、サノスに狙撃を続けていた男その人だった。
 男のナビゲートに従って空を駆け、なのははこのビルに辿り着いた
 男は腕を組み、少し険しい表情でなのはを見詰めている。


「私は、高町なのはと言います……あの、貴方の名前は」
「……すまないが、事情があって本名を名乗れなくてね。アーチャーと呼んでくれ」


 それだけ言って、男は口を紡ぐ。
 

「アーチャさん、ですね……本当に、ありがとうございました……」
「礼は良い。私はチャンスを伺っていただけだ。君達を囮にしてな」


 皮肉気に、突き放すように、アーチャーは言う。
 その言葉になのはは気を悪くしたようすもなく、笑みを浮かべた。


「それでも……です。貴方がいなければ、この人を、助けられませんでしたから……」


 なのほの言葉に、アーチャーの表情が変わった。
 一瞬、ほんの一瞬だが、確かに。
 それはなのはにも確認できた。


40 : 魔法少女と宇宙の帝王 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/11(日) 21:43:47 AFYP41BU0


「……アーチャーさん……?」
「……まずは魔力とダメージを回復させる事だ。この中で休息を取るぞ」


 言って、アーチャーはマミとなのはを抱き上げる。


「わ、わわわ!?」
「静かにしていろ。他に殺し合いに乗った者がいたら、どうするつもりだ」


 驚くなのはを無視して、ビルの中を進んでいくアーチャー。
 その背中で揺られながら、なのはは思考する。

(……アーチャーさん、怒ってる……?)

 先程、一瞬見せたアーチャーの表情。
 そして、今のつっけんどんな対応。
 出会って数分。
 何故だか分からないが、自分はこの人の怒りを買ってしまったようだった。
 考えるが、答えは分からず。
 死角で見えないアーチャーの顔を、なのはは見詰め続けていた。











 アーチャーは、胸のざわつきを抑えられなかった。
 原因は一つ。
 市街地で見かけた謎の男―――ではなく、今自分が抱えている一人の少女。
 ビルの屋上から『鷹の目』で様子を伺っていた中、発見した戦闘。
 マスケット銃を操る少女と、ガントレットの男が戦っていた。
 男の力は強大で、少女を一蹴。
 サーヴァントの身である自分をして肌が粟立つ程だった。
 その最中、アーチャーはその戦闘を見ているもう一人の者に気付いた。
 先程の少女よりも、更に一回りも幼い少女。
 初め、アーチャーは少女が逃げ出すものかと思っていた。
 あれだけの力を見たのだ。
 その判断は正常、というよりも当然だ。
 あの男の力は、それ程に異常だった。
 マスケット銃の少女は命を失うやもしれないが、それも仕方のない事だ。
 とても助けに入れる相手ではない。


41 : 魔法少女と宇宙の帝王 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/11(日) 21:44:12 AFYP41BU0

 だが、違った。
 少女は迷いなく、躊躇いなく、その戦闘に介入した。
 そして、あまつさえ男と言葉を交わし、戦い始めたのだ。
 成る程、確かに少女の力は凄まじい。
 サーヴァントに迫るとも劣らない力を、人間の身で有している。
 それでも……いや、だからこそ理解できる筈だ。
 彼我の戦力差を。相手の強大さを。
 だというのに、少女は戦い続け、遂には限界を越えた力をも発動しようとしていた。
 


 ―――自己を顧みず、他者を救う為に命を賭ける。

 ―――その姿が、誰かとだぶって見えた。
 


 気付けば、自分は弓矢を引き絞り、放っていた。
 そして、彼女は逃げ果せ、今は自分の背中にいる。


(高町なのは……こいつは……)


 言葉を交わし、その懸念は一層に深みを増した。
 アーチャーは、懊悩する。
 かつての自分と似た少女を前に、どうするべきか。
 考えても考えても、答えは浮かばなかった。






【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:胸部にダメージ(大)
[装備]:マミのソウルジェム
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:気絶中



【高町なのは@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:魔力消費(大)
[装備]:レイジングハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:殺し合いを止める
1:休息を取る。
2:サノスさんを止める。
3:アーチャーさん、何で怒ってるんだろう……。




【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]:魔力消費(小)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:???
1:休息をとる。
2:高町なのは、こいつは……。


42 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/11(日) 21:45:10 AFYP41BU0
投下終了です。
新作映画のなのはさん、最高にかっこよかったです。


43 : 名無しさん :2018/11/11(日) 23:02:08 UzmmPNp20
投下乙です
サノスはやはり強い…他のインフィニティストーンは没収か、それとも誰かに支給されてるのだろうか
マミさんはいきなりボロボロだし、アーチャーの基本方針も不明と大変だがなのは頑張ってくれ


44 : 名無しさん :2018/11/12(月) 23:57:39 MFf5NtDQ0
投下乙
アーチャーはなのはと出会ってなければ、合理的にマーダーになってたかもしれないな…
シロウとダブって見える描写も、すごく面白い
今後に期待

あと、誤字が2ヶ所ほど
凄まじいまでの魔力が込められた弓
→凄まじいまでの魔力が込められた矢

なのほ
→なのは

細かいですが、偶然見つけちゃいました…!


45 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/18(日) 00:01:59 iBk/mU.g0
感想、ご指摘ありがとうございます。
推敲はするのですが、何分個人作業なのでどうにも抜けがでちゃいますね。これからも教えていただけると幸いです。

では、蛭魔妖一、暁美ほむらで第四話投下します。


46 : 悪魔との契約 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/18(日) 00:03:27 iBk/mU.g0
「……こんな事は初めてね」

 薄暗闇の市街地に、一人の少女が立っていた。
 少女は、この殺し合いという現状にさして怯える様子もなく、初めて見る街並みを興味深そうに眺めている。
 その表情にある感情は、驚きと言うのが一番近いだろう。

「永遠に同じような日々が続くと思ったけど……変わる時は一瞬ね」

 彼女は特異な存在であった。
 親友を救う為に、同じ時を何度となく繰り返してきた。
 その繰り返しは、もはや数えきれない程に至り―――果てに、彼女はこの場に来た。
 彼女は思考する。
 顔も知らぬ人々が集められ、軟禁され、強制される殺し合い。
 報酬は一つ。
 どんな願いでも成就させるというもの。

(……下らない)

 暁美ほむらは知っている。
 どんな願いでも叶えるという存在を、彼女は知っている。
 それは人間では想像もできない力によって、確かに願いを叶える。
 死の淵にある人間を救い、不治の怪我をもたちどころに治す。
 一人の少女を救う為にと、時間の逆行さえ可能とさせる程だ。
 だが―――その代償の大きさも、ほむらは知っている。
 願いの果てにある悲劇を、彼女は身をもって知っていた。
 結局のところ、そう上手い話はないのだ。
 成就される願望の果てには、その対価が大きな壁として立ち塞がる。

「……私はもう、誰にも頼らない」

 何度かのループの果てに到った結論。
 決意にも似た言葉を吐き捨て、彼女は歩き出す。
 今は殺し合いに乗ろうとも、止めたいとも思わない。
 元の世界に戻り、成すべき事を成せれば、それで良い。
 まずは様子見。
 少し情報を探った上で、帰還への道程が容易いものを選択するだけだ。
 孤独な魔法少女が、一人無人の市街地を進んでいく。








 ―――歩き始めて、十数分が経った頃だろうか。
 ほむらの耳に、何か爆発音のようなものが届いた。
 同時に空の彼方が、何度も淡く輝いている。

(参加者同士の争い、かしら?)

 何度も鳴り響く爆音は、戦いがそれだけ熾烈だということを物語っている。
 それだけ強大な力を有した者が参加しているのか、強力な武器があるのか。
 分からないが、ほむらの用心は更に深まっていた。
 誰と会おうと、何がおきようと、直ぐに魔法を使えるよう構えておく。

(―――あら)

 すると、ふと足音が聞こえてきた。
 カツンカツンと、地面をたたく音。
 誰かが、いる。
 察知すると同時に、ほむらは魔力で愛用の盾を発現する。
 盾の中で唯一残された武器である拳銃を握り締め、相手の到来を待つ。

「……テメェは」

 現れたのは、ド派手な金髪の男だった。
 吊り上がった目に、とんがった耳。
 その特徴的な外見は、まるで悪魔を擬人化したようだった。
 ほむらの拳銃を握る力が、僅かに増す。

「―――手を挙げな」
 
 男の反応は迅速だった。
 抱えたアサルトライフルを躊躇いもなくほむらへと向け、鋭く睨む。
 どうやらほむらが拳銃を隠し持っている事を察したようだ。


47 : 悪魔との契約 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/18(日) 00:03:53 iBk/mU.g0

「あら、不躾な人ね」

 仄暗い銃口を見詰めながら、ほむらは表情一つ変えずに両手をあげる。
 隙だらけの様相に、だが男は警戒を緩めない。
 引き金に指を置いたまま、一歩二歩と距離を取る。

「貴方は殺し合いに乗っているのかしら?」
「さぁな。そういうお前は―――あながち乗ろうか、乗るまいか悩んでるところだろ?」

 ほむらの瞳が見開かれる。
 男の言葉は、確かにほむらの核心を突いていたからだ。

「ケケケ、図星か」

 笑みを浮かべる男。
 笑うと、男の悪魔的な印象は更に強くなった。


「そうだな、テメェは自分に価値を感じちゃいねえ。こんな殺し合いなんて、どうでも良いと思っている口だ。
 もっと……何か大事なモンがあるんだろう? それの前には全てが些事。今回のコレも、その他参加者の命もな」

 
 まるで心を見透かされているかのよう。
 ほむらは男をまじまじと見つめる。


「良く分かったわね。私の事を誰かから聞いたの?」
「いや、違ぇなあ。俺は人の心が読めるんだよ。
 だからお前が何を考えているか、なんつーのはお見通し」


 ケケケと、再び愉しげに笑う男。
 銃口は一切とぶれる事なくほむらを狙っている。
 男の様子に、隙はない。


「そう、なら―――」



 その、次の瞬間だった。



「―――私がこうする事も分かっているのよね」


 男の手から、アサルトライフルが消えていた。
 変わりにアサルトライフルのある場所は、ほむらが手中。
 ほむらを狙っていた筈の銃口が、何時の間にか男に狙いを定めていた。
 男の瞳が驚愕に見開かれる。
 男の顔から笑みは消え、自分の空手とほむらの持っているアサルトライフルとを交互に見る。


48 : 悪魔との契約 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/18(日) 00:04:23 iBk/mU.g0


「……何をした」
「心が読めるんでしょう? なら、答えは分かる筈よね」


 ほむらのした事は、単純明快。
 時間を止め、男からライフルを奪い、構えた―――ただ、それだけ。
 それが男には……いや、世界の誰にも知覚が出来ないという事だけが、余りに規格外だった。


「さて、どうしようかしらね。正直、私は貴方の事なんてどうでも良いけど……」


 形成は逆転された。
 無表情の男と、微かに笑う少女。全てが先程までと逆さまだった。
 引き金を引かれれば、それで終わり。
 全てはほむらの腹積もりに掛かっている。
 男は窮地に立たされていた。

「糞ッ……まさかこんな事になるなんてよ」

 男は焦った様子で、口を開いた。
 先程までとは打って変わって、分かり易く悔しさを表情に滲ませる。
 どうしてこうなったと、自身の迂闊な行動を責めるようだった。

「運が悪かったと諦める事ね」

 男の態度に、僅かながらも胸のすく思いがした。
 こちらの内面をズバズバ言い当てては、ケケケと愉しげに調子づいていた男の鼻を明かしたのだ。
 思わず笑みが零れてしまう。

「こんな……こんな―――」

 唇を噛み、歯を食いしばる男。


「―――こんな序盤に、これを使う事になるなんてよぉ」


 そして、笑った。
 またもや。
 さっきまでと同じ様な、悪魔的な笑みを張り付かせて。
 男が、笑う。
 一瞬で、まるでマジシャンのそれのように、男の手には何かが握られていた。
 それは掌に収まる程の、長細い物体だった。
 軍事装備に通じるほむらは、それに見覚えがあった。

(スタングレネード……!?)

 ピンは、既に外れている。 
 何時、どのようにして、ピンを外したのか。
 そんな隙はなかった筈だ。
 なのに、どうして。
 男はそれを放り投げ、背を向けて、耳を塞ぐ。
 対するほむらは、反応が遅れていた。
 両手はアサルトライフルで塞がっていて、防御姿勢が取れない。
 残る対抗手段は、魔法で時を止めるだけだが―――。

(間に合―――)

 思考の途中で、閃光と炸裂音が全てを覆い尽した。


49 : 悪魔との契約 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/18(日) 00:05:01 iBk/mU.g0




 そうして十数秒ばかりの時間が経過する。
 閃光も音も消え去った後で、二人は互いに拳銃を突き付け合って睨み合っていた。
 男は防御態勢からすぐさまもう一つの支給品であった拳銃を構え、ほむらも閃光や音に対するダメージを魔法少女の知覚カットで無理矢理に無視し、動いた。

「ケケケ、やるじゃねぇか」
「お褒めにあずかり光栄ね……!」

 再びの拮抗状態。
 とはいえ、これは仮初。
 魔法がある以上、圧倒的にほむらが有利であるが……。

「さっきのはどういうトリックな訳?」
「言わなかったっけか? 俺は閃光弾を無限に生み出せる力を持ってるってよぉ?」

 男の言葉は十中八九ハッタリだ。
 先程の心を読む云々と同様に、口八丁で煙を撒いているに過ぎない。
 ほむらの『時間停止』を読めなかった以上、男の読心術は嘘であるし、今回のだって何らかのトリックを用いたに過ぎない筈だ。
 だが、男の自信満々な笑みを見ていると、もしやという考えが浮かんでてしまう。
 少なくとも、まだ何らかの奥の手を隠しているのではないかと、疑ってしまう。


「……あなた、名前は?」
「ヒル魔……蛭魔妖一だ」
「ヒル間。最初、どうして私の考えが分かったの?」
「なんつー事はねえ。最初の場でお前等全員の反応を見て、記憶し、分析した。それだけだ」


 ケロリと言うが、それがどれ程にぶっ飛んだ事なのか。男の正気を疑う程だ。
 あの場に二十人ほどの人がいた。
 しかも、女が話し始めてから殺し合いに移行するまでは、ほんの数分しかなかった筈だ。
 その短時間で、あれだけの人数の反応を見て、記憶したというのか。
 更に言うならば、その洞察力も異常の一言。
 あの場での反応一つで、その内情をも暴き出すなど、常人には到底成し得ぬことだ。
 次いで、ほむらは問い掛ける。

「あの閃光弾は……」
「万が一に備えてだだけだ。予めピンを緩めた閃光弾を服の下に仕込んどいてな。
 ゴムやら糸やらを伸ばして足の指に引っかけておく。いざって時は、それを引っ張るだけでピンが外れる仕組みよ」

 ほむらが纏う雰囲気の変化に気付いたのか、男は全ての種を明かした。
 言われてみれば、何てことはない。本当にマジックの延長線のようなものだ。
 だが、それでも見せ方一つで魔法少女すら手玉に取った。
 その仕込みを殺し合いが始まって早々に行った思考。
 仕込みの一切を悟らせなかった手腕も、凄まじい。
 ほむらは、気付けば男に対して興味を抱いていた。
 恐らくは何ら特殊な力を持たない男が、策謀と口八丁で自分と渡り合った。
 その事実が、ほむらの感情を揺らしていた。

「最初の場で、全員の反応を見たって言ったわね」
「あぁ」
「なら、一つ教えて。あの場にお団子結びのピンク髪の少女はいたかしら?」

 ヒル魔が、僅かに考え込む。
 数秒後、口を開き、


「タダで教える訳ねーだろうが、ファッキン根暗」


 ニヤリと笑って、そう言った。


「……そういうと思ったわ、全く」


 ほむらもまた、微笑んでいた。
 驚異的な洞察力と判断力、そして用意周到な思考力。
 弱みを見せればそこに付け込み、我を振るう。
 第一印象通りの、悪魔のような人物がそこにいた。


50 : 悪魔との契約 ◆vzkSg/OL/U :2018/11/18(日) 00:05:20 iBk/mU.g0


「どうすれば、教えてくれるのかしら?」
「そうだな、まずは俺と契約しやがれ。俺の奴隷……もとい用心棒になるっつーな」
「断ったら?」
「もう一つの『奥の手』を切るだけよ。これを使ったら最後、今度こそお前は死んじまうだろうがなぁ」


 ヒル魔の言葉がブラフなのか、本気なのか。
 ほむらには、判断が付かない。
 ヒル魔ならば何かをしでかしそうでもあるし、本当にただのブラフであるとも思えてしまう。
 圧倒的に優位に立つ筈なのに、行動に躊躇いを覚えてしまう現状。
 つまり、既に術中。彼の掌の上にいると言えた。

「……分かったわ。貴方の勝ちよ、ヒル魔」

 遂に、ほむらは銃口をヒル魔から外した。

「やっと分かりやがったか。ファッキン根暗女」

 ヒル魔もまた同様に銃口を外す。
 二人は視線を交わし、微かな笑みを浮かべる。

「ヒル魔妖一、貴方の契約に従うわ」
「ケケケ、利口な判断だ。丸っきりバカじゃねえらしいな」


 悪魔のような男と、悪魔に成りえた少女。
 二人の道が、ここに交わった。







 そして、契約が成されて数分後。
 二人は互いに拳銃を片手に持ちながら、並んで歩いていた。
 

「―――それで?」
「あ? 何だよ?」
「それで、ピンク髪の女の子はいたの?」
「………」


 ヒル魔は数瞬考え込み、言った。


「いや―――いなかったな」

 
 答えは、簡潔。
 ほむらもまた、そう、と一言答えただけ。
 それだけを交わして、二人は進んでいく。
 その果てにある結末を知らずに、少女と少年は歩き続ける―――。





【蛭魔妖一@アイシールド21】
[状態]:健康
[装備]:蛭魔の拳銃@アイシールド21、蛭魔のアサルトライフル@アイシールド21
[道具]:支給品一式、蛭魔のアメフト装備一式@アイシールド21
[思考・状況]
0:殺し合いに乗るつもりはない
1:会場からの脱出手段を探る
2:ファッキンチビと栗田と合流。
3:協力者を探す
4:ほむらをこき使う


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:ほむらのソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、ほむらの拳銃@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:元の世界に戻り、まどかを救う
1:まどかはいないのね…。
2:蛭魔との契約に従う。
3:今の所、殺し合いに乗るつもりはない。


51 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/18(日) 00:06:47 iBk/mU.g0
投下終了です。
頭脳キャラを書こうとすると、自分の馬鹿さが浮き彫りになって嫌になりますね。


52 : 名無しさん :2018/11/18(日) 00:18:53 aoGYKHzs0
投下乙です
アイシールド21は連載時に本誌で読んだきりでしたけど……ヒル魔ってギャグ描写に隠れがちだけど作中一、二を争うとんでもハイスペックだったことを改めて認識しました
歩く弾薬庫コンビの今後に期待です


53 : 名無しさん :2018/11/18(日) 00:56:47 8X2DTqM20
投下乙
セナに続き登場話から魅せてくるねえ…
まどかが会場にはいなかったという嘘によって、
少なくとも奉仕マーダーや危険対主催の道からは一時的に外れたかな
それもヒル魔の思惑通りなら、恐ろしい策士よ…


54 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/19(月) 14:37:03 hsEwmYYo0
感想ありがとうございます。
ヒル魔は最初から最後まで有能を地でいきましたからね。
才能への挑戦という意味でも好きなキャラクターです。

では、鹿目まどか、栗田良寛、????・??????で5話目を投下します。


55 : 神さえ砕く力で 微笑む君に会いたい ◆vzkSg/OL/U :2018/11/19(月) 14:38:56 hsEwmYYo0




 これは、少女が願いを叶える物語―――。








 鹿目まどかが目を覚ました時、世界は一変していた。
 真っ暗な世界で、何も見えない世界で、彼女は何かに座らされていた。
 立ち上がろうとするも、身体が動かない。
 両手足が、何かに縛り付けられているようだった。
 彼女の儚い全力を見せても、拘束は一瞬たりとも緩みはしない。

 不意に、何かが開く音がした。
 扉が開いたのだろうか、光が差し込み、足音が響き渡る。
 同時に部屋の照明が灯された。
 光はまどかの身体と、入室者とを照らし出す。


「目が覚めたようね」
「あなたは……?」


 彼女の前に現れたのは、一人の女性だった。
 紫のドレスに黒の外套。腰まで伸びた、僅かに紫がかった髪が印象的だった。

「私はプレシア・テスタロッサ。ああ、そんな怯えた顔をしないで、まどかちゃん。
 いきなりこんな事をしてしまって、驚いているでしょう? ごめんなさい、どうしてもお話を聞いて貰いたくて」
「は、話、ですか……?」
「ええ、貴方に一つお願いをしたいだけなのよ」
「お願い……」

 プレシアが優し気に微笑んで、まどかの頭を撫でる。
 それは本当に優しい手付きで、こんな状況だというのに僅かな安心感を覚える程だ。

「貴方の力を聞いたわ。どんな願いでも叶える力をもっているのでしょう?」

 心臓が跳ね上がるような感覚だった。
 願いを叶える力。
 何故、目の前の女性が、そのことを知っているのか。
 まどかには分からなかった。

「鹿目まどかさん―――その力を、どうか私に貸してくれないかしら」

 プレシアは、穏やかな口調で続けていく。
 プレシアの言葉は確かに事実であった。
 途方もない因果を有する鹿目まどかは、ある存在の力を介すればありとあらゆる願いを叶える事ができる。

「そ、それは……」

 だが、それには代償がある。
 魔法少女となり魔女と戦い、力尽きたその時、己もまた魔女となる。
 救いの無い、救われない、残酷な運命(さだめ)。
 その悲劇の果てを、彼女は目の当たりにしてきた。
 魔法少女として孤独に戦い続け、最後は死体も残さず、誰にも知られず死んでいった少女。
 一人の男の為に魔法少女としての願いを使い、結局本心からの願いは叶えられず、絶望に囚われた少女。
 知っている。
 その絶望を、彼女は知っている。


56 : 神さえ砕く力で 微笑む君に会いたい ◆vzkSg/OL/U :2018/11/19(月) 14:39:34 hsEwmYYo0

「お願いよ、まどかちゃん。私の願いを叶えてくれたら、何でもするわ。富でも良い、名声でも良い。
 何だって貴方の欲しいものをあげる。あなたの下僕になったって良いわ。何でも言う事を聞いてあげる。だから―――」

 プレシアの言葉は、もはや懇願に近いものだった。
 膝を折り、縋りつき、涙に目を潤ませて、頼み込む。
 同情が、沸き上がる。
 可哀想だ、とまどかは思わず感じてしまった。それは、彼女の生来の優しさからなのだろう。

「あ、あの……叶えて欲しい願いって、どういうもの……なんですか?」

 だから、思わず問うてしまった。
 プレシアの願い。
 その中身が、どうしても気になってしまったのだ。

「まどかちゃん…?」
「ち、違うんです……願いを叶えるって、決めた訳じゃないんです。けど、何がそんなに貴方を苦しめているのか、その、聞いておきたくて……」
「ええ、ええ! まずは話を聞いて貰うだけで構わないわ! ありがとうね、まどかちゃん!」

 プレシアは満面の笑顔を浮かべ、手元に浮かんだスイッチを操作する。
 すると前面の壁に、何かが映し出される。暗くてよく見えなかったが、そこは大きなモニターになっているようだった。
 モニターの中には、まどかよりも更に二回りは幼い、金髪の少女の姿があった。
 少女は、今よりも若々しいプレシアと笑い合っている。

「この子は、アリシア・テスタロッサ……私の娘よ」

 モニターの中の二人は、幸せそうであった。
 プレシアの表情も、今現在の疲労に染まったそれとは違い、溌剌としている。

「可愛い子でしょう? 少し聞かん坊なところはあったけど、明るくて、優しくて……ええ、本当に優しくて良い子だったの」

 再び、プレシアが手元のキーを動かす。
 画面が移り変わり、何かの動画が流れ始める。
 山間から発生する不可思議な現象。
 見えない波のようなものが空気を揺らし、アリシア達の家へと近付いていく。
 そして、アリシアを呑みこんだ。

「………でも、今からずっと前に、彼女は死んでしまったわ。とある研究室が起こした事故でね」

 場面が切り替わったその時には、アリシアは傍らにいたペット共に、安らかな顔で倒れていた。
 スピーカーから悲痛な声が響き渡る。
 過去のプレシアのものなのだろう。映像の中の彼女は娘の名前を叫び、その亡骸に泣きついていた。
 そして、モニターが消える。
 再び暗闇の中に浮かぶものが、まどかとプレシアだけとなる。
 プレシアはまどかの手を両手で包み、助けを乞うように見上げた。

「私の願いはただ一つ。娘を、アリシアを、生き返らせること―――ただ、それだけよ」

 事故で失った娘の蘇生。
 それがプレシア・テスタロッサの、願い。
 愛娘の死は、彼女を捉えて離さないのだ。
 だから、彼女は縋る。
 どんな願いでも叶えるという鹿目まどかに、縋らざるを得ない。


「お願いよ、まどかさん。私の願いを―――叶えて下さい」


 床に頭を擦り付ける勢いで平伏し、プレシアは願いの成就を託す。
 まどかはどう答えれば良いのか、分からない。
 確かに自分はその願いを叶える事ができるのかもしれない。
 だが、迷ってしまう。
 今初めて出会ったばかりの人の願いを叶えて、今後の人生を魔法少女として生きるのか。
 絶望が決定付けられた彼女達と同じ様になるのか。
 答えが、出ない。

(……私は……私、は……)


 可哀想だと、助けてあげたいと、思う気持ちはある。
 でも、それでも、自分の未来を投げ捨ててまで願いを叶える勇気は持てなかった。
 自分が臆病だからなのか。それとも自分が可愛い卑怯者なのか。


57 : 神さえ砕く力で 微笑む君に会いたい ◆vzkSg/OL/U :2018/11/19(月) 14:41:03 hsEwmYYo0

(私は……どう、すれば……)

 怖い。
 竦んでしまう。
 答えが、出ない。
 そうして、刻々と時間だけが過ぎていく。
 プレシアは手を握り、頭を下げたまま動かない。

「私は……」

 緊張に掠れた声。
 答えが出たわけではない。
 まどかは懊悩したまま、続けていく。




「ごめん……なさい……私には―――できません……」




 迷い続ける感情のまま、彼女が振り絞った言葉。
 それは、おそらく本心から出たものなのだろう。
 恐怖と逡巡が犇めく中で、それでも口から出てきた答え。
 正しいか、正しくないかなど、分からない。
 それはおそらく誰にも判断ができない事だ。
 ただ一つ揺るぎない事実があるとするならば、まどかの回答が拒絶であった事―――それだけが純然たる事実であった。

「ごめんなさい、プレシアさん……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 謝罪の言葉が、部屋を埋め尽くす。
 まどかは、告げたようなものだ。
 プレシアを、アリシアを、見捨てると。
 救えるだけの力を持ちながら、それを振わないと、振えないと、
 確かに、告げた。

 勿論、まどかの選択は何ら可笑しいものではない。
 人間とは、他者よりも自己を優先するのが当然の生物。
 それも魔法少女の結末を知ってしまったまどかが、プレシアの願いを叶えるなど出来る筈がない。
 誤っているとすれば、プレシアの方だ。
 自分の願いを叶え得るというだけで、赤の他人を拉致し、縋り付く。
 まどかの善意に訴えかけ、その未来を投げ捨ててでも、自らを救えと懇願する。
 厚顔で、傲慢な、行動。
 それが例え娘を救う為だとしても、凡そ認められる行動ではない。
 心優しいまどかだからこそ、逡巡し、後悔さえして、懺悔を吐く。
 普通ならば、一笑の元に切り捨ててしまって良い筈なのに、だ。


「そう……そうよね、それが当然の選択だわ」


 ゆらりと立ち上がり、プレシアは未だ謝罪を零すまどかを見る。
 その顔には柔和な微笑みが張り付いたままだった。


58 : 神さえ砕く力で 微笑む君に会いたい ◆vzkSg/OL/U :2018/11/19(月) 14:41:29 hsEwmYYo0


「なら、これで『お願い』は終りね。ごめんなさい、まどかちゃん。困らせてしまったわよね」


 まどかに背中を向け、一歩二歩と歩いていく。
 そして、少しばかりの距離を取って、振り返った。


「辛い選択をさせてしまったわ。もう悩まなくて良いのよ、まどかちゃん」
「プレ、シア……さん……」


 笑顔のまま、プレシアは指先を走らせる。


「次は―――『命令』する番だから」


 瞬間、世界が塗り替わった。
 漆黒に染まった世界が、今度は白銀と灰色の世界に。
 そこは、雪山だった。
 猛烈な吹雪が吹きすさび、数メートル前すらも視認できない天候。
 氷点下を下回る気温は、強烈な突風と相まって、まどかの体温をあっと言う間に奪っていく。
 まどかは拘束されたままの状態で、自身を抱いて身体を温めることも出来なかった。
 それどころか保温行動としてのジバリングすら満足に出来ない。
 服装はもちろん、制服姿のまま。
 まどかは、余りに無防備な姿で、死の世界にあった。


『鹿目まどか。もう一度聞くわ、アリシアを生き返らせなさい』


 まどかの脳裏に、プレシアの声が響き渡る。
 吹きすさぶ烈風と同様の、冷たい声。
 まどかは答える事ができない。
 先程のように悩んでしまって、という訳ではない。
 雪と氷の世界に身体が凍えてしまって、物理的に答える事ができなかった。


『答えは直ぐには聞かないわ。たった数秒で考えが変わる訳ないものね』


 死ぬ。
 このままでは、凍え死んで、しまう。
 寒い、寒い、寒い。
 誰か助けて。
 お願い。
 お願いします。
 助けてくださ―――。


『少し頭を冷やして、ゆっくりと考えてちょうだい』


 まどかの懇願は届かず。
 それきりプレシアの念話は聞こえなくなった。


59 : 神さえ砕く力で 微笑む君に会いたい ◆vzkSg/OL/U :2018/11/19(月) 14:42:20 hsEwmYYo0


 そして、十数分後。
 まどかの身体が、再び暗闇の世界に戻った。


「どうかしら、考えは変わった?」
 

 身体や服が凍り付いたまどかを見下ろし、プレシアは淡々と問う。
 まどかは答えられない。
 当然だ。
 嵐の雪山に装備もなしに放置され、いきなり言葉を発せられる訳がない。
 それどころか、


「あら、やだ。心臓が止まり掛けてるじゃない」


 彼女は既に命の危機にあった。
 体温を奪い尽された身体は、既に一切の稼働を止めようとしていた。
 今にも停止してしまいそうな微弱な鼓動。
 消えかける命の灯火を―――


「起きなさい、このグズ」
「いっ、ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」


 ―――プレシアが無理矢理に燃え上がらせる。
 紫電の魔法が直撃するや否や、まどかは絶叫を迸らせて目を覚ました。
 どんなトリックか、その身体は激痛と共に雪山に連れられる前の健康体へと戻っている。


「さぁ、聞かせて。貴方は、私の願いを叶えてくれるの?」


 まどかは答えられない。
 思考が、追い付かないのだ。
 死に掛けた身体で、今は何故だか元の姿で生きていて、でも死の記憶はあって。
 訳が分からない。
 理解が、追い付かない。
 一体、何がどうなって―――、


「早く、答えて」
「ぎっ、ああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 混乱するまどかに、再び紫電が奔る。
 激痛が、身体を、支配する。
 拘束すら引きちぎらんと、身体が跳びはねる。
 明滅する視界。痙攣する身体。
 数秒の蹂躙の後、光が止んだ。


「あああああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! 叶えます、叶えます、叶えさせて下さい!!!」


 もはや、まどかに意志はなかった。
 頭を垂れ、プレシアに懇願する。
 それは、奇しくも少し前の彼女とプレシアとを逆さまにしたかのような光景だ。


60 : 神さえ砕く力で 微笑む君に会いたい ◆vzkSg/OL/U :2018/11/19(月) 14:43:02 hsEwmYYo0

「その言葉が聞きたかったわ。インキュベーター、出番よ」
『はいはい。存外待たせてくれたね』
「良いでしょう、これで貴方の役目も果たせるんだから」
『それは、どうだろうね』

 するりと、暗闇から現れたのはまどかも良く知る存在だった。
 インキュベーター。
 願いを代償に魔法少女を生み出す、地球外生命体だ。


『さぁ、まどか。君の願いを教えてくれ』
「ア、アリシアを、アリシア・テスタロッサを蘇らせて!!」


 矢継ぎ早に願いを告げる。
 そこに躊躇や苦悩はなく、ただ助かりたいがために願いを吐く。
 だが―――


『……ダメだよ、まどか。その願いじゃ、とてもエントロピーを凌駕しない』


 宇宙の生物は、願いを拒絶した。
 まどかの目が見開かれる。


「話が……話が違うよ! 何でも叶えてくれるって、私なら何でも叶えられるって、言ったじゃやない!」


 血走った目で、口端から泡すら飛ばして、まどかは叫んだ。
 いつもの彼女のものとは思えない、ヒステリックな金切り声が室内に木霊した。
 まるで呆れたように、肩を落とし、首を振るインキュベーター。
 彼の声が、脳裏に響く。


『僕等が最も求めているのは、感情の転移から産まれるエネルギーだ。
【希望】から【絶望】に転じる感情の振れ幅こそ、僕の欲するものなのに―――今の君からは、今の願いからは【絶望】しか感じ取れないよ』


 失望した、とでも言うかのような話し方だった。
 言葉が、出てこない。
 パクパクと口を開閉させ、椅子にもたれかかるまどか。
 その身体からは、力という力が抜けきっていた。


61 : 神さえ砕く力で 微笑む君に会いたい ◆vzkSg/OL/U :2018/11/19(月) 14:44:54 hsEwmYYo0


「……やっぱり無理なのね」
『……プレシア。君は、この結末を分かってやっていただろう』
「駄目で元々よ。可能性が少しでもあるのなら、試す価値はあったわ」
『それは困るよ。彼女は僕達にとって、とても大切な存在なんだ。無闇に壊したというのなら、相応の措置を取らせてもらうけど』
「大丈夫よ。それについては考えがあるわ」


 プレシア達の会話も、最早まどかの耳には届いていない。
 絶望が、彼女の内を埋め尽くす。
 死よりも辛かった、あの極寒が思い出される。
 死にたくない。でも、あの世界は、もっと嫌だ。


「……どうして」


 気付けば、言葉が零れていた。


「どうして、こんな事、するんですか?」


 プレシアに、こんな残酷な事ができる魔女に、まどかは問い掛ける。


「言ったでしょう。アリシアのためよ」


 それが、プレシアの答えだった。
 今の彼女の全てと言っても良い回答。
 その答えに、まどかの思考が沸騰する。


「その為なら、何だってするって言うの!? おかしい、おかしいよ!! だって、仕方ないじゃないですか!
 不慮の事故だって、残酷な別れだって、この世にはたくさんあるんですよ!! でも、皆、それを受け入れて、生きようとする!!
 そういうものじゃないですか!! それを、いつまでもいつまでも過去にすがって! そんなのおかしい!! あなたの弱さを、私に押し付けないで!!!」


 感情が、爆発する。
 耐え難い仕打ちに、己に降りかかる恐怖に、彼女は自身を制御できなかった。
 おかしい、と。
 娘の死を受け入れろ、と。
 あなたは弱い、と。
 まどかは、告げた―――告げてしまった。
 プレシアの表情から色が消えた。
 空虚な表情で、痛いほどの沈黙と共に、まどかを見詰める。


「……受け入れろって言うの? あの、事故を。あの子の、死を」


 ようやく口を開いたプレシアは、何処かがおかしくなっているかのようだった。 
 無機質な声、壊れたブリキ人形のようなたどたどしい動きで、プレシアはまどかに近付く。
 異様な様子に、まどかの激情も一瞬で静まっていた。
 まどかは恐怖を張り付かせ、プレシアを見る事しか出来ない。


「そう―――そうなの」


 プレシアの手が、横に突き出される。
 ひっ、と身体を縮こませるまどかだったが、紫電が放たれる様子はない。
 代わりに、空間が割れた。
 漆黒の空間に青色の穴が空き、何処かへ繋がったのだ。
 何が起きようとしているのか、まどかは息を呑んで見守っていた。


62 : 神さえ砕く力で 微笑む君に会いたい ◆vzkSg/OL/U :2018/11/19(月) 14:45:27 hsEwmYYo0

「そうしろと、言うのね」

 その穴から現れたのは、一人の幼児だった。
 少し茶色がかった髪に、人懐っこいたれ目の瞳。
 まどかにも見覚えのある、男の子だった。


「たっ……くん……?」


 彼女の弟は、何が起きたのか分かっていない様子だった。
 キョロキョロと周囲を見回し、まどかの姿を目に止めるとにこりと笑みを浮かべた。
 まろか、と彼が言う。


「なら―――貴方も、受け入れて、みなさい」


 そして、それが―――彼の遺言となった。
 プレシアの紫電が、年端もいかない彼に直撃する。
 甲高い絶叫と共に、彼はぼこぼこと身体を膨れ上がらせた。
 関節は曲がってはいけない方向に曲がり、お腹や顔が巨大な風船のように膨れ上がっていく。
 血が至る所から噴き出し、目玉がピンポン玉のようにあらぬ方向へ飛んでいく。
 そうして、数瞬。
 彼の身体が弾け飛ぶ。
 残ったのは、どす黒い染みと、何処かの内臓であっただろう謎の固まり。
 それらが部屋の、其処ら中に飛び散ってしまっていた。


「え……」


 呆然とした声が、漏れる。
 思考が、付いていかない。
 何が、起きたのか、分からない。


「確か、まだいたわよね」


 指を鳴らすと、そこには二人の人物が。
 まどかの母親と父親。
 突然の出来事に二人は驚いた顔で辺りを見回し、まどかの姿を発見すると、口を開いた。
 まどか、これはどうなってるんだい、と。
 まどか、君は無事かい? と。
 聞いて、駆け寄ろうとして、


「止め―――」


 まどかが声を吐くより先に。
 パァンと。
 二人が、弾けた。
 彼女の弟と同様に、訳の分からないものに彼等の姿は変わっていた。


「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 気が触れたような声が、まどかの口から溢れ出る。
 床に広がる3つの赤い染みに触れようと、拘束された身体を無理矢理に動かし、遂には椅子ごと地面に転げ落ちた。


63 : 神さえ砕く力で 微笑む君に会いたい ◆vzkSg/OL/U :2018/11/19(月) 14:46:05 hsEwmYYo0


「あら可哀想。家族が皆死んでしまったみたいね」


 淡々とした言葉だった。
 三人の人間を殺害した直後とは思えぬ程に、落ち着き払った声だった。


「でも、貴方なら受け入れられるのでしょう? 貴方は、強いんだから」


 虚ろな瞳で、まどかはプレシアを見上げた。
 プレシアの顔は、魔女の顔は、笑っていた。
 ざまあみろとでも言うように、濁った愉悦に、歪んでいた。
 まどかの中で、何かが切れる音が、した。


「―――殺す! 殺す殺す殺す、殺してやる!! プレシア、お前を、お前を、殺すうううううううううううううううう!!!」


 そこに少女の面影はなく、狂気と殺意に囚われた獣がいるだけだった。
 プレシアへ憎悪をぶつけんと、拘束を忘れて暴れ回る。
 皮膚が避け、四肢から血が滴ろうと、彼女は一切気にも留めない。
 憎しみと、殺意だけが、今の彼女を支配していた。
 


「インキュベーター、願いを叶えて!!!」


 果てに、彼女は至る。
 あらゆる願望を成就させるという存在。
 その存在に、今の己が望みを掲げる。


「あいつを、私に、殺させ――――――――」


 叫びに呼応するようにインキュベーターの身体が光った―――その瞬間だった。
 まどかの周囲に緑色の光が発生した。
 光の発生源はプレシアの手中にある緑色の宝石。
 光に包まれると同時に、彼女は動きを止める。
 それは、まるで彼女の時間だけが止まってしまったかのようであった。


『お見事だ、プレシア・テスタロッサ。これで彼女は魔法少女となる』
「私を殺す為だけの魔法少女に、ね。まぁ、これくらいのイレギュラーはあっても構わないわ」


 既にプレシアはまどかを見ていなかった。
 まどかのことも、部屋に飛び散った鹿目一家だったものも気に留めず、モニターを操作する。
 次々と浮かび上がる資料は、恐らくやはり、アリシアの蘇生に関わるものなのだろう。


『まだ、何か続けるつもりかい?』
「ええ。あなた達の『奇跡』では願いは叶わない。私が知る『奇跡』でも願いは叶わない。だから、また別の『奇跡』に頼ろうと思ってね」
『執念というものなのかな。やれやれ勿体無いな。君がもう少し若ければ、良い魔法少女になれたというのに』
「……その台詞、余り女性に使わない方が良いわよ」


 星の数程ある情報の一つに、プレシアは手を止める。
 それは、とある島国の片隅で執り行われた魔術師同士の争いについて書かれている。
 七機の英霊を召喚し、その最後の一人に願いを叶える権利を与える殺し合い。
 その真なる目的。
 『天の杯』―――ヘブンズ・フィール。
 

「さぁ、次なる『奇跡』よ。私の願いを叶えてちょうだい」


 プレシアの声が高らかに響く。
 己の願望成就のため、ありとあらゆるものを犠牲にし、ありとあらゆるものを利用する。
 その姿は、彼女の外見と相まって、まるで御伽話の中の魔女そのものに見えた。


64 : 神さえ砕く力で 微笑む君に会いたい ◆vzkSg/OL/U :2018/11/19(月) 14:46:28 hsEwmYYo0





 そして、鹿目まどかが気づいた時には、世界は再び一変していた。
 見知らぬ市街地。
 身体を縛り付けていた枷はなく、だが、プレシアの姿も消えてしまっている。

『私を殺したければ、まずは私の元に辿り着く事ね。貴方以外の全てを殺し尽した時、道は開かれるわ』
 
 異常な様子で周囲を見やり、プレシアを探すまどか。
 その脳裏に、声が響く。
 殺したければ、辿り着けと。
 いけしゃあしゃあと、プレシアは語る。


「あ、ああああああああああああああああああああああああ!!! 逃げた、逃げた、逃げたなああああああああああああああああ!!!」


 ガリガリと、血がにじむ程に頭を掻きむしり、まどかが激昂する。
 殺したい、殺さなくてはいけない相手が、眼の前から姿を消した。
 逃げた。逃げられた。
 逃がすな。逃がしてたまるか。


「ひっ……!」


 ふと、声がする。
 声のした方を向くと、そこには一人の男が物陰から自分を見つめていた。
 丸々とした巨大な身体を、精一杯に小さくして、震えている。
 まどかの行動に、躊躇はなかった。


「逃が、さない……逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない!!」


 光と共に、その姿が変貌する。
 漆黒のドレスと、禍々しく刺々しい漆黒の弓。
 そこに添えられる光の矢もまた、暗く黒色に光っている。
 それは、かつて彼女が思い描いた魔法少女の姿とはとても似つかなかった。
 夢や希望を届ける存在にはとても見えない。
 見る者の危機感を煽るような、恐怖の具現が、そこにあった。
 男もまた身の危険を感じたのだろう。
 巨大な身体を必死に動かし、逃亡を図る。
 その背中に、まどかは標準を定める。
 数瞬後、放たれる漆黒の弓矢。
 それは男の上半身を消し飛ばし、後方のビルをまとめて貫通させた。
 揺れる市街地。崩れる何個かのビル。
 己が起こした破壊の残滓を見ようともせず、まどかは歩き始める。
 


「絶対にお前の前に辿り着く! そして殺す、殺してやる……プレシアアアアアアアアアアアアアア!!!」



 少女は地に堕ち、狂気の殺意に心を燃やす。
 これは、少女が願いを叶える物語。
 怨敵の死を望む、物語。
 救済の女神は、もはや何処にも存在しない―――。





【栗田良寛@アイシールド21 死亡】

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:狂気
[装備]:まどかのソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:プレシアを殺す、殺す殺す殺す殺す―――!!


65 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/19(月) 14:48:40 hsEwmYYo0
投下終了です。
こういう展開はパロロワだからこそ書けますね。書いてて最高に楽しかったです(ゲス顔)


66 : 名無しさん :2018/11/19(月) 14:54:27 Ck6hpvy20
投下乙です
く、栗田ァ!!
とんでもないマーダーが生まれてしまいましたね……波乱の予感しかしません


67 : 名無しさん :2018/11/20(火) 00:16:31 4Df0HSCA0
投下乙です
まさかの狂マーダーと化したまどか恐ろしい…ほむほむが見たら泣くぞ


68 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/22(木) 18:02:41 ddm.AXeo0
感想ありがとうございます。
やっぱりパロロワ書いていると、狂マーダーの一人は書きたくなりますね。

ではスティーブ・ロジャース、美樹さやかで6話目投下します。


69 : 守るもの ◆vzkSg/OL/U :2018/11/22(木) 18:04:41 ddm.AXeo0
「……あー、君はどこから来たんだい?」

 スティーブ・ロジャースは、心底から困り果てていた。
 突然と開始された殺し合いに、ではない。
 もちろんそれにも困ってはいるが、今この瞬間彼が直面しているものとは違う。
 彼の眼の前には、一人の少女がいた。
 殺し合いが始まった少ししたところで出会い、保護した少女。
 鮮やかな青色の髪。肌の色からしてアジア系だろう。
 まだ年端もいかない少女は、殺し合いの最中で余りに隙だらけに呆然と立ち尽くしていた。
 それを発見し、急いで保護し―――今に至る。
 別段、彼にとっては特別な行動ではない。
 弱きを助け、強きに立ち向かう。
 それこそが、彼……スティーブ・ロジャースの、キャプテン・アメリカと呼ばれる男の生き方だからだ。

(……だが、これは……)

 しかし、今まさに彼は対応を考えあぐねていた。
 その理由は単純明快。
 保護した少女の反応が、余りに乏しいのだ。
 声を掛けても、肩を叩いても、上の空。
 俯いたまま、まるでこちらが見えていない様子で、一人で前へと進んでいってしまう。
 彼自身、そこまでコミュニケーション能力が高い訳ではない。
 友人は少なく、ガールフレンドがいた試しもない。
 ようやく見付けた心の通い合う子も、本格的な付き合いが始まる前に(様々な要因が折り重なってしまって)会う事が出来なくなる。
 つまりは、スティーブは、年頃の少女にどう声を掛ければ良いのか分からないのだ。
 それは、まるで反抗期の娘を前にした父親のように。
 困り果てた様子で、彼は精一杯会話のきっかけを作り出そうとしていた。


「えっと、名前はサヤカだったな。どうだい、この街に見覚えはあるかな?」
「……ないです」

 にべもない。
 会話はそこで途切れ、またずんずんと歩ていってしまう彼女を追いかける形となる。
 彼女が自分を拒絶している様子は、さすがのスティーブにも分かった。
 だが、その理由は分からない。
 女心というのは山の天候のように移ろいやすいもの、とは誰の弁だったか。

(……思い出せないが、トニーかバッキーのどちらかだろうな)

 女性の扱い方というものを少しは二人に聞いておけばとさえ、思ってしまう。
 心の中で溜め息をを吐きつつ、彼は少女に付いていく。


70 : 守るもの ◆vzkSg/OL/U :2018/11/22(木) 18:05:09 ddm.AXeo0
 会話にすら至らぬコミュニケーションの中で、少女は名を『ミキ・サヤカ』といった。
 姿からして、まだ学生なのだろう。
 若く、幼い少女だ。スティーブとしても、こんな殺し合いの中で彼女を放って置く事は出来ない。
 疎ましく思われているとしても、見過ごす事だけは出来ないのだ。
 
(……うーむ、どうするか……)

 悩みつつも彼女の後ろを付いていくスティーブ。
 その中で―――彼は、聞いた。
 遠方から雷のように鳴り響く轟音。
 ガキンガキンと耳をつんざくような音と爆発音とが、繰り返し鳴り響く。
 
「ッ、これは……!」

 様々な戦いを経験してきたスティーブはすぐさま理解する。
 どこかで戦闘が行われているのだ。
 この音はそれを源として発生しているもの。
 殺し合いが、行われているのだ。

「くそっ!」

 理解すると同時に、彼は走り出していた。
 謎の女性により集められ、強制された殺し合い。
 正も義もない、ただ命を弄ぶかのような凄惨な争い。
 捨て置く事など、できやしない。
 彼が彼である限り、スティーブ・ロジャースは、キャプテン・アメリカは、己が信念に従って殺し合いを駆ける。

「サヤカ、君は来た道を戻れ! 最初に出会った場所で落ち合おう!」

 振り返り、声を掛けた瞬間だった。
 視界の中で何かが光り輝くのを、スティーブは見た。

(何が―――)

 白色の、眩い輝き。
 ワカンダ製の盾を掲げ、その影に身を隠し、スティーブは何が起ころうと対処できるように構える。
 光は数瞬で消え失せ、同時に駆け出てくるものがあった。
 その速度は凄まじく、一瞬でスティーブとの距離を詰めてくる。
 盾を持つ両手に力を籠めるスティーブ。
 だが、予想していた衝撃は来ない。
 光の中から現れたものは、スティーブを飛び越えて、通り過ぎていったからだ。
 交錯しつつ、スティーブはその人物の姿を見る。
 見覚えのある顔だった。
 それは、

「サヤカ!?」

 美樹さやかその人。
 ただその姿は大きく変わっている。
 青を基調とした服装に、白い外套、
 何よりその右手に握られたもの。
 それは、彼女の上半身ほどはあろうかという直刃のサーベルだった。
 常人離れした速度でもって、彼女は一直線に道を駆けていく。
 その方角は、まさに戦闘音が鳴り響く方角と同一。
 スティーブの脳裏に、ある思考が浮かぶ。


71 : 守るもの ◆vzkSg/OL/U :2018/11/22(木) 18:05:47 ddm.AXeo0

(まさか―――戦いに乱入するつもりか!?)

 戦いを止めるつもりなのか、はたまた更なる火種を撒くつもりなのか。
 その目的は分からないが、彼女は確かに武装をした状態で鉄火場に近付かんとしている。
 スティーブの判断も俊敏なものだった。
 走り去る彼女を、彼の全力でもって追いかける。
 彼もまた超人血清を打ち、人間の限界点ともされる身体能力を持つ者だ。
 ソーやハルクといった本物の超人には及ばずとも、常人とは一線を画す力を有している。
 その速力も然り。彼が全力で走れば、車のそれと同等の速度を出す事ができる。
 だが、

(離、される……!?)

 彼の脚をもってして、さやかとの距離はつまらない。
 それどころか、徐々に離されていく。

(サヤカ、一体君は―――)

 スティーブは困惑していた。
 一見ただの女子学生でしかなかった彼女が、閃光と共に変身し、自分以上の身体能力を発揮している。
 彼女もまた特異的な力を有した存在なのだろう。
 自分や、ハルクのような人為的な産物か。ソーのような、先天的な存在か。
 判断はつかないが、超人的な力を有しているという事だけは分かる。
 離れていく背中に、それでも懸命に食らいつく。
 身体能力の差を、持ち前の根性でもって何とか埋めていた。
 周囲の景色が森林から市街地に変わる。
 接近したからか、戦闘音も段々と巨大になっていた。
 空の彼方では、黄色の光が夜天に淡く輝いている。地面を振動し、戦闘の激しさを物語っている。
 そして、一際大きな輝きが空に走ったその時だった。
 眩いまでの金色が、市街地を染め上げる。
 それは、神々しさすら感じる光景。
 それきり戦闘音は聞こえなくなった。

(……くっ、何が……!)

 事態に付いていけないながらも、スティーブは走り続ける。
 先を行くさやかも足を緩める様子はない。
 そして、彼は見た。
 道路の彼方。
 夜天を見上げ立ち尽くす少女がいる。
 人間の限界を行く視力は、薄暗闇の中でも数百メートルは先にいる少女の姿を捉える。
 青色のドレス、銀の甲冑に身を包んだ姿。
 端正な顔立ちは、幼いながらも美人と断ずるに充分すぎた。
 その魅惑的な顔には―――真紅の返り血が、付着していた。
 それに気づいているのか、いないのか。
 さやかは一切とスピードを緩める様子もなく、女性へと接近しようとしている。

(―――ダメだ!)

 スティーブの行動は迅速だった。
 両手に装着されたシールドの片方を取り外し、投擲する。
 投擲を用途と設定されていないため狙いは甘いが、それでも何とか目標の地点へと届いてくれた。
 シールドが弧を描き、横合いからさやかの両足に絡まるようにぶつかる。
 足を取られ転倒するさやかに、スティーブは直ぐに追い付き、近くのビルへと引き込んだ。
 甲冑の少女が、こちらに気が付いた様子はない。

「……何するの」

 物陰に隠れる二人。
 さやかの両肩を掴み、彼女と真正面から対峙するスティーブ。
 見上げるさやかの瞳は、やはり空虚なものだった。
 何も見ていない、見ようとしていない瞳。
 彼女が、その心に何を抱えているのかスティーブには分からない。


72 : 守るもの ◆vzkSg/OL/U :2018/11/22(木) 18:06:21 ddm.AXeo0

「……彼女は危険だ。おそらくは殺し合いに乗っている」
「だから?」
「君が凄まじい力を持っているのは分かった。だが、それでも……戦うべきじゃない」
「……何で?」
「君はまだ子どもだ。こんな戦いに参加する必要はない」

 年端もいかない子どもがサーベルを持ち、誰かと殺しあう。
 そんな光景をスティーブは見たくなかった。
 何より、こんな表情をする者に戦わせることなど、彼には出来ない。
 さやかは、何も語らない。
 ただ虚無でもって、スティーブを見詰める。

「―――どいて」

 痛いほどの静寂の中、それだけが零れた。
 スティーブには分からない。
 さやかの戦う理由。彼女を戦場へと赴かせる原因。
 なぜ、そんな辛い目をしえているのか。
 何もかもが分からない。

「―――どかない」

 スティーブが、毅然と返す。
 こんな状態の彼女を放って置くなど出来ない。戦いの場にいかせるなんて出来ない。
 だから、譲らない。譲ることはできない。

「どけって―――言ってるでしょ!」
 
 直後、激昂と共に凄まじい力でスティーブは押し飛ばされた。
 彼の巨体がまるで人形のように容易く宙を舞い、床に転がる。
 そんなスティーブを一瞥とせずに、さやかが再び駆け出した。
 割れた窓を潜り出ようとした時だった。
 彼女の行く手を遮るように、それが飛来する。
 スティーブの盾。
 押し飛ばされながらも投げられた黒色のシールドが、少女の進行をまたもや阻止する。

「行かせる訳にはいかないな。君がどれだけの力を持っていようと、僕よりも遥かに強かろうと、今の君を戦場に立たせる訳にはいかない」

 さやかの掌底が命中した胸部を押さえながら、スティーブは立っていた。
 彼の強靭な意志を示すように、その瞳には強い灯火が輝いている。


73 : 守るもの ◆vzkSg/OL/U :2018/11/22(木) 18:06:41 ddm.AXeo0
 少女の瞳が、僅かに見開かれる。
 自分よりも遥かに弱い者が、押し退けられ、土に塗れ、それでも立ち塞がろうとする。
 こいつは何だ、と思わず考えるさやかだったが、驚愕はすぐさま苛立ちで塗りつぶされる。
 まだ邪魔をするというのなら、もっと痛み付けてやるしかない。

「言って分からないなら―――」

 地面を蹴ると同時に、彼女の姿が掻き消える。
 スティーブの真後ろに超常の速度で回り込み、その勢いでもって、隙だらけのスティーブへ拳を振るわんとする。

(なっ……!?)

 だが、拳がスティーブに届く事はなかった。
 視界外からの攻撃をスティーブは身体を斜めに倒して、回避したのだ。
 同時に後方に向き直りながら、今度はスティーブが拳を振るう。
 回避と攻撃が同一に含まれた、流れるような動作だった。
 自分よりも強い相手と戦い続けてきた彼は、身体能力の差を埋めるだけの『経験』がある。
 さやかと同速度で動く事はできずとも、見切る事はできる。
 彼女の攻撃を見切り、予測し、最適な動作でもって回避と反撃を行う。
 さやかからすれば遅いとさえ感じる攻撃が、だが避けられない。
 空振りをした態勢では、回避行動を取れない。
 スティーブの拳がゆっくりと近付いていき、そして―――彼女の意識が、闇に吸い込まれた。





「サヤカ、君は一体……」

 自らの拳により気絶した彼女を抱え、スティーブは呟く。
 意識を失うと同時に、さやかの姿は元の制服姿に戻った。
 手中にあった武器も掻き消えていて、こうしてみるとやはり普通の少女にしか見えない。
 少女が有している力。
 その原理など、スティーブには一切と分からない。
 だが、彼女が苦しみを抱えている事は分かる。
 苦しみ、悩み、その末の『何か』が、彼女を戦場へと突き動かす。
 傭兵のように、これが仕事だと割り切っている訳ではない。
 兵士のように、何かを守るために戦っている訳ではない。
 ヒーローのように、使命感に燃えて戦う訳でも、ない。
 まるで自己の破滅を望むかのように、戦場へと向かおうとする。
 スティーブも、そういう人物は何度か見た事はある。
 その結末は、大抵同じものだ。
 幸運で(その者にとっては不運かもしれないが)何度かの戦場では生き延びるかもしれないが、結局はあっさりと死んでしまう。

「……死なせはしないさ」

 喪失の恐怖を、彼は知っている。
 親友を失い、戦友を失い、恋人を失い、そして守るべき世界の住人の半数すら失い、彼はここにいる。
 もう、誰も殺させはしない。
 全てを守る事はできなくても。それでも、もう誰も失いたくなどなかった。
 掲げる星条旗もなく、常に共にあった盾もない。
 世界から追われる身となり、最悪の敗北すら経験して尚も、一層強固になった信念でもって、立ち上がる。
 キャプテン・アメリカ。
 最初の復讐者(アベンジャー)が、殺し合いを行く。


【スティーブ・ロジャース@アベンジャーズ】
[状態]:胸部にダメージ(小)
[装備]:ワカンダ製の盾@アベンジャーズ、スティーブのスーツ(インフィニティ・ウォーver)@アベンジャーズ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:もう誰も死なせない。
1:サヤカを保護する。
2:甲冑の少女(セイバー)を警戒


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:さやかのソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:気絶中


74 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/22(木) 18:09:09 ddm.AXeo0
投下終了です。
近日中にアベンジャーズ4の予告が出るとの噂ですね。タイトル含め、楽しみで仕方ないです。


75 : 名無しさん :2018/11/23(金) 19:41:55 r6F3CSk60
投下乙
まろか精神ぶっ壊れてて草ァ!
某ロワのシータみたく、もう元には戻せなさそうだ…

さやかも危ない状態での参戦だし、まどまぎ勢やべー奴しかいねえな!(マミさんを除く)


76 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/26(月) 20:54:28 YwcroyMA0
感想ありがとうございます。
まどまぎ勢は本編でも大体ヤバい感じですからね。ロワでも動かしやすいです。

では、ブラックジャック、カズマ、ストレイト・クーガーで7話目を投下します。


77 : 命の儚さを知る者たち ◆vzkSg/OL/U :2018/11/26(月) 20:55:28 YwcroyMA0
 カズマは、沈黙と共に夜天を見上げていた。
 何もかもが気に食わない現状。
 突然の殺し合いも、あの濁り切った目をした女も、陰気臭いこの市街地も……何もかもが鼻につく。
 特に、あの女。
 人を人とも思っていない目。カズマもかつて何度も見た事があった。

「いいねえ。悪役張るってんなら、こんぐらいムカつく奴の方がやりやすいってもんだ」

 彼の最後の記憶は、全てが終わった後にあった必然ともいえる宿敵との喧嘩であった。
 互いに満身創痍となりながら、なけなしのアルターを生成し、勝利を確信して最後の拳を振るった。
 結末は分からないが、カズマの確信は揺るがない。
 俺の、勝ちだ。
 最後の言葉は心底からの確信だったからだ。

「粗方怪我は治っちゃいるが……まぁ、こっちはどうにもなんねえよなあ」

 どのような原理か、最後の喧嘩での傷は全て治癒されていた。が、彼の生き抜いた証である、慢性的なアルター能力の副作用はそのままだった。
 ただ立っているだけで痛みを訴える身体。動かすだけで鋭い痛みが走る右腕。
 過剰なまでのアルター能力の行使は、彼の肉体を大きく蝕んでいる。

「関係ねえ。ああ、関係ねえさ」

 だが、それは彼にとって些事に過ぎない。
 どれほどの痛みがあろうと、関係はないのだ。
 こうと決めた道を、自分が進むと決意した道を、ただ進むだけ。
 あの女をぶっ潰すと、彼は既に決意していた。
 あいつは敵だと、一目見て彼は分かってしまっていた。
 だから、進む。
 己を脅かさんとする敵を潰すために、カズマは行く。
 歩き始めた彼の耳に、空気をつんざくような音が聞こえた。

「はっ、早速盛り上がってんじゃねえか」

 戦いが、ある。
 気に食わない殺し合いの中で、気に食わない戦いが始まっている。
 なら、やることは一つ。

「行くぜえ、おい!」

 光る拳。現れるは金色のガントレット。背には三枚の赤羽が。
 それは殴るという行為に特化した、まさにカズマという男を現すアルター。
 地面を殴り、その勢いで宙を舞うカズマ。
 最強のアルター使いが、殺し合いの会場を進んでいく。


78 : 命の儚さを知る者たち ◆vzkSg/OL/U :2018/11/26(月) 20:56:00 YwcroyMA0



 ―――時は僅かに遡る。


 ブラックジャックは、夜の市街地を歩いていた。
 突然に始まった殺し合いの中で、普段と同じ様に漆黒の外套で身を包み込み、俯きがちに進んでいく。
 ブラックジャックには、何も分からなかった。
 この殺し合いの事も、殺し合いを進める女性の事も、何故自分がこんなものに参加させられているのかも、何も分からない。
 金銭が目的か、はたまた嘗て何処かで恨みでも買ったのか。
 彼はモグリの医者である。莫大な資金を代償として、もはや数えきれぬ程の命を救ってきた。
 そして、その過程で―――どうしても救えない命とも、何度も出会ってきた。
 彼の元に訪れる患者は、本来のやり方では二進も三進も行かなくなった者が殆どだ。
 正規の医者では救えない者や、正規の医者に掛かれない者。
 そんな者達が絶望に打ちひしがれた中で耳にする、天才的な闇医者の話。
 藁にも縋る想いでその話を信じて、訪れる。
 彼等は期待する。
 その闇医者が魔法のように、自分の……もしくは大切な誰かの命を救ってくれるのだと。
 だが、事実は違う。
 彼は確かに他と隔絶した技術と知識、固定観念に捕らわれない独創的な閃きを持って、通常の医師で救えぬ命を救って見せる。
 しかし、そんな彼であってしても、限界はあるのだ。
 治せない病気、治せぬ怪我。人知の及ばぬ絶対的な領域が、確かに存在する。
 その領域に、時に彼は挑み、そして敗北をする。
 ブラックジャックは、神ではない。
 人より多くの知識を持ち、神業のような技術を持つ―――医者だ。
 救える命を救うだけの、医者でしかない。
 だから、時に彼は侮蔑を、憤怒を、失望を、暴力すら、ぶつけられる。
 なぜ救わなかったと。なぜ救えなかったと。
 こんなにも金を積んだのに、治して見せると言ったのに。
 どうして、と恨みを買われる。
 そのことに、彼は不満を覚えたりはしない。
 救えぬ命に悔しさを覚えど、自分の不甲斐なさに怒りを覚えど、遺族の批判に憤りなど覚えない。
 それは人として正常な反応であり、事実であるからだ。
 時に、行き場を失った感情は思いもよらぬ形で爆発をする。
 この殺し合いも、そんな感情の果てなのかもしれない。
 自分が原因かは分からぬが、そんな可能性も充分にあるのだろう。
 
「……ふふ、ブラックジャックも年貢の納め時かね」

 思わず笑いながら、ブラックジャックはある施設を目指していく。
 この殺し合いの会場にそんなものがあるかは分からないが、とにかく彼は『それ』を探す。
 結局のところ、自分にできることなど一つしかないからだ。
 医者として、命を救う。
 最後の一人になるまで終わらぬ殺し合いにおいて矛盾した行動でしかないが、彼にはそれしか思い浮かばない。

「やれやれ、病院は一体どこにある?」

 彼の目指す地点とは、病院。
 怪我をした者が集い、治療を求める施設。医者がいるには当然の場所。 
 ブラックジャックは、とにかく病院を探そうと市街地をうろついていた。
 幸い、彼の商売道具は没収されていなかった。
 数多の、だが必要最低限の医療用具が詰め込まれた愛用のバック。
 外套の裏にあるメスの数々も無事だ。
 あとは設備さえあれば、彼の本領が十二分に発揮される。
 その為に暗闇の市街地を進んでいるのだが、


79 : 命の儚さを知る者たち ◆vzkSg/OL/U :2018/11/26(月) 20:56:32 YwcroyMA0

「……っ、なんだ!?」

 突如、何十もの銃声が静寂を切り裂いて市街地に木霊した。
 まるで機関銃の掃射が間近で行われたかのようだった。
 同時にびりびりと空気の痺れるような音が響く。
 近くのビルの中に飛び込み、身を隠すブラックジャック。
 物陰に潜んで様子を伺う彼であったが、事態は更に進行をしていく。

「なっ……!?」

 なんと市街地が輝きだしたのだ。
 暗闇を切り裂くように、市街地の奥で何かが発光している。
 色はピンク色。
 まるで光で形成された桜が満開となったようだった。
 あれは何だ、とブラックジャックが目を剥いたその時、爆発が巻き起こる。
 轟音と烈風と閃光を伴った、ピンク色の爆発だ。

(市街地が光っ―――) 

 爆発は指向性をもって直進していく。
 光の奔流が、ブラックジャックが潜むビルを蹂躙した。
 運よく直撃はしなかったものの、凄まじい爆風がブラックジャックを木の葉のように宙に舞わせる。
 勢いよく背中から落ちる。余りの衝撃に息が詰まるブラックジャックだったが、災難はまだ終わらない。

(マズい……!)

 ビルが聞くに堪えぬ断末魔をもって軋み始めていた。
 痛みに喘ぐ身体を何とか動かし、出口へと向かう。
 ビルから響く軋みは、段々と大きな音に変わっていく。
 そして、遂に限界を迎えた。
 ブラックジャックが窓から飛び出ると同時に、ビルが轟音をたてて倒壊を始めたのだ。
 何とかビルから出たものの、距離は間近であってないようなもの。
 必死に駆けるブラックジャックの上に影が落ちる。
 満月の夜天を隠すように、巨大な瓦礫が彼の頭上に落ちてきたのだ。

「うわぁあーーーーーーっ!」

 叫び声は、轟音に掻き消えて。
 瓦礫は慈悲もなく彼の身体を押し潰して、地面へと落下した。
 数多の命を救った伝説の医者はここに命を散らす事になる―――筈だった。


「おい、大丈夫かよ。あんた」


 医者は、漆黒に塗りつぶされた世界の中で声を聞いた。
 闇がひび割れ、月明かりが再び降り注ぐ。
 そこには一人の男がいた。
 右手を天に突き上げ、ブラックジャックを見下ろしている。
 男は若く、まだ十代から二十代だろう。


80 : 命の儚さを知る者たち ◆vzkSg/OL/U :2018/11/26(月) 20:57:24 YwcroyMA0

「あんたは……」

 ブラックジャックは月明かりを背にする男を見詰めていた。
 あの巨大な瓦礫を前に飛び出し、粉砕せしめた男。
 突き上げられた右手は金色の装飾を伴ったガントレットが装備されている。

「おれはカズマだ。気をつけろよ、おっさん。油断してるとあっさり死んじまうぞ」

 言うとカズマは何でもなかったかのように歩き去ろうとしていた。

「ま、待ってくれ。命を助けられたんだ。何か礼を……」

 どのような力をもってしてかは分からないが、男が自分を助けてくれたのは確かなようだった。
 ブラックジャックはカズマを呼び止め、同時に上から下に視線を送っていた。
 その行動は長年の経験からくる職業病のようなものだった。
 カズマの姿を、それまでのようにただ見るのではなく、医者の目として診る。
 医者として活動する中で、自然と身に着いてしまった癖のようなものだ。

「……お前さん、何か病気をもってるな」
「あぁ?」

 カズマの異変にブラックジャックはすぐさま気付いた。
 痛みを庇うような歩き方。傾いだ身体。
 眼光は鋭いが、落ち着いた状態にしては呼吸が荒い。
 様子がおかしい。
 もちろん聴診や触診すらしていない状態では、(何か典型的な症状があれば別だが)さしものブラックジャックといえどその病名をピタリと言い当てる事はできない。
 だが、何かがおかしいという事には気付ける。

「……あんた、医者か?」
「モグリのだがね。見たところ大分悪そうだ。どうだい? 助けられた礼という訳じゃないが、良ければ詳しく診るが」

 よくよく見てみると、どうにも状態は良くなさそうだった。
 皮膚も張りがなく、目の下には隈もある。
 気だるげに身体は揺れていて、それでいて瞳だけはギラギラと獣のように輝いている。
 特に右腕は悪いように見える。歩行するだけの自然動作の中でさえ、動かしづらそうだった。

「ハッ、そういうのを余計なお世話っつーんだよ」

 不敵な笑みと共に吐き捨て、男はブラックジャックに背をむけてしまう。

「待てよ、カズマとやら。あんたは明らかに何かを患っている。こんな殺し合いなんぞに関わり合ってたら、まず確実に死んじまうぞ」

 ブラックジャックの制止に、カズマは顔だけ振り返った。

「―――死なねえよ」 

 まるで確信を持っているかのような、一言だった。
 それは数多の命を診てきたブラックジャックをして押し黙ってしまう程の、清々しいまでの自信に満ちた声色だった。
 本気で、己の死を考えていない。
 あんな状態なのだ。誰よりも自身がその苦しみを知っていて尚も、本気で死なないと思っている。
 論理の欠片もない、バカな根性論。
 だが、その根性論がブラックジャックをも黙らせる。

「……私の名前はブラックジャック。
 私はこの会場の何処かにあるだろう『病院』に陣取るつもりだ。何かあったら訪れるといい。あんたは恩人だ。治療代はタダにしといてやるよ」

 カズマは片手を挙げたきり、そのまま歩き去っていく。
 もう戦闘音も謎の発光現象もしなくなっていた。
 沈黙に包まれた夜の市街地で、二人の男の短い邂逅が終わりを告げた。


81 : 命の儚さを知る者たち ◆vzkSg/OL/U :2018/11/26(月) 20:57:56 YwcroyMA0





「……チッ、喧嘩も終わっちまったか」

 アルター能力を解除しながら、カズマはつまらなそうに呟く。
 戦いの現場に向かう途中で見た、ツギハギの男。
 気紛れで助けたものの、その間に戦いは終わってしまっていた。
 静かになった市街地を見下ろすと、そこは中々に凄惨な光景と化していた。
 ビルは何棟も薙ぎ倒され、爆発の痕が至る所にある。
 アルター能力者同士の戦いだったのだろう。それも相当な強者同士の。
 彼は接近する中で僅かに垣間見た。
 桜色の奔流を撃ち放った少女の姿と、それを受けて尚も反撃をした巨大なハゲ坊主。
 強い。
 どのようなアルター能力だったかは検討もつかないが、今のカズマをして、血沸く程の強さをあの二人からは感じた。
 

「はっ、ワクワクするねえ」

 
 獰猛に笑い、彼は歩き始める。
 この殺し合いをぶっ潰す。
 手段は何も思い浮かばないが、その理念に全てを燃やして。
 カズマは一人、進んでいく。
 


【カズマ@スクライド】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:殺し合いを潰し、あの女をぶっ飛ばす。
1:適当に会場を歩き回る。
2:会場にいるアルター能力者(なのは・サノス)に興味。
3:あのおっさん。ブラック……何て言ったっけ?







「おっ、あれは」

 そして、十数分後。
 ブラックジャックはようやく目当ての建物を探し出す。
 看板に見える赤十字。白を基調とするシンプルな建物は、まさに病院といった装いだった。
 自動扉を潜り、外来の診察室の一番手前へと入っていく。
 薬も、道具も、完備されている。
 この状態ならば十分な治療が提供できる筈だ。

「まさか正規の病院で患者を待つ日が来るとはな」

 腰掛け、脚を組み、誰かの来訪を待つ。
 殺し合いに乗った者が現れる可能性は無きにしも非ずだが、その時はその時だ。
 自分ができる精一杯の抵抗をするつもりではあった。


82 : 命の儚さを知る者たち ◆vzkSg/OL/U :2018/11/26(月) 20:58:26 YwcroyMA0
 ふと、音が聞こえる。
 何かが規則的な音が、ドップラー効果を伴って上の階から響いた。
 少しして聞こえなくなったかと思えば、今度はブラックジャックのいる階から同様の音が聞こえ始める。
 音は、何度かの往復の後にブラックジャックの診察室の前で立ち止まった。
 扉が開かれる。ブラックジャックもまた外套の内のメスへと手を伸ばす。
 現れたのは、流線型の髪型をした長躯の男だった。

「あんた、怪我の手当てはできるか?」

 ブラックジャックは無言で頷く。

「怪我人がいる。診てもらいたいんだが」
「……ふふ、私の診療代は高いですぜ」

 ブラックジャックの答えに、男は肩を竦めた。

「おいおい、こんな状況でも金を取ろうってのかい。あんたは」

 ブラックジャックも同じように肩を竦める。

「なに、お代は全てが片付いた後にでも、さっきの女からたんまりと頂戴するさ」

 にやりと笑った一言に、男は呆れたように首を振った。

「面倒なのと出会っちまったかな?」
「いや、お前さんは運が良い」

 言って黒と白の男は、外套を翻して立ち上がる。
 天才外科医・ブラックジャック。
 殺し合いの場に於いて、命を救う選択をしたもの。



「―――さぁ、患者はどこだ」



 彼の戦いが、ここに始まった。




【ブラックジャック@ブラックジャック】
[状態]:健康
[装備]:ブラックジャックのバック@ブラックジャック
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:医者として出来る事をする
1:けが人の手当てをする。
2:カズマに恩を感じている



【ストレイト・クーガー@スクライド】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:変な医者を捕まえちまったな…。
1:世界を縮める。
2:医者を連れて、シェイト(フェイト)と少年(セナ)の手当てをする。
3:金髪の騎士(セイバー)を警戒


83 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/26(月) 20:58:51 YwcroyMA0
投下終了です。


84 : 名無しさん :2018/11/26(月) 23:26:37 DJ42QwYo0
投下乙です……熱い
参加者名簿で存在感を放っていたBJ先生がとうとう登場しましたか
最後の台詞が「医者はどこだ!」のオマージュになってるのも洒落てますね


85 : 名無しさん :2018/11/26(月) 23:54:16 2xoATDuo0
投下乙
異能と殺戮と理不尽と死亡フラグとエトセトラ
元の世界とは遠くかけ離れた地獄の中で、果たしてブラックジャックは何人の人を救えるのか
大好きなキャラクターの一人なので、彼の命の輝きを見守っております…


86 : 名無しさん :2018/11/27(火) 00:06:34 mZAUQDrY0
投下乙です
カズマもBJ先生も殺し合いの場だろうとブレない様がかっこいい


87 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/30(金) 11:54:20 4Wc/IMwE0
感想ありがとうございます。
ブラックジャックの命に対する真摯な姿勢が自分も大好きです。



では間桐桜、劉鳳で8話目を投下していきます。


88 : そうして正義を貫く男は少女と出会う ◆vzkSg/OL/U :2018/11/30(金) 11:55:08 4Wc/IMwE0
 少女が一人、ふらふらと揺れるように歩いていた。
 腰まで掛かった紫色の髪。白色のブラウスに、薄ピンクのロングスカート。
 優しい雰囲気の顔立ちは、熱に浮かされたように赤く染まっている。
 少女は一歩一歩と覚束ない足取りで、歩くごとに身体を傾げながら、進んでいく。
 可憐で、儚げな印象を受ける少女であった。
 その姿は、まるで無防備なもの。
 殺し合いが起こっている最中のそれとは、とても感じられない。
 周囲を警戒する様子も、殺し合いに怯える様子もない。
 少女は、何かを求めているようだった。
 ここにいない何かを、ここにいない誰かを求めるように、歩いていく。

(……先輩、先輩、先輩……)

 彼女の心中を占めるのは、最初の場にて見かけた一人の少年だった。
 衛宮士郎。
 彼女の先輩で、彼女を支えてくれた人で、彼女を守ると告げてくれた―――恋人だ。
 少女は、ただひたすらに衛宮士郎を求めた。
 殺し合いの恐怖からではない。この殺し合いに参加する前からあった恐怖……それから逃れる為に、彼を求める。
 身体がいう事を聞かない。今倒れてしまえば、自分が自分でなくなってしまうのが分かる。
 だから。


「会いたい……」


 ふらり、ふらり、と。
 身体を揺らしながら、それでも喘ぐように前にいく。
 今にも倒れてしまいそうな身体を必死に動かし続ける。
 だが、進めども進めども、暗闇の市街地が続いていくだけであった。

「先輩……」

 呟き、遂にはその膝が折れる。
 崩れ落ちる身体を受け止めてくれる者はおらず、少女は冷たいアスファルトに身体を倒した。
 熱い熱い身体が地面に冷やされていく。
 段々と掠れていく意識。
 少女は瞳を閉じ、ただ一人自分の側にいてくれた人を思い浮かべる。


『皆、聞いてくれ。俺の名前は衛宮士郎』


 同時に、彼女は聞いた。
 それは夢現での幻聴か。微睡の中にいる彼女には分からないが、確かに聞こえた。
 衛宮士郎の、先輩の、恋人の、声。
 幻聴だっていい。
 彼女の胸に暖かな安堵が広がっていく。

(―――やっぱりいるんだ。先輩……)

 本来ならば、彼が殺し合いに参加させられていると心配しなければいけない筈なのに。
 彼の身を案じなければいけない筈なのに。
 それでも、先ず安堵が浮かぶ。
 ああ、彼はこの場にいるのだ、と。
 なら、大丈夫だ、と。
 彼女は心の底から安心していた。


(安心したら……何だかお腹が空いちゃったな……)


 殺し合いの最中で無防備に意識を失おうというのに、彼女は微笑みすら浮かべていた。


89 : そうして正義を貫く男は少女と出会う ◆vzkSg/OL/U :2018/11/30(金) 11:55:48 4Wc/IMwE0


『俺は、この殺し合いを止めたいと思っている―――』


 しかし、続く恋人の言葉に彼女の笑みが陰る。
 違和感を感じたのだ。
 少年は戦おうとしている。他者のために、命を賭して。
 それ自体に違和感はない。彼ならばそうすると、彼女もまた知っているからだ。
 でも、それは少し前までの話だ。
 今は、違う。
 今は他の人よりも、私を優先してくれる筈だ。

(なんで、先輩……私より、他の人を……?)



 彼は決断してくれた。約束してくれた。
 俺は、桜だけの正義の味方になると、言ってくれた。
 あの雨の夜、自分を抱き締めながら、確かに誓ってくれた。
 その筈なのに――――。
 数瞬前まであった安心感は、嘘のようにどこかに消え去っていた。
 見知らぬ土地で迷子になった子どものように、おびえきった顔を浮かべる少女。
 少女は自身を抱き締めるようにしながら、抗えぬ眠りに落ちる。


(先輩……いやです、先輩……傍に、いて……)


 意識がなくなり、少女は苦悶の混じった寝息を立て始める。
 最後まで愛しい人を求め続けるが、その願いは叶われず。
 彼女は一人、市街地の真ん中で懇々と眠り続ける。
 その様は、まるで御伽噺の眠り姫のようだった。
 少女は眠りに落ち、そして。


 そして―――夜が、始まる。








 劉鳳は憤怒に身を焦がしながら、市街地を駆けていた。
 ロストグラウンドを守るための戦い。その後にあった、因縁の相手との一戦。
 己が築いた全てを賭けた、矜持と信念とのぶつかり合い。
 その果てに、彼はこの戦場にいた。
 謎の女が語った殺し合い。
 秩序も正義もない、吐き気すら覚える催しは、劉鳳を滾らせるに十分すぎた。
 許せない。許す気もおきない。
 あの毒虫を潰す、と劉鳳は強く強く心に刻んでいた。
 走り続けて数分が経過するが、他の参加者の姿は見当たらない。
 戦いの音すらしない、静寂の市街地が続いているだけだった。


90 : そうして正義を貫く男は少女と出会う ◆vzkSg/OL/U :2018/11/30(金) 11:56:23 4Wc/IMwE0


『皆、聞いてくれ。俺の名前は衛宮士郎』


 唐突にその声は聞こえてきた。
 遠くから、風に乗って微かに聞こえる声。
 声は、殺し合いの制止を呼び掛けていた。

「……これは」

 劉鳳は足を止め、声を聞く。
 衛宮士郎と名乗った男は、尚も殺し合いを止めるよう言葉を続けていた。

「このような者もいるのだな……」

 衛宮士郎に、劉鳳は畏敬の念すら覚えていた。
 例え殺し合いの中であろうと己の正義を掲げ、貫ける者がいる。
 他を思いやり、他を守ろうと行動できる者がいる。
 それが、どれほど崇高な事か。感動を覚えずにはいられなかった。
 

「―――絶影」


 彼の象徴たるアルターを具現させ、劉鳳は再び走り出す。
 先程までの、整備された道路を走るようなマトモなものではない。
 絶影を使役し、ビルを飛び越えながら移動する。
 行き先は、衛宮士郎の声が聞こえる方角。
 劉鳳もまた衛宮士郎の行動の危険性を察知していたのだ。
 あの声に引き寄せられるのは、恐怖に震え縋り付くだけの弱者だけではない。
 下手をすれば、殺し合いに乗った毒虫すらも引き寄せかねない。

(ならば、俺が守ろう)

 そのような輩の相手こそ、劉鳳の望む所であった。
 他を顧みず、信念も持たず、己が欲望のみを満たそうとする屑を叩きのめす。
 選択に、迷いは無い。ようやく見付けた己が信念に則って、彼は行動する。
 そうして、何個かのビルを越えたその時だった。

「―――ッ!?」

 不意に、何かが飛来する。
 眼下の市街地から、漆黒の触手の如く何かが、何本と襲い掛かってきたのだ。
 劉鳳の反応は早かった。
 触手の攻撃を回避すると同時に、絶影が有する二本の鞭を稼働させ、その全てを叩き落とす。
 数は多いが、触手自体の動きは早くはない。
 加えて、対するは最強のアルター使いにまで成長した劉鳳だ。この程度の攻撃では、捉えるにまるで足りない。 

「ぐぅっ!?」

 だが、攻撃を避けた筈の劉鳳が、表情を苦悶に歪める。
 触手は弾いた瞬間、脳裏にあるビジョンが映ったのだ。
 地の底から湧き上がるような怨念の声。憤怒に満ちた人々の顔が上下左右を埋め尽くし、異口同音に言葉を語る。
 死ね、と。
 死ね、死ね、死ね、死ね、と。
 何処から伴く、声が響き渡った。


91 : そうして正義を貫く男は少女と出会う ◆vzkSg/OL/U :2018/11/30(金) 11:56:54 4Wc/IMwE0


「ぐっ――――あああああああああああああああああああああ!」


 裂帛の気合いが、劉鳳の口から迸る。
 怨嗟の声に食いつぶされ欠けた思考を、咆哮と共に無理矢理に奮い立たせる。
 強烈な自己の強さ。
 あらゆる障害をも乗り越えて己が成すべき事を達成する、強固な信念。
 それこそが劉鳳の武器。
 その心の強さを、エゴの強さをもってして、彼は最強のアルター使いとなったのだ。
 劉鳳の心は、揺るがない。
 
(精神感応型か!)

 眼下を見やると、そこには漆黒の不気味な影が立っていた。 
 虚無という概念を実体化させたような、矛盾したような何かが、そこにいる。
 能力は、恐らく精神感応型。
 アルター能力で何らかのヴィジョンを無理矢理に見せ付けてきたのだろう。
 一瞬で判断し、劉鳳は己が分身に思念を飛ばす。


「絶影っ!」


 絶影の姿が大きく変化する。
 その顔半分を覆っていた仮面が剥がれ、拘束具が破り捨てられる。
 人型の上半身に大蛇を思わせる尾を持った姿。
 それは絶影の真なる姿。自ら封印していた力を解いた『真・絶影』。
 真・絶影は、名の通り影すら絶つ程の速度で稼働する。
 触手の悉くを回避し、背中から白銀の拳を飛ばす。

「―――剛なる右拳・伏竜!!」

 拳は、触手の隙間を縫うようにして、影へと直撃した。
 先程の謎のヴィジョンは見えない。
 完全に別離された拳で攻撃する事で、劉鳳は影響を受けなかったのだろう。
 直撃を受けた影が、勢いのままに後方のビルへと吹き飛ぶ。
 数秒の破壊音が響き渡り、伏竜が絶影の元へと戻ってきた。
 反撃は、ない。どうやら倒す事に成功したらしい。

「……毒虫が」

 吐き捨て、絶影を着き従えたままに影が吹き飛んでいったビルへと進む劉鳳。
 恐らくは死んではいない筈。ならば拘束でもして無力化を目論む劉鳳であったが―――、

「なに?」

 無惨な破壊痕の中心に倒れる者を見ると同時に、その表情が困惑に染まる。。


92 : そうして正義を貫く男は少女と出会う ◆vzkSg/OL/U :2018/11/30(金) 12:00:18 4Wc/IMwE0
 その姿は、まだ年端もいかない少女であった。可憐な表情を、今は苦悶に歪めている。

(こんな少女が、あのような凄惨な精神攻撃を……?)

 アルター能力者に年齢は関係ないというが、あれ程の敵意と悪意のある精神攻撃と眼前の儚げな少女とがどうしても結び付かなかい。
 数秒ほど少女を見詰め考え込む劉鳳であったが、それも一瞬の感情。
 例え相手が少女であろうと、他に害を及ぼすつもりならば容赦はしない。
 すぐさま己を律した劉鳳は、絶影の鞭で相手を縛りあげる。
 アルター能力自体を封じた訳ではないが、行動に大きな抑制はできるだろう。
 あとは自分が見張り、いざという時は再び無力化をすればよかった。

(このような少女までが殺し合いに乗るか……)

 やるせなさを感じながら、劉鳳は少女を抱きあげる。
 既に衛宮士郎の声も聞こえなくなっている。
 声に惹かれ仲間ができたか……あるいは襲撃を受けたか。前者であってくれと、願うばかりであった。
 ともかくと思考を打ち切り、劉鳳はビルの奥へと足を進めていく。
 まずは少女から話を聞かねばならない。
 そして、その上で断罪すべき相手かを判断する。

(俺は貫くぞ。己の正義を―――!)

 絶影を持つ劉鳳。
 その信念に陰りはなく、男はただ前を見据えて進んでいく。
 



【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:全身にダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:先輩なんで……。



【劉鳳@スクライド】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:己の正義を貫く
1:少女を尋問する
2:『衛宮士郎』に敬意の念。合流をしたい


93 : ◆vzkSg/OL/U :2018/11/30(金) 12:03:14 4Wc/IMwE0
投下終了です。
再来月公開のHeaven's Feel2章楽しみですね。


94 : 名無しさん :2018/11/30(金) 20:59:50 K6xaEtGk0
投下乙
桜ちゃんが一般人ルートで参戦するわきゃねえよな!
スクライド勢もがんばえ〜!


95 : 名無しさん :2018/12/01(土) 11:16:49 iof/LRCo0
がんばえ〜(激寒)


96 : ◆vzkSg/OL/U :2018/12/01(土) 23:01:27 zJMDdms60
感想ありがとうございます。
一般人ルートも少し考えたのですが、結局こんな感じでの参戦になりました。

では、トニー・スターク、高町なのは、アーチャー、巴マミで9話目投下します。


97 : 彼の名は――― ◆vzkSg/OL/U :2018/12/01(土) 23:03:26 zJMDdms60
 トニー・スタークは天高く空へ昇っていた。
 装着したアイアンスーツは正常に稼働し、その動きに不備は見られない。
 サポート役のAIからの応答はないが、それ以外は万全とさえ言えた。
 何もかもが唐突な出来事ばかりだった。
 彼が直前までにあった状況から、余りに全てが変化していた。
 外宇宙のとある惑星にいた筈が、今は(おそらく)地球上の何処かにいる。
 どてっ腹に穴を開けられた筈だが、それも治癒されていて傷痕すら見受けられない。
 半壊にあったアイアンスーツも、先述の通り問題なく稼働している。
 スーツに至っては、トニーにしか手を出せない領域にも関わらず、完璧に修理されていた。

(……殺し合いか)

 全てがお膳立てをされた状況で告げられたのは、殺し合えという一言だけ。
 もはや何もかもが理解不能だった。
 この状況も、あの女も、全てが理解するに至らない。
 あの女の行動など奇天烈の極みだ。
 宇宙の半分の命が死滅した世界で、どうしてこのような殺し合いを開催するのか。
 地球でも史上最悪とも言える未曾有の危機に陥っている筈なのに、なぜ。
 
(訳が分からないが……やるべき事は決まっている)

 混乱の極みにあって、それでもトニー・スタークの意志は揺らがない。
 アイアンマン。
 世界を、地球を守るヒーローチームの中心人物。
 例えどんな状況にあろうと、人々を救う為に戦う。
 プロとしての矜持と使命感が、彼を突き動かしていた。

(さて、それなりの高度にまで達したが……どうだ?)

 彼は今現在会場を真上に上昇していた。
 会場の果てがどうなっているのかを確かめようとしているのだ。
 まずは直上。続いて周囲。
 アイアンマンの機動力でもって情報の収集に努めんとする。

「ぐあっ!?」

 相当の高度に達した時、唐突にそれは来た。
 ガツンと巨大な壁に激突したかのように、衝撃が走る。
 アイアンスーツを着ているお陰でダメージはないが、相当な衝撃であった。

(不可視の壁か。バリアのようなものだろうか?)

 壁は視認できない。スーツのセンサーもエネルギーの類は検知しない。
 だが、手を伸ばしてみると其処には確かに壁が存在する。トニー・スタークも知らぬ未知なる技術が、そこにあった。
 試しにリパルサーを撃ってみるが、壁はびくともしない。
 ならばとマイクロミサイルを放ってみるが、これも駄目。腕を刃状に変形させ振るってみるも、これも弾かれる。
 エネルギー攻撃、重火器攻撃ともに通用しなかった。

「相当に強固な壁だな。ふむ、ハルクでも居れば突破を願いたいところだが」

 調べてみると、壁はドーム状に会場を包み込んでいるようだった。
 会場は円形で出口はなし。突破方法は現在の所は不明。
 以上がトニーの調査で出た答えだった。

「……まるで鳥籠の中の鳥だな。悪趣味なレディだ」 

 未知なる、それも相当に高位な技術を行使する女。
 外宇宙からの拉致、トニーの治療、アイアンスーツの修繕、会場を覆う不可視の壁……相手の手の内の全てが闇に包まれている。
 少なくともトニーの知る科学技術では説明しきれないものが殆ど。まるで魔法を掛けられているようだった。


98 : 彼の名は――― ◆vzkSg/OL/U :2018/12/01(土) 23:04:05 zJMDdms60

「フッ、魔法使いもいるご時世だ。何があっても驚きはしないさ」

 世界は広い。
 トニー・スタークは、天才と称される自分の知識であってしても、世界のほんの一端を垣間見てるに過ぎない事を知っている。
 アイアンマンとして活動を始めてから十年近く、彼の世界は大きく変わった。
 宇宙の遥か果てに存在する神々の国や、銀河の征服を目論む宇宙人の存在。
 本物の魔法使いとも知り合ったし、宇宙の起源から産まれ出た弩級の力を有する石の存在も知った。
 どれもが常識では有り得ず、科学で説明しきれないものばかりだ。
 今更、超常技術の一つや二つで思考を止めるようなトニーではなかった。

「僕だけでこの防壁を突破するのは不可能……ならば、他の参加者の力を借りるしかないか」

 一人で駄目なら誰かと協力をするしかない。
 とはいえ、それだけの力を有する者がいるのかが不明だが……。

「……やるしかないだろうな」

 泣き言を言っている暇はない。
 やるべき事が決まったのならば達成に向けて動くしかない。
 決意し、スーツを稼働させようとトニーが身構えた―――その時だった。
 眼下の市街地に動きがあった。
 ほぼほぼ同じ様なタイミングで、上空にいるトニーですら視認できる程の強大な光が発生したのだ。
 それも一カ所ではなく三カ所も。
 エネルギー反応をサーチすると、どれも常識外れの数値を叩きだしている。

(これは―――)

 疑問に思うよりも早く、トニーは行動を起こしていた。
 スーツに保有されたナノテクノロジーにより三機の簡易ドローンを生成し、それぞれの発光現象の現場へと向かわせる。
 現状で最も重要なものは情報だ。
 参加者の総数も、人となりも、何もかもが不明な中での殺し合い。
 他を守る為にも早々に危険人物にはチェックを入れ、情報を仕入れなければいけない。
 ドローンを介して、現場の映像がスーツのマスク内に表示される。
 その一つには、

(サノス……!?)

 記憶に新しい仇敵の姿が、あった。
 呼び起される記憶は、吐き気すら伴ってトニーの精神を締め付ける。
 絶大な力、成すすべなく倒されていく仲間達、最後にあった絶望。
 塵となって消えていく仲間達の姿が思い出される。
 クィルが率いるガーディアンズ。魔法使いのストレンジ。
 そして―――自分がヒーローに引き入れた一人の少年……ピーター・パーカー。
 殺し合いに際して、無理矢理に蓋をしたはずの無力感が沸き上がる。


99 : 彼の名は――― ◆vzkSg/OL/U :2018/12/01(土) 23:06:00 zJMDdms60

「……くそっ、しっかりしろ……今は打ちひしがれている時では……!」

 己を奮い立たせ、映像を見る。
 3つの映像にはそれぞれに別の人物が映っている。
 一人は、最初に確認をしたサノス。
 厳密に言えば光の発生源はサノスではなく、それと相対している少女のもの。
 少女はサノスを相手に一切と引く事もなく、戦っている。
 そのカノン砲から放たれる火力は、トニーをして舌を巻く程の凄まじいもの。
 それを受けて平然と戦闘を続行するサノスも、また寒気すら覚えるが。
 もう一人は、甲冑を纏った少女。
 少女は眩いばかりの黄金の剣を携え、宙に浮かぶもう一人の少女を睨んでいる。
 最後の一人は、漆黒の衣裳に身を包んだピンク髪の少女。
 少女は、無惨に破壊された市街地の真ん中で狂ったように宙空へと何かを叫んでいるようだった。
 その直ぐ側には……下半身だけとなった死体が、あった。

(くっ……)

 殺し合いは始まっていて、既に犠牲者すら出ている。
 助けられなかった命にトニーは唇を噛んだ。
 思わず、動き出していた。
 両手両足のリパルサーからエネルギーを噴出させ、音速にも近い速度で空を駆ける。

(これ以上の犠牲者は……!)

 彼がまず向かったのは、サノスがいる戦場だった。
 直接戦ったトニーは、誰よりもサノスの強さを知っている。
 だからこその援軍であったが、どうやら戦況は大きく変化しているようだった。
 先程まで立ち向かっていた少女が逃走している。
 その速度たるや、まるで一筋の閃光のようだ。
 アイアンマンの飛行速度すら、軽く凌駕している。
 だが、それだけの機動力をもってしてもサノスからは逃げ切れない。
 その背中に、インフィニティ・ストーンが掲げられる。
 発光するは、パワーストーン。万物を破壊する閃光が、少女の背中へと向けられている。

(援護を―――!)

 必死に手を伸ばすが、とても介入は間に合わない。
 距離は未だ遠く、ドローンを介さなくては詳しい戦況も視認できない程。
 とても攻撃が届く距離ではない。
 脳裏に、再びあの時の光景が過ぎる。
 消えていく仲間達。
 助けて、行きたくないと呟く声。
 消える。
 また、消える。
 あの男によって、若い命が散ってしまう。

(届け、届いてくれ―――)

 叫び、腕を砲身に変化させて、最大の一撃を見舞う。
 攻撃は届かない。届く訳がない。
 放った光線は何にも命中する事なく、掻き消えていく。
 映像ではガントレットが閉じられ、遂に閃光が放たれようとしていた。
 脳裏に焼き付いた声が、響く。
 ごめんね、と呟くピーターの声。
 無力感に、心が軋む。

(私は……私は、こんなにも……)

 伸ばした手は何も捉える事はなかった。
 サノスのガントレットが閉じられ、トニーの胸中に絶望が込み上げた―――瞬間、それは来た。
 ガントレットに、サノスの体躯に、まるで驟雨の如く飛来する何か。
 弓矢だ。
 射線を解析するとキロ単位で離れた地点から、サノスを狙撃している者がいた。
 赤色の外套を纏った男。
 男は鷹の目の如く鋭い瞳でサノスを睨み、矢を撃ち続ける。
 その威力たるや、まるで戦車砲の如く火力だ。
 少女とサノスとの距離が離れる。
 そうして完全に逃げ切ったのか、サノスが足を止めた。
 少女は逃げ切ったのだ。
 あのサノスから、予想外の援護があったとはいえ五体満足で。
 トニーは茫然とした様子で、宙に浮いていた。


100 : 彼の名は――― ◆vzkSg/OL/U :2018/12/01(土) 23:07:13 zJMDdms60

(……キャプテン、君の気持ちが少し分かった気がするよ……)

 まるでデタラメばかりの戦場だ。
 アベンジャーズとして数多のヒーローを見てきたトニーですら目を疑うような戦い。
 改良に改良を重ねたアイアンスーツを装着して尚も、無力感を覚えてしまう光景が、其処にはあった。
 サノスとやり合い、遂には逃亡すら成功させようとしている少女に、射撃一つでサノスを封じ込め、少女の逃走を手助けした男。
 自分が諦めざるを得なかった戦況を覆せしめた者達。
 他の戦場でも、そうだ。
 たった一撃で市街地の一角を崩壊させた少女や、信じられないようなエネルギーを内包した剣を振るう者。
 怪物揃いの戦場。
 自分に出来る事などないのかもしれない。
 あの時のように、何も助けられず、全てを失うのかもしれない。

(だが、足を止める訳には―――いかない)

 トニー・スタークは、知っている。
 仲間よりも遥かに劣る実力で、それでも尚必死に食らいついてきた男を。
 高潔な心と、飽くまで人類の領域にある身体能力で、様々な戦いを渡り歩いていった男を。
 知っている。
 彼は自身の弱さを知りながら、それでも立ち向かっていった。己の正義を信じて、戦い続けたのだ。
 今更、自分だけが膝を折るのか。
 無力を知り、挫折を知り、だから諦めると、言うつもりか。
 違う。
 戦うんだ。
 例え、自分がどれだけ弱かろうと、それでも。
 立ち上がり、戦う。

(さあ、行くぞ!)

 決意と共に、トニーは動き出す。
 己が信念を貫くために、空を駆ける。
 休息を取ろうとしているのだろうか、先程の少女達はビルの中へと入っていった。
 ビル内をスキャンすると、どうやら中央ブロックの仮眠室のような所に腰を落ち着けたらしい。
 
(さて、怪物達との初コンタクトだ。盛大に行こうか―――!)

 窓を突き破り、彼等の一つ上の階、その直上へと飛行する。
 そして、着地の勢いで床をぶち抜き、階下の彼等の元へ。
 片膝を付き、片手を前に。
 いつもの姿勢で着地して、マスクを取って彼等を見る。

「やあ、驚いているようだな」

 それはそうだろう。
 突然天井を貫いて、鋼鉄の男が現れたのだから。
 男は弓矢を構え、少女はベッドの上で驚きに目を見開いている。

「あ、貴方は……?」

 少女が、恐る恐る聞いてくる。

「僕が誰かって? 名乗らなくても知っているものかと思ったが、どうやら僕も日本では知名度が低いらしい」

 問いに、トニーは笑いながら口を開いた。


「そうだな。僕はトニー・スターク……いや」


 言葉を切り、小さく息を吸い込む。
 頭の中に、数多の苦い記憶が過ぎっていく。
 救えなかった人々、友との離別、果てにあった―――最悪の敗北。
 何も守れなかった自分には、この名前を名乗る資格はないのかもしれない。
 それでも……それでも、万感の決意でもってトニー・スタークは続ける。


「僕は―――アイアンマンだ」

 
 かつてあったように、全ての始まりと同じ様に、告げる。
 挫折を知り、敗北を知り、尚も。
 自分は『アイアンマン』なのだと、トニー・スタークは高らかに宣言した。


101 : 彼の名は――― ◆vzkSg/OL/U :2018/12/01(土) 23:07:33 zJMDdms60

【トニー・スターク@アベンジャーズ】
[状態]:健康
[装備]:アイアンスーツ・マーク50@アベンジャーズ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:『アイアンマン』として、殺し合いを止める。
1:目の前の少女達と情報を共有する。
2:サノス、甲冑の少女(セイバー)、ピンク髪の少女(まどか)を警戒
3:会場からの脱出のため、協力者を募る。



【高町なのは@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:魔力消費(大)
[装備]:レイジングハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:アイアンマン……さん?
1:殺し合いを止める
2:休息を取る。
3:サノスさんを止める。
4:アーチャーさん、何で怒ってるんだろう……。



【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]:魔力消費(小)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:アイアンマン……?
1:休息をとる。
2:高町なのは、こいつは……。



【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:胸部にダメージ(大)
[装備]:マミのソウルジェム
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:気絶中


102 : ◆vzkSg/OL/U :2018/12/01(土) 23:09:49 zJMDdms60
投下終了です。
アベンジャーズ3でのアイアンマンは本当にカッコ良かったですね。
サノスとの1対1では、子どものように心の中で応援してしまいました。


103 : 名無しさん :2018/12/02(日) 22:18:51 P/QWRI5o0
投下乙
早々に危険人物を把握できたのは有能、流石アイアンマン
しかも既知の人物が二人もいるという奇遇
アーチャーはすぐにセイバーだと気付くだろうけど、まどかは気付かれないかもしれないな…


104 : ◆vzkSg/OL/U :2018/12/06(木) 16:49:08 CKlYj1tE0
感想ありがとうございます。
上の話で全キャラ登場し終えたので、2週目に入っていこうと思います。


ブラックジャック、ストレイト・クーガー、フェイト・T・ハラオウン、小早川瀬那で10話目投下します


105 : ◆vzkSg/OL/U :2018/12/06(木) 16:50:36 CKlYj1tE0
「どうだい? 何とかなりそうか?」

 ストレイト・クーガーは男の背中に語り掛けた。
 男―――ブラックジャックは言葉を返事をせずに、患者の傷を観察している。

「聞こえてるんだろう。何とか言ったらどうなんだ?」
「今は診察中だ。邪魔しないで貰えると助かるがね」

 傷を見たまま返された言葉に、クーガーは肩を竦める。

「ここが普通の状況で、普通の医者に診てもらってるんなら、俺も口は出さないさ。
 だが、生憎今は殺し合いの真っ最中で、あんたはモグリと来た。口数が増えるのも分かるだろう?」
「信用できないなら、他の奴を当たるんだな」
「そういう訳にもなあ。それに今更言って、アンタは診るのを止めるのかい?」
「馬鹿な。この子はもう私の患者だ。治るまでは責任もって診させてもらうさ」
「そんな気がしたよ。アンタもまぁ頑固そうだ」

 溜め息一つ。
 クーガーは腕を組んで壁に寄りかかり、ブラックジャックの背中を見詰める。
 状況が状況だけに完全に信用するのは難しい。
 何かおかしな真似をするようなら、彼自慢の『速さ』でブラックジャックを止めるつもりだった。

「傷はそう深くない。数十分もあれば、処置は終わるだろう」
「そりゃ良かった。じゃあお願いするぜ、ブラックジャック先生」

 クーガーは動かない。
 笑みを携え、ブラックジャックを見る。

「……そこで見ているつもりか?」
「まぁな。アンタを使用してない訳じゃあないが、信用し切る訳にもいかんのでね」

 今度はブラックジャックが溜め息を吐く番だった。

「お前さんはこの娘の知り合いかい?」
「あぁ、そうとも。この場で知り合った」
「旧知の仲って訳じゃないんだろう。どうしてそこまで肩入れをする」
「そりゃあ知り合っちまったからだろうなあ。出会い、助けちまったんだ。なら、面倒みるのが人情ってもんだろう?」

 再び、ブラックジャックの口から溜め息が零れる。

「アンタも損な性格してるよ、全く」
「先生も大概だと思うぜ?」

 会話を止め、ブラックジャックはバックから医療道具を取り出す。
 手を洗い、滅菌手袋やマスクやらを装着しながら、クーガーを見やる。

「見るのは勝手だが口出し手出しはするな―――分かったな」

 そういうブラックジャックの口調は断固としたものだった。
 医師として治療にあたる以上、誰にも口出しはさせない。それがブラックジャックの流儀であった。

「分かってる。治療に関しちゃ先生にお任せするよ」

 両手を挙げて、クーガーは同意した。
 頷き、ブラックジャックが少女の方へと向き直る。
 創部の消毒と共に、彼は処置を開始した。





「見事なもんだ。アンタ本当にモグリかい?」
「生憎私は医者の世界ではハナツマミ者でね。そのお蔭で稼がせてもらっちゃいるが、どうにもね」

 そして、十数分後。
 廊下の長いすに、二人は並びながら座っていた。
 ブラックジャックは煙草を吹かし、クーガーは支給品の水を煽っていた。


106 : 速さが足りない ◆vzkSg/OL/U :2018/12/06(木) 16:51:24 CKlYj1tE0

「傷は治るのかい?」
「もちろん治るさ。そりゃ安静にはしてなくちゃならないがね」
「そいつは良かった。一安心だ」
「これで信用して貰えたかな?」
「勿論だ。あんな事いって悪かったな、先生」

 安堵を浮かべてクーガーは立ち上がる。

「あの娘……シェイトは先生に任せるよ。俺はもう一人の方を見てくる」
「分かった。一応状態に変化がないか見させてもらうさ」

 と、ブラックジャックがクーガーの方に向いた時には、既に彼の姿は消えていた。
 廊下の奥から、足音だけが聞こえてくる。

「……凄まじい早足だな。ドーピングでもしてるんじゃあないのか」

 常識外れの速度に舌を巻きながら、煙草の火を消し、ブラックジャックも再び医療室へ入っていく。
 ベッドには少女が安らかな寝息を立てている。
 処置前は苦し気に顔を歪めていたが、どうやら大分楽にはなったらしい。
 抗生剤を点滴から打ち、ブラックジャックは少女の様子を見る。

「バイタルに問題はなし、と」

 状態は変わらず。問題はなさそうだった。
 それにしても、とブラックジャックは自身が処置した傷について思い出す。

(一体、あの傷はなんだったんだ? ありゃ冗談のように、綺麗な斬り口だったぞ)

 傷自体は、ブラックジャックも何度も見た事のあるものだ。
 恐らくは刀傷。浅い傷だったが、もう数センチ踏み込まれていれば命に関わっていただろう。
 ブラックジャックの感じた問題はそこではない。
 余りに綺麗な傷の状態が、気に掛かっていた。

(まるで憑二斉先生のメスで斬ったかのような……いや、あれはもしかすれば、それ以上の……)

 彼のメスを手がけた鍛冶師は、鬼才であった。
 切った瓜が、切られた事も気付かずにくっついてしまう。それ程のメスを打つ人だった。
 だが、あの傷は更にその上を行っている。
 僅かな縫合をすれば、後は傷自体が勝手にくっついてしまうかのような。
 ブラックジャックをしてそう思わせる程の、見事な斬撃の痕だった。
 例え、数え切れぬ程に患者の身体を手術で開いてきたブラックジャックであったとしても、あれ程綺麗に人を切る事はできないだろう。

(刀とその持ち主……どちらもがずば抜けたものじゃなけりゃ、ああはいかんぞ)
 
 凄まじい技量と凄まじい業物を有した者が、殺し合いに乗っている。
 クーガーが言うには、ほんの少女だったらしいが、警戒しておかねばならないだろう。

「ん……」

 少女が目を覚まそうとしている。
 窓から見える景色は僅かに白んできていた。
 夜が明けようとしている。ブラックジャックは窓から外を眺めながら、少女の覚醒を待つ。

「ここは……」

 そして、更に僅かばかりの時が過ぎて。
 少女が目を開き、ぼんやりとした表情で周囲を見る。

「目が覚めたようだな」
「貴方は……」

 言って、段々と気を失う前の状況を思い出してきたのか、少女の表情に色が戻る。
 途端に、少女が勢いよくベッドから起き上がろうとした。
 殺し合いの状況で、いきなり目の前に見知らぬ男がいるのだ。警戒するなと言う方が無理があるだろう。
 だが、痛みが勝ったのか。少女は呻き声と共に、再びベッドへ横になる。

「おっと、無理しない方が良い。安心しな、私はブラックジャック。医者だ」
「お医者さん……?」
「そうさ。あんたを連れて来た男……クーガーに頼まれてね、君の傷を診させてもらったのさ」

 身体に巻きつけられた包帯を見て、合点がいったのだろう。少女の顔から警戒が薄れていった。

「ええと……ありがとうございます」
「礼なんて良いさ。えーと、シェイトと言ったかな?」
「フェイトです。私はフェイト・T・ハラオウンと言います」
「? だが、クーガーは自信満々にシェイトと……」
「何だか間違えて名前を覚えられてしまったみたいで……」

 首を傾げるブラックジャックに、少女は少しげんなりした様子で答えた。

「そ、そうか。まぁ、よろしく頼むよ、フェイト」
「はい、お願いします。ブラックジャック先生」

 シェイト―――もといフェイトは、存外素直に頷いた。
 年齢に不相応な、大人びた雰囲気を持った少女だった。表情は柔らかく、どことなく大人しい印象を受けた。

(……ピノコとは大違いだなぁ)

 などと思いつつ、ブラックジャックは続ける。


107 : 速さが足りない ◆vzkSg/OL/U :2018/12/06(木) 16:53:56 CKlYj1tE0

「もう少し寝ていると良い。側にいるから、何かあったら直ぐに声を掛けてくれ」
「分かりました。……ええと、その一つ聞きたいんですけど」
「何だい?」
「私の他にもう一人男の子がいたと思うんですけど、彼はどうしてます?」
「怪我一つないさ。びっくりして気を失ってるらしいがね。今はクーガーが見ているよ」
「そうですか。良かった」

 フェイトは心底安心した様子であった。
 こちらもクーガーの話によるが、最初は少年が一人でフェイトを掲げて逃げようとしていたらしい。
 無茶な若者だと思いつつ、ブラックジャックも少年の行動には称賛を覚える。
 
 
「お天道様が昇った頃に、また声を掛けるさ。それまではゆっくりしていな」
「はい、ありがとうございます」

 と、フェイトとブラックジャックが二人で窓の外を眺めたその時だった。

「あれ……?」
「ん……?」

 二人は何とも奇妙な光景を見る事となる。


「あの人は……それにクーガー? 何をしてるんですか、二人は」

 窓の外。ちょうど病院を出て直ぐの道路で、二人の男が向かい合っていた。
 一人は、つい少し前まで共に居た男―――ストレイト・クーガー。
 もう一人は、先程話にもあがった少年―――名は小早川瀬那だったか。
 二人が何故だか真剣な様子で対峙している。

「私に聞かれても困る。何も聞かされちゃあいないもんでね」

 フェイトとブラックジャックは怪訝な顔で、眼下の光景を見下ろしていた。








 どこまでも果てしなく続くフィールドを、ひたすらに走っていた。
 本来ならばある筈のゴールゾーンもなく、延々と暗闇の奥へ奥へとフィールドが続いている。
 もう何ヤード走ったかも分からない。
 息も切れ、膝も折れてしまいそうだが、止まる事は出来ない。
 何かが、追ってきているからだ。
 どれだけ走ろうと、何回抜こうと、それはどこまで追ってくる。
 全力で走っている筈なのに、今までたった二人の人物しか追い付く事ができなかった筈なのに、それは容易く肉迫してくる。
 青いドレスに、白銀の甲冑。
 少女はたったの一歩で『光速の世界』に入り込み、追い抜き、立ち塞がる。
 また、少女を抜く。
 有らん限りの手を尽くして、自分が持つありとあらゆるテクニックを駆使して、何とか彼女を抜き去る。
 抜き去り、そして―――また一瞬で追い付かれる。
 抜いて、追い付かれ、抜いて、追い付かれ……終わる事のない繰り返しだ。
 遂には、自分の横に張り付いて追走する少女が、手中にある不可視の何かを掲げた。
 本能が叫ぶ。
 逃げろ、逃げないと殺される。
 見ただろう、あの少女を。
 切り裂かれ地面に倒れる少女を。
 お前も、そうなるぞ。
 心がそう叫び、脚も必死になって前へと動くが、少女を振り切る事はできない。
 少女が、口を開いた。


「見事な走法です。只人の身であそこまで練り上げたのだ。賞賛に値します」


 表情を変えずに、まるで虫けらでも見るような瞳でもって、言葉を並べる。


「ですが、貴方には足りない。そう、何よりも―――」


 耳を塞ぎたくなる。
 自分には、それしかないのだ。
 それがあったから、皆に出会えた。
 それがあったから、あんな気持ちを味わえた。
 それがあったから、アメリカンフットボールに出会えた。
 なのに―――、


「―――『速さ』が、足りない」


 アメリカンフットボールと出会ってから積み重ねた日々を、様々なチームとの激闘の数々を、沢山の好敵手との戦いを、全て否定されたかのようだった。
 女性が、手を振るう。
 身体に熱い何かが奔り、力が抜けていく。
 意識が急速に遠のいていき、世界が暗闇に包まれていく。
 ただ一言、女性から言われたその言葉だけが、頭の中で何度も何度も反芻される。
 速さが、足りない。
 その言葉が呪詛のように刻まれ、そして―――


「うわああああああああああああああ!」


 そして、小早川セナは目を覚ました。


108 : 速さが足りない ◆vzkSg/OL/U :2018/12/06(木) 16:54:34 CKlYj1tE0
 ガバリと立ち上がり、周囲を見回す。
 影法師のように憑いてきた女性の姿は何処にもなく、斬られた筈の身体も痛みの一つとして訴えない。

「ゆ、夢……」

 冷や汗でぐちょぬれの中で、セナが茫然と言葉を零す。
 全ては悪い夢だったのか。
 考えてみれば、おかしなことだらけだ。
 いきなり殺し合いなんてさせられることも、あんな恐ろしい女の人も―――あんな速く動ける人がいる事も、全ておかしい。
 セナの知る最速の男は、パンサーという黒人選手だ。
 40ヤードを4秒1で走る男。その脚は『光速越え』とすら評され、プロでもトップランナーとして活躍を見せている。
 夢で見た女性は、そのパンサーすらも圧倒していた。
 いや、比較にすらなりはしない。まるでコミックに出てくる超人のようなスピード。
 人が成し得る『速さ』ではなかった。


「そ、そうだよね。あんな速い人がいる筈が―――」

「―――よう、目が覚めたか。少年」


 ない、と言おうしたその時、声が掛かる。
 声の方に向くと、サングラスをした男が座っていた。
 男は親し気に片手を振っている。
 どこか見覚えのある姿だった。それもそうごく最近出会っているような印象を受ける。

(えーっと、だ、誰だっけ?)

 必死に記憶を探るセナ。
 考えれば考える程、見覚えがある。
 だが、実際に見た時はほんの一瞬にも満たない筈だ。

「何だ、覚えてないのか? ついさっきお前を助けてやっただろうが」

 男が助け舟を出した瞬間、セナは全てを思い出した。
 耳をつんざく金属音。地面に倒れる少女。悠然と立ち尽くす女。
 刹那の攻防。抜き去り、全力で駆け、尚も詰められる距離。
 女が、言う。
 足りない、と。
 何より、速さが足りない、と。
 
(あ―――)

 そう、夢ではなかったのだ。
 全て現実。殺し合いも、セナの知る最速を越える女性も。
 死を予感した事も、全力の疾走に容易く追い縋られた事も、全てが本当の出来事。
 夢なんかじゃ、ない。現実だ。


「う、うわわわわわわ……!」

 気付けば、走り出していた。
 目の前の現実から逃げるように、全てをかなぐり捨てて駆け出す。
 ベッドから飛び出し、扉を押し開け、薄暗い廊下に出る。
 どちらが出口かも分からない状況で、それでも走る。
 何かから逃げるように、そうすれば全てから逃げ切れるのだというように、駆ける。


109 : 速さが足りない ◆vzkSg/OL/U :2018/12/06(木) 16:55:02 CKlYj1tE0

(逃げる、逃げるんだ、そうしなくちゃ―――殺される)

 脳裏に浮かぶのは、あの女性だ。
 冷徹な、人を傷付けても一切の感情を見せなかった瞳。
 人を傷付ける事に、人を殺す事に躊躇いの欠片も見せなかった精神。
 そして、人知を越える―――『速さ』。
 逃げろ。
 逃げて、逃げて、逃げ続けろ。
 走らなくちゃ、走り続けなくちゃ、直ぐに追い付かれる。
 あの人は、あんなにも速かったんだから。
 いくつかの曲がり角を曲がり、階段を飛び降り、更に廊下を走ったところで、外へ続くガラス張りの扉が現れた。
 行き先も分からずデタラメに走っていただけだが、どうやらしっかり出口に向っていたらしい。
 セナは躊躇いもせず、外に飛び出そうとする。

「落ち着けよ、少年」

 そこで、声が掛かった。
 出口の横に、誰かが立っていたのだ。
 それは、先程部屋で見た男だった。

「ど、どうして……」

 思わず疑問がこぼれる。
 全力で走っていた筈なのに、どうして先回りされているのか。
 自分が走り出した時、男は椅子に座っていた筈だ。
 その筈なのに、自分よりも早く出口に辿り着いていた。

「どうしてって、そりゃあお前がパニック状態で走り出したからな。放っておく訳にもいかんだろ」

 違う。そういう事を聞きたいんじゃない。
 何故、自分より先に此処にいるのか。
 何故、自分より早くこの場に辿り着いているのか。
 それが、知りたかった。

「あぁ、お前が聞きたかったのはそういう事か」

 尚も不思議な顔を見せるセナに、男はようやく合点がいったようだった。
 ニヤリと笑い、サングラスをあげて答える。

「それはな。俺が、お前よりも『速かった』からだよ」

 男の答えに、セナは目の前が暗くなるように感じた。
 自分よりも速いと、男は事もなげに言ったのだ。
 スピードを自讃する言葉が男の口から機関銃のように続くが、セナにはもう聞こえていなかった。
 アメリカンフットボールを始めてから積み上げていた何かが、崩れていくような気がした。

「僕は……遅いですか?」

 気付けば、問うていた。
 俯き、唇を噛み締めて、問い掛ける。
 セナの様子に、男も何か察したようだった。
 言葉の嵐を止め、サングラスを外して正面からセナを見据える。

「あぁ、遅い。少なくとも俺やあの女騎士からすれば、絶対的にな」

 男は誤魔化しもせず、はっきりと告げた。
 先程までのふざけた様子も、軽薄な様子もない。
 ただ純然たる事実を述べる。


110 : 速さが足りない ◆vzkSg/OL/U :2018/12/06(木) 16:55:39 CKlYj1tE0

「そう……ですか」

 それだけ言って、セナは押し黙った。
 改めて考えてみると、正面から遅いと言われたのは初めての経験だった。
 少なくともアメリカンフットボールを始めてから、遅いと言われた事はない。
 だが、それが事実なのだ。
 既に二人も、自分より―――それも桁違いに速い者と出会った。
 一人は先程の女性。そして、もう一人は目の前に立つ男。
 この謎の殺し合いに於いて、自分は遅い。
 認めたくない事実が、セナの前に立ち塞がる。
 セナは、考える。
 格の違う『速さ』。
 知覚もできない、眼にも止まらぬ、『速さ』。
 それを前にして、自分はどうすれば良いのか。
 腕力なんてない。技術だってない。頭も良くない。
 ただ『速さ』だけが、自分の取り柄だった。
 その『速さ』ですら、まるで敵わぬ……勝負の土俵に上がる事もできない程の人が現れて。
 それで、自分はどうすれば良いのか。
 セナは、考える。
 考え、考え、考え―――気付けば言葉が出ていた。
 

「……勝負を、してもらえませんか?」


 眼前の男に、そう告げる。
 男は、セナの言葉に目を見開いた。
 彼にとっても、予想外の一言だったからだ。


「……勝負ってのは?」
「あなたを抜いてあの街灯に触れたら、僕の勝ち。それより先にあなたが僕をタッチできたら、あなたの勝ち……これで、どうでしょう?」


 ゴールラインは後方十数メートルの位置にある街灯。
 タッチをされたら、そこで負け。
 曰く1on1。
 セナは自分より桁違いに速い男へ、殺し合いの最中だという事も忘れて、勝負を挑む。


「良いだろう、少年。気が済むまで掛かってきな」
「よろしく……お願いします」


 靴紐をまき直し、屈伸運動をして男を見据えるセナ。
 だらりと両腕を垂らし、自然体でセナを待ち受ける男。
 病院前。
 フィールドはアスファルトの道路。
 数メートルの距離を介して、二人の男が対峙する。


「―――行きます」
「―――来な」


 静寂の中、勝負が始まる。
 停止状態からトップスピードへ。
 長年のパシリ……もとい走り込みで培った天然のチェンジ・オブ・ペースで、セナが男へ迫る。
 繰り出すは『デビルバット・ゴースト』。
 錯覚すら巻き起こす、高速のクロスオーバーステップ。
 対して、男は動かない。
 フェイントに微動だとせずに、セナを見ていた。
 距離が縮まり、そして交錯。
 男は、やはり微動だにしない。
 一歩、二歩と男から距離を離す。
 ゴールラインである街灯はすぐそこ。
 セナは必死に手を伸ばし―――、


「良い『速さ』だ、少年」


 首根っこを掴まれる。
 息が詰まり、地面へと倒れるセナ。


「だが―――そうだな、やはり『速さ』が足りんな」


 セナを見下ろしながら、男が告げた。
 やはり誤魔化はなく、事実だけを述べる。


111 : 速さが足りない ◆vzkSg/OL/U :2018/12/06(木) 16:56:19 CKlYj1tE0


「もう一度、いいですか?」


 セナは男を見上げながら、告げた。
 事実に直面して尚、真っ直ぐな瞳で挑戦を続ける。


「言っただろう、少年。―――気が済むまで掛かってきな」


 立ち上がり、距離を取り、また交錯する。
 何度も、何度も、何度も……セナは地面に転がり、男はセナを見下ろした。
 変幻自在のフェイントも通用しない。
 こちらの足捌きの全てを見切っているかのように、男は容易くセナを捉えて見せた。


「もう一度、お願いします」
「ああ、来い」


 それでも勝負は続いていく。
 『速さ』を求める男達は、言葉ではなく『速さ』で語り合う。



「………あの、二人は何をしてるんですか?」
「私に聞かれても困る。何も聞かされちゃあいないもんでね」


 ―――そして、その語り合いを観る者が二人。
 病院の二階からセナ達を見下ろし、数分前と同様のやり取りを飛ばすフェイトとブラックジャック。
 フェイトは心底から不思議そうに、ブラックジャックは何かを察したように笑みを浮かべて、セナ達を見ていた。

「……先生、何か気付いてません?」

 ブラックジャックの笑みに、フェイトが問いただす。
 正直、フェイトには二人の行動がさっぱりと理解できない。
 なぜ二人はあんな所で走り合っているのか、考えるも答えはでない。

「いやいや、ありゃあ私には分からない世界さ。ただ言うなれば―――」

 言葉を切り、どこか楽しげに続けるブラックジャック。

「―――男の世界、ってやつなんだろうなぁ」

 ブラックジャックの答えは、フェイトの混乱を更に助長するだけであった。
 頭の中に増えてくる『?』マークに首を傾げるフェイト。
 太陽が照らし始めた市街地で、奇妙な時間が流れていく―――。

 


【小早川瀬那@アイシールド21】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、セナのアメフト装備一式
[思考・状況]
1:速さが、足りない……!
      
      

【ストレイト・クーガー@スクライド】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:さぁ来い、少年。
1:金髪の騎士(セイバー)を警戒



【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:腹部に切傷(治療済)
[装備]:バルディッシュ@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:二人は何をしてるんだろう?
1:母さん、どうして……。


【ブラックジャック@ブラックジャック】
[状態]:健康
[装備]:ブラックジャックのバック@ブラックジャック
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:男の子だねえ……。
1:医者として出来る事をする
2:カズマに恩を感じている


112 : ◆vzkSg/OL/U :2018/12/06(木) 16:56:46 CKlYj1tE0
投下終了です。


113 : 名無しさん :2018/12/07(金) 00:36:24 QFvKaa3o0
投下乙です
やっぱりクーガーの兄貴はカッケェ……
己の限界の先に触れたセナはここからどんな成長を見せるのか


114 : 名無しさん :2018/12/08(土) 01:28:25 NF/Uloa20
投下乙
心折れそうになりながらも前へ進もうとするセナ、それを受け止めるクーガー
何かを掴めるといいなあ


115 : ◆vzkSg/OL/U :2018/12/08(土) 17:40:55 wm4urVeg0
感想ありがとうございます。
セナもまたどう成長を見せてくれるのか、書く側ながら楽しみです。

では、スティーブ・ロジャース、美樹さやかで投下します。


116 : 自分を受け入れるという事 ◆vzkSg/OL/U :2018/12/08(土) 17:44:58 wm4urVeg0
 スティーブ・ロジャースは暗闇の中で、美樹さやかの覚醒を待っていた。
 彼女に何を語ればいいのかを、考える。
 暗い瞳で、戦いを求めた少女。
 自分に襲い掛かっては来なかったのだ。殺し合いに乗っているという訳ではないだろう。
 ならば、何故彼女はあそこまで頑なに戦いを求めたのか。
 分からない。
 分からないが、彼女の思うままに行動させる訳にはいかない。

(……あんな状態で戦えばサヤカは……)

 自らを顧みない者の戦いは、危険だ。
 例えどれだけの力があろうと、結末は明るいものではない。
 ましてや、さやかはまだ十代の少女だ。そのような結末を味合わせたたくはなかった。

「うっ……」

 美樹さやかが、苦し気に呻いた。
 覚醒に近付いているのだろう。
 彼女に対してどう声を掛ければ良いのか、答えは出ない。
 そうこうしている内に、少女が目を開ける―――、







 美樹さやかは、魔法少女である。
 一生動かないとされた想い人の腕を治す事を願い、魔法少女の力を手に入れた。
 別に見返りを求めた訳ではない。
 彼を治してあげたいと、またあの音色が聞きたいと思い、治す手段があったからそうしたまでだ。
 魔法少女の危険性は分かっている。
 ベテランの魔法少女が呆気なく、誰にも知られる事なく死んでしまったのを目の前で見た。
 それでも―――そう、それでも願いを叶えたいと思った。そう思ったから、美樹さやかは魔法少女となった。
 そして、彼女は知る。
 人間とは、決して清廉潔白などではない事を。
 自らの奥に眠る醜さを、知る。
 始まりは、魔法少女の真実を知った事だろう。
 既に肉体に魂は存在せず、彼女の魂は手のひらサイズの宝石へと封じ込められていた。
 動く死体。ゾンビのような身体。
 とても普通の生活など送れやしない。
 想い人に対する気後れがそこにあった。。
 それでもさやかは前を向こうとした。
 魔法少女としての自分に向き合い、巴マミのように誰かを助ける存在になろうと考えた。
 しかし、ここで予想外の出来事が起きた。
 友人が、さやかの想い人に告白をすると宣言したのだ。
 その宣言は、さやかに大きなショックをもたらした。
 彼が、自分の元から離れてしまう。
 ずっと想い続けていた彼が、魔法少女にまでなって救った彼が、他の誰かに取られてしまう。
 でも、自分がどうこうする事はできない。
 自分はもう魔法少女で、魂も持たぬ生きる屍。彼の隣に寄り添うなんて出来やしない。
 沸き上がる嫉妬は、自らの心すらも燃やしてしまう。
 自らの心にあった醜い考えにさやかは自己嫌悪に陥り、自暴自棄となってしまう。
 親友にすら当たり散らし、それでも魔法少女として戦い―――果てに、この殺し合いに連れられた。


117 : 自分を受け入れるという事 ◆vzkSg/OL/U :2018/12/08(土) 17:45:34 wm4urVeg0
 さやかは、思考する。
 殺し合いを止める。
 魔法少女として、正義の味方として、そうする。
 でも、そこに彼女自身は勘定されていない。
 止める。止めなくてはいけない。
 それしか自分にはないんだから、やらなければならない。
 そうして会場を歩き、スティーブ・ロジャースと出会った。
 男は、何故だか自分に同行してきた。
 露骨に拒絶しようと、少し困ったような表情を浮かべて、後を付いてくる。
 さやかは、スティーブを無視した。
 誰がついていようといまいと、自分のやるべき事をやるだけだ、と。
 自分にはそれしか無いんだ、と。
 彼を視界の外に切り捨てて、行動を始めた。
 彼女は、聞いた。
 遠くから聞こえた戦闘の音。
 まるで魔女と魔法少女が戦っているかのような、凄まじい音が響いてきた。
 さやかは、躊躇いもせずに走り出した。
 先にいる存在がどれだけ強大だろうと、関係はなかった。
 戦わない、という選択肢は今の彼女に存在しないのだから。
 だから、躊躇も、恐怖もない。
 彼女は戦闘音のする方へ駆け出し―――そして、立ち塞がる者を見た。
 スティーブ・ロジャース。
 何故だか自分に構い続ける男。
 男は、魔法少女となった自分に追随し、目の前に立ち塞がった。
 彼は、言った。
 どかない、と。
 君を戦場に立たせる訳にはいかない、と。
 言って、立ち塞がった。
 ただの人間が、魔法少女の苦しみも辛さも知らない男が、立ち塞がった。
 跳ね飛ばそうと、立ち上がり、信念の持った瞳で見つめてくる。
 感情が爆発し、彼を本気で殴り倒そうとした。
 だが、交錯した瞬間意識を失ったのは自分で……今は、寝転がった状態で彼を見上げていた。

「あんた……」

 眼が合う。
 男は数瞬前に見せた力強い瞳が嘘のように、申し訳なさそうな弱々しい瞳を見せていた。
 思わず、呆れてしまう。
 こんな男に殴り倒されたのだ。
 魔法少女としての才能がないとは分かってはいたが、余りに不甲斐なさすぎる。

「……さっきはすまなかった」

 頭を下げる男。
 さやかは無言で見詰めるだけだ。
 返事をする必要も感じられなかった。
 さやかが、立ち上がる。
 こんな男に構っている暇はない。
 戦いを、止めなければいけない。

(それが、それだけが、私の―――)

「―――待ってくれ」

 だが、右腕を掴まれる。
 またもやスティーブはさやかを阻止をしようとする。
 苛立ちが湧き上がる。
 この男は一体なんなのだ。
 何故立ち塞がる。何故邪魔をする。
 
「……あんた、何のつもりなの?」

 冷たく問い掛ける。
 男は僅かに目を伏せ、口を開いた。

「……君を、止めたい」

 こちらを握る力は弱まらない。
 痛みを感じる程の強く握られている訳ではないが、まるで万力で固定されているかのようにビクともしない。

「今の君を、戦わせる事はできない。出来れば教えて欲しい。何故きみは戦うのか。何故きみは自身をそんなにも顧みようとしないのか―――」

 視線をあげる男。
 その瞳には輝きが取り戻されている。
 真っ直ぐな、力強い輝き。
 それは、自分にはないもの。
 嫉妬に塗れた自分には、持ち得ないもの。

「―――どうか、教えて欲しい」

 さやかは押し黙る。
 目の前の男を、どう判別すればいいのかが分からない。
 数十分前に出会っただけなのに、たった一言二言しか言葉をも交わしていないのに、彼は大きく踏み込もうとしてくる。
 自分の心の深く、醜いところに、何故だか踏み込もうとしてくる。


118 : 自分を受け入れるという事 ◆vzkSg/OL/U :2018/12/08(土) 17:46:04 wm4urVeg0

「……知って、どうするつもり?」

 男の目的を知りたかった。
 何故、この男は自分の事を知りたがるのか。知ってどうするつもりなのか。
 さやかは問うた。

「君の力になりたい。僕が力になれるかは分からないが、それでもそう思う」

 返事もまた力強く。
 さやかは何故だか圧倒されるような感覚を覚える。

「……訳わかんないよ、あんた」
「偶に言われるさ。ついていけない、ともね」

 苦笑する男に、さやかは心の内で凝り固まった何かが溶けていくような感覚を覚えた。
 この男になら、話してみても良いのかもしれない。
 自分の心の内を。
 嫉妬と、焦燥と、絶望と。
 あらゆる感情がない交ぜなった心を。

「……つまんない話だよ―――」

 気付けば、さやかは訥々と語り出していた。
 魔法少女の存在、先輩魔法少女の死、魔法少女の真実。
 自分の願い、願いの果てにあったもの。
 自分の感情。醜さを―――全て語った。
 男は目を伏せ、険しい顔で話を聞いていた。


「―――これが、私の物語だよ。たったこれだけの、醜いお話」


 語り終え、再び静寂が戻る。
 男は何も語らない。
 押し黙り、やはり険しい表情で考え込んでいる。

「だからさ、構わないでよ。こんな私に出来る事なんて、何かの為に戦う事だけなんだから」

 さやかが、立ち上がる。
 全てを打ち明けた事を気の迷いだったでも言うように、その場から立ち去ろうとしていた。
 少女の出した結論は、拒絶。
 結局のところ、それしかないと。戦うしかないんだ、と。
 全てを抱え込み、彼女は己が心を閉じ込めたままに、進もうとする。
 歩き出すさやかに、男は―――


「……違うさ、サヤカ」


 ―――三度、立ち塞がる。


119 : 自分を受け入れるという事 ◆vzkSg/OL/U :2018/12/08(土) 17:46:28 wm4urVeg0
 腕を広げ、彼女の正面に立つ。


「君は、戦う必要なんてない―――戦わなくて、良いんだ」


 スティーブ・ロジャースは言った。
 美樹さやかに、
 魔法少女に、
 生きる屍と化した彼女に、
 嫉妬と使命感の狭間で苦しむ彼女に、
 それは違う、と。
 戦わなくていいんだ、と。
 立ち塞がる。

「……何で? 私にはもうそれしかないんだよ?」

 問い掛けに、スティーブが首を横に振る。 


「違う、君には未来がある。どんな経緯があろうと、どんな過酷な身体になろうと、君は君だ。
 まだ15才の、まだ大人にもなりきっていない、少女だ。
 誰かを助けたいと理想を抱き、淡い恋を知り、そして自分の醜さを、世の中の不条理を知り始めただけの―――少女なんだ」


 スティーブは思う。
 彼女は沢山の事を一度に知り過ぎたのだと。
 これからの人生で知る筈の数多の事を、短い時間で知ってしまった。
 理想と現実のギャップ。
 実らぬ恋の辛さ。
 今までは見えてこなかった自身の本質。
 これから長い年月を掛けて知り、更に長い年月を掛けて受け入れるべき事を、まるで濁流に飲まれるかのように付けつけられてしまった。 
 だから、絶望してしまう。
 嫉妬に燃える自分は醜い。こんな体に未来なんてない。
 そう考え、己の価値を見出せなくなって、身を投げ出すように戦いに身を投じる。


「自分をそんなに否定するな。君はまだ、子どもだ。1人で抱えきれなくなったら、誰かを頼れば良い。
 家族でも良い、友人でも良い、何なら僕にだって良い。誰かに想いを吐きだし、涙を流すんだ。
 だが自分を、責め過ぎるな。自分を、否定し過ぎるな」


 自分が醜いと、自分には絶望しかないと、さやかは言う。
 それは違うと、スティーブは断言できる。
 どんな身体になろうと、どんな心を持とうと、自分を死地に追いやる程に絶望をする必要はない。


「自分を―――認めてやるんだ、ミキ・サヤカ」


 はっきりと、スティーブ・ロジャースは告げる。
 あるがままの君を受け入れろと、彼はまるで諭すかのように語り掛けた。
 さやかは俯いたまま、動かない。
 肩を震わし、彼の言葉を噛み締める。
 そして、顔を上げる。

「……そんなの、無理だよ」

 彼女は、泣いていた。
 頬に涙を伝わらせ、自嘲げに笑う。

「好きな人を盗られそうになって……なのに、こんな体で……友達にも酷い事いっちゃって……それでも、自分を好きでいろなんて出来ないよ……。
 多分あなたの言ってる事は正しいんだと思う……でも、それでも、駄目なの……こんな自分認めることなんて出来ない―――出来ないよ……!」

 言葉で諭されて、それでその通りに行動できる人間は少ない。
 例え頭で言葉の正しさを理解できても、感情が付いていかない。
 理性を越えたところで、心が受容を拒絶する。


120 : 自分を受け入れるという事 ◆vzkSg/OL/U :2018/12/08(土) 17:46:53 wm4urVeg0


「……僕も、そうだったんだ」
「え?」


 突然、スティーブの表情が変わった。
 諭すようなものから、不安が混じったものに。
 先程、さやかが覚醒した時にも見せた、弱々しさのある表情だった。

「僕も、君と同じ経験がある。君も知っているかもしれないが、僕は長い間昏睡していてね。目が覚めた時、かなりの年月が経過していた」

 ポツポツと、彼は語る。
 噛み締めるように、自分の過去を詳らかに、する。

「恋人がいたんだ。約束をしていた。この戦いが終わったらダンスに行こうと、約束をした。
 でも、僕はその約束を守れなかった。意識を失い、行方不明になってしまったから。
 気付いた時には、既に彼女には旦那がいて、子どもがいた。僕が愛した人は……もう別の男と家庭を築いていたんだ」

 拳が、強く強く握られていた。
 何度思い出しても、平常心ではいられない。
 鳴り響くアラーム音。近付いてくる氷河。途切れる通信。
 轟音。暗闇。そして―――、


「友人たちも、殆どが他界していた。僕に残されたのは、この身体だけだった。
 人より屈強な身体を持つだけの『古い人(オールドマン)』……目を覚ましてからも、何度も小馬鹿にされたさ。
 でも、僕にはそれしかなかった。だから、受け入れて、前に進んだ。
 その先に何も待っていないのだとしても―――それが、僕の生き方だからだ」


 さやかは、とても悲しそうな表情をしていた。
 人の痛みに共感し、自分の事のように悲しむことができる少女。
 優しい子だ、と素直にスティーブはそう感じた。


「……君の気持ちが分かるとは言わない。僕と君とでは状況が違うだろう。でも、それでも、こんな男がいるんだという事を知って欲しい。
 こんなバカな……どうしようもない男だって、いる。君も、今は、自分を受け入れられないかもしれない。
 でも、時が経ち、成長をして、悩んで、悩んで……でも、何時か受け入れられる日がくるかもしれない。
 それまで、せめてそれまででも良い。少しだけでもいい。自分を大切にしてあげるんだ」


 そう言うスティーブだって、全てを受け入れられた訳ではない。
 今だって、時折あの日々を思い出し、苦悩する。
 だが、おそらく人間はそういうものなのだ。
 ある日の過ちを一生苦悩し続け、それでも何とか折り合いをつけて、生きていく。
 誰もが聖人君子になれる訳がない。いや、聖人君子など存在しないのかもしれない。
 それでも、
 それでも―――生きていくんだ。


「―――1人じゃあ、ない」


 かつて、スティーブが最も救われた言葉。
 どうしようもなく辛い時に、親友が伝えてくれた言葉を、今彼もまた吐く。
 君は一人ではない、と。
 こんな男もいるんだ、と。
 励ますように、彼は言った。


121 : 自分を受け入れるという事 ◆vzkSg/OL/U :2018/12/08(土) 17:47:14 wm4urVeg0


「……わかんないよ、あんたの言ってること全然わかんない……」


 さやかの頬に、気付けば涙が流れていた。
 涙の理由は、彼女にも分からない。
 自分を許して良いと言ってくれたからか。
 それとも少し似た境遇の人がいると知ったからか。
 彼女には、分からない。

「……でも……こんな私でも、生きたいと思って、いいの……?」

 少女の問いに、男は力強く首を縦に振る。

「ああ―――当たり前だ」

 当然の答えを―――でも、誰にも告げられなかった答えを―――スティーブは彼女に与えた。

「あ……あぁ……あああぁぁぁぁああああああああああ」

 溢れる涙はとめどなく。
 拭えど拭えど、拭い切らず。
 少女は、まるで童に戻ったかのように泣き始めた。
 スティーブは、もう何も語らない。
 優しく、彼女を見守っているだけだった。
 少女の境遇の何が変わった訳ではない。
 変わらぬ魂を失った肉体で、想い人は他の女性に取られたままで。
 それでも……それでも確かに、彼女は得たのだ。
 絶望に塗れたものではない、ほんの僅かな希望が含まれた答えを。
 少女は、得た。
 涙で濡れた部屋に、男と少女が二人。
 少女の声は、どこまでも続いていく―――。
 
 
【スティーブ・ロジャース@アベンジャーズ】
[状態]:胸部にダメージ(小)
[装備]:ワカンダ製の盾@アベンジャーズ、スティーブのスーツ(インフィニティ・ウォーver)@アベンジャーズ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:もう誰も死なせない。
1:サヤカを守る。
2:甲冑の少女(セイバー)を警戒


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:さやかのソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:私は……!


122 : ◆vzkSg/OL/U :2018/12/08(土) 17:48:36 wm4urVeg0
投下終了です。
アベ4のデイザー公開されましたね。どうかハッピーエンドで終わって欲しいです。


123 : 名無しさん :2018/12/08(土) 23:16:03 4EIu8Pso0
投下乙です
やっぱりヒーローってのはいいものですね


124 : ◆vzkSg/OL/U :2019/03/26(火) 18:34:16 wXBAtFh20
覚えていらっしゃる人がいるか分かりませんが、久し振りに更新したいと思います。

巴マミ、高町なのは、トニー・スターク、アーチャーで投下します。


125 : 英雄同盟と、残された魔法少女達 ◆vzkSg/OL/U :2019/03/26(火) 18:35:27 wXBAtFh20
「うう……」

 意識が引き上げられると共に、巴マミの全身を鈍痛が貫いた。
 ぼやける視界が段々と晴れていき、自分が置かれた状況が分かってくる。

「ここは……」

 そこは薄暗い室内だった。
 簡素なソファベッドと小さな机と椅子だけが置かれたこじんまりとした部屋。
 仮眠室か何かなのだろう。
 痛みを推して、マミは上体を起こす。
 どうにも記憶がはっきりとしなかった。
 何故自分がこんな見覚えのない場所にいるのか、何故こんなにも全身が痛むのか。
 鈍い思考で記憶を遡ろうとするマミ。

「あっ、起きましたか!」

 と、そこで唐突に喜びを滲ませた声が投げかけられた。
 声の方を見ると、少女が一人扉を開けた状態で立っている。
 その手には水桶やら濡れタオルやらが。
 身体を起こした際にズレ落ちたのか、よくよく見ると膝の上には同様の物が置かれていた。

「貴方は……?」

 少女の姿を、マミは見た覚えがあった。
 どこで、どのようにして見かけたのか。
 ごく最近見たような気がするのだが―――、

「私は高町なのはっていいます。痛む所はありませんか?」
「え、ええ、大丈夫よ……」

 少女は見た目にそぐわぬ、大人びた雰囲気を纏っていた。
 マミの側に腰を下ろし、心配そうな瞳で覗きこんでくる。
 痛みはあるが、幸い辛さを感じる程ではない。
 魔法少女として戦ってきた中では、もっと大きな怪我をした事もある。
 これくらいなら、まだ動ける範囲内。だが、確かに身体に刻まれているダメージは相当なもの。
 魔法少女の経験を積むにつれ、戦いで傷を負う事は少なくなっていた筈なのに。
 それ程の強敵と戦闘をしたというのか。
 だとすると、それは一体誰なのか?

「あの、なのは……ちゃん? 私、何で気を失っていたのかしら? どうにも思い出せなくて」

 問い掛けると、なのはは表情を曇らせ、答えに窮した。
 言うべきか、言わざるべきか、判断に迷っているようだ。

「……それは―――」

 数秒の逡巡の末、なのははマミの求める答えを教える選択をとった。
 自分が確認した状況を、包み隠さずにマミへと伝える。
 銃声が聞こえた事、魔力を感じ取った事、現場へ向かうとマミが何者かと戦っていた事。
 相手は青色の肌をした巨人で、マミが叩き伏せられた瞬間を見た事。
 戦いに割って入り、巨人―――サノスから何とか逃げ果せた事。
 全てを、語る。

 話を聞くにつれてマミの顔色が変わっていくのを、なのはは見ていた。
 途中から自分の身に降りかかった事を思い出したのだろう。
 表情が青ざめ、恐怖に身体を振るわせている。
 サノスと対面し、成すすべなく圧倒され、殺害されかけた。
 事実なのはが乱入しなければ、巴マミはサノスに殺されていただろう。
 敗北の恐怖を、死の恐怖を、あの瞬間の絶望を、思い出す。

「いや、いや………いやぁぁぁぁぁぁ!」

 狂乱の絶叫が、あがる。
 何かから庇うように自分の身体を抱き締めて、蹲る。
 そんなマミをなのはは痛まし気に見詰める事しかできなかった。
 殺し合いに巻き込まれ、実際に殺されかける。
 それが、人にどれ程の傷を負わせるのか。
 数多の事件を通して、事件の中で傷付いた人々を見て、なのはもその片鱗を察していた。
 小さくなったマミの身体を、なのはは優しく抱きしめる。
 その恐怖が、その絶望が、少しでも和らいでくれればと。
 少しでも、目の前の少女の辛さを取り除く事に繋がればと。
 抱きしめる。

「……大丈夫です、大丈夫ですから」

 事件の被害者を見るたびに、なのはは思うのだ。
 もっと強くあれれば、と。
 誰もを救える程の強さがあれば、と。
 弱い自分を恨むのだ。


「守りますから、もう絶対に貴方を傷付けさせませんから―――だから、怖がらないで」


 懇願にも似た思いで、なのはが紡ぐ。
 二人きりの個室に、気付けば二人分の涙がこぼれていて。
 魔法少女が二人、身を寄せあう―――。


126 : 英雄同盟と、残された魔法少女達 ◆vzkSg/OL/U :2019/03/26(火) 18:36:06 wXBAtFh20




「―――これが、僕がこの場で仕入れた情報の全てだ」

 二人から少し離れた部屋で、トニーとアーチャーは向き合っていた。
 照明が落ち、暗闇に包まれた部屋で、トニーがナノテクノロジーで作成した機械だけが光を放っている。
 それは映写機のようなもので、空間に3つの映像を映し出している。
 一つはサノスとなのは達の戦闘。
 一つは金色の剣を振るう騎士と、同じく金色の光剣を振るう少女との戦闘。
 一つは漆黒のドレスを纏った少女が、一人の少年の上半身を吹き飛ばす光景。
 戦闘と、虐殺と。
 既に一つの命が失われた事を示しながら、映像は同じシーンを繰り返していた。

「君達とサノスとの戦闘と殆ど同じタイミングで、これらは発生していた。
 会場数百メートルの高度からでも、はっきりと視認できる程のエネルギーだった。
 ……1人1人がソーにも迫る力を有していると言っても良いかもしれない」

 口早に語るトニーに対して、アーチャーは無言を貫いていた。
 眉間には皴を寄せ、腕を組んで、映像を見詰めている。

「事態は決して良いとは言えない。こちらの戦力は余りに限られている。最初の場にいた人々を見ただろう?
 あれだけの人間しかいない中で、更に殺し合いに乗った人々を除外すると、どうだ。味方となってくれるだろう人々は、十数人しかいない。
 たった十数人だ。これだけの頭数で、サノスを倒し、この時代錯誤の騎士様を倒し、このクレイジーなコスプレ少女を倒し、この殺し合いの首謀者を倒さなくてはならない」

 小さく息を吸い、トニーが続ける。

「必要なのは団結だ。殺し合いの場だからといって、疑い、否定し、バラバラに行動していては駄目だ。
 そんな事になれば、殺し合いに乗ってる奴等の思う壺。各個撃破されて……ボン! 全滅だ」

 トニーは知っている。
 団結できずにあった戦いの結末を。
 死んだ。
 皆、死んでしまった。
 その為に全てを費やしていた筈なのに。
 勝たなければいけない戦いで、自分達は敗北し、取り返しのつかない事態に世界を陥れた。

「君の実力は見させて貰った。あの戦い……凄まじい狙撃だった。ホークアイもその腕前を認めるだろうさ。
 だが、それだけだ。君の力でもサノスを退かせる事しか出来ていない。倒す、なんていうのは夢のまた夢。不可能だ……一人ではな」

 だから、手を組む。
 団結し、戦う。
 何時だか、彼が言っていたように。
 力を合わせることが、自分達に求められる大前提なのだ。
 勿論、目の前の男を心底から信頼する訳ではない。
 出会って十数分の男で、どこの出身で、何が趣味なのかすら知りはしない。
 それでも、男はあの少女を救った。
 その一事実があれば、協力を願い出るには十二分だった。
 協力をしなければ、勝利はないのだから。


「頼む―――僕と手を組んでくれ」


 頭を下げるトニーに、やはり弓兵は無言を返す。
 何かを考え込みながら、トニーを見下ろす。
 現状は、アーチャーにも理解できた。
 二、三ほど信じられない事態もあったが、現状が既に窮地にあることも察している。
 アーチャーの弓撃を、少女の砲撃すらも、ものともしなかったサノス。
 そして、先程の映像の中にあった二人の女性。
 一人は、彼も良く知る人物であった。
 信じられないが、映像の中の彼女は、まるで殺し合いに乗ったかのように剣を振るっていた。
 先程の映像がフェイクでなければ、その脅威は誰よりもアーチャー自身が知っている。
 個人で生存を目指すのは、非常に厳しいと断じるしかないだろう。
 だが、だからといって、目の前の人物とおいそれと協力する事ができるのか。
 何より、自らを『   』などという人物などと。


「……三つ程、質問をしても良いかな?」
「勿論だ。今ならマスコミには答えられないことだって答えよう」


 おどけて言うトニーに、アーチャーは氷のような瞳を向ける。
 その両目には憎悪すら見て取れたように、トニーは感じた。


127 : 英雄同盟と、残された魔法少女達 ◆vzkSg/OL/U :2019/03/26(火) 18:36:37 wXBAtFh20
「一つ、この情報を何故あいつ……高町なのはに教えない? 彼女の実力は見た通りだろう。
 何より戦力を欲するのだとすれば、彼女にも協力を求めるのも当然だと思うが」


 質問に、トニーは迷わず答える。


「彼女は、子どもだ。例えキャプテンが裸足で逃げ出すような力を有していても、少女版ハルクのような力を有していても、子どもなんだ。
 子どもを巻き込むことは、できない」


 その思考の裏には、ピーター・パーカーの存在があった。
 自分が巻き込み、死なせてしまった少年。
 同じミスを犯すのは、もうごめんだった。


「そうか。次の質問だ」


 表情を変えずにアーチャーが続ける。


「二つ、もしその装置が破壊され、スーツを喪失したとして、君はどうするつもりだ。
 君はそのスーツで戦うといったな。ならば、スーツがなければ、もう戦えないのか、それでも尚戦うのか。どちらだ?」


 質問が投げかけられた時、既に一本の短刀がトニーに突きつけられていた。
 胸部のナノマシン格納庫に、切っ先が触れている。
 トニーにはとても反応できない速度の挙動。
 答えを誤れば殺す、とでも言っているかのようだ。


「もちろん戦うさ。スーツ無しで戦えない者にスーツを着る資格はない。
 スーツがあろうとなかろうと―――僕はアイアンマンだ」


 命が懸った質問に、先程と同様に迷わず答えるトニー。


「……次の質問だ」


 表情を変えず、切っ先も退かせずに、アーチャーが続ける。



「三つ、自己紹介の際お前は自分を―――『ヒーロー』と言ったな。
 ……例えば、危機に陥っている者が二人いて、そのどちらかしか救えないとしたら、お前はどうする?
 『ヒーロー』を名乗ったお前は、どう行動する?」


 最初の邂逅から少しして。
 この部屋に移動した時に、トニーは自身の事をアイアンマンと―――『ヒーロー』として活動している者だと、アーチャーとなのはに名乗った。
 『ヒーロー』、『正義の味方』……それはアーチャーの根幹を成す大きな楔であった。
 だからこそ、問い質す。
 それを名乗る覚悟があるのか。それを名乗る資格があるのか。
 眼の前の軽薄な男は、どこまで考え、どこまで理解し、それを名乗ったのか。
 アーチャーは殺意すら伴わせて、問い掛けた。


「……勿論、どちらもを救うつもりで動くさ。全てを救う覚悟がなければ、『ヒーロー』を名乗る資格はない」


 トニーの回答に、アーチャーの内で殺意が膨れ上がった。
 『ヒーロー』とは、そのような絵空事ではない。
 全てを救う事など、全てを助ける事など、出来やしない。
 それは純然たる事実だ。
 人が人である限り、救えない者は必ず現れる。。
 それを認める事ができない『ヒーロー』など、ただの夢想家に過ぎない。
 そんな存在は周囲すら巻き込む、特大な毒でしかない。


(―――死ね)


 刃を奔らせんと、白刃の剣に力を込める。
 アーチャーの殺意に、気付いてか気付かずか、トニーは更に言葉を続ける。


「だが……それでも、全てを救えないのが『ヒーロー』だ」


 その言葉に、アーチャーの刃が止まった。


128 : 英雄同盟と、残された魔法少女達 ◆vzkSg/OL/U :2019/03/26(火) 18:38:21 wXBAtFh20
 トニー・スタークは知っている。
 救いたい全てを救えるなど、ある筈がないのだ。
 ニューヨークでの決戦でも、ソコヴィアの戦いでも、タイタンでの戦いでも。
 全てを救う事など出来やしなかった。
 勿論、鼻から全てを救えないと諦めている訳ではない。
 全てを救おうと戦い、それでも指の間からすり抜けるように、助けられない人は出てきてしまう。
 全てを救う覚悟を持つ者が『ヒーロー』なのではない。全てを救えないと知り、それでも尚戦える者こそが『ヒーロー』なのだ。

「……そうか」

 アーチャーの刃が、魔力の塵となり霧散する。
 殺意はもはや存在しない。
 現実を知るこの男が、衛宮士郎のような妄執に取りつかれる事はないだろう。
 ならば、少なくとも肩を並べる事は出来るのかもしれない。

「問答は終わりかな、弓兵君?」
「そうだな。協力を受け入れよう、トニー・スターク。だが、一つ言わせて貰おうか」
「何だね。聞き入れるかは分からないが、聞くだけ聞いてみよう」

 ニヤリと皮肉気に笑い、アーチャーは続けた。

「私の前で『ヒーロー』を名乗るのだけは止めてくれ。思わず殺したくなってしまう」

 機関銃が如く回転していたトニーの口が、ピタリと動きを止める。
 一秒二秒とアーチャーの顔をまじまじと見つめ、次いで噴き出したように笑いだす。

「ははっ、良いぞ。君が『ヒーロー』という言葉にどんなコンプレックスを抱えているかは知らないが、中々ユニークな申し出だ。
 それくらいならまぁ良いだろう。君の前限定という条件だろう? なら、受け入れるさ」

 眼の前の男が、雰囲気通りの皮肉屋でない事は何となく察した。
 キャプテンやバナーのように、暗く重い過去が垣間見えた気がしたのだ。
 だが、だからこそ、頼もしくもある。
 芯の通った人間は強い。


「君の呼び名はアーチャーで良いのかな? 本名を教えてくれてもいいんだぞ?」
「遠慮しておくよ。この場限りの関係だ。アーチャーで十分だろう」
「それもそうだな。男同士でいちゃつく趣味はない。ビジネスライクで行こう」


 皮肉屋で現実家。それでいて根底に熱いものを持つ二人。
 言ってしまえば、二人は似た者同士のようなものなのかもしれない。
 『正義の味方』を貫き守護者と化した男と、『ヒーロー』を名乗り人類を守護せんと尽力する男。
 二人の男が―――ここで交わった。









「―――と、サノスについて僕が知る事はこれくらいかな」

 再び3つの映像を流しながら、トニーが問い掛ける。
 あれから数分、トニーは情報伝達に身を費やした。
 教えた情報は、サノスについて。
 その行動理念から、彼が持つインフィニティ・ストーンについてまで。
 一度戦った事がある事と、敗北を期したことまでを、アーチャーへと語った。
 アーチャーは顎に手を当て、考える。

「どうやら今のサノスは、インフィニティ・ストーンを三つしか持っていないようだが」
「確かにそうだな。最初の魔女が回収でもしたのか……? 確かに全てのストーンがあっては、殺し合いにもなりはしないだろうが」
「奴が持っているストーンの種類は?」
「リアル、タイム、パワーだな。それぞれの特性は―――」

 現実を司るリアル・ストーン。鉄屑を生物にする、武器をシャボン玉にしてしまう等、現実を書き換える事ができる。
 時間を司るタイム・ストーン。時を巻き戻す、未来を見る等、時間を自在に操作する事ができる。
 力を司るパワー・ストーン。強力な光線を打ち出す、離れた物に衝撃を与えるなど、力を操る事ができる。

「……御伽噺だな。聖杯の方がまだ現実味がある」

 トニーの説明を聞き、呆れたように零すアーチャー。
 とはいえ、アーチャー自身、ストーンの力は目の前でまざまざと見せつけられた。
 一笑の元に切り捨てる事は出来ない。

「今、僕達が成すべき事は戦力の集結だ。他の参加者と手を組み、とにかく力を集める。
 さて、その為にはどう行動をしていくかだが……アプローチの方法としては二つある」

 トニーが指を一本立てる。

「まずは他の参加者と積極的に接触をしていく事だ。これはひたすらに動き回る他あるまい。
 動いて、動いて、他の参加者を見つけ出し、協力を要請する」

 続いてトニーが二本目の指を立てる。

「次に戦力の総量を減らさない事だ。これがどういう事かというと―――」
「殺し合いに乗った者を無力化し、参加者の安全を確保する事で戦力を維持する―――だろう?」
「……話が早くて助かるよ」
「それはどうも」

 答えを先回りされた事に若干拗ねた様子を見せながらも、トニーは話し続ける。


129 : 英雄同盟と、残された魔法少女達 ◆vzkSg/OL/U :2019/03/26(火) 18:40:00 wXBAtFh20


「という訳で、敵対戦力は減らすに越した事はない―――が、サノスは無理だ。
 あいつは強過ぎる。奴の無力化はこちらの戦力が十分に集結してからだ。最後に回すしかない。
 ならば、他の二名についてだが……」


 サノスの映像を消し、残る二人の殺人鬼を映し出す。
 金色の剣を構える騎士と、漆黒のドレスを纏った少女。
 騎士は市街地を照らし尽す程のエネルギーを秘めた剣を振るい、少女はピンクの光を放つ弓矢一つで市街地ごと人体を吹き飛ばした。

「……どっちもどっちって感じだな。まぁ、強いて言うなら騎士の方が手頃な相手に思えるが」

 アーチャーは押し黙る。
 映像の片一方。
 騎士の方は、見覚えのある存在だった。
 彼女の深く知っている。その人となりも、心底に流れる信念も。
 だが、アーチャーの知っている彼女と、映像の少女とがどうしても一致しなかった。
 王として非情な決断もできる彼女だが、理由なく人に刃を向けるような事は決してしない。
 
「どうしたボンヤリして。さては彼女に見とれたか? 確かに絶世の美女ではあるが、子ども相手に刃を振るう奴だぞ? 止めといた方がいい」

 トニーの軽口は届かない。
 セイバー。古き英国を守護した騎士の王。
 名をアルトリア・ペンドラゴン。
 何故、彼女がこんな殺し合いの中で剣を振るっているのか。
 何故、あんなにも色を失った表情をしているのか。
 分からない。

「……彼女の事を、知っているのか?」

 そのアーチャーの様子に、さしものトニーも何かを察したようだった。
 モニターの騎士とアーチャーとを交互に見やり、問い掛ける。

「……知っているとも。ともすれば、彼女以上に彼女の事は知っているつもりだ」
「ワオ、やるね。こりゃとんだプレイボーイがいたものだ」

 軽く言うトニーであったが、その表情は固い。
 親しい者が殺し合いに乗っていると知り、それでも眼前の男は戦う事が出来るのか。
 それは、今後の戦いに於いて重要なファクターであった。

「……戦えるか?」

 問いに、アーチャーは静かに首を縦に振った。

「戦えるとも。こんな彼女を認める訳にはいかない」
「……そうか」

 眼光は鋭い。
 言葉に偽りはないのだろう。
 だが、実際に相対してみなければ、人の真意とは測れぬものだ。
 トニーはそれ以上何も言わない。
 今は、彼の決意を信じるしかない。

「彼女の情報を教えてくれないか? 彼女は一体どんな人物だ」

 アーチャーは語る。
 英霊という彼女の成り立ちから、真名と宝具まで。
 その力をトニーに伝える。

「過去の英雄を召喚……サーヴァント。アーサー王に、伝説の剣エクスカリバー、ね……。御伽噺だな、これは」

 数分前のアーチャーと同様の言葉を、聞こえないように小さく呟くトニー。
 魔法という世界が存在する事は知っていたが、ここまで出鱈目が出てくるとは思わなかった。

「それだけの力があるのなら、彼女との戦闘も避けた方が良いか。と、なるとこの少女だが……こちらも負けず劣らずきつそうだ」

 もう一方の少女もまた、弓矢の一撃で市街地を壊滅させる怪物だ。
 結局の所、トニーが発見した殺人鬼達の誰もが、単独で戦うには手に余る者ばかり。

「発見したとしても、余程の事がなければ手を出さない方が賢明だな。全員、戦力が揃った後で叩こう」

 トニーの意見に、アーチャーは同意する。
 勝ち目のない戦いをわざわず仕掛ける馬鹿はいない。
 全ては準備が完全に整った後で、だ。

「……一つ、重要な事を伝えておこう。彼女のマスターであった存在だ」

 アーチャーは続けて、言った。
 マスター。サーヴァントを使役する主人。
 あのアーサー王とやらを従えるとは、どれ程の豪傑であるのか。
 トニーの脳裏にはスティーブのような真面目超人が思い浮かべられる。


130 : 英雄同盟と、残された魔法少女達 ◆vzkSg/OL/U :2019/03/26(火) 18:40:50 wXBAtFh20

「衛宮士郎。もしそういう名の男がこの殺し合いに参加しているのならば、奴を―――」

 そこで、アーチャーを言葉を区切り、少しばかりの間をおく。


「―――奴を、頼れ」

 
 苦虫を噛み潰したような顔で、だが確かにアーチャーはそう言った。
 彼は思い出す。
 この殺し合いに呼ばれる前にあった出来事。
 かつての己との戦い。
 借り物の理想に生き、借り物の理想に殉じ、果てに死を撒き散らす存在と化す男。
 そんな男を抹消するため、アーチャーは剣を振るった。
 こんな男は在ってはならないと、断罪するかのように、かつての己を斬り伏せた。
 ……結末は、身をもって知った。
 あの男は何度斬り倒されようと、己が辿る醜悪な未来を見せ付けられようと、己の過ちを突きつけられようと。
 それでも、立ち上がった。
 どれだけ自分が間違っていても、自分の生き方が贋作に過ぎないとしても、この夢は間違いではないと。
 その理想は、決して間違いではないと。
 あの男は、剣を振るった。
 果てに―――未来の己すらも説き伏せて―――奴は勝利した。
 奴の意固地さは、誰よりも知っている。
 だからこそ、このような場であっても……いや、このような場であるからこそ、奴はセイバーを止め得る存在となる。
 力では到底及ばない。技巧でも到底及ばない。だが、それでも。
 セイバーが何をもってこの殺し合いに乗っていようと、奴なら止める事ができる一縷の可能性と成り得るだろう。


「……分かった。そうさせて貰おう」


 アーチャーの一言に含まれた重さを察してか、トニーも真剣な表情でその言葉を受けた。 
 頷き、了承を示し、
 

「それにしてもアーサー王が、あんな美女だったとはね。事実は小説よりも奇なり、か」


 暗くなった雰囲気を吹き飛ばすように、ニヤリと笑った。
 そんなトニーに、アーチャーは小さく溜め息を零し、


「それについては私も心底驚いたよ」


 かつての己が抱いた感情で以て、冗談交じりに同調した。








「……情報交換はこれくらいか。さて、具体的にどう行動するかだが」


 続いて、トニーは今後の方針について話を進める。
 大きな指針は決定した。
 人々と協力し、戦力を集め、殺し合いに乗った者達と対抗する。
 だが、それを成功させるためには、どんな行動を選択するべきか。
 トニーの問いに、アーチャーが口を開く。

「別行動が正解だろうな。他の参加者と接触する可能性も、単純に倍になる」

 返答は、トニーが考えていたものと同様であった。
 別々に行えば、それだけ探索範囲も広くなる。
 トニーの機動力とアーチャーの偵察力があれば、他の参加者を見つける機会は相当に多くなるだろう。

「だが、懸念が無い訳ではない」
「サノスやセイバー、あの少女と遭遇してしまった場合だな」
「そうだ、戦力が分散した状態で叩かれてしまっては元も子も無い」

 例えば、探索中に万が一、サノスや他の殺人鬼に遭遇してしまったら。
 戦力は集結して初めて、彼に対抗手段となるのだ。
 各個に行動している時に戦闘となれば、戦力が分散している分壊滅のリスクは高くなるだろう。

「リスクと取るかどうかの話だ。私はリスクを冒す状況だと思うが」
「……その通りだ。今の私達に猶予は少ない。危険な作戦でも実行しなければならないだろう」

 危険は承知の上だ。
 それでも行動するべき時だと、二人は理解している。
 二人は別々に行動する事を決定した。

「まずはこの地点を拠点としよう。ここから北を私が、ここから南を君にお願いしよう」

 右手のアーマーからスキャンした会場の全体図を写しながら、トニーは進めていく。
 会場はその殆どがビル街であり、直径が6キロほどの円形の区間となっていた。
 サノス達がいた地点は既にマークされており、そこを避けるようなルートが示されている。


131 : 英雄同盟と、残された魔法少女達 ◆vzkSg/OL/U :2019/03/26(火) 18:41:18 wXBAtFh20

「通信装置も渡しておこう。何かあった際は直ぐに連絡をとってくれ。地図の表示に、各自の現在地の把握もできるようになっている。
 集合時間は……そうだな正午で良いだろう。互いの現状確認も含めて、6時間程で集まるようにしよう」

 次から次に、トニーのアーマーから産出されていく諸々の機械に、呆れたように肩を竦めるアーチャー。

「こうして見ると、君の方が余程魔術師のようだよ」
「行き過ぎた科学はという奴だな。まぁ、言われ慣れているさ」

 通信装置を受け取り、アーチャーは窓の外をちらりと見る。

「夜が明ける。……長い一日になりそうだ」
「これが最後に見る朝日とならないようにしなければな」

 趣味の悪いジョークを聞き流し、アーチャーは会議室の扉へと視線を向ける。

「方針は決まった。だが、まだ最後に厄介事が残っているぞ」
「? もうこれ以上すべき事はない筈だが」
「いいや、一番手が掛かるものがあるさ」
「???」

 首を傾げるトニーを引き連れて、アーチャーは会議室の外へ出る。
 そして―――、





「いやです。私も着いていきます」


 ―――そして数分後、二人は一人の少女と対面していた。
 高町なのは。
 先の情報交換に同席する事を許されなかった魔法少女が、今は静かにトニーがあげた提案を却下していた。
 トニーの提案は以下の通り。

『今から僕達は仲間となりうる人達を探してくる。なに心配する事はないさ。正午にはここに戻るつもりだ。
 君はここで、僕達が帰還するのを、のんびりと待っていれば良い―――』

 と、トニーはにこやかに告げた所で、上記の通りに(更に言うなら食い気味に)拒絶されたという訳である。
 微笑みを引き攣らせて、なのはを見下ろすトニー。
 その後ろではアーチャーが、『やはりな』とでも言うように、小さく溜め息を吐いている。


132 : 英雄同盟と、残された魔法少女達 ◆vzkSg/OL/U :2019/03/26(火) 18:41:56 wXBAtFh20


「……あー、外が危険なのは理解しているかな? サノスのような奴がゴロゴロといるんだ。
 僕等も君達を守り切れるかは分からない。正直、目的を果たすだけで精一杯になるだろう。
 だから、君達を連れていく訳には行かないのだが―――」

「―――危険は承知です。守ってもらう必要もありません。私、こう見えても強いですから」


 にっこりと笑うなのはとは対称的に、トニーの表情は陰っていく。
 苛立ちを抑えつけるよう眉間に片手を当て、大きく息を吐いた。
 そうして膝を付き、なのはと視線を合わせて、真剣な表情で口を開く。


「君の実力は知っているさ。サノスと渡り合っていた化け物だからな。ホワイト・ハルクの称号を与えても良い。
 だが、な。それとこれとは話が別なんだ。……そうだな、本音で語ろう。僕は君をこの殺し合いに巻き込みたくないと思っている。
 君は子どもだ。どれ程の力を有していても、子どもなんだ。君のような可憐な少女を失ってしまったとして、僕はご両親に何て報告すれば良い」


 トニーの意図は、なのはにも伝わっていた。
 大人として、子供である自分を殺し合いに巻き込みたくないのだろう。
 言い分は分かる。
 分かるが―――なのはに、それを受け入れる事はできない。
 悲劇を悲劇で終わらせないために、自分の力はあるのだ。
 雪降る夜天に消えていった彼女のような、悲しい犠牲を生み出さない為に、強くなりたいと願ってきたのだ。



「それでも、私は待っているなんて出来ません。戦うだけの力があるなら、それなら―――」



 ―――戦います、と。
 トニーの視線を正面から見詰め返して、なのはは告げた。
 信念の灯ったなのはの瞳に、トニーは思わず連想する。
 惑星タイタンへと向かう宇宙船の中、街を守りたいと、その為に戦いたいと言った青年。
 少し前の、力に浮かれているだけの彼では無かった。
 『ヒーロー』としての自覚と決意に満ちた瞳だった。だから、同行を認め、戦う事も認めた。
 結末は、最悪だった。
 青年は死に、彼を戦いに巻き込んだ自分だけが生き延びた。
 眼前の高町なのはという少女と、青年の姿とが、被って見えた。

「くそっ……」

 聞き分けの無さすら、彼となのはとは酷似していた。
 立ち上がり、なのはに背を向ける。
 それ以上なのはの姿を見ていれば、感情が爆発してしまいそうだった。
 壁に手をつき、両目を閉じて気持ちを鎮める。
 なのはもまた、そんなトニーの様子に何かを察したようだった。
 しかし、それでも、なのはもまた己が信念を曲げる事は出来ない。
 トニーとなのはの考えは、飽くまで平行線を辿っていく。


「一つ、いいか」


 二人に割って入ったのは、それまで傍観に勤めていたアーチャーだった。
 アーチャーは顎でなのはの後方を指し示し、口を開く。

「そこの彼女はどうするつもりだ? 見たところ、相当消耗しているようだが」

 視線の先には、今だ膝を抱えて震える巴マミの姿がある。

「それは……」

 言葉を詰まらせるなのは。
 確かに巴マミは、とても殺し合いの場を連れ歩けるような状態ではない。
 サノスとの戦闘により植え付けられた恐怖が、その心を縛っている。

「確かに君を守る必要はないだろう。だが、その少女を守る存在は必要となる筈だ。
 生憎だが私は誰かを守る戦いなど、当の昔に忘れてしまった。
 かと言って、スタークでは恐らく役不足だろう。サノスやセイバーととても渡り合えるとは思えない。
 必然的に、彼女を守るのは君の役割となるが……それでも君は戦いの場へ向かうのかね」

 途中トニーが抗議の声を上げるが、それを完全に無視してアーチャーは続けていく。


133 : 英雄同盟と、残された魔法少女達 ◆vzkSg/OL/U :2019/03/26(火) 18:42:19 wXBAtFh20

「彼女を見捨てるというのなら止めはしないさ。私達に猶予は少ない。彼女一人に構っている余裕は正直ない。
 ここで捨て置く、という選択肢も在りはするだろうが」

 唇を噛むなのはに対して、アーチャーは皮肉気な笑みすら浮かべていた。

「……卑怯ですよ、アーチャーさん」
「事実を述べただけだ。それを卑怯だというのなら、仕方あるまい。甘んじて受け入れよう」

 嘲りを含んだ物言いに、なのはは押し黙る。
 さしものトニー・スタークですら表情を強張らせているが、アーチャーは何処吹く風でなのはに背を向けた。

「スタークの通信装置は置いておく。何かあったら連絡しろ。この拠点は君が守るんだ」

 言い切り、アーチャーは歩き去ってしまう。
 もはや、なのはの方を振り返ろうともしない。

「……子どもの扱いが上手いな」

 トニーにの皮肉に、アーチャーが肩を竦める。

「あれくらい言わんと、ああいう輩には響きもしないさ」

 勝手知ったると言うかのようだ。
 両手を挙げて、口笛を吹くトニーを無視してアーチャーは進んでいく。
 ビルから出て、朝焼けに染まる市街地に立ち尽くす二人。

「さて、ここからは別行動だ」
「ヘマをするなよ。こっちにも余裕はないんだ」
「こちらも、そのアーマーに不具合が出ないよう祈っているよ」
「口が減らないな」
「いや、君には負けるさ」

 にやりと笑い合ったのを最後に、二人は背中を向けて歩き出す。
 アーチャーは地面を蹴ってビルの群像へ、トニーはアーマーを起動して橙色の空へ。
 同一の目標を掲げて、人類の守護者とヒーローが殺し合いの会場を進んでいく。
 彼等の同盟は果たして、この殺し合いに如何な影響を及ぼすのか―――今は誰にも分からない。



【トニー・スターク@アベンジャーズ】
[状態]:健康
[装備]:アイアンスーツ・マーク50@アベンジャーズ、トニー製の通信装置
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:『アイアンマン』として、殺し合いを止める。
1:団結し、殺人鬼たちを止める
2:会場を回り、協力者を募る。6時間後になのはの待つビルへ戻る
3:サノス、セイバー、ピンク髪の少女(まどか)を警戒
4:なのはに対する複雑な感情
[備考]
※アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー直後からの参戦。
※アーチャーよりセイバーに関する情報を得ています。



【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]:魔力消費(極小)
[装備]:トニー製の通信装置
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:殺し合いを止める。
1:会場を回り、協力者を募る。6時間後になのはの待つビルへ戻る
2:セイバーの状態への違和感
3:サノス、セイバー、ピンク髪の少女(まどか)を警戒
4:高町なのはに対する複雑な感情
[備考]
※UBW本編後よりの参戦。
※トニーよりサノスの情報を入手しました。


134 : 英雄同盟と、残された魔法少女達 ◆vzkSg/OL/U :2019/03/26(火) 18:42:36 wXBAtFh20



「……行っちゃったね。アーチャーさんとトニーさん」
『彼等なら大丈夫でしょう』

 ビルに取り残されたなのはは、空に消えていく二人を見て小さく呟いた。
 応えたのは、彼女の相棒たるデバイス『レイジングハート』だ。

「私、足手纏いなのかな……」
『いいえ、そんな事はありません。貴方は強い』

 二人が実力的な事を言っている訳ではない事は、なのはにも分かっている。
 確かになのははまだ小学生で、身体的に見れば余りに幼い。
 時空管理局では年齢よりもその実力と才覚を買われ、数多の戦場に招集されていた。
 だからこそ、二人の意見に驚きすら覚えた程だった。
 
『いざという時、彼等は必ずマスターを頼る筈です』

 レイジングハートは機械的な口調の中に、確信すら滲ませて、そう言った。
 相棒の励ましに、なのはは小さく微笑んだ。

「……そうかな。うん、そうだね! うじうじするのは終わり! 今はできる事をしなくちゃ!」

 気合いをいれるように、頬を両手で叩き、前を向く。
 例え戦う事を拒絶されても、今のなのはにはやらなくちゃいけない事がある。

「マミさんとこの拠点、二人が帰って来るまでしっかりと守ろう!」
『その意気です、マスター』

 自身を鼓舞するように言って、なのははマミの待つ仮眠室へと戻っていく。
 傷付いた魔法少女を支える、もう一人の魔法少女。
 これもまた誰かを救う為の戦い。
 高町なのはが、相棒を握って静寂のビルを進んでいく。


【高町なのは@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:魔力消費(大)
[装備]:レイジングハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:殺し合いを止める
1:マミさんを支える
2:拠点を守り、アーチャーさんとトニーさんを待つ
3:サノスさんを止める
4:足手纏い、なのかな……。









 巴マミは暗闇の中で膝を抱えて、瞳を閉じていた。
 脳裏に過るのは、青色の肌を有した巨人の姿。
 魔法の悉くが通じず、子どもと大人の喧嘩のように成すすべなく撃破された。
 今まで出会ったどんな魔女よりも、どんな魔法少女よりも強い存在。
 あんな怪物がいる中で、殺し合いを強要されている。
 そう考えるだけで、身体が震えだす。

(……私は……)
 
 誰かを守る為に戦い続けていた筈なのに、街を守る為に戦い続けていた筈なのに。
 今はどうしてもそう考える事が出来ない。
 あの怪物から逃げたいと、この殺し合いから逃げたいと。
 ただ自分を守る為の思考にしか行き着かない。

(……私は、こんなにも……)

 弱い。
 どうしようもなく、醜さを感じる程に、弱い。
 助けて。誰か、助けて。と、救いだけを求めてしまう。
 暗闇の中で、きらりと輝く宝石があった。
 魔法少女となったと同時に授かった、その力の源たる宝玉―――『ソウルジェム』。
 それは自分の心中の絶望と反して、煌々と【一切の穢れなく】、力強く輝いている。
 その灯火を見ていると、自分の矮小さを思い知らされるみたいで。
 巴マミは、更なる絶望に身を落していった。
 


【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:胸部にダメージ(大)、恐怖
[装備]:マミのソウルジェム
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:怖い、怖いよ……。


135 : ◆vzkSg/OL/U :2019/03/26(火) 18:42:58 wXBAtFh20
投下終了です。


136 : 名無しさん :2019/03/30(土) 17:22:23 eY6hofOk0
久し振りの投下乙です。
アーチャーとトニーは無事同盟を結べたようで何より。
なのはも厳しいことを言われたがどうなるか。
マミも大分追い詰められてるなぁ。
後の展開が気になる話しでした。


137 : 管理人 :2020/07/07(火) 19:05:45 ???0
本スレッドは作品投下が長期間途絶えているため、一時削除対象とさせていただきます。
尚、この措置は企画再開に伴う新スレッドの設立を妨げるものではありません。


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