■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■

Fate/Over Heaven 第二部

1 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/03(日) 23:36:06 H9pUjA6I0
.



      
             誰からも嫌われ



             何をするにも上手くいかず



             こんな風にしか生きられなかった



             名も無き怪物たちに捧ぐ


"
"
2 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/03(日) 23:39:29 H9pUjA6I0
前スレが埋まりそうな為、立てさせていただきました。
候補作締め切りは今夜0時までとなります。
事前に予告をすれば、1時まで投下していただければ延長として許可します。
最後まで候補作をお待ちしています。


3 : ◆zzpohGTsas :2018/06/03(日) 23:44:02 .RTvIws.0
候補話を初めて投下するので不安ですが投下します


4 : With Maze ◆zzpohGTsas :2018/06/03(日) 23:44:50 .RTvIws.0
 例えば、森の中にある洋館。例えば、海を見渡せる崖の上に立つ寂れた屋敷。例えば、草を生やすがままにした廃道路。
其処には霊的存在も見つけられず、奇奇怪怪としたエピソードも見当たらず、不思議な特徴など何もないと立証されてもなお。
人は、そう言った場所に不気味さや恐怖を覚えるのである。恐れる物などなにもない。そうと解っていても、人は本能的に恐れてしまうのだ。
人気も雑踏もない森の静寂に身を置く事を人は拒否する。肌寒い隙間風が身を冷やすボロの屋敷に不気味を感じる。何処に通じてるかも解らない道路を歩く事を忌避する。
闇と虚無。そして、孤独。それは、人が恐れて已まない最も根源的な要素。それを祓うが為に、人は国を産み、世間と言う概念を産みだし、照明で町を照らすのだ。

 不思議なもので、人は都会の真ん中に廃れた洋館や病院があっても恐れないのである。
あったところで、真相などたかが知れてるからだ。都会の只中に廃病院があっても、経営に失敗したか不祥事があったかのどちらか。
廃れた洋館があっても、洋館の主が何か経済的なしくじりをしてしまい放棄したのか。いやそもそも、廃れた建物としての形を残したままですら難しいだろう。
建物に利用価値はないが、それが建っている土地には利用価値が大いにあるからだ。手早く解体工事が行われ、また新しい形で利用される。
こんなサイクルを繰り返すのが、まぁオチと言うものだ。それに例え、本当にそれらの廃れた建物に霊障があったとしても、人が沢山いるのだ。
誰も恐れない。肝試しのメッカになるか、ゴールデンのテレビ番組の夏のSP企画の目玉のコーナー扱いされてしまうのが、目に見えている。
人の群れは容易く、旧来の迷信やしきたりを超克する大いなるうねりと化す。良くも悪くも、あらゆるものを破壊する。闇と虚無、孤独でさえも。『群』の力の前では無力だった。

 ――其処は、見滝原の都市部に存在する廃ビルだった。
廃ビルになった理由は何て事はない、ビルの修繕費用や取り壊しの費用を出すよりも、そのまま建物として残しておいた方が安いと、
ビルの所有者自体が考えているからである。転売出来る程立地条件もよくはなく、今から人を呼ぼうにも、窓ガラスが割れ蔦が壁を伝い、
と言う状況のビルディングに誰が住もうと言うのか。かと言って迂闊に建物を取り壊してしまえば土地の固定資産税が暴騰するのでそれも出来ず、
建て直すのにも同等のカネが発生する。結局、放置が一番賢いやり方なのだ。纏まったカネが手に入れば、動けばよい。その程度の理由で、所有者は考えていた。

「神の視座に立つには、少しばかり、目立ち過ぎるか」

 黒いキャソックを纏い、その上に紫色のコートを羽織り、ロザリオの首飾りを掛けた男だった。
男が如何なる信仰を遵奉しているのか。一目で解らせる服装だ。そして、彼の衣服を見て、どんな宗教に属しているのか。余人が抱くファーストインプレッションは、正しい。
彼は灰色の髪をしているが、よく見ると白い物がかなり混じっている。結構な歳の男らしい。感情のない目で、足元のガラス片を爪先で弄びながら、男は語る。自分の眼前に立っている、奇妙な男に向かって。

「く、くく、ククククク……!!」

 その男は、精悍な顔つきをした青年だった。
顔付きはどちらかと言うと年の割には渋めであるが、決して老けていると言う印象を抱かせない。寧ろ力強さと若々しさが十全に伝わってくる。
体格の方もまた優れており、痩躯の印象の方が強い灰色の髪の男に比べれば、月とすっぽん。比較するのも失礼な程、青年の身体つきは恵まれていた。


5 : With Maze ◆zzpohGTsas :2018/06/03(日) 23:45:29 .RTvIws.0
 纏う服装が奇妙な青年だった。
男――『エイブラハム・グレイ』がその服装を見た時は、何処かの国の民族衣装かと思った程だった。
黒を基調とした服装で上下を統一している。裏地に赤いファーのような物を取り付けた黒コートは、まだ解る。
だが、その下に纏った衣装が奇妙だった。ヨーロッパ風の顔立ちをしていながら、日本の『着物』に類似点が見られる服に袖を通しているのだ。
墨に浸したような黒一色。袴のような物を穿いているし、長襦袢のような物を着ている。だが腰に巻いた大仰なベルトは洋風の意匠の方が強く見られる。
一方で履物は日本で言う所の草履のような特徴を強く感じ取る事が出来、頭に被っている被り物はどう見ても日本のそれには見られないベールである。
兎角チグハグな男だったが、そんな印象が吹っ飛ぶのが――男の手にしている、奇妙な『杖』だった。

「領域の桎梏を外れた世界に生きてなお、ヒトは阿呆の如く同じ夢を語りだす。なぁ、おい?」

 青年の姿や顔付きから、およそ想像出来得る声から一切かけ離れた声だった。
しわがれた老人の声に聞こえる時もあれば、艶然とした雰囲気の美女の声に聞こえる時もあり、中年の男性に聞こえる時もあり、童子の声にも聞こえる時がある。
色のグラデーションをリアルタイムで変えて行くように、男の声が変化して行く。姿形に囚われる我々を、小馬鹿にする意図すら、感じられるかのようだった。

「ヒトよ、我の問いに答える事を許そう」

「なんなりと」

 グレイは気付いていた。その声の主は、自分がサーヴァントとして召喚した人物。
即ち、『アルターエゴ』のクラスで召喚に応じた『青年』ではなく、男が所持している『杖』である事を。
ケルト十字に近い特徴を持った杖先が特徴的な、何処となく不安になるような歪みを微細な特徴として携えたその杖は、事あるごとにカチカチと震え、音を刻む。
きっとその機能は、人の声帯が震えて声を発するのと、同じ要領なのであろう。

「何故ヒトは、その本質(イデア)が平凡であればあるほど、尊大になれるのだ?」

 グレイを嘲笑するように、その杖は言った。
見ているだけで、精神に揺さぶりがかけられる。冷たい汗をかき、喉が渇くような焦燥感を憶える。
この杖と語らう事はまるで、目の細かい鑢で身体を削られて行くような、痛みにも似たモノを憶えるのだ。グレイは、今もその感覚と戦っていた。

「奴隷なるものを生み、労役を課させる。人の世でしか通用のしない権威を、恥ずかしげもなく振りかざす。神を気取り、法も人も思うがままにしようとする。我はそんな人間を、宇宙(アークガマル)が産まれてから今にかけて、飽きる程見て来たよ」

「私もまた、同じような人間を幾らでも」

「常に不思議なのだよ。そのように振る舞い、自分が他者と違うのだと驕り高ぶる人間であればある程、その本質は、哀れな程平凡なそれ。英雄と祀るのも論外で、魔王を嘯くにも中途半端。何処までも市井の人間であるのよ」

「私もまた、平凡な人間か」

「愚問。神を目指そうとする人間はその時点で、神になれぬ。ヒトは神になるのではない。されるものだ」

 その言葉は、不思議な含蓄がある。グレイとしても、学ぶところがあった。

「老いた皮相に身を包んだ男よ。我が問いに答えよ。ヒトがヒトを超え、神に限りなく近い領分に至ろうとした時、その座にまで達した人間はいつだって、『なろうとして時間と犠牲を払った者ではなかった』。気付けばなっていた、そんな者達だった。何故ヒトは、本質が小さきものであればある程、大きく振る舞おうとするのだ?」

「そうしないと、耐えられぬからかと」

 グレイは答えた。言葉を更に続ける。

「己が矮小である事に耐えられる人間は少ない。であるからこそ、仮初の大きさを求めるのだろう」

 ふぅ、と一息吐くグレイ。


"
"
6 : With Maze ◆zzpohGTsas :2018/06/03(日) 23:46:01 .RTvIws.0
「そちらの言う通り、私もまた矮小で愚かな人の子。だからこそ、神の座を求めるのも不思議な事はなかろう。愚かだから、神を気取ろうとする。道理じゃないか」

「なれば問う、貴様にとっての神とは?」

「『外に立つ者』」

 即座にグレイが答えた。これしか、答えがないと言う事を初めから認識しているかのように。

「あらゆる事象を外から眺め、観測出来る者。自分が招いた状況でありながら、その状況に一切関与する事無く、最も近くしかし誰も触れ得ぬ所から眺められる者。それが、私にとっての神だ」

「下らん、窃視する者を神とするなど。愚兄・サウロのような事を……」

 グレイの考えが、心底杖は気に入らなかったらしい。言葉からでも明らかだが、限りない程の不満が杖から発散されている。
杖、と言う器物の形を取っているにも拘らず、それが解るのだ。解らされてしまう、と言う方が正しいのかも知れないが。

「見るだけ。それは難しいと私は思うよ。見る者は往々にして、事態に巻き込まれるものだ。だが、自分の撒いた種の責任を取らず、その種の成長と、それが齎す結果を見続けられ、それに関する答えと考えを導ける。それは正しく、神の視座であり、その視座に立てる者は、神ではないのかね」

「笑止。神に近き者とは破滅させ、破壊する者。その手の一振りで海を煮え立たせ、その思考一つで本質を砕く者。それが神、領域存在の頂点」

「……杖よ」

 この場に声が響き渡る。杖のものとも、グレイのものとも違う。若く、渋みのある男の声。
他ならぬ杖の持ち主が発した声だった。やはり、青年の声はイメージ通りの声だった。
それなのに――心胆を寒からしめる程の恐怖感を憶えさせる、その声は何なのか? この青年の何処に、それだけのイメージを抱かせる何かが宿っているのか?

「俺は今しばらく、其処の男と同じ視座で戯れたい。それに貴様、奴を殺そうとしたな。それを行えば、俺も貴様も消滅すると解らぬのか?」

「……うぬもカリス以上に酔狂な男よ。我は見誤らぬぞ。其処の男は、神になれぬ事は当然として、『狂人としての振る舞いすら徹底出来ぬ』男だ。必ずや、ヒトの心とやらに目覚め、凡庸な結末を我々に約束させるだろう。貴様とて、それぐらい解ろうが? なぁ『破滅の寵児』よ」

「平凡な男には俺達は召喚出来ん。どこかに、俺達と似たような何かがあるのだろう」

 歪んだ杖を構え、男はグレイを見据えた。底冷えする、その目の輝き。 

「自分が招いた禍を、一切自分は関する事無く外から眺める者をこそ神。喜べ、マスター。貴様はその眺めると言う行為において、凡そ人が見れ得る最高の物が約束されている」

「……それは?」

「俺達の目的はただ一つ。人間界の破滅に於いて他ならない」

 アルターエゴなるクラスで召喚されたサーヴァントの答えもまた、初めからそうであると決まっているかのようなそれであった。

「敢えて問うが、そうする理由は何故だ?」

「我の場合は、そうさな……破壊と破滅、そして不和こそが、万物万象の支配に繋がる道だと識っているからよ。だが、この男の場合は……」

「俺の場合はな、マスター」

 クッ、と。唇の端を吊り上げて、言った。

「道楽だよ」

「……む」

「理由はない。そうしたいから滅ぼす。哀れで卑小な衆生の生きる世界を破滅させる。深い理由など、俺には無い。聖なる杯で滅ぶ世界……何とも、御誂え向きじゃないか」

 アルターエゴの目線と、グレイの目線があった。目線だけで魂を奪われてしまいそうな赴きすら、その男の瞳にはあった。

「俺達を呼び、俺達に近しい何かを持ち、避けられぬ世界の破滅を、自分が関する事無く眺める権利を持った男よ。精々、上手く立ち回れ。間もなくこの世界が、この建物と同じ末路を辿る。こんな建物の屋上に立つまでもなく――お前は地上から、世界の破滅を神の目で眺められる」

 杖が心底愉快そうに笑った。自分以上に邪悪な人間など見た事がない、哄笑の後杖はそう続けた。
杖の言っていた『破滅の寵児』。その言葉の意味を、心身から理解したエイブラハム・グレイだった。





【クラス】

アルターエゴ

【真名】

無銘(破滅の寵児、或いは、真理に通ずるもの)@ウィズメイズ

【ステータス】

筋力B 耐久C 敏捷D 魔力A++ 幸運A+ 宝具EX

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

根源接続者:-
この宝具は、アルターエゴとしての召喚の為失われている


7 : With Maze ◆zzpohGTsas :2018/06/03(日) 23:46:36 .RTvIws.0

【保有スキル】

魔術:A++
魔人王であるアルターエゴが有する、莫大な数の魔術。
核爆発すら発生させる炎の魔術、死者に簡易的な魂を与える程高度な死霊術、四肢の欠損すら容易に回復させる回復術、相手の本質を粉砕する魔術や語るもおぞましい闇の魔術の他、本来魔人には扱えぬ筈の光の魔術すら、アルターエゴは容易に操る事が出来る。

悪逆の性根:A+
生まれついての悪、殺人と滅亡、破滅を常態化している者であればあるほどランクは高まって行く。
ランクA+は、それが上記の行為の全てが常態ではなく、『生態』と化しているレベル。同ランク相当の精神耐性と、信仰の加護の複合スキル。

虚無神の加護:A-
虚無界(ヴォイド)の領域存在である、虚無の三兄弟であるジークサウロとマイノーグラによる加護。
悪しき行為をしている時限定で、アルターエゴの行為の成功率と判定を上方修正し、アルターエゴのファンブル率を低減させる。
但し虚無界の領域存在は気まぐれである為、確率で発動しない事がある。これもまた、神の戯れ。
また、このスキルが発動している場合に限り、【Weapon】欄にある武器を扱う事が出来る。

悪のカリスマ:A
生まれついての悪であるアルターエゴが有する、悪しき存在に対するカリスマ。
属性が悪の物に対しては同ランク相当のカリスマとして機能し、それ以外の属性の者には畏怖すべきオーラとして機能する。

【宝具】

『虚ろなる神の本質(ゆがみの杖)』
ランク:EX 種別:対人〜対界宝具 レンジ:1〜 最大補足:1〜
アルターエゴが保有する、独特な形状の杖。これ自体が人格を持つ、インテリジェンス・ロッドとも言うべき存在。その人格は極めて尊大な男のそれ。
この宝具の正体は、人間界とは別次元に存在する領域である虚無界の領域存在である邪神オグドル・ヤバドの直系の子である虚無の末弟・オプタトゥムが、
ある秘術によってその本質を杖に括られたもの。つまりこの宝具は言ってしまえば、『神が杖の姿に落魄させられた存在』に限りなく等しい。
極めて高ランクの神性スキルと魔術スキルをこの宝具自体が保有しており、アルターエゴとは別枠で、彼と同等の威力と精度の魔術で波状攻撃を仕掛ける事が可能。
また、この宝具自体が莫大な魔力を保有している上、この宝具を所有している限りアルターエゴの魔力消費量は戦闘時・平時問わず、半分以下に抑えられるため、魔力切れを引き起こさせての退場すら事実上不可能に近い。

『三元の真理剣(ウィズメイズ)』
ランク:A++ 種別:対『本質』宝具 レンジ:2 最大補足:1
『真理』に通じる者にしか振う事の出来ぬ触媒剣。
同ランク以下の神性スキルを除く全ての防御スキル・宝具を貫通、相手に極大のダメージを与える剣。
透き通った刀身を持った剣のように余人には見えるが、実際にはこの剣は幻影のような物であり、実体そのものが存在しない。
それ故に物理的な手段では防御をする事が出来ず、かといって霊的・魔術的手段で防ごうにも、この剣は斬ったものの『本質』を斬り裂く剣の為、
生半な手段ではそれこそ防御する事すら出来ない。本質を斬られた者は宝具ランクと同等の極大ダメージを与えられるばかりか、
この宝具は相手の肉体や魂を斬るのではなく『本質』を破壊する剣と言う性質上、その本質を癒す術でなければ一切の回復手段を無効化させてしまう。有体に言えば、この宝具で与えられたダメージは『回復不能』となる。


8 : With Maze ◆zzpohGTsas :2018/06/03(日) 23:46:48 .RTvIws.0
【weapon】

腐蝕の指先:
虚無の三兄弟の長姉、マイノーグラが所有するアーティファクト。赤黒く湾曲した剣身を持った短刀。
普通の人間が触れただけで即死に至らしめる程の毒素と疫病の力が内包されている、病を呼ぶ剣。
アルターエゴがこれを振えるのはマイノーグラに認められているからである。
但し、マイノーグラ当人がもつそれとは違い、あくまでも凄まじい疫病の力を持った短刀、いうなれば本物のレプリカ。本物は、剣先を向けるだけで一国を悪疫で死に至らしめる力を持った魔剣である。

デッドカンダンス:
虚無の三兄弟の長兄、ジークサウロが所有するアーティファクト。
漆黒の大羽根を繋いだマントが特徴的な、数多の返り血で黒く錆び付いた不浄の重鎧。
厳密に言えばこれは鎧の名ではなく、この鎧を纏ったジークサウロの親衛隊をデッドカンダンスと呼ぶのである。
Aランクまでの光と炎の属性を無効化し、それ以上のランクの物であってもその威力をツーランク下げる恐るべき魔鎧。無論、物理的な堅牢性も言うまでもない。普段は堅苦しい為アルターエゴはこれを装備していない。

メデュセーの茨冠:
虚無の三兄弟の長姉、マイノーグラが所有するアーティファクト。薔薇の茎を編んで作った冠。
打ち捨てられし者達の血涙から生まれた意志ある冠と言われ、事実、己の主たりえぬ者が被れば鋭い棘で串刺しにされる。
致命に至る程の大ダメージを逸らす不思議な力があり、凄まじいダメージを受ける攻撃であっても、不思議な力で普通のダメージに低減させる兜である。

【人物背景】

英雄、根源到達者、そして、魔王。男は、魔王を選んだ。

【サーヴァントとしての願い】

人間界の破滅。それは、宝具であるゆがみの杖も同じ。




【マスター】

エイブラハム・グレイ@殺戮の天使

【マスターとしての願い】

聖杯戦争を眺める事。聖杯自体には、期待はしていない

【能力・技能】

【人物背景】

神を気取る者。そして、その最期は気取れ切れなかった者。

原作開始前の時間軸から参戦。少なくとも、あの激ヤバ物件に住んでる殺人鬼クラ全員の事は知っている位の時間軸である。

【方針】

戦闘のプロではない為、アルターエゴに全てを一任する。

【把握方法】

破滅の寵児:原作フリーゲーム、ウィズメイズのとあるルート(Gルート的な奴)を全クリ必須。
だが、何と今作は戦闘だけどストーリーは知りたい人の為に、苦手なプレイヤーの為戦闘のスキップ機能や雑魚敵とのエンカウントを封殺する機能がありやがるんだ!! これはもうプレイするしかないなぁ!?

グレイ:原作フリーゲームの全話プレイ必須。


9 : With Maze ◆zzpohGTsas :2018/06/03(日) 23:49:22 .RTvIws.0
投下を終了します


10 : ◆Mti19lYchg :2018/06/03(日) 23:51:03 YYrqWYZ.0
投下予告をしておきます。


11 : 夢幻《旋律の青嵐》 ◆IEi9gF4D.E :2018/06/03(日) 23:53:54 o5vkk9ak0
投下します


12 : ◆ewPmqM2XLI :2018/06/03(日) 23:53:58 z5.7OCzw0
0時を過ぎてしまいますが、後ほど投下させていただきます。


13 : 夢幻《旋律の青嵐》 ◆IEi9gF4D.E :2018/06/03(日) 23:57:46 o5vkk9ak0

  往  此  散  地   一 一
  く  処  れ  の   片 片    外道
  先  が  ぬ  果   の の
  は  何  花  て   現 夢    
  何  処  た  よ   に に   修羅道
  処  か  ち  り   映 映 
  か  を  は  還   る る  
  を  │  識  え   こ こ    人間道
  │  │  っ  り   の の 
  │  │  て  み   夢 現
  │  │  し  れ     
        ま  ば     
        う     
            




◇◆◇◆



 更けゆく夜。流されることのないうろこ雲。
 その雲を垣間見に、対岸の彼方で機能を停止させた様々な自動化工業機械《プラント》たちは十六夜で影絵を地上に這わせてまるで墓場だ。
 それもそのはず、既に此処は奇奇怪怪たちが跳梁跋扈する隔絶された黄泉國。
 修羅の巷と化した“見滝原”に昨日までの何事も無い平穏さはもう二度戻っては来ない。
 闇に濁った暗黒世界。それを欺む銀色に撩乱と狂い咲いたネオンの毒花。数え切れないほどひしめいたあう赤と青の光点。全て音なく幽邃な眺めである。

 頭の悪い悪戯好きの子供やサカリのついた不良連中でさえも絶対に近づかないある場所。
 工場をぐるりと覆うキープアウトの黄色テープと鎖は封印めいて、漂わせる暗い虚無の雰囲気は庶民たちの感覚からは程遠かった。
 そして、ある一組の秘密の特訓所でもある。
 



“────ねぇ、お侍さん。“あたしに剣を教えてよ”────”
 

  それは剣道のけの字も知らない少女の必然的な提案。
 嫌がるサーヴァントに彼女は令呪まで使って無理やり云うこときかせてようやく始めたヒミツの特訓である。





 それはやがて──────


              ──────酷烈の極みに達する。


14 : 夢幻《旋律の青嵐》 ◆IEi9gF4D.E :2018/06/04(月) 00:00:02 bzyHKzWQ0






 ──────上から降ってくる黒い影。

          呶   
          ッ
          !

 何かが常夜灯に衝突し、衝突音が近所の野良猫たちをどやしつけるように響いた。
 花弁のような鮮紅へ落としながら、常夜灯はみるみる黒ずみ、消えかかっていく。



 呀呀────ッ! 

         呀────ッ! 

                呀呀────ッ!



 その残響をかき消し、一斉に啼く夜鴉。
 不気味に哭り響く声明〈こえ〉、それと黒い羽根をひとひら残し、空虚〈そら〉へと飛び去った。
 彼等の騒ぎの元凶は突如、墜落してきた隻手。肘から断たれたか細い女のもの。
 それに遅れて地べたへと衝突する袈裟斬られて喉から肋骨まで大口を開けた一人の少女。
 少女の満身に生々しく刻まれた斬切跡がその闘の激しさを物語っていた。
 長い息の詰まる沈黙の後、やがて少女の背後から地面へと毒々しい朱色の大翼となって流れ出る血潮。
 傍目には問答無用とばかりに斬り殺されて死んでいるようにしか見えない。
 10メートル以上から墜ちれば内臓破裂や脳挫傷、即死が当たり前のこと。
 だが、しかし──────









 もとより少女は──────人に非ず。







 ──────完全な沈黙に伏している彼女のその死相濃い面貌がふと、僅かに動いた。


15 : 夢幻《旋律の青嵐》 ◆IEi9gF4D.E :2018/06/04(月) 00:01:06 bzyHKzWQ0







 美樹さやかは『魔法少女』である。この程度で仆れることなど絶対にありえない。









 ──────わななく肉体《からだ》。

「──────かふっ」

 波打たせる波紋もまだ消えぬ血汐の領海に浮かぶ一つの襤褸切れは満身の筋肉と骨が別世界の音を呻きたてて、枯れた心臓から血を噴き上げた。
 さやかの体内を駆け巡る魔力により、代謝機能は活性化すると、溺れかかったような声を上げ、呼吸を再開させ────────

「はぁ──────はぁ──────はぁ」

 ──────“美樹さやか”は甦った。
 激しい呼吸の吐きながら、リズムを正しく、強くする。
 のそりと身を起したさやかは二、三度、少量の血を喀いて、ギクシャクした動きで立ち上がった。

 コキ。

 ゴリゴリ………ゴリッ

 メキュ!

 それは外れた骨の関節が繋がる音だった。

 美樹さやかの魂はひょんなことから出逢った謎の生物・キュゥべえとの契約に折に肉体と分離され、ソウルジェムに加工された。
 とりわけ彼女は癒やしに優れた能力のおかげ様でソウルジェムが無事な限り常人なら即死に至る致命傷や“この程度”の肉体の損傷では命に別状はない。

「ぁあ…………………」

 然らでだに血の気の失せた顔色は一層朱色を美しく際立たせている。
 頸根から形容絶する顔、肩、胸、腰から下、疵がどんどん塞がってゆく……。
 唇の十文字に開いた口が塞がる。
 眼窩からせり出す右眼──────乾いて消え去る流血──────
 無数の腱と断ち切られた骨が組まれて、破かれた血管が紡がれる。桃色の肉がくっついて、白い皮膚が貼りついた──────!
 骨が、肉が、神経がジグソー・パズルのように合わさり、そのつなぎ目を曖昧に消滅する──────!

 無くした右腕──────

       手の無い右腕──────

             指の無い右手──────

                   爪の無い指──────傷一つない肢体へと!

 五秒とかからぬその変化。まるで時間が遡行したかのような悪夢!
 一から十まで総て見た!只の屑肉が、只の少女に変わる様を!
 なんと美樹さやかの五体は、生き生きとした血肉が満ちてきたのである!
 たった今凄絶な死に様を見せた醜悪な残骸はもう居ない!


16 : 夢幻《旋律の青嵐》 ◆IEi9gF4D.E :2018/06/04(月) 00:02:50 bzyHKzWQ0


「流石に、ちょっとビビっちゃったな……」

 頸をコキリと鳴らす。眼はまだ紅い。

「へへっ……はははっ……あたしって、こんなケガでも治るんだ……」
 
 自らを両腕で抱きしめてそう独り言を洩らすと、再び彼女は身を震わせて笑う。自分の身に起きた現象になんともいえぬ自虐の快楽を覚えた。

「ハハハハハ……ッ」

 血管が透けてもおかしくないような白い肌。
 眉間から鮮血を滴らせながら、自分をからかうその苦笑はゾッとするような陰気な声色で形相も歩く死者がこの世にあるものなら、まさしくそれであったろう。

「あ゙あ゙〜〜〜〜ここまで来るとマジで笑える……!」

 むしろ清々しい光を帯びている。

「アハハハハ──────アッハハハハハハハ……ッ!」

 今、この少女の肚の中で渦巻くものは一体何色だろう。
 薄闇とは、別の影が彼女を包みこんで、その笑顔は何か別のものに見える。

「アッハッハッハッハッハッハッ──────」

 ──────“正義の味方”。それもわずかな間にすぎなかった。 夢に酔えど醒めれば現。
 理想はトランプの塔より簡単に崩壊し、夢はシャボン玉よりあっさりと弾け飛んだ。
 なにもかも、めちゃくちゃだ。
 自分の期待とはあまりにも真実《げんじつ》は乖離していた。
 少し前の彼女なら断片が浮き上がっただけで絶叫したくなるような経験・体験ばかり。
 そこはこの斗いが初まる前と変わりない。
 一寸先は冥土。未来永劫死ぬまで悲惨極まりないこの単調な毎日。
 ──────それをこの手で変えてやる。
 云わば、美樹さやかは、己の気力の糧をこの聖杯戦争の戦いに賭けていた。
 どうにもならないこの魄の虚しさは、もはや無道な刺激以外には癒やす術はない。
 これは美樹さやかの、魔法少女としての生ける証とたてんとする無慚な現実への反逆である。

「ハハハ……ッ…………」


『少女三日会わねば刮目して見よ──────なぁんて』


17 : 夢幻《旋律の青嵐》 ◆IEi9gF4D.E :2018/06/04(月) 00:04:26 bzyHKzWQ0


 長い影法師を這わせて一歩一歩、歩いてくる浪人。
 力強い太い声が、さやかを釘付けにした。

「……なによそれ、」

 男は皮肉っぽい笑みを浮かべて、

『一体どういう原理かは己にはサッパリだが、まぁ己と“似たような”モンってことだけ理解した。冗談みたいな話だが…………いや、本当……』

 ただ男の眼だけは笑っていない。蒼ざめた額は脂汗で濡れている。

「……ねぇ、おじさん……もう一回して……もう一回……」

『やなこった。帰ってオレは寝る』

 令呪の楔めからやっとのこと解放され、肝の冷える思いから肩をボキボキ鳴らす。

『けどよぉ、今まで木刀さえ一度だって握ったこともない女が
そんなモン振り廻して…………一体誰に使うつもりだよ?』

 見据えたまま鼻を鳴らす。
 額から目蓋に走った十文字の隻眼。薄い不精髭。『卍』の一文字を背負った黒白の着流し姿。
 まるで時代劇か任侠映画から飛び出てきた凶状持ちかゴロツキ、そのまんまの面体。その扮装……。月影にもはっきりと判るむさ苦しい男。
 まさにどこの馬の骨とも神とも魔とも知れぬ英霊である。

「うるさい……」

『大体よツラも根性も青いし、ひん曲がってんだよ。誰が見てもよ。暗れぇよ〜暗れぇ〜』

「うるさい……」

 さやかの細い眼が、ジッと見ている。昏い粘着質な眼であった。

『なぁーに、そう一生懸命かねぇ』

 彼は背中を向けて立ち去ろうとする。

 ──────トスッ


 ──────トス。トス。
 

 美樹さやかは前へ出た。いつの間にさやかは再び洋剣を握っていた。
 
 ──────トスッ、トスッ、トスッ、トスッ、トスッ、トスッと、不気味な鋼の旋律。

『いい加減に』

 黙ったままの美樹さやかはマントをヒラリ、と横に展くと彼女の足元に円陣と散る、






 │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │
 │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ 
 ト ト ト ト ト ト ト ト ト ト ト ト ト ト ト ト ト ト ト 
 ス ス ス ス ス ス ス ス ス ス ス ス ス ス ス ス ス ス ス 
 ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ ッ




 ──────不吉な鋼の旋律。その正体はどこからともなく刀尖から落ちて突き刺さったさやかの洋刀である。

『おい』

 万次はギロリと眼を剥いた。
 研ぎ澄まされた鋼たちは相克する男女を映す。
 ──────彼我との距離約八メートル。

 彼女は言った。

「…………嫌、まだ帰りたくない」

 と。


18 : 夢幻《旋律の青嵐》 ◆IEi9gF4D.E :2018/06/04(月) 00:07:00 bzyHKzWQ0



 ──────構えは必殺の刀法。

 ──────目標、サーヴァント・アルターエゴ。通称“百人斬りの万次”。


『あア、そうかよ──────ッ』

 万次は怒りに声も出ぬうちに、

            度ッ   度ッ
 ──────吟ッ 吟ッ 吟ッ!
      度ッ       度ッ

 万次はダラリと腕を下げたまま鳩を取り出す魔術師のように彼のゆるい着物の内と両袖の中から硬い繊維のこすれあう官能的な音色とともに円陣に散る、刃刃刃……!
 薄明かりを吸って夜光虫のごとく光るそれは鋭利で奇怪奇天烈!
 無念と云う残留思念を放つ手裏剣、斧、槍、鉈、野太刀、両刃剣、引っ掛け鈎……──────どれ一つとして、眼を引きつけずにはいない名状し難い異型、意匠!
 まるで拷問道具か猪の解体用の何かような臓物臭の芳る昔々幾人もを斬り殺した武器たち。

 さやかはそれを冷たい眼で見つめた。そして、

 ──────足元はそこかしこに環状列剣。

「シューティング────────……」






  ──────彼女の限界まで双手に番える洋剣。投じる数、合計二七本。

       弩ッ────!


       弩弩ッ弩弩弩弩弩弩 ────!         



 肺の空気一粒残らず気合いに代えて──────ッ!


             散!



      
            弩ッ 弩ッ      弩ッ
 弩ッ
  弩ッ    弩ッ      弩ッ
    弩ッ             弩ッ 

     弩ッ_人人人人人人人人人人人人人人人人人_  弩ッ
       >           弩ッ    <
       >  スティンガァァ────ッ!!!   <
       >      弩ッ弩ッ       <     弩ッ 
    弩ッ  ̄^YY^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^弩ッY^Y ̄  弩ッ
   弩ッ       弩ッ         弩ッ      弩ッ
          弩ッ            弩ッ
                         弩ッ
                          弩ッ


 ──────大音声とともにソレは噴出する!

『──────ええいッ何だッ!結局またソレかよッ!?(大体、一々叫ぶ必要あるのかソレ!?)』


 金属の光芒。破竹の勢いで四方八方から繰り出される無数の洋剣。 凶光舞う。奔る。唸り飛ぶ風に乗って己がサーヴァントに襲いくる。


19 : 夢幻《旋律の青嵐》 ◆IEi9gF4D.E :2018/06/04(月) 00:09:32 bzyHKzWQ0


「クソッタレッ……てめェ一体あと何本出すつもりだ?』

 しかし、万次は八丁畷の奉行人よろしく、万次はひらり中指先に引っ掛け、愛刀“四道”をギュインギュイン 手のひらで風車みたいに輪す。
 翔ける洋剣をかいくぐり、その白刃が駆け抜ける。

 可可可可可可可可ッ!

 撥ねとばして躍り狂う人斬り包丁。
 豪放と精妙が渡り合い、力と業とが激突し、彼等の鎮火した闘志を再び燃え上がっていく。
 更に万次は袖口から別の刀が飛び出しててくる。
 飛び交う刀身。咬み合う火花。防ぐと、

       銀ッ!   金ッ
               牙ッ!

 いたずらに彼の周囲を壊してながら、波ッと火花を乱れ咲いて砕け散った。

『格好つける前に動かねェと死ぬぞ!』

 仮借なき“妹守辰政”の一閃、二閃、三、四、伍……


「あっそ──────これなら?」

         断ッ!

 先ほどの一斉射出から間髪入れず、そのままさやかは四肢を縮め地に突き、

『──────このぉクソッタレ……!』

 背後から風のように飛んで現れる魔法陣を足場に颯っと蹴ると、一発の弾丸と化して宙を駆けた。

「ヤァ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁ──────ッ!」

 二人の距離が、急速に縮まってゆく。
 彼めがけた神風めいた突撃。刀身を寝かせ突き出された剣尖。これには万次も躱わすことも出来ずに正面衝突する。

 万次の頭部へ渾身の一刀を撃ち込んだ、
 ──────左眼から後頭部まで、剣が翔け抜ける。

 もう一刀。さやかはそこから胴を真一文字にかっさばく、
 ──────肋骨を鈍い骨の音とともに裂くとホースで撒かれたように真紅の虹が迸り、夥しい血汐を飛び散らせる。

 ──────それでも、

 “妹守辰政”がさやかの肉体《からだ》中を走り去る。
 振り戻した剣は赤い尾を引いて、抉りだされる傷口から再び血が舞う。と、彼女の手脚が舞い上がり、壁に地面に血飛沫が跳ねとんだ。
 彼女の肉体は縦横四つの肉塊に分断される。
 バラバラに斬り刻まれた肉片、グシャグシャ引き吊り出されたになった臓物、意識せず漏らした声にもならない苦鳴。宙を舞ったぶつ切りの手足たちがやっと落ちてくる。
 さやかは血反吐を吐き出し、床に転がる。
         ──────────双方、相討ち。


20 : 夢幻《旋律の青嵐》 ◆IEi9gF4D.E :2018/06/04(月) 00:14:30 bzyHKzWQ0


 腹腔の中身を派手に撒き散らしつつ太股あらわの大の字を描いて地面に呉輪と、地面に伏せる。
 手足のないさやかの達磨の身体は羽をもがれ蠢き這いずりまわる糞蠅のように、
 それとも、まるで腐った果実のように転がっていく……。
 鍔下まで互いの腹腔を突き破る刀と剣。腹から生えたままの刀身。

『ゴブッ……ッ!』

 まるで口に含んだ液体を吹き出したような喀血。
  誰にも聞こえはしない断末魔。形容つかぬ絶鳴。
 満身を無数の深い切開痕を晒して穴だらけになっている。
 生血がだらだらと伝い落ちるその顔。

「……………」

『死に損ないの小便臭いガキが……ッ
 どんな曰わくがあるかしらねぇが血迷いやがって、クソが……』

『……これが未通女の斗い方かよ……ッ!?……さやかぁあぁ……てめェ……』

 血涙を流す目は喪い、激しい苦痛の名残が残っている。

『それに……こんなのは……剣でも何でもねぇじゃねーか……』

 万次は俯せにぶっ倒れた。




 
 キィィィィィ……

 ──────流血の領海を蠢くナニカ。

          キィ……キィ……
   キュ 
     キュ 
      キュ キュ
  キィ  
 ──────それこそがこの男の宝具“血仙蟲”。 それは究極の延命術。

           キィィィィィ ィィ

 万次の肉体でさざ波を立てる奇妙な蟲。その数は幾千幾万幾億……。

 蟲たちは徐々に万次の疵の内側を満たしていった。


 



 説明は以上。ご覧の通り彼ら主従は──────生半死なない。


21 : 夢幻《旋律の青嵐》 ◆IEi9gF4D.E :2018/06/04(月) 00:16:41 bzyHKzWQ0

◆◇◆◇

【出典】無限の住人
【SAESS】 アルターエゴ
【性別】男性
【真名】万次
【属性】中立・中庸
【ステータス】
筋力C++ 耐久A+++ 敏捷B
魔力D   幸運EX   宝具C++

【クラス別スキル】
無窮の命:EX
無限を活きる者。
マスターなしで現界できる単独行動スキル。
ただし、霊体化できない。お腹は減る。睡眠も必要。

狂化:E+
意志疎通の可能な思考力を保つ。
狂化の恩恵は筋力と耐久よりも痛みに耐えられる根性。

自己修復:A+
一定時間経過するごとに傷は自動的に治癒されていく。
それは修復ではなくもはや停滞の域に達している。

被虐体質:B
戦闘において、敵の標的になる確率が増す。何故か。
相手の必殺技を一度は必ず受けなければならない。

【保有スキル】
戦闘続行:A++
捨て身同然自滅スレスレの戦闘行動で格上の実力者たちと彼は肉薄する。
勝っても負けてもボロボロ……。

鶏鳴狗盗:B+
武器を蒐集し、管理する能力。
戦闘したサーヴァントの武器を奪える。
相手の同意があれば譲渡貸付可能。返却の義務はない。
そんなものドコに仕舞っているんだ?なんて考えてはいけない。絶対に。
また、騙しうちや奇襲の成功率を上げる。
汚くない……格好悪くない……!

改臓肢儀:A
血仙蟲によって自身の肉体と他者の肉体とを付属・融合させる適性。
自身の肉体の欠損を他者の肉体で補うことができる。
更にステータスをパーツに準じて上昇させることが可能。


【宝具】
『血仙蟲』
ランク:C++ 種別:常時発動宝具 レンジ:自身 
けっせんちゅう。
万次の体内に潜む蟲。 この宿主は不死身となり、『血仙蟲を埋め込まれた時点での肉体を忠実に再現する』
サーヴァントは通常であれば脳や霊核を急所とするが、不死身である彼はその意味を失くし、
万次の肉体の負傷・損傷は常時自動的に治癒され、肉体の状態を保持する。

それどころか他者の肉体で修復の間に合わない欠損を補う事も可。
その肉体に依存し、ステータスを上昇させることができる。
※美樹さやかとの魔法の影響か普段より数段蟲たちの生きがいいです。

『武器屋』
ランク:E-〜? 種別:対人宝具 レンジ:自身 
えものや。
武器一杯の四次元ポケット。
着物の中・袖の下から現れる多数の武器を隠し持っており、相手の武器を自分のものにすることができる。
戦闘中のサーヴァントからでも武器を拝借・譲渡が可能。
手に掴めるもの限定で、例え担い手のサーヴァントが消滅したあとでも他者の宝具を自分のものとして使うことができる。
武器・宝具が破損・消失した場合は修復は不可能。

現在も『無限の住人』劇中の剣客たちの武器を多数所持している。

【 weapon 】
・ 烏
・四道
・ 妹守辰政
・ 小天狗などなど、〝単行本要把握推奨〟

【人物背景】
卍とも呼ぶ。旗本であった上司の堀井重信と九九人を斬り、『100人斬り』と称される侍。
そして八百比丘尼により、喇嘛僧の秘術『血仙蟲』を身体に埋めこまれ不老不死となった浪人。
血仙蟲を植えられたのは20代頃、そのままの姿で老化は停滞しているがえらく老けてみえるオッサン顔。
ちなみに、中の人は関智一さんだ。キムタクではない。
時系列は本編終了後。


22 : 夢幻《旋律の青嵐》 ◆IEi9gF4D.E :2018/06/04(月) 00:22:25 bzyHKzWQ0

【出展】 魔法少女まどか☆マギカ 
【マスター】美樹さやか
【人物背景】
見滝原中学校の2年生。
幼馴染の上條恭介には思いを寄せており、腕を怪我した彼に毎日献身的な看病をしていたが、絶対に治らないその腕を治すために契約を決意、自分が信じる正義のために戦う。高速近接戦闘と回復能力を持った青い魔法少女。

【 weapon 】
・サーベル
複数の剣を自身の足元に展開し飛び道具として相手に投げつける攻撃
実はこれ刀身を発射したり、分離する特殊ギミックが裏設定で存在する。
必殺技はサーベルを連続投擲する『シューティングスティンガー』

・断身九印
片腕で扱える事を前提に作られた特注刀。
これ一本で斬る・刺す・捌く・刃を折る・缶を開ける・栓を抜く・ゆで卵を輪切りにする等さまざまな機能があり便利。
万次からパクった。

・錦連・三途ノ守
相手にワッパを掛けてそのまま切り落とす手錠式鎖鎌。
万次からパクった。


【能力・技能】 
・自己修復能力
癒やしの魔法。治癒能力。
その能力の応用によって自らの痛覚を遮断したバーサーカー戦法と得意とする。







 よう旦那、もう聞いた!?

 ほーお、誰から聞いた? 

 _人人人人人人人人人人人人人人人人_
 >                 <
 > “死なない剣士”のそのウワサ!<
 >                 <
  ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 しかし、“ある神様”は言った、『この世に永遠のモノなど無い』!(ドドンッ!)

 なんと!
      つまりつまり〜〜?
                それはそのはぁ〜〜?

         ふひょひょひょひょひょひょひょ!!

 ──────今のババア誰……?


 _人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
 >                          <
 > 見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ!(予測)  <
 >                          <
  ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄


  見習い剣士の武者修行!

  それは熾烈を極めるけもの道!

  目指すは悪党百人斬りーー! 


        悪
        ・
        即
        ・
        斬
        !


23 : 夢幻《旋律の青嵐》 ◆IEi9gF4D.E :2018/06/04(月) 00:23:03 bzyHKzWQ0
投下終了


24 : ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:31:29 ZHzDEnXg0
投下します。


25 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:32:05 ZHzDEnXg0
 日は落ち、登った月は雲に隠れて見えない。
 外は一面、土砂降りの雨。
 校庭のグラウンドに運動部の姿は無い。
 雨音がざあざあと鳴る校内の一室。
 赤い絨毯にピアノが一台置いてある。音楽室だ。

「きらきらひかる おそらのほしよ
 まばたきしては みんなをみてる
 きらきらひかる おそらのほしよ」

 音楽室で一人の少女が「きらきら星」を歌っている。
 指1本での単調なピアノの演奏。歌声は艶やかなアルトの透明な響き。
 黒い基調の制服に身を包んだ、栗毛色の長髪の少女が一人で歌う。
 それだけで、まるでその一室はさながら神殿のような趣となっている。
 信じた道に身を捧げ、理想を抱き歌うその姿は、殉教者と重なるが故に。

 少女の名前は「ファルシータ・フォーセット」。イタリアからの留学生であり、国では音楽学校に通っていた歌手の卵である。

「ファルさん。合唱部が終わった後、いままで自主練やってたんですか?」
 歌い終えたファルに、一人の少女から声がかけられる。
「一人で掃除なんて大変だったでしょ。何かファルさんって、そういう嫌な仕事進んで引き受けたがるよね」
 もう一人の少女は、気づかうような口調で話しかけた。
「そんな嫌な事ないわよ。掃除を申し込んでおけば、一人で音楽室を使えるから。
 全部自分の為にやってるの。歌の練習も含めてね」
 そう言うファルの声は、さわやかととれる音色だった。
「あ、そうだ。ファルさん、YoutubeにUPされた噂の『孤独の歌姫』の歌、聞きました?」
「すごいよね。あれ聞いて泣いちゃったよ、私」
「私達じゃ、一生かかってもあんな領域まで行き着けないもんね……」
「そうね……」
 ファルは気丈な態度で、笑顔で言った。
「くやしいわね。今の私じゃとても及ばない実力だもの」
「くやしい、って言えるのがすごいですね」
「でも、いつか必ずあの人と同じ場所へ行きたい。行ってみせる」
 ――それが私の『夢』だもの。
 ファルの目は遥か遠く、だが強い意志を込め、天を眺めた。
「ファルさんならなれますよ、きっと! すごい才能で、努力もたくさんしているんだから」
「うん、そうだよ、きっと。あ〜あ、わたしもファルさんみたいな素敵な人になりたいな」
 ファルはそう言った少女に微笑み返した。

 ――私はそんな人間じゃない。私には何かが欠けている――

 その思いを押し殺しながら。


26 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:33:15 ZHzDEnXg0
「ファルさん、良ければ一緒に帰りませんか? カラオケにいって歌いましょうよ」

「御免なさいね。ファルさんとは私と先に約束してたの」
 
 何時からその人は音楽室の中にいたのか。横から割り込んだのは、清流の様に澄んだ声。それなのにその言葉は強く、遠くまでよく届いた。
 声の主は、ファルシータと同時期に転校してきた少女「比良坂初音」である。
 黒く艶やかな長い髪、古風なセーラー服。ファルと共に所属する高校とは異なる制服、同じ黒を基調とした制服だ。
 その身に宿す赤い瞳は心を見通されるような深さがある。
「……ええ、悪いけど初音さんと先約があってね。ごめんなさい」
 ファルは、出来うる限りの申し訳ないという感情に満ちた表情を浮かべて言った。
「仕方ないですね。じゃあ、また今度という事で」
 ファルは孤高さがあっても親しみやすさがあるが、初音は高貴でどこか気押されてしまう雰囲気がある。
 そのためか、二人ともあっさりと納得した。
「ごきげんよう。二人ともお気をつけてお帰りなさい。近頃は物騒な噂が流れているのだから」
 初音は穏やかに笑いかけた。
「はい、そちらもお気をつけて」
「さようなら。また明日」

「ところでさ、噂っていったら、ここでも――」
 話しながら音楽室から二人は出て行き、遠く声が離れていく。

 校内のどこか、夕刻に現れ、男を誘い、犯す淫乱な女。
 正体は男を食べる魔物。
 既に何人かの男子生徒を連れ去り、どこかで骨も残さず食べてしまったという。

 そんな噂話をしながら、二人は去っていった。


27 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:34:18 ZHzDEnXg0
「で、要件は何? 『キャスター』」
 初音に尋ねるファルの表情は一変し、冷たい目で初音を見据える。彼女は「聖杯戦争のマスター」としてのファルシータ・フォーセットになった。
 ファルにとって笑顔とは、対人関係を良好に保つため、使い慣れた仮面だ。
「聖杯戦争について、貴女がまだ理解していない事についてよ」
 初音もまた「キャスターのサーヴァント」である比良坂初音として答える。
「前にも言ったでしょう? 私は聖杯なんてどうでもいいの。私の夢にとって何の関係も無い事だわ」
 それはファルの本音。だが、ファルにはもう一つの思いがある。
 世界を、都合の良い奇跡を望む境遇にまで自分を陥れた世界を憎み、そんな自分を変えたい、叶えたい願いがあるのなら。
 ――聖杯を望めばいい。例え人殺しが避けられないとしても。
 ファルはピアノの椅子から立ち上がり、出入り口に向かう。
「でも、それでは済まないのがこの聖杯戦争なのよ、ファル」
 初音はファルと共に音楽室の外に出ながら、ファルの内心を知ってか知らずか、微笑んだ。
「その、ええと……そうるじぇむ? さぁばんとになっても外来語は言いにくいわね。
 兎に角、一人のますたぁに一つずつ与えられたその器に、七体のさぁばんとの魂を集めるのが聖杯を出現させる条件よ。
 そんな状況で戦う事を諦めたますたぁがどんな目に遭うか……お分かり?」
 ファルもそれは理解している。おそらく聖杯を求めるマスターに利用されるだけ利用され、最後は命まで奪われる事だろう。
「脱出の手段はまだ見つからないの?」
 廊下を初音と並んで歩きながら、ファルは尋ねる。
「今のところはね。糸を外に伸ばそうとしたり、人を操って調べてみたりしたけど、この町まるごと結界で覆われていて這い出る隙間もないわ。
 結界がどういうものか、私を使う貴女なら分かるでしょうけど」
 聞き覚えのない結界という言葉だが、どのような効果かは、ファルは初音の作った陣地を見て納得している。
「私は、聖杯なんていらないけど、あなたに願いがあるなら戦いに協力するわよ。その前にまず情報収集が先決だけど。
 マスターのスタンスを大雑把に分類すると、戦いに乗ったマスター。乗らないで脱出を目指すマスター。今の状況がわからず準備もしない半端なマスター。
 私は脱出派だから同じ脱出派と上手く手を結んで情報を集める事から始めて、後は半端なマスターを利用して乗ったマスターの盾にするか。または情報を売って乗ったマスターを利用できないか……」
「貴女は、人を利用するかどうか、できるかどうかで動くつもりなのね」
「急に連れてこられて、いきなり殺し合いをしろ、だなんてこんな状況で信頼関係がすぐできるわけないじゃない。もっとも、私は誰も信用しないけどね。
 それは私達も同じでしょう? でも、あなたは聖杯を捕るのに私が作った優等生という仮面と人脈を利用して、その代り、私はあなたに命を守ってもらう。
 そういうお互い利用し合う関係だけで、私たちは十分特でしょ?」
 ファルのその考えは、この特殊な状況だけではなかった。ファルが信用するのは、自分の歌の才能だけだ。聖杯戦争に連れてこられる以前から、ファルはそうして生きてきた。


28 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:34:45 ZHzDEnXg0
 二人は校内にある「茶道室」の前についた。
 ここは初音が能力で製作した陣地で、二人の借り宿でもある。
 暗示により、初音は高校でただ一人の茶道部の所属となっている。ここは所属した学生が全員卒業した後、そのまま未使用になっていた茶室……という設定の暗示がやはりかけられている。
 実体は、入り口も、畳も、白い土壁も、障子も、年期を感じさせる柱も、床の間も、押入れも、全て初音が糸で紡いで造り上げた物である。
 ここは初音の『巣』だ。空き教室を使って、そこに造り上げた『巣』だ。
 近くにある給湯室、洗面所などやそこに繋がる通路もまた、初音の陣地となっており、普段は生徒たちに影響はないが、初音が少し魔力を通せば人払いの暗示、認識できなくなる暗示が発動できる。
 さらに、高校の全敷地は初音の結界に覆われ、内部外部の人間の精神に働きかけ、記憶を操作されている。

 例えば、人が一人消失した程度では、誰も違和感を感じないように。

 二人は扉を引き、靴を脱いで茶室に入った。
 中には一人の少女が、囚われの身となっていた。
 両方の手足が蜘蛛の糸で畳に縫い止められ、口は猿轡のように糸で覆われている。
 その姿を見て、ファルは唐突に思い出した。
 さっき会った二人組は、本当はいつも三人組で行動していたはずだ。
 なぜ今まで忘れていたのか?

「気づかなかったでしょう? 私の『巣』に捕らわれた人間は、誰からも忘れられる。
 主の貴女も例外ではなくてよ」
 振り向いたファルに対し、初音は赤い瞳を向けた。
「実を言うとね。私も聖杯なんて興味ないのよ。召喚されたのはほんの気まぐれ、気の迷いよ」
 初音は一つ嘘をついた。初音には気の迷いなどとは言えない、確かな願いがある。だがそれは聖杯に叶えてもらうまでの事ではなかった。
 あるいは――叶えたくないと言い換えるべきか。
「だけど、私は仮初の生でも、自ら死を選ぶことはしない。負けるつもりで戦うつもりなんてないわ」
 初音の赤い瞳が強い光を灯す。
「だから、主である貴女には、この戦で絶対生き延びるという覚悟を見せてほしい」
 
「そこで、ファル。貴女に――この子を殺してもらえないかしら?」

 ファルは意味が分からず呆然としたが、言葉を正確に咀嚼した瞬間、脊椎に氷柱が入るような戦慄が走った。


29 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:35:37 ZHzDEnXg0
 初音は懐から匕首を取り出し、刃を掴みファルに柄を向けた。
「何を棄てても、誰を犠牲にしても、生き延びたいという覚悟を見せてほしいのよ。
 勿論貴女には断る自由があるわ。もっとも、そうしたら私は貴女を見捨ててしまうけど」
 脅迫そのものといえる言葉を、初音は微笑んで口にした。

 ファルは初音について、いやサーヴァントという存在について、与えられた知識だけで判断していた。
 人類の歴史を進ませた偉人、戦場で猛威を振るった英傑、あるいは暴虐で汚名を得た悪党。そういった善悪問わず偉業を為した者達。その写し身がサーヴァント。
 マスターは本来現世に存在できないはずのサーヴァントを繋ぎとめる楔となり、提供する魔力と絶対遵守の効力を持つ令呪でコントロールする。
 もっとも、ファルは初めから行動を縛るつもりがなく、初音に自由な行動を許し、願いがあるのなら戦いのために協力し、聖杯も渡す気でいた。
 その代り、自分を守り、元の世界に戻す事。これを絶対の条件とした利害関係。そのつもりでいた。この時までは。

「もう一つ言っておくと、先程二人が噂していた話。あれは本当よ。
 私が作り出した半妖、贄が男から精を奪い、昇華して私に与えているの。命が失われた死骸は私が喰べたわ。
 私は『貴女達』と違って人を殺すのに何の躊躇いも罪の意識も感じないわ。貴女と主従の誓いを結んだのは、そういう『バケモノ』なのよ」

 ようやくファルは理解した。目の前で微笑んでいるモノは人ではない。英傑でも、悪党ですらない『バケモノ』だ。
 そして利用する、戦いに協力するなどと言った自分に対し、その本当の意味を突きつけ、嬲り、貶めようとしている。
 それは、この聖杯戦争がつまるところ殺し合いであるという事。それに積極的に関わる事は、己の意志で人を殺すという事。
 サーヴァントという存在も、仮初とはいえ生を得ている故、例えサーヴァントだけを殺させるように指示しても、それを操るマスターもまた殺人を犯すという事。
 その上、この『バケモノ』は、既に人殺しをしており、そのマスターである自分もその加害者の側であるという事だ。

 衝撃から落ち着いたファルは、初音の言葉とこの状況について考える。
 初音とは利用し合う関係だと自分から言った以上、見捨てるという言葉は本当だろう。
 では、私は直接自分の手で人を殺せるのか? 聖杯戦争と何の関係も無い、ただの少女を。
 これがもし敵のマスターの話なら――私は殺せる。きっと何の躊躇いもなく。
 殺さなければ殺される、という理屈ではない。他人の命が自分が戻るため、『夢』のために必要なら、迷わずに奪える。私はそういう人間だ。
 そう、私は結局行動を自分の損得でしか判断できず、選択の天秤の片側に載せるのは常に『夢』だ。
 しかし、無関係の人間を殺すというのは、リスクや損の方が大きいのではないだろうか。
 それでも、サーヴァントが殺さなければ見捨てる、とまでいうのなら、私はこの子を――

 ファルは捕らわれた少女を見、少女はファルの瞳を見返した。
 その時、ファルは少女の瞳に込められた思いを見た。

 二人が何の話をしているのか分からないけど、きっと彼女なら、誰にでも優しく親切なファルさんなら自分を救ってくれる。そんな純粋な瞳。
 当たり前の豊かさを何の苦労もなく当然に享受し、幸せに暮らしてきた証拠の無垢な瞳。

 ――その瞳は、ファルの心を苛立たせた。

 だから、ファルは初音からナイフを受け取った。
 思い出したからだ。ファルは死にもの狂いで何かをしなければ、何もできない人間だという事を。


30 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:36:17 ZHzDEnXg0
 ファルが少女に対し、馬乗りの体勢になり、初音は二人の横に回り込んだ。
 初音が手をかざすと、少女を拘束する糸が解れ、口はそのままに片腕が自由になった。
 少女はファルに馬乗りにされて、自分が見捨てられたと思ったのだろう。
 片腕でファルの服を掴み、引っ張り、突き放し、懇願するような唸り声をあげ、否、実際命乞いをしているのだろう。涙を流し、必死になって細腕に見合わない力でファルを引きつけ、また引き離す。
 少女が振り回す腕で、ファルの制服のボタンが胸から引きちぎられ、同時に首から下げていた銀製の羽のアクセサリーが畳に落ちる。
 ファルはその銀の羽を見つめた。初めは自分の『夢』の様に光り輝いていた二枚の羽。いつのまにか錆びて薄汚れてしまった羽。

 ――この羽は私だ。

「誰もが夢を見る権利があるって聞いたことがあるわ」
 ファルは少女に顔を向けながらも、誰を見ることもなく自身の過去に意識を飛ばし、言葉を紡いだ。
 それは綺麗な言葉だ。でもそんな現実はどこにも存在しない。ファルはそう確信している。
「でも夢を叶えるにはそれを支える生活や環境がいるのよ。それに、夢を見る事さえできない人間も沢山いるの」

 ファルシータ・フォーセットには『夢』がある。一人前のプロの、国一番の歌手として生きていくという『夢』が。

 だが、ファルは『夢』のために『夢』とは関係ない過酷な努力をしなければならなかった。

「だって、この世界は残酷だから」
 再び、ファルは自分の過去を思い出す。赤子の頃、親に捨てられた自分を。
 引き取られた孤児院の中、過酷な労働、僅かな豚の餌にも劣る食事、冬の寒さを防ぐ毛布さえ与えられぬ眠りを。
 そんなファルに残酷な世界が、薄情な神が唯一授けてくれた祝福が、歌の才能だった。
 孤児院を抜け出て歌の芸で小金を稼いでいた時、たまたま居合わせた貴族に才を見込まれて音楽学校に推薦入学できたのだ。
 でも、孤児であるファルには支えてくれる人がいない。夢破れても帰る場所も無い。小学校に通えなかったため、読み書きが満足にできないハンディもある。
 学校の学費は無料だが生活費は別に必要だし、歌詞や歌を勉強する本に費やす金も自力で稼がなくてはならない。

 プロの歌手という『人並みの夢』を追うためだけでも、いや『人並みの生活』だけでもファルは『人並み』を遥かに超えた努力をし、それ以上に人を利用しなくてはならなかった。
 良好な人間関係を持つ優等生という地位を築くために人の嫌がる頼まれ仕事も笑顔で引き受け、寸暇を惜しんで歌の練習に励み、アルバイトで金を稼ぎ、基本的な読み書きや詩集のような音楽に必要な他の教養を習得してきた。
 一方で、裏では必要と思った人間を自分に取り込み依存させるため、その人物の悪い噂を流し、講師にさりげなく、恩着せがましくならないよう慎重に取り入り、利用できる男なら誰とでも――醜聞が表沙汰にならないよう――寝た。

 ファルは蜘蛛糸にとらわれた少女の恐怖におびえた瞳を見、再び銀の羽に目を移した。
 ファルを捨てた親が、彼女へ歌の才能と共に与えてくれたもの。
 ファルが『夢』のために多くの者を利用し、裏切り、捨てていく度に。
 残酷な世界を憎み、裕福な人間を妬み、純粋無垢な人間を疎み、人と人との関係は、利用し合うだけのものと確認する度に。
 無意識に手でまさぐって、薄汚れていった銀の羽。

 ――この羽は私だ。私の心の羽だ。
 ――いつか錆び果てて『夢』に向かい飛ぶ力を失うかもしれない羽だ。
 ――それでも、私はこの薄汚れた銀の羽で、何処までも高く遠く羽ばたき続ける。

 ファルシータ・フォーセットは、歌を歌って生きていく。
 その『夢』のためなら、何でもできる。

 ――例え、人殺しだって。

「ごめんなさい。私は、自分の夢の為なら何でもできるひどい女なの」

 その言葉で自分の命運が断たれた事を悟った少女は、絶望の淵でもがき、狂えるように叫ぶ。
 ファルはそんな少女を冷たく見据えた。一度決意を固めたら、自身が驚くほどに冷静だった。
 そして片手で少女の暴れる腕を押さえ、片手で、ナイフを振り降ろした。


31 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:36:38 ZHzDEnXg0



 畳に赤い血が飛び散った。

 
 
 少女の首は、胴と分かれた。

 糸によって。初音が手から放った鋼糸によって。

 ファルがナイフを少女の喉に突き立てる寸前に。



「…………どうして?」
 返り血を浴びたファルが、初音に向かい問いかける。
「……あなたの望みでしょう? こんなことするくらいなら、どうして私に殺させようとしたのよ……」
 無言で近づく初音に、ファルは力が入りすぎて震える体で、今にも泣きだしそうな顔で、声で、問いかける。
 なぜ震えるのか、なぜ初音に問いただすのか。ファルは自分自身が分からず、涙が出そうになっていた。つい直前まで少女を本気で殺す気でいたというのに。
「さぞ怖かったでしょう、ファル? まるで冬の寒さで凍えているようよ」
 全身が固まったファルを、初音はやさしく、ファルの血まみれの手に銀の羽を乗せ、花びらを潰さず摘み取るような柔らかさで両手で覆った。
 ファルは一瞬身震いしたが、初音の手のぬくもりに、匂い袋の様な香気に、柔らかな笑顔に包まれ、硬直した躰が解れていった。
「気が変わったのよ。バケモノは気まぐれな生き物なの」
 初音は、ファルの掌の上にある、銀の羽についた血を優しく、滑らかに指で拭った。
「貴女の銀の翼は、汚れても尚空を目指すから貴女に似合っている。でも鮮烈な血の赤はそぐわないわ。覚悟を見せてもらえて、私はそれで十分満足よ」
 指についた血を初音はなめとり、片方の手で、ファルの髪を撫でる。
「手と顔、それと翼を洗っていらっしゃい。匂いが染み付いてしまうわ」


32 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:37:04 ZHzDEnXg0
「ひとつの夢のため あきらめなきゃならないこと
 たとえば 今 それが……」
 ファルは手と顔、そして翼を洗いながら、未完成な新曲の歌詞を唱える。
 どんな惨劇があっても、どんなに心乱れても、歌えばファルは自分というものを取り戻せる。その点でファルは非凡な努力と才能の持ち主だった。
 放課後の夜、しかも初音の陣地内には最早誰もいない。返り血に汚れた服を人に咎められる心配をする必要も無く、ファルは歌詞を紡ぎ続ける。
「居場所はどこだろう? 私の役割はなに?
 ずっとずっと思ってた そしてみつけた気がしたの……」
 居場所。役割。それはプロの歌手。それも最高の実力と栄誉を得た上での。それがファルの目指す居場所で役割で『夢』だ。
 だが、ファルは最近それを思う時、不安が心をよぎる。
 ファルが歌を歌い続けるという『夢』を目指すのは、生きる為だけではない。幸せのためだ。
 歌のレッスンで、アンサンブルが上手く調和したときは楽しい。演奏会で賞賛されるのは、生きている実感が湧いてきて嬉しい。その時は演技ではない、ありのままの、本心からの笑顔が出るのが心地よい。
 だからこそ、生活の全ては歌の修練に集中するためのものだった。さらに上の実力を身に付け、より多くの人々を魅了し、より大きな舞台で歌うのがファルの『夢』であり幸せなのだから。
 そうして高みを目指し努力している途中で、ファルは何時しか気づいてしまった。
 自分の歌には、歌声には何かが足りない、欠けているモノがある、と。それを自覚してしまった。
 
 自分の歌の才能は裏切らない。努力に応えて力が上がっていく。この歌の才能が有れば、自分一人の力で生きていける。自分の歌だけで『夢』を、全てを手に入れる。それがファルの精神を支える原点。
 だが、本当に人間一人では生きてはいけない。だからファルは対人関係では笑顔の仮面を被り、礼儀正しく振舞い、人の信用を勝ち取ってきた。
 それでもファルは「全ては自分の為」「自分は人を利用している」「人は互いを利用し合っている」「夢の為には必要な事」と思えばこそ、強く自分という存在を保つ事が出来たのだ。
 それを、歌の才能そのものに疑いを抱いてしまっては、ファルシータ・フォーセットという『夢』に向かい飛び続ける生き物は、一瞬で地に墜ちてしまうだろう。
 
 この不安を抱いた時、ファルが想起するのは二人の奏者の顔だ。ファルに足りないモノを支え、実力を高めてくれるであろう音を奏でる二人。
 あの二人のうち、どちらかを手に入れれば、私はさらなる上の領域へと到達出来る。
 だから私は、二人を利用するために人を傷つけ、人を騙し、朗らかな笑顔で取り入り……。

 ふと、ファルは鏡で自分の顔を見かえした。そこに映るのは暗く澱んだ瞳だ。あの少女の無垢な瞳に比べて、自分はなんて薄汚れてしまった事だろう。
 だけど後悔なんてしていない。もし、してしまったなら、今まで利用し、裏切ってきた人達全てにどんな顔を向ければいいのか。謝ることさえできない。そんなのは御免だ。
 今までの境遇と努力と、利用してきた人たちの顔を思いだし、ファルの瞳は精彩を取り戻してゆく。

「やがて 覚悟が芽ばえていた この夢のためならば 他を捨ててかまわない……」


33 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:37:23 ZHzDEnXg0
 ファルが部屋から出たのを確認した初音は、畳の上に座り込んだ。膝を両手で抱え、体を小さく折りたたんでみる。
 初音のスカートの中から子蜘蛛が大量に産みだされ、少女の死骸に覆い群り埋め尽くした。子蜘蛛は死骸の血を啜り、肉を食み、骨を齧る。
 生きている人間の精を直接吸うのに比べれば、死体を、それも間接的な形での摂取は劣るが、それでも若い生娘の肉体は初音に上質な精を提供してくれる。
 力が漲る感覚を味わいながらも初音に歓喜の気持ちは無く、かつて経験した事のない感情に戸惑っていた。途方に暮れていたのである。

 鬱々として気が晴れない。退屈とは違うこんな気分は初めてだ。
 先程、己の主を試そうとしたのは、ファルに人殺しを経験させるのは、心変わりする寸前まで本気だった。
 それがなぜ、直前でそれをやめて私自ら殺したのだろうか。残酷で嗜虐的な私がなぜ。

 廻々、狂々と頭が茹だるほど悩んでも答えは出ない。元々初音は気まぐれな生き物だ。
「銀……貴方がここに来ることができたなら、一体どうしたのかしら?」
 別の事を考えようと、初音は宿敵の名を口にする。その言葉には愛憎が、敬愛と侮蔑と友情と殺意が交錯し、混ざり合っている。
 だが、それもサーヴァントとして別世界に召喚された初音には、最早思っても詮無い事だった。
 無意味さに気づいた初音は、再び自分の主人となったファルシータと己の事を思い見る。

 妖としてあって数百年。人は生まれ、死んでゆき、花は咲き、そして散る。時が移ろう中、私はいつしか瑞々しい感情を失い、ヒトの籠絡と凌辱、それらによって人間が外道へと堕ちてゆく過程に愉悦を見出していた。
 今はヒトを籠絡し、感情や道徳を引き裂き踏みにじるのは楽しいし、身も心も凌辱し、快楽と絶望の虜に墜とすのも面白い。化物と恐れられるのも心地良い。
 そんな私が、心変わりしたのは――そう、恐らくあの主人を堕としたくないと思ったからだ。直接その手を血で汚させたくないと思ってしまったからだ。なぜだろう。私は狂ってしまったのだろうか。

「なんであの子がこんなに気にかかるのかしら。……かなこ、貴女とは全然違うのにね」

 深山奏子。銀との戦いによる傷を癒すため、入り込んだ学校。そこで偶然見つけた倉庫で輪姦されていた少女。
 この手の下衆共が嫌いな初音は男達を皆殺しにし、奏子だけは気まぐれで殺さずにしておいたが、彼女は化物の初音を怖がるどころか逆に初音の内側に踏み込んできた。
 初音は初め、奏子を遊び相手としか思わず、弄び、嬲っていたが、それでも初音を慕う奏子によって、初音は少しづつ奏子を妹の様に思うようになっていった。
 いや、もしかしたらそれ以上、それ以外に思う様に。だから、初音の願いは「元の世界での自身と奏子の行く末を知りたい」である。

 奏子のおかげなのだろう。化物の私が、ほんの少しだけヒトの心を持つようになったのは。
 でも、それは変わるのと、狂うのとどれほどの違いがあるのだろう?

『やがて 覚悟が芽ばえていた この夢のためならば 他を捨ててかまわない……』
 初音の耳にファルの作った歌の歌詞が聞こえてきた。初音は陣地内で糸を通じ、全ての気配、音を感じ取れる。その歌詞を聞いた時、初音は自身の中に芽生えたヒトの心が、未知の思い、そして既知の感情を揺り動かすのが分かった。

 この思いは何? 銀への思いとも、奏子への思いとも違うこの思いは何?
 全く分からない。だけどファルの歌を聴く度、実感できることがある。それは、私が生を歩み始めたあの頃の……。

 思案に暮れる初音に、ファルが部屋へと戻る足音が聞こえてくる。
 初音は子蜘蛛を元に戻して立ち上がり、スカートを払って足の甲を床につけ、両膝から畳に腰を据えた。

 そこにいるのはいつも通りの女郎蜘蛛の化物「比良坂初音」だった。


34 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:37:49 ZHzDEnXg0
 ファルが部屋に戻ると、初音は畳の上に鎮座していた。
 部屋を見ると、有るべきはずのモノがない。畳に染みひとつ無い。
「あの子の……死体は、どこへやったの?」
「喰べたわよ。骨も残さずにね。貴女には本来魔力を生む資質がありませんもの。
 足りないものを他で補うのは、この聖杯戦争では当たり前の事よ」
 ファルに魔力の素養が無いことは、ファル自身も知っている。ファルの世界には、演奏者に魔力が無ければ音を鳴らす事も出来ない「フォルテール」という鍵盤楽器があるからだ。
 そのフォルテールが見滝原に、この世界に存在しないことが、ファルに記憶を取り戻させる切欠となったのだ。
「確か、あなたは戦いの防具用に、私の服を織るって言ってたわよね。制服の着替えはある?」
 ファルは冷静に話題を変える。
「そこの押入れの中よ」
 初音は襖を指差した。
「服は多少の魔術や刃物、銃弾程度なら跳ね返すくらいの力を持っているわ。
 そして蜘蛛は潜んで獲物を待つ者よ。魔力を隠蔽して、普通の服と全く変わらないよう仕立ててあるわ。
 大抵のますたぁやさぁばんとには気づかれない自信はあるけど、私より探るのが上手の敵なら感付かれるから注意なさい」
 ファルが着替える為、押入れに向かおうとした時、初音の声が足を止めた。
「着替える前に貴女の歌を聞かせて頂戴。貴女が、貴女自身のために作った歌を」
「それって……『雨のmusique』の事?」
 作詞、作曲ファルシータ・フォーセット「雨のmusique」。それは元居た世界で通っているピオーヴァ音楽学校の卒業課題のために作った歌だ。
 ピオーヴァ音楽学校の卒業課題は、自分で作詞、作曲し、独唱か演奏者のパートナーを選び、演奏会でその歌を歌うというものだ。
 演奏会には講師の他にも、楽団に所属するOBもいる。成果次第では即プロへの道も開ける。
「そんなの、着替えてからでも」
「お願い」
 初音の声は穏やかではあるが、有無を言わせない圧迫感があった。
 ファルは数秒ほど惑ったが、結局歌う事に決めた。

 グレイの空 雨の糸
 街中 霧に煙る
 こんな日は 少しだけ
 やさしい気持ちになれそうよ

 歌えばファルは、いつも通り真摯に歌へ集中する。『夢』の高みへと羽ばたく純粋で誠実な思いを込める。
 だが、ファルの歌声は、素人の初音にも分かるほどいつもとは違う。
 重く、締め付けるような、まるで逃げ出したくなるような……。
 それでも、終わってほしくないような、いつまでも聞いていたくなるような……。
 そんな不思議な音色だった。

 Look at me Listen to me
 だれかを愛して
 君が必要と言われたなら どんなに…

 「必要と言われたなら」。その歌詞で、初音の脳裏に奏子の顔が浮かぶ。『バケモノ』の初音を受け入れ、慕った奏子。
 初音は歌うファルに目を向ける。こんな歌を作りながら、人は利用し合うものだと言い切ったファル。
 歌うファルを見る初音には、得たヒトの心からまた新たな未知の思いが浮かんでいくのを感じた。

 Look at me Listen to me
 アタシヲアイシテ
 だれも知らない心 見抜いてくれたら…

 ファルは歌いながらも、初音の変化した表情に驚いた。
 初音から、いや他の誰からも向けられたことのない、全く理解できない表情。瞳の光。
 それを見た時からのファルの歌は、ファル自身も知らない全く新しい音色に変化していた。

 Look at me Listen to me
 アタシヲアイシテ
 だれも知らない私が ここにいるのよ


35 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:38:13 ZHzDEnXg0
 歌を終えたファルは、顔から一切の表情が消え、呆然としていた。

 心臓の音が聞こえる。芯が冷えた頭に、空白な意識に強く、鳴り響いている。

 歌声に欠けているモノが埋まった。ファルはそんな確信を得た。

 歌がさらなる高みへと指を掛けたというのに、ファルの心には高揚も、感慨も、何も無かった。
 あったのは、疑念と、絶望に近い空虚。
 
 私が作ったこの「雨のmusique」は恋の歌。曲調も歌詞も、誰に対しても受け入れられるよう計算して作った愛の歌。
 だけど、曲の最後で自分をさらけ出す部分の歌詞は、私の密かな願いが込められている。
 優しく親切で、誰からも好かれる『私』じゃない。多くのものを捨て去り、多くの人を利用し、裏切り、薄汚れてしまった『私』。
 そんな穢れた『本当の私』を知って、それでも尚受け入れてくれる人がいたのならどんなに……。

 あの表情は「私は貴女の全てを受け入れる」という意味だったのだろうか。だとしたら――なんて皮肉。
 私が『本当の自分』をさらけ出しても、それを受け入れてくれるのが他の誰でもない、人ですらないこの『バケモノ』だなんて。
 それが私の歌に欠けていたモノを埋めてくれるだなんて。
 まるで私の心も『バケモノ』同然と言われているようじゃないか。

 ――私は、本当に本物の歌手になれるのだろうか。私の歌に価値はあるのだろうか。

 急に、ファルは人恋しくなった。『あの二人』に会いたいと思った。
 ファルの歌に足りない、欠けているモノを埋めてくれると思えた二人のフォルテール奏者に。

 魔力で演奏するフォルテールは奏者の資質、特に強い感情によって音が聞き手の心を揺さぶるほど大きく変化する。
 一人は美しくも悲しい、そして受け入れてくれるような音色と朧げな表情に深く惹かれ、もう一人は誰よりも憎く、妬ましいが儚くも強く抱きしめられるような音色に魅了された。
 正負の違いはあるが、人との関係を「有用」か「無用」かだけで判断してきたファルにとって「利用価値」以外の強い感情を抱くその二人は、特別な存在だった。

「……着替えるわ」
 虚ろな表情で微かな声を発し、ファルは辿々しい足取りで押入れに向かう。
 襖を開け、血に濡れた制服を脱いだ。白い肌が外気に晒される。


36 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:38:34 ZHzDEnXg0
「ファル」
 足音も気配もなく、いつの間にか初音はファルの側まで近づき、肩を掴んだ。
 制服がファルの手からすとんと落ちる。
「まだ聖杯戦争について、私について説明が終わってなかったわ」
 ファルの耳元で、優しく、甘く囁く。
「私はバケモノだけど、化物退治の英雄達に比べれば弱いのよ」
 事実である。宿敵である銀との実力差は圧倒的で、初音が本性を現してもようやく勝算が1、2割程度あるかどうかだった。
「それでも、補う方法はあるの」
 初音は薄く、妖しく微笑んだ。
「一つは、人を喰らう事。純粋で穢れなき魂を墜とし、精を吸えば今以上の力を引き出す事が出来るわ」
 それはサーヴァントは成長も劣化もしないという原則に反する能力、初音の生き方に由来した宝具によるものだ。
「もう一つは――」
 初音はファルをかき抱き、そのまま畳の上に仰向けにして押し倒した。
「貴女と深く繋がる事」
 初音はファルの首に歯を立てた。ファルはちくりと痛みを感じ、顔を歪める。
 次の瞬間、ファルは動悸が激しく高鳴り、躰が燃える様に熱くなり始めた。
 初音の尖った歯、牙がファルに蜘蛛の毒を注入したからだ。
「繋がりをより深く、強くすれば貴女の精を直接吸い取って、私はより強力な力を得られる」
 初音はセーラー服を糸に戻して解き、その体をあらわにした。ファルのそれより滑らかで肌理細かい肌。均整の取れた身体。黒々と濡れたように輝いた髪。
 同性から見ても羨望に値する肉体。だが、ファルの虚ろな瞳は一点だけに集中していた。
 初音の股間には、女性に本来ない器官があったからだ。
 
 繋がりを深くとはこういう事か。ファルはこれから自分に起きる事態を理解した。
 他人事のように。無理やり引き出された快楽を、空白な意識で受け流しながら。
「……好きにしなさいよ」
 ファルは何もかもどうでもよくなっていた。奈落の底まで落ちたい気持ちだった。
 『夢』が見えなくなった、追えなくなった自分に価値なんてない。汚れるならどこまでも穢れてしまいたい。
 この『バケモノ』が私を犯すというのなら、いっそ身も心も何もかも壊してもらいたい……。

「自分を見捨てる必要なんてなくてよ、ファル」
 自身の心の内を見透かされ、ファルははっと初音を見返した。
「貴女の歌は『バケモノ』の私の心さえ震わせたわ。だったら、人の心に響かないはずがないでしょう?
 もっと誇りを、自信を持ってもいいのよ」
 もう初音は笑っていなかった。ファルにもはっきりと伝わるほど真剣に、本気でファルの心を案じている。
「あなたは……!」
 だが、その態度は、逆にファルの逆鱗に触れた。
「あなたは、一体何がしたいのよ! 
 私に人殺しをさせようとしたり、寸前で自分で殺したり! 無理やり歌わせて、私が歌に自信を失わせるようなまねをして、勝手に励ましたり!
 ふざけないでよ、私を弄んでそんなに楽しいの!?」
 怒りに任せて、灼けつく喉で叫ぶ。ファルがここまで激情を露わにするのは、これまでの人生の中で初めてだった。


37 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:38:59 ZHzDEnXg0
「……バケモノは退屈な生き物なの」
 そう言って、初音は寂しげに微笑んだ。
「全てが起こり、栄え、滅び、風化して、無為に消えていって、それでも私はそのままであり続けなければならない。世界が私を置き去りにしてゆく。続くのは永遠の退屈よ」
 それは木石と何の変わりがあるだろう。いや、初音は人を襲う事を考えれば、時にがけ崩れで人を飲み込む山というべきか。
「そんな私に、貴女の歌は、歌う姿は私に知れない未来の楽しさを、私が生きている事を、私の流れる時を感じさせてくれるの」

 私は本来、ファルの様な女に魅惑を感じない。澄んではいない精気、傷ついた魂。それらは私の好む物ではない。
 だが、私はファルに単なる欲情、昏い愉悦以外の、それ以上の何かを得たヒトの心に抱いていた。人が抱く思慕や情景とは似て異なる、何かを。
 それはファルの『夢』に、歌に対してだ。ファルの真摯さ、誠実さに満ち溢れた歌、歌う姿は私に蜘蛛の妖に生まれたての頃の、世の中の全てが美しく輝いて見えた頃を思い出させてくれる。
 理由は分からない。何か魂に通じるものがあるとしかいいようが無い。だが、この感情を蘇らせてくれる事実に比べれば、理由なんてどうでもいい。
 まるで思春期を迎えたばかりの少女の様な新鮮な感覚を、未知で広大な世界へ踏み入る感動を、遠い遠い月日が奪い去った鮮やかな景色を。ファルの歌は私にそれらを思い出させてくれる。

 歌を改めて聴いてようやく自覚した。私はファルに惹かれている。彼女の乾いてざらついた心に。それでも天上の星を目指す純粋な思いに。人の信義を裏切りながらも、ただ一つのものを求める至誠に。
 思えば『夢』を見る事が出来る人間は、私の知る限りごく一部の豊かな人間だけだった。殆どの人間はその日を暮らすのに精いっぱいで、一握りの糧の為互いを利用し合い、その結び付きから外れた者は命まで奪いつくされる。それが私の知る人間だ。
 だが、ファルは地を這う虫よりも生きるのに過酷な環境に置かれながら、己の才能と器量を磨き、そして人を利用し人を踏みにじり『夢』を手に掴もうとしている。
 『夢』の為に泥を舐め、星を見上げ飛び続ける。この泥と星を同時に見る彼女の稀有な在り方に私は魅せられている。

「ファル。私は貴女が気に入ったのよ。貴女の穢れた心、それでも夢を純粋に追う至情、そして貴女の歌がね。
 私が人を喰らい、戦うのは私が生きるためだけど、それ以外に貴女が元の世界へ戻るために力を貸してもいいと思っているわ」
 初音はファルの汗ばんだ肌を掌で拭き、甘い息で喉を撫でた。ファルの身体が快感で跳ねる。
「……私の、為に……あなたが力を貸しても……。私は……感謝なんて、しないわよ……。私は……誰にも……感謝なんて、しない……」
 毒が回った熱い躰が荒い息遣いで冷気と酸素を求め、思考に靄がかかる最中、それでもファルは強い語気で初音に吐き捨てる。
「……どうせ……人は、利用し合うだけの……生き物だから……」

 結局ファルシータ・フォーセットは、そういう生き方しか、薄汚れた生き方以外選ぶことが出来なかった。

 初音は華やかに、妖艶に、皮肉気に笑った。その笑みは、ファルには『人』は『私』の間違いじゃないか、と言っているように見えた。
 そして初音は、ファルの躰を好きにした。

 初音が人を喰らう本気の行為に、ファルは悶え狂い、泣き叫び、果てては蘇り、蘇っては果てる。

 結局比良坂初音は、こんな形でしか、化物としてしか情愛を示せなかった。

 それでも、この瞬間、まるで『飢え』を満たすかのように二人は互いを求めた。
 何に『飢え』ているのか、その正体が分からないまま……。

 ――二人は紡ぐ。互いを結ぶ縁の糸を――


38 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:39:29 ZHzDEnXg0
【マスター】
 ファルシータ・フォーセット@シンフォニック=レイン
【マスターとしての願い】
 聖杯なんていらない。元の世界へ戻る。
 だけど、聖杯がなければ帰れないのなら、その時は……。
【weapon】
 無し
【能力・技能】
 夢に向かう確固たる意思。そのために努力を惜しまず、あらゆる手段を実行に移す行動力。人を裏切る行為や真意を隠す演技力。
 それらを支える強靭な精神力が武器といえるかもしれない。
【人物背景】
 近代イタリアに似た世界の出身。ピオーヴァ音楽学院の声楽科3年生で、元生徒会長。17歳。
 優しく、おしとやかで、誰からも好かれる人物。
 夢はプロの歌手で、そのための努力は惜しまず、才能も講師たちから高く評価されている。
 非の打ち所が無いところがかわいげがないが、嫌味も感じさせないほど、さわやかでもある。

 その裏では、平気で人を利用し、裏切り、捨てていく。
 人間関係は互いを利用し合うものと考え、誰にも感謝などしない。
 自分が捨てられた境遇を、世界を憎み、貧しさから必死に抜け出そうとしている。
 裕福な人間を妬み、自分を孤児院から引き上げた貴族を嫌いだと言い切る。
 純粋な人間を疎み、今までしてきた努力や裏の所業を知らずに無垢な瞳で憧れなどと言われると、その人物に殺意さえ覚える。
 そんな彼女は、夢に対してだけは限りなく純粋で誠実なのだ。
 その実現のためには、どんな努力や忌まわしい所業をも厭わないとしても。
【方針】
 自分の様に巻き込まれ、脱出を目指すマスターを探し、本性を隠して手を組む。
 戦うか、脱出か、自分から決められないような中途半端なマスターは徹底的に利用する。
 戦いに乗ったマスターに対しては、まず情報、特に弱点を探る。
 とにかく打てる手段は思いつく限りすべて打ち、自分の利用できる武器はすべて使う。


39 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:39:51 ZHzDEnXg0
【クラス】
キャスター
【真名】
比良坂初音(ひらさか はつね)@アトラク=ナクア
【パラメーター】
筋力:C 耐久:D+ 敏捷:C 魔力:A 幸運:B 宝具:C
【属性】
混沌・悪
【クラス別能力】
陣地作成:C+
 自身に有利な陣地を作成できる。
 隠蔽に特化し、気配察知に優れたサーヴァントでも探るのは困難。元の場所と違う意匠でも全く違和感を感じさせない。
道具作成:C+
 魔力を帯びた器物を作成できる。
 糸で衣服や建物、生活用品などを織り上げる事が可能。やはり隠蔽に特化し、魔力の察知は困難。
【保有スキル】
堕天の魔:B
 彼女は堕ち、穢れ、それでも人を魅了する女郎蜘蛛である。
 真正の魔獣、魔物でしか持ちえない強い生命力や再生能力、スキルを得ている。
 人ではない事で、対人用の精神干渉への耐性も持ち合わせる。
吸精:A
 男女を問わず、相手の生命力、精を吸い取る事で幸運を除いたパラメーターをアップさせる。急速な傷の回復も可能。
 上昇値は吸精した相手の質と量による。
変化:C+
 文字通り『変身』する。女郎蜘蛛より人間の姿へと擬態している。
 サーヴァントの気配、ステータスや魔力を隠匿し、人間『比良坂初音』として認識されるようになる。
 手足の一部だけを解き、蜘蛛のそれへと戻すこともできる。この場合、筋力、耐久、敏捷値が上昇する。
怪力:B
 一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
 使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
女郎蜘蛛の籠絡:A
 男女問わず、心の隙間につけ入り、傷を広げ苛み弄び犯すための魅了の手腕。呪術、暗示も含むスキル。
 気を当てられた相手は徐々に初音に魅了されてゆく。逆に気を分け与える使い方なら体調や傷を回復させられる。
 他に糸で人の会話を収集したり、糸を付けた相手の記憶や意識を操作し、身体能力の限界まで操る事が出来る。
【宝具】
『他者擬態・蜘蛛乃巣(アトラク=ナクア〜ゴーイング・オン)』
ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:10~40 最大補足:1000人
 初音が生み出した八体の要蜘蛛を用い、糸の結界を張る。
 結界は内部、外部の人間の精神に働きかけ、特定の領域を巣として人目につかないよう遮断し、記憶は初音の意図したとおりに改竄される。
 巣の中で初音にとらわれた人間は初めから存在しない者として扱われ、それを誰も疑問に持つことは無い。
 だが、要蜘蛛を仕留められる度結界は綻び、暗示が徐々に解けてゆく。
 戦闘時は無数の糸を吐き出す矛にも、巣と網、糸柱を幾重にも張り巡らす盾や罠にもなる。
『自己変態・女郎蜘蛛(アトラク=ナクア〜ヒュージ・バトル)』
ランク:C 種別:対妖(自身)宝具 レンジ:0 最大補足:1体
 身の丈十尺を越える女郎蜘蛛としての本性を現す。
 魔力と幸運を除いた全ステータスが1ランクアップ。後述する蜘蛛の糸や子蜘蛛の力も上昇する。
 吸精によりさらに巨大化し、全ステータスに+補正が付く。
 純粋無垢で最上質な魂を数十人も喰らえば、++補正が付くほど強化し、さらなる巨大化を果たすだろう。
『他者変態・妖ノ贄(アトラク=ナクア〜アダプション)』
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:― 最大補足:1人
 初音の網にかかった人間を、魔力を用いて不老の半妖(初音は贄と呼ぶ)へと変化させる。
 自我はある程度あるが初音に服従し、自らが蓄えた精、他者から奪った精を初音に提供して数十年をかけて滅んでゆく。
 本来は人間を初音の同族として造り替える能力である。

 以上の宝具は、クトゥルフ神話のアトラク=ナクアとは何の関係も無いのだが、その在り方の類似性から名がつけられた。
【Weapon】
蜘蛛の糸
 鋼鉄の数倍の硬度とカーボンファイバー以上の引張応力、瞬間接着剤以上の粘着力を併せ持つ。
 蜘蛛の巣のいわゆる縦糸と横糸のように、粘着性が有る粘糸、無い鋼糸とを調整できる。
 人間を操る起点にもなる。
子蜘蛛
 初音がほぼ無限に生み出せ、人間を喰らう。
 人間に仕込めば催淫剤にもなる。
【人物背景】
 齢400年を数える女郎蜘蛛。
 しとやかで妖艶で古風、凛々しく儚げ、そして残酷で気まぐれに優しい。

 宿敵である銀との決戦の果て、重傷を負った初音は傷を癒すため、ある学校に潜伏した。
 そこで凌辱されていた少女、深山奏子を気まぐれに救った事で初音の運命は廻り始める。
【サーヴァントとしての願い】
 仮初といえど、生を得た以上、それを自ら放棄する気は無い。ただ生き残る。
 そして、願わくば自身と奏子の行く末を……。


40 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:40:09 ZHzDEnXg0
【把握資料】
 両方とも十数年前に発売されたゲームなので、入手は少々手間取ります。
 ただ、某動画サイトで全プレイ動画が投稿されているので、そちらなら把握は容易です。
 二人とも小説版で過去と心情が深く掘り下げられているのですが、入手困難です。

 シンフォニック=レイン
 HDリマスター版がSteamで販売されています。
 アトラク=ナクア
 廉価版がamazonで中古で販売されています。


41 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2018/06/04(月) 00:40:28 ZHzDEnXg0
以上、投下終了です。
二人の複雑な心理を表現しようとしたら、登場話なのにこんなバカ長くなってしまいました。


42 : サーヴァントにはサーヴァントをぶつけんだよ ◆ewPmqM2XLI :2018/06/04(月) 00:50:20 CaL6Gvjw0
投下させていただきます。


43 : サーヴァントにはサーヴァントをぶつけんだよ ◆ewPmqM2XLI :2018/06/04(月) 00:51:40 CaL6Gvjw0
――――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…
    あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…
    あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…
    あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…

     ニャァァァァン
       フミャァ゛ァ゛ァ゛
 ンニャア゛ア゛ア゛ゴ

    あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…
    あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…
    あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…
    あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…――――



◆◆◆



見滝原の西端、まばらに家宅が立ち並ぶ物静かな住宅街の一角に『その家』はあった。
父親の無理心中によって母親が刺し殺され、息子が風呂で溺死させられたという廃屋だ。
その事件以来、家に移り住んできた人間は皆何らかの外的要因で死亡してしまっているため、いつからか立ち入った者は呪われて死ぬという噂が流れる心霊スポットとなっている。
「科学の発達したこのご時世に幽霊など」と一笑に付す者もいるが、そんなことを言っていてもやはり怖いものは怖いようで無謀な若者を除いては誰も入りたがらない。


44 : サーヴァントにはサーヴァントをぶつけんだよ ◆ewPmqM2XLI :2018/06/04(月) 00:52:39 CaL6Gvjw0

そんな曰く付きの家へと通じる通りを1人歩く色黒の少年がいた。
辺りには既に夜の帳が下りており、街灯も少ないためにその姿は視認しづらい。
彼の名は宮本輝之輔。見滝原中学校に通う3年生の生徒――という偽りの身分を与えられた聖杯戦争の参加者である。

彼の意識は現在歩いている夜の世界ではなく、ここに転移される前の元いた世界とそこでの自分の境遇への逡巡に向けられていた。


思えば、あの時は自分の趣味を叶えるのにぴったりの能力を身に付けられてちょっぴりハイになってたのだろう。そのせいで油断が生じてしまった。
そう、噴上裕也を始末せずにおいたのは『賢い行い』ではなかったのだ。
ヤツさえいなければ、東方仗助に広瀬康一、それに空条承太郎やジョセフ・ジョースターだって皆纏めてシュレッダーで文字通りバラバラにしてやれていたのに。

仗助のクレイジー・ダイヤモンドで本にされてからどのくらい経っていたのだろうか。
死にたくても死ねず、恐怖の余り目をつぶってしまいたくたってつぶれず。
本となったぼくを開いてくれる人間も極々稀にしかいないので恐怖を観察することすらできない。
できることと言えば、薄暗い書庫の中で時折呻き声を上げて人間をほんの少しビビらせるくらい。
あれなら殺してくれていた方がよっぽどマシだった。


45 : サーヴァントにはサーヴァントをぶつけんだよ ◆ewPmqM2XLI :2018/06/04(月) 00:53:25 CaL6Gvjw0

だが、そんな永遠にも思えるような地獄の時間も漸く終わった。

「フフ……」

宮本は上着のポケットの中のソウルジェムに目をやる。
本当に助かった。もしこの宝石を貴金属店から奪っていなければ。もしこの宝石がファイリングされた紙が、ぼくと共に本を構成する一部となっていなければ。
ぼくは余りにも永く寂しい一生を黴臭い書庫の中で暮らさねばならなかっただろう。
願ったり叶ったりじゃあないか。こうして人間の肉体を取り戻せた上に、戦争に参加すれば他人の恐怖も観察できる。おまけに何でも望みを実現される願望器ときた。
自分の幸運に自然と笑いが込み上げてきてしまう。

「恐怖を感じない人間はいない。いくら英霊であろうと人間である限りそれは同様だ。そう、エニグマが紙にできない者なんて誰もいないんだよ」

それにあのサーヴァントならば――恐怖のサインを引き出すのは、空気を吸うことのように容易いだろう。
建物ごと召喚されてきた上に、ぼくに襲いかかってきたのにはちょっぴりブルったが、すんでのところで令呪でぼくへの一切の攻撃を封じられてよかった。あんな化け物どもに襲われたら命がいくつあっても足りないからね。
唯一の難点といえば家に縛られていることだろう。
外に出られるのかは知らないが、まあいざとなったら紙にして家ごと持ち運べばいい。繁華街や学校にいきなり家を出してパンデミックを引き起こすのも中々面白いかもな、フフ。


46 : サーヴァントにはサーヴァントをぶつけんだよ ◆ewPmqM2XLI :2018/06/04(月) 00:54:01 CaL6Gvjw0


と、そんなことを考えている内に宮本は目的の場所――件の『呪いの家』へと辿り着いた。

長らく放置されていたようで、自然のままに生い茂った草木や壁一面に巻き付いた蔦。枯れ果てた植木鉢の植物。
まるで、家のある一角だけが時の止まった世界に取り残されてしまったかのように重々しい雰囲気で沈黙を貫いている。


「ただいま」
「ブニ゛ャァ゛ァ゛ァ゛ァ゛」

躊躇なくその家の扉を開けて上がり込んだ宮本を、廃れきった玄関で出迎えたのはキュートな一匹の猫――などでは決してなく、体育座りをした異形の子どもだった。
黒目はあらぬ方を向いており、異常な程に青白いその身体は、彼が既にこの世の者ではないことを示している。
普通の者ならばここで縮み上がって逃げ出していただろう――子どもが逃走を許してくれるかは別としてだが。
しかし、宮本は子どもを一瞥したのみで顔色も変えずに「ン、俊雄か。アーチャーは上にいるな」と呟くと、つかつかと階段を昇り、ズボンのポケットに手を突っ込んで5枚の紙を取り出した。

「ひとまず5人。ちょいと驚かしてやったらすぐに恐怖のサインを出した。大した魔力は得られないだろうけど、無いよりはマシだろ?」

そう言うと、慣れた手つきで畳まれた紙を広げ始める。
すると驚くべきことに、紙の中から人間が出てきた。

これこそが宮本のスタンド能力『エニグマ』。
無生物や恐怖のサインを出した人間を紙にしてファイリングしてしまう恐るべき力だ。

紙から出された人間たちは、口々に「ここはどこなんだ」「一体何が起きているんだ」と怯えを含んだ表情でざわめいている。
当然だろう、見知らぬ少年に驚かされたと思えば次の瞬間には薄暗く古臭い建物の中にいたのだから。
しかしその直後、彼らは更なる恐怖を体験することとなる。


47 : サーヴァントにはサーヴァントをぶつけんだよ ◆ewPmqM2XLI :2018/06/04(月) 00:55:30 CaL6Gvjw0


ズゥゥン……
ガキゴキガガ……
ドァン……
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」

屋根裏部屋から血塗れのおどろおどろしい女が髪を振り乱し手首を内側に向けて這いずり下りてきたのだ。

ガダッ……
ガシャーン……
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

ドスゥン……
ズドッ……
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」
「ひえっはふぁあぁばばぁ」

カキコキガキゴキと関節を鳴らしてゆっくりと迫る『それ』は、恐怖に腰が抜けて悲鳴にならない声を発している5人を、掴んだかと思うと目にも止まらぬ早さで深い闇の奥へと引きずり込んでいってしまった。


「すごくいい……スゴく楽しいぞッ!
『腕で肩を抱く』のが3人、『歯をガタガタと鳴らす』のと『引き笑い』をするのが1人ずつ。根源的な恐怖である死を目前にすると恐怖のサインはより強く出るッ!
ぼくのアーチャーは最恐だ!」

何もなかったかのように静まり返った家屋。その中で宮本は1人邪悪な笑みを浮かべて興奮していた。
たった今観察した恐怖に――或いは、まだ見ぬ猛者たちの恐怖に。


48 : サーヴァントにはサーヴァントをぶつけんだよ ◆ewPmqM2XLI :2018/06/04(月) 00:57:15 CaL6Gvjw0




【真名】 佐伯伽椰子@貞子vs伽椰子

【クラス】 アーチャー

【属性】 混沌・悪

【パラメーター】
筋力:A+ 耐久:D 敏捷:A+ 魔力:C 幸運:E 宝具:C


【クラススキル】
単独行動:A
 マスター不在でも一週間は行動・現界が可能。
 ただし、膨大な魔力を消費する場合はマスターのバックアップが必要となる。

【保有スキル】
精神汚染:A
 溜まりに溜まった人間への恩讐により精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
 ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。

自己再生:B
 例え木っ端微塵にされようとも、宝具『死潜む家』が展開されている限りは魔力を消費して即座に傷を治して再び出てくることができる。

畏怖の叫び:B
 生物としての本能的な畏怖を抱かせる咆哮。
 この咆哮を聴いた者の耐久パラメーターにマイナス補正をかける。

伝播される恐怖:A
 NPCを含む周囲への『死潜む家』の噂の流布の程度によって自身の筋力、敏捷のパラメーターに補正をかける。


【宝具】
『佐伯俊雄』
ランク:E- 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
 1人息子である俊雄を召喚することができる。
 俊雄のステータスは以下の通りである。
 筋力:C 耐久:E 敏捷:B 魔力:E 幸運:E 宝具:―
 なお、この宝具を使用することができるのは一度きりであり、俊雄が消滅してしまったら同じ聖杯戦争では使用不可能となる。
 本来伽椰子は『アヴェンジャー』のクラス適性が1番強いが、この宝具――つまり俊雄という飛び道具を持って召喚される場合には『アーチャー』のクラスとなる。

『死潜む家(呪怨)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
 常時展開型宝具。
 呪いの家の中での戦闘時に敵サーヴァントの筋力と耐久パラメーターを1ランクダウンさせる。
 また、足を踏み入れた者や家を壊そうとする者はアーチャーに付け狙われることとなる。
 令呪を一角消費してブーストをかけることでもう一件増築できる。

【Weapon】
・怪力
・異界への引きずり込み

【人物背景】
 夫に不貞の疑いをかけられ、無理心中させられた主婦が怨霊となったもの。
 伽椰子の怨念がこもった自宅は呪いの家と化しており、それに関わった相手やその周囲の人間は全て呪い殺されてしまう。
 今回は『呪怨』シリーズではなく、『貞子vs伽椰子』からの参戦のため、増殖、変身、憑依、生まれ変わり等の能力は持ち合わせていない。

【サーヴァントとしての願い】
 自身の怨念を晴らす


49 : サーヴァントにはサーヴァントをぶつけんだよ ◆ewPmqM2XLI :2018/06/04(月) 00:57:46 CaL6Gvjw0

【マスター】  宮本輝之輔@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない


【weapon】
『エニグマ』
 【破壊力 - E / スピード - E / 射程距離 - C / 持続力 - A / 精密動作性 - C / 成長性 - C】
 人型のスタンド。
 対象を紙にして封印する能力を持っている。
 生物を封印する場合、特有の「恐怖のサイン」(恐怖した時に思わずしてしまう行動)を見抜く必要があるが、物質は無条件で紙にすることができる。
単純な殴り合いの戦闘力は低く、人を殺すことさえも不可能らしい。
が、一度能力が発動してしまえばもうどんな攻撃や妨害も通用しなくなり、封印から逃れることはできない。本人曰く、『絶対無敵』のスタンド。
 なお、紙に封印されたものは誰かが開くことで解放される。


【能力・技能】
スタンド使い:傍に現れ立つ精神エネルギー『スタンド』を使う者。 スタンド使いはひかれ合う。


【人物背景】
 吉良の親父の「矢」で貫かれスタンド能力を手にした少年。
 他人の恐怖を観察することが趣味の異常者。
 人質を取る等姑息な手段を用いて仗助や康一を紙にすることに成功する。
 仗助と康一をシュレッダーで引き裂こうとするものの、噴上が決死の覚悟で「敗北」して紙になったことで、シュレッダーの中に手を突っ込まれ2人が紙から解放されてしまう。
 その後は、仗助のクレイジー・ダイヤモンドで紙屑と融合させられ本になって再起不能になった。


【参戦時期】
 本にされ、杜王町図書館に寄付されたあと。


【マスターとしての願い】
 参加者やNPCの恐怖する顔を観察する。

【備考】
 令呪を一角使用しました。


50 : ◆ewPmqM2XLI :2018/06/04(月) 00:59:20 CaL6Gvjw0
以上で投下を終了させていただきます。
ギリギリになってしまい、大変失礼いたしました。


51 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/04(月) 01:05:12 28oSg3oU0
皆さま投下お疲れ様でした。以上で候補作の締め切りとさせていただきます。
感想や本OPの投下予定日の報告は、後日となります。しばらくお待ちください。

さて。名称通り、当企画のテーマは『救済』です。
真の救済とはなにか。誰かに手を差し伸べたり、たまたま誰かを助けたり。
それで勝手に救われる事や、相手が望まなくとも救う事なのでしょうか。

あくまで私個人のイメージテーマに過ぎません。
無理に考えず、何となく感じながら気軽に予約をしていただいたり
ちょっとした暇潰しに読んでいただけるような楽しい企画にしていこうと思います。

改めて、皆さま。数多くの候補作の投下、ありがとうございました。


52 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/06(水) 00:07:24 sD8p39Tg0
感想を投下します。

光『明』
人でありながら人でない者と人であったのに人ではなくなってしまった者。アキラに関しては哀れなまでに
暴走を起こしてしまった。文字通りの化物になったにも関わらず、不思議と少年らしさ子供っぽさは失われていない。
狂っているようで、存外狂ってないような。喰種に関しては、そういうキャラが多いような気がします。当然
エトもその一人。狂っているようで立派な一個人を維持し続けているのです。
投下していただきありがとうございます。

イブ&アサシン
怒突の功績や経歴をパッと見れば如何にも裏を暗躍する戦士、なんですが人間らしさがあまりに抜け切っていない
というか。それが彼が大戦で敗北した原因であり、彼が人として素晴らしい側面であるのは間違いないです。
だからこそ、イブのことを想ってやれるし、彼女の為ではなく、彼女のような救われなかった者たちを救う為に
再び奔走する事でしょう。果たしてイブの運命は変えられるのでしょうか?
投下していただきありがとうございます。

月下麗人
近頃まで不老不死はロクな目に合わないものだと思っていましたが、改めて退屈であれば苦痛でしょうが、結局
楽しければそれで良しではないかとも考えるようになりました。そりゃ長生きすれば楽しい事の一つや二つ
巡り合える筈です。逆に、何百何千も生きて楽しい事がなかったら不運なのでしょうし。あえて楽しい事をしよう
とも考えなければ、それは自業自得です。人生は楽しんだもの勝ちです。
投下していただきありがとうございます。

JOKER
煌びやかなシンデレラアイドルに何故試練を課せられるのでしょうか。とたびたび疑問に思うのですが、アイドル
だってやる時はやりますし。人間の限界を直に味わえる意味で試練が与えられているんでしょう。多分。
しかし、一度闇に陥ったアイドルが再びステージに立てるのか想像すれば、未来を見据えて彼女の後悔のないよう
生き様を貫いて欲しいものです。最も、この悪魔はそれを許しはしないですが。
投下していただきありがとうございます。

エシディシ&ランサー
質問を質問で返すな、とは確かにその通りなんですが、不思議なことにそれでも会話が成立してしまうものなんで
すよね。あくまでこの言葉は、会話の主導権を握っていたい自己顕示欲が露わとなるものではないか、そう私は
思っています。闇の一族も夜兎も強靭な種族にも関わらず、決定的な弱点のある歪な存在。完全なものはこの世に
はなく、完全でないからこそ美しさがあるのではないでしょうか。
投下していただきありがとうございます。

デテクティブ・ガール&ホワイト・チェイサー
情報収集に長け、推理力に長けている二人だからこそ見滝原に蔓延る邪悪と陰謀を解き明かして欲しいものです。
サーシャが言うように、運命はあるのでしょう。少なくともどうやら承太郎がDIOを倒すのは、一種の特異点
歴史の分岐点といっても過言でないように、DIOは承太郎に倒される運命からは逃れられないのかもしれません。
とはいえ、承太郎本人は運命など気にもしない。やっぱりそれが彼らしいですね。
投下していただきありがとうございます。

織莉子と黒い森の怪物
怪物となってしまった鳥たちの背景を見れば、果たして公平な正義は存在するか、秩序とはなにか、裁きは必要
なのかを非常に考えさせられます。これは現代では失われてしまった、かつての美しい『秩序』が森にあったのに
関わらず。崩壊してしまった。人類はクソですね。きっと予言なんてものが存在しなければ何もなかった筈です。
予言に翻弄された織莉子の在り様から、やはりそうではないかと私は思うのです。
投下していただきありがとうございます。


53 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/06(水) 00:07:47 sD8p39Tg0
Temple of the Black Pharaoh
改めて人間という種族そのものの業が深いと感じる、そう思ったのは幾度目か覚えてないですね。人間が追いすがる
理想で美しい在り方が『人間賛歌』だとすれば、他は平凡で大差なく価値もない。それと吐き気を催す邪悪か
漆黒の意志か。人間賛歌は素晴らしい筈なのに人間賛歌を実現させない世界となっている現実を見れば明白です。
最早、この世界はとっくの昔に悪に屈服しているのです。だからこそニャルラトホテプは存在するのです。
投下していただきありがとうございます。

後悔なんて、あるわけない
嘘つけ。後悔しかないだろうが、と突っ込んだのは懐かしい記憶ですね。美樹さやかという少女は、やっぱり普通
のちっぽけな少女で、人並のことで絶望し、人並の力しかないのが共感を与えて来るのです。普通な彼女が
闘争と絶望の世界に安直なノリで踏み入る事こそが愚かだったとしか……だからこそでしょうか。そうでない側
の存在が、さやかを奮い立たせられるのでしょう。
投下していただきありがとうございます。

エドワード・メイソン&バーサーカー
現代はウワサや都市伝説の横行は時代のせいであまり恐怖を与えるものではなくなっているような、そんな気がして
います。過去に流行った、でいうなら青鬼。この鬼も様々な人間に恐怖を与えてきた存在の一つです。しかし、時が
経つにつれて存在が知られると、恐怖は薄れていきました。やはり恐怖には鮮度があるのです。だけど青鬼の恐ろしい
怪物の性能は衰えていません。それを油断してしまうのが人間なのです。
投下していただきありがとうございます。

これは、世界を救う戦いです
世界を救えれば、きっと救う戦いになります。しかし『救う』とは一体何か? 天国聖杯のテーマとして救済を
掲示しましたが世界の救済が、世界を滅びから回避する事ならば救済などではなく、世界を滅ぼす悪の淘汰でしか
ありません。全ての人類、世界の全てが『救われた』とすら認知しないのですから。あくまで私個人の意見です。
ひょっとすれば、救ったと思えば何でも救済に繋がるのかもしれませんね。
投下していただきありがとうございます。

復活の『Q』
その白い獣とは分かり合えない。彼らには悪の概念すらないですし、いっそのこと関わらないで終わるべきなので
すが、しかし彼らの行いが必要悪のように、エントロピーに関する何らかの対応手段を持ち合わせない限り、
魔法少女の呪いも失われません。彼らも魔女は仕方なく産まれると言ってます。だからこそ人間は『考える』ことを
やめてはならないのです。力だけが全てではないのは、どんな世界だって同じなのですから。
投下していただきありがとうございます。

竈門炭治郎&アーチャー
彼のような心の優しい少年だからこそ二度も家族を失う悲劇は、あまりにも残酷でやるせないです。今回に関しては
妹まで……それでも、そうであっても立ちあがるのが炭治郎。きっと彼が次男だったら復讐に捕らわれたり、己の
心を失ってしまいかねなかったですが、彼は長男なので我慢が出来たのです。彼の優しさと強さを理解したさとりが
どのように炭治郎と共に聖杯戦争を駆け抜けて行くか楽しみです。
投下していただきありがとうございます。

犯【にんげんてき】
人間らしさ、よりかは人間の限界とは何か。果たして努力や知識、鍛え抜かれた体や経験なのでしょうか。
そのどれかが自分が持つ力だと自負する者はいるでしょう。だけど人間にとって欠点であり余分とも捉える
心の強さ、というのが人間が持つ如何なる存在を凌駕する一つではないかと思います。だって愛で世界を
書きかえることだって出来るんですから。
投下していただきありがとうございます。


54 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/06(水) 00:08:14 sD8p39Tg0
漢なら、誰かのために強くあれ
人間が全員分かり合える事はできませんが、一部の人間とは分かり合えるのは事実です。完二の巡り合いはそういう
意味では運が良かったのでしょう。分かり合える人と巡り合えないままで終わる者だって存在するのですから
全てをどうすることが出来るか定かではありませんが、目の前の困難から決して逸れる事なく立ち向かう黄金の
精神は確かにそこにあるのです。
投下していただきありがとうございます。

食【えじき】
再び同じ相手が障害となって立ちはだかるとは……やはり運命なのでしょう。そして、至郎田はその運命を打破する
べく同じように始末する……ならばもう彼の行く末は想像がついてしまいますが。そういった運命を回避する為に
多くの存在が奔走した事でしょう。きっと至郎田もいづれ、自らの運命を理解した時に、人間として抗う宿命
を胸に聖杯を求めるのかもしれません。
投下していただきありがとうございます。

黒白ノ奏者
かつては復讐者であったにも関わらず、復讐を失ってしまった。ノエルのように復讐に捕らわれたものの行く末は
ただの破滅か。復讐を望み続ける亡者と成り果てるか。あるいは燃え尽きてしまうか。ノエルの場合は、再び
復讐への道を歩み続けるべきか考える機会に巡り合えたようなものです。皮肉にも悪魔と相反するエクソシスト
の導きによってノエルの新たなる可能性が見えてくるかもしれません。
投下していただきありがとうございます。

ようこそJapa-R.I.P.-arkへ
かばんちゃんは言わば『人間』の模範解答を体現した存在なのだとよく分かります。ヒトが持つ持久や発想
それらは、どの生物にも存在しない優れたものだという。何よりも友達の為に勇気を以て行動する。この意志は
人間だけが持つ素晴らしさ、まさしく人間賛歌の象徴ではないでしょうか。自らの手で未来を切り開く。
ヒトの持つ力を武器とするスティーブとの協力がどう発展してくか、楽しみです。
投下していただきありがとうございます。

With Maze
神なんて信用できないとは私、幾度も言ってしまった気がしますが、それでも神に救われる人間が確かにいる
のも重々承知しています。故にグレイの疑念や思想には、納得させられます。させられるだけで、考えてる
ことは、やっぱり個人的には分かり合えないですね。この見滝原の滅びをアルターエゴと共に見守る、いえ
果たして終わりまで見届けられるかどうか。それすらも危うく感じられますね。
投下していただきありがとうございます。

夢幻《旋律の青嵐》
魔法少女とはこんなものじゃない。なんて今更過ぎますが、一々技名叫んで攻撃してくるあたり、なんだか
抜け切ってないのがなんともまぁ。>大体、一々叫ぶ必要あるのかソレ!? って突っ込みもそりゃ言いたく
なっちゃいますよ。血みどろ斬り合い殺し合う主従の結末は、双方相打ちで双方滅びずとは流石。とはいえ
このままでは、聖杯戦争始まる前に目も当てられなくなってしまうので心配ですが……
投下していただきありがとうございます。

二人が紡ぐ物語の名は
ファルの思想はきっとこの世の真理なのです。結局人は利用し合ってるだけで、他人を利用する事で次の
ステージに上がれるのだと。だけど、それではいけない。何故こういう風にしか生きられないのだろう。
どうして人を信じる事が出来ないのか。善人はきっと彼女にそう叱咤するかもしれません。だけど、そんな
風にしか生きられない怪物は彼女だけではない事を、受け入れ、知らなければなりません。
投下していただきありがとうございます。

サーヴァントにはサーヴァントをぶつけんだよ
当然ですよね。だってサーヴァントはサーヴァントでしか倒せないんです。マスターがサーヴァントを倒せる筈が
ありません。ファンタジーやメルヘンじゃあないんだから。恐怖に執着した者が恐怖の象徴たる怪物を召喚
するのは、似合っているのでしょうが。いつか足元をすくわれるのではないか。彼自身は自らの恐怖に溺れる
考慮がないのが心配でなりません。
投下していただきありがとうございます。


55 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/06(水) 00:10:04 sD8p39Tg0
改めて多くの候補作投下の方ありがとうございました。
現在、OPを絶賛執筆中しております。
完成の目途が立ち次第、投下日を発表しますので、もうしばらくお待ちください


56 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 00:32:30 /QP68U/Y0
皆さま、お久しぶりです。大変長らくおまたせしました。
本日 11日の21時〜22時の間に本OPの投下をいたします。
場合によってはズレ込む可能性もありますが、ご了承ください。


57 : 名無しさん :2018/06/11(月) 01:59:01 2DN51v3o0
待ってた!


58 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:00:26 /QP68U/Y0
投下します


59 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:01:17 /QP68U/Y0
.



目覚め良く起床した一人の少年がポストを確認すると、指名手配犯のチラシが入っていた。
平和で優しい世界に、あまりに不釣り合いで物騒なものだ。
だけど……何故だろうか。
少年が、指名手配犯の男の姿を目で捉えた時。
自分自身の中にある『何かが疼き喚く』のを感じたのである―――……



.


60 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:02:03 /QP68U/Y0
―――そう怖がる必要は無い。ちゃんと話をしたいだけだ、ほむら。
                        君の『本当の願い』を私に教えて欲しい―――


頭上では、天井の歯車が規律よく不気味な音色を刻み続けている。
円形に並べられたソファに腰掛けるのは二人。
一人は邪悪の化身。
もう一人は――ちっぽけな少女。
空間には多数の立体映像が浮かびあがっているが、そのどれにも二人は興味を示していなかった。
少女が、長い沈黙を破って漸く話し始める。


「私の願いは……伝えました。魔法少女の、呪いを解く事です」


対して邪悪の化身は酷く退屈そうな表情を顔に張り付けていた。
恐らく仮面を被っていて、裏側ではおぞましい感情が怪物の如く蠢いている。
二人の間にある、質素なテーブルに置かれてあるソウルジェム。
それは紫色の色彩を放っている。


―――……一つ確認をしようか。


邪悪の化身がテーブルに肘をついて、講義を開くかの如く空いた手で動作を加えながら続けた。


―――インキュベーターが求めているのは『絶望』だ。それがエントロピー増大の回避に必要不可欠となる。


―――例えば、君が魔法少女の解放を願った場合。魔法少女システムはどう『改変』されると思う?


―――現在よりも改善されるか、改悪されるか……保証はどこにもない。


―――「魔女に匹敵する悪が、何らかの形で顕現する」


―――その運命から逃れられていない点だ。


少女は沈黙するしかない。
反論しようにも、彼に反論したところで無駄に終わる。
無駄な少女の感情など、見向きもしない。同情も、真に魔法少女を救済するなどと彼は親身になってる訳がない。

救世主にも様々あるだろう。
ただ一人、生の苦しみより解脱した者。地上でただ一人、生命の真意に辿りついた者。

彼は間違いなく聖人でも、善良でも、世界に救いを齎した記録などない。
逆だ。
悪人であり、邪悪であり、世界を支配しつくそうとした記録だけが明白だ。
何故、そんな彼が救世主なのだろうか?

誰かが言った。
悪には悪の救世主が必要だ、と。

誰かが言った。
悪に救済など必要ない。天国に到達することも叶わない、と。

誰かが言った……


―――悪には悪の『管理者』が必要だ。それは正義でなく『悪』でなければならない。


悪の救世主が妖艶な笑みを浮かべて解く。


―――『必要悪』は分かるだろう?


―――道徳や倫理に反しても必要とされる暗黙の了解である『悪』だ。


―――ならば問おう。


―――彼らに変わって次に『誰が』必要悪となる?


―――どこかの誰かも知らないちっぽけな少女か? それとも、君か?


そもそも………どうして私達がそんな事をしなくちゃいけないの……………?
少女が絶望の深淵で吐いた呪い。
邪念に彩られた私怨の言葉。
清らかな少女なんて、人間などは存在しない。少女は聖人なんかじゃあない。


61 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:02:30 /QP68U/Y0
故に。
彼は、悪の救世主は問いかけた。―――君の『本当の願い』を私に教えて欲しい―――


「わたし………私は………!」


溢れた感情は、堪え続けていた感情は絶望ではない。


「私は、鹿目さんと――皆と普通にくらしたいです………!!」


魔法少女とか。世界の呪いも。
魔女も絶望も。エントロピーとか宇宙がどうとか。心底どうだっていい!
ただ普通に、平凡にありきたりな。
学校に通って、一緒にお茶を飲んだり、ゲームセンターで遊んだり、CDショップに立ち寄ったり。
そんな、そんな!
馬鹿みたいだけど、普通の生き方で、普通の人間として生きて死ぬだけの。……それが『人間の幸い』だ。








<日曜日>


【8:00】


突如として聖杯戦争の舞台たる見滝原へ攫われ、幸か不幸か。マスターとして覚醒した少女・渋谷凛。
日常の日課たる犬の散歩を呑気に行っている風に捉えられても仕方ないが、
一方で凛がセイバーを召喚して、もう数日は経過していた。
学校や町中で奇妙な噂を耳にするようになり、日夜猟奇殺人の話題が絶えず。
平凡は失われ、徐々に混沌が満たされつつあるのは実感できる。
未だに聖杯戦争の実感が湧かない。
主催者側から、開幕のベルが告げられていない以上、この日常は保たれている……らしい。

だが、平穏な日常は遂に終了された。
犬の散歩から帰宅した凛に、母親が「ポストに入ってたわよ」と薄茶色の書類袋を差し渡す。
不可思議にも、書類袋に宛て先は愚か文字一つも書かれていない。
けれども母親は、これは凛に宛てられたものだと頑固たる姿勢のままだった。

凛が自室で袋を開封すると、中には数枚の紙……そして、写真が二枚入っている。
まずは紙に注目した。
文面や内容から、紛れも無く聖杯戦争の主催者側からの代物だった。


62 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:03:15 /QP68U/Y0
[セイバーのマスター 渋谷凛へ]

まずは、聖杯戦争の予選を突破したことを祝福しよう。
おめでとう! 君は奇跡の願望機・聖杯の権限を獲得しえるマスターに選出された一人だ。

予選。
君が本来あるべき記憶を取り戻し、サーヴァントの召喚に成功した一連の行動を達成するまでの事を示すんだ。
勿論、予選を通過できずに終えたマスター候補も、何人か見滝原に存在する。
だけど、安心して欲しい。
彼らには記憶を取り戻せないように僕達側で操作してある。
後から新たにサーヴァントが召喚される心配はないからね。


さて、君達マスターがこれに目を通してくれている前提で話を進めよう。
君達がサーヴァントを召喚し、僕らの観測が正確であればどの主従にも数日間の猶予を与えたつもりだ。
その数日間で、聖杯戦争の準備を整えられた事だろう。

早速だけど――今夜深夜0時を以て、聖杯戦争の本戦が開幕だ。
開幕に至って幾つかの情報を開示しよう。


一つ。
君達の耳にも『ウワサ』が聞き届いている筈だ。
それらはサーヴァント。あるいはマスターに関する『ウワサ』だ。
聖杯戦争で主従を探るヒントとして、僕達が意図的に流している。是非とも有効に活用して欲しい。


一つ。
深夜0時から僕達側で発動していた特殊なプロテクトを解除する。
サーヴァントとの遭遇を本戦まで極力避ける為に施していた魔力感知妨害だ。
予選期間中はあくまで交戦を前提としてはいないからね。本戦が開始すれば好きに戦って貰って構わない。


一つ。
この見滝原の周囲には結界が施されていて、脱出は困難だ。
僕達が説明するまでもなく、実際に試みた者もいるだろうけどね。
聖杯戦争が終了するまでは見滝原からの脱出は禁止させて貰うよ。


一つ。
正午と深夜の0時に定時通達を僕達の方から君達、マスターとサーヴァントに念話で行うつもりだ。
その時点で脱落者がいれば、それに関する内容を行うし。
他にも、聖杯戦争で重要な報告もさせて貰う。


最後に。
特別に『あるサーヴァント』の討伐に成功した暁には報酬を与える事にした。
討伐クエストだ。全員強制参加ではないし、どうするかは君達次第だ。


討伐成功の報酬は令呪一画。
それ以外にも、武器を含めた可能な限りの物資の支給もできる。
なんだったら――聖杯戦争を放棄して帰還したって構わない。
帰還を望むなら、聖杯戦争に関する記憶は消去させて貰うけどね。


63 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:04:07 /QP68U/Y0
…………………………

……………



「ついに始まるんだ」


ポツリと凛が呟く。
椅子やベッドに腰掛けないで、呆然と立ちつくしたまま書類に目を通していた凛は、
討伐クエストの『聖杯戦争からの離脱』に目をやり、少しだけ考え、首を横に振って溜息ついた。
別に、彼女は特別な願いを抱えるほどじゃあない。
アイドル活動を行う以外、産まれも育ちも普通。

そう言えば。
凛が召喚したセイバーが言うに、凛には秘めた魔力がある。
魔法の世界に導かれれば、それを生かせるかも。なんて非現実的な事実を聞かされても、普通の世界じゃ役に立たない。

だからではないが。
恐らく、並の人間よりかはサーヴァントを使役できる。
自分に何が出来るか? 分からない。分からなくても……願いがなくても………
現実から目を背けて逃げて、一体どうする。

凛は思う。
きっと『そんな事』を願えば、アイドルの道を歩み続けられない。
『そんな事』で逃げる人間にこそ、アイドルを続ける権利は認められない。


「――――」


凛は例の写真を目にした。
どうやら……この二人、この主従に対して討伐令が下されたのである。
マスターの『少女』は……見覚えがある。
厳密には『少女』の着る制服に。見滝原中学校の制服だ。あそこに通学している事実は、十分過ぎる情報だ。

が、だとすれば『少女』は凛よりも年下だ。
三つ網の赤縁の眼鏡をかけた、大人しそうな少女。
彼女を……もしかして、聖杯戦争に参加する誰かが殺そうとする?
想像しただけで胸糞悪い。彼女を容易に手をかけよう邪悪は、許されざる者だ。

対してサーヴァントの方は………
写真越しなのに、どういう訳か見透かされているような。
向こう側から自分自身を認知されているのではと、凛は邪悪な瞳に戦慄を覚えていた。
漫画やアニメに居そうな。
馬鹿馬鹿しいほどの典型的な、分かりやすい邪悪そのもの。
なのに、脳裏で焼きつくような印象を無理矢理に与えるカリスマたる魅了を、凛はしかと感じた。





<討伐令>
セイヴァー(DIO)もしくは、暁美ほむらの死亡。
報酬として、令呪一画。可能な限りの武器を含めた物品支給。あるいは聖杯戦争を放棄して帰還する権利。
参加主従全てにルール概要と共に、両名の写真と討伐令が配布されています。
情報は写真他、セイヴァーのクラスとマスター、暁美ほむらの名前のみです。
また当事者らに討伐令の概要は渡されません。


64 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:05:06 /QP68U/Y0
【1:22】



「へぇ〜吸血鬼!」


子供らしく無邪気にはしゃぐ彼(性別は本来定かではないが)――怪盗Xは
配布された写真に写るサーヴァントに関心を露わにしていた。
Xは、彼の世界で『魔人』と出くわした事があっても、それ以上の存在と遭遇はしていない。
彼の世界においてファンタジー部類の希少種は『魔人』だけしかおらず。
吸血鬼も、それに劣る食屍鬼も。非力な怪物ですら居ない。

どこから撮影された写真か定かではないが――ウェーブのかかった金髪。
黄の上着と黒のインナーという派手で奇抜な服装が、奇跡的にも似合った彫刻染みた容姿。
見る人間によっては魅了される『美しさ』は、人を捕食する吸血鬼だから成せる技か。
Xですら、どうにか彼の『中身』を覗きたいと願う。
否、何か……異なる衝動も深淵の中でうずき始めている。


―――嗚呼……きっとこの人ならオレの中身を解き明かしてくれる………


まだX自身その衝動を自覚していないが故に、今は「中身を見たい」で収まっているが。
邪悪に分類される人間である以上、そう長くは保てないだろう。
興奮気味にXは、自身が召喚したサーヴァントに問いかける。


「バーサーカー! 吸血鬼ってどんな味? ………ん?
 どこからでも捕食できるのは聞いたけど、味覚ってどうなってるの??」


討伐令の対象たるセイヴァーの正体を見抜いたバーサーカーは、舌打ちした。


「口よりも手を動かさんか! ソイツを全て運び出して欲しいと言いだしたのは、貴様だろうがッ!!」


バーサーカーが指差した場所には『箱』。
『箱』と『箱』、さらに『箱』。
隣にも『箱』があり、脇にも『箱』があって、その先にも『箱』。
そして――『箱』だった。

Xが人間を『箱』にする為の作業場としている廃墟のスペースには、一つ二つだけで収まらない数の『箱』があった。
面倒だなぁと顔で訴えながら、Xは一旦セイヴァーと暁美ほむらの写真をしまい。
『箱』の製作に取り掛かった。

通常であれば猟奇的所業に勤しむマスターなど、英霊によっては軽蔑や嫌悪の対象でしかない。
だが。
今回ばかりは違う。目的があった。
ウワサだけに収まらないXの所業はメディアで取り上げられない瞬間がないほど。
数日で注目と関心。
聖杯戦争の主従たちも警戒する一際目立った存在である。


だからこそ――今回X達が実行する計画は効果を齎す。


「さて、と。後はコイツを置く『場所』かなぁ」


得意の変装能力でかき集めた資料やチラシなどに、Xは目を通した。
適当では良くない。
やっぱりインパクトと圧倒する猟奇性を表現しなければ、きっと誰の目にも注目されずに流される。


――俺の事……セイヴァーは見てくれるかな?


65 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:05:57 /QP68U/Y0

「ん? えっと」


Xは僅かに己の思考に違和感を覚えた時。「オイ」とバーサーカーが何かを放り投げる。
大ぶりで鋭利な刃。
頑丈な物質を加工すれば容易に製作できそうな、安易な凶器だが。
唯一通常と異なるのは、バーサーカーのスキルによって作成された『英霊にも通用する凶器』である事。
見事にチャッチしてXが感動する風に言った。


「凄いじゃん! 昔と違って全然物作れないなんて良くいうよ」


「この程度ならどうにか出来る。大して頑丈ではないからな。吸血鬼相手に使おうとは考えるんじゃあない」


マスターがサーヴァントと渡り合えるのは、そうそう無い。
戦闘経験や魔術を秘めた特異な人間でしか可能としない。
一つの例外だ。
まして、マスターを戦わせるサーヴァントも通常であればあり得ない。
だが。
バーサーカーも奇妙な信頼をするよう、Xという化物らしかぬ能力を保持する人間は『例外』に属した。
この『怪盗』はサーヴァントの中身を観察するべく、自ら凶器を振りかざせる。


「うーん。ここにしよっと。バーサーカー! ここに『箱』を運ぶから」


「……フン。何だ? これは」


Xが手渡してきたチラシを、バーサーカーは横目にやる。
どうやら……デパートで何かのイベントが行われ、確実に人間が集客するであろうとXは見込んだのだ。
チラシに掲載されている晴れやかな衣装を纏った少女たちを、バーサーカーは同情すらしなかった。







アラもう聞いた? 誰から聞いた?
ゆらーりぃさんのそのウワサ

闇の中からフラフラ歩いて
おっかない刃を二つ持った女の子

ゆらーりぃゆらりぃとズタズタが病み付きになっている
華奢なお嬢様っぽさもない、ただの切りつけ魔

彼女から生き逃れた人間は幸運だから度胸試しに最適って
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ

ユラ〜リィ〜






66 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:06:50 /QP68U/Y0


「あたし、分かりました。あなたを犯人です」


見滝原の一角にある廃れたホテルの一室。
如何にもな雰囲気が漂うシュチュエーションで、ズタズタ状態の制服を着た少女が虚ろな様子で探偵じみた言動。
ナイフを逆手持ちしている彼女は「むしろ犯人はお前じゃねーか」な突っ込み待ち状態。
生憎、冷静で的確な突っ込み役が不在の為、無常に展開は進んでしまう。


「あなたが隠している書類袋の中身……あたしは見当がついています」


少女が対面するカウボーイの男は、尋常ではない汗を流していた。
爛々と燃える炎がある訳でも。
見滝原の環境が、熱帯雨林の熱帯夜に変化したのでもない。
少女の指摘が全くの見当違いだったとしても、男にとって指摘されたくない事実が明らかになるのだろう。


「そしてー………あなたは中身を見てずっと、ええーとぉ……
 頻りにある単語を呟いてましたぁー………えへへ。古畑任三郎でした」


「き……キャスターのお嬢ちゃん。そいつはだな」


満足げに決まったと決め顔な笑顔だけを切り取れば、普通の女の子に見えなくもない。
だが、男はその先の。
決定的な絶望を突き付けられたくないのだ。
彼の虚しい願いも叶わず、少女は言う。


「それはDHCさんからのお手紙ですね」


美容と健康に優れた販売会社による高度な宣伝であった。


「あれ? 間違えちゃいました。えっと……そうでしたね。あなたの深刻なDHA不足を証明する診断表でした。
 煙草が健康に害を為す……じゃなくて、健康が煙草に害を成すとは恐ろしい話です。
 マスター、健康診断結果からは逃れられません。明日から入院です。全治8カ月の診断、でしたっけ?」


いつの間にか勝手に容態が深刻化していたらしい。
だが、男は緊張の糸が解かれたように、部屋に放置されたままの椅子にドカリと座り込んだ。
癖になっている煙草を手にかけ、男――ホル・ホースは恐怖など抱いてない様、悠々とライターの火を灯す。


67 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:07:52 /QP68U/Y0

「なぁ? 知ってるか、キャスターのお嬢ちゃん。二人に一人は『癌』を負っちまうご時世なんだと」


「ガン、ですかぁ。あたしも気をつけますー……」


「そいつが無理なんだよなぁ。予防は出来るが、完全に防げない……面倒な病気はそーいう類が多いけどよ。
 俺の場合は肺がんは待ったなしなんだろうぜ。だが――肺がんになるって『覚悟』すれば、案外楽じゃねえか。
 肺がん治療と対処を怠らなきゃ、最善は尽くせるし。完治だって夢じゃあねぇ」


だからといって『必ず』死を回避できるとも限らないが……まぁ、何もしないよりマシだ。
ホル・ホースの場合、煙草の習慣をちょっとでも改善すれば健康リスクは大分改善される。
最も禁煙は無理だ。
少なくとも、聖杯戦争が終えるまでは無理だな、とホル・ホース自身が感じていた。
ああ、そうだ。
ホンのついでにホル・ホースが、自称:キャスターの玉藻に言う。


「キャスターのお嬢ちゃん。そろそろ聖杯戦争が始まるらしいぜ。今日は最後の休日なんだと」


「おやすみぃ……なるほどー……では玉藻ちゃんもおやすみなさい」


コイツ、立ったまま寝てやがる。
俺も寝るとするか。
こんな資料のせいで目が覚めちまったもんだから、もう朝近い時間だろ。


……………………


…………






ホル・ホースは一服した後、2時間眠った………
そして……目を覚ましてからしばらくして、DIOが見滝原に居る事を思い出し……吐いた。







アラもう聞いた? 誰から聞いた?
魔法少女狩りのそのウワサ

清く可愛く美しい女の子の憧れな魔法少女
そんな素敵な少女を狩る魔女がいる!

彼女に目をつけられたらオシマイ
生き残れた魔法少女はどこにもいない

だからこそ、きっと素敵な魔法少女がこの町に住んでるって
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ

レッツマジカル!






68 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:08:53 /QP68U/Y0
豪快にガラスが砕け散る音がする。しかも早朝と深夜の中間、もう少し寝たい時間帯。
とんだ近所迷惑な騒音だ。誰か一人や二人。怒り心頭で寝巻姿のまま、殴り込みに向かってもおかしくない。
にも関わらず。
誰一人としてそうしない。
しない、のではなく出来ないのだ。
騒音は空間にある全ての家具も、物も、生物すらも無差別に攻撃し。暴力の主は憤りを露わにした邪念を吐く。

例の……主催者から配布された討伐令。
部屋の主たるマスターの少女、スノーホワイトと称される魔法少女狩りは暴走するバーサーカーを無視していた。
無視するしかないのだ。
アレは狂信者であり、殉教者なのだ。
彼の憤りの根源にはスノーホワイトの関与しようがない領域。

何故ならスノーホワイトにとっての救世主は、プク・プックなのだ。
プク・プックの洗脳によって狂信者になった魔法少女。
それが『幸い』したのだろう。
スノーホワイトが、討伐対象たる悪の化身に対して、なんの魅力も畏怖も心酔すら抱かないのは………
最も。
本来のスノーホワイトも、彼に畏怖を抱いても、心酔はしないだろう。


(この制服は見滝原中学校の……だったら方針は一つ。サーヴァント達も必ず現れる)


とはいえ素直に暁美ほむらが居るか、定かではない。
別に来なくても困らない。
彼女目的に集結するであろうサーヴァントなどを倒すのが目的だ。


「バーサーカーさん。明日、見滝原中学校に向かいましょう。
 ………セイヴァー……いいえ。DIOさんとも合流できるかもしれません」


仕方ない様子でスノーホワイトが、バーサーカーにそう提案する。
正直なところ乗り気じゃない。元よりバーサーカーを使役し続ける気は皆無だ。
だが、彼がいなければ聖杯獲得は円滑に進まず。
何より、セイヴァー……DIOの実力と正体を見極める為、あえて接近する必要があるのだ。
一先ず――DIOとの接触に誘導すれば、バーサーカーが大人しくなる筈。


「貴様。今、なんと言った」


が、現実はまるで違った。
スノーホワイトも予想外の事に「え?」と戸惑いの呟きを漏らす。
バーサーカーは激情を露わにしながらも、静かに言う。


「学校に? 見滝原中学に向かうと――――『いつ』向かうつもりだ」


「それは……」


そんなの生徒たちが現れる朝に決まってるではないか。
スノーホワイトだって、誰だって、恐らく多くの主従がそうする筈だ。当然の結論だろう。
だが! その『当然の結論』にバーサーカー、ヴァニラ・アイスは激怒した!!


「太陽の光がある『昼間』に向かうつもりか! それが、どういう意味か理解しているのかーーー!!!」


「……!?」


69 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:09:36 /QP68U/Y0
DIOは吸血鬼なのだ。
十分に理解しているヴァニラ・アイスだからこそ、DIOが昼間の見滝原中学に姿を現す訳がない。
そう確信を持ってスノーホワイトに激怒した。
スノーホワイトは、咄嗟の――魔法少女の経験で積み上げた勘を感じ、躊躇なく『ルーラ』を構え。
部屋の窓ガラスを突き破り、バーサーカーからの攻撃を回避する。

彼が行ったのは、破壊から逃れた家具を無尽蔵にスノーホワイトへ投擲。
グシャグシャ状態のベッドは、スプリング等の金属が突き破られ、加えて砲弾級のスピードでスノーホワイトを追跡する。
彼女は空中で身を捻り、冷静に『ルーラ』でベッドを受け流そうとするが。
突き抜けたスプリングが、彼女の服や肉にひっかかり、バランスを崩して地面に叩きつけられた。


「……………太陽………もしかして」


即座にスノーホワイトが体勢を整え『ルーラ』を構え直しながら、考える。
ある意味『弱点』を把握できたのは幸いだ。
問題は――スノーホワイトが、自分が飛び出してきたマンションを睨む。


「…………………………………………………………………?」


何も起きなかった。
あのバーサーカーのことだ、再び自分を攻撃してくると想定していたのだが――違った。
まさか。彼女は気付く。
もう、ヴァニラ・アイスはそこに居ないのだ。
霊体化し、スノーホワイトとの念話も立ちきり、完全なる離反を行ったのである。
スノーホワイトは手の甲に刻まれた令呪に視線を移したが、彼女も冷静になった。

令呪で従わせる。
あるいは、DIOとの関係を利用し、彼を殺害するよう命令する。
駄目だ。それでは駄目だ。
スノーホワイトは聖杯戦争のルールを確認した。令呪は3画。書類にもあった通り、基本的に令呪は増える事は無い。
恐らく『再契約』しても変わらない。
一人3画が覆る事は無いのだ。
バーサーカーから他のサーヴァントを切り替えた後。それを従わせるのに令呪を使用するべきだ。

元より完全に従わせる事も叶わないバーサーカーだったから良い。
ただ、まだ聖杯戦争が始まっても無い時点での決裂は痛手だ。
聖杯を作る為の『ソウルジェム』は、スノーホワイトが所持したまま……これが唯一の救いか。
スノーホワイトは深呼吸する。

騒動のせいか、遠くよりサイレン音が接近してくる。
現場から離れつつスノーホワイトは、今日までに集めたウワサの情報を思い起こしていた……







アラもう聞いた? 誰から聞いた?
人魚の魔女のそのウワサ

在りし日の感動を求めながらコンサートホールで移動している魔女
ホールでは毎日、魔女の手下たちが演奏をしているんだって

激しく哀しい愛を込めて、がらんどうの音を奏でられ
だけど魔女のわだかまりは消えない

どこからともなく、水の中から突然現れるって
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ

ラブミードゥ!






70 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:10:28 /QP68U/Y0
【10:54】


高層ビルが立ち並ぶ地帯に、日曜日であるが故に人が賑わいを魅せるデパートが点在していた。
ここにいる人々は、基本的には用意されたもの。
つまりマスターが隠れ蓑にする為の、障害物みたいな存在。
だと、思っていた……


(嘘でしょ……)


デパートに足を運んでいた一人の少女――美樹さやかは動揺していた。
不安や迷いはソウルジェムに穢れを齎すのだが、今の彼女に落ち着かせるには無理がある。
さやかは今朝、自宅のポストに投函されていた主催者からの書類に目を通し、息を飲んでしまった。

聖杯戦争が深夜から開始される事。
討伐令の事。
色々と思うことがあるものの、さやかが最も注目されたのは――記憶を取り戻して居ないマスター候補。
記憶を完全に封印し、サーヴァントは追加で召喚する事はない。
……なんて「この商品は政府公認の保証つきです!」みたいなテレビショッピングの宣伝じゃあるまいし。
何一つ『安心する』文面と事実ではないこと、コレを書いた主催者はまるで理解していないのだろう!


(つまり他にも――ちゃんとした『本物の人』が存在してるってことじゃん!)


ああ、間違いない。
このムカつく文面は、きっとアイツだ。
さやかは今日まで聖杯戦争をどのように挑むか迷い続けていたが、遂に。彼女は決心する。
またアイツは……私だけじゃなく、他の人達も騙すつもりだ。
脳裏に蘇らせるだけで吐き気を催す獣。


騙されていたのは自分が馬鹿だったからだ。


絶望したのは自分が弱かったせいだ。


魔女になった自分は正義になっちゃいけない。


―――だが、やはりキュゥべえ! 奴だけは許してはならないのだ!!


例え自分が許されざる・救われてはならない『悪』だったとしても、二度とキュゥべえの思い通りにはなりたくない!
美樹さやかは一つの『覚悟』を胸に秘めた。


71 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:11:56 /QP68U/Y0
一方。
彼女のサーヴァントは、笑っていた。
混乱していたのかとさやかは放っておいたが、狂信めいた様子は変わらない。
念話で常に、自慢げに語り続けるのだった。


『DIO様に仇なすなど愚かな連中だと思わんか!? マスター! そしてお前はあまりに幸運だ!
 恵まれている!! これほどの好機など在りはしないのだぞ!!
 お前は既に――DIO様のマスター、暁美ほむらと友好関係にあるのだからな!!』


そう。さやかのサーヴァント、セイバー……もとい『剣』そのもののサーヴァント・アヌビス神は興奮気味だった。
最初は討伐令対象の写真を確認しただけで、女子みたいな悲鳴を上げて恐れ慄いていたとは想像できない。
しばらくした後。
さやかは、恐らく主催に関わっているキュゥべえへの憤りをアヌビス神に、しかと伝えた。
するとアヌビス神も「DIO様の敵ならば」と、驚くほどの掌返しをする。
要するに、敵が同じだから。
そういう理由でしかないのだろう。事実、先ほどから念話ではこんな調子が続いていた。


『うっさい!! あたしも、ほむらと話がしたいから明日学校で聞く! だから静かにしろー!!』


『分かっていないのはお前の方だぁぁ! 何故DIO様に対し忠誠を誓わない!!』


『新興宗教への勧誘はお断りだッ!!』


ほむら……ほむら。そう、暁美ほむらだ。
さやかが一番に疑問を覚え。この見滝原は偽りで、誰も彼もが自分の知っている友人・知人ではないと錯覚した原因。
暁美ほむらは――さやかの知る『暁美ほむら』とは別人だった。

三つ網で眼鏡をかけた大人しい気弱で病弱な転校生……それが『この』見滝原で出会った暁美ほむら。
しかし、さやかの知る『暁美ほむら』は才色兼備のミステリアスなクールビューティー。
雰囲気も性格も、眼鏡だってしてないし。髪も解いていた。
まるで別人……
故に「ああ。ここってあたしの知ってる見滝原とは違うんだ?」とさやかは思いこんでしまった。

が、どうやら違う。
よりにもよってDIOのマスターとして討伐令にかけられた彼女が、マスターなのは明白だ。
全く以て訳が分からない。さやかは混乱している。


「あ! さやかちゃーん!!」


待ち合わせ場所に集合していた友人が、さやかの姿を捉えたらしく呼びかけてくれた。
既に、友人たちは揃っていた。


72 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:12:35 /QP68U/Y0
さやかに声をかけたピンク髪の少女・鹿目まどか。


お菓子を口にしながら面倒くさそうな様子の赤髪の少女・佐倉杏子。


優しく笑みを浮かべながら、さやかに手を振ってくれている先輩の巴マミ。


(皆………どうなんだろう……?)


さやかは明るい様子で「おまたせ〜!」と返事をしつつかけ寄りながら疑念を抱く。
マミに関しては、お菓子の魔女に殺された。
でも魔女になった自分だって同じ事。
杏子は……家族が居た。さやか達と同じ見滝原中学の、同じクラスメイトとして。
それだけで、杏子の様子はさやかの知る彼女とは違うものだった。
……最後にまどか。


「ほむらちゃんも誘ったんだけど、今日は用事があるんだって」


どこか申し訳なさそうに、まどかが言う。
ほむらの名前が突然出てきたものだから、多少さやかは動揺してしまう。


「あ……そ、そっか〜勿体無いなぁ、ほむらの奴! あたし達だけで遊びつくしてやるか!!」






アラもう聞いた? 誰から聞いた?
武旦の魔女のそのウワサ

深い霧が立ち込めると無銘の馬に乗って現れる魔女
出くわす人々を眠らせてしまうんだって

しかも幾つも分身を産み出して
人々を混乱させ、惑わせてしまう

だけど、彼女はもう誰も彼もを思い出せなくなった魔女だって
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ

ドレガホンモノー?





73 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:13:29 /QP68U/Y0
――どういう事だ、おい。


佐倉杏子はマスターの一人だった。
だからこそ、討伐令に関しても多少なりの動揺と困惑を覚えたのは事実であり、偽りようもない。
理屈は分かる。
主催者は都合の悪い『癌』を摘出しようと、聖杯戦争に導かれたマスターたちを利用しようとしている。
まるで自分の手を穢さないように。
自分たちの目的の為に、無知なるものを利用するかのように。


――暁美ほむら……


見滝原中学校にかようハメになった杏子の、同じクラスにいる少女。
あの邪悪を召喚したと思えない様子だった。
否、杏子が彼女そのものを見極めていなかっただけかもしれない。胸騒ぎはそれに留まらなかった。
朝食の場で、杏子の父が神妙な様子で家族に告げた。


『近頃、妙な教えを振りまいている者がいるらしい……杏子。今日は友達と出かけるんだったね。気をつけるんだよ』


その優しい言葉を吹きかける亡霊が、杏子にとっては忌々しいが。
亡霊で偽物だとしても、自分の見知った顔をしたソレに不満をぶつける気分じゃない。
朝食をがっつきながら杏子は言う。


『んなの、ウワサって奴じゃない。実際に勧誘している所なんて見たこと無いよ』


『どうやら普通の勧誘ではないんだ。訳のある者だけに声をかけていると聞く』


訳アリ?
杏子が一旦食事の手を止める。


『犯罪者……とか?』


『……今のところ。事件沙汰にはなっていないようだが、心配だよ』


目の前の亡霊は心底不安の色を顔に乗せて、深い溜息をついた。
母を演じる亡霊も「まあ怖いわね」と妹のような亡霊と共に団欒の中にいる。
杏子は、討伐令の概要を目にしていた以上。
今まで胸の奥底で眠らせ続けていた『わだかまり』が騒ぎ出したのを、自覚していた。


74 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:14:22 /QP68U/Y0
「佐倉さん? 大丈夫??」


かつてコンビを組んでいた先輩――巴マミの呼びかけに杏子は我を帰った。
今日は、そう。気分転換の買い物だ。杏子が買うのは、しいてお菓子程度しかないが。
ほむらと友人である鹿目まどかが「ほむらちゃんも誘ってみる」と話していたのを思い出して、同行しただけ。
結局、無駄足だった訳だが。

さやかが変に大き目なバッグを購入しようかと、まどかと相談しているのが見える。
あんなの買ってどうすんだ? と杏子が疑問に思いつつ。
心配そうな顔のマミに「別に」そう返事をしたが。
何だか、物足りなくて会話を続けた。


「最近……変に物騒な感じだよな」


マミに話したところで、それこそ無駄で終わる些細な話題だ。
杏子の心情を知らぬマミは「ええ」と頷く。


「ねえ。佐倉さん。暁美さんの事で何か知っている事はないかしら」


「……え?」


まさかマミの口からも聞くとは思わず、戸惑いを隠せずに杏子は「いや」と呟いた。


「あたしより、まどかの方が知っているんじゃない?」


「鹿目さんは持病の事があるかもしれないって言ってたけど」


持病? そういや心臓病が……とか。クラスの誰かが話してたっけ。
ていうか。巴マミ……
あまりに露骨な話に、警戒心のなさに杏子が呆れてしまうのは当然だった。
多分、杏子の確信は真実だろう。彼女も、あまりの事に尋ねてしまいそうになる。


――アンタ。聖杯戦争のマスターなのか?


「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」







アラもう聞いた? 誰から聞いた?
救済の魔女のそのウワサ

途方も無く大きくなった魔女がお空の先にあるお月さまより大きな天国へ
辛い人も悲しい人も、良い人も悪い人も

みんなみんなを天国へ導いてくれる
ああ、良かった。これでもうずっとニコニコ暮らせるよ

ああよかった これでもうずっと
ああよかった これでもうずっと
ああよかった これでもうずっと

ああよかった これでもうずっと
ああよかった これでもうずっと
ああよかった これでもうずっと
ああよかった これでもうずっと

ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと

………
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ


嗚呼、全てに真の救済あれ





75 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:15:19 /QP68U/Y0

「ちょっと、今の悲鳴……何なのさ!?」


似合わない大き目のバッグを購入し終えたさやかが困惑する隣。
鹿目まどかに迷いがなかった。
彼女は、魔法少女になって得られた『正義感』が、邪悪に立ち向かう勇気――『黄金の精神』によって
誰が何と言わずとも、悲鳴の上がった先へ全力で駆けだしていたのだ。

買い物を共にしていた友人や先輩が自分を制する為に、声をかけたかもしれない。
でも、聞いていられない。
魔法少女であるまどかは、邪悪に打ち勝たなければならないのだ。

友である暁美ほむらのこと。
彼女は誰に命じられるまでも、誰かに相談する必要もなく、彼女を守ろうと覚悟していた。
何故なら、鹿目まどかは暁美ほむらの友達だから。
たったそれだけ。
されど、それ以上に理由は必要なのだろうか。


「皆さん。下がってください! 写真撮影も止めてください!!」


「……ッ!!?」


まどかが吹き抜けスペースに到達すると、既に人混みで溢れかえっており。
スマートフォンで面白半分で撮影したりする者から、発生した異常に気分を害し、倒れたり吐いたりする人々。
地獄のような惨状の根源は――デパートの吹き抜けスペースに設置されたステージ。
今日、そこでアイドルによるコンサートが行われる予定だったらしい。

だが……ステージの舞台。
スタッフの誰かが不自然に一部、床が外されているのに気付き確認したところ………


ステージの床下が『赤い箱』で埋め尽くされていたのである。


ウワサに聞く『人の残骸』で構成されたものが一つや二つじゃあない。
床下を埋め尽くす……ざっと広さを計算すれば『80』近い数の箱があった。
つまり、80人分の死体。


「酷い……!」


どうしてこのような事を!? まどかが、怒りと悲しみを露わにする一方で。
吹き抜けスペース故、デパートの上層階から見降ろしていた誰かが言う。


「なあ! 紙が貼ってあるんだって! ホラ!! 文字見えないけど―――」


『大変な事になった。マスター』


人々の騒音の最中。不思議にもまどかのサーヴァント・ランサーの念話は、しっかりと聞こえる。
彼は霊体化しており、姿が見えないだけで。ちゃんとこの場に居る。
だからこそ、状況を把握し。そして、事実をマスターに伝えた。


76 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:16:10 /QP68U/Y0

『あれは犯行……いや、犯罪予告だ』


『犯罪、予告?』


『あえてメディアに取り上げられるよう、目立つ場所に箱を置いたんだ。そして予告の内容は、こうだ』



――――聖杯戦争に参加する皆さまへ
    自分は、マスターの中身じゃなくてサーヴァントの中身に興味があります。
    明日、テレビ局で生ライブをするアヤ・エイジアの命を狙います。
    是非来て下さい。

                                       怪盗X―――



「意味が……分からないよ………」


まどかは思わず口にしてしまう。
世間を騒がせている猟奇殺人者の正体が、聖杯戦争の関係者であることは理解していたが。
あえて餌を撒く為、わざわざ80ほどの人間を容易く殺し、注目させたかったのか。
ついでに、気軽に。
そんなありふれた感覚で命を奪う者の精神に、まどかは青ざめていた。









          時計の針が刻んでいる。リズムよく、一定に―――









77 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:17:35 /QP68U/Y0

【11:37】


世間を賑わす一人、アヤ・エイジアこと逢沢綾。
彼女が見滝原の都心の一角にあるカフェテラスに、平然とコーヒーを飲みに現れているのを誰も気付かない。
ちょっとしたサングラスと帽子を被って、しかしながら『たったそれだけ』。
意外に誰も気づかない。
人間の先入観なんて些細なもの。
アヤは、一際著名人であったからこそ馴れていた。
別に誰かに気づいて欲しい訳でもない。あえて目立っている訳でもなく。
どれほどごった返した人混みの中心に飲まれようとも、彼女は『世界でひとりきり』なのだ。

アヤが手元に一枚の写真をやった。
写真にいる人物に、格別な魅力を覚えたのでなく。強いて挙げるなら――彼もきっと
『世界でひとりきり』
そうとしか感じられない『人間』なのだろう。
アヤが注目するのは、写真の人物と非常に酷似した……だけど『何か』が異なる人物が目の前に居る事。


「ひょっとして……あなたの父親だったりするの?」


彼女の向かい側に座るアヴェンジャー。
完全な一致とまではいかないが、雰囲気やどことなさが似通った。何か繋がりのありそうな。
写真の彼との関係性を疑うのは当然であろう。
召喚された時と違って、アヴェンジャーは目立つ騎手の恰好と帽子はしていない。
現代に溶け込めるようにありきたりなスーツ姿。容姿を変えれば、英霊などと誰も分からないほど普通の人間だった。

興味本位に尋ね、彼の反応を伺うアヤを一瞥し、
アヴェンジャーは彼女の手元から写真を持ち上げるように奪う。
それから告げた。


「違う。俺の父親じゃあないし、兄弟でもないな」


流石に無理のある言い訳に聞こえる。
にも関わらず、アヴェンジャーの証言は真実なのだ。
あまりにも似通っている。全てが、とまで行かないが………雰囲気、オーラは紛れも無く酷似している。
容姿も、体型は大分異なるが。やっぱり『似ている』……なのに。
アヴェンジャー。ディエゴ・ブランドーは救世主に心当たりが無いのだ。

だからこそ、アヴェンジャー自身もどういう事なのかと困惑していなくもない。
アヤは不思議そうに首を傾げていた。
でも、アヴァンジャーが嘘をついて誤魔化すような、冗談の効いた人間じゃあないと察して。
少々彼を眺めてから、改めて尋ねてみる。


78 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:18:32 /QP68U/Y0


「だったら、アヴェンジャーさんは誰かを助けたりしなかった?」


「俺が困っている人間に躊躇なく手を差し伸べる『お人よし』に見えるか? アヤ」


皮肉を込めたつもりのアヴェンジャーだが。
アヤとしては、それを自分で言っちゃうの?と顔で微笑んでいた。
馬鹿に挑発している訳ではない。元より――彼女はアヴェンジャーと仲良しこよしに成りたいのでない。
彼女の中には……誰も居ない。光すら差し込まない。
他愛ない無駄話を繰り広げているに過ぎないのだ。
アヴェンジャーも、既に理解する。虚空を見上げつつ、ふと、不思議にも思い出す。


「『マジェント・マジェント』」


「……? それって何??」


「マジェント・マジェント……俺がレース中、氷の海峡で『偶然』助けた。最も俺は奴を利用する算段だったがな」


「そういう名前なの? ふふ、面白いわね」


愉快なんだろうか。アヤの微笑は自然なものに感じられた。
コイツも、過去は分からないがロクでもない『生まれ』だったんだろうな。とアヴェンジャーは感じる。
実際のところ。マジェントが愉快で楽しい奴か否かは、無駄な情報だ。
聖杯戦争に導かれているかも定かじゃない人間の話をしても、無駄でしかない。


「『助けられた』だけで、喜んで命令に従うような下っ端のクズを利用した。それだけだぜ……
 分かるか? 俺は救世主じゃあない。『復讐者』だ。復讐を果たせず彷徨う亡霊だ」


「……そう。でもきっと『彼』も同じ筈よ」


こう考えない? アヤが言う。


「沢山の人を助ければ……『救世主』になれるのよ。『世界でひとりきり』の人達だけに歌う私と同じように、ね」


救世主ねえ。
アヴェンジャーが思うのは、仮にセイヴァーが自分と繋がりある人物であれば
善意で誰か救ったりせず、自分と同じ誰かを利用する為だけに手を差し伸べたんだろう。そんな他愛ない感情。


79 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:19:50 /QP68U/Y0
余裕もってコーヒーを飲む彼女を横目に、アヴェンジャーは言う。


「ところで、お前はどうするつもりだ。聖杯に何を願う?」


すると、アヤはにべもなく答えた。


「私、人を殺したの」


にも関わらず彼女の表情は晴れやかで、アヴェンジャーは表情一つ変わらない。


「それで服役中。だから刑務所に戻らなくちゃいけないの」


「………は?」


流石にアヴェンジャーから呆れの声が漏れた。
普通、自由になりたい。無罪放免を望む。あるいは罪をなかった事にしたい、色々あるだろうに。
彼女の選択が迷いなく真っ直ぐだった。


「イカレてやがるのか、お前」


思わずアヴェンジャーが本音を口にしたのにも、アヤはアッサリと言ってのけた。


「そんな事ないわ。罪の意識はちゃんとあるのよ」


罪悪感を抱いてて自分はちゃんと『人間』してますってか?
冗談じゃあない。十分どうかしてるだろ。
俺だったら馬鹿な真似も、犯行が分かるようなミスだって犯さないがな……
本当にコイツは『歌う』以外でマシな部分が無いな……だから歌手に成らざる負えなかったんだろうが……







アラもう聞いた? 誰から聞いた?
服従の魔女のそのウワサ

いつの間にか親しくなっている友達
気がつかない間で自分の傍にいて支えてくれる大切な人

ひょっとしたら、それは魔女かもしれない
自分の為だけに他人を利用し、自分より優れた者を奴隷にする悪い魔女!

身に覚えのない知り合いがいるんじゃないかって
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ

イエスマイロード!






80 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:20:56 /QP68U/Y0


「くそ! 『Dio』の野郎だ!! オレの『ウワサ』をしてやがる!! くしゃみが二回も出たぞッ!! 
 悪いウワサをされてたら二回するんだぜ!? 冗談じゃねぇぞ!」


「何度目ですか。その話」


聖杯戦争のマスターが一人、優木沙々がやれやれと下っ端のクズの文句に付き合わされていた。
主催者側から聖杯戦争開始の通達が来るまでに『友達』を利用して、在る程度のウワサの収集が完了している。
自宅マンションでウワサや討伐令に関しての話をしたいのに……
ウワサの中に、アサシン――マジェント・マジェントが憎む宿敵『Dio』の存在が確認された。

生物を恐竜とし支配する『恐るべき怪物(スケアリー・モンスターズ)』。
性質は……沙々の魔法を似通っている。
問題となるのが、恐竜は反射神経がよく。
個人の戦闘力のない沙々や攻撃に特化してないマジェントには、決定打が与えられない点。


(まぁ。サーヴァントの宝具を一つ捕捉できたのは良しとしましょう)


サーヴァントじゃなく、マスターを殺してしまえば。如何に凶悪なサーヴァントでも無駄に終わるのだ。
他にも、通常の聖杯戦争と異なる点が、明白なのだった。
沙々は自分の指をはめていた指輪を『透明なソウルジェム』に戻した。
色彩も穢れも無い、すっからかんな状態。
嫌々だが仕方なく沙々は、それをマジェントに差し出す。


「これはあなたが持ってて下さい」


「およ? オレがかい?」


「サーヴァントをただ倒せばいい訳ではありませんからね。
 要は『消滅するサーヴァントの近くに居れば』問題ないんですよ」


ソウルジェムは消失したサーヴァントの魂を自動的に回収してくれるらしいが。
沙々が指摘するように『近くに居る方』に魂は導かれる。
絶対防御のマジェントが、戦わずとも『接近』するだけならばソレだけで聖杯の完成を目指せる訳だ。
「なるほどなぁ!」と調子よくヘラヘラは笑うマジェントは、沙々の妙案に対し、コイツ頭いいな!
と、楽観的な心情なのだろう。
一体どれほど沙々が頭を捻って、クソサーヴァントの有効活用法を考察したか、まるで知らない癖に。

ウワサの内容を精査するに……何とも言えない。
どことなく、正体や能力が漠然と掴めるが、決定打に欠けるというか。ピンと来ない。
実際、能力を体験するまでは曖昧だ。

例えば……先ほどのDio、ディエゴ・ブランドーの宝具であろう恐竜。
あれは安直に生物を恐竜に変化させている訳じゃない。実体は『感染』なのだ。
恐竜の攻撃を受けても、恐竜化が進行してしまう。きっとサーヴァントも例外ではない。
ネズミ算式に個体数を増殖させる――吸血鬼が産み出した食屍鬼の連鎖と同じ法則。
それが『恐るべき怪物(スケアリー・モンスターズ)』の真価。

そう考えると……ウワサも身元の特定でしかなく、実際のところまるで信用ならないのだ。
沙々は深く溜息ついて、ふとソウルジェムに目が向かう。
彼女自身のソウルジェムに、だ。


81 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:21:55 /QP68U/Y0

「……………」


沙々の顔が酷い形相で大きく目を見開き、言葉を失っていた。
見ないフリをしたかった。決して忘れていた訳ではない。自然とそうなることも彼女は、分かり切っている。
この見滝原に魔女はいない。
グリーフシードはどこにもない。
着実に、確実に。ソウルジェムの穢れは自然と蓄積されていくのだ。
例えストレスのない平穏で静かな生活を送っていたとしても。それが逃れられない宿命。

一刻も早く聖杯戦争から……果たして『間に合う』のだろうか?
こんなクズサーヴァントとちまちま勝ち進む余裕も、ああクソ!と舌打つ沙々。
魔女になるのは真っ平御免だ。
でも、ソウルジェムの浄化が出来るサーヴァントなんて都合のいい『救世主』なんて。


(……救世主?)


何故だろうか。沙々の中に光が差し込んだ、気がする。
今朝、ポストに入っていた主催者からの資料。討伐令。サーヴァントのクラスは―――
沙々は暁美ほむらが、見滝原中学校の制服を着ているのを確認していた。
彼女のように『浅はかな発想』は、恐らくどの主従も思いつきそうなものだろう。
しかし……


(はぁ、救世主ねぇ。ブッダとかキリストみたいに胡散臭い教えでも解くのかよ)


写真を見たマジェントは「Dioと似てるんだよなぁ〜〜〜」とかぼやいていたが、沙々としては大した情報じゃない。
似ている、のはいい。他に心当たりもないのかクズ。不満しかない。
険しめな顔つきで沙々が、写真に居る邪悪な瞳と視線が交わって


「…………………………………………………………………………………………………………」


「ササ! 聖杯戦争が始まるからよ、祝杯の酒でも買ってさ……オイ!? 話聞いてんのかッ!」


我に返った沙々は、自分が食いるように写真を眺めていた事実に困惑しながら。
惚けた様子で「なんですかぁ?」とマジェントに振り向く。
下っ端のクズが、沙々に対し心底気に食わなそうな態度で言う。


「ニヤニヤなに見てたんだよ。何の写真だァ? それ」


「え、……え? べ、別に……なんでも…………?」


笑ってた? 写真を見て?
全く記憶にない話に、沙々は並々ならない恐怖を覚えて、その写真を書類袋に戻してしまった。


82 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:22:29 /QP68U/Y0




アラもう聞いた? 誰から聞いた?
天国に至る手順のそのウワサ

大切なものは友達と三十六人ぐらいの悪い人間たち
十四の言葉と勇気があれば大丈夫!!

大きなお月さまが不思議な力を与えてくれる『場所』で
世界が巡り巡って産まれる新しい世界こそが天国!

天国に到達できた人は誰よりも幸せになれるって
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ

ステアウェイ・トゥ・ヘブン!







覚悟こそは幸福だと、どこかの誰かが言った気がする。
君は引力を信じるか? 彼の人物の御言葉である。
人と人の間には『引力』がある。………嗚呼、ならばこそ、この運命も『引力』であり
現実に起きる『運命』を受け入れる覚悟が求められている……筈だ。

しかし、理想と現実は違う。
誰もが回避したい現実や未来、あるいは過去から逃れようと奔走する。
覚悟……一人の神父が心を落ち着かせる為に『素数』を数え続けていた。『素数』は孤独の象徴。
『世界でひとりきり』の数字だった。

孤独に室内で、突如として配布された例の書類。
討伐令の対象たる写真に写る人物は神父、エンリコ・プッチにとって友に値する存在。
顔も容姿も、人類の表現力では語彙不足する美しさを持つ彼。
紛れも無く友なのだろう。
友に対し、討伐などと面白半分にゲーム感覚を持ちかける主催者たる存在に憤りを覚えるよりも先に。
プッチは強烈な『違和感』を味わっていた。


(馬鹿な……DIO『ではない』! 何かがおかしい……)


矛盾めいているのは、彼自身が最も分かっている。
DIOなのにDIOじゃあない。
プッチが知るDIO、とは異なる意味合い。しかしながら彼がDIOを目にしているのは『側面』に過ぎない。
側面。
裏を返せばプッチの知るDIOこそ、他にとっての異常な『側面』だ。


「あ……ライダー、さん?」


気迫溢れる神父に声をかける勇気だけは、部屋に入ってきた少女――白菊ほたるにあった。
彼女は、明らかな荷物の入ったバッグを握りしめ。
今まさに帰宅を果たしたばかりを露わにしているのだった。
素数を呟いていたプッチも、反応に僅かだが遅れて振り返る。


「ホタル……? 君は確か………」


そう。彼女は今日、アイドルとしての活動。見滝原では初めてのライブが行われると、練習も準備も努力していた。
聖杯戦争の過程では全く無駄に当たる。
されど、白菊ほたるにとっては重要なアイドル活動の日。
まだ昼間に差しかかったばかり。忘れ物に気付き、慌てて帰った様子でもない。
ほたるは、申し訳なさそうにプッチへ告げた。


「ライブが……中止になったんです……」


「………」


83 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:23:46 /QP68U/Y0
普通だったら「慣れてます」と後ろ向きに、自らの運命に抗えず仕方ないで受け流す彼女だが。
今日ばかりは、幸薄い雰囲気を変えず。だけど何か、彼女自身の中で納得を手にできず。
どうしようもない感情を胸に秘めていた。


「あの、ウワサの……赤い箱ってサーヴァントの仕業なんですよね?
 どうしてなんでしょうか? どうして、私のライブ会場を選んだんでしょうか?」


他にも目立つ場所はある。目立つイベントだってある。
だけど、赤い箱の置き場所に選ばれたのは、何故かほたるのライブ会場で。
本当に『運命』という試練を与えられているのか。プッチが言う『必然』が呪いの如く付きまとう定めなのか。
一息つき、ほたるは落ち着いた。


「ごめんなさい……ショックだったんです。プロダクションのスタッフの方も、あそこで踊る事にならなくて
 良かったって、そう元気つけてくれて………でも、私どうしたらいいのか。分からなくて」


白菊ほたるが恐れているのは、自分の不幸ではなく『他人の不幸』だった。
『自分が』他人を不幸にしている。
今日、ライブを楽しみで足を運んだ人々も。プロダクションの関係者や同じ事務所に所属するアイドルたち。
彼らを不幸にしてしまう。自分の不幸が他人に移ってしまうかもしれない……そういう『恐怖』。
実際、あの猟奇殺人鬼の所業がライブ会場に降りかかった事で、あそこに居た人々は紛れも無く不幸となったのだ。


「ホタル。君には伝えておければならない事がある。いづれ『引力』によって惹かれあう運命だ」


その恐怖を理解したプッチは、ほたるにこそDIOと巡り合うべきだと導こうとする。
恐怖の克服。
不幸という因果を携えた彼女にこそ、恐怖を乗り越える力は必要なのだ。
DIOに関する情報を聞かされたほたるが、戸惑いながら


「ご、ごめんなさい……私には全然、お話が難し過ぎて………」


とまぁ、彼女ほどの年頃なら仕方ない返答をした。
天国だとか、引力とか、覚悟が果たして幸福に通ずるのか。縁の遠過ぎる話題について行けない。
宗教や哲学に精通した人間なら、多少の理解を得られるだろう。だけど、彼女はアイドルだが、それを除けば少女だ。
しかし――ほたるは善良であった。彼女は「でも」と加える。


「ライダーさんのお友達なんですよね? 討伐、なんて酷いと思います……
 あの、もしかして私の不幸がライダーさんにも……」


いいや。それでは駄目だ。
ほたるはプッチも『善良に』自分のことを想って手を差し伸べてくれているのだと。
彼の教えは、何一つ共感も理解も、ほたるにはまるで追いつけないが。
プッチの行いを無為にしてはならない。


「え、えっと。暁美ほむらさんの制服……私がかよっている見滝原中学のものです。
 ひょっとしたら学校で会えるかもしれません。少しでも、私もライダーさんの役に立つよう頑張ります」


「ありがとう、ホタル。君も『天国』への到達と『未来への覚悟』による救済に協力してくれるんだね」


「……あ、あの。ちょっとそれはよく分からないです」


84 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:24:23 /QP68U/Y0




白菊の花言葉は『真実』。
大切なのは――真実に向かおうとする意志なのだろう。
例え、彼女の願いが叶わなくとも。天国が実現しなかったりしても。
本当の到達へ至れる筈なのだ………真実へ向かっているのだから…………







アラもう聞いた? 誰から聞いた?
天使の使徒そのウワサ

彼女は鏡の破片を通して皆を見守ってくれている
人々を守るために降臨した守護者

中でも水の厄災を防ぐ力があるんだって
だけど、風に打たれ弱いってどういうことなの?

鏡の竜となって降臨するって
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ

ゴッドガード!







【13:21】


見滝原の道路を走るバス車内。
タブレットの情報ツールを動かす少女が「速報!アヤ・エイジアに犯行声明!!」と見出しあるページに目がついた。
速報ながら、自棄に詳細な情報が記載されているのは、世間が大注目する歌手と猟奇殺人鬼。
奇跡のコラボが実現してしまった力だろう。
少女、マシュ・キリエライトは困惑気味にそれを目に通していた。
今朝に聖杯戦争開幕の一報が届いた矢先である。


『厄介だな……中学校といい、マスターの立場では容易に侵入も難しい場所を選ぶとは』


念話でマシュと会話するシールダー・ブローディアが唸る。
はい、とマシュも念話で答えた。


『どちらも見過ごす訳にはいきません。特に暁美ほむらと呼ばれる彼女は……』


『見たところはただの少女だ。サーヴァントによっては容赦もしないだろうよ』


最もサーヴァントの方は………ブローディアもマシュも、邪悪の化身から感じるものを理解していた。
善良ではない。信用ならない。
偏見を抱かせるサーヴァントは、マシュも幾人心当たりがあるが。
彼に関しては例外だ。暁美ほむらが、このサーヴァントを完全に使役しているとは、正直期待すらしてない。
だが。
討伐令は危険性を兼ねて配布された類じゃない。
言わば燃料投下。聖杯戦争を活性化させる為だけの生贄……


『今日までウワサの回収はほぼ完了していると思いたいです。ですが……私の知識がどれほど生かせるか』


マシュは、恐らく聖杯戦争に関する知識を有する希少なマスターだった。
だが、彼女の知るものとはまるで異なる。
情報収集も兼ねて、自らのサーヴァント・ブローディアの世界観……『空の世界』はマシュの知識は愚か。
架空の世界として物語にすらなっていない『未知の世界』。

即ち――異世界だ。
ウワサに聞く、恐竜の支配や時間泥棒、赤い箱、魔女や天国への到達……どれもに心当たりがなさすぎる。
マシュのいた世界……否、宇宙そのものが異なる。
彼女の先輩がレイシフトなどで特異点に飛ばされるのとは、全く違う。
マシュの知る人類史にも該当しない。命名するとしたら――『異世界史』。『異世界史の英霊』だ。
ブローディアが落ち込むマシュに対して揺るぐ様子なく言う。


85 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:25:00 /QP68U/Y0

『私の――「空の世界」の英霊に関して問題はあるまい。怪盗シャノワール。私も団長から奴の話は聞いている』


『! あの、ブローディアさん。もう少し、彼の詳細を教えていただけませんか』


『ふむ? マスターが図書館などで調査した通りだと思うが』


シャノワール。
変幻自在の妙技で人々を翻弄し、空の世界で異名を轟かせた大怪盗。
幻想や天司。星晶獣とは異なって『確かな偉業で歴史に名を残した人間の英霊』に該当する。
むしろ、マシュの居た人類史のような歴史では、中々困難極める偉業だろう。
そうでなくとも幻想や神が居る世界で怪盗の名を残すのも一筋縄にいかない筈。

彼は水の魔力を保有しており、ブローディアは完全に優位に立てる。
だが、シャノワール自体がどのような人物か?
怪盗の美学をモットーとし、人を巻き込んだとしても犠牲や命にかける真似はしない。
彼が遂行するのは『盗み』であって。それが『悪行』だとしても精神が『悪』であるとは限らないように……


『あの……怪盗シャノワールの宿敵と呼ばれる探偵がいると聞きましたが』


『あぁ。私も前に団長から聞いた事がある。しかし……』


『是非その下りを教えて欲しいのですがっ!』


『それだが……マスターの期待を削ぐようで悪いが、その探偵は推理放棄する部類でな』


『―――推理、しないんですか!?』


探偵なのに!? という突っ込みを内心でしつつ、マシュは我に帰ってバスの停車ボタンを押した。
彼女が向かっていた場所は、高層ビル街にある飲食店が並ぶ地帯。
マシュなりの調査を元に、地図上で印をつけた『店』を巡る……というもの。
別に、グルメを堪能するのでなく。
グルメを『堪能している人物』を探る為だ。
実際に店員に客のことを尋ねる真似は、不審者らしかぬ行動ではあるが、やってみなければならない。
彼女の知る『先輩』だってそうしたように……


「……あ。これ」


いきなり一軒目でマシュは大きく目を見開く。
外の世界を知らなかった彼女にとって、常識に含まれた当たり前を予想つかなかったのだ。
巨大ジャンボお好み焼き。見事完食!
なんて大々的に店の宣伝ポスターっぽく貼られた写真に、細身の少女が空になった大皿を見せつけピースしている。
完食を取り上げたり祝福して、このような記念写真は『ごく当然』だ。
しかし、マシュは『そういうもの』だと分からなかっただけに、驚いている。
何より―――
ウワサとなっている大食い探偵は、マシュが休学中の見滝原高校の制服を着ていた。







アラもう聞いた? 誰から聞いた?
運命を覗く方法のそのウワサ

これから先の未来も、自分がどうなるのか不安なアナタ!
運命が分かってしまう方法を教えてあげる!!

この町にある不思議で不気味な洋館に住まう一人の少女
彼女は運命が分かって、運命を操れちゃう

でも彼女の機嫌を損ねれば生きて帰れないって
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ

ギャオー! ターベチャウゾー!!






86 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:25:39 /QP68U/Y0
変わって見滝原の繁華街。飲食店街であっという間に注目を集める一軒の店が一つ。
美味しく山盛り揚げ物丼をペロリと平らげて、少女・桂木弥子は唸った。
本当にお金がない。
そして、食事処もどんどん無くなってきてる。
聖杯戦争開始前日にして既に詰んでいる。意味不明な悩みを、真剣に抱え込んでいる。
こんなの救世主だって助けちゃくれない。

弥子の体は冗談でも大げさな表現で例えている訳でもなく、非常に燃費が悪い。
一般人間の中、彼女は燃費=食事によるエネルギー効率が極端に駄目。
大食い特性を生かして、完食で無料のデカ盛りグルメを巡り巡り続けたものの。
店の方だって、頻繁に来て貰っても困るし。中には出入り禁止――出禁になった場所もあった。


(こうなったら……最終手段だ)


『最終手段?』


念話で弥子のサーヴァント、魔理沙がオウム返しするのに。弥子は頷いた。


(どっかの土とか掘ればミミズとか手に入るから、それを餌に……魚を釣る!)


『え、マジか』


突拍子もない発想に魔理沙も困惑気味である。
しかも、弥子は真顔かつ本気でやるという謎めいた精神の片鱗を醸しだしているのだから。
否。
馬鹿っぽいが、弥子は真剣なのだ。
聖杯戦争が終わるまでに、餓死などは勘弁なのだ。
真面目に、食事を取れば魔力回復に通じる。だから食料問題は重要だ。本当の本当に。


『……私もキノコとか、食べられそうなの探すから変な物は食べるなよ?』


(殺人料理以外は大丈夫だから)


『色が変な奴みたいなもんか』


(餃子の皮を接着剤でつけてるようなもの)


『工作の間違いじゃないか?』


SNSなどに画像をあげる為にか、スマホを掲げる外の野次馬に弥子もうんざりしていた。
アヤ・エイジアの事件を解決した際も似たような騒動が発生し。
著名人の仲間入りよりか、指名手配犯じみた扱いだった気がするような。
これが『馴れている』と言えば普通の御身分ではない。『味わった事がある』と表現すればいいのか。

ふと、弥子が吸いこまれるように人混み中、通り過ぎて行く人物に注視した。
彼女には鮮明な記憶として刻まれていた存在。
慌てて会計をすませて、弥子が人を泳ぐようにかき分ける。サインを求められても、そんな余裕はない。
謝罪をかけながら、あの人物を探そうと駆け抜けてる。
ただでさえ燃費が悪い体で全力疾走など、また厄介な事態に公転しかねないが躊躇する場合じゃなかった。


87 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:26:48 /QP68U/Y0
ああ……もしかして無駄だったかも………

弥子が後悔の念を覚えた瞬間。
視界の端でチラリと追い求めていた影を捕捉したのだった。
ここまで来れば、弥子は迷わずに声をかける。


「あの! 待って、そこの――――え?」


弥子が話しかけたのは金髪の少年であった。本来彼女が想像していた見滝原を混沌に陥れいる邪悪とは違う。
否、確かに違うのだ。
体型や年齢、顔立ちなど……だけど。似ている。
事実として少年はサーヴァントじゃあない。人間だった。ステータスも見えない。
混乱する弥子に対して、少年は不敵に「僕に用でも?」と尋ねた。皮肉が籠っている気がする。


「ご、ごめんなさい! 人違いでしたッ!!」


でも似ているだけだ。
これ以上、何を追従する訳にもいかず、弥子はやられ役みたいな捨て台詞と共に走り去る。
少年はフンと鼻を鳴らして踵を返す。

一方。
少年の傍らで霊体化しているサーヴァント・ランサーは、くすくす笑いを零していた。
心底愉快なのだろう。


討伐令をかけられたサーヴァント……クラスは『救世主』を意味するセイヴァーが、
あまりに少年―――ディオ・ブランドーと酷似していた。
案外、お前の運命は英霊の座に至れる偉大を勝ち取れるのだ。
なんてランサー……レミリア・スカーレットは嘲笑していたものの。

尚更のこと。少年ディオには理解が追いつかない。
一体どう頭のベクトルの螺子が絡まったら『救世主』なんて者になるんだ。
天国はあるかもと思ったが、救済とか宗教に今後ドップリ嵌るのか?など想像すれば吐き気がした。

レミリアは提案した。少しだけ外に出ない?と。
吸血鬼の彼女も霊体化すれば日光すら問題ないのだが、ディオはそんな必要があるかと無駄扱いする。
……だが。
実際は屋敷に居ても進展はなく、向かわざる負えなかった。

結果としては、実に奇妙だった。
まるで心酔したかのような狂った女もいれば(彼女は気色悪かったのでディオは蹴り飛ばした)
ガラの悪い、貧民街に屯ってそうな不良が恐れなしてディオから逃げ出し。
足を運んだ事もない高級店の店長が媚売るかのように、頭をヘコヘコ下げながら話しかけてきた。

改めてレミリアが問う。


『気分はどう?』


「まあまあだな」


しかし満更でもない笑みをディオは浮かべていた。


88 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:27:22 /QP68U/Y0

『これで分かった筈。あなたの本質は変わっていない「結果」は覆らない。
 ……私が興味を覚えたのは「過程」の方かしら』


「過程? どうだっていいだろう、そんなもの」


『アラ。重要よ「過程」は。少なくともあなたが想像しているよりはね』


確かウワサに聞く時間泥棒も『結果』だけを欲しがっていたか。レミリアはふと思う。
例え結末を知っていたとして……物語のヒロインは死ぬと結果が分かっても、
死に至るまでの過程をすっ飛ばして満足、なんて。果たして、それは物語を楽しんだとは言い難い。


『―――どちらにせよ。いづれ至る運命と対峙するハメになるとは最悪じゃあない?』


「……運命?」


顔をしかめディオは姿無きレミリアを睨む。


「ぼくの運命は『救世主』に定められていると? 懐中時計の針が二度と動かないからか」


『ふ、まぁ当然ね。ちょっとしたズルをしたから』


霊体化しながらも念話するレミリアの不敵な様子が、目に浮かぶ。


『未来を知る……ズルみたいなもの。そこから運命を変えるなんて、奇跡でも起きない限りありえない』


「聖杯を手にすれば運命の一つや二つ、どうとでもなる」


『変える、ね。己の運命に不満があるなら、それも一理でしょうね』


そう。
結局のところ『セイヴァー』の正体は分からなかった。
ディオ自身も、アレが本当に自分自身ならば、何故あのような結果に至ったのか。
過程は重要ではない。ディオもそれが真理だと我強く信じ切っているが、故に彼は恐らく『セイヴァー』を
理解することが叶わないのだろう。
あるいは……レミリアが定めるように、これから先の運命で知る事になるのか………







アラもう聞いた? 誰から聞いた?
灰色の男のそのウワサ

夜な夜なピアノのある場所にドロドロ現れる怪人
恨み事を嘆きながら、演奏を始めると

音色を聞いた人はみんな呪われちゃう!
酷い時は、呪いの炎で体が燃えたぎって陽炎として彷徨う

誰かがそうウワサをしてこの怪人が産まれたって
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ

ブラボー!






89 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:28:06 /QP68U/Y0
一人の少女がアテもなく町を彷徨っていた。
彼女は、少しでも何かしようと、だけど途方も無く馬鹿みたいな真似をし続けている。
あるウワサを聞いた。
ピアノがある場所に現れる怪人。
恐らく……聖杯戦争で召喚されたサーヴァントのウワサに間違いない。ひょっとしたら大変な事になるかも。

少女はピアノが置いてある場所を手当たり次第に調べた。
だけど成果は無い。
他のウワサを調べればいいかもしれない。だけど……少女は討伐令をかけられた救世主を酷く恐れている。
よく分からないけども、怖い。
救世主に対し無礼を働いた事は一切覚えがない。
本能的な、弱者が強者に対し無力だと打ちのめされた恐怖。

どうすることも出来ない。
逃げに走った。
紛れもなく、こんなものは逃げで、ピアノの怪人を調査するのは何も出来ないのを誤魔化しているだけ。


(同じクラスの子が、確かピアノコンクールが近いって……市民ホールで行われる………ひょっとして)


少女――犬吠埼珠が足を運んだ市民ホール。
コンクール以外にも集会や講義を開かれるのに活用される。見滝原では成人式がここで行われるとか。
なら、コンクールで使われる筈の『ピアノ』がある筈。

公共施設たるホールの出入りは基本、自由そのもの。
事務員の姿は確認できるが、珠に対し格別注目する様子はない。
ふと珠がホールの予定表に目を通す。

ピアノコンクールが開催されるのは『水曜日』だ。
……どうやら『火曜日』には集会で使われる予定らしい。
何の集会だろう? 天国への到達……??

珠はこれまた救世主と似たような恐怖を抱き、見なかった事にしてホールの奥へと進む。
誰も居ない。
ガランとした広い広いエントランス。
その奥、トビラの向こうからピアノの音色が響いている。音楽に詳しくない珠も――ああ、とても綺麗――
不思議にも感じてしまう。違う……この先に居るのはもしかしたら………


『安心していい。ワシは直ぐにもお前の盾となる覚悟は出来ている』


芯のあるバーサーカーの言葉。
大方、誰もが彼の姿勢や在り方に善良さや正義、絆を見い出す事だろう。


90 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:28:50 /QP68U/Y0
だけど奇怪な事に、珠はバーサーカーの掲げる絆に魅力は感じず、どこか恐怖を感じていた。
意図も容易くヒトを信じてくれる、優しさを兼ね備えた。
そういう人ならついて行ける。みたいな理想の仮面を被った在りようは、あの救世主と大差ない。

無論、珠は言わない。言えない。
自分にはそんな権利はない。傲慢さも勇気も何も………全然、魔法少女らしくない心だ。
でも……
バーサーカーという自らのサーヴァントが傍らに居るのは明白であり、珠が一歩踏み出す切っ掛けになる。


――ガチャ


静かに開けようと心掛けても、誰も居ないせいか酷く音は響いてしまう。
ハッ、と我に帰った時。
ピアノの音色は、幻覚の如く消えてしまってる。
どうしよう。珠がそれでも恐る恐る重い扉を押していく。

コンサートホール会場。
ズラリと芸術的に、ステージを堪能できるように整列に固定された客席。
段々となり、前の客が邪魔でステージが見えにくくなる欠点を解消した――映画館のようでもある。
ステージにはグランドピアノが中央にポツンと。
ピアノの傍ら。一人の、水色髪の少女が楽譜を片づけており、……それだけだった。


「?」


戸惑う珠に対し、ステージに居た少女も珠に気づいて首を傾げていた。


「ジリアン! そろそろ撤収だと先生がおっしゃってますわ」


ステージ袖から赤と黒を基調とした洒落たドレスを着た少女。
どうやら、ジリアンなる名の少女の友人らしき人物が声をかけてきたのに、慌ててジリアンが荷物をかかえ。
二人は何事もなく、ステージから立ち去った。

ピアノの練習。
ああ、コンクールのリハーサルだったんだ。
それに気付いた珠は、勘違いをしたのが恥ずかしく。ジリアンと呼ばれた彼女に申し訳なく思ってしまう。


『ワシも……音楽に精通してはないが、今の音色は美しかったな。マスター』


「え? あ、ああ、はい。でも……ごめんなさい」


『どうした? 何も謝る事は無かったではないか』


「だって、その……バーサーカーさん。ここまで付き合ってくれたのに、結局ウワサの怪人の手掛かりが……」


『ここにはいなかった。それが分かっただけでも十分だ。そう落ち込むな』


きっとルーラであれば珠を罵倒していたに違いない。
双子たちはこそこそと不満を口に出し、珠の命を奪った幼い魔法少女は表情一つ変えなかっただろう。
最早、珠にとっての感覚は、そんなもの。

バーサーカーに罵倒や怒りをぶつけて欲しい、マゾ的思考回路が珠に組み込まれているのではなく。
ルーラにはルーラなりの、彼女の不器用な優しさがあり。
彼女なりに珠たちを生かそうと、奔走した面もちゃんとあったのに。


そうだったのに………


91 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:29:33 /QP68U/Y0




アラもう聞いた? 誰から聞いた?
穴掘り魔女のそのウワサ

神出鬼没! あっちこっちに穴がボコボコもう勘弁!
穴を作っては逃げ、作っては逃げ……

どんな物にも、どんな場所にも、なんだって構わない
おっきくポッカリな空洞を作っちゃう

穴の処理に手を焼く厄介者って
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ

スットーン!







ジリアンは珠の想像通り、水曜日に控えているピアノコンクールのリハーサルを終え、帰路につこうとしていた。
最後にもう一回と、ジリアンが先生に願い。
先ほどの演奏を……否、違う。あの演奏はジリアンのものではなかった。

珠は単純に運が悪かった。
彼女の探し求めた『灰色の男』は目前まで迫っていた。
あと一歩寸前だった。それを知らぬまま、彼女は逃してしまったのである。


「……ジリアン。先ほどの曲」


友人・ノエルに声をかけられジリアンは、ハッとする。


「発表会の曲じゃなかったんだけど、自分なりに練習してて」


実際はジリアンが弾き手じゃあないのだが、自分の手柄にしたい訳でもなかった。
だけども。
ノエルは不思議と微笑を浮かべていた。


「いえ。とても素晴らしかったですわ。コンクールも同じように奏でればいいですの、ジリアン」


「……うん」


ついに明日から聖杯戦争が開始されると聞き。
加えて討伐令に挙げられた少女が見滝原中学校に所属していると知り。
だけど、ジリアンは少女・暁美ほむらを見かけた事は無かった。学年が異なるか。クラスが違うからか。


―――聖杯を勝ち取るのならば、闘争は避けられないだろう。


僅かに残された時間。
ついさっきまで、ジリアンが召喚した復讐者がピアノを奏でてくれたのだ。
ジリアンへの気休めの為か。あるいは、彼も音楽を愛した者だからか。
鎮魂歌の如く音だけが二人を包んでおり。彼らは『その時だけ』世界から隔離されていたのである。


―――改めて尋ねる必要はないと思ったが……覚悟はあるか、マスター。


―――……ボクにでもマスターの、彼女を殺せる筈です。


―――なに?


92 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:30:15 /QP68U/Y0
灰色の男は驚く。表情も驚愕そのものだった。されど鍵盤を緩やかに叩く指を止める素振りがない。
演奏者としての精神は、隔離されて自立しているかのように。
マスターの殺害。
一つの手段ではあるが――ジリアンがそれを口にした事を、アヴェンジャーですら意外だった。
いいや。
アヴェンジャーもまだ、ジリアンの深淵で眠る『魔女』を把握せずにいたからだ。
漆黒に揺らめく意志を瞳に宿し、ジリアンはしかと告げる。


―――最悪そうしたって構わない。それがボクの覚悟です、アヴェンジャーさん。


ただ友の為に、人を殺せるものか。最早、妄執や依存や、負の感情に取りつかれた復讐者とは違わない。
同じく。
風評被害の妄執を抱えたアヴェンジャーに、それを否定する事は叶わない。
彼は一つ教えた。


―――例の歌姫。アヤ・エイジアは気をつけた方が良い。
   あれは……人の身であの領域に踏み居る事すら、驚かざる負えないがね。


―――ウワサ通りの力が、本当に?


―――ああ、間違いなく。


アヴェンジャーが見抜いた通り。孤独の歌姫の『歌』は人間の領域を踏み外していた。
サーヴァントですら影響を受けかねない。
言わば、人の進化が研ぎ澄まされ、そして完成した存在。
その気になれば、歌だけで人々を兵士や奴隷のように従え、恐らくマスター相手なら敵はないほどに。
にも関わらず。彼女は歌手の活動だけを行い。ただ音楽の愛に満たされ、歌い続けるだけ。
彼女の力を知れば……異常に映えるように。
そして、ジリアンは間を開けてから


―――わかりました。あの人とそのサーヴァントに関しては、アヴェンジャーさん。お願いします。


と、答えるだけだった。
アヴェンジャーは返事をできなかった。する前に珠が扉を開けてしまったせいもあるが。
彼がジリアンに望んだのは、彼女なりのアヤ・エイジアに対する想いだった。
けれど。
嗚呼、最早ジリアンの中にはそんなものは無い。
ジリアンは、アヤ・エイジアを歌手としてではなく倒すべき『マスター』としか思っていなかった。








       カチ、  カチ、  カチ、  カチ、  カチ、  ………








93 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:31:02 /QP68U/Y0
【18:00】


教会。
近代都市たる見滝原には似つかわしくない、歴史ある雰囲気を醸す。
ステンドガラスの艶やかな色彩が日光で美しく反射する。
静寂で清らかな、神聖なる空間。本来ならば礼拝などが行われる場所だが、この時間は静まりかえっている。

この教会で教えを解く『佐倉』の姓を持つ牧師が、日曜日である今日も礼拝を開いたが
それは午前中に終わっており。
午後からは、基本的に自由解放していた。
誰もが気軽に足を運んで、神に対する祈りを捧げる。

……のだが。
少年が一人、堂々とベンチで横になり、誰も居ないのを良い事に昼寝をかましていた。
神や、教会を管理する牧師に罪悪感を覚えても、感じても居ない。
されど、彼にとっては些細な障害としか受け入れておらず。むしろ『寝なければならない』理由があって
あえて教会を選んでいた。

少年――アイルがここで昼寝をしたのは今日が初めてではない。
あちこち放浪し、偶然辿り着いた。
その時は『限界』だったので、何も考えなくベンチに突っ伏して、眠りに落ちたものの。
存外、悪くないほど熟睡できたのである。『何事もなく』

宗教や神や、救いなんて求めてない。
なのに。ここは安心して眠る事が出来る。精神的な気休めになっているのだろうか。
アイルは、幾度目となる今日も、ここで眠りついていた。


アイルの中には、もう一つの魂があった。
かつて彼の相棒だった。そんな存在の。
今は相棒ではなく、アイルの精神を蝕む『悪魔』に成り果てている。
聖杯で願えば………解決するかもしれない………そう考えなかった事は無い。
ただ、聖杯に頼るなど自分が『弱く』感じてしまう。

意地を張っているだけだった。
事実として、アイルは常にうなされ続けている。
記憶を取り戻してからは、体を乗っ取られる不安に駆られて、まともな睡眠を取れずに。
亡霊の如く見滝原を彷徨っている。
こんな状態で、見滝原でかよっていた高校に行ける訳がなかった。
学校で『自分』が暴走するのだけは、回避しようとアイルなりに考えた結果だった。

そんなアイルが行き着いた場所が『教会』なのは一種の皮肉だろう。


「――――ちょっと。そこのあなた…………起きなさい!!」


怒声が響くまでは。
アイルも突然のことに飛び上がってしまう。
一方、怒声をあげてしまった女性も慌てて咳払いをし、御淑やかに続けた。


「ここは祈りを捧げる教会です。公共の場ですが、決してうたた寝する為にあるのではありません」


「………ったく」


94 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:31:37 /QP68U/Y0
チラリとアイルが見た女性。
清楚を象徴する修道女であると目に見えて分かる彼女を視認した時。
彼にしか認知されない文字列が浮かびあがってきた。『ライダー』。サーヴァントなのだ、と。
アイルは目を丸くしたが、ライダーの彼女はアイルがマスターである事に気づいていない。
だが、今の彼は熟睡から起こされた事で、上手く思考は回らず。
そそくさと立ち去ろうと行動に移していた。ライダーが呼びとめる。


「待ちなさい、どこに行くつもり?」


「別に。あと――もう二度とここには来ない。それでいいだろ」


もう聖杯戦争は始まる。だけどアイルはサーヴァントを前に、逃走でも闘争でもなく、
自らの問題だけで手一杯に終わっていた。
きっと、聖杯で『元相棒』の件を解決しようものなら、自分は敗北したも当然。
元の世界に帰る。それだけでいい。

教会から再び果てなき見滝原の町に戻ってきたアイル。
彼は、今朝。住まいに設定されたアパートの郵便入れに入っていた、あの資料を思い出す。
寝不足で全て内容を記憶できていないが……手元に討伐令の対象となったセイヴァーの写真だけを残していた。


「コイツを倒せばいいだけだ……それで元の世界に戻る」


奇跡の願望機に巡り合う機会などなかった。
綺麗サッパリ全て終わらせて、欲望に負けた時点で全てが終わる。
むしろ、そんなものを手に入ってしまえば……『ボーマン』が黙っちゃいない。
少年を見届けた修道女のサーヴァント、マルタは一息つき。次にマスターからの念話を受け取った。


『そっちの様子は』


(至って平和です。礼拝の手伝いから、あなたの妹の遊び相手をし終えたところ)


『……妹じゃないよ』


複雑そうにマスター、佐倉杏子は否定している。
偽物なのだ。むしろコチラを本物だと認めてしまったら、現実で死に絶えた筈の杏子の家族は、一体なんだったのか。
折角、出かけた杏子側は大騒ぎであった。

マスコミが駆け込んで、買い物客にインタビューを吹っ掛けて来る有様。
警察の必死な誘導にも関わらず、場所が場所なだけあって、現場は荒れ放題になって証拠が代無しになったとか。
ステージで行われる筈だったアイドルのコンサートは、勿論中止。

……ウワサになっている歌手の殺害予告なんて。
杏子からの話を聞き終えたマルタは、冷静に問いかける。


(明日、学校へ向かうつもりなら、私も同行します。いいですね)


『どーせ。無理矢理にでもついて来るんだろ』


杏子の声色には諦めが半分と、他にも彼女なりの――深淵に眠っていた『わかだまり』が疼いているせいもあって。
強い否定を意志するのではなかった。
彼女は願いによって招いた絶望に屈した。
だけど、彼女の本質そのもののは決して『悪』ではないのだ。

佐倉杏子の中に眠るのは、美しい魔法少女でも、正義感でもなく、悪に立ち向かう黄金の精神なのだ。

マルタは数々の悪が犇めき始める見滝原の渦中で
黄金の精神を傍らに、何故だろうか――『あの御方』の事を思い出す。
この世から原罪を持ち去り、多くの救いを齎した救世主。
『あの御方』と『あの救世主』は全く違う。本質も在り方も全て、何もかも……


95 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:32:05 /QP68U/Y0




結局、巴マミは有益な情報を得ることなく、まどか達との買い物を終えてしまった。
情報に収穫がなかった訳ではない。
赤い箱のウワサは、調べるまでも無く有名なもので。怪盗Xの殺害予告のアヤ・エイジアも同様だ。

今日、得られた情報。
マミが召喚したランサーが、セイヴァーは『人喰い』の部類に属す種族であると分かった点。
赤い箱の実物。
箱の素材加工には魔力の痕跡があり『道具作成』のスキルを用いられた可能性がある。
など……肝心の暁美ほむらとは再び巡り合えなかった。


「暁美さん………」


マミの記憶にある彼女とは、まるで別人の彼女。
記憶を取り戻すまでは、鹿目まどか達の友人としてマミも普通に接していたからこそ、違和感が拭えない。
マスターであり、討伐令の対象である彼女を無視出来ない。
しかし。
彼女の正体はなんだというのだ。
悩めるマミに対し、ランサーはこんな話をしてきた。


『マミ。実は僕、昔は髪の毛が白かったですよ』


「え? そうなの……?」


『はいーそうです。わかりませんですよね』


マミの召喚したランサーは『黒髪』だった。彼はひょっとすれば『白髪』の自分も英霊に居るかもしれない、と。
呑気に話していたが、つまるところ。
外見なんてのは、中身なんてのは、どうとでも変化してしまえる訳なのだ。
ランサーの話にマミは考える。

ひょっとして……あれは自分と出会う前の『昔の』暁美ほむらなのでは?


『セイヴァーの行動は不可解です。誰も襲ってはいませんが、あまりに多くの人と接触し過ぎているです』


「確かに妙ね。いえ、誰も襲われていないのはいいのだけど」


暁美ほむらは、セイヴァーをコントロール出来ていない?
冷徹な思考と覚悟を秘めたマミの知るほむらならば、在る程度のことは……しかし。
もし、そうじゃあない。
冷徹さを抱いてない頃の暁美ほむらだったとすれば?


(私の知らない暁美さん……もしかして、本当の暁美さん。なのかしら)


お菓子の魔女との戦闘前。彼女はマミに警告をしてきた。
あの警告を軽率に扱わなければ……ちゃんと協力し合えたとしたら……
彼女は、マミを助けようとしていたのかもしれない。思い返せば、そんな気がした。


「とにかく、暁美さんと……話をしなければならないわ。『今度こそは』ちゃんと……」


96 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:32:51 /QP68U/Y0




「もうこんな時間……」


薄暗い自宅のリビングで、両親と子犬と一緒にテレビを見ていたレイチェルが顔を上げた。
今日は貴重な休み。
明日は月曜日で、学校に行かなければならない。
楽しい時間は、あっという間に過ぎ去ってしまうのだ。適当に夕食を食べようと、レイチェルはリビングから移動する。
廊下に足を踏み入れた時、サーっと何かが走りぬけて行く。
小さな恐竜だ。
レイチェルはソレが、ライダーの宝具による使い魔だと知っている。
妙だが、レイチェルは気になって恐竜が駆けて向かった方へ足を歩んでいくと、丁度彼女も用事があった台所に
他の恐竜が行き来しているのが目に捉えられた。

レイチェルのサーヴァントであるライダーがそこに居る特別な理由はない。
強いて挙げるなら、恐竜が外部へ行き来しやすい交差点である点。
あと、リビングは『悪臭』の酷い場所だから。
ライダーは椅子に座り、台所のカウンターに地図を広げ、恐竜たちの報告を聞く。

レイチェルは、ライダーの様子を不思議そうに眺めていた。
恐竜とどんな風に通じ合っているんだろう。素朴な疑問をどことなく。
そういう能力だと聞かされても、レイチェルは実感が湧かないほど奇妙な光景であった。
最も、古代に絶滅した恐竜が居る時点で異常だが。


「なんだ」


「!」


厳しい口調で、コチラを睨んでいるライダーにレイチェルが目を見開いた。
何から話せば分からない。
普通に食事を取りに来たと言えばいいのだろうか。
ライダーは……優しいから大丈夫だよね。レイチェルは少しだけ思い悩んで尋ねた。


「パン……食べても良い?」


「勝手に食えば良いだろう」


97 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:33:18 /QP68U/Y0
不機嫌そうだな。レイチェルが薄々感づいて、無言でパンを取ろうする。
文字通りの生きる屍な動作の少女に、今日の今まで沈黙を貫いていたライダーが言った。


「どうして一々俺に確認する? 自分で物事が決められないのか」


呆然と立ちつくす少女を気に食わなく、ライダーは一つ聞いた。


「レイチェル。聖書は読んだことあるか」


「……ない」


「ああ、ソイツは良かったな。読まなくて正解だぜ、ヘドが出る」


第一、神様なんざ信用しちゃいない。俺に『何も』与えなかった。俺にとっては有罪だ。
ライダーの言葉にレイチェルは衝撃を受けていた。
幼い少女も『神』は知っている。
聖書の中身を見た事ないけど、神様は何か凄い存在だとボンヤリ曖昧に想像していただけに。


「神の信者は分かるよな。アイツらは『弱者』だ。考える事を止めた『弱い』連中だ。
 悪い事も良い事も全部神サマのお陰で、神サマの試練だと『都合良く』解釈する思考停止野郎だ」


「……ライダーがそう言うなら。そうなんだと思う」


レイチェルの死んだ瞳に、ライダーは舌打つ。


「お前の事だよ、レイチェル。なあ、お前は『自分で考えた』事はあるか?
 俺の教えの通りに思考停止して随分楽な御身分だ。
 なら、神サマが人を殺せば天国に行けない。人を殺すのは許されないと告げれば、真に受けるか」


「………」


「その通りなら、お前は一生あの『理想の家族』は手に入らなかったぜ。
 ……お前がアイツらを縫ったり、手を取り変えたり、そうしたのは
 お前が『考えた』結果だ。アレに関して俺は『何も教えちゃいない』。お前の醜悪な欲望だ」


「…………わたし」


98 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:33:54 /QP68U/Y0
自分で考える。
単純なことをレイチェルをしたことなかった。自分で何かを決める事を。
子犬の事だって、ライダーに決めて貰おうとしていた。飼っても良い。ライダーにそう答えて欲しくて。
別に、ライダーが捨てて来いと命令してれば。素直に捨てたとレイチェルは思う。

自分の両親に関しては……ああするしかなかったのだ。
でも――違う。
どこからか、澄んだ鈴の音が耳元で響いた気がする。
わたしは『本当に』ああしたかったんだ。ライダーの言う通り。人殺しが許されない、そう言われても。
悪い事だって分かっても、多分……きっと……止められなかった。

嗚呼。わたしは……醜悪なんだ。

ライダーが無言のままのレイチェルに、静かに伝える。


「いいか。自分で考えろよ、レイチェル。俺は神様じゃあない」


別にライダーはレイチェルに同情を抱いてない。可哀想とか微塵にも思っちゃいない。
最初からイカれた、救いようもない破綻者としか認知してなかった。
元より、マスターとして切り捨てる前提だ。
何も考えないで自分に縋って来るレイチェルが、気持ち悪くて仕方なかったのである。

しかし――……

星と世界の数だけ『教え』となり『人生の改変者』たる存在は、様々いた。
名だたる英霊の中にも、偉人の思想や宗教の教えも。
一個人の人生に影響を与える思想と巡り合う『切っ掛け』は、千差万別なのだ。

レイチェルがそうである。
自分で考える発想も、それを教えてくれる人も彼女にはいなかった。
『不幸にも』教えを解いたのは、彼女が召喚した『ディエゴ・ブランドー』だった。







――あのカウンターは痺れたぜ! ヒヤヒヤさせんじゃねぇっての!


――ヒヤヒヤ? アンタ、ずっとニヤニヤしてたろ


――あ、バレてましたー?


楽しそうな、満更でもない会話がどこからか聞こえる。
なんだ、これは。
偏頭痛を覚えながら、一人の少年・ドッピオは覚醒を始めていた。彼自身、前後の記憶が非常に曖昧である。
ただ……会話の声。
その片側は……そうだ。マスターのアイルのものではないか、と気付く。アイルと話しているのは誰だ?

穏やかな雑談も段々とノイズ混じりとなる。
何も見えない、何も聞こえない。『最初からそんな光景が無かった』かのように。
ただの呻きと悲痛な叫びだけが響き渡ったのだ。


――どうしてだ………ボーマン。


99 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:35:06 /QP68U/Y0

「う、うーん………あれ? ここはどこだ………?」


ドッピオは、見滝原にある公園のベンチで横たわっていた。
頭を抱え込みつつ、体を起こし、周囲を見回す。すでに日が沈み始めており、空には薄らと月が映されている。
何故こんな場所に居るのかすら理解が追いつかない。
手元から書類袋が零れ落ちた。これは――今朝アイルの自宅マンションに届いた主催者からの書類。
慌てて地面に置いた書類を回収する途中、ドッピオは記憶を取り戻す。


「くっそ! そうだ、思い出したッ!! アイルの野郎ッ! 今度こそボスは容赦しないぞ!!」


―――とおるるるるるるるるるるるるるる


ベンチの下に捨てられていた『電話(ペットボトル)』を受け取るなり、ドッピオは堪らず叫んだ。


「ボス! アイルは切り捨ててやりましょう! ボスの温情をこれっぽちも感じちゃいないぜ、あのクソカス!!
 討伐令が出されたんですよ、セイヴァーの討伐令がッ! 肝心のセイヴァーの写真だけアイルが持っていきやがった!」


憤りで冷静さを失っているドッピオに対し、受話越しにいる悪魔が冷静に教える。


『ドッピオよ。書類袋を確認しろ……その中に入っているぞ。セイヴァーの写真が!』


「えっ!?」


再び中身を確認したドッピオは、暁美ほむら以外にも数枚、謎めいたアングルから撮影された男の写真を発見する。
どれもが同じ金髪の男を映しており。これが『ボス』の言う通りならセイヴァーの姿。
一体どうして?
驚きつつ、ドッピオは電話越しの『ボス』からの話を聞き続ける。


『奴は酷く目立っている。そこらの人間に顔を知られ、写真を隠し撮りされているほどにな……
 あるいは魅了のスキルを保有しているせいか……「私が」その写真を確保した。そしてドッピオよ。
 よく聞くのだ。その男は……奴と同じものを感じる! ジョルノ・ジョバーナとの繋がりを!!』


「じょ、ジョルノ……まさか!?」


『「親子」だ! かつて私がトリッシュに感じたもの――魂の繋がりがある!! 間違いようがないのだ!』


ドッピオも酷く狼狽していたが、それは『ボス』とて同じだ。
かつて地獄に突き落とした宿敵たるジョルノ・ジョバーナ。忌々しい過去、それこそ消し去りたいほどの失敗。
その因縁、忌まわしき過去が、呪いのように付きまとう。
一体どんな運命の影響で、聖杯戦争にて宿敵の『父親』と巡り合わなければならないのか!
落ち着きを取り戻したドッピオは、報告を続けた。


「しかし、ボス……例の集会。どうやらセイヴァーが直接参加する訳じゃないみたいです。
 奴の始末をするなら、潜入するしかないですね。見滝原中学に――」


100 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:35:35 /QP68U/Y0




アラもう聞いた? 誰から聞いた?
時の勇者のそのウワサ

過去に戻り、未来へ渡り
そうして世界を救ったと言われている選ばれしもの

だけど、時の巡り合わせのせいで
歴史に残らず、誰からも忘れさられちゃった

時の狭間を彷徨った末に、この町に辿り着いたって
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ

ヘイ! リッスン!!








―――やはり『似ている』。ジョルノに……


ブローノ・ブチャラティは、吐き気を催す醜悪の化身たるセイヴァーの写真を見て、何故かそう思った。
雰囲気? 容姿?
何か繋がりを感じるのだが確証は掴めない。
一つ明白なのは、このサーヴァントは恐らく『スタンド使い』だろうという事。

ブチャラティが結論に至った理由は、単に己の仲間との繋がりを感じただけではない。
『時間泥棒』のウワサ。
まるでかつて対峙した『パッショーネ』のボスを彷彿とさせる。
否、紛れもなく奴なのでは? と直感を得ていた。


「セイバー、お前はどう思う?」


誰からも忘れ去られた時の勇者に、ブチャラティは尋ねる。
緑の衣を纏ったセイバーは、マスターの話に耳を傾けながらも周囲を警戒していた。
夕焼け色に染まる空の下。
彼らは、何かを警戒するように高層ビルの屋上から見滝原を見降ろしている。


「俺達なりに『ウワサ』を調べ尽くした……その中でも、奴に関しては直接会った人間も居た。
 ……果たして彼らは『救われた』と感じるか? ……俺はそう思わない」


ブチャラティは迷いなく告げた。セイバーも同意するかのように頷く。


「結局、奴はなにも救っちゃあいない。口達者な詐欺師が彼らと話を合わせ、そう錯覚させたに過ぎない」


誰も救っていない。誰もが救われた気になっているだけ。
あるいは、それも『救い』だと誰かが言うかもしれない。
気持ちだけの『救い』だけで前進する切っ掛けとなる人間も、居ない訳がない。
見方次第じゃ真の救世主らしい結果だとしても……セイヴァーは違う。

何故、セイヴァーがわざわざ姿を現し、見滝原のあらゆる住人に接触を試みるのか?
マスターとの接触を狙っている?
ブチャラティは違うと考えた。

利用する為だ。
『パッショーネ』のボスとは異なり、力と恐怖による支配であっても、カリスマ性を生かし、
あらゆる人間を魅了させ、従わせ――彼らを聖杯戦争においての『手駒』として利用する為の下準備。
無関係な者を自分の都合で巻き込む邪悪だ。


101 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:36:18 /QP68U/Y0


―――――カチ    カチ    カチ    カチ    カチ    ………



「ッ!」


時の勇者・リンクは気付く。周囲を見回すが、格別異常は発生していない。
だが、彼は時折――『刻む音』を耳にすることがあった。
それは『どこから』という限定された類ではなく、まるで見滝原全体に響き渡っているかように聞こえる。
時を刻む音。


「なにかあったのか、セイバー。まさか『時の静止』か?」


自らのスタンドを背後に出現させブチャラティが尋ねるのに、リンクは首を横に振った。
歴史から失われたとは言え、リンクは『時の勇者』だ。
時の干渉を行った偉業からか、時に纏わる事象を認知する事が叶ったのである。

例えば―――『時の静止』
リンクが召喚されてから『時の静止』が数回発動している。
『パッショーネ』のボス以外にも、時の能力を持つサーヴァントが存在するのだ。
現時点で『キング・クリムゾン』……即ち『時の吹き飛ばし』は発動した形跡はないのだが………

リンクは感じ取っていた。
『時の吹き飛ばし』……『時の静止』………そんなものを凌駕する存在の気配を。








            :-)









閑静な住宅街の途中。
一人の男性が、それなりの品が入ったビニール袋を片手にぶら下げて歩いていると、奇妙なものと出くわす。
地べたにしゃがみこんで、おかっぱ頭の女性だろうか。ザラザラと砂糖を頬張る。
スナック菓子を口にするような感覚で。
並の人間であれは糖尿病待ったなしな有様。だが、そもそも砂糖をそのまま口にするのが狂っている。
男は、自分は彼女と違って『普通』で『異常』でもなく『正常』なのだと確信していた。


「楽しそうね。ステキなアヒルちゃんと一緒にいたら、きっとタイクツしないよね」


「………」


急に話しかけて来る女性に、男は無視しようかと決め込んだが。
クスクス笑い、彼女は首傾げ尋ねる。


「ねえ。『カラフルな甘いもの』見たことない? みんながウワサをしているの、探してるんだ」


102 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:37:08 /QP68U/Y0
ウワサ?
ああ、確かそんなものがあるんだったか。男は長ったらしい溜息を目立つようにつく。
男はサラリーマンをやっていて、子供騙しで話題に取り上げる都市伝説紛いなウワサには更々興味が湧かない。


「私は見た事ないな。スーパーにでも売ってるんじゃあないかな」


「お肉屋さんには売ってないよ。私、お金は持ってないんだ」


「なら、諦めた方がいいね」


支離滅裂な相手の言葉を適当に相槌していると、一人の少女が必死に走り駆けて来る。
彼女は、男性ではなく。
砂糖を弄んでいる女性の方に呼びかけた。


「『シュガー』さん! な、何もしてませんよね……?」


「『カラフルな甘いもの』はここにはないんだって。一体どこにあるのかな」


「わ、私も一緒に探します。あのウワサが『何を意味するか』も、分かってませんから」


男はウワサの概要に心当たりがないものの。
何を意味するか、とは。所謂、抽象的な表現過ぎて雲を掴むような、曖昧極まりない存在を示すのだろうか。
……まあ、私には関係ないか。
男が直ぐにウワサへの興味を失くす。対して、少女が狂った女性の代わりに謝罪した。


「すみません。シュガーさんがご迷惑かけてしまって……」


「別に構わないさ。君も彼女から目を離さないよう気をつけるんだよ」


「はい……」


少女・環いろはが男性に対し、格別疑念を覚える事は無かった。
見失った自らのサーヴァント――バーサーカーのシュガーを発見した事で安堵したせいか。
最も、男性がシュガーとは異なり『至って普通』に見えたのが一番の要因だったのだろう。
いろはは「男性が常識のある良い人で良かった」と心底気抜けているほど。


103 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:37:43 /QP68U/Y0

「シュガーさん。あのウワサがそんなに気になるんですか?」


「とってもスキテな甘いものよ」


「えっと………多分、食べ物を示しているんじゃないと思います」


「どおして?」


唐突にギョッとさせるような、正気じみた返答をしてきたシュガーにいろはも目を丸くした。
何故。と聞かれても。
いろはの言葉が途端に覚束なくなった。


「きっと『天国の到達』のウワサと同じ、比喩みたいなものじゃないかって。ごめんなさい。でも、決めつけるには」


「さむい」


シュガーの声色はおぞましいものだった。
砂糖を口にせず、視点はマスターのいろはではなく。上空を眺めている。
つられて、いろはも星の煌きが一つ二つ浮かぶ夕暮れ色の空へ視点を移動させた。


「どおして『動かない』のかな」


「……え?」


動かない? 何が?
空は動いている。雲は流れている。太陽も月も、正常に動き続けている。何も、おかしなことはない。
いろはは、シュガーの戯言を間に受けない事にした。







「完成したぞ、マスター。『バステニャン号』だ」


「………は?」


砂糖喰らいのバーサーカーから逃れた男・吉良吉影に待ち受けていたのは、奇天烈な猫の騎乗物だった。
かの天才。レオナルド・ダ・ヴィンチが芸術性の欠片のない、ハッキリ申せば馬鹿の集大成みたいな形状を
一体どうして作り上げてしまったというのか。致命的な欠陥が彼女(本当は彼なのだが)に発生しているんじゃあ……
つーか、これってデパートに置いてある子供が楽しむゴーカートの間違いだろ。

自宅に帰るなり、意味不明なソレを見せつけられて。
吉良は正直、スタンド『キラー・クイーン』で爆発処理しても許されるんじゃあないかと衝動的になりかけた。
だが。
彼はまだダ・ヴィンチにスタンドの存在は愚か、自らの本性だって知られちゃいない。
どうにかソレだけは彼女に伏せなくてはならない。

別に、スタンド能力に関しては明かしても……しかし、
爆弾に変える性質の危険性などを警戒されては『彼女』を切り取る際、上手くいかないかもしれない。
盛大な溜息をつきながら、吉良は適当にテレビの電源を入れる。


104 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:38:15 /QP68U/Y0
「確認するが、それを一体どうするつもりなんだい」


「見て分からないかな? これは移動手段の一つだ。私もサーヴァントだが、敏捷に優れている訳ではないからね」


オイ、馬鹿やめろ。

吉良は意味不明な憤りに満たされまくっていた。
モナ・リザの姿形になっている時点で相当の変人な癖して、あげくにセンスの悪いゴーカートで
見滝原の町を疾走するなど、最早狂人の領域の間違いだろう。
まだ砂糖食ってるバーサーカーの方がマシに感じる。―――と考えたところで、吉良はハタと動きを止めた。


「ちょっと待ってくれないか。この悪趣味な乗り物を『どうやって』作ったんだ?」


「神経質な君も安心できるよう、材料の方は現地の廃材を利用させて貰った」


「そうじゃあないッ! まさか『手』を使って――『彼女』を酷使させたんじゃあないだろうなッ!?」


ついに限界へ到達した吉良の激情に、ダ・ヴィンチは呆れていた。


「前にも言ったじゃないか。私の体は『黄金律』で完璧を保たれて……おいおいおい。
 君、何を買い出しに行ったんだと思ったら『手入れ道具』だったのかよ!
 『バステニャン号』を侮辱した君の行動力も、相当無駄極まりないなぁ!!」


吉良がビニール袋から商品を取り出す光景に、流石のダ・ヴィンチも鋭い突っ込みをかます一方。
テレビの方では、夕方のニュースが開始されていた。
キャスターが緊迫な雰囲気で速報の内容を淡々と読み上げていく。


『えー……速報です。本日昼間、見滝原ショッピングモールにて大量の「赤い箱」が発見されました。
 そして「赤い箱」と共に「怪盗X」と名乗る犯行声明文が残され、
 世界的に有名な歌手、アヤ・エイジアの殺害予告を行いました。繰り返します――』


「……………」


吉良は液晶画面の方を睨むと、突如電源を消してしまった。
ダ・ヴィンチは少々興味深そうに吉良の様子を観察している。


「なんだい? さっきのニュース。聖杯戦争に関わりある重大な事件じゃないか」


「……どうせ彼女の曲が流れたりするんだろう。嫌いなんだ」


「へえ。アヤ・エイジアの曲が?」


「…………誰にだって好き嫌いはある。私は『嫌い』の側に居るだけだよ」


吉良の言葉は本心だろう。
彼は、誰もが感動する筈のアヤ・エイジアの曲を酷く嫌悪している。本当の意味で。
だからこそ、ダ・ヴィンチは関心を覚えた。
何故ならアヤ・エイジアの歌唱技術もまた『本物』なのだ。故に嫌悪する理由があるとすれば……
恐らく――吉良吉影も『世界でひとりきり』という事。


105 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:38:52 /QP68U/Y0




                   ほむらの時間








見滝原の工業地帯。
新都心にある高層ビル群とは対なす位置にある港側。そこでは輸出入の船が停泊する事が多い。
勿論……密輸船も……
今日、この時間に暴力団関係者が銃火器の取引を行う情報を、暁美ほむらは入手していた。
経緯は――複雑極まりない。
彼女のサーヴァント・セイヴァーから教えられたのである。彼も何故その物騒な情報を『どう』入手したのか。
いいや……セイヴァーに関しては不毛だ。『そういう人間』と接触しただけに過ぎない。

彼は、まるでほむらを弄んでいた。実際に遊んでいるのだ。
聖杯獲得の為に、彼女が一体どれだけ絶望と悪を抱え込んで、行動できるかどうか。
『悪』として、どれほど利用価値があるのか。試している……


(悪い事……普通は『悪い事』…………)


しかし、ほむらはこれっぽっちも罪悪感がなかった。
何故なら、似たような手段で銃火器を収集したり、簡易的な爆弾を自ら作成し、魔女との戦いで使用した。
ほむら自身。魔法少女だが、剣や弓や、そういった攻撃する手段がなく。
盗んだ武器や危険な凶器に魔力を付与し、魔女に攻撃してきた。

だが。
邪悪の化身が試すように――彼の方は「君の力になれば」と協力する姿勢で、銃火器密輸の情報を提供してきた。
ほむらは、現実を突き付けられた気がする。

確かにそうだ。
犯罪組織からとは言え、そこから危険な銃火器を盗み出して。
中学生なのに爆弾を作ったりして………普通は『悪い事』………なのに

でも、そうするしかなかった。今回だって同じ。
……サーヴァントに銃火器程度の威力が通用するのか、分からない。何もしないよりは良い筈。
ほむらは自分自身を必死に言い聞かせ続けていた。
これは決して『悪い事』じゃあない、と。


カシャン。


魔法少女に変身したほむらが持つ盾を操作すると、全世界の時間停止が発生する。
誰も、ほむらの姿も彼女の足音すらも聞こえないまま。
目的地の倉庫へ近づくと、明らかな見張りを行う者たちが点々と隠れ、身を潜めているのが分かる。
しかし。無駄に終わる。
彼女は普通にそれらの脇を通り過ぎて、倉庫への扉に手をかけた。――施錠してある。
次元ポケットになっている盾から廃棄物から拾ったバールを引き出し、思い切り叩き壊す。

扉の先には怪しげな男たちが、木箱を移動させている最中で時が静止していた。
ほむらが、既に置かれた木箱の一つを開けると、一見レトルト食品が山積み状態。
だけど、奥底。
表面上の商品をどけてゆけば―――漆黒の凶器が無数に確認できた。


「……あった」


106 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:40:13 /QP68U/Y0
ハンドガン以外にも、一体何の抗争に使うのか。マシンガンやランチャーまで、種類は様々ある。
恐らく、聖杯戦争で利用する為、あえて派手で常識はずれた武器が用意したのだろう。
主催者側が………
聖杯戦争を仕組んでいる存在。
それは白い獣なのだろうか。結局分からないままだ。
でも、きっとどうでも良い事なんだろう。分からないままで、聖杯戦争を勝ち抜けば。


「驚いた。まさか先客が君だったとは――『暁美ほむら』」


「ッ!?」


背後から聞こえる声に、ほむらは飛び上がりそうになった。
知らぬ声だったからだ。
時の介入をしてくるセイヴァーのものではない。第三の存在。新手の敵の出現に、ほむらも混乱に陥る。
振り返った先に居たのは――シルクハットを被り、マントを翻し、優雅な登場を果たすサーヴァント。
魔術師らしい立ち振る舞いをする彼は……なんと『セイバー』だった。


「セイバー?」


ほむらは素っ頓狂な声をあげてしまう。
そもそも剣なんか持ってないし、剣士っぽくないし。普通だったら『キャスター』のような。
金髪の青年・セイバーが少女の驚きに満足した風に微笑を浮かべた。
彼の表情は、まるでマジシャンが自らのパフォーマンスに観客が驚愕したのを満足した。そういうものである。


「フフ、やはり英霊たるもの最優と謳われる『セイバー』のクラスに成れるものなら成るのが当然さ。
 少々これでも無茶をして霊基を弄り、本来の性能より落ちた部分はない訳ではないけどね」


「え……えっと………」


無茶をすればクラスが変わるのか?
というかクラスは、その気になってしまえば変えられるほどガバガバだったり?
困惑するほむらだったが、彼女は最も重要な事を指摘した。


「ど……どうして『わたしの時間』に入門できるんですか? あなたも時の力を………?」


入門、なんて言いまわしは回りくどい。ほむらに、セイヴァーの口癖がついてしまったのだろう。
ほむらの問いに、慎重なサーヴァントならタネは明かさない。
しかし、自己顕示欲の塊なセイバーに関しては、堂々とトリックを公開する。


107 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:40:47 /QP68U/Y0
「私は『怪盗』だ。怪盗は『どんな場所』であれ必ず宝を盗み出すもの―――
 例えそこが『静止した時間』だったとしても、ね」


「………え、なにそれ」


あまりの事に、ほむらの口調だっておかしくなってしまう。
逆に意味が分からなかった。わけが分からなかった。
ふむ、とセイバーは改めて言う。


「ここは言わば『君が支配した世界』。通常、他の存在が介入するのも困難を極める『領域』だ。
 英霊の宝具で例えれば『固有結界』に近しい。だが、怪盗の私はそこへ『侵入』をする」


「か……怪盗………『侵入』………!?」


入門ではない――『侵入』! 怪盗は、通常の手段で宝を盗まない。
警備の目を掻い潜り、巧妙かつ厳重な場所に宝を盗み出すべく『侵入』をする!!
それこそが『怪盗のセイバー』が持つ――『支配された世界』へ『侵入』する能力!!!



「時の支配をも凌駕する怪盗――我が真名は『シャノワール』!
 たった今、怪盗シャノワールが君の世界に『侵入』したぞ! 暁美ほむら!!」







アラもう聞いた? 誰から聞いた?
幻影の怪盗のそのウワサ

奇想天外な手段であちこちを騒がせて
彼に狙われたら最後、鮮やかに宝を盗み出す正体不明の大怪盗!

どこにだって、どこへだって必ず侵入してみせる
それがスマートな怪盗の信条

何があろうと誰も傷づけない素敵な怪盗だって
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ

イッツ・ショータイム!








                 マテリアルが開示されました。






『幻影を刻む刃(ファントムシーフナイフ)』
ランク:A++ 種別:対界宝具
 シャノワールが持つ短剣。主に戦闘ではなくキーピック、建物侵入などに使用される。
 如何なる場所にも侵入し、カッコ良くスマートに盗む彼の信条と逸話が昇華。
 即ち、本来身動きに制約が設けられる「支配された空間」に侵入し、縛られず、自在に行動できる。
 どのような場所であれ、必ず侵入してみせる。それが怪盗である。







108 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:41:56 /QP68U/Y0
乾いた拍手がゆったりと響き渡る。


静止した『ほむらの時間』に介入が許されるのは、時の力を有した存在のみ。だったが
セイバー……怪盗シャノワールの例外が現れた事に、それは否定せざる負えなくなったのだ。
しかし、基本は変わらない。
シャノワールが規格外であって、本来ならば時の支配を有する者にしか、入門は叶わないのである。

―――拍手の主たる悪の救世主・セイヴァーのような。

倉庫内にある積まれた入れ物で構築された山の頂きより、セイヴァーは彼らを見下す。
ほむらは息を飲む。
シャノワールは、酷く冷淡に、先ほどまでのエンターテイメント溢れる表情は消え失せる。
邪悪な瞳を持つセイヴァーの様子は、愉快そうだった。


「幼稚な異名を持つサーヴァントの実力など、取るに足らないと正直思っていた。
 ……シャノワール。君が彼らに『予告状』を送りつけたのを知り、私の側に引き込もうと待ちかまえていたのだがな」


「成程。マスターの彼女を囮に使った訳か。やはり君とは相いれない」


シャノワールから覆しようのない敵意を確認し、不敵に笑うセイヴァーはナイフを取り出す。
通常、普通の武器はサーヴァントに通用しないのだが。
生前のセイヴァーが口にしない宝具の真名を静かに呟いた。



「『漆黒の頂きに君臨する王(ヴードゥーキングダム)』」



瞬間、ほむらは気付く。
セイヴァーより呪いを帯びた悪が流れ、ナイフの形状が変化する。あれは武器が強化された?
ほむらは確信を得ていた。あれは『魔女』の呪いだ。
セイヴァーは、ほむらのソウルジェムから穢れを吸収し、そして自らの力に変換している!


「ならば一つ試そう。シャノワール! 私の『世界』にも『侵入』してみせろ!!」


人型の精神の具現化・スタンドと称されるセイヴァーの宝具が、彼の傍に現れた途端。
―――『ほむらの時間』は一瞬にして『セイヴァーの世界』に支配された。
塗り替えられた! 圧倒的な力を以てして!!
支配者ではなくなったほむらは、指一本すら動けず、ただ『セイヴァーの世界』だけを認知する傍観者へと変わり果てる。
セイヴァーの支配が強大な状況下で、シャノワールが動く様子はない。

無常にセイヴァーは宝具で強化されたナイフをシャノワールに投擲。
が、待ちかまえていたのだ。
銃の早打ちの如く、シャノワールは水の魔力放出で強化した予告状でナイフを打ち返す。
簡単にやってのけるが、双方のスピードは銃弾並のもの。
人間の動体視力で『銃弾を銃弾で弾く』凄技を会得するのは、ほんの一握りだろう。


109 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:42:42 /QP68U/Y0
そう。『人間』だ。
怪盗シャノワールは英霊であっても『人間』の分類される。
魔族でも神でも異世界の異種族でもなんでもない。人間の身でこの領域に到達している!

それを目にしたセイヴァーは苛立ちや憤りとは違う。
ある種の『歓喜』を胸に、さらにナイフを取り出し『漆黒の頂きに君臨する王』による穢れの付与を行いつつ。
頂きより舞い降り、シャノワールへ接近をする。


「打ち返すか! このDIOの攻撃を。そして『侵入』するか! 『私の世界』に」


「――私は戦いに来たのではない。あくまで『目的』を果たす為だ」


冷静な声色で告げるシャノワールだが、彼の手元にはセイヴァー同様、魔力で強化された予告状が無数にある。
遠距離より無尽蔵に投擲されるセイヴァーのナイフを、急ぎ足の速度で移動しつつも。
シャノワールは再び全てを討ち弾き。
また水の魔力を変換し、凍結を発生させたのだ。
後より撃ち放たれるナイフは、水の含んだ予告状から拡大していく氷の盾に阻まれる。


「『目的』? 君ほどの力を持つ存在が『怪盗』などと低俗な遊びで満足できるのかな」


「私の師匠と同じ事を言うのか。残念だが、私は君のような『悪』を赦す訳にはいかない」


「なら、どうする。殺すか?」


「殺さない。それは怪盗の美学に反する」


許し難い悪を前にしても、シャノワールはしかと美学を貫いた。
誰かはそれを認めず。
誰かはそれを止めろと言い。
誰かはそれを否定し。
悪の救世主は、必ず打ち滅ぼさなければならないと黄金の精神を持つ者が叱咤したとしても。
怪盗は、そんな事をしない。声を大にしてシャノワールは自らの在り方を曲げる事は無いのだろう。


「ほう? 面白い――が、無駄だ」


冷酷にセイヴァーはスタンドの拳で氷の盾を破壊する。……が、その先にシャノワールの姿はなかった。
セイヴァーは、シャノワールを取り逃がした事より。彼が『成し遂げた』事に不愉快な感情を抱く。
救世主は静かに告げた。


「……時は動き出す」


「!」


ほむらが時の再生を感じると共に、放射状になって空中で弾きが静止していたナイフと予告状の衝突音が
歓声のように響き渡り、静止状態にあった犯罪組織の人間も謎の現象に、叫んだ。
耳を塞ぎつつ、ほむらが衝突による衝撃を耐えながら、木箱の中身を確認すると――ない。


「………あっ!?」


銃火器が『ない』。『盗まれた』!
そうだ。ほむらは思い出す。セイヴァーが、シャノワールの『予告状』を知り、ほむらをここまで誘導した。
シャノワールは『何の予告』をしたのか?
今、分かる。
彼はほむらと同じく『銃火器を盗み出す予告』を犯罪組織に出したのだ!
通りで表沙汰に聞こえない『予告』だった訳だ。
だとすれば――全て盗まれてしまっている………ほむらは兎に角、一旦この場から逃げ出すのを優先した。






110 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:43:44 /QP68U/Y0




                 マテリアルが開示されました。





『漆黒の頂きに君臨する王(ヴードゥーキングダム)』
ランク:EX 種別:対悪宝具 レンジ:1 最大捕捉:この世すべての悪
 ジョースターの一族とDIOの因縁。死後もなお因果を紡いだ『悪の根源』による宝具。
 悪に通ずるものはDIOに還元される。悪がDIOを根源とし、彼の元へ帰る。

 彼が直接触れた『悪』は全て無力化され、還元される。
 彼の中に蓄積された『悪』は魔力付与・能力強化に変換出来る。
 この宝具で『悪』が付与された武器等は、サーヴァントにダメージを与えられるようになる。
 直接的接触が不可能な現象や規格外な領域に関しては、無力化することが叶わない。

 『黄金の精神』を持つ者に対しては、この宝具はまるで通用しない。

 サーヴァントが持つ属性だけではなく「何も知らない無知な者を利用する」「自分自身の為だけに弱者を踏みつける」
 世間体だけが客観的に見た外道や悪党にも『悪』に分類されかねない。
 対する『黄金の精神』とは正義の輝きの中にある精神を示す。
 勇気、優しさ、覚悟、潔さ……解釈は様々あれどそれらは全て『人間賛歌』に通ずるのだ。







「シャノワール……非常に惜しい英霊だが、奴の精神は確固たるものだ。始末するしかないな」


セイヴァーが冷酷に下した決断は、無常の象徴だ。
ほむらは何も。彼をどう咎める事もしない。先ほどの交戦で一部崩落の発生している倉庫を横目に


「私が生前、天国への到達が叶わず。ジョースターの血族に敗北したのは
 ―――『信頼できる友と巡り合えなかった』からだろう」


見滝原の夜景をバックに救世主が語った。
ほむらは非常に困惑する。彼は言葉に迷いがない。表情に感情は無く、確証を持っているのは明白だ。
救世主がほむらに振り返り


「君で言う『鹿目まどか』のような存在が」


と続けた。
ほむらは深刻な顔で、眉間にしわを寄せている。彼の主張が腑に落ちない。
生前の彼が如何なる人物か、全貌を把握していないものの。ほむらは純粋かつ単純に反論したかった。

―――貴方に、友達なんて必要なの?

どうせ利用する為だけの存在の筈。


「私の『異なる側面』が天国に到達した記録がある。だが、私の中に詳細な情報が抜け落ちている……
 他にも、私の記憶や情報に幾つかの欠陥が生じている。恐らく『俺』の方のみ開示が赦されるのだろう」


111 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:44:12 /QP68U/Y0
彼は指を額にあて、思考する。
時折、口にされる意味不明な内容に、ほむらは反応しようがなかった。
救世主の言葉を拾うに、彼本来とは別であるかのように振舞っている節があり。
彼自身、個別扱いを主張を前面にしていた。


「『過程』は不明だが、天国に到達した『俺』も敗北に終わったのだ」


故にセイヴァーは結論した。


「再度、天国への到達に関し精査しなければならない」


何か問題がある。
恐らく手順に問題はない。魂の収集方法か。信頼するべき友を間違えたか。
生前、異なる自分自身も見落とした綻びが確かにある筈なのだ。
原因究明を果たし、改善しなければ完全なる天国の到達は望めないまま。再び『失敗』してしまう。

ふと救世主は語るのをやめ、頭上を見上げた。


聞こえる。


彼には耳障りな、時を刻む音が聞こえていた。
シャノワールへの失望とは対なすような不快感を、セイヴァーは顕わにした。


「神が嗤うな」








                 マテリアルが開示されました。







悪の救世主:A
 ある種のカリスマを発揮する。救いを求める『悪』ならば彼に助けを乞う。
 必ずしも『悪』が彼に屈する訳でもないが、注視せざる負えない関心を抱かさせる。

 威厳を失わず、妖艶で人を引き付ける魅了も、吐き気を催すような畏怖も。
 どこかの誰かが『勝手に』感じたDIOという人物の側面でしかない。
 つまるところコレは一種の『無辜の怪物』である。

 人格や精神面にも影響がある他、一部の記憶が欠如している。
 悪の救世主に、彼に心を許せるような信頼しえる『友』など存在する訳ない。









        ぐる  ぐる  ぐる  ぐる  ぐる  ぐる  ぐる  ぐる








112 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:45:10 /QP68U/Y0

「12時に秒針が揃ったら魔法が解けちまう。まるでシンデレラじゃねえの」


黒の礼服とシルクハットを身に付けた無精髭の悪魔が居た。
悪魔が振り返った先は、マンションの一室で緊張気味で非常に顔の強張った少女が沈黙している。
まるでステージ前で緊張するアイドルみたいに。
否。
少女・島村卯月はアイドルだった。元々本来居るべき世界では。
なんだかんだ、彼女は普通の少女でしかない。途方もないファンタジーの世界に放りこまれた無力な少女。
ニッと意地悪そうに笑い、悪魔は彼女に顔を近付けた。


「うーーーーづきぃチャ〜ン!」


「うわああぁぁぁ!?」


卯月は盛大に倒れ込んだ。
これでも聖杯戦争のマスターなのだが、リアクションから発言まで、やっぱり日常が抜け切ってない普通さ。
にやにやする悪魔が、卯月に対して笑いこぼして問う。


「おいおい、そんなんで大丈夫かぁ? 卯月ちゃんよ」


「は、はいぃぃ! 頑張ります!!」


「え? なに頑張るの??」


「と……とにかく頑張ります! 分かってます。私、頑張らなくっちゃいけないんです!!」


彼女だけは知っている。このままでは友人が殺されてしまう。
最悪の未来を。どうにかして回避しなければならない。だから『頑張る』。普通の彼女だからこそ頑張るしかない。
今日までのうのうと、聖杯戦争の開幕を待ちかまえてた訳ではないのだ。
なのに。
卯月は浮かない様子だった。


「一応、色んなウワサを集めてみたはいいんですけど……全然意味が分からないのが多くて」


「アレね。全然ヒントになってないからスルーして問題ないよ?」


「………ええ」


悪魔の呆気羅漢な発言に卯月の力んでいた姿勢が、一気に脱力感へ変貌する。
そうだねぇ。と悪魔が一つ挙げた。


「『天国に至る手順』のウワサってあるだろ?」


「あっ。それ、一番わからなかったんです。アサシンさんには心当たりがあるんですか?」


「んひひ。重要なのは『世界が巡り巡って』の部分だ。いい例えってなんだろーなぁ……
 卯月ちゃん。『タイムラプス』くらい知ってるよな? 静止画つないで動いているようにするの」


「は、はい。知ってます」


「夜空のタイムラプス! ありゃ見方によっちゃ『世界が巡ってる』ように感じねぇか?」


113 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:45:53 /QP68U/Y0
マンションのベランダから望める夜空を指し示す悪魔。
この世界は。この夜空は、きっと島村卯月の居た世界のどこでもない。
恐らく見滝原と呼ばれる町すら、卯月の世界には存在しない。
聖杯戦争の舞台装置として設定されたものばかり、夜空だってそう。何もかも。
悪魔が面白可笑しく、道化のように答えを告げた。


「つまり正解は―――『時の加速』だ。世界の時間をタイムラプスみたいに加速させ巡り巡らせる。
 ってな? 捻くれたヒントだろ、こんなん。要するに、深く考えないでライブ感味わった方がお得よ!」


「は……はぁぁ〜………」


卯月は脱帽の溜息をつくしかなかった。
確かに、悪魔の解説がなければ卯月には到達できない真実である。
そもそも『時の加速』なんて物騒な力を持つサーヴァントがいるのすら恐ろしいのに。
ふと、卯月は――もっと前に尋ねるべき事を、今更ながら悪魔に――アサシンに言う。


「あの。アサシンさんの願いって何ですか?」


「……んー?」


挑発的にアゴを上げて見下ろすアサシンに、卯月は慌てて加えた。


「すみませんッ。でもその、私、ずっと落ち込んでばっかりで、肝心な事を全然聞いてないって気付いたんです」


「………」


卯月は記憶を取り戻してからは、引きこもって学校にも行かなかったし。
戦争なんて聞いて、恐怖で心が支配されていた。
だけど――皮肉にもアサシンから渋谷凛の死を教えられ、ようやく自分は立ち上がれたのだと卯月は思っている。
最も、アサシンは卯月を元気づけた訳じゃない。ちょっとした『勘違い』だ。
所謂『勝手に救われてる』。アサシンは、そんな卯月に対し唸って。


「願いねぇ。今は秘密ってことで」


そう不敵に嗤った。







アラもう聞いた? 誰から聞いた?
カラフルマーブルのそのウワサ

この見滝原には素敵で鮮やかな色をした
色んなマーブルがあちこちに散らばってる

そのマーブルが混ざっていくと
とっても楽しい舞台が始まるんだ!

ケタケタと嗤う悪魔がマーブルをかき混ぜてるって
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ

ぐるぐるぐるぐる






114 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:46:53 /QP68U/Y0
聖杯戦争開始までもう僅かな時間しか残されていない。漆黒の翼を彷彿させる渦と共に出現する悪魔。
彼をアサシンとクラス名で呼ぶのか?
もしくは、独特な笑いで見下すメフィストフェレスか?
あるいは、どこかで呼ばれた名、杳馬か?
どれでもなかった。彼は―――悪魔の皮を被った『神』だった。

広大な見滝原の夜空を望む場所より、その神が上空に手をかざしてみると
夜空を埋め尽くすおぞましい歯車と時を刻む強大な時計が出現する。
それを視認することは、彼以外叶わない。『ある時』の具象化でしかない。
カチカチと一定の速度で刻み続ける『時』に、神は満足げだった。


「本日も時の『速度』に異常なし! 一刻一秒平常運航―――『時の加速』は発生せず!!」


笑う顔は『悪魔』のものではなく『神』の恐ろしさが垣間見えている。


『時の加速』。
時に集いし英霊の中にそれを司るのは、ライダーのエンリコ・プッチである。
彼は世界を一巡させる天国への到達。
『天国への階段(ステアウェイ・トゥ・ヘブン) 』を発動させるようとした。
しかし、彼は「何故か発動できない」と判断した。
それは実際に加速が始まっておらず、世界は巡らず、平常に正常に時を刻み続けていたから。
魔力が足りない。条件が整っていない。他の原因があるのでは? と。


まさか―――時の加速が妨害されているとは、夢にも思わずに。


宇宙規模の加速とはいえ『加速』がいきなりトップスピードで発生しないように。
最高速度状態の『加速』を阻止しているのでなく。
『加速』にブーストがかかる手前で妨害を加えているので、魔力の負荷も大したものじゃなかった。


「世界を加速させて『自分勝手に』ぐるぐる巡り巡って、舞台を強制的に終わらせる?
 ハッ、つまらんね! 理不尽な打ち切りエンドは誰も望んじゃいねぇ。
 まあアイツも重要な役者だから退場させる訳にもいかないんだよなぁ〜」


手元に無数の球状ヴィジョンを通し、聖杯戦争のマーブル模様を産み出す色彩たちを眺め。
深くシルクハットを被りながら神は宣言した。


「つまらん結末には『俺がさせねぇよ』。安心しな! 出演者諸君!!」


と、神らしさはここまで。
陽気に満面の笑みを楽しげに浮かべてメフィストフェレスの杳馬は告げた。


「それでは間もなく聖杯戦争開幕! 張り切って頑張りましょう!!」






ライダー(エンリコ・プッチ)の『天国への階段』は
アサシン(杳馬)の『時よ止まれ、お前は美しい』により発動が妨害されています。
アサシン(杳馬)が妨害を解除、もしくはアサシン(杳馬)の消滅により『天国への階段』は再開します。





115 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:48:00 /QP68U/Y0
【???】


「さて……いま教えてあげられる情報は、このくらいかなぁ」


青色の室内で金髪の少年が不敵な微笑を浮かべた。
彼は『情報屋』だ。
この聖杯戦争において必要な情報を提供する、ゲームにおいてヒント役のような存在。
最も。
今回に関して、彼は中立ではない。
彼もまた聖杯を求めんが為に召喚された英霊の一つなのだ。
ルーラーではない。彼もまた、彼のマスターが為に力を振るわんとするサーヴァントの一騎。


「そうだなぁ。じゃあもう一つ話をしようか。ある『女の子』の話を」


一人の少女がいた。
不思議の国に迷い込んだ少女と、そんな少女の側面を形取った鏡合わせの英霊。
鏡合わせの英霊は少女との絆の力で、少女の姿を保ち続ける事が叶った。
果たして時空を超えた奇跡は、本当に奇跡なのか。あるいは『呪い』なのか。
答えは、誰にも分からない。


「僕と『彼女』は別なんだ。まあ、別にならなければ、僕は僕として召喚されていないんだけど」


嗚呼。情報屋は物のついでのように加えた。


「僕の場合はどうかって? それは分からないなぁ……まだ、ね。この先、どんなエンドロールを迎えるか次第さ」


「もし……僕が『僕』で在り続けたい。そう願うような絆があれば、僕は『僕』として誰かに召喚されるかもね」


「それじゃあ、最後のウワサで終わりにしようか」




アラもう聞いた? 誰から聞いた?
永遠に続くエンドロールのそのウワサ

誰にも邪魔されずに平和で優しく愛おしい世界
誰かが望んだ永遠の世界

あなたがそこに迷い込めば――――………


あれ? 忘れちゃったかな? こう言うのさ。


『哀れで悲しいトミーサム、色々ここまで御苦労様。でも冒険はお終いだ』


『だってもうじき夢の中。夜の帳は落ち切った。キミの首もポトンと落ちる』


『さあ――嘘みたいに殺してあげる。ページを閉じて、さようなら!』


116 : 天国より野蛮 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:48:51 /QP68U/Y0
                      ―――登場キャスト―――
              

               暁美ほむら&セイヴァー(DIO)

               渋谷凛&セイバー(シャノワール)

               巴マミ&ランサー(鈴屋什造)

               桂木弥子&アーチャー(霧雨魔理沙)

               レイチェル・ガードナー&ライダー(ディエゴ・ブランドー)

               吉良吉影&キャスター(レオナルド・ダ・ヴィンチ)

               アイル&アサシン(ディアボロ)

               X&バーサーカー(カーズ)

               逢沢綾(アヤ・エイジア)&アヴェンジャー(ディエゴ・ブランドー)


                                     ―以上、◆xn2vs62Y1I作―



               ブローノ・ブチャラティ&セイバー(リンク) ◆7PJBZrstcc氏

               美樹さやか&セイバー(アヌビス神) ◆Jnb5qDKD06氏

               ディオ・ブランドー&ランサー(レミリア・スカーレット) ◆DIOmGZNoiw氏

               鹿目まどか&ランサー(宮本篤) ◆ZbV3TMNKJw氏

               佐倉杏子&ライダー(マルタ) ◆HOMU.DM5Ns氏

               白菊ほたる&ライダー(エンリコ・プッチ) ◆RVPB6Jwg7w氏

               ラッセル・シーガ―&アサシン(ナーサリー・ライム) ◆GO82qGZUNE氏

               優木沙々&アサシン(マジェント・マジェント) ◆cgWdPX4osQ氏

               島村卯月&アサシン(杳馬) ◆dt6u.08amg氏

               たま(犬吠埼珠)&バーサーカー(徳川家康) ◆T9Gw6qZZpg氏

               スノーホワイト(姫河小雪)&バーサーカー(ヴァニラ・アイス) ◆XjwV8kaNTA氏

               ホル・ホース&バーサーカー(西条玉藻) ◆c4fux.z/qk氏

               環いろは&バーサーカー(シュガー) ◆Pw26BhHaeg氏

               ジリアン・リットナー&アヴェンジャー(アントニオ・サリエリ) ◆VJq6ZENwx6氏

               マシュ・キリエライト&シールダー(ブローディア) ◆RVPB6Jwg7w氏


                                            



     これは魔法少女の物語でも、善悪の物語でも、人間賛歌の物語でもない。


     この世界でありふれた、決して特別なんかじゃない。至って普通の――『救済』の物語だ。


117 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:50:53 /QP68U/Y0
OPはこれにて投下終了です。
次からルール説明等のテンプレをはらせていただきます。


118 : ルール説明 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:51:56 /QP68U/Y0
<設定>
何者かによって再現された『見滝原』が舞台です。電脳世界ではなく現実世界です。
見滝原の周辺には結界のような物が施されており脱出は困難を極めます。

聖杯戦争への参加条件は『ソウルジェム』を手にする事です。
『まどか☆マギカ』の設定とは異なり、無色透明の宝石状態です
ソウルジェムを手にした者が舞台の『見滝原』に転移されます。
そこで記憶を取り戻すことでマスターとして覚醒し、サーヴァントを召喚します。

マスターは基本な聖杯戦争の知識を与えられます。それに加え『ソウルジェム』に関する情報も与えられます。
ちなみに舞台は日本ですが、異国・異世界の人間も生活に支障のないよう言語に不便がないよう処理されています。


<ソウルジェムについて>
ソウルジェムにサーヴァントの魂を7騎分回収することで『聖杯』として完成され、主従は願いを叶えられます。
ソウルジェムは原作の設定同様、指輪の形になります。

ソウルジェムは色のない透明な宝石です。
サーヴァントの魂が入ると宝石に色が入ります。色に関しては書き手様の自由にしていただいて構いません。
サーヴァントの魂が加わる度、色も変化するでしょう。

双方の同意の元ソウルジェムを合わせることでソウルジェム内にあるサーヴァントの魂を受け渡す事が可能です。
ソウルジェムは原則、主従に一つの配布です。
物理攻撃でソウルジェムの破壊は不可能です。サーヴァントあるいは魔術系統の攻撃でのみ破壊できます。
ソウルジェムを破壊等で失ったとしても、新たにソウルジェムを配布することは基本的にありません。
特別な事情でソウルジェムが配布されることがありえるかもしれません。

倒されたサーヴァントの魂は自動的に『ソウルジェム』へ移動します。
ただし、近くにある『ソウルジェム』に移動する性質の為、倒す際には注意が必要です。


<マスターについて>
令呪の全消費=マスターの死亡ではありません。
サーヴァントを失ったマスターは、聖杯戦争終了まで見滝原に残り続けます。
上記のマスターは新たにサーヴァントと再契約することが可能です。


<NPCについて>
見滝原にはNPCがいます。基本的には何の能力もない再現された偽物ですが
NPCにはマスター候補として呼び出され、記憶を取り戻してない者もいるかもしれません。

過度のNPCの殺生及び魂喰いに対し、現時点でペナルティはありません。


119 : ルール説明 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:52:51 /QP68U/Y0
<追記事項>
聖杯戦争本戦開始は月曜日の深夜0時となります。
これ以降、魔力感知や制限されていた一部の能力が解除されます。
正午と深夜の0時に定時通達が行われます。
例え脱落者がなく、聖杯戦争に関わる重大報告がなくとも通達はあります。

『聖杯』が一つ作成された時点で『聖杯戦争が終了することはありません』。
『聖杯』を獲得した主従が帰還を果たすことはありません。
そして『聖杯』を獲得した主従の契約が終了する事はなく、サーヴァントも現界を継続し続けます。
詳細な当聖杯戦争の終了条件は、現時点では不明とします。


<討伐令>
セイヴァー(DIO)もしくは、暁美ほむらの死亡。
報酬として、令呪一画。可能な限りの武器を含めた物品支給。あるいは聖杯戦争を放棄して帰還する権利。
参加主従全てにルール概要と共に、両名の写真と討伐令が配布されています。
情報は写真他、セイヴァーのクラスとマスター、暁美ほむらの名前のみです。
また当事者らに討伐令の概要は渡されません。


<捕捉>
ライダー(エンリコ・プッチ)の『天国への階段』は
アサシン(杳馬)の『時よ止まれ、お前は美しい』により発動が妨害されています。
アサシン(杳馬)が妨害を解除、もしくはアサシン(杳馬)の消滅により『天国への階段』は再開します。

セイヴァー(DIO)のスキル『悪の救世主』は配布された写真を通しても多少のミーム汚染を起こします。
影響が強いのは悪に属する者が基本ですが、精神次第では善良な者も感化されてしまいます。
 
現時点で暁美ほむらとセイヴァー(DIO)の時の静止を、時の世界を認知できる存在は把握しております。


120 : ルール説明 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:53:59 /QP68U/Y0
<時の入門に関する概要>
 当企画において『時に干渉・関与する能力や可能性を秘めた者』は時の世界に入門が可能です。
 現時点までの参戦者たちの入門具合。もしくは制約をまとめました。


セイバー(リンク)
 スキル『時の勇者』により時の世界を認知しております。
 彼は時を操る能力を失っておりますが、支配された時の世界を自由に行動する事が可能です。
 ただし『深紅の帝王の宮殿』で消し飛ばされた時間の記憶は引き継げるか怪しいです。

セイバー(シャノワール)
 宝具『幻影を刻む刃』により支配された空間に『侵入』します。
 彼自身に時の能力はありませんが、支配された世界に侵入し、自由に行動する事が可能です。
 また『深紅の帝王の宮殿』で発生した事象をハッキリ記憶できる数少ない存在です。

ライダー(エンリコ・プッチ)
 宝具『神の思し召し』。時の加速を保有するスタンドを保持しています。
 時を止めた世界などを視認し、話しかける事ができます。

アサシン(ディアボロ)
 宝具『深紅の帝王の宮殿』により未来予知と時間を消し飛ばしを行います。
 『深紅の帝王の宮殿』で消し飛ぶ時間は、時の能力を保持するもの全てが認知する事が可能ですが
 消し飛んだ時間で発生した出来事を記憶できるかは、個人差があります。

アサシン(杳馬)
 宝具『時よ止まれ、お前は美しい』。生来の時空間操作能力を保持しています。
 しかし現在エンリコ・プッチの宝具を妨害している為、時の能力使用に多少なりの負荷がかかっています。

アヴェンジャー(ディエゴ・ブランドー)
 宝具『THE WORLD』。5秒間の時間停止を行います。
 時の世界の認知や入門も可能ですが宝具『世界』よりもパワーや能力は劣っております。

セイヴァー(DIO)
 宝具『世界(ザ・ワールド)』。この宝具の真価は確実に時間停止の時間が延長しつつあること。
 最良の血や適した魔力を得れば確実に生前よりも凌駕していくことでしょう。

暁美ほむら
 時の世界の認知と時間停止の能力を行います。
 ただし、彼女の世界(時間停止)は時の能力を保持するサーヴァントには容易に入門されます。

吉良吉影
 彼が絶望しきった時に、それは訪れる。


121 : ルール説明 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 21:55:07 /QP68U/Y0
<見滝原中学校在籍マスター>
白菊ほたる
犬吠埼珠(たま)
レイチェル・ガードナー

鹿目まどか
美樹さやか
佐倉杏子
暁美ほむら
ラッセル・シーガ―

巴マミ
ジリアン・リットナー
優木 沙々
環いろは


<地図に追記される施設情報>
B-2 見滝原高校
B-3 暁美ほむらの家
D-2 鹿目まどかの家
D-6 巴マミの家
C-8 教会跡→佐倉杏子の家



――予定表――
〜月曜日 夜八時〜 アヤ・エイジアのテレビ局生ライブ。怪盗Xが犯罪予告。
〜火曜日 夕方六時〜 悪の救世主に感化された人々による集会が市民ホールで開催予定。
〜水曜日 夕方六時〜 市民ホールでジリアンたちのピアノコンクールが開催予定。




【時間表記】
未明(0〜4) ←この時間からスタートです
早朝(4〜8)
午前(8〜12)
午後(12〜16)
夕方(16〜20)
夜間(20〜24)


【状態票のテンプレート】

【地区名(建造物及び場所の名前)/○曜日 時間帯】

例:【見滝原中学校/月曜日 午後3時】

【名前@出典】
[状態]
[令呪]残り◯画
[ソウルジェム]有か無と記入。複数ある場合は数を明記して下さい。
       魔法少女の持つソウルジェムではなく、聖杯用ソウルジェムを示すので注意して下さい。
       それと複数魂が混入済みの場合、その数も明記して下さい。
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]


【予約期間】
延長なしの一か月となります。
主催側は>>1のみが予約可とします。
それ以外の全ての主従に関しては予約自由です。

ついでの注意事項となりますが、今回はディオという男が4人もいるので予約する際
マスターか、セイヴァーか、ライダーか、アヴェンジャーか。しっかり明記を上、予約をして下さい。
御手数かけますが、よろしくお願いします。


122 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/11(月) 22:00:16 /QP68U/Y0
以上でテンプレ投下を終了します。
予約解禁は6/12 0時(6/11 24時)より解禁します。投下に時間がかかってすみませんでした。
天国よりも野蛮な聖杯戦争の完結まで頑張ろうと努力します。
最後に、ここまで応援して下さった皆様。本当にありがとうございました。


123 : 名無しさん :2018/06/11(月) 22:11:30 2DN51v3o0
お疲れ様です

セイヴァーDIOは主催側ではなく予約可能ってことか
てっきりこいつが主催だと思い込んでた


124 : 名無しさん :2018/06/11(月) 22:15:41 YXD40mhg0
乙でした


125 : 名無しさん :2018/06/11(月) 22:48:44 zUPPOQz.0
投下乙です
OP楽しませていただきました


126 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/12(火) 00:02:46 h4ZR.Trg0
まどか&ランサー予約します


127 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/12(火) 00:08:01 Vot/3A4A0
皆さま感想ありがとうございます。
早速ですが、セイヴァー(DIO)、いろは&シュガー、ナーサリーライムで予約します


128 : ◆dt6u.08amg :2018/06/12(火) 00:19:56 Lpnm0unk0
渋谷凛&シャノワール 予約します


129 : ◆dt6u.08amg :2018/06/13(水) 00:38:32 7V9uSQqs0
投下します


130 : Easy Mission ◆dt6u.08amg :2018/06/13(水) 00:38:56 7V9uSQqs0
「――で、これどうするの」

自身のサーヴァントが持ち帰ってきた『盗品』を前に、凛は呆れた声を漏らした。
拳銃。ライフル。機関銃。挙句の果てにロケットランチャー。
TV番組や映画でしか見たことがないような凶器の数々が大量に積み上げられている。

「君が使うといい。私には不要なものだ」
「いやいや、使えって言われても使えないから……」
「達人のように使いこなす必要はないさ。サーヴァント相手には心許ないが、身を護る術として活用してくれたまえ」

――セイバーのサーヴァント、シャノワールは筋金入りの変わり者だ。
どんな宝でも盗み出すと豪語し、相手を傷つけないという信念を持ち、盗みの前には必ず予告状を出して自己アピールをする。

それを思い返して、凛はふとした違和感を覚えた。
自己愛と自己顕示欲と潔癖症的な拘りがヒトの形を成したようなこの男が、果たして銃火器などを『宝』と見なすのだろうか。

もちろん、本当にこういうモノも盗む対象と認識しているだけという可能性も普通にある。
金額的には間違いなく高額だろうし、この国ではまず手に入らない希少品揃い。
保有している者達も普通の人間ではないので、怪盗がターゲットにしてもおかしくはないのかもしれない。

けれど、そうではなかったとしたら。他にもっと重要な目的があるとしたら。
それはきっと――

「ねぇ、セイバー。これを盗むときに他のサーヴァントと戦ったりした?」
「鋭いな。なかなかの推理力だ。お察しの通り、君が手配写真を受け取ったセイヴァーと暁美ほむらに遭遇した」

セイバーから犯行時の顛末を説明され、凛は息を呑んだ。

「もしかして、他のサーヴァントを誘き出すために予告状を出したの?」
「さぁ、どうだろうね。少なくとも私は、何を盗むとしても予告状を送ることを信条にしているよ」

セイバーは凛からの追求をさらりとかわし続ける。
まるで蜃気楼を掴もうとしている気分だ。どんな角度から触れようとしても手応えがない。
結局、凛はセイバーの意図を聞き出すことを諦めることにした。

「まぁ……こんな危険物が他のマスターの手に渡らなかったんだから、良いことではあったのかな」

事実、暁美ほむらは銃火器の調達を試みていた。
セイバーが先んじたことで失敗に終わったが、そうでなければこれらの凶器は彼女の手に渡っていたのだ。

「(ただの中学生だと思ってたけど、普通じゃなかったんだ……)」

例の手紙を受け取り、討伐令の存在を知ったとき、凛は暁美ほむらのことを無力な少女だと認識していた。
しかし、どうやらそれは先入観による誤認だったらしい。

セイバーが言うには、暁美ほむらは時間を止める特殊な力を持っている。
彼女は被害者になるだけのか弱い存在ではなく、むしろ人間離れした部類に入る存在だったのだ。
しかもそれだけに留まらず、こんなにも物騒極まりない武器を手に入れようとしていたのである。

これはもう認識を改めなければならない。
セイヴァー・DIOだけでなく、そのマスター・暁美ほむらも討伐されるほどの理由がある――のかもしれない、と。

念のため現在時刻を確認しておく。日曜日の午後九時。まだ『本戦』までに余裕がある。
今から現地に向かえば『本戦』開始には余裕を持って間に合うだろう。

「セイバー。一つ頼まれてもらえないかな。手に入れたいものがあるんだけど」
「おや、盗みのリクエストかな。では、まずは予告状につける香水を選ばなければ」
「……待った。学校に行って生徒の情報を取ってきてほしいだけだから。予告状とかはナシでお願い」
「それはできない。どうしてもと言うのなら令呪を使いたまえ。一画では足りないかもしれないがな」

凛は片手で頭を抱えた。筋金入りにも程がある。
この怪盗の価値観は何があっても変えられないという確信を抱かされてしまう。
思い通りに動いてもらいたければ、こちらが態度を工夫するしかなさそうだ。

「だったら、私を見滝原中学校の職員室まで連れて行って。誰にも気付かれないように」
「フフ、自分が盗みを試みるから援護してほしいということか。いいだろう、それならば君の流儀を尊重するとしよう」
「泥棒しにいくわけじゃないからね。必要な情報を集めにいくだけだから」


131 : Easy Mission ◆dt6u.08amg :2018/06/13(水) 00:39:27 7V9uSQqs0
そして凛は、セイバーの支援を受けて見滝原中学校の職員室への侵入を果たした。
正直、びっくりするくらいに簡単だった。
セイバーは物理的な施錠も電子警報も容易く無力化し、誰に気付かれることもなく凛を目的地へ送り届けたのだ。

「さて、私のマスターのお手並みを拝見するとしようか」
「だから泥棒じゃないってば」

凛はこの行為を悪行だと考えていないし、他の誰が見ても同じ意見になるだろうと思っていた。
何故なら、暁美ほむらとセイヴァーの情報を少しでも多く手に入れることは、少しでも多くの犠牲を減らすことに繋がるからだ。

これは『仕方がないこと』ですらない。
『やらなければならないこと』なのだ。

彼らと交戦したときの顛末は、セイバーから何度も繰り返し聞き出した。
暁美ほむらは自らの意志で兵器を盗み出そうとしていて、セイヴァーはそんなマスターを囮に使ってセイバーを待ち受けていた。
武器の入手はセイバーによって阻止されたが、だからといって「もう武器の入手は諦めよう」と思うだろうか。
答えは、恐らく否。別の手段で武器を手に入れようとするに決まっている。

ひょっとしたら暁美ほむらには何かしらの事情があるのかもしれないが、それでもやるべきことは変わらない。
彼女が加害者だろうと被害者だろうと、情報を集めなければどうにかすることはできないのだから。

「引き出しには……ないか。やっぱりこれしかないかな」

暗い職員室を一通り漁ってから、教師が使っていたと思しきパソコンの電源を入れる。
当然ながらセキュリティは万全でパスワードもしっかりと設定されていた。

「セイバー、こういう鍵って解除できる?」
「数文字入力による施錠か。任せたまえ。電脳空間であろうと華麗に『侵入』できることを証明してあげよう」

セイバーは淀みなくキーボードをタップし、一連の文字列を入力した。
たった一度の入力でロックが外れ、デスクトップ画面が表示される。

「すご……本当に解いちゃった」
「援護はここまでだ。さぁ、盗み出したいものを盗むといい」
「だからそういうのじゃ……」

訂正を諦め、情報収集に集中する。
狙いは生徒名簿と住所録。写真もあればなお嬉しい。
やがてそれらしいファイルを複数発見したので、内容を軽くチェックしてから全ページをプリントアウトしておく。

「……これでよしっ」
「良い手際だ。しかし中身は検めなくていいのか?」
「見るのは後で。他のマスターも同じことを考えてるかもしれないんだから、鉢合わせないうちに脱出しないと」

凛の判断を聞いて、セイバーは満足そうに頷いた。
まるで新人の仕事ぶりをチェックする業界人のような反応である。
何だか怪盗としての才能を評価されている気分になってきてしまう。

用件を済ませたらすぐさま見滝原中学校を後にして、人通りの少ない街灯の下で紙の束に目を通す。
情報の精査は家に帰ってからする予定なので、今は暁美ほむらの名前が名簿にあるかを確かめるだけのつもりだった。

何年生なのかも分からなかったから、とりあえず一年生から確認していく。
――その最中、凛は名簿に予想外の名前を発見した。

「えっ……嘘……」

白菊ほたる。同じ事務所に所属する中学生アイドルの名前だった。
同姓同名なのではとも思ったが、一緒にプリントアウトしていた写真に映った姿は、あの薄幸を絵に描いたような少女そのものだった。

彼女がマスターなのかどうかは分からない。
予選を通過できずに終わった候補もいるというから、それなのかもしれない。

「まさか他にも……!」

大急ぎで名簿の名前を隅々まで確認する。暁美ほむらの名前も見つけたが今はそれどころじゃない。
結局、見滝原中学校の学生名簿には見知った名前はこれ以上なかったが、それでも凛の不安は全く薄れなかった。

「……セイバー。ごめん、もう一つお願い。見滝原高校にも連れて行って」
「私は構わないが、時間は問題ないのか? もうすぐ日付が変わる頃合いだ。本戦が始まってしまうぞ」
「いいからお願い。早く確かめなきゃ……」


132 : Easy Mission ◆dt6u.08amg :2018/06/13(水) 00:40:15 7V9uSQqs0
凛が求めているのは『安心』だ。
見知った人物がこれ以上この地にいないことを確かめて、不安を少しでも解消したいと願っていた。

しかし、中学校と同じように事を済ませた凛は、その期待が淡い幻想だったと知ることになった。

島村卯月。同じユニットで活動するあの少女の名前が、学生名簿にハッキリと記されていた。
しかも書類には、ここ数日ほど無断欠席が続いていると書かれている。
卯月は無断で学校を休むようなタイプじゃない。そんな不真面目さとは無縁なのだ。

万が一、卯月が学校を無断欠席することがあるとすれば、それは学校どころではない状況に追い込まれてしまったからに違いない。
例えば――そう、聖杯戦争のマスターになってしまい、サーヴァントに戦いを強要されてしまったなら――

「……卯月……」

無邪気な満面の笑顔が脳裏をよぎる。
彼女が進んで聖杯戦争に関わっているという可能性は、最初から思慮の外だ。
そんなことはありえない。絶対に。卯月に他人を傷つけることなんかできるわけがない。

「私が、何とかしないと……」

二つの学校で得られた情報は、凛の方針を変えるには至らなかった。
それどころかより一層思いを強くした程であった。

「セイバー、DIOっていうサーヴァントは、どんな印象だったの?」
「『悪』と形容するより他にない。詳しいやり取りはこれまでに何度も伝えたとおりだ」
「あんたのパラメータも『悪』だけど、それとは違うの?」
「サーヴァントのアライメントは一義的ではない。聖人も独善も『善』となり、邪悪も剣客も『悪』となる。その上で、あれは『邪悪』であったと断言しよう」
「そう……」

そして凛は、聖杯戦争に対する決意を己のサーヴァントに向けて宣言した。

「セイヴァーは何とかしなくちゃ。討伐令とかそんなの関係ない。あれは放っといたらいけないものだと思う」
「私もあのような存在は赦すことができない。だが、たとえどれほどの邪悪だとしても――」
「――決して殺さない、でしょう? 分かってる。だから……」

プリントアウトした資料から抜き取った二枚の紙に視線を落とす。
島村卯月。白菊ほたる。お互いによく見知った仲の二人の少女。

「……仲間を集めよう。一緒に戦ってくれる仲間を」

時計の針が十二時ちょうどを指し示す。
この瞬間、渋谷凛の聖杯戦争が幕を開けた。








【B-2 見滝原高校近隣/月曜日 午後0時 未明】

【渋谷凛@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態] 無傷
[令呪] 残り3画
[ソウルジェム] 有り
[装備] なし
[道具] 生徒名簿および住所録のコピー(中学、高校)
[所持金] 女子高生の小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:セイヴァーを討伐する
1. 方針が一致する仲間を探す
2. 島村卯月、白菊ほたるの安全を確保する
[備考]
・見滝原中学校&高校の生徒名簿(写真込)と住所録を入手しました
 誰がマスターなのかは現時点では一切把握していません

【セイバー(シャノワール)@グランブルーファンタジー】
[状態] 無傷
[装備] 初期装備
[道具] 多数の銃火器(何らかの手段で保管中)
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:怪盗の美学を貫き通す
1. 美学に反しない範囲でマスターをサポートする
2. セイヴァーを警戒する
[備考]
・盗み出した銃火器一式をスキル効果で保持し続けています
 内訳は拳銃、ライフル、機関銃、グレネードランチャーなど様々です


133 : ◆dt6u.08amg :2018/06/13(水) 00:40:30 7V9uSQqs0
投下終了です


134 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/13(水) 23:10:02 8qEnQx9s0
執筆さしおいて感想をします。

Easy Mission
よりにもよってクソ鯖持ちの二人の存在に気づいてしまったか……と考えると、しぶりんは
ゲロ以下の臭いがする救世主だけじゃなく、地球加速人類悪とぐるぐるマーブル時空神とも対峙しなくちゃいけなくて
今後が不穏で堪りませんし、仲間を増やすという方針は安直ながら正解でもあるという。
何より、サラっと侵入スキルを発揮しまくるシャノワールも、何なんだコイツは(褒め言葉)を投げかけてやりたいです。
改めて投下の方ありがとうございます!

感想ついでに予約の方ですが、いろは&シュガーの予約を取り下げて、代わりにラッセルくんを追加予約します。
ややこしいですが、予約は「セイヴァー(DIO)、ラッセル&ナーサリー・ライム」となっています。
ご迷惑かけて申し訳ありません。


135 : 名無しさん :2018/06/15(金) 22:33:39 clzwDl4c0
深夜の話のネタが思いつかない場合は朝まで一気に飛ばしたりしてもいい?


136 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/16(土) 00:25:17 RfBmhIwE0
>>135
ご質問ありがとうございます。
次の通達時刻である正午0時までの間の時刻まで飛ばせることにします。
ルール説明に加える事をすっかり忘れてしまって申し訳ありません。


137 : ◆dt6u.08amg :2018/06/16(土) 07:26:50 OLyKUFcQ0
巴マミ&ランサー(鈴屋什造)、島村卯月&アサシン(杳馬)、バーサーカー(ヴァニラ・アイス)
予約はしていませんが投下します


138 : 人を食った話 ◆dt6u.08amg :2018/06/16(土) 07:27:40 OLyKUFcQ0
草木も眠る丑三つ時。巴マミはマンションの自室で深い眠りに落ちていた。
眠り慣れたベッドの上で、すやすや、すやすや。ただひたすらに熟睡し続ける。
これは浅慮でもなければ慢心でもない。れっきとした計画的行動である。

今日午後八時に開催される世界的歌手アヤ・エイジアのライブを標的とした、悪辣な犯行予告。
『マスター』『サーヴァント』という特定の層だけが理解できる用語を散りばめたその文面は、露骨過ぎるほどの挑戦状だった。
八十人分の死体を使った赤い箱のパフォーマンスもその一環。
つまるところ、犯人はその日その場所に大勢のマスターとサーヴァントを集めたがっているのだ。

では、このパフォーマンスを知ったマスター達はどう考えるか?

聖杯の完成を望む者は、大規模な戦闘が予想される午後八時に狙いを定めるだろう。
殺戮の阻止を望む者は、予告された凶行を防ぐため午後八時に狙いを定めるだろう。
強敵との闘争を望む者は、多くのサーヴァントが集う午後八時に狙いを定めるだろう。
そしてこれらの全ては、目当ての時刻まで無駄な消耗を避けようとするだろう。

このように、あの犯行予告があったがために、多くの陣営の行動が特定のポイントに集約しかねない事態になってしまった。
そして何よりも、キュウべぇがそんな大騒動を看過するとは思えない。
ならば、それを踏まえた上でどう行動するべきか?
答えは至ってシンプル。そのタイミングに合わせて体調を整えておくのが一番だ。

――というわけで、巴マミは頑張って眠っていた。
ライブ開催までおよそ二十時間。ずっと目を覚ましていたら、いくらなんでも思考が鈍くなってしまう。
この方針は巴マミ本人が考えたものではなく、ランサーによる発案だったが、そんなことは大した問題ではない。
悩みも不安も今は脇に置いて、来るべき時に備えて心身を休めるだけだ。




 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―




マスターである巴マミが眠っている間、ランサーのサーヴァントである鈴屋什造は屋外の警戒に赴いていた。
マンションのベランダの手すりの上をふらふらと歩き、そこから宙返りをして上の階へ。
傍から見ていて真面目に思える巡回ではなく、まるで無謀な夜の散歩をしているかのよう。

根本的に、サーヴァントは睡眠を必要としない。
魔力消費を抑えるなら霊体化すべきだが、そうすると五感が機能しなくなるので見張りには向かなくなる。
結局のところ、見張りの効率だけを考えるならこの状態が最善なのだ。

「おやあ?」

ランサーは手すりの上で足を止め、マンションの敷地の隅を見やった。

――ガオン。

フェンスに真円の穴が開く。

――ガオン。

街灯の柱の一部がえぐれるように消失し、電灯部分が路面に落ちて砕け散る。

――ガオン!

向かいのマンションの角がえぐり取られ、部屋の断面が露出する。

「この気配、何だか喰種(グール)に似てますですね」

なにもないはずの虚空から、男の頭部だけがひょっこりと突き出ている。
まるでキグルミだ。周囲の風景を映した光学迷彩みたいなキグルミに入っていて、時たま顔を出しているかのようだ。

首が引っ込められると同時に気配がほとんど消失する。
ランサーはマンションの数階分の高さから、姿と気配を消したサーヴァントを目で追い続けた。
気配遮断能力を持つサーヴァント――ランサーはあれを『アサシン』であると仮定した。
通常であれば、あの『アサシン』の気配を察知することは不可能に近いのだろう。
ランサーが目で追えているのは、喰種らしき微かな気配が保有スキルの捕捉対象になっていたからだ。


139 : 人を食った話 ◆dt6u.08amg :2018/06/16(土) 07:29:00 OLyKUFcQ0
 
『アサシン』は姿を消したまましばらく移動し、数秒だけ顔を出して周囲を確認してから、再び姿を消して移動を再開するという行動パターンを繰り返していた。
最初、ランサーは『アサシン』が一体何をしているのか理解できなかったが、じきにその意図を掴むことができた。

「そっかぁ。僕を探しているんですか。サーヴァントの気配がするのに、どこにいるか分からなくて困ってるんですね」

ランサーは気配遮断スキルを持たないので、付近にいるサーヴァントは誰でもランサーの存在を感じ取ることができる。
しかし、通常は具体的な位置までは判別できない。そのためには専門スキルが必要だ。

恐らくあの『アサシン』は、獲物を探している間にランサーの気配を感じ取り、先手を打つために居場所を探し求めていたのだろう。

気配遮断スキルに、霊体化とは異なる姿を隠蔽する能力。そして接近したものを削り取るスキルか宝具。
あれは確かに難敵だ。普通なら完全な奇襲からの致命的攻撃で確殺されてしまうに違いない。
頻繁に顔を出しているのは、恐らく霊体化と同様に感覚が制限されてしまうデメリットがあるのだろう。

「だけど、残念でした」

ランサーは笑みを浮かべながら宝具『ⅩⅢ Jason』を実体化させ、タイミングを見計らってベランダから跳躍した。

『アサシン』の不運は二つ。
一つはランサーが限定的ながら気配遮断を突破できるスキルを有していたこと。
もう一つは、お互いの位置関係がランサーに対して有利に働いたこと。

読み通りのタイミングで『アサシン』が顔を出したその瞬間、上空から強襲したランサーの大鎌が真横から首を――




――カチッ――




――刈り取ることなく空を切った。

「……!?」

ランサーは猫科動物のごとき身軽さで着地し、素早く周囲を警戒した。
奇襲に特化した能力を持つ『アサシン』に、完璧とも言える形で奇襲を決めた……そのはずだった。

気付かれてはいなかった。
『ⅩⅢ Jason』の刃が首筋に触れるその瞬間まで、『アサシン』は己に迫る死の存在を知覚していなかった。
にも関わらず、『アサシン』は消えた。何の前触れも予備動作もなく。

最初から幻覚だったという可能性はない。
マンションの敷地のそこかしこには『アサシン』の破壊の痕跡が残されているし、それに『ⅩⅢ Jason』の刃には少量の血がこびりついている。
ほんのかすり傷程度かもしれないが、『ⅩⅢ Jason』は確かに『アサシン』の血肉に達していたのだ。

「令呪……でしょうか。本人の能力というわけじゃなさそうです」

スキルで感知できる範囲に『アサシン』の気配はない。
『アサシン』が『喰種殺し』スキルの捕捉対象であるのなら、たとえ気配を遮断していても捕捉できる。
つまりこれは完全に撤退されてしまったと考えるべきだろう。

「残念です。とりあえず、マミの様子でも見に行きましょう」

無防備なマスターを置いて追跡や探索に出向くわけにはいかない。
ランサーはベランダの手すりを足場にして、巴マミの部屋まで軽やかに跳躍した。




【D-6 マンション(巴マミの家)/月曜日 午後2時 未明】

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態] 無傷、睡眠中
[令呪] 残り3画
[ソウルジェム] 有り
[装備] なし
[道具] ソウルジェム(黄色)
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:(まだ方針が固まっていない)
1. 暁美ほむらと接触する
2. キュウべぇと接触する
[備考]


【鈴屋什造@東京喰種:re】
[状態] 無傷
[装備] 初期装備
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:巴マミのサーヴァントらしく行動
1. 今はマンション周辺の見張りを優先
2. 『アサシン』を警戒しておく
3. 喰種に似た気配のサーヴァントを狩る
[備考]
・バーサーカー(ヴァニラ・アイス)をアサシンのサーヴァントだと誤認しています




 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


140 : 人を食った話 ◆dt6u.08amg :2018/06/16(土) 07:30:34 OLyKUFcQ0
巴マミのマンションから少しばかり離れた、別の大型集合住宅のエントランス前――
奇妙な風体の男が二人、異様な雰囲気を漂わせて対峙していた。

怒りに顔を歪めた、奇抜な服装の男――バーサーカーのサーヴァント、ヴァニラ・アイス。
口の端を吊り上げて笑う、時代がかった漆黒の礼服姿の男――アサシンのサーヴァント、メフィストフェレスの杳馬。

彼らの存在を見咎める者は誰もいない。
それは深夜ゆえに居合わせていないという意味ではなく、誰であっても不可能という意味だ。

「んひひ。間一髪ってところだな」
「貴様……『時』を止めたのか! DIO様の『世界』にッ! 土足でッ!」

バーサーカーのスタンドのヴィジョンが実体化し、アサシンに高速の拳を振るう。
しかし次の瞬間には、アサシンはバーサーカーの背後数メートルの位置に移動していた。

「おっと危ねぇ。人の話を聞かないこの感じ、ひょっとしてバーサーカーか?」
「このド三下がぁッ!!」

振り向き様の二撃目も掠ることなく空振りに終わる。
アサシンは雑な姿勢で街灯の上に座り、呆れた様子でバーサーカーを見下ろした。

その街灯の光に集まった数匹の蛾は、空中で完全に停止している。
光に集う羽虫だけではない。星は瞬きを忘れ、屋根から飛び降りた猫は虚空に縫い留められ、夜の道路を走る自動車は一台残らず静止していた。

時間停止。今、見滝原市は規格外の能力の影響下にあった。
発動者たるアサシンによって除外されたバーサーカーを除いて。

「止めときな。足りてねぇんだろ、魔力。実体化を維持するだけで精一杯みたいじゃねぇか。マスターと喧嘩でもして供給絞られたか? 万全なら危うく首チョンパされかけることもなかっただろうによ」

アサシンはにやけ笑いを浮かべたまま、自分の首筋を軽く叩いた。
そこはちょうど、バーサーカーがランサーの宝具によってダメージを負った場所だ。
傷は既に跡形もなく回復しているが、魔力が枯渇しかけた今のバーサーカーでは、攻撃に対処することはおろか攻撃を察知することすら難しいのは確たる事実だ。

「それがどうした! DIO様を侮辱した貴様を見逃す理由になるものか!」
「おいおい。俺ぁ別に侮辱なんかしてねぇよ。侮辱ってのはこの手紙みたいなのを言うんだぜ」

アサシンはポケットから取り出した紙片を広げ、街灯の下のバーサーカーに見せつけた。
それはマスター達にセイヴァーの討伐令を布告した手紙と写真……厳密にはそれらのコピーだった。
写真がひらりと手元から滑り落ちたのを見て、バーサーカーは色を変えてそれを受け止めた。

「貴様ッ! DIO様の御尊影に土をつけるつもりかァ!」
「おっと、悪い悪い。手が滑っちまった。それはそうと、セイヴァーの真名はDIOって言うのか。神(DIO)ったあ随分と高尚なお名前で」

人を食ったようなとぼけた態度でそんなことを言いながら、アサシンは手紙のコピーを指で摘んで広げてみせる。

「セイヴァー討伐令。ふざけた話だよなぁ。こんなひと目で分かる大物を初っ端から使い潰すなんざ、もったいなくてバチが当たるぜ。名俳優にはシナリオを引っ張ってもらわにゃならねぇとな」
「貴様、何が言いたい」
「こいつは俺にとっても面白くねぇってことだ。そこらへんは多分アンタも同意見だろ?」

アサシンは手紙をつまんだ指に力を入れ、見せ付けるようにゆっくり破り始めた。
二つに裂き、重ねて四つに、更に八つに。
細かな紙片に変えた手紙のコピーにふっと息を吹きかけ、時の止まった夜の道に質素な紙吹雪を舞い散らせる。


141 : 人を食った話 ◆dt6u.08amg :2018/06/16(土) 07:31:12 OLyKUFcQ0
「お前さんには聖杯戦争をかき回してもらいたいのさ。他の連中が討伐令やら犯行予告やらに掛かりっきりにならねぇように、新鮮なバッドニュースを提供し続けてほしいってワケ。そうすりゃDIOサマに突っかかる奴も減って楽になるぜ?」

アサシンは街灯の上からエントランス前に飛び降りて、大仰な仕草で背後のマンションを指し示した。

「報酬は全額前払い。総戸数五十戸の大型マンションの全住民の魂を、止まった時の中で食い放題だ。こんだけ喰えば当面はマスターからの供給ナシでも戦えるだろ」
「……答えろ。そんなことをして貴様に何の利益がある」
「せっかくの聖杯戦争なんだ。波乱があった方が面白いだろ? 安心しろよ、俺にゃDIOサマと事を構える動機はねぇ」
「ふん……いいだろう、口車に乗ってやる」

バーサーカーはアサシンの横を通り抜け、スタンドの直接攻撃でエントランスの自動ドアを破壊し、そこで首だけを傾けて振り返った。

「だが勘違いはするな! わたしは貴様に言われるまでもなく、DIO様に刃を向けようなどと思い上がった愚鈍共を始末するつもりでいた! わたしが従うのはDIO様のお言葉だけだ!」

狂ったようにそう言い捨てて、バーサーカーはマンションの中へと姿を消した。
アサシンはそれを見送った後で、愉快そうな笑みを浮かべた。

「もちろん知ってるさ。だからこそ目ぇ付けたんだぜ」




【D-6 とあるマンション内/月曜日 午後2時 未明】

【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 】
[状態] 無傷、魔力不足(魂喰いにより回復中)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様に聖杯を献上する
1. DIO様の元に馳せ参じる
2. DIO様に歯向かう連中を始末する
[備考]
・スノーホワイトとの契約は継続中ですが、魔力供給を絞られています




 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―





繁華街南のコンビニエンスストア前で、島村卯月は自身のサーヴァントが帰還するのを一人待っていた。
アサシンがこの場を離れてからほんの数分。買ってきたホットココアが半分も減っていない。

時刻は深夜二時過ぎ。いつもならとっくに夢の中にいる時間だが、今は全く眠くない。
聖杯戦争を戦い抜くと決め、三日分の睡眠不足を取り戻す勢いで眠りこけた末、目を覚ましたのは日付変更の少し前。
睡眠欲がすっかり解消されてしまったので、今日の夜までは眠らなくても済みそうな気がした。

……もちろん、理由はそれだけではない。
殺し合いに身を投じるという緊張と興奮と恐怖が卯月の神経を張り詰めさせ、眠気という感覚を麻痺させているのも一因だ。

「よっ! 待たせちまったか?」
「あ、おかえりなさい、アサシンさん」

一切の気配を感じさせることなく、アサシンが卯月の隣に現れる。

「初めて見たサーヴァントの戦闘の感想はどうだ? 俺としてはちっとばかし期待外れだったな。もっと派手に切った張ったをやってくれた方が、初心なマスターちゃんにも分かりやすかったと思うんだが」
「……それでも、凄かったです。本当に人間離れしてるっていうか……」

卯月はアサシンに指示されて、ランサーらしき鎌使いとバーサーカーらしき男の戦いを遠方から観戦していた。
今のうちに超人的な戦いを見慣れておいて、いざというときに怯えないようにしておけという主旨だ。

アサシンの言う通り、先程の戦いでは派手な剣戟は発生しなかった。
バーサーカーはそもそも姿がほとんど見えなかったし、ランサーの攻撃は一瞬かつ一撃で目がついていかなかった。
けれど、サーヴァントが超常の存在であることは嫌というほど理解できた。

「ところで、さっきはどこに行ってたんですか?」
「くだらねぇ野暮用さ。んなことより、次は目立つ場所にでも行ってみるか。ひょっとしたら他のマスターとご対面できるかも知れねぇぞ。オススメは教会か学校ね」
「中学校は……セイヴァーのマスターの子が通ってるところですよね。そっちは分かりますけど、教会なんて行って意味あるんですか?」


142 : 人を食った話 ◆dt6u.08amg :2018/06/16(土) 07:31:36 OLyKUFcQ0
見滝原市の東に教会があるということは卯月も聞いたことがある。
しかし実際に訪れたことは一度も無かった。
街外れもいいところだし、宗教的なことには縁がない。
普通に女子高生として暮らしている限り、まず足を運ぶこともない場所だった。

「さぁ、どうだろうなぁ。だが本来の聖杯戦争じゃ、教会の神父が見届人をやってたって話だぜ。今回がどうかは知らねぇが、全く意味がないってことはねぇだろうさ」

アサシンは手に持っていたシルクハットを浅く被り直した。

「今んとこはまだまだ下準備って段階だが、チャンスがあったら殺す覚悟はしておけよ。なんてったって、チャンスの神様にゃ前髪しかねぇんだからな」
「前髪だけ、ですか?」
「目の前を通り過ぎてから捕まえようと思っても、後ろ髪を掴んで引き止めたりはできねぇって喩え話さ。掴めるときに掴めなかったらもう手遅れってわけだ。いい話だろ?」

卯月には知る由もないし、アサシンは語るつもりもないことだが、その喩えに顕れる神の名とは――




【C-6 繁華街南端/月曜日 午後2時 未明】

【島村卯月アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態] 無傷
[令呪] 残り3画
[ソウルジェム] 有り
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 女子高生の小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:友達(渋谷凛)を死なせないため、聖杯戦争に勝ち残る
1. 見滝原中学校か教会のどちらかへ向かう
2. マスターを殺すチャンスがあったら……
[備考]

【アサシン(杳馬)@聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話】
[状態] 無傷
[装備] なし
[道具] なし
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争をかき回す
1. マスターを誘導しつつ暗躍する
2. 機会があれば聖杯を入手する
[備考]


143 : ◆dt6u.08amg :2018/06/16(土) 07:32:03 OLyKUFcQ0
投下終了です


144 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/16(土) 10:43:14 RfBmhIwE0
投下する前に感想をします

・人を食った話
什造のマイペースかつ着実な手を冷静に下せる判断力は流石ですし、あの様子では妨害という規格外の領域
がなければ一騎落とせていたでしょう。あくまで人間としての英霊なので、神霊の類に歯向かうには一筋縄じゃ
やはりいきませんね……そして、マーブル時空神も順調に場を掻き乱そうとやらかしてくれますね。
これはマミさんの反応が見物でもあります。ヴァニラ・アイスも相変わらずというか通常運転過ぎて
逆に安心感あって良いです(?)。DIOの写真を必死になって拾う姿が目に浮かんでしまいました。
真名に関わる例え話を触れて行くスタイルのなんだかfateの聖杯戦争の雰囲気があり素晴らしいです。
改めて投下していただきありがとうございます!

そして私も予約分を投下します。


145 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/16(土) 10:43:56 RfBmhIwE0
.



ある男が言った。「天国へ行く方法」があるかもしれない、と。
悪の救世主と称されることになる彼の『天国に行く方法を記したノート』は、空条承太郎によって焼却処分され、最早世界に残されてない。
ノートの内容を把握するには、ノートに目を通した空条承太郎の記憶を覗き見る他ないだろう。


だが―――……こんなウワサがあった。
ある財団組織が研究者に『天国に行く方法を記したノート』の復元を依頼し。
どうにか復元した内容も暗号化が施されており、解読者独自の解釈を付け加え、完成された。らしい。


実際のところ、復元された内容を理解が困難を極めたのだとか。
理由として、DIOことディオ・ブランドーも完全に「天国への到達」を確立したとも言い難い。
結論を導き出せなかった研究論文と称するべきか。



そして、復元されたノートの行方は、誰も知らない。


………………………………………


……………


………







見滝原とは別世界、そこの裏側にあるもう一つの世界。ナーサリー・ライムの固有結界。
救われてならない少年が夢見る世界。
彼が産み出して、彼の望んで永遠と続く世界。
とてもステキな美しい。愉快で優しいファンタジーと希望に溢れた場所。

だけど。
森林地帯を必死に駆け抜ける男女が、数人そこには存在していた。
恰好からして仕事帰りに飲み会でもやっていた社会人と思しき彼らの一人が、地中より現れた怪物に身を引き裂かれた。
バースデーケーキの怪物が虚空より落下し、一人を押しつぶす。血肉がイチゴジャムみたいに。
猿や羊っぽい動物が群れを為して、生き残った者たちを追い込む。


「ひぃぃぃいいぃぃ! どうなってるんだぁぁぁ!!」


「助けて! 誰か助け―――」


彼らは聖杯戦争とは無関係な無辜の住人に過ぎない。
固有結界に迷い込んだアリスのように、不思議で奇妙な冒険を始めずに、歪な怪物たちによって命を奪われていく。
しかし、彼らの死は必要不可欠だった。

単純な話。

ナーサリー・ライムの固有結界を発動し続けるのに『魔力』の問題が生じる。
この英霊が無作為に、見滝原の町中で無造作に固有結界の出入り口を産み出し、人々を引きこんでいる訳ではない。
決して、愉快犯の類じゃなく。

彼のマスター、ラッセルは『普通』の少年なのだ。
ラッセルの所業や前科はとやかく、一般人がマスター適正を所持していた部類に近く。魔力なんてからっきしだ。
それでも、ラッセルは夢を望んでいる。
固有結界によって生み出される『理想の世界』を求めている。
その理想を応えるのがサーヴァントの役目だ。魔力を確保する為、魂食いをし続けていた。


「聖杯戦争が始まる前に『7人』……十分かな」


146 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/16(土) 10:44:41 RfBmhIwE0
ナーサリー・ライムの本拠点である街に点在する『情報屋』の家で、結界内の現状を把握する作業が行われていた。
固有結界内の情報は、自然と集まる。
否、固有結界そのものがナーサリー・ライムなのだ。
彼はマスターの容体を確認する。

ラッセルは就寝している。
深夜の時間帯なのだから普通の状態ではあるが、どっぷり深く、よっぽどの事態が発生しなければ目覚める事は無い。
日中は街の住人たちと日常を謳歌している。
それ以外は、このように眠りを強制されていた。
睡眠により魔力は多少なり回復し、抑制する状態でラッセルに負担はかからない。
逆に、ラッセルが起床し、他の住人たちを動かすと魔力消費が増大する傾向へ向かう。


「魔力は問題なし。さて……じゃあ」


次は固有結界で展開してある『出入り口』。
聖杯戦争が開始されると同時に、感知妨害が解除される為、ナーサリー・ライムも場所を考慮することにした。
獲物をなるべく多くかき集めるには、なるべく広く展開するべきだが……
ナーサリー・ライム自体の戦闘能力と言えば、残念ながら。
固有結界で優位に立ち、複数のサーヴァントは相手にしたくない。

まず――見滝原中学校。
ここの出入り口は封鎖する。完全な撤退。当面、暁美ほむらの討伐令で多くのサーヴァントに捕捉される場所だ。
別に生き急ぐ必要は無い。勝手に潰しあってくれるだろう。
入口を閉鎖。

次に――見滝原高校。
ここも閉鎖。理由はウワサに聞く大食い探偵である。彼女はどうやらここの生徒であることを、情報で掴んでいる。
どうだろうか? 実際、中学校よりもこちらの方が少数派ではあるが。
しかし、念の為だ。入口を閉鎖。

極力魔力を捕捉されない為、住宅街に複数点在させていたの入口も閉鎖。
一先ず……ナーサリー・ライムが残した入口は繁華街と高層ビルが立ち並ぶ新都心周辺に数ヶ所。
この時間帯。
先ほどの『贄』と同じ、食事処を目的として徘徊する住人は多い。
基本的にそれが狙いである。
『7人分』の魔力も固有結界の維持には足りるが、戦闘を行う場合は別だ。
サーヴァントとの戦闘の為に、ある程度の魔力を確保しなくてはならない………


「……この感じ」


入口の調節を終えたナーサリー・ライムは、即座に気づく。――サーヴァントが一騎、侵入してきた。
しかも、よりよって。セイヴァーだ。
ナーサリー・ライムの観測上、彼一人だけ。
マスターの暁美ほむら。彼女の姿は……なかった。






147 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/16(土) 10:45:08 RfBmhIwE0
ある母親が息子に教え込んだ。「気高く誇り高く生きればきっと天国に行ける」と。
彼らの父親は最悪で、弱者を暴力でいたぶり、酒に溺れ、どうしようもない男であったのは確かだった。
彼らの生きた世界は底辺で醜悪な場所。
天国とは無縁の『奪う者』が集う巣窟。

母親はそれでも息子に教養を与えた。
後に、息子は養子先で教養が生かされるとは知らずに。
結局、母親が死に。それから最悪な父親は、息子が毒で殺した。

しばらく経った後のことである。
息子は何故だか無性に、母親が口にしていた『天国』について考察を始めた。
独自の憶測を重ねに重ね。
まず、彼は一つの結論に至ったのだ。


―――自分は『天国』には行けないだろう。


―――ここままじゃあ、行く事は出来ない。


―――自分は『生れついての悪』だ。最早、覆しようはない。善人などになれない。


―――だが………


―――それでも『天国』へ向かうには、どうするべきか……







見滝原とは別世界。
裏側に『トコヤミタウン』と呼ばれる町が存在する。
住人は花の異形頭の者が集い。太陽光の差す事のない特異な空間であるから、常に薄暗く。不気味な炎が光源だった。

今宵、一つの葬儀が行われる為、ある神父が隣町より足を運んでいた。
比較的神父にしては若い。まだ二十代の青年である。
気難しい表情と雰囲気を持つものの、信仰心は確かなもので、トコヤミタウンの住人たちは彼を頼りにする節があった。

だからだろうか。
遅くまでかかった葬儀を終え、帰路につこうとした神父に異形頭の住人が一人。
血相を変えて――否、変えたような感じで声をかけてきた。


「ああ、神父様。大変です。丘の方に――……」


「……なに?」


神父も目を見開いて困惑し、冷や汗を流す。
住人が言うに、最近『情報屋』より出回った情報。何らかの事件を起こした指名手配犯が、この町に――丘の方で目撃された。
丘は、つい先ほどまで葬儀が行われていた謂わば墓場。
話を聞いた神父は、死者が眠る場所にそのような者を――そう焦りと憤りを覚え、されど激情はせず、まずは住人を落ち着かせた。


「私が様子を見に行きますゆえ。他の者を近付けない様、お願いしたい」


「はいっ。わかりました、ありがとうございます。神父様」


148 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/16(土) 10:45:48 RfBmhIwE0
良く表現すれば『頼りになる神父』であり。
悪く表現すれば『都合のいい神父』だろう。
しかし、彼はそれが自らの役目だと確信しており、神父の身に悔いもないと自負していた。
住人の不安を取り除く。
町の平穏を取り戻す意味での、正当な行いなのだと。

神父が緊張感を胸に丘へと昇ってゆくと、薄暗い常闇には不釣り合いな金の色彩を持つ救世主の姿がそこにある。
奇妙にも、神父は彼を恐怖することはなかった。
恐怖、ではなく。不思議な……神に似た幻想の存在と邂逅した時、表現し難い『感動』があるような。
あまりにも未知の感覚だ。

ハッと我に帰り神父は声をかけた。


「そこで何をしている?」


セイヴァーが振り返り、邪悪な瞳に神父が移り込むが。彼には憤りも、感情すら無い。
ただ通りかかった人物を無関心に眺めている。傍観者かのような振舞いだ。
彼は静かに語る。


「ちょっとした『ウワサ』を聞いたのさ」


「ウワサ?」


「この町は『太陽の光』が差しこむことがないというウワサだよ」


ポカンと口を開ける神父に、ようやくセイヴァーが微笑んだ。
心の奥底からの笑みではない。他人に対し、気を赦させるような想いにさせる仮面のような笑み。
だが。
次に言葉を紡ごうとした時。彼は何かを迷った。
脳の違和感でもあるのか、片手を髪逆立てるように頭に当てながら、丁寧に告げた。


「……アレルギーなんだ。太陽の光に当たると……肌に炎症が起こる。
 全身に高熱の鉄板が押し込まれたような、酷い熱さに襲われる。だから普通の生活が難しい」


「あ、アレルギー?」


神父は唐突な話に戸惑いながらも、少し間を置いて冷静さを保ち。頷く。


「成程……随分と苦労してきたのだろう。であれば、この『トコヤミタウン』はお前に適した町に違いあるまい」


149 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/16(土) 10:46:22 RfBmhIwE0
セイヴァーが不可思議に神父を眺める様子は、彼らしくない奇妙な姿だった。
神父は、格別動揺を見せず。
むしろ平静に踵を返しながら言う。


「町の住人達が、お前を酷く警戒している……余所者であるから、仕方ない事だ。
 私が上手く彼らの誤解をとこう。きっと分かって貰える筈だ」


「――待て」


セイヴァーが神父を呼びとめた。


「私を信じるのか? いや。このまま私を始末する為に、仲間を呼ぼうとしているんじゃあないか?」


「…………」


図星とも言い難い。本来この男は『この世界』において指名手配犯で……だが。
神父は、そうセイヴァーが尋ねたのに対し、焦りでも恐怖でもなく憐れみを抱いたのだ。
嗚呼、何故人を疑うのか、と。
セイヴァーは純粋に問いかけているだけかもしれない。だが、真っ先に『疑い』を発想するのは嘆かわしい事である。
ただこれだけで、彼が育った環境の醜悪さと救済無き無常を神父は感じる。
神父は目を伏せて、あえて指摘はせずに。その問いかけに答えた。


「そのような事はしない。お前が悪人だとして……自らの弱みを明かすとは思えない。
 アレルギーは、お前にとっての弱点だ。嘘ではないだろう。本当の事であると、私には分かる」


「………」


これは建前かもしれない。
神父にとってまず『疑う』行為そのものが発想に無かったようなものだからだ。
疑うよりも先に。
『もしそうだったら』の可能性を考慮したのだ。
仮に、本当にセイヴァーがアレルギーだったとして、彼を町の外に追い出し、苦しめるような……

そうあってはならない。
神父は、迷える者に手を差し伸べる神の下僕だ。
彼の義務であり、それこそが喜びに『幸福』に繋がるのだから。
決して『得体の知れない』『赤の他人』の者を苦しめる者ではない。

自らの在り方に疑念を抱いてすらない神父を眺め、セイヴァーは一つの確信を持った。


「君は『引力』を信じるか? 人と人が引き合う『現象』だ」


150 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/16(土) 10:46:57 RfBmhIwE0
神父が気付いた時には、セイヴァーとの間合いは詰められていた。多少となり距離があったにも関わらず。
セイヴァーが、神父の腕を掴みながら言葉を続けた。


「恐らく、聖杯戦争に召喚された他の英霊や、嘲笑う『時の神』は君を取るに足らない存在だと一蹴するだろう。
 だが……私はそうは思わない。一つ試そう。私の宝具だが………『世界(サ・ワールド)』の原理と同じなら……」


つまり。
『世界(サ・ワールド)』は文字通り世界の支配を示すなら
セイヴァーが英霊として会得した宝具は――『悪の支配』の体現だ。


「―――『漆黒の頂きに君臨する王』」







悪の『還元』とはなにか?


暁美ほむらにセイヴァーが施したのは『悪』であり『負』の穢れの吸収だった。
セイヴァーの元に『還った』悪は力となって、シャノワールとの戦闘でも十全な効果を発揮させていた。
しかし。

この宝具の真価は、単純な『悪の無力化』ではなく『悪の支配』。
彼こそが、彼の存在した世界における『諸悪の根源』ならば。宝具名の通り漆黒の意志の頂点に立つ『王』であり。
それを支配する絶対的な『王』なのだ。


「……っ!? な、んだ………いま……『何か起きたのか』?」


神父は困惑していた。何が起きたのか分からない。
ひょっとしたら錯覚でしかなく、何も起きてなかったのかもしれない。
だが、彼の前にはセイヴァーが居る。ゆっくりと神父の腕を離した彼は「フム」と関心する。


「最初の内はこんなものか。能力の仕様に、私が慣れるまで時間がかかる」


「……?」


「ああ、まだ名前を聞いていなかったな。私はディオだ。『ディオ・ブランドー』」


戸惑いつつ、神父はしかと返事をした。


「私は……私はドグマという」


「ドグマ。たった今、君を『自由』にした。この世界で君だけは解放され、支配下から逃れられる」


「自由? どういう意味だ……??」


神父……ドグマの疑問が解消されることは叶わなかった。
突如として空間は歪み。セイヴァーの姿が幻想のように靄かかり消え往こうとする。
けど、セイヴァー・ディオの言葉だけがハッキリと響き渡った。


―――『漆黒の頂きに君臨する王』。この固有結界は、恐らく『悪』によって構成されている。


―――世界の主も、私の宝具を理解し。追放しているのだ。


―――1つ付け加えるなら……私は君を構成している『悪』を還元し、私の『悪』を君に与えた。


―――もし君と私の間に再び『引力』が生じるなら、必ず巡り合えるだろう。


151 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/16(土) 10:47:30 RfBmhIwE0
世界の歪みが終わった時には、セイヴァーの姿はなく。丘で一人、ドグマだけが佇んでいた。
ドグマは、セイヴァーが告げた言葉の全てを何一つ理解できずにいる。
そもそも。
ドグマは本来、ナーサリー・ライム……それが鏡となって映し出すラッセルの『夢』の再現体の一つ。
即ち、名前も無い使い魔に等しい。セイヴァーの言うとおり『取るに足らない存在』でしかない。
セイヴァーが醜悪に撒いた悪意の種でしかない。普通ならば。


なのにセイヴァーは、何故か意味を見出そうとしている。


「………いかんな。私も疲れている」


ドグマは混乱状態にあった。冷静に状況を見直す。自分は葬儀を終えた。職務を終えたのである。
指名手配犯のセイヴァーは……もう居ない。
理由は分からない。状況もドグマが理解するのは叶わない。

妹。
そうだ。妹のコーディが待っている。町に戻ろう。
ドグマはナーサリー・ライムが、ラッセル・シーガーが描くシナリオ通りに準えて行く。


少なくとも……今は







必要なものに『信頼できる友』がある。
彼は欲望をコントロールし、欲望のない、所謂聖職者のような無欲さがなければならない。
人の法ではなく、神の法に従う下僕のような人間だ。

単純な話。
安心できる人間。自らの思想を託せ、それを無為に利用する貪欲で愚かな人間を望んでないという意味。
果たして、聖職者である必要があるのだろうか。
必ずしも『そういう人間』が友に成りうるとは限らない。
ひょっとすれば聖職者じゃなくとも奇跡的な割合で、神の法に従う人間が存在するかも………






152 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/16(土) 10:48:01 RfBmhIwE0

不味かった、とナーサリー・ライムは一息ついていた。
非常に危険であったが、もうセイヴァーは固有結界から追放し、あの宝具による侵食も未然に防がれただろう。
不穏要素はドグマが直接影響を受けた所。
最も、ナーサリー・ライムにとっても『想定外』な宝具だったのだ。

『漆黒の頂きに君臨する王』。
悪の支配をする宝具であれば悪そのものであるナーサリー・ライムの固有結界。
否、ナーサリー・ライムの自体がセイヴァーに支配されかねない。
……幸いにもセイヴァーは上手く宝具を展開せずに終えた。

違う。
恐らくセイヴァー・DIOの目的は達成された。どういう訳か、ドグマを自らの支配下におこうと試みていた。
固執した理由は分からない。
ドグマ以外にも、それこそトコヤミタウンの住人全てを支配下におけばいいものを。
始めに手をかけたのはドグマだった。何故? 深く考える必要は無いかも分からない。

ドグマに変わった様子は無い。ナーサリー・ライムは、ドグマ自体に異常性はないように感じる。
だが、あくまでナーサリー・ライムが感じる点だけ。
ナーサリー・ライム自身の感覚に異常は無くとも『悪』という規格外の領域。
何よりドグマ単体の表面上は確かに、変化がないが内側はそうもいかない。
ナーサリー・ライムは、まだ気付いていない。ドグマ自身も自らの異常を理解していない。

異常性はとやかく。
次こそ固有結界の支配を完遂されかねないとナーサリー・ライムは思う。


「ここじゃ戦えない。それが分かっただけでも良い収穫だけどね」


確かに、本格的な戦闘に至らず、宝具の手の内が把握できたのは、むしろ幸いと称するべきだ。
――――しかし。
ならばセイヴァーはどう倒す?
他の主従に任せる、なんて不確定要素に頼るのは心乏しい。
討伐令がある故、他の主従も彼を狙うが……ナーサリー・ライムは手元にある空っぽのソウルジェムを眺める。
何も、セイヴァーの魂の回収を必須にすることはない。七騎分の魂を回収し、聖杯を完成させればいいだけだ………



【見滝原の裏側〜ナーサリー・ライムの固有結界/月曜日 未明】

【ラッセル・シーガー@END ROLL】
[状態]魔力消費(小)、睡眠、???
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]日記帳
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:みんなと普通にくらす
1.明日はなにをしようか。
2.セイヴァー(DIO)に思うところがあるが……
[備考]
※聖杯戦争の情報や討伐令のことも把握していますが、気にせず固有結界で生活を送るつもりです。
※セイヴァー(DIO)のスキルの影響で、彼に対する関心を多少抱いています。


【アサシン(ナーサリー・ライム)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:固有結界を維持しつつ、聖杯作成を行う
1.魔力の確保と他サーヴァントと一対一の状況を作りたい。
2.セイヴァー(DIO)を侵入させないようにするが……倒すのは……
[備考]
※セイヴァー(DIO)の真名および『漆黒の頂きに君臨する王』を把握しました。
※『漆黒の頂きに君臨する王』によって固有結界が支配されると理解しました。
※住人の一人・ドグマが『漆黒の頂きに君臨する王』の影響を受け、繰り返しの日常から逸脱する可能性があります。
※現在、新都心と繁華街にのみ結界の『入口』を解放しています。


153 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/16(土) 10:48:35 RfBmhIwE0




時を静止する宝具だけではない。
救世主として会得した宝具『漆黒の頂きに君臨する王』を用いれば、完全なる掌握も可能だった。
セイヴァー・DIOも、半ば確証を得ていた。だが、そうせず。
ナーサリー・ライムの追放を受け入れたのは、『漆黒の頂きに君臨する王』で使用するべき『悪』が、肝心なものが枯渇していた為である。

『悪』……以前、DIOが暁美ほむらより回収したソウルジェムの穢れ。
シャノワールとの戦闘やドグマの支配に使用し、英霊相手を支配下におけるほどの『悪』が足りない。
これは魔力とは別だ。
だからこそ魔力を『悪』に変換し、利用する事も出来ない。


再び『悪』を回収しなければならない。
暁美ほむらの穢れだけでは、ナーサリー・ライムの固有結界を突破し、支配下におけない。
逆を返せば、相応の『悪』を備えておれば彼の結界を無理矢理にもこじ開ける事も可能だと、DIOは自覚していた。
彼の『直感』を用いれば『漆黒の頂きに君臨する王』で可能な範囲を薄々理解できる。

単純にナーサリー・ライムのような古典的な悪の集合体のエネルギーであればいいが……分かりやすいのは
魔法少女の穢れだろうか。ならば……暁美ほむらの知人たち。

鹿目まどか。
美樹さやか。
巴マミ。
佐倉杏子。

彼女たちが魔法少女であれば、穢れの回収に困る事は無い。
しかし……DIOは今日に至るまで英霊としてのスペックを確かめていた。
故に、だ。
やはり暁美ほむらは、自分に適した最良のマスターなのに間違いは無いと分かったのである。
主従関係としてじゃあなく、魔力の適正の意味で。

時の力を有するマスターの魔力だからこそ適している。
当然のことだが重要な事もである。
恐らく、他に『時の力』を有するマスターがいない限り、暁美ほむらが最もDIOの力を引き出せるマスターだ。
同時に『穢れ』もそうだ。
『穢れ』も暁美ほむらが最もDIOに適した『悪』を齎すのではないだろうか?


ならば……彼女を『あえて』絶望させるのも一つの手段…………



DIOは再び見滝原に戻ってきた。
だが、始めにナーサリー・ライムの世界に侵入した場所とは異なった。
外灯の明かりが反射する池が遠目に見え、線路を挟んだ先は高層ビルの並ぶ新都心がある。
彼が居る位置は、比較的郊外から離れた控えめの住宅地。


154 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/16(土) 10:49:31 RfBmhIwE0
救世主としてのDIOは不思議に冷静を保ち続けているのだが、彼は『俺』の方ではきっとこの聖杯戦争をやっていけないだろうと感じる。
確かに、暁美ほむらは適したマスターだが、時の入門を可能とする彼女を『俺』が赦す事はない。
シャノワールに関しては、そもそも『時の力』を有しないにも関わらず侵入する屁理屈っぷりだ。
『私』であるDIOは、彼の始末と期待とを想っているが。『俺』の方は違う筈だろう。
…………何より。


「やはり『見ているな』。貴様」


DIOは虚空を睨んだ。
何もないし、誰も居ないのだが――DIOは常に感じる時計の音色と『見られる』感覚に静かな苛立ちを秘めている。

見られている。
かつてジョセフ・ジョースターのスタンドで似た感覚を味わった経緯があるDIOは、一際『監視』に敏感だった。

そして、見滝原全土に響き渡る時の音。どこにいようとも監視し、嘲笑する上位なる存在。
DIOは便宜上『時の神』と呼称している。敬意ではなく皮肉を込めて。
神霊の『時の神』の可能性もありうるのだが、ウワサだけの情報では雲を掴むようなアテのなさだ。

常に監視はなく。
だが、暇さえあれば「そういえばDIOって今なにしてんのかなぁ?」とSNSアプリで様子を伺うような。
ありふれた感覚と頻度で眺めて来るのだから、救世主のDIOでさえ苛立ちを僅かに込み上げている。
救世主の彼でさえコレなのだから。
本来のDIOなら怒り心頭どころでは済まない。

優先させたいのは、やはり『時の神』の始末だろうか。
最も、それが何を目的としているのかも不明である。
しかし……いづれDIOの目的たる天国への到達を邪魔する存在に違わなかった。


天国への到達に必要なもの………固有結界に居た神父の役割を与えられた青年。
彼が果たして『友』になりうる存在なのか定かじゃないが。
どういう訳か。
DIOはアレルギーと称したが、太陽が弱点であることを自然と彼に明かしていた。
彼に心を赦した、よりかは。
似たような事があった。既視感(デジャヴ)なるものだ。『私』の記憶にないのなら『俺』が巡り合った友との既視感か?


どちらにせよ。
あの固有結界には再び侵入しなければならない。英霊以外にも、あそこにマスターが居た筈だ。

まだ他に接触したいサーヴァントも居る。

時の勇者や赤い箱の怪人も関心がある。
運命を操る少女にも出会いたいと、何故か思う。
時間泥棒……DIOは、きっとスタンド使いの英霊ではないかと感じ取っていた。
恐竜を使役する者も。時に関係ない筈だが、非常に興味があった。
孤高の歌姫も、何か自分に通ずる部分がある気がする。
そして……『天国への到達』に関するウワサ。アレを冠するサーヴァントは何者なのか?

全てがDIOの『直感』に集束された情報なのだが、生前から『直感』に確証を得ていたDIOには全て真実だと豪語出来た。


聖杯戦争は火ぶたを切られたばかりである。



【C-1 住宅街/月曜日 未明】

【セイヴァー(DIO)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)、暁美ほむらの穢れ(小)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得と天国へ到達する方法の精査
1.他サーヴァントとの接触を試みる
2.『時の神』は優先的に始末したい
3.『悪』の回収。暁美ほむらをあえて絶望させる?
4.再びナーサリー・ライムの固有結界に侵入する。
[備考]
※ナーサリー・ライムの固有結界を捕捉しました。
※『時の神』(杳馬)の監視や能力を感じ取っています。時の加速を抑え込んでいる事には気付いていません。
※自らの討伐令を把握していません。
※ウワサに対し『直感』で関心ある存在が複数います。


155 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/16(土) 10:52:58 RfBmhIwE0
投下を終了します。タイトルは「呼び水となりて綻び」です。
続いて
アヤ&アヴェンジャー(ディエゴ)、レイチェル&&ライダー(ディエゴ)で予約します。


156 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/18(月) 17:46:49 ZG.5wZvU0
投下乙です

炸裂するDIO様お馴染みのホモ勧誘。
しかも今回はセイヴァーverの為に底を見せそうにないのもまた...と思いきやその一方で
マスターを濁らせたら調子があがる気がするからマスターを濁らせてみようかなぁと考えるあたりやはりどこまで行ってもDIO様です。
彼をちょっぴりイラつかせる時の神って誰だろう。あの白いヤツではないと思うけれど。
セイヴァーDIOにプッチ神父の記憶がないことをプッチ神父が知ったらどう思うんだろう。
それでもDIOを信仰しそうだけれども。

投下します


157 : 壊されない誰にも ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/18(月) 17:47:36 ZG.5wZvU0
「......」
「災難だったな」

夜。デパートの惨劇を見てしまった夜だ。
自室にて、鹿目まどかはベッドの上に体操座りで俯き、ランサーのサーヴァント、宮元篤は慰めるように背中を摩っていた。

いくら魔法少女とはいえ、もとはただの平凡で温厚な女の子。
そんな彼女が犯罪予告、いや、予告の名を借りた猟奇的な殺人事件を目撃してしまったのだ。
戦闘のプロならいざ知らず、女の子に軽々しく気を取り直せと強いるのも無茶な話だ。

「...聖杯戦争が始まれば、こんな場面にも遭遇することはある。辛いかもしれないが、立ち直らなければいけないんだ」

だが、聖杯戦争が一度始まればこんなものではない。
いまは派手に動いているのは赤い箱の怪盗だけのようだが、もしも手段を選ばない者が大勢いれば、こんな比ではすまないだろう。
それこそ、聖杯戦争を理由に無差別に欲を満たす者、魂吸のために合理的に殺す者。
如何な形にせよ、呼び出された最低限の主従だけの犠牲で済む話ではないだろう。
だから、篤の言葉はまどかにも理解できる。

「...篤さんは、平気なんですか?」

けれど、理解はできても納得できるはずもない。
だってそうだろう。
たとえ、このNPCに位置づけられた人たちが偽者であれ自分には関係のない者たちであれ、人が殺されているのだから。
家族。友人。恋人。ライバル。先生と生徒。上司と部下。
犠牲になった人たちにはそんな繋がりがあったことだろう。
そんな、多くの悲しみを生んでしまう人の死が、守られるべき日常に、平然とあっていいはずがないのだから。

それは篤とて同じことだ。無意味な犠牲を寛容しているわけではない。
かつて彼岸島で『樽』という、赤い箱にも劣らぬ、いや、下手に生かしているぶんよりタチが悪い食文化を見ていることで耐性はあるものの、やはりそれでもあれを見れば胸を悪くする。

「...ああ、平気だよ。俺は英霊だ。あんなもの、闘いの中ではいくらでも見てきた」

だからこそ、彼は厳しく言い放つ。
ここで甘える余地を作ってはいけないから。
彼女の優しさは尊重したいが、それで命を落とすことなどあってはならないから。

「あんな、ものッ...」

感情のままに叫びそうになったまどかは、無理やり口を噤んで押し殺した。
篤と出会ったとき、彼は弟について心底楽しそうに話していたし、まどかの方針にも賛同してくれると言っていた。
まどかには、どうしてもそれが嘘だとは思えず、むしろアレを見て平気だという言葉自体が嘘としか思えなかった。

きっと、わたしが無理をしないように忠告してくれている。

そうとしか思えなかった。

「まどかー、ご飯だよー」

そう、階下から呼びかけるのは父の声。
心配させてはいけない、と返事をしてまどかは降りていく。

篤は、俺がいると気が散るだろうとの判断のもと、一人部屋に残るのだった。


158 : 壊されない誰にも ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/18(月) 17:48:05 ZG.5wZvU0



食卓。
そこには、まどかの母、鹿目詢子と弟、鹿目タツヤが席に着いていた。

「あれ、ママ?今日は早いね」
「なにいってんのさ、さっき返事しただろ?」

え?と思わずタツヤへと視線を投げかければ、彼もまたコクリと頷いていた。

「どうした、そんなボーッとして。なんか嫌なことでもあったのか?」
「い、いやそんなことは...」

言葉を濁し、まどかは席に着く。
そんな娘の様子を、詢子は目線で追っていた。

「はい、おまちどおさま」
「アーイ!」

台所から父・鹿目知久が持ってきた料理は、大きな皿に載せられたハンバーグ。
詢子は美味そうだねと呟き、タツヤはその料理に無邪気にはしゃいでいた。

父、母、タツヤ、そしてまどか
家族みんなが揃ったいつもの食卓。

ただ一人、鹿目まどかの顔が蒼白であることを除けば。

「まどか?」

知久が首を傾げ疑問符を浮かべる。

同時に、点けられていたテレビのニュースの話題が変わり、ニュースキャスターが深刻な面持ちで口を開く。

重々しい声で語られる事実。画面に映し出されるデパート。群がる人だかり。そして―――


「ご、ごめんねパパ。わたし、今日はご飯いらない」
「え?」
「あ、あした食べるから!」

そう告げるなり、一目散に階段を駆け上がっていってしまうまどか。
その背中を見て、知久と詢子は困ったような表情で顔を見合わせ苦笑するのだった。

我が娘ながら、隠し事が下手だなぁ、と。


159 : 壊されない誰にも ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/18(月) 17:48:41 ZG.5wZvU0



「ゲホッ、ェホッ...」

えづきと共に便器に出される吐しゃ物を絶え間なく流しながら、篤はまどかの背中をさすり介抱する。

「落ち着いたか?」
「は、はい...どうにか...」

まどかの口元を水で注ぎ、臭いを消すために便所中に消臭剤を吹きかけ、まどかに肩を貸しながら自室へと運ぶ。

再びまどかの自室。

まどかは先刻と同じように体操座りで毛布を被り、篤はベッドの脚に背中をあずけ、フゥと息を吐く。

「...ごめんなさい、篤さん」

まどかは、そう小さな声で謝った。

「これから聖杯戦争が始まっちゃうのに、迷惑ばかりかけて...」
「俺のことはいいから、お前はもう少し自分を労われ」
「......」

自分のことで手一杯だろうに、それでも身近な者に気をまわさずにいられない彼女を見て、どうしてもかつての弟、明の影がよぎってしまう。
そんな想いから綻びかける口元を締めなおし、篤はまどかの頭にポンポンと手を置いた。

コンコン、とドアをノックする音が鳴る。

「まどか、入っていいか?」

ドアの向こう側からの母の声にまどかは慌てて篤を隠そうとするが、"俺は霊体化できるから大丈夫だ"という旨のジェスチャーを受け、ホッと一息つき、篤の霊体化が完了するのを見届け母を招きいれた。


160 : 壊されない誰にも ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/18(月) 17:49:34 ZG.5wZvU0

「ど、どうしたのママ」
「どうしたのって...あんな様子を見せられたら心配のひとつや二つするに決まってるだろうが。...まどか。あんたさ、さっきのニュースの現場にいたんだろ」
「えっ」
「あんたがあの箱に駆け寄ってくとこがバッチリ映ってた」

若干、呆れのような感情も混じった言葉に、まどかはしゅんと縮こまってしまう。
そんな娘に、詢子は頬を緩ませふぅ、と小さく息をつく。

「別に怒ってる訳じゃないさ。あれだって、野次馬気分じゃなくて、誰かが困ってるかもしれないって向かったんだろ?」
「...うん」

詢子はまどかの横に腰をかけ、そっとまどかの頭を抱き寄せる。

「あんたが困ってるやつを放っておけないタチなのはわかってるし、それはあんたのいいところでもある。けどな、だからってあんたがなんでもかんでも背負う必要はないんだ」

「え...」

「あんたが全部を背負おうと頑張ってるのを見て、辛く思うやつもいるってことさ。少なくともあたしやパパはそうだ」

「ママ」

「あんたはまだ子供なんだから、もっと気楽でいいんだよ。弱音を吐きたいなら吐けばいいし、頼りたいことがあるなら頼ってくれていい。それを受け止めるのが親の醍醐味ってもんさ」

「...うん。わかった、ありがとう、ママ」

「おー、どういたしまして」

それから、二人はなんてことのない他愛のない会話で笑いあう。
今日あったこと。学校の様子。職場の様子。デパートでなにを買っていたか。
そんな日常で行われていたであろうやり取りに、まどかの顔から暗い影はほとんど消えていた。

そうこうしているうちに、時間は流れ、一日の終わり―――聖杯戦争の本戦開始まで、あと1時間を迎えようとしていた。

「っと、もうこんな時間か。子供はそろそろ寝ないと美容に響いちまうぞ」
「ママはまだ寝ないの?」
「あたし?あたしはコレ」

詢子が親指と人差し指を合わせわっかをつくり、瓶を揺らすような動作を見せ付けると、こんどはまどかが微かな呆れの視線を投げかける。

「ほどほどにしなくちゃ寝過ごしちゃうよ?」
「だいじょうぶだいじょうぶ。ウチには優秀な目覚まし係がいるじゃんか」
「そうやって自分から起きる気のない人にはめっ、だよ」
「うぐっ、いまのはちょっとグサッときた」
「もう、ママったら。...ふふっ」

互いにケラケラと笑いあい、おやすみ、と告げると詢子もおやすみと返し、部屋をあとにした。


161 : 壊されない誰にも ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/18(月) 17:49:59 ZG.5wZvU0

(ずいぶん肩の力が抜けたようだな)

一部始終を見届けていた篤はホッと胸を撫で下ろした。 
母親との会話は、怪盗Xへの恐怖を和らげるのに効果覿面だったらしい。
まどかには先ほどまでのしょんぼりとした様子は見受けられず、彼女と出会ったときに見せていた笑顔もだいぶ取り戻していた。

「...篤さん。わたし、やっぱりみんなを守りたいです。ママも、パパも、タツヤも、ほむらちゃんも、さやかちゃんたちも」

己の膝に添えられているまどかの手が、力強く握られる。
NPCは本人ではない模造の可能性もあると聞いた。
けれど、言葉を交し合っていれば、触れ合ってみればわかる。
彼らも、大好きなあの人たちと変わりはないのだと。

「怪盗Xには、もう、あんな酷いことはやらせません。もしまたやろうとしたら...絶対に止めます」

まどかの眼に光が宿る。
恐れを吹き飛ばし、大切な者を護らんとする決意の光が。

「...そうだな。お前ならできるさ。誰よりも優しいお前なら」

篤は嘘偽りなく微笑みかける。
きっと、本当に人を救えるようなヤツは、こんな、誰よりも真っ直ぐなやつなのだろうと。
それこそが、『魔法少女』なのだろうと。


162 : 壊されない誰にも ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/18(月) 17:50:25 ZG.5wZvU0



時刻は0時をまわり、聖杯戦争の幕があがった。

篤は、見張りを兼ねて、霊体化したうえで、屋根の上で空を眺めていた。
綺麗な星空だった。
まどかの家の明かりは既に消えていたお陰で、その美しさはより際立っていた。

まどかは既に布団の中で眠りについていた。

ただでさえ、これから始まる聖杯戦争に心労がたまっているのに加え、あの『赤い箱』の件があったのだ。
精神的に疲弊仕切っていても仕方のないことだろう。

とはいえ、本戦が始まる前に眠るよう促したのは篤その人なのだが。

(これから先は、きっと壮絶な戦いが待っている。あいつが休めるうちに休ませておきたい)

限られた箱庭の中とはいえ、いきなりまどかがマスターであることを悟られる可能性は高くない。
しかし、だからといって、常にまどかに気を張らせていれば、いざという時に戦いに支障をきたしてしまう。
ならば、こうして安全なうちにしっかりとした休憩はとらせておくべきだ。

「......」

(...もしも、涼子や冷が生きていたら、ああいう母親になれていただろうか)

ふと、自分を愛してくれた女たちを思い出す。
彼女たちは紛れもなくいい女だ。
そんな彼女たちが、子を為し立派に母親をやっていたとしたら、ああいう母になれたのだろうか。
いや、きっとなれただろう。そして、子供たちと笑顔で平和に、穏やかに暮らしていたことだろう。
...いまとなっては、叶わぬ夢だが。


163 : 壊されない誰にも ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/18(月) 17:51:09 ZG.5wZvU0

(しかし、怪盗Xか...このぶんじゃ、先が思いやられるな)

デパートで見せ付けられた強烈な悪意。
アレはまどかには効果覿面だったらしく、ただのハンバーグですら人の残骸に見えてしまうほどトラウマを植えつけていた。
しかも、あの文面からして、やったのはサーヴァントではなく怪盗Xというマスターなのだろう。
子供がおもちゃで遊ぶかのように、あるいはほんの些細なイタズラ心で命を容易く弄ぶ所業に。
その悪逆非道、傍若無人ぶりには嫌が応でもあの男―――雅の影がよぎる。
ただ、あの男ならば怪盗Xなどと名乗りはせず本名を使うだろうし、犯罪予告などという回りくどいこともしないだろう。
アレが雅の犯行ではない。言い換えれば、だ。
あの鬼畜外道な最底のナルシスト野郎にも匹敵する輩がマスターとしてこの聖杯戦争に招かれているということにもなる。

そんな輩とは会いたくないし、まどかに会わせたくもない。

ああやって派手に暴れているうちに他の組に討伐されていれば万々歳だ。

(...ただ、ああいうのが一人とは限らないが)

聖杯戦争において呼び出されるマスターとサーヴァントに厳しい縛りはない。
最悪を仮定するのなら、まどかと指名手配されている暁美ほむら以外のマスター、あるいはサーヴァントがみんな雅と同等の下種な場合もあるのだ。
その最悪のケースを想像し、篤はこれからについて思考をめぐらせる。

(なんにせよ、やつらの情報は必要だ。なにも知らない状態で挑めば、為すすべなく殺される可能性が高い。...雅との戦いがそうだったように)

篤は雅と幾度となく戦った。
中には見事勝利を収めたこともあったが、それでも篤は雅を殺すに至れなかった。
何故か。
『雅は501ワクチンを使わない限り殺すことができない』という情報を知らなかったからだ。

(俺があの時、501ワクチンを持っていれば、川で雅の首を斬りおとした時点で全てが終わっていた。...もう、あんな思いはたくさんだ)

怪盗Xは、デパートの件のみならず、日常的に赤い箱を作っているらしい。
ならば、人気のない場所をまわっていれば、いつかは見つけることができるのではないだろうか。

それだけではない。
セイヴァーのDIO。
彼については、暁美ほむらと組んでいること以外はなにも知らないに等しいが、その邪悪なオーラは手配書越しにも伝わってきてしまう。
怪盗Xと同様、要警戒しておきたい相手だ。


164 : 壊されない誰にも ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/18(月) 17:54:01 ZG.5wZvU0

(だが、やつらを尾行する時は、まどかがいない時にしたい)

まどかは紛れもなく善人だ。だからこそ、この聖杯戦争において最も危うい存在だといえよう。
仮に、怪盗Xの尾行の折に赤い箱の製作過程を見てしまったら、被害者が誰であろうと彼女は間違いなく止めに入るに違いない。
なにより、怪盗Xと戦ったところで、彼女が敵を殺められるとは思えない。
自分は違う。
箱にされているのが、自分とは関係のない者であれば見捨てることができる。
ならば、尾行に関しては自分ひとりのほうが効率的だ。

(タイミングとしてはいまが最適だ)

聖杯戦争が始まったとはいえ、今は、指名手配されている暁美ほむら以外の誰がマスターなのかは誰も把握していない。
ならば、見張りの価値は薄く、見張りをやめて情報収集にまわりやすい時間帯だ。
だが、もしもマスターやサーヴァントに過激なヤツがいたとしたら。
マスターの目星が付いていなくとも家屋を片っ端から襲撃していくような奴らがいたとしたら。
自分が偵察に向かっている間にまどかが被害に遭う可能性も低くない。


(情報収集か、安全の確保か...果たして俺はどうするべきだろうか)

かつて戦いを繰り広げた彼岸島でも、幾度となく強いられた選択肢。
歴戦の戦士、篤は如何な選択肢を選ぶのか。





【D-2/月曜日 未明午前1時】

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康、睡眠中
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金] お小遣い五千円くらい。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯戦争を止める。家族や友達、多くの人を守る。
0.ほむらちゃんに会って事情を聞きたい。
1. 怪盗Xには要警戒。
2. 聖杯戦争を止めようとする人がいれば手を組みたい。

[備考]
NPCに鹿目タツヤ、鹿目詢子、鹿目知久がいます。


【ランサー(宮本篤)@彼岸島】
[状態] 無傷
[装備] 刀
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯は手に入れたいが、基本はまどかの方針に付き合う。
1. 怪盗X・セイヴァー(DIO)には要警戒。予告場所に向かうかはまどかと話し合う。
2. まどかが寝ている間に情報収集に向かうか、見張りに徹するか。


165 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/18(月) 17:54:33 ZG.5wZvU0
投下終了です


166 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/19(火) 01:08:08 S.jYsh5M0
美樹さやか&セイバー(アヌビス神)を予約します


167 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/19(火) 18:49:21 rtQEGubQ0
まず感想をさせていただきます。


・壊されない誰にも
今回の聖杯戦争には色んな中学生(それに近い年代の)がいる中で、まどかの反応は『普通』なんですね……
いくら魔法少女となったからとは言え、魔女や使い魔と戦った経験があるからと言って
狂っていかれた猟奇犯罪には無縁な訳です。しかも魔女みたいな化物であればいいのに、奴は『人間』です。
怪物じみた能力は持ってますが、マスターですし一応人間分類ですし……
その分、魔女や雅みたいな人じゃないクソ野郎だったら良かったものの。
まどかは、母親である詢子の支えて再び気力を取り戻しましたが。
家族と言う存在が、別の意味でまどかを追いこんでしまうのではと不安に思います。
投下していただきありがとうございました!

予約分を投下するのですが、レイチェル&ライダー(ディエゴ)だけの投下となります。


168 : 君の知らない物語 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/19(火) 18:50:12 rtQEGubQ0

レイチェル・ガードナーは質素な自室で、ベッドに横たわりつつ考えていた。
彼女なりに考えていたのだが、やはり難しい。
いざ、自分で何かを考えるとなると、こんなにも苦労がかかるのか。レイチェルは起き上がる。
机の隣にある学生鞄が目につき、学校の事を思い出す。

明日は学校へ行くべきなんだろうか?
聖杯戦争が始まったらしい。だったらもう行く必要はないのでは。むしろ、行ったところで何か意味はあるのか。
ライダーに聞こうとレイチェルは、脳裏に彼を思い浮かべるが。
彼の「自分で考えろ」という教えを浮上させ、躊躇した。

そうだ。
自分で考えないと……駄目だ。ライダーも言ってくれたのに。
でも……レイチェルは思う。学校へ行く提案はライダーが出したのだから、やはり彼に確認するべきだと。
淡々と部屋から台所に足を運んでみる。

ライダーの姿は無い。恐竜も一匹たりとも姿は無かった。
だけど、声は聞こえている。恐竜の鳴き声が。家の中ではなく外の方からだった。
彼は外出してしまったのだろうか。
レイチェルは、カウンターテーブルに広げられている地図に視線が向かう。幾つかに印がある。


教会に『修道女』。

マンションに『恐竜の捕捉が途絶える』。

住宅街の一つに『崩壊あり』。

見滝原高校に『マスターあり』。

住宅街の一つに『砂糖喰らいのサーヴァント』。

アイドル事務所に『アヤ・エイジアの在籍あり』。


「…………」

それらに目を通したレイチェルが、もう一つ。置かれてある書類に気付いた。書類袋に見覚えがある。
いつの間にか、ポストに入っていた袋。
レイチェルが確認する前に、ライダーが勝手に取って、彼だけが内容を確認していた。
流し読みしてみると……聖杯戦争開始の知らせと討伐令について。
他にも、見滝原の町から出られないとか通達があるとか。レイチェルが一緒にある写真を目にして、息を飲む。


「この人………」


ライダーに似ている?
レイチェルがセイヴァーに対し抱いた感情は、それだった。己のサーヴァントと雰囲気が酷似している点。
似ている。
でも、セイヴァーの方が多分年上に感じる。完全に似てはいない。体型や髪型や顔立ちも、違いは見られる。
兄弟や親子であれば、完全な酷似とはいかない。
雰囲気が似ている感覚を与えるのは納得いくだろう。


169 : 君の知らない物語 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/19(火) 18:50:38 rtQEGubQ0

(ライダーがこの人の話をしなかったのは、何でなんだろう)


否。そうじゃなくても。


(私……ライダーの事、何も知らない)


思えば、レイチェルに対し「願いを決めろ」「自分で考えろ」と云うのに、ライダーは自らの願いを明かしては無い。
過去も知らない。ちゃんとした真名も。
『Dio』……ディオというのが彼の真名なのかも―――分からない。

レイチェルが結論に至った時。
彼女は初めてライダーの事を知りたいと、そう思えるようになった。
それまで、ライダーに関心がなかった訳ではないものの。以前は彼の過去に、経歴にも興味は湧かずに。
彼に答えを求め、彼に従い続けた。

もし、自分が『考える』事も出来ない操り人形に過ぎなかったら、どうなっていたのだろう。
少なくとも『今の』自分は……存在しなかった。







レイチェルがリビングにある戸棚を漁り、漸く目当ての代物を発見した。
携帯端末。所謂スマートフォン。これはレイチェルのものだ。
彼女の両親は、レイチェルの態度に苛立ち、彼女からコレを取り上げていたのだ。
コレが入っていた戸棚は施錠されていたが……台所の包丁の先端を隙間に差し込んで、こじ開けようとする。
レイチェルは意図してなかったが『てこの原理』が作用し嫌な音を立てて、鍵が破壊された。
端末の電源をつけ、早速検索をする。


「ディオ……確か『Dio』………」


端末機器で容易に情報を入手できる時代だ。恐らく……英霊の情報も。
レイチェルが検索単語を打ち込んで出てきたのは、単語の『意味』するものだった。


「神様?」


『Dio』。イタリア語で『神』を意味するらしい。
神など――そう罵倒していたライダーの態度とはまるで違う。しかし、レイチェルの中で奇妙な胸騒ぎがある。
だって『セイヴァー』は『救世主』だ。『Dio』が『神様』だったとしたら……
レイチェルは悶々と考えたが、検索に付け加えをする。
『騎手』……あとは『恐竜』とか。レイチェルのライダーに連想するものを。


「レイチェル」


彼女の名前を呼べるのは、最早ライダーしか存在していない。
レイチェルが顔を上げると目立つ装飾の帽子を脱いだライダーの姿があり、彼女を睨んでいる。
睨まれている理由に見当がつかない。レイチェルは戸棚に視線を移し、ポツポツ話す。


「ごめんなさい。鍵がどこにあるか分からなくて、壊すしかなかった」


「俺が聞きたいのは、端末機器で何をしたのか――だ。お前に連絡するアテがある筈がない……それを何に使うつもりだ?」


「? ………別に」


レイチェルはライダーの質問が理解できなかった。
彼女は、何か怪しいことをするつもりは無い。例えば警察に連絡したり、助けを求めたり。
そんな事をすれば――『両親』がどうなってしまう事か。レイチェルは眉間に皺よせて奇妙そうだった。

次の瞬間。
レイチェルの手元から端末が零れ落ちてしまう。正確には小型の恐竜が、端末を落とすように体当たりしたのだ。
一連の出来事に、レイチェルの目が見開く。
床の滑る様に落ちた端末を、ライダーが回収し、液晶画面を確認する。


「何故、俺のことを調べている?」


「……知りたくなったの」


170 : 君の知らない物語 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/19(火) 18:51:03 rtQEGubQ0
だから調べていた。単純にそれだけ。酷い事にレイチェルは悪気がなかった。
ライダーが威嚇する風な睨みと、口元がボロボロと裂けて行く。苛立ちの情で宝具が発動しかかっている。
恐竜に変貌しかかるライダーの様子に驚きながらも、レイチェルは「どうするのだろう」と眺めているだけだった。
ライダーが少女の襟を掴み上げ、吠えた。


「レイチェル・ガードナァァ! お前は結局、何が目的だ!! 聖杯が欲しいのか、死にたくないだけか!?」


唐突にライダーがこれまでの不満をぶつけるかの如く、牙をむき出しにしたのに。
レイチェルも目を丸くした。
が、彼女には分からない――どうしてライダーが自分を『疑って』いるのか。
動揺しているが、レイチェルはハッキリと彼に伝えた。声は震えてなく、恐ろしく鮮明に。


「『自分で考えた』……私は聖杯が欲しい。どうしても欲しいの」


「欲しい? お前に願いがあるとでも!?」


どこからか―――澄んだ鈴の音が聞こえた気がする。


「私、ライダーと一緒にいたい」


聞こえようによっては素敵でロマンチックな台詞に響くだろう少女の言葉。
彼女の本性を知るライダー……ディエゴ・ブランドーは憤りを通り越して呟いた。


「このクソガキ」







(『一緒にいたい』? あの死体のように裁縫で縫い付けて人形ごっこする……そういう意味か?
 ふざけるなよ、ふざけるのも大概にしやがれ、サイコ野郎! マスターじゃなければとっくの昔に殺してるんだぜ)


とんでもない事に、狂った少女の願いは本当にそうらしい。
本当の本気で願おうとしている。ディエゴも、レイチェルの思考回路を理解したくは無いが、どことなく気付く。
子供らしく、単純な部分は素直な程に単純なのだ。
彼女は「自分で考えた」なんて言うが、突き詰めればディエゴに『依存』した考えに過ぎなかった。

だったら。
やはりディエゴの過去を調べようとしたのも似た理由だ。
疑念を抱くような、裏切りや出し抜きを想定すらしてない行動。
故に――聖杯の渇望は『真実』である。嘘ではない。とんだ皮肉話だが。

両者の緊迫を打ち破るかの如く、一本の電話が鳴り響いた。
ディエゴが手にしている端末ではない。この家の電話。
大凡、見当はつく。レイチェルの両親を演じていた夫婦の職場関係から、あるいは警察の一報か。
両親共々、職場を無断欠勤している状況である。
心配して確認しに家まで現れた職場の人間(あの夫婦に交流関係があったこと自体、驚きである)も幾人存在した。
それらは皆『恐竜』となった訳だが……


171 : 君の知らない物語 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/19(火) 18:51:34 rtQEGubQ0
向こうが諦めたように電話が鳴りやむ。ディエゴはレイチェルを離し、見下し、冷酷に言い放った。


「レイチェル。俺に付いて来るか……ここで『人形ごっこ』を続けるか。選べ、今すぐに選べ」


レイチェルが不意をつかれたように、真顔となって。
ソファに仲良く座る『両親』とダンボールの中にいる『子犬』に振り返った。
人形。
ディエゴから告げられた真実は、レイチェルにとっては残酷な現実を突き付けられたようなものだ。

所詮は人形。もう死んでいる。
自分のものになった。理想の家族を手に入れられた。
とっても楽しかったのは、間違いない。嘘じゃあない。だけど――所詮は『人形ごっこ』。

――ライダーの言葉は『正しい』のだから。

澄んだ鈴の音を聞き、レイチェルは頷く。


「分かった。……ライダーと一緒にいる。一緒に行く」







マスターが夢を通してサーヴァントの記憶を知る事があれば、サーヴァントもマスターの記憶を読む事がある。

本来のレイチェルの両親も救いようがない。
父親はアルコール中毒者で、母親に暴力を振るう。
母親はヒステリックで精神病で、家計も家事だってロクに出来やしなかった。
だったら、何でこんな女と結婚などしたのか。元々はこんなイカれてヒステリックじゃなかったのか。
第三者であるディエゴが傍観した感想は、そういうもの。

しかし、よくまあこんな環境で、精神はともかくレイチェルの方は『無事』だったものだ。
母親がいなければ、暴力はレイチェルの方に向かっていたに違いないし。
罵倒の嵐を浴びせられるだけ、身体がどうかしてないのが幸いだ。

ディエゴが彼女と違うのは『母親』がマシだったか否か。
正気だったから『母』はロクでもない目に合い続け。正気だったから赤子のディエゴを見捨てたりしなかった。
ちょっとした違い。僅かで大きな差。

『そうじゃなかったら』なんてのは考えない。
考えるのは無駄だ。全て無駄。



………………………………………


……………


………


172 : 君の知らない物語 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/19(火) 18:52:01 rtQEGubQ0





常に薄暗かったレイチェルの家が珍しく明るい。
違う。『燃えていた』。ディエゴが悪臭漂う家にガソリンを撒き散らして、簡単に火を放った。
普通、マスターの身を休める居住地は必要不可欠だろう。

しかし、ディエゴはそう思わない。
最初から分かっていた。レイチェルの両親のせいで多少怪しまれているだろう。
レイチェルを放置しても、サーヴァントに捕捉されては幾ら大人しくても無意味に終わる。
家で罠を張られて、待ちかまえられる危険性も今後ある。『依存』する特定の場所を持つのは無駄なのだ。


レイチェルは、ただ眺め続けるしかない。
私服に着替えた彼女のポシェットには、家に残されていた現金とコンビニで買ったパン、元々入っていた『裁縫道具』。
あと……戸棚の破壊に使用した『包丁』をどさくさに紛れて入れた。
端末機器は、あのままディエゴが所持している。

そのディエゴは手元の小さなダンボールを開けた。
中には――子犬の死骸がある。すっかり腐り果てて、どこから湧いた蛆虫が無数にたかる状態。
『蛆』だ。
ディエゴは宝具で『蛆』を恐竜にし、視認が困難な極小の伏兵を量産させた。
『蛆恐竜』を今日まで伏せ隠していた人を恐竜化させた『大型』に飛び移させる。
忌々しい縫いつけられた子犬の死骸は、炎の中へ抛り捨てた。
気色悪い縫いつけられた『二体の両親』と同じように、燃やして『なかった事』した。

不気味悪い家の小火も、ちょっとした撹乱になれば良い。ディエゴはその程度に考えていた。
死んだ魚じみた瞳のレイチェルを、仕方なく愛馬に乗せて。
迅速に夜の見滝原を駆けて行った。


『大型』の恐竜たちは先行して、最初の標的の場所へ奇襲をしかけに向かう。

――教会である。

そこで子供と遊んでたり、牧師の手伝いをする修道女のサーヴァントを捕捉している。
牧師か、あるいはその家族の誰かがマスターだ。


唯一ディエゴが引っ掛かっているのは、やはりセイヴァーである。
自分とよく似た姿、雰囲気を持つ、だがまるで覚えのない存在。
無視できなくないが……やはり覚えのないものを幾ら考えたところで答えが出る訳がない、無駄だ。
さっさと、修道女のサーヴァントを始末する事だけ優先した。


173 : 君の知らない物語 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/19(火) 18:52:34 rtQEGubQ0




ディエゴ・ブランドーが一つだけ見落としたもの。
それは――『もう一人のディエゴ・ブランドー』である。
実のところ、恐竜たちは『もう一人のディエゴ・ブランドー』がアヤ・エイジアと接触した場面を目撃していたのだ。
にも関わらず報告しなかったのは。
彼を主であるディエゴ・ブランドーと『誤認』してしまったから。

姿も形も声も、匂いですら同じの英霊を『誤認』するのは仕方ない事だった。
そして、アヤ・エイジアはもうディエゴ・ブランドーと接触しているとも『誤認』した為。
報告は無かった。


まだ『ディエゴ・ブランドー』が『二人』いることを誰も知らない。






【E-8 住宅街/月曜日 未明】

【レイチェル・ガードナー@殺戮の天使】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]私服、ポシェット
[道具]買い貯めたパン幾つか、裁縫道具、包丁
[所持金]十数万程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる
1.自分で考える。どうするべきか……
2.ライダーの過去が気になる。
3.セイヴァーは一体……?
[備考]
※討伐令を把握しました。
※ライダー(ディエゴ)が地図に記した情報を把握しました。


【ライダー(ディエゴ・ブランドー)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]携帯端末
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1.教会にいる修道女を狙う
2.どこかでレイチェルを切り捨てる
3.あのセイヴァーについては……
[備考]
※真名がバレてしまう帽子は脱いでいます。



※E-8にあるレイチェルの自宅が炎上しました。
※教会に大型恐竜と蛆恐竜の群れが襲撃しようと先行しています。

※現在、恐竜たちはアヴェンジャーのディエゴ・ブランドーを誤認しています。
 アヤ・エイジアに関する報告は、ライダーのディエゴ・ブランドーにはされていません。


174 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/19(火) 18:55:12 rtQEGubQ0
投下終了します。
改めてもう一度、アヤ&アヴェンジャー(ディエゴ)、弥子&普通の魔法使い(魔理沙)
アイル&時間泥棒(ディアボロ)、ホル・ホース&魔法少女(玉藻)で予約します


175 : 名無しさん :2018/06/19(火) 21:17:44 AlkewP320
いずれ来る大火に向けて火種が仕込まれていってますね

スペイン語でヤコブをディエゴと読むと最近知りました


176 : ◆7PJBZrstcc :2018/06/21(木) 19:57:44 oa5ozYZQ0
ディオ(マスター)&ランサー(レミリア)、ライダー(プッチ)で予約します


177 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/22(金) 22:33:27 b36xeYvU0
投下乙です
あれ、やってることや思惑的には外道なのにディエゴくんがなんかまともに見える?
依存体質が強いマスターは、ディエゴ的には道具としては扱いやすそうですが本心ではイラついているのは妥当です。
教会襲撃ということは杏子がいますが、彼女も彼女で割りと依存の気がありますがディエゴのマスターを見たらどう思うだろう

投下します


178 : 喧嘩するほど仲がいいとは限らない ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/22(金) 22:34:09 b36xeYvU0
「う〜ん」
『そんなに唸っていたところでなにも変わらないだろうに』
「うるさいなぁ...これが悩まずにいられるかってことなの」

デパートでの赤い箱事件の後、美樹さやかは友人たちと別れ、帰宅していた。
あの惨劇を直に目にしたショックはもちろんある。
しかも、その犯人が聖杯戦争におけるマスターなのだからなおさらだ。
町の治安を護るためにはあんなやつを相手にしなくてはいけないのか、と思えば嫌でも気が重くなる。


けれどそれ以上にさやかを悩ませていたのは、まどかのことだった。

悲鳴が響き渡ったあの時、まどかは誰よりも早く現場へと向かった。
魔法少女である自分や、ベテランであるマミと杏子よりも早くだ。

既に命を落としていたはずが生きていたり、家族が生きているなどの背景の違いから、あの二人が魔法少女とは限らないものの、それでも三人ともまずは悲鳴に困惑していた。

だが、まどかはものの数秒でそれらを振り切り、駆け出していった。

皆が呼び止める声も聞かず、まるで子供番組のヒーローかなんかのように、真っ直ぐに向かっていったのだ。

だが、自分の知る限りではまどかは魔法少女と契約すらしていない。
身体能力的にも、ごく普通...いや、言っちゃ悪いが、平均よりも下だ。
果たしてそんな彼女が、あの悲鳴にあそこまで早く反応できるだろうか。
いくら優しいとはいえ、なんの変哲のない少女が我先にと現場へ向かうことが出来るだろうか。


『答えは既に出ているではないか。お前の友達もマスター、あるいは魔法少女だと』

アヌビスの言うとおりである。
消去法で考えれば、まどかは魔法少女。あるいは、既に非常時への心構えが出来ている聖杯戦争に呼ばれたマスター。
そうでなければなんだというのか。


179 : 喧嘩するほど仲がいいとは限らない ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/22(金) 22:34:49 b36xeYvU0

「まぁ、それしかないよね...はぁ」
『なにをため息をつく必要がある。お前の仲間である魔法少女ならば、この聖杯戦争を有利に運べるはずだ』
「聖杯戦争以前の問題なの」

もしもまどかが魔法少女であれば。
自分の魂を抜かれることを承知の上で叶えた願いとはなんなのかを聞かなければなるまい。

聖杯戦争のマスターとして呼ばれたのならば。
サーヴァントはどんなヤツなのか。まどかはどうするつもりなのか。
一度話し合い、あの子を護ってやらなければならない。

けれど。

さやかには、まどかと顔を合わせづらい事情があった。

影の魔女を倒した雨の日の帰り道。
まどかはさやかに寄り添い心の底から心配してくれた。
あんな、自分を傷つけるような戦い方はよくない。さやかには幸せになってほしい、と。
それに対して、さやかは怒気と怨叉の念をぶつけた。
あたしを哀れむならあんたが契約して戦え、戦おうとしないあんたの代わりにあたしが戦ってる、同情するくらいならまずは同じ立場になれと。
まどかを否定し、貶し、蔑み、妬み、あろうことか、彼女を地獄へと引きずり込むようなことを言ってしまった。

それがまどかとの最後の会話。魔女となったのはほどなくしてである。


そう。今更、どの面さげて友達のように振舞えというのか―――それが、現在のさやかにとっての一番の悩みの種だった。

まどかのことだ。
心配をかけて悪かった、あの時の言葉は本心ではないことを説明し謝罪すれば許してくれるかもしれない。
だが、そういう問題ではない。
彼女が許す許さない以前に、こんな自分があの子の友達であろうとすること自体が許せないのだ。

だからといって、まどかとの関係を一切絶つことが出来るかといわれれば、やはりできない。
まどかは、今までどおりに自分に接してくれた。そんな彼女を突き放せば彼女は間違いなく傷ついてしまう。
それに、如何な状況であれ、まどかがどう動くかは、あのデパートでの様子を見れば一目瞭然だ。
彼女は契約しようがしまいが、誰かの為に頑張り続ける。そんな彼女を放っておけるわけがない。

そして、彼女をほうっておけないということは、さやかも己の罪と向き合い続けるということになる。
頭では理解しているし納得もしているが、待ち受けるもの全てを受け入れ前向きに捉えられるほど、さやかはできた女ではなかった。


180 : 喧嘩するほど仲がいいとは限らない ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/22(金) 22:35:36 b36xeYvU0

『まったく、人間は過去だの昔からの因縁だのなんだのをいつまでも引きずる面倒な奴らだ』
「あんたは違うの?」
『当然。このアヌビス神、干渉してきた人間など星の数だけいる。そんなやつらの顔なんてイチイチ覚えておらんわぁ!』
「いまはあんたのそのお気楽さが羨ましいわ...はぁ」

さやかは全てを投げ出すかのようにベッドに背を預け、仰向けに寝転がる。
その際に鞘に収まったセイバーを踏みつけ喚かれるが、いまのさやかにはまさに石に灸だ。

(でも、こいつの言ったとおりだ。こうやっていつまでも悩んでてもしょうがない)

突き詰めれば、さやかのしたいことは、町を護りまどかたちの力になることだ。
そのために必要なのはやはりコミュニケーション。
それも、事態が取り返しのつかなくなる前に、即急迅速な交流が必要だ。

さやかはスマートフォンの連絡用のアイコンを開く。

「えーっと、まずはまどかから...」
『な、なにをするつもりだこのトンチキ野郎ォォォ!!』

突如響き渡った罵声にさやかの身体がビクリと跳ね上がり、スマートフォンをつい落としてしまう。

「な、なんなのよ。びっくりするじゃん」
『それはこちらのセリフだド低脳がァァァァァ!!!』

心当たりのない言われように、さやかのこめかみに青筋が浮かび、セイバーを睨み付ける。

『なんなのさあんた!いきなり人を馬鹿呼ばわりして!』
『わからんのか!オレはいまお前を救ってやったというのに!』
『救う?人をトンチキだの腐れ脳みそだの言ってた口が誰を救うって!?』
『わからないなら教えてやろう。いま、お前は鹿目まどかに連絡をとろうとした。そうだな?』
『そうだよ。まどかにマスターか魔法少女かどうかを聞いて、それで一緒に』
『だからアホだというのだ!いいか、デパートの件でその鹿目まどかはお前の方針に沿う女だとわかった。だが、ヤツがマスターであった場合、サーヴァントの方はどうだ』
『そんなの知らな...あっ』

言葉を詰まらせたさやかの様を見て、セイバーはフンと得意げに鼻を鳴らす。


181 : 喧嘩するほど仲がいいとは限らない ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/22(金) 22:36:08 b36xeYvU0
を詰まらせたさやかの様を見て、セイバーはフンと得意げに鼻を鳴らす。

『ようやくわかったか。サーヴァントはなにもマスターと似たような者が召還されるとは限らん。鹿目まどかからサーヴァントを推し量るのはまだ出来んのだ』
『まどかのサーヴァントが悪党だったとき、もしもここであたしが電話して、ソイツに聞かれて都合のいいようにまどかを操られてしまえば...ってことね』
『その通り。故に、いくら友好関係にあろうが、こちらの素性をホイホイと話してはならんのだ。わかったか!』
『くっ、正論なのにあんたに言われるとムカつく...まあでも、ありがとう』

わかればよいのだ、と笑みを深めるセイバー。
さやかはそんな彼の顔を見ることは叶わない。
しかしコイツは高慢ちきではあるが、悪いやつじゃないかもしれないと考えを改めた。

『さて。では改めて暁美ほむらに電話してもらおうか』
『は?さっき電話するなって言ったのはあんたじゃん』
『ドアホめ。それは相手の素性を知らない場合に限ってだ。幸いにも貴様と暁美ほむら、そしてオレとDIO様は既に互いを知っている。ならば接触こそ現状求められるものだろう』
『...あたし、転校生の電話番号知らないんだけど』
『は?』
『だから、別に仲がいいわけじゃないから知らないんだって』
『...本ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ当にィ!使えんマスターだなァァァァァァァァ!!!』

セイバーはさやかの脳内にあらん限りの絶叫と罵声を響かせる。
そしてさやかは思った。
前言撤回。悪いやつじゃないかもしれないがイラつくやつだ。とてつもなく腹が立つヤツだ。

そしてさやかの堪忍袋の緒は―――切れた。

『イチイチデカイ声でギャアギャア五月蝿いのよこの犬っころ!!』
『い、犬っころォ!?このアヌビス神様が犬っころだとぉ!?ブチ殺されたいのか貴様ァ!!』
『やれるもんならやってみなさいよ!その前に川底にでも沈めてやるんだから!』
『グ、ガ...人のトラウマに触れるな!人の嫌がることはするなとお袋に習わなかったかァ!?』
『いや、それブーメランだから!』

ギャーギャーと頭の中で喚き、罵り、口論が白熱する二人。
時間はあっという間に過ぎ、時計の鐘が鳴り響く。

午前0時。日付が変わった証拠。つまり、聖杯戦争の幕があがったのだ。


182 : 喧嘩するほど仲がいいとは限らない ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/22(金) 22:36:28 b36xeYvU0

二人の口論はピタリと止み、互いに深いため息を吐き、熱くなっていた脳内が一気に冷めていく。

『...ごめん、ちょっと言い過ぎた』
『...ウム』

さやかは、今度はちゃんとセイバーを壁に立てかけ、再びベッドに寝そべり、ゴロリと天を仰ぐ。

ついに聖杯戦争が始まってしまったのだ。
セイバーとの口論で薄まっていた恐怖と不安が押し寄せてくる。

聖杯戦争だけではない。

(この町は...どこかおかしい)

確かにこの見滝原は、自身が暮らしていた見滝原と酷似している。
だが、ここは異様に"騒がしい"のだ。

取り留めなく蔓延るウワサもそうだが、ウワサに沿って実際に起きた事件もある。
今日の"赤い箱"なんてその最たる例だ。
それ以外にも、女性の行方不明者が続出しているだの、色々な建物が円形に削られているだの、権太郎だの吉川だのいう人たちが円形の鈍器のようなもので撲殺されただの。
とにかく事件が多い。

(...これから先、どうなるんだろう)

まどか。マミ。杏子。
彼女たちが聖杯を求め、他の主従を斃してまわるとは思えない。

なら、自分は?一度は魔女に堕ちてしまった自分は、どうだ?

「......」

一度浮かんだ不安はそう易々と消え去りはしない。
いまの彼女に出来るのは、ただぼんやりと天井を仰ぐことだけだった。


183 : 喧嘩するほど仲がいいとは限らない ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/22(金) 22:37:27 b36xeYvU0

【D-3/月曜日 未明午前0時】

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:平和を乱す奴をやっつける
0.まどかたちと接触する...けど、どうやって?



[備考]
※まどか・マミ・杏子の電話番号は知っていますが、ほむらの電話番号は知らないみたいです。

【アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態] 無傷
[装備] 刀
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:さやかを自分の有利な方へと扇動する。
1.DIO様と合流したい。


184 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/22(金) 22:37:58 b36xeYvU0
投下終了です


185 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/06/22(金) 23:40:14 b36xeYvU0
すいません。文章に一部抜けがあったのでこちらに修正します
>>180

まどかだけではなく、マミと杏子、暁美ほむらのこともある。
マミが生き返ってくれたのはうれしい。これで、仮に彼女もマスターだとしても、争いあうことがなければなおのことだ。
だが、佐倉杏子。彼女とは殺しあった仲だ。ソウルジェムの真実を知り落ち込んでいたのを励ましてくれたり、魔女化寸前まで気にかけてくれたりと誤解していた部分の蟠りは解けている。
それでも、彼女は生きるためならどんな手段も用いると豪語していた。
もしも彼女のそのスタンスが、この聖杯戦争にも用いられたとしたら、再び剣を交えることになるかもしれない。

そして暁美ほむら。
いけ好かなく、謎めいた少女ではあるが、だからといって指名手配されるほどの罪を犯したのかといわれればそうでもないはずだ。
指名手配所を信じ、この手で討伐するという気にはとうていなれない。
しかし、もしも指名手配されているのをほむら自身が知っていれば、彼女にとってはこの聖杯戦争においては全ての主従が敵。
彼女がそう判断すれば、嫌が応でも戦うことになってしまうだろう。

そんな、これからの苦難を考えれば、どうしてもため息は出てしまうのだ。


『まったく、人間は過去だの昔からの因縁だのなんだのをいつまでも引きずる面倒な奴らだ』
「あんたは違うの?」
『当然。このアヌビス神、干渉してきた人間など星の数だけいる。そんなやつらの顔なんてイチイチ覚えておらんわぁ!』
「いまはあんたのそのお気楽さが羨ましいわ...はぁ」

さやかは全てを投げ出すかのようにベッドに背を預け、仰向けに寝転がる。
その際に鞘に収まったセイバーを踏みつけ喚かれるが、いまのさやかにはまさに石に灸だ。

(でも、こいつの言ったとおりだ。こうやっていつまでも悩んでてもしょうがない)

突き詰めれば、さやかのしたいことは、町を護りまどかたちの力になることだ。
そのために必要なのはやはりコミュニケーション。
それも、事態が取り返しのつかなくなる前に、即急迅速な交流が必要だ。

さやかはスマートフォンの連絡用のアイコンを開く。

「えーっと、まずはまどかから...」
『な、なにをするつもりだこのトンチキ野郎ォォォ!!』

突如響き渡った罵声にさやかの身体がビクリと跳ね上がり、スマートフォンをつい落としてしまう。

「な、なんなのよ。びっくりするじゃん」
『それはこちらのセリフだド低脳がァァァァァ!!!』

心当たりのない言われように、さやかのこめかみに青筋が浮かび、セイバーを睨み付ける。

『なんなのさあんた!いきなり人を馬鹿呼ばわりして!』
『わからんのか!オレはいまお前を救ってやったというのに!』
『救う?人をトンチキだの腐れ脳みそだの言ってた口が誰を救うって!?』
『わからないなら教えてやろう。いま、お前は鹿目まどかに連絡をとろうとした。そうだな?』
『そうだよ。まどかにマスターか魔法少女かどうかを聞いて、それで一緒に』
『だからアホだというのだ!いいか、デパートの件でその鹿目まどかはお前の方針に沿う女だとわかった。だが、ヤツがマスターであった場合、サーヴァントの方はどうだ』
『そんなの知らな...あっ』

言葉を詰まらせたさやかの様を見て、セイバーはフンと得意げに鼻を鳴らす。


186 : ◆7PJBZrstcc :2018/06/23(土) 16:44:48 HVGTs0yw0
投下乙です。
さやかの聖杯戦争開始はなんだかコミカルですが、まどかたちや今の見滝原を考えるとそうも言ってられない所ですね。
それでもさやかは平和を乱す奴と戦えるのか。
それにしてもさやかとほむら、番号交換してないんですね。
魔法少女を抜きにしても、正直相性悪そうですしね。

投下します


187 : 神の怒り ◆7PJBZrstcc :2018/06/23(土) 16:46:00 HVGTs0yw0
 マスターであるディオ・ブランドーは、サーヴァントであるランサー、レミリア・スカーレットを連れ夜の見滝原を散策していた。
 否、正確に言うならランサーに連れられてディオは夜の街を散策していた。
 形式的な主従こそディオが主だが、実際はランサーの方が余程主だ。
 実際、この散策もランサーの発案だった。これが戦争であり、敵であるサーヴァントをただ待つなどランサーの性に合わなかったのだ。

「そんな物適当なNPCを操るなり、使用人に命令して探させれば良いだろう」

 とディオは言ってみた。

「退屈だもの。それに戦いは先手必勝よ」

 と返された。

「ぼくを連れて行かなくていいじゃないか」

 ともディオは言ってみたが

「あなた、私に荷物持ちをさせるつもり?」

 と言われた。何となく予想の付く話だった。
 この事に思う所は多々あるが、父を毒殺するまでの期間を思えばなんてことは無い。
 聖杯を手に入れるまでの我慢だと思えばいい。
 それにしても

「変われば変わる物だ」

 聖杯戦争の舞台、見滝原を歩きながらディオは思わず呟いた。
 聖杯戦争開始前にも多少はこの町を歩いていたが、やはり何度見ても未来の日本というのにはどうも受け付けない。
 平和で、住んでいる住人がどいつもこいつも腑抜けて見えるのが気に入らないのか、町が綺麗すぎる事に違和を感じるのか。ディオには分からない。
 だが少なくとも、夜の町は昔住んでいたイギリスの貧民街よりは余程ましだと思えた。
 絡んでくる人間もまずいない、居たとしてもセイヴァーと誤認しているのかヘコヘコして逃げていく。
 やがてしばらく歩いていると、ランサーから念話が入ってきた。

『サーヴァントを見つけたわ』

 それだけ言ってランサーは念話を切り、飛んで行ってしまう。
 何のことは無い、要は敵を見つけたから戦う。というただの報告だ。
 別に指示が欲しい、と言った事ではない。最も、貧民街の喧嘩ならともかく本物の怪物の戦闘に対し出来る事などたかが知れているだろうが。
 ディオも一応は追いかける。万が一の事があってはいけないし、まかり間違ってこんな序盤に脱落など冗談ではない。令呪を切る必要が出るかもしれない、そう思ったからだ。
 だがしかし次の瞬間

『サーヴァントがそっちに行ったわ!』

 そんなランサーの念話が届いた。

『何だと!?』
『何なのこいつのスピード、速すぎる!』

 ディオの声にも答えず、ランサーは敵のスピードに驚いている。
 何が最速の槍兵だ、と内心で毒づきながらともかく一旦身を隠そうとする。
 しかし、気付けば目の前には、1人の男が立っていた。
 年は40手前位だろうか、牧師か神父か、ともかく教会に関連しそうな格好をしている。
 この見滝原に来てからは見た事の無い服装だ。
 そして、ディオの目には目の前の男のステータスが見えていた。

「こいつ、サーヴァントか……!?」

 パッと見英霊になど見えないが、それを言うならランサーも羽が生えていなければただの子供にしか見えない。
 そんな事より

(なぜ攻撃してこない……?)

 こんな考えをディオが巡らせるより前に殺すなど、目の前の男からすれば容易なはずだ。にもかかわらずディオは未だ生きている。
 何か意図があるのか、それともただの甘さか、どちらにせよ生き残る芽はある、と判断したディオ。
 だが次の瞬間ディオは目の前の男から信じられない言葉を聞く。

「DIO、なのか……!?」

 その言葉を聞いてディオは確信した。
 こいつ、セイヴァーの知り合いか!?


188 : 神の怒り ◆7PJBZrstcc :2018/06/23(土) 16:46:36 HVGTs0yw0





 この聖杯戦争にライダーとして召喚されたエンリコ・プッチは、当然の如く聖杯に願いがある。
 その為には他のサーヴァントの撃破は必要不可欠だが、今はそれをしようとライダーは思っていない。
 ならば何をしようとしているのか。
 それはライダーの友、セイヴァーとして召喚された吸血鬼DIOと会う事だ。
 自身の目的とDIOの目的は一致する、ならば力を貸す事に不具合など一切ない。
 彼はライダーの知っている彼ではないかもしれないが、彼がDIOである以上ライダーは尽くすのみだ。
 なのに、DIOを知っていそうな人間に話を聞いても詳しいことは聞けなかった。
 まあ、討伐令が出ている現状で居所の手がかりを残すなど間抜け以外の何物でもない。
 近々集会があるらしいが、それにDIOは直接出ないらしい。
 彼に救われた人間が、勝手に集まっているようだ。ならばそんな場所に用は無い。
 という事でライダーが出した結論は、『自分でコツコツ探すしかない』だった。
 マスターのほたるが言うように、DIOのマスターが見滝原中学の生徒ならそちらから接触する手もあるが、吸血鬼であるDIOが一緒に登校するとは思えない。
 ほたるに情報収集させるのも手だが、あの子にそれが出来る気はしない。
 となるとやはり自力でどうにかするしかないのだが――

「やはりそう容易くはいかないな」

 現在午前0時過ぎ、プッチはマスターであるほたるを寝かせ、ソウルジェムを預かり1人夜の見滝原に出ていた。
 マスターを放置する事にリスクはあるが、まだ聖杯戦争は序盤も序盤。彼女がマスターだと気取られる事はまず無いだろう。
 もしかしたらNPCを手当たり次第に魂喰いするサーヴァントが居る可能性もあるが、その場合を考え宝具ですぐに戻れる範疇でしか行動していない。
 やはり何か手がかりを、と歩道上で考えていた所で

「くっ、いきなりか!」

 いきなり攻撃を受けそうになった、がライダーはほとんど勘で攻撃を避けた。
 なぜ避けられたかライダー自身ですら把握できない。スタンド使いとしての勘か、それとも運命が生かしているのか。
 ともかく避けたからにはその場で棒立ちなどありえない。ライダーは咄嗟に身を隠した。
 次はどこから攻撃が来るのか、とライダーが警戒していると、さっきまでいた歩道に少女が空から降り立っていた。
 特徴的な帽子を被った、そう言う趣味があるなら欲情しかねない美しい少女。
 そして背に生えた黒い翼。これだけで彼女が人間でない事が分かる。

「避けられてしまったわね」

 そしてこの言葉で彼女がさっきの攻撃の主だと分かる。

「ま、いいわ。
 こんなにも月が紅いから、本気で殺すわよ」

 少女はライダーにそのまま攻撃を仕掛ける。
 その攻撃は並みのサーヴァントなら回避不可能だろう。

「ふん」

 だがライダーの宝具『神の思し召し(メイド・イン・ヘブン) 』を使えば回避は容易だ。
 ライダーはDIOに会うまで消耗は極力抑えたかった。
 なのでサーヴァントと戦うよりマスターを狙い、極力手間を省いて敵を始末する事にした。
 ライダーはとりあえずランサーが飛んできた方向へ向かい、マスターを探す。
 いるのなら良し、いないのならそのまま逃げるだけだ。
 少し進むと、この日本ではまず見ないだろうイギリス人が居た。
 金髪の少年だ、10代前半だろうか。
 隠れようとしていたが、その前に少年の前に立つ。令呪が見えたのでほぼ間違いなくさっきのサーヴァントのマスターだろう。


189 : 神の怒り ◆7PJBZrstcc :2018/06/23(土) 16:47:10 HVGTs0yw0

「こいつ、サーヴァントか……!」

 そこで目の前の少年の声が聞こえた。その声にライダーは聞き覚えがあった。
 まさか、と思い顔を見ると少年はライダーのよく知る友人の顔だった。
 そんな、君は……。

「DIO、なのか……!?」

 ライダーが茫然としている隙に、さっきのサーヴァントが戻ってくる。
 当然サーヴァントはライダーに攻撃をしようとするが、

「待てランサー!」

 何と少年が攻撃を止める。
 ランサーは不満そうにマスターである少年を見るが、少年もまた負けずに睨む。
 さきに折れたのはランサーだった。さっきライダーを逃がしたせいでバツが悪いのだろう。
 だがライダーからすればそんなことはどうでもいい。
 重要なのはDIOと会話する事だ。とはいえここは路上、いくら真夜中とはいえあまり道の真ん中で長話をするべきではないだろう。

「DIO……、積もる話はあるが場所を変えないか? ここでは目立ってしまう。
 近くに公園がある、そこへ行こう」

 なのでライダーは場所変えを提案した。
 一方、少年は相手に主導権を握らせる事にいい気はしなかったが、この場の支配者は間違いなくライダーだ。

「いいだろう」

 だから少年は素直に従った。




 場所は変わり公園。
 そこでは少年少女と大の大人が、近くにベンチがあるにも関わらず立ったまま会話するという何とも言えない光景があった。

「まずは自己紹介といこう。
 私はエンリコ・プッチ、この聖杯戦争にライダーとして召喚されたサーヴァントだ」
「いきなり真名を名乗るの……!?」

 ライダーの言動に驚くランサー。だがライダーにとっては必然だ。
 例え目の前に居るDIOが自分を知らなくても、関係を聞けば納得してくれるはずだから。

「……ディオ・ブランドーだ」
「そのサーヴァントのランサーよ」

 向こうも自己紹介をする、といってもライダーからすれば知っていることだが。
 ライダーは言葉を紡ごうとする。


190 : 神の怒り ◆7PJBZrstcc :2018/06/23(土) 16:48:05 HVGTs0yw0

「DIO、君は――」
「待て、その前になぜお前がこのディオを知っているか教えろ。
 お前からすればぼくは知り合いだろうが、こっちは知らないんだ」

 だがその前にディオに遮られた。
 もっともだ、とライダーは思う。
 DIOの身長は190を超えていたのに、目の前にいるDIOはそれよりはるかに低い。
 それに自身を知らない、というのもおかしい。
 ならこの矛盾を解決する方法は何か、それは『自身と出会う前のDIOがマスターとなっている』事だ。
 それも子供、となれば吸血鬼になるよりも前だろう。ひょっとしたら石仮面の事すら知らないかもしれない。
 だからライダーはディオに説明した。
 石仮面の事、ジョースターとの因縁の事、スタンドの事。
 かつてDIOから聞いたことを、今度はディオに話す。

「道具で作られた粗雑な吸血鬼になる、それがディオの運命?」

 ディオは黙って聞いていたが、ランサーは煩わしい合いの手を入れてくる。

「大事なのは生まれでは無い、どう生きるかだ」
「そして時を止めるスタンド『ザ・ワールド』ね……。
 時を止めるヤツなんて私からすれば身内だけど、使用人よ。
 どんなに広い館でも一瞬で掃除出来て、私が望めば紅茶が出てくる。そんな程度の力よ」
「貴様……!」
「おい」

 ランサーの物言いに怒りが滲み出るライダー。
 それをディオはせき止める。

「そんな事より、お前はこの聖杯戦争で何を願う。
 このディオの邪魔になる様な真似は許さんぞ」
「そんな事はしないさ。
 私は、未来の君が教えてくれた『天国』に全人類を連れて行きたいと思っている」
「天国? 吸血鬼なのに?」
「『天国』というのに神父の私に合わせた言い方だ。精神の向かう所、と言う話だ」

 そして今度は『天国』について語る。
 世界を一巡させ、全ての人間が未来を虫の知らせの様に感じ取る世界。
 運命によって固定され、回避する事の出来ない未来が生まれる世界。
 どんな悪い事も、あらかじめ起こると分かっていれば覚悟が出来る。
 その覚悟が幸福だ、とライダーは熱弁する。

「醜悪な世界ね。いや、停滞を是とする幻想郷の住人が言っていいのかは分からないけど……。
 でもこれだけは確かね、そんな天国に住みたがる人間など居ないわ」

 しかしランサーは天国を一蹴する。
 ライダーはそれが気に食わない、だがマスターが賛同してくれれば令呪でどうとでもなるだろう。

 そう、ライダーは確信していた。
 例えこの考えに思い至っていなくても、DIOは必ず天国を目指すと。
 だから、こんな事はライダーの想定外だ。

「この、汚らしい阿保がァ―――――――ッ!!」

 DIOが己の言動に赫怒し、怒鳴り散らすなどライダーにとっては想定外すぎる。


191 : 神の怒り ◆7PJBZrstcc :2018/06/23(土) 16:48:42 HVGTs0yw0




 ディオにとってライダーの話は驚きこそあったが、本質的には自分には関係ないものと捉えていた。
 ライダーの言葉がないにしても、今自分が吸血鬼という訳ではないし、スタンドなるものは使えない。
 そんなものを手に入れる未来があったとしても、今ないのであれば興味深いが意味はない。

 しかし、ライダーの語る天国は別だ。
 確かにディオは天国を目指している。
 しかしディオは認めない。

「この、汚らしい阿保がァ―――――――ッ!!」

 ディオは我慢強い人間である。
 ダリオを殺すと決めたときも、怪しまれない為に毒薬を使い根気強く殺した。
 そしてこのディオは知らないが、彼はジョナサン・ジョースターと侮れないと見るや7年間友情を演じることも出来る。
 それと同時にディオは我慢弱い人間だ。
 これもこのディオは知らないが、口だけでも肯定しておけばいい場面でも、父親の名誉に誓えと言われて誓えなかった事がある。
 母親を侮辱され、衝動的に酒瓶で人を殴る事もある。

「そんな、路地裏の負け犬がほざく下らないたわ言以下の薄汚い世界が貴様の言う天国だと!?
 そしてそんな世界をこのディオが目指すことになるだと!?」

 だからディオ・ブランドーは認めない。
 この世界を認めれば、母はもう1度父のせいで死んでしまう。
 そして、父であるダリオ・ブランドーがもう1度己の目の前に現れることになる。
 そんな世界が天国であるものか。
 あってたまるか!

「殺せ、ランサ―――――ッ!!」
「はいはいっと」

 極大に膨れ上がった怒りはそのまま殺意となり、ランサーを通じてライダーに襲いかかる。
 しかしライダーは、ランサーの攻撃が当たる前に公園から姿を消した。

「逃げたか……」
「どうするの、ディオ?
 尺だけどあいつ速さだけは大したものよ。この私の目でも追えないのだから」
「ならマスターの方を仕留めればいい」
「……そうね」
「それにあいつは討伐令の出ているセイヴァーの味方をしかねないサーヴァントだ。
 セイヴァーの情報も手に入れたし、そいつの情報と合わせて他の参加者にばら撒けば妨害にもなるだろう」
「セイヴァーはともかくライダーは大した情報は無いけれどね」

 ランサーの言葉にディオは一瞬押し黙る。
 よく考えれば自分はライダーの真名位しかわからない。
 それでもディオは表情を変えることなく言った。


「いくぞ、ランサー。あのライダーはどんな手を使ってでも地獄に落としてやる。そいつに味方する奴もな。
 そして未来のぼくも同じ事を考えているのなら、そいつも同じくだ」
「ええ、異論はないわ。
 でもどうするのディオ? どっちも今の私達に仕留めることはできないわ。だってどこにいるか分からないもの」
「そうだな……」

 ディオは考える。それはこのまま他の参加者を探すかどうかだ。
 このまま探すのもいいが、今は序盤も序盤。情報が集まるまで動かない奴もいるだろう。
 ならそれに習い、こちらも動かずある程度盤上を見極めてから動くのも手だ。
 一旦帰るか、このまま他の参加者を探すか。
 ディオが出した結論は――


【C-3 公園/月曜日 未明】

【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態] 健康、怒り(極大)
[令呪] 残り3画
[ソウルジェム] 有
[装備]
[道具]
[所持金]数万円
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、天国へ行く。
1.セイヴァー(DIO)とライダー(プッチ)はどんな手を使ってでも殺す。そいつらに味方する奴も殺す
2.他の参加者と接触したら、ライダー(プッチ)の知っている情報をばら撒く
3.一旦帰るか、それともこのまま他の参加者を探すか――
4.あいつらの言う『天国』など、俺は認めん。
[備考]
※ライダー(プッチ)のステータスを確認しました。
※ライダー(プッチ)の真名を知りました。
※自身の未来(吸血鬼になる事、スタンド『ザ・ワールド』、ジョースターとの因縁)について知りました。

【ランサー(レミリア・スカーレット)@東方project】
[状態] 無傷
[装備] スペルカード
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの運命を見定める
1.ライダー(プッチ)の言う『天国』は気に入らないので阻止する。
2. 一旦帰る? それともこのまま散策する?
[備考]
※ライダー(プッチ)の真名を知りました。
※ディオの未来(ディオが吸血鬼になる事、スタンド『ザ・ワールド』、ジョースターとの因縁)について知りました。


192 : 神の怒り ◆7PJBZrstcc :2018/06/23(土) 16:49:14 HVGTs0yw0





「ハァ……ハァ……」

 ライダーはディオから逃げ出し、離れた所にいた。
 『神の思し召し(メイド・イン・ヘブン) 』を使えば逃走は容易である。
 勿論戦ってもそう簡単に負けるとは思わなかったが、ライダーは逃げた。

「なぜだ、なぜなんだDIO……」

 ライダーはショックを受けていた。それも生前では絶対に味わうことのない程のショックをだ。
 討伐令が出されたDIOの見覚えのなさにも驚いたが、それでもここまでのショックは無かった。
 姿は間違いなく知っているDIOであったし、救世主などと呼ばれても本質は変わらないだろうと思っていたからだ。
 だがディオは違う。
 ディオは天国を拒絶した。
 なぜかは分からないが、未来の自分が目指しているものを過去の自分が否定したのだ。
 何が違うのか。
 100年の時を過ごしていないからか。
 吸血鬼になっていないからか。
 ジョースターを侮りがたい敵と見ていないからか。
 ライダーには分からない。ともかくディオは拒絶した。

「それでも私は天国を目指すぞ、DIO」

 だとしてもライダーは折れない。
 例え神を愛する様に愛している者に拒絶されても。
 なぜなら希望があるから。
 あのDIOは厳密には己が友人となったDIOとは違う、と。
 年齢が変われば考え方も変わる、そう考える事にした。
 ショックはある、大きくある。
 でもここは戦場だ。そして相手はライダーの心理的動揺など感知しないのだから。

「とにかく、早くセイヴァーのDIOと合流したいが……」

 とはいえそれも難しい。
 なら一旦マスターの元に戻るのも手だろう、未だ寝ているだろうがこちらも動揺が残っているし、時間が欲しい。
 勿論割り切らなければならないのは分かっているが。
 この夜はマスターの護衛に徹するのも戦術だ、どのみち1人ではセイヴァーのDIOを探すのは無理だろう。

 そしてライダーは進みだす、己の望む未来を掴むため。
 ライダー、エンリコ・プッチは諦めない。


【D-4 見滝原中学校付近/月曜日 未明】

【ライダー(エンリコ・プッチ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態] 無傷、精神的ショック(極大)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』を実現させ、全ての人類を『幸福』にする
1.セイヴァー(DIO)を探す。他のサーヴァントと戦闘はしないようにする
2.一旦マスターの元へ戻る。
[備考]
※DIOがマスターとしても参加していることを把握しました。
※ランサー(レミリア・スカーレット)の姿を確認しました


193 : ◆7PJBZrstcc :2018/06/23(土) 16:49:39 HVGTs0yw0
投下終了です


194 : <削除> :<削除>
<削除>


195 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:21:44 GqprEX5M0
皆さま投下ありがとうございます。感想の方をさせていただきます。

・喧嘩するほど仲がいいとは限らない
思えばほむほむとさやかが仲良いかと言われれば、どうなんでしょう。
連絡先を知らないよりも、ほむほむは死ぬ可能性高いさやかとの交流を深くしなかったり
あの子のことですから、ナチュナルにまどか贔屓してまどかだけにしか連絡先教えてない可能性ありますよね…
何か、喧嘩しちゃったなーって雰囲気なんですけど
こんな風に喧嘩できる主従が良いんです。だって他の主従にワチャワチャと喧嘩する余裕……ありますか…?
とはいえ、さやかも過去の事を引きずって、肝心のまどか達と話しにくい。
切っ掛けが得られれば、案外話が上手く好転できたりするので、頑張って欲しいところですね。
投下していただきありがとうございます!


・神の怒り
どうしてこう……コイツ(プッチ)は……もう、通常運転過ぎて最早突っ込み不要と言うべきでしょうか。
(fate的に言うなら)ディオ・リリィがリリィだから仕方ないで終わらせていい問題じゃあないって
何故、分からないのか。こっちが聞きたいほどです。でも、多分こいつは分からないし、分かろうとも考えないんでしょう
どうしようもできません。とことこん数多のディオに翻弄されて欲しいものです。
ですが。この時点で精神ショックダメージが強すぎる為、精神ショック消滅してしまわないか不安(?)になります。
一方で、未来の存在に敵意をむき出す、よくある現象が発生しているディオですが。むしろ、彼はリリィの立場として
プッチやDIOにぶつかって欲しいと応援したくなってしまいます。
何よりも『天国』は望んでいないのだと、気高く餓えて欲しいものです。
投下していただきありがとうございます!


196 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:22:24 GqprEX5M0
予約分投下いたします


197 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:23:53 GqprEX5M0



『剪定事象』というのがある。

平行世界は無数に存在する夢物語は多くの人々が思うとおりにある。
しかし、無数に枝別れたした平行世界を全て、宇宙が掌握し続ける訳がなく。
正規とは完全なる別世界となる世界は、いずれ滅びる事が確定されていた。

『無駄な』世界は廃棄される。
木を育てる際、養分を余計に分散させないよう、不要な枝を切り落とす『剪定』が行われる。
例え、基本よりも優れ、基本よりも理想郷で、素晴らしいものだったとしても。
世界が未来に続く為には、宇宙の膨張を抑えるべく。幾千の『剪定事象』は行われた。
剪定というもので切り捨てられた世界。


ある男も『剪定事象』によって世界が滅び、帰る場所も全てがなくなり、漆黒を彷徨い続ける事になった。
最も。それもかなり『ありえない話』ではある。
その男は『時の力』を持っていた。『そのせい』で『助かってしまった』。
ひょっとすれば、時の力を持たずに世界と共に滅び消えてしまった方がマシなのだろうか。

グルグルグル
グルグルグル

神からも人々からも存在を忘れられ、漆黒を彷徨い続け、誰も彼を知る者はいなくなって………
『世界でひとりきり』になった彼を導いたのは『歌』だった。







現代には相応しくない魔女っ子スタイルの少女が、見滝原の僅かにある森林地帯で唸っていた。


「キノコ狩りとは」


やるとは言ったがマジでやるとは思わなかった。
アーチャー・魔理沙の呟きである。
しかし、外灯が僅かにあるとは言え、深夜の時間帯でキノコを探すのは難しい。当然の話だが。
第一、都会にキノコが生えていなくはないが、魔理沙の住む幻想郷と比べれば圧倒的少なさだ。
大食いのマスターの腹を満たすには、あまりに心細い。

一方。
弥子は、魔理沙がキノコを回収した地帯からさほど離れた位置にある『池』でひっそり釣りをしていた。
念の為に、携帯端末で時間を確認すると、もう間もなく深夜0時。
魚も夜は眠ってしまう、と聞くが。外灯の明かりのせいか、時折餌に食いついてくれる。
漸く、三匹目に到達した弥子の元に魔理沙が戻った。


「マスター、聖杯戦争が始まっちまうぜ? もうちっと緊張感ある筈だけどな」

「う、うん。なんかごめん……池で釣りはしちゃいけないから。こっそりするしかないんだよね」

「何でだ? 公共の場って奴だろ」

「生態系が崩れるとか……? 池の魚は水鳥が食べるのが基本だし」

「納得いかないなぁ」


幻想郷の在り方に慣れてる魔理沙は、現代社会の窮屈さをうっとおしく感じる節が幾度かあった。
住めば都と言うし。弥子のような『こちら側』で生まれ育った人間は、何ら不思議にも、不満すら無いのだろう。
水鳥だって一匹もいない。池以外の場所で釣りをする人間すら奇妙にも居ない。
だったら、釣り禁止令ですら無意味に聞こえてしまう。逆に、魚が増え過ぎて池の生態系が無茶苦茶になるのでは?


198 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:24:21 GqprEX5M0

「……ん」


魔理沙は視線を感じたので、周囲を警戒した。
まだ、魔力感知は疎外されている状態で、目で判断するしかない。
釣りをしている弥子と魔理沙から少し離れた箇所。コンクリートで舗装された道に少年が一人。
年齢は弥子に近い雰囲気。フードのついたノースリーブの白いシャツを着ている。
時間帯から、彼がどうして徘徊しているのかが問題だが……


「マスター。誰かに見られてるぞ」


それは魔理沙側も同じだ。
聖杯戦争と無関係な一般人なら、尚更弥子の行いを心良く思わない筈だろう。
現に、池の周辺には『釣り禁止』の立て看板だってある。
弥子も飛び上がる様に急いで撤収しようと、釣り道具を回収し始めたが。魔理沙は眉を潜めた。


サーヴァントの魔力が感知出来ずとも、少年の前にゆらーりと鋭利な刃物を持った少女が現れたのだから。







夕方に満足な睡眠を取れなかったアイルの容体は、非常に悪い。
しかも、聖杯戦争が始まる。
通りかかった池の近く、確か廃墟があった筈……ブラブラとアテなく歩き回っている訳じゃない。
休めそうな場所はアイルも記憶していた。
セイヴァーの討伐を目標に定めたが、こんな状態じゃサーヴァント相手に満足な戦闘も不可能。

チラリと池で釣りをしている『誰か』を遠目で見たが。
こんな時間に何してんだ、と思う程度で、アイルは通報しようだとか些細なものに興味も関心も湧かない。
アイルは、それどころじゃなかった。
安全で、誰も居ない場所を探し、少しでも体を休めなければならない。


「ゆらーりー……」


と、気配なく。一人の少女が現れるまでは、そう考えてた。
見滝原では見覚えない制服を着た、されど服はズダズダ状態で、少女の様子もゆらゆら虚ろで覚束ない。
華奢な細腕には似合わない猟奇的な刃を両手それぞれに握る。
アイルも、ゆらゆらと同じフラフラ状態ながら、戦闘態勢を整えようとした。
教会で目撃した修道女のように、ステータスが見えないから……マスターだろうか。
少女は言う。


「ええとぉ、おはようございました。通りすがりの仮面ライダーです」


「……は?」


意味不明な内容にアイルは素っ頓狂な声を漏らす。
彼の世界に『仮面ライダー』が存在しない為、ひょっとしてサーヴァントのクラスを示しているのでは。
アイルが勘違いしてしまっていた。
否、彼女はサーヴァントなのだろうか。ステータスは、やはり確認できない。

瞬間。


既に少女は駆けだしていた。
アイルに飛びかかる風に虚空で身を捻って、逆手持ちしているナイフの刃で回転斬りを仕掛ける。
ゾッとする速度と反射神経に、満身創痍状態のアイルも目が冴えた。
反応し、目で追える。
だけど――体は動けない。動かないのではなく――動けない、である。


闘争本能を意識的に発揮させるのは、完全なる内なる自分を牢獄から解き放ったも同然だった。


199 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:24:46 GqprEX5M0




「な、ぁっ―――!?」


叫んだのは魔理沙だった。
彼女が弾幕を展開させ、ズタズタ制服の少女に攻撃を仕掛ける前に、弥子共々驚愕する展開が待ち受けていた。

通常、マスターはサーヴァントに敵わない。
テンプレで基本じみた情報の理由は、一般的な話。
神秘と幻想、逸話により圧倒的な身体能力と宝具やスキルを兼ね備えた英霊と、渡り合うのは無帽。
常識を簡潔に説明した文面なのだ。


つまり―――………

英霊に匹敵する能力を持ち合わせたマスターなら、サーヴァントに敵う。


弾丸並のスピードで差し迫った『病み付き』の少女の頭部に、アイルの豪快な拳がクリーンヒットした。


「………!!!!」


弥子は遠目ながら絶句する。紛れもなく、あの少女はサーヴァントだと感じた。
あの猟奇性や人外じみた速度と攻撃……魔人を彷彿させる規格外の象徴を体現した猟奇の化身。
だが。
アイルは、そのサーヴァントを返り打ちにした。

ゆらゆら少女は、吹き飛ばされた先の地面に叩きつけられるとボールのように体が跳ねる。
跳ねた、刹那。
身をゆらりと捻って地面に着地してみせた。
相変わらず、ゆらーりと関わり難い雰囲気で体を揺らす少女に、アイルは笑っていた。
悪魔の高笑いである。


「すっげぇな! 割と本気で殴ったぜ? 頭蓋がぐちゃぐちゃになってもおかしくねえよ」


攻撃が通用しない危機感どころか。
スリリングに変化した事で高揚感が上昇しているアイル。
いや。この少年は、既にアイル『ではない』。
挑発的なファイティングスタイルを崩さずに戦闘狂が、ゆらりと揺らめく狂戦士に呼びかけた。


「第二ラウンドと行こうぜ! イカれ野郎。ほら来いって」

「―――ゆぅ、らぁ、り!」


200 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:25:19 GqprEX5M0
再び少女が猟奇の刃を構えて獣の如く飛び込む。
瞬間。彼女の細腕が6本、いや8本増えたように錯覚するほど残像を産み出し、斬撃の嵐を発生させた。
対し少年は拳で立ち向かうのだ。
正確には――土の魔力を付与した拳。刃と拳が衝突するとガラス片のような魔力の断片が飛び散る。


「ま……まじか」


魔理沙は弾幕の展開を完全に躊躇した。
恐らく、弥子とは違って戦闘を糧とするのが常識の世界に居た人間なのだろうか。
逆に、サーヴァントとマスターなる規格外な戦闘を邪魔しようがない。両者の間をどう割って入ればいいのやら。
………が。
魔理沙は気付いた。敵がもう一人居る!


「動くと撃つ!」


彼女が、叫んだ先―――森林地帯から明確な殺気があった。
気配を探ってみると、しっかりと『サーヴァントの魔力』を感知したのである。何故?
もう深夜0時を回っている! 聖杯戦争は開幕したのだ!!
星の弾幕を無数に展開させ、魔理沙は呆然としている弥子に呼びかける。


「さがれ、マスター! この感じ……攻撃をしかけられた! 敵サーヴァントの攻撃が来る!!」

「ア………」


弥子がアーチャーの名を叫びかけてしまった。
最早、遅いほどに。
魔理沙が睨んだ森林から無数のナイフが『突如』現れ、襲いかかって来たのである。







予想外とはまさにこの状況を示すのだろう。
当初、ゆらゆら少女・西条玉藻とホル・ホースは、池で呑気に釣りをしている弥子と魔理沙に攻撃を仕掛ける算段だった。
信頼して送りだしたサーヴァントが、まさか見当違いの通行人へ攻撃をしかけるのは『予想外』であり。
その通行人もまた、マスターだったのも『予想外』。

ゴチャゴチャな状況だが、ホル・ホースはスタンド『皇帝』を独特な効果音を鳴らし、手元に出現させた。
ギリギリ『射程距離圏内』。
遠過ぎては銃弾の威力も低下してしまう。
謂わばラッシュによる応酬。突きの比べ合いを現実にしている玉藻とアイルの戦闘に驚きがない訳ないが。
ホル・ホースはアイルに銃口を定めた瞬間、酷く冷静で震えで手元が狂う事も無い。
引き金に指をかける。


201 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:26:27 GqprEX5M0
「……ハッ!?」


だが、止めた。
ぶわっとホル・ホースの全身に悪寒が巡って、大量の汗がどっと溢れる。
彼自身本能的なもので、されど、一瞬感じたソレはDIOのスタンド能力を垣間見た、あの恐怖の間を彷彿させた。
周囲に銃口を向けて警戒したところで。漸くホル・ホースは理解した。


「さ、サーヴァント……そうかッ! 『アイツ』のサーヴァントだ! 不味い、既に捕捉されてやがる!!」


気配もない。何も感じない。姿すらも……!!
しかし『そこに』居るッ! サーヴァントが確かに存在するのだ!! 玉藻と交戦しているアイルのサーヴァントが!
ホル・ホースも薄々『アサシン』……暗殺者のクラスの手ではないかと想像した。
迷いは捨てる。ホル・ホースは恥もなく玉藻を頼ろうと駆けだした。
玉藻だけじゃあない。弥子のサーヴァントにもだ。

二騎のサーヴァント!
アサシンクラスだろうが気配を消そうが、何を仕掛けようが。
サーヴァントの前では姿を露わさなければならない。あえて混戦に紛れこみ、敵の攻撃から逃れる作戦。
即席だが、我ながら奇策じゃあないか。ホル・ホースが冷や汗浮かべ笑う。


虚しくもその笑いは消えてしまった。


「確か『チャンスの神』の例えで『好機は直ぐに捉えろ』。
 そういう諺があるだろ? その神は皮肉にも『時の神』で……名前はなんだったかな」

「あ、あああ………あああッ!!? ま、さかっ! ディッ…………!!」


ホル・ホースは足を挫く。
滑らせたのでなく、恐怖で膝が震えて、体勢を、足を完全に崩してしまった。
大人が情けなく大胆な転倒を起こし、だけどもホル・ホースは完全な屈服を再び味わう。
先ほどの悪寒! 殺気! 途方もない邪悪の気配はまさかッ!! ホル・ホースの耳に残る『声』は完全に『同じ』ものなのだ!
地に伏せたホル・ホースの前に、何者かの足が見えた。






202 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:27:09 GqprEX5M0
『ボーマン! 貴様あああぁあぁぁ―――――!!』


怒声を上げたのはアイルではなく――彼あるいは『彼ら』のサーヴァント、ディアボロだった。


ディアボロ。
かつてはパッショーネと呼ばれたギャング組織のボス。イタリアの裏社会にて帝王に君臨していた男。
吐き気を催す邪悪とは、即ち『悪魔』の名を冠すディアボロを示している。
当然、彼は絶頂の為、麻薬の売買、ワイロ、裏社会のあらゆる悪に手をかけ。
最終的に、それらが仇となって。組織に反逆者が現れた……

彼は誰も信用しない。
絶頂を害する存在は全て消した。自らの娘すら消そうとした。
だが……彼のもう一人の人格・ドッピオは『別』だ。彼は紛れもなくディアボロの『光』である。
いつぞやの占い師が告げた。
二人の『光』と『影』が保たれ続ければ『絶頂と幸福』が約束される。

実際、そうだった。そうであったに違いない。ディアボロは確信があった。
再びドッピオの声を聞き、確信が『真実』に変わった。
やはり、ドッピオがいなければ帝王に――絶頂へ有り続けられない、と。


だからだった。
故にディアボロは、マスターのアイル……を害する別人格・ボーマンに憤慨した!
散々、ボーマンがアイルの精神を害し続けた以上に。
勝手に体を乗っ取って、よりにもよってサーヴァント相手に戦闘をしかけるなど!!
当のボーマンは西条玉藻の猛攻を受け流し、上機嫌である。


『ちったぁ信用してくれるよな? 教会にいたサーヴァントの情報だって前払いでくれてやったんだぜ』

『いいから即刻、戦闘を中止しろッ! 今すぐにだ!!』

『んなの、出来たら世話いらねぇって』


確かに玉藻は一向に退く気配がない。
アイル、ではなく『ボーマン』が引き出す瞬間威力は圧倒的だ。普段は『枷』で縛っている人間が引き出せる最大を発揮する。
心底信用出来ない奴だ。
ディアボロがボーマンに抱く感情は、絶頂から地獄に叩き落とした忌まわしいジョルノ・ジョバーナ以上の嫌悪だ。
便所に吐き捨てられたタンカス以下の、洗面所にこびりつく毛埃に近い。
毛埃が調子づいて、自分の位置をディアボロに伝えなければ一大事だ。救いようもない。


203 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:27:55 GqprEX5M0
だったら―――……

ディアボロは、傍らで呆然とする弥子と魔理沙を遠目にやる。
特異な『気配遮断』により完全にディアボロに気づいてはいないだろう。

問題は、玉藻のマスター。
狙いは明確だ。元々は玉藻の猛攻を利用し、遠距離から的確に射撃する作戦。射程距離を考えれば―――


――――『墓碑銘』。


前髪の裏側に映し出される未来予知の映像。
草影に身を潜めていたマスターらしきカウボーイが血相変えて、玉藻達の方へ駆けだす光景。
成程。相手は勘が良いらしい。今回ばかりは、良過ぎたせいで仇となった。
ディアボロが冷酷に行動を取ろうと一歩踏み出す、が。予知には続きがあったのだ。


「………な」


カウボーイが盛大に転倒する。その先に―――あの男! そう!! ディアボロが警戒し続けていた『セイヴァー』


――――に『良く似た別のサーヴァント』が登場したのだ!!!


しかもスタンド使い!
男の背後からは人型のスタンド像が浮かび上がり、スーツ姿から英霊としての騎手の恰好へ変貌していき。
ディアボロ因縁の相手たるジョルノを彷彿させる雰囲気を醸す風貌。
ズラッと手元にナイフを構えた『奴』は、不敵な笑みを浮かべている。

一つ理解した。
『奴』は……『奴ら』は『ジョバーナ』の血族はッ!『奪う者』であると!!
組織のボスの座を、ジョルノ・ジョバーナが奪った様に。『奴ら』はディアボロから聖杯を奪う為に現れたのだと!!


「『THE WORLD』 オレだけの時間だぜ」






204 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:28:30 GqprEX5M0
『5秒』。全く理屈に合わないが、たった『5秒』だけ『時を止められる』。
それがディエゴ・ブランドーの宝具……『THE WORLD』なるスタンドの能力であった。
血相変え、今にでもゲロ吐きそうな男がディエゴの眼前で転倒している。残された僅かな秒数で判断を下す。

マスターを殺害しても意味は無い。仮にマスターを殺害し、サーヴァントが消失すれば……
この位置……恐らく『ソウルジェム』を所持している可能性の高い、弥子たちの方にバーサーカー・玉藻の魂が入ってしまう。
『近い』方だ。
ディエゴは、向こうで殺気を感じ取った魔法使いの少女を横目にやった。

手元に出現させたナイフを全て少女に対し投擲する。
ナイフのスピードが一定より減速し、少女の手前で停止した。
後……ついでだが、やはりナイフを一本。ホル・ホースの『皇帝』を持つ手首に投げつけておいた。
出血死しても、直ぐに死にはしないだろう。安直でちっぽけな小さな悪意で攻撃した。


「―――そして、動き出す」


真っ先に反応したのは、普通の魔法使い・魔理沙だ。
ディエゴの視界に移らないうちに、彼女は手元に『ミニ八卦炉』なるマジックアイテムを出現させており。
『突如』現れたナイフに怯むこと無く『ミニ八卦炉』に魔力を送り込み、風圧で向かってくるナイフをはねのけた。
一瞬の判断が間違えば串刺しだ。
魔理沙はもう一つのアイテム、箒を出現させ、華麗に柄で立ち乗りすると魔力放出で速度を上昇させ。
潜んでいる敵サーヴァントに接近する。

魔理沙は、チラと先ほどのナイフの『形状』を確認した。
余裕を露わしているのでなく。『似たような攻撃』を知っているから確かめたのだ。でも―――『違った』。
『アイツ』じゃあない。魔理沙はどこかで少し安堵したのかもしれない。
故に、躊躇が消えた。

向こうより男の悲鳴が聞こえる。
その主はホル・ホースだ。手首にグッサリと深くナイフがめり込んでいるのを見て、叫ばずに居る人間がどれほどか。
ホル・ホースは完全に地伏せたまま、恐怖に支配されている。
顔を上げずに、現実を受け入れられなかった。
自分の前に居るのはッ……紛れもなく『あの男』だ! 自分を始末しに姿を現した……!!


「さっきのセリフは間違えた」


成人とっくに過ぎている男性が情けなく動けず仕舞いに居る中。
普通の少女が、箒に立ち乗りして颯爽とディエゴの前へ登場を果たした。


「『撃つと動く』だ。今すぐ動く、私がな。おい、なんだお前。セイヴァーに『似過ぎ』じゃねぇか?」


205 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:28:53 GqprEX5M0
少女の言葉に正気を取り戻したホル・ホースが顔をあげれば、そこにいたのはセイヴァーではなかったのだ。
困惑する彼を差し置いて、ディエゴは面倒そうに答えた。


「他人の空似、赤の他人だ。一々無駄話で時間を稼ぐなよ」

「分かった。お前は嘘つきだ。しかも、とびきり嘘が下手くそだ」


魔理沙の手元より、瞬く星の小宇宙が広範囲に展開された。


――魔符「スターダストレヴァリエ」――


威力を求めていない。弾幕ごっこにおいても重要な、小さく繊細な回避の困難を極める種類。
『時を止める程度』の者は幻想郷にだっている。
ならば彼女を打破する為に求められる解答は――『時を静止しても回避困難な高密度の弾幕』で攻撃する事!

ただし弾幕ごっこだったらの話。
聖杯戦争じゃ訳が違う。
ディエゴの背後に立つスタンド像が拳を構えていた。怒涛のラッシュが繰り




                   『深紅の帝王の宮殿(キング・クリムゾン)』





「―――ハッ!」     「あ?」


ディエゴが何かに驚き、魔理沙も違和感を覚えた。
何故か『ディエゴの立ち位置が違う』。そして『弾幕を無数に喰らっていた』。
弾幕は光と熱の威力を帯びており、小さいながらディエゴの肉体に的確な魔力攻撃を与える。
漆黒の復讐心を糧に、ディエゴは怯むこと無く『THE WORLD』のラッシュを繰り出す。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!」


忌々しく感じる星の弾幕を『THE WORLD』の拳で打ち消しながら、ディエゴは必死に思考を巡らせていた。
『先ほど何かがあった』! 確かに『何かが起きた筈』なのだ!!
だからこそ、魔理沙の弾幕を受けてしまい。
どういう訳か『その間の記憶』も抜け落ちている。ポッカリ。盗まれたように――……


(理解した! 『時間泥棒』かッ!!)


ディエゴが弾幕を討ち終えたのは、魔理沙の宝具・スペルカードの発動時間が終えてしまったから。
そう。『時間』だ。
魔理沙も違和感の正体に気づく。


(スペルカードの発動時間が短くなった? 違うな、時間が『盗まれた』!!)


『スターダストレヴァリエ』の発動時間で理解した。体感的にも、本来ならもっと長かった筈なのに、と。
いる! もう一騎、サーヴァントがどこかに存在している!!


206 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:29:52 GqprEX5M0




桂木弥子は催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない。
頭がどうにかなりそうな展開に圧倒されていた。
果たして、これがサーヴァント同士の戦闘と呼べるのだろうか。
剣士と魔術師が幻想的に攻撃を応酬するならまだしも……

弥子は、危険ながら玉藻と応戦し続けていた少年の方に接近しようとしていた。純粋にマスターである筈の彼が心配だったから。
………だが。
最初、ほんの少し違和感を感じた。
違和感の正体が明らかになる前に異常が発生した。


再び玉藻の体が吹き飛ばされた。それも紅の像による強靱な拳一つで。
独特な模様のあるピンク髪のサーヴァントが、何の前触れもなく出現したのだ。
否、サーヴァントなのに。弥子には彼のステータスもまた見えない。


時間泥棒・ディアボロは憤慨を来しながらも、結局のところボーマンと玉藻の攻防を妨害しなければならなかった。
無論、ジョルノを彷彿させるアヴェンジャーも無視は出来ないが。
一番の問題は、コチラだったに過ぎない。
唐突な妨害を起こしたディアボロの登場に、ボーマンは邪魔された点より。
『一体どうやって』気配なく現れたのかが驚きであった。


「そいつがアンタの能力? 宝具か? 面白いじゃねぇか」

「アイルに体を戻せ」


ディアボロの静かな怒声の最初がそれだった。流石のボーマンも失望した様子をする。


「おいおい、んだよ……同情でもしてんのか? らしくねぇだろ。俺でも分かるって、アンタ『そういう』奴じゃあない」

「そうだ。他人の同情など私はしない。だが――貴様のような例外は別だ!」


威圧を放つ『キング・クリムゾン』を背後に、嘲笑うボーマンに対しディアボロは告げた。


「いいか! 貴様が余裕こいて現れた精神世界で、貴様を消すなど容易かった!! 
 アイルの精神に支障を齎す可能性がある以上、貴様を消しておかなかっただけだ!」

「………」

「二度も言わせるなッ! とっとと消え失せろ!!」


207 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:30:25 GqprEX5M0




「…………あ、あれ? 今ッ……??」


我に返った弥子は強烈な混乱を覚えていた。
先ほどまで生き生きと戦闘を繰り広げていた少年は、地面に倒れ込んでおり。慌てて彼の元に駆け寄る弥子。
様子を確かめれば、寝息を立てている。

え?寝てる??
満更でもなく、むしろ願ってましたと言わんばかりの熟睡っぷりに弥子が戸惑う。
一体どうしようと考えてた矢先。
向こうへ飛んで向かった魔理沙が、箒を片手に徒歩で普通に帰ってきたのだ。
色々、ついて行けない状況だったが弥子は一つ一つ処理していこうと考える。


「アーチャー、おかえり。どうだった?」

「攻撃してきた敵サーヴァントは、どうやら逃げられた。『時を止められて』な」

「と、時!?」

「しかもセイヴァーと顔が似ててな。ありゃ兄弟とか親子って奴か?」


セイヴァーと? 逆に混乱するような情報を与えられ、弥子は頭を抱えたくなる。
魔理沙は周囲を見回して眉を潜めた。


「あのバーサーカーはどうなったんだ?」

「……あっ! 何か忘れているかと思ったら!」


実際、弥子が忘却していた違和感は――ディアボロに関する記憶の欠如だった。
情報抹消のスキル。
ディアボロが堂々と姿を現そうが、宝具や外見などは目撃者の記憶から抹消されてしまう。
英霊としての能力。生前の逸話で会得した特異の一つだ。
弥子だけでなく、魔理沙も『キング・クリムゾン』の時間の吹き飛ばしに関する違和感を忘却してしまっている。

誰も知らない。誰も覚えてない。
弥子は、その欠如と玉藻の消失を一致させ『誤認』してしまう。

しかし……実際、玉藻の姿はどこにもなかった。
何故? それはよく覚えてない。弥子は腑に落ちないまま、唸って答える。


「逃げたんだと思う。えっと……それからこの人が倒れて、寝ちゃってるみたいなんだけど。アーチャー、運べる?」

「しゃーないな」


208 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:31:12 GqprEX5M0
だが、魔理沙は『キング・クリムゾン』の記憶がなくとも、アイルがマスターである事は分かっていた。
故に――……


「おーい。どっかに隠れてるんだろ。お前のマスターを運ぶが、いいのか?」

「アーチャー?」

「コイツのサーヴァントに言ってんだ。気配がねぇし。アサシンだろ?」


弥子も周囲を見回すが、何も起きない。魔理沙に対する返事もなかった。
魔力や気配の察知なんて無理な弥子でも、恐らく存在だろうサーヴァントに対し言う。


「あ、あの! 私達、聖杯が欲しいって訳でも。乗り気じゃないっていうか……こ、この人は私の家まで運んでおきます!」


反応が無い。弥子は唸ってぼやく。


「もしかして、近くにはいないんじゃ?」

「居ないのもあると思うぜ。マスターが戦ってたのに姿を見せなかったからな」

「う、うん。そっか……それもそれで心配だけど」

「あー……まぁな」


マスターを放置するのもサーヴァントとしての印象は悪い。
サーヴァントの魂を回収する為のソウルジェムシステム。これによりマスターが狙われる確立は下がっている。
確実に、聖杯を産み出すには。
マスターじゃあなく、サーヴァントを倒すのを優先させるべきだ。
だからと言って。マスターの安全を放置、どっかに徘徊し好き勝手するのはマスターの管理が悪いよりも
サーヴァントの性格の悪さが露出している。


(……この人の顔色。そんなに良くない)


弥子は医学に精通してないものの、少年の目の下にある隈や血色から、満足な安息が得られてないと感じた。
聖杯戦争に巻き込まれた事の精神的な問題だろうか?
とにかく、今は彼を運ぶのを優先させた。






209 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:31:39 GqprEX5M0
―――私の能力を見て逃げたのか!! 忌々しい『ジョバーナ』の一族め!


善意でアイルを助ける弥子たちを遠目に、ディアボロは影ながら未来予知の『墓碑銘』を幾度か発動させている。
彼女たちは、どうやら本当に聖杯戦争を蔑ろにするようだ。
一方で、いくら予知をしてもセイヴァーに酷似したサーヴァントは現れない。

ディアボロは魂に関して敏感だ。
ボーマンの件も、洗面所の毛誇り程度のクズであれ、奴と言う魂が欠如した瞬間。
アイルに何ら影響や後遺症が残らないとは限らないと判断できたほどに。

故に分かった。
あのサーヴァント。『魂がセイヴァーそのものだ』と。姿や肉体などに微細な違いはあれど『魂は同じ』……
時を止める。だがセイヴァーとは異なる。

ディアボロはセイヴァーが、聖杯戦争開始前に数度『時を止めた』サーヴァントと予測していた。
であれば……例のサーヴァントが『時を止める』スタンドを保持するのも納得し、すんなり受け入れ。
むしろ自らの予感が的中した満足感を得ていた。

されど、例のサーヴァントは『時を5秒ほど』しか止められなかった。
セイヴァーは恐らく『5秒以上』停止させられる。入門が容易い方ではない時の静止は7、8………いいやもっとだ。
10秒近く停止させていた。


―――まるでゴキブリのような一族だ。似たような魂と奪う精神が、このディアボロを脅かす!


平和ボケしている魔法使いどころじゃあない。
ディアボロは、再びアヴェンジャーが襲撃すると酷く警戒し続けていた。
完全に、最初の襲撃者たるバーサーカーのことは眼中になかった。



【B-2 池周辺/月曜日 未明】

【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]魔力消費(小)ちょっと空腹
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]釣り道具、釣った魚三匹
[所持金]かなり貧困
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の『謎』を解く
1.アイルを運んで、ここから移動する
2.セイヴァーに似ているサーヴァント…?
3.食料の確保を少し優先
[備考]
※バーサーカー(玉藻)を確認しました。
※セイヴァーに酷似したサーヴァントが時間停止能力を保持していると把握しました。
※アサシン(ディアボロ)に関する記憶は完全に忘却してます。


【アーチャー(霧雨魔理沙)@東方project】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]無
[装備]魔法の箒
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:弥子の指示に従う
1.アイルが目覚めるを待つ
2.時を止める奴は信用しない。
[備考]
※バーサーカー(玉藻)を確認しました。
※アヴェンジャー(ディエゴ)を確認しました。時間停止能力を保持していると判断してます。
※アサシン(ディアボロ)に関する記憶は完全に忘却してます。
※アイルのサーヴァントがアサシンではないかと推測してます。


210 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:32:23 GqprEX5M0
【アイル@グランブルーファンタジー】
[状態]魔力消費(中)精神疲労(大)熟睡
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]親(ロールの設定)からの仕送り分
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に戻る
1.セイヴァーの討伐報酬を狙う
[備考]
※ライダー(マルタ)のステータスを把握してます。
※バーサーカー(玉藻)を確認しました。
※ボーマンに乗っ取られている間の記憶はありません。


【アサシン(ディアボロ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)ボーマンに対する苛立ち
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1.アヴェンジャー(ディエゴ)に対する警戒
2.ボーマンの件もあり、現時点ではアイルの周囲に留まっておく
3.セイヴァー(DIO)の討伐を優先にする
[備考]
※アヴェンジャー(ディエゴ)の時間停止スタンドを把握しました。
※セイヴァー(DIO)はジョルノと『親子』の関係であると理解しています。
※アヴェンジャー(ディエゴ)はセイヴァーと魂の関係があると感じました。
※ホル・ホース&バーサーカー(玉藻)の主従を確認しました。
※弥子&アーチャー(魔理沙)の主従を確認しました。







「おい、おいっ! 大丈夫か、しっかりしな! キャスター!!」


荒い呼吸を続けながらホル・ホースは駆け続ける。
禁煙してれば、肺呼吸はちっとはマシだったか。あぁくそ、覚悟してても後悔はでかい! と彼は思う。
手首の痛みを抑え、どうにか魔理沙の弾幕に紛れて逃げおおせた。
彼が助かったのは惨めに転倒し、地面に伏してたお陰もある。

ホル・ホースもキャスター(仮)の身に何が起きたのか、曖昧な記憶・断片的過ぎて分からない。
ただ、敵にやられて体はボロボロだ。
彼女を抱え、必死に戦場から逃れるだけで一杯一杯である。

呼吸と体力に限界を覚え、ホル・ホースは一旦立ち止まった。
ディアボロの『情報抹消』スキルや、DIOと酷似した英霊の出現に彼自身パニック状態で、悪夢の間違いじゃないかと思う。
前世でとんだ大罪でもしたのか。どういう天罰でDIOに似た英霊がもう一騎現れる?
でも、確かにアレはDIOじゃあなかった。


「さっきのは何だ………『何を』されたんだッ………」


DIOと似た……クラスは『アヴェンジャー』とステータスが表記されていた奴。
スタンドを出現させ、気付いた時にはホル・ホースの手首にナイフが突き刺さっていた。
説明にもなってないが、全て事実だ。
だけど『似ている』。かつて体験したDIOのスタンドと同じ感覚。スタンド能力まで同じ……なのだろうか?


211 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:32:52 GqprEX5M0
ふと。
のろーりとキャスター(仮)が覚醒する。
肉体はボロボロ、制服は元からズタズタ。体の軸はユラユラな西条玉藻が、ホル・ホースと視線を合わせ。


「初めまして。あなたが、あたしのマスターですか?」

「嘘だろ!?」


もう数日間は一緒にいるだろうが! と突っ込まざる負えない。
しかし、逆を返せば玉藻は相変わらずの通常運転だ。一先ずホル・ホースは安心する。
戦闘に敗北した事によるメンタルは心配ない、という事。
脱力感と共に、手首の傷が痛む。


「まずは傷をどうにかしねえとな……キャスターのお嬢ちゃんは立てるか?」

「起立……してみたんですけど。あれ、ゆらゆらしちゃってる。地震が発生してるみたいです」

「よし。問題ないな」


流石のホル・ホースも慣れてしまった。これは逆に問題なし、通常通り。
しかし、玉藻が負傷しているには変わりないので、迂闊に他サーヴァントと鉢合わせしてはならない。危険だ。
あのDIOに似たサーヴァントと巡り合わない事を祈り、ホル・ホースは歩み出す。





【B-2 池周辺/月曜日 未明】

【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)手首負傷、DIOに対する恐怖(小)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得、DIOとは接触したくない
1.傷の治療をする。
2.DIOと似たサーヴァントは何なんだ…?
[備考]
※玉藻を『キャスター』クラスだと誤認しています。
※弥子&アーチャー(魔理沙)の主従を確認しました。
※アイルがマスターであること把握しました。
※アヴェンジャー(ディエゴ)を確認しました。


【バーサーカー(西条玉藻)@クビツリハイスクール】
[状態]肉体負傷(中)魔力消費(中)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯って……えーと、なんでしたっけ?
1.ズタズタにしますー……あたしがズタズタになってますー?
2.DHCでお得なキャンペーンが行われるらしいですよぉ、急ぎましょう
3.間違えました。DNA検査場でイベントがあるみたいです
4.DHAでしたっけ?
5.まあいいか。全部記号です。
[備考]
※ホル・ホースの影響でなんとなーく『DIO』に関する覚えが残っているようです。
※戦闘しましたが、あまり記憶は残ってません。(平常運転)


212 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:33:49 GqprEX5M0




これが幸いなのだろうか。
怪盗Xの『予告状』が公になっている最中、アヤは偶然にも外出中だった為、マスコミ関係者の目から逃れられた。
事務所も、自宅マンションも、今じゃすっかり報道陣が待ち伏せ状態。
一応、マネージャーと連絡を取り合って……明日のテレビ局出演に関して、緊急会議が行われているようだ。

現時点じゃ何とも言えないらしいが。
世間の注目度を利用して視聴率を狙うべきか。
警察からは出演を中止するよう求められていると聞くが、最終的な決定は下されてない。

連絡を終えたアヤは、ホテルに宿泊した。
歌手としての地位もあり、資金が困る事は一切ないだろう。
ただ、怪盗Xに関してどうするべきか……正体不明の彼をまだよく知っている部類にアヤは含まれていた。
故に……恐らく、サーヴァントではなくマスターだとも分かった。

怪盗X。
アヤの元居た世界で猟奇と残虐性に満ち溢れた、廃退的なカリスマを持ち合わせる謎の存在。
一応、現場の命を盗み、物もついでに盗むことからそう呼ばれるようになった。


時計の時刻は――既に0時を回っている………


「アヴェンジャーさん」


アヤは携帯端末の時計から目を離し、霊体から現界した己のサーヴァントに気づく。
なんでもないように振舞うが、アヴェンジャーの様子は何かあった風だ。
彼は平静に尋ねる。


「結局、イカレたコンサートは開演する気らしいな」

「私が自分から降りれば、嫌でも中止になるけれども。アヴェンジャーさんはその方がいいかしら」

「……お前。この状況を楽しんでいるだろ」

「結構、怖いわよ?」


だって狙われているのは自分の命だ。
ファンやアンチから執拗な嫌がらせ染みた経験は、今まで食べてきたパンの数ほど数えてない。
慣れてはいるが、今回の相手は怪盗Xである。
不安を表情に浮かべているが。不安そうな表情を『顔に張り付けている』だけで、内心なんとも思っちゃいない。
この女は『そういう奴』だとアヴェンジャーは鼻先で笑った。


213 : 世界はこんなにも美しい ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:34:15 GqprEX5M0
―――先ほどの戦闘。何故かアヴェンジャー・ディエゴは一度離脱した。そう、何故か。
理由を思い出せないのだ。
原因はディアボロの『情報抹消』スキルによる忘却。
ディエゴは少なくとも『時間停止』を脅かす能力がそこにはあった。そのように結論している。
お陰で、魔法使いの少女を完全に仕留め損なった。

元々。ディエゴ本来の目的は、アヤのいるホテル周辺の警戒。
件のサーヴァントらは偶然、巡り合っただけ。様子見だったのも否めない。
本命はアヤを狙う怪盗Xの主従。


「ならお前はこんな状況でも歌を歌えるのか?」


ディエゴの皮肉籠った問いかけに、彼女は何ら躊躇なく答えた。


「勿論、歌えるわ。今この瞬間でも歌える」


なんだったら、本当に歌おうか。アヤの言葉は裏の意味を含んでいる。
アヴェンジャーは不自然な間を置いて「ここで歌うな」と微細な苛立ちと共に言い放った




【B-2 ホテル/月曜日 未明】

【アヤ・エイジア@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]歌手の収入。全然困らない。
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界への帰還
1.怪盗Xに対する警戒
2.セイヴァー(DIO)の存在が気になる
[備考]
※テレビ局の出演は現時点では不明です。


【アヴェンジャー(ディエゴ・ブランドー)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)肉体負傷(小)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1.怪盗Xに対する警戒
[備考]
※ホル・ホース&バーサーカー(玉藻)の主従を確認しました。
※弥子&アーチャー(魔理沙)の主従を確認しました。
※アイルがマスターであること把握しました。
※アサシン(ディアボロ)に関する記憶は喪失してますが、時間停止の能力に匹敵する宝具があったと推測してます。


<捕捉>
※今回の戦闘で時間停止と時間の吹き飛ばしが発生しました。
 時に関与できるサーヴァントなどには異常を感知した可能性があります。


214 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/24(日) 22:35:52 GqprEX5M0
投下終了します。
次にX&バーサーカー(カーズ)、暁美ほむらで予約します。


215 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/29(金) 23:12:29 0m3kkpKI0
予約分投下します


216 : 名前のない怪物 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/29(金) 23:13:32 0m3kkpKI0

部屋に響くかん高い音色。
暁美ほむらは、携帯端末でセットにしていた目醒ましタイマーを停止させた。
念の為、彼女は確認した。彼女は一人くらしだ。両親はここにいない。

装飾である天井の歯車が回転し続けるリビング。
空間にある多数の立体映像には『今日まで』回収し終えたウワサなどの情報が表示されている。
誰も居ない。セイヴァーの気配はない。
いつものことだった。彼は滅多にほむらと共に行動せず、見滝原の町を徘徊するのが常だ。
それにも……一応理由はある。ほむらも理由を『最近』知った。


「……うん」


むしろセイヴァーが不在で助かった。現在の時刻は、聖杯戦争開始手前。
ほむらは、学生鞄に書類を入れる。主催者から配られたものと聖杯戦争に関与、しているであろう情報のものと。
身を整え、見滝原中学の制服に着替えた。
それから魔法少女に変身する。


「鹿目さん……」


彼女は――鹿目まどかの自宅に向かおうとしている。
主催者が用意した『偽物』か。もしくはマスターではない『本物』か。あるいは……マスターの場合も。
なんであれ、ほむらは親友の安否を確かめ。同時に守る為に仮眠を取っていた。
朝まで何も起きなければ、何事も無く学校へ登校出来るように制服へ着替えておいたのだ。

このような行動をセイヴァーが許すだろうか?
最も、セイヴァーはほむらの存在そのものに興味がないのだろう。
であれば、放置などしておかない。
……とは言え。敵サーヴァントに狙われても可笑しくない状況で放置するのは、ある意味。ほむらの時間停止を見込んだ上の行為か。

ほむらは製作しておいた爆弾を盾に収納する。
爆弾は簡易的なものだが、作りなれてしまったというか。魔法少女時代から馴染みのものだ。
あと拳銃やそれ以上の銃火器が数点。これは警察署から盗み出したもの。
シャノワールに妨害され、威力ある銃火器を入手できなかったのは割と痛手だ。拳銃など、サーヴァント相手にどこまで効くか……
念の為、接近用のゴルフクラブも用意してあったが、こちらは拳銃よりも最終手段であろう。

夜の街は静かだ。比較的に。
魔法少女に備わっている魔力感知を行うが、少なくとも周辺には何も居ない。
荷物を確認する中、チラリと、ほむらは例の『情報』の中にある『鹿目まどか』の顔写真を目にした。


「…………」


この『情報』は――ほむらが集めたものではない。
夢、いいや。あの時の、悪夢染みた光景を思い出す。故にほむらは感じるのだ。
鹿目まどかは……きっとマスターなのだと。


「いかないと」


決心を固めたほむらは、夜の街を駆けてゆく。親友の元へ辿り着く為に。






217 : 名前のない怪物 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/29(金) 23:14:07 0m3kkpKI0
「あれ、意外に少ないや。ひょっとして誰かに先越されちゃったかな」


白無地の長袖長ズボンを纏うだけの少年が、相反する血みどろの『箱』のようになった警察署内を『観察』しながら言う。
怪盗X。
彼が手っ取り早く『目的』を叶える為に、意図も容易く犯罪を為す。
間違ってはならないのは、今回Xはアヤ・エイジアのような一定の獲物を定めた訳じゃあなく。
手段の為『ついで』に深夜に配属されていた警察関係者を虐殺した。
それっぽちの動機であり。それっぽちの結果に、拍子抜けな反応を示していた。

Xが観察する通り、警察署内にも拳銃他。犯罪者から押収した危険物だって幾つか保管状態にある筈。
強いて、麻薬など軽犯罪系で押収された証拠品だけで、銃火器類はほとんど残ってない。
誰かが盗み出した―――という事。
Xのサーヴァントであるカーズが押収品の中にある『銃弾』に注目した。
拳銃はないのに、銃弾には手をつけていない。安直な無能の仕業か、余裕のなさで生じたミスか。


「銃弾、なにかに使えるの? サーヴァントに効かないんでしょ」

「私は魔力放出を使える。それで拳銃の真似事くらいは可能だ」


生前、という表現は間違っている。
本来のカーズには、魔力放出……光の魔力など持ち合わせていなかったが、サーヴァントの特性上でそれを会得した奇妙な現象が起きている。
彼が言うよう、魔力放出で魔力を付与すれば、サーヴァントにも攻撃は通用するだろう。
興味深くXがカーズの話に耳を傾けつつ、一台のノートパソコンを血で汚れてないテーブルに置いた。


「署長室にあったノートパソコン。これで漸く情報が手に入れられる」

「最初からやれば良かったものを……」

「ある程度、時間を置かないと分からないもんだよ。そういう訳で後はよろしく!」


完全な人任せならぬ怪物任せ。されどカーズは挑戦状を受け立つように満更でもない様子だ。

彼、カーズの持つ『文明理解』について。
『柱の男』なる生命は、食物連鎖・生態系の頂点にいる人間の更に上に位置する。
生体などは全ての生命を凌駕した性能を誇っており、当然知能は優れているのだ。
瞬時に言語を使いこなし、見たこと無い文明を理解したり……
特にカーズに関しては『柱の男』の中で研究者に属す。
ある種『キャスター』のクラスの可能性も見出せるほど、探究心に満ちた存在であったのは確か。

バーサーカーのクラスである以上、物の作成に優れてはおらず。どちらかと言えば戦闘特化。
されど『文明理解』の性能は低下していない。
戦闘においては的確な判断を下す『直感』の性質を持っていた。

故に、彼が次に行おうとするものとは―――『ハッキング』である。
パソコンを操作し、厳重なセキュリティだろうが情報を引き出す為に。
カーズらも今日まで下準備を行わなかった訳ではない。
怪盗Xとしての注目度を上げるパフォーマンス以外にも、カーズはかつて目覚めた頃よりも更に経過した現代の知識を吸収していた。


218 : 名前のない怪物 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/29(金) 23:14:29 0m3kkpKI0

「大した事は無かったな」


セキュリティというパズルを解き明かしたカーズは、退屈そうな感想を告げたが達成感ある表情をしている。
これにはXも、目を丸くさせていた。


「もう終わっちゃったの? 『アイ』よりも早いね」


元居た世界で組んでいた相方の名は覚えているらしいXを傍らに、カーズはそそくさとデータを調べていく。


「逆に肩透かしを喰らったザルセキュリティだ。……この辺りの行方不明者は、お前が殺した連中だな」

「え、よく覚えてるね」

「………」


カーズは突っ込むのを止めた。
問題はXが『ついで』感覚で殺した類以外のもの。


「中には違うのも混じっている。どれも規則性はないが、かなりの数だ。全てお前の仕業扱いになっている」

「魂食いだっけ。サーヴァントが魔力を確保する手段。全員食われちゃってそうだよね」

「恐らくな。だが……当たりはついた」


有象無象にある行方不明者の中、一件。カーズが注目したのは職場を無断欠勤している夫妻に関する相談である。
どうやら職場関係者も家に赴いたが、その後は行方知らず。
警察官が自宅訪問したらしいが、その警察官も行方不明となった。
この――ガードナー夫妻。
否、どうやら娘がいる。『レイチェル・ガードナー』という少女。皮肉にも見滝原中学の生徒だ。


「ふむ、次はコレか」


大方予想通り。しかし確証のなかった情報の一つだ。
カーズは最近の報告書に目を通していくと『:-)』なる顔文字の存在が目につく。
SNSでは頻繁に見かけ、カーズも実際に特定の廃墟でペンキで描かれた顔文字を発見している。
顔文字くらい対して珍しくは無い。現代じゃむしろ見かけない方が珍しい。


219 : 名前のない怪物 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/29(金) 23:14:49 0m3kkpKI0
ただ『日本』では別だ。
日本の顔文字は『縦向き』が主流である。『:-)』のような『横向き』の顔文字は欧米などが主流で、日本では珍しい。
では何故『:-)』の顔文字を使われているのか。
これは――暗号である。
一種の合言葉とも言える。……『麻薬の取引』においての。

『:-)』。
麻薬に関与している合図に使用されるようになったのは最近のこと。
取引現場に『:-)』を目印にしたり、SNS上で手軽に売人と取引をする為に用いられる印に『:-)』をプロフィールに掲載したり。
……この麻薬事件に英霊が関与しているか定かではない。
格別、関与せずともヒントとして流行しているなら―――間違いなく英霊のウワサの一つ。
さしずめ『麻薬の英霊』か。


更に地図上で『D-2』とされるエリア内で暴漢の乱闘。死者もいるらしい。
単純な乱闘事件ならば良いが、十数人以上の悪たちにが棒状の――丸太的な凶器で撲殺された。
元より評判の良くない部類の人間共の集まり。
死んでも当然……そう過言しても良い。そのせいか捜査もXの犯罪より大分進んでいない。
これが英霊の仕業として……この付近にマスターが居るか……?


そしてもう一つ。
『姫河小雪』という少女が住んでいたアパートの一室が破壊されたという通報。
彼女の部屋は物が全て破壊されつくし、肝心の彼女も行方不明。安否が心配されている。
最も、事件よりも前から学校を無断欠席してたらしい。
学校――見滝原高校である。
現場写真を流し見しても、これ以上の情報を得られる事は無かった。
仮に、彼女がサーヴァントを暴走させ、コントロール出来てないのなら『バーサーカー』クラスを召喚したのだろう。

サーヴァントのクラス。
Xは一部血みどろになってる書類に目を通しつつ、語った。


「さっきの麻薬マークを含めたら、ウワサは合計『24』だ。聖杯は最高3つ作れちゃうなんて、安く感じちゃうよ」


見落としがなければ、最高3つの聖杯を望める。
実に安価な奇跡に成下がった訳だが、カーズは幾つかの考察をしつつ。
他の情報を取り残していないかパソコン内のデータを確認する。


220 : 名前のない怪物 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/29(金) 23:15:10 0m3kkpKI0

「キャスタークラスは召喚されているか怪しい。少なくとも陣地と成りえる箇所を一通り巡ったが痕跡はなかった。
 同じく『麻薬のサーヴァント』が実在するなら麻薬工房の一つありそうだが……必要としない部類か」


念の為、麻薬関連のデータを探るが。
サーヴァントの召喚時期に麻薬売買に変動は見られない。
裏組織とも関与してない。逆に狙い目が定まらない結果を得てしまった。

そうでなくとも、セイヴァーのような積極性あるアクションを起こす類以外に、派手な痕跡や現象を残すものがいない。
下準備の必要性ないサーヴァントが多いのだろう。


「なんだこれは」


カーズはある異常を発見した。
興味持ちXが液晶画面を覗きこむと、映し出されているのは見滝原中学の在学生リストである。
勿論、そこに情報であがった『レイチェル・ガードナー』『暁美ほむら』もいる。


「捜査で使ってたんじゃない?」

「使った形跡はない。それどころか――」


『姫河小雪』が在籍している見滝原高校のリストまで……否、それだけに終わらない。
監視カメラの映像、捜査資料、細かな通報内容など全てを――ある特定のアドレスに送信されていた。
これを行ったのはXが『ついで』に殺した警察署署長本人だ。
だが、それを誘発させた主犯は


「セイヴァーか!」


厳密にはセイヴァーのマスター、暁美ほむらのアドレスに送信されているのだろう。
合点がいく。『全てはこのような時の為』!
今日の今日まで適当にセイヴァーが都内を徘徊していた訳ではなく。利用できる人間に接触していたとしたら。
例えば――警察署署長! 他にも権力関係や、ひょっとすれば『テレビ局関係者』にも……!!
タチの悪い話だ。悪趣味な洗脳であればいいものを『表面上』何一つ異変もない変化など。


「吸血鬼の分際で舐めた真似をしてくれるわ」


『人脈』だと? 下らん、実に下らん。
そう感じるカーズは既に行動へ移していた。ピアノの鍵盤を叩くが如く操作する。
吸血鬼など彼にとっては捕食対象でしかない。そんな存在に翻弄される運命など御免なのだ。
故にカーズが取った行動。
それは――暁美ほむらのパソコンへのハッキングだった。


221 : 名前のない怪物 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/29(金) 23:15:30 0m3kkpKI0



回想 〜聖杯戦争開始2日前〜


セイヴァーが行っていたのは単純な手駒を増やすだけではない。
情報収集だ。無論、接触した相手側から送られてくるもの。
例の銃火器密輸の情報もそうだが、少なくとも警察関係者やマスコミに情報網があるらしく。
暁美ほむらのメールアドレスに次々と情報が送られ、逆にどれから手をつければいいのか分からない状態と化していた。


(というか……勝手にパソコンが使われてる)


使用しない訳でもないが、携帯端末だけでもある程度の事件やウワサを集められたので。
ほむらがパソコンを勝手に使われている事を知ったのも、つい最近のこと。
詳細なウワサの情報を検索しようと開いて気付いた。これを見ても良いのだろうか。

良く見れば、膨大な量の情報の中で開封されたメールはごく一部。ほんの一握りだけ。
恐る恐るほむらが目を通して見れば、見滝原中学の在学生リスト。同じく見滝原高校のも。
だが、ダウンロードされたファイルは十数件。

ダウンロードフォルダに移動してみると、その中には鹿目まどか他の、ほむらの友人たちの情報が。
彼女らに関しては、ほむらが友人であることを打ち明かしてしまった為、注目したのだろう。
見滝原中学に関しては……不登校の『ラッセル・シーガ―』の他。
格別異常もない生徒たちが複数。
だけど……ほむらは胸騒ぎを覚えて他も確認する。見滝原高校のリストも。こちらは中学より少なめだが……ウワサに聞く大食い探偵の姿が。

あとは―――監視カメラの映像。
見滝原内に設置されている駅構内や、繁華街などの映像。
映像を見ただけでは、何も感じないが……? ほむらがメールを再度確認したところ、映像に映っていた人間を複数ピックアップし。
身元調査を依頼する内容があった。
中には……


「え?」


中にはセイヴァーと雰囲気の似た少年の姿があった。
どういうことだろう? あれは――サーヴァントではなく……メールの返信を確認したところ、やはりマスターだ。
『ディオ・ブランドー』……まさか。いや、偶然が過ぎるにもほどが。
後は、ホテルに宿泊中の『ブローノ・ブチャラティ』。会社員の『吉良吉影』……『ホル・ホース』なる外国人………
何を思って彼が目につけたのか。
しかし、ほむらの予感が一つ的中した。


222 : 名前のない怪物 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/29(金) 23:15:55 0m3kkpKI0
彼女が集めたウワサの数。それからセイヴァーが注目したマスター候補数と有名どころの歌手と怪盗を合わせて。
24だ!
数が合致する。これはまさか―――


「ただの勘だ」


いつの間にか、ほむらの背後に存在していたセイヴァーが告げた。
彼女が息を飲み。体を膠着させる一方。彼は至って平静に言葉を続ける。


「少なくともスタンド使いに関しては間違わない」


と。背後より液晶画面と指差すセイヴァー。学校関係者ではない、例のセイヴァーに酷似したマスターを除いた三人。
『ブローノ・ブチャラティ』。『吉良吉影』。『ホル・ホース』。
スタンド使い。
セイヴァーの宝具『世界』のようなビジョンを持つ精神の具象化を保持する者。
彼らは本当にそうなのだろうか。

ほむらが『セイヴァーに酷似したマスター』を尋ねる前に、彼は姿を消してしまっていた。






直感というスキルが高度になれば未来視すら可能と言えるが、決して頼るべき要素ではない。
第六感が優れているとはいえ、確固たる確信や証拠もない。
何となくや、そんな予感がするだけで。人間のタロット占い的な、不確定要素だ。『真実』なんかじゃあない。

故に他のスキルで独自の経験を組み合わせ、マスター候補を絞ったのだろう。
カーズは、ハッキングしたほむらのパソコンデータを把握し。判断する。
なら、セイヴァーは目立つ主従であるアヤ・エイジアを置いて、他主従に狙いを定めているのだろうか?

表面上の情報だけで、少なくともマスター候補を絞れたが『誰がどのようなサーヴァントを召喚したか』までは恐らく捕捉してまい。
仮に、そうであれば自分の不利になる敵を始末している。
セイヴァーが愚かだったとしても、凡ミスは犯さないだろう。

ならば……Xが一通りリストを『観察』し、目をつけたのは


「ここ――鹿目まどかの家。乱闘事件があった現場近くにあるんだよね。あと、暁美ほむらと同じクラスだ」


無難な位置だが。
これはセイヴァーの『直感』を抜きに捉えても注目するべき場所だ。
現時点で、鹿目まどか自身に目立った動きは無い。行動があるとすれば今夜からだろう。


「そうじゃなくても、暁美ほむらを動かす為に『見滝原中学の誰か』を狙ってみようか。
 どうせ『誰か』になって中学には侵入するつもりだから」


アヤ・エイジアへの犯行時刻は『まだ』大分ある。
通常、下準備は必要だろうが。Xの場合は必要不可欠な特異性を持ち合わせる以上、用心せずとも構わない。
強いて。Xの脅威を対処しえる存在がいるとすれば―――
唯一、Xの能力と正体を把握している大食い探偵・桂木弥子……


223 : 名前のない怪物 ◆xn2vs62Y1I :2018/06/29(金) 23:16:35 0m3kkpKI0
【B-3から移動中/月曜日 未明】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康、魔法少女に変身中
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]見滝原中学校の制服
[道具]学生鞄、聖杯戦争に関する資料、警察署から盗んだ銃火器(盾に収納)
[所持金]一人くらし出来る仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得。まどかを守る。
1.まどかの家に向かう
2.学校には通学する
3.セイヴァーに似たマスターは一体…?
[備考]
※討伐令を知りません
※セイヴァー(DIO)の直感による資料には目を通してあります。



【A-4 警察署/月曜日 未明】

【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]大振りの刃物(『道具作成』によるもの)
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯も得たいが、まずは英霊の『中身』を観察する。
1.鹿目まどかの自宅へ向かう
2.見滝原中学の『誰か』になって侵入する
3.アヤ・エイジアの殺害は予定通り行う
[備考]
※アヤ・エイジアの殺害予告は実行するつもりです。現時点で変更はありません。
※警察署で虐殺を行いました。
※警察で捕捉可能な事件をある程度、把握しました。
※セイヴァーが『直感』で目をつけたマスター候補を把握しました。
※前述の情報を一応記憶していますが、割とどうでもいい記憶は時間経過と共に忘却する恐れがあります。


【バーサーカー(カーズ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]実体化による魔力消費
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]警察署で得た銃弾
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得
1.日が昇るまでの間にサーヴァントを倒す
[備考]
※警察で捕捉可能な事件をある程度、把握しました。
※セイヴァーが『直感』で目をつけたマスター候補を把握しました。


224 : ◆xn2vs62Y1I :2018/06/29(金) 23:17:45 0m3kkpKI0
投下終了します。
続いて、沙々&マジェント、いろは&シュガーで予約します


225 : ◆xn2vs62Y1I :2018/07/01(日) 13:56:46 vx.YIbmI0
予約分投下します


226 : シュガーソングとビターステップ ◆xn2vs62Y1I :2018/07/01(日) 13:57:40 vx.YIbmI0
実質、見ず知らずの土地に攫われ、殺し合いに強制参加したようなものである。
環いろはも、少なからず不安や恐怖があった。しかし、今はそうじゃない。仲間がいる。
仲間……いいや。
聖杯戦争に参加する以前、魔法少女として奔走していた時代から、ひょっとすれば幼い頃だったか?
何であれ、いろはには信頼しえる存在が居た。

優木沙々。
彼女はいろは同じく魔法少女。
偶然、魔女討伐している最中に出くわし、そこから親しくなった経緯がある。
驚いた事に、沙々も聖杯戦争のマスターとして招かれていたのだ。
見滝原中学校にかよっていたらしいが、学年は同じでも彼女とはクラスが違い、すぐに気付けなかったのをいろはは後悔している。
しかし、再度偶然。聖杯戦争開始手前で巡り合えたのは非常に幸運だ。


「ほんっっとうに良かったです! いろはさんと一緒なら、百人力ですよ! 魔女退治でもコンビネーションばっちりなんですから!!」


沙々も、いろは同様に顔見知り――しかも共に闘った仲間と会えた事に安堵しているよう。
彼女らしく煽てた口調は相変わらず。
過剰評価だと思う一方で、いろはは沙々と早期に巡り合えて、心底良かった。
それには理由がある。


「でも会えて良かった。沙々ちゃんは戦闘得意じゃないから……」

「わたしもです〜! しかも、召喚したサーヴァントはアサシン。文字通りタイマン勝負に強い型じゃなくて途方に暮れてました」


アサシンは後で紹介しますね。と沙々が付け加える。
魔法少女にも様々に得意不得意。願いによって戦い方や武器も異なる。
いろはの武器がクロスボウ。沙々の武器が杖、という風に。
そして、いろはの魔法は治癒。沙々の魔法は……アレ?といろはが首を傾げた。
沙々の魔法は……いや、とにかく彼女は戦闘特化ではなくてサポート型、典型的な後方支援向きなのは確かだ。

ところで。
早速、沙々が一つ尋ねる。


「いろはさんが召喚したサーヴァントは?」

「私はバーサーカー。真名はシュガーさん。名前で呼んであげたら反応してくれるみたい」

「シュガー……砂糖?ですかぁ。分かっても何だかサッパリですね」

「うん。逆に真名が分かっても大丈夫なのかなって」


227 : シュガーソングとビターステップ ◆xn2vs62Y1I :2018/07/01(日) 13:58:15 vx.YIbmI0
バーサーカー。
そう、いろはの抱える問題に砂糖喰らいの狂人という切っても切れない英霊がいた。
砂糖なんて素敵な響きで済ませているが、所謂『麻薬』だ。うっかり他のヒトが食っては支障を来す。
成程と沙々が不安そうな顔色でぼやく。

気持ちは分かる。バーサーカーだから意志の疎通が敵わない。暴走だってしかねない。
でも……少なくとも、いろはがシュガーをそのような類のバーサーカーだと判断していた。
狂っているのは恐らく薬物のせいで狂っている意味合いで、砂糖を食わせている内は大人しい筈。

深夜の住宅街を移動する事、しばらくした後。
ゴミ捨て場にあった袋の砂糖に変換するバーサーカー・シュガーを発見した。
沙々が緊張気味なのを見かねて、いろはがシュガーに声をかける。


「シュガーさん。お待たせしてすみません」

「………」


片手の掌からサラサラと砂糖を零し、シュガーが不気味に振り返った。
瞬間。違和感ある膠着を起こして、やや遅れた反応を見せる。


「誰?」

「……あ、あの、いろはです。シュガーさんのマスターです」

「私は知らないよ。気持ち悪くてビックリしちゃった。『こんなもの』も居るんだ」


ただでさえ会話が通じなかったにも関わらず、更に対話が困難となっている。
以前は、支離滅裂ながらリズムやノリが合わさっているのを、いろはも感覚を掴めていたのに。
彼女が油断、慢心したせいか。
再びシュガーの心情も、会話も雲を掴むみたいな曖昧さで意味不明だ。
シュガーに慣れていない沙々も不安を隠せずに尋ねた。


「だ、大丈夫ですか? いろはさん」

「ちょっと待ってて。多分、沙々ちゃんと一緒にいるのに警戒しているのかも」


いきなり見知らぬ人間を連れて来たのだ。
シュガーじゃなくても、聖杯戦争なる殺し合いの最中じゃ警戒するに違いない。
いろはは、冷静にシュガーと対話を試みる。


「シュガーさん、こちらは沙々ちゃんです。優木沙々ちゃん。私と同じ魔法少女で、一緒にコンビを組んでて――……」

「そんなつまらない前置きで時間をつぶすのはやめにしない?」


228 : シュガーソングとビターステップ ◆xn2vs62Y1I :2018/07/01(日) 13:58:39 vx.YIbmI0
いろはの言葉を遮る様にシュガーは呻く。
彼女の錯乱っぷりは、心底気色悪い汚物を前に嫌悪を体現しているかのようで。
バーサーカーらしい狂気の瞳が、いろはに対し向けられていた。
故に、理解できなかった。何故? 今更こう敵意を露わにしたのはどうして??


「見上げてごらんよ。時の神様がぐるぐるしてる、踊らないと怒られそう」

「……?」


見上げる?
確か、そうだ。いろはも思いだす。シュガーには『何か』に反応している節があったような……
いろはの思考を遮るかの如く、沙々が一つ叫んだ。


「いろはさん! ここは一旦退きましょう!!」

「沙々ちゃん……?! でも――」

「とにかく退いて下さい! 私に考えがありますから!!」

「う、うん。わかった」


思えば狂気を振りまくだろう、暴走しかかったシュガーを前に沙々の事を疎かにしてしまった。
そんなつもりはなかった。でも……いろはは後悔する。
多分、沙々も不安に違わないのだ。
アイディアがあるにしても、シュガーから離れたい一心を隠していたのかもしれない。
魔法少女の脚力で逃げるのを、砂糖を掌で弄びながらシュガーは『:-(』な心情を胸に秘める。


「ああ、なんだったのかな。さっきの。イローハに『似た』不気味なアヒルちゃん」


シュガーは、いろはが別人だと理解していた。
狂人でシュガー中毒者であっても、今の今まで共に居たマスターを忘れなかった。
だけど、戻ってきたいろはの様子は『別人』そのもの。険しい顔をして聖杯戦争を考察する少女、ではなく。
脱力し安心し、不自然に心許した様子の少女。

沙々によって洗脳された、とまでは分からず。
あれがいろは本人である、とまでも分からず。
だが、アレがシュガーの知る環いろは『ではない』事だけは感じている。


「本物のイローハはどこにいるんだろう。アヒルじゃなくてウサギちゃんを追いかけて、穴におっこちたのかも :-)」


舗装された道路に設置されているガードレールや手すりを触って、砂糖の山を作って行く。
ギョッとする世界で、彼女は『本物の』環いろはを探しに奇妙な冒険を始めるのだった。






229 : シュガーソングとビターステップ ◆xn2vs62Y1I :2018/07/01(日) 13:59:13 vx.YIbmI0
「ごめん。沙々ちゃん」

「いえいえ! 意志疎通できないと聞きますが……やっぱりコントロールは難しそうですね」


シュガーから距離を取った魔法少女二人。
いろはの申し訳なさに対し、沙々は内心舌打ちをしている。

実のところ、沙々といろはは昔ながらの親友でも仲間でもない。それどころか初対面だった。
沙々の魔法――洗脳により、いろはが支配下に置かれているのだ。
完全に沙々を信頼しきっており、先ほどのように沙々の意志を尊重し行動してくれる忠実な僕同然。
しかし、彼女がバーサーカーを引き当てたのは運が悪い。
沙々もいろはも、双方ツいてない訳だ。


「私も油断してたの。シュガーさんと少しは通じ合っているかと思ってた……」

「いろはさんは悪くないですよ! 気を落とさないで下さい」


冷静にクールとなれ。深呼吸し、沙々が話を始めた。


「手っ取り早いのは令呪でサーヴァントの自害を命ずる事だと、アサシンから提案がありました」

「自害……!?」

「暴走しているなら、そうするしかありません……でも
 いろはさんが、聖杯戦争が始まっても無い内にサーヴァントを失ってしまうのは、深い痛手です」

「じゃあ、令呪で私の言う事を聞くようにお願いするのはどうかな」


チラリと、沙々はいろはの『ソウルジェム』を確認した。
穢れは随分とある。沙々と同じく浄化の機会に巡り合えなかったせいか。バーサーカーの魔力消費の負荷かもしれない。
むしろ、沙々にとって好都合の。最高の条件が整っている。
にこっとお人良しな笑顔を浮かべて、沙々は言う。


「私の言う通りに令呪を使っていただけませんか? いろはさん」

「うん」


230 : シュガーソングとビターステップ ◆xn2vs62Y1I :2018/07/01(日) 13:59:47 vx.YIbmI0
疑いもなく、いろはは安堵の表情で沙々に従っていた。これから自分が至る運命を知らず。
いろはに背を向けた沙々が、あくどい不敵な表情を露わにした。
沙々のソウルジェムも、大分穢れが進行している。

考えた。
ソウルジェムを浄化するには、やはりグリーフシードが必要となる。胡散臭い救世主は信用ならない。
グリーフシードを落とすのは『魔女』だ。
だけど『魔女』の正体は……そう。沙々は考えたのである。



『魔女』がいなければ『産み出せば』いいじゃない、と。







魔女は魔法少女のなれの果てだ。
この聖杯戦争では、ソウルジェムに魂が収められた少女たちの事を指し示す。
沙々といろはを含めた。
鹿目まどか、美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子。そして……暁美ほむら。彼女達はソウルジェムを浄化できなければ魔女となる。
だが、念話で一つ聞くアサシン・マジェント。


『そいつが魔女になっちまったら、サーヴァントの方は消えちまうんじゃあねぇのか』

『分かってます。だから、令呪を使わせるんです。あのバーサーカーを利用するんです』


沙々の狙いは一つ。混戦だ。
複数のサーヴァントが乱闘するカオスで、アサシンの宝具とスキルを生かし、魂だけを回収する為。
卑怯だが、戦闘力が乏し過ぎる彼らにとってはこれが限られた戦術の一つ。

沙々はサーヴァントを洗脳できない。
故に、マスターを洗脳し、令呪を使わせる事で相手のサーヴァントをコントロールする。
いろはが令呪を使用し終えて、一息つく。


「これで大丈夫かな」

「あ、いろはさん。念の為、もう一画使って欲しいです。重ねて命ずることでバーサーカーは必ず従うので」

「じゃあ……重ねて命じます。シュガーさん『見るもの全てを砂糖にして下さい』」


令呪を二画。これでいいと沙々は不敵に嗤う。

(バーサーカーを倒しにサーヴァントが必ず現れる。規模を考えれば……複数現れることでしょう)

魔力の枯渇でいろはが倒れても構わない。
遠くから、沙々たちはバーサーカーの暴走を見守れば良い。
見境なく砂糖まみれにする狂人が完成されたのを、観客席より嘲笑う魔女が居た。


231 : シュガーソングとビターステップ ◆xn2vs62Y1I :2018/07/01(日) 14:00:13 vx.YIbmI0
【C-4 住宅街/月曜日 未明】

【環いろは@マギアレコード】
[状態]沙々の洗脳下、魔法少女に変身中
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]いろはのソウルジェム(穢れ:中)
[道具]
[所持金]おこづかい程度(数万)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の調査。戦いは避ける。
1.沙々と共に行動する。
[備考]
※洗脳されていることには気づいていません。沙々が負傷を受ければ、洗脳は自動解除されます。
※沙々の洗脳を受けている為、沙々の意志を尊重し行動します。
 しかし、沙々が何も誘導しなければ、基本方針に変化はありません。


【優木沙々@魔法少女おりこ☆マギカ〜symmetry diamond〜】
[状態]魔法少女に変身中、『悪の救世主』の影響あり
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]沙々のソウルジェム(穢れ:中)
[道具]
[所持金]一人くらし出来る程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い
1.バーサーカーを暴走させ、願わくばいろはを魔女にさせる。
2.セイヴァー? 討伐令の報酬が狙えればいいんですがね…
3.見滝原中学には通学予定。混戦での勝ち逃げ狙い。
[備考]
※『悪の救世主』の影響がありますが、本人は無意識です。
※シュガーのステータスを把握しました。


【アサシン(マジェント・マジェント)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]霊体化
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い。ディエゴの殺害優先。
1.魔女ってどんなんだ?
2.Dioに似てるセイヴァーの奴は殺しておくかぁ
[備考]



【バーサーカー(シュガー)@OFF】
[状態]現界による魔力消費(砂糖食いで補い中)、令呪『見るもの全てを砂糖にして下さい』(2画分)
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:砂糖を食べる
1.本物のいろはを探す
[備考]
※時の神(杳馬)の存在を気付いているか言動的には怪しいです
※洗脳されているいろはを『本物』ではないと判断しています。
※無意識に令呪に従っている状態です。本人はまだ令呪の支配下にある事に気づいてません。


232 : ◆xn2vs62Y1I :2018/07/01(日) 14:03:22 vx.YIbmI0
投下終了します
続いて、ブチャラティ&リンク、マシュ&ブローディア、スノーホワイトを予約します


233 : ◆xn2vs62Y1I :2018/07/02(月) 22:55:18 5oqdJOCg0
前回の話でいろはの令呪を残り1画ではなかったので、wiki終了時に修正します。

改めて予約分投下します。


234 : 虎視眈々 ◆xn2vs62Y1I :2018/07/02(月) 22:56:06 5oqdJOCg0
会社員たちの喧騒が居酒屋の中で響き渡るような、平凡な時間が穏やかに過ぎて行く。
高層ビル群と近未来らしい電子広告が点在し、町往く誰もが目まぐるしい技術の進歩に驚きもせず。
これが見滝原にとっての『平凡』を象徴しているかのように。

間もなく聖杯戦争が開幕する。
事情を知るのはマスターと彼らに召喚されたサーヴァントのみ。
主従の一組。
ブローノ・ブチャラティが都心へ足を運んだのには、幾つか理由があった。
一つは、討伐令をかけられたセイヴァーの目撃情報が最もある場所であるから。

最も、ブチャラティは討伐令の報酬が目当てじゃない。
セイヴァーの行動の節々が『悪』を醸し、許し難い存在だと本能的に察知していたのもあるが。
彼自身、喉に小骨が引っ掛かっている違和感、疑問点を解消したかった。


(討伐令の報酬に『聖杯戦争の放棄』……主催者は『戦う意志』のない者の存在を把握しているのか)


ブチャラティも望んで聖杯戦争に導かれたのではない。
戦えない訳ではない。スタンドなる能力を兼ね備えているとはいえ、全ての人間が『そう』とは限らず。
主催者は『あえて』報酬に『聖杯戦争の放棄』を見せびらかす事で。
聖杯を望まぬ者の戦意を無理にかき立てる算段なのだろう。

だとすれば。
聖杯戦争に導かれたマスターの選出手段は、どうやらランダムな仕様か?
でなければ聖杯を望みそうな者だけを意図的に選べばいい話だ。

故意じゃあない、不可抗力?
まだ、ブチャラティにも聖杯戦争の全貌を見通せる情報は限りなく少ない状態。
彼は今できる行いを取るだけであった。


「あそこだな」


遠目から目的地を発見し、ブチャラティが立ち止まると。人目がないのを確認して、セイバー・リンクが実体化した。
下見のようなもの。
彼らは『テレビ局』の現状を確認しに来た。


235 : 虎視眈々 ◆xn2vs62Y1I :2018/07/02(月) 22:56:48 5oqdJOCg0
赤い箱のウワサを象徴する猟奇殺人犯・怪盗Xの犯行声明のせいで、明らかに警察関係者の警備が強固だ。
だが、彼らの努力は虚しく終わる。
サーヴァントは霊体化で姿を消して、意図も容易く建造物に侵入してしまえる。
ある意味、サーヴァントそのものが怪盗染みていた。

テレビ局の前では報道陣が撮影し、即席で作られたであろうカンペの内容を読み上げるアナウンサーの姿が見られた。
現時点でアヤ・エイジアの出演に関しては不透明らしい。
予定通りテレビに出演するか否か……彼女がマスターなら故意に出演を望むのも、ありえるが。

特別目立った動きがないのを確認したブチャラティは、人気の多い場所へと踵を返した。
闇雲に行動はしない。
薄々、ブチャラティもセイヴァーの行動が読めた。
奴は見滝原の住人を『利用』する為に、悪意ある行動を取っている……ならば
接触し優位になりえる人物が現れそうな場所。
単純に考えれば権力者など。彼らが居る可能性が高いのは、庶民が足運ぶ場所じゃあなく、高級店だ。


「セイバー、サーヴァントの気配は?」


高級店で統一されたビルの付近で、ブチャラティの問いにリンクは首を横振る。
地味な作業だが、仕方ない。セイヴァーは恐らく本格的に仕掛けて来る。動かない訳がない。
その時。リンクが一般人の視線を気にし、ビル脇の道へ入ったが――


「なにッ!? セイバー!」


ブチャラティは驚愕した。どう見ても脇道へ移動しただけのリンクが、突如として姿を消してしまった。
これは……霊体化ではない! 敵サーヴァントの攻撃!?
躊躇する余裕もない。ブチャラティは己の背後にスタンドを出現させる。


「『スティッキィ・フィンガーズ』!」


虚空に拳を振るった瞬間、ありえないがブチャラティは『見つけた』。
答えを先に知ってしまったが、理屈や過程も自然と判明した。
成程、ブチャラティは虚空にできた『スティッキィ・フィンガーズ』のジッパーを眺める。


「俄かに信じがたいが……別空間がある。この先にな。どうやらコイツは『アーチ』を境目に出現しているらしい」


アーチ。
見滝原の都内、その一部に点在しているもの。
特別な理由ではない。地域の境目だったり、昔からの名残を残す場合もある。
ビル脇にあるアーチは『居酒屋』が犇めく飲食街の境界として設置されている部類だった。


「妙に人が居ないのは、他の人間を別空間に引き込んでいるからじゃあないだろうな」


236 : 虎視眈々 ◆xn2vs62Y1I :2018/07/02(月) 22:57:10 5oqdJOCg0
ジッパーで開けた先は、別世界だったが上空は夜。周辺は自然の緑が点在する、現代に失われた美しさのある光景。
つまり見滝原と別世界。固有結界だ。ここじゃ敵サーヴァントが優位にある。
しかし、ブチャラティが侵入したと同時に、強力な力でジッパーは消滅。
敵がブチャラティ達を閉じ込めたのだろう。

リンクは剣を構えた。
森よりヌゥと姿を見せる奇妙な生物たちが、敵意を持って登場する。
どうやら、まずは敵の……使い魔たちを片づけなければならない。


「必ず敵サーヴァント本体が潜んでいる筈だ。セイバー……極力戦闘を避けていくぞ」


連戦を強いられては魔力消費の負担ばかり背負う。
固有結界のサーヴァントの狙いも、ブチャラティたちの消耗を狙っている。
使い魔も木々の奥から姿を露わにすれば不気味で歪な、恐怖が体現されたかのような形状だ。
だが、ブチャラティもリンクも、怪物に恐れ成すことはない。
彼らの精神は、この程度で怯む事は無いのだから……



【見滝原の裏側〜ナーサリー・ライムの固有結界/月曜日 未明】

【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]数十万程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の打破
1.固有結界のサーヴァントを捕捉する。場合によっては倒す。
2.出来れば協力者が欲しい
3.セイヴァーとの接触
4.アヤ・エイジアの殺害は阻止したい
5.どこかに居るであろうディアボロへの警戒
[備考]
※固有結界のサーヴァントが魂食いを行っていると疑っています。
※セイヴァー(DIO)とジョルノの関係性を感じ取っています。
※ウワサの内容から時間泥棒がディアボロではないかと睨んでいます。
※リンクから時を静止させる存在が居る事を把握しております。


【セイバー(リンク)@ゼルダの伝説 時のオカリナ】
[状態]健康、実体化
[ソウルジェム]無
[装備]『時を超える退魔の剣(マスターソード)』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:ブチャラティの方針に従う
1.固有結界のサーヴァントを捕捉する。場合によっては倒す。
2.見滝原に響く時の音が気になる。
[備考]
※杳馬が『天国への階段』を阻止する時の音が聞こえていますが
 確証のない情報の為、マスターのブチャラティには打ち明かしてません。
※ブチャラティからディアボロに関する情報を把握しています。
※時に関する能力の発動を認識しております。





237 : 虎視眈々 ◆xn2vs62Y1I :2018/07/02(月) 22:57:50 5oqdJOCg0

「逃げられてしまったんでしょうか……」


一人の少女――マシュ・キリエライトは呼吸を整えていた。
彼女は、遠目からリンクのステータス等を視認し、急いで現場に駆け寄ったが。
既にリンクも、マスターであるブチャラティの姿もない。
だが、ほんの一瞬だ。僅かな間で……サーヴァントが霊体化するのはともかく、マスターまでも消えるとなれば。
周囲を確認し、ブローディアがマシュの隣で実体化した。


「魔力の残り香を感じる」

「私が視認したセイバーのものですか?」

「流石に、そこまでは分からないな。あまりにも微細だが……
 似たような感覚は、見滝原と呼ばれるこの地帯全土に及んでいる。例の奴だ」

「……なるほど」


マシュが険しい表情を浮かべる。
見滝原全土にある微細な魔力の残り香。この世界の裏側に巣作る固有結界との繋がり、境目の残痕だ。
ナーサリー・ライム。
マシュは、そのアサシンの『異なる側面』を対面した経験があるが。
彼女の情報でサーヴァントの看破に至れる事はなかった。

だが、この魔力をセイバーのものと軽率な判断を下すべきではないだろう。
僅かであれサーヴァントを捕捉したのは、幸運だったか。
第一。マシュが足を運んだのは、討伐令にかけられたセイヴァーとの接触を狙っての行動である。
しかしながら、マシュの目的は討伐令の報酬でも、聖杯獲得ですらない。

ブローディアが再び霊体化しつつ、念話でマシュと言葉を続けた。


『相手は一筋縄にいく部類ではないだろう。承知の上なんだな』

『はい。この聖杯戦争を解き明かすのに、避けては通れないと考えています』


根本的な議題――何故、セイヴァーが討伐令にかけられたのか?
燃料投下を狙ったものと安直に捉えそうだったものの。マシュは『理由』があるのでは、と引っ掛かっていた。
どんな犯罪にも『動機』があるように。
セイヴァーが討伐令にかけられたのも『理由』がある。
マシュは聖杯戦争の謎を、別の表現で異世界の『特異点』の解決に通ずる糸口になりうる可能性を見出している。

もう一つ。マシュは言う。


『あとは協力者の捜索……いえ「ダ・ヴィンチちゃん」の捜索をしたいのですが
 今日までハッキリとした目撃証言らしいものが無く、厳しいです』


238 : 虎視眈々 ◆xn2vs62Y1I :2018/07/02(月) 22:58:38 5oqdJOCg0
ダ・ヴィンチちゃん。
親しみ込めた名称でマシュが呼ぶ人物、否――英霊。レオナルド・ダ・ヴィンチ。
モナ・リザのウワサを体現するのは、紛れもない。彼女だろう。
分かっている。マシュの知る、カルデアに居るダ・ヴィンチとは別人だ。

別人、という表現も間違っているかもしれない。
だけど、カルデアでの記憶を持つレオナルド・ダ・ヴィンチである保証は一切無い。
マシュはこれまで、様々な特異点で同一のサーヴァントと巡り合っても
自分たちと邂逅した記憶のない者が少なからず存在していた。この特異点でも………

それでもレオナルド・ダ・ヴィンチなのに変わりは無い、根本は、魂は同じだ。
フム、とブローディアは提案する。


『闇雲に探すのはマスターの負担になる。いっそ、必ずサーヴァントと接触できる機会を狙うべきだ』

『必ず……? あ。見滝原中学、でしょうか。アヤ・エイジアの犯行予告も同じくですが』

『ああ。大食い探偵も、高校へ向かえば出会えるかもしれないが。必ず、となればその二つだ』


セイヴァーやダ・ヴィンチが現れるか不明だが、確実に他サーヴァントと接触できる可能性の高い二択。
問題は、マシュが二択に関連した場所に潜入しにくい事。
サーヴァントであるブローディアはともかく、マシュだけ取り残されるのは危険だ。
マシュは少し間を開け、それから答える。


『もう少し見回りしてから考えます。まだセイヴァーや他の主従の方々と接触できるかも分かりません』

『そうだが……マスター、夜更かしは体に悪いぞ。無理は良くない』

『は、はい。頃合いを見て、切り上げます』


心配するブローディアの気持ちに、マシュも申し訳なさと納得を感じる。
聖杯戦争開幕により、興奮し寝付けないなら仕方ないが。
マシュは、セイヴァーとの接触を狙う為、あえて夜更かしするハメになっていた。
昼間でもよいが、セイヴァーの目撃情報は『夜』だけ。昼間、町中で巡り合ったウワサはSNSでも流れない。


「………あ」


夜、だけ………?
まさか、とは思ったが証拠もない。可能性とはありえなくないが……


吸血鬼。
人類の誰しもが知る、夜を統べる怪物のウワサがあった。


239 : 虎視眈々 ◆xn2vs62Y1I :2018/07/02(月) 22:59:07 5oqdJOCg0
【B-5 都心/月曜日 未明】

【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]端末機器
[所持金]両親からの仕送り分
[思考・状況]
基本行動方針:元のカルデアに戻る。特異点の解決。
1.セイヴァーとの接触
2.協力者の捜索。ダ・ヴィンチちゃんと出会えれば良いが……
3.前述を達成する為、見滝原中学かテレビ局に向かうべきか悩み中
[備考]
※セイヴァーの討伐令には理由があるのではないかと推測しております。
※セイヴァーが吸血鬼の可能性を考えましたが、現時点で憶測に留めています。
※見滝原内に点在する魔力の残り香(ナーサリー・ライム)について把握しています。
※セイバー(リンク)のステータスを把握しました。


【シールダー(ブローディア)@グランブルーファンタジー】
[状態]霊体化
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:自分の居るべき世界への帰還
1.マシュの方針に従う
[備考]
※見滝原内に点在する魔力の残り香(ナーサリー・ライム)について把握しています。





どうやら気付かれていない。
サーヴァントも人目を警戒して、すぐ霊体化したお陰なのだろう。彼女・スノーホワイトが気付かれなかったのは。

一息ついて、スノーホワイトは魔法少女の脚力でビルからビルに飛び移り、移動をする。
彼女の目的は、新たなサーヴァントとの契約。
強力かつ、自分がコントロールしえる、聖杯狙いの、そんな部類を探していた。
勢力を見極めるついでも兼ねている。

少なくとも『声』を聞く限り、シールダーとセイバーの主従は双方共に聖杯獲得に動いていない。
それと……固有結界のサーヴァント。
魂食いを派手に行っている様子から聖杯獲得を狙っている節が見られるものの。
特異のテリトリーでの戦闘に持ち込むスタイル……正直『強い』か分からなかった。


セイヴァー。
スノーホワイトは彼の弱点を把握してはいる。ただセイヴァーも愚かではあるまい。
紛れもなく見滝原中学に現れる可能性が低いのだ。
何故なら根本的な問題。見滝原中学の『構造』そのものにある。

スタイリッシュで近代的なデザインを追求した結果なのだろうか。
見滝原中学は全面ガラス貼り、校舎内の教室に至るまで壁という障害がガラスに変換され、スケスケなのだ。
確かに、バーサーカーが憤るのは当然だろう。
あんな場所にセイヴァーは現れない。太陽光が差しこむどころか、普通のサーヴァントも身を隠せない。


240 : 虎視眈々 ◆xn2vs62Y1I :2018/07/02(月) 23:01:08 5oqdJOCg0
とは言え……
スノーホワイトがセイヴァーをコントロール可能な部類とは、毛頭考えちゃいない。
だが、彼がマスターの『暁美ほむら』を失う可能性は、高い。何故なら


(屁理屈だけど、セイヴァーか暁美ほむらか……どちらかを殺せば報酬が貰えるということ)


そう。
原理として暁美ほむらを倒せば、セイヴァーが消滅するから。の意味合いで
主催者も『そのように』討伐令を配布したのだろう。が、暁美ほむらさえ倒せば良いのだ。
ここにはそう記述されているのだから。
セイヴァーが強力なサーヴァントだと理解可能が故に、マスターのみを狙えば報酬は得られる。


(ただし、その場合。セイヴァーの魂が誰に回収されるか分からない)


聖杯獲得を狙う者にとっては一番の問題がそこだ。
ウワサの数が正しければ、20以上のサーヴァントがいるものの。聖杯作成に7騎の魂が必要ならば
早い者勝ちである。
どうせなら、セイヴァーを倒し魂の確保を狙うべきだろう。
スノーホワイトは再び、自らの魔法に集中し他の主従の捕捉を試みた。




【B-5 都心/月曜日 未明】

【スノーホワイト(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
[状態]魔力消費(小)、魔法少女に変身中、プク・プックの洗脳
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]『ルーラ』
[道具]『四次元袋』
[所持金]一人くらし出来る程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得。全てはプク様の為に
1.再契約するサーヴァントを見極める。
2.セイヴァーとの契約は最悪の場合のみにしておく。
[備考]
※バーサーカー(ヴァニラ・アイス)への魔力供給を最低限抑えています。
※ブチャラティ組、マシュ組の動向を把握しました。
※セイヴァー(DIO)が吸血鬼であることを知っています。
※セイヴァー狙いで見滝原中学に向かうつもりはありません。
※現在、プク・プックの洗脳は継続されています。


241 : ◆xn2vs62Y1I :2018/07/02(月) 23:03:37 5oqdJOCg0
投下終了します。続いて

マルタ&杏子、ディエゴ(恐竜)&レイチェル、島村卯月&アサシン(杳馬)
DIO信者(ヴァニラ・アイス)、人類悪(エンリコ・プッチ)

以上で予約します。


242 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/03(火) 00:29:08 iTsWG8Qw0
投下乙です

>名前のない怪物
石仮面を作り出したカーズ様にとってはパソコンのハッキングなんてお手の物。
思ったよりもマスターの怪盗Xと仲良くやってるようでなによりです。
そしてまどかの家にロックオン。下手すると今夜中に全てを失いかねないまどかの窮地にほむらは間に合うのか

>シュガーソングとビターステップ
なに?魔女がいなくて魔法が使えない?それは無理に探そうとするからだよ。逆に考えるんだ。『いないなら作っちゃえばいいさ』と。
外道戦術を平然と行う安定の沙々ちゃん。あのマジェントがソウルジェムのルールをちゃんと覚えてるあたり、さすが英霊というべきです。
いきなり令呪も減らされてピンチだけどここからが踏ん張りどころやで!

>虎視眈々
ブチャラティチームは流石に歴戦の戦士だけあってブレない。これはとても心強い。
スノホワさんは虎視眈々と聖杯を狙っていますな。
確かに聖杯戦争という場では正しい思考と行動だろうけど、今は亡きそうちゃんやアリスが見たらかなりのショック受けそうですね。

吉良吉影を予約します


243 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/05(木) 17:59:05 rWB1X9sY0
投下します


244 : 嗚呼、平穏な日々よ ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/05(木) 18:01:04 rWB1X9sY0
「あ、あのぅ、吉良さん」

もじもじと、女性が目前を歩く男性に声をかける。
男性―――吉良吉影は、訝しげにのそりと振り向いた。

「これから同僚の皆さんと食事に行くんですけど...よろしければ、私たちとごいっしょしませんか?」
「...すまないが、今日は遠慮させてもらうよ。気持ちは嬉しいが、少し疲れていてね。このままでは明日の仕事に響きそうなんだ」

懇切丁寧に断りをいれ、では、と一礼だけをして吉良は去っていく。
そのくたびれた背中に、女性はどうにか声をかけようとするも、かける言葉が見つからず立ち尽くしてしまう。

「やめとけ!やめとけ!あいつは付き合いが悪いんだ」

そんな女性に対し、割り込むようにニヤけ面の男が歩み寄り囁いた。
吉良と似たようなスーツを着ていることから、彼や自分の同僚だと女性は理解した。

「"どこかに行こうぜ"って誘っても楽しいんだか楽しくないんだか...『吉良吉影』33歳 独身 。
仕事はまじめでそつなくこなすが今ひとつ情熱のない男.....なんかエリートっぽい気品ただよう顔と物腰をしているため、女子社員にはもてるが、会社からは配達とか使いっ走りばかりさせられているんだぜ。
悪いやつじゃあないんだが これといって特徴のない......影のうすい男さ」

聞いてもいないのに始めた同僚の解説を聞き終えた女性は、しょんぼりと肩を落とし、同僚と共に会社の食事会へと向かう。
そんな彼らの背を、もっと言うならば女性の手首を、微かに振り向いた吉良が険しい顔つきで見つめていたことに二人は気づくことはなかった。


245 : 嗚呼、平穏な日々よ ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/05(木) 18:02:06 rWB1X9sY0



「クソッ...聖杯戦争...まったくもって忌々しい...!」

私は、己のサーヴァントであるダ・ヴィンチの目につかぬよう押入れの中に身を潜めていた。

ガリ、ガリ、ガリ

本当ならこんなことはしたくない。なぜなら押入れに入るというのは悪いことをした子供に与えられる罰である。
だが、自分は悪いことなどなんらしていない。遅刻しないよう出勤し、キチンと仕事をこなし、ほとんどの日を定時で帰る。
そんな極普通のサラリーマンだ。罰せられることなどなにもないじゃないか。

ガリ、ガリ、ガリ、ガリ

だが、いまとなっては仕事が終わったあとの自分の時間なんてありはしない。
食卓はもちろん、トイレですらサーヴァントの気まぐれで入られるかもしれない。
だから、仮に入られても、背を向けていれば時間を稼げる押入れに逃げ込むほかなかったのだ。

ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ

私には幼い頃から己の爪を噛む癖があった。
ストレスを感じているとき。殺人衝動を我慢しているとき。焦っている時。
とにかく、爪を噛む時は決まって『よくない時』なのだ。

始めは『聖杯戦争なんて勝手にやって勝手に終わらせてくれればいい』などと甘い考えを抱いていた。
仮に私を殺しにきたとしても、マスターを殺すという点において秀でている『キラークイーン』さえあれば返り討ちにするのは容易いと、そう思っていた。
だが、時が近づくにつれてヤツは―――ダ・ヴィンチは本性を曝け出してきた。

始めに召還されたときは、私の困惑する姿を眺めて楽しんでいただけだったし、私も『少々変わったヤツ』程度の認識しかなかった。
だが、ヤツは興味が湧いたものを片っ端から発明し、家に放置する。
それだけでも迷惑千万きわまりないというのに、今日作った『バステニャン号』のように、実際に町で運用しようとまで言い出すのだから頭が痛くなる。
あんなもので町を疾走してみろ。それだけでも目立つというのに、もしもそれが原因でダ・ヴィンチが私のサーヴァントだと知られたら途端に不利な立場になってしまうぞ。


246 : 嗚呼、平穏な日々よ ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/05(木) 18:03:09 rWB1X9sY0

ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ

そして何より私を追い詰めているものが、あの手首。美しすぎるあの手首が最大の敵となっているのだ!

私は美しい手首を見つけたら持ち帰り、『彼女』にすることで欲を発散している。モナリザのような美しい手首の絵画を見たときは自慰でだ。
だからこそ私の平穏な生活は保たれてきたし、規則正しい生活リズムのひとつにもなっていた。
だが、聖杯戦争というものを知ってから...正確に言えば、ダ・ヴィンチが現れてからはそうもいかなくなった。
ヤツに私の能力を知られれば、ヤツの手首を貰うときに手を焼くことになるかもしれない。
なにより、ヤツのことだ。私の能力を知れば、己が楽しむために周囲に叫んで回る可能性がある。...流石にそこまでしなくとも、それだけのことをやりかねないと思わざるをえないほど、ヤツへの信頼は薄れている。
以上の懸念から、私は能力をヤツに隠すと決めていた。

そのせいで私は『彼女』を連れてくることはできず、いつヤツが私の目の前に現れるかわからないため、自分で欲を発散させることもできない。
発散を封じられたその上で見せ付けられる極上の手首。こんなもの、生殺し以外のなにものでもない。

つまり、私にとってこのサーヴァント、レオナルド・ダ・ヴィンチはとんでもない外れサーヴァントということになる。

もしもこれが、手首は普通で、人の性癖に口を挟まず、奇天烈な行動をとらないサーヴァントであれば...いや、どんなサーヴァントにせよ、私は疎ましく思っていたかもしれない。
サーヴァントの性格がどうであれ、『マスターと魔力で繋がっている』という本質は変わらない。それは即ち、私生活に介入してくるということだ。
自分の彼女との逢瀬を第三者に見られて気分を害さないものがいるだろうか。いるとしてもそれは極少数の変わった性癖の持ち主だろう。
植物のように平穏な人生を楽しむ私には無縁の性癖だ。

やはり私の人生においてサーヴァントの存在は邪魔であると断言できよう。


247 : 嗚呼、平穏な日々よ ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/05(木) 18:08:21 rWB1X9sY0

ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリ、ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ


では私の人生からサーヴァントを排除するにはどうするべきか。
①聖杯戦争を早急に終わらせる。
②サーヴァントを自害させる。
③指名手配されているセイヴァーと暁美ほむらという少女を殺し報酬の聖杯戦争からの帰還を叶える。

まずは①。これが最もシンプルで、正攻法な解だ。
聖杯戦争のルール上、全ての組を殺せばそれで聖杯戦争は終わり、私も無事に解放されサーヴァントも消えうせる。
更に、自分から積極的に殺してまわれば幾つか願いを叶えられるというのだ。
『ダ・ヴィンチの手だけを持ち帰る』『二度と聖杯戦争に呼ばれないようにする』『私から聖杯戦争に関する記憶を削除する』。
この3つを叶え聖杯戦争を終わらせられれば、万々歳といったところか。
だが、ここには他のマスターだけでなくNPCと呼ばれる非マスターが大勢いる。
その中から主従を探し出すのは容易ではないし、なにより積極的に戦うなど私の趣味じゃあない。
片っ端から殺すというのも野蛮で下品だしな。もちろん、やろうと思えばできるが。
なにより、平穏を手に入れるために血眼で走り回るなどそれこそ平穏にはほど遠い。


よって、一番の選択肢は排除。

次に②。これが一番手軽な方法だ。
このサーヴァントが死んだところで、マスターも死ぬわけではない。
このルールに則り、ダ・ヴィンチを自害させてしまえば煩わしい鎖のほとんどから解放される。
問題は、聖杯戦争それ自体が終わるわけではないため、根本的な解決になっておらず、いつくるかもわからない敵に怯えながら過ごすハメになることだ。
なにより、通常のマスターならば必ずサーヴァントと組んで私を殺しにくるはず。
となれば、サーヴァントへの対処法がないままでの戦いは流石に骨が折れるだろう。

これらの事情により②も除外。

となれば、一番現実的なのは③だ。

ただ一組を殺せば元の平穏な生活に戻れるのだから、私がとるべき行動はやはりこれか。
セイヴァーの方はともかく、マスターの暁美ほむらという少女は制服から調べれば身元なり何なりは判明するはず。
問題点でいえば、この方法では聖杯を手に入れることが出来ず、ダ・ヴィンチの美しい手の見納めが早まってしまうことか。
別に聖杯自体には興味がないので構わないが、ダ・ヴィンチの手首を手に入れられなくなるのは惜しい。
とはいえ、美人は3日で飽きるともいう。美しいものだからこそ、早めにケリをつけるというのも大切...なのかもしれない。まだ決断したわけじゃないが。
なんにせよ、暁美ほむらを殺す場合、せめて彼女の手が美しくあってほしいものだ。であれば、この聖杯戦争も悪いことだけじゃなかったといえるかもしれないな。

なんとなく方針が定まったお陰か、私の『癖』は自然とおさまっており、冷静さも取り戻し始めた。
時計が手元にないため、正確な時間はわからないが、いまは10時前後といったところか。
夕食は外で済ませてある。風呂に入り、温かいミルクを飲み、20分ほどのストレッチを済ませ床につく...よし、まだ11時までには間に合う。

もはや平穏から遠ざかりつつあるこの聖杯戦争だが、せめて睡眠だけはしっかりと確保しなければ。
最低でも8時間のこの睡眠だけは!!

私は、ダ・ヴィンチに絡まれないように祈りつつ、襖に手をかけた。


248 : 嗚呼、平穏な日々よ ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/05(木) 18:09:57 rWB1X9sY0




午後11時。
出てくる湯が何故か牛乳に改造されていたシャワーと風呂、普段の5倍の出力で放水されるウォシュレットトイレ、ミルクを取ろうと開けた冷蔵庫に詰められていたモンテボーレとかいうチーズの山...
幾多の困難を乗り越えつかの間の平穏を手に入れた男は、ようやくその眉間から皺を解いた。
あと1時間で始まる聖杯戦争にもなんら乱されることなく、男は夢の世界へとその身を投じた。

チク、タク、チク、タク...

時計の針が刻む音もなんの関係もない。
彼は既に温かいミルクと20分ほどのストレッチを終えているのだから。

男が床に着き1時間が経過し、日付変更の鐘が鳴る。ついに、聖杯戦争が始まったのだ。

それでも男は目を覚まさない。
男にとっては聖杯戦争よりも平穏の方がよほど大切なものだからだ。



【B-6/月曜日 未明午前0時】

【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]ストレス、睡眠
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:一刻も早く聖杯戦争から抜け出し平穏な生活を手に入れたい
0.せめて...睡眠くらいはしっかりととってやる...!
1.聖杯戦争など知ったことではないので平穏に暮らしたい
2.私の平穏を乱すヤツは排除したい。
3.もし聖杯を手に入れられたらダ・ヴィンチの手を切り取りたい。
4.ダ・ヴィンチにバレないような方法で手首(かのじょ)がほしい。お尻を拭いてもらいたい
5.もういっそのことアヴェンジャーと暁美ほむらという子を殺して脱出するのもアリかもしれない。
6.↑の方針を実現するためには暁美ほむらたちの素性を調べておく必要があるな。

[備考]
吉良家のシャワー、風呂、トイレが色々と改造されたようです。他にも改造されているかもしれません。
冷蔵庫にはモンテボーレ(チーズ)が大量に詰め込まれています。どうやって手に入れたかは現状不明。


249 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/05(木) 18:12:47 rWB1X9sY0
投下終了です


250 : ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:29:07 1gjTe4FE0
まずは感想をします。


・嗚呼、平穏な日々よ
平穏に生きて貰いたいものだ、と言わざる負えないほど聖杯戦争開幕する前からこの有様とは。
実際、性能を見る限りダ・ヴィンチちゃんは優秀の部類に属する英霊なのですが、そういうのに限って
主従関係で面倒で厄介な部分が生じてしまうものです。何より、平穏をモットーとする吉良にとって
聖杯戦争システムそのものが相性悪いと言う……ヤケクソ気味にほむらの手を求めたりしてますが
今の欲求不満な吉良は、もう誰の手でも美しいと割り切ってしまうんじゃないかと謎の不安を覚えます。
投下していただきありがとうございます!


251 : ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:31:19 1gjTe4FE0
これより予約分投下しますが
アホみたいに長くなりそうなので、分割して投下していきます。


252 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:32:10 1gjTe4FE0
『時よ留まれ、お前は美しい』なーんてさ、嘘だと思わないか?
なんにも動かない、静止した世界に『ひとりきり』なんざ面白みも欠片もねぇだろ。ぐるぐる回ってなんぼよ。
んひひ、警戒すんなって。ちょっとした立ち話をしに来たんだよ。

アンタはウワサとか迷信を信じ込むタイプ?
『自分にそっくりな奴が世界に三人いる』て話。あれどう思うよ。
双子とか三つ子とか、そーいう類じゃなくて赤の他人で『そっくり』と来れば天文学的確立だよなぁ。
要するに、アンタが出くわした『過去のDIO』とは違う意味での『そっくり』て奴。

あー……俺はアンタと違って回りくどいのは面倒だからさ。
ちんたらやってる時間が惜しいだろ? 時間操ってる身だけど、タダで時間止めてるワケじゃないんだぜ。
しっかりしろよ、踊り疲れちゃ勿体無い! 


ほら。アンタの知らない『DIO』だぜ? 


んっははははは―――ッ!!! いいね、いーリアクション貰えたから、ちょっとしたヒントをあげちまう。
出血大サービスさ。受け取っておかないと勿体無いぜ。
いいか、一回しか言わねえからよ。

『恐竜』だ。恐竜のウワサくらい聞いた事あるよな?
アンタ『素早い』から恐竜の一匹くらい余裕で追跡できるんじゃねぇの。
何が起きる? それを聞いちゃ駄目だろ。サプライズはとっておかないとワクワクしないぜ。


せいぜい愉快なタップダンスで踊り果ててくれよ―――『人類悪』。







見滝原中学の近辺、フラフラと覚束ない足取りで前進するサーヴァントが一騎。


「い……今………」


サーヴァントにも関わらず精神的な影響だろう。荒い呼吸をし続けながら、神父のライダー。
真名をエンリコ・プッチと呼ぶ彼が、恐ろしい体験をしていた。
時が止まったのだ。

否、時間停止なんて些細な事象は聖杯戦争の舞台裏で幾度も繰り返されており。
格別珍しい現象でもない。プッチがそう解釈していたのは、友たるセイヴァー・DIOが時間停止の能力を保有しているから。
他にも幾度か異なるタイプの時間停止があった。
中でも、プッチが入門するのに手間すら必要としない長時間の時間停止は異質である。


253 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:32:56 1gjTe4FE0
だが……先ほどのは違う。
サーヴァントの『長時間型の時間停止』! しかも非常に強力で、一体どれほど停止していたか分からない。
数分、十数分。明確な長さは分からない。あまりの事で、プッチは素数は数えていたが、停止時間は数えるのを忘れていた。

そして、あの悪魔が現れたのである!
悪魔。マーブルの悪魔、それが象徴するウワサの存在か。
見た目はシルクハットが特徴的な無精髭がある男性。奴はプッチが時の世界を認知しているのを理解していた。

あれが、タチの悪い幻覚か何かであれば一体どれほど良かっただろうか。
悪魔の掌に出現した球体のヴィジョンに映った光景。

アヤ・エイジアのサーヴァント……アヴェンジャーのサーヴァント。
友人の持つスタンドと瓜二つどころじゃあない。完全に『世界(ザ・ワールド)』そのものと言っても過言ではない。
そして、DIOと似通った。何かが違う。明らかに違うのだが――


(あの悪魔は『スタンド』が何を象徴するのかを理解していない!)


スタンドとは。
所謂、本人の精神が具象化し特殊能力が備わったもの。
スタンドの才能が血縁者に遺伝したり、兄弟が似通った能力であったり。だとしても
全く異なる赤の他人が、全く同じスタンドを会得するなど!
偶然? 決して、偶然じゃあない。

プッチは確信を得ていた。あれは……『DIO』だ。雰囲気が同じで。容姿など細部に異なる点が多いが
セイヴァーと同じく『何かが異なる』だけで魂は、恐らくDIOなのだ。精神そのものが。
しかも、よりにもよって。アヤ・エイジアは猟奇殺人犯に狙われている。


「……妙だ。向こうが明るい。まだ朝には早過ぎる」


彼が顔を上げて、空模様を気にしたのは運命だっただろうか。
プッチは『明るさ』のある方角へ僅かな移動をし、彼方の方角に『火の手』があるのに気付く。
火災だ。
閑静気味な住宅街から炎は徐々に範囲を拡大しているらしい。
とはいえ――燃えうつる家や障害物も少ないお陰で、見滝原中学方面まで脅威を伸ばす事は無いだろう。


254 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:33:38 1gjTe4FE0
サーヴァントの仕業か?
少々、プッチが思い詰めている中、シャーッと何かがアスファルトで舗装された道路を駆け抜けて行った。
僅かに遅れ、プッチはソレを目で追う。
一瞬。野良猫の一匹だと思いこんでいたが、猫にしては小さ過ぎる。
何より……形状が『トカゲ』のような………恐、竜?

プッチは瞬間にして冷や汗が込み上げるのを感じた。
胡散臭い悪魔の話を真に受けるのは、どうかしている……だが、だが思い出せ!
あの悪魔は『何の話』を持ちだしていたかを!!

――――『自分にそっくりな奴が世界に三人いる』て話。あれどう思うよ。


「さ……三人………」


まさか、まさかッ!?
プッチは、過去のDIOと巡り合った事による動揺よりも落ち着きなく、咄嗟に『神の思し召し』を発動していた。


「馬鹿なッ! まさか、そんな事が――そのような事があるというのかッ!?」


先ほどの恐竜は、完全に見失った。
プッチが恐竜よりも早くとも、小柄な恐竜を移動しながら捕捉するのは普通に難しい。
第一に、プッチ自身が冷静さを欠けていた事もある。
だが、諦める訳にはいかない。恐竜が向かった道筋の先に、必ず『彼』が居る筈なのだから。

引力が働いているならば、彼が本当にDIOであるなら巡り合える。
そして――プッチが捕捉したのは恐竜じゃない。『音』だ。独特な蹄の音。
プッチの留まっている路地の脇から、段々と駆けて行く音が接近してくるのだった。

刹那。
眼前を、少女を馬に乗せた一騎のサーヴァントが通り過ぎた。
ハッキリと『友』と雰囲気の似た、アヤ・エイジアと共に居たアヴェンジャーとは『瓜二つ』の。
そんな英霊の視線が混じり合ったのを、プッチは実感する。


「DIO!!!」


プッチの叫び声は届いていたのだろうか。『DIO』はチラリとプッチに振り返った気がする。
だけども、馬の騎乗を止めずに淡々と見滝原の道路を駆け抜けて行く。
迷う事なくプッチが『DIO』を追跡した先には―――


255 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:34:03 1gjTe4FE0




分からない事があった。幾つか分からない事が。


レイチェルは初めて馬に乗った。現代社会じゃ馬はいても、それに騎乗する機会に巡り合える事は無い。
それこそ、自らの意志で望まなければ、馬そのものとも巡り合えない時代だ。
現代はそうでも、過去の人類は移動手段として重宝し続けた生物である。

前方に座り、風を受けて見滝原の住宅街を眺めると、車や電車よりも速度があるように錯覚した。
ひょっとしたら英霊の馬だから、それらより速度が出ているかもしれない。
あまりに速度を感じるせいで、通行人などの存在をまるで確認出来ない。


「……ライダー、聞きたい事があるの」


少しか細い声だったもので、レイチェルが後方で馬の手綱を握る彼に聞こえるか不安だったが。
相変わらずの口調で「なんだ」と答えが返ってきた。酷く安心してしまう。
蹄の音も、風の音も酷いにも関わらず。ライダーは障害とすら感じてないようだ。


「どうしてライダーの事は調べちゃ駄目なの」


レイチェルにとって素朴な疑問だったが、彼から答えが聞こえるまで変な間があった。
もしかして、聞こえなかったのかもしれないとレイチェルが思ったが。
遅れを取り戻すかの如く、短く早口の答えが帰って来た。


「無駄だからだ」

「……無駄?」

「俺の事を調べるよりも敵を調べろ。俺の過去よりも敵サーヴァントの弱点の方が重要だ」

「うん」


256 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:34:33 1gjTe4FE0
――うん。じゃあねぇんだよ、クソゴミカス。

ライダー・ディエゴは内心で毒づいている。
レイチェルが、馬鹿だからわざわざ尋ねている訳じゃあないんだろうと、ディエゴにも分かる。
彼女は、何故ディエゴが自分に対し疑心を抱いているか不思議でならないのだ。


「あのセイヴァーは、ライダーの何?」

「………」


ウロチョロしてたから、例の討伐令を目にしたんだろうが。何でこう、わざわざ癪に障るタイミングで聞いて来るんだ。
ディエゴの頬が僅かに裂けた。
恐らく、今なら機嫌が良いから聞けるとレイチェルは思いこんでいる。
実際のところ、ディエゴは最初からレイチェルを軽蔑していた。


「他人の空似、赤の他人だ」

「分かった」


――分かった、じゃあねぇんだよ。どこぞの下っ端のクズ以下が!

根本から価値観が歪んでいるのを承知していたが、価値観の問題でもない。
彼女自身が、あまりに無知である点だ。
口達者なサーヴァント次第じゃ上手く丸めこまれるに違いない。
どっちにしたって切り捨てるが、切り捨てる『まで』の過程で余計な事をされては堪らない。

――もう余計な事をするなよ、レイチェル・ガードナー。何もしなくとも契約を切ったらバラバラにしてやる。

ディエゴが内に漆黒の激情を秘めると、対向車線より数匹の恐竜が現れる。
教会に先行させた方ではない。
元々、見滝原の町を徘徊させていた恐竜。数は大分少なくなっている気がしたが、紛れもなく他サーヴァントに狩られたのだろう。
恐竜から言伝を聞き、ディエゴは静かに「そうか」と呟いた。
彼らも教会へ向かうように指示させ、現状を確認する。


257 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:35:00 1gjTe4FE0
(敵サーヴァントが『二騎』接近している……正確には『三騎』。近隣にいる)


恐竜の捕捉が途絶えたマンションに一騎。
教会に一騎。
そして、もう一騎……謎の穴を産み出すアサシンと思しきもの。

ディエゴが角を曲がった矢先、前方より魔力を感知した。
もしや、と疑ったが。ディエゴが馬の速度を上げ、魔力と匂いを感じた裏路地に視線を向ける。
一瞬の事で、レイチェルの方はまるで気付いちゃいないが。動体視力の良いディエゴはしかと捉えた。

神父のサーヴァントを。


(なんだと……? 霊体化でもしてたのか、コイツ。いや、明らかに気配がなかった。匂いも――)


すれ違い様に、神父の叫びをディエゴは聞く。
――ディオ、と。決して『Dio』ではないだろう。幾らディエゴでも、あの神父に記憶がなかったのだから。
宗教にもディエゴは縁遠い……と言いたい事だが、皮肉にも『聖人』と関わった経緯がある。
だが、やはり
あのサーヴァントには心当たりは皆無だ。恐らく――セイヴァーの方を示している。奴も『ディオ』なのか?

何であれ『計画変更』だ。
教会に至るまで神父のサーヴァントに妨害されては意味ない。
近隣で言えば、動向が不透明なアサシンのサーヴァントも同じく。


「……レイチェル」


ディエゴの呼びかけに少女は顔を上げた。






258 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:35:33 1gjTe4FE0
最初、プッチは覚悟をしていた。
ひょっとしたら彼は、自分を警戒し、馬を走らせ続けているのでは――と。
あるいは、自分に奇襲を仕掛けるのでは、とも。
DIO……いいや『ディオ』との一件でプッチは、友に攻撃される不安を少なからず抱いていた。
だとしても。
プッチは『あのDIO』を攻撃する気は毛頭ない。
過去の『DIO』じゃあない。自分が知らぬ未知なる『DIO』の存在を確かめなければならい。
そういう覚悟だ。


しかし、現実はプッチの予想を超えていた。
彼は馬に騎乗しておらず、マスターの少女と共にプッチが現れるのを待ち構えていたのだから。


「……………………!」


『そのDIO』は何も手にしていない。勿論、少女の方も。
ましてや、すぐに逃げ出せるように『馬』も脇におらず――恐らく宝具か使い魔で、一時的に消したにしても。
敵意を、攻撃を仕掛ける素振りを全く見せない。

―――『DIO』……何かを感じてくれたのか……?

拒絶の意志がないだけでも、プッチは安心を得た。覚悟した先に得られる幸福だった。
幸福が精神の摩耗を癒したのを実感しながら、プッチは確かな足取りで『DIO』に近づこうとする。
近づき……『そのDIO』の瞳に、戦慄を覚えた。

彼は真っ直ぐとプッチではない。別のものを見据えていた。攻撃をしかけるつもりなのか!?
違う!
プッチは違和感を覚えた。
自分は彼の――この瞳を知っている! 以前、この目と同じものを――どこで―――


「ハッ!?」


259 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:35:59 1gjTe4FE0
気付くのが遅すぎた。
プッチは『恐竜』の奇襲を一手遅れて回避する事が叶わなかった。
正確には、攻撃を理解し、回避する構えを取ったものの。恐竜特有の長い尾の動きを読み切れない。
尾がプッチの首を捉え、恐竜の巨体を生かし、地面にプッチを押さえつける。


「ぐ、おおぉおっ! こ……この恐竜、どこからッ!? これほど接近されて……気付かない筈が……」


プッチの攻撃してきた恐竜は、相当の大きさ。
人間サイズを上回る肉食獣の形状。故に、このサイズの恐竜の奇襲。ましてやプッチの至近距離から攻撃をしかけるなど――
改めて、プッチが恐竜の『模様』を見た。

――ほ……保護色!

生物が体の色を周囲の色彩と合わせ、見分けにくくする適応能力。
完全に恐竜は住宅街にある塀やアスファルトの色彩と同化していたのだ。
何より、恐竜の大きさから――『馬』だ。『DIO』が騎乗していた馬が恐竜になっている!


「恐竜化の進行が遅いな。まぁ、お前を恐竜にするつもりは最初から無い」

「あ……ああ………」


『DIO』がプッチに近付き、例の漆黒に淀んだ瞳で見下す。
プッチは呻きつつ、そして――漸く『答え』を得た。


「お………思い、出したよ…………その瞳……DIO……………」


『そのDIO』の様子はどこか退屈そうで、心底プッチに興味も無く、手刀をギロチンの刃のように振り落とす直前。
プッチは体中のひび割れを実感し。にも関わらず、酷く冷静に告げた。


「私は……君を裏切らない。……攻撃もしない、私を………『信じて』くれ……DIO」






260 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:36:45 1gjTe4FE0
一度だけあった。

かつてエンリコ・プッチのスタンドは『メイド・イン・ヘブン』とは異なるもの。
即ち『ホワイト・スネイク』と呼ばれるものであった。
シンプルに説明するなら「DISCを扱う程度の能力」と言ったところだろう……

『記憶』と『スタンド』をDISCとして取り出せる。
誰であろうと、何であろうと。
例え、彼よりも格上の権力者だろうが無関係に造作も無く、差し詰めイタズラ電話をかけるほど容易に行える。

当然。プッチの親友たるDIOは、彼のスタンドに脅威を覚えていたのかもしれない。
いつ自分の『スタンド』を抜き取られるか。根本的な疑心。
故にDIOは、あえてプッチに『スタンド』を抜き取らないのか問いかけた。
『スタンド』を抜き取って見せろ、と試した。

結局、プッチは微動だに何もせず。DIOもプッチを疑うのを止めた。

が。
あの瞬間だけ『間違いなく』DIOはプッチを疑っていた。
DIOは友を信用せず、必ず自分を攻撃すると覚悟を決め、その瞳は漆黒に満たされていたのをプッチの記憶にある。

―――あの瞳だ。私の前に居る『DIO』も同じ瞳で、私を見下している。

誰も信用していない。
初対面のプッチを理由も無く信用するのは無理のある話だが、不思議にも。彼は『常に』そんな瞳をしていた。
『どういう事なのだろうか』……『彼』には信頼できる友は居ないのか?
DIOで言う『エンリコ・プッチ』に当たる人物が……







佐倉杏子は『幸運』だったのだろう。現状置かれている聖杯戦争なる舞台が最悪であっても。
彼女が起床せずに居られなかったのは、教会方面に近い位置で火災が発生した事。
見滝原の、現代の町並には、どこかしこも外灯が設置され非常に明るいものの。
火災――爛々と輝き、明度が圧倒的に異なるソレは、外灯とは比較出来ないほど眩しさを誇っていた。

起きたのは杏子だけ。
家族として配置されている無辜の存在――両親と妹は眠りついたまま、火災に気付いてない。
結局、寝るに寝れない為、杏子はソウルジェム(魔法少女に変身する為の赤い宝石の方)を持ち
適当に私服へ着替え、こっそり家の外に出る。

家――教会だ。
本来の杏子が捨てた場所。かつて本当に杏子が住んでいた場所。
一応、聖杯戦争において杏子の住まいとして再び戻って来た。正直……居心地は悪い。
彼女が人生で決定的な悲劇を見た場所が、ここなのだから。
トラウマの一種と称しても過言じゃあない。


261 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:37:30 1gjTe4FE0
「マスター」と呼びかける聖女のサーヴァントが、どういう訳か既に実体化した状態で外に待ち構えている。
空気を吸いに来ただけだ。杏子は、そう答えようとした。
聖杯戦争が開幕され、家を抜け出そうと思われているに違いないから。

だが、聖女・マルタの言葉は予想外のものだった。


「丁度よかった、マスター。敵が来るわ」

「……あ?」


慌てて杏子はソウルジェムによる魔力感知を行うと、疎らだが――使い魔に近い魔力反応が接近してくる。
距離は、教会よりも離れていた。しかし、速度は明らかに飛び抜けて。
もう間もなく、一分しない内に教会へ到着するのは予想がついた。
クソ、と舌打つ杏子に、マルタは何故か聖なる証である杖を渡すのである。
杏子は、あまりの行動に拍子を抜けてしまう。杖で魔法少女みたいな攻撃を仕掛けるのではないのか?


「ちょ、オイ。どうするつもりなんだよ」

「私も『拳』を封印してきたけど、今回ばかりは相手が悪いのよ。マスターは教会を守って」


相手。
漆黒の闇から鳴き声を上げながら姿を現したのは――恐竜。
それも、大型の『人間サイズ』に匹敵する。
杏子は恐竜のウワサを耳にした事があり、まさかとソウルジェムで魔法少女に変身をした。

――あの大きさの奴は『人間』か!?

人間も恐竜になってしまう! なんて冗談半分に噂されている内容が事実であれば、恐らくそうだ。
杏子がマルタの杖を教会の扉に立てかけ、防御壁を展開させ。
マルタと同じく、防御壁の外側で槍を構え立つ。


262 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:38:08 1gjTe4FE0
そして『拳』を握りしめたマルタが、複数の大型恐竜相手に仕掛ける。
『ヤコブの手足』という格闘法だ。
極まれば大天使に勝利しえる技はまるでケンカ番長らしかぬ動き。対して、恐竜の動きも俊敏だ。
俊敏ではあるものの、杖を捨てたマルタは一時的にステータスが向上状態にあり。
恐竜の動きに対応できるのだった。

そう。俊敏性である。杖での戦闘は、やはり『速さ』が足りない。
マルタの通常攻撃には、杖に祈りを捧げる事で対象に攻撃を与えられるのだが
恐竜たちはマルタの祈りを妨げ、隙すら見せぬ事だろう。
祈りには僅かでも集中などのタイムロスを必要とし、一方で群れを形成しマルタに襲いかかる彼らを。
支える仲間も居ない状況で、隙を得るのは難しい。

無論、杏子は戦闘可能だが彼女には教会――『家族』とされている彼らの安否を委ねることにした。


「ハレルヤッ!!!」


マルタの聖拳ラッシュが恐竜に打ち込まれるが、至近距離にも関わらず、命中したのは一匹のみ。
『ヤコブの手足』のスキルの影響。
もしくは神性が働いて、倒れ伏した恐竜の一匹は人間に戻る。
呪いが解けた、よりも恐竜の能力そのものに『ヤコブの手足』の効果があったような気がするマルタ。

―――能力が『神に精通する力』だっていうの? そんなワケ……いえ、今はとにかく!

一方で、杏子の防御壁は大型恐竜に破壊されずに機能し続けていた。
とは言え。
魔女や使い魔の戦闘で手なれた杏子の、複雑な多節槍の動きすらも見切られている。
分割した事で、背後より奇襲となる一撃すら、寸前で避けられたり尾で防がれてしまう。

決して杏子の実力不足ではない。
むしろ、彼女は魔法が使えなくなった分を戦闘技術で補う実力者の一人に入る。
相性が悪かったのだ。
動体視力が優れ、動くものに俊敏な恐竜の長所と、杏子の戦闘スタイルがあまりにも悪い部類。


263 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:38:41 1gjTe4FE0
杏子は舌打つ。
実のところ本気じゃあない。躊躇した攻撃傾向なのは恐竜らが人間である事。
生きて気絶されて残るのだって厄介だが、死体となった後の処理だって厄介極まりない。
まだ聖杯戦争が始まって間もない状況で……いっそのこと、教会から離れるべきだと杏子はふと思う。

恐竜使いのサーヴァントが捕捉している以上、ここに留まっても恰好の的だ。
とは言え。
見滝原中学で『暁美ほむら』と接触したい思いも、杏子の中にはある。


「いっ、てぇ!?」


予想外の痛みに杏子は叫んでしまう。激痛が走ったのは――手元なのだ。槍だけは手離してならないと、握りしめる。
だが、痒みを催す痛みは収まる事を知らず、杏子の手元が狂いそうになった。
チラリと、一瞬だけ杏子が柄に視線を合わせた事で原因は判明する。
薄暗い夜故に、不気味な白いものが夥しいほど、杏子の手元に這っている光景。

鳥肌を覚えるような気色悪さに、杏子も流石に呻きを漏らす。
蛆虫みたいな。
違う! これは蛆恐竜だ。見逃してしまいそうな、けれども鋭利な牙を持つ極小の怪物!!
大型恐竜に飛び乗っていた蛆恐竜は、効率的に杏子へ攻撃する為に『槍』に移り渡ったのである。


杏子は蛆恐竜の攻撃を軽視し、周囲を警戒すると。
大型恐竜の脇をすり抜け、小型めの――大きさからして鼠恐竜の侵略を目撃した。
奴らは餓えた獣だった。
防御壁の隙間を掻い潜って、教会に侵入しようする奴らを寸前で槍で穿つ。


「ハァ……ハァ……! 野郎………!!」


何故、杏子ではなく教会で眠る『家族』を狙おうとしたのか。
彼らが獣であり、弱い者を餌として真っ先に定めたに過ぎないのだろうか?
杏子は理解した。

恐竜使いのサーヴァントにとっては『どうでもいい』事なのだと。

嗚呼そうだとも。どうでも良く、効率が良く、他人の為を考慮せずに、自分の為だけに聖杯を獲得する為に。
杏子の家族を殺したって
恐竜にした人間が殺されたって
罪悪感を抱いてなく、むしろ愚行に対し激情する連中を嘲笑するのだろう。


この敵サーヴァントと佐倉杏子の違いは、罪悪感の有無だ。
彼女だって『自分の為だけに』魔法少女の力を利用し続ける今の自分に、嫌悪を覚えたこともある。
過去の行いや家族に関して、罪を背負った。後悔がなかった訳ない。後悔しか無かったのかもしれない。

『自分の為だけに』
その戒めをいざ、他人から自分自身に向けられた事で、杏子の中で何かが切れた。
決定的なものが切れたのだ。


「恐竜使いのサーヴァント! ぶっ殺してやる!!!」


264 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/07(土) 11:39:45 1gjTe4FE0
便宜上の前編までの投下を終了します


265 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/13(金) 00:16:50 EFZgyAT.0
DIOのためにひたすら尽くそうとする神父はちょっぴり応援してきたくなりました。
如何に平行世界といえどDIOはDIOだと分け隔てなく友達であろうとする神父の想いはディエゴに届くのでしょうか
教会を襲撃された杏子組は頑張れ、もう傷つけられた気もするけど超頑張れ

暁美ほむら、ホル・ホース&玉藻を予約します


266 : ◆xn2vs62Y1I :2018/07/14(土) 16:45:29 81j.hJNA0
予約と感想ありがとうございます!
これより後半を投下しますが、ヴァニラ・アイスに関しては予約取り下げとさせていただきます


267 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/14(土) 16:46:21 81j.hJNA0

「マスター!」


マルタが杏子に対し爪を振りかざそうとしていた大型の恐竜に拳を振るい、恐竜の体が人間に退化し
地面に転がったのを見届けて、一息つく。
杏子の足元に、ゾッとする数の蛆虫が乱雑に踏み潰されていた。
生物を『恐竜』に変化させる能力。
恐らく、蛆虫ほどの微細な生物すら恐竜に出来るのだろう。マルタは杏子に声かける。

「ソウルジェムは大丈夫?」

意識せずとも自然とマルタは、そちらを尋ねていた。
彼女は、ソウルジェムが如何なる悪意ある産物か理解し、それが穢れる重大さを最も不安視する。
杏子の表情は俯いて伺えない。
ただ、無言で魔法少女の変身を解けば、教会の周囲に展開していた防御壁は消え去り。
杏子の掌に赤い宝石が収まっていた。穢れはあるものの酷い状態じゃない。

どことなく疲労感に満ちた声色で、杏子は「平気だよ」と短く答えた。
マルタも確認し「そのようね」と安堵をついた。
教会に立てかけてあった杖を手に改めて咳払いして、マルタは言う。

「後の事は任せて下さい。今は体を休めた方がいいでしょう」

「……悪い」

杏子の様子は気だるげだった。
素直にマルタの言葉に従うほど疲労困憊で杏子は、教会の中へと戻って行く。
一方で、マルタはこの現状の処理と同時に。教会が捕捉されている事態を重く受け止めていた。

最も。
杏子の家族ごと狙い、無関係な人間を恐竜にする輩だから、ぶっちゃけたり自重せずともシメあげて然るべきだろう。
しかし、相手は非道な判断を意図も容易く下せるサーヴァント。
今回以上の規模で恐竜を仕掛けられては、恐らくマルタも宝具の竜を召喚するしかない。

だが、竜は竜だ。
戦闘で発生する規模では、本当に杏子の家族を巻き込みかねない。
何よりも――今回のようではなく、マルタの『杖』での攻撃を発動可能な隙を作ってくれる『仲間』がいれば別だ。
他の主従との同盟……






268 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/14(土) 16:46:46 81j.hJNA0
結局のところ、マルタが一人で『恐竜化』が解けた人々の介抱を務めていたが。
騒ぎや動揺の様子から、杏子の両親が起床し、様子を伺いに来るハメになってしまった。
こればっかりは有難味を感じるほど収集がつかなかったと言うべきか。

『恐竜化』された彼らの中に、警察関係者。
即ち警官がおり、この事態を警察署に報告しなければならないと電話を貸して貰うよう頼んで来たのである。
杏子の父は人々の為に教会を開けて、混乱する彼らに杏子の母が食事などを即席にだが用意してくれた。

マルタは彼らが再び『恐竜化』しないかを警戒しつつ。
彼らから情報を聞き出すことに成功していた。
全員『恐竜化』していた間の記憶がなく、また『恐竜化』した原因も曖昧の様子で、意識を奪われた時期も場所も違う。

けれど。
警察官を含めた何人かが『ガードナー』という外国人夫婦の自宅に尋ねようとしたのが判明した。
数日前から職場を無断欠勤していたらしい。
尋ねようとしていた者は、職場関係者で。様子見のつもりだったようだ。
……マルタが耳を傾ける限り『ガードナー夫妻』の評判いいウワサは聞かない。

娘。中学生くらいの娘が居るらしい。
少女について、詳細な情報は得られなかったが、マルタには気がかりだった。


一方で。
緊迫気味だった最中。署に連絡を取ろうと試みていた警官から、驚くべき話が聞かされる。
警察署内に誰も電話を取る者が居なかった。
確かに、居なかったのだ。

『赤い箱』。
つまりは怪盗Xと自称した猟奇殺人鬼。
警察署内は、夜間に配属されていた者の血肉によって染められていた。
頼るべき地が『安全』でもなく『事件現場』と化していたのだ。

何故、警察署が狙われたのか。理由は一つ。間違いなく『情報』であろう。
事件の詳細な情報。警察という立場で得られる量も他の調査と比較すれば圧倒的な差だ。
問題は。事の重大さは。
単純に忍び込んで情報を『盗め』ばいいのに、情報を得るついでに『殺した』彼らの残虐性。


269 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/14(土) 16:47:08 81j.hJNA0
一先ず、『恐竜化』に巻き込まれた彼らは、もうしばらく教会に留まるハメになった訳である。
傍らでマルタは思案していた。
彼らが警察で情報を仕入れたのならば、尚更『ガードナー家』に足を運ぶ可能性は高い。
一応『犯行予告』をしたアヤ・エイジアに手を出さない前提なら。


「………お姉ちゃん?」


ふと、マルタは幼い少女の声に気づく。
教会内が騒がしいせいか、寝ぼけた様子で目をこすっている杏子の妹。
マルタが優しく声をかけてやった。

「騒がしく目を覚ましてしまったのですね」

「ううーん……お姉ちゃんがいない」

「……え?」

意識がハッキリし始めた幼子は、不安そうにマルタへ伝える。

「起きたら、お姉ちゃんがいなくて……みんな起きてるの?」

「…………!?」

杏子がいない。そんなワケがないとマルタは疑わなかったのだ。
彼女は死んだ家族やこの教会に、居心地の悪さやわかだまりを覚えている。
聖杯戦争開始前に杏子がここから離れようと行動を起こした事は度々あった。が、しかし。
どう考えたって、アレから教会を飛び出す風には思えない。焦りが込み上げつつ、マルタは幼子に言う。

「わかりました。私が探します」

「……大丈夫?」

「ええ、勿論。さぁ、明日も早いですから寝ましょう」

念の為、マルタが姉妹の部屋に向かって、幼子を寝かしつけたついでに確認したが。
杏子のベッドは冷たい。
一度、ここに戻った痕跡は無かった。念話で呼びかけるが、やはり返事もなく。魔力を感知を行うが……それにも反応が無い。

魔法少女たる杏子の魔力は特徴的だ
それを感知出来ぬまま一気に距離が離れたというのか?
教会内を捜索し続けたマルタは、裏口が僅かに開かれたままなのを発見した。


270 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/14(土) 16:47:53 81j.hJNA0




幾度も繰り返すようだが、ディエゴ・ブランドーはセイヴァーと何ら因果関係は無い、と彼自身は認識している。
世界に自分とそっくりな赤の他人が三人いる。
天文学的確立のおとぎ話は、実在するとディエゴ自身が理解している。自分が当事者なのだ。

そんな赤の他人との偶然や運命といった懐疑な事象を深く追求する必要性すら無駄。
……とは言え、間に受ける者も登場した。
例えば、ディエゴの眼前で恐竜に体を押さえつけられ、ディエゴの手刀が喉元で停止された相手。

神父のサーヴァント。
どうやら、彼はセイヴァーに纏わる者らしい。似ているだけでディエゴに対し、藁にも縋る姿勢なのは滑稽だ。
セイヴァーが討伐令にかけられ、相当参って余裕が無いのか。動転しているのか分からない。
嘲笑うかの如く、ディエゴが問いかけた。

「要は命乞いか?」

皮肉が込められている声色を理解していないのか。
神父のサーヴァントに迷いが無かった。ディエゴとセイヴァーが酷似している事に動揺していただけか。
彼は真っ直ぐ見据え、告げる。まるで罪を告白するかのように。

「私のマスターは……丁度、彼女ほどの少女だ。名は『白菊ほたる』と言う………」

不思議そうに光景を傍観するレイチェルを差して、神父は話す。
ディエゴは眉を潜めた。
つまり、見滝原中学に潜入できると? 暁美ほむらと接触が可能な立場にある――そう交渉に持ちかけるのか。
どこぞの大統領の如く『正当な取引』を持ちかけようと。
だが、神父が続けた言葉はまるで違った。


「――ホタルを『恐竜』にしても構わない」


神父は果たして、意表をつく狙いだったのか?
いよいよ、ディエゴは『違う』と察した。神父の内面を『理解』したのだ。
理解をしたからこそ、思わずディエゴの口から笑いが零れた。
それにレイチェルが目を丸くさせた。『本当の意味』で彼が笑ったのを初めて見たから。
ディエゴが聞き返す。


271 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/14(土) 16:48:27 81j.hJNA0
「おいおいおいおい、正気か? お前はたった今、自分のマスターを売ったぞ」

「そうではない。私は君から『信頼』を得たい。それと同時に君を『信頼』するからこそホタルを委ねるのだ」

神父が純粋な眼差しでハッキリと申し出するものだから、ディエゴは再び笑いを零す。

信頼だって?
違うな、コイツ。マスターが『どうなろうが』心底知ったこっちゃない訳だ!
セイヴァーがコイツを信頼してたかはともかく、関わりを持ったのはコイツの本性を理解してたからだ。

自らの言葉に迷いすら感じさせない神父は、酷く落ち着いた様子で続ける。

「私は君を『信じる』。ホタルを生かし『恐竜』にし続ける事を。
 これならば、私は君を裏切れない。――君は、私を信用する事ができる筈だ」

「へぇ、成程? ただ、マスターの方はどうだ?」

「問題は無い。彼女はこれを『試練』として受け入れるだろう」

本気か? いや、本気だ。
俄かに信じ難いが『こんな事』を提案した上で、本気で俺からの信用を得ようとして、マスターを曲解に信じてる。
マスターに同情どころか罪悪感もない。自分が間違っちゃいないとすら考えない。
レイチェルとは別の意味で、本物のクソ野郎だな。

内心で罵倒しながらも、愉快になったディエゴは手刀を神父の喉元から離した。

「お前を『信用』するかはともかく―――『提案』は気に入った。生かしてやるよ」

ぐるぐる。
レイチェルの中で何かが渦巻いている。何か、何かを言いたいのに。

そんな彼女のところに現れたのは『赤い恐竜』だった。

厳密にはレイチェルの背後側にある路地より、前兆なくのっそりと現れた赤の色彩が特徴のソレに。
レイチェルが、恐怖も無い。濁った蒼い瞳で興味深そうに眺めた。
恐竜は、主とするディエゴに近づこうと歩んでいるのだろう。
ただ……彼女は、恐竜の肉体で不自然な形で浮かびあがった『宝石』に目を丸くさせた。

「ライダー。これ……」

小さなレイチェルのか細い声に反応したディエゴが気付いたのは、恐竜の肉体に食いこむ
『赤色の宝石』――即ち『ソウルジェム』だった。






272 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/14(土) 16:49:10 81j.hJNA0
島村卯月が教会の方へ足運ぼうと決断したのは、大した理由ではない。単純に、位置的に足を運びにくい場所だったから。
彼女のサーヴァント・アサシンが提案する事なければ、卯月も注視せずに終えただろう。

教会方面に足先を向けた頃。
卯月の居る位置からでも、教会方面で発生している火の手の煙が夜空を穢す。
あれも、サーヴァントの仕業なのかと卯月は不穏を覚えていた。

卯月の居た繁華街から橋を渡って、教会側に向かうルートを通っていく。
教会近くには鉄道路線があるのと同じく、都心より離れた場所であるからか。
木々が他より生い茂った自然豊かな箇所が見られた。
そこは外灯が点々と設置されてるだけ、静寂のせいで余計に不気味な雰囲気が漂う。

何も無ければ、それで良いのだが………
強張った卯月を茶化すように、ぐるぐると嗤うアサシンが言う。

「ほら。卯月ちゃん。あそこに誰かいるぜ?」

「ひぃっ! お、お化けッ!?」

「本末転倒だけどサーヴァントって解釈次第じゃお化けみたいなもんだろ?」

「そ、それは違うかなって……あっ」

目を凝らすと、設置された公共のベンチに誰かが横たわっているのに卯月は気付く。
こんな随分遅い時間帯で。
しかも、少女だ。
遠目からだけども、卯月は赤髪が特徴的な、自分よりも年下に見える少女であると分かる。

寝ている……にしても。何故こんなところで?
微動だにしない少女に卯月は戸惑い、アサシンに助けを求めた。

「あ……あの子に声かけてもいい……ですか?」

「ん〜……サーヴァントじゃないけど」

卯月よりも幼い少女がサーヴァントであったとしたら、逆に驚きではあるが。
一先ず、安心したところで卯月は控えめに近付く。
少女は接近する卯月にも無反応で、不穏がより一層増す。卯月は息を飲みつつ、恐る恐る声をかけた。

「あの……あ、あの! 大丈夫………」

一瞬だけ卯月が大声で呼びかけたのに、少女はまるで反応が無い。起きる気配も無い。
なんで? どうして?
卯月の困惑に、アサシンがシルクハットを浅く被りながら告げた。


「卯月ちゃん。その子―――死んでるよ」

「………………………………………………………え………?」


273 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/14(土) 16:49:38 81j.hJNA0
死んでいる?

時が止まったかのような感覚に陥る卯月が、脳内にグルグルとあらゆる感情をかき混ぜながら、眼前の光景を眺めた。
少女は仰向けに横たわり、目を見開いた状態で夜空を鑑賞している風に見えなくないが。
瞳孔が開き切って。生気は完全に失われている。
魂のない『がらんどう』の状態だ。

全てを理解した卯月は、普通に絶叫していた。

『死体』を目にして叫ばぬ人間が居れば、それは『見慣れた人間』か『壊れてしまった人間』であろう。
普通は、残虐な世界と無縁の少女だったら、卯月のように錯乱に近い叫びを上げるのだ。
血や酷い痕跡は無い、比較的に綺麗な状態とは言え。
完全に死に絶えた――しかも、卯月よりも年下の少女が放置されている。

卯月はショックでへたり込んで涙を浮かべながら、口元を手で覆っていた。
一方で、彼女の傍らで笑う悪魔は『死体』に平然とする。
彼が果たして『見慣れた部類』に属するかはさておき、悠々と面白可笑しく語った。

「おいおい、しっかりしなって卯月ちゃん。別に『知り合い』が死んだ訳じゃねぇんだから気にすんなよ」

「う……うううう…………!」

「令呪があるな。マスターだから殺されちまったんだろうぜ、かわいそうになぁ」

分かりやすく、アサシンは『死体』の手の甲に刻まれた令呪を、卯月に見せつけてやった。
普通に『死体』に触れるアサシンも大概で。
卯月の方は、一刻も早く離れたかった。少女と卯月は、確かに知り合いじゃあないけども。

どうして?
何で、彼女は死んでしまったのか。
こんな少女を聖杯戦争のマスターだからという理由だけで………

「あなた達……!?」

混乱する卯月の前に登場したのは、修道女のサーヴァントだった。
卯月は、恐怖と混乱でパニック状態に陥っていた。
少女の死体と現れたサーヴァントの存在。一体どうすればいいのか、逃げるべきなのか、自分は無実だと主張するべきか。
第一、彼のサーヴァントに言葉は通用するのだろうか?

修道女らしい風貌だが、卯月とアサシンに向ける眼差しは憤りに満ちていた。
このまま殺されるんじゃ――もしかして……このサーヴァントが少女を殺したのかも――


274 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/14(土) 16:50:20 81j.hJNA0


「早とちりは勘弁して下さいよ!」


飄々とした態度ながら卯月の代わりに、アサシンが大げさなホールドアップをしてみせる。

「俺達が来た時には、もーこんな状態で……って古典サスペンスの台詞になっちまったよ。
 でもホラ。サーヴァントは誰も倒しちゃいないぜ。これ証拠ね」

いつの間にか。
卯月が所持していた『ソウルジェム』を見せびらかすアサシン。それは、色彩もない無色透明な宝石だった。
修道女のサーヴァントも、気が粗ぶっていたが。冷静になり、咳払いをしてから言う。

「……申し訳ありません。彼女は――私のマスターです」

「んー? アンタ、マスター不在でも無事なワケ」

「いえ。少々事情があります。……マスターの『魂』だけが敵サーヴァントに奪われたのです」

修道女……マルタも直ぐに気付いた。
ソウルジェム。杏子の『魂』が入った赤い宝石の気配がそこにはない。
肉体が死亡状態にあるが、あくまで魔力は『ソウルジェム』と繋がっている。
マルタの現界は、首の皮一枚で繋がっている。

『あえて』死体状態になった杏子を残した。
悪意ある行いに、恐竜使いのサーヴァントはシメ……説伏してやろうと、マルタが誓う一方で。
何故、ソウルジェムだけを奪ったのか? という疑問が浮上する。

しかし、考えれば『魔法少女のソウルジェム』の存在は他サーヴァントにとっては、謎めいた産物なのだ。
マルタも、杏子と共に。聖杯戦争における『ソウルジェム』に関して疑念を感じてはいたが……

一方で。
シルクハットをかぶる悪魔が不敵な笑みを浮かべた。

「へぇ?『魂』だけ、ねえ……さァて、どうしたもんかな。俺のマスターちゃんも大丈夫じゃないしさ」

まるで卯月を試すかのようなアサシンの態度に、マルタも今は目を瞑る。
未だにショックで放心している少女。
彼女の中に垂らされた、悪意の一滴が何かを齎すのだろうか……


275 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/14(土) 16:50:40 81j.hJNA0
【D-8 郊外/月曜日 未明】

【島村卯月アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]精神的ショック(大)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]女子高生の小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:友達(渋谷凛)を死なせないため、聖杯戦争に勝ち残る
1.どうしよう……
2.マスターを殺すチャンスがあったら……
[備考]
※ライダー(マルタ)のステータスを把握しました。


【アサシン(杳馬)@聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話】
[状態]無傷
[ソウルジェム]無
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争をかき回す
1.マスターを誘導しつつ暗躍する
2.機会があれば聖杯を入手する
[備考]
※杏子が完全に死亡していないのを把握しました


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]肉体死亡
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に乗り気は無いが……
0.―――
[備考]
※ソウルジェムが再び肉体に近付けば意識を取り戻し、肉体は生き返ります。


【ライダー(マルタ)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]無
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争への反抗
1.卯月が落ち着くのを待つ
2.杏子のソウルジェムを取り戻す。恐竜使いのサーヴァントはシメ……説伏する。
3.アサシン(杳馬)は何か気に食わない。
[備考]
※杏子のソウルジェムが破壊されない限り、現界等に支障はありません。
※警察署でXの犯行があったのを把握しました。
※卯月とアサシン(杳馬)の主従を把握しました。
※ディエゴの宝具による恐竜化の感染を知りません。ただディエゴの宝具に『神性』があるのを感じ取っています。


276 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/14(土) 16:51:39 81j.hJNA0




見方によっては厄介な事態に発展したかもしれない。
だが、ディエゴからすればむしろ好都合だった。彼は、最初から聖杯戦争が公平なゲームとは考えちゃいない。
当然だろう。
聖杯戦争の主催者側に相応の『見返り』がなければ、奇跡の願望機を見逃す寛容さの欠片も無い。


「一つ聞くが」


ディエゴが手元の赤に輝くソウルジェムを弄びながら尋ねる。

「俺達はこうして『魂』と繋がりがある『本来の肉体』から距離を取っているが、果たしてどうなると思う?」

問いかける相手は、不思議そうにディエゴの機嫌を傍観するレイチェルではなく。
もう一人、神父のサーヴァント……プッチ。
彼は、他愛ない会話にどことない奇妙な懐かしさを感じつつ。全うに意見を述べた。

「ソウルジェムに『魂』は残り続けるだろう。いや、最初から少女の肉体から『魂』は切り離された状態にある。
 肉体に令呪があったとしても、魔力が繋がっているのは『魂』の方……
 ……となれば。恐らく、肉体は抜け殻となるだけで、契約したサーヴァントは消滅する事は無い」

「だろうな」

彼の解答にディエゴは不敵な笑みを浮かべる。
彼は『楽しい』んだろうか、レイチェルは変に真剣な眼差しをディエゴに向けていた。
一方。プッチが言う。

「修道女のサーヴァントを生かすつもりなのかね」

「生かすも何も、事実上。奴は『生かされている』だけで聖杯戦争においては脱落したようなものだ」

重要なのは――ソウルジェム。
佐倉杏子の心臓に等しい宝石の利用価値、ではなく。
根本的な問題。このソウルジェムが如何なる手段に利用されていたのか?


277 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/14(土) 16:52:15 81j.hJNA0
恐竜化した杏子と共に帰還した『蛆恐竜』の報告によれば、彼女はこれで『変身』し戦闘を行っていたらしい。
幾分、魔力耐性があったようで、変身が解除されるまでは『恐竜化』の進行が微弱程度で済んでいた。
夢と希望に溢れたロマンある変身機能を得る為に『魂』を抜き取ったとは考え難い。
少なくとも『ソウルジェム』と呼ばれる共通の異物が、主催者との関連を現していた。

「膨大な魔力と化した『サーヴァントの魂』が結集すれば、相応のエネルギーとなって『願いを実現させる』んだろうぜ。
 聖杯の原理に関しては疑わない。だが連中はどうだ? 魂を宝石に収める悪趣味な連中がソレを見逃す訳がない」

「……君はソレを信用しない、と」

「むしろ『信用』する方が馬鹿だろ」

ディエゴは、先ほどの敵意をむき出した様子とは変わって、レイチェルも見たこと無い愉快な微笑を浮かべている。
プッチは、しばしの沈黙を保っていた。
ディエゴの瞳だ。彼はやっぱり『信用しない瞳』のまま。主催者に向けたものじゃあない。


ディエゴは結局、エンリコ・プッチを信用しきってない。……今のところは


チラリと杏子の死体を放置したであろう方角に視線を向けるディエゴ。
幾分、距離は取ってある。

恐竜化を保ったまま杏子を自分の傍らに置かなかったのは、何らかの衝撃で恐竜化が解除されては都合が悪いから。
戦力にはもってこいだが、場合によってはそこらに居るNPC以下の邪魔者だ。
だから、ディエゴは『邪魔』な事を利用した。


佐倉杏子は『抜け殻』だろうが『死体』になってようが、魂もなく動けない『邪魔なもの』に成下がった。
ソウルジェムに魂があり、生きていなくない状態であっても。
持ち運ぶのも、隠すのも面倒な『邪魔』に過ぎない。


それから先の判断は、サーヴァントの性格次第だ。
子供の遊び相手を演じる『善良』な修道女は、少なくとも死体をバラバラにし、海に捨てる真似はしない。
生き返る可能性が0ではない以上。死体を雑に扱う事も出来まい。
早ければ『抜け殻』を発見している頃合いか。

……とは言え肝心のソウルジェムを解析する手段は皆無である。
それを出来なければ、主催側を『出し抜く』事は叶わない。


278 : 信仰は儚き人間の為に ◆xn2vs62Y1I :2018/07/14(土) 16:53:07 81j.hJNA0

「……………」


レイチェルは何も――ただ無言でいるしかいなかった。

(ライダー………楽しいの?)

自分と一緒に居た時は、楽しくなかったんだろう。きっと。
彼の本当の笑みを、レイチェルは今日まで知らなかった。自分は何も知らなかった。
彼女の中で、濁り腐った感情がグルグルと渦巻き続けていた。



【D-6 住宅街/月曜日 未明】

【レイチェル・ガードナー@殺戮の天使】
[状態]健康、???
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]私服、ポシェット
[道具]買い貯めたパン幾つか、裁縫道具、包丁
[所持金]十数万程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
0.ライダー……楽しいの?
1.自分で考える。どうするべきか……
2.ライダーの過去が気になる。
3.セイヴァーは一体……?
[備考]
※討伐令を把握しました。
※ライダー(ディエゴ)が地図に記した情報を把握しました。
※ライダー(プッチ)のステータスを把握しました。


【ライダー(ディエゴ・ブランドー)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]携帯端末、杏子のソウルジェム(穢れ:小)、蛆恐竜
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1.神父(プッチ)のマスターの所に向かう
2.どこかでレイチェルを切り捨てる
3.あのセイヴァーについては……
4.神父(プッチ)は信用しないつもり、使い潰す。
5.ソウルジェムを調べたいが、どうしたものか。
[備考]
※真名がバレてしまう帽子は脱いでいます。
※魔法少女が持つ『ソウルジェム』の存在を知りました。
※プッチの情報を全て信用しておらず、もう一人の自分(アヴェンジャー)に関して懐疑的です。


【ライダー(エンリコ・プッチ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)、精神的ショック(回復傾向)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』を実現させ、全ての人類を『幸福』にする
0.セイヴァー以外の『DIO』――これはどういう運命なのだろうか。
1.セイヴァー(DIO)ともう一人のディエゴを探す。
2.一旦マスターの元へ戻る。
[備考]
※DIOがマスターとしても参加していることを把握しました。
※ランサー(レミリア・スカーレット)の姿を確認しました
※魔法少女が持つ『ソウルジェム』の存在を知りました。
※アサシン(杳馬)の姿を確認しました。彼が時を静止する能力を持つ事も把握しております。
※アサシン(杳馬)自体は信用していませんが、ディエゴの存在から
 アヤ・エイジアのサーヴァントがもう一人のディエゴ(アヴェンジャー)である事を信じています。
※ディエゴ(ライダー)に信用されていないのを感じ取っています。


279 : ◆xn2vs62Y1I :2018/07/14(土) 16:54:54 81j.hJNA0
投下終了します

続いて、凛&セイバー(シャノワール)、アヤ&アヴェンジャー(ディエゴ)で予約します


280 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/19(木) 23:27:31 TxqFFSzs0
投下乙です

他のDIOさん達との会話はメンタルがやられそうだけど今回は割りと好意的に見てくれてよかったね神父。信用はされてないけど神父本人がいいならそれでいいのでしょう。
ただではすまないと思っていた杏子組ですがやはりか...まあ、恐竜化して家族を食い殺すよりは彼女にとって幸運だったのかもしれない。
まだ杏子は死んではいないけどマルタさんのしまむー組との交渉や家族の対応によって完全退場する可能性があるのは彼女にとってもツライですね。
マルタさんが「息を吹き返すかもしれないから遺体を数日間保管しておいてください」と提案したら果たして杏子の父親はそれを許すのでしょうか。

投下します


281 : DIOを撃つ!? ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/19(木) 23:29:17 TxqFFSzs0



「キャスターの嬢ちゃん。走れるか?もしくは走る気はあるか?」
「どうでしょー。なんだか地震みたいにゆらゆらしてる気が」
「よしわかった。何にもしなくていいから俺の背中に乗ってくれ」

ホル・ホースは玉藻が走る気がないと判断するや否や、彼女を背負うと決断。
玉藻も玉藻で、彼女自身が楽だと判断したのかなにも考えていないのか。珍しくホル・ホースの指示にまともに従い彼の背に身を預けた。

「ちょいと揺れるが勘弁してくれよ!」

言うが否や、彼は走り始める。
ズキズキと痛む手首や人一人ぶんの重量に堪えながらも彼は、全力で駆ける。
彼がなぜそこまでして走りたがるのか―――あのDIOに酷似したサーヴァントから一刻も早く離れるという意味合いもある。
だが、それ以上に彼が恐れているのは、『自分の拠点を特定される』ことである。

聖杯戦争はまだ始まったばかりだ。
これが制限時間が短く、もっと狭い範囲でならいざ知らず、期間はもっと長く、範囲は町ひとつぶんにも及ぶ。
果たして、いまの時点で脱落する主従がどれほどいるだろうか。
おそらくそうはいまい。目的地を定めているならまだしも、先ほどのように何組もが偶然出会うのがレアケースなだけで、本来ならばこの時間は本格的な準備段階のはず。
町を探る。マスターに目星をつけておく。身体を充分に休める。人によりけりだが、少なくとも『どのマスターがどこにいるか』はまだわからない者が多い。
もしも相手のマスターの見つけることができれば、戦いはかなり有利に運ぶことができる。
奇襲。脅迫。交友。なににおいても先手をうつことができる。
ホル・ホースが恐れたのはそれだ。
流石になんの手順や仕掛けもなしに自分の居場所が特定されることはないだろう。
だが、もしもDIOに酷似した彼が、『あのマスターはここにいるだろう』と片っ端から家宅捜索―――あるいは家屋破壊に勤しむような真似をすれば。
ホル・ホースが最も恐れる男同様、それほどの力があったとしたら。

せめて自分の痕跡は可能な限り消しておかなければならない。

吸殻一本、髪の毛一本ですらだ。

ホル・ホースはひた走る。一刻も早く己の部屋に戻るために。

路地裏。ここからは速度も緩み、自然と足音も抑えたものになる。
曲がり角。真っ直ぐ。曲がり角。曲がり角―――

タタタ

「―――!」

曲がり角の向こう側から向かってくる足音を耳で捉えた彼はピタリと止まる。
妙だ。こんな人気のない道はそうは通らないはずだが...


282 : DIOを撃つ!? ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/19(木) 23:30:22 TxqFFSzs0

(まさか...いや、『奴』なら俺に気配を悟られるような真似はしねえ)

DIOにせよDIOのそっくりさんにせよ、彼らが自分にこうもあっさりと気づかれるような足音は鳴らさない。
いや、奴等でなくてもマスターであれば逃げ場の少ないこんな道は慎重に進むはず。
実際、自分にしても可能な限り急いではいたが、この路地裏に入ってからはなるべく気配を殺しつつ走っていた。
となれば、この足音の主はこの路地裏をさほど警戒する必要のない場所だと思っていることになるのでは?

(ただの通行人なら大人しく俺が道を譲ればいいだけだ。なんにも難しいことじゃねえ)

とはいえ、もしも万が一他のマスターである可能性も考慮し、密かに掌にスタンド『皇帝(エンペラー)』を発現させる。
彼のスタンド、皇帝は暗殺銃の像。こういった『相手が能力を知らない』場面でこそ真価を発揮する。

ホル・ホースは耳を澄ませて足音の主を待つ。
変に警戒心を抱かず。聖杯戦争に臨むマスターではなく、単に怪我をした妹を背負い帰路につく通りすがりの一般人と化し。
その掌の微かな殺意すらかき消すような平常心で歩みを進める。

そして主は姿を現す。

その可愛らしい制服。幼げで大人しめな風貌。靡く黒の清楚な三つ編み。頬を微かに染めて息を切らす様。

そんな、戦いとは無縁な少女の姿にホル・ホースはホッと胸を撫で下ろしかける。

が。

少女の顔が強張り、互いの視線が交差する。

瞬間。

ホル・ホースの背筋が凍てつき始める。

理由はわからない。だが、確かに覚えのあるこの怖気。

その正体を引きずり出す為、瞬時に脳細胞が駆け巡る。





「あー、DTBのお友達ですね〜」


283 : DIOを撃つ!? ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/19(木) 23:31:07 TxqFFSzs0

えっ、と少女が言葉を漏らすと同時、ホル・ホースの脳裏に黒い影が吹き出してくる。

影は瞬く間に顔すら見えぬ漆黒の人影を作り上げ、ぽっかりと空いた三日月の輪郭だけが影の口のように浮かび上がる。

そんなホル・ホースの脳内など知る由もなく、彼の背の少女はのんびりと告げる。

「確か刺すといいことが...まあいいや。死んどいてください。なんとなく」

同時に、影は嗤うように囁いた。

『本当に俺を撃とうとしているのか?』

カチリ、と全ての歯車がかみ合ったかのように冷や汗が噴出す。

ホル・ホースは咄嗟に壁際に背を押し付け玉藻の動きを制御した。

「ゆ、らぁっ!」
「れ、令呪を以って命じる!!いま、あの子を攻撃するんじゃねえええええ!!」

張り上げた声に従うように、玉藻はピタリと止まり攻撃体勢が解除された。
わけがわからないといった表情の少女だったが、彼らの一連に遅れて警戒の姿勢をとる。

(お、思い出した。この娘は暁美ほむら!DIOの野郎と一緒に指名手配されてたマスターだ!!)

玉藻の言葉でようやく思い出せた。
この儚げな少女はなんの縁があってかあの怪物と組まされたマスター。
絶賛指名手配中にして超弩級のアンタッチャブルだ。主に相方のせいだが。


「ま、待ってくれ。いまのはちょっとした手違いってヤツだ。俺はなにもDIO様に逆らうわけじゃねえ!さっき他の主従に襲われたんで警戒心が抜けてなかっただけだ。
その証拠に貴重な令呪を使ってまで止めたんだ。まずは話を聞いてくれねえか!」

必死に言葉を捲くし立てるホル・ホースを見て、ほむらはキョトンと目を丸くする。

(こ、ここまで必死に弁解してんだ。せめて話を聞くのが人情ってやつだろぉ!?)

如何にDIOといえど、ここにいるのは英霊の一騎。
無論、彼がマスター、しかもこんな年端もいかない娘に主導権を渡しているとは思えないが、それでも関係としては主従。
せめてこの娘が少しの情けをかけDIOにひとこと物申してくれれば、あとは話術の勝負。この場から見逃してもらえる可能性も見出せる。

そんなホル・ホースを訝しげに見るほむらだが、程なく意を決して口を開いた。


「えと...詳しく話を聞かせてくれませんか?」

この時、ホル・ホースの頬が緩んでしまったのは言うまでもないことである。


284 : DIOを撃つ!? ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/19(木) 23:32:03 TxqFFSzs0



ホル・ホースは語った。
自分がDIOの配下であること。つい先ほど、この近辺で交戦してきたこと。ほむらとDIOが指名手配されていること。

「私たちが...なんで...?」
「俺にもわからねえ。確かなのは、ちょいと『公平さ』ってモンが欠けてることだけだ」
「......」

わざわざ自分にだけ不利な条件をつける。
その行為で誰が得をするのか―――思い当たるのは、魔法少女を産み出すキュゥべえくらいのもの。
あれは確かに信頼などできないヤツだ。
けれど、こんな聖杯戦争のように回りくどい方法で直接害する手段をとったことはない。
なにより、あれにとってこの行為がなんの利益をもたらすかもわからない。

(そうなると、キュゥべえが指名手配書を配った可能性はあまり考えられない...なら、セイヴァーの方に意味があるの?)

召還してしまった自分で言うのもなんだが、あのセイヴァーは間違いなく『悪』である。
何処かで恨みのひとつやふたつを買っていてもおかしくないし、それなら彼に不利になるよう仕向ける意味も解る。
けれど、それならセイヴァーの能力を完全に封じたり、宝具を使用不可能にしたりとやりようはいくらでもあるはずだ。
いくら聖杯戦争の主催とてそこまでは干渉できないとしてもだ。
セイヴァーに恨みを持つものであったとしても、いまの彼はあくまでも表層をなぞっただけの偶像に近いもの。
現に、彼自身が『俺』と『私』は別物である旨を伝えてきたし、ホル・ホースはセイヴァーの部下と名乗ったが、セイヴァーは顔写真まで特定した資料を見てもホル・ホースが部下であることには言及しなかった
そんな偶像的な者を斃したところで、果たして意味はあるのだろうか。

(...いまは、気にしても仕方ないかもしれない。重要なのは、これから先、私たちは誰からも『標的』にされるかもしれないということ...!)

指名手配にされてしまった以上、少なくとも自分たちにいい印象を持つ者はそうはいない。
仮に他の主従と組むことがあっても背中を預けることはできないと考えるべきだ。

「どこに行くかは知らねーが、向こう側には好戦的な奴等がいるから気をつけな」
「...わかりました。ありがとうございます」
「それと、ひとつ聞きてえんだが、いいかい?」
「なんですか?」

ほむらは早く行きたい衝動に駆られながらも、情報提供をしてもらった手前、無碍には扱えないと彼からの質問に応じることにした。


285 : DIOを撃つ!? ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/19(木) 23:32:39 TxqFFSzs0

「さっき出くわした好戦的なサーヴァントなんだが、DIO様にそっくりなんだ。『同一人物ではなくてもかなり近しい』とかいえばいいのかわからねえが...
ともかくそいつに攻撃されてな。
どこからともなくナイフが現れて、気がつきゃこの通りザックリやられてた。なにか見当がつけば教えてもらいてえんだが...」
「気がつけば、やられてた...」

言葉にしてみて察する。
ホル・ホースの遭遇したサーヴァントの行使した能力はおそらく『時間の停止』。
時間が停止している中は、同じ能力の者でなければ認識が出来ず、そうでないものは止まっている間のことを認識することも抵抗することもできない。
ホル・ホースが、眼前で投擲されたはずのナイフを認識できなかったとすれば、やはり時間の停止による攻撃を受けたとみていいだろう。

「......」

彼に明かすべきだろうか。そのサーヴァントの能力、あるいは自分とセイヴァーの能力のタネを。
彼はDIOの部下であり、刺そうとしてきたサーヴァントも必死に止めてくれた。
ならば、彼は敵ではなく味方。そう判断できるだろう。

「あの...」

だが。
だからといって易々と信用していいものだろうか。
そもそも、彼は何のためにこんな深夜に出歩いていたのか。
情報収集。何のため?
可能性が高いのは、聖杯を狙うためだ。
聖杯を狙う以上、他の主従は突き詰めれば敵であり、一時の共闘はともかく全幅の信頼を置けるはずもない。
それはこちらだけでなく彼からしてもそうだろう。
いまは敵でなくともいずれは敵対するかもしれない。それを探るにはホル・ホースという男を知らなければならないが、いまはそんなことをしている場合ではない。
いま優先すべきはまどかの安否の確認だ。彼を見極めるのはその後でいい。

「ごめんなさい。わたしにもわからなくて...」

だから、いまはまだ教えない。
嘘をつくのはちょっぴり心苦しいけれど、全てを正直に話すような迂闊なことは出来ない。
もちろん、まわりまわってまどかに害を加えかねないことは絶対にだ。

「そうか。まあ、なんにせよ気をつけるこった。DIO様がついてるなら大概のことはどうとでもなるだろうがよォ」
「ホル・ホースさんも気をつけてください」
「おう。お互い頑張って生き残ろうや、ほむらの嬢ちゃん」


286 : DIOを撃つ!? ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/19(木) 23:34:25 TxqFFSzs0

ペコリ、と丁寧に一礼をして去っていくほむら。

その背を見つめながら、ホル・ホースは思案する。

(DIOの野郎はいまはいなかったみてえだな)

実をいえば、ホル・ホースはほむらを撃つべきか悩んでいた。
自分には『女には暴力を振るわない』というひとつの信条がある。人種老若全てに分け隔てなくだ。
しかし、それはあくまでも自分の命がかかっていない上でのこと。
もしも自分の命がかかれば。あるいは殺されそうになれば、彼は躊躇わず引き金を引くことができる。
少なくとも、映画かなんかのように、女の為に身を投げてまで護ろうとするほどの信条ではないことは確かだ。

ならば撃ってしまえば全てから解放されるのでは―――その選択肢は取り下げた。

その理由はやはり彼女の背後のDIOの存在が大きい。

ホル・ホースはほむらとの会話中も警戒を怠らなかったが、DIOの影は微塵も感じなかった。
しかし、それが自分あるいはほむらを試しているのか、敢えて単独行動しているかがわからなかった為、DIOが本当にいまの状況に関与していないかの判断の根拠になりえなかった。
もしも引き金を引いたのを彼がどこかで見ていれば、自分は明確に彼に『敵』だと認識されてしまうだろう。
それだけは勘弁だ。奴と戦いになれば勝ち目などない。

(OKベイベー、種は仕込んであるんだ。いまは焦ることはねぇ)

いまのところ、彼女からの信頼は『敵ではないが信用もできない』程度のものだろう。
構わない。信頼が深ければそれに越したことはないが、いまは『自分はこの男にはいまのところ攻撃はされない』と認識させていればそれでいいのだ。

仮に自分がまともに戦えば、鼻で笑い一蹴されるだろう。それは天地がひっくり返っても覆らない事実。
しかし、ホル・ホースがDIOに対して有利な点がある。それは、自分がマスターであるのに対して彼はサーヴァントであるという点である。
マスターであるほむらが攻撃するなと命じれば、DIOもそれに従う他はない。
その隙をつき彼女を攻撃してしまえば、DIOに勝利をあげることも不可能ではない。
流石にあっさりと攻撃を許してしまうほど彼女もバカではないだろうが、そのための、先の『令呪使用』だ。

ホル・ホースは玉藻に『彼女にいま攻撃するな』と命じた。
その命どおりに、彼女はほむらへの攻撃を中止した。

しかし、その『いま』さえすぎてしまえば、玉藻もまたほむらへの攻撃は可能となる。

もしもほむらがこのことに気づかず、自分は玉藻には攻撃されないと認識していれば、玉藻からの奇襲は絶大な効果を発揮するだろう。


287 : DIOを撃つ!? ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/19(木) 23:36:13 TxqFFSzs0

(とはいえ、仕込みは完全じゃねえ。ここらでほむらの嬢ちゃんからのポイントを稼ぐのもいいが、この怪我と拠点のこともある)

信頼が深ければ深いほど、ほむらへの仕込み―――云わば、DIOへの叛逆の種は実りやすくなる。
いま何処へと急いでいる彼女を手助けすれば、自然と信頼は芽生えていくだろう。

だが。

自分たちはいま怪我をしている。その治療を優先し、これからの聖杯戦争に臨むのも決して悪手じゃない。
なにより、ほむらに関わるのは自然とDIOに関わる機会を増やすことにもなる。
正直にいえば奴と会うのは嫌だ。味方だとしても絶対に嫌だ。
なんのリスクもなしで最後まで勝ち抜けるとは思わないが、状況によってリスクを回避するのも大切なことだ。

「キャスターの嬢ちゃんよ。オメーはどうしたい?」

くるりと顔を横に向け、背中の相棒を確認する。
が、彼女は鼻ちょうちんを出しながら居眠りしていた。きっと、ほむらとの会話に飽きて寝てしまったのだろう。それも最初の数分で。
サーヴァントは別に寝なくてもいいはずなのだが、きっと彼女にはそれすらどうでもいいくらい暇だったのだろう。

(まあ、聞いても無駄なのはわかってたけどよ)

ただ、第三者の意見が聞きたいという欲求は抑えられなかったのだから仕方ない。それが適わないのも仕方ない。
ガクリと肩を落としつつ、ホル・ホースはぽつりと呟いた。

「さて、どうするべきかねぇ...」


288 : DIOを撃つ!? ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/19(木) 23:37:25 TxqFFSzs0

【C-2/月曜日 未明】


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康、魔法少女に変身中
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]見滝原中学校の制服
[道具]学生鞄、聖杯戦争に関する資料、警察署から盗んだ銃火器(盾に収納)
[所持金]一人くらし出来る仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得。まどかを守る。
1.まどかの家に向かう
2.学校には通学する
3.セイヴァーに似たマスターは一体…?
4.またセイヴァーのそっくりさん...あと何人いるんだろう
[備考]
※他のマスターに指名手配されていることを知りましたが、それによって貰える報酬までは教えられていません。
※セイヴァー(DIO)の直感による資料には目を通してあります。
※ホル・ホースからDIOによく似たサーヴァントの情報を聞きました。



【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)手首負傷、DIOに対する恐怖(小)
[令呪]残り2画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得、DIOとは接触したくない
0.1の方針を優先するか、リスク承知でほむらを追って手助けをして種を仕込むか...女を傷つける手前、気は進まねえが
1.傷の治療をする。ある程度済ませたらいまの部屋を引き払い別の拠点を探す。
2.DIOと似たサーヴァントは何なんだ…?
[備考]
※玉藻を『キャスター』クラスだと誤認しています。
※弥子&アーチャー(魔理沙)の主従を確認しました。
※アイルがマスターであること把握しました。
※アヴェンジャー(ディエゴ)を確認しました。
※ほむらからはあまり情報をもらえていません。少なくともまどかに関することは絶対に教えられていません。


【バーサーカー(西条玉藻)@クビツリハイスクール】
[状態]肉体負傷(中)魔力消費(中)居眠り中
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯って……えーと、なんでしたっけ?
1.ズタズタにしますー……あたしがズタズタになってますー?
2.DHCでお得なキャンペーンが行われるらしいですよぉ、急ぎましょう
3.間違えました。DNA検査場でイベントがあるみたいです
4.DHAでしたっけ?
5.まあいいか。全部記号です。
[備考]
※ホル・ホースの影響でなんとなーく『DIO』に関する覚えが残っているようです。
※戦闘しましたが、あまり記憶は残ってません。(平常運転)


289 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/07/19(木) 23:37:50 TxqFFSzs0
投下終了です


290 : ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:18:00 sTX7fMCI0
まずは感想からさせていただきます。


・DIOを撃つ!?
 もう……ほむほむがある意味での極地に至りつつあるというか。fate特有の『同じ顔』系統に動じない精神を
 片鱗として見せつけているのは、ある意味での覚悟があり動揺はしない証拠でもあるのでは(?)
 加えて、咄嗟の状況ながら冷静に情報を明かさない判断を下せるのも、彼女の強みが徐々に表れていますね。
 一方のホル・ホースも同じく、ほむらに敵対せず状況を見極めようとする姿勢は良いです。
 彼の場合は、誰を敵に回し、誰をNO1としてつくかにかかっているでしょう。
 それよりも眠りついている玉藻ちゃんが可愛いものです。
 投下していただきありがとうございました!


そして私も予約分を投下します。


291 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:18:47 sTX7fMCI0
時計の針が十二時を指し示した事で、聖杯戦争開幕までの沈黙――シンデレラの魔法は解かれた。
深刻な少女、渋谷凛をマスターに持つ怪盗シャノワールは、感覚で理解する。
主催者からの書類内容通り、魔力感知などの制限は解除されていた。
同時に、シャノワールが新たに懐から『予告状』を取り出す。

「何か盗むつもり?」

「フム。まず私の能力の詳細を説明するべきだね……
 予告状で盗むと宣告した『宝』の位置を必ず捕捉できる。一種のマーキングだ」

「………え。待って。それってつまり」

やや遅れて凛が目を見開く。シャノワールは、彼女の反応に微笑を浮かべた。

「当然『島村卯月』も捕捉が可能だ。例えば――彼女のサーヴァントに『君のマスターを盗み出す』と予告状を作る。
 予告状に関しては……マスター、君が受け取っても構わない。予告状は誰かに確認して貰えればいいのさ」

怪盗らしさが極まった能力。
ある意味、逸話通りの――逸話に基づいた英霊としての真価を発揮させた性質なのだろうか。
相変わらずの悠々たる態度で自慢げに語るシャノワール。
だが、冷静に考えると『とんでもない』能力じゃあないかと凛は頭をかかえた。

「アンタ……その気になれば『セイヴァー』も『暁美ほむら』も捕捉できるワケ………」

「『島村卯月』は君にとっての『宝』であるから構わないが、奴を『宝』と呼ぶには私の信条に反する」

「違う、例えだから。なんて言うか……」

怪盗。
シャノワールの肩書だけが一人歩きするほど特徴的なせいで、凛も改めて思うのだが。
彼に関しては、もし怪盗『じゃなかったら』。何か別の在り方になっていたら、恐ろしい。

予告状の性質もそうだが。
邪悪かつ強力な『時を止める』という別次元レベルの能力を持つセイヴァーと遭遇した。
彼は――そんなセイヴァーと遭遇にしたにも関わらず。
さも平然と、熾烈な交戦をした様子も、傷一つ疲労もなく凛の前に帰還を果たしているではないか、と。

要するに。
怪盗の美学なんてくだらないプライドを抱えなければ、その気になれば恐ろしい力を発揮する。
正真正銘の『強者』に属する英霊なのだ。
そう、怪盗だから。盗む事だけしないから良いかもしれないが……

凛の不安を読み取れていないシャノワールは、首を傾げつつ。話を続けた。

「ただし制約がある。私も確認の為、幾つかの予告状で『実験』をした」

実験。
曖昧に受け流していた銃火器に対する予告状も、シャノワールの『実験』の一環だった?
ならば、凛もどこか納得できる。
シャノワールは香水の匂い漂う予告状を、凛に差し出しつつ言う。


292 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:19:15 sTX7fMCI0
「まず、予告した『宝』を盗み出した時点で、マーキングは解かれてしまう」

あくまで盗む為のマーキング機能。
役目が終われば、自然とそうなってしまう。凛も頷く。

「次に――『宝』となる対象を私自身が認知する必要がある」

逆を言えば。
『島村卯月』や『白菊ほたる』……更に言えば『暁美ほむら』も。シャノワールが捕捉した存在なら構わない。
凛は一つ尋ねた。シャノワールが受け付けるかはともかく。

「じゃあ。セイヴァーの宝具も? 思ったんだけど、サーヴァントの宝具も盗めたりはできない?」

「君はなかなかの発想を持っているね。残念だが……セイヴァーの宝具に関しては不可能だ。
 私が思うに、セイヴァーの宝具は精神の具象化に近い。恐らく、私が予想する『もう一つの宝具』も
 『形あるものではない』。だが『形あるもの』ならば盗み出せる」

形ない宝具……そういうのもある訳か。凛は再び悩める。

「最後に――新たに『予告』を配布した場合、前の『予告』で行ったマーキングは自動的に効力を失う」

「でも『銃火器』みたいに複数のものを、まとめて宝扱いには出来るよね」

「アレはともかく、一つの予告状に複数ターゲットを予告するのはスマートではない」

「ああもう。予告する宝は『一つ』に限る、ね」

怪盗のプライドが邪魔しているのか、上手く嵌っているのか。
とにかく。凛の想像以上に、シャノワールが持ち合わせた技能は優れている。
最も、直接的な戦闘能力が特出している訳ではないが。起用性能に分類されるのだろう。

「そういう訳だ、マスター。この『予告状』を受け取って欲しい」

先ほどから差し出して見せているのは、話の花をつける為ではなかったのか。
いや、ちょっと待とう。凛は、胡散臭く差し出された『予告状』を睨みつけていた。
話の流れから、これが『島村卯月』か『白菊ほたる』を盗む予告ではないかと普通想像するが……
しばしの間を保って、凛が口を開く。

「言っていい?」

「なにかな?」

「これ……『アヤ・エイジア』を盗む予告状でしょ」

シャノワールは目を見開いて感心した振舞いで、何故か嬉しそうな様子である。

「やはり、君は探偵に向いているかもしれないぞ、マスター。中々の推理力だ」

「推理とかじゃないから。アンタの性格が大体わかってきたんだよ」


293 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:19:41 sTX7fMCI0
人は傷つけない。怪盗であるから命は奪わない。
例え、邪悪の化身たるセイヴァーであっても『そうする』と豪語する面倒な英霊だ。
であれば。
このタイミングでシャノワールが盗むと予告せざる負えない対象は何か? と考えれば。
猟奇殺人犯に『犯行予告』ならぬ『殺害予告』されてしまったマスター……『アヤ・エイジア』。
険しい表情の凛を見て、シャノワールは「フム」と唸った。

「私も考えて予告状は出す。『島村卯月』と『白菊ほたる』を対象とした予告状を出さない理由を説明しようか」

「……一応」

「まず、セイヴァーは討伐令をかけられるほどの相手だ。私と手合わせ程度の交戦でも『本気』ではなかっただろう。
 第一に。『時の静止』に対応できるサーヴァントでなければ、戦いについても行けない」

「それって二人のサーヴァントが、私達と同盟を組んでくれたらの話だよね。
 少なくとも、卯月のサーヴァントは……怪しいと思う」

実際、卯月は高校を欠席している状態。
ひょっとすれば、彼女の事情を無視して連れ回している非常識な輩かもしれない。
卯月を無為に扱う――それこそ精神的に追い込まれた状態を放置する、セイヴァーに似通った邪悪。
ならばこそ、卯月に関しては凛も最優先に接触したい。
だが、シャノワールは落ち着いた様子で、思わぬ事を凛に告げた。

「やはりそうか。マスター。君は『我々の状況』を理解していないらしい」

「……私達の?」

「同盟の下りも確かに理由には含まれる。だが、私の場合――その二人を危険に巻き込まない為
 『あえて』予告状を出さない。そのつもりだ。『今はまだ』二人に接触するのも避けた方が良い」

「ごめん。全然意味が分からないんだけど」

怪盗は冷酷に事実を述べた。


「―――我々はセイヴァーに狙われている」

「……え?」


狙われている?
一瞬、何故なのか本当に分からなかった。頭をフル回転させて、凛はハッとする。

「セイヴァーの『時間停止』をどう切り抜けたの」

ようやくか、とシャノワールは満更でもない笑みを浮かべて、さも当然の如く教えた。

「奴の『支配する時間』に『侵入』した。先ほどのセキュリティの侵入と同様に」

「同じじゃないよね?」


294 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:20:08 sTX7fMCI0
侵入。
簡単に建物の侵入なんてコソ泥ほどの例えではなく。
鮮やかに解き、侵入してみせたパソコンの類から『空間』への侵入まで。定義は案外広い。
シャノワールの宝具にソレがあると、凛もある程度把握していたが……

つまり、シャノワールの存在。否、彼の宝具がセイヴァーにとっては警戒するべき脅威であり。
通常ならば対処できない『時間停止』を打破する天敵。
最優先で始末する存在になっているのだった。

だから『狙われている』。
凛達がセイヴァーを狙う様に、セイヴァーも凛達を狙っている。
そんな状況で卯月やほたるを巻き込む訳には……

「そして――逆に我々の存在を二人に知られる訳にはいかない。君がそうであるように。
 二人が聖杯戦争の当事者であれば、心配し、どうにか君に接触しようと試みることだろう」

彼女らは、凛達がセイヴァーに狙われている事を知らない。
討伐令を把握しているだろうが、彼女たちはセイヴァーの能力などを危険性をまだ理解しきれていない。
皮肉だが……確かに。シャノワールの提案通り『今は』卯月とほたるとの接触を避けなければ。
そうなると――

「『アヤ・エイジア』と仲間になれるのかな」

「どうだろうね。ただ……元より彼女の存在は、他マスターと比較して目立ち・狙われやすい立場にある。
 例え『犯行予告』がなかったとしても、彼女のサーヴァントはある程度の想定をしていた筈さ」

「同盟を受け付けそうってこと」

もう一つ。シャノワールは付け加えた。

「ひょっとすれば彼女の歌が、セイヴァーに通用するかもしれない」

「……冗談?」

「冗談半分ではない。可能性の話さ」

「でも相手はサーヴァントで『邪悪』なんでしょ。『歌』なんて通用するの?」

「マスター。アヤ・エイジアの歌は『感動』を起こすものではない」

凛は顔を上げる。感動ではない?
でも。凛はテレビやネット動画で見た彼女のコンサートで、涙を流し、あるいは失神を起こすファンの姿を見た。
故に『感動』による現象だと思いこんでいた。


295 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:20:39 sTX7fMCI0
シャノワールが尋ねる。

「君も彼女の歌をどこかで聞いたなら、その時。涙を流すなど自らの身に異変はなかっただろう?」

「あ……うん。プロだから上手いなって思った。でも特別変わった事は無いかな」

「彼女の歌は『特定の脳』にダイレクトな刺激を与える。『ただの』人間が持つ技術ではないが、彼女にはソレが可能だ」

即ち、凛が『特定』には含まれていない。そして、セイヴァーはソレに含まれている。

「彼女はあるインタビューで答えていたよ。―――『世界でひとりきり』と感じる者の脳を揺らすと」

成程。十分な根拠だ。
邪悪であるが故に、許されざる悪だからこそ『ひとりきり』。
孤独だからこそ、彼女の歌が効果あるかもしれない、と。しかしながら希望論だ。
何にせよ、シャノワールはマスターたるアヤ・エイジアの殺害予告を阻止するべく行動は起こす。
凛は、思案した後に答える。

「分かった。予告状を受け取るよ。ただ一つ『条件』があるんだけど――」







      孤独の歌姫の美声を『赤い箱』の魔の手より頂きに参る

                                 怪盗シャノワール








「ええ、わかったわ」

ホテルの一室で端末の電話を切るアヤの様子は、不自然なほど落ち着いていた。
こんな時間に。とは言え緊急の連絡だから仕方ない。
明日のテレビ局は、最終的に中止せずキッチリ出演するのが決定された。
何となく、そういう予感がした。否、何だか変にアッサリ決まったのにどういう訳か。

怪しいと言えば怪しいのだが。
実は裏でサーヴァントが手招いていると考えれば、案外納得できる程度の違和感である。
アヤは一人、何か考え込む。今後の方針や、聖杯戦争への不安とかではなく。


多分……きっと『そうさせた』のはセイヴァー。


296 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:21:05 sTX7fMCI0
証拠も無い。勘でしかないが、何故だろう。彼ならそうするという感覚を理解できたのだ。
全てはセイヴァーの手筈か分からない。だけど、変に事務所の人間がアヤの居場所を探ろうとして来たのには異常さがある。
流石に、自分でテレビ局入りはすると警戒し、端末の電源も落としてある。

もしかしなくても……事務所の人間を『掌握』されている。
それがセイヴァーである確証はないが。確実に敵サーヴァントの手が及んでいた。
果たして、怪盗Xは律儀に夜までアヤを狙わないだろうか?

その時。

「……アヴェンジャーさん?」

試しに虚空を呼びかけたが、アヤに返事をする者はいない。
今何かが起きた。
アヤ自身、歌以外で特別な能力を持ち合わせてないが、魔力消費の感覚だけはどことなく理解していたのだ。
それは先ほど。0時を回った頃合いに、アヴェンジャーが戻ってくるまでに似た感覚が発生したから。

「………」

彼女は、アヴェンジャーが如何なる戦闘を行ったかも知らないが。
アヴェンジャーが『どんな英霊』かは多少の理解をしている。
であれば、彼がどのような手段を選ぶのかさえも…………アヤは大きく息を吸った。







『予告状』で探り当てたアヤ・エイジアの居場所は、ある高層ホテルだ。
時間帯が問題だ。シャノワールが舞い降りたのは、ホテルの屋上。ビル風が吹きつける。
宝具を短刀を手に、彼は言う。

「早ければサーヴァントが私の魔力を感知しているだろう。用心したまえ、マスター」

「覚悟は出来てる」

そして、マスターの凛の姿もあった。
予告状を受け取る条件として、自分も連れて行くように凛が申し出したのである。
シャノワールを疑っている訳じゃあない。
実際に、同盟や交渉をするのにシャノワール任せにし
マスターである自分が出向かないのは『安全』だが『誠意』としてはどうなのか。
彼女はそう思ったのだ。


297 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:21:27 sTX7fMCI0
迷いなくシャノワールが、ホテル内部に通ずる扉に短刀をかざせば、先ほど学校に侵入した通りに容易く施錠が解かれた。
彼らは非常階段に出る。
そのまま下の階層の踊り場にある扉を開ければ、最上階のラウンジを目にする。
客室は無い。シャノワールがチラリと薄暗い廊下を観察し、監視カメラを捉えた。

「このまま非常階段を下ろう。マスターが監視カメラに映っては都合が悪い」

「カメラ……客室にはどうやって?」

「何も君が客室に侵入する必要はないさ。アヤ・エイジアを客室からおびき出す……そのプランで行こう」

「悪知恵が回るね」

「フフ。怪盗の機転だよ」

存外それしかないと凛も判断できた。ただ……凛が不安を覚える最中。


ガチャ


非常階段に面した扉が開かれる音が響く。
当然、凛たちの居る最上階より下階の扉が開かれた。『こんな時間』に普通の人間がここを開けるだろうか。
紛れもない。サーヴァントだ。
アヤ・エイジアのサーヴァントであるかは、まだ断言できない。
シャノワールは咄嗟に警戒をするが、凛だけは冷や汗を浮かべつつハッキリと澄んだ声で。

「そこにいるのは、アヤ・エイジアのサーヴァント?」

「ま、マスター」

あまりの行動にシャノワールが動揺するも、凛は必死に己を落ち着かせていた。

「私達は戦いに来たんじゃない。だから話すよ」

一方で相手が返事をする気配はなかった。
シャノワールはアヤ・エイジアの位置を正確に探るが、彼女はもう少し下の階層に居る。
凛は話を続けた。

「聖杯は求めてない……これは本当。願う事は私にも、セイバーにもない。
 ただ、彼女……アヤ・エイジアが、人が殺されようとするのを見過ごしたくはないから――」

静かに、意を決して凛が踊り場から移動し、階段を降りようとした瞬間。


時が止まった。


298 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:21:52 sTX7fMCI0
変な話。この聖杯戦争で時の介入は頻繁に発生していたが、シャノワールはこの『タイミング』に違和感を覚えた。
即座に魔力を付与した予告状を手元に出現させる。
不思議にも、奇妙な話だが、この『時の静止』にセイヴァーとの酷似を感じていたシャノワール。

だが、時の静止のレベルはセイヴァーよりは下回っている。
宝具で『侵入』するシャノワールは、空間の感覚で理解していた。
セイヴァーではない。違う……にも関わらず。


シャノワールの予感は的中する。
下の階層より無数のナイフが凛にめがけて投擲された。即座に予告状をナイフと同数分投げつけ、攻撃に対応する。
静寂な『静止した時間』で、小さく息を飲む音が聞こえた。
そして――動き出す。

「―――ッ!?」

眼前でナイフと予告状がぶつかり合うのに、凛が驚く。
シャノワールが自然と、凛を押しのけ下階層を確認するが「まさか」と呟いた。
時の静止……ナイフの攻撃……
酷似しているものの。おぞましい邪悪な気配は感じられない。

「せ……セイバー。今のなに……」

凛はその場でへたり込んでしまう傍ら、シャノワールが念話で答える。

『時間停止だ。マスター、嫌な予感がする……何かセイヴァーと似通っている』

『う、嘘。そこにセイヴァーがいるの』

『断じてセイヴァーではない。だが――』

念話を続けながらシャノワールは水の魔力を静かに発動させた。
水が静かに床へと滴り続け、自然と段差を蔦ってゆき、着実に下へと落ちて行く。
一方で、姿は確認出来ない状態だが、鮮明に敵サーヴァントの声だけは聞こえた。

「聖杯を求めないなら――今の攻撃を避けて終わらせるべきじゃあないか?」


299 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:22:16 sTX7fMCI0
若い青年らしい声色だったが、やはりどこか『奴』に似た雰囲気を漂わせる。
シャノワールは険しい表情で姿なき敵に対し告げた。

「逆に言わせて貰うが、君こそ私のマスターを狙った。私を攻撃すれば事足りた筈だ。それこそ聖杯を求めているならば」

「随分な屁理屈だな。……ああ、分かった。こうしよう
 セイバー、お前だけが降りて来い。小細工を仕掛けるものなら即刻攻撃する」

敵からの提案だ。
元より、凛たちは争いに来た訳ではないが……先ほどの攻撃は敵意があるとしか思えない。
最早、同盟以前の問題だ。凛はチラリとシャノワールを伺う。

『絶対「罠」の気がするんだけど』

『そうだろう。相手は我々をいかに制圧するかのみを考えている』

『逃げた方がいいよ。時を止められたってセイバーは動けるんでしょ?』

『だが。確かめなければならない』

シャノワールが一つ問うた。

「一つだけ確認させて貰う。君は討伐令をかけられたセイヴァーの『関係者』か?」

不自然な間を残し、相手は静かに返事をする。

「いいや、違うが………何故そんな確認をする必要がある?」

「召喚媒体の原理さ。召喚されたサーヴァントの所縁で、彼の関係者が連鎖的に召喚される可能性もなくはない」

「ほう? 所縁ねえ」

意味深に関心を抱いた振舞いを思わせる言動をする彼だったが、シャノワールは僅かに鳴る金属音を聞き逃さない。
音色は――凛に投擲されたナイフの音だ。
手元に用意している。再び攻撃をしかける算段に違いない。


300 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:22:53 sTX7fMCI0
瞬間。
シャノワールが魔力で発生させた水面。下の階層まで滴っている水を『凍結』させた。
彼のいた異世界において、水の魔法は『氷』も含む類。
故に水のある箇所を目に見える速度で氷の造形美と変貌させる。一見、足の踏み場もない。
もし、敵サーヴァントの足元に水が広まってあれば、身動きすら叶わない。―――普通であれば。

「攻撃をしかけたな!」

相手の怒声と共に攻撃が――いや、攻撃ではなかった。
ナイフが投げつけられたのは『壁』である。シャノワールが認識する範囲の踊り場から、無数のナイフが壁に刺さり。
『ソレ』を足場にサーヴァントは移動してきたのだ!
シャノワールは息を飲む。
敵の予想外の手段に対してではなく、敵の姿――彼の救世主に酷似した青年に。
凍結状態の階段を避け、ナイフから跳躍した『救世主』でない『復讐者』は吠えた。

「無駄だァッ! 射程圏内に入ったぞ、セイバー!!」

無論、シャノワールも予想した青年からの攻撃を恐れ、短刀ではなく杖の方を構えたが。
救世主と同じ精神の『像』が、復讐者の影より現れた刹那。
時を停止する必要も無く、確固たる俊敏性で『像』の拳がシャノワールに叩きこまれた。

復讐者はシャノワールの『弱点』を読みとっていた。
単純な話。
シャノワールの器用な技術力は優れてはいるが『決定打』としては致命的に欠ける。
あの救世主の猛襲に『対応』できるが『上回る』事ができない。
つまり、接近戦――古典的な肉弾戦は不得意なのだ。精神の『像』によるラッシュを耐え抜けない!

「セ――」

凛が、攻撃により転倒したシャノワールを呼ぼうとした矢先。
彼女にナイフの鋭利な先端が襲いかかる。
邪悪の化身に酷似したアヴェンジャーは冷酷に凛へと凶器を向けていた。
一瞬で刃に喉元を切り裂かれるか、心臓を貫かれるか。凛は死を覚悟する他ない状況。
アヴェンジャーも、シャノワールを殺すよりも無力な少女を殺す方が早いと判断していた。
無駄なことはしない。だから、そうしようとした瞬間。

アヴェンジャーの体に衝撃―――否、肉体に異変が発生したのに手元からナイフが零れ落ちる。
全身の震え。何よりも、冷酷無比な所業を下す彼の瞳から涙が溢れた。
遠くから聞こえる歌声。
どうにか両手で耳を塞ぎながら、アヴェンジャーは取り乱し叫ぶ。

「アヤアアァアアアアァァアァッ!!!」


301 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:23:20 sTX7fMCI0
アヴェンジャーは脳内がグルグルと渦を巻き続けて、平衡感覚を失い転倒してしまう。
必死にアヴェンジャーは考えた。最早、思考を正常に回せるかも怪しい。体もロクに動けないが、このままでは無様に脱落だ。

『何をしてやがるッ! こんな時に歌っている場合か……!!』

サーヴァントにも関わらず最悪の昏睡状態手前なアヴェンジャーの念話は、アヤに届いたらしい。
歌は止まないが、彼女はしかと返事をした。

『アヴェンジャーさんこそ何をしているの?』

『イカレ女がッ! 歌を止めろ!! 敵サーヴァントに殺されたくなければなァ!!』

だが、悠長に待っている余裕もないのだ。
床に落ちたナイフを視界に入れたアヴェンジャーは『像』――スタンドの腕を出現させ、掴もうとする。
念話に応じてたアヤは、少し間を開けてから。

『今のが「嘘」だって、よく分かったわ』

スタンドの腕は消えかかっており、ナイフを掴むことすらままならない。
善人じゃあない。世界でひとりきりの救われる事も無く、彷徨い続けた亡霊。
アヴェンジャーがそうだと最も理解しているのは、皮肉にも彼のマスター・アヤ以外存在しなかった。


嗚呼、そうだ。そうだった!
この女は自分さえ良ければ、他はどうでもいい。クソ野郎だ!!
『元居た世界に戻れれば』どうでもいいって訳だ! 
残念だったな! コイツらは俺が既に攻撃した! 信用なんかしない!


アヴェンジャーが渾身の力で自らの手にナイフを握りしめようとした―――






302 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:23:40 sTX7fMCI0
深夜のホテル内だ。
従業員もよっぽどがなければ徘徊しておらず、宿泊客も就寝する頃合い。
アヤの歌声で通常ならば誰しも何らかのアクションを起こしかねない。
しかし、ソレはありえない。

誰もを魅了する歌声――実に『聞こえの良い』表現だ。
けれども実体は――『誰もを支配する歌声』と呼ぶに相応しい技術である。
やろうと思えば彼女は、誰にも妨害されることなく刑務所から脱走する事だって叶うのだ。
従業員や宿泊客は目覚めるどころか、彼女に支配され、ただの人形状態にあった。
故に、アヴェンジャーの叫びはハッキリとアヤにも聞こえる。

とは言え『間に合ったか』どうかは不安だった。
アヤが駆け足で非常階段の扉を開け、凍結状態にある階段を目の当たりにしてハッとする。
恐る恐る様子を伺えば、上の踊り場から緊迫の表情を浮かべた少女とアヤの目が合った。
明らかに場違いな、丁度アヤの顔見知りである『探偵』と同じ高校生くらいの彼女に対し、アヤが微笑む。

「えっと……大丈夫?」

まるで―――待ち合わせ時間に少し遅れてしまった。
そんな雰囲気で尋ねて来るアヤに、ある意味で少女――渋谷凛は困惑していた。







「へぇ、アイドルさんだったの? こっちで活動はしてないのね」

「あぁ……はい。その、普通に高校生だったもので……その」

凛の動揺は解けること無く……むしろ一層困惑か疑心、と言ってしまうには申し訳ないが。
状況が状況なだけあって、会話もどこかぎこちない。
むしろ、事は良い方向に進んでいる筈。なのだろうが――異常過ぎる。

アヤ・エイジア。
彼女と普通に会話をしている。いや、聖杯戦争に関する会話をするべきなのだが、凛の緊張を考慮して
アヤの方から、凛と何気ない会話を繰り広げている。
正直、凛も有難い部分もあった。
だけど――地位的にアイドルでも『まだまだ』な自分と世界的歌手が肩を並べている。
天と地の差を感じる場面。である……普通は。

しかし、異常だ。異常過ぎる。


303 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:24:05 sTX7fMCI0
屋上から侵入した凛の為に、彼女らは非常階段の段にベンチのように腰かけて、そこで会話をし続けている。
……だけども。
彼女らの背後。
階段の踊り場にはアヴェンジャーが気絶したまま放置されている。
いくら、シャノワールが見張っているとは言え……

その踊り場で佇んでいたシャノワールがアヤに言葉をかけた。

「アヤ・エイジア。一つ聞きたい」

「答えられる範囲なら平気よ。怪盗さん」

「……彼。アヴェンジャーに関してだが」

「ああ、アヴェンジャーさん。怒ると思うけど……後で、私がちゃんと説明しておくから」

平静に答えるアヤに、流石のシャノワールも沈黙してしまう。
彼が尋ねたい部分はソレじゃあない。しかし、アヤに関して『異常』なのはその一点。
奇妙に落ち着いている。……いや、彼女は決して無感情な人間、ではないが際立った部分は少なからずある。
彼女自身、アヴェンジャーより優位にあるマスターだから?
それだけではない。シャノワールは僅かに感じ取っているが、今は触れないでおく。

「彼とセイヴァーの関係は何か、教えて貰えないだろうか」

「私は知らないわ。アヴェンジャーさんも知らない」

「……そうか」

「勘違いしないで欲しいの。確かにアヴェンジャーさんは善人じゃあないし、悪人なのよ。
 でも、こればっかりは嘘じゃないと思うの。知っていたら、もっと分かりやすい反応をしている筈よ」

と、アヤ・エイジアは普通に話す。
別に彼女が無理を述べている様子は無い。嘘でもなかった。
けれども、それは彼女の精神力が強いよりか異常、と呼ぶべきなのかもしれない。
アヤは一息ついてから、続けた。

「それで……同盟のことよね? 私は全然構わないけど」


304 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:24:30 sTX7fMCI0
慌てて凛が頷く。

「こんな事、自分で言ってしまうのも変ですけど。確かにアヤさんを助けたい……でもセイヴァーは危険で……」

「アヴェンジャーさんよりも?」

アヤの問いかけにシャノワールが答える。

「邪悪性に関しては、それ以上と言わざる負えない」

しばしアヤが間を開けた。
彼女の中で、掌握されたであろう自らの事務所の事やアヴェンジャーの事。
確証は不確か。だが、彼女の中では一つの予感を得る。

「多分だけど―――アイドルさんや怪盗さんが想像している以上に、危険な状況になっていると思うわ」

アヤがチラリとアヴェンジャーを横目にやった。

「セイヴァーさんとは直接会った事は無いけど……何となく、やりたいことが分かるの」

「『世界でひとりきり』だからですか?」

恐る恐る凛が尋ねる。
彼女が歌を響かせられる存在。彼の救世主も『ひとりきり』でしかない存在。
アヤは「ううん」と首を横に振った。

「ちょっと違う。明確な狙いなんて無いと思う。怪盗さんの事だって警戒してないのよ」

シャノワールも「まさか」と呟く。

「私は彼の宝具の一つを突破できるというのに」

「でも、怪盗さんだけを狙い続けるつもりはないのよ。私の事務所の人間を『掌握』したのだって同じ理由」

「………ふむ、保険か」

「そうね。きっと他にも手を打ってあるのかも。テレビ局の方とか」


305 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:24:53 sTX7fMCI0
凛は首を傾げたが、やや遅れて理解する。
保険。
何が起きても良い様に手を打つ……怪盗Xから犯行予告をかけられる前に、アヤの事務所の人間を掌握した。
とすれば、在る程度の『保険』だったのだろう。狙った訳ではない。「でも」とアヤが加えた。

「ただ聖杯を手に入れたいワケでもないのかしら。怪盗さんはどう思う?」

「一理あるだろう」

予想外の話に凛も尋ねた。

「どういうこと?」

「セイヴァーが私と交戦した際、本気ではなかったのは確かだ。
 何より、元々は私を『仲間』に引き入れようとしていたようだった」

低俗で取る足らないと称していたが『悪の救世主』故に『悪』である怪盗を仲間に出来る、と。
ウワサの数を考慮すれば、同盟は一つの手段。
悪手ではない。
ただ『あの』セイヴァーが、討伐令にかけられるほどの英霊が『仲間』を必要とするのか?

そもそも、聖杯獲得が目的なら『仲間』を得るよりも、倒す方が早い。
仲間が必要なのは――例えば凛やアヤのように聖杯獲得を方針に持たず、誰かの標的にされているような……
セイヴァーの行動は『不可解』だ。

聖杯以外の目的……?

だとすれば、考察のしようがない。
強いて挙げるなら討伐令か。
『何故』セイヴァーが討伐対象に選ばれたのか。単純に悪なら他にも、猟奇殺人を行うXを選んだって良かった。

主催者側にとって厄介であるから?

凛がシャノワールに振り返る為、踊り場に視線を向けた時。
踊り場で倒れ伏しているアヴェンジャーの睨む瞳と合う。
先ほどまでの涙は嘘のように感じられた。凛が息を飲んだ矢先にアヤが話を続ける。


306 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:25:36 sTX7fMCI0
「……テレビ局入りまで時間はあるわ。マスコミの人達を避ける為に、自分で向かうって押し切ったけど。
 どうかしら。最終的に、私がテレビ出演する頃にはきっとセイヴァーも現れる」

我に帰って凛が、アヴェンジャーの様子を伺ったが。
先の光景が夢らしく、彼は倒れ伏し――気絶したまま、の筈だ。自分の気のせいだったのだろうか。
何だか、嫌な予感を覚える。凛が言う。

「だったら―――私はまだ足りないと思います。
 私達とアヤさん達で手を組んでも、セイヴァーやX以外が現れる場合を考えたら」

第一。
凛も察するが、この復讐者が果たして素直に凛と共同戦線を張ってくれるか。
つい前まで攻撃をしかけた相手。疑心よりもアヴェンジャーの性格が問題なのかもしれない。

むしろ、アヤがこうして現れた理由もソレが要因だ。
彼女はアヴェンジャーが他人を安易に信用しない悪人であると承知したから、彼女が代わりに凛たちと交渉している。
まあ。共闘が上手くいっても、混戦を切りぬけられない問題は解消されないのだ。
シャノワールも凛の意見に賛同する。

「先ほど私が言った通り、セイヴァー側も『仲間』を率いて現れる可能性もありうる。
 やはり、圧倒的にこちら側の戦力不足と言わざる負えない」

「そうなのね。私も甘く考えていたつもりじゃなかったけど……」

状況は好転していなかった。
複数のサーヴァント、と曖昧に見ていたのが悪く。正しくは『複数の勢力』に狙われる可能性。
聖杯を『三つ』作れる状況下を考慮すれば、少なからず同盟を作るものが点在してくる訳で……
現に、凛とアヤがそれに含まれた。
だからこそ、凛は頭をかかえる。

「ここから大変になりそう……私たちに手を貸してくれそうな相手に心当たりがない」

当然、卯月やほたるに関しては論外だ。幾度も上げるように『巻き込む方が返って危険』な状況だ。
となれば……
その次を思いつけないのが、凛の現状である。
アヤがふと凛に尋ねた。

「アイドルさん。気付いたんだけど、学校はどうするの?」

「学校……」


307 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:26:03 sTX7fMCI0
確かに凛は高校生で――こちらの世界でアイドルはやっていない。
何も疎かな意識だった訳じゃあないが、凛も指摘されて改めて考えた。学校へ向かう意味はあるのだろうか?

普通だったら、義務として向かうべきだ。
が。
聖杯戦争たる異常な状況下において……ましてや、卯月に関しては不登校状態だ。
彼女との接触を試みるには、確立が低過ぎる。変な表現だが――『そんな場合じゃあない』。

しかし、この先は?
他の主従と接触し、仲間を『更に』増やすにはどうしたら……







舞台裏。
平静に会話が繰り広げられていた最中に、アヴェンジャーからの念話がアヤの脳内に響いていた。

『―――アヤ』

怒っているようでも、苛立っているようでもない。
どちらかの感情がぶつけられる。アヤが想像していたよりも、アヴェンジャーの声色は落ち着いている。
むしろ、何か愉快そうだ。

『お前。そいつらを信用しているのか?』

アヴェンジャーは相変わらずの、何か皮肉った感情を含んだ物言いで問いかける。
一方。アヤは異なるものに思い耽っていた。
彼女は……実のところ『念話』が好きではなかった。
普通に会話する方が良い。
念話はまるで、自分の世界に誰かの声が響いているようで――正直『不愉快』だった。

『信じているわよ。アヴェンジャーさんが信じられない代わりに、信じてる』

すると、アヴェンジャーの笑い声が聞こえた。
アヤの中で反響するそれは、彼女にとって目眩を催すような感覚と等しい。

『嘘つけよ、このクソ女!』


308 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:26:27 sTX7fMCI0
アヴェンジャーの罵声は、憎しみではなく。嘲笑と皮肉さだけが込められていた。
鉄仮面を内に秘めたアヤが、アヴェンジャーに対し無言でいる。
故に、アヴェンジャーは一層言葉を連ねた。

『心を許すどころか「興味」すらない癖によく言う。俺が気付いていないと思ったか?』



『お前が階段で拾ったナイフは――やるよ』

『…………』



アヤは、アヴェンジャーのナイフを一本だけ拾っていた。
最初にシャノワールによって弾き飛ばされたナイフ。階段の途中で放置されたままだったソレ。
拾って――どういう訳か羽織ってきた上着の内ポケットに忍ばせている。

何故?
拾っておいて『損』ではない。
彼女はちょっとした用意をしただけ、自衛の武器、セイヴァーで言う『保険』のようなもの。
殺意があった訳じゃない。場合によっては使ったかもしれないが。

『隣のアイドルを刺す時は俺に教えろ。セイバーの魂を回収する』

アヴェンジャーが起きる素振りは無い。しばらく気絶を決め込むらしい。
そんな復讐者の行動に、不満を覚えなかったアヤ。
ただ。何故、わざわざ念話で伝えてきたのか。変な疑問だけは残っていた。



【B-2 ホテル/月曜日 未明】

【渋谷凛@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]無傷
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]なし
[道具]生徒名簿および住所録のコピー(中学、高校)
[所持金]女子高生の小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:セイヴァーを討伐する
0.これからどうする?
1.まだ仲間が必要。どうやって集めればいいのかな。
2.島村卯月、白菊ほたると何らかの接触をしたいが……
3.アヴェンジャーはセイヴァーと関係ない?
[備考]
※見滝原中学校&高校の生徒名簿(写真込)と住所録を入手しました
 誰がマスターなのかは現時点では一切把握していません
※自分らがセイヴァーに狙われている可能性を理解しています。
※アヴェンジャー(ディエゴ)のステータスを把握しました。
※アヤ組と同盟を組みました。


309 : Venus Say ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:26:53 sTX7fMCI0
【セイバー(シャノワール)@グランブルーファンタジー】
[状態]魔力消費(小)肉体ダメージ(小)
[装備]初期装備
[道具]多数の銃火器(何らかの手段で保管中)
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:怪盗の美学を貫き通す
1.美学に反しない範囲でマスターをサポートする
2.セイヴァーを警戒する
[備考]
※盗み出した銃火器一式をスキル効果で保持し続けています
 内訳は拳銃、ライフル、機関銃、グレネードランチャーなど様々です
※アヴェンジャー(ディエゴ)の宝具を把握しました。



【アヤ・エイジア@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]ナイフ
[所持金]歌手の収入。全然困らない。
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界への帰還
1.怪盗Xに対する警戒
2.セイヴァー(DIO)の存在が気になる
3.凛たちは信用する。今のところは。
[備考]
※テレビ局の出演は決定されました。テレビ局入りは彼女自身のみで行うと伝えてあります。
※セイバー(シャノワール)のステータスを把握しました。
※事務所の人間の一部がセイヴァーに掌握されていると考えています。


【アヴェンジャー(ディエゴ・ブランドー)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)肉体負傷(小)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1.怪盗Xに対する警戒
2.どこかでセイバー(シャノワール)を始末する
[備考]
※ホル・ホース&バーサーカー(玉藻)の主従を確認しました。
※弥子&アーチャー(魔理沙)の主従を確認しました。
※アイルがマスターであること把握しました。
※アサシン(ディアボロ)に関する記憶は喪失してますが、時間停止の能力に匹敵する宝具があったと推測してます。
※凛&セイバー(シャノワール)の主従を確認しました。
※今は気絶したフリをしてます。


310 : ◆xn2vs62Y1I :2018/07/22(日) 00:30:03 sTX7fMCI0
投下終了します

続いて、ディオ(マスター)&レミリア、いろは&シュガー、
沙々&下っ端のクズ(マジェント)、セイヴァー(DIO)で予約します。


311 : 名無しさん :2018/07/25(水) 15:30:52 hWZwUrXA0
投下乙です。

警戒心の強いディエゴと打って変わってアヤとは話が通じると思ったのもつかの間、
なんとも思ってないという真の恐怖の始まりだな…


312 : ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 10:54:23 T250KI8o0
感想ありがとうございます!
これから予約分を投下しますが、いかんせん長くなってしまった為、前編として投下します


313 : mind as judgment ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 10:55:14 T250KI8o0

美しく舗装し、建造された街並みが『砂糖』に変わり果てて行く。
誰かが一度か二度は使っていただろうベンチも、背景の異物程度にしか扱われない外灯も。
奇天烈な恰好の女性狂戦士が、舞うように砂糖を作り、たまに口へ放りこんで味を楽しむ姿は。
子供が試食を手当たり次第に巡っているかの如くだ。

幻想かつ異常たる光景を、優木沙々と環いろはの二人の魔法少女がこの地帯では数少ないビルの屋上より傍観していた。
ビル、と言っても。
都心で無数に点在する高層レベルとは比較にならない程度。
しかしながら、いろはのバーサーカー・シュガーの暴走を見守るには十分な位置と高さである。

いろはが、自分自身の中で引っ掛かりを覚えていた。
一方の沙々は飄々とした様子で、どこか楽しげに振舞っている。
聖杯戦争と呼ぶ過酷な状況を少しでも明るくしようと努力を尽くしているかもしれない。

「いろはさん! 向こうには私のアサシンが、バーサーカーの魂を回収する為に待機してますよ」

「え……回収? どういうこと……沙々ちゃん」

やれやれと沙々は、呆れた態度でいろはを見下しているようだった。

「もう、いろはさんのバーサーカーはコントロールする事が出来ないんです。
 だからこそ、他サーヴァントを巻き込んで自滅して貰うんです」

「シュガーさんを!? それは―――」

「いろはさん」

厳しい口調で沙々が呼ぶと、いろはも大人しく引き下がった。

「うん。私……沙々ちゃんを信じる。沙々ちゃんは、誰よりも皆の事を考えてくれているから」

沙々は思わず溜息つく。
環いろは。彼女は非常に『善良』な人間だった。
善良過ぎたので、沙々が洗脳下に置いても、度々似たような歯止めをかけるハメになっている。
まあ、洗脳状態が継続しているのは変わり無いのだ。

すると。
漸く……沙々の願ったりな展開が訪れる。
いろはの様子が段々と苦しいものとなっていく。それは決して魔力消費の疲労じゃあない。
彼女も急激な体調の変化に、原因を突き止めようと考えた。

いろはが思い出す。似たような息苦しさを前にも……

「ふわぁぁ!? いろはさんっ、しっかりして下さい!!」

沙々が素っ頓狂な声を上げて心配する。(これは演技で心配したフリである)
いろはは、沙々を心配させないように息苦しい声色を抑えながら返事をするのだった。

「ごめんね……色々あって疲れちゃったみたい………少し休もうかな」

「違います!! ソウルジェムの方を見て下さいっ、と、とんでもない色になって――」

「……え?」


314 : mind as judgment ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 10:58:07 T250KI8o0
いろはが自分のソウルジェムを確認すると、本来の色彩とはほど遠い。
気色悪いサイケリックな色合いを敷き詰めた宝石に変わり果てて、まるで呪いを帯びているようだった。
次に、いろはの肉体に痛みが走る。
体、ではなく全神経。痛覚のみに衝撃を与え続けられているような。

「おかしい。これ前にもあった……でも――あ、くっ――……!」

「いろはさん!?」

あの時。
自分の中から不気味な異形が突如這いあがって来て……元に戻った時には、何故か何ともなくなって。
ソウルジェムの穢れも消えて。
だけど……違う。彼女自身が感覚を理解していた。自分自身に異変が起きている。
沙々も慌てた様子で伝える。

「ど……どうすれば! わ、私っ、グリーフシードを持っていなくてッ!!」

グリーフシード。
おぼろげに、いろはも思い出す。だってここには『魔女』がいない。ソウルジェムが浄化する術はなかった。
だけど――別に慢心している訳じゃあない。
この状況下で、頼れる可能性は一つだけ。もう一度……あの現象が発動してくれることを願う。

「嫌です、いろはさん。私っ、私どうすればいいんですかっ! このままじゃ―――いろはさんが『魔女』になっちゃいます!」


……………………え?


いろはの疑問を差し置いて、沙々は取り乱している。
ヒステリックな叫びを撒き散らして、弱者で無力な発言ばかりで。いろはが声をかけても無視してしまいそうな有様だ。


魔女になる。

私は魔女になりたくない。

あんな物になりたくない。

ソウルジェムが穢れ切ったら、皆、魔女になってしまう。

怖い。

嫌だ。


『誰か助けて』――と彼女は嘆く。


315 : mind as judgment ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 10:58:44 T250KI8o0
ポツンと残されたいろはは、不思議にもぼんやりと沙々の様子を眺めていた。
衝撃的な事実なのに。
普通だったら、沙々と同じように混乱したっていいのに。

魔法少女が……魔女になる。
私が、魔女に?
違う……私は、私は魔女にならなかった。ソウルジェムが穢れても、それを……沙々に伝えなくては。
だけど。

(あれ? 私――おかしい。動けない。体が、声も出ない)

漸く、いろはが気付く。自らの異変に。
否――もう気付いた時には遅い。グルグルと脳内が渦巻いて、いろはが見たのは以前、自分の中から現れた異形。
嗚呼。もしかして……そんな………
これは『魔女』の断片だったのだ。

ソウルジェムが穢れ切った時。自動的に浄化されて、何事もありませんでした。……都合の良い話なんてない。
ハッピーエンドなおとぎ話は存在しなかった。

いろはを『魔女』と称して攻撃した魔法少女の主張が正しかったなんて、残酷過ぎる。
彼女を庇ったやちよ達が間違っていたなんて、信じたくない。
嘘だ。夢なんだ。何も聞きたくない。


少女は――――『沈黙』する。
何も語らず。そして何も聞かないように、耳を塞ぐ。

ああ……沙々が『嫌な事』を、いろはにとって『都合の悪い事』をいくら喋ろうと。
無駄に終わる。意味はない。
これで、これでいいんだ…………


そんな彼女に対し、誰かが手を差し伸べた。
誰? 相手は何も語らず、何も声や呼びかけや、いろはに言葉を求める素振りをせずに。
ただ無言で手を差し伸べてくれる。

(私を―――)

助けてくれる?
確証も信用する理由すら皆無。
しかし、いろはにとって言葉を必要とせずに、助けを求める声を聞かずとも手を差し伸べてくれる。
そんな相手を信用してもいい――本当に自分を救うつもりなんだ、そう感じた。


故に、手を取ってしまった。

悪の救世主がいろはの手を握りしめていた。


316 : mind as judgment ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 10:59:04 T250KI8o0




世界はある程度、規則正しく成立している。
例えるなら、時計の歯車がカッチリと噛み合わさってグルグルと回転できるように。
どんな物にも『弱点』『欠点』があった。
圧倒的な強者、化物を前に成す術はない理不尽がないように神ないし、世界の法則で定められているのかもしれない。

吸血鬼が良い例だ。
途方もない身体能力と暴力的な性能を持ち合わせながら、太陽が弱点だったり、心臓を貫かれれば終わりだったり。
世界次第じゃ、心臓を刺しても、炎天下に出てもへっちゃらな吸血鬼もいるだろうが。
どんな化物でも『弱点』の一つや二つはある。攻略法が絶対に用意されている奇妙さだ。



冷水をぶっかけられたように落ち着きを取り戻したディオ・ブランドーという人間の少年は、
改めて、どうして未来の自分は吸血鬼に成るしかなかったんだ?
人間を越えても、不自由が多すぎるじゃあないかと鼻先で笑う。

実際。
聖杯戦争の状況下、ディオのサーヴァント・レミリアは日中、霊体化しなければ外出できない上。
外を出たって、太陽に照らされ続ければ、実体化してディオの身を守るのが困難だ。
正直、現時刻――日が沈んだ頃合いでしか、レミリアは存分に活躍できない。

そして、皮肉だが未来のディオ―――セイヴァーも同じだ。
力を求めた結果。行動時間まで制限されて、太陽にびびって昼間は大人しくしている。
ざまあない、とディオは内心馬鹿にしていた。未来の自分相手に、だ。
いや、未来の自分だからこそか。


「あら、ディオ。気をつけなさいよ、それ。サーヴァントが『作った』異物だけど、食べたら駄目なものだから」


だってのに。
どういう訳かレミリアは、威厳を醸しながら悠長にディオへ忠告した。
よく分からない。吸血鬼になると精神的な余裕とか冷静さを保つ事が出来るのか?
ディオは変に苛立って、周囲に点在している『砂糖』を横目にやる。

砂糖。
似ているから便宜上の呼称は『砂糖』なのだが、実体は醜悪で悪意ある薬物だとディオにも察せた。
「フン」と、ディオは少女の姿をした化物を睨む。

「誰が食べるか。犬だって食わないぞ、こんなもの」

大体、何で食うと思われているんだ。やっぱり馬鹿にしているのか、このサーヴァント。

再びディオの中で憤りの炎が滾り始めた。
如何せん、こうして血が昇って冷静さを欠けてしまう。
吸血鬼でいう『太陽』に近い、ディオにとっての『欠点』だ。
セイヴァーは冷静を維持するべく、精神の高みを求めて吸血鬼になったのだろうか?


317 : mind as judgment ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 10:59:41 T250KI8o0
「……コレを作ったサーヴァントが近くにいるな」

ふと、全身を駆け廻る感覚にディオは動作を止めた。
刺激的で、初めての感覚だった為、どう表現すればいいのか分からず。感覚の正体すら知らなかった。
それは――所謂『直感』である。
彼は人間の少年でしかなく、吸血鬼でもないが……英霊となる前よりも、生前から勘に優れていたのかもしれない。

(誰かいるのか!? サーヴァント……)

砂糖を作ったサーヴァントかと思ったが、周辺の洒落たモニュメントが全て砂糖に成り果て、視界が開けているにも関わらず。
いつの間にか、ディオ達の前に銃を構えた男が現れていた。
シルクハットを被った全身黒ずくめの癖の激しい髪を持つサーヴァント。
殺意を醸しだす雰囲気は一丁前に感じられる。

『アサシン』というクラスがディオに分かったサーヴァントが、躊躇なく引き金を手にかけ。
発砲。
甲高い銃声が閑静な街に響き渡る。

この瞬間。
ディオ少年は不思議にも落ち着いていた。銃を向けられた時点で普通の人間は取り乱して当然なのだが。
自分の死を微塵も感じずに、むしろ自らの死の『不安』は一切無い。
何故なら―――……


レミリアが銃弾をものともせず『指でつまみ上げていた』。


地面に落ちていた小石をつまむように、銃弾の動きを全て見切り、吸血鬼の動体視力で脅威な所業を為して見せる。
だのに、彼女は酷く退屈だった。
敵が攻撃したというのに、脳ミソが少なめの三下が相手だったせいか。

「とんだ肩透かしだな。単純に、どこにでもある銃弾と拳銃、魔力や細工が施してあるとも期待したが」

レミリアは銃弾を握りつぶす。
押しつぶされた残骸は地面に投げ捨てられ、それきりだ。
成程。確かに何も起きない。ディオは納得する。
まだ超人的な――吸血鬼のスピードを凌駕した神父の方が『面白み』のあった方だ。

一方で、攻撃をしかけたサーヴァントは
舐め腐った、貧民街に群れてそうな典型的なクズのように言った。

「お前よォ〜〜〜〜『Dio』かぁ? いや『Dio』だろうなぁ!!」

「………」


318 : mind as judgment ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 11:00:05 T250KI8o0
危機感がまるで込み上げない。
この男(アサシン)本当に英霊なのかと疑わしいほど『取るに足らない』存在感だった。
先ほどの神父や、少女の姿ながらカリスマ性を放つレミリアのような。
英霊らしさ、神秘性がほとんど無い。サーヴァントとして召喚されたのが『事故』じゃないかと疑うほどだ。

加えて、どうやら神父と同じく。恐らく――未来のディオと関与した経緯あるらしい。
沈黙するディオに対し、アサシンは激情した。

「『その眼』で俺の事を見下しやがって! 最初から俺を『利用』するつもりだったんだなぁぁ―――!」

立て続けに銃を連射する技量は、格別優れているとも言い難い。
銃を『扱い慣れている人間』にとっては普通の手法。
とは言え、しっかりと照準を定めていた。レミリアではなくディオ相手に。

「この俺をナメてんじゃあねぇ―――ッ!」

アサシンの銃弾はあしらわれる。レミリアの紅に輝く弾幕によって。
スペルカードと呼ばれる弾幕ごっこに過ぎない技法であれ、生死に関わる戦闘に応用すれば脅威となる。
レミリアが発動させたのは、名称も無い通常の弾幕。
ナイフ状に形取った弾幕が銃弾を相殺し、アサシンに向かい高スピードで飛ばされた。

尋常でないスピードを発揮させた神父が登場した以上、あれよりも遅いのだが。
場慣れの経験を積まなければ、回避も困難だろう速度なのは確か。

だが、アサシンは回避しなかった。逆に、しゃがむ姿勢を取る。
彼の体に、背後より出現した『像』が纏わりつくとナイフ弾幕の直撃を喰らってもダメージを受けずにいた。
無傷。ではない。
攻撃のエネルギーが、しゃがんだアサシンの体を伝い、地表へと分散されていく。
どうやら受け流されているらしい。

「なんだこれは」

眼を鋭く細め、他愛なくレミリアは三流にも劣るアサシンを見下す。
神父のライダーに対しての驚きでない。小癪で煩わしく忌々しいと一蹴するかのような退屈さ。
ディオも、レミリアと同じ感情を胸に舌打つ。

「早くしろ」

「まぁ待て」

レミリアの宝具で、ひょっとすればソレでトドメを刺せるかもしれない。
が。
思わぬ事だが、アサシンのスキルが発動したのだ。この場合『発動してしまった』と言うべきか。


ここまで見ていただければ分かるが、レミリアもディオもアサシン自体に興味も警戒もしていない。
それは『下衆の輩』と呼ばれるアサシンのスキルの影響だった。


319 : mind as judgment ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 11:00:27 T250KI8o0
下っ端のクズで脳ミソが少なめの三下の存在など、強者たるレミリアとディオの意識の範疇外だ。
だからこそ。
レミリアは『マスター』の方にターゲットを変更した。
相手が無敵を脅威とするなら、素直にマスターを狙うのは正しい。
思考を回した瞬間。レミリアの意識は、アサシンのマスターへと向けられ、自然と周囲の魔力感知に意識を集中する。

「ん? この気配――サーヴァントがいるわ。あそこ」

「………ハッ!?」

ディオがレミリアが指差した方角に息を飲んだ。
自らの直感に反応したのは紛れもない! アサシン相手じゃあないッ!!
ビル屋上。誰かがいる。距離が遠過ぎて普通の人間なら『誰かが居る』だけしか分からないのを。
ディオの場合は、直感で理解した!


「いた――――あそこに居るぞ! 殺せ、ランサー!!
 アレはッ、あそこに居るのはッ! 『未来のぼく』だぁぁ――!!!」







誰かが『助け』を求めた。
今回の場合は――優木沙々が演技の一つで咄嗟に「誰か助けて」と呟いた。
本気じゃないし、何も救世主を望んで口走った訳でもないが、それでも『悪』たる沙々が言ったのだから。


『悪』が助けを乞うたからこそ、救世主は現れざるおえないのだ。


「……こんなものか」

彼がいろはのソウルジェムから指を離せば、艶やかな色彩の宝石だけが残る。

セイヴァー。クラス名からでも分かる。
討伐令にかけられ、写真も配布されたサーヴァントが、いつの間にか魔法少女達の前に立っていた。
魔法少女もサーヴァントほどではないが、日ごろ魔女や使い魔と戦闘するだけあって、魔力感知は行っている。

にも関わらずだ。
気配も、魔力も、本当に突然眼前に登場したと表現せざるおえない。
そして――いろは自身、何がどうなったのかサッパリだ。まさか――セイヴァーの瞳と視線が交わると。
ゾッと悪寒が彼女を襲う。

気品よく石像のような美しい顔立ちで笑ったとしても、彼は心から笑ってはいない。
そして、助けた筈のいろはにも関心がない。
三下かクズを見下す『眼』と同じ。恐らく『よほど』の存在じゃなければ、彼は興味を抱かないし。
いろはを『助けた』のも、ほんの出来心でしかなく。親切で善良な救世主じゃあない。
ウワサ通り――――『悪の救世主』だった。


320 : mind as judgment ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 11:00:50 T250KI8o0
「あ……あの…………」

いろはの言葉は続かない。どれから話せばいいのだろう。
少なくとも、彼女は無性に彼を感謝しようとはせずに堪えていた。
この人に心を許せば、自分が自分でなくなってしまう。いろはは畏怖を秘めている。

すると―――躊躇するいろはを押しのけ、優木沙々が興奮気味にセイヴァーへ話しかけた。

「す、凄い! 思った通り!! セイヴァーさん、お願いします! 私の、私のソウルジェムも浄化して下さい!」

「さっ……沙々ちゃん?」

環いろはは洗脳状況にある。
沙々に付き従うよう、令呪も使用してしまったし、シュガーを暴走状態にさせても罪悪感ない人形だ。
だけど、完全に支配されてはおらず。
所謂、様子のおかしい沙々の異変に疑念を覚える事は叶ったのである。

優木沙々は狂っている風な異常さ。
討伐令での写真から受けた『悪の救世主』の魅了に堕ちているのだ。
洗脳者が洗脳に堕ちるとは随分な皮肉である。

そして、親友で尊敬し信頼する沙々の異変に困惑するいろはが、セイヴァーの表情を見てハッとする。


セイヴァーは……沙々を見向きもしていなかった。


彼女のようなクズこそ悪の救世主が救うべき悪なのに。
これほど沙々が救いを求めているのに。
セイヴァーの視線は、沙々やいろはでもない。全く別方向の、シュガーが『砂糖』まみれにしている地帯へ向けられていた。

が、彼はちっとも面白みもなく。興味なく狂気の惨状を見降ろしている。
シュガーの宝具を蔑むとは違った。
光景や現状、沙々がサーヴァントをおびき寄せる為に起こした悪意の罠に退屈している。
沙々の発想力。優木沙々の価値を見定めた結果――『くだらない』と判断したのだ。

いろはは、セイヴァーの思考を読み切った訳じゃあない。
ただ、危険だと本能が察知し、沙々に呼びかけた。

「沙々ちゃん! だ、駄目。その人は、沙々ちゃんを……」

「あぁクソ! 黙ってろ! 先にソウルジェムを浄化されたからって良い気になりやがって!!」

「きゃあっ!?」


321 : mind as judgment ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 11:01:36 T250KI8o0
豹変した沙々の杖に殴られ、いろはの体は体勢を崩し、硬い屋上の面に転倒してしまう。

やっぱりおかしい!
いつもの沙々ちゃんとは違う……優しくて、楽しくて、明るい。私の友達だった沙々ちゃんじゃあない……!
どうして? まさかセイヴァーが……!?

善良ないろはの洗脳は、沙々を良くも悪くも『助ける』意志へ変換されている。
友達と認識している彼女が、こんな事をする訳ないのだと。
でも。一見、セイヴァーは何もしていない。存在し、いろはのソウルジェムを浄化?しただけ。
次の瞬間、更なる異常がいろはの前で起きたのである。

「さ……沙々ちゃん? 変身が解けてる」

「あぁ? ……あ………アレ?」

今度ばかりは沙々も驚きを隠せない。
本当にいつの間にか。沙々は魔法少女の変身状態を解除していたのだ。彼女自身すら認知してないなど――あり得ない。
いろはが「まさか」とセイヴァーに視線を向けると。

彼の掌で沙々のソウルジェムが弄ばれていた。
沙々よりソウルジェムが離れたせいで、変身は解除されてしまったのである。
セイヴァーは深みある溜息をつき、ソウルジェムの濁りを観察した。

「私のマスターも、君たちと同じ魔法少女でね。ソウルジェムの穢れ果てた末路を知っているとも」

いろはと沙々は双方反応する。
討伐令にかけられていた暁美ほむらも――魔法少女――……
だからこそ、セイヴァーはソウルジェムの重要さを理解している訳なのか。

故に――漸くだった。
やっとのことで、セイヴァーは凍てついた顔に不敵な笑みを浮かべた。
沙々のソウルジェムに視線を向けながら。

「思い出した、確か……君は『優木沙々』だね」

「は、はいっ! セイヴァーさん、是非私に貴方様の協力させて下さい!! 私の魔法は必ずやお役に立てる筈です」

「魔法か」

「私の魔法は『洗脳』ですぅ! どんなに優れた奴でも、絶対に従わせられるんですよぉ〜!!」

下劣な笑みを浮かべ饒舌にベラベラ語る沙々が『悪』でなければ、なんだというのか。
一方で。
セイヴァーの笑みが段々と、穏やかなものに変化していくのをいろはは眺めていた。

何と言うか――程度の低い自慢話をわざわざ聞いてやっている強者の態度だ。
多分、セイヴァーは明日には沙々の話を忘却するだろうのが想像できる。
口調と声色も、不気味なほど落ち着いたものでセイヴァーは答えた。

「残念だが――もう間に合っている」


322 : mind as judgment ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 11:01:58 T250KI8o0
それより。

「私は話に聞くだけで『魔女』なるものを見た事がなくてね」

「………え」

間抜けな声を漏らす沙々を傍らに、セイヴァーの掌に呪い色の『悪』が湧きあがってくる。
暁美ほむらの穢れと、環いろはの穢れ。
既に半分ほどは穢れに満たされた沙々のソウルジェムへ注がれると、今度は沙々が苦しみ出す。

ビキビキと、ソウルジェムから嫌な効果音が。
卵から何かが産まれるように、ソウルジェムの形状も歪に変化していく。
決死の思いで沙々は喚き叫んだ。

「ど、どうしてっ!? やめ、やめてッ、魔女になりたくない! お願いです! 何でもしますから!!
 貴方を利用したり、馬鹿にしたり、二度としません! 申し訳ありません、許してッ! 許してくれますよねっ!?」

「駄目だな」

絶望の一声に、クズの魔法少女の悲痛な絶叫が鳴り響く。
いろはが、いち早く行動を起こす。魔法少女の武器・光のクロスボウを一筋引いた。
魔力を込めた一撃が、セイヴァーに放たれる。
例え、彼に助けられたとしても『友達』である沙々を助ける事を、いろはが優先したに過ぎなかった。

いろはの矢は命中するどころか、セイヴァーの指一本で弾き飛ばされてしまう。
圧倒的な力の差を、一瞬にして見せつけられたいろは。


刹那、紅の弾幕が急スピードでセイヴァーに接近したのだった。







――――紅符「スカーレットシュート」――――


躊躇は無い。
レミリアはセイヴァーと共に居る少女達を認知せずとも、スペルカードを放っていただろう。
大中小の光弾は真っ直ぐ屋上の吸血鬼に連続で放たれた。
しかし、レミリアは吸血鬼の視力で避けられたのを確認する。

時を止めた訳じゃあない。相手も成った原理はともかく『吸血鬼』なのだ。
『スカーレットシュート』が自機(対象)狙いの技だと見抜いている。しかし――弾幕は分散する。
光弾が直ぐに消滅する事はなく、空中を浮遊し漂う。単純に避けるだけでは、いづれ弾幕の密度に押しつぶされる。


323 : mind as judgment ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 11:02:23 T250KI8o0
密度の高さで圧をかけるのも『時止め』対策の一つ。
時を止めるなら、時を止めても避けれないほどの密度で身動きを封じ込めればよい。
最も、生半可の『結界』程度では彼の足止めすら至らないだろう。

遠距離からの実感に欠けるスペルカードの攻撃に、マスターのディオが苛立った。

「ちまちま攻撃をしてる場合かッ! 宝具を使え!!」

「分かってないわね。宝具なんてバカスカ使いまくれないのよ、だって貴方は魔法使いじゃあないんだから」

致命的なのは――魔力の差だ。
サーヴァントが些か不便な点と格差を生じてしまうのは、マスターの魔力量である。
いづれ吸血鬼になりうるディオでも、魔力はない。普通の人間なのだから。
宝具を発動すれば、その分をマスターのディオが負担する部分が生じてしまうのだ。

一方で、セイヴァーはマスターに魔法少女の暁美ほむらがいる。
魔力面でも相性の良い、最高のコンディションで挑めるのだから余裕で当然に違いない。

ただ。
セイヴァーが、不敵に笑うのを遠目より確認するレミリア。
しかし、レミリアも悪魔めいた笑みを描いた。

(次の一手が分かるぞ? 『セイヴァー』。逃げるな、貴様――逃走経路は見抜いている)

レミリアが魔力で蝙蝠を精製した『サーバントフライヤー』が、彼女の手から離れ、彼が立つビルへと飛来していく。
セイヴァーは、スタンドの像を背後に出現させ、像の拳で足元を破壊する。

真っ向勝負で『弾幕ごっこ』は受け付けない。
セイヴァーの態度は明白な『悪』に満ちており。そして、レミリアも彼の邪悪を理解していた。
否。
皮肉な話だったが、ディオというマスターを理解していたからこそ、セイヴァーの動きも見抜けた訳だ。


飛翔した『サーバントフライヤー』がセイヴァーの逃走先である下の階層で待ち受けている。


「―――?」

レミリアは即座に異常を気付いた。
送り込んだ筈の魔力の塊が、瞬時に消失している。攻撃が無力化された…? 考察するが、彼女の視力でも
建物内部、死角で発生している事象を見抜く事は叶わない。


324 : mind as judgment ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 11:02:46 T250KI8o0
そして彼女は、肝心な事に見落としていた。
アサシン――マジェント・マジェントの存在を。彼はスタンドをこっそり解除し、拳銃を再びディオへ向けている。
強者に無視される『下衆の輩』で、見下す奴に一死報いる。
すっかり、レミリアとディオは互いにセイヴァーへ意識を集中させていた。

(まずは足を狙ってやる! 跪かせてから手足をもぎ取ってやるッ、このクソ野郎共〜〜〜!!)

だが! 予想外にもレミリアは攻撃を中断し、顔を上げた。
これはマジェントの殺意に反応したのではなく――全く別の敵意を察知したから。
咄嗟の事。されど、彼女は即座に小悪魔めいた翼を広げた矢先、主であるディオへ突撃する勢いで抱きかかえて見せた。
唐突な光景にディオもマジェントも、唖然とするが。
決して、レミリアの行動はマジェントの攻撃を回避する為のものではないと、次の瞬間。誰もが理解する。


「きゃはは」


狂った笑いが遠くで響く。
レミリア達より離れた位置だが『砂糖』を喰らっているバーサーカーが、悪たらしく傍観しながら。
魔力を発動させた。
この地帯に造形物の如く点在する砂糖にバーサーカーの魔力が込められていくと。
砂糖が消失する代わりに次々と効力が発動してゆく。
少なくとも――レミリア達の居た場所では、『砂糖』が爆発したかのような広範囲攻撃が発動したのだった。







マジェントは訳も分からないまま、砂糖喰らいのバーサーカー・シュガーの砂糖変換『シュガーアタック』を受けていた。
周辺は、砂煙……にしては白煙の濃い。危険な『砂糖』の白煙に満たされている。
どういう災難だ! と文句垂れようにも、マジェントは思わず咳こむ。
困惑するマジェントに、穏やかで人の良さそうな青年の声が呼びかけた。

「まさか聖杯戦争で再会できるとは思わなかったぜ、マジェント」

「ディ………『Dio』!?」

飄々とした装いでマジェントに近づくのは、本物の『Dio』だ。
マジェントの知る、騎手の姿をした。
反射的に銃口を『Dio』に向けてしまうが不思議と、マジェントは謎めいた不安を抱く。
自分は『Dio』を撃とうとしている……そうだ! 自分を見捨てた相手だ。例え、過去に助けられたとしても。
暗い川底から自分を助けなかった以上、奴は救世主ではない。

すると――『Dio』は立ち止まり

「俺を撃つのか。撃ちたいんだな、マジェント」

「………………」

威勢良くマジェントが引き金をひきたい衝動が霧散してしまう。
眼前に居る『Dio』は、何でだろうか。撃って良いのか。いや、撃っていい筈だ。
マジェントは、自分が酷く混乱しているのを自覚している。
対して『Dio』は静かに告げた。

「撃っていい。お前は俺を撃つ『権利』があるんだ。……最期に俺の弁解を聞いてくれないか?」

「あ……ああ……」


325 : mind as judgment ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 11:03:28 T250KI8o0
困惑気味にマジェントが返事をし、『Dio』は無表情ながら淡々と語る。

「俺は、お前が死んだとばかり思っていたんだ。
 連絡が取れなくなって、お前は大統領に始末されたと軽率に判断してしまった。
 まだ川底に沈んだまま生きていたなんて……本当にすまなかった、マジェント」

「…………………………………………」

「川底に沈んだと知っていれば『必ず』お前を助けたさ。――『氷の海峡』の時と同じように」

「Dio……」

「ああ、これで俺の話は終わりだ。もう撃っていいぜ、マジェント。
 俺は聖杯なんか興味がない、せめてお前に聖杯を勝ち取って欲しいと願う」


――――Dioが、俺に謝ってくれた?


マジェントはポカンと目を丸くさせ、これは夢じゃあないかと疑ってしまう。
『あの』Dioが謝罪なんて、ましてや聖杯を譲るなど、自分に対して言ってきたのか?
疑念は少なからずあったものの。
確かにと納得する部分が幾つかあった。

Dioは果たしてマジェントが沈み、動けなくなったと把握できただろうか。
知らなければ、助けようもできないし。
連絡が途絶えれば、マジェントは死んだものと勘違いするのも頷けた。

気付けばマジェントは銃を下げていた。

「撃つ訳ないだろッ。偽物じゃあねぇかって疑っちまったんだ、へへ」

「そうだったのか」

「ああ、そーさ! なんたって俺達は『運命の糸』で結ばれているからな。同じ聖杯戦争で巡り合えたんだぜ、運命だろ!」

「運命か。成程……確かに『運命』かもな」

あのDioがにこやかにマジェントの意見に賛同してくれた。
無性に、マジェントも嬉しく感じてしまう。
ところで―――Dioが、どこからともなく拳銃を取り出しマジェントの頭に向ける。

「『裏切り者』は―――お前だよ。
 スティーブン・スティールを調査しろ。俺の『命令』を完遂出来なかった時点で、お前はもう用済みだ。
 分かるな? 『裏切り者』がどうなるか」

引き金に指をかける悪魔めいた笑みを描くDioの表情が、ベッタリとマジェントの脳裏にこびりついた。






326 : ◆xn2vs62Y1I :2018/07/28(土) 11:05:00 T250KI8o0
前編分の投下を終了します


327 : 名無しさん :2018/07/28(土) 13:14:19 R90HgcAE0
マジェントピーーーンチ

果たしてこの状態からマジェントは助かるのか?


答え①ハンサムのマジェントは突如反撃のアイデアがひらめく
答え②仲間がきて助けてくれる
答え③助からない。現実は非情である。


328 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/01(水) 23:24:16 olyoSJgc0
感想ありがとうございます!
これより、後半の投下をします


329 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/01(水) 23:25:46 olyoSJgc0
レミリアのスペルカード。
セイヴァーが意気揚々と回避をしたが、共に居た沙々といろはの二人は迅速な反応を起こせないのは当然のこと。
ましてや、戦闘能力が劣る沙々に関しては攻撃を対処するのも困難を極めた。

「沙々ちゃん!」

飛び出したのは、いろはだった。沙々には彼女が居る。
洗脳状態にあるいろはが、親友と認知する沙々の盾となって前に立つ。
クロスボウの矢で弾幕を打ち消そうと奮闘するが、無理があった。

対して沙々はどうする?と必死に薄っぺらい知恵をフル回転させるが、一刻過ぎるたびに弾幕が拡散していき。
周囲に圧をかけ、彼女達の逃げ道を封じて行く。
もはや絶望に満ちた瞬間、屋上にポッカリ開いた穴を発見する。
あの穴は先ほど無かったはず。だけど、沙々は最早猶予がない状況にとやかく文句をぶつける訳にはいかなかった。

弾幕を運良く避け、沙々は迷わず穴へ飛び込む。
ただ、魔法少女の変身が解けた沙々の体。ただの人間でしかない少女が、ビルの下の階層へ落下する衝撃に耐えられるか?
勿論だが『無理』だ。

落下した下の階層は会議室らしく、テーブルが設置されていたものの。
そのテーブルに真っ逆さまに落ちた沙々は、思わず叫ぶ。

「いっ、―――――だぁ!」

頭も、体も強打し、すぐに起き上がれず、しばらくの間はテーブルをベッドのように寝伏した状態が続く。
やっと起き上がった時。
沙々はブツブツと呪詛を吐くように独り言を口にする。

「……わ……わたし………セイヴァーに、あのセイヴァーに洗脳させられた……!? ふ、ふざけんな……ふざけるなッ!」

沙々が魔法少女として叶え、手にした力は『自分より優れた者を従わせる』こと。
……しかしながら。
沙々の『自分より優れた』という無意識な言葉でも分かる通り。
彼女自身、優れた人間ではないと自覚している。

セイヴァーは紛れもなく、英霊の実力を差し引いても沙々より優れている筈。
故に、セイヴァーに『従わされてた』屈辱は彼女のプライドに傷をつけた。
頭脳明晰、魅力的な美貌、カリスマ性……セイヴァーは、沙々の嫌悪するタイプを全てつぎ込んだ良い例である。

「暁美ほむら!」

少なめの脳みそで思いついたアイディアに我を返った沙々は、上機嫌だった。

「セイヴァーのマスターなら従わせられる! あの馬鹿がベラベラ喋って好都合でしたねぇ!!」


330 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/01(水) 23:26:26 olyoSJgc0
実際の戦闘能力で果たして沙々よりも劣る魔法少女がいるだろうか?
少なくとも、魔法少女たる暁美ほむらならば! 必ず沙々は従わせられる。
冷静に判断出来ぬほど、沙々の思考回路は劣った状態だった。
例えば――沙々が逃走に利用した『穴』の正体など。

「私が……なんだって?」

第三者の一声。
ヒッと悲鳴を漏らす沙々が、恐る恐る振り返る。
優雅にテーブルで腰かける救世主の姿と、彼の手の中で弄ばれ続けている沙々のソウルジェム。
まだ、呪いに帯びた色彩の宝石に、沙々の背中に冷や汗が湧きあがったのを実感した。

「あ……ああ、せ、セイヴァーさ……その…………」

どう弁解すればいいのか。
元より、ソウルジェムなしでは現在のいろはの洗脳が解けなくとも、再び洗脳をかけ直すことも。
セイヴァーの手中に存在する以上、彼が沙々の生死を握っているに等しい。

「ご、ごめんなさい。本当に……本当に、ごめんなさい。私を助けて下さい、お願いします………」

震える声で、涙目の沙々が静かな謝罪を申す。
決して、セイヴァーの魅了に影響された類ではなく。心の底から、死にたくないと命乞いしていた。
彼女は救いようもないクズで間違いないが、クズなりに魔女の呪いから脱するべく足掻き。
『運命』に抗う為に、尽くしてきたのである――これでも。

刹那。
室内に一匹の蝙蝠が飛来。ソレはセイヴァーに突撃するべく急加速を行った。
だが、セイヴァーは見向きもせず。手だけをかざす。

『漆黒の頂きに君臨する王』

セイヴァーを、過去の自分が『悪意』を以て攻撃しろとサーヴァントに命令したのならば。
いいや、過去の自分ならば必ずや『そうする』と確信を得て。
悪の因果宝具を発動させれば、蝙蝠はスルリとセイヴァーに吸収された。
レミリアの『サーバントフライヤー』を無力化するだけではなく、彼女の魔力たるソレを吸収したことで。
悪以外にも魔力を補えてしまう。

沙々が呆然と、異端の光景を眺め続ければ。
やっと事でセイヴァーは、沙々に見向きをしながら問いかけた。

「私に救いを乞うということは――君は自ら『悪』であると認めるのかな」

「……は………はい」

おずおず答えた沙々を僅かに眺めた後。物のついでの様に一つ、彼女に命じるセイヴァー。

「なら彼女は君が運ぶといい」

「え? ――――えっ」


331 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/01(水) 23:27:29 olyoSJgc0
沙々がセイヴァーの視線を追って、思わず驚愕の声を漏らした。
レミリアの弾幕を受けきれなかったのだろう。ボロボロになったいろはが気絶した状態で床に転がっている。
ではない!

『いつの間に』……一体『いつ』から、いろはがそこで放置されていた?
セイヴァーの仕業?
否! 例え彼の仕業だとしても『どうやって』いろはを―――沙々が気付かぬ間に会議室へ連れてきた?
彼の宝具……??

沙々がセイヴァーの能力の片鱗に畏怖する中。当のセイヴァーが無言で会議室から出ようする。
慌てて沙々は彼を追うしかない。
起こす暇がないから、沙々が気絶状態のいろはを背負う。
勝手に進みつつ、救世主は些細な独り言を語って行く。最中でも呪い色のソウルジェムは手元で転がし続けている。

「私の記憶が正しければ、この近くに『鹿目まどか』の家があってね」

「え、えっとぉ……誰でしょうか…」

「ホムラの親友にあたる少女さ。まだ直接会ってはいない」

「あ、わかりました! 私が鹿目まどかを洗脳すればいいんですね!」

「…………」

「い……いいん、です……よね………?」

セイヴァーの鋭い視線は、沙々ではなく別の物に向けられていた。
彼も、まだ攻撃をしかけた幼き吸血鬼の気配を探っている。無論その吸血鬼と語り合いたい願望はあった。
けれど、彼女には金魚のフン染みた『余計な物』が付きまとう。

過去の自分が、どうして聖杯戦争にいるかは興味はある。
しかし、過去の自分そのものには興味は無い。
何故なら結局ソレは『自分』なのだから掘り下げようもない。自分の事は自分が一番分かっているのだから。

呪い帯びたソウルジェムへ視線を戻すセイヴァー。
いつ魔女が孵っても変でない状態が、常に維持し続けているのはセイヴァーの手元にあるからだ。
手中に収まっている以上。
沙々の『悪』はセイヴァーの掌でコントロールされた。

逆を言えば。


セイヴァーの手から離れれば、その瞬間に沙々は魔女へと変貌する。


332 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/01(水) 23:28:01 olyoSJgc0
「………」

沙々は事の重大さを知った。
故に、彼女は無視と無関心をするセイヴァーに対し、変な話『安心』を抱いてしまう。

一言で表すなら「コイツはヤバイ」である。
冗談じゃあなく、沙々も以前まで彼を、自分の嫌いな典型的な『優れた者』だと勘違いしていた。
実際は違う。

セイヴァーは『悪』だ。
学校や会社なんて平凡でありきたりな日常の地位で、猿山の大将を気取る人間ではない。
否、あれらと比べる方が良くないほどの『悪』だ。
沙々は思う。嗚呼、自分はなんて『平凡な世界』で生きていたのだろうか。と

セイヴァーは、沙々を馬鹿にし、侮辱している訳でなく。心底どうでもいいのだ。
生きている存在とすら認識されて無い。強いて、喋れるロボットとして片隅に放置され忘れ去られる運命にある。
無視してくれるなら良い。
残念だが、セイヴァーの手にソウルジェムが握られている以上。
嫌でも関わらなくては……沙々は、それが嫌で仕方なかった。もうセイヴァーとは言葉も交わしたくない。

コイツは私を助けてくれない。救ってくれない。
救うどころか、使い潰すつもりなんだ。
魔女に、まさか本当に魔女にさせられてしまうんじゃ…………違う。本気でやるつもりだ。

彼女が出来る事は一つ。藁を掴む思いで、セイヴァーの後をついていく。
沙々の中で焦りと、セイヴァーへと恐怖が着実に積っていった。
そして……


沙々は忘れていた。
自分が転倒の強い衝撃を受けてしまった事で、いろはの洗脳が解除されたことを。



【C-3 住宅街/月曜日 未明】

【セイヴァー(DIO)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(回復)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]優木沙々のソウルジェム(穢れ:極大)
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得と天国へ到達する方法の精査
0.鹿目まどかの家へ向かってみる
1.他サーヴァントとの接触を試みる
2.『時の神』は優先的に始末したい
3.『悪』の回収。暁美ほむらをあえて絶望させる?
4.再びナーサリー・ライムの固有結界に侵入する。
5.頃合いを見て沙々を『魔女』にする。
6.どこかでレミリアと話がしたい。マスター(ディオ)が邪魔。
[備考]
※ナーサリー・ライムの固有結界を捕捉しました。
※『時の神』(杳馬)の監視や能力を感じ取っています。時の加速を抑え込んでいる事には気付いていません。
※自らの討伐令を把握していません。
※ウワサに対し『直感』で関心ある存在が複数います。
※過去の自分(マスターのディオ)には関心がありません。
※ランサー(レミリア)の存在を把握しました。
※沙々に関しては救う価値がないと見なしています。
※沙々のソウルジェムは、DIOの宝具で魔女化せずに保っています。彼の手から離れれば、魔女が孵ります。


333 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/01(水) 23:29:02 olyoSJgc0
【優木沙々@魔法少女おりこ☆マギカ〜symmetry diamond〜】
[状態]健康、『悪の救世主』の影響あり(畏怖の意味で)、いろはを背負ってる
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]一人くらし出来る程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い
1.セイヴァーはヤバイ奴。どうにか逃げ出したい。
2.でも、ソウルジェムの浄化はどうしたら……
3.見滝原中学には通学予定。混戦での勝ち逃げ狙い。
[備考]
※シュガーのステータスを把握しました。
※セイヴァー(DIO)のステータスを把握しました。
※暁美ほむらが魔法少女だと知りました。
※ほむらの友人である鹿目まどかの存在を知りました。
※いろはの洗脳が解除されたことに気づいていません。


【環いろは@マギアレコード】
[状態]魔法少女に変身中、肉体ダメージ(大)、気絶
[令呪]残り1画
[ソウルジェム]有
[装備]いろはのソウルジェム(穢れ:なし)
[道具]
[所持金]おこづかい程度(数万)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の調査。戦いは避ける。
1.沙々と共に行動する……?
2.セイヴァーは危険だと判断
[備考]
※沙々がダメージを受けた事で洗脳は解除されます。
※『魔女』の正体を知りました
※セイヴァー(DIO)のステータスを把握しました。
※暁美ほむらが魔法少女だと知りました。






甲高い女性の笑い声が響く。

一瞬にしてレミリアに抱えられ、現場より離れたディオは彼女に降ろせと叫ぼうとした矢先。
『砂糖』の爆発で白煙塗れとなった場所。
ついさっきまで、ディオ達が居た方向よりパン!と破裂音が聞こえた。

音は、ディオに恨みがあると吠えたてていたアサシンの拳銃のもの。
そして、アサシンは? 俄かに信じられないのが、ディオはハッキリ目にした。

アサシンは、謎めいた奇声を上げ、拳銃を乱射し始めた。
誰も居ない場所ばかり狙って、どう見ても正常ではなかった。

「やはりな。『逃げ』が正解だったのよ、ディオ。あの『砂糖』が、幻覚か錯乱を引き起こしているんだわ」

爆発はダメージだけではない。
煙にも幻覚や錯乱、他にも麻痺などの効力が含まれたりする。
アサシンは、何らかの幻覚と錯乱状態に陥り、自害へ発展してしまったのだろう。


334 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/01(水) 23:30:30 olyoSJgc0
理屈は分かった。
けど、ディオの中で腑に落ちない苛立ちがフツフツと湧くのを覚える。
例の神父? セイヴァーを取り逃がしたせいか?
ディオの疑問が解消される前に、白煙より不気味なおかっぱ頭の女性が不規則な足取りで現れる。
『砂糖』で酔っているせいか。支離滅裂な言葉を吐かず、ケラケラと笑うばかり。
思考が読みとれぬ態度が、一層不安を駆り立てた。

レミリアは適当な距離を取ったところで、ディオを降ろし、再びスペルカード発動の構えを見せた。

「生憎だけど、流石に貴方を庇って戦闘は続けられないわ。
 貴方は自分の『直感』を信じてセイヴァーを避けて、ここから離れるの。分かった?」

「ランサー……ああ、わかったよ。分かったが、僕を舐めた態度は二度とするんじゃあないぞ」

ちょっとばかり、小物っぽい捨て台詞を吐いて踵を返そうとするディオ。
対し、レミリアは紅い悪魔らしい笑いを零した。

「それでいいのよ、ディオ」


―――………なにがあろうと気高く、誇り高く生きるのよ。


―――そうすればきっと、天国に行けるわ。


何故かディオは、凄まじい勢いで振り返った。そこに居たのは、まさか!?
期待を抱いていたのだろうか。
先に居るのは、他でもない。彼のサーヴァント・レミリアだけである。
ディオは自棄に決死の様子で、呼吸を整えようと頭をかかえた。


そうだ、もう母さんは死んだんだ! どこにもいない! だが今のは……


335 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/01(水) 23:31:14 olyoSJgc0
どうしてだ? レミリアの言いまわしが『母』を彷彿させたのだろうか。
彼女は、確かに聖杯戦争に関する『教え』をディオの母の如く伝授しているものの。
ディオにもソレが愛想も含まれてない。世辞に過ぎないと分かる。
分かるが………まさか、アサシンと同じ『幻覚』が?

ディオが嫌な予感を覚えた傍ら、再び爆風が巻き起こる。
どうやら、あのバーサーカーは無差別に『砂糖』を攻撃手段に使用している。
『砂糖』の白煙にディオが引っ掛かけない為、再びレミリアは彼を抱えるしかない。
しかし、次は光弾とナイフを組み合わせた即席の弾幕を、バーサーカーに投擲する。

果たして命中したか?
バーサーカーは腕に『仮面』を結び付けており、弾幕の盾として利用。
破壊されても『砂糖』で意図も容易く再生し続けていた。


レミリアは弾幕という遠距離攻撃手段を持っているが。
一番の難点は、マスター・ディオの存在。彼が先ほど提案した通り、自力で逃走できればいいが簡単にいかない。
今度は、遠方の『砂糖』が攻撃に変貌したらしく。流石に住人の声が聞こえ始める。
いよいよ人目もつき始めた。

そして―――セイヴァー。
砂糖喰らいのバーサーカーを完全に無視するなど、心底関心がない訳だ。
逆に、バーサーカーより『優先順位』の高いアテへ目指している可能性もある。

「おい……おい! ランサー、もう降ろせ!!」

相変わらず、高慢な態度で命じる少年。
だと、レミリアは一蹴しかけたが、声色から違和感を覚え、チラリとディオの顔を伺えば。
顔を手で覆い、わなわなと体を震わせている。
明らかな異変を露わにし、眉をひそめレミリアが少年の様子を伺う。

「ちょっと、ディオ?」

「ぼくを呼ぶな!! そうだ! ずっとその態度がッ『そういう態度』が嫌で仕方なかったんだよ!!」

「あのね。口喧嘩している場合じゃないのよ、ディオ。分かってる?」

「ぼくに優しくするな!!!」

「…………は?」


336 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/01(水) 23:32:34 olyoSJgc0
レミリアは、自分の妹並にディオが正常でないと察した。
どう考えたって。少なくとも、レミリアはディオに『優しく』したつもりはない。
気使いよりも、右も左も分からぬ子供を仕方なく誘導してやってる程度だ。

再び発砲音。

向こうで銃を乱射するアサシンは、幸いにもディオ達の方に近付いて行く様子はない。
とは言え。状況が些か厄介極まりないし、好転している訳じゃあなかった。
最低限、錯乱状態のアサシンからは距離を取らなければならない。

本当のところ。レミリアは素直に『撤退』を提案したかった。
ディオの精神は正常ではない。
幻覚か、神父のライダーから途方もない未来の情報を与えられた影響もありえる。
割と短期間で、未来の自分という予想外の存在を前にし、精神が不安定なのかもしれない。

が。
あのディオが退くなどありえない。
「ぼくはおかしくない!」と如何にも気の触れた狂人が吐きそうな台詞を述べそうだった。
まぁ、レミリアの妹よりも気は触れてない。
だけど絶対に提案は飲まない。むしろ逆で―――

「セイヴァーが近くにいる! 奴だけは確実に仕留めろ、ランサー!!」

レミリアが想像した通りの威勢を吐くディオに、彼女はいよいよ低い声色で告げた。

「少しいいか。『マスター』」

彼女は安全位置たる空中へ飛翔し、片腕でディオを掴み上げ、片手より真紅に発光した槍を無数に出現させる。
レミリアが決断したのは。
撤退でも、戦闘続行でもない。明快なトドメを刺す事!


―――――『鮮血翔る紅魔の神槍(スピア・ザ・グングニル)』――――


対軍宝具たる魔力で形成された槍の雨。
必殺必中の対人verよりも劣り、運命次第で必中効力や標的を捕捉し続ける追尾機能は健在していた。
現に。
バーサーカーは再び『仮面』で受けきろうとするが、無数に攻撃『し続ける』槍の軌道に
『仮面』の再生が追いつけなくなっている。彼女の肉体を、心臓(霊核)には至らないが槍が複数刺さった。
彼女は、咄嗟に地面――アスファルトで舗装された部分に手をかけ『砂糖』を量産。

「はっ――削り切ってやるわ!」

自らの魔力でもある槍の起動操作を運命頼りではなく、自らで行うレミリア。
白煙より顕わになったバーサーカーに拡散し、ついでにアサシンも狙っていただろう槍も一点集中させる。
レミリアが空中に居る時点、それだけで彼女に不利だった。
強いて、彼女が出来るのは―――


337 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/01(水) 23:34:01 olyoSJgc0
バーサーカーはなるべく高く『砂糖』を投げあげ、爆発させていく。
無論、レミリアには攻撃は届かない。届くとすれば『砂糖』が攻撃で消耗したことにより発生する『白煙』。
彼女が狙ったか定かじゃあない。
狂戦士に劣る本物の『狂人』が行う攻撃なのだから。

レミリアは宝具を敬三したまま、飛翔したまま後退していき『砂糖』の白煙から距離を取る。
やがてバーサーカーの攻撃は止んで。静寂が広まると、彼方より野次馬のざわめきとサイレン音が響いた。
確認の為、レミリアはディオの方を伺う。


ディオは―――情けない事に気絶していた。


最も、これが彼女の狙った一つに含まれている。
膨大に魔力を消費し、ディオに負担をかければ急激な悪化により、気絶ないし行動不能になる筈と踏んだ。
レミリアは、狙った事なので格別ディオに呼びかけず、彼の懐にある『ソウルジェム』を取り出す。

ソウルジェムは無色透明だった。

(あの三下も生き延びたのか? 運が良いのか、悪いのやら)

そして、まだバーサーカーも消滅してない。
レミリアが霊体化していると踏み、軽く一体に弾幕をばらまくが――やはり駄目。ソウルジェムも無色のまま。
バーサーカーが『ソウルジェム』を持っていれば、アサシンの魂がそちらに移った可能性もある。
けど、バーサーカーに魂の回収を任せるかと問われれば難しい。

『ソウルジェム』。
レミリアは思い出した。
気絶したディオを抱え、騒がしい現場から離れながら。
セイヴァー。つまるところ『未来のディオ』がレミリアのスペルカードを見切っていた屋上の光景。
彼の手に『ソウルジェム』があり。それは、色彩が付与されていたような……
実際は戦闘に集中し、レミリアも流石に曖昧だが。

(奴が……もう一騎倒したなら、私たちも悠長にいられないわね………)

もう夜明けが近い。
レミリアの活動限界時間。それは、セイヴァーも同じ。残された時間内で、あとどれほどやり切れるか……


338 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/01(水) 23:34:25 olyoSJgc0




「今回はおっきくて、怖いコウモリちゃんの勝ち」

「うーん……冷え過ぎ」

「私、眠くなっちゃった」





【C-3 住宅街/月曜日 未明】

【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(大)、怒り(中)、錯乱(軽度)、気絶
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]数万円
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、天国へ行く。
1.セイヴァー(DIO)とライダー(プッチ)はどんな手を使ってでも殺す。そいつらに味方する奴も殺す
2.他の参加者と接触したら、ライダー(プッチ)の知っている情報をばら撒く。
3.レミリアの態度が気に入らない……
[備考]
※ライダー(プッチ)のステータスを確認しました。
※ライダー(プッチ)の真名を知りました。
※自身の未来(吸血鬼になる事、スタンド『ザ・ワールド』、ジョースターとの因縁)について知りました。
※アサシン(マジェント)とバーサーカー(シュガー)のステータスを把握しました
※セイヴァーに関しては完全な視認をしてない為、ステータスは分かりません
※バーサーカー(シュガー)の砂糖により錯乱状態ですが、時間経過で落ち着きます


【ランサー(レミリア・スカーレット)@東方project】
[状態]魔力消費(中)
[ソウルジェム]有
[装備]スペルカード
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの運命を見定める
0.この場から離れる
1.ライダー(プッチ)の言う『天国』は気に入らないので阻止する。
2.セイヴァーに対抗するには……
[備考]
※ライダー(プッチ)の真名を知りました。
※ディオの未来(ディオが吸血鬼になる事、スタンド『ザ・ワールド』、ジョースターとの因縁)について知りました。
※現在、ディオが正常ではないと思っています
※バーサーカー(シュガー)とアサシン(マジェント)が消滅してないと判断しました
※セイヴァー(DIO)のソウルジェムに色があったと思っています。
 実際、彼女が見たのは沙々のソウルジェムです。



【バーサーカー(シュガー)@OFF】
[状態]肉体ダメージ(大)、魔力消費(大)
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:砂糖を食べる
0.しばらく、おやすみする
1.本物のいろはを探す
[備考]
※時の神(杳馬)の存在を気付いているか言動的には怪しいです
※洗脳されているいろはを『本物』ではないと判断しています。
※無意識に令呪に従っている状態です。本人はまだ令呪の支配下にある事に気づいてません。
※怖いコウモリちゃん(レミリア)を記憶し続けられるかは、怪しいです。
※令呪『見るもの全てを砂糖にして下さい』(2画分)で得られる魔力は、消費しました。


339 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/01(水) 23:34:53 olyoSJgc0




―――助けて貰いたかった。それが事実だろう。

マジェントはデラウェア河の底で身動きが取れなくなり、成す術を失った末。
きっと『Dio』が助けに現れてくれると、信じていた。
氷の海峡でもそうだった。あそこに偶然『Dio』が通りかかって、マジェントに手を差し伸べなかったら……

紛れもなく。
『Dio』はマジェント・マジェントにとっての『救世主』である。
そして――『救世主』に対し銃を乱射していた。


『どうした? マジェント。俺はお前を「助け」に来たんだぜ。何故、攻撃をする?』

『まあ、その前に「任務失敗」の罪を償って貰うが』


「うおぉおおぉっ、俺の傍に近寄るんじゃねぇ――――!!!」


しっかり『Dio』に銃口を定めている筈なのに!
マジェントがいくら『Dio』を撃ち尽くしても彼が倒れる事は無く、一層不敵で邪悪な笑みを浮かべているのだ。
当然だ。
彼の知る男は、サーヴァントは存在しない。ディエゴ・ブランドー……『Dio』は、そこにはいない。

バーサーカーの砂糖により、マジェントは錯乱状態にある。
彼が望んだ『幸福』が入り混じった支離滅裂な幻覚で惑わされ続けていた。
マジェントは落ち着きを取り戻す頃。
彼の中には、ディエゴに助けられたい願望やディエゴに復讐する恨みも消えており。
金輪際、関わりたくないという『恐怖』『畏怖』に近い感情が渦巻く。

「ハァ……ハァ……! Dio!? 逃げたんだなッ!!? もう二度と俺の前に現れるんじゃあねぇ!」

拳銃を片手に周囲を警戒して、彼が安堵を獲得しようとした矢先。
レミリアの宝具。
紅の槍による無数の拡散攻撃が襲いかかる。マジェントは『巻き込まれた』形に近い。
不運にも『運命を操る程度』の能力により必中攻撃が、的確にマジェントに一撃貫かれた。

だが、彼はタダで死なない。
宝具『死に損ないの虫螻(ボーン・トゥ・ブギー)』で確実な生存を保て、そして『仕切り直し(偽)』で離脱。
傷だらけの、相当な負傷状態ではあったが、一死報いるべく惨たらしく生にしがみ付く、


とはいえ満身創痍である。
何より、復讐心を打ちのめされた愚か者は、果たして立ちあがれるのだろうか……



【C-3 住宅街/月曜日 未明】

【アサシン(マジェント・マジェント)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)、肉体ダメージ(極大)、錯乱(中)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い。ディエゴの殺害優先?
0.今は戦線離脱を優先
1.???
2.二度と来るんじゃねぇ――! Dio!!
3.まだDioに似てる奴がいる!? 昔のDio!!?
[備考]
※Dioに似たマスター(ディオ)とそのサーヴァント(レミリア)を把握しました。
※バーサーカー(シュガー)の砂糖により錯乱状態ですが、時間経過で落ち着きます


340 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/01(水) 23:37:04 olyoSJgc0
投下終了します
続いて、マシュ&ブローディア、X&カーズ、サリエリで予約します


341 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:07:35 bieC/V0E0
サバフェスの締め切りに追われてますが、投下します


342 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:08:22 bieC/V0E0



現状、重要視するべきは『ノエル・チェルクェッティ』である。


彼女は実際、聖杯戦争のマスターではないのだが、それは参加者たちには明かされぬ事実。
日常生活を再現する『見滝原』の役割は――「誰がマスターであるか」を隠蔽する、一種のマスター保護の役割を為していた。
無論、怪盗Xやアヤ・エイジアは立場や行動から目立つ存在だ。
仮に彼らが有名人でなく、一切メディアに取り上げられなければ、誰も注目をしないだろう。

少なくとも……
ジリアン・リットナーと呼ばれる、マスターとして選出された少女に召喚された復讐者。
アントニオ・サリエリ。
彼は、まだ見定めていた。

ジリアン達のリハーサルで一時実体化し、演奏したのも理由の一つ。
これで仮にノエルのサーヴァントがいれば確実に、向こうからアクションがありえる。
無くとも――彼は深夜。
いよいよ聖杯戦争が開始する頃合いに。サリエリは、ジリアンによって把握していたノエルの自宅へ向かう。

彼女が貴族、という設定に似たものは役割づけられていた。
有名企業の社長。その娘という、一般人とは縁遠い存在。
尚更、見滝原でも貧相な家系の設定を持つジリアンとノエルは、やっぱり不釣り合いで何故友好関係にあるか違和感がある。


もしもの話。
彼女がマスターであったとしたら?
ノエルのサーヴァントと彼らの方針を見極める必要がある。
例え、本当にマスターでなかったとしても、あの主催者の文面によれば『本物のノエル』が巻き込まれている可能性も。

………しかし、サリエリは口にしてない。
ジリアンに可能性を伝えてなかった。
彼女を、マスターとして信頼してない訳じゃあなく、伝えれば一層彼女の意志と方針を揺らすからだ。


この際ハッキリ断言すべきか。
サリエリは、正直『聖杯戦争の主催者』を信用していない。
まるで奴らは『詐欺師』のようだと理解したからだ。
聖杯戦争開始に伴う主催者からの書類文面。一見、如何にもなほど単純で分かりやすいが情報の欠如がある。

冷静になり危惧するべき『保証』は聖杯の機能以外にもある。
一つ挙げるなら――マスターの処遇だ。
聖杯戦争終了後、果たして彼らはどうなるのか? 願いを叶えられて、その後は……
恐らく『帰還はできない』とサリエリは思う。否、そうだろうと考えている。

理由は討伐クエストの報酬だ。
聖杯戦争の放棄、願う者側からすれば他愛無い発想ではあるが、帰還する場合でも聖杯戦争の記憶を消去するとの記述。
だが『報酬』として掲示する以上、終了後に連中が帰還させる保証は?
逆に薄まる。信憑性も低下した。


どうして、特別でもないジリアンたちを巻き込んだ聖杯戦争が開かれたのかも定かじゃあない。
目的――があるのだろう。
なくては、イカレたパーティーの招待状たるソウルジェムも配布されまい。
故に、彼らは目的の為にマスターたち・マスター候補も生かす訳にいかない筈だ。


遠く彼方。けたたましいサイレン音が響いている………






343 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:08:46 bieC/V0E0
「誰か、いるのですか?」


気配を感じ取ってマシュ・キリエライトが振り返った。
その先、草影より現れたのは一匹の大型犬。念の為、ブローディアも実体化したが、犬が魔術的な類でないと感知し。
遠くに響くサイレン音に、耳を澄ませていた。
ブローディアが、現在いるマンションが立ち並ぶ住宅エリアを見回す。
どうやら、近辺に異常はない。
マシュは人なつっこく近寄る犬に少々戸惑うが、カルデアに居る小動物のフォウを思い出し、久方ぶりに笑みを零せた。

「飼い主と離れたのでしょうか」

「野良ではないのか?」

「ちゃんと毛並みも整えられて、食事も取っているような……至って健康に感じられます」

「中々の分析力だな。むしろ『推理力』か。マスターが『探偵』のようだぞ」

「い、いえ。私は大した事は………」

それより、気を取り直し。
マシュは手元で端末タブレッドを操作し、緊迫感ある表情で液晶画面に表示されたものをブローディアに見せる。

「ここから離れた住宅街で火災が発生しているようです。この時間帯の為、まだ詳細な情報が流れていませんが……」

「成程。サイレンはそれの――」

ブローディアが反応した。
液晶画面から顔を上げ、周囲の感知に集中すると――いる。
まずは、疎らに移動をする魔力……サーヴァントじゃあない。恐らくは使い魔。
位置的にブローディアとマシュから視認できない位置に出現している。
ブローディアは、手元に剣を出現させ、己の周囲に無数の『刃鏡』を展開させた。
マシュの表情が険しくなる。

「敵性反応のあるサーヴァントですか? シールダーさん」

「まだ何とも言えんな。位置も不規則で我々を取り囲む気配すらない……偵察部隊だろうか」

警戒を維持したままブローディアが魔力感知の範囲を広めた。
近辺に敵サーヴァントがいる筈だ。彼女が予想した通り、距離は相当離れた位置にあるが確かな反応が。
やがて、マシュの視界にも使い魔の姿を捉える事が出来た。

一言で表現するなら亡霊だ。
亡霊は、銃や鋭利な剣らしきものを手にしているが、マンション周辺を巡回するように見え隠れするだけ。
マシュたちに気づいていないのか?
傍らで落ち着きなく、大型犬がウロウロとマシュに訴えた。
犬などの本能で危機を察知する動物にも、使い魔を感じ取れるのだろう。

「マスター。まずはどうする」

「………」


344 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:12:42 bieC/V0E0
他の誰でもない。マシュが判断を下すのだ。
以前は、彼女の『先輩』――藤丸立香をマスターとし『グランドオーダー』を行ってきただけに、マシュがマスターとなり
明確な判断を出す責任。重大さにマシュは深呼吸する。
落ち着いて……状況の判断を。
ブローディアが口にした『探偵』めいた推理を可能な限り展開していく。

(使い魔の行動……魂食いが目的にしても、やはりアレは偵察…………敵の目的はサーヴァントのあぶり出し?)


345 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:13:19 bieC/V0E0
このサーヴァントに対し、早計な判断を下さず。まだ様子見するべきだ、と。
マシュは念話で伝えた。

『攻撃をしかけないで下さい。相手の方針が不明である点と、我々が聖杯獲得を目的としない意志を示すべきです』

『了解した。だが、動きは分からないものだな。あの使い魔で何かを探り出せるのだろうか』

『はい……民間人が襲われる事態になった場合は、シールダーさん。戦闘をしましょう』

それと。
彼女達の傍らで不安そうにする犬を横目に、マシュが言う。

『やはり、この犬の飼い主を捜索したいのです。もしかして事件に巻き込まれたのではと心配でして』

『フム。サーヴァントなどの手にかかった恐れか。有り得るな』

時間帯や場所、状況から。
現代日本の常識を考慮してもマシュ達の元に現れた犬には違和感しかない。
飼い主の身に『何か』が起きた。
何か――即ち聖杯戦争に関する事象に巻き込まれ、幸か不幸か犬だけは無事逃れ切ったのかも。推測の域から脱せない思考。
そんな中。
ブローディアがハッと顔を上げ『刃鏡』を前方へ浮遊移動させる。

「マスター! 敵サーヴァントの反応だ!!」

「それはあの使い魔の―――?」

「違う。私が『最初に』感知したサーヴァント以外の奴が、相当な速度で急接近して来るぞ!」


346 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:13:55 bieC/V0E0
瞬間、現場に響き渡ったのは銃声。
正確には『銃声に近い効果音』。敵は銃火器を所持していなかったのだ。
指だ。

彫像を彷彿させる肉体を持つバーサーカーが、遠距離より銃弾を指先から放っている。
彼の持つ異常極まりない生命『柱の男』が兼ね備える特性。
警察署で回収した銃弾を指先に移動させ、続け様に連射を行う。
一種のマシンガン状態だ。
微動だにせず、銃弾を連射しながらバーサーカーは、マシュ達に接近し続ける。
ブローディアが構えた『刃鏡』が銃弾を防御する。
ただの銃弾ではないと、ブローディアも徐々に破片が散る『刃鏡』を目にして理解した。

マシュは、目前をブローディアに任せて周囲を伺う。
あのバーサーカーのマスターや、他の主従の動きがないか警戒しなくてはならない。
すると。
つい先ほどまで巡回程度の行動を取っていた、亡霊の使い魔が武器を構え、こちらに向かっている!

「シールダーさん! 使い魔の方も敵性反応があります!!」

「しかし、雰囲気があのサーヴァントとは異なる……他サーヴァントが潜伏している筈だ、気をつけろ。マスター!」

「はい! これより魔力のバックアップを行います!」


―――――ぐぇ



ぐちゃ



「……………?」

マシュは唐突に静止してしまう。
気のせいか、そんな訳……だけども聞こえた。生理的嫌悪を催すような生々しい効果音が、マシュの耳元に。
銃声、使い魔、ブローディアの刃。どれにも該当しない場違いのモノ。

一瞬のことだった。
マシュの前で盾となっていたブローディアが、凄まじい形相で振り返った。
意味が分からない――状況が、マシュの瞳に光景が映し出されたのに、結局分からないのである。



マシュの傍らに居た『犬』が―――口から猟奇的な刃を吐き出したのだ。


347 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:14:31 bieC/V0E0




「やっぱり駄目かー……いけると思ったんだけどな〜」


なんて能天気に『犬に化けていた怪盗X』がぼやく。
細胞変異にも限度はあるらしいが、少なくとも大型犬程度ならXにも『変身』する事が可能だった。
至って普通だった犬から、上半身を人に形取って刃をブローディアへ刺し向けたX。
凶器は『刃鏡』の一つでギリギリ受け止められる。

マシュは言葉を失くす。
犬が人間に変化した光景ではなく、Xの行った所業とXの凶悪性そのものにだ。
通常、マスターがサーヴァントに一矢報いようとは考えない。返り打ちされる危険が高い。
サーヴァントの方こそ注意する筈。にも関わらず。

Xは明確な殺意を以て攻撃をしかけた。
ブローディアが『サーヴァント』だと理解した上で―――
不意打ちの形だが、マシュが出くわした『悪』とは比較にもならない、恐ろしいほど純粋で猟奇の所業を爛々と残す者。
今まで彼女が対峙した悪は、人でない者や人であるからこその殺人。
屁理屈を述べればXにも動機はあるが、罪悪感は無い。

おぞましい凶行の失敗を、残念そうな表情で済ますXに流石のブローディアは刃を振り下ろした。
無論。殺す為でなく、Xをマシュや自分から離す為に。
Xがブローディアの刃が襲う前に回避。それから―――

急接近してきた亡霊の使い魔。
銃を手にした個体がXに対し攻撃をしかけたのである。
Xも反射的に避けようとするが、数発肉体に命中。
されど焦りもなく平常で普通の表情で、使い魔の攻撃威力を確かめた様子。

(使い魔の方は、やはり彼らとは別の……それよりも……っ……)

マシュは冷や汗を浮かべる。
ひょいと身軽に跳躍したXは、近くの街頭に無数に増殖した足の指でガッシリと掴まり、
蝙蝠じみた宙吊りの状態で問いかけてきた。

「参考までに聞きたいんだけど、いつ俺に気付いた? さっき一緒に居た時は、バレてなかったよね」


348 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:15:13 bieC/V0E0
果たしてコレは人間なのか?
マシュも特別でないと断言できない身だが、Xに関してはマスターに選出された事実が異常だ。
圧倒する悪の傍ら。
いつの間にか、バーサーカーの銃撃は止んでいる。
彼の手持ちの銃弾を全て撃ち尽くされたが、さして重要ではないのだろう。バーサーカーが言う。

「余計な会話は必要ない。下がれ」

ブローディアが念話でマシュに伝えた。

(マスター、バックアップを頼む!)

(は、はい……!)

次の瞬間。マシュはブローディアの判断を理解する。
暴力的な『刃』がバーサーカーの腕――肉体より抉り現れた姿は、皮肉にもマスター同じく人の理を越えた光景だ。
バーサーカーの刃に光の魔力が灯るのに、Xがムスとした表情で忠告する。

「え。ちょっとソウルジェムは壊さないでよ? 観察したいんだから」

「『手加減して倒す』のは、無理な注文だ。奴を見て同じ事が言えるか?」

不満な態度でXが外灯から発つなり、バーサーカーが刃を宿した腕を軌跡を描いて降ろせば。
マシュ達の周囲に近付く亡霊の使い魔を瞬く間に薙ぎ斬る。
そして、ブローディアも魔力を込めて力を発動させた。



「『刃鏡螺旋』!!」


「『光の流法・輝彩滑刀』!!」



今ここに二つの斬撃が衝突する。
膨大な魔力によるエネルギーが衝撃波となって周囲に拡散するだけでも、周辺のマンションのガラス窓が震えるなり。
次々と破損し、ブローディアの『刃鏡』は桜吹雪のように舞い散り、バーサーカーへ向かう。


349 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:15:37 bieC/V0E0
ブローディアの背後に居たマシュには、激しい周囲の状況を視認する事が叶わず。
最中、ブローディアが言う。

「……気付けなかったな。奴が殺気を放つまでは。
 いや――正確には、殺気を感じ取れたにも関わらず、位置を掴めなかった」

Xに対する、彼女の返答だった。
まさか『人間そのもの』が細胞を変化させ犬に化けていたなど。
マスター全てが、化物染みた能力を保持してなくとも、Xは一種の領域外である。

斬撃で発生した砂煙が晴れた後。
マシュは周辺――少なくとも彼女らの居る範囲にあるマンション住民の騒ぎが始まろうとしていた。
自然と、誰かが興味本位あるいは危機感を覚え、こちらに顔を見せてしまう恐れがある。
どうにか一般人の巻き添えは回避しなければならない。

だが、人々の喧騒よりも先にマシュの耳に届いたのは―――戦慄。



                『至高の神よ、我を憐れみたまえ』



肉体と精神を害する音色。
マスターであり、デミ・サーヴァントとしての能力を失ったマシュには、身を受けるだけでも気を失いかける。
想像せずとも亡霊の使い魔。
その主たるサーヴァントの攻撃だと分かった。
砂煙の中、再び武器を構えた亡霊達が列をなして移動するのがチラリと見える。

「し………シールダ………さ……」

マシュの呂律が回らない。
それは、ブローディアの方も同じだ。
煙の合い間から銃口を向ける使い魔たちの姿、しかし。同じくしてブローディアの『刃鏡』も反応する。
音色で彼女の精神に多少なり影響があるものの。
一点集中。『刃鏡』一つだけを起動させ、油断してただろう使い魔達を裂いた。

が、やはり限界は到達する。
恐らく遠方より攻撃という名の演奏をし続けるサーヴァント。
マシュは噂の中。ダ・ヴィンチ同じく真名を看破している部類に属する英霊に心当たりがある。


350 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:16:01 bieC/V0E0
ブローディアが魔力による抵抗を以て、戦慄を物ともせずに一歩踏み出そうと試みる直前。
ピタリと演奏が中断する。
何故? 驚く彼女達だったが、我に返ってマシュがブローディアに呼びかけた。

「シールダーさんっ、一度霊体化の方を……」

「だが、マスター……件のサーヴァントは攻撃を仕掛ける筈だ」

砂煙が晴れると、怪物主従の姿はなく。
代わりに見滝原の住人たちが野次馬の前身として形状を為す最中だった。
少なくとも。
ブローディアの恰好は非常に目立つ。英霊としての装備、『刃鏡』も含め奇抜極まりない。
だからこそ霊体化するべきだ。マシュは冷静に一つ告げる。

「いいえ。それは『問題ありません』。私も先ほど気付いたのですが―――『私を』攻撃する意志はありませんでした」

「……フム?」

確かに使い魔は怪物じみたマスター・Xの方は攻撃したが、マシュは自身でなくブローディアの方に照準が定められていた。
戦闘経験ある彼女だからこそ、見抜けたかもしれない。
敵意ある存在とは言い難い。だが、突如として攻撃が止んだのは、理由が明白に存在する。
件のサーヴァントは、最低限聖杯精製に必要な『サーヴァント討伐』を優先していた事。
霊体化しつつ、ブローディアは念話で伝えた。

『マスター。戦線離脱と言いたいが……もしマスターの推測が正しければ、このまま人混みに紛れるべきだ』

「え? ………なるほど。あの主従を見逃す形になってしまいますが、状況は芳しくありません」

そう。良くは無い。
このまま他の住人を巻き込んでしまうのは、マシュにとっては不本意だ。
回避可能なら、素直に離脱する他ない。
自分の都合で他者を踏み滲む行為………それが『悪』でなければ何だと言う。
善処してるだろう件のサーヴァント―――否。

「―――『アントニオ・サリエリ』。彼を敵性と断定するには早計です」

煙が晴れた先。
市街地には在り来たりに設置されているマンホール。
マシュの視界へ入り込んだ身近にあるソレは、鋭利な凶器で大きく斬り開かれていた。


351 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:16:22 bieC/V0E0
【B-5 都心/月曜日 未明】

【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)精神&体力疲労(中)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]端末機器
[所持金]両親からの仕送り分
[思考・状況]
基本行動方針:元のカルデアに戻る。特異点の解決。
0.現場から離れる。
1.セイヴァーとの接触
2.協力者の捜索。ダ・ヴィンチちゃんと出会えれば良いが……
3.前述を達成する為、見滝原中学かテレビ局に向かうべきか悩み中
4.Xたちを放置はしたくない。
[備考]
※セイヴァーの討伐令には理由があるのではないかと推測しております。
※セイヴァーが吸血鬼の可能性を考えましたが、現時点で憶測に留めています。
※見滝原内に点在する魔力の残り香(ナーサリー・ライム)について把握しています。
※セイバー(リンク)のステータスを把握しました。
※X&バーサーカー(カーズ)の主従を把握しました。
※アヴェンジェー(サリエリ)の使い魔を視認しました。
 宝具や噂の情報から『アントニオ・サリエリ』のものだと推測しています。


【シールダー(ブローディア)@グランブルーファンタジー】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:自分の居るべき世界への帰還
1.マシュの方針に従う
[備考]
※見滝原内に点在する魔力の残り香(ナーサリー・ライム)について把握しています。
※X&バーサーカー(カーズ)の主従を把握しました。







「はぁー……ああいうのは駄目だなぁ」

襲撃に失敗したXがぼやく。
彼が嘆いたのはブローディア相手ではなく、もう一騎のサーヴァント。
演奏を奏でる復讐者に対してだ。Xもある程度の使い魔の攻撃を確かめる余裕すらある規格外の一人なのだが。
単純明快な肉弾戦でない。精神と肉体を遠距離より攻撃する『灰色の男』の宝具は不利にある。
いくら細胞を変化させられても、件の宝具の対処はXには困難だ。

当然だが『Xには』の話なだけあって、サーヴァントは別だろう。
実際、演奏で体の自由を奪われたXを救出したのは、彼のサーヴァント・カーズだ。
バーサーカー特有スキル『狂化』の影響と直感に似た性質のスキルの保有を組み合わさり。
ブローディアよりも多少なり動けた。

動けただけで十全じゃあない。
彼らはマシュたちと出くわしたのは『偶然』。本来の目的は、鹿目まどかの自宅へ向かう事。
そして、双方が逃げ込んだ下水道でカーズは冷静に告げた。

「面倒だが、このまま向かうとする。地上で他の連中が暴れ出したようだ」

「うん。警察や消防の動きもに異常が『観察』できた」


352 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:16:47 bieC/V0E0
でも――と。
Xが犬に『変身』する為、脱ぎ捨て。先ほど回収してきた服を着直しつつ問う。

「俺も動けなかった状況だけど、戦い続けても良かったんじゃない?」

「ああ、それか」

カーズは念の為、下水道に侵入する為に破壊したマンホールがある方角に振り返った。
随分もう距離は遠ざかってはいる。
交戦したブローディアとマシュ。彼女らの魔力が接近する様子はなかった。
やはりか。カーズは一つの確信を得た。
彼女達は聖杯獲得へと意志がない、ということを。

「魔力が足りん」

カーズの返答を聞き、Xは呆然としてしまう。

「派手にやったけどアレだけでそんな魔力減った?」

「自分がなんだと……いや。己が何者か分からないだったか。一つ教えてやろう。
 お前は紛れもなく『魔術師』の類――――『ではない』」

「………」

こんな異常な体だ。
Xは内心、ひょっとすればカーズのような人智を超えた生物。魔人に匹敵するものじゃあないかと。
少し、あるいは微粒子レベルに期待を抱かなかった訳じゃあない。

だけども。
実際に「違う」と明言されてしまうのは、ショックに似た感覚を受けていた。
自分の正体の範囲が狭まった筈。でも、何と言うか。こんな経緯で判明してしまうのは釈然としなかった。
案外、ドラマ性や運命を彷彿させる展開を望んでいたのかも。

複雑な表情を浮かべるXを傍らに、カーズは話を続けた。

「セイヴァーと出くわすのを考慮し余力は残してある。魔力の確保は……後だ。まずは移動をするぞ」

「なんだ……マスターに選ばれたから。もしかしたら〜って考えてたけど」

「不満を述べるな。いいか。少なくともセイヴァーを狙うのであれば、あの小娘共を出し抜く必要がある」

「ん? アイツらの『動き』……見るからに聖杯狙いじゃあないけど」

「そうだ。聖杯狙いではない。――なら、何を目的とするかだ」

「―――あ」

マシュとブローディアの動きは随分と短絡的で情報量の少ない動き、とXは観察で見抜いていた。
だが、現段階に得られる明確な情報の一つ。
即ち……セイヴァーだ。
彼を狙っているのはXだけではない。可能性として全主従に狙われても変じゃなかった。
何より。セイヴァーは『討伐令』があり。倒せば『報酬』を得られる。


353 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:17:18 bieC/V0E0
「不味いな。それもそれで困るよ」

少しばかり『討伐令』の存在を疎かにしていたX。
Xの目的は他主従にありがちな聖杯獲得の他にも『英霊の魂の観察』が含まれる。
確か、そう。
討伐報酬の中に―――『聖杯戦争の放棄』が一つ挙げられていたのだ。

想像してみれば、戦争を放棄し、マスターは帰還する。
同時にサーヴァントも消えてしまうではないか。
可能なら、いいや。絶対にブローディアの魂も観察したい。帰還されては困る。
しかも、帰還を望むマスターが他にいるだろう。

「案外、セイヴァーを優先させないと駄目ってこと」

「フン……ただし。お前が警戒するのは朝までで良いだろう。奴は吸血鬼だ。昼間に現れないのを考慮すれば
 あとは自然と、お前の『予告』に釣られる方を期待すれば構わないからな」

「うーん。どうかな? だって太陽に当たらなければセーフじゃん」

「……理屈はそうだ」

カーズが最も理解している。それは非常に危険な綱渡り。
けど、セイヴァーは『あえて』行動を取るとも限らない……故に慢心は出来ない。
二人がここまで移動したところで、カーズは地上の感知を行う。
下水道からの感知も、距離的に支障を来さない間隔である。カーズは少々眉間にしわ寄せた。

「高密度の魔力を感じる。使い魔……大規模な陣地か? しかしコチラまで影響は無いか」

「サーヴァント?」

「今は無視だ。地上に出れば不利になる」

カーズが感知したのは、シュガーの製造した『砂糖』。
『砂糖』の魔力は大部分まで感知したカーズだが、陣地作成には程遠いと理解する。
今、ここは敵の独壇場だろう。
本来であれば――生前通りに魔力を考慮せず戦闘を行える身であれば、一つ顔を出しても構わないのだが。


現状、重要視するべきは『鹿目まどか』である。


354 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:17:39 bieC/V0E0
乱闘事件とセイヴァーの情報を照らし合わせても、マスターの可能性が極めて高い。
万が一、マスターでなかったとしても……
カーズが不敵に笑い、そして

「X。見滝原中学の『誰か』になると言ったな。……鹿目まどかはどうだ?」

こう提案するのがやや珍しかった為に、Xも即座に反応出来なかった。
折角だから、案外いけるかもしれない。カーズは冗談交じりに提案したのかも。
目を丸くしてから、少し唸り、Xは結論を出した。


「だったら中身を『観察』しないと」



【C-4 下水道 移動中/月曜日 未明】

【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]魔力消費(小)肉体ダメージ(小・再生中)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]大振りの刃物(『道具作成』によるもの)
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯も得たいが、まずは英霊の『中身』を観察する。
1.鹿目まどかの自宅へ向かう
2.見滝原中学の『誰か』になって侵入する
3.アヤ・エイジアの殺害は予定通り行う
4.討伐令を考慮し、セイヴァーの殺害も優先する
[備考]
※アヤ・エイジアの殺害予告は実行するつもりです。現時点で変更はありません。
※警察署で虐殺を行いました。
※警察で捕捉可能な事件をある程度、把握しました。
※セイヴァーが『直感』で目をつけたマスター候補を把握しました。
※マシュ&シールダー(ブローディア)の主従を把握しました。
 彼女らが聖杯獲得に動いていないと知っています。
※前述の情報を一応記憶していますが、割とどうでもいい記憶は時間経過と共に忘却する恐れがあります。


【バーサーカー(カーズ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得
1.日が昇るまでの間にサーヴァントを倒す
[備考]
※警察で捕捉可能な事件をある程度、把握しました。
※セイヴァーが『直感』で目をつけたマスター候補を把握しました。
※マシュ&シールダー(ブローディア)の主従を把握しました。
 彼女らが聖杯獲得に動いていないと知っています。
※警察署で回収した銃弾は使い終わりました。
※バーサーカー(シュガー)の『砂糖』の魔力を感知しました。


355 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:18:01 bieC/V0E0




「―――全く、何事ですのっ!?」


あまりの騒ぎに一人の少女は寝床から離れ、自室の窓を一つ開けて外の様子を眺めた。
自宅よりも少し向こう側。マンション街周辺で何らかの事件が発生したらしい。
他にも、消防車のサイレンが耳に入る。
遠方では白煙が立ち上っているから、あそこで火事が起きたのだろうか?
憤りを抱いていた少女も、徐々に感情は不安に変わっていき、渋々窓を閉め、床につく。


「……ノエル・チェルクェッティ。彼女がマスターである可能性は低いか」


それを見守るサリエリが呟いた。
サーヴァント同士による交戦。使い魔の出現。これらに対する少女・ノエル側のリアクションは一切無い。
彼女はマスターではない。
あくまで暫定的な結論。これが覆る可能性は無きにしも非ず。
現在、強いて一つ不穏要素を挙げるなら……サリエリ自身の事だろう。


どういう訳か、アントニオ・サリエリは無辜の怪物に飲み込まれきっていない。
それ以上に、彼は自身を何者か理解している。


ごく当然で何ら違和感ない話だが、アントニオ・サリエリという英霊に限っては『ありえない』。
通常の召喚であれば、サリエリは自らを何者か分からずにいる。
今回は『何か』違う。
ジリアンがピアノに精通し、それでサリエリを把握しているから?
最初、サリエリも『そうだ』と受け流しかけたが、どうも違うのだと分かったのは。
先刻での戦闘。使い魔を召喚し、宝具を使用した際の感覚。外殻を纏った事で理解したのだ。

(強力な力により、我が『外殻』の妄執――『醜悪』が引き剥がされた。他サーヴァントの宝具が原因だとすれば……)

サリエリを飲み込む『灰色の男』が、怪物の断片が別の物に引き寄せられたような。
どうやら。
悪を引き離された事で、今回のサリエリの異変が発生しているらしい。
理性に支障はなくとも戦闘で万全な状態に整えられないのは、聖杯戦争において問題だ。

心当たりがつかない。
だが、もしあるとすれば……討伐令をかけられた救世主?


騒がしい街を眺めれば、まだ夜明けは迎えられそうに思えなかった。


【C-3 住宅街/月曜日 未明】

【アヴェンジャー(アントニオ・サリエリ)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの願いを叶えてはやりたいが……
1.ノエルの監視
2.
[備考]
※ノエル(NPC)はマスターではないと現時点では判断しています
※主催者はゲーム終了後、マスター達を帰還させないのではと考察しています
※マシュとシールダー(ブローディア)、X&バーサーカー(カーズ)の主従を確認しました
※『悪』を引き寄せる宝具を持つサーヴァントがいると分かりました。
 その宝具の影響で、宝具やスキルの威力が低下するようです。


356 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/11(土) 23:21:25 bieC/V0E0
投下終了です。タイトルは「私を泣かせて下さい」となります。
一部NGワードで引っ掛かったところがある為、そこはwikiで編集します。

続いて、弥子&魔理沙、アイル&ディアボロ、ダ・ヴィンチ、徳川家康、スノーホワイト
以上で予約させていただきます。


357 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/15(水) 23:45:18 Hn6GCoOA0
投下乙です

Xとカーズ、基本的に残忍なものの存外仲良くやっててほほえましいですね。Xの親のワカメの遺伝子のお陰でしょうか。
マシュ&ブロさんは下心なく互いに信用し合えているみたいでなにより。
というか、この聖杯戦争で互いに信頼し合ってる主従が少ない気がしなくもなかったり。



ヴァニラアイス、たま、暁美ほむら、鹿目まどか&兄貴、X&カーズを予約します


358 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/25(土) 17:28:28 SmPxlT/20
予約&感想ありがとうございます!

これより予約分を投下しますが、弥子&魔理沙、アイル&ディアボロのみの投下となります


359 : 厄神様の通り道 ◆xn2vs62Y1I :2018/08/25(土) 17:29:20 SmPxlT/20
深夜の見滝原は無論、昼間よりも人気がないものの。今夜に至っては騒がしい。
他にもサーヴァントが暴れており、消防車か救急車か。どちらか分からない音色が響き渡る。
ある程度、足先を進めていた少女・桂木弥子は周囲を警戒し、順調に自宅へ向かっていた。
弥子の傍らで共に並ぶアーチャーの箒に、洗濯物を干すみたいに少年・アイルは乗せられている。

非常に開けた場所で、誰かが居ればアーチャーの宙を浮く箒に注目する恐れがあった。
弥子はいよいよ立ち止まり、アーチャーと深い眠りに沈むアイルを振り返る。
不安を帯びて弥子が尋ねた。

「このまま大丈夫かな……?」

アーチャー……霧雨魔理沙は険しい表情で周囲の感知をする。

「サーヴァントも使い魔の気配もないぜ。少なくても私達の近くに限ってだが」

「この人のサーヴァントも?」

アイルを横目にやる弥子に問いかけ。
それに対しても、魔理沙が表情を崩さずに答えた。

「本当にアサシンだったら気配遮断で感知は出来ない。何とも言えないな」

「そっか……」

「まぁ、少なからずサーヴァントと出くわす覚悟はした方が良いぜ」

弥子は思案する。
彼女も奇妙な体験をした身、聖杯戦争で決断一つが重要である事を承知していた。
サーヴァント同士の戦闘。
改めて、平凡かつ普通の弥子にはついて行けない現実が突き付けられた。

しかし。

彼女の腹の虫が訴えるかの如く、耳障りな音を静寂の夜を切り裂くように長々と響かせた。
桂木弥子は、空腹だった。空腹、よりもエネルギー不足だろう。それも生命の危機に瀕するレベルの『空腹』である。
魔理沙が用いた魔力消費や、サーヴァント同士の戦闘から離脱できた安心感のせいか。
腹が鳴る音は異常を極めていた。
流石の魔理沙も呆れではなく、深刻気味に唸った。

「悪い、つまみ食い用のキノコはさっきマスターが食べた分で終わりだぜ」

「だよね。うう……食べるしかない………」

涙を浮かべつつ弥子は、クーラーボックスを開けて釣りあげた魚――大き目の鯉を一匹手に取る。
魔理沙は慌てて静止する。

「おいおい! そのまま食うのはやめろって」

「もう限界!!」

「こんなんに魔力を使いたくなかったけど――ホラ、これで魚を焼くぞ」


360 : 厄神様の通り道 ◆xn2vs62Y1I :2018/08/25(土) 17:30:14 SmPxlT/20
魔理沙が取り出したのは『ミニ八卦炉』。
戦闘でも加速装置っぽい活躍をしたマジックアイテムを、コンロ代わりにするとは夢にも思えない話だ。
実際、ミニ八卦炉は魔理沙が放出する火力を加減出来るので、食料を焼くのは最適である。

味付けも無いに等しいが、とにかく食べなければ動きようもない弥子は仕方ない。
パチパチと鯉が見事に焼けて行く音が、最先端の近未来都市の一角。
誰の姿もないヨーロッパ基調を彷彿させるレンガを敷き詰めた道なりの途中で響いた。

鯉を焼き終えた頃合いには、一旦二人は物影に腰をおろして。
申し訳ないが、寝入っているアイルも道に横たわらせ、一時的な休息とする。
数分も経たない内に、弥子は鯉を完食した。

「ハァ……やっと落ち着いた。ごめん、アーチャー……」

「なら良いんだけどな。他のサーヴァントもこっちに気付いちゃいなかったし
 ……いや、気付いてても戦いに専念してたんだろうぜ」

戦闘。聖杯戦争は刻々に展開を広げている。
無我夢中に弥子が鯉を食している内に、一体どれほどのサーヴァントが己が思惑を胸に行動していた。
死者がいないことを願いたいものの。
弥子達は、重大な危機――飢饉に陥ろうとしていた。

そもそも戦闘が無ければ、最低でも一日分の食料を確保する予定でいたのだ。
また日を改めて釣りに……いや池の釣りは難しい。沿岸側で試みる他ない。
何より。
今日一日食料はどうするべきか。圧倒的に『足りない』。
主催者が提供した主従関係を深める為の準備期間で、すでに残金は0に近いほど使い果たしてしまったと言うのに。

先を見据えると、更に悲しさが増す弥子。
誰かに食べ物を恵んで貰いたいものの、欲する量が圧倒的に『普通』を凌駕している。
彼女へ救いの手を差し伸べる者はいるのだろうか?


「……つくづく理解できない点が多い」


そう誰かが語る。
アイルでもない、弥子じゃないし、魔理沙でもなかった。
なら、これはアイルのサーヴァントの声か?

「『この』見滝原と呼ばれる街は、聖杯戦争の為だけに用意された舞台装置でしかない。
 幾人かのマスターやサーヴァントの行動から分かる通り。
 僕達は犯罪行為を禁止事項であるとは一言も注意していないにも関わらず……
 桂木弥子。君は人間特有の『良心の呵責』で食料を盗むのを躊躇し続けている。死に直面する状況であっても」

トコトコ、そう効果音を鳴らし歩んでいる風な一匹の白い獣が現れた。
猫?に近いだけで、異なる生命体だろうが、少なくとも弥子や魔理沙の知識にもない存在であった。
白い獣が語り続け。
そして、気配もなく出現した獣を、弥子と魔理沙は注目せざる負えない。
困惑と警戒を渦巻く彼女達を余所に獣は愛想良い態度で告げた。


「僕の名前はキュゥべえ。君を助けに来たんだ、桂木弥子」


361 : 厄神様の通り道 ◆xn2vs62Y1I :2018/08/25(土) 17:30:41 SmPxlT/20




生生しい現実だが『キュゥべえ』と自称する謎の獣が差し出してくれたのは『現金』。
基本的に、一個人を擁護する行為は主催側は行わない。不公平だからだ。
だが、桂木弥子の救済措置は『彼女の不公平』を他のマスターと公平にする為に行うらしい。

「僕達は常に見滝原全土を監視し、観察し、状況を把握している。
 検討の結果。桂木弥子、君は肉体の燃費消耗が平均よりも異常に悪いと判断させて貰った。
 この『食料資金』は存分に使用して貰って構わない。食料問題に再び直面した際も、最低限のサポートはすると約束しよう」

「え……えっと。ありがとう、ございます……?」

可愛らしいマスコットにお礼を述べるのを、弥子は現実味ない感覚で戸惑い気味だ。
魔理沙は、如何にも怪しんでキュゥべえをジト目で眺める。

「後から高額請求しないって保証はあるのか。大体、ホントにお前……主催関係者?」

「そうだね……」

キュゥべえは意味深に間を置いてから答えた。

「まず、君のマスター・桂木弥子のサポートに関しては十全に行うと誓おう。
 この事を次の定時通達に触れておこう。それで信用してくれる筈だ」

「なら昼までは分からんな。じゃあ、さっきお前もベラベラ喋った通り、
 私達が食べ物を盗む可能性もあった。それを待たなかったのは何故だ?」

「君たちが食料を盗む可能性は0に等しいと判断したまでだ。最もこれは『僕達』の意見ではないのだけどね」

呑気に毛づくろいする仕草を見せ、キュゥべえは続ける。

「僕達は聖杯戦争を完遂させなければならない。
 その過程で『マスターの餓死』と言うイレギュラーな脱落は、最低限回避したいんだ」

「完遂ねえ……率直にお前たちの目的を聞かせて欲しいんだが」

「ちょ、アーチャー」

直球な問いかけに弥子も驚く一方。
キュゥべえそのものが、特別目につく反応を起こす事は無い。不気味なほど淡々と。
感情らしい素振りも見せずに、機械的な返答をした。

「残念だけど、その質問は答えられない」

「ふうん」

「誤解しないで貰いたいから、これだけは教えよう。僕達の目的を君たちに明かしても格別支障はない。
 むしろ、明かした方が君たちは納得して貰えると推測している」

「お前の言い分がますます分からん」

「ある事情で君たちに情報を開示する事が出来ないんだ」


362 : 厄神様の通り道 ◆xn2vs62Y1I :2018/08/25(土) 17:31:02 SmPxlT/20
キュゥべえの言葉を聞いても、弥子と魔理沙は理解と納得に無理がある。
恐らく、キュゥべえも彼女達の心情を察しているだろう。
ただ、如何なる手段を用いても情報開示は叶わない意志表示だけは明白だった。
これ以上、何を質問しても『無駄』だと。

「僕の役目も終わった。向こうに戻るとするよ。桂木弥子、君の健闘を祈る」

闇に溶け込むように踵返す獣を、魔理沙は見届けるだけにする。
主催側の存在とはいえ、まだ仕掛ける時じゃない。
弥子の食料事情が皮肉にも改善された以上、無理に敵対してはならない相手なのだ。
ポンと呆気ないほど容易く増えた現金を眺め、キッチリ仕舞い込んでから弥子は魔理沙に聞く。

「アーチャー……さっきの生き物?に覚えはある……?」

「キュゥべえ? いや無い。アレこそ使い魔っぽい印象はあるな。口ぶりからして背後に誰か居るんだろう」

キュゥべえは主催側を称していたが、どうやら異なる存在――黒幕がほのめかされていた。
実際、少し言葉を交わしただけであっても。
弥子はキュゥべえが『言葉通じるだけ』の生物で。
まるで個々の中身もない、量産された人工知能と対話するような印象を抱いた。
魔理沙が改めて尋ねる。

「マスターはどう思う」

「……キュゥべえは聖杯戦争の主催側の存在だと思うよ。他のサーヴァントの使い魔って感じはしない。
 ただ。なんだろう。変だけど、本当に嘘はついていないんじゃないかな」

弥子の言葉は、極々稀に鋭い部分もある。
彼女はキュゥべえを純粋に『一つの生命』として注視した視点で語っていた。
使い魔風情程度。勘触る程度にも扱わない人造人間(ホムンクルス)に扱う魔術師のような感覚では想像に至れない領域。
ごく普通の人間だからこその視点。

だが、深く考えても答えは導き出せない。
キュゥべえの、主催者の思惑を無視は出来ないが……それ以前にやらねばならない点が多かった。
弥子は魔理沙に真剣な表情で頼んだ。

「そういう事だから、アーチャー。――――残りの魚、全部焼いて欲しいんだけど」

「おい」






363 : 厄神様の通り道 ◆xn2vs62Y1I :2018/08/25(土) 17:31:34 SmPxlT/20
呑気に魚を焼いてる場合じゃないが、手元に十分な現金を確保した意味で、弥子は安心の空腹を感じたらしい。
ただ、調理に時間を裂く訳つもりはなかった。
食料確保ばかりを重視し、空腹で頭が回らなかったからこそ、弥子は冷静に状況を見定める。
今日まで、割と色々あった事を思い出す。

アヤ・エイジアへの犯行予告……相手はよりにもよって怪盗X。
悪の救世主の集会。それは明日、市民ホールで開かれる。果たして彼の救世主は現れるのか?
そう……救世主。

弥子はある程度、焼き終えた鯉を半分ほど平らげた段階で、ピンと脳に一筋衝撃が走った。
討伐をかけられていた救世主。
――ソレに酷似した少年と、昼間に出くわした事を思い出す。
咄嗟に『人違い』で終わらせてしまったが……残った鯉を食べ終えて、弥子が言う。

「ねえ。昼間に会ったセイヴァーに似た人……何だったんだろう」

「あの良く似た奴? 少なくともサーヴァントじゃないけどな」

魔理沙も遅れて反応した。
しかし、実際に彼がマスターだったとしたら。
人気多い商店街で戦闘になりかねない状況だったし、聖杯戦争開始前に戦闘を行えば、あのキュゥべえに指摘されていたかも。

禁止、とは明言されてなかったが。
後から面倒事に成り得る雰囲気も少なからずあった。
魔理沙以外のサーヴァントが、嫌がおうにも大人しかったのは暗黙の了解に近しい。
改めて空腹が落ち着き、弥子は周囲の取り巻く状況に対し考える。少なめの、魔人に言わせればミジンコ並の脳で。

「アヤさんの事は放っておけないよ」

怪盗Xの変身能力は異端でイレギュラーだ。
よっぽど勘の優れた、あるいは看破能力を秘めた英霊でなければ、一度でも騙されること間違いない。
脅威であり、弥子は奇跡的に非現実な事態でXと対峙した事があったからこそ。
対処法を模索しろ、と言われても。
対処のしようがない、が最適解だった。
マスター・弥子の考えを分かるからこそ、魔理沙は頭を抱えた。

「アヤって奴を探すか? Xは探そうにも姿形を変えられるんじゃあなぁ」

「そうしたいけど、アヤさんがどこに居るのか分からないし。全然情報も無いんだよね……だから悩んでる」

「んー……テレビ局で接触する方が確実って事か。あとは―――『暁美ほむら』だな。
 しかし、コッチも見滝原中学はマスターが侵入できない。私は霊体化なり、侵入したって良いけど」


364 : 厄神様の通り道 ◆xn2vs62Y1I :2018/08/25(土) 17:32:10 SmPxlT/20
考えに考えた結果。残念ながら、妙案は浮かばない。
むしろ、弥子はどうも最初の『謎』が脳裏に過るのだった。
再度確認として討伐令の写真――『セイヴァー』の姿を見直す。

……似ている?

むしろ弥子が出会った少年が……例えば『成長したら』。セイヴァーに近付くかもしれない。
似ているんじゃあない。
ひょっとして―――まさか『同じ』?
弥子は「ねえ」と魔理沙に呼びかけてセイヴァーの写真を見せた。

「アーチャーが会った『時を止めたサーヴァント』と似ている? それとも……同じ?」

「んん?」

妙な質問だ、と魔理沙は思うが。改めて写真を眺め直す。

「…………『似ている』だな。同じとは思えない。アッチの方が細身だったけど」

「細身?」

「見かけよりも雰囲気が違う気がする」

「そっか」

全ての、最初の謎は『セイヴァー』が関係しているんだろう。
聖杯戦争の根本と関係あるかは不明で、だけど……弥子が巡り合った彼と似た少年も。
魔理沙と対峙したサーヴァントも。
似ているか、同じにしろ。無関係ではないのだ。
最も、討伐令に関する問いかけをキュゥべえが返答してくれる訳がない。


そして……弥子は一つの決断を下す。






「―――報告は以上です。ボス。ですが、奴らが『わざと』間違った情報を流している可能性もあります」

電話(捨ててあった折りたたみ傘)を耳に当てながら、一人の少年が言う。
アサシンの別人格・ドッピオ。
彼もまた、特殊な気配遮断により姿形を完全に消し去っている状態にあった。
ドッピオは、弥子達の情報をボス……即ち、主であるディアボロに伝えている。
彼女らは「ひょっとしたら周囲にアイルのサーヴァントが居るかもしれない」と考慮している筈。
『電話』ごしのディアボロは、冷静に答えた。

『奴が本当にアヤ・エイジアと交流ある人間ならば「まだ」利用価値がある………
 良いか、ドッピオよ。奴らは取るに足らない、聖杯戦争に反旗する側だからこそ「隙」が生じる
 恐らく……奴らは「セイヴァー」との接触を優先する筈だ』

「な、何故セイヴァーに!? まさか、アヤ・エイジアに関する警戒はフェイク……あっ、ボス!」

物影より弥子たちの様子を伺っていたドッピオは、彼女達の動きを見た。
相変わらず、アイルを箒に乗せ。
弥子と魔理沙は徒歩だが、確実にどこかへ向かおうと足先を向けている!


365 : 厄神様の通り道 ◆xn2vs62Y1I :2018/08/25(土) 17:32:36 SmPxlT/20
「奴ら、どこかへ向かうようです! こっちの尾行を撒くつもりだ!」

『いいや。違うぞ、ドッピオ! 奴らの行き先は分かる……「見滝原中学」だ』

「え……奴らが? 一体どうして」

『奴らは「情報」を得ていないのだ。アヤ・エイジアの居場所、怪盗Xの所在……話に挙げていた
 セイヴァーに似た連中に関する手掛かりも。奴らが唯一知るのは討伐令にかけられた「暁美ほむら」!』

弥子たちから新たに『セイヴァーに似たマスター』という忌まわしき情報が浮上したが。
アヴェンジャーは間違いなくディアボロ達の追跡を行わず撤退。
彼の行方も不明のままだ。
しかし、あの戦闘からしばらく経過した今まで『時間停止』は幾つか発動されている。


魔理沙とディアボロが出くわしたアヴェンジャーは、理屈に合わず『5秒しか』時を止められない。
逆にセイヴァーは『5秒以上』。
『入門』が容易な時間停止……恐らくマスター側が発動していると思しきものは、何秒どころじゃあない。
アレは魔力次第では数分も簡単な筈。ディアボロの敵ではないが……

一番の問題は『長時間の時間停止』を行ったサーヴァントだった。
どうもソレがセイヴァーの『時間停止』とは比較にならない、高度な宝具だと分析出来るほど。
レベルが違う。
ディアボロの警戒する更なる脅威が浮上したのだ。

(今は確実な脅威の一つ、セイヴァーを抹消しなくては………)

『ジョバーナ』の一族とディアボロが嫌悪する彼らも、あの宝具を黙認する訳がないと想像できるが。
それとこれは別だ。
魔理沙たちを『利用』するように、誰かを味方につける甘い考えは取らない。

『このまま追跡をしろドッピオ! セイヴァーが現れた時、この私がそちらに向かい「倒す」!! 分かったな』

「わかりました……」

ディアボロとの電話が切れる。
手にしていた折りたたみ傘を放り捨て、ドッピオも一つ考えていた。
彼は別人格である以上、彼自身の思考もある。

「ボス……嫌な予感がするのは僕だけですか………『顔が似ている』とか『能力が同じ』とか
 どうしてこうも『セイヴァー』と似た奴がいるのは『何故』なんだ……?」

キュゥべえなる謎めいた使い魔。
大概、胡散臭い雰囲気を隠し切れていないせいも含まれているが。
ドッピオは新たな不安を抱き始めた……






366 : 厄神様の通り道 ◆xn2vs62Y1I :2018/08/25(土) 17:33:07 SmPxlT/20
「実際、どうなんだろうな」

魔理沙がぼやく。弥子の『暁美ほむら』との接触を悪くはない。
ただ肝心の暁美ほむらは、見滝原中学に現れるのだろうか?
弥子は、申し訳なく思いながら邪魔になる釣り道具を、あのまま放置して、記憶を呼び起こす。

見滝原中学校。携帯端末で場所を確かめる。
先ほど弥子たちから近い位置で謎の白煙が上がったりして、戦闘の恐れもある方角だ。
避けて、見滝原中学へ向かう場合、遠回りになる。
アイルを連れてゆくなら、尚更ルートはソレで行く事だろう。

「でも……私達に今できる事は、これしかないよ」

「だな。他のサーヴァントとも会えるのを期待するか」

新たなる期待を胸に彼女達が向かう先、そちらに希望なるものがあるとは限らない。



【B-3/月曜日 未明】

【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]携帯端末
[所持金]数十万
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の『謎』を解く
0.見滝原中学へ移動する
1.セイヴァー、あるいは暁美ほむらとの接触
2.アイルとは話をしたい
3.キュゥべえについては……
4.時間が近づけば、アヤの救出に向かいたい
[備考]
※バーサーカー(玉藻)を確認しました。
※セイヴァーに酷似したサーヴァントが時間停止能力を保持していると把握しました。
※アサシン(ディアボロ)に関する記憶は完全に忘却してます。
※主催者側の存在、キュゥべえを知りました。
※セイヴァーに酷似した存在達に何らかの謎があると考えています。


【アーチャー(霧雨魔理沙)@東方project】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]無
[装備]魔法の箒
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:弥子の指示に従う
0.そっくりさんは三人居るってもんだよな
1.見滝原中学へ移動する
2.時を止める奴は信用しない。
3.キュゥべえも胡散臭いな……
[備考]
※バーサーカー(玉藻)を確認しました。
※アヴェンジャー(ディエゴ)を確認しました。時間停止能力を保持していると判断してます。
※アサシン(ディアボロ)に関する記憶は完全に忘却してます。
※アイルのサーヴァントがアサシンではないかと推測してます。
※主催者側の存在、キュゥべえを知りました。


【アイル@グランブルーファンタジー】
[状態]魔力消費(小)精神疲労(大)熟睡
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]親(ロールの設定)からの仕送り分
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に戻る
1.セイヴァーの討伐報酬を狙う
[備考]
※ライダー(マルタ)のステータスを把握してます。
※バーサーカー(玉藻)を確認しました。
※ボーマンに乗っ取られている間の記憶はありません。


【アサシン(ディアボロ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]ボーマンに対する苛立ち、ドッピオの人格で行動中
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1.見滝原中学へ向かう
2.ボーマンの件もあり、現時点ではアイルの周囲に留まっておく
3.セイヴァー(DIO)の討伐を優先にする
4.時間能力を持つサーヴァントは始末する
[備考]
※アヴェンジャー(ディエゴ)の時間停止スタンドを把握しました。
※セイヴァー(DIO)はジョルノと『親子』の関係であると理解しています。
※アヴェンジャー(ディエゴ)はセイヴァーと魂の関係があると感じました。
※ホル・ホース&バーサーカー(玉藻)の主従を確認しました。
※弥子&アーチャー(魔理沙)の主従を確認しました。
※『長時間の時間停止』を行うサーヴァント(杳馬)の宝具を認知し、警戒しています。


367 : 厄神様の通り道 ◆xn2vs62Y1I :2018/08/25(土) 17:33:46 SmPxlT/20




「さて……君に言われた通りにしたよ」

キュゥべえ。
と、可愛らしい名称を名乗った生物だが、実際は『インキュベーター』なる名を持つ彼らに格別感情は無い。
外なる生命体。死すら感覚に無い、我々人類が『宇宙人』と呼ぶに相応しい存在。

先ほど弥子たちと接触した個体は、見滝原ではない別空間に移動していた。
見滝原で行われている聖杯戦争の観測場。
あらゆる現象、あらゆる状況、あらゆる情報が集束・解析される所。

ここは一種の『干渉遮断フィールド』だ。
無数のインキュベーターがそこに集い、聖杯戦争の観察を続けている。
一方で、見滝原に一度移動したインキュベーターの一体が、ある者に話す。

「僕達としては、桂木弥子の餓死が発生したところで支障はない。
 何故なら、彼女の召喚した『霧雨魔理沙』の情報は戦闘を通して凡そ89%回収し終えていたからね」

それでも弥子の支援を施したのは?
件のインキュベーターが語る。

「むしろ僕達にとって想定外なのは『君が付け加えた』討伐令だ。
 正直、セイヴァーの討伐令を取り下げたいのだけど……どう交渉しようが、君は受け入れないだろうね……」

だから仕方ない。
インキュベーターは感情があれば呆れ、やれやれといった振舞いを見せる。
無意識に挑発する生物に対し、相手が問いかけた。
ん? とインキュベーターが振り向いて、露骨のつもりは無いが、誤解を与える印象を残す態度で答えた。

「セイヴァーの観察は既に終えていないのか、だって?
 ああ、君には説明してなかったね。僕達の観察に関心がないとばかり――……」

相手の反応を見て、更にインキュベーターは悩ましく。

「やはり『人間』はいつもそうだね。少し説明が遅れただけなのに、決まって同じ反応をする。訳が分からないよ」

瞬間。
そのインキュベーターはパン!と風船が破裂したように、体が無残に四散する。
周囲に座るインキュベーターも、残酷な光景を目の当たりにしたうえで。
鳴き声一つ漏らすどころか。
淡々と聖杯戦争の観察へと行動を切り変える。


異常極まりない光景と世界に、誰も正義や正気の在り方を投げる声は一つも無かった。


368 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/25(土) 17:36:00 SmPxlT/20
投下終了します
改めて ダ・ヴィンチ、徳川家康の予約をします。


369 : ◆xn2vs62Y1I :2018/08/28(火) 22:12:12 O6JzYtgw0
現在の予約にディエゴ(ライダー)&レイチェル、プッチ、マミ&什造を追加します


370 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:02:34 RcBqFOFg0
投下乙です
主人格であるボスがとにかく目の前の脅威に必死なのに対して、ドッピオはその先にある疑問に踏み込んでいるのがイイですね。
基本、部下は使い捨てるボスも兼ねてより「愛しのドッピオ」扱いするわけです。
ヤコちゃんはもう少し自重してください。QBは残機は無限でもサイフには限りがあるんですよ。
せっかく仕事を果たしたのに無情にも潰されるQB不憫。
現状からわかる主催者の情報は、パシリと化したQB、討伐令を付け加えるほど眼鏡と時間停止が嫌い、干渉遮断フィールド...
崖っぷちでくるくる回ってそう(小並感)

分割になるので途中まで投下します。


371 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:04:08 RcBqFOFg0





あれ、なんだろうこれ。





ガ オ ン

 ガ オ ン

  ガ オ ン

そんな音と共に下水道の壁や床、至る箇所がコルク形に削り取られていく。
魂喰いを終え、沸騰しかけていた思考が幾らか落ち着きクールダウンした彼は、いざという時の非常口をせっせと作り上げていた。
非常口になぜ下水道を選んだのか。それは、彼や彼の主(あるじ)に共通する性質のひとつ、『吸血鬼』が理由である。
本来の伝承通り、吸血鬼は、日光を浴びることができない。我慢すればどうにかなるものではなく、数秒浴びせられただけで身体は灰と化し消え去ってしまう。
そのため、彼はこうして敬愛する主、セイヴァーことDIOの為に道を作っているのだ。

グ オ オ オ

己のスタンド、クリームの口内から顔を出し、狂信者ヴァニラ・アイスはキョロキョロとあたりを見回し削り取った成果を観察する。

「ふむ...まだ足りんな」

クリームの中にいる間、彼は外からの情報の一切を知ることが出来ない。
そのため、道ひとつ作るのにも、こうして逐一顔を出し、己の頭の中のイメージ図と照らし合わせなければならないのだ。

(こんなものではDIO様を迎え入れることなどできん。次はあの道を空けて...)

己が主、DIOが歩む可能性がある道は魂を込めて快適にしなければならない。
ヴァニラ・アイスは再びクリームに潜り込み道を作る為に進む。

彼は気づかなかった。

己が削り作った穴とは別の、おおよそ一メートル程度の穴が密かに口を開けていたことに。


372 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:05:27 RcBqFOFg0



明らかに人工的なものだな。辿れば何者かには会えるだろう。

ふーん。で、どうするの?

そうだな...





「あ、あれ、おかしいなぁ」

犬吠埼珠は首をかしげていた。
記憶が戻りサーヴァントが召還される以前に、『下水道ならきっと大丈夫』と気晴らしで作った穴。
彼女が家族や家康に内緒でこっそりこれを見に来たのは、彼女なりの考えがあってのことだった。
自分は馬鹿だ。学がなければ大した信念も覚悟も持ち合わせていない駄目な子だ。
そんな自分を、あの血みどろの惨劇なんて知らない頃の自分を見ればなにか腹を決められるかもしれない。
あるいはこれからの参考になるかもしれない。
家康に内緒でやってきたのは、彼が内心であまり信用していないというのもあるが、それ以上に、こういったことは自分ひとりでやらないといけないと思ったから。
そんな浅はかながらも自分なりに考えた結果、今までの自分を見つめなおすことを思いついたのだ。

尤も、彼女でなくても、思い出の場所などへと訪れれば、過去にふけりそれだけで満足し終わってしまう可能性は非常に高いのだが。

まあなんにせよ、彼女なりに自分を見つめなおそうと頑張ろうとしたその矢先に見つけたのが、下水道の至るところに穿たれた無数の穴なのだから、冒頭の困惑も生じてしまったのだが。

(わたし、ここに穴を作ったっけ?)

記憶力にはあまり自信がないほうだが、しかしそれでもどの程度の穴を作ったかくらいは漠然と覚えている。

(もしかして、わたし以外にも穴を掘れる人がいるのかな)

いくら自分に学がないとはいえ、こんな綺麗な穴が自然に空くとは思わないし、自分が掘れるなら他に掘れる人もいるだろうと考えも及ぶ。
実際、よくよく見れば自分の力で開けるものとは削り方も違う。となれば、誰かが空けたのだと結論に至ることはさすがの自分でも可能だ。

(だとしたら、早く離れないと)

振り向き駆け出すたま。
しかし慌てて逃げようとしたものだから、濡れた足場に足をとられ、つるりと滑り額を床にぶつけてしまう。

「...きゅう」

変身前ならいざ知らず、いまの彼女は未熟ながらも魔法少女である。
一昔前の漫画のように足を滑らせ転倒、そのまま気絶なんてことはありえない。
とはいえ無防備な姿で転倒し顔を打てば、当然痛みはある。

もしもここにたまの初めての友達がいれば、ドジだのノロマだの散々罵倒した後に、額を見せろと言って、大したことがないとわかると「それくらいでいちいち落ち込むな、馬鹿」と額を小突かれて終わりだっただろう。

だが、いまの彼女の隣にはその友も他の友達も誰もいない。
なんのかんのいって世話を焼き、手を貸してくれた者たちがいない以上、たまのミスをフォローできる者など居はしない。

故に。

「ねえ、どうしたのこんなところで」

痛みに蹲っていた為にやってきた災厄から逃れる術など犬吠埼珠にありはしない。


373 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:06:11 RcBqFOFg0



ふむ。これが能力だとしたら...なるほど。

なにぶつぶつ言ってるのさ。まだ駄目なの?





(ようやく着いた...!)

暁美ほむらは、目的地である鹿目まどかの家に辿り着くなりホッと胸を撫で下ろした。
家を出て、道中に遭遇したホル・ホースと別れてからさほど時間は経過していない。
だが、ここまでの道のりは、まるで、自分の一挙一動が全てスローモーションになったかのようにひどく長く感じた。。
焦がれるものほど待ち遠しい感覚とはこういうものなのだろうか。

(なんでもいい。いまは鹿目さんの安否を確認しなくちゃ...)

ほむらはインターホンに指を突きつけ―――止まる。

(...押しても、いいのかな)

いまは既に0時をまわっている。家中の電気が消えていることから、既にまどかと彼女の家族は寝静まっているようだ。
こんな時間帯にいきなり人様の家へと訪ねるのはどうだろうかとか、家族に迷惑はかけないだろうかとか、そもそも門前払いを食らうのではとか、そもそも彼女に会ってなにを言えばいいのかとか、今更になって様々な不安と疑問が押し寄せてくる。

(そもそも、鹿目さんがマスターじゃなかったら、聖杯戦争のことを伝えてもどうしようもない。マスターだったら話は早いけど、彼女にはマスターであってほしくない)

今更ながら自分の迂闊さにため息が出てしまう。まどかのもとに向かうことで頭がいっぱいで、自分のすべきことすら曖昧だった。
こんなことでは彼女を護ることなど夢のまた夢。
パン、パン、と己の頬を叩き、思考を冷静にするよう努める。

その、集中力が乱れた刹那。

ヌッ。

ほむらの背後より現れた腕がほむらの口元を押さえ込み。

グイッ。

左腕を捻りあげられ。

ドンッ。

ほむらの身体は壁に押し付けられてしまった。


374 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:07:03 RcBqFOFg0

「!?」

瞬く間の奇襲に、ほむらの思考は驚愕と得たいの知れない者への恐怖に包まれる。

壁に押し付けられつつも目線だけは背後へと向け、襲撃者の姿をどうにか確認する。
下手人は、レインコートに丸めがね、そして口元を覆う日用マスクと明らかに不審者の出で立ちだった。

(いつの間に...気配もなく...!)
「動くな。言葉も発するな」

男―――ランサーのサーヴァント、宮本篤の囁きにほむらは抗えず、彼の言いなりに言葉すら発せず、ただただ篤を凝視することしかできない。
ハァ、ハァ、と互いの呼吸音が空気中で交じり合う。

「......」

やがて動いたのは、篤。ほむらの口元を塞ぎつつ、拘束したまま鹿目家の玄関から距離をとる。

それほど遠くない距離―――五十メートルほど離れたあたりの路地裏で、篤はほむらを突き飛ばした。
仰向けに転がるほむらは、その隙に変身しようとするも一手及ばず。
篤はほむらの腹部に跨り動きを拘束し、丸太を顔へと突きつけていた。

(駄目...この男、隙がない...!)

ほむらの魔法、時間停止はその性質上、触れている者には効果を及ぼさない。
仮に止めたところで、篤が触れている限り彼を止めることはできないのだ。

もしもこれがセイヴァーならば、単純に力に訴えることができたかもしれない。
が、彼女自身、上に乗る篤を振り払う技術も力もないのは自覚している。

魔法も力も通用しないとなれば、もはや打つ手はない。
この体勢になった時点で、ほむらの敗北は決していた。


375 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:07:42 RcBqFOFg0

(そんな...こんなにも簡単に...)

まどかの為に命をかける覚悟はできているつもりだった。
もしも最初のまどかや巴マミのように、まどかを護って命を燃やし尽くすのならまだ納得できていたはずだ。
けれど、不審者染みた敵にこんなにもあっさりと捕まり命を散らすことになるとは思っていなかった。

(嫌...死にたくないよ...!)

目から涙が滲み始める。このままなにもできずに息絶えるのは嫌だ。
けれど状況はどう足掻いても変えられない。変わろうともしてくれない。
セイヴァーだって、元から信用している訳ではないが、こんな情けないマスターなんて放っておくに決まっている。
自分はこのまま死ぬしかないのだ。情けなく。惨めに。ゴミのように。
嫌だ。嫌だ。嫌だ―――

「...あそこのガキの魂は上物の匂いがした」

篤の囁きに、ほむらの目が見開かれる。

「あいつの魂を食らえば、俺は更に強くなれるはずだ。お前を片付けたら、たらふく食らってやる」
「ッ!」

まどかの魂を食らう。
その言葉を聞いた瞬間、ほむらは跳ねるように上体を起こそうとして額を丸太にぶつけた。

「〜〜〜〜〜〜〜!」
「お、おい」

痛みで悶絶するほむらに、篤は思わず労わりの声をかけそうになる。
が、そんなことをほむらが気にかける余裕などあるはずもなく。
ただただ感情を言葉に乗せる。

「か、鹿目さんに手を出さないでください!魂なら、わ、私のをあげます。だから、あの子をこれ以上傷つけないで!」


376 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:08:07 RcBqFOFg0

涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらほむらは訴える。
あの娘を傷つけるな。見逃してと。
そんな訴えを聞き、篤はマスクの下で口元をフッと緩めた。

「お願いだから、もうあの子を...」
「ああ。傷つけなんてしない」

その返答に、ほむらは思わずポカンと呆けてしまう。

「手荒な真似をしてすまなかった。立てるか?」

ほむらの身体から離れ、篤は手を差し伸べる。

「えっと...」
「俺はまどかのサーヴァントだ。お前のことはあいつから聞いているよ、ほむらちゃん」
「あなたがサーヴァント...なら、鹿目さんはやっぱり」
「ああ。あいつもマスターだ。ただし、聖杯は狙っていないがな」

差し出された手をとりながらも、やはり理解が追いつかず、ほむらはまだ呆けた顔を浮かべていた。

「あの、どうしてあんなことを?」
「こんな夜分遅くに家に来るなんて流石に不審に思ってな。もしかしたらあいつを殺そうと狙ってきたんじゃないかと疑ったんだ」
「......」
「本当に悪かったと思ってるよ。ただ、本音を知るにはあれくらいはやらないといけなかったし...」
「あ、いえ、別に怒ってる訳じゃなくて...ちょっとホッとしたというか」

まどかがマスターだった。予想はしていたものの、やはり実際に判明すると心地はよくない。
しかし、彼女のサーヴァントはこんな真似をしてまで彼女を護ろうとしてくれた。
自分のサーヴァント、セイヴァーでは絶対にありえない行いだ。

なによりこの警戒心の高さはまどかの弱点を補ってくれているので頼もしい限りだ。
まどかは誰よりも優しい娘だ。こんな状況でも聖杯を狙っていないのは彼女らしいというべきだが、それが弱点でもある。
誰にでも手を差し伸べてしまいがちなまどかだが、篤が共にいれば危険な者を見抜いてくれる。


377 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:08:37 RcBqFOFg0


(彼が護ってくれるなら、きっと鹿目さんは大丈夫)


本当ならば、このまままどかと合流し、これからも共に行動していたい。
けれど、セイヴァーとまどかは決して相容れない。
セイヴァーは悪の救世主であり、まどかはまかり間違っても悪ではないからだ。
もしもセイヴァーの前に自分に反する者が現れればどうなるか...少なくとも、まどかはロクな目に遭わないだろう。
ならばこそ、セイヴァーとまどかを会わせる訳にはいかない。

まどかの安否とサーヴァントは確認できたのだ。再びセイヴァーが自分のもとに現れる前に退散しておくべきだろう。

「...鹿目さんには、よろしく伝えておいてください」

まどかの家へと戻りかけていた篤の足がピタリと止まる。

「ほむらちゃん?」
「たぶん、あなたたちも知ってますよね?私とセイヴァーが指名手配されていること」
「....ああ。まどかもそのことで心配していたよ」
「あれがある限り、きっと私たちは狙われ続けることになる。私の問題で、鹿目さんを巻き込むことはできませんから」

そう。セイヴァーのことを差し引いてもだ。自分とセイヴァーは指名手配されており、もしもまどかが共にいれば、確実に彼女にも被害が及んでしまう。
まどかの安全を願うなら、やはり離れることが最善手なのだ。

「...そうか。そいつは仕方ないな」

篤もまたほむらの考えを理解し了承の言葉を返す。
篤の目的は、なるべくまどかを傷つけないことだ。
如何にほむらが友達であれど、討伐令が出ている以上、関われば敵を増やすことは自明の理だ。
そして、まどかがそんなほむらを見過ごすことができないことも。

ならば、ここは彼女の望み通り別行動をとるべきだろう。

「彼女をどうかよろしくお願いします」
「ああ。任せておけ」

そして二人はくるりと踵を返す。
ここにまどかの味方は『二人』いる。二人の間には、それで充分だ。
たとえどちらかが力尽きようとも、残った片方が彼女を護る。
無言の約束は、確かに彼らの間に交わされていた。

(私は私のできることをやらなくちゃ)

ほむらは決意を新たに、物陰に身を隠しつつ慎重に周囲を見回す。
ここまでで面と向かって遭遇したのがセイヴァーの知り合いホル・ホースだったからよかったものの、もしも好戦的な主従に見つかれば目も当てられない。
今更遅いかもしれないが、せめて周囲からの奇襲くらいには気を配らなければならない。

壁に手をつきつつ、そろそろと進み周囲へと気をまわす。




―――ゾリ。


378 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:09:51 RcBqFOFg0

ふと、指先に違和感を覚えた。
なにかの溝のような、小さな違和感を。

ほむらの意識は、何気なくその違和感へと向けられる。

袖についた埃を取るときのように、無意識的に。

「......」

違和感の正体は、壁に刻まれた文字だった。

『この ラクガキを見て』

まるで鋭利な刃物か彫刻刀で彫ったような文字は確かにそう刻まれていた。

『うしろをふり向いた時 おまえは』

文章はそこで途切れていた。

否―――その先は、ほむらの指先に未だ残る違和感が解になる。


 ゴ
  ゴ
   ゴ
    ゴ


「......」

いま、隠している指をどければ答えは見られる。


それはある種の欲と言い換えてもいいだろう。
全体の3/4ほど流したロック・ミュージックのように。やり掛けの仕事の終わりの目処がついた時のように。
『この先を完成させたい』。
その無意識下の欲が、ほむらの指を動かした。


『死ぬ』


ぇ、と小さく声が漏れる。

周囲には気配はない。魔力もソウルジェムに反応するものはない。
なのに、背後を見れば、死ぬ?
背後にいるのは―――


顔を傾け、視線だけを背後に向ける。


視界に映るは、一っ跳びでほむらとの距離を詰め、丸太を振り上げていた篤。

なにか声を出す間も、恐怖する間もなく。


グチャリ。

丸太は、血に濡れた。


379 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:10:47 RcBqFOFg0



まあ待て。こいつを観察したところでお前の中身が解る筈もない。

なんで?

逆に聞くが、こいつがお前の求める中身だとして、それで納得できるか?私ならご免蒙るな。

そ。あんたの気持ちもわからないでもないけど、俺はそれでも構わないよ。なんであれ、俺は俺の正体がわかればそれでいい。
...まあ、闇の一族とかいう『個』を持ってるあんたには無縁の気持ちかもしれないけどね。

そうかもしれんな。だが、ここでこいつを殺すのは止めておけ。

なんで?

利用価値は大いにあるということだ。




鹿目まどかの覚醒は突然だった。

微かに父の声が聞こえた気がして、うすぼんやりと瞼が開いて。

うとうととしつつも、耳を澄ましてみると、とん、とん、と階段を昇る音が耳に届いた。

コン、コン、とドアを叩く音がする。

「まどか、起きているかい?」

父・知久はそう尋ねつつ部屋に入ってくる。

「おっと、起こしちゃったかな?」
「ううん、大丈夫。どうしたの?」
「さっき、まどかの友達が落し物を届けに来てくれてね。なにか慌てていたのかすぐに帰っちゃったけど」
「友達...?さやかちゃん?」
「たまって名前の女の子だよ。僕は知らないけど、まどかのクラスメイトかい?」

たま。そんな名前かあだ名の子はいただろうかと考え、思い当たらず首を小さく傾げる。

「おや、知り合いじゃなかったかい。まあ、今度会えたらちゃんとお礼を言っておくんだよ」

ハイ、と知久から手渡されるのは、ポケットサイズの小冊子。学生証だった。


380 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:11:41 RcBqFOFg0

「こういうものは無くさないようにちゃんと管理しておくんだよ」
「うん、わかった」

「パパ〜?」

寝ぼけ眼を擦りながら、弟・タツヤが部屋に訪れる。

「ろーしたのー、パパ〜、ねーちゃ〜」
「どうやらこの子も起こしちゃったみたいだね」
「なんでもないよ、タツヤ」
「ん〜」

むにゃむにゃと欠伸をした途端、タツヤの頭がカクリとうな垂れる。
お子様にとってこの時間の起床は辛いものがあるのだ。

知久は、タツヤを抱きかかえまどかへと背を向ける。

「お休みパパ」
「...お休み」
「パパ〜?」
「はいはい。パパはここにいるよ」

未だ寝ぼけているのか、何度も『パパ』と『ねーちゃ』の単語を呟くタツヤと共に、知久は部屋をあとにする。
彼らを見送ったあと、まどかはふうとため息をついた。

(こんな調子じゃ、篤さんに怒られちゃうな)

まどかは自分の迂闊さに呆れていた。
学生証を落としていたことにではない。それに気がつかなかったことに対してだ。
いくら怪盗Xの事件にショックを受けていたのを差し引いてもなお迂闊といえる。
学生証には自分の住所が書いてある。聖杯戦争において個人情報を知られることがどれだけ恐ろしいか、考えずともわかる。
自分だけでなく家族までもが危険に晒される可能性があるからだ。

自分が眠りについている間に始まってしまった聖杯戦争だが、他のマスターに拾われる前に手元に戻ってきたのは幸運としか言いようがない。

それにしてもだ。こんな夜遅くに学生証を届けてに来てくれた『たま』とは何者だろうか。

(もしかしたら、『たま』ちゃんもマスター...?だとしても、なんで学生証を返してくれたんだろう?)

彼女をマスターだと仮定してもだ。わざわざ学生証なんて返しにくる必要性はないし、ああして家族が無事である謂れもない。
あるとすれば、単純な善意としてくらいのものだろう。

(もしもたまちゃんが善い子なら、きっと聖杯戦争も拒んでいるはず...なら、わたしはたまちゃんに会いたい)

もしもたまがマスターであるならば、共に力を合わせて聖杯戦争を止めたい。
まだ彼女が迷っているとしても、聖杯戦争を拒む自分がここにいることを伝えたい。

とにもかくにも、いまは彼女に会うべきだ。

知久が言うには、家に訪れたのは先ほどのようなので、今から追いかければまだ間に合うだろう。
変身し、窓から身を乗り出そうとした矢先、また学生証を落としてはいけないと鞄を掴み寄せ、普段入れている外側のミニポケットに手を入れる。

(あれ?)

指先に触れた違和感に気がつき、ソレを掴み取り出した。

「私の学生証...あるよ?」


381 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:12:20 RcBqFOFg0




(まどかの家に残っていて正解だった)

篤は、丸太で押し付けたその先を見据えて思う。
もしも自分が偵察に出ていれば、全ては最悪の方向に進んでいた。
思いとどまらせてくれたのは、かつての恋人、涼子の存在だ。

かつて、雅に騙され1人病院に向かった涼子は、そこで雅にレイプされ吸血鬼にされた。
時間にしておよそ一時間。それまでは、家族と共に笑い合っていたというのに、自分が目を離してたった一時間で彼女の運命は潰えてしまった。
その経験から、彼は偵察へ向かうのを躊躇い見張りに徹することにしたのだ。

(危うく俺はまた同じ間違いを犯すところだった。あいつを守るのを運になど任せてはいられない)

そう。
運命だとか天におわす神様だとか、そんなものに縋ったところで現実にはなんら意味を齎さない。
まどかを守る。それは、自分の力で為さなければならないのだ。

だから


「逃げろほむらちゃん。こいつの相手は俺がする!」


ここで退くわけにはいかない。


ほむらの鼓動がドキドキと高鳴る。

(なに...なんなのこいつは!?)

未だ状況が読み込めていない。
わかっているのは、篤が丸太を振り下ろしたのは自分にではなく地面から生えた腕に向けてということだけ。

先のラクガキも、この腕の仕業なのだろうか。


「フン...微かな気配に反応するとは。中々の腕前だな、ランサーのサーヴァントよ」


382 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:12:57 RcBqFOFg0

抑え付けていた丸太を跳ね除け、ズルリ、と地面から男が這い出て、その全身が地上に露になる。
筋骨隆々のその男の名はカーズ。頂上生物『闇の一族』の生まれのサーヴァントである。

カーズの姿を見た篤は、その存在感に圧倒され言葉も失っていた。

(この邪悪な圧力は雅―――いや、俺の肌が正しければ、あいつ以上だ)

篤の背中に冷や汗が伝う。震える手は武者震いかそれとも緊張や恐怖からか、自分でもわからない。

「ハッ。腕に自信があるようだが、壁の落書きに気を逸らして不意打ちなんてずいぶんセコイ真似をするんだな」

だからこそ、表面上だけでも余裕を見せ、敵に呑まれぬように軽口を叩いた。

「なんとでも言うがいい。私にとっての戦いとは如何に合理的に進め勝利を納めるか。ただそれだけのことよ」

ギラリ、と輝くカーズの眼光に、篤は思わずたじろぎかける。

(雅と違い大きな慢心はないか...なるほど、手ごわい)
「...あんたの言うとおりだ。戦いに卑怯もクソもあったものじゃない。勝てば官軍、負ければそれまでのことだ」

言いながら、篤はとてつもない不安と焦燥に駆られる。果たして自分はこの男に勝てるのかと。


383 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:13:26 RcBqFOFg0


「やあああああ――――!!!」


篤の背後より響く叫び声。
それは紛れもなく逃がしたはずのほむらのものであり、篤は思わず動きを止めてしまう。

直後、頭上をゴルフクラブが回転しながら通り過ぎ、そのままカーズへと飛んでいく。

「くだらん」

中々の速さを伴う剛速球にも構わず、カーズは手を伸ばし止めようとした。

が。

ゴッ


鈍い音と共にカーズの後頭部に走る振動。
眼前にまで迫っていたはずのゴルフクラブは既に其処にはなく、いつの間にかカーズの背後にまわっていた暁美ほむらの手中にあった。

「小癪なっ!」

サーヴァントたる、いや、それ以前に、人間とは比べ物にならないほどの頑強さと身体能力を有するカーズにその程度の打撃ではダメージなど通らず。
ほむらが背後にまわっていた術がわからずとも関係ない。ただただその理不尽なまでの暴力をもってして、目的を達すればそれでよいのだ。

バリバリ バリ

カーズの腕が裂け、鋭利な刃が表出する。カーズの能力のひとつ、輝彩滑刀(きさいかっとう)の流法である。

その異様さに、ほむらはとっさに後退するも、速度はカーズのほうが上。ほどなくして、刃は彼女の身体に届くだろう。
それを防ぐのは、カーズの背後へと迫る篤。彼は、ゴルフクラブの殴打により微かに動きが止まったカーズの隙をつき、既に接近を開始していた。

無論、彼の存在を失念していたカーズではない。敢えて背を向けることで彼の接近を誘発していたのだ。
振り向き様に刃を振るうカーズ。丸太ごと篤の身体を切りつけるはずだったそれは、しかし丸太を両断することなく食い込み止る。
瞬間、篤は丸太を地面に立て、それを軸に身体を回転させ、後ろ回し蹴りを頬にお見舞いした。

数歩後退するも、カーズへのダメージは微量。
追撃は不可能だと悟った篤は、丸太を軸に高飛びの要領でカーズの頭上を飛び越え、ほむらの隣に着地する。


384 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:13:54 RcBqFOFg0

「なんで逃げなかった」
「私が逃げて、あなたが斃されればあの子が狙われるかもしれない...そう考えたら、ここであの人をどうにかしないとって思ったんです」
「...それもそうだな」

篤は、改めてほむらをまどかの味方だと認識を改める。
彼女を守るために、こんな死地にまで踏み込もうというのだ。そんじょそこらの『友達』では収まらないだろう。

「作戦を立てている暇はない。いまはとにかくあいつに近寄りすぎるな」
「はいっ!」

知らなければならないことは山ほどある。
ほむらの能力のタネや、自分の能力を互いに伝達しあえば、有効な作戦も立てられるだろう。
だが、いまここで必要以上に言葉を交わせば、カーズにも気取られてしまう。
2対1と、数だけでみれば勝っているが、元来の主従ではない上に、能力は二人を足してもカーズが上。
状況は依然絶望的である。

(まどかを念話で呼ぶことはできない。あいつが、こいつ相手にまともに立ち回れるとは思えない)

まどかは確かに人外の力を持った魔法少女である。また、篤とも本来の主従であり、組めば存分に主従としての力を発揮できる。
しかし、篤からみてもまだ未熟であり、なによりその温和な性格からしてカーズのようなアクティブプレイヤーとは相性が非常に悪い。
ただでさえ誰も死なせたくないと願う彼女が、英霊とはいえ人格も持ち合わせるカーズを果たして殺すことができるのだろうか。
そもそも、まどか1人が加わったところでこの戦況が覆るとも思えないが。

「マスターが一匹にサーヴァントが一体...個々では大したことはないが組まれればチト面倒だ」

カーズは、己がまだ優位に立ちつつも冷静に現状を分析する。
そう。能力的には勝っているし、まともに戦っていれば、最終的には勝利を収めることはできるだろう。
だが、カーズには太陽というタイムリミットがある。

時間的にそろそろ始めの朝日が差し込む頃合だ。
それまでに、このままの距離を保って戦い続ける篤とほむらを仕留め切れるかは五分五分といったところだろう。


385 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:14:12 RcBqFOFg0

「ならば簡単なことだ。...やれ」

ボコッ

カーズが、二人には聞こえないほどの小声でぼそぼそと呟くのと同時、二人の足元が崩落した。

「えっ!?」
「なっ!?」

あまりに唐突な現象に、二人は思わず反射的な対応になる。
篤はバランスを崩しながらも、咄嗟に落ちつつある地面を蹴り逃れ、ほむらは為すすべもなく底へと落ちていく。

「くっ」

篤は落ちていくほむらへと手を伸ばそうとする―――が、迫るカーズの膝に妨害された。

「これで振り出しだな。...どうする、サーヴァントよ」
「そこをどけっ!」

丸太の代わりに日本刀を手にし、篤はカーズへと振りかぶる。
カーズの刃と交叉しキンッ、と金属音が鳴り響く。
篤は剣を幾度も振るうも、全て防がれカーズにはかすり傷ひとつつかない。
その堅固なまでの守りに、篤は巨大な鉄塊へと剣を振るっているような錯覚に陥る。

ギンッ、と一際大きな音を立てて始まる鍔迫り合い。
篤は呼吸が荒くなり汗を掻いているのに対し、カーズは呼吸ひとつ乱さぬほど平静だ。

「ここを通りたいか?あの小娘が気がかりか?...ならば追わせてやろう」

鍔迫り合いで均衡して数秒。パワーで勝る筈のカーズは―――脱力し仰け反った。それも、背後の穴に身を投げ出すように!

「し、しまっ...!」

拮抗する可能性も押し返される可能性も考慮していたが、肝心のカーズが自ら穴に身を晒すとは思っていなかった篤は、体重をかけていた勢いで前のめりとなり、カーズ諸共穴へと落下した。


386 : 命ノゼンマイ(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:14:51 RcBqFOFg0



ねえ、そこまでやるのってめんどくさくない?

必要だ。あの女はマスターだからな。



(なんなんだろう、あの穴の数...)

下水道に落ちたほむらは眼前の光景に困惑していた。
この下水道というコンクリートジャングルにおいて、異様なほどポッカリと口を開けていたたくさんの穴。
明らかに人工のものではあるが、まさかあれが原因で足元が崩落したのだろうか。
ほむらはひとまず『ここに留まるべきではない』と判断する。
ひとまずは離れなければ―――その直後、カーズと篤もまた下水道へと落下してきた。

「やれ、マスター!」

篤との離れ際、カーズの叫びと同時、ほむらの傍にあった壁が破壊され穴が作られた。
その下手人の姿は―――確認できない。

(これがあのサーヴァントのマスターの能力...!)

篤もほむらも、マスターが特殊能力者という例を知っているため、その思考に辿り着くのは早かった。
そして、この能力の持ち主がカーズと組んで戦うことの恐ろしさも。

「逃げろほむらちゃん!」

再びの逃走指示に、今度はほむらも素直に従い駆け出す。
その後を追うように、ほむらが走り去った壁から順に破壊されていく。

「貴様ひとりで私の相手をするつもりか」
「よく言うじゃないか。そう誘導したのはお前だろう。その証拠に、あの穴を空ける奴はほむらちゃんを追うことだけに専念している」
「ほう。気づいていたか。ならばなぜみすみすと従った」
「お前の誘導に従うということは、逆に言えばお前の計画が達成されるまであの子の命が保証されるということだからだ。加えて」

篤は立ち上がり武器をとる。
日本刀でも丸太でもない、正真正銘の本気の武器。
ランサーの称号を与えられた真の武器、『薙刀』を。

「ここで俺がお前を倒せばその計画自体も台無しになるというわけだ」

篤は薙刀を握る力を強める。

(劣勢の状況なんていつものことだ)

今までの彼岸島でもそうだった。1対多数なんて当たり前、時には邪鬼に襲われ、格上である雅とも直接戦った。
あのイカれた島において自分が有利な状況など数えるほどしかない。
それでも生き残るために、守るためには戦うしかなかった。
そんな状況を、幾度も乗り越えてきた。

「さあ来い化け物。俺が殺してやる!」

腹は決まった。後はやるだけだ。


387 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:15:47 RcBqFOFg0



(おかしい...)

駆け出してから数分、ほむらは攻撃に対する違和感に足を止める。

(あの攻撃には、まるで敵意を感じない)

ほむらを追うように開けられる壁の穴は、一定の間隔をもってあけられる。
右が開けられれば次は左に。その次は右。左。
まるで振り子のように穴は開けられる『だけ』で、一度も足元を狙うことがなければ天井を崩すようなこともしない。

(この攻撃は私を倒すためじゃなくて、私を追い立てるもの?だとしたら...)

ほむらから見て右の壁に穴が開いた。それから10秒ほどで、反対側の壁に、また10秒ほどでまた反対側の壁に穴が空けられた。

(私が立ち止まっていることにも気がついていない...だとしたら)

10秒ほど経過し、壁に穴が空く。その瞬間―――

カシャン。

時間停止―――ほむらを除く全てが静止した。

(ソウルジェムの浄化の安全な目処がついていない以上、あまり使いたくはなかったけれど...)

一番新しい穴を覗き込み中を確認する。

いた。
両掌を覆う大きな肉球の手袋に、頭部をすっぽりと覆う犬耳つきのフード...犬のような印象を受ける赤髪の少女がそこにいいた。

(この子が攻撃の正体...)

少女の足元を見れば、そこには通路のように掘られた跡がある。
それを見てほむらは理解した。
この少女は、自分の能力で壁に穴を空けては地面を掘り進み、壁に空けては掘り進みという行動をしていた。
攻撃ではなく、ただただほむらを追い立てるもの。
それが、10秒ほどのタイムラグの正体であり、ほむらが立ち止まったこともわからなかった原因だ。


388 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:16:14 RcBqFOFg0

「......」

本当ならば、この隙に銃でも撃って殺害、百歩譲っても再起不能くらいにはしておくべきなのだろう。
けれど、暁美ほむらには未だ殺人への抵抗があった。
聖杯を手に入れて願いは叶えたい。殺人も、友達を通して経験してしまっている。
それでも尚、全てが不要だと割り切れる冷徹さはまだ持ち合わせていなかった。

なにより、少女の腫れた頬や首筋につけられた微かな傷跡、それになにかに怯えるように潤んだ目を見れば、否が応でもわかる。
この少女は、バーサーカーに脅迫染みたことをされて従っているのだろうと。

ほむらはゴルフクラブを取り出し、少女の頭にポスリと乗せた。


そして、時間は動き出す。


「え、わ、ひゃぁっ!」


いつの間にか乗せられていた異物に、少女は取り乱し慌てふためく。
その際に、彼女の爪で傷ついた瞬間、破裂したかのように四散したゴルフクラブを見て、下手に近づかなくてよかったとほむらは内心で安堵した。


「あの...」
「ひ、ひいっ!」

声をかけられた少女は、とっさに通路側へと飛び出し顔を抑えて蹲ってしまう。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

涙声で、機械のように何度も謝り続ける少女を見て、ほむらは居た堪れない気持ちになる。
まるでかつての自分を見ているようだった。
病弱で、虚弱で、何にも出来ない、まどかに救われる前のあの自分を。


389 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:16:36 RcBqFOFg0

「...大丈夫です」

だから、ほむらは放っておけなかった。

「私はあなたを傷つけたりしません。ただ、少し話を聞きたいだけです」

例え、戦場において甘い判断だったとしても。
例え、いずれは戦うことになる相手だとしても。

悪の救世主も怪物もいない今だけは、彼女の味方でいてあげたかった。
いまのほむらには、まだ、かつての自分のような弱い人を簡単に切り捨てることはできなかった。

ほむらの言葉に、少女の顔は綻びかけるものの、瞬時に再び恐怖の色に塗りつぶされる。

「だ、駄目なんですっ。あ、あの人のことを話しちゃ...ごめんなさい、ごめんなさいっ」

口封じ―――あの男ならそれくらいはやっておくだろうとほむらは察した。
恐らく、彼女が下手に口走ればその時点でクビを斬られるくらいの脅迫はしているはずだ。
ほむらとしても、それを理解したうえでなおバーサーカーについて聞こうとまでは思えない。

(なら別のこと...この子のことから聞こう)
「あなた、名前は?」
「え、えっと、たまって呼んでください」
「たま...じゃあ、たまさんで。たまさんは、こういう壁とかに穴を空けられるんですね?」
「は、はいっ」

やっぱり、自分のことなら答えてもよさそうだとほむらは手ごたえを掴む。

「じゃあ、私が落ちてきた時にあったたくさんの穴も、たまさんが作ったんですね?」
「あ...」

言いよどんだたまに気がつき、ほむらは首を傾げる。

「あなたじゃないんですか?」
「半分くらいはそうなんだけど、他にあるやつは私じゃなくて...穴の大きさとかも違ってて」

大きさがどうとかは、一瞬だけしか見ていないほむらにはピンと来なかったが、言われてみれば、足元を崩落させるにしても数が多すぎたかもしれない。
なら、その半分は誰が...?



 
  オ
  
     ン


390 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:16:59 RcBqFOFg0

ほむらの背後の壁が、そんな音と共に球形に穴を空けた。
たまの仕業ではない。ならばこれはいったい―――

ガオン

  ガオン  ガオン

壁が、地面が絶え間なく削られていく。

しかし、それはほむらとたまの周囲には触れず―――破壊も収まった。

緊張の面持ちで虚空を見つめるほむらとたま。

グ オ オ オ

突如、空間より、球形に丸まったなにかが這い出てくる。
丸まっていたソレは、口から己の下半身を出し、更にその中から茶髪の男が這い出て、ストン、空間から着地する。

額にハートのマークの装飾をつけ、ブルマー姿の筋骨隆々のその男は、ほむらたちを見下ろし静かに言葉を漏らした。

「貴様か...DIO様の御道を荒らす不届き者は...」


391 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:17:38 RcBqFOFg0





「うおおおおおお!」

吼える。吼える。

気合と共に振るわれる薙刀は、並大抵の者ならば数十回は切り刻まれているほどの速さと力強さを有している。

だが、相手は人外中の人外。
篤の必死の猛攻も、かすり傷ひとつ負わせることすら敵わない。

「フンッ!」

篤の猛攻を潜り抜け放たれるは、カーズの後ろ回し蹴り。
地上で篤が放ったものと同じだが、その威力は比べるべくもない。
まるでライフルにでも撃ち抜かれたかの如き衝撃が篤の腹部に走り吹き飛ばされる。

もうこのやり取りも何度目だろうか。

篤の身体は、もはや痛めつけられていない箇所などないと思わせるほどに汚れ、傷ついていた。

「英霊であることを差し引いても、波紋も使えぬ身にしてはよくやった方だ。ワムウがいれば歓喜していたことだろう」

だが、と言葉を切り、倒れ付す篤の頭を掴み身体ごと持ち上げる。

「貴様は私を化け物だと言ったな。ならば敢えてこう言ってやろう。人間よ、これが貴様の限界だ。貴様に護れるものなどなにもありはしない」

突きつけられた言葉が、自分を嘲り嗤うその顔が、篤の脳裏にひとつの像を浮かび上がらせる。

『お前に私は殺れない。これは運命だ。神が決めたことなんだよ』

像は瞬く間に変貌し姿を象っていく。
色白の肌に銀色の髪。篤の怨敵である男―――雅へと。


392 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:18:22 RcBqFOFg0


「ガ」

瞬間―――篤の両腕が、傷ついた身体からは考えられぬほどの速さで突き出される。

「ガアアアアアアア!!!」

篤を突き動かすものは、復讐心。生前の彼の戦士としての原動力であり、戦いの全てであったもの。
眼前の敵を、また自分から奪おうとする『雅』を殺す。その執念が、彼の身体に力を与える。

カーズの首を絞めようとした腕は、地面に叩き伏せられ届かない。

「喚くな下等生物。私がその気になれば貴様なぞいつでも殺せる...それは貴様もわかっているだろう」

ギリ、と歯軋りが鳴る。
篤もわかっている。自分がいま生かされているのは、カーズのマスターが傍におらず、万が一にも別のソウルジェムに篤の魂を吸われるのを防ぐためである。

(結局...俺には...なにもできないのか...)

己の頭部を踏みつける足へと抵抗しつつも、彼の脳裏には諦観の念が過ぎりつつあった。
生前においても、自分になにが出来た。
敵を斬って、斬って、斬って。その果てにあったものは、ただの屍の山だけだ。
雅を殺すことも、明や涼子を救うことも。成し遂げられたことはなにひとつありはしない。
そんな男が英霊になったところでなにも変わりはしないのか。

(俺は...)

「篤さん!!」


響く叫びが篤の意識を呼び戻す。


393 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:18:51 RcBqFOFg0

パシュッ

頭上より桃色の光がカーズへと飛来する。

「ムッ!?」

突然の衝撃に、カーズの足の力が緩み、その隙を突き篤は身体を捩り拘束から離脱した。
瞬間、カーズ目掛けて白煙が噴出しその視界を塞いだ。

カーズが煙に惑う隙を突き、矢の主、鹿目まどかは篤の下へと舞い降りた。

「掴まって、篤さん!」
「ま、まどかか...?なんでここに...」
「細かい説明は後です。とにかくここから離れて」

「たかが煙幕で撒けるとでも思ったか!」

煙を掻き分け、カーズが瞬く間に二人へと肉薄する。
迫る膝蹴りに、篤は薙刀を盾にすることで対抗するも、威力を抑えきれず二人揃って吹き飛ばされてしまう。

「消火器か...フン、くだらん。貴様がその男のマスターか」

まどかの持っていたものを見て、カーズは苛立ち混じりに吐き捨て睨み付ける。
その威圧に気圧されつつも、まどかは篤を気にかける。

「俺のことは気にするな。いまはあいつをどうにかすることが先決だ」
「は、はいっ!」

傷ついた身体に無理を押して、篤はまどかと共に並び対峙する。


394 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:19:28 RcBqFOFg0

「二人揃えば勝てると思っているのか?くだらん。教えてやろう。カスが集まったところで所詮はカスに過ぎんことを」

カーズから放たれる殺気に、まどかの膝が震え始める。

(恐い...これが聖杯戦争...他の人との『殺し合い』...)

今まで使い魔や魔女と戦ってきたことはある。
だが、傍にはいつも巴マミという最高の先輩がいたし、魔女たちは知性も言葉も発さなかったし明確な意思も感じられなかった。
カーズは違う。確かな己の意思と言葉を持ち、知性もあれば感情もある。
そんな生物と敵対することがこれほど恐ろしいことだとまどかは想像だにしていなかった。

(でも、止めなくちゃ...この町にはママとパパ、タツヤだけじゃない。さやかちゃんもマミさんもほむらちゃんも杏子ちゃんも、篤さんもいる)

戦いはとても恐い。だからこそ、他の人が危険に晒されない為にも戦わなければならない。

(私がみんなを護るんだ。私は魔法少女だから。みんなのことが大好きだから!)


「...気に入らんな、その眼」

己を見据えるまどかの眼に、カーズは内心で苛立つ。
似ている。
性別や雰囲気はまるで違う。常に飄々としているわけではなく、激しく激昂したりもしない。
けれど、その奥に秘める光は。
メラメラと燃える火のような正義の心は、嫌が応にもあの怨敵、ジョセフ・ジョースターを想起させた。

「小娘。貴様を殺したところでヤツの代わりになる筈もないが、その光を閉ざしてやろう」

ザワリ、とまどかと篤の肌が粟立つ。
篤とまどかが身構えた瞬間、カーズのこめかみが微かに動いた。

くる―――!

カーズが跳躍し、これから始まるであろう襲撃を予感し、二人は息を呑んだ。


ガ オ ン


彼らの予想は、明後日の方向に破られた。


395 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:20:05 RcBqFOFg0


「うぐっ!」


突如右足にはしった苦痛にカーズは顔を歪める。
消えていた。
彼の踵からつま先にかけて、その足は消え去っていた。

彼は、まどか達へと殺気を放つ直前、地面より迫る音に気がついていた。
足の裏から伝わる、地面を掘り進めるような振動音―――人間ならば気づかぬだろうが、カーズは厚い壁の向こう側の様子を掌で温度差を正確に感じ取ることができる男。
その優れた五感で、その音を聞き取っていたカーズは思っていた。「果たしてあの駄犬は命令を素直にこなせたのだろうか」と。
だが、近づくに連れて不審に思う。
たまの能力は『爪で傷つけたものに穴を開ける』ものだ。
そのためには手を振りかぶり、おろすという動作が必要になる、
だが、この音はまるで障害物を飲み込むように絶え間なく削り突き進んでいる。
空けていた穴をそのまま使うのではなく、何故か一回り大きく削りながらだ。
音が足元で止まったとき、カーズは万が一の裏切りに備え跳躍した。その結果、右足を食われるだけの被害で済んだのだ。

「チィッ」

舌打ちをしつつ、右手と左足を支点に着地し虚空を睨み付ける。


グ オ オ オ


空間より、異形の像(ヴィジョン)が這い出てくる。

「外したか...」
「貴様、何者だ」
「答える必要はない。DIO様の障害に為り得る男...貴様は暗黒空間にバラ撒いてやる」

亜空の瘴気、ヴァニラアイス。
かつてドス黒いクレバスと称された狂信者は、夜よりも深い闇に生きてきた男を殺すためにはせ参じた。


396 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:20:34 RcBqFOFg0



暁美ほむらは走っていた。
自分のしでかしてしまったことが手遅れになる前に。
また間に合わなくなることがないように。


―――時間は僅か数分前に遡る。

ヴァニラ・アイスと対峙した時、彼は早速たまを殺そうとしていた。それも、『自分が作った道を壊された』という酷く子供染みた理由でだ。
慌てて間に入り、止めようとしたほむらだが、ヴァニラ・アイスは殺すと聞き入れず。
幾度か言葉を交わしているうちに、ほむらは疑問を抱いた。
なんでこの人は自分を殺そうとしないのかと。
そこで、彼が先ほど口走ったDIOの名を出すと、彼の興味はたまから失せ、今度はDIOのことばかり聞き出そうとする始末になった。
曰く、かつての彼はDIO...つまりほむらのサーヴァント、セイヴァーの従者であり、この聖杯戦争においてもDIOの為に行動していたらしい。
つまり、彼がほむらを殺そうとしなかったのは、彼女がDIOのマスターであると討伐令で知っていたからなのだ。

そこでほむらは一計を案じる。

彼の忠誠心は確かに本物だ。
ならば、彼もカーズとの戦いに協力してくれるのでは、と。

ほむらは語った。この先にいる強力なサーヴァント、カーズの存在を。純粋なパワーだけならDIOにも勝るかもしれないことも付け加えて。
それを聞いた瞬間―――ヴァニラ・アイスはキレた。

「あり得ん...なにをおいてもDIO様に勝り得るものなど存在してはならん...!」

くるりと振り返り、カーズのいる方角へと向き直るヴァニラに、ほむらもまた続こうとする。
が、気を緩めた瞬間、再びヴァニラは振り返り、間髪いれずにたまへと向けて拳を突き出した。

その唐突であまりの速さの奇襲に、たまもほむらもなにも抵抗が出来ず。
たまの顔面に拳がめり込み吹き飛ばされた。

「あ、あなたなにを」
「ヤツは貴様のいうサーヴァントの仲間なのだろう。情報を引き出すにせよ、行動不能にはしておくべきだ」

慌ててたまにかけよるほむら。
眼を回し気絶したたまの身体が淡く光り、衣装もまた制服に変わった。

「―――ッ!?」

ほむらはこの現象に見覚えがあった。
魔法少女。そう、自分と同じくキュゥべえと契約をした者。
けれど、たまの身体にはどこにもソウルジェムはない。
魔法少女ではない?では、彼女は一体?

疑問が頭をぐるぐると渦巻くが、いまはそれどころではない。
ヴァニラの方へと振り返るが、そこにはもう彼の姿はなかった。
たまを殴り飛ばした直後に姿を消したのだろう。

(気が早すぎる...急いで追わなくちゃ!)

ヴァニラがたまを気絶させたのも一理ある。
幾らか情報を聞き出したとはいえ、たまは現状ではカーズの僕に等しい。
下手に連れ歩けば、土壇場でカーズの命令により裏切る可能性もなくはない。
だから、殺さないのであれば気絶させておくというのもあながち間違いではない。
それにしてもだ。なんの相談もなくこんな無茶苦茶をやるあたり、同じくDIOの部下を称するホル・ホースとはとても同種の人間とは思えない。
むしろ、邪悪の化身であるセイヴァーの方がまだ話が通じるあたりマシなのではとすら思える有様だ。

そんな彼が、激昂したままカーズと戦い始めれば、その傍にいるまどかのサーヴァント、篤も巻き添えを食らってしまうだろう。

(ごめんなさい、たまさん)

気絶しているたまをそっと地面に横たえ、ほむらは走り出した。


397 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:21:07 RcBqFOFg0





ヴァニラ・アイスの姿が消える。
己のスタンドに身を隠した彼の気配は、カーズの五感をもってしても探知することはできない。

(だが、避けるのは簡単だ)

カーズは瓦礫を砕き、手で握りつぶし、空へと放り投げる。
すると、砂塵の1部が飲み込まれたかのようにポツポツと穴を開けていった。

「やはり障害物を飲み込まなければ進めんようだな。そして!」

カーズは残る片足で天井まで跳躍し、ピタリと張り付く。
そして、ヴァニラが外の様子を伺うために外へと顔を出しかけたそのとき、カーズは地面を蹴り輝彩滑刀を振り抜いた。

「その特性上、篭ったままでは外の情報を知ることが出来ない。身体の一部でも出ていれば攻撃は可能ということだ」
「グ、ク...」

ヴァニラ・アイスが割れた額から流れる血を押さえながら、暗黒空間より脱する。


(なるほど...暁美ほむらの言ったこともあながち間違いではなさそうだ)

ヴァニラは冷静にカーズというサーヴァントを分析する。
称賛すべきは、片足を奪ったにも関わらずあそこまで俊敏に動ける高い身体能力だけではない。
即座にクリームの弱点を見抜き、あまつさえこちらに手傷を負わせたのは見事としか言いようがない。

(だからこそ滅さねばならない...DIO様の害に為り得る者は排除するのみだ)


398 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:21:47 RcBqFOFg0
怨念染みた殺気を飛ばしてくるヴァニラ・アイスを他所に、カーズは冷静にこれからのことを考えていた。

(こいつらを纏めて殺すことは可能だ)

仮に、ヴァニラ・アイスと篤、まどかが三人でかかってこようとも勝利への算段はもうついている。
篤には純粋に身体能力で勝っており、ヴァニラのクリームはさきほどの方法で距離と場所を測れる。サーヴァントではないまどかは論外だ。
彼らの中で有効といえるであろう策は、篤の捨て身の攻撃くらいだ。
まどかが令呪で篤に押さえ込むように命じ、ヴァニラが篤ごと殺す。その後はヴァニラがまどかと再契約すればマスターの1人勝ちとなる。
が、篤のパワーでは自分を押さえ込むことなどできず、羽交い絞めにでもしようものなら、力でクリームの前に投げ飛ばし身代わりにすればいい。
まともに戦えば、自分が負けるはずなどないのだ。

(問題はこのサーヴァントと時間だ。恐らく、直に日が昇り始める。もしもこのサーヴァントが天井を全て削るようなことをすれば流石に身がもたん)

他二人はともかく、ヴァニラの能力はカーズをしても厄介だと断じざるをえない。
戦闘になれば確実に勝てる。だが、もしもヴァニラが勝ち目がないと暗黒空間に引きこもれば、手出しが出来ない最強の盾と化す。
それだけでも時間稼ぎには最適であるうえ、なにかの間違いでそこに触れるようなことがあれば眼もあてられない。

(チィッ...マスターと合流しておきたかったが仕方ない。ここは退くとするか)

暁美ほむらの確認及びセイヴァーの有無。
鹿目まどかがマスターであるか否か及びサーヴァントの確認。
たまという下僕の確保。
資料を通して手に入れた、姫河小雪のものと思われるサーヴァント(破壊痕からヴァニラだと判断)の認識。

今回の接触を通して、目的はほとんど達している。
魔力も確保したい現状、無理に戦う必要はない。


カーズは、まどか達に背を向け跳躍を繰り返し瞬く間に去っていった。

「逃げるか貴様ッ!」
「待てあんたっ!」

ヴァニラもまた、呼び止める篤を無視して、カーズのあとを追うために暗黒空間に潜り始める。
もはや、彼には篤もまどかも眼中になかった。


先ほどまでの戦闘が嘘のようにあたりは静まりかえり、あっという間に残されたのは二人だけになってしまった。


399 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:22:14 RcBqFOFg0

「...はああぁぁ〜」

数分後、まどかは、変身を解除すると共に全身の力を抜き、ため息と共にへとへとと座り込む。

「大丈夫か」
「ご、ごめんなさい。安心したら力が抜けちゃって...」
「悪いがそうも言ってられないぞ。お袋さんたちに気づかれるかもしれないからな」
「そ、そうだった...」

まどかに手を貸しつつ、篤は思う。

(俺は少々過保護が過ぎたかもしれない)

篤は、まどかを明達の代わりに見立てていた。
内心では、明に似ている優しい少女を守ることで、生前の無念を漱ごうとしていたのかもしれない。
そのために、カーズを1人で相手にするなんて無茶なこともしてしまった。
けれど、結局のところ助けられたのは篤だった。
恐怖を認めつつもカーズと対峙したのは彼女自身の力だ。
まどかは子供ではあるが、曲がりなりにも魔女という異形と戦ってきた戦士なのであると認識を改めた。

「悪いな、まどか。勝手なことばかりして」
「謝らないでください。家族や友達に大切にされて、篤さんにも大切にされて、いまのわたしがあるんですから...でも、これからは勝手に無茶をするのはやめてくださいね?」
「...ああ、そうだな」


まどかがニコリと微笑むと、篤もつられて笑みが零れた。


400 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:23:04 RcBqFOFg0

パチャパチャと水を蹴る音が響く。

「だ、大丈夫ですか!?」

息を切らしながら、ほむらは膝に手をやり安否を確認した。

「ほむらちゃん!」
「えっ、か、鹿目さん?ど、どうしてここに」
「あっ...えっとね、たまちゃんって子を探してたらたまたま地面が崩れてるのを見つけて、篤さんが変なおじさんと戦ってるのが見えたから...」
「見えたからって、だ、駄目ですよ!」

ほむらはまどかの肩を掴み必死の形相で詰め寄る。

「聖杯戦争は遊びじゃないんです!そんな、簡単に近づいてたら、いつ命を落とすことになるか...」
「...心配してくれるんだね。ありがとう、ほむらちゃん」
「当たり前です。だって鹿目さんは...私の...」

そこまで言いかけて、ほむらの顔は赤く染まっていく。
『なによりも大切な友達だから』。そう言いたかったのだが、改めて正面から言おうと思うと中々に照れくさく、つい赤面して俯いてしまった。

そんなほむらの様子を疑問に思ったものの、ひとまず置いておき。まどかはほむらの格好をまじまじと見つめていた。

「ほむらちゃん、その格好...」
「あ、あの、その、これは...」
「ほむらちゃんも魔法少女になったんだね」
「えっ」

ほむらの顔から火照りが一気に冷めていく。
いま、彼女はなんといった。


401 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:23:57 RcBqFOFg0

「ほむらちゃんもって...」
「?その格好、魔法少女じゃないの?」
「いや、その、それはそうですけど、そうじゃなくて...」

ほむらの脳内で同じ言葉が反芻される。

――ほむらちゃん"も"魔法少女になったんだね』

『も』という単語は二人以上が魔法少女でなければ出ては来ない。
なら、ここにいる魔法少女は自分と、もう1人は―――

「鹿目さん...まほうしょうじょに、なったんですか?」
「えっ?」
「違うんですか?違うんですよね?」
「ちょ、ちょっと待って。この前ほむらちゃんとマミさんと一緒にケーキ食べた時に教えたよね?もしかして忘れちゃった?」
「ケーキ...?」

ほむらの困惑はますます加速していく。
覚えている。忘れるはずがない。
魔女に魅入られ殺されかけたところを、まどかは救ってくれた。
颯爽とヒーローのように現れ、コンビであるマミと共に魔女を撃ち砕いたその大きな背中は今でも鮮明に覚えている。
初めて三人で友達のように楽しんだ紅茶とケーキの味もしっかりと覚えている。

けれど、それはまだ自分が魔法少女になる前だ。
魔法少女になってからどれだけそんなことがあった?魔法少女でないまどかとマミと自分が一緒の時間がどれほどあった?
なら、三人でケーキを食べたこのまどかは一体―――。

「...ほむらちゃん。とにかくいまは状況を整理しよう。お互い話が噛み合っていないようだ」

篤の言葉にほむらはハッと我に帰る。
そうだ。話がかみ合わないならまずは情報を交し合う。こんな基本的なことを失念していた。

「ご、ごめんなさい。...あの、こっちの方にブルマを穿いたサーヴァントが来ませんでしたか?」
「ああ、あの姿を消すヤツか。あいつならさっきあの褌のサーヴァントを追いかけていったよ。なんなんだあいつは?」
「セイヴァーの元部下だったそうです。いまも、セイヴァーの為に戦っていると言ってました」
「そうか。ただものではないし味方なら心強いと思っていたが、できればあまり関わりたくないヤツのようだ。ほむらちゃんこそさっきの穴空けるヤツはどうなったんだ?」
「あっ、たまちゃんですね。さっき、ブルマのサーヴァントに気絶させられて...」
「たまちゃんって...もしかして、わたしが探してたたまちゃんはその子かもしれない」
「えっ、そうなんですか?じゃあ、私、迎えに行ってきます。二人は自宅に向かっていてください」
「1人で大丈夫か?」
「はい。逃げることに限れば、この中では一番だと思いますから」

ほむらは、たまを迎えに行くため来た道を駆け出した。
彼女は内心で情報交換がスムーズにいったことに驚いていた。
今までは、ホルホースとのそれのように、なにを話せばいいのかも迷っていたりしたものだが、今回に限ってはスラスラと話すべき情報が絞り込めた。

(もしかして、まどかが魔法少女になっていた現実から私は目を背けたかったのかもしれない)

如何な理由であれ、まどかが既に魔法少女になっている現実には変わりない。
それこそ聖杯を手に入れなければいずれくる魔女化という運命からは逃れられないだろう。
つまり、この時点で、この世界のまどかが救われることはなくなったのだ。

だから、そんな現実から眼を逸らす為に、質疑応答で気を紛らわせていたのかもしれない。

「......」

ほむらは自分の気持ちすら理解できぬまま、か弱き少女、たまのもとへと向かった。


402 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:24:16 RcBqFOFg0

「さて。俺たちもそろそろ戻らないとな」
「はい。わたしは変身すればあそこまで跳べますけど...篤さんは?」
「この身体では少し厳しいかもしれないな」
「じゃあわたしが背負いますね」

まどかは変身し、篤を背負い軽やかに地上へと跳びだした。

「ハッ、相変わらず便利な力だな」

篤の褒め言葉が照れくさく、まどかはえへへと笑みを零しながら頬を掻いた。

「そういえば、さっき言ってた、たまだったか。なんでお前はその子を探していたんだ?」
「...その、さっきパパから、わたしが落とした学生証をたまちゃんが拾ってくれたって聞いて、でも学生証はわたしの鞄にあって...」
「...?再発行でもして、前のヤツを落としたのか?」
「いいえ。たぶん、たまちゃんが持ってきたものは偽者だと思うんです。それで、なんでたまちゃんがわたしの学生証の偽者を持ってきたのか気になって...」
「......」

篤の頭に疑問が渦巻く。

『たま』は、わざわざまどかの家を訪ね、偽者の学生証を渡した。
しかも、それを口実にまどかと会う訳でもなくすぐに姿を暗ませた。
何故だ?何故ここまで手間をかけてまでそんなことをした?

(わざわざバレる嘘をついたのは、注意をひきつけたかったからか?)

確かにこんな嘘をつけば、否が応にも注意せざるをえないだろう。
ならば、尚更まどかに目撃されなければ意味がない。
もしもまどかがマスターあるいは魔法少女でなければ、家から出ることすら叶わず、単に『たまという子が怪しい』としか思わせられない。
たまの名を騙ったミスリードもありえないこともないが、それも父親に姿を見せた以上考えにくい。

(仮に『たま』がまどかをマスターあるいは魔法少女であり、深夜にも出歩くことができると知っていたとしよう)

まどかを呼び出した上で、彼女への奇襲がないのなら、狙いはまどかではないのではないか。
では、まどかが家からいなくなることで生じることは―――

「ねーちゃ〜...」


403 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:24:43 RcBqFOFg0

鼻を啜りつつ、涙交じりの声が響く。
とこ、とこ、と小さな歩幅で動く影がひとつ。
それは紛れもなく、まどかの弟、タツヤのものだった。

「タツヤ...?どうしたの、こんな時間にお外に出たらパパやママに心配されちゃうよ」
「ねーちゃ〜...」
「よしよし、大丈夫だよ。どうしたのそんなに泣いて」

ずっと泣き続けるタツヤに、さすがに不安を覚えたまどかは、しゃがみ込み顔を伺う。
やがてえづきが収まると、タツヤはようやく言葉を発した。

「パパとママ...いなくなっちゃった...」
「え?」
「どこにもいないのぉ...」

両親がいなくなった。
徐に告げられた事実に理解が追いつかず、まどかは思わず首を傾げる。
その一方、篤は眼鏡の奥の瞳を見開き、瞬時に駆け出した。

「あ、篤さん!?」

突如走り出した篤に驚愕するも、その様子からただごとではないと判断し、まどかもつられて走り出す。

(ようやくわかった。『たま』の目的が)

篤の息遣いがハァハァと荒くなる。

『たま』の目的は、まどかを引き付けること。それは間違いではなかった。
だが、狙いはまどか本人ではなく彼女の家族。
家族を人質にとれば、その縁者は迂闊に逆らえなくなる。
彼岸島で雅が好んで使った手段だ。


404 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:25:51 RcBqFOFg0

(チクショウ、なんで俺はすぐに気がつけなかったんだ!)

後手にまわってしまったのはわかっている。それでも、篤は一心不乱に駆け抜ける。

門を開け、ドアを開き、玄関から居間を駆け抜け―――止まる。
急遽停止した篤にまどかは対応できず、思わず背中にぶつかってしまう。

「ご、ごめんなさ」

ぶつかってしまった謝罪は、鼻腔を擽る血の匂いに止められる。

ハァ、ハァ、と漏れる呼吸音は、ドキドキと高鳴る鼓動は、篤とまどかのどちらのものかもわからない。

ただ呆然と眺めている床には、夥しいほどの血が伝っていた。



――わかりたくない。嘘だと思いたい。

けれど、充満する血の匂いがこれは現実だとまどかに訴えかける。

――嫌だ。誰か止めて。

止められない。己の意思に反し、その血の出所を見定めるため、まどかの視線は伝う血を追ってしまう。

その果てに。

見つけた。彼女は見つけてしまった。

「ママ...?」

部屋の中央で立ち尽くす母の背中を。

その大部分を、両腕を赤で彩った寝巻き姿を。

彼女の足元に並ぶ―――小さな二つの赤い箱を。


405 : 命ノゼンマイ(中編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:26:40 RcBqFOFg0



アラもう聞いた? 誰から聞いた?
赤い箱のそのウワサ


人のいる場所にいつの間にか置かれている真っ赤な箱。
中には【人間一人分】その全てが敷き詰め入っている。


学校に置かれていたら、生徒か先生か誰かヒトリいなくなっている。
病院に置かれていたら、患者か医者か誰かヒトリいなくなっている。


ヒトリで居たら、恐ろしい怪物がその人間を箱に詰め込んで鑑賞するって
見滝原の住人の間ではもっぱらのウワサ!!


チョーサイコ!


406 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/08/30(木) 13:28:13 RcBqFOFg0
中篇までの投下を終了します


407 : 名無しさん :2018/08/30(木) 16:18:54 li/xOJ.60
投下乙です

3vs1でも余裕とはカーズ様はやっぱり化け物ですぜぇ…。ブルマ呼ばわりされるヴァニラさんに草
そしてまどかのメンタルががががが


408 : ◆VdpxUlvu4E :2018/08/30(木) 19:46:33 vY47hi1c0
投下乙です
柱の男は只でさえ高性能なのに加えてカーズには高い観察眼と知能が有るのが強み

振り向けば丸太振りかぶった篤
丸太抜きでも事案な件


409 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 21:56:58 6e/FhnCM0
投下乙です!

おかしいな……これって聖杯戦争だよね?と疑うような一種のホラー回。
Xのやってる事は、ウワサ以上に都市伝説じみた、それこそ反英雄系で召喚されても変ではない。
人から外れた所業を行う者。単純な猟奇・グロデスク、悪意を含んだ残虐性は当然ですが。
見せ方次第、側面が異なれば、未知の恐怖を前面にした怪人になる訳で……

そして、ほむほむ。
こんな怪物たちと比較すればDIO様がよっぽどマシだと漸くお気づきになられましたか(?)
彼女の行いは、友の為に成したと考えれば、まあ正当かもしれません。
ですが利用できるものを利用する『悪』が垣間見えてきたので、いよいよ潮時なのでしょうか……

圧倒的な怪物であるカーズを前にしても退かない篤と
カーズも認める黄金の精神を持つまどか。
戦力差を抜きにこの二人が肩を並べるだけで心強さが尋常ではない。
故に、ラストの絶望が映え。これから、どうなってしまうのか不安で仕方ありません。

改めて投下ありがとうございました。


410 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 21:58:20 6e/FhnCM0
私も長くなってしまう為、予約分を途中まで投下します。


411 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 21:59:55 6e/FhnCM0
見滝原の都心の一角。
世界一で有名な微笑を張りつけた彼女。
正しくは『彼』だが、性別上『彼女』と称するキャスター。
モナ・リザ――の容姿を形取るレオナルド・ダ・ヴィンチ。

ダ・ヴィンチは『バステニャン号』と呼ばれる、ゴーカートっぽい乗り物に座りつつ。
一際目立つ美貌と相反する陳家なデザインの騎乗物。
不釣り合いな状態を気にかけず、むしろ真剣に独り言を口にした。

「……どうしたものかな」

通常だったら、一般人のサラリーマンが聖杯戦争に巻き込まれるのは場違いだ。
ダ・ヴィンチのマスター自身それを語っている。
何らおかしな話でもない。
でも、彼は普通に通勤するし、普通に衣食住のルーティンを保っていた。強いて異なるのは休日の過ごし方だけ。
病的で異常性を感じるほどに……神経質なのかもしれない。

我慢強い男だとダ・ヴィンチも呆れている。
深夜である為、人目を気にせずバステニャン号を走らせながら、次なる目的地に向かう。

もし

もしも、だ。

吉良吉影は善良な人間であれば、素直にダ・ヴィンチもそうしたって構わないと思わないでもない。
だが、ダ・ヴィンチは八割程度くらい吉良吉影が『善良ではない』と感じた。
殺人を犯しているか、否かの話でなく。
精魂が『善』か『悪』かと問われれば、彼は『悪』だろう。そういう話である。

当然。
吉良の本性を暴くべきだが、先ほどもダ・ヴィンチがぼやいた通りだ。
彼はなかなかどうして我慢強い。ダ・ヴィンチを殺しにかかろうともしない。
ぶっちゃけ、殺意めいた意志を時折感じるが、
それも「腹立って殺したいと感じる事もある」と受け流すだろう。―――あの男は。

「実際、走ってみないと分からないものだな。もう少しタイヤの厚みをつけるべきだったか」

なんて乗り心地の感想を漏らすダ・ヴィンチ。
聖杯戦争の最中、バステニャン号を改良する時間がどれほどあるか。
彼女としては可能な限り良くしたい想いを秘めていた。

「む。ここも無い」

ふとダ・ヴィンチは、ある場所でバステニャン号を停車させる。
解析を行う眼鏡を装着し、改め観察してみるが、小道の一角にあった固有結界の出入り口が無くなっていた。
人気ない場所で。
例えここに罠を仕掛けても数人程度、人間が捕まるか怪しい位置に複数点在していた。

ダ・ヴィンチは、宝具などの相手の魔力を解析する宝具を持ち合わせている為、補足できたが。
そうでないサーヴァントは、見落とす可能性が高い。
出入り口を設置したサーヴァントも、控えめに罠を仕掛けていたのだろう。

しかし……本戦が始まった状況で罠を取ってしまうのは、何故か?
既に罠の役割は終えているから、用済みになった?
憶測は憶測ばかり呼ぶ。

ダ・ヴィンチは、仕方ないと予定通りにバステニャン号を走らせた。
彼女の目的地―――説明するまでもない。見滝原中学校に向かう為に………






412 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:00:20 6e/FhnCM0
救世主。
連想される存在は、世界観によって異なるだろう。
ダ・ヴィンチが真っ先に三人ほど心当たりを浮かべるも、絶対にアレは『例の三人』の一人にもアテ嵌らない。

セイヴァー……討伐令が出された悪の救世主。
何をどう基準でクラスに選定されたかは不明だった。本当の意味で『悪を救った』にしろ。
ダ・ヴィンチが彼女なりに調べても、何一つウワサや伝説、逸話、真名に到達できる術がなかった。
真名への情報隠匿?

否。ダ・ヴィンチは自らの知識とを信じるならば、
彼女が知る中であのセイヴァーに合致する英霊に心当たりは―――無い。
そう『無い』のだ。
不可思議な事実が重要である。






侵入されている。
奇妙だが、痕跡は残っていない。しかし、ダ・ヴィンチの魔力解析により中学校に魔力の痕跡を見抜いた。
本来、実体の建物への侵入に魔力や宝具を使用する必要はなく。
サーヴァントは、霊体化すれば簡単にすり抜けるのだ。
つまり……マスターと共に、ここへ侵入したサーヴァントが居る。

非常に興味深い。
恐らくウワサに当てはめるなら『怪盗』のサーヴァントの仕業。
そして、ダ・ヴィンチが重要視するのは当然、宝具。紛れもなく『対界宝具』に分類される。

「おや。こんなものにも『侵入』できるとは」

ウワサの内容通りなら確かに『セキュリティへの侵入』も容易だろう。
実際に職員室のパソコンを確認したダ・ヴィンチが、同じ宝具の痕跡を発見し唸る。
暁美ほむらに関する情報を得る為の侵入……目的は、セイヴァーの討伐かも分からない。

「うーむ、中々困ったな。彼の『怪盗』には不特定に罠を仕掛ける固有結界のサーヴァントを対処して欲しかったんだが」

恐らく『怪盗』のサーヴァントは、固有結界の存在に気づいていない。
ダ・ヴィンチとしては、無差別な魂食いを行っていると思しき固有結界の持ち主の対処を迅速にしたい。
これは、吉良たちマスターの安全が危ぶまれる可能性が高いからだ。

とは言え……

ダ・ヴィンチが魔力を探る限り、怪盗とそのマスターは既にここから立ち去っている。
ここへ至るまでに調査した行方不明になった生徒の事件と合致するように
問題である固有結界の痕跡がしっかりある。

周囲の魔力感知を行った時、ダ・ヴィンチはハッキリと捉えた。


413 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:00:45 6e/FhnCM0




サーヴァントにも得意分野が割決められているならば、ディエゴの場合、情報収集が一つ挙げられるだろう。
彼の宝具で並以上のサーヴァントの情報を収集したが。
二つほどの見落としがあるなら
一つは匂いも姿も同一の為、恐竜が情報伝達しなかった『もう一人のディエゴ』。アヤ・エイジアの情報。
もう一つは、現在ディエゴ達が直面した場所。

見滝原中学方面にある集合マンション。
ここに一騎、サーヴァントが点在している……と推測される。
曖昧な表現だが、実際のところ。マンションを捜索した恐竜が帰還をしなかった、だけ。
素早い恐竜を倒すなら、相当手練のサーヴァントの可能性は高い。
ただ、佐倉杏子のような『戦闘能力を持つマスター』も少なからずいる以上、断定は早計過ぎる。

距離を取った位置から魔力感知を行うディエゴだが、やはり遠過ぎるせいでサーヴァントの魔力は分からない。
囮の佐倉杏子の遺体。そして地形を考慮しても、マンションは避けて通れない。
通常、サーヴァントは霊体化すれば事足りる。
しかし、厄介な事にマスターのレイチェルはどうしようも出来なかった。

ディエゴ達の目的地は、マンションや見滝原中学を越えた先。
河川を挟んだ向こう側の住宅街。
プッチのマスター……白菊ほたるの自宅だった。

酷く冷静に状況を見据えたディエゴは、傍らに愛馬たるシルバー・バレットを出現させながら。
尋ねた相手は、プッチの方。

「向こう一直線に駆け抜けるだけの魔力は残っているか? エンリコ・プッチ」

皮肉る風に真名で問うディエゴに、彼は何ら反応を示さずに答えた。
聖職者が、神の教えを解き答える雰囲気で。

「私は敢えてこう言おう。魔力はあるが、決してそれは行わない――と」

「………」

「マンションに居る敵サーヴァントの抹殺。君の狙いがその一つならば、私も協力する。
 君に立ち塞がる者ならば、それは『DIO』の敵にも成り得る危険因子なのだ」

DIO。結局は『DIO』ねぇ。
鼻先でディエゴが嘲笑しつつ、奇天烈な発想をするプッチを横目にやった。
狂人の戯言も半周すれば、お笑い芸人のネタに聞こえなくもない。
妄信する狂人の利用価値は辛うじてある。期限は本物のDIOなるセイヴァーと対面した瞬間まで。

サーヴァント二騎。
ディエゴ自身も戦闘は可能だが、やはり恐竜の手駒を増やさなければ。
手元にある蛆恐竜のみ。他に有効的な手駒を探すのだ。そう……利用出来るものを。


414 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:01:13 6e/FhnCM0
「ライダー」

唐突に一声。
今の今まで沈黙を保ち続けていたレイチェルが、ディエゴに呼びかけた。
意気揚々な気分で思惑を企てるディエゴは、冷水をぶっかけらる体験を擬似的に味わう。
相変わらず、不気味に泥水の色彩をする瞳で見上げる少女。
ディエゴの中じゃあ、とっくの昔に切り捨てる前提のレイチェルに今更関心は湧かない。

幾分まだ高揚する声色で「なんだ」と返事したディエゴ。
レイチェルは何故かディエゴの反応を確かめ、それから言葉を続けた。

「一つ思い付いた事があるの」

普通、自らの妙案に浮かれて喜び混じりに話すべき内容。
それをレイチェルは、淡々と読み上げる風に語る。
ディエゴは無反応だった。
特別変わった様子もなく、無視をしている訳じゃあないが、他と異なる類をレイチェルに差し向けなかった。
少女は両手を組んで、神に祈り捧げる姿勢で言う。

「ライダー。私を『恐竜』にして」

「…………」

奇妙な沈黙が広がった。ディエゴだって黙ったし、プッチですら一言も言葉を発さない。
理解が出来ない意味じゃあない。
少なくともプッチは驚愕や嫌悪の沈黙と異なり、レイチェルという少女の動向を探っていた。

レイチェル・ガードナー。

雰囲気や様子から、普通の少女でない異質な空気を漂わせたのをプッチも感じ取っていたが。
プッチがマスターの白菊ほたるを「恐竜にして構わない」と提案したのとは違う。
己を「恐竜にして欲しい」とディエゴに要求して来たのだ。
加えて、彼女は何ら感情もなくソレを告げたのである。

ディエゴの……ある意味で『DIO』のマスターに選ばれた少女。
他とは明白に違う。
プッチは『暁美ほむら』も同じく普通でないと予想しているものの、『違い』の意味合いから普通と比較にならなかった。
レイチェルは沈黙するディエゴが、話を聞いていると信じ、続ける。

「私はこのままだと『何も役に立てない』……
 自分で考えて、それが分かったの。恐竜になれば私も役に立てると思う」

役に立つ。
ほたるがDIOの件で「役立ちたい」「頑張りたい」と健気に述べたように。
いいや――まるで違う。
曖昧でぼんやり・ふわふわした口先だけの言葉じゃあない。
白菊ほたるも、プッチを善人だと信じているが故に、助けになりたいと思う意志は本物だ。


415 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:01:44 6e/FhnCM0
―――『強さ』である。

ほたるの意志とレイチェルの意志の強さは、圧倒的な差があった。
彼女の態度と声量に力強さがある訳ではない。
単純に迷いない『凄み』を秘めている。冗談でもなく、このままディエゴに恐竜にされても一向に構わない『凄み』!
「やれ」と言ったからには、レイチェルの覚悟は完了した状態なのだ。

「それに………」

少しばかりレイチェルの表情が歪む。

「………その方が、ライダーも良い筈だから」

「何がどう『良い』んだ」

漸く口を開いたディエゴの口調は苛立っている。

「なあ、レイチェル。要するにお前は俺に『命令』しているんだな?」

「命令……?」

心底分からぬ表情を浮かべるレイチェル。
そうじゃあない。命令とは違う。きっとそうした方が自分は役に立つ筈だと、本当に彼女が『考えた』末の意見なのに。
レイチェルと視線が混じったディエゴの瞳は、憤りや疑心とは違う。
彼女が知る中で『見たこと無い瞳』だったと分かる。

「俺に『宝具を使え』と命令しているのかと聞いている」

「違う」

「あぁ、そうか。ならお前の意見に従わない」

「………」

釈然としない様子のレイチェルを傍らに、ディエゴは周辺の住宅街に視線を向けた。







――……? なにかしら、この感じ…………

マミは夢まどろみから現実に引き戻され、寝間着姿のままベッドから離れてしまう。
悪寒? 微弱に魔力を感知した?
ぼんやりと曖昧な感覚で、マミも釈然としない目覚めだった。
やがて遠くから消防車のサイレンが響くので、ハッと我に返り、ソウルジェムを手に取りベランダに出る。

そこには、ポリポリとお菓子を口にするランサーが先客として存在する。
彼は不思議そうに振り返った。
ランサーを見る度、マミは自然とお菓子を好んでいた同じ魔法少女の佐倉杏子を脳裏に浮かべた。


416 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:02:16 6e/FhnCM0
聖杯戦争の舞台設定では、見滝原中学の後輩として付き合いのある関係を保っている。
現実は、彼女と縁を切られた……皮肉な話だ。
幾ら記憶を失くしていたとはいえ、あの佐倉杏子と共に学校付き合いがあるのは。

「どうしましたか、マミ」

菓子を食べ終えたランサーの問いかけに「ちょっと目が覚めちゃって」と微笑するマミ。
ベランダから周囲を見回すと、火事特有の黒煙が立ち上る方角が分かった。
現在の時刻が夜の為、火は鮮明に視覚で捉えられる。
だからこそ、マミは『予感』が確信へ近づこうとしていた。

「ごめんなさい、ランサー。あそこ……私の記憶が正しければ、佐倉さんの教会がある場所よ」

「マミと同じ魔法少女の――ですか?」

「……佐倉さんがマスターだとは限らないわ。ただ、嫌な予感がして」

ランサーは身を乗り出し、周辺の感知を行うが……やはり仕留め損ねた『人喰い』に属するサーヴァントは居ない。
が、別の気配がある。
槍ではなく、槍に属する武器・鎌を手元に出現させ、ランサーは険しい表情をした。
彼らしい臨戦態勢を整えた姿である。

「それは無理そうです、マミ。こちらに接近するサーヴァントが居ます。それが『誰か』は分かっているですよ」

前振りなくランサーが、義足に収納された小型ナイフを取り出す。
忍者のクナイ投げの如く投擲した先で、聞き覚えない生物の断末魔が短く響く。
マミも確認すれば、中型程度の恐竜。
図鑑や博物館の模型でしか目にしない絶命した生物に、ナイフが深く突き刺さっていた。
しかし、次第に恐竜は姿を変化。やがて在り来たりな野良ネコの死骸と変わり果てる。
マミがソウルジェムを手の内に握りしめた。

「恐竜のウワサの………サーヴァントね」

「はい。偵察の恐竜を倒した事で、こちらの存在は既に把握していましたから」

ランサーが、マミに休息を提案した理由の一つに含まれている。
あえて、恐竜使いのサーヴァントをおびき寄せ、早期に討伐が叶えば良い。
マミもソウルジェムで魔力探知を行い、息を飲んだ。

まだ来る!
それも―――数は多い。ゾロゾロと大きさが様々ながら、鼠や猫以上に巨体の恐竜たちが群れを成す。
ランサーは冷静に状況を見定めているが、マミは「まさか」と冷や汗を流した。


417 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:02:44 6e/FhnCM0
ウワサの内容……人間すらも恐竜に………
躊躇なく魔法少女の変身を行ったマミは、ベランダから降下しつつ。ランサーに言う。

「ランサー! 恐竜は私に任せて。サーヴァントの方をお願い」

「わかりました」

得意のリボンをマスケット銃に変化させるマミの魔法。
深呼吸で精神を落ち着かせ、魔女を討伐する感覚を呼び起こそうとする。
恐竜が使い魔のようだと思いこむ。

ランサーは感知で周囲を探り、マミの脇を華奢な軌道を描いて駆け抜けていた。
恐竜らもランサーを見逃すまいと俊敏な反射神経を生かし、牙や爪を向ける。

僅かな隙。

マミが的確に恐竜へ銃弾を打ち込むが、彼らは命中する寸前で弾の軌道に反応し、回避した。
これにはマミも驚く。
サーヴァントの宝具による強化。
魔女や使い魔以上に厄介な性質だと理解する。

だが、マミの能力の真価はこれからだった。
外れた弾丸が地面に刺さり、芽を伸ばすように細やかなリボンの糸へと形状変化。
油断した恐竜たちを、周囲にいる個体たちは確実に拘束完了させる。

一方で。
ランサーは手持ちのナイフを人でない小型恐竜に投擲し、住宅街方面から続々現れる恐竜達に少々目を丸くした。

「まさか『あれほどの人達』を全員恐竜にしてしまったんですか?」

驚きじゃあない。
必要な獲物をナイフと鎌を駆使し、討伐しつつもランサーは落ち着いて状況に疑問を抱く。
手際が良過ぎるのだ。
ランサーは、更に感知の集中すると続々恐竜化する気配を捉える。

一気に、である。
白の色彩に一滴の黒を混入させ、全てを濁らせたかのようだ。
早過ぎる。それがランサーの疑念。

『マミ。この宝具……生物を恐竜にするだけではないかもしれません』

『どういうこと……?』

ランサーが敵サーヴァントの感知を行おうとした時。漸く、相手の意図を掴み始めた。

肝心のサーヴァントの気配が……分からない。

即座にランサーは、雪崩れ込む有象無象に犇めく恐竜の群れを睨む。
でも、分からない。
恐らく敵の狙いがコレだ。
ランサーの感知を逆に利用し、恐竜の中に『紛れて』接近を試みようとしている。


418 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:03:13 6e/FhnCM0
すると、マミの魔法が更に展開を広げる。計算し尽くされた弾丸が軌道を描き、設置された柵やアスファルト、電柱。
様々なものに命中。
弾がそこから再びリボンへ形状変化し、恐竜らを網かけようとする。
避けようにも、簡単に逃れられない広範囲の包囲から恐竜は逃れられない!

ただ一体、明らかに奇妙な動きをする。
ランサーは見逃さず鎌を手に、群れなした恐竜らを踏み台にリボンの網から抜け出そうとする個体を切りかかった。
クルリと体を軸に、大振りながら正確に恐竜の首根っこへ刃先を。

だが。

「!?」

予想外にも恐竜は『飛んだ』。
文字通り、ランサーを見下すように空へ舞い上がったのである。
所謂――翼竜。
地上を制した肉食獣に相応しくない、飛ぶ機能の部位が不自然に生え変わって。
そうして飛び立ち、ランサーの攻撃とリボンの網から抜け出したのだ。

しかし、ランサーは網に捕らわれた恐竜たちを土台にし、跳躍。
人の姿に変化しつつあるサーヴァントを、追撃するべく鎌を振りかざそうとした瞬間。
刹那の事象に、マミは勿論。ランサーすら反応に遅れた。


確かに周辺のみだけなら、恐竜化した人々と支配者たるサーヴァントを含め『一騎』のみしか感知できなかったのだ。
もう一騎。
圧倒的な猛スピードで接近し、そのままランサーに衝突する規格外の英霊が居るとは。
誰もが予想しなかっただろう。


単純な話。
停止した事で漸くマミにも姿を視認できた神父のサーヴァントは、ランサーやマミの感知範囲外から
一気に加速を行い、接近攻撃でランサーの肉体を裂かんとばかりの勢いで迫っただけ。

「ランサー!?」

遅れた反応でマミが呼びかけた時には、ランサーは盛大に吹き飛び。
マンション自体に衝突はしなかったものの。
周辺の木々や、駐輪場の自転車等に衝突しながら、見る見るうちにマミ達と距離が遠ざかった。

だが。何故か攻撃した側の神父が青ざめていた。
彼の腕に注目し、マミも目を丸くさせる。
確かに傷がある。ランサーのナイフが数本と、鎌の刃が刺さったかのような痕跡!

「あの一撃をマトモに受け……尚且つ『動けた』だとッ……不味いぞ。奴はまだ再起不能ではないッ!」


419 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:08:22 6e/FhnCM0
本来ならば肉体が真っ二つになる威力と衝撃。
マミの魔力が優れた部類であったのも含め、ランサーは最善の状態が一撃だけは受けきれたのだ。
神父が見上げた先。
翼竜の状態から人の形状に戻る英霊が街灯上に立つ。
討伐令にかけられたセイヴァーと似通った顔立ちの青年の姿に、マミも呆気に取られてしまう。

「生きてはいるが、焦る必要もない。それより―――」

青年は、妙に落ち着いた様子だ。
彼は使役する恐竜以外にも、神父のサーヴァントという仲間がいる。
ランサーも生きてはいるが神父の一撃を喰らったのは事実。二騎のサーヴァントを前に、マミは危機に陥っていた。

けれども、青年は警戒するマミに攻撃をしかけない。
ポケットから何かを取り出す。
遠目だったが、マミは鮮明に正体を見抜いた。


ソウルジェム。赤い色彩の灯った……


サーヴァントを一騎倒したと勘違いする場合もあるだろうが、少なくともマミは気付いてしまう。

「『佐倉さんの』ソウルジェム………!?」

色だけではない。
ソウルジェムの装飾の形状も個々によって特徴があった。
皮肉にも、マミが知る魔法少女の代物だったが故に、分かってしまったのだ。

「どうして、あなたがそれを!?」

「俺が聞きたいのは、お前達が肉体から魂を引きずり出してでも戦う理由だ」

「………え」

悠々と彼が語る内容に、マミは銅器で殴打されたかのような衝撃を味わう。
一方で、青年は佐倉杏子のソウルジェムを片手に続けた。

「聖杯戦争を仕切ってるのが、お前の魂を宝石にした悪趣味野郎なのは分かっている。
 ソイツの情報を寄越したら……そうだな。ランサーは見逃してやるよ」

「……ま……待って………………」

残念ながらマミは、敵サーヴァントを前に『事実』で打ちのめされていた。


420 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:09:57 6e/FhnCM0
「魂……? ソウルジェムに………私の……?」

悲壮の表情を浮かべるマミ。
決して、演技ではない事は神父と青年も察せる程だった。
故に、青年は早々に話を打ち止めし、ランサーが吹き飛んだ方向へと視線を向ける。

マミは、未だに混乱していた。
なら? ならば今、佐倉杏子はどうなっているのか?
魂だけが、ソウルジェムだけが青年の手元にあって、肉体の方は……!?

「佐倉さんの、ソウルジェムを返―――」

彼女は必死に声を出すしかない。肝心な時に、行動を、一歩踏み出せずにいる。
巴マミが何をどうするよりも先に、彼は佐倉杏子のソウルジェムを、手元から宙へ浮かせるように離し


そして


口元に咥えた後―――飲み込んだ。







(どうすれば良かったんだろう………)

レイチェル・ガードナーは、騒がしいマンション方面から離れた住宅街を独り歩く。
誰も少女を止める者はいない。
何故ならここら一帯の住宅街の住民たちは、恐竜となってディエゴの方に向かってしまったのだ。

「……どうして?」

険しい表情で呟く。
誰の返事もないが、ちゃんとした答えが欲しかった。

「私が恐竜になれば……ライダーは怒ったり、疑ったりしなくて済む。やっぱり恐竜になった方が良かったと思う」

何度何度『考えて』もレイチェルは、その結論に至った。
現に、恐竜化した人々はマンションに居るサーヴァントを倒す為に『利用』させられている。
ライダーの『役に立って』いる訳だ。

やはり納得出来ない。
今の、無力で力もない少女が『戦う力』を得るには、それしかない筈……


――レイチェル・ガードナー……君の意志の強さを認めよう。


脳裏に神父のサーヴァント・プッチの言葉が繰り返された。


――君にDIOの考えをくみ取るのは、まだ早過ぎただけなのだ。


(ライダーの考え……?)

プッチの呼ぶ『DIO』とはセイヴァーを示すのだろう。
しかし、彼はディエゴとセイヴァーに関係性を見出そうとしている。それが絶対だと信じていた。
レイチェルは、意見を無視したディエゴの瞳が変にこびりついていた。


421 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:10:21 6e/FhnCM0
(分からない……ライダーが私を恐竜しなかった………)

段々、レイチェルの見覚えある建物が遠目に見えた。

見滝原中学校。

深夜に訪れる機会は当然ない。明かり一つなく誰の気配もない不気味さが漂う。
一先ず、ディエゴたちの計画通りに事なく終えた。
戦闘を行う隙にマンションを通過するのが、本来の狙い。
無論、マンションに点在するのサーヴァントを倒すのも一つの目標ではある。

しかし、聖杯戦争ではマスターの安全が最優先だ。
マスターのレイチェルが問答無用に死ねば、ディエゴは無情な消滅を遂げてしまう。
―――そういう意味で、ディエゴはレイチェルを恐竜に『出来なかった』。
幾ら恐竜化したとて、ただの少女が恐竜になっただけ。戦力に期待は出来ない。

巴マミのランサーも遠くを移動するレイチェルの気配ではなく、目前のディエゴ達に注意を向けていた。
少なくとも、マミとランサーは少女の存在に気づいていない。
襲撃の裏に隠された狙いまで読みとれず、最悪脱落する恐れがあった。


レイチェルは……その考えには至れなかった。
ライダーが『優しく』て『自分の話を聞いてくれる』。今までにない存在だと。
だからだろうか。レイチェルを『案ずる』行いを察せなかったのは、一種の皮肉に近かった。


漸く校門に到着したレイチェルは、堪えていた疲労を露わにして、地べたに座り込む。
悶々と考え続けていた彼女は、淀んだ瞳を隠すように瞼を伏せる。
遠くから何か聞こえる。
恐竜の鳴き声? 違った、雨の音。

(変だな……)

だって、雨は降っていない。レイチェルは他の音も聞こえた。
水の音がゴウゴウと五月蠅い。確かに、見滝原中学の隣に川があったから、その音かもしれない。
レイチェルが思った瞬間。

ありえないはずなのだが、レイチェルは『川に溺れていた』。雨で増水し濁流と化した川に飲み込まれようとしている。
何故? 自分は恐竜の上に居たのに。
ハッキリしているのは、このままだと少女は溺れ死ぬ事だ。

そして……一筋の光が見えた。


「ディエゴッ!!」


誰かも分からない女性が必死に泳いできた。
必死に名前を呼びながら、彼女自身も溺れかけながらも賢明に。
そうして、女性がレイチェルを捕まえてくれる。歓喜を上げたのだ。


「い……生きているわ!」

「ごめんなさい! ごめんなさい!」

「もう二度と! …………決してしない! ありがとう神さま!!」


422 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:10:48 6e/FhnCM0




それは貧しい暮らしだった。
日が昇った頃から、日が落ちるまで働き。寝るところと食器だけ与えられ、辛うじて生き永らえている。
実に古びた領主に使える農民程度の生活であった。
けれども。
他に行き場所は無い、頼れる場所すら無かったらしい。

仕方なくそこにいるレイチェル。
共に生活する濁流からレイチェルを救ってくれた女性は、しつこい程に話しかけた。

痩せたんじゃないのか。自分の分も食べていいから、と食事を分けようとし。
寒くないか、体の具合は、怪我ないか。
他にも色々心配をかけてくる。
ハッキリ言えるのは、どの言葉もレイチェルは聞いた事がないものばかりだという現実。

ひょっとしたら似たような心配や気使いは、された事があるかもしれない。
だが、口喧嘩の絶えない、レイチェルの話も聞かない、見向きもしない両親が『同じ事』をしたかは怪しかった。
少なくとも、レイチェルの記憶には皆無だった。


ある日。
レイチェルと女性の貴重な食器に穴が開いてしまった。否、食器が勝手に穴が開くのはありえなかった。
動物が齧って開けたとも考えられない。きっと誰かが開けたに違いない。


食事の時間になって、配膳係の男性に訴えるが。
彼は、領主からの食器を壊したのだから、食器代を払えと言ってきた。
レイチェルも、それは仕方ないと思ったが根本的な解決じゃあない。
彼女達が求めているのは、配られているシチューを食べる術。食器がなければ、どうすればいいのか。

配膳係の男は結局、食器を貸してはくれないらしい。
金の前貸しが出来ないから、早く次に待っている皆の為に早くどいてくれ。
そう都合をつけて、レイチェルと女性の話を聞くどころか無視しようとする。

じゃあ、つまりシチューは食べられないのか。
ふと、レイチェルの中で少年の一声が響いたのだ。


―――『靴』があるよ。靴の中にシチューをそそいで貰おうよ。


423 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:11:19 6e/FhnCM0

レイチェルは、目を丸くして自らの靴に視線を落とす。
成程。本当に名案かもしれない。いくらレイチェルが考えたところで、靴を器にする発想は浮かばないだろう。
靴は『履いている物』だから、簡単に穴を開けようともされない筈。

アイディアを提供した少年は何者か。
レイチェルが、周囲を見回してもソレっぽい形すら無い。
今は、靴の片方を脱ぎ、そこにシチューを入れて貰おうとレイチェルが靴を手に取った時。
突然―――誰かに頬を叩かれた。

あの優しかった女性がレイチェルを叩いたのだ。
一体どうして?
レイチェルが呆然とする傍ら、女性は両手で『器』の形を作って配膳係の男に頼む。


シチューをいただけませんか………この手の中に、と。


(…………、……………………、………………………………え?)

グルグルと脳裏で気分が悪くなりそうな渦が巻き始めたレイチェル。
普通に理解が出来なかった。
配膳係の男だって、女性の行動に引き気味で血相を変えているのは明白である。

自分は何か間違っているんだろうか?
レイチェルも、熱い液体は器やコップや色々あれど、とにかく食器を入れるべきだと思っていた。
手にそそぐくらいだったら、靴の中に入れた方が良い筈なのに。
いや……?
手で食べた方が『正しい』のか…………?


本当に?


何故……??


(でも)

だけど、レイチェルは配膳係の男を観察する。
彼だって女性の行動がおかしいと思い、靴の中にそそごうかと聞いてくれる筈だ。
レイチェルは、少なくとも彼女はそれが『正常』な反応だと思う。
破綻した価値観と精神で『正常』を位置づけていた。


信じていた。
男が本気で女性の掌にシチューをそそぐまでは


424 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:11:53 6e/FhnCM0
(……………………………………………?)

一層レイチェルの表情が険しくなる。
苦痛に歪む女性など目にもくれず、ただただ『狂った』状況そのものにレイチェルは平衡感覚を失いつつある。
シチューをそそいだ男は、何も喋らなかった。

(…………??)

周囲で傍観している他の労働者たちも、何も喋らない。
女性が狂っているとも、男性が狂っているとも。
どうして?

(………なにこれ……………………………………???)

何かがおかしい。何かが狂っている。変だ。間違っている。
でも、誰も言わない。何も言わない。皆が皆、眺め続けているだけで、レイチェルだけが一人ぼっち。
件の手の器にシチューがある女性が……ソレをレイチェルを差し出す。
レイチェルはギョッと一歩後退していた。

(食べなきゃいけないの?)

少女は、かつてないほどの嫌悪感を抱いている。
手の中にあるシチューは不衛生だとか。
高温のシチューを持って来てくれた女性に申し訳ないと思わないのか、なんて第三者の罵倒などを撥ね退けて。

そもそもだ。

そもそも『全て』が狂っている。


(こんなの絶対おかしい)


レイチェルは吐き気を堪える。

どうして靴にシチューをそそいではならなかったのか?
どうして男はシチューを女性の手にそそいだのか?
どうして周囲の人間は誰も何も言わないのか?

それとも………

(おかしいのは……私?)


425 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:12:31 6e/FhnCM0
存外、彼らが正常でレイチェルだけがイカレている可能性もある。
狂人は己を狂人と名乗らないのと同じ原理で。
否! やはりレイチェルには耐えられなかった。正常であるか狂気に犯されているのか。
最早どうでもいい。

レイチェルは―――ここに存在する人間は『両親』と同じ。
話を聞かない。途方もない者たちなのだと結論に至る。

「いやだ……」

少女は自然と拒絶を零していた。
シチューは食べたくない。手にそそがれたシチューだけは、決して食べない。
食べれば、狂った彼らの全てを認めた事になるから。

「私……『こんなところ』に居たくない。ライダー……ライダーのところに………」


――ディエゴ……


「違う。私は………私は……?」

頭痛が始まる脳で、辛うじてレイチェルは気付く。
女性がレイチェルを呼ぶ名前――『ディエゴ』。それとも『ディオ』?
不思議にも、それはレイチェルが召喚したライダーの名であり、ここはライダーが『かつて』いた場所なのだと察する。

ライダーはこんな『酷い所』で生きていたのか?
想像すら出来なかった。
『酷い所』。誰も彼も話を聞かない、狂気と異常極まりない空間で。
少女のレイチェルですら『異常な有様』にも関わらず、ライダーは……全くそうじゃあなかった。

(自分で……考える………)

嗚呼、漸く分かった気がする。
眼前に広がる狂気の全てを睨みつけながら、レイチェルが告げる。


「私は――――靴の中にシチューをそそいで貰うから」


レイチェルが初めて自らの考えを突き付けた時。世界が破壊された。


426 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/04(火) 22:14:13 6e/FhnCM0
一先ず、投下終了となります。後編は後日投下します。


427 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 00:52:57 a7i9ow920
投下乙です

>ぶっちゃけ、殺意めいた意志を時折感じるが、
とりあえず自分の時間はちゃんと確保させてあげましょう。それだけでも彼の精神的負担は軽減され殺気も減ると思います。

ディエゴくんは順調に魔法少女キラーと化していますが、魔法少女たちのなにが彼を引き寄せてしまうのか。
早速ソウルジェムの秘密のひとつを知ってしまったマミさん、魂云々はまだ割り切れるけど魔女化まで知ったらメンタルがゴリゴリやられそうですね。

ようやく自分なりに考えて結論を出したレイチェルさん。
けど、そのシチューを手で掬ってでも生きるという誇りを失わないのがディエゴの生き方でもあるので結局彼らは解り合うことはないのかもしれませんね。


後編を投下します。


428 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 00:53:27 a7i9ow920


僕が酔いつぶれた彼女に毛布をかけてあげたときだった。

ピンポンとチャイムが鳴った。

こんな時間に誰だろうと思いつつも、僕は応対した。

『た...助けてください』

女の子だった。赤い髪の、犬耳のフードを被った子供だ。

『変な人が刃物を持って、い、いきなり...お願いです、匿ってください』

いきなりの事態に混乱する僕だが、荒い息遣いとところどころ滲み出ている血が、ただごとではないことを表していた。
警察を呼ぶにせよなんにせよ、まずは彼女を保護して事情を聞いてからだろう。

僕は、すぐに開けるから待っててくれと告げ、インターホンを離れる。

急いで鍵を開け、少女を呼び込もうとして――――僕の意識は、途切れた。


429 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 00:53:58 a7i9ow920



「ん...」
「眼、覚ましましたか?」

たまが眼を覚ますと、その視界に映ったのは、こちらを覗き込むほむらの顔だった

「あれ、私...」
「大丈夫。気絶してただけですよ。...立てますか?」

はにかみ差し出された手を握り返し、フラつきながらも立ち上がる。

「あの、暁美...さんでいいのかな」
「呼び方なんてなんでもいいですよ。たまさんが呼びやすいようにしてください」
「じゃあ、暁美さん...いま、なにがどうなってるの?」
「...その辺りも含めて話し合いたい人がいるので、ひとまず地上に出ましょう」
「は、はい」

たまは変身し直し、天井に穴を空けようと膝を曲げるが、ほむらはそれを押し止める。

「その能力は、こういうところではあまり使わない方がいいです。どうしても派手になってしまいますから」
「あ...そうだね、ごめんね」
「大丈夫です。来た道を戻ってもその人と合流するのに5分も掛からないはずなので、向こうから行きましょう」

ほむらに促されるまま、たまもおずおずとそのあとをついていく。

「......」

ほむらは、流し目でたまの顔を見つつ考える。
まどかはなぜ彼女を探していたのかを。

自分の覚えている限りでは、まどかとたまの接点はなかった。
ならばどうやって、まどかはたまを知りえたのか。

(わたしの知らないところで二人が知り合っていた可能性は...?)

「たまさん、鹿目さん...って知ってますか?」
「え?えーっと、有名な人、かな?」
「有名ではないと思いますけど...本当に知りませんか?」
「ご、ごめんなさい」
「あ、いえ、その、怒ってるわけじゃないんです」

(たまさんの言うことが本当なら...たまさんは鹿目さんを知らないことになる)

たまはあくまでもあのカーズの側だ。
もしかしたら、こちらを嵌めるために嘘をついている可能性もある。...そんな演技ができるような子には見えないが。
けれど、たまの言うことが真実であれば、まどかがたまの存在を知っていたことが尚更不思議に思えてくる。

(詳しくは鹿目さんに聞かなくちゃわからないけど...このたまさんは、鹿目さんが探す『たまちゃん』じゃないかもしれない)

単なる同姓同名の人違いか――――あるいは、誰かが『たま』の名を語って接触したか。


430 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 00:54:42 a7i9ow920



ぴちょり。ぴちょり。

そんな水滴の音が部屋に響いているような気になる。

それほどまでに、鹿目詢子の腕は濡れ、篤とまどかは呆然と立ち尽くしているだけだった。

「マ、マ...」

やがて、喉から搾り出したような掠れた声が発せられた。
まどかは、ふらふらと歩み寄ろうとする。

今日の帰り道にお目見えし、まどかが恐怖とトラウマを抱いたモノ。
食事を拒否するほど嫌悪し、未だ恐怖として残っている箱の存在が、まどかの理性を奪っていく。


――――ねえ、ママ。どうしてそんなに血まみれなの。

ギシ。ギシ。

床を踏みしめる音がいやに大きく聞こえる。

――――どうして、赤い箱が置いてあるの

一歩、一歩、近づく度に心臓が締め付けられるような圧迫感が増していく。

――――それじゃあ、まるでママが×××みだいだよ

そんなことはありえない。あってはならない。

大好きなママが、いっぱい人を殺して、大好きなパパも殺したなんて。

どうしてかわからない。わかりたくない。

だから、違うと言って―――


431 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 00:55:16 a7i9ow920


「...箱が、あったんだ」

ポツリ、と詢子の口から言葉が漏れた。

「あの人にお酒を入れて貰って、いつの間にか潰れてて」

声は、喉から絞り出しているかのように震えていた。

「起きて、ここにきたら...コイツが、あったんだ」

赤い箱。その意味がわからないほど、彼女は疎くない。
なんせ、数時間前に箱を目撃した娘を慰めていたのだから。

「パパも、タツヤも、いなかった。箱を、開けて、探しても、わからなかった」

詢子の眼から堪えていたものが溢れ出し、言葉も嗚咽と共に途切れ始める。

「なあ、まどか、みんな、どこかに、いるんだよな。これは、ぜんぶ、ねぼすけ、の、あた、しへの、罰ゲーム、なんだよな」

ボロボロと零れ始めたものは、現実を拒絶せんとする葛藤か、ただ1人見つけることができた愛娘への安堵か、愛するものたちを壊された絶望か。
まどかには彼女の真意はわからない。どれも違うかもしれないし、もっと言葉にし難い感情が渦巻いているのかもしれない。
けれど、まどかが確信したことはひとつ。

目の前の彼女は、間違いなく自分の母であるということだ。

「ママ...!」

もう躊躇いはなかった。
まどかの足に力が込められる。一秒でも早く。一瞬でも早く。
大好きな母のもとにいたい。
涙も。怒りも。悲しみも。恨みも。後悔も。絶望も。
彼女を抱きしめ、共に全てを吐き出したい。


432 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 00:56:13 a7i9ow920

駆け寄ろうとするまどかの肩を篤が掴みとめた。

「待て!まだ彼女が怪盗Xではないと確定したわけじゃない!」

この惨劇を見ても、篤の思考は未だに冷静さが残っていた。
彼とて、詢子が下手人だとは思いたくない。
あの身体にへばりつく血液だって、彼女の言葉通り、冷静さを失い箱の中を探ったせいでついたものだと思いたい。
まどかと共に感情を吐き出させてやりたい。

けれど、彼の戦ってきた島、彼岸島での経験は、彼を感情的にさせてくれなかった。

「...離して」

珍しく。珍しく、まどかは篤の言葉に逆らった。

彼女とてわかっている。彼が自分の為を想って止めてくれていることは。
この光景を見る限りでは、現状、詢子が下手人である可能性が高いことは。
けれど、理屈や倫理ではもう止められない。
まどかもまた、感情を抑え込むことなどできるはずもなかった。

「...なんだよ、あんた。あんたがやったのか?」

ふらふらと覚束ない足取りで詢子は数歩だけ歩くと、ガクリと膝から崩れ落ちる。

「ママ!」
「...お願いだ」

もはや膝が笑って動けないのだろう。
詢子は、縋りつくようにその場で頭を垂れた。

「その子だけは助けて。あたしは、どうなってもいい。だから...」

その姿を見た篤の奥歯がグッと噛み締められる。

(チクショウ、俺だって彼女を信じてェよ。でも、僅かにでも疑いの余地があるなら疑わなくちゃいけないんだ)

篤の戦いの全ては、雅に騙され祠を開けてしまったことから始まった。
あの場面に遭遇すれば、多くの人は自分と同じ行動をとるかもしれない。
だからこそ、それに流されて誰もが取り得る行動を予測されてはいけないのだ。


433 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 00:56:33 a7i9ow920

どうすれば詢子がシロだとハッキリさせられるか。篤の脳は、その片隅で必死に詢子がシロである証拠を探していた。


ウワサ。赤い箱。人間1人分。いなくなったパパとタツヤ、疑われる自分――――。

(ん...?)

篤の中で疑問が生じる。

―――パパとママ...いなくなっちゃった...

最初に、タツヤがそう言っていた。
いなくなったのは知久と詢子だと。


―――パパも、タツヤも、いなかった。箱を、開けて、探しても、わからなかった

だが、詢子はいなくなったのは知久とタツヤだと言っていた。

そう。この時点で彼らの発言は矛盾している。

赤い箱は『二つ』。つまり犠牲者は『三人のうち二人』でなければならないのだ。
だが、現にタツヤも詢子も生存している。箱のうちひとつは知久だとして、あとひとつは誰だ。

詢子が犯人だとしよう。
だが、タツヤが生存している以上、箱が二つあるはずがない。

第三者の『怪盗X』が現れたとしよう。
やはりこれでも生存者が二人、箱にされたのが二人と数が合わない。

(どうやっても数が合わない。どうなっているんだこれは!?)

一度ほころび始めたものは簡単に崩れ落ちていく。
篤の中で、詢子がクロだという考えは彼方へ消え去りつつあった。

(思い出せ。ここに来るまで俺たちになにがあったのかを!)

カーズを退けたあと、ほむらにたまを任せて地上へ戻った。
そこで、まどかを探しに来たタツヤが泣きながら歩いてきた。
タツヤから両親がいなくなったことを告げられ、この現場に遭遇した。
そしていま―――

(...待て。おかしいだろ)

泣きながら懇願し続ける詢子を見て生じた違和感。
その小さな違和感は、篤の中で確かな疑惑と膨れ上がる。



(なんであいつは―――)



くるり、と背後を振り返る。
そこには、未だ現状が掴めないようにとぼけた表情のタツヤがいるはず―――だった。


眼前には、鉄塊が迫っていた。


434 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 00:57:05 a7i9ow920



コンコン、とドアをノックし部屋に入る。

「どうしたの?」

どうやら起こしちゃったみたいだね。まあ、そっちのほうが自然かも

「さっき、まどかの友達が落し物を届けに来てくれてね。なにか慌てていたのかすぐに帰っちゃったけど」

「友達...?さやかちゃん?」

ふーん、さやかって名前の友達もいるんだ。

「たまって名前の女の子だよ。僕は知らないけど、まどかのクラスメイトかい?」

俺が尋ねると、まどかは違うという意を示した。

「おや、知り合いじゃなかったかい。まあ、今度会えたらちゃんとお礼を言っておくんだよ」

そうして俺は、バーサーカーに適当に作ってもらった学生証を手渡した。

「こういうものは無くさないようにちゃんと管理しておくんだよ」
「うん、わかった」

まどかの手には令呪の印が刻まれていた。これで確定した。こいつはマスターだと。

「パパ〜?」

玉のような小さな男の子がやってきた。
たしか、こいつは鹿目タツヤだ。

「ろーしたのー、パパ〜、ねーちゃ〜」
「どうやらこの子も起こしちゃったみたいだね」
「なんでもないよ、タツヤ」
「ん〜」

タツヤはごしごしと目を擦っていた。お子様にはこの時間は辛いのかな?
パパの姿を借りてるんだ。寝付かせてあげないとね。

「お休みパパ」
「...お休み」
「パパ〜?」
「はいはい。パパはここにいるよ」

タツヤを持ち上げ、俺はまどかの部屋をあとにする。
その間、タツヤはずっと寝ぼけ眼で姉とパパを呼んでいた。
俺の知らない幼い頃もこんな感じだったのだろうか。

「...おじちゃん、パパは?」

へ、と思考が停止しかける。
変身は完璧だ。振る舞いも、コイツの記憶に則したものだ。
でも、タツヤの顔は、間違いなく俺がパパじゃないと確信している。

これには少し驚いた。
こうまで簡単に見透かされたのはネウロ以来かもしれない。

子供や小動物は人には見えないものが見えるという逸話があるが、タツヤもその例か、あるいは俺と同程度の観察眼を有しているのか。
もしも後者だとしたら、人間離れした観察眼ということで、俺と近しいなにかを見られるかもしれない。

そんな、ちょっとした期待を込めて俺は

「ちょっと、正体(なかみ)を見せてもらうね」


パチュン


435 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 00:58:02 a7i9ow920



ギン、と金属音が鳴り響く。
まどかは眼前で行われていることが理解できなかった。
タツヤが、自分の家族が、自分よりも小柄な身体で、篤へと斬りかかっているこの事態が。

「...駄目か。今回は流石にイケると思ってたんだけどなー」

篤との鍔迫り合いの中、あどけなさを残したままの笑みで、タツヤはそう言った。

「ねえ。どこで俺が犯人だってわかったの?」
「わかったわけじゃないさ。ただ、生憎俺はこいつの家族には姿を晒していなかったんでな。俺になんの警戒も抱かなかったお前を不審に思っただけだ」
「しまったなあ。てっきりサーヴァントは相方の関係者には存在をバラしているものだと思っていたよ」

篤の刀が震えだす。

(なんて力だ...マスター癖に、サーヴァントの俺とほとんど拮抗している)

ただの人間ではありえない怪力に、篤の背には冷や汗が伝っていた。

(わざわざサーヴァントに斬りかかってくるくらいだ。あの刃物も受けてはマズイものだろう)

このまま接触し続ける理由はない。
いくら相手が怪力とはいえ、そこはやはりマスターとサーヴァントの差はある。
拮抗している状況であれば、押し合いで勝つのはサーヴァントだ。

鍔迫り合いのまま放たれた篤の蹴り上げは、タツヤの金的に入りその身体を浮かせる。
力が緩んだその隙に、身体を横方向に回転させ後ろ回し蹴りを放つ。

足を通して手ごたえを感じた瞬間、その離れ際、タツヤの足が肥大化し篤へと振るわれる。

「なっ!?」

咄嗟の変化についていけず、吹き飛ばされた篤は勢いのままガラスを破り庭へと弾き出された。
一方のタツヤは、金的、腹部と2箇所に蹴りを受けたにも関わらず、宙回しながら壁に手足を着き、その手の刃を投擲した。


436 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 00:58:38 a7i9ow920

「ガフッ」

篤の腹部に刃が刺さり吐血し蹲る。
その隙に、タツヤの足がメキメキと音を立て、壁を軋ませていく。

パシュッ。

その足が壁を蹴りだすよりも早く、桃色の弓矢はタツヤを弾き飛ばした。

タツヤはキョトンとした顔で着地しまどかへと視線を移す。

ハァ、ハァ、と息を切らしながら、まどかはへたりこんでいた。

「どういう、ことなの...?」

咄嗟に変身し反射的にタツヤを弾いたまではいいものの、突然の状況の変化に頭がついていかない。
なぜ。どうして、タツヤが篤を襲う。

「んー、この姿だとできないことも多いし、見たいものも見せて貰ったし...返してあげる」

ミシィ、とタツヤの顔が、身体が、変貌していく。
顔は幼児から少年のものに、身長も伸び瞬く間に別人と為ってしまった。

「ふう。やっぱり自分より小さいと負担も半端ないや。...ねえ、あんたのさっきの矢、どうやってやったの?」

無邪気に笑みを向けてくる少年に、まどかは言いようのない恐怖を覚えていた。


437 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 00:58:58 a7i9ow920

(なんで...)

「例え氷で弓矢を作ったとしても、必ず溶けた痕っていうのは残る。でもあんたのソレは違う。さっきまでなにも持ってなかったのに、掌ひとつで産み出せて、撃ち終われば消える...まるで魔法みたいだ。
凄いよ、あんた。無から有を産み出すなんて、ネウロにしか出来ない芸当だと思ってた。あんたはあいつと同じくらいの化け物かもしれない。だから」

(なんであなたは...)

「あんたの中身を俺に見せてくれ」

(こんなことができるの...?)

まどかは理解できなかった。
少年の言動が。
魔女よりも災厄を撒き散らし、カーズよりも純粋な悪の血統を引き継ぐ存在――――怪盗Xの本質が。

そんな彼女にお構いなしに、Xは彼女を解体(ハコ)にするために跳びかかる。

まどかはわかっていなかった。いや、わかっていたつもりだった。
近しい者がゴミのように殺された時、被害者がどうなるか。

だが、いくら魔法少女の力を持っていようが、本来のまどかはまだ子供。
ただただ押し寄せる無力感と絶望感に抗うにはまだ幼すぎる。

だから、自分を殺そうと迫る手(きょうき)に反応することができず―――自分を庇うように躍り出てきた母を止めることすらできなかった。

パタパタと鮮血が舞い散り、血しぶきがまどかの頬にも付着する。

「マ...マ...?」

詢子の口から血が吐き出され、ドシャリと崩れ落ちる。
その光景に眼を丸くしていたのは、まどかだけでなく刺した本人であるXも同じで。
彼は、血たまりの伏す彼女をどこか感慨深そうに眺めていた。


438 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 00:59:22 a7i9ow920

「...凄いと思うよ。この人は」

そう語るXの顔からは、先ほどまで浮かべていた笑みは消えていた。

「こう見えても俺、美術品には結構興味あるんだ。ああいうのは製作者の感情が篭りやすくてね。篭められたものに共鳴する人間が多いほど大きな感動を産み出すんだ」

微かに目を伏せながらXは続ける。

「あの二人の細胞から、特に鹿目タツヤの方からは彼女の確かな『愛』が感じられた。芸術品じゃない、個々の生命体にだ」
「純粋に、彼らを愛していたんだろうね。それこそ自分の全てを捧げてもいいくらい。いま、あんたを庇ったのだってそうさ。
特に考えなんてなく、ただあんたに死んでほしくないから、本能的に身体が動いた。...普通の人間ならまずは自衛を考えるのにね」

まるで名作映画を見た批評家のように、Xは第三者の目線で鹿目詢子について語っていた。
自分で全てを奪ったのにも関わらず、だ。

「あんたの正体に興味はあるけど、この人の込めた感情に敬意を評して壊さないであげるよ。...まあ、いくらあんたが化け物でも、この人の愛で満たされている以上は、俺の正体には遠いだろうけどね」

そして、Xはまどかに背を向け「じゃーねー」と軽い調子でひらひらと手を振った。
その姿に。言いたいことだけ、やりたい放題やって去ろうとする傍若無人さに。
まどかの感情の枷は決壊した。



「勝手なことばかり言わないで!なんで、みんなを殺したの!?なんで、わたし、だけ...いきなりやってきて、全部、こわして、なにもかも勝手すぎるよ!」

まどかの慟哭に、Xの足がピタリと止まりまどかへと再び向き直る。

「そっ。それがあんたの望みなら」

Xの腕がメキメキと変貌していく。
その様を、まどかはまるで他人事のようにただ呆然と眺めていた。
彼女の頭の片隅では、このまま辛い現実から逃がしてくれるならそれでもいいと願う想いがあった...のかもしれない。

「それじゃあ、遠慮なく中身を見せてもらうよ」

躊躇いもなく振り下ろされるXの腕は、しかし刺さる刃に阻まれた。


439 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 01:00:45 a7i9ow920


「それ以上は好きにやらせん。お前の相手はこの俺だ」

篤が、血塗れの身体で尚立ち上がっていた。

「へえ、まだそんな力があったんだ」

Xは、純粋な称賛の言葉を投げる。
観察眼に優れる彼から見れば、カーズとの戦闘と先ほど受けた刃は間違いなく彼の身体を蝕んでおり、もはや動くことすら困難な状態にある。
それでも立ち上がれるのは、やはり彼が人間ではなくサーヴァントだからか。

さて。

篤もまどかも殺すことには変わりはないがどちらから殺そうか。

「うん。決めた」

先にまどかを殺そうとすれば、篤は意地でも妨害するだろう。
だが、いまの意気消沈しているまどかは、篤が殺されかけたとて援護が出来るかはわからない。
ならば、狙いは篤だ。

(あの怪我なら、存分に力を発揮できないはず。なら、まずは腕力勝負だ)

まずは力押しで隙を作り、その後に殺そう。
腕に刺さった刃を抜き、篤へと跳びかかる。

篤が返すは、日本刀―――ではなかった。

Xの驚異的な速さでの襲撃を、跳躍でかわし、宙回からの踵落としで頭部を地面に叩きつけた。

「ガ、アッ」

堪らず苦悶の声をあげるXに構わず、篤は馬乗りになり頭部を何度も殴打する。
後頭部からの殴打のため、目視できないXは防御の体勢をとることすらできない。

「アガッ」
(コイツ、こんな身体のどこにこんな力が...!)

Xは知らない。
傷ついた時ほど本領を発揮する彼岸島の戦士たちの底力を。
怒りと憎悪に塗れ、悪以上に非情でなければ生き残れない彼岸島の戦いを。


440 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 01:01:18 a7i9ow920

ガンッ。
ガンッ。
ガンッ。
グシャッ。

何度も振り下ろした拳は、Xの頭部から血を噴出させ、頭蓋骨を砕き、鈍い音を響かせる。
それでも、化け物の生命力を知っている篤は手を休めるつもりはない。

ダメ押しとばかりに、丸太を握り絞め、Xの頭部にあてる。

狙いは定めた。あとは完全に脳髄が破壊されるまで潰すだけだ。

「うおおおおおおお!!」

咆哮と共に振るわれる丸太。

ガッ。

しかし、それは間に挟まれた腕に阻まれた。

「なっ」

それはXの両腕ではなかった。彼の背中から生えた新たなる腕―――いや、腕に似せた筋繊維の塊だ。

「チッ」

舌打ちと共に丸太を離し、頭上で両手を組み振り下ろすも、Xへと到達する寸前に背中の腕で投げ飛ばされてしまう。

篤が着地し、体勢を立て直そうとするもとき既に遅し。
Xは屋根へと跳び上がっていた。


441 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 01:01:40 a7i9ow920

「いまのは流石にやばかったよ。もし丸太で完全に脳を潰せてたら多分殺せてたと思う」

頭部を真っ赤に染めつつも、普段と変わらぬ調子でXは言ってのける。

「あんたとこのまま戦うのも面白そうだけど、自分の正体(なかみ)もわからないまま死ぬのは嫌だし今日は帰らせてもらうよ」
「このまま逃げられると思うのか?」
「思うよ。だって、もしも誰かがここに来たらあの娘ひとりじゃどうしようもないでしょ?」

マスクの下で、篤の歯が軋む。
篤としては、どうしてもXが許せなかった。
まどかの家族を殺した彼が、まどかを悲しみに突き落とした彼が、なにより『弟』を使い殺そうとした彼という存在が。
だから、なんとしてもこの場でXを殺したかった。

だが、ここで感情のままにXを追えば、万が一他の襲撃者が来た時にまどかを護ることができない。
つまり、篤に選択肢などないのだ。

「デパートの予告には必ず向かうからさ、よかったらあんたもおいでよ。その時はあんたの中身を見せてもらうからさ」

まるで学校帰りの友達を誘うかのような調子で。
じゃあねと暢気な声色で、Xは屋根伝いに駆けていった。

「......」

篤は、その背中が遠ざかるのをただジッと見つめていた。
背後でまどかが絶望に打ちひしがれているのを感じながら。

かつて雅に向けていたものと同じように。
怒りと憎悪を滾らせた眼で、ずっと見つめていた。


442 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 01:02:46 a7i9ow920



一方、その頃の下水道。

「...逃がしたか」

ヴァニラ・アイスはスタンドから身を乗り出し、ひとりごちた。

この狭い道の中、ヴァニラがカーズを見逃した理由は至ってシンプル。
いくら全力で進もうとも、カーズに追いつけなかった。ただそれだけだ。
身体能力というどうにもならない差は、彼のスタンド『クリーム』をもってしても埋めることはできなかったのだ。

「バーサーカーめ...次に会った時こそ貴様を滅してくれる」

吸血鬼を超える高い身体能力に、確かな観察眼。DIOの障害になりかねない不遜な存在だ。必ず殺さなければならなない。

だが、ヴァニラにとってもう1人気に入らない存在がいた。

「暁美ほむら...なぜあの女がDIO様のマスターなのだ」

まだ、邪悪さと強靭な精神力を兼ね備え、DIOにスタンドを教えたエンヤ婆ならばまだわかる。
ンドゥールのようなDIOに魂からの忠誠を誓った誇り高き悪のエリートならばまだわかる。

だが、あの小娘はなんだ。
自分を利用しカーズにぶつけ利用したことには眼を瞑る。むしろ、『悪』ならばそれくらいはやってもらわねば困る。

だが、このヴァニラ・アイスからしてみればあの小娘は半端ものだ。
それはたまという小娘を庇った時点で見て取れる。

なぜ弱者を踏み台にし自分の糧にしない。
なぜ弱者に足並みを揃えようとする。

気に入らない。そんな半端な小娘がDIOの傍にいる権利を与えられているのがひどく気に食わない。

ただ、ヴァニラ・アイスは激情家であっても愚者ではない。

気に入らないからといって、暁美ほむらを殺すつもりはない。

(あの小娘には肉の芽がつけられていなかった。あの女の自分の意思での行動がDIO様の糧になるということだ)

DIOは非常に用心深い性格だ。
ヴァニラやエンヤのような生粋の信者や、『カネ』というこれ以上ない強力な繋がりを持つ雇われの殺し屋以外にはたいてい肉の芽を植え付け支配下においている。
花京院典明やJ・P・ポルナレフなどがいい例だ。
ならば、暁美ほむらとて肉の芽の支配を受けてしかるべきである。

だが、彼女に肉の芽はついていない。
それは、DIOなりの考えがあって彼女の行動を制限していないことに他ならない。
つまり、DIOはいまの暁美ほむらに価値を見出しているのだ。

そんな主人の思惑を無視して私情を優先するはずもない。

「だが...もしもDIO様が不要だと判断したそのときは、貴様も排除の対象だ、暁美ほむら。DIO様の足を引っ張るようなことになれば、即座に消し去ってくれる」


443 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 01:03:10 a7i9ow920




「いや、本当にヤバかったよ。あと数秒で殺されてたもん。いまだって頭がズキズキするし吐き気もしてる」
『そうか。それで、何処にいる』
「もう少し興味もってくれてもいいじゃん」
『答えろ』
「んーと、地図でいうとC-2とD-2の境界あたりかな」
『わかった。そこで合流するぞ』

Xは、そっけない返答しかしない相方に少し頬を膨らませつつ、警察で盗んだトランシーバーをしまい、痛めつけられた身体を修復にあてていた。

Xとカーズが別行動をとった理由。
それは、Xの願望もあってこそではあるが、根底としてはサーヴァントである篤の魂をXのソウルジェムに入れるためである。

Xとカーズが篤たちを見つけたのはほんの偶然で、下水道を出たところで、屋根の上で待機している篤と鹿目まどかの家へ向かっている暁美ほむらを見つけたのだ。

Xはすぐに殺す準備を始めようとするも、篤の魂がほむらのソウルジェムに入ることを懸念し、まずは二人を分断することを考えた。
そのために、たまを利用し、陽を凌げ逃げ場の限られる下水道へと落とし込み、Xの用事が済み次第篤を回収する予定だったのだ。

「そういや、鹿目まどかにたまの名前を吹き込んだけど、あれってなんの意味があったの?」
『貴様が失敗した時の保険だ。これから先、ヤツが怪盗Xである可能性を向けられれば、他の主従と信頼し合うのは不可能だろう』
「そのためのお呪い(おまじない)か。...あんたってイイ性格してるよね」

Xは思わず苦笑を浮かべる。

下水道でたまと遭遇した時、カーズは、彼女を殺そうとしなかった。
瞬時に穴を空ける能力が興味深いのもあるが、それ以上に、彼女の臆病な性格を見抜いてのことだろう。
彼は、たまを見逃す代わりに彼女の心臓に『首輪』をつけた。

『死の結婚指輪(ウエディング・リング)』。

カーズは言った。
これから提示する三つの禁。それを侵せばこのリングが死を与えると。
ひとつ。怪盗X及びカーズの情報を他者に開示すること。
ひとつ。怪盗X及びカーズに直接害を与えること。
ひとつ。他主従に齎された情報を怪盗X及びカーズに秘匿すること。

無論、カーズのこの言は全て嘘である。
死の結婚指輪の本当の効果は、三十三日後に外殻が解け、溢れた毒が対象を死に至らしめるもの。
つまり、たまはカーズを殺さぬ限り確実に死ぬ運命にあるが、三つの禁を破ろうが死ぬことはないし、この聖杯戦争中に効果を発揮することもないのである。
しかし、たまがカーズを裏切ることはできない、と彼は考えている。

三つの誓約を課したのは、誓約をひとつだけにしてたまが勇気を振り絞り破った場合、全てが嘘だと看破される可能性を潰すためだ。
選択肢が三つあれば、二つを捨てても最後のひとつは意地でも護ろうとする。誓約がひとつの場合よりも強固なものになるのだ。

(まったくもって嫌らしいよね。俺よりもよっぽど『悪』に思えるや)

『悪の救世主』―――セイヴァー。
いま、Xが最も興味を抱いているサーヴァントが望む『悪』とはなんなのか。
カーズのように、人を人と思わぬ振る舞いをする者か。
自分のように、己の都合で人々を壊していく者か。

少なくとも、彼が望むのはいまの自分ではないのかもしれない。

『鹿目タツヤ』という、家族からの■(アイ)の結晶に魅入られ掛けた程度の自分では。


444 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 01:03:49 a7i9ow920



ほむらがたまと共に辿り着いたときには全てが終わっていた。

真赤に彩られた部屋。

家具のひとつのように置かれた二つの赤い箱。

拳を握り締め俯いている篤。

そして、血溜まりに沈む母の傍でへたり込むまどか。

赤い箱の事件。それはほむらもニュースやウワサを通して知っている。

それ故に、ここで起きたことは嫌でもわかってしまう。

「...が...」

まどかの呟きが、ほむらたちの耳にも届く。

「みんな...わたしが...」

これは全ての不運が重なった結果だ。
もしもたまがカーズたちに遭遇しなかったら。
もしもほむらがXたちよりもはやくまどかの家に辿り着かなかったら。
もしも篤がほむらに疑いをかけなかったら。
もしも詢子が酒を飲まず、知久も既に就寝していたら。
もしもタツヤが起きてこなかったら。
もしもまどかが学生証なんて無視して家で大人しくしていたら。

そんな、ほんの些細な"もしも"がひとつでも違っていれば、こうはならなかったかもしれない。
けれど、まどかは己を責め立てる。

泣くことすら許さずに、全ての責を自分に押し付けている。

そんな彼女に、誰も言葉をかけることなどできず。

ただただ、非情な現実に押しつぶされるだけだった。




【鹿目知久(NPC)@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】
【鹿目タツヤ(NPC)@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】


445 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 01:06:20 a7i9ow920

【D-2(まどか宅)/月曜日 早朝】

※鹿目詢子が意識不明の重体に陥りました。


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]疲労(中)、精神的疲労(絶大)、茫然自失
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金] お小遣い五千円くらい。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯戦争を止める。家族や友達、多くの人を守る。
0:――――
(1):ほむらと情報交換する。
(2):聖杯戦争を止めようとする人がいれば手を組みたい。

※(1)と(2)については精神的に落ち着かなければ不可能です。


【ランサー(宮本篤)@彼岸島】
[状態] 全身に打撲(中〜大)、疲労(大)、精神的疲労(大)、腹部裂傷
[装備] 刀
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯は手に入れたいが、基本はまどかの方針に付き合う。
0.怪盗X及びバーサーカー(カーズ)は必ず殺す。
1. 怪盗X・セイヴァー(DIO)には要警戒。予告場所に向かうかはまどかと話し合う。



【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]疲労(小)、魔力消費(小)、魔法少女に変身中
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]見滝原中学校の制服
[道具]学生鞄、聖杯戦争に関する資料、警察署から盗んだ銃火器(盾に収納)
[所持金]一人くらし出来る仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得。まどかを守る。
1.鹿目さん...
2.学校には通学する
3.セイヴァーに似たマスターは一体…?
4.またセイヴァーのそっくりさん...あと何人いるんだろう
5.バーサーカー(カーズ)には
[備考]
※他のマスターに指名手配されていることを知りましたが、それによって貰える報酬までは教えられていません。
※セイヴァー(DIO)の直感による資料には目を通してあります。
※ホル・ホースからDIOによく似たサーヴァントの情報を聞きました。
※ヴァニラ・アイスがDIOの側近であることを知りました。




【たま(犬吠埼珠)@魔法少女育成計画】
[状態]身体に死の結婚指輪が埋め込まれてる。全身に軽い怪我。X&カーズへの絶対的な恐怖。
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
0:こんな...ヒドイ...!
1:ひとまずほむらちゃんについていく。

※カーズが語った、死の結婚指輪の説明(嘘)を信じています。


446 : 命のゼンマイ(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 01:08:08 a7i9ow920

【D-2〜C-2にかけて/月曜日 早朝】

【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]魔力消費(小)肉体ダメージ(大・再生中)、頭部出血(中・再生中)、頭蓋骨一部骨折(再生中)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]大振りの刃物(『道具作成』によるもの)、警察署で手に入れたトランシーバー
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯も得たいが、まずは英霊の『中身』を観察する。
1.バーサーカー(カーズ)と合流する。いまは治療を優先する。
2.見滝原中学の『誰か』になって侵入する
3.アヤ・エイジアの殺害は予定通り行う
4.討伐令を考慮し、セイヴァーの殺害も優先する
[備考]
※アヤ・エイジアの殺害予告は実行するつもりです。現時点で変更はありません。
※警察署で虐殺を行いました。
※警察で捕捉可能な事件をある程度、把握しました。
※セイヴァーが『直感』で目をつけたマスター候補を把握しました。
※マシュ&シールダー(ブローディア)の主従を把握しました。
 彼女らが聖杯獲得に動いていないと知っています。
※前述の情報を一応記憶していますが、割とどうでもいい記憶は時間経過と共に忘却する恐れがあります。
※鹿目知久と鹿目タツヤを『観察』しました
※たま、鹿目詢子、鹿目まどかの姿だけなら模倣できます。


【D-2〜C-2にかけて(下水道)/月曜日 早朝】



※下水道にたくさんの穴が空いていますが、これによる下水道陥没の危険性はいまのところありません。

【バーサーカー(カーズ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)、右足損失
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具] 警察署で手に入れたトランシーバー
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得
1.マスター(怪盗X)と合流する。
2.バーサーカー(ヴァニラ・アイス)には警戒。
3.たまは折を見て回収しにいく。

[備考]
※警察で捕捉可能な事件をある程度、把握しました。
※セイヴァーが『直感』で目をつけたマスター候補を把握しました。
※マシュ&シールダー(ブローディア)の主従を把握しました。
 彼女らが聖杯獲得に動いていないと知っています。
※警察署で回収した銃弾は使い終わりました。
※バーサーカー(シュガー)の『砂糖』の魔力を感知しました。




【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態] 額に傷(小)、出血(小)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様に聖杯を献上する
1.DIO様の元に馳せ参じる
2.DIO様に歯向かう連中を始末する。特にカーズは障害になりえそうなので必ず殺す。
3.暁美ほむら...あのケツの青い小娘がなぜDIO様のマスターに...

[備考]
スノーホワイトとの契約は継続中ですが、魔力供給を絞られています


447 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/09/07(金) 01:08:39 a7i9ow920
投下終了です


448 : 名無しさん :2018/09/07(金) 05:31:10 jli8243A0
投下乙です
NPCとはいえ鹿目家が…まどかが明さんのように修羅道に堕ちそうで怖い…


449 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:32:52 9yXn4O2o0
投下していただきありがとうございます。

無辜の住人・NPCの死であるにも関わらず、怒りや悪意すら湧きあがらない、
乾いた笑いしか零れない死亡表記に脱帽する他ありません。
黄金の精神を持ったまどかでも、眼前で巻き起こった家族に関わる最悪に打ちのめされてしまいました。
果たして、彼女はどうなってしまうのか。
鍵を握るのは、篤やほむら達、まどかを知る友人たちなどでしょう。
そして、不幸にも邪悪たちに利用され、今も恐怖と言う支配に縛られているたまは、
彼女があるべき魔法少女を取り戻せるのでしょうか。

好き放題やりつくしたカーズやヴァニラ・アイスですが
これから朝日が昇り、彼らの行動が縛られるのは、まどか達にとっては幸運なことです。
一方で、彼らは再び日が沈むまで大人しくする訳もないので安心できないものです。


450 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:33:38 9yXn4O2o0
これより予約分後半を投下します


451 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:35:04 9yXn4O2o0




他にも見滝原中学に訪問者が現れるのは予想していたダ・ヴィンチも、幾許か驚きを抱いている。
誰かが居る。
微弱な魔力は一般人程度のもので、特別性はない。
しかし、校門前で座り込んでうたた寝する少女はマスターの一人だった。
彼女の手の甲に令呪がある。間違いなく。

流石に放置するのも気をひけ、ダ・ヴィンチは少女を敷地内の適当なベンチに横たわらせた。
当然だが、ダ・ヴィンチが少女を殺す気は皆無だ。
少女が何故ここで眠っているのか。そこが重要であるし、どうやら彼女のサーヴァントは周囲に居ないらしい。

ダ・ヴィンチは、無難に少女の目覚めを待つ事にした。
念の為、周囲の魔力を感知しかけた矢先。
少女がバチリと覚醒する。

もしかしたら、モナ・リザその人の姿に驚くんじゃあないか。
面白可笑しく想像すれば、ダ・ヴィンチを目にした者の反応は様々あるだろう。
―――少女の場合は。
酷く濁り切った蒼の瞳を見開いて、ポシェットから包丁を取り出し、ダ・ヴィンチへ刃先を向けたのだった。

「おいおい」

愉快じゃあない様子でダ・ヴィンチは突っ込む。
万能の人と言えど、ポシェットに凶器があり、ソレを人に向ける少女だと見抜けなかった。
否。
魔力付与もない刃はサーヴァントを傷つけられないのだが。
問題は、焦りや恐怖を浮かべず、躊躇なく凶行へ移した少女の精神性である。

「私はまだ何もしてないじゃあないか。早く降ろそうぜ、そんなもの」

「あなたは……なに?」

「ひょっとしてモナ・リザをご存じない!?」

ダ・ヴィンチが陽気なリアクションしても、少女は睨むように刃を握ったまま。

「モナ・リザは知っている。誰が描いたかは知らないけど」

「…………」

ちょっぴりショックだったりもする。
だけど、ダ・ヴィンチは幼い年頃の少女だったら仕方ないかと自分を納得させていた。
少女は至極全うに問いかける。


452 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:35:29 9yXn4O2o0
「あなたは『敵』? 私とライダーは聖杯が欲しいの」

「嗚呼、そういう事か。だったら『敵』じゃあないさ。私はセイヴァーを探している。
 正しくは、何故セイヴァーに討伐令がかけられたのかを知りたくてね」

「セイヴァー……」

少女――レイチェルが包丁を降ろす事は無い。
ダ・ヴィンチは態度を変えずに、敵意なくレイチェルに話す。

「理由があるか無いか次第で、討伐令の意味も変わってくるものだ。
 何も無いと証明できれば、それはそれで良い。
 私のマスターは元の生活に戻りたがってしょうがないのさ、討伐令の報酬は欲しがるんじゃないかってね」

何故? セイヴァーが討伐令をかけられた原因。
一種の不幸なターゲットの一種だけなら良しとして……
レイチェルは無意識にダ・ヴィンチを睨んでいた。
彼女に苛立っている訳でなく、普通に『信用』して良いのか疑心を向けていた。

信用。

ディエゴは主催者を信用していなかった。
思い出すと、元々ディエゴは神父のライダーも信用していなかった。
包丁を手にしたまま、レイチェルが口を開く。

「あなたが信じられない」

一方、ダ・ヴィンチは至って落ち着いた様子で唸る。

「眠っていた君を殺さなかった。それで『信用』欲しいかな。
 君を殺せば、君のサーヴァントは問答無用に脱落するのだからね」

「………」

「私としては、どうして君一人で見滝原中学に来ていたのかが心配でならないよ。
 君のサーヴァントは今、何をしているんだい」

「知らない。でも―――あなたの方こそ、何故そんな事を聞くの? セイヴァーの事を調べているのに」

心配は無用じゃあない。
心底、レイチェルはダ・ヴィンチを信じようとしていないと、ダ・ヴィンチの方が察した。
否。むしろ彼女が警戒せず、純粋無垢にダ・ヴィンチを信用する姿勢であれば。
それもそれで今後を不安させる存在だ。
ダ・ヴィンチは多少の唸りをしつつ、微笑を崩すことなくレイチェルに告げる。


453 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:35:55 9yXn4O2o0
「確かにそれもそうだ。なら、改めて問おう。君はセイヴァーに関して何か知っている事は無いかな?」

「……」

レイチェルは考えた。
本当の事を言えば、恐らくダ・ヴィンチは自分たちに関わり続けようとするだろう。
セイヴァーと似通ったディエゴと、セイヴァーを妄信するプッチ。
ダ・ヴィンチにとっては重要な情報だからこそ。

(だけど、きっと邪魔になる。この人は、聖杯を欲しがっていないから)

段々とレイチェルも感じられるようになった。
セイヴァーに関する調査やレイチェルを殺さない時点で、ダ・ヴィンチは聖杯獲得を心良く思っていない。
ならばこそ、ダ・ヴィンチは一刻も早く立ち去らせなければならい。
ディエゴと会わせてはならない。

危機感を覚えている。
レイチェルの行動は良く言えばそうなのだが、ザワザワと胸底でドス黒い衝動が彼女の中で蠢いていた。
それは、プッチと面白可笑しく言葉を交わすディエゴを眺めている時と同じだった。

一つ、静かにレイチェルは言う。

「アヤ・エイジア……あの人のサーヴァントが……セイヴァーと似ているって」

「……似ている…?」

ダ・ヴィンチは眉を潜める。
レイチェルも確証がない情報だったが、ディエゴと情報交換をした際にプッチが述べていた一つ。
ディエゴは、あまり信用してない様子で聞き流していた。
もう一人……同じ英霊が居ること事態が異常なものの、故にレイチェルは情報をあえて教えた。

「実に興味深い情報だ。事実であればだけど」

「……もう私の知っている事は無い。ライダーに聞いても同じよ」

「うん、成程。教えてくれてありがとう」

深く追求しても返って警戒心を高めるだけだろう。
ダ・ヴィンチは立ち去るべく、傍らに停車させてたバステニャン号に腰を降ろした。
聖杯獲得の方針の主従を放置するのは、確かに危険ではあろうが、かと言ってダ・ヴィンチは
マスターたる少女に手をかける愚か者じゃあない。


454 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:36:22 9yXn4O2o0
ふと、ダ・ヴィンチが最後に一つだけレイチェルに話した。

「君のサーヴァント、クラスはライダーで間違いないかな?
 であれば一つだけアドバイスをしておこう。ライダーには対魔力というスキルがある。
 それの能力が高いほど『令呪』に抗う抵抗力が強いのさ」

「……」

「だからもしも――令呪で強制させたい場合、最悪令呪は二画使った方が良い。……いいね?」

レイチェルは不穏な空気を纏って、ダ・ヴィンチを無言で見つめるばかりで返事はしなかった。
可能な限り少女の安否を案じたダ・ヴィンチは「それじゃあ」とバステニャン号を発進。
校門から出て行く姿を見届け、レイチェルは一安心する。

「………令呪」

果たしてダ・ヴィンチのアドバイスは真実か?
だがレイチェルは、手に刻まれた令呪を改めて眺めた。
今のところ……使うつもりはない。第一、どういう時に使えばいいのだろう。







ディエゴがソウルジェムを飲み込んでしまったのにプッチが驚く一方。
独りぼっちでマミは絶望していた。

「あ、ああ……」

彼女は手元のリボンを銃に変化させながらも、ディエゴに向けずに呆然としていた。
ソウルジェムを、取り戻すにはディエゴの腹を切り裂かなければならないと?

違う。倒せばいい。倒せば簡単に、杏子のソウルジェムだけは無事。だと……その筈。
確証が、ないけども……嗚呼、だけど。本当にそれで大丈夫なのか?
単純に考えればそうなのだ。
ランサーの代わりに、魔法少女の力を駆使して……悪を倒す。魔女を倒すのと同じ……

プッチは全てを察する。
魔法少女の能力は、確かにサーヴァントの使い魔程度を相手する力を秘めているに違いない。
しかし、精神は?
マミの青ざめた様子にプッチは、彼女の精神の底を見定めていた。

結局、魔法少女は『少女』に過ぎない。
恋に破れ、愛を為せない程度で絶望してしまい。
自らの使命や信念を為せない程度で絶望し。
折角叶えた願いが裏目に出て、勝手に絶望する脆弱な精神の一つでしかなかった。


ディエゴを殺せば、本当にソウルジェムだけは消滅しないのか?
そもそも、苦労して彼を殺したところで、ソウルジェムは無事なのか? 杏子の魂は?


455 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:36:48 9yXn4O2o0
銃を構えようかと震えるマミに、沈黙を破るプッチ。

「あのソウルジェムに魂を入れられた少女を助けるつもりならば、止めた方が良い。
 君が成そうとする行動は無意味に終わる」

「そ、そんなの……」

まだ決まってない。
奇跡と魔法がありえる物語なら定番の台詞を口にしようとするマミに対し。
プッチは言葉を続けた。

「どうやら君は『魂食い』を知らないようだ」

「な……何……?」

未知の情報に困惑するマミ。
その場に残り続けるプッチの会話に、ディエゴは少しばかり振り返っていた。

「我々サーヴァントは、文字通り魂を喰らう事で魔力を補える。
 こうして舞台上に魔力源となる住人を配置したのも、聖杯戦争の運営側による計らいの一つだろう」

「…………、………………」

「まだ理解できないようだな。既に彼女の―――」

「やめてッ!!」

マミがヒステリックな叫びが響いた。
震える銃口をディエゴに向けるマミのソウルジェム。
煌びやかな黄金にも似た色彩の宝石が、汚染される風に穢れるのをプッチはしかと見る。

始終沈黙していたディエゴだが、ようやっとここで口を開いた。
退屈そうに天を仰ぎつつ大げさな素振りも加えて。

「撃つなら撃てよ。一発だけなら誤射かもしれないって奴だ。
 最も、俺を撃ち殺してソウルジェムが綺麗に残るかは、保証しないぜ」

わざとらしく、明か様な挑発的な態度にマミの絶望も変化がついてしまう。

きっと撃たなければ後悔する。
あそこで恐竜使いのライダーを撃っておけば、そう後悔するくらいなら。
佐倉杏子の命が、本当に助からないなら。
絶望する前に、奴を撃つべきだ。助かるにしろ、助からないにしても。

マミが力を込めようとした瞬間――太陽にも似た光が駆け抜けた。
颯爽と現れ、マンション屋上より急加速で飛び降りたサーヴァントの『拳』による一撃。
一帯の捕らわれた恐竜たちやマミすらも浮かせる衝撃波が発生し。
全てを有象無象にしたのだった。






456 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:37:31 9yXn4O2o0
マンションで発生した異常に、その場に集っていた人々は混乱し、情報があれこれ錯綜していた。
ここらとは無縁の住宅街の住人達が、どういう訳か。
目を覚ましたら、寝着姿で外に放り出され、マンション前に移動させられていた。
銃声に似た音を聞いた。駐輪場の大規模な損壊。
痕跡があるのに誰も何が起きたかを導き出せる名探偵は現れずにいる。


騒ぎが収まらない現場。
マンションの一室で、バーサーカーのクラスで召喚された英霊・徳川家康が一息つく。
彼は元々、見滝原中学周辺を警戒するべく登場した存在。
聖杯戦争が始まり、直ぐに行った訳じゃあない。
中学へ至るまでの経路で異常がないか見定め、彼が発見したのは恐竜化が伝染病の如く広まる住宅街。

それらを追跡し。
幸か不幸か。ディエゴらの戦場に到着したのだった。
家康が拳の衝撃波で吹き飛ばし終えた光景で見たのは、巴マミは放置され、ディエゴとプッチは消えていた。

しかし、状況は非常に面倒そのもの。
ショック状態のマミと同じように、家康がマミの自宅まで運んでやったランサーの状態は深刻である。

「すみません、マミ。喋れたり、ナイフくらいは投げられるんですが、傷は霊体化しなくちゃ癒えないです」

悠長に語るランサーは、実質満身創痍であり。
一体どうして肉体が真っ二つにならなかったのか、異常と思える深い傷が肉体に刻まれていた。
そして、マスターであるマミも正常とは言い難い。

「ランサー……ごめんなさい、私の方こそごめんなさい………」

「……マミ?」

ランサーが伺うマミの表情は夜の薄暗さも相まって見えなかった。

「ううん。何でもない……ランサー、私がバーサーカーさんと話しておくから……」

「……わかりました」

意味深にマミの様子に引っ掛かりながらも、ランサーは霊体化をする。


457 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:38:28 9yXn4O2o0
マミはついさっきまで、昼間に。
杏子と、他にもまどかとさやかを合わせて、ちょっとした出かけをしていたのだ。

佐倉杏子は生きていた。
集合場所でも菓子を口にしてばっかりで、後に怪盗Xの犯行予告で代無しになるまで。
欠伸をするほど平凡な日常だった筈なのに。

自分達が何をしたのか。
人々の平穏を守る為に魔女と戦うのが使命だった筈なのに。
ソウルジェムが作られた時……魂を抜き取られていた? だったら肉体の方は、もう――


独り思い抱えるマミを、家康が呼びかける。

「すまない。お前とランサーの手傷を考慮して、二騎のサーヴァントを見逃してしまったが……
 恐らく向こうも、魔力の都合で撤退を余儀なくしたのだろう。当分は現れない筈だ」

「……ありがとうございます」

家康も、どことなく気付く。
マミの表情は、思い詰めたものであり、何か虚ろで彷徨っている風に見えた。

ふと視点を落とす。
ソウルジェムの濁りが悪化している。
マミは、何故だか他人事のように傍観者の立場で考えていた。
これが自分の魂だとして………穢れ切ってしまったら、一体自分はどうなってしまうんだろう?

「バーサーカーさんは聖杯戦争を……どうするつもりなんですか」

「ワシは、ワシのマスターの意志を尊重させたい。
 そして……今を生きるマスター達は死なせるべきではない。一人でも多く救いたいと思っている」

「でも……一人でも死なせてしまったら。もし、そうなってしまった時は」

家康が纏う空気は一瞬重くなった。
だけど、一瞬だけ。
次には伏せた顔を上げて、マミの問いに答える。

「そうなったのならば―――それはワシの罪だ」

家康の言葉にマミが呆然とする傍ら、当の本人は続けた。

「ワシが罪を背負い、それでも希望を捨てずに前進しなければ誰もを救う事は叶わない」

「そう、なんですね」

ちっぽけな魔法少女の、否。
正義の味方を、頼れる先輩を演じようとしていたマミは、再び別の意味で打ちのめされた。
彼女は自身の想いを、本当の想いと向き合って自覚してしまった。


458 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:38:52 9yXn4O2o0

―――本当の私は……誰かと一緒にいたかっただけ


聖杯戦争。特殊な形式の殺し合いだからこそ、共に居続けてくれたランサーや。
昼間に遊びに出掛けた杏子たち後輩や。
独りじゃなかったから。
誰かと一緒に居たかったから。


―――私は、佐倉さんと……友達になりたかったの………


ずっとずっと、マミの中に残り続けていた後悔の念が湧きあがってくるのを感じた。
自分は弱い。
誰かの憧れになれる理想の人間じゃあない。
対して、徳川家康は正真正銘の英霊。日本を統一しただけの覚悟とカリスマ性は圧巻である。
巴マミとは全く異なった。

「バーサーカーさん。私は貴方を信じます……だから一つ、お願いを聞いて貰っても良いですか」

「ああ」

「火事が起きた方角に『教会』があります。そこに住んでいる……佐倉さんの様子を伺って欲しいんです。
 佐倉杏子――私の後輩にあたる……赤髪の女の子です」

「彼女にマスターの可能性があるのだな」

「……まだ確証はないです」

それは嘘だ。
ソウルジェムを見る限り、彼女はマスターで、恐らくサーヴァントの方は……
だけど、マミは信じたくなかった。
現実から目を背け、受け入れようとせず、思考を止めている。

一方。家康はマミに疑念を感じるどころか「分かった」と心良く頷く。
迷いなく、躊躇なく答える英霊を前にマミは消沈している。魔法少女として。正義の味方として。
マミの闇を知らず、家康は話を続けた。

「ワシが戻るまでは、回復に専念してくれ。サーヴァントが現れた時は、迷わず逃げるんだ」

「はい……わかりました」


459 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:39:24 9yXn4O2o0
家康が霊体化し、立ち去ったがマミの重い雰囲気は残り続けた。

『マミ。何があったです?』

霊体化した状態ながら、ランサーの念話はしっかりと聞こえる。
マミは話をする気力が湧きあがらない。
話そうにも、一体どれから話せば。第一に、魔法少女の秘密……ソウルジェムの正体。

聖杯戦争の関与から疑念がなかった訳ではないが。
キュウべぇ。
恐らくアレがマミの魂を引きずり出した。何も言わず、一体どうして?

「ランサー……魂食いというのは知っている……?」

漸くマミが一つ尋ねた。
ランサーは、何故それを尋ねたのか。ひょっとすればマミと交戦した敵がそれの脅迫を述べたのか。
理由はどうあれ、いつも通りの口調で答える。

『はい、サーヴァントが人の魂を魔力の糧にしてしまうものです』

「本当……なのね」

『彼らが大規模な魂食いを目論んでいるんでしょうか?』

「……ごめんなさい。少し、休ませて」



セイヴァーに似たあの英霊が何者か、巴マミは知らない。

彼は、佐倉杏子を殺した――という現実だけが残っていた。



【D-6 マンション(巴マミの家)/月曜日 早朝】

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]魔力消費(中)精神不安定(中)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]なし
[道具]マミのソウルジェム(穢:中)
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.佐倉さん……
[備考]
※ライダー(ディエゴ)、ライダー(プッチ)のステータスを把握しました。
※ソウルジェムに己の魂が入っている事実を知りました。
※バーサーカー(家康)のステータスを把握しました。
※杏子は死亡したと思いこんでいます。


【鈴屋什造@東京喰種:re】
[状態]霊体化、重傷、魔力消費(中)
[装備]初期装備
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:巴マミのサーヴァントらしく行動
1.傷の回復を優先させる
2.『アサシン』を警戒しておく
3.マミの様子が気になる
[備考]
※バーサーカー(ヴァニラ・アイス)をアサシンのサーヴァントだと誤認しています
※ライダー(ディエゴ)、ライダー(プッチ)、バーサーカー(家康)の存在を把握しました。
※杏子のソウルジェムの一件などはまだ把握していません。


460 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:39:55 9yXn4O2o0




いつも通学している筈の見滝原中学の敷地のベンチで、レイチェルは蹲っていた。

(念話……)

中学に到着したら念話で伝えろと、ディエゴに言われていた事を思い出す。
レイチェルは少しだけ留まった。彼女の中では、未だに奇妙な感覚が漂い続けている。
理解出来ない悪夢の映像がグルグルと脳裏で繰り返された。
本来ならば気分が悪くなる光景。
しかし、一方で先ほどダ・ヴィンチを上手く撒けた時の安心感が合わさって、レイチェルは正常を保てた。

「あれで良かったんだ。私は間違っていない、自分で考えたから」

己に言い聞かせるようレイチェルは呟く。
結局どんなに考えたって、悪夢に出てきた彼らを分かる事は出来なかったし。
ダ・ヴィンチの口車に乗っていたら、それこそ『利用』されてたに違いなかった。
……聖杯が欲しい。
聖杯があれば自分の望みは叶えられる。
聖杯じゃあないと……叶えられない。

『ライダー。着いたよ』

短くそれだけレイチェルが念話で伝えたのは、恐る恐るの様子であった。
変に手に汗が滲む中。

『そうか。余計な事はしていないだろうな』

と、ディエゴからの返事が聞こえた時。震えあがりそうなレイチェルは再び安心してしまう。

『うん……大丈夫、何もないよ』

何も無かった、は実際のところ『嘘』だが。
ディエゴとレイチェル、二人の障害を取り払った意味では『何も無い』で正しい。
ただ、まるで子犬を愛でて呼びかけてるような彼女の声色にディエゴが酷く不快になっていた。
彼の機嫌を知る由もないレイチェルは、ディエゴに問う。

『ライダーは、あの神父様を信用しているの?』

『は?』

ついさっきまで聞きもしなかった癖に。
ディエゴが、思わずレイチェルに投げやりな反応をするのは仕方ない。
彼女は神父――即ちプッチへの関心を見せなかった愚か、無言でディエゴとプッチのやり取りを眺めているだけだった。

それを急に問いただすのだ。訳が分からない。
分からないが、面倒になると雰囲気で感じ取り、ディエゴは率直に述べる。


461 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:40:21 9yXn4O2o0
『信用しちゃいない、利用しているだけだ。今度は俺の方針に文句か?』

『私もあの人が信用できない』

妙に考えの突き付け方が変わったのは、ディエゴにも気づけた。
目を離した隙に『何かあったのか』と疑心を抱くのは自然だ。

だが、コイツはイカれている。

ディエゴは並よりもレイチェルを理解している方。
自分を恐竜にしろ、と言う馬鹿の発想と似た意見を提案しに来たんだろう。少なくともディエゴはそう判断した。

『あの人はライダーの事を見てない。信用できないなら、早く殺した方が良いと思う』

『俺がいつ奴を殺すかまで従わせつもりか』

『違う!』

レイチェルの念話越しの言葉には、ただならぬ脅迫紛いの威圧がある。

『違うの、違う。本当にあの人の事は信じない方がいい。利用なんてしない方がいい』

レイチェルは再度、あの悪夢を脳裏に浮かべた。

『私…………』

あの少年は正しかった。
靴の中にシシューをそそげば、火傷もしないし、苦痛も味わう必要もない。
靴が汚れたり、履くと不快感を覚えるだろうけど。
だけど、絶対に間違いなんかじゃない。あそこに居た人間の方が、きっと狂っていたんだから。

(ライダーを信じられる。ライダーの考えは「正しい」と思えた)

レイチェルには分かっていた。少年の正体が何者か。
だからこそ、彼女は自らの想いを打ち明けた。


『ライダーの事が………心配なの』








地の底より響く私怨に満ちた男の声が低く響いた。



お前は―――必ず、俺が殺してやる







462 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:40:51 9yXn4O2o0
「DIO。レイチェル・ガードナーに問題はなかったのか?」

マンションの喧騒を遠くに聞きながら、プッチが奇策にディエゴに尋ねた。
レイチェルとの念話は、とにかく不快で憤りに尽くすものばかりで、ディエゴは心底腹立ったものの。
あの少女じゃあない、自らを悪とも思わぬ神父の方が大分マシなのが残念極まりない。
盛大に溜息をつき、ディエゴが言う。

「アイツは余程死にたいらしいな。いつかは切り捨てるが、それまでにうっかり殺さないか不安になるぜ」

胸糞悪いレイチェルの言葉に。
ディエゴは「そうか」と素っ気なく答えただけで終わらせた。
今頃、呑気に向こうでディエゴが戻るのを待ち構えている筈だろう。
自己完結に満たされていると想像すれば、レイチェルの存在はディエゴに一層不快を味あわせる。

「彼女を切り捨てる?」

一方でプッチは意外そうな発言を口にしていた。

「魔力源としては心もとないが、君の障害たりえる反抗意識は無いように感じられた。
 君に忠実であり、尚且つ信頼があるのマスターは、聖杯戦争のおいて重要ではないだろうか」

「都合が良いだけが全てじゃないんだよ。……なぁ、それよりプッチ。お前『胃石』は知っているか?」

心底、レイチェル・ガードナーはどうでも良かったのだ。
別にディエゴも重要な話題でもない事を、プッチに尋ねるように。
イカれた少女よりも、悪を自覚してない神父の方が話し相手であるのが、無性に愉快だった。
プッチは「ああ」と思いだす。

「飲み込んだ石で食物をすりつぶすものだ。
 そうだ、確か恐竜も化石と共に胃石が発見されていると聞いた事がある」

不敵にディエゴが笑うと、腹部に力を込めてせり上がってきた異物を喉に通し、吐き出す。
飲み込んだ佐倉杏子のソウルジェムだ。
魂である赤き色彩は、輝きを衰えていない。

『魂食い』は実際にあるサーヴァントの機能の一つだが、飲み込んだとしても。
ソウルジェムは、インキュベーターの技術で保護された状態にある。
魂として吸収される心配は、無かった。

赤の宝石を眺めながらディエゴは語る。

「あれでコイツが死んだと思いこむかね。……いや、ソコはどうだっていいな。
 重要な情報を何一つ持ってない奴に、無駄に時間を裂いちまった。――大体お前が悪いぜ」


463 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:41:35 9yXn4O2o0
悪いと指摘しながら、ディエゴは満更でもない態度でプッチに尋ねた。

「『魂食い』の可能性を挙げるなんて、面白い事やってくれたお陰で
 ランサーの魂を回収しそびれたんだぜ? アレわざと聞いたんだよな」

「彼女自体、良くも悪くも『平均』に属する精神だろう。
 否、だったからこそ私は注目した。事実として、彼女のソウルジェムに穢れが生じたのだ」

「……穢れ?」

「魂――精神の影響がソウルジェムに反映される結果が明らかになった以上。
 次なる議題は『ソウルジェムが穢れ切った結末』だと、私は思う」

赤き宝石に、穢れと呼べるほどの不純物は無いに等しい。
なら、穢れが悪化したと巴マミは?
その後も考慮するべきだが――ディエゴは再び赤のソウルジェムを飲み込む。
手元に残すよりかは、自らの体内にある方が奪われる心配は無くなる。

(あのクソガキのところに戻る必要があるだけ腹立つ。
 アイツは俺がこの手で殺す。俺が直接腸を引き裂かねぇと気が済まない)

平静を装っているがディエゴの中で、フツフツと苛立ちも合わさった憎悪が湧きあがった。
レイチェル・ガードナーは、いよいよ決定的な境界を越えてる。
切り捨てる際は、原型を留めないほどミンチ状にしなくてはディエゴの感情は収まらないだろう。

「なら、アイツが俺を殺しに来た時。ソウルジェムがどうなっているか見物だな?」

憎悪を晴らすようにディエゴがぼやいた矢先。


―――随分、楽しそうじゃないの


皮肉籠った少女の声が一つ響いた。
ディエゴには覚えも無い声であったが、ぼんやりと赤い髪が視界の端で見えた気がした。
しかし、幻影にも劣る。
無意味なものだと理解したディエゴは、少女の声を聞こえぬふりする。


―――アンタのやろうとした事は、嫌ってほど分かるんだよ


―――だから、あたしはアンタを許さない


―――今の内だけ笑ってろ



どっちの台詞だ? 喚くだけで何も出来ない癖に


464 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:42:03 9yXn4O2o0
【D-5/月曜日 早朝】

【ライダー(ディエゴ・ブランドー)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)杏子のソウルジェム(飲み込んだ状態)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]携帯端末
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1.神父(プッチ)のマスターの所に向かう
2.レイチェルは必ず殺す
3.あのセイヴァーについては……
4.神父(プッチ)は信用しないつもり、使い潰す。
5.ソウルジェムを調べたいが、どうしたものか。
[備考]
※真名がバレてしまう帽子は脱いでいます。
※魔法少女が持つ『ソウルジェム』の存在を知りました。
※プッチの情報を全て信用しておらず、もう一人の自分(アヴェンジャー)に関して懐疑的です。
※ランサー(什造)、バーサーカー(家康)の存在を把握しました。
※マミのソウルジェムの穢れを知りました。
※ソウルジェムを飲み込んだ影響か、杏子の意志が伝わります。


【ライダー(エンリコ・プッチ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)、精神的ショック(回復傾向)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』を実現させ、全ての人類を『幸福』にする
0.セイヴァー以外の『DIO』――これはどういう運命なのだろうか。
1.セイヴァー(DIO)ともう一人のディエゴを探す。
2.一旦マスターの元へ戻る。
[備考]
※DIOがマスターとしても参加していることを把握しました。
※ランサー(レミリア・スカーレット)の姿を確認しました
※魔法少女が持つ『ソウルジェム』の存在を知りました。
※アサシン(杳馬)の姿を確認しました。彼が時を静止する能力を持つ事も把握しております。
※アサシン(杳馬)自体は信用していませんが、ディエゴの存在から
 アヤ・エイジアのサーヴァントがもう一人のディエゴ(アヴェンジャー)である事を信じています。
※ディエゴ(ライダー)に信用されていないのを感じ取っています。
※ランサー(什造)、バーサーカー(家康)の存在を把握しました。
※ソウルジェムの穢れを目撃しました。穢れ切った結末に関心があります。




【D-5 見滝原中学校/月曜日 早朝】

【レイチェル・ガードナー@殺戮の天使】
[状態]魔力消費(中)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]私服、ポシェット
[道具]買い貯めたパン幾つか、裁縫道具、包丁
[所持金]十数万程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
0.私は靴の中にシシューをそそいで貰う……
1.自分でどうするべきか考える
2.ライダーは信じられる。それ以外は信用しきれない。
3.セイヴァーは一体……?
[備考]
※討伐令を把握しました。
※ライダー(ディエゴ)が地図に記した情報を把握しました。
※ライダー(プッチ)のステータスを把握しました。
※プッチが提供した情報を聞いている為、もう一人のディエゴ(アヴェンジャー)の存在を知ってはいます。
※ライダー(ディエゴ)の真名を知りました。
※キャスター(ダ・ヴィンチ)のステータスを把握しました。


465 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:52:03 9yXn4O2o0




家康は、教会に向かわず、実体化を解いたサーヴァントの元に向かった。

「ワシに要件があるようだな」

「話が早くて助かるよ。まぁ戦いに来た訳ではないけどね」

変哲な乗り物・バステニャン号に腰掛けるモナ・リザ。
もとい、レオナルド・ダ・ヴィンチは家康に警戒心がないのを確認した。


466 : こんなの絶対おかしいよ ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:52:28 9yXn4O2o0
「ちょっとした情報交換がしたかったのだけど……急ぎの用事でもあるのかな」

「向こうに居るマスターらしき少女の安否が心配だ。あちらの事態を把握しているなら、教えて欲しい」

そういえば。ダ・ヴィンチも教会側の小火騒ぎに関心しなかった訳ではないが。
他の事態に視線を奪われてたのは、事実だった。
ダ・ヴィンチは、バステニャン号に乗るよう家康を促しつつ答える。

「残念だが私は知らない。折角だから、私も行こうじゃないか。移動しながらでも構わないかな」

「……何を聞きたい?」

敵意がないのは明らかだが、家康は試すように問いかけた。
彼女は微笑を崩さず、悠々と告げる。


「君は『悪の救世主』を知っているかな?」



【D-6/月曜日 早朝】

【バーサーカー(徳川家康)@戦国BASARA3】
[状態]健康
[ソウルジェム]無
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの意志を尊重する
1.教会の様子を伺う
2.前述を終えたらマミのところへ戻りたい
3.可能な限りマスターの命を守りたい
[備考]
※ライダー(ディエゴ)、ライダー(プッチ)の存在を把握しました。
※マミ&ランサー(什造)の主従を把握しました。
※教会にいる杏子がマスターである可能性を知りました。


【キャスター(レオナルド・ダ・ヴィンチ)@Fate/Grand Order】
[状態]健康
[ソウルジェム]無
[道具]バステニャン号
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の調査
1.討伐令に対する疑念。セイヴァーとの接触をしたい。
2.セイヴァーと似ているサーヴァントねぇ……
[備考]
※吉良に対し、どことなく疑念を抱いております。
※自身の知識と情報を駆使しても、セイヴァーの真名に至れなかったのを疑問視しています。
※レイチェルと彼女のサーヴァントがライダーであることを把握しました。
※アヤ・エイジアのサーヴァントが、セイヴァーと酷似している情報を入手しましたが懐疑的です。


467 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/13(木) 23:54:26 9yXn4O2o0
投下終了します。
一部NGワードに引っ掛かった部分があるので、wiki収録時にその部分を修正します。

続いて、マルタ、卯月&杳馬で予約します。


468 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/16(日) 21:35:06 B6nI8VU60
予約分投下します


469 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/16(日) 21:36:26 B6nI8VU60
「んで、どうするんだ?」

悪魔を彷彿させる嫌味を含んだ英霊・無精髭のアサシンが、聖女のライダーに尋ねた。
ベンチに横たわった状態のマスター。
ソウルジェムが離れ、魂が抜かれ『死亡』状態に陥った佐倉杏子。
ライダーは、死体と化したマルターの目を伏せてから、静かに答える。

「マスターの体をこのまま運び、敵サーヴァントを補足する予定です。
 敵がマスターの『魂』を所持している状態であれば、近づいただけでもマスターの肉体に反応があるでしょう」

「随分、荒いやり方で俺もびっくりだぜ。理にかなっているとは思うけどな?」

「荒っ……今回ばかりは仕方ありません」

申し訳なさを顔に出すライダー。
彼女から、恐竜使いのサーヴァントの一件や杏子の魂が収められたソウルジェムの事情を一通り聞いた少女・卯月。
しばしの間を破るよう、卯月は重々しく口を開く。

「ライダーさん……私……………ごめんなさい」

いきない謝罪を述べた卯月の表情は、気まずさ以上に
聖杯戦争という未知の戦場に導かれたが故、途方に暮れる少女らしさがある。
次に卯月が出した内容から、謝罪の意味合いを読みとれた。

「戦うのが、怖いです」

「………」

「た、戦わなきゃいけないって事も分かってます! 本当はライダーさんや杏子ちゃんを、助けたい……でも」

「いえ。構いません」

聖女は少女の言葉を否定せず、逃走という愚かな行為を蔑まなかった。
むしろ。
卯月が戦う発想に向かわなかった事こそが、正解である。


470 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/16(日) 21:36:50 B6nI8VU60
「貴方の拒絶は至極正常です。時代が異なれば、価値感や生死の捉え方も異なります。
 ならばこそ、貴方はどうか最後まで罪を背負わずにあるべきです。
 命を奪う行為を『当たり前』と受け入れてはなりません」

例えそれが『必要な事』だとしても。
否、必要だからと無為に人を殺めれば、それこそ人を止めたような有りようである。
一呼吸置いてライダーは言う。

「――恐らく、貴方と同様の形で聖杯戦争を強制された者がいるでしょう。
 彼らと協力し合う事から始めるべきです。貴方の苦悩は、貴方ただ一人が抱えるものではありません」

聖女は清らかに卯月を導こうと助言した。
英霊たる彼女の行為こそ善性の極み。覆しようのない、卯月が歩むべき正しき道の一つ。
卯月も、ライダーの言葉は正しいと感じる。

が。
彼女の傍らで悪魔が笑うように、卯月自身それは無理だった。
ライダーに従えば、凛を助けられない。


事実として、卯月はライダーの言葉に相槌すらかけなかったのだから。







卯月たちはライダーを残し、移動した。ある意味、聖女から逃げる悪を彷彿させる。
一度休息したコンビニに近い繁華街へ差し掛かったところで
漸く、卯月は足を止めた。

「今回は赤点じゃないが、最適解でもない『40点』ってところかねぇ」

呑気にアサシンが語る。
悪魔めいた雰囲気と風貌をそのままに、卯月の傍らに存在する英霊は、聖女との別れを過去のように扱い。
違和感あるほど客観的に述べる有りようは、観客席の評論家だ。

「ライダーと同盟を組むんじゃないかって心配したけど、そこんところの判断は最善だと思うぜ?」

一応褒められているのだろう。
しかし、卯月の表情は浮かなかった。彼女自身、自らが下した行動に後ろめたさを覚えている。
彼女を余所に、アサシンは続ける。


471 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/16(日) 21:37:16 B6nI8VU60
「説明された通りの情報なら、マスターの命であるソウルジェムは敵の手中。
 この宝石程度、サーヴァントの筋力で簡単に砕けちまうもんな。要するにライダーはチェックメイト状態!
 放っておいても何時、敵に消滅させられるかどうか怪しい奴と同盟を組んでも利益なし!! てな」

アサシンの手元にあるソウルジェムは、
卯月がかつて手にした、聖杯戦争に導かれる切っ掛けの無色透明の宝石。
その宝石と、杏子のソウルジェムが同一ならば、まさにその通り。
だけど、卯月は自分がライダーを、杏子を見殺しにするような卑劣な手段を取ったと罪悪感を抱えた。
一つ。消沈気味の卯月にアサシンは告げた。

「向こうも、そんくらいは分かってたんじゃないかね」

「ライダーさんも……?」

「んひひ。善良だからこそって奴? 卯月ちゃんが割としっかり意志を伝えたから妥協したかも」

ライダーは変に卯月を言及もせず、運命に卯月を委ねたのだ。
何より―――ライダー自身にこの先があるか不明確な状況であったから。
理解しても卯月の中で、ライダーに対する申し訳なさは失われない。

「お、忘れてたぜ。定期チェックしてみようか―――凛ちゃんの」

「凛ちゃん?」

「こんな時間だし、凛ちゃんの寝顔見られるぜ?」

「アサシンさんっ。覗き見みたいじゃないですかっ!」

「実質覗き見だけど?」

サラッと流してるが、指摘されれば確かに覗き見である。
出現した球体状の映像に映し出された光景は――
凛は生きていた。
加えて、この見滝原で名を轟かせている一人、アヤ・エイジアと会話する姿。

「おっと? へーこいつは予想外だなぁ」

「え……どうして……?」

「凛ちゃんのサーヴァントが情報収集に長けてるんだろうなぁ。じゃなきゃ、アヤ・エイジアの居場所を特定できねぇよ」

「そうじゃなくてッ! どうして凛ちゃんが……」

「んなこと聞かれてもねぇ。俺より卯月ちゃんの方が詳しいだろ? 凛ちゃんに関してはさ」


472 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/16(日) 21:37:48 B6nI8VU60
困惑する卯月。
映像の様子から想像できるのは、凛とアヤが同盟のような関係を結んだ可能性。
だが、どうして凛が『そのような行動』を?
アヤは『怪盗X』なる悪意ある存在から命を狙われており、彼女を助けたい善意は分からなくもない。

一方で危険な行為だ。
凛自身も『怪盗X』に命を狙われる。
あわよくば、予告状が火種となって集結する他の主従から狙われる事も。

まさか凛に限って。
願いの為、聖杯を手にしようとしたり。
生き残る為、他のマスターたちを『殺す』真似は犯さない筈だ。
未来では――凛は何者かに殺されてしまった。だから、ありえない……筈………

(凛ちゃんは違う! アヤさんを助けようとしているんだよ!! だったら――)

卯月が悩み悩んだ末、一つの結論に至る。

「これ……もしかしたら、アヤさんが――凛ちゃんを殺すかもしれないんですよね」

悪意の一滴より始まった疑心感が段々と少女の心を蝕んでいる。
普通であれば真っ先に、他人を疑う前提を卯月は組み込まないだろう。

卯月も自らの決断を下す前に、落ち着いて思案し続けていた。
単純に、シンプルに考えれば『だったら凛以外全員殺せば良い』で集結する。凛の脅威となる存在の排除。
そこでアサシンが一つ告げた。

「ふーん。問題は『どう』殺すかだよなぁ」

「どう?」

「凛ちゃんと一緒にいるから、逆に難しいんだよねぇ。それとも、凛ちゃんの前でアヤ・エイジアを殺しちゃう?」

「あっ!? そっ……それは、その」

無理だ。
凛の為であっても、彼女の前で人を殺すのは……でも、凛とアヤを引き離す術とは?
流石の卯月も、妙案が湧きあがる事が無い。自然と頼みの綱たるアサシンに問う。


473 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/16(日) 21:38:12 B6nI8VU60
「アサシンさん。どうしたらいいんでしょう……」

「俺の個人的な意見でいい?」

「はい。私じゃ全然なので……」

「アヤ・エイジアの立場で考えてみたら――まず、直ぐに凛ちゃんは殺せないぜ」

シニカルに嗤い道化のような仕草をし、アサシンは語った。

「そもそも凛ちゃんと仲良くなったのは『怪盗X』対策しかない。ちょっとでも味方が欲しいんだよ。
 踏まえて考慮する最低制限時間は『怪盗X襲撃後』まで、だな」

アヤは凛と戦力補充の為に同盟を組んだ。
『怪盗X』の予告。あの予告は他の主従達を引き寄せる餌の一つ。
そして、予告で発生するだろう戦火で、アヤから凛を引き離す事も叶う。

「――となれば二つ。『怪盗X』が襲撃するまでに
 凛ちゃんの警備兼近づいた敵の排除か、もしくは凛ちゃんは放置しておいて他の敵を倒すか、だな」

どちらも悪くない。
どちらでも良い気さえする。
しかし、どちらを選択するかは島村卯月に委ねられている。

彼女の下した決断は……



【C-6 繁華街/月曜日 未明】

【島村卯月アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]精神的ショック(大)、罪悪感
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]女子高生の小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:友達(渋谷凛)を死なせないため、聖杯戦争に勝ち残る。
1.私は――
2.ライダーさん。杏子ちゃん……ごめんなさい……
[備考]
※ライダー(マルタ)のステータスを把握しました。
※杏子のソウルジェムに関する情報と教会で起きた戦闘を把握しました。
※凛がアヤと同盟を組んだのを把握しました。


【アサシン(杳馬)@聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話】
[状態]無傷
[ソウルジェム]有
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争をかき回す
1.マスターを誘導しつつ暗躍する
2.機会があれば聖杯を入手する
[備考]
※杏子のソウルジェムに関する情報と教会で起きた戦闘を把握しました。
※凛がアヤと同盟を組んだのを把握しました。


474 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/16(日) 21:38:38 B6nI8VU60




「これで良し……っと」

杏子の体を抱えながらライダー・マルタが到着したのは―――下水道。
やはり、死体であり少女の肉体を抱えながら『外で』移動するには無理のある話。
人目につかず、更にソウルジェムの位置を把握するには最適な道。

他サーヴァントがここを利用しないとも限らず。
最悪、敵と遭遇する可能性すらある。
幾つか他にもマルタ自身が心残りにしている点はあった。


島村卯月の事。
彼女と共に居る悪魔を彷彿させる嫌味あるサーヴァント。
だが、マルタも卯月の本心が争いを好まない善良さのある少女だと理解していた。
不安を感じるが……可能な限りの助言は施した。

杏子の家族の事。
本来ならば、杏子の遺体を教会へ運ぶべきなのだろう。
ソウルジェムとの繋がりで、再び魂を取り戻せる希望がある限りは、やはり杏子の体を抱える他ない。
マルタ自身。
彼女と家族と交流があった以上。再度、顔を出すべきだった。


しかし――


「時間の問題ね。マスターのソウルジェム『だけ』をわざわざ奪った以上、それを使って何かしでかす魂胆ね」


475 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/16(日) 21:39:06 B6nI8VU60
聖女らしい清らかな表情とは一変。
荒々しい気が雰囲気に纏うマルタの姿がそこにはある。

ソウルジェムを産み出したキュゥべえの如く。
そのソウルジェムを利用する為に、あるいは『調べる』為に。
丁重に扱われる保証は無い。安易にソウルジェムの破壊を行わないにしろ『何を』施すかは不明だ。


『恐竜使い』は紛れもなく杏子を利用するだけの道具として扱っている。


だからこそ、マルタは駆けた。
マスターの為であり、残された佐倉一家の為でもあり。聖杯戦争に抗う一歩の為に。



【D-8 下水道/月曜日 未明】

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]肉体死亡
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に乗り気は無いが……
0.―――
[備考]
※ソウルジェムが再び肉体に近付けば意識を取り戻し、肉体は生き返ります。


【ライダー(マルタ)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]無
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争への反抗
1.杏子のソウルジェムを取り戻す。恐竜使いのサーヴァントはシメ……説伏する。
2.アサシン(杳馬)は何か気に食わない。
[備考]
※杏子のソウルジェムが破壊されない限り、現界等に支障はありません。
※警察署でXの犯行があったのを把握しました。
※卯月とアサシン(杳馬)の主従を把握しました。
※ディエゴの宝具による恐竜化の感染を知りません。ただディエゴの宝具に『神性』があるのを感じ取っています。


476 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/16(日) 21:40:36 B6nI8VU60
投下終了です。タイトルは『INFINITE CRISIS』となります。
続いて、ラッセル&ナーサリー、ブチャラティ&リンク、ジリアン&サリエリで予約します


477 : 名無しさん :2018/09/20(木) 01:34:49 25fdc7Nw0
投下乙です。
こういう展開だと自分で決断するにせよ流されるにせよ対主催キャラに一般人キャラが同調するというのがオーソドックスですが、聖闘士(悪魔)の影響があるとしても「NO」の選択肢をとるとは、一周回って以外でした。
しかし曲がりなりにも自分で判断したとはいえ既に周りの状況は動き出していて後手に回りかねない状況でもある。
果たしてこのまま小さな決断だけで大事に影響を与えない存在に留まるのか、それとも大きな決断をしてこの聖杯戦争を振り回す存在になれるのか、そして杏子の脱落リーチはいつまで続くのか、今後も楽しみです。


478 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/20(木) 08:25:33 KgpI87160
感想ありがとうございます!

現在の予約にスノーホワイトを追加します


479 : ◆xn2vs62Y1I :2018/09/28(金) 23:00:49 FqHxupKw0
予約の前編部分を投下します


480 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/09/28(金) 23:01:38 FqHxupKw0



癌とは、唐突に発生する『悪』ではない。
人間の細胞は、分裂し分化し増殖する遺伝子を様々持ち合わせている。そこに癌遺伝子も含まれている。
即ち、癌は既に人間が所持する『悪』。
複数ある要因が重なり合った結果、ようやく癌は増殖を促進するに至る。
簡単に例えなるなら『バランスが崩落した』時だ。







夢の中で夢見るとは、鏡合わせの領域を覗きこむような奇妙な感覚に陥るかもしれない。
少なくとも、ラッセル・シーガ―。
彼は慣れていた。
聖杯戦争が始まる前から、あるいは聖杯戦争に迷い込む前から。
肉体が朽ち往きつつ、永遠の夢を望んで、瞼を閉じた瞬間より続く夢である。

――何故なら、彼が望むものは現実にないからだ。

ラッセルは黒い星を見た。
妖艶な美しさに魅了されるラッセルの精神が弱いのでなく、彼の世界にこれほど美しいものが存在しなかったのだ。
緩やかに靡く金の髪と、彫刻を彷彿させる肉体を持つ『悪の救世主』が優しく声をかける。

「ラッセル。何故、夢を見ているのかな。君の事を教えて欲しい」

最初は、正直ラッセルも口を開く気は毛頭ない。
過去を語ったところで、無駄だからだ。ラッセル自身、良い気分にもならない。忌々しく醜いものを思い出すだけ。
ポツリポツリ。
段々と速度をつけながらラッセルは話す。

自分が犯したものを。
自分が味わったものを。
自分が下した決断を。

救世主は、時折相槌をする程度で、基本は黙ってラッセルの話を聞き続けていた。
そして、ラッセルが語り終えた時。
彼は深く息をつき、ゆったりと口を開く。

「残念だ……君が私と巡り合えなかった事が、非常に残念でならない。
 そういう運命だったとしても、私は君に手を差し伸べられなかったことを、残念に思う」

残念?
手を差し伸べる?
つまりそれは、助けてくれる意味なのだろうか。

ラッセルは分からなかった。
罪悪感を理解し、だからこそ夢の世界を選んだ少年には、救世主の言葉がただの偽善にしか聞こえない。
この瞬間までは――


481 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/09/28(金) 23:03:23 FqHxupKw0
「ラッセル」

美貌とは真逆の不敵な微笑を作った彼は言う。

「今からでも遅くは無いさ。私が、君を―――『罪悪感』という檻から開放してあげよう」

ラッセルの胸の奥底で『何か』がざわつく。
救世主を待ちわびたように、歓喜をありったけの思いで上げ続ける。
その感覚に、ラッセルは混乱した。どうすればいいのか。否、これはあってはならないんだ。
傍らで、救世主は続けた。

「本来――君には罪悪感はなかった。それがあるべき君の姿だ」

少年は息を飲む。
夢だ。
早く目を覚まさなくては。

「君は最期の最後まで彼らの実験に『利用』されただけだ。
 君に投与された薬は、多くの悪を苦しめる為に
 あるいは敵対者を苦しめる為の拷問に使われ、画期的な精神破綻薬として世界の裏側で活躍するだろう」

「つまり、君がどうなろうが知った事ではなかった」

「君が夢を見続けようが」

「君が自殺に走ろうが」

「君は―――それをどう思う?」


「さぁ、ラッセル!」






482 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/09/28(金) 23:03:51 FqHxupKw0
住宅街の一角にあるアパート。
そこに住む少女。マスターの一人でもあるジリアンは都合良く一人暮らしだった。
家族が居ない事で、自ら補わなければならない部分が必ず産まれる。不便な点も幾つかある。
だが、聖杯戦争の渦中に居る身としては、都合が良い。

中学生とされているジリアンが一人暮らしであるのは、実に奇妙だが。
不思議な事に『珍しい』と偏見は抱かれないようだ。
何故なら、彼女以外にも中学生でアパートかマンションで一人くらしする者が複数いるようなのだ。

どうしてか?
わざわざ違和感ある学生を複数配置したよりも
見滝原には元より『そういった』世界だったのかもしれない。

(戦闘を行ったサーヴァントが二騎、ですか)

ジリアンは、アヴェンジャーの念話による報告を聞いていた。
彼女のアパートよりも距離を置いた都心側で早速、戦闘が行われたらしい。
更に加えるなら『変身能力』を秘めたマスターの存在が脅威的である事。
能力が皆無である少女と比較すれば、能力を保持するマスターは十分危険にも関わらず。
『変身』と一言で済む話だが、相手とするなら厄介な能力だ。

(サーヴァントであれば、マスターがステータスを認識し看破出来るが……
 『アレ』が普通の人間に……いや。あの時は『犬』に化けていた。どこまで可能かは不明だが
 最早、周囲の警戒は重視するべきだ。……私が思うに――)

(そのマスターが、見滝原中学の生徒に化ける可能性ですよね……)

(嗚呼、十分ありえる。しかしもう一つ。アレこそが巷のウワサとなった『怪盗X』ではないか)

(! 怪盗――)

ジリアンの世界じゃ『悪魔』が並の世界よりもメジャーな認知されているように。
『怪盗』を名乗るのも、少々違和感を覚えていた。
これが魔法ファンタジーでなく、推理小説だったらまだしも……
否。確か、ジリアンが調べたウワサの中に『怪盗』がいた筈。

(変身能力……確かに変装みたいだ)

常識も平凡もを凌駕した超人が敵。
底知れぬ悪がマスターだから『マシ』なのだ。これがサーヴァントだった場合、手に負えない部類に属しただろうに。
赤い箱のウワサ通り。
人を箱に詰めるのは観察、よりかは。
変身する為に相手を観察する過程の一環だと考えれば、少しは納得する。


483 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/09/28(金) 23:04:11 FqHxupKw0
遠くより物音は聞こえた。
睡眠中の人間にも、その程度で目覚める場合もあるが、夢現を彷徨い続ける場合もありうる。
ジリアンは、どちらでもない。
彼女は就寝せず、ベッドの上で横たわりながら主催者からの書類を眺めていた。

閑静な住宅街にて響く喧騒は、酔っ払いの仕業があった。
聖杯戦争のマスターに覚醒してから神経質に、周囲を警戒し続けたが、結局今日まで何事もない。
故に、今日こそは動きが見られるかもしれない。
……と誰も考えるが、ジリアンは改めて見直してみる。

(多分……聖杯戦争が始まるまで、時間はあったけど……
 アヴェンジャーさんを信じるなら、ボクがマスターだと気付かれた覚えはなかった……)

討伐令にかけられた『暁美ほむら』が見滝原中学校の生徒であると判明し。
明日から、複数の主従が注目するのは必然だろう。
しかし、今日まで見滝原中学校が注目されていたかは別だ。
『暁美ほむら』を除いて一体どれほどのマスターが中学校に潜んでいるかは、全て暴かれていない筈。
少なくとも――ジリアンが酷く注目された覚えは皆無。

(これを上手く利用すれば……)

警戒されない一般人を、どう装えるか。
『いつも通り』にする事。
無難な策はソレで尽きるものの、果たしてどこまで『普通』を貫き通せられるかが問題となる。


ガラスの破壊音。


ジリアンは思わず体を起こす。
自室にあるベランダのガラス越しから様子を伺えば、
独特の鳴き声を上げ徘徊する中型の肉食恐竜が群れを為して移動していた。






484 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/09/28(金) 23:04:44 FqHxupKw0
感染。
ねずみ算に増加していく手駒。恐竜化を扱うサーヴァントの真骨頂の一つ。
見滝原の住人たちが次々と『変貌』してゆく有様を傍観しながら、魔法少女・スノーホワイトは関心する。

このサーヴァントは非常に魅力的だ。
無辜の人々を巻き込む躊躇さがないうえ、能力も集団戦のみならずある程度の索敵能力も有している。
再契約候補の一つに注目した。
だが……

肝心な事にサーヴァントは確認出来なかった。

(宝具の効果範囲も広いなら、尚更優秀なサーヴァントと言える……)

スノーホワイトが『魔法』を発動させるが。
周辺の恐竜に恐怖する人々の声ばかりで、サーヴァントらしきものは無い。
否、異なる問題のせいだろう。

サーヴァントには『対魔力』がある。
一定ランクまでの魔術は無効化してしまうスキル。それを持つ英霊にはスノーホワイトの魔法も効果を発揮できにくい。
実際、リンクとブローディア。二騎の英霊に『魔法』は意味を為さなかった。
マスター二人の意図を読み、彼らを対主催者陣営と判断したのである。

(周囲に居ないのか。私の魔法が無力化されているのか、分からない)

思考が読めない意味で再契約するのに躊躇はあるが………
サーヴァント次第。
魔力の優れたスノーホワイトを優秀な魔力源として認めてくれれば問題ない。

(一つだけ……宝具の性質から考えて、基本的には生物を恐竜にする戦法を取るとした場合。
 今のように人や生き物を『確保』する必要があって。これらが『尽きた』瞬間、狙われ易いこと)

それを補える技量や、もう一つの宝具を取得しているなら良いのだが。
現時点の評価はここまでにしておき。
電柱上という高所から恐竜の群れが去るのを確認するスノーホワイト。
彼らを追えば、自然とサーヴァントに合流出来るだろう。

(私に気付かない――)

恐竜達はスノーホワイトを華麗に見逃していた。
所詮、動物だから索敵に優れているとは言い難いのか? と彼女は考察していたが。
実のところ、スノーホワイトは無意識に現状を観察し続けていた為『動かなかった』せいが強い。

『動くもの』には俊敏に反応する。
しかし『動かないもの』は認識できない。
恐竜の弱点を全て見抜けなかったスノーホワイトだが、改めて恐竜の追跡をするべく電柱より降りた。


485 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/09/28(金) 23:05:21 FqHxupKw0
そして、駆ける。
動作を行った瞬間に、スノーホワイトの世界は盛大に回転したのだ。
『声』どころか『魔力』や『気配』すら感知できない。
彼女には予想外極まりない不意打ちだった。


「……まさか」


スノーホワイトは己が『境界』を通過したのでなく――『踏み込んだ』と分かった。
彼女の記憶が正しければ、道路に点在する『マンホール』に足が接触した瞬間。
ここに転移された。
屁理屈を言えば『マンホール』も立派な境界線になりうる訳だ。

スノーホワイトが突如として虚空から、地面に落下する状況に合いながら。
冷静に着地の体勢を整え、足をついたところで、周囲を見回した。

ゴチャゴチャとした資料に満たされた部屋の中。
不敵な笑みを浮かべた金髪の少年が居た。







懐かしさを感じる……焼却炉には、ちょっとした思い出があってね。
昔、そこに犬を放りこんだ。
大した理由でやったんじゃあないが。お陰で私の怒りは収まったのさ。







固有結界に迷い込んだのは、スノーホワイト以外にもいる。
ブローノ・ブチャラティと彼のサーヴァント・セイバー。
彼らは、魔法少女とは異なり明確な攻撃を受けている最中だった。
最低限、道中に現れる奇怪な色彩と形状の『怪物』との戦闘を回避しつつ、ブチャラティは幾つか気付いた点があった。

ブチャラティのスタンド『スティッキィ・フィンガーズ』。
触れた対象にジッパーを取りつける能力。スタンドを切っ掛けに、固有結界に侵入する事が叶った。

空間支配においてサーヴァントが上手である。
侵入時のように、虚空にジッパーを出現させたり、あるいは地面や木、建物もジッパーを上手く取り付けられない。
だが、どういう訳か。
『怪物』にジッパーを取りつけられるのは通常通りに効いた。

ブチャラティも幾つか考察したが……恐らく固有結界・サーヴァントの支配する空間そのものにジッパーはつけにくい。
そして、サーヴァントは『怪物』を産み出せるが、それらは完全に支配下に置かれていない。

以上の通りなら。
紛れも無く、敵サーヴァントは『わざと』ブチャラティを侵入させ。
ここで始末する魂胆だと理解できた。
……一方で。ブチャラティ達に敵意もない、普通に『暮らしている』様々な住人の存在も理解できた。


486 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/09/28(金) 23:06:19 FqHxupKw0
敵を葬る罠じゃあなければ、奇妙な生活を過ごせるだろうくらいの場所。
『こんなところで』生活する身は想像しにくいが、薄々ブチャラティも意図を読めた。

「やはり敵サーヴァントのマスターが、ここで生活している可能性が高いな。
 この空間に幾つかの村があり、敵意ない存在が居る理由がそれだ。
 奴にとっての絶対領域……見滝原にマスターを置くよりも安全という訳だ」

……ならばマスターの方は?
敵サーヴァント全貌が把握できない以上に、固有結界での生活を強いられるマスター。
マスターが望んだか。
あるいは、サーヴァントに強制されているか。

刹那。

ブチャラティの傍らで警戒を継続していたセイバーが、反応を見せる。
二人が道なりに移動し、途中に開けた場所に到着したところから続く幾つかの道の一つより。
口論する声が、異様に聞こえる。
恐らく、夜の静けさも相まって遠く離れた場所の音すら、森まで響いていた。

「簡単にマスターやサーヴァントの位置に到着したとは思えないが……」

念の為、ブチャラティは口論の主を確かめた。
彼らが森を抜けて到着したのは、更に開けた場所。坑道らしき出入り口の前で、人じゃあない奇妙な生物達同士で争っている。
固有結界内での同族同士の争いは、少なくともブチャラティは初めて目撃した。

「ど、どうしてソイツを連れて行くニャ!?」

二足歩行の猫っぽい生物が、そう叫んでいた。
坑道へ強制連行されている最中の『猫』は……正常じゃあない。

「ンイギヒィィィ! 『マタタビ』ほじいニャアァ! はやぐ、はやぐぅぅぅぅッ!!」

錯乱状態で暴れ続ける『猫』は、同士たる二足歩行の『猫』たちに抑えつけられている。

――……マタタビ?

ブチャラティも猫が好むマタタビを常識の範囲で知識にある。
あるのだが、どう考えても。
彼自身による直感が、許し難いものを感知した矢先。錯乱状態の『猫』を処理する側が言う。

「こいつの邪魔で、前の『取引』がケーサツにバレちまったニャン!
 その落とし前ニャ。即刻『焼却炉』で処分させて貰うニャン!!」

哀れな『マタタビ』中毒猫が、薬の売人だろう『猫』たちに引っ張られていく様を
一匹の『猫』が項垂れて見届けようとしている。
制したものの。中毒者の末路も、売人達の行いにも納得し。
余計な足掻きをせずに、呆然と眺める事しか出来ないのだった。


487 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/09/28(金) 23:07:51 FqHxupKw0
「『スティッキィ・フィンガーズ』!」

どこかの誰かが夢見るイカれた世界の住人だけの話だが。
第三者は、世界にも有り方にも縛られておらず。彼――ブチャラティ自身『何か』思う部分があったからこそ。
聖杯戦争や、まして敵サーヴァントとも無関係な夢の住人の手助けなど。
遠回りを選択したのだ。

ブチャラティのスタンドでも、『猫』程度であれば造作も無く再起不能にさせられた。
突如介入し、売人達を倒してしまったブチャラティを驚く猫は
言葉を失っており。代わりにブチャラティが告げた。

「ソイツを連れて逃げるんだな……警察に」

ソイツ……即ち、錯乱状態で正気も無く倒れた中毒猫を差している。
猫は漸く口を開いた。

「け、ケーサツ!? アンタは『ケーサツ』ニャのか!!?」

「いいや、俺は違う。ただ……お前達が連中から逃げ切る為の『安全な場所』が警察だ。そうだろう」

「うっ……」

戸惑う猫を傍らで、相変わらず錯乱する中毒猫。

「ぐ、ぐるじいぃぃぃ。息ッ、でぎねぇよおぉぉぉおぉぉ、いぎがうまぐ、アレをぐれえぇえぇぇッ……」

「…………」

すると、売人らが向かおうとした坑道から、セイバーは魔力を感知した。
耳を澄ますと、妙に騒がしい声……二足歩行の猫達らしき叫びが聞こえて来る。
固有結界のサーヴァントもブチャラティらを仕留めるべく、新たな刺客を送り込んだのだ。
先行する事をブチャラティに伝え、セイバーは坑道へ突入する。

ブチャラティは無言の猫に言葉をかけた。

「お前とソイツに何があったか知らないが……少なくとも、お前がソイツを見捨てなかったのは理由があるんじゃあないか」

「………うう」

申し訳なく猫は語る。


488 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/09/28(金) 23:09:05 FqHxupKw0

「末期に近い症状ニャ……もうじき焼却炉で処分されるのは分かってたニャ。
 でも……マタタビで少し落ち着けば、昔と同じ話が出来るんじゃニャいかって」

「………………」

「結局、俺のワガママでコイツが苦しんだだけニャ。早く楽させてやった方が良かったニャ」

「なら最後までワガママを貫き通せ。それがお前の責任だ」

それだけ伝えブチャラティも坑道へ向かう。
彼の正体なんて、どうでもいい。
残された猫には一つの『機転』だと受け入れ、相棒を必死に引っ張り、逃げ去って行った。
どちらも異なる苦難を味わう運命を理解しているからこそ、漸く一歩踏み出せた。
皮肉だが、その一歩はブチャラティが居なければ踏み出す事はなかっただろう……







全てを網羅する上位存在。
聖杯戦争の主催者は、見滝原全土を『干渉遮断フィールド』から観測しているのと同じく。
悪魔を『演じている』杳馬は、実際のところ主催者陣営に匹敵する観測機能を所有しており。
杳馬ほどではないが――見滝原の『裏側』を支配するサーヴァントがいた。

壮大たる固有結界を所持する英霊は、ナーサリー・ライム。
無論。スノーホワイトも、存在を確認していたし。
性質を理解していなかった訳ではない。

しかし、ナーサリー・ライムはキャスターではなく『アサシン』。
気配遮断と結界の『境界』を展開する技量が、スノーホワイトの隙をついたのだ。
『境界』の作成は戦闘行為に分類されず、気配遮断と組み合わせる事で意図も容易くテリトリーに引き込める。

スノーホワイトが導かれた場所は、情報屋の家。
ラッセルの知る『情報屋』を演じるナーサリー・ライムが、警戒する魔法少女を眺め。
それから確信を得た。

「やっぱり。君――サーヴァントを令呪で呼び出せないんだね?」

「………」


489 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/09/28(金) 23:09:34 FqHxupKw0
「固有結界に巻き込まれたなら、直ぐにサーヴァントをこっち側に移動させるべきなのに。
 どういう事情かは知らないけど……仲違いでもしたところかな?」

幾ら魔法少女とはいえ、サーヴァントを実体化させずに一人、夜の見滝原を徘徊している。
ソウルジェムの形式のお陰で、マスターが狙われるのは無きにしろあらず。
スノーホワイトの存在は恰好の的だった。

が。
彼女もただ沈黙しているのではなく、ナーサリー・ライムの思考を読み取っていた。
対魔力のないアサシンなら、彼女の魔法は存分に発揮できる。


――捕まえたはいいけど……魔力源として生かしておこうか。


――人質にして、サーヴァントを脅迫する? 露骨にセイヴァーを倒せって誘導だと怪しいよね。


セイヴァー?
幸か不幸か、どうやらナーサリー・ライムはセイヴァーと接触したか。
あるいは彼を警戒している。否、どうやら天敵らしい。
逆に、ナーサリー・ライムを利用できるのでは? スノーホワイトは話を切りこんだ。

「あの。事情を察してくれたのなら、お願いがあります」

「お願い? 内容によるけど」

「私のサーヴァントが暴走している理由は、討伐令にかけられたセイヴァーにあります。
 生前、彼の部下であった私のサーヴァントは、セイヴァーに協力する方針を一歩も譲らず、それで仲違いしてしまいました」

嘘ではない。
ナーサリー・ライム側の能力や宝具が分からない以上、変に冒険する行動は避けるスノーホワイト。
不思議そうに緑色の瞳でスノーホワイトを観察し、間を開けてナーサリー・ライムが言う。

「君はセイヴァーと手を組む事は考えなかったんだ?」

「彼の危険性は、街の噂や私のサーヴァント……バーサーカーの話から十分理解しています。
 恐らく、セイヴァーの手中に落ちれば、破滅しかありえません」

まぁ、嘘じゃない。
洗脳状態のスノーホワイトは、プク・プックを崇拝する思考に陥りながらも。
あくまで現実的な意見を述べたのだ。
討伐令にかけられたサーヴァントに味方するなど。
そもそも、討伐令を配布した主催者がどう思うかを想像すれば、避けるべき一手である。

「そして――セイヴァーも相応の強さを保持するサーヴァント。
 間違いなく、一筋縄では倒せません。……念の為、令呪は一画も使用していません」


490 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/09/28(金) 23:10:30 FqHxupKw0
手の甲に刻まれた模様を見せるスノーホワイト。
彼女からして、自身のバーサーカーを処理するのはある意味、決定事項だった。

そして、バーサーカーがセイヴァーと接触し。
自然な流れでスノーホワイト自身が、セイヴァー陣営に巻き込まれるのも御免であり。
セイヴァー陣営が強大化する前に、叩き潰さなければ手に負えなくなるのは、想像出来たのだ。

スノーホワイトは話を続ける。

「セイヴァーと、私のバーサーカー。二騎分の魂を差し上げます。……討伐に協力していただけませんか。アサシン」

「代わりに君を見逃せ、ってこと?」

「正直、私は……セイヴァー討伐の報酬を目的としています。書類に記載されていた『聖杯戦争の離脱』です」

「聖杯よりも帰る方が大事なんて、信じられないなぁ」

「そう思われて仕方ないかもしれません。しかし、私の目的は――帰還です」

プク・プックの元への帰還。
嘘でもないし、案外これも重要な切符の一つとスノーホワイトは思う。
聖杯獲得次第に切符を即座に利用し、離脱する事で彼女の目的は一応成立する。

ここで重要なのは、あくまでスノーホワイトは『自らの立場と事情でセイヴァー討伐令を提案した』こと。
ナーサリー・ライムの事情や思考を組み込んだ上で、提案したのは――誰も知らない。
表面上、違和感無くスノーホワイトはナーサリー・ライムに提案を申し出ている。

故に。
ナーサリー・ライムも魔法少女の要求に、しばし思い詰めようとしたが。
それを制するように『情報屋』の戸を何者かがノックした。






491 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/09/28(金) 23:12:09 FqHxupKw0
……………………………………………………。


さて……気分はどうだ? ラッセル。
心が晴れたとか……肩の荷が下りたような、息苦しさが無くなったという具合に。

ふむ。気分は悪くは無い、良くも無い……つまり『普通』だ。今の君は『正常』なのだよ。

よく分からない?
そうだな。案外、分からないものだろうな。自然体を己が理解するのに時間はかかる。

これから君は『あの村』で『いつも通り』の日常を過ごすのだろう。
毎日繰り返し続けるのは、あまりに退屈じゃあないか。

例えばだが……







ラッセルの目覚めは驚くほど落ち着いていた。
漸く気付いたが、似たような覚醒は『夢の厚生』の……もっと先、実験が始まる前にあった感覚に酷似している。
自分は『元に戻った』?
彼の部屋は歪でも、血まみれでも、猟奇に犯された風景ではない。
清楚で晴れやかな……普通の部屋だった。


「………」


ただ夢を見ていた、だけだったのか?
セイヴァーが、もしかして夢の世界に現れたのだろうか?
試しにラッセルがベッドから降り、自宅の扉を開けばまだ日が昇らずにいる空と、至って平穏な町の様子が広がった。

忌々しい影も、亡霊も、不気味な生物も居ない。
静かで『普通の』美しい世界だ。
楽しくて幸福を感じる世界………?

ラッセルの中で奇妙な違和感を感じながら、スッカリと冴えた為、何かしようと思ったが。
こんな時間じゃ、誰も眠りついているし。
強いて『ユーミ』は起きてくれるかも。

それにしても静かだ。セイヴァーのみならずサーヴァントが襲撃した様子もない。

朝を迎えれば、タバサが動物に餌をやり、ガーデニアが畑の野菜を収穫し、ユーミは町の巡回を始め……
何故だろう。
ラッセルは少し気が遠くなった。次にふと思いつく。
自分のサーヴァントであり、情報屋と呼称されるラッセルと瓜二つの『役者』のいる建物に向かうラッセル。

扉をノックし、中に入れば。
いつも通りの情報屋と、見知らぬ美少女の姿があった。

「!」

ラッセルの知らない、全く記憶にもない少女を目撃した時。
無性に胸がざわついた。
美しいから、現実味のない魅了があったから、色々理由はあるかもしれないが。
未知への恐怖よりも、興味に方向が切り替わったを実感している。
一方で、情報屋はどこか浮かない様子で尋ねた。

「どうしたの、ラッセル。こんな時間に。……ああ、この子は君と同じ聖杯戦争のマスターだよ」

恐らくラッセルよりも年上だろう美少女のマスターは、表情を崩さずに軽く会釈する。
釣られて、会釈するラッセル。
少女に魅力が無い訳ではないが、それよりも――それ以上に情報屋へ伝えたい事があった。

「……学校に行きたいんだ」


492 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/09/28(金) 23:13:23 FqHxupKw0
前編までの投下終了しました


493 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 22:48:48 x26iPG8c0
後半の投下します


494 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 22:51:27 x26iPG8c0


「君は何を考えているの?」

よりにもよって、こんなタイミングで。
情報屋の冷ややかな態度にもラッセルは、微動だにせず、逆を返せば平静過ぎる。
浮世離れた空気に疑問を抱いている様子で、言う。

「またには学校に行ったらどうかって」

「……確かに『僕』は言ったよ。でも急にどうして?」

「どう……?」

「あれは皮肉のつもりだったんだよ。君が幸せな世界よりも現実を選ぶ理由なんて無い。
 それとも……学校に行かなきゃ駄目って『罪悪感』を覚えたのかな」

ラッセルは無表情で首を横に振る。
マスターの予想外極まりない行動は、ナーサリー・ライムこと情報屋も顔をしかめるほど。
彼の心の内でも困惑が明確で、スノーホワイトが『魔法』で読み取っていた。
何より。
学校――年代を予想すれば自ずと『見滝原中学校』を指し示している。

だが、スノーホワイトは……少なくてもセイヴァーが『見滝原中学校』に現れない事を知っている。
彼は吸血鬼だ。
最も危険なのは、現在の時刻。太陽の光が差し込まない間。
固有結界が安全領域。セイヴァー対策でなくとも、固有結界内にラッセルが居るだけでも有利なのだ。
わざわざ外へ出る必要がない。

ラッセルは、聖杯戦争とは関係なく。
個人的な気分で見滝原の街に赴きたい――そういう事だろう。
ならば、分からなくもない。
幾らここがラッセルを満たすモノで溢れ、安全であっても、永遠と居続けたい訳ではないように。

問題はタイミング。
聖杯戦争開始前。
暁美ほむらという『見滝原中学校』に在籍するマスターが、討伐令にかけられる前だったら良い方だろう。


スノーホワイトは冷静に思案する。
まだ、情報屋に対しセイヴァーの弱点・種族を明かしてはいない。
素直に開示しても悪くない面はあるが『セイヴァーが出現する可能性』を仄めかす場合で、状況も変化するのだ。

彼女が行わなければならないのは――
セイヴァー対策の布陣。所謂『セイヴァー包囲網』。
そして、彼女の新たな契約サーヴァントの捜索。
一つ。スノーホワイトは、討伐令目当てで集結する主従たちの捕捉と利用を目論んだ。







495 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 22:52:16 x26iPG8c0
セイバーが坑道内に入った時点で、猫たちが騒がしかった。
別に薬物で参っている様子じゃあない。奥から鉄に衝突する衝撃音が喧しく響き続けている。
錯乱気味に一匹の猫が言う。

「マタタビ中毒達の怨霊だニャ! 焼却炉の『内側』から何かが出ようとしているニャンッ!!」

「そ、そんニャもんいる訳ニャいだろう!」

「とにかく焼却炉から逃げるんだよ―――!!」

情報の錯綜は酷いものだったが、少なくとも焼却炉に異常が起きている。
坑道から脱出を図る猫と幾つもすれ違いつつセイバーが発見したのは、へこみを生じさせ、破壊される手前の焼却炉。
うめき声?
あるいは、唸り声に近いモノが聞こえる。
直後、焼却炉から火の粉を巻きあげ、炎を纏い、燃え尽きた筈の黒き獣が飛び出す。

『犬』である。
人を押し倒せるほどの大型犬、に近い形状を炎に包まれたソレは保っている。
されど、大きさは人を優に超える。

三メートル以上を想定できる獣は、焼却炉の番を担当し、足をすくませて放心していた猫に飛びかかろうとする。
セイバーが構えたのは宝具『勇者を支えたもう一つの武具たち』の一つ、弓矢だ。
ただの弓矢じゃあない。
光の魔力が帯びた邪悪を断ちきらんとする輝きを灯った、特別な矢。

艶やかな一直線の軌道を描いて『犬』に放たれた矢は、悪を浄化する正常を放ち
命中したか否か関係なく『犬』は、光によって怯む。

セイバーは『時の勇者』として眼前の『犬』に酷似した邪悪を感じ取った経験がある。
彼の宿敵たる魔王。
それと同じ悪を。
『犬』は恐らく悪の根源による手先に過ぎない。

「ニャァァアァ………」

残された猫が、生きた心地しない気分で『犬』とセイバーの間をすり抜け、逃げた。
見届けたセイバーが再度、光の矢を構える。
使用時に魔力消費を余儀ないが、効果は明らかだ。


496 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 22:52:57 x26iPG8c0
「■■■■■■■■■■■■!!」

言語化不可の吠え声一つ。
セイバーが再度放つ『光の矢』で『犬』は怯みの反応を見せたが、今度ばかりは構わず突進をする。
咄嗟に、セイバーは矢の構えを中断させ。坑道を占領する巨体を誇る『犬』の足元に前転し、攻撃を回避した。

弱点を理解したが、決してセイバーは優位に座していない。
巨体のモンスターとの戦闘経験が豊富であるセイバーには『犬』の攻撃自体は脅威じゃないが。
戦場たる坑道は――狭い。
二足歩行の猫たち専用を前提に作られた場所だからこそ『犬』の巨体は、身動きしにくく感じる。

が、『犬』は炎を纏っている。
取りつかれたか如く、衰えない威力を保ったまま炎はセイバーに襲う。
『犬』が前足をセイバーに振りかざすと。
纏った炎が個別に生きているかの如く、セイバーの盾による防御を無意味にする熱を与えた。

熱はセイバーの体力と気力をじわじわ削る。
ましてや、焼却炉より最近誕生した『犬』と違い、固有結界のモンスターと戦闘を経て。
魔力を消耗したセイバーが、万全の態勢と呼べる状態だろうか。

「ッ!!」

『犬』の大ぶりな上半身の振り被りと炎の猛威は、セイバー側からは狭い坑道で回避が容易でなかった。
広く間合いを取れないセイバーは、前足の直撃で背後に吹き飛ばされる。
宙に放り投げられ、体勢はそのまま。非常に危険な状態だ。
追撃されれば、セイバーに大ダメージは免れない。

寸前。

突撃しようと前のめりになった『犬』の体が歪に停止する。
『犬』の前足と地面を縫い合わせるように、ジッパーが出現していた。
僅かな足止めにでしかない、遅れて現れたブチャラティの援護だったが、セイバーには十分なものだ。

セイバーは着地を上手く出来なかったが、地面に叩きつけられ、即座に俊敏な動作で体を起こす。
起こしただけ十分だ。
彼の手元には、再度弓矢が構えられ。光の魔力を込めた一撃が放たれると。
ジッパーで動きを封じられた『犬』の眉間に吸い込まれた。

「■■■■■■■■■■■■―――――!!」

致命的な一撃。
効果を露わになる様に、邪悪に満ちた『犬』は操り糸が切れたように肢体を崩し、肉となった悪が消失していく。
改めて、ブチャラティが告げる。


497 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 22:54:10 x26iPG8c0
「遅れてすまない、セイバー。……敵は倒せたようだな」

対してセイバーも構わない、の意味で反応を見せた。
一方、消失し終えた『犬』を見届け終えると、他の敵対モンスターとは異なり。
残骸代わりに、何かが地面に落ちていた。ブチャラティがソレを手に取る。

「これは……懐中時計か? 止まった状態だが……」

ブチャラティは、アイテムの意味や固有結界に関して、全てを理解した訳じゃあないが。
ただ、先ほどの『犬』に関しては何かが違うと、直感で確信を得ていた。

そして、セイバーもダンジョンめいた固有結界のシュチュエーションから、他にも何かが起きているのではと思い。
『犬』が現れた焼却炉に注目する。
破壊されたせいか、最早本来の機能は成しておらず。
熱は無く、深淵の闇がポッカリ覗かせているかと想像できる。
しかし、現実は異なり、セイバーは奥に全く異なる景色が広がっていたのを発見し、ブチャラティを呼びかけた。
ブチャラティも確認すると、どこか――『部屋』の光景があると分かった。

「向こうへ誘導されている……か」

一種の罠か。
だが、敵の固有結界内で、加えて敵サーヴァントの位置を掴めない以上、手掛かりを探さなくてはならない。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。まさしく、そういう状況である。
意を決して、ブチャラティとセイバーは焼却炉内部へ突入した。







不味い。そうサリエリが焦りを感じるのは無理もない。
現在、マスターの元へ戻る最中。住宅街の全てが未曾有の恐竜パニックに陥っている状況。
サリエリが感知する限り。
恐竜の司令塔たるサーヴァントが周囲におらず。
元凶を叩く事により、事態を解決する事は叶わないと理解出来たところ。
彼は――マンホールに引き込まれた少女を目撃したのだ。


498 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 22:54:52 x26iPG8c0
正しくは、マスターの一人。魔法少女・スノーホワイト。
彼女の魔力は、比較的サーヴァントの感知に引っ掛かりやすいほど、特徴的ではない。
ただ『マスターとして』。並を凌駕する魔力量を誇る。

故に、サリエリはスノーホワイトの補足と彼女に攻撃をしかけた『新手のサーヴァント』の存在を把握した。

(敵はもう一騎いるというのか!)

(マスター!!)

一方。
アパートで身を潜めるジリアンは、現時点では恐竜に捕捉された様子はない。
しかし、着実に恐竜の感染は彼女の居るアパートへ向けられる。
何よりも他の住民たちが騒ぎで目を覚ましたり、明かりをつけて敵に居場所を判明させる反応すら起こす。

恐竜達は軒並み別方角に移動するものと
仲間を増やすべく、民家に侵入するもので別れているが。
ジリアンは念話で答えた。

(あ、アヴェンジャーさんが来るまで隠れています! まだ恐竜たちには気付かれてないようですし……)

(油断はするな! 恐竜使いの他にも、敵が居るのだ!!)

無難に考えればアサシンか、気配遮断の類を持ったサーヴァントが潜伏している。
サリエリは亡霊の使い魔を複数出現。
それを撹乱に用いて、剣の接近や銃の遠距離攻撃を行う。
倒す前提ではないが上手い具合に恐竜らは、使い魔の方へ意識を集中。
サリエリよりも近い距離で『動く』使い魔を優先させていく。

(新手のサーヴァント……?)

そして、ジリアンも相方のサーヴァントから聞かされた存在を警戒するべく、一旦ベランダ側の窓から退避する。
恐竜の鳴き声や喧騒は、あちこちするうえ。
アパートの住民が起床した物音が、ジリアンの部屋まで響いた。
この様子では、時間の問題だろうか。
隠れると宣言するも、都合の良い場所は限られている。質素な室内に置かれたベッドの下なら、ジリアンも入りこめそうだ。

隙間を覗きこみ。何かと視線が合うまでは――思っていた。

「!?」

咄嗟に距離を取ったジリアン。
漆黒の間の視線は消えたように感じる。だが、決して見間違いではない。
口元を手で押さえ、恐竜から悟られない様に必死だった。

間違いなく敵だ。
悪意ある存在……自分と同じ聖杯を狙う者!
サリエリがアパートに到達するまでは、無暗に外へ逃亡は出来ない。
狭いアパートのワンルームなら、強いて洗面所か収納スペースしか身を隠せないが。
最早、令呪でサリエリを呼び寄せる方が賢明では? ジリアンは手の甲に視点をチラリ移す。

令呪の効力は、ジリアンも把握している。
だからこそ、ここぞ――と呼ぶべきタイミングをイマイチ想像しにくく。
危機的状況だが、令呪はここで消耗して良いのか。不安がある。


499 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 22:56:03 x26iPG8c0
(ううん、駄目だ。まだ使うには早過ぎる)

多少抵抗を覚えつつも、ジリアンは玄関に駆けて行った。
扉ごしで外の様子を伺おうとした。ひょっとすれば、運良く恐竜と遭遇せずサリエリと合流が叶う。
僅かな希望を信じた。そんな彼女が目にしたのは、窓ガラスにベッタリ張り付く『黒い影』。
人の形をしているような。……形が『何か』を連想させている。

瞬間。
バンッ、ゴンと衝突音が扉に響く。窓ガラスにも『黒い影』をかき消すように新たな存在が形を露わにする。
恐竜だった。
が――あまりに奇妙だが、例の『黒い影』は完全に消えてなかった。
『黒い影』と重なる様に向こう側に、人が変化しただろう中型恐竜の形が、街灯に照らされ輪郭を確かとさせた。

ジリアンはハッとした。
彼女は気付く。『黒い影』の正体は――セイヴァー!
討伐令の写真にあった……あの人物が背を向けて振り返っているような形であると!!

(玄関から離れろ!!)

刹那に響いたサリエリの怒声は、念話だけのものだった。
ジリアンが反射的に行動した途端に無数の使い魔達が、扉の前を占領する恐竜に突撃していく。
恐竜は押し倒され、玄関回りを崩壊させながらも再起不能にさせる。
恐る恐るジリアンが様子見するが、倒し伏せられた恐竜が成人男性に戻りつつある光景が広がる。
先ほど見たセイヴァーの影は消失していた。

復讐者の鎧を纏った状態ながら、サリエリは彼女の元へと現れた。
困惑気味にジリアンが問う。

「……アヴェンジャーさん。セイヴァーがいたんじゃ……?」

「セイヴァーだと?」

しばし間を開けた後にサリエリは「いや」と否定した。
サーヴァントの魔力反応を、それこそアサシンのような気配遮断スキルがなければ、確実に見逃す訳がない。
改めてジリアンが破壊された玄関から、外を伺ってみると。
似たような恐竜の侵入跡が住宅街のところどころで目に入る。

「まだボクがマスターだと捕捉されていないなら、良いんですけど……」

「……ならば、あえてマンション方面に向かうべきだろう。ここら一帯の住人の大半は恐竜として移動させられている」

確かに――ジリアンも冷静に状況を整理する。
マンション方面に存在しない方が、『一般人』それと『恐竜化した場合』を考慮すれば。
むしろ違和感を与える結果になるのだ。
上手く紛れこめば、他の主従の捕捉も可能となる筈……ただ。

サリエリとジリアンらに、セイヴァーの影を警戒する意志が芽生えた。


500 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 22:56:55 x26iPG8c0




『見滝原』という日本に属する町であるが、西洋ヨーロッパを彷彿させる街並みや美意識が散りばめられている。
ブチャラティ達が至った空間もそうだ。
天井で回転する無数の歯車。装飾に部類されるらしいソレが配置されたリビング。
近代技術の一つで、立体映像が空間に浮かび上がっている。
目を通していけば……どうやら聖杯戦争のウワサに関する資料だ。
彼らが到着した空間――もとい、一つの家を調べれば驚く事実が発覚する。


「ここはッ、暁美ほむらの自宅!?」


寝室の机に置かれていた配達物。宛先をしっかり目を通せば、あの討伐令にかけらた少女の名がある。
まさかとブチャラティはスタンドでジッパーを出現させた。
普通に、床や壁に『いつも通り』能力が露わになるのを目にし、ここが固有結界より外の。
元いた見滝原の街だと認知するブチャラティ。

暁美ほむら。
そして、セイヴァーもどうやらここに居ないらしい。

ブチャラティ達が通って来た道も、気付いた頃には消失しており。
ただ、手元には焼却炉の前で拾った『時計』が残った。
彼はセイバーに確認を取らせる。

「セイバー。靴はどうだった? 少なくともこちらに『学生鞄』はなかった」

靴。
外出するなら必要不可欠なもの。
セイバーが目にした限り、学生靴らしい堅苦しいものは無かったと言う。
既に、家を離れたが……どうやら学生の恰好を取れるように、暁美ほむらは装備を整えているらしい。

「あの空間の支配者がセイヴァー? いや、外で協力者を作っていた奴の戦略とは噛み合っていない……」

偶然?
たまたま、この空間へ抜け出しただけなのだろうか。
ブチャラティもこれ以上の考察は不毛だと悟る。情報が少な過ぎる。結論を急いでは駄目だ。
次の問題は、例の空間を放置しておけないが。
再び空間へ侵入するのが困難であり、無暗に探索しても敵サーヴァントを捕捉できない点。
協力者が必要でも、どのような手段で敵を炙りだすべきか。

「それと……暁美ほむらだ。状況を判断するに、見滝原中学へ向かう可能性は高い」

前提の話。
暁美ほむらが討伐令を把握しているか、と考えれば『知らない』方が正解に近いだろう。
主催者側も、わざわざ討伐対象に討伐令を教えるのも……
否、そういう手も無くはないが、しっかり学生セットを持ち出した彼女は、何であれ中学には向かう魂胆だ。


501 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 22:58:04 x26iPG8c0
やはり見滝原中学校だ。
暁美ほむらが向かうならば、激しい戦火が自ずと想像できる。


ブチャラティはあらゆる状況の判断で気付かなかったが、停止していた『懐中時計』の針が動き出していた。







情報屋が静かに口を開いた。

「学校の準備どころか、制服だって向こうに置いてきたじゃないか」

「あ……そうだった」

ラッセルも思い出す。
彼が住んでいた場所は固有結界そのものじゃあないし、別々だ。
制服も勉強道具も、食事は……こちら側で用意したもので賄えそうだが。
不敵な表情を浮かべつつも、満更でない様子で情報屋はこう続ける。

「大丈夫、こっちで用意しておくから。……ラッセル、一度家に戻ってみなよ」

そんな事が出来るのか。
驚くラッセルはちっぽけな関心を覚えつつ「うん」と頷く。
しかし、むしろソレだけだった。他に何か、例えば感謝の意を示すなど口にするべき事が欠けていた。


「む? ラッセルか……?」

情報屋の家から出たラッセルは、深夜にも関わらず誰かから声をかけられた。
振り返ると神父の青年・ドグマの姿がある。
不思議そうにラッセルが眺め返す様子に、慌ててドグマも言葉加える。

「トコヤミタウンでの葬儀に時間がかかってしまってな。今日は……色々あったのだ」

色々。
その意味合いも情報量が多い話だ。
ドグマは、ラッセルになんと伝えればいいのか分からないほど、奇妙で鮮明な出来事が起きた。
未だに現実味なく、ドグマも何かに化かされたのではと繰り返し思い耽るほどだ。
迷いを振り払うよう、ドグマは眼前の友人に尋ねる。

「ラッセルは……このような時間にどうしたのだ?」

「ドグマ。僕、明日学校に行くよ」

「学校? おお、そうか。明日は月曜であったな、確か………」


502 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 22:58:36 x26iPG8c0
………………………学校?


凄まじい違和感がドグマの中で渦を描いた。
ラッセルの言う『学校』とはなんなのだろうか? そもそも、ラッセルは学校にかよっていただろうか?
この世界に、学校は。

ドグマは深淵を覗きこんだ恐怖を込み上げる。
考えてはならない。何も、これ以上の事を聞いてはならない。
純粋無垢に見つめ返すラッセルと目が合い、ドグマは動揺を隠せず踵返す。

「ならば早く寝た方がよいぞ、ラッセル。私も教会へ戻らなくては」

「うん。おやすみ、ドグマ」

気味悪いほど落ち着いた言葉でラッセルはドグマを見届けた。
彼の様子がおかしい。馬鹿でもないほど誰だって気付く。
分かっていてもラッセルは、深く言及せずに自宅へ戻って見る。

ベッドくらいしか家具らしいものはない空間。
だからこそ、見滝原中学校の制服と学生鞄はベッドの上に置かれた状態だった。
聖杯戦争が始まる前。ラッセルが記憶を取り戻す前には毎日、当たり前のようにこれを着て登校していた。
しかし……
記憶を取り戻した今と話は変わってくる。
むしろ、記憶が戻ってからは夢の世界もとい固有結界で過ごし続けていたのだから。

「ドグマの言う通り、朝になるまで寝ておこう……」







残されたスノーホワイトは『魔法』で知りつつも、情報屋に尋ねる。

「彼の言う学校は見滝原中学校ですよね。行かせるのは危険ではないでしょうか」

「ああ、アレに関しては問題ないさ」

ラッセルを一時的の間、学校に居させるにしても暁美ほむら狙いの主従達が危険なのに変わりは無い。
しかし、情報屋は不敵に嗤う。
理由をスノーホワイトは読み取れなかった。
悩みの反響で聞こえる類ではない事情で、ラッセルに関する支障はないと?


503 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 22:59:20 x26iPG8c0
「………外の方ですが」

スノーホワイトは改めて話を続けた。

「中学校に現れると想定する主従の目的は、無難に三つの勢力が現れると思います。
 一つは、討伐令の報酬を目的とする者。私と同じく帰還を望むマスター。
 二つ目は、討伐令を狙った主従を狩る者。聖杯作成を目的とする主従。
 最後は……前者二つを阻止せんとする者です。根本的に聖杯戦争の方針に反対を意を持つ主従」

「君の想定は、分からなくもないかな。一体どれほど中学校に集まるか、不明ではあるけど」

「いいえ。今回の場合、主従の方針事態は重要ではありません。どれほどの数が集中するかです」

「数の集中?」

「はい。私が危険視しているのは、セイヴァー側の戦力が膨れ上がる事です。
 私のバーサーカーだけでなく、他の主従がセイヴァー側に『堕ちる』警戒をしなくてはなりません」

「……ああ。そうか、洗脳能力って奴だね? 君みたいな魔力持ちじゃないマスターに抵抗能力は期待できない」

「はい。しかし、アサシンさんの固有結界を上手く利用すれば、セイヴァーと他主従の接触を回避できます」

一見『セイヴァー包囲網』はスノーホワイトが挙げた三つの勢力図が拮抗し、
包囲網として機能するか怪しい部分のある。心もとない、欠陥まみれの戦況に映りかねないが。
実際、向こうから『手駒となる存在』が火へ飛び込む虫のように。
セイヴァーからすれば、格好の餌だろう。

スノーホワイトも、セイヴァーのカリスマを正確に計れていないが。
彼女のバーサーカーのような厄介者を心酔させる魅了は、確かに存在する訳なのだ。

……と。
ここまでセイヴァーが見滝原中学校に現れる前提で話を進めている彼ら。
セイヴァーが現れずとも、必ず他主従の存在を捕捉出来る筈。
視点を変えれば滑稽な茶番でしかないが、無駄に終わる計画じゃないとスノーホワイトも推測した。

情報屋側も、様々に憶測を立てる。


504 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 23:00:07 x26iPG8c0
「残念だけど、暁美ほむらやセイヴァーが現れる保証はないよ」

討伐令抜きに暁美ほむらが現れない可能性があり、肝心のセイヴァーも居ない場合もある。
第一に。情報屋もスノーホワイトを信用しきってはいない。

少なくとも、サーヴァントを呼び出せないスノーホワイトは利用価値がある。
セイヴァー包囲網の形成以外にも、魔力源としても。
問題の時刻。
見滝原中学の通学時間が着実に迫っていた。







スノーホワイトとの会話裏で情報屋が把握していたもの。
ブチャラティたちが固有結界から脱出し、ジリアンを固有結界に引き込みそこねた事。
ラッセルの異変。
それぞれに関する心の声を、スノーホワイトが聞き取れなかったのは単純に。
困った事情でなかったからだろう。

何故?

固有結界に引き込める獲物を取り逃がした。
既に捉えていた獲物が抜け出した。

それが疑念になっておらず、むしろ『悪』を増殖させる一環として利用するなら?


所謂――『発癌』してしまったのだ。


ラッセルが完全に悪意の宝具に影響されつつあるように。
彼と鏡合わせである情報屋ことナーサリー・ライムにも悪意が転移した。
そして最悪だが。
自らが悪が故に、悪を受け入れるというアサシンの側面が為に、無意識な侵食は止められないだろう。
少なくとも病を治せる黄金の精神は、ここに居なくなったのだから。



【ナーサリー・ライムの固有結界/月曜日 早朝】

【ラッセル・シーガー@END ROLL】
[状態]魔力消費(小)『漆黒の頂きに君臨する王』の侵食(小)就寝
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]日記帳
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:みんなと普通にくらす
0.元に戻った? まだ分からない……
1.学校に行ってみる
2.セイヴァー(DIO)に思うところがあるが……
[備考]
※聖杯戦争の情報や討伐令のことも把握していますが、気にせず固有結界で生活を送るつもりです。
※セイヴァー(DIO)のスキルの影響で、彼に対する関心を多少抱いています。
※『漆黒の頂きに君臨する王』の侵食により罪悪感が一時的に消失しています。
 ラッセル自身はまだ自覚しておりません。


【アサシン(ナーサリー・ライム)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)『漆黒の頂きに君臨する王』の侵食(小)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:固有結界を維持しつつ、聖杯作成を行う
1.ラッセルを学校に行かせてみる。
2.セイヴァー(DIO)を侵入させないようにするが……倒すのは……
3.見滝原中学に関してはまだ様子見。
4.スノーホワイトに関しては、半信半疑。
[備考]
※セイヴァー(DIO)の真名および『漆黒の頂きに君臨する王』を把握しました。
※『漆黒の頂きに君臨する王』によって固有結界が支配されると理解しました。
※現在、新都心と繁華街にのみ結界の『入口』を解放しています。
※ブチャラティ&セイバー(リンク)の主従を確認しました。
※マスターのスノーホワイトと彼女のサーヴァントの情報を把握しました。
※ジリアン&アヴェンジャー(サリエリ)の主従を確認しました。
※『漆黒の頂きに君臨する王』の侵食が進行しつつあり、固有結界内部や能力に影響がありますが。
 現時点でナーサリー・ライム自身に自覚症状はありません。


505 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 23:01:35 x26iPG8c0
【スノーホワイト(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
[状態]魔力消費(小)、魔法少女に変身中、プク・プックの洗脳
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]『ルーラ』
[道具]『四次元袋』
[所持金]一人くらし出来る程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得。全てはプク様の為に
1.再契約するサーヴァントを見極める。
2.セイヴァーとの契約は最悪の場合のみにしておく。
3.見滝原中学で発生するだろうセイヴァー包囲網を利用する。
[備考]
※バーサーカー(ヴァニラ・アイス)への魔力供給を最低限抑えています。
※ブチャラティ組、マシュ組の動向を把握しました。
※セイヴァー(DIO)が吸血鬼であることを知っています。
※セイヴァー狙いで見滝原中学に向かうつもりはありません。
※現在、プク・プックの洗脳は継続されています。
※ラッセル組を把握し、アサシン(ナーサリー)のステータスを把握しました。
※対魔力のランク次第で彼女の『魔法』が通用しにくいサーヴァントがいます。



【B-3 暁美ほむら自宅周辺/月曜日 早朝】

【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]懐中時計?
[所持金]数十万程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の打破
0.見滝原中学か……
1.固有結界のサーヴァントを捕捉する。場合によっては倒す。
2.出来れば協力者が欲しい
3.セイヴァーとの接触
4.アヤ・エイジアの殺害は阻止したい
5.どこかに居るであろうディアボロへの警戒
[備考]
※固有結界のサーヴァントが魂食いを行っていると疑っています。
※セイヴァー(DIO)とジョルノの関係性を感じ取っています。
※ウワサの内容から時間泥棒がディアボロではないかと睨んでいます。
※リンクから時を静止させる存在が居る事を把握しております。
※『漆黒の頂きに君臨する王』の影響で発生したモンスターがドロップした懐中時計を持っています。
 何かに反応し、針は動いています。効力や影響は後述の書き手様にお任せします。
※ほむらの自宅を把握しました。彼女が見滝原中学へ通学すると推測してます。


【セイバー(リンク)@ゼルダの伝説 時のオカリナ】
[状態]魔力消費(中)、肉体ダメージ(小)
[ソウルジェム]無
[装備]『時を超える退魔の剣(マスターソード)』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:ブチャラティの方針に従う
1.固有結界のサーヴァントを捕捉する。場合によっては倒す。
2.見滝原に響く時の音が気になる。
[備考]
※杳馬が『天国への階段』を阻止する時の音が聞こえていますが
 確証のない情報の為、マスターのブチャラティには打ち明かしてません。
※ブチャラティからディアボロに関する情報を把握しています。
※時に関する能力の発動を認識しております。


506 : 神様のいない日曜日 ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 23:02:38 x26iPG8c0
【E-5 住宅街/月曜日 早朝】

【ジリアン・リットナー@被虐のノエル】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]中学生が生活できるほどの仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、ノエルの復讐を止める
0.マンション方面へ向かう。
1.普通を装って、マスターであること隠し通す。
2.見滝原中学には通学する予定
3.さっきのは……セイヴァー?
[備考]
※ノエル(NPC)はマスターではないと現時点では判断しています。
※攻撃を仕掛けてきたサーヴァントがセイヴァーではないかと疑っています。


【アヴェンジャー(アントニオ・サリエリ)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの願いを叶えてはやりたいが……
0.マンション方面へ向かう。
1.悪を引き寄せるサーヴァントへの警戒
[備考]
※ノエル(NPC)はマスターではないと現時点では判断しています
※主催者はゲーム終了後、マスター達を帰還させないのではと考察しています
※マシュとシールダー(ブローディア)、X&バーサーカー(カーズ)の主従を確認しました
※『悪』を引き寄せる宝具を持つサーヴァントがいると分かりました。
 その宝具の影響で、宝具やスキルの威力が低下するようです。
※マスターであるスノーホワイトの存在を把握しました。


507 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/08(月) 23:09:39 x26iPG8c0
投下終了します。

続いて、
しぶりん&シャノワール、アヤ&ディエゴ(アヴェンジャー)
いろは&シュガー、沙々&マジェント、DIO(セイヴァー)、卯月&杳馬、ほたる
以上の予約をします。


508 : 名無しさん :2018/10/09(火) 10:44:39 Wlir8Ju60
勝っても負けてもロクな目に遭う奴が居なさそうなのが何ともはや


509 : 名無しさん :2018/10/14(日) 13:12:18 sUd0GU9c0
投下乙です。
どこが動いてもろくなことにならなさそう。


510 : 名無しさん :2018/10/14(日) 13:15:16 1X4QvreM0
淫獣が関わっているだけあって巻き込まれた時点で不幸な上に行き着く先もろくな事にならなさそうだ


511 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:03:22 MKg5L4xo0
皆さまコメントありがとうございます!
前半部分を投下します


512 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:04:24 MKg5L4xo0
☆白菊ほたる


目覚めは突然だった。
熟睡していた白菊ほたるも、本能に従って飛び起きただけで状況を理解出来ずに居た。
シュガーとレミリアとの戦闘現場の近くにあるマンションに住む彼女。
既に事は終わっているが、事後の喧騒が響いている。
場所が近いのは、ほたるですら察している。故に戸惑っていた。

(ライダーさんが周りを警戒してくれるから……大丈夫だと思うけど……)

念の為、ほたるは自室の窓にあるカーテンを開き、周辺の様子だけ伺う。
驚くほど、何も分からなかった。
ほたるの住む場所は、マンションの二階に位置する部分だったが。
そこそこ高さあるにも関わらず、目当ての景色は望めない。

(ここは安全、なのかな?)

不安を覚えつつ、カーテンを閉めようとしかけた時。
彼女は慌てて別のものに視線を向けた。事件じゃあなく、全く異なるものに対して。
念話と呼ぶマスターが持つ能力を、ほたるは知っていたが、ソレでライダーを呼びかけるよりも
自分が自ら出向いた方が早いと反射的な判断で、彼女は飛び出していた。

寝巻姿のまま。
ほたるが夜道に出向いて、慌てて周囲を見回してみるが、先ほど発見した者の姿は無い。
構わず、ほたるは必死にどこかへ駆けだす。
当てもないが、マンション前で呆然と立ち尽くすよりもマシだ。

彼女は必死に探す。
何故かと問われれば、彼の、ほたるのライダーが為である。
ほたる自身、自らの『不幸』で友人に討伐令を与えられたライダーに『不幸』が与えられたのでは、と危惧していた。

だからこそ彼女は、ちっぽけな少女でも。少しでも役に立ちたいと願ったのだ。
ほたるは必死に呼びかける。

「セイヴァーさんっ……DIOさん!」


513 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:05:18 MKg5L4xo0
そう!
確かに少女は目にしたのだ。
セイヴァーのような人影を……! ほたるがマンションを飛び出すまでに、彼は姿を再び消してしまったが。
あれは見間違いじゃあないと、ほたるは信じている。

きっと、まだ近くにいる。
希望を抱いていた少女だったが、何者かが路地の脇より手を伸ばし掴んで来た。
唐突な事態に、ほたるは対処や抵抗も成す術ないまま、腕を引っ張られてしまう。

一体何事かと状況を見極めようとした矢先。
ほたるが振り向いた先で、額に銃口が突き付けられていた。
金属が肌身に伝わり、ほたるはピシリと静止する。
銃の持ち主……巻き毛の激しいシルクハットを被り、全身黒ずくめの男性が所謂『アサシン』のサーヴァントだと。
マスターのほたるには分かったが、様子がどうもおかしい。

人ならざる力を有しているにも関わらず。
ボロボロの血まみれ。極端な表現、瀕死状態に近いアサシンは、わなわなと震え。
恐怖と動揺を顔に浮かべた状態でありながらも、しかと漆黒の凶器の引き金には指をかけていた。

「お、お前……今ッ『Dio』って言ったよなぁ、聞こえたんだよ!!」

「………っ ………………………!」

錯乱状態のアサシンに腕を掴まれ、今にも弾が撃ち込まれる危機的。
ほたるは、涙を浮かべ叫ぶ事すら叶わない。
ここで念話でライダーに伝えるべきか、令呪でライダーを呼び出せばいいと誰もが考えるだろう。

だが、実際は無理な話である。

架空の物語でしか知らない拳銃の実物を突き付けられ。
殺されてしまう手前の状況を眼前に、アイドル活動をしていても、ちっぽけな少女でしかないほたるが
迅速な判断力を発揮する訳がないのだ。

後悔を抱くよりも、間もなく迫る『死』の恐怖で立ちすくむしかなかった。

「どこもかしこも『Dio』だ! お前は『Dio』を知ってんのか、それとも『Dio』のマスターかぁ!?
 クソ、クソッ! どうなってやがる!! 俺は聖杯戦争に召喚されたってのに
 どうして『Dio』と関わらなきゃいけねぇんだ!? どんな災難だ、クソったれ!!」

「あ……ひっ…………」


514 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:05:57 MKg5L4xo0
アサシンはセイヴァーに、『Dio』に恐怖しているのだろうか。
支離滅裂に不平不満を少女へぶつけ続ける。
そんな事を罵られても、何をどうすればいいのか。ほたるだって分からない。
第一。
アサシンに「セイヴァーさんとお知り合いなんですか?」と聞けずに悲鳴を小さく漏らすしかない。
ほたるは、そんな自分自身を情けないと感じていた。
いたが、その次の行動は到底移せずに、恐怖を乗り越えられない。

「もう『Dio』なんざ知らねぇ! 二度と湧き上がって来るなぁ――――!!」


――え………


アサシンの指がはっきりと引き金をひいて、少しだけ遅れて銃声が響く。


――嘘……私………死んで……



◇◇◇



☆環いろは


魔法少女は魔女となる宿命だった。
否、魔女に成り果てるからこそ、自分達は『魔法少女』と呼ばれているのだろう。
ならばこそ、環いろはが最近自らの肉体に生じた謎の存在。
ウワサとの死闘で打倒したアレは味方ではなく、いづれ世界に呪いを振りまく自分の末路なのだと分かる。

――やちよさん……もしかして………

共に行動していたベテランの魔法少女を思い出すいろは。
彼女の焦りよう。
ソウルジェムが穢れ切った末路を、ひょっとすれば知っていたのかもしれない。
長年、魔法少女として活動していたなら、魔女の正体に気づく切っ掛けの一つや二つ……ありえそうな話だった。

――なら、帰ったら謝らないと……

いろはの記憶が次々と鮮明に呼び起こされる。
優木沙々と出会った事。
彼女が『友達』じゃあない事。
彼女の言いなりになって、バーサーカー……シュガーを暴走させてしまった事。

――沙々ちゃん……

当然だが、令呪を使わせられてしまい、いろはも沙々の所業を許すほど寛容ではない。
優木沙々は紛れも無く『悪』であり、行動や方針は間違っている。
無知な人間を巻き込もうとし、恐らく……グリーフシードの無い世界で魔女を産み出そうと奔走していたのだ。
いろはを犠牲に、自分だけは助かろうとした。


515 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:07:30 MKg5L4xo0
しかし……
魔女になる恐怖。
ソレから逃れる術を模索するべく必死だったと考えれば、酷く責め立てられない。
セイヴァーの宝具か何かで浄化されたいろはの方が、幸運だっただけ。

ソウルジェムの穢れを溜めずに、聖杯戦争を生き残る。
非常に困難を極め、無謀な道を歩まなければならないといろはも推測した。
だけど、彼女はその道を進むのだ。


何故なら、環いろはに漆黒の意志はない。黄金の精神が――僅かだが、確実に芽生えているのだ。


「…………っ」

そして目覚める。
いろはは何者かに背負わされていた。すぐに正体が優木沙々だと気付き、声をかけようとしたが。
急に、沙々は立ち止まった。
自分の覚醒に反応したのかと、いろはが様子を伺えば。
前方に立つ――セイヴァーが立ち止まったからだと察せる。

どうしてセイヴァーと沙々が共に行動しているのか?
彼もまた、いろはの起床に反応したのではなく、じっと周囲を様子見しているようだった。
沙々は非常に緊迫した表情を浮かべる。
血相も容態も、残念ながら正常と呼べない。目を見開いて、必死にセイヴァーを警戒……否、畏怖しているのだ。

――今の内に……!

いろはは意識を集中させて念話を行う。

(シュガーさん、シュガーさん!)

『イローハ。やっと本物のイローハとお話しできたよ。さっき偽物のイローハと会ってビックリしちゃった』

(あ……はい。ご心配かけてすみません)

思えばシュガーの反応。
偽物と称しているが、いろはが沙々に洗脳されていると気付いていたのだろう。
狂っている彼女は格別掘り下げる事も無く、いつもの調子で語る。

『さっき、おっきくて怖いコウモリちゃんと遊んだよ。向こうも疲れて帰っちゃった』

(サーヴァントと戦ったんですね……ご無事で何よりです)

『イローハ。やっぱり私、眠いみたい』

(……分かりました。起きたら念話で教えて下さい)

『うん、おやすみ』


516 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:09:29 MKg5L4xo0
シュガーの念話は完全に途絶えた。
魔力消費もいろは自身感じられない点から、霊体化せざる負えないまで追い詰められたらしい。
……つまり、肝心のサーヴァントに頼れない状態。

――取り合えず、シュガーさんにかけた令呪だけでも。

洗脳でかけてしまった分の解除。
しかし、これでいろはは令呪を全て失ってしまったのだ。

――仮に私が洗脳されても、シュガーさんを操る手段はなくなったから、これ以上酷い事は起きない。

その覚悟と計算をし、最後の令呪を切った。
いくら状況や状態も含んだ結果とは言え、いろはに申し訳なさがある。
シュガーから教えられたが、彼女の宝具で生きたものはシュガーに変換されない。
シュガーや敵サーヴァントの戦闘に巻き込まれた犠牲者が居ないのを願うだけ。

――本当はセイヴァーを切りぬける為に……でも、今は休んで下さい。シュガーさん……

故に、いろははシュガーを頼れなかった。
『砂糖』に溺れ、狂っている彼女を英霊とし、頼るのもお門違いだろうが。
今回の件は別だ。
少なくとも、今だけは戦わせてはならない。

小さくいろはは、沙々に声かける。

「沙々ちゃん……沙々ちゃんっ」

「っ!? い、いろはさ――」

「静かにしてっ。多分、セイヴァーは私が起きた事に気づいて無いから」

沙々も、いろはの目論みを理解し、少し背後に対し頷くだけに留めておいた。
恐らくだが、沙々はいろはの洗脳が解けた事を知ってない。
が、今は洗脳に関して問いただす状況で無いといろはも承知している。
故に沙々を落ち着かせる風に、いろはが話を続けた。


517 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:11:42 MKg5L4xo0
「私が気絶してた間……何がどうなったの?」

「……せ………セイヴァーに、私の、ソウルジェムが………」

沙々の声色は明白な絶望で満たされている。
つまり、魔女化する危険と隣り合わせ、かつ脅迫状態にあるのだろう。
となれば……いろはが更に状況を整理していく。

「今さっき、シュガーさんと念話で確認したのだけど。
 シュガーさんはサーヴァントと戦って、深手を負ってしまったから、セイヴァーとは戦えないみたい」

「え……そんなっ、じゃあ」

「落ち着いて。沙々ちゃん、アサシンさんは?」

「アサ―――あっ。アサシンッ! そうだ、忘れてた……念話してみますっ!!」

恐怖で冷静な判断が困難だったのだろう。
自分のサーヴァントに助け求める思考を漸く取り戻した沙々が、我に返って念話を試みた。
沙々が意識を集中させている。

沙々が震える口で告げる。

「い……いろはさん。アサシンとの念話が通じません……
 シュガーさんの魂を確保する為に、近くへ配置していたのですが」

「戦闘に巻き込まれたかもしれないね……」

「まさかそのっ、倒されたなんて流石に無いと、し、信じたいけどっ」

沙々の言葉はか細く弱々しい。
念話が通じない以上、既に脱落した事も否定できない状態だ。
シュガーが『怖いコウモリ』と称した英霊。ソレによって倒された、と……
交戦したとすれば、無事か怪しい。

――どうしよう

思わず、いろはも内心途方に暮れていた。手詰まり状態に等しい。
現状、彼女達自身以外で他主従との接点が皆無で、尚且つ二人のサーヴァントは戦闘続行不能。
無理矢理シュガーを戦闘させる事も、上手くいけば……だが、いろは個人の意志で、シュガーを酷使させたくはなかった。
口が回る様になった沙々は、漸く一つの確信ある情報を出す。


518 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:12:20 MKg5L4xo0
「そ、それに、セイヴァーの宝具もよく分からなくて。いろはさんを瞬間移動させたり、あと」

宝具? あるいはスキル?
悪の救世主たる英霊の……能力? いろはも『瞬間移動』なる現象を直ぐに突き止めるまでには行かず。
いろはも深く沙々に問い詰めようとした矢先。

短く軽快な音色で銃声が響き渡ったのだ。

しかも、さほど遠くで鳴っておらず。確実に敵が、恐らくサーヴァントが存在する事だけは分かる。
魔法少女の魔力感知を行うと、いろははサーヴァントと思しき濃度の高い魔力を複数捕捉した。
だが、それよりも――

突如として沙々の体が崩れ倒れた。

「―――っ!? 沙々、ちゃん!」

思わず声を出すいろは。
下敷きにしてしまった沙々の体から咄嗟に離れ、いろはは容態を確認すると……
息を飲む他なかった。


「う……そ。死んでいる……!?」


沙々は完全に鼓動も息も停止していた。



◇◇◇


☆渋谷凛


一度、家に戻らなくては―――凛は最初そう考えた。
ここ……見滝原に存在する彼女の家族とされている彼らが果たして本物なのか否かは定かではない。
しかし『一応』便宜上だが、無言で凛が家出をすれば心配する事だろう。

そして、一度戻って……学校には行かない。行くフリをして、改めて家を出る。彼らに安心感を与える為に。
通学している場合じゃあない、のが一番の理由でもあるが。
丁度だった。凛が決断を下した矢先、外に動きが見られたのは。

様子見してきたセイバー・シャノワールが凛たちの居る、非常階段の踊り場へ帰還し。
冷静に、しかし緊張感を含んだ物腰で告げる。

「アヤ・エイジア、君の追いかけと思しき報道陣がホテルを包囲しつつある状況だ」

「私の歌が聞こえた影響ね。このままだと他の人達に見つかってしまうから、どうにか抜け出したいけど……」


519 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:13:15 MKg5L4xo0

責任感を露わにする表情を顔につけるアヤ。
凛も、現時点でセイヴァーと鉢合わせるのは危険だと分かる。
アヤの歌が効果あるかも分からず。少なくともセイヴァーを無力化する術もない現状だ。

方針が明確になったものの、結局どうやってホテルから脱出すればいいのか。
シャノワールがアヤに尋ねた。

「車の運転は出来るかな」

「ええ。ホテルまでは車で来たの。駐車場に止めてあるわ。でも……車で移動したら逆に気付かれる」

「彼らの足止めは、私に任せて欲しい。向かう先は――都心の真逆、住宅街の方にしよう」

無難にそうなるか……凛は一応納得した。
アヤの存在を捕捉した報道陣以外にも屯する者を考慮すれば、都心側へ逃走するのは返って不味い。
現状、人気ない住宅街へ身を潜めるのが安全だ。
だけど、凛は何か釈然としない。

「セイバー……これが罠って可能性もある?」

凛も変に不安を煽らせたい訳ではないが、アヤが口にしたセイヴァーの掌握に不穏の影がチラつく。
むしろ、だ。
報道陣を誘導する手段こそ、カリスマで人を操るセイヴァーの策略を感じる。
彼女の指摘にセイバーは少し沈黙をし、遅れて返答をした。

「否定はできない」

「周囲にサーヴァントはいる?」

「私の感知の限り、ここに居るアヴェンジャー以外の魔力は無い。
 だが……霊体化した状態のサーヴァントや気配遮断を持つアサシンの感知は不可能だ」

「じゃあ――」

つまるところセイヴァーが潜伏している可能性は否定できない。
ならば、直ぐにホテルから脱する事は軽率にしない方が良いのだろう。
セイバーに周辺の偵察を頼んでから、ホテルからの脱出を試みようと凛が提案する前。
否、その直後。
世界に異変が発生した。


◇◇◇


520 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:13:44 MKg5L4xo0
★セイバー(シャノワール)


瞬間。
世界が停止した事にシャノワールは、改めて目を見開いたが、どうやらセイヴァーやアヴェンジャーの時間停止じゃない。
とだけは、感覚で理解していた。
最も、今回の時間停止はとりわけ特別に分類される。
暁美ほむらと同じく、長時間停止を行える……恐らくサーヴァントの宝具だ。
時間操作を齎す英霊らの中でも、圧倒的上位に属する実力を秘めた者。

皮肉だが時間停止中にも制約なく動けるシャノワールは、利用するべきだと判断する。
少なくとも、セイヴァーの動きが制限されていると想像しうる状況。
一つのチャンスだ。

無難に凛たちをこの間に移動させてしまうのが正解、だが――
シャノワールは、自然と魔力を帯びた予告状を手元に出現させていた。
殺気までは行かないが、確かな敵意を胸に秘めた――階段の踊り場で倒れ伏していたアヴェンジャーが覚醒したのを目撃する。

「身構えるなよ。少しばかり話をしよう」

意気揚々と起き上がった彼だが。
停止した時空間に対し、自らの肉体が動くのを確認している様子も垣間見えた。
理由はどうあれ、アヴェンジャーは凛を殺害しかけた。
根本的には聖杯を狙う方針を持つ側である。

「折角、時間が止まっているんだぜ。本当のところを聞かせろよ。聖杯を欲しくないのか?」

人が良さそうでもあり、挑発的とも受け取れる態度のアヴェンジャー。
顔立ちや能力、本性などはセイヴァーに似通っている部分はある。
だが、違う。
全てとまでは行かず、あらゆる全ての『一部』が微細な差異が重なり合った結果。
『似ているが別人』結果を導いたような………シャノワールは静かに口を開く。

「まず、聖杯は欲しない。ただ、方針に関しては伏せた部分がある」

「……大凡見当はつくが聞かせろよ」

「先ほど話にあった通り、セイヴァーやXの対策として更に主従と同盟を交渉する点に関してだ。
 前提だが――私は聖杯戦争主催者の目論みを二の次に警戒している」


521 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:14:56 MKg5L4xo0
「無難に『願望機を安易に見逃す訳がない』って奴か」

「その点も不透明な部分がある。例えば――ソウルジェムが英霊の魂を『取り逃す』可能性だ」

「ああ、そこか? 疑うのは分からなくもないが、流石にそこまでザルな設計じゃあないだろう」

ルール上。魂はより近い距離にあるソウルジェムへ移動する、と言われているが。
例えば、何らかの理由で消滅したサーヴァントの魂があり、周辺にどのソウルジェムも距離を置いた場合でも。
近いソウルジェムへ移動されるか、否か。
普通、アヴェンジャーと同じ考えをするのが自然だ。……最も。

「最も――主催者が聖杯を目的としている場合のみ、ソウルジェムは正常に機能すると私は思う」

「………」

「『そうでなかった場合』。主催者側にとって聖杯が創造される事態、不要な障害になりえる。つまり……」

「ソウルジェムが聖杯に変換されない……ならお前の想像通りとして、結局どうなんだ?
 ……って突っ込みたいが、お前の場合は連中に歯向かえられる手段があったな。
 お前の『対界宝具』で、連中の居場所へ侵入できる」

考察していけば、戦力さえ確保すればシャノワール自体の目的。
主催者への反抗は可能という訳だ。
が、アヴェンジャーは一言を口にした。

「俺は乗らないがな」


◇◇◇


★アヴェンジャー(ディエゴ・ブランドー)


断言すると、アヴェンジャーは時間停止内で身動きを取るのは困難だった。
しかし、現在はしっかり動ける。
シャノワールの情報と照らし合わせれば、時の入門を可能とするサーヴァントに障害無い時間停止を発生させるのは
自然と犯人は、暁美ほむら。セイヴァーのマスターだ。

聖杯戦争前で発生した時間停止の感覚。
アレを信用すれば、アヴェンジャーの直感でも理解できる。
現在、時間停止を発生させているのは……暁美ほむら『じゃあない』。

長時間停止を行うサーヴァントが、確かにいる。
それが発生した際には、認知したものの『入門』出来なかった。今回は何故か可能になっている。
アヴェンジャーが推測するに、敵は有る程度……時空間を操作しえる。
最悪、完全なコントロールを為す――とすれば厄介以上に、セイヴァーよりも最優先で倒さなくては。

(時間停止が発生して、数分経過したが)


522 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:15:32 MKg5L4xo0
特に異常はなし。
少し間を置いてアヴェンジャーはシャノワールに言う。

「セイヴァーがこの周辺に潜んでるってなら、この時間停止を利用し俺達に近付く。
 だから、探しに向かう話だったな。いいぜ? 今のところはお前達に乗ってやるよ……今だけな」

「ああ、それは助かる」

アッサリとしたシャノワールの返事に、アヴェンジャーも鼻先で笑った。

「なぁ、俺の話を聞いてたか? いつかは切り捨てるし、お前との共闘は少しの間だけだぜ」

「そういう場面は、幾つも体験して来た身だからね。君より酷い者とも会った事があるとも」

気に食わない奴だ。アヴェンジャーの表情が歪む。
ただし、シャノワールは続け伝える。

「私はマスター達の護衛として残る」

「俺だけが行けと?」

「当然だ。マスター達が攻撃される危険がある以上、護衛は必須であり、君には前科がある」

「怪盗の前科者がそれを言うかよ」

双方睨み合いの後。
癪に障る節があったアヴェンジャーが「ああ、そうかよ」と霊体化した。

重要な点が一つだけある。現在、時間停止している敵は前述の推測から想像するに。
アヴェンジャーの存在を捕捉している点である。
歌姫を捕捉した報道陣が原因か……あるいは『別の要因』か。

痕跡があるとすれば、アヴェンジャーの時間停止と池回りで起きた戦闘。
可能性の高い方は間違いなく、前者の時間停止だろう。
霊体化ですり抜け、次に彼が実体化したのは――池を越した先にある住宅街。
停止した世界でも既に異常を垣間見える現場では、更に向かい側で発生したと思しきサーヴァント同士の戦闘被害だ。
ただ、アヴェンジャーの狙いはソチラじゃあない。

――時は動き出す。


523 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:16:44 MKg5L4xo0
長時間の停止に突如終わりが訪れた。
アヴェンジャー自身の周辺で異変が起きたかと言えば、無い。
無いなら無いで、敵が攻撃をしかける可能性もありえる。

「なら……俺が捕捉したサーヴァントは時間停止者ではない訳だ」

住宅街へ赴いたのは一種の勘だった。直感の一つ。
それが的中し、実体化した状態のサーヴァントを感知して捜索していた。
少女の叫びを聞くまでは。


「セイヴァーさんっ……DIOさん!」




                ――復讐者の時間――




マンションを飛び出してきた少女は、慌てたのは明白で寝巻姿だった。
誰も居ないマンション前を左右見回し、探し人が近くに居るのを願って駆けだす。
咄嗟に時間停止させ、様子見したアヴェンジャーは沈黙した。

(奴は何だ……? セイヴァー? 『DIO』と言ったのか、今……!)

やはりセイヴァー『も』ディオだった。
しかし、一番注目するべきはセイヴァーを積極的に探す少女の存在。
あの様子では、どう見ても討伐令目的で捜索している雰囲気じゃあない。
……ところであの少女はどうなった?

疑念に答える風に、男の怒声が聞こえて来る。ゴチャゴチャと喋る内容はともかく。
アヴェンジャーは「もしや」と思い、再び時間を停止させた。
声の方角へ進んでみれば、やはり彼の想像通りの光景が広がっている。

「おや、驚いたな……『マジェント・マジェント』。サーヴァントなのか? コイツが」

意外そうに、しかし悠々とした足取りでアヴェンジャーは、一騎の負傷したサーヴァント……
アサシンのマジェント・マジェントが、いたいけな少女を撃ち殺そうとする状況に接近する。
誰も、アヴェンジャーを止める者は居ない。
アヴェンジャーが簡単な動作でマジェントの手にある拳銃を奪う。

「さて……」


そして、時は動き出す。


524 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:17:17 MKg5L4xo0
◇◇◇


☆白菊ほたる



「………い…………おい、気絶されるのは困るんだが」


――え?


少女は飛び上がった。
衝撃で目を見開いたところで、彼女の目の前には『セイヴァー』がいる。
確かに、ほたるはショックのあまり気を失いかけていた。
銃で撃たれて――否、どうやら銃弾を受けていない。むしろ倒れないように『セイヴァー』が抱えてくれている。
こんなイカレた状況じゃなければ、ロマンスを感じただろうが……
慌ててほたるは言う。

「わ、私……どうなって………?」

再度ほたるは驚いてしまう。
一瞬DIOではないかと、セイヴァーだとほたるが思い違いをしており。
厳密には『助けてくれた』のは、セイヴァーとは異なるアヴェンジャーのサーヴァントだった。

しかし、全くセイヴァーと別人じゃあない。
同じではないと分かるが、それでも何か……外見の一部が同じで『似ている』表現が適切と言う、複雑な人物だった。
そんなアヴェンジャーは作った笑みを浮かべて、手元の拳銃をほたるに見せる。

「安心しろよ。お前は撃たれちゃいない。撃たれたのは、ソイツだ」

「………っ!!!」

アヴェンジャーが顎で示した方に、血の惨状が広がっている。
ほたるに銃口を向けた巻き毛の男が脳天を撃たれ、無残に道路へ倒れていた。
いよいよ、彼女の生きた過程で目撃した事ない悲劇を目の当たりするが、叫べも出ない。
銃を向けられた時と同じだ。体は震えるが、一歩も動く事が叶わない。

錯乱状態だったが、アサシンがほたるを殺害未遂まで追い詰めたのは事実。
果たして、暴力の解決が正解なのか。
俯くほたるを余所に、アヴェンジャーが話す。

「ところで、お前はセイヴァーの何を知っている」

ほたるが、ぎこちない動きで振り返れば愛想良い笑みも浮かべて無い冷淡なアヴェンジャーがいる。
彼は手元で持て余す拳銃を、今度はほたるに向けそうな威圧を感じさせる。
結局、アヴェンジャーは情報を引きずり出そうと、彼女を生かしているに過ぎない。
悪意はないし、善意もない。
単純に手段の一つ、結果へ至る過程の通過点である。

だけど。

「その……」

ほたるが猟奇的な現場の渦中に巻き込まれながら、それでも。

「あ、アヴェンジャーさん……私を、助けて………」

彼女は普通の少女だから、ごく当たり前に『お礼』を告げようとしたのだ。



◇◇◇



「何故、助けた? 君が『ディオ・ブランドー』なら、それは相応しくない行いだ」


525 : ◆xn2vs62Y1I :2018/10/24(水) 23:18:36 MKg5L4xo0
投下を終了します。
続きに関してはなるべく早く仕上げようと思いますが、多分イベントが落ち着いた頃合いになります。


526 : 名無しさん :2018/10/25(木) 02:53:07 d.IbkLWg0
投下乙

マジェント遂に逝ったか


527 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:41:17 kGBNPlCI0
感想ありがとうございます。
これから中編にあたる部分を投下させていただきます。


528 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:42:11 kGBNPlCI0
★セイヴァー(DIO)


少しだけ時間を戻して見れば、分かる話である。
場面は、いろはが意識を取り戻し、沙々と密談する最中。セイヴァーがここで立ち止まっていたのは、サーヴァントの接近。
魔力を感知した訳ではない……だが、確実に『来る』とセイヴァーは直感で理解している。

瞬間。
長時間の時間停止が発生する。
この際、通常と異なる点は単純にセイヴァーがこの時間に『入門』している事。

セイヴァーは、自然と付近に駐車されていた自動車を、背後より出現させたスタンドで掴む。
果たして、その自動車は駐車違反に分類されるモノだったか。
最早定かじゃあない。
ただ無常に、所有者の意志などお構いなしにセイヴァーの投擲武器にされた。
表情一つ崩さずセイヴァーが、筋肉質あるスタンドで車を投げた先。

無精髭を生やした悪魔『もどき』のアサシンが笑っていた。
慌てて、されど余裕ありそうな滑稽さで、立ち見降ろしていた街灯から地面より舞い降り、攻撃を回避。
礼服のアサシンは、頭からズレたシルクハットを被り直し「危ねぇな」そう呟く。
けど、表情は満更でもない。
最初から『結果』を把握していたのだろう。

「ファーストコンタクトにしちゃ、今の流石に酷くねぇか?」

「初対面ではないだろう」

皮肉を込めた返事をするセイヴァー。
冷静に装っているが、恐らくは内心ドス黒い感情が煮え立っているだろう。
アサシンが不敵な笑いを零す一方、セイヴァーは普通に会話を続けた。

「わざわざ姿を現したのも理由がある筈だな、時の神」

「……」

直感に優れている、が。
セイヴァーの直感も他サーヴァントのと同じ、あくまで『感覚』『予感』の範囲に過ぎない。
彼がアサシンをそう呼称するのは、仮初に過ぎず。
真名を看破した訳じゃあない。
アサシン自身が、最も承知している事実だが――多少の苦い反応を現す。
愉快な笑みが崩れ、どこか神妙な雰囲気を漂わせる。


529 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:42:38 kGBNPlCI0
「情報提供って奴さ。報酬は、少しの間だけ俺を見逃すってことで」

「妙な要求だな」

「奇妙でもねぇ。折角『アヤ・エイジア殺害予告』ってパーティーの招待状が配られたのに
 その前に脱落しちまうのは勿体無い! ……だろ?」

文字通り。
セイヴァーとは異なる意味合いだ。
しかし、自分の快楽だけに御膳立てを企てる。
聖杯獲得やマスターの尊重は二の次……セイヴァーの鼻先での笑いが漏れる。
あくまでセイヴァーは、面白みを見せる『アサシンへの関心』を差し置いて返答した。

「……私に理があるとは思えないが」

「じゃあ、ちょっとした前払いで一つ。アンタの部下? 男の癖してブルマ履いて、亜空間で穴状に削る奴」

割と具体的に特徴を挙げられ。
少し間を開けてから、声のトーンを変えずに「ヴァニラ・アイスか」と口にするセイヴァー。

ヴァニラ・アイス。
セイヴァーが真なる悪の救世主ならば。
彼の真なる信奉者と呼ぶべき狂人。
その心酔の極みは生前から『クレバス』並に底知れぬ狂気を纏っていた。

多少の納得を得たセイヴァーを観察して、アサシンは続ける。

「アンタを探してたから、会ってやった方がいいんじゃあねえの」

「必要は無いな」

「ひっでぇな、薄々感づいてたがアンタ。普通にそーいう事できちまう奴だ」

普通は出来ねぇよ。念を押すようにアサシンが言うのを、他愛なくセイヴァーは聞き流していた。
完全に必要ない。
という訳でもなく……ヴァニラ・アイスとの合流は最優先事項にする必要性は無いだけ。
当然、ヴァニラ・アイスは利用する駒になる。
戦力となるサーヴァントが一つ確定した。
逆に言えば、ヴァニラ・アイスの猟奇性を信用するなら心酔も覆まい。

「だったら――アンタがお気に召しそうな情報は『アンタに似たサーヴァント』だなぁ?」

「よく似た」

「『よく似た』……んー微妙に違うぜ? ほら」


530 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:43:40 kGBNPlCI0
首傾げたアサシンが掌を掲げ、球体のビジョンを浮かべると映像が映し出される。
確かに居る。
どこかセイヴァーと似通った青年が、神父のサーヴァントを傍らに対話をする光景が。
何を話しているか、内容は聞こえないものの。奇妙な事だが、彼らは親しげに見える。
セイヴァーが変に映像を眺めていると、青年は手元で弄んでいた『赤い宝石』を飲み込んだ。

「確か向こう側にいるんだよなぁ。見滝原中学がある方に。アンタのマスターが通ってる場所だぜ」

飄々とした態度でアサシンが球体を打ち消す。
注視するべき点は無数にあれど、セイヴァーはアサシンが姿を現した原因を大方察した。

恐らく。
アサシン側にとって、セイヴァーと酷似する青年や神父……加えてヴァニラ・アイス。
彼らは重要ではないのだろう。
ここで称される『重要性』とは、アサシン自身を示してない。

彼のマスターだ。
セイヴァーが検討つけたマスター候補の『誰が』アサシンのマスターかは不明。
が、アサシンの性格や方針に似合わない誘導を行う動機があるなら……一つに限られる訳だ。

相手の思想などお構いなしに、アサシンは態度を変えずに手を振った。

「そんじゃあ、またパーティ会場で会おうぜ。折角なんだから脱落しないでくれよ、救世主サン」

「………」

闇の渦に紛れてアサシンは颯爽と姿を消す。
時間を操作するのだから、『空間』に関する――差し詰め『空間転移』の一種を使ったのだろう。
となれば。
セイヴァーはまだ、時間停止が継続されるのを理解。再度思考した。

「時間操作の上位である空間支配か」

『時間』と『空間』は相互関係にあると言われる。
故に、時を支配する=空間を支配しえる可能性に通じる訳だ。
アサシンこと『時の神』が嘲笑するように『たかが時を止められる程度』でしかないのが、現在のセイヴァー。

ならば……時の可能性を追求する他ない。

セイヴァーの結論はそれだった。
単純な時間停止の延長よりも、時間の巻き戻りや加速や、更には空間支配まで到達する。
天国の到達とは無縁だが、少なくともアサシンを凌駕するには『時の領域』を支配しなくてはならない。


531 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:44:38 kGBNPlCI0
……いや。果たして無縁だろうか。

時。
彼のマスター・暁美ほむら、時の神たるアサシン、他にもいる時間停止者、ウワサにある時間泥棒。
全てが『引力』で引き合わせられたなら?


改めて状況を見直す。
やはり、アサシンはセイヴァーの、他の全ての動向を網羅するほどの『余裕』がないようだ。
間違いなく、セイヴァーを確認する際は、直感でも感じた視線がある時のみ。

聖徳太子のように十人全ての話を聞き取れないのと同じ。
動向を網羅は可能だが、全てを見通している訳じゃあない。あの球体のように一つ一つ映像を確認するのだ。
でなければ、既にセイヴァーが見滝原中学方面……鹿目まどかの自宅へ進んでいたのを把握している筈。

「私の憶測が正しければ――」

一応だが、セイヴァーも一つ可能性……予想をしていた。
鹿目まどかの様子を伺う、マスターたる暁美ほむらの動向を。
もし、ほむらとの『引力』があれば見滝原中学に居るという『例の青年』と巡り合えるだろう。
そう……鹿目まどかの自宅は比較的『そちら側』に近い位置。

結論として。
セイヴァーが向かうべき方向は『そちら側』と反対側にあるのだ。


引力に導かれ。
まさか『別の存在』と巡り合えるとは知らずに。



◇◇◇


★アヴェンジャー(ディエゴ・ブランドー)


「一つ確認させて貰うが」

悠長な足取りで歩を進めるセイヴァーを眼前に、アヴェンジャーは本能で理解する。
奴は笑っているが、状況を楽しんでいるだけ。
愛想でも、人柄の良さでもない――単純な愉快犯だ。
似たような社会的強者のクズ共は腐るほど見て来たとも。コイツも同じだ。
コイツは自分から何かを『奪おう』とする。

セイヴァーを目撃し、白菊ほたるの方はどうすればいいのか分からず。
言葉にならない音を口から漏らしていた。
ちっぽけな少女だ。
逃げ出す事も、サーヴァントを令呪で呼べずにショックで放心状態に等しくなっている。

先ほど撃ち抜いたマジェントの魂を回収できないかもしれない。
まだ、死にきっていないようで。血まみれの肉体は転がったままである。


532 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:46:07 kGBNPlCI0
咄嗟にアヴェンジャーは、ほたるを庇うように背後へやって引き下がった。
助ける為ではなく、セイヴァーを撃ち抜く際、邪魔になるからそうしただけだが……
セイヴァーは歩みを止めた。
不愉快そうな無表情で、淡々と話す。

「君は『ディオ・ブランドー』かな」

「いいや。そういうお前が『ディオ・ブランドー』じゃあないのか」

息を吐くように嘘をついたのだろうか。少なくともアヴェンジャーは思っていない。
厳密には『ディオ・ブランドー』という名じゃあないのだから。問題無い。
不敵な笑みを取り戻し、セイヴァーは言う。

「いいや。私は『ディオ・ブランドー』ではないよ」

「………!」

アヴェンジャーが息を飲んだのは、セイヴァーの背後から現れたスタンド。
図体・体格に明確な差があれど、シャノワールが述べた通り。
スタンドが同じ。
紛れもなく『時を止める』。
まだ手元にあるマジェントの拳銃をかまえ、アヴェンジャーは考える。

(くそ……どうなる!? コイツの世界への入門は……一秒も難しい。いくら俺と『似ている』とは言え
 スタンド能力まで同じと……待てよ。……俺が時を止められると分かっている確証を得ている……のか……)

向こうだって時の静止を理解している。
冷や汗を誤魔化すように、アヴェンジャーは話す。

「お前の考えはさっぱりだな。逆に『ディオ・ブランドー』ならどうするべきだ? 気高く餓えろってか」

「普通はそうだな」

セイヴァーは肯定した。

「人の群衆は『ハトの群れ』と大差ない……一羽が右に飛べば、全てが右に向かう。
 周囲が『同じ思想』を持つ事に安心を抱くのは人間の本能だ」

「…………」

「君は『どう』したい? 『ハトの群れ』を先導する頭になりたいか、あるいは『ハトの群れ』を遥か上で支配したいか」


533 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:47:41 kGBNPlCI0
アヴェンジャーは一旦拳銃を降ろす。
不気味な沈黙が、両者の間に広まるのを少女が見守っていた。
最早、白菊ほたるは訳が分からずに、ただただ混乱する。
セイヴァーの言葉も、アヴェンジャーの動向も、一体どちらを信用するべきか。

それ以前に。
双方のどちらかが『善』である保証すら皆無なのだ。
途方に暮れるほたるを余所に、アヴェンジャーは静かに口を開く。

「俺はな……」

刹那。アヴェンジャーは間髪入れずにセイヴァーへ銃弾を打ち込む。
閑静な住宅街で再度、現実味離れた銃声が響き渡る。
ほたるは息を飲んだものの、セイヴァーに銃弾が命中した様子がない。
むしろ気のせいか。セイヴァーは指で銃弾を、ゾッとする冷静さで弾いたように見えた。
臆する様子なくアヴェンジャーがふつふつ込み上げる激情を込め、言葉を続ける。

「『ハトの群れ』を地面へ叩き落とす為に、ここまで来た!」

「それが君の復讐か?」

「実にくだらないとでも言いたいようだな!!」

無性に腹立つ話だが、セイヴァーの話にも多少の理解出来てしまうアヴェンジャー。
『ハトの群れ』の先導程度で済まない。
支配だ。
群れを支配する力を得る事が、然るべき道だろう。
否、むしろ『そうするべき』だと奇妙な共感さえ抱くほどだ。


『ディオ・ブランドーは気高く、誇り高く生きるべきである』

どこかで誰かがそんな事を言った気がする。

『ディオ・ブランドーは奪う者である』

そんな事も誰かが言った気がした。だが―――アヴェンジャーは違う。


どれほど『時』が経とうと憎悪の根本を忘れる事は無い。
どれほど『支配』が憎悪より素晴らしいものだとしても、憎悪が晴れる事は決して無い。
……これは所謂『ディオ・ブランドー』でなく。
サーヴァントの、アヴェンジャーのクラスに宛がわれた影響による『あり方』なのだ。
故に、憎悪を以て『ディエゴ・ブランドー』は答えた。


534 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:48:46 kGBNPlCI0
.


「俺は、天国に悠々としている連中と父親を、一人残らず地獄の底へ引きずり落としてやる」



◇◇◇


最初は天国など、実にくだらないと考えた。

次に――天国へ行けば、母親に会えるのではないかと想像する。

最終的に、もし……父親が天国で悠々としているならば、地獄へ引きずり落とそうと思った。


◇◇◇



成程。どうやら根本は自分と同じなのだと、セイヴァーはアヴェンジャーへと理解を示す。
同じく英霊の在り方も、想像した通りである。
救世主の側面である彼自身。復讐に駆られたアヴェンジャー。憎悪が固定された『ディオ・ブランドー』なのだ。
が……見た目といい『何かが』他にも異なるのも関心があった。

セイヴァーの関心とは真逆に。
アヴェンジャーは、続けて拳銃の弾が尽きるまで打ち出す。
動作には躊躇がない。争いおろか、命に手をかける躊躇さは見られない。
対して、セイヴァーは再び銃弾を指で弾く。弾かれたソレが対面のアヴェンジャーの身をかすめた時。

「ご、誤解です! 誤解なんです!! お二人とも止めて下さいっ……!」

漸く、ほたるが言葉を発した。
後の祭りに思え、事が遅すぎるのだが……それでも彼女なりに必死だった。

「だって、アヴェンジャーさんも私を助けてくれてっ……セイヴァーさんも良い人だって、ライダーさんが教えてくれました!」

クソガキがと内心でアヴェンジャーは罵倒していた。
確かに『助けた』が善意なんかじゃあない。
ふと、彼はアヤと交わした話を脳裏に浮かべる。チラリと視界の隅で倒れているマジェント・マジェント。
奴の指先がピクリ動く。

(まだ生きているのか……?)

幾らなんでも『しぶと過ぎる』気がした。
アヴェンジャーは、マジェントの持つスキルか宝具の影響だと推測しながらも。
まずは、眼前のセイヴァーと対峙する。

(結論から言えば、ここで倒しきるのは不可能だ)

激情と憎悪を胸中で渦巻きながらも、冷静に判断を下すアヴェンジャー。
当然、ここから脱する手段を講じ始めている最中である。
彼の思考とは裏腹に。ほたるは、必死に述べた。

「世界を救う為とか……その幸福とか天国の意味も私には難しくて………でもきっと
 ライダーさんとセイヴァーさんが『しよう』とするものが、善い事だって……」

「正しい事、か」

くだらない会話を無視すると思えたセイヴァーが、少女に答える。


535 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:49:40 kGBNPlCI0

「少なくとも、私は君を助けないだろう」

「……え?」

「私が手を差し伸べるのは『悪』だけだよ」

明確ながら真顔で告げたセイヴァーの言葉に、ほたるは放心してしまう。
アヴェンジャーも、何故あえて切り捨てる真似をしたのか呆れたが、次にセイヴァーは。

「君には覚悟が必要だ」

そう教える。
ほたるも、ライダーが似たような言葉を述べていたのを、どうにか記憶に呼び起こせた。
確か……

「幸福の為に、覚悟を得る……ですか?」

なにが天国だ、幸福だ。救世主らしい胡散臭い持論だとアヴェンジャーが内心毒吐く一方。
周囲を伺うが、アヴェンジャーが望むものは現れない。
やはり無帽な策だったのか? 否! 必ず効果はある筈。
アヴェンジャーは確信を得ている。人間が持つ『気取り屋』の本質と悪質な現代社会を皮肉にも信用すれば
必ず、アヴェンジャーの『望む好機』が訪れる!!

「嗚呼なんだ。白菊ほたる、まさか君は――」

その前に、決定的な一言をセイヴァーが言う。


「聖杯戦争で奇跡を得る過程で、一度たりともその手を穢す事は無いと思っていたのかな?」


え……


ほたるの感情と思考が静止した。
手を穢す……悪い事をしなければ幸福になれない? そんな事『あってはならない』だろう。
間違っていなくては、ならない筈なのに。

違う。
だからこそセイヴァーは告げるのだ。
どんな手段を以てしても、例え罪を背負ったとしても。業を背負う『覚悟』があるなら。
手を差し伸べる、力になると。

「………そ、んな」

現実を突き付けられて、白菊ほたるは絶望する他ない。
何故なら。
存在するだけで周囲を不幸にさせるのに、幸福を得るには更に不幸を与えなければならないのだ。
いっそ『何もしない』……それが彼女自身に成せる『最善』という現実だ。


「――おい……何だあれ」


536 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:50:56 kGBNPlCI0
瞬間。
見知らぬ人間の声が聞こえる。マスターか、サーヴァントか? ……どちらでもなかった。
アヴェンジャーは漸く拳銃を下げ、ほたるは顔を上げた。

セイヴァーの背後。
彼女たちから距離を離れた位置に誰かが、明かり――現代社会で必須品であるスマホを片手に、様子を伺っている。
興味半分、面白半分の好奇心だろう。
如何にもな年代の若者の姿が、男女問わず数人そこへ存在していた。

「やばいってアレ! 誰か死んでる!!」

「嘘だろ、死体じゃん! 警察こねぇの!?」

「さっきから火事とか色々起きてて、こっち来ないんじゃ――」

危機感を煽りながらも臆する事無く撮影し続ける彼らは、滑稽よりも鈍感なのだろうか。
ただ、ほたるが不安したのは。
SNSでこれらを拡散され、彼女自身の情報を拡散されるよりも。彼女は、必死に叫ぶ。

「み、みなさん、逃げて……逃げて下さいっ!!」

自棄にしろ、火事場の底力にしろ、鮮明でハッキリと伝えられたのは、彼女もアイドルの端くれだったお陰だ。
しかし、彼女の願いも虚しく。
彼らは「何?」と今後の展開に期待するように、あえて逃げない。
こういう人間は、自らの危機感よりも話題性を種に注目を得ようと危険な橋をあえて渡るタチ悪い分類なのだから。

状況下で冷静に『計画通り』を噛みしめていたのはアヴェンジャーのみ。
彼らを利用する。
最初から、狙っていた。
マジェントを撃ち抜いた瞬間から、野次馬が現れるのを想定しており。
更に『騒ぎ』を広める為に『わざと』拳銃で攻撃した風に見せかけていた……実際は『彼ら』をおびき寄せる餌。



◇◇◇


さぁ……ここからだ。


◇◇◇


537 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:51:45 kGBNPlCI0
★アヴェンジャー(ディエゴ・ブランドー)


―――5秒前。

時は止まった。
静止させ、世界を支配しているのは現在アヴェンジャー……ディエゴ・ブランドー。

白菊ほたるも。
野次馬たちも。
死に底ないのマジェントも。
そして、セイヴァーも。

拳銃を放り捨て、ディエゴはチラリとほたるを横目にやった。
ナイフを懐から取り出し、刃を輝かせる。彼女は殺すか? 恐らくソレが正しい。
サーヴァントの魂を回収できずとも、楽に一騎を脱落させるには……

「『また』彼女を殺さないのだな?」

ディエゴは息を飲む。
無音の世界で、セイヴァーの声が響き渡った。

「……………………う」


―――4秒前。

ディエゴがセイヴァーの表情を確認すれば、優越に浸るような微笑をありありと浮かべているではないか!
『入門』している!
既に、わざと喋ったなら『まだ』動けるのか!?
最早思考や後先は二の次にし、ディエゴは静止した白菊ほたるを掴む。

己のスタンド像を鮮明に出現させたまま。
野次馬たちが屯する方面へ駆け抜けなくてはならない! つまり、セイヴァーの脇を通るのだ!!
数秒……ほんの一秒でも『動く』真似をするなら、即座にスタンドで先制する!


―――3秒前。

ディエゴとの距離が狭まっても、セイヴァーに動きは無かった。
少なくとも、時の静止を認知してはいる筈だ! 何もない訳がない――!


538 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:52:19 kGBNPlCI0
「攻撃するつもりだな。分かるぜ……お前は『そういう』奴だ。ギリギリかつ絶妙なタイミングで俺を攻撃する」

「―――」

だからこそ。
ディエゴは更にナイフを手元に出現させ、無数のナイフを投げつける。
静止した世界で放り投げられたナイフ達は、セイヴァーに突き刺さるか怪しい位置で宙に停止した。
追加でスタンドにもナイフを投げようとした矢先。

「君は……彼女とサーヴァント……どちらを先に撃つか、静止した時間で『選択』していた」

「………!」


―――2秒前。

ディエゴはナイフの投擲を中断する。
邪悪なセイヴァーと視線が交わった瞬間、目眩を催す。
奴のスキルか? 今はどうでもいい。ディエゴは計画通りにセイヴァーを通り抜けようと。

「結局、君はサーヴァントを選んだ訳だ。彼女を選ばなかった」

したのだが。

「彼女を利用する為とは『何か』違う……私は、君の中にある『何か』を知りたいのだよ」

出来ずに居る。

(何時の間にッ! 俺じゃあなくセイヴァーが時を止めている!!)

即ち、時の静止の上書き。
焦るディエゴの眼前で、布を払うかのような動作で静止しているナイフを退かすセイヴァー。
まだ終わらない。
この次、セイヴァーがスタンドで拳を叩きこんでくる。
あるいは――もしくは『何らかの情報』を持ち『セイヴァー側に居る』少女を狙うか。

白菊ほたる。
厳密には彼女のサーヴァントを利用されるのを、ディエゴは忌み嫌っていた。
必ず、セイヴァー側の戦力となり。
ほたる程度を意図も容易く懐柔する未来が、自ずと想像つく。


539 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:53:44 kGBNPlCI0
時の静止を認知しながらも動けずにいるディエゴを嘲笑するよう、セイヴァーは笑みを零し。
彼のスタンドが、付近に設置された道路標識を引き抜いて見せた。
アレで攻撃を?
否。異様の漆黒が道路標識を包み込めば。絵柄のある標識部分が強靱な『刃』に変化したではないか。

(なんだ………スタンドとは違う。宝具か! 奴が持つ『もう一つ』の――)

確かにこれは――並のサーヴァントがセイヴァーを倒すのは困難を極める。
ただでさえ『時の停止』という規格外を持ち合わせている。
なら、敗北するしかないと?
冗談じゃあない。

(俺は―――)

あの復讐を果たしていないのだ。
連中に『靴の中にシチューを貰う』よりも屈辱的に誇りを切り裂いて、地面に這い付くばらせる。
刃が振りかざされた刹那、ディエゴは『動く』と確信した。
漆黒の炎に後押しされた気がする。間違いなく――『入門』した! セイヴァーの時間に!!


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」



◇◇◇



☆白菊ほたる


「―――――え?」

次の瞬間。ほたるは地面にたたき飛ばされていた。
手をついたが、コンクリートで皮膚が擦り剥き、じんわりと細かい傷より血が滲む。
痛い。
とにかく痛む状態で、ほたるが体を起こし隣を見れば、明確に血が流れるアヴェンジャーが伏したまま動いていない。
アヴェンジャーの上半身に深くある切り傷と血に、目を逸らしたほたるは周囲を見回す。

「ほう……『1秒』程度は入門できるようだな」

振り返った先。
そちら側にほたるのアパートがあり、セイヴァーの姿と血まみれのマジェントがいた。
どうなったのか分からない。
地面には、無数のナイフが散らばって、道路標識が引っこ抜かれた状態で放り出されている。


その道路標識の看板部分が血に滴り――殴られたような凹み塗れなのも謎だ。


540 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:54:29 kGBNPlCI0
野次馬たちも撮影し続けていたからこそ、何が起きたのか飲み込めずにいる。
動画で例えれば、一つの過程がスキップされたような。
ほたるに理解出来るのは、セイヴァーは……攻撃をしている。
アヴェンジャーに。
そして……ほたるに対しても。

「う、うう………なんで…………」

ライダーはほたるを幸福にすると宣言し、彼の思いも正しいと信じていたからこそ。
ほたるは現実に打ちのめされた。
『戦争』が生易しい世界でないのは分かっていたが。
でも、そうだとしても!

天国を目指すらしいセイヴァーや、ライダーを信じられない。この状況を見て、ライダーを令呪で呼びだしたところで。
一体どれが好転するのだろうか?
そんなの、セイヴァー側の利点にしかならない。
絶対的悪たるセイヴァーを、やっぱり受け入れられない。

白菊ほたるは平凡過ぎる少女だった。
凄みも覚悟も精神性も、世界観や人生ですら劇的とは縁遠いものだから。
ただのアイドル。
そして、ただの少女。

(どうにかしたい……でも、どうすればいいのか。私に出来る事なんて………)

涙を零す無力な彼女に、スポットライトのような明かりが一筋灯される。
我に返ると――車だ。
跳ねられる最悪は避けられたが、明かりのついた車とは。
警察車両じゃなく、一般のワゴン車だった。他にも周囲の慌ただしさは加速しているのを、ほたるは雰囲気で理解する。
セイヴァーも、ワゴン車から出て来る数人の男女に視線を向けた。

「ちょっと早くしなさい! カメラ動かして!!」

正義の使者とは呼べないマスコミ関係の者だと、自然と分かった。


◇◇◇


541 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/04(日) 21:56:40 kGBNPlCI0
中編の投下を終了します。


542 : 名無しさん :2018/11/07(水) 10:44:34 N2rQui2o0
投下乙

DIOが妙にほたるに冷たいと思ったら神父の事記憶してないんだったな


543 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/09(金) 21:25:06 .ADSuBf.0
まどか&ランサー、ほむら、たまで予約します


544 : <削除> :<削除>
<削除>


545 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 14:48:16 zLYwHuVk0
予約・感想ありがとうございます!
この度は非常に長くなってしまい申し訳ありません。
後編分を投下します。


546 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 14:48:57 zLYwHuVk0
☆渋谷凛


――――!?

異変に気づくのには、多少の時間がかかってしまった。
ただ、凛は本能的に以前、自分を攻撃してきたアヴェンジャーの存在が気になり、振り返る。
階段の踊り場で倒れ伏せていた彼はおらず。
セイバー・シャノワールの位置も、少しだけ違ったような気がした。
無論、アヤの方も気付く。

「アヴェンジャーさんは?」

彼女の疑問に、シャノワールは落ち着いた様子で答える。

「彼は周辺の捜索に向かった。アヤ・エイジア、君が我々と共にいる以上、彼も不用意な行動は取らないだろう」

「……そうだとしても、少し不安ね」

純粋に。
アヤは彼女なりにアヴェンジャーを理解しているからこそ、不審でなく不安と言う。
感覚と判断は正しい。
凛ですら、彼を他とも『セイヴァーとも』異なるものを抱いている事を。
それが、単純な復讐者たる『復讐心』が正体であるか不明だ。

無論、シャノワールも長くアヴェンジャーの行動を許すつもりは無い。
凛が次の行動を尋ねる前に、シャノワールが非常階段にしかけた氷を解除しつつ告げた。

「直ぐにここから脱出できるよう駐車場に移動した方が良い」

「わかった。……でも、一つだけ確認。マスコミの人達は『どうやって』足止めするつもり?」

アヤへの予告状みたいに、突拍子もなく余計な真似をされては困る。
念の為、凛は確認する。
シャノワールが余裕込めた笑みで教えた。

「彼らの『車』を再起不能にする……簡単に言えばタイヤをパンクさせるだけさ」

「ちょっと……」

「悪いと思うが我慢して欲しい、マスター。私が可能な『穏便な足止め』は豊富になくてね」

致し方ない。
やれやれと思うが、凛は目をつむり、アヤと共に階段を下りて行くと。
先導していたシャノワールの様子が変化した。
音に聞こえる息を飲む動作。
そして、続いて外より破裂音か何かが遠くより聞こえたのに、凛も顔をしかめ「何?」と歩を止めた。
シャノワールは、一層緊迫感ある空気を纏い、彼女らに伝える。


547 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 14:49:30 zLYwHuVk0
「即、ホテルから脱出した方が賢明だ。『銃声』は住宅街方面から聞こえる」

「じゅ――」

花火か何か大差ない破裂ではなく、ハッキリと断言されたのに凛は目を見開く。
そして、シャノワールは颯爽と階段を降下する体勢を見せ、話を続けた。

「駐車場までの施錠は私が解除しておこう。急いでくれ」

目に見えない早さ。よりも、瞬間移動じみた在り様。
シャノワールが凛たちの眼前から消える。霊体化した訳ではなさそうだ。
もしかして、時の静止?かも。セイヴァーやアヴェンジャーが時を止めている間も
シャノワールは自在に行動可能なのだ……余計な憶測は止めておく凛。

無事、駐車場に到着し。アヤの車に乗り込むまで格別トラブルに見舞われずに済んでいる。
……が。アヤも表情を硬くし、席に座ってから間を開け、凛に言う。

「少し飛ばした方がいいかもしれないわね」



◇◇◇


☆環いろは


周囲の異常をいろはが理解した。
響く銃声と……セイヴァーの消失を。彼が目を離した隙に、姿を消していた。
最低限、いろはの感知内に存在しない事は明白。
サーヴァントには『霊体化』という実体を眩ます能力を持つが。
果たしてソレを使用したのだろうか?

いいや。する理由もない。
彼女らが気付かぬ間にセイヴァーは移動したと考えるのが無難。
なら……いろはが、動かぬ屍と化した沙々を眺め。もしやと推測した。

セイヴァーが沙々のソウルジェムに何か……まさか魔女に……?
ソウルジェムから『どのように』魔女が産まれるのか、未だに原理は定かではない。

結局、セイヴァーの手中に収まっているのに変わりないのだ。
今度はいろはが沙々を背負い、銃声が聞こえた方角へ駆け続ける。
魔法少女の身体能力は、並の人間を凌駕するとは言え、人を背負った状態ではスピードは低下。
戦闘が発生していると分かっても、いろはが現場に到着するまでロスをした。

銃声は住宅街で響いた影響もあり野次馬や、外に出ずとも家よりスマホで撮影らしき行為を行う者の様子が分かった。
それをいろはは警戒してしまう。
魔法少女の恰好が目立つのが当然として、こんな時間帯で少女が徘徊するのも変だ。
別の意味でウワサとなる。


548 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 14:50:16 zLYwHuVk0
冷静に、呼吸を整えるいろは。
だけども、思考が冴えるほど状況は好転しないと分かる。
セイヴァーの手には、沙々のソウルジェム。戦闘で負傷を負ったシュガー……いろはに出来る事が、何も………
どうにか物影から現場だけでも確認する。

マンション前の道路を中心に事件は起きていた。
座り込んで途方に暮れる少女。明らかに深く切られ倒れ伏すアヴェンジャー。
双方に視線を注ぎ、接近しようとするセイヴァー……
そして、彼らを取り囲む野次馬や撮影をするテレビクルー。
誰も……少女やアヴェンジャーを助けようとはしない。

「………!」

憤りを覚えるいろはだが、仕方ない――当然のことか。
セイヴァーに歯向かったところで、サーヴァントでもマスターでもない彼らに成す術はないのだ。
この状況を打開する術を探すのを優先するのだ。


銃声。


今度の銃声は、当事者三人のものではない。
一体誰の仕業だと、誰もが意外性を覚え反応に送れる。
セイヴァーも漸く『ある存在』に対して、アヴェンジャー達から視線を逸らし、振り返った。

彼こそ愚者の英霊たるマジェントだった。
辛うじて。
所謂、宝具で命を取りとめた下っ端の殺し屋が、地を這いながらも。
アヴェンジャーが落とし放置した拳銃を拾い、救世主に銃口を向けるのだ。

「この俺に対し、跪きやがれッ!『Dio』―――――!!」

誰もがこの男を勝手に死んだと思いこみ。渦中の三人に対し大差ない者だとばかり思い込んで、すっかり眼中になかった。
故に! マジェントが拳銃を数発続け、セイヴァーに打ち込む所業に。
一種のパニックが発生する。
流れ弾に当たれば不味いと野次馬は後ずさり。テレビクルーも数人、車内に避難した。

ただ、マジェントの攻撃がセイヴァーに命中しない。
殺し屋である彼の腕前が、スゴ腕レベルでないにしろ。流石のマジェントも、血みどろながら手元が震えた。

「ど……どうなってんだぁ……!?」

何故なら!
セイヴァーは振り返ったものの、微動だに場を踏み出してすらいない。
標的が動いてもないし、動作すら皆無に関わらず。どういう訳かセイヴァーに銃弾が命中しない。
凍てつく声色でセイヴァーが告げる。

「返してやろう」

セイヴァーが掌を開けば、数発分の銃弾があった。
銃弾を軽く転がし、宙へ放り投げ――指で弾き、マジェントへと超スピードで向かう。
パチンコ弾などと比較にならない。命中すれば肉体損傷を引き起こすだろう威力を予想できる。


549 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 14:50:57 zLYwHuVk0
「ハッ!?」

不味い、と判断したマジェントはスタンドを発動させる。無意識の反射行動だ。
『20th Century Boy(トゥエンティース・センチュリー・ボーイ)』 。
マジェントの肉体に纏わりつく、絶対防御のスタンド。
銃弾程度を防ぐには勿体無いのだが、最早『Dio』という存在の攻撃に、恐竜化以上の未知数を感じたマジェント。

影ながら戦闘光景を目撃し、いろはも入りこめる余地がないと察した。
ふと、周囲を見回した時。崩れ座り込んでいた少女とアヴェンジャーの姿が無くなっている。

「あっ……」

アヴェンジャーが残した血痕が、マンホールの蓋に続いていた。


◇◇◇


★アヴェンジャー(ディエゴ・ブランドー)


予想外だったのはマジェント・マジェントが動けた事実。
幸運にも、セイヴァーの意識は下っ端の行動へ注がれたお陰で、ほたるを無理に引っ張り、下水道に逃れられた。
深手負ったお陰で流れる血も、水で消えるのだから問題ない。
ディエゴの予想外は
前述のマジェントの事を含めて、セイヴァーが予想以上も長く『入門』した点。それと警官が駆け付けなかった事だ。

彼は本来、警官がパトカーを引っ提げ現場に現れると予想したが……来ず。
代わりにマスコミ関係者が現れたものの。
『逃走用の車』を確保する以前に、ディエゴが深手を負ったのも含めれば最悪、セイヴァーに殺されて――

否。
セイヴァーは――あれほど派手にやっておきながらも――ディエゴに殺意はなかった。
生半可に死ぬ事は無いと考え、攻撃の手も生ぬるいと分かる。
『生かして』何を企む魂胆か。正直、想像したくもないディエゴ。

奴は、自分の全てを『奪う』だけだ。

深読みせず、ディエゴはセイヴァーをそう結論付ける。
問題は――――


「う……うう………」


汚らしい下水道に連れて来られたショックで涙を流している訳ではない少女・ほたる。
彼女自身、もう何をどうしたらいいのか分からない。
何を信じれば。自分は一体、どうするべきかも分からなくなっていた。

「……おい」

シラを切らしたディエゴが声をかければ、やっとの事でほたるはポツリポツリ話す。

「ごめんなさい……ごめんなさい、アヴェンジャーさん………助けて下さって、ありがとうございます」

「は?」


550 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 14:51:44 zLYwHuVk0
ほたるが少し驚き顔を上げれば、不愉快極まりない苛立ちを浮かべるディエゴががそこに居る。
ますます理解出来ない。――どうして、この人は怒っているんだろう。
彼女は、もう一度。しっかり伝えた。
最初の時。『助けてくれた時』に言えなかった事を。

「そんなつもり、無かったのかもしれません。でも私は助けられました……ちゃんとお礼は伝えないと、駄目だと思います」

「……………………」

異様な長い沈黙をし、ディエゴは少女に尋ねた。

「お前、まだセイヴァーの味方になるつもりか?」

問いに対し彼女は、内で悶々とし続けた思いを明かす。

「わたし……私もセイヴァーさんが『善い人』じゃないんだって分かります……で、でも………ライダーさんは」

ほたるの言葉は上手く続かなかった。
ライダー。彼女のサーヴァント……そのクラス名に過ぎない。
未だに彼女を放置する底知れた英霊を全て理解したとは断言できないものの。
彼女が語った内容から、ディエゴも大方予想をつけた。だからこそ『利用』出来る、と。

「なら―――お前のライダーは『騙されて』いるかもな」

想像外の推測に驚いたほたるが、全うにディエゴと視線を合わせれば、至って普通の復讐者の表情がある。
彼は、ほたるを余所に話を続けた。

「善人ほど『ああいう奴』に利用される。英霊の座につけるほどの存在だったら尚更
 セイヴァーは手駒の一つとして、生前利用したんだろうぜ。ライダーの方は、そうとは知らずの状態って事だ」

「…………!」

ほたるは絶望から活力を取り戻すように、目を丸くさせている。
真実は不明だ。案外、本当に騙されているとしても、過程はどうだって良い。
ディエゴは、ほたるを利用し、セイヴァー側の戦力となりえるライダーを利用出来ればいい。
実際『騙されている』のは白菊ほたる当人である。露知らぬほたるは、涙を消していた。

「じ、じゃあ……早くライダーさんに――」

「話しても無駄だ。余計な事を真似はしない方がいい」

「どうしてですか……?」

「お前は『ただの知り合い』から聞いた話を間に受けるか? 家族や友人の方を信頼するだろう、普通はな」

「―――」

マスターとサーヴァントの関係は『ただの知り合い』と呼ぶには相応しくない。
しかし――友好関係上、最初の内は同レベルに等しい。
少なくとも、生前より続く『友情』と数日前からの『信頼』、どちらが勝るか……説明は不要だ。
ほたるも納得した様子だが、もどかしい思いを募らせていた。

「私、何をすれば……」

「……まだセイヴァーが追ってくる」

「えっ!? せ、セイヴァーさ……んが……?」

「奴の感知範囲から逃れるのが先だ。いいか、まずは俺のマスターと合流する」

「は、はい」


551 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 14:52:36 zLYwHuVk0
◇◇◇


★アヤ・エイジア


『セイヴァーさんは私達に気づいているの?』

『……さあな』

念話をし続けながら、アヤは車のエンジンを起動させる。
住宅街で発生したセイヴァーと交戦した事実を、アヴェンジゃーから伝えられた。
彼女は、表面上は凛にも教えずに、シャノワールが開けてくれた駐車場の料金場をスルーするように通過。
一応、周囲に動く車などがないか確認したうえで、地上に顔出す為の上り坂をスピードつけて走った。
同乗している凛は、遠心力で振りまわされない為に掴める場所に手をかけ、体を支えた。

アヴェンジャー・ディエゴの念話が続いた。

『セイヴァーが俺狙いなら問題ない。奴を引き寄せればいいだけだからな……』

『どうしてアヴェンジャーさんを狙っているの?』

『俺に聞くなよ。理由を考えるだけ無駄だ』

アヤの車が駐車場出口に到着すれば、例のマスコミたちの群れが出入り口から離れた位置で確認可能だった。
案外、想定より少ないとアヤも数を見て感じる。
それはアヴェンジャーの銃声などの仕業だ。
数組のテレビクルーは、話題のアヤ・エイジアよりも緊急速報として報道できる事件を優先させたのである。
逆にチャンスだ。

走り去ろうとするアヤの車を発見した彼らは、急いで乗り込んだ時。
そこで、タイヤがパンクしている事態に気付ける事だろう。
……とは言え。
追跡される恐れは十分高い。人目つかない場所を探すのが無難。

現在、彼女らがいる都心にはテレビ局や病院に始まり、様々な公共施設が集っているが。
この一帯で『人気無い場所』は少ない。限られているし。
都心である以上、住宅街側よりも目の数は圧倒的だ。

となれば。アヤは運転を続けながら言う。

「アイドルさんには悪いけど、一度工業地帯に行くわ」

一度、シャノワールとセイヴァーが交戦した方面ではあるが比較的、あちら側に人の目が少ないのは明白。
凛は頷くが、一つ尋ねる。

「セイバーにも念話で伝えておきます。あの……アヴェンジャーは?」

「大丈夫みたい。でも意地張って無理する事もあるから、その時は令呪を使うわよ」

実に慣れたアヤの物言いに、凛も言葉を失っていた。
しかし、彼女も単純な逃亡を模索している訳じゃあない。周囲を警戒しながらも、アヤは話を続ける。


552 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 14:53:19 zLYwHuVk0
「妙ね……セイヴァーさんは、何故アヴェンジャーさんを狙うのかしら」

「狙う? 今、狙われているんですか……?」

「勘違いじゃなければ、そうみたい。でもそれって凄く変よ」

「私も全てを把握している訳じゃないですけど……セイヴァーも気になってるんじゃないですか?
 自分に似ているアヴェンジャーの事を……」

「でも。アイドルさんのセイバーさんが言うには『仲間』を探しているらしいわ。
 流石にアヴェンジャーさんが、セイヴァーさんの『仲間』になってくれるとは思えないけど」

凛が指摘する通り。
単に自分と酷似する存在への関心や興味はあるだろうが。
果たして、アヴェンジャーが仲間となるかは不明だ。
なったところで、利用したり。凛にした様に不意打ちや奇襲を仕掛けないとは言い難い。

『嫌な予感』がする。

差し詰め、悪寒を覚えるほどだが実際は分からない。
アヤに関しては、セイヴァーと直接対面した愚か住宅街の戦場すら目の当たりにしてない。
全ては憶測に過ぎなかった。




【B-2/月曜日 早朝】


【渋谷凛@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]無傷
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]なし
[道具]生徒名簿および住所録のコピー(中学、高校)
[所持金]女子高生の小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:セイヴァーを討伐する
0.住宅街方面から離れる
1.まだ仲間が必要。どうやって集めればいいのかな。
2.島村卯月、白菊ほたると何らかの接触をしたいが……
3.アヴェンジャーはセイヴァーと関係ない?
[備考]
※見滝原中学校&高校の生徒名簿(写真込)と住所録を入手しました
 誰がマスターなのかは現時点では一切把握していません
※自分らがセイヴァーに狙われている可能性を理解しています。
※アヴェンジャー(ディエゴ)のステータスを把握しました。
※アヤ組と同盟を組みました。


【セイバー(シャノワール)@グランブルーファンタジー】
[状態]魔力消費(小)肉体ダメージ(小)
[装備]初期装備
[道具]多数の銃火器(何らかの手段で保管中)
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:怪盗の美学を貫き通す
1.美学に反しない範囲でマスターをサポートする
2.セイヴァーを警戒する
[備考]
※盗み出した銃火器一式をスキル効果で保持し続けています
 内訳は拳銃、ライフル、機関銃、グレネードランチャーなど様々です
※アヴェンジャー(ディエゴ)の宝具を把握しました。


【アヤ・エイジア@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]ナイフ
[所持金]歌手の収入。全然困らない。
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界への帰還
1.怪盗Xに対する警戒
2.セイヴァー(DIO)の動向に不穏を覚える。
3.凛たちは信用する。今のところは。
[備考]
※テレビ局の出演は決定されました。テレビ局入りは彼女自身のみで行うと伝えてあります。
※セイバー(シャノワール)のステータスを把握しました。
※事務所の人間の一部がセイヴァーに掌握されていると考えています。


553 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 14:54:36 zLYwHuVk0
【C-3 下水道/月曜日 早朝】

【アヴェンジャー(ディエゴ・ブランドー)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)、肉体負傷(大)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
0.セイヴァーを撒いて、アヤと合流する。
1.怪盗Xに対する警戒
2.どこかでセイバー(シャノワール)を始末する
3.ほたるを通じて彼女のサーヴァントを利用する
[備考]
※ホル・ホース&バーサーカー(玉藻)の主従を確認しました。
※弥子&アーチャー(魔理沙)の主従を確認しました。
※アイルがマスターであること把握しました。
※アサシン(ディアボロ)に関する記憶は喪失してますが、時間停止の能力に匹敵する宝具があったと推測してます。
※凛&セイバー(シャノワール)の主従を確認しました。
※アサシン(マジェント)の存在を把握しました。


【白菊ほたる@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]精神的ショック(中)、疲労感(中)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]寝間着姿
[道具]
[所持金]中学生程度のこづかい。現在所持していません
[思考・状況]
基本行動方針:???
0.今はセイヴァーから逃げる
1.ライダーさんが騙されている……? どうにかしなくちゃ……
2.アヴェンジャーさんは良い人、です……か?
[備考]
※セイヴァー(DIO)、アヴェンジャー(ディエゴ)、アサシン(マジェント)のステータスを把握しました。
※現在、ライダー(プッチ)がセイヴァー(DIO)に騙されていると思っています。



◇◇◇


☆環いろは


(……不味い! このままじゃ――)

いろはは即座に理解した。その理解力に黄金の輝きが灯ったかと思うほどに。
セイヴァーは、スタンドを発現させたマジェントに意識を向けている為
『まだ』アヴェンジャーとほたるが、マンホールの下水道へ逃走したのを気付いていない。
周囲の人間達も――だ。
だが、気付くのは時間の問題。

(あの人達を逃がさないと……!)

ちょっとした『勘違い』だが、いろははアヴェンジャーとほたるの二人が主従なのだと思い込んでいる。
状況的に、思い違いが生じても仕方なかったが。
何であれ彼らを、これ以上セイヴァーの毒牙に受けさせるのは、駄目だ。

一方。マジェント・マジェントは動かない。
動けないのだ。無敵のスタンドが発動している最中は、彼が一歩たりとも動く事は叶わない。
セイヴァーは、周囲に屯する野次馬やテレビクルーへ視線を向けようとした。

「場が騒がしくては、話も捗らない。『片づける』とするか……」

気付かれる! アヴェンジャーとほたるの逃走を―――!!
いろはが魔法少女の武器たるクロスボウを構えた。
二人の姿がない現実は、いづれ見抜かれてしまうが、少しでも時間を稼がなくてはならない。
心で謝罪をし、覚悟を決め。クロスボウの矢をセイヴァーに放った。

直感を持つセイヴァーに不意打ちなど無意味に等しい。
今回に限っては、攻撃の軌道を見抜き。あっさり矢を見逃すセイヴァー。
矢は、自分に命中しないと看破したのだ。


そう――いろはが狙ったのは、セイヴァーではない。


正確には、セイヴァーの居る方角の奥。報道陣のワゴン車めがげてだ。
矢が車体に直撃した金属音が鳴り響いて、緊張感ある現場に戦慄が走る。


554 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 14:55:19 zLYwHuVk0
「なんだ!? 今の――銃弾!!?」

「も、もう危険です! 我々は現場から離れましょう!」

セイヴァーは、攻撃の主たるいろはに睨みを効かせるが、野次馬たちは命の危機を感じ取って、一目散に走り去って行く。
報道陣もスナイパーの銃撃かと恐れ、ワゴン車へ乗り込み。
急発進するスリップ音が、閑静な住宅街に響く。
悪の救世主に視線を注がれた魔法少女・いろはが決死の思いで叫ぶ。

「沙々ちゃんのソウルジェムを――返して下さいッ!」

「………」

彼が無言で注目したのは、環いろはの精神。
先ほど、洗脳された状態ながら魔法少女の末路を知った筈の少女。
少女が取った行動は、自分を洗脳した者を助ける為の決死行だった。
愚かしいが、彼女の精神は黄金を放っていた。運命を理解し、それでも尚、前進するという覚悟だ。

「返して欲しいのは――コレかな。環いろは」

「―――!!」

セイヴァーが見せつけて来たのは――件の、沙々のソウルジェム。
宝石の色彩はドブに沈められた穢れで満たされており。呪いを帯びているのは、いろはにも察せた。
例え、取り戻したところで、これでは………
再びソウルジェムを手中へ握り、セイヴァーは言う。

「取引をしようじゃあないか」

「取引……」

「優木沙々を魔女にするのは、今しばらく止めておくとしよう。期限はアヤ・エイジアのライブ放送まで
 件のテレビ局で、君が『あるサーヴァント』を連れてくれば、それと交換にソウルジェムを渡そう」

一体何を考えて提案しているのだろうか。
いろはにも、ただならない緊迫感を覚える他ない。

「『時間泥棒』のウワサを知っているかな」

「時間……泥棒」

「『時間泥棒』を探し出し、私の所へ連れてくればいい」


555 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 14:56:06 zLYwHuVk0
いろはが明確な動揺を見せた。
彼女なりにウワサを収集しているからこそ、分かるのだ。
姿を見せない、自らの痕跡を残さない。サーヴァントでいう『アサシン』クラスに該当するだろうソレを
探し出した上で、セイヴァーの元へ……?

相当の無理難題。
いや……あえて無謀なものを押し付けてきたのだ。セイヴァーは。
第一、セイヴァーを完全に信用するべきではない。いろはも彼から名状しがたい邪悪を感じ取っている。

だが――気付いた時には、セイヴァーの姿は無かった。

「!?」

周囲を確認するも、やはり彼の気配は完全に消失している。何故?
セイヴァーはどこへ消えた? アヴェンジャーたちを追跡したのだろうか。

(時間泥棒を探す……? セイヴァーは時間泥棒に何を……従っちゃ駄目な気がする………)

マンホールの状態を確認するが、いろはが見る限り再び動かされた痕跡は無い。
ように感じる。セイヴァーは侵入してないなら……まだ間に合う筈。
どちらであっても、いろはがアヴェンジャー達を追う方針は既に心で決めていたのだ。

当然の事だが。
深手を負ったアヴェンジャーを見過ごせないし、いろはの魔法なら彼の傷を治せる。
そして何より……アヴェンジャーそのものが、セイヴァーと似ていた事も。

いろはがマンホールの蓋を開けようとした矢先。
サイレン音や他の車が走り向かう喧騒が聞こえたのを感じた。
呑気に蓋を開ける余裕や時間も無い。第一『死体状態』の沙々だって傍らに居る。

(下水道だったら、他のマンホールから入れば……?)

躊躇している間も周囲はぐるぐると動き巡っている。
沙々を背負って再び移動を始めたいろはを、見届けた存在が1人。

やっとの事でスタンド解除をしたマジェント・マジェントだ。
酷い負傷を受けながらも、スキル等でセイヴァーからも逃れる事が叶ったものの。
彼も、少し冷静さを取り戻し。マスターである沙々の状態に困惑していた。

「おい……ササの奴。どうなってやがる? アイツの魔力が感じなかったぞ。
 いや、俺は消えちゃいない。生きてはいるんだろうがよ……」

錯乱状態から回復したものの。
Dioとよく似たセイヴァーを警戒しながら、彼もまた仕方なく
沙々を持って下水道へ向かう、いろはを追跡するのだった。


556 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 14:57:09 zLYwHuVk0
【C-3/月曜日 早朝】

【優木沙々@魔法少女おりこ☆マギカ〜symmetry diamond〜】
[状態]肉体死亡状態、魔力消費(中)、『悪の救世主』の影響あり(畏怖の意味で)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]一人くらし出来る程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い
0.―――
1.セイヴァーはヤバイ奴。どうにか逃げ出したい。
2.でも、ソウルジェムの浄化はどうしたら……
3.見滝原中学には通学予定。混戦での勝ち逃げ狙い。
[備考]
※シュガーのステータスを把握しました。
※セイヴァー(DIO)のステータスを把握しました。
※暁美ほむらが魔法少女だと知りました。
※ほむらの友人である鹿目まどかの存在を知りました。
※いろはの洗脳が解除されたことに気づいていません。
※肉体から魂が離れた影響で、一時的死亡状態です。ソウルジェムが彼女の肉体に触れた時、意識を取り戻します。


【環いろは@マギアレコード】
[状態]肉体ダメージ(大)
[令呪]残り0画
[ソウルジェム]有
[装備]いろはのソウルジェム(穢れ:なし)
[道具]
[所持金]おこづかい程度(数万)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の調査。戦いは避ける。
0.アヴェンジャー(ディエゴ)たちを追いかける。
1.沙々のソウルジェムを取り戻す。
2.時間泥棒を探す……? まだ早計に決めたくない。
[備考]
※『魔女』の正体を知りました
※セイヴァー(DIO)のステータスを把握しました。
※暁美ほむらが魔法少女だと知りました。
※アサシン(マジェント)、アヴェンジャー(ディエゴ)のステータスを把握しました。
※少女(ほたる)がアヴェンジャー(ディエゴ)のマスターだと勘違いしています。


【アサシン(マジェント・マジェント)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(大)、肉体ダメージ(極大)、錯乱(小)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い。ディエゴの殺害優先?
0.いろは達を追って様子見。
1.もうDioとは関わりたくない。
[備考]
※Dioに似たマスター(ディオ)とそのサーヴァント(レミリア)を把握しました。
※バーサーカー(シュガー)の砂糖により錯乱状態ですが、時間経過で落ち着きます。
→錯乱状態は落ち着いてきてますが、場合によっては再び悪化するかもしれません。
※ほたるがマスターである事を把握しました。
※沙々の肉体に魔力(生気)がないのを感じました。


【C-3/月曜日 早朝】

【バーサーカー(シュガー)@OFF】
[状態]霊体化、肉体ダメージ(大)、魔力消費(大)
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:砂糖を食べる
0.しばらく、おやすみする
[備考]
※時の神(杳馬)の存在を気付いているか言動的には怪しいです
※怖いコウモリちゃん(レミリア)を記憶し続けられるかは、怪しいです。
※令呪の効力は完全に無力化されました。


557 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 14:58:14 zLYwHuVk0
◇◇◇


★セイヴァー(DIO)


成程――『人間』だ。


セイヴァーは一つの情報を得た。
アヴェンジャーの『ディオ・ブランドー』は良くも悪くも、障害もなく、過剰な強化も得ず、純粋かつ
神にすら穢されて無い、正真正銘の人間だ。

人間賛歌がどうとか耳にしたような、しなかったような。
しかし、人間の限界が『たった五秒』で体現されている。
人でないセイヴァーは『五秒以上』の時間停止を再現可能だが……アヴェンジャーの彼は本当にアレが最盛期なのだ。
サーヴァントは最盛期を基準にしている以上、当然の話でもある。

故に幾つか疑念がある。
例えば――救世主はどうなのだろうか?
セイヴァーは『最盛期』よりも『誰かが願った英雄の虚像』だ。
本来の『DIO』は、奇妙極まりない事実だが……『別人』に近い産物なのだから。

そして、アヴェンジャーの『ディオ・ブランドー』がセイヴァーにないものを持っている。
復讐心だ。
父親を地獄へ引きずり落とす。どこかで抱いた憎悪の念。
天国への模索に至るまで、それは消え去った感情であり『DIO』には不要となったものだ。
……それを彼は持っている。

人間だから。復讐だの、憎悪だの。余計な感情に捕らわれているのかもしれない。
だが、それはかつてあったものであり。
ある意味『ディオ・ブランドーから失われた産物』だった。

それに―――

復讐者の方は、件のアサシンが見せたビジョンに映り込んだ方『ではない』と分かる。
彼が飲み込んだ『ソウルジェム』。
その魔力を、彼からは感じられなかった。どういった発想で『飲み込む』に至るのかも考え深い。

俄かに信じ難い話。
瓜二つの存在が――二人居る。
存外、双子なんて可能性も否定はできないが、セイヴァーは違うと確信した。
それらが『二人』いる。因果や関係性が一切無いとは呼べない状況。
ならばこそ、あのアヴェンジャーを逃がす訳にはいかない。


558 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 14:59:12 zLYwHuVk0
残る議題は一つ。
時を司るアサシンは『何故セイヴァーとアヴェンジャーの接触を回避させようとしたのか』?
結局のところ。
セイヴァーがアヴェンジャーと交戦する最中も、彼は介入愚か。
能力を使用した形跡すらない。どこかで傍観者気取り、観察していたのだろう。

もしくは……アサシンの狙いは『それ』じゃあない。
異なる事象にセイヴァーが介入するのを恐れ、露骨な誘導でセイヴァーにアヴェンジャーをぶつけた。
ただ。それでも、あまりに回りくどい。


「奴の魂胆は別として、件の復讐者はまだ近くにいる。そちらを回収しなくてはな」


セイヴァーがアヴェンジャーの血痕が続いたマンホールで下水道へ移動したのには
彼の追跡以外にも『太陽』という弱点を考慮しての行動だった。
人ではない吸血鬼たる唯一の欠点。『可能』な行動は限られてくる。
やがて日により制限される以上、可能な行動を優先するのは自然である。

……否。
もう一つ、行動可能な手段はある。
セイヴァーの手元にある沙々のソウルジェムだ。
魔女と呼ばれる怪物は、通常『結界』を発動させて身を潜めており、獲物を結界へ引きずりこむか誘導する性質。
結界を、魔女をセイヴァーの宝具で支配すれば、太陽に晒されず自由に移動は可能となるだろう。

最も、環いろはとの約束は破られる。

「いいや。それが『肝心』だ……環いろは。奴もジョースターに似た『黄金の精神』の片鱗を見せたが
 如何に強靱な精神を持つ魔法少女であっても、魔女という名の絶望から逃れられない」

セイヴァーの目的はその一つ。
いろはも、魔法少女候補に含まれている鹿目まどか達と同じく。
魔女や絶望エネルギーを具象化する道具として『利用』する為に過ぎなかった。

そして――
輝かしい正義の精神を持つ魔法少女が救われる事は無い。
ここに居る救世主は『悪』にしか手を差し伸べないのだから。


559 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 15:00:11 zLYwHuVk0
【C-3 下水道/月曜日 早朝】

【セイヴァー(DIO)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]優木沙々のソウルジェム(穢れ:極大)
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得と天国へ到達する方法の精査
0.アヴェンジャー(ディエゴ)の追跡
1.他サーヴァントとの接触を試みる
2.『時の神』は優先的に始末したい
3.『悪』の回収。暁美ほむらをあえて絶望させる?
4.再びナーサリー・ライムの固有結界に侵入する。
5.頃合いを見て沙々を『魔女』にする。
6.どこかでレミリアと話がしたい。マスター(ディオ)が邪魔。
[備考]
※ナーサリー・ライムの固有結界を捕捉しました。
※『時の神』(杳馬)の監視や能力を感じ取っています。時の加速を抑え込んでいる事には気付いていません。
→杳馬の能力が時間操作の上位である空間支配だと推測しています。
※自らの討伐令を把握していません。
※ウワサに対し『直感』で関心ある存在が複数います。
※過去の自分(マスターのディオ)には関心がありません。
※ランサー(レミリア)の存在を把握しました。
※沙々のソウルジェムは、DIOの宝具で魔女化せずに保っています。彼の手から離れれば、魔女が孵ります。
※アヴェンジャー(ディエゴ)と彼の宝具を把握しました。
※ライダー(ディエゴ)とライダー(プッチ)の存在を把握しました。



◇◇◇



☆島村卯月


そして―――1人の未熟なアイドルたる少女・島村卯月が決断を下した場面に戻る。

「凛ちゃんのところに向かいましょう、アサシンさん。やっぱり、いざって時――近くに居ないと駄目です」

渋谷凛の護衛。
もとい、周辺の敵の排除を目標とする事に決心した彼女。
アサシンは試すように、一つ念を押した。

「成程ねぇ。一応、その選択の欠点を挙げるなら、効率的にサーヴァントの排除が進まない点だ」

「は、はい……分かりました。でも、そうします。凛ちゃんを守る方を優先します」

『攻め』ではなく『守り』に徹底する作戦。
これに関しては、他の主従同士で潰し合う……聖女のライダーのように、卯月の知らぬ場所で事が終わるのを願うものだ。
聖杯の獲得や、聖杯戦争を『終結』させるには非効率的。
ただ。卯月に関しては、渋谷凛の命を第一に置いていた。勝ち抜いても、凛が生きて無ければ無意味なのだから。

少女の決心を聞き入れたアサシンは、シニカルな笑みを浮かべ指を鳴らす。
瞬く間に彼女は移動していた。

瞬間移動。
単語で表現すれば単純な類であるものの、繁華街周辺と変わって。
周囲を見回せば、遠くに駅が確認できることから。
見滝原中学を通り越して、河川を挟んだ向かい側にある都心付近まで移動した事になる。

彼らはあるホテル前の物影に移動していた。
ホテル特有の地下駐車場出入り口付近にマスコミ関係だろう人々が、こんな時間にも関わらず群がっている。
しかし、さほど数は多くない。

どういう経緯か、彼らはアヤ・エイジアの居所を掴んだのだ。
何故なら――………

「ここに凛ちゃん達はいるんだけどなぁ、厄介っていうか面倒になっちまって」

アサシンが天を仰ぎつつ、呑気に言う。
話の流れ通り、ここがアヤと凛がいるホテルだった。
霊体化可能なアサシンに対し、隠れようもない普通の少女たる卯月には、どうしようも出来ない状況。


560 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 15:02:26 zLYwHuVk0
それとだな。
凛ちゃん……のサーヴァント。ねぇ。お察しの通り、実は相性が悪過ぎるもんでお手上げに近い状態だ。
都合良く、サーヴァントだけ倒れて欲しいが、最悪……凛ちゃんが死んじまっても悪くないだろ!

第一、まだ聖杯戦争始まって数時間程度しか経ってないんだぜ?
体感時間は大分経過してるんじゃあねぇの思うけどな!



【B-2/月曜日 早朝】


【島村卯月アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]精神的ショック(大)、罪悪感
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]女子高生の小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:友達(渋谷凛)を死なせないため、聖杯戦争に勝ち残る。
1.凛を追跡し、周囲を警戒する。
2.ライダーさん。杏子ちゃん……ごめんなさい……
[備考]
※ライダー(マルタ)のステータスを把握しました。
※杏子のソウルジェムに関する情報と教会で起きた戦闘を把握しました。
※凛がアヤと同盟を組んだのを把握しました。


【アサシン(杳馬)@聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]有
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争をかき回す
1.マスターを誘導しつつ暗躍する
2.機会があれば聖杯を入手する
[備考]
※杏子のソウルジェムに関する情報と教会で起きた戦闘を把握しました。
※凛がアヤと同盟を組んだのを把握しました。
※ライダー(ディエゴ)とライダー(プッチ)の存在を把握しました。
※セイバー(シャノワール)の存在と彼の宝具に関しては、把握しています。
※アヴェンジャー(ディエゴ)と彼の宝具を把握しております。


561 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/13(火) 15:04:07 zLYwHuVk0
投下終了します。
タイトルは「悪人にもやって良い事悪い事がある」となります。
続いて、レミリア&ディオ(マスター)、マシュ&ブローディアで予約します。


562 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/15(木) 00:36:47 GHyrQpy.0


投下乙です
各々の行動思考が絡み合った混戦、まさにバトルロワイアルですね。
DIOの『ハトの群れをどう支配したい?』という問いに対してディエゴの『ハトの群れを叩き落す』という答えが二人の根本は全く異なるというのがはっきりとしててイイ!すごくイイ!
ほたるんがプッチ神父とディエゴの間で板ばさみになっていますが、どっちに利用される方がマシなんだろう。...アヤさんがいるぶん僅差でディエゴなのかな。
シュガーが一旦ダウンしたりささにゃんの生死がかかってたりDIOに『絶望させたいなー』とか思われてたりマジェントに追跡されたり、いろはさん、胃に穴が開きそうなくらい振り回されてますね。
マギレコ本編でもメンタルがやられそうになってるイローハの明日はどっちだ。

短いですが投下します


563 : 偽りの救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/15(木) 00:39:12 GHyrQpy.0

虚ろな目で虚空を見つめ、ぶつぶつと呟くまどか。
後悔に打ちひしがれ、声すらかけられない篤。
潤んだ眼でまどかを見つめるほむら。
おろおろと戸惑うたま。

各人各様の思いが部屋中で交差する。

誰もが前向きでいられない。
誰もが後悔しかできない。
誰もが誰よりも己を責めたてたくなっている。
呪いを振り撒く魔女などいないというのに、いまこの部屋にはそんな後ろ向きで陰鬱な空気が充満していた。

そんな中、最初に動いたのは暁美ほむらだった。

「わたしが...わたしのせいで...」
「違う」

まどかに歩み寄り、そっと背中から抱きしめる。

「鹿目さんのせいじゃないよ」
「わ、わたしが家を離れたから、だれも、護れなかった」

ほむらはまどかの言葉を否定するように身体にまわす手に力を込める。

「鹿目さんのお母さんの傷、塞がってるよね。...鹿目さんの魔法で、治したんだよね」
「......」
「護れたものはあるよ。鹿目さんは、無力なんかじゃない」
「...ママは、わたしを庇って...」
「鹿目さんだって、逆の立場ならきっとそうしてた。でも、そうなってたら誰も助からなかった。
だからね。護れたものを否定しないで。あなたは被害者だから...泣いていいんだよ」

まどかはキョトンとしながら、しかしやがて光の消えていた目は潤み、身体が徐々に震えだす。
ほむらの言葉が染み渡るかのように、徐々に嗚咽が漏れだし、やがては大粒の涙と共に叫びへと変わる。


564 : 偽りの救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/15(木) 00:39:56 GHyrQpy.0

「パパ...タツヤ...わぁぁぁぁぁぁぁぁ」

怒りも悲しみも憎しみも後悔も。
今まで押し殺してきたものを解放するかのように、ただ、ただひたすら泣き続ける。
誰が悪いだとか。どうして護れなかっただとか。そういったものは置き去りにして、ただただ残酷で非情な喪失に泣き喚き続ける。

ほむらは、まどかの掌に己の掌を重ねつつ、ただただその嘆きを受け止め続けていた。

「...サーヴァントさん。少し、彼女のことをお願いします。すぐに戻りますから」
「あ、ああ...」

ほむらはまどかから離れ、篤に彼女を看るよう頼み部屋から去っていく。

そして残されたのはまどかと篤とたまの三人となった。

ほむらに代わり、その胸をまどかに貸す篤。
泣きじゃくるまどかを慰めようと近づくたまに、篤は鋭い殺気と共に刀を突きつける。

「...ほむらちゃんがなにを思ってお前をここまで連れてきたかは知らない。だが、俺はお前を信用などしていない」
「ひっ」
「大方、あの連中に脅迫されたんだろう。だが、そんな事情はどうでもいい。お前があいつらの駒であることには変わらない」
「あ、あの、わたし...ごめんなさい...」
「......」


565 : 偽りの救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/15(木) 00:40:52 GHyrQpy.0

まどかを己の胸に寄せつつ睨みつける篤と、おどおどと縮こまり言い返すことすらできないでいるたま。
やがて静寂が訪れても、二人の関係は進展などせず。
空気が変わったのは、ほむらが再び姿を現してからだった。

「お待たせしました」
「どこに行ってたんだ?」
「病院に連絡と、念のため周囲の見回りを。...鹿目さんは、だいぶ落ち着いたようですね」

泣き疲れたのか、ぐったりと頭を垂れているまどかの身体をほむらは背負う。

「なんで背負うんだ?」
「少し場所を変えるからです。ここでは鹿目さんのソウルジェムを浄化できないので」
「ソウルジェムの浄化?」

篤が眉を潜めて聞き返す。

「鹿目さんから聞いたと思いますが、魔法少女は魔力を消費するとソウルジェムが濁るんです。あっ、このソウルジェムは聖杯戦争のものとは違いますからね」
「浄化ってのは、つまりそのソウルジェムの濁りとやらを取るってことか。つまりは、ソウルジェムが濁りきると魔法が使えなくなると」
「はい。本来、ソウルジェムは魔女が落とすグリーフシードを用いて浄化します。しかし、この街ではまだ魔女の出現は確認できていません」
「そういえばまどかもそんなことを言ってたな。なら、どうやって浄化するんだ?」
「現状、ソウルジェムの穢れを取る方法はひとつ...セイヴァーに頼むことだけです」


566 : 偽りの救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/15(木) 00:41:17 GHyrQpy.0



「......」

ほむらの背負うまどかは息をしていない。どころか、心臓や脈すら止まっている。
一般的に言えば、これは死者だと判定してもいいだろう。
だが、その回答は不適切だ。
鹿目まどかは、確かに生命活動を止めているが、死んでいるわけではない。
現状を引き起こした原因は、明美ほむらの行動である。

(本来ならこんな手は使いたくなかった)

ほむらはまどかを抱きしめたとき、さり気なくソウルジェムを掠め取っていた。
泣きじゃくるまどかも、端から見ていた筈の篤やたまですら、まどかの涙に注意が向いていたため、その行為に気がつけなかった。

それからほむらがとった行動は簡単だ。
篤にまどかを託した後は、100m以上離れる。それだけのこと。
それだけで、魔法少女の身体と魂のリンクを一時的に切断することができる。

(鹿目さんの感情を吐き出させることは大切だけれど、あのままだと濁りきってしまうかもしれなかった)

ソウルジェムの穢れは魔力の消費だけでなく、感情にも左右される。
だから、一度リンクを切った。
多少の魔力の消費はあっても、ずっと涙を流しているよりは消費も少ない筈だからだ。

(鹿目さんが濁りきる前にセイヴァーと合流しなくちゃ...)

セイヴァーとまどかを会わせるのは避けたかった。
しかし、ことここにまで至ってしまえば、もはや避けられぬ選択だ。
まどかとセイヴァーを会わせて穢れを取ってもらうか、まどかを見捨てるか。
前者しかありえない。まどかを見捨てることなど絶対にできない。

(セイヴァー...お願い、助けてください)

それが、最悪の結果を招く可能性があったとしても、彼女は選ばずにはいられない。


567 : 偽りの救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/15(木) 00:41:49 GHyrQpy.0



(...すごいや、ほむらちゃんは)

たまは己とほむらを比べ、自らを矮小に思う。
彼女は、カーズ相手にも立ち向かい、ヴァニラアイスにも対峙してみせた。
現場に着くなり、真っ先にまどかを気遣い、きっと彼女が欲しかったであろう言葉をかけてみせた。
一旦離れたときは、なにをしていたかはわからないけれど、それもまどかに必要なことだったのだろう。

それに比べて自分はどうだ。
カーズやXに数度痛めつけられただけで、完膚なきまでに降伏し毒まで埋め込まれた。
狙われているのは自分だというのに、ヴァニラ・アイス相手に怯えるだけだった。
現場に辿り着いても、ただただ恐怖し困惑しているだけだった。
篤の警戒を解くことすらできず、突きつけられた言葉と刃に慄いただけだった。

(ほむらちゃんは、恐くないのかな)

恐いのはいやだ。
家族やクラスメイトからの侮蔑の視線も。
いつも優しくしてくれたお祖母ちゃんがいなくなった時の孤独感も。
初めての友達のルーラを裏切ってしまった時の後ろめたさも。
ユナエルやミナエルを失ってしまった時の無力感と恐怖も。
クラムベリーを殺してしまった時の底知れぬ罪悪感も。
スイムスイムに斬られた時の理解不能さも。
痛みも。拒絶も。

なにもかもが恐いから、たまはいつだって怯えて竦んでしまう。

けれど、それが恐くなくなったら。
恐いものなんてなくなったら、ほむらみたいに色んなものに立ち向かえるのだろうか。

もしそうなれていれば、ルーラを裏切ったり、ミナエルとユナエルを失ったり、スイムスイムに捨てらたりするようなこともなかったのだろうか。

(...変われるかな)

ぎゅっと己の服の裾を握り締める。

(私も、ほむらちゃんみたいになれるかな)

ほむらは敵の立場であるはずの自分に手を差し伸べてくれた。
事情は話せなかったけれど、それでも幾分かは信用してくれた。

そんな彼女と一緒にいれば、なにかが変わることができるのだろうか。
いまは恐くても、彼女のように立ち向かえるようになるのだろうか。


...彼女は気づいていない。

明美ほむらは決して恐怖をしていないわけではなく、むしろ誰よりも臆病で、元来はたまよりも弱い少女であることに。
たまを殺さなかったのは、決して救済やかつてのルーラのような面倒見の良さなどではなく、単に同情からの気の迷い程度であることに。
なにより、善にしても悪にしても、たまが望む『他者との信頼関係』からは、遠く離れた存在であることに。


そんなことは露知らず、たまはまるで子犬のようにほむらの後をついていくのだった。


568 : 偽りの救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/15(木) 00:42:15 GHyrQpy.0



「......」

セイヴァーに会う。
その言葉に、篤は眉を寄せずにはいられなかった。
それは言ったほむら自身がそうだったようで、彼女の面持ちからも『できればとりたくなかった手段』であることは容易に察せた。

写真越しにも感じたあの邪悪さは間違いではなかったのだろう。

(しかしセイヴァー...救世主、か)

邪悪を体現したような存在である一方、彼を救世主であると拝む者もいる。
篤も似たような男を知っている。そう、彼岸島のボス、雅だ。

(たしかあいつも、多くの吸血鬼に敬われ拝まれていたっけな。それこそまるで英雄や救世主なんかみたいに)

頭の中で比べてみれば、なんとなくセイヴァーと雅もどこか似通っている雰囲気は感じられる。
ほむらが殊更に嫌がりつつも、接触自体はそこまで拒絶していない様を見る限り、雅と違い性的な関与はしていないのだろうが。

(もしもセイヴァーがヤツと同類ならば...)

ほむらには悪いが、即座にセイヴァーの首を刎ねさせてもらう。
セイヴァーを斃せば、指名手配の報酬でまどかを元の世界に帰すことができる。
この聖杯戦争で呼ばれた彼女の家族がコピーで、本物が無事である可能性がある以上、そちらの方が彼女にとってもいいだろう。

聖杯戦争も、巻き込まれた友人たちも、虐殺された家族も、赤い箱も、怪盗Xなんてものも、全て『悪い夢』だったで済ませればこれ以上のことはないのだから。

(なんにせよ、まずはセイヴァーに会ってからか)

如何な判断をするにせよ、まずは彼に会わなければ話が進まない。
篤はいつでも抜けるよう、ひっそりと懐に刀を差した。


569 : 偽りの救世主 ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/15(木) 00:43:03 GHyrQpy.0


【D-2(まどか宅)/月曜日 早朝】

※鹿目詢子はソファに寝かされています。傷は塞がっており、救急車も呼んであるため、命に別状はありません。



【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]疲労(中)、精神的疲労(絶大)、ソウルジェムとのリンクが切れている仮死状態
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金] お小遣い五千円くらい。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯戦争を止める。家族や友達、多くの人を守る。
0:――――
(1):ほむらと情報交換する。
(2):聖杯戦争を止めようとする人がいれば手を組みたい。

※(1)と(2)については精神的に落ち着かなければ不可能です。


【ランサー(宮本篤)@彼岸島】
[状態] 全身に打撲(中〜大)、疲労(大)、精神的疲労(大)、腹部裂傷
[装備] 刀
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯は手に入れたいが、基本はまどかの方針に付き合う。
0.まずはセイヴァーに接触し、どういう奴かを見極める。雅と同類であれば殺す。
1.怪盗X及びバーサーカー(カーズ)は必ず殺す。
2. 怪盗X・セイヴァー(DIO)には要警戒。予告場所に向かうかはまどかと話し合う。
3.たまにも警戒を緩めない。


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]疲労(小)、魔力消費(小)、魔法少女に変身中
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]見滝原中学校の制服
[道具]学生鞄、聖杯戦争に関する資料、警察署から盗んだ銃火器(盾に収納)
[所持金]一人くらし出来る仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得。まどかを守る。
0.まどかのソウルジェムを浄化するためにセイヴァーと合流する。
1.鹿目さん...
2.学校には通学する
3.セイヴァーに似たマスターは一体…?
4.またセイヴァーのそっくりさん...あと何人いるんだろう
5.バーサーカー(カーズ)には要警戒
[備考]
※他のマスターに指名手配されていることを知りましたが、それによって貰える報酬までは教えられていません。
※セイヴァー(DIO)の直感による資料には目を通してあります。
※ホル・ホースからDIOによく似たサーヴァントの情報を聞きました。
※ヴァニラ・アイスがDIOの側近であることを知りました。




【たま(犬吠埼珠)@魔法少女育成計画】
[状態]身体に死の結婚指輪が埋め込まれてる。全身に軽い怪我。X&カーズへの絶対的な恐怖。
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具] 警察署で手に入れたトランシーバー
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
0.いまの自分を変えたい。
1.ひとまずほむらちゃんについていく。

※カーズが語った、死の結婚指輪の説明(嘘)を信じています。


570 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/11/15(木) 00:43:44 GHyrQpy.0
投下終了です


571 : ◆xn2vs62Y1I :2018/11/15(木) 23:22:21 YgQdaIIU0
段々とほむほむが漆黒に沈んでいく有様には、最早誰かが止めるべきなのにも関わらず
周囲の誰もが、彼女の内面を理解しておらずに、たまに関しては彼女を改めて認めちゃう現状。
たまは、このまま二の舞を演じない事を祈っておくしかありません。
警戒心ある篤も、セイヴァーを完全に信用せずに、攻撃する覚悟を胸に秘めている……
頼りがいあるのですが、相手が悪過ぎる。
彼らの前に、真の救世主が現れる事はあるのでしょうか?
投下&予約ありがとうございます!


そして、前に私が投下した後編で一部抜けがありました。
そこを修正し、wikiでまとめて収録いたします。


572 : 名無しさん :2018/11/20(火) 17:43:30 2jQ1WrTg0
すごいの一言しか言えません!普通の人にはこんな文章は絶対に書けないと思います!


573 : ◆xn2vs62Y1I :2018/12/11(火) 23:11:31 gRVGpEUs0
始皇帝ひけなかったので投下します


574 : 野良猫の侵略 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/11(火) 23:12:51 gRVGpEUs0
見滝原は未曾有の事態に見舞われていた。
サーヴァントもとい聖杯戦争で起きる異常に巻き込まれ、無関係な無辜の住人ですら奇怪で奇妙な現象に合う。
ウワサにあった時間泥棒が起こした微細なズレの感覚。
恐竜化した人々が、自分たちの身に起きた謎に恐怖する。
片や、閑静な住宅街で銃声や爆発。火災……世界的歌手――アヤ・エイジアに犯行声明を出した怪盗Xすら捕らわれてない
状況で、彼らは安心や安全を確保するのは乏しい。

気絶したマスターを持って飛翔し、街を静観するランサー・レミリアは素朴な疑問を抱く。
自棄に事態が急展開である、と……

聖杯戦争開幕までの猶予にて溜まり切った鬱憤を晴らすだけが原因じゃあない。
例えば、レミリアは彼女が吸血鬼であり、夜にしか活動出来ないのが原因の一つに含まれる。
セイヴァーも同じくだ。

「案外、他にも吸血鬼がいるのかしらね」

ただ。
舞台上は設定的に『日常生活を齎す日本の近代都市』な以上、昼間に派手な動きがしにくい難点がある。
人目つかない夜の内に、やる事は全てやり終える算段で行動するのかも……
否、それにしても――だ。

肌寒さを感じる夜の空も、日の光で色彩が変化するだろう。
強行手段で魔力を大幅に削った以上、拠点の館への帰還が賢明。
レミリアが拠点方面の都心へ移動すると、そちらも何かが発生し、驚くほどの人々が路地に溢れていた。
どうやら、彼らの住むマンションのガラスが一斉に破損し、避難せざる負えない事態となったらしい。
警察の到着が遅れ、彼らから不満の声が聞こえた。

無難にこれもサーヴァントの戦闘で起きた事件。
ならば、被害を齎した主従が付近にまだ……
追撃も可能だが、レミリアは気絶したままのマスターを改めて眺め。
一つ思う。ちょっとした――疑問のようなもの。
だが、彼女らと鉢合わせた彼の神父やセイヴァーの動向を考慮するに、悠長な時間もない。

本来なら、セイヴァーが上手く行動しにくい昼間に対策を講じるべきだが。
肝心の昼間にレミリアも行動出来ず。
ましてや、彼女のマスターも少々危うい状態なのだ。


「まだ近くに居ればいいのだけど……」







マシュ、霊体化したブローディアは無事に現場から抜け出す事に成功した。
その末。
彼女らが足向けた方面にある場所。
聖杯戦争の被害を受けたと明白なおぞましい光景が広がっている。目撃したマシュも、遠目ながら嫌悪を表情に現す。

「……これは……っ………」

まさしく【赤い箱】。
警察署が一種の芸術品を模して鎮座している。
不思議にも事件を嗅ぎつけるマスコミ関係者の影がないのは、彼らは周辺で発生する事件へ視線を向けているから。
周辺には、夜間勤務ではない警察関係者と思しき私服の人物たち。
彼らも現場が警察署とあって、どう対応を取るべきか右往左往状態だ。

単純な話。
マシュとて違和感を隅に置いていた。
見滝原市内で様々な事件が発生しているにも関わらず『警察の動き』が鈍足である事に。
まだ、救急車と消防車。交番の駐在が早いほど。

原因がコレだ。
警察の本拠が怪盗Xにより襲撃を受けてしまった。
警察関係の動きに支障を来すのは、当然だろう。果たしてこの先、壊滅した警察はどうなるか?
主催者側から、増援など無縁なサービスを提供されるとは想像しにくい。


575 : 野良猫の侵略 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/11(火) 23:13:20 gRVGpEUs0
間違いなくこのままだ。
そして、今後これが聖杯戦争愚か――見滝原そのものの混乱へ発展するのは目に見える。
……だけども。
マシュに状況を打破する術は、無い。

『奴らはアヤ・エイジア襲撃に向けた手筈を済ませて行くようだな』

「はい……完全に後手に。これは私が見落とした『ミス』です」

当然。狙わない理由もなかった筈。
可能性を見落としたのは、マシュの落ち度になるだろうが、ブローディアの方は責める事はしない。

『気を落とすな、マスター。犠牲の原因が「全て」お前のものではない。
 むしろ私も予想外だった……怪盗X、奴の「能力」を考慮すれば、生かすと想像していた』

「変身能力……」

先刻での事。
彼女らが邂逅した異常なマスターが怪盗Xであるなら。
変身能力を有効活用し、警察になりすまし、侵入することだって可能だった。

にも関わらず、手段を切り捨てた。
何故?

『私が思うに……存外、無計画ではないか?』

「計画性がない、というのは――」

『変身対象が警察関係者でなくとも構わないのも含め、あれほどの力がある以上、変に考える必要もないのだろうよ』

偶然、出くわしたマシュたちに襲撃をしかけたのも。出会い頭の犯行と考えれば、むしろ納得する。
絶対的に侵入が可能。故の慢心。
行き当たりばったりの犯行を読めないのと同じ。計画性の無さは逆に『相手の裏』を読むには困難を極める。

このままでは事態は深刻となる一方。
マシュは、どうにか聖杯戦争……特異点の解決へ前進したく思う。
だが、無情にもマシュの願いとは真逆に運命は流されていた。
彼女も人理修復なる聖杯戦争を経験したとはいえ、状況がまるで異なった。

……それでも『運命』はある。
確実に存在した。
マシュの手を握るのが『藤丸立香』だったように。
マシュが召喚したのが、自らが成ったクラスたるシールダーだったように。

「シールダーさんっ!?」

霊体化していた己のサーヴァントへ、マシュが咄嗟に呼びかけた時。
急速かつ突如、と呼ぶほどの速度で1人の少女――ランサーのサーヴァントと邂逅する。
人でない蝙蝠を連想させる大翼を背に持つ。
ナイトキャップにレースの裾のスカートという衣服は、外出するには似つかわしくない。
むしろ、寝間着姿に感じられるが、不釣り合いにも似合っている。

実体化したブローディアが、上空で浮遊する件のランサーを睨む一方。
ランサーは、ちょっとした間を取り。
敵意を与えない印象を醸すよりかは『素』の態度を振舞う。

「こうもアッサリ見つかるとは思わなかったわ。
 ねぇ、セイヴァーを倒したいんだけど、手を組まないかしら?」

近所に買い物でも行こう、な誘い文句で短絡的にランサーが尋ねて来たのだ。


576 : 野良猫の侵略 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/11(火) 23:13:59 gRVGpEUs0




仲間が欲しい。マシュ側にとっては願ってもない提案だったが、出会い頭で、通り魔めいた初対面で。
流石にランサーを信用する訳にもいなかった。
ランサー側も、同じらしく。
彼女らの交渉の場にマスターを置かないのは、マシュらを信用しきってない為。
ランサー曰く「拠点に休んでいる」とだけ説明され、未だにどんな人物かも不明のまま。

しかし、彼女からセイヴァーに関する様々な情報を得られたのは、予想外だった。
予想外。
これはセイヴァーに関与する事象が『予想外』の規模を意味する。
何故ならば……

マシュが冷や汗と苦い表情を浮かべ、一つ一つの要点を呪文のように呟く。

「天国の到達……世界の一巡……時の加速………それは、まさか」

「そうね。貴方たちが言う『人類悪』。『人理焼却』に匹敵するわね。
 ある意味、セイヴァーの世界線は一度人理が滅んだ……とは言え、一本の帯状となって歪だけど人理は継続されている」

警察署などから距離を置いた都心郊外。
そこへ移動した彼女たちの間で交わされた情報交換の末。
どうにか人理修復を成し遂げたマシュは、人理が滅んだ世界の存在を知ってしまう。
何たる皮肉な話だろう。
ブローディアも、一通り聞き終えて口を開いた。

「人類悪、か。私もマスターから人理焼却に関する話は簡易的に聞かされたが……まさか関与するとはな」

ランサーも真顔ながら、関心ある口調で言う。

「ただ『私の世界』でも人類悪だの、世界一巡も、あとついでに貴方の『空の世界』も知らないわ」

「成程。マスターの考察通り、全ての世界は異なると捉えた方が良いか……」

ランサーを完全に信用しきっては危険だが。
事実であれば、人類悪に通ずる英霊が時の加速により、新たな人理滅亡を目論む。
全ての人間が自らの運命を理解し
されど運命から逃れられず
ただ運命に覚悟する事だけが叶う……即ち、それが幸福となる。

マシュは気を取り直し、改めてランサーと対面に話す。

「ランサーさんの情報は理解しました。神父のライダーとセイヴァーの目標が『天国の到達』であると。
 ですが……私には一つ疑問があります……セイヴァーの目的は本当にソレなのでしょうか」

「あら、気付いてくれたの」

気付かなければ関心しなかったと言わんばかりの態度で、ランサーが流し目でマシュを捉える。

「別に私は虚偽の情報を交えた訳じゃないわよ。虚偽……いいえ。勘違いしているのは、神父の方」

「ランサーさんには確信があるんですね」

「幾つかね。貴方はどうしてそう感じたの、マシュ・キリエライト」


577 : 野良猫の侵略 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/11(火) 23:14:37 gRVGpEUs0
「私の場合は……確信ではありません。
 私たちの経験上『セイヴァー』クラスのサーヴァントと接触した事例もありません。
 それでも『救世主』に該当する人物には心当たりがあります」

所謂、セイヴァーならばセイヴァーたりえる偉業や痕跡がある。
……結果。
もしも、神父の言葉通りが事実ならセイヴァーは救済、もしくは真理や教えを解いた事となる筈。
天国の到達は不完全に終わり。
第一にセイヴァーは、世界の一巡が発生する前に没している。

「そして……あくまで私個人の主張ですが。セイヴァーのクラスが召喚されるのも、何らかの要因があるのではと思うのです」

「ふぅん。確かに。人理修復の危機にこそセイヴァーが登場するべきだし。実際は出て来なかったものね」

マシュの観点は、カルデア側の立場としてのもの。
聖杯戦争とサーヴァントを何たるかを理解している。
関心めいたランサーの反応に、ブローディアが問いかけた。

「そちらの確信はマスターと異なるようだな」

「ええ。でも、貴方のマスターより説得力は皆無に近いけど」

けれども。ランサーは不敵な微笑を浮かべて、ハッキリと断言する。


「セイヴァーが『そんな事をする邪悪ではない』と確信している―――それだけよ」







「勘違いしないで欲しいのは、アレは紛れもなく『悪』でしょうね。それは間違いない。
 ただ、神父の言う『天国』なんぞ望んじゃいない。それだけよ」

横暴で漠然たる説得性を与える隠れたカリスマに、マシュとブローディアは言葉を失うが。
前フリ通り。証拠も信憑性もない。
根拠ない直感だった。
とは言え。ランサーは一つ加える。

「もうちょっと根拠を着色するなら『能力』……ここじゃ『宝具』かしら」

「時を、止める。時間操作能力のことでしょうか……?」

恐る恐るマシュが口にする。
ランサーはサッパリと概要に関して無視してみせた。

「そうそう。時を止める程度の能力。時を止める『だけ』なんて私のメイド以下だけど、重要なのはそれの本質よ」

「本質?」

「少しは想像できるかしら。『時の静止』『自分だけの世界』。風の音もない、誰も彼もが止まって、静寂の世界。
 いい? つまりは――『世界でひとりきり』になるのよ。途方もない、気が遠くなる孤独の世界」

世界で一人きり。
誰もないし、何もいないし。
喧騒だけでなく、自然の音色すらない静寂。
世界の光景に『色彩』が無ければ、文字通りの無の世界だ。
仮に、そんな世界に居続けたとしたら……想像するだけで虚無の恐怖が込み上げる。

「『そんな世界』で満たされるような奴が、神父の言う世界の一巡や天国の到達なんて望む?」

「……………………………………」


578 : 野良猫の侵略 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/11(火) 23:15:17 gRVGpEUs0
実際、セイヴァーが満たされているかは定かじゃあない。
本当にそうだったとすれば、マシュは沈黙の末。答えは口にしなかったものの。
恐らく『分かり合えない』と思う。
黙るマスターの代わりに、ブローディアが返事をした。

「究極の自己満足者。それがお前の思うセイヴァーの本質か」

「ええ。けど『王』は皆そんなものじゃない」

「王? セイヴァーが救世主ではなく王だと」

「救世主も王も似たり寄ったり、ってことよ。釈迦も確か『帝王になるか仏陀になるか』と予言されてたもの。
 アレは王に退屈して仏陀の方を選んだったかしら? まぁ、そこは重要じゃないわ」

結論をランサーが告げる。

「神父はセイヴァーの教えを解釈違いしている。だとしたら、割と面倒になりかねないわ」

「その危惧が私達へ同盟を持ちかけた理由なのだな」

「出くわした時。私達が大分、その辺を掘り下げてしまったからね」

「おい。それは」

「うん。割と後悔してるわ。奴に腹立ったせいもあるけど」

ランサーの表情も申し訳なさそうで、ブローディアも額に手をあてて溜息つく。
ライダーがセイヴァーの本質を解釈違いしている。
元より、世界の一巡や天国への到達の凶行は、ライダーが独自に解釈した理論の集束で発生した。

否。恐らく――ほぼ違う。
セイヴァーは、それを望んでいない。
望まずとも……セイヴァーが到達しようとしていた結果は、それではないと分かる。
ライダーがそれに気付いた時。
状況が異なっても。自らが信条する絶対が、自らの解釈と異なるとしたら。

改めてランサーが続ける。

「『今は』きっと神父は変な行動は取らないわ。
 恐らくセイヴァーと出会ったとしても、セイヴァーは神父を利用する為に解釈違いに触れる事もないでしょうね」

奇妙で不可思議だが、マシュは納得した。

「セイヴァーが神父のライダーを『抑えてくれる』訳ですね」

「ここまで説明すれば分かるでしょうけど。第一目標は『神父のライダー』、セイヴァーはその次」

「………」

現状、マシュもランサーの情報や考察を全て信用してもよい気がした。
だとして、重要な疑問が残ってしまう。
マシュが沈黙の末。導きだした答えは


「わかりました」


579 : 野良猫の侵略 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/11(火) 23:16:00 gRVGpEUs0




マシュらがランサーに案内されたのは、西洋作りの館。
都心から遠からず近からず、絶妙な位置に、されどひっそりと建てられているソレは絶妙な隠れ場所だ。
内部にはランサーの魔力で産み出された使い魔……人型で蝙蝠の翼を背に持つ使用人が幾人か徘徊していた。

周囲の警戒等は、使い魔らの巡回を含めて緩めて良いかもしれないが。
結局、ここはランサーの根城。彼女の支配領域なのだ。有利な仕掛けを施されてもおかしくない。
念話でブローディアがマシュに語りかけて来る。

『マスター。ランサーと奴のマスターが聖杯を得る方針であり、セイヴァーを倒す前提の同盟である事は分かっているな』

『はい……』

『一時的な共闘なら尚更、危険だぞ』

『しかし。ランサーさんの口ぶりから……何となくですが、他にも私達に隠している情報があるような気がするんです』

そういう意味では、明らかに情報のある相手とも捉えられる。
唯一。正体不明の、ランサーのマスターだけが不穏要素としてつき纏う。
ブローディアの指摘通り、主催者が危険視し討伐令を設けたセイヴァーを敵に断定するには早計過ぎる点。

使い魔たちが徘徊する館の客間まで移動した彼女ら。
ボンヤリとした温かみある色合いの範囲の小さい明かりが、要所に散らばり、どこか薄暗い。
漸く、ランサーが告げた。

「マスターが起きるまでここで休んでて頂戴。少し程度なら館をウロついても構わないけど」

「……ありがとうございます。ランサーさん」

一段落ついたところで、ブローディアは尋ねた。

「ランサー。一つ聞くが、其方のマスターはどうしている」

「この館にいるわよ。さっきも言ったけど、寝ているだけだから」

「頑なに姿を見せたくないと感じるな」

「後で嫌ってほど顔を見る事になるわよ。無駄な心配事ね」

皮肉込めた台詞を吐きながらも、レミリアは不快を抱く様子なく霊体化してしまう。
彼女はマスターの様子を伺いに向かったのだろうか。
しかしながら、日を跨いで活動し続けたマシュに休息の時間は有難く感じた。
念の為、ブローディアは実体化をし続ける。


580 : 野良猫の侵略 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/11(火) 23:16:43 gRVGpEUs0
「マスター……この状況。どう判断する」

「少なくとも、私はランサーさんの情報を信用していいと思います。
 彼女には明確にセイヴァーを倒す意志があると感じられて……」

「私も同感だ。あそこまで情報を出し惜しみなく明かしたのは、何が何でも戦力を確保する為だろう」

「それを踏まえて、ですが……今回の聖杯戦争。『時間』が関係しているのではないかと」

時間。
よくある所縁で連鎖的に召喚される事例。
時を停止させるもの、時を盗むもの、時を加速させるもの、もしくは時の勇者。
全てが『偶然』鉢合わせたか、所縁で引き寄せられたに過ぎないのか。
しかし、マシュには他ならぬ可能性を予感していた。

「先ほど挙げましたが、セイヴァーが神父……エンリコ・プッチと呼ばれるライダーを『抑止』する為に
 必然的に召喚させられた、とも考えられます。その場合、セイヴァーを討伐せんとする主催者の動向が気に成ります」

聖杯獲得を主にするレミリアは関心すら向けて無い風の討伐令。
順に全体の状況を分析は、そうなる。
エンリコ・プッチが人類悪に匹敵する脅威だとすれば、主催者もそれを把握していないとは?
否、恐らく『把握していない』のかもしれない。ブローディアが結論に往きつく。

「ランサーの情報を信用した場合、主催者がセイヴァーに討伐令をかけたのは彼らの都合によるものになるな」

「都合……彼らが如何なる『思惑』あって聖杯戦争を起こしたのかは、まだ分かりませんが
 セイヴァーを無暗に倒してはならないようですね……」







マシュとブローディア。
彼女達は聖杯獲得目的ではない方針だと、セイヴァーの討伐にも消極的ではあったが。
どういう運命の巡り合わせか。エンリコ・プッチが彼女の認識で『悪』たる存在が故に、協力の姿勢を取ってくれた。

否、人類悪なる類に一致するまでもなく。
セイヴァーとエンリコ・プッチの目的を聞けば、危険性。
例え同盟まで持ちかけずとも、彼らに対する敵対意志と警戒心を植え付けられる。
レミリアにとっては、彼女達が同盟を承諾してくれたのは思わぬ幸運だ。

最も、レミリアのマスター。
意識を取り戻せずにいる少年・ディオには問題である。
勝手に同盟を進めやがってと罵倒されても仕方ない、レミリアの独断。

しかし、独断がなければ戦力の確保も、レミリアが動けぬ昼間に対する手段も得られない。
ディオ自身が、多少の同盟を承諾するとしても。
聖杯戦争に消極的なマシュ達を引き受けるかは、怪しい方だ。
彼女たちの方針が真逆だった場合の方が、いっその事、心良く受け入れそうではあるが

(ふむ……無難に見滝原中学の様子見を頼んで貰おうかしら)

安直だが、レミリアの一手は次なる戦火が予想される場所。
即ち、見滝原中学。
アヤ・エイジアがセイヴァーとの対決本命の会場である以上、あそこには日の光を考慮すればセイヴァーが現れにくい。
故に、対セイヴァーの戦力を集めやすい訳だ。


581 : 野良猫の侵略 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/11(火) 23:17:24 gRVGpEUs0

「しかし――人類悪、ねぇ」

人理が一度滅んだとレミリアは分析していたが、実際はどうなのだろうか。
プッチから『世界の一巡』に関する詳細な情報を聞かされなかった。
よりも、聞けなかった形に近いが……
世界は一度終わった。新たな世界と歴史が始まっているはず。
一巡前の人間は、一巡後は『どうなる』のか。新たな人間、全くの別人に変わっている?


例えば……『ディオ・ブランドー』と『ジョナサン・ジョースター』



☆   ★


精神



肉体


これら三つは重要な要素である。
どれかが欠けてしまえば、どれかに支障を来す。
だけど、どれかが――例えば魂と精神があれば自然と肉体も引き寄せられる訳だ。

当然。
三つが適合するのは、一個人のものに限る。
赤の他人同士で適合する事は、基本的にない訳だ。そう……普通は。



【A-6 館/月曜日 早朝】


【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)精神&体力疲労(中)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]端末機器
[所持金]両親からの仕送り分
[思考・状況]
基本行動方針:元のカルデアに戻る。特異点の解決。
0.体を休める
1.セイヴァーとの接触
2.Xたちを放置はしたくない。
[備考]
※セイヴァーの討伐令には理由があるのではないかと推測しております。
※セイヴァーが吸血鬼の可能性を考えましたが、現時点で憶測に留めています。
※見滝原内に点在する魔力の残り香(ナーサリー・ライム)について把握しています。
※セイバー(リンク)のステータスを把握しました。
※X&バーサーカー(カーズ)の主従を把握しました。
※アヴェンジェー(サリエリ)の使い魔を視認しました。
 宝具や噂の情報から『アントニオ・サリエリ』のものだと推測しています。
※ランサー(レミリア)のステータスを把握しました。
 彼女の得た情報も把握しています。


【シールダー(ブローディア)@グランブルーファンタジー】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:自分の居るべき世界への帰還
1.マシュの方針に従う
2.ランサー(レミリア)のマスターに疑心
[備考]
※見滝原内に点在する魔力の残り香(ナーサリー・ライム)について把握しています。
※X&バーサーカー(カーズ)の主従を把握しました。
※ランサー(レミリア)のステータスを把握しました。彼女の得た情報も把握しています。


582 : 野良猫の侵略 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/11(火) 23:18:16 gRVGpEUs0
【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(大)、怒り(中)、錯乱(軽度)、気絶
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]数万円
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、天国へ行く。
1.セイヴァー(DIO)とライダー(プッチ)はどんな手を使ってでも殺す。そいつらに味方する奴も殺す
2.他の参加者と接触したら、ライダー(プッチ)の知っている情報をばら撒く。
3.レミリアの態度が気に入らない……
[備考]
※ライダー(プッチ)のステータスを確認しました。
※ライダー(プッチ)の真名を知りました。
※自身の未来(吸血鬼になる事、スタンド『ザ・ワールド』、ジョースターとの因縁)について知りました。
※アサシン(マジェント)とバーサーカー(シュガー)のステータスを把握しました
※セイヴァーに関しては完全な視認をしてない為、ステータスは分かりません
※バーサーカー(シュガー)の砂糖により錯乱状態ですが、時間経過で落ち着きます


【ランサー(レミリア・スカーレット)@東方project】
[状態]魔力消費(中)
[ソウルジェム]有
[装備]スペルカード
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの運命を見定める
1.ライダー(プッチ)の言う『天国』は気に入らないので阻止する。
2.昼間の内にセイヴァーに対抗する為の戦力確保
[備考]
※ライダー(プッチ)の真名を知りました。
※ディオの未来(ディオが吸血鬼になる事、スタンド『ザ・ワールド』、ジョースターとの因縁)について知りました。
※現在、ディオが正常ではないと思っています
※バーサーカー(シュガー)とアサシン(マジェント)が消滅してないと判断しました
※セイヴァー(DIO)のソウルジェムに色があったと思っています。
 実際、彼女が見たのは沙々のソウルジェムです。
※マシュ&シールダー(ブローディア)の主従を把握しました。彼女達と情報交換しました。


583 : ◆xn2vs62Y1I :2018/12/11(火) 23:20:14 gRVGpEUs0
投下終了します。続いて
レイチェル・ガードナー&ライダー(ディエゴ・ブランドー)
ライダー(エンリコ・プッチ)

鹿目まどか&ランサー(宮本篤)
暁美ほむら
たま(犬吠埼珠)

美樹さやか&セイバー(アヌビス神)

以上で予約します。始皇帝ひけたら多分今年中に投下できると思います。


584 : ◆do4ng07cO. :2018/12/21(金) 18:40:02 I77iLUGY0
投下乙です
セイヴァー召還についての考察が飛び交う回。
そんな中で彼の最大の宿敵であるジョナサンのワードが出ましたが、彼の血統がなにやら関係するのだろうか。
あと色んな方面から「あいつは報われない」と認定されだしたDIO厨の神父様はその事実を知った時どう行動するのだろうか。



マジェント、いろは&ささ、ヴァニラを予約します


585 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 15:53:29 Q9Q09Y260
ごめんなさい、>>584の酉間違えてました。

投下します


586 : 「そこに愛はあるのかね」 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 15:54:15 Q9Q09Y260
ぴちゃぴちゃぴちゃ。

下水道に、いろはが水を蹴る音が響く。

魔法で身体を強化しているため負担は減っているものの、先の騒動での疲労や沙々を背負ったままの行動は確実に彼女を蝕んでいく。
はぁ、はぁ、と息遣いも荒くなっていき、速度も目に見えて落ちてきたところで、いろはは徒歩に切り替えた。

先に潜ったアヴェンジャー...ディエゴを追いかけるのを諦めたわけではない。
だが、そもそも彼らがどの方向に向かったかがわからない以上、こうして体力を温存しようとするのは仕方の無いことである。

(沙々ちゃん...)

己の背で仮死状態にいる沙々のことを思い返す。
ハッキリいって、彼女にいい印象は全く無い。
出会いがしらに洗脳されて、セイヴァーと遭遇しいろはだけソウルジェムを浄化された時などは八つ当たり気味にキレ散らかして。
彼女を善か悪かで分類すれば間違いなく悪だ。
けれど、だからといっていろはが沙々を見捨てることはしない。
理由など単純。ここで彼女を見捨てれば彼女が死んでしまうから。
ただそれだけの為に、いろはは沙々を手放すことができなかった。

...それが、彼女の命運を分けた。


587 : 「そこに愛はあるのかね」 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 15:54:34 Q9Q09Y260

「はぁ、はぁ...」

息切れは更に増し、集中力も蹣跚となる。
よろよろとおぼつかない足取りで、それでも進むいろはの眼前に、隆々とした腕が曲がり角から突き出される。

「とまれ」

頭上からの声に従い、思わず足を止めてしまったいろはは、ほとんど反射的に顔を上げる。

声の主は男。整った顔立ちに、若干ウェーブのかかった髪の男だった。
いろはは思わず後方に飛び退き、クロスボウを構え戦闘態勢に入る。
が、戦闘態勢をとらない男の様子に、いろはは眉を潜めつつ、話を聞く為に一旦クロスボウを消した。

「...あなたは?」
「バーサーカー」

いろはは息を呑む。
バーサーカー、即ちサーヴァント。
男のスタンスがどのようなものなのかはわからない。
だが、サーヴァントという存在はいろはの警戒心を再び引き上げるのに十分すぎた。


バーサーカー―――ヴァニラ・アイスは考える。

バーサーカーという単語に対してこの反応。間違いなく聖杯戦争のマスターである。
ならば始末してしまおうか―――いや、ここでこの小娘を殺したところで、DIOとそのマスター、暁美ほむらがいない以上、自分の利にはならない。
そもそも。この小娘は何故、人一人分の重量を背負って下水道を利用しているのか。
普通ならば、地上を歩くはずなのにだ。
なにか下水道を利用しなければならない理由があるとすれば、それは...。

その疑念から、彼はいろはの始末よりも尋問を優先することにした。


588 : 「そこに愛はあるのかね」 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 15:55:14 Q9Q09Y260

「...貴様にいくつか質問がある」

ヴァニラはいろはの背中で眠る沙々を指差した。

「その小娘は死んでいるな。なぜこんな場所まで持ち歩いている」

ヴァニラの問いかけに、いろはは言葉を詰まらせる。
なぜ持ち運んでいるか―――その問いの答えとしては、魔法少女について語るのが最適だろう。
が、ソウルジェムの真実は沙々だけでなく自分にも大いに影響してくるものだ。
ソウルジェムさえあれば、たいていの怪我は治せる。しかし、逆に言えば、いくら怪我が軽傷でもソウルジェムを砕かれてしまえば死に至ってしまう。
そんな心臓部である秘密を話せるはずもなく。


「こ、ここから向かうのが私の家に一番近いからです。沙々ちゃんのことは家に着いてから考えるつもりです」

いろはは、そんな苦し紛れの嘘で乗り切らざるをえなかった。

「......」
「......」

沈黙する両者。
ゴクリ、といろはの喉が鳴った。

(...乗り切れる気がしない)

いろはがそう思うのも無理はないだろう。第三者から見れば不審者は自分のほうだ。
だからといって、いまさら撤回することなどもできず。嫌な緊張感がいろはの心臓を締め付けていく。

「あ、あn「その女はDIO様...セイヴァーから託されたのか?」

たまらず口火を切ろうとしたいろはを遮るようにヴァニラは質問を続けた。

「あなたはセイヴァーの知り合いなんですか?」
「...答えろ」

いろははヴァニラ・アイスの不遜な態度に若干の不満を覚えるものの、バーサーカーという割には話を聞いてくれていることにはほんのちょっとだけ安堵した。

(DIO『様』...確かにセイヴァーのことをそう呼んでた)

様をつける以上、男はセイヴァーの所縁、それも慕っている間柄なのだろう。
となれば、なるべくこの男を、更に言うならセイヴァーへの不信感は見せるべきではないと察する。
現状、下手に戦って、体力も魔力も無駄に消費することはできないのだから。


589 : 「そこに愛はあるのかね」 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 15:56:07 Q9Q09Y260

「...はい。沙々ちゃんは、あの人がつれていってほしいって...」

これは嘘ではない。
セイヴァーは、『沙々のソウルジェムと時間泥棒を交換しよう』と提案しただけで、沙々の身体については完全に無視していた。
彼女の身体を誰かが保護しなければならない以上、いろはがつれて歩くのが道理というものだ。
だから、嘘はついていない...はず。

「......」
「......」

再び訪れる沈黙。
カチ、コチ、と時計があるわけでもないのに、なぜかそんな秒針の音が聞こえてくるようだ。
数十秒か、数分か、どれほど時が過ぎたかわからないが、やがて最初に動いたのはヴァニラ・アイスだった。

「そうか。ならばセイヴァーの場所を教えろ」

どうやら無駄な戦いをせずにすみそうだと、いろはは胸を撫で下ろす。

さて、次のステップとして、この男をセイヴァーと会わせていいものか、という問題が生じる。
もしもこの男が合流すれば、ただでさえ個人で強力な力を有しているセイヴァーが手を組むことで更に強化されてしまう。
セイヴァーがマスター・英霊以外の人間も構わず殺傷する性質であることから、彼らの同盟はおそらく市民にも影響を及ぼすことになるだろう。
けれど、ここでヴァニラの要望を断れば、せっかく振り払った不信感に纏わりつかれてしまう。
倒すにしても、自分のサーヴァントであるシュガーが離脱しており、且つ沙々の身体を庇いながらの戦いではとても勝利は収められない。

(うぅ...私、こんな人を騙すようなことはしたくないのに...)

言い繕って。顔色を伺って。相手に合わせて。周囲のご機嫌をとって。
そんな、かつての嫌いだった自分の経験がここにきて活きてくることになるなんて思いもよらなかった。
そのことを誇るつもりなど一切無いが。

「えっと、同じところにいるかはわからないですけど」

あらかじめそう切り出して、相手の不満感を少しでも和らげる。
そして、セイヴァーと遭遇した場所とは違う方角を示し、少しでも彼らの合流を遅らせ、あわよくば防ぐ。
それがいろはの頭の中で描かれた筋書きだ。

「なぁ...あんたさっきさぁ、Dioって言わなかった?」

それが叶うことはなかったが。


590 : 「そこに愛はあるのかね」 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 15:56:40 Q9Q09Y260

突然の男の声に、いろはは慌てて振り返った。

男―――マジェント・マジェントは曲がりなりにもアサシンとして呼び出されたサーヴァントである。
アサシンとしては最低クラスとはいえ、気が散っている者の隙を突く程度の隠密性は有していたため、彼らはマジェントの接近を許してしまったのだ。

「...なんだ貴様は」
「質問してるのは俺じゃね〜かよぉ。Dioって言った?言ったよな?」

銃を突きつけつつ、こめかみを痙攣させているマジェントに対して、ヴァニラは無反応。
下っ端のクズなどイチイチ気にかけることはない―――そんな態度がありありと伺える。

「あんたの知り合いのDio様はさぁ、二回も俺を裏切ったんだ。えぇ?二回もだぜ?
一回ならまだ許せる。気の迷いや勘違いもあるしな。謝ってくれれば俺も許す。けどあいつは二回裏切ったんだぜ。ありえねーよなぁ、人間として間違ってる」

そんなヴァニラにお構いなしにマジェントはペラペラとおしゃべりに興じる。
自分が受けた仕打ちを語っているというのに、へらへらと笑いながら話す様を、いろはは不気味に思う。
なにがおかしいのか、それとも悦んでいるのか。いろはには、マジェントの真意がわからなかった。

「ヘヘッ、あいつはホント、ほんと...」

ピタリ、とマジェントの笑い声が止まり、表情も締まっていく。

「あいつは!二回も俺を裏切りやがった!俺は裏切ってねえのによぉ!!そんなクソ上司のケツは部下に拭ってもらわなきゃなあぁ!」

ドシュッ

突然の激昂と共に放たれる弾丸は、轟音と共にヴァニラの肩に着弾した。


591 : 「そこに愛はあるのかね」 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 15:57:09 Q9Q09Y260

「ッ!」

マジェントの豹変に、いろはは驚愕し思わず息を呑んだ。
そんな彼女をジロリ、と見やると、マジェントは今度はいろはに銃を突きつけた。

「ササがなんでそうなってるかは知らねえが、Dioに頼まれたってことはオメエもあいつの部下だな」
「ち、違いますっ!」
「違う...?貴様、命惜しさにDIO様を裏切るつもりか」
「えっ、いや、その...ああもうっ」

DIOに忠誠を誓う男。DIOを恨む男。
二人のDIOへの対極な関係性に挟まれたいろはは思わず地団駄を踏みそうになる。

どうしてこうも巡り合わせが悪いのか。いろはは己の不運を嘆きつつも、必死のこの場を収める方法を模索する。
マジェントの言葉を否定すれば、ヴァニラは敵になり、マジェントは味方になるかもしれない。
マジェントの言葉を肯定すれば、ヴァニラは味方になり、マジェントは敵になる。

選択肢は二つ、その上時間が無い。

そんな中、いろはがとった選択肢は

「私は、DIOさんと『対等』の関係なんです。だから、部下でも敵でもありません!」

前者『寄り』だった。

仕方なく選んだ答えだが、現状、いろはの言葉に嘘はない。
DIOがもちかけたのはあくまでも『取引』であり、いろはにも断る余地を残していた。
優木沙々のことを考慮しなければ、問題なく対等だといえるだろう。

(対等、か。思い上がりも甚だしいが、おそらく『友達』という言葉をそのままの意味で受け取ったのだろう。ならばDIO様の駒であることには変わりないか)

ヴァニラ・アイスはいろはの言葉を自分なりに解釈し、DIOの機嫌を損ねぬよう彼女へ向けていた殺気を抑えた。
さて、一方のマジェントはというと。

(ハハァ、なるほど。こいつもDioに騙されてるクチだな。俺のときもそうだった。優しく言葉をかけてくれるからその気になっちまうんだよなぁ〜)

彼も彼なりにDioといろはの関係性を解釈し、いろはへの敵意を逸らした。
自分のときと同じだ。Dioは始めこそは優しく手を差し伸べてくれる。
だが、用済みになればそこまでだ。どれだけ頑張っていたとしても簡単に切り捨てる。
Dioにとっての他者とはそんな使い捨てのチューイングガム程度ものなのだ。


592 : 「そこに愛はあるのかね」 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 15:57:42 Q9Q09Y260

(けっ、Dioのヤツ、今度は可愛い女の子に手をつけやがって!どうせ俺のときみたいにこの娘も飽きたらポイだろうがよぉ〜。
けどよぉ、もしも使い捨てのおもちゃが自分に牙を剥いてきたら死ぬほどビビルだろうなぁ〜)

らしくなく、マジェントは間接的にDioへの嫌がらせの策を思いつく。
『恨みを晴らすと決めたら必ず晴らす』が故に、『Dioにやられたこと(裏切り)をそのまま返してやろう』という発想に至れたのだ。

では、どうすればいろはを味方につけることができるか。
簡単だ。自分がDioにされたことをそのまま伝えればいい。
いくら対等な関係を結んでいようと、散々人を利用し潰すような輩といつまでも肩を並べられるかと問われれば十中八九無理だ。
その程度のことはマジェントもわかっている。だから、伝えてやる。Dioがどれだけ最低最悪なヤツかを。
それで駄目なら沙々に洗脳してもらえばいい。

そのためにするべきことは、結局

「オメェが邪魔だよなぁ、パンツ野郎ォォォォ!!」

ダンッ。

再びの銃声と共に、ヴァニラ・アイスの肩口から血が流れ出す。

「や、止めてください!」
「およっ!お嬢さん、勘違いしてるかもしれねえけど、俺はオメーを助けてるんだぜ。なんせDioはロクな奴じゃねえ。ならソイツを様付けする奴もそうに決まってる」

Dioへの罵倒をマジェントは嬉々として語る一方で、ヴァニラへ銃を向けるのも忘れない。
銃とはそれだけで脅威となり牽制になることを彼は知っている。
しかも、既に二度撃たれているのだからなおさらだ。

「......」

しかし、ヴァニラ・アイスは、撃たれた肩に手を添えるだけで、依然変化なし。
恐怖も、激昂も。銃への感傷は一切見受けられない。

「...試してみるか」

ヴァニラが肩口に添えていた手が握り締められる。


593 : 「そこに愛はあるのかね」 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 15:58:47 Q9Q09Y260

「てめえ!妙な真似をするんじゃ」
「フンッ!」

マジェントが警告と共に引き金を引く寸前、ヴァニラは傷から手を離し掬い上げるように振るった。
と、同時に、マジェントの右肩の肉は抉れ、血が噴出した。


―――マジェントの考えは間違っていない。

いくら英霊とはいえ、同じ英霊であるマジェントの武器は通用するし、着弾し血が流れる以上、ダメージはある。
だが、それが通用するのは『人間』までだ。
ヴァニラ・アイスは違う。生前からの主より授かった血により、既に人間を辞めている吸血鬼。

だから、物質を回転させて投げる技術などなくても、撃ち込まれた弾丸を素手で放つ程度のことはできるのだ。

「ふむ。この程度では足りんな」

ヴァニラは先ほど遭遇した敵、バーサーカー(カーズ)のことを思い返す。
彼には己の能力であるクリームはほとんど通用せず、弱点もあっさりと看破されてしまった。
いや、最初に戦ったランサーとアサシンのときもそうだ。
自分のスタンドは、未だ上位の実力者達に対して通用していない。
当然だ。
如何に強力な能力を有していようとも、それひとつだけであれば、いくらでも手を打つことができる。
ましてヴァニラの『自分がスタンドに隠れている間は外の情報を一切認識できない』という欠点があるならなおさらだ。
だから、ヴァニラはサブウェポンを作ってみた。
吸血鬼由来の筋力任せの投擲という力技の遠距離攻撃を。
現状、人間相手にさえ足止めが精精といったところだが、牽制程度ならあまり問題はないだろう。


「い、痛てえっ!なんだ何がおきやがった!?」

突然の痛みに尻餅をつきうろたえるマジェント。
己の傷口に手を当てた数秒後に手にした弾丸を見て、自分が撃ち込んだ弾丸を投げ返されたのだとようやく気がついた。

(まさかコイツもジャイロみてえに鉄球の技術を持ってやがるのか!?けどよぉ、ソレの対策はもう知ってるんだぜぇ!)


「『20th センチュリーボーイ』!!」


594 : 「そこに愛はあるのかね」 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 16:00:02 Q9Q09Y260

スタンドを身に纏わせ、両掌と両膝を地面につける。
ピクリとも動かない彼のその姿は、見方によっては降伏にも思えた。

「ふんっ!」

再び、ヴァニラの投げつけた弾丸が、マジェントに着弾する。が、それは彼の皮膚を滑り地面へと伝達していく。

「......」

ヴァニラが歩きながら近づき、マジェントに蹴りをお見舞いする。が、そのダメージは再び地面へと伝道していき、マジェント本人には一つの傷とて生じやしない。
ヴァニラは懲りずに手刀、回し蹴り、踵落とし、マジェントの銃を拾っての銃撃とこれでもかと攻撃を加えるも同じ結果の繰り返し。

これこそ、マジェントのスタンド『20th センチュリーボーイ』。
如何な干渉さえ通さぬマジェントの絶対防御である。

(物理的な攻撃は通じないか。ならば)

ヴァニラも己のスタンド『クリーム』を発動し、その中に身を隠す。
彼のスタンドの口の中は暗黒空間となっており、主たるヴァニラ以外の存在を許さず、如何な物質とて分解してしまう。
まして動かない相手などいいカモだ。クリームの欠点も欠点なりえない。

「暗黒空間にバラ捲いてやる」

絶対防御の『20th センチュリーボーイ』と一撃必殺の『クリーム』。
最強の盾と最強の矛。



ここに、両雄が激突する!




ガ オ ン。

クリームがマジェント・マジェントを通り過ぎた。

勝負は、一瞬だった。


595 : 「そこに愛はあるのかね」 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 16:00:38 Q9Q09Y260

「...これでも殺せないか」

抉れていたのはマジェントではなく、その側にある地面。

軍配は、盾にあがった。


『20th センチュリーボーイ』は、外からのダメージだけではなく『呼吸』や『栄養』のような生きるのに必要な最低限のものすら排除する。
排除しても主たるマジェントを決して死なせない、真性の絶対防御である。
加えて、英霊化した際に他のサーヴァントの能力や宝具も完全遮断するように反映されたため、クリームの暗黒空間の分解による消滅さえ拒絶したのだ。
マジェント・マジェント。多くの者に下っ端のクズと称されたこの男は、防御力においては間違いなく最高であることがいまここに証明された。


「......」

ヴァニラ・アイスは考える。果たしてこの男を消滅させる方法は本当にないのかと。
いや、方法はある。それはヴァニラも既に気づいている。
物理的に攻撃したときもクリームで飲み込もうとしたときも、彼の受けたダメージの変わりに周囲の地面が抉れている。
つまりだ。このまま攻撃し続け、伝達するものがなくなればどうなるか。
あるいは、魔力を消費させ続ければどうなるか。
ただ、この方法では自分も魔力を大幅に消耗する持久戦になってしまう。
無論、これが前述したDIOの障害になりうる強者たちならば躊躇い無く持久戦に臨んだだろう。
だが、ここにいるのは奴らに遠く及ばない下っ端のクズだ。しかも、一向に防御の構えを解かないあたり、最早打つ手がないのだろう。

しかも、仮に殺したところで、マジェントの魂が暁美ほむら或いはスノーホワイトに渡るわけではなし。
果たしてこの男をいまここで、己の多大な魔力を消費してまで消す価値があるかと問われれば答えはNo。
これ以上の戦いはせっかく溜めた魔力の無駄遣いにすぎない。

「女」

ヴァニラがくるり、といろはへと振り返る。

「DIO様はこの先にいらっしゃるのだな?」
「は、はい。ただ時間が経ってるので、絶対とは...」
「そうか」

それだけを告げると、ヴァニラはいろはにもマジェントにも目をくれず、その場を後にする。

(まもなく陽が昇り始める...それまでには一度DIO様のもとへ馳せ参じたいものだ)


狂信者は行く。ただひとつ、己の信じる者の為に。

たとえそれが独り善がりの愛だとしても、躊躇うことは決してない。



【C-2 下水道/月曜日 早朝】


【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態] 額に傷(小)、出血(小) 、肩に銃創(微)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様に聖杯を献上する
1.DIO様の元に馳せ参じる
2.DIO様に歯向かう連中を始末する。特にカーズは障害になりえそうなので必ず殺す。
3.暁美ほむら...あのケツの青い小娘がなぜDIO様のマスターに...
4.マジェントは積極的に狙う予定はない。殺せるときに殺しておくか程度の優先順位。

[備考]
※スノーホワイトとの契約は継続中ですが、魔力供給を絞られています
※物を力づくで投げる方法を把握しました。
※いろははDIOの部下であると認識しました。
※どの方向に向かっているかは後続の方にお任せします。


596 : 「そこに愛はあるのかね」 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 16:01:20 Q9Q09Y260

しーん、と静寂が包み、いろはは動かないマジェントと共に取り残される。

どうしたものかと戸惑ういろはは、マジェントの身体を見て眉を潜める。

(この傷...さっきの人からつけられたものだけじゃない)

よく見れば、彼の身体は至るところが傷だらけで、出血も止まりきっておらず、ああしてまともに動けたこと自体が不思議に思えるほどだ。
もしもこれらの傷がDIOにつけられたものだとしたら、彼がDIOをあれだけ恨むのも無理はないかもしれない。

ならば、いろはがすることはひとつだ。

「およっ。さっきの奴はどこいった?」

パチリ、と目を覚ましたマジェントは、キョロキョロと辺りを見回す。
そこには既にヴァニラ・アイスはおらず、いろはが側にいるだけだ。

「あの...」
「あん?」
「ちょっと動かないでくださいね」

いろははマジェントの肩口にそっと手を添える。

「おめえなにやって...あ?」

マジェントの傷口が桃色の光に包まれ、痛みがみるみるうちに消えていく。

「け、怪我が治ってく?」
「沙々ちゃんのサーヴァントなら、わかりますよね?これが私の魔法の一部なんです」
「へーえ、スッゲェ」

純粋に関心するマジェントだが、遅れて疑問を抱く。

「なあ、なんで俺を治すんだよ。俺まだ頼んでねーぜ?」

マジェントはまだいろはからの信頼を得る手順を踏んでいない。
そして、それを得るのはなによりもDioへの復讐のためだ。
だが、この娘は躊躇い無く己の魔法を使い、マジェントを癒している。
マジェントは同盟を結ぶマスターでなければ、いろはと主従関係にあるサーヴァントでもないのに。
だから彼は純粋に不思議だった。
ウェカピポのように仕事上、上から組まされた訳ではなく、Dioのようになにか利益があると踏んで手を差し伸べた訳でもなく。
彼女が勝手に自分を治療してくれているこの状況が、不思議でたまらなかった。

「ササは魔法は迂闊には使えないって言ってたけど、お前はどうなんだよ」
「...そうですね。確かに、魔法は有限です。今回の件でもそれを思い知らされました」
「だったらなんで」

「あなたが辛そうだったから。それ以上に理由はいりませんよ」
「――――――!!」

いろはがマジェントに向けた微笑みに、マジェントの心臓がドキリと跳ね上がった。


597 : 「そこに愛はあるのかね」 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 16:02:16 Q9Q09Y260

いろはの言葉は、受け取り方の是非に関わらず、彼女の行動の真意をそのまま伝えていた。
いろはがマジェントを治しているのは、Dioのような打算などなく、彼を気遣ったが故の行動だと。

そんな彼女の純粋な善意は、Dioへの復讐に囚われていたマジェントの氷塊の如き心に亀裂をいれた!

「う、うぅ...」

突如、マジェントは両指で目元を隠し呻き声を上げ始める。
そんな彼の様子に、いろはは慌てて容態を探る。

「ど、どうしたんですか?どこか痛むんですか?」
「ちげえよォ〜嬉しいんだよォ〜うえーん」

困惑するいろはを他所に、マジェントは指で目をこすりつつ泣くマネを始めた。

「シクシクシク...嬉しいよォォォ〜ポカポカするよォォォ〜うえ〜ん...『ガンジス川の濁流』」

マジェントの握っていた手が開かれ、ドブ水がボタボタと零れ落ちた。

「っちゅーギャグを思いついたんだけど...批評してくれる?」
「え?えっと...」

いろははますます困惑してしまう。
いきなり泣くマネを始めたと思ったら、ドブ水をガンジス川に見立てたネタを披露して、おまけにそれを批評しろという。
わけがわからない。いろはには、マジェントの意図が全くわからなかった。

「その、ごめんなさい。よくわからなくて...」

下手に嘘をつけば、それが判明した時に更に彼の心を傷つけてしまうかもしれない。
結局、いろはは自分の思ったことを伝えるしかなかった。

「そうか...そうかァ」

せっかくのネタを理解してもらえなかったマジェントだが、その顔は意外にも笑顔だった。

マジェントが思いついたギャグを披露する時に批評を頼むのは、なにもただ賞賛されるためだけではない。
この批評を通じて、相手がどの程度自分を見てくれているかを知りたがっているのだ。
笑ってくれるならそれで問題なし。別に面白いと思われずとも、なにかしら感想を言ってくれるだけでも、こちらを見ていてくれた証になるので構わない。
一番最悪なのは、ウェカピポのような一瞥もくれずに無反応であることだ。
そういう奴はこちらを見下し自分を路傍に転がる石ころ程度にしか見ていないからだ。

いろはは反応してくれた。どころか、マジェントを傷つけないように言葉を選び、ギャグにも真摯に向き合ってくれた。
そんな彼女の思いやりはこれ以上なく彼の心を鷲掴みにしてしまった。

「イイ奴だなぁ、おまえ」
「???」

なぜ褒められているのかがわからない、とでもいうような仕草に、ますますいろはへの信頼を深めていく。
マジェントの中には、もはやウェカピポやDioに裏切られた経験による信頼への恐怖は微塵も残っていなかった。


598 : 「そこに愛はあるのかね」 ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 16:03:07 Q9Q09Y260

「なあ、えっと...なんて呼びゃあいい?」
「私の名前ですか?...いろは。環いろはです」
「イロハか。イロハイロハ...よしっ、覚えたぜ!」

マジェントは満足げにいろはの名を呼び、頬を緩ませた。
そんな彼の嬉しそうな笑顔に、いろはもつられて笑い返した。

「イロハ。俺の名前はマジェント・マジェント。マジェントって呼んでくれよ」
「はい、マジェントさん!」
「おうっ!」

自分の名前を呼ばれたことで、更に笑みが深くなるマジェント。

もしも、マジェントのマスターである沙々がこの光景を見ればきっと思っただろう。
マスターの私の名前はしばらく覚えようともしなかった癖にこの差はなんだと。

(ウェカピポでもDioでもなかった。俺の本当の運命の糸はきっとこの子に繋がってたんだ!)


マジェントは笑う。
三度の裏切りに荒みきっていた心を溶かしてくれた彼女との出会いに感謝して。

いろはは笑う。
自分が助けた人が元気を取り戻した様子を見て。

互いになにかが解決した訳ではない。それでも、心が少し軽くなったのなら、二人の出会いもきっと無駄ではないだろう。







【C-2 下水道/月曜日 早朝】


【優木沙々@魔法少女おりこ☆マギカ〜symmetry diamond〜】
[状態]肉体死亡状態、魔力消費(中)、『悪の救世主』の影響あり(畏怖の意味で)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]一人くらし出来る程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い
0.―――
1.セイヴァーはヤバイ奴。どうにか逃げ出したい。
2.でも、ソウルジェムの浄化はどうしたら……
3.見滝原中学には通学予定。混戦での勝ち逃げ狙い。
[備考]
※シュガーのステータスを把握しました。
※セイヴァー(DIO)のステータスを把握しました。
※暁美ほむらが魔法少女だと知りました。
※ほむらの友人である鹿目まどかの存在を知りました。
※いろはの洗脳が解除されたことに気づいていません。
※肉体から魂が離れた影響で、一時的死亡状態です。ソウルジェムが彼女の肉体に触れた時、意識を取り戻します。



【環いろは@マギアレコード】
[状態]肉体ダメージ(大)
[令呪]残り0画
[ソウルジェム]有
[装備]いろはのソウルジェム(穢れ:なし)
[道具]
[所持金]おこづかい程度(数万)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の調査。戦いは避ける。
0.アヴェンジャー(ディエゴ)たちを追いかける。
1.沙々のソウルジェムを取り戻す。
2.時間泥棒を探す……? まだ早計に決めたくない。
3.マジェントさんと協力する。たぶん、悪い人じゃないよね?
4.バーサーカー(ヴァニラ・アイス)さんには要注意。
[備考]
※『魔女』の正体を知りました
※セイヴァー(DIO)のステータスを把握しました。
※暁美ほむらが魔法少女だと知りました。
※アサシン(マジェント)、アヴェンジャー(ディエゴ)のステータスを把握しました。
※少女(ほたる)がアヴェンジャー(ディエゴ)のマスターだと勘違いしています。



【アサシン(マジェント・マジェント)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(大)、肉体ダメージ(中〜大)いろはへの好意
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い。ディエゴの殺害優先?
0.優しくしてくれるからいろはについていく。スキになってきたぜ。
1.もうDioとは関わりたくないから、いろはと仲良くしてDioに間接的な嫌がらせをする。
[備考]
※Dioに似たマスター(ディオ)とそのサーヴァント(レミリア)を把握しました。
※バーサーカー(シュガー)の砂糖により錯乱状態ですが、時間経過で落ち着きます。
→錯乱状態は落ち着いてきてますが、場合によっては再び悪化するかもしれません。
※ほたるがマスターである事を把握しました。
※沙々の肉体に魔力(生気)がないのを感じました。


599 : ◆ZbV3TMNKJw :2018/12/28(金) 16:03:45 Q9Q09Y260
投下終了です


600 : ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:45:55 YYfvH54g0
始皇帝ひけたので投下します


601 : ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:46:40 YYfvH54g0
周囲の魔力感知―――……

「……駄目」

ほむらは項垂れる。
同じく、サーヴァントとしての能力で探っていたランサー・宮本篤も首を横に振った。

「どうやら俺達以外にも近辺で戦闘があったようだが、魔力は感じられられない」

彼らも彼らで、柱の男・カーズとの死闘を繰り広げた余韻に浸っていた。
ぎこちない緊張感が抜けない。
例え、他サーヴァントと接触したところで、即座に戦闘態勢を取ってしまう。
生存本能が強まった状況の最中、彼らはセイヴァーの捜索をしなくてはならない。
困惑し、投げかける言葉を迷うたまを傍らに、篤がほむらに助言する。

「サーヴァントが霊体化していると感知にも引っかからない。奴が実体化していないとしたら――」

「いえ! ……セイヴァーは実体化をしています。必ず」

と言うのも。
セイヴァーは吸血鬼で、日の光差さない場所でしか日中実体化出来ない。
悠々と活動可能な現在。
まだ、夜明けまで時間がある僅かな間。むしろ、全うな理由で対面するだけでも躊躇するのに。

ほむらの焦りを、自然と篤も、たまですら理解していた。
篤に関しては、薄々……一種の直感を糧に、セイヴァーの事情が存在と推測している。
そう。
吸血鬼。恐ろしく強い種族が日の光が弱点であるように。

むしろ、セイヴァーは吸血鬼ないし類似した存在ではないかと篤は推測していた。
彼との比較で、宿敵たる雅を挙げてはいたが。
ひょっとしたら、もしかするかもしれない。

(率直に聞くのも危険か)

篤はほむらに問う。

「ほむらちゃん。感知でセイヴァーを探し出すのは、現実的に困難だ。……念話の方を試してくれないか」

「………」

何故かほむらは沈黙してしまう。
篤の提案は逆に賢明で、念話で彼と連絡を取り合うのが普通に正しい。
しかし、彼女が酷く躊躇する様子を見て、たまはどことない恐怖を感じていた。
ほむらじゃあない。セイヴァーに対してだ。

未熟で半端で何故魔法少女になれたのか不思議な自分に比べ、ほむらは凄いと心底思えた。
だからこそ。
そんなほむらが躊躇する。それがセイヴァーの人格なのだろう。
ほむらですら怖気づいてしまう相手に、自分など張り合える自信もない。


602 : サーヴァント育成計画 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:48:13 YYfvH54g0
「ほ……ほむらちゃん!」

気付いた時には、たまが叫んでいた。
水差された篤とほむらの二人に注目され、呂律が上手く回らないものの。
必死に、たま自身の意見を述べる。彼女に自信の芽生と異なる。セイヴァーに対する不安と恐怖による後押しだった。

「や、やめよう……? 嫌だったら止めた方が……」

「鹿目さんのソウルジェムを浄化しないと」

「そ、その、ほ、他っ! 他の方法探そう、だって」

篤が割って同意した。

「俺も賛成だ」

「!」

「セイヴァーがソウルジェムを浄化できるなら、他の方法でもグリーフシードの代用が可能かもしれない。
 現状、セイヴァーだけが浄化手段を持ち合わせているのも効率的に合わない。
 直ぐにでも浄化をしなくちゃならない状況でもない限り、焦る必要もないはずだ」

「それは………」

言葉を濁すほむらの浮かない表情に、篤は問う。

「何か隠しているのか?」

「……隠し事は、ありません」

チラリとほむらは、まどかのソウルジェムを確認してみる。
穢れの色合いが濃くなっている。だが、呪いを伸びるほどでも、ピンクの色彩が薄汚れている程度で。
肉体とリンクの無い状態だ。濁りが増える心配もない。

篤にソウルジェムの秘密を明かすべきか?
まどかは、恐らく知らない。
彼女の時間軸も些か疑念を覚える部分であり、彼女の様子からして魔法少女である『信念と自信』に満ち溢れた。
ほむらと『最初に』巡り合ったまどかに近しいものを感じる。
故に、ほむらは魔法少女の真実を不用意に明かす事もなかった。


603 : サーヴァント育成計画 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:48:48 YYfvH54g0
(でも他に浄化する方法なんて……)

奇跡や魔法を考慮しないほむらは、素直に退く事を選ぶ。
意地になった方が、逆に疑われるし。最低でも、まどかのサーヴァント・篤を敵にまでしたくない。
深呼吸で気持ちを整え、改めて彼女は答えた。

「ごめんなさい。サーヴァントの襲撃を考えると、鹿目さんが魔法を使えない状態が危険だと思って」

「ああ、それもそうだ。……俺も疑っているんじゃあないんだ。
 ほむらちゃん。セイヴァーと何かあったのか?」

単純な話。
聖杯戦争が開始されるまで間が存在した。主催者は準備期間、主従の関係を深める交流期間と称している。
篤の場合は、まどかから魔法少女の話を聞き。
篤自身もまどかに己の過去を少し触れた事もあった。当然、ほむらも同じだろう。
間に関係が複雑となる問題が発生しても不思議ではない。

ほむらも感じ取っていた。
篤とたま。双方共に、ほむらへの疑心じゃあなく。心配を抱いているのだと。
彼らは――優しい者たちだった。
悪に屈する臆病者であっても善良なたまの、下手くそな優しさも。
化物を相手に無常の修羅となれる篤の中にある、英霊たる善も。

「お二人とも、ありがとうございます。セイヴァーとは何も……トラブルはありません。ご心配かけてすみません」

「ほ、本当に?」

たまの念押しに対し、ほむらは頷いた。

「むしろ……何もなさすぎる位」

「会話すらもロクに交わさないってことか」

篤の言葉をほむらは無言で肯定する。

「決して、一切会話などが無いかと問われると違うんですけど。何気ない世間話もなくて
 彼の思考も理解できない……それでも、私に有益な情報を渡してくれたり、見捨てる様子はないです」


604 : サーヴァント育成計画 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:49:28 YYfvH54g0
「ほむらちゃんがまどかの所へ向かった事も?」

「把握すらしていませんし、伝えてもいません。そもそも念話でやり取りは一度も」

「だから躊躇したんだな」

「はい……答えてくれるかも怪しいです。何かあれば直接伝えて来たので」

直接。
面と向かって話せ、そんな圧力を擬似的に与えているようだと篤は感じる。
むしろ、面と向かい合った方がセイヴァーの都合が良いとも捉えられた。
念話では効力の無い……スキルなどだ。
ほむらに対してもサーヴァントの能力を行使していない可能性も否定できない。

ハッと篤は気付いた。漸く――とも捉えられても仕方ない。
幾つかの情報。パズルのピースがある程度埋められれば、図柄が自然と連想できるのと同じ。
即ち。ほむらが無自覚にセイヴァーの術中に嵌っている事だ。

「ほむらちゃん。もう一つ確認したい。
 ソウルジェムの浄化が可能だと、セイヴァーから告げられた情報なのか。それとも――」

「えっと……実際に私のソウルジェムを浄化してくれました」

「……!」

現段階でセイヴァーの具体的な能力も宝具すら分からない篤だったが、
見滝原内だけでも、セイヴァーのカリスマ性の強さを理解することは出来る。
単純な話術以外に彼はスキルか、あるいは宝具を行使し、街の住人を支配下へ1人、また1人と引き込む。
マスターの、暁美ほむらも………
可能性を口にしようとした時。篤は察知した。

「伏せろ!」

篤が声をあげたのは―――たまに対してである。
彼女も、突如のことに困惑し、逆に反応が遅れてしまった。


605 : サーヴァント育成計画 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:49:58 YYfvH54g0
「ああああっ!!?」

たま自身何が起きたのか把握出来ずに、攻撃を直撃してしまう。
背後からの気配など、以前に使った魔法の国のアイテムを使用した状態なら、多少交わせたかもしれない。
だが『相手』も反射神経の高い存在だ。
躊躇なくたまの腕に牙を突き立て、彼女が抵抗するまでもなく、彼女を咥えたまま地面に叩きつける。
頭を強打した為か、たまは声をあげずに倒れ、動かなくなる。

死んだ……かも不明だ。それを確かめる状況じゃあない。
篤とほむらは、聖杯戦争と言う非現実かつファンタジーに属する舞台に居る身分。
現象に『ありえない』も無いと分かっていても。

牙に少女の鮮血を滴らせる中型ほどの肉食恐竜に目を見開くのだった。

「恐、竜」

驚愕するほむらの脳裏にウワサの一つが浮かぶ。
街路の奥から二頭の恐竜が続いて姿を現したのに、ほむらも銃を構えようとするが
まどかを抱えながらは難しい。
しかし、この状況でまどかを庇いつつ、戦闘に持ち込むのも……

「俺が相手をする!」

躊躇も無く篤が手元に抱えやすい『丸太』を出現させ、恐竜たちを追撃するべく振るう。
あっさり交わされたどころか、たまを叩きのめした間近の恐竜は、至近距離の攻撃を擦り交わしつつ。
篤に牙ではなく、尾を振り付けた。丸太の長さと太さで攻撃をガードする篤。
後から接近する恐竜らが到着するまで、何としても眼前の恐竜を倒さなければならない!

「ランサーさんっ!」

ほむらは、篤が恐竜を引きつけたのを利用し、まどかを降ろし、盾に手をかけていた。
彼が万全だったら問題はない。
篤は、ほむら達に変わって恐ろしい人でない主従と死闘を繰り広げた後で。
それなりの手傷を負ったままなのに、無理はさせられない。

今後のまどかが聖杯戦争を生き延びるには、篤の存在は欠けてはならないのだから。


606 : サーヴァント育成計画 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:50:27 YYfvH54g0


――ほむらの時間――


ソウルジェムの穢れもあるが、彼女の魔法も便利性・優位性は圧倒的で、普通なら使用に躊躇しない。
だが。
セイヴァー以外にも『例外』は存在するのだ。時の入門をする者が。
実際、彼女は時に『侵入』する怪盗と出くわした。
ひょっとしたらウワサの一つ『時間泥棒』や『時の勇者』も入門する可能性も。

とは言え。
今回の相手は恐竜だ。
ランサーを翻弄する俊敏な動きも、時を停止させてしまえば恐れる必要は無い。
ほむらは、警察署から入手した拳銃を手慣れた動作で構え、引き金を――

「……………?」

――アラもう聞いた? 誰から聞いた?  町を徘徊する恐竜のそのウワサ――

民謡の歌めいた不可思議な語り口調。ウワサに乗せられた内容。
引き金へ指をかけようとした寸前で、ほむらは気付く。
そもそもの話。『眼前の恐竜は一体どこから現れたのか』?

――でも知ってる? 実はそれって元々別の生き物だったって ――

『元は何の生物だったのか』?

――犬だったり猫だったり、きっとどれかに――

観察すれば分かる事だった。
恐竜は『服』を着たまま。そして、ほむらはその『服』に見覚えがあったのだ。
全てを理解したほむら。彼女が真っ先に抱いたのは――後悔。
自分は結局、鹿目まどかが全て。
彼女を助ける為に、彼女の為に、そして彼女以外の事はどうだって良い。

「違う!」

誰も居ない静寂の世界で少女は叫んだ。
単純に失敗した。うっかり、その可能性を見逃してしまっただけで。
まどかだけじゃあない。周りの人々、勿論――まどかの母親・鹿目詢子も。

――ならば目の前の結果は、一体なんだというのかね――

邪悪なセイヴァーが、傍らにいれば囁きそうな現実がほむらの前に広がっている。


攻撃をしかけてきた恐竜は『鹿目詢子』だった。


.


607 : サーヴァント育成計画 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:51:09 YYfvH54g0




寝ようとしても寝付けない。
美樹さやかは、外が多少騒がしいせいだと思っていた。
救急車かパトカーか、消防車のサイレンがあちこちから聞こえて来る。
距離を考えるに、さやかの住むマンションよりは離れた場所だ。戦火が降り注ぐ心配はない。

だが、聖杯戦争に関わる身。無視を決め込む訳で済まないのも当然だった。
未だ悩み彷徨うさやか。
沿岸の火事を眺める気分で救急車らしきサイレン音を耳に、夢心地に居るばかり。

(近い)

サイレンが途絶えたのが、近隣だと直ぐに分かった。
気付いた時。
さやかはベッドから体を起こしていたが、果たして現場へ向かったところで意味はあるのかと考える。
でも……近くで事件ないし聖杯戦争に関係ある事が発生したのは明らか。
近所――さやかが連想したのは、鹿目まどか。

(まさか、まどかの家……?)

ひょっとしなくても。いやいや落ち着こう。
さやかが眉間にしわ寄せ、片手で頭をかかえるが嫌な想像は離れない。

(いくら何でも――時間。そっか一応、聖杯戦争は始まってる。でもだからって)

始まって早々、攻撃をしかけるなんて……
流石に、否。実質、殺し合いと同レベルの戦争なのだから不意打ちもクソもない。
第一、戦争開始時に大胆不敵な犯行予告をした自称・怪盗も潜んでいるのだし。

(って……だとしても変じゃない? まどかが本当にマスターだとして、どうやってそれを)

さやかも、デパートの一件から鹿目まどかのマスター疑惑を抱いたほどに。
彼女を確信もって疑心するに至らなかった。
周辺の人間は愚か、中学生のまどかをマスターだと確信する証拠とは何だろうか?

『おい、さっきから何をしたいんだ。お前は』

呆れた刀・セイバーの声で部屋をウロウロしていたさやかが動きを止めた。
どっちにしろ行かなければならない。
昼間、デパートで購入したセイバーを収納する為のバッグを引っ張りだし、さやかが答える。

「まどかの家に行く」

『はぁ!? 俺の話を忘れたのか!』

「それとこれとは別! まどかの家は近所だし、救急車は近くで止まったみたいだから――様子見るだけ」

『様子見するなら明日でも構わんだろう』

「………じゃあ、アンタは置いてくよ」

『ふざけるな貴様ァ!!!』

「あたしもそこまで馬鹿じゃないから! ヤバいと思ったら逃げるよ」


608 : サーヴァント育成計画 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:51:53 YYfvH54g0
意地張って強行するマスターの姿に(刀に使うには不自然な表現だが)仕方なくセイバーの方が折れた。

『今回ばかりだからな!! 貴様がヘマした場合の責任は貴様だけが背負え!
 ……だから俺を連れて行け、分かったか!』

「はいはい」

五月蠅いセイバーだが、救世主に妄信する以外は割と話は通じる部類なので、さやかも奇妙に安心している。
これが言語や意志疎通の難しいバーサーカーだったら、心細いうえ。
ソウルジェムも濁り始めていた事だろう。

(大丈夫かな)

軽装に着替えつつ、さやかはソウルジェムの色を確認する。
色合い的には大丈夫と思いたい。
実際、見滝原へ至ってからまともに魔法を行使してないものの。不安だ。
サーヴァントの戦闘……セイバーの魔力消費も、マスターたるさやかから引かれるのだ。

(浄化、どうしよう)

一番の問題は紛れも無く『浄化』だ。
ソウルジェムが浄化しきれなければ問答無用で魔女に成る。また。二度目だ。
かつて魔女になったとしても、断じて再び魔女なんかになりたくない。

現実から目を逸らすべく、さやかは意を決して鹿目まどかの家へ駆けだす。


…………………………………………

……………………

…………


笑えるほどアッサリ、現場に到着する事が出来た。
違うだろう。
何事も無さ過ぎる不気味な状況と空気の漂った地帯へ、さやかとセイバーは到着する。
地面に無数の穴が点々とあり、周囲の設置物が損傷を負い、無造作に転がったままの消火器。

そして、鹿目まどかの自宅前に停車してある救急車。

後の祭りを体現した光景を目の当たりに、さやかの表情は強張る。
これでは……まどかだけではない。
彼女の家族も恐らく。周囲の惨状に対して、家の静寂はあまりに異常を醸していた。


609 : サーヴァント育成計画 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:52:27 YYfvH54g0
『マスター……マスター!』

セイバーがいつもよりも小声で呼びかける。

『もう退け。あそこにサーヴァントがいる』

「まどかの、家に?」

ソウルジェムを取り出し、魔力感知を行うさやか。
まともに感知をしたのは、恐らく杏子に邪魔された使い魔を発見する以来ではないか。
セイバーが撤退を促す理由も判明する。サーヴァントが、まどかの家の中に存在していた。

『……鹿目まどかは諦めろ』

「何言って」

『実感がないか。もう鹿目まどかは脱落した。サーヴァントも倒されたと言っているんだ』

「っ……! そんなのまだ決まって無いでしょ!!」

まどかの死体も。
本当にまどかがマスターなのかも分からないのに。
薄々、セイバーの言い分は全うだ。彼の方が正しいのだろう。賢明な判断でもある。
理解しても尚、さやかは諦めきれなかった。

結局、自分はこういう人間なんだろうと実感する。
美樹さやかは半端な正義感を抱き続ける『ただの中学生』だ。
友達と喧嘩しても大切にしたい、好きな子に告白できない淡い恋愛に苦悩する。
あまりに平凡かつ在り来たりな悩みで躓く、ちっぽけな人間。
だからこそ無常に諦めたくない。惨めに足掻きたいのだ。

魔法少女に変身し、バッグからセイバーを取り出すさやかだが、セイバーはどうにか説得し続けた。

『マスター! サーヴァントは単純な能力集団じゃあない!!』

「分かってる! …………」


610 : サーヴァント育成計画 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:53:05 YYfvH54g0
さやかが目についたのは――『誰も居ない』救急車だった。
運転手も、救急隊員すらいない。ポッカリと、展示サンプルのように路上放置されたソレ。
ジリジリと、だが呆然と不穏を感じ眺め接近するさやか。

―――ガシャン!

緊張感を打ち砕くかの如く、外へガラス製の物体が割れる音が反響した。
やがて静寂が広まる。
さやかの柄を握る手に汗が滲む中、恐る恐る振り返ると。
家の前に、咽返る悪臭漂う物体があった。どこからか落とされたソレ。

血肉………液状に等しい残留物。
それが収められていた透明の『箱』は、衝撃で破損状態にある。
ダラダラ地面に流れ続ける血肉の光景に、さやかは息を飲んでしまう。

赤い箱のウワサ。
まさか、鹿目まどかを襲撃したのは―――………
否。過程がどうあれ『箱』が意味する答えは一つしかない。


「悪いな。俺が来た時には、既にこの状態だったぜ」


頭上から聞こえる若い男の声。
悠々とまどかの家の二階にある窓から、さやか達を見下すように話しかけているのだ。
紛れも無い。皮肉あり、嫌味ある愉快犯染みた口調。敵であり悪たるサーヴァント。
さやかが、威勢よく反論する前に悲壮に満ちた叫びを挙げたのは――セイバー・アヌビス神だった。

「で………DIO様!?」

え?

馬鹿げた見間違いではないのか。突然の事に、さやかは思う。
一方、彼女の手元にあるセイバーは勝手に酷く取り乱している。
本当にセイヴァー……? 彼が鹿目まどかを?? 見上げればいいだけなのに、さやかは不思議と動けなかった。


611 : サーヴァント育成計画 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:54:25 YYfvH54g0
男は少し間を置いて尋ねる。

「お前は……サーヴァントとして召喚されたのか。あぁ、随分と久しいな。確か」

「は、はい! アヌビス神でございますッ! お久しゅうございます、いえッ。
 再び貴方様にお会いでき光栄です!! あ、貴方様が召喚されたと聞き、日夜探しましたとも!!!」

話を誇張させているが、アヌビス神の露骨な社交辞令にさやかも突っ込むどころか。
一体どうすれば、そう途方に暮れる。
彼の態度の変わりように加え。アヌビス神が敵わない相手を前に、勝算が失いかける。
アヌビス神自身も伝えていた。
セイヴァー・DIOに忠誠を誓ったのは、救済の他にも、絶対的な力があるからこそだと。

『赤い箱』を目撃し、恐れを抱かないどころか平然と道具扱いし、さやかの前へ放り投げた者だ。
普通じゃあない。
それに、ウワサを準えるなら。述べた通り、彼の仕業ではないのだ。
だが―――………
さやかは手元の剣を握りしめ直す。

「ところで、一つ聞きたいが」

飄々とした口調で問いかけた男をさやかが見上げる。
月光の反射で表情は読めなかったものの。ある一つの確信だけを得た。
不敵な様子を浮かべ『DIO』は冷酷に告げる。

「お前は『そうやって』私の真名を振りまき続けていたのか?」

「………え」

「私の情報をマスターに明かしたのは、彼女が私以上に信頼たりえる存在だからか」

「ち、違います! なっ、な、何も話しておりません! 貴方様の真名以外は何もッ!!」

「何も? 真名から十分私を探れる筈だ。情報網に関しては過去より遥かに発達した時代だからなぁ?」

つまり。
無常たる『DIO』の言葉には圧を帯びている。無暗に敵へ情報を渡してはならない。
生前。表現は些か変だが、サーヴァントに成る以前より。
DIOの宿敵たるジョースター一行を相手にもDIOの情報を明かさなかったよう。
本来であれば、英霊の真名である『DIO』の名も無暗に口を出すべきではない!


612 : サーヴァント育成計画 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:55:38 YYfvH54g0
迂闊に真名を呼んだアヌビス神を、果たして『DIO』が許すだろうか。
全てを理解した刀は、無意識に震えだすのは仕方のない事だった。

「申し訳ございません! 許して下さいDIO様、わ、私はそんなつもりはっ……!」

「許す? 私は何を許せばいい。お前の愚行、お前のマスターが私の真名を知った事、あるいは私に刃を向けた事」

「ハァ………ハァ………! あ、ああ、そ、その」

冷静を失ったアヌビス神は、もうきっと駄目だと悟る。
自分は『DIO』が得るべき聖杯の糧で済みたいのだ。川底で沈み続ける以上の運命など受け入れたくない!
だが、嗚呼。
セイヴァーを知る故に、残酷な末路を強いられるんじゃあないか。
恐怖が纏わり続けていたのだ。

瞬間。
アヌビス神をコンクリートへ叩きつける少女―――美樹さやかは叫んだ。

「目を、醒ませっての!!!」

サーヴァント兼宝具であるアヌビス神を雑に扱うのは宜しくないが。
少女は、荒治療には仕方ないものだと割り切って行動を起こす。
正気に返ったアヌビス神が、良くも悪くも相変わらずの怒声を上げた。

「突然叩きつけるな! 刃こぼれしたら、どうするつもりだ!!」

「アイツはセイヴァーじゃない! 似てるけど」

似ている。さやかが付け加えた通り、彼らを見下ろすサーヴァントは酷くセイヴァー・DIOを彷彿させる風貌。
が、決してセイヴァー本人ではない。
顔立ちや髪型、体格も、セイヴァーとは別人だ。にも関わらず――奇妙にも『似ている』。
呆然とするアヌビス神を鼻先で笑った『彼』は、悠々と窓からさやか達の眼前に着地して見せた。

「笑っちまうな。アイツにビビリ過ぎだろ? いや……『真名』を聞かせて貰っただけ十分だ」

教えて貰ったより、アヌビス神が『勝手』に喋った形に近い。
さやかは、アヌビス神と魔法少女の武器の剣を構え。
セイヴァーと酷似する青年・ライダーを睨みつける。
救世主でないなら尚更、彼は鹿目まどかの家で何をやらかしたのかが重要だ。


613 : サーヴァント育成計画 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:57:09 YYfvH54g0
「あんた……まどかをどうしたの。まどかの家族も!」

「人の話を聞いてねぇのか? 俺が来た時は既に戦闘は終わっていた。家には誰も居ない。
 ……一つ加えるなら、もう一つ『赤い箱』が家の中にあっただけだぜ」

「あんたが『赤い箱』の奴じゃない証拠でもあるワケ」

「………」

鈍いさやかの視線と鋭いライダーの眼光が衝突した矢先。
離れた場所から、小さな動物の鳴き声が聞こえる。確実に接近する存在へ、さやかがチラと目を動かせば。
俊敏な挙動で駆ける――サイズが不釣り合いなものの、正真正銘の『恐竜』だと分かる。

恐竜のウワサ。
シンプルで単純な話は、さやかのクラスでもウワサされていて。
実際に、恐竜を目撃したと証言する生徒が居た。

数で群れなしていた恐竜らは、さやからを無視し、ライダーの方へ駆け寄り。
訴えるように鳴く姿は、ライダーと会話している風にも感じられた。
意志疎通しているか不明だったが、恐竜の様子を眺めてから、ライダーは再びさやかに意識を戻す。

「俺がわざわざ現れた理由は一つ。ソウルジェムの情報を得る為だ」

「ソウルジェム……?」

「正確にはお前が使っている『ソレ』だ」

魔法少女のソウルジェム……!?
まさか『他の』魔法少女と出くわして――誰と? 鹿目まどかじゃあないなら、暁美ほむら。
巴マミ、佐倉杏子……警戒心を高め、さやかは問う。

「それを聞いて、どうするのさ」

彼女の返答にライダーは顔をしかめて「は?」と挑発的に睨み返す。

「どうもこうも。ソウルジェムはここにもある」


614 : サーヴァント育成計画 ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 12:58:24 YYfvH54g0
ライダーが懐より取り出したのは――ソウルジェム。
色彩の無い、聖杯戦争の参加権として配布された無色透明の宝石。形も呼び名も、形状も酷似している。
決して魔法少女と無関係じゃあない証拠だ。
さやかはピンと来ないが、ライダーが呆れた態度で続けた。

「恐らく、お前のと原理は同じだ。そこにお前の魂が入っているように、空っぽのソウルジェムに英霊の魂が入る」

「……だったら。なんだって言うの」

「お前。さてはバカだな? ソウルジェムに起きる最悪な『事故』も、お前のと同じって意味だ」

「…………あ」

漸く、さやかは全てを察した。そして悪寒が走る。
本来のソウルジェムは、魔力の消耗、あるいは絶望などの感情エネルギーで穢れが発生するものだ。
聖杯戦争の場合は………?
サーヴァント自体が濃度の高い魔力だ。が、消滅する要因に戦闘が含まれるなら。
彼らも魔法少女と同じく、絶望を抱くのなら。
そうなったサーヴァントがソウルジェムに入ったとしたら?

全てが、ソウルジェムの在り方に変化がなければ結果も同じ。
迂闊だった少女の顔色を伺い、ライダーは確信を得る。
最も、彼の場合――さやかから情報を聞き出す必要は無いのだ。彼女を恐竜化させ『支配』すれば終わる。
知らぬさやかは、必死に思考を巡らせていた。

(お……落ち着け。落ち着け……あたし………コイツはマミさん達の誰かと会ってるんだ。
 ひょっとしたら……ソウルジェムの秘密なんか教える訳に……でも―――)

『魔女化』の秘密。
仮に教えた場合、相手が信用するかどうかはともかく。
ライダーは聖杯獲得の方針を躊躇するかもしれない。一種の抑止になるのでは。
逆に考えるんだ。教えちゃってもいいさ、なんて具合に。


「……いいよ。教えてあげる。ソウルジェムの秘密」


.


615 : ◆xn2vs62Y1I :2018/12/30(日) 13:03:13 YYfvH54g0
前半の投下を終わりにします。続きは来年の投下になりそうです。
そして、投下して下さった話の感想をします


>「そこに愛はあるのかね」
幸いなのか、最悪になってしまうのか、マジェントと本格的に合流できたいろはちゃん
当分、彼女一人で戦うハメになりそうだった為、どんな奴であれ
仲間が得られるのは嬉しいものです。
マジェントも、彼女に関しては紛れも無く『善人』なのは確かですから
是非ここで彼自身の成長をみせて欲しいものです。
そして、ヴァニラアイスはDIOと合流できるのか。他の誰かと出くわすのか……
今後の展開が気になる話をありがとうございました!


616 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/04(金) 18:05:43 ASclUuE20
現在の予約にライダー(マルタ)&佐倉杏子を追加します


617 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:42:32 o1.4Luvw0
長くなりましたが後編投下します


618 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:43:09 o1.4Luvw0
「撃つのを躊躇したのか、暁美ほむら」

時が静止している筈の世界で、男の声が響き渡った。
まさか、ほむらが咄嗟に声の方角へ銃口を向けた先に、神父の恰好をしたサーヴァント・ライダーが物影より現れる。
『入門』をしている。
二度あることは三度ある……否。
ウワサ通りならば『入門』なんてのは一つのアドバンテージでしかないのだろう。

魔法少女程度の時間停止が恰好な餌であって。
『入門』可能なサーヴァントは、ほむらの魔法を逆手に暴れ回ってる筈だ。
神父のライダーも、その一人。

………なのだが、彼からは敵意を感じられなかった。何故?
ほむらが以前、鉢合わせした怪盗・シャノワールとは別の雰囲気をどことなく漂わせている。
敵ではない?
もしかしたら―――

「私の事は『DIO』から聞かされている筈だ」

「………」

コツコツと接近する神父のライダー。
彼の歩みからは例え、銃弾を放たれても急所が絶対に逸らされる運命にある確信がある『凄み』がある。
DIO。セイヴァーの真名。
しかし、ほむらは銃を構え続け、降ろす素振りをしなかった。
神父のライダーが一旦歩みを止め、彼女と対話するに必要な距離感を保った。

ほむらの眼光。姿勢。
直接対面した事で神父のライダー・プッチは理解した。
不思議だが……レイチェル・ガードナーとよく似ている――
レイチェルは『ディエゴ』を信頼し、彼の為に何か為そうとする信念があったように。
暁美ほむらにも、黄金の精神とは対なす信念を感じられる。

ほむらは銃口を向けたまま、濁りある瞳で問う。

「一つ確認します。貴方はセイヴァーに何を齎すつもりですか」

「必要なことかね」

「確認だと、私は言いました。答えられませんか」

「……」

確認も何も無いに等しいが……暁美ほむらにとっては重要なのだろう。
彼女からして、プッチの存在を把握していても『初対面』も同然。信用足り得るかは怪しい。
プッチは迷いない瞳で答える。

「私は友として――『DIO』の天国への到達を実現させる」


619 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:43:55 o1.4Luvw0
ただそれだけを。
暁美ほむらは、静かに銃を降ろした。

「ありがとうございます。……『時の入門』を行うサーヴァントの警戒として、貴方の事はライダーと呼ばせて貰います」

「君が時を静止させるのにも運命を感じるが、他にも『入門』する敵がいると」

「怪盗シャノワール……ウワサでも聞いていると思われますが、彼もその一人です」

予想外な『入門者』にプッチも目を見開いた。
如何なる場所への侵入を可能にする怪盗。逸話ではそう語られている存在。
重要なのは――場所と侵入の範囲。
静止した時間。即ちそれは『支配された空間』……擬似的な固有結界という意味である。
ほむらは静かに話を続ける。

「私が言うのも、ですが……やはり英霊です。彼も相当な実力者。出会った際は気をつけて下さい」

「……ああ、そうしよう」

「そして、セイヴァーから貴方に対する伝言などは……私には託されていません。
 恐らく―――私はまだ、彼から信用されていないのだと思います」

信用がない。
少女は俯き気味に呟いた。皮肉にもプッチも理解ができる。
彼も『DIO』……ディエゴから完全な信用をされていない。
実際、マスターであるほむらの傍らに『DIO』は居ないようだ。
この状況、霊体化してたとしても、直ぐに解き、プッチと対面してくれる筈。

「暁美ほむら。君はDIOの天国への到達をどう思っている?」

プッチの尋ねに、ほむらは顔をあげた。
眼差しには芯があり、ハッキリと濁りなく言葉が紡がれる。

「信じています。セイヴァーは……天国への到達で私を、私達を救うと約束してくれました」

救う。
邪悪でありながらも、救世主たる英霊を信じた言葉。
ほむらが果たしてDIOの洗脳下に置かれているかは不明だが、彼女の信念を貫くのに『救済』が不可欠なのだろう。
全てに納得した事でプッチは告げる。

「良いだろう。ならば、暁美ほむら―――君は時の静止を利用し、この場から離れるのだ」

「…………!」


620 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:44:44 o1.4Luvw0




あっけなく情報を自ら明かした美樹さやかに、ライダー・ディエゴも納得した。
所謂、ソウルジェムの秘密だ。
偽善的な正義感を抱えるさやか故に、あえて情報を明かしたのだ、と。

魔法少女は魔法を使用すればソウルジェムが濁り。
さやか自身、負の感情でソウルジェムは濁ったと述べていた。
これはプッチが巴マミを観察した際、見られた現象と同じ。

そして……ソウルジェムが穢れ切った時。
殻を破って誕生するのは、世界に呪いを振りまく化物・魔女。
いづれ魔女に成り果てるからこそ、魔法少女……とは皮肉な呼び名である。夢も希望も無い。

『待て貴様!? そんな話、俺は知らんぞ!!?』

――と。
これまた騒がしい武器のセイバー・アヌビス神が突っ込む。
ソウルジェムの仕組みを把握していたが、穢れの情報や末路を知らなかったから……むしろ。
一番重要な問題を、あえて伏せたマスターに怒りを覚えるのは当たり前であった。
だが、さやかも感情的に反論した。

「デリカシーってのがあるだろ! 刀のあんたには共感できない心身の問題!!」

『馬鹿か! 穢れで死ぬ可能性もあるのは重要事項の一つだ! どうしてこう、貴様は肝心な部分を伏せるのだ――』

漫才じみた喧嘩が繰り広げられそうな場面で。
一滴、水を差してきた存在がいた。

「ねぇ……」

幽霊にでも呼びかけられたかと思うような小さな、無気力な少女の声に、さやかはドキリと身を跳ねる。
いつの間に、金髪の少女がさやかに近付いていた。
サーヴァント……じゃあない。状況的に、ディエゴのマスターだと察せる。
先ほどまでは、身を隠していたのだろう。

にしたって。
気配無く、初対面ながら不気味さを感じる少女は、多分さやかと年が近いと分かるものの。
嫌な印象を覚えてしまうほどだった。
少女が気迫に満ちた表情で、さやかに問い詰める。

「聖杯……聖杯、作れないの?」

「え」


621 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:45:15 o1.4Luvw0
「私、どうしても聖杯で叶えたい願いがあるの。聖杯『でしか』叶わないから」

「ちょ………ちょっと……」

「どうしたらいいの。聖杯がないと、私」

危機迫るものを与えられ、困惑するさやか。
夢を叶えたいレベルじゃあない。奇跡か魔法がなければ成し遂げられない願いを、さやかも抱いた事はある。
だけど。
『こんな感じ』だっただろうか? 必死になって、恐怖すら抱かせるほどの。
人によって違う筈だが。金髪の少女は、何となく――他とは違うものを感じた。

「あ……あたしも分からないよ!」

押されてさやかは咄嗟にこう返事をしてしまう。少女の気迫が、どこか静まった様に感じた。
便乗気味に、立て続けてさやかは言う。

「主催者の連中がなに考えているかも、本当に魔女的な化物が産まれるかも! だ、だからさ……」

「……………」

濁った瞳で睨まれたさやかは思わず。

―――う……なんなのコイツ……

嫌悪を内心で漏らしていた。少女の方には、それほど『凄み』がある。
困惑するさやかに助け船を出したのは、意外にもディエゴだった。
彼が「レイチェル」と呼びかけ、少女――レイチェルは落ち着いた風にさやかへの問いただしは止めた。
ディエゴは助けた訳じゃなく、レイチェルの行動に不満があったからだろう。
ぎこちない態度でさやかがディエゴに尋ねた。

「ねぇ。あんた、これからどうするつもり?」

「聖杯を手に入れる以外、何がある?」

裏切られた、という衝撃は微妙にあったものの。
それ以上にソウルジェムの秘密を承知で、方針を揺るがない姿勢に驚愕した形に近い。
目を丸くさせる魔法少女に、ディエゴは冷静に反論した。


622 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:46:03 o1.4Luvw0
「正しくは『サーヴァントの魂』を確保するのは止めない」

「あ、集めてどうすんのさ。使い道なんてないじゃない」

「そこの刀は説明しなかったか? サーヴァントは濃度の高い魔力で構成されている……魂だけの状態は膨大な魔力源でしかない」

主催者の説明。
もしくは、マスターたちの認知で語るならディエゴの説明通り。
膨大な魔力で『聖杯』という形にし、願いを叶える。

「つまり、相応の魔力があれば『願い』の実現は可能だ。あるいは魔力じゃあない『魂のエネルギー』でもな」

「意味わかんない……魔力とかエネルギーがあれば『奇跡』が起こせるの……?」

「お前も体験した筈だが? 胡散臭い小動物に願いを叶えて貰った原理と同じだ。
 そいつらが『どうやって』願いを実現化させている? 願いを叶える為の『エネルギー』はどこから来る?」

さやか――魔法少女の場合。
少なくとも、魂がソウルジェムに入れられた時点で、魂のエネルギーとは無縁。
白い獣達は『どのような手段で』願いを叶えさせているかは、さやかも分からない。
エネルギー……本当に、そんな事が可能なのだろうか? 俄かに不明な話題で半信半疑になるさやか。

しかし、意外にも。
ディエゴの考察へ口を出したのは、アヌビス神だった。

「……お、お前は本気なのだな。何故なら、既に手段を確保しなければ、断言できる根拠もあるまい」

「察しが良くて助かるな。俺が信用している情報は『魂のエネルギーで願いが叶う』点だ。
 残念ながら『手段』の方は確立しちゃいないが、これだけは紛れも無く真実だぜ」

「…………」

どういう事なのだろう。
アヌビス神は、話題とは異なる点で疑問が絶えなかった。
眼前の男。救世主と似ているだけの青年、と割り切るには難しいにもほどがある。
だが、アヌビス神も救世主に子息がいたか。兄弟が居たかも知らない。
ウワサでも聞かないから、憶測は憶測に過ぎず。普通なら、ライダーをDIOではないと判断するべきだ。


623 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:46:46 o1.4Luvw0
にも関わらず。
先ほどの説明や語りや雰囲気の節々からDIOを彷彿させる片鱗が垣間見える。
けれども、ライダーはDIOのような威厳と恐怖、所謂『カリスマ』は感じられない……
……否。答えは前述の通りだ。

ライダーは『カリスマを失ったDIO』の一言に限る。

「待って。ライダー」

すると突然、レイチェルが割り込んでくる。

「あの神父様を信じちゃ駄目だと思う。あの人はライダーじゃなくて、セイヴァーの事しか見てない」

神父?
この場に居ない存在の話題に、さやかも入りこむ余地が無いが、聖杯戦争に関係する仲間だと察せる。
そして、セイヴァーと関係がある……?
途端、ディエゴの口調は苛立ったものとなった。

「何度も言った。アイツは信用してない。採用した情報は『魂のエネルギー』だけだ。
 奴はそういう自覚を持っちゃいないが……回収した『魂のエネルギー』とその他の媒体を用いて
 天国の到達とやらを『実現』させた。言葉を変えれば、願いを叶えた。……いいか『材料』は正しい」

険しい表情のまま沈黙したレイチェルに、ディエゴは舌打つ。
面倒だが、レイチェルは邪魔をするつもりはなく。プッチを警戒・信用をしてないが故の行動を取っている。
利用するまで。期限は決まっている。
全てを聞いた美樹さやかは、改めて刃を、セイバーを握りしめ、ディエゴを睨む。

「悪いけど、あたしは馬鹿だから。あんたみたいに割り切る事が出来ないんだよね」

「………」

「利益の為に他人を犠牲にして……開き直って好き勝手に生きたりなんかしたら……
 そんな事をしたら――あたしはもう一度『魔女』になる。やっぱり無理だよ」

「そうか、残念だな」


624 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:47:18 o1.4Luvw0

――――さやかッ!!!


幻聴なのか。どこからか赤髪の魔法少女の声が聞こえたような。
さやかが周囲を見回すまでもなく。戦闘が始まる必要すら皆無だった。
コレに関して、アヌビス神ですら予想外だったのだ。

痛みなんて慣れちゃうよ。

魔法少女に体験した死闘に比べれば、大したこと無い鈍い痛みが、さやかの肉体に刺さる。
一瞬、理解が追いつかず。
誰がさやかを刺したのか――想像すれば犯人は一人しか居ない。
ディエゴは一歩も動いていない。
包丁を手に、その刃を突き立てたのは……レイチェル・ガードナー。

「う……そ……でしょ」

『何をしている!? マスターの方を攻撃しろッ!!』

さやかはソウルジェムが砕かれなければ問題ない。刺された所で問題はなかった。
問題なのは――レイチェルが、さやかを刺した事実である。
自分と同い年で、雰囲気が悪いとは言え、ちっぽけな少女が殺人に手をかける。
ましてや、魔法少女でもない一般人の行動に、動揺してしまうさやか。

ディエゴが能力で操っているなら分かるが、レイチェルの場合は正気で、自らの意志でさやかを殺しにかかった。
弱々しくさやかが、アヌビス神でない剣の方を振るう。
威嚇程度のもの。
レイチェルは、包丁を刺した際。さやかからの反撃を見越し、距離を取っていた為、刃は届かない。

しかし、戦闘を火ぶたは切られた。ディエゴの傍らに居た小型の恐竜たちが攻撃を仕掛ける。
統率のとれた動き。
俊敏な恐竜。驚く事に、さやかは見切った。
魔女や使い魔との戦闘経験以上にアヌビス神の宝具によって、彼女自身が強化され、擬似サーヴァント状態と化している。

地面から跳躍した使い魔たち。
宙で即座に回避行動を取るのは難しい。判断した後に、さやかは二刀流で連続に切り裂く。
身を捩り、避けた恐竜もいるが、幾つかを刃で斬り伏せる事に成功。


625 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:47:47 o1.4Luvw0
『安心しろ、マスター。二度目はない。先ほどの回避行動は既に見切った!』

恐竜の動き。理性なき生命の行動パターンなど人間以上に単純であった。
アヌビス神の能力の一つだ。戦えば戦うだけ強くなれる。一種の経験値システムだ。
さやかも、こうして彼を使用した事で実感できる。
魔法少女として、闇雲な戦闘をしたのとは違う。相手の動きが読めるだけで、巴マミのような鮮やかな戦闘をしている気がした。
さやかは剣を量産できる為、投擲武器に利用したり……

今更、魔法少女なんて。
暗い感情を抱いたが、気を取り直して振り払い。さやかは、ディエゴの方へ駆けた。

「後は――あんただけだ!」


―――くそっ……こんな時に何もできねぇのかよ!


「っ!?」

攻撃が緩んださやかの振りを、ディエゴは動きを見切った風に軽々と最小限の身捩りで回避してしまう。
やはり、気のせいではない。
先ほどから『声』が聞こえる……!
魔法少女同士で念話に近いテレパシーで会話が可能なのだが。例の声は、それと同じ感覚だ。
遮るかの如く、アヌビス神が吠えた。

『余所見をするな! 戦闘に集中しろ! 接近戦である以上、絶対に負ける事はなぁいッ!!』

さやかは眼前のディエゴが攻撃をしかけると理解した。
僅かな筋力の動きが読める。奴が距離を縮める為に足を動かし腕を上げ、手を構え――恐竜特有の鋭利な爪に変化している。
なら、手首ごと切り落としてやろう。
アヌビス神でサーヴァント並の敏捷で斬撃を繰り出す構えだったが。

(え―――なに)

刃を振り落とす一瞬で、さやかは状況を飲み込めずにいる。
ディエゴは手を上げ、停止した状態のまま攻撃を受け止めようとしているのだ。
手で押さえる? 抑える前に切り落とされるだろう。否、本当に?
アヌビス神がハッと本能で感じる。


『勝てない』と


626 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:48:21 o1.4Luvw0
手首を攻撃されたのは、さやかだった。
アヌビス神を握っていた手首を下方より打撃が加えられ、反動でさやかは刀を手離してしまう。
下から? 足は動いていない筈―――

視線を落とした先にあったのは、恐竜の尾。
手足に動きがないのは当然。人型には通常存在しない、宝具による恐竜状態で生える器官の動きを見切れなかった。
いや、部分的に発生するとは想定外だっただけ。

これがアヌビス神を手にした状態であれば『攻撃を記憶できる』ものの。
最早、擬似サーヴァントの補正を失ったさやかには『次のチャンス』は二度と無い。
ゾッとさせる速度で、ディエゴの手刀が襲う。
相手の速度が加速した訳じゃあない。さやかの方が遅くなったのだ。


これで終わる。
さやかは悟ってしまった。だけど……魔女になって死ぬよりも、マシなのかもしれない。
瞬間。誰かの大声と共に、恐ろしい爆音が響き渡った。







幾つか、ほむらはプッチに虚偽を述べていた。
セイヴァーからプッチへの伝言や、エンリコ・プッチの存在そのものを。
一種のカマかけに乗った彼が己を『友』と称した事から、以前にセイヴァーが口にしていた。
救世主じゃあない。
彼曰く『私』ではなく『俺』。
本来のDIOが知る『信頼できる友』がプッチなのだと推測出来た。しかし……まさか召喚されているとは思わず。

ほむらはプッチの真名を知らない。否、セイヴァーがプッチを知らないのだ。仕方ない事である。
正直に話すべきか……いいや。
上手く誤魔化せる。ほむらは言葉を慎重に選んだ。

結果。
プッチからの提案に、彼女が一瞬の動揺を現にしたからだろう。
彼は落ち着いた口調ながらも、問いかける。

「君が恐竜から逃れる方法を教えたのだ。このランサーでは恐竜をどうする事も出来ない」

「それは……無理です。私は鹿目さん……彼女とランサーをセイヴァーの元へ届ける必要があるんです」

普通なら当然の対応を行うほむら。


627 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:48:43 o1.4Luvw0
「ライダーさん。貴方は恐竜を食い止める事は可能ですか」

「私が可能な手段は、恐竜を始末する事だけだ。しかし、先ほど君は恐竜の始末を拒んだ。私の提案には賛同しないだろう」

「……いえ。むしろそれをお願いしたいんです」

重要なのは――『鹿目詢子』が恐竜になったのを、ランサー・篤が把握しないこと。
ほむらの手元が震える。
自分が提案する内容が全うじゃあないのを承知して。神父のライダーが、承諾するかを試すかのように。

「その恐竜は……彼女の、鹿目さんの母親です。例え、私がここで彼女を撃ち殺したとしても。
 ランサーさんが気付かずに殺してしまっても。どちらも駄目です。事実が重要なんです。
 恐竜のウワサのサーヴァントが、鹿目さんの母親を恐竜にしてしまった……その事実が」

事実が判明した時、彼らはどうなるのか。プッチは理解に至る。

「成程。本来、君達はDIOに接触するべく行動を共にしていた。
 そして、その少女の母親が擬似的な『人質』に捕らわれた事実を知れば、彼らは母親の開放を優先してしまう」

「はい。事実を隠蔽するのは難しいです。可能な限り、私達がセイヴァーに接触するまで、時間稼ぎをしていただきたいんです」

「事実を隠せるのなら、この恐竜を始末して構わない――と」

「……ごめんなさい。出会って早々に、こんな事をお願いしてしまって」

遠回りに濡れ衣を被って欲しいと頼んでいるも同じだ。
ほむらも、半ば申し訳なさを抱くが。一方で、本当にプッチがセイヴァーの『友』ならば。
彼だってドス黒い悪に等しい存在。
神父の風貌とは別で、吐き気を催す邪悪を腹の底で蠢かせている。であれば、ほむらの些細な要望に抵抗は皆無だろう。
彼女が懐疑した通りに、プッチは見据えた表情で答えた。

「いいだろう。DIOが彼らを必要とし、君に『覚悟』があると分かった以上。私が責任を以て、恐竜を始末する」

「……」

まるで少年少女の無知なる純粋さで彼が答えるのに、流石のほむらはギョッとした。
彼は、ほむらの為を思って、ほむらを信用したから――ではない。
DIOを、セイヴァーを信じ、セイヴァーの為だけに行動をしているのだ。
ほむらが鹿目まどかを基準に行動するなら、プッチはセイヴァー……DIOを基準に行動している。


(わたしは……)


自分は違う筈だ。仕方なくやっているだけで……悪い事だと分かっていても。






628 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:49:06 o1.4Luvw0
「なにが起こった……?」

ありのまま起こった事を説明すると『眼前に居た筈の肉食恐竜が一瞬にして姿を消してしまった』。
武器を抱えたままの篤も、訳がわからないのだが。
実際にそうなのだから仕方なかった。
恐竜の姿はなく。だが恐竜の居た痕跡として、地面に突っ伏した状態のたまが転がっている。

「ランサーさん……」

篤の背後でほむらが呼びかける。彼女も状況に混乱しているのだろう。

「サーヴァントの宝具……だと思います。とにかく、ここから離れませんか? 敵に捕捉されたのかもしれません……」

「あ、ああ」

幻覚だったのか?
まだ敵の宝具を適当に判断するべき状況じゃあない。篤も慎重になる。再び恐竜の襲撃がある可能性。
もしくは、既に敵の術中に嵌っている恐れを。敵が捕捉するのに使った手段もありえた。

まどかを抱えるほむらは、気絶している少女・たまへと近づこうとする。
だが、篤は悪寒を覚えた。
本能的な、化物共も戦い続けた経験で得た察知で、ほむらを食い止めたのだ。

「近づくな! ほむらちゃん!!」

「えっ………!?」

唐突にムクリと起き上がるたま。
犬の少女――彼女の肉体の節々にヒビが入っており、肌荒れの類とは異なる現象で発生したものだ。
正体は直ぐに分かる。
彼らに振り向いた少女の顔は、人でも、ましてや犬でもない。
先ほど彼らが遭遇した、恐竜めいた瞳に変化し、口元がボロボロと裂け始める。

「くっ―――!」

篤は、たまを警戒していたが。これとそれは別だ。
彼女の異常は、篤が相手した怪物達の仕業じゃあなく『恐竜のウワサ』。
まるで感染だ。例えは存外しっくり来る。
吸血鬼が吸血鬼を増やすように、恐竜も攻撃した相手を恐竜にする……そういう仕組みだ!
恐竜化の進行も遅いたまは、咄嗟に繰り出された篤の丸太を回避できずに、遠くへ薙ぎ払われる。


629 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:49:32 o1.4Luvw0
「ランサーさん!」

「ほむらちゃん! 一旦ここから離れるんだ! ほむらちゃんの言う通り、敵に捕捉されているかもしれない。
 それと攻撃を受けないよう、まどかの方も気をつけてくれ!!」

「攻撃……!? は、はい! わかりました!!」

これには、ほむらも予想外の展開だった。
篤自身たまへの思い入れが少ない分。撤退を優先してくれたのはありがたい。
しかし―――問題は、たま。
彼女が恐竜化したのは、神父のライダーも恐竜化の条件を理解していなかったからだろう。
走りつつ、ほむらが篤に確認した。

「攻撃を受けたら恐竜化する、ということですかっ!?」

「まだ断言はできないが、あいつは恐竜の攻撃を唯一受けている。そして、恐竜になった……感染したと考えれば辻褄は合う!」

「感染―――」

「だとすれば、親玉を叩かないと奴の恐竜化の解除も難しい」

念の為、振り返るが再びたまがこちらへ来る気配や姿は『まだ』無い。
それも時間の問題。ほむらは空模様に朝の陽ざしが感じられるのを目にした。微かだが、空の色に変化がある。
これでは、セイヴァーとの接触が更に難しくなった。
今は……恐竜化状態のたま。ウワサの元凶たるサーヴァントからの逃走。

「ランサーさん! ここに行きましょう!!」

ほむらが差したのは――マンホール。つまり下水道。
朝になれば、人々の目から逃れて、まどかを運ばなければならない。
魔法少女の姿も、非常に目立つ。それを考慮した提案だったが、篤は別の視点で捉えていた。

「そうか。恐竜がマンホールを開けるのも、ここに入るのも簡単に出来ないな」

完全に恐竜と化せば、人には簡単な動作は困難となる。
町をアテなく彷徨うよりも安全に逃走可能と篤は判断した。






630 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:50:12 o1.4Luvw0
あれ。どうなったの、あたし………。
さやかの意識が朦朧とする最中、目を醒ますような絶叫が響き渡る。

『みみみみ、水に浸かってしまったぁあぁぁあ――――!! ははは早く! 早く俺を拭け―――!!!』

「み……ず……?」

バッと起き上がったさやかの体も、確かに濡れていた。
周囲は薄暗い。明かりも乏しい、臭いも酷い、独特の地下道……所謂、下水道に転がっていたとさやかは理解する。
ただ、彼女は下水に浸かってはおらず。
歩行用に整備されたコンクリートの脇道におり。泣き喚くアヌビス神も、傍らに転がっていた。

漸く思い出す。
あの時―――突然、さやか達の足場が崩落したのだ。間違いなくサーヴァントの攻撃で。
彼女はアヌビス神と共に下水道へ落下。
攻撃してきたサーヴァントは……分からない。

意識を取り戻し、周囲の暗さに慣れたさやかは驚く。
自分の傍らにはアヌビス神とは別に少女が一人横たわっていた。
しかも、少女の正体は知り合いの――佐倉杏子である。

「杏子!? さっきの攻撃、まさかアンタが………っ……!」

杏子の体に触れた事で、さやかは即座に分かった。彼女にまるで反応がない。人形、いや……死体。

「意識が戻ったのね」

「!」

闇の向こう側より清楚な修道服を纏った女性が現れる。
ライダー。
クラスは先ほど出会ったセイヴァーと似た青年と同じだが、彼女は彼とまるで雰囲気が違う。いや、対極的だった。
だが、さやかも警戒心を以て身構えた。

「あんたは……何」

「……順を追って説明させて貰います。私はライダーのサーヴァント。彼女が私のマスターです」


631 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:50:40 o1.4Luvw0
彼女とは当然、佐倉杏子以外ない。
突拍子もない。杏子は死んでいるというのに、契約しているサーヴァントは生きている。
死体……魂がない? さやかは混乱しかけたが、戦闘中。杏子を声が聞こえたのを思い出す。
まさか。さやかは思った事を尋ねた。

「杏子は、もしかしてソウルジェムが」

かつて、さやか自身に起きた現象を思い出す。
ソウルジェムを手離し、肉体から一定の距離を取ってしまうと肉体と魂のリンクが切断される。
修道女のライダーは少々驚いた表情で、されど真剣に頷いた。

「貴方はソウルジェムの秘密を御存じなのですね」

「……まぁね。あんたも、杏子から話を聞いたと思うけど」

「いいえ。彼女は知りません」

(え?)

そんな筈はない。さやかが魔女に至るまで、杏子と縄張り争いのトラブルを起こした際。
ソウルジェムの秘密を同じく知った筈なのに。
ライダーは嘘を言っている? さやかを助けたのも、利用する為……?
念の為、さやかは水に恐怖しカタカタと震えるアヌビス神を掴む。

「じゃあ……ソウルジェムが最期どうなるのかも、知らないんだ」

「……その点は追々聞くとします。まず、先ほど貴方が相手した恐竜使いのサーヴァント。
 彼がマスターのソウルジェムを所持していると思われます」

アイツが杏子のソウルジェムを。
ひょっとして、近くに居たからこそテレパシーの声がさやかに届いていた可能性が。
慌てて首を振るさやか。
自分は違う。ソウルジェムが体から離れた際、意識を完全に失い。テレパシーを出来る状況じゃなかった。

(あたしを騙そうとしている……?)

魔法少女の事情や、さやかを含めた魔法少女たちの情報を逆手に取ろうとしている。
さやか自身の記憶との誤差。
巴マミや暁美ほむらも、何かが異なる。
佐倉杏子がそれらの情報を得ていない場合も、ありえなくはないが。
全ては修道女のライダーが、さやかを騙す為の偽装工作で杏子の声を真似たテレパシーを行った可能性も。


632 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:51:09 o1.4Luvw0
とは言え。今は話を合わせる事にした。

「あいつ……確かに魔法少女の誰かと会ったようなこと言ってたけど、杏子のソウルジェムを持ってたかは分からない」

「そうですか……教えていただきありがとうございます」

「あいつは逃げたの」

「ええ、マスターらしき少女をつれて」

ライダーの話に合わせれば、多分に恐竜使いのライダーを追跡する予定なのだろう。
当然、さやかも放っておく訳にはいかない。
不意打ちの攻撃に、あの時は対処出来ずに九死に一生を得た身だ。二度目はない。今度は尾の攻撃も対処できる。

『おい待て、やめろ! DIO様には勝てないのだ!!』

が。気力を維持しているのは、さやかだけだった。
肝心のアヌビス神は、水に浸かったせいとは思えぬほど震えあがっている。
むっと苛立ちを覚えつつ、逆にさやかが刀相手に罵声を浴びせた。

「まだ言っているの!? アイツはあんたの知ってるDIOじゃないの!! 次こそ勝てるんだ。あんたが一番分かってるでしょ!?」

『かっ勝てない』

「あの攻撃だって覚えたんだし――」

『勝てん! 勝てない! 俺が絶ッッッッッッッッッッッッッ対に勝てないと確信した者は、DIO様だけなのだ!!』

戦意喪失。この場合は精神的に屈しただけで、セイヴァーに似た青年相手だけの事。
そう願いたいほど、アヌビス神は態度が急変している。
さやかは呆れてしまうが、むしろ都合の良い展開かもしれない。
疑心を覚えるライダーに対し、さやかは溜息ついて話す。

「あいつが杏子のソウルジェムを持ってるなら、あたしも追いたいけど……無理そうだよね」

嘘だ。
実際は恐竜使いのライダーを放っておけない。
ソウルジェムの秘密を知っても尚、聖杯を完成させる方針を揺るがない危険因子だ。
しかし、修道女のライダー……彼女と共に行動したくはなかった。
ライダーは少々険しい表情で言った。


633 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:51:32 o1.4Luvw0
「ですが、貴方のサーヴァントの状態を含めて、一人にさせる訳にはいきません」

「あたしの事はいいから、杏子のソウルジェムを取り戻して。あいつは間抜けじゃないよ。早くしないと逃げられる」

「ちょっと待ちなさい」

先ほど遭遇した少女――島村卯月とは異なり、ライダー・マルタは食い下がった。
卯月は、自らの弱さをさらけ出し。申し訳なく、正直に『戦えない』とマルタに話したのと。
投げやり気味な態度の美樹さやかでは、立場も状況も違う。
マルタの様子に、仕方なくさやかは反論した。

「悪いけど――あたし、あんたの事を信用できない」

「なんですって?」

「あんた、本当に杏子のサーヴァントなの? 本当にソウルジェムが奪われたから、杏子は死体になってるの?」

「―――」

意外な予想外の返事に、マルタも困惑を浮かべていたのに。
さやかは、ひょっとしたら本当にマルタが杏子のサーヴァントで、信頼しても良かったのでは。
と、迷いが生じる。

けれども、マルタの証言全てに根拠も証拠もなかったのだ。







少々時を遡るが、恐竜から得た情報から修道女のライダー・マルタの存在を把握していたディエゴ。
暴力的にマルタは辿って来た下水道で魔力を感知し、そこから襲撃を繰り出した。
杖に長く祈りを込め、最大出力のエネルギーを放出。
さやかが立っていた場所ごと破壊した事で、彼女を救った形になる。

あわよくば追跡される可能性も考慮していたが、ここに到着するまで想定よりも早いと感じた。
無論、住宅街で。
マルタの宝具も不明だが、直感を頼りに危険を察知し。
レイチェルを無理に引っ張り、馬に騎乗。現場から距離を取るのに、余計な時間は必要じゃなかった。

ディエゴの余計は『別に』ある。


634 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:52:00 o1.4Luvw0

『さやか!』

一人の少女・佐倉杏子の叫びはディエゴの中だけに響き渡っている。
再びソウルジェムを飲み込んでから、自棄に鮮明となりつつある杏子の存在。
戦闘中も、散々うるさかったが。酷ければソウルジェムは体内から取り出すべきかもしれない。
しかし、マルタの追跡は近い。飲み込んでいる以上、杏子の魔力は誤魔化せる筈だ。

「ごちゃごちゃ余計な事を………有益な情報を吐いただけ良しとするか」

ソウルジェムから誕生する魔女。
魔法少女が産み出すものに飽き足らず、サーヴァントから発生する魔女を望んだ。
それが、主催者の目的……仮説であるが。美樹さやかの話から憶測すれば、そういう話になる。
残念な事に、さやか自体が情報網に乏しかった。

「ライダー……」

消えそうな声でレイチェルが呼ぶ。
相手する事に嫌気が差すディエゴだったが、視線を落とした先のレイチェルの表情は悲惨なものだ。
聖杯を手に入れるのに必死な有様と同じように。ディエゴからの返事に縋っている姿。

全く以て腹立たしい。
レイチェルの依存行動が、ディエゴを苛立たせる要因だった。

「あの子を刺したのは……良くなかった?」

「………」


―――嗚呼、そんな事あったな。


ディエゴにとってレイチェルの起こした行動は些細なものでしかない。
本来ならマスターの彼女が、刃を持って殺しにかかろうなど。余計で邪魔で……危険だ。
サーヴァント側が指摘するのは当然。
ディエゴがレイチェルに指摘も非難もしなかったのは――彼女の行動こそ『適切』だと思ったから。


635 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:52:36 o1.4Luvw0
実際、美樹さやかは隙だらけだった。
ディエゴがレイチェルの立場でも、背後から忍び寄ってさやかを刺していた。
それほど自然で、疑念にも感じない行為。

「いいや。アイツを刺したのは正解だ」

ディエゴの他愛ない返答を聞き、レイチェルの顔色は明るくなる。
心のどこかで不安を感じているのだろう。「本当?」と尋ねてきた。

「お前も『正解』だと思ったから、刺したんじゃあないのか? レイチェル」

「……うん」

自分勝手に納得すればいいものを。
レイチェルは、納得や安心や、物事の全てを勝手に決められないほど人間が作られていない。
現在、彼女が従い。中心としているのはディエゴだけだ。

ふと馬の走行をディエゴが停止させた。
匂いだ。恐竜の嗅覚が優れている特性は、ディエゴ自身にもある。
辿った匂いは、鹿目家に残されていた女性――鹿目詢子と救急隊員を恐竜化させたもの。
そして、彼らと同行させたエンリコ・プッチ。

最初に、恐竜達へ鹿目家から離れたと思しき匂いを辿るよう、ディエゴは命令を下していた。
宝具の効果範囲を踏まえた捜索した行わないだろうが。
運が良ければ他の主従を捕捉できる。

しかし、恐竜の匂いは途絶え。
代わりに見知らぬ犬の恰好を纏った少女が、涙を流し、蹲っていた。
ディエゴがレイチェルと共に馬から降り、近づいて見れば。少女の肉体は、所々恐竜化の進行が視認できた。
恐竜に成りかけてるだけで、まだ自我は保っている。少女は、ディエゴ達に驚きながらも必死に訴えた。

「あ、ああ。わ、わたし。こ、このままだと――わたし、恐竜になるんじゃ」

涙目の少女に対して、ディエゴは不敵に笑いを零す。
笑った。傍らに居たレイチェルは、彼の愉快な様子に再び注目していた。
ディエゴは他人事のように少女を見下す。


636 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:53:06 o1.4Luvw0
「こりゃ大変だ。助けてやろうか」

「た、たす、助け……あ、あの私、穴を掘るぐらいしか出来ませんけどっ、お役に立てれば――」

役に立つ。
少女が無意識に発した部分に、レイチェルの中がザワリと揺らぐ。
ディエゴにとって、この少女が『役立つ』と評するものは一体。
懸命な命乞いを眺めるディエゴは、震える少女をジッと観察。少女もビクビク恐怖を覚え、彼の返答を期待していた。

そして

「そうかそうか。実にわかりやすいな。よーく分かった。よし、お前は――俺の『ペット』になれ」

「……え? えっ、え、え。あの………え?」

ディエゴは相変わらず笑みを浮かべたまま。それだけ。少女に対し何もしない。
少女は理解できずに居た。状況も、ディエゴの言葉の意味さえも。
困惑する少女に、機嫌が良いディエゴは教えてやる。

「お前はこのまま『恐竜』になるんだよ。俺の支配下に置かれ、死ぬまで俺に利用される。理解したか? 役に立ちたいんだろう?」

「え、え……!? ま、待って、いや……!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「おいおい。謝るなよ。役に立てるんだから『ありがとうございます』って感謝をしろよ」

ディエゴに対し、少女は永遠と謝罪を繰り返すばかりで、彼の望む感謝を述べる様子が見られない。
恐竜になりたくない。
役立ちたいと望んだのに、少女は現実を拒絶し始めた。
レイチェルは、以前ディエゴに『恐竜にして欲しい』と望んだ。役に立ちたいから。
少女の状況はレイチェルとは対極的だ。役立ちたいと言って、恐竜にさせられようとしている。
……それが分からない。

(どうして)

少女の謝罪も虚しく、恐竜化の進行が途絶えない。
爪や牙、肉体の骨格や特有の尾も着々と形成されて往く。
最後まで彼女は、役立つ事を望んだにも関わらず、受け入れる事を拒絶し続けた。


637 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:53:32 o1.4Luvw0




(どうして、どうしてどうしてどうして)

たまに、犬吠埼珠には分からなかった。
ランサー・篤に攻撃された時。ショックとパニックで意識が真っ白になった。
彼女自身、恐竜化が進行していた自覚は無く。
叩き飛ばされた痛みに涙を流し、ひび割れた肌を見て……漸く状態を理解した。
でも、どうしたらいいか分からなかった。

(ほむらちゃん、まどかちゃん、ランサーさん……バーサーカーさん………)

バーサーカー。
自分のサーヴァントに助けを呼ぶ発想が浮かぶ前に、珠の意識が薄れて行く。

どれだけ謝っても、乞いても、セイヴァーに似た青年は助けてくれない。
他に。
自分をどうにかしてくれる人は……青年の隣に、少女が一人。
生気の薄い、例えるなら死んだ魚の瞳をした少女。彼女を目にした時、珠はふと呟く。

「スイム……ちゃん………?」

あの子……スイムちゃんに似てる。
結局、珠は最後まで『スイムちゃん』――スイムスイムと呼ばれた魔法少女を理解できなかった。
彼女は何故自分を殺したのか。
まじまじと球を見詰める金髪の少女の雰囲気は、やはりスイムスイムと似ている。

「スイ、ムちゃん。どうして、どうしてなの。わたし、わからないよ」

何故ルーラーを殺したのか。
何故たまを殺したのか。
何故、どうして、自分は恐竜になってしまうのか。

金髪の少女・レイチェルがポツリと呟いた。


「あなたは………ライダーの役に立てるから、恐竜になる」


そんなワケないヨ……


「わたしは………ライダーの役に立てないから、恐竜になれない」


ちガウよ……


「どうすればライダーの役に立つのか。考えないと………」


………………………………………


………………………


………


638 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:54:04 o1.4Luvw0




暁美ほむらは己がセイヴァーから信頼を得られていない、と自虐していたが。
大きな間違いであると、プッチは思う。
セイヴァーはほむらを『信頼しない』のではなく『信頼する必要がない』と捉えているのだろう。

DIOにとっての信頼するべき相手とは。
話しをして、心が落ち着く。捻り曲がって不安を感じるほどに、身を委ねたくなる安心を覚える存在。
DIOが唯一『信頼する友』と称したのはプッチである。

信頼はしていない。
だが、彼――セイヴァーは暁美ほむらが己を信じていると確信しているのだ。
彼女の在り方は、ディエゴのマスター・レイチェルに通ずるものがある。
奇妙にも彼女二人は重なり合う部分が節々に見られた。

これも『引力』の働きか。だが、他はどうか?
『もう一人のディエゴ』のマスター、アヤ・エイジア。
そして『過去のDIO』のサーヴァント、レミリア・スカーレット。

彼女ら二人に関してプッチは印象しか語れない。
………別だ。レイチェルとほむらの二人とは対極的で。彼女達はまるで『対等』にあるようだった。
そう、DIO相手に。
信頼があるか分からない。だが、彼女らをDIOは受け入れていた。

何を対話していたか不明だったが。
アヤ・エイジアと『DIO』は他愛ない会話をしている風に感じられたし。
レミリア・スカーレットの散々な態度に『DIO』は何も指摘すらせずにいた。


何故なのか? プッチは、これが奇妙でならない。


明美ほむらに頼まれた恐竜の処理は手身近に済んだ。恐竜も時を静止した状態では何もできない。
『死体』を下水道へと放りこんだプッチは、何食わぬ顔で元いた場所へ戻る。
そこに、少女が一人。
ほむら達と同行していた犬の魔法少女・たまが取り残されている。
プッチが戻った時、たまは犬には程遠い。小柄な肉食恐竜に変化し終えたところだった。
たまの成れの果てをレイチェルが興味深く観察していた。


639 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:54:35 o1.4Luvw0
ディエゴがプッチの存在に気付き、何ら疑念を覚える様子なく話しかける。
信頼している。
訳じゃあないだろう。ディエゴの瞳は疑心に満ちていた。
彼は、他人に信用される為に、愛想良い表情を被るのが得意なのだろう。

「プッチか。お前、何をしていたんだ? コイツから興味深い情報が得られた。
 さっきまでコイツは、暁美ほむらと同行していた」

「……私も先ほどまで暁美ほむらを追跡した。彼女達によって君の恐竜たちは打ち倒されてしまった。
 だが、彼女の傍にDIO――セイヴァーはいないと判断できた。私は彼女がDIO側の存在ではないと思う」

「へぇ?」

如何にも「本当なんだろうな」と挑発的な微笑を作るディエゴに。
プッチの表情は微動だに変化しない。淡々と説明をし続ける。

「様子を見る限り、暁美ほむらの意志とセイヴァーの意志。相互が反発しているようだ」

「ああ。コイツの情報もそうだな。暁美ほむらとセイヴァー。双方の意志疎通は不安定らしい。
 まともな主従関係とは呼べない状態だ。……だからか? お前は暁美ほむらを見限ってノコノコ戻ってきた理由は」

「そういうことだ」

今回プッチがほむらの要望を受け入れたのは。
鹿目まどかをセイヴァーが必要しているから……否、まどかの状態を理解したが故。
彼らも把握している。肉体からソウルジェムが離れ『抜け殻』となった体。

「どうやらDIOも気付いているようだ。魔法少女と呼ばれるソウルジェムの原理と可能性に」

ピクリとディエゴも僅かに反応を見せた。
セイヴァーも。ディエゴも視点のつけ方は同じだとプッチは回りくどく表現している。
彼自身、同じだと遠まわしに語っているのだろう。
少々不愉快を感じつつ、ディエゴは一先ずプッチに告げた。


640 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:55:12 o1.4Luvw0
「例の修道女が俺達を追跡し続けている。お陰で、折角あそこで待ち伏せ出来たマスターを仕留められたのを妨害された」

「となれば、まずホタルとの合流を優先しなくては」

「ああ。ソウルジェムの情報を入手できたが……今は後回しだ」

一応、ディエゴは美樹さやかによるソウルジェムより誕生する『魔女』の情報を疎かにしてはいない。
だからこそ、たまを恐竜にした。彼女のサーヴァントの魂を回収すべく。
ソウルジェムの原理が、果たして魔法少女のソレと同じかどうか不明確な以上。保険はかけなくてはならない。
そして、サーヴァントの魂を利用した『願いを叶える』手段。

全ては憶測の範囲でしかない。
アヌビス神にも明かした通り、それらを確実にする模索とは――所謂。
DIOの『天国の到達』と同じものだろう。

ただ一つ。
レイチェル・ガードナーが彼らを凝視していた点を除けば、ディエゴの計画は着実に進んでいるのだ。







暁美ほむら。
討伐令にかけられていた少女の名前を、レイチェルも記憶していたからこそ、疑心を覚えた。
果たして、プッチは本当に暁美ほむらを見逃しただけなのか?
結局、プッチが語るDIOとはセイヴァーなのだ。
そしてセイヴァーとライダーは別人だ。レイチェルが一番理解している。

(やっぱり……)

ひょっとしたら、ライダーはレイチェルよりもプッチを信頼しているのだろう。
多分じゃなくとも、きっとそうだ。

(この人は信じちゃ駄目だ)

ライダーの事を考えれば、プッチは確実に始末しなければならない。
問題は、レイチェルがどうやって彼を倒すか。
非力で何ら特色もない少女がサーヴァントを倒す手段など、到底存在しないのだ。

考えなくては。

むしろ『考える』とは、この時の為にあるのだろう。
プッチを倒せば聖杯の獲得に一歩前進し、忌まわしいセイヴァーの因縁から脱する事も叶う筈だ。
恐竜になれなくても、何かライダーの役に立ちたいのがレイチェル。


しかし……彼女は『何故ディエゴがレイチェルを恐竜にしなかったのか』を未だ分からずにいた。


641 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:55:41 o1.4Luvw0
【D-2/月曜日 早朝】

【ライダー(ディエゴ・ブランドー)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)杏子のソウルジェム(飲み込んだ状態)
[ソウルジェム]有×2
[装備]
[道具]携帯端末、トランシーバー
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1.神父(プッチ)のマスターの所に向かう
2.レイチェルは必ず殺す
3.あのセイヴァーについては……
4.神父(プッチ)は信用しないつもり、使い潰す。
5.ソウルジェムでの聖杯作成は保留するが、魂は回収する。
[備考]
※真名がバレてしまう帽子は脱いでいます。
※魔法少女が持つ『ソウルジェム』の存在を知りました。→ソウルジェムの秘密を把握しました。
※プッチの情報を全て信用しておらず、もう一人の自分(アヴェンジャー)に関して懐疑的です。
※ランサー(什造)、バーサーカー(家康)の存在を把握しました。
※マミのソウルジェムの穢れを知りました。
※ソウルジェムを飲み込んだ影響か、杏子の意志が伝わります。
※たまから彼女の関わった事象の情報を得ました。


【ライダー(エンリコ・プッチ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)、精神的ショック(回復傾向)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』を実現させ、全ての人類を『幸福』にする
1.セイヴァー(DIO)ともう一人のディエゴを探す。
2.一旦マスターの元へ戻る。
3.暁美ほむらは『覚悟』をしている、か……
[備考]
※DIOがマスターとしても参加していることを把握しました。
※ランサー(レミリア・スカーレット)の姿を確認しました
※魔法少女が持つ『ソウルジェム』の存在を知りました。
※アサシン(杳馬)の姿を確認しました。彼が時を静止する能力を持つ事も把握しております。
※アサシン(杳馬)自体は信用していませんが、ディエゴの存在から
 アヤ・エイジアのサーヴァントがもう一人のディエゴ(アヴェンジャー)である事を信じています。
※ディエゴ(ライダー)に信用されていないのを感じ取っています。
※ランサー(什造)、バーサーカー(家康)の存在を把握しました。
※ソウルジェムの穢れを目撃しました。穢れ切った結末に関心があります。
※暁美ほむら、まどか&ランサー(篤)の存在を把握し、ほむらの覚悟を理解しました。


642 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:56:06 o1.4Luvw0
【レイチェル・ガードナー@殺戮の天使】
[状態]魔力消費(中)、プッチに対する疑心
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]私服、ポシェット
[道具]買い貯めたパン幾つか、裁縫道具
[所持金]十数万程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
0.やっぱり神父様は信じちゃ駄目だ……
1.自分でどうするべきか考える
2.ライダーは信じられる。それ以外は信用しきれない。
3.セイヴァーは一体……?
4.聖杯が作れない……?
[備考]
※討伐令を把握しました。
※ライダー(ディエゴ)が地図に記した情報を把握しました。
※ライダー(プッチ)のステータスを把握しました。
※プッチが提供した情報を聞いている為、もう一人のディエゴ(アヴェンジャー)の存在を知ってはいます。
※ライダー(ディエゴ)の真名を知りました。
※キャスター(ダ・ヴィンチ)のステータスを把握しました。
※さやか&セイバー(アヌビス神)を把握しました。
※ソウルジェムの秘密を把握しました。


【たま(犬吠埼珠)@魔法少女育成計画】
[状態]恐竜化、身体に死の結婚指輪が埋め込まれてる、全身に軽い怪我、X&カーズへの絶対的な恐怖。
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
0.―――
※カーズが語った、死の結婚指輪の説明(嘘)を信じています。
※ソウルジェムを含めた装備品はライダー(ディエゴ)に回収されました。






下水道に逃げた先、敵の追跡は……ない。
一先ず、現状に安堵する余裕はありそうだった。篤も息をついた。まどかを抱え、遅れてほむらも篤の後に続く。

恐竜化したたま。
彼女のサーヴァントも結局、最後まで見る影もなかった。
マスターには念話や令呪があり、サーヴァントとの対話や非常の呼び寄せも可能だったのに。
誰もが、それを行っても悪くなかった。


643 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:56:40 o1.4Luvw0
否、むしろソレを怠った彼女の方が発想力がない。頭の回転が弱い証拠。
恐竜の襲撃の際、たまが己のサーヴァント・バーサーカーを呼びだして居れば、戦況が変化しただろう。

「さて、ここからどうするか……」

「あの」

篤にほむらが呼びかけた。
恐竜の襲撃時と異なり、篤も少々ほむらを警戒する。
彼女は、恐竜の追跡が途絶えたのに安心したのか、至って普通に話を続ける。

「ランサーさんも傷を回復できない状況です。休める場所まで移動しませんか?」

「アテがあるのか?」

「私の家です。鹿目さんとは違って、私は一人暮らしですから……お二人が来ても問題ありません。それに」

「……セイヴァーが来る可能性もある訳だな」

「はい」

頷くほむらに目立った挙動や表情の変化は一切ない。
彼女の行動は一貫している。親友・まどかの身を考慮し、彼女に最善を尽くしている。
篤は『ほむらの弱み』をセイヴァーに利用されているのでは? と疑心を覚えた。

『弱み』――鹿目まどかそのもの。
セイヴァーの宝具ないし能力がなければ、鹿目まどかを救えない脅迫概念。
擬似的にまどかを人質に捕らわれた状況だろうか。

(セイヴァーは危険かもしれない……だがこの状況で奴を退けるには――)

ソウルジェムの浄化。暁美ほむらの処遇。恐竜化したたま……問題が山積み状態だ。
篤自身、ほむらが指摘した通り怪我を負った状態。万全に戦闘できない。


「待ちなさいって言ってるでしょ!?」

「うるさいなッ!!」


644 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:57:01 o1.4Luvw0
遠くから言い争う声が近づいてきたのに、篤は咄嗟に足を止める。
だが、ほむらは気付く。声の一人に心当たりがあるのだ。

「美樹さん……?」

暗がりの下水道ながらも闇の奥側から現れる青の魔法少女と、修道女のライダー。
ライダーに抱えられた佐倉杏子。
美樹さやかは、どうやらライダーを避ける態度を取っているが、ライダーの方はタダで動く気配もない。
そして、杏子の状態はまるで………

「………」

フツフツとただならぬ感情がほむらの中で渦巻く。不安や恐怖じゃあない。
篤とほむらの存在に、さやか達も気付いた時。
ほむらの中で渦巻くドス黒いものが、どう蠢くか誰も知らない……





【D-2 下水道/月曜日 早朝】

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]ソウルジェムとのリンクが切れている仮死状態 、精神的疲労(絶大)
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金] お小遣い五千円くらい。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯戦争を止める。家族や友達、多くの人を守る。
0:――――
(1):ほむらと情報交換する。
(2):聖杯戦争を止めようとする人がいれば手を組みたい。
※(1)と(2)については精神的に落ち着かなければ不可能です。


【ランサー(宮本篤)@彼岸島】
[状態] 全身に打撲(中〜大)、疲労(大)、精神的疲労(大)、腹部裂傷
[装備] 刀
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯は手に入れたいが、基本はまどかの方針に付き合う。
0.まずはセイヴァーに接触し、どういう奴かを見極める。雅と同類であれば殺す。
1.怪盗X及びバーサーカー(カーズ)は必ず殺す。
2.怪盗X・セイヴァー(DIO)には要警戒。予告場所に向かうかはまどかと話し合う。
3.たまにも警戒を緩めない。
※恐竜化が感染する可能性を得ました。
※襲撃した恐竜が『鹿目詢子』だと気付いておりません。
※ほむらがセイヴァーの能力の影響下にある可能性を持ちました。


645 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:57:41 o1.4Luvw0
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]疲労(中)、魔力消費(小)、魔法少女に変身中
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]見滝原中学校の制服
[道具]学生鞄、聖杯戦争に関する資料、警察署から盗んだ銃火器(盾に収納)、まどかのソウルジェム(穢れ:中)
   ほむらのソウルジェム(穢れ:小)
[所持金]一人くらし出来る仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得。まどかを守る。
0.美樹さん――?
1.まどかのソウルジェムを浄化する為、セイヴァーと合流する。
2.学校には通学する
3.セイヴァーに似たマスターは一体…?
4.またセイヴァーのそっくりさん...あと何人いるんだろう
5.バーサーカー(カーズ)には要警戒
[備考]
※他のマスターに指名手配されていることを知りましたが、それによって貰える報酬までは教えられていません。
※セイヴァー(DIO)の直感による資料には目を通してあります。
※ホル・ホースからDIOによく似たサーヴァントの情報を聞きました。
※ヴァニラ・アイスがDIOの側近であることを知りました。
※ライダー(プッチ)がDIOの友であることを把握しました。
※恐竜化が感染する可能性を得ました。

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]魔力消費(小)、負傷(治癒済み)
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]有
[装備]セイバー(アヌビス神)
[道具]大き目のバッグ(アヌビス神を入れる用)、さやかのソウルジェム(穢れ:小)
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:平和を乱す奴をやっつける
1.ライダー(ディエゴ)は放っておけない。倒す。
2.このライダー(マルタ)は杏子のサーヴァント……? まだ信じきれない。
3.魂のエネルギーで願いが叶う……?
[備考]
※まどか・マミ・杏子の電話番号は知っていますが、ほむらの電話番号は知らないみたいです。
※ライダー(ディエゴ)のステータスを把握しました。
※ライダー(マルタ)のステータスを把握しました。彼女が杏子のサーヴァントかは懐疑的です。
※配布されたソウルジェムが魔女を産む可能性を考えています。


646 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:58:34 o1.4Luvw0
【セイバー(アヌビス神)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)、水に濡れた、ディエゴに対する戦意喪失
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:さやかを自分の有利な方へと扇動する。
0.DIO様に勝てる訳が無いッ!
1.DIO様と合流したい。
※ライダー(ディエゴ)とレイチェルの主従を把握しました。
※ライダー(マルタ)の存在を把握しました。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]肉体死亡
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に乗り気は無いが……
0.―――
[備考]
※ソウルジェムが再び肉体に近付けば意識を取り戻し、肉体は生き返ります。


【ライダー(マルタ)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]無
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争への反抗
1.杏子のソウルジェムを取り戻す。恐竜使いのサーヴァントはシメ……説伏する。
2.アサシン(杳馬)は何か気に食わない。
3.さやかは放置しておけない。
[備考]
※杏子のソウルジェムが破壊されない限り、現界等に支障はありません。
※警察署でXの犯行があったのを把握しました。
※卯月とアサシン(杳馬)の主従を把握しました。
※ディエゴの宝具による恐竜化の感染を知りません。ただディエゴの宝具に『神性』があるのを感じ取っています。
※ライダー(ディエゴ)とレイチェルの主従を把握しました。
※セイバー(アヌビス神)とさやかの主従を把握しました


647 : ◆xn2vs62Y1I :2019/01/09(水) 22:59:50 o1.4Luvw0
投下終了します。
予約から投下まで長期間かかってしまい申し訳ありませんでした


648 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/01/17(木) 22:14:42 sPwFqtFs0
投下乙です

「許す? 私は何を許せばいい。お前の愚行、お前のマスターが私の真名を知った事、あるいは私に刃を向けた事」
「笑っちまうな。アイツにビビリ過ぎだろ? いや……『真名』を聞かせて貰っただけ十分だ」

このディエゴくん、ノリノリである。こういうお茶目さがDIOにはないディエゴの魅力だと思います。
しかし勝手に恐竜を切り捨てたある種裏切り行為をした神父様の行動を知ったらどう出るだろうか。普通に怒るか、お前はそういう奴だなと軽く流すか。
たまは順調(?)に流され続けて恐竜化しちゃったけれど、結局のところ家康といるのが一番マシだったような気もしますね。
アヌビスとさやかは案外まともに交流が出来ているようでなにより。
杏子ちゃんの身体はそろそろ腐りはじめそうでまどポのゾンビさやかを不安視してしまう。
そうなったら杏子の親父がまた暴走しそうですね。

ホルホース&バーサーカー(玉藻)、セイヴァー(DIO)、ほむら、まどか&ランサー(篤)、いろは、沙々&アサシン(マジェント)、マルタ、さやか&セイバー(アヌビス)を予約します。


649 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/02(土) 13:31:30 /hCfopSo0
感想&予約ありがとうございます!私も以下のメンバーを予約します。

桂木弥子&アーチャー(霧雨魔理沙)
アイル&アサシン(ディアボロ)
キャスター(レオナルド・ダ・ヴィンチ)
バーサーカー(徳川家康)
ラッセル・シーガー&アサシン(ナーサリー・ライム)
スノーホワイト(姫河小雪)


650 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/04(月) 23:55:40 LK4hG0wE0
前編を投下します


651 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/04(月) 23:56:50 LK4hG0wE0
思い出せ、きみの本当の願いを。






(ったく、ツイてねえぜチクショウ!)

この俺、ホル・ホースの胸中を占めるのはそんな思いだ。
ほむらの嬢ちゃんと分かれた後、結局、彼女のあとを追わずに自室へと戻った。
リスクを負うべき場面というものはあるにはあるが、しかしまだ早すぎる。
怪我の手当てもそうだが、やはりなんの準備もなしにDIOの野郎と関わるのは避けたい。
だから、いまはとにかく近辺整理だ。
部屋に着き、小一時間程で荷物を整理し、目を覚ましたキャスターの嬢ちゃんと共に部屋を後にした。
そう。そこまではプラン通り。あとは寝床を探すだけってところからが一転しちまった。

ギャアアース、なんていかにも怪獣染みた鳴き声が聞こえちまったもんで、慌ててキャスターを抱えつつ身を屈めて、こっそりと角から様子を伺った。
そこは街灯なんかもそこそこに点いていたので、どうにか誰がいるのかを把握することができた。
するとどうだ。そこにいたのは、鳴き声の主であろう衣服を着た恐竜と同じような種類の恐竜、それらと対峙するのは、一組の男女。
男は、フードを被り丸太を構えていた。...あれ、サーヴァントだよな?じゃなきゃあんな不審者丸出しのトンチンカンな格好をする筈もねえ。
女の子のほうは、紛れもねえ。暁美ほむら。先刻別れた、最も取り扱いに注意しなくちゃならねえ子だ。

(なんであの子から離れようとした矢先に会っちまうんだチクショウ!)
「でっかいトカゲ...切り刻んだら食べられそう」
(オメーは黙ってろ!)

飛び出し戦いに混ざろうとするキャスターを抱きとめ、静かにしろと人差し指を口に当ててジェスチャーをする。
俺の意図が通じたのか、それとも単に俺の真似をしただけなのか。彼女もシー、と人差し指を己の口に当てていた。


652 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/04(月) 23:57:56 LK4hG0wE0

(ここで不意打ちかましてどっちかに味方するか?いや、DIOが絡む可能性を考えりゃやはり関わらないのが一番いい。ひとまずここは見つからねえように息を潜めてゆっくりと...)

万が一にも目が合うのを恐れて、俺達は様子を伺うことすら止めて、後ずさりつつこっそりと戦場を離れようとする。

あと数歩だ。あと数歩下がったら、全力で走り去ってやる。

5、4、3、2、1...

いまだっ!

振り返ろうとしたその時だ。

「なにをしている」

―――ゾクリ。

背筋に凍てつくような怖気が走る。
忘れもしない。忘れるはずもない。
この人の心の隙間に付け込むような妖しい声。背後からでもわかるほどの圧倒的な圧力。

「もう一度聞こう。なにをしている、と聞いているのだホル・ホース」

いま、俺の後ろにいるのは。

「で...DIO...様...!」


653 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/04(月) 23:59:02 LK4hG0wE0

気がつけば、俺は跪いていた。背後を振り向くことすらせず。
冷や汗でグッショリと濡れた額を拭うことすらできず。咥えていた禁煙パイプを落とすことすらできないほど歯を噛み締めていた。

「D、D...なんでしたっけ。まあいいです。切り刻みます」

そんな俺にお構いなしにキャスターは普通に振り返り、そんなことをのたまった。

「ま、待て!」

振り返り、彼女の馬鹿げた自殺行為を止めようと必死に手を伸ばしたときにはもう遅い。
彼女は既にDIOへと襲い掛かっていた。
ほむらの嬢ちゃんの時とは違い、令呪を使う暇すらない。

その時のDIOの緩んだ口元を見て。嘲笑を見てしまって悟る。俺はここで死ぬのだと。

ああ、なんてツイてねえんだ。
聖杯戦争なんておっかないものに巻き込まれちまって。
よりにもよってDIOの野郎まで出しゃばってきて。
全く制御できない上に有能とも呼びきれないサーヴァントを掴まされて。出会う奴らはDIOづくし。
そんで最期がキャスターの暴走でDIOに逆らい死亡。しょっぱすぎるぜ、チクショウ。

せめて楽に死なせてくれと目を瞑り、頭を垂れ、来るであろう喪失感に備える。

「............」

なにも感じない。既に殺されたのだろうか。

「............」

だとしたら、こんなにもあっさりと終わらせてくれるDIOは案外優しいのだろうか。それともそういう都合のいい幻覚でも見せられているのだろうか。
死んだことのない俺にはまだなにもわからない。

「どんな女であれ敬意を払うというお前の矜持は面白いが、サーヴァントの躾くらいはキチンとしておくことだ」

ポスリ、と、俺のズレた帽子を被せ直しつつ、かけられた声はとても穏やかなものだった。

「...え?」

思わず俺はキョトンとしてしまう。
俺は確かにいま、反逆行為をしてしまった。10人が見れば間違いなく10人がそうだと答えるだろう。
そして、用心深いDIOがそんな奴を生かしておく筈が無い...だが、現にこうして俺は五体満足でいる。
ならキャスターが殺られたのか?恐る恐る、顔を上げてみる。
キャスターは、その逞しい両腕にお姫様のように抱きかかえられていた。それも無傷でだ。


654 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/04(月) 23:59:28 LK4hG0wE0

DIOがパッ、と両腕を開けば、キャスターは地面に落ちる。

さしものキャスターも自分の身になにが起きたかわからないようで、困惑の色を浮かべていた。
あの自由奔放な彼女が言葉を失っている時点で身に起きた事の異様さはうかがい知れるだろう。

「さて、改めて聞かせてもらおう。お前は、そこでなにを見ていた?」

もはや三度目の質問だ。
これに答えないことこそが反逆行為にあたるのは猿でもわかるだろう。

「そ、そこの曲がり角で、恐竜とサーヴァントが小競り合いをしていて。戦況を見て撤退しようとしたところでさぁ」
「そうか」

なんのことはない、上司への報告でもイチイチ緊張感が走りやがる。
やはり、任務を二度失敗してしまって以来、この男との会話は慣れない。

「では質問は増えるが...ホル・ホース、お前のスタンド、皇帝(エンペラー)は不意打ちにこそ真価を発揮する。なぜ手を出さず撤退を決め込んだ?」

ドキリ、と俺の心臓が跳ね上がった。
別段、DIOが不利になるように動いているわけではない。だが、彼のマスターであるほむらに手を貸さないというのは、見ようによっては反逆行為だ。
そんなつもりはなかったと言い訳するにせよ、DIOに少しでも関わりをもちたくなかったと正直に告げようものならば、それだけで彼にとってのホルホースは価値を失くす。
ならばどうするべきか?

「『恐竜のウワサ』はご存知ですかい。詳しいことはわかりませんが、仲間を増やす類のヤツだと推測し、撤退がベストだと判断した訳ですぜ」

それらしい理由をでっちあげるしかない。
DIOは、ほう、と小さく呟き俺を見下ろし笑みを浮かべている。
まるで俺の心境を見透かされているようだ...居心地が悪いぜ。

「ホル・ホース。私はお前のその狡猾さはひどく気に入っているよ。己と相手の力量を見極めているからこそ適切な行動をとることができる」

ど、どっちの意味だ!?俺の恐竜への見解か?それともそれらしい理由をでっち上げたことについてか!?

「しかしその手首の怪我はなんだ?君らしくないじゃあないか...先ほどの暴走といい、どうやらきみと彼女との相性はあまりよくないと見える。苦労が窺い知れるというものだ」

なんだなんだなんなんだ。なんでこんなに気を遣うようなことばかり口にしてきやがるんだ。
コイツはまかり間違ってもそんなタマじゃないだろうに。
いったいなにが言いてえんだ、コイツは。


「どうだ、私と契約し直さないか?暁美ほむらに代わる私のマスターとしてだ」

...は?


655 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/05(火) 00:00:38 aRN5tNcM0



「なるほどなるほど。ササがそうなってんのはソウルジェムがDioにとられたからなんだな」
「はい。原理は私もよくわかっていないんですけど」

簡素な自己紹介を終えた二人は、互いの持つ情報を交換していた。
マジェントは沙々の魔法のことを。
いろはは沙々の現状を。

自分が既に体験しているため、沙々の魔法のタネがわかっているからよかったものの、マスターの能力をあっさりと明かすのはどうなんだろうと思わなくもなかった。
けれど、それはマジェントが自分に協力してくれるからだろうと前向きに捉えることにした。

「それで、その時間ドロボーちゅうヤツを見つけてきたら返してもらえるんだな」
「そういう取引になっています。ただ、手がかりはないし、優先するべきかも迷っているんです」

マジェントはおよっ、と思わず疑問符を浮かべた。

「探しださねーとササは返してもらえねえんだろ?」
「でも、探し出したところで返してもらえる保証がないんです。あの人は、探し出した途端に沙々ちゃんを殺すことだってするかもしれません」
「Dioを疑ってんのか。なおさら気が合いそうだぜ」
「え?」
「あいつは平気で人を裏切るヤツなんだ。あいつの本性を見抜けるなんて、見る目がある証拠だぜ」

マジェントは腕を組みうんうんと頷いた。

「まー、どうするにせよDioの奴からソウルジェムを返してもらわなくちゃならねーよな。いっそのことあいつを倒しに戻るか?」
「...無理ですよ。まだ、彼の能力への対抗策が思いついていません」
「けどノンビリしてる暇はねーだろ。はやくしないとササの身体が腐っちまうぜ」
「え?」
「いや、一応死んでるんだろ、ササは」

下っ端とはいえ、仮にも殺し屋である為か、肉体が死んでいることへのリスクに先に気がついたのはマジェントだった。
肉体が死んでいるということは、心臓も脳も停止しているということ。
そうなった生物の肉体がどうなるか。そんなもの、小学生でもわかることだ。
そして、腐った肉体に魂が戻ればどうなるか...あまり想像したくない。

(マジェントさんの言う通りだ...時間泥棒を探すにせよなんにせよ、早くセイヴァーからソウルジェムを取り返さなくちゃ沙々ちゃんは...)

沙々は言うまでも無く悪人である。しかし、だからといって死んでいいとは思えない。
理由を問われれば、彼女は命が失われるのをよしとしない人間だからとしか言いようがないだろう。

フー、と深呼吸をひとつ置き、セイヴァーに打診すると意を決したその時だ。

前方から争うような音が聞こえたのは。


656 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/05(火) 00:01:41 aRN5tNcM0



「転校生...?」

暁美ほむらが美樹さやかたちを認識したのなら、その逆も然りである。

まどかをほむらに押し付け、丸太を構える篤を見て、さやかは思わず目を丸くした。

知り合いと下水道で、しかもあからさまな不審者と共に遭遇したのだから当然だ。

「あなたは彼女と知り合いなのですか」
「......」
「...それくらい答えてくれてもいいでしょう」

未だに信用しようとしないさやかに、マルタは思わずムッと眉根を寄せてしまう。

「美樹さん、なんでこんなところに...それに、佐倉さん...」

さやかの傍らに佇む女性が背負う少女は間違いなく佐倉杏子だ。
だが、ダラリとうな垂れたまま動かない様は、まるで眠りについているようで。
そんな彼女の様子に、ほむらは違和感を抱かざるを得なかった。

(佐倉さん...まさか...!)

ほむらは思わず唇を噛み締めた。
彼女にとって佐倉杏子は最も戦力として信頼できる魔法少女である。
普通に斃されたにせよソウルジェムを奪われたにせよ、その彼女が、こうも早い段階で脱落しているのだ。
その胸中は計り知れないものがある。


657 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/05(火) 00:02:29 aRN5tNcM0

「なんでこんなところにはこっちの台詞だよ。...そこの人はあんたのサーヴァントじゃないよね。となると...」
「ああ。俺はまどかのサーヴァントだ」
「そっか、やっぱりか...やっぱりまどかは...」

さやかは、ほむらの背負うまどかを凝視する。
ピクリとも動かない、呼吸音も聞こえないとなれば、もはや解は出ている。

やっぱり、まどかもそうだ。杏子と同じ状態だ。

「そうなると、まどかのソウルジェムは杏子を襲った奴らに奪われたってことでいいんだよね」
「なに?」

さやかの確認に、篤の頭上に疑問符が浮かび上がる。

「まどかは疲労で眠っているだけだ。ソウルジェムは奪われていないが...」
「え?」

今度はさやかが疑問符を浮かべる番だ。

(あの人はソウルジェムについて何も知らない?まどかのサーヴァントなのに?)

魔法少女がどういったものかはまどかもよく知っている。
ソウルジェムからグリーフシードが生まれることは知らなくても、これが魂であることは知っている。
その事実を伏せることは...あるかもしれない。魂の問題は非常にデリケートなものだ。如何にまどかといえど、話すのを躊躇うのかもしれない。
しかし、それは篤と二人きりである場合に限る。
暁美ほむら。なぜ、彼女が側についていながら、篤がソウルジェムのことを知らずまどかの魂がないままにここまで来てしまうことがありえるのか。
少なくとも、さやかからしてみれば良い印象を持つことなどできない。


658 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/05(火) 00:03:05 aRN5tNcM0

「転校生...その人を欺いてまどかと一緒に行動して...あんた、なにが目的なのさ!?」
「ッ...わたしはやましいことなんて」
「じゃあ、なんでこんな大事なことを教えておかないのさ!」
「そ、それは鹿目さんの精神的な負担を減らそうとしただけです」

ほむらに裏があると睨むさやかと、後ろめたいことをしていないと主張するほむら。
互いの意見はぶつかり合い、徐々に熱を帯びていく。
それを収めたのは、両者の間に割って入った篤の丸太だった。

マルタの指がトントンと己の足を叩いていた。

「落ち着け。いきなり騙されているだのなんだの言われても事情がわからない。ほむらちゃんが俺になにを黙っていたのか、それをハッキリさせてくれ」
「...ソウルジェムのことだよ。聖杯戦争のじゃなくて、あたしたち魔法少女のソウルジェム」

さやかはおおまかに説明した。
ソウルジェムとは、キュゥべえと契約してできるものであること。そして、これこそが魂そのものであり、これを壊せば死に至ってしまうこと。

マルタの足も小さくタップを踏み始めた。

「つまり、ほむらちゃんは俺にソウルジェムのことを知らせず、死体同然のまどかを運ばせた。だから怪しいと」
「そうだよ。...そもそも、ソウルジェムを奪われてないならまどかがそうなっていること自体がおかしいじゃん」
「言いたいことはわかった。だが、俺はほむらちゃんを疑うことはできない」
「なっ!?」
「ほむらちゃんはわざわざ夜中にまどかの家へ訪れ、あの危険極まりないバーサーカー相手にも率先して立ち向かった。あれが全て演技とはどうしても思えない」
「じゃあ、なんでまどかは魂をはがされてるのさ?」
「...ソウルジェムの濁りを防ぐためです」
「それにしたってやり方ってもんがあるでしょ!」



「...チッ」


659 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/05(火) 00:04:13 aRN5tNcM0

三人の喧騒が加熱しかけたところで舌打ちが響く。
舌打ちの主は、聖女であるはずのマルタだった。

「さっきからギャーギャーやかましいっての。お仕置きされないとまともに会話もできないの」
「...!?」

突然の変化にさやかは困惑してしまう。
先ほどまでは物腰丁寧に振舞っていたというのに、いまやチンピラと遜色ないからだ。

「別に私達を疑うのは別に構わないわ。けど、物事には優先順位ってものがあるでしょ。それがわからなけりゃ杏子はもうおしまいだって」

さやかの感じている通り、マルタはキレていた。
一刻も早い杏子のソウルジェムの奪取、一向に捕まらない恐竜どもとその主、さやかとの問答で浪費した時間...
それらの要因が重なり、聖女である以前の、荒々しかったかつての彼女の顔を覗かせていた。

マルタの言っていることはさやかにも解る。
杏子の安全を優先するなら、余計な諍いは無駄であることも、怪しいもの全てを疑っている暇もないことも。

けれど、そういう耳障りのいいキュゥべえの言葉を信じたから自分はどうしようもなくクズになり、杏子の家族も破綻するハメになった。

(このライダーも、転校生も、そもそもまどかのサーヴァントだってめちゃくちゃ怪しい。...目的はなんであれ杏子を助けようとしているライダーはともかく、転校生まで信じきるのは難しいよ)

故にさやかには疑うことしかできない。確たる証拠があがるまで、迂闊に気を許してはならない。

そんな彼女を見てほむらは、己のすべきことを模索する。

(...美樹さんの疑いは、鹿目さんのソウルジェムを返せば晴れるかもしれない)

いまここでソウルジェムを返し、まどかが意識を取り戻せばさやかも今の不信は水に流すかもしれない。
けれど、まどかが家族を失ってからまだ時間がさほど経っていない。
もしもここで精神的な疲労が再び蓄積されれば、最悪ここで魔女になってしまうかもしれない。
だからといって、ここでまどかをこの状態のままにしておけば、さやかからの不信は避けられない。

(私はどうすれば...)

「なにを躊躇っている」

背後よりかけられる男の声。
突然の来訪者の気配に、篤もさやかもマルタも、それぞれが咄嗟に各々の戦闘体勢をとる。
ただ一人、その声を知っていたほむらは思わず呟く。

「セイヴァー...さん」


660 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/05(火) 00:05:00 aRN5tNcM0


(コイツが、セイヴァー)

篤もさやかもマルタも、写真を通じて彼の姿は認識していた。
だが、己の目で直接見れば、その圧倒的に神々しくも不気味なオーラは写真とは桁違いだ。
それこそ、救世主<セイヴァー>の肩書きに相応しいと思えてしまうほどに。

『デ...セイヴァー様ァァァァァ!!!!!』

さやかの脳内にアヌビスの歓声が響き渡る。
うるさいと思うまもなく、アヌビスはベラベラと賛美の言葉を並べ立てていく。

『よくぞお出でなされました!このアヌビス、あなたと再会できる日をどれほど待ち望んだか!!さあ、なんなりとご命令ください!あなた様の命とあらば、この身を粉にしてでも尽くしましょう!』

そういえば、コイツはセイヴァーと会いたがっていたっけと思い出す。
先ほどはDIOの振りをしていたディエゴにあれほどビビリあがっていたというのに、立ち直りの早い奴だと呆れと感心を同時に抱いてしまった。

「なにを躊躇う必要があるのだ、マスター」

自らに尻尾を振るアヌビスをスルーし、DIOはほむらに問いかける。

「きみが排するべきものがすぐそこにあるというのに、なぜ排除しようとしない」

DIOの言葉のひとつひとつに、ほむらは心臓を締め付けれらるような感覚に襲われる。
彼は確かに救世主と名乗っていた。けれど、それは万人のためのものではなく、『悪』というが観念に括られる者の為のもの。
そんな彼が排するべきものというのは、十中八九、この場にいるものたちのことだろう。

ではそれは誰なのか。
ランサー。まどかを守るため、共に戦ってくれた者。

ライダー。杏子を救うために恐竜を追跡している者。

美樹さやか。疑念を振りまき、現状を停滞させている根本の原因。

ならば、解は自ずと出てしまう。


661 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/05(火) 00:05:32 aRN5tNcM0

(でも...)

彼女はまどかの一番の親友であり、自分にとっても大切な仲間だ。
繰り返してきた中で対立することはままあったけれど、それでも交わった道があることは確かだ。
まどかの存在がなければ彼女を疎ましく思う、なんてことはありえない。
まどかや他の魔法少女たち同様、彼女にも救いたいと思っている。
そんな彼女を簡単に切り捨てることは...できない。

―――まどかのお母さんは切り捨てたくせに。

そんな声が聞こえた気がして、思わず視線をそちらに向ける。
そこには誰もいない。
あの選択をした後悔の表れ...なのだろうか。


「なにを勘違いしている。君にとってなによりも排するべき者は、ソレだろう」

えっ、と思わず言葉が漏れてしまう。
DIOはほむら自身に指を指しながら言った。
自分にとって排するべき者は自分。意味が解らない。とんち問答かなにかだろうか。

困惑するほむらに、DIOは意地悪く目を細めて告げた。

「その背の鹿目まどか。きみの語った『願い』において、最も不要なのはその娘だろう」
「鹿目、さん...?」

ほむらはDIOの言っていることがわからなかった。
自分が伝えた『願い』を思い返してみる。

―――私は、鹿目さんと――皆と普通にくらしたいです………!!

確かに自分はそう言った。伝え間違いはない。
自分の『願い』―――『救い』には、確かにまどかの名も入っている。
にも関わらず、彼は『不要なものは鹿目まどかだ』とハッキリと告げた。

意味が解らない。セイヴァーは、なにを言いたいのだろう。

いや、なにが言いたいのか以前に、セイヴァーは『悪』であり、まどかと決して相容れない存在だ。
そんな彼が、彼女を消す為にそれらしいことを言っているだけなのかもしれない。

(もしもセイヴァーが鹿目さんを殺すつもりなら...)

タンッ、と地を蹴る音が二つ。

ほむらの思考を他所に、DIOへと踊りかかる二つの影。


662 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/05(火) 00:06:01 aRN5tNcM0

『や、やめろォォォォ!!』

ひとつは、アヌビスと魔法の剣の二刀を振り上げる美樹さやか。
もう片方は、丸太でなぎ払おうと振りかぶる宮本篤。

彼らは『まどかを排除しろ』という言を聞いた瞬間、悟った。
この男は、間違いなく友の/マスターの敵だと。

左方からは二刀が、右方からは丸太が迫り来る。

敵意を持ったそれらが目前に近づこうとも、彼の笑みは依然崩れない。

どころか、フッ、と軽く鼻を鳴らしたかと思えば、両手を広げ、右指で二刀を挟み込み、左手で丸太を止めてみせたではないか。

あまりのパワーと正確さに、さやかと篤は思わず動きを止めてしまう。

そんな彼らに遅れて、DIOの懐に飛び込むのは、聖女・マルタ。

彼女はまどかのことなどほとんど知らない。
それが故に、DIOの言の危険性を察知するのが微かに遅れ、しかしそれが幸いし、図らずともさやかと篤に次ぐ第二射となることができた。

DIOの懐に入る。
もはやマルタの射程圏内だ。ここからDIOに出来ることといえば、微かにでも身を捩りダメージを減らすことくらいだろう。

「世界(ザ・ワールド)」

DIOの腹部に撃ち込まれるはずだったマルタの拳は、腹部から生えた金色の豪腕に防がれた。

「むんッ」

DIOは武器を掴んだままの両腕を振るい、さやかと篤を投げ飛ばし、それに呼応するように黄金の腕はマルタの拳を弾き飛ばした。
黄金の腕は、スルリとDIOの腹部から抜け出し、その人型の像を曝け出す。


663 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/05(火) 00:06:48 aRN5tNcM0

「黄金の人形...召還型の宝具という訳ですか」
「だとしたらどうする?」
「攻め立てるまで」

突撃するマルタに続き、篤とさやかも再び斬りかかる。
突き出される拳を『世界』で捌き、振るわれる刀と丸太をかわし、受け止め、いなしていく。
彼はまだ本気を出していない。遊ばれているのだと、三人はいやがおうにも感じざるをえなかった。

それでも、現状は攻め立てる三人と守りに徹するDIOという構図は均衡を保てていた。

彼が反撃を開始するその時までは。

「フンッ!」

DIOの拳がさやかの頬をとらえて殴り飛ばす。
勢いよく後方へと吹き飛ばされるさやかの身体は地面を幾らかバウンドしてようやく止まることができた。
その隙を突き、篤は丸太を手放し、代わりにさやかの落とした魔法の剣を拾い、切りかかる。

その躊躇いのない剣筋に、DIOはほう、と感心の声を漏らす。

振り下ろしを避けられ、流れのまま放った薙ぎも跳躍でかわされ、挙句にDIOは軽やかに篤の刀にふわりと着地した。
わずか数ミリの刀身に立つその姿はある種芸術的であり、その気がなくとも引き込まれるような妖艶さを醸し出す。
彼の雰囲気にのまれまいと、篤は刀を切り返し振り落とす。

その隙をつき、マルタは拳を撃ちこもうとするも、世界が割って入り、彼女の拳に己の拳を打ち付け食い止めた。

「的確な判断力だ。それに、足りない力を技術と経験で補っている。相当の修羅場を潜ってきたと伺える」

世界にマルタの相手をさせながら、DIOは篤へと向き合う。


664 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/05(火) 00:08:05 aRN5tNcM0

「鹿目まどかの家の付近で起きた大量の殺人...あれは君の仕業だろう?」
「...!」
「図星だったかな?」

振り下ろされる斬撃を難なくかわしながら、なおも彼は語りかける。

「どうやらいまここにいる者の中ではきみが最も『悪』(わたし)に近いようだ。少しばかり興味が湧いてきたよ」
「お前と話すことなどなにもない」

武器を変え、太刀筋を変えても篤の剣はDIOへと届かない。
遊んでいるかのように眺めているだけだ。

「ッ...とうしい!!」

マルタは『世界』に毒づきつつ、拳を撃ち合わせていた。
純粋な拳の威力だけなら彼女に分がある。が、『世界』の特筆すべきはそのラッシュの早さだろう。
素人目には幾つにも分裂したかのようにしか見えないほどの速さで繰り出される拳は、マルタをもってしても捌くのは困難。
かといって、その一撃一撃を無視できる程度の威力ではないため、強行突破さえも難しい。
結局、マルタは『世界』に殴り勝たなければどうしようもないのだ。

(これがサーヴァント同士の戦い...!)

一足先に弾き出されたさやかは眼前の戦いに心を奪われていた。
戦況を見れば、マルタと『世界』はほとんど互角、DIOと篤は篤が不利気味という程度のことはわかる。
だが、彼らの技量も速さも、さやかが到底太刀打ちできる水準ではない。
仮に正面から挑んだところで時間稼ぎが関の山、勝利など収められるはずもないだろう。

(そうだよ...マミさんや杏子ならまだしも、あたしはまだ未熟だ。あたしだけじゃ勝てない)
「なのに、なんであんたは力を貸してくれないのさ」
『バカ言うなァ!なにが悲しくてこの俺がDIO様に歯向かわねばならんのだ!』


665 : さまよえる黒い弾丸(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/05(火) 00:08:28 aRN5tNcM0

先の攻防において、アヌビスは一度たりとも能力を使用していない。
当然だ。
敵の攻撃を学習する能力など、DIO相手に使えばあっさりと露呈してしまう。
もしそんなことになれば、DIOからの処罰は免れない。
使われるしかない身とはいえ、現状でもいつ破壊されても可笑しくない。
ならばせめて、自分のアイデンティティーである能力を封印することで、彼は彼なりの忠誠心を示していたのだ。

「いい?アレが昔のあんたの上司だかなんだか知らないけど、いまのあんたのマスターはあたし!あたしに死なれたらあんたが困るんでしょ!?」
『わかっている!だから逆らうなと言っているんだ!今すぐ詫びを入れてあの眼鏡たちを斃して忠誠を誓え!それが出来ないならせめて自らあのお方の糧になれぇ!!』
「そんなことしてたまるかっての!」

さやかは改めて理解した。
アヌビスは文字通り『DIO』の狗であり、それはさやかがとって変われるようなものでもないことを。

「...わかったよ。あたしの力だけでなんとかする。あんたには迷惑かけないから」
『なっ、おい待て!』

さやかは喚くアヌビスを鞄にしまい込み、ふぅ、と深呼吸をひとつ置く。
自分が彼らに勝てるはずもない。
だからこそ、いま、他のサーヴァントがDIOを相手にしているこのチャンスを逃すわけにはいかない。

さやかはクラウチングスタートの姿勢をとり、足に力を込めていく。

篤とマルタがこのまま戦い続けたところで勝ちの目はない。
ならば、自分が動き少しでも状況を揺らす賽の目になろう。
それがどう転ぶかはわからないが、なにもしないよりはマシだ。

さやかが地を蹴り、DIOへと跳びかかるその瞬間だった。

一つの銃声と共に、DIOの頭部が弾け鮮血が舞ったのは。


666 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/05(火) 00:09:25 aRN5tNcM0
前編はここまでです。


667 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:14:49 QXG4a62Q0
後編を投下します


668 : :さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:15:59 QXG4a62Q0




「へ、へへッ。今度こそやったぜDio!」

銃声の方角へと皆が視線を向ける。
その先に立つのは、銃を構え下卑た笑みを浮かべたアサシン、マジェント・マジェント。
如何にもなチンピラ同然のサーヴァントがあのDIOを撃った。その事実に、一同は息を呑む他なかった。

「やっちまえ、イロハ!」

彼の背後から、魔法少女の姿に変身したいろはが飛び出しDIOへと駆ける。
が、既に跳躍していたさやかがそのままいろはとDIOの間に着地し、いろはは思わず動きを止める。

その刹那。そう、まさに刹那だ。

今しがた頭部を撃たれた筈のDIOは既にさやかの背後にまでまわっており、彼女の背を蹴り飛ばしいろはへとぶつけ吹き飛ばす。

「て、テメエ!」

慌てて銃を撃つマジェントだが、ロクに狙いも定まっていないため、弾丸は虚空に消えていく。

「クソッ、当たらねえ!」

マジェントが瞬きした瞬間、DIOは距離を詰め、マジェントの首を掴み喉輪をキめる。

「グエッ」
「確かきみとは先ほど会ったな。それに...環いろは」
「ガ...」
「マジェントさん!」
「ずいぶんとご挨拶じゃあないか。私たちは正当な取引を交わした仲だというのに」

DIOは己の額に手を当て、スッと指をなぞらせる。すると、銃痕はたちまちに消え、出血も完全に止まった。

「これくらいの傷ならたいしたことはないが」

DIOはマジェントを持つ手を振り上げ、そのまま床に叩きつける。
その際にあがったマジェントの呻きに、DIOはフッと口元を緩めた。

「このくらいの報いは受けねば釣り合わないだろう」
「て、メエ...Dio...!」
「先の戦いでもそうだったが...その憎しみは指名手配からのものではないな。『俺』とどこかで会ったことがあるのか?」

なに言ってやがる、と言い返そうとしたマジェントだが、DIOの双眸を見つめるうちに気がつく。
彼は、なんとなく自分の知るDioとは違う気がする、と。

「Dio...あれ?あれれ?」
「...フンッ」

DIOは、目をパチクリとさせるマジェントをいろはの足元へと投げ捨てた。


669 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:16:28 QXG4a62Q0

「...さて。なにはともあれ、これでこの場の私の敵はサーヴァントが三体、マスターが二名となったわけだが...」

くるり、と踵を返しDIOはほむらへと向き合う。

「多勢に無勢とはよく言ったものだ。流石にこの人数を相手取れば、私とてただではすまないかもしれない。...きみはまだ答えを出さないのか?マスターよ」
「え...?」
「この戦いはきみの背負う少女を巡り起こったものだ。きみが今まで渦中にいなかったのは、その娘の処断を下していなかったからだ。だが、この先も不干渉を貫くのなら、私はきみを救済することは決してないとだけ言っておこう」
「ッ...!」

ほむらは思わず息を呑む。
彼女がDIOの『救済』に信を置いたのは、彼のソウルジェムを浄化する力と魔法少女システムの本質を見破った確かな"眼"を有しているからだ。
だからこそ、危険を感じつつも彼とは敵対しないように振舞い追い詰められたまどかを会わせようともした。
DIOという救世主は、ほむらにとってそれだけの価値があるのだ。

狼狽するほむらを愉しむようにDIOは口角を吊り上げる。

「勿論、守るというのならそれも選択のひとつだ。だが、よく考えるといい。
君の背負うソレは既に魔法少女だ。仮にきみが聖杯を手にしたとて、鹿目まどかが魔法少女である限り同じことの繰り返しになるだろう。
聖杯を手に入れずそのままもとの世界に帰還してもそうだ。彼女が契約している以上、やはりきみは針を戻すほかない。
君の願った"普通の日常"を遠ざける者をなぜそこまでして守る必要がある?」

ズキリ、ズキリとほむらの心臓が締め付けられる。
DIOの言うことは間違っていない。
いくらこのまどかが友好的に接してくれたとしても、彼女が魔法少女である以上は『約束』を果たすことができない。
魔法少女となった以上、もとの身体に戻す方法は、誰かがキュゥべえにそう願うか、聖杯に願うかしかない。
だが、誰かの犠牲の上で身体を戻したところで、心優しい彼女が受け入れるはずがない。
どのような道を辿るとしても、このまどかとは別れなければならないのだ。

「不要ならばソウルジェムを砕いて殺せばいい。殺すのが嫌なら彼女が魔女になるのを待ち、殺してグリーフシードを手に入れればいい。
マスター...いや、暁美ほむら。聞かせてもらおうか。きみは願いの過程でなにを選ぶ?」

DIOの問いかけを合図にするかのように、一同の視線がほむらに注がれる。

まどかを守ろうとする篤とさやかも。
邪悪の意思に唆されつつある少女を警戒するマルタも。
状況を把握しきれずとも、答えの如何によってほむらの立ち位置が変わることを察しているいろはとマジェントも。

皆、戦いの手を止めてほむらの答えを待ち受けている。

沈黙が、下水道に舞い降りた。

「わ、わたしは...」

やがてほむらは口を開く。
震える身体を押さえきれずに。
意を決し、彼女は口に出した。





「...それがきみの答えか」


670 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:17:01 QXG4a62Q0



ハァ、ハァ、と少女の吐息が漏れる。

DIOの手に指輪が握られている。鹿目まどかのソウルジェムだ。

彼はそれを両掌で優しく包み込み、数秒後に開け、ほむらへと放り渡した。

ほむらの手からは令呪の紋様がひとつ消えていた。

彼女は命じた。DIOにまどかのソウルジェムを浄化するようにと。

(鹿目さんは傷つけさせない...誰が相手でも...!)

結局、彼女は救済への安心よりも、目先のまどかの命を選択したのだ。

「...フンッ」

くるり、と踵を返し、DIOはいろは達のやってきた道へと歩みを進める。

「どこへ行くつもりだ」
「私のマスターの意志は確認できたのだ。これ以上ここにいる意味もない。まだ戦うつもりならば受けて立つが」

篤とさやかは揃って武器を構え臨戦態勢をとる。
殺気を醸し出す二人にもなんら反応も示さないまま、DIOの背中は遠ざかっていく。
来ないならばこちらから仕掛けてやる―――そんな想いで、足に力を込めようとするも、しかしマルタが両者の間に割って入り、ふるふると首を横に振った。

「ランサー。それにさやか。あなた達も傷を負っている。...避けられるべき戦いは避けるべきです」

マルタは先の交戦で確信していた。
篤もさやかも無視しきれない怪我を負っており、現状では、セイヴァーを倒すことはできないと。

彼から発される邪悪なオーラは写真越しに感じたそれ以上のものだった。
まさに邪悪の化身といえる彼と相容れることは決してないだろうとマルタは解を出していた。

(そしてそれはセイヴァー、あなたから見てもそうでしょう。だから、極力私には宝具で対応をしていた)

マルタは聖女だ。光だ。闇からすればそれはそれは鬱陶しい輝きだろう。
触れることすら嫌うのならば、彼から自分へと手を差し伸べることは決してない。

マルタとセイヴァーは、互いに反撥しあうしかないと理解しているからこそ、引くときはあっさりと引けるのだ。


671 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:17:56 QXG4a62Q0

「あ、あの...」

おずおずといろはが四人に話しかける。
DIOと敵対しており、且つそれが気を失っている少女の為であることがわかった為、彼らが自分と同じく好んで聖杯戦争に臨んでいるわけではないといろはは判断した。
その為、情報交換を持ちかけようとしたのだが...

「それ以上近づくな」

当然、初対面である以上、警戒する者はいる。

「ランサー。彼女は敵ではないのでは?」
「味方である証拠もない。さっきセイヴァーは対等な取引をしたと言っていたからな。用件があるならその位置でだ」

ギラリ、と篤の眼鏡の奥の双眸が光り、見据えられたいろはの背筋に寒気が走る。

その敵意は、かつて小さいキュゥべえを庇った際に向けられた七海やちよのものに似ており、その上でより容赦ない殺意も込められているのがヒシヒシと伝ってくる。
いくら英霊とはいえ、如何な戦場を渡ればこのような敵意を放てるようになるというのか。

ごくり、といろはの喉が鳴った。

「おい、イロハ!早くあいつを追わねーと見失っちまうぜ!」

マジェントの声にいろははハッと我にかえる。
そもそも彼らが戦いに乱入したのは、マジェントが強奪してでも沙々のソウルジェムを奪ったほうがいいと考えたからだ。
ここでDIOを見失えば、彼女達の本来の目的を見失うことになる。

「あの、私、環いろは。魔法少女です!見滝原中学に通ってます。私はこんな戦いは止めたいと思ってます。よければ、力を貸してください!」

それだけを言い残すと、いろはは先にDIOを追ったマジェントに続き、この場から走り去っていった。


672 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:18:23 QXG4a62Q0

そんな彼女達を見て、ほむらも動き出す。

(私もいかなくちゃ...)

DIOを失望させてしまった、と彼女は思っている。
別に、DIOからの評価がどうとかいう問題ではない。
問題なのは、彼がほむらへの失望をきっかけにまどかへ害を加えかねないという点だ。

彼はあれほどまどかを捨てるようにほむらへと打診したのだ。
それだけ彼女のことを相容れない存在だと認識したのだろう。
邪悪の体現者である彼を敵にまわせばどれだけ恐ろしいか、想像だにできない。
だからこそ、いまはDIOを追い、できるだけまどかへと関わらせないようにするべきだと彼女は判断した。

「待って」

まどかのソウルジェムを篤に渡し、駆けるほむらをさやかが呼び止めた。
ほむらは足を止め振り返る。

「あんた、セイヴァーを追うつもり?」
「...鹿目さんと彼を会わせてしまった以上、目を離した隙に彼女になにをされるかわかりませんから」
「...あたし、正直、あんたのことはまだ信用し切れてない。あんたがあたしの味方なのかもわからない」

さやかの言葉にほむらの面持ちが沈む。
繰り返してきた時間軸の中では誰からも信用されないのが常だが、やはり何度経験しても堪えるものはあるのだ。

「けど、あんたのまどかを守りたいって気持ちだけは信用できる。じゃなきゃ、あんな顔で令呪なんて使えやしないよ」
「......!」
「まどかを守るよ、あたしたちで」

ほむらは思わず唇を噛み締める。
偽りなく嬉しかった。まどかの友達であるさやかからその言葉をもらえたことが。
まどかを守る存在でいていいと、認められた気がしたから。


673 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:18:51 QXG4a62Q0

「まも、りますっ。絶対に!」

それだけを吐き捨て、ほむらは返答を聞く前に踵を返し走り去る。
彼らにいまの自分の顔を見られたくなかった。
涙が滲み、みっともなく顔を赤らめたこの顔を。

涙の理由は自分にもわかっている。
認められた嬉しさだけじゃない。
自分はあくまでも聖杯を狙う身だ。
戦いを由としない彼らに心まで迎合することはできない。

まどかの一番の友達の美樹さやかを。
怪盗Xやバーサーカーからまどかを守るため戦ってくれた篤を。
事情を知らずともまどかを守ろうとしてくれたマルタを。

もしかしたら、聖杯を手にする過程で斃さなければならないかもしれないからだ。

もちろん、そんなことは避けたいに決まっている。
聖杯はなにも全員を殺さずとも満たすことはできるらしい。ならば、彼らが聖杯戦争からの離脱を完遂しても、自分の願いを叶えることはできる。
だが、やはり彼らを手にかける可能性がある以上、罪悪感や後ろめたさはあるに決まっているのだ。


―――ずいぶん都合がいいのね。


ほむらの足が思わず止まる。
また、なにかが聞こえた気がする。
けれど、周囲には誰もいない。これこそが、罪悪感から生まれた幻聴なのだろうか。

「......」

ほむらは言い知れぬ不安に駆られつつも再びその足を進めた。


674 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:19:18 QXG4a62Q0




あれだけ喧騒に包まれた場も、人が散るのは一瞬だった。

8人もの人数があっという間に4人だ。

取り残されたさやか・篤・マルタは、自分達の持つ情報交換の場を設けていた。

「あのいろはって娘、どう思う?」
「まだ情報が少なすぎる。ただ、セイヴァーと友好的な関係ではないようだ」
「身元を明かしてくれたのですから、一度会ってみるべきでは?」
「まあそうなるよね。まだロクに会話もできてないし」


共闘したこともあり、自然と互いの態度も柔らかくなっていたのはこの戦いにおける貴重な戦果だろう。


いろは達への認識を共有した後、まずはさやかが己の持つ情報を大まかに語った。
まどかの家に向かったが、家は荒れ放題だったこと。
中から数匹の恐竜が飛び出したかと思えば、恐竜使いのライダーが現れたこと。
そのライダーとの交戦中に、ソイツのマスターに刺され、ライダーにも追い詰められ、窮地に陥った時にソウルジェムだけの杏子に助けられたこと。
そして、この下水道でマルタ、そしてほむらと篤に遭遇したこと。

さやかは流れるように篤に質問した。
まどかの家で何があったのかと。
篤の答えに、さやかは驚愕で目を見開いた。


「まどかの家族が怪盗Xに襲われた!?」
「ああ。奴は姿を自在に操る。まどかの弟と親父さんは奴に殺された」
「タッくんとパパさんが...うっ」

あの時、ディエゴが投げつけた『赤い箱』の中身がタツヤか知久のものだという事実に、さやかは吐き気を催した。
アレがまどかの家から出てきた時点で嫌な予感はしていたが、やはり改めて突きつけられるとクるものがある。
罪もない家族を襲撃した外道どもに怒りを覚えつつも、マルタは冷静を保てるよう努めつつ、篤から話を聞く。


675 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:20:19 QXG4a62Q0

「父と弟...母親はどうしたのです?」
「お袋さんも殺されかけたが、まどかの魔法で一命を取り留めた。その後はほむらちゃんが呼んだ救急車に任せた」
「...そっか。まどかが...」

さやかが、未だ眠るまどかの額にそっと触れる。

「...ごめんね、まどか」

家族を殺され、心もズタズタに引き裂かれたであろう友は、それでも遺された者を守ろうと必死に足掻いた。
そんな友の力になれなかった自分を酷く恥じる。
すぐにまどかのもとへと駆けつけなかったのは、聖杯戦争以上に自分の問題だ。
もっと早く決断していれば、こんなことにはならなかったかもしれない。

「...あなたの所為ではありませんよ」
「でもっ...でも!」
「悪いのはその怪盗です。彼らもあの杏子を襲った恐竜使いと一緒に懲らしめて...」

恐竜使い。自らの言った言葉に、マルタは妙な引っ掛かりをおぼえる。
なにか、大事なことを見落としていないかと。

(まどかの家族は母だけが命を拾い、そして後の処置は救急車に任せた。後からやってきたさやかが、数匹の恐竜とともに恐竜使いのライダーと遭遇した...ッ!)

生き残った母。出てきた数匹の恐竜。現れたライダー。
その三つが繋がったとき、マルタは思わず口走っていた。


「あの下種野郎...!」


さやかはおろか、歴戦の篤でさえ面を食らったほどの怒りの形相は、もはや口が裂けても聖女とはいえないものだった。


676 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:20:48 QXG4a62Q0

「申し訳ありませんが、慰めの言葉をかける時間すら惜しい...すぐにでもあの下種をシメあげなければ」

怒りが一週まわったせいか、口調は辛うじてもとに戻ったマルタは入り口への格子を掴む。
その様子を見た篤は遅れて理解する。

「...そういうことか」
「え?」
「さやか。お前が見たという恐竜はお袋さんと救急隊員の可能性が高い」
「......!」

再びさやかの目が見開かれる。
まどかが必死に守ったものがこうも容易く壊されていく現状に、後悔以上に怒りが真っ先に脳髄を支配していく。

「ライダー!あたしも行くよ。杏子を助けることもだけど、それ以上にあいつをブッたぎってやらないと気が済まない!」
「さやか。あなたを連れて行くことはできません」
「なんでさ!」
「あなたにはそこの彼女を守ってもらいたい。...家族を失った彼女には支えが必要でしょう」
「俺からも頼む。この事を知った時、支えるものがなければあいつは壊れてしまうかもしれない」

二人から指摘され、さやかはハッとする。
この事実を知れば、最も悲しみ怒りを覚えるのはまどかだ。
そんな彼女を放置してライダーを倒しに向かうことはできない。
篤とまどかの関係がどういうものかはわからないが、少なくとも聖杯を願わない主従が側にいることは多少なりとも悲しみを紛らわすことはできるだろう。

「...わかった。ライダー、約束して。あのキザヤローは絶対にぶっ飛ばすって!」
「約束するまでもありません。奴は必ず...!」
「ライダー、恐竜は恐らく傷をつけることで感染者を増やしていく。俺とほむらちゃんが連れていた奴もそれで恐竜にされた。
いいか、決して手傷を負わされるな。もしも傷を負わされかねないほど追い詰められたら迷わず殺せ」

えっ、とさやかは言葉を漏らす。
いま、篤はなんと言った?
傷を負うなというのは解る。けれど、恐竜達は元人間なのに、それを殺せ?まどかの母親もいるのに?

「...彼らはライダーの魔力さえ途切れれば、元に戻ることが出来る。殺せというのは承諾致しかねます」
「あくまでも最終手段だ。だが、もしもお前が恐竜にされたら俺達でも抵抗できるかわからない。恐竜にされるくらいなら、敵を殺して被害を減らした方がいい」
「...手傷を負うな、という助言だけは聞き入れましょう」

先ほどまでのヒートアップした空気はどこへやら。
篤の冷酷な助言でマルタもさやかも一気にクールダウンしてしまった。


677 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:21:25 QXG4a62Q0

マルタがマンホールを開け地上へと登り、残るは篤とさやかと未だ眠るまどかの三人。
さやかは睨みつけながら篤へと問いかけた。

「あんた、どういうつもりさ。まどかのママがいるかもって言ったのはあんたでしょ」
「ああ、わかっている」
「だったらなんであんなこと」
「言っただろう、被害を減らすためだと。確かに本体を倒せば恐竜は元に戻るかもしれない。だが、その可能性にかけて俺たちまで恐竜にされてしまえばそれこそ本末転倒だ。
そんな経験は腐るほど体験してきた」

篤の眼鏡の奥で光る双眸を見たさやかは思わず息を呑む。
酷く冷たい目だった。DIOともディエゴとも違う。
人を守る為に戦っている者とは思えないほど冷たく寂しい目だった。

「...あたし、さっきセイヴァーがあんたに言ってたこと聞こえたんだ。まどかの家で起きた事件があんたの仕業じゃないかってこと。
まどかがそんなことを命令するとは思えないし、あの子を守ろうとしてくれてるあんたがそんなことをするなんて思えなかった。
だから、あいつの勘違いだって思ってた。...でも、あんたの目をこうして改めてみると、あいつの言ってることが正しいように思えて仕方ないよ」
「......」
「...あいつの言ってたこと、本当なんだね」
「...ああ。あいつらを殺したのは俺だ。俺の独断でまどかは知らない」
「なんでそんなことを」
「あいつらは、まどかを車で轢きかけた上に、車が壊れたのをいいことにまどかを脅し、それが達成できなければ腹いせにあいつの家を放火しようとした奴らだからだ」

聞いていて頭が痛くなるようだった。
意味深にDIOが語っていた為、てっきり無実な一般市民を虐殺しているのかと思えば、創作物でも滅多にお目にかかれないような殺したほうがいいと思えるような悪党共相手だったとは。
けれどそれでもだ。

「でも、それで守られてもあの子は喜ばないと思う」
「そんなことはわかっている。だが、俺は決めたんだ。そんなあいつだからこそなにがあっても守るとな」

篤の言葉を聞いていて、さやかは思う。
DIOの言っていた『最も悪に近い』というのは間違いではないと。

性根がそうなのか、かつての経験がそうさせているのかはわからないが、彼はひどく危うい。
基本的には悪人ではないが、ふとしたきっかけでどう転ぶかわからない。

(見張りが必要なのはセイヴァーだけじゃないか)

さやかはやれやれ、とかぶりをふった。


678 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:21:47 QXG4a62Q0

「...それで、これからどうするかは決めてるの?」
「とにかくまどかを落ち着かせられるところを探す。ライダーの襲撃があった以上、まどかの家も安全とは言いがたいからな」
「まどかのお母さんのことはどうしよう」
「しばらく伏せておきたい。これ以上まどかの精神の負担が増えるのは避けたいからな」
「そっか...そうだよね。まどかが知る前にライダーがあの親玉を倒してくれれば万々歳だもんね」

さやかは、篤が持つソウルジェムをまどかの指に嵌め、額をそっと撫でる。

「ぅ...」
「うん。大丈夫みたい」

まどかの意識が戻りつつあるのを確認したさやかはホッと胸を撫で下ろした。

「ねえランサー。ひとまずまどかと一緒にあたしの家に来る?」
「いいのか?」
「あたしの家ならまどかもそこまで気を張らなくてもすむと思うからね」
「ならお言葉に甘えさせてもらうよ、さやかちゃん」
「それで、このまま下水道から行く?それとも地上に戻る?」
「恐竜のことを考えれば下水道を進みたいが、もしもバーサーカー(カーズ)と出会えば一たまりもないからな。恐竜ならまだ対処できそうだし、地上から行くとしよう」

さやかは先んじてマンホールに手をかけ持ち上げ、顔を出しキョロキョロと周囲を見回した。

「OK、誰もいないよ」

さやかが地上へと戻るのに続き、篤もまどかを背負いながら格子を登り地上へと戻った。

(すまない、まどか。だらしないサーヴァントのせいで全てを失わせてしまった。
お前はもうこれ以上の悲しみを知る必要は無い。怪盗X、それに恐竜使いのライダー...奴らとの決着は、俺一人でつけてやる)

己の背の小さな温もりの儚さを愛しく想いつつ、篤はそう密かに決意するのだった。


679 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:23:04 QXG4a62Q0



【D-2/月曜日 早朝】



【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]精神的疲労(絶大)、気絶中
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金] お小遣い五千円くらい。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯戦争を止める。家族や友達、多くの人を守る。
0:...
1:ほむらと情報交換する。
2:聖杯戦争を止めようとする人がいれば手を組みたい。




【ランサー(宮本篤)@彼岸島】
[状態] 全身に打撲(中〜大)、疲労(大)、精神的疲労(大)、腹部裂傷
[装備] 刀
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯は手に入れたいが、基本はまどかの方針に付き合う。
1.怪盗X及びバーサーカー(カーズ)は必ず殺す。
2.怪盗X・セイヴァー(DIO)には要警戒。
3.恐竜化した者は最悪殺す。
4.ライダー(ディエゴ)は見つけ次第殺す。
5.まどかはもう戦わせない。荒事は全て引き受ける。
6.さやか、ライダー(マルタ)、ほむらは信用する。

※恐竜化が感染する可能性を得ました。
※襲撃した恐竜が『鹿目詢子』だと気付いておりません。
※ほむらがセイヴァーの能力の影響下にある可能性を持ちました。
※ライダー(マルタ)、さやかと情報交換しました。

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]魔力消費(小)、負傷(治癒済み)
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]有
[装備]セイバー(アヌビス神)
[道具]大き目のバッグ(アヌビス神を入れる用)、さやかのソウルジェム(穢れ:小)
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:平和を乱す奴をやっつける
0.ランサーとまどかを自分の家に泊める。
1.ライダー(ディエゴ)は放っておけない。倒す。
2.ライダー(マルタ)、ランサー(篤)はたぶん信頼できる。ほむらもまどかを守るという一点だけは信用できる。
3.魂のエネルギーで願いが叶う……?
4.余裕ができたら環いろはに接触する。
5.セイヴァーに要警戒。まどかを狙うなら敵だ。

[備考]
※まどか・マミ・杏子の電話番号は知っていますが、ほむらの電話番号は知らないみたいです。
※ライダー(ディエゴ)のステータスを把握しました。
※ライダー(マルタ)のステータスを把握しました。彼女が杏子のサーヴァントかは懐疑的です。
※配布されたソウルジェムが魔女を産む可能性を考えています。
※ライダー(マルタ)、ランサー(篤)と情報交換しました。

【セイバー(アヌビス神)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)、水に濡れた、ディエゴに対する戦意喪失
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:さやかを自分の有利な方へと扇動する。
0.DIO様に勝てる訳が無いッ!
1.DIO様が行ってしまわれた...
※ライダー(ディエゴ)とレイチェルの主従を把握しました。
※ライダー(マルタ)の存在を把握しました。


680 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:23:26 QXG4a62Q0


【D-2/月曜日 早朝】

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]肉体死亡
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に乗り気は無いが……
0.―――
[備考]
※ソウルジェムが再び肉体に近付けば意識を取り戻し、肉体は生き返ります。


【ライダー(マルタ)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小) キレ気味
[ソウルジェム]無
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争への反抗
1.杏子のソウルジェムを取り戻す。恐竜使いのサーヴァントは即急にシメあげブチのめす。
2.アサシン(杳馬)は何か気に食わない。
3.ひとまずさやかとランサー(篤)は信用する。
4.セイヴァーには要警戒。きっと、相容れることはないだろう。
[備考]
※杏子のソウルジェムが破壊されない限り、現界等に支障はありません。
※警察署でXの犯行があったのを把握しました。
※卯月とアサシン(杳馬)の主従を把握しました。
※ディエゴの宝具による恐竜化の感染を知りません。ただディエゴの宝具に『神性』があるのを感じ取っています。
※ライダー(ディエゴ)とレイチェルの主従を把握しました。
※セイバー(アヌビス神)とさやかの主従を把握しました
※ランサー(篤)、さやかと情報交換しました。


681 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:23:53 QXG4a62Q0



マジェントといろはが追った先で、DIOは壁にもたれ待ち構えていた。

「さて、環いろは。わざわざあんな真似をしたのだ。目的は彼女だろう?」

そう言うDIOの傍らには、横たわる沙々の肉体があった。

いろはたちは、戦いの被害を受けないよう、沙々の肉体を通路の脇に置いていた。
それをDIOが拾い、ここまで担いできたのだ。

「私は確かにきみが時間泥棒を見つけてくれれば返すつもりでいたのだが、それほどまでに信用できなかったかな?」
「それは...」

ここで素直にはいと言えば、DIOは気分を害し沙々を殺してしまうかもしれない。
言いよどむいろはの代わりにマジェントが吐き捨てた。

「頭脳が間抜けかテメーはよぉ〜。沙々の身体が保ってる間になんの手がかりも無い奴を探し出せるかよぉ〜」
「身体が保つ間...?」
「心臓が止まってたら身体は腐るんだよ。そのくらい解りやがれ!」
「ふむ、それは失念していた。それに、君達より後に出た筈なのに私のほうが早くあそこに到着していたな...」

DIOは顎に手をやり数秒口を噤み、思いついたかのように沙々の腕を持ち上げ指輪を嵌めた。

「カハッ!」

横たわっていた沙々の身体が、ビクン、と大きく跳ね上がり、溜まっていた空気を大きく吐き出した。
意識を取り戻した沙々は、口端を垂れるよだれを拭くことすら忘れ、キョロキョロと周囲を見回した。

「あ...あれ?私...」
「さて。これで窮屈な時間制限は無くなった。時間さえあれば探索が苦手なきみでも人一人を探し出すことはできるだろう?」

DIOの掌がポンと頭に乗せられ、沙々のビクリと跳ね上がった。
言葉にされずとも彼女は本能的に感じ取っていた。
いろはがDIOの頼みを果たせなかった場合、自分はゴミのように殺されるのだと。

「い、いろはさん、たすけて」
「...私が時間泥棒を探し出すまで、沙々ちゃんの安全は保障してくれますか?」
「約束しよう。私に牙を剥けば話は別だが」
「......」
「信用できない、という顔だが、きみの望みどおりある程度浄化した彼女の魂を戻し、時間泥棒を誘い出してくれればそこのアサシンから受けた弾丸も水に流そうというのだ。
これ以上、きみはなにかを望むのかな?」
「...いえ」

本音を言えば、こんなことをせず、沙々を返してもらいたいものだが、彼相手にそこまで求めればそれこそ彼女の命が危うくなる。
いろはは拳を握り締めぐっとこらえ、DIOの取引に応じることにした。


682 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:24:17 QXG4a62Q0

「それと、そう。そこのアサシン。きみは私を『Dio』と呼んで銃撃したね?」
「お、おう。けど、改めてみるとなんか違うような気がするんだよなぁ〜」
「恐らくきみの言うDioは私でもなければ『俺』でもない。云わば平行世界の住人だろう」
「平行正解?」
「平行世界...ようは、私のそっくりさんがいるというわけだ」

DIOのだいぶ噛み砕いた解答に、マジェントはポンと己の掌を打ち、なるほど!とジャスチャーをとった。

「私はきみの言うDioに心当たりがある。いろはと一緒に探してみてはどうかな?」
「ん〜、どうすっかなぁ」

DIOの提案にマジェントはあまり乗り気ではなかった。
というのも、彼はDioへの直接的な報復はほとんど諦めてる。
いろはとの仲良しぶりを見せ付ける作戦も、彼女の取引したDIOと自分を幾度も裏切ったDioが別人ならば意味もなさない。
となれば、できる復讐は、せいぜい不意打ちからの銃弾くらいしか思いつかない。
そんな相手をわざわざ捜し求めるのも、あまり気は乗らない。

(けどイロハがササを連れて来れねえと捕まったままだしなぁ。仕方ねえ)

「待ってろよササァ、イロハと一緒に時間ドロボーを探してきてやるからなぁ〜」

マジェントは暢気な声音で、震える沙々にそう呼びかけた。

「ふふ...では期待しているよ、環いろは」

嘲笑にも似たDIOの激励を受け、いろはは歯がゆい想いを抱きつつ、彼らへと背を向ける。
チラ、と背後に向けた視線は沙々のものと混じり、いろはは口だけを動かし彼女に告げた。

必ず助けます、と。

【D-2 下水道/月曜日 早朝】

【環いろは@マギアレコード】
[状態]肉体ダメージ(大)
[令呪]残り0画
[ソウルジェム]有
[装備]いろはのソウルジェム(穢れ:なし)
[道具]
[所持金]おこづかい程度(数万)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の調査。戦いは避ける。
0.時間泥棒を探す。
1.沙々ちゃん大丈夫かな...
2.余裕ができればアヴェンジャー(ディエゴ)たちを追いかける。
3.マジェントさんと協力する。たぶん、悪い人じゃないよね?
4.バーサーカー(ヴァニラ・アイス)さんには要注意。

[備考]
※『魔女』の正体を知りました
※セイヴァー(DIO)のステータスを把握しました。
※暁美ほむらが魔法少女だと知りました。
※アサシン(マジェント)、アヴェンジャー(ディエゴ)のステータスを把握しました。
※少女(ほたる)がアヴェンジャー(ディエゴ)のマスターだと勘違いしています。




【アサシン(マジェント・マジェント)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(大)、肉体ダメージ(中〜大)いろはへの好意
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い。ディエゴの殺害優先?
0.優しくしてくれるからいろはについていく。スキになってきたぜ。
1.もうDioとは関わりたくないから、いろはと仲良くしてDioに間接的な嫌がらせをする。
2.DIO...Dio...別人なのか?ワケわかんねーよもう。
[備考]
※Dioに似たマスター(ディオ)とそのサーヴァント(レミリア)を把握しました。
※バーサーカー(シュガー)の砂糖により錯乱状態ですが、時間経過で落ち着きます。
→錯乱状態は落ち着いてきてますが、場合によっては再び悪化するかもしれません。
※ほたるがマスターである事を把握しました。


683 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:24:54 QXG4a62Q0


「さて。そろそろ姿を見せたらどうだ、ホル・ホース。それに我がマスターよ」

DIOの言葉から数秒遅れて、ほむら、ホル・ホースと玉藻がそれぞれ別の曲がり角から姿を現した。
突如現れた彼らに、沙々はヒッ、と喉を鳴らす。

「よ、よお、ほむらちゃん」
「......」

数時間前に出会った為、一応挨拶の言葉をかけるも、ほむらは反応を示さない。
無論、そんなことでホル・ホースは腹を立てたりはしない。
というのも、DIOがここまで側にいるのだから、マスターであれ緊張しても仕方ないことは理解しているからだ。

「ふむ、知り合いだったか。ならば紹介する手間も省けるな。マスター、彼は『俺』の優秀な部下だ。これからは彼にサポートをしてもらうといい」

えっ、とほむらは思わず言葉を漏らす。
サポートにホル・ホースが選ばれたことに不満がある訳ではない。
なぜ、彼の期待に添えなかった自分にサポートなど付けてくれるのか、純粋に疑問に思ったのだ。

「あの、どうして私なんかに。先ほどは、あなたの要望を拒んだのに」
「要望?ああ、あれはあくまで道を提示しただけだ。『俺』ならば、相応の罰を与えたかもしれないが、『私』はただ道を増やすだけだ。
どれを進むかは、結局のところきみ次第に過ぎない」

そう。本来のDIOならば任務を拒んだとして、ほむらへ『洗脳』か『死』の罰を与えただろう。
だが、いまのDIOは『救世主』。救世主は誘導こそすれど、あくまでも導くだけだ。選択肢を強要する謂れはない。

「ただし、覚悟しておくといい。きみの選択を援ける術を私は知らないし、知るつもりもない。
きみの本当の願いは、きみ自身が認めなければ達成することはできないことを」

ほむらは俯き、目を伏せる。
DIOの言葉は意味こそ理解しきれないが、嫌でも不安と恐怖を掻き立て刺激してくる。
本当にこれでよかったのかと。正しいのはDIOではないのかと。

(関係ない...私は、誰になんと言われようとも鹿目さんを守る。それが、私に最後に残された導だから)

まどかを守り、聖杯を手に入れ皆と仲良く、普通に暮らす。
その願いは、きっと間違いなどではないはずだ。


684 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:25:42 QXG4a62Q0




冗談じゃない。
優木沙々は頭を抱えそうになった。
目を覚ませたのはいいものの、現状は未だにDIOの掌の中。
命が握られているという事実はなにも変わりはしない。
加えて、こんな傘下染みたものの輪に入れられれば、馬車馬のごとく働かされるのは想像に難くない。

ここにいる連中に魔法を使おうにも、DIOがそれを許す筈もない。

頼みの綱のいろはとマジェントも、いつDIOからの頼みを遂行してくれるかわからない。

「さて。沙々と言ったかな?」
「は、はひっ!?」

突然名前を呼ばれたせいで、妙な声が出てしまった。
そんな様を嘲るように笑みを浮かべるDIOに思わず苛立ちかけるもどうにか抑える。
もしも笑っているのがマジェントであれば、容赦なく毒を含めたさりげない罵倒を浴びせられるのにと歯がゆく思う。

「きみにはきみで頼みたいことがある。力を貸してくれるな?」

疑問詞を用いているが、沙々にこれを断る権利はなく、ハイヨロコンデーと満面のゴマすり笑顔で引き受けるしかなかった。

(環いろはぁ、約束したんだから絶対に助けに来いよ!なにをおいても私の命の保護を優先しろ!じゃねーと今度こそ魔女に変えて私の気が済むまでサンドバックにしてやるからなぁ!!)

優木沙々。ひとたび殺されかけたというのに、彼女の下種な性根は一遍の乱れもなかった。


685 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:26:23 QXG4a62Q0




ホル・ホースは思い返す。
DIOに『私のマスターにならないか』ともちかけられたときのことを。

彼のマスターになれば、それだけで戦力としては最高峰であり、令呪があれば強制的に退場させることもできる。
そんな喉から手が出るほどの魅惑の権利を、しかしホル・ホースはハイ喜んでと承諾しかねた。

まずはこの契約に対するDIO本人への理不尽さ。
ホル・ホースは彼の部下であれど、忠誠心が薄いほうなのはDIO自身が体感していることだ。
そんな男をマスターに据えるメリットがわからない。それなら、まだ人がよさそうな暁美ほむらの方が安心できるはずだ。

次に、そんなリスクをわざわざ負う男だろうかという懐疑。
DIOは慎重な男だ。自分の能力ひとつ隠す為に、最も縁が深い老婆を平然と殺害するほどにだ。
そんな彼が、わざわざ自分をマスターに据えるだろうか。否、必ずなにか裏があるに違いない。

以上の点から、彼はDIOの提案を保留した。勿論、理由までは口が裂けても言えなかったが。
その判断に、彼は頬を撫でながら微笑みかけた。

『目先の欲に駆られず冷静にメリットとデメリットを捉えられるその判断。私はきみのそういうところが好きだよ』と。

もしも、考えなしにはいと頷けばどうなっていたかは、想像もしたくなかった。

そして、極めつけのマスターのサポートという仕事。


686 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:27:06 QXG4a62Q0

ホル・ホースは確信する。
自分はいま、DIOに試されているのだと。

(奴は最初に、暁美ほむらとマスターを変わらないかと提案した。普通に捉えるなら、俺が彼女ととってかわれる余地があるってことだ)

この場合のマスターの交代とは、片方のマスターの喪失を示す。
つまり、ホル・ホースが暁美ほむらを殺し、玉藻との契約を解除し、DIOのマスターになることだ。

ほむらの話を聞く限り、DIOは神出鬼没だ。彼の目が無い隙にほむらを殺すことは出来る。
だが、迂闊にもそんなことをしようものなら、間違いなく討伐令の報酬を与えられる前にDIOに粛清されてしまうだろう。
それも、確実にほむらが助かるなにかをあらかじめ施しておいてだ。
DIO自身から明確にほむらを殺せという指示がない限り、DIOへの叛意とみなされてもおかしくはないのだ。

じゃあ隙なんてないじゃないか、どうせ殺せないなら素直にDIOに従った方が楽だと大半の者は考えるだろう。
それがDIOの狙いだ。
楽なほうへと逃がすことで思考を殺し、DIOの忠実な僕とする。
それが奴のやり口だ。安心という名の麻薬だ。

(俺は耐えるぜ。俺が俺らしく生きる為にな)

これはDIOとの根競べだ。
目の前にある獲物に引き金を引かず、諦めに逃避もせず。
そして決定的な隙が出来たその瞬間にようやく弾を放つ。

果たして、弾は放たれるのか、その弾が貫くのが暁美ほむらなのかDIOなのかはまだわからない。


687 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:28:15 QXG4a62Q0




DIOは考える。
己に下された討伐令、その意味を。

討伐対象にあるのは、暁美ほむらとセイヴァー、DIO。
この両名のどちらかを殺せば、その者に報酬を与える、または聖杯戦争を放棄させるという制度だ。
一見、これは報酬を餌にマスター達を炊きつけ、ほむらとDIOを追い詰めるためのものに見える。

しかし、この討伐令の条件は、『暁美ほむらとセイヴァーのどちらかの死亡』だ。
両者が揃っていなければならない訳ではなく、報酬の受け取り手も制限はない。

即ち―――暁美ほむらもこの恩恵に与れるということ。

DIOはサーヴァントであるため、令呪であろうが可能な限りの武器だろうが元の世界への帰還だろうがなんの意味もなさない。
しかし、マスターであるほむらならば、その恩恵をどれも与れる。

加えて、彼女は時間跳躍者だ。
この聖杯戦争に留まる意味がないと判断すれば、DIOを自害させ、元の世界に戻り、再び戦いの道に戻ることもできる。

そう。見方によっては、これはほむらへの緊急措置にも成りうるのだ。


ホル・ホースにマスター交代の提案を持ちかけた理由もこれだ。
ほむらが保身でDIOを切り捨てようとしたとき、ほむらを始末した後の代わりになるマスターのストックとして彼を欲したのだ。
なにより、彼は己の保身を優先する男。再契約を迫られた時、拒絶すれば殺されることはわかっているはずだ。
自分の身と引き換えにDIOを追い詰める、なんて正義の味方には程遠い男だ。
いまはまだ快諾していないが、それくらいの慎重さだからこそ、マスター候補に選んだ側面もある。


688 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:29:51 QXG4a62Q0


そして、なによりほむら自身。

ほむらは言った。魔法少女なんて関係ない、好きな者たちと普通に暮らしたいと。
DIOは言った。ほむらの理想において魔法少女の鹿目まどかは不要だと。
しかし、彼女はまどかを殺すどころか、貴重な令呪を消費してまで命を救ってみせた。

(彼女はまだ口にしていない。己の望む本当の願いを)

それは、決してDIOを騙そうとしているわけではなく。
おそらく、彼女自身、その本当の願いを理解し切れていない、あるいは本来の願いを捻じ曲げ無理やり己の器に納めているのだろう。
だからこそ、魔法少女のまどかを助けるという己の夢に砂をかけるような真似が出来るのだ。

(願いと行動の矛盾...『俺』ならば捨て置いたことだろう。だが、私は『セイヴァー』だ。悪に成りうる者の願いは、聞き遂げねばなるまい)

果たして、無自覚の仮面で包まれた願いは如何なるものか。
それを知ったとき、彼女は正真正銘『悪』の道を往くのか、あるいはまた別の道を見出すのか。

それはきっと、神【ディオ】すら知らぬことに違いない。


689 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:30:16 QXG4a62Q0


【D-2 下水道/月曜日 早朝】

【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)手首負傷(処置済み)、DIOに対する恐怖(小)
[令呪]残り2画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
0.DIOのマスターになる...俺が...?
1.ひとまずほむらと行動を共にする。女の子の為できれば殺したくはないが...
2.DIOと似たサーヴァントは何なんだ…?

[備考]
※玉藻を『キャスター』クラスだと誤認しています。
※弥子&アーチャー(魔理沙)の主従を確認しました。
※アイルがマスターであること把握しました。
※アヴェンジャー(ディエゴ)を確認しました。
※ほむらからはあまり情報をもらえていません。少なくともまどかに関することは絶対に教えられていません。



【バーサーカー(西条玉藻)@クビツリハイスクール】
[状態]肉体負傷(小)魔力消費(中)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯って……えーと、なんでしたっけ?
1.ズタズタにしますー……あたしがズタズタになってますー?
2.DHCでお得なキャンペーンが行われるらしいですよぉ、急ぎましょう
3.間違えました。DNA検査場でイベントがあるみたいです
4.DHAでしたっけ?
5.まあいいか。全部記号です。
[備考]
※ホル・ホースの影響でなんとなーく『DIO』に関する覚えが残っているようです。
※戦闘しましたが、あまり記憶は残ってません。(平常運転)






【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]疲労(中)、魔力消費(小)、魔法少女に変身中
[令呪]残り2画
[ソウルジェム]無
[装備]見滝原中学校の制服
[道具]学生鞄、聖杯戦争に関する資料、警察署から盗んだ銃火器(盾に収納)、まどかのソウルジェム(穢れ:中)
   ほむらのソウルジェム(穢れ:小)
[所持金]一人くらし出来る仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得。まどかを守る。
0.私の、『本当の願い』...
1.ひとまずセイヴァーと帰宅する。
2.学校には通学する
3.セイヴァーに似たマスターは一体…?
4.またセイヴァーのそっくりさん...あと何人いるんだろう
5.怪盗X&バーサーカー(カーズ)、恐竜使いのサーヴァントには要警戒
6.さやか、ランサー(篤)、ライダー(マルタ)への罪悪感
[備考]
※他のマスターに指名手配されていることを知りましたが、それによって貰える報酬までは教えられていません。
※セイヴァー(DIO)の直感による資料には目を通してあります。
※ホル・ホースからDIOによく似たサーヴァントの情報を聞きました。
※ヴァニラ・アイスがDIOの側近であることを知りました。
※ライダー(プッチ)がDIOの友であることを把握しました。
※恐竜化が感染する可能性を得ました。


690 : さまよえる黒い弾丸(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:31:03 QXG4a62Q0

【セイヴァー(DIO)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得と天国へ到達する方法の精査
0.ほむらの家に一旦戻る。
1.他サーヴァントとの接触を試みる
2.『時の神』は優先的に始末したい
3.『悪』の回収。暁美ほむらをあえて絶望させる?
4.再びナーサリー・ライムの固有結界に侵入する。
5.頃合いを見て沙々を『魔女』にする。
6.どこかでレミリアと話がしたい。マスター(ディオ)が邪魔。
7.ホル・ホースと組むのも面白いかもしれない。
8.アヴェンジャー(ディエゴ)の追跡 は一旦中断。

[備考]
※ナーサリー・ライムの固有結界を捕捉しました。
※『時の神』(杳馬)の監視や能力を感じ取っています。時の加速を抑え込んでいる事には気付いていません。
→杳馬の能力が時間操作の上位である空間支配だと推測しています。
※自らの討伐令を把握していません。
※ウワサに対し『直感』で関心ある存在が複数います。
※過去の自分(マスターのディオ)には関心がありません。
※ランサー(レミリア)の存在を把握しました。
※沙々のソウルジェムは、DIOの宝具で魔女化せずに保っています。彼の手から離れれば、魔女が孵ります。
※アヴェンジャー(ディエゴ)と彼の宝具を把握しました。
※ライダー(ディエゴ)とライダー(プッチ)の存在を把握しました。
※DIOからしてみればアヌビス神は普遍的な信奉者であるため、あまり覚えていません。



【優木沙々@魔法少女おりこ☆マギカ〜symmetry diamond〜】
[状態]魔力消費(中)、『悪の救世主』の影響あり(畏怖の意味で)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具] 優木沙々のソウルジェム(穢れ:中)
[所持金]一人くらし出来る程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い
0.私、ついていかなくちゃいけないの?マジ?
1.セイヴァーはヤバイ奴。どうにか逃げ出したい。
2.でも、ソウルジェムの浄化はどうしたら……
3.見滝原中学には通学予定。混戦での勝ち逃げ狙い。
4.助けていろはさん、マジェント
[備考]
※シュガーのステータスを把握しました。
※セイヴァー(DIO)のステータスを把握しました。
※暁美ほむらが魔法少女だと知りました。
※ほむらの友人である鹿目まどかの存在を知りました。
※いろはの洗脳が解除されたことに気づいていません。


691 : ◆ZbV3TMNKJw :2019/02/09(土) 01:31:35 QXG4a62Q0
投下終了です


692 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/12(火) 22:56:54 /0DhP/YA0
投下していただきありがとうございます。まずは感想から

・さまよえる黒い弾丸
今日のボス:魔法少女に追われるハメになる。
何故、登場してないのに災難が降りかかってしまうのか、コレガワカラナイ。
とは言え、彼の能力は相当に強力ですから連れてくるとしても、いろは達の力では一筋縄に行きそうもないです。
沙々ちゃんは強く生きて欲しい。

確実に、しかし悪の救世主としてほむほむの悪の側面を見出している彼は、やはりというか
通常のDIOとは一味異なる。ある意味では、まさに決定的な違いでもある訳で、それをプッチなどが見た時
どう思われるのかが楽しみですが、一方で不安の渦はどんどん広まるばかりです。

対して善たるマルタたちの方針と同行も強く定まったことで、良い方向へ向かいそうで何よりです。
ただ、現状。満身創痍に変わりない篤さんや
テメーは俺を怒らせた状態のマルタさんまで
中々と大変な状態が揃いつつありますね………素晴らしい話をありがとうございます!

私もこれより投下します。


693 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/12(火) 22:57:44 /0DhP/YA0


気が遠くなるような漆黒だった。
一寸の光は愚か、自分自身がどこにいるかも実感できず、平衡感覚が狂いそうになる。
静寂に満たされた闇に取り残されれば、強靭な精神を持ち合わせる者であれ、正気に居続けられるか怪しい。

されど――不可思議だが、意識を取り戻した少年・アイルは酷く落ち着いており。
加えて闇以外の気配を察知していた。
所謂、聖杯戦争上における魔力感知じゃあない。本能的な直感でもない。視覚が利いた訳でも。例えようが見つからない。
ただそれでも、アイルには誰かの存在が分かる。

少年はため息をついた。厭きれと嫌悪と苦労が滲み出るものを。
漸くか。
ようやっと、或いは渋々か。
でも、遂に彼の望んだことが叶ったに近い。

「やっと出てきたな……俺の前に。隠れ続けたくせに、どういう魂胆だよ」

「―――」

返事はない。完全な姿も現さないまま、沈黙を保ち続ける彼の真意はアイルにも理解不能。
悪魔めいた不気味さを醸すが、アイルはどうだって良かった。
どうせ、今後接触するかも分からない相手だ。
向こうも基本的には表立たない慎重さを抱え続ける性分だろう。
たった一つ………話を聞ければいい。聖杯への願いや方針なんて基本の話題じゃあない。

「俺がアンタに聞きたいのは一つだけだ。……アンタにとって表の奴はなんだ」

質問に答えるかは無効次第。むしろ返答せずに沈黙を貫いたって良い。
くだらないが、令呪を使っても別に構わないか。とアイルも脳裏に浮かべる。
彼は聖杯を求めていない故に、サーヴァントに対しても無為に感情を向けるつもりはない。
最も、先ほどの質問をした時点で意識していない主張は無理があるが……

結局だんまりか。アイルも期待は僅かだった為、格段ショックを受けない。
……が。深淵よりドッピオとは異なる男性の声が響く。

「私にとって………ドッピオは『光』だ。私が再び帝王の座へ至るには、ドッピオが必要なのだ」

「!」

帝王?
生前の『あちら側』の地位か。ドッピオの方は『ボス』と呼んでいたが。
アイルに検討はつかない。だがアイルの問いかけに奴は、真のアサシンは答えたのである。
初めて聞いたが、言葉に関しては『真実』を語っている風にアイルは思う。
実際、表側の人格に行動を任せている事実も含め、彼らには確かな信頼が存在した。
アイルとは違って……


694 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/12(火) 22:58:14 /0DhP/YA0
言葉を切り出した行為が、水道の蛇口を捻った動作に匹敵するよう真アサシンが立て続けに話す。

「良く聞け。お前に助言をしてやる。まず、お前は他の主従に運ばれている最中だが
 敵に補足されている。だが――目立つ行動はするな。私が始末する」

「……は?」

唐突な説明に困惑するアイルだが、そもそも自分の状況を思い出せずにいた。
彼の記憶上、かろうじて街を徘徊している最中。敵サーヴァント思しきナイフ少女に攻撃されたのが新しい。
薄々アイルも予感を覚える。
多分、あそこで一度ボーマンと人格が入れ替わった筈だ。

「目を覚ましたなら、そいつらと敵対はするな。奴らはアヤ・エイジアと関係があり、接触するのに利用できる」

「アヤ・エイジア――」

ぼんやりとだが、街中でも『赤い箱のウワサ』を冠するものに犯行予告が出されたと耳にした。
ただ、アイルは『利用』という言葉に違和感を感じる。
一体どう利用しろと? 何を根拠にそいつらとアヤ・エイジアを利用できる?
肝心な事だが、彼らを利用すれば何の利益が得られるのだろうか。

アイルにそれらを問いただす余裕なく、意識は覚醒してしまった。





弥子と魔理沙が見滝原中学に到着した頃。地帯周辺では火災やマンションでの乱闘、
教会へ急行する近隣交番からやって来たパトカー……という具合の騒ぎが広まっている。
状況が状況なものの、弥子は近くのコンビニで食料を大量に購入し。
当初の目的通り、見滝原中学へ狙いを定めた。

警備員や部活動で登校する生徒が現れる時刻。
早速、菓子パンを口に頬張りつつ弥子が周囲を観察していた。
当然だが毎度お馴染みの傍若無人の魔人は同行していない以上、無謀な侵入は試みない。
弥子は見滝原中学周辺にある高層建築の屋上より様子を伺う方針を取った。
屋上の侵入に関しては、魔理沙が箒でひとっ飛びすれば簡単である。

目覚めないアイルを傍らに高所の風にあたりつつ、そこからでもマンションの状況は弥子も読み取れた。
魔理沙の方は至って冷静に呟く。

「学校には誰もいない。少し意外だな」

「うん……でもアーチャー、サーヴァントなら罠を仕掛けたりできるよね」

「可能性はあるけど、私が全部見抜けるかは保証できないぜ。念の為、軽く調べてみるか?」


695 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/12(火) 22:59:07 /0DhP/YA0
提案に対し、弥子も快くお願いを求めようとした時。
突如、アイルが覚醒し上半身を起こしたのに、彼女らは言葉失って驚く。
いきなりだったから反応に遅れた理由も含まれるものの、アイルは軽く周囲と弥子たちを見るなり。
何の意外性を表情に現さなかった。
まるで最初から状況を把握している冷静さを持っている。

「あいつ……」

アイルは改めてアサシン――ドッピオの姿もないのを確認してから、沈黙を保つ。
恐らく、アサシンの判断は至極正しい。
弥子たちが敵意ない者達であれば、それを利用し、聖杯戦争を優位に立ち回れる手段を取れる。
未知の能力・宝具を備えるサーヴァントの相手こそ、自らのサーヴァントに任せて。
マスターは安全な場所へ避難するべきだ。

「俺が『はい、わかりました』って従うと思ってるのか」

不満と苛立ちが混ざった声色のアイルに対し、おどおど弥子が声をかける。

「あ、あの……大丈夫? お腹すいてるならコレ……」

一人で全部食い切れるのかと突っ込まれたいような、無数にある大量のパンが詰め込まれた袋の一つから
弥子が呑気に焼きそばパンを選んで、差し出したのにアイルは妙な脱力感を味わう。
似たような感覚。アイルを『船』に乗せている団長を相手する雰囲気だ。
別に感覚だけで信用する訳じゃあないが、一刻も争うのだ。躊躇っている暇すら惜しい。
アイルが問う。

「なぁ、アンタら。戦えるか」

いやいやまさか!と弥子は『NO』の合図を首振って示す。
魔理沙は顔しかめて「戦ってやらんでもない」と答えるだけ答えた。
だが、切り出し方といい、直ぐに行動へ移すには動機が不十分過ぎるだろう。
アイルも承知の上だ。だからこそ、彼はアサシンの命令だろうが、指示にも従うつもりは毛頭無い。
故に――彼女らへ教える。

「俺のアサシンが伝えて来た。俺たちは今、敵に捕捉されているらしい。このままだと攻撃されるかもな」

「あ? なんだって」


696 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/12(火) 22:59:47 /0DhP/YA0
益々、魔理沙の顔が険しくなるが。
思わず弥子も周囲の状況を確認する。けれども、ここは屋上だ。
ビルの空調の室外ユニット、貯水タンク等が設置されているが敵が隠れ潜んでいる?のか。
第一に、アイルのサーヴァントは一切の姿を現さないが、どうやら周辺にいるのは明白だった。
彼女らの意見はとやかく、アイルは立ち上がる。

「呑気に安全でいるより俺は敵を倒す。アンタたちは好きにやってな」

「ちょ、ちょっと待って!」

慌てて呼びかける弥子。
勝手にそそくさと歩幅を早めるアイルを追って、空調ユニットなどで入り組んだ場所をかいくぐる。
だが、先行していたアイルは何故か停止していた。

屋上への出入り口付近で見知らぬ女性が、血にまみれ倒れ伏していたからだ。
そう……
映画やイラストで見たような保安官の恰好をした女性が、
何者かに、弥子たちに気づかれず、音もなく攻撃されていた事実に衝撃が走った。






見滝原の裏世界。
ナーサリーライムの固有結界にある情報屋の家にて、少女・スノーホワイトの身に異常が表れていた。
誰かに攻撃されているのではない。精神的な問題だった。
最も、彼女の精神は一種の洗脳に侵されており、攻撃あるいは呪いを受けているとも解釈できる。

今、彼女は不安定だった。
崇拝しえる魔法少女――プク・プック。彼女と離れ、見知らぬ土地へ放り込まれて何日経過したことか。
永遠に続くことを願うプク・プックとの幸せな時間を奪われたのだ。

彼女の顔も
声も
匂いも
姿も

どれだけスノーホワイトが彼女への崇拝心が忠実だろうと、プク・プックが見滝原に実在しない事実は覆らない、
如何にプク・プックの洗脳が完璧であっても、疲労や気力は個人に左右されるのだ。
現に、スノーホワイトはプク・プックが不在であり、精神的不安定を催していた。
兆候がなかったワケじゃあない。それでもスノーホワイトは前進する魔法少女。だけど限界もある。


697 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/12(火) 23:00:19 /0DhP/YA0
(プク様……)

一刻も早くプク様に会いたい!
彼女の願いは、意識は段々と傾き始めるだろう。スノーホワイト自身も自覚する。
ひょっとすれば聖杯を手にするよりも先に、彼女の精神は押し潰され、終わりを迎えるだろう。

なら――
セイヴァーの討伐を優先させなければならない。
討伐報酬にある聖杯戦争からの離脱。プク・プックのもとへ帰還する手段。
それを手に入れなければならない!一刻の猶予も許されないだろう。

緊迫するスノーホワイトとは裏腹に、含みある口調で固有結界の主・ナーサリーライムが言う。

「ああ……現れたよ。聖杯戦争の主従が二組。サーヴァントは一騎しか確認できない、霊体化しているみたいだ」

虚空に出現させたビジョンに映し出される二人の少女と一人の少年。
つまるところ、弥子たちとアイル。彼らが見滝原中学周辺に点在するビルの屋上にいるのを捕捉できた。
彼らは、スノーホワイトたちと同じく見滝原中学に集うであろう主従を狙っているらしい。
行動からセイヴァーに接触してないと考えられる。
呼吸を整え、冷静を装いスノーホワイトがナーサリーライムに尋ねた。

「彼らを固有結界へ導く手段はありますか。私もある程度の立ち回りは可能です」

「そうだね。彼らは聖杯を求めていない方針の可能性が高い。だけどそれは、彼女たちの場合だ。
 彼女たちは寝ている彼に攻撃しない。聖杯を狙うなら絶好のチャンスだからね」

「……少年の彼は違うかもしれない、とお考えでしょうか。流石にそこまで考慮せずとも、固有結界へ引き込めば」

「いいや? 問題は彼のサーヴァントの方さ」

サーヴァント。
マスターとサーヴァントの方針が食い違うのは、スノーホワイト自身が味わっている。
ありえなくない話だが、少年のサーヴァントも同じなのだろうか?
ナーサリーライムは他にも無数のビジョンを出現させるが、無表情ながら不満を浮かべた顔をした。

「マスターを放置状態におくのは非常に危険だと思わないかな? 
 あの魔法使いみたいなサーヴァントが信頼できるとしても、いつ他のサーヴァントが攻撃をしかけてもおかしくないのに」

「彼のサーヴァントもアサシンさんと同じクラスであれば」

「気配遮断……だろうね。こちら側から炙り出すしかないみたいだ」


698 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/12(火) 23:01:11 /0DhP/YA0
確かにその通りなのだがスノーホワイトは率直に尋ねる。

「固有結界の外ですが問題は?」

「結界内で生み出した使い魔を送り出すことくらいは可能さ。多少、補正はつかなくなるけど心配する必要はないよ」

悠長なナーサリーライム。そんなところで情報屋の家の戸を叩く者がいた。
反射的にスノーホワイトが視線を注ぐ方向にある扉は、ノックをした後にナーサリーライムの返事も待たず。
短く「邪魔するよ」と女性の声と共に開かれた。
入ってきたのは保安官の恰好をした女性。疑似サーヴァントまでは行かないが、使い魔にしては出来のよい存在である。
女性保安官がスノーホワイトに気づいて軽く会釈した。

「アンタが新入りかい? アタシはユーミさ。この町のお巡りさんみたいなモンかな。よろしく」

「は、はい。よろしくお願いします……」

恐らく主たるナーサリーライムが使い魔に情報をインプットしたのだろう、とスノーホワイトは解釈する。
ユーミと名乗った男勝りな女性は、改めてナーサリーライムに言う。

「アタシに要件ってのはなんだ。バケモノ退治かい」

「ちょっと違うかな。危険な敵が町に近づこうとしている……それを防ぐ為に敵を捕捉したいんだ」

「……炙り出しね。いっその事、やっつけちまった方がマシだと思うよ」

「出来れば僕もそうしたい。だが相手は危険だ。不味いと感じたなら、即座に撤退することを勧めるよ」

「うん、わかった」

彼女は何ら疑念すら抱かずに銃弾の装填を確認しつつ、情報屋を後にするのだった。
少々困惑気味に、スノーホワイトは問いかける。

「彼女は?」

「マスターの記憶を頼りに作り出した使い魔……形としてはNPCに近いのかな? そんなものさ。
 基本的に君の邪魔をしたり、余計な行動を取らないよう制限はしてある」

記憶。
他にもマスターのラッセルと瓜二つな姿である事や。
大規模な固有結界を考えるに、少しずつだが眼前のサーヴァントを理解してくるスノーホワイト。
真名に到達出来ずとも、性質だけは把握可能だ。

刹那。
不敵な笑みを浮かべていたナーサリーライムに明白な異変が発生した。
攻撃を受けたかのような衝撃を受けた風な様子。肉体に変化はないものの、固有結界に歪みを感じられる。
スノーホワイトが何事かと無意味に周囲を警戒すると、ナーサリーライムが言葉を漏らす。

「い、今、攻撃された……どうなっているんだ………ぼくが『直接』攻撃、された……」

「アサシンさん!?」

なにか分からないが不味いとスノーホワイトは判断する。
彼女は懐からアイテム『四次元袋』を取りだし、提案を持ち掛けた。

「私に考えがあります。ユーミという彼女が失敗した場合を考え、コレで彼のサーヴァントを引きずり出しませんか」


699 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/12(火) 23:01:48 /0DhP/YA0



(なんなんだ? どうなっているんだ)

ユーミは困惑していた。
町の周囲を見回り出した矢先、見慣れない景色が広がっており、これが情報屋(ナーサリーライム)が警戒する
予兆めいた現象なのだろうか? 怪しく不穏なものに立場上無視しておけない。
銃を構え『境界』へ足を踏み入れるユーミ。

彼女が出た場所は――屋上。
どこかの高層ビルの屋上だと誰もわかる光景だった。
美しい朝焼けと特有の強風が吹きつける場所に、彼女は困惑しつつも発砲可能な構えを取る。

ハッキリ聞き取れにくいが、誰かの声がユーミの耳に届く。
相手は何者か。それを彼女が確認するのは叶わない話だった。
彼女に鈍い衝撃は愚か痛みすらも感じず、全ての過程が『盗まれ』肺を貫通する紅の腕だけが視界に映っただけ。
悲鳴も、声すら出せずにユーミは倒れる。

傍らに立つ『帝王』は彼女のことなど見向きもせずに、うっすら開かれた扉の隙間に注目する。
ユーミを葬った深紅の像が強靭の腕を隙間に差し込む!

「キング・クリムゾン!」

どういう訳が手応えを感じた。
徐々に開かれる扉の向こうにはありきたりな高層ビルの階段風景が見えるだけ。
事実は、敵の存在が明白で、使い魔に銃火器を所有させている以上、敵意も十二分に持つ。

「気配がまるで無い……アサシンか」

相手がこれで諦めるワケではないのだ。こちらから敵を捕捉し、叩かなくては対処のしようが無い。
そして、『帝王』にも策がある。
彼が静かに立ち去った後、少し時が経過した後でアイルたちが現場に到着したのである





700 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/12(火) 23:02:25 /0DhP/YA0
ところ変わって、見滝原中学から離れ、市街地より最も遠い位置に佇む教会ではちょっとした事件が起きていた。
小火騒ぎや人々が意識を取り戻した時に、全く覚えのない場所に移動させられていた。
後者は、マンションで発生している集団事件と酷似している。
僅かな情報網で警察関係者たちは関連を捉えだした……それとは違う事件。

混乱の最中、対応に追われていた教会に住む一家の長女が行方不明になったものだ。
厳密には二人。
最近まで教会に滞在していたシスターも行方をくらませたのだが、彼女の場合。長女を捜しに飛び出したらしい。
何も、こんな時間である。
一人の少女が深夜の町に向かう理由なんてない。

更なる事態に現場が混沌へ落とし込まれる一方。現場の様子を伺っていた二騎のサーヴァントがいた。
その片方・バーサーカーの徳川家康が言う。

「ワシの話は参考になっただろうか。ダ・ヴィンチ殿」

芯のある声だが不安の色も隠せない問いに、モナ・リザの顔をした英霊が穏やかに笑う。

「もちろん。分かりやすくなって来たところさ」

彼らは一種の情報交換をした。
所謂、己の世界観について。彼らの把握している限りの歴史の在り方について。
そして――悪の救世主についても。
結論から両者共々全く異なる世界観であり、悪の救世主に関する情報も得られなかった。
ダ・ヴィンチは一先ず、家康に対し提案する。

「巴マミ……一旦彼女のマンションに立ち寄るのなら私も同行して構わないかな?」

「ああ、杏子に関しての知らせを伝えれば、彼女の不安は増すと思う。
 ダ・ヴィンチ殿たちが味方になってくれると分かれば、彼女は杏子の捜索に前向きになれるだろう」

巴マミ。
家康に佐倉杏子の安否確認を求めた少女だ。
彼が戦に通ずる英霊だからこそ、マミの精神には気にかけている。人並み以上の戦闘力を持ち合わせても、根本は一人の少女。
相方のランサーが身動き不可の重体。他サーヴァントへの襲撃に対応できない状態である。


701 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/12(火) 23:03:07 /0DhP/YA0
移動を開始する彼らは地図上でいう、教会から最も近く、市街地から離れた位置の橋を通過し。
繁華街を避け、一目につかぬよう市街地を急いで通過。
正面よりではない、裏側からマンションへ向かうルートを辿っている。

奇抜デザインのバステニャン号に騎乗するダ・ヴィンチは、何故か共に乗らず、平行して付いてくる家康に尋ねた。

「すまない、徳川家康。同盟に関して幾つか確認したいことがある」

「どうした?」

「まず君もセイヴァーを危険視し、討伐するべきと考えている?」

「……ふむ。そうだな。ワシも物事全てを軽率に判断するべきではないと思う。
 ダ・ヴィンチ殿動揺に討伐令の原因を探らなければ、首謀者の思う壺なのだろう。だが」

己の拳を握り、確信を持って家康は告げた。

「あの者は危険だ。冷酷非道の側面を持つ武将を、ワシは幾人も見てきたが……それとは比較にならん。
 誰にも信念があり、民を思い、国を思い戦うのだ。……己が為に戦う者も。
 しかし、ワシは奴がそのどれでもないとすら感じ取れる。やはり放っておく訳にはいかない」

「危険性が為、ね。むしろ自然な動機に違いないよ。ならもう一つ。
 これが私個人としては重要の一つに含まれるんだが――討伐令の報酬はどうするんだい?」

主催者たちは討伐令の報酬内容を掲示していた。
家康も、ダ・ヴィンチのマスターが聖杯戦争からの離脱を求めていたのを思い出す。
それ以外にも、物資などを提供してくれると明言されていた。
臆病な少女・たまを。あるいは、巴マミを生還させる手段の一つ。家康は即答できない。

ふと、ダ・ヴィンチが顔を上げた。
視線を辿った方角には、見滝原中学付近に点在する高層ビルの幾つか。

「光のような……距離があるせいで魔力は感知できなかったが、サーヴァントの攻撃のようだ」

彼女は我に返った。むしろ、慌てて家康に呼びかけたのである。

「なんてことだ! 周りをよく見てくれたまえ!!」

「ダ・ヴィンチ殿!? 一体――」


702 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/12(火) 23:03:56 /0DhP/YA0
家康が途中で言葉を遮ったのは、周囲の様子……風景を眺めて理解したからだ。
見滝原中学と高層ビル。これらはマンションの向こう側に点在しており、最初に目撃するべきは巴マミのいるマンション。
マンションよりも、サーヴァントの攻撃に意識を奪われたからではない。

「我々は『とっくにマンションを通り過ぎている』じゃないか!!」

「こ、これは……!」

ダ・ヴィンチはバステニャン号を停車させ、家康も急停止した。
いつの間にか。二人が会話を繰り広げていたから、などは原因に含まれないだろう。
マンションと現在、ダ・ヴィンチは達の位置は相当離れている。

しかし、これはダ・ヴィンチも『ウワサ』に聞いた事のある現象。
犯人は紛れもなくその『ウワサ』を冠するサーヴァント!

「時間泥棒だな。ここまでのものとは………肝を冷やされる」

ダ・ヴィンチが呟くのも仕方ない。
彼らは本当に気づけなかった。魔力感知は愚か、現象にすら気づくのに時間を必要とした。
如何なる戦争でも一瞬のスキが命取りである。聖杯戦争も例外じゃあない。
時間泥棒の襲撃が本当にあったとしたら、彼らはタダ事では済まない。既に脱落すらありうる。
家康がファイティングポーズで戦闘態勢を整えているが、警戒も虚しく襲撃は来ない。

「ダ・ヴィンチ殿。周囲にサーヴァントの気配を感じられるか」

「いいや。私も残念ながら感知に優れてはいない方さ。
 様子を見る限り、どうやら時間泥棒の射程距離内に我々が巻き込まれただけのようだ」

「成程。ならば、敵はあの建造物の方だ」

再び高層ビルで発光を確認できたと同時に、破壊音が響き渡り、砂煙がそこから立ち上った。


703 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/12(火) 23:04:51 /0DhP/YA0
ここまでを前半として投下終了します。


704 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:06:59 8GrS/5p60
少々長いですが後編投下します


705 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:07:40 8GrS/5p60


ビル屋上。
現実ながら非日常である女性の無残な死体に、弥子は一般人にしては落ち着いていた。
普通は悲鳴の一つや二つ叫ぶ。
目を見開いて、驚愕の表情を浮かべているが『探偵』の生業を演じただけあり、行動する気力は保っている。
サーヴァントの魔理沙も、状況に驚きを浮かべているが、冷静だ。アイルも、同じく。

だが、状況はいづれも不明確だ。
呆然とする彼等の前で、女性の死体が粒子状と化し大気で分散されていく現象に、弥子が声を漏らす。

「消えていく……」

魔理沙が落ち着いた口調で、普通に答えた。

「疑似サーヴァントの一種だ。召喚したサーヴァントが周囲にいるとは限らねぇが……
 今の、お前のサーヴァントが召喚した奴なのか?」

尋ねられたアイルは、しばし考え込んでから「違う」と返事する。
実際、彼の宝具や能力の詳細を詳しくは知らず。二重人格の性質と性格だけを知っているだけ。
返事に対し、魔理沙は腑に落ちない態度を隠せなかった。
躊躇なく半開きされた扉へ手をかけるアイルを、弥子が咄嗟に呼びかける。

「て、敵はまだ近くにいる筈だよ! 中に入るのは危険だと思う――」

「二度も同じ事を言わせるな。俺は敵を倒しに向かう。敵が待ち伏せてる方が倒しがいもある」

弥子は純粋にアイルの身を案じている。
彼女の善意くらい、アイルも分かった上で拒絶していた。
やれやれな様子で魔理沙が、もう一声かけてやる。

「あいにく私達は聖杯戦争に乗り気じゃない立場だ。積極的に戦うなら止めない訳にも行かない」

「俺の邪魔をする気かよ」

敵意隠せない雰囲気に、何故こうなったと弥子も困惑してしまう。
しかし、アイル自身の容態を考慮すれば、いくらサーヴァントと渡り合えても無謀だ。
弥子も彼を無理に戦わせたくはない。

(あ、アーチャー? その人と戦うのはダメだから)

と、弥子が念話で伝えた内容に、魔理沙は溜息をついた。

「えーと……ほら。さっきの奴を倒したのは、お前のサーヴァントじゃないのか?」

「だろうな」

「だったら、別にお前が戦う必要ない。ていうか、そろそろ突っ込んでいいか?
 何でお前のサーヴァントは私たちの前に現れないんだ? 話を聞く限り、ついて来てたみたいじゃねぇか」

「………相当のビビリ。それか人見知りだ」

そんなのアリ!?


706 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:08:26 8GrS/5p60
弥子は内心で重い困惑をついて、謎の冷や汗を流す始末。
サーヴァントだから凄まじい存在。怪盗Xやアヤ・エイジアに匹敵するような。
もしくは偉人、英雄、悪役に属する反英雄が座に登録される筈。だが。
精神は別問題なのだろうか? 中にはアイルのアサシン同じく変わったサーヴァントもいる?

疑問が尽きない弥子を傍らに、魔理沙は何故か納得している。

「差し詰め、お前に対しても姿を現さない奴か。だったら仕方ないな」

「は…? 仕方ないでいいのかよ」

流石のアイルも聞き返すが「仕方ないだろ」と再びナイーブな物言いで魔理沙が言う。

「ただ、この場合。攻撃を仕掛けてきたのは敵の方ってことだ。向こうは私たちを倒すつもりだろうぜ」

「なら倒しに向かった方がいい」

「バカ言うなよ。アサシンクラスの仕業なのは明らかだ。マスターのお前が一番相手にしちゃ不味い奴なんだよ」

魔理沙は、魔力で構成された星型の弾幕を展開させる。
敵がアサシンで、気配遮断で位置が掴めず。尚且つ、捕捉しなければならない場合。
一体どうすればいいか?
結果が出せるかはともかく、様々手段はあるだろう。そして、少なくとも魔理沙が出した回答は『これ』だった。

「お前のサーヴァントに逃げるよう伝えておけ」





幻想郷にある『弾幕ごっこ』あるいは『スペルカードルール』にも幾つかの取り決めがあり。
その一つに
「弾幕には美しさが必要であり、相手を攻撃するよりも魅せる事が重要」
……があり、実力ではなく『美しさ』に重点が置かれており、精神的な勝負の面が大きい。
スペルカードを見れば、相手の人となりが分かるように個性も表現される。

精神の勝負。
スタンドも一個人の精神を体現しているだけ、ある意味では精神的な勝負が含まれるのではないだろうか……





急展開された弾幕は、七色に煌めく銀河の海を彷彿させる美しさを魅せる。
ビルの周辺を取り囲んで星々が、巡り回り始め。
隙間が狭い、すり抜けるにも繊細な動作を必要とするだろう密度と化していた。
配列を保ったまま弾幕は徐々にビルの各階にある窓ガラスを破壊していき、内部へ攻撃を始めた。
弥子は目を見開いて、屋上の淵から下をのぞき込むが、弾幕のほとんどはビル内部に突入している。
流石に、弥子も魔理沙に言う。

「これじゃ避けられないよ!」

「いいや、避けられるさ。卑怯に作っちゃいないってのが『こっち』のルールだからな」


707 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:10:00 8GrS/5p60
魔理沙の態度は、酷く落ち着いていた。
弾幕程度、英霊なら容易く避けられる筈だと確信を抱いているらしい。
何もいきなり。突然で無常過ぎると思うかもしれないが、魔理沙にはもう一つ引っ掛かりがあり。

その瞬間。彼女の疑念は解消されたのだった。

「あ、やっぱり。時間が盗まれた」

「時間……泥棒?」

弥子がウワサに聞く一つを口にした魔理沙に振り替えるが、視線を戻せば濃密な弾幕は薄っすらになっている。
弾幕攻撃が終わった。
否、魔理沙の言い分が正しければ『時間を盗まれた』ことで弾幕が終わってしまった『結果』だけ残されたのだ。
頭をかき、魔理沙は一息つく

「私も『今』思い出したんだが、やっぱりお前のサーヴァントは『時間泥棒』だよな?
 あの時、時間が盗まれたから私の弾幕が終わって、時止める胡散臭い奴も警戒して逃げて行った」

重要な情報をうっかり忘れていたはずがない。魔理沙も不思議な様子だった。
情報を、存在を忘却させてしまう能力? 途方もない話に弥子が、表情にせずとも恐怖する。
今回は『彼』が味方側であるから良いのだ。
これが敵だったら……弥子はふと我に返って、アイルの姿が消えたのに気づく。
僅かに開かれていた扉が閉まっているのに、弥子が慌てて魔理沙に呼び掛けたのだ。

「アーチャー! あの人、中に入っちゃったみたい!!」

「んな!? バカかよ、アイツ!」

仕方なく魔理沙も、弥子も、自然とビルの中へ入るべく扉を開けるのが当然の事だった。
しかし、広がっていたのはビル内部にある階段の光景とは別。
荒れ放題の一軒家の内装であった。所謂、固有結界の一種。振り返れば、戻り道すら消えている。

「これは何……?」

「疑似サーヴァントは引っ掛けだったか。マスター、私から離れるなよ」

これが罠だと弥子は理解する。
彼女らは薄暗い廊下に転移させられており、奥の方から生々しい声が響き渡っていた。
正直、耳にもしたくない……女性の喘ぎ声である。
「悪趣味だ」とうんざりした態度で魔理沙が呟く一方、これが英霊の産み出した情景なのかと弥子は言葉を失う。

仰向け状態で這うように移動する、モザイクに侵されているような人型が、闇の奥から現れた。


708 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:10:25 8GrS/5p60



スノーホワイトが編み出した策。『四次元袋』にナーサリーライムの使い魔を投入し、的確に敵に攻撃をしかけるもの。
『四次元袋』からの攻撃ならばナーサリーライムの性質に基づく必要ない。
好きな場所で襲撃可能だ。
問題は、いかに潜んでいる少年のサーヴァントをおびき寄せるか。

しかしここで魔理沙の広範囲による弾幕で、ビル上層階の窓ガラスは破壊されてしまった。
けど、まだナーサリーライムが能力を行使するには申し分ない『境界』が存在している。
逆に少年のサーヴァントを捕捉しやすい。
ソレがビル内部に潜んでいれば、宝具や魔力の発動でスノーホワイトも感知可能だろうと分かる。
対魔力のないアサシンなら、スノーホワイトの魔法を行使可能だ。

情報屋の扉をビル内部に通じさせ、ある部屋の扉をスノーホワイトが開く。
弾幕により多少傷つき、破損している様子と。廊下に窓ガラスの破片が一面に散らばっている光景。
歩けば、サーヴァントであれ音が響かせるだろう。

使い魔を入れた『四次元袋』を手に、隙間から耳を澄ますスノーホワイト。
彼女に対し、ナーサリーライムは静かに答えた。

「屋上の二人は無事に確保したよ。多少の時間稼ぎをしているから、早く残りも捉えないとね」

「……わかりました。ですが」

魔力感知は愚か。薄気味悪いほどの静寂。
アサシンの気配遮断が完全に働くと、やはりスノーホワイトの魔法でも捉えられないのだろうか。
極限まで意識を集中させれば、遠くより足音が、ガラスの破片を踏みにじむ音が聞こえる。
視線を向け、扉を更に狭め気づかれぬよう警戒していると。
現れたのは――アイル。

彼は屋上の二人を完全に無視して、独り善がりに敵を倒そうと現れたのだ。
魔理沙の攻撃の惨状を目撃し、厭きれたように溜息つく。

「アイツは無事なんだろうな……チッ、どうでもいい。俺には関係ない」

随分と投げやりな態度を見せる彼に、スノーホワイトが『四次元袋』を投擲しようと構える瞬間。
アイルの姿が、消えた。
注目してた以上、スノーホワイトが見逃す隙は無い。ほぼ眼前。アイルが彼女に気づいていないだけで、攻撃させる寸前。
窓ガラスの破片が散らばる廊下を、音もたてずに通過した訳ではあるまいし。
心の声を探ると『敵はどこにいる?』というアイルの声が下から聞こえた。

下?
そうなのだ。アイルは下の階層に移動している。
瞬間移動にしても不自然な挙動。流石のスノーホワイトも違和感を覚えた。
恐らく、アイルはスノーホワイトやナーサリーライムの宝具を把握してはいない。
にも関わらず、瞬間移動を発動させた…? 違う、これはサーヴァントの宝具。アイルのサーヴァントが発動させたのだ。
スノーホワイトの考え通り、アイルの方も状況に気づき、疑念を抱く心の声が響いた。

『下の階に移動させられた!? クソ、敵の罠に嵌められた!』

『でも……いつの間に? 俺は普通に移動していただけだぞ……しかも何故、俺を攻撃しない』


709 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:10:56 8GrS/5p60
アイルの疑念に、スノーホワイトは扉を閉めてからナーサリーライムへ伝えた。

「アサシンさん。敵サーヴァントのマスターが下の階層へ移動しました。
 恐らく、敵サーヴァントは我々を捕捉している可能性が高いです」

アイルを移動させたのに理由があるとすれば、原因はそこにある。
サーヴァントの捕捉能力の高さ。奇襲を予測した動きをしているのではないか。
スノーホワイトと同じ心を読む力に似た、あるいは上位互換の予知能力も普通に考えうる。
なら『四次元袋』による奇襲も……

そこまで至った時、スノーホワイトは違和感の正体を掴んだ。
『四次元袋』である。彼女の手元にあった筈の『四次元袋』が――消えていた。
他に異常が無いのを確かめ、スノーホワイトは背にドッと汗が噴き出るのを感じる。

本当に何が起きているのかが理解できない。
『四次元袋』は奪われてしまったのだろうか? いつから手元になかったのか、スノーホワイトの記憶にない。
アイルへ投げつけようと構えたのは覚えているのだ。

スノーホワイトからの報告に、思案したナーサリーライムは再びアイルの存在する階層へ通じる境界を発生。
破壊されていても、窓ガラスの境界は活きている。扉との境界も同じく。
再び特攻する訳じゃあない。ナーサリーライムも何者かに『攻撃された』感覚を警戒している。

「攻撃する必要はないよ。エレベーターと非常階段に通じる扉を固有結界に通じる境界にした。
 確実にマスターだけを引きずり込めば御の字だけど。敵の能力を見抜けるきっかけになる」

「……!」

ナーサリーライムが虚空にビジョンを出現させ、アイルの動向を監視する。
十中八九、サーヴァントの宝具による現象ならば、まずは能力を探るべきなのだ。
至極当然の対策をスノーホワイトも真剣に観察し続けた。

アイルはエレベーターを使用しなかった。
入念にその階層に敵がいるか探る方が優先なのだろう。
実際、誰も何もない。様子を見ればサーヴァントの姿も確認できない。一体どこにアイルのサーヴァントがいるのか?
アイルが最後の一室――ビル内にある企業の部屋へ侵入を試みたが。
現代技術によるカードキーの施錠で叶わず、舌打ちして踵を返したところでふと足を止める。

「アイツら、何もして来ないな。敵が屋上に移動した……にしても、静か過ぎる」

アイルが言う者達は、屋上にいる筈の弥子と魔理沙を示している。
未知の異常は立て続けに発生しているが、不安を煽る如く、アイルの耳に騒音が聞こえた。
外からだ。
原型もない窓ガラスだった箇所からアイルが下方向へ視線を落とせば。
奇怪な造形のモンスターたち相手に、他サーヴァントが交戦をしている光景。

ビジョンで監視していたスノーホワイトとナーサリーライムも目を見開く。
それは、ナーサリーライムの結界で発生したモンスターたち。
故に、彼らは恐らく……スノーホワイトの『四次元袋』に入れられたものだと推測できた。


710 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:11:52 8GrS/5p60
杖に付属された星をかたどった水晶から放出されるレーザーを行使する、モナ・リザのキャスターと。
光をまとった拳でモンスターを打ちのめすバーサーカーの青年。
新たな二騎のサーヴァントが新たに出現した。アイルのサーヴァントも不明のまま……

アイルは、敵が外にいる二騎を優先に攻撃していると判断し、非常階段に通じる扉に手をかけた。
スノーホワイトが注目する情報屋の扉も、連動し開かれていく。
一歩踏み出せば、アイルはナーサリーライムの支配下に置かれるも同然。
彼が引き込まないように、サーヴァントもアクションを起こさざる負えない。

「え?」

素っ頓狂な声を漏らしたのは、ナーサリーライムだった。
彼の視線にあるビジョンでは――アイルの姿はなく。アイルはすでに屋上へ到達し、弥子と魔理沙の姿がないのを把握。
何故、アイルが屋上に向かったのか。
彼自身は凶暴な衝動を抱えている自負をしつつ、根は善良なのだ。
つまるところ、弥子と魔理沙を心配で足を運んだが、指摘されれば本人は明らか様な狼狽と全否定をかますだろう。


だが、重要なのは既にアイルは階段の扉を通過したという事実である。


ゆっくりと開かれていく扉は、一体誰がノブを回したのか?


スノーホワイトが息を飲む。
紅の悪魔がこちらを覗き込んでいた。



――――『深紅の帝王の宮殿(キング・クリムゾン)』――――






「サーヴァントと生前では能力の使い勝手が異なる……お前たちには理解できないだろうが、少なくとも私の場合はそうだ」

崩落する時空間に留まれるのは、能力もとい宝具の解放者たるアサシン。
ディアボロだけが有した帝王たる特権である。
ここを認知するのも、君臨するのも、唯一彼だけが赦されている。
容疑者と警察関係者を集め、推理を披露する名探偵を気取って悠々自適に語れるのも。
上位世界の絶対者たる彼だけが為せる遊戯なのだ。

「生前の私に『気配遮断』はない。このようなスキルがあれば、私の絶頂は限りなく保証されていただろう。
 『情報抹消』も同じくだ。件のジョバァーナの一族が戦線より離脱した『原因』はこれだ」

「奴は私の能力を把握し、一度離脱したが『情報抹消』で私の存在を忘却し、完全に離脱したのだ。
 場合によっては、探りを入れるべく再度戦線に戻る可能性があっただろうが……
 付近に奴のマスターが居たと想定すれば、行動に矛盾はない。不用意に深入りすれば危うい……」

「そして、小娘が私の存在を忘却したと確信したのは『袋』を回収した際だ」


711 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:12:21 8GrS/5p60
スノーホワイトは『四次元袋』をアイルへ投擲していたのだ。
だが、盗まれた。
袋を投げた過程は吹き飛ばされ、同じくアイルが階層を巡回した過程も吹き飛ばされ、
アイルが下の階層へ移動した『結果』だけが残る。

先ほどの現象も同じだ。
屋上に到達した『結果』だけが残された。

『四次元袋』は堂々とディアボロは回収した、したがスノーホワイトは『情報抹消』で記憶を失った。
彼を逆に、目撃してしまったから。
アイルがいなくなり、袋もなくなったと誤解してしまう。

全ての相性が良すぎる。
ただでさえ凶悪な悪魔のスタンドが、スキルを噛み合わさる事で厄災に並ぶ残虐性に変貌した。
サーヴァントで逸話が昇華された『結果』。
途方もない。ある種、不完全が完成された領域に到達する!


最後の難関は……ナーサリーライムの固有結界攻略。


命題は既に『正』が為されていた。表現を変えれば『Yes』。固有結界は突破可能。
推理小説と同じ。犯人はこの中にいて、ヒントもあり、事件を解決する探偵も登場している。
だが、これは『過程』の証明である。
「どうすれば突破できる?」じゃあなく「どうして突破できる?」の証明だ。


「『時間』だ! 我が『深紅の帝王の宮殿(キング・クリムゾン)』の能力は時を吹き飛ばし、結果を残す!
 故に、時を認知できる! 静止した時を認知し、入門する!!
 『時間』と『空間』は表裏一体の切り離せない概念なのだ!」


時間が吹き飛ぶ。つまり『空間』も吹き飛ぶ。
キング・クリムゾンが捉えたのは固有結界そのもの。時に干渉するスタンドだからこそ、結界に傷もつけられる。
固有結界『そのもの』がサーヴァントとなったナーサリーライムには天敵なのだ!
そして……!


「扉越しに我がキング・クリムゾンが捉えたのは――貴様という空間だ!  
 勝ったッ!! 残骸すらも粒子と化し消失しろッ!! 固有結界『そのもの』である己を呪うがいいッ!!」


有象無象が消し飛んだ。
不気味な森も、夜だけしかない町も、マタタビに溺れる猫たちも、優しい街も、海や、山も、
普通に毎日同じ事を繰り返すだけの存在は消失する。
残るのは、スノーホワイトとマスターであるラッセルと…………


712 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:13:16 8GrS/5p60




固有結界に通じていた屋上の扉が激しく開かれたのに、アイルが反射的に距離を取れば
乱雑に少年少女が吐き出されたのだった。
固有結界に巻き込まれた魔理沙と弥子、それからスノーホワイトとラッセル。
元の現実世界にあったラッセルの学生服と鞄も同じように投げ出され、鞄の中身から教科書やら筆記用具が散らばる。

突然の異常に、アイルもだが。
醜悪なモンスターと戦闘を繰り広げていた魔理沙も、全てを把握できずにいるラッセルも。
前触れない現実世界に混乱する最中、派手な髪色のディアボロが顔を歪め、扉より姿を現す。

弥子は息を飲んだ。
ディアボロを目にした記憶はあったのに、彼女はすっかり忘れていたのだ!
バーサーカーの玉藻と交戦していたアイル(ボーマン)を静止しに現れたのも、彼だった。
最初から居た事実を忘れていた……!

「どういうことだ……! 何故、死んでいない!! 固有結界(ヤツ)を吹き飛ばした筈だ!!」

ディアボロは手元にある透明のソウルジェムを睨んだ。
サーヴァントを倒せば、ソウルジェムは色を灯すにも関わらず、この状況。
まさか、スノーホワイトか弥子のソウルジェムに移ったのか?
二人の少女に殺意を向けたディアボロに、違和感が生じた。

ナーサリーライムと瓜二つの姿をしているマスターは意識がなく、倒れたままである。
それに凄まじい違和感を覚えた。
あの英霊はマスターと似た姿をわざわざ取っていた?

「…………ヤツは固有結界がサーヴァントと変化した………例外……だが……」

前提として――キング・クリムゾンの能力に『攻撃性』はないのである
ディアボロが到達した結論通り、キング・クリムゾンは時空間を吹き飛ばす固有結界殺しの性質を
サーヴァントの宝具に昇華した事で会得したのだろう。

しかし、本来の性質には忠実だ。
ディアボロは吹き飛ばす時空間を自在に身動きできるだけで、完全なる支配は不可能に過ぎない。
物に触れる事も、殺す事も出来ない。これは変わらない。単純に過程を抹消するだけだ。


あくまで 吹き飛ばすのは 時空間 だけ


「『霊核』だ! 吹き飛んだのはヤツの表面に着込んだ肉と骨組みに過ぎん!! 心臓は鼓動を打ち続けている!!!」


713 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:13:49 8GrS/5p60
ディアボロの叫びに、誰も理解が追い付いていない。
スノーホワイトも全てを把握しきっていない。ただ恐らくまだナーサリーライムは死んでないという事。
武器のルーラを構えたスノーホワイトは、まずは戦闘に期待できないラッセルを守るべく踏み込む。

魔理沙は、状況を理解するよりも先に弾幕を展開させた。
ビル全体を襲撃と同じ彼らのいる周囲だけに広げ、スノーホワイトを逃がさないようにしたのだ。

スノーホワイトはラッセルの元へ駆けつける。
残された逃走ルートは一つ。
彼女は、最初から屋上より飛び渡って逃走する魂胆ではない。足場の破壊。それにより下へ逃走する。
だが、ディアボロのキング・クリムゾンが拳を振り上げたのを目にした。
ルーラを盾に防御する姿勢のスノーホワイトの動作は、迅速である。
ナーサリーライムが死亡していないのならば、マスターのラッセルを狙う。

ここまで現実時間ではおよそ三秒。サーヴァントと魔法少女の読み合いが交錯する。

ただ一人。
完全な蚊帳の外にいた弥子だけは奇妙に冷静だった。
ライオンの背に乗った鼠、まさに漁夫の利を連想する安全地帯にいる彼女だけが気づく。

この状況を打破する手段はこれしかない。


「待って! その子のサーヴァントは、ここにいます!!」


弥子の大声により、一瞬の静寂が広まる。
まさか、と挙動できずに留まっていたアイルが弥子の掲げた『もの』に目を見開き、息を漏らしていた。
気づけずにいたのは仕方ない事だ。

本。
散らかった教科書に紛れ込んでいた一冊の本。
タイトルに『END ROLL』と刻まれ一人の少年の描かれた表紙の絵本。
マスターが見れば、ステータスが浮かび上がる。紛れもない、本がサーヴァント。
ディアボロの言う『霊核』に属する本体だ。無防備に弥子が持ち上げられるのを察するに、意識がないのだろう。

一時、動作を止めたディアボロだったが、何も構う必要はない。
攻撃続行はする!

「攻撃するんじゃねぇ!」

唐突なアイルの一声はマスターの命令よりも、令呪を使用した制止だった。
それを真っ先に理解できたのは、身動きを封じられたディアボロ当人。

(バカか……! 令呪を使うだと!? 聖杯を手にするつもりはあるのかッ!!)

念話で怒声をあげるディアボロに対し、アイルは舌打ちを返した。

「聖杯なんか欲しくねぇ。俺はセイヴァーを倒して元の世界に戻れればそれでいい」

「な……にを言っている……貴様………」

身動きを取れていないと察した魔理沙は便乗し、魔力放出でスピードをつけた簡易弾幕を手元に出現させる。
このまま、ディアボロに弾幕をぶち込んでやろうと身構えたが。
次に口を開いた彼の言葉で――止めた。

「聖杯で貴様の中にいるクソカスをかき消せばいいだろうがッ!!
 何故、貴様がクズ如きを庇っている!? あんなものを生かして何になる!!」

「か……庇って、なんか無い……アンタには……わからない」

「即刻令呪を取り消せ! セイヴァーを始末するなら尚更聖杯を狙え!!」


714 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:18:31 8GrS/5p60



庇ってなどはいない。
だのに。ディアボロから「庇っている」と指摘されて、無償に動揺するアイル自身がいる。
最早、何の意味も無い。彼の言う通り、消さなくてはならない。
けれども、聖杯の力を頼るのは納得できなく。独り善がりの意地を張っているだけで。

消えてしまえばいいのだ。

あんなものを残しても、生かしても。

元に戻らないのに。

昔のように成れないのに。


「アンタに、何が……何が分かるんだよ! 俺が持ってないもの持ってる癖して!! 何が分かるんだよ!!!」





「さて、何から話したところか」

モナ・リザのキャスター、レオナルド・ダ・ヴィンチが穏やかな表情ながらも。
使い魔が湧き出ていた『四次元袋』を手に、屋上にいた少年少女たちの様子を伺っている。

改めて事の顛末を説明すると。
ダ・ヴィンチとバーサーカーの青年・徳川家康は、魔理沙の弾幕を目撃し、ビルへ向かえば
玄関前の広間に使い魔……ナーサリーライムの使い魔たちと遭遇し
それらを片付け、ダ・ヴィンチが『四次元袋』を回収し、屋上に到着した時には一応全てが終息を迎えていた。


当然、彼らから事情と簡易的な情報交換を交わした。


まずはスノーホワイトと呼ばれた魔法少女が説明した。
彼女は元より、ナーサリーライムの固有結界に捕まっており、身動き取れず、ナーサリーライムに従わざる負えなく。
『四次元袋』を貸したのも、それが理由だと言う。
彼女のサーヴァントは暴走しており、彼のセイヴァーの部下だという。

肝心のナーサリーライムのマスター、ラッセルは眠りについたままだ。
これほど騒がしくとも眠りつく精神には不穏なものを感じるほどに。

そして、弥子とアーチャー・魔理沙。
アイルの三人は共に行動してナーサリーライムの襲撃に巻き込まれた。
元よりここへ来た弥子の目的は、見滝原中学の監視をする為だったらしい。
彼女たちは途中、主催者側の存在とされる『キュゥべえ』なる生物と接触した。


全ての事情を把握し、ダ・ヴィンチと家康の情報も伝えたところで。
家康は、興味深く弥子の持つ絵本のサーヴァントを見る。

「英霊にも様々いると知識にはあるが、まさか本とは驚いたな……」

「あ、あの。コレ……私が持ち続けるのも、駄目とは思うんですけど……」

困惑気味の弥子の指摘には納得できるが、確立された対応策は皆無である。
しかし、他マスターが所有し続けるワケにもいかないので、ダ・ヴィンチが「私が預かろうか」と名乗り上げた。
初対面に近い相手もといサーヴァントに渡す形だが、弥子は彼女が敵意のないと感じ取り。
「お願いします」と頭下げて、大人しく差し出した。
だが、アイルが眉間にしわ寄せて止める。

「見た目が変わってねぇか、それ」


715 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:18:56 8GrS/5p60
急に指摘されたのに、弥子は絵本の表紙を観察するが金髪の少年が描かれているのに変化はないと思う。
だけど、あの時………記憶が色々と曖昧なのだ。
弥子は申し訳なさそうに答える。

「ごめん。私は表紙の事、よく覚えてないし。どうやって固有結界?っていうのを抜け出せたのかも覚えてないんだ」

確かにな、と魔理沙も釈然としない表情で話に加わる。

「あそこで敵と戦ってただけで、私たちが特別何かしたって訳じゃないんだよ。
 本当にお前は何もしてないのかよ? 実はサーヴァントを潜ませてるんじゃないのか?」

魔理沙が睨む相手はスノーホワイト。
彼女は冷静な表情を微動だにせず、淡々と否定した。

「私は何もしていません。先ほど話しました通り、私のサーヴァントはコントロールできずに仲間割れしました」

「セイヴァーの仲間だからってなら、令呪で強制させればいいだけだろ。何で使わないんだ」

弥子が「アーチャー、それは」と制した。
いきなりサーヴァントを失う手段を取るのは、聖杯戦争においてデメリットでしかない。
第一、可能性を残る以上。スノーホワイトも聖杯を手にしたい想いがあるのでは。
そう思えたからだ。
魔理沙も薄々気づいているようだが、もどかしい衝動があるのだろう。弥子に宥められ「分かった」と追及は止める。
空気を読んで、家康も話を引き戻した。

「つまり、書物の英霊を無力化したのは皆の力ではない第三者の仕業か。教えてくれてありがとう」

「…………」

事の真相を知っているのは――アイルだけだと、彼自身が理解する。
自身の召喚した二重人格の英霊・ディアボロには他者の記憶から、情報を抹消する能力がある。
アイルが感情のまま叫んだ言葉を聞いて。
ディアボロは、無言で消え去った。その後に家康とダ・ヴィンチが現れたのを考慮すれば。
彼らも敵に回したくない戦線離脱のようなものだろう。

改めてダ・ヴィンチが弥子より引き取った絵本の表紙には『Phantom Blood』というタイトルが刻まれていた。
今、ナーサリーライムは無力化されているが脅威は去っていない。
厄介な固有結界を持つサーヴァントのアサシンを、無為に生かす方が問題ではあるが……

スノーホワイトがフォローするよう、ダ・ヴィンチに言う。

「彼もまたセイヴァーを脅威であると理解しています。
 セイヴァーの討伐を重視するのであれば、協力してくれるはです」

「ああ、セイヴァーの討伐ね。私は現状を見るに半々の立場だ。そこのバーサーカーも同意見さ」

半々?
曖昧な表現に眉をひそめた弥子。バーサーカー・徳川家康は頷く。

「スノーホワイト。お前の危惧はワシも分かる。だが、この戦争を起こした者達の誘導に従うつもりもない……
 まずはセイヴァーの捕捉をしたい。奴との接触を優先するということだ」

「接触こそ危険だと私は思います」

セイヴァーが有しているだろう洗脳能力。
狂化を持つバーサーカーは問題ないかもしれないが、他は……スノーホワイトは報酬の帰還権も含め
迅速にセイヴァーを倒さなければならない姿勢を崩したくはなかった。
話を一通り聞いて、アイルが聞こえるように溜息ついた。


716 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:19:18 8GrS/5p60
「だったら……俺がアンタらと一緒にいる理由はないってことだ」

「おい、お前」

いい加減にしろよ、とアイルの反抗的な態度に魔理沙が突っ込もうとしたが。
彼は面倒くさそうに説明を続けた。

「俺はとにかくセイヴァーを倒す。主催者の目論見なんてのは、どうだっていい。
 アンタらは違う。セイヴァーを危険視してるが、すぐ倒さねぇ方針だ」

「でも」と弥子はどうにかアイルを足止めしようとした。

「セイヴァーを探すだけなら、私達と行動した方がきっと……」

「だから目的が違うって何度も言わせるな。俺はセイヴァーを倒す。それとも……俺を殺してでも止めるか?」

誰もが沈黙する。
自棄になってアイルが反抗しているのではないと、皆が理解したからだろう。
だが、彼らは決してアイルが提案した通り、暴力で抑止を率先する姿勢もなかった。
魔理沙などは、出来なくもないが。だからと言って、アイルに戦いを挑む意思がない。

それを確認し、舌打ちと共にアイルは今度こそビル屋上の扉に手をかけて降りて行った。






また孤独、結局は孤独だ。アイルの場合は暴走するかも分からないボーマンのことがある。
むしろ、他人を巻き込まないで、勝手にやるのが安全なのだろう。
とは言え。態度が相まって、彼らから離れられたのは行幸である。
巡り巡って単独行動の方が都合がいいのだ。

忌々しい高層ビルは、時間帯も相まって出入り口自動ドアが動かず、
器物損壊なんて構わずアイルは拳で破壊してしまった。
漸く脱出を果たしたところで、アイルは再び溜息をつく。
セイヴァーを捜索しようにも見滝原中学ぐらいしかアテはない。だが……果たして、セイヴァーは現れるのか?
それに、見滝原中学へ向かえば再び弥子たちと出くわすハメになりかねない。

「……適当に探せば見つかるか」

どうせ見滝原という舞台上に居続けることに変わりはない。
逃げられはしないのだ。
だから、どうとでもなる筈だ。投げなりに結論するアイルに対し、誰も言葉をかける事はない。

「よ……よかった! まだいる!!」

だったのに。
アイルも目を丸くさせて、振り返った先に弥子と嫌々しい表情の魔理沙の姿があるのを発見した。
あれだけ突き放したのにバカの一つ覚えのように、弥子は付いて来ている。
意味が分からない。アイルも驚きを含みつつ、改めて言い放つ。

「俺はセイヴァーを倒すって言っただろ……!」

「わ、わかってる。でも、やっぱり放っておけないし……そ、それにセイヴァーの事はバーサーカーさんと
 キャスターの……ダ・ヴィンチさんに頼んだから……大丈夫ってワケじゃないけどっ……」

「………!?」

全力疾走してきた為、弥子の言葉が途切れ途切れだったが。
どうやら、ただアイルの安否を心配が故に、屋上の彼らと別れてきたという。
方針が食い違う相手を追いかけても『無駄』なのに、彼女は顧みなかったのだ。


717 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:19:44 8GrS/5p60
全く以て理解がし難い。アイルの動向を監視していたディアボロにこそ、理解の範囲の世界である。
生前にあった。
娘・トリッシュの為に裏切りを図ったブローノ・ブチャラティの心理と同じ。
ブチャラティが、もし利益に目が眩んだとすれば、ディアボロにも動機が分からなくもない。
しかし、己の絶頂を絶対とするディアボロに。
正義や愛情が為に自己犠牲を行う人間など理解することは叶わなかった。

(あ……あの小娘……! 戻って来ただとッ……心配だから? ふざけるな!)

どうせ奴も、心のどこかで聖杯に目が眩んでいるに違いない。
ディアボロは疑念を積み重ねているが、アイルの方はそうじゃあなかった。
お人よしが過ぎる相手は、かつて空の世界でも出会った『団長』と似ている。
弥子も同じ部類なんだろうと、またもや舌打ちする。アイルの態度に、やれやれな反応をする魔理沙。

「あの二人も、他のマスターのところに向かいたいらしくてな。
 逆に、中学校の監視を頼まれたのさ。どうせお前も、あそこに向かうんだし、文句言うなよ」

「……もういい。勝手にしろ。ただし俺の邪魔はするんじゃねぇ」


そして、なんだかんだ誰か来る。
アイルは家族を捨てて、闘争の世界へ向かったというのに。
姉がアイルを探しに旅をし続けていて、姉と共に現れた『団長』達だって同じだ。
まるで石の下から這い出てくるミミズのようだ。

過去だ。
どれだけバラバラにしてやっても、過去の因縁が付きまとう。
真実を知らなければ、アイルもまた『永遠の絶頂』にあり続けられた筈だった……


だが、そうはならなかったのだ。
皮肉にも、彼が召喚した悪魔と同じ運命なのである。







正直な話、感情論で物事を納得させるのは現実には難しいどころではなく。
ハッキリ断言できる上、確実に無理難題な手段である。
特に聖杯戦争という普通の人間で太刀打ちできないサーヴァントと呼ばれる兵器に、マスターは成す術ない。
サーヴァントの方が誰よりも分かっているだろう。
それでも徳川家康は言う。

「大丈夫だ。彼女には人の心を理解する力がある……自覚はしていないのだろうが、きっとそれが力になるだろう」

家康の人を見る力が、それを理解しているのだろう。
例え事実であれ、スノーホワイトは無謀だと期待を抱いてはいなかった。
幼い少女が夢描く魔法少女の理想像めいた、現実に打ちのめされる淡い幻想。
家康が語っているのはソレである。生死を交わす聖杯戦争で、桂木弥子の秘めた力こそ『無駄』なのだ。

不思議にも、ダ・ヴィンチも否定はしなかった。
むしろ、絵本のナーサリーライムや眠りつくラッセルを除き、否定していたのはスノーホワイトだけ。
真に孤独だったのは、魔法少女一人。

桂木弥子は真っ直ぐに伝えた。
ナーサリーライムの襲撃を受けてもなお、己を見失う事はしなかった。

―――わたし、あの人を追いかけます。やっぱり一人にさせられないし……
   スノーホワイトさんが教えてくれた通りなら、私達を心配して屋上に戻ってきてくれた。
   多分、根は良い人だと思う。あの人の過去に何があったのかは、わからないけど―――


718 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:20:10 8GrS/5p60
弥子も普通とは違う体験をしているから、この状況でも肝が据わっているのだろう。
とは言え、弥子の行動も、家康の真意もスノーホワイトには……
最早、弥子たちを考慮するのは控えるべきだと、魔法少女が判断する。
気持ちを切り替えて、スノーホワイトがダ・ヴィンチに尋ねた。

「私も……同行して構わないでしょうか」

「勿論。マンションにいる巴マミと会って……事情を把握した彼女次第かな。
 私としては念話でマスターに事情を説明すればいいし、流れで桂木弥子たちと合流すればいいと考えている」

実に楽観的だ。
ダ・ヴィンチも家康も、善意を信じる者だからこそ弥子への期待。
そして、巴マミやスノーホワイトと協力し、聖杯戦争に抗おうとしているのだろう。

だが、スノーホワイトが最も理解しているのだ。
こんな状況に、希望を抱いても儚く散ると。





ところで。
話の流れがぐだぐだとしかねない為、割愛させて貰った部分が存在する。
それはダ・ヴィンチたちの情報交換についてだ。

弥子と魔理沙から、主催者の存在に仕える『キュゥべえ』。
彼女たちが出くわしたらしいセイヴァーとよく似たサーヴァント。
ダ・ヴィンチが得た――レイチェル・ガードナーの証言、アヤ・エイジアのサーヴァントがセイヴァーと似ている情報。
それと合致するのだった。情報元は不明確であったが、真実なのは確からしい。

襲撃してきたのがアヤのサーヴァントかもしれない。
これには弥子も驚きの色はあったものの、彼女自身は不思議と落ち着いており。
むしろ。

――なんとなく……分かる気がする。

そう答えていた。
ダ・ヴィンチとしては彼女の話を掘り下げたくあったが、如何せん他に語らなければならない事が多く。
アイルを追って、弥子も慌てて飛び出すハメになり、叶わなかった。

――情報は大分集まった。

平行世界、もとい外宇宙と呼べるレベルでの世界観の変化。
徳川家康の歴史や、魔理沙が住む幻想郷、そしてセイヴァーの存在。やはりどれもが世界が異なると捉えた方がいい。
異なる世界の英霊が、見滝原の地で交差し合う聖杯戦争が起きている……

ならばこそ、聖杯戦争の主催者も宇宙規模の観測と移動が可能な上位存在と考えるべきだ。
『キュゥべえ』と呼ばれる生命体。
マスコットっぽい愛嬌から想像のつかない力を有しているのだろう。
中々に侮れない。ダ・ヴィンチが考察する通りであれば、参加者の帰還も難しい話になると想像つく。

本来、マスターたちが居た世界もとい宇宙と見滝原の地がつながっているなら良いが。
普通に考え、完全な繋がりは継続すらされてないだろう。
主催者が提案した通り、セイヴァーの討伐令による報酬か聖杯で願わなければ、帰還の保証は皆無である。


そして……そんな上位存在が聖杯戦争を発足する理由とは何か?
恐らく『時間』が関与しているとダ・ヴィンチは思う。
『時間』に精通するサーヴァントが多いらしい。
件のセイヴァーと似た英霊も、時を止める宝具を使用していたと魔理沙は断言していた。

もしかすれば『キュゥべえ』達は『時間』に関する何かを得るために、所縁あるサーヴァントの召喚をしたのかも?
残念ながら、確証は掴めない。


(となれば。逆に『キュゥべえ』含めた主催者に対抗する手段も『時間』……ではないだろうか?)


その点はダ・ヴィンチの推測に過ぎないが、重要なのは主催者の守備範囲。
マスターとして招集された弥子たちを無事に帰還させる手段。
少なくとも、一筋縄ではいかないと誰もが理解できた。


719 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:20:35 8GrS/5p60
【D-5/月曜日 早朝】

【ラッセル・シーガー@END ROLL】
[状態]魔力消費(小)『漆黒の頂きに君臨する王』の侵食(小)就寝
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]日記帳
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:みんなと普通にくらす
0.元に戻った? まだ分からない……
1.学校に行ってみる
2.セイヴァー(DIO)に思うところがあるが……
[備考]
※聖杯戦争の情報や討伐令のことも把握していますが、気にせず固有結界で生活を送るつもりです。
※セイヴァー(DIO)のスキルの影響で、彼に対する関心を多少抱いています。
※『漆黒の頂きに君臨する王』の侵食により罪悪感が一時的に消失しています。
 ラッセル自身はまだ自覚しておりません。


【アサシン(ナーサリー・ライム)@Fate/Grand Order】
[状態]気絶状態、固有結界消失、魔力消費(中)『漆黒の頂きに君臨する王』の侵食(中)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:固有結界を維持しつつ、聖杯作成を行う
0.???
1.ラッセルを学校に行かせてみる。
2.セイヴァー(DIO)を侵入させないようにするが……倒すのは……
3.見滝原中学に関してはまだ様子見。
4.スノーホワイトに関しては、半信半疑。
[備考]
※セイヴァー(DIO)の真名および『漆黒の頂きに君臨する王』を把握しました。
※『漆黒の頂きに君臨する王』によって固有結界が支配されると理解しました。
※『漆黒の頂きに君臨する王』の侵食が進行しつつあり、固有結界内部や能力に影響がありますが。
 現時点でナーサリー・ライム自身に自覚症状はありません。
※固有結界が消失しており絵本状態(FGOのナーサリーライムのような)になっています。
 現在の表紙タイトルは『Phantom Blood』です。
※再び固有結界を発動させるには、意識を取り戻したうえで相応の魔力を必要とします。
※アサシン(ディアボロ)に関する記憶は完全に忘却してます。


【スノーホワイト(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
[状態]魔力消費(小)、魔法少女に変身中、プク・プックの洗脳(効力低下中)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]『ルーラ』
[道具]
[所持金]一人くらし出来る程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得。全てはプク様の為に
0.巴マミと合流する。
1.再契約するサーヴァントを見極める。
2.セイヴァーとの契約は最悪の場合のみにしておく。
3.見滝原中学で発生するだろうセイヴァー包囲網を利用する。
4.プク様に会いたい……
[備考]
※プク・プックの洗脳が弱まりつつあります。
※バーサーカー(ヴァニラ・アイス)への魔力供給を最低限抑えています。
※ブチャラティ組、マシュ組の動向を把握しました。
※セイヴァー(DIO)が吸血鬼であることを知っています。
※セイヴァー狙いで見滝原中学に向かうつもりはありません。
※対魔力のランク次第で彼女の『魔法』が通用しにくいサーヴァントがいます。
※アサシン(ディアボロ)に関する記憶は完全に忘却してます。
※弥子とダ・ヴィンチらと情報交換しました。


720 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:22:13 8GrS/5p60
【バーサーカー(徳川家康)@戦国BASARA3】
[状態]健康
[ソウルジェム]無
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの意志を尊重する
0.桂木弥子……彼女は大丈夫だろう
1.巴マミと合流する。
2.可能な限りマスターの命を守りたい
[備考]
※ライダー(ディエゴ)、ライダー(プッチ)の存在を把握しました。
※マミ&ランサー(什造)の主従を把握しました。
※教会にいる杏子がマスターである可能性を知りました。→現在彼女が行方不明であると把握しました。
※アサシン(ディアボロ)に関する記憶は完全に忘却してます。
※弥子とスノーホワイトらと情報交換しました。


【キャスター(レオナルド・ダ・ヴィンチ)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]無
[道具]バステニャン号、『四次元袋』
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の調査
0.巴マミと合流する。
1.討伐令に対する疑念。セイヴァーとの接触をしたい。
2.セイヴァーと似ているサーヴァントねぇ……
3.マスターたちを普通に帰すのは難しそうだな
[備考]
※吉良に対し、どことなく疑念を抱いております。
※自身の知識と情報を駆使しても、セイヴァーの真名に至れなかったのを疑問視しています。
※レイチェルと彼女のサーヴァントがライダーであることを把握しました。
※アヤ・エイジアのサーヴァントが、セイヴァーと酷似している情報を入手しましたが懐疑的です。
→弥子の情報から、事実であると把握しました。
※アサシン(ディアボロ)に関する記憶は完全に忘却してます。
※弥子とスノーホワイトらと情報交換しました。
※主催者側の存在、キュゥべえを知りました。彼等の力を大凡推測しています。


【D-5/月曜日 早朝】

【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]携帯端末
[所持金]数十万
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の『謎』を解く
0.見滝原中学へ移動する
1.セイヴァー、あるいは暁美ほむらとの接触
2.アイルとは話をしたい
3.キュゥべえについては……
4.時間が近づけば、アヤの救出に向かいたい
[備考]
※バーサーカー(玉藻)を確認しました。
※セイヴァーに酷似したサーヴァントが時間停止能力を保持していると把握しました。
→ダ・ヴィンチの情報から、彼がアヤのサーヴァントである可能性を知りました。
※アサシン(ディアボロ)に関する記憶は完全に忘却してます。
※主催者側の存在、キュゥべえを知りました。
※セイヴァーに酷似した存在達に何らかの謎があると考えています。
※ダ・ヴィンチとスノーホワイトらと情報交換しました。


721 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:22:40 8GrS/5p60
【アーチャー(霧雨魔理沙)@東方project】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]無
[装備]魔法の箒
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:弥子の指示に従う
1.見滝原中学へ移動する
2.時を止める奴は信用しない。
3.キュゥべえも胡散臭いな……
[備考]
※アヴェンジャー(ディエゴ)を確認しました。時間停止能力を保持していると判断してます。
→ダ・ヴィンチの情報から、彼がアヤのサーヴァントである可能性を知りました。
※アサシン(ディアボロ)に関する記憶は完全に忘却してます。
※アイルのサーヴァントがアサシンではないかと推測してます。
※主催者側の存在、キュゥべえを知りました。
※ダ・ヴィンチとスノーホワイトらと情報交換しました。


【アイル@グランブルーファンタジー】
[状態]魔力消費(小)精神疲労(大)
[令呪]残り2画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]親(ロールの設定)からの仕送り分
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に戻る
0.見滝原中学へ移動する
1.セイヴァーの討伐報酬を狙う
[備考]
※アサシン(ディアボロ)のマスターである為、『情報抹消』の影響は受けないようです。
※ボーマンに乗っ取られている間の記憶はありません。
※ダ・ヴィンチらの行動方針を把握しましたが、その上で関わりを避けるつもりです。


【アサシン(ディアボロ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)、ボーマンに対する苛立ち、現在の人格はディアボロ
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1.見滝原中学へ向かう
2.ボーマンの件もあり、現時点ではアイルの周囲に留まっておく
3.セイヴァー(DIO)の討伐を優先にする
4.時間能力を持つサーヴァントは始末する
[備考]
※アヴェンジャー(ディエゴ)の時間停止スタンドを把握しました。
※セイヴァー(DIO)はジョルノと『親子』の関係であると理解しています。
※アヴェンジャー(ディエゴ)はセイヴァーと魂の関係があると感じました。
※『長時間の時間停止』を行うサーヴァント(杳馬)の宝具を認知し、警戒しています。
※ナーサリーライムの性質を理解しました。


722 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:26:35 8GrS/5p60
投下終了します、タイトルは『INDETERMINATE UNIVERSE』です。
続いて

渋谷凛&セイバー(シャノワール)
アヤ・エイジア&アヴェンジャー(ディエゴ・ブランドー)
島村卯月&アサシン(杳馬)
佐倉杏子&ライダー(マルタ)
レイチェル・ガードナー&ライダー(ディエゴ・ブランドー)
ライダー(エンリコ・プッチ)&白菊ほたる
たま(犬吠埼珠)

以上を予約します。


723 : ◆xn2vs62Y1I :2019/02/28(木) 14:59:34 8GrS/5p60
先ほどの予約にバーサーカー(ヴァニラアイス)を追加します


724 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/09(土) 23:03:58 aSDVlGmw0
ジョジョ五部アニメにボスが登場したので投下します


725 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/09(土) 23:04:42 aSDVlGmw0
.


人類悪。
それは人類を滅ぼす悪じゃあなく『人類が滅ぼすべき悪』。
彼らの根幹は、人類が為を思って行動する『人類愛』に満ちており、彼等の行動原理に負はなく善であり。
美しき厄災と称するべきだろう。





アヴェンジャーのディエゴ・ブランドーは未だ癒えずにいる上半身に刻まれた傷口を抑え。
周囲を警戒し続けていた。
時間停止は……あった。しかしどうやら、セイヴァーがアヴェンジャーを狙ったものではない。
他の存在が下水道でセイヴァーを妨害しているなら、好都合だが。

しかし、アヴェンジャーは思案する。
アヤ・エイジア達と再び合流するよりも先に、シャノワールを呼び出せればマシかもしれない。
セイヴァーにも、ほたるのライダーとも合流したくはない。

矢先、下水道の水面を駆ける乱雑な足音が遠くより響く。
どうも人間のソレではない事くらい、アヴェンジャーにも察すことが可能だった。
ほたるは、何者かが接近している事実だけを把握し怯える。

恐竜だった。
所謂ティラノサウルスと同じ『獣脚類』の肉食恐竜で、大きさは丁度人間程度のもの。
アヴェンジャーには見覚えがある。ウワサで聞いた時から大凡検討がついていた通りで。
運命の巡り合わせのような偶然を信用するべきか、アヴェンジャーも決め兼ねていたが。
実物を眼にし、彼は一つ確信したのである。

「やはり『フェルディナンド』か。スケアリーモンスターズ……恐竜化させた人間だな」

「えっ!?」

素っ頓狂な声を上げるほたるの声に反応したのか、恐竜は真っ直ぐ彼らの元へ駆け寄って来た。
恐怖で身動きとれぬ少女を他所に、アヴェンジャーは不思議にも冷静である。
敵意がない。
かつて『フェルディナンド』と呼ばれる地質考古学者のスタンドを目撃したからか、理解できる節を持つ。
攻撃の意思はとやかく、その恐竜は首に『何か』をぶら下げていた。

「………………」

ポシェットだ。
ほたるのような少女が身につけるべき小物バッグを、何故か恐竜の首にかかっていた。


726 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/09(土) 23:05:17 aSDVlGmw0
否、故意である。
恐竜が喉を鳴らしアヴェンジャー達にじわじわと接近するが、攻撃する素振りは一切ない。
アヴェンジャーはスタンドを使い、距離を保ってポシェットを回収した。

「あ……アヴェンジャーさ………」

不安を隠せないほたるを差し置いて、アヴェンジャーはポシェットの中身を確認すると。
携帯が一つある。現代でいうスマホに該当する液晶型の代物。
電源を入れればメモのアプリが立ち上げられた状態で、メッセージが残されていた。
まだ内容を読み込まず、アヴェンジャーが強張った状態のほたるに言う。

「その恐竜が妙な素振りをしたら、悲鳴でもなんでも声を出せ」

最初の文面を眼にした時点で、アヴェンジャーには衝撃が走った。
が、それでも。
妙に納得したと言うべきか………あるいは「きっとこうするだろう」と奇妙な信頼があったのかもしれない。


 [このメッセージを読んでいるだろう聖杯戦争のマスター。
 私の名は『ファニー・ヴァレンタイン』。この聖杯戦争に召喚されたサーヴァントの一騎だ]







現場は当初、一時騒然としており、周辺の住民も何事かと目覚めて、様子見の野次馬を作って……いた。
SNSに上げられていた動画や通報によれば、この住宅街にて小規模な乱闘。
否、銃撃戦に発展した事件が繰り広げられていたらしい。
今となっては、現場に誰もいない。容疑者も被疑者も目撃者ですら。
迂闊に姿を見せれば、自分が危機に合うと誰もが分かるからこそ、誰もいなくなった。

ただ、サーヴァントなら話は異なる。

(成程な……理解した。どこかで覚えある匂いかと思ったら、コイツはマジェント・マジェント)

現場を捜査しているのは、ライダーのディエゴ・ブランドー。
恐竜能力の一つ、嗅覚で匂いを判別していると、生前に出会い利用した下っ端がいると知る。
彼が銃を使用する殺し屋であるから、銃撃戦。
そして、相手は……いくつか匂いが入り乱れているが、一人はプッチのマスター・白菊ほたるのもの。
標識を武器にしたサーヴァントは……分からない。
白菊ほたると共に、マンホールに血痕を引きずって逃走したサーヴァントは………
ディエゴには何かを理解していた。だからこそ、状況を読み切ろうと思考を巡らせ続けている。

「どうやら、お前のマスターを連れ去ったサーヴァントはここを通った」

マスターの無事を不安視する素振りがないプッチは、恐らく冷静を保っている精神性の高さがあるのではなく。
例え、ほたるの身に危機が迫ろうとしても、それはほたるが乗り越えるべき運命だと考えている。
彼女の感じる恐怖や不安は、心底どうでも良いのだろう。肝心なのは、ディエゴが語る内容についてのプッチの反応。
ディエゴは懐から、以前レイチェルから取り上げた携帯を取り出す。


727 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/09(土) 23:06:00 aSDVlGmw0
「まだ、念話は使っていないだろうな? プッチ。これからお前が望むものを見せてやるよ」

「どういう事だ……?」

不敵で満更でもない笑みを浮かべるディエゴを、レイチェルが凝視しているが。
構うことなく、彼は言葉を続けた。

「俺はお前のマスターを連れ去った奴を『知っている』。いや、知っている……という表現は間違いだな。
 『俺自身』じゃあないんだからな。あくまで……俺だからこそ理解できる。もう分かるな?」

「………! 『DIO』!! それはまさか」

プッチの反応は興奮気味だった。
彼としては俄かに信じがたくも歓喜に満たされる事実なのだから。
先ほどの冷静さを失い、子供っぽい無邪気な笑みを零れそうなプッチのリアクションに満足したディエゴは制した。

「落ち着けよ。念には念を入れなくちゃあならない。少しだけ俺の情報を明かしてやる」

「なにか問題が?」

「……俺の知るスタンド使いに『平行世界を行き来する』能力を持つ奴がいる。
 ドッペルゲンガーは知ってるか? あの原理だ。平行世界の人間を基本の世界に連れてくることで、互いが消滅する」

同じもの同士が出会うと破壊されてしまう。人間も。なんであろうと。
サーヴァントですら、きっと同じなのだろう。だが、プッチも情報を把握して言った。

「彼のスタンドは君のものとは異なる。スタンドが異なるなら、別と捉えられるのではないか?」

「平行世界は基本と『何か』違う。その『何か』にスタンドが含まれてても、変じゃあない」

携帯アプリのメモに文面を書き込み始めるディエゴは、これで全てが分かると確信していた。
早速、恐竜化を遂げた魔法少女・たまを呼び寄せる。
打ち込み終えたディエゴが語った。

「もし奴が『平行世界から来た俺』なら、この携帯の返事をする事はできない。
 奴も『俺と同じ物』を所持して、移動してきているんだからな。携帯同士が消滅し合う。
 だが―――返事と共に、この携帯が戻って来たなら」

「彼は、アヤ・エイジアによって召喚された正式なサーヴァント……」

「単なる保険だ。最も『俺』だったら容易に他者と同盟を受け入れたりはしない。お前相手なら尚更だ、プッチ」

「君なら、その伝言に返事をしてくれる確信があるのだな」

「必ず返事は来るさ。そこだけは安心しろよ。答えがYesにしろNoであってもだ」

ディエゴ・ブランドーは容易に信用はしない。
そして、彼の生前でも容易に信用できる、心安らぐ親友などはいなかった。
だが。関心程度は少なからずあり、ディエゴが文面に加えた人物の名を挙げる行為こそ、効果があると知っている。


それこそ………


728 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/09(土) 23:06:25 aSDVlGmw0




        ————マテリアル【ビースト】に新しい情報が登録されました。————



◆ビーストⅦ/Α
現宇宙において、再編された世界に顕現した最新の人類悪。
善良なものを集め、あらゆる害悪を退ける力を発現させ、それを人類史に影響及ぼす規模に利用しようとしたが為。
抑止によって滅ぼされた。その力は、恐らく一個人でも一国の為にでも使ってはならない。
Αの消滅により終わりを迎える筈だったが、Αが残した因子により『ビーストⅦ/Ω』が生じてしまう。
今後『ビーストⅦ/Α』が顕現すれば呼応し『ビーストⅦ/Ω』も召喚される。







―――ヴァレンタインか! マジェントにフェルディナンド……ヴァレンタインもいる………

奴ならこうする。
必ず、こんな事をしでかすだろう。自ら真名を明かして、他主従に呼び掛ける真似を。
アヴェンジャーが冷や汗流す。恐らくマジェントはまだヴァレンタインと繋がりがない、だろう。
憶測に過ぎない空想論。けれどもアヴェンジャー自身の存在を、ヴァレンタインに掴まれているとは限らない。

―――フェルディナンドなら恐竜に俺の匂いを辿わせることも……いや、それも違う………

一先ずアヴェンジャーは内容を追う。


 [聖杯、奇跡の願望機を君が望んでいるかは問わない。
 私は誰しもが聖杯を手にする事が容易である状況を正さなければならないと考えている。
 聖杯を使う者は正義であり、善でなければならない。例えば討伐令にかけられたセイヴァー。
 悪を象徴する救世主の手に聖杯が渡れば、一体どうなってしまうか?
 断じてそれだけは『あってはならない』結末であり、回避すべき可能性である。
 私は聖杯を然るべき者に託したいと思う。私に賛同できる者、あるいは『仲間』として同盟を欲する者。
 是非とも、私の返事に答えて欲しい。
 そして――聖杯で『正しき願い』を叶えるべき人間がここにいる事を願う]


―――如何にもだな。そして一つ分かった。


―――コイツが『本当に』大統領かはともかく……奴(ヴァレンタイン)を知る存在には違いない。


そして、ファニー・ヴァレンタインを知る者は即ち『レース関係者』だ。
ディエゴの記憶にある関係者。
真っ先に皮肉にもジョニィ・ジョースターが思い浮かんだ。しかし、奴がこんな真似を?と思案するものの。
違う、と。首を横に振る。ついでにジャイロ・ツェペリらしくもない。
ジョニィやジャイロであれば真っ先に蹴れる内容だが、これは彼ら側の文面じゃあない。
大統領側だ。
ディエゴも彼らを完全に信頼してはいないし、完全に乗っているワケでもない。味方でもない。

しかし…………

―――いいぜ。乗ってやるよ。見知らぬ奴よりも保証は効くからな……


 [返事はこのメモに残し、使いの恐竜に託すか。君の携帯からメールを送信するなり、手段はそちらに任せる]


不幸にも、ほたるが携帯端末を所持している様子はない。
確か、マスターのアヤが使っているのをディエゴも記憶にあったが……
注目されているマスターの所在を明かすような、携帯の連絡先を明かす訳にもいかない。


729 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/09(土) 23:07:00 aSDVlGmw0
仕方なくメモに返事を書き込む他ない。
アヴェンジャーが打ち込み始めたのに、ほたるは些か不安そうに伺う。

「だ、大丈夫なんですか……?」

「セイヴァーとの対立は避けられないからな……奴の事だ。俺を狙っていたのも恐らくソレだと思うが
 仲間を増やす魂胆だろう。どういう手段で利用し、支配するかはともかくな。お前のライダーも含めて
 敵が、どれほど増えるか予想は付かない。俺とキザ怪盗だけで渡り合えると慢心はしない」

「ライダーさんと、た、戦うってそんな……」

「だからこちらも仲間を増やすしかない。利用できるものを利用できなきゃ死ぬだけだ」

「…………」

きっとアヴェンジャーの判断は正しい。むしろ少女に出来ない事を平然と、顔色一つ変えずにやってのける。
緊迫した状況では、奇妙だが――これ以上に頼れる者は居ない。
非情な判断と決断を、平凡な人間が下せるまでに、どれほどの苦行を味合わなければならないか。
少なくとも、白菊ほたるには無理だった。
逃げ出せれるなら、今すぐに元居た世界へ逃げ込みたい。
願いが叶うか。自分の不幸が改善させるか、どうだっていい位に押しつぶされそうだった。



 [ファニー・ヴァレンタイン大統領。貴方のお言葉に勇気を得たので返信させて頂きます。
 簡潔に私の返事を言います。貴方との同盟を望みます。理由は現在、我々はセイヴァーに追われているからです。
 詳細な説明をする時間も惜しいです。とにかく、合流をしたいのですが難しい状況にあります。
 私が思いつく限り、見滝原で目立った建造物と言えば『教会』しか思い当たりません。
 『教会』で仲間と共に待っております。ただし、セイヴァーに捕捉されれば離れる他ありません。
 どうか、可能な限り早く会いに来てください。お願いします。

                                               白菊ほたる]



以上を打ち込んだメモを保存し、恐竜の首にかけられたポケットへ携帯を入れると。
恐竜は、そういう風に指示を受けていたのか、一度たりともアヴェンジャーとほたるに危害を加えずに。
元来たルートに沿って駆けていく。
だが、ディエゴも容易に見逃す訳でもなく、恐竜を追跡するように移動を始めた。
恐竜の図体がマンホールに侵入出来たとは思えない。
河川に通ずる排水口は大きめであろう場所から、侵入したのは分かる。


瞬間。
気配を感じ取った、視線もある。アヴェンジャーがそれらの方向へ振り返った。位置は現在の彼らより後方。
深淵より現れたサーヴァント。
ブルマを穿いた奇怪な男性の表情が――顔が歪むほど激情的なものだった。


730 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/09(土) 23:07:31 aSDVlGmw0
アヴェンジャーも戦慄が走った。雰囲気からバーサーカーの類かと思う通り、彼からは狂信の怒りが溢れる。

「貴様……貴様ッ………!! なんだその『顔』は! 井出立ちはッ!!
 何故『DIO』様の姿を騙っている! 『DIO』様のお姿を、存在を利用した罪を償って貰うぞッ!!」


おい……まさか………


差し詰め『DIOの教信者』もとい『狂信者』は怒りに身を委ね、宝具も何も発動せず。
徐々に速度を上げながら走り向かっていく。
恐らく、自らの拳を以て制裁を下さなければ憤りは収まらないのだろう。
アヴェンジャーは満身創痍だが、単純に敵を打ち倒せるだけなら問題はない。

「『THE WORLD』。俺だけの時間だぜ」


「な――――」

『狂信者』は一瞬驚愕の表情に変化し、次の場面ではスタンドに拳を無数に叩き込まれた衝撃と共に、吹き飛ばされていた。
それらを傍観してるほたるも、思わず悲鳴を漏らす。
スタンドを出現させたまま、アヴェンジャーは『狂信者』の攻撃を警戒していた。
恐らく、相手もスタンド使いだと。
DIO……セイヴァーの部下であるなら、尚更必然なものである。

「ば……かな! き、きさ、貴様……貴様ァァァァ!!」

だが、これは『狂信者』にとって最大の挑発行為でしかなかった。
下水道の汚水を被りながらも、怒りをぶちまけつつ『狂信者』は震えていた。
最早いつプツンと切れるか分からない状況である。

「そのスタンドは! 貴様のスタンドは『能力を奪う』ものかッ!! DIO様のスタンドまでをも!!」

「ぐ……」

「私にDIO様を手に掛ける屈辱を味合わせようとしているのだなッ!
 だが、貴様などDIO様の足元にも及ばんゴロツキ風情!!」

突如『狂信者』の背後にスタンドが出現したかと思えば、
スタンドが本体たる『狂信者』を大口開いてバリバリと丸呑みにし始めたではないか!
ほたるが、ショッキンな光景に尻餅つくのは仕方ない事で。彼女に構わず、本体を飲み込んだスタンドは姿を消したのだ。

独特な効果音と共に、壁の一部が円形に削り取られたのに、アヴェンジャーは即座に理解した。
再び時を静止し、ほたるを引っ張り移動をする。
射程距離から離れても、壁を削り取る音は遠くで響き続けていた。

(俺たちの位置には気づいていないのか……?)

間抜けなことに姿を消している間は、外の様子を把握できないらしい。とは言え……
アヴェンジャーも幾度も時間停止させる魔力はない。
相手の魔力は十分あるだろうに。アヴェンジャーの方は満身創痍に等しかった。






731 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/09(土) 23:08:00 aSDVlGmw0
そして、場面はライダーのディエゴ・ブランドーへと時が遡る。
ファニー・ヴァレンタインらしい文面を打ち終えたディエゴが、一旦携帯の電源を落とすと。
ディエゴは、不気味な沈黙を続けていたレイチェルに呼び掛けた。

「レイチェル。お前の鞄を貸せ、必要だ」

ハッと我に返った少女は、かけていたポシェットを外しつつ中身を開けた。
現金やパンなどが入っているものの、邪魔になるとレイチェルは取り出しておく。
そして……奥底にひっそりとある小さな箱。
レイチェルは無言でソレも出して、ポケットだけをディエゴに渡す。

彼も格別、レイチェルに一言かける必要なく、ポシェットを受け取り、携帯をそこへ入れる。
恐竜化した『たま』の首にポケットをぶら下げると同時に、彼女はどこかへ走り向かう。
匂いを辿って『もう一人のディエゴ・ブランドー』を探す為……

レイチェルもそれを見届け、手元に残った『箱』をポケットへ入れようとした瞬間。

「オイ、待て」

ディエゴの冷酷な言葉に、レイチェルが止まる。
彼もまたレイチェルの動向を疎かにしてはおらず、彼女が余計で無駄な行いをしないか警戒はしていた。
だからこそ。
凄まじい剣幕で、ディエゴはレイチェルの方へ近づく姿に、プッチも少々驚きを隠せずにいた。
レイチェルの前で立ち止まったディエゴは、静かに問う。

「なんだ『それ』は」

「………」

「なんだと聞いてるんだよ、なぁオイ。まさか―――」

強引にレイチェルの手にある小箱を奪ったディエゴが、中身を確認すれば案の定だ。
簡易的な『裁縫セット』。
何の変哲もない。ボタンが取れた場合を考慮したら持ち歩いても、格別変じゃあない代物。
中に入った糸や針に血がこびり付いていなければ………

ディエゴは即座に裁縫道具を地面に叩き付ける。
威力の余りに、箱が壊れて裁縫針もバラバラに散らばってしまったが、レイチェルは呆然と眺めていた。
対して、ディエゴは激怒した。

「無駄なものを持ってくるんじゃあねぇ! 必要ねぇだろうが、こんなもの!! 意味もねぇ!
 どれもこれも無駄だ、無駄!! 無駄無駄無駄ッ!! 無駄なんだよッ!!!」


732 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/09(土) 23:08:27 aSDVlGmw0
そして踏みにじった。
何度も幾度も、小さな針が曲がって使い物にならなくなる位に。

「どうするつもりだった! 何に使うつもりだったんだ!? レイチェル・ガードナー!
 言ってみろよ! 今ッここでッ!! 言えるかッ!? 言えるワケねぇよなぁぁっ!!!」

だが。
いいや……それ故にか。
レイチェルは、ディエゴの行動に憤りも無常も悲しみすら浮かべずに。
死に惑う亡霊じみた無表情で、小さく答えた。

「もし、ライダーが………」

「―――」

「酷い怪我をしたら、縫おうと思って」



『ソイツに手を出すんじゃねぇ!』

衝動に任せてディエゴがレイチェルに手をかけようとした寸前。
彼女の前に立ちはだかったのは――佐倉杏子だった。
だが、彼女は言わば幻覚に過ぎない。彼女のソウルジェムを取り込んでいるディエゴだけが見えている。
先刻も喧しい杏子に、ディエゴもいよいよ苛立ちが爆発してしまった。

「おめでたい奴だなぁ……? そのクソガキが一体何をしでかしやがったかも知らねぇくせに!」

『誰がどんな事をしようが関係ないさ。あたしはアンタのやってる事が気に食わない、だから邪魔するんだ』

腹立たしい。
佐倉杏子が道を外した人生歩んでいるにも関わらず、ディエゴに向かう姿勢は
正真正銘の―――『黄金の精神』だ。故に、ディエゴはそれを叩き潰したくて溜まらない。

「そのクソガキは親の死体を縫い合わせて、人形ごっこを何日も楽しんでやがった!!
 自分で『ぶっ殺した』犬の死骸を飼いたいとか抜かす、ヘドの出るガキだ!!!」

『だったら、どうしてアンタは何もしなかったんだよ! 気にいらねぇなら……アンタがやればいいだろうが!!
 コイツはアンタのマスターだろうが! 可笑しいって思うなら、アンタがコイツに教えてやれよ!!』        

「俺がどうにかしろ? 俺がどうしたって無駄だッ!」

無意味だと知っている。運命に立ち向かう? 運命の奴隷になれ?
全てがディエゴの知る最も無為な行為であり、愚かしいと思うものだった。
悪いの誰だ?
レイチェル・ガードナー? 彼女の両親? 全てを見逃していたディエゴ・ブランドー?
どれも答えじゃあない!!


733 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/09(土) 23:09:04 aSDVlGmw0


「腐り切ってるのは―――『世界』そのものだ! 『社会』だ!! 違うかッ!?」


彼の叫びこそが世界を切り裂いた。
立ちはだかる魔法少女も、神父も、救われない少女も彼の言葉に目を見開く。


「最初からそのガキは救いようもねぇ! 親を縫い合わせる事でしか満たされない! 
 犬の死骸と戯れるぐらいでしか満たされない!! 『そうする事』でしか満たされないッ!!
 俺を育てた女が手の器にシチューを注いで貰うしかなかったのと同じでなぁぁッ!!!」


「そうするしか生きられねぇんだよ、このクソみてぇな世界ではなッ! 社会も世界も腐り切ってやがる!」


「冗談じゃあない! 俺は頂点に立つ!! 腐り切った世界の頂点で、洗いざらい支配してやる!!」


『DIO』の怒りを知り――エンリコ・プッチは漸く理解したのだ。
まだ少年であったディオ・ブランドーの怒鳴りと拒絶を、そして本心を。
紛れもなく、彼は頂点へ向かう存在であり、全てを救済するだけの運命を持つ王に近しい者。


―――路地裏の負け犬がほざく下らないたわ言以下の薄汚い世界が貴様の言う天国だと!?

―――そしてそんな世界をこのディオが目指すことになるだと!?


彼は………何故、天国を目指そうとしたのか?
根本と切っ掛けはそう、所謂……『怒り』だ。スタートラインはディエゴが語った通り。
無常な世界を、非常な社会を、そして世界と社会への憤りを胸にそれでも尚、世界の頂きに至ろうとする『気高き飢え』。
飢えに餓えた果てに『DIO』として天国への到達を目指すには、また長い道のりが必要となるが。
動機は揃った。彼もまた頂点に立つ事で、救済しえる英霊なのだ。


プッチが一つの解答を得たところで、一つの言葉が届く。






「――――やっと見つけた」







        ————マテリアル【ビースト】の情報を閲覧します。————




◆ビーストⅥ
再編前に顕現された人類悪。世界は一度この獣により滅亡し、再編された。
全ての生命は未来に何が起こるかを知り、それを変える事なく運命として受け入れる。
覚悟を得る事で幸福となる『天国』の領域を、友の為、執念と妄念を以て不完全ながら実現させた。
この獣による『天国』は完成される事なく、再編前とは異なる世界が人類史のレールに継続する事となる。
抑止力は再度この獣が顕現した場合の対抗手段を生み出したとされている……





734 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/09(土) 23:10:25 aSDVlGmw0
ここまでを前編として投下終了します


735 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/14(木) 23:31:27 NjzRws3M0
非常に申し訳ありませんが、中編を投下させていただきます


736 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/14(木) 23:32:03 NjzRws3M0


「アサシンさん、これは……?」


「運命の確立って奴さ。例えば、まだ凛ちゃんの死が確実でないように、他の未来も不確定のままだ。
 とは言え………どれも『未来で起きるかもしれない現実』のIFなワケよ。ここでの情報は『真実』だ
 敵の宝具や能力は『真実』。起きる事は事実じゃねぇ。これだけよ」



【α】


「――――やっと見つけた」


「残念です、非常に残念でなりません。私はあなたをとんだ下……愚か者と思っていましたが、撤回します」


「あなたは『そこまで』分かっていながら……分かっているにも関わらず、外道に成り下がってしまうのは
 最早、精魂の在り方が生まれながら歪んでいたと言わざる負えません。……ええ、ですから残念でなりません」


聖女が杖を構え、立ち向かうのは―――ディエゴ・ブランドーだった。
一つ加えるならば。
教会を襲撃し、まどかの両親を恐竜にし、佐倉杏子のソウルジェムを奪った。
正真正銘、ライダーのディエゴ・ブランドーであるという事。

「貴方が、馬に騎乗していたのは分かっていた。下水道へ移動するよりも、地上で蹄の痕跡を辿れば追跡は容易だったわ」

彼女はマスターを背負っては来ていない。
比較的安全で、一目がつかない場所に置いてきたのは、これよりディエゴたちに戦闘を仕掛けるからだ。

「マスターのソウルジェムを、返してもらうわよ」

聖女・マルタの攻撃は素早いものだった。
彼女は、杖に魔力を蓄積させており、今ここでディエゴに対し光の爆発を与えた。
魔力を貯めるのを除けば、空間を飛翔したり着弾の『過程』を必要とせず『結果』だけを残している。
予想外の襲撃以上に、回避も困難を極めた為、攻撃をまともに食らうディエゴ。
衝撃も発生し、彼の体が吹き飛ばされたのにプッチは躊躇しない。ケンタウロスを彷彿させるスタンドを出現させた後。
プッチはマルタの視界より忽然と消す。

「『刃を通さぬ竜の盾よ(タラスク)』!」


737 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/14(木) 23:32:26 NjzRws3M0
仮にも町の中。
彼女の十八番と呼ぶに相応しい竜を召喚する事は、彼女の理念上無理ではあるが。
今のように、竜の甲羅を召喚し、盾のような防御をすることは可能。
杖に再び魔力を集中させながら未だに姿を捉えられないプッチに、マルタは警戒を続けた。

(逃げたんじゃあるまいし……瞬間移動のようなもの? それとも――)

遠くから何かが激しく転倒した音が響いた矢先。
甲羅に身を裂くような衝撃と共に、前方からマルタの上半身に亀裂が入った。
加速。圧倒的スピードによる攻撃。俊敏性の表記はEXにも関わらず、規格外というものじゃあない。
純粋にAランクを凌駕する意味での意味を示すのは、プッチだけだろう。

「ぐ、は、ぁっ……」

マルタの肉体から血が滲む。口からも吐き出る。
甲羅の破片が、皮肉にも彼女の体に入り込み、傷を悪化させていた。
破壊された甲羅からプッチとケンタウロスのスタンドが、彼女を覗き込む。

「聖女よ、君が攻撃したものこそ神になりえる者。この世界を救える者だ……故に、君はここで死ぬ運命にある」

神に逆らったからこそ、死ぬ。

「神……ですって。冗談じゃあ、ない……わよ!!」

だが、マルタの攻撃は終わらなかった。彼女の魔力は、祈りは、終わっていない!
杖に込められた光が、プッチに炸裂する。
再び巻き起こる爆発と共に、召喚していた甲羅は消滅を果たした。
視界が晴れた時に、プッチの姿は無い。そして、マルタの肉体も霊核が貫かれたか怪しい深手を上半身に受けている。
 
次にマルタが手にしていた杖が、彼女の手元より吹き飛ぶ。
よく見れば、加速の威力で折れている。何故、マルタ自身を狙わないのか?
プッチのスタンドは規格外に驚異的だが精密性には欠けている。マルタもこれが狙うべき一点だと理解する。

「さて……どうする? お前のマスターのソウルジェムを返してやってもいいぞ」

「………っ!」

満身創痍の聖女に、ディエゴが接近してきた。
彼の手には、確かに赤いソウルジェムが握りしめられており、返してやると言うが、保証は皆無に等しい。
マルタが睨みつつ拳を握りしめる。

「そうして貰えれば何より。だけど……貴方が神になるなど断じてあっちゃいけないわ」

「アレはプッチがそう思っているだけだぜ。神なんざ正直なりたくもない、信じちゃいない」

本当に神が居たのならば、自分も母親もとっくに救われている筈だからだ。
ディエゴの思念に迷いがない。

「俺は俺の望みを叶えるだけだ」


738 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/14(木) 23:32:48 NjzRws3M0
欲望が為に他者を踏みにじむ事は許しがたい。
だからこそマルタは立ち続けた。ディエゴは間違っており、倒すべき敵なのだと。
彼女の信仰と奇跡で、この手傷を受けてもなお怒りの拳を振るおうと構えていた……
それなのに

「え……」

聖女が絶望するとすれば、彼女が信じるものが異なった時だけであろう。
例え、ディエゴが如何に外道を行おうが、このまま杏子のソウルジェムを砕いて見せようが。
彼女は聖女であり続けるのだ。それが砕かれるとすれば……

ディエゴの背後に誰かが立っていたのだ。
それがエンリコ・プッチであれば、どれほど良かっただろう。しかし、違ったのである。
彼女は、それが誰かを知っている。
手の甲にポッカリ空いた穴も、彼が被る冠も、これが敵の幻覚であれば良かったものを。

当のディエゴ自身も、彼が感じたこともない感覚に冷や汗を浮かべている。
彼ですら状況に混乱していた。否、彼自身『心当たり』はある。だからこそ度し難い感覚に動作を止めた。
勢いよく振り返った先に、もう誰も居ない。
だが! 確かに存在したのである!! 紛れもない、ディエゴが生前スタンドを手に入れる切っ掛けとなった……

「なんだ……今更! 何故、俺の前に現れてきやがったッ!!?」

戦況の変化を感じ取ったプッチが宝具を停止させる。
膝から崩れ落ちるマルタに、ディエゴが叫ぶ。

「テメェの仕業か!? 聖人の遺体を手にした時、アレが出てきたことはなかったぞ! 冗談じゃないのはコッチの台詞だッ!!」

「遺体……? まさか……そんな………本当に………『あの人』が貴方を選んだ……?」

マルタ自身が困惑したまま粒子となって消失したのは、彼女自身の信仰に揺らぎが生じたせいだろう。
何故なら、彼の背後にいた者こそが、彼女の元となった存在に等しい。
だが、聖女の困惑はプッチが理想に描く『神に等しい存在』へと布石を思わせる一方で。
本当の意味で、聖人に選ばれたのならば……?







DIOの狂信者、ヴァニラ・アイスも怒り心頭でDIOを真似たサーヴァントに攻撃を仕掛けていたが。
対して、思考は冴えていた。
闇雲に攻撃しても無駄だと分かっているし、皮肉にも敵の能力を理解しているから対策も可能な訳だった。

(奴が……どうするか。DIO様の能力を盗んだままか、あるいは私のスタンドに切り替えるか)

あくまで彼は、アヴェンジャーがDIOの全てを『盗んだ』と解釈しており。
最悪、自分の能力を奪われる可能性も考慮していた。
果たして、DIOの能力を得たまま、ヴァニラ・アイスの能力も取得できるのだろうか?


739 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/14(木) 23:33:14 NjzRws3M0
否。ヴァニラ・アイスはこう考えていた。
世界を支配しえるDIOの絶対的な能力を手離すだろうか?と……

(DIO様……あの御方に魅入られるのは『当然』のこと……仕方のない事だ。
 奴もその一人……あのような無礼を働いた奴が、易々とDIO様の全てを捨てるワケがない……)

妄信が故に確信を得た。
どうやってDIOの力を、スタンドを得たのか不明ではあるが、時を止める力を有するだけで優位になるのは当然。
だから、捨てない。
アヴェンジャーは時を止める能力で、ヴァニラ・アイスを切り抜ける算段であろう。
亜空間から一旦姿を現したヴァニラ・アイスが周囲を確認した。

しかし、サーヴァントには通常のスタンド使いと異なり『魔力』の制限があった。
マスターとの繋がり、マスターから供給させる魔力で幾度宝具が発動できるかが命運を分ける。
アヴェンジャーも、負傷していたのを考慮すれば、時を止める魔力が少ないだろうと察せられた。

(やはりか……)

亜空間から姿を現したヴァニラ・アイスが視界に捉えた。
下水道より脱出を図るべく、アヴェンジャーとほたるがマンホールに到達している場面。
行動が制限される場所より障害物の多い、外へ逃走するのは至極真っ当であり安直な手段。
当然、ヴァニラ・アイスも考慮していた。
周囲を警戒するアヴェンジャーに姿を見せぬよう、ヴァニラ・アイスも影に隠れる。
既に深手を負っているアヴェンジャーにも焦りが見えた。

「先に登れ……奴が来る前に…………」

「でもっ」

「早くしろ……!」

ほたるは、アヴェンジャーを気使っているつもりなのだろうが、逆に彼を苛立たせているのが分かる。
アヴェンジャーが下で周囲の警戒を続ける最中、決死の思いでマンホールの出入り口に到達したほたる。
だが、少女の力ではマンホールを塞ぐ蓋を持ち上げるのは不可能だ。
意地になっても無意味だ。彼女は申し訳なく、下にいるアヴェンジャーに言う。

「あ、アヴェンジャーさん。あの」



    オ
       ン
         !


740 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/14(木) 23:33:41 NjzRws3M0
……………………

しばしの間の後。
ヴァニラ・アイスは静かに亜空間より姿を現し、そして腐食した下水動の足場に転がった少女の手を確認した。
生憎、彼はソウルジェムを所持しておらず、サーヴァントの消滅までは分からないが。
マスターを倒せば、問答無用にサーヴァントも消滅する。
事実として、アヴェンジャーの姿もいなくなって―――……


次の瞬間。
ヴァニラ・アイスの体はマンホールの蓋をぶち抜き、外へと吹き飛ばされたのだった。


「な、にィィッ!!?」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

怒涛のラッシュがヴァニラ・アイスの体に叩き込まれていた。
アヴェンジャーの体が消失している模様は一切ない!
宝具も使用可能なほど健在だ。ヴァニラ・アイスが読み間違えていたのは、ほたるがアヴェンジャーのマスターだと勘違いした点。
ほたるという儚げな少女を見捨てられるアヴェンジャーの精神性である。

とは言え。
派手にヴァニラ・アイスを吹き飛ばし、外のアスファルトに叩きつけ。
アヴェンジャーは深手を抑えつつ、マンホールから顔出す。
あれほどの深手を負ったにも関わらず、ヴァニラ・アイスは立ち上がろうとしていた。
傷は無意味。狂信による狂化が彼を駆り立てるのか、妄念による根気なのか定かではない。

「流石セイヴァーの部下だけあってしぶとい………奴はそういう連中ばかり集めるのが趣味のようだな」

「DIO……さま、を、まだ愚弄するか……!!」

ヴァニラ・アイスが睨みつけた先で、何かが光る。
一筋のそれを、彼は理解せずにアヴェンジャーに攻撃をしかけたのだが。
彼もまた分かっていたようで、疎かにしていたに違いない。
崇拝するDIOと酷似した青年はDIOではない。ヴァニラ・アイスの崇拝していたDIOじゃあない。

にも関わらず。

(DIO様に遠く及ばない下種程度がッ! 何故、なぜ、ナゼ、DIOサマと同じ――)

彼のような信者が畏怖するDIOの風格。
ヴァニラ・アイスが手にかけようとした青年には『何故』かそれを感じられたのだ。
まだ、日の浅い、片鱗に過ぎないソレだったが、いづれDIOに匹敵する可能性を秘めている。

DIOとはヴァニラ・アイスにとって、唯一無二、代わりなど存在しない者。
アヴェンジャーを認められなかったのは、その妄信あっての事。
ありえない事なのだ。認めてはならないのだ。


そして、執念こそがヴァニラ・アイスの敗因となってしまう。


741 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/14(木) 23:34:02 NjzRws3M0
「…………」

アヴェンジャーは『何事もなく』マンホールの蓋を押し上げ、地上に戻って来た。
そこには誰もいない。
チラリと、手元のソウルジェムを確認すれば淡い魂の色彩が一つ灯っている。
ヴァニラ・アイスは……消滅した。彼が最後に目にした一筋の光は、太陽。
皮肉にも生前と同じく、吸血鬼としての自覚を配慮できなかった事による消滅に終わったのである。

「吸血鬼……? 意味がわからんな。スタンド使いで吸血鬼……まさか、セイヴァーが吸血鬼なんてことがあるのか?」






◆ビーストⅣ
未来を燃料エネルギーに変換し、時間逆行を引き起こす人類悪。
その獣にとって『不都合』な標的を滅ぼし、その『運命』を持ち越し続けながら時間逆行を招き。
最終的の結末は、平穏と安息が約束された時にだけ解除されるという。
時間逆行による『あったかもしれない未来』が消耗される所業を獣自身は理解しておらず。
理解したとしても、この獣は罪悪感を抱かないだろう。







「……ちゃん………ほたるちゃん、が………!?」

島村卯月は絶望していた。
彼女も、そしてアサシンも恐らく、白菊ほたるが聖杯戦争のマスターであることを知らずにいたからこそ。
球体ビジョンに映された光景、無残に、まともな死体すら残さず終わった少女の運命に、嘆く他ない。
だが、アサシンは至って平静である。
何故ならば、これは『可能性の一つ』に過ぎない。彼は愉快に卯月へ伝えた。

「大丈夫だよ。前に見せた『凛ちゃんが死ぬかもしれない未来』的なもんだから」

「ほ、ほたるちゃんも! 私と同じ事務所のアイドルなんです! それなのに、こんなっ……!!」

「やれやれ……じゃあコッチを見て落ち着きなって」

アサシンは別の球体ビジョンを出現させる。
映し出された光景は、先ほど卯月が目撃したものとは大いに異なるものだった。






742 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/14(木) 23:34:26 NjzRws3M0
【β】


「――――やっと見つけた」


白菊ほたるは、ビクリを体を飛び跳ねさせた。
薄暗い下水道だからこそ、清楚な衣服は異様に目立つ。杖と赤髪の少女を抱えた聖女が、ほたるとアヴェンジャーを睨む。
新手のサーヴァントの出現に、アヴェンジャーは周囲を見回した。
先ほどからヴァニラ・アイスの攻撃は止んでいる。
魔力が切れた? 否、恐らくどこからか警戒するべく監視しているのだろう。
一旦、宝具を解除しているなら、時間停止させて狙えば良いが……
杖を向けてくる聖女が言う。

「マスターのソウルジェムを使って何を企んでいるか、知らないけれど」

「……?」

ソウルジェム?
まるで話が見えて来ない。ただ、ほたるを考慮してか聖女はアヴェンジャーに攻撃をしかけようとしない。
アヴェンジャーは直感で理解していた。
だが、彼女との争いは避けられそうにないし、ヴァニラ・アイスの襲撃も警戒し続ける必要がある。

「ソウルジェム? ひょっとしてコレか」

聖杯を作成するに必要な透明の宝石を見せびらかすアヴェンジャー。
しかし、聖女の物静かだった苛立ちを煽るような行為だった。小さく舌打ちしてから

「とぼけてるんじゃないわよ」

ドスの効いた威圧をしてきたものだから、ほたるが更に震え上がる。
少女は危機的な状況で、眼前の聖女・ライダーに殺されるのではと恐怖しているのだ。
本来、聖女のライダー・マルタにほたる敵意はないのだが。
一方でアヴェンジャーも幾つか疑問が生じる。とは言え、余裕ある状況じゃあない。
せいぜい可能な質問は残り、一つ。アヴェンジャーが切り出した。

「まさか、俺を狙って来たのか? セイヴァーの奴と勘違いされたら困るから否定させて貰うが……俺は奴とは無縁だぞ」

「ええ、当然。貴方を追って来た。貴方と戦ったマスターの子が教えてくれました。
 セイヴァーに似た顔立ちで、女の子がマスターであることを」

………なるほど。

アヴェンジャーは、次に起こすリアクションの解答まで導き出す。
俄かには信じがたいが他にも、セイヴァーと似た顔立ちのサーヴァントがいるらしい。
証言したマスターも簡単に口頭でマルタに伝えただけで、詳細な顔の特徴や少女のマスターに関しても曖昧なのだろう。
ほたるが、慌てて「何かの間違いです!」と涙ながら訴えるが、果たしてどうか?
マルタはアヴェンジャーとほたるを信用するだろうか?

結論は一つである。


743 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/14(木) 23:34:58 NjzRws3M0
ほたるは必死に語った。

「アヴェンジャーさんは、私を助けてくれたんです! さっきまでセイヴァーさんに追われてて……
 そ、それに、私っ……アヴェンジャーさんのマスターじゃないんです……!」

「なら……あなたのサーヴァントは?」

「それは、その……」

令呪で呼び出せば証明になる。
でも、ほたるはセイヴァーの件があり、ライダーに対する信用が揺らいでいた。
そして、ここにライダーを呼び出したら……一体どうなる事か。
セイヴァーとアヴェンジャーが衝突したのと同じ、戦闘が勃発恐れも。彼女はあらゆる最悪の事態に恐怖している。
どう証明すれば途方に暮れた少女に、アヴェンジャーが制止した。

「もういい。俺に任せろ」

「アヴェンジャーさん……?」

アヴェンジャーが改めて周囲を見回せば、遠くから透明ながらぼんやりと輪郭が視覚に入る球体が目にできた。
ヴァニラ・アイスの宝具だ。
彼らの会話に乗じて、攻撃を仕掛ける算段なのだろう。
だからこそ、都合がよいのである。アヴェンジャーは不敵な笑みを浮かべた。

「俺がコイツのサーヴァントじゃあないと証明してやるよ」


ガ  オ ン!


短い独特な効果音が響き渡った。あまりに一瞬の不意打ちである。
マルタに関しては、ヴァニラ・アイスの能力と存在を把握しなかったが故に。
ほたるに関しても、人間の少女が宝具の攻撃を回避するなど不可能。
ただ、アヴェンジャーだけに関しては………





「随分な状態だ。逆に、そこまでムキになる必要はないと思ってしまうよ」

所謂、令呪による強制転移だった。
念話でマスターのアヤに指示をし、アヴェンジャーだけが避難を終えて工業地帯に車を止めた彼女らとシャノワールの元に移動した。
シャノワールの態度に苛立ちを覚えながらも、アヴェンジャーは一息つく。

「予定が変わった。新手のサーヴァントが二騎も現れちゃ、手に負えない」

「本当に手が負えなかったのかい?」

「なんだその反応は。俺の評価も高いもんだな」


744 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/14(木) 23:35:33 NjzRws3M0
しかし、説明しなければ凛たちは納得できないのだろう。面倒だがアヴェンジャーは話し始めた。

「どうやら俺と似たサーヴァントがいるらしい。ソイツと間違われて、一騎のサーヴァントが攻撃する気でな」

困惑気味に凛が、顔をしかめた。

「え……セイヴァーの事、じゃないんだよね」

「流石にそこまで勘違いはしないだろ。俺とも違う、セイヴァーと似た顔をした奴がいる……なんてややこしいぜ」

アヴェンジャーの状態もそうだが。
セイヴァーと似た顔をした存在の嘘など、突発的できるものでもない。
加えて、アヴェンジャーが凛たちから離れた時間も考慮し、他サーヴァントを挑発した余裕もない筈だ。







「へー……そういうこと」

ビジョンを観察していたアサシン・杳馬は、こうして幾つかの情報を集めている。
今回観察して判明したのは、実はディエゴ・ブランドーは双子の兄弟とかじゃあない。
割とどうでもいいが、案外重要なことだ。
基本的に、サーヴァントによって異なるクラスで同時に召喚される可能性は少なからず存在する。連鎖召喚だ。
だが『ディエゴ・ブランドー』の場合は少々事情が異なる。

「実はさぁ、あの子の真名は分かっちゃってたんだぜ。これが。色々とバレバレだったしな?
 『Dio』と騎手と調べたらすぐ出てきた。『ディエゴ・ブランドー』……
 アメリカ大陸で行われた大規模な乗馬レースで優勝を果たした。
 だったんだけど! 不正行為が判明。優勝が取り下げ、本人は行方不明のまま死亡扱い……てのが歴史上の記録」

表向き、奇妙な能力・スタンドに関しては触れられ事ない。
ましてやディエゴ・ブランドーが恐竜に関係した事も……聖人と所縁あった記録も。
どれもが書物などでは得られない話。が、文献が全く以て無駄に終わる事もなかったのだ。
杳馬には謎が一つ解けた。何故『ディエゴ・ブランドー』が二人もいるのか。

「アヴェンジャーの子は『平行世界から来た子』……俺達の界隈じゃ『剪定事象』の存在ってことさ。
 『剪定事象』の存在は座に登録されないんだけど、違うんだなァ。例のファニー・ヴァレンタイン大統領だ。
 本来のディエゴ・ブランドーはレース中に死亡した。
 だけど、途中で『剪定事象』のディエゴ・ブランドーと入れ替わってレースを優勝した……証拠もあるんだぜ? まるで名探偵なぁ?」

証拠は件の不正行為だ。
ディエゴ・ブランドーの不正行為は、馬の交換である。
体力のある馬と交換して、レースを有利に進めるのは当然許されない。
だが、どうやって外見そっくりな馬を二つ用意出来たのだろうか? 答えは平行世界よりディエゴと共に馬も来た。
同じ馬が、世界に二つ存在していたのだ。

「だから――本来、座に記録されない筈のディエゴ・ブランドーがいる。現実世界で歴史に記録を残した以上はな。
 切っても切り離せないし、変に誤魔化す事もできない。座も『剪定事象のディエゴ・ブランドー』を残す他ない……と」

これで物語は、おしまい。
証明終了。……という訳にもいかないのが、今回の聖杯戦争である。


745 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/14(木) 23:36:09 NjzRws3M0
「元となったセイヴァーの影響か……もしくは別の何かが作用してるのか。あの子は結局、セイヴァーに関係があるんだろーなぁ」

饒舌に語っていた杳馬は、聞き手である卯月が顔を青ざめたまま呆然としているのに気付いた。
ディエゴの話で?
うっかり、ではないのだが杳馬も忘れてたと言わんばかりの大袈裟なリアクションをする。

「ブルーな気持ちになるなって、卯月ちゃん! 気を取り直して他の奴を見よう!!」

「ほたるちゃんを助けたいです! あのままだと……どの未来でもほたるちゃんがッ!!」

卯月の酷い形相で叫んだ内容に、杳馬は長くため息をついた。

「卯月ちゃん……まーそうなるよね。俺もあんまり無理強いさせたくはなかったんだけど、こればっかりは決めて貰おう」

「アサシンさん……」

「凛ちゃんとほたるちゃん。どっちを救いたい?」







アヤと凛の車は一先ず都心から脱出を果たし、工業地帯に近づいていた。マスコミ達を撒けたと彼女たちは思う。
漸く、安堵したことで凛は家のことを思い出す。一度戻ろうと考えたが難しそうだ。
何より、アヴェンジャーがセイヴァーと接触したことを考慮すれば。

(どうしよう……やっぱり止めた方がいいのかもしれない………)

家族に心配をかけたくないから戻りたかったが。
セイヴァーの影が一層濃くなったことで、家族に被害が及ぶのではないか。
どうしたら良いか八方塞がりの凛は、咄嗟にポケットを探るが、携帯端末は自宅に放置したままなのを思い出す。
連絡手段もないなら、やはり自宅に直接戻るしかない。

(でも、アイツ……アヴェンジャーが戻らないままにしておけない)

アヤは車を停車させた。
工業地帯にいるのには違和感があった為、そこと離れた住宅街付近で止まったのだ。
ひと段落した所で、凛は確認する。

「アヤさん。アヴェンジャーは?」

「……念話はまだ来ないわ。令呪を使って呼び出した方がいいかもしれない」

「ちょっと待って下さい」

アヤの方はアヴェンジャーを有る程度、信用しているのだが。凛は違う。常に不安を感じる。
顔がセイヴァーに似通ってる影響がないとは断言できないものの。
今回は、アヤたちと完全に離れ、独断に行動している点がある。
凛は霊体化しているセイバー・シャノワールを呼んだ。


746 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/14(木) 23:36:34 NjzRws3M0
相変わらず、どこからともなく実体化したと思えば、後部座席に悠々と座って出現するので凛は驚く。

「なにしてるの」

「フフ、少し驚く余裕を持って欲しいからね」

キザったらしい行動も、凛を気使っての行動だろうが、とにかく彼女の方は深刻に言う。

「アヴェンジャーの様子を見て来て。ううん、きっと余計な事をしでかすかもしれないから、探して欲しい」

「大胆な命令だ。悪くはないが、アヤ・エイジア。君の方はどうかな」

念の為、よりも当然マスターである彼女に確認するシャノワール。
アヤもしばし思案した後「お願いするわ」と答えた。
凛はそれに妙な違和感を覚えた。彼女も他マスター……普通の人間と異なり突出した存在で。
あのアヴェンジャーを物ともしない姿勢は、一体どこからあるのか疑問は尽きない。
シャノワールも、アヤの様子に違和感を覚えたのか沈黙を挟んでから「では行こう」と告げる。

霊体化しシャノワールが姿を消してから、二人の間に静寂が広まった。
何か話そうと凛が思った矢先。
ふと、アヤがゆっくりと言葉を漏らした。


「アヴェンジャーさん……死んだのかしら」


「アヤ、さん?」

唐突にどうして、疑問すら生じるほど前触れなく出てきたものに、凛が動揺するのに対し。
アヤは酷く冷静だった。鉄仮面を被ったかのように冷徹で、感情を浮かべない顔をしていた。

「死んだから、念話もして来ないんじゃないかって思ったのだけど」

彼女は一つの可能性を提示している、だけか? 凛ですら不気味を感じてしまう。
咄嗟に凛が答えを返した。

「そういう事は……あまり考えない方が……心配なのは私も、同じです」

アヴェンジャーに対し不信感があったにも関わらず、凛はそう言ってしまった。
彼に同情したのではなく、異常を正そうとした反射的なもの。
だがアヤの返事は「そうね」と実に冷めたものであった。


747 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/14(木) 23:37:25 NjzRws3M0
投下終了です。次が後編となる予定です。長くかかってしまいすみません。


748 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 22:54:25 lPHZPd9U0
次が後編と言いましたが、嘘だったので途中経過部分を投下します


749 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 22:55:05 lPHZPd9U0




「どっちも救います」

島村卯月の結論は至極当然のものだった。悪く言えば、ありきたりで平凡な答えである。
ちっぽけな、戦争や非現実と無縁な少女の考えも、薄っぺらい。
しかし、卯月にも杳馬から垂らされた悪意の一滴が浸透してるのだ。
一つの決心を抱きながら、卯月は杳馬に提案を持ち掛けた。

「アヤさんを……殺してください」

意表を突かれた杳馬は「マジ?」ととぼけた様子で聞き返すが、卯月の表情は固く覚悟をしたものである。
彼女も、行き当たりばったりに発現していない。
先ほどの未来観測は無駄に終わらなかったのである。

白菊ほたるの死因を追及すれば、どうすればいいか至極簡単な事だ。
アヴェンジャーのディエゴ・ブランドー。彼がほたるを利用し、見捨て、それらが原因となる。
そうでなくとも。
マルタがライダーのディエゴとアヴェンジャーのディエゴ。双方を間違えた事で危機的になるのも同じく。
故に、卯月が起こせる行動は、安全で確実な手段たるマスターの殺害。アヤ・エイジアの抹消だ。

卯月の決断に歪で不吉な笑みを作って、シルクハットを浅くかぶる杳馬。

「本当にそれでいいかい? 命令を下せば、あっという間にアヤ・エイジアはこの世から消えるぜ?」

「………お願いします」

これで、凛もほたるも救える。だから杳馬への命令に躊躇などありはしなかった。
卯月自身、今回の結果で思い知ったのだ。凛が善意でアヤを救おうとしても、アヤと彼女のサーヴァントは利用している過ぎない。
本当の意味で罪悪感や同情も持ち合わせて無い、冷酷な人間という事を。
世界は広いから、そんな人間は何人かいるだろう。
アヤとアヴェンジャーは、そういう少数派の危険因子の一部に過ぎないと判断して、卯月は迷いがなくなった。

杳馬が軽く指を鳴らした。
甲高い音は、コンサートホールで響いたように反響し、耳に残るものだった。





750 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 22:55:38 lPHZPd9U0
「アイドルさん。私ね……人を殺したことがあるの」

車内で衝撃の告白をするアヤに、不思議と凛は落ち着いて聞き入っていた。
別に、彼女は人を殺した経験があるだろう雰囲気を感じた訳ではないが、何故だろう。脅威は覚えない。
少なくとも、アヤが凛に殺意はない。これが事実だと凛の本能で理解している。
全ての解釈が異なれば、凛は今すぐ車から飛び出すか、令呪でシャノワールを呼び戻す。
アヤは静かに話を続けた。

「私にとって大切な人を二人殺した……罪悪感は、あるのよ。
 二人の身内や知人たちから恨まれる事も、私自身二人を殺すのに涙を流した。それでも……殺さなくてはならなかったの」

「どうして……」

「世界でひときりになる為」

まさか。
凛は絶句してしまう。世界で孤独になる為に? 大切な人を、凛で例えるなら家族やプロデューサーにあたる人間に手を。
理解を……しない方が良い。なんて表現が相応しい話だ。

「セイヴァーさんも同じだと思うの。私と同じ『世界でひとりきり』になろうとしている」

「既に、なっているんじゃないかと思うんですけど」

「実際のところ……本当の意味で『ひとりきり』になるのは難しいと思わない? アイドルさん」

人間が他者と関わりなく生きるのは、難しい。
社会と柵が纏わり続ける生涯を課せられている以上、過去はミミズのように這い上がるし、思いもよらぬ因縁が足をすくおうとする。
家族や、同級生や、仲間や、先生や。
想像するだけで数は尽きない。アイドルの道を進む凛は、これから先は今以上に様々な人間と関わるだろう。

「私は都合が良かっただけ。ひょっとしたら、恵まれていたのかもしれない」

アヤの言う『恵まれた』の基準すら常人とは異なる世界だ。
恐らく、凛は彼女に共感することは一生不可能だろう。同時に一つ疑問も生じた。

「アヤさん。もしかして……」

ふと、助手席に座る凛が顔を上げて、運転席のアヤに振り返った時。
彼女の姿はなかった。

「………え?」

凛は数秒固まったまま思考を吹き飛ばしてしまった後、慌てて身を乗り出しながら外の様子を確認するが。
アヤは愚か、誰の姿もない。
むしろ、彼女が外に出たならばドアの開閉音で凛は気づく筈。なのに……
名状しがたい恐怖が襲い掛かる凛は、すぐにシャノワールの念話を取る事にした。





751 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 22:56:10 lPHZPd9U0
卯月自身すらも状況に追いつくことができない。一体何がどうなったのだろう? アヤ・エイジアが消えた。

「いーや? 死んだよ」

杳馬が少女の背後で語った。
不敵に笑わず、凶悪かつ冷酷を露わにしながら。

「『マーベラスルーム』……時間も物質もない世界。入れば量子レベルで分解され、その世界で散り散りになる」

「な……な、に……?」

「つまりアヤ・エイジアの魂すら分解されちまったのさ。これにて、一組脱落だ」

卯月は必死に言葉を拾っていく。
杳馬の説明通りなら、彼はアヤ・エイジアに『マーベラスルーム』なる技を使用ないし、空間に放り込んで。
跡形もなく消し去ってしまった……らしい。現実味を体感できない卯月は、どこか夢見心地だ。
これで終わった……? アヤ・エイジアは本当に死んだ……?

さてと。
杳馬はいつも通り飄々とした態度でビジョンを出現させて、別の場所を観察し始めた。
映し出されていた光景に、白菊ほたるの姿があった。

彼女は一人ぼっちでうずくまっていた。
一歩も動かず、泣いているのか、ビジョン越しからでは彼女の表情は見えないものの。ずっと動かない。
突然、彼女は一人になったのだ。
卯月もほたるの様子を眺め、これで良かった――なんて満足感はこれっぽちも湧きあがらない。
多分きっと……これで良い筈。様々な未来を見て出した選択なのだ。
己に言い聞かせ続けるばかりで好転はしないし、ほたるは動かないままである。

ほたるの元に、一人の存在が現れた。
皮肉にも、聖女・マルタじゃあなくてセイヴァーの使い、ヴァニラ・アイス。
彼は、泣き項垂れる少女に同情を抱く訳もなく、そんなか弱い少女をDIOが興味の対象にしないと判断し。
いともたやすく彼女の頭を捻り潰し、沈黙させる。

卯月は叫んだ。






「あ、ちなみにこれ【γ】のルートね。こんなクソみたいな展開が本編だったら読むの止めちまうぜ」






752 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 22:56:39 lPHZPd9U0
【δ】


「アヴェンジャーさん……?」

不安そうなほたるの声を無視して、アヴェンジャーは顔を上げて周囲を見回す。
セイヴァーの気配を感じ取ったのではない。だが、彼自身、何か違和感を覚え始めていた。
直感がアヴェンジャーに決定的なものを訴え続けている気がする。
それは……分からないままだ。
どうあれ、セイヴァーによって負傷した手傷は酷いもので、霊体化し回復するべきだが、ほたるを利用するのに実体化を続ける必要がある。

「ほたるちゃん!」

ハッとアヴェンジャーが少女の声に驚く。
馬鹿な、ありえない。
彼の隣から、どこからともなく一人の少女が駆けて来たのに、アヴェンジャーは感知できなかったのだ。
時を静止されても無いにも関わらず、である。
少女は高校生ぐらいの年頃で、ほたるの名前を知っているなら彼女と知り合いだろう。

けれど、ほたるは困惑していた。
安心や不安よりも、混乱の色が表情に強く浮かんでいる。
アヴェンジャーが周囲を探ってみるが、サーヴァントらしき気配も魔力もない。
アサシン相手ならば直感で対処しなければならないが。

現状を判断し、アヴェンジャーがほたるの前に出て、突如出現した少女の前に立ちはだかるのを。
少女は凄まじい形相で睨んでいた。

「ほたるちゃんから離れて! 貴方がいなければ、ほたるちゃんが死ぬ事なんてないのにッ!!」

「お前こそ急に出て来て、なんなんだ」

一体なにが少女を掻き立てるのか、アヴェンジャーが問いただしても、真っ当な返答を期待しにくいほど。
少女は冷静ではなかった。間違いなく、聖杯戦争の関係者だと分かるだけ。
波乱の渦中、おどおどしく当事者たる白菊ほたるは言葉を発した。

「あの……その………」

「ほたるちゃん! その人は信じちゃ駄目!! ほたるちゃんを利用しようと―――」

「………ごめんなさい。私……その、覚えがなくて…………」

ほたるの言葉に、少女の気迫が冷水をぶっかけられたか如く消え。
アヴェンジャーもチラリと振り返りつつ、尋ねた。

「コイツを知らないのか?」

「知らない、じゃなくて……その、本当に覚えがなくて、どこで会ったのかも」

「え……? ………え………………?」


753 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 22:57:18 lPHZPd9U0
ほたるが何を言っているのか、脳に伝達しきっていない。現実逃避するように受け入れない。
少女はボソボソと呟く。

「覚えてないなんて………だって……一緒の事務所に………」

「じ、事務所!?」

恐怖のあまり、ほたるはアヴェンジャーにしがみ付いてしまう。
少女が自分と同じアイドルで、同じ事務所に所属していた。過去形だ。ほたるの居た事務所はーー倒産した。
きっと、自分のせいで倒産してしまったのだ。ほたるは自らの『不幸』を自覚している。
故に、この少女も……ほたるを恨んでいるに違いない。

「ちが、違うんです! ごめんなさい、ごめんなさい!! こ、こんな状況で、思い出せなかっただけでっ!!!」

「ほたる……ちゃん?」

「私、わかってます! 私のせいで、プロダクションが倒産してしまった事も分かってます!
 周りを不幸にさせてしまうと、わかって、いるんです……!」

「ほたるちゃん……話を……聞いて………聞いてください。私の……」

「聖杯も貴方にあげます! 私なんかが聖杯を手にしたら、きっと聖杯だって呪われるかもしれません……! だから」

ナンデ?
少女の表情は虚無そのものだった。謝罪を続けるほたるを呆然と眺めていた。
どうして、ほたると話が通じないのだろう。食い違っている。少女・島村卯月を知らない。事務所だって倒産していない。
疑問が尽きない卯月の脳天に、突如ナイフが突き刺さった。
理由なんて必要ない。アヴェンジャーは卯月が敵になると判断し、殺したのである。

卯月の体が倒れ、下水道の水路に沈んでいく。
彼女が居た向こう側で、拍手をする悪魔が笑っていた。

「これにて話はおしまい。ご出演感謝しますよ、お二人共。さぁて、次の世界線に行こうぜ!」






「……………」

ただ一人を除いて。






754 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 22:57:44 lPHZPd9U0
「でもさ、別に助けなくていいんじゃねえ?」

杳馬が唐突に提案するが、卯月は否定する事ができなかった。
彼女自身、意味不明だった。
だけど、自分が――別の世界での卯月に対し、ほたるはまるで初対面のような。前の事務所関係者だと思い込んでいる。
白菊ほたるは、卯月たちのところへ所属する前に、別のプロダクションでアイドル活動をやっていた。
そこが倒産してしまった為……移動してきたのだが。
詳細な事情を卯月は把握していない。むしろ、卯月は冷静に現状を整理する事が叶わない。
放心する彼女は、ただ眼前で笑う悪魔の言葉に聞き入っていた。

「例え、卯月ちゃんの世界のほたるちゃんがいなくなっても、説明のしようがないだろ?
 全てが終わっちまえば、聖杯戦争の実証は不可能! 自分には分かりませんって知らん顔すればいいんだって」

「それか『私、これだけで必死に頑張ったんです! 頑張って頑張ったけど、それでもほたるちゃんを助けられませんでした!』
 って、訴えればいいんだぜ? 言っておくが、俺はあくまでサーヴァントだ。マスターに従うからよ」

「諦めてもいいのさ。サーヴァントによっちゃアレコレ指図するだろうけど、俺は別に卯月ちゃんを攻めやしない」

「卯月ちゃんにしては頑張ったぜ! 凡人の並くらい頑張った!! 普通はこんなもんよ!」

これだけやっても、いいや、これだけでも十分どうすればいいか先の見えない暗黒が広がるのに。
確かなのは、白菊ほたるを助け出すのにも手間があるのに。
渋谷凛の運命を打破するには、一体どれほど困難を乗り越えればいいのか?
何より、凛はほたると同じで卯月を知らない事もあるんだろうか。

卯月は別に、凛に「ありがとう」と感謝されたい訳じゃあない。
ほたるに対しても同じだ。彼女を助ければ、仲間に出来れば、聖杯戦争を戦い続けられる。
なんて夢物語を求めていたんじゃない。

だが、実際はどうだろう。
ほたるの口から発せられた言葉は、感謝とかけ離れた『謝罪』だ。
卯月は決死の覚悟をしたつもりで凛やほたるを救おうと奔走したのだから、相応の感謝や報酬があるのだと思っていた。

誰かを助ければ、頑張って努力すれば。
皆に認められ、形ある何かが貰えなくても感謝の言葉を貰える。
人間は、自覚せずとも対価を求めている。何かを為せば、結果として何かを得られる筈なんだと。


しかし―――現実は違う。
どんなに努力しても、良かれと思ってやっても、何も残らない事が普通にある。


「さァて、卯月ちゃん?」

悪魔に対して卯月が出した答えは…………






755 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 22:58:12 lPHZPd9U0
.



        ————マテリアル【ビースト】に新しい情報が登録されました。————





◆ビーストⅢ
膨大な精神エネルギーを消耗させることにより『真実を上書きする』人類悪。
平行世界で剪定事象として閉ざし切り捨てられる世界にのみ居たスタンド使いが至った極地。
……この力と同じ性質であった獣は、件のスタンド使いと同じ力に目覚め、あるべき真実を書き換えてしまう。
全ての真実は書き換えられ、一つの人類史を見事、輝かしくも善良を以て、悪意なく滅ぼされた。
しかし、よっぽどの可能性が発生しなければ、この獣も顕現することは無いだろう。







物語は 始まってもいない

平行世界の観測で得られた情報が 真実であっても

平行世界の出来事は 事実じゃない

つまり 全ては無意味に終わり 全てなかったものとして忘れ去られる

だが 安心して欲しい



「貴様―――見ているな」



無駄には ならない






756 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 22:58:50 lPHZPd9U0
全ての違和感が収束されたのだ。
暁美ほむらが鹿目まどかの為に時間逆行を繰り返したことで、まどかに途方もない因果が生じたように。
時の干渉を持つ、アヴェンジャーのディエゴ・ブランドーだけが直感で理解した。
あくまで『誰かに見られている』『観測されている』『何らかの宝具か能力の攻撃を受けている』ような感覚であり。
場合によっては、不安や恐怖による勘違いで済まされる類。
しかし、兆候はあった。

それはセイヴァーとの邂逅である。

同じタイプのスタンドの影響により、アヴェンジャーも得たのだ。
あるいは、セイヴァー・DIOの逸話にあるスタンドの影響による成長だろうか。
それとも――本当の意味で、アヴェンジャーとDIOは『同じ』なのか。

(全て理解した!! あの長時間の時間停止を行ったヤツの仕業だ!!)

アヴェンジャーの耳にも、どこからか響き渡る針の音が聞こえだしたのに、戦慄が走った。
彼は漸く、聖杯戦争の状況を。現在の、自らの状況を把握したからだ。
完全に敵の支配下に置かれているという事を!!

「アヴェンジャーさん……?」

下水道で、急に立ち止まった彼を不安そうに伺うほたる。
彼女を他所にアヴェンジャーは周囲を直感で探る。最早魔力感知など完全に無駄だと悟っているからだ。
しかし、アヴェンジャーの直感が急速に進化した訳ではなく、スキルに+補正が付与された程度に過ぎない。
少なくとも『今は敵の観測の目はない』事だけ。

「クソ……! クソが! 一体どうしろと言うんだッ!! 時を止めても無駄になるだと!?」

アヴェンジャーは叫ばずにいられない。
何故なら、時を止めたら逆に敵からアヴェンジャーの行動が丸分かりで、注目されてしまうのだ。
己の十八番が逆に足を引っ張るとは、もどかしい。
現状、アヴェンジャーに対抗手段がなかった。皮肉にもシャノワールしか『時間支配』の敵を相手にできないと理解する。

(そういう事か! セイヴァーがシャノワールを味方に引き入れようとしたのは『時間支配』の敵を倒す為だ!!
 奴は聖杯戦争開始以前から、敵の存在に気づいていた! 俺を狙っていたのも、それが理由……!!)

が。
シャノワールを味方に引き込めなかったならば、ウワサにある他の『時』に纏わるサーヴァント。
時間泥棒や、時の勇者を狙う魂胆だろう。

(既に奴は俺を捕捉している筈だ! 奴が捕捉できないとすれば、それこそ『時間泥棒』くらいか……!?)

少なくとも、今しかない。
敵が攻撃を仕掛ける算段かも不明。観測のない内に敵から逃れなくてはならない。
アヴェンジャーは行動を移した。


757 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 22:59:19 lPHZPd9U0




島村卯月は―――逃げた。
彼女の『普通な』精神では時を弄ぶ杳馬達と同じ割り切りも出来ない愚か、罪悪感と責任の重さや未来への苦痛に耐えられなかった。
幾ら、未来を変えられるとしても、親友たちの死を何篇も見過ごしたり。
他人の死や未来を見捨てるのも。マルタと杏子の時だけでも、精一杯だったのに。
似た行為を、最悪それを凌駕する犠牲を、乗り越えなければ……凛は死ぬ。ほたるも死ぬ。

当然。二人が死ぬのは嫌だ。死んで欲しくない。
卯月には、運命を変えられる力が、サーヴァントの杳馬がいるのだ。
それでも……逃げた。

無理だ。耐えられない。
今まで彼女の行った『責任』が軽率なものとは言い難いが、人の命よりも確実に軽い責任である。
選択一つで、救う筈の二人を死なせ、傷つけ、助けられずに。
どうにか二人を助けられたとしても……果たして、卯月は満たされるのだろうか。救われるのだろうか。
きっと、二人は卯月の苦痛を知らぬまま「ありがとう」の感謝を述べてくれないだろう。

正義のヒーローに憧れてはいない。
ただ、どうしようもなく
自分の『しようとしている事』を誰かに見て貰いたかった。

時には「それでいい」と背中を押し
時には「間違ってる」と指摘し
時には「大丈夫」と安心させてくれる

卯月は自然と求めていた。プロデューサーのことを。
アイドルと人間、両方の側面で未熟な自分をアイドルに導いてくれた存在を。
だけど―――プロデューサーは、居ない。


「あーあ……やっぱり『普通過ぎた』かぁ」


彼女を追い詰めた杳馬はシルクハットを浅く被りつつ、朝日が昇りつつある地平線を眺めていた。
杳馬の傍らに、卯月の姿はない。文字通り少女は逃げ出した。
聖杯戦争から避けられないと知っても、現実を回避できないにも関わらず。


758 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 22:59:45 lPHZPd9U0
所詮ちっぽけな少女でしかない。
杳馬が煽った通り、仕方ない事であり、当然でもあり、至極真っ当でもあり。
平凡な少女の精神が戦場並に過酷な運命の反逆など、即日で成し遂げられる訳がないのだ。

マスターが投げ出したが、杳馬は焦ること無く、彼女の安否を確認するどころか。
改めてビジョンを出現させてほたるの様子を伺った。
ひょっとしたら、ありえた世界が何故その世界止まりになるか?
物語解釈で例えると『打ち切りエンド』に近い。世界の事情も存外同じで、人類や世界に進化し続けられる余地があるか、継続の基準。
悪すぎても駄目、良すぎても駄目。

杳馬が、白菊ほたるを観測するべくビジョンへ視線を移すと、非常ライトだけが頼りの薄暗い下水道を。
ほたるはビクビク震えながら『独り』で歩んでいる。
一人?
否、恐らくだがアヴェンジャーもいる筈だ。杳馬は眉を潜めて、アヤ・エイジア達を確認するが、彼女たちはまだ車の移動中。
僅かに目を離してしまったが、アヴェンジャーは霊体化で姿を消しているのだろう。

「……? 一体何の……」

杳馬は顔をしかめたが、無駄な行為ではない。霊体化によりサーヴァントは傷を癒す事が可能なのだから。
元々、セイヴァーとの死闘で深手を負ったアヴェンジャー。
むしろ、こうして回復させるのも選択にある行為だ。
別に伏線なく映した行動じゃない。だが、これでは白菊ほたるを守る事はできない。

……いや。守る必要はない。
と言うより、アヴェンジャーがセイヴァーからほたるを引き離した理由は
セイヴァー側の戦力になりえるライダー・プッチのマスターであり、気弱なほたるは確実にセイヴァーに利用されると踏んだから。
逆に、自分はほたるを利用し、始末・処理できれば御の字なのだ。
平行世界でもアヴェンジャーはほたるを犠牲に、優位な立ち回りをしていた。

「……いや……こいつは」

杳馬は珍しく顔を歪めた。彼だけが察する。これはとんでもない事態だと。
彼の不安は的中した。







ほたるは、それでも独りで周囲を警戒しながら歩き続けた。
彼女は分かっている。姿が見えないだけで、アヴェンジャーは傍にいることを。

――お前……霊体化の事は知っているか

少し前にアヴェンジャーと短い会話を交わしたほたる。
霊体化は、彼女のサーヴァント・プッチから説明されていたので、ほたるは頷いた。
サーヴァント・英霊、則ち霊体となって姿を眩ませることが出来て、建物もすり抜けられてしまう事も。
ほたるは、それらに加えてアヴェンジャーから傷を癒す事も可能だと教えられた。
少しの間だけでも霊体化すれば傷がマシになる。だから、なるべく独りで逃げて欲しい、と。

独りになるのは心細い。
だが、傷が癒せる手段があったことに、ほたるは安堵もした。
移動する程度、自分にだって出来る筈だ。アヴェンジャーからの頼みに、ほたるは素直に応じたのだった。


759 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 23:00:11 lPHZPd9U0
「ど……どこかに隠れられたら……」

そんな場所、下水道になるのだろうか?
大分、距離を移動したとほたるは実感しているのだが、如何せん彼女に魔力を探る術はない。
セイヴァーは、ほむら達と合流し、アヴェンジャーの追走を中断したのを知らない以上。
救世主の影に脅え続けなければならないのである。

(やはりな……俺を『見ている』。霊体化ごしでも視線を感じるぜ、何処かの誰かさん)

一方で、アヴェンジャーは杳馬の観測を直感頼りに逆探知していた。
だが、依然として『視線』が解除されないのを見るに、アヴェンジャーが霊体化し、ほたるの周囲に居ると判明している。
問題はここからだ。
敵はアヴェンジャーに攻撃を仕掛けたなら、アヴェンジャーに対し障害となる事象が発生する筈。
無論、ほたるを利用し、観察するのがアヴェンジャーの目的だ。

(さて……見させて貰うぞ。俺に何をしでかすつもりか)

アヴェンジャーの予測通りに、あるものが現れた。
恐竜。
ライダーのディエゴ・ブランドーによって恐竜化された魔法少女・たまが、例の携帯端末を入れたポシェットを首から下げ。
アヴェンジャーの匂いを辿って、暗闇よりほたるの前へ登場する。

「あ、あっ……!」

図鑑でしか見たこと無い生物だったが、ほたるにも危険な相手だと分かり。
足が竦んでしまった。
恐竜は下水道に流れる水を踏み立てながら、少女に接近し、匂いを嗅ぐ。
彼女の体から、アヴェンジャーの匂いはする……しかし、彼女自体はアヴェンジャーではない。
だが、匂いで眼前の少女を『白菊ほたる』と判断した恐竜。
ポシェットに注目させるように頭を下げて来る動作に、ほたるはしばし恐怖を隠せずに居たものの。
ほたるも、ポシェットに恐る恐る触れて、中に入っている携帯端末を発見できた。

「これ……」

内容は当然、ライダーのディエゴが書き込んだファニー・ヴァレンタイン大統領からの言葉だ。
ただし、今回に限り、アヴェンジャーではなく白菊ほたるが手に取った事。
これが重要だった。
彼女は『ファニー・ヴァレンタイン』がセイヴァーを危険視し。
聖杯を正しい願いをしようとする者に託したい想いがあると信じて、一つの安心を覚える。

けど、肝心の連絡手段はない。ほたるはアパートに自分の携帯端末を置いて来てしまったのだから。
故に彼女は、メモに直接伝言を残そうと、急いで書き込む。
セイヴァーからの追跡を考慮すると、時間は限られていると判断したからだ。


 [私はマスターの白菊ほたると言います。
 どうかファニー・ヴァレンタインさんと会いたいですが、セイヴァーさんに追われていて、難しいです。
 私は、セイヴァーさんが危険だと直接会って分かりました。他の人にも、伝えて下さい。
 それと、神父のライダーさんの事は、信用するべきか私にも分かりません。
 私自身はライダーさんが悪い人だと思いません。彼はきっとセイヴァーさんに騙されて……


760 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 23:00:58 lPHZPd9U0
悶々とした心中で、ほたるは打ち込む手を止めてしまう。
ライダー・プッチの危険性。どうやって伝えるべきか分からない。匙加減が掴めないのだ。
マスターであるほたる自身が、プッチを裏切る真似をしても大丈夫か。不安も感じる。

「わたし……」

何の為に。
聖杯を手に入れたいからじゃない。聖杯戦争に巻き込まれて、流されるままに、アヴェンジャーと共に逃げてきて。
そう。
彼……アヴェンジャーは何故ほたるを逃がしてくれたのか。何故自分は此処まで来たのか。
理由が欲しい。理由がある筈なのだ、と。


 [私自身はライダーさんが悪い人だと思いません。私は何かを救う大それた事をする偉大な人たちを、理解できません。
 でも誰かを救おうとしてくれる事は、間違いじゃないんです。誰かを救う行為は正しい事なんです。
 それでも今だけは、二人を止めて欲しいと願っています。誰か、力を貸してください]


「…何をしている」

「っ!?」

液晶画面に意識を奪われ、ほたるが我に返って顔を上げた先。
セイヴァーとは別のサーヴァント、ヴァニラ・アイスの姿が深淵より現れていた。
決死でほたるが、恐竜の首にあるポシェットに携帯端末を入れ直そうと構えた矢先。
ヴァニラ・アイスは、恐竜へ攻撃を仕掛けた。動体視力の良い恐竜なら、攻撃を回避するのも容易。
逆に、恐竜はヴァニラ・アイスの静かなる拳の振り上げを見切り、反撃を仕掛けようとした。

対し、ヴァニラ・アイスは攻撃を受け止める。
強靭な牙が肩に食い込んだのを実感したうえで、恐竜の体を掴み上げれば、下水道の壁を構築するコンクリートへ叩きつけた。
サーヴァントとしての筋力もあり、コンクリートを崩落させて、恐竜をねじ伏せてしまい。
恐竜は動きをやめて、伏したままだった。ほたるはサーヴァントの強大な力に恐怖する。

「あ、あ……ああ……!」

「この恐竜で何をしようとしていたかと聞いている。質問に答えろ」

「わた……わた、し………」

「貴様のサーヴァントはどこにいる?」

「…………!」

ヴァニラ・アイスも期待をしているかもしれない。ほたるのサーヴァントが出現するその時を。
だが、断じてあってはならないのだ。
聖杯戦争を始めていけない。ほたるは首を横に振りながら、一杯一杯に訴える。

「駄目なんです。ライダーさんは……セイヴァーさんの友達で、大勢の人を救おうとしてて、でも……それは」


761 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 23:01:36 lPHZPd9U0
きっと良くない事なんだと。だから、止めなければならないんだ。
彼女自身、受け入れ切って無い現実へ必死に立ち向かおうとしている。
ちっぽけな少女が、壮大な救済を齎す『悪』をどうし、聖杯戦争を生き残ればいいのか。
そんな、彼女の想いが

「今――なんと言った? DIO様が、貴様」

偶然の重なり合いによる収束で導いた決心による行動が、一つの事象を動かした。
ほたるも、違和感を抱きヴァニラ・アイスを改めて見れば、彼はわなわなと憤りに震えている。
DIO。
彼もまたセイヴァーを知る英霊だったのだ。それも

「DIO様の、友だと……!? 貴様のサーヴァントが……よくも能書き垂れた事を言う!!」

「あ、あの……?」

「DIO様に『友』などいる筈がない! あの御方に貴様らのような脆弱な人間が求める友など不要なのだ!!」

DIOは完璧だった。
崇高なる偉大な悪の救世主であり、唯一無二の絶対なる王なのだと、彼に心酔する部下は思っていた。思い込んでいた。
狂気満ちた理想を勝手に掲げられるのは、別にDIOだけに限った話じゃあない。
憧れるべき王などが、部下に思われていた理想とかけ離れた行動や。
部下には理解できない突拍子もない行動を取れば、信頼や理想は朽ち果てていくものだ。

DIOが、人間のように仲良しこよしで心の安らぎを求める相手を、必要とするはずがない。
そんなものはない。
否、DIOに限ってそれはないだろう。
心酔する者も、恐怖する者も、彼と敵対した者すら思った一種の風評被害じみた『理想』である。

だからこそ、ヴァニラ・アイスは激怒する事だろう。
DIOの友を自称する不届き者を野放しにしておけない。無論、ほたるを生かす訳にはいなかった。
一方、ほたるは酷く落ち着いている。
むしろ、ヴァニラ・アイスの返答に納得し、彼のようなDIOに通ずる者が断言したのに安堵しているのだ。
プッチはDIOに騙されていた。DIOに友など……やはり存在しないのである。
ほたるが、不思議にも冷静に尋ねた。

「なら……セイヴァーさんは、DIOさんは何を救ってくれるんですか……?」

「ぬるま湯に浸かったような思考回路の貴様らは、誰もがそう勘違いしているのだな」

狂信者は全てを一蹴した。


「DIO様が救うのではない。我々がDIO様に救われるのだ」


762 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 23:02:05 lPHZPd9U0
まるで言葉の綾を取ったような表現だったが、実に間違っちゃいない。彼らはDIOによって勝手に救われるのだ。
その自覚は、決して弱みの類じゃあない。
ヴァニラ・アイスは、それこそ真理だと確信していた。
悪が、彼に選ばれた者は、彼と巡り会えた刹那に救済される。そして誰もがDIOを認知する。
異常極まりない暴論に、ほたるは言葉を失う他なかった。真っ当な答えを期待していた方が愚かだったのだろう。

(やっぱり……わたしには……)

わからない。
少女は不幸をまき散らしてしまうからこそ、周囲に不幸が振り撒かれないのを願い、周囲が幸福になればと願った。
ヴァニラ・アイスの怒りに満ちた凶行が降りかかろうとする瞬間も。
彼女は、じっとしていた。
ライダーを令呪で呼び出したり、アヴェンジャーに助けを求めずに、静かに。


自分がここに居る理由。
あらゆる不幸を断ち切るために、ここで死ぬのが運命ならば―――受け入れようと。


「待ちなさい!!!」

少女の沈黙を断ち切るが如く、一人の聖女が叫んだと同時に。ヴァニラ・アイスの肉体に光の閃光が爆発した。
マルタが、こちら側に到着したのは確立の問題だが。
ヴァニラ・アイスとほたるが対面し、会話である程度の時間が稼がれた事で、マルタの到着が間に合ったのである。
杏子を脇に抱え、片手で杖を構えつつ祈りによる魔力放出を連続で行う。
攻撃は、全てがヴァニラ・アイスだけに炸裂する。
威力が乏しいものの、ほたるからヴァニラ・アイスを遠ざける牽制には十分。

ヴァニラ・アイスは接近してくるマルタ側より距離を取る様に後退することで、ほたるから離れざる負えなかった。
新手のサーヴァントにヴァニラ・アイスも宝具を展開した。行動に迷いがない。
亜空間へ移動するべく、背後より出現させたスタンドに己を飲み込ませる。
異色に満ちた能力にほたるとマルタ、双方に驚愕をさせながら、彼はスタンドと共に亜空間へ消えた。
とにかく、マルタは少女に駆け寄ろうしたが。

ガオン!

独特な効果音が響き渡った瞬間。マルタの前方でほたるの姿が消失してしまった。
マルタの前方から、ぼんやりとではあるが透明な『何か』が前進する輪郭が見える。
まさか。
聖女は悪寒と同時に『最悪』の可能性を想像しつつも、輪郭あるソレから逃れるべく急停止し。透明の何かから逃走すべく踵返した。
途中カーブを曲がれば、ガオンと直線状の壁に穴が発現する。

「……っ! そんな――」

マルタが想像した『最悪』は現実だったのだ。彼女は絶句する。
あの少女は、宝具の攻撃によって消滅、あるいは飲み込まれてしまった。
別空間に飲み込まれただけで、サーヴァントを倒せば無事に戻れる……なんて都合の良い事は考えない方がいい。
むしろ、件のヴァニラ・アイスがこれを攻撃手段として用いている時点で、彼以外が飲み込まれれば。
見ての通り。無事ではすまないのだろう。

「今、この状況だと私が不利……!」

下水道という地形が作られ、普通に行動する分だけでは動きの制限される場所。
ヴァニラ・アイスの攻撃を回避するのは困難を極めた。屍状態の杏子を抱えながらの戦闘となれば更に危険。
尚のこと、マルタが攻撃仕掛ければ良かったのだろうか?
事前にヴァニラ・アイスの宝具を把握してたなら。そうでなくとも、マルタが襲われる寸前のほたるを放置できるか否か。

答えば、出来ない。

いづれにしても、マルタはヴァニラ・アイスから逃れるしかない。
薄暗い下水道の中で、天井より一筋の光が差し込んでいる。マルタは杖に祈りを込めた。
彼女が攻撃を仕掛けたのはマンホール。その隙間より漏れていた光は、太陽。

希望の明かりで一筋の道を見出した聖女の活路。
マンホールと周辺部分を破壊することで、強引に広めの出入り口を作り出し、そのまま助走した勢いを利用し。
跳躍をし、最短の脱出を図った。


763 : ◆xn2vs62Y1I :2019/03/31(日) 23:03:17 lPHZPd9U0
以上で投下終了します。次の投下こそ最後となります。


764 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/21(日) 23:06:19 roFFgHwA0
今回で最後になると言いましたが、あれは嘘でした。途中まで投下いたします


765 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/21(日) 23:06:57 roFFgHwA0




世界が、社会が憎い。
一種の復讐であり、ディエゴ・ブランドーの餓えを満たす唯一の願い。
レイチェルがそれを聞いた時。やっぱりそうなんだ、と感嘆に似た思いで納得する他なかった。

ディエゴとレイチェルはまるで異なる。
両者の境遇は似通った部分があれど、精神性ではディエゴが正常かつ強靭で
『世界でひとりきり』。心から信頼できる友も居ないまま、満たされる為だけ、誰からも奪い続け。

一方、レイチェルは非常な現実に成す術なく、文字通り『考えない』まま生き続けた。
どうすればいいのか。結果として、両親を縫い付け『理想の家族』を描いただけ。
誇りも尊厳も知らぬ少女が気高く餓えるのは無謀過ぎる。

きっと彼女は、餓えを得られぬまま生き続ける。
理解しても、彼女には出来ないままで終わるだけだ。
無常だが、レイチェル・ガードナー個人の人格と精神を鑑みるに、そう結論が導く。

ライダーは考えている。自分は何も考えられない。
彼が語った内容全て、レイチェルが一度も考えられたか、考えたとして行動に移すまで至れない。
きっとライダーは正しいが、自分は正しく出来ない。

「私はどうすればいいのか………」

か細い声でレイチェルが一言漏らす。

「分からないの」

結局、幾千思考を重ね続けた所で、レイチェル・ガードナーが急成長する人材ではなかった。
眼前のライダーが、ディエゴ・ブランドーが誇り高く、美しいからこそ、彼女の方が極端に遜る。
死骸の瞳とは異なる絶望に満ちた碧眼の少女。ディエゴは訝しげに睨んでから、尋ねる。

「レイチェル。一つ聞いてもいいか? 俺は考えろと言ったが、一度も『役に立て』と言った覚えはない」

ガツンと殴られた衝撃だった。
聖杯戦争を過ごし、積み上げた倫理はガラガラと崩落する。
レイチェルは呆然とする。自分で考えろ、自分で行動しろ、つまり……聖杯を手に入れる為。
ライダーの役に立てれば……勝手に思い込んでいたのだ。
全身に血が巡る感覚を味わいながら、レイチェルは必至に記憶を蘇らせる。


(言ってない?)

――いいか。自分で考えろよ、レイチェル。俺は神様じゃあない

(言ってなかった?)

――なあ、レイチェル。要するにお前は俺に『命令』しているんだな?

(だって、そうじゃなかったら)


呆然と立ち尽くすレイチェルに、改めてディエゴは問う。

「お前の願いは何だ」

「…………ライダーと……一緒にいたい」

レイチェルが答えた時、漸くディエゴは笑った。嘲笑でも微笑でもない、どこか皮肉めいた表情を浮かべる。


「いいぜ、クソガキ。お前の願い―――叶えてやるよ」


766 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/21(日) 23:07:39 roFFgHwA0




「あ……あの、大丈夫……?」


ここは下水道。
先ほどまでマルタとヴァニラ・アイスが交戦した場所で、おどおどしい少女の声が小さく響いた。
声の主は、たま。犬のコスプレ染みた服装の魔法少女。
ポッカリと下水道の歩行スペースに空いた穴より、ひょっこり顔を出すたまの姿は、犬よりかモグラを思わせる。
たまに続いて、ビクビク穴より這い上がったのは……白菊ほたるだった。

「は、はい。本当にありがとうございます……私………死のうと考えてしまったのに」

「しっ……死ぬなんて、だ、駄目だよ! 絶対に、そんなこと……!!」

殺し合いの経験があるからこそ、たまは血相変えて、ほたるの弱気を否定する姿勢だけは強い。


事の真相はこうだ。


ヴァニラ・アイスが恐竜化したたまをねじ伏せた時点で、彼女は死んだのではなく『気絶』していたのだ。
皮肉にも、恐竜化はたまの肉体を強化させており。
強力なバーサーカーの一撃を受けても、無傷に済まされないが耐えうる力を有していた。

気絶した彼女は幸運である。
ほたるに攻撃を仕掛けたヴァニラ・アイスが、マルタの祈りが込められた光弾を受け。
祈りのエネルギーが、気絶しているたまの身にも届く。
実は『神性』の混じりがある恐竜化の能力。だからこそ、マルタの『祈り』は、能力解除しうる作用を含んでいた。

そして、たまの魔法。
これがヴァニラ・アイスの能力と、運命を感じさせるほど酷似していたのが度重なる幸運
恐竜化の解除で覚醒し、たまは全ての状況を把握しえなかったものの。
寝巻姿で無防備状態のマスター、ほたるだけは自分が助けられると弱気だが、自分に出来る事を突き詰めた判断力を見せた。
コンクリートを僅かでも傷つけ『穴』を拡張させる。
ほたると共に、掘った穴に避難し様子見し、どうにかヴァニラ・アイスを撒けた。

ほたるを助けてくれたマルタから離れてしまったが、今のほたるとたま。二人にヴァニラ・アイスをどうする事は出来ない。
否、例え彼女らが己のサーヴァントを呼び出してもヴァニラ・アイスの能力は凶悪で。
対処が困難を極めるだろう。
皮肉にも、ヴァニラ・アイスを騙し抜いた事が正解だったのだ。

「い……今のうちに逃げよう!」

「………」

必死なたまに対し、ほたるの気力は大きく削がれてしまった。
彼女自身、令呪でプッチを自害させる選択よりも。自分ごと死んでしまえば良いんじゃないかと考える。
何もかも不幸を招いていたのは、自分が原因。
いざ立ち上がろうとしても、俯いたまま一歩も動けず仕舞い。


「死にたいのか? お前」


767 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/21(日) 23:08:02 roFFgHwA0
軽快な青年の声に、たまが小さな恐怖と驚愕が混じった叫びを漏らした。
霊体化を解除したアヴェンジャーのディエゴに、驚かない訳がないだろう。
ただ、マスターのたまは『ライダー』じゃあなくて『アヴェンジャー』のクラス表記に混乱している。
当のアヴェンジャーの反応を伺う限り、彼の手傷を想像すれば、別人――?

驚きは愚か、反応すら希薄のほたるがアヴェンジャーの言葉に顔を上げた。
アヴェンジャーは視線をほたるには向けておらず、彼女が握りしめたままの携帯端末に視線を注ぐ。
放心しているのを良い事に、パッと彼女の手元から端末を奪えば内容を改めて確認し始める。
どう反応するべきか躊躇する少女に、冷酷にアヴェンジャーは告げる。

「死ぬんだったら、もう少しまともに死ね」

最悪な発言だ。
たまですら、アヴェンジャーの言葉に度し難さを感じるほどに。
けど、ほたるはショックを感じるどころか、彼の言葉にゆっくり頷く。

「はい……そうです。そうですよ、ね……私、周りを不幸にするだけ、しておいて何もしないなんて。駄目ですよね」

彼女自身とっくに理解しているのだ。

「だけど、私に『何が』出来るのかって考えたら……もう……何もなくて……っ………」

再び、ほたるの瞳から涙が零れた。
アイドルの力だって役に立てないのに、魔法や能力すらない。それで聖杯戦争を、セイヴァーとライダーをどうしろと?
何篇考えても、無力だと思い知らされるだけだ。絶望が結論である。
アヴェンジャーは、泣きじゃくる少女の傍らで冷静に、端末に残された文面を読み終えて端末を懐にしまう。

「お前が『何も考えちゃいない』だけだろ」

何も、考えていない?
アヴェンジャーの助言に謎を深めるほたるを他所に、彼の方はたまに問い詰めた。

「一体どこの誰に命令されて来た?」

「ひっ、そ、その」

「お前が持って来たんだよな? 記憶が曖昧なんて誤魔化しは勘弁してくれよ。拷問する時間すら惜しいからな、素直に吐け」

「あ………貴方が………貴方に頼まれて………」

「……誤魔化すなよ。嘘はすぐにバレるぞ」

「嘘じゃ、嘘じゃない……」

うわ言のように、たまが言葉を繰り返すばかりで、アヴェンジャーからすれば信憑性のない情報だ。
が、アヴェンジャーは違和感を覚える。
改めて彼は、たまに確認した。

「お前を恐竜にしたのは『フェルディナンド』だな」

「ふぇ? え、あの、そ、それも貴方に……じゃない。『ライダー』の貴方に……」

「ライダー……?」

マスターはサーヴァントのステータスを把握することで、クラスの判別が可能だ。
無論、スキルで隠蔽するサーヴァントもいるが、基本的にはそうなる。
例えそれが『瓜二つ』のサーヴァントだったとしても、ステータスに違いがあるように。
たまが、明確に証言した事でアヴェンジャーは、例の文面を確認した。


768 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/21(日) 23:08:25 roFFgHwA0



光へ跳躍し、脱出を図ったマルタに絶望が襲い掛かる。


ガオン!


恐れ多い現象を目の当たりにする。
彼女の手にあった杖が虚空で抉られ、同じ直線状にある跳躍の動作で膝上がったマルタの片足が飲み込まれた。
苦悶を漏らしたマルタは危機感で身を捩り、杏子の体を庇うように水路へ落ちる。

「う……今の……」

襲撃は再び開始された。相手を油断させる為の不自然な間だったのだろうか。彼の心情などマルタは探る余裕はない。
彼女のいる位置から少し離れた場所から、ガリガリと円を描くように地面を削り始めたではないか。
ヤケクソっぽくも、的確な戦法でマルタを追い詰める。

マルタは全てを理解してしまった。
ヴァニラ・アイスの攻撃は防御は不可能は愚か、あの状態ではマルタがヴァニラ・アイスに攻撃する手段もない事。
抉られた痛み以上に、ヴァニラ・アイスに『接触した』感覚がなかったのである。

当然、祈りによる攻撃は愚か、殴るのも、タラスクも、それすらも無意味。
通用する問題じゃあない。絶対に届かない。
一体どうすれば良いか。マルタが爆発めいた魔力の波動を発生し、召喚するのはタラスクしかない。
召喚で事態は解決しなかった。
マルタの負傷に驚いた様子のタラスクを「大丈夫」と安心させるように呼び掛け、マルタが上へ目指す。頂点へ。

「タラスク――お願い!」

タラスクは、飛んだ。
翼を以て飛翔するのではなく、甲羅に籠った形状で火を放出しながら高速回転する。
火力と回転力で巨体を流星の如く飛ばすもの。
マルタは決死の力で杏子を抱えながら、高速移動するタラスクにしがみ付く。

これもまた一つの力技。
ヴァニラ・アイスよりも早く、タラスクの移動で場から逃げ切る。
最早、逃げるしか手段はなかった。ヴァニラ・アイスの宝具は突破手段がなければ無敵。
魔力切れ、もしくはマスターを討たなければ成す術はない。

派手な破壊をかましたが、見事にタラスクは下水道の天井を破壊し見せた。
勢いをそのままに、タラスクは上空へ目指す。
マルタがタラスクで浮上した宙で眺めた光景は水平線より顔を出す太陽を眼にした。

マルタは杏子の体を握りしめ、不思議な安心感を胸に味わう。
太陽は、邪悪に染まる見滝原の町を浄化するような優しい光を広げ、街並みも暗い影から徐々に光で元あるべき形と色が露わとなる。
タラスクも回転を弱め、彼等は地面へ下降していく。






769 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/21(日) 23:09:15 roFFgHwA0
深淵の影より。
宝具を解除したヴァニラ・アイスが静かに呟く。

「……宝具で、逃げられたというのか」

竜を召喚するだけでなく、あのように脱出手段で用いるのは想定外。
日の差し込んだ下水道の天井に、ヴァニラ・アイスはもどかしい感情を抱く。
以前取り逃した鹿目まどかや篤も同じで。聖杯戦争に抵抗する勢力は、カーズ以上に始末の必要があるとヴァニラ・アイスは判断。
彼らのような勢力は、紛れなくDIOに敵対する。
DIOの障害は取り除かなくてはならない。例えDIOに命令されずとも、彼の為に己が為せることは為す。
ヴァニラ・アイスの狂信に歪みは無かった。

「隠れても無意味だ、姿を現せ」

バーサーカーだが魔力感知は可能であり、ヴァニラ・アイスは背後より誰かが近づいてくるのを分かっている。
先ほどの猛攻で身を隠して、霊体化で姿を現したサーヴァントだろう。
彼も、警戒し振り返った先に何者かの影を見た。

誰だ?
問われる必要もない。ヴァニラ・アイスは浮遊するスタンドビジョンを視界に移しただけで。
ハッと我に返り、迅速に膝をついて頭垂れた。

「DIO様!」

僅かに視界で映った金髪の男。スタンド。紛れもないDIOのものだ。
どこぞの犬っころが産み出した砂の造形物とは比較にならない。
セイヴァーが下水道で行動している情報も、環いろはから聞かされており、ヴァニラ・アイスは一瞬だが本物だと判断したが。

本物なら、自分はとんだ無礼を犯している。

だが、本物じゃあないのなら……


「絶対なる精神領域とは、なんだと思う? 恐怖を感じない『安心』か、はたまた信頼ある友のいる『安堵』にあるか」


ゆったりと、安心感を含んだ穏やかな口調。独特な声色は疑うようもなかった。
ヴァニラ・アイスは息を飲む。
サーヴァントながら全身に冷や汗を浮かび上がったのを、肌身で感じている。
前触れなく、唐突で独特な話の切り出しをする『彼』は続けた。

「正解はどちらでもない、だ……私は聖杯戦争の舞台で所謂『天国』に到達した人間と出会った」

「て……天国……」

頭下げたままオウム返しするヴァニラ・アイスの心理は、複雑怪奇ながらも酷い狼狽していたのである。
『彼』はせせ笑って言い直した。

「陳腐な例えだったかな。しかし、適切な表現がなくてね。精神が極楽浄土に至った……でもないな。
 己の愛するもの、失いたくないものの為、唯一無二の精神世界を創造し、完成させた女だ」


770 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/21(日) 23:09:46 roFFgHwA0
彼は理解してしまう。今……ここにいるのは正真正銘……『DIO』だ。そして、彼は己を恥じる。
生前に偽物のDIOをかまされた経験を踏まえた上で、本物のDIOに疑心を覚えてしまうなど。
言葉ならない嗚咽がヴァニラ・アイスから漏れた。

「彼女に感情が残っていようが、彼女の鉄仮面が剥がれ落ち、愛するものが誰かに汚される事は金輪際ない
 『世界でひとりきり』になったのさ。どんなに満たされた生活を送っても、自分は『孤独』であり『世界でひとりきり』だと」

本物か、偽物か関係ない!
ちっぽけな疑心。全ては過去の経験で犯した罪から始まった!!
偽物のDIOに攻撃をしかけたから、偽物――だと分かっていたとしても。
再び同じ事がありうるなら、DIOの姿だろうと攻撃する僅かな疚しさを抱いてしまった!

「DIO……様。このヴァニラ・アイス……DIO様への忠誠を、一度たりとも……忘れた事はございません」

一言一言を発する彼の体は震えていた。恐怖とは違う、己に対する憤りと己が堕落していた絶望に。
ならばこそDIOに残せるものは、DIOに認められる唯一の断罪は。
ヴァニラ・アイスは、ゆっくりと後ずさる。先にあるのは

「ですが私の心は、腐り果ててしまった。最早……DIO様に使える身ではなくなったのです………」

故に、これが最後に残せるDIOの忠義だと下した結論だった。







「あああ……!? な、なんで……なんで………っ!!?」

魔法少女・たまが混乱の悲鳴を上げ続ける中、隣に佇む白菊ほたるも目の前で広がった光景に呆然としていた。
彼女らの前にいるアヴェンジャーも、異様な状況で反応に停止させている。

ヴァニラ・アイスがDIO・セイヴァーと関わりある者だと、ほたるから情報があった。
故に、ちょっと位、セイヴァーの関係者を騙せるんじゃあないか。アヴェンジャーは考える。
アヴェンジャーの方は直接DIOと対面した経験もあり、彼の口調や語り口も本物に近く真似られるからだ。

彼に悪意はない。
戦場で『悪意がない』とは矛盾しているが、彼の場合は敵の隙をつく為の戦略で真面目かつ真剣に試みた。
冗談半分、悪戯心含んで弄んだ結果じゃあない。聖杯を獲得する一歩を踏み込んだだけ。

故に、結果を素直に受け入れられない。
ヴァニラ・アイスは――『自害』したのだ。
DIOに妄信する狂戦士の心情など全てを理解しきれないが、突発的な前触れない行為に。
隠れて様子見していた少女たちに強烈な光景を焼き付けさせた。

自害。自ら死へ至った自殺。
どうやらヴァニラ・アイスは『吸血鬼』のような存在だったらしく、下水道に差し込む日差しまで後退りをし。
抵抗せずに、肉体を灰に溶かして彼らの前で消滅を果たした。
皮肉にも――正真正銘、これが見滝原で行われた聖杯戦争の最初の脱落者だった。


【バーサーカー(ヴァニラ・アイス)@ジョジョの奇妙な冒険  消滅】


771 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/21(日) 23:10:36 roFFgHwA0
何も、本当に何もしていないのに。
アヴェンジャーは、話かけただけ。
たまとほたるは、見ていただけ。
誰がどう眺めたところで、誰が加害者だったか意味不明のまま。

強いて、話しかけたアヴェンジャーにヴァニラ・アイスの自害が関係したとしても、相手はアヴェンジャーを
『DIOと勘違いしたままだったにも関わらず』自害を選んだのである。訳が、全く分からない。
底知れぬ闇だけが広がる。

「う、うう……ほむらちゃん……そ、そうだ。ほむらちゃん……!」

たまが我に返る。
こんなものを見せられて、セイヴァーのマスターである暁美ほむらの安否が不安になるのは当然。
恐竜化して以降の行動も記憶が曖昧で、ほむらの行方を辿るのは困難。
沈黙を続け、立ち止まる。以前と同じ情けない姿で居たくない。

何とか正気を保ち続けながら、ほたるが呼吸を整える。真っ当に受け入れては精神が、世界が崩れ落ちるのだ。
最早、自らが招いた結果なんかじゃあない。
ほたるのように運命的な確率による『不幸』と今回の『悲劇』は異なる。

運悪くアヴェンジャーに接触した結果で引き起こされたんじゃあない。
セイヴァーとヴァニラ・アイスの正体不明な関係性、彼らの歪な関係が導いた自害。
断言すべきだ。セイヴァーは、危険だ。

アヴェンジャーが、手元のソウルジェムに淡い光が灯ったのを確認する最中。
気配で気づく。アヴェンジャーは手元に視線を注いだまま、言葉だけを発した。

「逃げなかったのか、修道女」

「……ええ。様子がおかしかったから」

日が差し込む天井より姿を見せたのは、タラスクで脱出したはずのマルタ。
ほたるとたまは、彼女の登場に驚きながらも、緊迫した空気に戸惑いを感じている。
マルタの様子がアヴェンジャーへ敵意を向けている風に見えたのだ。
生々しい負傷を受け、マスターの体を抱えたまま。聖女は再び下水道へ着地。アヴェンジャーに向き合う。

「それと貴方に用があって。覚えがないとは言わせないわよ」

「へぇ。やっぱり『そういう事』か。お前の頓珍漢な話にも信憑性が増したぜ」

アヴェンジャーが振り向いた相手は、おどおどしい魔法少女・たま。
突然、話を振られて取り乱す彼女の代わりに、ほたるが落ち着いてマルタに話す。

「たまさんが会った『恐竜を操る』力を持ったライダーさんが、アヴェンジャーと似ているらしいんです」


772 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/21(日) 23:11:33 roFFgHwA0
死んだと錯覚したほたるが、生存している事実に一種の驚きを浮かべるマルタ。
漸く当のたまも話に加わった。

「に、似ているとかじゃなくって、その、もう瓜二つで」

「どういう事……?」

マルタは再度聞き直してしまう。
たまやほたるが、アヴェンジャーを庇って嘘吹いている雰囲気ではないし。
しかし、二人の話を信用するならセイヴァーに似た存在が、更に二人も存在する訳で。混乱するものだ。
アヴェンジャーも落ち着いた様子で続ける。

「俺の方が知りたいくらいだな。言っておくが、生き別れの双子の兄弟がいたオチはないぜ」

「冗談? って怪しむところだけど……貴方の背後にいる『像』」

冷静を取り戻したマルタが注目する『像』。所謂、アヴェンジャーの宝具・スタンドを示している。
セイヴァーと同じ。完全に一致してはないが、関連性は隠しようもない造形。
故に。恐竜の能力とも『異なる』点こそ皮肉にも証拠となった。
マルタは重い一息をつく。

「逆に貴方とセイヴァーの繋がりを聞きたいわね」

「奴との関係? 明白に敵対している。奴を目の敵にしてるってなら、いっそ俺達と手を組んだ方が早いぞ。どうする?」






未来を変えるには幾つか簡単な方法がある。
単純に、本来起こりうるルートから逸れる行動を取り、場に変化を齎す。
あるいは、原因を排除する。
もしくは――正規のルートに『あえて』沿って『騙す』方法。

例えば今回の場合。
アヴェンジャーが霊体化する事で、彼に纏わるトラブルを回避する事に成功し。
ほたるが、ヴァニラ・アイスとマルタ。両方の視点で『死亡』した錯覚をさせる事で、ヴァニラ・アイスの隙をつけ。
マルタと対話する状況を産み出すのが成功した。

誰かの視点を『騙し』。違和感なく正規で従い続ける。
今後発生しうる状況の有る程度が、変化のないまま。予測可能で対応手段の用意も無駄にならず。
また、不確定要素もよっぽどが無ければ、発生しないで済むケースだ。

「ひょっとして……俺に気づいたか?」

アヴェンジャーの視点を監視し続けていた杳馬は、ビジョンを解除。
独り考察した末に、セイヴァーに酷似したアヴェンジャーも『性能』面でも似通っていると予想。
未来予知に匹敵する『直感』は第六感に通ずる程度で、万能な探知性能を有してるとは言い難い。
ただ、アヴェンジャーも時の能力を保持する英霊。杳馬の能力を知覚する可能性は0ではない。

「厄介だな、そりゃ。現時点でセイヴァーぐらいしか俺を捕捉しちゃいなかったが」

面白い展開だが、序盤でやっては欲しくない。
塩梅が効かないと天を仰ぐ杳馬だが、過ぎ去った未来は固定されている。巻き戻す魔力を使い潰すは勿体無い。
他の策に講じるだけだ。
水平線から太陽光が差し込みだすのを傍らに、杳馬は次に視点を切り替えた。


773 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/21(日) 23:12:06 roFFgHwA0




必死に逃げた。走った。アイドル活動のお陰もあって体力は人並みよりあったから、卯月は走り続けられた。
こんなものの為に体力を付けたんじゃない。
逃げる為に努力をし続けたんじゃない。
全部、全部がアイドルで、自分を応援してくれる誰かの為、ステージで歌い、誰かを笑顔にする為だった。

島村卯月は――アイドルなのだ。
戦争に関わる身分じゃない。そんな力だって無いのに、どうしてマスターに選ばれたのか。
走り続け。多分、追跡していた凛たちからも距離を取って、彼女達とは別方向へ移動している。
風見野に向かえば、案外アッサリ離脱。主催者の監視は厳重でない夢物語。

……実際は、脱出を禁止されている。
凛も書類で把握済みのように、卯月も目を通したのだが、冷静さを失った彼女に余裕は皆無だ。
あと、もう少し。
聖杯戦争の被害が及ばない場所へ、逃げる為に駆けるのを止めてはならない。
見滝原の隣町、風見野の駅に向かうバス停を発見し、卯月は一旦足を止めてから息を整える。
周辺はまだ、通勤通学目的の利用で訪れる住人の影はない。
大金を所持してないが、一般的なバス運賃程度なら払えるだろう。卯月が財布の中身を確認していると……

「なに………?」

風見野方面から、顔を上げて周囲を見渡せば不気味な人影が、続々と卯月を取り囲むように移動し始めている。
外見は老若男女容姿も様々、統一性はないが、一つだけ言えるのは。
彼らに生気は宿ってない。表情もない。
マネキン人形を連想させる心なき刺客だと分かる。

卯月は、サーヴァントの襲撃だと勘違いしたが、ソレらの正体は主催者による監視兼警備システムの一種。
ソレ達が脱出を図ろうとするマスター達を確保するべく、一定の行動を行う。
現在、卯月が脱出を目論んでいると判断し、システムが作動したのだ。

(どうしよう! アサシンさんは……っ……!!)

アサシン・杳馬から逃げてきた自分を、彼が手を差し伸べてくれるのか。
卯月は、最早全てを放棄したに等しいのだ。危機的な状況であれ、アサシンに助けを求める気力が無い。
マネキン達の動きはぎこちない事もあり、卯月の足でも辛うじて合間を掻い潜れた。
残った体力を振り絞り、卯月が疾走すれば集団との距離は大分開く。チャンスである。


774 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/21(日) 23:12:32 roFFgHwA0
住宅街には住宅しかない。
卯月は周囲を見回した結果で、何とか発見したのは広い庭が目立つ壮観な館。
金持ちが住まう一般庶民に無縁な場所。隠れるとすれば、ここしかないだろうか。
勝手に侵入など、アイドル以前に、常識で置き換えても控えるべきだが、マネキン集団が迫る卯月に後は退けない。

(ごめんなさい……!)

西洋基調の門を勢いよく開き、慌ただしくも門を閉め直し、一刻一秒も早く身を隠せる場所を探した。
恐怖を胸に、背高い生垣の影に隠れる卯月。そこより様子を伺う。
集団は卯月が住宅街へ戻った時点で喪失しており、敷地に侵入することは無かった。
永遠に近い沈黙の末。どれほど時間が経過したか分からぬ時に、卯月の緊張感が解かれる。

これほどの豪邸だから警備の一つや、防犯システムだってありそうだが、監視カメラらしきものも設置されてない。
だから、彼女は無事に敷地へ侵入出来たのだ。卯月は幸いと思ったが――現代では『違和感』と捉えるべきである。
豪邸だからこそ、警備システムに金もかけるのは至極当然。
何故、本来ある機能が設置されてないのか? 無意味で、無駄だと主は理解しているからだった。

――ガッ!

背後より卯月の体が、何者から抑え込まれる。
叫ぼうとも考える前に卯月の口も、手際よく塞がれてしまう。
未知の事態に卯月は混乱気味に辛うじて振り返ると、自分を取り押さえているのは女性の姿をしながらも。
人ならざる蝙蝠っぽい翼を背から生やした……小悪魔を彷彿させる風貌の存在が居る。
仏はコスプレなんだろうと、指摘しないで深く考えず。かと言って、関わりたくないから無視するだろう相手。

だが、卯月は小刻みに生命らしい翼の微小な動きを目にして。
翼は本物だと理解する。サーヴァント? とにかく自分は敵に捕まってしまったのだ。

「………!」

すると、館から現れたのか。敷地内を巡回していただろうか。
卯月を抑え込んでいる小悪魔と瓜二つの存在が無数に卯月を取り囲み、集団で卯月を館へ連行した。

小悪魔たちは、吸血鬼の主に命じられた通り、侵入者を確保しただけ。
卯月がマスターか一般人かの区別はつけない程度の使い魔である、
彼女らは、取り合えず卯月を吸血鬼の主へ運ぶ事しかしない。最終的な決断は、主は下すのだから。






775 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/21(日) 23:13:01 roFFgHwA0
マスターが敵に捕まったというのに、杳馬は面白おかしく笑っていた。むしろ、一種の安心を得る。

「いやーどうなるかと思ったけど『ようやく物語が始まりました』ってな!
 あそこの館は……そうそう。二人のマスターが居るし、その内一人はセイヴァーのそっくりさん!
 『面白くなってきたじゃないの』。卯月ちゃんの聖杯戦争は、これからだぜ?」

単純な話だ。
役者は全員そうでなきゃ、綺麗なマーブルがぐるぐると混ざり合って、綺麗な色彩は生じない。
マスターも、サーヴァントも、同じ舞台で踊らなければ意味がない。
逆に返せば――同じ舞台に立たない役者は『死』してるも同然。つまらないし、最初から居なければ良いだけだ。

卯月の行動は堅実だった。場に干渉せず、杳馬の力で思い通りに局面をコントロールする。
彼女だけではなく、マスターが戦場に出向かずに、サーヴァントだけに全てを任せ籠城するのも定石の一つ。
しかし『物語』や『舞台』で、それらの行動は『面白い』かどうか別。
観客は退屈だし、どこかで脇役が死んだところでショッキングも受けやしない。

だからこそ、杳馬は誘導した。
卯月に散々見せた平行世界でも『上手くいった世界』だって存在したが、あえて見せず。
彼女を逃走なり、行動を自発させて、舞台に突き飛ばして無理矢理でも躍らせたかっただけ。

そして、卯月に落とした闇の一滴。
絶望や罪悪感、疑心などが入り混じった結果の末。
皮肉にもマーブルらしい混沌を生み出そうとしているのだった。



【A-6 館/月曜日 早朝】

【島村卯月アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]精神的ショック(大)、罪悪感、疑心暗鬼(中)、『闇の一滴』の効力増大中、肉体的疲労(大)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]女子高生の小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:友達(渋谷凛)を死なせないため、聖杯戦争に勝ち残る。
1.自分にはできない……
2.ライダーさん。杏子ちゃん……ごめんなさい……
[備考]
※杏子のソウルジェムに関する情報と教会で起きた戦闘を把握しました。
※凛がアヤと同盟を組んだのを把握しました。
※ほたるがマスターである事を把握しました。
※見滝原を脱出しようした際に発動する、警備システムを見ました。
 ただし、サーヴァントの攻撃と勘違いしています。
※精神的に追い詰められている為『闇の一滴』の効力が発揮しやすい状態にあります。
※レミリアの使い魔たちに館へ連行されています。



【A-6/月曜日 早朝】

【アサシン(杳馬)@聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]有
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争をかき回す
1.卯月が上手く踊り始めるのを見守る。死にそうになったら流石に助ける
2.アヴェンジャーも俺に気づいているのかね?
[備考]
※杏子のソウルジェムに関する情報と教会で起きた戦闘を把握しました。
※凛がアヤと同盟を組んだのを把握しました。
※セイバー(シャノワール)の存在と彼の宝具に関しては、把握しています。
※アヴェンジャー(ディエゴ)に捕捉された可能性を得ています。
※バーサーカー(ヴァニラ・アイス)の脱落に関する事象まで把握しています。


776 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/21(日) 23:14:16 roFFgHwA0
ここで投下終了します。本当の本当に、次で最後となります。
非常に時間がかかってしまい、申し訳ございません。


777 : 名無しさん :2019/04/21(日) 23:44:15 Jhb5YeBI0
投下乙です

幾つもの可能性の中で辿り着いた結果が、まさかのヴァニラさん自害とは…
マルタも二人のディエゴが居る事に気付いた模様。これは同盟来るかな?
そして杳馬はブレない外道っぷり。しまむーにはご愁傷様としか…


778 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/30(火) 09:33:20 RUqeVUEc0
感想ありがとうございます!
そして、非常に長くなりましたが平成最後の投下をします


779 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/30(火) 09:34:07 RUqeVUEc0
アヤと凛を乗せた車が到着したのは、都心から離れた工業地帯。
煙突より薄い煙を昇らせる工場の向こう側には、住宅街が僅かにあり、地図によればちょうど見滝原と隣町・風見野の境。
地平線から太陽の日差しが差し込んでくるのを傍らに、マスコミの追跡から逃れ一息つくところ。
アヴェンジャーから、再度念話が伝えられた。
凛は、アヤから彼の情報を聞かされたが………その中で。

「え。白菊ほたる……本当ですか?」

「ひょっとして知り合い?」

「私と同じ事務所に所属しているアイドルです。でもまさか」

驚きもしたが、突発的にアヴェンジャーの口から『ほたる』の名前が出てくるだろうか。
少なくとも、アヤ達に『ほたる』や『卯月』の情報は伝えてない。
見滝原内では凛と彼女たちは繋がりが希薄である。なら、本当に『ほたる』がアヴェンジャーと共に……
色々不安を感じ、凛はアヤとの話を中断し、霊体化しているセイバー・シャノワールに呼び掛ける。

「セイバー、あの能力でほたるを捕捉できるよね」

アヤを捕捉した『予告状』の能力。
本当の意味で『白菊ほたる』がアヴェンジャーと同行しているならば、彼らを捕捉できる筈。
この場合。
アヴェンジャーは宝に含まれないというシャノワールの意思を考え、ほたる相手に限定したのだが。
後部座席で実体化したシャノワールは溜息をつく。
盗む為でなく『人探し』に能力が使われるのに、彼も気乗りではないのかもしれない。凛は改めて言う。

「変に予告状を使われたくないのは分かってる。でも、早く合流したい。セイヴァーが追跡を止めたとしても、油断は出来ないよ」

「君に気使われてしまうとは、すまない。私の想像以上にセイヴァーの手が早くて参っているのさ」

「……そう? アヴェンジャーの話を信じるなら、セイヴァーはまだ脅威になる戦力はないと思うけど」

相手が凛たちのように同盟者を増やして、戦力を広めるならば脅威だ。
アヴェンジャーに情報を提供した聖女のライダーが真実を述べている場合、さほどセイヴァーは想像以上の脅威ではない。
複数体のサーヴァントを相手なら、彼も隙があると活路が見出せた位ある。
だが、シャノワールの考えは違った。

「聖女のライダーと鹿目まどかのランサーを見逃したのは『仲間に引き入れられる』かどうか
 見定めているのだろう。奴は今、計画を企てる下準備を行っている」

「それって……」

「ライダーと別れたランサー達の動向が不安になるが……まずは『白菊ほたる』を探そう。
 ただ一つ。マスター、これ以上の事が発展していけば、君は自宅に戻る余裕は最早失われる。それでも良いかな」


780 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/30(火) 09:35:04 RUqeVUEc0
手元に淡い光の粒子を集中させるシャノワール。
粒子が予告状の形状を構成していく過程を眺めて、凛は少し思案した。
少し――現実時間に換算すればほんの数秒。決断するには短すぎると第三者は指摘するだろう。
既に、彼女の中では決断……覚悟を決めていたのだろう。

「いいよ」

渋谷凛は『現実』を選ぶ。
便宜上の家族の元に戻ろうと一度は決断したが、聖杯戦争に参加してしまっている知り合いの方を優先させた。
アヤも、凛を動揺させるつもりじゃあなく。念の確認で尋ねる。

「アイドルさん。本当にそれでいいの?」

「はい。一応……向こうにいるアヴェンジャーも含めて、心配ですから。私だけ離れるなんてしません」

決心ついた凛の表情に「そう」とアヤは呟く。
彼女のどこか影ある様子を、シャノワールもチラリと伺っていた。


【A-6/月曜日 早朝】

【渋谷凛@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]なし
[道具]生徒名簿および住所録のコピー(中学、高校)
[所持金]女子高生の小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:セイヴァーを討伐する
0.まずはアヴェンジャーと合流する
1.仲間が必要。どうやって集めればいいのかな。
2.ほたるはアヴェンジャーといる? 卯月は……
3.アヴェンジャーはセイヴァーと関係ない?
[備考]
※見滝原中学校&高校の生徒名簿(写真込)と住所録を入手しました
 誰がマスターなのかは現時点では一切把握していません
※自分らがセイヴァーに狙われている可能性を理解しています。
※アヤ組と同盟を組みました。
※ほたるがアヴェンジャー(ディエゴ)と共にいる事を把握しました。
※アヴェンジャー(ディエゴ)側の情報を得ました。


【セイバー(シャノワール)@グランブルーファンタジー】
[状態]健康
[装備]初期装備
[道具]多数の銃火器(何らかの手段で保管中)
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:怪盗の美学を貫き通す
0.白菊ほたるを捕捉し、追跡する
1.美学に反しない範囲でマスターをサポートする
2.セイヴァーを警戒する
[備考]
※盗み出した銃火器一式をスキル効果で保持し続けています
 内訳は拳銃、ライフル、機関銃、グレネードランチャーなど様々です
※アヴェンジャー(ディエゴ)の宝具を把握しました。
※アヴェンジャー(ディエゴ)側の情報を得ました。


【アヤ・エイジア@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]魔力消費(中)、???
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]ナイフ
[所持金]歌手の収入。全然困らない。
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界への帰還
0.アヴェンジャーさん……
1.怪盗Xに対する警戒
2.セイヴァー(DIO)の動向に不穏を覚える。
3.凛たちは信用する。今のところは。
[備考]
※テレビ局の出演は決定されました。テレビ局入りは彼女自身のみで行うと伝えてあります。
※事務所の人間の一部がセイヴァーに掌握されていると考えています。
※現在のアヴェンジャー(ディエゴ)の状況を把握しました
※アヴェンジャー(ディエゴ)側の情報を得ました。


781 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/30(火) 09:35:38 RUqeVUEc0




場面変わって下水道。
崩落した現場には人が集まるのを予想し、アヴェンジャー達は移動していた。
マスターの白菊ほたると魔法少女のたま。
アヴェンジャーのディエゴに加えて、ライダーのマルタ……と死体状態の佐倉杏子も加わっている。
マルタは、断じてセイヴァー似のディエゴを信用したのではなく。
同行する少女のマスター達を信用しての情報交換を行った。

さやかや篤たちの話と合わせると、パズルのピースが更に増えた事で埋まる箇所で完成図が形成されたよう。
ソウルジェムや『ライダーのディエゴ』。そして……セイヴァー。
全てを把握し、真っ先に崩れたのは――たま。

「そんなぁ……ほむらちゃん……! だって、あんなに嫌がってたのに……そんなの……!!」

いくら親友を助ける為とは言え、セイヴァーと共に立ち去った暁美ほむら。
だが、彼女がセイヴァーに関して嫌悪と畏怖を覚えているのを、たまは少しでも知っている以上。
ほむらが下した決断に、涙が流れてしまう。
マルタも、あの場に居たさやかとは違う反応を見せるたまを宥める。

「彼女と契約している以上、セイヴァーは彼女に手出しはできません。どうか気を確かに持って」

「うう……」

おずおずと、割って入るのを承知しながら、ほたるはマルタに尋ねた。

「ライダーさん……やっぱりセイヴァーさんは強い、ですか。私の時も訳が分からない状況になってて……」

「強い……いいえ。あの時、セイヴァーは本気ではなかったでしょう。加えてあの傷の再生力」

マルタは『ある可能性』を考えたが……
情報は断片的過ぎる。アヴェンジャーと似ている『像』も、彼の方は詳細な情報を明かさない為、宝具の判断はつかない。
だからこそ、マルタは再度、アヴェンジャーに問いかけた。

「『像』の宝具に関して少しでも情報が欲しいのだけど」

「何度も言わせるなよ。俺の宝具の情報は明かさない。強いて言うなら、お前が警戒するほど大したものじゃあない」

だが、戦闘内容を簡略で聞く限り、セイヴァーは『時間停止』を使用していない。
本当の意味でセイヴァーは『本気』じゃあない。何が複数相手でただで済まない、だ。
複数を全て壊滅させるだけの力を持っておきながら、優先させたのは……
俄かに信じがたいが、マスターの暁美ほむら。

たまは悲観的にほむらを心配しているが、無駄な心配だとアヴェンジャーは最も理解している。
何が、ディオ・ブランドーだ。
最もディオ・ブランドーに相応しくないのは、お前じゃあないか。


782 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/30(火) 09:35:59 RUqeVUEc0
親しき人間を救う為に奔走する少女と。
己の為なら親しき人間ですら手にかける女と。
どっちが面白いか、本当に、比較の必要ないほど天と地の差がある。
マスターの魅了においても惹かれないアヴェンジャーは、鼻先で笑ってやった。
相変わらず警戒心を解かないマルタに、アヴェンジャーが言う。

「最も、お前の方も『時間切れ』だと判断したんだろ? もう一人の俺を追跡するのに下水道を利用したのは、それが理由だ」

「…………」

「俺から提案してやれるのは『死体の保存』だ」

突拍子もない話だが、マルタが杏子のソウルジェムを早急に入手したい理由の一つに含まれる問題だ。
魂のない肉体は死骸に過ぎない。
彼女を担いだまま、朝の時間帯を奔走出来ないうえ。杏子の肉体は普通同様に時間経過で腐敗が進行してしまう。
以前、ソウルジェムの浄化をしたよう、死体に祈りを施して、腐敗を遅延させているが……

「俺の仲間に氷の魔法を使う奴がいてな。所謂『冷凍保存』だ。放っておくよりマシだぜ」

古典的だが確実な手段である。
それでも、マルタは余裕が無いと考えていた。

「生憎だけど、マスターのソウルジェムが無事である保証はどこにもないの」

恐竜使いのライダーは恐らく、杏子のソウルジェムを何かに利用する算段。
実験材料に使われない内に、回収しなくてはならない。
いくら、マルタの実体化と宝具使用に問題ないと言っても、向こうもマルタを警戒し、実験を急ぐ可能性も。
アヴェンジャーは件のソウルジェムに関する情報を得た事で、ふと思いついたものをマルタに話す。

「奴がソウルジェムを何に使うつもりか、大凡検討はついているぜ。それを踏まえて余裕はあると思うが」

「まさか『自分だから思いつく』って意味じゃないでしょうね」

「そのまさかだ。まぁ少し聞けよ、修道女。ソウルジェムに関する秘密はともかく、お前もちょっとした『異常』に置かれているだろ」

「……ソウルジェムとの繋がりかしら」

マルタ自身も、最初は驚いた。
杏子は肉体が死亡状態で、魂だけが恐竜使いの手に囚われた状況。
どうやら、ソウルジェムには『魂』だけではなくサーヴァントとの契約に重要な魔力源……『魔術回路』も保存されており。
こうしてマルタは、マスターの状態問わず行動可能にある。指摘されれば、かなり特殊なケース。

前述を踏まえて恐竜使いの目的は当初、聖杯に使用されるソウルジェムとの関連性を知り。
何かに利用する、と考えられたが。実際のところは、違う?
マルタは何故か思考が巡らない。
否、彼女も半ばアヴェンジャーの伝えたい内容を分かりかけている。
だからこそ、理解をしたくなかった。


783 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/30(火) 09:36:33 RUqeVUEc0




レイチェルの願いを叶える。
プッチもディエゴの発言を読み取れずにいたが、ディエゴが透明のソウルジェムを一つ、レイチェルへ放り渡す。
そのソウルジェムは、恐竜化させたマスター・たまの所持していた代物。
元々所有していた無色のソウルジェムは、ディエゴの手元に残る。
何故、ソウルジェムを渡されたか。レイチェルは分からぬまま、無言で受け取るだけだった。

「そこにお前の魂を入れるのさ」

ディエゴの告げた内容の残酷さではなく、彼がレイチェルに投げかけた言葉にである。
いまいち実感の欠けるレイチェルが、目を丸くさせながら尋ねた。

「私の魂が入ったら……どうなるの?」

「お前が一番理解しているじゃあないか。『今のままじゃ何も役に立たない』ってな。お前の肉体が死ねば、俺も消える。
 だが―――ソウルジェムに魂が保管されれば、お前の肉体が死んでも『俺は消えない』。分かるな?」

レイチェルが改めて顔を上げれば、ディエゴは不敵に笑っている。本当に、笑っている。
皮肉込めた悪意ある解決方法にも関わらず、内容を聞いたレイチェルは一種の感動を味わっていた。
何故なら、ディエゴは自分の話を、願いを聞いてくれて。
レイチェルの願いや問題を解決する為に『考えて』いたのだから。
話を聞こうともせずに自分勝手に一方的な意見ばかりのレイチェルの家族とは違う。
自分の願いを叶えてくれる。それだけでレイチェルの経験にない想いが、確かに存在している。

「『DIO』……それはつまり……」

ディエゴの目論見を把握したプッチは、驚きを隠さずに話しかけた。
一方の恐竜使いの騎手は、格別変わった様子なく当然の常識をプッチに告げる。

「聖杯で願いを叶えて満足できる訳ないだろ。お前も違わないよな? エンリコ・プッチ」

即ち、聖杯戦争が終結したその先の話。
役割を失われれば、主催者が強制的にサーヴァントを退去させる手段も一つや二つあるだろうに。
ディエゴ以外も、願いだけを目的としない英霊は居るのだ。
聖杯で願いを叶えたとしても、確実にディエゴ・ブランドーの餓えは満たされやしない。
手元に残された杏子のソウルジェムは、それらの原理を実現させるのに必要なサンプルとなっている。

なのだが

「君は――彼女を救うつもりなのか?」

神妙なプッチの問いかけは、ディエゴの期待とは真逆どころか予想外極まるものだった。
一瞬、ディエゴも思考が停止する。
極端に曲解……否。プッチの基本思想は『DIOが世界の救済をする』がメインであり、レイチェルへの解答は。
ディエゴなりの『救済』とされてしまったのだろう。


784 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/30(火) 09:37:03 RUqeVUEc0
今までなら笑い飛ばして面白がるが、最早ディエゴはプッチに狂気を覚え出していた。
返答に迷いって、レイチェルの満たされたような間の抜けた表情を伺うディエゴは「救済?」と復唱する。

「側面を変えれば『そう』解釈できなくもないな。俺はレイチェルと利害が一致していると説明しただけだぜ」

利害の一致。
ディエゴは前述を強調し告げてから、レイチェルに尋ねた。

「お前はどうなんだ? レイチェル」

魔法少女側からすれば肉体がゾンビ状態で、死人も同然で、魔女になる末路すら受け入れられない者も幾人いるが。
レイチェルは、魔法少女じゃあない。それ以上に価値観が歪んでいた。
別の例えなら殺されたがっている狂人相手に「俺がお前を殺す」と約束を交わすに近い。

(ライダーは……やっぱり違う)

自分のものにならなければ気が済まない、という精魂の性癖部分は似通っている主従だろう。
レイチェルは、どんな相手であろうと変えられない根本を制御するなら。
ディエゴの提案通りに、肉体を失う以外の手段だけが唯一の救いだった。

「うん……」

何もない少女には頷くだけで精一杯である。


彼女はきっと―――神に救われる為に、ここへ至った。それが運命で、いづれ『魂』だけとなる『覚悟』を得たのだ。


やはり、DIOは。『友』は救済するべくある存在なのだと、プッチは確信を得た。
悪であっても、眼前のディエゴが救世主として『不完全』であっても、可能性は僅かにある。
プッチは人間の……マスターのDIOと言葉を交わし終えていない為、判別はつけずにいたが。
恐らく少年の彼にも片鱗の一つがある。

――マスターの『DIO』も、私の前にいる『DIO』も『天国』を望む運命にある!

――覚悟を完了し終えていなかったのは、私の方だった……!

――私が、マスターの『DIO』と眼前の『DIO』が天国へ至る導きをしなければならなかったのだ!!

故に、プッチの迷いは完全に消え失せた。
己が為すべき方針を得たうえで、完全なる覚悟を胸にした以上。最早、エンリコ・プッチがぶれる事はないのだ。
良からぬ自己解決しているプッチの様子を伺い、ディエゴは妙に嫌な悪寒を感じる。
敵意とも異なる、ディエゴにも未知の感覚を対処するべく。話題を逸らそうと考えた。

「さっきの恐竜に『もう一人の俺』の匂いを追わせたが……『俺』に深手を負わせた敵の匂いも残っている」


785 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/30(火) 09:37:40 RUqeVUEc0
すると、冷静にプッチが答えた。

「それはセイヴァーの『DIO』だろう」

あまりにも即答だったので、ディエゴは敏感に反論する。

「根拠はなんだ? プッチ。お前……暁美ほむらと出くわした時に、セイヴァーと会ったんじゃあないか?」

「心配しなくともセイヴァーとは会っていない。時を止める『もう一人の君』を相手出来るのは、同じ能力を持つ者と考えるべきだ」

「それがセイヴァーという証拠も根拠もないと俺は言いたいんだが?」

「スタンド使いは退かれ合うのだよ。『DIO』」

一体どこの誰が『ウワサ』を撒き始めたか。
だが、実際にスタンド使いはスタンド使いを呼び寄せる。プッチも当然それを承知していた。

「特にDIO……セイヴァーの『DIO』は性質を強く引き出していた。
 彼自身、一目見ればスタンド使いかどうかすら、直感で判別する事が可能だったほどに」

「スタンド使いで、時を止める力に対抗できる奴とも偶然出くわせる、ねぇ……
 俺からすれば、自信抱く根拠だと思うのが『逆に』凄いぜ。本気なんだな、お前」

「君も、『もう一人の君』と戦った相手が何者か。興味をひかれたからこそ、私に尋ねたじゃあないか。『DIO』]

「…………」

理由はどうあれ。
たまだけに『もう一人のディエゴ・ブランドー』の追跡を任せるには、不安要素が強すぎるうえ。
プッチの情報が真実味を増したところで――時を止める能力は、セイヴァーだけでも厄介に関わらず。
二人もいては、恐竜に纏わる能力だけのディエゴは相手するのが難しい。
可能なら、負傷しているうちに始末するべきだ。

そして『もう一人のディエゴ』に深手を負わせた相手も……



【C-3/月曜日 早朝】

【ライダー(ディエゴ・ブランドー)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)、杏子のソウルジェム(飲み込んだ状態)、プッチに対する警戒?
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]トランシーバー
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1.『もう一人のディエゴ』を追うか、それとも……
2.レイチェル、お前が魂だけになれば赦してやってもいいぜ
3.あのセイヴァーについては……
4.プッチが何考えているか分からなくなって来た。
5.ソウルジェムでの聖杯作成は保留するが、魂は回収する。
[備考]
※真名がバレてしまう帽子は脱いでいます。
※魔法少女が持つ『ソウルジェム』の存在を知りました。→ソウルジェムの秘密を把握しました。
※ソウルジェムを飲み込んだ影響か、杏子の意志が伝わります。
※たまから彼女の関わった事象の情報を得ました。
※『もう一人のディエゴ』の存在を認知しました。
※ソウルジェムの原理を利用して、現界し続けられるのではと考えています。

【レイチェル・ガードナー@殺戮の天使】
[状態]魔力消費(中)、プッチに対する疑心
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]私服
[道具]買い貯めたパン幾つか
[所持金]十数万程度
[思考・状況]
基本行動方針:自分の願いを叶えたい
1.ライダーは信じられる。それ以外は信用しきれない。
2.セイヴァーは一体……?
[備考]
※討伐令を把握しました。
※ライダー(ディエゴ)が地図に記した情報を把握しました。
※プッチが提供した情報を聞いている為、もう一人のディエゴ(アヴェンジャー)の存在を知ってはいます。
※ライダー(ディエゴ)の真名を知りました。
※ソウルジェムの秘密を把握しました。


786 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/30(火) 09:38:40 RUqeVUEc0
【ライダー(エンリコ・プッチ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(中)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』を実現させ、全ての人類を『幸福』にする
1.セイヴァー(DIO)ともう一人のディエゴを探す。
2.一旦マスターの元へ戻る。
3.『DIO』たちを『天国』への思想に目覚めさせるべく行動する。
[備考]
※魔法少女が持つ『ソウルジェム』の存在を知りました。
※アサシン(杳馬)自体は信用していませんが、ディエゴの存在から
 アヤ・エイジアのサーヴァントがもう一人のディエゴ(アヴェンジャー)である事を信じています。
※ディエゴ(ライダー)に信用されていないのを感じ取っています。
※ソウルジェムの穢れを目撃しました。穢れ切った結末に関心があります。
※暁美ほむら、まどか&ランサー(篤)の存在を把握し、ほむらの覚悟を理解しました。
※ほたるがディエゴ(アヴェンジャー)と共に行動している事を把握しています。







「んな事、許されると思ってんの!?」

マルタの怒声に対し、アヴェンジャーの返事は酷く落ち着いている。

「俺たちサーヴァントにとって最も厄介な枷は、マスターの存在そのもの。マスターの令呪だ。
 それのせいで、俺たちの行動は大分制限されるじゃあないか。だが、お前は違う」

実際、内容だけ聞けば都合が良過ぎる。しかし、理想的なものだ。
令呪の制限も、例えマスターの肉体死亡・再起不能状態に陥ったとしても。
核であるソウルジェムが無事ならば、魔力源も保証されている。加えてマスターの意思すら聞かなくなり。
実質は、サーヴァント単独で生存が可能となるのだ。
どうにか話についていく、たまが震え声で問う。

「ま、まさか……ほむらちゃんも!?」

「さあな。少なくともセイヴァーは気づいちゃいない」

セイヴァーは暁美ほむらを試しているようだった。
わざと、自由にさせて。彼女自身に何かを見出そうと魂胆を感じている。
アヴェンジャーは一番にソコが理解も、共感も湧かないのだったが。

「とにかく、俺だったらそうするぜ。普通に聖杯を作った場合、ソウルジェムは少なからず余るからな」

聖杯での現界を継続を願いに消費する目論見がないのを意味するし。
アヴェンジャーも、仮に現界を望むなら貴重な聖杯一つ消費せずに解消する手段を取る。

(本当のところは分からないがな。とは言え、ソウルジェムを破壊しない理由はそれぐらいしか思いつかない)

ただ……この場合。歪であれ『マスターを生かす』手段でもあるのだ。
文字通り、マスターを生ける楔扱いにする非道を体現する一方で。
八つ裂きに腸引きちぎり、無残に葬るのと異なり。形として残す行為には変わりない。

(本当に『俺』なのか? 固執するほどマスターに利用価値がなければ納得できないな……)


787 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/30(火) 09:39:12 RUqeVUEc0
ここまで推理をすると、たまの証言も半信半疑の領域を脱せない。
セイヴァー同じく、似通っているが別人の類ではとアヴェンジャーは思う。
一方で、マルタはブレる様子なくアヴェンジャーに問いただす。

「その口ぶり。まるで貴方のマスターにも同じ事をしたいって聞こえるわよ」

「……は? 冗談やめろよ。俺のマスターはあんな子供程度の柔い奴じゃあない。
 お前のような修道女もヘドを吐くだろう鉄仮面野郎を、魂だけの物言わない宝石にしちゃ『つまらない』」

饒舌に語るアヴェンジャーの微笑に。
マルタは、疑心を深めようとしたが途端に中断してしまう。
眼前の男が果たして『悪』か『善』かと問われたら、追及するまでなく『悪』に違いないのだ。
だけど、マスターに関する返事をしたアヴェンジャーは不思議にも悪意や企て、裏も存在しない口ぶりである。
奇妙な事だった。他人をどうとでも切り捨てられそうな人格だろうに。
そこに、白菊ほたるが恐る恐る一言。

「わ、私もその、断言できないですけど……ライダーさんとアヴェンジャーさんの話を聞いて
 ソウルジェムを持って行った『もう一人のアヴェンジャーさん』が、どうにかする手段はないんじゃないかと……」

「………そうですね」

マルタも咳払いをしつつ、改めて冷静に語った。

「彼女(たま)が目視したクラス通り『ライダー』であるなら、まずキャスターのような解析等の能力は所持していません。
 ソウルジェムに手を加える目論見をするなら、他のキャスタークラスか。それに通ずる能力を保持するサーヴァントに
 協力を仰ぐ行動や手段を取るでしょう。加えて……状況を見るに、他の協力者はいるようですが、解析には着手していない」

しかし、不安要素は完全に消失していない。
時間は迫っているように感じる。ほたるはアヴェンジャーに尋ねる。

「アヴェンジャーさんも、大丈夫と思うんですよね……?」

「悪いが完全保証は俺に出来ない。唯一、情報と状況を判断して『猶予』があると見る」

「ええと……つまり……」

「さっきも言ったが、地上はとっくに朝日が昇っている。つまり、派手な行動はリスクが生まれる時間帯になった……
 恐竜やら馬は『この舞台』じゃ、かえって誰が見ても目立つ要素でしかないからな」

よりにもよって、ライダーのディエゴが保持する能力は、現代社会じゃ異質の産物ばかり。
皮肉な事に、一種の抑止効果で行動制限はかかりやすい。
目立てば目立つほど、SNSなどでNPCの情報拡散で捕捉されるだろう。
幾ら、人智を超越したサーヴァントであっても。無駄な行動を控えるように。

「なら時間が出来たかもしれないんですね!? ら、ライダーさんッ。お、お願いします……私、セイヴァーさんを止めたいんです!!」

「……分かりました。一先ずは協力を……いえ。こちらから協力をお願いします」


788 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/30(火) 09:39:50 RUqeVUEc0
マルタの返事に、ほたるとたまが安堵する一方。アヴェンジャーは内心でほくそ笑んだ。
結局、ライダーのディエゴがソウルジェムの可能性を追求するかは怪しい。
全て『それっぽい御託』を並べただけで、一番重要なのはマルタを戦力として確保する事だ。
即ち、目的の一つは達成した。ヴァニラ・アイスという魂も確保できた。確実に聖杯戦争で一歩優位に立っている。
話を終えたところで、マルタはたまに申し出る。

「私からの申し出ですみません。マスターを運んでいただけませんか……私も霊体化で体を癒す必要があります」

とにかく足の負傷だけでの治らなければ。
たまはオドオドしくも「はい!」と、マルタから受け渡らせた杏子の体をしかと抱えた。
アヴェンジャーも未だ、体の負傷がある為に霊体化しようとしたが。
寸前で、マルタが推察を打ち明けたのである。

「一つ考えたところがあるの。霊体化する前に聞いてくれるかしら」

「……なんだ」

「セイヴァーは――『吸血鬼』じゃあないかと思っているの」

とんだ話だが、聖杯戦争の状況下では驚くような発想ではない。
直接セイヴァーと対峙したほたるは、困惑気味だ。一見で吸血鬼か判別するのが無理ではあるが。
プッチからセイヴァーが『吸血鬼』という情報は聞かされていなかった。
戸惑いを露わに、たまは「吸血鬼ですか?」とオウム返しする。それに頷いたマルタが話を続けた。

「だとしたら、例の……セイヴァーの部下が灰になって消えたのも、セイヴァーの驚異的な再生力も説明がつくわ」

ヴァニラ・アイスの消滅も『意味』を残していた。太陽で灰と化した現象。吸血鬼の弱点が象徴ならば合点がいく。
アヴェンジャーは楽観せず「そうだったらいいな」と素っ気ない態度で霊体化してしまう。
向こうも、マルタを完全に信用し切って無い点は、お互い様である。
一先ずマルタも、たまへ杏子を託してから霊体化をするのだった。

「ここから移動しなくちゃ……」

強張るたまを落ち着かせるように、ほたるが声をかける。

「なるべく、私達もアヴェンジャーさんのマスターさんの所へ近づければいいと思います」

「う、うん。そうだよね」

下水道を辿って、アヴェンジャーのマスター達の元へ向かうのは無謀に近い。
彼の仲間――シャノワールが追跡してくれるのを、念話で連絡を取ったアヴェンジャーが、論争を繰り広げる前に伝えてくれた。
『もう一人のディエゴ』とセイヴァーから一旦逃れるべく。
最低限、距離を取るために彼女たちは移動するのだ。

ただし、現実から逃れる為じゃあない。
現実に立ち向かう為に、だった。


789 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/30(火) 09:40:19 RUqeVUEc0
【C-4 下水道/月曜日 早朝】

【アヴェンジャー(ディエゴ・ブランドー)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]霊体化、魔力消費(大)、肉体負傷(中)
[ソウルジェム]有(魂×1)
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
0.アヤと合流する。
1.怪盗Xに対する警戒
2.どこかでセイバー(シャノワール)を始末する
3.ほたるを通じて彼女のサーヴァントを利用する
4.『もう一人の俺』もセイヴァーも、やっている事がくだらねぇ……
[備考]
※アサシン(ディアボロ)に関する記憶は喪失してますが、時間停止の能力に匹敵する宝具があったと推測してます。
※マルタから情報を得ました。
※杳馬の視線等を直感で判断できるようになりました。
※たまやマルタの情報から『もう一人のディエゴ』の存在を認知しましたが、懐疑的です。


【白菊ほたる@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]精神的ショック(中)、疲労感(中)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]寝間着姿
[道具]
[所持金]中学生程度のこづかい。現在所持していません
[思考・状況]
基本行動方針:セイヴァーとライダー(プッチ)の目論見を止める
1.アヴェンジャーのマスター達と合流する
2.セイヴァーが危険だと改めて認識
[備考]
※現在、ライダー(プッチ)がセイヴァー(DIO)に騙されていると思っています。
※マルタから情報を得ました。
※『もう一人のディエゴ』の存在を認知しました


【たま(犬吠埼珠)@魔法少女育成計画】
[状態]身体に死の結婚指輪が埋め込まれてる、全身に軽い怪我、X&カーズへの絶対的な恐怖、杏子を抱えている
[令呪]残り三画
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
0.ほむらちゃん……
1.今はほたる達と共に行動する。
2.まどか達と合流したい
※カーズが語った、死の結婚指輪の説明(嘘)を信じています。
※ソウルジェムを含めた装備品はライダー(ディエゴ)に回収されました。
※マルタから情報を得ました。
※『もう一人のディエゴ』の存在を認知しました。


790 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/30(火) 09:40:39 RUqeVUEc0

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]肉体死亡
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:???
0.―――
[備考]
※ソウルジェムが再び肉体に近付けば意識を取り戻し、肉体は生き返ります。


【ライダー(マルタ)@Fate/Grand Order】
[状態]霊体化、魔力消費(中)、キレ気味、片足負傷
[ソウルジェム]無
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争への反抗
0.まずはアヴェンジャーのマスター達と合流する
1.杏子のソウルジェムを取り戻す。恐竜使いのサーヴァントは即急にシメあげブチのめす。
2.アサシン(杳馬)は何か気に食わない。
3.ひとまずさやかとランサー(篤)は信用する。
4.セイヴァーには要警戒。きっと、相容れることはないだろう。
[備考]
※杏子のソウルジェムが破壊されない限り、現界等に支障はありません。
※警察署でXの犯行があったのを把握しました。
※ランサー(篤)、さやかと情報交換しました。
※『もう一人のディエゴ』の存在を認知しました。
※セイヴァーが吸血鬼ないし類似する存在ではないかと推測しています。


791 : ◆xn2vs62Y1I :2019/04/30(火) 09:44:43 RUqeVUEc0
以上で投下終了いたします。長期間かかってしまい、すみませんでした。
タイトルは「超常現象」となります。

続いて
スノーホワイト、ラッセル&ナーサリー・ライム、吉良吉影&ダ・ヴィンチちゃん、
徳川家康、ジリアン&サリエリ、マミ&什造、X&カーズ
以上で予約します


792 : 名無しさん :2019/04/30(火) 12:42:51 APE5iAss0
投下乙です
レイチェルも神父も狂い切っててディエゴの胃がキリキリしそう…。
もう一方のアヴェンジャーディエゴ、召喚時に共感を抱いた事もあってアヤさんのことを結構評価してるんだな
ほたるんもしぶりんも覚悟を決めただけに、余計卯月ちゃんが悲惨に見える…


793 : ◆xn2vs62Y1I :2019/06/10(月) 21:13:52 O2QEpAMQ0
予約期限が切れてしまったので予約破棄させていただきます
長いこと申し訳ありませんでした


794 : 管理人 :2020/07/07(火) 19:05:54 ???0
本スレッドは作品投下が長期間途絶えているため、一時削除対象とさせていただきます。
尚、この措置は企画再開に伴う新スレッドの設立を妨げるものではありません。


"
"

■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■