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バトル・ロワイアルR&C
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【暗殺教室】4/4
○潮田渚/○赤羽業/○茅野カエデ/○寺坂竜馬
【がっこうぐらし!】4/4
○丈槍由紀/○恵飛須沢胡桃/○若狭悠里/○直樹美紀
【バトル・ロワイアル】4/4
○川田章吾/○三村信史/○桐山和雄/○相馬光子
【ひぐらしのなく頃に】4/4
○前原圭一/○竜宮レナ/○園崎魅音/○北条沙都子
【ブレンド・S】4/4
○桜ノ宮苺香/○星川麻冬/○神崎ひでり/○ディーノ
【ぼくたちは勉強ができない】4/4
○唯我成幸/○緒方理珠/○古橋文乃/○桐須真冬
【ましろ色シンフォニー】4/4
○瀬名愛理/○アンジェリーナ・菜夏・シーウェル/○天羽みう/○乾紗凪
【闇金ウシジマくん】4/4
○丑嶋馨/○柄崎貴明/○獅子谷鉄也/○獅子谷甲児
【リトルバスターズ!】4/4
○直枝理樹/○棗鈴/○棗恭介/○能美クドリャフカ
【カイジシリーズ】3/3
○伊藤カイジ/○利根川幸雄/○一条
【キラークイーン】3/3
○色条優希/○長沢勇治/○高山浩太
42/42
※当企画には残酷描写、性的描写、原作にはないオリジナル設定などが一部含まれます。閲覧の際にはご注意ください。
※非リレーです。
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息苦しい空間だった。
別に酸素が薄いわけでもないのに、どうにも居心地が悪い。
外は無明の闇に覆われ、部屋の中を照らす蛍光灯の明かりは何の温もりも感じさせない無機質なもの。
学校か? 此処は。整然と並んだ机や大きな黒板、そして自分が縛り付けられた木造椅子を見て金融屋・丑嶋馨は眉を顰めた。
その首には鈍い銀色の首輪が巻かれている。それがアクセサリーの類でないことは誰の目から見ても明らかだ。
「何処なんすかね、此処。俺らを拉致るとなると滑皮の野郎か、獅子谷のクソか……」
「どっちでもねェーだろ。滑皮は厄介な奴だが所詮一介のヤクザだ。こんな大掛かりな真似をする必要がねえ。それに」
丑嶋とは腐れ縁の仲である柄崎貴明という男もまた、丑嶋と同じように拘束されていた。
彼が心底忌まわしそうに口にした二つの名前。それは丑嶋にとっても殺したいほど憎たらしい名前だ。そこに間違いはない。
仮に今柄崎が挙げた内のどちらかが首謀者だったなら、大義が出来たと喜び勇んで殺しに掛かったまである。
だが――この状況はヤクザの有力者如きが仕組めるものでは到底なかった。一つの町で名を馳せただけの獅子谷など以ての外だ。
それ以前に、獅子谷に関しては丑嶋達と同じ境遇。つまり、この部屋で無防備に拘束されるという屈辱的状況に甘んじている。
丑嶋が顎で示した方を目で追い、柄崎は驚愕する。教室の窓際で、自分達の目下最大の敵……獅子谷甲児がその巨体を戒められていたのだ。
普段なら指差して笑いたいような"いいザマ"だが、今はそんな感情よりも畏怖の念が先行する。
自分の知る限り最も強い男、丑嶋馨。そしてその丑嶋をも上回るほどの腕っぷしを持つ半グレ、獅子谷甲児。
この二人を拉致して捕らえるなど、それこそヤクザを動員したって容易ではない。
そして柄崎と丑嶋、獅子谷以外にも、この教室には大勢の人間が捕らえられていた。
まだランドセルを背負っているような歳の子供から、そろそろ老後のことを考え始める時期だろう初老の男まで。
裏の社会では人を攫って人質にしたり、情報を吐かせたりというのはよくあることだ。
だが、この人数は明らかにおかしかった。おまけに大半が見ただけでも分かる堅気の人間と来ている。集められた人間に共通点というものが見られない。
「解けるか? 柄崎」
「……かなりガッチリ縛られてますからね。道具がないとちとキツいかもしれません」
「そうか。俺は何とかなりそうだから、下手人が入ってきたら手っ取り早くぶっ叩くわ」
「マジすか! さすが社長!」
無邪気に賞賛する柄崎とは裏腹に、丑嶋は冷静に"その時"のことを考える。
武器は椅子でいいとしてだ。これだけ人数がいれば、一人は自分のように縄を解ける者もいることだろう。
その最たる例が獅子谷である。格闘家として慣らした強靭な肉体に兄譲りの凶暴さ、残虐さ。
自分が何もせずとも、獅子谷が動いて下手人を殺すだろうと丑嶋は踏んでいた。
もしそうなるなら、わざわざ手を汚して面倒を被る意味もない。
獅子谷や他の誰かが動くならそれでいい。もし誰も動かないなら、仕方がないから貧乏くじを引いてやる。
誰がこんな真似をしてくれたのかは分からないが、どう考えても碌な動機でないことは間違いない。
何より、この時点で丑嶋は既に感じ取っていた。恐らくは柄崎も同じ。
今、自分達が置かれている状況の異様さ――恨みだとか妬みだとか、そういう言葉では形容出来ないほどの"悪意"を。
柄崎はいつか観た、所謂"デスゲームもの"の映画のことを思い出す。
観たのは随分前だし、途中で寝てしまったため詳しく覚えているわけではなかったが……
学生が島に集められ、あることをさせられるという内容の映画だったはずだ。
そう、確か――
「クク……皆、目を覚ましたようじゃの」
記憶が蘇り切るかどうかという瀬戸際だった。
教室の扉が開かれ、何人もの黒服が入ってきたのは。
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丑嶋は動かない。他の人間も誰一人として動く様子はなかった。
それを臆病風に吹かれたのかと攻めるのはお門違いだ。
此処で動く者がいたのなら、そいつは勇敢以前にただの阿呆である。
何故か。黒服達は皆、例外なく持っていたからだ――人間を一秒で肉の塊に変えられるだろう、黒光りするライフル銃を。
そして、黒服を侍らせ悠々と歩く杖を突いた老人。
鼻には大きな斑点があり、小柄なのにまるで弱々しさを感じさせない不気味な爺だった。
攫われ、集められた全員が確信する。この爺だ。こいつが、自分達を攫わせた全ての元凶だと。
「カカカカ……! いる、いるの……! 血気盛んな者……!
結構、結構……! それでこそ……! それでこそ集めた甲斐があるというものっ……!!」
愉快そうに笑う老人はあっさりと自らが拉致を命じたのだと自白する。
怒りの感情がいくつも老人に向かうが、それだけだ。
仮にあの爺を殴り倒そうと立ち上がったところで、その先に待つ結末は秒も保たずの蜂の巣。
故に誰も席を立ちはしないものの、胆の据わった人間というのはいるもので――老人に向けて声を発する者があった。
「……それで、アンタは俺達に何をしてほしいんだ? まさか、ただおしゃべりをするために連れてきたわけじゃないんだろ?」
橙がかった茶髪の少年だ。制服を着ている辺り、歳は高校生くらいだろうか。
あれだけの銃口を前にして、取り乱した風でもなく発言出来る胆力は今時の若者にしては珍しい。
……それとも、銃が偽物だとでも思っているのか? その辺りは傍から見ているだけでは判別が付かなかった。
「左様、左様……! わしが諸君らをこの沖木島へ招いたのは、他でもない……!
諸君らにあるゲームをして貰おうと思っての……! 猿でも犬でも分かる、単純明快な趣向のゲームよ……!」
"ゲーム"。その単語を良い意味に解釈出来る人間など居はすまい。
何せこんな状況だ。十中八九、ろくでもない内容に違いない。
そんな皆の予想を裏切ることなく、老人は品のない笑い声を漏らしながら宣言した。
言葉通り――どうしようもなく単純で、救いようのない悪意に満ちた"ゲーム"の開催を。
「諸君らにはこれから……! この島で……! "殺し合い"をして貰うっ……!!」
殺し合い。あまりにも現実味のない単語に、「冗談だろ?」と誰かが漏らす。
老人へ問いかけた少年も笑みを引き攣らせていた。
だが予想の範疇ではあったのか、動揺しているというよりは「やっぱりか」と納得しているようにも見える。
そんな各々の反応を老人は楽しそうに見つめ、気味の悪い含み笑いをグフグフと鳴らす。
足をもがれてのたうち回る虫でも見るかのような、嗜虐心と享楽に満ちた醜悪な顔だった。
「社長、どう思います? あのイカレジジイ」
「見りゃ分かんだろ?」
普段の癖で丑嶋に意見を仰ぐ柄崎だったが、当の彼から返ってきた答えは淡白だった。
丑嶋は何ら動揺している風には見えない。いつも通りの鉄面皮を保ったまま、ジッと老人の方を注視している。
「ありゃ伊達や酔狂じゃねェ。マジでやらせる気だよ。殺し合い」
「マジかよ……」
他人に異常者と恐れられる人間は今までにも山ほど見てきた。
中学時代の鰐戸三蔵。愚連隊の鼓舞羅。監禁洗脳の神堂大道。目の上の瘤であり、この場にも居合わせている獅子谷甲児。
ただ残虐なだけの狂人なら見慣れている。良心の欠片も持たない悪人などごまんと知っている。
しかし黒板の前で薄汚い笑みを浮かべるあの老人は、そのいずれとも違う。
残虐で、良心がなく、その上で自分以外の全員を虫ケラとしか見ていない。
そんな人間が、人知れずこれだけの人数を拉致出来るだけの権力を持っているのだ。
今までの連中とは比べ物にならない。純粋な脅威度なら、あの滑皮秀信だって相手になるまい。
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「言ってしまえば……これは命を賭けたギャンブル……!
ベタな手しか打てぬ凡愚(クズ)は死に……! 強運と確かな目を持つ強者(ギャンブラー)だけが生き残る……!
どんな手を使ってもいいっ……! 殺せっ……! 最後の一人になるまで、殺し尽くせっ……!! クククク……!!」
騒然とする室内には、既に怒号を吐く者さえ出始めていた。
ふざけるな。何を勝手なことを。そんなゲームなんてやるもんか。
黒服達が銃を構えても収まる気配のないどよめきを止めたのは、ある男の挙手だ。
衣服越しにも分かる引き締まった肉体の青年は、皆が静まるのを確認してから口を開いた。
「最後の一人になったなら、帰れるだけなのか」
――問いの意味を理解出来た人間と、理解出来なかった人間がいる。
前者は頭がいい。もしくはこの状況に既に順応し始めている優秀な人間だ。
かと言って後者を馬鹿、不出来と罵るのは酷だ。
彼らはあくまで日常を生きていた者達。
こんな非情で、絶望的な"非日常"とは無縁だった人間であるのだから。
「クク……! 良い質問だ……! 無論、何の賞品もなしというわけではない……! それでは"ゲーム"が盛り上がらんしの……!!」
「となると、やはり」
「その通り……! 用意してあるっ……! 命を賭けた大博打の勝者に相応しい、極上の賞品……!!」
つまりはこういうことだ。
殺し合いに勝った人間は、生きて日常に帰れる。
果たして本当に"それだけ"なのか?
老人の言う殺し合いがギャンブルだというのなら、参加者の生命は賭け金だ。
にも関わらず、優勝の報酬が帰還の権利だけというのは話が通らない。
それは賭け金が返ってきただけ。ギャンブルに勝ったのに、何の利益も出ていない。
無論、そこまで律儀にやるつもりはないというだけのことかもしれない。
しかしこういう趣味の悪い金持ちは、意外とそういう細かい部分に拘るものだ。
そう思って訊いてみた結果は、ビンゴ。やはりこのゲーム/ギャンブルの勝者には、何らかの利益が齎されるらしい。
「庶民の手には余るだけの金……! あるいは地位、名誉……!
欲しいものを好きなだけくれてやる……! それに、もし……! もし特別に望むなら……!」
金、地位、名誉、その他欲しいものを好きなだけ。
老人が挙げたのは予想の範疇を出ない"賞品"ばかりだったが、次の瞬間予想の軛はいとも容易く破壊された。
誰もが怪訝な顔をした。息を呑んだ。ふざけるのも大概にしろと失笑する者さえあった。
それほどまでに――それほどまでに、老人が口にした"賞品"は荒唐無稽の一言に尽きたのだ。
「失われた命をひとつ……! わしの……!
この、兵藤和尊の……! "帝愛グループ"の力で以って、蘇らせてやっても構わんっ……!!」
死者の、蘇生。
発達を極めた現代医学でも絶対に不可能とされる禁忌。
それをこの下衆な老人は、叶えてやると豪語したのだ。
当然信じる者は少ない。むしろ大半の人間はこの時、老人が口にした"帝愛グループ"という名の方に注目した。
「……帝愛」
丑嶋と柄崎にとっては特に覚えのある名前だ。
日本では最大級の規模を持つ巨大コンツェルン、帝愛グループ。――そしてその総帥、兵藤和尊。
表向きに広告を打ち大々的に宣伝まで行っているにも関わらず、そのやり口は闇金も裸足で逃げ出すほど悪質だ。
暴利は当然として、帝愛は圧倒的な情報網で逃げる債務者を必ず追い詰める。
後のなくなった債務者達を集め、悪趣味な道楽に使っているという眉唾物の噂も囁かれていたが――どうやらそれは紛れもない本当の話だったようだ。
事実は小説より奇なり、とはよく言ったもの。
その上で死者を蘇生させるなどと宣い始めたのだから頭が痛くなる。
しかし――丑嶋達はこの時まだ気付いていなかった。
教室に集められた参加者達の中に、納得の顔を浮かべている者や、殺し合いとはまた別なところに動揺している者が少なからず居ることに。
これから、気付くことになる。既に現実は小説の域を飛び出して、複雑に怪奇し始めていることに。
「気付かんか……? カカカ……! よく見ろっ……!
居るだろうがっ……! お前達のよく知る死人が……! 平気な顔をして座っておろうっ……!!」
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丑嶋の背に走る、悪寒にも似た直感。
バッと振り向き、教室の面々の顔を確認していく。
すると程なく、丑嶋は"あり得ない人物"の存在に気付いた。
奇しくも宿敵である獅子谷甲児もだ。
丑嶋と、甲児と、柄崎。
その男と浅からぬ縁のある人間が全員同時に、この世を去って久しい死者の顔を見る。
――獅子谷鉄也。
獅子谷甲児の兄であり、丑嶋達が死の遠因となった男。
生き地獄に等しい苦境に丑嶋達が立たされることになった、元凶とも言える死者。
それが、険しい顔で足を組み座っていた。彼自身、何が起きているのか測りかねているという表情であった。
「さあ、報酬は示した……だが無論、これを享受出来るのは一人っ……」
このゲームにおいて、二位以下は全てクズ同然だ。
全員を殺して生き残った一位だけが利益に預かれる。評価される。
まさに弱肉強食。自然界の理を体現するかのように無慈悲で残酷なデスゲーム。
「殺し合え……! 友を、恋人を、他人を、宿敵を……!
すべからく殺せっ! 例外なく殺せっ! 確実に殺せっ……!!」
此処では殺すしかない。
殺さなければ自分が死ぬ。
蹴落とされる。地に落ちる。
唯一高みの見物を決め込めるのは、遊技場の主である兵藤和尊ただ一人。
後は皆、誰もがただの競走馬だ。
一着になれなければ殺処分される、哀れで惨めな競走馬。
丑嶋はそれをただ、何時も通りの冷めた瞳で見つめていた。
義憤に燃えるでもなく、欲望を輝かせるでもなく。
ただ静かに、見ていた。
「おお、そうだ…… ひとつ忘れておったわ」
不意に。
兵藤が杖を握る自らの手の甲をぽんと打った。
どうやらまだ説明することがあるらしい。
尤も、それが何かは大半の人間が既に理解していたが。
仮に兵藤が切り出さなければ、また誰かが質問していただろう。
「諸君の首に巻いてある、その"首輪"だが……」
ひょい、と右手を挙げる兵藤。
「まさか……!」と誰かが声をあげた。
そして事態は、その"誰か"の危惧した通りに推移する。
ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ――
最後列の席に拘束された、健康的な小麦色の肌をした少女。
その細い首に巻かれた無機質な輪が、耳障りな電子音を鳴らし始めたのだ。
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「な、なに? 何これ。ちょっ、ねえ!」
「う、うるかっ!?」
狼狽する少女と、その方向を見て叫ぶ友人らしき少年。
鳴り響いた電子音が何か良からぬことの前触れであるのは明らかだ。
どうにか助けようと、駆け寄ろうと、必死に縄を解こうとする姿は健気の一言。
顔を青くして周囲を見回す少女の姿は痛ましく、見る者の義憤を駆り立てる。
「どんな集団の中にもクズは必ず混じるもの。諸君らも決して例外ではあるまい……!
隠れたきり動かぬ者、島からの脱出など図る者……! 愚かっ……! レースを盛り下げる駄馬っ……!
その首輪は、そんな駄馬を間引くための保険……! いわば、"制裁装置"なのだ……!!」
だが。そんな同情や義憤の心はすべて。
電子音が途絶えるのと同時に、吹き飛ばされた。
「成幸っ、助け――」
少女の台詞を遮って、首輪が文字通り――"弾けた"のだ。
少女の首が千切れ、生首が宙を舞って床へと落ちる。
一瞬の間を置いて、血のスプリンクラーが噴き上がった。
床をごろごろ転がって止まった、かつて武元うるかという少女だったモノの残骸は、恐怖を顔中に浮かべたまま事切れている。
「う――うあああああああああああああああああああッ!!?」
少年の絶叫に続いて、大勢の悲鳴や嘔吐する音が響く。
阿鼻叫喚の地獄絵図の中で、やはり兵藤和尊だけが笑っていた。
愉快愉快と、手でも叩きそうな勢いで。
「この島では殺す以外に生きる術なし……! 存分に楽しめっ……! そして楽しませろ、このわしを……!
バトル・ロワイアル、これより開始じゃ……! クク、クカカカ、カカカカカカカカカ……!!」
瞬間、丑嶋は首輪から走った鋭い刺激に一瞬で全身の力を失う。
見れば隣の柄崎は既に昏倒していた。丑嶋もまた、意識が遠退き始める。
……電流か。こんな状況だというのに、思考はやはりクリアだった。冷静に物を見ることが出来ていた。
兵藤和尊。帝愛グループ。バトル・ロワイアル。闇社会の諍いが軽く思えるほどの非日常に、あらゆる日常が呑み込まれていく。
――勝ち馬になれるのはただ一人。さあ、殺し合え。殺して賭け金を取り戻し、"非日常"を"日常"に持ち帰るのだ。
【武元うるか@ぼくたちは勉強ができない 死亡】
【残り42人――ゲームスタート】
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OPの投下を終了します
続いて潮田渚、川田章吾で投下します
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「どうなってやがる」
夜道、一人の少年がそう吐き捨てた。
少年の容姿を一言で言い表すならば、"厳つい"という単語に集約される。
大柄な体格に無精髭、目元には得体の知れない傷跡。
はっきり言って少年という呼称も大分厳しい。だが決して老け顔ではなく、どこか貫禄のある風貌の持ち主だった。
「俺は死んだ筈だぜ。おいおい、まさか本当にあのクソジジイが生き返らせてくれたってのか?」
少年こと川田章吾は――兵藤和尊が言うところの"死人"である。
川田は間違いなく、一度死んだ。この状況と苛つくくらい一致する殺し合いに参加させられて、その末に命を落とした。
血が抜けていく感覚。
それによる体の震え。
冷え切っていく体温。
"死"の感覚を余すことなく記憶している。
最後。安堵と共に意識が途切れる瞬間まで、はっきりと。
だというのにこれはどうしたことだ。
体は温かく視界はクリア。腹を撫でても傷どころか痛みひとつない。
生きている。死んだ筈の自分がまるで何事もなかったみたいに生き返っている!
これにはさしもの川田も混乱の色を隠せなかった。
死んだ人間は生き返らない。医者の息子である川田は、それを人一倍よく知っていたからだ。
しかし川田章吾は今、誰の目から見ても明らかなほど、完膚なきまでに――生きていた。
ひとりの生者として息を吸い、鼓動を打ち、頭で考え、足で歩いている。
兵藤の言葉がぐるぐると、川田の頭の中にずっと残響していた。
ぐるぐる、ぐるぐると。
「七原と典子さんは……居ないか」
直前まで参加させられていた"プログラム"で戦いを共にした善良な二人の名前がないことに川田は安堵する。
だがすぐにその表情は険しいものへと変わった。自分以外の死者の名前も、名簿には記されていたからだ。
まずは"第三の男"三村信史。これはいい。問題はその次の二人……桐山和雄と相馬光子である。
特に桐山が居るというのは非常に不味い。
あれは文字通りの超人で、悪魔めいた殺戮マシーンだ。
前回は総力戦の末、どうにか倒すことが出来たが……出来ることなら二度と戦いたくない。心底からそう思える相手だった。
尤もそういうわけにも行くまい。あの桐山が早々に退場してくれるなんて幸運はまず望めない。
出会ったならまた殺し合いをするしかない――前回の二の舞にならないよう祈りながら。
心境は複雑で頭の中は未だ混乱気味だが、それでも川田の中に殺し合いに加担する選択肢は一切存在しなかった。
「……にしても三度目とはな。俺のことが余程嫌いか、神様よ」
くつくつと皮肉げに笑いながら、川田は与えられた支給品を検める。
確認の後で手に取ったショットガン。銃把の吸い付くような感触が手に馴染む。流石に三度目ともなれば銃の扱いも慣れたものだ。
実戦経験有りの中学生だなんて、軍部にしてみれば喉から手が出る程欲しい人材だろうな。川田は自嘲するようにそう零した。
殺し合いには乗らない。手段を見つけ出して逃げるか、或いは先のプログラムでやったように主催へ一発かます。
それが川田章吾の行動指針だ。これだけは、どんな状況に置かれていようと決して揺るがない。
一度目のプログラムの無念。二度目のプログラムで七原秋也や中川典子と勝ち取った勝利。
二つの経験が、見てきた生き様が、川田の道をそっと示してくれる。ならば後はそれに従うだけだ。
自分が何故生き返ったのか。
今回はどうやってゲーム打破への糸口を見出そうか。
考えるべきことは無数にあるが、足を動かしながらでも思考することは出来る。
頭をフルに回転させながら、川田は神社へと続く階段を登っていき――そして。
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「―――」
境内が視界に入ると同時に、目を見開いて驚いた。
そこに――何かが居た。人の形をした何かが、夜闇の中ひとり佇んでいる。
"それ"は中性的な顔立ちをしていたが、着ている制服は男物だ。
川田よりもずっと背の低い、華奢な美少年。その手にはサバイバルナイフが握られているのに、まるで剣呑さというものを感じない。
そのあまりに現実感のない、どこか隔絶されたような佇まいに、川田は思わず息を呑んでいた。
少年も川田の存在に気付いたらしく、二人の視線が交差する。
そこで川田はハッとした。自分は今、得体の知れない、その上武器を持った参加者を前に棒立ちで無防備を晒している。
二度のプログラムでこんなことは一度としてなかった。この島で誰より殺し合いの何たるかを理解している筈の彼が、まんまと忘我の境地に立たされた。
「あ……えっと。あなたも、このゲームの参加者なんですか?」
苦笑いを浮かべながら川田へ問いかけた時には、既に少年から先の超越的な雰囲気は失われていた。
どこにでも居るような普通の男子学生。彼に失礼な言い草にはなるが、とてもそんな大それた人間には見えない。
少なくともあの桐山と撃ち合っておいて、今更気圧されるような相手では決してない筈。
狐につままれたような心境の川田だったが、「俺も大概参ってるのかもな」と苦笑を浮かべると、気のせいとしてそのまま処理してしまった。
「ああ。その口振りからするに、あんたもだな? お坊ちゃん」
少年の首にも自分と同じ、白く無機質な首輪が装着されていた。
反逆者や穴熊を決め込む参加者を排除する爆弾入りの憎たらしい機械。
そこまでは一緒だが――ぱっと見にも、政府制のナントカという首輪よりずっと精巧に作られているのが分かる。
七原達の一件から学んだのか? と、川田は反吐を吐きたい想いであった。
そんな川田の胸中など露知らず、少年は頷いて肯定を示す。
「僕は……潮田渚って言います。"ゲーム"には乗ってません」
この時――川田章吾はまだ知らない。
彼が先程垣間見た少年の異常な雰囲気は、気のせいなどではないことを。
彼が中学生活最後の一年間を費やして、一体何に打ち込んできたのかを。そして、何を成し遂げたのかを。
遠くない未来、彼は知ることになる。自分が出会った少年は、ともすればあの桐山和雄以上に"殺す"才能を持った"怪物"であると。
バトル・ロワイアルに二度放り込まれ、此度三度目に挑む少年と。
暗殺の技能を一年間叩き込まれ、その手で師を殺めた少年。
それぞれ全く違う修羅の道を歩んできた二人が今、夜の境内で邂逅を果たした。
【一日目/深夜/E-2・神社】
【川田章吾@バトル・ロワイアル】
【状態:健康】
【道具:FN-SCAR、不明支給品×2】
【スタンス:対主催】
【潮田渚@暗殺教室】
【状態:健康】
【道具:サバイバルナイフ、不明支給品×2】
【スタンス:対主催】
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投下終了です
桐須真冬、獅子谷鉄也、長沢勇治で予約します
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毎日お茶と乳酸菌を取ることで、陰陽五行を整えることです。つまり医食同源です。頭がよくなります。
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新ロワ乙です
人外や異能力は無しのロワなのかな?ウシジマくんやブレンドS等ロワ初参戦の面子も居て楽しみだ
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高山さんは果たして経歴に相応しい活躍が出来るのか
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面白い
キャラはほとんど知らないけれど、中々に読ませてくれる文章だった
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感想ありがとうございます。励みになります
投下します
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――やってやる。
やってやる、やってやる、やってやる!
ひひ、ひひ、と空気音のような笑い声を漏らしながら、長沢勇治少年は大いに高揚していた。
「いいねいいねえ! なかなかイカしたこと考えるじゃんあのジジイ!!」
帝愛グループの名は長沢も知っていた。
胡散臭い金貸し屋。金を借りなきゃ生きていけないような社会のゴミが駆け込む場所。
こんな所に縋るようになったら人間おしまいだなと、哀れな債務者達の切羽詰まった顔を想像してパソコンの前で嘲笑していたのを覚えている。
だが、帝愛はただの金貸しではなかった。もっと恐ろしく、長沢に言わせれば「イカした」会社だったのだ。
兵藤和尊。あの不気味な老人が殺人ゲームの開催を宣言した時、長沢はその両目を少年らしく輝かせた。
泣き叫ぶ少女の首が吹き飛んで、切断面から噴き出した血の飛沫が手に掛かった時は興奮のあまり下腹部を盛り上げてしまった。
――夢じゃない。下らないドッキリでもない。これは本物の……正真正銘のデスゲームだ!
「ルールなんだからしっかり殺さないとなぁ! 殺さないと死んじゃうんだし、仕方ない仕方ない!」
長沢の顔は喜悦に染まっていた。
それもその筈だ。この少年はずっと、人を殺したい欲望を抱えながら生きてきたのだから。
思うように行かない学校生活を疎んで部屋に引きこもり、毎日叶いもしない欲ばかり膨れていく鬱屈とした日々。
ようやく長沢はそこから解き放たれた。法律だの警察だの親だの下らないことを気にせず、好きに人を殺せる夢の舞台。それが、この沖木島なのだ。
長沢にとってこの島はどんなテーマパークにも勝る楽園だった。
楽しもう。好きに殺そう。優勝したら大金持ちにもなれるだろうし、乗らない理由がない。
倫理観というものの極端に薄いこの少年は特に葛藤もなく、あっさりと殺し合いに乗ることを決める。
「スッゲ……これベレッタかよ! いいもん引けたなあ!」
デイパックから取り出した銃は、ネットゲームで慣れ親しんだベレッタM92。
玩具を買い与えられた子供のようにそのあちこちを触りながら、構えてまた笑みを深くする。
もちろん実際に撃ったことはないが、知識として撃ち方は知っている。
これでなら、大勢の人間を殺せそうだ。逃げ惑う参加者の背中に弾丸を撃ち込む想像をするだけで心が激しく躍った。
狙うのは優勝、それだけだ。
兵藤も言っていただろう。ベタな手しか打てぬ凡愚(クズ)は死に、強運と確かな目を持つ強者(ギャンブラー)だけが生き残ると。
その点、長沢は間違いなく後者。ギャンブラーであった。
実戦経験のない中学生が実銃片手に皆殺しへ挑む。これをギャンブルと言わずして何とするのか。
兵藤に言わせればゲームを盛り上げる競走馬。運営にしてみれば決して駄馬ではないのが、この長沢少年なのだ。
――さて、最初は何処に行こうか。
どうせなら人の多そうな場所がいい。
ベレッタ一丁で大量殺戮というのは難しいかもしれないが、それでも一人二人は殺せるだろう。
胸を高鳴らせながら長沢は山道を進む。
と、その時だった。足を止め、息を殺して目を凝らす。
視線の先を、一人の男が歩いていた。
表情は険しく、両腕には派手な刺青。
年齢は少なく見積もっても長沢より十歳は上に見える。
――早速来やがったな、獲物が。
獰猛に口角を吊り上げながら、長沢はベレッタの銃口を男へ向けた。
躊躇いはない。ゲームの中で散々繰り返した操作をなぞるように、視界の中のシルエット目掛けて引き金を引いた。
-
◆
「なあああッ!?」
鬱蒼とした森林の中に鋭い破裂音が鳴り響いた。
それから一瞬遅れて、驚愕の声。
声をあげたのはしかし、撃たれた側ではなく。
銃弾を不意討ちで撃ち込んでやった筈の、長沢の方であった。
何が起きたのかは単純明快。
弾が外れたのだ。撃った瞬間に男が飛び退いて、結果弾は掠めもしなかった。
この場合、迷わず第二射を撃つのが最善手であるが、不意を突いての攻撃を容易く躱されたという予想外の事態に長沢は一瞬思考を空白にしてしまう。
……古今東西あらゆる戦いにおいて、その一瞬はこう呼ばれるものだ。"隙"、と。
夜闇の中を男が跳んだ。
長沢は此処でようやく二度目の発砲を行うが、動く的に当てるというのは存外に難しい。
木々が視覚的にも物理的にも弾を遮る森の中では尚更だ。
ベレッタが再び火を噴く前に、長沢の頭をえらく硬い物体が殴打した。
「どうした? いきなりご挨拶じゃねェーか!?」
鈍い悲鳴をあげながら地面を転がる長沢の腕を踏み付けるのは、言うまでもなく狙われた側の男。
その右手には金属バットが握られていて、顔には怒りの形相が貼り付いている。
人を躊躇なく撃ち殺そうとした長沢は確かに異常だが、この男も同じ穴の狢と言えるだろう。
他人の、それも一回り以上年下の少年の頭に、殺されかけたとはいえ微塵の容赦もなくバットを振るってのけたのだから。
「お゛っ、おま゛え゛っ、なんでっ」
「あ!? 気付いてたからに決まってンだろ?
てめェーがあんまりでかい声で喋ってるからよ、大声で騒いでちゃ危ないぞって教えに来てやったンだよ」
無論、嘘だ。
要するにこの男もまた、長沢を殺すつもりだったのである。
殺すつもりで近付き、端から撃ってくることも勘案して動いた。
リスキーな行動ではあるが、リスクに見合った旨味はある。
金属バットとベレッタ銃のどちらが殺し合いにおいて使えるか、という話だ。
長沢は何とかベレッタを取ろうとするが、腕は硬く踏み付けられて動かない。
その上で少年の顔面に、男の爪先が飛んだ。
鼻がべきりと小枝をへし折るような音を立てて折れ曲がる。
「ッがああああああああ!!?」
「俺今メチャクチャ虫の居所が悪いンだわ。正当防衛だし、殺す前にストレス解消に使っちゃってもイイよな!?」
金属バットを二度、三度と今度は胴に向けて振り下ろす。
殺すのなら最初のように頭を狙えばいい、なのにそれをしない。
明らかに甚振っていた。言葉通り、ストレス発散の道具として長沢を使っているのだ。
完全に優位を奪われた長沢は、頭を庇うようにしながら暴力に耐えるしかない。
-
そんな彼の姿を見て、はっ、と男が鼻で笑う。
馬鹿にされた。長沢の短気な脳が怒りにかっと熱くなるが、次に男が発した言葉に一瞬動きが止まる。
「なあオイ。命だけは助けてやろうか?」
このまま行けば自分は間違いなく殺される。
というより、男に遊びがなければとっくに殺されていてもおかしくない状況だ。
そこでこの提案。これを素直に信じるほど長沢は馬鹿ではなかったが、しかし縋れるものが他にないのも事実。
よって長沢は男の次の言葉を待つしかなかった。今にも怒りで脳の血管が切れそうな彼に、男は平然と言う。
「――てめェーの耳を引き千切ってみろよ。
躾のなってねェガキには特別に肉刺しならぬ耳刺しで食わせてやる!」
「……は?」
最初、長沢には男が何を言っているのかさっぱり理解出来なかった。
遅れて、段々とその意味が伝わってくる。
要するにこの男はこう言っているのだ。
自分の耳を引き千切れ。そして、自分でそれを食え――と。
長沢は知らないことだが、これは彼が喧嘩を売った男……獅子谷にとっては常套手段であった。
人の心を折る制裁。失敗した人間を、刃向かう人間を徹底的に痛め付け、恐怖させて自分に服従させる洗脳と表裏一体の暴力。
獅子谷鉄也は容赦しない。彼は鬼であり悪魔だ。相手が子供であろうが大人であろうが、同じように痛め付けて同じように屈服させる。
「どうした? 出来ねえってことは死にたいってことか?」
「ふっ、ざけん、な! そんなこと、出来るか!」
「あ!? お前、自分の立場分かってンの?」
髪の毛を鷲掴みにし、長沢の顔を覗き込むように獅子谷は屈み込む。
その一方で長沢のベレッタを拾い、自分の側へと引き寄せた。
これでもう長沢の詰みは、百パーセント確定になった訳だ。
「そうか、まだまだ反抗したい年頃なンだな!?
でも俺は優しいからお前のこと助けてやるよ。特別に俺が千切ってやる!」
「ひっ!? な、やめろ! 痛い、痛い痛い痛い痛い!!」
サディスティックに笑いながら長沢の耳を引っ張る。
本当に引き千切れるまで、獅子谷は止めないだろう。
重ねて言うが、そういう人間なのだ、彼は。
暴力が飛び交い、暴力を持つ者が上に立てる闇の世界の住人だからやることなすことすべてに加減がない。
長沢もまた確信していた。
殺られる。此処でもし耳を犠牲に生かされたとしても、自分はいつかこの男に殺される!
その瞳に確かな恐怖と涙が浮かび始め――そこで、新たな参加者の声が毅然と響いた。
「――やめなさい!」
女の声だ。
怪訝な顔をして獅子谷が手を止める。
長沢も声の方に顔を向ける。
「……何があったのかは分からないけれど、明らかにやり過ぎよ。それ以上の暴力は見過ごせないわ」
リボルバー拳銃を構えて荒い息を吐いている、見るからに利口そうな女性だ。
-
獅子谷はその立ち姿から、無理をしているなと瞬時に見抜いた。
この状況で動揺しない人間などいない。裏の人間でも、即座に対応出来る人間がどれだけいるか。
暴力とは無縁な世界に生きている一般人が、無謀と分かっていながら正義感に突き動かされて声をあげた。大方、そんなところだろう。
だが獅子谷にとって彼女が無視出来ない存在であるのもまた事実。
もしもその手に銃が握られていなければ、獅子谷はその存在を一顧だにしなかった筈だ。
しかしこの距離ならば素人でも当てられる。認めたくはないが、一転不利に立たされる形となった。
「……あんた誰?」
「教師よ。ゲームには乗っていない」
「だったら心配ねェーぞ。俺も"今ンとこは"乗らないつもりだからよ。
ところであんた、ちゃんと状況分かって物言ってるか? この中坊は乗ってるぞ、殺し合いに」
撃たれたからな、と付け足す獅子谷。
嘘は言っていない。ゲームに乗るつもりは今のところないというところも含めてだ。
襲ってきたのは長沢の方だし、獅子谷はある理由からゲームに乗れずにいる。
「……それでも目の前で行われる殺人を見過ごすことは出来ないわ。撃たれたくないのなら、その子から離れなさい」
「殺人じゃねェーっての。やんちゃなガキに折檻してやってるだけだ」
「私刑(リンチ)という言葉を知らないのかしら。……もう一度言うわよ、離れなさい。それ以上続けると、撃つわ」
撃てるのか? あんたに。
嘲笑を浮かべながらも、獅子谷はしかしこの場は矛を収めることにした。
万一があっては不味いし、ベレッタは既に奪取済みだ。
だがタダでは退かない。スジ者と互角に張り合う胆力は、銃を向けられている現状でも獅子谷に冷静な態度を保たせる。
「仕方ねェな、いいよ先生。あんたの教師魂に惚れた。このガキの処遇はあんたに任せてやる」
「……」
「ただ、あんたには俺と一緒に行動してもらうぞ」
「……どういうことかしら」
訝しむように目を細める女教師に、獅子谷は続ける。
「あんた、そいつがいきなり暴れ出したら押さえ込めンのか?
ガキとはいえ男と女だぞ? 場合によっちゃあんたがそのガキを撃ち殺すことにもなりかねねェ」
「それは――」
「それに、もしあんたが殺されてそのガキが野放しになりでもしてみろ。
百パーセント俺が狙われるだろ? キチガイに付け狙われるのは御免なンだよ」
獅子谷鉄也という男は、特別腕っ節が立つという訳ではない。
自分より腕の立つ男なら幾らでも居る。少しはやれる自信はあるが、それまでだ。
誰もが当たり前に銃を持っているこの"ゲーム"では、それこそこの長沢のような子供にあっさり殺されることもあり得るのだ。
だからこそ、獅子谷は人が欲しかった。
思うように動かせ、いざとなれば弾除けにも使える人手が――
自分の経営していた金融会社、"シシック"の連中のような小間使いを早急に確保したかった。
長沢を殺さないと言ったのもその為だ。
徹底的に痛め付け、恐怖を刷り込んで服従させる。
その為に獅子谷はあんなまどろっこしく、しかしとびきり痛ましい拷問を行おうとしていたのだ。
「あんたが断るなら俺は自衛の為にこのままガキの頭をブチ抜く。
それであんたが俺を撃つンなら、次はあんたを撃つだけだ。
知ってるか? この距離でも、ズブの素人が使ったら簡単に外すよ。チャカってのはそういう武器だ」
-
女教師はぎり、と歯を軋ませた。
銃を撃った経験などある筈もない。
そして相手の男の手にも、一応は拳銃がある。
もし自分が外せば、次はこの堅気とは思えない男が攻撃する手番だ。
生き延びられるとは、とても思えない。
或いは少年を見捨てて逃げるという手もあったが――これは教師としてのプライドが許さなかった。
生徒を冷たく突き放したこともあるし、事実自分のことを嫌っている生徒は相当数居るだろうと自負している。
それでも、目の前で子供が壮絶な暴力に晒されるのを見過ごせるほど"終わってしまった"つもりはない。
故に逃げる選択肢はそもそもなく。女は男の持ちかけてきた取引に、こう答えるしかなかった。
「……分かったわ。けれど勘違いしないように。私はあなたのイエスマンになるつもりはない」
教師――桐須真冬は既に気付いている。
自分が今銃を向けている相手が、筋金入りの悪人だということに。
可能なら、絶対に関わり合いにならないようにするのが賢明な手合いだということに。
長沢勇治を助けるには彼の話を呑むしかない。
ただし、彼の都合のいい駒になるつもりはない。
桐須もまた、間近で男を監視する。決して、好き放題にはさせない。
「そう怖い顔すンなよ、先生! 俺感動したぜ? あんたの教師魂に。
そら、約束だ。このクソガキへの制裁はこのくらいにしてやる。手当てするなり好きにしな」
最後に一度、わざとらしく頭を踏み付けて。
獅子谷は愉快そうに笑いながら、長沢へと背を向けた。
桐須は急いで書け寄り、デイパックの中から包帯やガーゼ、消毒液を取り出して彼の傷の手当てを始める。
打ちのめされた長沢の哀れな姿を見ていると、ふつふつと獅子谷への嫌悪感が噴き上がってくるのを感じた。
(……もう二度と、私の目の届く範囲で犠牲は出させない)
桐須の脳裏に去来するのは、兵藤の"見せしめ"となった少女の最期だ。
武元うるか。あの快活でよく笑う少女の最期は、泣き叫びながら首を吹き飛ばされる悲惨なものに終わった。
……どうしてこんなことに。そう後ろ向きな想いにもなったが、桐須はそれを怒りで上塗りすることで活力へと変えた。
これ以上は死なせない。武元うるかの二の舞にはさせない。それが――今、自分が"教師"として成すべき一番の仕事だ。
桐須真冬は決意を胸に生きる。
自分の手当てしている少年が、屈辱と憎悪に胸を焦がしていることなど露知らぬまま。
どうしようもないほど鬱屈した精神性を持つ長沢にとっては、"教師としての行い"など、過敏になった神経を逆撫でする偽善にしか感じられないなどとは思いもしないまま。
(ふざけやがって――ふざけやがってぇぇぇええ!!)
長沢は心中で絶叫していた。
ふざけるなふざけるなふざけるな!
こんなこと認められるか! なんで気持ちよく人殺しが出来るゲームで、こんな惨めで痛い目に遭わなくちゃいけないんだ!
全部あの刺青男が悪い。
絶対に殺す、銃を奪って後ろから撃ってやる!
すぐには殺さない。急所を外して散々甚振って、耳と切り取って食わせて、頭を踏み付けて。
とにかくあらん限りのことをして復讐する。復讐してやる!
腹立つのはこの女もだ。
先公だがなんだか知らないが、偽善者が偉そうに!
お前も後で殺してやる。なんで、助けてあげたのにどうしてと泣き叫ぶザマを想像すると顔がニヤけそうだ。
このままで終わるもんか。絶対に、絶対に絶対に絶対に、俺をコケにしたこいつらをぶっ殺す!
-
しかし――
長沢は、気付いていない。
自分の中に、既に獅子谷という男への恐怖の念が生まれていること。
バットで打ちのめされ、拷問されかけ、頭を踏み躙られた時。
長沢の心には小さいが、決定的な折れ目が付いてしまったのだ。
されど、気付けないのは彼にとって幸いに違いあるまい。
もしそれを理解してしまえば、その時こそ長沢勇治が駄馬に堕ちる時だ。
獅子谷を殺すという激しい憎悪が、恐怖の強さに負けたなら。
"シシック"の社員のような、獅子谷にとって都合のいい駒が一つ出来上がる。
暴力で服従させられる人間。好きに使い捨てられる、まさしく駒のような人材が。
「……丑嶋、柄崎。それに、甲児か」
一方獅子谷は、夜空を見上げながら述懐していた。
彼もまた、蘇った死者の一人だ。
獅子谷は部下として雇っていた丑嶋馨と柄崎貴明らの反乱に遭い、その末に命を落とした。
無様な死に様は晒さなかったが、殺されたのは確かだ。にも関わらず、今はこうして生きている。
……にわかには信じがたいが――兵藤和尊の言う"死者蘇生"の技術とやらは、信用に値するものであるらしい。
(甲児が居る以上、全員殺して優勝って訳にはいかねェーな。
万一甲児が殺られたら優勝狙いに転向して、兵藤のジジイに甲児を蘇生させるか)
獅子谷ほどの悪人が殺し合いに乗らない理由。
それはひとえに、実弟――獅子谷甲児の存在であった。
獅子谷は誰に対しても残虐で冷酷な男だが、弟のみはその例外だ。
陳腐な言い方をすれば、兄弟愛、というやつである。
獅子谷鉄也は獅子谷甲児を殺そうとは思わないし、その感情は決して一方通行ではない。
事実彼の死後、甲児は十年以上にも渡り執拗に復讐を続け、遂には彼の死の遠因となった丑嶋達を追い詰めるまでに至った。
仮に甲児が殺されたなら、鉄也はその時容赦なく全員を殺す殺人者にあっさりと変転するだろう。
彼にとって"乗らない"理由とは、弟が居るからという、ただそれだけなのだから。
(まあ、そうじゃなくても……お前らは別だがな。丑嶋、柄崎)
それはそれとして、自分を陥れてくれた丑嶋と柄崎の二人は許さない。
奴らは殺す。どんな手段を使ってでも、確実に"礼"をしてやらねば気が済まない。
この場では最も強い発言力を持つ獅子谷鉄也ですらも、一皮剥けば、そんな俗な感情を隠し持っているのだった。
三者三様、全く別な想いを抱えながら。
悪人と、善人と、悪童が夜を生きる。
【一日目/深夜/F-5・森林部】
【獅子谷鉄也@闇金ウシジマくん】
【状態:健康】
【道具:ベレッタM92、金属バット、不明支給品×2】
【スタンス:危険対主催】
【桐須真冬@ぼくたちは勉強ができない】
【状態:健康】
【道具:S&W M19、不明支給品×2】
【スタンス:対主催】
【長沢勇治@キラークイーン】
【状態:額から出血(止血済)、鼻骨折、胴体に複数打撲、激しい怒りと獅子谷への恐怖】
【道具:不明支給品×2】
【スタンス:優勝狙い】
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投下終了です
竜宮レナ、ディーノで予約します
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<削除>
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非リレー禁止なんて規則あったっけ?
無いなら>>23の頭悪いいちゃもんは無視して、どうぞ
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投下します
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「しかし、参りましたねぇ……一体これからどうしたものか」
遥か彼方の水平線を見つめ、眉をハの字に下げて呟く男は外国人だ。
染色ではあり得ないきめ細やかな金髪、ガラス玉のように綺麗な青い瞳。
背丈も日本人のそれと比べれば相当に高い。190センチの大台にギリギリ届かないくらいの長身である。
百人中百人が認める美青年。それが殺人ゲームの参加者の一人、ディーノという男だった。
ディーノは優しい男だ。
少なくとも、他人を殺して自分だけ生き残ろうとは全く思わない。
まして自分の店の店員達まで参加させられているとなれば尚更だ。
殺し合いには乗れない。しかしかと言って、爆弾付きの首輪に縛られたこの状況を打破する気の利いた策はとても思い付かない。
ディーノが弱音を零してしまうのも詮無きことであろう。
「後ろ向きになってても仕方ないですよ、ディーノさん。前向きに行きましょう、はう!」
そんなディーノの傍にはもう一人参加者が居た。
白い帽子が可愛らしい橙髪の少女だ。
彼女の人相もかなり整った部類であり、ディーノと並んだ絵面は実に華やかだ。
少女の名前は竜宮レナ。ディーノはゲーム開始後すぐにレナと遭遇し、乗らない者同士すぐに意気投合した。
「レナさんはもう……なんというかパーフェクトですね!
ヒロインの標準装備であるところの包容力! 度胸! うちの店にスカウトしたいくらいです」
「あ、あはは。詩ぃちゃんのお店と同じものを感じちゃうかな、かな」
黙っていれば美男なのだが、喋ると途端に残念になる。それがディーノという男だった。
彼は日本のオタク文化に憧れて日本を訪れ、遂には憧れの延長線で店まで興した行動力の塊。
因みに今身を乗り出してくるディーノに引き気味な苦笑を浮かべているレナもまた、人のことはとても言えない変人なのだが、それは此処では置いておく。
「レナさんのご友人は前原圭一さん、園崎魅音さん。そして北条沙都子さん、でしたね」
「そうですね。ディーノさんの方は桜ノ宮さん、星川さん、神崎さんと」
首輪を解除する手段も、この島から脱出する手段も、今はない。
つまり活路が見えるまでは、自分や他人の命を守りながらこのゲームに向き合わなければならないのだ。
となるとやはり優先して接触したいのは見知った相手。
純粋に安否が気がかりというのもあるが、手放しに信用していい他人というのはこの極限状況では本当に貴重である。
無論、その顔見知り達が乗っている可能性もゼロではない。ないのだが、それでもディーノは彼女達は乗っていないと信じていた。
こんな恐ろしく残酷なゲームに加担して人を殺すなんて、彼女達がする筈がない。心から、一点の揺らぎもなくディーノはそう断言出来る。
レナもそれは同じだろう。
レナさんの友人も見つけてあげないといけませんねと、ディーノは同行者云々以前に一人の大人として強く決意する。
そうして仲間を増やしていき、いずれは首輪を外してどうにか逃げ出そう。
楽観的だとは自分でも思うが、何事もやってみなければ分からない。
「あの、ディーノさん」
「? どうしました、レナさん?」
そんなディーノに、レナが改まった様子で声を掛けた。
先程励ましてくれた時とも、ディーノの言動に苦笑していた時とも違う。
なにか真剣な、笑い話に出来ない話題を切り出す声のトーンだった。
ディーノもこれには思わず居住まいを正す。
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気がかりなことでもあるのだろうか。
レナはまだ幼い。自分以上に大きな不安を抱えていても何ら不思議ではない。
ならば聞いて、出来るなら解消してあげなければ。
身構えて待つディーノだが、レナが発した言葉は彼の顔を途端にきょとんとしたものへと変えた。
「ディーノさんは……宇宙人って信じますか?」
「へ?」
宇宙人。……宇宙人?
ディーノ的には居ると信じたいところだったが、何故今それを?
まるで意味が分からず疑問符を浮かべているディーノに、レナは硬い声色で答えを催促する。
「答えて下さい。信じますか?」
「えー……と。まあ、信じる寄り――でしょうか。ロマンがありますよね、ええ」
「じゃあ」
今度はレナが身を乗り出した。
奇しくも先程の構図とは正反対。
しかしレナの声には、明らかにふざけている様子はない。
だからこそ尚更、ディーノは困惑してしまうのだ。
だって、そうだろう。
これのどこが、今この状況で、これほど真剣に話す内容なのか。
「――この殺し合いを仕組んだ主催者……兵藤和尊と帝愛グループ。
奴らは宇宙人で、会場に居る参加者もほとんどが奴らの手先。
レナとディーノさんのようなごく一部の参加者だけがその例外」
「……、」
「そう言ったら、信じますか?」
言葉を失うディーノに、レナはまた問いかける。
今度の問いは、突拍子もないどころの騒ぎではなかった。
はっきり言うなら滅茶苦茶。妄想にしても行き過ぎている。
兵藤と帝愛は宇宙人で、参加者のほとんどはその手先?
中学生のノートに書いてある痛々しい小説だって、もうちょっと設定に説得力がある筈だ。
「答えて下さい、ディーノさん。ディーノさんは優しい人だから、信じてくれますよね?」
が、今のレナにそれを言うことはとても出来なかった。
彼女の剣幕は明らかに異常だ。さっきまでの落ち着いた彼女は一体どこに行ってしまったのかと此方が問いたくなるくらい、様子がおかしい。
もし此処で信じないなどと言おうものなら、それこそ首でも絞め上げられそうだ。
かと言って無理に話を合わせても、いずれ絶対にボロが出る。
……どうするか。どうしたものか。
考えた末、ディーノはいつもの爽やかな笑顔を浮かべて、レナに口を開いた。
「少し落ち着きましょうレナさん。私の支給品に美味しそうなコーヒーが――」
言い終わる前に。
レナの瞳から、色が消えた。
彼女のことを最大限に慮り、落ち着かせようとするディーノの台詞を遮って。
「やっぱり、そっち側なんですね」
レナは冷たく、失望を露わに言い放ち。
後ろ手に隠し持っていた大振りの刃をぶおんと振り抜いた。
え、とディーノが声を漏らす。
それが、優しくも個性豊かな青年の発する最期の音であった。
首に食い込んだ刃が骨断ち肉断ち通過する。
端正な顔が夜空に舞い上がり、ボールのように転がって崖の下へと消えていった。
意識が完全に消える最期の最期まで、その思考は突如豹変した少女への困惑で満たされていた。
-
◆
「信用出来るかも、なんて思ったレナがバカだったよ。でもこれではっきりした。全部、私の仮説通り」
首から上を失ったディーノの死体を冷たく見下ろしながら、レナは誰にともなく言葉を紡ぐ。
竜宮レナの支給品は使い慣れた大鉈だった。普段愛用しているものと流石に同じではないようだが、使い心地は今のところ概ね変わらない。
とはいえ、この状況を生き抜く上でこんな武器では心許ないというのも事実だ。
そういう意味でも首尾よく"敵"を一人殺せたのは良かった。持ち主が居なくなった以上、支給品も当然殺した自分が総取り出来る。
「殺し合いなんて全部茶番なんだ。宇宙人の親玉が、真実を知った私を殺す為だけに仕組んだ三文芝居」
ディーノを殺したことに対する罪悪感など、レナには欠片もない。
そんなものを抱く意味がないからだ。
彼は信用出来そうな"人"に見えたが、核心に触れた瞬間すぐに分かった。
ああ、こいつもそうなのかと。所詮、人の皮を被った宇宙人の一匹でしかないんだな、と。
兵藤和尊は宇宙人の親玉である。
彼を護衛する黒服達は、その部下。
デスゲームの体を取っているが、それは全て表向きのカモフラージュ。
実際には、"知り過ぎた"自分を抹殺する為に仕組まれた下劣な茶番でしかない。
「……こんなに大掛かりな準備までしてご苦労さま。
でもね、レナは死なないよ。お前達の思い通りになんてなるものか」
絶望的な状況であるのは百も承知だ。
雛見沢の宇宙人共など、帝愛に比べれば可愛いもの。
奴らこそが本当に殺すべき宇宙人。諸悪の根源である。
――ようやく掴んだ、その尻尾を。
諦めない。諦めてなるものか。
一人残らず殺してやるぞ、宇宙人め。
お前達が間抜け面で綴った悪魔の脚本を、笑いながら破り捨ててやる。
……以上此処まで、全て竜宮レナの"妄想"である。
彼女の話を聞いてディーノが困惑したのは、至極正しい。
兵藤和尊は宇宙人? 帝愛グループもその手先で、参加者も彼女以外は宇宙人の回し者?
そんなわけがない。第一もしも宇宙人なんてものが存在し、レナが本当に狙われているのだとしたら、こんな大掛かりな真似をする必要がそもそもないのだ。
居場所を突き止めてそのまま殺してしまえばいいだけのこと。拉致などという手間を掛ける理由が見当たらない。
いつものレナならば、その聡明な頭脳ですぐにこの結論に辿り着いたろう。
しかし今、竜宮レナは正気ではない。狂気と疑心暗鬼に囚われた虜囚だ。
結論に辿り着いても、それを曲解して無理矢理反論を捻り出してしまう。
そして質の悪いことに、その反論をこそ真実として大事に抱えてしまうのだ。
「皆殺しにしてやる。レナは、お前らになんて殺されない」
――居もしない侵略者へと、哀れな少女は高らかに宣戦布告した。
開幕後最初の犠牲者となった青年の人生になど、一切思考を傾けることなく。
己の中の"悪魔の脚本"を愚直に信じて、レナは進んでいく。
【ディーノ@ブレンド・S 死亡】
【残り41人】
【I-3/崖沿いの道】
【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
【状態:極度の疑心暗鬼、首に痒み】
【道具:鉈、不明支給品×2、ディーノの不明支給品×3(未検分)】
【スタンス:皆殺し】
-
投下終了です
三村信史、星川麻冬で予約します
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非リレーならいちいち予約しなくてもいいんじゃ
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投下乙です
予約の時点で嫌な予感はしてたが、店長が最初の死亡者になってしまったか…
>>30
前の話の時といい何か一々突っかかって来るのが居ますね
企画主の自由なんだから口出しする必要無いでしょ
個人的には次どのキャラが来るのか分かる方が嬉しいから、予約はあって欲しい
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高山さんの出番が待ち遠しくてならない
-
>>30
なんとなく気分が出るので予約してます
感想感謝です。投下します
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"第三の男(ザ・サードマン)"と呼ばれた少年はひとり嘆息した。
三村信史。彼もまた、一度死んで蘇った人間だ。
政府主催のクソッタレゲーム、"プログラム"。
三村はそれにクラスメイト共々参加させられ、志半ばで散った。
彼の名誉の為に言っておくが、三村は殺し合いに乗った末に命を落としたのではない。
三村信史という男は最期まで抗い続けた。
結果として彼のダンク・シュートは"プログラム"を打ち砕くには至らなかったが、それも後一歩のところでの失墜だった。
誇張抜きに三村の策はゲーム運営の喉笛に届きかけていた。あの時横槍さえ入らなければ、一定の成果を挙げられていたのはまず間違いない。
されど、そんな"もしも"を考えることに意味はない。
第三の男は失敗した。ある殺戮者によって友人共々殺された。
その敗北を経て今、三村信史は再び沖木島の大地を踏み締めている。
国の制度のひとつという尤もらしい建前すらない、金持ちの道楽で開催された殺人ゲームに――三村は駒として放り込まれた。
「……考えても仕方ないなこりゃ。生憎こちとらSF小説は門外漢だ」
兵藤の語った"死者の蘇生"がどこまで本当なのかは分からない。
現に殺された筈の自分が生き返っているのだからまるっきり嘘という訳ではないのだろうが、鵜呑みにするほど単純な頭もしていない。
暫し三村は考えたが、時間の無駄だと判断してすっきり思考を切り替えた。
「今は目の前の問題。このくそゲームをどうするかだな」
ひとまずは支給品のチェックだ。
デイパックの中身を地面に引っくり返し、街灯の光で見分する。
クロスボウ、金槌、箱に入った色とりどりのチョーク。
「微妙……いや。武器があるだけまだマシ、ってことにしとくか」
はっきり言って、初期装備としてはなかなかに心許ない中身だった。
金槌は近付かなければ使えない上に加減も難しく、護身用としても役に立つか怪しい。
クロスボウはこの中じゃ一番マシに見えるが、それでも銃と比べるとどうしても見劣りしてしまう。
チョークについてはもはや意味不明だ。完全にただの嫌がらせ。ハズレ、ということなのだろう。
三村は兵藤の下品な笑顔を幻視して、「くそジジイめ、覚えてろよ」と舌打ち混じりの悪態をついた。
クロスボウに矢を番え、奇襲に対応出来る体勢だけはとりあえず整えておく。
それから三村は金槌とチョークをデイパックに戻し、一枚の紙に視線を落とした。
参加者の名前が記された、いわば参加者名簿とでも呼ぶべき代物。
(川田、桐山、相馬……後半二人は論外だな。特に桐山のヤツまで呼ばれてるのが最悪だ)
桐山和雄。自分を殺した男の猛威を思い出して、三村は露骨に嫌そうな顔をする。
あの殺戮マシーンが解き放たれている時点で、この島に安全地帯など存在しないと言っていい。
腹立たしいが納得の人選だ。桐山は自分などより余程高い能力値を持った、"殺し合いを盛り上げられる"人材なのだから。
七原秋也や杉村弘樹、前回の殺し合いで行動を共にした瀬戸豊などの名前は見当たらない。
これにはむしろ、三村は安堵の念を覚えた。
こんなゲームを二度もやるこたあない。兵藤という悪魔の目に留まらなかったのなら、それが一番だ。
-
(さて、今回はどういうシュートスタイルで行くかね。
前回はもう一歩だったし、島自体も同じと来てる。同じことをより上手くやってやるってのも選択肢の一つだな)
即ち、爆弾を用いてのゲーム崩壊。
主催を直接攻撃して、ゲームの統制を破壊する。
これなら前回のノウハウを十分に活かして、スムーズに決行まで事を運べそうだが……しかし問題が一つ。
――兵藤やその部下は、行儀よくあの学校に留まってくれているのか?
三村は、かなり怪しいと思っていた。
本来の"プログラム"では一人ずつ学校から島に解き放たれる。
が、兵藤和尊が主催した今回のゲームは違った。
首輪からの電流で昏倒させられ、目が覚めたらいつの間にか島のどこかまで運ばれていたのだ。
つまり、兵藤達が学校を拠点としている保証はどこにもない。
開幕のセレモニーだけを学校で行って、参加者達を島に配置。
それから悠々と本来の拠点に戻っていった可能性も十分に考えられる。
「となると、最初の行き先は学校で良さそうだな」
爆撃のアイデアを使い回せるかどうかは兵藤達の位置に大きく依存する。
あのまま学校に留まってくれているなら、それでいい。
だがもしも学校を去っていたなら――じっくり腰を据えて、これからのことを考えていく必要がある。
兎にも角にもまずは確認だ。学校を目指し、可能なら中にまで入って様子を見る。
そうと決まれば善は急げだ。
クロスボウを携えて、三村は夜道に一歩を踏み出そうとした。
その瞬間である。三村の耳が、ガサ、という草葉の擦れる音を捉えたのは。
「!」
反射的にクロスボウを構え、音の方へ体を向ける。
今夜は天気が良く、風もない。従って風のせいには出来ない。
野生動物でも居る可能性はあるが――他の参加者であったなら事だ。
「そこに誰か居るな?」
返事はなかったが……動揺したように草むらが揺れるのを三村は見た。
こういうのには慣れてないみたいだなと、思わず苦笑を浮かべてしまう。
真に身の安全を求めるなら容赦なく矢を打ち込むところなのだろうが、三村はそうはしなかった。
クロスボウは向けたまま、何かあればすぐに矢を射てるようにしたままで、言葉を続ける。
「安心しな、俺はこのくそゲームになんざ乗っちゃいない。
信用しろって言っても難しいだろうけど、本当だぜっ」
「…………」
「出てきてくれよ。な?」
高圧的な物言いで刺激するのはご法度だ。
努めて穏やかな声色と口調で、三村は隠れている何者かに出てくるよう促す。
すると、また草むらが動いて――そこに隠れていた人間がおずおずと姿を現した。
-
三村は思わず、目を丸くする。
出てきた人物の背丈が、想像していたよりもずっと小さかったからだ。
どう高く見積もっても小学生。確かにあの教室には子供の姿もちらほらあったが、いざ実際目の前にするとやはり面食らってしまう。
「……ほんと? 嘘じゃないよね、お兄ちゃん……?」
茶髪の可愛らしい幼女。
泣き腫らした目元は赤くなり、ふるふると恐怖で体が震えているのが遠目にも分かる。
兵藤のジジイにしてみれば、こんな子も"競走馬"なのか?
三村は兵藤和尊という老人のろくでもなさを改めて実感すると共に、クロスボウをそっと下ろす。
次に浮かべるのは笑みだ。
これ以上怖がらせないよう、意識して明るい笑顔を作る。
見つけてしまった以上は見過ごせない。
戦力としては確かに足手纏いだが、三村はそれを理由に幼子を斬り捨てるほどの薄情者ではなかった。
「ああ、嘘じゃないぜっ。何せ俺は前にも一度、こういうくそったれなゲームに参加させられたことがある。
その時も格好良く反抗してやったんだ。前回は乗らなかったけど今回は乗るなんて、そんな話はないだろ?」
少女は少し迷った様子を見せてから――とてとてという擬音が似合う可愛らしい足取りで三村の方へ駆け寄ってくる。
近くで見てもやっぱり小さいし、華奢だ。
けれどその細い首には、やはり白い首輪が装着されている。
「いい子だ。そうそう、兄ちゃんは信史ってんだ。"第三の男"三村信史さっ」
「ざ、さーど……?」
「おっと、まだ英語は早かったか……それはともかくだ。お嬢ちゃんの名前はなんて言うんだい?」
三村の問いかけに、少女は。
「麻冬……星川、麻冬」
そう、自分の名を名乗るのだった。
◆
三村信史と星川麻冬の邂逅は穏便に済んだ。
お互い名乗り合ってから、軽い情報の交換を行う。
知り合いの名前の共有、支給品の確認とシェア。
尤も後者については、麻冬も碌な支給品を持っていなかった為、そもそも成り立ちすらしなかったのだが。
そんな経緯を経て、麻冬は三村に同行することになった。
当然目指す先も三村と同じく学校。
子供を連れて赴くとなるとなかなか危険だが、どの道この島に安全な場所など存在しない。
下手に置いていって知らぬ間に殺されるよりは、自分の目と手の届く範囲に居てくれた方がいい――三村はそう考えたのだった。
-
……此処まで、三村信史は気付いていない。
彼を責めることは出来ない。そもそも気付ける方がおかしいのだ、この段階で。
何の前情報もなく、普段から"接客"の一環で慣らしているキャラクターを演技と見抜くなど、余程人を見る目がなければ不可能である。
星川麻冬という女は、純真無垢で無力な幼女――
(三村信史、か……とりあえずは信用してもよさそうかな)
――"ではない"。
星川麻冬はこう見えて立派な成人女性だ。
小学生並みの背丈ではあるが、中身はれっきとした大人。
様々なキャラになりきって接客するという奇妙な喫茶店・スティーレで日々無垢な幼女を演じ続ける、いわば"合法ロリ"である。
彼女は三村信史と接する間ずっと、接客の時同様のキャラクターを演じ続けていた。
何も三村が特別そういう対応をされているのではない。相手が誰であろうと、麻冬は無垢な幼女を演じただろう。
理由は簡単。その方が信用されやすいからだ。子供はとにかく甘やかされる。何かと得なのだ、幼いことは。
星川麻冬は殺し合いに乗る気はない。だが、殺されるのは御免だった。だから自分なりの特技で、生きる為に最大限努力する。
(店長達の内の誰かと合流出来たらネタばらししなきゃだけど、当分はこのままでいいね。私の支給品、全然良いもの入ってなかったし)
幼女では到底あり得ないずる賢い思考が自分の傍らで回転していることなど、三村は全く知らない。哀れ三村、である。
"第三の男"と"偽装幼女"が歩いてゆく。
ひとつの嘘を抱えたまま、二人は学校へ。
【一日目/深夜/D-3・路上】
【三村信史@バトル・ロワイアル】
【状態:健康】
【道具:クロスボウ、金槌、チョーク入りの箱】
【スタンス:対主催】
【星川麻冬@ブレンド・S】
【状態:健康、演技中】
【道具:果物ナイフ、ロープ、ジッポライター】
【スタンス:対主催】
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投下終了です
丈槍由紀、アンジェリーナ・菜夏・シーウェルで予約します
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投下乙です
仕方ないとはいえ三村が早速騙されてて草
今回は主催者へ反撃できるのだろうか
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また三村君がうっかりしてる……
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